#鈍穴流
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dryflower-forest · 2 years ago
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2023年5月4日
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 麦わら帽子を被って、最近買った青色アロハを着て、短パンにブーツで玉川上水沿いの林道を少し散歩。温かさを通り越して暑いくらいの陽射し。風も、五月の風も時折吹いていて、その度に飛んでいきそうな麦わら帽子を手で抑えた。飛ばされてしまえばよかっただろうか。どこへ?もちろんゴッホの夏へ。「君に握手を贈る」毎回決まって締めくくりにそう書かれていた彼の手紙。林道は木々の草々の、青空へと太陽へと伸ばされた夥しい緑の握手に覆われ仄かに薄暗く涼しく、地面へと落ちた木漏れ日を横ぎる揚羽蝶や紋白蝶の黒い影。ちょうど去年の今頃はドイツ人の作家シュナックが書いた「蝶の生活」という本を読み始めた頃で、様々な蝶の成虫幼虫の挿絵入りでその生態が博物学的に生物学的に紹介されているだけでなく、それぞれの蝶との彼の出会いや蝶を巡る幻想的な小説の章まである、蝶という生き物に対する虫網を持って野原を駆け巡るかつての少年そのままの純粋な愛と憧れと詩情に溢れたその本を鞄に入れて仕事の行き帰りや今日のような散歩の途中、時間を見つけては僕も蝶の影を追っていた、まるでシュナックの魂が乗り移ったかのように。
 ところで、「ゴッホの手紙」の中にも蝶が登場する。蝶ではなく蛾なのだけど、それは「死人の���という蛾」で、
昨日は、死人の顔という珍しい大蛾を写生してみた。その色彩は、黒、灰色、陰影のある白や反射光のある洋紅色、かすかだがオリーブ緑色に転じた色で、たいそう大きい。  それを描くため殺してしまわなければならなかった。それ程蛾は美しかったので惜しかった。ーー硲 伊之助 訳「ゴッホの手紙 下」よりーー
背中に人間の髑髏の模様があるその大きな蛾の彼の素描を見たとき、これはたぶん半ばゴッホの想像或いは幻想で描かれた蛾の絵なのだと思っていたのだけど、その同じ蛾をシュナックの「蝶の生活」の後半の蛾の章で発見して僕は驚愕した。「死人の顔という蛾」は実在していたのだ。それは髑髏面型雀蛾(ドクロメンガタスズメ)という。
この蛾は埋没してしまった古代の夜の世界の最後の目撃者である。その恐ろしい紋章によってこの蛾は人間たちに死を、今なお存在する黄泉の国を思い起こさせる。ーー岡田朝雄 訳 シュナック「蝶の生活」よりーー
 煙草を吸う。照明は天井に二つ埋め込まれている小さな電球色のLEDだけで薄暗い、小さな動物や昆虫をペットショップで買ったときに小さな動物や昆虫が入れられる二つの小さな空気穴が空いているだけの小箱のように薄暗い喫煙所で煙草を吸う。ぼんやりと浮かぶ闇の壁にもたれ掛かって煙草を吸う人の顔、その唇の先から指の煙草の先から流れる揺らめく煙は千変万化の軌道を描き、天井へ、まるであの天井の二つの円いLEDの光から出ていくように、地獄の底から見上げた高く高く厚い厚い天井に空いている小さな二つの出口、ここの住人には決して手の届かない小さな二つの出口、窓、裂け目、地上への出口へと流れていく煙かのように、煙を糸のように吐いて、その糸が吸い込まれていく、決してわたしを引き上げてはくれない、わたしが吐いた蜘蛛の糸の流れの先を見上げるわたしはきっと今ルドンの気球の眼をしている、重力を、わたしが重力に縛られた存在なのだと、私は重いのだと、つまりは地獄の底に居るのだと気が付かせてくれる、そんな喫煙所、でもね、地獄の底にも光るものがあって、それは二つの光源のちょうど真下に二つ置かれている灰皿、銀色に鈍く光る灰皿、水の張られた皿を円く囲って覆う銀の蓋が鈍く光っている、大概は捨てられた煙草と煙草の灰の山に埋まっているその二つの目玉と瞳、だけど、たまに掃除の人が来ることがあって、そのときは捨てられた煙草���煙草の灰も綺麗に除けられて、だから銀色の眼球の真ん中に張られた水が二つの瞳のように浮かぶ、でも、その二つのお皿は煙草の脂や錆で焦げ茶や黒茶や赤茶や朽ち葉色に染まっているから、その二つの瞳は冬の池の底、その秋に散ったたくさんの落ち葉が静かに安らかに沈み込んでいる冬の池のようで、電球色のLEDに照らされて琥珀色に輝き微かに揺らめくその瞳は穏やかな午後の陽が射し込む冬の池の底のようで、髑髏面型雀蛾の羽根、身体の色合いはちょうどそんな色をしている。わたしの部屋が、今も少しだけ置かれているけど、百花繚乱のドライフラワーに埋め尽くされたら、きっと真夜中に窓を叩いて飛んで来るだろう、髑髏面型雀蛾。しかしそのとき彼が背中に乗せて持って来るのはいったい誰の骸骨だろう?それはきっとわたし自身の骸骨だ。ゴッホはあの蛾の背中に彼自身の骸骨を見たのだ。もう彼は居なかった。それからしばらくして彼は死んだ。でも、もう既に彼は居なかった。最後の方に描かれている彼の絵はまるで煙で描かれているようだった。彼は死んで、煙になってその煙が彼自身の最期、骸骨を見ていた。わたしもその蛾を見たときにはもう居ないのだろう。真夜中に窓を叩く風。わたしの居ないドライフラワーが咲き乱れたわたしの部屋の中を気ままに優雅に不思議そうに舞う髑髏面型雀蛾。
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わたしは わたしの居ない わたしの部屋で暮らしたい かつてそうだったように わたしは わたしの居ない わたしの世界を見てみたい かつてそうだったように
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kachoushi · 2 years ago
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各地句会報
花鳥誌 令和5年5月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年2月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特���句
厨女��慣れたる手付き雪掻す 由季子 闇夜中裏声しきり猫の恋 喜代子 節分や内なる鬼にひそむ角 さとみ 如月の雨に煙りし寺の塔 都 風花やこの晴天の何処より 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
暗闇坂のチャペルの春は明日あたり きみよ 長すぎるエスカレーター早春へ 久 立春の市の算盤振つてみる 要 冬帝と暗闇坂にすれ違ふ きみよ 伊達者のくさめ名残りや南部坂 眞理子 慶應の先生眠る山笑ふ いづみ 豆源の窓より立春の煙 和子 供華白く女優へ二月礼者かな 小鳥 古雛の見てゐる骨董市の空 順子 古雛のあの子の部屋へ貰はれし 久
岡田順子選 特選句
暗闇坂のチャペルの春は明日あたり きみよ 冬帝と暗闇坂にすれ違ふ 同 大銀杏八百回の立春へ 俊樹 豆源の春の売子が忽と消え 同 コート脱ぐ八咫鏡に参る美女 きみよ おはん来よ暗闇坂の春を舞ひ 俊樹 雲逝くや芽ばり柳を繰りながら 光子 立春の蓬髪となる大銀杏 俊樹 立春の皺の手に売るくわりんたう 同 公孫樹寒まだ去らずとのたまへり 軽象
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
敬􄼲な信徒にあらず寒椿 美穂 梅ふふむ野面積む端に摩天楼 睦子 黄泉比良坂毬唄とほく谺して 同 下萌や大志ふくらむ黒鞄 朝子 觔斗雲睦月の空に呼ばれたる 美穂 鼻歌に二つ目を割り寒卵 かおり 三􄼹路のマネキン春を手招きて 同 黄金の国ジパングの寒卵 愛 潮流の狂ひや鯨吼ゆる夜は 睦子 お多福の上目づかひや春の空 成子 心底の鬼知りつつの追儺かな 勝利
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月6日・7日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
潮騒を春呼ぶ音と聞いてをり かづを 水仙の香り背負うて海女帰る 同 海荒るるとも水仙の香の高し 同 坪庭の十尺灯篭日脚伸ぶ 清女 春光の中神島も丹の橋も 同 待春の心深雪に埋もりて 和子 扁額の文字読めずして春の宿 同 砂浜に貝を拾ふや雪のひま 千加江 村の春小舟ふはりと揺れてをり 同 白息に朝の公園横切れり 匠 風花や何を告げんと頰に触る 笑子 枝川やさざ波に陽の冴返る 啓子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月8日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
���を踏む音を友とし道一人 あけみ 蠟梅の咲き鈍色の雲去りぬ みえこ 除雪車を見守る警備真夜の笛 同 雪掻きの我にエールや鳥の声 紀子 握り飯ぱりりと海苔の香を立て 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
東風に振る竿は灯台より高く 美智子 月冴ゆる其処此処軋む母の家 都 幽やかな烏鷺の石音冴ゆる夜 宇太郎 老いの手に音立て笑ふ浅蜊かな 悦子 鎧着る母のコートを着る度に 佐代子 老いし身や明日なき如く雪を掻く すみ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
朝光や寺苑に生るる蕗の薹 幸風 大屋根の雪解雫のリズム良き 秋尚 春菊の箱で積まれて旬となる 恭子 今朝晴れて丹沢颪の雪解風 亜栄子 眩しさを散らし公魚宙を舞ふ 幸子 流れゆくおもひで重く雪解川 ゆう子 年尾句碑句帳に挟む雪解音 三無 クロッカス影を短く咲き揃ふ 秋尚 あちらにも野焼く漢の影法師 白陶 公魚や釣り糸細く夜蒼し ゆう子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
犬ふぐり大地に笑みをこぼしけり 三無 春浅しワンマン列車軋む音 のりこ 蝋梅の香りに溺れ車椅子 三無 寒の海夕赤々漁終る ことこ 陽が風を連れ耀ける春の宮 貴薫 青空へ枝混み合へる濃紅梅 秋尚 土塊に春日からめて庭手入 三無 夕東風や友の消息届きけり 迪子 ひと雨のひと粒ごとに余寒あり 貴薫
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
浅春の眠りのうつつ出湯泊り 時江 老いたれば屈託もあり毛糸編む 昭子 落としたる画鋲を探す寒灯下 ミチ子 春の雪相聞歌碑の黙続く 時江 顔剃りて少し別嬪初詣 さよ子 日脚伸ぶ下校チャイムののんびりと みす枝 雪解急竹はね返る音響く 同 寒さにも噂にも耐へこれ衆生 さよ子 蕗の薹刻めば厨野の香り みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月14日 萩花鳥会
水甕の薄氷やぶり野草の芽 祐子 わが身共老いたる鬼をなほ追儺 健雄 嗚呼自由冬晴れ青く空広く 俊文 春の園散り散り走る孫四人 ゆかり 集まりて薄氷つつき子ら遊ぶ 恒雄 山々の眠り起こせし野焼きかな 明子 鬼やらひじやんけんで勝つ福の面 美惠子
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令和5年2月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
吹雪く日の杣���隠す道標 ��詩明 恋猫の闇もろともに戦かな 千加江 鷺一羽曲線残し飛び立てり 同 はたと止む今日の吹雪の潔し 昭子 アルバムに中子師の笑み冬の蝶 淳子 寒鯉の橋下にゆらり緋を流す 笑子 雪景色途切れて暗し三国線 和子 はよしねまがつこにおくれる冬の朝 隆司 耳目塗り潰せし如く冬籠 雪 卍字ケ辻に迷ひはせぬか雪女 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
指先に一つ剥ぎたる蜜柑の香 雪 大寒に入りたる水を諾ひぬ 同 金色の南無観世音大冬木 同 産土に響くかしは手春寒し かづを 春の雷森羅万象𠮟咤して 同 玻璃越しに九頭竜よりの隙間風 同 気まぐれな風花降つてすぐ止みて やす香 寒紅や見目安らかに不帰の人 嘉和 波音が好きで飛沫好き崖水仙 みす枝 音待てるポストに寒の戻りかな 清女 女正月昔藪入り嫁の里 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月17日 さきたま花鳥会 坊城俊樹選 特選句
奥つ城に冬の遺書めく斑雪 月惑 顔隠す一夜限りの雪女郎 八草 民衆の叫びに似たる辛夷の芽 ふじほ 猫の恋昼は静かに睨み合ひ みのり 薄氷に餓鬼大将の指の穴 月惑 無人駅青女の俘虜とされしまま 良江 怒号上げ村に討ち入る雪解川 とし江 凍土を突く走り根の筋張りて 紀花 焼藷屋鎮守の森の定位置に 八草 爺の膝捨てて疾駆の恋の猫 良江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
古玻璃の奥に設ふ古雛 久 笏も扇も失せし雛の澄まし顔 眞理子 日矢さして金縷梅の縒りほどけさう 芙佐子 梅東風やあやつり人形眠る箱 千種 春風に槻は空へ細くほそく ます江 山茱萸の花透く雲の疾さかな 要 貝殻の雛の片目閉ぢてをり 久 古雛髪のほつれも雅なる 三無 ぽつねんと裸電球雛調度 要
栗林圭魚選 特選句
紅梅の枝垂れ白髪乱さるる 炳子 梅園の幹玄々と下萌ゆる 要 濃紅梅妖しきばかりかの子の忌 眞理子 貝殻の雛の片目閉ぢてをり 久 古雛髪のほつれも雅なる 三無 老梅忌枝ぶり確と臥龍梅 眞理子 山茱萸の空の広さにほどけゆく 月惑 八橋に水恋うてをり猫柳 芙佐子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
師を背負ひ走りし人も雪籠 雪 裏庭開く枝折戸冬桜 同 天帝の性こもごもの二月かな 同 適当に返事してゐる日向ぼこ 一涓 継体の慈愛の御ん目雪の果 同 風花のはげしく風に遊ぶ日よ 洋子 薄氷を踏めば大空割れにけり みす枝 春一番古色の帽子飛ばしけり 昭上嶋子 鉤穴の古墳の型の凍てゆるむ 世詩明 人の来て障子の内に隠しけり 同 春炬燵素足の人に触れざりし 同 女正月集ふ妻らを嫁と呼ぶ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
能舞台昏きに満ちて花を待つ 光子 バス停にシスターとゐてあたたかし 要 空に雲なくて白梅すきとほる 和子 忘れられさうな径の梅紅し 順子 靖国の残る寒さを踏む長靴 和子 孕み猫ゆつくり進む憲兵碑 幸風 石鹸玉ゆく靖国の青き空 緋路 蒼天へ春のぼりゆく大鳥居 はるか
岡田順子選 特選句
能舞台昏きに満ちて春を待つ 光子 直立の衛士へ梅が香及びけり 同 さへづりや鉄のひかりの十字架へ 同 春の日を溜め人を待つベンチかな 秋尚 春風や鳥居の中の鳥居へと 月惑 料峭や薄刃も入らぬ城の門 昌文 梅香る昼三日月のあえかなり 眞理子 春陽とは街の色して乙女らへ 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年2月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
ポケットの余寒に指を揉んでをり 勝利 黒真珠肌にふれたる余寒かな 美穂 角のなき石にかくれて猫の恋 朝子 恋仲を知らん顔して猫柳 勝利 杖の手に地球の鼓動下萌ゆる 朝子 シャラシャラとタンバリン佐保姫の衣ずれ ひとみ 蛇穴を出て今生の闇を知る 喜和 鷗外のラテン語冴ゆる自伝かな 睦古賀子 砲二門転がる砦凍返る 勝利 小突かれて鳥と屋や に採りし日寒卵 志津子 春一番歳時記の序を捲らしむ 愛
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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potatomahawk · 2 years ago
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こんにちは!ぽてまほです!
今回の新曲は、「Chronosmalt」です!
曲名について
人類最古のコバルト顔料であるスマルトと、クロノスタシスを掛け合わせた名前です。
楽曲のイメージとしては、人類が生まれる前に造られた青色の不思議な(壊れた)懐中時計です!
クロノスタシスという、一瞬だけ時が止まって見える現象をテーマにしています。なので、本楽曲ではリズムを予測すると「あれ?」と違和感を覚えるような、そんな変拍子に仕上げました!
拍子を羅列していきますと……
11/8、7/4、4/4、15/8、4/4、15/8、4/4、15/8、4/4、5/4(サビ)、3/4、11/8です。
はい、意味がわかりません。
できる限り四拍子を装いながらめちゃくちゃしてます。
人によっては、リズムが歪すぎて拒否反応が出てくるかもしれません。その際は申し訳ありません……
でもでも、新たなことに挑戦できたことは、とっても嬉しく思っていますよ!!
BPMは190。早い部類に入るBPMです。
BPMは最後まで悩みました。変拍子である性質上、ほんの少し早いと曲の展開に追いつけなくなりますし、ほんの少し遅いと変拍子の不思議な拍を感じさせられて、強烈な違和感に襲われます。本楽曲のBPMは1ズレるだけで別曲なのです。
アートワークに関しまして
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絵本の中のような世界観を目指しました!どうでしょうか?
「スマルト」を表現した青色、「クロノ」を表現した懐中時計、「クロノスタシス」を表現した時計の針です。
キツネのような生き物は……後述する物語に登場します。
というのも、誤魔化しに誤魔化しを重ねた妥協の1枚なんですけどね……
オーバーレイやガウスぼかしなど、絵心がなくてもそれっぽくなるものを詰めてます。
絵を芯から描ける人はほんと尊敬ですよ……
背景にある物語について
はい、本楽曲にはストーリーがついています。
というか、ストーリーからこの楽曲を制作したのです。
私には短い物語のストックがたくさんありまして……
そのストックの中から選んだ物語をイメージして楽曲を制作。こうするとすごく捗るんですよね!
ちなみに、3081文字あります。完全に暇な人向けなので、お時間に余裕が無い方はここでブラウザバックしてくださいね!
また、よくある恋愛物語です。人を選ぶジャンルなので、不快感を感じる方は絶対見ない方が良いですよ!!拙い作品ですからね!!
幼稚な文章でラブラブしてる様子なんて誰得って感じですよね
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!
Chronosmalt
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『おはようございます』
「……あんたね」
『なんですか。不満ですか?』
「不満よ。最近居なくなったと思ったら、急にふらっと出て来て」
『……僕達って恋人同士のキツネですよね?嫌いになっちゃいました?』
「好きだから一緒に居て欲しかったのッ!!」
『あはは……すみません。』
「それで?今日はなんで来てくれたの?」
『…… ……』
『あなたに会いたかった。それ以外の理由が必要ですか?』
「っ……!そんなセリフ、柄じゃないでしょうがっ!」
『あははっ。
今日はあなたに、僕の宝物を託しに来たのです。』
「宝物?」
『ええ。と言っても、ただの拾い物ですけどね』
ジャラッ……
「なによ?これ」
『森の鳥さん曰く、懐中時計というものらしいです』
『その中の針は、現在の時刻を示しているそうですが、壊れているようで、正確な時間は指されていません。』
「こんな青色のガラクタ押し付けて、どういうつもり?」
『…… ……』
『これから僕は、少しだけ旅に出ます。その間、この懐中時計を通して、私のことを思い返してくれたらなと。』
「旅っ!?ど、どこへ行くの!?私も一緒に……」
『あなたは、ここにいてください。』
『僕が旅に出る理由は、後にあなたにも分かります。
ただ、僕を信じて、送り出して欲しいのです。』
「……今日のあんた、すごく変だよ。」
『はは……いつも通りですよ。』
「分かった。行ってらっしゃい。
巣や他の動物たちのことは私に任せて。
すぐに帰って来るんでしょ?」
『…… ありがとうございます。』
…… ……
『もう、行きますね』
「うん」
…… …… ……
な、なによあいつ……少し寂しそうな顔をして……
急な話をされたこっちの方が準備できてないのに……!
…… ……
あれから、彼は帰って来ることはなかった。
私より素敵な牝狐(めぎつね)でも見つけたの?
それとも、私のことが、嫌いになったの?
取り残された私は、心にぽっかり穴が空いていた。
なによあいつっ!旅に出た理由は「後にあなたにも分かります」だって!?
残されたものの気持ち、なんにも考えられてないじゃない!
〝き、キ��ネさん!やっと見つけた!
ちょっとこっちに来て!〟
「え……鳥さん?どうしたの?」
〝来れば分かるからっ!〟
……?
なぜか寒気がした。
鳥さんは木の上まで私を誘導したけれど、
キツネに木登りさせてまで、見せたいものって?
そして、その寒気の正体は、すぐに分かった。
「あ……あんた……!?」
そこに居たのは、寂しそうな表情をした……
変わり果てた彼の姿だった。
〝僕が来た時にはもう……〟
「な、なんで……!?だって……だって……!
旅に出たんじゃなかったのっ!?」
…… …… ……
〝多分……多分だけどね〟
〝僕が彼に懐中時計の説明してた時、とても体調を悪そうにしてたんだ。だから……〟
〝彼は、自身の命が、もう長くないことを既に悟ってたんじゃないかな……?〟
…… ……!
そ、そういえば……彼が旅に出る前までしばらく会いに来てくれなかったのは、病でそれどころじゃなかったから……!?
〝ほら、僕もそうだけどさ。野生の動物は基本、自身が弱っていることを天敵に悟られないように立ち振る舞うでしょ?
それはもちろん、君たちキツネに関しても例外ではないと思うんだ〟
「だ、だからって……!私に死期を悟られないために取り繕ったとでも……!?」
…… ……
なによ……あいつ。旅に出た理由は「後にあなたにも分かります」だって……?
遺されたものの気持ち、なんにも考えられてないじゃない。
しかも、死に様を晒したくないからって、こんな辺鄙な木の上まで登って。
本当に……
「本当に……」
そ、そうだ。彼が遺した、懐中時計は……!
パカッ
…… ……
どうやって読むのかは分からないけれど……針はまだ動いてる。
…… ……
せめて……この針が巻き戻ってくれたら……
あいつに……最後の言葉をかけてやれたのかな……
……
戻りたい。
……
「戻りたいよ」
「あいつが旅立つ前にっ……!!!」
ピカッ……!
「きゃあっ!?な、なにっ!?」
懐中時計が、鈍く、青く輝き出した。
「ま、眩しっ……!!」
強烈な光を前に、私は反射的に瞼を閉じた。
そして、しばらくしてから目を開くと……
「あ、あれ……?」
私の巣だ。さっきまで木の上に居たはずじゃ……。
「……あっ!懐中時計は!?」
どこにもない。あれが唯一の形見だったのに……!
