#音、沈黙と測りあえるほどに
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2023年1月13日
【新入荷・古本】
武満徹『音、沈黙と測りあえるほどに』(新潮社、1971年)
松村正人編『別冊ele-king ジム・オルーク完全読本』(Pヴァイン、2015年)
マイケル・ナイマン『実験音楽 ケージとその後』(水声社、1992年)
菊地成孔+大谷能生『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』(エスクアイア マガジン ジャパン、2008年)
平沢剛編『若松孝二全発言』(河出書房新社、2010年)
大友良英『大友良英のJAMJAM日記』(河出書房新社、2008年)
リンディホップ・スタジオ編『間章クロニクル』(愛育社、2006年)
舞城王太郎『畏れ入谷の彼女の柘榴』(講談社、2021年���
『前略 小沢健二様』(太田出版、1996年)
森敦『意味の変容』(ちくま文庫、1991年)
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瘡蓋の海
白むまで耳を浸していた雨がまだ靄として残されている
薄布を重ねた奥の眼裏にいっそう暗い潜熱の洞
手探りで日付を確かめようとしてその前に思い出せてしまった
シーツから背中を剥がし吸いついた湿気を逃がす気休めでいい
大切に避けていた場所をいつしか忘れたことも 遠路 忘れて
方角で言えば南西だと思う瘡蓋の記憶を撫ぜる手は
示し合わせたように毎年梅雨が明け雲ひとつないのがこわかった
離れ島 潮が満ちれば立つ瀬なく生きているから繰り返す夏至
廃船の大きさを目で測られて時間の層が取りこぼされる
ひらいても血は出ない傷こんなにもわたしのものじゃないのに熱い
水捌けを良くするために傾けた同音異義語の誓いの白さ
でも熱が伝わるほどに傍に来た人に負わせる澱みではなく
蝉時雨ふいに鳴き止む一瞬を静止画として胸に収めた
逃げ水の行方をたぐりよせて帰夢わたしもすでに透明な窓
あっけない夕立だったおぼろげな蒸気の膜に街は喘いで
踊り場で水平になりすぐにまたかるくうつむく手すりの角度
ぬるまった飴を含んでまるくしてしばらく声を引き留めていた
おびただしいブーゲンビリア西棟の影はなるべく踏まないように
ずぶ濡れのフェンスを揺らす振動でほんとに逃げてきたってわかる
言い出せば痕が残ってしまうから海のふりして黙ったんでしょう
蟻が蟻に運ばれるのを見届けて樹下のにおいが濃くなっていく
輪郭がいつもより曖昧になる雨にふやけた手なら、あるいは
潮風に熾火の瞳だれのこと傷つけたいかちゃんとおしえて
折り畳まれたまぶたが降りてくるまでを見ていたまた折り畳まれるまで
花の落ちる速さでわらう 間に合わない あなたは病識のなさを言う
蜘蛛の巣が一度ふるえてそれからは鏡のようにそれだけだった
実弾をわたしは撃ったことがない撃たれたことも 何の涙だ
後ろ手にしろい小石を握り込む空弔いの声になるたび
添えた手の熱に耐えられないときは離れて わからない ごめんね
鳥に名を強いてはいけないのと同じひとりで守る約束にする
ゆっくり歩く、あらゆる人たちに追い越してほしくて、ゆっくり
石垣に阻まれている月桃が宵に緑を沈ませていた
がたがたにひらきっぱなしの背骨にも夏の重さの風が吹き込む
さざなみのひとつひとつは見つめない喫水線がより深くなる
口承のうたをいくつかつぶやいた出せない音をごまかしながら
手動では消せない常夜灯があることに気づいた あなたが先に
そうやってすぐ凪を装うところ大丈夫になりたいってなじってよ
反照 櫂を手放したわたしの舌も見抜かれていた
サイレンは叫び、サイレントは祈���聞いてもらえるおねがいの仕方
磨硝子越しのさざめきもしかして朝日にも泣きたいときがある?
生活を続けるための生活音となりの洗濯機が揺れている
ベランダの壁を隔てた向こうから水の流れがかすかに届く
覚め際のカーテンに手を 忘れても季節のように思い出されて
命から逃れられずに目をひらく海は今でも瘡蓋の海
布をたくさん使った服の重たさにたぶん安心させられていた
凍らせたペットボトルを目頭に当てて束の間でもかまわない
あとはもうずっと道なり白々とそうするしかなくても選んだ、と
引きつれた痛みを空に返せたら後悔してもいいと思った
立っている限りは土を踏むことを土になる身に引き受けさせる
傷つけたときの火傷に思いきりシャツ一枚で行く明けの街
第五回笹井宏之賞一次選考通過作
賞にかかわった皆様に、お礼申し上げます。この歌にわずかでも目を留めてもらえたことが、私の光でした。
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ネオファウナ
白と黒。それがこの台地に登って抱いた最初の印象だった。起伏に富んだ白い氷原のあちこちから、黒い崖が顔を覗かせる。雪がちらついているせいか、それとも大地の白を映し出しているせいか、空もまた、灰色のはずが白んで見える。初めて訪れる北極圏は、太古の昔から日の沈むことのない、かといって日が高く昇り、大地の氷河を溶かすこともまたない、薄明の世界だった。 雪原専用の8脚車両で、傾斜の緩い台地の東側から登って早半日、狭い空間で疲れは溜まっていたが、私の体重が他の乗組員より重い分、贅沢は言えなかった。大丈夫、あと数時間もすれば、発掘のためのキャンプ基地に到着する。この辺りは雪の粘度が低く、おまけに雪の下の固まった氷河をうっかり踏んでしまうと、車両ごと転倒する危険がある。車体の脚部分に付いた音響センサーで、なるべく雪の厚い場所を探りつつ、進むしかないらしい。 私の隣では、ダンと名乗った白いクマの男性が車両に接続して操縦している。一見すると椅子にもたれかかっているようにしか見えないが、後頭部には電磁コントローラが付いている。彼自身によればちょっと前の型番だが、車両を動かすには使い慣れたものが一番しっくり来るらしい。後頭部樹状核増設手術を受けているらしく、扱いには手慣れているという。もう10年になるそうだ。他の2名が小柄で、荷物もかなり多い以上、体重の大きいゾウである私と、ダンの2名はそれぞれコクピットとサブピットに座ることになった。 「僕は地元の村の出なんですが」 思いのほか、荒々しげな見た目とは裏腹に、丁寧な口調でダンは喋り出した。運転中とはいえ、重苦しい静寂に耐えられなくなったらしい。 「どうもそっちでも、起きてるみたいなんですよ、失踪事件」 「本当なんですか」 それまで黙りっきりだったネズミの男、ジェイが、淡々と訊いた。別段驚くでもなく、寒い車内の温度に合わせたような冷やかさだった。仕事をし始めて半年間、ここに来て躓くまで彼と世界を巡ったが、未だに彼の感情の起伏は捉えられていない。 「えーと、報告では、確かに4件の失踪事件が、マクファーレンさんのご出身の村で確認されてますね、種はいずれもバラバラですが」 そそっかしいラエンの女性、ライラと名乗ったか、が手元の携帯モニタを叩いて読み上げた。ダン・マクファーレンと同じく、ここに着いた際に中央都市の空駅で出会ったばかりで、なおかつ、私とジェイの終盤を迎えた調査が躓くことになった原因だった。 いや、原因というのはよそう。別に彼女が引き起こした事態ではないのだから。 私たちはこの地に到着した瞬間に、すでに躓いていたのだ。
私とジェイ・マウゼリンクスが実地調査を始めたのは半年前、そのきっかけになった、彼の調査に同行したのが1年程前だったか。赤道地帯の高地で発見された膨大な壁画、そしてそれを覆い隠していた巨大な洞窟は、数万年前に明らかな、我々知的生物による文明が存在した最古の証拠となり得るものだった。当時一介の動物文化学者だった私に、その研究の最前線に入って欲しいと言うオファーが来たのは、ジェイの横やりあってこそだと聞く。途中から研究に無理やり入り込んだジェイを疎む者はいたものの、全知的動物の大系統を、分子を用いて提示し、世界的に注目されている彼には、表立って反意を示すことがで��なかったようだ。無理やり私を暑い洞窟へ連れ出した彼は、これまでの古代文化とも違う、独特な意匠の壁画と、その物語る意味を教えてくれた。 それはカタログ、と言ってもいいものだった。中央に描かれた、楕円形の物体の中から、様々な種の、知的生物が出てきて、一様に並ぶ光景。そこには何万もの「立った絵」があったが、1色で描かれていながら、それぞれの絵はディテールが異なり、明確に別種と認識できた。赤道付近と言っても、安定陸塊上、そう、オセアニア大陸に位置する以上、ゾウやウマといった旧大陸を出自とする種は、ここには載っていないはずだった。だけれど、私の種だけではない。たぶん、あらゆる現生の知的生物が、この「カタログ」に載せられているのだろう。 分子生物学者のジェイは、恐らく人類のルーツを明確にしようとしているに違いなかった。そこで私に、手伝ってくれるように要請した。 誰もが気づかないふりをする。 感情の起伏に乏しいジェイが、この話をする時は苦々しい顔を必ず浮かべる。我々知的生物、つまり動物は、単一の系統である微生物として誕生し、無脊椎動物、魚類を経て、爬虫類となり、そこからそれぞれ鳥類と哺乳類が分かれた。これが、どんなにプロセスに疑問を抱こうと、この地球の教育機関で、幼獣ですら習っている仮説だ。 しかしこの仮説には矛盾が生じている。我々は進化の過程で、知能が発達したが、知能が発達するのが先だったのか、それとも様々な種に分化するのが先だったのか、という問題だ。知能が発達するのが先なら、例えば知能を退化させた種や、相応の歴史を示す物が残っていてもおかしくないが、実際はそんな種や事物は残っていないし、現在昆虫や魚類で示されているような、進化に至る原理、突然変異や、特に自然選択が、知能を持つと生じにくくなるのではないか、という仮説もある。一方で、様々な種に分化するのが先で、その後知能が発達したという仮説なら、上記の問題はクリアするが、いくら収斂進化という、似た生態的地位の生物に似た形質が出るという仮説がある���はいえ、そのような斉一的な知的生物化が起こり得るだろうか、という疑問が浮かぶ。そもそも、様々な種に分化しているのなら、我々には様々な、枝の途中となり得る、祖先種が数多見つかるはずだ。しかし、現状そんなものは一切見つかっていない。化石記録は魚類まで、それも現生の無脊椎動物や魚類とはかけ離れた姿で、我々の現在の姿を支持しない。 このジェイの主張に私は魅せられたのだろう。彼に伴って様々な古い遺跡をフィールドワークした。そうして、場所を絞り込んでいくうちに、文明誕生の起源となる候補が、この、新大陸の北極圏内にある、大きな台地で見つかった遺跡だと突き止めた。 残すは実地調査、既にキャンプ地が作られ、行われるはずだった大規模な調査に参加させて貰えることになり、北極へ向かう途上は、一睡もできないほどだった。しかし、いつまで経っても迎えの車両が来ない。どうもおかしいと思って、上空から気象観測用の無人機で見て貰ったところ、キャンプ地に誰の気配もない、ということが判明した。地元の警官隊に待機を命じられた私たちは、警官隊所属でこの地域を管轄していると名乗るライラと、この辺の地理に詳しく、仕事柄車両の扱いにも慣れているらしいダンと共に、キャンプへ向かうことになったのだった。
洞窟の中は、明るかった。発電機が稼働したままになっていたせいか、洞窟の壁に設置されたライトが空間を照らし出し、携帯ライトを持たずとも奥深くまでの道は見えていた。ずっと昔読んだ恐怖小説と違って、静寂こそあれど、何十人ものスタッフが失踪したような、不気味な雰囲気は感じさせなかった。 先を行くジェイを呼んで、私より二回りは小さな彼の様子を聞く。 「キュクロプスさん、この先は若干狭いがあなたでも入れないわけではなさそうだ。ただ灯りがもう設置されていない。誰かライトを貸して欲しい」 そんな声が狭い道の前、ダンやライラの前から聞こえてくる。私は持っていた携帯ライト、ジェイには若干大きいかもしれないが、をダン、ライラに渡し、ジェイに渡すように促した。 「この奥は広い空間だ」 「慎重に進んでくださいね」 ライラが呼びかける。裂け目が出来て落ちていたりしたら大変だろう。 ライラに続いてダンが、そして私が狭い穴をくぐる。真っ暗であまり見えないが。空間が広いのは声の響き具合でわかる。 「これは、特に岩の裂け目とかはないみたいだ」 慎重に前進して、ジェイから渡された携帯ライトで周囲を見渡したダンが、何かに気づいた。 「なんだ、あれ」 真正面の、ライトで灯された場所を見る。明らかに場違いな物が、岩に貼りついていた。 「扉、ですね」 ライラが立ちすくんだまま不安げに言う。 鎮座している金属製の、明らかに現代的な円い扉は、私でも余裕で通れるぐらいには大きい。左側には、取手のような金属製の棒も繋がっている。 狼狽しているのか、先にこの空間に入ったジェイは、扉を見て何か考え込んでいるように見えた。そんな彼の横を通って、ダンがおもむろに取手に手をかける。 少しだけ、空気の吸い込まれる音がして、扉が開いた。 考え込むのをやめたらしいジェイが、吸い込まれるように扉の奥に入っていく。 「マウゼリンクスさん!」 ライラは止めに入ろうとしたのか、後を追った。私もそれに続く。 後ろから足音が聞こえる。ダンも来ているようだ。 扉の奥は、少し上向きの傾斜のある、通路だった。4名分の足音、金属音が響��。それ以外は、ジェイの今持っている携帯ライトが頼りだった。 こんなところに近代的な人工物があったなんて、何かの軍事基地とかだと、非常に私たちはまずいことをしているわけだが、なんでこんな洞窟の奥深くにあるのか、見当もつかない。 好奇心はとうに消え失せ、徐々に後悔と不安と恐怖が胸の奥を占めつつあった。そんな時、ジェイが立ち止まった。 「行き止まり?」 最後尾のダンが聞いた。ジェイは短く、いや、とだけ答え、目の前の壁、いや、長方形の扉だろうか、に設置された黒いパネルに、手をかざした。 扉が開くのと、視界が明るくなるのは同時だった。しばらく薄明りや闇の中で過ごしてきたせいか、目が痛い。なんとか視界を取り戻すと、通路と思しき、私たちが辿ってきた空間が明るく、ライトのようなもので照らされているのが見えた。扉の向こうは、少し落ち着いた明るさのようだ。ライラやジェイに続いて扉をくぐる。 そこは、一面緑色の森だった。
唖然としていた私たちに、ジェイが呼びかけた。 「立体映像だ、本物の森じゃない」 各々が、凄まじい密度で生えている草木を触ろうとするが、すり抜けてしまう。どうやら本当に、偽物らしい。 「こんな植物見たことない。地球上でこんなの発見されてたっけ、それに日差しも」 「青い空だな」 上を見上げてジェイが言った。空と言えば、エアロプランクトンが漂っているため、地上からは緑色に見える、日差しもこんなに明るくはないはずだった。 「これが故郷の景色か」 そうジェイが呟く。 「その通りです、ここが本来の地球の景色です」 今までの穏やかな口調のまま、ダンが言い出した。 「マクファーレンさん?」 何を言い出すのか、と思い、私は振り向く。ライラも遅れて振り向いた。怯えているのか、その顔は強張っている。 「ようこそ、汎用生態系生産プラント、ネオファウナへ、私はこちらのオペレーションを行っているメインシステム、チャーリーと呼ばれています」 ダンは全員の方を向くと、恭しく礼をした。 「皆さんがご覧になっている映像は、本来の地球、東南アジアのカリマンタン島付近の熱帯雨林を再現したものです。本来の地球で最も多様性が保たれていた個所と言われています」 淡々と話すダンにはどこまでも表情が無かった。まるで愛想笑いを無理やり貼り付けたかのように、いや、人形や標本の魚のように、虚ろな笑みを浮かべたまま語り続けている。 「マクファーレンさん、どうしちゃったの?」 「私が現在操作しております個体は、身体の一部に改造を受け、なおかつ日ごろから電磁ネットワークに接続状態にありました。そこで、アバターを実体化させるよりも低電力で済むとみなし、デバイスとして使用するに至った次第です」 「俺をここに呼び寄せた理由はなんだ」 ジェイが、��れまで聞いたことのない、敵意の籠った声で言った。赤い目が射止めるように、ダンを見つめている。しかしダンは答えなかった。 「ジェイをここに呼んだ理由は?」 今まで黙っていたライラが今度は言った。さっきまで怯えていたとは思えない、鋭い声だった。 「私は当該個体、あなたがジェイと呼ぶ個体を通して、ユーザーの設定した開始コードの発現タイミングを計算していました」 もはや私には何がなんだかわからなかった。洞窟の中の見知らぬ施設、見覚えのない緑、そして態度の一変した同好者たち。立っているのがやっとだった。 「一から説明してくれ、彼らがここに呼ばれた理由を」 ライラが続けた。ダンは薄笑いを浮かべ、苦虫を嚙み潰したような顔でジェイがそれをにらんでいる。 「始生暦時代に入って、人類の文明は大きく進歩し、大規模な星間文明を築くに当たりました。その過程で、本来の地球は大きく生態系を衰退させ、私が稼働を始めた段階では、乱開発防止のために所在不明とされていました。その代わり、多くの惑星が植民化され、人類は星間文明を自らの故郷とするに至りました。しかし、本来の故郷である地球への憧憬が無くなったわけではありません。数多の星々をテラフォーミングする過程で、人類はそのノウハウを蓄積させ、より高効率に、より速やかに他の惑星を地球化することを実現したのです」 「そして、故郷への憧憬は、私が制作されたネオファウナ計画に繋がりました。星間文明で用いられていた、地球由来の生物の遺伝情報を基に新たな労働力、知的生物を作り出す技術と、先に述べたテラフォーミング技術が結びつき、新たな地球を生み出すという計画へシフトしたのです」 「手順はまず、簡易な条件での地球化から始まります。条件に見合った惑星に、こちらのプラントで遺伝情報を改変し作製した大気性プランクトンなどを放ち、大気構成を地球により近いものとします。その後、水生プランクトンやごく微小な生物、水生生物、陸生植物、小型陸生動物といった順に作製し、放流します。生態系がそれぞれ安定してきた段階で次フェーズに移行し、最終的に大型動物を除いた不完全な生態系ができます」 「その後、大型動物をヒト型知的生物として作製し、惑星上に解き放ちます。初期はある程度の調整が必要ですが、徐々に文明化が進むと、自然と個体数も増えていくことでしょう。 ユーザーであるホモサピエンスに形態的に近いグループが作製されたのは、文化基準をかつてのユーザーの文明に合わせ、個体数増加を促すためです」 「ラエンのことだよ」 静かにライラが呟いた。 「私が開始コードを発現しようとしているのは、更にその次のフェーズです。当該個体を作製した私は、接続可能な別個体を使って、当該個体を外に出し、その脳を通して現在の惑星の状態を観察していました。もちろん、当該個体には脳神経の加速���措置と、私に情報を送るためのリソースも設置済みです。24年6か月を観察したことで、私は開始コードの発現を行うのに十分な時間が経過したと認識しました」 「それが、俺が作られた理由か」 相変わらずダン、否、チャーリーを睨んだまま、ジェイが吐き捨てた。 「開始コードの発現後はどうなる、先住種族と同じように、彼らを消去するのか」 「いいえ、開始コードの発現後は、現在作製している神経加速化の遮断、脳内の感覚抑制の解放、ボトルネック防止に用いられていた多系統繁殖用遺伝領域の切除、そして次代における原種形態への移行、これらを促すウィルス群を散布します。現在、その準備段階として、複数個体にこれらの措置が可能かどうかを試験しています」 「どういうこと?何が起きるの?」 何を言っているのか、門外漢の私にはわからない。だけれど何か恐ろしいことを言っている気がして、口走る。 「俺たち知的生物は知能を失い、動物に戻る。感覚も戻り、少子化対策に用いられかけてた遺伝領域はもぎとられ、子孫は四つ足の獣に、ってことだ。失踪事件は、その準備として、試験的にウィルスをばらまいたってことだ」 ダンは何も言わなかったが、ジェイが代わりに答えた。 「私に記録されている地球生命の情報は膨大ですが、基礎さえ完成すればあとは難しくありません。残りは生態系が安定するに従って、徐々に作製し定着させていく予定です。早ければ数十年で、この星は第2の地球となります。私やユーザーの願った地球の復活が遂に為されるのです」 ダンは両手を広げてまるで演説でもするかのように宣言した。私にはこれが夢の中の出来事のようでならなかった。 「当該個体と、そうですね、こちらの個体は私の本体にフィードバックすることにしましょう。現状のサンプルでは効率的なウィルスの散布が行えないので」 そう言うとダンの体は何も映っていない瞳で私の方を見た。ここが北極であることを思い出したかのような寒気が走る。先んじて捕まえられたジェイがもがいている。私も腕を強い力で引っ張られて、森の奥まで連れていかれそうになる。 「AIの癖によく喋るなお前は。中に誰かいるだろ、飛びっきりのイカれた奴が」 突然、腕が離れた。同時にジェイの咳き込む声がする。 見ると、大柄なクマを取り押さえているラエンの女性の姿があった。非現実的な光景に何が起こったのかわからなくなる。 「チャーリーだったか、以前遺跡を回って、似たような壊れた施設を見た時にあんたの名前を確認したよ。設置予定の生体プラント兼液体コンピュータの素体になるって時点でやばいと思ったが、こちとら先住種族を駆逐されんのも、せっかく根付いた知性を踏み台に懐古主義に走られるのもごめんでね、悪いが稼働停止してもらう」 出会った時の態度はどこへ行ったのか、荒々しい口調で告げると、周囲に火花が散った。 途端に、立体映像の森が消え失せ、通路と同じ無機質な灰色の部屋に変わる。 「案の定、システムはニューロン式を使ってたか。悪いけれど私はラエンじゃないし、体はあんたの言うホモサピエンスでも、宿っている意識は年季の入った量子の寄生虫なんだ。量子脳に関してはこっちの方が上手なんだよ。3億年かけて辿り着いた、被食者と捕食者が共にいられる楽園、そう簡単に潰されてたまるか」 「私の活動が停止すれば、今後エアロプランクトンが作製されることもなくなりますよ」 苦しげでもない、さっきと同じ淡々とした口調でダンの体が言う。 「エアロプランクトンも継代を重ねて、あんたの供給なしに殖えるようになってるんだよ。この世界は変わっていくさ。でもそれは地球と違う、大型動物相の代わりに知的生物が優占し、交雑を重ね、多様化と均質化を入り混じらせる世界としてだ。本来の地球生命が今も変化を続け、この星だって変化の最中にあるのに、時を戻して止めようとした時点で、あんたは詰んでたのさ。わかったらとっとと凍りな、あんた��望んだ永遠の停滞だ」 轟音が響き渡った。床が震える。部屋のライトが点滅して、消える。真っ暗になった部屋が振動を続ける。盛大に転倒した私は、解放され糸が切れたように崩れ落ちたダンと、同じく転げまわるジェイをなんとか抱きしめる。 「私はこいつのやらかした後始末に行ってくるから、またどこかでね」 覚えているのは、そこまでだった。
