#三重野広帆
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titosuzu · 2 years ago
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第3回SAITAMAなんとか映画祭 コンペティション 昨年はオンライン鑑賞でしたが 今年は第1回に続いて会場で鑑賞。 #山口晃三朗 監督『 #家族めし』 #三澤拓哉 監督『 #キャンセル兄ちゃん』 #峯岸パイン 監督『 #chopchopchop』 #鹿野洋平 監督『 #つくもさん』 #廣田耕平 監督『 #今、ここで』 #三重野広帆 監督『 #NEWGENERATION/新世代』 #田中亮丞 監督『 #徒歩1分のコス』 #岡本崇 監督『 #君の僕の詩』 #伊藤啓太 監督『 #グッドボタン』 3プロックに分けて全作9作品。 グランプリは #鹿野洋平 監督『 #つくもさん』 準グランプリは #山口晃三朗 監督『 #家族めし』 俳優賞は  #三重野広帆 監督『 #NEW GENERATION/新世代』 #日中泰景 さん! もう1人?2人の俳優賞は  #岡本崇 監督『 #君の僕の詩』の #田中珠里 さん #ぽてさらちゃん さん! 2人の演技があったからの観客賞でした! 本当に 小さな映画祭ですが入選作品はどれも質の高い作品ばかり!また来���も楽しみです! https://www.instagram.com/p/CpfYkN7PSAw/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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ari0921 · 3 months ago
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
  令和六年(2024年)10月29日(火曜日)弐
    通巻第8480号
中国の『国防七大学』OBが中国軍のなかに新派閥形成
  台頭する理工系エンジニアのテクノクラート集団
*************************
 中国の『国防七大学』とは北京航空航天大学, 北京理工大学, 南京航空航天大学, 南京理工大学, 西北工業大学,哈爾浜工業大学、哈爾浜工程大学をさす。
米国はこれら七校が中国の軍需産業と密接に結びついているため、交流を禁止しているが、日本の大学のなかには相変わらず、無頓着に交流し技術提携関係を持続している。
日本の国公私立大学計45校が、中国人民解放軍と関係があり、軍事関連技術研究を行う国防七大学と大学間交流協定を結んでいる。しかも9校は共同研究の実績がある。
 これら七校の出身者が、最近、軍エリートとして新興の派閥を形成している。
 習近平は最近しきりに「軍民融合」というタームを使う。そのうえ19回党大会のあと、「軍産幹部」をつぎつぎと上位に昇進させており、2022年の第20回党大会以降は、副大臣クラスで「軍産エリート」たちの存在感が高まっている。まさしく中国共産党内の潜在的な新興派閥である。
 トウ小平はベトナム懲罰戦争を仕掛けたが、ボロ負けした。階級章が曖昧で、命令系統がわからず、武器は旧式だった。にもかかわらずトウ小平があえて戦争を仕掛けてた理由は、戦争に打って出ることで軍をトウ小平主導のもとに整合させるという隠された目的があった。
 以後、しゃかりきとなって推進したのが『軍の近代化』だった。ハイテク武器の開発、軍の効率的運営、海軍の充実。そして地方軍閥をなくし、軍のシステムを総政治部、総参謀部、総装備部、総後勤務部の四つにはっきりと統合した上で、陸海空の三軍と七大軍管区にわけ分割統治を謀った。
 「中国海軍の父」といわれたのが劉華清だった。彼は党小平の信任厚く、人民解放軍海軍司令員(司令官)、第14期中国共産党中央政治局常務委員、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを務めた。最終階級は上将。
 江沢民は軍歴もなく軍人のだれもがせせら笑っていた。なぜこんなエンジニア出身の党官僚が軍に命令する権利を持つのか、と憤懣やるかたがなかった。そこで江沢民は懐柔策にでて軍人のアルバイトを黙認し、江沢民に忠誠を誓う胡麻擂り軍人にばんばんと上将(大将)辞令を乱発し、手なづけた。よって軍は腐敗した。
 習近平は、おそるおそると軍の改革に手をつけ四大総部体制を掻きあらして十五の局として再編、ついで七大軍管区を五大戦区に転換した。
さらにロケット戦略軍を新設し、理工系エンジニアを大量に採用し、ハイテク兵器の開発功労軍人を矢継ぎ早に昇格人事をおこなった。宇宙航空関連の軍人が、軍内でエリートと見做されるようになった。
ということは並みの軍事訓練をうけてきた兵隊からすれば体力も戦闘経験もない頭でっかちが、軍エリーとなっていくことに強い反発と嫉妬、怨念を抱いた。
 ▼とはいえ、国防軍事産業は閉鎖的社会である 
 新派閥は理工系、数学とコンピュータに強い教育的背景と防衛産業の運営モデルを通じて人間関係のネットワークが形成され、相互信頼、ならびに同質性が育まれる可能性が高いため、結束力が異様に強い派閥となった。
 コンピュータの軍事エリートが世界最大のハッカー軍団を取り仕切っていると推測される。
この『軍産エリート集団』は共産党中央委員会のなかに独自の軍産複合体閥を形成し、幹部が資源配分、政策立案、規制、現地調整、意見伝達などで重要な役割を担い、防衛産業の発展を統括している。
2024年6月には黄強(元国防科学技術委員会書記長、国防科学技術局副局長)が吉林省党委書記に任命された。異例の出世である。遼寧省の赫鵬、黒龍江省の徐勤と並んで、中国東北部の主要軍事産業基地の省党委書記3人全員が防衛産業出身者となったのだ。
 習近平氏は近防衛産業の発展と拡充を強く支援して��り、防衛産業出身の幹部昇用が目立つことは述べたが、これら新エリートのほとんどは国防七大学を卒業している。
 しかし基本的な特質を述べれば、中国の防衛産業は閉鎖的な社会で、より広範な官僚制度を特徴付ける「ブロック論理」(日本で言うところの「省益」は防衛産業にも存在し、研究開発は特定の防衛企業または研究部門に限定される。セクト主義だ。
さはさりながら共産党のピラミッドの頂点である中央委員会メンバーのうち、防衛産業出身者は21��となった。第20期中央委員会では、劉国忠、張国清両副首相、馬星瑞新疆ウイグル自治区党書記、袁家軍重慶市党書記の4名が政治局に昇進した。習近平をのぞく政治局23名のうち、軍エリートは四名である。
 国務院人事をみても、多くの省庁が軍産関係者を重要な役職に据えている。
20期中央委員会では、国務院内の軍産資源や関連産業部門を実効管理する人物として、張国清副首相(工業担当)と劉国忠副首相、呉正龍国務委員、金荘龍工業情報化部長、懐金鵬教育部長などがいる。
 地方レベルでも21人の軍産幹部が14の省、直轄市、自治区で党書記または省長を務めた。
就中、東北三省である。遼寧省、吉林省、黒竜江省の重工業地帯は、ずばり日本の満州国建設時代に鉄鋼、造船、機械工業を育成発展させて基盤がある。
この三省が中国軍事産業にとって不可欠な研究企業や研究所の本拠地である。例えば、黒龍江省にはハルビン航空機工業集団(HAIG)、遼寧省には大連造船工業集団(DSIC)、ついでにいえば陝西省には中国航天科技集団(CASC)の第四研究所と第六研究所がある。
 中央委員会の軍産関係者の人脈を分析すると、多くが学歴や職歴を共有していることも分かる。学閥もまた習近平が清華大学閥を形成しているように中国の人脈地図に於いて重要である。
全国人民代表大会副主席の張清偉がこのネットワークの中心人物とされる。張清偉は航空宇宙分野で長いキャリアを積んできた。このため、航空宇宙分野の役人のほとんどつながりを持つ。重慶市の袁家軍・党書記、新疆ウイグル自治区党書記の馬興鋭、中央軍民融合弁公室の雷帆培副主任、工業情報化部長の金荘龍は副官を務めたことがある。
もう1人の中心人物は、副首相の張国清だろう。国務委員の呉正龍と陝西省長の趙剛は、一緒に仕事をした経験があり、張と呉は2013年から2014年まで中国共産党重慶市委員会で一緒に働いていた。
ただし中国共産党の最高機関である政治局常務委員に昇格した軍産関係者はいない。党の活動歴がな��うえ、習近平のとの個人的な絆が薄いからだ。
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kennak · 10 months ago
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世界有数のカルデラが生み出した特徴的な眺望で知られ、「阿蘇くじゅう国立公園」も広がる熊本県の阿蘇地域一帯に、大規模な太陽光発電所が次々に出現している。全国の国立公園でも急増しており、環境省は開発に一定の歯止めをかけなければ景観に悪影響を及ぼす恐れがあると判断。同公園については今年度中に区域を拡張するとともに、規制も強化したい考えだ。(帆足英夫、矢野恵祐)九州最大級草原だった地に広がるソーラーパネル(昨年12月、熊本県山都町で)=長野浩一撮影 阿蘇南部に位置する山都町。黒光りするソーラーパネルが草原を覆う。東京の再生可能エネルギー大手が手がけた発電所で、隣接する高森町を含む面積は福岡ペイペイドーム(福岡市)約27個分の約191ヘクタール。出力は九州最大級を誇る。  山都町の土地はかつて、住民でつくる冬野牧野組合の組合員26人が共同所有する牛の放牧地だった。元組合長の森田勝さん(70)は「維持に必要な野焼きを10年ほど前にやめたことで草原が荒れ果て、売る道しか残されていなかった」と振り返る。高齢化や後継者不足に悩んでいた同組合による売却話には、10を超える太陽光発電事業者から問い合わせがあったという。 草をはむ牛の姿は失われ、地元では「異様な光景で、『阿蘇』のイメージを損なっているのではないかと心配だ」という声も漏れる。だが、森田さんは「皆で話し合ったことで後悔はしていない。『草原を守れ』というのであれば、維持管理の責任を組合だけに負わせる仕組みを変えるべきだ」と訴える。 同社は環境保全策として、〈1〉外周に樹林帯を設ける〈2〉電柱には景観に溶け込む色を使う――といった取り組みを挙げた上で、「住民説明会や見学会を実施し、事業に理解をいただいて推進している」などとしている。「特別地域」 熊本県によると、阿蘇地域には昨年11月末現在、売電を主な目的とする出力1メガ・ワット以上の太陽光発電所が20か所、山都町には6か所ある。牛を放牧する草原などを指し、特有の景観を形づくってきた「牧野」は約2万2000ヘクタールに上るが、県は牧野を開発してできた施設の数を把握しておらず、失われた面積もわかっていない。 熊本、大分両県にまたがる阿蘇くじゅう国立公園(約7万3000ヘクタール)内は自然公園法に基づいて開発を抑制できるが、公園外では一定の要件を満たせば、県から林地開発の許可を得るだけで設置できるという。 環境省は公園の区域を広げ、太陽光発電施設を設置できないようにより厳しく制限する「特別地域」を増やすことを検討中だ。同公園管理事務所(阿蘇市)は「スピード感をもって取り組みたい」とする。世界遺産懸念 阿蘇の世界遺産登録を目指す県も、手をこまねいているわけではない。 県が周辺7市町村とつくる協議会は2020年、「発電所で眺望を著しく傷つけることがあってはならない」とする宣言を採択。「草原には原則として設置しない」とする指針も策定したが、法的な拘束力はない。市町村側からは「効果は未知数だ」との懸念が根強い。 23年9月には太陽光発電施設を誘致する際の目安となる基準を新たに設け、阿蘇地域の中央部を「除外すべき区域」に指定した。市町村側は発電所の開発を誘導する区域を設定できるようになるという。県は「自然環境や景観への影響に県民の懸念が高まっている」として、景観を損なう恐れがある場所を示す地図を公表。県エネルギー政策課は「環境保全と再生可能エネルギーの発展のバランスが重要で、開発の適地に誘導することが必要だ」とする。全国でも 再エネの普及・促進の動きに後押しされ、北海道の釧路湿原や三重県の伊勢志摩などの国立公園一帯でも、大規模な太陽光発電所の建設が相次ぐ。自然や希少動植物に与える影響を不安視する声も高まっている。 環境省によると、全国の国立公園内にある太陽光発電施設は、14年2月末時点で26件(うち出力1メガ・ワット以上のメガソーラーは6件)だったが、23年3月末には129件(同9件)とこの10年で5倍に増えた。メガソーラー9件のうち、6件が阿蘇くじゅう国立公園に集中している。国立公園の中に住宅や田畑が広がる民有地も多く含まれているため、開発を一律に規制することは難しいという。
阿蘇の景観覆うパネル、メガソーラー続々…環境省が規制強化へ : 読売新聞
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tanakadntt · 2 years ago
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グッズのマリン三輪隊の話(二次創作)
あなたの詠唱はどこから?
