#酒器と切子を愉しむ
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kiriri1011 · 7 months ago
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月夜のせいではなく(R18)
 人の子が林檎をかじるように。  ヴァンパイアが血を啜るように。
「愛してる」
 綺麗な夜にそうささやくのは、彼にとって自然なことだった。  後ろめたくはない。だってこれは、“その先”の世界へと進むための、合言葉のようなものだ。  この言葉は200年経っても腐るということがない。  指先を唇に持っていきながら、許しを請うように上目遣いを送るアスタリオンがこの言葉をかければ、哀れな標的はみんな彼をせがむ。  青白い肌は、いくら重なってもまるで火照るということを知らないのに。
「詐欺師の言葉はいらないわ」
 タヴはそう言って、アスタリオンの手をそっと離れた。  不意の展開にまばたきしていると、彼女の顔がさっと冷え切っていくのがわかった。  さっきまで親密な雰囲気だったのに、今は触れれば弾けるような緊張感を纏っている。
「詐欺師? ひどいじゃないか、一夜の感動をともにする相手に対して、これ以上ふさわしい言葉はないというのに」
 お決まりのルーティーンに持っていこうとして失敗した吸血鬼は、小さな焦りを知られないように狡猾な微笑をすうっと浮かべた。  驚くことに、アスタリオンはこうなっても勝利をもぎとる自信があった。  数多ある口説き文句のなかで、たまたまお気に召さない言葉があったというだけだ。  万人受けするはずの魔法の言葉も、あくまで“この女”には効かなかったというだけで――。
「自分の言葉に価値があると思ってるのね」
 黒い髪の垂れた顔は、まるでおめでたい、と言わんばかりに目を細める。  いったい、それの何が悪い? と言わんばかりにアスタリオンも視線を返す。
「お前にもほしいものぐらいあるんじゃないのか? 自由、快楽、希望……もしくは、優しく抱いてくれる恋人とか。そのどれかひとつぐらい俺が叶えてやるって言ってるのに。プライドが高いのは好みだがあんまり強情だと目の前の幸せを逃すぞ」
 相手は表情ひとつ変えずゴブリンの酒樽にワイヴァーンの毒を仕込む女だが、感情がないわけではないのを知っていた。  さきごろ、事実上は森を救ったものの、ともに英雄扱いは肌に合わないアスタリオンと彼女は気の良い仲間たちにすべてを押しつけ、ふたりで夜を明かした。  大量の敵を魔法の炎で焼き払った余韻か、あの晩の彼女は昂っていて、とても凶暴だった。その野性的な手触りをアスタリオンはよく覚えている。  一度では忘れ��れないと、そう感じて逢引きに納得してくれたと信じていたのに。
「――私がほしいのはね」
 突然、月が雲に翳るように、アスタリオンの唇は奪われた。  あまりの脈絡のなさに息ができない。  女魔術師は細い見た目にそぐわない強引な力で男を抱きすくめると、舌で唇をこじ開け、長い犬歯まであっという間に辿り着く。  なんの遊びもない、大胆不敵なキス。  見た目はエルフだが、その迫り方はまるでオークだ。  だが、アスタリオンが驚いたのは一瞬だけ。なまめかしい舌の感触に喉奥が仔猫のように鳴るのがわかる。  なんだ、結局ほしがるんじゃないのか。  つまり彼女ですら定石通りでしかないと察して、吸血鬼は口の端に銀の糸を垂らしてほくそ笑んだ。  だが、そのチープなところが一番いとおしいとさえ思う。  逆にいえばそれ以外にアスタリオンの望むものはない。  平らな草の上に自分から寝転がり、女の身体を抱え上げる。  夜の静寂にしばらく息を交わす音と、舌のまじりあう音だけが響く。
「………ッは」
 不意に離れた彼女を目で追う。  濡れた唇が光って、月に照らされた瞳がかがやいている。  それを美しいと感じると同時に、アスタリオンは止まったはずの心臓がナイフで傷をつけられたようにかすかな畏怖に震えるのがわかった。  闇を垂らしたような黒い髪を揺らし、タヴは微笑みを浮かべると、腰に回ったアスタリオンの片手をとって、指先に口づける。
「私がほしいのは、本物だけよ」
 月夜を背負うには、この女の微笑みは鋭すぎる。  我ながらなんて皮肉だろうと自嘲して、アスタリオンはうっすらと目を細めた。
「……もったいつけたわりに、随分と素朴なことを言うじゃないか」    その恐ろしいほどの美貌とは裏腹に、タヴの求めるところは単純でしかない。  本物の愛がほしいだなんて、アスタリオンの覚えている限り200年前の処女でももっと背伸びした言葉を使っていただろう。  うすら恐ろしい笑みが似合う女魔術師様が、意外とかわいいところもあるんじゃないか。
「俺に言わせれば、お前は高望みだな。いまどきはセンチメンタルといってもいい。身体は俺みたいな軽い男をほしがっているのに、純粋な気持ちまでよこせとはびっくりだ。早く田舎に帰って、初恋を捧げた幼馴染みの男と幸せな結婚式をあげたほうがいいぞ」
 同情まじりのジョークを告げても、女はくすりともせず、じっとアスタリオンを見つめている。  見つめられすぎて顔に穴が開きそうだと思った。それぐらいタヴの視線は弛みがなく、まっすぐにアスタリオンを見据えている。  腹をすかした狼に見つめられている気分だ。  このままでは場が持たないと感じ、アスタリオンは両腕をタヴの肩に巻きつけると、今度は自分からキスをねだる。  女の温かい舌に積極的に自分の舌を合わせ、彼女のほうから襲いたくなるように鼻にかかった吐息をこぼしながら導いていく。
「……私はお前の口から本物の声が聞きたいわ」
 またそれか。  さすがに呆れてため息をつきそうになるが、その瞬間に長い耳の先を噛まれて、アスタリオンは思わず「あ」と声をあげた。  敏感な場所を食まれて、甘い戦慄が感覚を焼く。
「今のは演技?」
「……ふむ、どっちか当ててみるといい。次は反対の耳で」
「わかったわ」
 女は言う通りにした。アスタリオンは先ほどよりもわざとらしく喘いでみせる。
「すごい! 上手じゃないか」
「……どうやらふざけているみたいね」
 無表情の女が苛立っているのを見て、アスタリオンは愉快な気分だった。  大体、こういう夜に、言葉の裏の読み合いなんてするもんじゃない。  その向こうが空虚にしか続いていないことは、この世の誰もが知っている。  吸血鬼が鏡を覗き込んでも、そこに誰も映らないように。  アスタリオンはキスや愛撫を受けるたび、わざと甘えた声を出してはくすくすと笑いだす。それをタヴは冷たい視線で見ていたが、互いにゆっくりと時間をかけながら服を脱がせ合っていた。
「……?」
 アスタリオンが女の細い腰からズボンを下ろそうと手を伸ばしたとき、違和感に気づいた。  女の股間にふくらみがある。しかも、温かい。  指先でするするとその輪郭を確かめるアスタリオンに、タヴは微笑み、自分から腰を上げてズボンを下ろしていく。
「……それはいったいどうした?」
 タヴの黒い炎のような[[rb:陰毛 > ヘア]]のなかに、男の象徴が半立ちになっている。  前に見たときはこんなものなどなかったはずだが……。アスタリオンが疑問を込めて訊ねると、タヴは少し得意げに目を細めた。
「面白い呪文書を見つけたから、自分で試したのよ」
 黒く長い髪に、豊かな胸と細い腰。魅力的な女らしいパーツが一通り揃った身体に男の性器を生やした彼女は、まるで両性具有の神の像のように堂々としていた。生まれたときからそれを持っていたような不思議な自然さがある。  魔法とはここまで万能だったのか、と呆れたような感心を抱きつつ、アスタリオンは彼女の股間にあるものをしげしげと眺める。
「……触ってみても?」
「かまわないわ」
 了解を得て、右のてのひらでそれを包み込む。  「ほう」と好奇心を隠さずアスタリオンはうなずいた。  すべらかで身の詰まった感触はたしかに本物で、中身を伴わない幻術の類ではないと納得できる。  刺激したらやはり勃起するんだろうか、などと想像を巡らせて触れていると、ふ��に顎先を持ち上げられて上からキスされた。
「今夜はこれを使ってお前を抱く���」
 タヴはそう言って、己の半身をアスタリオンの股間に近づけた。  まだ半分柔らかいものが自分のそれと重ねられる。大きさもほとんど変わらないから、双子のようだ。
「まるで新しい玩具を使いたくてたまらない子どもだな」
「遊び相手になってくれるんでしょう?」
「まあ、そうだな……」
 さすがに股間に一物を生やした女に抱かれるのは初めてだ。  だが、アスタリオンはそこで迷いよりも興味が勝った。  200年を危険な色事に費やしてきてなお、自分に初めての行為があるということが皮肉で愉快だったし、魔法のかかった彼女の身体は魅惑的だと思う。  危険の多い旅路に、彼女を自分の武器で繋ぎとめておけるなら言うこともなしだ。
「いいだろう。一度挿れる側になったら戻れないってことを俺が教えてやる」
「強気だけど大丈夫? 怖くないのかしら」
 タヴはわざと心配そうにため息をつくが、それはアスタリオンには失笑もののリアクションだった。  自分の得意な領域に持っていけることを確信したアスタリオンは青白い頬に完璧な微笑みを浮かべてタヴを見上げる。
「俺に怖いものなんてない」
「あら、カザドールも怖くないの?」
「その話は今するな!」
 問答も惜しくなったアスタリオンはタヴの唇を奪い、細い腕を強引に自分の肌に導いた。  今までのものより荒いキスにふけりながら、アスタリオンの促すまま女の指先はするすると胸の先端に絡みつき、細かい動きで刺激を加え始める。  すでに知っている快感がちりちりと背筋を這い上がった。  こうなるともはや予定調和でしかない。
「あぁ……は、あ……」
 深いキスに溺れたように瞳を潤ませ、アスタリオンは女にいたぶられる悦びを吐息にしてこぼした。  タヴは合図のように乳首を引っ張ると、舌を動かし、さらに奉仕することを要求してくる。  アスタリオンは従順に応えた。めまいがするほど濃厚な口づけに溺れながら、身体に刻まれる刺激のひとつひとつに翻弄され、切ない喘ぎ声を漏らす。  それらはすばらしい手本のひとつとして数えられるような反応だった。  こうやってアスタリオンは千の夜を生きてきたのだ。    夜の森に派手な水音と男の嬌声が響く。  
「あっ! あっ、ああっ、そこだ……もっと……っ」
 彼女の指は後ろの窄まりに潤滑液を塗り込めている真っ最中で、獣のように四つん這いになったアスタリオンは敏感な場所を穿られる感覚のままにあられもない声をあげていた。  夜闇でも淡くかがやくような白い背を揺らし、なまめかしく息を切らす様はどう見ても快楽に溺れているようにしか見えない。  だが、今まで多くの者たちを楽しませてきた彼の痴態を見ても、タヴの顔は冷静なままだった。
「私を抱いたときも、そうやって上の空だったわね」
「っき、��…急に、なにを、言って………う"あッ!」
 現にアスタリオンは返事も覚束ないのに。  彼女の指は執拗に男の秘所を搔き乱し、容赦なく追い立ててくる。  アスタリオンは素直にその感覚に従っているに過ぎないのに、女はお気に召さないらしい。
「ア、ハッ……心外だな……俺はこんなに昂ってる、のに……、っ!」
 地面に爪を立て、押し寄せる快楽に奥歯を噛み締める。  タヴはいったい何が気に食わないのかわからない。こんなに感じているところを見せているのに、なぜ納得しないのだろう。  実際のタヴの技巧には演技をする余地がなかった。  アスタリオンに負けず劣らず器用な指先は男の泣きどころを的確に捉えてくるし、異性を抱くのは初めてとは思えないほど手慣れていて、今さらリードするまでもない。  いつの間にかアスタリオンは彼女に主導権を譲って、与えられる快感を享受する一方だった。
「たのむ、もう、イきたい……っ」
「そうしてあげてもいいけど」
 タヴはそっけなくつぶやくと、ずぽりと指先を引き抜いた。  玩具がなくなったことが惜しくて、思わずアスタリオンは喉の奥を鳴らす。
「ああ……タヴ、早く、お前がほしい……」
 本当だ。  絶頂を前にして放り出される狂おしさほど持て余すものはない。  はぁ、はぁ、と荒く息をつきながら視線で訴える。欲望に眩んだ赤い瞳は濡れたようにかがやき、タヴだけを見据える。  冷たい表情だが、彼女の股間にあるものは大きくそそり立っていた。  アスタリオンの飢えた身体を癒せるのは今はそれだけだ。
「なら顔を見せて」
 タヴは涼しくそう言ってのけると、地面に両手と両膝をついた男の身体を裏返しにした。  背中が土にまみれることにアスタリオンは抵抗を感じたが、タヴの腕は妙に強くて逆らえず、彼女の望むままに仰向けになる。  てっきり後ろから挿入されるものだと思っていたのに。  快楽を優先するのかと思いきや、急に顔と顔を突き合わせることになり、すっかり出来上がっていたはずのアスタリオンはかすかに臆した。  月の淡い光を浴びた髪が黒々とかがやいていて、そのうっすら細くなった瞳はよく研いだナイフのように光って見える。  彼女がこんな顔をして、ずっと自分だけを見ていたことを知って、心臓がもう一度止まりそうな気がした。  タヴの手に膝の裏を抱えられ、持ち上げられる。
「挿れるわよ」
 潤滑液で濡れた窄まりに彼女が性器を近づけ、徐々に挿入する。  思わず息を止めていたアスタリオンは、その腹に響く感触に大きく声をあげた。
「あッ……あぁ……!」
 はっきり言って、正常位で挿入されるのは好きじゃない。  やるとしたら処女と童貞同士とか、年季の入った夫婦がたまに愛を確かめ合うときにするもので、少なくとも快楽を優先して行う体位ではないと思っていた。  だが、タヴに挿れられた途端、甘美な刺激が電流となって全身を突き抜けた。彼女の勃起したそれが全部��りきる頃には、アスタリオンは泥に濡れるのも厭わず背をよじって悶えていた。
「今のは少し良い顔だったわね」
 含み笑いをのせた声が降ってくる。  笑われた意味が理解できず、わずかなあいだ呆然となっていた。そのまま二の句を継がせないうちにタヴは腰を動かす。
「はあ……ぅ、ああ……っ」
 ゆっくりとした動きは、十分に蕩けきった後孔を甘やかすように緩やかで、気性の激しいタヴの腰遣いとは思えなかった。  アスタリオンの知るタヴは、冷酷で容赦がなく、威圧的で、荒っぽいキスが好きな女魔術師だ。  だからこんな初めての恋人にするように丁寧に愛されるとは思ってもみない。  戸惑いと快楽に包まれながら、アスタリオンは熱に浮かされた声で喘いだ。
「タヴ……ッ、ま、て」
「お前の中を堪能してるの。……とっても狭くて、ひんやりしてるわね。ちゃんと血は流れてるみたいなのに、不思議だわ」
 ゆっくり腰を突き入れするタヴはそう言って男の股間に手を伸ばした。  前戯のときからすでに昂っていたそれの、敏感な穴を指先で刺激する。  白い首をそらしてアスタリオンは肩を震わせた。
「ぁ、あ!」
「やっぱり顔が見えるといいわね」
 タヴは身悶えするアスタリオンの表情をつぶさに観察して微笑した。  感じているところを見られているだけなのに、なぜだか胸が騒ぐ。今までこの痴態で多くの者を虜にしてきた。ベッドの上ではアスタリオンは常に踊り子で、与えられる快楽のままに振る舞ってきたのに、今はそうあることが難しい。  ただタヴは優しくしているに過ぎないのに。
「ああ……アスタリオン」
 彼女は恍惚となったようにつぶやく。  その甘やかな声が鼓膜を揺さぶり、今行われている行為の濃密さを脳のより深くまで訴えかける。  今まで無表情だった彼女の顔が和らいでいるのがわかる。そんな表情は初めて見た。タヴが満たされていると知ると、なぜかわからないがアスタリオンの胸は不思議と高鳴った。  タヴは大きな胸をゆっくりとはずませ、呼吸を深めて男の肉襞をよく味わっていた。
「お前を近くに感じるわ」
 その言葉に、アスタリオンはどこかむずがゆいような感覚を覚えた。  まるで胸が落ち着かない。挿入されているだけでじわじわと緩やかな絶頂感を味わっているようで、こんなタイプの快楽はあまり感じたことがなかった。
「……動くわよ」
 タヴはつぶやいて、腰を揺らし始めた。  今までよりも強い打ち込み方だが、すっかり彼女の形に馴染んだそこは苦もなく受け入れてしまう。  ぐちゅ、ぐちゅ、と潤滑液で潤った後孔が出し入れのたびに濃厚な水音を立てた。
「ああっ、あっ、ん、っ……あ"ぁッ!」
 激しくなる挿入に耐えかねたのか、ぷつん、と糸が切れたように股間のものが射精する。鍛えられた腹筋が自らの精液で濡れていくさまもたしかめられず、アスタリオンは顎をそらして奥歯を噛み、絶頂を耐え抜く。
「……まだいけるでしょう?」
 荒く息をつき、腰の中に停滞する重い快楽が通り過ぎるのを待っていると、タヴがそっとささやいた。  最初は意味がわからず、聞きそびれたが、彼女は返事を待たずにアスタリオンの膝裏をより高く抱え上げた。  まだ快楽から抜け切れていない身体に強く腰が押しつけられる。それも激しく、何度となく。
「あ"ッ、あ"ぁ"ッ、あ"あ"あっ!」
 意識が脳から押し出されそうになるほど強い衝撃に、アスタリオンは喉を嗄らし、もはや吼えるといってもいい叫び声をあげた。  その反応に、タヴはうっすらと汗を額に浮かべながら微笑む。
「……ああ、なんて良い声」
「ぅあ"ッ、あ"、あ”あ”っ!」
「すばらしいわ、アスタリオン」
 タヴの称賛の声もアスタリオンには届かない。  ただ彼女の腰の動きに身体は芯から翻弄され、途方もない感覚に泣き叫ぶ。
 怖い。
「だ、めだ……ッ、も、う、抜いて……ッ!」
 涙を散らし、首を振って懇願のために喉を振り絞る。  このまま二度目の絶頂を迎えることに、アスタリオンは自分の魂が失われるような恐怖すら覚えた。  始めこそ優しかったものの、今の彼女は捕食者だ。  アスタリオンだけを執拗に追いかけ、首元に両手をかけて、今にもその意思ひとつで絞め殺せる立場にある。  その存在には心当たりがあった。
「だめよ、アスタリオン」
 彼女に時折覚えたかすかな畏怖は、そこからきていたのだ。  とりわけ冷たく響いた声の後、より深く、より激しく追い立てる動きが続いて、アスタリオンは喉が焼けるほど叫び声をあげた。
「あ"あ"あ"ぁ……!!!」
 強く穿たれ、熱いものが注がれる感触に目の前が白濁する。  全身の血管が逆流し、内臓が裏返しにされるような衝撃が襲う。  タヴはアスタリオンの中になみなみと精液を注ぎ込むと、しばらく余韻を味わってから、そっと性器を外した。
「あ……あ、あぁ……」
 肛門からとろとろと精液が流れ出る制御できない感覚に、アスタリオンは漠然となった。  強すぎる絶頂のショックがまだ身体から抜けきらず、全身が痺れたように動かない。  そんな男を見て、タヴは満足したようにため息をつくと、涙の散った頬に手を伸ばした。
「すごく可愛かったわよ、思い出しただけで興奮してくるくらい……」
 法悦を漏らすタヴは男が自分と同じように余韻に浸っていると思ったのか、優しく頬をなでて女神のように微笑んだ。  しかし、アスタリオンの嗚咽は止まらない。  痛むほど叫んだ喉は震えを吐き出し、肩を震わせながら悲しみに耐える。  あまりにも深刻な表情で涙を流すアスタリオンに、タヴもおかしいと思ったらしい。柳眉をかすかにしかめて、うかがうように見つめてくる。
「ちょっと、大丈夫?」
「…………」
「……もしかして、本当に嫌だったの?」
 アスタリオンは力なく、しかし何度もうなずいた。  そのさまを見て、タヴは唖然と口を開ける。
「そんな、まさか……またふざけてるんだと思ったのに」
 彼女も自分の行いを顧みてショックを受けているらしい。  アスタリオンは震える身体を引きずるように動かし、土の上にへたり込む。  生々しい恐怖が胸の中からなかなか出ていかない。  発作のように呼吸が乱れ、涙が止まらなかった。  あれは普通のセックスではなかった。少なくとも、アスタリオンにとっては。
「……悪かったわ」
 悄然とした声でタヴが言う。  彼女が動く気配がして、反射的に逃げようとしたが、決してその手が伸びてくることはなかった。
「ごめんなさい。お前がふざけているときと本気のときの見分けがつかなかった私が愚かだった」
 タヴの声は明らかに落ち込んでいた。  傍若無人な彼女が他人に謝罪しているところなど想像もしたことがなかったが、その態度は信じがたいほど殊勝だった。  アスタリオンは涙で何度かむせ込んだが、だんだん戻ってきた呼吸に落ち着きを取り戻していった。
「……いや、いい。最初ふざけてたのは俺の方だった」
 子どものようにみっともなく泣いた後なのでやりきれない。  しかもタヴは本気で心配している。  気遣う視線を背中に感じながら、アスタリオンは小さな声で言った。
「俺も自分がふざけてるときとそうでないときの区別がついてない。よくわからないんだ。自分でも俺が言っていることは本気なのか、実はそうでもないのか、……今まで、深く考えたことがない」
 長いあいだ、アスタリオンの止まった心臓は自分自身のものではなかった。  己が使役される道化であることすら忘れようとして生きて、それで今のアスタリオンがある。  権力に従い、自分を演じて、相手の欲望に応えることだけで今まで生きてきたのだ。  だが、先ほどのタヴとのセックスは、今までやってきたそれとは勝手が違った。  今まで闇の中に紛れさせてきた自分自身が、急に明るいところに引きずり出されたようで、ひどく無防備で、子どものように心細い気分になった。
「自分が自由なことを信じていないのね」
 まず、何かを信じるということがどういうことだったか思い出せない。  今でもどこか茫漠とした気分で、アスタリオンは自分の肩を両腕で守るように抱いた。  ゆっくりとタヴが動く気配を察して、びくりと顔を上げたが、彼女は肩の隣に座り込んだだけだ。
「ゆっくり実感すればいい。……ただ、嫌なときは嫌とはっきり言って。それがお前のためよ。ただ、私もお前が本気かそうでないかをもう少し見極める目を養うわ。これからも一緒にいるんだから」
 タヴは穏やかな表情を浮かべると、そっと指を伸ばし、まだ乾いてない涙の粒をとった。  欲望のままに抱き合っているときよりも、今の距離の方がアスタリオンの心には馴染んだ。  それはまったく不思議な感情で、温もりを知らない胸の中に存在する、棘で張り巡らされた冷たい心臓からひとつひとつそれが抜き取られていくようだった。