台地で起こったことは、巨大な雪崩によってキャンプ地と、内部の空洞が崩壊した、というニュースで片付けられた。私は他の2人と共に病室に缶詰になり、あれこれと話し合った。ダンは荒っぽいが人懐こい性格で、私のことは全く知らないが、幼い頃に父親が連れてきて兄弟のように育ったらしいジェイのことはよく覚えていた。ジェイは遺跡巡りと、ダンがジェイを覚えていないことで気づいていたらしい。 キャンプ地で失踪したスタッフと、近隣の村から失踪した住民が保護されたのは、私たちが洞窟の入り口で倒れていたところを発見された翌日だった。ちょうど反対側の海岸で見つかったらしいが、不思議なことに皆が一様に「吹雪が酷くなったのでビバークした」という記憶しか覚えていなかった。1本だけ、空の注射器が置いてあったそうだ。 ライラの行方は分からない。そもそも、地元の警官隊にはそんなメンバーどころかラエン自体がいなかったのだ。 「これからどうするんですか」 ダンは寝ている。病室の窓から空を見ているジェイが、どうしても気になった。 生きる目的を失ったのではないかと、思ったからだ。 「枷が外れた気分だ、清々しましたよ」 い��もと同じ、だけれど少し晴れやかな声色で彼が返した。 「なに、資料は集まってますから、最後の仕上げだけできなかったってことで」 彼らしくない、楽観的な言葉だった。彼も、吹っ切れたのかもしれない。 「あの場にいた誰もが、あの場所に関係している者だった、あなたを除いて」 「そうですね、傍観者として、大事たと思われたのかもしれません」 「チャーリーが言ってましたね、星間文明がどうとか」 「言ってましたね、多種族からなる星間文明とか、地球由来の遺伝情報で人類の伴侶を作り出すとか、あれ」 「そんなこと、言ってましたっけ」 記憶と知識の食い違いに、戸惑う。すらすらと出てきた言葉は、私の理解を大幅に超えていたはずだった。 「磁気映像で撮影した、あなたの脳のカルテを見せてもらいました。先天的な改変の痕跡が見つかったようです」 「私には、そんな自覚は」 「無いんでしょうね。誰かが、どこか遠くからあなたの脳を介して、この星を見ている」 私と同じですね、と彼は言った。彼が言っている間に、まるで目の奥の濁りが取れるみたいに、目の前は鮮やかになっていった。 目の前に広がるのは、白い空。 でもその向こうに広がるのは、プランクトンに覆われた碧色の空。 脳裏に浮かぶのは、あの時見た青い空。 「モッティさん」 白い空をバックに、白い毛並みの彼が振り向く。その顔には、見たことのない表情が浮かんでいる。 「この世界って、綺麗ですね
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編集の発見
武満さんは言葉のつかいかたもすばらしい。『音、沈黙と測りあえるほどに』という本のタイトルなど、まさに「測りあえるほど」がぞくぞくするほど編集的だ。そのなかの「ぼくの方法」(1960)には次のようなことが書いてある。これまた、まさしく「編集の発見」である。
ぼくは1948年のある日、混雑した地下鉄の狭い車内で、調律された楽音のなかに騒音をもつことを着想した。もう少し正確に書くと、作曲するということは、われわれをとりまく世界を貫いている《音の河》に、いかに意味づけるか、ということだと気づいた。
『知の編集術』
発想・思考を生み出す技法
松岡正剛
武満徹のエディターシップ
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「……お前はバカなのか?」
彼……ISDF代表サリハの第一声はそれだった。
別の地区の見回りをしていた彼は仲間からの連絡を受け大慌てでここ、ウェストタウンの拠点に戻ってきた。
まるで戦場のような緊張感が拠点をぐるりと取り囲んでおり、サリハは軽く頭を抱えながら拠点内の応接室に入った。そこにいる来客……アルマ正教会教皇エルの姿を認め溜息混じりに吐き出した言葉がそれだ。
「お邪魔しております。……素敵なご挨拶ですね」
「生憎とお前のような御立派な暮らしなんて経験はないのでな。気に障るのならお引き取り願おう」
「いえ、ここだけの話……わたくしとて、畏まった対応ばかり受けるのは少々辟易しているのです。これは、内緒にしておいていただきたいのですが」
「……そうかい、じゃあ好きにさせてもらう」
「恐れ入ります」
「で、要件はなんだ?お前のようなヤツが茶を飲みにきただけということはあるまい?」
「此方のお茶は独特の風味でなかなか趣深い物で御座いますけれど」
コンコンっ
不意にノックの音がエルの言葉を遮り、
『お茶のおかわりをお持ちしました』
すぐ後を男声が追いかけてくる。
「アインスか。入れ」
「失礼します。……サリハさん、帰ってたンですね……って、ちょ、失礼ですって⁈」
茶器を乗せたおぼんを器用に片手で持ちながら扉を開けて男……アインスが入室する。
ソファに脚を組んで座るサリハの姿を見て目を白黒させている。
「寛大なお心でお許しいただけるそうだぞ」
「はい、構いません。アインス様もお座りくださいませ」
「俺もですか⁈……いや、俺はちょっと、まだ仕事がー……」
「なんだアインス。教皇様の頼みを無碍に断るのか?」
「アンタ絶対楽しんでるでしょ……」
「まぁまぁ。初対面というわけでもないのですから」
「その節は……まさか教皇様があんなところにいるとはつゆ知らず……とんだ無礼を……」
「おいおい教皇サマ。うちの部下をいじめないでやってくれないか」
「誰のせいですか誰の!」
「……うふふ……♪」
「……っとぁ、すみません……」
小さくなってサリハの横に座るアインス。相対する席で口元を隠し笑っていたエルが手を下ろす。その一動作だけで、室内の空気が変わった。
「……先日お送りさせて頂きました書状は、ご確認頂けておりましょうか」
「あぁ、スラムに教会を、とかいう例の件か。確かに拝読させてもらった」
https://discord.com/channels/1020297124434419722/1068114953753608262/1157536351915343923
「手の込んだ悪戯かとも思ったが、話をしたのがコイツで、確かに支援物資も資金も届いた。ご丁寧に教会の印章つきでな。信用しないわけにはいくまい」
「恐れ入ります」
「此方としては願ったり叶ったりではあるが……どういうつもりだ」
「……どう、とは?」
静かに圧を強めるサリハの言葉にもエルの態度は変わらない。ただ横で推移を見ているアインスだけが小さくなるばかりだ。
「あの書状を帝国ではなくこちらに寄越すというこ��は、教会直々に我々の自治を認めたと捉えられかねん。まさかわからずにやったなどということはないだろう?」
「そうした方がよろしかったでしょうか?」
「当然、そうしていたらヤツらはこれ幸いとスラムの土地を接収しようとしただろう」
「然り。そのくらいの調査洞察は、この地を知らぬ……そうですね、“御立派な暮らし”のわたくし達とて可能です。なればこそ、地を知り人を知り、仁徳に満ち���英雄様にこそ打診を行うべきであると判断した次第に御座います」
「買い被り過ぎだが、信用には応えよう。お前ら教会が我々を裏切らないのであれば、我々が教会を裏切る事はない。誓おう……お前らの言う父なる神とやらは知らないが、俺の誇りに賭けて。こいつが証人だ」
急に指されてアインスは驚いて居住いを正す。
それを見てエルは微笑んで頷く。
「我々正教会は、人間が人間として正しく生きていく事をこそ肯定するものです。人は国に属するのではなく、国が人に属するのです。なればこそ、この地はあなた方の治める地。道理を通すべき相手はあなた方で間違いはないでしょう」
「そちらの意向はわかった。ならばここからは交渉の場だ。がっかりさせてくれるなよ」
「勿論。ご期待くださいませ」
若干緩んだ空気にアインスも内心でホッと胸を撫で下ろす。
「そうですね……まず、アインス様。この周辺の地図などありましょうか?」
「え?あ……はい、ちょっと待っててくださいっ」
急に声をかけられたアインスがバタバタと退席するのを見送り。
「此方から求める事は、
ひとつ、教会建設の為の土地の借用、
ひとつ、教会員の駐屯の許可、
ひとつ、教会管理下の隊商の通行、停泊の許可
それからもうひとつ……」
「もうひとつ?」
「建築した教会の管理者、指揮者として此方……ISDFから一名、任命して頂きたく思います」
「……ほう?」
「勿論、教会から補佐役として一名派遣を行いますが、基本的に建築した教会に付随する事物に関する采配の全権は、任命して頂いたその方に委任させていただきます」
「……お前は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「はい。要するに……
教会建てる土地貸して
教会員が暮らすのを許して
ウチの隊商が通ったり休むのを許して
ついでに一人管理人役を出してくれ
です。そして、建屋の管理から搬入物資、人員、資金、土地活用に至る全権はその管理人役がやってくれ、とそういう要求です」
「……お前は、バカなのか?」
「はて?……あぁ、土地の借用費は搬入物資や資金から供出して頂くとして、教会員の生活費や隊商の消費した資源に関しては別途請求下さればご用意させて頂きます」
「そういう話ではない。……一体何を考えている?」
「何か問題がありましょうか?」
「これのどこが取引だというんだ。全く対等ではない……これでお前らは何を得る?我々を懐柔しようという腹か?」
「そうなれば僥倖では御座いますけれど、踏み台にされるだけでも此方としては十全。それ以上は“おまけ”のようなものです」
「……馬鹿げている」
「そうでしょうか。先程申し上げました通り我々正教会は、人間が人間として正しく生きていく事をこそ肯定するものです。そのために持てるものを捧げる。それこそが教会のあるべき姿です」
「…………」
沈黙が室内を満たす。
「……仕方���りませんね。此処だけの話としてお聞きくださいませ」
先に沈黙を破ったのは、エルだった。
そしてほぼ同時に。
コンコンっ
「失礼します。すみません、お待たせしま……し、た……」
「ご苦労。座れ」
「はぃ」
入室したアインスが机に地図を置き再びサリハの隣に座る。
(サリハさん、なんか空気重くないですか……何があったンすか)
アインスが小声でサリハに問うもサリハは顎の動きだけでエルに話を促し答えない。
「……大戦により世界が被った被害……物質的にもそうですが、何より人心が負った傷は深く、目に見えぬ存在を信じる心を保てている方はそう多くはありません。されど、傷ついた心が救済を求めるのもまた必定。教会はそのような方に手を伸ばすのがその勤め……」
言葉を紡ぐエルも、それを受けるサリハも、仮面に隠れた顔から表情を窺う事はできない。
「現在の教会が持つ本質はその教えではなく、無国籍の人的ネットワークそのものです。実際に父なる神に信仰を持っている者は、騎士団を除けばごく僅かなのでしょう。わたくしもそれを理解した上で教会を指導する立場に就いております」
「……教皇様がそれ言っちゃうんですか……」
アインスが思わず溢した言葉にエルはゆっくりと頷き。
「事実を事実として受け止めぬほど愚かではないつもりです。されど、世の中は本音と建前を使い分ける事で安定して回るもの。それで救われるものがあるのならば、わたくしは、教会は喜んで嘯きましょう」
アインスは先日補給物資を運んできた隊商を思い出す。教会の印章を刻んだ一団ではあったが、確かにその言動は教会のものと言うよりは商人や輸送屋のそれであったように思う。
「教会の教えに一切の真もないなどと申し上げるつもりは勿論御座いません。どちらも実であり虚であり、結局のところ目指すのは人間の平和と繁栄……そこに尽きるのですから」
「ふん……なるほどな」
「ご理解頂けたようで幸いです」
「此方としてはスラムの奴らが平和に暮らせるならお前らがどんな意図であろうと変わりはないからな」
「十全です。では、話を進めましょう」
「ああ」
「まず、立地に関してですが……」
アインスが持ってきた地図を広げて眺め、
「規則としてそれなりに広めの土地が必要になりますので、相応の場を借り入れたく存じます」
「使っていない土地自体は沢山あるが……」
「有事の際に避難所や防波堤としての役割を担う務めが御座います故……」
「防波堤?」
「はい。街や避難所に賊や根源生物が侵入しないよう、この教会の土地で万全の体勢で迎撃を行えるよう配備できるようにと」
「却下だ」
「……戦力は此方から駐屯させるつもりですが」
「尚更だ。資源のみ��らず防衛までお前らに委ねるほど俺たちは落ちぶれちゃいない。客は客らしく安全な場所にいろ」
サリハが地図を叩いて示す場所はウェストタウンのはずれではあるものの根源生物が多く観測される砂漠側からは遠い位置だ。
「畏まりました。では此方の場所をお借り致します。近日中に現地視察に人を派遣致します」
「そうしてくれ」
その後も話は速やかに進み、とんとん拍子に取り決めがなされた。
実建築にかかる際の人手借り入れの報酬、教会の規定に伴うワークショップや隊商の巡回周期、砂漠の遭難者や非常事態に備えたビーコン設備の取り付け、有事の際の避難所や臨時病床としての開放規則などなど、話す事は多数あったがつつがなく話は進められ、
「……事前に決めておくのはこれくらいで御座いましょうか」
「先に話していた管理者の件だが」
「はい。建築が終わる頃までに決めて頂ければと思います。……既に候補を絞られていますか?」
「アインス」
「はい?」
「お前がやれ」
「……はああぁ⁈な、なんですか急に⁈」
「アインス様がちょうど席を外していた時に出た話ですね。此方からの要求として、建築した教会の管理者をISDFから一名選出して欲しいとお願いさせていただきました」
「お前なら信用できるし悪いようにはしないだろうと判断した。やってくれるな」
「いや、まぁ……やれと言われればやりますが……いいんすか?俺、信仰心とか欠片もないですよ」
「いくつか守っていただきたい事柄は御座いますが、教会施設を自由に使う為の必要経費とお考え頂きましたら幸いです。勿論、無理にやれと申し上げるつもりは御座いません」
「え、自由に……って、どういう事ですか……」
「後で説明してやる」
「なんかめちゃくちゃ重要な事をさらっと押し付けられてる気がする……」
「正式な決定に関しては、先に申し上げました通り、建築完了までにお知らせ頂ければ重畳です。説明を受けてからご決断ください」
「あー、いや。サリハさんが俺なら信用できるって任せてくれるンですよね。なら、期待には応えますよ」
「話が早いのは助かりますが……押し付けたようで、少々申し訳なくも感じますね……」
「最終的に俺が自分で決めたんで。気にしないでください」
「……畏まりました。では、補助役の選定を急ぎます。建築完了前に此方に向かわせるよう手配を致します」
「お願いします」
ちょうどその時、扉をノックする音が室内に転がり込む。
『教皇様、そろそろ……』
室外で待機をしていた侍女の恐る恐るといった声がその後を追う。
「すぐ向かいます。あなたは出立の支度を」
『畏まりました』
「……申し訳ありません。この後も予定が御座いますゆえ、これにて」
「ああ。無事に生きていたらまた会おう」
「その日を心待ちにしております。では、皆様に、父なる神の祝福のあらんことを」
エルが退室したのを見送り、アインスは大きく息を吐き��ファに体を沈み込ませた。
「はあー……なんかとんでもないことになった気がする……」
「ふ。期待している。俺もまだ予定が残っているから、あとの片付けは頼むぞ」
「あ、はい。了解です」
部屋を出たサリハの指示で、拠点を囲んでいた隊員は速やかに任務に戻っていく。
慌ただしい昼下がりを抜けて、スラムの日は続く。
幕。
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ある画家の手記if.116 行屋虚彦視点 告白
今日も雨。 降ってる間は静かでいい。 やむと下から上に登る気配に肌の上を虫が這う。 ガリガリ服の下の肌を引っかきながら口にくわえてたゼリー飲料を飲み込む。 なんか今日やけに…窓の外が青いな
最初にここに来たとき、俺はスマホの充電器と行き道で買ったスポドとゼリー飲料しか荷物持ってなかった。 光熱費払ってればなんも物がなくても近くにコンビニあるだけで暮らせないこともないだろうし、俺はあいつのいない空間があればそれで、だだっ広いフローリングだけの部屋にいるのもいいかと思ってた。 母さんが死んで、あの人のおかげで自分が人間っぽい生活できてたことを知った。 掃除洗濯とかいちいち着替えたり風呂入ったり料理作ったり。俺は一人じゃ自分になんにもしてやる気がない。自分が嫌いとかなんとかじゃなくてだるい。身支度も、俺がきちんとしてないと迷惑かける人間とかもいないし、てんでいまだに服は全身500円の古着からなんもレベルアップしてない。 俺って今中学生だっけ…高校生だっけ…てか何歳だっけ…この前違うインタビューで二連続で聞かれてテキトーにどっちにも違うこと言った気がすんな…。 フローリングだけの床の真ん中に仰向けになって毎日過ごしてた。高い空間、薄めの色…?