 三輪秀次はビリジアングリーンの毛先を持つデッキブラシをぐるりと回して、コツンと甲板に突き刺した。風がデッキを渡り、身につけたセーラー服の襟がふわりと浮いて首を包む。腰の金ボタンが僅かに震え、陽光を反射し、古寺が一瞬目を瞑った。
 『詠唱』が始まる。
 しかし、その詠唱はお粗末なものだった。
「……世界を繋ぐ青い空‼ えーと、希望の空から降り注ぐおひさまのシャワー‼ ……んん、きらめくソード‼ キュア…」
「違います!」
「違う!」
「違うってよ〜」
「違うのか?」
 隊員たちからすぐさまダメ出しされ、隊長は詠唱を途中で遮られたことに不服のようだ。
「それは詠唱じゃないな」
 奈良坂は手旗をバツ印に重ねながら言う。こちらもセーラー姿��。本日、三輪隊は嵐山隊他と一緒に広報の撮影に来ている。メインはやはり嵐山隊で、三輪隊も「他」に入る部類なので待ち時間が多い。
 スタジオ撮影ではない。わざわざ海近くの公園まで来て、観光用に係留されている帆船を借りての野外撮影だ。そんな場所だから、隊服の撮影ではない。隊それぞれに衣装が用意されている。マリンを意識した、水兵服風だ。
 そういうのは、広報部隊だけでいいだろうと思う人間は結構いるはずだが、どうしても必要だから、とメディア広報室長の根付から、ではなく、営業部長の唐澤に爽やかに笑ってポンと肩に手を置かれると誰も断れない。三輪も同様だった。
 時期を違えて、他の隊でも撮っていると聞けば尚更だった。
「さっきから何をやっている」
 やはり撮影待ちの風間が船底からデッキに出てくる。隣には緑川もいる。嵐山隊他の「他」の仲間はこの風間蒼也と緑川駿で、なぜこの二人が隊ではなく、それぞれ呼ばれたのかは唐澤にしかわからない。
 風間は蒼也の蒼にちなんでブルーの、緑川は緑にちなんでグリーンのセーラー服を支給されている。三輪隊は隊服カラーの紫だ。皆、まったく一緒という訳でなく、少しづつ違っている。
 そのことに言及すると、奈良坂から何を当たり前のことを?と言いたげな視線を送られたので黙った。
例えば、緑川と風間のセーラー服は造りはほぼ一緒と言えるが、色はもちろん、金ボタンの位置やズボンのデザインが違う。さらに風間はつばを深く折ったような帽子を被っていた。セーラーハットというそのままの名前の帽子らしい。一方、緑川は縁にリボンの付いたベレー帽だ。彼の衣装は横ボーダーのインナーと短い丈のセーラージャケットで、両襟をアクセサリーで留め、まるでアイドルのようだった。
「先輩たち、暇だから遊んでるんでしょ」
 中学生に訳知り顔に指摘されて赤面する。尊敬する風間の前で言われるのも恥ずかしい。しかも、図星だった。
「棒が二本あるだろ? だから、オレが槍の使い方を教えてたんだけど、スタッフさんに危ないって怒られてさあ」
 米屋陽介が説明する。
「陽介、棒じゃなくてデッキブラシだ」
「棒だろ」
 デッキブラシは撮影の小道具で三輪と古寺のふたりがブラシ係だ。奈良坂は旗係で、二本の旗を持たされている。気に入っているようでずっと持っていた。米屋は何故か皮袋だ。デッキブラシを持たせても槍にしか見えないと思われたのだろう。ネクタイも腰に引っ掛けていて、休日に出かける船乗りという設定なの��、ラフな感じがよく似合っていた。
「それで、この棒を槍じゃなくて杖ってことにして、詠唱ごっこしてた」
「詠唱?」
 風間が首を傾げる。三輪が横から説明する。
「魔法使いが杖を使って呪文を唱えるじゃないですか?」
「ああ」
「最初は適当な呪文を言ってたんですが、今度は何かを召喚してみようって話になって」
「召喚?」
 緑川が面白そう、と言っている横で さらに風間が首を傾げる。三輪は申し訳なくなってきた。元々、考えついたのは三輪ではなかったから説明もしづらい。今度は奈良坂が助け舟を出す。
「魔法使いのごっこ遊びみたいなものです。魔法で精霊を呼び出す呪文を、一番それっぽく言えた奴の勝ちというルールです」
 奈良坂は進学校の学生らしく説明が上手い。しかし、明快に言語化するとますますやっていることのバカっぽさが際立った。
「それで三輪先輩ダメ出しされてたのかぁ」
 緑川がニヤニヤする。
「……」
 彼は迅以外には大体こんな感じだから三輪も気にしないことにしている。
「三輪は全然ダメだった」
「……」
 それには反論しようもない。三輪が魔法と聞いて連想するのは、昔、姉と観ていた魔法で変身する女児向けアニメしかない。
「今度は奈良坂がやってみろよ」
米屋が言った。
「ああ」
 コホンと奈良坂は咳払いをして、旗を上に構えた。デッキブラシではなく、こちらにするらしい。奈良坂の衣装はダブル六つボタンの付いたジャケットのようになっていて、カチッとした印象だった。
 長い腕で、二本の掲げた旗をくるり回すと舞踊を見ているかのようだ。奈良坂の詠唱は短かった。
「エクスペクト・パトローナム!」
「へ? 短くね?」
 ハリーポッターに全く興味のない米屋が無表情になる。元々、目に感情が入らないから少し怖い。
「守護霊生成ですから召喚とはちょっと違うかと」
 古寺が遠慮なく指摘する。
「ダメか」
「精進しろ」
 風間もわからないながらも審査に参加する気になったらしい。
「はーい、次オレ〜」
「よねやん先輩、頑張って」
 三輪からデッキブラシを渡され 嬉しそうにひと振りする。ぶんと勢いよく、棒がしなった。槍にしか見えない。彼の上着もジャケット仕立てで、奈良坂と違うところはシングルボタンである。大きく開いた上着から青の縞模様を見せている。足元はビーチサンダルで裸足同然だ。
 彼は魔法、魔法だよなあと呟いた。
「陽介、ちちんぷいとかじゃあダメだからな」
「と、思うじゃん?」
 米屋はニヤリと笑って、デッキブラシの柄でカンッと床を叩いた。そのまま、柄を丸く滑らせていく。
「魔法陣グルグル トカゲのし…」
「パクリでしょう!」
 また古寺が突っ込む。弟が二人もいて、少年漫画に詳しいのは彼しかいないのだ。
「そういえば、作戦室で観てましたね」
「テストで誰もバトってくれねえんだもん」
「勉強しろ」
「よねやん先輩かっこ悪い」
「ちぇー、奈良坂はパクリじゃねえのかよ」
「おれが許します」
「贔屓ィ」
 古寺は咳払いだけして無視する。
「じゃあ、次は古寺だな」
 風間は冷静に順番を数えた。
「はい、風間さん」
 途端に古寺が自信のなさそうな表情をする。三輪は「がんばれ」と励ました。
 後輩はデッキブラシを三輪から受け取って、杖を握り横に構える。目を閉じる。他の隊員たちよりひとつ下の年齢を意識してか、かわいいデザインになっていた。サスペンダーをし、ネクタイもリボンのように結んでいる。靴も軽快なスニーカーだ。
 しかし、その時、周りの者には風にはためく不吉な黒いマントの幻想が見えた。
「原初の時空に彷徨う白き者よ、我が誓願を聴きたもう。我が名を持ってここに顕現せよ。我は古寺章平、黄昏の支配者にしてこの地の放浪者なり」
 みんなポカンとしていた。
「これより一切の慈悲なく我が敵を殲滅よ!」
「ハーイ、カットぉー、木虎ちゃんお疲れ様ぁ」
 向こうから嵐山隊と撮影スタッフの声が聞こえる。
「えーと、終わりました」
 デッキブラシのブラシ部分を床に下ろして、こちらを見る。いつもの古寺だ。
「なんで、そんな本格的な……」
 三輪がうめくと、メガネの縁に手をかける。
「弟とやるカードゲームによく出てくるんで覚えちゃいました」
 絶対に読み上げなければいけないルールで、と付け加える。
「スゲエよ」
 と、米屋。
「カッコイイ、古寺先輩」
「お前が優勝だな」
 奈良坂は旗をパタパタと振った。
 風間もウムとうなづく。
 頃合いよく、スタッフから声がかかる。
「そろそろ撮影に入りまーす」
「ハーイ」
終わり
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lvdbbooks · 2 years ago
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【イベント出店のご案内】
2023年5月27日(土)・5月28日(日)
「第10回 BOOK DAY とやま」
時間:10〜18時
会場:富山駅構内南北自由通路
主催:BOOK DAY とやま実行委員会
共催:富山市、富山県古書籍商組合
*イベント出店に伴い5月26日(金)〜29日(月)の期間は店舗の営業を休業いたします。
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2013年から始まった「BOOK DAY とやま」。今年で、なんと10年目で10回目!!! 今年も、富山駅を会場に、5月27日(土)〜5月28日(日)の2日間開催いたします! そんな節目のブックデイは、北陸の古書店はもちろん、東海、関西などの県外の古書店もいつにも増して大集結! 新刊書店、リトルプレス、そしてレコード店もそろい、富山駅が、古本とレコードで埋め尽くされる2日間!
▼古本・新刊・リトルプレス 【大阪】 矢野書房 矢野書房天満橋店 ハモニカ古書店 SUS~くらしと本のみせ スウス~ LVDB BOOKS 【兵庫】 1003 古本屋ワールドエンズ・ガーデン 【京都】 古書ダンデライオン 空き瓶books 古書思いの外 開風社 待賢ブックセンター 【愛知】 ON READING (28日のみ) 【三重】 古本屋ぽらん 【岐阜】 徒然舎 【滋賀】 半月舎 【長野】 じゃらん亭 【東京】 甘夏書店 【石川】 一誠堂能瀬書店 近八書房 古本一刻館 ビートマニア 髙橋麻帆書店 古本LOGOS オヨヨ書林 【富山】 キャロット ブック・スピカ 書肆月影 古本ブックエンド ひらすま書房 古本なるや 古書さいとう デフォー コメ書房 古本いるふ スピニー ピストン藤井(27日のみ)
▼レコード ディスク・ビート TOKEI RECORDS
▼DJ LOVEBUZZ
▼似顔絵 堀道広
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nekotubuyaki-blog-blog · 1 month ago
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2024年の「おっ!」と思った本を思いつくままに(相当なもれはあるけれど)
2024年の「おっ!」と思った本を思いつくままに(相当なもれはあるけれど)
『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』(マリー・ルイーゼ・カシュニッツ著/酒寄進一訳/装画:村上早/装幀:岡本歌織/東京創元社/Kindle版) 『いずれすべては海の中に』(サラ・ピンスカー著/市田泉訳/竹書房文庫/Kindle版) 『11の物語』(パトリシア・ハイスミス著/小倉多加志訳/ハヤカワ・ミステリ文庫/Kindle版) 『失われたものたちの本〈失われたものたちの本〉シリーズ』(ジョン・コナリー著/田内志文訳/創元推理文庫/Kindle版) 『カモメに飛ぶことを教えた猫』(ルイス・セブルベダ著/河野万里子訳/白水uブックス/Kindle版) 『大いなる眠り 新訳版』(レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/ハヤカワ・ミステリ文庫/Kindle版) 『P+D BOOKS 夜風の縺れ』(色川武大著/『夜風の縺れ』解題:木下弦/P+D BOOKS/小学館/‪Kindle版)‬ 『恐婚』(色川武大著/文春ウェブ文庫/文藝春秋/Kindle版) 『友は野末に─九つの短編─』(色川武大著/対談:嵐山光三郎/インタビュー:色川孝子/あとがき:色川孝子/新潮社/Kindle版) 『遠景・雀・復活 色川武大短篇集』(色川武大著/講談社文芸文庫/Kindle版) 『百』(色川武大著/川村二郎解説/新潮文庫/Kindle版) 『小さな部屋│明日泣く』(色川武大著/内藤誠解説/講談社文芸文庫) 『後藤明生・電子書籍コレクション 挟み撃ち』(後藤明生著/アーリーバード・ブックス/Kindle版) 『しあわせの理由』(グレッグ・イーガン著/山岸真編、訳/ハヤカワ文庫SF/Kindle版) 『祈りの海』(グレッグ・イーガン著/山岸真編、訳/ハヤカワ文庫SF/Kindle版) 『ひとりっ子』(グレッグ・イーガン著/山岸真編、訳/早川書房/Kindle版 『モナリザ・オーヴァドライヴ』(ウィリアム・ギブスン著/黒丸尚訳/ハヤカワSF文庫/早川書房/Kindle版) 『カウント・ゼロ』(ウィリアム・ギブスン著/黒丸尚訳/ハヤカワSF文庫/早川書房/Kindle版) 『ニューロマンサー』(ウィリアム・ギブスン著/黒丸尚訳/ハヤカワSF文庫/早川書房/Kindle版) 『ソラリス』(スタニスワフ・レム著/沼野充義訳/扉デザイン:岩郷重力+N.S/ハヤカワ文庫SF/Kindle版) 『来世の記憶』(藤野可織著/装画:濱愛子/装丁:名久井直子/角川書店/Kindle版) 『ピエタとトランジ<完全版>』(藤野可織著/挿絵:松本次郎/講談社/Kindle版) 『青木きららのちょっとした冒険』(藤野可織著/講談社/Kindle版) 『芸者小夏』(舟橋聖一著/講談社文芸文庫/Kindle版) 『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(川本直著/装幀:坂野公一+吉田友美+島﨑肇則(welle design)/装画:TANAKA AZUSA/河出書房新社) 『好色五人女』(井原西鶴著/田中貴子訳、解説/装画:望月通陽/光文社古典新訳文庫/Kindle版) 『アルマジロの手─宇能鴻一郎傑作短編集─』(宇能鴻一郎著/鵜飼哲夫解説/カバー装画:九鬼匡規「吸血娘 陰 晒」/新潮文庫/Kindle版) 『姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集』(宇能鴻一郎著/篠田��子解説/新潮文庫/Kindle版) 『私説聊斎志異』(安岡章太郎著/講談社文芸文庫/Kindle版) 『水車小屋のネネ』(津村記久子著/イラスト:北澤平祐/装幀:中嶋香織/毎日新聞出版/Kindle版) 『ベートーヴェン捏造』(かげはら史帆著/カバーイラスト・章扉イラスト:芳崎せいむ/柏書房/Kindle版) 『沢蟹まけると意志の力』(佐藤哲也著/Tamanoir/Kindle版) 『人喰い⭐︎頭の体操』(深掘骨著/表紙デザイン・ファイル作成:甲田イルミ/惑星と口笛ブックス/Kindle版) 『世紀末探偵神話 コズミック』(清涼院流水著/本文デザイン:熊谷博人/扉作成:小石沢昌宏/梗概構成:みずさわなぎさ/講談社/Kindle版) 『富士日記 上中下合本 新版』(武田百合子著/巻末エッセイ:武田泰淳、大岡昇平、しまおまほ、武田花/中公文庫/Kindle版)『西荻随筆』(坂口安吾著/青空文庫/Kindle版) 『鮎の宿』(阿川弘之著/講談社文芸文庫/Kindle版) 『春の華客/旅恋い 山川方夫名作選』(山川方夫著/川本三郎解説/年譜・「人と作品」坂上弘/講談社文芸文庫/Kindle版) 『P+D BOOKS 緑色のバス』(小沼丹著/小学館/Kindle版) 『ミス・ダニエルズの追想』(小沼丹著/巻末エッセイ:大島一彦/装幀:緒方修一/幻戯書房/銀河叢書) 『タマや』(金井美恵子著/講談社文庫) 『陽だまりの果て』(大濱普美子著/装画:武田史子「温室の図書館」(エッチング、アクアチント、二〇一七年)/装丁:大久保伸子/国書刊行会/Kindle版) 『まだ、うまく眠れない』(石田月美著/カバー画:beco+81/デザイン:観野良太/文春e-book/文藝春秋/Kindle版) 『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(藤永茂著/ちくま学芸文庫/筑摩eブックス/Kindle版) 『何かが空を飛んでいる』(稲生平太郎著/国書刊行会/Kindle版) 『バッタを倒すぜ アフリカで』(前野 ウルド 浩太郎著/装幀:アラン・チャン/光文社新書/Kindle版) 『美術の物語 ポケット版』(エルンスト・H・ゴンブリッチ著/田中正之著/天野衛、大西広、奥野皐、桐山宣雄、長谷川宏、長谷川摂子、林道郎、宮腰直人訳/河出書房新社) 『人間臨終図巻 上下巻』(山田風太郎著/徳間書店) 『世界神秘学事典』(荒俣宏編/平河出版社) 『地衣類、ミニマルな抵抗』(ヴァンサン・ゾンカ著/宮林寛訳/まえがき、カバー写真:大村嘉人/序文:エマヌエーレ・コ��チャ/みすず書房) 図録『特別展 はにわ』(東京国立博��館、九州国立博物館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社編集) 図録『特別展「鳥 〜ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統〜」』(日本経済新聞社、日経サイエンス編集) 『バーナード嬢曰く 1-7巻』(施川ユウキ著/一迅社/電子書籍版) 『映像研には手を出すな!1-9』(大童澄瞳著/ビッグコミックス/小学館) 『志村貴子短編集 まじわる中央感情線』(志村貴子著/河出書房新社/電子書籍版) 『青い花 全8巻』(志村貴子著/太田出版) 『放浪息子 全15巻』(志村貴子著/エンターブレイン) 『サードガール 全8巻』(西村しのぶ著/小池書院) 『ファミリー! 全11巻』(渡辺多恵子著/フラワーコミックス/小学館/電子書籍版) 『一級建築士矩子の設計思考1-3』(鬼ノ仁著/日本文芸社/電子書籍版) 『えをかくふたり1 DRAWING BUDDY』(中村一般著/ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル/小学館/電子書籍版)
注)一部、再読を含みます
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geidaicomposition · 3 months ago
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2024年度 木曜コンサート
【日時】 2024年10月31日(木) 開演:14時(開場:13時)
【会場】 台東区立旧東京音楽学校奏楽堂(重要文化財)
【入場料】 500円
※ チケット購入は事前予約が必要です。 予約についての詳細は旧奏楽堂HPをご覧ください。(予定枚数に達した時点で予約受付を終了します。)
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【プログラム】(演奏順未定)
1. 浦山翔太:《門》
Cond. 伊藤心 A Fl. 菊地奏絵 Cel. 天野由唯 Mezzo. 下田一葉 十七弦箏 吉越大誠 Vla. 衛藤理子
2. 越川廉:《シグマkイコール1から5、(2kマイナス1)パイ分のサイン(2kマイナス1)t》
Cond. 福留音央 Vln. 野坂梨帆 Alto 芹口りの B Trb. 青栁賢 Timp. 松下真奈 Vib. 小山真輝 Harp 三河 茉莉絵
3. 畠山春朗:《神降》
Cond. 福留音央 Pf. 本堂峻哉 Vln. 1st 大久保薫子 Vln. 2nd 佐藤文香 Vla. 田口桜子 Vlc. 山本光心 D.B. 水野斗希
4. 松井啓真:《「星形成領域」弦楽四重奏のための》
Cond. 伊東新之助 Vln. 1st 清水伶香 Vln. 2nd 平井美羽 Vla. 衛藤理子 Vlc. 原宗史
5. 森口達也:《樹海~6人の奏者のための》
Cond. 西村広幸 Fl. 西谷あゆみ Cl. 石田理雄 Trp. 田内遥音 Perc.1 種子田真央 Perc.2 松本源示 Cb. 丸地郁海
6. 渡邉杏花里:《ニグレド》
Cond. 伊東新之助 Tp. 藤田サーレム Trb. 吉澤大志 Org. 牧真人 Perc. 本間達也 Vn. 野坂梨帆 Cb. 村本和毅
※日時・内容は変更になる場合がありますので、ご了承ください。  未就学児の入場はご遠慮ください。
【主催】公益財団法人 台東区芸術文化財団 東京藝術大学音楽学部
【後援】台東区
【協賛】鰻割烹 伊豆榮
【お問い合わせ】旧東京音楽学校奏楽堂 03-3824-1988
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hachikenyakaiwai · 10 months ago
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【かいわいの時】明治二十七年(1894)4月12日:みおつくし、市章となる。
▼澪標の意味 類聚国史云 難波江始建澪標 澪ハ水ノ深サヲ云 標ハ印シノ木也 (A)
▼澪標の管理 摂津国衙(平安時代):難波津の澪標:最後の遣唐使船が承和4年(837)に難波津を発った。しかし、その後も平安京への玄関口として難波津の役割が重視された。延喜5年(927)に撰上された「延喜式」には「凡難波津頭海中立澪標 若有旧標朽折者捜求抜去」(およそ難波津頭の海中に澪標を立てよ。もし朽ちたり折れたりした古い澪標があれば探し出して抜き取れ)とあるから、摂津国衙は常に淀川河口における澪標を整えておかなければならなかった。(B)
大坂町奉行(江戸時代):近世町奉行の覚書:大坂町奉行の公務覚書である「川方地対卸用覚書」(正徳年間~元文3 年く1711~38>) に「両川口水尾木数・同建樣」があり、安治川・木津川の両川口に120間の幅、80間の間隔で、沖から1番~10番まで水尾木(杭木)を立てたという記事がある。また、元文3年2月10日の干潮時に水尾木の水深を測ると安治川口で1.45~0.67m、木津川口で1.15~0.64mで、あった。それで廻船の出入りは滞ることはないが大船は潮時を考えて往来せよとあった。(B)
▼澪標のスペック(江戸時代) 一の洲の沖にあるを大一番とし次第に上へ二番三番とつづけ都合十番ニいたる。これを俗に棒木と云即水尾木水尾串なり。其木の長さ六尋余り志かれども半ハ水に入且洋中の広大なるがゆへに爾あらんとハ覚へず。扨また一番の所をさして一の洲と号し此所にある水尾木ハ他に異にして上に志るし木あり。其形鱗魚の尾に似たれバ俗にこれを鯖の尾といへり。是浪花第一の景物なり。此修理料廻船問屋船持仲間の課役たり。(A)。六尋(=36尺)≒10.9m。鐘成は「それほど大きくない」とゆうておりますが、明治時代の絵画史料(写真)を見ると、かなりでかかったことがわかります。
▼澪標のリサイクル商品(江戸時代) 右澪標の古木を以て作る所の雅器品々左ニ記す ○短冊懸○枝折○香合○菓子盆○楊枝○手代板。これらは、暁鐘成が心斎橋通博労町に営んだ土産物屋「鹿廼屋」で、「浪花御土産」と称して販売していた珍品類の一つです。「天保山名器蓬萊型畧図」と紹介されている天保山の形をしている亀の置物もありました。暁鐘成���述画図『天保山名所図会 巻之下』1835より。
▼みおつくしの歌 万葉 ミをつくし心盡して思ふかもこなまももとな夢にしミゆる 拾遺 侘ぬれバ今はた同じ難波なるミを盡しても逢んとぞ思ふ 後撰 難波がた何にもあらずミをつくし深き心の志るしばかりそ 家集 吹風にまかせることも事も澪標まつと志らずやさしてくるらん 千載 難波江の蘆のかりねの一夜ゆへミをつくしてや恋わたるへき 以上、(A) 万葉 遠江引佐細江の澪標あれを頼めてあさましものを(浜松) 詞歌 住吉の細江にさせる澪標深きにまけぬ人はあらじな(住吉)
出典 (A)暁鐘成『摂津名所図会大成 巻之九上』1860頃。 (B)山野寿男「大阪市における水環境の変貌」2011季刊『水澄』創刊号。
(写真)中岳「大阪築港真景」明治~大正(大阪市立図書館蔵) 「なにわの海の時空館」旧蔵資料。沖に澪標あり、桟橋に軍艦が停泊、ほか蒸気船や大型帆船が航行する港の図. 海岸には大型倉庫、市電の線路など(大阪市立図書館)。
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ari0921 · 2 years ago
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和五年(2023)5月27日(土曜日)
   通巻第7767号  <前日発行>
 デサンティス知事の大統領選出馬表明は大きな空振りだった
  米国の分裂状態こそ、世界の安全保障にとって脅威である
************************
 順風満帆ではなかった。船出は最初から座礁した。
ロン・デサンティス(フロリダ州知事)の2024年大統領選出馬表明は大きな空振りだった。
 5月26日、ツィッターでイーロン・マスクとともにデサンティス(フロリダ州知事)は型破りの大統領選出馬表明を行った。事前の期待はかなり大きかった。
予約の回線がパンクしたらしく、開始が20分遅れとなった。そのうえ、出馬表明にとくに目新しいスローガンがなく、従来の保守の思想を繰り返しただけで、直後の世論調査はトランプ前大統領との差を縮めるどころか30ポイント以上も開いてしまった。
リベラルなメディアの多くが、『悲惨なスタート』等と書き散らしたが、サンティスが[WOKE]を繰り返し、その反リベラルな政治姿勢を批判したためマイナス面を押し出したに過ぎない。
サンティスは月末から六月初旬にかけてニューハンプシャー、アイオワ、サウスカロライナ州など12カ所を遊説にまわる予定だ。
しかし予備選の緒線地域でも、現時点では盛り上げる空気がない。所詮は「ミニ・トランプ」であり、二人の差違は何かと言えば、サンティスが「若いこと}と「軍隊経験がある」こと、嘗てサンティスの子供がトランプの本を読んでいる映像を流して選挙戦のPRに使うなど熱烈なトランプ支持者だった過去のトランプ便乗経過があり、それなら「次の次」に備えるべきだと諫める声も多い。
インフレ、スタグフレーション、失業、社会保障、銃規制、中絶反対、L���BTなど、とりわけ米国を分裂させているのは『大きな政府』vs「小さな政府』論争に収斂される。
 直近のFOXニュースは久々にヒラリー・クリントンを登場させて「誰もが(バイデンの)老齢を気にしている」と言わせているが、この時の世論調査でバイデンの三大政策にアメリカ人の三分の二が反対していることが分かった。
 すなわち経済政策に不賛成が66%、銃規制と不法移民対策でバイデンの政策に不賛成が67%とでた。
 大統領選挙は24年11月、あと17ヶ月も先であり、これから何が起こるか分からないが現時点でのイッシューにしぼり込むと、第一の争点は中絶問題だろう。第二が大學授業料減免措置、第三が不法移民。ついでインフレ対策、銃規制か? ウクライナ支援は大きな争点にはなっていない。中国に関しても関心はかなり鈍い。
 現在のところ、ウクライナ支援削減は共和党の保守系に限られている。しかしウクライナ戦争が長期化すれば、たぶん来年の予備選の開始までずれ込むとすれば、大きな争点に浮上する可能性はある。
それにしても、これほどバイデン政権は不評なのに、選挙となると、なぜ民主党が強いのか。労働組合の組織力? 若者たちの「なんとなくリベラル」? メディアの左翼偏向。共和党への蔑視?
具体的には身近な雇用、インフレ、そして中絶問題だろう。ファンダメンタルズの強い州では中絶は認められておらず、これが昨年の中間選挙で共和党が予想を裏切って、上院で勝てず、下院で辛勝だった結果を産んだ。共和党有利といわれた選挙区で女性票が土壇場で民主党に流れたからだ。
▲なぜあれほど無定見な民主党が選挙に強いのか?
