#呑べえ横丁
Explore tagged Tumblr posts
Text
2023/08/31(fri) 呑べえ横丁
9月から都市開発?土地開発?で取り壊される呑べえ横丁。
その呑べえ横丁の最後の日に撮影してきた。
1 note
·
View note
Text
その夜
作業煮詰まって終電で新宿へ。
特急で3駅15分。帰り路急ぐ人波に逆らい歌舞伎町に向かう。「こんな時間に、」「歌舞伎町で、」と未だにわけのわからん優越感を持ってしまう自分に辟易する。単に地元の後輩が店長している飲み屋にしか行くところがないだけだ。
思い出横丁、大ガード、一番街を抜け、路駐の黒塗りの列の脇を曲がる裏通りの一角に「のぼせもん」がある。店は混んでいた。ラーメンやチャーハンのメシ客と呑みの客。鍋を振っている才木はオレに気付き顎でカウンターの角を指す。行く前にLINEしていたので手書きの予約の紙が置いてある。1人のときも2席分必ず確保してくれている。元々は博多ラーメン屋だったが場所柄呑みの客が多く、いつのまにかツマ���が増えていき博多屋台メニ���ーが並ぶようになった。もつ鍋まで出る。才木は平日ワンオペで店を回す。
ウーロンハイと煮卵とチャーシューが出てくる。才木が作ったウーロンハイは本当にうまい。大五郎と伊藤園の烏龍茶なのにいちいち美味い。ウチで同じように作っても全然違う。不思議。反対側の角の高橋さんと目が合い会釈する。この辺りのキャッチの元締めのヤクザ。入れ替わりくる休憩時の若者にメシを食べさせている。高橋さんはいつもの一升瓶の黒霧のロックのセット。この店で一升瓶をキープしているのは、高橋さんとサニーデイの田中さんだけだ。混み合ってきたので一度外に出る。
散歩しながら撮影。いい瞬間はなかなか出会わない。一度森山大道を見かけて後をつけたことがある。歩きながらずっと撮影していた。その数秒後に自分も同じ場所に立つけど、なにをなんで撮っていたのかまったくわからなかった。小一時間ついて回ったが途中巻かれた、というか見失った。「夢のように薄い水割りを」と酒で体を壊した森山大道がどっかのバーで言ったらしい。
ホスト街を抜けてバッティングセンターの前のたくさんの自販機の光の下に女の子が座りこみ泣いていた。遠目から一枚撮るかとカメラ構えた瞬間目が合いやめた。ばつが悪いので、なにか飲むかと自販機に小銭を入れる。女の子は黙って桃の天然水を押した。リボンが異様にたくさんついたレース生地のワンピースとロングブーツ。かなり酔っていて涙で化粧が落ちていた。とりあえず隣りでタバコに火をつける。吸うかと差し出すが首を横にふる。「携帯貸して」と、調べものか誰かに連絡するのかと渡す。イヤホンをつけたまま渡してしまい外そうとすると手を払い除け耳につけて歩き出した。
背はかなり小さく細い。アスファルトを鳴らしながら、ではなく、目についた自転車や看板を蹴り倒しながらカラーコーンをぶん投げながら歩く。取れかけたツケマツゲも投げてた。倒された自転車や看板を元に戻しながら後ろからつかず離れずでついていく、声は届かない。もしトラブルになりそうなら出ていこうかと思ったけどみんなあっけに取られ何回か怒鳴られたが気にせず歩く。怒りか悲しみか大きなエネ��ギーが放出してる様はすごいライブで演ってる人が光って見えるのに似ていた。澱みがないから止まらない止められないのか。ランダムに設定していたレイジアゲインストザマシーンあたりが流れているのかと思ったら面白くてニヤついてたら、振り返り「キモ」と言われる。後ろ姿を撮りながら新宿をぐるぐる回る。たまに振り返ると「ウケる、Yahooニュースばっかり見てんじゃん、キモ」「フォロワー500人、キモ」とケラケラ笑う。見るなと言い返しても、もう背中聞こえていない。
どのくらい歩いただろう、そろそろ始発が動く時間で駅に向かう人が多くなってきた。あいかわらずなぎ倒しながら歩いていたが勢いはなくなっていた。酔いも覚めたのだろう。空の桃の天然水は持ったままだ。三丁目の飲み屋街から明治通り伊勢丹の向かいに出てきた。あーここ美味しいクレッソニエールと思ってたら突然立ち止まりイヤホンを外しiPhoneとペットボトルを思いっきり足元に投げつけてきた。
「おまえのハンパなやさしさが全部をダメにする」
と言い放ち新宿三丁目の駅に降りていった。拾うと画面はバキバキに割れていた。傷だらけで人質は解放された。音は鳴るかとイヤホンをつけるとpredawnが流れていた。
コンビニでアイスを買い店に戻る。誰もいない店内で才木は仕込みをやっていた。「にーやん遅かったね、瓶ビールでいい?」小さいグラスで乾杯だけして、才木はアイスをくわえながら厨房に戻る。系列の4店舗分のスープの仕込みを才木がやっている。さっきの話しを聞いてもらいたくて「少し休んで呑もうや」と誘う。「この豚は一度死んでウチにきてるから、2度死なすわけにはいかんのよ」と才木は言った。寸胴の中の豚骨を砕く才木の背中を見ながらアイスを食べた。
21 notes
·
View notes
Text
ガシャっとやったらポンと出る
この体から心臓を取りだして一時、この体を動かす役目から解放してやりたい。まあなんか居心地のいい場所で自分のためだけにゆっくりと伸縮するか、または完全に停止してくれてもいい。内臓は一生休めないんだなあ。
という下書きが残っていた。たぶん心臓の鼓動が早くて息苦しかった時のものだろうと思う。バンダイナムコはガシャポンという名称でガチャ商品を出しているから、アイマスシリーズのソシャゲの中のガシャも、ガチャではなくて「ガシャ」と呼ぶのだ、とガチャガチャの筐体を見て気づいた。友達(故郷ジャンルはSideM)がいつもガチャのことを「ガシャ」と言うのはなんとなく気になっていて、それはアイマスシリーズからだろうなと思っていたのだが、実際に物理的に存在する「ガシャポン」が由来だとわかった時には、違和感というか、あの不思議な感じが消えた。なるほどそれはたしかに「ガシャ」だ。ガチャではない。
毎日のToDoとして、英語(読み)に触れよう、というのと、「国際政治史」(有斐閣ストゥディアを使っている)かアレ��ト「人間の条件」のどちらかのテキストを進めよう、というのと、なんでもいいから少しでもいいからフィクションに触れよう、というのがある。
英語は結局それかよ、という感じだが、また速読英単語の上級編を読んでいる。もう何周目かわからない。3周はしている。それでもまだ内容がうろ覚えのところがあるし、単語に至ってはぼろぼろなので、単語の思い出しのためだけにぼーっと書き写して調べて読んでいるという感じだ。いつも通り。単語帳、なんらかの、Duoとか?All In Oneとか?を進めるほうが効率がいいのかもしれないが、どうも私はある程度のかたまりの文章の中で出てきた単語の方が覚えやすい。それは日本語の単語を覚える時にもそのコースを辿っているからだと思うが。分からない単語をとりあえず分からない単語として措いて、文脈からあとで多分あの単語、こういう意味だろうなと、いくつかの文章からの経験で、自分の中で辞書を作っていく。時間がかかっても英語もそれのほうが私にはいい気がする。となると、速読英単語を何周もしていないで、英検のテキストの長文、要は初めて見る文章(単語的に準1級が丁度いい)も読んだ方がいいなあ。働いていない時は速読英単語+英検テキストをセットでやっていたのだが、それはけっこう時間がかかる。が、軽く1日1題流し読みする程度に英検テキストもまた触ろうかな。
国際政治史と人間の条件は、今のところ人間の条件がさくさく進んでいる。国際政治史は毎日やっていた頃から大分間が空いてしまい、前回までのところを忘れている。この思い出し作業が面倒なので、なかなか手を出す日が少ない。本当はアレントと1日ずつ交代でやれればいいのにと思う。アレント『人間の条件』は、牧野雅彦さんの講談社メチエのテキストを進めている。かなり整理されていて、こちらをやってから本テキスト『人間の条件』を読むと、かなり何を言っているのかがわかる。人間の条件は訳文が痺れるほどに格好いいのだが(ちくま学芸文庫)、古い時代の訳なので、かなり頭が良くないと1文のなかのどこが重要な結論なのか分からない時がある。とにかく何回も前後を併せて読め、という感じだが、牧野さんのテキストを見てからでないと誤読しそうで結構はらはらする。これは10年前くらいに買って、時々書き写して小説の文体の手本にしていたが、内容は全然���かっていなかったため、今回ちゃんと読むことにした。マルクス、エンゲルスに多く関わる内容であることを知らなかった(労働という単語が目次にある時点で分かれよという感じだが)。古代ギリシアから西洋精神史を辿っていく構成なのは助かる。というか、これは精神史というか、人類学、政治史など、つまり大きく言って歴史のなかでの人間の生活やそれを導く思想の変遷を辿っていたりもするので(序盤)、とても楽しい。歴史というものにいつでも還元してしまうなあ(自分は)と思う。歴史というか、因果関係というか、原因究明というか、価値観の転回の瞬間とか、そういうものを連続体で見ていくのが好きである。
あとは、最近読んでいるフィクション。今日は菊竹胡乃美さんの『心は胸のふくらみの中』を読了。今年出た歌集。とにかく多くの傷から目をそらさないで問題提起とその傷つきを高らかに歌う人だと思った。そしてとにかく上手い。内容よりも正直技巧を学びたいと思って買った。最後には内容のすばらしさに圧倒されてしまったけれど。こういう内容に「ぎとぎと」しない感じで、でも読んだ人の心臓の横にはっと刃物を突きつけられる爽やかさは、やはり技巧だと思う。文体のなせるわざ。どこを述語的にするかとか、名詞、現象の想起のさせ方、動詞、口語体の取り入れ方、文あるいは節の繋げ方、全てが私の好みで、つまりこういう形式の短歌を作ってみたいんだよな〜!の理想形の人であった。それにしても内容は結構生々しい傷をこれでもかと突きつけてくるので、よくここまで書けるな、若さというか切迫、切実さだな、と思ってしまった。私はもうここまで困ったり傷ついたりすることはない。老人の呑気さだ。それでも私が読める程度には生々しくないのは、やはり高潔な感性と、短歌の形式に感情を嵌め込む時、とてもきれいに整備しているからだと思う。この歌集については、引用して少しちゃんとした感想をどこかにまとめたいものだ、と思う(思うだけで終わると思う)。
そして、短歌パスポート(しらしら号)を立ち読みして、あれっ、この人いいなあと思って、その場で歌集を探して買ってしまった、堂園昌彦さん『やがて秋茄子へと到る』。タイトルは色んなところで目にしていたが、きちんと歌を見たことがなかった。なんと、なんとなんと、秋茄子の最初の一章を今日読んだのだが、物凄かった。全ての歌が、私の持っているいちばん大切でいちばん美しい時代の世界の見え方をいちいち脳内から引っ張り出させてくる。つまり、10歳頃までの記憶や見え方を。こんな幸福なことってあっていいのだろうか。これも知っている、これも、これも、この光景も知っている、と、自分事のようにすべての歌が「思い出」となって目の前に現れる。むしろ恐ろしいことかもしれない。この人の歌は、他の人にもこのような作用をもたらすのだろうか。私と特別相性がいいからこのような現象が起こるのだろうか。なんにしろ、短歌の中に使われているこの抽象的とも言えることば(具体的な言葉を組み合わせて抽象���つくる達人だと思う)が、こんなにも特定の思い出を引き連れてくることがびっくりする。歌そのものの光景ではなくて、歌が引き出したイメージの一部から、長らく忘れていた景色や風景や色や匂いが連れてこられてしまう。とくに秋と冬の歌が序盤多いからだろうか。私の幸福な、でも忘れてしまっていた記憶がどんどん引き出されていき、自分は完全に、完璧に幸福な子供であったことを思い出した。現状把握能力が未熟なゆえ、未知ゆえの幸福。とても狭い世界で、世の中の平均値と自分を較べることを知らず、ただただ目の前の寒さや眩しさにまみれて必死で生きて、守られていると感じていた頃。実際的に守られていたし、問題を問題とも感じていなかったから、ひたすらに幸福だった。自然が自分に与えるものを、体ひとつですみずみまで感じ、享受していた。その頃の気持ちがそのまま『やがて秋茄子へと到る』所収の歌たちが背負ってくれている。とにもかくにも「懐かしい」歌集で、私は懐かしいことが大好きなのだった。ほかに、ずっと読みさしている『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』『地上で僕らはつかの間きらめく』あたりをちまちま〜と読んだりしている。時間戦争のほうは、うっかりすると一気に読んでしまいそうで勿体ない。ただ、小説を読んでいると「物語飽和症」の症状により、よし、この辺まででもう頭がいっぱいだ、となり、5ページくらいずつしか読めない。
それでは寝ます。おやすみ。
2023.6.15
3 notes
·
View notes
Text
ある画家の手記if.?-8 雪村絢視点 告白
朝起きたら乾ききった大量の血でベッドのシーツはシワになったまま固まっちゃってた。 してる間ずっと端によけてた布団は無事、だけど血痕が、床にも壁にもそこらじゅうに飛んじゃってるから、大掃除して色々買い換えないと。前の家にいた頃、完全に乾いた布とかの血を洗って落とすのは至難の技だったから無駄に時間消費してないで血で汚れたものは丸ごと捨てちゃってた。今は綺麗に落とせる洗剤とか売ってたりするかな。 部屋やベッドはひとまず放置して先に人体。
二人でお風呂にお湯をためて使いながら、弱く出したシャワーで派手な血の跡を体から軽く流して落とす。真澄さんの背中はまだ生乾きの部分もあったから、広範囲の傷自体を流したりはしないでおいた。 少し思う、真澄さんってどこか…弱い? まったく同じように転んで同じように怪我しても、出血が激しい人と滲む程度にしか血も出ない人といる。血圧とか血液量とか血液の凝固のスピードとか皮膚の違い? 理人さんは後者に近くて、血みどろになるような日はもっと激しい暴力があった日だった。真澄さんの派手な出血量と凝固の遅さが気になる。元からの体質がこうじゃないなら、体が弱ってるか深刻な病気の可能性もある。 「……」 体を拭いて着替えて、リビングのソファに座って真澄さんに両手の指の手当てをしてもらう。真澄さんの背中を手当てするには俺がまともに指使えないと話になんないし。 俺の指は包帯とガーゼで綺麗に巻かれた。とれた爪はどうにもなんない、割れたり指に刺さった爪を丁寧にピンセットで動かしながら処置された。出血が止まるのが遅いのに痛覚は鈍い、俺も弱ってる。
次は俺の番。真澄さんの背中、まだ生乾きだから止血帯大きく貼ろうかな…とかやり方考えてたら、インターホンが鳴った。約束の時間より少し早いけど、たぶん香澄だ。今日デートの約束してたから。 「…。」 「……」 真澄さんと顔を見合わせる。 この状況を今からバタバタ隠そうとしてもな、寝室見られたら事が起きた場所は一目瞭然だし、背中の怪我、いろいろと言い逃れるのは無理。香澄がどこまで察するかだって分かんないんだし、とりあえず下手に取り繕うのはスッパリ諦めよう。 鍵を開けて香澄が来るのを待つ。 ドアを開けて入ってきた香澄は、まず俺の指を見て唖然とした。 「香澄おはよ~。キッチンにハーブティーあるから飲んで待ってて。今手が離せなくてさ。すぐ終わるから」 いつものちょっと気怠げなような穏やかなようなゆったりした口調で話す。以前よりさらに口調から覇気が抜けた。ここも省エネ。 場に緊張感がないことを香澄に示すためにあくびとかしながら、玄関からリビングのもといたソファの位置にぽすっと座って、真澄さんの手当て続行。 香澄は紅茶も入れずソファにも座らず、俺たち二人を見ておろおろしてる。明らかに自分も何かをすべき状況に見える、でも何をすべきか何もわからない、ような感じかな。ごめんね、話せること、今回はすごく少ないんだ。 「ど…したの…その、怪我…」 香澄のほうに微かに走る緊張感と不安と恐怖、いつも通りを徹底することでこの異常事態を平常に錯覚させるとか俺にできるかな…真澄さんの協力があればできるかな。 「どれも病院行くほどのやつじゃないから。そろそろ終わりそうかも。香澄、俺の部屋からコート取ってきて~」 「うん…」 二人とも処置が終わって怪我をいつもの服で覆い隠して、ぱっと見だけでも装って、香澄の目につく頻度が落ちれば少しは気にせずに楽しく過ごせるはず。…楽しい記憶を、幸せな記憶を一つでも 多く香澄の中に遺したい
香澄が俺の部屋にコートを取りに行ってる間に、痛まないようにそっと真澄さんの背中に頬を寄せてすり寄った。 本当は傷を労わって今日はずっとそばについてたかった。でも俺も指を怪我してちゃきっと大したことできないし。もともと今日は香澄と約束してた。それを前日に事態をこじらせたのは俺だ。 昨日はずっと予想外のことが続いたけど予想外のことが起きる可能性には前もって思い到れたはずだ、踏み込んだ話をするんだから。俺がもっとスケジュールに余裕みて真澄さんと話すべきだった。 ソファから立ち上がったらコートを体にかけてくれる香澄と二人で玄関に向かおうとして、真澄さんのほうを振り返る。「絢…」呼ばれて香澄のほうを振り返る。定まらない視線が二人を交互に行き来した末に、床に落下した。 こんなのは嫌い。 とどめられなかったどうしようもなく溢れる感情の発露とか、それで泣いたり怒ったりとか、体力いるから苦手だけど嫌悪してるってほどじゃない、特にこの家に来てからは、なるべく自分の素直な感情を圧し殺さないって決めたから。 でもこれは、そういうのとも違う。二人の間でどっちにするのか俺はどうするのかうじうじ俯いて悩んで、二人に決めてほしいアピールみたいで鬱陶しい… 「光を迎えに行くからそこらまで乗ってくか」 真澄さんが言い出してくれた。怪我させといて、また助けられてる…。 この場で俺が一番呑気でいい身分なのに。怪我も少ないし、ひどく詰られた訳でもないし、香澄みたいに事態の詳細がわからないまま俺も真澄さんも両方の怪我を心配してなくてもいい。 視線だけ俯いたまま動けずにいたら、頭にスポッと帽子被せられた。 「まだ家に居るんなら先に出るよ。もし出掛けるなら戸締まりしといて」 いつも通りの真澄さんに、背中の怪我は?って訊こうとして、結局訊けないまま俺も香澄も、さっさと廊下の横を通り過ぎて玄関から出ていく真澄さんの背中についていった。 「香澄、せっかくだしピアスのお店の近くに降ろしてもらおーよ。歩かずに済むし」 駐車場まであくまで笑っていつもみたいに歩きながら、先を行く俺の手を取ろうとした香澄が手をとめた。俺の指が痛むのを心配して。 香澄はいつも必要なときは真澄さんと接してるけど、多くを語る気はそんなにないみたい。これまでがこれまでだから、ってのは香澄の記憶の欠損で成り立たない。あるいはその欠損がギリギリ今の関係を保ってる、こっちかな。二人からは馴れ合いたくないというより不要に馴れ合えないみたいな、磁石のプラスとマイナスみたいなのを感じる。心配してることくらい語っていい気がするけど。 「今日は香澄が運転したら?うちの車、運転そんなに難しくないと思うよ」 暗に込めた意味をこれくらいなら香澄は十分察する。 「えっ うっうん…いや、あの」 「…」 察したせいで狼狽えてる。でもやっぱり詮索はできない。怪我の理由も、何があったかも。 俺は昨日の真澄さんとの���とは、感情面や会話内容やしたことまでは詳しく話したくない。事実関係ならバレても平気だけど、…でもどこから寿峯に伝わるか分かんないし、知られればそこで寿峯の中では終わるって思うたびに、追い詰められるような、常軌を逸した悪いことをしてるみたいな気がして なんでそうなるのか分かってるけど解らないのがもどかしい、なんだって反論なら簡単だけど信じるものが違えばこうなる、多くの人が信じるものを寿峯も信頼してるから社会を形作る信頼を損なうなって指を指される俺は 悪者じゃなくて、ただの少数だよ。少数だってことを悪にするのが、悪だ。 「保険適応さしてねえからお前はだめだ」 「ち、ちがう!」 俺がごちゃごちゃ考えてる前後で真澄さんと香澄が言い合いしてる。ちょっとだけいいなとか思ったり。 「兄ちゃん怪我してるんだから運転はしちゃだめでしょ。車の運転は責任重大だよ!」 「お前話聞いてたか?大した怪我じゃねえって絢がそう言ったろう」 「うぐ…。…でも絢は兄ちゃんのこと心配してるよ」 「…」 三人で車に乗る。運転は真澄さんが緩やかに押し切った。 店の近くで二人で車から降りた。