そうして色々疎かにしてたら、連絡きたと思ったらそのまますごい早さで香澄さんが訪ねてきて、引っ越してすぐだしなんか用事か忘れ物かなと思って上がってもらったら香澄さんは歯ブラシとかラップとかトイレットペーパーとかタオルとか生活必需品ぽいやつをどっさり携えてて、誰のだ?って思ったら全部俺んだった。 そのまま香澄さんが買ってきた食材使ってキッチンで料理はじまって、なんもしないのもあれだから俺も隣で料理すん��手伝って、その日は久々になんかうまいもの食べた。そういえば焼肉とかまた食いたい。 消耗品が揃ったのは助かったなって思ってまたフローリングの中央にいるだけの元の生活に戻ってたら香澄さんに布団買いに行こうって言われて…誘われて?一緒にホームセンターに布団一式買いに行って、リビングの真ん中にふわふわの布団だけ敷いてある状態になった。 他にもいくつも部屋はあるし風呂場は俺が何人入るんだって広さだしで、部屋をどれも活用して暮らした方がいいかもな…と思う反面、…俺は基本怠惰でだるだるしてっからな…イラついてるときはだるっとはしてないのかもだけど…布団の周りに生活に必要なもの全部揃えてそっからあんま動きたくねぇー…
極力物は少なくしたい。全部黒とか白とかで統一したってそれぞれ違う音も色も光も出す、なくていい物はなくていい。 …と、思ってたんだけど、香澄さんが来るたびどんどん家具増えてって。とりあえずリビングの隣の部屋に配置しといた。どれも実家にある家具の地獄のセンスに比べれば全然色もデザインも穏やかだから黙ってもらっといた。その中にでかい謎のクッションみたいなソファみたいなのがあって座ると凹んで面白いからしばらくそれに乗っかってた。 あとで俺も一人で出かけてって同じソファ見つけ出して買ってリビングに二つ並べた。香澄さんが来たとき用。 それで香澄さんはここに来たときにはオフホワイトのそのソファに定位置みたいに座るようになった。香澄さんが俺に買ってくれたやつは濃紺。香澄さんのをオフホワイトにしたのは、多分香澄さんの生来持つ色をよく引き立たせるから。…ほんとはちゃんと見えてないけど、それでもまあまあの確率で当たるといえば当たる。 もらってるものにはその場でレシート見せてもらってきっかり現金で返した。俺の財布ん中見て香澄さんはちょっと引いてた。 ここくる前に個展やって全部売れたしな。しばらくはなんもする気ない。 これも母さんが死んでから気づいたけど、俺は金がなくなって電気ガスが止まろうが路頭に迷おうが飢えようがその気にならないと描かないっぽい。まだそこまで金がなくなったことも描かない日が続いたこともないけど。以前はいざって時の母さんの治療費にとか思って絶え間なく描いてた。 …あとは、描く以外にどう肯定すればいいのか分からなかったから、音と、色と、触覚、痛み、…絵にしないと美しくはない世界を。それをそうとしか感じられない、そう感じる俺を疑わない、俺を。 ここに絵を描く道具はなにも持ってこなかった。荒療治みたいなもんだ。他の方法を模索するための。描くために補助的に使える緩和策とか。いつまで続くかわかんねーけど。
違う日に、たま��会話に自然に紛れるみたいに出てきてたアヤって人を、香澄さんが連れてきた。 香澄さん曰くキラキラしてて王子様みたいな人。聞くからに俺が苦手なタイプだな…と思ってたら実物はなんか違った。 「こないだ話した王子様だよ」ってなぜか得意げに紹介されて、玄関先でしばらくその人をじっと見たせいで少し場の空気変になった気がする。 咄嗟に補完する色を脳内検索してみたんだけど無理だった。黒と白の墨っぽいマチエールに薄紅色に金粉みたいなのが細かく舞ってる、完成されすぎてて加える色も補完する色もない。別の色を加えようとしたら今の美しさを損なう、隣に全然違う色を置いてもほとんどの色が優雅さで負けて圧殺される…いや、香澄さんなら隣にいて遜色ないか、赤っていうか朱に白筋だし、雅な色だしお互い引き立てあうし相性いいな、香澄さんにもよく見たら金箔乗ってるし、葬式場に咲き零れた桜に朱塗りの盃をあげてる感じか とかなんとか思ってたせいですぐに反応できなかった。 その人もその人で俺のことしばらくじっと見てた。目の白濁が不気味だったかなと思って、なんとなく初めて眼帯で隠したほうがいいかとか思ったときに訊かれた。 「その目、どうしたの」 ここまでストレートに俺本人に訊いてくる人も珍しいなと思った。影で色々言われてんのは知ってるけど。 答えようか迷ってたらさらに続けられた。「直にぃから聞いて知ってるよ。行屋虚彦くん。9歳で初個展を開いて以来ずっと現役活動中の画家。でしょ」 空気の流れに沿って薄紅色がはらはら舞いながら俺の顔の横を通り抜ける …オルゴール音みたいなのが これはたぶん実際の音じゃないな 音が鳴る人…だ いや、誰でもそうだけど。普段は無視してる音を俺が拾ったのか… そこで初めて、視覚情報に意識が戻った、その人に微笑みかけられたんだってことに気づいた
香澄さんに買ってもらった爪切りで爪を切る。 少々深爪になるくらいまで切っとかないと、今日みたいな日は肌引っかきすぎてこのままだと怪我する。 床から灰色が緑に混ざって登ってきてた。足を一度床に強く叩きつけたら緑だけ少し落ちた。下の階に迷惑か。 爪をゴミ箱に捨ててパーカーをかぶる。 いつもの黒い長袖とデニム。この時期これで外出歩くのは暑いけど、室内では年中クーラーつけて過ごすからこれでいい。設定温度は十九度。 インターホンが鳴ったから出たら香澄さんだった。 鍵を開けて部屋に通して、香澄さんがお土産に買ってきてくれたコーヒーをお互いに一個ずつ持って、クローゼットからブランケットひっぱってきて香澄さんに渡す。俺はずっとここにいて気温感覚麻��してるけどこの部屋だけたぶん極寒だから。香澄さんが買ってくれたブランケット、柄がなんか控えめにかわいい感じだけど、俺がガキだから…?それとも香澄さんがこういうの好きなのか。 いつものオフホワイトのソファに沈み込むみたいにして香澄さんが座って、濃紺のソファに俺が座る。このソファ、人を堕落させるとかなんとかいう触れ込みがあるらしい。どういうことだよ。 「こんなしょっちゅう俺のとこ来てて直人さんなんか言わないんですか」 コーヒーの蓋をとって冷ましながら隣の香澄さんに訊く。今日のは水銀みたいなの立ち上ってんな。 「直人?うつひこくんによろしくって」 よろしく、って…俺によろしくって… なんなんだよ… 俺あんま…機嫌とられんの好きじゃねーんだけど…厚意が苦手って俺ひねくれてんのかな…なにが気にいらねーんだ… 直人さんが養子とったのも、養子ってのも、よくわかってない。何がどうなったらそうなるんだ…。 推測…というか見たままなら…なくもないけど…でもそういう素振りなかったしな… 二人してリビングで並んでいつも陽の差し込む全面強化ガラスの窓のほうを向いてぼんやりする。 ときどき話したり沈黙が続いたり。 俺はそれで居心地悪くないし、過剰なもてなしみたいのされるのが俺が好きじゃないから香澄さんにも特にしてないんだけど、俺の感覚だしな。それでいいのかはわかんねえ。 パーティで初対面だったときも俺は無理して愛想笑いとか親しみやすい喋りとか一切しなかった。いつもそうだ。無理してて続くわけねえし身の丈に合わねえことして無様になるのも嫌だ。それで生意気だの社会のマナーが身についてないのガキだのって言われても俺は実際生意気でマナーのなってないガキだしな… 香澄さんも居心地悪いなら来なきゃいいんだろうし。…それとも俺そんなに放置すると大人としての責任問題に繋がるほど危なげに見えてんのかな… 湿気で肌に虫が這うのをガリガリ引っかきながらぼんやりソファの上で窓の外を見てたら、 ーーーーーー急に きた 下から青? … やばい、 これは 空気中を埋めつくすみたいに ここ十七階だろ これもう 手遅れじゃねえのか 「香澄さん!!」 ソファから反射的に立ち上がって香澄さんの体をガラスから遠い位置に突き飛ばしてリビングに敷いてた一番分厚い布団を香澄さんの体にばさっと被せた 少々乱暴な動作になったけど死ぬよりましだろ しばらく窓の外の色を見て急激すぎる変化がないのを確認してから俺も一緒に布団の中に潜った 「うつひこく…「ちょっとすいません、スマホで情報確認します、香澄さんは布団から体出さないでください」 言葉に被せるみたいにして言って黙らせて手元のスマホの画面を弾いて確認する。 直後にきた。 一度重低音が鳴ってガラス窓や床や部屋全体が揺れた。ぶつかったり割れるような固い家具がないからよくわかんねえな、この高さの新しい建物なら免震構造か制震構造でできてるはず。 スマホで情報見てたら警報が出た。震度5。震源地が。ここは震度3だったらしい。もっとでかくてやばいのがくる気がしたけど、違ってたならいいか… まだ少し余震が続く中で、混み合いすぎてて繋がらねーかもと思いながらも直人さんに電話をかける。繋がった。 「あ、もしもし。ここに香澄さん居るんですけど、そっち大丈夫ですか。こっちは二人とも無事です。……はい。…そうですね。俺がそう言ってもあれなんで、本人に代わります」 香澄さんに電話が繋がったままの俺のスマホを渡す。 正直こういうのよくわかってねーけど、災害時には家族で連絡とって合流したり、なんか…そういうのあるらしい。母さんは電話出られねーしあいつは日本にいたことほぼないしケータイの一つも持たねえしで結局よく分かんねえけど。 …パーティ会場で、この人のことを「息子」って言って俺に話す直人さんが…その関係を大事そうにしてるのを、見たから 俺にあの人の大事なものを守る筋合いとか別にねえんだけど…香澄さん単体となら付き合いはあるけど… 二人で布団かぶったまま、香澄さんは隣で直人さんと電話越しに安否確認とって、今日は電車とか車道も全部混み合うだろうからってことで、香澄さんはここに泊まってくことになった。 余震が来ても倒れてくるようなものはこのリビングにはないけど、ガラス窓が全壊するとかに備えて一応二人で窓から離れた位置でふかふかの布団をかぶって寝る。一人分しかないから一緒に寝ることになった。 もともと一人で使うにはデカすぎるくらいだったし、俺がペラいし小さいから二人で寝ても余裕でスペースは余った。 布に巻いた靴を二人分、布団のそばに置いとく。 布団かぶってスマホで情報流し見しながら、ここまで大袈裟に騒いだり備える必要全然なかったっぽいのを知って安心と一緒に微妙に恥ずかしくなってくる。 「あの」 背中向けてるから見えないけど香澄さんに声かける。 「大袈裟に騒いですみませんでした…」 目視で見えた感じじゃやばいように見えた、でもそれは単に俺の目がおかしかっただけだ ほとんど見えなくなった方の白濁した目は今も何かを拾い続けてる、それも以前より鮮明に鋭く拾うこともあるくらいで 俺の見てる世界は、前よりさらに俺の見てる世界以外の何でもなくなった 誰だってそうだ、…そう言えないくらい隔たってる 実害のあるレベルだ 今もこうして香澄さんを巻き込んでるし 耳の奥でガリガリ音がするのをパーカーかぶって両手で頭おさえてやり過ごす 絵を描いてれば空腹か体力の限界がくれば疲れて倒れるみたいに眠れてた 今は描いてないからなかなか眠れない 暗い空間に青い光が床を走っていくのをじっと見ていた
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TEDにて
マット・ルッソ:宇宙の音を探る音楽の旅
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
宇宙の世界とは、よく描写されるように生物の存在しない静かな場所なのでしょうか?
恐らく違うでしょう。天体物理学者であり音楽家のマット・ルッソが、宇宙に隠されたリズムと惑星の軌道が奏でるハーモニーの秘密を紐解きながら私たちを壮大な宇宙の旅へと誘います。
「宇宙は音楽で溢れている。私たちはただその聴き方を学べばいいのだ」とルッソは言います。
皆さん。目を閉じて下さい。そして、広く開放的な野原に座っているところを想像してみて下さい。
太陽が右手に沈んでいきます。日が沈むにつれ今宵は、夜空の星が見えるだけでなく、星が現れる音まで聞こえてきます。
一番明るい星々は、ひと際大きな音を立てていて高温の青い星々は高い音を出しています。
異なる種類の星々で出来た星座たちは、それぞれが個性的なメロディーを奏でます。
例えば、ヒツジの牡羊座。そして、狩人のオリオン座。さらに、ウシの牡牛座も。
私たちは音に溢れた宇宙に住んでいます。このことを活かして新しい視点からその宇宙を体験したり、その視点を幅広い人々と共有することもできるのです。やってみましょう。
大抵の人は、私が天体物理学者と聞くと、とても感心してくれます。そして、音楽家でもあると伝えると「ええ、知ってますよ」ってね。
どうも誰もが、音楽と天文学には深い繋がりがあると知っているようなのです。これは、実は大昔からある概念で2000年以上前のピタゴラスまで遡ります。
ピタゴラスがつくった定理といえばピタゴラスの定理です。
ピタゴラスによると「弦のうなりには幾何学がある。天球の間では音楽が響いている」と。ピタゴラスはまさに惑星たちの天球に沿った動きが協和音を創り出していると考えたのです。
じゃあなぜ何も聞こえないのかと訊かれたら「それは当然だ。なぜなら何も聞こえないこと。つまり、本当の意味での沈黙を知らないからだ」と答えたでしょう。
停電してはじめて普段、冷蔵庫がうるさかったことに気づくのと似ています。何となく分かりますよね。アリストテレスのような人には、理解できなかったみたいですが。
本当のことです。
アリストテレスの言葉を噛み砕くと「良い考えではあるが、もし天空ほどの莫大な何かが独りでに動いて音を創り出しているとしたら聞こえるどころではなく、地球など破壊してしまうほどの音を出すはずだ。我々はここに存在するのだから天球の音楽などないのだ」
脳が血液を冷ますためだけのものだとも説いているような人なのでそんなもんでしょう。
でも、本当はどちらの言うことも正しかったということをお見せします。
まずは、何が音楽を音楽たらしめるのかについて理解しましょう。馬鹿げた質問だと思うかもしれませんが、なぜ同時に奏でた音と音は、こんなにも相対的に心地よく共鳴するのかと思ったことはありませんか。
例えば、この2つの音。あるいは、もっと緊迫した不協和な音もあります。この2音とかね。ほらね、なぜでしょう?