「ただ、俺は、強引にされるより……その、優しくされるほうが、よかった」
 名前のつけがたい感慨に襲われたアスタリオンは、わずかに臆したように目を伏せると、自分でも知らないうちにわけのわからないことを口走っていた。  自分でも言った後に後悔した。  優しくしてくれと自分から要求するほどみじめなことはないと思っていたからだ。
「次はそうするわ」
 タヴはそう言って、アスタリオンの肩に自分の頭を軽く乗せた。  意外な言葉に、アスタリオンは顔を上げる。
「次があるのか?」
「お��が望めばね」
 タヴの黒い髪が柔らかく肩にかかって、かすかに花のような甘い匂いが鼻先を掠める。  花の香りに夢中に��ったことはないが、彼女から漂ってくるそれは不快ではなかった。
「……またしたくなるかどうかはわからない」
「別にしたくなければいいわよ」
「しなかったらどうなる? 何もなかったように振る舞うのか?」
 タヴは静かにつぶやいた。
「ただ一緒にいるだけよ」
 アスタリオンは茫然となって、タヴの黒い旋毛を眺めていた。  彼女の言葉を脳裏で何度も反芻させて、一生懸命意図を考える。  だが、言葉以上のものは何も思いつかなかった。  肩を寄せ合い、何もしないまま時間だけが過ぎる。  それはこういうことなのか、とアスタリオンの頭の中が少し片付く気がした。  彼女が肩にもたれたまま動かないので、寝てしまったのかと顔をうかがう。  月のように静かなタヴのまなざしがそこにあった。  鏡を覗き込んだときと同じように、そこは誰の姿を映すこともしない。  だが、タヴはたしかにアスタリオンを見つめている。その月夜のような美しいまなざしは自分だけに注がれていて、自分だけを見ているとアスタリオンは今なら実感できる。  アスタリオンは指先で彼女の唇に触れた。  ふっくらとした下唇の感触を親指でなぞると、そのかすかな温もりがどこか懐かしいとすら思った。
「……キスしたいかもしれない」
 タヴはうかがうように男を見上げた。
「かもしれないじゃだめよ」
「じゃあ……、キスしたい」
「それならいいわ」
 タヴはアスタリオンの頬にそっと手を添えると、自分から唇を重ねてきた。  短く触れるだけの口づけ。  離れるたびに彼女と視線が合って、またくっつけることを何度か繰り返す。  ふたりのキスはそれ以上の意味を持たず、またほかの感情を必要としなかった。
「タヴ……」
 知らずにアスタリオンは彼女を呼んでいた。  その声が求めているのは、もっとしたい、なのか、もっとそばにいてほしい、なのか、自分でもよくわからなかった。  曖昧な感情に揺れる赤い瞳を見て、タヴは何も言わずに微笑んだかと思うと、また唇を重ねて、アスタリオンの肩を大きく抱き締める。
「あ……」
 彼女は、その全部を満たしてくれた。  アスタリオンはタヴの行動のひとつひとつに言葉を詰まらせ、彼女がなぜそこまでしてくれるのか不思議でならなかった。  いくら考えても答えは出ない。  だが、今は無性に彼女の温もりが恋しくて、その背中を強く抱き寄せながら、自分からタヴの唇を乞う。  後ろに回ったタヴの手が、月に淡くかがやく銀髪を優しく、何度もなでていく。  言葉にし尽くせない思いを告げるように彼女と唇を重ねながら、この胸を満たす感情が、欲望が、美しい夜のかけた魔法ではないことをアスタリオンは強く願った。  
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indigolikeawa · 8 months ago
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2024年3月21日木曜日
病院の待合室にて14
プロジェクション
 私は小さな頃から癇癪持ちで、上手くいかない事や気に入らない事があると、叫んだり、物に当たったりして大変だった、と思う。というのもそういった記憶はほとんどない。忘れてしまったのだろうか、それとも覚えなかったのだろうか。
 小学生の低学年の頃、フットボールの試合の結果が気に入らなかった(たぶん負けた)���めに、試合終了のホイッスルと同時にボールをあさっての方角へ蹴っ飛ばし、コーチに「取りに行って来い」と言われた記憶…これは癇癪だろうか?現在行われているプロのフットボールの試合でもたまに見られる光景ではある。他には、小学校の高学年の頃、スーパーファミコンをやっていて、とにかく上手くいかなかった私は、コントローラーに噛み付いた。その歯形がコントローラーにくっきり残った。
 後者の方はいかにも癇癪持ちっぽいエピソードだが、その他の事例が思い浮かばない。私は中学生になり、高校生になり、大学生になり、やがて大人になった。年齢を重ねるごとに、癇癪の回数は増えていった。私が最も成熟していたのは、母親から出て来たてで、びっしょびしょだった頃かもしれない。
 大人になってからの癇癪は枚挙に暇がない。ひどい。大人なのに。我慢してよね。物部門で最も被害を被ったのは携帯電話である。携帯電話で話しているうちに、イライラしてきてしまい、携帯電話をぶん投げてしまう。携帯電話が二つ折りだった頃は関節技を極めてしまい、へし折ってしまう。本当に良くない。つらい。私も私がそんななんて悲しい。でも本当に辛いのは電話の方。携帯電話のお店に行って「車に轢かれました」と申し出て、「あっ、なるほどですねー」と言われて手続きしてもらったことが何度もある。
 人部門で最も被害を被ったのは家族か、友達か。どちらになるだろう。電話で通話していると、いきなり私の声が遠くなり、破壊音がして、怒鳴り声がオフマイクで聞こえる(真に破壊された場合は切れる)。最悪である。こんな事を書いていて何になるのか。読んだ人は悪印象しか持たない。マイナスプロモーションにも程がある。でも書くことがないから書くしかない。ここは病院の待合室なのだから。
 誰もが知っているように、怒鳴るという事は暴力である。私は人を殴った事は無いが、怒鳴った事はある。殴られた事はある。怒鳴られた事も勿論ある。怒鳴るというのは、殴りはしなかった、ぐらいの暴力である。ほとんど殴られたようなもの、ぐらいかもしれない。だからとにかく怒鳴ってはいけない。暴力はいけないから。絶対に。
 怒鳴る、あるいは癇癪を起こす、というのは抑制と解放のメカニズムで成り立っている。蓄積する、我慢する。我慢できなくなる。出る/起こす。それだけである。つまり、体内のものが体外にでるのと同じ。咳をする、うんこする、おしっこする、射精する、泣く、くしゃみする、と同じである。ちなみに今の順番は、私の考える癇癪と近い生理現象のカウントダウンである。怒鳴る/癇癪に2番目に近いのは、泣くことである。泣いちゃいそう…となってる時に、出しちゃえ出しちゃえ泣いちゃえ泣いちゃえと思うことは無いだろうか。逆に我慢せな…我慢せなあかんで…と思うことは無いだろうか。そして涙がポロンと出た時の、あの妙な気持ち良さ。あの感じは相当近いように思う。そして周りに優しさを欠いた人達がいた時の「あー…泣いちゃった(めんどくさ…)(変な人…)」という視線。状況も近い。
 ただ、怒鳴るという行為には投射する感じがある。プロジェクション。そのあたり一帯に撒き散らす感覚。それが涙にはない。その点でいうと、くしゃみはかなり近い。くしゃみの原因(花粉症やハウスダストのアレルギーの方などは分かりやすいと思う)が蓄積する。マスクしてないのでくしゃみしてはならない。ハーッハーッと来る。ハクショーン!あたり一面に鼻水なんだか唾なんだかわからないが不愉快なものが撒き散らされる。これです。これと一緒です。
 そしてここから少しややこしいのだが、私は若い頃に、心療内科で統合失調症だと誤診され、統合失調症の薬を処方され、規則正しく摂取していた事があった。しかし病状が全く良くならず(誤診だからね)、飲むとめちゃくちゃ怠くなってしまうので、吉祥寺のバウスシアターでゴダールの『映画史』を見た日に、薬を飲むのをやめてしまった。3日後くらいに急に体がけいれんしだした。ガクガクしながら再度病院に行き、数日間安静にすることで症状は良くなったのだが、イライラが募り、癇癪が起きそうになるのを我慢すると、ビクーン、ビクーンと体がけいれんするようになってしまった。それが現在まで続いているのだが、そのけいれんが、くしゃみの前の「ハーッ、ハーッ」となっている時の動作を大袈裟にやったものに似ているのである。ややこし。まあだから、くしゃみに似てると思ってるのは私だけかもしんない。
 今日私は癇癪を起こした。以下その経過。
 A=A診療所、B=B病院、C=市役所、D=県庁
 朝、家で母と麻疹が流行っている話になる。母子手帳を確認する私たち。麻疹はワクチン接種済。風疹は1回接種したのみ。もう一回する必要があるかもしれない。
 Aに電話。風疹のワクチン打ちたいと伝える。A受付(そっけない)「在庫ないから無理です」
 Bに電話。風疹のワクチン打ちたいと伝える。B看護師(やさしい)「風疹のワクチン1回打ってるなら、それで抗体出来てるかも。抗体検査するといい。市役所に言うと無料のクーポン貰えるよ」
 Cに電話。風疹の抗体検査したいと伝える。C受付(やさしい)「それは県庁の管轄なので県庁で相談してみて下さい。電話番号これこれです」
 Dに電話。風疹の抗体検査したい。D健康推進課(やさしい)「国がやってる接種と県がやってる接種がある。国の接種はハガキが届くのだが、あなたは対象外。県の接種だとあなたは対象です。手ぶらで行けますよ。病院のリストはウェブにあります。(AもBもリストに載っている)」
 Aに電話。風疹の抗体検査したい。A受付(そっけない、てか冷たい)「ハガキないと出来ない」
 Dに電話。風疹の検査、Aがハガキいるって言ってる。Dさっきの人(やさしい)「そんなことはないですよ。県の接種だと強調して伝えてみて下さい。Aはリストにもありますし」
 Aに電話。県の接種ならハガキなくてできるって。A受付(さっきと違う人。やさしめ)「そうなんですね…ちょっとお調べします。(切る)」
 30分経過。
 Aに電話。あの…調べられましたか?電話番号言ってなかったかも。A受付(そっけなくて冷たくて怖い)「はい…だから今調べてます。はい。ガチャン!(思いっきり受話器を置く大きい音)」
 10分経過。
 Aから電話。A受付(やさしめ)「お調べしたら抗体検査できます」
 私「だからずーーーーっと言ってますよね!!!!」
 プロジェクション中。切ったら最初の電話から3時間近く経っている。
 昼。母とちらし寿司食べる。午前中を振り返り、私だけが悪いのではないと確認する。たぶん。お母さん私に甘いかも。
 午後。
 Bに電話。落ち着いて。抗体検査したいんですけど。県の接種の方。「あっ無料で出来ますよー。予約とかいらないので来て下さいね」
 Bに行く。待ちながらこの記事書く。採血。結果は後日。帰る。
 なんでこんな事になるのか。でも決めました。やっぱり怒鳴るのは良くないので、私は今日から癇癪持ちやめます。お酒もタバコもやめれたので多分やめれます。癇癪出ちゃいそうな時はビクビクけいれんして生きていきます。人を傷つけるより自分が疲れるだけの方がずっと良いし、後々の後悔を含めた総合的なダメージを見ても、けいれんの方が少ないです。頑張ります。私は生まれ変わるのです。見ていて下さい。
 
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shukiiflog · 1 year ago
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ある画家の手記if.14  依存
香澄が一人で目を覚ましても僕も気づけたら寂しくないかな、と思って、眠るときは香澄の体に腕を回してた。
動かれればさすがに僕も目を覚ますかと思ってたんだけど、今朝はそうならなかったみたいだ。 部屋にいるのは僕一人で、キッチンにはポットに淹れられたコーヒーがぽつんと飲まれないまま置き去りにされてた。 一人で目を覚ますともうずっとただそうだったような気分になって気が滅入る。香澄は昨晩も泊まっていってくれたのに。 香澄が相手ならあまり自重しなくていいのかもしれないと思い始めてから、僕のやり方は体力任せだ。夢中になることはあるけど完全にコントロールを失ってるわけでもなくて、暴力的なこともなく穏やかに満足して終えられる。 他の相手ではなかったことだったから、自分もちゃんとそれで満足できることを知れて少し嬉しい。 長々と付き合わせてしまう香澄が愉しめてるのかは分からないけど、嫌がられたこともない。 どんなタイミングでも呼べば来てくれる。いやいやっていう雰囲気でもなく… それをどうとるべきか考えあぐねてる。 そういうことがしたい相手に声をかけて、したら終わり、その前後に何か考える余地なんてこれまでは特になかった。 でも香澄が来てくれるのは …どうしてだろう 一通り満足した体は軽くて少なくとも今はそういう気分じゃない。 一人で起きて、多分学校に行ったのかな、行かせてしまったことを���うとなんとなく気持ちが沈む。おはようくらい言えたらよかった。 すぐ行方不明になるケータイをなんとか探し出してメールを打つ。 ”なにか食べたいものはある? 今夜は外食にしようか” 送信。 いつも適当にあるもので済ませてしまうけど、香澄はまだ学生でそんなに食事も贅沢できないかもしれないし、どこか外の少し高いお店の食事をたくさん食べさせてあげられたらいいな。僕はお酒を飲みながら見てるだけになりそうだけど。 と思っていたら香澄から返信。”今日は違う人にお願いして” 「………。」
色々すっ飛ばしてまたそういうことするためだけの誘い文句だと思われた、のかな? ここ最近の僕を思えば無理もないことだけど。 そういうことができなくても僕は香澄と会いたいけど、…香澄はどうして来てくれてたんだろう。僕ほどしたいってわけじゃ、ないんだと思う、多分。僕が呼ぶから仕方なく? そこは少しはっきりさせたいかな。 起きたままの状態から外出するために支度を始める。 メールで話すとしょっちゅう僕は意味を取り違えるから、面と向かって話してて取り違えるほうがまだいくらもましだ。 どこの大学かは聞いてたけど行ってみて会えるかは分からない、でも幸いなことに今の僕にはケータイという文明の利器があるので近くに行って連絡をとりあえばうまく会えるかもしれない。 そんなに焦る必要もないのかも。また都合よく会える日を待ってれば 頭を過る、香澄の体じゅうの不穏な傷跡。本当に次があるのかはいつだって分からない。 クロゼットを漁りながらそんなに見ない全身鏡の前に珍しく立ってみる。 たまに廃材をもらいに出身校に出入りすることはあるけど、最近の学生はみんなきちんとしてる。 そんなにキメすぎてもおかしいけど、せめてよれていない冷泉がくれた上品なシャツを着て、上から羽織るものもいつものずるずるに伸びちゃったカーディガン(伸び具合が気に入ってるんだけど)はよして、シャツに合いそうな夏物の涼しげな素材のジャケットにする。 スーツなんて合わせたら学校側から警戒されそうな気がしたので、冷泉がくれた洗いざらしみたいなデニムを履いた。 大学生に紛れるのはさすがに難しくても、出入りしてておかしくない適度にラフでちゃんとした装いになった。ぼさぼさの髪にも軽く整髪料をつけて清潔にまとめた。 こういう日の明けの朝って首回りとか鬱血したあとが残って、公の場に出るときにあまり堂々と晒すのもなんだから首になにか軽く巻いたりしてた。今の僕の体にそういうあとは、ない。 香澄から何か跡が残るようなことをされたことがない。 廊下から部屋の中を振り返る。かいじゅうくんや小さなマスコットの置き物や可愛い柄のタオルケットやいい香りのするアロマ、香澄が来るたびにひとつず��僕にくれたもの。 以前は毎回会うたびになにか必ずと言っていいほどプレゼントをくれてた。 僕の部屋はおかげで少しずつ賑わってきてたけど、香澄がいないのにこんなにたくさんあるのも寂しいような気がする。こんなにたくさんあるのに、いない。 まだ何も食べてないけど出る前にコーヒーだけいれて飲みながら煙草を吸って、朝と昼はこれで済んだことにする。 マグを片付けてちょうど出ようとしていたところでチャイムが鳴った。 冷泉だった。
「珍しい姿になってんな。出かけるところだったか」 洗ったマグを拭きながら答える。 「うん。ちょうどよかったよ、僕どこかおかしな格好してない?」 冷泉は僕やあちこちでよく振られる質問に、僕の頭から爪先までざっと見て返す。 「それでもおかしくはないけどな、靴を変えろ」 「靴? 違いがよく分からないけど…」 「ワニ皮の持ってたろ。なかなか履かねえやつ。今日なら合いそうだから履けよ」 なるほどね、と、よく分かっていないながらも納得して履きかえる。 部屋を出ていきながら背中で言っていく。 「じゃあ留守はよろしく。鍵はいつもの通りに。」「了解」 普段の通りに冷泉を置いて出てきて、そういえば僕に何か用事があったのかなと思ったけど、それこそまた後日でいいかなと思ってそのまま出てきた。 香澄の大学は電車に乗って少しのところ。 駅までの道は思っていたより日照りがきつくて、一枚余計に着込んできてしまった気がする。行きは下り坂が多くて助かる。 最近は強い雨が降ったり綺麗に晴れたりを繰り返してる。テレビも新聞もあまり見ないから分からないけど、梅雨なのかな。 電車の中でメールを打つ。 ”少し会って話がしたい。学校にお邪魔していいかな” 大学付近の駅は学生でごった返していた。 香澄がよく着てるような服と似たような服、本当によく似た背格好、体脂肪率がちょうど同じくらいで同じくらいの日の焼け方だったり、骨盤の大きさが同じくらいだったり、動作やとる姿勢が似てたり、なんなら飛び交う声の中に香澄かと一瞬思ったような似てる声質の誰か、なんだか気分が悪くなってきた。人に酔っただけかな… 香澄から返信。”学校の外じゃだめかな…” 歩きながらメールが打てないので、電話してみた。このたくさんの学生の動きからしてちょうど授業時間は避けてるみたいだし 「ーーー香澄?」 『直人、話なら待っててくれたら俺ちゃんとそっち行くのに』 「うん…ごめん。もうついちゃったんだ」 『え… 俺の学校?』 「うん。この後も授業なら僕は学内のカフェで時間を潰してるけど、香澄が嫌なら帰るよ」 先走りすぎた自分の行動を俯瞰してなんとなくストーカーっぽいな、とか苦笑する。 僕の存在って香澄は誰かに話したりするのかな。もし隠してることだったなら、散歩くらいの気分でここに来たのは問題だったかも。 『ちょっと待ってて、すぐ出てくるから。今どこ?』 「帽子をか��った人の銅像があるところ」 すぐ行く、とだけで電話は切れた。 香澄が来るまであまりうろうろしないでいようと、近くのベンチに腰を下ろす。 大体の学生は僕の存在に気づきもしないで通りすぎて行くけど、ごく何人かは僕を見て何事かを話してた。内容までは聞こえないけど、普段からないこともない現象なので、そういうものなんだろう。 退院して以来、前にも増して僕は色々深く考えなくなった。 対処に追われてばかりで気持ちはいつも後手後手に回って、拾われないまま過ぎてしまったり。 痛んで痛んで仕方がなくてぐるぐる回って落っこちちゃって自殺未遂。起きたことだけならいつもどおりだけど、今回はそのままよろけながらもまた生活に戻る、そこでうまく戻れなくて引っかかる何かがある。 何なのか正体は分からなくても 「あの、ちょっといいですか」 ふいに話しかけられてそっちに振り向く。 香澄じゃない、学生。誰だろう、僕の知り合い…でもない、あまり自信はないけど
「綾瀬と同じゼミなんですけど、…人違いじゃない、ですよね?」 「…僕で間違いないんじゃないかな」 香澄の友達か。そういえば身なりや雰囲気が香澄と並ぶと綺麗に調和しそうな子だ。 「出しなにあいつちょっと先生に捕まって、ケータイも触れなさそうなんで、遅れるって伝言だけ俺が言付かりました」 ちょっとくらい遅れたって待つのに、律儀だなぁ。…それともこれって会いたくないって意味合いだったりするのかな。 「そっか、ありがとう。僕は今日は帰ったほうがいいような雰囲気だったか、聞いていいかな」 その子は礼儀程度に愛想のいい態度で、でもどこか少し複雑そうな顔をしてた。この子と僕の間にはまだ何もないはずだけど… その子は少し間をおいて、言いづらそうに話し出した。 「俺らの間で綾瀬と…たぶんあなたのことで、ちょっとした噂になってて。俺はぜんぶ鵜呑みにしてるわけでも、ないんですけど…」 何か言いたげな様子なので僕も少し姿勢を改める。 ベンチから腰を上げて隣にその子の座れるスペースを開けると、その子は素直にそこに座った。 人と話すのは得意じゃないけど、聞かなきゃいけない話もある。 「すみません、初対面で話すような話じゃなくて」 「いや、構わないよ」 「あんまり口出すわけにいかないけど綾瀬も最近ちょっと出席悪かったりして、他人事ですけど、どうなのかなって…」 あまりに濁しながらの物言いなので何を汲めばいいのか迷子になりそうだ。僕に対して敵意までのものは感じないけど、少なくとも香澄の周りで僕とのことはあんまりよく言われてない。のかな。 「出席の件なら確かに最近少し付き合ってもらうことが多かったから、僕のせいかもしれない。学生から勉強の時間を奪ってることについては申し訳ないと��ってるよ」だからやめられるってことでもなかったけど、嘘じゃない。 「そういうのって…脅迫とは違うんですか」 脅迫。自殺未遂をさしてる? 僕って香澄を脅してたのかな…ほっといたら死ぬかもしれないって? だから香澄は来てくれてた? 「今日は首回りに痕つけてうっかり学校来てて、本人も動揺してて、ちょっと口を挟まざるを得なかったっていうか」 何をどう口を挟んだんだろう… 僕との付き合いをやめろ、とかかな 首にあと、って僕がつけたせいか。後で困るかなって思わなかったわけじゃなかったんだけど、少々不自由な思いをさせてしまっても僕はしたときは香澄にあとを残したかったし、今後もそうするんだろう。 この子は態度も悪くないし、内容もまだ無礼ってほどでもない、けど話していて独特の胸の悪さがもやもやする。ここにいない香澄の話を勝手に喋るのが難しくて自分の内心ばかり話したけど、そろそろそれも限界に近いような気がした。これ以上話すと、香澄の話になる。 「僕がそうしたくてしたまでだよ。君が聞いてる噂がどんなものかは知らないけど僕については全部鵜呑みにしてくれていい。僕を尊重する筋合いでもないだろうから、君は香澄の味方でいればいい。ここでまだ僕と話したいなら君も名乗りなさい。これ以上は香澄の名誉にも関わる。僕のことは勝手に知ってるんだろう」 背筋を正すとなんの意味合いか度し難いような笑みを少しだけ浮かべて、そう言いきった。 これは少し反則技なんだけど、こういう公の場で困ったときにたまに使う手段で、要するにあの人の真似っこだ。仕組みはよくわからないけど、僕自身がたどたどしく喋るより有効だったりする。不誠実なやり過ごし方だけど、どうしてもこの子と向き合う気になれない。 その子は気圧されてためらった挙句、言葉を濁して、そこまでの関係でもないからとかなんとか言って去ろうとした、 「あ、れ… どしたの二人で…」 そこに、やっと香澄がきた。