いつもみたいに香澄の腕にまとわりつかないで、香澄の指先を包帯だらけの指先でキュッと軽く握った。香澄が俺のほうを見る前に、横顔で小さく呟く。 「俺、真澄さんのことが好きなんだ」 「……」 光さん、ごめんなさい。 家庭内だけに関係も事実もとどめて絶対外に漏らさないことで、誰からも許されなくても結実する関係だって。俺の想いを認めて、迷う俺に道を示してくれた、その条件が誰にも言わないことだったのに。 黙って静かに聞いてる香澄は”好き”の意味をちゃんと理解したかな。もっと小さな囁やくような声で付け足す。 「…まこには内緒にしてね」 眉を下げて、悲しく微笑む。 香澄も小さく「わかった」ってだけ答えた。 寿峯と一度少し似たケースで揉めた香澄なら責めないでいてくれるかも。直にぃとだけ結ばれたい香澄には理解不能で呆れられるかも。香澄も直にぃも愛す情香さんのことを知ってるから静かに納得してくれるかも。 俺は香澄にどれだけのことを求めてるんだろう。俺に守らせてくれるなら、俺の願いはたったひとつそれだけだったはずなのに。 「兄ちゃんのこと心配だよね?…戻る?」 隣から少し顔を傾けて俺のほうを見てくる香澄に、にっこり笑って返す。 「大丈夫。真澄さんは俺が香澄と一緒にいるほうが嬉しいと思う」 ピアス店の中に入っていきながら、真澄さんに借りた手袋をはめる。 店内が寒いわけじゃないけど包帯が目立つから。香澄は逆に手袋を外してた。白い毛糸の、ポンポンがついたクリスマスに俺が編んで香澄にあげたやつ。あの日の服に合わせて作ったけど、意外と香澄がはめてたら他の服とも合わ��いことない。俺の耳にはかいじゅうピアス。
綱渡りは避けるほう。100パーセントの安全がどこにもないにしろ、俺は俺の納得できるラインまで安全度が満ちるまでじっと待つ。でも同時に、ある程度のリスクと不確定の未来の恐怖に晒されてはじめて得られる堅実な安心や信頼ってものもある。 人間関係の深度が一気に進むときはそういうところを起点にしてたりとか。これまで築いたものが壊れる時に発生する。全てに言えるわけじゃないけど。 この前光さんが読んでた仏語の本を軽い気持ちでめくった、そこにあった”l’homme est d'abord ce qui se jette vers un avenir,et ce qui est conscient de se projeter dans l'avenir.”っていう一説。「人は賽子のように自分を人生の中へ投げる」? 本当の意味は知らないけど、言葉面だけならあんな感じなのかな。 黒髪に戻してからここまで外を出歩いたのって初めてだ。ここまで車だし、近場だけど。 来てるのはピアスのお店。寿峯が連れてきてくれた。香澄も寿峯とだいぶ前に来た記憶があるっぽい。
「思い立ってもさ、あの人の好みとか普段どういう系統の服着てるとか、俺なんも知らないんだよね。会ったのもほんの数回だし。そこで香澄の出番です。ピアス選ぶための手がかり知らない?」 ずらっと並んだピアスを二人で見ながら、横の香澄に振る。俺がピアスをあげたいのは情香さん。 最近、寿峯と香澄が少し衝突して仲直りした、なんの問題かは俺が本人たちに問うべき筋じゃないとしても察しはつく、香澄は寿峯の言い分に返す言葉がなくて情香さんに連絡した。情香さんは電話一本ですぐその場に来てくれて、香澄が傷つきすぎる前に寿峯と物理的な距離を離させた。 これはやや憶測混じり。だいぶ後になって和解も済んでから、香澄が俺との通話中にあのとき情香さんが来てくれたことを話したから、そこから。 「うーん…会ったばっかりの頃はカジュアルめなスーツとかだったけど、あれは仕事の都合だったみたいだし…最近は夏ならタンクトップとデニムに編み上げブーツとか、冬もロンTとデニムとか、ピアスはたくさんしてるけど飾り気なくてシンプルな…あ、靴はいつもすごく高いヒール履いてる」 「…」 それって護身用の武器としてのヒールじゃないかなぁ、とか思ったり。 情香さん、やり方は正攻法だけど同時に大胆でもある。誰かを守るとき仕方なく他の誰かから不興を買うことになっても大して意に介さないというか。俺は俺にとって瑣末なたった一人でも敵を増やさないように動くほうだから。 にしても、結果寿峯は香澄とは和解しても情香さんには不愉快な気持ちを抱えてた。おそらく情香さんが香澄を連れ出すときにそうなるように���象操作した、寿峯の中で香澄の立場が悪くならずにネガティブな感情は情香さん一人に集まるように。 一年前に真澄さんと話してた通り。情香さんはおそらく一生香澄を家族として守ってくれる。 それはおそらく、家族だからとか息子だからとか、そういう固定観念に縛られて愛情を落とした強迫的な守護の意思というより…愛情を基軸にした情香さんにとってごく自然なことだから。ただ自分だけにとって自然な行いっていうなら以前の直にぃもそうかもしれないけど、情香さんは自分の逸脱に仔細な自覚がある。 あの人柄なら、例えばいつか直にぃと香澄が完全に離別して戸籍も分けて他人として別々に生きるようになったとしても、情香さんは今とほとんど同じように香澄に関わり続けるだろう。 直にぃと香澄の関係は、情香さんと香澄の関係にそれほど影響しない、情香さんの価値観の中では、多分。 「あ、香澄のピアスあった」 指をさして香澄に見せる。ロップイヤーのピアス。 耳から下がるタイプより耳たぶに綺麗におさまるような小さめのがいいかな。香澄なりふり構わず唐突な動きとかするし。 「香澄はピアスしないの?」 「うーん、俺の服とピアスって合うかな」 「耳たぶからジャラジャラ下がってるアクセよりは小ぶりのが香澄は似合うかな?服には合うやつ探せばいいじゃん、ふんわりしたモチーフのさ、これとか」 目先にあった冠かぶったうさぎのピアスを掲げて見せる。 「か、かわいい… !」目を輝かせてピアスを見てる。確かにさっきのロップイヤーよりデザインがかわいいかんじ。 「まあ王子さまうさぎって実質俺だし。」 軽口叩きながらピアスを手に取る。これは俺から香澄へのプレゼント。香澄にはまだピアス穴も何もないし、これから穴あけてつけろって強要の意味でもない。 ピアス穴は放置し続けたらいつか自然に塞がってなくなる。またあけたくなれば香澄が自分であければいいだけで、そこには香澄の意思に基づいた決定と行動がある。刺青なんかより、ずっといい。 香澄が見つけた情香さんのピアスと、俺が見つけたインペリアルトパーズのピアスと、王冠うさぎ、これらを持ってカウンターに行こうとして、意外な二人組とはちあった。
虚彦くんと空ちゃんが俺たちより先に喫茶店から出ていって、愛想よく見送ってからソファの上で香澄にもたれてぐったりする。 「絢、疲れた?熱ない?」 俺の額に手を当ててる香澄の首元にグリグリ頭を押しつける。 「前よりさらに体力落ちたな~ってのもあるけど、そっちより気疲れ的な…人と話すの好きなほうなんだけどなぁ」 相手が悪かった。 空ちゃんのほうはかえって本人と話してよかったような感触。やっぱりデータ上だけだと憶測入れても拾えないものが多いな。だいぶ他人行儀に接されたけど、初対面の、それも成人済みの年長相手なら常識的だ。施設育ち、か。そういう対人スキルがないとやってけない場所だったってことか、…真澄さんがまったくどうでもいい他人に接��るときの最低限の礼儀だけ弁えた態度とも少し似てなくもないか…?目もとが似てるからそんな気がしたかな。 面立ち…そんなに凝視するのも失礼だからそこまで念入りに見たわけじゃないけど、やっぱり目もとが似てるかな。年齢が比較にならない気がするけど、俺の歴代彼女とかとは全然違うタイプ。 元カノ、みんな細くてか弱そうで繊細そうで、顔やスタイルはキレイ系だけど化粧とかでニュアンス可愛くしてて、服は清楚で大学生の範疇から逸脱しないかんじで、俺が「こうしよっか」て言えばなんにでもついてきちゃう、常識とか判断能力がないわけじゃないけど、少し言いなりになりすぎるところがある、みたいな。 容姿だけなら空ちゃんもあんなかんじにもなるかもしれない。でも彼女には強い意志と自我があった。本人が強いとは自覚してないかもしれないような、潜在的な強さ。 なら、香澄のトラウマの起爆剤になるかもしれない自分を彼女がもし知ったとして、そんなものに成り下がるのはごめんだって反応、香澄がどうなろうが知ったことではないって反応、いろいろあるけど、どうかな…。 虚彦くん…は、俺には少し…おかしいように、見える。 あの子、まっすぐに俺のほうを見てくる。並んで歩いてるときも首曲げて俺の目を覗き込んでくるとかって意味じゃない。俺がそういう印象をあまりにも強く受けるって話。 静かに、まっすぐ。簡単なことのようで、普通は躊躇ってできない。 俺相手には虚彦くんは真顔みたいな無表情なことが多いから、あの目で見られると俺が俺を誤認しそうになる。…まるでとうに死んだ首吊り死体を見るような目で、目の前の事実を淡々と見つめてる、だから俺が気づいてないだけで俺の方が本当は首吊り死体なんじゃないか?ってふうに。 彼のモノの見方が全てになってモノの実態と入れ替わって支配する、そういう…少しだけ似てる目を知ってる。直にぃだ。 一、二度だけ会った若い頃の直にぃはもっと顕著だった。人間を無理やり強引に静物にする目をしてた。 相手の目を見て話しなさい、なんてよく言うけど、あれはその通りにするにしても相手の肩やせいぜい顎とかあちこちに目線は適宜移動させながら、本当に相手の目だけじっと見ろってことじゃない。 本当に相手の目を長時間じっと見つめて失礼じゃない関係っていうと、恋人同士とか夫婦とか。それも多分愛し合ってる感情を伝え合うための行為に分類される。 相手をじっと見ることは、付き合いの浅い相手とのコミュニケーションにおいてはディスコミュニケーションのほうに入る。 個人差はあれど一般的に、じっと見られてる相手は居心地の悪さや落ち着かなさや不快感を覚える。そういう不快感をわざと与えることでなんらかの感情を自分相手に抱かせて、その感情を恋愛感情や強い関心なんだって相手に錯覚させていく、結婚詐欺師とかそんな感じかな。 ぶっちゃけると昔の俺がよく使った手ってだけなんだけど。 二人が出ていって早々に手袋をとった。あったかい店内ではめてると蒸れて汗がしみるから。怪我、虚彦くんにはバレてたけど。俺の包帯だらけの指先を香澄の指先がそっと撫でる。
「俺もう一杯なんか飲みたいな」 「俺も。次はコーヒーとかお茶じゃなくてジュースにしようかな」 「香澄、ぶどうジュース頼んでよ、俺カルピス頼む」 「? 俺のぶどうジュースも飲む?」 「そーじゃなくてさ、香澄と俺のジュースを二人で混ぜたら多分ぶどう味のカルピスできるじゃん?美味しそう」 俺の体をソファの上で上体だけ楽な姿勢で寝かせて、頭を膝の上に乗せさせてる、香澄は俺の髪を撫でる。 香澄と俺が初めて会って、会話っていえないような会話で話をした、そこも喫茶店だった。 あのときの香澄を、何も知らない俺は大雑把に区分してだいたいこういう人種だろって、乱暴にあたりをつけた。そうすると全部俺の都合のいいように解釈ができるから。俺と話す気なさそうで口数少ないのも楽しくなさそうなのも、ああ���見知りね、で終わっちゃうんだよな。きっとどこまでいっても俺に非がこない。 そういうとこは、つくづく理人さんに似てた。
香澄と二人で細長いガラスコップからぶどうジュースとカルピスを混ぜるのに四苦八苦して、最終的には交互にすばやく飲めば口の中で味が混ざる!なんて言って笑う。 飲み終えたら二人一緒に喫茶店を出た。 店を出るときに香澄が俺にマフラーを巻いてうさぎ耳のついた帽子を被せてくれた。 今朝家を出てくるときに真澄さんが同じことしてくれた。 ねえ香澄。血縁関係がなくたって、一緒に過ごした頃が曖昧だって、それでも香澄を育ててくれたのは真澄さんで、二人は似てないけどときどき似てるよ。
俺がそろそろ体力的にきつくなってきたから、俺の家まで一緒に帰ってきた。香澄はいつもみたいに泊まってく。 真澄さんは光さんと一緒に先に帰ってきてた。ソファで二人で話してたら光さんが途中で眠り込んじゃったかんじか、真澄さんの膝の上に小さなまん丸の頭を乗せて、光さんは珍しく俺たちが帰ってきても気づかないでぐっすり寝てた。 帰宅したときのいつもの感覚で、香澄と一緒にお風呂入ろうとして、やめた。指に爪がないのバレちゃうし、服の上から触って香澄もわかってはいるだろうけど、実物見ると怖がらせそう。痩せすぎた。運動して絞ったんじゃないからきれいな痩身でもないし。 真澄さんと光さんと香澄と俺で、寝るまでになんかして遊んだり、ただのなんてことない雑談でもいい、できたらなって思ったんだけど、帰るなり俺が熱出して、何もできなかった。 書斎で布団に入って大人しくしてながら、取り繕えなくなっていくのを感じる。前から外出した日は帰ってきたらだいたい微熱は出してたけど、普通に振る舞うことだってできた。でも今はこの程度の微熱が誤魔化せないくらいあつくて苦しくて痛い、寝てるしかできない。 香澄はずっと俺についてるつもりだったのを、真澄さんに首根っこ掴まれて書斎から引きずり出されてった。 久々に外出したんだし、外でもらってきた風��とかインフルエンザだと確かに危ないから、一人で少し様子を見なきゃ。
そのとき真澄さんに借りた手袋返そうとして、ひっこめた。 両手で手袋を持って引き寄せて、頰にあてる。俺の手よりずっと大きな手。革の部分がきもちいい。帰ったときにすぐ殺菌消毒したから顔すりすりしても一応大丈夫なはず。 少し眠った間に、俺が握りしめてた手袋が口元からなくなってて、ほつれて解けかけて出血が滲んでた包帯がきれいに新しく処置しなおされてた。…真澄さん。 眠ってたら何時間か経って夜になってた。 急な高熱とかその前兆とかひどい頭痛や関節痛も喉の痛みも、これから発症する兆しはなにもなかったから大丈夫かなと思って、リビングに出てってみる。 途端に香澄に書斎の中に押し戻されて抱えられてベッドに入れられて布団かけられた。 「まだ安静にしてなきゃダメだよ」 熱のことか指のことか、どっちもかなこれ。 「…ひどくなんないから、いつもの疲れたときの体が火照ってる感じだと思うよ。ひとに移さないやつ」 熱って前提で話したら、俺が話すうちにも香澄はサイドテーブルに常備してる解熱剤を出して、水を用意して持ってきた。 俺もベッドの上で体を起こす。 「香澄、薬飲ませて」 指差し指の指先で自分の唇をトントン軽く叩いて示す。にこって笑いかけたら香澄が急に挙動不審になった。意味は伝わったってことかな。 俺と薬を交互に見てたけど、意を決したのか薬と水を口に含んだ。 こぼしちゃわないように唇をきれいに合わせて喉に通す。 すぐ間近に香澄の顔がある。切れ長の涼しげな、俳優さんみたいな綺麗な目。何事もなく普通に学校いって、友達作ったり、部活入ったり、そんなありきたりな愛しい時間を今日まで積み上げられたなら。香澄は容姿だけでもきっと人気者でいっぱいモテた、そんな香澄じゃなかったから直にぃと出会った。 幸せを願うことだけでも難しい。 しっかり飲み込めてから唇を離して、お互いに微妙に照れる。布団を持ち上げて俺の横のマットレスをぽんぽん叩いたら、香澄がもそもそ潜り込んできた。
ベッドの中でしばらく香澄と身を寄せあってたら、またいつの間にか眠ってた。 夜中。 一人で布団から起き上がった俺の横で香澄もぼんやり目を覚ます。 こういうことは ずっと言いたくなかった。 誰かの体について何かを強いるようなこと。強いてなくても、願うだけでも、今の姿と本人そのものを否定してるようで、 俺の気に入る姿に変わってくれって 前後にどんな事情があっても、要はそういうことだ。 それなら刺青を入れた綾瀬樹と、刺青を消せって言う俺に、何の違いがある。違わないんだ本当は。 愛から生じて香澄を守りたいがために。
刺青を入れるのも消すのも惨い苦痛を伴う。どこかで「痛いから嫌だ」って香澄に言ってほしい。 ��も …真澄さん 昨夜、眠りに落ちる寸前、俺の頰に落ちてきた雫 伝い落ちて俺の唇の間に滑り込んだ 血じゃなかった 泣かないで、俺の愛する人たち 香澄の話を真剣に聞いてくれた寿峯 誰より香澄を生涯愛してくれる直にぃ 二人を見守ってくれる情香さん 裏で手を回してくれた慧先生 虚彦くんと空ちゃん はじめから俺が何も言わなきゃいい、香澄は気にしてないんだから。 だってそれは本人から 見えない位置にある。 だから、それを一番近くで見続けてきたのは 直にぃだ それでもきっと何も知らない直にぃはどれだけ傷つきながらも言い出すことができない なら、俺が いなくなったあとも二人が愛し合い続けられるように
香澄のまわりの愛する人が損なわれずに 明日も香澄を惜しみなく愛してくれるように
「香澄 その背中の刺青、…消してほしい」
.
