#龍折り財布
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galleryshinsaibashi · 7 months ago
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◆artherapie(アルセラピィ) 新作が入荷致しました◆ 【ネオドラゴン2つ折りがま口財布(BLACK×BLUE)】 定価:19,800円(税込) 弊社通販サイト商品ページ⇒http://www.gallery-jpg.com/item/230862-62/ artherapie 株式会社ホワイ製〔WHY Co.,Ltd〕 素材:牛革 サイズ:約高さ110mm×横幅120mm×マチ幅35mm カラー:ブラック×ブルー カード入れ:9枚 日本製 前作のドラゴンシリーズをベースにした新シリーズ「ネオドラゴン」がリリースされました。 ドラゴンのデザインも新たに、判も新調した今回のシリーズ。 より、立体感のある型押しに、以前と同様に職人の手作業による着色で仕上げられています。 ※ご覧頂いている媒体により、色の見え方が多少変わる場合がございます。 ※店頭でも同商品を販売しておりますので、通販サイトの在庫反映が遅れる場合があり商品をご用意出来ない場合がございます。予めご了承頂きます��うお願い致します。 Gallery なんばCITY本館1F店 〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波5-1-60なんばCITY本館1階 【営業時間】11:00~21:00 【休館日】4月無休、5月無休 【PHONE】06-6644-2526 【e-mail】[email protected]
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aoiyhvh · 11 months ago
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仕事がしまって。帰省して、年が明けて…
お休みも折り返しに。
年明け、1月1日、震度7の大地震。石川能登の地でのこと、まだ全容は掴めておらず、この投稿のタイムリーには、馳知事が会見をしている。
東京の地では、なんだか変な、長い揺れだった。この寒い時期の東北で、大晦日明けの夕方、非常にしんどい夜かと思う。今後集まる情報が、最低限の被害であることを願う。津波の警報が続いているが、その被害についても確認中である。
午前中は羽田に、人の見送りに。別れ、搭乗時に財布を無くしたとかでバタり、結果見つかって良かったのだが、午前中のフライトから16時過ぎのフライトとなった。
目指す地は福井県。最寄りは石川県小松空港であり、直撃。当然欠航。予定のとおりであれば到着していただろうが、それはそれで、現地で直撃していたかもしれない。
限られた帰省は、明日のこともわからず、東京への戻りもどうなることやら、でもあり今年は諦めるとのことで、財布を無くしたことが、今回は良し悪し微妙なところだが、大きく左右したことに、なる。
閑話休題。
会社は、何年振りかの納会にて、締まった。ギリギリまでいろんなことが重なったが、そこで頑張ったおかげか、今のところ、休暇中になんか発生したとかはない。しかし、どこかで仕事を整理せんと、5日から早速パンパンの仕事が始まる…
翌日は午前中から、銀行→スタバで仕事→久々に映画に行った。とある成り行きで買ったチケット。内容には期待していなかったが、
良かった。とても。宇宙旅行に行く!は金だけでは実現できないことがよーくわかった。信念も、必要なのだ。金出してもらっても、少なくとも今の私では行けない。その後、三田の九頭龍で前倒しのそばとソースカツ丼。
翌日30日。やや空きのはず、と麻布台ヒルズに。やや空きだった。33階展望も、この程度。ご飯屋はまあ、時間帯もあり混んでいた。夕方、前倒しの帰省。ジャパネットおせちと、甥っ子も弄り倒す。お年玉を渡して、日帰り帰宅。
大晦日。大掃除は、29日に割と進めていて、その続きをし、またやや空きのはず、と麻布台ヒルズに。短縮営業だったので、普通に空いていて、平常時はまだ並ばずの食事は無理であろうが、とんかつ屋がするっと入れたので、特上ロース(2,700円)をいただいた。その後、ここも並ばずでは買えない京都発、アラビカコーヒーを飲む。ブルボ系。
年越しは、マッサージガンを当てていたら、明けていた。
で、今日。割と早起きで羽田に行って、その後は前述のとおり。
断捨離は、細かく、けっこうガシガシに捨てたが、年を越えた本日、まだ寿命ではないがこっちに越してきたときに買って一年足らずで小指の網のとこが破けてしまったサロモンと、調布のほうに住んでた時だからもう10年以上は経過した、加水分解バリバリのエアマックス1(A.P.C.)とのサヨナラが発生した。マックス1はマジでよく履いた。そろそろ捨てねばと、思ったこの3ヶ月ぐらい、さらに頻度を上げて履いたので、本体とソールがパカパカしていた。
とりあえず日本、私の感じたところではあるが「あけおめ」という感じはあんまりない。担当サービスの激烈忙殺や障害発生、松本さんと文春の件も年を越してからの本格進展かと思われ、元旦早々の大地震…辰年、暴龍。何かが起きそうだ、動き出しそうだ。
2024。信念あけましておめでとうございます。
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sencablog · 1 year ago
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【2018年11月公開ssの転載】
ドリィムシリーズ・直人の過去恋愛話スピンオフです。
前・中・後編を一つにまとめてます。
一夜以外とのカップリングストーリーですので、攻略対象の脇カップリング等が苦手な方は、閲覧非推奨です。 また、直人は中学生、カップリングとしては『受け』立場ですので、そのような立場逆転が苦手な方もご注意ください。
終盤にちょっとだけ一夜が出てきます。
 直人がその男性に出会ったのは、人もまばらな、夜のライブハウスだった。  駅前を通り過ぎ、路地裏に入った先の地下にある、小さなライブハウス。その場所のオーナーと知り合ってから、直人がそこへ足を運ぶのは、これで数えて2度目だった。  当時、直人はまだ齢十四の中学生だ。看板の灯りが点くその時間、本来なら、未成年は立ち入れない時間帯だった。  だが、ライブハウスオーナー――橋元の厚意で、直人はマイナーなバンドが代わり替わり音を奏でるステージを、大人たちから少し離れた後ろの方で、ぼんやりと眺めていた。  直人が気になるバンドの出番は、まだ少し先だった。今の演者は全くと言っていいほど興味がないし、好みにも掠らない。  こうして物事に対する興味が極端に薄くなったのがいつからかは、直人自身にも解らなかった。  ただ、気がついたときには"好奇心"というものが自分の中から消えて、与えられるものをただ受け入れる、そんな人生を歩み始めていた。  直人は、ステージの近くでバンドマン達と盛り上がる一部のファンを視界に入れながら、紙コップに入った烏龍茶を一口、飲み込んだ。  ――きっと、自分は好きなバンドが演奏を始めても、あんな風に騒ぐことはないだろう。  喉を下る冷たさを感じながら、そんなことを頭の片隅で考える。同時に、諦めにも似た喪失感が自身を襲った。 「……っ?」  瞬間、直人の体へ衝撃があった。それに合わせて、殆ど減っていなかったカップの中身が僅かに飛び出す。 「うっわ、ごめんね」  知らない男の声と同時に、直前まで吸っていたのか、煙草の香りが直人の鼻腔を突いた。 「いえ……」 「服、濡れたりしなかった?」 「……大丈夫です」 「そう、よか……って嘘じゃん。袖んとこ濡れてるよ」  男は困った様子で上着のジャケットからポケットティッシュを取り出すと、直人へ差し出す。 「ごめん、これしかないや。早く拭かないと染みになるかも」 「……どうも」  直人がポケットティッシュを受け取るも、男は空いた手をそのまま差し出し続ける。 「……?」  直人は一瞬訝しげに思うも、すぐにカップを代わりに持つ気だと悟り、入れ替えるように差し出した。  男にカップを預けると、改めて、濡れた袖口に目をやる。  薄い色の服だったため、洗うまで跡は残ってしまいそうだった。  ……自分自身は別にかまわないけど、母親が煩そうだ。  少しだけ滅入った気分を感じながら、直人は受け取ったティッシュで、濡れた部分を拭き取った。 「……もしかして、高い服だった?」 「え?」 「いや、不機嫌な顔してるから」 「……すみません」 「ん、なんで君が謝る? 汚したの俺だから。弁償しようか?」 「そういうのじゃないので。……ありがとうございます」  直人は残りのティッシュを返そうと、男へ差し出した。 ��ああ、あげるよ。それ配ってたから貰ったやつだし。……はい、改めてごめんね」  男は人のいい調子で言いながら、直人へ烏龍茶の入ったカップを返した。  直人は一瞬迷うも、カップを受け取ると、そのままティッシュをポケットへしまった。 「ところで君、未成年だよね」 「……」  これで去るだろう、と思っていた直人に、予想外の質問が投げられる。  バツの悪い質問に慣れ慣れしさまで感じて、直人は気の重さから、思わず視線を床へ落としていた。 「高校生?」  男は直人の隣で壁に寄りかかると、視線を拾うようにしながら問を重ねた。 「…‥ああ、別に注意したいわけじゃないよ。ただの興味」 「……ここのオーナーと、知り合いで」  多少の面倒さを感じつつ、引き気味に答える。 「ああ、橋さんの知り合いかあ。あの人その辺ユッルイもんなあー。もう高校も卒業するしいいよね、みたいな?」 「……高校生じゃない」 「え? ああごめんね、大学生だったか」 「……」  直人は、おもむろに財布を取り出すと、一枚のカードを男へ示した。 「……あっは、マジかあ。そうは見えなかったわ」  それを見た男は、途端に戸惑ったような声を上げた。  直人が男へ見せたのは、塾の生徒証だった。男は"高校受験コース"の表記があるカードを見て、直人が中学生であることを理解した。 「で? 今日は誰見に来たの? それとも暇つぶしの冷やかし?」 「……」  直人は一瞬、事実を知って男が去ることを期待したが、結局すぐに気を取り直して話を続け出した男に、本格的な面倒さを感じ始めていた。  もともと、あまり人との交流が好きではなかった。考えなしに踏み込んでくる相手も、苦手だ。 「……あっは、解りやすいなあ」 「……」  だが、次に耳へ飛び込んだ言葉で、直人は思わず男へ視線を向けていた。すると困ったように笑う、耳のあたりで軽くパーマがかった黒髪の男が目に入る。 「俺ね、今日恋人に振られちゃってさあ。橋さんに愚痴ってたら、たまたま好きなバンドが出るのに気がついて、応急処置で気分上げに来たんだよね」 「……」 「慰めるつもりで、今日のところは俺の相手してよ。適当でいいからさあ」 「……俺、そういうの向いてないタイプだと思うんですけど」 「だからだよ。変に共感してくれる人より、全然興味持ってくれない人の方が楽な時もあるんだよ。君くらいの年齢相手なら、プライドも捨てられるし」 「……」  直人は少し考えたのち、そっと、セットリストに書かれたバンド名の一つを指さした。 「え、本当に?! ちょっと君、いい趣味してるじゃん!」  とたん、一転して男のテンションは上がる。 「俺も今日そいつら見に来たの! え、どこで知ったの?」 「……、」  直人は男の反応へ少しだけむず痒いものを感じながら、質問へ答える。  こんな小さいライブハウスでやるような、マイナーなバンドだ。当然、いままで直人の周りに知っている人間はいなかった。  直人は積極的に人に勧めるような性格でもない。ましてや、相手は名前も知らない年上の相手。好きなものの話題で共感しあうなど、初めての経験だった。  それから、二人は最後のアンコールが終わるまで、同じバンドの話を交わし続けた。  どの曲が好きなのか、こんな話は知っているか、今日の演奏にミスがあった――。この時の直人にとって、これらの会話は学校の友人と交わすどの会話よりも、魅力的なものだった。  *** 「いやあ、今日はありがとうね。今まで、振られたこと忘れてたよ」  ライブが終わり、すっかり夜も更けた頃、まだ少し余韻の残るライブハウスの外へ出て、男が切り出した。 「……こちらこそ」 「あっは、最初面倒そうにしてたから、その言葉聞けてよかったよ。……あ、俺バイクなんだけど、帰り送ってこうか? 学生一人じゃ危ない時間でしょ」 「大丈夫です。そんな遠くないし、ニケツとか、親にバレたら怒られるんで」 「そ。あ、それとさ、またここ来る? 連絡先教えておくから、良かったらまた話そ」  そう言うと、男はチケットの半券とペンを取り出して、連絡先を書き出した。  直人が返答に迷っている間に、早々に書き終えた男がメモを差し出す。直人は、反射的にそれを受け取っていた。  『ニシモリ ミノル』という名前の下に、アドレスと電話番号が記されている。 「……どうも。……俺は」 「橘直人くん」 「……」  直人は一瞬意表を突かれるも、先ほど塾の生徒証を見せたことを思い出す。 「……はい」 「しっかりしてそうなのに変なとこ抜けてんだね。あんま知らない人に名前わかるもん見せちゃダメだよ」 「……」 「じゃ、直人。気をつけてな」  ニシモリと名乗った男は、ヒラヒラと手を振りながら一方的に告げて、駐輪場へと向かっていった。  直人は、あまり感じたことのない、悔しさにも似た奇妙な感情を覚えながら、再び手渡された連絡先へ目を向ける。  自分から連絡することがないのは明白だった。  けれど、また会えるなら、それはいいかもしれないと思った。  直人は渡されたメモと、一度ポケットにしまった、本日二個目になってしまったポケットティッシュを鞄へしまうと、帰るために駅へと歩き出した。 ***  数日後。  直人は学校帰りに、先日も来たライブハウスへと立ち寄っていた。  とはいえ、今日、直人はライブを見に立ち寄ったわけではなかった。  直人は音楽の道に興味があることもあり、これもまた橋元の厚意で、自由にライブハウスへの出入りを許可されていた。  そうして時折、店にあるギターなどを触らせてもらっていたのだ。 「西森君から聞いたよー、直人」 「……何を?」  好きな曲の耳コピーでもしてみようかとギターを構えたところで、直人はオーナの橋元に、からかうような調子で声をかけられた。 「この間のライブの時、二人共仲良くなったらしいじゃん」 「……まあ」 「珍しくない? 直人、学校でもぼっちだろ?」 「ぼっちではない」 「直人はあれかなー、同年代の子より大人といる方が波長が合っちゃう子なのかなあ。あ、あとね、今日、西森君来ると思うよ」 「……来るの?」 「直人が来たら教えてって言われたから、連絡しておいた」 「……」  その言葉に、直人は小さく息を漏らした。  あの日以来、特に直人の方から西森へ連絡を入れたことはなかった。  それは、西森に関わりたくなかったから、という訳ではなかった。単純に、神経を使ってまで連絡するのが嫌だったからだ。  けれど、橋元へそんなことを言っていたということは、きっと、相手の方はある程度、自分からの連絡を待っていたのだ。  だとしたら、会えば「なぜ連絡をくれなかったのか」と聞かれるだろう。  それが、直人にとって、少し気が重い案件だった。  紛らわすように適当に一度弦を弄んで、それにしても、と直人は思う。  自分が面白い人間でないことは、直人自身が一番よく理解していた。  それなのに、わざわざ来たことを伝えるように頼む西森の行動が、直人にはよく理解できなかった。  ましてや、自分はまだ義務教育も終えていない学生で、西森は、少なくとも煙草が吸える年齢だ。――こんな子供を相手にして、楽しいものなのだろうか。  一度考え出すと深みにはまってしまうのが、直人の昔からの癖だった。振り払うように、直人は出だしのコードを模索して、弦を弾く。  ……ああ、この音だ。――そのまま直人が更に続きを弾こうとした時、部屋の扉が開いた。 「お疲れ様でーす」  数日前に聞いた声が、室内へ響き渡る。  直人も、一度手を止めて扉の方へ視線を向けた。 「あ、本当に直人いる! 久しぶり」 「……どうも」  直人は西森の明るい表情に対し控えめに返して、少しだけバツの悪そうな表情を浮かべた。  おそらく切り出されるであろう、なぜ連絡しなかったのかという質問へ、身構える。 「あれ、ていうか直人ギター弾けんの?」 「……、少しなら」 「え、少しってほどでもなくない? 俺は将来有望だと思ってるけどなあ」 「マジ? 橋さんのお墨付きかあ。弾いてみてよ」 「……聞かせられるものじゃないので」  直人はそう言うと、興が冷めたとでも言うように、ギターをスタンドへ戻した。 「ほらー、橋さんが期待させるようなこと言うから辞めちゃったじゃん」 「直人は少し自信と度胸つけなきゃいけないんだから、この位でいーの」 「え、っていうことは何? プロ志望?」  見開いた目が直人を捉える。直人は、その視線に「まあ」と遠慮がちに答えた。 「へえー、成る程なあ。あ、じゃあさ、今度俺んち来なよ。ギター弾き放題だよ」 「……西森さん、弾くんですか?」 「ああ、いいんじゃない? ついでに、西森君にギターちゃんと教わったら?」 「……」  橋元の後押しするような言葉に、直人は西森への視線を改めた。  直人は、橋元の目利きをかなり信頼していた。その橋元が教わる事を薦める相手なら、それなりの腕の持ち主であることは容易く想像できた。 「……西森さんは、なんでギターを?」 「あっは、俺、元バンドマン」 「一時期、うちの箱でも結構人気だったんだよ。若くしてポテンシャルすごくてねー、期待してたんだけど解散しちゃった」 「なんで」 「定番、音楽性の違い」  冗談のような口調で、西森が言った。 「そういうことだから教えることもできるし。多分、直人よりは弾けると思うよ? ちょっとブランクあるけど」 「……考えておきます」 「うん、いつでも言ってね。橋さん、俺ちょっとニコチン入れてくるね」  そう言うと���西森は早々に部屋を出ていった。 「……西森さんって、いくつ?」 「ああ、21だよ。大学生」 「へえ……」  予想通りの年の差に、直人は再び解せない気持ちが湧き上がる。  同じものが好きという親近感だけで、ここまで気にされるものなのだろうか。  ふと、直人は思い出したように時計を確認して、すでに帰宅したほうがいい時間になっていることに気がついた。 「……そろそろ帰ります。ありがとうございました」 「お、そんな時間かー。おつかれー」  橋元に一礼して、直人は急ぎ足気味に、地上への階段を上った。  そうして建物を出ると、すぐに煙草を吸っている西森の姿が目に入った。 「あれ、帰るの?」 「……親に苦い顔されるので」 「へえ、大変だね。気をつけてね」 「……どうも」 「あ」 「?」 「さっきの話、考えといてね」 「……はい」  微笑みながら手を振る西森へそれだけ答えて、直人は足早に駅へと向かった。  改札を抜け、丁度来た電車に乗り込んでふと、そういえば、と思い出す。  連絡しなかったことに、西森は全く触れなかった。  ギターの話をしていたし、たまたまだったのかもしれない。けれど、聞きたそうにしていたか、と考えると、そうでもないような気がした。 「……」  すっかり日も落ち、ビルの明かりが流れていく電車の景色を眺めながら、直人はイヤホンから流れる音楽へと耳を傾ける。  先日のライブで聞いた曲が流れるたび、直人の脳裏に、西森の顔がちらついた。  その夜、直人は初めて、新く追加されたアドレスへ、メールを送った。 ***