そもそも音程がある所以は?なぜ音程が合ったり外れたりするのか?実はこの質問には、ピタゴラス自身が答えています。一番左にある弦を見て下さい。この弦を弾いてみると高速で前後に振動して1つの音を出します。
この弦を半分に切って2本の弦にすると、それぞれが2倍の速さで振動し、それに対応する1つの音を出します。これは3倍の速度で。これは4倍の速度です。
音の協和の秘密は、簡単な比率にあったんですね。2つの音の比率が簡単であるほど、その2音は心地よく響き合い協和音になり、比率が複雑であるほど、不協和音になってしまうわけです。
このような音が持つ緊張と解放。あるいは、協和と不協和の相互作用が、音楽というものを創り出しています。
ありがとう。
まだ終わりではないですよ。
次は音楽の特徴である音の高さとリズムについてです。実はこの2つも先ほどの例と同様です。お聞きください。
(遅いリズム)
これはリズムですよね?スピードを早めるとどうなるか?
(徐々に早くなるリズム)
(高くなる音)
(低くなる音)
(遅いリズム)
1秒あたりに刻むリズムが20回を超えると脳は処理を切り替え、その音をリズムとしてではなく音の高さとして捉えます。
これが天文学とどう関係するのか?
ここでトラピスト1惑星系についてお話ししましょう。これは太陽系外惑星系で昨年2017年2月に発見され皆を興奮させました、
近くの赤色矮星を地球サイズの惑星が、7つも周回していると判明したのです。そして、そのうち3つは、水が液体でいるのに適した温度になっています。
また、地球から近いので今後数年のうちにそれらの惑星の大気中に酸素やメタンのような生命の兆候にあたるかもしれない物質を検出できるでしょう。
しかし、このトラピスト惑星系は非常に小さいのです。これは、私たちのいる太陽系内にある岩石惑星の軌道です。水星、金星、地球、火星です。
そしてトラピスト1に属する地球サイズの7惑星は、全て水星の周りに軌道を置いています。この写真を25倍に拡大してやっとトラピスト1の惑星の軌道が���えます。
地球サイズの7惑星が恒星を周回していると言いましたが、大きさでいえば実は、木星とその衛星系にずっと近いのです。
皆を興奮させたもう1つの理由は、アーティストが描いた惑星の予想図です。水もあれば、氷も存在する。もしかしたら陸地もある。このような綺麗な夕日を前に泳げるかもしれません。
皆が心を踊らせました。すると数ヶ月後、違う論文が発表され実はこんな場所かもしれないと言うのです��
論文によると地表は溶岩で出来ているかもしれないうえに中心の星からは非常に有害なX線が、出ていると言う兆候があったそうです。
地上を不毛にすると共に大気をも消し去ってしまうようなX線です。幸いにも数ヶ月前、2018年に入ってより精巧な測定結果を記した新たな論文がいくつか出てきて先ほどの美しい予想図に近いものに落ち着きました。
トラピスト1の惑星のいくつかには、豊富な水があると分かっています。全球海洋です、またいくつかは、厚い大気で覆われているので生命の可能性を探るにはうってつけの場所です。
しかし、もっと興味深いことがこの惑星系にはあるのです。私にとっては特にね。それは、トラピスト1が鎖状の共鳴関係だということ。
1番外側の惑星が2周する間に、その1つ内側の惑星は3周し、その内側の惑星は4周し、続いて6周、9周、15周、24周と軌道を重ねています。
これらの惑星の軌道周期が、とても簡単な比率であると分かりますね。1周毎に1ビート鳴らすとして周回速度を上げるとリズムが生まれるのは明らかですよね?
ですが、周回速度をもっと上げてみると音程が生まれます。この惑星系に限っては、これらの音はうまく混ざり合い人間の音楽のようなハーモニーさえ生み出します。
トラピスト1の音響を聞いてみましょう。最初に聞いてもらうのは、それぞれの惑星の軌道の音です。覚えていてほしいのは、この音楽は惑星系自身が奏でているということ。私は音程やリズムをいじっていません。
ただ人間が聞き取れる周波数帯域にしただけです。全7惑星の音が出揃ったところで今度は、2つの惑星が隣り合うたびにドラムの音を鳴らします。この時、2惑星は互いに近づき引力による引き合いを起こしています。
(1つの音)
(2つの音調)
(3つの音調)
(4つの音調)
(5つの音調)
(6つの音調)
(7つの音調)
(ドラムの音)
(音楽終わり)
これは、この星自身の音でありその輝きを音へと変換したものです。
こんなことがあり得るのかと思いますよね。オーケストラに似ていると考えれば良いと思います。
人が集まって演奏するオーケストラでは、好き勝手に音を出すわけではなく皆で同じ音調を奏でますね。
自分の奏でる音をちゃんと周りの楽器と共鳴させなければなりません。トラピスト1の発生初期にこれとよく似たことが起こっていました。
この惑星系の形成初期には、惑星たちが円盤状のガスの中に軌道を描いていてその円盤の中にいる間、互いにぶつからぬよう避けて通り軌道修正をくり返すことで完ぺきに調子を合わせたのです。
この軌道修正が功を奏しました。この小さな惑星系は、���い空間に大きい質量が詰まっているのでもし、この協和状態に少しでも狂いがあったならあっという間に互いの軌道を邪魔し合い惑星系全体が崩壊していたでしょう。
なので、まさに音楽がこの惑星系とそこに存在しうる生命を生かしているということです。
では、私たちの太陽系の音はというとあまり言いたくはないですが、心地良い音ではありません。
それには理由があって私たちの太陽系はトラピスト1よりはるかに大規模なので全8惑星の音を聴くには、まず人間の可聴域の下限付近の海王星から始まり、可聴域の上限ギリギリの水星まで音域を目一使わなければなりません。
それに、太陽系の惑星は密集しておらず、かなりの広範囲にバラけているために互いに軌道修正する必要がなかったので惑星たちは、それぞれの音を思い思いに鳴らしてるだけなのです。
では、心苦しいですがその音色をお聴きください。
(1つの音)
これが海王星。
(2つの音)
天王星。
(3つの音)
土星。
(4つの音)
木星、そして更に火星が合わさります。
(5つの音)
(6つの音)
地球。
(7つの音)
金星。
(8つの音)
そして、最後に水星。うーん、止めましょう。
実はこれはケプラーにとって夢でした。ヨハネス・ケプラーは「惑星運動の法則」を発見した人です。
音楽と天文学と幾何学の間に何か関係性があると強く信じてやみませんでした。そして、太陽系の惑星におけるいかなる音楽的な協和をも探し求めそれだけを綴った1冊の本を残しました。
かなり大変だったようです。トラピスト1に暮らしてたらもっとずっと簡単だったでしょう。それか、別の惑星系K2-138とか。
これは2018年の1月に発見された5つの惑星から成る新たな惑星系でトラピスト同様、誕生間もない頃は、惑星たちが見事に協和していました。
この惑星たちは、2000年以上前にピタゴラスが提唱した調律法どおりに音が合っていたのです。ですが、ケプラー宇宙望遠鏡で発見されたためケプラーの名を冠しています。
そして、ここ数十億年でK2-138の調律は、トラピストに比べかなりずれてしまいました。そこで今から時間を遡ってK2-138の形成当時は、どんな音がしたのかを推測することにしましょう。
ありがとうございます。
さて、皆さん。この話はどこまで広がるのか宇宙にどれだけ音楽があるのか気になりますよね。私も昨年の秋、同じ疑問を抱きました。
トロント大学のプラネタリウムで働いていたときです。芸術家のロビン・レニーと彼女の娘のエリンから連絡がありました。ロビンは夜空が大好きですが、著しい視力低下により13年間夜空を満喫できずにいました。
どうにかできないかと相談を受けた私は、思いつくかぎりの宇宙の音を収集し、1つにまとめ「Our Musical Universe(音楽に溢れた私たちの宇宙)」を作りました。
宇宙のリズムやハーモニーを探索する音を基としたプラネタリウムショーです。
ロビンはこれにとても感動し、帰宅後に自分が体験した感覚をこの見事な美しい絵にしてくれました。私がポスター用に木星を付け足して汚してしまいましたが
さて、このショーに視覚の自由・不自由は、関係ありません。��らゆる人を夜空を抜け観測可能な宇宙の端まで音声を使って宇宙の旅に案内します。
しかしこれは、新しい目と耳で宇宙を体験するための音楽による知的探求の始まりに過ぎません。皆さんの参加をお待ちしています。
ありがとうございました。
(個人的なアイデア)
この世界中に太古からあるストリングのアイデアを統合し、数学と融合した理論物理学がスーパーストリング理論です。
2023年にはジェネレーティブ人工知能が登場し、このアイデアから観測データを個々の恒星のリズムとして個々の音で表現すれば良いのでは?
というインスピレーションが来ました。
こうすれば、全銀河の観測データを音で比較することが可能になり個々の音が複合的に重なり合いつつ・・・
シンフォニーの音色から新たな似た恒星系や銀河などの特徴も音階で比較解析できるようになるかもしれません。
ダークマターやダークエネルギーの特性の発見にも近づきそうな感じはします。
何か未知の銀河を発見するかもしれないし、瞬時にシンフォニーから特徴も一目瞭然にジェネレーティブ人工知能から意味が整理され、分かりやすくなるかもしれません。
さらに、スーパーストリング理論の素粒子からの知見の活用。
つまり、音に変換してアプローチする新たな理論も構築できるし・・・古代から音楽家は、感性で脳と共振させて譜面にしてた?
巨大な銀河からも音という形式でアプローチする理論を構築するためのデータの裏付けも精密に得られるかもしれません。
また、精密にデータにできるので同じ音という統一形式で極小の素粒子の理論と極大な一般相対性理論を融合できる可能性も開けます。
ひょっとすると、物や人間の固有振動数も精密なシンフォニーとして表現できるかもしれません。
「パワーか?フォースか?」の本での人間のレベルの数値化とも合致します。統合できる可能性もあります。
精密なドラムやベースの音は、重力波が合いそうです。
このような視点から見てみるとジェレーティブ人工知能により、天文学分野他に・・・探索ということで・・・
演奏だけでは生活できない音のプロである音楽家の人達の知識や経験、絶対音感を活用した天文学分野とともに仕事をする雇用が新たに産まれそうな兆しを感じとりました。
経済学的な視点からもみると・・・
地上の土地よりも銀河の星々の音というデータ資源の数は、無限にありますし、 今後、西洋占星術でいわれる200年続くと言われる風の時代にも最適になります。
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two contrasting ways of considering
(「頭脳空間に余剰次元があったらいいのに」)
纏まったものを考えようとする時に他の物に気を取られながらでないとうまく考えられないということが少なくない 例えば映画 例えば音楽 観るともなく見、聴くともなく聞く 全身を用いた行動ではない方が望ましい 料理をしながら他の考えるべきことについて考えるのは易しくない
気を散らせないと考えることができないなんて随分性能の悪い頭脳じゃないかと独りごちる 落胆はしない 己に幻滅するのにはかなり慣れてきたつもりだからだ だが弁明じみた(誰に?)一つの希望的観測を思いつく それはバスタブにぶちまけられたカラフルな磁石を色分けするのに少し似ている
錯綜する概念の中から必要なものを取り出したいとしよう 持っている諸概念を整理し把握する必要がある そのためには俯瞰することが重要だ しかし頭脳の中の空間の次元は限られているのだろうか積み重なった死角が無数にある だから攪拌するために関連の弱い情報を幾つも投下していく 概念と概念はわずかな力であっても引き合うから間も無く流れが生じ上手くいけばやがて全体を死角なく知覚し検討できる 足された不要な情報はすぐにそれとわかるから捨てれば良い あるいはもしかしたら既存の概念と反応して閃きになることもありえないではない
と、今一つの思考形態の存在に思い当たる これは全く別種の必要性に基づいている その場合むしろ流れを起こすまいとしている つまりわたしは沈黙を召喚しようとしている 先ほどの流れに篩われてなお大量に存在する概念を更に吟味して新しく組み直すために そして特定の構造を作り出したり見出したりするために したがってすべての流れは邪魔者だ それはあたかもかき集めた紺色の磁石をそれぞれの間隔を慎重に空けながら微妙な明度や彩度や形態やきらめきの違いによって美しく並べ替えようとするのに似ている
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映画『Fake』
というわけで、Amazon PrimeにはなかったのでU-Nextで森達也監督のドキュメンタリー映画『Fake』(2016)を見ました。ゴーストライター問題で世間を騒がせた「全聾の作曲家」佐村河内守に取材した映画です。
ここでも森監督は見事なまでに取材対象である佐村河内守の懐の中に入り込みます。いや、「懐の中に入り込む」という言い方は適切ではないかもしれません。取材をする人間とされる人間との間に信頼関係がきちんと築けているというべきでしょうか。
佐村河内守は新垣隆をゴーストライターとしたことを否定はしません。ただ、「あれは共作だった」、「新垣は優秀な技術屋だった」、「自分がコンセプトを伝え、時にはメロディーも伝えた」と言います。
彼がなにより許せないのは、新垣やマスコミが「佐村河内は本当は耳が聞こえる」、「自分を売るために聞こえないふりをしていただけだ」と主張していることだと、彼は言います。
その証拠として佐村河内は医師の診断書を出します。脳波を測定して、彼が「感音性難聴」であることを証明する診断書です。
「診断書のことは置いて���くとして」と佐村河内は森監督に切り出します。「そういうものがないとしても、あなたは僕のことを信じますか」と彼は尋ねます。
森監督は答えますーー「信じてないならこんな映画撮りません。」
なるほどね。
佐村河内を信じたからこの映画を撮ることにしたのか、長期にわたって取材をするうちに佐村河内の言葉に嘘はないと信じるようになったのかはわかりませんが、それが監督のスタンスであるわけです。
つまり、この映画は完全に佐村河内守を信じ擁護するものです。
映画を見ている我々も、佐村河内のことを嫌いにはなりません。だって……例えば佐村河内夫妻の夕食風景が映ります。奥さんは大きなハンバーグを焼き皿にもります。奥さんは食べ始めますが、佐村河内は食べません。ただ豆乳を飲んでいます。
「なぜ佐村河内さんは食べないんですか」と森監督が質問します。すると……佐村河内は豆乳が好きで、食事の前に500ccの紙パックを全部飲むとのこと。「これ飲んじゃうとお腹がいっぱいになるんだけど、でも好きなので」と佐村河内は言います。
取材対象にロングインタビューをするドキュメンタリー映画はたくさんある……というかドキュメンタリー映画というのはそういうものです。でも、なんの変哲もない食事風景を撮りますか。撮らせますか。
この場面は映画上は全く意味のない場面です。でも、この場面のおかげで観客は佐村河内を身近に感じる……一人の生きた人間と感じます。そんな人間を嫌いになるはずがないでしょう。
でも、だからと言って佐村河内の言い分が全て真実だとは限りません。同じ手法で新垣隆を取材することもできるでしょうし、そうなれば今度は観客は新垣を身近に感じ、一人の生きた人間と感じて、憎からず思うでしょう。
この映画はそういう留保をつけて見るべき映画なのだろうと多います。
圧巻なのはラスト近くで森監督が佐村河内に「あなたは僕のことを信じていますか」と尋ねることです。映画の序盤での会話が質問する者とされる者を入れ替えて繰り返されるわけです。
森監督はそれを狙ったのかな。狙ったにせよ、偶然にせよ、なかなかすごい場面です。
森監督はさらに佐村河内に「もう一度作曲をしてはどうですか」と言います。佐村河内は「やってみる」と言います。
ラストでは佐村河内が新たにーーひとりでーー作った曲(佐村河内がパソコンに打ち込んだ曲)を森監督と佐村河内の妻が聞いています。森監督は「いい絵が撮れました」と言い、「曲も良かったけれど、奥さんが一緒だったのがよかった」、「僕はお二人を撮りたかったんです」と言います。
そのまま画面が暗くなり佐村河内作曲の音楽にのせてスタッフの名前が出ておしまい……ではありません。ダイニングへ行って3人はケーキを食べます。
なんの変哲もないように見えるチョコレートケーキを見て、「細かいね」、「綺麗だね」、「何かを見てこんなふうに思うのは本当に久しぶりだ」という佐村河内に森監督は「今日で撮影は最後になると思います。最後に聞きますが、佐村河内さん、これまで僕に言ったことに嘘はありませんね」と言います。
え? この段階でその質問ですか。非常にシビアな質問ですね。
佐村河内はすぐには答えず考えます。実際には数秒なのでしょうが、非常に長く感じられる時間が過ぎます。
こういうところがドキュメンタリーの強みですね。もしこれがフィクションなら、絶対にこんなに間はあけません。そんなことをしたら監督からNGが出ます。
でも、現実はこうですよね。現実の会話では相手が言葉を失って不自然に間があいてしまうことだってあるわけです。そうだとすれば、フィクションでもそういう演技をしなければならないわけですが、現実にはなかなかそうはいかないのです。
で、長い沈黙の後、佐村河内がどう答えたかというと……
わかりません。画面は黙こくった佐村河内を映したままフェイドアウトしていきます。おそらく実際には何か答えたのでしょうが、それは重要ではないと監督は判断したのでしょうね。
記者会見で佐村河内に「本当は耳が聞こえるんじゃないですか」と言ったジャーナリストの神山典士に森監督がジャーナリスト大賞か何かの表彰状を送ることになる(やらせでも冗談でもなく、本当に森監督はそういう賞のプレゼンターに選ばれたようです。もっとも神山典士は授賞式に現れず、文藝春秋の編集が代わりに受け取っていました)場面や、新垣隆の暴露本のサイン即売会に行き、「僕の名前も書いてください」と言う(これまたやらせではなく、新垣の表情が一瞬凍ります。もちろん森監督が佐村河内に長期取材して映画を撮っていることを知っていたのでしょう)場面の驚きも含めて、見応えのあるドキュメンタリー映画だと思いました。
追記: 「衝撃のラスト12分は誰にも話さないでください」と言うのがこの映画のキャッチフレーズです。ラスト12分というと佐村河内が作曲した曲を奥さんと森監督が聞くあたりからですが、一体何が「衝撃のラスト」なんでしょう。 佐村河内が曲を完成させたことですか。それとも「本当に嘘はありませんね」と言う監督の質問に佐村河内が答えないことですか。 「衝撃のラスト12分」といのは確かに魅力的なコピーですが、この映画の場合はふさわしくないような気がします。
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自分の気持ちは埼玉公演の前に整理したつもりだったけれど、もう少しすっきりしておきたい。
もうこの話題にとらわれてるのって私だけかな。。
埼玉公演のあとに、恐らく例の人々がメッセージかなんかをヘンレコに送っているのだろうし(お堅い書類も送ってるんだっけ?)、きっとツアーが終わって、もしかしたら今頃そういったものに目を通しているのかもしれない。
私も問題提起された当時は動向をうかがったりした。自分のスタンスに自信が無かったのもあるし。
プロジェクトに関心がある人か無い人かもわからないけど、運営がよくないといった意見をちらほら見かけた。私はチーム風を長く知っているわけじゃないから、まだそういった判断をする段階にはない。
文春で、河津さんがインタビューに答えているけれど、予備知識の無い人や計画に賛同している人があの記事を読んだら、熱心に訴えるファンを粗雑な物言いであしらっているように思われてしまうのだろうか?おまけに最後に良い人エピソードを入れてくるのが、もしや風に洗脳されているのではないか?くらいに思われたりしていないだろうか。ちょっとネガティブに考え過ぎか??