……グスッ
なにもかもが、上手く行かない。
どうして……
『おはようございます』
「っ……え……?」
そこに、死んだはずの彼が来た。
……懐中時計を携えて。
『なんですか。その反応は……』
「あ、あんた……死んだはずじゃ……!」
『な、どうして死んだことになってるんですか……?僕達、恋人同士ですよね?嫌いになっちゃいました?』
…… ……
どうやら、時が巻き戻されたらしい。
彼が、旅立つ前まで。
…… ……
ガバッ
『えっ!?ちょっと!?急に抱きついて……
そ、そんなに寂しかったんですか……!?』
「当たり前でしょ……!!」
『な、なんだか、今日のあなたは、おかしいですよ』
…… ……
……
「旅に出るんでしょ?」
『えっ……』
「もうすぐ死ぬかもしれないから……
私の目の届かぬ場所で、死のうとしてたんでしょ……」
『っ!?ど、どうしてそのことをっ……!』
…… ……
「お願い。最後ぐらいは、一緒に過ごさせて」
『…… ……』
その時、彼はなにかを察した様子で、不思議な笑みを浮かべた。
『あなたに隠し事はできないようですね』
『その通りです。痛いなんて言葉で形容できるものじゃないぐらい苦しくて……意識が飛びそうなんです。
今も、無理やり笑顔を作って、会話をするので精一杯なんですよ』
「知ってるよ。抱きついてると……とても震えてるのが、よく伝わってるから」
『ははは……そんな顔をしないでください。僕はずっと、ここにいますから』
「……本当に?」
『ええ。最後のその時まで、こうしていましょう……』
…… …… ……
…… ……
……
彼の身体の震えが静かに止まった。
それは、彼の体内時計が止まった合図だった。
「さよなら……」
彼は、優しい表情で、動かなくなっていた。
そんな彼を、優しく撫で��。
…… …… ……
…… ……
それからしばらく月日は流れた。
私はやっぱり彼の温もりを忘れられなくて……
遺された懐中時計に、また願ってしまう。
時を、戻してくださいと。
きっと彼は、この懐中時計の不思議な力について、知っていたんだと思う。
だから私に託したんだ。
もう、ずっと過去に囚われ続けても良い。
もう、ずっと未来を歩めなくなったとしても良い。
…… ……
また、彼に会えるのなら。
こんな懐中時計を渡してくるなんて、全くもって罪深い……
……おかげで、私は……
この懐中時計に依存してしまった。
残酷にも、涙の色が染み込んだ青い懐中時計は、何度でも応え、何度でも時を巻き戻す。
『おはようございます』
「……あんたね」
『なんですか。不満ですか?』
━━━━━━━━━━━━━━━
いかがでしたでしょうか?
Bingさんには爆褒めされましたが、お世辞説が濃厚ですね。やっぱり拙い……
ですが、この物語のシーンを楽曲にたくさん落とし込んでいるので、それを気にしながら聴いてくださるととっても嬉しいです!!
ここまで長い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!
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iseilio-blog · 2 years ago
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個人 的 體驗
新潮文庫 1958發表 時年 23歲
大江健三郎 - 維基百科,自由的百科全書 (wikipedia.org)
鳥(15歲時被取的渾名),看著被擺在陳列櫃裡,如同野生的
鹿一般,昂然而優雅的非洲地圖,透漏出了小小抑制住的嘆息。
穿著制服的書店店員們沒去注意到 鳥 的嘆息。夜幕漸深,從
覆蓋地表的大氣,如同死去的巨人體溫一般,初夏的熱氣已經
是完全脫落的時候。任誰都會無意識的從皮膚留存的記憶,在
薄暗之中洩漏著曖昧的嘆息。六月、下午六時半,街道上已經
沒有人流汗。然而,鳥 的妻子裸體的躺在橡膠布上,如���被擊落
的雉雞,眼睛僵硬的閉著,整個身體的汗穴滲出數目龐大的汗粒,
呻吟著疼痛、不安與期待。
非洲大陸 像是趴著的男人頭蓋骨。地圖下方顯示的人口分佈
就像已經開始腐蝕的死亡非洲的頭,顯示交通關係的地方
就像剝去皮膚的非洲的毛細血管,完整呈現著受了傷的頭部。
「鳥,你不是在當誰是弱者的重要時刻就會背棄他嗎?你背棄
了 菊比古 這個朋友了吧?」妻子一說,如同看著鳥的反應,
大大的張著疲倦而遲鈍的眼。
菊比古 啊;菊比古 是 鳥 在地方都市當不良少年時候的年少
友人。他們要找出一個從精神病院逃走的瘋子。鳥 從街道的
人們聽來的關於瘋子的傳聞,沉迷於那個瘋子的性格,一直
熱心的尋找著這個把現實的世界當成地獄的瘋子。為了尋找,
他們在天一亮就放出醫院的警犬,如此一���,瘋子或許就因為
恐怖而嚇死吧。
是秋末的時分,鳥 向腦外科主任打過招呼,告辭出來,在
嬰兒室圍著抱著嬰兒的妻子的丈人與丈母娘一面微笑著。
「恭喜啊,鳥,跟你有像。」丈人說著。
「是啊。」鳥 低調的說著。嬰兒在手術後一個星期就好了很多。
「借出了 X光照片,回到家給你們看。頭蓋骨有破損,直徑就
幾個 mini 的程度,說是漸漸的在合攏。腦 其實並沒有外露
,只是肉瘤。說是瘤切開之後有兩個乒乓球大小的白色硬塊。」
「手術成功,太好了」打斷 鳥 的饒舌,丈人切入說著;幽默
的丈母娘說:「鳥,你就像一頭獅子般的勇敢。」
「你真的很勇敢的正面接受了這次的不幸」教授說到。
「要怎麼說呢;其實我一直想逃。」鳥 不自覺的修正了怨嘆的
聲音說著, 「不過活在現實生活中,結果正常的生存著卻被
強制了。就算是掉入了欺瞞的陷阱,終究是要抗拒的;差不多
就這個感覺。」
「一樣可以過現實的生活的,鳥。也是有人像青蛙一樣,從
欺瞞,跳至另一個欺瞞,一直跳到死為止。」教授說。
「嬰兒也有可能正常的養育,卻是也同時養育了 IQ 很低的
孩子。我必需為了孩子的未來努力工作。當然也沒去要教授幫
我找新工作的想法。打算切斷去當得以向上奮發的補習班或
大學講師的緣份。也許去當外國觀光客的導遊。也或許請個
在地的導遊,去非洲旅行。」
──
大江健三郎『個人的な体験』の解説とか感想とか - かるあ学習帳 (hatenablog.com)
一般的說,去翻譯一本書,無論多麼具有可讀性,都盡可能
不去嘗試。耐性不足之外,也覺得必要性不大 - 自己簡單讀
一讀就好。(無所事事,還是翻了不少。笑 )只是往往讀到
一些喜歡的文字,不免就手癢。這篇也是一樣;變通一下,
翻個段落,再簡單轉貼一下作者的��言,應該就可以足夠。
- 剛發現,李永熾 早就翻過了。
初生兒 腦部異常的父親,在兒子接受手術之後依舊無法正常
的狀態,整個人生陷入了愁雲慘霧無法自解的絕望。
大江曾一度至江之島試圖赴水而死,但對於自己如因逃避現實
而自殺實為愧對社會及妻子,因此更為奮發,種種思維影響了
他之後的作品,其子則被命名為「光」。
「個人的體驗 是個充滿苦澀經驗的作品,卻也讓我抱持了不可
思議的感覺,或許這本青春的小說,給我帶來了根本的 淨化
作用 的力量。」
大江健三郎|第二位日本諾貝爾文學獎得主 傷害苦難及後來的痊癒 (hk01.com)
大江光的《夜のカプリース》:
原文網址 : 大江健三郎|第二位日本諾貝爾文學獎得主 傷害
苦難及後來的痊癒 | 香港01
大江光 ふたたび 夜のカプリーズ.mov - YouTube
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王溢嘉《人生沒有最好,不錯就好》:大江健三郎因靈魂的不斷拷問,勇敢承擔起做為一個父親的責任 - 第 1 頁 - The News Lens 關鍵評論網
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harvardwang · 1 month ago
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汪建民
H:汪建民10月7日病逝「萬般皆是命,半點不由人。」「天命難違,活在當下。」人生瀟灑走一回!20241008W2
汪建民
網路報導
男星汪建民罹患「肺腺癌4期」,今(2024年10月8日)日遭家屬證實2024年10月7日病逝,享年56歲。事實上,汪建民上月才因病危,送進ICU加護病房搶救,癌細胞擴散頸椎,電療65次,讓他崩潰求死「拜託帶走……。」
「求求老天把我帶走」
妹妹2024年10月8日中午透過其臉書證實汪建民過世:「建民哥於10/7晚間離開了我們,很謝謝最後這段時間幫忙的朋友們,包含所有細心照顧的醫療人員、社工朋友。」
汪建民(1968年1月23日—2024年10月7日)[1],臺灣男藝人。知名於演出單元劇《台灣靈異事件》。
總覽
出生資訊
1968年1月23日
台灣
逝世
2024年10月7日
臺北新光醫療財團法人新光吳火獅紀念醫院
汪建民,臺灣男藝人。知名於演出單元劇《台灣靈異事件》。 維基百科
汪建民肺腺癌逝!醫示警8症狀「常被誤認感冒」 75%發現已晚期
出生資訊: 1968 年 1 月 23 日,台灣
逝世: 2024 年 10 月 7 日,臺北新光醫療財團法人新光吳火獅紀念醫院
身高: 181 公分
代表作品: 台灣靈異事件
出道地點: 臺灣
活躍年代: 1993年-2024年
網路字典
萬般皆是命,半點不由人。
(諺語)人生的際遇皆由命運安排,絲毫不能自主。《警世通言.卷一七.鈍秀才一朝交泰》:「其年正是三十二歲,交逢好運,正應張鐵品先生推算之語。可見:萬般皆是命,半點不由人。」
維基文庫
警世通言第十七卷
维基 -> 警世通言 -> 第十七卷钝秀才一朝交泰
《第十七卷钝秀才一朝交泰》[查看正文] [修改] [查看历史]
1 
蒙正窑中怨气,买臣担上书声。文夫失意惹人轻,才入荣华称庆。红日偶然阴臀,黄河尚有澄清。浮云眼底总难凭,牢把脚跟立定。2 
这首《西江月》,大概说人穷通有时,固不可以一时之得意,而自夸其能;亦不可以…对之失意,而自坠其志。唐朝甘露年间,有个王涯丞相,官居一品,权压百僚,憧仆乾数,日食万钱,说不尽荣华富贵。其府第厨房与一僧寺相邻。每日厨房中涤锅净碗之水,倾向沟中,其水从僧寺中流出。一日寺中老僧出行,偶见沟中流水中有白物,大如雪片,小如玉屑。近前观看,乃是上白米饭,王丞相厨下锅里碗里洗刷下来的。长老合掌念声:「阿弥陀佛,罪过,罪过!」随口吟序一首:3 
春时耕种夏时耘,粒粒颗颗费力勤;4 
春丢细糠如剖玉,炊成香饭似堆银。5 
��餐饱食无馀事,一口饥时可疗贫。6 
堪叹沟中狼藉贱,可怜天下有穷人!7 
长老吟诗已罢,随唤人工道人,将笊篱笊起沟内残饭,向清水河中涤去污泥,摊于筛内,日色晒乾,用磁缸收贮,且看几时满得一缸。不够三四个月,其缸已满。两年之内,并积得六大缸有馀。8 
那王涯丞相只道千年富贵,万代奢华。谁知乐极生悲,一朝触犯了朝廷,阎门待勘,未知生死。其时宾客散尽,憧仆逃亡,仓廪尽为仇家所夺。王丞相至亲二十三口,十尽粮绝,担饥忍饿,啼哭之声,闻于邻寺。长老听得,心怀不忍。只是一墙之隔,除非穴墙可以相通。长者将缸内所积饭乾浸软,蒸而馈之。工涯丞相吃罢,甚以为美。遣婢于间老僧,他出家之人,何以有此精食?老僧道:「此非贫僧家常之饭,乃府上涤釜洗碗之馀,流出沟中,贫僧可惜有用之物,弃之无用;将清水洗尽,日色晒乾,留为荒年贫丐之食。今日谁知仍济了尊府之急。正是一饮一啄,莫非前定。」王涯丞相听罢,叹道:「我平昔吴殄天物如此,安得不败?今日之祸,必然不免。」其夜遂伏毒而死。当初富贵时节,怎知道有今日!正是:贫贱常思富贵,富贵又履危机。此乃福过灾生,自取其咎。假如今人贫贱之时,那知后日富贵?即如荣华之日,岂信后来苦楚?如今在下再说个先忧后乐的故事。列位看官们,内中倘有胯下忍辱的韩信,妻不下机的苏秦,听在下说这段评话,各人回去硬挺著头颈过日,以待时来,不要先坠了志气。有诗四句:9 
秋风衰草定逢春,尺蟀泥中也会伸。10 
画虎不成君莫笑,安排牙爪始惊人。11 
话说国朝天顺年间,福建延乎府将乐县,有个宦家,姓马,名万群,官拜吏科给事中。因论太监王振专权误国,削籍为民。夫人早丧,单生一子,名曰马任,表字德称。十二岁游产,聪明饱学。说起他聪明,就如颜子渊闻一知十。论起他饱学,就如虞世南五车腹筒。真个文章盖世,名誉过人。马给享爱惜如良金美玉,自不必言。里中那些富家儿郎,一来为他是簧门的贵公子,二来道他经解之才,早晚飞黄腾达,无不争先奉承。其中更有两个人奉承得要紧,真个是。12 
冷中送暖,闲里寻忙。出外必称弟兄,使钱那问尔我。偶话店中酒美,请饮三杯。才夸妓馆容娇,代包一月。掇臀捧屁,犹云手有馀香。随口蹋痰,惟恐人先著脚。说不尽制笑胁肩,只少个出妻献子。个叫黄胜,绰号黄病完。一个叫顾样,绰号飞天炮仗。他两个祖上也曾出仕,都是富厚之字,目不识丁,也顶个读书的虚名。把马德称做个大菩萨供养,扳他日后富贵往来。那马德称是忠厚君子,彼以礼来,此以礼在,见他殷勤,也遂与之为友。黄胜就把亲妹六樊,许与德称为婚。德称闻此女才貌双全,不胜之喜。但从小立个誓愿:13 
若要洞房花烛夜,必须金榜挂名时。14 
马给事见他立志高明,也不相强,所以年过二十,尚未完娶。15 
时值乡试之年,忽一日,黄胜、顾样邀马德称向书铺中去买书。见书铺隔壁有个算命店,牌上写道:「要知命好丑?只间张铁口!」马德称道:「此人名为『铁口』,必肯直言。」买完了书,就过间壁,与那张先生拱手道:「学生贱造,求教!」先生问了八字,将五行生克之数,五星虚实之理,推算了一回。说道:「尊官若不见怪,小子方敢直言。」马德称道:「君子问灾不问福,何须隐讳!」黄胜、顾祥两个在旁,只怕那先生不知好歹,说出话来冲撞了公子。黄胜便道:「先生仔细看看,不要轻谈!」顾祥道:「此位是本县大名士,你只看他今科发解,还是发魁?」先生道:「小子只据理直讲,不知准否?贵造『偏才归禄』,父主峥嵘,论理必生于贵宦之家。」黄顾二人扣手大笑道:「这就准了。」先生道:「五垦中『命缠奎壁』,文章冠世。」二人又大笑道:「好先生,算得准,算得准!」先生道:「只嫌二十二岁交这运不好,官煞重重,为祸不小。不但破家,亦防伤命。若过得二十一岁,后来倒有五十年朵华。只怕一丈阔的水缺,双脚跳不过去。」黄胜就骂起米道:「放屁,那有这话!」顾祥伸出拳来道:「打这厮,打歪他的铁嘴。」马德称双手拦住道:「命之理微,只说他算不准就罢了,何须计较。」黄顾二人,口中还不乾净,却得马德称抵死劝回。那先生只求无事,也不想算命钱了。正是:16 
阿谏人人喜,直言个个嫌。17 
那时连马德称也只道自家唾手功名,虽不深怪那先生,却也不信。谁知三场得意,榜上无名。自十五岁进场,到今二十一岁,三科不中。若沦年纪还不多,只为进场屡次了,反觉不利。又过一年,刚刚二十二岁。马给事一个门生,又参了王振一本。王振疑心座主指使而然,再理前仇,密唆朝中心腹,寻马万群当初做有司时罪过,坐赃万两,著本处抚按迫解。马万群本是个清官,闻知此信,一口气得病数日身死。马德称哀戚尽礼,此心无穷。却被有司逢迎上意,逼要万两赃银交纳。此时只得变卖家产,但是有税契可查者,有司迳自估价官卖。只有续置一个小小日庄,未曾起税、官府不知。马德称恃顾祥平昔至交,只说顾家产业,央他暂时承认。又有古董书籍等项,约数百金,寄与黄胜家去讫。却说有司官将马给事家房产田业尽数变卖,未足其数,兀白吹毛求疵不已。马德称扶枢在坟堂屋内暂住,忽一日,顾祥遣人来言,府上馀下田庄,官府已知,瞒不得了,马德称无可奈何,只得入官。后来闻得反是顾祥举首,一则恐后连累,二者博有司的笑脸。德称知人情好险,付之一笑。过了岁馀,马德称在黄胜家索取寄顿物件,连走数次,俱不相接,结末遣人送一封帖来。马德称拆开看时,没有书柬,只封帐目一纸。内开某月某日某事用银若乾,某该合认,某该独认。如此非一次,随将古董书籍等项估计扣除,不还一件。德称人怒,当了来人之面,将帐目扯碎,大骂一场:「这般狗邑之辈,再休相见!」从此亲事亦不题起。黄胜巴不得杜绝马家,正中其怀。正合著西汉冯公的四句,道是:18 
一贵一贱,交情乃见;19 
一死一生,乃见交情。20 
马德称在坟屋中守孝,弄得���衫褴褛,口食不周。当初父亲存日,也曾周济过别人,今日自己遭困,却谁人周济我广守坟的老王掉掇他把坟上树木倒卖与人,德称不肯。老王指著路上几棵大柏树道:「这树不在泵旁,卖之无妨。」德称依九,讲定价钱,先倒一棵下来,中心都是虫蛀空的,不值钱了。再倒一棵,亦复如此。德称叹道:「此乃命也!」就教住手。那两棵树只当烧柴,卖不多钱,不两日用完了。身边只剩得十二岁一个家生小厮,央老工作中,也卖与人,得银五两。这小厮过门之后,夜夜小遗起来,主人不要了,退还老王处,索取原价,德称不得已,情厚减退了二两身价卖了。好奇怪!第二遍去就不小遗了。这几夜小遗,分明是打落德称这二两银子,不在话下。21 
光阴似箭,看看服满。德称贫困之极,无门可告。想起有个表叔在浙江杭州府做二府,猢州德清县知县也是父亲门生,不如去投奔他,两人之中,也有一遇。当下将几件什物家伙,托老工卖充路费。浆洗了旧衣旧裳,收拾做一个包裹,搭眠上路,直至杭州。间那表叔,刚刚十日之前,已病故了。随到德清县投那个知县时,又正遇这几日为钱粮事情,与上司争论不合,使性要回去,告病关门,无由通报。正是:22 
时来凤送除下阁,运女雷轰荐福碑!23 
德称两处投入不著,想得南京衙门做官的多有年家。又趁船到京口,欲要渡江,怎奈连口大西风,土木船寸步难行。只得往句吝一路步行而入,迳往留都。区数国都那几个城门:24 
神策金川仪风门,怀远请凉到石城。25 
三山聚宝连通济,洪武朝阳走太平。26 
马德称由通济门人城,到饭店中宿了一夜。次早往部科等各衙门打听,往年多有年家为官的,如今升的升了,转的转了,死的死了,坏的坏了,一无所遇。乘兴而来,却难兴尽而返,流连光景,不觉又是半年有馀,盘缠俱已用尽。虽下学伍大夫吴门乞食,也难免吕蒙正僧院投斋。忽一日,德称投斋到大报恩寺,遇见个相识乡亲,问其乡里之享。方知本省宗师按临岁考,德称在先服满时因无礼物送与学里师长,不曾动得起复文书及游学垦子,也不想如此久客于外。如今音信不通,教官迳把他做避考申黜。千里之遥,无由辨复,真是:屋漏更遭连夜雨,船迟又遇打头风。27 
德称闻此消息,长叹数声,无面回乡,意欲觅个馆地,权且教书糊口,再作道理。谁知世人眼浅,不识高低。闻知异乡公子如此形状,必是个浪荡之徒,便有锦心绣肠,谁人信他,谁人请他?又过了几时,和尚们都怪他蒿恼。语言不逊,不可尽说。幸而天无绝人之路。有个运粮的赵指挥,要请个门馆先生同往北京,一则陪话,二则代笔。偶与承恩寺主持商议。德称闻知,想逍:「乘此机会,往北京一行,岂不两便。」遂央僧此系。那俗僧也巴不得遣那穷鬼起身,就在指挥面前称扬德称好处,且是柬情甚少。赵指挥是武官,不管三七二十一,只要省,便约德称在寺,投刺相见,择日请了下船同行。德称口如悬河,宾主颇也得合。不一日到黄河岸口,德称偶然上岸登东。忽听发一声响,犹如天崩地裂之形。慌忙起身看时,吃了一惊,原来河口决了。赵指挥所统粮船三分四散,不知去向。但见水势滔滔,一望无际。28 
德称举目无依,仰天号哭,叹道:「此乃天绝我命也,不如死休!」方欲投入河流,遇一老者相救,问其来历。德称诉罢,老者侧然怜悯,道:「看你青春美质,将来岂无发迹之期?此去短盘至北京,费用亦不多,老夫带得有三两荒银,权力程敬!」说罢,去摸袖里,却摸个空,连呼「奇怪!」仔细看时,袖底有一小孔,那者者赶早出门,不知在那里遏著剪络的剪去了。老者嗟叹道:「古人云:『得咱心肯日,是你运通时。』今日看起来,就是心肯,也有个天数。非是老夫吝惜,乃足下命运不通所致耳。欲屈足下过舍下,又恐路远不便。」乃邀德称到市心里,向一个相熟的主人家借银五钱为赠。德称深感其意,只得受了,再三称谢而别。29 
德称想这五钱银子,如何盘缠得许多路。思量一计,买下纸��,一路卖字。德称写作俱佳,争奈时运未利,不能讨得��人墨士赏鉴,不过村坊野店胡乱买几张糊壁,此辈晓得什么好歹,那肯出钱。德称有一顿没一顿,半饥半饱,直捱到北京城里,下了饭店。间店主人借绪绅看查,有两个相厚的年伯,一个是兵部尤侍郎,一个是左卿曹光禄。当下写了名刺,先去谒曹公。曹公见其衣衫不整,心下不悦,又知是王振的仇家,不敢招架,送下小小程仪就辞了。再去见尤侍郎,那尤公也是个没意思的,自家一无所赠,写一封柬帖荐在边上陆总兵处,店主人见有这封书,料有际遇,将五两银子借为盘缠。谁知正值北虏也先为寇,大掠人畜,陆总兵失机,扭解来京间罪,连尤侍郎都罢官去了。德称在塞外耽搁了三四十月,又无所遇,依旧回到京城旅寓。30 
店主人折了五两银子,没处取讨,又欠下房钱饭钱若干,索性做个宛转,倒不好推他出门,想起一个主意来。前面衚同有个刘千户,其子八岁,要访个下路先生教书,乃荐德称。刘千户大喜,讲过束情二十两。店主人先支一季束修自己收受,准了所借之数。刘千户颇尽主道,送一套新衣服,迎接德称到彼坐馆。自此吝餐下缺,且训涌之暇,重温经史,再理文章,刚刚坐毅三个月,学生出起痘来,大医下药不效,十二朝身死。刘千户单只此子,正在哀痛,又有刻薄小人对他说道:「马德称是个降祸的大岁,耗气的鹤神,所到之处,必有灾殃。赵指挥请了他就坏了粮船,尤恃郎荐了他就坏了官职。他是个不吉利的秀才,不该与他亲近。」刘千户不想自儿死生有命,到抱怨先生带累了。31 
各处传说,从此京中起他一个异名,叫做「钝秀才」。凡钝秀才街上过去,家家闭户,处处关门。但是早行遇著钝秀才的一日没彩,做买卖的折本,寻人的不遏,告官的理输,讨债的不是厮打定是厮骂,就是小学生上学也被先生打几下手心。有此数项,把他做妖物相看。倘然狭路相逢,一个个吐口涎沫,叫句吉利方走。可怜马德称衣冠之胄,饱学之懦,今日时运不利,弄得日无饱餐,夜无安宿。同时有个浙中吴监生,性甚硬直。闻知钝秀才之名,不信有此事,特地寻他相会,延至寓所,叩其胸中所学,甚有接待之意。坐席犹未暖,忽得家书报家中老父病故,踉跄而别,转荐与同乡吕鸿肿。吕公请至寓所,待以盛撰,方才举著,忽然厨房中火起,学家惊慌逃奔。德称因腹馁经行了几步,被地方拿他做人头,解去官司,不由分说,下了监铺。幸吕鸿肿是个有天理的人,替他使钱,免其枷责。从此钝秀才其名益著,无人招接,仍复卖字为生。惯与婊家书寿轴,喜逢新岁写春联。夜间常在祖师庙、关圣庙、五显庙这几处安身。或与道人代写疏头,趁几文钱度日。32 
话分两头,却说黄病鬼黄胜,自从马德称去后,初时还伯他还乡。到宗师行黜,不见回家,又有人传信,道是随赵指挥粮船上京,破黄河水决,已召没矣。心下但然无虑,朝夕逼勒妹子六姨改聘。六嫔以死自誓,决不二夫。到天顺晚年乡试,黄胜董缘贿赂,买中了秋榜,里中奉承者填门塞户。闻知六焕年长未嫁,求亲者日不离门,六馍坚执不从,黄胜也无可奈何。到冬底,打叠行囊在北京会试。马德称见了乡试录,已知黄胜得意,必然到京,想起旧恨,羞与相见,预先出京躲避。谁知黄胜不耐功名。若是自家学问上挣来的前程,倒也理之当然,不放在心里。他原是买来的举人,小人乘君子之器,不觉手之舞之,足之蹈之。又将银五十两买了个勘合,驰驿到京,寻了个大大的下处,且不去温习经史,终日穿花街过柳巷,在院子里表子家行乐。常言道「乐极悲生」,嫖出一身了疮。科场渐近,将白金百两送大医,只求速愈。大医用轻粉劫药,数日之内,身体光鲜,草草完场而归。不够半年,疮毒大发,医治不痊,呜呼哀哉,死了。33 
