#酒婦の戯言
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裸婦ハウス : 水沢あいり, 木ノ花あみる, 宮澤みほ, 芦川芽依, 中西愛美, 永瀬里美 - 無料動画付き(サンプル動画)
裸婦ハウス : 水沢あいり, 木ノ花あみる, 宮澤みほ, 芦川芽依, 中西愛美, 永瀬里美 - 無料動画付き(サンプル動画) スタジオ: ポークテリヤキ 時間: 150分 女優: 永瀬里美 中西愛美 芦川芽依 宮澤みほ 木ノ花あみる 水沢あいり 用意されたのは、最高の女たち。フェロモンむんむん裸婦ハウスで毎晩、繰り広げられる大乱交。酒池肉林パーティーへようこそっ!! 裸の女達が胸をドゥルンドゥルン揺らしながら生活するザ・ラフ(裸婦)ハウスへようこそ。今日は新しい入居者が来る日。おっきなオッパイもちっさなオッパイもみんな小躍りさせながら新人が来るのを楽しみにしています。裸でフライパンを扱うのはダメやろぉ、なんて某シェアハウスをモニターリングしている徳井〇実さんに実況をお願いしたら言うんでしょうね。そんな心配をよそに全裸の男女が戯れるリビングにしっかり服を着込んだ新人が現れました。 後半では「デリバリー ***********************************
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酒の肴と愛猫の肴と理性の行方
さて、酒の肴と言われて皆さんは何を思い浮かべますか?
世の中には沢山の酒がある。流通の整った現代では、地方の地酒、日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキー、バーボン、リキュールやウォッカ類に紹興酒や老酒、果実酒などなど、ここで書ききれない程の世界の酒が種類豊富に販売されている。
そのお酒の肴は物凄い種類だろう。アテとして考えられる範疇は、人によって異なるからだ。ちなみに主人に聞いてみたところ、日本酒なら鮪の刺身やポテトサラダで、ワインならアラビアータやカポナータで、肉はメインに考えているらしい。焼酎なら練り物のいろいろなさつま揚げだった。私は無作為にその場にあるものに手を伸ばす感じだ。
皆さんはどうだろうか?
皆さん様々に思い描いているのでは?そして、それは少なからずとも近々現実になる予想なのではないだろうか?気持ちのベクトルが傾いている物には、無意識に手が伸びるもの。だが、買い物担当でない限り口に入らないのも現実だったりする。
知り合いに、いつも献立で悩む方がいる。毎回家族に相談するのだが「なんでもいい」と言われてしまうらしい。しかも、「焼酎にこれは合わなかった」と食後に言われて喧嘩になることもあったという。
いろいろな職場を経験したが、そこでの主婦の悩みの種はそれだったように思う。小難しい職場でもアットホームな職場でも、厳格な職場でも・・・だ。
職場の昼に集う同僚たちに同意を求められても、我が家の形態は少し違う。だから、一つの��考意見として、いつも話していることがある。
・・・・・
「何が食べたい���」と聞かれて、そこにアテという楽しみを織り交ぜてくれたならば、世の常の主婦は「なんでもいい」という言葉を聞くことは無いだろう。献立にちょっとした悪戯心を添えてメイン料理と「これも一緒に食べたいね」くらいの感じで肴になるものをリクエスト。私たちに気取られることなく、お酒の肴になるものをチョイスしてくれれば、きっと献立に悩む主婦はいなくなる気もする。
勝手なことを・・・と思われるかもしれないが、作り手はいつも食べる側が喜んでいるのか、反応を見たいし「おいしい!」の声を聞きたいのだ。
しかしながら、それが出来るならとうの昔にやっている。
悩む主婦は居なくなるはずだ。そうならないのは、作り手の真意が伝わっていないからである。そして、作り手も食べ手の気持ちに寄り添うことを忘れて聞いている。
「今日、何にしようか迷っているのだけど、お酒何飲む?それに合わせて何が良いかしら?」
そう聞いてみては如何なものかと彼女たちに話した。恋愛が駆け引きならば、結婚後のそういった話し合いも駆け引きなのだと説明した。
飲まないご主人には、給食トライアルがお勧めだ。一週間の献立を給食のように決めてしまうやり方だ。もっと厳密に再現したいならば、今はネットが充実していて学校給食のレシピまで載っているサイトがある。新婚の同僚には、幾つかのサイトとクックパッドをお勧めした。
後は彼女たちの交渉術しだいだ。それすらも楽しんでくれれば、自然と『何が食べたい』とリクエストが出る環境になるだろう。無意識に出来ることは定着するからだ。
我が家のやり方を聞かれて答えたが、私は献立を聞くまでアレコレ言葉を変えて聞き出すタイプなのであまり困らない。ただ、このコロナ過の煽りを食らってお互いの役割が進化してしまった。
リモートによる在宅勤務が増え、都内を闊歩していた状態から急に動かずの生活になった主人は途端に太りだした。
健康維持の対策として、お酒を飲む日を金土日の3日間とし、他をノンアルコールで健康志向の物を飲むように切り替えた。そうなってくると、アテとなる『酒の肴』の役割はストレス解消という意味合いも含まれてくる。
ならばと、考えた末に主人に献立を決めてもらうことにした。
最初は決めあぐねてブーイングの嵐だったが、自分で献立を決めるようになってから、意図することが分かったのか今はスムーズだ。見えないストレスを抱え込んでいる状態で、意図しない料理を食べるのは、気持ちが持ち上がらない。自分で決めたものなら、納得して食べらるからそんなにストレスにならない。そして、好きなお酒の肴として食べられると。
誰も日常に過酷を強いる必要はない。一番心身を癒さないといけない人にホッとできる料理を作るのが一番だからだ。
・・・・・
今、私の隣の社長椅子と呼ばれるソファに愛猫が寝ている。彼女も私達が晩酌している時に主張する。
私の分は?と。しかし、彼女の主張は猫らしからぬもので、微妙だ。アジをあげてもホッケをあげても、マグロをあげても見向きもしない。唯一食べるのは、茹でたベビーホタテの貝柱。それも、茹ですぎたものは食べない。
君は猫か?!
あまりの食に対する拘りに、人間以上の気概を感じる。
彼女の食事はお医者さんに勧められたロイヤル〇ナンを35gで夕食多めに、朝と昼に総合栄養食の違う種類を10gずつ。それにおやつにウェット系の水分が摂れる一般食を25gほど与えている。水は毎回洗って出しているのだが、彼女は、金土日に1~2回ほど特別を欲しがる。
あれこれ手探りで彼女の好むおやつを探したが、流石『CIAOちゅ~る』である。
ホタテが入ったCIAOちゅ~るを所望ニャ!
髭をピン!とさせ、和室から尻尾を立てて軽快な足取りで私の横に来て、にゃ~!と鳴くのである。なんと分かりやすいリクエストか。
こう考えても、動物は率直だ。『自分に一番のもの』をリクエストしてくる。そして、美味しかった時は、満足そうに目の前で毛づくろいしながらアピールしてくる。もっとご機嫌な時は、オデコを私の足につけて、ありがとうアピールをするのだ。
ここまで書いて、私はふと思う。人間には理性があるが、猫の率直なリクエストは本能的なものだ。しかし、その彼女の本能は忠実に自身の心身を整える為のものらしい。大好きなホタテ入りのちゅ~るであっても、途中で食べなくなる時がある。
もう十分ニャ!
さっさとお気に入りの場所に行ってしまう猫の後ろ姿を見つつ、人間にこんなことが出来るだろうか?好きなものを途中で辞める勇気である。
毎回上下する体重に、私たちの意志の弱さを垣間見る。ちなみに、我が家の愛猫は成猫になってから体重が変わらない。200g~300gの差異はあっても、ずっと同じ体重をキープし続けている。
理性という名の意志は愛猫の方が勝っていたようだ。
この記事は下記サイトで掲載してい���す。Tumblr登録前の過去記事はプログラムの余分設定で自動共有が出来ないので愛猫のものだけこちらのTumblrで載せてます。
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本日のぴぃーちこ弁当 サラダチキンと玉子の野菜たっぷりサンド サーモンとクリームチーズ玉子野菜たっぷりサンド コーヒーなんぞ あたしの朝食 モッツァレラチーズウインナーとペッパーウインナーのホットドッグ 昨日のつまみはLAWSONの焼き餃子とピクルス ぴぃーちこのご飯は鷄味噌鍋 起きてから、コレにうどんぶち込むらしい 前半戦の仕事終了 マックで一息 今、皮膚科に来てます。 今日は雨が酷くて☂️ 寒い… 早く帰りたい 後半戦は14時から18時 その後…歯科へ行かなきゃ 今日は忙しい(^◇^;) #ぴぃーちこ飯#ぴぃーちこ弁当#雑飯#that's飯#bento#bentobox #lunchbox #japan#sandwich#일본#도시락#샌드위치 #맛스타그램 #맛있어요 #먹스타그램 #酒婦#酒婦の独り言 #酒婦の戯言#酒婦のthat's飯#酒婦の雑飯#一括払い https://www.instagram.com/p/B-OMWmVALTi/?igshid=xpnmi9mkm3nj
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『結 妹背山婦女庭訓 波模様』 大島真寿美
『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』の続編。この作品大好きだったので、続編、楽しみにしてた。しかし購入はせず図書館で借りました。『渦』の私の感想(しかし、魂結びなのに、玉結びと間違って書いていた。馬鹿)。
渦のように、実在の人物がたくさん出て来る。人形浄瑠璃に魅入られた人々。他の芸事に流れたり(有名な画家耳鳥斎(にちょうさい)も出て来る。この本で知ったけど)、ずっと頑張ったり、歌舞伎の戯作者になるのも、人形浄瑠璃を好きな人にとっては都落のような感じだった模様。この作品でもその様子が描かれてる。
この耳鳥斎が、裕福は酒屋から廃業して骨董屋になる下りが興味深かった。その状況を大島は、飄々と風に靡くように描く。柔らかい上方言葉のためか、耳鳥斎の性質がそうなのか、軽やかで深刻さなどが感じられない。
途中で近松半二が死に、その弟子の話になる。人形浄瑠璃はかなり落ち目。半二の娘が門前の小僧状態で見る目も書く能力もあるんだが、この時代、女性は働き手の一巻ではあったけれど、女性の戯作者はいなかった、タブーのようなものだったようだ。女はマニュアルレイバーはするが知的な作業をするのは考えられないことだったんだろうな。
この作家は、本当に芸事の心を書くのが上手い。芸事に携わる人々の感情をピンポイントで深くついて描いている。そしてフィクション世界の面白さを教えてくれる。なんと言うか、文筆のプロの手の内を教えてくれてるような感じ。すごく楽しく読みました。また、こう言う芸事系のものを書かれたら読みます。
最後に耳鳥斎の絵
元祖ゆるキャラと書かれてるけど、元祖ヘタウマではないだろうかと思う。不思議な味わいがあります。ここから。
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インターネットからの脱出
2018/4/25発行 ZINE"霊界通信 2018 S/S Issue"収録 by gandi
Escape from the Internet
ぼくが初めてインターネットに触れたのは15年ほど前のことだ。ちょうど21世紀になりたてくらいの頃だろうか。当時出来たての情報カリキュラムの授業での出来事だ。少し起動に時間のかかる箱型の機械のスイッチを入れると、テレビ型のモニターの向こう側から世界中のあらゆる情報が飛び込んでくる。その斬新さに、ぼくは舌を巻いた。しかもその情報がすべて生々しい。なにかがテレビとは明らかに違う。 ぼくはテレビが嫌いな子供だった。今でこそ落ち着いてきたものだが、当時のテレビの演出はとにかく過剰で、ギラギラした悪趣味なセットの前で空疎な会話をする芸能人たちの姿にはとにかくウンザリするばかりだった。人の車を壁にぶつけて壊して喜ぶようなノリにも全くついていけなかったし、ディレクターの指示で拉致同然に、突然半年間も海外を旅させるような嗜好にも「こんなことが許されるのか」と子供ながらに怒りを覚えた(たとえそれが口裏合わせ済みのことだったとしてもだ)。そしてそれらの行動に何一つ意味はない。彼らの行動原理は「ノリ」だけで、洞察に基づいたものがない。徹底的に空疎なのだ。 空疎なテレビの世界の中でも、群を抜いて空疎だったのは��な壇の芸人たちだった。彼らは空疎さという一点において洗練されつくしていた。「なんでやねん」と投げられる言葉に、タイミングよく再生される乾いた観客の笑い声。「なんでやねん」。彼らが本当にそう思っているのか、かなり疑わしかった。「なんでだよ?」でもその「なぜ」を正面切って考えようとする人間は、そこには一人もいないように見えた。 (※もっとも、その空疎さこそなんでも重苦しく考えたがる彼らの前の世代への意図的反抗なのだと分かったのは、ずっと後になってからの話だ) しかしインターネットは違った。誰もが手作りの簡素なホームページを作り、それぞれが勝手なことを論じていた。そこには「なんでやねん」というツッコミを入れる人間はいない。それゆえ誇大妄想としか思えないことを100ページ以上に渡って、延々と書き連ねているような人も少なくなかった。誇大妄想。 テレビだったら芸人の「なんでやねん!」の一言でかき消されたに違いない。しかし人の誇大妄想の中には、社会を抜本的に変革してしまうような考えがしばしば含まれている。たとえば革命家。革命家は周囲の冷笑を意に介さず、空気も読まずに延々と妄想を深め続ける。すると次第に感化される賛同者が出てくる。保守派からすれば狂人に思えない賛同者たちが。 息苦しい日々の中で、ぼくはインターネットに光を見出した。 ぼくはテレビと同じくらい学校の雰囲気というものが嫌いだったが、それは教室がテレビの相似形のように見えたからだ。 端っこの席で、目立たないが誰も思いつかないようなことを考えているヤツの考えは、いつだって声がデカくてノリがすべての野球部の声にかき消される。その身も蓋もない事実に、ぼくはホトホトウンザリしていた。この構造はずっと変わらないに違いない。きっと大学でもそう。社会に出てもそう。死ぬまでそう。いつか全部叩き壊す。そうでなければ刺し違える。そんな風に自分に何度も言い聞かせなければ、グレてしまっていただろう一少年に、インターネットはこっそりナイフを渡してくれたのだ。ぼくは友人たちへ 「テレビよりインターネットの方が全然面白いぞ」と触れ回った。友人たちは興奮するぼくの話を、肯定するでも否定するでもなく聴いてくれた。インターネットが面白いということは少しずつ広まり始めていた。 率直に言って、ぼくはインターネットの「世界中の情報がリアルタイムで入ってくる」という側面は、そこまで重要ではないのではないかと思う。それは既存のメディアでも出来ていたことなのだ。インターネットの本当にクリティカルな点は「人間の生々しい声が、誰にも検閲されないまま聞ける/言える」という点にある。それも平等にだ。どんなに虐げられていた者にも、数千円のスマートフォンさえあれば平等にその機会はやってくる。
誰がジャンクな記事を量産しているのか
��から生々しい声が聞こえなくなったら、そこでぼくのインターネットへの関心は尽きる。聞いたこともないような考えや、社会によって巧妙に隠された呼び声を聞くために、ぼくらは本を読みネットを見る。決して誰かが仕込んだ一般論を聞くためじゃない。ぼくは「失敗しない生き方をするための十の方法」なんて記事を見かけるたびにいつもウンザリしているが、こういう記事は一体誰が書いているのだろう?全く失敗しなかった人だろうか。それとも派手に失敗した人だろうか。 あまりに不思議に思って周囲にこぼしていたら、知人の大学生が書いていた。同級生やサークルの仲間も結構な割合でやっているという。 バイト感覚で家計の足しにしているのだそうだ。 1文字0.1円。2000文字程度の記事を10個仕上げて2000円貰うんです、と彼は言う。プロのライターが最低1文字3円からということを踏まえると信じられない値崩れだ(もっとも最近はプロの現場でも1文字1円というケースが珍しくなくなったが)。 そんな金額ならスーパーでレジ打ちした方がずっと効率がいいように思えるのだが、仲間内のパーティに出席できたり、就活のときネットメディアに関わっていたことが有利に働いたりと、色々とメリットはあるらしい。「ちょっとした承認欲求や仲間内で意識の高さを演出するために、」 場合によっては損得度外視で引き受けることもあるという。 しっかり見ていれば分かることだが、中には高校生が書いているケースもある。記事の最後に「この記事を書いた人」というツイッターリンクが付いていて、そこに行くと高校生だということが分かる。 なるほどこれらの記事は(誰もがうすうす気づいてはいるだろうが)プロではなく文章の素人がタダ同然で書いているものなのだ。インターネットの記事が人に見てもらえるようにするには、内容よりもグーグルのロボットから高い評価を受けるためだけにとにかくコストを抑え、量産することが大事だ。そして言うまでもないことだが1文字0.1円では、一つ一つの記事に真剣に向き合う時間はない。 必然的にすでにインターネットに載っている文章をコピー&ペーストし、適当にリライトするという作業になる。もちろん直接取材や、図書館に行って原典を確認するなんてことはあり得ない(つまり、何かのきっかけで一度間違った情報がインターネットに掲載されると、永遠に誤情報がコピーされ続けるということになる)。著者は自分の考えを述べようにも、記事が問題としている内容に、真剣に向き合って考えているヒマはない。そもそも書かせている側が、著者に対して端から何も期待していないのだ。 こうした記事が、毎日数千、数万とインターネット上にアップされている。多くの場合は記事と見せかけた広告で、そうでなければ広告収入のために書かれたテキストだ。記事の書き方はこう。「���ンキング形式のまとめ記事にしてください。まず1位と2位に、定番のA社とB社のアイスクリームを挙げます。そして3位くらいにクライアントさんのこの新作アイスクリームをランクインさせてください。1位だと広告だって思われてしまうので、3位くらいがよいでしょう。4位以降は適当でいいです」。もちろん、ぼくは必ずしも広告が悪いと言っているわけではない。問題は企業が、あたかも主流的意見であるかのような記事もどきを、ジャンクのように量産することにある。 ぼくらは日々これらの量産されたジャンク記事に囲まれて生活している。好もうと好まざろうと、スマートフォンにニュースアプリやツイッターをインストールしている限り、絶対に目にすることになる。グーグルで何かを検索しても、個人のサイトやブログにたどり着くケースは今や稀だ。インターネットの笑ってしまうような(しかしひょっとすると社会を揺るがすかもしれない)誇大妄想は、十年の月日をかけて、当たり障りのない一般論を装った、どこかの企業広告へとすり替えられたのだ。 こうしたゴミのような広告の山から逃れたい人はひょっとするとインスタグラムのような、社会性とあまり関係のないメディアだけを見るようになるのかもしれない。インスタグラムはアカウントのジャンク化を恐れて、拡散機能をあえて弱めにするなどの対策をしているようだ。だが言ってしまえば、それは騒がしい広告記事から耳を塞いだだけのことで、決して生々しい声を取り戻したというわけではない。 そしてこうしたジャンクな記事は、恐らくあと五年もしないうちに人工知能が書くことになるだろう。人工知能なら、もっとうまくやるに違いない。ビッグデータから得た集合的無意識──当たり障りのない一般論や、何かのきっかけでセレブが発言した、流行の考え方──を、それらしい言葉でまとめて無限に生産するのだ。しかしそれは、あの、テレビや雑誌といった旧メディアが作っていた空疎な時間と、一体何が違うというのか。
メリークリスマス!と言えないアメリカ
ジャンクな記事が生まれる要因は他にもある。世界的なポリティカル・コレクトネスの流行だ。ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)とは「 政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のこと(Wikipedia)」とある。 ポリティカル・コレクトネスの観点からすると、たとえば「看護婦」という言い回しは男性がその職業につけないイメージを与える可能性があるので間違っており、男女ともにイメージすることができる「看護士」と言い換えるべきということになる。同様に「保母」は「保育士」とすべきだし、「肌色」は人種的配慮に欠けるので「ペールオレンジ」に言い換えるべきとするのがポリティカル・コレクトネスの���え方だ。 この考え方は確かにある程度まで間違っていないように思えるのだが、少し考えると行き過ぎは文化を破壊しかねないということが安易に想像つく。例えば「メリークリスマス」という言葉は、宗教的配慮に欠けるという観点からすでにアメリカでは 「ハッピーホリデイズ」と言い換えられている。 クリスマス飾りににキリスト像やマリア像などを持ち込むのもご法度だ。十字架なんて問題外。宗教色を一切葬り去らねば、イスラム教徒や仏教徒に失礼じゃないか、というわけだ。そのうちクリスマスに赤色を使うのもNGになるかもしれない。赤はキリストの血を表すからだ。 しかしそのようなものを果たしてぼくらはクリスマスと言えるのだろうか。これは「政治的な正しさ」を盾にした、キリスト教文化への破壊行為ではないのだろうか。なぜポリティカル・コレクトネスの人たちはこんなに偏屈な考え方をするのだろう?これではまるでポリティカル・コレクトネス原理主義だ。ポリティカル・コレクトネス教以外のあらゆる宗教は絶対に認めないという原理主義的一神教だ。 たとえあなたが仏教徒だっとしても、笑顔で「メリークリスマス!」と言えばよいではないか。実際日本人はずっとそうだったのだ。キリスト教の人たちが宗教的に大事にしている行事ならば、わざわざそれに目くじらを立てることはない。むしろ「楽しそうだからぼくらも参加させてほしいのだが、仏教徒なんだけど構わないかね?」と言うのが本当の寛容ではないだろうか。それとも一神教徒の人たちには、そういう考え方は難しいのだろうか。 しかしポリティカル・コレクトネスの人々はそうは考えない。頑固に公の場でメリークリスマス!ということを許さない。「そんなに偏狭な態度をとっていれば、かえって息苦しい社会になってしまわないだろうか」「むしろ反動が起こって事態はよっぽど悪くならないだろうか」などと考えていたら、案の定バックラッシュがやってきた。2016年のアメリカ大統領選の時にドナルド・トランプ現大統領が「自分が大統領になったら再びメリークリスマスと言えるようにする」と公約したのだ。大統領選の結果はご覧の通りだ。トランプ大統領は、メリークリスマス!すら堂々と言えなくなってしまった息苦しい社会に不満を持つ人たちの支持を得て当選したのだ。 言うまでもなく、本来あらゆる文化的伝統行事は民族性や宗教性と密接に関わりあっているのであって、そこから宗教色を徹底して排除しようとすれば、ただの無味乾燥で無秩序な騒ぎになってしまう。宗教や民族にまつわる文化的行事が、現代的価値観からすれば理不尽としか言いようのないものを含んでいるのは当然のことだ。伝統行事は、むしろ常にその時代の価値観と全面的には折り合わなかったからこそ、時代が変わったからといって廃止されることはなく、時代を超えてずっと尊敬され続けてきたのだ。それを現代人の価値観にそぐわないからと言って安易に排除をしようとするのは、今の時代の価値観が未来永劫続くと考える現代人の傲慢であり、次の世代への想像力の欠如ではないだろうか。 日本よりはるかに多民族���多文化社会であるアメリカでポリティカル・コレクトネスの考え方が発展したということはある程度理解できなくもない。あまりに価値観が多様過ぎて、「寛容」や「思いやり」でカバーできる範囲をとっくに超えているのだ。ある人々にとって帽子を被ることが礼装であり、またある人々にとって帽子を脱ぐことが礼装である社会では、ポリティカル・コレクトネスがなければ一方的に少数派が追いやられるばかりなのかもしれない。だが、日本は全く状況が違う。常に周囲と価値観を合わせたがり、少数派になることを恐れがちな日本人は、アメリカとは性格が逆で、少数派が自ら少数派であることを捨て、自発的に多数派になりたがる傾向がある。そのような価値観だから世界的にも類をみない寡民族・寡文化社会になってしまったのだ。 有り体に言えば、我々の社会は空気を読むことが大好きだということだ。互いに周囲の顔色を見回して、自分が人とズレてはいないか、誰かが変わった考え方をしていないか、絶えず監視し続ける。今のインターネットは、テレビのような旧メディアと変わらない。これはもはや「ムラ」社会だ。特異な考え方は、誇大妄想が広がる前に「ツッコミ」をして「修正」する。これをポリティカル・コレクトネスの考え方が加勢する。今時の言葉で言えば「炎上」というのかもしれない。そして最後には「まとめ」として「総括」されるのだ(なるほど「総括」とはどこかで聞いたような言葉だ!)。 「炎上」は一見、正しい意見が間違った意見を修正する、社会の自己浄化作用のように見えなくもない。しかしその一方で、特異な発想の芽を潰していると言える。この調子だとそのうちわざと「ボケ」る者が出てきて、毎度お約束のように「炎上」させるようになるかもしれない。人と違うことが怖い私たちは、そうやって永遠に続く終わりのない日常に「お祭り」というリズムを作るのだ。やがて「ボケ」と「ツッコミ」は、「なんでやねん!」(=なぜなのか)という言葉本来の意味を失い、次第に儀礼化していくことだろう。その裏で、本当に特異な考えをする人の声はどんどん見えなくなっていく。社会は変化することなく終わらない日常となり、まるであのバラエティ番組のように、空虚な戯れが延々と続いていくのだ。
本物の共産主義社会が到来する
更に悪いことに、こうしたインターネットの記事たちは各ユーザーに合わせ最適化され、そのユーザーが関心を持っていそうなことばかりをサジェストするように出来ている。例えばあなたがあるニュースアプリでLGBTについての記事を読んだとしよう。そのアプリは次からLGBTについての話題で一杯になるのだ。するとあなたは思う。「今、社会はLGBTに相当な関心を持っているに違いない」。こうしてそれぞれが勝手に「北朝鮮問題が」「仮想通貨が」「アイドルが」「ネコ画像が」社会的関心事の中心であると考え始めるのだ。自分でフォローする人を選べるSNSはもっとひどい。「反安倍政権の世論が盛り上がっている」ように見える人と「安倍政権の高支持率が続いている」ように見える人のタイムラインは永遠に��わることがない。一体なんでこんなことが起こるのだろう。 本来、インターネットというプラットフォームは、「インターネットエクスプローラー」という名前が示す通り、欲しい情報を自分から「探検」することによって手に得るというツールだった。インターネット全体の記事が少ないときは、確かにそれで機能していた。欲しい情報に達するためには色んなページを回らなければならなかったし、必ずしも耳に聞こえのよくない情報も触れなければならなかったからだ。まさにそれは山あり谷ありの探検のようだった。今はどうだろう?ネットには異常な量の記事が溢れかえっている。ぼくらはそれを、到底すべて読み切ることはできない。こんな状況では、誰も冒険などしたがらないだろう。探さなくても、自分にとって気持ちのいい(都合のいい)当たり障りのない情報にすぐ触れることが出来るのだから。 こうした理由から、インターネットの記事が爆発的に増加することに反比例して、ぼくらが新しい世界に触れる体力は日に日に減っていっているように思われる。誰も好き好んで不都合な意見を聞きに行ったりはしない。大量の記事が出回ってあれもこれも読まなければならない中で、誰かの言葉と真剣に向き合う時間も多くはないだろう。ぼくらは気付かぬうちに少しずつ心の体力を奪われているのであって、自分を肯定してくれる安全・安心な言葉だけを聞き続けるようになっている。 そしてそんな世界すらももうすぐ終わる。もうすぐ人工知能がぼくらを真綿にくるんで、いびつな現実を視界から追いやってくれるに違いないからだ。近い将来、ぼくらは全く違う価値観の人と話して不愉快になることも、ほとんどなくなるだろう。アルゴリズムが話の合わなそうなフォロワーを、初めからミュートしておいてくれるからだ。イラストや音楽の才能のなさに思い悩むこともない。内輪のコミュニティの住人、いわゆる「界隈」と呼ばれる人々が、あなたを先生、先生とどこまでもチヤホヤしてくれるからだ(もっともそのアカウントの「中の人」が本物の人間であるという保証はどこにもないのだが)。当然恋人ができないと思い悩む必要もない。本物の人間よりずっと美しいホログラムと恋愛をするのは、今や普通のことだからだ。しかもその恋人は、あなたの過去の発言をデータベース化しているから、絶対にあなたの嫌がることを言わず、あなたが喜ぶことしかしないのだ。 さらに言おう。恐らく近い将来、人間は一切の仕事もする必要がなくなる。人工知能が自己発展する農場や工場を作り、自動運転カーで勝手に出荷してくれるからだ(驚くべきことに、アメリカのGM社はすでにこのシステムを運用し始めているという)。レジも無人だからバイトもいらない。経営も人工知能がビッグデータに基づいてやるのが一番効率的だ。 機械に職を奪われ、失業率は上がるのに生産力も上がり続けるから、先進諸国はベーシックインカム導入を余儀なくされるだろう。なんのことはない��共産主義社会の到来だ。それも前世紀の不完全な共産主義ではなく、マル��スが予見した本物の共産主義だ。ほとんどのことを機械に任せ、人はクリエイティブな仕事、もとい「趣味」しかしなくなるのだ。そのクリエイティブな「趣味」だって、本当に行われるのかどうか随分怪しいように思える。全てが満たされた世界で、クリエイションをしようと思う人間なんて本当にいるのだろうか。 まるで夢物語だが、そういう世界は必ず来る。それも数十年以内に。その世界では人間にどこまでも優しくて都合の良いコンピューターという名の天使が、寿命が来るまでぼくらを甘やかし続けるのだ──まるで真綿で首を絞めるように。そんな世界では、特異な意見も、ラディカルな発想も必要ない。誰一人不満がないので、そもそも社会が変革する必要がない。 怒りも悲しみもなく、誰一人傷つかない世界。そこで天使のような、あるいは幽霊のようなホログラムが、残り少なくなった人間たちに奉仕している。人間は恋愛対象に何かと面倒な同じ人間よりも人工知能を選ぶようになり、人口もどんどん減ってゆくだろう。
"BLACK IS BEAUTIFUL."