 ――直人が西森へ初めてのメールを送ってから、最初の土曜日。  直人は、自分の家から数駅離れたアパートの一室へ、足を踏み入れていた。  元々は白かったのであろう壁の一部は、煙草のヤニを受け止め続けて、黄色く変色している。臭いも顕著だ。それだけで、この部屋の持ち主がヘビースモーカーであることが伺えた。 「適当に寛いでよ。あ、それとも早速弾く?」  部屋の持ち主である西森は、飄々とした調子で、肩身の狭そうな様子を見せる直人へ言った。 「……」  直人は返答に困ったように一度辺りを見回すと、一先ず、落ち着けそうなところへ腰を下ろした。 「あっは、そんな畏まんなくっていいって。適当にいこうよ、適当に」 「……いえ……」 「あー、お互いのことよく知らないのがいけないのかな。なんだかんだ、そんなに話してないしね。んじゃ、なんか話すか」 「……、」 「手始めに、直人、飲み物なにが好き?」  勢いよく言葉を重ねてくる西森に気圧されるものを感じつつ、直人も必死に言葉を捻り出す。 「……水?」 「あっはは、要はなんでもいいってことだな! 適当に持ってくるからちょっと待ってて」  直人の返答に笑い声を立てると、西森はキッチンの方へ姿を消していった。  直人はそれを確認して、小さく一度息を吐いた。  まだよく知らない、年上の人の部屋に来て、緊張しないわけがない。  直人は、過去に西森へメールをした自分を、少し恨めしく思った。こういった、落ち着かない状況が、直人は何よりも苦手だ。そこへ、解っていたのに自分から飛び込むようなことをしてしまった。  やっぱり、早々に帰ってしまおうか。西森に対し、この先どう立ち振舞っていいのか解らない。  直人がそんなことを考え始めたとき、西森が、直人のもとへ戻ってきた。  透明な液体の入ったペットボトルが、直人の前に置かれる。 「……ありがとうございます」  直人は、置かれたそれをまじまじと見る。店でよく見る、ミネラルウォーターのパッケージが直人を見つめ返していた。 「なにがいいか考えたけど面倒になったから水持ってきた。好きなんだろ?」 「……まあ……」  西森を見ると、西森は缶コーヒーを手にしていた。腰を下ろすと、早々に飲み始める。 「……ん? やっぱコーヒーが良かった?」 「……いえ……」 「冷蔵庫ん中にあるから、飲みたかったら勝手に取ってきていいよ。熱いのがいいなら粉あるし」 「どうも……」  そんな西森の態度を見て、先ほど直人の脳裏にあった、帰ろうという考えは消え去った。  この間から、なにかと直人の中ではこういったパターンが目立っていた。  直人が一人気にし出して後ろ向きになることを、西森が自然と覆していく。 「……」  ――俺は、気楽さを感じているのだろうか。  直人の中に、一つの考えが湧き上がる。浮かんだそれは直人にとって、とても貴重な感情だった。 「直人って基本喋んないんだな。大丈夫? 学校でちゃんと友達いる?」  伺うような西森の視線に、直人は「はっ」とする。 「います」 「そ? ならそのクールさちょっと分けて欲しいわ。俺なんて前の恋人にウザイって言われたもん」 「……」 「もしかして、直人もそう思ってる?!」 「……そんなことは」 「つーかさ、俺にも橋さんみたいな感じで接してよ。橋さん、俺より年上なのに直人もっと砕けてたよね」 「橋元さんは……、親戚のおじさんみたいな感じなので」 「わっは、おじさんっ! そっか、中坊から見たら橋さんはおっさんだよなー。本人聞いたら傷つきそうだけど」 「……すみません」 「はは、面白いからそのままでいいよ。……俺は? 俺はギリギリお兄さんでしょ?」  ニヤリ、と、試すような、それでいてからかうような視線で、西森が直人を見る。  直人は思わず視線を逸らすと、小さく頷いた。 「よかったー。今度橋さんに自慢しよっと」  直人が視線を戻すと、西森の楽しそうな表情が目に入った。  だが、そこまで楽しそうにする理由が直人にはいまいちピンとこず、不思議そうな表情を浮かべてしまう。  自分と話して、こんな反応をされることも滅多になかった。 「はい。じゃあ次、直人の番」 「え?」 「親睦を深めるために俺のことなんか聞いて。なんでもいいよ、今日の朝飯でも、明日の天気でも」  考え、いままでの西森の言葉と態度で、直人の中に、僅かな好奇心が湧き上がった。 「……明日の天気」 「雨」 「……本当に?」 「ほんとほんと。俺の予報結構当た���から」  西森の適当そうな言葉が返る。直人は徐々に、言葉を投げかけるのが楽しくなるのを感じた。  それはライブハウスで出会った夜、同じ話題で盛り上がった時に、とても良く似ていた。  ――この人と話すときは、何も考えなくていいのかもしれない。  直人のその気づきは、普段は無口な直人から、言葉を引き出す鍵になった。 「……あの」 「ん?」 「もし、昔作った曲とかあれば……聴いてみたいんですけど」 「おっ、聞いちゃう? ちょっと待って、どっかに音源あると思うから」  言うやいなや、西森は生き生きとした様子で引き出しの一つを漁り出す。  恥ずかしげの欠片もない西森の態度に、直人は尊敬の念を抱く。  自分なら、きっとあんな対応はできない。先日のように、聴かせるられるものじゃない、と一蹴してしまう。  ……こんなことじゃ、いけないのだろうけど。  直人が自己嫌悪に陥りかけていると、一枚のディスクを手にした西森が戻ってくる。 「インストだけど。作曲はボーカルで俺は編曲。割と気に入ってるほうかな」  そう説明しながら、西森がCDをプレイヤーにセットする。 「橋さんは俺たち人気だった、なんて言ってたけど、あくまで内輪の話だからあんまり期待しないでね」  かち、と、再生ボタンを押す音が室内に響く。  数秒後、ギターの音を筆頭に、曲が流れ始めた。  ベースやドラムが混ざる中でも、直人は特に、ギターの音に集中する。  安心して聴いていられる、安定した演奏。逆に、時折微妙に乱れるベースの音が気になるほどだった。 「……うっわ、懐かしくて恥ずかしくなってきた! 俺、煙草吸ってくるから、適当に聞いてて」  直人があまりにも真剣に聞いていたせいか、西森はそう言い出すと、煙草を手にしてベランダへ消えていった。  直人は西森の行動に少しだけ驚きながらも、すぐに曲へと意識を戻す。   橋元さんの目利きは、やはり間違っていない。――そして、このギターが、とても好きだ。    それから直人は、西森が戻ってくるまで、ずっと一人、曲を繰り返しかけ続けていた。 ***  その後、直人たちは部屋を移動して、ギターを弾き始めることにした。  西森は、CDの曲の感想について、直人に何も聞かなかった。そのため、直人も西森のギターがとても気に入ったことを、伝えそびれていた。  改めて直人が案内された部屋には、ギターが二本と、編曲に使っていたのであろう、音楽機材が置かれていた。  西森の自室と違い壁の変色はなかったが、その代わり、自作と思わしき、防音の壁が作られていた。 「ギターは好きな方弾いていいよ。違いとかわかる?」 「……一応」  直人は、二種類のギターへ近寄ると、まじまじと観察する。  学校や塾の帰り、楽器屋に寄ってギターを眺めたり、好きなアーティストが使用しているギターを調べたりと、それなりの知識は頭に入れていた。 「つーか直人はさ、そんなにギター弾きたいのに持ってないの? ……まー、安いもんでもないか」 「……値段もあるけど……、親が、こういったことに批判的なので」 「ふーん。前にも思ったけど、直人んちって親が厳しそうだよね」 「……」  直人は、西森の言葉を無視して、片方のギターを手にする。あまり、家のことは話したくなかった。 「俺も直人にはそっちが合ってると思うなあ」  西森は、直人の感情を悟ったのか、単純に興味がなかったのか、すぐに話題を切り上げて、直人の手にしたギターへ話を移した。 「……弾けんの?」  挑発するような視線を直人へ向けて、西森が言う。  もちろん、ギターが弾けるのか、の意味ではない。"人前で"弾けるのか、という問いだった。  直人は、暫し無言で視線を落とすと、部屋にあった椅子へと移動する。  そうして、音を確かめるように、何度か弦を弾いた。  西森はそれを見て、小さく笑う。直人は気づかないふりをして、何を弾こうか、と、最初の音を探り出した。 「ねえ、このあいだの弾いてよ」 「……このあいだ?」 「俺が来るまで、なんか弾こうとしてたじゃん」 「……」  ああ、と、直人は思い当たる。耳コピーをしようとして、西森が来たから中断した曲だ。  直人は言われたとおり、最初の音を弾こうと指を添える。 「あ、ちょっとたんま」  と、その瞬間、西森から静止が入った。 「……?」 「あの時、なに弾こうとしてたか当てるから」  言うと、西森はCDラックから一枚のケースを取り出し、直人に見せた。 「このアルバムの3曲目」 「……」  正解だった。直人は驚くも、聞き込んでいれば最初の一音で解るものかも知れない、と思い至る。  実際、自分も最初の音を見つければ後の音も続けられる。この曲が好きなことは知っているし、イントロクイズのようなものだ。 「コピーすんだろ? 原曲は聴きながらのほうがいいよ」  はい、と、西森はポータブル型のCDプレイヤーとヘットホンを直人へ手渡す。  直人はそれを躊躇いなく受け取ると、装着し、再生ボタンを押した。  元の曲を聞きながら、ギターのパートを一つ一つ確認していく。  西森はそんな直人の姿を、少し離れた壁に寄りかかりながら見守っていた。 「直人見てるとノスタルジックになるわ。昔の自分思い出して」 「……」 「あ! 今ちょっと嫌な顔しただろ?!」 「……別に」 「嘘つけ。言っとくけど、お前結構わかりやすいからな」  そんなやり取りをしながら、直人は自分の口角が小さく緩むのを感じた。悪くないやりとりだった。  その後、直人は好きにギターを弾き、なにかの曲を演奏すれば、西森が所々でアドバイスを語った。  西森は、直人一人ではいつ気が付いたか解らない、色々な技術を教えてくれた。だが、直人は技術を教わる喜び以上に、自分が好きだと思える弾き手に教えてもらえることが、嬉しかった。  そして気付けば、外は暗くなり、直人が帰らなければならない時間も近づいていた。 「……」  携帯で時間を確認して、直人は名残惜しくなるのを感じた。  直人にとって、家は決して居心地のいい場所ではない。息苦しくて、常に親――特に母親の――顔色を伺わなければいけない場所だ。 「なあ、直人んちって門限破ったらどうなるの?」  そんな直人の様子に気がついたのか、西森が何気ない調子で問いかけた。 「……怒られる」 「まあ、それはそうだろうけど。普通に怒られるのとは違うの?」 「……うまく言えない。ただ、普通に怒られるのとは違うと思う」 「へえー……」  西森は曖昧な返事をしながら、直人をじっと見つめる。その視線に、直人は気まずさから思わず視線を逸らした。 「……���りたくないんだよね?」 「え?」 「俺のこと利用してみる?」  にやり、と、今日何度目かの試すような笑みを浮かべる。そして直人は、今ようやく、その笑みの中にいたずらっぽいニュアンスが含まれていることに気がついた。 「うまいことやれば、今日は帰んなくて済むかもよ?」 「……だけど……」 「あっは、お利口さんだなあ。最初に会った時からずっとそうだよね」 「……」 「直人の親ってさ、子供の交友関係とか全部把握してるタイプ?」  直人はいきなり何を、と思うも、西森の考えが気に��って、質問へ答えることにする。 「……むしろ、全然気にしてないと思う。多分、信頼してくれてるんだと思うけど」 「はは、子供信頼してる親が、息子にそんな顔させる訳無いじゃん」 「……」 「携帯貸してみ?」 「……?」  直人は訝しげに思いながら、西森へ携帯を差し出す。  西森は携帯を受け取ると、なにやら操作をして、直人の携帯からどこかへ電話をかけ始めた。 「……、」  西森の行動に気づくと、直人はすぐさま携帯を取り返そうと手を伸ばす。  なんとなく、どこへかけたのかは予想がついた。  が、直人が携帯へ伸ばした手は、ひらりと軽快な動きで交わされてしまう。 「ちょ……」 「ああ、どうもお世話になっております。私、直人君のご学友の兄で橋元と申しますが」 「……?!」  わざとらしい声色で吐き出された言葉に、直人は言葉を失った。 「いいえ、こちらこそ。……ええ、ご本人もそばにいますよ」  西森は、普段の適当そうな態度とは打って変わり、真面目な態度で話していた。  直人の母親にかけたのであろうことは、直人にも予想がついた。ただ、何を言おうとしているのかまでは、予想がつかなかった。 「……はい。それで、私は大学生なのですが、今日は弟と一緒に、直人くんの勉強を見させていただいておりまして――」  それから西森が電話を直人に代わるまで、直人はただ、呆気にとられながら成り行きを見守ることしかできなかった。  西森は最後まで、臆面もなく、直人の母へありもしない話をつらつらと並べていた。  直人が傍目から理解できた、西森の作り話はこうだった。  ――橋元の名を借りていない弟の存在を作り出し、直人と共に勉強を教えていた。直人はとても優秀だったため、本人の希望もあって、このまま泊まり込みで勉強を教えたい――。  もともと、外では人のいい顔を浮かべる母親だ。この申し出を、断る可能性は低かった。加えて明日は休日だ。尚更、断る理由は少ない。  結果、最終的に直人に電話を代わり、絶対に迷惑をかけるなということ、そして、後日お礼を持って行きなさい、という約束だけして、母親は通話を終えた。 「……」  直人は暫く、受け取った携帯を眺めるしかなかった。確かに名残惜しさは感じていたが、泊まる気など微塵もなかったし、こんなことになるなど考えてもいなかった。  そして、明日母親の顔を見るのが、少しだけ怖かった。 「あれ、浮かない顔してるね」  西森は、椅子の背もたれに肘を起きながら座ると、直人の顔を覗き込んだ。 「……、……勝手に進められても」 「迷惑?」 「……」  直人は視線を逸らす。厚意でしてくれたことなのは解るため、頷くことはできなかった。 「でも、結果は良かったじゃん? なにを気にする必要がある?」 「……建前とか、大人の対応とか、そういう……」 「そういうのさ、面倒くさくない?」 「……」 「いいならいい、嫌なら嫌でいいじゃん。大体、勝手に話進めたけど、俺、強制はしてないよ。選択肢を与えただけ。帰りたかったら帰ってもいいんだよ」  直人がぎこちなく視線を西森に向けると、西森は何でもない表情で、直人のことを見つめていた。 「……なんで……」 「別に。そのほうがお互いウィンウィンじゃねって思っただけ」 「……お互い?」 「興味ない相手は構ったりしないでしょー。直人、あんまりガキっぽくないし、俺は一緒にいて結構楽しいよ。音楽の趣味も合うしね」  そう言って、西森は笑顔を浮かべる。  その顔を見て、直人は再び言葉に詰まった。――こんな好意の向けられ方をしたことは、今までなかった。 「一日くらいハメ外してみなよ。これ本当は内緒だけど、橋さんも心配してたんだよ。直人はいつも肩身が狭そうだって」 「……」  橋元が自分のことを気にしているのは、直人も薄々気がついていた。かと言って、橋元は積極的におせっかいを焼くほうでもない。だから、直人も適度な距離感で付き合っていた。  だが、こうして西森に行動されたあとに伝えられると、自分が思っていたよりも心配をかけていたように感じて、込み上げてくるものがあった。 「……はい」  少しして、直人は静かに、頷きを返した。 「あっは、ほんと面倒くさいやつ! とりあえず飯にしよ。いい時間でしょ」 「あ……」  リビングへ移動しようとする西森を、直人が静止する。 「ん? 腹減ってない?」 「いや……、なんなら、作りますけど」 「え、作れるの?!」 「両親が忙しい時とか、俺が作るから」 「うっわ、マジか。……うーん、でもまた今度でいいや」 「……そう、ですか」  そう言うと、西森は先に部屋を出ていく。  直人は「また今度」という言葉に少々疑問を覚えつつも、急いで西森の後を追った。 ***  夕食を終え、先に入浴を済ませた直人は、西森の自室でぼんやりと座っていた。  こんな時間に自宅以外の、それも、出会って数回の人物の部屋にいることなど、直人は初めてだ。  緊張よりも、不思議な感覚がずっとまとわりついていた。 「……お、服のサイズぴったりだね。やっぱ直人デカいよな」  タオルを頭にかけて戻ってきた西森の声に、直人は振り返る。 「俺も最初解んなかったし、年齢間違われること多いでしょ」 「……まあ、割と」 「だよねー。あ、そう言えばさあ……」  西森は置きテーブルのそばに腰を下ろすと、置いてあった煙草の箱から中身を一本取り出して、トントンと机で弄ぶ。 「さっき直人の母親に電話した時、うしろで子供の声してたんだけど、あれ弟?」 「……そうだと思います。8歳下の弟がいるので」 「うわ、直人お兄ちゃんかー。なんか納得」 「……そうですか?」 「うん。俺、一人っ子だからこんなんに育ったんだと思うもん」  言いながら、西森は「あはは」と愉快そうに笑った。 「でも、直人いいお兄ちゃんなんだろうなー。さっき電話の時、うしろで嬉しそうに『直人から?』って聞いてたし」 「……仲がいいとは思うけど」  答えて、直人の脳裏に弟の顔がよぎる。少しだけ、帰らなかったことへの罪悪感が湧き上がった。  弟の隆弘は、あからさまなお兄ちゃんっ子だった。両親が忙しいせいもあってか、休みの日などは、よく直人と遊びたがった。  もしかしたら、今日は退屈な思いをしているかもしれない。 