0 notes
Text
三篇 下 その三
上方者は、 「ハァ、ソンナラお前のお馴染みは何屋じゃいな」 と、意地悪く問うと、 「アイ、大木屋さ」 と、弥次郎兵衛がいう。 「大木屋の誰じやいな」 と、上方者がさらに問うと、 「留之助よ」 弥次郎兵衛が答えた。 上方者が 「ハハハ、そりゃ松輪屋じゃわいな。 大木屋にそんな女郎はありもせぬもの。 コリャお前、とんとやくたいじゃ、やくたいじゃ」 (やくたい…上方言葉で、らちもない、とんでもない、よくない、など広い意味に使う)
弥次郎兵衛は、 「ハテ、あそこにもありやすよ。ナァ北八」 (大木屋は実在の大見世の扇屋のこと。松輪屋はやはり実在の松葉屋のこと。留之助は松葉屋の抱えの名妓の染之助のこと。したがってこのやり取りでは上方男の勝ち) 北八、面倒臭くなってきて、 「ええ、さっきから黙って聞いていりゃ、弥次さんおめえ聞いたふうだぜ。 女郎買いに行ったこともなくて、人の話を聞きかじって出放題ばっかり。 外聞のわるい。国者の面よごしだ」
弥次郎兵衛は、 「べらぼうめ、俺だって行くってんだ。 しかもソレ、お前を神に連れていったじゃァねえか」 (神…取り巻き、太鼓持ち。遊廓付きの本職ではなく、客が連れ込んだ遊びの取り巻き仲間。落語の野太鼓がこれである) 北八、思い出して、 「ああ、あの大家さんの葬式の時か。なんと、神に連れたとは、おおげさな。 なるほど二朱の女郎の揚げ代はおめえにおぶさったかわり、 馬道の酒屋で、浅蜊のむきみのぬたと豆腐のおから汁で飲んだ時の銭は、みんなおいらが払ったじゃねえか」 (葬式くずれで繰り込むなら安い店にきまっている。揚げ代二朱なら宿場の飯盛なみのごく安い女郎。馬道は吉原に通ずる町。そこの酒屋のぬたも汁もごく安い庶民的な食い物である)
弥次郎兵衛は、 「嘘をつくぜ」 北八も、 「嘘なもんか。しかもその時おめえ、さんまの骨をのどへ立てて、飯を五六杯、丸呑みにしたじゃねえか」 「馬鹿言え。お前が田町で、甘酒を食らって、口を火傷したこた言わずに」 「ええ、それよりか、おめえ土手��、いい紙入れが落ちていると、犬の糞をつかんだじゃねえか、恥さらしな」 (土手…吉原に入る途中の山谷堀に添った日本堤の土手八丁、金持ちなら土手八丁を四ツ手駕で飛ばし、貧乏人なら歩く、いずれも弥次郎の自慢が嘘だと、北八が暴露したかたち)
と、遣り合っている二人に、上方者が 「ハハハハハ、いや、お前方は、とんとやくたいな衆じゃわいな」 弥次郎兵衛が、 「ええ、やくたいでも、悪態でも、うっちゃっておきゃァがれ。 よくつべこべとしゃべる野郎だ」 上方者は、関わり合いにならない方がいいかと、 「ハァこりゃご免なさい。ドレお先へまいろう」 と、そうそうに挨拶して、足早に行ってしまう。 その後ろ姿をみながら、弥次郎兵衛は、 「いまいましい。うぬらに一番へこまされた。ハハハハハ」 この話の間に、三ケ野橋を渡り、大久保の坂を越えて、早くも見付の宿(磐田市)にいたる。
北八、 「アァくたびれた。馬にでも乗ろうか」 ちょうどそこへ、馬方が、 「お前っち、馬ァいらしゃいませぬか。 わしどもは助郷役に出た馬だんで、早く帰りたい。 安く行かずい。サァ乗らっしゃりまし」 (助郷…東海道の交通の確保のために、沿線の村々に幕府がかけた役務で、人馬の徴発を含めて重いものだった)
弥次郎兵衛は、 「北八乗らねえか」 と、問い掛けると、 「安くば乗るべい」 と、馬の相談が出来て、北八はここから馬に乗る。 この馬方は助郷に出た百姓なので、商売人の馬子でないから丁寧で慇懃である。
弥次郎兵衛は、 「そうだ、馬子どん。ここに天竜川の渡しへの近道があるんじゃねえかな」 と、思い出して、聞いてみると、 「アイ、そっから北の方へ上がらっしゃると、一里ばかしも近くおざるわ」 と、馬方がいう。 北八が、 「馬は通らぬか」 と、更にとうと、 「インネ、徒歩道でおざるよ」 と、ここから弥次郎は一人近道のほうにまがる。
北八は馬で本道を行くと、早くも加茂川橋を渡り、西坂の墳松の立場に着く。 茶屋女が声をかけてくる。 「お休みなさりやァし、お休みなさりやァし」 茶屋の婆も声をかけてくる。 「名物の饅頭買わしゃりまし」 馬方が、その婆様に声を掛ける。 「婆さん、おかしな日和でおざる」 「お早うございやした。いま新田の兄いが、一緒に行こうかと待っていたに。 コレコレ横須賀の伯母どんに、言いついでおくんなさい。 道楽寺さまに勧説法があるから、遊びながらおいでと言ってよう」 (道楽寺は遊びながらおいでにこじつけた架空の寺の名) 馬方は、 「アイアイ、また近うちに来るように伝えときま��ょう。ドウドウ」 と、いうと、また歩き出した。
「この馬は静かな馬だ」 北八は、珍しく乗りやすい馬なので、つい、そういうと、 「女馬でおざるわ」 と、馬方が、こたえる。 北八は、にんまりして、 「どうりで乗り心地がよい」 馬方が、問い掛けてきた。 「旦那は、お江戸はどこだなのし」 「江戸は日本橋の本町」 と、北が答える。 「はあ、えいとこだァ。わしらも若い時分、お殿様について行きおったが。 その本町というところは、なんでもえらく大きい商人ばかしいるところだァのし」 と、昔のことを思い出しながら、話してくる。 「オオそれよ。おいらが家も、家内七八十人ばかりの暮らしだ」 と、またまた、くちからでまかせ。 馬方もしんじているにのかいないのか、 「ソリャ御大層な。お神さまが飯を炊くも、たいていのこんではない。 アノお江戸は、米がいくらしおります」 「まあ、一升二合、よい所で一合ぐらいよ」 と、考えながら言うと、 「で、そりゃいくらに」 と、馬方は、よく分からない。 「知れたことよ、百にさ」 と、北八がいうと、 「はあ、本町の旦那が、米を百文づつ買わしゃるそうだ」 馬方は勘違いして、そういう。 北八、笑いながら、 「ナニとんだことを。車で買い込むは」 「そんだら両にはいくらします」 と、馬方。 「なに、一両にか。ああ、こうと、二一天作の八だから、二五の十、二八の十六でふみつけられて、四五の廿で帯解かぬと見れば、無間の鐘の三斗八升七合五勺ばかりもしようか」 (割り算の九九の二一天作の八は一二天作の五の間違い、途中から浄瑠璃の文句でごまかしている。米の値段も出でたらめ) と、何やら、難しそうな、計算をはじめる。 「はあ、なんだかお江戸の米屋は難しい。わしにゃァわからない」 馬方は、すっかりけむに負かれて、 「わからぬはずだ。おれにもわからねえ。ハハハハハ」 と、北八も自分でいっててわからなくなった。
この話のうちにほどなく天竜川にいたる。 この川は信州の諏訪の湖水から流れ出て、東の瀬を大天竜、西の瀬を小天竜と言う。 舟渡しの大河である。弥次郎は近道を歩いてここで北八を待ちうけ、ともにこの渡しを越えるとて、一首。
水上は 雲よりい出て 鱗ほど 浪の逆巻く 天竜の川 (水、雲、鱗、浪、逆巻く、みな竜の縁語の竜づくしが趣向)
舟からあがって立場の町にいたる。 ここは江戸へ六十里、京都へも六十里で、東海道の振り分けになるから中の町(浜松市)というそうだ。
傾城の 道中ならで 草鞋がけ 茶屋に途絶えぬ 中の町客 (ここを江戸吉原の中の町に見立てて、花魁道中の高足駄の代わりに草鞋、吉原の引き手茶屋と街道筋の茶屋、どちらも客が絶えぬと言う趣向) それより萱場、薬師新田を過ぎて、鳥居松が近くなったころ、浜松宿の宿引きが出迎えて、 「もし、あなたが��ァお泊りなら、お宿をお願い申します」 と、二人の呼びかける。 北八がそれに答えて、 「女のいいのがあるなら泊りやしょう」 客引きここぞとばかりに、 「ずいぶんおざります」 と、いうと、弥次郎兵衛が、 「泊まるから飯も食わせるか」 宿引き 「あげませいで」 北八、 「コレ菜は何を食わせる」 宿引き、 「ハイ当所の名物、自然藷でもあげましょう」 「それがお平の椀か。そればかりじゃあるめえ」 「 それに推茸、慈姑のようなものをあしらいまして」 「汁が豆腐に蒟蒻の白和えか」 と、北八が、客引きとやりあっている。
弥次郎兵衛が、 「まあ、軽くしておくがいい。その代わり百ケ日には、ちと張り込まっせえ」 (ここのやり取りは、宿引きの言うのが、野菜ばかり並べた精進料理なので、死人の法要の料理だと皮肉ったのである。法要では、当初と百ケ日には料理を張り込むのがしきたり) 「これは異なことをおっしゃる。ハハハハハハ。時にもうまいりました」 「オヤもう浜松か。思いのほか早く来たわえ」 と、弥次郎兵衛、ここで一首読む。
さっさっと 歩むにつれて 旅ごろも 吹きつけられし 浜松の風 (松風の音の颯、颯と、さっさと歩くとにかけている。風に吹き送られて早く着いた意味も含む)
その横を宿ひきが駆け抜ける。
宿引きは、旅館に駆け込むと、 「サァサァお着きだよ」 と、置くに声をかける。 「お早くございました。ソレおさん、お茶とお湯だァよ」 それに、こたえて、この旅館に亭主が出てくる。 弥次郎兵衛が、 「イャそんなに足はよごれもせぬ」 と、いうと、亭主 「そんなら、すぐにお風呂にお召しなさいまし」 と、奥に案内しようとする。
つづく。
0 notes
Text
週末の走行 2024/2/15-19
Miniz-Cup-Championships-Finals
さてやってまいりました。2023シーズンの集大成、ファイナルチャンピンシップです。その1。レース編は次回。
オリジナルペトロナスカラーにしか塗れない症候群なので、今回もペトロナスR8で行きます。12Cも良いようですが、周りと同じことをしていてはアドバンテージないですからね。
本戦の様子の前にまずは時系列で2/15木曜日から。
久しぶりに飛行機に乗りました。道外に出るのは久しぶりですね。たぶんラジコンしてなきゃ道外に出てませんでした。
ファイナルの舞台が中部国際空港ということで、名古屋まで飛びます。会場が空港のイベントホールというのは便利ですね。名古屋感はないですが。
空港に降り立ってからは、会場のイベントホール前のスペースで温度・湿度の確認です。思ったより温度高めということは、グリップ高めが予想されるのかな?湿度も北海道よりは少し高いようです。
グリップ感に悩まされそうだなと思いながら後発隊の仲間にデータを送ります。
そうこうしてたらチェックイン時間になったので、空港近くの東横インにチェックイン。空輸不��の荷物も送っていたので受け取ります。
値段そこそこサービスそこそこで良いですね東横イン。気に入りました。面倒な荷物の扱いも丁寧でとても良いです。
早めに到着して、繁華街で呑めるように仕向けておいたので早速ミュースカイに乗って名古屋の街に繰り出します。名古屋タワー、札幌テレビ塔と同じような感じで親近感がわきます。
しかし、ここまで来るまでに地下鉄乗り換えなど迷ったんですけどね。さすが中部の都会です。
途中、名古屋駅で噂のララちゃんも見れました。意識してなかったんですが、テレビで見たことあるなーという潜在意識が働きました。思ったよりみんな写真撮らないんですね。
そして繁華街、栄でイケてる車がいました。本州はこの類の車が結構走ってるんでしょうか。いい光景ですね。あまりにも素敵だったので一枚パシャリ。
栄で手羽先を食べます。とてもおいしい。本場は甘ダレが非常にいい味を出しています。あんまりお肉にタレって好きじゃないんですが、これはとても好きな味です。美味。
名古屋駅に戻って2件目を探します。
駅前広場でGRヤリスを展示してました。WRカーと限定モデル市販車合わせて4台。さすがは豊田市の隣、トヨタのお膝元ですね。結構人だかりができてました。
そして2件目はサキュバスシーシャバーです。せっかく名古屋に来たのでちょっとは遊んでおきます。シーシャって初めて吸ったんですけどなかなかにイケます。ただ、深めに吸うと酸欠になるのかクラっとします。それもまたたまらないですね。
女の子もサキュバスの凝った服装をしていてシーシャを吸う姿がセクシーだったので満足です。2時間呑んで、ドリンクもあげて1万円でおつりがきました。お安めでいいですね。
21時ごろになって、おとなしくホテルに戻って就寝。
空港線の本数が少なくて少し焦りました。通勤通学の路線じゃないので終電が早いんですね。
翌朝、2/16目覚めです。部屋の窓からの景色は特によくはありません。空港の隣なので仕方ないです。
奥に見える建物が愛知国際展示場。この日はK-POPアイドルのライブがあるようでした。
朝ごはんを食べず、早速名古屋城に向かいます。観光モード全開ですね。またこの日も地下鉄乗り換えで迷子になります。梅が咲いてました。いい香り。
お城ってはじめて見たんですが、歴史を感じますね。(語彙力)
1時間半ほど散歩して満足です。(飽きた)
シャチホコもいました。名古屋👍
昨日サキュバスの子にオススメしてもらった味噌煮込みうどんです。おいしかったです。微妙に茹で上がってないような食感ですが、こんなものだそうです。お味噌がおいしい。
しかし、高い。2700円くらいでした。日常的に食べるものではないんでしょうね。
この���点でまだ12時くらいと、時間があったので大須の方にも行ってみます。
まずは大須観音。何の神様がいるかわかりませんが必勝祈願しておきます。
大須商店街。狸小路の2~3倍くらいの規模感ですかね。いろんなお店があって見てるだけで楽しい。ガチャガチャ回したりしました。そしてコンカフェも多いです。メイドカフェが路面店なのは驚きです。
入りやすいところにコンカフェがあったら入りますよね。とりあえずオリジナルドリンクで小休止。女の子が元気で可愛らしかったのでチェキも撮っておきました。偉いので延長せずに出ます。
名鉄空港線に乗る兼ね合いで、大須から名古屋駅に戻るより、金山駅に向かった方が効率が良いと判断できたので、金山付近の串物屋に入ります。美味しいんだけど少し高めでした。まぁひとまず満足。
その後結局ガールズバーで少し呑んでからホテルに帰還です。
ホテルに戻って20時くらい。急いでバッテリーを全放電します。4パック分の放電が終わるまで我慢して起きてるつもりでしたが、気づいたら寝落ちしてました。液晶の光でぼんやりしながら朝方に二度寝。
充電を開始してちょうどいい時間には起きれました。
レース当日編は次回に...。
1 note
·
View note
Text
特別教育機関『孤児院』 神奈川支店
─────────────────────
保健室から追い出され亜里沙の後に続く。
蛍光灯で照らされた廊下は先程まで居た医務室とはうって変わって冷たい光を差していた。
「亜里沙、あの後ってどうなったの?わたしこれ実は死んでる?」
「あはは、死んでるわけないじゃん!ちゃんと生きてるよ。けど、マジで殺したかと思った…えっとごめんね」
亜里沙は笑い、少し潤んだ眼を誤魔化すように擦る
「いいよ、わたしが撃てって強要したんだし気にしないで。それにしても、なんで無事だったんだろう?実は弾が入ってなかったとか?」
それにしても鈍痛はある。空砲でも何かしらのダメージを負うのだろうか?