続く
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greater-snowdrop · 1 year ago
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毒を食らわば皿まで
うちよそ。フェドート←ノルバ(パパ従兄弟) ※モブの死/暴力・性暴力行為の示唆
 揺れる焚火を前にマグを両手で包み込む。時折枯れ木が弾ける音を拾いながら、岩場に座すノルバはじっと揺れる炎を見据えていた。泥水より幾分かましなコーヒーはすっかり湯気が消え去り、食事の準備をしていたはずの炊き出し班がいつの間にやら準備を終えて、星夜にけたたましく轟く空襲に負けぬ大声で飯だと叫んでいた。バニシュを応用した魔法結界と防音結界が張られているとはいえ、人の気配までは消すことが出来ないがゆえに常に奇襲が警戒されるこの前哨地において、食事は貴重な愉楽のひとつである。仲間たちが我先にと配膳の前に列を成していくその様子を、ノルバはついと視線だけを向けて捉えた。  サーシャ、ディアミド、キーラ、コノル、ディミトリ、マクシム、ラディスラフ、ヴィタリー。  炊き出しの列に並ぶ仲間の名を、かさついた口元だけを動かし声は出さずに祈るように唱える。土埃にまみれた彼らが疲弊しきった顔を綻ばせて皿を受け取っていく様に、ノルバは深く息を吐いた。
「おい、食わないと持たないぞ」 「っで」
 コン、と後頭部を何かで軽く叩かれ、前のめりになった姿勢に応じてマグの水面が揺れる。後ろを仰ぎ見れば、見慣れた顔が深皿を両手に立っていた。
「フェドート……」 「ほら、お前の分だ」 「ああ……悪ィな」
 ぬるくなったマグを腰かけている岩場に乗せ、フェドートから差し出された皿を受け取る。合金の皿に盛られたありあわせの���料を混ぜ込んだスープは、適温と言うものを知らないのか皿越しでも熱が伝わるほど酷く熱い。そういえば今日の炊事係にはシネイドがいたな、と彼女の顔を思い浮かべ苦笑いを零した。  皿を渡すと早々に隣を陣取ったフェドートは、厳つい顔に似合わず猫舌のために息を吹きかけて冷ましており、その姿に思わず小さく笑い声がもれる。すかさずノルバの腕を肘で突いてきたフェドートに「面白れェんだから仕方ねえだろ」と毎度の言い訳を口にすれば、彼は不服そうな顔を全面に出しながら「それで、」と話を切り上げた。
「さっきは何を考えていたんだ。お前がぼうっとしているなんて、珍しい」 「…………ま、ちょっとな」
 ようやく冷まし終えた一口目を口に含んだフェドートに、ノルバは煮え切らない声で返した。彼の態度にフェドートはただ咀嚼しながら無言でノルバを射抜く。それに弱いの分かってやっているだろ、とは言えず、ノルバは手の中でほこほこと煮えているスープに視線を落として一口分を匙で掬った。  豆を中心に大ぶりに切られたポポトやカロットを香辛料と共に煮込んだスープは、補給路断たれる可能性が常にあり、戦況の泥沼化で食糧不足に陥りやすい前線において比較的良い食事であった。フェドートが別途で袋に詰めて持ってきたブレッドや干し肉のことも考えれば、豪華と言えるほどである。まるで、最期の晩餐のようなものだ。  ───実際、そうなるのかもしれないが。  ため息を吐くように匙に息を吹きかけ、口内を火傷させる勢いのスープを口に放り込んだ。ブレッドと食べることを前提に作ったのだろう。濃い味付けのそれは鳴りを潜めていた空きっ腹を呼び覚ますのには十分だった。  フェドートとの間に置かれたブレッド入りの袋に手を伸ばす。だが彼はそれを予測していたらしく、袋をさっと取り上げた。話すまで渡さないという無言の圧を送られたノルバは観念して充分に噛んだ具材を飲み下す。表面上を冷ましただけではどうにもならなかった根菜の熱さが喉を通り抜けた。
「次の作戦を考えてた。今日までの作戦で死者が予想以上に出るわ、癒し手が不足してるわで頭が重いのはもちろんだが、副官が俺の部下九人を道連れにしたモンだからどうにもいい案が浮かばなくてな」
 言って、ノルバはフェドートの手から袋を奪取すると中から堅焼きのブレッドを取り出し、やるせなさをぶつけるように噛み千切った。何があったのか尋ねてきた彼に、ノルバはくい、と顎で前哨地に設営された天幕を指す。中にはヒューラン族の男が一人とロスガル族の男が二人。ノルバと同じく、部隊指揮官の者達だった。折り畳み式の簡易テーブルの上に置かれた詳細地図を取り���み話をしているが、平行線をたどっているのか時折首を振る様子や頭を掻く様子が見える。  お前は参加しなくていいのか、とノルバに問おうとして、ふと人数が足りないことに気付いた。ここにはノルバ率いる第四遊撃隊と己が所属し副官を務める第二先鋒隊、その他に第八術士隊と第十五歩兵隊に第七索敵隊がいたはずだ。そう、もう一人部隊長が────確かヒューラン族の女がいたと思ったが。  フェドートが違和感を覚えたことを察したのか、ノルバはスープに浸したブレッドを飲み下すとぬるいコーヒーを手に取り、その味ゆえか、はたまたこの状況ゆえか、眉間に皺を寄せつつ少量啜った。
「セッカ……索敵隊の隊長な、昨日遅くに死んだんだわ。今回の作戦は早朝の索敵と妨害がねェ限り成り立たなかったろ? 俺はその代打で一時的に遊撃隊を離れて第七索敵隊の指揮を預かってた。…………そうしたら、このザマだ」 「……副隊長はどうしたんだ、彼女が死んだのならそいつが立つべきじゃあないのか?」 「普通はな。ただ、まあ、お前と同じだよ。副官としては優秀だが、全体を指揮する人間とは畑が違う。本人の自覚に加えて次の任務は少しの失敗もできないとあって、俺にお鉢が回ってきたってェわけだ」
 揺れる焚火の薪が音を立てて弾けた。フェドートはノルバの言葉に思い当たる節があるのか、「ああ……」と声を零すと干し肉を裂いてスープの中に落としていく。ノルバはその様子に僅かに口角を上げると、ブレッドをまたスープに浸して食みながら状況を語った。  曰く、昨日遅くに死んだセッカは直前まで普段と至って変わらない様子だったという。しかし、日付が変わる直前、天幕で早朝からの作戦に向けての確認作業中にセッカは突如嘔吐をして倒れ、そのままあっけなく死んだ。彼女のあまりにも急すぎる死に検死が行われた結果、前回の斥候で腕に負った傷から遅効性の毒が検出され、毒死という結論に至った。  本人に毒を受けた自覚がなかったこと、術士隊がその日は夜の任であり癒し手の人数が不足していたため軽症者は各自で応急処置をしていたこと、その後帰還した術士隊も多数の死傷者を抱えて帰ってきたこと等、様々な不幸が折り重なって生まれた取り返しのつかない出来事だった。  問題は死んだ時間である。早朝からの任務を控えていたセッカが夜分に死亡し、且つ翌朝の作戦は必要不可欠であったため代理の指揮官を早々に選出しなければならなかった。だが、セッカの副官である男は「己にその器たる資格なし」と固辞し、索敵隊の者も皆今回の作戦の重大さを理解しているからこそ望んで進み出るものはいなかった。  その最中、索敵隊のひとりが「ノルバ殿はどうか」と声を上げたのだと言う。基本的にノルバは作戦に応じて所属が変わる立場だ。レ��スタンス発足後間もない頃、何もかもを少数でこなさなければならない時期からの者という事もあって手にしている技術は多岐にわたる。索敵隊が推した所以である諜報技術もその一つだった。結局、せめて今回作戦だけでもと頼まれたノルバは一日遊撃隊を離れ、索敵隊を率いたという。
「別に悪いとは言わねェよ。あの状況で、索敵隊の精神状況と動かせるヤツを考えれば俺がつくのが妥当だ。俺はセッカがドマから客将として入ってから忍術の手ほどきも受けていたから、死んだと聞いた時から予想はしてた」 「………………」 「ああ、遊撃隊は生還率が高く、指揮官が一時離脱しても一戦はどうにかなると言われたな。実際、俺もどうにかなる……どうにかさせると思ってたさ。そうなるよう事前に俺がいない間の指示も伝えてから行った。だけどよ、前線を甘く見る馬鹿が俺がいないからって浮足立って独断行動をしたら、どうにもなんねェんだわ、そんなの」
 ブレッドの最後の一口を呑む。焚火の煙を追って、ノルバは天を仰いだ。帝国軍からの空襲は相変わらず止む気配がない。威嚇を兼ねたそれごときで壊れる青龍壁ではないが、星の瞬く夜空を汚すには十分だった。
「技術はあって損はないけどよ、その技術で転々とする道を進んだ結果、一度酒飲んで笑った仲間が、命を預かった部下が、てめェの知らねえとこで、クソ野郎の所為でくたばっていく度に、なんで俺は獲物一つの野郎でいられなかったんだと思う」
 目を瞑る。第四遊撃隊は今朝まで十六人だった。その、馬鹿な副官を合わせて十人。全体の約三分の二を喪った。良���ったことと言えば、生き残った者たちが皆比較的軽症だったことだ。戦場で果てた者たちが、彼らの退路を守ってくれたという。死んだ部下たちの遺体は回収できなかった。帝国が回収し四肢切断やら臓器の取り分けやらをされて実験道具としているか、はたまた荒野に打ち捨てられたままか、どちらかだろう。明日戦場に出た時に目につくだろうか。もう既に腐敗は始まっているだろう。その頃には虫や鳥が集っているかもしれない。  とん、とノルバの背に手が触れた。戦場において味方を鼓舞するそれを半分隠せるほど大きな手。その手は子供をあやす父親のようにゆっくりと数回ノルバの背を叩くと、くせの強い彼の髪に触れた。届かない空を見上げていたノルバの視線をぐっと地に向かせるように、荒っぽいが情愛のある手つきでがしがしとかき回す。「零れるからやめろ馬鹿!」と騒ぐノルバに手を止めると、最後に彼の頭を二度軽く叩いて手を離した。  無理をするな、とも、泣いていい、とも言わない。それらがノルバにはできないことであり、また見せてはならない顔であることを元々軍属であったフェドートは理解していた。ノルバは片手で椀を抱えたままもう片方で眉間を��え、深く息を吸って、吐いた。
「……今回の大規模な作戦目標は、この東地区の中間地点までの制圧だ。目標達成まであと僅か、作戦期間は残り一日。全部隊の半数以上が戦死し、出来る作戦にも限りがある……が、ここでは引けない。分かっているよな」 「ああ。この前哨地の後ろは湿地帯だ。今は雲一つない空だが、一昨日から今日の昼間までにかけての雨で沼がぬかるみを増している。下手に後退すれば沼を渡っている最中に敵に囲まれるのがオチだ。運よく抜け出せたとしても、晴れだしてきた天気の中ではすぐに追跡される。補給路どころか後衛基地の居場所を教えてしまうだろうな。襲撃されたら単なる任務失敗では済まない」 「そうだなァ、他にはあるか?」 「……第七索敵隊の隊長はドマからの客将だったな。彼女が死んだとあれば、仲間の命を優先して中途半端に任務を終えて帰るべきではない────いや、帰れないな。"彼女は勇敢に戦い、不幸にも命を落としました。また、甚大な被害が出たため作戦目標も達成することが出来ず帰還しました。"ではドマへの示しがつかない。せめて、目標は達成しなければどうにもならん」 「わかってるじゃねェの」
 くつくつと喉を鳴らして笑うノルバを横目に、フェドートは適温になってきたなと思いながらスープを食む。豆と根菜に内包された熱さは随分とましになっていた。馴染み深い香草と塩っ気の濃い味で口内を満たしながら、フェドートはこちらに向けられている視線へと眼光を光らせた。  鋭い獣の瞳の先にあるのは、ノルバが指した天幕。射抜かれたロスガルの男は肩をわずかに揺らすと、すぐに視線を地図へと戻した。フェドートは男の態度にすっと目線を椀へと戻すと、匙いっぱいにスープを掬う。具に押しのけられて溢れたスープが、ぼとぼとと椀に戻っていった。  万が一にでもこのまま撤退という話になれば────もしくは目標を達成できず退却戦となれば、後方基地に帰った後、まず間違いなくノルバは責任を問われる者のひとりになるだろう。ともすれば、全体の責任を負いかねない。ノルバ自身は最良を尽くし、明らかに自身の行いではないことで部下を大量に失っている身だが、皮肉なことに彼はボズヤ人でないことや帝国軍に身内を殺された経験を特に持たないことから周囲の反感を買っている。責任の押し付け合いの的にするには格好の獲物だ。  貴重な戦力であり、十二年ひたすらに積み重ねてきた武勲もある。まず死ぬことはないだろうが相応の折檻はあるだろう。フェドートは息子同然の子の師であり、共にボズヤ解放を目指す戦友であるノルバにその扱いが待ち受けているのが分かっているからこそ、引けないとも思っていた。ノルバ本人にそのことを言っても「いつものことだ」と笑うから決して口にはしてやらないが。  汁がほとんど匙から零れ、具だけが残ったそれを���に運ぶ。いつの間にかノルバは顔から手を離していた。血糊の瞳と、濁った白銀の瞳はただ前を見つめている。ノルバは肩から力を抜くように大きく息を吐き出すと、フェドートに続くように匙いっぱいにスープを掬い大口を開けて食べ、袋から干し肉を取り出して頬張った。
「ま、何にしろ全体の損失を考えりゃここでは引けねェが、簡単に言えばあと一日持たせてもう目と鼻の先にある目的を達成さえすればどうとでもなるんだ。なら、大人しく仰々しいメシを食いながら全滅を待つこたァねえ。やっこさんを出し抜いて、一泡吹かせてやろうじゃねェの」 「本当に簡単に言うなぁ……」 「そんぐらいの気持ちでいかなきゃやってけねェんだよ、ここじゃあな。ダニラ達もあっちで相当頭捻ってるし、案外メシ食ってたら何か、し、ら…………」
 饒舌に動いていた口が止まる。急に黙り込んだノルバにフェドートは怪訝そうな顔でどうしたと彼を見やる。眼に映った顔は、笑っていた。  ノルバの手の中で、空の匙が一度踊る。そのしぐさに目を奪われていると、匙はこちらを指してきた。
「なあ、フェドート。アンタ、俺の副官になる気はないか?」
 悪戯を思いついたこどものような表情だった。しかし、彼の声色が、瞳が、冗談なのではないのだと語る。「は、」とフェドートは吐息のごとく短い声を上げた。ノルバは手を引いて袋の中からまたブレッドを手に取る。「ようはこういうことだ」ノルバは堅く焼いたそれを一口大に引きちぎり、ぼとり、と残り半分もないスープの中に落とした。
「遊撃隊と」
 ぼとり。
「先鋒隊と」
 ぼとり。
「索敵隊。この三部隊を統合して俺の指揮下に置き、一部隊にしたい」
 三つのかけらを入れたスープをノルバは匙でくるりと回す。突飛な発想だった。確かに遊撃隊はノルバを含め僅か六人の生存者しかいない。どこかの部隊に吸収されるか、歩兵隊あたりから誰かを引き抜いてくる必要はあるだろうが、わざわざ先鋒隊と索敵隊をまとめる必要があるかと言われれば否である。  帝国との兵力差は依然としてある状況でいかにして勝ち進めることができているのかと問われれば、それは部隊を細かく分けて配置し、ゲリラ戦で挑んでいるからに他ならない。それをノルバはよく知っているだろうに、何故。  答えあぐねているフェドートにノルバは真面目だなと笑うと、策があるのだと語った。
「承諾が得られるまで細けェことは話せねェが、成功率は高いはずだ。交戦時間が短く済むだろうからな。それが生存率に繋がるかと言われれば弱いが、生き残ってる奴らの肉体と精神両方の疲労を考えれば、戦えば戦うほど不利になるだろうし、どうせ負けりゃほとんどが死体だ。だったら勝率を優先した方がいい。ダニラのヤツは反対するかもしれねェが……俺が作戦の立案者で歩兵隊と変わらない規模の再編隊を率いるとなれば、失敗したら責任を負いたくない野郎共は頷くだろ」 「おいノルバ、」 「で、これの問題点と言やァ、デケェ��スクと責任を全部しょい込んで無茶苦茶を通そうとする馬鹿の補佐につける奴なんて限られてるし、そもそも誰もつきたかねェってとこなんだが」
 ノルバ自身への扱いを聞きかねて小言を呈そうとした口を遮って続けられた言葉に、フェドートは息を詰まらせた。目の前の濁った白銀と血溜まりの瞳が炎を映して淡く輝く。
「その上で、だ。もう一度言うぞ、第二先鋒隊副隊長さんよ。生き残って勝つ以外は全部クソな俺の隣席だが、そこに全てを賭けて腰を据える気はないか?」
 吐き出された地獄へ導く言葉は弾んでいた。そのアンバランスさは他人が見れば奇怪に映るだろうが、フェドートにとってはパズルピースの最後の一枚がはめられ、平らになった絵画を目にした時のような思いだった。ああ、お前はこんなに暴力的で、強引で、けれども理性的な男だったのか。  「おっと、ギャンブルは嫌いだったっけか」とノルバが煽るように言う。彼の手の中でまた匙がくるりと弧を描いた。茨の海のど真ん中で踊ろうと誘っておきながら、退路をちらつかせるのは彼なりの優しさかそれとも意地の悪さか──おそらくは両方だろう。けれども、フェドートはここでその手を取らぬほど、野暮な男になったつもりはなかった。  フェドートが口角を上げて応える。ノルバは悪戯の成功したこどもの顔で「決まりだな」と言うと、浸したブレッドを頬張る。熱くもなく、かと言ってぬるくもない。シネイドが作ったであろう火だるまのようなスープはただ美味いだけのスープになっていた。  この機を逃すまいと食べ進めることに集中した彼に合わせてフェドートも小気味よく食事を進ませ、ノルバが最後の一口を口に入れるのに合わせてスープを飲み干す。は、と僅かに声を立てて息づくと、ノルバは空の皿を脇に置き腰のポーチを漁ると小箱を取り出した。フェドートはそれに嫌そうな顔を湛え腰を浮かせたが、「まあ待てよ」とノルバがにやにやと笑って彼の腕を掴んだ。その細い腕からは想像できないほどの力で腕をがっちりと掴んできた所為で逃げ道を塞がれる。もう片方の手でノルバは器用に小箱を開けた。中に鎮座していたのは煙草だった。
「俺が苦手なのは知っているだろう!」 「わーってるわーってる。そう逃げんなよ。願掛けぐらい付き合えって」
 スカテイ山脈の麓を生息地域とする特有の葉を使ったそれは、ボズヤでは広く市民に親しまれてきた銘柄だった。帝国の支配が根深くなり量産がしやすく比較的安価なシガレットが普及してからというもの、目にしなくなって久しかったが、レジスタンスのひとりが偶然クガネで発見し仲間内に再び流行らせたという。ノルバも同輩から教えられたらしく、好んで吸う側の一人だった。  ノルバは小箱から葉巻を取って口に咥えると、ポーチの中に小箱をしまい、代���りに無骨なライターを取り出して、フェドートに向かってひょいと投げた。フェドートが器用に受け取ったのを見るや否や彼は咥えた煙草を指差して、「ん」と喉の奥から言葉とも言えない声を上げた。フォエドートが嫌がる顔をものともせず、むしろそんなものは見ていないとばかりに長く白いまつげを伏せて火を待つノルバに、フェドートは観念してライターの蓋を開けると、押し付けるように彼の口元の上巻き葉を焦がした。
「今回だけだぞ。いいか、吐くときはこっちには、ぶっ、げほッ!」 「ダハハハハ!」
 フェドートが注意を言い終わるよりも先に、ノルバは彼に向かって盛大に煙を吐き出した。全身の毛を逆立ててむせる彼に、ノルバは腹を抱えてげらげらと笑う。
「お前なあ!」 「逃げねえのが悪ィんだよ、逃げねえのが」 「お前が離さなかったんだろうが!!」
 威嚇する猫のように叫ぶフェドートなどどこ吹く風で笑い続けるノルバに、「ったく……」と彼はがしがしと頭を掻く。ノルバの側に置かれた椀をしかめっ面のまま手に取り、もう片手で自身が使った皿と空になった麻袋を持ってフェドートは岩場から立ち上がった。
「こいつは片付けてくるから、吸い終わってから作戦会議に呼び出せよ、ノルバ」
 しかめっ面の合間から僅かに呆れた笑みを見せたフェドートは、ノルバに背を向けると配膳の天幕から手を振るシネイドの方へと足を進めた。その彼の後ろ祖型を目で追いながらノルバは膝に肘を立て頬杖をつくと、いまだくつくつと喉からもれだす笑い声は殺さないまま焚火の煙を追うように薄く狼煙を上げる葉巻を弄ぶ。
「他のヤツならこれでイッパツなのになァ。わっかんねェな、アイツ。おもしれえの」
 フェドートの背中にふうっと息を吐く。煙で歪んだ彼の背は掴みどころが見つからない。ノルバはもう一度吸ってその煙幕をさらに深くするように吐きだすと、すっかり冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
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bar-suke · 3 years ago