建築家であるぼくの父はもう80を超えているのだが、生まれつきの難聴で、ぼくが幼いころから話がなかなか通じなかった。どのくらい聞こえないかというと、ちょうど携帯電話の着信音が聞こえない、というくらいだ。大きな声で向き合って話すと半分くらい伝わる。ハッキリ言うと、身体障害者だ。 しかし父は一度も自分を障害者だと認めなかった。確実に貰えるはずの障害手帳も障害年金も、絶対に受け取らなかった。破産して、収入がゼロになり、家族の食い扶持を繋げなくなった時でさえだ。「なに、誰だってハンディキャップの一つや二つあるんだ、それをいちいち騒ぎ立てるなんてみっともないことだ」それが父の口癖だった。そして父は自分を「ツンボ」であると自称していた。「ツンボ」は差別用語だからやめなさい、といくら母が言っても「ツンボがツンボで何が悪い!」と絶対に聞かないのだ。 父の発言は無茶苦茶だ。第一、本当に障碍で苦しんでいる人に対するシンパシーがない。それに「ツンボ」なんて言ったら、ポリティカル・コレクトネスの人々からは避難轟々だろう。 だが、一方で父は障碍者に対して全く差別的ではなかった。車椅子で困っている人がいれば助けたし、その一方で車椅子でも態度が悪ければその場で怒鳴り合いの大喧嘩していた。外国人に対してもそうだ。父には中国人の友達がたくさんいた。酒が入れば毎回、歴史問題の議論で怒鳴り合いになるくせに、ずっと仲良しだった。二、三か月すると、何事もなかったかのようにまた飲んでいるのだ(そうしてまた喧嘩になるのだが)。 父は女性に対しての考え方も、世代から考えれば相当リベラルだった。あれだけ父権的なくせに、結婚当初、父が食べるまで食事に手をつけようとしなかった母に対して「そんな下らないこと今すぐやめろ」と叱りつけたのだという。家族の風呂に入る順番についてもそうだ。ぼくが生まれてからはいつも父と母は喧嘩ばかりしていたが、よく考えれば父と母はずっと対等だった。父はいつだって対等な喧嘩相手が欲しかったのかもしれない。 当時はわからなかったが、父が「ツンボ」を自称していた理由が、今ならなんとなく分かるような気がする。父はきっと「ツンボ」を忌避するのではなく、自分が「ツンボ」を格好いいものにしてやる、と考えたのではないだろうか。 この考え方はマルコムXの言う「 Black is beautiful. 」に似ている。かの有名なアメリカ黒人公民権運動の活動家だ。マルコムは、黒人は白人と平等、とは言わなかった。そうではなくて「"黒"こそ美しい」と言ったのだ。 話によると、幼いころは「ツンボ」のことで相当ひどくイジメられたらしい。しかし父は社会に同情を買うような態度を取りたいとは思わなかった。思うに父は「ツンボ」である自分が圧倒的に凄い建築を作ることによって「ひょっとしてツンボだったからこそ、この人はすごい建築家になれたのではないか?」と、人に思わせるような、価値観の転倒を引き起こそうと企んだのではないだろうか。 ポリティカル・コレクトネスの人たちにとっては「ツンボ」は永遠に良くないものであって、忌避されることはあっても、凄いものとして日の目をみること���未来永劫ない。果たしてそれで問題は本当に解決したと言えるのだろうか。「ツンボ」な自分を「ツンボ」と断言する父のやり方は、テレビではもちろん流せないし、インターネットだったら炎上間違いなしだ。けれどもぼくは、ハッキリ言ってテレビよりも、今のインターネットよりも、父のやり方は圧倒的に「クールなやり方だ」と感じてしまう。
インターネットからの脱出
しかしこのような「クールなやり方」は決してインターネットでは出来ないだろう。 ぼくらは薄々気づき始めているが、インターネットにはそのシステム自体に欠陥がある。リンクシステムが、情報のシェアを容易にしすぎたため、一人ひとりが考えることを放棄し始めたのだ。このような社会では父やマルコムXのような革命家気質の強力な個人はお呼びではない。むしろ自分では考えず、薄い情報をまき散らし続けるような人間(インフルエンサー)が影響力を持つ。集団主義の時代だ。多数派はポリティカル・コレクトネス一神教を盾に、他のあらゆるマイノリティが、自分の力で立ち上がろうとする膝を折ろうとする。「『黒は美しい』なんて言わなくていいの、黒も白もなく、みんな平等なの」と。それは「ブラックの血が流れていることに誇りを持つな」と言っているに等しいということに、彼らは気づかない。その考えは、ぼくには、すべての人間を根無し草にしようとしているようにすら思える。そうしてこのように作られた一見当たり障りのない「正論」が、「拡散」機能によって無限に増殖してゆくのだ。 抵抗する方法がある。全てのリンクを一度切ってしまえばいい。インターネットには「罪」もあるが、それ以上の「功」がある。インターネットは個人の発信したいという欲望を爆発させ、流通経路を用意し、個人が本をつくるハードルを劇的に下げた。だったらもう一度紙の本にすればいい。紙の本にはRTもシェアもない。ただ、一対一の読者と書き手がいるだけだ。書き手は読者に差し迫ってくる。逃げ場はどこにもない。RTして他人に共感を求めることはできない。目の前の相手と一対一で対峙するしかない。もしも読んでいて、本当に思うところがあるならば、自分で、自分なりのやり方で発信するしかない。やり方は文章でも動画でも音楽でもなんでもいい、ただ自分だけの力で、やり遂げるしかない。 ぼくはアナタと一対一で話したいのだ。隣の誰かに「ねーどう思う?」なんて聞いてほしくない。ぼくは今、他ならぬアナタと話しているのだ。(了)
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シートベルトを外して、しかし滑らかに次の動作へ続けることが出来なかった。 ガレージに停めた愛車の運転席。すでにエンジンは完全に静まり、シャッターも降り切って、あたりには静けさがあった。 帰着の物音は家内にも届いているはずで。 であればグズグズとためらってはいられない。初手から、弱みを見せるわけにはいかない。 フウッと、深い息をひとつ吐いて、逡巡をふり払う。 助手席に置いた鞄を引き寄せながら、ルームミラーを見やる。一瞬だけ視線を止めて、映った貌をチェックする。それは習慣通りの行為、それだけのこと。 ドアを開け、怜子は車から降り立った。 今日の装いは、銀鼠色のスーツに黒の開襟シャツ。いわば定番の仕事着姿だったが、シックな色合いが豊かな身体つきを際立たせるのもまた、いつものごとく。黒いストッキングのバックシームが艶やかだった。 ヒールを鳴らして歩き出せば、もうその足取りに迷いはなかった。 エントランスの柔らかな灯り、見慣れた光景が、この家の主を迎える。いつものとおりに。 そう、なにも臆することなどない。我が家へと、自分の城へと、帰ってきたのだ。
リビングから微かにテレビの音が聞こえる。 いつも通り、直接キッチンへと入った。 「ああ、おかえりなさい」 ソファに座った志藤が、明るい声をかけてくる。テレビを消し、こちらへと向き直って、 「帰ってきてくれたんですね」 嬉しそうに言った。礼儀のつもりなのか、立ち上がって。 「……ええ」 これも習慣のとおり、鞄を食卓の椅子へと置きながら、素っ気なく怜子は返した。“なにを、そんなに喜ぶことがあるのか”という冷淡さを、志藤を一瞥した視線にこめて 志藤は、そんな義母の態度も気にする様子はなく、ゆっくりと歩み寄りながら、 「お食事は? ビーフシチューがありますけど」 などと、心遣いをしてくる。 確かにコンロには鍋があり、あたりにはその匂いも漂っていた。今夜は帰らぬという英理が作りおいていったものに違いない。その献立も、温めるだけという簡単さと、食べ残しても問題がないものをという配慮からの選択だろう。例によって行き届いたことだとは思いながら、娘のそんな主婦としての熟練ぶりに、素直に感心することが出来なかった。いまは。 「僕は、もう済ませてしまったんです��ど。すみません、もしかしたら、お帰りにならないかと思ったんで」 「……構わないわ。私も済ませてきたから」 別に謝られる筋合いのことではない、と疎ましさをわかせながら、志藤に返した言葉は、嘘ではないが正確でもない。急に入った商談のために、昼食をとったのが夕方近くになってからだった。いま空腹を感じていないのは事実だった。とにかく、英理の用意していった絶品の(と呼ぶべき味わいであることは知っている)シチューを食べる気にはならなかった。 ならば、すぐに自室へと引き上げてもよかったのだが。 キッチンに佇んだ怜子は、リビングとの境のあたりに立った志藤を見やった。 改めて、その背の高さを認識する。170cmを実は少し越える怜子に見上げる感覚を与えてくる相手は、普段の生活の中でそう多くはいない。その長身ぶりに見合った、軟派な雰囲気からはやや意外な、がっしりとした肉づき。 いまの志藤は、仕事帰りの装いから上着とネクタイを取り去った姿だった。いつものように湯上りの姿で迎えられるかと身構えていて、そうでなかったことには密かな安堵を感じた怜子だったが。二つ三つボタンを外したワイシャツの襟元から覗く硬そうな胸板へと吸い寄せられた視線を、すぐに逸らした。 上着とネクタイは、ソファの上に雑に脱ぎ捨てられてあった。常にはないことだ。夕食をひとり先に済ませていたことや、入浴もせず着替えもしないまま寛いでいたらしき姿から、本当に怜子が今夜は帰宅しないと考えていたようにも思えて。 微かな憤慨を覚える。それは、自分がこの突発的な状況から逃げるものと決めつけていたのか、という憤り――であるはずだったが。 そんな怜子の思考の流れは、時間にすればごく僅かな間のことだった。そうですか、と頷いた志藤は、 「じゃあ、お酒に付き合ってもらえませんか?」 そう言った。なんの屈託もない調子で。 「たまには、いいじゃないですか。ね?」 「…………」
「じゃ、乾杯」 杯を掲げてみせる志藤を無視して、グラスを口に運んだ。 志藤も、特に拘ることなく、ひと口飲んで、 「ああ、美味い。上等な酒は、やっぱり違うな」 そう感心してみせる。大袈裟にならぬ程度の言い方で。そのへんの呼吸が、この若者は巧みだった。 ソファで差し向かいのかたちになっている。テーブルに置かれた氷や水は、すべて志藤が用意した。チーズとナッツを小皿に盛った簡単なつまみまで。その並びの中のボトルに目をやって、 「社長は、スコッチがお好きなんですね」 と、志藤は言った。 「あの、初めて付き合ってくれた夜も、同じものを飲まれてましたよね? 確か、銘柄も同じものを」 「……そうだったかしら」 冷淡に、ではなく、不快さを隠さずに怜子は答えた。よくも、しゃあしゃあと“あの夜”のことを口にするものだ、という���りがわいて、 「……違うわよ」 と、つい洩らしてしまう。 え? と聞き返す志藤の間抜けな顔に、さらに感情を逆撫でされて、 「スコッチでも、銘柄は違うと云ってるの」 結局、そう指摘することになる。最初の返答の、“もう、そんなことは覚えていない”というポーズを、自ら無意味なものにして。 「ああ、そうでしたか。こりゃ、恥ずかしいな。知識もないのに、わかったふりなんてするもんじゃないですね」 「…………」 頭なぞ掻いてみせて、実のところ恥じ入るふうでもない志藤の反応を目にすれば、揚げ足をとってやったという快味など生じるはずもなく。逆にまんまと乗せられたという苦さだけがわいて。 「昔の話は、おやめなさい」 「ああ、すみません」 居丈高に命じて、志藤に頭を下げさせても、その苦味は消え去ることなく。 それを流し去り、気を鎮めるために、怜子はまたグラスに口をつける。 飲み慣れた酒の味わいが、今夜は薄かったが。それでいいのだ。 上質のモルトを水と氷で薄めているのは、無論のこと警戒心からだった。怜子は、いまだスーツの上着も脱がず、まっすぐ背を伸ばして座った姿勢も崩そうとはしない。 そうしてまで、この場にあらねばならない理由がある。怜子は、そう思っている。この機会に、志藤に、この娘婿に、言っておかねばならないこと、質しておかねばならないことがある、と。ことに、今夜のこの突然な状況について。 それを、どう切り出したものか、と思案したとき、 「……社長」 と、志藤が呟いた。呼んだのではなく、ひとりごちるようにそう言ってから、 「いえ、つい以前からのクセで、社長と呼んでしまうんですが。本当は、“お義母さん”と、お呼びすべきですよね? ただそれも、どうも慣れない感じで。どちらがいいですか?」 「……どちらでも、いいわよ」 嘆息まじりに返したぞんざいな答えには、しかし呆れよりも苛立ちがこもった。そんなどうでもいいことで、また思考を妨げられた、と。 率直に云うなら、“社長”も“お義母さん”も、どちらの呼び方も不快だったが。 「……慣れないというなら、無理に変える必要もないでしょう」 数拍の間をおいて、そう付け加える。不機嫌に。そちらのほうが、まだマシだ、と。 苛立ちが記憶を呼び起こす。いつも、この調子だったと思い出させる。 このふざけた若い男は、いつもこんなふうにのらりくらりとした言動で、怜子のペースを乱してきた。それは怜子の周囲の人間の中で、志藤だけが容易くやってのけることで。相性が悪い、とはこういうことかと怜子に感じさせたものだったが。いまはそんな苦い記憶を噛みしめている場合でもないと、 「なにを企んでいるの?」 直截に、そう問い質した。鋭く志藤を睨みつけて。 「企む、ですか? そりゃあ、また穏やかじゃないですね」 空っとぼける志藤の反応は予測どおりだったから、 「慎一を連れだして。英理は、どういうつもりなのかと訊いているのよ」 「それは、姉弟の親睦を深めようってことじゃないですか? ずっと、じっくり話す機会もなかったみたいですし」 「…………」 じっと疑念と探りの目を向ける怜子を見返して、志藤は“ああ”と理解したふうに頷いて、 「英理が、我々のことを慎一くんに話すつもりなんじゃないかって、社長はそれを案じてらっしゃるわけですね? なるほど」 「……なにか聞いているんじゃないの?」 「いえ、それについてはなにも。確かに英理は、いずれ慎一くんにも“真実”は伝えるべきだとは考えているみたいですけど」 「必要ないわ、そんなこと」 「ええ。僕もそう思うんですけどね」 微かに苦笑を浮かべて。“自分に言われても”と言いたげに。 「とにかく僕が英理から聞いてるのは、久しぶりに姉弟ふたりだけの時間を持ちたいって意向と、それによって、僕と社長にも、ゆっくりとふたりで話す機会が作れるだろうって見込みです。それだけですよ。で、見込みのほうは、僕としては、どうかな? って半信半疑だったんですけど。結果として、こうして社長とお酒を酌みかわせてるわけですから、英理の考えが正しかったってことですね」 そう云って、今度は邪まな笑みのかたちに口許を歪め、怜子へと向ける視線をねっとりと粘ついたものに変える。どちらも意識的にそうしたに違いなかった。 「それで。こういう状況になれば、僕も思惑が生じてくるわけですよ。企む、っていうなら、いまこの場になって、いろいろと考えを巡らせてるところです。このあと、どうやって怜子社長と“昔”のような親密さを取り戻そうかって」 カランと氷が鳴った。怜子が手にしたグラスの中で。 またひと口あおった、そのグラスをテーブルに置いて、 「……笑えないわね」 と、怜子は云った。 「そうですか? じゃあ、何故帰ってきたんです? 待っているのは僕だけだと知りながら」 「だから、それは、」 「英理の真意を突きとめるため、ですか。けど、それだったら直接英理に電話して訊くべきでしょう。英理の暴走を危ぶみ、止めたいと思うなら、なおさらそうすべきですね。でも、それはしてないんでしょう?」 「……ここは私の家よ。帰ってくることに、なんの問題があるというの?」 低く抑えた声に、微かにだが苛立ちがこもっていた。 「もちろん問題なんてないですよ。最初から、それだけの話なら。ただ、ついさっきまでは、不本意ながら帰ってきたって言い方だったでしょう? こうして、酒の誘いには応じてくれながら、ピントのズレた理由を口にしたり。ひとつひとつがチグハグで矛盾していて、どうにも明晰な怜子社長らしくもない。だから、僕はこう考えるわけです。その矛盾を突き崩してあげることこそが、いま僕に期待されてることなんじゃないかと」 「……馬鹿ばかしい」 嘆息とともに、怜子は吐き捨てた。 「なにを言うのかと思えば。自惚れが強くて、都合のいい解釈ばかりなのは変わってないわね」 きつい口調できめつけながら、その目線は横へと逸らされていた。 「そうですかね? まあ、願望をこめた推測だってことは否定しませんが」 志藤は悪びれもせずに。 怜子は、顔の向きを戻して、 「あなた、いまのお互いの立場を本当に解っているの?」 そう難詰した表情は険しくこわばり、声にももはや抑えきれぬ感情が露わになっていた。憤りと、切羽詰った気色が。 「義母と娘婿、ってことですかね。まあ、世間一般の良識ではNGでしょうけど、僕たちの場合、ちょっと事情が特殊ですからね」 ぬけぬけとそう云って、そのあとに志藤は、「ああ、そうか」と声を上げた。 「そこが、最後の引っかかりですか。英理が僕の妻だってこと、いや、僕の妻が英理だってことが。なるほど」 なにやら言葉遊びのような科白を口にして、しきりに頷くと、グラスを手に立ち上がった。テーブルを回って、怜子の隣りに腰を下ろすと、わざわざ持ち運んだグラスはそのままテーブルに戻して。やにわに腕をまわして、怜子の身体を抱きすくめた。 「やめてっ」 怜子の抵抗は遅れた。唐突な志藤の行動に虚を突かれて。しかし抗い始めると、その身もがきは激しく本気なものとなって。大柄な男の腕の中で、豊かな肢体が暴れた。それでも強引に寄せようとした志藤の顔を、掌打のような烈しさで押し返すと、両腕を突っ張り精一杯に身体を離して。眉を吊り上げた憤怒の形相で叫んだ。 「英理を選んでおいてっ」 叫んで。自ら発したその言葉に凍りつく。厚い封印を一気に突き破って臓腑の底から噴き上がった、その感情に。 打たれた顎の痛みに顔をしかめながら、愕然と凝固する怜子の貌を覗きこんだ志藤は、納得したように肯いて。そして耳元に囁いた。せいぜい優しげな声音で。 「あれは、社長より英理を選んだってことじゃあなかったですよ」 「…………」 無責任な、身勝手な、傲慢な。人として、母親として、さらなる憤激を掻きたてられるべき台詞。 なのに、怒りも反発も、どうしようもなく溶け崩れていく。ぐったりと、総身から力が抜け落ちていく。 そして、そうなってしまえば。身体にまわされたままの固い腕の感触が、そこから伝わる体温が。鼻に嗅ぐ男の体臭が。酩酊にも似た感覚の中へと、怜子の心身を引きずりこんでいく。 ああ、駄目だ……と、胸中に落とした嘆きには、すでに諦めがあった。わかっていた、と。こうなってしまえば、もう終わりだということは。 志藤が再び顔を寄せてくる。 怜子は、ゆっくりと瞼を閉じた。 接触の瞬間、反射的に引き結ばれた唇は、しかしチロリと舐めずった舌先の刺激に、震えながら緩んだ。 すかさず舌が侵入する。歯列を舐め、口蓋の粘膜をひと刷きしてビクリとした反応を引き出すと、その奥で竦んだ女の舌を絡めとった。 抗うことなく怜子は口舌への蹂躙を受け容れた。馴染みのある、だが久しいその刺激に、意識より先に感覚が応えて。結び合った口唇には押し返す力がこもり、嬲られる舌がおずおずと蠢きはじめる。流しこまれた男の唾液を従順に嚥み下��ば、喉奥から鳩尾へとカッと熱感が伝わって胴震いを呼んだ。一気に酩酊の感覚が強まる。 無論、端然と座していた姿勢はしどけなく崩れている。スリッパを落とした片脚はソファの上へと乗り上がり、斜めに流したもう一方の脚との間に引き裂けそうに張りつめたスカートは、太腿の半ばまでたくし上がっていた。両手は志藤のシャツの腹のあたりをギュッと縋りつくように握りしめている。 その乱れた態勢の肢体を志藤の手が這いまわる。よじった脇から腰を、背中を、腕を、スーツの上から撫でさする掌のタッチはまだ軽いものだったが。触れていく箇所に粟立つような感覚を生じさせては、怜子の脳髄を痺れさせるのだった。泣きたくなるような懐かしさを伴って。 ようやく口が離れたときには、怜子の白皙の美貌は逆上せた色に染まって、うっすらと開けた双眸はドロリと蕩けていた。ハッハッと荒い息を、形のよい鼻孔と、涎に濡れて官能的な耀きを増した紅唇から吹きこぼして。 その兆しきった義母の貌を、愉快げに口許を歪め、しかし冷徹さを残した眼で眺めた志藤は、 「感激ですよ。またこうして、怜子社長の甘いキスを味わえて」 甘ったるい囁きを、血の色を昇らせた耳朶に吹きこんだ。 ゾクッと首筋を竦ませた怜子は、小さく頭を横にふって、それ以上の戯言を封じるといったように、今度は自分から唇を寄せていった。 さらに濃密なディープ・キスがかわされる。荒い鼻息と淫猥な唾音を響かせながら、怜子は娘婿たる若い男の舌と唾液を貪った。その片手はいつしか志藤の腰から背中へとまわり、もう片手は首を抱くようにして後ろ髪を掴みしめていた。より密着した互いの身体の間では豊かな胸乳が圧し潰されて、固い男の胸板を感じとっていた。 背徳の行為に耽溺しながら淫らな熱を高めていく豊満な肢体を愛撫する志藤の手にも、次第に力がこもっていく。指を埋めるような強さで、くびれた腰を揉みこむ。さらによじれた態勢に、豊熟の円みと量感を見せつける臀丘を、やはり手荒く揉みほぐす。かと思えば、たくし上がったスカートから伸びる充実しきった太腿の表面を、爪の先で軽く引っ掻くような繊細な攻めを繰り出す。どの動きにも、この熟れた肉体がどんな嬲りに反応するかは知り尽くしているというような傲岸な自信が滲んでいて。実際、その手の動きの逐一に鋭敏な感応を示しながら、怜子の豊艶な肢体は発情の熱気を溜めこんでいくのだった。 上着の中に入りこんだ志藤の手が、喘ぎをつく胸乳を掴みしめ、ギュッとブラジャーのカップごと揉み潰せば、怜子は堪らず繋いでいた口を解いて、ヒュッと喉を鳴かせて仰け反った。 グッタリとソファにもたれ、涎に汚れた口から荒い呼吸を吐く。常には決して見られぬしどけない姿を愉しげに見下ろした志藤は、 「シャワーを浴びますか? それとも、このまま部屋に?」 優しい声で、そう訊いた。 「…………」 怜子は無言で首を横に振った。 ソファに落としていた腕をもたげて、志藤のシャツを掴んだ。脱力しているかに見えたその手にグッと力がこもって、志藤を引っ張るようにして、 「……このまま……ここで……」 乱れた息遣いの下から、怜子はそう云った。 「それはまた、」 思わずこみ上げた笑いをこらえて、志藤の表情が奇妙なものとなる。そこまで切羽詰っているのか、と。だが怜子の言葉には続きがあった。 「一度だけよ。それで、なにもなかったことにするの」 志藤を睨みつけて、有無をいわせぬといった口調で宣言した。淫情に火照った貌では、その眼光の威力は大幅に減じていたと言わざるをえなかったが。必死の気概だけは伝わった。 「……なるほど」 僅かな間を置いて返した志藤の声には、呆れとも感心ともつかぬ心情がこもった。 つまり、行きずりとか出会いがしらの事故のように“こと”を済ませるということだ。だから、シャワーを浴びて準備などしないし、ベッドへと場所を移したりもしない。 それが、せめてもの英理への申し訳なのか、己が“良識”との妥協点がそこになるということなのか。 いずれにしろ、よくもまあ思いつくものだ、と胸中にひとりごちる。まさか、事前に考えていたわけでもあるまいに。さすがは切れ者の須崎怜子社長、と感嘆すべきところなのか? しかし、その怜子社長をして、このまま何事もなく終わるという選択肢は、すでにないということだ。そこまで彼女を追い詰めたのは、今しがたのほんの戯れ合いみたいな行為ではなくて、一年の空白と、この二ヶ月の煩悶。 つまりは、すべてこちらの目論見どおりの成り行きということだが。 それでも、 (やっぱり、面倒くささは英理より上だな) 改めて、そう思った。その立場や背景を考慮すれば仕方のないところだし、それだけ愉しめるということでもある。 「わかりました」 だから、志藤は真面目ぶった顔で頷いてみせる。ひとまずは、怜子の“面倒くささ”に付き合って、そこからの成り行きを楽しむために。 まずは……“一度だけ”という自らの宣言を、その意志を、怜子がどこまで貫けるか試させてもらう、といったところか。 志藤はソファから立って、スラックスを脱ぎ下ろした。 引き締まった腰まわりを包んだビキニ・ブリーフは、狭小な布地が破れそうなほどに突き上がっている。なんのかんの云っても、久しぶりに麗しき女社長の身体を腕に抱き、芳しい匂いを鼻に嗅いで、欲望は滾っていた。 その巨大な膨張を一瞥して、すぐに怜子は顔を横に背けた。肩が大きくひとつ喘ぎを打って、熱い息を密やかに逃した。 “このまま、ここで”と要求しながら、ソファに深くもたれた姿勢を変えようとはしなかった。スーツの上着さえ脱ごうとはしない。 なるほど、と納得した志藤は、テーブルを押しやって空けたスペースに位置をとると、怜子の膝頭に手を掛けた。しっとりと汗に湿ったストッキングの上を太腿へと撫で上げると、充実しきった肉づきには感応の慄えが走って、怜子の鼻からはまた艶めいた息が零れた。ゆっくりと遡上した志藤の手は、スカートをさらにたくし上げながら、ストッキングのウエスト部分を掴んで引き剥がしにかかる。怜子は変わらず顔を背けたまま、微かに臀を浮かせる動きで志藤の作業に協力した。 白い生脚が露わになる。官能美に満ちたラインを見せつけて。 むっちりと張りつめた両腿のあわいには、黒い下着が覗いた。タイト・スカートはもう完全にまくれ上がって、豊かな腰の肉置に食いこんでいるのだった。ショーツは瀟洒なレースのタンガ・タイプ。 「相変わらず、黒がよく似合ってますね」 率直な感想を口にして、“ちょっとおとなしめで、“勝負下着”とまではいかない感じだけど”とは内心で付け加える。まあ、急な成り行きだから当然かと、ひとり納得しながら、手を伸ばした。 やはりインポートの高級品であるに違いないそのショーツの黒いレース地をふっくらと盛り上げた肉丘に指先を触れさせれば、怜子はビクリと首をすくませたが、即座に頭を振って、志藤の手を股間から払いのけた。懇ろな“愛撫”なぞ必要ない、親密な“交歓”の行為などする気はないという意思の表明だった。 「……わかりましたよ」 怜子の頑なさに呆れつつ、志藤は戯れかかる蠢きを止めた指をショーツのウエストに引っ掛けて、無造作に引き下ろした。あっ、と驚きの声を上げる怜子にはお構いなしに、荒っぽい動作で足先から抜き取ったショーツを放り捨てる。 これで怜子は、下半身だけ裸の状態になった。 横へ���背けた頸に、新たな羞恥の血を昇らせながら、反応を堪えようとする様子の怜子だったが、 「ふふ、怜子社長のこの色っぽい毛並みを見るのも久しぶりですね」 明け透けな志藤の科白に耐えかねたように、片手で股間を覆った。隠される前に、黒々と濃密な叢の形が整っていることまで志藤は観察していた。処理は怠っていないらしいと。 まあ、これも淑女としての身だしなみってことにしておくか、と内心にひとりごちながら、志藤はビキニ・ブリーフを脱ぎ下ろす。解放された長大なペニスが隆々たる屹立ぶりを現す。 その気配は感じ取ったはずだが、怜子は今度はチラリとも見やろうとはしなかった。ことさらに首を横へとねじって。隆い胸を波打たせる息遣いが、深く大きくなる。 怒張を握り、軽くしごきをくれて漲りを完全なものにすると、志藤は怜子へと近づく。ワイシャツはあえて残した。半裸の姿の怜子に釣り合わせ、その意思に応じるといった意味合いで。 上半身には全ての着衣を残しながら、腰から下だけを剥き出しにした女社長の姿は、どこか倒錯的な淫猥さがあって、これはこれで悪くないという感興をそそった。スカートすら(もはや全く役目は果していないが)脱がず、ストッキングとショーツという、交接に邪魔な最小限のものだけを取り去った姿で、いまでは義理の母親たる女は待っているのだ。すり寄せた裸の膝と、股間に置いた手に、最後の、いまさらな羞恥の感情を示して。 志藤は両腕を伸ばして、腰帯状態になっているスカートを掴むと、重みのある熟女の身体をグイと引き寄せた。巨きな臀を座面の端まで迫り出させて、 「横になりたくないって云うなら、こうしないとね」 窮屈で、よりはしたない態勢へと変えさせた怜子に、そう釈明する。こちらは、あなたの意思に応えているんですよ、といった含みで。怜子は顔を背けたまま、なにも言わなかった。 次いで、志藤は怜子の両膝に手をかけると、ゆっくりと左右に割っていった。抵抗の力みは一瞬だけで、肉感的な両の腿は従順に広げられて、あられもない開脚の姿勢が完成する。 「手が邪魔ですね」 「…………」 簡潔な指摘に、数秒の間合いを置いて、股間を隠していた手が離れる。怜子は引いた手を上へと上げて、眼元を隠した。じっとりと汗を浮かべた喉首が、固い唾を嚥下する蠢動を見せた。 「ちょっと、キツイかもしれませんよ」 中腰の体勢となって、片手に怜子の腰を押さえ、片手に握りしめた剛直を進めながら、志藤が警告する。それは気遣いではなく、己が肉体の魁偉さを誇る習性と、それを散々思い知っているはずなのに入念な“下準備”を拒んだ怜子の頑迷さを嘲る意図からの言葉だった。“だったら、改めて思い知ればいい”という、残虐な愉楽をこめた脅しだった。 視界を覆っていた手の陰で、怜子の瞳が揺動する。まんまと怯えの感情を誘発されて、指の間から見やってしまう。 だが、その怖れの対象をはっきりと視認するだけの暇も与えられなかった。 熱く硬いものが触れた、と感じた次の刹那には、その灼鉄の感覚は彼女の中に入りこんで来た。無造作に、暴虐的に。 「ぎっ――」 噛みしめた歯の間から苦鳴を洩らして、総身を硬直させる怜子。秘肉はじっとりと潤みを湛えていたが。規格外の巨根を長いブランクのあとに受け入れるには、湿潤は充分ではなかった。 構わず志藤は腰を進めた。軋む肉の苦痛に悶える怜子を、“それ見たことか”という思い入れで眺め下ろしながら、冷酷に抉りこんでいった。 やがて長大な肉根が完全に埋まりこめば、怜子は最奥を圧し上げられる感覚に深く重い呻きを絞って、ぶわっと汗を噴き出させた喉首をさらして仰け反りかえった。裸の双脚は、巨大な量感に穿たれる肉体の苦痛を和らげようとする本能的な動きで限界まで開かれて、恥知らずな態勢を作る。 「ああ、相変わらず、いい味わいですよ」 志藤が満悦の言葉を吐く。未だ充分に解れていない女肉の反応は生硬でよそよそしさを感じさせたが、たっぷりと肉の詰まった濃密な感触は、かつて馴染んだままで。長い無沙汰を挟んで、またこの爛熟の肉体を我が物としたのだという愉悦を新たにさせた。 「でも、こんなものじゃないですよね? 怜子社長の、この熟れたカラダのポテンシャルは」 という科白に、すぐにその“本領”を引きずり出してやるという尊大な自信をこめて動き出そうとすると、 「ま、待ってっ、」 反らしていた顎を懸命に引いて、難儀そうに開いた眼を志藤へと向けた怜子が焦った叫びを上げた。この肉体の衝撃が鎮まるまでは、といましばしの猶予を乞うたのだったが、 「待てませんね」 にべもなく答えて、志藤は律動を開始した。ぎいっ、とまた歯を食いしばり、朱に染まった顔を歪めて苦悶する怜子に、 「こういうやり方が、お望みだったんでしょう?」 と皮肉な言葉を投げて、長く大きなスラストで責め立てていく。接触は、繋がり合った性器と、太腿に掛けた手だけという、即物的な“交接”の態勢を維持したまま。 頑なに、懇ろな“情交”を拒んだことへの懲罰のような暴虐的な行為に、怜子はただその半裸の肢体をよじり震わせ、呻吟するばかり……だったのだが。 単調な抽送のリズムを変じた志藤が、ドスドスと小刻みに奥底を叩く動きを繰り出すと、おおおッと噴き零した太いおめきには苦痛ではない情感がこもって。 どっと、女蜜が溢れ出す。まさに堰を切ったようなという勢いで湧出した愛液は、攻め立てられる媚肉に粘った音を立てはじめる。 あぁ……と、怜子が驚いたような声を洩らしたのは、その急激な変化を自覚したからだろう。 「ようやくカラダが愉しみ方を思い出してきたみたいですね」 「ああああっ」 そう云って、それを確認するように志藤が腰を揺すれば、怜子の口からは甲走った叫びが迸り出る。ぐっと苦痛の色が減じた、嬌声に近い叫びが。満たし尽くされたまま揺らされる肉壷が、引き攣れるように収縮した。 (……ったく。結局こうなることは、わきりきってるってのに) 内心に毒づいて、じっくりと追い込みにかかる志藤。ようよう、絡みつくような粘っこさにその“本領”を発揮しはじめた熟れ肉の味わいを愉しみながら。あえて性急さは残した動きの中に、知悉しているこの女体の勘所を攻め立てる技巧を加えていく。 怜子は尚も抗いの素振りを見せた。唇を噛みしめて、吹きこぼれようとする声を堪える。窮屈な態勢の中でのたうつ尻腰の動きも、志藤の律動を迎えるのではなく、逆に少しでも攻めを逸らし、肉体に受け止める感覚を減じようとする意思を示した。 「ふふ、懐かしいな」 と、志藤が呟いたのは、そのむなしい抵抗ぶりに、ふたりの関係が始まった頃の姿を想起したからだった。長い空白が生んだ逆行なのか。或いは、やはり義理とはいえ親子の間柄になったことが、この期におよんでブレーキをかけるのか。それとも……長く捨て置かれた女の最後の意地なのか。 いずれにしろ、甲斐のない抗い��った。こうして深く肉体を繋げた状態で。 両手に掴んだ足首を高々と掲げ、破廉恥な大開脚の態勢を強いてから、ひと際深く抉りこんでやれば、引き���ばれていた怜子の口は容易く解けて、オオゥと生臭いほどのおめきを張り上げた。そのまま連続して見舞った荒腰が、もたがった厚い臀肉を叩いて、ベシッベシッと重たく湿った肉弾の音を立て、それにグチャグチャと卑猥な攪拌音が入り混じる。ますます夥しくなる女蜜の湧出と、貪婪になっていく媚肉の蠢きを明かす響きだった。 「ああっ、ひ、あ、アアッ」 もはや抑えようもなく滾った叫びを吐きながら、怜子が薄く開けた眼で志藤を見やった。その眼色にこもった悔しさこそが、心底の感情だったようだが。その恨みをこめた一瞥が、怜子が示しえた最後の抵抗だった。 「アアッ、だ、ダメぇっ」 乱れた髪を打ち振って、切羽詰った叫びを迸らせ、腰と腿の肉置をブル…と震わした。と、次の刹那には弓なりに仰け反りかえった。 「……っと。はは、こりゃあすごい」 動きを止めて、激烈な女肉の収縮を味わいながら志藤が哂う。脳天をソファの背もたれに突き立て、ギリギリと噛みしめた歯を剥き出しにして、硬直する怜子のさまを見下ろして。 「もったいないなあ」 と、呟いた。怜子に聞こえていないことは承知だから独り言だ。 筋肉を浮き上がらせてブルブルと震える逞しいほどの太腿を両脇に抱え直して、志藤は律動を再開した。 「……ぁああ、ま、待って、まだ、」 忘我の境から引き戻された怜子が重たげな瞼を上げて、弱い声で懇願する。まだ絶頂後の余韻どころか震えさえ鎮まっていない状態で。 「駄目ですよ」 しかし今度も志藤は無慈悲な答えを返して、容赦なく腰の動きを強めていく。 「久しぶりに肌を重ねての、記念すべき最初の絶頂を、あんなに呆気なく遂げてしまうなんて、許せませんよ。ここはすぐにも、怜子社長らしいド派手なイキっぷりを見せてもらわないと」 「あぁ……」 怜子の洩らした泣くような声には、敗北と諦めの哀感がこもった――。