「あぁ、なんかこのブレザーめっちゃくちゃにいい防弾仕様らしくてそうそう弾は貫通しないんだって、だからだいたい���初は衝撃で気絶しちゃうらしくて。だから弾は入ってたよ、ほら」
ポケットからわたしを気絶させたであろう弾丸を取り出した。こんな小さな金属片があんな衝撃を与えてくるとは到底思えない。
その後も長い廊下を進みながらわたしが気絶したあとの事も簡単に亜里沙が説明してくれた。
やはり最終試験も兼ねていたようで、撃ち撃たれた生徒はホールから即回収され、あの医務室へと運ばれていたそうだ。残された撃てなかった生徒がどうなったかは回収されてしまい分からず終いだそうだった。
ブレザーの件については医務室で渡されたタブレット端末の中にテキストがあり、その事が書いてあったそうだ。結局わたしが気を失っていたのも数分程度の事だった様で、詳しくはまだ見れていないという。
そんなこんなで現状の確認をしていると廊下の終点に到着した。突き当たり、少し重たいスチールの観音開きの扉を抜けると視界が開けた。
最初の印象���、社会科見学で行った空港。ターミナル?だっけそれを縦に重ねた感じ。吹き抜けの外周、壁にそって各フロアがあり白の制服を着た『生徒』たちが行き交っている。末広がりに空間が作られており恐る恐る覗き込むと、最下層に時計台が建っているのが見えた。かなり高くも見えるが下層まで明るく、さっきまでの殺伐とした『入学式』のような雰囲気は全くなく、落ち着いた穏やかな空間が広がっていた。
驚き息を呑んでいると、隣の亜里沙も驚いている。
「亜里沙は見たんじゃないの?このホール」
いやいやと手を振る。
「バックヤード的な通路から医務室に通されたから初めて見た、スゴ。忘れてたけどこれ地下でしょ?横浜駅の、スゲー!」
飛び出さんばかりに身を乗り出す亜里沙の裾を引っ張りつつも、わたしもこの巨大な空間にワクワクしていた。
「それで、今どこに向かってるの?出たまんま着いてきてたけど」
「あぁ、『入学式』が終わった人から寮棟へって」
かざされた端末の画面の詳細を確認する。
フロアマップが表示されており、タップすると詳細が表示される。
どうやらこの空間は大まかに3層に分かれており、今居る上層部は食堂、購買、医務室や職員室などここでの生活に必要な基本設備がある層で、そのまま横浜駅地下街の各バックヤードへ続く通路が点在しているようだ。
反対に最下層、時計台があったフロアは訓練施設らしく3フロアでさらに細かく分けられていて、射撃訓練場や演習施設、トレーニングジムなどが備えられているようだ。簡単に言えば運動するための施設がある層。武器庫もあるらしい。
そして今目指しているのが中間層の居住区、寮や談話室、自習室があるようで中間層は6フロアの幅を取っているようで上層、下層に比べ層が厚くなっている。その中間層の端っこ寮棟のに赤く印が点っている。
「これ見るとあたしら同室っぽいよ」
亜里沙が印をタップする。すると新しくタブが開きわたしの名前と亜里沙の名前が並んで表示される。少しスクロールすると1409入室許可と文字が表示された。
「入室許可って出てる」
「そうなんか不思議な書き方でさ、とりあえず行ってみよっ。そこ階段室っぽいから」
階段室と書かれた重たい扉を開け放ち亜里沙はとっとと行ってしまった。どうやら彼女は一応ついさっきわたしは銃で撃たれた病み上がりの人間だということを忘れているようだ。渋々と彼女が入っていった扉へと続くのだった
─────────────────────
『入学式』後だったので、寮棟は人でごった返しているだろうというわたしの予想とは裏腹に人とすれ違う方が珍しいぐらいには静かだった。出会ったといえば同じく新入生だろうか先に着いていた子達が数ペア、部屋を出入りしている様で中にはジャージの子もいた。
さて、この寮棟はフロアごとに学年でわかれている。当然わたしたちは1年生にあたる、よって寮棟最下層の1フロア。上に行くにつれて上級生が入居している。1年生より下が談話室などの施設になっているようだ。吹き抜けのメインホールの通路に各室へ続く自動ドアが並んでおり、わたしたちは4列目の扉を目指し歩いていた。ホールを挟んで向かい側にも同じようなドアが並んでおり、収容人数はかなりのものになるのでは?という印象だった。『入学式』での人数を考えるといささか過剰なまでの部屋数ではあるが、きっとなにか理由があるのだろう。
そうこうしてる間に4列目のドアまでただり着いた。タッチ式の自動ドアをあけ中をうかがう。
真っ直ぐ通路が伸びており奥行は200mぐらい、さっきの医務室からホールまでの廊下ほど長くはない、1号室から9号室までが通路の片側に並んでいる様でわたしたちの部屋は並びで言うと一番奥になるのだろう。カーペットが敷かれ、照明はホールような強めな明かりではなく、落ち着いた間接照明が使われている。
「ちょうどいい距離じゃね?競走できそう」
だっと亜里沙が走り出した。反射で生きてるタイプの人間なのかもしれない。元気が有り余りすぎている。もう部屋まで着いてしまっている。
追いついて部屋に入る。今日からここが新しい家になるわけだ。短い廊下を抜けると10畳ぐらいのワンルームに左右対称に壁際にベッドと勉強机が並んでる。窓はないが換気が行き届いているのか空気は循環していて湿度はなく快適空間だった。左右対称で入居者を待ち構えていた部屋は全く生活感はなく部屋を入ってすぐの短い廊下には別室洗面台とトイレがあるのは確認できた。
ベッドの壁際には洋服掛けが付いており、空のハンガーと予備の制服とがかけられていた。ベッドの上にはジャージが畳まれて置いてあり、早速亜里沙は制服を脱ぎ捨てて着替え終えベッドに腰掛けくつろいでいる。
「あ、愛衣の端末机の上にあったよ〜あとスマホとか」
タブレット端末をヒラヒラと振りながら亜里沙が指さす。
ということはこの左側がわたしのスペースになるのか。机の上を確認すると確かにタブレット端末が置かれている。引き出しも付いているのかと引っ張り出すと、見覚えのある銃がこんにちはした、そっと引き出しをしまいつつ、それ以外にも数点見知らぬ物品が置いてある机を確かめる。
「確かにあるけど、これ他の何さ?時計?」
振り返り亜里沙の机も確認する。タブレット端末はもう持っているからそれ以外のラインナップが机の上に同じように置いてある。
タブレット端末、スマートフォンに液晶型の時計。あとこれは何だろうか?Uの字型の何かの機械。
「これなんだかわかる?」
湾曲している謎の端末を亜里沙に見せる。おそらく身につける物なのだろうがどうつけるのか皆目検討がつかない。
「あ〜なんだろこれ、ネックバンド型のヘッドホンのスピーカー外したやつっぽい。なんかの部品なんじゃね?タブレットに載ってるんじゃね〜?」
そう言いながら亜里沙はぽーんとベッドに身を投げながらタブレットをいじり始める。タブレットの方が気になるようだ。興味なさげに返される。
わたしも机のタブレット端末を手に取り確認してみる。さっき見たフロアマップのタブ以外に各施設の利用状況や混雑具合、これは購買の通販ページだろうか?商品ページなどがタブで並んでいる。
最後のタブが目的のものだったらしく、入学後のしおりと書かれている。スクロールしていくと詳細が流れてきた。
『寮へ初入室後、プログラムは終了です。翌日まで自由時間となります』
『各自デスクを確認し、自身のタブレット端末、スマートフォン、スマートウォッチ、ARナビシステム、デスクの引き出しの中に銃。以上が欠品していないか確認してください。もし欠品があった場合は職員室資材窓口までお問い合わせください』
『各施設の利用許可は翌日以降からIDが有効になりますので本日は利用できません。初日は各部屋に備え付けの保存食、飲料を使用してください』
『ARナビシステムは翌日以降から使用可能です。使用許可が降り次第スマートウォッチに通知が入ります。それ以降に装着してください、装着の仕方はこちらを確認ください。明日以降はARナビシステムにてアナウンスを行います』
どうやらARナビシステムという端末らしい。装着の仕方もご丁寧に載っている。
謎が解けたところで、制服を脱ぎつつジャージに着替える。隣のベッドから静かに寝息が聞こえてきた。端末をいじりながら寝てしまったらしい。亜里沙の脱ぎっぱなしの制服と自分の制服を壁にかけ、わたしも仮眠をとることにする、どの道明日からが新生活の本番。ARナビシステムっていうのも気になるし。
ベッドにダイブする。一日で色んなことがあ��すぎて一年分疲れた気がする。ベッドサイドのスイッチ類をいじくり、部屋の電気を消した。
─────────────────────
つづく
0 notes
Quote
私事ですが,うちの親父殿が亡くなりまして。 満年齢で85歳,数え年で86歳。 医師の診断書にも自然死とか書いてあったので,世間的には大往生といったところだろう。 長文なのでご注意を。 これまでのあらすじ 親父殿はそれはもう色々と持病持ちで,入れ歯や差し歯がないことが身体的な自慢だったそうだが,それ以外はなかなか苦労していた。 きっかけは,この春にネフローゼ症候群が発覚したこと。 そこから色々と検査して腎臓以外にもあちこち問題があることが分かったので優先順位を決めて治療していくことになったのだが,そのうち自力で歩くことができなくなってベッドで寝たきりおむつ生活になった。 さらに食べ物や飲み物を自力で嚥下できなくなって,最後の方は点滴頼りになっていた。 実は,春の時点で主治医に「ま,ちょと覚悟はしておけ(←超意訳)」と言われていて,家族内では覚悟完了していた。 積極的な延命治療もしないと随分前に合意済みだったので,酸素マスク以外,あの物々しい生命維持装置の類もなし。 まぁ,アレですよ。 五体満足で死ぬ人はいない。 それは大往生と言われる人でも同じ。 月曜日(前日) 弟が昼に見舞いに行った際に,主治医から「そろそろ葬儀屋やお寺さんを決めておいたほうがいい」と言われたそうで,本家の従兄にアドバイスしてもらいながら(本家の伯父は12年前に亡くなっていて葬儀屋の選定とか親戚への周知とか親の口座の管理とか色々アドバイスしてもらった)準備を始めることになった。 月曜日深夜〜火曜日薄明 したらその日の深夜に病院から弟に連絡があり,私と同居している母親を途中で拾ってもらって(私も母も車を持ってない),入院先の病院へ。 親父殿は(苦しむ様子もなく)眠るように逝ったようだ。 死にゆく人の気持ちなど分かりようもないが��苦しまずに逝けたのならよかったのだろう,多分。 でも,まだ身体は暖かくて実感がわかない。 その後,酸素マスクや尿道カテーテルや点滴針や心電図のプローブなどのエンチャントを外してもらい,浴衣(買い取り)に着替えさせてくれた。 主治医の先生,看護師さん,ありがとう。 うちの親父がお世話になりました。 当直医による死亡診断後,葬儀屋さんに連絡したら1時間半後に引き取りに来てくれた。 考えたら葬儀屋って凄い大変な職業だよな。 親父の身体はそのまま葬儀会場に運んでもらった。 もちろん私たちも同行する。 葬儀会場は家族が寝泊まりする(ただし最大3人まで)部屋が併設されており,納棺前の身体も置いてもらうことができる。 会場入りした頃には身体も冷たくなっていて,本当に亡くなったんだな,とジワジワくる。 その後,葬儀屋さんと軽く打ち合わせて大体の方針を決めたところで薄明時間になったので,いったん解散。 私と母親も自宅に帰って2時間ほど横になった。 でも神経が高ぶって眠れん… 母は葬儀まで会場で寝泊まりするというので諸々を準備していた。 ありゃあ,寝てないな。 火曜日(1日目) 夜が明けて,再度葬儀会場へ。 おっと,その前に勤務先とお客さんに3日ほど休むと連絡を入れておかないと。 家族の部屋に着くと,親父の床が整えられていた。 めっさ綺麗にしてもらってる。 顔もいい感じにしてもらってる。 ありがたや 🙇 弟が早朝にお寺さんへ連絡し,まずは枕経(臨終勤行)を上げてもらった。 そこから葬儀屋さんと坊さんと弟とで打ち合わせに入る。 そうそう,今回は弟が喪主ね。 葬儀屋さんにもちょっと怪訝な顔をされたが(まぁ長男が健在なのに次男にやらすってのはないわな,普通),私は数年前まで広島にいて今も実家から少し離れて生活しているので,ご近所や自治会の運営周りは疎いし,従兄弟・従姉妹連中とコミュニケーションをとるにも弟の方が上手くやれるので,丸投げしてしまった。 ごめんペコン 私はこのスキに諸々の用事を済ませるためにお出かけする。 いったんバスで自宅に帰って(葬儀会場がバス路線上にあってよかった),そこから自転車に乗り換えてあちこちグルグル周り,そのまま葬儀会場に戻る。 よし,葬儀会場周辺の自転車ルートは覚えたぞ。 自転車に優しい道でよかった。 またサイクリングで走ってみよう。 あと,葬儀の日が通院日と被るので病院に連絡して1日ずらしてもらった。 薬 (ヤク) が切れるので処方箋を書いてもらわないと。 午後からは従兄弟・従姉妹連中が勢ぞろいした。 こんだけ集まるのは正月以来だな(笑) 親父は末っ子で,私ら兄弟も従兄弟・従姉妹の間では最年少なのね。 そんな私も五十路後半ということで驚愕されてた。 みんな年とったよな。 そりゃあ,親も死ぬよね。 ちうわけで,親の葬式経験も豊富な従兄弟・従姉妹のアドバイスをもらいながら段取りの微調整を行う。 いや,まぁ,都会の人はピンとこないかもしれないけど,田舎の「ご近所」はマジ大変なのよ。 煩わしいけど,(特に弟の)円滑なご近所づきあいのためには必要なことなので。 夕方になったので泊まり込む人以外はいったん解散。 私も自宅に帰った。 朝は眠れなかったが,メシ食って,風呂入って,洗濯物を片付けて,家事を終わらせて寝転んだら秒で寝落ちしたようだ。 水曜日(2日目) 午前中に納棺を行うので,間に合うように移動。 実家からの車を私の自宅経由にしてもらい,便乗する(礼服で自転車に乗れないし)。 お手数かけます。 あれっスよ。 リアル「おくりびと」っスよ。 自力で移動できなくなった親父は,入院中は全くお風呂に入れなかったそうな(清拭だけ)。 なので湯灌 (ゆかん) もしてもらった。 風呂好きだったしね。 空気で膨らます簡易浴槽を作ってシャワーしてもらったですよ。 (ほとんどない)髪も洗ってもらった。 かゆいとこないですかー 髭も剃ってもらってスッキリ。 「それ」に敬意を払い,とても丁寧に扱っていただいた。 でも,丁寧に扱っていただくほど「それ」がどうしようもなく「物体」であることを意識させられる。 そう考えると納棺も大事な「お別れ」の儀式なんだなぁ,と痛感した。 夕方からお通夜の儀式を行った。 お坊さんのスケジュールの関係で,早めの開始。 今回お世話になったのは浄土真宗大谷派のお寺さん。 浄土真宗のなかでも本願寺派と双璧になってるところですな。 葬儀屋さん曰く,浄土真宗の読経は(他と比べて)短めなんだそうな。 いや,短いのありがたいっス。 儀式が終わって,参列者に食事代わりのお弁当を持って帰ってもらって本日の予定は全て完了。 木曜日(3日目) 朝から土砂降り。 涙雨? 葬儀会場に泊まってる母親から傘を持ってくるよう要請がかかる。 昨日のうちに弟が市役所に死亡届を出し,今日の新聞の「お悔やみ」欄にうちの親父の名前が載ったことで(つか,新聞の「お悔やみ」ってそういうシステムなんだと初めて知ったよ)朝っぱらからケータイが鳴りっぱなし。 ご近所と親戚筋には通知済みだったが,それ以外の両親や弟夫婦の交友関係から電話の嵐。 新聞すげーな。 ちょっと侮ってたよ(笑) この日も実家からの車を私の自宅経由にしてもらい,便乗して葬儀会場へ。 今回は家族葬で,家族と親しい親族のみの葬儀・告別式ということで,その前に流れ焼香を行うことになった。 受付は従兄弟にお願いする。 ありがたや。 流れ焼香に来られる人数が読めなくてねぇ。 香典返しとか多めに頼んだのだが,思ったより(弟や甥っ子が勤める)会社関係の方が多く,慌てて追加発注してみたり。 そういうの即座に柔軟に対応していただける葬儀屋さん,ホンマ凄いわ。 ちなみに,松江市では火葬してから葬儀するパターンが多いらしい。 うちは今回変則的で,先に葬儀を行って,その後に霊柩車で火葬場に向かう際に実家に寄ってもらうことにしている。 入院中は「帰りたい」を連呼してたからね。 生きてるときに帰らせてあげられなくてゴメンな。 流れ焼香が終わる頃には雨は上がっていた。 持ってきた傘は要らんくなったねぇ(笑) 流れ焼香のあとは準備のための休憩を挟んで葬儀・告別式を行う。 やはり読経は短め。 その後,(主にお坊さんの)休憩を挟んで初七日法要も済ませてしまう。 やっぱり読経は短め。 それから昼食。 お弁当なので,都合で火葬に参加されない方は持ち帰ってもらい,ここでお別れ。 ありがとうございました。 午後から火葬場に向かう前に「お別れの義」として棺に副葬品やお花を入れる。 実家の畑で採れたきゅうりやトマトを入れてみたり。 陶器の湯呑みもOKと言われたので,ビールを入れて棺に入れてみた(ガラスや金属はNGなので瓶ビールや缶ビールのままでは入れ��れない)。 あとは,葬儀会場に届けられた花を片っ端から入れて花まみれにする。 花まみれの親父は女性に好評でした。 棺の蓋を閉じて霊柩車へ。 2人まで霊柩車に同乗できるけど,火葬の後は現地解散なので,移動の足のない私と母が霊柩車に乗ることになった。 おー。 霊柩車に乗るのは人生初! 途中に寄った実家の前で挨拶したのち,火葬場へ。 今は葬儀屋さんは火葬場の中に入れないんだそうな。 なので,ここで葬儀屋さんとはお別れ。 まぁ,ちょっと前まで(新型コロナ対策で)家族も入れなくて,収骨まで火葬場の職員の方がされて,骨壷だけ渡されるという味気ないものだったらしい。 さすがに火が入ったときはクるものがあったけど,甥っ子と姪っ子が号泣しちゃってねぇ。 逆に冷静になってしまったよ。 すまんね,代わりに泣いてもらったみたいになっちゃって。 1時間半の休憩を挟んで収骨。 流石,歯が自慢だったというだけあって綺麗に残ってた。 無事に火葬も終わり現地解散。 私と母は実家の車に便乗して実家へGo。 四十九日まで使う祭壇を用意しないといけないんだけど,葬儀屋さんが貸し出してくれるんだって。 葬儀会場の祭壇に飾っていた花やお供え物も持ってきてもらってデコレーション完了。 飾ってもらった親父を囲んでみんなで晩飯。 ホンマにお疲れ様でした。 「目一杯の祝福を君に」 なんちうか怒涛の3日間だった。 これは悲しんでる暇なんかないわ。 あと,葬儀屋さんすごいな。 うちは親父の代からの分家で仏壇も墓もないのね。 なので今回はとても助かった。 葬儀の段取りだけじゃなくて,お役所手続きのアドバイスとか,お坊さんとの折衝とか,各種手配の手際とか… 色々色々。 ホンマありがとうございました。 親父の死を惜しんでくれる人がいて,悼んでくれる人がいて,送ってくれる人がいる。 これって実は,かなり幸せなことなんじゃないだろうか。 そして,それは遺される私たちにとっても救いになる。 そう思うことにした。 これも祝福なんだと。 翌日 ずらしてもらった通院日。 有給休暇をとって病院へ。 この夏は心臓の手術(厳密にはカテーテル治療)を行う予定なので,スケジュールを含めた打ち合わせを行う。 手術日までの処方箋と入院の手引をもらって終了。 同意書に署名しないとな。 …と思ったのだが,自宅に帰ってからどうにもダウナーモードで何もする気が起きなかった。 自分で思ったよりキてたのかな。
怒涛の3日間 —または「目一杯の祝福を君に」— | text.Baldanders.info
0 notes
Text
instagram
納得の漢字と私
・
寿司屋の湯呑みに書かれている魚へんの漢字がどれだけ読めるかチャレンジしたことがあります。
・
鰯(イワシ)が他の魚に食べられてしまうのと痛みやすいというので「弱」が使われているのや、鯵(アジ)の旬が3月だから「参」なのは納得です。
・
一方で鰐(ワニ)や鮑(アワビ)が魚ではないのに魚へんなのはなんでなんでしょうね?木へんで村(ムラ)とか横(ヨコ)は木と関係あるみたいです。
・
「寸」は「少し休む」という意味で木陰で休む場所で村が出来ると旅人がそこで休むようになったことや、「黄」色の棒を横にして通行を妨げたことが由来みたいですね。
・
そして季語を見ると春が椿(ツバキ)で夏が榎(エノキ)、秋は楸(ヒサギ)。冬と言えばこちらの植物ですね。というわけで本日のランチは #柊 #ひいらぎ #庭食柊 です。
・
久しぶりの浅草地元ランチで和食を探し求めて辿り着いたのがこちらのお店です。フライも気になりましたがさっぱり気分だったので #刺身 まぐろ・たこにしました。
・
丁度ランチタイムなので近隣のサラリーマンが大量に押し寄せています。定食にプラスアルファしている人が意外と多いなと思いました。
・
待つこと5分で料理が運ばれて来ました。たっぷりの白米が印象的な #定食 は #小鉢 が充実しているのがいいですね。
・
まずは #まぐろ を頂きます。鮮度がよくって、赤身の良さが感じられて醤油とわさびで食べるのがいい塩梅です。 #ひじき もいい味付けで少し甘さが感じられてご飯が進みます。
・
#オクラ も胡麻味噌であえてあって和風な味わい。これまたご飯が美味しく楽しめますね。 #たこ も薄切りながらも旨味が感じられます。
・
どれもシンプルながらもじんわりと美味しいのが印象的ですね。季語的には冬が旬の #ヒイラギ ですが、春夏秋冬いつ来ても楽しめそうですね。
・
次回は別のメニューを楽しんでみたいと思います。
・
#田原町ランチ #田原町グルメ #田原町和食 #田原町定食 #田原町海鮮 #田原町刺身 #田原町食堂 #蔵前ランチ #蔵前グルメ #蔵前和食 #蔵前定食 #蔵前海鮮 #蔵前刺身 #蔵前食堂 #とa2cg
0 notes
Text
野澤ゼミの休日 in前橋 都市デザイン編
こんにちは!野澤ゼミ3期生の くが です!ついに4年生になってしまいました…
今回は東京都を飛び出し、群馬県前橋市で都市デザインFWを行いました!
今回のブログは、
①前橋ってどんな街? ②前橋の都市軸 ③前橋市の都市再生・リノベーション ④群馬県庁展望台から群馬の都市計画を体感する
以上の4本立てでお送りします。それではスタート!
前橋ってどんな街?
まず、前橋市の現状についてです。
前橋市は群馬県の県庁所在地であるものの、住宅の郊外へのスプロール(郊外に向かって無秩序に住宅が広がること)が著しい地域です。
スプロール化が起こると、それに伴い中心市街地(駅前商店街など)の魅力度低下など様々な問題が引き起こされます。
そのため、中心市街地活性化として、行政(官)と民間(民)が共創する「官民共創まちづくり」を行い、空き店舗のリノベーションやエリアマネジメントなどを積極的に行っています。
参考文献
前橋市アーバンデザイン
前橋デザインコミッション 公式サイト
前橋の都市軸
JR新宿駅から約2時間半(遠い…)、JR前橋駅に降り立ちました。
まず目に入ってくるのは、右手のドデカいマンションと、左手の複合施設。
右手(写真右)のマンションは、JR前橋駅北口地区第一種市街地再開発事業として都市計画決定されたもので、商・公・住の複合型マンションが建設されています。
左手(写真左)の複合施設は、「アクエル前橋」。同敷地にあったイトーヨーカドーをリノベーションしてできたものです。なんとテナントには、あのデロイトトーマツが!!