既无兄弟,又无于息,族间都来抢夺家私。其妻王氏又没主张,全赖六焕一身,内支丧事,外应亲族,按谱立嗣,众心俱悦服无言。六焕自家也分得一股家私,不下数千金。想起丈夫覆舟消息,未知真假,贾了多少盘缠,各处遣人打听下落。有人自北京来,传说马德称未死,落莫在京,京中都呼为「钝秀才」。六焕是个女中大夫,甚有劈著~收拾起辎重银两,带了丫鬟僮仆,雇下船只,一往来到北京寻取丈夫。访知马德称在真定府龙兴寺��悲阁写《法华经趴乃将白金百两,新衣数套,辛笔作书,缄封停当,差老家人工安责去,迎接丈夫。吩咐道:「我如今便与马相公援例入监,请马相公到此读书应举,不可迟滞。」34 
王安到���兴寺,见了长老,问:「福建马相公何在?」长老道:「我这里只有个『钝秀才』,并没有什么马相公。」王安道:「就是了,烦引相见。」和尚引到大悲阁下,指道:「旁边桌上写经的,不是钝秀才?」主安在家时曾见过马德称几次,今日虽然褴褛,如何不认得?一见德称便跪下磕头。马德称却在贫贱患难之中,不料有此,一时想不起来。慌忙扶住,问道:「足下何人?」王安道:「小的是将乐县黄家,奉小姐之命,特来迎接相公,小姐有书在此。」德称便问:「你小姐嫁归何宅广王安道:「小姐守志至今,誓不改适。因家相公近故,小姐亲到京中来访相公,要与相公入粟北雍,请相公早办行期。」德称方才开缄而看,原来是一首诗,诗曰:35 
何事萧郎恋远游?应知鸟帽未笼头。36 
图南自有风云便,且整双萧集凤楼。37 
德称看罢,微微而笑。工安献上衣服银两,且请起程日期。德称道:「小姐盛情,我岂不知?只是我有言在先:『若要洞府花烛夜,必须金榜挂名时。』向困贫困,学业久荒。今幸有馀资可供灯火之费,且待明年秋试得怠之后,方敢与小姐相见。」王安不敢相逼,木赐回书。德称取写经馀下的茧丝一幅,答诗四句:38 
逐逐风尘已厌游,好音刚喜见怦头。39 
妓娥夙有攀花约,莫遣莆声出凤楼。40 
德称封了诗,付与王安。王安星夜归京,回覆了六婉小姐。开诗看毕,叹惜不已。41 
其年天顺爷爷正遇「土木之变」,皇太后权请邮王摄位,改元景泰。将奸阉王振全家抄没,凡参劾王振吃亏的加官赐荫。黄小姐在寓中得了这个消息,又遣王安到尤兴寺报与马德称知道。总称此时虽然借寓僧房,图书满案,鲜衣美食,已不似在先了。和尚们晓得是马公子马相公,无不钦敬。其年正是三十二岁,交逢好运,正应张铁口先生推算之语。可见:42 
万般皆是命,半点不由人。43 
德称正在寺中温习旧业,又得了工安报信,收拾行囊,别了长老赴京,另寻一寓安歇。黄小姐拨家憧二人伏侍,一应日用供给,络绎愤送。德称草成表章,叙先臣马万群直言得祸之由,一则为父亲乞恩昭雪,一则为自己辨复前程,圣旨倒,准复马万群原官,仍加三级,马任复学复摩。所抄没田产,有司追给。德称差家懂报与小姐知道。黄小姐又差王安送银两到德称寓中,叫他度例入粟。明春就考了监元,至秋发魁。就于寓中整备喜筵,与黄小姐成亲。来春又中了第十名会魁,殿试二甲,考选庶吉士。上表给假还乡,焚黄谒墓,圣旨准了。夫妻衣锦还乡,府县官员出郭迎接。往年抄没田宅,俱用官价赎还,造册交割,分毫不少。宾朋一向疏失者,此日奔走其门如市。只有顾祥一人自觉羞惭,迁往他郡去讫。时张铁口先生尚在,闻知马公子得第荣归,特来拜贺,德称厚赠之而去。后来马任直做到礼、兵、刑三部尚书,六摸小姐封一品夫人。所生二予,俱中甲科,替缨不绝。至今延平府人,说读书人不得第者,把「钝秀才」为比。后人有诗叹云:44 
十年落魄少知音,一日风云得称心。45 
秋菊春桃时各有,何须海底去捞针。
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gentleslopehillsplanet · 2 months ago
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31.無鳴クモ「花夜の便箋」
「初めまして。私は担当医の××です。貴方のお名前をお伺いしてもよろしいですか」
「……は、初めまして」
「はい」
「……わ、私は、絶望と、申します」
「絶望さん、ですね」
「……地球創世記に生まれて以来、神様からの命令により、人間の心で、息をしています」
「絶望、さんですね。それでは絶望さん、本日はどうされましたか?完璧でなくても構いません。貴方の言葉が流れるままに、心の内をお話してみてください」
「……はい」
「ご緊張されていますか」
「……す、少し。このような場所に来るのも、”希望”に言われて、初めてでして」
「それは緊張されても当然です、無理もございません。ゆっくりで構いませんから、時間の許���限りお話しましょう」
「…………」
「三日月の紅茶をお出ししましょうか」
「……い、いえ、お構いなく。……これは私が生まれた頃から���いていた苦悩なのですが、最近ようやく気付いたことがあって……どうも私は、『彼ら』の生命活動にとって障害なのではないか、と思うようになりまして」
「彼ら、とは?」
「人間……です」
「それは大変ですね。誰かにとって自分が不必要であると感じることほど不幸なことはありません」
「私は、彼らを、人間たちを愛しています。けれど、愛すれば愛するほど、私のこの苦しみは募ります。彼らも私と同じように悲愴な顔をして、笑顔を見せなくなっていくのです」
「貴方が愛すれば、愛するほど?」
「私が愛すれば、愛するほど」
「……絶望さん、生き物は誰しも感情を持ち、また常に何らかの外部要因、内部要因の影響を受けて過ごしています。その影響というのは、地球には数えきれないほど存在します。現在という時間軸だけではありません。過去の記憶も、未来の軌跡も、全ての影響を受けて生きているのです。恋人、友人、仕草、学校。貴方がそのように思っていても、彼らが苦しむのは単に生物の基本機能であると考えることはできませんか?この考えは浅薄でしょうか?」
「い、いえ、いえ、それは、絶対に違うと思うのです。私は長年生きてきました、おそらく貴方よりも長く生きてきました。神様から『人間を助けなさい』と仰せを受けたあの暗い暗い夜から、一日たりとも眠ることなく。それだけのあいだ彼らのことを見ていれば、私が原因で体調や心を崩したりしているのは明白なのです」
「……なるほど。自分のせいではない、とはあくまで考えないのですね。貴方のことはよく分かりました。では、これからゆっくり時間をかけて治療していきましょうね」
「ま、待ってください!私のことがよく分かった、とは?まだ私と貴方は出会って数分の──何もお互いのことを知らない霧のような関係ではありませんか!そんな薄っぺらさで私のことを理解したとでも!?」
「浅い関係ではありません。言葉をよく考えてみましょうか。例えば樹海を覆いつくす霧の中で、彷徨うことなく歩くことのできる人間などいないでしょう?霧の中を歩くには、その霧のことを知り尽くしていなければなりません」
「それは、」
「いいですか、絶望さん。私は精神科医です。そして貴方はクライアント、つまり患者様です。私の仕事は心の病を治し、再び元通りの生活ができるよう支援すること。それは分かりますね?」
「……はい、しかし」
「分かります。貴方の言いたいことは分かります。確かに普通なら信じられないでしょう。私がもう貴方のことを理解した、などと。……とはいえ、確かに軽はずみな言動でした。失礼いたしました」
「そんな、わ、分かっているのなら」
「いま私は『普通なら』と申し上げました。つまり、私は普通の医者ではないのです。異端の、それも心の闇を数分の会話で見抜くことのできる能力が、私にはあるのです。人ならざる異端を相手にする限られた精神科医の中でも、特に限られた能力を」
「……私は、異端なのですか?」
「……���論から言えば、そうなります。しかし貴方は我々が普段カウンセリングしている異端の方々ともだいぶ違うようです。大抵の異端は利己的で頭の回転も遅いため、会話を成り立たせるのさえ難しいですから」
「……私は異端の中でも異端、と、そう言いたいのですね?貴方と、同じように」
「仰る通りです。それゆえ貴方は私にとって、彼らの数倍理解がしやすい。全ては貴方が聡明だから──そう理解しては頂けませんか」
「……分かりました。そういうことにしておきましょう。取り乱して、すみません……」
「いえ、お気になさらず。それでは話を戻しましょう。貴方は、いつからそのように苦しむようになったのですか?」
「ごく最近です。いえ、最近というのは人間の時間で言うならば数日くらいですね……ええと、ここ十年ぐらいでしょうか。見るからに人間が衰弱している、と突然思ったのです。特に、この国において」
「この国、日ノ本ですか」
「はい。彼らをずっと愛し続けていたのに、気づけなかった。衰弱はおそらくずっと前、もう人間が生まれた時から始まっていたと思うのです。けれど私は数千年が経った今になってようやく気づいた。全ては私のせいだったのだと」
「先程と同じ話を仰るのですね。貴方は自分を責めすぎています。私が考えるのは、貴方は何も悪くないということです。貴方は人類を愛した、いや、愛しているのですよ」
「けれど、そんな私の愛が、取り返しのつかない事態を生んでいる。それは一体愛だと呼べるのでしょうか」
「取り返しのつかない事態?」
「彼らにとって絶望という概念は……苦痛でしかないらしいのです。それによって精神病がこの国に蔓延していて、虚ろな自殺が、仮想的にも現実的にも行われている」
「……絶望さん、一ついいですか。人類には人それぞれ正義という概念があります。それは、敵味方誰であっても激しい対立を生むことさえもある罪深い概念です。しかしそれは同時に美しくもある、なぜなら守りたいものがあってこそ成り立つ概念だからです」
「……」
「愛を持つ者が果たして善性愛しか持つことはない、と、一体なぜそう言い切れるでしょうか」
「……難しい話は、私には分かりません」
「貴方には正義があります。美徳があります。希死念慮を持つほどに、ご自身の職務に責任感を持っている。それだけのことです」
「せ、っ先生、貴方は無責任だ!それが世界の破滅を生むことになっても、正義の一言で片付けられるとでも言うのですか!」
「……失礼、少々言葉が過ぎましたね。しかし世界の破滅というのは極端です。妄想じみていて、あまりにも現実的ではありません。……世界よりも貴方の破滅の方が早いのではないか、と私は憂慮しています」
「な、なぜです」
「ご自分の体をよく見てください」
「……っ!」
「……心臓が半分欠けています。そして貴方は地球上の概念から判断すると女性と男性の両方の面を併せ持つ中性の存在。ですが腹部に穴が空いているせいで、子宮がおおかた重症ですね。これでは次の代を残せずに貴方という概念が人間の中から消えてしまうでしょう……それから、たちどころに傷が」
「私のことなどどうでも良いのです!ただ人間を……愛しい我が子たちを……!た、助けたくて……!自分のせいだとしても!……どうして。今までこんなに苦しかったことはなかった……私は狂ってしまったのでしょうか……」
「……少し落ち着きましょう。さあ、ゆっくり深呼吸して」
「……すう、はあ、すう、はあ……」
「……絶望さん、一つお伝えしたいことがあります」
「……はい?」
「傷を癒やすためには、新しい病が必要です。それは全生物にも同じこと……代償を払わずに快を得るのは、到底不可能なことなのです」
「や、病……?ですって?」
「人間は無臭社会を手に入れた代わりに、嗅覚の鋭敏さを失いました。例えば、こんな話があります。現代を生きている高齢者のうち正常な嗅覚を失った人々による病気の致死率は、正常な嗅覚を持つ人々より数倍も高いそうです。人間は当初、あらゆるものに恐怖を抱いていました。しかし進化を経て、生き残るためにあらゆる障壁を破壊した。つまり死に慣れ、同時に死のにおいを嗅ぎ分けられなくなったのです」
「……そ、そんな話を、されても……」
「理解できずとも構いません、私はただの喩え話をしているだけですから……死への恐怖によって生きることが難しくなるのは、すなわち傷。あらゆるものに鈍感になることはつまり病。傷を治すというのは、つまりはそういうことなのです」
「つまりって……」
「人間の自業自得ということです」
「そんな……嘘だ、そんな、そんなのあんまりじゃありませんか。そんなの永遠の苦しみです、地獄です、一体どうやって耐えるというのですか……!?ああ神様、神様お赦しください……私の精神は不浄になってしまった。だからこのように思い悩んでしまう……あああ、あああ……!!」
「…………好きな景色はありますか。もし何かあるのなら、今この部屋をその景色に変えて心を鎮めましょう」
「あ、あああ…………」
「……どうか心を痛めないで」
「……え、と……海の、深海の、痛切な沈黙は、居心地が良かったのを覚えています」
「ではそれにしましょうか。この空白の空間は貴方には息が詰まるでしょう」
「……確かに、虚無は苦手です。空っぽなのは苦しくて」
「おや、”絶望”なのに」
「いいえ、”虚無”と私の関係はあまり……良いものではありません。虚無はいま私と同じように闇に支配されて病と薬に拘束されているので、最近では顔を合わせることはありませんが」
「”絶望”と”虚無”とは全く違う、と」
「……はい、そうです。何らかの感情を持っている時と、全く何も持っていない時とは全然違うのです……それが健康的であるとは必ずしも言いませんが……ああ、ありがとうございます。幾分か、安らぎますね」
「海の静寂が好きだと語る患者様は少なくありません。生命の故郷だからでしょうか」
「──先生、さっき私の身体について仰ったとき、次の代を残せない、と」
「はい。確かにそう申し上げましたね」
「私には寿命はありません。あえて言うのならば、人間が死に絶えるとき──あるいは、彼らが私を愛し始めたときだけ、私は死にます」
「なるほど、そうだったのですね。それは大変な道のりでしょう。心を病んでしまうのもおかしくない話です。……しかし、貴方を愛し始めたときだけ、とはどういう事でしょうか?随分と詩的ですね」
「……私は我が子たちに、人間たちに愛されてはいけないのです。私が愛しい彼らを愛することはあっても、私が彼らの愛を受け取っては絶対にいけないのです」
「その理由とは?」
「……私が、”絶望”だからです」
「……失礼、少々土足で踏み込んでしまいましたね。謝罪します」
「いえ……」
「……さて、絶望さん。この空間は比喩でも何でもなく果てしない深海だと思ってください。私以外に貴方の話を聞く者はいません。どうか包み隠さず貴方の心の中をもう一度、深く見せてください」
「……はい、それで私の苦痛が終わるのなら」
「ありがとうございます。それでは次に、貴方が今まで生きてきた中で一番美しいと思った出来事を教えてください」
「う……美しい、ですか?楽しい、ではなく?」
「そうです、答えたくなければ答えなくても構いませんよ」
「そ、そうですね……今のような深海の風景も好きですし、神様が私をお創りになったとき初めて見た海辺の夕陽と揺れる木々……それから……最初の人間が産まれたときの産声…」
「……つまり、誕生の瞬間を美しいと思った、ということですね?」
「は……はい、そうとでも言うのでしょうか…はい、そうなのだと思います」
「唐突な質問ばかりで恐縮ですが、貴方は記憶力は優れている方だとご自分で思われますか?」
「……え?ええ、人の心の機微には敏感で、それを無意識に記憶し続けているので、多少は……」
「そうですよね、では忘れるという経験をしたことは?」
「ありません……私は、記憶を忘れてはいけないですから」
「忘れてはいけない?そんな制約が?」
「……忘れるということは、その事実自体を自分の心から抹消させるということです。それは最も、やってはいけない。私は人間の心がどういう時に動いたかを全て記憶しなければならない。それを分かった上で、愛という概念を加速させるのです。彼らの生命活動のために」
「分かりました。それにしても貴方……随分と生きづらいでしょう」
「……不便は感じます。とりわけ最近は」
「絶望さん、貴方は先ほど人間が自分のことを愛してはいけないと言いましたね。それが分かっているのであれば、もう貴方は苦しむ必要はないかと思われます。この言葉が他人事のように聞こえるのは承知で申し上げますが」
「……え」
「貴方は自分が不必要な存在だと考えていますね?」
「はい……はい、私は、私の愛は、彼らの生命活動にとって邪魔な存在なのではと……苦しくて……今の彼らは他人との関係に自分の心の弱さに社会的価値に、とにかく色々なものに囚われすぎていて、ああ、もう、先生。やっぱり私は産まれるべきではなかったのですか……」
「貴方は聡明です。ご自分で感情の整理がおおかた出来ている。最初に貴方は、人間を愛すれば愛するほど切ないと仰いました」
「……それは封じ込めねばならないのでしょうか」
「確かに……貴方のその愛によって苦しみ、死ぬ人間も多いことは事実でしょうね」
「なんだ……全然、簡単な話だったのですね。つまり私が消えれば、全て解決するのでしょう。絶望というもの自体が消滅すれば、もう私はこんな靄のような思いを抱くこともなく、彼らは悲愴な顔をする必要もない……大丈夫です、自分の殺し方ぐらい分かります」
「いえ、それは違います。貴方が居なくなれば間違いなく人間は人間としての生命を失うでしょう」
「……慰めは結構です。先生は、答えを最初から知っていますよね」
「慰めではありません。私は患者様に優しくするようには出来ておりませんから……例えば想像してみてください。荒廃した世界で食糧もなく道もなく、周囲には自分と縁のない数少ない人間しかいない。もちろん貴方はヒーローではありません。ただのしがない一般人だとします。最先端の技術が施された機械は壊れ、天災に遭い、巨大な怪物がもし目の前に現れたとき、一番最初に人間が感じるのは何ですか?」
「……絶望、でしょう」
「そうです。ではもし絶望がなかったとしたら?」
「立ち向かうはずです。絶望感を抱かなければ、何だってできるのですから」
「そうですね。立ち向かうか逃げるかの二択でしょうね。しかし、立ち向かっても勝てはしません。自分以外の人間はどんどん死んでいきます」
「……思いの強さだけでは希望は生まれませんからね。希望というのは最強の切り札を持っている場合にのみ許される、手の届かない存在です」
「……希望と自信は別物ですね。話を戻しますが、通常は仲間を失った人間は自然な感情の働きによって絶望感を抱きますよね。しかしそれが一切ないために、もし立ち向かうという選択肢を最初に選んだのならばもはやロボットのように立ち向かい続けるしかなくなります。逃げる、というのは一切考えなくなるのです。なぜならば、喪失感が存在しないからです」
「つ、都合が良すぎます。絶望感と喪失感とは別物でしょう」
「いえ、同じです。そしてその時何が起こるか。自分も同じように怪物に立ち向かいます。そしてあえなく死んで、終わりです。では逆に、そこに絶望があったとしたら?仲間が殺されていく時点で顔は青くなり、ここで逃げるという選択をしますね」
「待ってください!先生の言うことには穴がありすぎます。そんな状況、足がすくんで動けないに決まってますよ」
「私はあくまで可能性の話をしているだけです。絶対などということは自然の摂理上有り得ませんから。……感情は生き物の持つ性質の中で最も高度なものと言われています。絶望さん、貴方がもし居なくなれば同時に彼らは人間ではなくただの人形になってしまうのです。貴方は、切ない死から逃れるための唯一の防御線なのですよ」
「…………」
「貴方が愛するから人間は悲愴になる。けれど愛は人間には必要不可欠。感情が一つでも欠けたら、貴方がいることによって救える命も救えないのですよ。貴方の愛する子供たちは、文字通り貴方のせいで死にます」
「……なんだか話が複雑ですね、頭が混乱してきました……」
「少し休みましょうか。紅茶���も?」
「ええ……ありがとうございます。……ああ、甘い。とても落ち着きます……地球の母乳もこんな味だった」
「……絶望さん、一つ言っておきますが自殺することは悪いことではありません。私は肯定も否定もいたしま��ん。いずれにしろ貴方は、これから先も愛し続けたいのなら、彼らを信じるしかないのです」
「分かっています……愛した私が悪い。そういうことなのですね……もう、分かりました。やはり私が害悪だということですね。納得させてくれて、ありがとうございました」
「…………今日は、ここまでにしましょうか。次の患者様を待たせていますので」
「……はい、じゃあ、失礼します」
「はい、お気をつけて……また明日、必ずお会いしましょう」
無鳴クモ「花夜の便箋」 Produced / Written by 無鳴クモ(https://x.com/mikadukiame)
2024.9.18 G.Slope & Hill's Planet
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hazakura-ki · 4 months ago
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吉本隆明「悲劇の解読」 序——批評について——
批評のいちばんの悩み、口にするのが耻かしいためひそかに握りしめている悩みは、作品になることを永久に禁じられていることだ。そこで批評はいつも身の振り方についておもいめぐらしている。先蹤はあるのだ。小説家か学者がそれだ。とるに足りない作品をえらんでも、また誰もが古典として尊重する作品をえらんでも、作品を対象とすること自体は作品から遠ざかることである。作品には骨格や脊髄とおなじように肉体や雰囲気がいるのに、作品を論じながらじぶんを作品にしてしまうのは、それ自体が背理としてしか実現されない。批評が批評として終りをまっとうすることは作品にならない言葉を、酒の酔いや幻覚など一切かりずに綴りつづけることを意味する。近代批評は、やっとひとりの批評家をのぞいて終りをまっとうしていない。
批評が批評であることは苛立たしい索漠でありつづけること、言葉の砂を口に押しこまれるような体験に身をおくことにちがいない。けれどこの体験を持続してゆく歳月のうちに、対象への視線が微妙に変容してゆくことがわかる。ここでいう変容の意味は〈立場〉とか〈理念〉とかの変容ということではない。対象である作品にたいする臨み方の変化のようなものをさしている。かつては作品は驚くべき明確な手触り、鮮やかな光線が、陰影や輪廓に沿った情操と一緒にあったのに、次第に骨ばかりに崩れて、どんな肯定的な空間形式も、延長性もない廃墟のようにおもわれてくる。ついには空虚そのもののように手ごたえもなくなり、ただ言葉だけを祭礼の寄付金のように募りつづけるようになる。それでも批評は持続されなければならない。何のために? それでどうするつもりなのだ? それともこんなことをしていても仕方のないことを批評はしているのか?