どっかとソファに腰を落とすと、志藤はテーブルのグラスを取って、ひと口呷った。 氷は半ば以上溶けて、上等なスコッチの味は薄まっていたが。“ひと仕事”終えて渇いた喉には丁度よかった。 ふうと息を吐いて、額に滲んだ汗の粒を拭った。深く背を沈めて、改めて眼前の光景を眺める。 志藤はもとの席に座っている。だから、その前方には、たった今まで烈しい“交接”の舞台となっていたソファがあって。そこに怜子が横たわっている。 グラスの中の氷は完全には溶けきっていない。経過した時間はその程度だったということだが。その間に怜子は三度、雌叫びを上げて豊かな肢体を震わした。性急な激しい交わりだった。 いまの怜子は横臥の姿勢で倒れ伏している。三度目の絶頂のあと、志藤が身を離したときに、ズルズルと崩れ落ちた態勢のまま。しどけなく四肢を投げ出して。 半裸の姿も変わっていなかった。最後まで志藤は怜子の腰から上には手を触れなかった。抱えた裸の肢を操り、微妙に深さや角度を変えた抽送で怜子を攻め立て続けた。最後は、その豊かな肢体を折りたたむような屈曲位で最奥を乱打して、怜子に断末魔の呻きを振り絞らせ、彼岸へと追いやったのだった。その刹那の、食い千切るような媚肉の締めつけには一瞬だけ遂情の欲求に駆られたが。ここは予定の通りに、とそれを堪えて。激烈な絶頂の果て、ぐったりと脱力した怜子から剛直を抜き去った。 だから今、僅かに勢いを減じて股間に揺れる肉根をねっとりと汚しているのは、怜子が吐きかけた蜜液だけということになるのだが。そんな汚れた肉塊を丸出しにして、いまだ上半身にはシャツを残した間抜けな格好で、悠然と志藤は酒を注ぎ足したグラスを口へと運んだ。美酒の肴は、無論、たったいま自分が仕留めた女の放埓な姿だ。 乱れたブルネットの髪に貌が隠れているのは残念だったが。横向きに伏した姿勢は、膝から下をソファから落とした剥き出しの下半身、ムッチリと張り詰めた太腿から肥えた臀への官能的なラインを強調して、目を愉しませる。なにしろ、先刻までの忙しない“交接”では、その肉感美を愛でることも出来なかったのだから。いまの状態も、豊艶な熟れ臀を眺めるのにベストなポージングとも視点ともいえなかったが。なに、焦る必要はない。この艶麗な義母の“ド派手なイキっぷり”を見たいという欲求が、まだ充分には叶えられていないことについても同じく。最後の絶頂の際に、怜子はついに“逝く”という言葉を口走りはしたが、それは振り絞った唸りのような声で。彼女が真に快楽の中で己を解放したときに放つ歓悦の叫び――咆哮はあんなももではない、ということを志藤は経験から知っているのだったが。それもまあ、このあとの楽しみとしておけばいい。まだ、ほんの“口開け”の儀が終わったばかり。夜は長いのだ。 と、そんな思索を巡らせていると、向かいで怜子の身体が動いた。 思いの他、早い“帰還”だった。完全に意識を飛ばしていたのではなかったらしい。深い呼吸に肩を上下させて、のろのろと上体を持ち上げる。垂れ落ちた髪に、顔は見えなかった。膝を床に落とし膝立ちになってから、ソファに手を突いて、よろりと立ち上がった。数瞬、方向に迷うように身体を回してから、出入口を目指して歩きはじめる。少し、ふらついた足取りで。途中、床に投げ捨てられてあったストッキングとショーツを拾い上げて。リビングを出る直前になって、ようやく腰までたくし上がったスカートに気づいて引き下ろす動作を見せながら、廊下へと姿を消した。最後まで志藤には顔を向けず言葉も掛けなかった。志藤もまた無言のまま見守り見送った。 ほどなく、遠く聞こえたドアの開閉音で、浴室に入ったことがわかった。 なるほど、と志藤は頷いた。浴室へと直行して、肌の汚れとともにすべてを洗い流すということか。そうして、この一幕をなかったこととする。確かに、それで首尾は一貫するわけだが。 もちろん、志藤としては、そんな成り行きを受け容れる気はなかった。受け容れるわけがないことは、怜子も理解しているはずで。だったら、やるべきことをやるだけだ、と。 それでも、グラスの酒を飲み干すだけの時間を置いてから、志藤は立ち上がった。半ばの漲りを保った屹立を揺らしながら、ゆっくりと歩きはじめる。浴室へと向かって。
熱いシャワーを浴びれば、総身にほっと蘇生の感覚が湧いて。 だが、そうなれば、冷静さを取り戻した思惟が心を苛む。 胸元に湯条を受けながら、宙を仰いだ怜子の貌には憂愁の気色が浮かんだ。 悔恨、罪悪感。しかし一番強いのは、慙愧の想い、己が醜態を恥じる感情だった。 ――“英理を選んでおいてっ”。 志藤の腕の中で叫んでしまったその言葉を思い返すと、死にたいような恥辱に喉奥が熱くなる。自らの意志で関係を絶った男に向けるのは理不尽で身勝手な恨み。ずっと心の奥底に封じこんで気づくまいとしていたその感情を吐き出してしまった瞬間に、怜子は自身の意地も矜持も裏切ることになったのだった。 あとは、ただ崩れ流されただけだった。その済し崩しな成り行きの中で、怜子が示した姑息な抵抗、場所を移すことを拒み、裸になることを拒み、愛撫の手を拒んだことなど、無様に無様を重ねるだけの振る舞いだった。いまになって振り返れば、ではなく、即時にその無意味さ馬鹿馬鹿しさは自覚していたのだったが。 それでも尚、こうして浴室へと逃げこんで。肌を汚した淫らな汗を流すことで、辻褄を合わせようとしている。 そうしながら、しかし怜子の手は、己が身体を抱くようなかたちをとったまま動こうとしないのだった。最前までの恥知らずな行為の痕跡を洗い流すことで全てを消し去ろうとするのなら、真っ先に洗浄の手を伸ばすべき場所に向かってはいかないのだった。 そこに蟠った熱い感覚が、触れることを憚らせる。燠火を掻き立てる、という結果を招くことを恐れて……? 結果として怜子は、その豊満な裸身を熱く強いシャワーに打たせて、ただ佇んでいた。 ……なにをしているのか、と、ぼんやりと自問する。無意味な帳尻合わせの振りすら放擲して。心に悔しさや恥ずかしさを噛みしめながら、身体ではついさっきまでの苛烈な行為の余韻を味わっているかのごとき、この有様は、と。 だが、長くそんな思いに煩う必要はなかった。 浴室のドアの向こうに足音と気配が近づいてきた。磨りガラスに人影が映る。 ちらりと横目に、その長身の影を認めて。もちろん怜子の顔に驚きの色は浮かばなかった。 断りも入れずガラス戸を開け放って。志藤はしばしその場で眼前に展けた光景に見惚れた。 黒とグレーのシックな色合いでまとめられた、モダンなデザインのバスルーム。開放的な広さの中に立つ、女の裸身。 まるで映画のワン・シーンのような、と感じさせたのは、その調った舞台環境と、なによりそこに佇立する裸体の見事さによるものだ。 フックに掛けたままのシャワーを浴びる怜子を、志藤は斜め後ろから眺めるかたちになっている。今夜はじめて晒された完全な裸身を。 四分の一混じった北欧の血の影響は、面立ちではなく体格に顕著に表れている、と過去にも何度か抱いた感想をいままた新たにする。優美なラインの下に、しっかりとした骨格を感じさせる肢体���、どこか彫刻的な印象を与えるのだった。高い位置で盛り上がった豊臀の量感、その中心の深い切れこみの悩ましさも記憶にあるままだったが。腰まわりは、英理が評していたとおりに、以前より少し引き締まっているだろうか。 怜子は振り向かなかった。志藤の来襲に気づいていないかのように、宙を見つめたまま。さっきまでは止まっていた手がゆるゆると動いて、肩から二の腕を洗う動きを演じた。いかにもかたちばかりに。 暖色の柔らかな照明の下、立ち昇る湯気の中、濡れていっそう艶やかに輝く豊艶な肢体を、志藤はなおもじっくりと眺めた。一年と二ヶ月ぶりに目の当たりにする、いまでは義理の母親となった年上の女の熟れた裸身に、ねっとりとした視線を注ぎ続けた。 すると堪えかねたように怜子の裸足の踵が浮いて膝が内へと折れた。重たげな臀が揺れる。執拗な視線を浴びせられる肌身の感覚までは遮断できなかったようだった。 その些細な反応に満足して、志藤は浴室の中へと足を踏み入れる。ピシャリと音を立ててドアを閉めれば、閉ざされた空間の中、立ち昇る熱気に混じった女の体臭を鼻に感じた。深々と、その甘く芳しい香りを吸いこむと、股間のものがぐっと漲りを強めた。 ゆっくりと回りこむように、豊かな裸体へと近づく。それでも怜子は振り返ろうとしなかったが。 自分もシャワーの飛沫の中へと入った志藤が、背後から抱きしめようと両腕を広げたとき、 「もう終わりといったはずよ」 冷淡な口調でそう云った。顔は向こうへと向けたまま。 「まさか」 軽く受け流して、志藤は腕をまわした。怜子は後ろから抱きすくめられた。 その瞬間、身体を強張らせ首を竦めた怜子が、 「……やめなさい」 と、掣肘の言葉を繰り返す。感情を堪えるような抑えた声で。 しかし、志藤はもう拒否の答えさえ返さずに、 「ああ、感激ですよ。こうしてまた、怜子社長の柔らかな身体を抱くことが出来て」 陶然とそう云って、ぎゅっと抱擁を強めた。裸の体が密着して、怜子の背は男の硬い胸を感じ、腰のあたりにも熱く硬いものが押しつけられる。 ね? と、志藤が耳元に囁きかける。 「一度だけって約束だと言っても、僕はまだ、その一度も終わってはいないんですから」 「……それは、貴方の勝手な…」 怜子の反駁、素気なく突き放すはずの科白は、どこか漫ろな口調になって、 「やっぱり、あんな落ち着かないシチュエーションではね。最後までという気にはなれなかったですよ。一年あまりも溜めこんだ怜子社長への想いを吐き出すには、ね。でも、本当は怜子社長も同じ気持ちなんじゃないんですか?」 甘ったるい口説と問いかけに、違うと怜子は頭を振って。そっと胸乳に滑ろうとした志藤の手を払いのけた。 と、志藤は、 「それは、葛藤されるのは当然だと思いますけど」 口調を変えてそう切り出した。 「いまだけは、余計なことは忘れてくれませんか? もう一度、貴女の本音を、本当の気持ちを聴きたいですよ」 「……やめて…」 と零した怜子の声は羞恥に震えた。もう一度と志藤が求めた“本音”“本当の気持ち”が、彼女のどの言葉を指したものかは自明であったから。 羞辱に震えて、そして抗いと拒絶の気配が消える。 やはりそれは、取り返しのつかない発言、発露だったと噛みしめながら。 怜子は、再び胸乳へと滑っていく男の手を、ただ見やっていた。 剥き身の乳房に今宵はじめて志藤の手が触れる。釣鐘型の巨大な膨らみを掌に掬い乗せ、その重みを確かめるようにタプタプと揺らしてから、広げた指を柔らかな肉房に食いこませていった。 ビクッと怜子の顎が上がる。唇を噛んで零れようとする声を堪えた。それに対して、 「ああ、これ、この感触。相変わらず、絶品の触り心地ですよ」 志藤の感嘆の声は遠慮がなく。その絶品の触り心地を味わい尽くそうというように、背後から双の乳房を掴みしめた両手の動きに熱がこもっていく。柔らかさと弾力が絶妙に混淆した熟乳の肉質を堪能しつつ、そこに宿る官能を呼び起こそうとする手指の蠢き。 ねちこく懇ろな愛撫、リヴィングでは拒んだその行為を、いまの怜子は抵抗もなく受け容れていた。抱きしめられたときに志藤の腕の中に折りこまれていた両腕は、いまは力無く下へと落ちて。邪魔がなくなって思うがままの玩弄を演じる男の手の中で、淫らにかたちを歪める己が乳房を、伏し目に薄く開いた眼で見つめながら。唇は固く引き結んだまま、ただ鼻から洩れる息の乱れだけに、柔肉に受け止める感覚を示していたのだったが。 「……痛いわ…」 ギュウッと揉み潰すような強い把握を加えられて、抗議の言葉を口にした。寄せた眉根に苦痛の色を浮かべて、視線は痛々しく変形する乳房へと向けたまま。 「ああ、すみません。つい、気が逸ってしまって」 そう謝って、直ちに手指の力を緩めた志藤だったが、 「まだ、早かったようですね」 と付け加えた科白には含みがあった。すなわち、もう少しこの熟れた肉体を蕩かし官能を高めたあとでなら、こんな嬲りにも歓ぶのだろう、という。 そんな裏の意味を、怜子がすぐに理解できたのは、過去の“関係”の中で幾度もその決めつけを聞いていたからだった。その都度、馬鹿げたことと打ち消していた。 いまも否定の言葉を口にしようとして、しかし出来なかった。わざとらしいほどにソフトなタッチへと切り替わった乳房への玩弄、やや大ぶりな乳輪をそうっと指先でなぞられて、その繊細な刺激に思わずゾクリと首をすくめて鼻から抜けるような息を洩らしてしまう。さらに硬く尖り立った乳首を、指の腹で優しく撫で上げられれば、ああッと甲走った声が抑えようもなく吹きこぼれた。 「なにせ、さっきはずっとお預けだったのでね。不調法は、おゆるしください」 なおも、くどくどと連ねられる志藤の弁解には、やはり皮肉な響きがあった。むしろ、“お預け”をくらって待ち焦がれていたのは、この熟れた乳房のほうだろう、と。玩弄の手に伝わる滾った熱、血を集めて硬くしこった乳首の有りさまを証左として。 怜子は悔しさを噛みしめながら、一方では安堵にも似た感情をわかせていた。志藤の言動が悪辣で下卑たものへと戻っていったことに。 赤裸々な己が心の“真実”などを追及されるよりは、ひたすら肉体の快楽に狂わされるほうがずっとましだ、と。そんな述懐を言い訳として、肉悦へと溺れこんでいく自らをゆるす。 「ああ、アアッ」 抑制の努力を捨てた口から、悦楽の声が絶え間なく迸りはじめる。熱く滾った乳房を嬲る男の手は、執拗さの中に悪魔じみた巧緻がこもって。久方ぶりに――どうやっても自分の手では再現できなかった――その攻めを味わう怜子が吹き零すヨガリの啼き声は、次第に咽ぶような尾を引きはじめて。 胸乳に吹き荒れる快楽に圧されるように仰け反った背は、志藤の胸に受け止められる。女性としては大柄な体の重みを、逞しい男の体躯は小揺るぎもせずに支えて。その安定の心地も怜子には覚えのあるものだった。 背後の志藤へと体重を預けて、なおも乳房への攻めに身悶えるその態勢を支えるために、床を踏みしめる両足の位置は大きく左右に広がっていた。ムッチリと肥えた両の太腿が、あられもない角度に開かれて。 そうであれば、ごく当たり前に、次なる玩弄はそちらへと向かっていく。 志藤の片方の手が、揉みしだいていた乳房を離れ、脇腹をなぞりながら、腿の付け根へと達する。 濡れて色を濃くした恥毛を指先が弄ったとき、ビクッと怜子の片手が上がって、志藤の手首のあたりを掴んだが。それはただ反射的な動きで、払いのけるような力はこもらなかった。 愉悦に閉ざしていた双眸をまた薄く開き、顎を引いて、怜子は下を、己が股間のほうを見やった。いつの間にか晒していた大股開きの痴態も気にするどころではなく、濡れた叢を玩ぶ志藤の指先を注視する。 うっ、と息が詰まったのは、無論のこと、指がついに女芯に触れたからだった。 「アアッ、だ、ダメッ」 甲高い叫びを弾けさせて、くなくなと首を打ち振る。引いていた顎を反らし、志藤の肩に脳天を擦りつけるようにして。はしたなく広げた両腿の肉づきを震わして。 もちろん、女芯を弄う指の動きは止まらない。怜子の叫びが、ただ峻烈すぎる感覚を訴えただけのものであったことは明らかだったし。 (……ああ、どうして……?) 目眩むような鮮烈な刺激に悶え啼きながら、怜子は痺れた意識の片隅に、その問いかけを過ぎらせていた。 やわやわと、志藤の指先は撫でつけを続けている。その触れようは、あくまで繊細で優しく、しかしそれ以上の技巧がこもっているようには思えないのに。 なのに、どうしてこんなにも違うのか? と。 乳房への愛撫と同じだった。どれほど試してみても、その感覚を甦らせることは出来なかった。 そう、そのときにも怜子はその言葉を口にしたのだった。“どうして?”と。いまとは逆の意味をこめて。 深夜の寝室で、ひとり寝のベッドの上で。もどかしさに啜り泣きながら。 「ふふ、怜子社長の、敏感な真珠」 志藤が愉しげに呟く。その言いようも怜子には聞き覚えがあった。宝石に喩えるとは、いかにもな美辞なようで、同時に怜子の秘めやかな特徴を揶揄する含みのこもった科白。実際いま、充血しきって完全に莢から剥き出た肉豆はぷっくりと大ぶりで、塗された愛液に淫猥に輝くさまは、肉の“真珠”という形容が的確なものと思わせる。そしてその淫らな肉の宝玉は、くっきりと勃起しきることで“敏感な”女体の泣きどころとしての特質も最高域に達して、いよいよ巧緻さを発揮する男の指の弄いに、つんざくような快感を炸裂させては総身へと伝播させていくのだった。 「ヒッ、あっ、あひッ、アアアッ」 絶え間なく小刻みな嬌声をほとびらせながら、怜子は突き出した腰を悶えうねらせ続けた。自制など不可能だったし、その意思も喪失している。股間を嬲る志藤の腕にかけた片手は、時おり鋭すぎる刺激にキュッと爪を立てるばかりで、決して攻め手の邪魔だてはしようとせずに。もう一方の手は、胸乳を攻め続ける志藤の腕に巻きつけるようにして肩口に指先をかけて。より深く体の重みを男へと浴びせた、全てを委ねきるといった態勢となって、その豊艶な肉体を悶えさせていた。否応なしに快感を与えられ、思うが侭に官能を操作されて、指一本すら自分の意思では動かせないようなその心地にも、懐かしさを感じながら。 「ヒッ、ああっ!? ダ、ダメッ、それ、あ、アアッ」 ��声が一段跳ね上がったのは、ジンジンと疼き狂う肉真珠を、ピトピトと絶妙な強さでタップされたからだったが。切羽詰まった叫びは、数瞬後に“うっ!?”と呻きに変わる。急に矛先を転じた指が、媚孔へと潜りこんだからだった。 熱く蕩けた媚肉を無造作に割って、男の指が入りこんでくる。息を詰めて、怜子はその感覚を受け止めた。 「さすがに、ほぐれてますね」 志藤が云った。それはそうだろう、この浴室へと場所を移す前、リヴィングではセックスまで済ませている。熟れたヴァギナは、今夜すでに志藤の魁偉なペニスを受け入れているのだ。 だが今、怜子は鮮烈な感覚を噛みしめるのだった。男らしく長く無骨とはいえ、その肉根とは比ぶべきもない志藤の指の蹂躙に。 リヴィングでの交わりは、やはりどうにも性急でワンペースなものだった。怜子がそう望んだのだったが。結果として、久しぶりに迎え入れた志藤の肉体の逞しさ、記憶をも凌駕するその威力に圧倒されるうちに過ぎ去った、というのが実感だった。短い行為の間に怜子が立て続けに迎えた絶頂も、肉悦の高まりの末に、というより、溜めこんだ欲求が爆ぜただけというような成り行きだった。 いま、こうして。裸体を密着させ、乳房を嬲られ女芯を責められて、羞ずかしくも懐かしい情感を呼び覚まされたあとに改めての侵略を受ける女肉が、歓喜して男の指を迎え入れ、絡みつき、食い締めるのを、怜子は感じとった。そして、深々と潜りこんだ指、その形にやはり憶えがある指が、蠢きはじめる。淫熱を孕んだ媚肉を、さらに溶け崩れさせるために。そのやり方など知り尽くしている、といった傲慢な自信をこめた手管で。 「ああっ、ん、おおおっ」 また容易く官能を操られれば、怜子の悶えぶりも変わる。口から洩れる声音は、囀るような嬌声から低く太いおめきへと変じて。尻腰は、媚孔を抉り擦りたてる志藤の指のまわりに円を描いて振りたくられるのだった。その豊かな肉置を揺らして。 グッチュグッチュと粘った濡れ音を怜子は聴く。しとどな潤みにまみれた女肉が男の硬い指に掻きまわされて奏でる淫猥な響き。実際には、いまもまさにその下腹のあたりに浴び続けるシャワーの音に隠れて聞こえるはずはなかったのだが。耳ではなく身体を通してその淫らな音を怜子は聴いて。湧き上がる羞辱の感情は、しかしいっそう媚肉粘膜の快美と情感の昂ぶりを煽って、脳髄を甘く痺れさせるのだった。 「アアッ、ダメッ、そこ、そこはっ」 蹂躙の指先が容赦なく知悉する弱点を引っ掻けば、早々と切迫した叫びが吹き上がった。あられもなく開かれた両腿の肉づきにグッと力みがこもったのは、叫びとは裏腹に、迫り来るその感覚を迎えにいこうとするさまと見えたのだったが。 しかし、ピークは与えられなかった。寸前で嬲りを止めた指がズルリと後退していけば、怜子は思わず“あぁっ”と惜しげな声を零して。抜き去られた指を追って突き上げる腰の動きを堪えることが出来なかった。 両脇に掛かった志藤の手が、仰け反った態勢を直し、そのまま反転させる。力強い男の腕が、豊満な肢体を軽々と扱って。 正対のかたちに変わると、志藤は至近の距離から貌を覗きこんできた。蕩け具合を確認するような無遠慮な視線に、顔を背けた怜子だったが、優しくそれを戻され口を寄せられると、瞼を閉じて素直に受け入れた。 熱いキスが始まれば、怜子の両腕はすぐに志藤の背中へとまわって、ひしとしがみつくように抱きついていった。白く豊満な裸身と浅黒く引き締まった裸体が密着する。美熟女の巨大な乳房は若い男の硬い胸に圧し潰され、男の雄偉な屹立は美熟女の滑らかな腹に押しつけられる。その熱にあてられたように白い裸身の腰つきは落ち着かず、シャワーを受ける豊臀が時おりブルッブルッと肥えた肉づきを震わした。 と、志藤が怜子の片手をとって、互いの腹の間へと誘導した。もちろん即座にその意図を悟っても、怜子の腕に抗いの力はこもらず。 口づけが解かれる。密着していた身体が僅かに離れた。怜子の手に自由な動きを与え、そのさまを見下ろすための隙間を作るために。 涎に濡れた口許から熱い息を吐きながら、怜子はそれを見やった。長大な剛直を握った自分の手を。己が手の中で尊大に反り返った隆々たる屹立を。 逆手に根の付近を握った手に感じる、ずっしりとした重み、指がまわりきらぬほどの野太さ、強靭な硬さ、灼けるような熱さ。一度触れてしまえば、もうその手を離せなくなって。見てしまえば、視線を外せなくなった。 深い呼吸に胸を喘がせながら、怜子は凝然と見つめ続けた。 そんな怜子の表情を愉快げに眺めていた志藤が、つと肩に置いた手に軽い力をこめて、次の動きを示唆する。 怜子は、視線を下へと向けたまま、一度は首を横に振ったが、 「おねがいしますよ」 「…………」 猫撫で声のねだりとともに再度促されると、詰るような眼で志藤の顔を一瞥して。 ゆっくりと膝を折って、その身体を沈みこませていった。 濡れた床に膝をつけば、その鼻先に、雄渾な牡肉が鎌首をもたげるというかたちになって。怜子は我知らず“……あぁ”とあえかな声を洩らして胴震いを走らせた。 改めて端近に眺める、その魁偉なまでの逞しさ、凶悪なフォルムは、直ちに肉体の記憶と結びつく。今夜すでに一度その肉の凶器を迎え入れ、久方ぶりにその破壊力を味わわされていた怜子だったが。このときにより強く想起されたのは、もっと古い記憶だった。突然の英理の介入によって志藤との関係が途絶する直前の頃の。ずるずると秘密の逢瀬を続ける中で否応なくこのはるか年若な男の欲望に泥まされ、長く眠らせていた官能を掘り起こされて。毎度、酷烈なほどの肉悦に痴れ狂わされていた頃の。 結局……自分は、その記憶に呪縛されたまま。それを忘れ去ることが出来ず、逃れることも出来ずに。 その呪縛のゆえに、愚かな選択を重ね、醜態を繰り返して。無様さを上塗りしつづけて。 挙句、こうしてまた、この男の前に跪いている。いまや娘の夫となった男の前に。 救いがたいのは、そんな自責を胸に呟いて、しかしそこから脱け出そうという意志が、もう少しも湧いてこないことだった。自ら飛びこんだ、この陥穽の底にあって。無益で無様なばかりの抗いを捨て去ることに、開き直った落ち着きさえ感じて。 こんなにも――自分の堕落ぶりは深かったのだと、思い知ってしまえば。 「……これが…」 恨めしさを声に出して呟いて、眼前の巨大な肉塊を睨みつける。すべての元凶、などとはあまりに下卑た言いようだし、またぞろな言い訳になってしまうようだが。まったくのお門違いでもないだろう。その並外れた逞しさを見せつける男根が、須崎怜子を、有能な経営者たる才女を、破廉恥な堕落へと導いた若い牡の力の象徴であることは間違いなかったし。 ギュッと、握り締めた手指に力をこめる。指を跳ね返してくる強靭さが憎らしい。その剛さ、逞しさが。 その奇怪な感情に衝き動かされるように、顔を寄せていった。そのような心理の成り行きでは、まずは唇や舌で戯れかかる、という気にはならずに。切っ先の赤黒い肉瘤へと、あんぐりと大開きにした口を被せていく。 「おっと。いきなりですか」 頭上から志藤の声が降ってくる。がっつきぶりを笑うという響きを含ませて。 そんなのじゃない、と横に振られる首の動きは小さかった。口に余るようなモノを咥えこみながらでは、そうならざるを得ない。そして意識はすぐに口内を満たし尽くすその肉塊に占められていく。目に映し手指に確かめた、その尊大なまでの逞しさ凶悪な特長を、今度は口腔粘膜に味わって。 浴室に闖入してきてから、ほとんど怜子の身体ごしにしかシャワーを浴びていない志藤の股間には、微かにだが生臭いような匂いが残っていた。リヴィングでの慌しい交わりの痕跡。それを鼻に嗅いでも怜子に忌避の感情は湧かず、ただその身近な質の臭い、鼻を突く女くささを疎ましく感じて。別の臭気を嗅ぎ取ろうとするように鼻孔をひくつかせながら、首を前後に揺らしはじめる。 やはり一年数ヶ月ぶりの口戯。往時の志藤との関係においても、数えるほどしか経験しなかった行為だ。狎れを深める中で、執拗な懇請に流されるという成り行きで、幾度かかたちばかりにこなしたその行為を、いまの怜子は、 「ああ、すごいな」 と、志藤が率直な感嘆を呟いたほどの熱っぽさで演じていた。荒く鼻息を鳴らし、卑猥な唾音を響かせて。まさに、咥えこむなり、といった性急さで没入していって、そのまま熱を高めていく。抗いがたい昂ぶりに衝き動かされて淫らな戯れに耽溺しながら、その激しい行為が口舌にもたらす感覚にまたいっそう昂奮を高めるという循環をたちまちのうちに造り上げて。 いっぱいに拡げた唇に剛茎の図太さ強靭さをまざまざと実感すれば、甘い屈従の情感に背筋が痺れた。張り出した肉エラに口蓋を擦られると、やはり痺れるような快美な感覚が突き上がった。えずくくらいに呑みこみを深くしても、なお両手に捧げ持つほどの余裕を残す長大さを確かめれば、ジンと腹の底が熱くなって、膝立ちに浮かせた臀をうねらせた。唾液は紡ごうと意図するまでもなく止め処もなく溢れ出て、剛茎に卑猥な輝きをまとわせ、毛叢を濡らし、袋にまで垂れ流れた。唾の匂いと混じって色濃く立ち昇りはじめる牡の精臭を怜子は鼻を鳴らして深々と嗅いで、朱に染まった貌に陶酔の気色を深くした。 シャワーは志藤の手で向きをずらされ、ふたりの身体から外れて、空しく床を叩いている。その音を背景に、艶めいた息遣いと隠微な舐めしゃぶりの音がしばし浴室に響いて。 うむ、と快美のうめきを吐いた志藤が手を伸ばして、烈しい首ふりを続ける怜子を止めた。そして、ゆっくりと腰を引いて、剛直を抜き出していく。熱い口腔から抜き取られた巨根が、腹を打つような勢いでビンと反り返った。 野太いものを抜き去られたかたちのままぽっかりと開いた口で、新鮮な空気を貪るように荒い呼吸をつきながら、怜子は数瞬己が唾液にまみれた巨大な屹立を見つめて。それから、上目遣いに志藤の顔を見やった。 「このままだと、社長の口の中に出してしまいそうだったんで。素晴らしかったですよ」 「…………」 賞賛の言葉を口にして、そっと頬を撫でてくる志藤を、疑いの目で見上げて。また、鼻先に揺れる肉塔へと視線を戻す。 確かに……若い牡肉はさらに漲りを強めて、獰猛なまでの迫力を見せつけてくる。 (……ああ……なんて…) 畏怖にも似た情感に、ゴクと口内に溜まった唾を呑みくだして。そのさまを見れば、志藤が自分の口舌の行為にそれなりの快美を味わったというのも事実なのだろうが、と思考を巡らせて。 そこでやっと、その懇ろな愛撫の褒美のように頬を撫でられているという状態に気づいて、はっと顔を逃がした。それから、これも今さらながらに、夢中で耽っていた破廉恥な戯れを突然中断された、そのままの顔を見られ続けていたということに思い至って。俯きを深くして、乱暴に口許の涎をぬぐった。 やはり、そういうことなのだ、と悔しさを噛みしめる。これも、この男の悪辣な手管のひとつなのだ。我を忘れた奔騰のさなかに、急に自意識を呼び覚まさせる。意地の悪い、焦らし、はぐらかしだった。 と、理解して。しかしその悔しさが、反発や敵意に育ってはいかない。ズブと、また深く泥濘へと沈みこんでいくような感覚を湧かせて。 そも、その中断を、焦らされた、はぐらかされた、と感ずること自体が、志藤の手に乗っているということだった。ジリジリと情欲を炙られ続けるといった成り行きの中で。 涎を拭った指先は、そっと唇に触れていた。そこに宿った、はぐらかされたという気分――物足りなさ、を確かめるように。そして、横へと逃がされていた視線は、いつしか前方へと舞い戻っていた。魁偉な姿を見せつける牡肉へと。 そんな怜子のさまを愉しげに見下ろしていた志藤が、つと腰をかがめ、両手を脇の下に差しいれて立たせようとする。その腕に体の重みを預けながら、怜子はヨロリと立ち上がった。 立位で向かいあうかたちに戻ると、志藤は怜子のくびれた腰から臀へと、ツルリと撫でおろして、 「このままここで、ってのも愉しめそうですが」 「…………」 「やっぱり、落ち着かないですね。二階に上がりましょう」 怜子の返答は待たずにそう決めて。シャワーを止めた。この場での一幕を伴奏しつづけた水音が止む。 さあ、と片手をかざして、志藤が怜子を促す。次の舞台への移動を。 「…………」 無言のまま、怜子はそれに従って、ドアへと向かった。
脱衣所に出て。 おのおの、バスタオル――英理によって常に豊富に用意されている清潔なタオル――で身体を拭いて。 しかし着替えまでは用意されていない。今夜の場合は。怜子の着衣一式、皺になったスーツとその中に包みこまれた下着やストッキングは、丸めて脱衣籠に放りこまれてあった。 仕方なしに、もう一枚とったタオルを身体に巻こうとした怜子だったが、 「必要ないでしょう」 そう言った志藤にスルリと奪い取られてしまった。 「今夜は、僕らふたりきりなんですから。このままで」 「…………」 一瞬、詰るように志藤を睨んだ怜子だったが。微かな嘆息ひとつ、ここでも指示に従って。素足を踏んで、裸身を脱衣所のドアへと進めて。 そこで振り返った。湯上りの滑らかな背肌と豊臀の深い切れこみを志藤へと向けて、顔だけで振り向いて、 「今夜だけよ」 そう云った。せいぜい素っ気ない声で。 「ええ。わかってますよ」 志藤が答える。失笑はしなかったが、笑いを堪えるという表情は隠さずに。 それが妥当な反応だろう。怜子とて、その滑稽さは自覚しないわけがなかった。この期におよんで。こんな姿で。 それでも彼女としてはそう言うしかなかった。どれだけ無様な醜態を重ね、ズルズルと後退を続けたあとだろうと、すべてを放擲するわけにはいかないではないか、と――。 薄笑いを浮かべる男に、怨ずるような視線を送って顔を戻すと、怜子は脱衣所のドアを開け放った。
ひんやりと殊更に大きく感じた温度差に竦みかかる足を踏み出して、廊下に出た。 裸で共用スペースに出るなど、かつて一度もしたことのない振る舞いだった。家にひとりきりのときにも。羞恥と後ろめたさに胸を刺されながら、覚束ぬ足取りで玄関ホールへと進む。ペタリペタリと、湿りを残した足裏に床を踏んでいく感触に不快な違和感を覚えながら、より明るい空間へと。高い天井からの柔らかな色の照明が、このときには眩いような明るさに感じられて。その光に照らし出されたホールの景色、日々見慣れた眺めを目にした怜子が思わず足を止めたのと、 「ああ、ちょっと、そのままで」 少し距離を置いて後をついてくる志藤がそう声を掛けたのは、ほぼ同時だった。 日常のままの家内の風景の中(それも玄関先という場所)に、一糸まとわぬ裸身を晒しているという非現実感が怜子の足を止めさせた。志藤の指示は、無論その異常な光景に邪まな興趣を感じて――なにしろ、豊艶な裸身を晒しているのは、平素はクール・ビューティーとして知られる辣腕の女社長であり、この家の女主人なのだ――じっくりとその珍奇な絵図を鑑賞しようとする意図からだった。 そんな思惑は見え透いていたから、怜子はそれを無視して歩みを再開し、階段へと向かった。 指示を黙殺された志藤も、特に不満を言うこともなく後を追った。怜子が西側の階段、自室へと向かうルートを選んだことにも、別に異議はなかった。多分、そうなるだろうと思っていた。足取りを速めたのは、もちろん階段を昇り始めた怜子を、ベストな位置から眺めるためだった。 「……おお…」 急いだ甲斐があって、間に合った。狭く、やや急角度な階段を上がっていく怜子の姿を、数段下のまさにベスト・ポジションから仰ぎ見て、感嘆の声を洩らした。 どうしたって、まず視線はその豊臀へと吸い寄せられる。下から見上げる熟れた巨臀は、さらにその重たげな量感が強調されて、弩級の迫力を見せつけてきた。そして、はちきれんばかりの双つの臀丘は、ステップを踏みのぼる下肢の動きにつれて、ブリッブリッと扇情的に揺れ弾んで、そのあわいの深い切れこみの底の暗みを覗かせるのだった。 陶然と志藤は見上げていたが、その絶景を味わい尽くすには階段はあまりに短かった。粘りつく視線を気にした様子の怜子が途中から動きを速めたので、鑑賞の時間はさらに短縮された。その分、セクシーな双臀の揺動も派手になったけれど。 ああ、と思わず惜しむ声をこぼして、志藤も後を追った。足早に階段を昇りきった怜子の裸の足裏の眺めに目を引かれた。働く女として長年高いヒールを履き続けている影響なのか、怜子の踵はやや固くなっているように見えて。今さらのようだが、その些細な特徴に気づいたことも、またひとつこの美貌の女社長の秘密に触れたってことじゃないか、などという自己満足を湧かせながら。 階上に上がって、通路の奥の怜子の私室へと向かう。手前の慎一の部屋の前を行きすぎるとき、怜子は顔を逆へと背けた。志藤は、無論なんの感慨もなく、今夜は無人のその部屋の前を通過する。 逃げこむ、というような意識があったのだろうか、自室に辿りつくと怜子は逡巡もなくドアを開けて中へと入った。志藤も悠然とそのあとに続いて。 入室すると、やけに慎重な、確実を期すといった手つきで、ドアを閉ざした。閉じられた空間を作った。 間接照明に浮かび上がった室内を見回して、 「社長の部屋になってから入るのは、初めてですね」 と云った。同居の開始以前、ここがまだ英理の部屋だった頃に一度だけ入室したことがあった。 入れ替えが行われて、当然室内の様相は、そのときとは変わっている。置かれているインテリアもすべて移動したものだし。物が少なく、すっきりとまとめられているところは似通っているが。 なにより、はっきりとした違いは、 「怜子社長の匂いがしますね。当たり前だけど」 広くとられた空間を、うろうろと裸で歩きまわりながら、志藤が口にしたその点だろう。両手を広げ、うっとりとその馥郁たる香りを吸いこんで。 「…………」 その香りの主は、むっつりとそんな志藤を見やっていた。壁際に置かれたドレッサーの側らに佇んで。暖色の照明が、その見事な裸体に悩ましい陰影を作って。その肢体を、三枚の鏡がそれぞれの角度から映している。チラリと、その鏡面に怜子の視線が流れた。 「ああ、さすがにいいクッションだな」 志藤が言った。断りもなく怜子のベッドに触れながら。セミダブルのサイズのベッドは、簡単に整えられた状態、怜子が今朝部屋を出たときのままだった。同居が始まってからも、この部屋の掃除は(立ち入りは)無用だと、英理には通達してある。 志藤が、大きく上掛けをめくった。現れ出たシーツは皺を刻んで、さらにはっきりと怜子の昨夜の痕跡を示す。その上に、志藤が寝転がる。ゴロリと大の字に。 その傍若無人な振る舞いに眉をしかめても、怜子に言うべき言葉はなかった。裸の男を部屋に招じ入れてお��て、ベッドに乗られたと怒るのは馬鹿げているだろう。 志藤が仰向けのまま腰を弾ませて、マットの弾力を確かめる。恥知らずに開いた股間で、やはり恥知らずに半ばの漲りを保った屹立が揺れる。滑稽ともいえる眺めだった。 うん、と満足げに頷いて。顔を横に倒して、深々とピロウの匂いを嗅いだ志藤は、 「ああ、怜子社長の香りに包まれるようだ」 と、またうっとりと呟いた。 「向こうの、いまの僕らの部屋にも、最初の頃はこの香りが残ってたんですがね。いまでは、さすがに消えてしまいましたが」 そう続けて、首を起こして怜子を見やった。先ほどからの志藤の行為と科白に、不快げに眉根を寄せている怜子にもお構いなしに、 「その最初の頃に、英理が“残っているのは、香りだけじゃないわ”って云うんですよ。