「あ、ところでさ。これもあとで聞こうと思ってたんだけど」  西森は話題を切り替えると、傍らにあった一冊の雑誌を手に取り、未だ火の点いていない煙草を引っ掛けたままの手で、ちょいちょいと直人を呼び寄せた。  直人は仕草に従い近寄るも、手にある煙草が気になってしまう。 「……吸っててもいいですよ」 「ん? ああ、ごめんね。本当はさー、もうやめたいんだけどね」  そう言うも、西森は今度こそ煙草に火を点ける。 「ずっとそう言ってるのに結局吸っちゃうんだよなあ。……あ、でね、これ」  西森は煙草を咥えながら、雑誌の1ページを直人へ示す。そこには、いくつかのバイクの写真が並んでいた。 「今度買い換えよっかなって思ってるんだけど、迷ってるんだよね。直人はどっちが格好いいと思う?」 「……」  直人は、指定された二台のバイクに視線を向ける。正直、直人自身にはバイクへの興味など微塵もなかった。  格好良さなどもあまり解らない。強いて言うなら、どちらも同じように、格好良く見える。 「……、」  なかなか答えを返さない直人を見て、西森は吹き出すように大きく煙草の煙を吐き出した。 「……すみません」 「いや違くてさ、迷うとかじゃなくて、すっげーどうでもよさそうな顔で見てるんだもん。そんな反応……、ふっ、初めて見たっ……」  言いながら、尚も西森は小刻みに肩を震わせる。 「っ……ごめん、今度から直人にこの手の質問はしないようにするよ。あー、面白かった」  満足したように言うと、西森はまだ点けたばかりの煙草を早々に灰皿へと押し付けつた。  直人は西森の反応に戸惑ったまま、どうしていいのかを迷う。 「というか直人ってさ、音楽以外は何が好きなの?」  そして突然切り出された質問に、はっとした。  音楽以外で好きなもの。……直人はすぐに、その答えには辿り着けなかった。 「無いんだ」  西森が頬杖を付きながら、目を細めて問う。 「……かも、しれないです」 「知らなかったものを知ったら、意外と好きになるかも」 「それは、あるかもしれない」 「煙草は?」 「? 未成年……」  疑問とともに答えかけた次の瞬間には、直人の唇は、西森の唇によって塞がれていた。 「っ……?!」  突然のことに直人が混乱しているうちに、西森の手が頭部へ回され、舌が直人の唇をこじ開ける。直人がそれに気がついた時には、既に口内に煙草の味が広がっていた。  そのまま暫く舌を弄り回され、呼吸が怪しくなってきた頃、ようやく直人は解放された。 「っは……、なに……」 「今日のお礼の代わりかな」 「……?」  まだ理解が追いつかない直人をよそに、西森の手が直人の手首を掴んだ。 「俺ね、女の人だと勃たないんだよ」 「……、」  じり、と、西森が僅かに距離を詰める。馴染みのないシャンプーの匂いが、直人の鼻腔を掠めた。 「バンド解散しちゃった本当の理由も教えてあげようか。俺がベースの人好きになっちゃってキモい無理だで仲間割れ。音楽性の違いも確かにあったけどね」 「……、……」  普段、あまり動揺することのない直人の心臓が、徐々に脈拍を上げた。どうしていいのか、適切な対応が、すぐに導き出せなかった。 「怖い? なら振り払ってもいいよ。今ならまだ終電にも間に合うし」 「……、な、んで」  結果、この状況で、直人の口からこぼれた言葉は、それだった。 「ん?」 「最初から……、これが目的だった?」  直人の控えめな視線が、西森に向けられる。  すると、試すような表情で直人を見ていた西森が、小さく笑い声を立てた。 「自分でもびっくりなんだけど、なんか、すげー好きなんだよね。直人のこと」 「……」 「いや、もうほんとびっくり。2時間くらい前まではこんなことする気全然なかった」  苦笑いで吐き出された言葉が嘘か本当か、今の直人には、判断ができなかった。 「ただ、嫌だったら本当に帰っていいよ。強姦する趣味はないし」 「……、」  直人は、迷うように視線を落とす。同時に、すぐに決断に至らない自分に気がついた。  そしてそれは、拒否して関係が壊れる恐怖からではない。直人は、そういった物にあまり執着しない性格だった。  ――なら、これは。  ゆっくりと、直人は西森の肩へ手を伸ばした。 「……あっは、マジで?」  西森が、逆に驚いたような表情を浮かべる。 「……知らなかったものを知ったら、意外と好きになるかも」  直人が、冗談交じりに言葉を発した。 「余裕そうだけど、男相手で反応するの?」 「それは、知らない」 「……何事も経験だよね。目瞑って違うこと考えててもいいよ」  そんなやり取りを終えると、西森の先導で二人はベッドへ移動する。  直人は自分の奥底にある感情までは捉えられないまま、今は、西森に身を委ねることにした。  ***  翌朝、直人は鈍い体の痛みで目を覚ました。  そして、次の瞬間には煙草の匂いが鼻に触れる。見ると、傍らで先に起きていた西森が、煙草を吸っているのが目に入った。 「ん、おはよ」  直人が目を覚ましたのに気がついた西森が、軽い挨拶を投げる。  直人は起き上がろうと身をよじるも、だるい体と走る痛みのせいで、上手く起き上がることができなかった。 「無理しないほうがいいよ。寝起きキツイでしょ」 「……」  直人は思わず小さなため息をつく。そして昨夜のことを思い出して、僅かに瞼を落とした。  ――最初に直人が西森の手で欲を吐き出した時点で、西森は、ここでやめても構わない、と申し出てくれた。  だが、それを断って受け入れることを選んだのは、直人だった。  受け入れたのは、ここでやめるのは何か違うと感じたことや、直人自身にも伴う気持ちがあったからだった。  男同士の性行為については直人も多少なりとも知識はあったが、終わってみれば痛みばかりが記憶に残り、気が滅入る思いが無いといえば、嘘だった。   西森は回数をこなすしかない、などと言っていたが、今の直人に、その言葉を信じることはできなかった。  それでも、心のどこかには満たされたものも感じて、西森を責める気は、微塵も起きなかった。 「飯食えそう?」 「……まだいい」 「そ。んじゃ休んでなよ。俺、ちょっと買い物行ってくる」 「……うん」 「あ」 「?」 「さっきメール来てたよ。はい」  西森が直人の携帯を手渡す。直人はそれを受け取ると、新着メールの差出人を確認した。  それは、直人の母親からのメールだった。 『今日は家に隆弘が一人なので��早めに帰宅してください』  本文には、それだけが書かれていた。 「……西森さん」 「ん?」 「今日、早めに帰ります」 「え、帰れる?」 「帰ります」 「……飯食ったら鎮痛剤だな。とにかく買い物だけ行かせて」  呆れたような苦笑を浮かべると、西森はどこか早足で部屋を出ていった。  直人は携帯を握り締め、枕に顔を埋めると、二度目の溜息を吐きだした。  体の痛みからではなかった。……急激に込み上げた罪悪感が、直人を襲っていた。  西森と体を重ねたこと自体には、不快感も後悔もない。ただ、家族の事を思うと、もの凄く重い罪を犯してしまったような気持ちに見舞われた。  そしてそれは、西森に見送られ、帰りの電車に乗り込んだあとまで続いた。  ――自分は昨日、同性と体を重ねたのだ。  ここにいる誰も、そんな事実は知らない。なのに、誰の視界にも入りたくないと感じてしまう。  出来るだけ気を逸らすように、直人はイヤホンをして、外の世界を遮断する。  ――だけどまた、西森さんに会いたい。  プレイヤーの音量を上げる。昨日、散々聞いたギターの旋律が、脳内に響く。  西森が自分に向けた言葉のひとつひとつが、音に乗って流れていく。  ――会いたい。  その後も、音に埋もれて身を隠すようにしながら、直人は自宅への家路を急いだ。 ***
 まだ陽も登りきらない、休日の静かな住宅街。  気だるげな体を意識しないようにしながら、直人は予備で持ち歩いている自宅の鍵を取り出し、玄関を開いた。  とたんに、馴染みのある空気が肺の中へ入り込む。そのことで、自分が煙草の香りに鈍感になっていたことに気がついた。  とにかく着替えよう、と部屋へ向かおうとするのと同時に、軽快な足音がリビングから近づいてくるのに気がついた。 「直人! おかえり!」  音の方を見ていると、弟の隆弘が、嬉しそうに直人を出迎えた。 「ただいま。……母さんたち、出かけるって?」 「うん」  答えて、隆弘は不思議そうな表情で直人を見た。 「……どうかした?」 「直人、変な臭いがする」 「……」  直人は一瞬ぎくりとして、だが、すぐに西森の部屋で着いた煙草の臭いだと思い至った。 「ごめん、すぐに着替える。ご飯は?」 「食べた」 「そう」  答えて、直人は逃げるように自分の部屋へと向かう。隆弘は、再びリビングへ戻ったようだった。  気持ちわるいものが胸中を渦巻く。  ――罪悪感。  多分それが一番近いだろうと、直人は思った。  今日、帰ってきた母親に会うことを考えると気が重い。自分は、悪いことをして帰ってきたのだ。  なのに、それに反して、西森に会いたいという気持ちは消えはしない。  着替えを持って、バスルームへと向かう。一瞬鏡に映った自分の顔は、酷く疲れた顔をしていた。  なぜか、昨日の夜の出来事が脳裏に蘇って、咄嗟に鏡から視線を逸らす。とにかく今は、全てを一度リセットしたかった。  シャワーを軽く浴び、選択機を回して廊下へ出ると、再び隆弘がリビングから顔を出した。 「直人、今日は一緒にお絵かきしたい」 「……」  いつもならば二つ返事で頷く言葉だった。でも、今日は酷く居心地が悪い。 「……ごめん、ちょっと休みたい」 「じゃあ、直人の部屋で書いてていい?」 「……いいよ」 「わかった!」  一転して嬉しそうに答えると、隆弘は絵かき道具を取りに別の部屋へとかけてい��た。  直人は小さく溜め息を吐くと、ベッドへ向かうために自室へと歩き出した。  両親があまり家にいないこともあってか、直人は普通の兄弟より、少し強めに隆弘のことを気にかけていた。  でも、今は少しだけ、煩わしい。そして、そう感じてしまう自分に、また嫌気がさした。 「……、」  直人が自室へ辿り着き、ベッドへ身を投げ出したのと同時に、部屋の扉が開いた。  そのまま、隆弘が絵かき道具と、最近好きな戦隊物の人形を手にして、静かに直人の部屋と入ってくる。  そして床に画材を広げると、何を言うでもなく、真っ白の画用紙に色を走らせ出した。 「……」  直人はそんな隆弘の様子を、同じく何も言うでもなく見守る。  隆弘は、いつからか妙に空気に敏感になっていて、こうして、何も言わずとも適切な行動をしていた。 「……隆弘」 「うん?」 「今日、天気予報、見た?」 「見た! おひさまだった!」 「……そう」  答えながら、直人は昨日の西森との会話を思い出した。    "……明日の天気"  "雨"  直人は、おもむろに窓の外へ視線を向ける。  当たると、言っていたのに。 「……はずれ」  ぽつり、と、直人が呟く。  視界の先には、雨なんて振りそうもない、晴れ晴れとした青空が広がっていた。 *** 「お疲れ様でーす」  乱雑と物が置かれたライブハウスの一室に、飄々とした言葉が飛び込んだ。 「お、西森くん。いらっしゃい」  自身がいつもかけている眼鏡を拭いていた橋元が、手を止めて振り返った。 「今日は誰が来んの?」  西森は、机の上にあったフライヤーを一枚手に取って確認する。 「うーん、あんまりピンとくる奴いないなあ」 「はは、たまにはそういうのも見てみたら? 意外と新しい発見があるかもよ」 「今はいいや。あんま興味ない」  素っ気無くそう言って、西森はフライヤーを机に戻した。  そうして、いつか直人が弾いていたギターのもとへ向かうと、手に取り戯れるように弦を弾いた。 「……ねえ、橋さん」 「ん? どうかした?」  橋元は眼鏡をかけ直して、改めて西森を見る。 「俺、直人のこと食っちゃった」  西森はふざけるように目を細めて言うと、ジャン、とギターで軽快な音を鳴らす。 「……え?」  対照的に、橋本は呆気にとられた顔を見せた。 「え? ……え、まって、直人あれでも中学生だよ?! 解ってる?!」 「もちろん」  再びジャン、と、今度はフラットな音を鳴らす。 「っていうかなんでそうなった?! 無理やりか?! 直人のこと脅したのか?!」 「ひっど。親戚のおじさんは過保護だなあ」 「おじ……!」 「残念ながら合意のもとです」  今度はジャカジャカジャン、とオチをつけるような音を奏でると、西森はギターを戻して傍らの椅子へ腰を下ろした。 「……ちょっと、頭が追いつかないんだけど」  橋元は言いながらこめかみを押さえた。 「びっくりだよね。俺もびっくり」 「……本当に合意?」 「合意も合意、大合意。疑うなら直人に聞いてみたら」 「……聞いて正直に言うかなあ、直人のやつ……。しかしなんだって直人も……」  はあ、と、橋元は大きなため息を吐いた。 「直人も立派な男だってことだよ」 「あのねえ、普通の男はそう簡単に男と寝たりしないんだって」 「世間一般的にはそうだよねえ。なんで直人は良いって言ったんだろ」 「だから、断れなかったんじゃないの」 「そんなことないよ。俺、ち��んと挿れる前にやめていいよって言ったもん」 「生々しいこと話さなくていいから。……直人はああ見えて建前とか凄く気にするんだよ。だから」 「それも知ってる」 「……」 「わかりやすいのにわっかんないな、アイツ」  西森は妙に真面目な顔で言いながら、煙草の箱を取り出す。 「禁煙。吸うなら外」 「はいはい」  火の点いていない煙草を一本加えて立ち上がると、西森は部屋の外へ歩き出す。 「……西森くん、直人で遊んでるわけじゃないよね」  すれ違いざま、橋元が言う。 「……本気だから不安になってるんじゃん?」  再び目を細めて言うと、西森は今度こそ部屋を後にした。  一人部屋に残った橋元は、西森の消えた先を見ながら、眉をひそめる。 「……変に近づかせない方が良かったのかなあ……」  独りごちると、頭を抱えるようにして机に肘をついた。 ***  直人が西森と一晩を明かした日から、一週間が経っていた。  ――あの日以来、直人は西森と一度も顔を合わせていなかった。  ライブハウスも、避けるように帰路を急いだ。ギターを弾きたい気持ちはあったが、それ以上に、橋元と顔を合わせるのが嫌だった。  もしかしたら、西森と会ってしまうかもしれない。あんなにも会いたかった気持ちが、なぜか今は、戸惑いへと変わっていた。  塾のない放課後。この日も直人は、真っ直ぐに自宅へと帰るために駅を通り過ぎた。  時々、他校の生徒や高校生の姿が目に入る。彼らを見て居心地が悪くなるのは、もう何度目かわからなかった。  同じ男と体を重ねてしまった事実は、直人の中で、だんだんと後悔になろうとしていた。  学校で友人たちが下世話な話をするたびに、直人は、人知れず耳を塞ぎたくなった。    ――ヴヴッ… 「……?」  制服のポケットの中で、直人の携帯が震えた。  直人は、届いたメールの送信主を確認する。――西森だった。  気持ちがざわつくのを感じながら、直人は内容を確認する。 『最近ライブハウス来ないね』  件名の部分に、それだけ書いてあった。 「……」  無視して携帯を閉じてしまおうとして、直人の歩みは止まった。  無視してしまいたいのに、言葉の意図を考えてしまう。  『最近来ないね』。その言葉のあとに続くのは、"どうして"、だろうか。  ……それとも、"会いたいのに"、だろうか。  あの日、西森は直人に好きだと言った。そして、直人はその言葉を受け入れた。  なのに、あれから直人は西森と一切の連絡を取っていない。本来なら、連絡が来ないほうが不思議だった。  なんにせよ、きっと西森は待っていてくれたのだろう、と、直人は思い至った。 「……、」  直人は、返信ボタンを押して、文字を打ち込み始める。 『今日は行く』  送信を済ますと、通り過ぎた筈の駅へと、踵を返した。  路地裏を抜け、ライブハウスへ続く階段を降りると、直人は緊張した面持ちで、スタッフルームの扉を開いた。 「お、直人じゃん。久しぶり」  すぐに、橋元の笑顔が直人を出迎えた。  直人が部屋を見回すも、どうやら、室内には現在橋元しかいないようだった。 「……西森さんは?」 「西森くん? ちょっと前に帰ったよ」 「え……」  橋元の言葉に、直人は唖然とする。今日は行くと言ったのに、なぜ帰ってしまったのか解らなかった。 「……用事?」 「さあ? そろそろ帰るわーって出てったよ」 「……そう」 「で、直人は? 久々に弾きに来たんじゃないの?」 「……、」  橋本の問いへの返答はせずに、直人は再びライブハウスの外を目指す。 ��訳がわからなかった。携帯を取り出して、西森へのメールを打ち込む。 『行ったけどいなかった』  感情のまま、そう送った。  送ってから、直人は「はっ」とした。そもそも、西森は今日会おうだなんて、一度も言っていない。  近くの電柱で足を止めると、寄りかかって一息ついた。こんなにも動揺した自分に、直人自身も驚いていた。  きっと西森相手じゃなければ、仕方がないの一言で済ませている。  直人がそのまま若干の気疲れを覚えていると、再び、西森からのメールが届いた。 『暇ならうちに来なよ』  また、件名の部分にそれだけが書かれている。 「……」  今度は返信をせずに、直人は携帯をしまう。  あまり自覚したくはない期待を抱きながら、直人は、西森の部屋を目指して歩き出した。 ***  二回目になる部屋の一室のインターホンを押して、直人は中からの反応を待った。  緊張。恐怖。いま、直人が抱いている感情を表すならば、その類のものだった。  でも、それらの中に、ほんの僅かな楽しみが混ざっている。  直人が自分の足元を見ながら待ち続けていると、ゆっくりと、扉の開く音が聞こえた。 「おっひさ」 「……」  久し振りに見る西森の目を細めた表情に、直人は少しだけ、憤りを覚えた。 「あがりなよ。暇してたんだ」  そう言って部屋の奥へ戻る西森を追うように、直人も部屋へ入り込む。相変わらず、部屋の中には煙草の臭いが染み付いていた。 「どうする? 久々に弾く?」  部屋に入るも口をつぐんだまま立ち尽くす直人へ、西森が軽い調子で問う。  それでも直人が視線を合わせないまま黙り込んでいると、やがて、西森が吹き出した。 「あっは、すっげー不満そう」 「……おちょくられた気がしたから」 「わかってんじゃん」  臆面もなく答えると、西森は直人の側へ歩み寄った。 「一週間も恋人をほったらかしにした罰でーす」  小さく腰を曲げ、直人を覗き込むようにしながら言う。その口角は、ざまあみろ、と言いたげに上がっていた。 「……それは、」  反論しようとした直人を遮るように、西森が直人の額へ軽いデコピンを繰り出した。 「なに、ん……」  そしてそのまま、自らのそれで直人の唇を塞ぐ。 