この問いにおいて批評は、はじめて何かをしているらしいのだ。何か歴史的な事象のようなものに、ただ言葉の予感、それも必然的に衰弱の表象をともなった予感によって、参画しているらしいのだ。それはただ対象になった作品を、批評が枯死させていることで識知される。じぶんを枯死させている言葉だけが、作品を枯死させることができる。批評は死につつある言葉、しかも自覚的に死につつある言葉だ。
批評は作品の言葉が行方不明でまったく消息を絶ったり、思いもかけぬ他所で人知れず横死していることなど、ありえないのをすでに熟知している。時代が言葉を囲んでいてその囲いの外へ言葉はとび出すことはできない。ただ粘土細工のような言葉の地表を、��伏に沿ってなぞっているだけだ。作品が生きているのにそれを書いた作家が自殺してしまったとき、作家は言葉の地表にじぶんで穴を掘って埋もれてしまったことになるのか、それとも地表の亀裂に墜ちこんで消えてしまったことになるのか。これは自然死とどこがちがっているのか。というのは自然死した作家もまた、地表に穴を掘って埋められるか、亀裂のあいだに身を横たえて眠るかすることにかわりないからだ。言葉の地表、時代的な囲いという概念、作品が彷徨できる時代的な範囲という概念を信じるかぎり、作家は自殺することも自然死することもできないで、ただ悲劇を演じることができるだけだ。
批評は悲劇を演じることができない。その力量がないといってもおなじだ。批評では悲劇はただ意識され解読されてしまうだけだからだ。どんなに逆説的に響いても、悲劇を演じることができるものは、幾分か幸福な存在たちである。いま作品が幸福な存在だとして、その幸福はどこに潜むことができるか、どこに棲みつくことができるかは明瞭である。言葉の時代的な地表を微かな足音で歩いている足どり、地表を踏むときの響き、かかとの裏側、その接地の仕方といったようなものがあれば、そこにだけ作品の幸福が潜んでいる余地がある。それを文体と呼ぶべきか形式と呼ぶべきかは不定だが、意味を排除したときの価値がありうるとすれば、そのことを指している。批評が説明し解釈せずに、作品のそのエロスの場所を浮彫りにできれば、その瞬間だけは批評もまた作品でありうるだろう。だがつぎの瞬間には作品のエロスは匿されてしまう。
ここで批評は悩みのほかに困惑と焦燥感をもいだいている。これは近代批評の古典時代には感じなくてよかったものだ。この困惑と焦燥は、批評の(ように使われる)言葉が粉砕機にかけてどんなに微粉化しても、なお粒子状であることをやめないという比喩でいうことができる。これで作品をしゃくりとろうとすれば、どんな理想的な状態を考えてみても、作品はいたるところ孔の開いた多孔質のものに変貌している。再現そのことは批評にとってたんに前提にすぎないし、その前提にしても志向された前提だけれど、まず批評の言葉の水準に作品がもたらされなければ、批評という行為が成り立たない。この前提のところで批評の言葉は、粗密と濃淡だけではなく亀裂と空孔、誇張と強調とで、作品をぼろぼろな布地に変形させてしまう。そして批評は現在でも作品の誇張や強調点と、批評の言葉の誇張や強調点とが織りあげる網目によって、原型とは似ても似つかない表情にされてしまうのを免れない。
わたしたちは生と死のあいだにはさまれて存在している。存在している現前の姿勢は、生のなかに死を調合し、その匙加減の難しさをいつも背負っていることを意味している。このあいだに批評の言葉はすこしずつ培養されているのだ。この言葉が倫理、理念、歴史のようなものの影と重力を背負わないということはありえないし、また遊戯や休息を惹きいれないということも嘘になるだろう。批評が知的な謎解き(究極にはその謎を解いたときの快感)になってゆき、その競合いの競技になってゆくのは、きわめて現在的な課題であるとともに、それが世界の水源から流れてくるとき、なによりも歴史の停滞を象徴しているのだ。批評の言葉が倫理、理念、歴史の重力をうけているとすれば、その重力を場とか雰囲気とかではなく素的な粒子としてとりだし、意味をもつ実体のように現前させるのは、これからの課題に属している。批評はいまのところ無意識に倫理、理念、歴史を包みこんでいるにすぎない。批評が倫理、理念、歴史を意図しているようにみえるとき、また露骨にその意図をむき出しにしているとき、ほんとうの倫理、理念、歴史は、その意図された言葉の個所でいちばん隠蔽されているのだ。
ある種の作品があり、その作品が言葉で感覚の波の動きを再現しようとしているばあい、批評の言葉はいちばん困惑にさらされるようにおもわれる。何かを解析しようとすると、作品は水のなかを潜りぬけているように頼りなく、また批評の言葉とその網目を透過して、直接自我に届いたり消散したりしてしまう。けれどこれは作品そのものであるような作品なのだ。感覚そのものが言葉と出遇い、言葉そのものが過不足なく時代の透明度になっている。批評はそのような作品に遭遇したときには、言葉を使わないでいるか、あるいは作品の水のような透明度を再現するために、言葉を無限に微細な粉末のように行使するのを余儀なくされる。けれど水のような作品を捉えるために言葉は無効であるようにおもわれる。言葉には網状の手かせ足かせがともなっているから。
批評の言葉はいま停滞する時代の厚い層のなかを通過している。そのために幾つかの装身具、以前ならば瞬間的に通過してしまうために、まったく必要なかった種類のあいまいな装身具が必要になっている。批評が現在当面しているのは究極的につづめてしまえばそれだけだ。裸でがむしゃらに通過できるとおもっていた批評は、ただ時代の空気だとみなしてきたものが意外にも重さや息苦しさになりうることを実感している。この厚い層はとりとめもないかわりに、離脱するのに無限の潜行時間がいるようにおもわれてくる。だれもその果てを指すことができないし、それを終らせることもできないように感じられてくる。装身具が必要だとして薄くても長い潜行時間に耐えるものでなければならないし、また耐えていくうちに鈍磨してゆく皮膚の感覚を恢復できなくてはならない。
批評の言葉は時代のこの空気のような、あるいは水ガラスのような層の厚さを変えることはできない。その層の厚さは現在の所与の総体で決められるもので、批評の言葉はそれに関与することはほとんどない。言葉は現実の所与の関係だが言葉の方から現在的な所与に遡行することは禁じられている。言葉はただ表現される。そして表現はその仕方自体によって、あるいは跳躍する距り(実現された言葉、あるいは言葉の実現までの距り)によって価値を測られるだけだ。この考え方が批評についての考え方としてどんなにペシミスティクにみえようとも、わたしたちは現在ふたつの方向(それがほとんどすべての方向なのだが)を禁じられている。ひとつは作品の価値を測るのに政治的な色わけを使うこと、もうひとつはいままで倫理的な独白だったものを知的な探偵術、通俗的な知的な稠密さの競りあいに変えてしまうことだ。そんなことは政治的教会か受験学生を相手にやってもらいたい。そこでは教儀にたいして如何に修行がたりないか、いかに戒律を犯した自己を鞭打つかが問題になりうるし、また陥し穴のような奇抜なワナを仕掛けたり、それを見破ったりすることが優劣につながるからだ。
批評の最初の体験はだれにでも思いあたるふしがある。作品の共感する個所、場面、修辞法をとりあげて熱心に語りあったこと。もし自分と同一の個所を同一に感じる相手に出遇ったとしたときのうれしさ。やがてそれは悪意に変わる。自分は書くことができないのに読むかぎりは作品を馬鹿にできるという体験。けれどもこの辺りから批評は決定的に錯誤してゆく。批評の言葉が作品となりえないことの根源はこのあたりに存在している。これは批評の言葉が��度になっていっても、いつまでもつき纏ってくるに相異ない。むしろ批評は作品ではなく、また作品について周囲からとやかくいうことでもなく、ただ世界に基準などのようなものが存在しないことの普遍的な態度の宣明のように考えられてくる。
批評の言葉が決定されるのは現実の社会の真ん中においてだ。けれどもこれをとりだすのはどんな音も聴こえない内部のふところの奥からのようにおもえる。凍っているのに冷たくはない、そして冷たくはないのに物音ひとつしないあの世界からしか言葉はやってこないような気がする。このことのなかに言葉の現在における運命のようなものがあるのではなかろうか。映像、イメージ、音響がすさまじい速さと規模で空間形式を埋めてゆく。言葉はじぶんを時間化してゆくよりほかなくなっている。言葉は坐したまま歴史に参加するのだが、その音声は嗄れている。
言葉というものの正体は、ほんとうは不明の部分があまりにおおすぎる。ただ批評は意味に惹かれて正体不明のまま言葉を使っているのだ。言葉を使っているとき、言葉は道具にならない前から使われ、道具になった後からも使われている、というように使っている。それは内的な軌跡であって軌跡でありつづけるようにしか使われえない。
言葉を使うべきだ、言葉を使う以前だ、言葉を使うことができない、こういう言葉にまつわる状態の全体のうち、もっとも困難にみえる極端なばあいはつぎのようにあらわされる。
何も思考を開始しないまえの集中の状態が息をつめたところにこしらえているようにみえる領域、その記述
それと、
人間より大きなあらゆる素材から成立っているかのように思考するとき出現する世界、そこに人間の影がないことからくる平等のようにおもわれる世界、その記述
このことで何をいいたいのかは明瞭であろう。批評の言葉はいつも作品のなかに作品の概念をささえているようにみえるこの極端を、網目にすくいとれないのではないかと危惧しているのだ。批評の言葉はいつもどんなにしても作品より真面目すぎる。忠実に作品を追いすぎるために作品を追越し変形させ色を塗りつけてしまうのだ。作品のでたらめさが現実の出来ごとのでたらめさと等しい��すれば、批評も作品のでたらめさと等しいでたらめさをもっていいはずである。だが批評はいつも作品より生真面目で直線的になる。この批評の悲劇は作品が悲劇であるときだけ辛うじて釣合っているようにみえる。
わたしたちのあいだで優れた〈作品〉はことごとく悲劇的にあらわれてくることは自明である。このばあいの〈作品〉はあくまでも具象的なものを指すので、作品という普遍性を指しているのではない。もっと厳密にいえば世界の屋根がどこにあるかを絶えず意識に計上しつつ形成される〈作品〉といってもいい。喜劇的な〈作品〉、機智をにぎやかにする〈作品〉、細密な細工のような〈作品〉、その他膨大な〈作品〉の群れ、それらはすべて〈作品〉である。だがそれらはまだ(あるいは永続的に)悲劇に到達しない〈作品〉なのだ。悲劇を介してだけ〈作品〉は普遍的に作品に到達するという公理系の発見こそは、ここで主題となっているそのことである。それを発見した途端に(あるいはその発見を発見するやいなや)読者もまた悲劇のなかに存在するはずである。なぜならばそれこそが公理が公理であるゆえんだからだ。 作品はいつも解読されることを待ちつづけている言葉であり、解読に着手されただけ遠のいてゆく言葉である。悲劇は作品と作者とを結びつけているとともに、作者よりも深いところでまだ意識されていない。もし批評がこれを意識させてしまえば作品はその作品以外のものとなってしまうが、批評はそれをそっともとにもどしておくことができる。はじめから作品といえるほどのものは可塑性と一緒に弾性ももっているからこのことが可能なのだ。
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thinking-ashi · 7 months ago
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20240421 midnight
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パークハイアットの一室、照明を全て消した部屋は大きな窓に囲まれて、暗いどころか、全面に広がるパノラマ夜景。ガラス一枚を隔てて現実世界を見下ろしているような錯覚を起こし、私も金曜日まではその景色の一部だったんだというホームシック。
その眩い表層の真っ暗な箇所、代々木公園はぽっかり開いた巨大な穴のようで恐ろしかった。
血管のように赤く、広く枝分かれして流れる幹線道路にどれくらいの人間模様や膨大な感情が含まれているのか。
上から眺めている疎外感。隣でベッドに沈むこの人も汚れのない高層だから、ここは空気が薄くて呼吸しづらい。
早く下りて、私もその生々しい場所で翻弄され続けて、東京の景色に溶けて消費されて一生を終えたい。
思考の渦に引き摺り込まれ、呑み込まれて、
私はいつものアラーム音で目を覚ます。
月曜日の白けた朝、鈍重な曇り。
昨晩の扇情的な全てを帳消しにするように、殺伐とした西新宿の、ただただ機能した街並み。
唯一残っているのは萎れ始めた花束とフルコースの消化不良。
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thetaizuru · 11 months ago
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「 互に意見が合わなくて、みんなの者が帰ろうとしていた時、パウロはひとこと述べて言った、「聖霊はよくも預言者イザヤによって、あなたがたの先祖に語ったものである。 『この民に行って言え、あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。見るには見るが、決して認めない。 この民の心は鈍くなり、その耳は聞えにくく、その目は閉じている。それは、彼らが目で見ず、耳で聞かず、心で悟らず、悔い改めていやされることがないためである』。 」(使徒言行録 28:25-27)
 リチャード リンクレイター監督の映画『ウェイキングライフ』(2001)は、 実写映像を撮影しそれをデジタルペインティングで加工しアニメ化するロトスコープという技法によって制作されている。  映画の最後で、リンクレーター監督自身が演じる登場人物が、「前に見た夢の話なんだけど、てかそんな、前に見た夢の話なんて始められちゃったら大抵は退屈な数分間を過ごすはめになるよな」と、主人公に話し始める。「とにかく、フィリップ K ディックのエッセイを読んだんだ」 「夢の中で読んだの?」 「あ、いや、違う。夢の前に読んだんだ。夢の前置きだったんだ、それが。『流れよわが涙、と警官は言った』という本について書かれたものだったんだけど。知ってる?」 「ああ。なんかの賞を獲った本だっけ」 「そうそう。その本はさ、マジで一気に書きあげたものらしいんだ。彼の中から流れ出したというか、何かをチャネリングしたというか、なんかそんな感じで。それから4年後に出版されたんだけど、彼���パーティーで、その本の登場人物と同じ名前の女性に出会ったんだ。しかも彼女のボーイフレンドもその本の登場人物と同じ名前だった。さらには、彼女は警察本部長と不倫関係にあったことを打ち明けるんだけど、その男の名前も本に登場する警察本部長の名前と同じだった。彼女が話したことすべてが彼が本に書いたことだったんだよ。それで彼はもうなんかめちゃくちゃ怖くなったんだけど、だからって別にどうしようもないよな。  しばらくしてある日、彼は手紙を出しに行ったんだけど、なんか怪しげな男が車のそばに立ってるのが見えたんだ。普段ならしないけど「どうかしましたか」と声をかけてみたら、ガス欠で金もなくて困ってたらしい。それで、これももちろん普段なら絶対にしないことだけど、その男にお金を渡したんだ。それで彼は家に帰ったんだけど、こう思った。いや待てよ、そういや、あの男はガス欠なんだからお金があってもガソリンスタンドまで行けないじゃないか。それでわざわざその男のところへ戻ってってガソリンスタンドまで車で連れてってやったんだ。そしてガソリンスタンドで車を停めようとしたとき、彼は気づいたんだ。「おい、これもオレの本のなかにあるぞ。同じ男、同じスタンド。全部そのままじゃないか」って。  どうも気味が悪いよな。だから彼は司祭にそのことを話してみたんだ。自分が書いた本のこととか、どうやって書いたかとか、それから4年後に起こったこととか。そしたら司祭は「それは使徒言行録だ。使徒言行録の内容そのままじゃないか」って言うんだ。彼は「使徒言行録は読んだことがないからわからないなあ」みたいなこと言って答えたんだけど、だからそれで彼は、そりゃそうだ、家に帰って使徒言行録を読んでみたんだ。そしたらもう、ぞっとした。登場人物の名前までが聖書に書かれてるのと同じなんだ。使徒言行録が書かれたのは紀元50年だと言われてて、その当時のことが書かれてるわけだけど。  それで彼は、こんな理論を考えたんだ。時間は幻想であり、私たちは実際には西暦50年にいるのだという理論だ。そして自分がこの本を書いた理由は、この幻想、つまり時間のベールに、どういうわけか一瞬穴を開けて、そこで何かを見たからだったんじゃないかって。そこで見たものというのが使徒言行録で起こっていることだったんじゃないかって。それから彼は、グノーシス主義のこういう考え、つまり、デミウルゴスあるいは悪魔が、キリストが再臨し神の国が到来しようとしていることを忘れさせるために作ったのが、この時間という幻想なのだという考え、そういうのにも傾倒した。そして、だから、俺たちみんな西暦50年にいるんだけど、神が間近に迫っていることを忘れさせようとしている者がいる。時間とはそういうものだってわけさ。歴史もすべて。ただそういうのが続いているだけなのさ。このような、なんというか、白昼夢のような、気晴らしのようなことが、さ。  それで、それを読んで俺は、ああ確かに変な話だな、と思ったんだ。そしてその夜、夢を見たんだ」
 リンクレーター監督はこのセリフで、この映画のアイデアの元の一つが、フィリップ K ディックからの影響であることを示唆し、また、2006年にディックの『暗闇のスキャナー』(1977)を映画化した『スキャナー ダークリー』(原題は同じ)を、同じくロトスコープを用いて制作した。  『流れよわが涙、と警官は言った』(1974)と『暗闇のスキャナー』はそれぞれ、ディックの中期の最後の作品と後期の最初の作品として位置づけられ、また、この2作品にはディック作品の特徴の一つともされる独特なペーソス(哀愁、哀感)がはっきりと表れている。  他の作品でもところどころに漂っていたのはこの独特なペーソスだったのだとする解釈において、「ディック感覚」とも呼ばれる、ディック作品を読んだ時に感じる「何が本当なのかわからなくなる感覚」や「現実が崩壊していくような感覚」はこの独特なペーソスを伴うものであり、このディック感覚的ペーソスをわかりやすく説明しようとして挙げられるものに、どちらもディックが書いたものではないが、次の二つがある。  一つは、ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968)が原作の映画『ブレードランナー』(1982)のラストの「雨の中の涙モノローグ」とも呼ばれる独白シーンの、「そういう思い出もやがては消える。時が来れば。雨に消え入る涙のように。その時が来た」というセリフである。  もう一つは、『流れよわが涙、と警官は言った』や『時は乱れて』(1959)など、いくつかのディック作品から影響を受けて作られた映画『トゥルーマン ショー』(1998)のラストシーンである。  ハッピーエンドのはずなのに、悲しくもあるのはなぜなんだろう。