香りだけじゃなくて、怜子社長の、この一年間の……そのう、色々な感情、とか」 言い出しておいて、途中から奇妙に言いよどむ様子を見せる。その志藤に、 「……だいたい、想像がつくわ」 冷ややかな声で怜子はそう云って。 それから、傍らのドレッサーを見やった。体をまわし上体を屈みこませて、鏡に映した顔を覗きこんだ。ベッドの志藤のほうに、剥き身の臀を向ける態勢で。化粧の崩れを確認する。 本当は、部屋に入ってきたときから、それをしたかったのだ。タイミングを探していた。いまの志藤とのやりとりが切欠になったというなら、自分でも不可解だったが。 さほど酷い状態にはなっていなかった。常に控え目にと心がけているメイクは、見苦しいほどに崩れてはいない。ルージュだけは、ほとんど剥げ落ちてしまっていたが。 そもそも……シャワーを浴びたといっても、顔は洗っていなかった。髪も濡れているのは毛先だけだ。 なんのことはない、という話になってしまう。志藤の来襲までに、それをする時間がなかったわけではないのだから。 結局、唇に残ったルージュを拭い、鼻や額を軽くコットンではたいただけで、手早く作業を終えた。見苦しくなければそれでいい、と。 態勢を戻して、振り向く。愉しげに観察していた志藤と目を合わせて、 「……この一年の、私の恨みや後悔が残っている、部屋中にしみついている、って。そんなことを、あの子は言ったんでしょう?」 やはり、冷淡な声で怜子はそう訊いた。 「ええ? すごいな。さすが母娘ってことですかね」 志藤が感心する。一旦は言いよどんでおきながら、あっさりと怜子の推測が正解だと認めて。 「わかるわよ」 不機嫌に怜子は答える。同居を始めてからの英理の言動を思い出せば、そのくらいは容易に察しがつくと。“さすが母娘”などと、皮肉のつもりでないのなら、能天気に過ぎる言いようだ、と。 だが、意地悪くか、ただ無神経にか、持ち出された英理の名が、怜子の心に水を差し制動をかけたかといえば……そんなこともなかったのだ。改めて、いまの英理がどんな目で自分を見ているのかを伝えられ、この二ヶ月間に繰り返されてきた挑発的行動を思い返せば、現在のこの状況への罪悪感は薄れていく。 そもそも、その状況、今夜のなりゆき自体が、英理の企みによるものであるのならば――と、弁解じみた呟きを胸におとす。その前提を確認すれば、疎ましさと反発が湧き上がったけれど。 「実際、どうなんです? この寝心地のいいベッドは、怜子社長の哀しみや寂しさを知ってるんですか? この部屋にも、」 「知らないわ」 まくしたてられる志藤の言葉を遮った声には、不愉快な感情が露わになった。 「ああ、すみません。はしゃぎすぎましたね」 志藤が上体を起こして頭を下げた。居住まいを正す、というには、股間をおっぴろげたままの放埓な姿勢だったが。 「こうして、社長の部屋に入れたのが嬉しくて、つい。以前は殺風景なホテルの部屋ばかりでしたから」 「……当然でしょう、それは」 「そうなんですけど。だからこそ念願だったわけでね。いつか、怜子社長のプライベートな空間で愛しあえたらっていう思いが。それが叶って、はしゃいでしまったんです」 「……それはよかったわね」 冷ややかに。志藤の大袈裟な喜びぶりに同調することはなく。それでも、そうして言葉を返すことで、会話を成立させてしまう。 この狎れ合った雰囲気はなんなのか、と怜子は胸中にひとりごちる。この部屋に入った瞬間から、それまでの緊迫した感情が消えてしまったことに気づく。それは、裸で家中を歩かされるという破廉恥な行為の反動でもあったのだろうが。 同じような心理の切り替わりを過去にも経験していた。一年以上前、志藤との密やかな関係が続いていた頃だ。周到に人目を警戒した待ち合わせからホテルに到着し、“殺風景な部屋”に入ってドアを閉ざすと、怜子はいつもフッと張り詰めた緊張が解けるのを感じたものだった。どれだけ、はるか年若な男との爛れた関係に懊悩と抵抗を感じていようと、その瞬間には、ほっと安堵の感情を湧かせていた。無論それは、なんとしても事実を秘匿せねばならないという思いの故だったわけだが。 そう、当時とは状況は変わってしまっている。もはや、閉ざしたドアに、守秘の意味はないというのに。 「それに、あの頃と違って、今夜は時間を気にする必要もないわけですからね。朝まで、たっぷりと愉しむことが出来るんですから」 「…………」 愉しげな志藤の科白に、体の奥底のなにかが忽ちに反応するのを感じる。“朝まで、たっぷりと”という宣告に。かつての限られた時間の中の慌しい行為でも、毎回自分に死ぬような思いを味わわせたこの剛猛な牡が、と戦慄する。 つまりは、肉体の熱は少しも冷めてはいないのだった。浴室での戯れに高められたまま、裸での行進という恥態を演じ、この部屋での志藤の振る舞いに眉をひそめ、不愉快な会話に付き合うという中断を挟んだあとにも。 であれば、この部屋に入ってからの奇妙な心の落ち着きも、単に最も私的な空間へ逃げこんだという安心感によるのではなくて。ついに、ここまで辿り着いたという安堵がもたらしたものということになるのではないか。迂遠な、馬鹿馬鹿しいような段階を踏んで――クリアして――ようようこのステージに到着したのだ、という想いが。あとは、もう――――。 さあ、と志藤が手招く。ベッドの上、だらしなく脚を開いて座ったまま。その股座に、十全とは云わぬが屹立を保った肉根を見せつけて。 「……我が物顔ね…」 詰る言葉は、どこか漫ろになった。双眸に、ねっとりとした色が浮かんで。 ざっくりと、ブルネットの髪を手櫛で一度掻き上げて、怜子は足を踏み出す。豊艶な裸身を隠すことなく、股間の濃い叢も、重たげに揺れる巨きな乳房も曝け出して。ゆっくりと、娘婿たる男が待ち構えるベッドへと歩み寄った。 乗せ上げた裸の膝に、馴染んだ上質の弾力がかえってくる。スウェーデン製のセミダブルのベッドは、六年前の離婚の際に買い換えたものだ。だから、このベッドが怜子以外の人間を乗せるのも、二人分の重みを受け止めるのも、今夜が初めてということになる。 抱き寄せようとしてきた志藤の手をかわして、腕を伸ばす。その股間のものを掴んで、軽くしごきをくれた。 「おっ?」 「……続きをするんでしょう…」 そう云って、体を低く沈めていって、握りしめたものに顔を寄せた。 「なるほど。再開するなら、そこからってわけですか」 そう言いながら、志藤の声にはまだ意外そうな気色があった。そんな反応を引き出したことは小気味よかったが、それが目的だったわけではない。 先の浴室での行為で知りそめた口舌の快美、突然の中断につい“物足りない”と感じてしまった、その感覚を求めて、というのも最たる理由ではなかった。 あのときに怜子が飽き足りぬ思いを感じてしまったのは、“このままだと、口の中に出してしまいそうだったので”という志藤の言葉が、まったくのリップサービスであることが明白だったからだ。 当然な結果ではあった。そのときの怜子は、ひたすら己が激情をぶつけるばかりで、男を喜ばせようという思いもなかったのだから。だが、たとえ奉仕の意識が生じていたとしても、繰り出すべき技巧など、彼女にはなかった。無理もないことだ、数えるほどの、それも形ばかりにこなしたという経験しかなかったのだから。 もし……過去の志藤との関係が途絶することなく続いていたなら、違っただろう。最初の峻拒から、済し崩しに受け容れさせられたという流れの延長線上に。怜子は徐々に馴致を受けて、男への奉仕の技巧を身につけることになっただろう。 その練達の機会を逸してしまったことを、まさか惜しいとは思わない。思うはずがなかった、のだが。 だったら……と、怜子は考えてしまったのだった。自分が無我夢中で演じた狂熱的な行為にも悠然たる表情を崩さない志藤を見上げたあのときに。瞬間的に、直感的に。 だったら……その時間を――自分が思いもかけぬ成り行きで、この男と訣別してからの一年間を、彼のそばで過ごしたあの子は。日々の懇ろな“教育”を、過去の自分とは比ぶべきもない熱心さで受け入れたであろう、あの子は。いまではどれほどの熟練した技巧を身につけたのだろうか? と。 さぞかし……上達したことだろう、と確信する。こんな男に、それだけの期間、じっくりと仕込まれたならば。 そう、じっくりと。ふたりだけの濃密な時間の中で。自分が、ひとり寂寥を抱いて過ごしていた間。 か黒き感情が燃え立つ。ずっと、この発露のときを待っていたというように腹の底で燃え上がって、怜子を衝き動かす、駆り立てる。 鼻を鳴らして、深く牡の匂いを嗅いで。舌を伸ばしていく。長い脚を折って、志藤の両脚の間に拝跪するような形になって。 赤黒い肉瘤の先端、鈴口の切れこみに舌先を触れさせる。伝わる味と熱にジンと痺れを感じながら、舌を動かしていく。我を忘れてむしゃぶりつくだけの行為にはしたくないのだ、今度は。 ああ、と頭上で志藤が洩らした快美の声、それよりもググッと充実ぶりを増していく肉根の反応に励まされて、怜子は不慣れな舌の愛戯を続けていく。たちまち漲りを取り戻した巨根は、再び多量の唾液に塗れて、淫猥な照りと臭気を放った。 懸命に怜子は舌を蠢かせた。少しでも、競合相手との“差”を縮めたくて。なればこそ殊更に拙劣に思えてしまう己が行為に、もどかしさを噛みしめながら。 志藤が怜子の髪を掻きあげて、顔を晒させる。注がれる視線を感じても、怜子は“見ればいい”という思い入れで、いっそう行為に熱をこめていった。 はしたなく伸ばした舌で男性器を舐めしゃぶる痴態、初めて見せるその姿の新奇さを味わうのであろうと。普段の取り澄ました顔と、いまの淫らな貌とのギャップを愉しむのであろうと。娘婿のペニスにしゃぶりつく義母、という浅ましさを嗤うのだろうと。とにかく、この姿態を眺めることで志藤が味わう感興が、自分の稚拙な奉仕を少しでも補うのであれば、という健気なほどの思いで。 それなのに。 「ああ、感激ですよ」 と志藤は嬉しげに云って。それまではよかったのだが、 「でも、どうしたんです? 以前は、あんなに嫌がっていたのに」 今さら、そう訊いて。さらには、 「もしかして……他の誰かの、お仕込みですか?」 「…………」 舌の動きを止めて、怜子は志藤を見上げた。 「いや、そうだとして、別に僕がどうこういう筋合いじゃないですけど。ただ、もしそうなら“部屋やベッドに怜子社長の寂しさが染みついてる”なんて、とんだ見当違いな言いぐさだったな、って」 志藤は言った。拘りのない口調で。 「………さあ。どうかしらね」 曖昧な答えを、不機嫌な声で返して。怜子は視線を落とした。知らず、ギュッと強く握りしめていた剛直に目を戻して。 あんぐりと大開きにした唇を被せていった。ズズッと勢いよく半ばまで呑みこんで、そのまま首を振りはじめる。憤懣をぶつけるように。 「おお、すごいな」 聴こえた志藤の声は、ただ快感を喜ぶ気色だけがあった。追及の言葉を重ねようともせずに。 そもそも、さほど本気の問いかけでもなかったのだろう。怜子の変貌ぶりを目にしてふっと湧き上がった、疑念というよりは思いつきを口にしただけ。だから深刻な感情などこもらず。 それが怜子には悔しかったのだった。疑われたことが、ではなく、ごく気軽にその疑惑を投げかけられたことが。“他の誰か”と云った志藤の口ぶりに、嫉妬や独占心の欠片も窺えなかったことが。 自分は常に志藤の向こうに英理の存在を感じては、いちいちキナ臭い感情を噛みしめているというのに――。 “僕がどうこういう筋合いじゃない”などと、弁えたような言いぐさも気に入らなかった。正論であれば余計に。今さら、この期におよんで、と。 悔しさ腹立たしさを、激しい首振りにして叩きつける。突っ伏した姿勢で、シーツに圧しつけた巨きな乳房の弾力を利用するようにして。 口腔を満たし尽くす尊大な牡肉。灼けつくような熱と鋼のような硬さ。たとえ悔しまぎれに歯を立てようとしても、容易く跳ね返されてしまうのではないかと思わせる強靭さが憎たらしい。 憎くて、腹立たしくて、悔しくて。どうしようもなく、肉が燃える。 いつしか、苛烈なばかりだった首振りは勢いを減じて。怜子の舌は、口中で咥えこんだものに絡みつく蠢きを演じていた。 えずくほどの深い呑みこみから、ゆっくりと顔を上げていく。ブチューッと下品な吸着の音を響かせながら、肉根の長大さを堪能するようにじわじわと口腔から抜き出していって。ぷわっと巨大な肉笠を吐き出すと、新鮮な呼吸を貪るいとまも惜しむようにすかさず顔を寄せていった。多量に吐きかけた涎が白いあぶくとなって付着している肉根に鼻頭を押し当てて直に生臭さを嗅ぎながら、ヴェアアと精一杯に伸ばし広げた紅舌を剛茎へと絡みつかせていくのだった。淫熱に染まった瞼の下、半ば開いた双眸に、どっぷりと酩酊の色を湛えて。 「ああ、いいですよ。怜子社長の舌」 熱烈な奉仕を受ける志藤はそんな快美の言葉を吐きながら、己が股座に取りついた麗しい義母の姿を眺めおろして。豊かな肢体を折りたたむようにした態勢の、滑らかな背中や掲げられた臀丘を撫でまわしていたが。 やがてゆっくりと、股間は怜子に委ねたまま、上体を後ろに倒していって、仰臥の姿勢に変わった。 「僕からも、お返ししますよ。そのまま、おしりをこちらにまわして、顔を跨いできてください」 「…………」 意図を理解するのに時間がかかった。 いわゆるシックスナインの体勢になれと志藤は指示しているのだった。それも、女が上になったかたちの。 「……いやよ」 短く、怜子は拒絶の言葉をかえした。かつての志藤との関係の中でも経験のない行為だった。その痴態を思い描くだけでも、恥ずかしさに首筋が熱くなる。 「今さら恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか、僕と社長の間で。やってみれば愉しめますよ、きっと。社長の熱い奉仕の御礼に、僕の舌でたっぷり感じさせてあげますよ」 ペラペラとまくしたてて、長く伸ばした舌の先で、宙に8の字を描いてみせる。その卑猥な舌先の動きに、怜子は目を吸い寄せられた。 「英理も、このプレイが好きなんですよ。愛を交わしてるって実感が湧くと言って。だから、怜子社長もきっと気に入りますよ」 「……なにが“だから”よ」 そう呟いて。しかし、のろのろと怜子の身体は動き始める。淫猥な舌のデモンストレーションと、科白の中に盛りこまれた気障りなひとつふたつの単語と、より効果を及ぼしたのは、どちらであったか。 突っ伏していた裸身がもたげられ、膝が男の脚を跨ぎ越して。そのまま、下半身を志藤の頭のほうへと回していく。 顔を跨ぐ前には躊躇をみせたが、さわりと腿裏を撫でた志藤の手に促されて、思い切ったように片脚を上げた。オス犬のマーキングのごとき恥態を、ニヤニヤと仰ぎ見る志藤の眼にさらして、 「ああっ」 淫らな相互愛撫の体勢が完成すると、怜子は羞辱の声をこぼして、四つ這いに男を跨いだ肢体の肉づきを震わした。 「ああ、絶景ですよ」 大袈裟な賛嘆の声を志藤が上げる。怜子の、はしたなく広げた股の下から。 「ふふ、大きな白い桃が、ぱっくりと割れて」 「……いやぁ…」 弱い声を洩らして、撫でさすられる臀丘をビクビクと慄かせる。戯れた喩えに、いま自分が晒している痴態を、分厚い臀肉をぱっくりと左右に割って秘苑の底まで男の鼻先に見せつけているのだということを、改めて突きつけられて。 「こんなに濡らして。おしゃぶりしながら、社長も昂奮してくれてたんですね?」 「……あぁ…」 「ああ、それにすごい匂いですよ。熟れたオンナの濃厚な発情臭、クラクラします」 「ああっ、やめて」 ネチネチとした言葉の嬲りにも、怜子はやはりか弱い声をこぼして、頭を揺らし腰をよじるばかり。志藤の意地悪い科白が、しかし偽りではなく、観察したままを述べているのだと判ったから。自覚できたから。 そして、恥辱に身悶えながら、怜子はその恥ずかしい態勢を崩そうとはしなかった。ひと通りの約束事のように言葉での嬲りを済ませた志藤が首をもたげて、曝け出された女裂へと口を寄せるのを察知すると、アアッと滾った叫びを迸らせて。男の顔を跨いだ逞しい太腿や双臀の肉づきをグッと力ませる。 息吹を感じた、その次の瞬間には、ピトリと軟らかく湿ったものが触れてきた。あられもない開脚の姿勢に綻んだ花弁に柔らかく触れた舌先が、複雑な構造をなぞるように這いまわって、纏わる女蜜を舐めずっていく。まずは、と勿体をつけるような軽い戯れに、 「……あぁ…」 怜子は蕩けた声をこぼして、涎に濡れた唇を震わした。男を跨いだ四肢から身構えの力みが消え、ぐっと重心が低くなっていく。 クンニリングスという行為自体が、これまでほとんど味わったことがないものだった。無論、怜子が拒んでいたからだったが。なれば、いま破廉恥な態勢で無防備に晒した秘裂に受ける男の舌の感触は、新鮮な刺激となって、すでに淫熱を孕んだ総身の肉を蕩かす。指とも違った優しく柔らかな接触が、ただ甘やかな快美を生んで、気だるく下肢を痺れさせるのだった。 だが、そのまま甘ったるい愉悦に揺蕩っていることを許されはしなかった。 ヒイッと甲走った叫びを上げて顎を反らしたのは、充血した肉弁を舐めずり進んだ舌先が女芯に触れたからだった。やはりぷっくりと血を集めた大ぶりな肉芽を、根こそぎ掘り起こすように、グルリと舌を回されて。峻烈すぎる感覚に、咄嗟に浮かし逃がそうとした臀の動きは、男の腕力に封じこまれて。容赦ない舌の蹂躙に、怜子はヒイヒイと悶え啼くばかりだったのだが。つと、志藤は、真っ赤に膨れ上がった肉真珠から舌先を離して、 「お互いに、ですよ」 と、優しげな声で言った。 云われて、難儀そうに眼を開く怜子。その眼前に、というより、男の股間に突っ伏した顔のすぐ横に、相変わらず隆々と屹立する長大な男根。ふてぶてしく、尊大に。獰悪な牡の精気を放射して。 両腕を踏ん張り体勢を戻して、大きく開いた口唇を巨大な肉瘤に被せていく。途端に口腔を満たす熱気と牡臭。反射的に溢れ出す唾液と、剛茎に絡みついていく舌。 「そう、それでいいんです」 傲岸にそう告げて、自身も舌の動きを再開する志藤。忽ち、怜子の塞がった口中で弾ける悦声。 ようよう、その態勢にそぐった相互愛撫が始まって。しかしそれは、拮抗したものにはならない。互いの急所に取りつきながら、攻勢と守勢は端から明らかで。 この娘婿の、女あしらいの技巧、女のカラダを蕩けさせ燃え上がらせる手管のほどを、怜子はまたも存分に思い知らされることになった。緩急も自在に秘裂を嬲る志藤の舌先は、悪辣なまでの巧緻さを発揮して。ことに、ひと際鋭敏な肉真珠に攻めが集中するときには、怜子は健気な反撃の努力さえ放棄して野太い剛直を吐き出した口から、はばかりのない嬌声を張り上げるのだった。そうしなければ、肉の悦楽を叫びにして体の外へ放出しなければ、破裂してしまうといった怖れに衝かれて。 そして、受け止めきれぬほどの快楽に豊満な肢体を悶えさせ、嫋々たる啼泣を響かせながら、怜子はその胸に熱い歓喜の情感をも湧かせていた。“愛を交わしてる実感”と、英理がこの痴戯を表したという言葉を思い起こし噛みしめて。確かに、互いに快楽の源泉を委ねあって口舌の愛撫を捧げあうこの行為には、そんな感覚に陥らせる趣向があった。懇ろな、志藤の舌の蠢きには“愛”とはいわぬまでも、確かな執着がこもっていると感じられて、怜子の胸に熱い感慨を掻き立てるのだった。 そんな心理のゆえだったろうか、 「……ああ……いい……」 ねっとりと、舌腹に包みこむように、また肉珠を舐め上げられたとき、怜子は快美をはっきりとした言葉にして吐き出していた。我知らず、ではなく、意識的に。 フッと、臀の下で志藤が笑う気配があって、 「言ったとおり、気��入ってくれたみたいですね」 愉しげにそう云って、 「ここも凄いことになってますよ。いやらしい蜜が、後から後から溢れ出して。ほら」 ジュル、と下品な音を立ててすすることで、溢出の夥しさを実証して、 「ああ、極上の味わいですね。濃厚で、芳醇で。熟成されてる」 「……あぁ…」 大仰で悪趣味な賞賛に、怜子は羞恥の声を返して。ブルリと揺らした巨臀の動きに、またひと滴の蜜液を、志藤の口へと零した。 淫情に烟った双眸が、鼻先にそそり立つ肉塊へと向けられる。赤黒い肉傘の先端、鈴口の切れこみからトロリと噴きこぼれた粘液に。 あなただって、と反駁の言葉を紡ぐ前に、口が勝手に動いていた。先端に吸いつき、ジュッと吸い上げる。その瞬間に鼻へと抜ける濃厚な精臭に酩酊の感覚を深めながら、剛茎を握った手指にギュッと力をこめて扱きたてる。もっと、と搾り出そうとする。 志藤が洩らした快美の呻きが怜子の胸を疼かせ、淫猥な作業にいっそうの熱をこめさせた。だが、そのすぐ後には、またジュルリと蜜汁を吸われる刺激に、喉奥でくぐもった嬌声を炸裂させることになる。 互いの体液を、欲望の先触れを啜りあうという猥雑な行為に耽りながら、怜子はまた“英理の言葉は正しい”という思いを過ぎらせていた。悔しさとともに。“あの子は、この愉悦を、ずっと――”と。そんな想念を湧かせてしまう、己が心のあさましさは、まだ辛うじて自覚しながら。そのドス黒い感情に煽り立てられて、いっそうの情痴に溺れこんでいく己が心と体を制御することまでは、もう出来ずに。
ともに大柄な体躯を重ね合った男女の姿を、壁際のドレッサーが映していた。汗みどろの肌を合わせ、互いの秘所に吸いつきあって、ひたすら肉悦の追���に没頭する動物的な姿を。 白く豊艶な肢体を男の体に乗せ上げた女が、また鋭い叫びを迸らせる。甲高い雌叫びの半ばを咥えていた巨大な屹立に直に吐きかけ、半ばを宙空に撒き散らした。隠れていた面が鏡面に映る。この瀟洒な化粧台の鏡が毎日映してきた顔、しかしいまは別人のように変わった貌が。淫情に火照り蕩け、汗と涎にまみれた、日頃の怜悧な落ち着きとはかけ離れたその様相を、鏡は冷ややかに映し出していた。 「……あぁ…」 男の顔の上で、こんもりと高く盛り上がった臀丘にビクビクと余韻の痙攣を刻みながら、怜子は弱い声を洩らした。 幾度目かの快感の沸騰をもたらして、志藤の舌はなおも蠢きを止めない。息を継ぐ暇も与えられず、怜子は目眩むような感覚に晒され続けた。これほどの執拗な嬲りは、かつての関係の中でも受けた記憶はなかった。当時のような時間の制限のない今夜の情事、“朝まで、たっぷりと”という宣告を志藤はさっそく実践しはじめたのだ、と理解して。どこまで狂わされてしまうのか、という怯えを過ぎらせながら、怜子は中断や休息を求める言葉を口にはしなかった。 爛れた愛戯に、際限なく高められていく淫熱、蕩かされていく官能。だが、その中心には虚ろがあった。 肉芽を嬲り続ける舌先は、しかしその攻めによって発情の蜜液を溢れさせる雌孔には触れようとしない。浴室での戯れ合いでそこに潜りこみ掻きまわした指は、悶えを打つ双臀を掴んだまま。 であれば、怜子の肉体に虚ろの感覚はいや増さっていくばかり。表層の快感を塗り重ねられるほどに、内なる疼きが際立っていって。無論すべて男の手管であることは承知しながら、怜子は眼前に反り返る尊大な剛肉に再び挑みかかっていくしかなかった。また唇に舌に味わう凶悪な特徴に、さらに肉の焦燥を炙られることまでわかっていても。その獰悪な牡肉こそが、それだけが、我が身の虚ろを満たしてくれるものだと知っていれば。 そうして、健気な奮戦は、あと数度、怜子が悦声を振り絞り肢体を震わすまで続いて、 「……ああっ、も、もうっ」 そして予定通りに終わった。ついに肉の焦燥に耐え切れなくなった怜子が、べったりと志藤の顔に落としていた臀を前へと逃したのだった。混じりあった互いの汗のぬめりに泳ぐように身体を滑らせて、腰に悩ましい皺を作りながら上体をよじり、懇願の眼を向ける。快楽に蕩けた美貌に渇望の気色が凄艶な迫力を添えて。 「いいですよ」 口許の汚れを拭いながら、志藤が鷹揚に頷く。頷きながら動こうとはせずに、迎えるように両腕を広げて。 その意味を理解すると、即座に怜子は動いた。反発も躊躇もなく。横に転がるように志藤の上から下りると、向きを変えて改めてその腰を跨いだ。示唆のとおり、騎乗位で繋がろうとする態勢になって。あられもなくガニ股開きになった両腿を踏ん張って、巨大な屹立へと向けて腰を落としていく。差し伸ばした手にそれを掴みしめ、照準を合わせるという露骨な振る舞いも躊躇なく演じて。灼鉄の感覚が触れたとき、半瞬だけ動きが止まったが、グッと太腿の肉づきを力ませて、そのまま巨臀を沈めていった。 「ああッ」 ズブリと巨大な先端を呑みこんで滾った声を洩らした、その刹那に、 (――たった、これだけのこと) そんな言葉が脈略もなく浮かび上がってきた。 「……あ……おお…」 沈みこませていった臀が志藤の腰に密着し、魁偉な肉根の全容を呑みこむと、怜子は低い呻きを吐いて。次いで、迫り上げてきた情感を堪えるために、ギッと歯を食いしばった。 臓腑を圧し上げられるような感覚。深く重い充足の心地。 身体を繋げるのは、今夜二度目だ。すでにリヴィングで、この長い夜の始まりの時点で情交を行い、怜子は絶頂にも達していた。 それなのに、いま“やっと”という感慨が怜子の胸を満たす。 と、志藤が、 「ああ。ようやく、ひとつになれたって気がしますね」 と云ったのだった。実感をこめた声音で。 「ああっ」 怜子が上げた声は歓喜の叫びだった。重たげな乳房を揺らしながら前のめりになって、両手を志藤の首にしがみつかせて、 「誰とも、してないわ」 泣くような声で、そう告げた。それは、さきの志藤の問いかけへの答えだった。“他の誰か”などという無神経な問いへの。そのときには、憤慨のままに返した曖昧な答えを、いまになって怜子は訂正したのだった。懸命な感情をこめて。 「嬉しいですよ」 志藤が笑む。そんなことは先刻承知といった顔で、 「ずっと、僕のことを待っていてくれたってわけですね」 傲慢な問いかけに、怜子は乱れた髪を揺らして頭を振った。縦にとも横にともつかず曖昧に。そのまま誤魔化すようにキスを求めた。 だが志藤は軽く唇を合わせただけで顔を逸らして、体を起こしていく。繋がったままの体位の変更、強靭な肉の楔に蕩けきった媚肉をゴリッと削られて、ヒッと喉を反らした怜子の身体を片手に抱きとめながら、対面座位のかたちをとる。やや不安定な態勢への変化に、怜子はさらに深く腕をまわして志藤の首にしがみつき、より強くなった結合感に熱い喘ぎを吐いた。志藤が顔を寄せれば、待ちかねたようにその口にむしゃぶりついていく。 卑猥な唾音と荒い鼻息を鳴らしての濃密なキスの最中に、志藤が大きく腰を弾ませた。上質なマットレスの反発を利した弾みは、直ちに繋がりあった部分に響いて、 「アアッ、ふ、深いぃっ」 生臭いようなおめきを怜子に振り絞らせる。 「ふふ、悪くないでしょう?」 愉しげに言って、志藤は両手に抱えこんだ巨臀を揺らし腰を跳ね上げて、深い突き上げを送りこむ。 「ん、ヒイッ、お、奥、刺さってっ」 「ええ、感じますよ。怜子社長の一番奥。オンナの源」 生々しい実感の吐露に、さらに煽り立てる台詞をかえして。双臀を抱えていた両手を、背と腰に撫で滑らせて、 「それに、このかたちだと、より愛しあっているって実感がわくでしょう?」 「ああっ、志藤くんっ」 歓喜に震える叫びを放って、ぎゅっと抱きついた腕に力をこめた。志藤が口にしたその実感を確かめるように抱擁を強くして、巨きな乳房を圧しつけ、背中や肩を愛しげに撫でまわす。若い男の逞しい体躯や硬い筋肉を、総身の肌を使って感じ取ろうとしながら、また口付けをねだっていく。 美しい義母の熱い求めに応じながら、志藤は“その呼び方も久しぶりだな”などと冷静な思考を過ぎらせて。熱烈に口に吸いついてくる怜子の頬越しに、壁際のドレッサーへと視線をやった。 鏡面に白い背姿が映し出されている。豊満で彫りの深い裸の肢体。ねっとりとした汗に輝く背中に乱れた髪を散らして。くびれた腰からこんもりと盛り上がる巨きくて分厚い臀が、淫らな揺れ弾みを演じている。男の腰を跨いだ逞しい両腿を踏ん張って、あられもなく左右に割った双臀の肉づきを、もりっもりっと貪婪な気色で歪ませながら、女肉を貫いた魁偉な牡肉を食らっている。不慣れな体位でありながら、淫蕩な気合を漲らせた尻腰の動きには、もう僅かにもぎこちなさは見受けられず。 戯れに、志藤が抱え直した巨臀をグリリとまわしてやれば、怜子の涎にまみれた口唇から音色の違った嬌声が噴きこぼれて。そして忽ちに、そのアクセントを取り入れていくのだった。鏡に映る熟れ臀の舞踊が、いっそう卑猥で露骨なものになっていく。ドスドスと重たげな上下動に、こねくるような円の動きを加えて。 「ああっ、いいっ」 自らの動きで、グリグリと最奥を抉りたてながら、怜子が快美を告げる。ギュッと志藤の首っ玉にしがみつき頬を擦りよせながら。 「僕もたまりませんよ。怜子社長の“中”、どんどん甘くなっていって」 偽りのない感覚を怜子の耳朶へと吹きかけながら、志藤は自分からの動きは止めていた。交接の運動はまったく怜子に任せて、その淫らな奮戦ぶりと溶解っぷりを眺め、実際にどんどん旨みを増していく女肉の味わいを堪能していた。 だから、 「――ああっ、ダメ、も、もうっ」 ほどなく、切迫した声を洩らして、ブルと胴震いを走らせはじめた怜子のさまを“追いこまれた”と表するのは適切ではなかっただろう。 「いいですよ。思いっきり飛んでください」 鷹揚に許しを与えて、だが志藤はそれに協力する動きはとらない。最後まで怜子ひとりの動きに任せて。 男の胡坐の中に嵌りこんだ淫臀の揺動が激しく小刻みになる。ひたすら眼前に迫った絶頂を掴みとろうとする欲求を剥き出しにして。そして、予兆を告げてから殆んど間もなく、 「あああっ、イクわ、イクぅッ――」 唸るような絶息の叫びを振り絞って、怜子は快楽の極みへと飛んだ。喉を反らし、汗��湿ったブルネットの髪を散らして。爆発的な愉悦、まさに吹き飛ばされそうな感覚が、男の体にしがみつかせた四肢に必死の力をこめさせた。 志藤もまた快美の呻きを吐きながら、熟れた女肉の断末魔の痙攣を味わっていた。この夜ここまでで最高の反応、蕩け爛れた媚肉の熱狂的な締めつけを満喫しながらであれば、ギリギリと背肌に爪を立てられる痛みも、腰を挟みこんだ逞しい両腿がへし折らんばかりの圧迫を加えてくるのも、愉快なアクセントと感じられた。ついに“本域”のアクメに到達した艶母が曝け出す悶絶の痴態、血肉のわななきと滾りを堪能して。 そして、その盛大な絶息の発作が鎮まりきらぬうちに、大きく腰を弾ませて突き上げを見舞った。 ヒイイッと悲鳴を迸らせて、志藤の腕の中で跳び上がるように背を伸ばした怜子が、 「アアッ、ま、待って、まだ、イッて、待ってぇッ」 「いいじゃないですか。何度でも」 くなくなと頭を揺らして、しばしの休息を乞うのには、声音だけは優しく冷酷な答えを返して。膂力にものをいわせて、抱えた巨臀をもたげては落としを繰り返した。 無慈悲な責めに、忽ちに怜子は追い詰められた。ほぼ連続しての絶頂に追い上げられ、獣じみた女叫びを振り絞り、総身の肉置を痙攣させた。それからガクリと、糸が切れたように脱力して、志藤の肩に頭を落とした。 そこでようやく志藤は攻め手を止める。怜子の乱れ髪の薫りを嗅ぎながら、荒い喘ぎに波打つ背中を労うように撫でて。重たくなったグラマラスな肢体を、丁重に後ろへと倒させていく。半ば意識を飛ばした怜子は、されるがままだったが。背中がベッドを感じると安堵したような息を吐いて、さらに身体を虚脱させた。 態勢の変化に浅くなった結合、そのまま志藤は剛直を抜き取った。その刹那、朦朧たる意識の中で艶めいた微妙な色合いの声を洩らした怜子を愉しげに見下ろしながら、その膝裏に手を差し入れ、長く肉感的な両肢を持ち上げ、さらに腹のほうへと押しやる。 大柄で豊かな裸身が屈曲位の態勢に折りたたまれて、情交直後の秘苑が明かりの下に開陳される。濃密な恥毛は汗と蜜液にベットリと絡まり固まって肉土手にへばりついていた。熟れた色合いの肉弁は糜爛の様相でほどけ、その底まで曝け出している。媚孔は寸前まで野太いモノを咥えこんでいたという痕跡のままにしどけなく拡がって。そこから垂れ零れる淫蜜の夥しさと白く濁った色が、この爛熟の肉体の発情ぶりとヨガリっぷりをあからさまにしていた。まるですでに男の射精を受け止めたかのような有様だが、立ち昇る蒸れた臭気には、熟れきった雌の淫猥な生臭さだけが匂って。 「……あぁ…おねがい、少し休ませて…」 窮屈な態勢に、ようよう彼岸から立ち戻った怜子が懇願の言葉を口にした。薄く開いた双眸で志藤を見上げて。 「まだまだ。これからじゃないですか」 軽く怜子の求めをいなして、志藤が浮かせた腰を前へと進める。無論のこと、隆々たる屹立を保ったままの剛直を、開陳された女苑へと触れさせる。貫きにかかるのではなく、剛茎の腹で秘裂をヌラヌラと擦りたてながら、 「ようやく怜子社長のカラダもエンジンがかかってきたってところでしょう? 僕だって、まだ思いを遂げてませんしね」 「……あぁ…」 辛そうな、しかしどこか漫ろな声を零して。そして、怜子の視線はどうしようもなくそこへと、卑猥な玩弄を受けている箇所へと向かう。はしたない態勢に、これ以上なくあからさまにされた秘裂の上を、ヌルッヌルッと往還する肉塊へと。 「……すごい…」 思わず、といったふうに呟きが洩れた。その並外れた逞しさを改めて目に映し、淫らな熱を孕んだ部位に感じれば、つい今さっきまでの苛烈なまでの感覚も直ちに呼び起こされて。 「今度は僕も最後までイカせてもらいますよ」 「…………」 そう宣言した志藤が、片手に握った怒張の切っ先を擬して結合の構えをとっても、怜子はもう休息を求める言葉は口にしなかった。 膝裏を押さえつけていた志藤の手が足首へと移って、さらに深い屈曲と露骨な開脚の姿勢を強いた。羞恥と苦しさにあえかな声を洩らしながら、怜子の視線は一点に縫い止められていた。 真上から打ち下ろすような角度で、志藤がゆっくりと貫きを開始する。怜子はギリッと歯を噛みしばって、跳ね上がりかける顎を堪え、懸命に眼を凝らして、巨大な肉塊が己が体内に潜りこんでいくさまを見届けようと努めるのだったが。 休息を求めた言葉とは裏腹、ほんの僅かな中断にも待ち焦がれたといった様子で絡みついてくる媚肉の反応を味わいながらじわじわと侵攻していった志藤が、半ばから突然に一気に腰を叩きつけると、堪らず仰け反りかえった喉から獣じみたおめきをほとびらせて、 「ふ、深いぃッ」 生々しい実感を、また言葉にして吐き出した。宙に掲げられた足先が硬直して、形のよい足指がギュッとたわめられる。 「ええ。また奥まで繋がりましたよ。ほら」 そう言って、志藤が浮き上がった巨臀の上に乗せ上げた腰を揺する。それだけの動きに、またひと声咆えた怜子が、やっと見開いた眼で傲然と見下ろす男の顔を見やって、 「んん、アアッ、深い、ふかいのよっ、奥、奥までぇっ」 そう振り絞りながら、片手で鳩尾のあたりを掴みしめる。そこまで届いている、とは流石にありえないことだったが、それが怜子の実感であり。それをそのまま言葉にした女叫びには、その凄絶な感覚をもたらす圧倒的な牡肉への礼賛の響きがあった。そして、それほどに逞しく強靭な牡に凌される我が身への満悦、牝の光栄に歓喜するといった気色も滲んでいたのだった。忙しく瞬きながら、男の顔を仰ぎ見る双眸には、甘い屈服の情感が燃え立っていた。 そんな怜子の負けこみぶりを愉しげに見下ろして、志藤は仕上げにかかる。 最奥まで抉りこんだ剛直をズルズルと引き抜き、硬い肉エラで熱く茹った襞肉を掻き擦られる刺激に怜子を囀り鳴かせてから、ひと息に貫き通して、低く重い呻きを絞り出させる。べしっべしっと厚い臀肉を荒腰で打ち鳴らして、改めて肉根の長大さを思い知らせるような長い振幅のストロークを見舞えば、昂ぶりつづける淫熱に見栄も恥も忘れた義母はヒイヒイとヨガリ啼きオウオウと咆えながら、窮屈な姿勢に極められた肢体を揺らし、溶け爛れた女肉をわななかせて、必死に応えてきた。 だが、志藤の攻めが、深い結合のままドスドスと奥底を連打するものに切り替わると、 「アアッ、ダメ、私、またぁ」 もろくも切迫した声を上げて、もたげられた太腿の肥えた肉づきをブルブルと震わしはじめた。 と、志藤は抽送を弱めて、 「もう少し我慢してください」 そう言って、怜子の両脚を下ろし屈曲の態勢を直させて、体を前へと倒した。正常位のかたちに身体を重ねて、すかさず首を抱き唇を寄せてくる怜子に軽く応じてから、 「僕も、もうすぐなんで。一緒にイキましょう」 「……アアッ」 耳元に囁かれた言葉に、怜子は滾った声を放って、志藤の首にまわした腕に力がこもった。腰が震え、媚肉がキュッと収縮して咥えこんだモノを食い締めた。 だが志藤は、怜子が総身で示した喜びと期待に直ちに応えようとはせずに、 「ああ、でも、どうですかね」 と、思案する素振りを見せて、 「もちろん、いつものピルは用意してますけど。でも、いまや義理とはいえ母親になった女性に……ナカ出しまでしてしまうってのは、さすがに罪が深いかな?」 「ああっ」 と、怜子が上げた声は、今度は憤懣によるものだった。この期におよんでの見え透いた言いぐさ、底意地の悪さに苛立ったように頭を揺らして。そうしながら、素早くその身体が動いている。腕にはさらに力みがこもって、男の硬い胸を己が胸乳へと引き寄せ。解放されてベッドへと落ちていた両脚は、志藤の下半身へと絡みついていって、尻の後ろで足首を交差させたのだった。がっし、と。決して逃がさぬ、という意思を示して。 「わかりました」 志藤が頷く。すべて思惑どおりと満悦の笑みを浮かべて。 抽送がまた苛烈なものへと戻っていく。女を攻め立てよがり狂わせる腰使いから、遂情を目指したものへと気配を変じて。その変化を感じ取った怜子が高々と歓喜の叫びを張り上げて、 「来て、来てェッ」 あられもない求めの言葉を喚き散らした。娘婿たる男の精を乞いねだって、激しい律動へと迎え腰を合わせ、ぐっと漲りを強めた剛根を疼き悶える媚肉で食い締めるのだった。 「一緒に、ですよ」 ようよう昂ぶりを滲ませ、息を弾ませた声に念を押されれば、ガクガクと首を肯かせながら、 「は、早くぅっ」 切羽詰まった叫びを振り絞った。ギリギリと歯を食いしばって、臨界寸前にまで追い上げられた情感を堪える。男に命じられたから、ではなく、怜子自身の欲求、なんとしてもその瞬間を合致させたいという切実な希求が、僅かな余力を振り絞らせた。その必死の尽力が間断なく洩れ続ける雌叫びを異様なものとした。瀕死の野獣の唸りに、渾身の息みに無様に鳴る鼻音まで加わって。 平素の理知の輝きなど跡形もなく消失した狂態は、それほど長くは続かなかった。遂情を兆しているという志藤の言葉は偽りではなかったのだ。怜子の懸命の努力は報われ、願望は叶えられた。 低く重い呻きと同時に、最奥まで抉りこんだ剛直が脈動する。熱い波濤が胎奥を叩いて、その刹那に怜子が迸らせた咆哮は、やはり野獣じみて獰猛ですらあった。遠吠えのように長く長く尾を引いた。志藤の体にしがみつかせた両腕両脚が筋を浮き立たせて硬直する。 今夜ここまで欲望を抑えてきた志藤の吐精は盛大だった。熱狂的な雌孔の反応がさらにそれを助長した。揉みしぼるような女肉の蠕動を味わえば、志藤もまた“おおっ”と獣声を吐いて肉根を脈動させ、その追撃が怜子にさらなる歓悦の声を上げさせる。そんな連環の中に、こよなき悦楽を共有しあって。 やがて、ようやく欲望を吐き出し終えた志藤が脱力した体を沈ませた。重みを受けた怜子が微かな呻きを吐いて、男の背にまわした腕に一度ギュッと力がこもり、また弛緩していった。両脚も力を失って、ベッドへと滑り下りていった。 汗みどろの裸身を重ね、今度はしばし虚脱と余韻のときを共にして。 「……最高でした」 乱れ散らばったブルネットに顔を埋めたまま志藤が呟いた。率直な実感をこめた声で。 応えはない。 首を起こして見やれば、熱情に火照り淫らな汗に濡れた義母の面は、瞼を閉ざして、形のよい鼻孔と緩んだ唇を荒い呼吸に喘がせている。意識があるのかどうか判然としなかったが。 つと、その眦からこめかみへと、滴が流れた。 口を寄せ、チロリとその涙の粒を舐めとれば、ビクと微かな反応がかえって。 「これまでで、最高でしたね」 「…………」 今度は問いかけにして繰り返せば、うつつないままにコクと肯いた。 そっと唇を重ねる。強引な激しさも悪辣な技巧もない、ただ優しく触れるキスを贈れば、艶やかな唇は柔らかく解けて。 いまだ肉体を繋げたまま、義理の母親と娘婿は、快楽の余韻を引いた吐息を交わし合った