そして前橋の特徴は、立派な都市軸です。
片側2車線の中央分離帯付き車道に加え、日本では珍しく広大な歩道が整備されています。しかも、この広大な歩道は、1.7km先の群馬県庁まで続いています。また、歩道には椅子や机も整備されていました。ウォーカブルですね~
歩道も、歩行者レーン・自転車レーンにしっかりと分離されており、安全性が確保されています。
私が訪れた日はイベントを開催していなかっただけに、少し閑散気味…。
まちづくり会社が主催し、恒常的にイベントが開催されていれば、より面白い街になるのではないかと考えました。(イベント自体は不定期に開催しているみたいです。)
前橋市の都市再生・リノベーション
駅前通りを北に歩き、本町エリアへ。
このエリアは、官民連携によるリノベーションやウォーカブルな取り組みが多いエリア。
白井屋ホテルもリノベーション物件。訪れた日にはイベントを開催しており、HIPHOPな音楽にあわせて、ワインやおつまみを販売していました。下北沢のような雰囲気でびっくり。
白井屋ホテルの裏通りでは、民間・行政・前橋デザインコミッションが協働した、アーバンデザインモデルプロジェクトの工事が行われていました。(写真左)
また、閉店したデパートのコンバージョン(用途変更)により生まれた美術館「アーツ前橋」(写真右)にも行ってきました。
この日はなんと休館。残念…
また、この「呑龍横丁」というディープそうなアーケードもリニューアルされたもの。
その他にも、商店街の空き店舗を活用したリノベーションなどが多く行われており、地方都市にしては活力の高い街であると感じました。
また、市内を流れる広瀬川の周辺では、車道と歩道の高さを均一にする取り組み(写真左)や、エリアマネジメントイベントとして、地域の和太鼓団体によるパフォーマンス(写真右)が行われていました。人がたくさん!
東京からの通勤距離を考慮に入れなければ、単純に「歩いて楽しい」「住みたい」と思えるような街でした。
群馬県庁展望台から群馬の都市計画を体感する
最後に、群馬県庁から前橋周辺地域の都市計画を体感することに。
群馬県庁は高さが153mあり、都道府県本庁舎としては東京都庁に次ぐ2位の高さだそうです。周りに高い建物が少ないので、眺望抜群!
そんな庁舎の最上階(33階)から、前橋の街並みを見てみました。
この写真、実は大きな問題点を抱えています。それは何でしょう?
実は…
見ている方向が調整区域or非線引き区域なのです。
市街化調整区域とは、原則市街化を抑制すべき区域として、積極的に住宅造成などができない地域です。
非線引き区域とは、市街化区域/市街化調整区域の区域区分(通称:線引き)が設定されていない区域のことです。事実上、土地利用規制がほぼ何もかかっておらず、ある程度自由な開発ができてしまう地域です。
参考文献
しかし、写真の通り、奥まで無秩序に住宅が広がっていく様子が見えます。
先述した通り、中心市街地では面白い取り組みが数多く行われていますが、このようにスプロールしていると、中心市街地に来る機会が極端に減少してしまいます。
既存の市街地を守るために、また人口減少する時代のまちづくりとして、ある程度まとまった土地利用(しっかりとした土地利用規制の運用など)を遵守することが重要だと考えます。
以上、いかがでしたでしょうか。
このブログを読んで、土地利用・都市計画について少しでも興味をもっていただけたら嬉しいです! それではまた!
0 notes
Text
珠玉の友①
老いを是とせず
死を退け
希求するは涯なき生
古より万人は仙薬を追い求めて蓬莱を探し、ときに現世の果てへ消えていった―――
一、
西に傾く陽の光が弱まり、人がまばらになった市中には濃く長い影が落ちはじめている。伸びた影の先には、天蓋を差し、白衣装に身を窶した一行と、そのうしろから運ばれる真っ赤な龕があった。鳴り続ける鉦鼓と弔いの哭泣を引き連れて干潮の浜へとむかっていく葬列を、静かに見送った。
大清康熙暦二十一年、冬。
冬至も過ぎたこの頃、雪こそ降らないこの国だが、陸を吹き抜ける乾いた海風はさすがに身に染みる冷たさにかわっていた。昨年までいた福州に比べればなんとも生易しい気候ではあるが、それでも四肢の末端はすっかり冷え切り、足袋が欠かせない。いつもより厚手の羽織を重ね着て悴んだ指を𠮟咤して筆を動かし、子弟たちを指導しながら漢文の組み立てなどをしていると、あっという間に昼八つ時を大きく過ぎていた。
「今度は丁越市(テイエツシ)だそうです……絶対おかしいですよ」
「まあ、多少気味は悪いが」
夜詰めをほかの講師に引き受けてもらった己煥は、久米の大門付近で聡伴と落ち合い、ふたりで城下へむけて浮道を歩いていた。このあと城下の近くで朝明と合流し、今夜は漢籍の会読をする予定だ。 数町ほど歩けば座り仕事で冷え切った身体も暖まるだろうと思っていたが、逆に冷え切った夜風が容赦なく吹きつけ歯を鳴らしそうになる。己煥は重ね着をした袖のなかで組んだ己の腕で、辛うじて暖を取っていた。 寒空のもと、ふたりが歩く路肩の松並木のあいだ、その遠く向こうに死者を乗せた朱塗りのそれが目に入ったのはその途中のことである。
夏以来、 城下とその先へ下った四町や港では、先の旅役にかかわった者たちには災厄が降りかかるという噂が巡っていた。来る年に清からの冊封使節を迎え入れる準備に追われる王府は完全に無視を決め込んでいたが、尾ひれがつき這うように官吏たちのあいだで話が広がる様はなんとなく不気味なものである。
「はじめはちょっとした偶然だと思ったんですけど」
偶然、先の旅役に同行した某氏が原因不明の病に臥せった。
偶然、先の旅役で才府を務めた者の室がお産で命を落とした。
偶然、先の旅役で加子(水夫)務めた者が薩州へ向かう途中、大風で流された。
そして昨晩、偶然、先の旅役で五主を務めた丁越市が知人と争った末に死亡した―――
「偶然じゃないか?」
「四人が偶然なわけないじゃないですか!四人なんて片手で数えていられるのもあと少しですよ?己煥様は他人事のようにおっしゃいますけど、私たち一緒に船に乗りましたからね!」
「葬式なんて最低でも月一はどこかの村で出ることだろう」
聡伴は一生懸命恐怖を訴えて喚いてみたが、己煥の反応は今ひとつである。生まれた時分からたびたび生死をさまよっていたと聞くこの御仁にとっては、すべからく平等に訪れるものに対して、何をいまさら、という感じなのだろうか。
「私は帰国以来大きく体を壊したこともないし、朝明は……相変わらずだ。よほど痴情のもつれにでも巻き込まれない限り死にはしないだろう」
「そういう前振りが余計に怖いんですって!」
「―――左様、これから年の瀬にむけて冷え込みますゆえ……調子が良いなど大層なことをおっしゃっておられるとあとが怖いですよ、短命二才様?」
九町ほど歩いた、寺の門前に続く橋の前、唐突に背後から投げかけられた言葉に、聡伴は顔をしかめて勢いよく首をうしろに回した。
―――短命二才、この渾名で己煥を呼ぶ者で碌な奴はいない。
「どこの者だ?」
うっとおしく思った己煥は、ゆっくりと声のほうへ体を向きなおす。すると、己煥らよりも五、六は歳が上のようにみえる、赤帕を巻いて煙管を吹かしている男と、その脇に付き人らしき振袖の若衆がおり、こちらへ近づいてくる。少し体を横に傾けると、隣の聡伴が、赤冠の青年は某氏某家の子息・茂部之子だと耳打ちしてくれた。その家名は三十六姓のうちのひとつで、己煥にも聞き覚えがある―――同籍の士だ。
王府に仕える士は、その出自と住まいから籍を四つに分けられている。
朝明のような王族に縁ある家柄の者が住まうが城下、そこを下った先一帯に広がる四町には聡伴のような中級の士、さらに北側の港町には下級の士、そして四町と北の港のあいだが、己煥らが籍を置いている唐栄の村である。
「貴方より名声は劣りますが、この私も唐栄の出であり進貢使節の一員だったというのに寂しいことをおっしゃいますなぁ」
吐き出された煙草の煙が、この男の周りを取り囲��ように漂っている。
己煥は深く息を吸い込ぬよう着物の袖で口元を抑えていたが、次第にあたりの空気も燻されたように乾き、咳き込みそうになる。
「なぁにが”使節の一員”ですか。あなたが心汚く縁を頼って船に乗り込んだことくらい周知の事実ですよ?用があろうがなかろうが失礼させていただきます」
こんなやつと話す必要はありません、と聡伴は己煥をうながして右へ回ろうとした。
「なにか良い薬でもお召しになりましたか?」
「どういうことだ?」
唐突な問いに、立ち去ろうとしていた己煥と聡伴はうっかり足を止めた。
道行く人々がこちらの様子を窺いながら通り過ぎていく。士族の子弟らしき若者が路上で剣呑な雰囲気で言い合いをしているのだ。目立たないはずがない。茂部之子の傍で控えている若衆も困り顔で黙り込んでいる。
「いやぁ、不思議なこともあるものですなぁ。あれほど御身体が弱く上天妃の宮で教鞭を執られるのも稀といわれていた貴方が、今年は講解師に任じられたうえ冠船の諸事まで手伝っているというではないですか」
来年は清から冊封使節が訪れるため王府のありとあらゆる役所がすでに大忙しであるが、海の向こうとの窓口になっている己煥ら三十六氏の官吏はいっとう多忙を極めていた。
「そこの推参な小童は私の縁故を心汚いと宣ったが、短命二才様が口にされたのはとてつもない良薬であらせられるようだ」
なるほど、と己煥は静かにため息をつく。結局はいつものくだらない突っかかりである。一人のときは適当に口を閉ざしてその場をやり過ごすのが常だった。煙たさが治まってきた己煥は、口元から袖を離す。 この先で待たせているであろう朝明のことを思案して腕を組み直した。
「あなたにもそのうち素晴らしい効能を持った薬が見つかりますよ、多歳赤冠殿?」
「このッ……」
ふたりを睨みながらも、無理に口の端を釣り上げ表情を取り繕う様は、なんとも品がなくみえる。あれほど分厚くとぐろを巻いていた紫煙は、今や線香ほどのか細い煙のすじとなって漂いながら、大人しく煙管に納まろうとしていた。
年長の者をためらいなく挑発する聡伴に感心していると、なかなかあらわれない己煥たちに待ちくたびれたのか、朝明が橋を渡りこちらへ下ってくるのがみえる。己煥と聡伴が己のうしろを見やっていることに気がついた茂部之子も、つられてうしろを向いた。
「そうだそうだ。薬なら四町の市のほうが取り揃えが良い。さっさと下って行っちまえ」
軽快な笑みを浮かべた朝明は、手首で軽く追い払うしぐさを見せる。若年にもかかわらず己より官位が高い聡伴や朝明に逆捩じを食らわされる恰好となった茂部之子は、あからさまに唇を噛みしめ吐き捨てる言葉を探していた。側に控えていた若衆は、これ以上この主人の口を開かせまいと、彼に去り際であることを小声で訴えている。
茂部之子が動くよりも先に、朝明は己煥の上腕を軽く掴んで橋のほうへ上がるように導く。思ったより力を入れて組んでいた袖下の両腕を解くのに手間取りながら、己煥は朝明に従った。
「……災いは平等だ」
茂部之子は取り繕ったしたり顔で言い放つ。
「家柄の良い才府も、優秀な五主も、不幸には抗えない。五本目の指を数えるのが貴方がたのうち誰か一人でなければ幸いですな」
「あなたはご自分の心配をなさったほうがよろしいですよ!そろそろ寒さが堪える御老体であらせられますしね!では失礼!」
聡伴は今度こそ足を止めまいと、慌てて朝明と己煥を追いかける。
橋を下った先では、大股で容赦なくひたすら前を歩く朝明に引っ張られて、足をもつれさせた己煥が待ったをかけていた。寺の門前を過ぎたあたりには馬を待たせてくれているのだろう。ここから城下へ少し上がったところに、朝明の別邸がある。
「朝明様!」
ふたりに追いついた聡伴は、時間を取らせてしまったことを朝明に詫びるが、馬に乗りながら垂れ流すのは先程の愚痴であった。
「なんですかあいつ!己煥様が口利きで職位をもらったかのような言い方」
「それなりの位に就けば、私でなくとも下の者からの妬みや嫉妬は誰だってかっている」
身体が弱く、これまでたいして仕事を抱えてこなかった己の名が聞こえるのが面白くない下級官吏が多いのは致し方ないことだろうと己煥は思っている。
「それでも言わせすぎだ。少しは周りを黙らせる努力をしろ」
「なんだお前まで」
「せっかく才能と実績は折り紙付きなんですから、御身体崩されてたときのことなんて気にしなくていいんですよ」
「この調子じゃあ小賢しい出世の競り合いで潰されちまうぞ。とくにお前んところは」
同籍同士の出世争いが著しい唐栄に生まれながらも、己煥はどうも控えめで気が柔い。己と立場が逆であったほうが過ごしやすかったのではないかとすら朝明は思ってしまう。
「己の沈黙は是の証で」
「他の妄言こそが真とされるんだぞ」
お前の将来に係ることなんだから、と朝明は念を押す。
官吏という職は、謹厳実直に仕事をこなすだけでは立身の道は拓けないし、従順で馬鹿正直では勤めをまっとうすることはかなわない。頭だけではなく、気と口もよく回さなければ生き残れないのだ。己煥とてそれがわからないわけではないのだが。
強く言い聞かせてくるふたりに気圧された己煥は、結局のところ、朝明しかわからない程度に頬を膨らませてふたりから目を逸らし、相変わらず黙っておくことしかできなかった。
「ところで朝明様、あの噂は……」
「いいか聡伴、進貢船の員数は二百余名だ。それが全員死んだら龕は出ずっぱりだぜ?」
荼毘のさいに遺体を納めて運ぶ龕は、各村にひとつずつしかない大切な共有物だ。月に何度も葬式を出されてはたまったものではない��
「そりゃあ、まぁそうですけど……あ、お刺身美味しかったです」
すっかり陽が落ちたころに到着した朝明の別邸でふたりに散々窘められ、供される料理に鼓を打っていても、聡伴はどうにも噂が気にかかって仕方がない。腹に流し込んだ汁物の温かさが、少しだけ気を軽くさせた。
「船旅は死に近い。船をおりてもそれの気配はなかなか離れぬだろう」
そして、その心懸かりは吐き出されるにつれて尾ひれを纏い、村を流れ、町へ飛び、やがて大きな噂となる。
屋敷の使用人に獲らせてきたのだという玄翁に、 己煥もありがたく一切れ、箸をつけた。 血色の良い白身は厚めに切りおろされ、ほんの少し加えた酢が身そのものの淡い味を引き立てている。
見目のためにうっすらと残された皮がおびる青い濃淡は、薄明りのなかで鈍く光り、とても美しかった。
0 notes
Text
ある画家の手記if.98 告白
かわいい 香澄
僕の体の下で必死に身悶えて、抑えようもないみたいな声をあげて、 僕のすること一つ一つに感じてくれる 受けとってくれる これ以上込められないくらい全身すべてに愛情を乗せて触れる 自然に指先は香澄の体を愛しげに撫でて、唇は感じやすいところを食んで、 なかが僕のを締めつける、離れがたいみたいに 僕を欲しがってくれる 香澄の腰が痙攣して跳ねるたびに煽られて 煽って 一度出しても繋がったまま続けて すっかり力が抜けて快感だけで痙攣する、僕がつけた痕だらけの、汗と体液に濡れた体 かわいい… ずっとあげ続けてた嬌声で香澄が少し喉を枯らし始めた頃合いで、香澄の頭を撫でて汗に濡れた髪を梳いて、こめかみにキスしてゆっくり抜いて上から退いた
テーブルの上のグラスに注いだままにしてた水を口に含んで、香澄の上体を少し抱き起こしてから口付ける じっと口付けたまま、ゆっくり時間をかけて少しずつ喉に水を通して、喉を浸して湿らせるようにして 息が苦しくないようにたまに唇を離して ちゃんと飲み込んでいく香澄の頰をくすぐるように優しく撫でる えらいね 畳で体を擦らせないように緩衝材みたいに散々使い倒した布団はぐっしょり濡れてしまったから、僕も少しだけ水を飲んでから、香澄の体を抱き上げて隣の使ってないきれいな布団に二人でうつった。 その前にお風呂に入れてあげたかったけど、珍しく少し体が怠くて、このまま余韻の中で一緒に眠りたかった。 湿って濡れた浴衣を香澄の体から脱がせて、僕も脱ぎ捨てて布団に入る。 腕枕して香澄の頭を乗せて、香澄の体にしっかり布団をかけて温める。身を寄せ合ってそのまま眠った。
朝。まだ眠っている香澄を腕に抱いた姿勢でぼんやり目が覚めた。 薄暗いのは、早朝だからじゃなくて …外は雨だからだ 換気のために開け放した窓から冷たい空気に混じって少しの湿気を感じる。 僕も香澄も眠ってる間に体は渇いてた。目の前にある香澄の髪の毛がかわいく跳ねてうねってる。雨だ。 髪の毛の中に鼻先つっこんで地肌にキスしてたら腕の中で香澄もぼんやり目を覚ました。 「………」 「おはよう」って声かけても僕の顔見ながら少し唇あけてぼんやりしてる。香澄がされる側なのは久しぶりだったから少し負担が大きかったかな。にっこり笑って頭を胸に抱き寄せる。 「どこも痛くない?」 「うん…… 雨の音…?」 ぼんやりしたまま香澄が呟いた。 「そうだね」 「………雪だるま…」 ぎりぎり屋根の下にいるけど、降り込んできてるこの雨に晒されたら溶けちゃうね。 僕は一度一人で布団から出て、雪だるまの頭にかぶせてた雨よけの紙の傘をそっと取った。 雨を受けて、雪だるまの形が崩れて、頰をくっつけて並んでた二人の体が溶けて境界をなくしてひとつの雪のかたまりになっていく。 おとなしく横になってる布団の中の香澄の隣にまた潜り込んで、暖をとる。 「…溶けちゃうね」 「うん」 香澄の髪の毛を撫でながら、静かに目を閉じる。 …ときどきすごく怖くなるよ、幸せなぶんだけ、前よりひどく 香澄を愛せば愛すほど 香澄に愛されるほどに この瞬間に何もかも終わってしまえばいいような気になる お互いに自由なままで一緒に居ようと思うのがこんなに怖いことだなんて 香澄を大事に抱いてる今 二人でここで静かに終われたら …そんな風にもどこかでまだ思う、僕は弱いね 香澄と一緒に生きてたい そう思うのも本当で その気持ちに支えられて僕は何度も生き永らえた でもどちらもある一方の気持ちだけを見てそれだけに縋りつくような生き方はもうしない 香澄と一緒に生きてたいって、香澄に向けて口にするのはそちら側だけ もう片方は、僕が一生一人で抱えていようと思う 嘘偽りのない寂しい欲求を、誰に向けてあらわすこともしないで そんな僕から香澄を守りながら 「……代わりに溶けて消えてくれるよ」 小さく呟いて香澄を抱きしめたら、香澄は疑問符を浮かべた声で聞き返してきた 「……なんの代わり…?」 やむ気配のない雨音の中で抱きしめた香澄の頭に頰をすり寄せる。 「……内緒。」
うつらうつら二人で二度寝して、昼頃になってようやくちゃんと起きる。 僕が布団から体を起こしても香澄はくったり横になったままで、「気分が悪い?」って聞いてみたらふるふる首を振って、でも同じ姿勢でなんだかぼーっとしてる。 額に手を当てても熱もなさそうだし、顔色はむしろよくて血行よさそうに頰も唇も紅くて、ゆっくり布団を首まで持ち上げたと思ったら顔半分くらいもぞもぞ布団に埋めてる… なんとなくクリスマスの翌朝の自分の状態を思い出して、似たような感じなのかな…と思って勝手に嬉しくなる。本当に体の芯から気持ちいいとああなっちゃうのかも…? 香澄の顔を覗き込むようにしてもう一度横になって、しばらく香澄の体を布団の上からよしよし撫でる。恥ずかしいのかだんだん小さく丸まっていく。かわいい…布団と一緒にぎゅっと抱きしめる。