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Bar すけ 新しい子が仲間入りしました。 #可夜硝子 #猫切子 のロックグラス【夕焼け猫】です。 型吹き職人による被せガラスから始まり、切子職人による側面のカット、そして最後に可夜硝子による型を用いた砂彫刻によって完成される、ひとつのグラスに複数の職人による技法を駆使した、こだわりの一品のグラスです。 2015年より創作を開始したというガラス工芸作家、可夜さんによる「可夜硝子」は、飼い猫をモチーフにした硝子作品の制作を専門とするアトリエ。今回紹介する猫切子は、可夜さんのデザインを基に老舗の切子職人が製作したもの。伝統の技術と現代風の斬新なデザインが融合した、切子のファンにも猫好きにもたまらない仕上がりとなっています。 「夕焼け猫」は、ベランダの柵越しに見える電柱と電線の背景に広がる夕焼けに際立つ猫の姿をデザインしており、グラスの底に再現された光景は、注いだ飲み物を飲んでいくほどにはっきりとしていくドラマティックな酒器になってます。 猫好きの心象風景が目の前に現れたように輝き出す切子で、猫のいる日常的な光景が切り取られているこの子に是非、会いに来ていただけたらと思います。 今週も21時〜3時まで営業しております。 皆様の御来店、���よりお待ちしております。 ※感染防止の為、店内にナノコロイド施工、換気、空間除菌、入店されるお客様へのアルコール消毒のご協力をお願いしております。 #バーすけ #酒器と切子を愉しむ #Barすけ #すけ #バー #鹿児島 #天文館 #切子 #薩摩切子 #江戸切子 #天満切子 #焼酎 #錫 #日本酒 #ウィスキー #ワイン #落ち着いた空間 #接待 #猫 #cat #glass #国内初の#酒器バー #kiriko #kagoshima #tenmonkan #bar ______________________________________ 【住所】 鹿児島市山之口町7-16柚木ビル2F 【営業時間】21時〜3時 【定休日】 木曜日 【電話番号】090-8102-4078 【ホームページ】https://suke.style ______________________________________ ・個室6席 ・カウンター6席 ・テーブル4席 (Bar すけ) https://www.instagram.com/bar_suke/p/CYbXZVRPAw3/?utm_medium=tumblr
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jaguarmen99 · 3 years ago
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353 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:21/12/08(水)03:29:57 ID:t6.qb.L1 [1/2] 家を買おうとしてたけどキャンセルした。本当に頭にきたので書く。 夫と一軒家を買おう!と色々見て回って「ここいいね」となった分譲戸建があった。 駅が近くて、歩いて10分ほどの距離のところは居酒屋も幾つかあるし、大型のスーパーもあるようなところ。 営業の人もそんなにガツガツしてなくて、好感が持てたので申し込みまでした。 「家を買ったり借りたりする時は夜の風景も見ておけ」とネットで見たことがあったので、 夫と2人で夜、その家の周りを見てみることにした。 家のある通りに差し掛かった時、多分飲み会帰りと思われるサラリーマン達のギャハハ!という笑い声がした。 声のするほうを見たら、私たちを担当した営業と、多分その上司と思しき年配の男性の2人組が、 私たち夫婦が申し込んだ家の敷地に入っていった。 なんだろうと思って敷地の前まで行くと、その年配の男性がビルトインの車庫のところで立ちションしてた。 あまりのことにしばらく声が出なかったけど、夫が「ちょっと○○さん(営業さん)」と声をかけた。 営業担当が振り返って、慌てて「あ、あの」と取り繕おうとした。 年配の男性は私たちを知らないから、「おい○○ー、誰だよそいつら。知り合い?」とヘラヘラしていた。 かっとなって「この家を申し込んだ者です!!」とキレてしまった。 年配の男性はベルトも外してズボンの留め具もチャックも下ろした状態でやってきて、ゴソゴソ直しながら 「へーそうなんすか。どーもwすみませんね、飲み会帰りで我慢できなくてー。ここほんと丁度いいんすよ。よく使ってます」 とふざけた返しをしてきた。 営業担当は「明日すぐ清掃しますので!」とオロオロしてたけど、年配の方は「おーい!もう帰るぞー」と呂律が回らずフラフラ。 「今日のところはお話は結構です」とだけ話して営業担当にも帰るよう促した。 何度も何度も年配の男性は 「この家??が仕入れたクソ物件なんだからよぉ、あんなムッとしなくてもいいよなー。 あの客お前に似てつまんなさそうな奴らだな。金払い悪そう」 と大声で話しながら遠ざかって行った。 夫も私も悔しいし情けないし感情がぐちゃぐちゃ。 翌朝1番に会社に電話したらその担当が出て、ひたすら謝られた。 責任者を出せと言ったけど、「今居ないんです、すみません���本当に申し訳ありません」としどろもどろで返してきた。 なので時間を置いてもう一度電話すると全く関係ない営業さんが出たので、その人に全部話した。 その人は「申し訳ございません、弁解の余地がありません、お怒りはご最もです」と分かってくれた。 結局責任者はその日のうちに電話をかけてきて、 「私から伺い直接お詫びしたい、ご希望頂いていた本来有料のオプションもサービスします」と言ってきた。 だけどもう住む気になれなくて、解約というか、申し込みをキャンセルした。 そしたら担当と2人でそちらに伺い直接お詫びしたいと言われた。 営業担当は新卒の男の子だった。40代のイカついおっさんに逆らえずオロオロしていた感じもあった。 私も夫も営業職なのでそこは可哀想だと思い、「担当者は一切何も悪くない、悪いのはお宅の年配の営業。 謝りにこさせるなら年配の営業と来て欲しい」と伝えた。 責任者は最終的に菓子折り持って、やらかした年配の男性を連れて謝りに来た。 年配男性、酔ってる時とは裏腹に落ち込んだ顔で「申し訳ありません、酔ってい��失礼なことを申しました」 と土下座せんばかりに謝ってきた。 夫が「新卒の○○君はよくやってくれました。でも本当にあなたの行いが不愉快でキャンセルします。あなたが原因です」 と話すと「すみません、すみませんでした」とずっと繰り返していた。 結局、内見などに使った交通費を返して貰って話を終えた。 本当に何度も何度も、数ヶ月間、家が建つ前から打ち合わせて、家具のレイアウトも色々楽しみにしていた。 洗えばなんとかなるだろうがと思われるかもしれないし、器が小さいって思われるかもしれないけど、本当にショックだった。 「安い」と言われたけれど4000万台後半の戸建って不動産仲介業やってる人の中では安い方なの? 354 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:21/12/08(水)03:47:13 ID:f7.qb.L7 [1/3] >>353 都市計画、開発、不動産関連の業界で仕事をしてきた身です 立場によって意見が違う人間がいると思いますが、貴方方は間違っていないと思います どうか良きお住まいが見つかりますように 368 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:21/12/08(水)17:29:41 ID:t6.qb.L1 >>354 やっぱりそうですよね、友達からは「それはそれ、これはこれで割り切りなよ」という意見もあったので… だけど耐えられませんでした。 新卒の担当は宅建やFPの資格もちと書いてあったのに対し、年配の男性の名刺には何も書いてなかった。 役職も無いのだろうと思う。 新卒の担当は本当に穏やかな人柄で、「高い買い物ですから沢山見て沢山考えましょう!気になるところは何でも仰って下さい」 と言ってくれた。幾つか業者見て回った中で1番丁寧だった。 「これが初契約です!」とすごく嬉しそうにしてたので、そこは本当に可哀想だとは思います。
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petapeta · 4 years ago
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「次室士官心得」 (練習艦隊作成、昭和14年5月) 第1 艦内生活一般心得 1、次室士官は、一艦の軍規・風紀の根源たることを自覚し、青年の特徴元気と熱、純  真さを忘れずに大いにやれ。 2、士官としての品位を常に保ち、高潔なる自己の修養はもちろん、厳正なる態度・動  作に心掛け、功利打算を脱却して清廉潔白なる気品を養うことは、武人のもっとも  大切なる修業なり。 3 宏量大度、精神爽快なるべし。狭量は軍隊の一致を破り、陰欝は士気を沮喪せし  む。忙しい艦務の中に伸び伸びした気分を忘れるな。細心なるはもちろん必要なる  も、「コセコセ」することは禁物なり。 4 礼儀正しく、敬礼は厳格にせよ。次室士官は「自分は海軍士官の最下位で、何に  も知らぬのである」と心得、譲る心がけが必要だ。親しき仲にも礼儀を守り、上の   人の顔を立てよ。よからあしかれ、とにかく「ケプガン(次室士官室の長)を立てよ。 5 旺盛なる責任観念の中に常に生きよ。これは士官としての最大要素の一つだ。命令を下し、もしくはこれを伝達す  る場合はは、必ずその遂行を見届け、ここに初めてその責任を果したるものと心得べし。 5 犠牲的精神を発揮せよ、大いに縁の下の力持ちとなれ。 6 次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前になり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。 7、次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前にをり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。公私を誤  りたるくそ勉強は、われらの欲せざるところなれども、学術方面に技術方面に、修練しなければならぬところ多し。  いそがしく艦務に追われてこれをないがしろにするときは、悔いを釆すときあり。忙しいあいだにこそ、緊張裡に修  業はできるものなり。寸暇の利用につとむべし。   つねに研究問題を持て。平素において、つねに一個の研究問題を自分にて定め、これにたいし成果の捕捉につと  め、一纏めとなりたるところにてこれを記しおき、ひとつひとつ種々の問題にたいしてかくのごとくしおき、後となり   てふたたびこれにつきて研究し、気づきたることを追加訂正し、保存しおく習慣をつくれば、物事にたいする思考力  の養成となるのみならず、思わざる参考資料をつくり得るものなり。 8、少し艦務に習熟し、己が力量に自信を持つころとなる��、先輩の思慮円熟をるが、かえって愚と見ゆるとき来るこ  とあるべし、これすなわち、慢心の危機にのぞみたるなり。この慢心を断絶せず、増長に任じ人を侮り、自ら軽ん   ずるときは、技術・学芸ともに退歩し、ついには陋劣の小人たるに終わるべし。 9、おずおずしていては、何もできない。図々しいのも不可なるも、さりとて、おずおずするのはなお見苦しい。信ずる  ところをはきはき行なって行くのは、われわれにとり、もっとも必要である。 10、何事にも骨惜L誤をしてはならない。乗艦当時はさほどでもないが、少し馴れて来ると、とかく骨惜しみをするよう  になる。当直にも、分隊事務にも、骨惜しみをしてはならない。いかなるときでも、進んでやる心がけか必要だ。身  体を汚すのを忌避するようでは、もうおしまいである。 11、青年士官は、バネ仕掛けのように、働かなくてはならない。上官に呼ばれたときには、すぐ駆け足で近づき、敬  礼、命を受け終わらば一礼し、ただちにその実行に着手するごとくあるべし。 12、上官の命は、気持よく笑顔をもって受け、即刻実行せよ。いかなる困難があろうと、せっかくの上陸ができなか   ろうと、命を果たし、「や、御苦労」と言われたときの愉快きはなんと言えぬ。 13、不関旗(他船と行動をともにせず、または、行動をともにできないことを意味する信号旗。転じてそっぽを向くこと  をいう)を揚げるな。一生懸命にやったことについて、きびしく叱られたり、平常からわだかまりがあったりして、不  関旗を揚げるというようなことが間々ありがちだが、これれは慎むべきことだ。自惚があまり強過ぎるからである。  不平を言う前に已れをかえりみよ。わが慢心増長の鼻を挫け、叱られるうちが花だ。叱って下さる人もなくなった   ら、もう見放されたのだ。叱られたなら、無条件に有難いと思って間違いはない。どうでも良いと思うなら、だれが  余計な憎まれ口を叩かんやである。意見があったら、陰で「ぷつぷつ」いわずに、順序をへて意見具申をなせ。こ  れが用いらるるといなとは別問題。用いられなくとも、不平をいわず、命令には絶対服従すべきことはいうまでもな  し。 14、昼間は諸作業の監督巡視、事務は夜間に行なうくらいにすべし。事務のいそがしいときでも、午前午後かならず  1回は、受け特ちの部を巡視すべし。 15、「事件即決」の「モツトー」をもって、物事の処理に心がくべし。「明日やろう」と思うていると、結局、何もやらずに  沢山の仕事を残し、仕事に追われるようになる。要するに、仕事を「リード」せよ。 16、なすべき仕事をたくさん背負いながら、いそがしい、いそがしいといわず片づ��れば、案外、容易にできるもので   ある。 17、物事は入念にやれ。委任されたる仕事を「ラフ」(ぞんぎい〕にやるのは、その人を侮辱するものである。ついに    は信用を失い、人が仕事をまかせぬようになる。また、青年士官の仕事は、むずかしくて出来ないというようなも   のはない。努力してやれば、たいていのことはできる。 18、「シーマンライク」(船乗りらしい)の修養を必要とす。動作は「スマート」なれ。1分1秒の差が、結果に大影響を    あたえること多し。 19、海軍は、頭の鋭敏な人を要するとともに、忠実にして努力精励の人を望む。一般海軍常識に通ずることが肝要、   かかることは一朝一夕にはできぬ。常々から心がけおけ。 20 要領がよいという言葉もよく聞くが、あまりよい言葉ではない。人前で働き、陰でずべる類いの人に対する尊称    である。吾人はまして裏表があってはならぬ。つねに正々堂々とやらねばならぬ。 21、毎日各室に回覧する書類(板挟み)は、かならず目を通し捺印せよ。行動作業や当直や人事に関するもので、    直接必要なる事項が沢山ある。必要なことは手帖に抜き書きしておけ。これをよく見ておらぬために、当直勤務   を間違っていたり、大切な書類の提出期目を誤ったりすることがある。 22、手帖、「パイプ」は、つねに持っておれ。これを自分にもっとも便利よきごとく工夫するとよい。 23、上官に提出する書類は、かならず自分で直接差し出すようにせよ。上官の机の上に放置し、はなはだしいのは   従兵をして持参させるような不心得のものが間々ある。これは上官に対し失礼であるばかりでなく、場合により   ては質問されるかも知れず、訂正きれるかも知れぬ。この点、疎にしてはならない。 24、提出書類は早目に完成して提出せよ。提出期口ぎりぎり一ぱい、あるいは催促さるごときは恥であり、また間違   いを生ずるもとである。艦長・副長・分隊長らの捺印を乞うとき、無断で捺印してはいけない。また、捺印を乞う    事項について質問されても、まごつかぬよう準備調査して行くことが必要。捺印を乞うべき場所を開いておくか、   または紙を挾むかして分かりやすく準備し、「艦長、何に御印をいただきます」と申し出て、もし艦長から、「捺して   行け」と言われたときは、自分で捺して、「御印をいただきました」ととどけて引き下がる。印箱の蓋を開け放しに   して出ることのないように、小さいことだが注意しなければならぬ。 25、軍艦旗の揚げ降ろしには、かならず上甲板に出て拝せよ。 26、何につけても、分相応ということを忘れるな。次室士官は次室士官として、候補生は候補生として。少尉、中尉、   各分あり。 27、煙草盆の折り椅子には腰をおろすな。次室士官は腰かけである。 28、煙草盆のところで腰かけているとき、上官が来られたならば立って敬礼せよ。 29、機動艇はもちろん、汽車、電車の中、講話場において、上級者が来られたならば、ただちに立って席を譲れ。知   らぬ顔しているのはもっとも不可。 30、出入港の際は、かならず受け持ちの場所におるようにせよ。出港用意の号音に驚いて飛び出すようでは心がけ   が悪い。 31、諸整列があらかじめ分かっているとき、次室士官は、下士官兵より先にその場所にあるごとくせ。 32、何か変わったことが起こったとき、あるいは何となく変わったことが起こったらしいと思われるときは、昼夜を問わ   ず第1番に飛び出してみよ。 33、艦内で種々の競技が行なわれたり、または演芸会など催される際、士官はなるべく出て見ること。下士官兵が    一生懸命にやっているときに、士官は勝手に遊んでおるというようなことでは面白くない。 34、短艇に乗るときは、上の人より遅れぬように、早くから乗っておること。もし遅れて乗るような場合には、「失礼い   たしました」と上の人に断わらねばならぬ。自分の用意が遅れて定期(軍艦と陸上の間を往復し、定時にそれら   を発着する汽艇のこと)を待たすごときは、もってのほである。かかるときは断然やめて次ぎを待つべし。    短艇より上がる場合には、上長を先にするこというまでもなし。同じ次室士官内でも、先任者を先にせよ。 35、舷門は一艦の玄開口なり。その出入りに際しては、服装をととのえ、番兵の職権を尊重せよ。雨天でないとき、   雨衣や引回しを着たまま出入りしたり、答礼を欠くもの往々あり、注意せよ。 第2 次室の生活について 1、我をはるな。自分の主張が間遠っていると気づけば、片意地をはらす、あっさりとあらためよ。  我をはる人が1人でもおると、次室の空気は破壊される。 2、朝起きたならば、ただちに挨拶せよ。これが室内に明るき空気を漂わす第一誘因だ。3、次室  にはそれぞれ特有の気風かある。よきも悪きもある。悪い点のみ見て、憤慨してのみいては   ならない。神様の集まりではないから、悪い点もあるであろう。かかるときは、確固たる信念と決心をもって自己を修め、自然に同僚を善化せよ。 4、上下の区別を、はっきりとせよ、親しき仲にも礼儀をまもれ。自分のことばかり考え、他人のことをかえりみないよ  うな精神は、団体生活には禁物。自分の仕事をよくやると同時に、他人の仕事にも理解を持ち便宜をあたえよ。 5、同じ「クラス」のものが、3人も4人も同じ艦に乗り組んだならば、その中の先任者を立てよ。「クラス」のものが、次  室内で党をつくるのはよろしくない。全員の和衷協力はもっとも肝要なり。利���主義は唾棄すべし。 6、健康にはとくに留意し、若気にまかせての不摂生は禁物。健全なる身体なくては、充分をる御奉公で出来ず。忠  孝の道にそむく。 7、当直割りのことで文句をいうな。定められた通り、どしどしやれ。病気等で困っている人のためには、進んで当直を  代わってやるぺきだ。 8、食事に関して、人に不愉快な感じを抱かしむるごとき言語を慎め。たとえば、人が黙って食事をしておるとき、調理  がまずいといって割烹を呼びつけ、責めるがごときは遠慮せよ。また、会話などには、精練きれた話題を選べ。 9、次室内に、1人しかめ面をして、ふてくされているものがあると、次室全体に暗い影ができる。1人愉快で朗らかな  人がいると、次室内が明るくなる。 10、病気に羅ったときは、すぐ先任者に知らせておけ。休業になったら(病気という程度ではないが(身体の具合い   が悪いので、その作業を休むこと)先任者にとどけるとともに、分隊長にとどけ、副長にお願いして、職務に関する  ことは、他の次室士官に頼んでおけ。 11、次室内のごとく多数の人がいるところでは、どうしても乱雑になりがちである。重要な書類が見えなくなったとか  帽子がないとかいってわめきたてることのないように、つねに心がけなければならぬ。自分がやり放しにして、従  兵を怒鳴ったり、他人に不愉快の思いをきせることは慎むべきである。 12、暑いとき、公室内で仕事をするのに、上衣をとるくらいは差し支えないが、シャツまで脱いで裸になるごときは、   はをはだしき不作法である。 13、食事のときは、かならず軍装を着すべし。事業服のまま食卓についてはならぬ。いそがしいときには、上衣だけ  でも軍装に着換えて食卓につくことになっている。 14、次室士官はいそがしいので一律にはいかないが、原則としては、一同が食卓について次室長(ケプガソ)がはじ  めて箸をとるべきものである。食卓について、従兵が自分のところへ先に給仕しても、先任の人から給仕せしむる  ごとく命すべきだ。古参の人が待っているのに、自分からはじめるのは礼儀でない。 15、入浴も先任順をまもること。水泳とか武技など行をったときは別だが、その他の場合は遠慮すべきものだ。 16 古参の人が、「ソファー」に寝転んでいるのを見て、それを真似してはいけない。休むときても、腰をかけたまま、  居眠りをするぐらいの程度にするがよい。 17、次室内における言語においても気品を失うな。他の人に不快な念を生ぜしむべき行為、風態をなさず、また下士  官兵考課表等に関することを軽々しく口にするな。ふしだらなことも、人秘に関することも、従兵を介して兵員室に  伝わりがちのものである。士官の威信もなにも、あったものでない。 18、趣味として碁や将棋は悪くないが、これに熱中すると、とかく、尻が重くなりやすい。趣味と公務は、はっきり区別  をつけて、けっして公務を疎にするようなことがあってはならぬ。 19、お互いに、他の立場を考えてやれ。自分のいそがしい最中に、仕事のない人が寝ているのを見ると、非難した   いような感情が起こるものだが、度量を��く持って、それぞれの人の立場に理解と同情を持つことが肝要。 20、従兵は従僕にあらず。当直、その他の教練作業にも出て、士官の食事の給仕や、身辺の世話までするのであ   るからということを、よく承知しておらねばならぬ。あまり無理な用事は、言いつけないようにせよ。自分の身辺の  ことは、なるべく自分で処理せよ、従兵が手助けしてくれたら、その分だけ公務に精励すべきである。