バイデンが相当な自信をもって二期目の出馬宣言をした背景に大學ローン返済免除プログラムがある。返済のため生活に窮している国民がおよそ4000万人から7000万人。この人たちの多くが民主党に投票するだろう。
米国の大学授業料は高い。そのうえ大學の粗製濫造である。日本も少子化があきらかとなっても新制大学が雨後の竹の子状態だった。
これこそは文科省の最悪の愚策だが、産経新聞(5月24日)の報道に依れば、すでに19の新設大學が入学募集を打ち切った。
全国に私大は598校もある。このうちの284校が定員割れ。経営悪化が急速である。
立志舘(広島)、福岡医療福祉、帰路嶋国際、得上野学園、神戸海星女児学院などが学生募集を停止した。卒��生の就職のためのパスポートである以上、閉校とならず近くの大學に「救済合併」を待つしか無いだろう。
次に争点は不法移民である。
NYから50万人が去って、ブロンクス、クイーンズの人口が減ったが、かわりに65000名の不法移民がNYCに」雪崩れ込んだ。
それこそ一時的にはホテルを借り上げ、ウクライナ近隣諸国の風景と変わらない難民キャンプ、シェルター増設、かれらへの給食やら医療サービル。
じつに140ヶ所のシェルターで一日三食、つれてきた子供たちには学校へ通う手続き、一日に10億円。NYCは24年度の『難民対策予算』を29億ドル(およそ4000億円)と見積もる。
 多くのアメリカ人は不法移民のあまりのおびただしさに悲鳴を上げ、これはバイデンが不法移民の入国を黙認したからだと考えている。失業者の怒りは外国人に職を奪われたという強迫観念に近いものがあり、不法移民の大量の流れ込みを許したバイデン政権に猛烈な批判となる。
ところが、夥しいムスリム、ヒスパニック、黒人、アジア系移民などニューカマーは移民に優しい民主党に投票する。ユダヤ人も民主党贔屓が多い。
治安悪化はリベラルな首長が治めるNY、シカゴ、サンフランシスコで顕著に悪化した。警官を募集しても応募が殆ど無いとうい惨状になった。警官がマニュアル通りに犯人を逮捕しても、それが黒人だとやっかいなことになるので警察機構が弱体化した。
ついに950ドル以下の万引きは見てみないふりをすることになった。麻薬が横行し、殺人、強盗、レイプは珍しくなく、ダウンタウンからは引っ越しが相次いでサンフランシスコの一場はゴーストタウンとなった。
 かつての銃規制やユダヤロビィ教育問題などへの関心は稀釈され、ふくれあがる福祉予算が、国家の健全な財政に大きな障害となっているが、民主党支持者には、自らが受け取る福祉の恩恵、フードスタンプ、生活保護が重要なのであって、国防にカネをかける分を福祉予算委回せという考えに傾きやすい。
 財源をどうするか、民主党は富裕層増税を唱え、共和党はむしろ予算縮小を主張する。だから赤字上限枠の交渉がチキンレースとなって、ひょっとして6月早々に米国はデフォルトをやらかすかも知れない。
 ▲大学は出たけれど。。。。。。。。。。
 デフォルトとなると米国債は売られ、金利は上昇し、失業率は倍加し、600万以上が雇用を失う。株の暴落は続きドル相場はかなり���落する���ろう。すでに市場はそれを織り込み済みである。
 かくして米国は分裂している。
だからトランプの当選確率は51%で、確実とは言えないのだ。日本人が漠然と描いてきた、米国の『軍事大国』「守護者』『世界の警察官』などという淡い期待は『過去の遺物』である。
日本が侵略されたら米軍がくると考えている日本人はさすがに少なくなったが、それなら自主防衛力を高めようという主権国家として当たり前の声に耳を傾ける人はまだまだ少ない。
改憲がいつになるのか、すくなくとも岸田政権の政治日程にLGBT法案などという愚策はあっても、改憲への情熱は蒸発したままである。
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kennak · 1 year ago
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「はだしのゲン」について「効果的でないと感じる部分もあった」が36%。「効果的な教材だった」と回答したのは61%でした。 ゲンの削除はどのように決められていったのか。情報公開請求で改訂に関わる会議の資料を入手。独自に分析を行うと、これまでの教育委員会の説明とは異なる側面が浮かび上がってきました。 改訂に向けた議論は2つの会議を経ています。まず行われたのが、これまでの教材の課題を洗い出す「検証会議」です。大学の研究者や学校長、現場の教員など15名が集められました。 「検証会議」では、ゲンが家族を助けるために浪曲を歌うシーンなどは「子どもには理解が難しい」と課題を指摘する意見もあがりました。しかし、こうしたシーンも「補足すれば理解できる」として、子どもたちにとって身近なゲンは教材として使用できると話し合われていたのです。 検証会議に参加した教員 「削除しようというところまで話にはなってないと思います。はだしのゲン自体は、ぜひ読み継がれてほしい。子どもたちもよく読んでいるので、大事にしたい教材であることは確かだなと」 しかし、現場の教員を除いたメンバーで議論する「改訂会議」が始まると、教育委員会側は「ゲンを削除する方針」を示しました。 教育委員会があげた理由は、「家族のために鯉(コイ)を盗む内容が教育上不適切」ということ。また、教員から「補足すれば使用できる」と意見があった浪曲も「今の時代に合わない」として、削除の理由とされました。 新教材の作成を担当 検証会議に参加した教員 「(はだしのゲンは)課題があるので、新しい教材で、よりより教材を探してつくっていきましょうという話がありました」 取材班 「別のシーンを探すとか、そういったことは?」 新教材の作成を担当 検証会議に参加した教員 「なかったです。説明としては違う教材を探していきましょうということだったと思うので」 改訂会議で突然示された「ゲン削除の方針」。議事録の検証を進めると、有識者の1人がある発言をしていました。 「どんなところから見ても耐えうるような教材を私たちは作り出していかなければならない」 この発言をしたのは、教育委員会が改訂内容を頻繁に相談していた会議の会長とみられる人物です。さらに続けてこう発言していました。 「『はだしのゲン』を使用し続けるのであれば、どこからも批判されない方がよいですよね」 「すべてに役立つものというのは何の役にも立たないと私は思っていますが、使命を帯びて作り出す側としては、そういうところを排除していかなければならない」 発言の真意を聞こうと、この人物に取材を申し込みましたが「年だから記憶があいまいだ」などとして取材に応じることはありませんでした。 「はだしのゲン」を巡っては過去にも論争が起きてきました。 10年前、松江市では、ほぼすべての小中学校が図書室での閲覧を制限。その後、撤回するなど混乱が生じました。背景にあったのが、保守系の団体の動きです。 ゲンの中に描かれている、天皇の戦争責任を問う場面。こうした歴史認識を巡る表現を理由に、学校や図書館からの撤去を求めていたのです。 また、平和ノートに「はだしのゲン」を掲載することが決まったときにも、同様の批判の声が教育委員会に寄せられていました。 10年前「平和ノート」を作成 策定委員会委員長 中山修一さん 「当時の事務方(教育委員会)の責任者の課長さんから私に対して『きょうも電話がありました』。何度かあるなかで、ほとんどの場合、非常に苦渋に満ちた顔というか。課長として本当に苦しいという立場を私は表情でわかりました」 当時、教材の作成を担当した1人は、教育委員会の中で熟慮を重ね、掲載に踏み切ったと振り返りました。 元広島市教育委員会 指導第二課 平和教育を担当 三吉和彦さん 「やはりそれまで読み継がれてきた、あるいは先生方の実践のなかで取り上げられた読み物であるとかいうものはやはり大事にしていこうと。(当時)影響を受けるとか振り回されるとかそういうことは私の中にはなかったと思っています」 今回の改訂にあたっても「はだしのゲン」の削除を求める声があがっていたことが取材で分かってきました。 日本の教育について考える活動を展開し、「ゲンは教材として不適切だ」と主張してきた広島の保守系団体です。 この日の定例会には、日本会議のメンバーや現役の教職員が出席。自民党の一部の国会議員や地方議員も来賓として参加していました。 現在小学校の教員をしている代表は、平和ノートからの削除を教育委員会などに働きかけたと話しました。 日本教育文化研究所 広島支部代表 竹本祥士さん 「口頭で教育委員会や校長会のメンバーなどに言わせていただきました。私は校長関係が多かったんですが、(団体の)事務局長が教育委員会よく知っていましたので、こういう問題があるよということの説明等はいろいろしてきていたということですね。外から、外野からやっていたということですかね。」 「はだしのゲン」は、なぜ削除されたのか。教育委員会の改訂の責任者が取材に応じました。 取材班 「検証会議以外に別のところから変更を求める声はあったのでしょうか」 広島市教育委員会 指導担当部長 中谷智子さん 「全くありません。いろんな立場の方がいらっしゃるとは思うんですが、われわれは教材を作成しました。本市の子どもにとって目標に達成しやすいもの。その教材を作成する上で先生たちのご意見を大事に聞きながら作成をしたもので、周りの意見というのはまったく私たちは��には入れてないのが現実です」 改訂会議で出ていた「どこからも批判されない方がよい」という意見については。 中谷智子さん 「実際に『ゲン』があることで批判を受けているというような声も、われわれ聞いていないんです。ですから、この(発言の)真意については私もちょっと分かりかねるところではあります」 取材班 「10年前の策定時にどのような経緯で(はだしのゲンが)掲載に至ったかは、お調べになりましたでしょうか」 中谷智子さん 「ごめんなさい。これは記録等も残念ながら残っていないので、われわれには分かりかねるところです」 取材班 「『ゲン』を使っていきたいという声ではなく、課題にのみ注目したのはなぜでしょうか」 中谷智子さん 「やはり課題として挙がってきたものは、このたびの改訂はチャンスですから、そこでなんとか改訂をもちろんしていく。教材ですから先生たちが一定時間のなかで、ねらいに到達しやすいもの、扱いやすいものにしていこうと考えました」 今回の教育委員会の判断が与える影響について、現場の教員の中には懸念を抱く人もいます。 広島市立小学校 教員 「平和教育も中立性を保ちなさいということで。政治的な偏りがあってはいけないとかすごくどこでも言われていることなので、削除されたはずの『はだしのゲン』を使うということになると、またちょっといろいろと言われたりする可能性があるという。教育委員会が出しているものに逆らってまで『はだしのゲン』を使おうという現場は少なくなってくると思います」 削除決定までの議論 浮かび上がる不透明さ <スタジオトーク> 桑子 真帆キャスター: 広島市教育委員会は「このコイを盗む内容は教育上不適切だ」。「浪曲は児童の生活背景に即していない」。この2点を主な削除の理由として挙げ、「現場の先生から課題がある」との声があがったと説明しています。 一方で、取材を進めて明らかになったことが大きく3つありました。 取材で明らかになったこと① 検証会議…削除求めず 改訂会議…削除の方針 まず1つ目。「検証会議」では削除を求める声はあがっていなかったものの、その後の「改訂会議」では削除の方針が示されていた。 取材で明らかになったこと② 会長とみられる人物「どこからも批判されない方がよい」 そして2つ目です。その「改訂会議」では会長とみられる人物が「どこからも批判されないほうがよい」といった発言をしていました。 取材で明らかになったこと③ 保守系団体代表「削除もとめた」 教育委員会「そうした声 まったくなかった」 そして3つ目です。保守系の団体の代表は「ゲンの削除を求めた」と主張していましたが、教育委員会側は「そうした声は全くなかった」としていました。 時代に合わせて教材というものは改訂されていくものですが、そのプロセスの不透明さが浮かび上がってきたわけです。 きょうのゲストは、平和教育の現場に詳しい草原和博さん、そして広島局の石川記者です。 まず、ずっと取材をしてきた石川さんに聞きますが、今回の改訂プロセス、一連の取材を通して今どういうことを感じていますか。 石川拳太朗 記者(NHK広島): 市の教育委員会は、「検証会議」から削除の方針を示した「改訂会議」までの間に、どのような議論をしたのかは一切明らかにしておらず、その判断に至った経緯が分かる資料も残されていないとしています。 また、保守系団体の代表が削除を求めていたということについても、意思決定をする教育委員会のどのレベルにまでそれが伝わっていて、実際のところどう影響したのかどうか分かっていません。取材した関係者の多くは経緯��ついては語ることを避けていて、決定までの議論が不透明のままになっているのは問題だと感じました。 桑子: 議論がこれまでにどう継承されているのかということも気になってくるわけですが、草原さんにも伺いますけれども、この一連の中で「どこからも批判されないほうがよい」。このあたりも含めて、どういうことを感じていますか。 スタジオゲスト 草原 和博さん (広島大学大学院教授) 平和教育の現場に詳しい 草原さん: この言葉は、今回の象徴的な言葉だろうと思っています。戦争や平和にまつわる記念碑だとか、博物館、あるいは教科書や教材というところに何をこそ記憶として入れていくべきなのか、あるいは外していくべきなのかというのは常に論争的なものであります。これを「記憶の政治」とよんでいるんです。今回それが非常に露呈したということになりますね。 一方で広島県は、過去のいろんな政治的な運動に子どもたちを過度に巻き込んだという記憶も今なお強く教育関係者の中には残っています。広島の記憶の仕方を巡っては今なおいろんな批判もあるところでありまして、論争を避けたいという判断も間接的には影響したと予想されます。 桑子: 「はだしのゲン」を教材として評価する声もあったわけですが、今回削除されたということに対して現場から声は何かあったのでしょうか。 石川: 今回の市教委のゲン削除の判断についての考えを、現場の教員にアンケートで聞いたところ、判断が妥当かどうか、結果はばらつきが見られました。 最も多かったのは「いずれでもない」という回答で、34%でした。その理由として「考える余裕がないのでどちらでもよい」とか「市の方針ですので」といった意見が見られ、取材をすると「ゲンをこれからも使いたい」とするものの、「平和教育の教材研究はなかなか進められていない中で、今回の改訂に意見できる立場ではない」といった声も聞かれました。 桑子: 草原さん、先生方の声も含め、広島の教育現場というのは今どういう状況になっていると見ていますか。 草原さん: 今回のアンケート結果で非常に象徴的だというのは、「平和教育が相対的に地位が下がっている」ということだと思います。かつてであれば平和教育は「何にも先んじて行うべき」「一丁目一番地」だったものが、さまざまな教育内容が膨らんでいく中で、「相対的にこれは落としてもいいのかな」という時間的な余裕のなさの中で徐々に相対的に地位が低下しているというのが1つです。 もう一つは、「標準化の受け入れ」ということだろうと思います。ここ20年、平和教育を巡る議論が下火になる中でどういうふうにカリキュラムを作っていけばいいのかという検証が徐々に少なくなっていく。その中で、ある程度標準化された教材があるのであれば、それをこなしておけばいい。むしろそのほうがリスクが避けられるというような判断も先生方の中に働いているのではないかなと推測します。 桑子: では、この平和教育がどうあるべきなのか。全国的な課題となっていますが、沖縄のある小学校の取り組みを今回取材しました。 子どもの「疑問」に向き合う教育とは 太平洋戦争末期、激しい地上戦が繰り広げられ、住民の4人に1人が亡くなった沖縄。本島南部の公立小学校で、5年生の平和教育の授業を担当している米須清貴さんです。 米須清貴さん 「キクさんの紙芝居でね、どんな疑問が出たか、覚えてる?」 小学生 「壕(ごう)の中で何してるのかなと思いました」 小学生 「なんで壕(ごう)を追い出されたか?」 取り組んでいるのは、子どもたちが78年前の出来事に持つ「疑問」に向き合う平和教育です。 米須清貴さん 「子どもが考えるという立場で進めていくことがとても大事なこと。教材からこれも省きましょう、あれも省きましょうと子どもが見えないかたちで排除してしまうと、子どもはどうやって学んでいけばいいんですかって。大人が決めた中だけで学んでいくんですかって」 「疑問」を入り口に、当時への関心を高めていく子どもたち。 小学生 「収容所とか、疑問に思ったことを書いた」 その関心は時に、旧日本軍による住民への加害など、教育現場で避けられがちな論争のあるテーマに及ぶこともあります。 小学生 「日本兵は、市民を仲間だと思っていたんですか?」 講師 「平和な時は仲良くやっていたけど、戦争が始まったら邪魔だと思ってたんじゃないかな。自分たちは逃げるのに精いっぱい。日本兵だっていろいろ思うことはあるよね」 子どもたちには多様な考え方を提示し、みずから考えられるようにしています。 米須清貴さん 「平和教育を、例えば自衛隊の問題とつなげないでくださいとか、ウクライナの話と今の話とつなげないでくださいねって、ちらほら聞くんです。平和教育の政治性をもってしまうと、難しさはあるんですけど、なんのために平和教育をするのか。政治的な価値観に偏って教えるというつもりはそもそも毛頭無いですが、でも平和教育、沖縄戦を学ぶっていうのは、自分の生き方をよくしていくとか、政治への向き合い方をよりよいものにしていくとか、より賢くなっていくためにやるものだと思ってるんですね。子どもが意欲的になって自分から手を伸ばして、それを取りに行くっていう場面を作るかっていうのが私たちの仕事だと思っています」 米須清貴さん 「こんな悲惨、残酷なことが2度と起こらないために、どんなことができるかな」 小学生 「すぐケンカしないようにする」 小学生 「いろんな国と仲よくする」 小学生 「今のロシアとウクライナも戦争してるけど、あれもなくなってほしいなって思った」 平和教育の今後は <スタジオトーク> 桑子 真帆キャスター: こうした例もありましたが、これからの平和教育に求められることはどういうことだと考えていますか。 草原さん: 子どもたちを「記憶の継承者・消費者」としてだけ位置づけるのではなく、いかに子どもたちが主体的に歴史を語り、物語を作っていくかだと思います。 広島の例であれば、例えば今回「なぜゲンの教材化を巡って賛否両論があるのか」とか「私たち広島市民はゲンを平和ノートにいかに残していくべきなのか」「どのページ、どのカットだったらふさわしいのか」ということを子どもたちが主体的に議論していく。そういう場が必要だろうと思います。 桑子: どう扱うのかということも含め、世界を見ると今、新しい争いの歴史というのがどんどん刻まれ続けていますよね。そうした中で重要なことはなんでしょうか。 草原さん: 2023年、過去の記憶を都合よく操作し、自分たちの戦争行為等��正当化する動きというのは各地、ウクライナ、ロシア等でも起きているかと思います。そういう動きに対抗していくためにも、教育現場はもう少し記憶を巡る議論というものを積極的に取り扱い、子どもたちに参画させていく必要がある。 今回どういうふうに記憶が作られ、作り替えられていくのかということをもっともっと教育現場で議論するべきだし、今回のゲンの問題というのは非常にそうしたことを考えられる題材だったのではないかなと思います。