記事の前半部分と比べると、説明不足感は否めないけど、それが答えなんだろうなと思う。
こうしてインタビューに応じていること自体、疑問を持つファン達をスルーしていない。納得いく回答ではなかったのかもしれないけど。
1人1人公正な判断ができるよう、誰の影響なのか明示すべきだ。
これは、ステルス布教じゃないのか?
という問題提起に対し、
明示すれば、布教活動になってしまう。
特定の宗教を広める意図はない(文春より)。
終了。
…ってことなのかなって。簡潔過ぎ??
あの人たちは、明かすことを具体的にどういうフローで望んでいたのだろうか?…そういえば考えたことなかったな。
自分たちだったらどう伝えていくのか、聞かせてほしい。
自分はこういう信仰があって、このタイトルはここから引用したりしてるんですけど、どうします??聴きます?みたいなことをしたらと??
そんなことしてるアーティスト聞いたことないよね。。
より多くの人に自由に聴いてもらえるように、明言しないということなんだろうと私は判断したのだが、どうだろうか。
そこまで意識していたかどうかはわからないけど、他教の教えを得てはならないようなあの人みたいな人だとか、そういった、信仰を持つ人への配慮なのでは。明示しないことにより踏み絵自体を回避するというか(極端過ぎ?)。
開示しないことで救われる点もあると思うんだけど…。グレーにしておくことを皆は良しとしないのだろうか。
それと、信仰を持たない人への配慮もあるんじゃないのではと思う。開示されることによりフラットな状態では聴けなくなる。
日本の宗教観はもっとカジュアルであるべき、という発言はどういう意味だったのか。
某かの宗教に入信するとかではなく、瞑想だとか、自分にとってよき習慣となりそうなものを取り込んだらいいといったようなこと??そういうふうに理解したから、私は彼に特定の信仰がないのかなと推測していた。
あとは、いわゆる宗教アレルギーぎみな人たちへのメッセージだったのではないかと思ったのね。
人の信仰に寛容であってほしいというか、そういうのがあったりするのかなって(いやいやそれブーメランだからというツッコミは一先ず置いといて)。自分も自由でいたいし、他人に対しても自由でいてほしいと思ってるんじゃないかと思うけどね。
宗教っぽいものの考え方を止めさせるかどうか、といったような話からの流れだったから、こちらの方が自然なのかもしれない。
それで、“宗教チックなマインド”といった言い方をしたのがあちら側の人たちの反感を買ったのではないだろうか。○○信仰、みたいに単純に一言では言い表せないようなことだから、そのような言い方になったというだけなような気がするけど。
確かに、何らかの信仰がある人からしたら、軽い物言いに聞こえ、嫌な気分になったかもしれないけど、宗教を軽視している印象は受けなかった。出処を明言せずに活動するところが他信仰者を軽視していると言いたいのだろうけど、私は他信仰者を尊重しているからこその方針と予測している。思想を止めさせるという話は極端な例えとしてあげただけだと思う。
あと前にも書いたけど、翻訳による誤解のようなもので解釈をややこしくしてしまっているような気がするのだが。これについてはまた後日書く。
もし、気楽に捉えるべきという意味合いなら、HEHNやLASAが誰からの言葉なのか、別に言っても良くないか?とも少し思った。
だけど、固有名を出したら、リスナーは先入観を持って聴くことになる。意識せずに聴くというのは不可能だと思う。特定の宗教を広める意図はないとのことなのに、それでは望んでいない布教に繋がりかねないし、思考の自由(内心の自由か)を奪うことに近いと思う。
多くの人が、“死ぬのがいいわ”を他人への愛の歌としてとらえていた。NHKの番組内で歌詞について話していたけれど、自分への歌と知って、皆はどう思っただろうか?
他人への愛じゃなかったってことに対してと、思ってたことと違ったということ自体に対して、何かスーッとクールダウンしていくような感覚にならなかっただろうか??それなら正解を知りたくなかったという人もいたかもしれない。種類は違うが、明示する、ということは、そのような自由を奪うことだと思う(知ったあとでも自分の中で解釈を勝手に変えることは出来なくもないかもしれないけど…)。もちろん、作者が誤解して欲しくないことに関して解説するのは必要なことだけれど。
アルバムタイトル等が何由来なのか公表することにより、信仰の告白としてイコールでとらえられてしまうのは必然ではないだろうか?そこは沈黙の自由として憲法で護られるべき部分なのではないか。そういった、法律上の理由か、もしくは業界に暗黙のルールみたいなものがあるのかもしれない。だから、“隠しているわけではなく、言う必要がない”と判断しているのだろうか(最早出処もほぼ明らかな状態で、言う必要がないだけ、ってのも意味あるのかなって思うけど)。あのレストランでもモットーとして使っているけれど、具体的に明かしてないわけで。布教をしてはいけないという教えに基づいているからというのは大きいかもしれない。ん?そういうこと??
文春の記事のタイトルは、事実に即したもっともなタイトルだと主張していたけれど、私はそうは思わなかった。同じような話になってしまうが、“伝道”するつもりは無いのだから。
教えは彼を形成するのに重要な役割を果たしてはいるだろうけど、世に出しているのは、彼の見てきたこと感じたこと学んだことなど、彼自身を通して生まれたものなわけで、そこに例の聖職者の名前を出す必要は無いと思う。同じように生きなさい考えなさい信仰しなさいだとか強要なんてしていない。
私は、好きになってから、おや、もしかして…?と思い始めた少しあとにこのような問題が提起された。やはり引っかかっていたのが2つのスローガンの物販への使用で。私はTシャツ問題の呪縛から逃れられ���いのかと笑。
知らずに布教活動に加担してしまっていると問題視しているが、誰が言ったというより、普遍的な言葉の意味を重視しているということなのだと思うし、さっきの話に通じるけど、あくまで風のグッズなんだから、持ってても良いと思うんだけどな。
それでも、後ろ指をさされるかもしれないと心配したり、抵抗のある人に、持たないという選択肢は与えられている。
graceのMVや、物議を醸したパナスタの装飾や演出などは、私が予測した多方面への気遣いとは少し離れている気がする。MVに特定の神様っぽい存在を出していたり(ディレクターの意向もあるのかもしれないけど)。
ライブは、考えていることの視覚化がテーマとのこと。遅かれ早かれ、いつかはこんな感じになったのだろうか??ベジタリアンメニューの提供やフードロスについてのブースなど、マインドの部分はわかる。
ヴィジュアル面(衣装や会場の雰囲気)ではgraceからの連動?影響?が大きかったのだろうか。
でも、みんなの中の風くんは、ミッチャムや寝そべりのあの部屋のイメージが大きかったのではないだろうか(ちがう??)。
それが、袈裟だとか作務衣(甚平か)を思わせる衣装で神々しく現れたんだから、あれ、いつもと違う…みたいなあわあわ感があったのではないかと考えているのだけれど。どうだったんだろうか。
インドで見てきたものや、雰囲気をお客さんにもシェアできたら、といったところだったと思う。
だけど結果それが、“匂わせ”として捉えられてしまった?
不安になったり、戸惑ったりした人もいたのだろうし、今まで何となく心に引っかかっていたものが結びついてしまったと認識した人もいるかもしれない。匂わせという捉え方とは異なるが、“それっぽいもの”として認識し、否定し、アレルギーを引き起こした人もいただろう。それらがこの後起こることに拍車をかけたのかもしれない。私は体感していないので想像の域を出ないのだけれど。
さて、ここまで長々書いてきたが、この辺の話でヘンレコの動きは現状ない。
それでも、IIYYの主張は大手の週刊誌にも取りあげられ、河津さんからも“隠しているわけではありません。言う必要がないから言っていないだけです。”という発言を引き出した。
文春はじめ、こぞってネットニュースなどで取りあげられ、風くんの音楽性を未だ知らぬ人々も聴いたことある人々も今回の話題を知ったかもしれない。つまり、持続的ではないかもしれないが、選択することができる状態は実現したのではないか。これはある種功績なのでは??
本人サイドからの説明がなければ意味が無いと言うのかもしれないけど、主張を読み進めていくと、まるで悪いものを信奉していると告白させようとしているような構図に見えなくもない。彼を陥れるためと思われても仕方ないようにも見えるし、先にそういうことをしたのはあなたでしょう?と言いたげで、何だかなあと。何を一番望んでいたのか…。
風くんたちはきっとこの先も、もっと大規模なステージに立とうが、いや、会場のキャパシティだとか知名度だとかに関係無く、一貫して、言葉に共感してくれたら良いって言うんじゃないのかな。
改変?の見込みがないと思ったのか、運営をダサいと吐き捨てた。その発言に対して色々思うことはある。更に上を行く稚拙な物言いしか出来そうもないから、書かないけど。
この約4ヶ月間かなりの時間を費やして考えた。皮肉ではなく、良い機会を与えてもらったと思っている。
客が妄信的だと揶揄されるのは(どこのファンも言われてるだろうけど)いやだなあと思う。
まあ、また私の拡大解釈というか、深読みし��ぎなのかなという懸念はある(都合の良い解釈とも捉えられるかも)。いつだって自信なんて無い。
彼本人はぶれることはないと思うので、心配など無駄なことなんだろうけど。
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小さい冬は背後から忍び寄るようにして私に接近して、透明なはずの吐息は私を十分に驚かせた。急ぐように葉は色付き始めたかのようである。役を終えた、燃えるような赤そして黄は私を避けるようにして一様に地面を目指しているようだった。その内の一葉を私は掌に掴み取り、眺めた。かつて何かと競うように走っていた葉脈は勢いを無くしてしまって今は既に、綽々としているようである。
まず、エスは私に言った。
「卒業研究というものは就職予備校だ。基本的には朝9時から夕方5時まで卒業研究をしなさい。まして君は全く大学に来ていないもしくは、来ても仕事をしていないだろう」
「わかりました」
私は22歳になった。自分と違う考えを持った人に対して、自分の考えを押し付けてまで自分の快適さを得ようなどという気は、私には耳に生えた産毛ほどもないのである。
私の根底にあるのは、私は絶対に私以外になれない、そして同じように私以外は私には絶対になれない、更には私ですら私ではないということで、それはつまり私は決して何かを断言したり、判断したりはしたくないということとも言えるだろう。
今、私の視界に映っているのは七台のデスクトップパソコン、同じ数の机と回転椅子、三つの丸まった背中である。彼らの指の動きは音から察するに、何かを便利にしようと必死だった。あるいは、私と同じようにこの卒業研究をとりあえず終わらせようとして必死なのだろうか。
世の中は既に便利である。私のしている研究はどうやら天気予報などに役立つらしかった。しかし、一体誰がこれ以上正確な天気予報を必要としているのだろうか。この世に気象予報士という職業はない。コンピューターが予測した未来の天気を読み上げる人が何人かいるだけだ。もしかすると私が知らないだけで、彼らは自ら天気を予想し、それを電波に乗せて私たちに教えてくれているのかもしれない。私にはどっちだって一向に構わない。
「僕は、君が普通の企業に就職した方が幸せだと思うけどな。というのも、君がやろうとしているようなことは自由裁量の世界で、自由だけど難しいんだよ。誰も何も君に教えてくれないんだぜ?