釣床を釣っ  てくれ、食事の給仕をしてくれるのを有難いと思うのは束の間、生徒・候補生時代のことを忘れてしまって、傲然と  従兵を呼んで、ちょっと新聞をとるにも、自分のものを探すにもこれを使うごときは、わがみずからの品位を下げゆ  く所以である。また、従兵を「ボーイ」と呼ぶな。21、夜遅くまで、酒を飲んで騒いだり、大声で従兵を怒鳴ったりす  ることは慎め。 21、課業時のほかに、かならず出て行くべきものに、銃器手入れ、武器手入れに、受け持ち短艇の揚げ卸しがある 第3 転勤より着任まで 1、転勤命令に接したならば、なるべく早く赴任せよ。1日も早く新勤務につくことが肝   要。退艦したならば、ただちに最短距離をもって赴任せよ、道草を食うな。 2、「立つ鳥は後を濁さず」仕事は全部片づけておき、申し継ぎは万遺漏なくやれ。申し  継ぐべき後任者の来ないときは、明細に中し継ぎを記註しおき、これを確実に託し   おけ。 3、退艦の際は、適宜のとき、司令官に伺候し、艦長・副長以下各室をまわり挨拶せよ4、新たに着任すべき艦の役務、所在、主要職員の名は、前もって心得おけ。 5、退艦・着任は、普通の場合、通常礼装なり。 6、荷物は早目に発送し、着任してもなお荷物が到着せぬ、というようなことのないようにせよ。手荷物として送れば、早目に着く。 7、着任せば、ただちに荷物の整理をなせ。 8、着任すべき艦の名を記入したる名刺を、あらかじめ数枚用意しおき、着任予定日時を艦長に打電しおくがよい。 9、着任すべき艦の所在に赴任したるとき、その艦がおらぬとき、たとえば急に出動した後に赴任したようなと時は、  所在鎮守府、要港部等に出頭して、その指示を受けよ。さらにまた、その地より他に旅行するを要するときは、証  明書をもらって行け。 10、着任したならば、当直将校に名刺を差し出し、「ただいま着任いたしました」ととどけること。当(副)将校は副長に   副長は艦長のところに案内して下さるのが普通である。副長から艦長のところへつれて行かれ、それから次室  長が案内して各室に挨拶に行く。艦の都合のよいとき、乗員一同に対して、副長から紹介される。艦内配置は、   副長、あるいは艦長から申し渡される。 11、各室を一巡したならば、着物を着換えて、ひとわたり艦内を巡って艦内の大体を大体を見よ。 12、配置の申し継ぎは、実地にあたって、納得の行くごとく確実綿密に行なえ。いったん、引き継いだ以上、全責任  は自己に移るのだ。とくに人事の取り扱いは、引き継いだ当時が一番危険、ひと通り当たってみることが肝要だ。  なかんずく叙勲の計算は、なるべく早くやっておけ。 13、着任した日はもちろんのこと、1週間は、毎夜巡検に随行するごとく心得よ。乗艦早々から、「上陸をお願い致し  ます」などは、もってのほかである。 14、転勤せば、なるべく早く、前艦の艦長、副長、機関長、分隊長およびそれぞれ各室に、乗艦中の御厚意を謝す   る礼状を出すことを忘れてはならぬ。 第4 乗艦後ただちになすべき事項 1、ただちに部署・内規を借り受け、熟読して速やかに艦内一般に通暁せよ。 2、総員起床前より上甲板に出で、他の副直将校の艦務遂行ぶりを見学せよ。2、3日、当直ぶりを注意して見てお   れば、その艦の当直勤務の大要は分かる。しかして、練習艦隊にて修得せるところを基礎とし、その艦にもっとも  適合せる当直をなすことができる。 3、艦内旅行は、なるぺく速やかに、寸暇を利用して乗艦後すぐになせ。 4、乗艦して1ヵ月が経過したならば、隅々まで知悉し、分離員はもちろん、他分隊といえども、主たる下士官の氏名  は、承知するごとく心がけよ。 第5上陸について 1、上陸は控え目にせよ。吾人が艦内にあるということが、職責を尽くすということの大部である。職務を捨ておいて   上陸することは、もってのほかである。状況により、一律にはいえぬが、分隊長がおられぬときは、分隊士が残る  ようにせよ。 2、上陸するのがあたかも権利であるかのように、「副長、上陸します」というべきでない。「副長、上陸をお願いしま   す」といえ。 3、若いときには、上陸するよりも艦内の方が面白い、というようにならなけれぱならない。また、上陸するときは、自  分の仕事を終わって、さっぱりした気分で、のびのびと大いに浩然の気を養え。 4、上陸は、別科後よりお願いし、最終定期にて帰艦するようにせよ。出港前夜は、かならず艦内にて寝るようにせよ。上陸する場合には、副長と己れの従属する士官の許可をえ、同室者に願い、当直将校にお願いして行くのが慣例  である。この場合、「上陸をお願い致します」というのが普通、同僚に対しては単に、「願います」という。この「願い  ます」という言葉は、簡にして意味深長、なかなか重宝なものである。すなわち、この場合には、上陸を願うのと、  上陸後の留守中のことをよろしく頼む、という両様の意味をふくんでいる。用意のよい人は、さらに関係ある准士   官、あるいは分隊先任下士官に知らせて出て行く。帰艦したならば、出る時と同様にとどければよい。たたし、夜   遅く帰艦して、上官の寝てしまった後は、この限りでない。士宮室にある札を裏返すようになっている艦では、か   ならず自分でこれを返すことを忘れぬごとく注意せよ。 6、病気等で休んでいたとき、癒ったからとてすぐ上陸するごときは、分別がたらぬ。休んだ後なら、仕事もたまってお  ろう、遠慮ということが大切だ。 7、休暇から帰ったとき、帰艦の旨をとどけたら、第1に留守中の自分の仕事および艦内の状況にひと通り目を通せ。  着物を着換え、受け持ちの場所を回って見て、不左中の書類をひと通り目を通す心がけ��必要である。 8、休暇をいただくとき、その前後に日曜、または公暇日をつけて、規定時日以上に休暇するというがごときは、もっと  も青年士官らしくない。 9、職務の前には、上陸も休暇もない、というのが士官たる態度である。転勤した場合、前所轄から休暇の移牒があ  ることがあるけれども、新所轄の職務の関係ではいただけないことが多い。副長から、移牒休暇で帰れといわる   れば、いただいてもよいけれども、自分から申し出るごときことは、けっしてあってはならぬ。 第6部下指導について 1、つねに至誠を基礎とし、熱と意気をもって国家保護の大任を担当する干城の築造者たることを心がけよ。「功は部下に譲り、部下の過ちは  自から負うは、西郷南洲翁が教えしところなり。「先憂後楽」とは味わうべき言であって、部下統御の機微なる心理も、かかるところにある統御者たるわれわれ士官は、つねにこの心がけが必要である。石炭  積みなど苦しい作業のときには、士官は最後に帰るようつとめ、寒い  ときに海水を浴びながら作業したる者には、風呂や衛生酒を世話してやれ。部下につとめて接近して下情に通せよ。しかし、部下を狎れしむるは、もっ���も不可、注意すべきである。 2、何事も「ショート・サーキット」(短絡という英語から転じて、経由すべきところを省略して、命令を下し、または報告する海軍用語)を慎め。い  ちじは便利の上うたが、非常なる悪結果を齋らす。たとえば、分隊士を抜きにして分隊長が、直接先任下士官に命じたとしたら、分隊士たる者いかなる感を生ずるか。これは一例だか、かならず順序をへて命  を受け、または下すということが必要なり。 3、「率先躬行」部下を率い、次室士官は部下の模範たることが必要だ。物事をなすにもつねに衆に先じ、難事と見ば、 真っ先にこれに当たり、けっして人後におくれざる覚悟あるべし。また、自分ができないからといって、部下に強制  しないのはよくない。部下の機嫌をとるがごときは絶対禁物である。 4、兵員の悪きところあらば、その場で遠慮なく叱咤せよ。温情主義は絶対禁物。しかし、叱責するときは、場所と相  手とを見でなせ。正直小心の若い兵員を厳酷な言葉で叱りつけるとか、また、下士官を兵員の前で叱責するなど  は、百害あって一利なしと知れ。 5、世の中は、なんでも「ワソグランス」(一目見)で評価してはならぬ。だれにも長所あり、短所あり。長所さえ見てい  れば、どんな人でも悪く見えない。また、これだけの雅量が必要である。 6、部下を持っても、そうである。まずその箆所を探すに先だち、長所を見出すにつとめることが肝要。賞を先にし罰を  後にするは、古来の名訓なり。分隊事務は、部下統御の根底である。叙勲、善行章(海軍の兵籍に人ってから3  年間、品行方正・勤務精励な兵にたいし善行章一線があたえられ、その後、3年ごとに同様一線あてをくわえる。  勇敢な行為などがあった場合、特別善行章が付与される)等はとくに慎重にやれ。また、一身上のことまで、立ち  入って面倒を見てやるように心がけよ。分隊員の入院患者は、ときどき見舞ってやるという親切が必要だ。 第7 その他一般 1、服装は端正なれ。汚れ作業を行なう場合のほかは、とくに清潔端正なるものを用いよ。帽子がまがっていたり、「  カラー」が不揃いのまま飛び出していたり、靴下がだらりと下がっていたり、いちじるしく雛の寄った服を着けている  と、いかにもだらしなく見える。その人の人格を疑いたくなる。 2、靴下をつけずに靴を穿いたり、「ズボン」の後の「ビジヨウ」がつけてなかったり、あるいはだらりとしていたり、下着  をつけず素肌に夏服・事業服をつけたりするな。 3 平服をつくるもの一概に非難すべきではいが、必要なる制服が充分に整っておらぬのに平服などつくるのは本末  顛倒である。制服その他、御奉公に必要をる服装属具等なにひとつ欠くるところなく揃えてなお余裕あらば、平服  をつくるという程度にせよ。平服をつくるならば、落ちついて上品な上等のものを選べ。無闇に派手な、流行の尖   端でもいきそうな服を着ている青年士官を見ると、歯の浮くような気がする。「ネクタイ」や帽子、靴、「ワイシャツ」  「カラー」「カフス」の釦まで、各人の好みによることではあろうが、まず上品で調和を得るをもって第1とすべきであ  る。 4、靴下もあまりケパケパしいのは下品である。服と靴とに調和する色合いのものを用いよ。縞の靴下等は、なるべく  はかぬこと、事業服に縞の靴下等はもってのほかだ。 5、いちばん目立って見えるのは、「カラー」と「カフス」の汚れである、注意せよ。また、「カフス」の下から、シャツの   出ているのもおかしいものである。 6、羅針艦橋の右舷階梯は、副長以上の使用さるべきものなり。艦橋に上がったら、敬礼を忘れるな。 7 陸上において飲食するときは、かならず一流のところに入れ。どこの軍港においても、士官の出入りするところと、  下士官兵の出入りするところは確然たる区別がある。もし、2流以下のところに出入りして飲食、または酒の上で  上官たるの態度を失し、体面を汚すようなことがあったら、一般士官の体面に関する重大をることだ。 8、クラスのためには、全力を尽くし一致団結せよ。 9、汽車は2等(戦前には1、2、3等の区分があった)に乗れ。金銭に対しては恬淡なれ。節約はもちろんだが、吝薔  に陥らぬよう注意肝心。 10、常に慎独を「モットー」として、進みたきものである。是非弁別の判断に迷い、自分を忘却せるかのごとき振舞い  は、吾人の組せざるところである。
hiramayoihi.com/Yh_ronbun_dainiji_seinenshikankyouikugen.htm
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cvhafepenguin · 4 years ago
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顔のない
私には顔がない。顔がない人は人を愛することができない。顔というのはいわばアイデンティティで、それを欠いていては人に対する自分の感情に絶対の確信を持てない。揺蕩っている。故に私には愛するべき人がわからなかった。
顔がない私をまともに雇ってくれる企業などそうなく、私はただ5体満足であれば使ってくれるような日雇いを斡旋所に紹介してもらい転々と現場を渡り歩いて暮らしていた。肉体労働��かりできついこともあったが、私が大きなマスクをすっぽり被りっぱなしで働いてもこういう職場の上司や同僚は一切干渉してこなかった。そんなある日、イベント会場のセッティングの現場で斗瀬さんと私は知り合った。
斗瀬さんは顔がない私を面白がった。
「面白いな!顔のない人間なんて、あんたの親もそんななのか?」
「いえ、私の両親も妹も普通の顔を持っています」
私は無愛想に答えた。
「突然変異ってやつか」
私は首をかしげた。かしげて、斗瀬さんにはかしげた様子がわからないことに気づいたけどどうでもよかった。
「食事はできんのか?」
「できます。普通に物を口に入れて噛んで、飲み込めます」
私はない顔の口元を指差した。私の顔は物理的に「ない」のではなくて、どうやら私含め人間には視認できない性質のもののようだ。その証拠に、他人からも触れる上、目も鼻も耳も口もあってしっかり機能しているし、呼吸も摂食も発声も発汗も泣くことも人並みにできる。しかし「ない」顔は、汗や涙よりも透明だ。
「そうか、じゃあ今日現場終わったら斡旋所で待っててくれ。俺がメシ奢ったる」
なにが「そうか」なのかわからなかった私は焦ってとっさに頷いた。しかし私の顔が見えない斗瀬さんは私が頷いたのに気づかなくて私の胸のあたりをじっと見たまま硬直していた。そしてそれに気づいた私は手でオッケーサインを出した。たまに現場で会うから断るのも気まずいし、とりあえず今回は付き合おう。斗瀬さんは「じゃ」と言って手を振りながら向こうへスキップしていった。
「愉快な人だな」と私は思った。
斗瀬さんは私より30分遅く仕事から上がり、18時過ぎに待ち合わせ場所の斡旋所にやってきた。いつの間にか外は雨だった。私は傘を忘れてきたので、斗瀬さんの傘に2人で入って歩く。アスファルトを打つ雨の匂いと、少しがに股で歩く斗瀬さんの着古したジャケットのつんとした匂いが混じってなんだか頭がふわふわする。世界の輪郭が少し、私好みに崩れた気がした。
雨は好きだ、雑踏を行き交う人々は傘で顔が隠れ匿名性が普段より増して、顔がない私でも少しだけ気後れせず街を歩くことができる。それから雨の日は人々の感情も静かで心地がいい。
「あ、あそこだよ。定食屋でもいいか?そういえば酒は飲める?」
「大丈夫です」
斗瀬さんに連れてこられたそこは駅前の商店街の「お多福」という老舗の定食屋だった。
私がなんでも食べれますよ、と伝えると、斗瀬さんはビールの大瓶と���豆とたこわさともつ煮と鯛のかぶと煮をすらすらと注文した。
「とりあえず飲もか、ほれ」
斗瀬さんは私にコップを渡してお酌してくれた。私もお返しに斗瀬さんのコップにビールを注ぎ、乾杯して飲み干す。
「口が見えないからビールが消えたように見えて不思議だな、ああ、こういうのはデリカシーなかったな、すまん」
「いえ、大丈夫です」
私は斗瀬さんに顔がないことについて関心を持たれるのはなぜか嫌じゃなかった。他の人に突っ込まれるとああまたか、めんどくさいなあっていつもうんざりするのだけど。
「そういえば名前はなんて言うの?」
尋ねられて、名前を言ってなかったことに私も今更気がついた。
「佃 岬」
「佃って佃煮の?漢字で書くと苗字と名前のバランスが綺麗だな」
私たちは大瓶2本を空けて、シメに差し掛かっていた。私はにゅうめんで斗瀬さんはきざみうどん。斗瀬さんはあまり酒に強くないらしくて、もう赤ら顔で虚な眼をしている。
「そういえば、顔のない人は岬ちゃん以外にはいないの?」
「さあ…見たことないですね、ネットで調べても出てこないし、ただ、母によるといざってときは行政の支援も受けられるそうです。私は、あまり顔がないことに甘んじたくないのでわざとそういうのは調べないようして、一人でこういう生活をすることにしたんです。つまらない意地かもしれないけど」
「いや、つまらなくなんかない、やれるとこまでやってみようってことだよな。気に入った」
私は斗瀬さんがあまり深掘りしてこないところが好きだな、と思った。
「俺も実は産まれっていうか…家庭に反目して飛び出してきたクチでさ、そういうところ身につまされるな、まあ、一緒にすんなって思うかもしれないけど」
「そんな、とんでもない、そうだったんですね」
「少しだけ長いしつまらない身の上話になるけど俺はさ、6っつの時に母が家から出て行ってそんで12の時に父が再婚した継母に育てられてさ、そんでその継母には俺より小さい連れ子が2人いてとにかく彼女に可愛がられなかったんだよ。俺だけめし抜きとかざらだった。しかも親父は見て見ぬ振りさ、でもあの��きは俺自身も仕方ないなって思ってた。それどころか、悪いのは自分だと思い込むところまできてしまってた」
独立する前の私に似ている。あの頃の私は私だけが周りと違うという理不尽をいつからか受け入れ、卑しく従ってしまっていた。そしてそれは自然なことで、どれだけ歪でも置かれた環境に適応するように生き物やその心はデザインされているのだ。でもだんだんと成長した私は、そんな摂理に抗いたくて、顔がないお前に居場所なんかない、一人で暮らせるわけないとひき止めてくる親に反発して家を飛び出してきたのだ。別にそんなことで自由が得られると信じていたわけでも、特に決定的な出来事があったわけじゃない、ただ、漠然とした不安だとかモヤモヤした気持ち、そんな灰色のものが私の中にごちゃごちゃに蓄積してついに爆発した、そんな感じ。
「親父の実家は酒造をやっていた。そしてもちろん長男の俺に継がせる気でいたんだ。親父の願い通りに高校生になった俺は学校の合間に酒蔵で働き出したよ。俺も親父は好きだったし、このまま地元で骨を埋める気でいた。でもそれは俺が18の時のときだった。継母がずっと浮気をしていたことが継母の妊娠で解ったんだ。そしてあろうことか相手は俺と殆ど歳の違わないうちの酒蔵の若い従業員だった。俺や俺の義弟ともいつも仲良くしてたやつさ。でもそれを知っても親父は何も言わなかった。先妻に捨てられたあげく、再婚した妻にも不貞を働かれたのを村の人たちに知られるとなるとたちまち嘲笑の的だ、そして恥さらしになって、この先商売を続ける上でそれは不利になると判断したからだ。おそらく継母はそこまで計算に入れていた。女っていうのは心底恐ろしいものだね。結局親父は継母も密通の相手も責めずに、家の中だけの問題に収め、なかったことにした。そしてそういったことを目の当たりにして俺の中で何かが壊れたんだ。このままここにいてはおかしくなってしまうっぞって。そのことを実感してはじめてさ、いままで頭の隅にやってた怒りっていうか、言いようのない衝動が湧いて黙って村をおん出てきた。全く情けない話さ。それから30年間ほど日雇とかアルバイトで食い繋いでこのザマってわけ」
はじめてだ、
「私たち、はぐれものどうしですね」
斗瀬さんと私は、
「はは、そうだな」
同じように…
「岬ちゃんは、俺より多分若いだろうし自分さえ大事にできればこの先いろいろ楽しいことがあるよ」
「私今年で24です」
初めて自然に他人に私の年齢を知ってほしいと思った。顔がない女の年齢なんて男にとってはほとんど意味がないのに、あぁ、身体はどうだろう、私の身体の成長は18歳くらいでぴたと止まってしまっている。しかしそれは一般的にそういう人もいるのか、それとも顔がない人間特有のものなのかはどちらのもサンプルがないのでわからなかった。
外に出ると雨は止んでいた。私は斗瀬さんにきゅっと腕組みをした。斗瀬さんの身体は見かけよりがっしりしていて、火照っていて暖かい。
そしてそのままどちらから誘うでもなく、ホテルに入った。好きな人の前では顔がなくてよかったなと思う、これは初めて見つけた感情だ。私に顔があったら、照れて初めてデートする男に腕なんて組めなかっただろうから。
それと顔がないから、私に覆い被さって動く斗瀬さんの感じている顔を照れずにはっきりと見られる。
斗瀬さんのこめかみ、脂でつやがかって白髪が混じっている。
皺の多い唇。
豊かなまつ毛。
悩ましい表情。
まばらに生えた胸毛。
胸のしみ。
斗瀬さんの全てが、透明な私のなかへそそがれていく。
斗瀬さんには私の顔はどう映っているの。
やがて斗瀬さんは果て、私を優しく抱きしめる。私は斗瀬さんの汗ばんだ首筋に、キスをする。
「意外だな、失礼だけど、岬ちゃんは初めてだと思ってた」
「男は顔がなくても気にしない人が意外にいるんだなって独立してから気付きました」
「まぁ、そんなもんかもな」
今まで付き合った数人の男たちは、顔がない私とセックスするのに特別な興奮を覚えているだけの変態ばかり��った。私はそれにどうしても気づいてしまうのでいつもすぐ冷めてしまい、身の上話なんて彼らにはほとんどしなかった。けれど斗瀬さんは違う。私は斗瀬さんのことを知りたいし、斗瀬さんにも私のことを知ってほしい。斗瀬さんにこれからの私を見てほしい。
私は今初めて、恋をしている。
それから私たちはたびたびデートするようになった、告白は斗瀬さんからだった。
「岬ちゃん、こんなんでよければ付き合ってくれませんか」
いつもの斡旋所の帰り道、私はオッケーサインで快諾した。
それから5ヶ月が経った。
その日、斗瀬さんはおでん屋でいつものように杯を重ねて赤ら顔になっていた。
そして、やにはにこんな話を切り出した。
「昨日の夜、むこうの俺の義弟から連絡があってさ、おやじが倒れたらしいんだ」
「えっ」
「末期の膵臓がんでね、もう長くないみたいなんだ…」
斗瀬さんの表情はいつものように口角を微かに上げた笑顔だったけれど、その変わらなさが反対に動揺を隠しているように見えた。
「それでこんなこと岬に頼むのも不躾だと思うんだけど、一緒におやじに会いに行ってくれないか」
「はあ…」
唐突なお願いに私はおずおずと返したが、正直なところ嬉しかった。私には顔がないけど斗瀬さんがいる。もう何も、怖くない。
「なんていうかさ…」
斗瀬さんはそう呟きながら首を傾げて右のこめかみをぽりぽりと掻く。私は斗瀬さんが決まりが悪い時にするおやじくさいこのしぐさが可愛くて好きだった。
「ほんっと勝手な話なんだけど正直に言うと、俺にとって岬は欠けていた一部みたいなもので、それを見つけた俺を、岬を死ぬ前に親父に見せたいっていうか…」