「はだしのゲン」なぜ削除? 背景に迫る - NHK クローズアップ現代 全記録
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astra027 · 2 years ago
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6-6
彼らは川を下って数日間歩き続けた。傷を手当てした後、アイダーティアはすぐに回復したが、ルーンの保護がないと不安を感じずにはいられなかった。ルーンは人々が寒さに耐え、力を増すのに役立つが、その効果は健���な体にかかっている。アイダーティアは自分の強さを証明するために追加のルーンを手に入れることを主張したが、今ではそれらを失った感覚がさらに生々しくなっていた。
「下流に支流があるはずだ。それ以上は私も行ったことがない。」アイダーティアは、手作りの道具を肩に担いで、父親と一緒に湿った寒い山地を歩いた。それらは獣から身を守るためのものではなく、狩りをするための罠を設置するためのものであった。
「それでも私たちの氏族の領土だ。」父親は空と風を見上げた。 「火山からは距離を置かなければならない。もし先に進むなら、水源はなく、ただ広大な雪原が広がるだけだ。私たちは雪原を越えて海岸に着くまで、氏族の管轄を離れることはない。」
「海岸に行くの?」彼女は信じられないと言った。 「少数の難民がそこで成功して定住していると聞いた。何より、そこに着いたら氏族の手の届かないところにいることができる。そうでなければ、どこへ行っても追い出されるだけだ。」、父親が説明した。 「難民が海岸で生きているの?どうやってやって?」 「分からない。他の人から聞いた伝説だ。下流まで降りるだけでも十日かかり、雪原を横断する旅はもっと長い。用意しておく必要がある。」と、彼は警告した。 アイダーティアは緊張して喉を飲んだが、恐れを抱えながらも続ける決意をした。
最初は、他の難民たちが海岸にたどり着いて定住している話を聞いて、自分でもやっていけると思っていた。自分が生き残るだけでなく、いつも憧れていた海を見ることができるという希望が持てた。しかし、その考えはすぐに打ち砕かれた。彼らが追放されたのは、天候が寒くなり、雪季節が始まろうとしているときだったため、寒さが最大の課題となった。
彼らは道中で他の氏族の人々に出会った。父娘がルーンを持っていないことを知ると、彼らはすぐに敵意を示し、時には暴力的に追い払った。一部の氏族の人々は、難民を狩猟して服を奪おうとした。 アイダーティアは多くの傷を負った。獣と違い、人間は他の人間との取り扱いに長けている。この旅の中で、彼女は自分たちの人々からの悪意を初めて感じ、夜中に密かに泣いた。
さらに、雪と風は彼らを襲い続けた。
彼らは雪の地域に入ってから、木すらも少なく、風を避ける場所を見つけることができなくなった。彼らの休憩時間はますます短くなり、木やシェルターを見つけるまでしか停止せず、夜を通して急いで進んだ。アイダーティアは風の骨身にしみるような感覚を感じ始め、一歩一歩前に進むことが、彼女の身体を引き裂くかのような苦痛になった。
「持ちこたえて、アイダーティア。」と彼女の手を引く父親が言った。 「私には無理だよ。」 「大丈夫、できるよ。だから私が来たんだ。」
そう言われ���彼女は歩き続けるしかなかった。しかし、やがて彼女は空腹と疲れを感じ始め、幻覚を見るようになった。時々、彼女は雪原で多くの人々や建物を見た。 彼女はバルディアが走って追いかけてくるのを見た。隣人の女性がテントを立てて火に誘ってくれるのを見た。彼女は火、肉、温泉、オーロラ、星が、彼女の足の下を流れていくのを見た...。
彼女が目を覚ますと、雪がついにやむところだった。父親が地面に横たわっているのが見えた。 「三つの連なった峰の方向に向かって行け……それから、がんばれ……。」オルソンは冷静に語り、いつもの穏やかな態度を崩さなかった。その後、息を引き取った。 オルソンは自害した。
アイダーティアは、追放の旅があまりにも遠く、父親が計画していたことを理解した。 唯一生き残れるのは、アイダーティアでなければならなかった。オルソンはそのために来たのだ。彼が自ら命を絶たなければ、アイダーティアは決して海岸に到達できなかったのだ。
それを悟った後、彼女はもう泣くことができなかった。 彼女ができることは、父親の肉と衣服を切り落とすことだけだった。 肉と血は、野生動物を誘き寄せる誘餌として、そして必要な場合には食料源として利用できた。 彼女は生き残ることができる、雪による幻覚も彼女を苦しめず、他の道に誘惑されることもなかった。 彼女は一心不乱に前進し、山脈を越えた後、風の匂いが変わり始めた。それは部族の領土には決して届かない海風だった。彼女はその匂いに従って湾に向かい、見知らぬ入植地を見つけた。 湾には手早く組み立てられた巨大な船がいくつかあり、素朴な港があった。彼女はそんな大きな船を見たことがなく、混乱に陥った。彼女は湾に向かって歩き、何十もの家屋が散在しているのを見た。彼女は驚いて家屋を見つめ、最初に海と海峡と緑豊かな山々に気付いた。白い冬の日は短く、鮮やかであり、海は信じられないほど美しく輝き、雪のように目がくらむことはなかったが、それでも彼女の心を孤独で苦しめた。
「難民?」井戸から水を汲んでいた若い男が彼女を止めた。 「初めて見るね。若いし、助けが必要?」彼女は彼から提供されたバケツを受け取り、ほとんどの水をすばやく飲んだ。 「ここはどこ?」彼女は口を拭って聞いた。 「西ジョソファリ港だ。略して西港と呼んでる。」やや背が高く、黒い髪がくせ毛の男は、彼女を上から下まで見てまばたきをした。 「どこの集落から来たんだ?」 「集落は持っていない。」 「難民じゃないのか?」男は、彼女が毛皮を持ち、彼らのトーテムマークが入った短い斧を持っていることに気づいた。 「彼らを殺したのか?」 「ここに来る前に。彼らが追いかけてきて、笑ってた。私が勝ったの。」アナディアは穏やかな口調で答えた。 男は驚きと恐怖の入り混じった表情で彼女を見つめたが、何よりも同情心を感じた。 「怖くなかった���?」 「怖くない。生き延びようとしてただけだ。」彼女は自分の戦利品に手を伸ばして触った。
「私はブリンソン。」彼はアイダーティアに手を差し出して言った。 「君は?」 「アイダーティア。」彼女は頷き、彼の大きな手を握り返した。 彼は暖かく微笑みましたが、目には何か違うものがあるように見えた。
「なあ、君は海が怖いか?」彼女が首を振るのを見て、彼の笑顔は深まった。 「それなら見に行って来い。日が暮れる前に戻って来な。そしたら俺の船長に会わせてやる。ここでは仕事をしないと食べていけない。でもあんたはとても勇敢そうだ...。多分あなたにぴったりな仕事がある。」 アイダーティアは再び頷いた。
そこで彼女は海岸にやってきて、独りで砂浜に立ち、港で人々が船を海に向けて出航するのを見た。 彼女は驚きながら見守り、遠くの船が白い帆を広げると、自分が本当に新しい世界に来たような気がした。 雪の世界はもう重要ではない。彼女はここで生き残り、存在している。 彼女はこの瞬間の現実を味わいたいと思った。
「さようなら。」と彼女は静かに言った。 「私はここにいる。」アイダーティアは海に歩み出した。
優しい波が、彼女の血や罪、そして彼女が本来持っていたすべてを洗い流して行った。海は彼女をいつも受け入れてくれた。
6-7
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myonbl · 4 years ago
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2021年4月10日(土)
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新春公演に続き、4月文楽公演を楽しむべく国立文楽劇場へとやって来た。いつもなら桜舞う中を劇場へと入っていくイメージだが、今年は既に葉桜になっている。手指消毒・検温を済ませ、私はチケットを発券し、ツレアイはプログラムを購入する。いつもなら一日三公演のうち最低二つは観るのだが、今回は感染対策と体力低下により午後の第二部だけを楽しむことにする。さて、しばし時空を越えた情の世界を楽しもう。
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久しぶりにパンを焼き、コーヒーも先にいれる。
ツレアイは昨日から緊急電話当番、午前8時に今日の担当者に切り替えてやっと業務終了。昼から文楽に行くので、慌ただしく買い物に出る。
私の方は夕飯準備、ブリ大根を仕込む。
楽天モバイルからSIMが届く、早速OPPOの初期設定をはじめるが・・・、残念ながら電波が掴めず開通出来ない。
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早めのランチ、伊勢うどんに奥川ファームのタマゴをトッピング。
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文楽劇場、新春公演の時には隣は空いていたが、今回は一��目と床周辺だけを区切っただけである。今回は3列の左側、幸い私の隣は空席なので窮屈なおもいをせずに済んだ。
第2部 午後2時開演 国性爺合戦(こくせんやかっせん)  平戸浜伝いより唐土船の段  千里が竹虎狩りの段  楼門の段  甘輝館の段  紅流しより獅子が城の段
日本と中国をつなぐ一大スペクタクル、虎刈り場面の虎の着ぐるみが愛嬌あって大うけ。呂瀬大夫さんが好調で良かった。
17時30分の退場、帰宅したのが18時45分。
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冷えてきたので燗酒を頂く。テレビではブラタモリ、
「東京駅スペシャル〜変化し続ける東京駅の姿とは?〜」
今回は東京渋谷・NHKのスタジオから。お題「変化し続ける東京駅の姿とは?」を、タモリさん・浅野アナ・そして2015年の“旅のパートナー”桑子真帆アナが、2015年7月20日放送「ブラタモリ・スペシャル東京駅」の映像に、その後6年間の新しい情報などを加えて「東京駅」の謎に迫る!▽工事現場を映した貴重映像▽完成した駅前広場の秘密▽丸の内と八重洲の違いとは?▽6年前にタモリさんが貼ったビルのタイルは今?
桑子さんが登場すると、今の担当アナウンサーの頼りなさが余計に強調されてしまう。
早めに切り上げて、歩数稼ぎに軽く散歩。戻ってすぐに入浴、早々にダウンする。
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辛うじて3つのリング完成、8,615歩。
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lvdbbooks · 8 months ago
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【イベント出店のご案内】
2024年5月25日(土)・26日(日)
「第11回 BOOK DAY とやま」
時間:10:00〜18:00(25日)、10:00〜17:00(26日)
会場:富山駅構内南北自由通路
主催:BOOK DAY とやま実行委員会
共催:富山市、トヤマチミライ、富山県古書籍商組合
入場無料
*イベント出店に伴い5月24日(金)〜28日(火)の期間、大阪・田辺の店舗は休業いたします。
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▼古本・新刊・リトルプレス
【香川】 古本YOMS(25日のみ) 【大阪】 SUS~くらしと本のみせ スウス~ LVDB BOOKS 【兵庫】 1003 【京都】 空き瓶books 古書ダンデライオン 開風社 待賢ブックセンター 余波舎 NAGORO BOOKS(25日のみ) 【東京】 新百姓 【神奈川】 NEUTRAL COLORS(26日のみ) 【愛知】 ON READING(25日のみ) 【三重】 古本屋ぽらん 【岐阜】 徒然舎 【滋賀】 半月舎 【長野】 じゃらん亭 【石川】 あうん堂 NYANCAFE-BOOKS 一誠堂能瀬書店 古本一刻館 オヨヨ書林 近八書房 髙橋麻帆書店 【富山】 キャロット ブック・スピカ 書肆月影 古本ブックエンド ひらすま書房 古本なるや 古書さいとう デフォー コメ書房 古本いるふ スピニー ピストン藤井(26日のみ)
▼レコード TOKEI RECORDS
▼DJ LOVEBUZZ
▼似顔絵 堀道広
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kurihara-yumeko · 4 years ago
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【小説】The day I say good-bye (3/4)【再録】
 (2/4)はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/647000556094849024/)
「あー、もー、やんなっちゃうよなー」
 河野帆高はシャーペンをノートの上に投げ出しながらそう言って、後ろに大きく伸びをした。
「だいたいさー、宿題とか課題って意味がわからないんだよねー。勉強って自分のためにするもんじゃーん。先生に提出するためじゃないじゃーん。ちゃんと勉強してれば宿題なんて出さなくてもいいじゃーん」
「いや、よくないと思う」
「つーか何この問題集。分厚いくせにわかりにくい問題ばっか載せてさー。勉強すんのは俺らなんだから、問題集くらい選ばせてくれたっていーじゃんね」
「そんなこと言われても……」
 僕の前には一冊の問題集があった。
 夏休みの宿題として課されていたものだ。その大半は解答欄が未だ空白のまま。言うまでもないが、僕のものではない。帆高のものだ。どういう訳か僕は、やつの問題集を解いている。
 その帆高はというと、また別の問題集をさっきまでせっせと解いていた。そっちは先日のテストが終わったら提出するはずだったものだ。毎回、テスト範囲だったページの問題を全て解いて、テスト後に提出するのが決まりなのだ。帆高はかかとを踏み潰して上履きを履いている両足をばたつかせ、子供みたいに駄々をこねている。
「ちゃんと期限までにこつこつやっていればこんなことには……」
「しぬー」
「…………」
 つい三十分前のことだ。放課後、さっさと帰ろうと教室で荷物をまとめていた僕のところに、帆高は解答欄が真っ白なままの問題集を七冊も抱えてやってきた。激しく嫌な予感がしたが、僕は逃げきれずやつに捕らえられてしまった。さすが、毎日バスケに勤しんでいる人間は、同じ昼休みを昼寝で過ごす僕とは俊敏さが違う。
 帆高は夏休みの課題を何ひとつやっていなかった。テスト後に提出する課題も、だ。そのことを教師に叱責され、全ての課題を提出するまで、昼休みのバスケ禁止令と来月の文化祭参加禁止令が出されたのだという。
 それに困った帆高はようやく課題に着手しようと決意したらしいが、僕はそこに巻き込まれたという訳だ。一体どうして僕なのだろうか。そんな帆高だが、この間のテストでは学年三位の成績だというので、教師が激怒するのもわかるような気がする。