「…っ……、」  直人の肩に掛かっていた学生鞄がずり落ちる。西森の舌は、すでに直人の口内で好き勝手に遊んでいた。 「……っ、ちょっと、待って」  直人が一度は腕で西森を引き剥がすも、西森は簡単には食い下がらなかった。 「やだ。早く直人慣れさせたいもん」 「っ……!」  再び、西森が直人の唇を塞ぐ。今度は、先程よりも強く頭を抑えられた為、簡単に引き剥がすことができなかった。  直人が舌の感触へ気を取られているうちに、西森の手が、下半身へと滑り込んでいくのが解った。 「……、」  直人が、意図的に鞄を床へ落とす。  これ以上、抵抗する気が起きなかった。  罪悪感も、後ろめたさも、もう何も考えたくなかった。  ――ずっと会いたかったのは、自分の方だ。  その考えが直人の脳裏をよぎった瞬間、直人の腕は、西森の背へと回されていた。  今は、全部どうでもいい。  直人は西森へ身を委ねると、ゆっくりと、思考を手放した。 ***  直人と西森が再び体を重ねた日を境に、直人は、頻繁に西森の部屋へと出入りするようになっていた。  その頃には体もすっかりと慣れて、時には、���人から体を求めることもあった。  西森と体を重ねている間は、人間関係のしがらみも、家族間での責任も、全部忘れらる。  それが、直人が西森を求める、一番の理由だった。  そしてそれが「なにか違う」ということは、直人も薄々気がついていた。自分よりずっと大人な西森が、そのことに気がつかない訳もないと思っていた。  でも、西森はいつまで経っても、直人へ何も言わなかった。  そんな関係が続いていたある日、西森は一人、橋元の元を訪れていた。  いつかも見たような、眼鏡を拭きながら西森を出迎える橋元を横目に、西森は、適当な椅子へ腰掛けて、小さく溜め息を吐いた。 「どうしたの。西森くんが溜め息とは珍しいね」 「んー……。やっぱり、年の差って難しいのかなあって思ってさ」 「直人と上手くいってないの? ここに来る時とか仲良さそうにしてるじゃん」 「まあね」 「……惚気なら聞かないよ」 「仲はいいよ、仲は」 「どういう意味」 「直人はさあ、甘えられる人がいないんだよね、きっと」 「……なにかあったの」 「これでいいのかなあ、って思ってさ。いや、俺がどうとかじゃなくて、直人のためにね」  頬杖を付きながら、伏せ目がちに西森が続ける。 「俺は、直人を甘やかすの全然いいんだよ。直人のこと好きだし、えっちできるし。でも、直人をダメにしてるかもなあって」 「……直人はしっかりしてるから、大丈夫だと思うよ、俺は」 「それ。そういうのに、押しつぶされてんだよ、きっと」 「……」  橋元が、眼鏡をかけ直して西森を見る。 「離れたほうが直人のためかなあ、って思うんだけど、離れちゃいけない気もすんだよね」 「……難しい話だね」 「でしょ? もし、俺がもう会わないようにしよう、って言ったら、直人どんな顔するかなあ」 「……。頷いて終わりじゃないかなあ」 「でしょ?! でも、それって強がりでさ、そのあと直人どうやって生きてくんだろう、とか色々考えちゃうんだよ」 「西森くん、そんなに面倒見良かったっけ?」 「ね。俺もびっくり。前の恋人に散々ウザイって言われたのに」  はあ、と、西森は再びため息を吐く。 「次、直人にしたいって言われても、俺、拒否しちゃうかも」 「そしたらきっと悲しんじゃうよ、直人」 「だよねー。でもこんな気持ちで直人抱けないし」  西森はトントンと指で机を叩くと、急に立ち上がった。 「だめだ。ニコチン入れてくる」  そう言って、スタッフルームを出て行った。  西森を見送った橋本は、苦笑を浮かべる。 「……やっぱり、変に近づかせない方が良かったのかなあ……」  いつかのようにそう独り言を零すと、頭を切り替えるように、傍らにあったノートパソコンを弄りだした。 *** 「直人、そのギター、あげるよ」  西森が唐突に直人へ切り出したのは、直人の卒業も近づいた、冬の日だった。 「……え……」  西森の言葉を聞いて直人が零したのは、喜びではなく、戸惑いだった。 「卒業祝い。それに、いい高校受かったんだし? よく頑張りましたのご褒美」 「……」  直人は、弾いていたギターをまじまじと見る。買えば、結構な値段がするギターだ。 「あ、でも今日はまだね。そうだな……、直人が高校に入学して、俺にやりたいことをしっかり宣言できたらあげる」 「……卒業祝いじゃないの?」 「俺にとっても大事なギターだからね。そう簡単にはあげない」  西森は目を細めながら言う。からかうような冗談を言う時、西森はいつもこの表情を浮かべた。 「……わかった」 「うん。……あ、そろそろ帰んないとまずい時間だろ」  部屋の時計を確認して、西森が言った。直人は、相槌を打ってギターを元の場所に戻す。  この頃には、体を重ねる回数も���っていて、西森は、時間になると直人を返すようになっていた。  直人は物足りなさを感じるも、拒絶されたときのこと思うと、強く出ることはできなかった。 「……」  西森と別れ、一人電車に揺られながら、直人は、小さな予感を感じていた。  ギターをあげる、という話。時期的に、卒業間近なら、確かに卒業祝いでもおかしくはない。  ただ、なにか。直人の中に、一抹のさみしさが湧き上がっていた。  その後、直人は高校に上がり、約束通り、西森からギターを受け取った。  「音楽の道に進みたい。だから、軽音部にも入った」――そう、直人は西森へ伝えた。  西森は、いつものように目を細めて笑みを浮かべると、おめでとう、と、直人へ軽いキスをした。  でも、それだけだった。  ――そして、それ以来、西森はライブハウスへ姿を現さなくなった。  直人が橋元に西森のことを聞くも、橋元は、俺にも解らない、と言うだけだった。それが嘘か本当か、直人が知ることはできなかった。  直人は、自分から西森へ連絡をしなかった。西森がライブハウスに来なくなった、という事実が、直人をそうさせていた。  以前に感じた、小さな予感のせいもあった。あれは紛れもなく、別れの予感だったと、直人は思った。  そのうち、直人は西森のことを考えるのを、やめることにした。  結局、西森から貰ったギターも殆ど触る気が起きず、直人はバイトの貯金で、新しく安価なギターを買った。  それから、直人が成人を迎えて西森の年齢を超えても、西森と直人が言葉を交わすことは、二度となかった。 *** 「……というのが、あのギターにまつわる話」  薄暗い一室のベッドの上で、直人は、そう、話を締めた。  直人の腕の中では、年下の、今の恋人である一夜という名の少年が、すっぽりと収まっている。 「たしかに、自然消滅だな、それは」  直人の言葉に、一夜は静かにそう返した。 「でも、直人さんがあのギターを新居に持ってこなかったの、納得したかも」  西森から貰ったギターを、直人は新居へ越すと同時に、ライブハウスへ預けていた。  そして、直人が今回過去を振り返ることになったのは、そんなギターにまつわる一夜の要求がきっかけだった。  いい加減、昔の恋人とギターのことをちゃんと聞きたい――何度目かのまぐわいの後、一夜は、直人へそう強く申し出た。  一夜はなかなかに察しがよく、直人がなんとなく誤魔化せばいつもそれを悟って引き下がるが、この日の一夜はそうではなかった。  だから、直人も潮時かと、あまり積極的に話したくは無い過去の話を、一夜へと語ることにした。 「今度こそこれで全部だから。……これ以上は聞かれても困る」 「うん、サンキュな。……それにしてもさ」  一夜は改めて直人を見ると、続ける。 「前に、直人さんがその……西森さんを見かけたことがあっただろ?」 「……クリスマスの時だっけ」 「そう。なんか、その時見た人と、少し印象が違う気がするんだけど」 「……うん」  直人は静かに答えると、思い出すように、遠い目で視線を逸らした。 「だから、俺も西森さんかははっきりと解らなかった。ただ、煙草の銘柄が一緒だったのと、バイクが、昔俺に訊いたのと同じだったから」 「なるほどな……」  年齢も、自分の目測だと三十代くらいだった、と、一夜は思い返す。それなら、大体の条件は話の人物と一致している。 「……俺にとっては、あまりいい経験ではないから。それを君に重ねて、もどかしい気持ちをさせてしまったとは思ってる」 「それは……、まあ、仕方ないしな。直人さんの気持ち、わかるし」  一夜にとって、今のような距離感で直人と過ごせるまでは、とても長く感じることだった。  だが、直人自身が感じた思いを汲めば、そうなってしまうのかもしれない、とも思った。 「……ギター」 「ん?」 「一夜が聞きたいなら、今度、聴かせる」 「……マジか」 「うん、簡単なものだけど」 「それでいいから聴きたい」  目に見えて嬉しそうな一夜の反応に、直人も微笑を浮かべる。堪らなくなって、一夜を抱きしめる腕に力を入れた。 「じゃあ、予定の会う日に」 「ああ、楽しみにしてる」  どちらからともなく軽いキスを交わして、「そろそろ寝よう」とお互いに瞼を落とす。  滅多に口にすることはないが、直人は、腕の中の少年に出会えてよかったと、何度も思ったことがあった。  そしてこの先は、それを伝えていきたいとも、思っていた。  思い返せば、どちらも出会いのきっかけは、決して良いものではなかった。  でも、だからこそ。  こうして今があることが、直人は、なによりも幸せに感じた。  きっとこの関係は、この先も強く、続いていく。   傍らから聞こえる小さな寝息を聞きながら、直人も、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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gallerynamba · 5 years ago
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nishiken64 · 5 years ago
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東京
夜明け前、東京に到着してカワノの家で睡眠。夏の魔物に行こうと思ったんだけど、なんか色々あって頓挫。昨日行くって言ってしまった人からDMが来てて、すごい申し訳なくなった、、、、明日は行きます、、、、
魔物行かないなら寝るか、ということになり真昼まで寝た。起きてカワノと2人で銭湯に行った。俺は水風呂に入れたらなんでもいい。水風呂最高。
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昨日機材車に財布を忘れてしまって預かってもらっていたので、合流してラーメンを食らった。久々に二郎系を食べて元気が出た。
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飯を食ったあと、リクくんとカワノの3人で話し込んでいると龍の平くんから連絡があり、龍の平くんの家に凸した。酒飲んだりゲームしたりしていると、バロンドールのナンシーさんからカワノに連絡が。紆余曲折あり一緒に飲むことに。バロンドール自体は対バンが1回あったけど、話すこともなかったので今日ほぼ初対面という感じで、緊張したけど、個性的な方で楽しかった。
終電ということで、ナンシーさんも帰り、残ったメンバーでしっぽり飲み、そろそろ終わるかなというところが現在。明日はクリーミーについて夏の魔物を見にゆく。夏フェス楽しみだな
そこそこ酔いも回っているので少しアレな文章ですが終わります。
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munch-ghosts-ibsen · 5 years ago
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作品概要
第七劇場 × 愛知県芸術劇場 × 愛知県美術館 ムンク|幽霊|イプセン 原作:エドヴァルド・ムンク、ヘンリック・イプセン 構成・演出・翻訳:鳴海康平 ムンクが描いたイプセンの「幽霊」。
愛知県美術館に2016年に収蔵されたムンクが描いた《イプセン「幽霊」からの一場面》と、そのモチーフとなったイプセンの「幽霊」。ノルウェーが生んだ2人の巨匠が残した作品を原作に、第七劇場が愛知県芸術劇場と愛知県美術館と協働し、パフォーマンス作品を上演。
※本作品は、愛知県美術館[コレクション展]展��室内でのモノローグパフォーマンスと、愛知県芸術劇場 小ホールでの演劇作品「幽霊」上演の2つのパフォーマンスが実施されます。
会場 愛知県美術館[コレクション展]展示室4 愛知県芸術劇場 小ホール
名古屋市東区東桜1-13-2 地下鉄東山線または名城線「栄」駅下車、徒歩5分 (オアシス21から地下連絡通路または2F連絡橋経由) ⬇
日程 美術館パフォーマンス 2020年1月8日(水)〜13日(月祝) 劇場パフォーマンス 2020年1月10日(金)〜13日(月祝)
※1月9日、高校生招待ゲネプロを実施。詳しくはこちら。 ※託児サービスあり。詳しくはこちら。 ※1月9日、ゲネプロにて「あなたの感じた『幽霊』を描こう!」企画を実施!詳しくはこちら。 ※美術館パフォーマンス上演時間 約20分 ※劇場パフォーマンス上演時間 約90分 ⬇
出演
[劇場パフォーマンス] 木母千尋、三浦真樹 桑折現 山形龍平、諏訪七海
[美術館パフォーマンス] 菊原真結 上条拳斗、藤沢理子、藤島えり子、松本広子、三木美智代 ⬇
スタッフ
舞台美術:杉浦充 舞台監督:北方こだち 照明:島田雄峰(LST) 音響:平岡希樹(現場サイド) 衣装:川口知美(COSTUME80+) フライヤーレイアウト:橋本デザイン室
ノルウェーを同郷とする画家ムンクと作家イプセン。その二人を『幽霊』でつなげるというのは、あまりにも話ができすぎているようにも思います。二人が見ていた、もしくは二人を見ていた幽霊とは何だったのでしょうか。今回、愛知県芸術劇場と愛知県美術館の協力で実現したこの企画では、ムンクのテキストや、ムンクを巡るテキストを中心にしたモノローグパフォーマンスを美術館で、イプセン『幽霊』とムンクが描いた『幽霊』のムードスケッチを原作に舞台作品を劇場で上演します。幽霊として浮かび上がる因習や慣習、愛や結婚、義務と自由などに対する伝統的な価値観。おそらく今の現れるその幽霊の正体に少しでも近づけられたと考えています。 鳴海康平(第七劇場 演出家)
「ムンク|幽霊|イプセン」は美術館と劇場でパフォーマンスが行われます。流れる時間も鑑賞方法も異なる二つの場所を繋ぐのはイプセンの戯曲『幽霊』です。イプセンがリクスモール(デンマーク・ノルウェー語)で執筆し1881年に発表したこの戯曲は、前作「人形の家」のノラのもう一つの姿としてよりセンセーショナルなものとして受け止められました。日本では明治40年(1907年)ドイツ語からの翻訳として紹介され、100年以上経った今も度々上演され続けています。今回の上演が《今ここにいる私たち》がムンクの作品を通してイプセンの言葉と繋がるスリリングな体験となることを楽しみにしています。 山本麦子(愛知県芸術劇場 プロデューサー)
ベルリン・ドイツ劇場の監督兼演出家のラインハルトが、近代心理劇上演のために新設した小劇場の座席数は、愛知県芸術劇場小ホールとほぼ同じ300席余り。1906年秋のこけら落とし演目として同年5月に没したイプセンの『幽霊』が選ばれ、舞台美術や衣装の色合い、演者のポーズなどを含めた全体の雰囲気イメージ画がムンクに依頼されました。ムンクが各場面に応じて何枚も描いた構想画の中でも印象的な一枚がこの作品です。視線を合わせずうつむく人物たちの顔を照らす黄緑の不気味な光、物語を支配する血の因縁を象徴するかのような赤。ムンクはイプセンの霊からの視線も感じつつ描いていたことでしょう。 深山孝彰(愛知県美術館 美術課長)
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エドヴァルド・ムンク Edvard Munch 《叫び》の作者として世界的に有名なノルウェー出身の画家。若い頃、故郷では評価されず、ドイツで開いた個展は保守派の攻撃により1週間で打ち切りとなる。この「ムンク事件」で有名になり、ドイツを拠点に活動。その後故郷で開かれた大規模個展にイプセン(67歳)が訪れ、ムンク(32歳)に「敵が多いほど、多くの友に恵まれる」と言ったとされる。その後、イタリア、フランス、ドイツ、ノルウェーで活動した。
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ヘンリック・イプセン Henrik Ibsen ノルウェー出身の劇作家・詩人。「近代演劇の父」と呼ばれる演劇史上の巨人。シェイクスピア、チェーホフと並び、現在でも世界中で盛んに上演される。19世紀当時一般的だった勧善懲悪の物語や歴史上の偉人が登場する大作から離れ、個人の生活や現実の社会の課題などを題材に戯曲を執筆。
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エドヴァルド・ムンク Edvard MUNCH 《イプセン『幽霊』からの一場面》 1906年 テンペラ、画布 愛知県美術館蔵 1905年、ベルリン・ドイツ劇場の芸術監督となった演出家兼プロデューサーのマックス・ラインハルトは、隣接する建物を座席数300余りの小劇場(Kammerspiele Theater)に改装。1906年秋のオープニングプログラムに、同年に亡くなったイプセンの「幽霊」を選び、その舞台美術のムードスケッチをムンクに依頼。そのうちの一つが上記の作品であり、2017年より愛知県美術館蔵。
イプセン「幽霊」
1881年発表。「人形の家」同様、センセーショナルな反応と非難を巻き起こす。愛のない結婚だが放埒な夫のもとに留まったアルヴィング夫人。夫の死後、夫の偽りの名誉を讃える記念式典を前に、息子オスヴァルがパリから帰ってくる。しかし、息子と自分、そして女中レギーネ、その父エングストラン、牧師マンデルスとの間で、因習や慣習、愛や結婚、義務と自由などに対する伝統的な価値観が幽霊のように浮かび上がる。