まして君は全く卒業研究をしていないじゃないか。親切ごかしで言っていると思ってくれて構わんけど、君は悪い人に騙される気がしてならない。悪い人はどこにだっている。大きな組織ならまだ歯止めが効くけれど、個人でやっている人たちのコミュニティなんて騙す人と騙される人しかいないと思った方がいい」
エスの声は、軽度の鼻炎患者のようであった。そしていつも滝のような勢いで喋った。彼が時に口が塞がっているときは、耳から喋るのではないかと思われた。大抵の発声は裏返っていて、時々息継ぎをした。その様子は私に、目の前で泳いでいる鯨を想像させた。彼がどう控えめに見積もっても太っているからかもしれないが、とにかく彼を見ていると疲れるのだ。ただひたすら、黙々と巨大な生物がそこにいるのを見続けていると、私はその場にいるのがつらくなってくるのだ。
「君はこの先、その道でやっていけると思ってる?」
A
「その質問は難しいと思います。だって僕が先生に向かって『研究者としてこの先やっていけるのか』と尋ねたとして先生は自信を持ってイエスと仰ることができますか?仮にそうだとしても、それは先生の個人的な観測にすぎないと思います。明日先生は解雇されるかもしれない。何らかの要因によって。僕が言いたいのは、今より先のことに責任を持った時点で何かに依っているということです。要するに誰も何かに頼ることなんてできないと思います。
僕が保証できるのは、僕はたった今、この道でやっていきたいと思っているということです。やっていけるかわからないからやりたいんです」
B
沈黙
私はAとBの折衷案を取った。そしてエスは言った。
「君は賢いと思う。けどそれだけじゃやっていけないよ」
私は言った。
「僕はそんなに賢くありません。だけど、人が賢いかどうか判断したりするほど馬鹿じゃありません」
*フィクション
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各地句会報
花鳥誌 令和4年12月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和4年9月1日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
散歩する頭上に置きし蟬時雨 喜代子 初老なる夫婦八人墓参り 同 名月やうるはしき夜はゆつたりと さとみ 新涼やメダルの如き耳飾り 都 月白し八十路女の薄化粧 同 漁火や月より遠き船の道 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月5日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
蝸牛進退ここに尽きたるか 雪 静もれる故山はみだす虫の声 かづを 鬼ヤンマ唯我独尊そのままに 数幸 虫の音や今日の命のつきるまで 雪子 彼岸花蕊の情念撓めけり 笑 秋の蝶縺れて解けてまた縺れ 希 倶利伽羅の谷底埋めし曼珠沙華 千代子 山門の落慶法要赤のまま 天空 山門の檜の香り曼珠沙華 々
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月7日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
縁台が身の置き所盆の月 宇太郎 去ぬ燕神の杜へと集まり来 和子 秋時雨幽かに日射す山の裾 益恵 雨上がるぽつてり重き鶏頭花 都 つみれ汁どんな魚かと盆の客 すみ子 蹌踉けくる秋の蚊を打つ掌 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月7日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
九頭竜に手波で送る万灯会 世詩明 大根を種蒔くごとく踊りの輪 同 近松の碑黒き露葎 ただし 花鳥誌を拾ひ読みする柏翠忌 同 胸を開け峠を行くや青葉風 輝一 秋深し山粧ふや手をかざす 同 針山に待ち針錆びてゐる残暑 清女 今朝の秋きりりと髪を結ひ上げて 同 抱かれし赤子も一人墓参り 蓑輪洋子 空蟬の銅色をいとほしむ 同 ふるさとの火祭を恋ふ孟蘭盆会 同 犬引いて犬に引かれる青田道 秋子 陶の里古き甕墓秋陽濃し やす香 秋草に隠る甕二つ三つ 同 通り過ぐ風のささやき大花野 誠 団栗の十津川淵へ落つる音 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月10日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
多摩川の風の広さやねこじやらし 美枝子 待宵の月にかかりし雲動く 和代 太刀魚の尾まで隈なく光伸び 秋尚 香を辿り見上げる空に葛の花 教子 一叢の露草の青向き向きに 多美女 一山を覆ひ尽して葛咲けり 三無 手際よく太刀魚捌く島の嫁 多美女 露草の儚く萎える句碑の午後 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月12日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
暫晴間急ぎ稲刈り火蓋切る さよ子 陽が沈み無人駅舎に秋津飛ぶ 世詩明 お十夜の庭石ことに湿りをり さよ子 芋虫も愁ひの時のあるらしき 上嶋昭子 黒数珠や梅の家紋の墓参り ただし 一人暮しと見られたくなし秋すだれ ミチ子 人住まぬ屋根にも月は影落とし 英美子 銀河濃し鬼籍の人を懐かしむ みす枝 虫を聞く闇に心を近づけて 信子 細くなる髪を眺めてゐる秋思 中山昭子 洗ひ髪口に咥へて甘えけり 世詩明 朝霧の緞帳音なく上りゆく 時江 父は父私は私鳳仙花 三四郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月12日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
名月や巻雲淡く細くあり 和魚 一晩の伽となりゆくちちろかな 聰 木道の空何処までも秋の雲 秋尚 こほろぎの屋敷稲荷に住みついて 怜 草むらを抜け露草の楚楚として 秋尚 湯煙もやがて紛れて秋の雲 怜 さつきまで庫裏に人居りちちろ虫 あき子 つゆ草を残し置くなり墓掃除 エイ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月13日 さくら花鳥句会 岡田順子選 特選句
かなかなや夢二の絵にも黒い猫 令子 植物園はるかな道に桔咲く 裕子 蜩や一里を登る尼の寺 登美子 柏翠忌師の口癖よ「しようがないや」 令子 学校のこと話す道鰯雲 裕子 師弟なる五灰子生きろ柏翠忌 令子 青い目のバックパッカー秋澄めり 登美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月13日 萩花鳥会
大相撲元気を貰ふ秋場所に 祐子 たつぷりと生かされ米寿の彼岸花 健雄 宝石か朝露庭の曼殊沙華 恒雄 爽やかさ簞笥から出たシャツズボン 俊文 秋の灯や沁沁友と語り合ひ ゆかり 文書けば秋蝶ゆるやか折りかへし 陽子 爽やかや一分音読はじめたり 美恵子
………………………………………………………………
令和4年9月16日 伊藤柏翠忌俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
飛べば憂し飛ばねば淋し火取虫 雪 地に落ちし火蛾の七転八倒す 同 裸火搦め取られし火取虫 同 炎帝に万物黙す他は無し 同 忘れずに約束のごと曼珠沙華 みす枝 兜虫見つけ揚揚子の戻る 同 紺碧の空に小さく燕去る 同 剝落の蔵を背にさるすべり 上嶋昭子 砂時計くびれ見てゐる庭の秋 同 甕墓に離れ離れに彼岸婆 ただし 曼珠沙華淋しき風の甕の墓 同 甕墓の底の暗さや盆の月 同 浅間山焼りは雪の峰となる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月16日 さきたま花鳥句会
人待ちの小半酒や秋しぐれ 月惑 銀漢をよぎる宇宙観測船 一馬 新都心ビルの凹みに秋入日 八草 秋暁や路地に酵母の甘き湯気 裕章 四方に散り芒に沈むかくれんぼ とし江 歳時記の手摺れのあとや秋灯火 ふじ穂 綾なして咲き継ぐ窓や牽牛花 ふゆ子 朝顔をからませ町家昼灯す 康子 草むらの道なき土手にカンナ燃ゆ 恵美子 白粉花咲きて従妹の嫁入日 静子 居酒屋に恩師と出会ふ良夜かな 良江 鶏頭の赤さを増して咲き揃ふ 彩香
………………………………………………………………
令和4年9月18日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
地虫鳴く甲深き靴はく朝 久子 白樫の森黒々と台風来 眞理子 雨粒を玉と飾れば花野かな 眞理子 昼の虫静かに聴きぬ濡れ鴉 久子 一面に火群立ちたる曼珠沙華 幸風
栗林圭魚選 特選句
白樫の森黒々と台風来 眞理子 かまつかや燃えあがらんと翳深く 千種 四阿に鴉と宿る秋の雨 斉 登高をためらふ今日の風雨かな 真理子 団栗の袴はづれて光りけり 久子 開門の前のしづけさ萩しだる 千種 秋出水さわは飛石を隠すまで 眞理子 群れも良し一茎もまた曼珠沙華 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月21日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
江戸生れ浅草育ち柏翠忌 世詩明 柏翠忌三国に残る墓一つ 同 柏翠師みなし児にして月仰ぐ 同 虫時雨して父恋し母恋し 同 ちらり見ゆ女の素顔柏翠忌 令子 河口から虹屋へつづく月の道 笑子 柏翠忌城下にのこる里神楽 同 月窓寺ふたつの墓碑に星月夜 同 草相撲では一寸鳴らしたる漢 雪
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月21日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
水鶏笛一人夜更に吹く女 雪 男有り愛子の墓の草を引く 同 虫すだく九頭竜に闇引寄せて かづを 大花火人なき家を照らしけり たけし 弔句書く筆の悲しさ蚯蚓鳴く みす枝 夕月を崩してをりぬ池の鯉 同 過疎の村今は花野の風の中 英美子 日焼して盗人冠りの農婦かな 千代子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月25日 月例会 坊城俊樹選 特選句
どの窓も歪むことなき秋の空 和子 銀杏の匂ひ拭へと下乗札 順子 なめらかに吹かれ秋蝶それつきり 和子 風うねる度敗荷になりかけて 小鳥 手庇の薄きに秋の蝶が消え 和子 碑のうしろ一切曼珠沙華 同 昼はまだ黄泉へ遠し��法師蟬 順子 人々は秋日に溶けて印象派 小鳥 竜淵に潜み国葬待てる森 はるか
岡田順子選 特選句
冷やかや手渡されたる阿弥陀籤 ゆう子 石橋を掃く庭番や柳散る 眞理子 落葉のみ掻き寄する音陰陰と 要 秋蟬の大音声の骸なり 俊樹 落蟬の眼とはなほ瑠璃なりし 同 香具師の声ありし境内昼の虫 要 地に転ぶまま靖国の銀杏の実 昌文 眼裏に黒き温みや秋日濃し 小鳥 金風を乗せ大仏を真似たる手 光子 秋天へ金の擬宝珠の衒ひなく 要
栗林圭魚選 特選句
石橋を渡る人影水澄めり て津子 銀杏の匂ひ拭へと下乗札 順子 お守りの小さき鈴の音野分晴 美奈子 桜紅葉いよいよ昏き能舞台 佑天 碑のうしろ一切曼珠沙華 和子 雅楽部の復習ひ音零す宮の秋 順子 敗れ蓮と成り切るまでを濠の風 はるか
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年9月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
天高しバベルの塔は小指ほど 古賀睦子 うす衣の雲の行方よ女郎花 由紀子 夕映えて剥落のなき鱗雲 美穂 露の身を映す鏡架のくもりぐせ かおり 蚯蚓鳴く誰もゐぬ時計屋の時計 ひとみ 大漁旗鰯の山のてつぺんに 喜和 揚花火空に遊びて降りて来ず 朝子 眠られぬままに秋思のままにをり 光子 夏彦��怪談と行く秋の夜 桂 城門の乳鋲は無言盆の月 朝子 あの夏の天地の焔壕暗く 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月11日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
したたかに顔を打つなり化粧水 世詩明 天平の庭白牡丹眩しけり 同 み仏のなんじやもんじや風光る ただし 羅や大方に父似一寸母似 清女 桜満開の軍旗祭りや七十五年 輝一 聞き役も時にははづしつつじ見る 蓑輪洋子 丈六の金の観音寺の春 やす香 海原に風の道あり波の綺羅 同 馬酔木咲く近くて遠き明治の世 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
立待花鳥俳句会 令和4年6月1日 坊城俊樹選 特選句
鯉幟風の階段ありにけり 世詩明 老夫婦夏痩せの身の重かりし 同 美しき日傘の人の振り向かず 同 相寄りて源氏蛍の河和田川 ただし 葉桜や茶筅に残る薄みど��� 同 老いの肘掬ふや目髙五匹まで 輝一 鮎置いて門を去り行く釣り師かな 誠 村の子の手足を洗ふ清水かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
立待花鳥俳句会 令和4年7月6日 坊城俊樹選 特選句
手花火や素足に女下駄を履く 世詩明 一筋の水を落して滝白し 同 釈迦仏渡と共に祭らる六地蔵 ただし この奥に東光寺あり地蔵盆 同 軋みかと思へば虫や秋の風 輝一 何となく筆持ちたき夜天の川 清女 明易やドラマの様な夢を見て 同 眉と目に力あふるる大日焼 蓑輪洋子 勤行の夫の後行く夕立風 同 落雷に神木青く光りけり 誠 図書館の茂りの中の大欅 同 猿田彦夏越し祓ひ輪をくぐる 信義
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
立待花鳥俳句会 令和4年8月3日 坊城俊樹選 特選句
枯れた字を書くと言はれし生身魂 世詩明 三國山車祭に見合ふ辻屋台 同 飛ばされてゆく星もある天の川 同 古里へ立つ汽車減りし盆の月 ただし 子供達木魚を打てり地蔵盆 同 山寺や老鶯の声心洗はる 輝一 川泳ぐ蛇とかけつこ下校の子 同 兵一人炎天の中帰り来ぬ 誠 家々の火影の中を花火船 同 ぺちやんこの胸の谷間を流る汗 清女 太公望さつぱりですと日焼顔 同 蓮池に生まれて蓮葉に寝る蛙 やす香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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人口削減計画の真実 - ビルゲイツなど「優生思想」のインサイダーたちが口を滑らせた証言集 | ホットニュース (HOTNEWS)
「人口削減」会議映像が流出。「地球に人口が増えすぎたので削減の必要がある」
「人工削減のための断種についてですが、地球に人口が増えすぎたので、削減の必要があります。ビルゲイツが言うところによると、少なくとも30億人には死んでもらいます。とりあえずアフリカから始めることにします。調査をしたのですが、アフリカ人のほとんどを排除していいと思います。哀れだし、存在価値がないし、世界経済の一員でもない。彼らの権利は剥奪済みで、抑圧されて実験台にされています。」 「いわゆる権威であるところの多国籍機関や保険機関がアドバイスしてくれれば、判断の手間が省けます。専門家の宣誓証言を使えばいいのです。」
人口削減などというSFみたいな計画を、21世紀の大富豪や政治指導者、科学者たちが本気で考えている。中には優生思想を世界に広める側のインサイダーというより、純粋に人口抑制問題(優生思想)に感化させられたエリート(いわゆるDupes*)も多くいるのかもしれない。
*Dupes - デュープス。本人に共産主義者の自覚はないが、その言動や行動が結果的に共産主義勢力を利することに協力している人々。リベラルに騙されて利用されているお人好しなどの意で使われている。
●フランシス・クリック博士(DNA二重螺旋の発見者として有名な英国の科学者フランシス・クリック。1962年ノーベル生理学・医学賞賞を受賞。無神論者。ヒューマニスト。)
「人が子供を持つ権利はあるのだろうか? 政府にとって食べ物に何かを添加して、誰も子供ができないようにすることは容易である。」
●ドナルド・マッカーサー博士(1969年、国防総省の生物学調査研究責任者ドナルド・マッカーサー博士は、米国議会で予算増額を求め証言した。その約10年後、NYやサンフランシスコでエイズ患者が発生していたことが、後の研究で判明。)
「5年から10年以内に、人に伝染する微生物細菌を作り出すことが可能になるだろう。」
●リチャード・デイ博士(1969年、家族計画連盟の代表リチャード・デイ博士が講演。テーマは「未開人のための新秩序」。全ての録音機をストップ、メモを禁じたはずだったが、デュネガンという医師がそのスピーチを記録していた。)
・世界人口は削減すべき
・「家族計画」による大量殺処分
・水・食料に有害物を混入
・新しい病気の開発
・ウイルス兵器の放出(人工パンデミック)
・集団予防接種キャンペーン
・第三次世界大戦の計画
・世界政府、世界宗教、世界軍、世界中央銀行、世界通貨について
●エジンバラ公爵フィリップ殿下(英国エリザベス女王の王配であるフィリップ殿下はもともと失言で有名ではあった。しかし上記は1988年の著書に記された言葉。当然ながら出版前に言葉は推敲するものだし、編集者が校正するもの。その上で世間にリリースされた言葉である。フィリップ殿下は2021年4月ご逝去。)
「生まれ変わったら、死のウイルスになって人口問題を解決させたい。」
●米大統領補佐官 ジョン・P・ホールドレン(1977年に「エコサイエンス - 人口、資源、環境」という政府教書を提出。強制的な人口統制とは実に全体主義的だ。しかしホールドレンは後に、自由の国アメリカの大統領補佐官(科学技術担当)としてバラク・オバマ大統領に仕えた。)
「地球に最適な人口は10億人である。」
●米国務長官 ヘンリー・キッシンジャー(1974年、キッシンジャーは国家安全保障会議でまとめた人工削減計画の秘密報告書を、フォード大統領に提出。発展途上国の人口増加はアメリカの脅威であるとして、表向きを産児制限、飢餓、あるいは戦争を用いて削減するという。また、IMF《国際通貨基金》、世界銀行が発展途上国に融資する条件として、人口削減プログラムの推進をあげている。)
「人口削減は 発展途上国に対するアメリカ外交政策の最優先事項であるべきだ。」
●米国防長官 ウィリアム・コーエン(コーエンは共和党員でありながら、なぜか民主党クリントン政権で国防長官を歴任した。)
「研究所の科学者の中にはある特定の人種に関する病原菌を研究している者がいる。その菌を使えば特定のグループなり人種を地球上から抹殺することが可能になる。」
●海洋学者 ジャック・クストー(深海ドキュメンタリー映画「沈黙の世界」やTV番組シリーズで知られるフランス人海洋学者。美しい映像も多く、日本でもファンが多い。世界銀行コンサルタントにも就任した。)
「こんなことを口にするのは気が引けるのだが、世界中の人口を安定させる必要がある。それをするためには1日に35万人の人間を消して行かなくてはならない。こんなことは考えることも恐ろしいから、口に出すべきではなかった。」