「なるほど」
それから私たちは無言になった、そして無言のまま2人で大瓶を一本空けた。それから私はもう一本注文した。
「いいですよ、その代わり条件がある」
「うん?」
聞きながら斗瀬さんは私に酌をする。
「私を婚約者としてお父さんに紹介して」
その言葉を言った瞬間、私の世界の全ての音が遠くなった。せっせと歩き回る店員も、向こうで宴会をしているサラリーマンたちも、みんなスローモーションになり、そして、ぼやけた私の世界に、今向かい合っている斗瀬さんだけが鮮烈に存在していた。斗瀬さんだけが、私を見ていた。
太腿がじんわりと冷たかった。石のように固まった斗瀬さんの持つ瓶から注がれぱなしになっているビールがコップから溢れて、テーブルを伝い私の脚を濡らしている。斗瀬さんは瓶を置き、私の透明な頬を流星のように流れ落ちていく涙をぴんと伸ばした震える人差し指で不器用にそっと拭う。
「岬は泣くと、顔の形が少しわかるね」
斗瀬さんのお父さんは私たちが様子を見に行ってから53日で亡くなってしまった。
実は継母とは15年前から別居かつ絶縁状態で、たまに斗瀬さんの義弟が様子を見にくる以外はほとんどお父さんは一人で過ごしていたらしい。酒造は経営不振からとっくに廃業しており、商売を畳む時に抱えていた負債は、実家とは離れた酒蔵の土地を開業医に売却することによって賄っていた。そんなもろもろを、これまで一切実家に連絡を入れなかった斗瀬さんは30年ぶりにお父さんに会って初めて知ったのだった。
斗瀬さんとお父さんは毎日これまでの時間を取り戻すように睦まじく、たくさん話した。斗瀬さんはお父さんの実家の土地を継ぐこととなった。
そしてしばらくして、斗瀬さんの実家には籍を入れた私と斗瀬さんとで住むことになった。
私は村の郵便局の窓口でアルバイトをした。斗瀬さんは林業に従事した。
村の人たちは、印象とは違い都会の人より顔がない私に偏見を抱かず、むしろフラットに接してくれた。そしてなにより嬉しかったのは、みんな斗瀬さんが帰ってきたのを懐かしんでいるようだったことだ。その暖かさの理由には、家の事情をみんな知っていたので同情によるものもあったのかもしれない。
郵便局の横に住んでいる私の職場の先輩の日野さんの奥さんなんかは、頻繁に家に野菜をダンボールいっぱいに詰めて持ってきてくれた。私は日野さんの奥さんともすぐに打ち解け、仲良くやれた。
「岬ちゃんって寝る前ちゃんとフェイスケアしてる?顔がなくて関係がなくても、女でいるためにそういうのやっておいたほうがいいわよ?」
「女でいるために」
「そう、女でいるためにね」
私は日野さんの奥さんと軽口を叩くのが心地よかった。あっちにいた頃は、同性ともこんなに仲良くなったことはなかった。これは都会がどうとかではなく、斗瀬さんが私を見つけてくれて、2人で私たちの居場所を作ったから得られたものだ。私は村の人たちと関わるたびに、斗瀬さんと出会うことができてほんとによかったなあとしみじみ思う。
斗瀬さんの義弟たちとその家族とも私たちはうまくやれた。むしろ、ある種の蟠りがあったぶん、深い仲になれたふしもある。
斗瀬さんと私は、ゆっくりとした時間をこの村でたくさんの想いを与えたり与えられたりしながら生きた。
「親父は、最後嬉しそうだったよ」
不意に斗瀬さんは夕食の煮っ転がしをつつきながら呟いた。
縁側から秋の冷たくて寂しい風が吹き込んでくる。
身体が冷えるから、私は少しだけ開いていたガラス戸をゆっくりと閉めた。
「親父も俺と一緒で、自分の空っぽを埋めようって思いながら足掻いて生きていたのがな、俺と岬がこっちに来た時の親父と同じくらいの、この歳になってわかってなあ。そしてそれに気づかせてくれたのは岬、君なんだ。本当に感謝しているよ」
斗瀬さんの頭はもう真っ白で、頬もこけ、身体の殆どが亡くなる前のお父さんと瓜二つになっていた。
「そんな、私こそ斗瀬さんに見つけてもらえなかったら今ごろどうしてるか想像もできないよ。こちらこそ、ありがとう」
私は想いを噛み締めながら斗瀬さんに伝えた。透明な私の中にある、しっかりとした、色彩豊かな想いを。けれど、それはうまく言葉にできなかった。
私は斗瀬さんを背後からぎゅっと抱きしめた。斗瀬さんの身体は、あの日2人で傘の下で身体を寄せ合った時と違って、薄くて頼りなくてひんやりとしていた。しばらくそうしていると、じんわり目頭が熱くなってきた。
斗瀬さんは私の頭を撫でて、私の涙に応えるようにはかない声でうんうん、と微笑を浮かべて呟くと、寝室へとぼとぼと歩いて行った。この頃斗瀬さんは21時にはもう寝てしまう。斗瀬さんはごはんもお菜も殆ど残していた。私は食べ残しにラップをかけ、冷蔵庫に入れた。私の身体は斗瀬さんに会った時とまるで変わらない、顔がない私は老けないのだ。たぶん、脳も若いままなのだろう。冷蔵庫の前で立ち尽くしてそんなことを考えていると、たくさんの涙が、わたしからあふれてきた。
斗瀬さんが死んだのは3月の晴れた暖かい日だった。病室の窓の外では、山桜が風にふわふわと揺れていた。
葬儀には村のみんなが来てくれた。
これから大変だねえ、なんかあったら家にいつでも相談に来なよ、助けになるから。とみんな優しく私に声をかけてくれた。
とても心強かった。この村に来てよ��ったと私は心底思った。
私は今年で150歳になる。斗瀬さんも斗瀬さんの義弟もとっくに死んでしまい、今は斗瀬さんの義弟の兄のほうの曽孫のさらに孫夫婦とその娘さん(つまり斗瀬さんの…何になるんだろう……)や村のみんな(もうはじめ来た時とは何世代も変わってしまった)と相変わらず仲良くやっている。やはりどうやら私は顔のある人より寿命が長いらしい、もしかしたら不老不死なのかも知れない。
斗瀬さんがいなくなってから私自身について気付いたことがある。
それは、もしかしたら私のような(ほかにいるのかまだ見たことないけれど私は私と同じような人が何処かにいると信じている。特に根拠はないけれど)顔のない人は顔のある人の想いを保存する役目を負っているのかもしれないということ。私は、斗瀬さんの、斗瀬さんのお父さんの、継母さんの、義弟さんたちの、そしてこれから出会ういろいろな人の想いを、透明のなかにこぼさないように注いで行く。私は斗瀬さんや、斗瀬さんとこの村に来た時に知り合った人たちがくれた想いを今でも鮮明に思い出すことができる。そこにはたしかに戸惑いや、悲しみもあったけれど、どれも宝石のように美しく輝いている。そしてそんな人の想いが在る限り、顔のない私は歩き続けるだろう。
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notes-exchange · 4 years ago
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2016 演出介紹 Introduction of Performance
莎妹劇團X王嘉明X《地下室手記》
時代是十九世紀,一名年約四十歲的小公務員,在收到遠親留給他的一筆不算豐厚的遺產後毅然辭職,蟄居於聖彼得堡城市邊緣一處地下室裡,孤獨地談論自己。
他以獨白方式敘述自己,說自己有病,卻不願意求醫;他滿懷憤恨,卻又渴望羞辱,甚至從中感到絕望的歡愉──面對假想出的讀者大眾,他叨叨絮絮種種關於人的意識、自然規律、利益、慾望與痛苦的必要,並試圖藉由寫作從這些惱人的念頭中獲得解放。然而惱人的念頭彷彿聖彼得堡潮溼的雪,又黃又濁,這樣的雪讓他回想起過往不堪回首的羞恥記憶。
他曾在涅瓦大道上向一名對他視若無睹的軍官展開一場極其卑微又可笑的復仇計畫;他也曾不顧他人意願硬闖一名同窗茲維爾的餞別餐宴最終受盡屈辱;而為了從種種侮辱中解脫,他竟試圖透過虛偽的道德勸說一名妓女麗莎從良來拉抬自己的地位,卻又在麗莎表達善意的理解時以最卑劣的手段羞辱於她。
究竟什麼是真實?什麼值得尊重?要愛什麼?又要恨什麼呢?只要絕望與矛盾仍無止盡地襲來,《手記》也將無止盡地寫下去。
第七劇場X鳴海康平X《罪與罰》
原為大學生的貧窮男子拉斯柯尼科夫認為,「人類有凡人與非凡人的區別,非凡人具有犯法的權利。」因此,他想著,「若為了因貧窮而被剝奪機會的多數人,殺死人渣般的高利貸老太婆,把搶來的錢拿去拯救更多的人不也是種正義嗎?」然而,他卻錯殺了這位老太婆的妹妹,並奪取她的財物。於是在犯案後,他的精神開始變得錯亂。
沈迷在酒精中深信神的救贖的男人、人格異常男子與自己所深愛妹妹的婚約、想利用妹妹的結婚來擺脫貧窮的母親、懷疑他是殺人犯的審查官、向妹妹求愛的可疑好色鬼,在與這些人的往來中,讓他的信念開始動搖,殺人這件事情的意義也開始產生劇烈的變化。尤其當他遇見了作為娼妓持續賺錢養家的女子後,他感到彼此都是「跨越些什麼的人」,於是坦承了自己的罪行,然後自首。
而就在兩人於西伯利亞監獄確認彼此的愛意時,故事落下了幕。
台灣演出 2016新舞臺藝術節 臺南文化中心原生劇場 2016年11月18 -19日(五、六)19:30、20日(日) 14:30
日本演出 平成28年度 文化庁劇場・音楽堂等活性化事業 会場:三重県文化会館 小ホール 開演日時:2016年11月26日(土)18:00 / 27日(日)14:00
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Shakespeare’s Wild Sisters Group X 王嘉明 X『地下室の手記』
時代は19世紀、年の頃四十の小役人、彼は遠縁の親戚が残した決して多いとは言えない遺産を受け取った後、毅然として辞職、サンクトペテルブルグの片隅の地下室の中で閉じこもり、孤独の中で自分を見つめ直す。
彼は独白を通し自分を述べ、自分が病気であると言うが、別に医者に診てもらいたいわけではない。彼は憤りに満ちているが、一方で屈辱を渇望しており、それに絶望的な喜びさえ感じている。──彼は想像上の読者である大衆に対して、彼は人間の意識、自然の法則、利益、欲望、そして痛みの必要性についてくどくどと話し、書くことによってこれらの苛立たしさを解放しようとした。 しかし、苛立たしさは、サンクトペテルブルクの湿った雪のように、黄色く濁っていて、その雪は彼に過去の恥ずべき思い出を想起させた。
彼は、ネフスキー大通りで自分のことを見て見ぬふりをした将校に対して、極めて卑しくてまた馬鹿馬鹿しい復讐計画をし始める。そして他人の意志に関係なく同級生ズヴェルコフの送別会に突入し、最後はあらゆる屈辱を受ける。様々な侮辱から解放されるために、彼は偽りの道徳心で売春婦リーザに売春業を廃業するよう説得し、自分の立場を優位にする。しかしリーザが彼の善意へ理解を示した途端に最も卑劣な手段で彼女を辱めるのだった。
一体何が真実だ?何が尊重に値する?何を愛し?また何を恨む?絶望と矛盾が際限なく襲いかかる限り、「手記」を書き続ける。
第七劇場 X 鳴海康平 X『罪と罰』
元は大学生の貧しい男ラスコーリニコフは、「人類には凡人と非凡人の区別があり、非凡人は法を犯す権利がある。」と認識していた。そのため、「貧しさゆえに機会を奪われてきた大勢の人のためなら、悪名高い高利貸しの老婆を殺し、奪い取ったお金を持って、さらに多くの人を救えば、それも正義なのではないか」と彼は考えていた。しかし、彼は誤って老婆の妹を殺し、彼女の財物を奪い取ってしまう。犯罪が発覚した後、彼の精神は錯乱し始める。
酒に溺れる中、神の救いを信じる男、人格異常な男と最愛の妹の婚約、妹の結婚を利用し貧困から抜け出したい母、彼を殺人犯だと疑う判事、妹に求愛する怪しい色情狂、この人たちとの付き合いの中で、彼の信念が揺らぎ始め、人を殺す事の意味にも劇的な変化が生じ始める。特に彼が娼婦として金を稼ぎ、家族を養っている女に出会った後、彼は互いが「何かを背負っている人」だと感じ、自分の罪を認め、自首する。
二人がシベリア刑務所で互いの愛を確認する時、物語の幕が下りる。
台湾公演 2016新舞台芸術祭 臺南文化中心原生劇場 2016年11月18日-19日(金、土)19:30、20日(日)14:00
日本公演 平成28年度 文化庁劇場・音楽堂等活性化事業 会場:三重県文化会館 小ホール 開演日時:2016年11月26日(土)18:00/27日(日)14:00
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演出製作團隊 Prodution
莎士比亞的妹妹們的劇團 X 地下室手記
製作人:陳汗青 編導:王嘉明 演員:Fa、王世緯、王安琪、張耀仁、佐直由佳子(第七劇場) 舞台監督:鄧湘庭 燈光設計:王天宏 服裝設計:靳萍萍 導演助理:盧琳
プロデューサー:陳汗青 演出:王嘉明 出演:Fa、王世緯、王安琪、張耀仁、佐直由佳子(第七劇場) 舞台監督:鄧湘庭 照明:王天宏 衣裳:靳萍萍 演出助手:盧琳
第七劇場 X 罪與罰
編導:鳴海康平 演員:小菅紘史、伊吹卓光、八木光太郎、堀井和也、蔡亘晏(莎妹劇團) 舞台監督:平岡希樹 燈光設計:島田雄峰 導演助理:三浦貴司
演出:鳴海康平 出演:小菅紘史、伊吹卓光、八木光太郎、堀井和也、蔡亘晏(Shakespeare’s Wild Sisters Group) 舞台監督:平岡希樹 照明:島田雄峰 演出助手:三浦貴司
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演出概念與構想 Performance Concept
王嘉明・導演的話
這是一個以沒禮貌、自以為是、不斷碎嘴、超尷尬的人物為主角的不知能否稱為小說的小說(連文體的定義都超尷尬),不只主角個性、做的事情粉尷尬,連要不要發表這篇小說都超尷尬,甚至連結束的方式都很尷尬,怎麼可以這麼尷尬呢? 這本出版於1864年的《地下室手記》,在它這152年的路上,有相當多不同的理論切入解讀,地下室裡已經塞滿了各種意義,到了現在,重新閱讀,突然覺得,這世界甚麼時候開始變得這麼正面?倒也不是正面對或不對的問題,或許換另一個問法是:甚麼時候開始這麼害怕去碰觸所謂的負面?或是,再換另一個問法:所謂正面與負面構成如迷宮般糾結的認同關係,何時開始變得如此簡化? 回到劇場,在排練過程中試了相當多處理台詞和表演的方式(真的相當多,之後的作品應該會看到),但在他的凝視下,似乎都成了自我欺瞞的手法,最後,留在作品裡的幾乎所剩無幾,怎麼會這樣呢?對呀,怎麼會這樣?排練過程也不斷繞著一些沒有答案的問題,問題簡化如下:甚麼是劇場的意義?甚麼是觀眾?甚麼是順暢?甚麼是適當?甚麼是禮貌?甚麼是表演?甚麼是生活?甚麼是討好?這些問題,將不會在作品中有解答。 至於,為何選《地下室手記》?不覺得它正是這次台日交流活動的核心的精神狀態嗎?
鳴海康平・導演的話
經常會提到一件事,對於拉斯柯尼科夫而言「罪與罰」是什麼呢?即使在原著最後,他對於自己殺人的行為,並未改過自新或後悔。但這本小說的題目卻叫做「罪與罰」,又是為什麼呢?原標題所說的「罪」與「罰」兩字其實有著宗教上的意涵,事實上這也是將這道謎題解開的其中一把鑰匙。然而,在世界上頻繁發生恐怖攻擊、充斥著難民、近代與資本主義等種種高牆被破壞的現在,對於在此時此處活著的我們而言,我認為更能看見暗藏其他意義的濃厚色彩。他不僅是不了解人所感到的苦痛,對於自己的痛苦與幸福也一無所知,甚至「自我理解」到自己的心對什麼事都無法觸動,也一直為此受折磨,我是如此詮釋的。在現今的時代,或許這並不絕對是一件特別的事也不一定。不改過也不後悔的他,在原著最後卻從一名女子身上感受到了愛。如同杜斯妥也夫斯基最後所寫的,故事還將會自此繼續下去吧!然後同時,就算到這裡結束,也會成為一個壯闊而意義深遠的故事呀!
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王嘉明・演出家のコメント
これは無礼で、独りよがりな、ペラペラとよく喋る、とても不器用な人物を主人公にした小説と言っていいのかわからない小説(文体の定義さえとても不器用)だ。主人公の性格だけでなく、する事なす事不器用で、この小説を発表する事さえ不器用、物語の結末さえもとても不器用、どうしてこんなにも不器用なのか。 1864年に出版の『地下室の手記』は、ここ152年の中で、たくさんの理論の切り口で解読された。地下室の中には様々な意義が詰め込まれ、今改めて読み直してみると、この世界はいつからこんなにもポジティブになったのか。ポジティブになったのが正しいのか正しくないのかの問題ではないが、言い換えると、いつからこのようなネガティブな部分に触れることを恐れるようになったのか。もしくは迷宮のような正と負がもたらした納得のいく関係は、いつからこんなにも簡素になったのかと急に思うようになった。 劇場に戻り、稽古の過程でかなり多くの台詞や演技方法を試みた(とても多くを試したので、作品を見ていただけたらわかるでしょう)、しかし彼の影響下では、自己欺瞞の手法になってしまい、最後は、作品の中に何も残らない。どうしてこのようなことが?そう、どうして?稽古の過程でも絶えずいくつかの答えのない問題が纏わりついた。問題を簡潔に述べるとこのようなことだ:演劇の意義とは?観衆とは?順調とは?適当とは?礼儀とは?演技とは?生活とは?ご機嫌取りとは?作品の中にこれらの問題の答えはないだろう。 それならば、なぜ『地下室の手記』を選んだのか。それはまさに今回の日台交流活動の主旨ではないだろうか?
鳴海康平・演出家のコメント
ラスコーリニコフにとって「罪と罰」とは何なのか?これはよく言われていることですが、原作の結末でも、彼は自分の殺人の行為について、改心も後悔もしていない。しかしこの小説のタイトルは「罪と罰」である。何故なのか。原題の「罪」と「罰」の二文字には宗教的な意味合いが含まれていて、事実これもこの謎を解く鍵になる。しかし、世界で頻繁にテロが発生し、難民が溢れ、近代や資本主義などがある種の壁にぶつかった今、この時そこで生きている私達にとって、また別の意味合いが色濃く映るように私は感じる。彼は人の痛みがわからないだけではなく、自分の痛みや幸福すらもわからない、それどころか「自己理解」さえ、どのようなことに対しても心が動かされる事はないとわかっていて、そのためずっと苦しめられてきたと、私はそう考えた。今の時代において、これは決して特別なことではないのかもしれない。改心も後悔もしなかった彼は、原作の最後に一人の女性との間に愛を感じる。ドストエフスキーが最後に書いているように、物語はまたそこから始まるのだろう!そして同時に、結末に至るまでにも、雄大で深遠な物語となりえるのだろう。
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網站連結 Website
第七劇場 罪與罰 https://dainanagekijo.tumblr.com/post/174179721918/crimeandpunishment
回顧短片 https://vimeo.com/644181196
關鍵評論 | 眾聲喧嘩中的共同迴音:專訪莎士比亞的妹妹們劇團新作《交換手札》導演王嘉明 https://www.thenewslens.com/article/50528
表演藝術評論台|在交換中尋找聯結《交換手札・杜斯妥也夫斯基計畫》 https://pareviews.ncafroc.org.tw/?p=22128
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gohan-morimori · 4 years ago
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アジャラカモクレンニセンニジュウイチネンイチガツニジュウゴニチカラサンジュウイチニチマデノニッキ
1月25日(月)
 大前粟生『私と鰐と妹の部屋』読み終える。この本はたしか去年の2月だったか3月だったか(たしか2月)の本屋博で、toi booksのブースで買ったものだ。特典の『全身が青春』を読む。読んでいたら、やっぱり日記なんじゃないか、という気分になる。日記、いいな、となる。やったほうがきっといい。っていうかやりたい。という気分がどんどん高まっていって、でももうわたしは笹塚には住んでいないからタイトルを笹塚日記からなにか違うものに変えたほうがきっといい。変えないとテンションが上がらない。ということで、ぐるぐる考えて、アジャラカモクレンにしようと思った。3年前だったか4年前だったか(たしか3年前)(いや4年前か、もう)、そのころはまだ京都に住んでいて、でも東京へ行くことがほぼほぼ決まっている段階で、そういう状態で日々を過ごしている中で、なにか書きたい、小説ではないなにか、というようなことを思って、Tumblrでブログっぽい文章をいくつか書いていた時期があった。そのTumblrの名前をアジャラカモクレンにしていた。死神っぽいなにがしかから身を守りたかったのか。それが、そのTumblrがまだ残っていて、それも使おう、と思った。noteを使っていく上で、noteとかcakesとかに対するモヤッとした感情を解決するための策として、すこし前から、ショート・スパン・コールの更新/公開はnoteとg.o.a.tとTumblr(と、時間差でInstagram)を並行して使う、ということをしていた。「noteを使う」から「noteも使う」にすることで、自分の中でのnoteの重要性というか、一箇所性(一箇所性?)というか、ここだけ感というか、そういう価値を下げて、均す。わたしの文章を読む(読みたい)人に対しては「読みたい場所、モヤッとしない場所を選んで読んでね」という態度でいることができるし、ひとつの文章を更新/公開する場所を増やすことで、予期せぬ出会い、みたいな可能性も増やせたら、みたいな。いまのところそれはなんだかうまくいっているような気がしていて、というかわたしはとても気が楽で、こりゃいいやと思っている。しばらくはこの方法でいくのだと思う。そもそもいままで、なんで一箇所でしか更新/公開していなかったのだろう。なにはともあれそれでアジャラカモクレンのロゴを作った。なにはともあれまずはロゴ、ということで、バージョンの古いイラレを嬉々としていじり、ロゴを作った。アジャラカモクレンこれは日記です。アジャラカモクレンコレハニッキデス。死神よ消えろ!