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第七劇場 Dainanagekijo 1999年、演出家・鳴海康平が早稲田大学在学中に設立。国境を越えられるクリエイションをポリシーに作品を製作。ストーリーや言葉だけに頼らず、舞台美術と俳優の身体とともに「風景」によるドラマを築く独特の舞台空間が���外で高く評価される。国内外のフェスティバルなどに招待され、これまで国内24都市、海外4ヶ国(韓国、ドイツ、フランス、台湾)9都市で公演。2006年より東京都豊島区 atelier SENTIOを拠点とする。2013年、代表・鳴海がポーラ美術振興財団在外研修員として1年間のフランス滞在から帰国後、日仏協働作品『三人姉妹』を新国立劇場にて上演。2014年より三重県津市美里町に拠点を移設し、Théâtre de Bellevilleのレジデントカンパニーとなる。 代表・鳴海はAAF戯曲賞審査員(第15回〜)。第16回大賞受賞作「それからの街」(額田大志作・愛知県芸術劇場小ホール・2017)上演の演出を務める。
【website http://dainanagekijo.org】 Photo: ワーニャ伯父さん(三重県文化会館・2019)
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杉浦 充 SUGIURA Mitsuru 1978年愛知県生まれ。金沢美術工芸大学彫刻専攻卒業後、ドイツ国立デュッセルドルフ美術アカデミー舞台美術専攻卒業。2011年より8年間、舞台美術家ヨハネス・シュッツに師事する。欧州を中心にザルツブルク音楽祭、パリ・オデオン座、ウィーン・ブルク劇場、ベルリーナアンサンブル、フランクフルト歌劇場などで、演出家カリン・バイヤー、リュック・ボンディ、ヨハン・シモンズ、ローランド・シンメルプフェニヒなど数々のプロダクションに、舞台美術助手あるいは共同舞台美術家として参加。現在ベルリンと愛知を拠点に活動。
⬇ ⬇ ⬇ ムンク|幽霊|イプセン 主催:合同会社第七劇場、愛知県芸術劇場、愛知県美術館 協力:長久手市、猫町倶楽部、三重県文化会館 日本語字幕協力:NPO法人 名古屋難聴者・中途失聴者支援協会 製作:第七劇場 助成:芸術文化振興基金 お問い合わせ:第七劇場 [email protected] 070-1613-7711(平日10〜18時)
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thehisashi · 2 years ago
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四柱推命で知る運勢!仕事運や相性・結婚運や人生のバイオリズムも知る!その2
どうも、運勢鑑定ビッグワン 聖山玄龍です。 今日はラッキーカラーで運気を改善する方法についてご紹介しようと思います。 ツキがない時こそラッキーカラーを取り入れてみるという事なんですが・・。 ツキがない時は、「おしゃれの幅を広げるチャンス」と、明るくポジティブ にとらえて見ましょうか! 財運の良い財布の色はなに色? お財布で金運を指南する本には、よく「黒色の長財布が最強、二つ折りは良くない」 と書かれていることがありますが、私が見る限り、お金持ちのお財布は結構二つ折り が多かったように思いますね。 ですから、お財布を選ぶ際、長財布か二つ折りかはあまり重要ではない事を 発見したと思います。 長財布の方が金運アップに効果があると耳にして、長財布を選んでいた人も いるかもしれませんが、あまり形は重要ではないようですから、 二つ折り財布でも良さそうですね。 【四柱推命×ラッキーカラー】五行で定…
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shibatakanojo · 4 years ago
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レーズンとオウムとミイラのワルツ_6:烏龍茶とワインと
 午後六時五十分、約束の時間よりも二十分遅れでいおり君が現れる。ごめん待った? と彼が申し訳なさそうに眉尻を下げ、私は「全然」と笑顔で嘘を吐いた。  いおり君がポケットから財布とスマートフォンを取り出し、私の真向かいに座ったタイミングでメニュー表を渡すと、彼は私に一言礼を言ってそれを受け取る。いおり君はものの数秒で夕飯を決めたらしく、私に「茜ちゃんは?」と訊ねた。ざっとページを眺めながら、じゃあシーフードドリアと烏龍茶にしようかな、とあらかじめ決めておいたメニューを伝えると、彼はテーブルの隅にあるボタンを押し、数十秒で現れたチープな制服姿の店員に、 「シーフードドリアと烏龍茶一つ。あとはボンゴレパスタと……茜ちゃん、俺飲んでも大丈夫?」 「え? あ、ああ、うん」 「ありがとう。じゃあ、このワインも」  店員はメニューを復唱し、私達が頷いたのを見届けると深々頭を下げ厨房へと戻っていく。  彼は慣れた様子でワインを注文していた。いおり君も私もまだ十八歳になったばかりで、私達はどこか幼い顔つきをしている。店員は何も言わなかった。私は深く考えないことに決める。 「まさか茜ちゃんとまた会えるなんて、思ってもなかった」 「本当。でもよく私だってわかったね。私、あのころみたいに髪も長くないのに。そもそも十年も経ってるんだよ」 「俺、変に物事を記憶しておくの得意でさ。レジ打ちしてても、あーこの客は週に一回二本ずつ牛乳買ってくけど今日は違うメーカーのにしたんだなあとか、この客はいつも違う男を連れてくるしそのたび服装が全然違うなあとか。店にくる客の顔だって二、三回で大体覚えちゃうんだよね。ははは、これ俺の自慢ね。まあそれに、茜ちゃんは、ほら、なんていうかさ……」 「あはは。うん、悪い意味で注目浴びたまま転校したからねえ、私は」  私が自らの過去を茶化すように軽く笑う。  あの日から私が少しずつ学んだ自衛手段の一つがこれだった。
 被害者という存在は、時間が経つにつれ被害者ぶることを断罪されるようになってしまう。弱者はいつだってその場に留まり続けることを許してはもらえない。  私達は日々、ほんの僅かだけでも前進していくことを外部の人間から強要される。過去は清算すべきだと無下に諭される。私の負の感情は、まるでおもちゃの流行り廃りみたいに彼らが一方的に消費していく。
 私の笑い顔を見、いおり君はぎゅっと口を一文字に結ぶとテーブルの上で組んだ自身の両手に目線を下げた。それからゆっくりと、一つ一つ言葉を選ぶようにして、 「あの……正直、俺、今でもあのときのことほとんど完璧に覚えてんだよね。先生の驚いたした顔とか、教室のどよめく空気とか、全部。熱が出た日なんか夢にも見るし。だから、茜ちゃんのこともすぐにわかったよ」  ゆめにもみるし。私は彼の言葉を心の中で復唱する。  今の彼はどこかが痛そうな顔ではなかった。���れど彼の中にはあの日の教室が未だそのままの状態で冷凍保存され、熱に浮かされる、というトリガーによって本人の意思とは関係なく一時的に解凍されてしまうらしかった。目が覚めたときの彼の心中を想像する。ただ、申し訳ない、と思った。  いおり君は頻繁に私の顔を窺いながら、慎重に、今まで蓄積してきたであろう感情を一つずつ吐露する。 「みんな、最初は茜ちゃんのこと心配してた。茜ちゃん大丈夫かな、元気かなって。まあ、なんていうか、俺らは完全に子どもだったけど、だからこそ純粋に、あのときは茜ちゃんのこと友達だって思ってたんだよな。  一回、クラスの皆で相談して、茜ちゃんに手紙書いたこともあるんだよ。何日もかけて、皆それぞれに書き終わってさ、それを大きな封筒にひとまとめにしてから先生に『茜ちゃんに渡してくれませんか』って訴えたんだけど、残念ですがそれはできませんって突き返されて。どれだけ文句言っても先生、理由を教えてくれなかったんだけど、まあ、今ならなんとなくわかる気もするんだよ。  はは、子どもって明確な悪意がない分より残酷なんだよね……そのあとはなんとなくみんな、茜ちゃんのことを話すのはタブーな気がしちゃったのかな。そのうち学年が上がってクラスも変わって、あとはもうなあなあって感じで」  私は私が削除されたあとのクラスについてイメージしてみる。  私の席は毎日空っぽのままで、机の中には少しずつ家族へのおたよりだのその日の宿題だのイベントごとのお知らせだの、さまざまなものが積み重ねられていく。そこが満杯になったころ先生は私の転校をその理由を述べずに告げ、クラスはまたざわめきに包まれる。  けれど、私という存在が欠落したクラスはそれでも円滑に進んでいくのだ。徐々に皆は私の声を忘れ、顔を忘れ、名字を忘れ、名前を忘れ、最後には私そのものを忘れ去った。  そのうえでいおり君は、忘れる、という行為そのものに忘れられたのだ。  彼は時折あの日を夢で反芻し、私のことを今日まで忘れられずにいる。  私は彼に何と言えばいいのか、見当もつかなかった。ごめんね、は違うし、君は大丈夫なの、でもお節介だろう。ありがとう、など見当外れでしかないはずだ。  結局私は、 「そうだったんだね」  としか伝えられない。  ちょうどそのタイミングでいおり君のパスタとワイン、私には烏龍茶が届き、私達は無言で各々のグラスに口をつけた。私のドリアが到着したころには、私達は円滑に会話を再開できていたけれど、二人とも当たり障りのないことのみをピックアップし、表面的な部分を優しく撫でるように話した。 「茜ちゃんは、今は学生?」 「ううん、パン屋でバイトしてる。でもこの前ちょっと倒れちゃって。二週間のお休みもらってるところなんだけど、もう何していいかわかんないんだよね」 「え、倒れた? 大丈夫なの?」 「え? ああそっか、そうだよね。あはは、ただの貧血。ほら、一応私も女性なんで」 「あ……えっと、ごめん」 「いえいえ、ありがとう。でもほんと、こういうところが面倒なんだよね、女って生き物はさ」  嘘だった。医者からはフラッシュバックによる強烈なストレスが原因だと言われてある。帰り際看護師から、お大事に、と呟かれたことを思い出している。一体私は私の何を大事にすればいいのだろう。  店を出、それじゃあ、と私が帰ろうとすると、いおり君が家まで送っていくと言い私の横をついてきた。ひとりで大丈夫だと何度か断ってみたが彼は自らの言葉を曲げようとはせず、執拗に私へ自宅まで誘導するよう促す。最終的には私が折れ、私達はゆっくりと夜を掻き分けて歩いた。  茜ちゃんはさあ、これから何して生きてくつもりなの。  脈絡もなく、いおり君が言う。私は彼が自らのこれからの話をしたがっていることを理解し、まだよくわかんないんだよねえ、と簡潔に自分の話を終えてやった。案の定いおり君は、俺はさ、と意味深に前置きし、 「文章を書きたいんだ」  自身のこれからの話を呟き始めた。ぶんしょう、と私が繰り返し、彼は続ける。 「うん。文章。なんていうか……小説とか詩とかじゃなくてさ、みんなは知らないけど本当にあった出来事を、みんなに知らせたいんだ。ええと、ノンフィクション作品って言えばいいのかな、だけどそれは小説という形でない方がいい気がしてるんだ。事実を“事実”としてのみ羅列してあるものを書きたいんだよ。俺は、過不足のない事実を、文章に変換するっていう、ツールになりたい」  彼の言葉が終了し、夜の無音が再び私達を取り囲む。そうかあ、いおり君は文筆家になるのかあ。闇を潰すためだけの私の呟きに対し、いおり君は「あくまでも理想だけどね」と付け加え、それからはっとした表情で、 「あ、でもべつに茜ちゃんの昔の話を根掘り葉掘り聞こうとか、そういう意味で今こうしてここにいるわけじゃなくて、だからそういうつもりでご飯食べようって言ったわけでもなくてさ、これは単純に旧友と会えて嬉しかったっていう、なんかそういう……」 「あはは、わかってる、わかってる。心配しないで。大丈夫だよ」  私のアパートに着く。いおり君はこれ以上余分なことを言うつもりも、私の家に立ち寄るつもりもないようだった。私は一応礼儀として、 「たまに、連絡してもいい?」  いおり君のポケットに納まっているスマートフォンを指差しながら言った。いおり君は、勿論、俺すっげー待ってるから、と弾けるように笑い、そのまま右手を振って私の前から小走りで去っていった。  約一時間後、シャワーを出てスマートフォンを確認すると、いおり君から一通のメッセージが届いていた。  食事の礼と、喋りすぎたことへの非礼を簡潔に詫びたその文章に、すっごく楽しかったよ、また一緒にご飯食べたいな、などという突き詰めてありきたりな言葉を返し、既読がつくか確認もせずに布団へ潜り込む。しばらくするとスマートフォンは再びメッセージが届いたことを振動で伝えてきたが起き上がるのも億劫で、私は毛布を頭のてっぺんまで引き上げさらに強く目蓋を閉じた。
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byakuyadouji · 4 years ago
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さるかに編 第一話
「プルルル」
「おはよう、朝だよ」
 だいぶ昔にやめた通信教育の目覚まし時計が、眠たいさかりのいたいけな少女に新しい学期がはじまって2日目の朝を無慈悲に告げる。最初は抗おうとするも、何度も繰り返されるその音をとめたくて、うすらまなこのままプラスチックの校舎をかたどった目覚まし時計から飛び出した赤いマスコットをぱちっと、屋根に押し込む。彼は暗い三角屋根のなかでこういった。
「たのしいいちにち!スタート!」
 おいそこの赤い珍獣、わたしが反抗期の男子中学生じゃなくて命拾いしたな。君なんてプラスチックのおそまつな校舎もろとも壁に叩きつけられてバッキバキになっていただろうよ、ありがたく思いやがれ。なんて思いながら、洋服だんすのハンガーにかけられた制服一式をざっととりだす。無難な形をしたありがちなブレザーも、慣れればまあ悪くはないものだ。しかしわたしがこんなものを着るようになったのは、学力が足りなかったからじゃない。本当は瑞高の黒いセーラーを着るはずだったのに、まあ内申制度の闇ってやつだ。そもそもこんなん言ってる場合じゃない。アラームもよくよく考えれば長いこと鳴っていたわけで、まあぎりぎりな時刻をさしてる。引き出しをざっと開けて下着をあさる。今日は水色のお花が咲いてるやつにした。
制服に袖を通し、居間へ向かう。
「おはよー」
「おー」
 父が返事をする。白いでかめのTシャツを着て、赤い柄のトランクスを履いた40代のガリガリおじさんは、朝シャワーで濡れた銀色の髪を鬱陶しそうに右に片手て流しながら、たまごかけご飯をかっこんでいる。灰色の目は、なんだかすこしおめでたいようにみえた。なんとなく様になって見えるのは、父がスウェーデン人と日本人のハーフで、色白で鼻筋がきれいなせいだからかもしれない。私はどうやら、そんな父に似たらしい。美少女かどうかはわからないが、まあよく似ている。父の横を通り過ぎ、横に長い作り付けのテレビ棚の端っこにたたずむ、ちっさな額縁のなかの母に手をあわせた。栗色の横はねした髪がかわいい。母は7年間、この姿のままだ。このさきもずっとそうだ。
「おはよー」
 線香は焚かない。母も父もわたしも、線香は宿敵だからだ。法事で冷めかけたごはんをたべてるとき線香の匂いがぷおーんだなんてすると、口のなかで混ざってもうだめだ。ほんとうにえずいてしまう。
写真の前には灰皿とビックのライターが置いてある。父が吸ったハイライトの吸い殻がこんもりつもっては、いつの間にか消えている。えらいぞ父。
「昼飯代」 父はそう言うと、台所のカウンターに乗った千円札を指さした。
「あざっす」 反射的にぺこっとお辞儀をすると、私はそれを財布に入れる。
棚からどんぶりを取り出し、冷蔵庫から卵とめんつゆをだし、マッ���でTKGを作った。
「いただきます!」
そう言ってTKGをかっこむ。立ち食いでも礼儀は忘れない。ああうまい。生食ができる国産の卵に感謝しながら、ダシの効いた溶き卵のコクと甘み、山形県産あきたこまちの喉ごしを堪能する。
「座って食えよぉ」
父があきれた声でぼそっと言う。
「ごっつあんです!」
秒速で歯磨きし、鍵とヘルメットを取り、表に停めてあるスーパーカブにまたがる。見よ、これが私の愛車だ。絵を描くノリでちょー大雑把に筆塗りしたからし色のボディーもまたご愛嬌である。そんな愛車との馴れ初めは去年の春。私が母のへそくりで二輪の免許合宿へ行き、見事センターで免許をもらって帰ってきた直後、行きつけの近所の蕎麦屋のジイさんがボケてしまい、店を畳んだ。こうなってくると出前用のカブは、もう用がない。いやしい私は、偶然お店の前にいたジイさんの長女にカブの話をふっかけた。娘さんは二輪免許を持ち合わせていなかったので90ccのカブには乗れないうえ、そもそもピカピカのボルボV60を乗り回されている方ゆえ、車は足りてるからだれにあげるかで迷っていたという。需要と供給が見事に一致した瞬間だった。とりあえず馴れ初めの話はおしまい。
 くそぶかのジャンパーを羽織り、布で髪の毛を隠し、サングラスをかける。ふかめのジェットヘルメットを被れば、さすがに学校になんてばれるまい。キックでエンジンをかけ、ギアを入れたカブは住宅街から、だだっぴろい高架下の国道へと抜けていく。二段回右折のいらない原付二種の愛車は、心地良くうなりっている。春ということもありこのうえなく快適極まりない。あっというまに学校近くへたどりつく。小汚いスーパーとパチ屋の間のせこい私道と駐車場がごっちゃになってるところに愛車を潜らせ、メットを外して愛車のハンドルにぶら下げ、となりの公園の便所に駆け込んだ。ささっと布をとり、ジャンパーを脱いでリュックにぶちこみ、おさげを結い直す。前髪をケープで仕上げたら、できあがり。
 トイレから颯爽と登場したわたしは、何食わぬ顔をして学校まで400mの道のりをのんびりと歩いていた。おっと、グラサンをとるのをわすれていた、いけねいけね。
さて、愛馬としばしお別れしたあとは、さてさてお楽しみのチンパンジーたちと一緒の青春タイムの始まりだ。江戸川モンキーパーク正門に到着した。通称東京都立一之江高等学校。偏差値42と言われているが、おそらく名前かけなくても入れると思われる。
 薬品臭くて無駄にだだっぴろい廊下をとおって、わたしは教室へ向かった。バカ学校として都の教育委員会からモロにみくびられているのだろうか、校舎のあちこちがぼろぼろである。ナショナルのスピーカーは、もはや骨董品である。まあ私は幸運だ。ここを卒業した駐在さんいわく、本校の教室にエアコンが導入されたのは都立高校の中でいちばん最後だったらしい。
そんなことはさておき。わたしの緻密な計算通り、「キーンコーンカーンコーン」の始まりとともに教室に入り、終わりとともに席に着いた。セーフだ。
「おい小田部」
 おっとっと、この部屋を担当している飼育員こと可児龍児が、ドスの聞いた声で私を呼ぶ。なんだ難癖か?