いつまでもこうしてられないな…たくさん動いて汗掻いたから、そろそろ何か飲んだり食べたりしないとね。 香澄を抱き上げて、「お風呂に入るよ」って言いながら風呂場まで連れていく。 すでにのぼせてるみたいな顔してるから、湯船には入れないでなるべく楽な姿勢で座らせて、綺麗な手拭いをお湯に浸して香澄の体を拭いていく。 手首をとって軽く腕を持ち上げて脇から指先や指の間、爪までくまなく拭き上げて、同じように全身を綺麗にしていく。 湯船の淵に頭を乗せさせて髪の毛を梳かしてから洗う。髪の毛についた泡を流しながら耳を手で包む。 ずっとくたっと脱力してる香澄はぼんやり僕のすることを目で追いながら、されるがままになってる。 「香澄は肌が白くて綺麗だから痕が綺麗に残るね」 体に残った鬱血痕の上を優しく拭きながら言ったら、ちょっと顔赤くしてる。 「…痛くない?」肌に傷はつけてないけど、うっかり内出血してたりするかもしれないから。 「…うん…痛くない」 ぼんやりしてて表情は少ないけど、あったかい湯気が立つ手拭いで体を拭うたびに顔を赤らめて、目を細めて潤ませる、気持ちよさそうに薄く唇を開いて安心しきったみたいな顔するのがかわいくて、一度瞼にキスした。目に入れても痛くないってこんな感じかな。 僕も軽く体を洗って流して、夜の名残りを落とす。 体をバスタオルで包んで香澄を濡れたまま抱え上げて、座敷に移動する。 壁に背中をつけて畳の上に胡座をかいて、膝に香澄を乗せて僕の体に凭れさせながら包んだバスタオルで体を拭く。大きなバスタオルで僕にくっついてる香澄を抱いて拭いてるうちに僕も勝手に乾いた。 赤い髪の毛をひと束ずつ丁寧にバスタオルで柔らかく握って水気をとっていく。バスタオルごしに香澄のほっぺたを両手で包んで軽くつまんで解したら香澄がふにゃって顔を崩して笑った。綺麗な虹彩が笑んで細くなる、かわいい、雨の中で太陽が笑ってる。
髪が乾いたら浴衣を着せて、僕も着て、朝昼ご飯は部屋でとることにする。 すぐにくたって弛緩しちゃうから僕がずっと膝に抱えたまま、ご飯を食べながら、香澄のぶんも口に入れて咀嚼して、膝の上でおとなしく僕に寄りかかってる香澄に口付けて食べさせる。 「…気持ち悪くない?」 唇を離して様子を伺う。 「…うん…おいしい」 こくりと小さく喉を鳴らして飲み込んでから、僕の首筋に額をすり寄せてくる。かわいい。ちゃんと飲み込めたのを褒めるようなふりして軽く唇を啄ばんだ。 自分が食べるのと交互に香澄に口移ししてたから香澄と一緒にご飯を食べ終わった。 歯磨きをしてあげるのは難しいな…と思って、膝に乗せたまま香澄の口に手を添えて軽く開かせてから口付ける。咀嚼したものをそのまま呑んでるからひどく汚れてはないけど、舌を入れて歯を綺麗になぞって舐めとって唾液ごと飲み込む。奥歯の裏までしっかり舐めとろうとして顔を傾けて口付けを深くする。逃げ腰になる香澄の後頭部を、背中を抱えてない方の手で支えて固定して、奥まで綺麗に舐めてから唇を離したら、香澄が目を回したみたいに顔赤くしてくらくらしてた。「な、直人…」 「ん?」さっきまでより自立しなくなってふにゃっと崩れそうな香澄の体を両腕で抱きとめたら胸に顔つっこんできて、額でぐりぐり押しながら小声で何か言ってる。 顔を寄せてよく聞いたら体が疼いてきついなんてかわいいこと言ってる。今ので反応させちゃったかな…。 「香澄、顔あげて、こっち見て」 背中をさすりながら呼びかける。顔をあげた香澄の頰を撫でて、両脇に手を入れると体を一度持ち上げて、そのまま抱っこして奥のソファの上に降ろす。 肘置きと背凭れの間に体を寄りかからせて、肘置きに手をついて頰に軽くキスする。「…触ってもいい?」 ソファから降りて、こくんと頷いたのを確認して香澄の足元に跪く。浴衣の合わせに手を差し入れてそっと下に触れたらたちかけてた。指先についてきた先走りを舐める。このままどうにもならないんじゃ苦しいだろうな… 「少し我慢してね。…出せそうなら出して」 浴衣の前を少し開いて香澄の両脚を開かせて間に入って膝立ちになる。首を伸ばして香澄の足の付け根に顔を埋める。小さな吐息交じりの声が頭上から降ってくる。 煽ったり焦らさないで、早く出せるように片手で袋や根元を優しく揉む。後ろには触れない。口の中で、舌で先をつついて��すぐって、なぞって舐め上げて、唾液でたっぷり濡らしてから、頭を動かして扱く。 我慢してたのかすぐに口の中に吐き出してくれた。まだ口に含んだまま、顔の横で小さく痙攣する内股をさすって褒める。ごくんと呑み込んでしまってから立ち上がって、口を濯ぎにいく前に香澄の頭を笑顔で軽く撫でた。「いい子」 また、せっかく旅行中なのにとか、迷惑かけてるなんて言葉は、言い出せもしないくらい、甘やかして、かわいがりたい。
洗面台で軽く口を濯いでからすぐに香澄のそばに戻って、抱き上げて僕がソファに座ってから膝の上に降ろす。 今日は一日じゅうこうして過ごす。前��もこんなふうに過ごしたことあったね。あのとき香澄が楽しそうですごく嬉しかったな。 「…肖像画、最初に描くのは香澄がいいな」 香澄が首元から顔をあげて僕の目を見つめる。僕も至近距離から見つめ返しながら、香澄の頰を親指でなぞる。 「前にも描こうとして、描けなかったね。…美しいものを、僕が描くことで踏み躙るような気がして怖かった」…あの頃のことをうまく言葉になおして語るのは難しい。全然違ったことだったようにも思うし、記憶自体も少し朧げで、でもちゃんと今に繋がってる。 「美しいもの…?」 香澄が小さく呟いた。 「 …でも、それなら俺は…、…」 そこまで言って、言いあぐねたのか口を噤んでしまった。 僕がまた絵を描くってせっかく自分で決めた決断の先行きを、曇らせるようなことは言いたくない? 香澄が今考えてることは、僕の想像であってるかな… 「…僕は傷痕を美しいと思ってた、だからもう傷痕のない香澄に、僕は美しいなんて感じたことはない、…って思ってる…?」 訊いてみたら控えめに頷いた。外れてはないのかな。 美しいって感じたのを、絵にして終わり、の期間がこれまでの人生で長かったから、香澄にも感じたことを言葉にして伝えるのを怠けてたかもしれない。 香澄の顎に手を添えて、顔を僕のほうに向かせて、しっかり目を合わせながら話す。 「…いつも、感じるだけで精一杯だよ、僕は。 きれいに言葉にして伝えてあげられなくて、ごめんね。傷痕だけを美しく思ってたこともあったけど。それを抱えてくれた香澄がいたから傷痕もあった、…そういう順序が、以前の僕は、…狂ってたのかな。 …僕は香澄の存在が愛しいよ、傷痕があったことも、二人でそれを消したことも、香澄と一緒に丁寧に積み重ねられた時間を、僕は美しく思う、…今の香澄の姿にね」 それだけ言葉にしたあとで、おもむろに言い足していく。 ……太陽みたいだ あったかくて 笑ってくれると陽だまりに居るみたい ほかの沢山のものも照らして 僕の視界を鮮やかに塗り替えてくれる 優しい気持ちにしてくれる 木漏れ日をいっぱいためて溢れるような瞳 真っ白に澄みきって輝く白目 癖のない涼やかな目元 長くてまっすぐの艶を湛えた睫毛 陽を浴びると頰に長い繊細な影を落とす 滑らかに高く伸びた鼻筋 引き締まった薄い唇 精悍な輪郭と骨格に支えられて 整った見事な比でおさまってる 白い肌 一緒に暮らし始めてからますますきめ細かく艶やかになったね …目の前の顔ひとつとっても僕にはうまく言えないけど いつも感じるだけでいっぱいになって 冷静な言葉に行き着かない それでも香澄は美しい子だよ 陳腐な言葉かもしれないけど 僕は毎日、恋に落ちてる、繰り返し、香澄ひとりに
「……だからね、最初の肖像画は香澄がいいんだ、この世でもっとも美しい人だから」
香澄は自分で自分を視たことがないし、僕にも、誰にも自分自身の目で自分の姿を捉えられる日はこない だから僕が視てる香澄を、香澄にも視てもらいたいな それが僕にできるもっとも正確無比な、美しさの伝え方だから
ここまでゆっくり伝えてから、すでに息がお互いの顔にかかるほど間近にあった顔を見つめて、静かに目を閉じてキスした。 雨音が優しく室内を満たす。香澄を抱き寄せて、背中を一定のリズムであやすように軽く叩く。一緒にしばらく微睡んだ。
その後もまた一緒にご飯を食べて、香澄はそろそろ一人で動けそうだったけど少し僕がわがまま言って食べさせた。家に帰ったらこういう機会はなかなかなさそうだなと思って。香澄はずっと僕の浴衣の裾を小さく掴んで僕の胸に寄りかかって頬を紅くしてた。 明日の午前中にはここを出なくちゃいけなくて少し名残惜しいけど、また二人で旅行とかしたいね。
ソファで香澄を抱いたまま僕が目の前のテーブルに広げた紙に絵を描いてたら香澄が訊いてきた。 「家…の絵…?」 「うん。新しい僕と香澄の家。」 にっこり笑ってスケッチを続ける。まだこの世にないものを描くのは不思議な感じがしたけど、特に無理をして描いてはいなかった。 「…香澄はどんな家がいい?」 「家… ゼロから建てるの?」 「そうだよ。僕は建築とかの知識はからっきしだけど、二階か三階建ての庭付き一軒家ならそんなに特殊な建物でもないと思うし…香澄の仕事場に近くていい土地があるといいんだけど」 話しながら描いてるスケッチは一応建築基準法の範囲内にはおさまってそうな一軒家。ロールスが停められて、もう一台分お客さんが来たり香澄が自分の車を買っても大丈夫なように駐車場をとる。庭に木造りのブランコ。あまり好きなようにデザインしすぎて近所から浮くと個人特定されやすいから、ほどほどにありふれた外観におさめる。 「…家を建てて…ここに一生腰を据えようってことでもないんだ。必要になればいつでも越していいし、…香澄につきまといなんかがいつまでもしつこければ、僕はもっとずっと遠くに… 香澄のことを誰も知らないような土地に、二人で引っ越すのもいいなと思ってる。香澄がそれでよければね」 抱き抱えた背中をさすりながら話し聞かせる。 「今回も、引っ越すにしても借家でも問題ないんだけど… ずっといつでも捨てられるような借り物の場所にしか暮してこなかったから…自分の家を、ひとつは持ってみたい気がして。…僕が責任を持たなきゃいけないようなものを」 家さえ建てればそれが達成できるってものでもないんだろうけど… 僕と情香ちゃんが長くそうだったように、家とか住まいってものに重点を置かないで身軽でいれば他人を守りたいときに素早く動けて面倒が少ない。 でも香澄は家族だから、居を構えて、それで守り方の応用がより効くのかどうか、試してみたい。今のマンションには少しのスペースしかない庭とかもあったらいいなって思うし、一軒家だと土地ごと完全に自分のものになるから、生活もかなり自由に幅がきかせられるようになる。その分ご近所との付き合いとか煩わしいものもついてくるけど、そういう点も試してみないとどう転ぶかは分からない。うまくいかなかったり問題があれば借家にしたり売り払ったりどうとでもなる。 香澄が毎日帰ってくるのが楽しみになるような家ができたらいいな。 「……。」 香澄が僕の首筋に額をぐりぐり擦りよせてくるから「僕が居るなら香澄はどんな家でも構わないのかな」ってふざけて訊いたら頷かれた。なんとなく僕のほうが照れる。
香澄がそろそろ一人で歩いたり座ったりしたそうだったから寝る前に二人でお風呂に入った。念のため僕が脱がせて抱き抱えたまま一緒に湯船に浸かる。 立ち昇る湯気が赤い髪に映えて綺麗。 湯船の中で香澄の背中を淵と後ろの壁につけて正面から腕で囲い込むようにしてキスしたら、応じる香澄の両手が僕の両肩にちょこんと添えられた。…かわいい 「…、」 お互いに煽り合わないうちに体を離して、お湯から出てた香澄の肩に湯船のお湯をかけてさする。 ここで長く続けたら香澄がまたのぼせそうだし、その気になっちゃったら今夜もしないではいられなさそうで。
お風呂から上がったら櫛やブラシを使いながら香澄の髪の毛を綺麗にブローしていく。 いくらまっすぐにしてもぴよんて癖毛がはねるのがかわいい。雨の日はよくこうなるね。 湯船でほかほかあったまった体で二人とも布団に入る。 香澄の体を布団ごと抱き寄せて額にキスして 二人で首まで布団に入ってうとうとしてると一緒に胎内を漂ってるみたいだ 僕はここに居て 香澄のことをちゃんと守れたかな まだたくさん間違ってても 今の僕にできることをちゃんと尽くせたかな…
翌朝になったら香澄はすっきりした顔で目覚めてた。 ひんやり冷えた空気の中でしばらくあったかい布団にこもって二人でじゃれる。 チェックアウト間近になってから浴衣から着てきた服に二人とも着替える。香澄の首に僕がマフラーを巻いた。
館内のお土産屋さんで香澄は何人ぶんもお土産を選んでた。 絢やまことくんへのお土産にまじって綺麗な飴細工を冷泉に選んでたから香澄の頭をくしゃくしゃ撫でた。 冷泉はあれで香澄のことをすごく大事に思ってくれてると思うけど、表現方法がいつも間接的というか、伝わりにくいだろうから、香澄がなんとなくでもそれを受け取ってくれてたら嬉しい。
雪だるまは朝見たらもう影も��もなかった。誰かが着せてくれた外套とマフラーだけが薄く積もった雪の上に遺されてた。 香澄の記憶に残ってたクーラーボックス 雪だるまと一緒に中に入れた 香澄に喜んでほしかった気持ち ちゃんと拾われて 今は僕が居るだけで喜んでくれる香澄 跡形もなく溶けてしまった、そのことに、もうあの時のような哀しみはなかった。
香澄視点 続き
0 notes
Text
二篇 下 その七
さて、ここは酒代は別に払わなければならないようで、女郎屋の若い者が、聞いてくる。 「お酒はどういたしましょう。」 「酒も出してくんな。」 と、北八。 「ハイハイ。取ってあげましょう。」 と、女郎屋の若い者は、出て行く。
それと入れ違いに、弥次郎兵衛と北八のそれぞれの相方が入ってきた。 弥次郎兵衛の相方は名を小笹野といい、上田縞の小袖に縞繻子の帯、空色縮緬の打掛けを着ている。 北八の相方のほうは、名をいさ川といい、縞縮緬に金モールの帯で黒縮緬の打掛け、いずれもみな絹の裏地である。
それぞれ、座につくと煙草盆をひきよせ、小笹野が、 「よくおざいました。」 と、挨拶すると、いさ川は、 「あら、みっともない。あの娘は、まだ煙草も入れないわ。 小雨やい。���雨。」 と、いさ川は、まだ、十二三才で女郎になる前の娘を呼び付けて、煙草盆の用意をさせようとした。 弥次郎兵衛は、待ちきれないと、 「さあ、お前がた、もっとこっちへよりなせえ。若い衆、洒を早く。」 と、女郎屋の若い者が、持ってきた杯台や銚子を、並べるのももどかしそうに、お定まりの初めての女郎との結婚の真似事をさっさと済ましてしまった。 弥次郎兵衛は、やれ落ち着いたと、酒を盛ってきてくれた若い衆に、 「どうだ、ひとつ呑みな。」 と、酒をはずむ。それから、 「それから、これで何かうまいものでも食いな。」 と、御祝儀を渡してやる。 「これは、これは、ありがとうございます。」 と、若い衆は、いただいて立って行くと、入れ代わりに、いさ川が呼び付けた小雨が駆けつけてきて、いさ川に 「いや、あの吉野屋から磯次さんがおざいまして、いさ川姉様に、用があるから、ちょっと呼んできてくれと。」 いさ川は、それに答える。 「あら、そう。後で行くから、煙草盆の用意がすんだら、そう伝えといて。」 小笹野が、煙草盆の用意がすんで、出て行こうする小雨に、 「そういえば、小雨や。久能の仙さんはおざったか。」 「いいや」と、首をかしげながら答える小雨に、 「あれま、あの人は。 この前からずっと、行く行くと言っていたのに、本当に、いいかげんな人だわ。」 北八は、そんな様子に目もくれず、 「ほれ、お前がた、もっとこっちへ寄って、一つ呑みなせえ。」 と、いさ川に酒を勧める。 「あら、ごめんなさい。」 と、いさ川は逆に北八に酒を勧める。
そのうちに、若い者二人とこの店のを取り仕切っている婆さまが連れ立って、八寸の膳の上に、重ねた箱を載せて持ってくる。 「ただいまは、お祝儀をいただきまして、ありがとうおざります。」 婆さまがいうと、その横にいた、若い者が、 「わたくし金太と申します。是は権右衛門、以後、おたのみ申します。」 と、丁寧に礼を言って立って行く。 弥次郎兵衛は、この様子をみて、 「成る程。ここは、祝儀も仲間で分配する取り決めになっているようだ。 しかし、若い者なにのに、金太に権右衛門と言うのも珍しいもんだ。」 北八も、この話に肯いていたが、先程持ってきた重箱の方が気になり、 「で、この重箱はなんだ。」 と、ふたをはぐってみる。 「ははあ、これは、安倍川餅か。これが祝儀のお返しってとこか。 吉原なら、紀の字屋から、出前してくる料理が出てくるところだが・・・。」 と、そのうち廊下がなにか騒がしくなってきた。
大勢の声で済むの済まないのとわめいて、どうやら、隣の座敷へみなみなが、入り込んだようだ。 北八は、 「なんだ。騒々しい。」 と、いさ川に問い掛けると、 「なんでもないんですよ。 ありゃ、性根の悪い客を見つけて、連れてきたのでございますよ。」 と、言う。 ほうそうか、と、弥次郎兵衛は、 「こいつは面白い。ドレドレ。」 と、襖を少しあけて、隣りの座敷を覗いて見る。 すると、そこでは、大勢の女郎が客一人を取り巻いている。 「お前さんは、どうしてこの前から一向にこない。」 一人の女郎が、その客につめよると、別の女郎が、 「丁字屋へばかり、行ってるのでしょう。 常夏さんが腹をたてるのも無理はない。」 と、かなり怒った様子。 この客はどうやら、馴染みらしい。 「いや、そう言っても、私は、昨日も一昨日も来ようよ思っていたが、急ぎの急用ができて、来られなくなったんだ。 そりゃ、丁字屋へも川辺(静岡市)の伯父さんとの付き合いで、行ったことはあるが、ここの常夏さんと、申し交わしたことでもあるし、おてんとさまにかけて、変なことはしてない。」 そんな言い訳を聞いても、女郎たちはひるまない。 「あれ、まあ、それでも丁字屋の花山さんと馴染みなって、通ってるのは間違いないでしょう。」 「いやいや、決してそんなことはない。 なんの証拠もないのにそう言われても反論のしようがない。」 と、客はしおれかえっている。
そこへ、ここの店の姉さん株の女郎、常夏が、打掛けの裾をつまみあげ、煙管と煙草入れを持ちながら、ゆうゆうとして座敷へはいってきた。 「あら、野暮な旦那さん。 この前、会ってから全然会ってませんが、元気そうで、ようござりました。」 と、皮肉たっぶりに言う。 客は閉口して、しおらしく、 「悪かった。常夏。堪忍してくれ。」 と、いうが、常夏は許すそぶりも見せないで、 「私も、ここでは、あん姉、あん姉といわれる女郎でございます。 こんなに、顔を潰されちゃ、他への示しがつかない。 これっきりの縁という事にして、今から、お前さまのような性根の悪い客を見せしめのために、私がすることを見てなさい。 それ、夏菊さん、さっきの剃刀を持ってきて。」 と、他の女郎に剃刀を持ってこさせる。
つづく。
0 notes
Text
こんにちは!今回は前回と前々回で予告したクランちゃん🌹とグレン君🥀についての記事です!毎度の事ながら原作者である🍓ちゃんに頂いた資料を元に、感謝の念と溢れる熱量と共に解説していきます〜!🌻
★二人の立ち絵は後々また描き足すかもしれません。グレン君の立ち絵の方は下記にて…!