 他人の夢の話なんて、どうせ意味なんてないんだし、大抵つまらなくて、さっさと起きろ程度のツッコミしかできないが、ごく稀に、うわ、なんかそれ、同じような夢みたことある、とか、最近それと似たようなことについて考えてた、と思うような場合がある。そう思うと、それについて話してみたいと思う。話してみると、いやそれ全然違うとか、よくわからないとか、大抵つまらない話のそのつまらないほうの部類に入ることがほとんど、というか最終的にはよくわからなくなって、つまらなくなって終わる。もともとどうせ意味なんてないんだし。  小説や映画やそれらの解釈というのも、もともとは、夢とかと同じ部類に入っていたものだ。それを他者に提示するときに、相手の注意を引く方法だとか、意味ありげなことを話してるように思わせる方法みたいなテクニックを使うのが上手な人もいて、というか、注意を引くために相手が関心を持っていそうな話題やタイトルを挙げて、意味ありげに思わせるために、社会的に重大だ、とか、さもなきゃ世界が終わるって言ってるだけだ。一言些細なネタばれ食らったくらいでつまらなくなるものと、ネタバレなしで事実さえ伝えずに何か意味ありげなことを言っているかのように見せるテクニックを使った解説という名の宣伝と、それらを模倣したもので、世界は覆われてしまっている。  2022年頭に、「マス フォーメーション サイコシス」という言葉が世界的に話題になった。定まった日本語訳はないようだが、集団心理や集団妄想のような概念で、似た言葉に「マス サイコジェニック イルネス (MPI。集団心因性疾患)」というのもある。MPIは集団ヒステリーとも呼ばれるが、特に身体的な症状を伴うものをいう。2021年の夏ごろから、ウィルス感染の症状を訴える特定のグループなどで、MPIである証拠が見つかったとする報告例があり、これらはソーシャルメディアが感染の媒介になっているため「マス ソーシャルメディア インデュースト イルネス(MSMI。集団ソーシャルメディア誘発性疾患)」という言葉も登場した。  「マスフォーメーションサイコシス」という言葉で説明された状況は、不安の存在とその対策を提示する物語がマスメディアなどを通��て繰り返されることで、群集心理が形成されるというものだ。群集心理状態になると、社会的な絆が強化され、社会的絆の精神的中毒状態になり、また、非常にハイな状態になる。提示されている物語は、むしろ馬鹿げているほど、社会的な絆を確認する儀式として機能する。群集心理状態になっている現状のほうがそれ以前の状態よりも、たとえなんらかの症状に苦しんでいたとしても、気持ちがよいため、前の状態に戻ろうという提案は効果がなく、多くの場合、逆効果となる。  全体主義へ一直線であるように見えるこの状況にどう対処すべきなのかと議論したり、対策案を提示することが、むしろ別バージョンのマスフォーメーションサイコシスを作りだすことになってしまう場合もある。そっちはそっちでめっちゃスピって祈ったりしながら集団化していっている。  そうしたジレンマの中での葛藤から、自分以外の全員が洗脳されているのではないかとか、自分の主観的世界も誰か知らない他者による創作物なのではないかという疑念が生まれ、自分は誰かが人為的につくった世界に、その幻想を保つために雇われた偽の家族や偽の友人に囲まれて生きているのではないかという、いわゆる「トゥルーマンショー妄想」の状態へと発展していってしまう。  こうした状況を説明する際に、「フォリアドゥ (フランス語で「二人狂い」「二人が共有する狂気」の意。感応精神病)」という言葉を用いる人もいる。フォリアドゥは、一人の妄想がもう一人に感染し、複数人で同じ妄想を共有することを特徴とする。「フォリアドゥ」という言葉を用いる理由のひとつは��分類上、精神病とされる「妄想」や「フォリアドゥ」と、精神病ではない「思い込み」の区別は明確ではないということや、特定の用語の濫用やひとつの話題への固執が事態をややこしくしてしまうということについて、注意喚起するためでもあるようだ。  フォリアドゥという概念を説明するために例として挙げられていた映画に、今敏監督の『パーフェクトブルー』(1997)がある。それに対するリプライに、いやそれならテレビアニメの『妄想代理人』(2004)のほうがピッタリじゃない?というのがついていた。あ、それ俺も思った。というか、同じこと思った人いないかなって探したらいたわけだけど。じゃあさ、それの第8話ってアリ派?ナシ派? いやちょっと待て、それは話が脱線しすぎだろ。え?ジレンマから脱線したかったんじゃなかったの? いやそうかもしんないけど、いや、なんか違うっつうか、それはそれで、そういう話してる人探せばいっぱいいるだろ。  ともかく、作品などでこうしたテーマに取り組んだ人たちが出した答えはこういうものだ。「もう一人の自分」に出会うこと。その「もう一人の自分」は自分ではないとはっきりと認識し、つまりは決別あるいは対決すること。そして、もう一人の自分を救うこと。
 『ウェイキングライフ』で語られた「フィリップ K ディックのエッセイ」がどれかはわからないが、ディックは自身の身に起こった不思議な偶然や神秘的な体験をいくつかのエッセイで書いている。インタビューで、『流れよわが涙、と警官は言った』の結末は、何度も何度も書き、書いては直し、書いては直ししたとも話している。  ディックは、これを書いた1970年、麻薬の症状に苦しみ何も書けなくなるほど荒れていて、奥さんが家を出て行ってしまう。奥さんが家を出ていった悲しみと、自分自身の根底にある悲しみに向き合おうとして、同じような境遇を小説的に大いに脚色して登場人物に与えた。ディックは双子として生まれたが、妹を生後すぐに亡くしていて、そのことが心のどこかにずっとひっかかっていた。1970年8月に原稿を出版社に渡すが、奥さんが出ていった後の家は麻薬常習者のたまり場になり、ますます滅茶苦茶になっていく。1972年に麻薬更生施設に入り、この年に離婚を成立させる。これがちょっとした身辺整理にもなったようだ。翌年に再婚する。その翌年の1974年2月にようやく『流れよわが涙、と警官は言った』が出版された。  ディックが1978年に書いた『二日後には壊れてしまわない宇宙の作り方』というエッセイによると、『流れよわが涙、と警官は言った』の登場人物と同じ名前の女性に出会ったのは1970年のクリスマスで、司祭と話して「それは使徒言行録だ」と言われたのは1974年2月の『流れよわが涙、と警官は言った』が出版された日で、さらにディックは1974年2月から3月にかけて、不思議な幻覚を見るという、「2-3-74」と名付けた神秘体験をするが、これは『流れよわが涙、と警官は言った』の出版の一週間後からの出来事だという。見知らぬ男をガソリンスタンドに連れて行ったのは、1978年のこのエッセイを書く2か月前の出来事らしい。こんなことも書いている。「彼(『流れよわが涙、と警官は言った』の登場人物フェリックス)は、泣きながら家へ急いでいた。そして、完全に見ず知らずの人でも誰かに、手を差し伸べなければならなかった。見ず知らずの二人が道中で出会うことで、そのうちの一人の人生が変わる。私の小説においても、使徒言行録においても。そして最後にもうひとつ、神秘的なスピリットによる不思議ないたずらが働いた。フェリックスという名前はラテン語で「幸せ」を意味する。この小説を書いているときは知らなかった。」
 『流れよわが涙、と警官は言った』というタイトルは、イングランドのエリザベス朝後期およびそれに続く時代に活躍した作曲家でリュート奏者のジョン ダウランドの代表作であるリュート歌曲『流れよ、わが涙』(1600)からの引用である。この曲は当時の欧州で群を抜いて最も高名な楽曲として、東欧を除く全ヨーロッパで広く演奏されたという。  ディックはジョン ダウランドにちなんだ「ジャック ダウランド」というペンネームを使って作品を発表したこともあり、また、ジョン ダウランドの名はいくつかのディック作品に登場する。  ジョン ダウランドは、イングランド王ジェームズ1世およびチャールズ1世の宮廷リュート奏者を務めた。エリザベス朝前後に流行したメランコリア(憂鬱)芸術の巨匠とされる。「涙のジョン ダウランド」とも自署した。ダウランドの実際の性格については、自称および代表作の作風通り陰気な人物であったとする説と、その逆に実は陽気な人物であったとする説がある。これは、当時の風潮はどのようなものだったのかという議論でもあるようだ。  ダウランド(1563-1626)が活躍した時代はちょうど、シェイクスピア(1564-1616)の時代でもある。「シェイクスピアの『ハムレット』の登場人物であるハムレットのような憂鬱な人物」というのが、陰気な人物であったとする説バージョンのダウランドの人物像である。この時代には「気質喜劇 (ヒューモア コメディ)」と呼ばれるジャンルの喜劇作品が人気を博し、「ユーモア」という言葉が「おもしろさ」を表す言葉として流行する。  「ユーモア」という語はもとは、「液体」を意味するラテン語の「フモール」が、古代ギリシャ、ローマ時代の「四体液説」とともに、「体液」や「気質」を意味する語としてイングランドに伝わり英語化したもので、その四体液説で、「黒胆汁」が過剰な人がなる気質として、「黒い」を意味する古代ギリシャ語の「メラス(メラン)」 と「胆汁」を意味する「コーリ」を合成した「メランコリア(憂鬱質)」という語が使われていた。  ダウランドやシェイクスピアの時代は、ユーモアの時代であると同時にメランコリアの時代だった。  16世紀、ヨーロッパの広範囲で、新プラトン主義やヘルメス主義、グノーシス主義などの神秘思想が流行する。17世紀に入り、宗教対立が激化したこともあって、民衆の間で神秘主義はますます流行し、また、自分の目も感覚も明らかな証拠も信用せず、自分の経験すら偽りとしてまで、自らの教義に一致しないものを認めようとしない独断主義的な風潮が蔓延した。対抗改革の側は16世紀後半から、メランコリーをプロテスタントの病とするプロパガンダを行っていた。  ダウランドが大陸で学んだ音楽理論も神秘思想の影響下にあり、作曲の理論として数秘術が用いられたこともあったとされる。表現や思想としての「メランコリー」は、こうした神秘思想が16世紀末のイングランドでやや形を変えて現れたものだとも考えられていて、また、17世紀初頭のイングランドでは、メランコリアを崇拝する文学的現象も起きている。メランコリーあるいはメランコリックな人物は、揶揄や風刺の対象などとして喜劇の中で描かれることも多く、また、メランコリーは「聖なる狂気 (マニア)」として捉えられたり、あるいは、精霊(スピリット。霊感。インスピレーション)を待つ状態としても捉えられる。  メランコリックな文化的傾向は、その後も周期的に繰り返され、20世紀には、フランスの社会学者エミール デュルケムの用語を用いて「アノミー」的な文化的傾向とも呼ばれる。「アノミー」は、ギリシャ語の「アノミアー(無法律状態)」に由来する語で、デュルケムはこれを、社会の規範が弛緩あるいは崩壊することなどによる、無規範状態や無規則状態を示す概念として提示した。デュルケムは、著書『社会分業論』(1893)においては、社会的分業において分化した機能を統合する相互作用を営まないために共通の規範が不十分な状態をアノミーとし、『自殺論』(1897)においては、経済の危機や急成長などで人々の欲望が無制限に高まるとき、欲求と価値の攪乱状態が起こり、そこに起こる葛藤をアノミーとしている。  相互作用の不在や価値転倒状態での葛藤がメランコリーであり、それを笑うのがユーモアで、嘆くのがペーソスだ。ユーモアもペーソスも、笑うことで、泣くことで、秩序の回復を祈っている。  「ペーソス」はギリシャ語「パトス」の英語読みで、ラテン語では「パッシオ」であり、「パッシオ」は、ギリシャ語で書かれた新約聖書をラテン語にする際、「キリストの受難」を表現するために、もとのギリシャ語の「パトス」をなぞる形で用いたもので、「受け身のあり方」や「苦しみ」という一般的な意味を持っていたギリシャ語の「パトス」を、「受難」という意味に特化させてラテン語化したものである。  『使徒言行録』は『ルカによる福音書』の続編として、ルカによって書かれたものとされる。『ルカによる福音書』と『使徒言行録』はキアスム構造(X字構造、交差法)で呼応する構成になっており、キアスム構造では構成の中心の「交差」に位置する部分を最も重要なものとする。この場合は、中心にある「イエスの復活と昇天」および「エルサレム」が最も重要なものであることを示している。
 ジレンマからジレンマへ、気晴らしのように脱線を繰り返す中で、相互作用や不思議な偶然や福音や精霊を待ちながら、みんな、泣いたり笑ったりしている。
 ペーソスはユーモアの、やがては出会う双子のようなもの。
2023年12月 セイブ ユアセルブズ フロム ディス コラプト ジェネレーション
よいお年を
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hatohonoka · 1 year ago
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実地試験 4
─────────────── コンテナの上を駆ける。 『牽制射撃、04はそのまま私の援護!射撃はつづけろ』 掠める弾丸になのか初任務の高揚なのかはたまた走っているからなのか心臓を跳ねさせながら、先導する霞先輩に続く。 飛び降りた先輩を援護するように牽制射撃を行う。目標は5人、ハンドガンを持ってはいるが正常に撃てているのは目標のコンテナを守る2人だけ、巡回していた3人はセーフティーも外せていない様子で銃口をこちらに向けロックのかかったトリガーを必死に引こうと頑張っている。 (あたしも最初そうだったなぁ・・・)などとしみじみ感じつつ、脅威度的に射撃できる2人に向けて牽制を行いつつ、わたしもコンテナから飛び降りた。
霞先輩は半身を切りつつかぎ爪状のナイフが握られている左腕で頭部を守りながら突撃していく、右手には銀色に鈍く光る棒を持っている。(銃じゃない・・・?)その疑問を解決するかのようにその棒で男を殴打する。相手の銃をたたき落とし返すように肩口から斜めにたたきつける。そこまで強い殴打ではないように見えるが男がひるむ。その隙を見逃さずすかさず膝を殴りつけひざまずかせ、射線を切る様に男を陰にしている。 『援護!何やってんの!?』 「リロード中です!!」 『釘付けにしとけよ!』 言うが早いか男を例の棒で殴り倒し、また頭部を腕で守りつつ疾風の如く次の相手へと飛び掛かっていく。 わたしも見よう見まねで頭部を腕でかばいつつ、コンテナ護衛の二人へと徐々に近づく。しかし片手で頭部を守り片手で射撃じゃ全く当たらない(だから近接武器なのか・・・?)疑問ばっかり浮かぶがお互い素人射撃で全く決着がつかない。 『遅いぞひよっこ」 パカパカと当たらない銃撃戦を楽しんでいたあたしをよそに霞先輩が射撃のできる輩1を蹴り倒していた。 わたしと打ち合いをしていた射撃ができる輩2が困惑し射撃が止む、意識が霞先輩に向いた隙にしっかりした射撃体勢を取とり撃ち倒す。 「まだまだ訓練だなひよっこよ」 「先輩、その棒ってなんなんすか?」 「あぁ、スタンバトンだよ。警棒に軽く電気が流れるようになってんの」 「そういうのあるんすねぇ」 「細かいことは帰ったらだ、とりあえずコンテナ確認するぞ。勝手に動くなよ、向こうのチームに連絡入れる」 『オアシス』から連絡のやり取りが聞こえる。どうやら向こうも無事のようだ。 ギギィと背後から扉の開く音が聞こえた。 振り向くと目的のコンテナの中から1人男が出てきてこちらに銃口が向いている。しかもそこらに呻きながら転がってる男たちが持っているようなかわいらしいハンドガンではない、明らかに長い物がこちらに向いている。 「ヤバッ・・・!ショットg・・・!」 反射で頭部を腕で守る。 バコン! 腹部に強烈な衝撃を食らい身体が耐えられず後ろへ吹き飛ばされそのまま倒れこむ。 耳鳴りが酷い、朦朧とした意識の中上半身と下半身がバイバイしてないことだけ確認しそのまま意識を手放した。 ─────────────────────── 『オアシス』に表示されている亜里沙の心拍数が跳ね上がった。 直後に銃声。今までの軽い音ではなく、重めの音が響く。 「急ごう」 天先輩に続き向こう側へと続くコンテナ間の通路へと急ぐ。 コンテナとコンテナの間、扉が開いているのが先輩の肩越しに見える。 その先に男が、霞先輩に向けて次弾を放とうと体勢を整えようとしている。 しかし、バックアタックには気づかず天先輩が飛び掛かり蹴り倒し頭に1射。そのまま動かなくなった。 「おいばか、その距離で頭はマズイって。・・・よし、死んではいねぇな」 霞先輩が男の生死を確認しているのをそのままに、わたしは亜里沙へと駆け寄る。 「亜里沙!」 心拍は安定しているからただ気絶しているだけなのだろうが、腹部に食らった弾丸が張り付いている。 軽く払ってやるとパラパラと剥がれ落ちる。ブレザーには穴は開いていない。 「うぅ・・・」 うめき声をあげながら亜里沙が目を開ける。 「・・・ここが天国?」 「生きてるよ、亜里沙」 ガバッと亜里沙が跳ね起きる。確かめるようにお腹周りを触っている。 「よ、よかったぁ吹き飛んだかと思った・・・」 泣きそうになり涙目になっている亜里沙をやさしく抱きしめる。 「大丈夫、大丈夫」 彼女の背中をさってあげる。わたしも撃たれて吹き飛んだんだ、ハンドガンでだったけども。
その後の処理は円滑だった。何処かで待機していた所謂『引率の先生』(と先輩達が言っていた)、黒服の男に現場を引き継いだ。
わたしたち(一応)オルフェンが現場で出来るのはここまでのようで、わたしは腹を撃たれた亜里沙を抱え、と言うよりも身長差でほぼのしかかられながら早々に現場を後にしたのだった。
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shukiiflog · 1 year ago
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ある画家の手記if.117  行屋虚彦/名廊直人視点 告白
一度実家に帰って制服とってきた。 俺は今高校生だったらしい。入学式にも出てねーからなんの実感もなかった。一昨日、担任からケータイに電話きて、夏休み前に宿題とかいろいろ渡すもんがあるからって言われて、学校に呼び出された。
学校に行かないのはそこまで気が回らねえっつーか…普通に暮らしてて学校に行く時間とか体力の余地がどこに出てくんだよ…とかもそんなに思ったことないな、学校とか通学とかの概念からねえし完全に忘れきってて。 でも周りの大人は初対面だとけっこうな高確率で訊いてくる。「学校に行きながら絵も描いてるのか?」そう訊かれるたびに、学校ってのは人間が生きてくためにそんな重要なもんなのかなとか、こうやってテキトーに抜かしてっとなんかまずいことになんのかなとか。わかんねえけど。 それでたまーに小・中の頃も顔出す程度には行ったりしてた。それでも俺に友達とかができないのは、俺がコミュ障だからなのか、滅多にいないやつだからなのか、イライラしてることが多いせいか、目つきが悪いせいか、友達欲しいわけでもないからか、全部かもしれねえし…とか思ってた。視界の暗さの正体と、あからさまな嫌がらせみたいなのされるまでは。
高校がどこかわかんねーからタクシー使って学校の名前言ったら門のとこにつけてくれた。 俺の今日の行動はどうもこっからマズかったらしい。 教師には徒歩で通学して心身を鍛える目的がどーのこーの、クラスのやつにはあいつタクシーで来てた、って言われて、教師のはなんか言い分があんだなと思ったけどクラスのやつのは完全に謎だった。タクシーで来た、その通りだけど、それがなんなんだよ…タクシー代はちゃんと自分で稼いだ金で払ってるっての… 教師のは黒じゃなかったな…クラスのやつのはかなり黒に近くて、黒板が見えにくいレベルだったから授業中に一人で教室を出た。なんか言われた気がするけど誰の声かも分からなかった、他の教室からも声がしてて、なんでこれを… いや… 普通は取捨選択して不必要な情報は意識から落ちる…んだっけ、あの人が言ってたっけ、知るか、俺はそうなんないんだから普通が俺を どう助けてくれるんだよ