「ち、こ、く」  今度はあざ笑うかのように言った。
「いや座りましたよね」
 文明の利器まで使ったこのわたしが負けてたまるか。
「だからさあ、時間までに座れって言ってるだろ?チャイム始まるまえに座れ、携帯に時計ついてんだろ?」
 渋々携帯を取り出して時計を見る。すると先生がこちらに近寄り、歌舞伎役者のような眼光をこちらに向け、卑しく笑った。その時だった
「ハイ!没収!!」
 先生の細長い手に掴まれ、クレーンのカゴのように空高く登っていく赤いiPhone7をぼーっとみあげていた。
「電源消しとけって言ってるだろ?」
 そんなことそ言い捨てたのち、真顔に戻る先生。しかしまあ、本当は携帯いじりたくて仕方ないソーシャルメディア中毒者のみんなが、人権を奪われる私を見ながら笑ってる光景はあまりにばかすぎておもしろい。ところでさっきからうつむいた先生の坊主頭から照り返した太陽が眩しすぎて仕方がない。目の色素がうすい私にとって、照り返しは宿敵である。思わず目を塞ぐ。
「放課後職員室に来るように」
 真顔にもどった先生は、当たり前のようにズボンのポッケにわたしの携帯をねじ込む。
 大変むかつくことにかわりはないが、今回は不幸中の幸いだ。iphone7の調子が悪く携帯回線が使えなくなってしまったため、前につかっていたiPhone5SにSIMカードを差し替えて、ちょうど二台持ちしていたところだった。そう、かったるくてつかえたもんじゃないけど、残機があるのだ。人権はかろうじて守られた。パスロックも解除できまい手前、先生からしたらただの文鎮に過ぎない。愛機よ、どうか無事でいてくれ。
「帰国子女さん、日本のルールは守ってね」
 そういいながら、先生は私の髪の毛を軽く引っ張った。
唖然とした。とりえず前髪乱すなクソ野郎と言いそうになったが、怒ってるところはたぶんそこじゃない。そんなかわいいものじゃあないはずだ。怒りを通り越した諦めと落胆とやるせなさが、そこにはあった。後々思えば「そもそも帰国子女じゃねーよ」くらいのことはいえたはずなのに、反論する気力すらそのときは、どっかにいってしまった。
 ああ面白いほどに、この猿山のチンパンジーはよく笑う。再生ボタンを押したかのようなタイミングで、わたしと先生のつまらないやりとりをばかみたいに笑うのだ。刑務所に慰問で芸能人が来た時の映像みたいな盛り上がりを見せている。ばかという生き物は、ある意味被害者だ。おろかさゆえに、どこにもいけないという宿命を背負っているから、笑いの沸点がばかみたいに低くなるんだとおもう。生存戦略ってやつか。私だって人のことはいえないさ。
「ててーててーてて ててててて」
 だから私はXperiaと言わんばかりの着信音が流れている。先生は私の携帯の入ってる所とは反対のポッケから自分の携帯を取り出し、焦るような面持ちで電話に出た。ワン切りだったのか、すぐに耳から携帯を放し、赤い終話ボタンを押した。
 待ち受けには先生と、先生の妻と思われる素敵な女性、先生にどことなく似た顔の小学校低学年くらいの女の子が一緒に写った写真があった。ご丁寧にスタジオアリスかなんかで撮られた家族写真のようだ。
 そういえば2ヶ月前、親と箱根旅行へいったとき、強羅の公園で先生を目撃したことを思いだした。どうも見覚えのある白のいけすかないレクサスRXから、明らかに先生とわかる男性がこれまたいけすかないグラサンをかけて、さらには奥様らしき女性を連れて登場したのだった。鮮明に残ってる。それはもう馬鹿みたいに、獣のように人目も憚らずいちゃついていたから無理もない。奥様の顔も鮮明に覚えている。歳の差婚なのだろうか、どこかあどけなさの残る女性だった気がする。しかし、相当若かったな。わたしらから数えた方が歳近いんじゃないか?当時は単純にそう思っていた。  もう一度先生の手元をみた。先生は着信履歴をみていたが、その後一瞬だけホーム画面を見て、横のスイッチで画面を閉じた。家族写真の女性と、強羅の女性は、どう足掻いても、似ても似つかない別人だった。錯覚ではなかったらしい。
「おい、席に戻れ」
 先生はわたしをみて、なにをぼーっとしてるのかといわんばかりの表情でこういった。わたしは我にかえったふりをしながら席に戻った。
どこにもいけないという宿命こそが、ばかという生き物の本質だとしたら、いまの先生は、たぶんばか以外のなにものでもないだろう。
わたしはこれから戦うことになる。 ああめんどくせえな。
つづく
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lovecrazysaladcollection · 4 years ago
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この日は、いつもの担当の取調べの刑事は、駅のビデオの解析に 立ち会っているとの事で、私を龍ヶ崎警察署に向かう時に暴言を吐いた、 60代ぐらいの刑事と、取手署で私の取調べも行った小太りな刑事と 初めてみる若い背の高い角刈りの男の計3人から取調べをうけました。 大体において、取調べに3人も来るっていうのが、おかしな話なんですが、 この時はお茶も用意されていず、私を精神的に追い詰めなんとしても 自供させるつもりだったのでしょう。
 私もどういう順番で言われたのかは、曖昧になってしまっているので、 言われた事や様子を箇条書きで書きたいと思います。 (言われたことは、取調べが終わって、牢獄に戻ってすぐノートに 書き留めておいたので確かです。)
・私のパソコン中に入っていた画像の事をいい
「まともじゃねーなー。おまえの頭エロしか考えてねーんじゃねーかー」 「学校でも、おまえ勉強なんかしてねーで、エロい事ばっかり考えてんだろ」 「いつもあんな画像ばっかり見てっから、頭おかしくなって痴漢なんかすんだよ」
・私の財布にコンドームが入っていた事をあげて
「お前、チャンスがあれば、女の事レイプするつもりだったんだろ、 じゃねーと、財布の中にコンドームなんか入れねーよな」
・痴漢の刑罰の事で
「たばこ捨てんのだって、立ちしょんすんだって条例違反なんだよ。 お前が、言わなきゃ誰もわかんねーんだよ」 「この程度で、こんなにねばってる奴なんて初めてだよ」
・今後の捜査の事で
「お前な、これ以上ねばると、小さい傷も大きくなるぞ」 「お前の田舎まで行ってな、お前の近所の人達や同級生に、 お前の写真みせて、こいつ痴漢したんですけど、こいつどんな奴でした って聞き込みに行くぞ」 ちなみに、この言葉が取調べで一番堪えました。 私はこの時はすでに、起訴までいったら憤死することを心に決めていたので、 なんとか耐えましたが、かなりきつかったです。
・17日に弁護士との接見で、検察に上申書を出して処分延長という形で 釈放してもらえるように働きかけてみるというやりとりがあり
「ぶっちゃけ、お互いのために処分延長という事にしませんか」 と私が言ったら。しばらく、考えるような間があり。 「ふざけんじゃーねー、てめぇ、そんなんで出やがったら、 てめぇ、別件であげて、また捕まえてやっかんな」 この言葉は、今でもトラウマになっています。私が引っ越す事にした理由の 一つです。女子高生がいれば、みんな私を落とし入れた女子高生に見えますし、 目つきの悪い男がいれば、みんな警察に見えるし、もう散々です。
・私の容姿の事で(若ハゲなので)
「お前、結構、頭やばいんじゃねーのか」
・ガサ入れで押収された、家計簿で知った私の生活費の事で
「こんな、いくら赤字だとか書きやがって、こじきみてーな生活だな」
・アリバイの事で
「ポリグラフでも全部おまえがやったって出てんだよ」 「お前が電車に乗ったことなんて証言してくれる人はだれもいないんだよ」 「お前がいう、時間帯に駅のカメラにお前の姿は写ってねーんだよ。 16:05発の電車には、お前らしき人が写ってたぞ」 これに関しては私にも非があり、私は12月1日に水海道の観光案内所で 自転車を借りていたのをすっかり忘れていて(その週に借りたことは、覚えて いたのですが、定期券のアリバイを主張しようとするあまり、 乗った電車の時間を実際に乗った時間より1つ早く言ってました。) なので、私の証言した時間に私が写ってないのは正しいのです。 ただ、16:05のに私らしき人間が写っていたと言ったのは、どうかと思います。
・取調べの様子 取り調べは、いつものように午前と午後あったのですが、 その両方で刑事が3人来て、飲み物も出ず、タバコを吸わない私の前でタバコをふかし、 時折、椅子に座っている私を3人で立って囲み見下すような場面も何度かありました。
ここに書いてある事を言ったのは、コンドームの事を抜かしては、 ほとんど60代の刑事で、小太りな刑事がそれをフォローするという感じでした。 若い男は一言ぐらいしか喋りませんでした。 60代の刑事が席を一回はずした時に、小太りな刑事が 「あの人は、言い過ぎる所もあるけど・・・」みたいな事を言って かばう様な事を言っていましたが、事実は事実として書かせていただきます。
” - 取調室 (via tsuda) (via pdl2h) (via asobiya) (via clione)
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oniwastagram · 4 years ago
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\おにわさん更新情報📸/ ‪[ 長野県辰野町 ] 小野宿問屋(旧小野家住宅) Former Ono House Garden, Tatsuno, Nagano の写真・記事を更新しました。 ーー中山道&伊那街道🏘の宿場町・小野宿の古い町並みに残る #長野県宝 の建築。内大臣秘書を務めたご当主の美術品も。 ・・・・・・・・ 小野宿問屋は中山道・塩尻宿から飯田方面へ向かう伊那街道(三州街道)の宿場町 #小野宿 に残る江戸時代末期の建造物で「旧小野家住宅」として長野県の県宝に指定されています。月に1日程度公開。 2019年夏、アウェー・松本山雅戦からの南信州庭園めぐり。この時は電車+レンタサイクルではなく原付🛵で巡っていたのですが、街道沿いで偶然出会った場所がこの“小野宿”。 まさに古い宿場町の面影を残す、重厚な建物が並んでいてビックリ。長野県は重要伝統的建造物群保存地区の宿場町が沢山あるから目立たないのかもしれないけど、#重伝建 でもおかしくない景観… 小野宿問屋の向かいの家も“棟飾り”のある大きな建物、そして斜め向かいにはこれまた立派な門と塀を持つ『小野光賢・光景記念館』が。 小野光賢・光景親子は幕末〜近代の横浜港⚓️の開港や発展を牽引した人物。要事前予約で見学できるそう。全く知らなかったので、いつか観たいな… そして小野宿問屋。ここもこの日連続して出会った本棟造りで棟飾り“雀おどり”のある建築🏠 現在残る建築は1859年(安政6年)の大火の直後に再建されたもの。古くから当地の庄屋だった小野家は江戸時代以降は問屋場となり小野村の名主もつとめました。そしてこの邸宅は実質的に本陣としての役割も担っていたそう。 建物裏の庭園は日本庭園!という程のものありませんが、山の眺望が良いお庭が残っています。 そして明治時代のご当主・小野八千雄さんは宮内庁に入省し、牧野伸顕・湯浅倉平・斎藤実・木戸幸一の秘書を務めたそうで(斎藤実はちょうど旧宅を先日紹介したばかり…)、そうした中央の政治家との繋がりの影響もあるのか、小野家には八千雄自身によるものや収集した書画・美術館🖼が多く展示されています。 徳川家達、東久世通禧、市河米庵、佐々布篁石(近代熊本の画家)、内田文皐、天龍道人、小坂芝田…🎨 小坂芝田は台東区にある『書道博物館』の中村不折🖋のいとこなんだそう。 公開は月1回程度(5・6・7・9・10月の第2日曜日。その他にも特別公開があることも)。 見られたのはほんっと偶然で運が良かったんだなあ。こうした町並みや建造物、そしてお庭に偶然出会えるのは嬉しい。 〜〜〜〜〜〜〜〜 🔗‪おにわさん記事URL:‬ https://oniwa.garden/former-ono-house-%e5%b0%8f%e9%87%8e%e5%ae%bf%e5%95%8f%e5%b1%8b/ ーーーーーーーー ‪#庭園 #日本庭園 #garden #japanesegarden #japanesegardens #zengarden #jardinjaponais #jardinjapones #japanischergarten #jardimjapones #японскийсад #landscapedesign #japanesearchitecture #japanarchitecture #辰野 #辰野町 #tatsuno #長野 #長野県 #nagano #信州 #小野 #ono #文化財 #古民家 #おにわさん #oniwasan (小野宿問屋跡) https://www.instagram.com/p/CAsbi3Ip_Ed/?igshid=jh4kgjjk3rnt
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galleryshinsaibashi · 7 months ago
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groyanderson · 5 years ago
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ひとみに映る影 第五話「金剛を斬れ!」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
 ポーポーポポポーポポポー…
 「こちらは、熱海町広報です。五時になりました。 よい子の皆さん、気をつけてお家に帰りましょう…」
 冬は日が沈むのが早い。すっかり暗くなった石筵霊山では、 防災無線から地元の小学生の声と、童謡『ザトウムシ』の電子リコーダー音だけが空しく響いている。 一方、霊山中腹に建つ廃工場ガレージで、私は…
 「ピキィェェェーーーーッ!!!」  「紅さん、落ち着いて下さい!」  「うっちゃあしぃゃあぁあーーー!!こいつがあ!鼻クソッ!殺人鬼のクソ!私の口、口にッ! お前も間接クソ舐めろゲスメド野郎おぉぉ!!こねぁごんばやろがあぁぁあああああああ!! キエェェーーーーッ!!」
 その時私は言葉にならない奇声を上げながら、皮を剥かれた即身仏ミイラに向かって、半狂乱で錆びついたグルカナイフを振り回していた。 そこそこ大柄な譲司さんや、ガタイの良いアメリカ半魚人男性の霊を憑依したイナちゃんに取り押さえられていたにも関わらず、 どこから出ているかわからない力で、ミイラをジャーキーになるまで切り刻もうと試みていた。
 そのまま体感二分ほど暴れ、多少ヒスが冷却してきた頃か。 突然ガレージ外からオリベちゃんがツカツカと近寄ってきて、
 「!」
 私の顎を強引に掴み上げた。 ラメ入りグロスを厚く塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
 「んっ��…オ…オリベちゃん…!?」  <同じライスクッカーからゴハンを食べる、それが日本流の友情の証だそうね> 同じ釜の飯を食う?まさか、彼女も見てたのか。あの衝撃的なサイコメトリー回想を。 それでいてなお…私の汚い口に、キスを…?  <それが何?子育てしてたら鼻吸いぐらいよくやる事よ。 だぶか(『逆に』を意味するヘブライ語のスラング)、これであなたも私のベイビー達の鼻水と間接キスしちゃったわね!> 嘘つき。今時医療機器エンジニアが、だぶか鼻吸い器も使わずに育児するわけがない! 私の思っている事を読み取った彼女が、テレパシーで優しい嘘をつきながら私を抱きしめてくれたんだ。  「お…お母さぁん…!」 これが人妻の魅力か。さりげなくナイフは没収されていた。
 <ほらジャック、あんたもよ!>  「は!?」 次にオリベちゃんは、イナちゃんの肉体からジャックさんを引っ剥がして私に宛がった。 互いの唇が触れ合っている間、ジャックさんのコワモテ顔がみるみる紅潮していく。  「ぶはッ!」 唇が離れると、ジャックさんは実体を持たない霊魂にも関わらず、息を吸う音を立てた。 そして赤面したままそっぽを向いてしまった。  「や…やべえ、俺芸能人とキスしちまった…!」 たぶん彼は例のサイコメトリーを見ていないんだろう。ちょっと悪い事をした気分だ。
 しかしオリベちゃんは既に譲司さんまでも羽交い絞めにしていた。  <コラ怖気づくんじゃないわよ!> 譲司さんは必死に抵抗している。  「そうやなくて!さすがに俺がやるとスキャンダルとかがあかんし…」  <男でしょおおおおおおぉぉぉ!!?>  「ハイイィィィィ!!!」 次の瞬間、譲司さんはとても申し訳なさそうに私と接吻を交わした。 そのまま何故か勢いでリナやポメちゃんともチューしちゃった。