英理の特製ビーフシチューは今日も絶品の出来だった。 形ばかり志藤に付き合うつもりが、口をつければ空腹を刺激されてしまった。 「……こんな時間に食べてしまって」 結局少量とはいえ取り分けたぶんをほぼ食べ切って、日頃の節制を無にする行動だと後悔を呟く。 「いいじゃないですか。たっぷり汗をかいたあとだし」 「…………」 こちらは充分な量をすでに平らげた志藤が、ワインを飲みながら気楽に請け合う。いかにも女の努力を知らぬ男の無責任な言いぐさだったが。 不機嫌に睨みつけた怜子の表情は、志藤の言葉によって呼び起こされた羞恥心の反動だった。 たっぷりと激しく濃密なセックスに耽溺し、汗をしぼり体力を消耗して。そのあとに、空腹を満たすべく食事を(量はどうあれ、濃厚な肉料理を)摂っている。まるで動物の行動ではないか、と。欲求の充足だけを原理とした。 いまは、その爛れた媾いの痕跡を洗い流し、一応の身なりを整えていることが、せめてもの人がましさといえるだろうか。食事の前に再びシャワーを使って、いまはともにバスローブ姿で食卓についていた。 「……英理は主婦として完璧ね」 卓上に視線を落として、怜子はそう云った。美味しい料理は英理が作り置いていったもの。身にまとう清潔で肌触りのいいローブも英理が用意したものだ。 「そうですね」 「あなた、幸運だわ」 「それはもう、重々わかってますよ。いつも英理に言われてますから。こんな出来た嫁を手に入れた幸せを噛みしめろって。才色兼備で家事も万能、その上――」 ニッと、志藤は愉しげな笑みを浮かべて、 「美しくてセクシーな母親まで付いてくるんだから、と」 「…………」 「今夜こうして、その幸運を確認できたわけで。僕は本当に果報者ですよ」 ぬけぬけとそう言い放って満悦の表情を見せる志藤を、怜子はしばし無言で睨んで。ふうっと息を吐いて、感情を静めて、 「……今夜のことは」 軋るような声で言い出した。いま、やや迂遠な切り出しから告げようとしていた言葉を。 「弁解する気もないし、あなたを責める気もないわ。性懲りもなく、また過ちを犯した自分を恥じるだけよ。でも、こんなことは今夜かぎりよ」 「どうしてです? これは英理も望んでることなのに」 だから、別に“不義”を犯しているというわけでもない、と。 「……おかしいわよ、あなたたち」 「そうですかね? まあ、多少特殊な状況だとは思いますけど」 「……もう、いいわ」 嘆息まじりにそう言って、怜子は不毛な議論を打ち切った。 とにかく、告げるべき言葉は告げた、と。今夜の成り行きを、志藤との関係の再開の契機にするつもりなどないということ、志藤と英理の異常な企みに乗る気などないということは。 志藤は軽く首を傾げて、考える素振りを見せたが。その表情は、あまり真剣なものとは見えなかった。怜子を見つめる眼には、面白がるような、呆れるような色があった。 仕方がない、とは納得できてしまった。今夜、自分がさらした醜態を振り返れば。なにを今さら、と嘲られることは。 だが、他にどんな決断のしようがあるというのか? 狂乱のときが過ぎて、理性を取り戻したいまとなっては。 「本当にそれでいいんですか?」 志藤が訊いてくる。優しげな、気遣うような声で。 目顔で問い返しながら、その先の言葉はおよそ察しがついた。 「いえ、久しぶりに怜子社長と肌を合わせて、離れていた間に貴女が抱えこんでいた寂しさを、まざまざ感じとったというつもりになったもので。また明日から、そんな孤独な生活に戻ることを、すんなり受け容れられるのかな、って」 あくまで慇懃な口調で。いかにも言葉を選んだという婉曲な表現で。 「…………」 怜子は無言で侮辱に耐えた。やはり、受け止めるしかない屈辱なのだと言い聞かせて。志藤の挑発を無視することで決意を示そうとした。 志藤は、しばし怜子の表情を観察して、 「……そうですか」 と、嘆息して、 「それが怜子社長の意思なら仕方ないですが。僕としては残念だな。今夜あらためて、カラダの相性の良さを確認できたのに」 「……それが、決まり文句なのね」 怜子は言い返していた。沈黙を貫くはずが。声に冷笑の響きをこめはしたけれど。 かつての関係の中でも、幾度となく聞かされた台詞だった。それも、この男の手管のひとつなのだろうと怜子は理解していた。その圧倒的な牡としての“力”で女を打ち負かしたあとに、僅かばかり自尊心を救済して。そうすることで、よりスムーズに“靡き”へと誘導する。きっと、これまで攻略してきた女には決まって投げかけてきた言葉なのだろうと。 「そんなことはありませんよ。本当に、これほどセックスが合う相手は他にいないと思ってるんです」 「…………」 「だから、今夜かぎりってのは本当に残念ですけど。まあ、仕方ないですね」 そう云って、グラスに残ったワインを飲み干した。その行動と気配に、次の動きを察した怜子が、 「もう終わりにしてちょうだい」 と、先回りに頼んだ。 「もう充分でしょう? 私、疲れきっているのよ」 「まさか。夜はこれからじゃないですか」 あっさりと受け流した志藤が壁の時計を見やる。時刻は0時を三十分ほど過ぎたところ。 まだそんな時間なのか、というのが怜子の実感だった。この数時間のあまりに濃密な経緯に。 「シャワーを浴びてリフレッシュもしたし、お腹を満たしてエネルギーも補充できたでしょう? やっぱり時間の制約がないのはいいですね。こうしてゆっくりと愉しめるのは」 そう言って笑���志藤の逞しい体躯からは、若い雄の獰猛な精気が発散されはじめていて。 「もう無理よ、これ以上は」 その気配に怖気を感じて、怜子は懇願の言葉を続けた。 「本当に、クタクタに疲れ果てているのよ。若いあなたに激しく責められて……何度も……恥ずかしい姿をさらして……」 そう言ってしまってから、こみ上げた悔しさに頬を歪めた。それは自分の無惨な敗北ぶりを認める科白であったから。転々と場所を変えながらの破廉恥な戯れのはて、辿り着いた寝室で立て続けに二度、志藤の欲望を受け止めたという成り行きの中で、その行為の苛烈さだけでなく、それによって味わわされた目眩むような快楽、幾度となく追い上げられた凄絶な絶頂が、心身を消耗させたのだと。 だが表白することで改めて噛みしめた悔しさ惨めさが、何故か怜子を衝き動かして、 「わかってよ、志藤くん。私、若くはないのよ。……英理とは違うのよ」 そんな言葉を吐かせた。わざわざ、英理の名まで持ち出して。 「そんな弱音は怜子社長らしくないですね」 気楽に志藤は云って、 「英理は意外にスタミナがないんですよ。いつも、割と早々に音を上げてしまうんです。比べたら、怜子社長のほうがずっとタフだと思いますよ。相性がいい、セックスが合うというのは、それもあるんですよ」 「……なによ、それは」 それで賞賛のつもりなのか、と。単に、自分のほうが英理より淫乱で貪欲だと云っているだけではないか、と志藤を睨みつける。 つまり、戯言だと撥ねつけられずに、受け取ってしまっているのだった。妻の英理よりも義母である自分とのほうが肉体の相性がいい、などという不埒な娘婿の言葉を。 「御気に障りましたか? 率直な気持ちなんですが」 悪びれもせずに、志藤は、 「それを今夜かぎりと言われれば、名残を惜しまずにはいられませんよ。また後日って約束してもらえるなら、話は違いますけど」 「しつこいわよ。聞き分けなさい」 にべもない答えを返して。そうしながら、腕組みして考えを巡らす様子の志藤を、怜子は見やっていた。 「……やっぱり、なにか気障りなことを言っちゃいましたかね?」 窺うように志藤はそう訊いて、 「“美人の母親が付いてくる”なんて、確かに失礼な言いぐさでしたね。でもそれは、英理らしい尖った言い回しってだけのことですよ。もちろん僕は、怜子社長を英理の余禄だなんて思ってません。思うはずがないじゃないですか」 「……どうでもいいわよ、そんなことは」 深い溜め息とともに。どうしようもなくズレていると呆れ果てて。 だが、まるで見当違いの角度から宥めすかして、かき口説こうと熱をこめる志藤のしつこさを、疎ましいものとは感じなかった。 そも、それはまったく的外れな取り成しだったか? 件の英理の言葉を聞かされたとき、その逸脱ぶりに母親として暗澹たる思いをわかせつつ、女としての憤りを感じたことは事実。たった今の志藤の弁明に、その感情が中和されたことも。 ……不穏な心理の流れであることは自覚できた。だから怜子は、 「ねえ、明日には、あの子たちも帰ってくるのよ。英理はともかく、慎一には絶対に気取られるわけにはいかないわ」 あえて、その名前を口に出した。今夜ここまで、考えまい思い浮かべまいとしてきた息子の名を。 遠く離れた場所で、姉弟がどんな時間を過ごしているのかは、今は知りようがない。怜子としては、慎一を連れ出した英理の行動が、ただ自分に対する“罠”を仕掛けるためのものであったことを願うしかなかった。まさか、慎一にすべてを明かすなどと、そこまでの暴挙には出るまい、と祈る思いで。 とにかく、明日――日付としては、もう今日だ――帰宅した慎一に、異変を気づかれることだけは絶対に避けなければならない。たとえ……帰ってきた慎一が、すでに“事実”を知らされていたとしても。いや、そうであれば尚更に、今夜自分が犯した新たな過ちまで知られるわけにはいかない。すべての痕跡を消して、何事もなかった顔で、息子を迎えなければ。これ以上、際限もない志藤の欲望に付き合わされては、それも困難になってしまうだろう。 なんて、ひどい母親か、と深い慙愧の念を噛みしめる���性懲りもなく過ちを繰り返さなければ、こんな姑息な隠蔽に心をくだく必要もなかったのだ。 「ああ、慎一くん。なるほど」 名を出されて、存在を思い出したといったふうに志藤は呟いて、 「確かに、彼には今夜のことは知られたくないですよね。ええ、もちろん僕も協力しますよ」 と、軽く請け負って。 すっと立ち上がった。テーブルを回って怜子の傍らに立つと腕を掴んで強引に引き上げた。 ほとんど、ひと呼吸の間の素早い動きだったが。唐突な行動とは云えまい。先ほどから志藤は、しばしの休息を終えての情事の再開を求めていたのだから。 「放してっ」 振り払おうとする怜子の抗いは、男の腕力を思い知らされただけだった。 「まあまあ。ふたりが帰ってくるにしても、午前中ってことはないでしょう。まだもう少し愉しめますよ」 「ダメよっ」 “もう少し”などという約束を信じて、ここで譲ってしまえば。この獰猛な牡獣は、朝まででも欲望を貪り続けることだろうと正確に見通して。なにより、そんな予見に怯えながら、瞬く間に熱を孕んでいく我が身の反応が怜子には怖ろしかった。腰にまわった強い腕に引き寄せられ、さらに体熱と精気を近く感じれば、熱い痺れが背筋を這い上がってきて。その自らの身中に蠢き出したものに抗うように身もがき続けたのだったが。その必死の抵抗をあしらいながら顔を寄せた志藤が、 「いっそ、英理にも秘密にしましょうか?」 耳元に吹きかけた言葉の意外さに、思わず動きを止めて、その顔を見上げた。志藤はニンマリと愉しげに笑って、 「今夜は、なにも起こらなかった。怜子社長は普段通り帰宅したけれど、僕からのアプローチは断固として撥ねつけられて。その身体には指一本触れることが出来なかったって。明日帰ってきた英理にそう報告するんです」 「…………」 まだ意図が掴めず目顔で問い返す怜子に、志藤はさらに笑みを深め、声をひそめて、 「そうしておいて。僕らは、また秘密の関係を復活させる。どうです?」 「――なに、をっ」 瞬時、率直な驚きを浮かべた貌が、すぐに険しく強張る。睨みつける視線を平然と受け止めた志藤は気障りな笑みを消して、 「怜子社長は考えたことはありませんか? もし、あのとき英理に気づかれなかったら、あんなかたちで英理が介入してこなかったら。いまの僕と貴女の関係はどうなっていたかって」 「…………」 「僕は何度も考えましたよ。考えずにはいられなかったな。だって、本来僕が、なんとしても手に入れたいと望んだ相手は、須崎怜子という女性だったわけですから」 それは、この夜の始まりに口にした言葉に直結する科白だった。一年前の成り行きは、けっして怜子を捨てて英理を選んだということではなかった、という弁明に。静かだが熱のこもった声で、真剣な眼色で。だが繰り返したその表白に、いま志藤がこめる思惑は、 「だから、また貴女とあんな関係に戻れたらって。思わずにはいられないんです」 つまりは、改めて密かな関係を築こうという恥知らずな提案なのだった。怜子が、英理からの“招待”をどうしても受ける気がないというのであれば。その英理を除外して、またふたりだけの関係を作ろうじゃないか、と。 ぬけぬけと言い放った志藤の眼には、身勝手に思い描いた未来への期待の色が浮かぶように見えた。またその口ぶりには、それならば英理の構想する“三つ巴”の生活よりはずっと受け容れやすいだろう、という極めつけが聞き取れた。 「……呆れるわね」 短い沈黙のあとに怜子が吐き捨てた言葉には、しごく真っ当な怒りがこもった。どこまで節操がないのか、と。志藤を睨む眼つきが、さらに強く厳しいものになって。 しかし、その胸には混乱も生じていたのだった。英理への背信というべき提案を持ち出した志藤に。この若い夫婦は、自分を陥れ取り込むために結束していたのではなかったか。 無論、その厚顔な告白を真に受けるなど馬鹿げている、と心中に呟きながら、怜子は志藤へと向けた剣呑な視線の中に、探る意識を忍ばせてしまうのだった。冷淡な義母の反応に微かな落胆の息をついて、 「でも、それが僕の正直な想いなんですがね」 「…………」 尚もそう重ねた娘婿の瞳の奥に、その言葉の裏付けを探そうとしてしまうのだった。 志藤が口を寄せた。ゆっくり近づいてくるその顔を、怜子は睨み続けていた。唇が触れ合う寸前になって顔を横に逃がそうとしたが、意味はなかった。唇が重なりあってから、怜子は瞼を閉じた。 優しく丁重なキスを、ただ怜子は受け止めた。舌の侵入は許しても、自らの舌を応えさせはしなかった。 急にその息を乱させたのは、胸元から突き上げた鋭利な刺激だった。バスローブの下に潜りこんだ志藤の手が、たわわな膨らみを掬うように掴んでジンワリと揉みたてたのだった。 「は、離してっ」 「無理ですよ。もう手が離れません」 身をよじり、嬲りの手をもぎ離そうとする怜子の抵抗など歯牙にもかけずに、志藤が答える。弱い抗いを封じるように、ギュッと強く肉房を揉み潰して、怜子にウッと息を詰めさせると、またやわやわと懇ろな愛撫に切り替えて、 「この極上の揉み心地とも、今夜かぎりでまたお別れだなんて。どうにも惜しいな」 そうひとりごちて、せめてもその極上の感触を味わい尽くそうというように、手指の動きに熱をこめていく。 怜子はもう形ばかりの抵抗も示せずに、乳房への玩弄を受け止めていた。繊細な柔肉の、それにしても性急に過ぎる感応ぶりが抗いの力を奪っていた。瞬く間に体温が上昇して、豊かなブルネットの生え際には、はやジットリと汗が滲みはじめている。豊かな乳房の頂では、まだ直截の嬲りを受けない乳首がぷっくりと尖り立っていた。クタクタに疲れ果てていると、志藤に吐露した弱音は嘘偽りのない実感からのものだったが、疲弊した肉体の、しかしその感覚はひどく鋭敏になっていることを思い知らされた。 そんな我が身の異変に悩乱し、胸乳から伝わる感覚に背筋を痺れさせながらも、怜子は、 「でも、正直自信がないですよ。明日からまたこれまで通りの生活に戻っていけるかは」 半ば独り言のように喋り続ける志藤の声に、耳をそばだてていた。 すでに仕掛けている淫らな接触のとおり、これで解放してくれという怜子の懇請は完全に黙殺していたが。しかし、今夜かぎりにすることは受け容れた言いようになっている。つい先ほどまで“英理に隠れてでも”と関係の継続を迫ってきた位置から、あっさりと引き下がって。その唐突な距離の変化が怜子を戸惑わせ、耳を傾けさせるのだった。なにか……割り切れぬような尾を引いて。 「今夜、あらためて身体の相性のよさも確認できたっていうのに。それを、一夜だけの夢と納得しろだなんて。切ないですよ」 「…………」 志藤も、じっくりと聞き取らせようとするのだろう。乳房への嬲りを緩めた。そうされずとも、思惑は察することが出来たが。しかし口上を制止する言葉が出てこなかった。 身体――セックスの相性のよさ。この不埒な若い男の手に触れられただけで――たった今がそうであるように――情けないほどにたやすく燃え上がり蕩けていった己が肉体。淫猥な攻めの逐一に過剰なほどに感応して、振り絞った悦声、吹きこぼした蜜液。そして……かつてのこの男との記憶さえ凌駕してしまった、凄絶な情交――。 「だって、これからも僕らは、この家で一緒に暮らしていくわけですからね。怜子社長……いや、もう弁えて、お義母さんと呼ぶべきかな。とにかく、貴女の姿がいつもすぐそばにあるわけで。それじゃあ、今夜のことを忘れることなんて、とても」 「…………」 そう、同居生活は続いていく。今夜、なにもなかったと方をつけるなら、同居暮らしも何事もなく続いていくしかない。“ただの”娘婿に戻った志藤は、これまでのように妻である英理との仲睦まじさを見せつけるのだろう。その傍らにいる自分には、あくまで慇懃な態度で接し、“お義母さん”という正しい呼称もすぐに口に馴染ませて……。 「お義母さんが不在のときだって、同じことですよ。リビングのソファに座っていても、シャワーを使っていても、玄関ホールに立って、あの階段を見上げるだけでも、思い出さすにはいられないでしょう」 「……やめて」 やっと振り絞ることが出来た。 転々と、場所を移しながら繰り広げた痴態。我が家のそこかしこに刻んでしまった記憶。それを明日からの生活に引き摺っていかねばならないのは、無論志藤ひとりではない。 数瞬だけ志藤は黙って。そして付け加えた。 「まあ、お義母さんの寝室だけは、僕は二度と立ち入ることはないでしょうけど」 「…………」 そう。その場所は、また怜子だけのスペースになる。何処よりも濃密な記憶が蟠る、あの部屋は。 毎日の終わりに、たとえば湯上りの姿で戯れ合う志藤と英理を階下に残して、或いはすでにふたりが夫婦の寝室に引き上げたあとに。怜子はひとり階段を上り、あの部屋へ、あのベッドへと向かうのだ。 毎晩、ひとりで。 もちろん志藤は自らの嘆きを口にするというふりで、怜子に突きつけているのだった。頑なに拒絶を貫くのであれば、そんな毎日が待っているんですよ、と。 怜子はなにも言��なかった。並べ立てられた状況、情景のすべてが、あまりにも生々しく思い描けてしまって。 「僕にも、怜子社長のような強い意志が持てればいいんですけど。見習うのは難しいですね」 気まぐれにまた呼び方を戻して、やはりそちらのほうがよっぽどマシだと怜子の耳に感じさせながら、志藤は念を押してくる。その意志の強さ、矜持の高さによって、この一年あまりの時間を耐え抜いてきた怜子だが、その“実績”には感服するが。明日からも同じようにそれを続けていくことが本当に出来るのか、と。今夜を越えて、この一夜の記憶を抱えて。 と、志藤は無言で立ち竦む怜子の腰を強く引き寄せた。身体を密着させ、ローブ越しに硬く勃起した感触を押しつけて怜子に息を詰めさせ、乳房を揉み臀を撫でまわしながら、 「やっぱり、考え直してもらえませんか? ふたりだけの関係を再開すること」 未練を露わにした口調でそう問いかけた。またも突然に距離を詰めて。 「ダ、ダメよ」 荒々しい玩弄に身悶えながら、怜子は忽ちに弾む息の下から、 「英理に気づかれるわ」 そう口走って、即座に過ちに気づいた。違う、そうじゃない、と頭を振って、たった今の自分の言葉を打ち消そうとする。 だが志藤は、その怜子の失策に付け入ろうとはせずに、 「……そうですか」 ふうっと嘆息まじりにそう言って、両手の動きを止め、抱擁を緩める。���着していた腰も離れた。 「だったら、未練な気持ちが残らないように、このカラダを味わい尽くさせてもらいますよ」 今度こそ割り切って切り替えたといったような、どこか冷静な響きをたたえた声でそう言った。 「……ぁ…」 そんなふうに言い切られてしまうと、奇妙に切ないような情感が胸にわいて。怜子は無意識に伸ばしかけた手を力なく下へと落とした。 乳房と臀から離れた志藤の手がバスローブの腰紐を解くのを、怜子は沈黙の��ま見下ろしていた。次いで、襟にかかった手が、肩を抜いて引き下ろしていくのにも抵抗しなかった。 ローブが床に落ち、熟れた見事な裸身が現れ出る。今度はダイニングを背景に、食卓を傍らに。その状況を意識せずにはいられないのだろう、怜子は羞恥の朱を上らせた顔を俯け肘を抱いて膝を擦り寄せるようにしていたが。その挙措とは裏腹に、爛熟した豊かな肢体は、迫り出すような肉感を見せつける。照明に照らされる白磁の肌には憔悴の陰りは窺えず、むしろ精気に満ちて艶やかな輝きを放つように見えた。 その義母の艶姿へと好色な目を向けながら、志藤は自分も脱いでいった。裸を晒すには、こちらもローブ一枚を取り去ればよかった。深夜の食卓で、そんな姿で義母と娘婿は向き合っていたということだ。 露わになった精悍な裸形へと奪われた視線をすぐに逸らした怜子だったが。すでに半ば以上の力を得た肉根を揺らしながら、志藤が再び腕を伸ばしてくると、 「ここではいやよ」 そう云って、後ずさった。もはや解放を願おうとはしなかったが、これ以上こんな場所で痴態を演じるのは嫌だと。 「じゃあ、部屋へと戻りますか」 あっさりと聞き入れて、さあ、と怜子を促しながら、志藤は唯一足元に残ったスリッパを脱ぎ捨てる。怜子も、裸にそれだけを履いた姿の滑稽さに気づいて、そっとスリッパから抜いた素足で床を踏んで。促されるまま踵をかえし歩き出して。ダイニングから廊下へと出かかったところで歩みを止め振りかえると、僅かな逡巡のあとに、 「……今夜だけ、よ…」 結局その言葉を口にした。まるでひとつ覚えだと自嘲しながら、あえてその台詞を繰り返したのは、志藤より自分自身に言い聞かせようとする心理だったかもしれない。その一線だけは譲ってはならないと。 それとも……まさか“今夜だけ”なのだからと、朝までの残された時間の中で自らのあさましい欲望を解放しきるための口実、免罪符として、という意識が働いたのか。 そんなはずはない、と打ち消すことは、いまの怜子には出来なかった。己が肉体に背かれるといったかたちで、無様な敗北を重ねた今夜のなりゆきのあとでは。 或いは――と、怜子は思索を進めてしまうのだった。自分の中の暗みを、奈落の底を覗きこんで。この期におよんでも自分からは放棄できないその防衛線を、圧倒的な牡の“力”で粉砕されることこそを、実は自分は望んでいるのではないか、と。 どうあれ、志藤には失笑されるだろうと思っていた。だが違った。志藤はじっと怜子の目の奥を見つめて、 「ええ」 と簡潔に頷いたのだった。その口許に、不敵な笑みを浮かべて。 眼を合わせていられずに、怜子は顔を戻した。己が鼓動を鮮明に感じた。 廊下に出る。再び怜子は、そこを裸の姿で往くのだ。二階の自室へと向かって。一度目と違ったのは、志藤がぴったりと隣りに寄り添ってきたことだった。横抱きに義母の腰を抱いて。歩きながら、その手が腰や臀を撫でまわしてくるのにも怜子は何も言わず、させておいた。すると志藤は、怜子の片手をとって、ブラブラといかにも歩くには邪魔くさそうに揺れている股間の逸物へと誘導した。怜子は抗わなかった。視線も前に向けたままだったが、軽く握るかたちになった己が手の中で、男の肉体がムクムクと漲りと硬さを増していくのは感じ取っていた。ほんの一、二時間前の二度の吐精など、この若い牡の活力には少しも影響していないことを確認させられて、忍びやかな息を鼻から逃がす。撫でまわされる臀肌がジワリと熱くなる。 かつての関係においての逢瀬は、裏通りのラブホテルの“ご休憩”を利用した、時間的に忙しないものだった、いつも。だから、この先は怜子にとって未知の領域だ。今から朝が来るまでの長い時間、若い英理でさえ音を上げ半ばでリタイアしてしまうという志藤の強壮ぶりに自分はつき合わされて、その“本領”を骨の髄まで思い知らされることになるのだ。中年女である自分には、到底最後までは耐え切れぬだろうが。それとも……英理よりもタフだろう、という志藤の無礼な見立てが、正しかったと証明してしまうことになるのだろうか? 胡乱な想念を巡らせているうちに、玄関ホールを通りすぎ階段に辿り着いた。腕を離した志藤が、先に上るように促す。確かに、ふたり並んで上るには窮屈ではあったが。 前回と同様に背後を気にしながら上りはじめた怜子の悩ましい巨臀の揺れ弾みを、今度はより近い距離から見上げていた志藤だったが、 「ああっ!?」 「堪りませんよ、このセクシーなヒップの眺め」 階段の途中で、やおらその揺れる双臀を両手で鷲掴んで怜子を引き止めると、滾った声でそう云って、スリスリと臀丘に頬を擦りつけた。 「な、なにっ!? いやっ、やめなさい……ヒイッ」 前のめりに態勢を崩して、上段のステップにつかまりながら、後ろへと首をねじった怜子が困惑した叫びを上げる。唐突な、志藤らしくもないといえる狂奔ぶりに驚きながらの制止の言葉が半ばで裏返った声に変わったのは、深い臀裂に鼻面を差しこんだ志藤が、ジュルッと卑猥な音を鳴らして秘芯を吸いたてたからだった。 「アッ、ヒッ、い、いやよ、やめてっ」 「怜子社長がいけないんですよ、あんなに悩ましくおしりを振って、僕を誘うから」 双臀のはざまから顔を上げ、かわりに揃えた二指を怜子の秘肉へと挿し入れながら、志藤が云った。 「ふ、ふざけないで、アアッ、イヤァッ」 「ふざけてなんていませんよ。ホラ、こんなにここを濡らして。この甘い蜜の匂いが僕を誘惑したんです」 そう言って、実証するように挿しこんだ指先をまわして、グチャグチャと音を立てる。 「ああ、いやぁ、こ、こんな場所で」 段差に乳房を圧し潰した態勢で、上段のステップにしがみついて、なんとか狼藉から逃れようとする怜子だったが。その身ごなしはまったく鈍重だった。掻きまわされ擦り立てられる媚肉から衝き上がる快美と、耳に届く淫猥な濡れ音が煽りたてる羞恥が、身体から力を奪うのだった。すでにそんなにも濡らしていたのだと、ダイニングでの手荒い玩弄も、また素っ裸でここまで歩かされたことも、自分の肉体が昂奮の材料として受け容れていたのだと暴き立てられることが。 やがて、秘肉を嬲る指の攻めが知悉した泣きどころに集中しはじめれば、怜子はもう形ばかりの逃避の動きさえ放棄して、ヒイヒイとヨガリの啼きに喉を震わせていた。ただ怜子は途中から、唇を噛んで声が高く跳ね上がるのを堪えようとした。こんな開けっ広げな場所で、という意識が手放しに嬌声を響かせることをはばからせたのだった。家内にはふたりだけという状況において無意味な抑制ではあったのだが、惑乱する心理がそうさせた。だがその虚しい努力によってくぐもった啼泣は、逆に淫らがましい響きを帯びて、妖しい雰囲気を演出していた。そして、悦声を堪える代わりといったように、裸身ののたうちは激しくなっていく。捧げるように高くもたげた巨臀を淫らに振りたくり、抉りたてる指のまわりに粘っこく回し、ボタボタと随喜の蜜汁をステップに垂れ零して。重たく垂れ落ちて揺れる乳房、時折段差に擦れる乳首から伝わる疼痛が、状況の破廉恥さを思い出させても、もうそれが燃え上がる淫情に水を差しはしなかった。裸で階段にへばりつき、むっくりと掲げた臀の割れ目から挿しこまれた男の手に秘裂を嬲られ淫らな蜜液をしぶかせている、といまの自分の狂態を認識することで、昂奮と快感はどこまでも高まっていくのだった。 だから、 「……ああ、部屋で、部屋に…」 嫋々たる快美の啼きにまじえて怜子が洩らしたその言葉には、さほどの切実さもこもらず。せいぜいが、はや迫りきた絶息の予感によって掻き起こされた理性の燃え滓の表出、といった程度のものだった。実情とすれば、怜子はもうこのままこの場でアクメの恥態を晒すことも――それを指ではなく、志藤の魁偉な肉体によって与えられることさえ、受け容れる状態に追いこまれていたのだったが。しかし、 「……そうですね」 ほとんどうわ言のような怜子のその言葉を、待っていたというように志藤はそう応じて。そして、彼女の中に挿しこんでいた指をスルリと引き抜いてしまったのだった。 ああ!? と驚愕の声を発して振り返った怜子に、照れたような顔を向けて、 「つい、ガキみたいに血気に逸ってしまいました。すみません」 そう謝ると、上げた足を突っ伏した怜子の体の横に突いて、そのままトントンと段飛ばしに、身軽に怜子の傍らをすり抜けて階段を上がった。 忙しく首をまわして怜子が見上げた先、数段上で振り向いて、 「さあ、早く部屋へ行きましょう。僕はもう待ち切れないんですよ」 朗らかにそう言って、とっとと階段を上っていく。怜子を助け起こしもせずに。こちらは硬く引き締まった尻を怜子に向けて。 「……あぁ……待って……」 呆然と虚脱した表情のまま、怜子は弱い声を洩らして。ようやくノロノロと動きはじめる。両手を突いたまま、這うようにして階段を上っていく。前腕や脛には赤くステップの跡がついて、逆に臀を掲げていたあたりのステップには転々と滴りの痕跡が残っていた。 また玩ばれたのだ、とは無論ただちに理解して。しかし今は怒りもわいてこなかった。怜子の感覚を占めるのは、燠火を掻き立てられて放り出された肉体の重ったるい熱さだけだった。意識には、仰ぎ見る視点のゆえに殊更に逞しく眼に映った志藤の裸身だけがあった。力の入らぬ足腰を踏ん張り態勢を起こしても、片手はステップに突いたまま、危うい足取りで上っていく。志藤のあとを追って。 志藤は待たない。速やかに階段を上りきると通路を進んで、最後に一度振り向き、クイクイと手招きしてみせて。そのまま部屋の中へと入っていった。 ようよう二階まで上がった怜子が、開け放たれたドアを目指し、のめるような足取りで進んでいく。追いたてられるのではなく追いかけて、自分の寝室へと向かっていく。 白く豊艶な裸身が室内へと消えていき、その勢いのままに引かれたドアがバタンと不作法な音を立てて閉ざされた。その場は、束の間、深更の静かさを取り戻した。閉ざされたドアの向こうから、艶めいた音声が洩れ聴こえはじめるまでの僅かな間――。
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「虚子への俳話」151
「花鳥」令和4年7月号より転載
東京のこと(二十年前のこと) 平成8年・1996.8月 坊城俊樹
「私」
われの星燃えてをるなり星月夜 虚子 (『五百句』より昭和6年作)
という名作があるが、近頃そういった心境すらどういうことなのかイメージできずに困っている。あまりにも日々の暮らしに追われてしまっている自分がとても恒星のごとく燃えてさかっているとは思えないからである。 日々の花鳥の運行に目を向けろと言っても、この東京というところはどうもいけない。
酒うすしせめては燗を熱うせよ
といった心境である。どこぞの生命保険のテレビコマーシャルを見ては、疾病担保特約に加入しておかねばと思ったりして、娑婆の世界からは一歩も踏み出せずに悶々としている。そういえば、最近は若いきれいな女性に惹かれることは惹かれても、かつてのような異様な惹かれ方もないようである。ましてや、
酌婦来る灯取虫より汚きが