「…………どうして、保健室で勉強してるの」
 ベッドを覆うカーテンの隙間から頭の先を覗かせてそう訊いてきたのは、河野ミナモだった。帆高とは同じ屋根の下で暮らすはとこ同士だというが、先程から全くやつの方を見ようとしていない。
 そう、ここは保健室だ。養護教諭は今日も席を外している。並んだベッドで休んでいるのは保健室登校児のミナモだけだ。
「教室は文化祭の準備で忙しくて追い出されてさ。あ、ミナモ、俺にも夏休みの絵、描いてよ。なんでもいいからさ」
 帆高は鞄からひしゃげて折れ曲がった白紙の画用紙を取り出すと、ミナモへ手渡す。ミナモはしばらく黙っていたが、やがて帆高の方を見もしないまま、画用紙をひったくるように取るとカーテンの内側へと消えた。
 帆高が僕の耳元で囁く。
「こないだ、あんたと仲良くなったって話をしたら、少しは俺と向き合ってくれるようになったんだ。ミナモ、あんたのことは結構信頼してるんだな」
 へぇ、そうだったのか。僕がベッドへ目を向けた時、ミナモは既にカーテンを閉め切ってその中に閉じこもってしまっていた。耳を澄ませれば鉛筆を走らせる音が微かに聞こえてくる。
「そう言えば、あんたのクラスは文化祭で何やんのー?」
「なんだったかな……確か、男女逆転メイド・執事喫茶?」
「はー? まじでー?」
 帆高はけらけらと笑った。
「男女逆転ってことは、あんたもメイド服とか着る訳?」
「……そういうことなんじゃない?」
「うひゃー、そりゃ見物だなーっ!」
「あんたのとこは?」
「俺のとこはお化け屋敷」
 それはまた無難なところだな。こいつはお化けの恰好が似合いそうだ、と考えていると、
「そういやさ、クラスで思い出したんだけど、」
 と帆高は言った。
「あんたのとこ、クラスでいじめとかあったりする?」
「さぁ、どうだろ……。僕はよく知らないけど」
 いじめ、と聞いて思い出すのは、あーちゃんのこと、ひーちゃんのこと。
「なんか三組やばいみたいでさー。クラスメイト全員から無視されてる子がいるんだってさ」
「ふうん」
「興味なさそうだなー」
「興味ないなぁ」
 他人の心配をする余裕が、僕にはないのだから仕方ない。
 そうだ、僕はいつだって、自分のことで精いっぱいだった。
「透明人間になったこと、ある?」
 あの最後の冬、あーちゃんはそう僕に尋ねた。
 あーちゃんは部屋の窓から、遠い空を見上げていた。ここじゃないどこかを見つめていた。どこか遠くを、見つめていた。蛍光灯の光が眼鏡のレンズに反射して、その目元は見えなかったけれど、彼はあの時、泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
 僕はその時、彼が発した言葉の意味がわからなかった。わかろうともしなかった。その言葉の本当の意味を知ったのは、あーちゃんが死んだ後のことだ。
 僕は考えなかったのだ。声を上げて笑うことも、大きな声で怒ることも、人前で泣くこともなかった、口数の少ない、いつも無表情の、僕の大事な友人が、何を考え、何を思っていたのか、考えようともしなかった。
 透明人間という、あの言葉が、あーちゃんが最後に、僕へ伸ばした手だった。
 あーちゃんの、誰にも理解されない寂しさだった。
「――くん? 鉛筆止まってますよ?」
 名前を呼ばれた気がして、はっとした。
 いけない、やつの前で物思いにふけってしまった。
「ぼーっとして、どした? その問題わかんないなら、飛ばしてもいいよ」
 いつの間にか帆高は問題集を解く作業を再開していた。流れるような筆致で数式が解き明かされていく。さすが、学年三位の優等生だ。問題を解くスピードが僕とは全然違う。
「……この問題集、あんたのなんだけどね」
 僕がそう言うと帆高はまたけらけらと笑ったので、僕は溜め息をついてみせた。
   「最近はどうだい? 少年」
 相談室の椅子にふんぞり返るように腰を降ろし、長い脚を大胆に組んで、日褄先生は僕を見ていた。
「担任の先生に聞いたよ」
 彼女はにやりと笑った。
「少年のクラス、文化祭で男がメイド服を着るんだろう?」
「…………」
 僕は担任の顔を思い浮かべ、どうして一番知られてはいけない人間にこの話をしたのだろうかと呪った。
「少年ももちろん着るんだろ? メイド服」
「…………」
「最近の中学生は面白いこと考えるなぁ。男女逆転メイド・執事喫茶って」
「…………」
「ちゃんとカメラ用意しないとなー」
「…………先生、」
「せんせーって呼ぶなっつってんだろ」
「カウンセリングして下さい」
「なに、なんか話したいことあるの?」
「いや、ないですけど」
「じゃあ、いーじゃん」
「真面目に仕事して下さい」
 そもそも、今日は日褄先生の方から、カウンセリングに来いと呼び出してきたのだ。てっきり何か僕に話したいことがあるのかと思っていたのに、ただの雑談の相手が欲しかっただけなんだろうか。
「昨日は市野谷んち行ってきた」
「そうですか」
「久しぶりに会ったよ、あの子に」
 僕は床を見つめていた目線を、日褄先生に向けた。彼女は真剣な表情をしている。
「……会ったんですか、ひーちゃんに」
 日褄先生のことを嫌い、その名を耳にすることも口にすること嫌い、会うことを拒み続けていた、あのひーちゃんに。
「なーんであの子はあたしを見ると花瓶やら皿やら投げつけてくるのかねぇ」
 不思議だ不思議だ、とちっとも不思議に思っていなそうな声で言う。
「あの子は、変わらないね」
 ありとあらゆるものが破壊され、時が止まったままの部屋で、二度と帰ってくることのない人を待ち続けているひーちゃん。
「あの子はまるで変わらない。小さい子供と同じだよ。自分の玩具を取り上げられてすねて泣いているのと同じだ」
「……ひーちゃんをそういう風に言わないで下さい」
「どうしてあの子をかばうんだい、少年」
「ひーちゃんにとって、あーちゃんは全てだったんですよ。そのあーちゃんが死んだんです。ショックを受けるのは、当然でしょう」
「違うね」
 それは即答だった。ぴしゃりとした声音。
 暖かい空気が遮断されたように。ガラス戸が閉められたように。
 世界が遮断されたかのように。
 世界が否定されたかのように。
「少年はそう思っているのかもしれないが、それは違う。あの子にとって、直正はそんなに大きな存在ではない」
「そんな訳、ないじゃないですか!」
「少年だって、本当はわかっているんだろ?」
「わかりません、そんなこと僕には――」
 僕を見る日褄先生の目は、冷たかった。
 そうだ。彼女はそうなのだ。相変わらずだ。彼女はカウンセラーには不向きだと思うほど、優しく、そして乱暴だ。
「少年はわかっているはずだ、直正がどうして死んだのか」
「…………先生、」
「せんせーって呼ぶなって」
「僕は、どうすればよかったんですか?」
「少年はよく頑張ったよ」
「そんな言葉で誤魔化さないで下さい、僕はどうすれば、ひーちゃんをあんな風にしなくても、済んだんですか」
 忘れられない。いつ会っても空っぽのひーちゃんの表情。彼女が以前のように笑ったり泣いたりするには、どうしても必要な彼はもういない。
「後悔してるの? 直正は死んでないって、嘘をついたこと」
「…………」
「でもね少年、あの子はこれから変わるつもりみたいだよ」
「え……?」
 ひーちゃんが、変わる?
「どういう、ことですか……?」
「市野谷が、学校に行くって言い出したんだよ」
「え?」
 ひーちゃんが、学校に来る?
 あーちゃんが帰って来ないのにどうして学校に通えるの、と尋ねていたひーちゃんが、あーちゃんがいない毎日に怯えていたひーちゃんが、学校に来る?
 あーちゃんが死んだこの学校に?
 あーちゃんはもう、いないのに?
「今すぐって訳じゃない。入学式さえ来なかったような不登校児がいきなり登校するって言っても、まずは受け入れる体勢を整えてやらないといけない。カウンセラーをもうひとり導入するとかね」
「でも、一体どうして……」
「それはあたしにもわからない。本当に唐突だったからね」
「そんな……」
 待つんじゃなかったのか。
 あーちゃんが帰って来るまで、ずっと。
 ずっとそこで。去年のあの日で。
「あたしは、それがどんな理由であろうとも、あの子にとって良いことになればそれでいいと思うんだよ」
 日褄先生はまっすぐ僕を見ていた。脚を組み替えながら、言う。
「少年は、どう思う?」
    僕の腕時計の針が止まったのは、半月後に文化祭が迫ってきていた、九月も終わりの頃だった。そしてそれに気付いたのは、僕ではなく、帆高だった。
「ありゃ、時計止まってるじゃん、それ」
「え?」
 帆高の課題は未だに終わっ��おらず、その日も保健室で問題集を広げて向き合っていた。何気なく僕の解答を覗き込んだ帆高が、そう指摘したのだ。
 言われて見てみれば、今は放課後だというのに、時計の針は昼休みの時間で止まっていた。ただいつ止まったのかはわからない。僕は普段、その時計の文字盤に注意を向けることがほとんどないのだ。
「電池切れかな」
「そーじゃん? ちょっと貸してみ」
 帆高がシャープペンシルを置いて手を差し出してきたので、僕はそっと時計のベルトを外し、その手に乗せる。時計を外した手首の内側がやつに見えないように気を付ける。
 黒い、プラスチックの四角い僕の時計。
 僕の左手首の傷を隠すための道具。
 帆高はペンケースから細いドライバーを取り出すと、文字盤の裏の小さなネジをくるくると器用に外していた。それにしてもどうして、こんな細いドライバーを持ち歩いているんだろうか、こいつは。
「あれ?」
 問題集のページの上に転がったネジを、なくさないように消しゴムとシャーペンの間に並べていると、文字盤裏のカバーを外した帆高が妙な声を上げる。
 そちらに目をやると、ちょうど何かが宙を舞っているところだった。それは小さな白いものだった。重力に逆らえるはずもなく、ひらひらと落下していく。帆高の手から逃れたそれは、机の上に落ちた。
「なんだこれ」
 それは紙切れだった。ほんとうに小さな紙切れだ。時計のカバーの内側に貼り付いていたものらしい。僕はそれを中指で摘まんだ。摘まんで、
「…………え?」
 摘まんで、ゴミかと思っていた僕はそれを捨てようと思って、そしてそれに気が付いた。その小さな紙切れには、もっと小さな文字が記されている。
  図書室 日本の野生のラン
 「……図書室?」
 どくん、と。
 突然、自分の心臓の鼓動がやけに耳に響いた。なぜか急に息苦しい気分になる。嫌な胸騒ぎがした。
 ――うーくん、
 誰かが僕の名を呼んでいる。
「どうした?」
 僕の異変に気付いた帆高が身を乗り出して、僕の指先の紙を見やる。
「……日本の野生のラン?」
 ――うーくん、
 僕のことを呼んでいる。
「なんだこれ? なんかの暗号?」
 暗号?
 違う、これは暗号じゃない。
 これは。
 ――うーくん、
 僕を呼んでいるのは、一体誰だ?
「日本の野生のラン、図書室……」
 考えろ。
 考えろ考えろ考えろ。
 これは一体、どういうことだ?
 ――うーくん、
 知っている。わかっている。これは、恐らく……。
「図書室……」
 今になって?
 今日になって?
 どうしてあの日じゃないんだ。
 どうしてあの時じゃないんだ。
 これはそう、きっと最後の……。
 ――うーくん、この時計あげるよ。
「ああ……」
 耳鳴り。世界が止まる音。夏のサイレン。蝉しぐれ。揺れる青色は空の色。記憶と思考の回路が全て繋がる。
「あーちゃんだ…………」
   「英語の課題をするのに辞書を借りたいので、図書室を利用したいんですけど、鍵を借りていってもいいですかー?」
 帆高がそう言うと、職員室にいた教師はたやすく図書室の鍵を貸してくれた。
「そういえば河野くん、まだ宿題提出してないんだって? 担任の先生怒ってたわよ」
 通りすがりの他の教師がそう帆高に声をかける。やつは笑って答えなかった。
「じゃー、失礼しましたー」
 けらけら笑いながら職員室を出てくると、入口の前で待っていた僕に、「じゃあ行こうぜ」と声をかけて歩き出す。僕はそれを追うように歩く。
「ほんとにそうな訳?」
 階段を上りながら、振り返りもせずに帆高が問いかけてくる。
「なにが?」
「ほんとにさっきのメモ、あんたの自殺した友達が書いたもんなの?」
「…………恐らくは」
 僕が頷くと、信じられないという声で帆高は言う。
「にしても、なんだよ、『野生の日本のラン』って」
「『日本の野生のラン』だよ」
「どっちも同じだろー」
 放課後の校内は文化祭の準備で忙しい。廊下にせり出した各クラスの出し物の準備物やら、ダンボールでできた看板やらを踏まないようにして図書室へと急ぐ。途中、紙とビニール袋で作られたタコの着ぐるみを着た生徒とすれ違った。帆高がそのタコに仲良さげに声をかけているところを見ると、こいつの知り合いらしい。こいつにはタコの友人もいるのか。
 この時期の廊下は毎年混沌としている。文化祭の開催時期がハロウィンに近いせいか、クラスの出し物等もハロウィンに感化されている。まるで仮装行列だ。そんな僕も文化祭当日にはクラスの女子が作ってくれたメイド服が待っている。まだタコの方がましだった。
 がちゃがちゃ、と乱暴に鍵を回して帆高は図書室の扉を開けてくれた。
 閉め切られた図書室の、生ぬるい空気が顔に触れる。埃のにおいがする。それはあーちゃんのにおいに似ていると思った。
「『日本の野生のラン』って、たぶん植物図鑑だろ? 図鑑ならこっちだぜ」
 普段あまり図書室を利用しない僕を帆高がひょいひょいと手招きをした。
 植物図鑑が並ぶ棚を見る。植物図鑑、野山の樹、雑草図鑑、遊べる草花、四季折々の庭の花、誕生花と花言葉……。
「あっ…………た」
 日本の野生のラン。
 色褪せてぼろぼろになっている、背表紙の消えかかった題字が僕の目に止まった。恐る恐る取り出す。小口の上に埃が積もっていた。色褪せていたのは日に晒されていた背表紙だけのようで、両側を園芸関係の本に挟まれていた表紙と裏表紙には、名前も知らないランの花の写真が鮮やかな色味のままだ��た。ぱらぱらとページをめくると、日本に自生しているランが写真付きで紹介されている本。古い本のようだ。ページの端の方が茶色くなっている。
「それがなんだっつーんだ?」
 帆高が脇から覗き込む。
「普通の本じゃん」
「うん……」
 最初から最後まで何度もページをめくってみるが、特に何かが挟まっていたり、ページに落書きされているようなこともない。本当に普通の本だ。
「なんか挟まっていたとしても、もう抜き取られている可能性もあるぜ」
「うん……」
「にしても、この本がなんなんだ?」
 腕時計。止まったままの秒針。切れた電池。小さな紙。残された言葉は、図書室 日本の野生のラン。書いたのはきっと、あーちゃんだ。
 ――うーくん、この時計あげるよ。
 この時計をくれたのはあーちゃんだった。もともとは彼の弟、あっくんのものだったが、彼が気に入らなかったというのであーちゃんが僕に譲ってくれたものだ。
 その時彼は言ったのだ、
「使いかけだから、電池はすぐなくなるかもしれない。でもそうしたら、僕が電池を交換してあげる」
 と。
 恐らくあーちゃんは、僕にこの時計をくれる前、時計の蓋を開け、紙を入れたのだ。こんなところに紙を仕込める人は、彼しかいない。
 にしてもどういうことだろう、図書室 日本の野生のラン。この本がなんだと言うのだろう。
 てっきりこの本に何か細工でもしてあるのかと思ったけれど、見たところそんな部位もなさそうだ。そもそも、本を大切にしていたあのあーちゃんが、図書室の本にそんなことをするとは思えない。でもどうして、わざわざ図書室の本のことを記したのだろう。図書室……。
「あ……」
 図書室と言えば。
「貸出カード……」
 本の一番後ろのページを開く。案の定そこには、貸出カードを仕舞うための、紙でできた小さなポケットが付いている。
 中にはいかにも古そうな貸出カードが頭を覗かせている。それをそっと手に取って見てみると、そこには貸出記録ではない文字が記してあった。
  資料準備室 右上 大学ノート
 「……今度は資料準備室ねぇ」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、帆高は面倒そうに言う。
「一体、なんだって言うんだよ」
「……さぁ」
「行ってみる?」
「…………うん」
 僕は本を棚に戻す。元通り鍵を閉め、僕らは図書室を後にした。
 図書室の鍵は後で返せばいいだろ、という帆高の発言に僕も素直に頷いて、職員室には寄らずに、資料準備室へ向かうことにした。
 またもや廊下でタコとすれ違った。しかも今度は歩くパイナップルと一緒だ。なんなんだ一体。映画の撮影のためにその恰好をしているらしいが、どんな映画になるのだろう。「戦え! パイナップルマン」と書かれたたすきをかけて、ビデオカメラを持った人たちがタコとパイナップルを追いかけるように速足で移動していった。
「そういえばさ、」
 僕は彼らから帆高へ目線を移しながら尋ねた。
「資料準備室、鍵、いるんじゃない?」
「あー」
「借りて来なくていいの?」
「貸して下さいって言って、貸してくれるような場所じゃないだろ」
 資料準備室の中には地球儀やら巨大な世界地図やら、あとはなんだかよくわからないものがいろいろ入っている。生徒が利用することはない。教師が利用することもあまりない。半分はただの物置になっているはずだ。そんな部屋に用事があると言ったところで、怪しまれるだけで貸してはくれないだろう。いや、この時期だし、文化祭の準備だと言えば、なんとかなるかもしれないけれど。
「じゃ、どうする気?」
「あんたの友達は、どうやってその部屋に入ったと思う?」
 そう言われてみればそうだ。あーちゃんはそんな部屋に、一体何を隠したというのだ。そして、どうやって?