教室から出て校庭の鉄棒の横の花壇のレンガに座って、ぼんやりしてた。春に飽和して人体との境界線を曖昧にしてた白い空気が夏に向かって少しだけ引き締まってる。心地いい温度に融ける人間。耐えられないやつは死ぬ。これを五月病とかいうんだっけ。違うっけ。 今日はもう七月でだいぶ暑い。でも外にいたら問答無用で熱中症になるってほどでもない。風が鉄紺色、少し冷たい心地いい風。 ポケットに入れてた小さなルーペを出して、地面に当てて見る。このルーペはずっと昔に直人さんがくれたもの。俺がイライラしてた時、視野のスケールを極端に変えたらどうかなって、言われて。広く見るのは難しいから極小の世界を、こうしてたまに見る。…ルーペの向こうには普通にしてて俺に見えないものが、たくさん見える。 花壇に咲いてる花はたぶんどれも綺麗ってやつなんだろうな、じゃなきゃわざわざ植えねえのか。花をよく見ようとそばに手をついて少しかがんだ、手元に、ぼたっと落ちてくるみたいに黒が 咄嗟に立ち上がって何歩か退いたけど  遅かった 頭にバシャっと水かけられた …いってーな…3階以上の高さからやったろ今の… でも不潔な水とかじゃないな、水道水か?それだけでもまだマシか…今のは回避できなかった俺のミスだ、見えてんのに反応遅かった。最近ガチで学校きてなくてこういう危機意識鈍ってたかな。 と、思いながら頭上を咄嗟に庇おうと掲げた片手に、ぶっすり尖った鉛筆が一本、貫通して突き刺さってた。水は綺麗でも異物混じってたか。…ギリギリ貫通はしてなかった。手のひらから抜いてその辺に鉛筆を放る。 はー…制服は濡れるし、散々かよ。
一度鞄とりに教室に帰ったらいろいろ言われてた。黒の濃さからして水落としてきたのは隣の教室っぽいけど。 あえて意識して声を言葉として拾ってみるよう意識を集中する。 ーーー画家って普段なにしてんの? ーーーさあ好きな絵描いてるだけじゃね ーーーそれで学校休んでいいことになるんだ ーーーそういうんじゃなくてただの不登校だろ ーーーあいつべつに画家じゃないだろまだ学生だし ーーー稼いだ金どうしてんの ーーー画家って儲かるの~ ーーー才能とかあれば高く売れるんじゃない ーーーあいつのはあれだろ、ガキの頃から描いてるってのが売りポイントっつーかそこがまず高ステータスになるみたいな ーーー才能関係なくね?子タレと同じ ーーー小さい頃から好き勝手してもなんも言われなかったんだね ーーー父親のほうが名前売れてるからそういう家にいたら流れで子どもも描いたりすんじゃね ーーーお家柄ってやつ ーーー売れる絵の書き方とか小さい頃から教えてもらえそうだもんね、そりゃ上手いに決まってるわ ーーーさっき水かけたやつってあれだろ、隣のクラスの美術部の、中学ん時あいつと比べられて学祭のポスターこき下ろされたとかいう
ここまで ここまで! これ以上は聴かねえ  走って教室を出る  俺はただ描いてるだけなのに  誰を蹴落としたこともねえよ  ただ描くだけがどうしてもそうなるから昔から嫌なんだこんな場所  画家同士なら  ただ描くことが誰も誰かを傷つけないのに 知るか どいつもこいつも勝手に潰れろ
そのあと職員室いって、受けとるもん受けとって帰った。帰り際に担任にあれこれ言われた。曰く、 母親が亡くなって生活は大変かも知れないが自分で稼げるからってなんでも金で解決しようとするな、タクシーも使うな、もっと運動しろ、もっとよく食べろ、健康的な生活しろ、なるべく学校にきて同世代の友達と交流を持て、勉強もしろ、今が楽しいからって絵ばっかり描いてるといつか後悔するぞ、高校は義務教育じゃないのに通えるありがたみを知れ、親御さんに感謝しろ、画家なんて仕事は卒業してから始めたって遅くない、でも同世代との学校生活というもの��今しかないんだぞ …赤と青が声と扇風機の風に乗ってひらひら天井に向けて舞い上がってるのを見てたら、ちゃんと顔見て話を聞けって言われた。なんで濡れてるのか訊かれたから、暑かったんでペットボトルで水かぶりましたつっといた。
帰り道は学校から見えない距離まで歩いて、そっからタクシー使った。 行きは場所がわかんなかったからだけど、今は濡れてるから電車とか乗るとちょっとこのままじゃ風邪ひきそう。 帰ってから制服をハンガーにかけて壁にかけて、ドライヤーをあててたらインターホンが鳴った。 出てみたら香���さんだった。
「すみません、俺も今帰ったばっかで」お茶菓子とかなんも用意できてないしちょっと散らかってます、って続けようとして黙る。 「……」 香澄さんの いつもと色が違う。表情も違うせいか?…なんかあったのか 「香澄さん? ここ来るまでに、なんか…ありました?」 「…え?」 やべ…やらかした。相手が自覚ないときはそういうの言わなくていいんだっての… とか思ってたら香澄さんが少し首下げて俺の髪の毛に顔近づけてきた。そういや濡れたままだった。 「水…? 手も怪我してる」 言われていろいろ思い出す、手も今の今まで忘れてた…。ドライヤー片手にどう返そうかと思ってたら風呂に直行することになった。俺が。…なんでだ。 「怪我してるし、風呂入るの手伝うよ」 「… え、 …手伝…   え」 「髪洗ったりタオルしぼったり…」 「え…いやそれは、…え…っと��」 「…ごめん  他人に頭とか触られんの嫌かな」 「そういうこと…じゃなくてですね、」 香澄さんが風呂に入るの手伝うっていうのをめちゃめちゃ遠慮してなんとか一人で風呂に入る。 手伝うってあれか、前に俺が母さんにやってたようなことか。俺はそんなに抵抗なくやってたけど、…あれって結構ハードル高い人には高いらしいからな…。そうじゃないから申し出てくれたのかもだけど。…わかんねー… 風呂入る前に香澄さんに穴あいてるほうの手を清潔なビニール袋で包まれて、手首にゴムみたいなのでしっかり固定された。防水? 「困ったことあったら呼んでね」って言われて、ようやく香澄さんはちょっと普段の表情に戻った、けど、色は来たときと何も変わってなかった。 湯船に2分くらい浸かってただけでもう逆上せてきた。くらくらしながら風呂から上がる。 髪をタオルで拭きながらリビングに行ったら嵌めたままのビニール袋とられて治療?がはじまった。…そんなたいした怪我じゃねえんだけど… 手当てされながら「何があったの?」って訊かれた。 「学校行って宿題受けとってきました」深いとこに折れて埋まった鉛筆の芯はどうもならなさそうだな。なんかちょっと大袈裟なくらいに包帯が巻かれていく。 「学校…」 手元狂わせずにどんどん処置を進めながら香澄さんが呟いた。そういや俺、今日まで学校行ってる素振りとか全然なかっただろうし実際行ってないからただの無所属ニートと思われてたかもな。画家ってそんなもんではあるけど。 「もらっても宿題やんないですけどね」ちゃんとやったことは一度もない。それで殺されるわけでなし、毎年違うスケジュールとかぶるんだよな。公募とかもこの時期多いし。 「うつひこくんはいま…高校生?どうして学校いくの?」 「普段は行ってない不登校児ってやつですよ。でももうすぐ夏休みだから、たまには顔見せないとっていう程度の」 …ん?今のって、今日なんで学校行ったかじゃなくて、俺が学校行ってる理由全体を聞かれたのか?俺…日本語が不自由か… 「そうなんだ  …俺高校って行かなかったから、どんなかわからなくて…ごめんね」 謝られた。やっぱなんか俺が間違ってた気がする。こういうとこに学校行く意味とか意義とかがあんじゃねーの…とか思う。日本語での円滑な意思疎通みたいな…。 「この怪我はどうしたの?」 包帯を巻き終わった俺の手をじっと見て香澄さんが言う。…利き手じゃねーし、まあ利き手でもか、そんな痛くはないし平気だし、…こんなじめっとした話聞かされても困るんじゃねえの。 でもこういうこと訊かれんのも久しぶりだ。香澄さんがそういう界隈の人じゃないからか。 「そういう風に訊いてもらえるだけでだいぶ救われます」 包帯が巻かれたほうの手を俺も見ながら、ちょっと俯き加減になる。 「自傷で片目がこうなったの、俺の周囲はだいたい知ってるんで、そっからはなんか怪我しても自分でやらかしてんだろってスルーか嗤うかくらいしか誰からも反応ないから」 どういう経緯で片目潰したか知ってる少数の人間は別だけど、その人らも忙しいからなかなか会わなかったりで、結局一番接してる人間は名前も覚えてないような個人的な付き合いのない人たちばっかだ。だからこそ言えるし嗤えるってとこはあんだろうけど。 ーーーーでも、そういう人たちも… 「…。」 なんか裸足の足裏…足元が湿ると思ったら、香澄さんが目の前で悲しそうな顔してた。…来たときの色が、落ちてる。 「自分でやったの…」 …どっちだこれ…迂闊に目のこととか話題にしないべきだったか…せっかく …いや、事実は事実でどうにもなんねえしな。 「…手ですか、目ですか」 香澄さんは一度顔上げて俺のほう見たけど、喋るごとに俯いてく。 「え、あ、どっちも…?どっちっていうか、ごめん…えっと…」 …俺が完全に取りちがえて主旨ずらしたっぽいよな、たぶん。 楽しくもない、じめっとしてて、いい気分にはならない、そういう話を、聞いてくれようとしてた…のか 「夏休み前だから夏休みの宿題取りに来いって担任から呼び出しの電話きたんで久しぶりに行ったんです。教室の中は俺の噂か陰口か微妙なので溢れてて、校庭に逃げてって。そしたら上階の窓から水かけられて、水はただの水だったけど中に鉛筆とか釘とか混ぜてあって、俺が咄嗟に頭庇おうとして手をかざしちゃったから、手のひらに降ってきた鉛筆が刺さったんです。  …それだけです。」 「……そう」 香澄さんがまたちょっと表情強ばらせてる。…こんな詳細まで言わなくてもはしょればよかったかと思ってたら頭にそっと手が乗った 「………」 「お疲れさま、…今日はもうのんびりしよ」 優しい感じの撫でかたで頭を撫でられる …。 「頭庇ったのは偉いよ、すごいねえ俺たぶん咄嗟に動けないや」 俺的には失敗…いや…大差ねえか…でも顔とか頭とかより手を庇うべきだった気もしないでもない… 立ててた片脚に体を乗せてぐたっと項垂れる 香澄さんの撫でかた、ちょっと母さんと似てるな …黒 「やったのが誰かは分かってるから、怒るとか、教師に言うとか、…そいつが悪いって言えれば…  …  」 言うべきなのかもしれない。それとか他のなんか、行動起こすとか。俺にそういうことやるんなら他の人間にも平気でやってんのかもだし、とか、俺一人で片付けていい問題じゃない、みたいな。よく知らねえけど、いろんな意味で。…でも、 「でもみんな…   何かあるじゃないすか ゲームの敵キャラみたいに俺を痛めつけるだけに生きてるわけじゃない  今日の俺にとってはそうでも  … …みんなにそれぞれのここまできた時間と色があって …俺は誰かを指差せないです、おまえが悪いとかっては そうしたほうが …みんなのためによくても…   …」 今日の俺に…とっても、か…。 「…… 誰のどんな事情もうつひこくんに怪我させていい理由にはならないよ」 理由… …走ってったとき隣の教室から出てきた一人の黒いやつ、たぶん間違いねえと思うけど、降ってきた黒と同じだった、黒にもいろいろある 廊下でちょっとだけ睨まれた気がする。 黒いけど、他の色もあった、入り混じって、俺への悪意だけでできた存在じゃないのは見ればわかった、あいつにもいろいろあるんだ、何があるのかまでは俺には分からねえけど みんなにそれがある 俺はあれでいいと思った 美しいと あれが俺への悪意や複雑な感情の現れたものなら あのままがいいな 美しくはないよ、そんなこと言ったら現実はなにも美しくない でもそう思う以外にどうすれば 俺は ……………… ……… ………
包帯巻かれてなければ普通めに動かせるんだけどがっちり巻かれてガードされてて、今日もう何もできなさそーってことで、俺は例の人をダメにするクッションの上に大の字に寝そべって首のけぞらせて香澄さんのしてることを上下逆にぼんやり眺めてた。こいつマジで人をダメにすんな… 香澄さんはキッチンで今日の夕飯作ってくれてた。 さっき手当てしてもらってて服の裾からちょっと覗いた香澄さんの地肌、なんか古傷みたいなのあった。白い光を放ってて、それが白く見えてたんじゃないかと思って一瞬ぞっとした。 朱の中の、白い筋、人体の脂肪分みたいな …どういう事情かなんてそれこそなんも知らないけど、白く見えてるのがなんかの傷か傷跡なら大量の傷が頭から爪先まで全身にある…もしくはあった、のかもしれない。 事情は知らない、でも…学校で地味な嫌がらせされてるとかって話題は香澄さんの前ではテキトーな嘘ついてでも避けたがよかったんじゃねえの…今更だけど… とかぼんやり考えてたら夕飯ができた。 香澄さんと二人で向かい合って食べる。美味そうだけど見たことないオシャレな感じの料理。赤いな 「うつひこくんは好きな食べ物ある?」 「肉ですね」 「肉。」 「焼いた肉ならなんでも」 「人と食事したりは平気かな」 「全然��す。食えないもんもないし。一人でいるとダルさが勝つんで食事抜きがちなだけで」 「そのソファちょっと気に入った?」 「はい。ここ来るまではアトリエで描いてそのままコンクリとか板の床にぶっ倒れて寝て、ってののエンドレスリピートだったんで、このソファやばいすよね。座ってると自分がこれまで石器時代と同じ生活レベルで生きてたの実感します」 二人でなんてことない会話をして夕飯食べて、食べ終わったらまた香澄さんが食器洗ったりとか全部してくれて、 俺は誰かが俺のかわりに家事とか全部やってくれる不思議空間でそれをじーっと見てた。 ……………… ……… ……… 俯いたまま床を見つめ続けて、 さっき見た色 黒に  … ……… ……… … 無理だ なんとかしようとしたけど俺一人の手に負えるものじゃない
「香澄さん 直人さんちに連れてってください」
***
急に香澄から連絡がきて、今からイキヤがこの新居に来るらしい。 僕は描いてたのを中断して、屋根裏部屋のアトリエを少し整理して整える。越してきたばかりだけど既に描いた紙が山のようにあちこち積まれてたから雪崩を起こさないように。 イキヤも無意識にうろうろするほうだけど、僕より半径が広かった気がするな。寄せて置いてた木製のラックを端のほうに避けて少し広めに空間を空けておく。 …30…  いや、イキヤの身長が170ないくらいだから、腕の長さ的にはP20か…短時間勝負なら15号がいいかもしれない、どれもここにあるから一応15号をイーゼルにセットしておいて本人に聞いてみるかな。 そうこうしてるうちに外と玄関で音がして、玄関からすごい勢いでイキヤが走って入ってきた。「アトリエは3階、階段はそこ。F15?」「15です、ありがとうございます」 その一言だけで素早く階段を上っていった。追加で背中に投げる。「コバルト使うのに変な遠慮するなよ」「しないすよ」 後ろからついてきた香澄がきょとんとしてる。 苦笑い、とまでもいかないけど、腕を組んで笑いかける。 「描かないと処理できなかったかな」 アトリエのほうを見上げて続ける。 「イキヤなら一時間かからないから、そのあたりで様子見に行こうか。たぶんそのまま床で寝てるから、せめて客間に布団敷いて転がしておこう」
きっかり一時間経った頃に様子を見に行こうとしたら僕より先に香澄がアトリエに行って、やっぱり床で寝てたイキヤを抱え上げてた。 僕が客間に布団を敷いて、香澄がそこにイキヤを寝かせる。イキヤは一度眠ったら気絶したみたいに何しても起きない。 起きるまで客間についてようとする香澄を「今日はもう目を覚まさないから」って説得して、自分の部屋に寝かせる。 僕は今夜は睡眠薬を飲まないでコーヒーを啜りながら、イキヤの寝てる客間と隣接した部屋で夜通し仕事の続きをした。
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pataphysiquerecords · 1 year ago
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現象告発2023 
肉弾666勇士!今晩の出演者、川島誠と浦邊雅祥について
本日のソロサックス奏者二人のうち最初の出演者、川島誠はイタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの書物に由来する“ホモ・サケル”(「剥き出しの生」の意)というレーベルを運営している。その川島が大ファンを公言し、共演を求めてやまなかったのが、リアルな「剥き出しの生」そのものの男、浦邊雅祥に他ならない。
では、ホモ・サケル、剥き出しの生ってなに?よーく見てみな、そこら中に転がっているじゃないか?「殺害が処罰されなく犠牲が禁止されている」人間の法からも神の法からも外に置かれている者…もともと例外状態を維持しようとする権力の下いたるところに姿を表すようになり排除される聖なる者…つまりは搾取され続ける者ということだよ。
あれれ「例外状態」ってよく聞いたな、ついこの前(まだ進行中か)のウイルス騒ぎの時にも…排除しても排除しても増殖して行くって…それってもしかして我々皆すべて、生きている人間すべてということ?人類皆兄弟?
鈍いねー、ようやく気がついたの?何があったかまだまだ鮮烈じゃないの…緊急事態宣言だの、接触禁止アプリだの、強制在宅リモートワークだの…まさに「例外状態」だから…宇宙からトレースされ続けて位置を特定管理されて、何処までもつけ回されて… あ、ポケモンGoなんかもすぐそこに居るかもよ!緯度、経度、座標の高さなんかもバッチリで!でも、俺が特に嫌いなのは急速に普及したスーパーなんかのセルフレジだね…最も日常的に必需品を購う場、そんなところまで客自身の身体運動そのものを動線として設計し直し「セルフで外部な」労働力として搾取するかって!しかもバッチリ監視カメラ付きで…で、その御大層な「搾取」とやらはまだまだ続いているのかって?はあ?もう一度書くが御本家アガンべンさん本人が言っているよ「権力は例外状態を維持しようとする」って。
そうだ…この冬なんかも凄かったよね、フィリピンはマニラ辺りから特殊詐欺だか連続強盗殺人だか知らんけど、日本のそこら中直接に「お宅の玄関に繋がっています!還付金のためカードを取りに来ました」ってね…で、テレビにネットは騒ぎまくるは、「犯罪人」達はSNSやらに写真上げまくって万札バラバラと「はーい、ブランド品のゴージャスなバックでーす!闇バイトいかがですか?」とかって!確かに下品極まりないことではあるが、こいつは見事に現実社会の鏡像、まるっきりの二重写し��ゃないですか?これもまさしく例外状態?で、やっぱり悪いウイルスは増殖するってね…果てまで行ったらイスラム国で首チョンパ?はたまた今時大流行りのウクライナ戦争やジャニーズ騒動? 今にはじまったことじゃないが、この社会や世界、惑星そのものがまるごと収容所じゃないのかい?で、そいつはどんどんどんどん酷くなり続けているんじゃないのかい? 資本の神の楽園だけが大賑わいのうちに…そして誰もがそいつと訣別できぬうちに…
イヤー、もう本当に俺はウンザリしきっているのさ…世界と「多様性」で繋がってますとかってね…皆そのうちゴーグルレスのホログラムなんかで延々と恍惚としているんじゃないの?「差別反対!LGBTQはじめみんな“多様で同じ”人間万歳!」とかって…影では本当は無理を重ねてて、異質なやつのことを、バイキンとか、それこそウイルス扱いしたりもしながらね…けど���、ウイルスは変異もするんだよ…善も悪も両方、排除されても排除されてもね… で、ここにこそ2つの「特異性」を持ったウイルスの集合体たる川島誠と浦邊雅祥の身体がようやくお出ましするのさ… はあ、長かったね、ここまで…
「僕には僕がいる」かつて浦邊雅祥本人はそう言い放ったが、それに加えてアルトサックスも、鉄のグリップも、さらにはそれを握る37兆の細胞分子も彼とともにい続ける。
n (未知数) × n =?…
無限の僕だ!
が、あくまでも「たった一つ」の身体存在としてだ。
晩年の川仁宏曰く「20世紀最高のアルトサックス奏者は浦邊だ!」とのことだが、今や21世紀も23年目だ。当然今世紀もそうなるに決まっているさ!ロマン派真っ盛りの19世紀に生まれてからまだたかだか200年に満たずの金管楽器…今まで誰が、何処で「様式」や「技巧」とやら(つまりはCode、規範)にとらわれず身体を使いサックスを吹いた奴がいる?ブラックやヨーロッパのフリージャズ?ああ、あれ等は「フリー」を僭称したただのジャズだ。阿部薫?ああ彼も申し訳ないが、結局はたかだかのジャズだ…浦邊雅祥は全く違うよ。ましてや「サックス奏者」ですらないよ… じゃ一体どういった御仁?