●CNN創業者 テッド・ターナー(2009年テッド・ターナーはロックフェラー大学学長邸で開催された超大富豪たちの会合に招待されていた。参加者はビル・ゲイツ、デイビッド・ロックフェラー 、ジョージ ・ソロス、ウォーレン・バフェットなど錚々たる顔ぶれ。名もなきこの秘密会合は「Good Club」と呼ばれた。話し合われた内容は、人口抑制のために彼らの資産をいかに有効活用するか。)
「現在のレベルから95%減少する2億5000万から3億人の総人口が理想的だ。」
●MS創業者 ビル・ゲイツ
「もし新しいワクチンと医療、出産システムを作り上げれば、人口増加は10%~15%抑えられる。」
●未来学者 ジャック・アタリ(『新世界秩序』著者。フラ���ス歴代大統領のブレーンである未来科学者は、欧州最高の叡智とされる。ソ連崩壊、テロの脅威、金融危機、パンデミックなどの「予言」を事前に知っていたかのように的中させて来た。)
「最も手厳しい国になると、人口抑制を実行していない国々には もはやその資源を分け与えないことを決定し、(中略)最終的には戦争が避けられないだろう。」
「必要とあればその計画(人口推移予測・計画作業)を遵守しない国に、産児制限を課さねばならないだろう。」
「どこか一ヶ所ないし数カ所で起きたパンデミックが、自由な交通に乗って、人類の存続そのものを脅かすような大きな危険となる恐れがあるのだ。」
https://hotnews8.net/society/deep-state/population-testimony
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◆まだ書きかけ
彼……ISDF代表サリハの第一声はそれだった。
別の地区の見回りをしていた彼は仲間からの連絡を受け大慌てでここ、ウェストタウンの拠点に戻ってきた。
まるで戦場のような緊張感が拠点をぐるりと取り囲んでおり、サリハは軽く頭を抱えながら拠点内の応接室に入った。そこにいる来客……アルマ正教会教皇エルの姿を認め溜息混じりに吐き出した言葉がそれだ。
「お邪魔しております。……素敵なご挨拶ですね」
「生憎とお前のような御立派な暮らしなんて経験はないのでな。気に障るのならお引き取り願おう」
「いえ、ここだけの話……わたくしとて、畏まった対応ばかり受けるのは少々辟易しているのです。これは、内緒にしておいていただきたいのですが」
「……そうかい、じゃあ好きにさせてもらう」
「恐れ入ります」
「で、要件はなんだ?お前のようなヤツが茶を飲みにきただけということはあるまい?」
「此方のお茶は独特の風味でなかなか趣深い物で御座いますけれど」
コンコンっ
不意にノックの音がエルの言葉を遮り、
『お茶のおかわりをお持ちしました』
すぐ後を男声が追いかけてくる。
「アインスか。入れ」
「失礼します。……サリハさん、帰ってたンですね……って、ちょ、失礼ですって⁈」
茶器を乗せたおぼんを器用に片手で持ちながら扉を開けて男……アインスが入室する。
ソファに脚を組んで座るサリハの姿を見て目を白黒させている。
「寛大なお心でお許しいただけるそうだぞ」
「はい、構いません。アインス様もお座りくださいませ」
「俺もですか⁈……いや、俺はちょっと、まだ仕事がー……」
「なんだアインス。教皇様の頼みを無碍に断るのか?」
「アンタ絶対楽しんでるでしょ……」
「まぁまぁ。初対面というわけでもないのですから」
「その節は……まさか教皇様があんなところにいるとはつゆ知らず……とんだ無礼を……」
「おいおい教皇サマ。うちの部下をいじめないでやってくれないか」
「誰のせいですか誰の!」
「……うふふ……♪」
「……っとぁ、すみません……」
小さくなってサリハの横に座るアインス。相対する席で口元を隠し笑っていたエルが手を下ろす。その一動作だけで、室内の空気が変わった。
「……先日お送りさせて頂きました書状は、ご確認頂けておりましょうか」
「あぁ、スラムに教会を、とかいう例の件か。確かに拝読させてもらった」
https://discord.com/channels/1020297124434419722/1068114953753608262/1157536351915343923
「手の込んだ悪戯かとも思ったが、話をしたのがコイツで、確かに支援物資も資金も届いた。ご丁寧に教会の印章つきでな。信用しないわけにはいくまい」
「恐れ入ります」
「此方としては願ったり叶ったりではあるが……どういうつもりだ」
「……どう、とは?」
静かに圧を強めるサリハの言葉にもエルの態度は変わらない。ただ横で推移を見ているアインスだけが小さくなるばかりだ。
「あの書状を帝国ではなくこちらに寄越すということは、教会直々に我々の自治を認めたと捉えられかねん。まさかわからずにやったなどということはないだろう?」
「そうした方がよろしかったでしょうか?」
「当然、そうしていたらヤツらはこれ幸いとスラムの土地を接収しようとしただろう」
「然り。そのくらいの調査洞察は、この地を知らぬ……そうですね、“御立派な暮らし”のわたくし達とて可能です。なればこそ、地を知り人を知り、仁徳に満ちた英雄様にこそ打診を行うべきであると判断した次第に御座います」
「買い被り過ぎだが、信用には応えよう。お前ら教会が我々を裏切らないのであれば、我々が教会を裏切る事はない。誓おう……お前らの言う父なる神とやらは知らないが、俺の誇りに賭けて。こいつが証人だ」
急に指されてアインスは驚いて居住いを正す。
それを見てエルは微笑んで頷く。
「我々正教会は、人間が人間として正しく生きていく事をこそ肯定するものです。人は国に属するのではなく、国が人に属するのです。なればこそ、この地はあなた方の治める地。道理を通すべき相手はあなた方で間違いはないでしょう」
「そちらの意向はわかった。ならばここからは交渉の場だ。がっかりさせてくれるなよ」
「勿論。ご期待くださいませ」
若干緩んだ空気にアインスも内心でホッと胸を撫で下ろす。
「そうですね……まず、アインス様。この周辺の地図などありましょうか?」
「え?あ……はい、ちょっと待っててくださいっ」
急に声をかけられたアインスがバタバタと退席するのを見送り。
「此方から求める事は、
ひとつ、教会建設の為の土地の借用、
ひとつ、教会員の駐屯の許可、
ひとつ、教会管理下の隊商の通行、停泊の許可
それからもうひとつ……」
「もうひとつ?」
「建築した教会の管理者、指揮者として此方……ISDFから一名、任命して頂きたく思います」
「……ほう?」
「勿論、教会から補佐役として一名派遣を行いますが、基本的に建築した教会に付随する事物に関する采配の全権は、任命して頂いたその方に委任させていただきます」
「……お前は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「はい。要するに……
教会建てる土地貸して
教会員が暮らすのを許して
ウチの隊商が通ったり休むのを許して
ついでに一人管理人役を出してくれ
です。そして、建屋の管理から搬入物資、人員、資金、土地活用に至る全権はその管理人役がやってくれ、とそういう要求です」
「……お前は、バカなのか?」
「はて?……あぁ、土地の借用費は搬入物資や資金から供出して頂くとして、教会員の生活費や隊商の消費した資源に関しては別途請求下さればご用意させて頂きます」
「そういう話ではない。……一体何を考えている?」
「何か問題がありましょうか?」
「これのどこが取引だというんだ。全く対等ではない……これでお前らは何を得る?我々を懐柔しようという腹か?」
「そうなれば僥倖では御座いますけれど、踏み台にされるだけでも此方としては十全。それ以上は“おまけ”のようなものです」
「……馬鹿げている」
「そうでしょうか。先程申し上げました通り我々正教会は、人間が人間として正しく生きていく事をこそ肯定するものです。そのために持てるものを捧げる。それこそが教会のあるべき姿です」
「…………」
沈黙が室内を満たす。
「……仕方ありませんね。此処だけの話としてお聞きくださいませ」
先に沈黙を破ったのは、エルだった。
そしてほぼ同時に。
コンコンっ
「失礼します。すみません、お待たせしま……し、た……」
「ご苦労。座れ」
「はぃ」
入室したアインスが机に地図を置き再びサリハの隣に座る。
(サリハさん、なんか空気重くないですか……何があったンすか)
アインスが小声でサリハに問うもサリハは顎の動きだけでエルに話を促し答えない。
「……大戦により世界が被った被害……物質的にもそうですが、何より人心が負った傷は深く、目に見えぬ存在を信じる心を保てている方はそう多くはありません。されど、傷ついた心が救済を求めるのもまた必定。教会はそのような方に手を伸ばすのがその勤め……」
言葉を紡ぐエルも、それを受けるサリハも、仮面に隠れた顔から表情を窺う事はできない。
「現在の教会が持つ本質はその教えではなく、無国籍の人的ネットワークそのものです。実際に父なる神に信仰を持っている者は、騎士団を除けばごく僅かなのでしょう。わたくしもそれを理解した上で教会を指導する立場に就いております」
「……教皇様がそれ言っちゃうんですか……」
アインスが思わず溢した言葉にエルはゆっくりと頷き。
「事実を事実として受け止めぬほど愚かではないつもりです。されど、世の中は本音と建前を使い分ける事で安定して回るもの。それで救われるものがあるのならば、わたくしは、教会は喜んで嘯きましょう」
アインスは先日補給物資を運んできた隊商を思い出す。教会の印章を刻んだ一団ではあったが、確かにその言動は教会のものと言うよりは商人や輸送屋のそれであったように思う。
「教会の教えに一切の真もないなどと申し上げるつもりは勿論御座いません。どちらも実であり虚であり、結局のところ目指すのは人間の平和と繁栄……そこに尽きるのですから」
「ふん……なるほどな」
「ご理解頂けたようで幸いです」
「此方としてはスラムの奴らが平和に暮らせるならお前らがどんな意図であろうと変わりはないからな」
「十全です。では、話を進めましょう」
「ああ」
「まず、立地に関してですが……」
アインスが持ってきた地図を広げて眺め、
「規則としてそれなりに広めの土地が必要になりますので、相応の場を借り入れたく存じます」
「使っていない土地自体は沢山あるが……」
「有事の際に避難所や防波堤としての役割を担う務めが御座います故……」
「防波堤?」
「はい。街や避難所に賊や根源生物が侵入しないよう、この教会の土地で万全の体勢で迎撃を行えるよう配備できるようにと」
「却下だ」
「……戦力は此方から駐屯させるつもりですが」
「尚更だ。資源のみならず防衛までお前らに委ねるほど俺たちは落ちぶれちゃいない。客は客らしく安全な場所にいろ」
サリハが地図を叩いて示す場所はウェストタウンのはずれではあるものの根源生物が多く観測される砂漠側からは遠い位置だ。
「畏まりました。では此方の場所をお借り致します。近日中に現地視察に人を派遣致します」
「そうしてくれ」
その後も話は速やかに進み、とんとん拍子に取り決めがなされた。
実建築にかかる際の人手借り入れの報酬、教会の規定に伴うワークショップや隊商の巡回周期、砂漠の遭難者や非常事態に備えたビーコン設備の取り付け、有事の際の避難所や臨時病床としての開放規則などなど、話す事は多数あったがつつがなく話は進められ、
「……事前に決めておくのはこれくらいで御座いましょうか」
「先に話していた管理者の件だが」
「はい。建築が終わる頃までに決めて頂ければと思います。……既に候補を絞られていますか?」
「アインス」
「はい?」
「お前がやれ」
「」
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ある画家の手記if.81 雪村絢視点 告白
I’m singing’ in the rain Just singing’ in the rain, What a glorious feeling, And I’m happy again. I’m laughing at clouds So dark, up above, The sun’s in my heart And I’m ready for love…………
直にぃが「そろそろお昼ご飯にしようか」って三人分の食事作ってたから、ケータイで検索してピザとかかつ丼とかラーメンとかいろいろ片っ端に電話かけて出前とった。頼むときに一応マナーかなと思って「二人の分も注文する?」って聞いたらすごい勢いで首を横に振られた。 それから三人で食事しながら香澄のとなりに座って香澄を構い倒した。直にぃのほかにも心許せる人間がいたらいい、とかなんとかいう思惑はなくもなかったけど、それより香澄が口開けて笑ってるのを見れるのが嬉しかった。いつもはちょっと大人しくて照れぎみっていうか、まことくんちでも声をあげて笑い崩れたりってとこはまだ見たことなかったから。今も無理して明るく振舞ってるわけじゃなさそうだし、なら遠慮せずにいこうと思って俺も好き勝手やり放題だった。香澄もつられて笑った。 ーーー自傷は、無意識からの心理的な圧迫や抑圧のひとつの現れ方だ。真澄さんの話で俺の憶測はすこし確信めいてきた。なら心からの感情をなるべくたくさん自然に発露させてやるのは有効だ。核心部分につられて心理はほかの感情も圧迫するから、圧死する前に溜め込ませないで出させたほうがいい。普通に考えて、核心部分を圧迫できるのは核心部分そのものじゃなくてその外側にあるものだ。それを溶かしたい、そのあとで圧迫されなくなった無防備な核心部分を守るのはーーー俺の役目だ。 で、何で溶かせるか、これはフリや演技じゃ通じない、香澄を心から大事に想う人間がほんものの関係を築いていかないと。俺がなんでここまでゴチャゴチャ考えてるかって、香澄のことが大事だからだ、つまり俺は普通にしてればいい。 今のところは順調、特に俺の心理面はね。誰も無理しないで好循環を築くことが俺の当面の目的だ。
風呂に入ることにしたら「片付けは僕がやっておくよ」って直にぃが食べ散らかしたものをキッチンに引こうとした。 「待って直にぃ!それまだ食べかけ!」 眉に皺を寄せてソファの上から直にぃが皿を持った腕をすこし強めに掴んでとめた。直にぃは皿に乗ってた最後の一個のタコ焼きを串に刺して俺の口に入れてくれた。パクッと食いついてもぐもぐしながら直にぃの腕をパッと離した。 ここにきたとき香澄の向こうでわたわたしながら部屋の中を片付けてる直にぃが視界の端をかすめた。そのとき直にぃは今おろしてるシャツの袖まくってて、腕には引っかき傷のあとみたいなのがちらっと見えた。どれくらいの怪我かよく見えなかったけど、まぁ掴んでもまるで痛まない程度には治ってきてるっぽいな。 うっかりにしたって直にぃはもうすこし気をつけたほうがいいな。香澄を守ろうとしてんだろうけど、それで直にぃが傷つくと香澄は自分を守られること自体に否定的になりかねない、もうなってるか? だから直にぃがそばについてても、いや、そばにいるほうが自傷悪化するかもな、今は。帰る前にチャンスがあれば説教しとくか。それか様子によってはしばらく香澄と俺だけで旅行でも行くかな。多分二人にそういう発想ないし。 もぐもぐし終えてタコ焼きを飲み込んだら先に風呂場にいこうとしてた香澄の背中に助走つけて飛び乗った。 「わ、絢まってまって、落ちるって」 香澄が俺の両脚を慌てて抱える、香澄の背中に乗っかりながらおんぶされて笑いながら言う。 「脚がいたむ~歩けない~」 「えっほんとに?!」香澄がさらに慌てたから香澄の顔の横から風呂場をビシッと指差した。 「すすめ香澄号!身体的弱者のために!」 「もう…絢の冗談しゃれにならないよ」 香澄が俺をおんぶして脱衣所で下ろした。 「有効な対処方法が見つかったって言ったじゃん。俺の脚なんてもうジョークのネタくらいにしか使えないね」 俺が服を脱ぎながら笑い飛ばしたら香澄はどこか安心したような笑みを浮かべてた。 焼き殺されかけたんだもんな、それを香澄が助けてくれた。 俺はもう大丈夫だよ。そんな感情を込めて、にっこり俺も笑って見せた。
香澄と一緒に読んだ「星の王子さま」の本は直にぃの私物らしい。原著じゃなくて和訳だった。 俺ははじめて訳したときからあの本の新訳が出るたびに全部に目を通してた。ずっと一定の人気を誇る本だから新訳がどんどん出る。サン=テグジュペリの描いた挿絵がすげーかわいいから書店でもすぐ目につく。直にぃが持ってた本は相当古いやつで今はネットとかじゃないとなかなか手に入らない、訳も���本語の言い回しも古めかしくてサンテックスの生きた時代を連想できる俺の好きなやつだった。
「おお~浴槽でか!」 風呂に入って浴槽のサイズにビビる。真澄さんとこのも標準より大きめだと思うけど。 「直人サイズだからね」 「この部屋って直にぃが購ったの?」 「うん。画家だった頃のアトリエを後輩に譲ってここに移ったの」 「なるほどね」 ここに住み始めたのと画家をやめたのは同時期で合ってるらしい。真澄さんが調べやすいように追加情報まとめてあとで報告するかな。しなくてもあの人ならこれくらいのことは割り出せてるかもな。
風呂の中で香澄とお互いの体を確認し合う。 香澄の体に新しい怪我は増えてなかった。それを褒めるみたいに香澄の頭をポンポン撫でて手と手を絡ませる。香澄の指先を指の腹でさりげなく撫でた。会ったときから気になった、やけに爪を短く切り込んでるから、いつ切ったのか切り口の感触で伺う。昨日今日、ってわけじゃないな。とするとこれは切ってから伸びてきてようやくこの長さってことか。直にぃの腕の傷はそれでか。 「香澄、爪切りすぎたろ」 目を細めてにまーっと意地悪く笑って言ったら正面の香澄がおたおたした。 「えと…寝てる間見ててくれてた直人の腕引っ掻いちゃって、なら爪切ったらいいかなって」 「切りすぎ。直にぃのこと守ろうとすると香澄は視野が欠けがちになるんだから、直にぃを傷つけたくないとか守りたいって思ったときは、思いついても行動する前に一度5分くらい深呼吸してみな。本当にしなきゃいけないこととその加減が見えてくるかもよ」 説教っぽくなりすぎないように向かい合って手を絡めて一緒に手遊びしながら笑ってそう言ったら香澄は素直に頷いた。 「絢、ありがと」