「良いこと教えてやるよ、――くん」
「……なに?」
 帆高は僕の名を呼んだのだと思うが、聞き取れなかった。
 やつは唇の端を吊り上げて、にやりと笑う。
「資料準備室って、窓の鍵壊れてるんだよ」
「はぁ……」
「だから窓から入れるの」
「資料準備室って、三階……」
「ベランダあんだろ、ベランダ」
 三階の廊下、帆高は非常用と書かれた扉を開けた。それは避難訓練の時に利用する、三階の全ての教室のベランダと繋がっている通路に続くドアだ。もちろん、普段は生徒の使用は禁止されている。と思う、たぶん。
「行こうぜ」
 帆高が先を行く。僕がそれを追う。
 日が傾いてきたこともあり、風が涼しかった。空気の中に、校庭の木に咲いている花のにおいがする。空は赤と青の絵具をパレットでぐちゃぐちゃにしたような色だった。あちこちの教室から、がやがやと文化祭の準備で騒がしい声が聞こえてくる。ベランダを歩いていると、なんだか僕らだけ、違う世界にいるみたいだ。
「よいっ、しょっと」
 がたんがたんと立て付きの悪い窓をやや乱暴に開けて、帆高がひょいと資料準備室の中へと入る。僕も窓から侵入する。
「窓、閉めるなよ。万が一開かなくなったらやばいからな」
「わかった」
「さて、資料準備室、右上、大学ノート、だったっけ? 右上、ねぇ……」
 資料準備室の中は、物が所せましと置かれていた。大きなスチールの棚から溢れ出した物が床に積み上げられ、壊れた机や椅子が無造作に置かれ、僕らの通り道を邪魔している。どんな物にも等しく埃が降り積もっていて、蜘蛛の巣が縦横無尽に走っている。
「右上っちゃー、なんのことだろうな」
 ズボンに埃が付かないか気にしながら、帆高が並べられた机の間を器用にすり抜けた。僕は部屋の中を見回していると、ふと、棚の中に大量のノートらしき物が並べられているのを見つけた。
 僕はその棚に苦労して近付き、手を伸ばしてノートを一冊取り出してみる。
「……昭和六十三年度生徒会活動記録」
 表紙に油性ペンで書かれた文字を僕が読み上げると、帆高が、
「生徒会の産物か」
 と言った。
「右上って、この棚の右上ってことじゃないかな」
「ああ。どうだろうな、ちょっと待ってろ」
 帆高は頷くと、一番下の段に足をかけて棚によじ登ると、最上段の右側に置いてあるノートを無造作に二十冊ほど掴んで降ろしてくれた。それを机の上に置くと、埃が空気に舞い上がる。ノートを一冊一冊見ていくと、一冊だけ、表紙に文字の記されていないノートがあった。
「それじゃね?」
 棚からぴょんと飛び降りた帆高が言う。
 僕はそのノートを手に取り、表紙をめくった。
  うーくんへ
  たったそれだけの、鉛筆で書かれた、薄い文字。
「……これだ」
 次のページをめくる。
  うーくんへ
 きみがこれを読む頃には、とっくに僕は死んでいるんだろうね。
 きみがこのノートを手に取ってくれたということは、僕がきみの時計の中に隠したあのメモを見てくれたということだろう? そして、あの図書室の本を、ちゃんと見つけてくれたということだろう?
 きみがメモを見つけた時、どこか遠いところに引っ越していたり、中学校を既に卒業していたらどうしようかと、これを書きながら考えているけれど、それはそれで良いと思う。図書室の本がなくなっていたり、このノートが捨てられてしまったりしていたらどうしようかとも思う。たとえ、今これを読んでいるきみがうーくんではなかったとしても、僕はかまわない。
 これでも考えたんだ。他の誰でもなく、きみだけが、このノートを手に取る方法を。
 これは僕が生きていたことを確かに証明するノートであり、これから綴るのは僕が残す最後の物語なのだから。
 これは、僕のもうひとつの遺書だ。
 「もうひとつの、遺書……」
 声が震えた。
 知らなかった。
 あーちゃんがこんなものを残しているなんて知らなかった。
 あーちゃんがこんなものを書いているなんて知らなかった。
 彼が死んだ時、僕はまだ小学校を卒業したばかりだった。
 あーちゃんは僕にメモを仕込んだ腕時計をくれ、それを使い続け、電池が切れたら交換すると信じていた。僕が自分と同じこの中学校に通って、メモを見て図書室を訪れると信じていた。あの古い本が破棄されることなく残っていて、貸出カードの文字がそのままであると信じていた。この部屋が片付けられることなく、窓が壊れたままで、ノートが残っていることを信じていた。
 なによりも、僕がまだ、この世界に存在していることを信じていた。
 たくさんの未来を信じていたのだ。自分はもう、いない未来を。
「目的の物は、それでいーんだろ?」
 帆高の目は、笑っていなかった。
「じゃ、ひとまず帰ろうぜ。俺の英語の課題、まだ終わってない」
 それに図書室の鍵も、返さなくちゃいけないし。そう付け加えるように言う。
「それは後でゆっくり読めよ。な?」
「……そうだね」
 僕は頷いて、ノートを閉じた。
    うーくんへ
 きみがこれを読む頃には、とっくに僕は死んでいるんだろうね。
 そんな出だしで始まったあーちゃんの遺書は、僕の机の上でその役目を終えている。
 僕は自分の部屋のベッドに仰向けに寝転がって、天井ばかりを眺めていた。ついさっきまで、ノートのページをめくり、あーちゃんが残した言葉を読んでいたというのに、今は眠気に支配されている。
 ついさっきまで、僕はその言葉を読んで泣いていたというのに。ページをめくる度、心が八つ裂きにされたかのような痛みを、繰り返し繰り返し、感じていたというのに。
 ノートを閉じてしまえばなんてことはない、それはただの大学ノートで、そこに並ぶのはただの筆圧の弱い文字だった。それだけだ。そう、それだけ。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ「それだけ」であるという事実だけが、淡々と横たわっている。
 事実。現実。本当のこと。本当に起こったこと。もう昔のこと。以前のこと。過去のこと。思い出の中のこと。
 あーちゃんはもういない。
 どこにもいない。これを書いたあーちゃんはもういない。歴史の教科書に出てくる人たちと同じだ。全部全部、昔のことだ。彼はここにいない。どこにもいない。過去のこと。過去のひと。過去のもの。過去。過去そのもの。もはやただの虚像。幻。夢。嘘。僕がついた、嘘。僕がひーちゃんについた、嘘。あーちゃんは、いない。いない。いないいないいない。
 ただそれだけの、事実。
 あーちゃんのノートには、生まれ育った故郷の話から始まっていた。
 彼が生まれたのは、冬は雪に閉ざされる、北国の田舎。そこに東京から越してきた夫婦の元に生まれた彼は、生まれつき身体が弱かったこともあり、近所の子供たちとは馴染めなかった。
 虫捕りも魚釣りもできない生活。外を楽しそうに駆け回るクラスメイトを羨望の眼差しで部屋から見送る毎日。本屋も図書館もない田舎で、外出できないあーちゃんの唯一の救いは、小学校の図書室と父親が買ってくれた図鑑一式。
 あーちゃんは昔、ぼろぼろの、表紙が取れかけた図鑑をいつも膝の上に乗せて熱心に眺めていた。破けたページに丁寧に貼られていたテープを思い出す。
 学校で友達はできなかった。あーちゃんはいつもひとりで本を読んで過ごした。小学校��上がる以前、入退院を繰り返していた彼は、同年代との付き合い方がわかっていなかった。
 きっかけは小さなことだった。
 ひとりの活発なクラスメイトの男の子が、ある日あーちゃんに声をかけてきた。
 サッカーをする人数が足りず、教室で読書をしていた彼に一緒に遊ばないかと声をかけてきたのだ。
 クラスメイトに声をかけられたのは、その時が初めてだった。あーちゃんはなんて言えばいいのかわからず黙っていた。その子は黙り込んでしまったあーちゃんを半ば強引に、外に連れ出そうとした。意地悪をした訳ではない。その子は純粋に、彼と遊びたかっただけだ。
 手を引かれ、引きずられるようにして教室から連れ出される。廊下ですれ違った担任の先生は、「あら、今日は鈴木くんもお外で遊ぶの?」なんて声をかける。あーちゃんは抵抗しようと首を横に振る。なんとかして、自分は嫌なことをされているのだと伝えようとする。だけれどあーちゃんの手を引くそのクラスメイトは、にっこり笑って言った。
「きょうはおれたちといっしょにサッカーするんだ!」
 ただ楽しそうに。悪意のない笑顔。害意のない笑顔。敵意のない笑顔。純粋で、率直で、自然で、だから、だからこそ、最も忌むべき笑顔で。
 あーちゃんの頭の中に言葉が溢れる。
 ぼくはそとであそびたくありません。むりやりやらされようとしているんです。やめてっていいたいんです。たすけてください。
 しかしその言葉が声になるよりも早く、先生はにっこり笑う。
「そう。良かったわ。休み時間はお外で遊んだ方がいいのよ。本は、おうちでも読めるでしょう?」
 そうして背を向けて、先生は行ってしまう。あーちゃんの腕を引く力は同い年とは思えないほどずっと力強く、彼の身体は廊下を引きずられていく。
 子供たちの笑い声。休み時間の喧騒。掻き消されていく。届かない。口にできない言葉。消えていく。途絶えていく。まるで、死んでいくように。
 あーちゃんは、自分の気持ちをどうやって他者に伝えればいいのか、わかっていなかった。彼に今まで接してきた大人たちは、皆、幼いあーちゃんの声に耳を傾けてくれる人たちばかりだった。両親、病院の医師や看護師。小さい声でぼそぼそと喋るあーちゃんの言葉を、辛抱強く聞いてくれた。
 自分で言わなければ他人に伝わらないということも、幼いあーちゃんは理解していなかった。どうすれば他人に伝えればいいのか、その方法を知らなかった。彼は他人との関わり方がわからなかった。
 だからあーちゃんは、持っていた本で、さっきまで自分が机で読んでいた本で、ずっと手に持ったままだったその分厚い本で、父親に買ってもらった恐竜の図鑑で、その子の頭を殴りつけた。
 一緒に遊ぼう、と誘ってくれた、初めて自分に話しかけてくれたクラスメイトを。
 まるで自然に、そうなることが最初から決まっていたかのように、力いっぱい腕を振り上げ、渾身の力で、その子を殴った。
 あーちゃんを引っ張っていた手が力を失って離れていく。まるで糸が切れた人形のように、その子が倒れていく。形相を変えて駆け寄って来る先生。目撃した児童が悲鳴を上げる。何をやっているの、そう先生が怒鳴る。誰かに怒鳴られたのは、初めてだった。
 倒れたその子は動かなかった。
 たった一撃だった。そんなつもりではなかった。あーちゃんはただ伝えたいだけだった。言葉にできなかった自分の気持ちを、知ってほしいだけだった。
 その一撃で、あーちゃんの世界は木っ端微塵に破壊された。
 彼の想いは、誰にも届くことはなかった。
 その子の怪我はたいしたことはなく、少しの間意識を失っていたけれど、すぐに起き上がれるようになった。病院の検査でも異常は見つからなかった。
 あーちゃんの両親は学校に呼び出され、その子の親にも頭を下げて謝った。
 あーちゃんはもう、口を開こうとはしなかった。届かなかった想いをもう口にしようとはしなかった。彼はこの時に諦めてしまったのだ。誰かにわかってもらうということも、そのために自分が努力をするということも。
 そうしてこの時から、彼は透明人間になった。
「ママがね、『すずきくんとはあそんじゃだめよ��って言うの」
「うちのママも言ってた」
「あいつ暗いよなー、いっつも本読んでてさ」
「しゃべってもぼそぼそしてて聞きとれないし」
「『ヨソモノにろくなやつはいない』ってじーちゃん言ってた」
「ヨソモノって?」
「なかまじゃないってことでしょ」
 あーちゃんが人の輪から外れたのか、それとも人が離れていったのか。
 あーちゃんはクラスの中で浮くようになり、そうしてそれは嫌がらせへと変わっていった。
 眼鏡。根暗。ガイジン。国に帰れよ。ばーか。
 投げつけられる言葉をあーちゃんは無視した。まるで聞こえていないかのように。
 あーちゃんは何も言わなかった。嫌だと口にすることはしなかった。けれど、彼の足は確実に学校から遠ざかっていった。小学二年生に進級した春がまだ終わり切らないうちに、あーちゃんは学校へ行けなくなった。
 そしてその一年後に、あーちゃんは僕の住む団地へとやって来た。
 笑うことも、泣くことも、怒ることもなく。ただ何よりも深い絶望だけを、その瞳に映して。ハサミで乱暴に傷つけられた、ぼろぼろのランドセルを背負って。
 彼のことを、僕が「あーちゃん」と呼んでいるのはどうしてなんだろう。
 彼の名前は、鈴木直正。「あーちゃん」となるべき要素はひとつもない。
 あーちゃんの弟のあっくんの名前は、鈴木篤人。「あつひと」だから、「あっくん」。
「あっくん」のお兄さんだから、「あーちゃん」。
 自分でそう呼び始めたのに、僕はそんなことまでも忘れていた。
 思い出させてくれたのは、あーちゃんのノート。彼が残した、もうひとつの遺書。
 あーちゃんたち一家がこの団地に引っ越して来た時、僕と最初に親しくなったのはあーちゃんではなく、弟のあっくんの方だった。
 あっくんはあーちゃんの三つ年下の弟で、小柄ながらも活発で、虫捕り網を片手に外を駆け回っているような子だった。あーちゃんとはまるで正反対だ。だけれど、あっくんはひとりで遊ぶのが好きだった。僕が一緒に遊ぼうとついて行ってもまるで相手にされないか、置いて行かれることばかりだった。ひとりきりが好きなところは、兄弟の共通点だったのかもしれない。
 あっくんと遊ぼうと思って家を訪ねると、彼はとっくに出掛けてしまっていて、大人しく部屋で本を読んでいるあーちゃんのところに辿り着くのだ。