ともなってしまえば、私は近頃我慢がたりない。行く店々ですぐに不機嫌な顔になっているらしく、まわりを困らせてしまっているようである。そういえばこのところ友人からの電話がめっきりと減った。もっとも元来電話無精、筆無精である私自身の責任であることも明白であるが、何やら梅雨の蝶や虻たちが野卑な醜草を避けて飛んでいってしまったようでふと不安がよぎる。その上、夜中に不気味な声をあげる猫を傘で打ってやろうとしては逃げられて塀の上から嘲笑されている酔った自分が情けなく、ますますいやになってしまう。 おそらくここのところ、自分自身に自信がなくなっているのだろう。 湿り気のある風が出てきたようだ。事務所の外には蝿のようなマフラーの音をまき散らしながらオートバイが走り去って行く。うちの現代的な女子事務員はもう帰ってしまった。残るのは冷房の無機的な連続音だけである。 だから反省を込めて我が来し方を考えてみた、
三歳のころ… あまり覚えていないが、どこぞで転んで泣く。保育園の若い女の先生のふくよかな胸に興味を示す。
五歳のころ… 伊豆は伊東のハトヤという旅館に行きたくて、一日五回も母親にねだる、結局行けず。幼稚園の遠足の前日はいつも緊張して神経性の下痢で休む。
八歳のころ… 車の模型を深夜までかかって作り続けながら最後の仕上げの塗装がうまく行かず癇癪をおこし模型を放り投げる。また本物の自動車レーサーになろうと親に懇願するが相手にされず再び癇癪を起こして近所の窓に石を放って割る。家政婦のおばさんに子供の生まれるしくみを聞き目が回る。
十三歳のころ… 姉に聴かされていた洋楽にのめりこみはじめる。鍋を逆さにして底を叩いてドラムと称す、が、むろん続かず、不良とつきあい始めるがなりきれず、今の事務局の近隣マンション地下駐車場にてオートバイの無免許3人乗りをして補導される。
十五歳のころ… 少し色気づくが、ちびのためあまりもてず、アイスホッケーをして気分転換をする。そろそろ酒を「きたない酌婦」と酌み交わすことを覚える。六本木などへ行き、ディスコで不良女子高生に嗤われる。成績は学年二〇〇人ごぼう抜きで落ちる。
十七歳のころ… 勉強はしないが他人に学校のノートを取らせ及第点を取る。喧嘩はすると負ける。年のわりには酒を飲むとくどくなる、と言われるようになる。髪の毛をビールで脱色しようとするが失敗、たてがみの様になり、教師に切られた上殴られる。そのうっぷんで友人宅へ侵入し酒によって大声で歌を歌い、となりの家へ教科書を投げ、当然通報されて補導。
二十歳のころ… 波乗りをしていて台風のときに幾度か流されたり肋骨を折ったりする。救急車のお世話になり一応反省はする。生まれて初めてタキシードを買い、すかしてホテルのバーなどへ行くが、いつもボーイと間違えられる。
二十二歳のころ… 就職をしてただただ働く。給料をどぶに捨てるような遊びもする。たまに大波に打ちひしがれ、ふと正気に戻ることもあるが、翌日の酒で再び脳細胞がやられる。格好と品行の悪い慶応ボーイに彼女も取られてしまう。
二十五歳のころ… いよいよ、酒乱。東京は新橋の場末の酒場の板塀��もたれては戯れ言を繰り返す。タクシーの運転手とよくもめごとを起こす。酒場の女に小心者とののしられる。その女��争いでその日に逢った男と大喧嘩をして目尻を強く打ち、視力の低下で眼鏡使用となり、見せた医者におまえのような者は社会人失格であるから自業自得なのでもう二度と来るなと言われる。
二十九歳のころ… おやおや、なんだかんだと書いてきたら結構おもしろい人生ではないかと思えるようになってきた。 (つづく…かも)
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「最近家から近い行きつけのバーがあって」
「じゃあ俺の家からも近いね」
「ちなみに今週はこの日私、おやすみなのですが」
「その日仕事帰りで良ければ空いてる」
「一緒に行っちゃいます?」
「ん、連れてって」
──太陽が身を隠す頃。窓は無く、入口は一つのランプで上から照らされている。扉に並べられたアルファベットの羅列が、店名。
「ねえ、マスター。明日男の人と一緒に来るかもしれないです」
「へえ、良いじゃない。連れておいで」
お通しはゴーヤの和物。ツナと生姜がアクセントになっていて、程良い苦味がアルコールを薄めたトニックに添う。
人を連れてくると話した返事が「いつも一人なのに」という苦い言葉で始まっていたら、足繁く通ってはいないだろう。フランクで、距離感の掴み方が上手いのに、私の名前は呼び捨て。心地が良い。
言葉節も、料理も、私を甘やかしてくれるようでないと二回目はない。
珍しくジントニック二杯で帰路に着いた夜。
着る服に迷う時間を長めに取らないと、明日の私が困ってしまうから。
「明日の時間、遅くなりそうなら俺から連絡する」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、おやすみ」
「今日さ、申し訳ないんだけど本屋寄っていい?」
「いつものところなら私向かいますよ」
「助かる、ありがとう」
ちょっとした業務連絡のようなメッセージ。
何だか義務的で、新鮮だった。
抑もの話、普段四十代の男性に囲まれてお酒を飲む人種なのだ。二人きりで話したことなどほぼなかった。なかったけれど、同じ感覚を共有していた。
とは言えども家が近ければ行動範囲もほぼ同じ。ポイントカードやクレジットカードの話で盛り上がった時、同じ本屋のポイントカードを持っていることで共通意識が生まれた話は記憶に新しい。
「ごめん、レジ並んでて。待った?」
「今来たところです」
「何この定型文みたいな、」
言葉尻に混ざる微笑。バケットハットの陰に弧を描く瞳の線がやけに眩しく見える。漸く陽が沈みかけた頃だと言うのにサングラスが必要だと言う話は聞いていない。
そのまま足を運んだ先は蛇腹の重そうな金属が未だ入口を閉ざしている。一軒先に挟むのはどうかという私の提案に間髪入れず承諾する様は、私の言葉を一度も否定したことがない人間らしいスピードだった。
席を別のお店で���保できた、はいいものの。元々同じ居酒屋の常連として繋がった男女二人。勿論通っていたのは私と彼だけではない、訳で、つまり。
「…あれ?君達だけ?後からおじさん達来るんでしょ?」
「いや、今日は僕と彼女二人です」
「あたし達から見たら意外な組み合わせというか」
「なるほど…なるほどねえ」
案の定、捕まった。顔見知りの夫婦。
歳上に囲われる二十代男女。年齢だけなら寧ろここ二人で酌み交わしていなかったことの方が驚くべきではとも思ったが、お互い大勢の飲みの場では自己を八割も主張しないできた若者なのだ。「おじさん」の接待に慣れすぎている。
返事もなあなあに、距離のある席に腰掛けて。ドリンクメニューを眺めては彼の耳元に柑橘がいいなと音を押し込む。騒めく店内は、口と耳の距離を近付けないと疎通ができない。
「じゃあレモンサワーと緑茶ハイ、メガで」
ああ、ああ。サイズについては何も言ってさえいないのに。普通のじゃ足りないし一杯だけだからね、と言わんばかりの悪戯な視線。口数は少なくとも、彼の黒目は如何にも物を語りたがるようだった。
そこから、何となく、なんとなく。地元の話だったり、普段の生活の話だったり、仕事の話だったり、ご飯の話だったり、家族の話だったり。知っているようで知らなかったことを、投げては掴み、掴んでは投げる。初対面ではないのに、小さなお見合いのようで。
「そういえば私、何とお呼びしたら」
「皆から呼ばれている渾名でいいよ?」
それなら。下の名前に「さ」と「ん」の2文字を付け足して、声に出してみる。同じでは意味がないのだ。
「…それ、はじめて言われたかも」
苗字が珍しいから。下の名前で呼ぶのは家族ぐらいだと話す彼は擽ったそうに瞬きを繰り返す。視線は氷と炭酸が混ざる手元のジョッキ。飲酒という名目の元、顔の下半分を覆う白を取り払う口実。コミュニケーションにおいて、呼吸数や視線、口元の動きまでを加味する私にとっては飲食の場が一番円滑。
頃合いを見計らい、さて一つの問題。義務教育内では教わらない、社会人ならではの。そう、勘定問題というカテゴリー。ここで挙げられる条件は以下の通り。
・女性二十代半ば、社会人
・男性二十代後半、社会人
・初対面ではないが二人きりでの食事は経験なし
・勿論交際している訳でもなし
ここで全額奢られるのも、かと言って男性の顔を立てないのも。一杯ずつではあったし、小銭分三桁を財布から取り出して。
「マスター、来ちゃった!」
「待ってたよ。お連れさんは初めましてだよね」
「はい、お手柔らかに」
関係性を深く追求されないカウンター越しの会話が心地良い。ビールを嗜む彼のお勧めを飲んだり、食べたいものを同時に言って重なる心地良さに笑ったり。下の名前で呼ぶと、柔和な笑みを携えて声を返してくれる。
「なあに?」
「茄子、食べられます?」
「俺ね、茄子は」
凄い好き。
勿体ぶるような、���わせぶるような。私への言及ではないはずなのに、照れてしまう。
注文を六回程繰り返した辺りで、彼が携帯電話に目を向ける。私もよく知る名前。近場でよく飲む知り合いの常連。所謂「おじさん達」のカテゴライズ。着信音と共にスライドバーがふる、ふるりと揺れている。
「…出ていい?」
「どうぞ」
親指のスライド。
「僕、今飲んでるんですけど」
一声目は不服が入り混じっている。私よりも定期的に飲んでいる相手な筈なのに、と少しだけ腹部の筋が動くように笑ってしまった。
言葉少なに返したかと思うと、彼は携帯電話を私に預ける。困惑したまま受け取り、もしもし、と一言。
「誰?」
「私です」
「どういうこと…?二人で飲んでんの?」
「まあ」
「今ガルバ居るんだけど行っていいなら行くわ」
「おじさんムーブしてますねえ、じゃあ後で」
カウンターからテーブルへ席を移動。
合流したのはおじさんだけ、かと思いきや、立ち寄っただけの先の夫婦の奥さんまで。またいつもの飲み会になってしまった。
だらだらと取り留めのない会話が繰り広げられる中、空いたグラスに気を配る二十代。飲みに慣れすぎてしまった。隣に座る彼のグラスが空く頃。
「何飲みます?」
「そろそろ焼酎飲みたいかな」
「私もお酒頼みたいんですけど、じゃあ」
──さんの、飲みたいお酒。二杯頼んじゃってください。
──ちゃんが好きそうなのね…了解。
「…ねえ、君らはどういう関係なの?いつの間にそんな名前で呼び合うように、」
目敏いというか耳敏いというか。
のらりくらりと交わす術を覚えた二人に死角はない。グラスを握る手がマイクを握る手に変わっても、歳上に飲ませて曲を入れて回して質問は交わす。肝臓だって若いのだ。
「じゃあ、お疲れ」
解散は午前三時を過ぎた頃。至って正気の沙汰ではないが、まあ致し方なし。帰り道は同じ。空気と同じくらいに生温い会話を続けては、近付く家までの距離。どうしても消化が不良な気がして。
「ね、…もし、まだ飲めそうならもう少しだけ飲みたいです」
「良いね、俺も。コンビニ寄っちゃおうか」
「大好きなベンチがあるので良かったらそこで」
足取り緩やかに緑とオレンジと赤のカラーリングで数字を模した店舗へ。冷えた缶を二人片手に、私はアイスも片手に。
「ここねえ、よく飲んで帰る最中に座って、友人とお喋りしたりするんです」
「緑多くて好き。こんなところあったんだ」
小気味良く響く缶の開封音。こぷこぷと喉を潤して、バニラアイスを包む最中の谷に沿って割る。
「あれ、こんなつもりじゃあ」
「サイズ感があまり宜しくなさげだね?」
思ったより少ない列で割れたアイスクリームを指先で摘む。口元へ差し出せば、素直に開かれはくりと齧られ。溢れる糖分を指で拭う横顔は彫刻のようで、瞳を奪われる。言葉少なに幾度か、私と彼に運ぶ作業。アルコールに浸かった身体に甘味はよく染み込む。
「おいし」
張った糸は緩めば緩む程、真っ直ぐな回路が声帯を揺らす。頬さえ緩んだ自覚がそこにはあった。
するりと、冷えた指先が鎖骨と首筋を這う感覚。融けた思考が現実に引き戻される間もなく、下顎に彼の人差し指。親指を添えられたかと思うと、速度を有することなく顔を上げられ、隣を向くように動かされ、曲がらない視線をレンズ越しに注がれる。
知らない。…知らない、そんな扇情的な目なんて。
泳ぎそうになる瞳は、近付く顔に反応を示した目蓋で閉ざされる。
口の端に残るアイスを舌で拭われ、柔らかく寄せられる唇。口内で交錯する粘膜は私の体温を蝕むようで、小さな水音が耳に響く。喉元を通した唾液に少しだけ残るチョコレートの香りは、眩むくらいに甘かった。
「…ねえ。恋人の俺、試してみてよ。後悔させないから」
街灯に潤む彼の薄い唇は濡れている。
嘘を吐く目とは正反対の、揺らがない視線。
否を告げる理由は、見つからなかった。
熱ばんだ身体がその先に記憶しているのは、覆い被さった儘に彼が脱ぎ捨てたバスローブから顕になる上半身の美しさと、外した眼鏡の奥の瞳の色。歳下だ、同性だと詐称されても気付けぬような顔立ちとは相反し、滲む支配欲は、正しく雄だった。押し込まれる劣情に身体を委ねれば、柔く胸元を食まれる。
「二度目のデートは、これが消える前にね」
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聯合ニュース
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各地句会報
花鳥誌 令和3年4月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和3年1月6日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
身籠れる夫人に雪の道険し 世詩明 豪雪や掲げ忘れし日章旗 ただし みどり屋の看板古りし虎落笛 同 磨いても拭いても卒寿初鏡 清女 退屈が玻璃磨きゐる三日かな 同 きゆつきゆつと鳴き砂のごと雪を踏む 誠 ゆき高く積んで機関車入線す 同 神一人大忙しや初天神 秋子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月7日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
幾年をやさしき夫と福寿草 由季子 病む母の風呂敷仕度やぶ入りか さとみ どんど焼き煙にまかれて守られて 同 少しでも化ける手立てを初鏡 同 初夢や遊女のお練り思案橋 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月7日 さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
行く年の音ならざるは一つとて 雪 宝引きで遊んでくれし父今も 同 待春の声と聞きゐる鳥語かな かづを 虚子永久に心に生きん去年今年 同 祝事も忌事も経て去年今年 匠 お精舎の銅鑼打ち入る初句会 千代子 お降りの止みて神慮と詣でけり 希 柚子湯して柚子と戯れ童歌 笑 元朝や我を見据ゑる一仏 天空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月8日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
お飾りの稲穂で燥ぐ雀かな 宇太郎 仏花とて寺の水仙切りがたし すみ子 冬帝の微笑めきし薄日抱く 都 藁筵敷く藩廟の年用意 悦子 陽を抱けば枇杷の花とは朗らかに 都 獣岩に跳ねる怒濤や初景色 益恵 青々と松にお降り光りゐる 立子 目の端で合はす柏手初詣 宇太郎 雪明り会釈せし人誰ならん 佐代子 初雪と雖も根雪伯耆富士 益恵 高空をいよよ引き締め寒の月 史子 拳ほど大戸を開けて初諷経 すみ子 鉄瓶と囲碁の石音五日かな 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月9日 零の会 坊城俊樹選 特選句
耳たぶの産毛光らせ日脚伸ぶ 小鳥 ひときはにギリシャ神話の冬の星 美紀 群衆が嚏ひとつを遠ざける 光子 初夢ゆ「金閣を焼かなければならぬ」 公世 しまく夜は足を搦めて眠りけり 光子 囁きの耳から耳へゆきほたる 伊豫 楪の鬱蒼として女系とか 要 雪しまき張り切つて居る馬の尻 公世 御慶述ぶ浅草正ちやん牛煮込 荘吉 マフラーを巻いて密に夜の耳 伊豫 葉牡丹の鉢を並べて閉店す 小鳥
岡田順子選 特選句
冬服の短き袖の父叫ぶ 和子 雪しまき記憶のなかの三国歩す 三郎 溜息の出るほど生きて粥柱 瑠璃 美少女の耳霜焼けてロック座へ 俊樹 月光の鎮めてゆけり雪しまき 千種 濯ぎ物竿もろともにしまかれし 美智子 楪の鬱蒼として女系とか 要 貨物機はアラスカを発ち鰤起こし いづみ 去年今年アンモナイトは目覚めざる 光子 雪うさぎ人来るまでに耳落す 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月9日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
連れ歩く影にも寒さありにけり 美江 年の夜瞑目といふ別れあり 同 煮凝やふる里山河かがやきぬ 同 消灯の後の病棟雪女 清 ねぢ巻きの柱時計や去年今年 晶子 序に��り繰りし歳時記日脚伸ぶ 同 畳打つ音凄まじや板歌留多 同 髪濡れしままで茹でたる晦日蕎麦 のりこ 鳶職の寒九の空を足場とす 岬月 寒紅の残りし猪口や夜の席 同 唇の凍て付く夜のプロポーズ 同 絵馬に射す日のやはらかし冬の空 慧子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
寒晴や真白き嶺の彫深し 時江 吹く風の千両万両隔てなく 同 対座する阿吽狛犬雪二尺 三四郎 負けるのは何時も婆なり歌留多取 みす枝 雛壇の古りし調度や鬢鏡 時江 降りしきる中を除雪車昼も夜も みす枝 父似とて謝して大きなくさめかな 清女 短日や遠眼差しのからす居て 上嶋昭子 正信偈唱へて雪に籠りをり 清女 人肌の燗して男ひとり酌む 上嶋昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月16日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
泣初と言へど涙は笑ひたる 紀子 大本山坦坦と降る雪の音 あけみ 参道や誘はれ落つるしづり雪 みえこ 門番の貫禄ありて雪だるま 裕子 双六やサイコロの目の運試し 同 どこからか風餠花のやゝ揺れて 令子 猫の写真ばかりを捲る初暦 紀子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
舫舟列なし河口春を待つ 清女 雪解けて火袋見えて来し灯籠 同 二度三度問ひ返す耳春を待つ 同 本棚に百書の黙や去年今年 雪 残菊に残菊の色雨そぼつ 同 きらきらと輝く雪の魔者めく 和子 雪しまく九頭竜の黙深めつつ かづを 古稀は逝き卒寿は残り松の内 玲子 雪しまき車掘り出す男達 たけし 丑紅やいつしか胸に泣き黒子 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月19日 萩花鳥句会
老の幸孫より来たるお年玉 祐子 三代の嫁の宴や小正月 三恵子 萩大井春の珍事ぞマナヅル来 健雄 リモートで体気遣ふ年賀かな 吉之 大橋に朝日まばゆき四日かな 陽子 泣初や夫似の孫を抱きあげて ゆかり わが顔を写し鏡や福笑ひ 明子 初空や六島なべて平らなる 克弘
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令和3年1月17日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
はぐれてふ流氷の着く海辺かな 佑天 月冴ゆる宇宙船など探す癖 炳子 ブランコを少し揺らして今年かな 幸子 句碑は今冬夕焼けの中にあり 佑天 方錘にメタセコイヤの冱つる朝 久子 出窓より雪の香をきく朝ぼらけ 眞理子 初夢を初夢らしく語り合ふ 和子 餅花の荒神様と向き合へり 久子 観音の一重瞼や寒の雨 政江
栗林圭魚選 特選句
黒豆を静かに寝かす除夜の鐘 慶月 木の匙を唇に添へ小豆粥 久 雪雲の車窓に揺るる缶珈琲 ゆう子 風花やスレート葺きの屋根続く 同 寝酒にはワイン読むのは「藝十夜」 佑天 神の森高きに鳴ける初鴉 ます江 万両の見事なるかな大地主 慶月 凜然と寒気に映ゆる母の塔 幸風 粕汁や子ら巣立ちたる二人膳 眞理子 寂として大寒に坐す年尾句碑 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月20日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
去年今年いつもの場所の古時計 千加江 二人降り一人の客に雪のバス 清女 八方に話題飛び散る初笑 泰俊 雪籠金の蒔絵の硯箱 雪 気乗りせぬ顔で並びて初写真 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年1月21日 鯖江花鳥俳句會 坊城俊樹選 特選句
三日月の匕首の如くに寒に入る 雪 祟るとて斧を入れざる大冬木 同 凍星のまたたくは我がまたたくか 同 春待てど木の葉の如く逝きし人 信子 冬の蝶何も語らず女逝く 同 取り合ひし歌留多の女の文いまも 一涓 一人住む媼にまたも垂り雪 同 寒柝の音に推敲の灯を消しぬ 同 天空へ返すごとくに雪を掻く 同 寒の月蒼き雫を零しけり みす枝 豪雪や背丈の違ふ六地蔵 たゞし 垂直に伸びる太陽柱凍てる 同 雪だるまオラフも並び子等燥く 紀代美 裸婦像の凍ることなく在しけり 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
銀の鍵もてあます手の悴みて かおり ひとすぢの光つかみし冬木の芽 成子 風神の袋大きく寒の入 千代 初夢や光源氏に膝枕 喜和 大濠の光の礫なべて鴨 孝子 無機質な街に浮かみて寒の月 かおり 日向ぼこ光の先に母在せり 睦子 野良猫の闇を貫く虎落笛 喜和 大根干す小さき母の爪立ちて 朝子 寒夕焼の光に溺る浚渫船 志津子 紅の春著の光る一と間かな 成子 すらすらと呆けし母の手毬唄 孝子 底冷の町に荷を置く露天商 かおり 去年今年一億年の火山岩 勝利 寒紅や嘘にわづかに真混ぜ 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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「演劇人コンクール2020」最終上演審査 総評
昨年10月に行われた「演劇人コンクール2020」の総評を公開いたします。
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手応えを次へ
岩崎正裕
新型コロナウィルスによる感染症が全国的な拡がりを見せる中、無観客で開催された「演劇人コンクール2020」であったが、対策が充分に講じられた上で、8つのチームが互いの舞台を鑑賞し合うという環境は、平常時の劇場の熱気と変わりなく、ウィズコロナの時代を生きる演劇人の、ひとつの希望となったのではないだろうか。 二日間に渡るラインナップ、8つの戯曲の中に、4本もの『受付』(別役実作)が上演された。最も正攻法で作られたのが、宮田清香さん演出による上演だった。俳優が一部マスク着用で演じるなどの工夫は、現状に於いては不自然さを感じさせない。やりようによっては、平坦になりがちな『受付』であるが、場面場面のテンポや俳優のポジショニングが演出によって絶妙に設計され効果的だった。島村和秀さん演出による上演では、男1は全編全裸である。股関にある一物(作り物)は屹立している。そもそも導入から不条理という捉え方だろうか。アイデアとして面白いが、10分も経てば観客は、その裸体にも慣れてしまう。別役実の精緻な戯曲構造は、このようにしても崩れないのだ。一宮周平さんによる演出は二面客席、観客が舞台を挟んでの上演となった。そのためテーブルを前に、男1と女1はほぼ差し向かいのまま進行していく。受付を越えることが困難な、男1の状況を象徴的に表していた。しかし、俳優のポジションに変化がないためか、劇の起伏が乏しいとも感じられた。高山力造さん演出による上演では、女1は二人の女優により、ピース毎に入れ替わって演じられた。台詞のない一方は、ダンス的表現で劇空間を抽象化する。床に配置された赤い折り鶴など、魅力的なアイテムがちりばめられたが、私にはそれを、一つの視点で組み上げる能力がなかった。 『紙風船』(岸田國士作)は二団体によって取り上げられたが、両演出者ともに実験性の高いアプローチとなった。関田育子さん演出の上演では、岸田國士文体と、若い演者の身体に親和性があることに気づかされた。戯曲に書かれた夫婦の倦怠と、現代の男女のユルい関係性が馴染んでリアリティーがあった。旅に出ることを想像で語るのが仕掛けであるが、身体を用いて現出させるスタイルは確立されたものだろう。しかし、このスタイルは自己完結に陥る可能性も孕む。この先に何があるのか追求して欲しい。小野彩加さん、中澤陽さんのW演出による上演スタイルは、演技はリアリズム。そこにダンスが絡むという方法だろうか。テキストに忠実であろとしたなら、身体が言葉に回収されてしまう。もっと破綻してもよかったのではないかと、私には思われた。ここが二人で演出する難しいところなのだろう。 神田真直さん演出の『お國と五平』(谷崎潤一郎作)は、議論劇を暗黒劇に仕立てた。設定が時代劇であるゆえに、自意識満々の俳優がやれば、議論の面白さは半減するだろう。顔を仮面で覆い、そもそもそれが剥奪されているのだから台詞が一層際立つ。人間の持つおかしみも浮かび上がり、成果のある上演だったと云える。 酒井菜月さん演出の『班女』(三島由紀夫作)は、耽美的な世界の具現化。薄いベールの向こうの部屋は戯曲のムードをよく捉えていた。俳優たちの声量は、1000人のホールでも客席後尾まで届くもの。それが私には惜しまれた。江原河畔劇場のサイズに見合った声量なら、描かれる世界そのものをもっと信じられただろうにと思うのだ。 これだけの作品群を、二日間で観劇する体験はこれまでになかった。戯曲の読み方が違えば、或いは俳優が違えば、展開する作品世界は一変する。その当たり前のことを再認識する機会となった。演出家及び俳優諸氏には、今回得た手応えを、次に繋げて欲しいと切に願う。
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「ジェンダー平等元年」に寄せて
相馬千秋
これまで2016年、2019年と過去2回、本コンクールの審査員を務めさせていただいた。過去20年の歴史において、審査員5名〜6名のうち、女性は多くて1名、皆無の年も少なくなかった。一方、女性演出家の応募は年々増加し、本選参加者のうち半数は女性が占めている。評価する側/される側のジェンダーバランスの圧倒的な不均衡は、本コンクールだけではなく、日本の演劇界のあまりに見慣れた風景であり、そのことにわざわざ疑問を呈することが不毛にさえ感じられるような状況が長年続いてきた。私自身もまた、その不均衡を認識しつつも、男性社会の中の「女性1名枠」にどこか安住してきてしまった自覚がある。しかし昨年、キュレーターと���て関わったあいちトリエンナーレ2019において、ジェンダー平等を掲げて参加アーティストを男女同数にした津田大介芸術監督によるアファーマティブ・アクションや、表現の自由の回復のためにボイコットという手段で抗議を示したアーティストたちの振る舞いを間近で経験し、私の中でも大きな葛藤と変化があった。 今回審査員のお話をいただいた時、私は主催者代表である平田オリザ氏および事務局の木元太郎氏に、審査員のジェンダーバランスについて考慮いただきたいと提案した。その思いはしっかりと受け止められ、審査員5名のうち過半数以上の3名が女性となった。またコンクール最終選考参加者も、蓋を開けてみれば男女4名ずつと同数となった。 これを、数の問題でしかないと低く見積もることは簡単だ。本来的には、演出家が女性であれ男性であれ、それを評価する側が女性であれ男性であれ、そのことが議論の対象にさえならいような状態こそを目指すべきである。だが現状においては、その地点への到達を目指す長いプロセスの第一段階として、数の平等を制度化し徹底することには大きな意義と効果がある。これは日本に限った話ではない。例えば、ドイツ語圏の年間ベストテン作品を一挙上演するベルリン演劇祭でも、選出される10作品の過半数以上は、女性演出家や女性グループのものとする取組が2020年より始まっている。 そもそも演劇は、その古典芸能由来の伝統から言っても、創作集団を率いる家父長性的な形態から言っても、男性中心・男性優位に傾きがちな芸術ジャンルである。それは歴史を見れば明らかだ。だが21世紀の今日、演劇界の現場は演者、制作者、観客、いずれも多数の女性によって支えられている。にも関わらず、劇場の芸術監督や支配人、フェスティバルのディレクターや実行委員、演劇系大学の教授陣、重要な賞の審査員など、制度や枠組み、価値基準や評価基準を作る側の多くは男性が占める。これはなぜか。その理由は、任命権をもつ層も圧倒的に男性多数であるため、男性が定めた男性目線の価値基準では、高評価を得るのも自然と男性に偏るという構造に起因する。この構造的不平等を一度リセットするためには、制度や価値基準を決める側においては尚更、数の平等は制度的かつ徹底的に行われなければならないと私は考える。 それを10年、20年続けたら、もはや「数の平等」などと叫ばなくてもいい世界が到来することを期待したい。劇場やフェスティバルの人事の際に「劇場の芸術監督や支配人は男性でなければ務まらない。なぜなら、設置自治体の首長や議員、関係団体の長は皆年配の男性で、女性だと下に見られて不利益が生じるから」というような議論が真面目になされる現状を、私たちは拒否していかねばならない。社会全体が変わらないからと諦めるのではなく、まずは演劇界という自分たちの足元から変革し実践していくことが先決だ。変革は、与えられるものではなく、日々の実践を通じて自ら内発的に生み出すものなのである。 そんなことを長々と総評の冒頭に書いたのは、ジェンダー平等に関する意識改革や実現への具体的な取組が、長い目で見た時に、何よりも本コンクールの目的である「未来を担う演劇人の人材育成」につながると確信するからだ。審査員の男女平等が実現した今回を本コンクールにおける「ジェンダー平等元年」と名付けるならば、ここに参加したすべての若手演劇人たちが意識改革の担い手となって、過去に逆行することなく、進んでもらいたいと切に願う。
今回指定された4つの課題戯曲は、いずれも特異な状況に置かれた男女が登場する。その関係をざっくりまとめると「日曜日にどこにも行かない倦怠期の夫婦」(紙風船/岸田國士)、「女主人と奉公人、横恋慕した旧・不倫相手の倒錯関係」(お國と五平/谷崎潤一郎)、「人の話を聞かずにまくしたてる受付の女とノイローゼ男性」(受付/別役実)、「恋人の帰りを待ちわびて狂った女と、倒錯・屈折した女性画家、狂女を連れ戻しにくる男」(班女/三島由紀夫)である。4人の作者はいずれも男性で、20世紀の近代日本文学史に輝く巨匠作家たちである。当時の男女が受け入れていた当時の社会制度や規範、そこから逸脱しようとする葛藤や欲望、対話とすれ違い。近代というものと格闘した作家たちは、その中心からどこか逸脱し、現実の裂け目に落ちた男女のある瞬間を切り取る。どれも1幕の中にドラマが凝縮された卓越した戯曲だ。 さて、時代・社会の異なる戯曲のセリフを変えずに演出するということは、その卓越した戯曲を立体化するだけでは不十分で、その言葉がどんな時代に、誰によって発せられたのかを自覚的に捉えること、すなわち戯曲の言葉自体を批評的に読むこと、その批評性を空間と時間に出現させることである。そう考えた時、今回参加した8つの上演は、どれも戯曲に描かれた世界を立体化はしていたが、戯曲の背後にある社会そのものへの問題意識の提示までは到達していなかったのではないか、という疑念が残る。 もちろん今回の8人の演出家による上演は、いずれも破綻がなく戯曲の言葉がしっかり響くものになっていた点は積極的に評価すべきだろう。昨年までは利賀村での開催であったため、コンクール参加者は、指定戯曲との格闘のみならず、利賀の特異な空間との格闘があり、今思えば、空間の特殊性をうまく演出に取り込めた作品が高評価を得ていた面もあったはずだ。だが今回は開催地が江原河畔劇場のブラックボックスとなったため、ニュートラルな空間での演出の技術がシンプルに試されたと思う。その意味では、どの作品も破綻がなく、演出技量は十分に証明されていた。 だが、それ故というべきか、私はどの作品も強く押すことができなかった。審査の形式上、議論の俎上にあげる3作品を挙げたが、その根拠は「演出の手つきの丁寧さ」「上演における破綻のなさと一貫性」といった基準に基づいている。個々の演目に対するコメントは講評会でお話したとおりなのでそちらを参照していただきたいが、今回はどの演出も一定のレベルに達していたと同時に、そこから突き抜けたものを期待していた身としては、もう一歩、野心的な上演に出会いたかったというのが本音だ。だがこの問題は、参加者にあるというよりは、課題戯曲の選定や上演形態の制限など、そもそもこのコンクールのフレーム自体に由来するようにも思われる。今の時代に、「演出」を競うとはどういうことか。コンクールの制度設計の大きな課題として、来年度の事務局で是非検討して頂けたら有り難い。
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「演劇人コンクール2020」の審査を終えて
ひうらさとる
今回初めて演劇の審査員をさせていただくことになり、畑違いの私で大丈夫だろうかと緊張していましたが、平田オリザさんはじめ柳美里さん、相馬千秋さん、岩崎正裕さんらのプロの解説を側で聞きながらたくさんの演劇を生で観る二日間はとてもエキサイティングで楽しい経験でした。
漫画の話作りも元になる話は同じでも、絵や画面構成、キャラクターの建て方などなどで読者が受ける印象は全く変わってきます。 演劇でもそれは同じなのだなあと実感しました。
特に今回は『受付』という同じ脚本の舞台が4本ありましたが、それぞれ異なった演出で全く飽きることなくその違いを楽しみました。 中でも宮田清香さん演出はオーソドックスでありながら脚本の意図がよく伝わり、なおかつ役者が生きる洗練された舞台で頭一つ抜けていたと思います。王道を逃げずにやり切る姿勢がとても素敵でした。
他にも高山力造さんの受付嬢を2人に分け、ビジュアルも耽美な演出、島村和秀さんのギャグに特化したシュールな演出、ラストにも関わらず新鮮な印象を残したシンプルなセットで魅せた一宮周平さんの演出も心に残りました。
『紙風船』も二つの舞台がありましたが、これは脚本が大正時代のものと思えぬ、正に今の若手演劇人が描きそうな本で���関田育子さんは正に流行りの無表情で淡々とした台詞回しの演出をされていましたが、電車が行き交うシーンなど視覚効果が素晴らしく、小野彩加さん中澤陽さんはダンスで男女のすれ違いを鮮やかに演出されていたと思います。
そして『お國と五平』の神田真直さんは古典をパワフルに演出されていて実は下世話なキャラクターの関係性を浮き彫りしていました。
最後に『班女』の酒井菜月さんは耽美な世界観をしっかりとした衣装とセットで表現されていて、見応えがありました。
どの舞台もそれぞれに驚きや発見があり、私にとっても大変勉強になりました。 2020年は生の舞台やパフォーマンスが窮地に立たされた年でしたが、今回の演出のようにどうにかアイデアを出し合って創作を続けて行きましょう。 私もまた皆さんの舞台が観たいです!