【2021/09/23追記:一部文章の修正と追加済み】
----------
舞台はとある王国に聳え建つ大きな城。厳重に施錠された塔一角の部屋に一人の薔薇色の少女が国から手配されたメイドの監視下の元、一人ぼっちで幽閉されていました。
その少女の名は〝クラン・ローゼンベルク〟といいます。
--
★補足
この王国は前回のオズウェルさんが訪れていた村があった国では無く、はたまた村を襲った敵兵の国でも無く、次回の記事で書かせて頂く予定のルイの出身国でもありません。
因みにラブリーちゃんとミハエルさんはオズウェルさんと同様に後に地上に降り立ちますが恐らくまだこの時点では天界在住です。各自地上に降りる理由ですがラブリーちゃんは保護者役になったオズウェルさんに連れられ、ミハエルさんはラブリーちゃんを追ってという理由かと思われます。
花夜と春本に至っては作者が🍓ではなく🌻で舞台も日本と全く違う為こちらは国以前に蚊帳の外です。カヤだけに。
--
話を戻しまして…クランちゃんの出生ですが、
王国専属の魔法使いが連れて来た子です。
クランちゃんが幽閉されている城や国の主導権は主である国王と息子である王子に有りますが当然〝連れて来た〟からには彼らの娘という立ち位置ではありません。
ならば貴族の子か?というと違い、かといって村や街に父や母がいる訳でも無く…しかし孤児でも人攫いでもない。
遠く離れた血縁でもありません。そんな少女を一体どのような目的で幽閉までし、人目を避けさせ隠しているのか…。
--
それには理由が有りました。まず国王は国全体の権力者達や政治家達、軍事機関、研究機関と深い繋がりがあります。
そしてクランちゃんの傍には彼女に正体を隠している国から派遣されたメイドが世話係と銘打って監視をしています。
万が一逃げ出さないようにしているからです。つまるところ
クランちゃんは純粋な人間ではありません。
元々彼女は無限に膨大な魔力を発生させる事が出来る装置のような存在として創られました。
この魔力を国や王は軍事や国家機密の研究に利用する為クランちゃんを幽閉していたのです。
そして、それらは後発的にそうなったのでは無くクランちゃんが創られた理由でもあります。
因みに王と違い王子は善良で国王共々クランちゃんに直接の面会はなかったものの彼女への幽閉や以降に記述する〝ある〟研究内容に反対しています。
この王子の存在が後々の展開に大きく影響していきます。
--
ここまで禍々しく書き連ねて来ましたが、クランちゃんは種族としては人間です。正確には〝天使に近い存在〟です。理由は後程。
とはいえ機械では無いと言えど彼女の魔力の使い道を考えますと、それこそ機械のように扱い然るべき施設内にて監視且つ管理し利用した方が効率も良いのでは?と疑問も感じ無くもありません。
ましてや愛らしく着飾る洋服も本来は最も必要が無いはず。
この辺りについては彼女を連れてきた王国専属の魔法使いが大きく関係しています。彼女も権力者の一人でもあります。
--
女性は国から頼まれた魔力装置を創る為に神様の元に訪れます。神話みたいですね!この神様なのですが現在は地上界に隠居中のようでして前回のオズウェルさんの記事の時にて登場した全智の天使に神としての役割を引き継いでいます。
こう見ますとそれぞれ在住していた国は違えど皆々同じ🍓が描いた世界に住んでいるのだな〜と嬉しくなる🌻…!!
つまりクランちゃんは神様が人間として創造した子ですので、先述でいう〝天使に近い存在〟なのです。
--
しかし、何故この時点で敢えて〝人間〟として創ったのか。
これは神様の意思からではなく魔法使いの女性がそう創って欲しいとお願いしたからです。
歳も取りますし、国としては今後も末永く使っていく効率を考えますと悪手のように感じざるを得ません。
これに関しては恐らく魔法使いの女性が、前回のオズウェルさん同様に人間が好きだったからだと伺えます。
但し、この女性もオズウェルさんと同じく良識的な人間を好いており王国の民が好きで且つ彼らを護る為に王国専属の魔法使いをしています。故に国王や後に記述する研究機関等のやり方には眉を顰めており、まだこの時点では内側に潜めていますが彼女もまた王子同様に反対派なのです。
--
上記の通り魔法使いの女性は慈悲深い方で、クランちゃんを連れて来た際に大切に扱うようと国王に釘を打ちます。
魔法使いとしての実力も然ることながら神と繋がっていたりと特殊なパイプ持ちでもありますから国王も彼女の言い分を無碍に扱わず、提示された条件を呑み承諾します。
一種の取引みたいな���のでしょうか。人間として創られた事以外は国王側からしても悪い話ではなく、そんな些細な欲求に対し首を縦に振ってさえして��まえば無限の魔力の提供という膨大な利益を得る事が出来るのですから。
以降クランちゃんは〝幽閉〟はされているものの、衣食住や遊ぶものにも困らない何不自由のない生活を送ります。
城に来た当初は四歳くらいで、とても幼なかったのですが今現在は十四歳まで成長しています。世間を知らずに育った為やや浮世離れはしていますが心優しい性格に育ちました。
魔法使いの女性も仕事の合間に遊びに来てくれたりと、血の繋がりこそ有りませんが母と娘のような関係を築きます。
--
因みに、これ以降の展開には神様は全く関与して来ません。
クランちゃんを創造したのち、その後どう扱われるか又は持たせた魔力によって一つの国がどうなっていくのか…。
それに関心も無関心も無い。手を貸すのも偶然且つ必然。世界を憂い愛と平和を謳いながら冷徹で残酷な傍観者です。
--
視点をクランちゃんに戻します。
上記の方でふんわりと触れましたが彼女の素知らぬところで彼女が生成する強大で膨大な魔力は軍事利用を始めとした王国専属である〝機密〟の研究機関により非人道的な人体実験にも使われてしまいました。
その人体実験の内容は、身寄りの無い孤児を集め兵士として利用する為にクランちゃんの魔力を使い潜在する運動神経を刺激し著しく向上させるという実験です。
この実験が成功した暁には対象は常人離れした身体能力を得る事が出来ます。
但し実験対象が魔力を持っていた場合クランちゃんの魔力に影響される副作用か又その後遺症か、魔力が消失します。
数々の孤児が犠牲となり失敗作と成功作が生まれました。
救いは先述した王子や魔法使いの女性に根回しされたのか失敗作の孤児達は城内で働いてるという事でしょうか。
--
★補足
魔法使いの女性がクランちゃんを連れて来なければ、事前にこのような人権を無視した事態は未然に防げた筈です。
恐らく企画段階で、孤児の子達を含めた彼女が愛する国民達の命を天秤に掛けられてしまった又は人質に取られる等、弱味を握られてしまったからではないかと思います。
又は孤児の子達が人体実験以上の危機に晒されてしまう等。
クランちゃんを敢えて〝人間〟としたのは人間が好きだから以外にも訴える想いやメッセージが含まれていそうです。
--
凄惨な実験の果てにクランちゃんの魔力に適合し成功した孤児達は軍事利用の為、兵士としての教育を受けます。
その中でも逸脱した身体能力を覚醒させた優秀な成功作である一人の真紅の少年がいました。
その少年の名こそ〝グレン・クロイツ〟元孤児であり、この人体実験の被検体の一人だったのです。
過酷な境遇だった為か、それとも教育の影響なのか自身を〝駒〟と呼び感情を表に出さない少年です。淡々と任務遂行する姿は一人前の兵士にも全てを諦めているようにも見て取れます。その後は暫くの間、その高い能力を見込まれ王城専属の傭兵兼使用人として過ごしていました。
そうして与えられた任務や日々を、ただただ機械的に過ごしていた彼に、やがて突然過ぎる転機が訪れます。
--
とある業務で偶然、中庭にて作業をしていた日のことです。
これまた偶然にも部屋の窓から中庭を見下ろしていたクランちゃんの目に、グレン君の姿が留まりました。
先述通りクランちゃんは浮世離れ気味で世間を知らない面があります。自分と似た髪色、瞳の色を持つグレン君に好奇心に似た興味を抱きそれ以降、窓の外で彼を見かける度に目で追うようになっていきました。
--
魔法使いの女性が国王に釘を指してくれたお陰で、大事にはされていますがクランちゃんは幽閉をされている身です。
流石に十年もそれが続けば、室内に居るのがが当たり前に育ったといえど飽きが来るというもの。
退屈だったクランちゃんにとって、外で見掛けるグレン君は羨望の的のように輝いて見えていたのかもしれません。
そして遂には我慢出来なくなった彼女は訪れていた魔法使いの女性に頼み。彼と遊んでみたいとお願いします。
--
クランちゃんの口からこのような〝お願い〟が出たのは、恐らく今回が初めてで魔法使いの女性はそれを快諾します。
グレン君にとっても異性同士とはいえ同年代の子と…ましてや遊ぶ機会なんて随分と無かったと思いますから悪い話では無い筈です。足早に国王に掛け合いました。
国王は些か呆れ気味に聞いてはいましたが、多少グレン君の仕事内容に調整が入る程度であり通常通りの任務にクランちゃんと遊ばせるという風変わりなものがくっつくだけなので返答をそこまで渋るような内容でもありませんでした。
もし不穏な動きが有れば予めクランちゃんの側近として配置させているメイドがグレン君を拘束し再教育するように研究機関に送り返すだけです。
こうしてグレン君は傭兵兼使用人又はクランちゃんの従者兼遊び相手として勤めるようになり晴れて二人は顔を合わせる事となりました。
--
因みに銘を受けた当日のグレン君ですが上司に呼ばれ初っ端口頭から「最重要人物の護衛及び監視の任務だ」と告げられ、流石のグレン君も涼しい顔の内心では戦々恐々としていたのですが蓋を開けてみれば少女と文字そのままの意味で遊ぶだけだったので拍子抜けしたとかなんとか。
--
最初こそ主にグレン君が警戒を示して距離感があったもののクランちゃんの能天気な…おっとりとしたペースにだんだんと絆されていきました。二人は徐々に親密になります。
好奇心からか人懐っこく少々抜けている愛らしい面もあるクランちゃんに対しグレン君も素で少々辛辣な言葉を投げ掛けてみたりと魔力装置とその魔力による被検体とは思えないような微笑ましく仲睦ましい関係値を築きます。
--
少し引っ掛かるのは、クランちゃん自身に知らされていない事とはいえ自身や周囲の孤児達をこのような姿にした元凶でもあるクランちゃんに対してグレン君は怒りや怨みを感じ無かったのだろうかという点ですが恐らくそんな事は無く、だからこそ最初の頃は警戒し場合によっては一夜報いて処分される気もあったのではないかなと思います。
しかしクランちゃんと触れ合っていくうちに連れ彼女自身の境遇も決して良いものとは言えず彼女もまた被害者の一人であるという答えに落ち着いたのではないかと推測します。
二人が親しい友人となるまで、そう長い時間は掛かりませんでした。しかし同じくして穏やかな時間も長くは続いてくれなかったのです。
--
これまでの国王の横暴な統制に国民や一部兵士の不満が爆発しクーデターが勃発したのです。
瞬く間に王国内が戦場と化しました。勿論、国同士の戦争では無く内紛でです。城内にも怒号と罵声が響き渡ります。
意外にも早々に劣勢に陥ったのは国民側ではなく王国側でした。軍事力は王国側が保持しているものの肝心の指揮が行き届いていなかったのです。何故そのような事態に陥ったか
国王も混乱していました。何故ならクーデターを起こした先導者は実の息子、自身の傍で仕えて来た筈の王子だったからです。
���いぶ遡った先述にて書かせて頂いたこの王子の存在が後々の展開に大きく影響していくというのが、ここで繋がります。ずっと傍らで国王の人を〝駒〟のように扱う王政、そして非人道的な研究への協力等々人権や意志を無視したやり方を見て来た王子は、裏で傷ついた国民や兵士達に寄り添い反旗を翻すタイミングを見計らっていました。
恐らく魔法使いの女性も王子同様に以前から国民側として裏で手を引いていたと思われます。そして、このクーデターはクランちゃんとグレン君の保護までしっかりと視野に入れられており、外部にも漏らさぬよう慎重に計画を練られていた筈のものでした。
魔力提供したものとは又違いクランちゃん本体の強力な魔力は、王城内外のバリア等あらゆる動力源としても使用されてしまっており図らずしもクーデターを起こすには厄介なものとなってしまう為、一時的に城外に避難させる必要がありました。そこで警備が手薄になる内乱での混乱に乗じてグレン君が外の安全地帯に彼女を連れ出すという算段の筈でした。
--
一足…いや二足も早くクランちゃんの側近であった王国専属のメイドが王子や魔法使いの女性の規格外に動きクランちゃんを拘束します。
彼女はただのメイドではなく王国の為に戦闘要員として教育された暗殺者の一人でした。思うに彼女は事前に王子や魔法使いの女性の裏での行動に気付いており尚且つグレン君がクランちゃんを連れ出すという計画まで〝メイド〟として傍で聞き確実に王国側を勝利させる為敢えて大事にせぬように内に潜ませ、虎視眈々と様子を伺って来たのではないかと思います。
-
★解説では早い段階でメイドの正体は王国から手配された監視役と明かしていましたがクランちゃんやグレン君達が彼女の正体に気づくのは今この瞬間です。
-
さて確実に王国側を勝利させる条件ですが、それはクランちゃん…もとい、
無限魔力発生装置の主導権を王国側が絶対的に握り最大限に利用する事です。
これまでは魔法使いの女性との契約により大事に扱ってきましたが王国側から見たら今の彼女は裏切り者です。
よって契約は破棄と見なされ、クランちゃんを大事に且つ丁重に扱う理由も無くなりました。
逃げようとするクランちゃんの手をメイドは捕まえます。
当然そんな裏事情など知らずに十年間、彼女に信頼を置き剰(あまつさ)え家族のように慕っていたクランちゃんは酷くショックを受けます。
--
予定外の展開にグレン君も呆気に取られ、動揺している間にクランちゃんは王城内の他の部屋に攫われてしまいました。
今までと打って変わり問答無用という態度にグレン君も普段の冷静さを失い激昂し、それこそ同士討ち前提の死を覚悟しクランちゃんを死に物狂いで探します。
もしこれが王国の手により強化された人間同士の一対一の純粋な決闘ならグレン君にも勝算が見えたかも知れません。
しかし現状は内部戦争です。相手も無策な訳がありません。
ここにきて王国側からの新たなる刺客がグレン君とクランちゃんを絶望の淵に追いやります。
城内が混乱する渦中やっとの思いでグレン君がクランちゃんを探し当てた部屋には怯える彼女と一緒に最凶で最悪な暗殺者が血色の眼を揺らしながら尋常でない殺意と狂気を放って恨めしそうにグレン君を待ち構えていたのです。
--
この刺客とは一体何者なのか。まず、クランちゃんの側近であったメイドは王国に忠誠を誓う暗殺者の一人でした。要は彼女の他にも暗躍していた者達が存在していたのです。
その中でも現在グレン君と対峙している暗殺者の少女はタチが悪く、例えば暗殺者でありながらも世話係の兼任を担っていたメイドが持つような理性が崩壊しており殺しそのものを生業とする生粋の暗殺者です。そして国王以外に唯一、メイドが信頼する彼女の実の妹でもあります。
この暗殺者の少女はクランちゃんやグレン君と同じ年頃でありますが、元々の素質か暗殺者として育て上げられた過程でか価値観が酷く歪んでしまっており『自分を見てくれるから』ただそれだけの理由で暗殺を遂行してきました。
今回も例に漏れずグレン君が『見てくれるから』彼を殺そうとします。そこに最早もう内部戦争だとか暗殺任務だ等は塵程に関係ありません。
--
★補足
この間クランちゃんを暗殺者の妹側に任せて姉側のメイドは何処に行っていたのかと言いますと、国王の元へと助太刀しに行っていたのではないかと思います。クーデターが勃発している現状、命が一番危険に曝されているのは国王です。
この姉妹も出生はグレン君と同じく孤児であり特に姉のメイドの方は王国に拾われた恩義から強い忠誠心を持ち結果としてクランちゃん達と敵対しました。
しかし妹の方は精神が壊れてしまっており暗殺の理由である『見てくれるから』という物言いの仕方からして、国に恩義を感じる以前に幼さ故に愛情不足等々のストレスに心が耐え切れなかったのだと推測します。
因みに姉妹と表されていますが血の繋がりはありません。
二人の関係ですが、少なくとも姉の方は妹を大事にしている印象で壊れてしまった妹と同じ年頃であるクランちゃんの傍で仕えながら、同じく彼女らと同じ年頃であるグレン君と一緒に従者として働いていた日々の内心を思いますと複雑なものがあります。
因みに約十年間メイドとして触れ合ったクランちゃんの事は「嫌いでは無かった」ようで今回の王国側と国民側の対立が無ければ、もっと良好な関係が築けていたのかもしれない。
--
★補足2
今まで触れて来なかったクランちゃんの戦闘能力ですが無限に魔力を発生させれるものの、温室育ちであり恐らく王国側からの指示で万が一抵抗された際に厄介なので護身用の教育を受けていません。よって王国の動力源に使われる程の高い魔力を持っているにも関わらず戦闘能力は皆無です。
素質としては王城の防御壁代わりに使われていた防御魔法に特化しており、攻撃魔法より守護面に長けているようです。
しかし今回の件を考えますと王国側の判断は大正解だったようで実際にクランちゃんは戦闘場面においての自身の力の使い方が分からずグレン君を守る事が出来ませんでした。
これに関しては、先を見据えて指示した王国側がしたたかであったと言う他ありません。
--
視点を絶体絶命のグレン君とクランちゃんに戻します。
グレン君も傭兵として培われた経験や過酷な訓練を乗り越えて来ただけあり持ち前の身体能力を持ってして抵抗します。全ては囚われてしまったクランちゃんを救ける為。いま彼女を敵の手中に収めてしまったら、もう二度と会えなくなってしまう…そんな胸騒ぎがグレン君を焦燥に駆り立てます。
しかし相手は〝殺人〟に関して一流であり加えて精神が崩壊している為ブレーキが存在せず惨殺するまでグレン君に執着し続けます。例えクランちゃんが自分を犠牲にしグレン君を見逃すように叫んでも羽虫の鳴き声程にしか捉えない又は聞いてすら…はたまた聞こえてすらいないのです。
その結果、グレン君くんの必死の攻防は悲劇的で尚且つ最悪な結末として無念にも終わってしまいます。クランちゃんの目の前でグレン君の身体は鋭利な刃や黒魔術により深く刻まれ嬲られ満身創痍となりました。
死体よりも酷い有り様の瀕死状態で、まともに呼吸をする事すら出来ているのか分からない程に変わり果てたグレン君の姿にクランちゃんは遂には泣き崩れてしまいます。
その凄惨な光景は、誰がどう見ても逆転不可能な幕引きにしか見え無かったのです。しかし���
---
クランちゃんの泣き声を聞きグレン君は最期の力を振り絞り傷だらけの体で立ち上がります。