「いらっしゃい」
 あーちゃんはいつも、クッションの上に膝を丸めるようにして座り、壁にもたれかかるようにして分厚い本を読んでいた。僕が訪れる時は大抵そこから始まって、僕の来訪を確認するためにちらりとこちらを見るのだ。開け放たれた窓からの逆光で、あーちゃんの表情はよく見えない。かけている銀縁眼鏡がぎらりと光を反射して、それからやっと、少し笑った彼の瞳が覗く。今思えば、それはいつだって作り笑いみたいな笑顔だった。
 最初のうちはそれで終わりだった。
 あーちゃんは僕がいないかのようにそのまま本を読み続けていた。僕が何か言うと、迷惑そうに、うざったそうに、返事だけはしてくれた。それもそうだ。僕はあーちゃんからしてみれば、弟の友達であったのだから。
 だけれどだんだんあーちゃんは、渋々、僕を受け入れてくれるようになった。本や玩具を貸してくれたり、プラモデルを触らせてくれたり。折り紙も教えてもらった。ペーパークラフトも。彼は器用だった。細くて白い彼の指が作り出すものは、ある種の美しさを持っていた。不器用で丸々とした、子供じみた手をしていた僕は、いつもそれが羨ましかった。
 ぽつりぽつりと会話も交わした。
 あーちゃんの言葉は、簡単な単語の組み合わせだというのに、まるで詩のように抽象的で、現実味がなく、掴みどころがなかった。それがあーちゃんの存在そのものを表しているかのように。
 僕はいつの頃からか彼を「あーちゃん」と呼んで、彼は僕を「うーくん」と呼ぶようになった。
  うーくんと仲良くできたことは、僕の人生において最も喜ばしいことだった。
 それはとても幸福なことだった。
 うーくんはいつも僕の声に、耳を傾けようとしてくれたね。僕はそれが懐かしくて、嬉しかった。僕の気持ちをなんとか汲み取ろうとしてくれて、本当に嬉しかった。
 僕の言葉はいつも拙くて、恐らくほとんど意味は通じなかったんじゃないかと思う。けれど、それでも聞いてくれてありがとう。耳を塞がないでいてくれて、ありがとう。
  ノートに記された「ありがとう」の文字が、痛いほど僕の胸を打つ。せめてその言葉を一度でも、生きている時に言ってくれれば、どれだけ良かったことだろう。
 そうして、僕とあーちゃんは親しくなり、そこにあの夏がやって来て、ひーちゃんが加わった。ひーちゃんにとってあーちゃんが特別な存在であったように、あーちゃんからしてもひーちゃんは、特別な存在だった。
 僕とあーちゃんとひーちゃん。僕らはいつも三人でいたけれど、三角形なんて初めから存在しなかった。僕がそう信じていたかっただけで、そこに最初から、僕の居場所なんかなかった。僕は「にかっけい」なんかじゃなくて、ただの点にしか過ぎなかった。
  僕が死んだことで、きっとひーちゃんは傷ついただろうね。
 傷ついてほしい、とすら感じる僕を、うーくんは許してくれるかな。きっときみも、傷ついただろう? もしかしたら、うーくんがこのノートを見つけた時、きみは既に僕の死の痛みから立ち直っているかもしれない。そもそも僕の死に心を痛めなかったかもしれないけれどね。
 こんな形できみにメッセージを残したことで、きみは再び僕の死に向き合わなくてはいけなくなったかもしれない。どうか僕を許してほしい。このノートのことを誰かに知られることは避けたかった。このノートはきみだけに読んでほしかった。
 きみが今どうしているのか、僕には当然わからないけれど、どうか、きみには生きてほしい。できるなら笑っていてほしい。ひーちゃんのそばにいてほしい。僕は裏切ってしまったから。あの子との約束を、破ってしまったから。
 「約束」という文字が、僅かに震えていた。
 約束?
 あーちゃんとひーちゃんは、何か約束していたのだろうか。あのふたりだから、約束のひとつやふたつ、していたっておかしくはない。僕の知らないところで。
  うーくん。
 今まできみが僕と仲良くしてくれたことは本当に嬉しかった。きみが僕にもたらしてくれたものは大きい。きみと出会ってからの数年間は、僕が思っていたよりもずっと楽しかった。うーくんがどう思っているのかはわからないけれどね。
 ひーちゃんも、よくやってくれたと思ってる。僕が今まで生きてこられたのは、ふたりのおかげでもあると思ってるんだ。
 けれど僕は、どうしようもないくらい弱い人間だ。弱くて弱くて、きみやひーちゃんがそばにいてくれたというのに、僕は些細な出来事がきっかけで、きみたちと過ごした時間を全てなかったことにしてしまうんだ。
 気が付くと、自分がたったひとりになっているような気分になる。うーくんもひーちゃんも、本当は嫌々僕と一緒にいるのであって、僕のことなんか本当はどうでもいい存在だと思っている、なんて考えてしまう。きみは、「そうじゃない」と言ってくれるかもしれないが、僕の心の中に生まれた水溜まりは、どんどん大きくなっていくんだ。
 どうせ僕は交換可能な人間で、僕がいなくなってもまた次の代用品がやってきて、僕の代わりをする。僕の居た場所には他人が平気な顔をして居座る。そして僕が次に座る場所も、誰か他人が出て行った後の場所であって、僕もまた誰かの代用品なんだ、と��えてしまう。
 よく考えるんだ。あの時どうすれば良かったんだろうって。僕はどこで間違えてしまったんだろうって。
 カウンセラーの日褄先生は、僕に「いくらでもやり直しはできるんだ」って言う。でもそんなことはない。やり直すことなんかできない。だって、僕は生きてしまった。もう十四年間も生きてしまったんだ。積み上げてきてしまったものを、最初からまた崩すなんてことはできない。間違って積んでしまった積み木は、その年月は、組み直すことなんかできない。僕は僕でしかない。鈴木直正でしかない。過去を清算することも、変更することもできない。僕は、僕であるしかないんだ。そして僕は、こんな自分が大嫌いなんだ。
 こんなにも弱く、こんなにも卑怯で、こんなにも卑屈な、ひねまがった僕が大嫌いだ。
 でもどうしようもない。ひねまがってしまった僕は、ひねまがったまま、また積み上げていくしかない。ひねまがったままの土台に、ひねまがったまま、また積み上げていくしか。どんなに新しく積み上げても、それはやっぱりひねまがっているんだ。
 僕はもう嫌なんだ。間違いを修正したい。修正することができないのなら、いっそなかったことにしたい。僕の今までの人生なんてなかったことにしたい。僕にはもう何もできない。何もかもがなくなればいい。そう思ってしまう。そう思ってしまった。泣きたくなるぐらい、死にたくなるぐらい、そう思ったんだ。
 うーくん。
 やっぱり僕は、間違っているんだろうと思う。
 もう最後にするよ。うーくん、どうもありがとう。このノートはいらなくなったら捨ててほしい。間違っても僕の両親や、篤人、それからひーちゃんの目に晒さないでほしい。きみだけに、知ってほしかった。
 きみだけには、僕のようになってほしくなかったから。
 誰かの代わりになんて、なる必要ないんだ。
 世界が僕のことを笑っているように、僕も世界を笑っているんだ。
  そこで、あーちゃんの文字は止まっていた。
 最後に「サヨナラ」の文字が、一度書いて消した痕が残っていた。
 あーちゃんが僕に残したノートの裏表紙には、油性ペンで日付が書いてあった。
 あーちゃんが空を飛んだ日の日付。恐らく死ぬ前に、これを書いたのだろう。そして屋上に登る前にこのノートを資料室の棚の中へと隠した。その前に図書室の本に細工し、それ以前にメモを忍ばせた時計を僕に譲ってくれた。一体いつから、あーちゃんは死のうとしていたんだろう。僕が思っているよりも、きっとずっと以前からなんだろう。
 涙が。
 涙が出そうだ。
 どうして僕は、気付かなかったんだろう。
 どうして僕は、気付いてあげられなかったんだろう。
 一番側にいたのに。
 一番一緒にいたのに。
 一番僕が、彼のことをわかったつもりになっていて、それでいて、あーちゃんが何を思っていたのか、肝心なことは何もわかっていなかった。
 僕は何を見ていたんだろう。何を聞いていたんだろう。何を考えていたのだろう。何を感じていたのだろう。
 僕は何を、していたのだろう。
 何をして生きていたんだろう。
 あーちゃん。
 あーちゃんあーちゃんあーちゃん。
 僕は彼のたったひとりの友達だったというのに。
 言えばよかった。言ってあげればよかった。言いたかった。
 あーちゃんはひねまがってなんかないって。 
 あーちゃんはひとりなんかじゃないって。
 あーちゃんは、透明人間なんかじゃ、ないんだって。
 今さらだ。ほんとうに今さらだ。
 僕は知らなかった。わからなかった。気付いてあげられなかった。最後まで。本当に最後まで。何もかも。
 わかっていなかった。何ひとつ。
 ずっと一緒にいたのに。
 僕があーちゃんをちゃんと見ていなかったから、僕があーちゃんを透明にして、彼の見る世界を透明にしたのだ。
 僕が彼の心に触れることができていたならば、あーちゃんはこんなもの書かなくても済んだのだ。わざわざ人目につかないところに隠して、こんなものを、こんなものを僕に読ませなくても済んだのだ。
 僕は、こんなものを読まなくても済んだのに!
 あーちゃんがたとえ、ひねまがっていても、ひとりぼっちだったとしても、透明だったとしても、それがあーちゃんだったのに。あーちゃんはあーちゃんだったのに。あーちゃんの代わりなんて、どこにもいないというのに。
 ひーちゃんは今も、あーちゃんのことを待っているというのに。
 あーちゃんはもういないのに。全部嘘なのに。僕がついた嘘なのに。あんなに笑って、でも少しも楽しそうじゃない。空っぽのひーちゃん。世界は暗くて、壊れていて、終了していて、破綻していて、もうどうしようもないぐらい完璧に、歪んでしまっているというのに。それでも僕の嘘を信じて、あーちゃんは生きていると信じて、生きているというのに。
 僕はずっと勘違いをしていた。
 あーちゃんが遺書に書き残した、「僕の分まで生きて」という言葉。
 僕はあーちゃんの分まで生きたら、僕があーちゃんの代わりに生きたら、幸せになるような気がしていたんだ。あーちゃんの言葉を守っていれば、ご褒美がもらえるような、そんな風に思っていたんだ。
 あーちゃんはもういない。
 だから、誰も褒美なんかくれない。誰も褒めてなんてくれない。褒めてくれるはずのあーちゃんは、もういないのだから。
 本当の意味で、あーちゃんの死を理解していなかったのはひーちゃんではなく、僕だ。
 ひーちゃんはあーちゃんの死後、生きることを拒んだのだから。彼女はわかっていたのだ。生きていたって、褒美なんかないってことを。
 それでも僕が選ばせた。選ばせてしまった。彼女に生きていくことを。
 あーちゃんの分まで生きることを。
 褒美もなければ褒めてくれる人ももういない。
 それでも。
 でもそれでも、生きていこうと。生きようと。この世界で。
 あーちゃんのいない、この世界で。
 いつだってそうだ。
 ひーちゃんが正しくて、僕が間違っている。
 ひーちゃんが本当で、僕は嘘なんだ。
「最低だな……僕は」
 あーちゃんにもひーちゃんにも、何もしてあげられなかった。
   「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 廊下どころか学校じゅうにまで聞こえそうな大絶叫を上げて、帆高が大きく伸びをした。
 物思いにふけっていた僕は、その声にぎょっとしてしまった。
「終わったあああああああああああああああーっ!」
「うるさいよ……」
 僕が一応注意しておいたけれど、帆高に聞こえているかは謎だ。
「終わった終わった終わったーっ!」
 ひゃっほぉ! なんて言いながら、やつは思い切り保健室のベッドにダイブしている。舞い上がった埃が電灯に照らされている。
「帆高、気持ちはわかるけど……」
「終わったー! 俺は自由だああああああああーっ!」
「…………」
 全く聞いている様子がない。あまりにうるさいので、このままでは教師に怒られてしまうかもしれない。そう、ここはいつもの通り、保健室だ。帆高のこの様子を見るに、夏休みの課題がやっと終わったところなのだろう。確かにやつの手元の問題集へ目をやると、最後の問題を解き終わったようだ。
 喜ぶ気持ちはわかるが、はしゃぎすぎだ。どうしようかと思っていると、思わぬ人物が動いた。
 すぱーんという小気味良い音がして、帆高は頭を抱えてベッドの上にうずくまった。やつの背後には愛用のスケッチブックを抱えた河野ミナモが立っている。隣のベッドから出てきたのだ。長い前髪でその表情はほとんど隠れてしまっているが、それでも彼女が怒っているということが伝わる剣幕だった。
「静かに、して」
 僕が知る限り、ミナモはまだ帆高とろくに会話を交わしたことがない。これが僕の知る限り初めてふたりが言葉を交わしたのを見た瞬間だった。それにしてはあまりにもひどい。
 ミナモはそれだけ言うとまたベッドへと戻り、カーテンを閉ざしてしまう。
「……にてしても、良かったね。夏休みの宿題が終わって」
「おー…………」
 ミナモの一撃がそんなに痛かったのだろうか、帆高は未だにうずくまっているままだ。僕はそんなやつを見て、そっと苦笑した。
 僕は選んだのだ。
 あーちゃんのいないこの世界で、それでも、生きることを。
 ※(4/4)へ続く→https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/649989835014258688/
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