 全員が茫然としていると、いつの間にか意識を取り戻していたイナちゃんが私を背後から押し倒した。  「きゃっ!イナちゃん!?」  「みんなだけズルい!私もチューするヨ!」 そ、それはまずい!私はプロレスの手四つみたいな姿勢でイナちゃんを押し返そうとする。  「違うのイナちゃん!これにはわけが…うわーっ!!」 しかしなす術なく床ドンされ、グラデーションリップを精巧に塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
 互いの唇が離れるのを感じて私は薄目を開けると、 目の前ではイナちゃんが『E』『十』の手相を持つ両手の平を広げていた。  「これ。ロックサビヒリュのシンボル」 肋楔の緋龍。さっきサイコメトリー内で、肉襦袢の不気味な如来が言っていた言葉だ。 どうして彼女がそれを?  「…見てたの?」  「意識飛んで、暗いトンネルでヒトミちゃんとヘラガモ先生追いかけた。 そしたらアイワズが、赤ちゃんのヒトミちゃんに悪さしてた」 アイワズ?もしかして、あの肉襦袢の事?イナちゃんは何か知っているのか…。
 すると突然ポメラー子ちゃんが「わぅ!」と小さく鳴き、動物的霊感で床に散らば���た半紙の一枚を選んで口に咥えた。 そのまま彼女はそれを私達の足元に置く。半紙には『愛輪珠』と書かれていた。  「これ、小さい頃私が書いたやつ…!」  「愛輪珠如来(あいわずにょらい)…」 譲司さんが呟いた。その語感は、忘れ去っていた私の記憶の断片とカチリと噛みあった気がした。
 イナちゃんも、別の半紙を一枚拾い上げる。あの『E』『十』が書かれた半紙を。  「私、悪いものヒキヨセするから、 子供の頃から、韓国で色んな人見てもらってた。 お寺、シャーマン、だめ。気功行った、教会で洗礼もした。だめだった。 でも幾つかの霊能者先生、みんな同じ事言うの…コンゴウの呪いは誰にも治せないて」 私と譲司さんが同時にはっとする。 金剛…愛輪珠如来に続いて、またイナちゃんの口からサイコメトリーと合致するキーワードが飛び出した。
 「まえ、気功の先生こっそり教えてくれた。地面の下はコンゴウの楽園あって、強い霊能者死ぬとそこ連れて行く。 アジアでは偉い仏様なアイワズが仕事してて、才能ある人間見つけると、 その人死ぬまでにいっぱい強くなるように、呪いかけていっぱい霊能力使わせる。 私のロックサビヒリュもそれで付けられた。 それ以上は私あまり知らない。たぶん誰もよく知らないこと思う」 地底に金剛の楽園?まるで都市伝説みたいだ。 でも、その説明を当てはめれば、愛輪珠如来と赤僧衣がしていた会話の意味が、なんとなく理解できる。
 「なんだそりゃ。じゃあお前の引き寄せ体質は、呪いとやらのせいだったのか?」 ジャックさんの眉間に微かな怒りのこもった皺が寄った。  「うん。私、本当は悪い気をよける力使いヨ。でも心が弱ると、ヒリュが悪さするんだ!」 イナちゃんは悪霊を引き寄せた時と同じように、両手をぎゅっと固く握り合った。 今の私達はもう、この動作の意味を理解できる。 これはキリスト教的なお祈りのポーズじゃなくて、両掌に刻まれた呪いを霊力で抑えこんでいたんだ。
 「…ねえアナタ」 突然リナがイナちゃんに問いかける。  「高校生ぐらいよね?年はいくつ?」  「オモ?十六歳だヨ」  「1994年生まれ?」  「そだヨ」
 リナは暫く神妙な顔つきで何か考え、やがて口を開いた。  「どうやら、アナタにも…いいえ。 もうこの際、この場に集まった全員に知る権利があるわね」 そして顔を上げ、私達全員に対して表明した。  「紅一美と即身仏、そして倶利伽羅龍王について。アタシが知ってる事洗いざらい話すから、よく聞きなさい」
◆◆◆
 1994年、時期は今と同じく十一月頃。アタシは紅一美という少女によって生み出された。 いや、正確には、アタシは石筵霊山に漂う動物霊の残骸をアップサイクルした人工妖精だ。 当時はまだ、リナという名前も人間じみた知性も持っていなかった。
 アタシは与えられた本能に従って、自分を本物の鳥だと信じて過ごしていた。 そんなある日、金色の炎を纏った大きな赤い蛇に襲われて、食べられそうになった。 アタシはソイツを天敵だと見なして、無我夢中で抵抗した。
 結論を言うと、ソイツはこっちが情けなくなるぐらい弱っちかった。 というより、戦う前から手負いだったみたい。 返り討ちされたソイツは、アタシを説得するために知能を与えて、こう語りだした。
 「俺様は金剛の魂を金剛の楽園へ導く緋龍、その名も金剛倶利伽羅龍王だ。 本来ならお前如き軽くヒネってやれるが、今の俺様は裏切り者に大事な法具を盗まれ、満身創痍なのだ。 お前を生み出した者の家から金剛の赤子の肋骨を持ってきてくれるなら、お前の望みを一つ叶えてやるぞ」 そこでアタシは、そのクリカラナントカと名乗ってきたソイツに、人間になりたいと祈った。 知能を授かって、自分が人工の魂だと知ったとき、自分も霊魂を創って生み出してみたいと思ったからだ。 でもクリカラは、「今の俺にそこまでする力はない」と言って、アタシの顔だけを人間に変えた。
 アタシは肋骨を取り返しに行く前に、まず人里に降りる事にした。 一刻も早く人間の世界を知りたかったから。それに、人間の顔をみんなに自慢したかったからだ。 ところが霊感のある人間達は、みんなアタシを見ると笑った。クリカラはアタシに適当な顔を着けたのだと、その時初めて知った。 だからアタシは腹いせに、クリカラの目論見を全て『裏切り者』にチクってやろうと考えた。
 改めて自分が生み出されたガレージに戻ると、アタシは初めて内部に仕組まれたトリックアートに気付いた。 そのガレージ内は、なまじ霊感の強い人間が見ると、まるでチベットの立派な寺院みたいに見える幻影結界が張られていたの。 緑のトタン壁や積み上がった段ボールは、極楽絵図で彩られた赤壁とマニ車に。 黄ばんだ新聞紙の上に砂だらけの毛布が敷かれただけの床は、虎と麒麟があしらわれた絨毯に。 中央に置かれた不気味なミイラは、木彫りの立派な観音菩薩像に。 人間の霊能者並の知性と霊感を得たアタシにも、それは見えるようになっていた。
 すると、漆塗りのローテーブル、もとい、ベニヤ板を乗せたビールケースの上で物書きをしていた小さい子が、元気よく立ち上がった。頭は丸坊主だけど女の子だ。 その子に…一美によって生み出されたアタシには、女の子だとわかった。  「書けた!和尚様、書けましたぁ!」 幼い一美は墨がついた手で半紙を掲げる。そこに書かれているのは少なくとも日本語じゃない、未知の模様だ。 すると観音像から白い気体が浮かび上がり、とたんに人間形の霊魂になった。
 「あぁ…!」 思わず感嘆の息が漏れた。その霊魂は、結界内の何よりも美しかったのだ。 赤い僧衣に包まれた、陶器のような滑らかで白い肌。 まるで生まれつき毛根すらなかったかのような、凹凸や皺一つない卵型の頭部。 どの角度から見ても左右対称の整った顔。 細くしなやかで、かつ力強さをも感じ取れる四肢…。 これこそ真の『美しい人』だと、アタシはその時思い知った。 和尚、と呼ばれたその美しい人は、天女が奏でる二胡のような優雅な声で一美と会話したのち、アタシに気付いて会釈をした。
 一美が昼寝を始めた後、その美しい人はアタシに色々な事を語った。 その人の名前は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)、生前は違う名を持つチベット人の僧侶だったらしい。 金剛観世音…(ああ、面倒ったらしいわ!次から観音和尚でいいわね!)は生前、 瞑想中に金剛愛輪珠如来と名乗る高次霊体と邂逅した。 その時、如来に自分の没後全身の皮膚を献上するという契約を交わし、悟りを開いて菩薩になった。 皮膚を献上するのは、死体に残留した霊力を外道者に奪われなくするためだと聞かされて。 だけど、実際はその如来や、如来を送りこんできた金剛の楽園こそ、とんでもない外道だったの。
 イナちゃんが話していた通り、愛輪珠如来はアジア各地の霊能者に、苦行という名の呪いや霊能力、特殊脳力を植えつけていた。 しかも金剛の者達は、素質のある人間は善人か悪人かなんてお構い無しに楽園へ迎え入れる方針だった。 それこそ、あの殺人鬼サミュエル・ミラーだって対象者だった。 そして、サミュエル・ミラーが水家曽良となって日本に送られてくると、 金剛の楽園で水家の担当者は愛輪珠如来になった。
 だけど、愛輪珠如来と幽体離脱した観音和尚が水家の様子を検めた時、水家はNICの医師達によって、既に脳力や霊能力を物理的に剥奪されていた。 そこで如来は、水家と同じ病院で生まれた一美に、水家の霊能力を無理やり引き継がせたの。 それだけじゃ飽き足らず、一美の肋骨を一本奪って、それを媒介に、呪いの管理者である肋楔の緋龍を生み出すよう観音和尚に指示した。 観音和尚はここで遂に、偽りの仏や楽園に反逆する決意をしたのよ。
 彼は如来の指示に従い、石英を彫って、緋龍の器となる倶利伽羅龍王像を作った。 但し、一美の代わりに自分の肋骨を自ら抜き取って、それを媒介に埋め込んだ。 この工作が死後金剛の者達に気付かれないように、彼はわざわざ脇腹の低い所を切って、そこから自分の体内に腕を潜らせて肋骨を折ったの。 そして一美の肋骨は、入れ替わりに自分の体内に隠した。
 観音和尚は脇腹から血を流したまま七日七晩観音経を唱え続けた後、事切れて即身仏となった。 すると即座に生死者入り混じった金剛の者達が現れ、契約通り彼の遺体から生皮を剥いでいった。 霊力を失い、金剛の楽園にとって価値がなくなった遺体は、心霊スポットとして名高い怪人屋敷のガレージに遺棄されたわ。
 一方何も知らないクリカラは、一美のもとへ向かっていた。 そして一美に重篤な呪いをかけようとしたその瞬間…突然力を失った! クリカラが自分の肋骨は一美のものではないと気付いた時にはもう遅かったわ。 仕方なくクリカラは、一美を呪う事を一時断念して、金剛の楽園へ退散した。
 観音和尚はアタシに以上の事を打ち明けると、穏やかな顔で眠る一美の頬をそっと撫でて、続きを語った。
 没後、裏切り者として金剛の楽園から見放された観音和尚は、怪人屋敷に集う霊魂や人工精霊達に仏の教えを説いて過ごしていた。 そして四年の歳月が流れた1994年、彼のもとに、不動明王に導かれし影法師の女神、萩姫が現れた。
 「どういうわけか、金剛倶利伽羅龍王が復活しました。 龍王は県内各地のパワースポットを占拠して力を得ています。 一美は私達影法師にとって大切な継承者ですが、磐梯熱海温泉を守る立場の私は龍王に逆らえません。 どうか彼女を救うのを手伝って下さい」
 これはアタシの想像だけど…クリカラは同時期韓国で、新たな金剛のターゲット、イナちゃんから力を奪ったんじゃないかしら。 萩姫に導かれ、観音和尚が猪苗代の紅家に向かうと、一美の胸元には確かに緋龍のシンボルが浮かび上がっていた。
 観音和尚と一美の家族は協力してクリカラを退けたが、少ない霊力を酷使し続けた彼の魂はもう風前の灯火だった。 クリカラが完全に滅びていない以上、一美がいつまた危険に晒されるかわからない。 だからアナタの両親は、アナタを一人前の霊能者にするために、観音和尚に預けたのよ…。
◆◆◆
 「以上、これがアタシの知っている事全て」 リナは事の顛末を語り終えると、改めて全員と一人ずつ目を合わせた。 私をさっきまで苦しめていた色んな感情…不安や悲しみ、怒りは、潮が引くように治まってきていた。  「この話、本当なら、アナタが二十歳になった時にご両親が話す予定だったの。…ていうか、明後日じゃないの。アナタの誕生日。 はっきり言って、観音和尚はアナタの友達が猪苗代湖で騒ぎを起こした頃には既に限界だったわ。 だから彼は最後に、アタシを猪苗代へ遣わせたの。 それっきりよ。以来、二度と彼を見ていないわ…」
 数秒の沈黙があった後、私は口を開いた。  「リナにとって…観音寺や和尚様は、美しかったんだよね?」 物理脳を持つ人間と違い、霊魂は殆ど記憶を保てない。 だから彼らは自分にちなんだ場所や友人、お墓、依代といった物の残留思念を常に読み取り、 そこから自分の自我目線の思念だけを抽出して、記憶として認識する。 リナがこの観音寺を美しいと表現したのは、単に私の記憶を鏡のように反射しただけなのか、それとも…。  「少なくとも、この場から思い出せる景色を見て、今アタシは美しいと感じたわよ」  「…そうなんだね」
 お蕎麦屋さんの予約時間はもうとっくに過ぎているだろう。 けど、私は皆に一つお願いをした。  「すいません。十分…ううん、五分でいいんです。 ちゃんと心を落ち着かせたいので、少しだけ瞑想をしてもいいですか?」 皆は黙ったまま、視線で許してくれた。  「わぅ」 構へんよ。と、ポメラー子ちゃんが代表して答えた。
 影法師使いの瞑想は、一般的な仏教や密教のやり方とは少し異なる。 まず姿勢よく座禅を組み、頭にシンギングボウルという真鍮の器を乗せる。 次に両手の親指と人差し指の間に、ティンシャという、紐の両端に小さなシンバルのような楽器がついた法具をぶら下げる。 その両手を向かい合わせて親指と小指だけを重ね、観音様の印相、つまりハンドサインを作れば準備完了だ。
 瞑想を始める。目を瞑り、心に自分を取り囲む十三仏を思い描く。 仏様を一名ずつ数えるように精神世界でゆっくりと自転しながら、じっくり十三拍かけて息を吸う。  「スーーーーーー…………ッフーーーー…………」 吐く時も十三拍で、反対回りに仏様と対面していく。 ちなみに一拍は約一.五秒。久しぶりにやったけど、相当きつい。肺活量の衰えを感じる。 でも暫くすると…。
 …ウヮンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン…
 <何?何の音!?>  「この1/f揺らぎは…ああっ!紅さんや!」 私の頭上のシンギングボウルが一人でに揺らぎ音を奏ではじめ、皆がどよめいた。 実はこれは、影法師を操るエロプティックエネルギーという特殊な念力によるものだ。
 …ワンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン… テャァーーーーーン…!
 息苦しさと過度の集中力が私の体に痙攣を引き起こし、時折自然とティンシャが鳴る。 波のように揺らぎ、重なり合った響きが、辺り一帯を荘厳な雰囲気で包み込む。 その揺らぎを感じて、私も精神世界で変化自在な影になり、万華鏡のように休みなく各仏様の姿に変形し続けている。 私は影、私は影法師そのものだ。完全黒体になれ。 そして心まで無我の境地に達した時、この身に当たる全ての光を吸収し…放出する!
 テャァーーーーーン…!
 「オモナ…すごい!」 そっと目を開ける。眼前に広がる光景は、もはやガレージ内ではない。  「そうか。ここが…あんたが信じ続けた故郷なんだな」 今ならイナちゃんやジャックさんにも見えるようだ。 懐かしい赤と真鍮のお御堂。窓辺から吹き抜ける爽やかな風。 そのお御堂の中心で、とりわけ澄んだ空気を纏って立つのは、仙姿玉質な金剛観世音菩薩像…和尚様。 そして、頭と両手に法具を置き、和尚様とお揃いの赤い僧衣を纏った私。 ここは、石筵観音寺。私が小さい頃住んでいたお寺だ。
 『よく帰ってきましたね』 和尚様の意思が聞こえた。声でもテレパシーでもない、もっと純粋な波動で。 彼はまだ滅びていなかったんだ。  「あの…私達、申し訳ありません。和尚様の記憶、見ちゃって…それで…」  『一美』
 和尚様は私の両手を取り、彼の胸の中に沈めた。ティンシャが「チリリリ」とくぐもった音をたてた。 心なしか暖かい胸の中で、私の手に棒のようなものがそっと落ちてきた。 両手を引き出してみると、それは細長い小さな骨…赤ん坊の頃に失われた、私の肋骨だった。 顔を上げると、和尚様の優しくも決意に満ちた微笑みが私の網膜に焼きつき、瞑想による幻影はそこで分解霧散した。
 『行くのです』 彼は成仏したんだ。
 次の瞬間、私達を取り巻く光景は薄暗いガレージに戻っていた。 でも、今のはただの幻影じゃない。和尚様のお胸には穿ったような跡が残っている。 私が握っていた肋骨はいつの間にか、何らかの念力によって形を変えていた。  「これは…プルパ」  <プルパ?> オリベちゃんが興味津々に顔を寄せる。  「私知てるヨ。チベットの法具ね。 煩悩、悪い気、甘え、貫く剣だヨ」 イナちゃんが私の代わりに答えてくれた。
 そう、プルパは別名金剛杭とも呼ばれる、観世音菩薩様の怒りの力がこもった密教法具だ。 忍者のクナイに似た形で、柄に馬頭明王(ばとうみょうおう)という怒った容相の観音様が彫刻されている。
 「オム・アムリトドバヴァ・フム・パット…ぐっ!!」 馬頭明王の真言を唱えてみると、プルパは電気を帯びたように私の影を吸いこみ…
 ヴァンッ!…短いレーザービームみたいな音を立てて、刃渡り四十センチ程の漆黒のグルカナイフに変形した。  「フゥ!あんた、最強武器を手に入れたな」 影を引っ張られてプルパを持つ手さえ覚束無い私を、ジャックさんが茶化す。  「武器って、私にこれで何と戦えって言うんですか!?…うわあぁ!」 途端、プルパは一人でに動き、床に落ちていた『金剛愛輪珠』の半紙にドスッと突き立った。  「ウップス…」 ジャックさんも思わず神妙な顔になる。 どうやら、和尚様は…本気で怒っているらしい。 憤怒の観音力で、私に偽りの金剛を叩き斬れと言っているんだ!