さあ、ここで皆さんの大好きな言葉を一つ出してあげるよ! 彼、浦邊雅祥こそ、 無限の僕=「器官なき身体」以外の何者でもない。 そして彼はいつでも「此処、Here」に居続け、生まれ起こり続けるだけさ。光速で振動しながら、とても陽気な光・・・・の輝きを滲み出させながらね。
アントナン・アルトー〜川仁宏〜浦邊雅祥〜そしてそれら先達を憧憬持って追う川島誠…
どうだい?19世紀末1896年から21世紀の今日2023年までのそれぞれ「たった一つ」の特異な身体存在者達と、その生の流れがすっきりと見渡せるじゃないか? いいかい、もう一度言うが間違わないでくれよ!「多様」じゃないんだよ「特異」なんだよ!ただそこに在るだけであらゆることを産出し続けるそれぞれの特異な「器官なき身体」。それこそが真の剥き出しの生、汚辱に聖別され戦い続ける変異したホモ・サケルそのものなんだよ。
皮膚の下の身体は加熱したひとつの工場である そして、外で、 病人は輝いて見える。 炸裂した そのすべての毛穴から 彼は輝き出す。
アントナン・アルトー (宇野邦一訳)
本人達は何もそんなことを考えても感じてもいないかもしれないが、電子と遺伝子に直結した「生政治」生命そのものの搾取と戦うには、そんな身体存立平面を非物質的に変異変形させ続ける細胞分子の流れとやり方もある。 いや、もうこんなにも窒息したウルトラ管理監視社会に抗うにはこの「ただ此処に居て、生まれ起こり続ける」でいながらも高速な細胞分子の奔流を放ち続ける行為、この浦邊雅祥のやり方しかないとまで私は真剣に考えている。そしてその「器官なき身体」はまるで動いていないかのように見えながらも激しく振動している身体存立平面そのもの、そこからこそ「聖なる子供」トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンが見たような新たな地平を次々と獲得して行く。ある哲学者にならってモナド的と言っても良いけどね…SNSやリモートやらセンサーやらで人工衛星に直結し、常に監視され多様に繋がっている場合じゃなくね… Oh!浦邊の大好きなLou Reed “Satellite Of Love”とは全く話が違うけどね…
望むべきはそれぞれが一つ一つの特異点の集合たる「到来する民衆」(アガンベン、これこそモナド)そのものだ。 そして、その集う様、その来るべき民の前に存在する2つの肉弾、川島誠と浦邊雅祥を新たに繋げ、彼ら各々の身体行為を今こそ確認したく、私はこのライヴ(生)を主宰した。
だから、 肉弾666勇士 こいつは不吉だよ…6 6 6…なんせ「悪魔の数字」または「獣の数字」だからな… (あ、浦邊雅祥のアルバムにも「獣」ってのがあります)
さあさカーニヴァルが始まるぜ。陽気なカーニヴァルをおっ始めるぜ。ちょっとは愛嬌をふりまいてもやるさ。でもまちがっちゃいけない。ここは地獄なんだ。地獄のかまどを開くにゃにぎやかさと笑いというものが必要なのさ。さあ、どんどん入ってくれ地獄というのは相手を選ばないのが上品なエチケットなんだ。
間章 べガーズバンケット(貧者の宴)ライナーノーツより
この駄文をここまで読んでくださったご来場の方々、どうもありがとうございます。 どうぞ川島誠と浦邊雅祥二人の在り方そのものにお立ち合いください。
そして、最後にですが、会場内での録音、写真、動画の撮影、並びにSNSへの投稿等々はご遠慮下さい。スマホはおしまいいただけましたら幸いです。 よろしくお願い申し上げます。
2023年10月18日 Pataphysique Records 福岡林嗣
Doctor, Purifiva, Pataphysique Records, eyeliner Presents 6bodies60minutes6months vol.12 2023.10.17(TUE)18(WED)19(THU) 各日開場19:00 / 開演19:30 料金¥2000+drink 3日間通し券¥3000
10月17日(火) Bottom of Underground Rock! 出演 川口雅巳+Akira+ヴァロン 1980の皇帝ペンギンパラダイス
10月18日(水) n x n = ?… 肉弾666勇士! 出演 浦邊雅祥 (alto sax, etc)ソロ 川島誠 (alto sax, etc)ソロ
10月19日(木) Collapsing Space Rock! バラナンブ Galaxy Express 666(junne、Rohco、Risa)
各日開場19:00 / 開演19:30 料金¥2000+drink 3日間通し券¥3000
club Doctor 〒167-0043 東京都杉並区上荻1-16-10ローレルビルB-1 Phone 03-3392-1877
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hayato-10ka10 · 1 year ago
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【小説】『獣を放つ』4終
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 幼い頃に離婚したと男の父親は酒を呑む獣だった。酒を呑み、理性を失っては暴れる獣だった。その風貌は獣らしく毛深い。赤く上気した顔に生える髭は毎日の手入れを怠るずぼらさのせいで、いつもまばらに伸びていたし、手足は濃く太い毛に覆われていた。酒気を帯びた呼気の不快さに隠れた煙草の匂いとすえた体臭を携えて、獣はいつも家に一つしかないエアコンがよく効いた部屋にいた。机の上にはビールの缶が乗っていて、側に広げられた型の古いラップトップパソコンには何やらウェブページが開かれている。黒いテーブルには缶かコップの丸い跡が幾重にもついていた。男の定位置は父親の背中側。食事後の晩酌を邪魔せずに宿題が出来る板の間だった。プリントで問題を解いていると時々、板の目に鉛筆の芯が嵌まって不自然な直線が引かれる。穴が空いてしまうこともあって、上手く書き直せなくなるのが嫌だった。
 突如、体内で飽和した熱がぶわりと脳味噌を炙って、真夏の陽炎みたいに風景が揺らいだ。くわんくわんと明滅を繰り返す中、瞬きをする。ドツっと鈍い音が床から伝わってきた。後に続くのは母の金切り声。対抗するような怒号。蛍光灯を遮って立ち塞がる巨体。理性の楔を断ち切ったその姿は獣そのものだった。影から手が伸びてくる。抵抗すればより悪い結果を招くことはわかっていたからそのままじっとその影を見つめていた。宿題が破れてしまわなければいいなと思ったことを覚えている。
 口の中に温い液体が競り上がる。呼吸の度に撫ぜられるような体毛の動きが落ち着かない。寒気に似た奇妙な感触が心臓の鼓動に合わせて全身を巡っていった。ふと見ると床に、突いた手の指先が白くなっていた。固い土にシャベルを突き刺すように身体の芯から何かが浸食してくる。荒い息が唇を掠めた。苦しくて叫びたいのになんと叫べばいいのかわからない。志向先の定まらない激しい後悔に涙が溢れた。皮膚を突き破って暴れ放たれる衝動に手近なものを引っ掴み、腕を振り上げる。叩きつけるように振り下ろし、それを投げつけた。飛んでいく先には幼い自分が座っていて、恐ろしさと軽蔑と少しの心配を滲ませた目でこちらを見ている。それを透過したスマートフォンが床で跳ね壁まで転がった。子どもが頭を押さえる。大人になった男の中で死にぞこなっていた子どもが。
「あ゛っ…ぁ゛ぁ゛…」
閉じた咽頭に擦れた声が嗚咽に変わる。短慮の末に暴れる男はいつかの獣そのものだった。
 酒は大人の象徴だ。酒の味を知っていることが大人と呼ばれる種族の要件なのだ。だから、酒が呑めるほど大人になればこの地獄から抜け出して、自由を得ることが出来るのだ。そう男は思っていた。その漠然とした思い込みはどこか儀式めいたニュアンスで男の内にあった。しかし、たとえ酒が呑めるようになっても、成人式が過ぎ去っても、自由を得ることは出来ないでいる。薄く張った肌の下、癒えた筈の生傷がシクシクと痛む。痛みの源は体内で流れる獣が開けた風穴だ。
 食道が激しく波打つ。男は這うようにシンクへとすがり付いた。縁に手を掛け、頭を突っ込むと決壊した唇から泡立った液体が口からまろびでる。アルコールとグレープフルーツの合成香料の香りが鼻の奥に刺さった。
結局自分も、あいつと同じ獣だ。
幼い頃、泣きじゃくった時と同じ鈍痛が副鼻腔を加熱する。舌の上にはざらつく苦味が残っていた。
Ⓒ2023十ヶ十颯
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satoshiimamura · 1 year ago
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雨濡れ色のペトル残響 雨請い 期待
大変換のときのジーナ・チャイカについて
 水溜りだらけのコンクリートの上で、仰向けに寝そべりながらも、ジーナ・チャイカは空を見つめていた。
 雨が降り続ける。なんの変哲もない日常が溶け出していく。それを見たジーナは、小声で歌を歌った。幼い頃に離婚し、顔も覚えていない父親が酔っ払ったときに歌っていたものだ。歌詞の一部しか覚えていないそれは、父の故郷での流行ったものだと母から聞いている。
 ジーナが歌うたびに母は嫌な顔をしていたが、それでもこの無秩序を生み出し、混沌を飲み込み、静謐を降り注ぐ雨に対して、父が残した歌は合った。
 罪を背負った男が、愛した女のために戦場へ向かう。帰ってきたら結婚しようと将来を約束し、そして二人の夢だけが遺された。そんな陳腐なラブストーリーの主題歌だった、とジーナの母親は歌の由来を教えた。酷評する母親は、その映画のタイトルさえも思い出せず、ジーナがインターネットの海からありきたりな映画を探し出す労力は多大だ。だから、諦めたし、いつかに期待した。
 この歌は、期待だ。
 困難に立ち向かうとき、理不尽が襲いかかったとき、夢だけを頼りにしなさいと教えてくれる期待の歌。
 濡れた制服は肌にまとわりつき、雫���顔の肌を伝い、地面へと垂れる。泥水を吸った髪は乱雑に広がり、溺れるほどに雨はふり続けた。
 ジーナの視界に映る有象無象は、徐々に姿を無くしていく。
 学校の一角が、逃げ遅れた人々の姿が、消え去ったところで、彼女は起き上がった。
 カシャンと手に持っていたメガネが滑り落ちる。慌てて拾い上げた彼女は、その丸いレンズに着いた水滴を払うと、顔にかけた。
 ダサイ、ダサイと散々言われていたワンピース型の制服は、紺色から真っ黒に染まり、同じように真っ白だったブラウスもまた黒になっている。唯一の色は、襟元にあるリボンくらいだ。それは、とても美しい青色をしていた。宝石のように輝く色に、ジーナは嬉しくなって、二度三度とリボンを撫でる。
 喜ぶジーナの口から漏れ出��笑いを打ち消すように、女の悲鳴が上がった。
 せっかくの気分が台無しだと思いながらも、ジーナは振り向く。そこにいたのは、彼女を凝視する生徒や教師たちだった。
 彼らの前にいるジーナの周囲は、文字の山ができていた。先ほどまで阿鼻叫喚の悲鳴を上げて、もがき、苦しみ、死にたくないと嘆き、助けを求めた多くの生徒たちの成れの果て。避難場所は限りがあり、その限りからあぶれた者たちの末路。勝手に価値を決められて、力任せに外に出されたそれらの中で、ジーナだけが立ち続けていた。
「なに……あんた、なんなの?」
 怯えた女子生徒が、ジーナを指差して呟く。
「なんで、生きているの」
 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、の大合唱が、ジーナのクラスメイトや教師たちから発せられる。それは聞くに耐えない、醜く、不恰好な合唱だった。
「……うるさいわ」
 耳を塞ぎ、顔をしかめ、ジーナは不快感を露わにする。
「なんで? そんなの分からないわ。でも、これだけは言える。私は勝ち得たの。選ばれたとも言うわね」
 睨みつけるように、彼女が宣言すれば、不協和音に近い合唱は止んだ。そして、次に彼らがやったのは、自分もまた雨に勝つかもしれないという幻想への度胸試しだった。
 学年でも有名なお調子者が、その指先を外に出す。けれど、あっという間に文字と化していき、彼は悲鳴とともに中へと逃げて行った。二人、三人、四人……見える範囲で、次々と試し、次々とその結末が文字であることが共有される。
 誰もがジーナを見下して、誰もがジーナだけが生きている事実を不平等だとなじり、誰もがジーナごときが選ばれる理由を貶めた。それだけジーナ・チャイカは、彼らにとって取るに足らない、見下す対象なのだ。
 彼女は引っ込み思案で、強くものが言えない性格もあり、面倒ごとを押し付けられてしまう貧乏くじを引くタイプだった。
 運動は苦手、トップとまではいかないが学年内では上位の成績を収めているため、教師からの評価はいい子。ただ、周囲が活動的なタイプを是とする環境だったために、これまで日の目をみることはほとんどなかった。
 唯一彼女らしい彼女の特徴は、本好きであること。しかし本にのめり込みすぎて、少しクラスでは浮いていた存在。
 それがジーナ・チャイカという、小さな田舎町に住む、閉ざされた学校環境で貼られた彼女の評価だった。
 再び、なんでの大合唱が起きるかと思いきや、今度は嘲笑が起きた。さざなみのように広がる嘲りが、徐々に崩れかけた校舎全体に広がる。それは、無機物が生きているような錯覚をさせた。
 校舎内の腹わたに巣食う人間たちが、まるで一つの生物のようにジーナを見下す。
 風が彼女の髪を揺らした。
 雨が彼女の頬に当たった。
 曇天の暗闇が彼女を覆う。
 それでも嘲笑は止まなかった。
 ただ独りで立ち続ける彼女を、その場で人間という種を代表する彼らは、魔女裁判で火炙りを求めるように、罰を口にし始めた。ついでに雨で文字化されない彼女をどうやって利用するかの審議が始まった。
 その瞬間、ジーナは彼らへの期待をやめた。原因不明の、大災害とも言えるほどの、この奇妙な豪雨において、何も変わらない彼らへの期待を彼女はやめた。
 そうして、天啓のように、この雨はこうして醜い人間たちを消すために存在しているのだと悟った。悟りといいながらも、ほぼ確信であった。
 だから、彼女は等しく彼らも雨の下にいるべきだと思ったのだった。全身が雨に濡れて、選別は完了する。それに、まだ試していない生徒や教師たちも多い。もしかしたら、ジーナのように文字にならない人もいるのかもしれない。そうしたら、きっと変わるだろう。こんなくだらない審議も、侮蔑も、レッテルも存在しない世界に足を踏み出すべきなのだ。
 変化を望むジーナはそうして期待を胸に、彼らの手を掴みに向かったのだった。
 一人目は、うっかり掴んだ手のひらを砕いてしまったようだった。
突如掴まれた手が鈍い音を立てて、悲鳴をあげようとしたら彼は気がついたら雨の下にいた。
 二人目は、足を掴んでしまったので頭を打ちつけてしまったようだ。雨の下に放り出されたときには、すでに動かなくなっていた。
 三人目で、握力が強くなっていることに気がついたジーナは、手加減をしたが、勢いをつけすぎて失敗してしまった。手首ではなく、からぶった手は相手の肩を叩き、左腕が吹っ飛んだ。血が雨のように降り注いで、そこで周囲は事態をようやく認識したようだった。
 ジーナから逃げ惑う人々が、サメが魚の群れに突っ込んだときに、側からみるとぽっかり穴があくような動きをした。
 ジーナが一歩動けば、虚無の円は一歩分ズレた。
 四人目はジーナに友達を作れといった教師だった。
 五人目は隣のクラスで人気者の男子だった。
 六人目は生徒会長の推薦文を読んだ生徒だったはずだ。
 七人目は本ばかり読むジーナを根暗と言った女子生徒だった。
 八人目は憧れの人の彼女だった。
 九人目は下の学年を示すバッヂをつけた男子生徒だった。
 十人目はクラスで有名な不良だった。
「ああ、これは面倒だわ」
 クラス委員、よく隣のクラスから来ていた子、女子に騒がれていた男子、学年主任に目をつけられていたギャル、大きな派閥の中心核、大会で表彰されていたはずの人、先輩の学年カラーを身につけた人、名前も知らない、見た覚えのない同じ学校に通っていた人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、生徒、人、人、人、人、人、ひとだ、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、ひと、人、人、人、人、人、人、人、人、よく通学路で見かけた、人、人、人、人、人、人、校門で立っていた、人、人、人、人、人、ヒト、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、爽やかだった人、人、人、人、人、人、貧乏人、人、人、人、人、人、人、人、人、ブランド物が好きだったはず、人、人、人、教頭、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人間、人、人、ヤンキー、人、人、人、人、男、人、人、人、人、人、人、人人、人、人、修学旅行で教師に怒られていた人、人、人、人、人、人、泣いている人、人、人、人、人、人、人、人、男子、人、、人、人、人、人、人、人、頭でっかち、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、名前もしらない人、人、人、人、人、人、人、どこにでもいる存在、人、人、人、人、人、人、人、人、親身になってくれた友人、人、、人、人、生徒、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人人、人、人、きつい性格で有名だった、人、人、馬鹿、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、どこかの誰か、人、人、人、人、人、将来を期待されていた優等生、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、教師、人、人、人、友人、人、人、人、人、女、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、誰だろう、人、人、人、人、人、漫画を貸し借りしていた人、人、、ひと、人、人、ブス、人、人、人、人、人、人、人、人、人、どうでもいい人間、人、ギャル、人、人、人、人、人、人、ひと、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、お金持ち、人、人、人、人、デブ、人、人、人、人、人、人、誰か、人、人、人、人、パンを食べていた人、人、人、人、笑い声が大きかった人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、女子、人、人、人、人、美人、人、人、馬鹿にしてきた人、人、人、人、人、人、人気者、人、人、人、人、人、人、人、人、よく注意してきた人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、お調子者、人、人、人、人、人、人、数学教師、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人……。
 最後の二人になったとき、ジーナはやっと終わると思っていた。
 校舎の一角。彼女の前に怯え切った少女が座り込んで、嫌と泣き叫ぶ。許してと言われても、ジーナは彼女の何を許せばいいのか分からない。
 これは儀式なのだ。
 ここに避難したとしても、校舎は刻々と文字になり、崩れている。彼女が外に出した人々以外にも、結局雨に打たれざるを得ない人々はいた。そう、最初から生き延びるためには、文字にならないことが絶対条件だったのだ。そんなことも、ここの生徒や教師たちは気づかなかった。
 ジーナは呆れ、指摘した。
「じゃあ、どうやってこの雨から逃れるの? どうしたって、時間とともに校舎は崩れるわ。そうしたら、同じことよ。私だって、仲間が欲しかっただけだわ」
 文字になるのなら引導を、ならないのならば仲間を、の言葉に、少女は食ってかかる。
「もっと別の道があったかもしれないじゃない! 少しでも、助かる道があったかもしれないじゃない! あんたがやったのは、ただの虐殺よ」
 その言葉に、ジーナは薄く笑う。その笑い方は、最初に校舎内で響いた嘲笑とよく似ていた。だが、彼女は似ていることに気づかない。
「子供ね、とても。あなたは子供でしかないわ。期待を胸にしたのは、あなただけではないわ。私だって、そう。……それに、最初に私たちを外--雨の下に出したのは、あなたたちだったじゃない」
 自業自得よ、と呟いたジーナは、少女の腕を掴む。嫌だと暴れる彼女を無視して、その場を動こうとした時、天井が崩れた。
「……あ」
 静かに驚いた声をあげたのは、少女��、それともジーナか。
 文字が少女の上に落ちていく。奇しくも、少女の腕だけが文字化を逃れ、ジーナの手元に残った。
「……あーあ。結局誰一人として同じ人はいなかったのね」
 ポイッと残った腕を雨の中に放り投げて、ジーナはその場を後にした。
「とりあえず、家に帰って……家まだあるかな。荷物作って、足りなかったら適当に他の家を探せばいいか。お母さんは、仕事中だったはず。ああ、携帯が文字化したのは面倒だなぁ。……うん、とりあえず、お母さんの職場に行って、お母さんの無事を確かめて……あとは」
 つらつらと、この後の段取りを決めていくジーナは、清々しい表情を浮かべていた。先ほどまで大変面倒な作業を終えて、疲れはしたが達成感に溢れているらしい。
「そうだ、都会にいくいい理由になるよね、これ。私と同じ人が、きっと都会だったらいっぱいいるかもしれないし」
 服これで大丈夫かなぁ、と心配する彼女は、足を自宅へと向ける。
「きっと私と同じ選ばれた人なら、こんな面倒で怠惰でくだらないことをしないはずだよね」
 ジーナは、昼の夏空のように染まった瞳に期待を乗せていた。
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groyanderson · 2 years ago
Text
☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン3 第六話「悟りの境地」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。
→→→☆書籍版発売までは既刊二巻を要チェック!☆←←←
(シーズン3あらすじ) 謎の悪霊に襲われて身体を乗っ取られた私は、 観世音菩薩様の試練を受けて記憶を取り戻した。 私はファッションモデルの紅一美、 そして数々の悪霊と戦ってきた憤怒の戦士ワヤン不動だ! ついに宿敵、金剛有明団の本拠地を見つけた私達。 だけどそこで見たものは、悲しくて無情な物語…… 全ての笑顔を守るため、いま憤怒の炎が天を衝く!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་  