1月26日(火)
 休日。去年の12月からは職場のシフトを固定にしてもらっていて、だから毎週火水はおやすみ。確定申告とか、皮膚科とか、耳鼻科とか(もう花粉が暴れだしている)、新宿の某クリニック(ホルモン注射)とか、やったほうがいいこと、やらなきゃいけないこと、行かなきゃいけないとこ、行ったほうがいいとこ、が溜まっているのだけど最近の火水はなんだかんだでずっと家に居てしまう。ショート・スパン・コールをぐんぐん書く。佳境、というか、自分の中でここは特に大事に慎重に書きたい、みたいなところにもうすこしで差し掛かりそうで、どきどきしている。なんだかんだで100篇はゆうゆう越えるもんだな、とも思っている。本読んで、書いて、トイレ行って、コーヒー飲んで、ビタミン剤飲んで、本読んで、書いて、トイレ行って、部屋うろうろして、コーヒー飲んで、煙草吸って吸って吸って本読んで書いて、みたいな感じで夜になってゲラ2本チェック。それぞれに戻す。
1月27日(水)
 休日。昨日から、というか一昨日の夜からずっと同じ寝間着を着ている。着替えていない。火水はこうなる。読んで書いて書いて読んでコーヒー煙草トイレコーヒー煙草スパゲッティ読んで書いてコーヒー煙草煙草煙草吸い過ぎだなコーヒートイレ煙草読んで書いて書いて書いて部屋うろうろ。リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』読み終える。高木美佑『きっと誰も好きじゃない』読み終える。リディア・デイヴィスの本を読むと勇気と恐怖が同時にやってくる。ここまでやってくれている人が既にいる、という勇気と、それと同じだけの恐怖(ここまでやってくれている人が既にいる……)。先週だったか、toi booksのYouTube配信で、大滝瓶太×滝口悠生のトークを聴いていたら、滝口さんが「連載って大変」みたいなことを言っていて、わたしは『灯台より』で自分が連載している小説「どこに行ってもたどり着く場所」のことを思いながら、勇気と恐怖が同時にやってきたのを思い出す。滝口さんでもそんなこと思うんだな、という勇気と、滝口さんでもそんなこと思うんだな、という恐怖。もしかしたらわたしはまだ到底持ち上げられない重さのダンベルに手をかけている状態なんじゃないか、みたいな。それを本屋Lighthouseの関口さんにSkypeで話して、そのSkypeは関口さんによるアナログなのかハイテクなのかわからない手法でライブ配信されていて、ほぼ機材チェックみたいな謎の時間を視聴者には提供していたこととは思うが、なんだか久々に、自分の生活圏外��人(関口さん)と交流、というか井戸端会議っぽい駄弁りができた感じがして、いい息抜きになった気がしている。関口さんとのSkypeを切ってから阿久津さんのZOOMにアクセスして、会議、というかこれもまた駄弁りのような、わちゃわちゃした会話をしていたら野口さんもZOOMに入ってきて、それで3人でわちゃわちゃと話してなんだか楽しかった。仕事と遊びがまぜこぜになる感じ。いまだにわりと新鮮に「オトナだ」となる。今年で29歳なんだから、オトナだろうよ。阿久津さんと野口さんはスタバの話でずいぶんとハッスルしていて、スタバになんのメモリアルもないわたしは途中からスマホをいじったりぼや〜っとZOOMの画面を眺めたりしていた。通話終わり。ゲラに関するメールを打って送る。なんだかどっと眠たくなって、歯を磨いて寝る。
1月28日(木)
 11時過ぎだか12時過ぎだかに起きる。14時には下北沢に着いていないといけない、というのを、忘れていたわけではないのだけれど「それってつまり」と考えることができなくて部屋をうろうろしたりぼやぼやしたりしているうちにちゃんとしたご飯を食べる時間がなくなっていて着替えてざっくり化粧をしてチキンラーメンを啜って家を出る。小雨。聞いてないなあ、知らないよ、雨、と思いながら自転車に乗った。雨粒がぽろぽろとマスカラに当たるのを感じていたけれど雨が降るなんて知らなかったから知らなかった。雨なんて無視無視。下北沢についた。阿久津さんと話す。話している間、雨が雪に変わっていくのが阿久津さんの後ろ、ガラス戸越しに見えて、話している途中で、あ、雪、と言った。言ったらわたしの斜め前、阿久津さんの横に座っていた桜木さんが反応して、あ、雪、となって、よかった。いい瞬間だった。雪。穂村弘の〈体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ〉という短歌を思い出したり、いしいしんじ『よはひ』の「二歳五ヶ月のピッピ」を思い出したり。職場で働く。静かな日。なにかチームで動くとき、チームに所属するとき、その中に居るとき、わたしはわりと「元気印」みたいなレッテル(レッテル?)を貼られたり、ムードメーカー的な立ち回りを演じたり(演じたり?)、ピエロっぽい役割を割り当てられたり、それらを自覚的に(あるいは無自覚的に)率先して引き受けたり、結果的にそういう立場になっていたり、することがあるのだけど、そしてそれはたぶんわたし自身が望んでそうなっている側面もあるのだろうけれど。いつだって元気なわけではないし、人一倍暗い瞬間だってきっとあるし、汚く醜い感情でひたひたになっている期間だってあるし。そういうとき。元気印が元気じゃないとき。いったい誰がわたしを元気にしてくれるのだろう。みたいな、行き場のないモヤモヤ、憤り、やるせなさ、みたいなものを感じることがちょいちょいあって、いままでは、そういうときはそのモヤモヤや憤りややるせなさに任せて、誰かに怒られたりするまで奔放に破壊的な行動をしてきたのだけど、いまは、いまの職場では、というかいまの自分は、そういうときも、そういうときであっても、仮面であっても演技であってもポーズであってもいいから、「元気」を全うしようという気持ちでいる。すきな人たち、信頼している人たち、素敵な人たちを自分の不調や不機嫌や元気のなさによっていたずらに不安にさせたり傷つけたりしたくない。それもきっと仕事のうちだ、と、思いはじめている。それがいつだってできるわけではまだないし、じゃあわたしの元気がないときは誰がわたしを元気にすんだい、みたいな気持ちへの落とし前はぜんぜんつけられないけれど(そしてその問いへの答えは結局「自分自身」でしかないのだけど)、でも、死ぬまで独り身で生きていくかもしれない現実に向き合って覚悟を決めて朗らかに独り身を生き抜くリズムを作るために去年の10月から一人暮らしをはじめたのだから、だから……なんだっけ?閉店時間になって、帰り支度をして、吉野靫『誰かの理想を生きられはしない -とり残された者のためのトランスジェンダー史』を読んで、帰って、コーヒーを淹れて煙草を吸ってこの日記を一昨日昨日の分まで書いて洗濯ものを干して(めちゃくちゃさむい)、湯たんぽをあっためてパソコンデスクの下に置いて足を乗っけてあったまりながら今日の分を書いて、ピラカンサのシュトーレンを切って食べて(しみしみになっていておいしい)、これからお風呂に入る。湯船に浸かりながら吉野靫『誰かの理想を生きられはしない -とり残された者のためのトランスジェンダー史』の続きを読む。いろいろ重ねて読んでしまうからしんどい本だけど読んでおきたい本でもある。気圧ひくい。頭いたい。かなしい気持ちになっている。奔放に、抱きしめられたいな〜、人に。最後にだれかと手をつないだのっていったいいつだ。
1月29日(金)
 寒い。晴れている。出勤。せわしなく働く。閉店後、
https://soundcloud.com/yunovation/virtual-luv20190314-1
を一曲リピートで延々流しながら、吉野靫『誰かの理想を生きられはしない -とり残された者のためのトランスジェンダー史』を読む。読み終える。終わりの文章でちょっと泣きそうになる。死にたくないな。生きなきゃな。とか思う。家に帰る途中で西友に寄って牛乳とオレンジジュースと豚バラとキムチを買って帰る。中橋さんに電話してだらだらしゃべる。途中からGoogle Mapで京都のあちこちを見回るのがやめられなくなって、電話を切ってからもだらだらと地図上で京都のあれこれを見ていた。それからなぜかYouTubeで予備校講師の動画を見漁りはじめて、止まらなくなって空が明るくなってから危機感に襲われて入浴。湯船に浸かりながらオーレ・トシュテンセン『あるノルウェーの大工の日記』を読み始める。去年はこの時期に佐伯一麦『ノルゲ』を読み始めた気がする。2月だったかな。同じ時期にノルウェーの本を読んでいるのがなんだか不思議とうれしいきもちになる。眠る。
1月30日(土)
 起きたり寝たり起きたりを行ったり来たりして13時50分くらいに起きる。慌てて準備をして出勤。煙草を忘れたことに家を出てしばらくしてから気がついて途方に暮れる。働く。せわしなく働く。いそがしいそがし、あわあわあわあわ、としているうちに閉店の時間になって身体がやたら重たくて怖くなった。ごはんを食べながらiPhoneで呪術廻戦の最新話を観る。ほんとTikTokみたいなアニメ/漫画だなと思う(いいとかわるいとかではなく)。ハンターハンター、ソウルイーター、BLEACHの気配をむんむん感じる。そのまましばらく身体が重くて動けなくなって、お腹が痛くなってきて、こわいこわい、と思いながら身体を椅子からひっぺがして帰り支度をして職場を出た。家に帰って可燃ごみをゴミステーションにぶちこんで今日一本目の煙草を吸って、腹痛に耐えかねてトイレに籠もってお腹をさすりながら『京都町中華倶楽部』創刊号を読む。おもしろい。この本を面白がれるのはわたしがいま京都にいないからなのかもな、と思う。キッチンとトイレを何度か往復しているうちにだんだん腹痛がおさまってきて、ビールを飲みながらまた煙草を吸う。京都。京都にいつか戻りたい。「戻る」という言葉がやはりしっくりくるな、と思う。戻りたいな、と思う。いつか。それがいつなのかはわからないけれど、いつかほどほどに自由に居住地を選べるような身分になったら、また京都に住みたい。でも東京が嫌だとか嫌いだとか、ここにいたくないとか自分の居場所はここじゃないとか思っているわけではなくてむしろ逆で、東京は東京で好きだし、ここは自分のいまの居場所だと思っている。でも、これは去年の4月ごろ、緊急事態宣言で家に籠もりっきりになって、あちこちの団体やお店なんかでクラウドファンディングが立ち上がったりしていたころ気づいたことなのだけど、わたしがこういう状況下で「助けたい」とか「助かって欲しい」とか「生き延びてほしい」とか「なくならないでほしい」とか思うような場所、モノ、人、コトのほとんどは京都のあれこれで、京都の書店で京都の映画館で京都のライブハウスで京都の酒場で、それはわたしが東京に住み始めてからまだ2年半ほどしか経っていないのもあるし、東京に来てから1年以上は手術費を稼ぐために娯楽的なあれこれを極端に切り詰めてきたからで、そもそもわたしはまだ自分が住んでいる土地のことをぜんぜん知らない。知らない土地に対して「助けたい」と思うのはむずかしい。というか、まずは京都が助かって欲しい。話はそれからだ、感がある。ここ半年ほどは、本を買うときは大抵京都もしくは大阪の書店のオンラインストアで注文しているし、たぶんこれからもそうしていくだろう。みたいなことを考えたり昨夜に引き続き予備校講師の動画を見漁っていたら日付が変わっている。今日こそは早く寝たい。喉に違和感がある気がする。こわ〜。
 自分にとって京都ってなんだったんだろう。みたいなことをよく考える。考えるというか、ぼやぼやと思ったりする。カンタンに最強になれる場所だったな。カンタンに、井の中の蛙になれる。よく晴れた日に、紫明通を自転車で走っているとき、ここが世界だと思っていたフシはあった。井の中の蛙は大海を知らないが、大海の鯨は井の中を知らない。井の中でしか存在し得ない世界を知らない。
1月31日(日)
 とか書いたけど嫌なことも悲しいこともむかつくことも、孤独も寂しさもどこにも行けないもどかしさも、京都にいた約7年間で味わい尽くしたはずで、だからわたしの京都観には著しい美化が伴っていて、それをちゃんと自覚しておかないといけない、たぶん。トランスジェンダー、という自分のいち側面だけを考えると明らかに京都より東京のほうが日常で被るストレスや暴力、差別や排除はすくなくて、すくない気がいまは気がしていて、それはやっぱり人間の多さに依るところが大きいし、京都の狭さ、人の(土着的な人の)少なさはやっぱりトランスジェンダーといういち側面において無視できないしんどさをわたしの日々に与えていたはずで、出ていきたい、ここを出ていきたい、という気持ちと、出ていけない、一生この場所で時給労働に従事し尽くした結果疲れてすり減って独りで何も成し遂げられないまま手術も満足にできないまま貧困状態のまま死んでいくんだ、クソが、みたいな気持ちで粉微塵になりそうだったはずで。そこから愉快な奇跡が重なっていまわたしは東京にいる。11時なのか12時なのか、みたいな時間に起きた。起きたけど起き上がることはできなくて、貪欲を抱きしめたり貪欲と添い寝みたいな格好になりながら、『京都町中華倶楽部』創刊号を貪欲の顔に乗っけて布団にくるまりながら読んでいった。龍門なつかしいな。行きたいな。知らない店がたくさんある。とか思っているうちに13時前になって慌てて布団を出てお風呂に入れない。家を出る。買い出しをして出勤。忙しくて慌ただしくてちょくちょく恐慌状態になったりしながら踏ん張って働く。忙しい。疲れた。ごはんを食べてビールを飲んで煙草を吸って身体が動かない。動かす。職場を出て、家へ。帰宅。「どこへ行ってもたどり着く場所」連載第3回の原稿について考えたり、『ショート・スパン・コール』94篇目〜103篇目あたりまでの展開や構想を練ったりしながら自転車を漕いでいると自分がどこにいるのかわからなくなりそうで怖い。いつか事故りそう。やっぱり日記を書きはじめるとそれ以外が書けなくなる。不器用。わたしはむずかしいことをしていて、それはひとりごとの言えなさに似ている。2冊目の歌集を出したい。というか出す。モノはあるから、自費でやろうか、BASEで、みたいな気持ちにかなり傾いていて、今年の上半期中に組版をやって見積もりをしよう。「どこへ行ってもたどり着く場所」も、『ショート・スパン・コール』も、大切に書きたい。疲れた。疲れた。今日こそお風呂に入ろう。2月は「どこに行ってもたどり着く場所」の原稿を書く前に読まないといけない(と、自分に言い聞かせている)本が何冊もあるから、ヘビーな月になりそう。がんば〜〜りまっしょ〜〜。タフネスを俺にくれ!!!!!!!!!
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vegan-surfer-ds · 4 years ago
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Wellbeing Life Library 2020年2月10日〜2月16日
#zen #mindfulness #meditation #sungazing #yoga #surfin #football #karate #exercise #fasting #vegan #vegitarian #liquidarian #breatharian #onsen #hot-spring #wellbeing #brain-gut-axis --------------------------------------------------- 2/10 月☀️14:00Max9度/体温37.5℃ 朝課 仏前焼香/祝之神事30+太陽凝視瞑想30 14:20WeightTR【腕立60腹筋60Squat50】 → 14:50PowerVinyasaYoga60+空手形チントウ+ 温冷交代浴3回【露天 塩化物重曹泉 Sauna】 / 体重54.35kg    経口摂取 日中 Honey煮出珈琲180 煎茶120 甘酒120 入浴後 甘酒煮出珈琲140甘酒140 10/12珈琲120 蜂蜜煮出珈琲180 みかん2個 OatsHoneyLatte130 /OrganicShag15本
午後に @nagishanti のPowerVinyasaに恐る恐る参加したが、右膝の状態は深い屈伸が無ければまずまず良好だ。今日迄が満月の大潮期間。今回は昨日今日は、飲む点滴と言われる甘酒を少し水で薄めて摂取してみたが、満月前後なのに空腹感は抑制されて快適に過ごすことが出来た(^^) 考えてみれば液状にした発酵米を一膳食べてるようなものだ。江戸時代の人々は特に真夏に甘酒を愉しんでいたようだが、腸に優しく真夏の滋養強壮には持ってこいの先人の経験と知恵が生んだ伝統食に改めて感謝と敬意を表した。Yoga参加直前の治療も太陽凝視瞑想で、またもや恍惚状態体験。時間が短く感じられた。
------------------------------------------------------2/11 火 紀元節㊗️氏神☀️Max11度/体温37.3℃ 朝課 氏神→仏前焼香/神前祝神事+Radon瞑想20 12:00Gardening日外浴40 14:00年中CLUBサッカー練習試合2/30FW20×3=60+WeightTR【腕立60Bridge3mSquat50】 →
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押上温泉大黒湯/温冷交代浴4回【弱アルカリメタケイ酸泉&露天ルフロ泉&生生姜湯】体重53.5kg 経口摂取日中 煮出珈琲180有機緑茶珈琲Pot300 緑茶100 入浴後 パイン乳酸飲料100 夕食【玄米 大根味噌汁 鰤大根 白菜漬 蜜柑】 Agave煮出珈琲180 苺Cake OatsMilkTea130 冷珈琲140 OrganicShag10本
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この所天気が良すぎて夜間の放射冷却で朝晩が極度に冷え込んでいたが、今日は微風のポカポカ陽気で絶好のサッカー日和。内田先生より新ユニフォームを受け取って早速着用。久々の60分のフルコートプレーで膝には違和感は無かったが、大黒湯の湯舟で蓮華座にチャレンジするとコキっと音がして痛みが走る。今日で絶食丸4日間だが特に食欲は沸かず、昨夜に鈴木登紀子バァバのレシピで天然鰤大根を仕込んでいたので感謝を表して食した。 
------------------------------------------------------ 2/12 水🌤15:00Max16度/体温37.4℃ 朝課 仏前焼香/祝之神事30 日光浴太陽凝視瞑想30+Radon瞑想15 =45 9:30HomeWeightTR【腕立100腹筋100Squat50】→10:00VinyasaYoga45/21:30空手形TR+温冷交代浴3回【露天 塩化物重曹泉 Sauna】 体重56.2kg 経口摂取日中 緑茶200 OatsChai200 有機煮出珈琲180 OatsRoyalMTea200 ベリー珈琲&入浴後21:00夕食【玄米 味噌汁 鰤大根 お汁粉】 煮出珈琲160 OrganicShag15本     
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昨日は久々のフルコートFootballだったが、Radon吸浴のお陰で筋肉の張りも殆ど無い。朝筋トレしてからYogaに行くと小田急線人身事故遅延の為、渚ちゃんが遅れて45分間のFlow。  昨夜、今日と連続で食事を摂ったら一変に体重が戻った^^;クンバカの際に肛門を締め上げるムーラバンダを意識する快適な呼吸時間を模索するために、吸息5秒/止息【クンバカ】5秒/吐息【ウジャイ】5秒でやってみたが、とても集中出来た。Bar Faleにて注文しておいたAmaretto仕入
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------------------------------------------------------2/13 木 🌦→☀️Max19度12:00 13度/体温37.1℃ 朝課 仏前焼香/祝之神事30+裸日光浴瞑想30    Gardening裸日外浴45 HomeWeightTR【腕立100腹筋100Squat50】 → 19:15空手鍛錬100→HotRingYoga40+空手形復習+温冷交代浴3回【露天 塩化物重曹泉 Sauna】     /体重55.8kg 経口摂取日中 煮出珈琲320 煎茶160 OatsTea180 甘酒200 入浴後 軽食【低糖質サラダ麺 13穀米 コロッケ Espresso】/OrganicShag18本
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昨夜は24時で11度と防寒着要らず。午後の出張前の日光浴瞑想でまるで初夏のような暑さにジワっと汗をかいた。今日は吸息5/止息5/吐息8の呼吸法を試してみたが、太陽凝視をせずに目を閉じて瞑想したせいか、残り10分位で睡魔に襲われて爆睡してしまった。雨が殆ど降らなかったので洗車帰宅後に牡丹と芍薬の寄せ植替え、落ち葉の掃除、水遣りを済ませてから空手鍛錬へ。空手鍛錬時に千歳ガールズより手作りバレンタインチョコを戴く。毎年恒例だが素直に嬉しい(^^)
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------------------------------------------------------2/14 金🌤Max16度 9:00 12度/体温37.1℃ 朝課 仏前焼香/神前祝之神事30+Radon瞑想30 HomeWeightTR【腕立100腹筋100Squat50】 → 天然温泉Spa成城 露天モール泉温冷交代浴3回/体重56.5kg 経口摂取日中 煮出珈琲3杯500 煎茶150 GFPoundCake2切 Choco2片 食事【ざる蕎麦、牡蠣フライ、ご飯】 入浴後 Amaretto珈琲130 みかん1個/OrganicShag18本
昨夜ネットのレシピで玄米甘酒の仕込んだが、12時間後でも甘くならない。何が足りない?炊飯器の保温の温度が高いのか?時間後の本日完成(^^) セントラルスポーツ50周年で併設SPA成城の利用料が50円ということで久しぶりに   コロラドで少食指導した瀬山くんから昨年の健診から5キロ痩せて数値も全部OKとの報告を受けた。今まで唯単に食い過ぎだったことが本当によく分かったと笑っていた。
----------------------------------------------------- 2/15土⛅️新月氏神14:00Max16度/体温37.5℃ 朝課 仏前焼香/祝之神事30 11:00天王洲TSFC練習試合3/30CH20分×4=80 HomeWeightTR【腕立100腹筋100Squat50】 → Gardening日外浴60→氏神参拝→耕雲寺坐禅40 →温冷交代浴3回【露天&塩化物/重曹泉&Sauna】/体重56.4kg
経口摂取日中 有機珈琲250 Honey煮出珈琲160 食事【せいろ カレー丼 味噌汁】 入浴坐禅後 Amaretto珈琲130 みかん1個 MillCrepe&SoyTea OrganicShag18本 チーム写真
東京世田谷FCの開幕前練習2回目は神奈川県リーグのSONYサッカー部との練習試合ニトリで阿字観用色紙額、曼陀羅用額を購入。80分プレーして膝が痛むのでRajaYogaはお休みして、薔薇その他の剪定作業。土曜坐禅会は総勢16名で新規参禅者4名。クンバカ呼吸法は何故か乱れたが、恍惚状態を意識することで前回同様に所要時間短縮感覚を味わえた(^^)
----------------------------------------------------- 2/9 日🌧13:00Max17度/体温37.4℃ 朝課 仏前焼香/神前祝之神事30 Radon瞑想30 HomeWeightTR【腕立60腹筋60Squat50】 → 氏神 → 16:20Yoga60+温冷交代浴【露天&塩化物/重曹泉&Sauna】3回/体重56.4kg          経口摂取日中 煮出珈琲160 HotCake/黒田珈琲 入浴後 萩珈琲120/CinnamonToast OrganicShag15本
朝から暖かい雨がしとしと降り続けたが、昼過ぎに一時やんだので黒金屋で薔薇植替え用の土と沈丁花を買いに行った。春の沈丁花、夏の梔子、秋の金木犀、冬の蝋梅で四大香木とのこと。右膝の安静のため冠光寺流合気道もお休みして通常Yogaクラスに参加すると、偶然鳥居さんの奥様の隣だったのでご挨拶。小笠原くんにも膝の状態を心配された^^;
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gaori-m · 5 years ago
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余は如何にしてセクラバとなりし乎
どの大晦日だっただろうか。
私は家族と紅白歌合戦を見ていた。
私は大晦日紅白絶対主義者であり、妹がガキ使を見ていたとしても、視聴予約をしておいて紅白が始まったら即座に切り替わるようになっていた。
小さな頃はチャンネル争いを激しく繰り広げていたが、その頃には妹も諦めきっていた。
かと言って、私は熱心に紅白を見ていたわけでもない。私は流行りの歌手がわからぬ。
唯一聞いていたJ-popと言える音楽は、アンジェラアキぐらいだった。アンジーに関しては、初期のシングルから聞いてきたファンで、最後のライブもチケットを確保してくれた友人のおかげで行くことができた。
その時のライブの衝撃は忘れられない。アンジーのパフォーマンスもさりながら、
「え?コンサート中は席から立つの?」
という質問をするほどの世間知らずだった。それから幾年、立見席で団扇を胸にペンラを片手に “Bravi!!”と歓声をあげるとは1ミリも思っていなかった。
その年の紅白も演歌歌手以外ほとんどわからず、ハロプロ、ジャニーズ、アルファベットと数字のグループも名前を見たことがある程度だった。宜なるかな、アイドルグループは嵐ぐらいしか誰が誰なのかもわからない。
一方で、NHKの歌番組の良いところは、先日の「思い出のメロディー」でミッツ・マングローブさんが指摘していたとおり「振れ幅」である。アイドルの歌と踊りもあれば、聞かせる歌手もいる。それ故に、紅白で感銘を受けて聞くようになった歌手や歌もたくさんある。美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」はその典型的��例である。
だが、私の目は開いていなかった。曲の直前に現れたグループを一瞥して、「また過激な名前だこと。本人たちは意味がわかっているのかしら」などとビチビチ言いながらチビヒチビ酒を舐めていた。
さはさりながら、実はこの年の紅白で、キメッキメの勝利くんの表情にキュンとしていた。
それからとても長い時間が経った。
その間にマイケル・ジャクソンが逝去した気がするし、オバレが解散を強いられた気もするし、宮崎駿監督が引退宣言をしていた気がする。要はいろいろなことがあったのである。
プライベートでも、元来楽天的な自分が精神的に体調を崩したり、家族が他界したり、足を火傷したりした。世間にとってはどうでもいいことだが、個人的にはいろいろなことがあったのである。
ある日、友人がトゥイッターでセクゾの話をし始めた。今考えると撒き餌だったのかもしれない。
「ふーん」と関心があった呟きをファボする。すると友人からLINEが届いて曰く、
「Sexy Zoneを一緒に推しましょうよ」
そして、簡潔かつパッション溢れる概要説明があった。第1の聞法である。
しかし、当時の私は無知であり、ふまけんを区別できなかった。牛タンゲームをしていたのはケンティーだと思っていた。否、ふうまちんである。そして、数々のトンチキソングたちを愛せずにいた。
「『WildがMildになる』のは流石に無理があるし、そもそもなんでsexy summerに雪が降るの?」
そんな未熟な人間にもかかわらず、先輩セクラバたる友人は優しくサンガに招き入れた。コート・ダジュールでリペ魂を見た。第2の聞法である。
帰りのバスの中、私は、スマホでファミクラへの入会手続きを進め、ジャニーズネットに課金し、リペ魂のブルーレイ、リペのアルバム、stageのブルーレイをとりあえずAmazonで注文した。大人であることの特権を振りかざした瞬間である。
あの時の感動を何と言い表せば良いであろうか。私がSexy Zoneに抱いていた全ての偏見が覆された。
ただひたすらに顔がいいと思っていたしょりぽんのお茶目さ(プンププンプン)、ケンティーの一瞬も力を抜くことない、にも関わらず自然でsexyな所作、ぱっと見怖かったふうまちんの多彩な歌声と愉快なトーク、マリちゃんの成長ぶり、そしてソウ・マッシマである。鼻の下投げキッス、ひょっこりさん(最近知った)、圧巻のファンサ、その一方で横アリのスクリーンを我がものとするパフォーマンス...