◆◆◆
 私達はガレージのシャッターをそっと閉じ、改めて公安警察内のNIC直属部署に通報した。 自分達はひとまず怪人屋敷内で待機。 譲司さんがお蕎麦屋さんにキャンセルの連絡を入れようとした、その時だった。
 カァーン!…カァーン! スピーカーを通した鐘の音。電話だ。譲司さんはスマホをフリックする。 案の定、画面に再びハイセポスさんがあらわれた。  『やあ、ミス・クレナイ。さっきはすまなかったね。 石筵にあんな素晴らしい観音寺があるなんて、僕は知らなかったのさ』  「いえ、こちらこそ取り乱してすみませんでした。 …あの光景、ハイセポスさんも見られてたんですね」  『おっと、幻影への不正アクセスも謝罪しなければいけないかね』 彼はいたずらっぽく笑った。
 『また電話を繋いだのは他でもない。ミス・リナの一連の話を聞き、一つ合点がいった事があってだな… ああ、その前に、アンリウェッサ。蕎麦屋の予約は僕が勝手にキャンセルしちゃったけど、構わないね?』  「え?あ、どーもスイマセン!」 譲司さんはスマホを長財布に立てかけようと四苦八苦しながら、画面に向かってビジネスライクな会釈をした。
 『実は僕には兄がいて、中東支部で彼も殺されたんだ。 だが彼はある時突然、「俺はこいつの脳内で神になってやる」とかなんとか言って、水家の精神世界で失踪してしまった。 それから暫く経ち、僕達NIC職員のタルパが兄を捕獲すると、彼はこう言ったのさ…��俺は龍王の手下に選ばれた、神として生きていく資格があるんだ」とね』  「龍王!?」  「どうして水家の脳内に!?」 私達全員が驚きにどよめいた。
 『そう、お察しの通り。君達の宿敵、金剛倶利伽羅龍王の事だろうさ。 龍王はなんでも、水家の脳内に蠢く『穢れ』を喰らっていたらしい。 そして僕の兄は、穢れを成長させるには沢山の感情が必要だから、あまりタルパを奪い尽くさないでくれとのたまったんだ』  「穢れ?」  『ジョージとオリベは知っているだろう』  「穢れ」譲司さんの額から汗が流れ落ちた。「…自我浸食性悪性脳腫瘍(じがしんしょくせいあくせいのうしゅよう)」 彼の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
 自我浸食性悪性脳腫瘍。私も知っている病名だ。 通称タピオカ病とも呼ばれるそれは、脳に黒い粒々の腫瘍ができて、精神がおかしくなってしまう病気だ。 発病者は狂暴になって、自分が一番大切な人を殺したり、物を壊したりするという。 ただでさえ殺人鬼の水家がそれに感染していたとなると…恐ろしいの一言に尽きる。  『その通り、穢れとはタピオカ腫瘍だ。 本来は生きた人間を狂わす脳腫瘍だが、霊魂にそれを感染させれば、そいつは強力な悪霊と化す。 だから龍王は、水家の脳内に閉じ込められたタルパ達を、穢れた腫瘍粒に当てがっていたんだ。 悪霊をたらふく喰って強くなるためにね。兄はその計画にまんまと利用されていたのさ』
 ジャックさんが画面を覗きこむ。  「水家は、安徳森に俺達が救出された時には失踪していたんだよな? まさか、奴は今もどこかで、龍王のエサ牧場としてこっそり生かされ続けてやがるのか!?」  『そこまではわからない。だがこうは考えられないだろうか? 観音和尚の計らいで一たび力を失った龍王は、ミス・パクから霊力を吸収し、更に福島中のパワースポットを乗っ取って復活した。 すると金剛の楽園にとって因縁深い男、水家曽良を見つけ、更に水家の精神世界でタピオカ病という副産物を発見する。 彼は、水家の精神を乗っ取ってタルパを生ませ続ければ、ほぼ無限に悪霊を生み出し喰らえる半永久機関に気づいた。 そして自分が楽園で高い地位を獲得できるほど強大化するその日まで、フリードリンクのタピオカミルクティーを浴びるように飲み続けているのさ!』  「は、半永久にタピオカミルクティーを…アイゴー!」 イナちゃんが身震いする。いや、さ、さすがにそれは飛躍しすぎでは…。 とはいえ、この仮説が正しければえらい事だ。
 「けど…」 譲司さんがおずおずと手を挙げる。  「もし水家の脳内でそんな強い悪霊が育っとったら、霊感を持つ誰かが既に発見しとるのでは? 水家はNICの強力な脳力者捜査官がおる公安部だけやなくて、マル暴にも指名手配されとります。 俺の友人にも、マル暴で殉職した霊がいますが…そんな話聞いたことありません」  <そうね。悪霊説は無理があるわ。 それでもあの殺人鬼は一刻も早く見つけ出さないとだけど> オリベちゃんが同調した。
 私はその時、ふと閃いた。オリベちゃんといえば…  「そういえばオリベちゃん、ここに来た時、怪人屋敷の二階に気配がするって言ってましたよね?」  <え?…ええ。でも、一瞬だけよ。 ファティマンドラのアンダーソンさんを見つけた時には消えていたから、てっきりアンダーソンさんの霊だったんだとばかり…>  『二階?…ああ、でかしたぞオリベ!これは灯台もと暗しだ!』 突然、ハイセポスさんがはっとした顔を画面いっぱいに近寄らせた。  『誰か、そこの階段を上ってごらん。そうすれば大変な事実に気がつくだろう! ああ、僕達は今までどうしてこれを見落としていたんだ!!』
 画面内で心底嬉しそうにくるくる踊るハイセポスさんとは裏腹に、私達の頭上にはハテナマークが浮かんでいる。 とりあえず、私とオリベちゃん、ジャックさんで階段へ向かった。
◆◆◆
 階段脇には館内図ボードがあった。影燈籠で照らしてみると、この工場は三階建てのようだ。 ジャックさんがボードを指さしながら、水家と共通の記憶を辿る。  「そういや、水家が潜伏していたのも二階だったな。 二階はほぼ一階の作業所と吹き抜け構造で、あまり大きな部屋はないんだ。 ええと、更衣室、事務所、細菌検査室…ああ、そうだそうだ!あいつが占拠していたのは応接室だ。」  「じゃあ、二階の応接室に向かいましょう! 影燈籠は光源がない場所では使えないから…」 私とオリベちゃんはそれぞれスマホを懐中電灯モードにした。
 一つ上のフロアに出て、真っ暗な廊下を進む��� 幾つかのドアをドアプレートを読みながら素通りしていくと、確かに『応接室』と書かれた部屋があった。 鍵は開いていたから、私達は速やかに入室する。
 室内を見渡すと、端に畳まれたパイプ椅子と長机、それに昔小学校などによく置いてあった、オーバーヘッドプロジェクターが一台見える。  <応接室というより、まるで工場見学に来た子供達向けの教室みたいね>  「水家の私物はもう警察が回収したんでしょうか?それより…」 それより気になる事がある。オリベちゃん、ジャックさんも同じ事を考えていたように頷いた。  「…この部屋、あいつの残留思念や霊がいた気配を全く感じねえ。 あいつが潜伏していたのはここじゃねえみてえだな」  「本当にここが応接室なんでしょうか?ドアプレートは誰でも簡単に付け替えられますよね」  <ええ。それに、さっきの廊下、広かったわよね? 左右どちらにも沢山ドアがあって。どこが吹き抜けだっていうの?>
 私達は改めて階段へ戻った。ここは…三階だ。  「二階が、ない!?」 私はまた階段を下ってみる。一階。上る。三階。 だからといって、一つ分フロアを隔てるほど長い階段じゃない。明らかに次元が歪んでいる!
 イナちゃんや譲司さんも含めて、一階の階段前に全員集合する。 私は外灯が当たる場所に移動し、影の中のリナに呼びかけた。  「あんたはどうだった?私絶対二階がなくなってたと思うんだけど…」  「そうね。アタシ、途中で外に出て壁から入ろうとしたけど、それもダメだった」  <でも、次元が歪むなんて事、本当にあるの? NICは心霊やエスパーの研究でも最先端だけど、人間がテレポーテーションする現象は見た事ないわ> オリベちゃんは欧米的にわざとらしく肩をすくめた。  「現代解明されとる量子テレポーテーションは、SFみたいな瞬間移動とは別物やしな。 だったら、逆の発想や…イナ」  「オモ?」 譲司さんはイナちゃんに、スマホで音楽をかけながら一緒に階段を上るよう指示する。
 『背後からっ絞ーめー殺す、鋼鉄入りのーリーボン♪』 ビクッ!…音楽が鳴り始めるやいなや、私は思わず身構えて、キョロキョロと周囲を伺った。 イナちゃん、よりにもよって、どうしてその曲を選んだんだ。  「あははは!ヒトミあんた、ビビりすぎよ!」  「う…うるさい、リナ!」 休みの日には聴きたくなかった声。 この曲は、私を度々ドッキリで連れ回す極悪アイドル、志多田佳奈さんのヒットソング『童貞を殺す服を着た女を殺す服』だ。タイトル長すぎ!
 『返り血をっさーえーぎーる、黒髪ロングのカーテン♪』  「歌うで、イナ…仕込みカミッソーリー入りの♪」  「「フリフリフリルブラーウス♪」」 二人は階段を上がりながら、暗い廃工場の階段というホラー感満載の場に似つかわしくないアイドルポップを歌う。 しかし、  「「あーあー♪なんて恐るべき、チェ…」」  『…リー!キラー!アサシンだ!』 二人は突然、示し合わせたようなタイミングで歌うのを止めた。 イナちゃんのスマホから、佳奈さんの間抜けな声だけが階下に響く。  「なんだあいつら。歌詞を忘れたのか?」 肩でリズムを取りながら、ジャックさんが見上げた。  <…待って。あの二人、意識がないわ!> オリベちゃんが異変を感知。慌てて彼らを追いかけようとすると、その時!
 「「…リー!キラー!アサシ…ん?」」  『わ・た・し・童貞を殺す服を着た女を…』  「オモナ?もうサビなの?」 彼らはまるで時を止められていたかのように、また突然歌いだした。 スマホから流れる音楽との音ズレに、イナちゃんが困惑する。  「やっぱりそうか。オリベ! 今から…ええと、ひーふーみー…八秒後きっかりに、俺に強めのサイコキネシスをうってくれ!」 何かに気付いている譲司さんは、そう言うと階段を下りはじめた。
 五、六、七…八!  <アクシャーヴ!>ビヤーーーッバババババ!!!  「わぎゃぁばばばばばば!!!死ぬ!死ぬーっ!!」 オリベちゃんの頭が紫色に光るのが傍目から見えるほど強烈なサイコキネシスを受け、譲司さんは時間きっかりに叫び声を上げた。  「げほっ、げほ…あーっ!ほら!行けたで、二階!皆来てみ!!」 少し焼けた声で譲司さんが叫ぶ。  「わ、わきゃんわきゃん!?」 飼い主の危機を察してポメちゃんが階段を駆け上がる。 私達もそれに続くと、途中で全員譲司さんに器用に抱きとめられ、我に返った。  「���きゅ?」  「あれ?」  「俺達、今…」
 「どうやらこの階段には、二階周辺を無意識に飛ばしてまう、催眠結界が張られとるみたいやな。 それならテレポートより幾分か現実的や。 ただ、問題は…これ作ったん誰で、どうやったら開けられるかって事やな…」 譲司さんが目線で、二階入口の鉄扉を指し示した。 そこには、白墨で複雑極まりないシンボルが幾つも丁重にレイアウトされて書かれた、黒い護符が貼ってあった。
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dorakumusuko · 5 years ago
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今年のクリスマスプレゼントに
レザーの財布なんていかがでしょうか?
対照的な2つ折りの財布2型ですが、
龍が浮き出たような渋いデザインの
ちょい悪財布(¥9790)と
免許証や定期などのカードが沢山入る
実用的な日本製の財布です(¥10780)。
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gallerynamba · 5 years ago
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【本日最終日】◆アルセラピィ 10% OFFフェア 店舗と通販で同時開催◆ ATドラゴン 二つ折り財布(BLACK) 【定価】¥16,200(税込) 【9/23まで10%OFF】⇒¥14,580(税込)※店頭でのみさらにポイント10倍 通販ページ:http://www.gallery-jpg.com/item/23080814/ ドラゴンの完全復刻。 ありえないと思われていたことが実現しました。 ゴルチェの財布でVサイバー、ニューローズを超える人気のシリーズ。 アルセラピィにおいては生産数が極端に少ない為、国産ゴルチェのドラゴンよりも1点づつ時間をかけて丁寧に型押しされています。 1点づつの精度が非常に高いです。 国産ゴルチェのドラゴンでは使用したことの無いタイプの渋い感じのシルバー色レザーです。 アルセラピィ設立当時から弊社が復刻を懇願して、ようやく成立しました。 開催期間:9/13~9/23 開催場所:Gallery なんばCITY店、通販サイト http://www.gallery-jpg.com/category/20/ 消費税増税直前のお買い物のチャンスです。 上記期間、Gallery なんばCITY本館1F店と通販にて、アルセラピィの商品をご購入の全てのお客様を対象とした「アルセラピィ 全品10% OFF フェア」を開催致します。 9月21日から23日までのなんばCITY店、店頭でのお買い上げはミナピタポイント10倍の対応と併用させて頂きます。 期間中は、新作、SALE品を問わず、アルセラピィ ブランドの全商品(BAG、財布類など、275種)が、10% OFFでお買い求め頂けます。通販も対応可能。招待状不要。店頭は各種ギフト券歓迎。 アルセラピィのアイテムをメンズ、レディス共にフルラインナップ。 BAG(A4ビジネス、A4トート、Bigトート、かぶせショルダー、ボディ バッグ、ウエスト バッグ、ボストン、口金リュック、バックパック、クラッチ、シザーズ)、ポーチ、財布、名刺入れ、1枚パスケース、2つ折りパスケース、キーケース、小銭入れ、ウォレット チェーン、シガレット ケース、ペンケース、キーホルダー、携帯ストラップなど。 アルセラピィの商品は通販サイト(http://www.gallery-jpg.com/category/20/)にて、全型ご覧頂けます。 国産ゴルチェの復刻的作品多数。 国産ゴルチェと同型、同素材、同パーツなどを使用し、同工場にて同工程で生産。 275種。 ◆新作 ドラゴン シリーズ入荷◆ ドラゴンの完全復刻。ありえないと思われていたことが実現しました。ゴルチェの財布でVサイバー、ニューローズを超える人気のシリーズ。アルセラピィにおいては生産数が極端に少ない為、国産ゴルチェのドラゴンよりも1点づつ時間をかけて丁寧に型押しされています。1点づつの精度が非常に高いです。アルセラピィ設立当時から弊社が復刻を懇願して、ようやく成立しました。初回は各数点づつしか供給出来ません。 カラー:シルバー、ブラック 型:内側がま口大判長財布、内側L字型ファスナー大判長財布、がま口二つ折り財布、二つ折り財布、小銭入れ、キーケース、パスケース、名刺入れ お連れ様もお誘い合わせの上、是非この機会にGalleryなんばCITY店、通販サイトをご利用下さい。 スタッフ一同、心よりお待ちしております。 Gallery なんばCITY本館1F店 〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波5-1-60なんばCITY本館1F 【営業時間】10:00~21:00 【休館日】9月無休 【PHONE】06-6644-2526 【Facebook】https://goo.gl/qYXf6I 【tumblr.】https://gallerynamba.tumblr.com/ 【instagram】http://instagram.com/gallery_jpg 【Twitter】https://twitter.com/gallery_jpg 【ブログ】http://ameblo.jp/gallery-jpg/ 【オンラインショップ】http://gallery-jpg.com/ Artherapie.official #artherapie #アルセラピィ #JeanPaulGAULTIER #ジャンポールゴルチェ #GAULTIER #ゴルチェ #なんばCITY #ゴスロリファッション #V系 #ヴィジュアル系 #ヴィジュアル系ファッション #竜 #龍の財布 #龍 #ドラゴン小物 #ドラゴン財布 #dragon #ドラゴン #二つ折り財布 #ミニ財布 #財布 #wallet #ウォレット #ゴルチェドラゴン #ゴルチェ龍 #ゴルチェ竜 #コイン入れ #小さい財布 #牛革財布 https://www.instagram.com/p/B2vrATPpoQn/?igshid=1shnwv2rjj7iu
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furoku · 5 years ago
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美人百花 2020年1月号《特別付録》TED BAKER(テッドベーカー)のマルチミニ財布【購入開封レビュー】
TED BAKER(テッドベーカー)のマルチミニ財布はどんな付録?
「英国の人気ファッションブランドが初付録!ラベンダー×繊細フラワープリントでバッグの中を華やかに彩るミニ財布は、金具&ロゴにピンクゴールドを使ったり立体リボンに「T」の刻印が入っていたり気品たっぷり。(本誌p.30より)」
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付録のサイズ感は?何がどれくらいまで入りそう? マチつきポケット・・・交通系ICカードのような厚手のカードが10枚入るサイズ感 マチなしポケット・・・交通系ICカードのような厚手のカードは1枚、QUOカードのような薄手のカードは2〜3枚入ります ファスナーポケット・・・500円玉10枚程度が入るサイズ 前ポケット・・・交通系ICカードのような厚手のカードは1枚、QUOカードのような薄手のカードは2〜3枚入ります マチつきポケットには2つ折りしたお札も入ります。
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<実測サイズ> タテ9.5×ヨコ12.5×厚み2cm 付録の素材はなに?原産国は? <素材表記> 塩化ビニル樹脂、ポリエステル <製造国> MADE IN CHINA
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付録素材を見た、触れた感じは? 表はサフィアーノレザー調の合皮。つるりとした中に、凹凸も感じる触り心地です。フタから背面にかけては板状の芯材入りで、硬さとハリがあります。ただ芯材の上にスポンジも入っているのか、少しふっくらしています。 柄は転写プリント。花や葉の微妙なグラデーションもきれいに表現されています。ピンクゴールドの型押しブランドロゴも高級感があって良いです。
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裏地はサテン調のポリエステル。光沢があり、つるつる&なめらかな質感です。中に顔を近づけると、PVC特有の刺激龍を感じます。
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付録の品質はどう? 縫い目の幅は3mmと既製品並みの細かさで、歪みなくまっすぐ縫われています。一部糸の飛び出しがみられるものの、ほぼ既製品並みの仕上がりです。 付録を使ってみた感想は? ・各ポケット マチつきポケット:マチがあるので大きく広げることができ、中が見やすく中身の取り出しもスムーズです。マチがあることでたくさん入るのはメリットな反面、下がすぼまったマチのため、中身の量に比例して本体の膨らみが目立つのが気になりました。
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マチなしポケット:サテンのなめらかな生地のおかげで滑りが良く、カードの出し入れがしやすいです。その反面ポケットの背面が芯材入りで硬く、たわませづらいので、中の見やすさには欠けます。個人的には中が見えなくても支障がないように、カード1枚だけ入れて使いたいです。 ファスナー付きポケット:生地が柔らかくたわませられるので、中が見やすいです。コンパクトに見えるものの、開口は手がすっぽり入るサイズで、中身の取り出しも楽にできました。
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前ポケット:マチがないのはマチなしポケットと同じなものの、こちらは合皮に芯材がなく柔らかいため、開口を大きく開けられるのが便利。中身も見やすく取り出しもしやすかったです。 ・ファスナー 引っかかりなくスムーズな動き。ストレスなく使えます。引き手も小さいながらふっくらとした形状がつまみやすく、使いやすかったです。 ・スナップボタン 固すぎず緩すぎずちょうど良い硬さ。小銭やカードをたくさん入れて、財布が膨らんだ状態でも弾けることなく使えました。
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この付録、アリ?ナシ?
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あり! 生地感や仕上がりが付録っぽくなくて◎!以前レビューしたこちらのポーチと似た生地と柄でした。リボンのモチーフやロゴの型押しの色が、普通ならゴールドにしそうなところ、ピンクゴールドなのも凝っていて良かったです。 個人的にはお札が2つ折りでしか入らないのがミニ財布としてはマイナス。なので私は財布としてよりも、小銭の入るパスケース感覚で使いたい気分。チャージ用の数千円だけ入れておくならお札が2つ折りでも構わないので、一番しっくりくる使い方な気がします。
購入した付録つき雑誌/ムック
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美人百花 2020年1月号 発売日:2019年12月12日(木) 価格:850円 角川春樹事務所 Read the full article
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