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一宮・宮田・神田 3氏の演出について
柳美里
3人の演出家について書く。
一宮周平さん演出の『受付』に好感を持った。 舞台セットも小道具も黒一色。「受付 INFORMATION」の卓上プレートと、事務所を示す床のバミリと、女の衣装であるツナギの3つのみが、白い。男は黒いツナギを着ている。 一宮さんは、2人の俳優をほとんど動かさなかった。事務机で対面させたまま延々と会話を続けさせたのである。 他の審査員からは、「演出をしていない」「あれでは演出をつけられなかった俳優がかわいそう」との意見が出たが、そもそも「受付」というのは、そういう場所なのである。受付係にどんな理不尽な対応をされても、受付を訪れた側には、書類や金員やサービスを受け取りたいという弱みがあるから、なかなか席を立てない。受付係との話がこじれて時間が経てば経つほど、このまま引き下がるわけにはいかないと意固地になって、席に釘付けにされるのが、受付なのである。 確かに演出的な冒険はなかったが、役所や銀行の窓口を訪れ、着席で向かい合ったまま口論になった時の不快感が全身に蘇ったほど、「受付」という場所はリアルに表現されていた。
訪問者の男を演じた佐藤竜さんが、いい。気弱で朴訥な語り口が、実にいい。佐藤さんに製造業・建設業・農業・林業・漁業などに従事する肉体労働者を演じさせたら、絶対にハマると思う。原発や除染や家屋解体の作業員の役をオファーしたいなと思い、手帳に「佐藤竜、ブルーカラー、似合う」とメモをした。
宮田清香さんは、『受付』の戯曲世界を、奇を衒うことなく誠実に舞台化した。 惜しまれるのは、台詞がラリーのように聴こえる箇所が多かったことだ。 別役実の戯曲の魅力は、「そうじゃありません」「そうですよ」「そういうことじゃありません」「そうなのよ」「そうでしょう?」などという指示語の多用によって言葉が指し示す方向を曖昧にしていき、いつの間にか観客を迷子にさせるところなのだが、その面白さが台詞のラリーの勢いによって削がれていた。 もう一つ気になったのは、マスクとフェイスシールドの使用方法である。宮田清香さんの演出プランである「2020年コロナ以降の感染症対策を積極的に取り入れたい」という意欲は買うし、滑り出しは成功していたと思う。しかし、やるならば、もっと徹底的に実際の使用方法を厳守した方がいい。女が男に近寄る時、本を手渡す時にフェイスシールドやマスクを外す理由が解せない。 別役実の『受付』と、感染症防護やソーシャルディスタンスとの相性は、もっと良いはずだ。 別役実の戯曲には、人間が無根拠なルールに囲われることによって、人間の内部が開かれる感覚というか、匿名の個と個が剥き出しに交錯する感じがあるからだ。
今回、わたしは、神田真直さんの『お國と五平』を最も高く評価した。 神田さんは、昨年の「利賀演劇人コンクール」第一次上演審査では、岸田國士『温室の前』でエントリーし、兄が妹の背に隠れて耳打ちし、妹の口から女友だちに自分の思いを伝えるという二人羽織めいた演出がユニークで、話をする(話ができない)、聴く(聴いていない)という会話の身体図式を組み替えることに長けた演出家だな、とわたしは彼を評価をした。 神田さんは、今回の『お國と五平』で、その視覚化を大胆に推し進めた。 舞台は黒一色。お國と五平は白い仮面、友之丞は黒い仮面で口から上を覆われ、3人の衣装は性差のない作業服のような黒服である。さらに、神田さんは、お國と五平の身体をSMの図式に編入させて、友之丞の身体を黒いドラム缶の中に据え付けた。所作の及ぶ範囲を敢えて極限まで狭めることによって、夫を闇討ちにした敵である友之丞を捜し歩くお國、お國の従者の五平、止むに止まれぬ恋情からお國のあとを尾け歩いている友之丞の三角関係の歪さを際立たせたのである。 ただし、四つん這いの五平に跨ったお國が、五平の首輪の鎖を引っ張る、尻を打つ、足で踏みつけるーー、というSMプレイのスイッチの数が少なく、次第に飽きてしまった。確かにSMには同じ行為を反復する儀式めいた側面もあるのだが、醍醐味は、エスカレートして後戻りできなくなる調教にあるのではないか。肉体的苦痛に加えて、精神的な服従、羞恥、支配や管理ーー、これらを受け容れることによって、Mは達成感、忠誠心、多幸感、生きている実感、プライドを捨て去った開放感を味わう。 ラストシーンの演出が、見事だった。 「拙者はあの熊谷の越前屋で、お身たちの隣りの部屋に泊つてゐたのぢゃ」と、友之丞が二人の秘密を観客であるわたしたちに暴露する瞬間である。裁かれる側だった罪人が、突如として裁く側に反転したことによって、友之丞が身を隠している(閉じ込められている)ドラム缶が、証言台あるいは裁判官席に見え、わたしたちを傍聴人席にいるような心持ちにさせた。 そこがそのまま殺害現場と化すわけだが、神田さんは、殺害シーンを黒いバッドでドラム缶を滅多打ちにすることで表した。五平が、バッターボックスにスタンドインした野球選手よろしく、いちいち左脚を上げてタイミングを取ってから、踏み込んで打っていたのが、可笑しかった。でも、ずっと同じだと、やはり飽きてしまう。野球少年がプロ野球選手のスイングの癖を真似するように、たとえば摺り足などのノーステップ打法などを色々披露してみたら、もっと可笑しくて、もっとおぞましかったのではないか? お國の命に従って友之丞を殺害した五平が、実は嗜虐性を有していた、とーー。 もう一つだけ言わせてほしい。殺害シーンは、ドラム缶滅多打ちが効果的だったと思うが、殺害後に遺���から首を切断するのも滅多打ちなのは、いかがなものだろうか? 幕引きはすうっと力を抜いて、お國の唱える南無阿弥陀を響かせ、敵の首を土産に帰路につくお國と五平を闇に溶けさせた方が不気味だった、とわたしは思う。
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軽快なメロディが音割れしていることにきっと全員気付いているはずなの��、誰も指摘しないまま、彼は毎日狂ったようにそれを吐き出し続けている。
時刻は朝の8時過ぎ。何に強制されたでもなく、大人しく2列に並ぶ現代の奴隷たち。いや、奴隷ども。資本主義に脳髄の奥まで犯されて、やりがいという名のザーメンで素晴らしき労働という子を孕まされた、意志を持たない哀れな生き物。何も食べていないのに胃が痛い。吐きそうだ、と、50円のミネラルウォーターを一口含んで、押し付けがましい潤いを乾く喉に押し込んだ。
10両目、4番目の扉の右側。
俺がいつも7:30に起きて、そこから10分、8チャンネルのニュースを見て、10分でシャワー、10分で歯磨きとドライヤー、8:04に自宅を出て、8:16に駅に到着。8:20発の無機質な箱に乗る、その最終的な立ち位置。扉の右側の一番前。黄色い線の内側でいい子でお待ちする俺は、今日もぼうっと、メトロが顔を覗かせるホームの端の暗闇を見つめていた。
昨日は名古屋で人が飛び込んだらしい。俺はそのニュースを、職場で開いたYahoo!のトップページで見かけた。群がる野次馬が身近で起きた遠い悲劇に涎を垂らして、リアルタイムで状況を伝える。
『リーマンが飛び込んだ』
『ブルーシートで見えないけど叫び声聞こえた』
『やばい目の前で飛び込んだ、血見えた』
『ハイ1限遅れた最悪なんだけど』
なんと楽しそうなこと。まるで世紀の事件に立ち会った勇敢なジャーナリスト気取り。実際は目の前で人が死ぬっていう非現実に興奮してる変態性欲の持ち主の癖に。全員死ね。お前らが死ね。そう思いながら俺は、肉片になった男のことを思っていた。
電車に飛び込んで仕舞えば、生存の可能性は著しく低くなる。それが通過列車や、新幹線なら運が"悪く"ない限り、確実に死ぬ。悲惨な形を伴って。肉片がおよそ2〜5キロ圏内にまで吹き飛ぶこともあるらしい。当然、運転手には多大なトラウマを植え付け、鉄道職員は線路内の肉片を掻き集め、乗客は己の目の前で、もしくは己の足の下で、人の肉がミンチになる様を体感する。誰も幸せにならない自殺、とは皮肉めいていてよく表現された言葉だとつくづく思う。当人は、幸せなのだろうか。
あの轟音に、身体を傾け頭から突っ込む時、彼らは何を思うのだろう。走馬灯とやらが頭を駆け巡るのか、やはり動物の本能として恐怖が湧き上がるのか、それとも、解放される幸せでいっぱいなのか。幸福感を呼び起こす快楽物質が脳に溢れる様を夢想して、俺は絶頂にも近い快感を奥歯を噛み締めて堪えた。率直に浮かんだ「羨ましい」はきっと、俺が人として生きていたい限り絶対漏らしてはいけない、しかし限りなく本音に近い、5歳児のような素直な気持ち。
時刻は8:19。スマホの中でバカがネットニュースにしたり顔でコメントを飛ばして、それに応戦する暇な人間たち。わーわーわーわーうるせえな、くだらねえことでテメェの自尊心育ててないで働けゴミが。
時刻は8:20。腑抜けたチャイムの音。気怠そうな駅員のアナウンス。誰に罰されるわけでもないのに、俺の足はいつも黄色い線の内側に収まったまま、暗がりから顔を覗かせる鉄の箱を待ち侘びている。
俺は俯いて、視界に入った己のつま先にグッと力を込めた。無意識にするこの行為は、死への恐怖か。馬鹿らしい。いつだって、この箱の前に飛び込むことが何よりも幸せに近いと知っているはずなのに。
気が付けば山積みの仕事から逃げるように、帰りの電車に乗っていた。時刻は0:34。車内のアナウンス。この時間でこの場所、ということは終電だろう。二つ離れた椅子に座ったサラリーマンがだらりと頭を下げ、ビニール袋に向けて嘔吐している。饐えた臭いが漂ってきて貰いそうになるが、もう動く気力もない。死ね。クソ野郎が。そう心の中でぼやきながら、俺はただ音楽の音量を上げて外界を遮断する。耳が割れそうなその電子音は、一周回って心地いい。
周りから俺へ向けられる目は冷たく、会社に俺の居場所はない。同期、後輩はどんどん活躍し、華々しい功績を挙げて出世していく。無能な俺はただただ単純で煩雑な事務作業をし続けて、それすらも上手く回せない。ああ、今日はただエクセルの表作りと、資料整理、倉庫の整理に、古いシュレッダーに詰まった紙の掃除。それで金を貰う俺は、社会の寄生虫か?ただ生きるために何かにへばりついて必要な栄養素を啜る、なんて笑える。人が減った。顔を上げると降りる駅に着いていた。慌てて降りる俺を、乗ろうとしていた騒がしい酔っ払いの集団が睨んで、邪魔そうに避けた。何だその顔は。飲み歩いて遊んでた人間が、働いてた俺より偉いって言うのか。クソ。死ね。死んでくれ。社会が良くなるために、酸素の消費をやめてくれ。
コンビニで買うメニューすら、冒険するのをやめたのはいつからだろう。チンすれば食べられる簡単な温かい食事。あぁ、俺は今日も無意識に、これを買った。無意識に、生きることをやめられない。人のサガか、動物としての本能か、しかし本能をコントロールしてこその高等生物である人間が、本能のままに生きている時点で、矛盾しているのではないか。何故人は生きる?生きるとは?NHKは延々とどこか異国の映像を流し続けている。国民へ向けて現実逃避を推奨する国営放送、と思うと笑えてきて、俺は箸を止め、腹を抱えてしこたま笑った。あー、死のう。
そういえば、昔、俺がまだクソガキだった頃、「完全自殺マニュアル」なる代物の存在を知った。当然、本を変える金なんて持ってなかった俺は親の目を盗んで、図書館でそれを取り寄せ借りた。司書の本を渡す際の訝しむ顔がどうにも愉快で、俺は本を抱えてスキップしながら帰ったことを覚えている。
首吊り、失血死、服毒死、凍死、焼死、餓死...発売当時センセーショナルを巻き起こしたその自称「問題作」は、死にたいと思う人間に、いつでも死ねるからとりあえず保険として持っとけ、と言いたいがために書かれたような、そんな本だった。淡々と書かれた致死量、死ぬまでの時間、死に様、遺体の変化。俺は狂ったようにそれを読み、そして、己が死ぬ姿を夢想した。
農薬は消化器官が爛れ、即死することも出来ない為酷く苦しんで死ぬ地獄のような死に方。硫化水素で死んだ死体は緑に染まる。首吊りは体内に残った排泄物が全て流れ出て、舌や目玉が飛び出る。失血死には根気が必要で、手首をちょっと切ったくらいでは死ねない。市販の薬では致死量が多く未遂に終わることが多いが、バルビツール酸系睡眠薬など、医師から処方されるものであれば死に至ることも可能。など。
当然、俺が手に取った時には情報がかなり古くなっていて、バルビツール酸系の薬は大抵が発売禁止になっていたし、農薬で死ぬ人間など殆どいなくなっていたが、その情報は幼かった俺に、「死」を意識させるには十分な教材だった。道徳の授業よりも宗教の思想よりも、何よりも。
親戚が死んだ姿を見た時も、祖父がボケた姿を見た時も、同じ人間とは思えなかった俺はきっとどこか欠けてるんだろう。親戚の焼けた骨に、棺桶に入れていたメロンの緑色が張り付いていて、美味しそうだ。と思ったことを不意に思い出して、吹き出しそうになった。俺はいつからイカれてたんだ。
ずっと、後悔していたことがあった。
小学生の頃、精神を病んだ母親が山のように積まれた薬を並べながら、時折楽しそうに父親と電話をしていた。
その父親は、俺が物心ついた、4、5歳の頃に外に女を作って出て行った、DVアル中野郎だった。酒を飲んでは事あるごとに家にあるものを投げ、壊し、料理の入った皿を叩き割り、俺の玩具で母親の顔を殴打した。暗い部屋の中、料理が床に散乱する匂いと、やめてと懇願する母親の細い声と、人が人を殴る骨の鈍い音が、今も脳裏によぎることがある。あぁ、懐かしいな。プレゼントをやる、なんて言われて、酔っ払って帰ってきた父親に、使用済みのコンドームを投げられたこともあったっけ。「お前の弟か妹になり損ねた奴らだよ。」って笑ってたの、今思い返してもいいセンスだと思う。顔に張り付いた青臭いソレの感触、今でも覚えて���。
電話中は決まって俺は外に出され、狭いベランダから、母親の、俺には決して見せない嬉しそうな顔を見てた。母親から女になる母親を見ながら、カーテンのない剥き出しの部屋の明かりに集まる無数の羽虫が口に入らないように手で口を覆って、手足にまとわりつくそれらを地面のコンクリートになすりつけていた。あ���、そうだ、違う、夏場だけカーテンをわざと開けてたんだ。集まった虫が翌朝死んでベランダを埋め尽くすところが好きで、それを俺に掃除させるのが好きな母親だった。記憶の改変は恐ろしい。
ある日、俺は電話の終わった母親に呼ばれた。隣へ座った俺に正座の母親はニコニコと嬉しそうに笑って、「お父さんが、帰ってきていいって言ってるの。三人で、幸せな家庭を作りましょう!貴方がいいって言ってくれるなら、お父さんのところに帰りましょう。」と言った。そう。言った。
俺は、父親が消えてからバランスが崩れて壊れかけた母親の、少女のように無垢なその笑顔が忘れられない。
「幸せな家庭」、家族、テレビで見るような、ドラマの中にあるような、犬を飼い、春には重箱のお弁当を持って花見に行き、夏には中庭に出したビニールプールで水遊びをし、夜には公園で花火をし、秋にはリンゴ狩り、栗拾い、焼き芋をして、落ち葉のベッドにダイブし、冬には雪の中を走り回って遊ぶ、俺はそんな無邪気な子供に焦がれていた。
脳内を数多の理想像が駆け巡って、俺は、母の手を掴み、「帰ろう。帰りたい。パパと一緒に暮らしたい。」そう言って、泣く母の萎びた頬と、唇にキスをした。
とち狂っていたとしか思えない。そもそも帰る、と言う表現が間違っている。思い描く理想だって、叶えられるはずがない。でもその時の馬鹿で愚鈍でイカれた俺は、母の見る視線の先に桃源郷があると信じて疑わなかったし、母と父に愛され、憧れていた家族ごっこが出来ることばかり考えて幸せに満ちていた。愚かで、どうしようもなく、可哀想な生き物だった。そして、二人きりで生きてきた数年間を糧に、母親が、俺を一番に愛し続けると信じていた。
母は、俺が最初で最後に信じた、人間だった。
父親の家は荒れ果てていた。酒に酔った父親が出迎え、母の髪を掴んで家の中に引き摺り込んだ瞬間、俺がただ都合の良い夢を見ていただけだと言うことに漸く、気が付いた。何もかも、遅過ぎた。
仕事も何もかも捨てほぼ無一文で父親の元へ戻った母親が顔を腫らしたまま引越し荷物の荷解きをする姿を見ながら、俺は積み上げた積み木が崩れるように、砂浜の城が波に攫われるように、壊れていく己の何かを感じていた。母は嬉しそうに、腫れた顔の写真を毎度俺に撮らせた。まるでそれが、今まで親にも、俺にも、誰にも与えられなかった唯一無二の愛だと言わんばかりに、母は携帯のレンズを覗き、画面越しに俺に蕩けた目線を送った。
人間は、学習する生き物である。それは人間だけでなく、猿や犬、猫であっても、多少の事は学習できるが、その伸び代に関しては人間が群を抜いている。母親は次第に父親に媚び、家政婦以下の存在に成り下がることによって己の居場所を守った。社会の全てにヘイトを募らせた父親も、そんな便利な道具の機嫌を損ねないよう、いや、違うな、目を覚まさせないように、最低限人間扱いをするようになった。
まあ当然の末路と言えるだろうな。共同戦線を組んだ彼らの矛先は俺に向いた。俺は保てていた人間としての地位を失い、犬に、家畜に成り下がった。名前を呼ばれることは無くなり、代わりについた俺の呼び名は「ゴキブリ」になった。家畜、どころか害虫か。産み落とした以上、世話をするほかないというのが人間の可哀想なところだ。
思い出したくもないのにその記憶を時折呼び起こす俺の出来の悪い脳を何度引き摺り出してやろうかと思ったか分からない。かの夢野久作が書いた「ドグラマグラ」に登場する狂った青年アンポンタン・ポカン氏の如く、脳髄を掴み出し、地面に叩きつけてやりたいと思ったことは数知れない。
父親に奉仕する母は獣のような雄叫びをあげて悦び、俺は夜な夜なその声に起こされた。媚びた、艶やかな、酷く情欲を煽るメスの声。俺は幾度となく吐き、性の全てを嫌悪した。子供じみた理由だと、今なら思う。何度、眠る父親の頭を金属バットで叩き割ろうと思ったか分からない。俺は本を読み漁り、飛び散る脳髄の色と、母の絶望と、断末魔を想像した。そう、この場において、いや、この世界において、俺の味方は誰もいなかった。
いつの間にかテレビ放送は休止されたらしい。画面端の表示は午前2時58分。当然か。騒がしかったテレビの中では、カラーバーがぬるぬると動きながら、耳障りな「ピー」という無慈悲な機械音を垂れ流している。テレビの心停止。は、まるでセンスがねえな死ね俺。
ずっと、後悔していた。誰にも言えず、その後悔すらまともに見ようとはしなかったが、今になって、思う。何度も、あの日の選択を後悔した。
あの日、俺がもし、Yesと言わなかったら。あの日の俺はただ、母親がそう言えば喜ぶと思って、幸せそうな母親の笑顔を壊したくなくて、...いや、違う。あれは、幸せそうな母親の笑顔じゃない、幸せそうな、メスの笑顔だ。それに気付けていたら。
叩かれても蹴られても、死んだフリを何度されても自殺未遂を繰り返されても、見知らぬ土地で置き去りにされても、俺はただ、母親に一番、愛されていたかった。父親がいない空間が永遠に続けばいい、そう今なら思えたのに、あの頃の俺は。
母親は結局、一人で生きていけない女だった。それだけだ。父親が、そして父親の持つ金が欲しかった。それだけだ。なんと醜い、それでいてなんと正しい、人間の姿だろう。俺は毎日、父親を崇めるよう強制された。頭を下げ、全てに礼を言い、「俺の身分ではこんなもの食べられない。貴方のおかげで食事が出来ている」と言ってから、部屋で一人飯を食った。誕生日、クリスマス、事あるごとに媚びさせられ、欲しくもないプレゼントを分け与えられた。そうしなきゃ殴られ蹴られ、罵倒される。穏便に全てを済ませるために、俺は心を捨てた。可哀想な生き物が、自己顕示欲を満たしたくて喚いている。そう思い続けた。
勉強も運動も何も出来なかった。努力する、と言う才能が元から欠けていた、可愛げのない子供だったと自負している俺が、ヒステリーを起こした母親に、「何か一つでもアンタが頑張ったことはないの!?」と激昂されて、震える声で「逆上がり、」と答えたことがあった。何度やっても出来なくて、悔しくて、冬の冷たい鉄棒を握って、豆が出来ても必死に一人で頑張った。結局、1、2回練習で成功しただけで、体育のテストでは出来ずに、クラスメイトに笑われた。体育の成績は1だった。母親は鼻で笑って、「そんなの頑張ったうちに入らないわ。だからアンタは何やっても無理、ダメなのよ。」とビールを煽って、俺の背後で賑やかな音を立てるテレビを見てケタケタと笑った。それ以降、目線が合うことはなかった。
気分が悪い。なぜ今日はこんなにも、過去を回顧しているんだろう。回り出した脳が止められない。不愉快だ。酷く。それでも今日は頑なに、過去を振り返らせたいらしい脳は、目の前の食べかけのコンビニ飯の輪郭をぼやけさせる。
俺が就職した時も、二人は何も言わなかった。ただただ俺は、父親の手口を真似て、母親の心を取り戻そうと、ありとあらゆるブランド物を買って与えた。高いものを与え、食わせ、いい気分にさせた。そうすれば喜ぶことを俺は知っていたから。この目で幾度となく見てきたから。二人で暮らしていた頃の赤貧さを心底憎んでいた母親を見ていたから。
俺は無邪気にもなった。あの頃の、学校の帰りにカマキリを捕まえて遊んだような、近所の犬に給食のコッペパンをあげて戯れていたような、そんな純粋無垢な無邪気さで、子供に戻った。もう右も左も分からない馬鹿なガキじゃない。今の俺で、あの頃をやり直そう。やり直せる。そう思った。
「そんなわけ、ねぇよなぁ。」
時刻は午前4時を回り、止まっていたテレビの心拍が再び脈動を始めた。残飯をビニール袋に入れて、眩しい光源を鬱陶しそうに睨んだ。画面の中では眠気と気怠さを見せないキリリとした顔の女子アナが深刻そうな顔で、巷で流行する感染症についての最新情報を垂れ流している。
結論から言えば、やり直せなかった。あの女の一番は、俺より金を稼いで、俺より肉体も精神も満たせる、あの男から変わることはなかった。理解がし難かった。何度殴られても生きる価値がない死ねと罵られても、それが愛なのか。
神がいるなら問いたい。それは愛なのか。愛とはもっと美しく、汚せない、崇高なものじゃないのか。神は言う。笑わせるな、お前だって分かっていないから、ひたすら媚びて愛を買おうとしたんだろう。ああ、そうだ。俺にはそれしかわからなかった。人がどうすれば喜ぶのか、人をどうすれば愛せるのか、歩み寄り、分り合い、感情をぶつけ合い、絆を作れるのか。人が人たるメカニズムが分からない。
言葉を尽くし、時間を尽くしても、本当の愛の前でそれらは塵と化すのを分かっていた。考えて、かんがえて、突き詰めて、俺は、自分が今人間として生きて、歩いて、食事をして、息をしている実感がまるで無い不思議な生き物になった。誰のせいでもない、最初からそうだっただけだ。
あなたは私の誇りよ、と言った女がいた。そいつは俺が幼い頃、俺じゃなく、俺の従兄弟を出来がいい、可愛い、と可愛がった老婆だった。なんでこんなこと、不意に思い出した?あぁ、そうだ、誕生日に見知らぬ番号からメッセージが来てて、それがあの老婆だと気付いたからだ。気持ちが悪い。俺が人に愛される才能がないように、俺も人を愛する才能がない。
風呂の水には雑菌がうんたらかんたら。学歴を盾に人を威圧するお偉いさんが講釈を垂れているこの番組は、朝4時半から始まる4チャンネルの情報番組。くだらない。クソどうでもいい。好みのぬるめのお湯に目の下あたりまで浸かった俺は、生きている証を確かめるように息を吐いた。ぼご、ぶくぶく、飛び散る乳白色が目に入って痛い。口から出た空気。無意識に鼻から吸う空気。呼吸。あぁ、あれだけ自分の傷抉って自慰しておいて、まだ生きようとしてんのか、この身体。どうしようもねえな。
どうせあと2時間と少ししか眠れない。髪を乾かすのも早々に、俺が唯一守られる場所、布団の中へと潜り込んで、無機質な部屋の白い天井を見上げた。
そういえば、首吊りって吊られなくても死ぬことが出来るんだっけ。そう。今日の朝だって思ったはずだ。黄色い線の外側、1メートル未満のその先に死がある。手を伸ばせばいつでも届く。ハサミもカッターも、ガラスも屋上もガスも、見渡せば俺たちは死に囲まれて、誘惑に飲まれないように、生きているのかもしれない。いや、でも、いつだって全てに勝つのは何だ?恐怖か?確かに突っ込んでくるメトロは怖い。首にヒヤリとかかった縄も怖い。蛙みたく腹の膨れた女をトラックに轢かせて平らにしたいとも思うし、会話の出来ない人間は全員聾唖になって豚の餌にでもなればいいとも思う。苛立ち?分からない。何を感じ、生きるのか。
ああ、そういえば。
父親の頭をミンチの如く叩きのめしてやろうと思って金属バットを手に取った時、そんなくだらないことのためにこれから生きるのかと思うと馬鹿らしくなって、代わりに部屋のガラスを叩き割ってやめた。楽にしてやろうと母親を刺した時、こんなことのために俺は人生を捨てるのか、と我に返って、二度目に振り上げた手は静かに降ろした。
あの時の爽快感を、忘れたことはない。
あぁ、そうか、分かった。
死が隣を歩いていても、俺がそっち側に行かずに生きてる理由。そうだ。自由だ。ご飯が美味しいことを、夜が怖くないことを、寒い思いをせず眠れることを、他人に、人間に脅かされずに存在できることを、俺はこの一人の箱庭を手に入れてから、初めて知った。
誰かがいれば必ず、その誰かに沿った人間を作り上げた。喜ばせ、幸せにさせ、夢中にさせ、一番を欲��た。満たされないと知りながら。それもそうだ。一番も、愛も、そんなものはこの世界には存在しない。ようやく分かった俺は、人間界の全てから解き放たれて、自由になった。爽快感。頭皮の毛穴がぞわぞわと爽やかになる感覚。今なら誰にだって何にだって、優しくなれる気がした。
そうか、俺はいつの間にか、人間として生きるのが、上手くなったんだ。異世界から来てごっこ遊びをしている気分だ。死は俺をそうさせてくれた。へらへらと、楽しく自由にゆらゆらふわふわ、人と人の合間を歩いてただ虚に生きて、蟠りは全部、言葉にして吐き出した。
遮光カーテンの隙間から薄明るい光が差す部屋の中、開いたスマホに並んだ無数の言葉の羅列。俺が紡いだ、物語たち。俺の、味方たち。みんなどこか、違うようで俺に似てる。皆合理的で、酷く不器用で、正しくて、可哀想で、幸せだ。皆正しく救われて終わる物語のみを書き続ける俺は、己をハッピーエンド作者だと声高に叫んで憚らない。
「俺、なんで生きてるんだっけ。」
そんなクソみたいな呟きを残して、目を閉じた。スマホはそばの机に放り投げて、目を閉じて、祈るのは明日の朝目が覚めずにそのまま冷たくなる、最上の夢。
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【夢の後に】
ああ、帰ってきたのね愛しい貴方
どうかどうか この胸に
約束して頂戴、もうその背を私に向けないと
約束して頂戴、2度目の別れは私の横で迎えると
ドロテアの歌声が高らかに劇場に響き渡った。コーラスも伴奏の音も彼女の歌声が止むと共に一斉に消え、シンと一瞬劇場が静まり返った。その静寂は余韻の溜息をつく間もなく、轟くような拍手と歓声で突き破られる。
「ドロテア!ドロテア!」
「相変わらず美しい!」
「素晴らしい歌声、もっと歌っておくれ!」
すらりとした青いドレスに豪奢な花冠を身につけたドロテアが一礼をすると、客席からは彼女を称える声と共に柔らかな花が投げられる。それらを優雅な微笑みで受け止める彼女は、チラっと客席の隅を一瞥した。彼女が見たのは劇場で最も出入口に近い席だ。人の通りが激しく、外の音もよく聞こえ、舞台からは遠く、人気のないその席はドロテアの友人である『彼』の特等席だった。その席が歌っていた時とは違い、空になっているのを一瞬で確認すると、彼女は再び自分を褒め称える観客へと向き合った。
あの席に座っていた彼を早く追いかけたい。
彼女は逸る気持ちを抑えて舞台を照らす明かりを一身に受けた。カーテンコールをそこそこに、舞台の幕が降りるや否や、ドロテアは自らを彩る花冠やショールを脱ぎ捨てながら楽屋裏へと走る。
「ごめんなさい、ちょっと出かけるわ。」
「なんだいドロテア、そんなに急いで…」
「ちょっと友達に会いに行くの。」
普段ならば衣装係も手伝う着替えを1人で済ませ、先程までの華やかな服と比べると、みすぼらしいと評してもいいような質素な服に彼女は身を包む。華美な舞台用の化粧もそこそこに落とし、唇の色も紅から仄かなピンクに塗り直される。そんなドロテアの身なりを見て楽屋裏で控えていた道具係や、他の役者たちは口々に
「そんな格好で友人に会うのか」
と問うてくる。そんな訝しげな声にドロテアは眉を下げた笑みを浮かべて
「友達と会う時くらいは歌姫じゃなく、ドロテアでいたいのよ。」
と返し、ヒールなどない走りやすいブーツを履いて彼女は楽屋から立ち去ろうとした。楽屋の出入口には山のような贈り物が積んである。贈り物のほとんどは、以前���りも舞台に立つ回数の減ったドロテアへ捧げられたものだが、彼女はそれらのほとんどに興味を示さない。しかしその堆い山の中に紛れ込んだ、小さく質素な、かすみ草だけのブーケを見つけると、彼女はそれを1本引き抜いて自らの髪に嬉しそうに差した。
「じゃあ行ってくるわ。」
そう言って走り出すドロテアの顔は、舞台で高らかに詩を歌う大輪の花の顔ではなかった。その顔と足取りは、さながら青春を謳歌する少女のようだった。
あまり柔らかいとは言えない肉とパンを、フェリクスは独り酒場で食べていた。場末の酒場とはいえ時間も時間だ、店内は今日という日を終えた人々が酒を酌み交わしており騒々しい。なかなかに繁盛している賑やかさであったが、ひとり黙々と食事をするフェリクスの周りには誰一人として近づかなかった。時折はだけた服を着た娼婦や、酒を片手に陽気に話しかけてくる者がいたが、彼の鋭い眼光に睨まれるとすごすごと彼の隣から去っていく。触らぬ神に祟りなしとばかりに、店の店主すらカウンターに座る彼と目を合わせようとはしない。遠巻きにされることをフェリクスはそれなりに良しとしていた。フォドラ統一の大戦から数年。昔に比べれば世情は落ち着き、争いという争いは徐々に減り、人を斬るための剣というものは日に日に不要になっていく。そんな時勢でも戦場を探して彷徨う根無し草に、その場限りの人情や付き合いは不要だ。少なくとも彼はそう考えている。