 アラビアンナイトに、漁師と魔人という寓話がある。壺に閉じ込められていた魔人の封印を解いてしまった漁師が、「お前なんかこんな小さな壺に入る事すらできないだろう」と煽って魔人を再び封じ込める話だ。グリム童話や西遊記にも似たような物語がある。 「貴様は終わりだワヤン不動、金剛の有明が訪れる前に亡き者にしてくれる!」  この間抜けもそうだ。わざわざ暴風吹き荒れる高度三千メートルの塔外空中庭園に出て、最上の姿とやらになるため分散していた全黒煙を一身に集中させた。煙として漂い私達の体や霊魂を汚染させる方が圧倒的に恐ろしい力なのに、頭に血が上った本人は気付いていないんだ。  最上形態の金剛愛輪珠如来は十二単に似た複数人種の生皮ドレスローブと、ラスタカラーに輝く狸の毛皮の襟巻きで着飾っている。背中に千手観音のように多色の腕を生やし、その顔つきは……私の和尚様。ムナル様のご遺体から奪った物だ。 「やれやれ、悔しさに言葉もないか? ほら、ワヤン不動。我らを裏切った貴様の師匠の顔だぞ」  知ったことか。その人は既にこの世から逝去した。ていうか勝手に髪の毛生やしてるし、もはや課金のしすぎでゴチャゴチャになったアバターみたいで和尚様感ゼロだし。 「御託は不要だ。かかってこい、ケツ穴糞野郎(オンツァゲス)」  影影無窮! 私は影体を練り、自身の腕を四本に増やした。右上腕から長斧(ティグク)、神経線維塊(ドルジェ)、羂索(キョンジャク)、倶利伽羅龍王剣(プルパ)を持つ。今までこいつに破壊された物や、さっき粛清した龍王も含めた私の全法具だ。かつてない程慎重に、そして確実にこいつを滅ぼす!  ヴゥン! 先制して如来の顔面に目くらましの神経エネルギーを放った。すかさずティグクを振るうが、如来は回避。なるほど。死体を継ぎ合わせて作ったあの体は所詮器に過ぎず、奴は目でなく煙体で物事を感じ取っているんだ。 「カハハハ、ならばこうだァ!」  指先で小さな影と神経を練り、高速連続射出! チュタタタッ! これも如来は人間離れしたバック宙返りで回避。しかし奴が体制を整えようとしたその瞬間、私は既にゼロ距離で龍王剣を構えている! 「ピギャアァーーーーーッ!!!」  刺突ゥ! 如来の胸部を貫いた龍王剣が絶叫、炎を吹き上げながら奴の体内を燻製窯に変えた! 開祖バドゥクン・サンテットとの戦いで得た奥義、影縫いだ! 「ほう……」  如来は涼しい表情のまま、胸部の風穴から大量の黒煙を噴出。一方こうなる事を予習済みの私も、煙を吸わないよう息を止めたまま、影体を後部へ滑らせた。 「やれやれ、少しは賢くなったようだな。どれ、他の連中とも遊んでやろう」  如来の背後を彩る千手が、ボトボトと数本剥がれ落ちる。それらは黒煙を纏うと、生を得たような人型に膨張。私の後方目がけて走り出した! 「光君、イナちゃ……」 「貴様の相手はこの私だ!」  ズズゥッ……周囲一帯の空気が吸引されるような音。仲間の心配をしている暇はないようだ。 「龍王!」 「へ!?」  全身猛毒の奴の攻撃を生身で受け止めてはまずい。私は自動制御型法具キョンジャクの先に龍王剣をくくり、めいっぱいブン回す! 瞬間、如来が大量の汚染黒煙を噴出! 「ギヘエエェェェエエーーーー!!?」  黒煙を扇風機(サイクロン)効果で全て吹き飛ばした! 猛回転と毒に酔った龍王は悲鳴���上げながら影炎吐瀉! 「オゴゴボォーーーーッ!!!」 「ぐわっ!」  龍王剣爆発! 衝撃波を食らった私は後方へ吹き飛び全身を強打。しかし黒煙を散々吐き散らかした如来もやつれてきている。武器を二つ失った対価は大きいぞ! 「よし、トドメを……うっ!?」  ティグクを構えた瞬間、私は突如背骨の辺りに激痛を覚える。振り返るとそこには……杭のような形状で私を貫く、固形化黒煙!? 「うガッ!」  血管に汚泥を流されたような鈍痛! 視界がチカチカと明滅し、手足の力が抜けていく。 「ゼェ、ゼェ……ふふ。トドメを……どうすると?」  一転、舐め腐ったような表情で近寄ってくる如来。私は満身創痍でティグクを振るう。しかし斧の柄がみぞおちに当たり、私は胃液を吐き出して自滅転倒! 「ぐはっ!」 「ハッハハ! やぁれやれ、やはり邪道に金剛の有明は訪れぬようだな!」  亡布録装束(ネクロスーツ)に刻まれた死者達にケラケラと歪な笑い顔を作りながら、この世で最もおぞましい外道野郎がにじり寄る。 「だが貴様も女よ。最後の情けとして、この私の接吻で邪尊の因果から解き放って殺してやろう……」  如来は黒煙を吐きながら私に顔面を近付ける。キショい! 和尚様の顔でどうやったらここまで気色悪い所作ができるんだ!? 「ひぃぃぃーーー!」  しかしその時! 「グオォォルアアァ!!!」  ズドゴオオォン! 如来の横っ面を突如巨大な発光体が吹き飛ばした! 「ガッ! ……かはっ……き、貴様ァァ……!」  塔の壁面に大の字でメリ込んだ如来が、ベリベリと顔を剥がしながら振り返る。睨みつけた先には……御戌神、光君だ! 「僕の一美ちゃんに触るな」 「何故だ。貴様如き、分身で十分汚染できたはず……!?」  如来が目を見開く。光君の足元には、ただの腕と化した亡布録が転がっていた。それどころか、私も含めた彼の周囲の黒煙がみるみる消滅していく。 「ま、まさか!」 「カハハッ……何の対策もなしにお前に挑むわけがなかろう? 塔を上っている間に、お前の特徴は仲間と共有済みだ」  黒煙が生物を死に導く力と、光君をずっと蝕んでいた滅びの光。その特性はどこか似ている。ならば、そう。こいつは滅びの光と真逆の、生き物が発する命の輝き……すなわち、『赤外線』を当てまくれば消毒できる! 「ぐああああっ! 馬鹿なァァ!」 「効果は既に亡布録ゾンビで検証済だ! カァァーーッハハハハァァーーー!!!」  パァァァ! 光君を中心に、大晦日の寒空を強烈な赤外線の熱波が撫でた! 周囲一帯の体感温度が急激に上昇し、風をももろともせず滞っていた黒煙はたちまちオレンジ色に輝きながら消滅! 「おのれ……見くびるな、亡布録の法力はいかなる光も通さぬわァァ!」  如来が立ち上がり、再び背中から二本の腕をもぎ取った。それに黒煙を充填すると、腕は二対のガトリングキャノンと化す! 「たかが天部や明王如き、生身の戦いで十分! 捻り潰してくれるわぁ!!」  ズダガガガガガガ!!! 硬化した皮膚片を乱射! やはりこいつは馬鹿だ。 「ステゴロで如来部が明王部に勝てるかボケがァァーーーッ!!」  ヴァダダガガガガガァン!! 無数の神経線維弾が爆ぜ、皮膚片は全て分解霧散! 棒立ちの如来にティグクを叩き込む!! 「うおおおおおーーーーッ!」  頭を真っ二つに割られて吹き飛ぶ如来! 物理肉体に身を包んでいる奴はそのまま、謎の力で浮く空中庭園から放り出された。 「おのれ! おのれェ! 亡布録よ、魂と骸の抜け殻よ!! 我が血肉となれえええぇぇ!!」  自由落下しながら絶叫する如来。すると塔の亜空間からボトボトと亡布録や黒煙が飛び出し、再び如来の装束を蘇らせる! 「フハーーーッハッハッハァ! やれやれ、ここまで手こずらせてくれるとは!」  再び法力を得た如来は地面スレスレで再上昇! 背中の千手に黒々とした巨大煙玉を抱えて上空に迫る! 迫る!! 「この私は何度でも甦えぅええぇぇえ~~~!!?」  しかし高度三千メートルに達した時……如来と煙玉が、謎の飛行物体に吸い込まれた! 「な!? な!!?」  突然の事に何が起こったか理解できない如来。しかしその飛行物体を、その創造者を、私は知っている…… 「アブダクショォン!」  たった今、如来が塔から吸い上げた亡布録。その一体が奴から反抗するように、未確認飛行物体から舞い降りた。彼女の名はリナ。私が生まれて初めて作った『自我を持つタルパ』の……宇宙人リナだ! 「やれやれ。まんまと罠にはまたネ、愛輪珠如来!」  イナちゃんが駆け寄る。そう。私はここに来る途中、彼女に『亡布録の中に、髭の生えた女の皮(リナ)がいたら理気置換術をかけてほしい』と依頼していたんだ。如来は私を乗っ取りに来た時、家の結界を突破するためリナを亡布録に変えていたから。 「有り得ぬ、抜け殻が自我を取り戻すなどと……くそ、ここから出せ!」  如来はリナが生成したタルパUFOの中で狭そうにもがく。 「ふっ……やれやれ。言うことを聞けぬなら、この飛行物体ごと亡布録に変えてやる!」  煙玉破裂! 船内に黒煙が充満し、UFOの外観が次第に色褪せていく…… 「させるか! スリスリマスリ!」  シュッ! イナちゃんが射出した理気置換術の波動がUFOの丸窓を通して何かに命中した。すかさず船内に、ふわりとラスタカラーの糸のようなものが光る。 「ぐあぁ!?」  如来は繭状になった糸に拘束される。更に、自らの首を飾っていた狸の毛皮が奴を締め上げる。彼も……あの化け狸もまた、如来に命を奪われた魂の抜け殻だ。 「フ……フフ! だがワヤン不動、貴様に私が倒せるかな?」 「?」 「亡布録は所詮、死者の抜け殻。このまま私を倒せば、この宇宙人と狸も消滅する。そして貴様の師匠である金剛観世音菩薩の亡骸も、永遠に消え失せるのだ!」  ほぼ敗北を悟った如来は、最後の脅しにかかっているつもりらしい。だが、それがどうしたというんだ。 「オモ? こいつ何言ってるの。リナちゃんも狸さんも、もうこの世にいないヨ?」 「……へ?」 「それは私が理気置換術で操ってるだけ。お前と同じやり方で、しかえししたんだヨ! ゲドー野郎!」 「なっ……なっ……!」  ゴォッ。光の獣と影の明王が火柱を噴き上げ、天に二色の螺旋を描く。 「や、やめろ……」  死の残滓には、命の輝きを。生命の営み、男女結合の境地……両尊合体(ヤブユム)を。 「よせ! もう間もなく、金剛の有明は訪れるのだ! それ��拝めずに、き、消えたくない……」  全ての因果を斬る漆黒の影体、全ての外道を焼き尽くす真紅の後光輪。ワヤン不動・輝影尊(フォトンシャドウフォーム)爆誕!   シャガンッ! 世界が白一色の静寂に染まる。この領域は私であり、私はこの領域そのもの。中に存在する異物は、金剛愛輪珠如来のみ。さあ、 「やめろおおおォォォーーーーーーーー!!!!」  神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!
༼ 南摩三満多哇日拉憾唵焼雅蘇婆訶! ༽
 幾多の仲間が散り、師は逝去された。ここからは、私自身が我が道を歩んでいく。
༼ 一名來自沙漠盡頭的精靈僧官將其救起精霊曰吾乃悪魔神視不食其力而乞為悪是故將汝等糧食交之於吾僧官曰生存乃自然之道既然如此佛祖不会介意您便拿去吧! ༽
 金剛愛輪珠如来は外宇宙の理力により死を超越した残滓。だがこの地球上に衆生を蔑ろにする仏など不要だ!
༼ 精霊曰神不容受施于神外之物是故命汝等崇敬於吾僧官曰如果您施恩予我我將感激不盡既然如此佛祖不会介意您大可放心! ༽
 もはや外道の如来も、邪尊もこの世からは消え失せる。ここにいるのは憤怒の化身、外道を滅ぼし衆生を守る輝影尊のみ!
༼ 精霊曰神不容爾等試探其之內心是故吾便在此自殺僧官曰您死後我便會恭敬的悼念您既然如此佛祖便不会介意您大可放心! ༽
 案ずるな、呪われた黒煙よ。死者の肉と魂は素粒子に分解霧散し、また地球の糧として巡るもの。
༼ 精霊曰吾中意之佛道是故汝接受吾之心臓將其食用於是乎精霊感到十分満意帶著愉悅的心情離世了而僧官則吃了精霊的心臓成為了守護其衆生的赤紅影尊ヌアァァアアア!!! ༽
 その輪廻から逃れられる悪徳など、この世には存在しないのだから。私はそれを知っている。邪尊でも、祟り神でも、たとえそれが悪魔でも……
༼ 唵! 皮! 影! 維! 基! 毘! 札! 那! 悉! 地! 吽ーーーーーーッ!!!!! ༽
 ……さまよえる全ての者に、抜苦与楽の永眠を��えん。
 གཉིས་པ་
 暗転、赤転、明転。全てを出し切った私と光君は、素っ裸で並んで得体の知れない空間に横たわっていた。そこは真冬とは思えないほど心地の良い朝日が差し込む、あたたかな森の中…… 「……って、まだ終わっちゃだめじゃん! 光君も起きて!」 「そ、そうだ! ここまで来たら、ちゃんと金剛滅ぼさにゃ!」  私達は慌てて腰を上げる。いけない。戦闘後にマッタリしちゃういつもの癖が出かけたけど、まだ大魔神を倒していなかった! 『ふふふ……仲睦まじい新婚夫婦、素敵ですのね』 「!」  見知らぬ声の方には、色とりどりの花で彩られた棺があった。覗き込むと、中にはドレスを着た女性が眠っている。 「あなたは?」 『私は平良鴨カスプリア。全知全脳の女神……いえ。ただの豚ですわ』 「ぶ、豚ぁ?」  するとポッと短い電子音を立てて、森に小さな魔女……悟さんのアバターが現れた。そうか、ここは例の白雪姫なんとかってゲームの世界だ。 「そうよ、そいつは私の白豚ちゃん! ほら、おどき!」  絵本の白雪姫なら、棺で眠っている姫は王子様のキスで目覚める。ところが悟さんは、カスプリアさんに容赦なく四季砲(フォーシーズンズ・キャノン)をブッ放した! 「ひゃあん!」  可愛らしい悲鳴を上げて、女神様は棺から放り出された。しかしその表情はなんともご満悦そうだ。 「ふむ、両肘下と十二指腸、左脚がまだ未完成のようね。それとも私が今フッ飛ばしちゃったかしら? おほほほ!」 「滅相もございませんわ悟様! 私めの肉体はまだまだ未完成ですもの。本日は紅ご夫妻様のために、私カスプリア。魂だけ覚醒致しましたの!」  ……つまり、色々と作りかけのこの女性は女神カスプリア。人類に金融アルマゲドンとかいう試練を引き起こし、悟さんに見事ハートをかっさらわれた奥様というわけだ。 「この度は、私めと同じ『カオスコロル』がとんだご迷惑をおかけ致しました。私めも今はお力になれず、本当に申し訳ありませんの」 「カオスコロルとは?」  ああ、光君には伝えていなかったか。 「混沌色(カオスコロル)。例の外宇宙……創造主様の世界から降ってきた、謎の粒子だよ」 「じゃあ、カスプリアさんは大魔神や神の子さんと同じで?」 「ええ。あちらの領域……そうですわね、いわゆる外宇宙から参りましたの」  カスプリアさんが一瞬言い淀んだ。 「あまり人間様にあちらのお話はしない方が良いんですの。なにせ時の王様に記憶を封印された私め自身、全知全脳の自我を取り戻したとたん人格がゲシュタルト崩壊してしまったのですもの」 「げ、げしゅたると崩壊……」  って、自分が誰だかわからなくなって発狂するとかいう、あれだよね……? 「でも一人だけ。生きたままたった一人であちらに到達されて、お心に異常をきたさず帰られた人間様がいらしたわ」 「え?」 「ゴータマ・シッダールタ。初代、仏様ですわ!」 「そうなんですか!?」  まさか、それが悟りを開くって言葉の真の意味!? 「ええ! そして一美様、光様。あなた方がワヤン不動輝影尊として大魔神と戦われるのなら、同じ悟りの境地に至っていなければ勝ち目はありません。なぜなら大魔神は、いわゆる創造主を強制的に人に見せつける力がございますの!」 「人間が見たら発狂する神を、強制的に!?」  そういう事か。もし私達がこのまま大魔神ロフターユールと対決し、奴に宇宙の事を見させられたら発狂して負けてしまうんだ。だから今この場で、悟りを開くしかないようだ。 「ドマルの時から思ってたけど……やっぱり精神に見合わない力は、身を亡ぼすんですね」 「そういう事ですの。私めが今からあなた達に、この宇宙の真理をお見せしますわ。創造主を目視した人間は一瞬で無限の情報に脳を焼かれてしまうので、本来よりもゆっくり……さくさくっとお見せしますわね」  なにそれ怖い。 「大丈夫よ、あんたら二人一緒なんだから! 私だって一人で見たけど大した事なかったわよ!」  悟さんの魔女アバターがコロコロと笑う。……って、え!? 悟さん見た事あるの!? 「それでは……行ってらっしゃい! ですの~!!」 「「え、ちょ、えええええぇ~~~!!?」」  そして私と光君の視界は、ゲーム空間から異次元へ飛び去った……。
གསུམ་པ་
 そこから私達は、目まぐるしく地球史を遡った。気になる歴史上の出来事や人物に少しでも集中すると、そこで起きた運命、無数の人々のひしめき合う感情、喜び、悲しみ、痛み、安らぎ、食べるもの、食べられるもの……ありとあらゆる感覚と本能が、ハチャメチャに押し寄せてくる。私も光君も、深入りしかける度にお互いの手をぎゅっと握って耐えた。  三大禁忌で隠匿されていた話は、概ね本当だった。学校で習うような一般常識を思い出した後で改めて見ると、とんでもない話だ。  現代では謎に包まれたシュメール文明。それは外宇宙へ繋がる『塔』を建てた、神々と人類が手を取る国だった。しかし彼らは創造主の片鱗を目の当たりにして、人類が二度と外に夢を見ないようそっと衰退した。その物語はやがて、現代の人々も信仰する世界一有名な聖典を生み出すきっかけとなった。  その後、地球に降り注いだカオスコロル。そりゃあ神の子と名乗るのも納得だ。彼は人類が二度と創造主に近寄らないよう、奇跡の力で生涯慈善事業を行いながら、ひっそりと人類から霊感を奪っていった。  そして第二のカオスコロル。霊能者と合体して大預言者に変身した彼は、中東に当時まだ残っていた異教徒が呼び出した外宇宙生物を倒し、それまで以上にめちゃくちゃ厳しい一神教を作った。彼はもはや唯一神の名前を呼んだり、イメージで偶像を作る事まで頑なに禁じた。それでも現代でも、人類の三分の一ぐらいの人達が彼の言いつけを守っているのはとてつもない偉業だ。  第四のカオスコロル……カスプリアさんは、時の王様の隠し子に宿った。だけど霊能者であった王様は、カスプリアさんの記憶が完全になくなるまで彼を地下に幽閉し、人間の言葉や生活を何一つ教えずに育てた。そのせいでカスプリアさんはやがてゲシュタルト崩壊して、脳を卵に変えて自らを封印。それを戦時中ナチスドイツに発掘され、今に至る。  人類とカオスコロル達が、ここまでして長年隠し通してきた『外宇宙』。いま、その実態は私達の目前にある。 「……ここまでは、大丈夫ですの? 準備ができましたら、いっせーのーせで創造主をチラ見せいたしますわ」 「わかりました。光君、大丈夫?」 「ゼェ、ゼェ……うぷっ。なんとか」  私はいい、まだ仏であるドマルの記憶や精神が根幹にあるからこのくらいは平気だ。しかし光君は今に至るまで、既に何度か分解霧散しかけている。 「じゃ、じゃあいくよ……本当に平気!?」 「ど、どうにかするから! 大丈夫。一美ちゃんを残して、僕は絶対に壊れたりなど!」 「わかった。いっ……」 「「せーのーせっ!」」  私達の合図と共に、カスプリアさんは外宇宙の景色を解放した。
བཞི་པ་
「ロフター。ロフターや、イラクサを刈ってきておくれ」  穏やかな森の中。腰の曲がった老魔女グリーダが、大鍋をかき混ぜながら使い魔を呼ぶ声。 「おいおい、イラクサですって? 僕の肉球が膨れ上がってパンになっちまいますよぉ」  現れた使い魔は、嗄れた声で二足歩行の猫。彼は虎のように大柄だけど、身長二メートル半もある魔女と並ぶと丁度よい体格差だ。 「文句を言うんじゃないよ。あたいの叔母のナブロク手袋を使いな。叔母さまはどんな毒や火傷からもあんたを守ってくれるよ」  魔女に促されるまま、猫は引き出しから人皮の手袋を取り出した。それは丁寧になめされて、甲に金色のルーンが刺繍されている。 「おやおや、こんなに薄いのに随分とあったかいんですなあ。それに……おお。確かに、イラクサに触ってもチクチクしないですよ。こりゃあグリーダの叔母さんは随分と良い人だったんでしょうね」 「ヒッヒッヒ! そうさ。あたい達魔術師はね、古くからノースの神々と共にヴァイキングを支えるこの���の英雄なのさ。最近は神が一人ぽっちしかいないなんて訳のわからない事を言う外人さんもよく来るけど、あんな偏屈な考え方はこの辺りにゃ向いていないね!」 「にゃははは! 全くその通りですなあ。わはははは!」
ལྔ་པ་
 魔女と猫の、幸せそうな束の間の時間。外宇宙の創造主……本当にそう呼んでいいのか……を見た私と光君の脳裏には、その光景が過っていた。 「こんな物のために」  光君の唇が震える。 「こんな物の尊厳を守るために、あの魔女は裁判に?」  魔女裁判。実は土着信仰の根強いアイスランドでは、ヨーロッパほど熾烈な魔女裁判は行われていない。しかし森の魔女グリーダは拷問の上で惨殺されてしまった……カオスコロルである、ロフター���ールを庇って。 「こんな物の尊厳を守るために、いまだ世界中で戦争が??」 「そうですわ」  創造主を背にしたカスプリアさんの目が、玉虫色に光る。この『神』を三次元の物体として落とし込むと、確かに似たような色をしている。  創造主について言葉で例えるのは難しい。あえて言うならそれは、どこまでも無限に広がり、うねり続ける複雑な波だ。波の先をよく拡大してみても、見えなくなるほど無限に同じ形の小さな波が連なっているだけ。どれだけ全景を見渡そうとしても、見えなくなるほど無限に同じ形の波が連なっているだけ。その全貌は途方もなく壮大で、その片鱗は手の中に握りつぶせるほどちっぽけで無価値な存在。それが創造主という概念だと思う。 「僕は認めない! 神様ってヤツは、もっと偉大で立派で……こう、ひげもじゃのお爺さんなど! みんなが尊敬できるお方でねえと! なのに、こんな心があるかどうかもわからない場所が……神様など……」  光君の頬を涙がつたう。こうなるのも当然だ。だって私達は、つい今しがたまで人類の全ての歴史を追体験したばかりだから。神に祈りながら死んでいった人々、神について争い命を奪い合う人々、神を騙る人々……その全てを、見てきたから。 「一美ちゃんは、どうしてそんな平気ので……?」 「……」  私って、薄情な女なのかな。ただ…… 「平気、かどうかは何とも言えないけど……私は正直、こんなもんかなって思った」 「どうして?」 「だって……創造主って、人類だけのものじゃないでしょ」 「!」  そう。私達は、人類の全てを見てきた。けど、それだけじゃない。動物、植物、惑星、この宇宙の全てを経てここに来たじゃない。 「人のための神様なら、確かに人型じゃないと変だと思う。けど太陽系には、犬とか葉っぱとか、石とか、ミトコンドリアとか。色々な存在があるでしょ? その全員のお母さんだってんなら、こんなわけのわかんない形だったのも納得がいくよ」 「人間以外……まさか一美ちゃん、さっきの遡りで、人類以外にも目を……!?」 「い、いやいや、ちょっとずつだよ!? そこまで精神のキャパないし! ……あ、でも」  人間をここまで魅了する神様、といえば…… 「……よく見るとこの波の形、仏様っぽくない? お釈迦様の螺髪(パンチパーマ)、ほら、あのへんの出っ張りを真似したのかも!」 「は、はは……」  光君は膝を打った。 「……これが、不動明王(ホトケさま)か」
དྲུག་པ་
 かくして全てを悟った私達は、カスプリアさんの力でゲーム空間に意識を帰還させた。 「さすが……お二人共、よくご無事でお帰りなさいましたわ。ですが、それができたのは、お二人が今まで幾多の試練を乗り越えてきた神仏だったから。普通の人間は創造主を直視するだけでショック死ですのよ」 「わ、わかってます! あんなのバレたら文明がめちゃくちゃになっちゃいますよね!」  というか、目がチカチカして卒倒するのが先かも。 「ええ。ですが、それこそ金剛が企てる楽園計画ですの」  そう、私達はロフターユールの過去も見てきた。彼は魔女狩りで大切な人を失い、一神教を……過去のカオスコロル達が築き上げてきた秩序を、憎んでる。  金剛有明団の真の目的は、全人類が失った霊感を再び蘇らせ、この地球上から『創造主への幻想』を破壊する事だったんだ。
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