セクラバという言葉が生まれる前、セクゾのファンは、セクガル、セクメンと呼んでいた。しかし、それに加えてSexy Loversという言葉がケンティーによって生み出されたと聞く。これは、阿弥陀如来の摂取不捨の弘誓に通ずるものである。
合掌...いただいた浄なる右手と我が不浄なる左手を合わせ、ただ感謝するしかない。
日を経るごとに円盤が増え、ポポロやMyojoといったドル誌、インタビューが掲載されたこれまで手に取ったこともないような若者向けファッション誌(近しいところでも宝塚関係である)、部屋をsexyたちが埋めていく。
もともとひどく腐っていた私は、本棚からはみ出て本棚の前に本の山を作る愚か者である。しかし、同時に語学オタクでもあり、仕事関係の本でも山を作っていた。それまで本の山たちは2つであった。真面目な本のそれと不真面目な本のそれである。ここに新たな山が生まれた。
何番煎じか知らないが、私はその山のことをsexy zoneと呼んでいる。大切なことのため補足するが、小文字のsexy zoneである。
曲を聴き、ライブ映像・特典映像を見て、セクチャンも見て、時に編集者のスクリーニングがなかったとしか思えないようなインタビューを読む。一度読み、反芻してから映像を見ると新たな発見がある。まさしく「學而時習之、不亦説乎」。
そんなある日、友人からLINEが届て曰く、
「ライブに行きませんか」と。
身に余る喜びである。
一方で、ティーンなど遥か彼方に卒業した私がその場にいてよいのだろうか。恥ずかしくて死んでしまうのではないか。また、私は無駄に背が高い、というより長い。背の低いティーンたちに、後ろから石を投げられないだろうか。
しかし、これら懸念はナンセンスであった。セクラバの懐は深い。そして、sexyたちは、ティーネージャーが応援するものと考えること自体がsexyたちの思いに反することであった。
そして、これらの無駄な逍遥を凌駕するほど、sexyのライブは圧巻であった。
初のライブ参戦、第3の聞法である。
プロフィールからもわかるとおり、私は聡ちゃんを中心とした箱推しを自認しているが、今回はしょりぽんの団扇を買うことにした。普段、友人と話す時に使っている勝利くんの愛称「しょりぽん」「しょりり」「ちょり」なんて物販の人に言っても通じないんじゃないだろうか...かと言って「勝利くん」なんて呼ぶなんて馴れ馴れしすぎるし...と思って最終的な結論として「佐藤さん」の団扇とお写真とあとペンラと会報入れを注文することにした。物販のお姉さんも「佐藤さんの団扇です」とリテンションがすごい。
結果として「佐藤さん」の団扇やプロマイドやらを、友人の忠告どおり持ってきておいた大きめの紙袋に入れて物販を出た。
「佐藤さん」の団扇がでかい。そして「佐藤さん」の眼力が強い。これは扇ぐためのものではなくて応援のためのグッズなのだ。確かに普通のサイズの団扇だとステージに立つアーティストからは見づらい。他のファンの邪魔にならずさない最大のバランスを図ったものなのであろう。
そしてペンラである。言葉がない。ただありがたい。今、家の仏壇的なエリアに一緒に飾ってある。
ペジ魂は、近々発売される円盤を以って聞くべきものである。
だが2つだけ、付言することが許されるのであれば、開始前の茶畑、五濁悪世のこの世に数少なき優しい世界であった。
そして、最後のしょりぽんのアクションは、可愛すぎて私の心から永遠に消えない。
帰りの道すがら、私は友人に言った。
「やっぱ、ライブいいわぁ...」
オペラやクラシックのコンサートは、いくらでも円盤になっているが、やはり舞台で聞くと、弦楽器の音の震えや歌手のブレスや間の取り方が空気を通じて感じられる。なかなかお高いため舞台に行けず、ブルーレイで済ますことも多いが、やはりその場で聞くのには敵わない。
ライブも要はそういうことである。
しかもライブの恐ろしいことはそれぞれの一回性がオペラ��りも高く、各地各回ごとにMCからパフォーマンスまで違う。
なんということだ。何度も通わなくてはいけないじゃないか。
かつての私は、朝起きてパンとサラダを食べて、昼は職場の近くに来るお弁当屋さん(たまにチキンライスのチキンに火が通っていない。チンすればいいだけの話だが)を食べ、夜はお腹が空かないためサラダを摘みながら���を飲む質素な生活を送っていた。
ぱっと見ヘルシーでマリのようなご飯メニューに見えるが、酒をとんでもなく煽るので真逆である。マリ様に日々の生活を提出しようものならお説教されそうである(それはそれでいい)。
職場のデスクは、執務資料と辞書、あと両親の写真ぐらいしか置いていない殺風景なものだったが、今ではからテンのMV撮影に臨むチビーズたちのかわいい写真が飾ってある。私は、上司たちに背を向けて座っているため、上司たちは私よりも寧ろ日に何度も麗しいちょりー、ソちゃん、マリの笑顔を拝んでいる。拝観料を取ってもいいのではなかろうか。
私は、多少BL漫画を読んで、多少酒を飲む以外、非常に慎ましい生活を送っていた。
たとえSexy Zoneの功徳を説けど、いくらなんでもセクラバになれば人生薔薇色などというつもりは毛頭ない(効能は強いが、危ない薬として取り締まられてしまうかもしれない。訴因、sexy)。
しかし、何回りも若い子たちから多くのことを学んでいるのは事実である。
1つ例を出したい。
私は年を経るごとに誕生日というものを記憶から抹消し、家族や友人からのメッセージでやっと誕生日を思い出した。家族たちに適当なお礼を伝えて仕事に戻り、案の定日付が越えた頃に帰宅すると、バースデーカードが届いていた。
第4の聞法である。
これは、個々人に届けられ、個々人が聞くべきものであって、私がここで解説すべきものではない。
唯だ1つ、私の変容を伝えることだけ許していただきたいが、私は己の行動を強く恥じた。そんな機会をくれたsexyたちに感謝の念を伝えたい。
人が喜びと苦しみの中(これを「度すること難しき海」、「難度海」に例えよう)でなんとか生きる中で、私の出会ったsexyたちは、そのものが我々を導く無礙の光明というよりも、彼らは、難度海をともに渡り、光明を探すものであるようにみえる。経に曰く
『今生まれたこの時代の中で、僕ら光さがしている』
余は如何にしてセクラバとなりし乎。
竊に以みれば、最初こそ彼らのかっこよさ、美しさに惹かれるも、段々彼らの語る言葉、行動に惹かれていく。彼らの紡ぎ出す言葉の一つ一つに、私は少なからず彼らの直面してきた労苦を見出すとともに、同時に彼らの偉大さを嘆ずる。
今日もまた、円盤やラジオ、会報、雑誌でsexyたちの言葉を聞く。
時々、「変態(笑)」と呼ばれかねない内容を私も投稿したり、ライブで声をあげたりする。
これ、愛しきsexyたちがsexyであり続けられるように、彼らの誓願が広く響き渡るように、祈り申し上げるものなり。
斯くして余はセクラバとなりき。
敬って白す🌹
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2ttf · 13 years ago
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see also How to Edit a Glyph that is not listed on iFontMaker
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maasayada · 6 years ago
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終わりをもてなす 昼、香、音
「僕の『思い』が『大蝋燭』のように整然と並んで/炎と燃えるまなざしで君を見守りつづけるのに君は気付くはずだ、/僕の全身全霊は君を慕い君に焦がれつづけるので/一切は『安息香』『薫香』『乳香』『没薬』と化って/真白な雪の高嶺、君が方へと絶え間なく/暴風雨もよいの僕の『精神』は氤氳となって登りつづける。」「五七 あるマドンナに」より抜粋
シャルル・ボードレール著(1953)『悪の華』堀口大學訳, 新潮社.
「香の留まりあり、あるいはたなびきをるをかをりといふ。香居るの意なるべし。自動の言葉には、かをるとなりて働き、他動にはかをすとなる。かをすは今用いらるることほとんど無けれど、『妹と我と入るさの山の山あららぎ、手なふれそ香をかをすがに、香をまさすがに』の催馬楽の歌あり。」「香談」より抜粋
幸田露伴著(1993)『露伴随筆集(下)言語篇』寺田透編, 岩波書店.
このところ、文を書くのが愉しくて仕方がない。それは以前と比べ、終わらせる力がついたからだ。
冬至、最も昼の短い日を過ぎて思い出すのは、十一月の頭にしていた昼夜逆転生活のこと。連夜の店舗施工。
以前は慣例で、深夜作業の翌日も13時には一旦出社していた。それがもっと柔軟に調整してよいことになり、他のお客を気にかけなければ、一週間ほどは27時頃仕事を終え、15時頃に出社する生活を続けられた。
すると体が動き出してから、明るいのは二時間程。毎晩異なる繁華街へ行き、ホテルに荷物を置いて、夕食に良い店を探す(当���飲めない)。22時頃職人さんと集合、入店して、同じ什器を設置、配線、実機のセッティング。そして現場ごとに何かしら起こるイレギュラー。
来た道をホテルへ戻りながら、あるいはタクシーで家路につきながら灯りを眺め、夜は猥雑ではあれ、昼よりはるかに単純だという結論に達する。夜更けに目覚めている者は同族だという、あの幻想はなぜ容易いのだろうか。そこにあるのは予定調和だ。望むままに進められすぎる。
もともと夜半に活気づく街の育ちだから、毎日の大半が慣れた水の中を泳ぐようだった。ある日もう耐えかねたのか体が、朝早く目覚めてしまい、出社前に正午の散歩に出ると、光が美しかった。仲間ではない人や物に会いたかった。
不純物まで照らし出すことこそ尊いという事実、そしてすぐそこに来ている日没。たかだか二十分の地下鉄に乗ってしまえば、次に地上に出たときには光もノイズも去っている。圧倒的な短さ。しかし基本的にはこの短さをもってしてしか、回復できない体。つまり短さは強制的に祝福で、それ自体が詩情のようにきらめいていた。
この日々に私は、表現にはある程度の長さが必要という思考を完���に脱した。同時に、なぜ表現には終わりがあるのか、生活には終わりがないのに。という古くからある問題を、もっと生活において短さを祝福すること、終わりを回避するのではなくもてなすことの方に寄せていけないのかと、考えるようになった。
生産性を上げるために短く切り上げる、タスクを細かく分解して何度も終わらせる≒達成と見做す。今はその程度のことしか言われていないように思う。
香道の体験会に参加したのは、アロマテラピーにより「背中の小説」の着想を得たものの、もう少し掘り下げる機会を探していたから。香料の名称を一時期よく読んだ記憶があって、辿ったところ、冒頭のボードレールだった。
仏文の講義のテキストで、香りを想起できないまま読み進んだあのとき、いつか想起できるようになってやると誓った気もする。アブサン、フランスの芸術家が好んだ強い蒸留酒を実際に飲んだとき、やはり嬉しかったのと同じように。 (ちなみにボードレールは香りにまつわる記述が本当に多くて、恋人の腋臭が好きだ、異国の海を思わせるから。みたいな詩もある。)
話を戻そう。聞香は新鮮だった。香炉を片方の掌に載せ、もう一方で覆うことで香りを溜めてから静かに鼻のほうへ逃がし、息を吐くときは香木を飛ばさぬよう顔を背ける。これを二、三回行うと次の参加者へ回すことになっていた。そもそも、思う存分嗅ぐことが形式から外されているのだ。
仏文出身の身には、遊ぶのならば人工の楽園。ではないが、強い香りと酔い。無時間。倦怠を超え、逃げ出すまで続く。といった世界なので、この短さは面白かった。しかしまた、香りをいつまでも感じられる能力は私たちに備わっておらず、数分で慣れて消えてしまうのだから合理的かも知れない。
伽羅二種と老山白檀を楽しませていただいたが、いずれもそれ自体上質なヴェールを数秒嗅いだ後で香りがもたらされる感じが要ではないかと思った。  安い香りはすぐに正体をあらわして蒸発する。 香りそのものを言葉で表現することに今は興味がないが、手前のヴェールの、きめ細やかなものが存在するとき撓められる空間の匂い。あれらによって二週間後の今も自分なりに再現することができている。
昼のきらめきを受け入れるのに夜に浸かる必要があったように、短さを,区切りを,終わりをもてなせる体はそれらを包み込むのではないか。包み込む表現に満ちているべきなのではないか、それは何なのか。
いつまでも感じられないのはある種の音も同じだ。最近ノイズキャンセリング・ヘッドホンを導入したけれど、外して数分しか聞こえない、空間に満ちた音がどんな場所にもある。慣れてしまうと、翻ってヘッドホンをつけ、今度は静寂に慣れてしまう。この繰り返しは、果たして驚き続ける鍛錬になるのだろうか。しばらく試してみたい。
最後にひとつ。オリヴァー・サックス(2014)『見てしまう人びと 幻覚の脳科学』大田直子訳, 早川書房. にはにおいの幻覚に触れた章がある。そもそも、想起なのか現実なのかが曖昧な領域であることがよく分かるのでおすすめ。
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bar-suke · 3 years ago
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Bar すけ 新しい子が仲間入りしました。 #島津薩摩切子×モンスターハンターライズとのコラボの作品で、薩摩切子タンブラー【マガイマガド】です。 中根櫻龜監修の「マガイマガド」を表現したタンブラー。 通常のルリ金赤とは少し違い、今回のコラボの為に特別に作られた貴重な色です。 鬼火をまとい圧倒的な強さを誇るマガイマガドを表現されており、目の前にいるかのような迫力あるこの子に是非、一狩りするお気持ちで会いに来ていただけたらと思います。 島津薩摩切子の商品や詳細、歴史などの情報はこちらから御覧になれますので、是非ご覧下さいませ。 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓ http://www.satsumakiriko.co.jp 今週も20時〜3時まで営業しております。 皆様の御来店、心よりお待ちしております。 ※感染防止の為、店内にナノコロイド施工、換気、空間除菌、入店されるお客様へのアルコール消毒のご協力をお願いしております。 #バーすけ #酒器と切子を愉しむ #Barすけ #すけ #バー #鹿児島 #天文館 #切子 #薩摩切子 #江戸切子 #天満切子 #焼酎 #錫 #日本酒 #ウィスキー #ワイン #落ち着いた空間 #接待 #仙巌園 #モンスターハンターライズ #モンハン #コラボ #中根櫻龜 #国内初の#酒器バー #kiriko #kagoshima #tenmonkan #bar ______________________________________ 【住所】 鹿児島市山之口町7-16柚木ビル2F 【営業時間】20時〜3時 【定休日】 木曜日 【電話番号】090-8102-4078 【ホームページ】https://suke.style ______________________________________ ・個室6席 ・カウンター6席 ・テーブル4席 (Bar すけ) https://www.instagram.com/p/CXBGvngPoM5/?utm_medium=tumblr
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saicopas · 6 years ago
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お茶のお稽古
人生で初めての畳の上でのお稽古。
私が勤めている会社の違うホテルの中に
素敵な和洋室があって(はじめて入った)
その中に茶釜があり、
それを沸かすところもあった(!)
部屋に入ると社長が準備をしてくださっていて
畳の上にはやさしい紫のお着物をお召しになった
お茶の先生。
佇まいがかっこよすぎる。
一瞬で私は先生のファンになった。
簡単に自己紹介をして、
お稽古が始まった。
はじめはお客様になってもらうわ、と
一緒にお茶のお稽古に来ていた同僚が点てたお茶を
いただくことになった。
一つ一つの動きに
「あなーた、それはそうじゃないわよ」と
言われている同僚。
自分もいつかそうなるのだろう。
そうもしているうちに
お皿に乗った色鮮やかな和菓子が回ってきた。
どれをとればいいのだろう・・・
とりあえず一番近くにあったものを
いただくことにした。
ボロボロボロ・・・・
社長に借りた楊枝を使って和菓子を
懐紙の上で小さくしようとしたけど、
うまくいかん!!!!!汗
「あなた、早速難しいお菓子に当たったわね。
器用な方?」
ーーーーーー「いえ💦全然器用ではありません!」
といったところで初っぱなから”難しいお菓子”に
当たってしまったわけだが、
なんとか綺麗にいただくことができた。
いよいよお茶が回ってくる。
びっくりしたのが、
毎日見ているお抹茶とは全然違う色であった。
おそらく証明や茶器の違いにもよると思うが、 
本当にキレーーーーーいな緑、新緑の緑であった。
いただいた後にお茶碗を拝見する。
誰の作品で、どこで作れられたものなのか、
お伺いし、お答えする。
”茶道” とは
自分が想像していた
”ただ畳の上でお茶を楽しむ”
というだけではなかった。
なんなんだ。素晴らしすぎる。
茶室にかけてあった掛け軸には
深のおじぎをして、敬意を払う。
掛け軸を描いた方はきちんと修行をしてきたから
だという。なるほど。
その後、香合(茶室に置かれるお香)と
和花・花器を拝見する。
この日は初めてということもあり、
お辞儀の仕方、手の置き方、歩き方を
教えていただいたが、
時間が余ったので特別に袱紗の捌き方も
教えてもらった。
もちろん今の仕事をするようになって
お茶ってこんなに美味しいのか!と
びっくりさせられることが多いが、
そもそも私は器も好きだし、お花も大好きだ。
うちの家系は来客が大好きだ。
父はホームパーティーに張り切り、
職場の人や近所の町内会の人たちを呼んでは、
お酒や地元長崎の美味しいお魚を囲み、
よく宴会を開いていた。
母はそれに応えるように、
お客様が喜ぶようにと
炊き込みご飯やお吸い物を用意したり、
私の友達が来るときには
キッシュを焼いてくれたりしていた。
うちのリビングには常に
お花があった。
”どんなに貧乏でもお花は飾りたいわよね〜”と
母が言っていたが、私もそう思う。
母は元気がない植物を
生き返させるのが得意な人だ。
それだけ聞くと、もののけ姫に出てきそう。笑
そんな家庭で育った私も、
上京したての時は会社の寮にお世話になっていたが、
今はやっと念願の一人暮らしができていて
お友達や先輩がうちに来てくれる時は
必ずお花を買ってきて花瓶に生ける。
おばあちゃんがお花の先生だったけれど、
私にセンスはあるまでもなく、
H&M homeのお気に入りのグレーの花瓶に生ける。
だけどお花は大好きだから
きてくれる友達のイメージにあった
お花を用意する。
うちの近くにお花やさんがあるのも
今の家に決めたポイントの一つだった。
”来客とのこの時間を大事に、
お茶をお出しして、空間でおもてなしする”
そう言った面では、
この茶室の中のコアにあることは、
私が私生活で好んでやっていることに
通じるものがある、と思った。
もちろん写真撮影は許されない。
自分の眼で愉しみ、
自分だけが愉しめるのだ。
SNSが発展している(しすぎている)時代だからこそ
あの先生が準備してくださったあの空間、
あの綺麗なお菓子、美しいお茶は、
つい写真を撮りたくなるほど素敵だった。
だけどここにあるものは誰にもシェアしない、
まさに自分たちだけが味わえるものなのだ。
茶室の中には素敵なものがたくさんある。
なんて贅沢なんだ!!!!!!
と初めてのお稽古にして、感動した。
そんなことを思いながらも
やはり体は正直で、
足の痺れが限界に来て
何度も足を崩させてもらった。
情けない・・・。
こんなに上品な雰囲気の中、
私一人だけ生まれたての子鹿のような
姿だったのは本当に恥ずかしい。
早速次のお稽古も
ラッキーなことにお休みだったので
参加させていただこうと思う。
母にお茶をはじめる、と言ったら
40年前の茶道の道具が送られてきた。
次のお稽古からこれを使おう。
あーとてもたのしみ!!!!
PS お稽古で出されなかった桜餅を帰りにお土産でいただいた。
帰宅後急須で入れたお茶といただいたが、
これが惚れ惚れするぐらい美味しかった。
ちょっとずつ桜餅を食べて、
二煎目までいただいた。
あぁ、日本人でよかった。
そう虚ろ虚ろまどろんだ
夜���明けの夜であった。
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