皿に盛られた肉は早々と胃袋に消えかけ、残りは僅かだった。フェリクスは、肉をもうひと皿と酒を一つ店主に頼む。すると、今まで誰一人として座らなかった彼の隣に女が座り
「私はワインとパンを。あとはそうね、お魚があると嬉しいわ。」
と、フェリクスの注文へ続けて言った。被ったフードで顔はよく見えなかったが、よく通る若い女の声だった。大方、男にたかりに来た娼婦だろうと、フェリクスは女を少し横目に見ただけで再び食事を続ける。
「飯代くらいなら出すが、今は女を買うような気分じゃない。他を当たれ。」
「あらぁ、フェリクス君。随分傭兵らしさが板についたんですね。」
フェリクスの口に運ばれようとしていた肉が、彼の手によって皿に戻る。彼は女の、ドロテアの声を聞いてようやく隣の女の顔を見た。フードから覗く翠緑の瞳、ふわりと溢れている亜麻色の豊かな髪、悪戯っぽい微笑みを浮かべた顔は間違いなくあの神秘の歌姫だった。化粧のせいだろうか、いつもの薔薇の如き華やかな印象はあまりなく、ぼんやりとしたあどけない顔立ちをしている。
「…こんな所で何をしている。」
「そりゃフェリクス君に会いに来たんですけど?」
「さっき会ったろう。」
「それ劇場でのこと?あのね、ちょっと顔を見ただけじゃ会ったことにはならないでしょ。」
ドロテアが隣に来たからだろうか。よそよそしかった店主が先程よりも気安い笑顔を浮かべて、ワインや肉を2人の前に置いていく。フェリクスは彼女に言葉を返す代わりに残っていた肉を頬張り、追加で置かれた皿を手元に寄せた。
「こうやって話すの久しぶりね。あれから何回か観に来てくれて嬉しかったわ。」
被ったフードを脱がないのは彼女の容貌があまりにも人々に知れているからだろう。ミッテルフランク歌劇団の歌姫が、こんな下町の酒場に現れたと知れたらフェリクスと話すどころではない。声は普段よりも小さく、嬉しいという言葉も感情を抑えた響きがある。
「アンヴァルに来たらお前が歌っていた、それだけだ。」
「でも、それって私の歌だから聴きに来てくれてるんでしょ。贈り物も忘れないでいてくれてるし、嬉しいに決まってるじゃない。」
ドロテアはフェリクスに見せつけるようにフードを捲って髪に差した花を見せる。花弁は小さくとも、亜麻色の髪に白いかすみ草はよく映えた。似合うでしょうと見せつけるように笑う彼女に、フェリクスは深い深い溜息を吐き、舌打ちを酒で飲み込んだ。
「あの時のこと、覚えていてくれてるのね。そういうところフェリクス君ってホント律儀だわ。」
周りの客にあまり顔が見えないように、ドロテアは再びフードを被り直してワインを口にした。律儀だと語る彼女の口ぶりは何処と無く遠くを見ているようだったが、布1枚挟んだ向こうにある歌姫の表情がフェリクスには見えない。ドロテアの白魚のような指は、上品とは言い難いグラスを所在なさげになぞっている。
「そんなことを言うためにわざわざこんな所まで来たのか。歌姫にそんな暇があるようには思えんが?」
「さっきから本当にご挨拶なことねぇ。勿論、もっと話したいことはあるわ。でもね」
彼女は身を乗り出すようにフェリクスに顔を近づけ、声を耳元でしか聞こえない密やかなトーンに変えた。
「2人きりで話したいの。貴方の泊まってるとこ、行ってもいいかしら?」
あどけなかった顔から、僅かに女の匂いが漂った。しかしそこには以前の彼女が持っていた男を狙う眼差しはない。フェリクスはそんな彼女の目をしばらく見つめて、無言のまま持っていた酒杯をテーブルに置いた。
2年ほど前の話だ。フェリクスとドロテアの2人は、アンヴァルで再会を果たした。何も約束した訳では無い。フェリクスは次の仕事のために帝都を訪れ、ドロテアは孤児院へ慰問公演を行った帰りのことだ。戦時真っ只中に比べれば品数の減った武器屋の前に、彼女は見覚えのある群青の背を見かけて走り寄ったのだった。フェリクス君?と声をかけると、記憶よりも少しやつれていたものの、見覚えのある仏頂面が振り向いた。
「久しいな。」
予期していなかった再会に、彼は彼で驚いたようだ。彼女はその時に、フェリクスが少し微笑みを浮かべた顔をしたのをよく覚えてい���。戦争が終わったあと、国に帰ることなく剣を握り続けているとは思えない、存外に穏やかな顔だったからだ。
「まだ歌っているのか。」
「そっちこそ、まだ戦っているのね。」
大通りを行き交う人々の喧騒の中で、久方ぶりに交わす会話は酷く乾いたものだった。フェリクスは先日までグロスタール領で護衛の仕事をしていたと話し、ドロテアは自分の後進の育成に追われているという話をした。昨日も明日も会う訳でもないのに、話すことと言えば互いの近況ばかりで、会話はぽつぽつとしか続かない。しかし、思えば修道院にいたあの頃から、香りの良い紅茶を挟んでも二人の会話が長く続いたことは無かった。
それでも昔、彼ら��剣を交し、紅茶の湯気が漂う部屋で同じ空気を吸うことを良しとした。相手に必要以上に踏み込むことはなく、触れ合うこともなく、一時の平穏と心地よい沈黙を良しとした。そんな仲の2人を恋仲なのかとニヤついた顔で問うてくる者もいたが、フェリクスもドロテアも「それはない」と一刀両断したものだ。
「お前はもう剣は振るわんのか?」
「私を誰だと思ってるのよ…ミッテルフランク歌劇団の歌姫よ?剣を振るうのは舞うときで、人から突きつけられるのは花束なの。」
呆れた笑い声をあげてドロテアは彼が何も変わっていないであろうことに、少しの安堵を覚えた。なまじ穏やかな顔の彼を見たばかりで、自分の知らない人間になっていたらどうしようと思っていたのだ。
「ねえ、フェリクス君。私さっきまで歌ってたの。」
「それがどうかしたか。」
「つれないわね。ほら、歌を歌い終わった女…それも歌劇団トップの歌姫をこうやって貴方は今独占してるのよ。花のひとつくらい贈ってくれてもいいんじゃない?」
武器屋の少し先に見える、小さな露天の花屋をちらっと見て、ドロテアは冗談めかして彼に我儘を言う。フェリクスのことだ、きっと舌打ちと皮肉をひとつ漏らすだけで会話を終わらせてしまうだろう。しかし、彼の反応はドロテアの予想とは反していた。少しばかり彼女の言葉を反芻しているように黙り込み、背を向けて足を花屋の方に向けて行ったのだ。花を選ぶという行為に慣れてる男とは思えなかったし、慣れているならそれはそれでドロテアとしては何か複雑な思いが込上げる。花屋の前で立ち止まったフェリクスは早々と1束の、華やかな包装などまるで無い簡素な花束を購入してドロテアの元へ戻ってきた。
「やる。これでいいか。」
差し出された花束は普段彼女が捧げられる花束よりもずっと小さく、花束と言うよりもブーケに近い。白いかすみ草だけの、なんともこざっぱりとしたブーケだ。ドロテアは一瞬目を丸くしたが、その目はすぐさま細められ口の端を上げた。
「冗談のつもりだったのに。」
「冗談は好まんと知ってるだろう。」
「そうね、じゃあ頂くわ。ありがとう。」
粗雑に差し出されるブーケを優雅に受け取ったドロテアの頬が僅かに染まった。嬉しそうに小さな花々に口を寄せた彼女は上目使いにフェリクスを見る。
「明日、私が主演の舞台の公演があるの。良かったら聴きに来てね。そしたらこのお花のお礼に、貴方のために歌うから。」
「ああ…気が向いたらな。」
結局、久方ぶりの再会を腰を落ち着けて喜ぶことは無かった。雑踏の中で、2人は再会し、ドロテアの手を少し賑わせて、2人は再び別れて終わった。
しかしそれ以来のことだ。フェリクスからドロテアの元にかすみ草のブーケが届けられるようになったのは。彼はふらりと帝都に足を運び、彼女が舞台に上がると知ればひっそりと決まった席で歌を聴き、そしてドロテアの信奉者が彼女に群がる前に花を置いて去っていく。流れの傭兵の身である彼は、ドロテアの『友人』であり信奉者ではない。彼女が舞台に上がる度に来るのではなく、ただタイミングが合えば足を運ぶだけだ。
ドロテアは彼が来たことを、その人影とこじんまりとしたブーケ一つで知る。彼���は言葉を交わすことも触れることもなかったが、1つの花を介して再会をしていた。
大通りとその喧騒から離れた、小さな宿だった。フェリクスはここまで無言で横を歩いていたドロテアを横目に見る。家々の影に阻まれている小路に月明かりはあまり差し込まず、2人は互いの顔色も表情も読めない。
「自分の跡を残さずに過ごすには良い宿ね。」
「2日3日しか留まらない。寝場所があればそれでいい。」
ひっそりとした宿の扉を開け、フェリクスは店番の男に
「2階、奥の部屋の鍵。」
と、ぶっきらぼうに言う。暇そうな男は引き出しから彼の部屋の鍵を出すと、彼の後ろに立つドロテアの姿を見とめてニヤリと笑った。相変わらず彼女はフードを深く被っているため、顔は見えてはいないだろう。
「あんたの部屋の隣、今空き部屋だぜ。あんまり部屋を汚さねぇ程度に楽しみな。」
下卑た男のニヤけ面にフェリクスの毛が一瞬逆立った。
「それはどうも。さ、行きましょ。2階の奥ね?」
苛立ちに指をぴくりと動かしたフェリクスの腕を掴んで、ドロテアは急ぎ足に彼を引く。小さな宿屋だったが、廊下でも階段でも誰一人とすれ違わなかった。ほとんど密会だ、フェリクスが気乗りしない重い手で部屋の鍵を開けると、ドロテアはさっさと部屋に入ってしまった。
「それで、話とは何だ。」
「単刀直入過ぎるわ。もっと落ち着いた雰囲気で話す方が私は好きね。」
寝る場所だけあればいい、と言ったフェリクスの言葉の通り手狭な部屋だ。少し埃臭い1人分のベッドに少し物書きが出来る程度のテーブルにイス、飾り気のないランプは2つあったが小さく灯りとしては心許ない。部屋の隅にはフェリクスの、申し訳程度の私物が鎮座している。生きている匂いのしない、そんな部屋をぐるりと眺めてドロテアはようやくフードとマントを脱いだ。隠れていた亜麻色の髪が解放されてカーテンのように揺らめき、髪の間からは印象的な紅い耳飾りが光った。
「本当に久しぶりの2人きりじゃない。他愛のない話からしません?紅茶もお菓子もないけれど、昔みたいに話すことは出来るでしょう?」
椅子に腰かけたドロテアを見て、フェリクスもゆっくりとベッドの端に座った。中途半端な距離が二人の間に生まれ、ドロテアは困った笑顔を思わず浮かべる。
「次のお仕事はどこで?」
「エーギル領だ。旧フリュム領の民と一悶着あるらしい。」
「あそこはもう落ち着いたと思ったのだけどね。あ、フラルダリウス領には帰っていないのかしら。貴族じゃないって言っても家はあるわけでしょう。」
「帰っていない。俺の帰る場所はあそこには無い。」
「そう…でもいつまでも傭兵ってわけにいかないわよね。どんどん大地は平和になってる。その時が来たら貴方はどうするの?」
「その時はその時だ。しかしそうだな…ダグザやらパルミラやらに戦場があるなら、そちらまで足を伸ばしてもいいかもな。」
ひとつの話題はまるで長くは続かない。一問一答、ランプの火と同じくらい緩やかに、小さな話し声が続いた。ドロテアの声は終始楽しげだが、対するフェリクスは彼女への返答を渋々喉奥から絞り出しているといった色をしている。
「そういえばさっき酒場で、女を買う気分じゃない〜とか言ってましたよね。ま、何年も傭兵家業やってるんだし、そういうこともするだろうなぁとは思っていたけど…でもフェリクス君もそういうことあるなんて、何だかちょっと意外。」
「…おい、そろそろいい加減にしろ。何が言いたい。」
延々と続くドロテアの他愛のない話に遂に痺れを切らしたのか、フェリクスは少し声を荒らげて彼女に詰寄る。ランプの火が僅かに揺らめく。そんな彼の鋭い鳶色の瞳を、ドロテアは毅然とした表情で見つめ返し、ふいに自らの耳を彩っていた紅玉の耳飾りを外した。
彼女はフェリクスの手を取り、その耳飾りを彼の手に無言のままに包ませる。まるで今生の別れを告げるようなその仕草に、フェリクスは怪訝な顔をして眉間の皺を深くした。
「何のつもりだ、これは。」
「好きにして頂戴。この宝石、結構珍しくてね。女物の耳飾りだから貴方には似合わないかもしれないけど…そうねぇ、お金に困った時に売ったって構わないわ。」
「生憎金に困ることは無い。1人なんだ、何とでもなる。」
ひとり、と言うフェリクスの口を相変わらずドロテアは真っ直ぐに見つめている。舞台では大輪の花のように輝き、他の役者を陰らせる彼女の目。今の彼女の目は玉の輿を狙う女のように熱っぽくもなければ、年頃の少女のような迷いもない。ぶれることのない、真っ直ぐなドロテアという人間の目だ。その目がスっと彼に近づいたかと思うと、彼の唇にドロテアの唇が触れた。ドロテアの口紅の僅かな甘ったるい香りと、フェリクスのカサついた唇がほんの数秒交わると、緑の瞳は彼の顔から離れていった。口付けをしても何も変わらぬフェリクスの顔をドロテアは見つめ、握りしめていた彼の手からゆっくりと手を離した。
「私ね、結婚を申し込まれたの。」
返事はまだしてないのだけど、とドロテアは真っ直ぐに向けていた顔を伏せて言った。フェリクスの顔はそれでも変わらないが、ほんの少しぴくりと眉が動いたようだ。
「ようやく納得のいく男を捕まえたのか、良かったな。」
「えぇ、予定よりも遅くなったけどね。貴族でもお金持ちでも何でもない人なんだけど…でも良い人なの、駆け出しの商人でね…きっと私、あの人のこと愛せるわ。」
「そんな立場でお前はここで何をしてるんだ?」
「まだ返事はしてないって言ったでしょ。分からない?」
フェリクスは口に付いた口紅を指で拭った。自分にはまるで縁のない薄桃の膏が指に浮かぶ。婚約を申し込まれている女が、自分のような男の唇に、付けて良い色ではなかった。
「分からん。限りなく、不貞に近い行いをしているということしか。お前はお前が愛せると誓える人間を、蔑ろにするほど愚かな女だったか。」
「分かってるわ。分かった上で、私はここにいるの。でも貴方の口ぶりと態度を見てると…そう、そうね。なら2人きりで話したかった話をするわ。」
俯いていた彼女の顔が再びフェリクスに向き直る。自暴自棄にも似た覚悟を湛えた顔だった。
「私を抱くなら今日が最後よ、フェリクス君。」
薄桃の少女の口から放たれた女の言葉にフェリクスは押し黙った。2人のどちらも沈黙を埋めようとはしない。フェリクスの返事を恐る恐る待つかのように、ドロテアは唇を噛み締めた。大通りから外れた小路だというのに、外から酒に酔った仲睦まじげな男と女の声が聞こえた。彼らは今夜、睦事に興じるのだろうかと、顔も知らない男女を思ってドロテアは一種の羨望を覚えた。彼らのような重なる笑い声を挙げたことなど、フェリクスとドロテアには無いのだ。
「誰が抱くか。そんなもの結婚相手に取っておけ。」
フェリクスは彼女の目から顔を逸らした。彼女が握らせた耳飾りは手からこぼれ落ちることはなく、しかし握りしめられることも無くフェリクスの手のひらに収まっている。2つあったランプの片方がフッと消えた。油が切れたのか、ロウソクが尽きたのか、ドロテアの瞳からもフェリクスの瞳からも反射していた光がひとつなくなる。
「そういうと思ってた。貴方は意外と律儀で、案外誠実だから。」
窓の外へ顔を背けているフェリクスは彼女の言葉に何も返さない。膝の上でギュッと握りしめていた拳を解き、ドロテアは静かに立ち上がって彼に寄り添うように窓辺に立った。背筋はしゃんと伸びているが、その肩は名残惜しそうに落ちきっている。
外からはもう睦まじげな男女の声はしなかった。ただ離れた大通りの方角から、眠るには早すぎるぞと言いたげな雑踏の音が僅かに聞こえているだけだ。
「今日の私の歌、覚えてる?貴方が居れば私はいつも貴方のために歌ってるのだけど…今日の歌は、私が貴方に歌いたかった歌よ。」
ドロテアは小さな声で昼間に歌い上げた歌の一節を口ずさむ。
約束して頂戴、もうその背を私に向けないと
約束して頂戴、2度目の別れは私の横で迎えると
「私ね、貴方が私を攫ってくれるのを待ってたの、歌劇のヒロインみたいに。でもやっぱり、現実は舞台のようにはいかないわね。」
2人は窓の外を見つめている。窓から見える空には初秋の季節にしては星がよく出ていた。瞬く星や半分になった月はこの時間の空には明るく映るが、それらは舞台の照明などとは程遠く、あまりにも現実的な光だった。
「結婚を焦っていた女とは思えん言葉だ。」
「仕方ないじゃない。私の中の少女が恋の夢を見ちゃったんだから。」
ドロテアはゆっくりと深呼吸をし、何かを振り払��ように小さく頭を振る。やがて彼女は温もりの無くなったマントを再び身につけ、フードを被った。亜麻色の髪も、彩りを外された耳も布切れ1枚に覆い隠された。
「少女の夢も今日で終わり。私、行くわ。」
ベッドの端から動かぬフェリクスの前に、彼女は宣言するかのように告げる。彼の目はいつの間にか窓の外から離れ、ドロテアの顔を射抜くように見つめていた。手に置かれた耳飾りは「受け取った」と言わんばかりに、無骨な指で柔く包まれている。その目を、手を見て彼女は安堵したようにひとつ息をつく。
「女の、それも歌姫のお帰りよ。何か挨拶はなぁい?」
「…顔を寄越せ。」
口調の割に優しげな声だとドロテアは思った。貴方から立ち上がってもいいじゃない、と彼を茶化してやってもよかった。
しかし、もう少女の夢は終わったのだ。ドロテアが少し屈むと彼女の顎にフェリクスの指が僅かに触れ、頬に擦り寄せる程度の口付けが落とされた。
「夜も遅いが家まで送るか?」
唇はすぐさま頬から離れたが、手は名残惜しそうに少し彼女の頬を撫でてから離された。その割に彼の声は冗談めいた響きがあり、ドロテアも釣られて小さく笑う。
「大丈夫よ。これでも私、貴方と戦ってた女なんだから。」
踵を返し潔く扉に手をかけるドロテアの背に、もう先程までの名残惜しさは無かった。
「悪かったな、ドロテア。」
「良いのよ、フェリクス君。」
別れの言葉は交わされなかった。振り向くことなく花の女は部屋から出ていき、男は独り手の中の耳飾りを眺めて目を細めた。
ドロテアとフェリクスが密やかな再会を果たした数節後のことだった。ミッテルフランク歌劇団からドロテアが身を引くこととなり、劇団員達はドロテアが歌う最後の日とあって、いつもの何倍も慌ただしく劇場を走り回っている。神秘の歌姫が舞台を降りる、その報せは足繁く劇場に通う観客達にも瞬く間に知れ渡ることとなったが、それが結婚によるものだと知る者はごく一部の者だけだ。
「まだまだ歌えるだろうに。」
「何処か遠いところにでも行くのかい。」
歌姫としての己を惜しむ言葉は多く寄せられたが、どの言葉も彼女の心に響くことは無い。美しさと華やかさを賛美する人々を、歌姫という仮面を被った己を、彼女は厭わしく思い続けてきた。しかし、それも次に歌う時には終わるのだ。
最後の公演とは、ドロテアにとって最後のけじめでもある。華美な世界でのし上がり、未来へ不安を抱き続け、心を痛めて戦火に身を投じ、そしてとある剣士を待ち続けた「ドロテア」に終止符を打つ。舞台袖で化粧を済ませたドロテアはじわじわと埋まりつつある観覧席を盗み見た。まだ上演まで時間はあったが、今日ばかりは席が埋まるのが早い。団長の計らいで特別に立ち見が許可されたと小耳に挟んだ。
いつもより多くの人が来るだろう。もしかしたら、もしかしたら「彼」も。
数節前の群青の人影を想い、彼女の胸が高鳴った。その胸の高鳴りが、未だ自分の中にある「少女の夢」のものだということにすぐさま気づき独り失笑する。そんな都合の良いことなどないのだ、舞台袖からは彼の特等席が見えたが、その席はまるで他の客には見えてないかのように空のままだ。
「ねぇドロテアさん。今さっき、これを貴方にって男の人が渡してきたのだけど。」
椅子に座りながらちらちらと舞台袖から客席を見るドロテアに、恐る恐る役者見習いの少女が話しかけてきた。少女の手には小さな皮の袋と手紙が乗せられている。彼女がそっとそれらを受け取ってみると、皮の袋の中には何か少し重みのあるものが入っているようだった。
「あら、誰かしら…どんな人だったか覚えてる?」
「うーん…怖そうな人かな。ずーっとムッとした顔した、青い髪の男の人。」
少女の言葉にドロテアは思わず立ち上がって、今にも舞台に飛び出しかねない勢いでもう一度客席を見た。席は変わらず空のままだ、未だ席に座っていない人々の中に青い人影は見当たらない。自らを落ち着かせるように彼女はもう一度腰掛けて、ゆっくりと手紙を開いた。封蝋も何もしてない手紙には、ただ1つの文しか書かれていなかった。
『何処にいてもお前の歌は美しかった』
書き出しの文字だけ、妙にインクが滲んだ跡がある。筆跡に躊躇いはなかったが、書き出しに悩んだのだろう。するりと皮の袋からこぼれ出たのは藍色の瑪瑙が嵌められた、小さなブローチだった。藍色の瑪瑙は漆黒の線が見事に渦巻き、その色合いはあの剣士の影を彷彿とさせる。両掌に広がる手紙とブローチを呆然とドロテアは見つめ、何かを耐えるようにグッと唇をかみ締めた。その様子を見習いの少女は体調でも悪くなったかと、不安げに見てくる。
「いいえ、いいえ。そうじゃないのよ。」
彼女はやっとの思いでそう言うと、手紙だけを少女に手渡しブローチを胸元に飾る。豪奢な紅いドレスには地味すぎるそのブローチを、ドロテアの指が優しくなぞった。
「ほんと、不器用な人。」
クスリと笑ってみたものの、目元は落涙に緩みかけ、胸の奥からは少女の嗚咽が込み上げそうだった。
上演のベルがガランガランと鳴らされる。ざわざわと騒々しくすら聞こえた観客の声が静まり返っていく。ドロテアは重々しい花冠を被り、熱い視線と光が降り注ぐ舞台へと走り出した。
私の幸福の夢!燃えるような幻想!
夢は輝いていたの 貴方の目のように!
舞台に立った瞬間に、ドロテアの歌声はこれまでになく響いた。喉が枯れてしまうのではないかと思わせるほどの歌声が、全ての観客を圧倒する。ドロテアは身を捩り、胃から、肺から声という声を絞り出し、体全てを使って伴奏すら無いソロを歌い上げていく。やがてコーラスと器楽の音が彼女に続く。二重三重と音が重なっていったとき、ドロテアは劇場隅の「特等席」に目をやった。彼女の視界は水滴によって、光が乱反射しぼやけていた。汗なのか、涙なのか、それは彼女にも何も知らない観客にも分からない。特等席は空のままだ、ドロテアはそれだけを見ると再び大きく息を吸い、自らの体を響かせる。
『何処にいてもお前の歌は美しかった』
手紙の、フェリクスの最後の言葉がドロテアという「少女」の背を押していく。
彼がそう言うのだ、ならば此処に彼が居なくとも、たとえもうあの席が群青に埋まらずとも自分の歌声は聞こえているに違いない。そう思うとどんな張り裂けそうな声でも響かせられるような、根拠の無い自信がドロテアの内側から溢れ出た。
なんて惨めな���! それでも夢は幸福だった
幸福の形を 私ようやく知ったの
歌劇のような恋をした少女の、最後の歌声が響き渡った。呼吸に上下するその胸に光る青に、気づいた者など一人としておらず、ドロテアだけが、青を知っていた。
ぱきり、と焚き火の中から木の小さく爆ぜる音がした。梟が密やかに鳴くだけの静かな夜にその音は妙に大きく感じる。フェリクスの周りには剣や槍を横に、ひと時の休息を甘受する傭兵たちが寝静まっていた。哨戒として一人火の前に座っているフェリクスは片時も剣を離さずにいたが、その目は手のひらを転がる紅い耳飾りに注がれている。耳飾りの紅玉は火の加減で、時折赤だけでなく緑の光も垣間見せてくる。自らの耳を飾るには不相応で不適格で、無骨な手に転がっているだけで場違いなそれを彼は静かに腰のポーチに仕舞った。
そして彼は誰が聴くわけもない、囁く声で小さく口ずさんだ。
俺は夜に呼びかける
見せておくれ あいつの姿を
光り輝く 神々しいあいつの姿を
歌声は寒さの夜に、細く白い息として消えていく。ぱきり、と再び音を鳴らした焚き火が穏やかに微笑むフェリクスの顔を照らした。
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拍手が鳴り止まないーー『オズの部屋探し』パリ公演
『オズの部屋探し』パリ公演は2月19日(水曜)〜22日(土曜)、毎晩8時半から行われました。8時半というと遅いようですが、フランスではそれが普通です。
会場となったのはパリのオペラ座……の近くのWorkshop ISSE(文章で書くとどうということはありませんが、口で言う時には「鉄板」のギャグです。ポイントは「……」のところで間をおくことです)。
Workshop ISSEは日本酒販売店ですが、通りを挟んだ向かいにレストランを持っています。ただしこのレストラン、ランチタイムしか営業していません。
日本酒販売店が経営しているレストランだからきっと酒の肴になるようなものを出しているのだろうと思っていたら、さにあらずーーメニューは日替わりで、ハンバーグだとか、青椒肉絲だとか、中華丼だとか、日本の日常食を出しているようです。
ランチタイムしか営業していないので、夕方以降は好きに使わせてもらえました。
今回行ってわかったのですが、フランスは完全にカード社会です。スーパーはもちろん、パン屋でバゲットを買ってもカードで払うのが普通ーー我々としてはカードで入場料を受け取れないので困るところでしたが、Workshop ISSEのオーナーの中沢さんが受付は全て店の方ですると言ってくださいました。
お客様はまず店の方でカードで支払いを済ませ、道を渡って会場となるレストランの方においでになるという形で、非常にスムーズにお客様をお迎えすることができました。
我々としてはパリ在住の日本人の方とフランス人の方の両方をターゲットにしていたのですが、お客様は8:2くらいでフランス人の方が多かったと思います。
面白かったのはカップルでおいでになるお客様が多かったことーー夫婦・恋人が一緒に外出するというフランスの風習のせいだろうと思います。フランス人と日本人のカップルも相当数おいででした。
4日間の公演それぞれがどうだったか、正直言うとあまり記憶にありません。いいかげんといえばいいかげんな話ですが、記憶というのは���ういうものだと思います。
初日とにかく驚いたのは、終演後のカーテンコールで拍手がなかなか鳴り止まなかったことです。
予定としてはモリシャン(大盛り桂子)がまず日本語で挨拶をして、そのあとに私がフランス語で挨拶をするはずだったのですが、全く拍手が鳴り止まないのでモリシャンが戸惑って「なにこれ?」と言いました。
私は私で混乱して、なぜかフランス語でモリシャンに C'est ce qu'on appelle l'applaudissement.(これが拍手というやつさ)と言っていました。
拍手が鳴り止まないという点絵は、2日目も3日目も同じでした。
勝手な解釈かもしれませんが、フランス人のお客様は「忖度」はなさらない(そもそも私の直接の知り合いは、『人生は短く、欲望は果てなし』でフェミナ賞を受賞した小説家のパトリック・ラペイルさん、ドキュメンタリー映画『カミュと生きる』を撮った映画監督のジョエル・カルメットさん、国際カミュ研究会会長のアニエス・スピーケルさん、同研究会幹部のマリー=テレーズ・ブロンドーさん、アミアン留学時代の旧友のエリック・ルジャンドルさん、関学の大学院生で現在留学中のKさんくらいです)でしょうから、本当に芝居を気に入って拍手してくれたものと思います。
初日・2日目は笑いはあまりありませんでした。笑いは起きる時には起きるし、起きない時には起きない。起きたから「いい芝居」ということにはならないし、起きなかったから「悪い芝居」ということにはならないと、私は思っていますので、心配も落胆もしませんでしたが、3日目からは随所で笑いが起きるようになりました。
ひとりで音響・照明・字幕の三役をこなした演出の増田さんに言わせると、3日目からは字幕のタイミングがぴったり合ったので笑いが起こったとのこと。
なるほどそうなんだ……笑いがなくとも心配も落胆もしないと書きましたが、あるに越したことはありませんし、あればあったで役者は乗ります。
そして4日目、千秋楽。
最高の千秋楽でした。
この日は土曜日だからでしょうか、大勢のお客様がおいでになり、補助席として予備のベンチを置くことになりました。
随所で笑いが起こり、拍手は……全く鳴り止みません。
モリシャンが拍手を制止して挨拶しようとしても鳴り止まず、結局私がモリシャンを制止する羽目になり、演出の増田さんを呼び込んでも一向に拍手は止みません。
一旦袖に引っ込んでまた現れるというアレをしようとも思いましたが、さすがにそれはやめて、ただ心地よく喝采を聞いていました。
私はそれなりに長く芝居をしています。もっと大きな劇場でもっと多くのお客様を相手に芝居をしたこともあります。
でも、これほど激しく長い拍手を受けたことはありませんし、これからもおそらくないでしょう。
この経験は演劇人としての私の宝です。
もう一つこの公演で宝をもらいました。初日に来てくださったフランス人の女性のお客様がチーム銀河のアドレスに日本語でメールを下さったのです。
その文面をそのまま書き出します。
「昨日晩 あなた の 戯曲i を 見ました. とても面白かった. たくさん メール をおくりました けど 今パリ で休み ですから人達 いません. すみません. 二つやくしゃはすごいね. 有難う御座いました. がんばって下さい」
��ょうどこの時期はフランスはバカンスで、友達に『オズの部屋探し』を見に行くよう勧めても、みんなどこかに出かけてしまっていたということですが、それはともかく、こんな嬉しいメールがありますか? 全く面識のないお客様からこんなメールをいただけるというのは、役者冥利につきるというものです。
最後にフランス語で Désolée pour mon japonais de cuisine(キッチン日本語でごめんなさい)と書いてあります。「キッチン日本語」というのは、きちんと勉強した日本語ではない、日常生活で学んだ日本語という意味でしょうが、とんでもない、お上手ですし、何よりその気持ちははっきり伝わります。
本当にありがとうございました。
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新作『メフィスト』1年間ロングラン中!
次回は2月28日(金曜)、次々回は3月27日(金曜)。
会場は大阪・新町のイサオビルRegalo Gallery & Theater(イサオビル2階ホール)、19時開場、19時半開演です。
https://www.facebook.com/events/403902366903274/
みなさまのご予約・ご来場をお待ちしております。
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