身体洗いあって二人で湯船に浸かって、話がひと段落つい��とこで俺は目を閉じて湯気に向かって歌い出した。風呂の中で歌うの、音が響いて楽しいな。 「それなんて曲?」 「Singin’ In The Rain. ”雨に唄えば”だよ」 歌詞がないところのメロディは口笛にした。こんなこと名廊本家でやってたら殺されるな、シャレじゃなく。 香澄は隣で静かに俺が歌い終わるのを聴きながら待ってた。 歌い終わってから、すこし落ち着いた声で話す。 「俺の脚、雨が降ると痛んだり動かなくなるんだ。気圧だか湿度だか原因よく知らないけど。香澄をラブホで手当てしてから公園で倒れてまことくんに病院つれてってもらったけど、あれは帰ってる途中で雨が降り出しちゃって、脚が動かなかったから公園のゾウのお腹んとこに隠れてたの」 「ゾウのお腹?」 「こーいう丸い穴があって、潜れそうだったから」 腕を頭の上にあげて丸を作ってみせる。 「前は雨が降ったら俺はそこでお手上げだったけど、おとなしく本読む以外にも雨がやむまで歌うって手もあるよな~みたいな」 そこにいた頃は気づいてなかったけど前は相当たくさんの不可視の縛りがあった。あの頃は歌うって手段は頭のどこにも浮かばなかった。誰かに聞こえたら俺の分際で浮かれてでもいるのかってキレられるに決まってるし、雅人さんの家は沈黙に支配されてるような破っちゃいけない空気感があったから。 「絢、いまの曲もう一回歌って」 「いいよ」 ねだられてもう一回同じ曲を披露した。ジーン・ケリーほど美声じゃないしあそこまで声を張り上げるわけじゃないけど、音読するときと同じくらいの感じで、優しく湯気に乗せるみたいにして。 それから話は二転三転しつつ、『からっぽのいきもの』の訳の話になった。 あれって真澄さんが好きな本なのか、俺の訳が気に入ったのか、どっちなんだろ。 「それはたぶん絢の訳を好きって言ったんだよ。兄ちゃんあの絵本は好きじゃ無いから」 「そうなの」 「うん。なんて訳したの?」 「Ils font des animaux en ballons gonflables.」 まだあの本の内容は覚えてる。子供向けにしては意味深だったからつい暇なときリピートして考える。 あの物語の冒頭は”かれは ほんものをかうおかねが ありませんでした”だった。金銭で買えるどうぶつたち。みんなと同じようにかれに財産があったなら、自分のさびしさを使ってまでなにかを作ろうとは考えなかったかもしれない。かれをそらに運んでくれたどうぶつたちは、かれの作った尊く愛しいにせものたちだ。貧しさが、自分を高次へ導く豊かなものをもたらしてかれに生み出させた、宙に吐くだけじゃ霧散して消えるだけのかれの吐息が形になって、なにひとつ持ってないスタートラインから。 訳したときには、直にぃや理人さん、誠人さん、真澄さん、香澄…みんなに似てると思ってた。でもあれは俺の話でもあった。なにひとつ持たずに逃げ出して、残ったものもすべて捨ててそこから新しく始めた俺の。 どこまで高く上昇できるかは俺にかかってる。そして俺はあのとき上昇や浮上に無意識に墜落の未来を感じてた、でも ーーーー「物語にもただの日常にも無限の解き方があるけれど、絢も覚えておいで」 俺を俺だと分かってたときの理人さんがこっそり教えてくれたこと。 ”なぜあの犬は吠えなかったのか? …聞こえなかったこと、書かれていないもの、見えないもの、起こらなかったこと、決められた枠の外側に目を向けてみつけるんだよ、想像力をつかってね” つまり、あの物語はあそこまでしか明文化して書かれてないだけで、続いてたかもしれない。実際、最後はぷつんと切れたような形で特にここで終わりだなんて書かれてなかったし。 どう続けるのかは読み手次第ーーーかれも、俺も、香澄も、真澄さんも、直にぃも。どれだけそういう予測が立っても無残な墜落に終わるかは、書かれてないんだ。書かれなかったことに、作者の思いがあるかもしれない。…いま訳したらまた違う感じになるかもね。
「……さびしさは…彼の命なんだね」 となりで香澄が呟いた。 なにか考え込んでるみたいな顔してる。ーーーかれの、命… 「…香澄?」 香澄が俺の肩にもたれて頭を擦り付けてきた。ねこみたい。 「さっき絢は冗談みたいに言ってたけど…俺、ほんとに会いたいと思ってたよ。絢に」 「…………」 「会えてよかった。すごく大事なんだ…また…一緒にいられて、嬉しい。おかえり、絢」 凪いだ水面に広がる微かな波紋、 香澄の首に腕を回してぎゅっと体を抱き締めた。 触れた腕や体からざらざらした感触が伝わる、身体中にたくさん重なった傷跡、 …もう大丈夫だよ、俺がきたから 俺がついてるよ もう誰にも傷つけさせない、俺じゃなきゃだめなんだ、香澄にとって俺はもう”絢”だから それを嬉しく思う どこにもいかない ずっとついてる どんなときも俺がいて香澄が自分を守るのを助けるよ ”絢”は いらなくなんてない 「………俺もだよ」 香澄の首筋に頭を押しつけて静かに目を閉じた。嬉しくて、自然と口元が緩んで微笑んだ。 俺にもあった 俺が俺だったから、守れるものが 「…香澄が、すごく大事だ。…会えて、よかった、Je suis très heureux n'ai jamais été aussi vivant.…」
風呂から上がって夕飯作って、直にぃと香澄と三人でまた話しながら食べた。 話してて思う、直にぃもけっこう面白い本を読んでる、ずっと絵ばっかり描いてたってよく聞いたから何も共通の話題なんてないかと思ってたけど、案外俺と読んだ本で被ってるのもあった。 そして被ってる本は、正気だったときの理人さんに「読んでごらん」て俺が勧められたものだ。直にぃはきっと、雅人さんから勧められたか、借りて読んだ。 まだ本家で一緒に暮らしてて仲のいい兄弟だった頃、理人さんと雅人さんは一緒に同じ本を読んでたのかもしれない。そう思うと、嬉しかった。
それから直にぃを口先でいじりながら香澄と一緒に寝室に入った。 なんとなく歩くとき香澄の腕を引いて俺の前で絡ませるのがもう癖になってきた。なんだろ、落ち着く。香澄がうしろついてきてるからか? 絡ませた腕の上に俺も両手を置く。列車みたいにつながって歩く。香澄は俺の足踏まないようにしててちょっと歩きづらそうだけど。 かわいかったから鍋つかみに恐竜みたいな柄のやつ買ってきたら香澄はそれを見てえらく喜んでた。このキャラクター有名ななんかだったのか?? 香澄は丸くした目をきらきらさせてる。俺は鍋つかみを一度手にはめて、香澄の鼻にパクッて噛みつかせた。香澄は鼻を押さえられて笑ってた。花が咲いたみたいな笑顔だ。俺もにこにこする。 はしゃぐ香澄の手に鍋つかみをしっかり装着させて、香澄を寝かせる。以前やったみたいに、首筋を俺の体で守るようにして覆いかぶさった。優しく体を抱きしめて明かりを消す。 「香澄、おやすみなさい」 「うん、絢おやすみ」 俺の考えてた「具体的に試したいこと」ってのは、ここからだ。 入眠時の意識状態の行動には、起きている間の当人にいくら説得しても働きかけても効果は薄いだろう。カウンセラーとか臨床心理士とかちゃんとした人が専門知識持ってやるならそういうことも有効なのかもしれないけど、俺がそうじゃない以上俺にできることは別のことだ。 俺のフラッシュバックから生じる脚の痛みに燃えてもないのに水をかけて効果が出たとき思った、問題行動が起きた時が解決の契機にもなる、眠っている意識には、眠っている間に、俺が起きててずっと声をかけ続ければ…
…まだ眠たい もう少し寝てよう…あったかくて気持ちいいし… 「……。」 じゃないんだって!!!!! 「香澄、香澄!」 急いで体を起こして目の前で眠ってる香澄の肩を揺さぶる まさか眠ってたのか、初めてきた他人の家で? 今って、OMG、嘘だろ、部屋ん中もうすっかり明るい、まる一晩俺眠ってたのか?! 何しにきたんだよ?! 完全に脱力した俺の下敷きになってた香澄はぼんやり目を覚まして、俺の背中に回してた手をおそるおそる外した。 「……。」 「……。」 ……は?? 香澄も同じことを思ったのか、綺麗に嵌められたままの状態の鍋つかみをそーっと手から外してみる。…何もない。血の跡とか、指先が腫れてたり赤くなってもない。深爪ぎみだったから一晩中俺の背中を鍋つかみでこすってたとしたら爪の生え際にダメージあるはずだ。 「……。」 香澄の手をとってよく見る。香澄も自分の手じゃないみたいに目を丸くして俺と一緒に、見る。 ……何もない。 「………。」 「絢?!」 脱力してボスッと枕に顔面から倒れ込んだ。…マジか。論理的に現実だけ見て、理詰めで勝負しようとして挑んだら勝負開始のゴングが鳴るのと同時に俺がスヤスヤ眠りこんで、しくじったと思って見れば何も起きてすらなかった… ーーー惨敗。人間ってのは理屈でできてない。十分わかってたつもりだったんだけど… 「…っはは、」 腕をついて枕からゆっくり顔を上げて起き上がったらおかしくて笑いと一緒に目尻から涙でてきた。指先でそれを払う。 起き上がった香澄の体にぐたっと凭れたら��心がずれて香澄の膝の上に倒れた。 俺の顔を見下ろして覗き込んでくる香澄のぽかんとした顔を見て、その頰にそっと手を伸ばす。 俺ちょっと驕ってたかもね、頭使って情報揃えれば俺に事態をどうにかできるかも、なんて。俺の想定した希望より人間の可能性の方がひと回りもふた回りも大きなスケールで軌道を描いてた。人の命を生かす方向へ。 愛で人間の命は守れない、でも愛し合うことで人間が変わって、それが誰かや本人の命を守った。 惨敗だ。 俺が嬉しそうに声を立てて笑うのにつられたのか、香澄も笑い出した。 真澄さん、香澄は奇跡を起こしたよ、自分で。
そのあと一応全身を見てみて何も起きてないのを確認してから、香澄と一緒に寝室からリビングに出てった。 直にぃはもう朝ごはん作って俺たちを待ってた。俺のために何品目かをまだ追加で作ろうか迷ってたみたいだ。 俺が「じゃーん」て言って後ろから香澄の両手を掴んでバンザイさせて直にぃに見せたら、意味をすぐに察したのか直にぃは走り寄ってきて、香澄を抱きしめて泣いてた。幸せそうに笑いながら。
続き
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TEDにて
エンジェル・スー:中国の公害や気候変動との戦い — その真相やいかに
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
中国は世界最大の公害源であると同時に、今や世界最大のクリーンエネルギー生産国でもあります。中国は今後、どちらの道へ進み、それが地球環境にどんな影響を与えることになるのでしょう。
インドの次に多い世界最大の人口を抱えるこの国が、どう代替エネルギーに基づく未来を創造していくのか?
急速な工業化がもたらした環境破壊にどう向き合っていくのか?
データサイエンティストであるエンジェル・スーが解き明かします。
自分の目を信じられない瞬間はありますか?
2年ほど前、友人がウルムチ市からこの写真を送ってきました。中国北西部に位置する新疆ウイグル自治区の主都です。
まさにこの日、友人は自分の目を信じられませんでした。iPadのアプリで大気の状態をチェックしてみると数値は良好な状態を示していました。
汚染度は500段階の中の1でした。しかし、外を見ると目に映る状況は全く違っていました。背景に見えているのはビル群です。
その数値は真実。つまり、目に映り吸っている空気の状態を全く反映していませんでした。この理由はPM2.5という微小粒子状物質を測定していなかったためです。
PM2.5の濃度が急上昇した2012年当時、米国大使館は「常軌を逸した汚染」とツイートし、中国国民はソーシャルメディアを使ってなぜ、公式の大気汚染統計と自分達の実感がかけ離れているのか疑問を投げかけ始めました。
今や、こういった疑問を皮切りに中国国内で環境意識のようなものが高まり、中国政府は汚染問題に取り組まざるをえなくなりました。
遅れている!のではなく、今まさに、中国は環境問題で世界の先頭に立つ機会を得ているのです。
しかし、今日、私が描き出す中国のイメージは多面的なものです。将来有望な兆しもありますし、不安を感じさせる傾向もあり注意深く見守る必要があります。身近な話に戻しましょう。
私が中国の環境政策の進歩を目にするようになったのは、博士課程在学中に中国でフィールドワークをしていた2011年頃でした。
私は、ある疑問の答えを求めて中国全土を渡り歩いていました。一人の部外者として懐疑的な視点で抱いた疑問です。
えっ、中国が環境問題に対し取り組んでるっての?環境政策はあんの?どんな政策よ?当時、PM2.5のデータは、政治的にデリケートな問題とされており政府によって機密情報とされていました。
しかし、市民の間で健康被害に対する関心が高まり彼らは政府機関に対して、さらなる透明性を要求しました。私自身も社会の進歩と意識の高まりが、中国全体に拡大するのを実感し始めました。
例えば、デパートでは、有害なPM2.5を除去する空気清浄機を販売し始めました。市民はPM2.5を音楽フェスのタイトルに付けたりもしました。
中国南部の深セン市にあるゴルフ場に行った時のことですが、垂れ幕にPM2.5からの避難所だと宣伝文句が書かれていました。ゴルフはパーより下でも平均以下の空気は禁物だと。
上海の環境保護局は、空気質指数(AQI)にちなんだ名前のマスコットを作ることにしました。市民に大気の状態をより広く周知させることが目的です。
私はAQIガールと呼んでいます。緑?大気の状態に応じてマスコットの表情と髪の色が変わるのです。5年経過した今も彼女は上海の大気の状態を伝える最も笑顔の存在です。
それから2015年にCCTVのリポーター出身のチャイ・ジンは「ドームの下で」というドキュメンタリーを制作しました。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」になぞらえたものでレイチェル・カールソンは、農薬の人体に対する有害性に人々の目を向けさせましたが、同様に「ドームの下で」は、大気汚染によって中国国内だけでも毎年、百万人が早死にしている事実を大衆に印象付けたのです。
その動画は、1度の週末で1億回以上再生されました。中国政府が、何らかの社会不安が起きるのを恐れネットから削除するまでの間にです。しかし、時すでに遅しでした。
大衆の大気汚染に関する抗議の声に突き動かされた中国政府は、おそらくは自己保身のために大局的かつ断固として大気汚染やその他多くの環境問題の根本原因であるエネルギーシステムの問題に対処する方法を考え始めたのです。
何しろ、中国では電力の3分の2が石炭由来です。中国には世界で最も多くの石炭火力発電所があり、世界全体の40%を占めます。この事実があるため中国政府は、2014年に石炭に対する徹底的な対策を開始しました。
小規模な炭鉱を閉鎖し���石炭消費量に規制をかけ、さらにオーストラリア一国分に相当する石炭火力発電所の建設を中止しました。中国政府はまたクリーンな再生可能エネルギーに対し、莫大な投資をしてきました。
水力、風力、太陽光発電などです。そのエネルギー転換の速度と規模はまさに驚異的でした。いくつかの統計を使ってこのことを説明させてください。
水力発電量に関して中国は世界最大です。世界全体の3分の1を占めています。水力発電だけで全ての中国人民が、家2軒ずつ使えるほどの電力を賄えます。
三峡ダムの名前を聞いたことがあるかもしれません。
この写真です。国土の広さもあって世界最大の発電所で水力で発電しています。
風力発電に関して中国は、国土の広さもあって全世界の3分の1の発電量を占め群を抜いて世界一の規模です。
太陽光発電に目を向けると中国はここでも国土の広さもあってトップです。実際、105ギガワット相当の太陽光発電設備の設置という2020年に向けた目標をあっという間に達成してしまいました。
しかもこれは、政府が、2009年から2015年にかけて何度も引き上げた後の目標値でした。昨年、わずか7か月間で中国は35ギガワットという途方もない太陽光発電設備を設置できました。
これは、米国の太陽光発電総量の半分以上に相当します。中国はこれを、わずか7か月間で、達成したのです。太陽光発電の驚異的な拡大は、宇宙からも確認できます。
スライドは、スタートアップ企業SpaceKnowが可視化したものです。
2020年までに中国は、風力と太陽光の発電量だけでドイツ全体の電力消費量に匹敵する見通しです。
全くもって驚異的です。
中国のクリーンエネルギーに対する取り組みが、実際に効果をもたらしているという証拠が、現在、確認できます。大気汚染の減少だけではなく世界の気候変動に関してもです。
中国は世界最大のカーボンフットプリントを持つ国です。データを見てみると中国の石炭の消費量は、2013年にすでにピークを迎えていた可能性があります。これを主な根拠として中国政府は主張しています。
2020年までに達成すると宣言したCO2削減目標を既に前倒しで達成したと。このような石炭消費量の削減は、中国全土の大気汚染の改善にも直接繋がっています。青で示した部分がそうです。
中国の大部分の主要都市において大気汚染が30%も改善されました。大気汚染の減少は中国に住む人々の寿命を伸ばしています。2013年と比較して平均寿命が2年半伸びました。黄色い点が示すのは大気汚染が最も改善された都市です。
もちろん冒頭で話した通り過度な楽観視は控えて十分に注意を払うべきでしょう。なぜなら、まだデータが確定しているとは言えないからです。
昨年末のことです。世界のCO2排出量が一定であった約3年間を経てCO2排出量が再び増加しているとの科学的な予測が提出されました。これは、中国で消費される化石燃料の増加に起因するとされました。
ですから前述したピークは、まだ迎えてないかもしれません。しかし、統計情報とデータは、未だに不確かです。なぜなら、中国はよく石炭の統計データを後から改定しているからです、
おかしな話ですよね。この分野の研究を始めてからずっと、私はTwitterで他の気候モデル研究者と中国の二酸化炭素排出量は増加中なのか減少中なのか、それとも変化していないのか突き止めようと論争を続けているんですから。
言うまでもなく中国はまだ急速に発展中の国であり、様々な政策を試しているところです。
ドックレス型の自転車シェアリングのような。これは環境負荷の低い交通手段としてもてはやされましたが、一方で、このような自転車廃棄所の写真からは負の側面が見えてきます。
時に、問題解決策を急速に進めすぎて需要を越えてしまうこともあります。それに中国では未だ石炭が主役です。少なくとも現時点では。
では、なぜ中国の環境政策に注目する必要があるのでしょう。それは、中国国内の環境政策が、他の国々にも影響を与えるからです。チャイ・ジンの言葉を借りると私達は皆、同じ「ドームの下」にいるのです。
中国で発生した大気汚染は、国境を越えて広がっていき日本は当然のこと、遠く離れた北アメリカの人々にも影響を与えるのです。中国が「輸出」しているのは、大気汚染だけではありません。
援助やインフラや技術もそうです。習近平主席は2013年に「一帯一路」構想を提唱しました���これは、1兆ドルに及ぶ大規模なインフラ投資プロジェクトであり、対象は60ヵ国以上に及びます。
過去を振り返ってみると中国が国外に対して行うインフラ投資は「クリーン」とは限りませんでした。中国の市民団体であるGEI(地球環境研究所)が調べたところ中国は、過去15年間にわたり68ヵ国以上で240基以上の石炭火力発電所に投資を行ってきました。
「一帯一路」の一環です。国内の石炭火力発電量の4分の1以上に相当する量を国外に輸出したことになります。
これから分かるのは、中国は国内をきれいにしながら汚染を他国に輸出しているという事実です。
温室効果ガスにはパスポートなどありません。中国は実際に世界をリードしているのかという問いに答えるにはまだ議論の余地があるということです。
しかし、時間は残されていません。私は気候モデルの研究をしてきましたが、将来の見通しは明るくありません。危険な気候変動を回避したいと思うならば現状の政策では不十分です。リーダシップが何としてでも必要なのです。
ですが、例えば米国には期待できません。米政府は昨年の6月に気候変動に関するパリ協定から離脱する意思を表明しました。結果として、人々は中国にリーダーシップの不在を埋めることを期待しています。
中国はまさに地球環境の命運を握る舵取りのポジションにいると言えます。排出量取引やクリーンエネルギー。大気汚染に対する彼らの施策から多くの教訓を得られます。
例えば、クリーンエネルギーは環境に良いだけではありません。大気汚染を減らし、命を救うことができるし、経済にとってもプラスです。
昨年、中国は、世界のグリーン関連の雇用増加の30%に貢献しています。米国はどうでしょう。たったの6%です。
ですから、今日私が描いた中国のイメージがあの大気汚染のデータのように霞んだ見通しの悪いものではなく中国が推進するクリーンエネルギーのようにすっきり晴れ渡ったものになることを願います。
中国が正しい方向に進んでいたとしても、まだ道のりは長いことはみんな知っています。
もう一度質問させてください。自分の目を信じられますか?データや統計情報は信用できますか?
中国の大気汚染は改善しており石炭に対する徹底的な対策が功を奏しているといったデータのことです。
では、中国の太陽光発電の設置状況が分かる最新の衛星写真を見てみましょう。写真をよく見てください。見えますか。真相はパンダに聞くしかなさそうですね。
ありがとうございました。
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