それとほぼ同時に魔法使いの女性が率いる一部の反乱軍がグレン君とクランちゃんを護るように部屋に突入し、反乱軍である国民と魔法使いの女性の決死の助力によってクランちゃんとグレン君は先述していた計画を組んでいた際に事前に用意されていた外の安全地帯へと送られたのです。
そして同時刻…クランちゃんとグレン君の逃亡劇の裏で、王城の玉座の前では国王は国の繁栄を、王子は民の意志を継いで、互いの思想と理想の為に親と子は剣を振り下ろしました。
---
安全地帯に送られ、文字通り命からがら城外に逃げる事が出来たクランちゃんとグレン君。クランちゃんは初めて出た外を不安げにきょろきょろと見渡します。足取りも覚束無いまま緊張の糸が切れ尻餅を着くクランちゃんの横で、どさりと重たい音がしました。グレン君が倒れたのです。
逃げる前グレン君は重症よりも酷い状態でした。その深手のまま敵に抗い痛みを感じる以上にクランちゃんを助ける事に必死でした。自分の命を犠牲にしてまでもクランちゃんに生き延びて、生き続けて、生きていて欲しいと。
--
二人を逃がす前に、魔法使いの女性から応急手当として回復魔法を受けていたと思われるグレン君ですが恐らく魔法使いの女性は回復魔法は専門外であり、専門の術者もその場におらず呼びに行くとしたら時間が掛かってしまい目の前の敵に隙が出来てしまう…そして、それ以前に暗殺者の黒魔術が蝕んでしまったグレン君の体や魂は、もう助からない段階まで症状が進んでしまっていたのだと思われます。
魔法使いはグレン君に眴せします。流石にグレン君を治療が行き届かない外に出す訳にはいきません。例えもう助からないとしても1%でも生存確率を上げるならばクランちゃんを一人で外に逃がし、そして暗殺者と今も尚対峙している為この場は危険な場所には変わりませんが医療班が来る望みがまだ有る分こちらにグレン君は残っているべきと…ですが
その真紅の瞳は近くまで来ている〝死〟への恐怖は微塵も感じさせず最期までクランちゃんを護りたい、傍にいたいという強い願いと従者としての誇りを、肌がひりつく程に感じさせました。
いずれの選択にせよグレン君が長く無いのは変わりません。ならば彼の意志を最大限に尊重するのが、せめてもの手向けになるのではないか…そうして魔法使いの女性は、それこそ断腸の思いでクランちゃんと共にグレン君を送り出しました。彼女にとっても王国により犠牲となってしまった国民である一人の少年を。そして大事な娘…そのような存在であるクランちゃんの、やっと出来た大切な友人を自身の目の前で救えなかったのですから…。
--
安全地帯にさえ来てしまえば、クランちゃんはもう大丈夫です。役目を終えグレン君は血塗れた瞼を穏やかに閉じて息絶えていました。従者として友として最期まで彼女の傍にいました。
グレン君の死にクランちゃんは酷く悲しみました。しかし、もう先程のようには泣き叫びませんでした。膝枕するようにグレン君の頭を乗せ、泣いていた時の余韻を残して少し赤く腫れてしまった瞳で何かを決意したようにグレン君の亡骸を見据えます。そして彼女の〝救けたい〟という純粋な想いと祈りは、潜在的に宿り眠り封じられた秘められし〝奇跡の力〟を覚醒させます。
--
二人を取り囲むようにして、周囲をクランちゃんの強い魔力が顕現した証である紅い薔薇が、まるで今から起こる出来事を祝福でもするかのように咲き乱れ華やかに舞い踊ります。
随分と遡った先述にて記させて頂いた通りクランちゃんの実態は人間ではなくどちらかと言うと天使に近い存在です。
そう、今まで鳴りを潜めていた天使としての力が覚醒したのです。そして運命に翻弄され続けた少女の無垢な祈りは無事に天へ届きました。
こうして意識を取り戻したグレン君の視界には宝石のような瞳に涙を一杯一杯に溜めたクランちゃんが映り、揶揄ってやろうとするも束の間に抱き締められ、傷に響くと小さく呻きつつも照れくさそうに抱き締め返すのでした。
---
天使の蘇生術を施された反動によりグレン君も人間ではなくなってしまいました。クランちゃんも以前のように人間の真似事のような歳の取り方を出来なくなってしまいます。しかし、そんな事は今の二人にとって、とてもとても些細な事でした。
その後の長い長い年月を、クランちゃんとグレン君は互いに手と手を取り支え合い二人は幸せに生きていくのでした。
---
ここからは補足と後日談。内紛は王子が率いる国民側が勝利し、研究施設諸々は取り壊され軍事の在り方についても一から見直していく事となりました。国民を踏み台として富や税を貪っていた一部の権力者達も総入れ替えを行い今度は国民に寄り添える王国を目指し今ここに若き王が誕生しました。
-
元国王の処罰そして処遇については王子自身が殺害での解決を望まない人柄に汲み取れた為、権力を剥奪した状態で王子側の兵士の監視下の元軟禁または国民が知る由も無い住居にて隠居させているのではないかと思います。後者の隠居の場合に関しては見つからない場所でないと恨みが収まらない国民が国王を手に掛けてしまう事が危惧出来るからです。
これに関しては元研究員達や元王国側の権力者達そして例の暗殺者であった姉妹達にも同じような処遇が下されたかと思います。もし更生が可能ならば数年後には贖罪という意味合いも込めて表で活動出来るよう手配をする事も考慮して。
但し人として余りにも許されない行為をしてしまっていたり、更生の余地や意思が無いようであれば再出発をした王国を脅かす脅威となる前に正当に処罰を降したと考えま���。
-
その後のクランちゃんとグレン君について。
隠居とはまた違いますが、復興中の王国内が落ち着くまで暫くは安全地帯での生活を余儀なくされます。とはいえ生活で必要な食料や衣料品等は、新しくなった国からほぼ毎日届いており特に不便や不自由なく暮らせる状態です。
落ち着きだした頃には魔法使いの女性も二人が人間ではなくなってしまった事情も知った上で変わらぬ様子で接し度々顔を出すようになります。まるで新婚さんのような二人を茶化す母親のように。
★
安全地帯に関してですが、恐らく特に危険な生物が生息していない森の中で目立たないながら赤い屋根の可愛いらしいお家が建っており、そこを王国内に戻るまで仮住まいにしていたのではないかと推測。もしかしたら、そのままそこに住み続けているのかも。小鳥のさえずりで起きてほしいし、クランちゃんには森の小動物と遊んでほしい。
----------
以上がクランちゃんとグレン君編でした!🌹🥀
クランちゃんの愛らしさも然る事ながらグレン君という一人の男の子の生き様と言いますか在り方が格好良すぎる…!!
因みに今後ルイ達と邂逅する時が来た場合、時系列的には逃亡後の二人と会うのが正解なのですが、お城…箱入り娘のお嬢様…と見せかけて実は囚われの身の女の子…グレン君との主従関係…イイよね…みたいな感じで🍓と話していて、んじゃあ逃亡前にするか〜と審議中だったり🌻
-
そうだ、せっかくなので…魔法使いの女性、クランちゃんのメイドであった暗殺者のお姉さん、そのお姉さんの実妹でグレン君を窮地に追いやったヤベー暗殺者の子は…実は…!
この🍓が販売中のスタンプにいます。(久々な突然の宣伝)
ちょうど三人で並んでらっしゃいました。左が魔法使いの女性、左中央が妹の方の暗殺者の子、右中央が姉の方の暗殺者の女性でメイドとしての姿、右が暗殺者としての姿です。
みんな可愛くて美人さんです!因みに🌻の推しは…春本の作者なので何となく察して頂けてそうですがヤベー妹の子。
でもって!なんと神様(左)と、オズウェルさん編で登場した全智の天使様(右)もスタンプの中にいるのだ〜!神々しい!
-
そんな感じで今回はここまで〜!次回はルイと花夜と春本編です!😼🦊🐰もしかしたらルイと花夜、次々回に春本という風に記事を分割するかもしれません。まだ未知数…!
今回…というより、まとめ記事を書く度🌻から🍓への愛の重さが尋常でなく露呈しだしており見ての通り沢山書いてしまった為、誤字脱字すごいかもしれません…!見つけ次第直していきます😱それでは!♪ (2021/09/22)🌻
9 notes
·
View notes
Photo
#nonbeyokocho street in #tateishi #tokyo . #立石 #呑んべ横丁 #消えゆく横丁 (呑んべい横丁) https://www.instagram.com/p/B0OD6RwATIy/?igshid=22dyj60e6dnr
0 notes
Text
【彼という男について】エク霊
モブサイのエク霊がすきです。
その勢いで去年の七夕にお話をちまちま書いていたのですが、見事力尽きてしまいました😂
もうちょうど一年過ぎましたので、供養の為に載せます。読みづらい😂 ブツ切りです。
◇◇◇
霊幻新隆という人間は、常識的な目で見れば、軽薄な男だった。
客に話す言葉には中身など無く、顔に笑顔を貼り付けて両手を揉むその手の中には心など勿論無い。歌うように人を騙し、嘘に嘘を重ねて人の輪を築いてきた。
それと同時に、中途半端な男でもあった。
例えば、詐欺師らしく金に貪欲かと思えば客から貰う報酬は微々たるものであったり。
人使いが荒い割には人の挙動の機微に目敏く気付いては、さり気無くフォローしたり。
他人は他人、自分は自分とはっきり線引きして距離をとっているように見せて、結局は冷たくなりきれなかったり。
いっそのこと本当の薄情モノになって仕舞えば良いのに。善性も自己嫌悪も持ち合わせてしまったばっかりに、難儀な生き物に成り果ててしまった馬鹿な人間。
軽く、薄い。吹けばあっさり飛んで行ってしまいそうな弱い人間だ。
そんな男のことを、悪霊はずっと見ていた。
いつの間にか、目が離せなくなってしまっていた。
これは、一人の馬鹿な人間に、知らぬ内に絆されてしまった悪霊の話である。
晴れた真昼の時分。
散歩に飽きたエクボは、気まぐれに相談所へ立ち寄ることにした。
締め切った窓からにゅるりと入ってみれば、事務所内は思った以上に賑やかだった。客の姿は無く、その代わりに来客用のソファに座っていたのは、この事務所の従業員である茂夫と芹沢だった。珍しいことに、茂夫の弟の律と、すっかり彼らの友人として馴染んだ輝気もいる。大の大人一人と男子中学生三人は、同じく来客用のテーブルを囲んでそれぞれハサミやスティックのりを持って和気藹々と何やら作業をしているようだった。
「なーにやってんだお前ら」
「エクボ」
取り憑き先である茂夫の顔の横へとフヨリと寄り、ハサミを持ったその手もとを覗き込む。水色の折り紙を、細長い短冊状に切り分けているところのようだ。
「笹飾りを作ってるんだよ」
「笹飾りぃ?」
「来週は七夕だからね。どうせなら皆で作ろうって、霊幻さんが」
そう言って愛想よく笑ったのは、茂夫の向かい側のソファで折り鶴を作っている輝気だった。不慣れな手つきでハサミを扱う茂夫とは逆に、こちらは随分と器用に折り紙を折っている。
ははぁ、確かについ先ほど散歩の途中で通りがかった商店街のアーケードも、色とりどりの派手な飾りで彩られていたなと思い出す。
もうそんな時期なのか。時間の概念から逸脱した存在だからか、はたまた暑さや寒さなどを感じることがないからなのか、エクボの中で季節の巡りとは甚だ遠い感覚のものだった。
ふと壁際のテレビ台の方へと目を遣ると、どこで調達したのか割と立派な笹がまで立て掛けられている。テーブルの上に花々しく散らばった折り紙といい、随分と本格的ではないか。
「エクボくんも作るかい?」
朗らかな空気で折り紙を差し出そうとする芹沢に「いや、俺様はいいわ」と丁重に断り、興味が失せたとばかりにそのまま彼らの元から離れる。
自然と霊体が向いた先は所長席、そこに座る霊幻新隆の元だった。
「お前さんにしちゃァ似合わねぇことするじゃねぇの」
「そうか? 世間様のイベントに乗っからないで、サービス業ができるかっての」
「よく言うぜ。ガキどもに面倒くせぇことやらせて自分だけサボってるくせによ」
「失敬な。これは、あれだ、ほら。情報収集ってやつだよ」
気の抜けた真顔でそれっぽくパソコンをカタカタしている霊幻だが、やっていることはただのネットサーフィンだ。
「暇なら願い事でも書いたらどうだ」
ほらよ、と渡されたのは黄色い紙だった。先ほど芹澤に差し出された折り紙よりも少し厚く、そして縦に細長い。
「なんだよ、こりゃァ」
「短冊だよ。なに、知らないのか?���
「見りゃ分かるわそんなモン! 俺様を誰だと思ってやがる!」
小馬鹿にしたように器用に目元だけで笑う霊幻にイラッとしてついその手から紙切れを毟り取るように受け取ってしまった。
短冊だというのは分かっている。エクボが聞いたのは白紙の面の反対側の面に印刷された文字のことだ。
「『霊とか相談所 〜七夕キャンペーン中! 短冊をお持ち頂いたお客様に限り相談料二割引!〜』」
「……商魂逞しいこって」
ふふん! とドヤ顔で人差し指を立てながら印刷された文章を空で読み上げる霊幻に、感心を通り越して呆れ果てた。
ちょっと前からDMとしてポケットティッシュと一緒に街でばら撒いていたらしい。これはそのあまりだそうだ。確かに世間様のイベントに乗っかってはいる。
「お前これ、毎年やってんのか?」
「いや、今年が初めてだ」
両腕をグッと上げて上半身を伸ばした霊幻は、そのままだらしなくデスクに頬杖をついた。
「ガキが増えたからな。たまにはそれっぽいことしても良いかなって」
そう言って茂夫たちを眺める霊幻に、どういう意味だと片眉を上げて一瞥をくれてから、悪霊もまた同じようにそこへ目を向ける。
オタオタと色紙にハサミを入れる茂夫と、兄の作るものを手離しで褒めながら紙の輪っかを連ねて輪飾りを作る律。笹飾りの作り方が載っているフリーペーパーと睨めっこしながら不器用に折り紙を折る芹沢と、隣からそんな彼にアドバイスをしてやりながら着々と手を進める器用な輝気。笹飾りなんて子どもの工作、超能力を使えばあっという間にできるだろうに。彼らは一人としてその力を使うことなく、わざわざ手間暇をかけて自分の手で作っている。その光景は、悪霊の目から見てもなかなかどうして楽しそうではないか。
「芹沢のやつ、茂夫らと変わんねぇくらいはしゃいでんな」
しょうがねぇやつ、と苦笑するエクボに、頬杖をついたまま霊幻が悪戯っぽい笑みを浮かべて見上げてくる。
「大人になっても子ども心を忘れないってのは、社会で生きていく上で大切なことなんだぞ、エクボくん」
「ハッ、よく言うぜ」
そうしている内に、粗方の下準備が終わったのだろう。出来上がったそれらの飾りを、わいのわいのとそれなりに盛り上がりながら笹の葉にくくりつける。それも終えると、次に茂夫たちがテーブルの上に用意したのは、長方形の用紙だった。カラーバリエーションこそ豊富だが、それはおそらく、つい先ほどエクボが霊幻から受け取った相談所の広告兼、割引クーポン兼、短冊と同じものだろう。
白紙の面を表にして、ペンを手に取り一様に願い事を書き始める。ただ七夕商戦に乗っかっただけのお遊戯の割には、中々本格的ではないか。
願い事何書く? 僕は……などと話し合いながら半ば真剣に短冊と向き合う子どもたち(と大人一人)の様子を見るに、中々楽しんでいるようだ。
ふと、斜め上から霊幻の顔を見下ろすと、あいも変わらずだらけた姿勢で傍観している。ただ、頬杖をついているその顔はやけに穏やかで、いつものひんやりと据えた目も今はすっかり成りを潜めて、温かな光さへも灯っているように見えた。言いようによっては、公園で遊ぶ子どもを見守る親のような、そんな優しい表情をしていた。
——ガキが増えたからな。たまにはそれっぽいことしても良いかなって。
ああなるほど、と。ようやく悪霊は、その意味を理解したのだった。
随分とまァ、遠回しな思いやりなことで。つくづく、器用なのか不器用なのかよく分からない人間である。
「霊幻師匠が、お願い事は『できますように』じゃなくって『できる』『なる』って断定して書いた方が良いって言ってた」
それぞれ何を書くかでワイワイと盛り上がる中、いつもより幾分か溌剌とした声で茂夫が言う。
「なるほど…目標設定か。自分に言い聞かせるように書くことで、より願いを成就しやすくするってことだね」
顎に手を添えて頷く輝気の横で、芹沢が心底感心したように「へぇ!」と目を輝かせる。
子どもたちの視線を受けた霊幻は、満更でもないという顔で「願いは叶えてもらうんじゃねぇ。自分で叶えるもんだからな」とドヤ顔で曰った。
芹沢がしみじみと息を吐く。
「さすが霊幻さん、考えることが大人だなぁ。俺なんて自分の願い事すらあまりピンとこないからなぁ」
「なにも無理に搾り出す必要はないさ。俺は社会の荒波の中で酸いも甘いも噛み分けてきた末にこの相談所を立ち上げたんだ。芹沢、お前もここで社会とは何かを学んでいけば、願い事なんてその内自然と湧いてくるだろ」
「……はい! 頑張ります」
��う精進しろよ、とより一層得意げに笑う詐欺師に、どの口が言ってんだか……と呆れる。特にやりたいこともなく何となくのノリでこんな胡散臭い仕事を始めたのはどこのどいつだ……等と色々頭の中でツッコミを入れるが、まぁ、余計なことは言わないに限る。空気の読める悪霊なのであった。
そんなエクボの内心に気づいたのか否か、不意に霊幻が「で?」と背もたれに背を預けながら水を向けてきた。
「酸いも甘いも経験しつくしてる悪霊のエクボくんは、短冊にどんなお願い事を書くのかな?」
「お前さんに君付けされると寒気すんな……」
願い事ねぇ……。短冊に目を落としてほんのちょっと考え、すぐにやめる。
「んな遊びに付き合ってやるほど俺様は暇じゃねぇんだ」
まるで興味ないとでも言うようにデスクにヒラリと紙切れを放ると、そのまま霊幻から離れる。
追求されても面倒だ。また適当に散歩でもするかと窓をすり抜けようとしたところで「なぁエクボ」となんでもない調子で呼び止められた。無視したって良いのに、ついつい振り向いてしまうのは最早性分だった。
「なんだよ」
「来週の火曜日空いてるか?」
訝しく構えるエクボに、霊幻は椅子を回して体ごと振り向くと、ニコリと毒の無い顔で笑った。
「俺とデートしようぜ」
「——はぁっ?」
◇
黒々とした木々がたっぷりと生い茂った夜の山の中、舗装された急勾配の道をレンタカーでひた登る。
ハンドルを握る霊幻の隣で、守衛の男の体を借りたエクボは盛大にため息をついた。
「……なにをトチ狂ったこと言い出したのかと思ったら、やっぱりこれだ」
「どうしたエクボ? 元気無ぇじゃねぇか」
「そりゃぁお前……散々下っ手クソなドライブに付き合わされた挙句、不味ィ低級霊なんざ腹一杯食わされたら、流石の俺様でも疲れるわ」
「中々体験できないデートだっただろ?」
「ただこき使われただけだろうが!」
依頼の手伝いなら最初から言え! くわっと目を吊り上げて噛み付くものの「その身体の人で怒鳴ると迫力あるなぁ」と呑気に笑われただけだった。このヤロウ…と思う気持ちをなんとか飲み込んで、エクボは助手席の背にぐったりともたれかかった。
◇◇◇
終わり😂
このあと廃れた立駐の最上階に車停めて二人で天の川を眺めます。
で、れーげん先生がなんか良い事言って、エクボがまんまと先生に惚れちまうっていうお話にするつもりだった😂
2 notes
·
View notes