Tumgik
#箸袋で割り箸を切る
klasina-hiro · 4 months
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📢アルバイト募集のお知らせ
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いつもお料理のご注文ありがとうございます。
ありがたいことに昨今のKLASINAは50人〜150名ほどの食数を希望されるお客様が増え、キャパの限界を深く観念しましたため新たに厨房をお手伝いいただけるアルバイトさんを募集いたします!
現在も数名のアルバイトさんにお世話になり、みなさんの本業やご予定と調整しながらご都合の良い日でシフトを作ってますが、注文が大容量になった時に複数名のマンパワー必須のため今回はフレキシブルな時間枠で長期でお手伝いいただける方が希望です。
アルバイト内容は主に仕込みや容器へのおかず詰めと後片付け。 当方には作りたてをその場で食べていただく店内飲食サービスもありますが、作ってから召し上がるまで時間をおくお弁当やケータリング料理をメインに扱っているので、徹底的な安全管理と衛生管理にご理解のもと実行できる方にお願いできたら大変心強いです。
店内飲食等でご存知の通り日頃は楽しいアトリエですが、作業中は時間との戦いで戦場と化し寡黙にただひたすら数を数えたり間違いがないかの点検に集中するため決してゆるくはないですがw、共に創り送り出したお料理がお客様に喜ばれる瞬間は大変嬉しいものです。
募集人数は若干名、食べ物の配送は人の命を預かってるも同然、万が一のことがあってなはりません。
面白半分や単なる暇つぶしの方はお見送りください、 業務内容に共感し真摯に取り組める方、我こそは!って勇者のご応募お待ちしております!
【アルバイト依頼日時】
都度相談。
直近依頼もたまにありますが、通常は2〜3週間前から日時を打診します。ご都合よければ出勤いただき、ご都合悪い場合は見送りとなります。
時間帯は案件によって変動します。
作業時間目安ですが、仕込みの日は平均3〜4h前後、ボリュームのあるお弁当やケータリングの場合は1日仕事になります。
目安としてお弁当作業は午前中がメイン。早朝作業もあり。 ケータリングは夕方がメイン。18時前後のお届けが多いので昼過ぎからの作業になることが多いです。 【作業内容】 お料理の仕込みとお弁当やケータリング容器へのおかず詰めと後片付け。
飲食店勤務経験は問いませんが日頃からキッチンでお料理をされている方限定。 お願いする内容は難しいものはなく、野菜を洗ったり皮をむいたり、スライサーでスライスしたり、おかずを容器や箱に詰めたり、お箸やおしぼりの数を数えたりといった簡単な内容ですが正確性を重視します。 事前にデモンストレーションで見本をお見せしてから作業を開始するので考え込むことなく作業ができる方。 仕込みは限られた時間の中で沢山の仕事をするので、ある程度の効率が維持できるスピードや丁寧さは必要となります(猛速の必要はありません。家庭でお料理を作る時の一般的な速度、玉ねぎ1個を2分程度で皮をむきミジン切りにできるくらいの速度で充分です⬅︎あくまでも目安です)。
数量や手順の伝達が頻繁にあるためメモ書きが苦手だったり何度説明しても作業ルールを忘却する可能性のある方は申し訳ないですが時間内で作業を完結できないためご遠慮ください。
調理補助以外の後片付けやお掃除の時間も比重が高いため、片付け上手でどんな作業でも前向きにトライできる方を歓迎致します。
※当方のアルバイトでお料理(調理)を作っていただく機会は基本的にありません。 よくバイトしながらお料理も教えてもらえたら、とおっしゃる方いらっしゃるのですが、料理教室で生徒さんを募集するのとは異なります。また、調理だけをやりたい方もお見送りください。
【 応募条件 】 お客様は一般から企業、学校、イベント会場まで様々ですが、時間厳守のご注文のため、応募条件は日頃から無遅刻で時間に正確な方となります。
クライアントからの依頼に迅速な返信を心がけています。 よってスケジュール確認がスピーディーな方。
飲食未経験でも可、VEGANか否かは問いませんが、フードロス削減や資源の無駄使い削減に徹底して取り組んでますのでそのような意識をお持ちのかた。
気力・体力・集中力&相手への思いやりと助け合い精神で一緒に働いていただける方、KLASINAの味やサービスに好感や理解がある方。
お仕事中は立ち仕事でそれなりにハードですが、作業中は不安がないよう全力でサポートいたします。
【 応募方法 】
履歴書(顔写真貼付。写真なし不可)に ・希望の勤務形態(勤務可能な時間を記載) ・ご自身の得意分野(料理以外でもOK) ・料理経験 ・趣味 ・働きたい理由 ・その他ご希望(忌憚なくご記入ください)
以上を記載の上、PDFかJPGの履歴書を  [email protected]  
へ送付ください。
※書類選考の上、面接をさせて頂く方にのみこちらからご連絡をさせて頂きます。 ※ご応募頂いた履歴書は選考後適切に削除いたします。 ※SNS DMからの応募及びご質問はご遠慮ください。
【 応募期間 】
特になし。締切のお知らせがない間は随時募集中とお受け取りいただけます。
※ご質問等お問い合わせはメールにて
・お名前 ・お問い合わせ内容
を書いて送付下さい。
【募集要項/業務内容】
・ケータリング料理の仕込み・おかず詰めなどの調理補助 ・お料理の梱包作業及び車への積み込み ・後片付け ・お掃除 ・その他付随する雑務
【条件】 ・遅刻のない時間に正確な方 ・作業時は食中毒対策のため終始手指の消毒とヘアキャップ&ビニール手袋装着、マスクの着用が必須となります。衛生管理の徹底、ウィルス感染対策にご協力いただける方。 ・集中力を持って仕事に取り組める方 ・スケジュール連絡や確認事項のレスポンスがスピーディーな方 ・機転のきく方大歓迎
※未経験可 〜雇用形態〜単発アルバイト
トライアル期間あり(飛び飛びの依頼になるので期間設定が難しいため面接時要相談になります。基本的には作業ルールを覚えていただく期間とご理解ください。よって早く覚えていただけたらトライアル期間は早期終了します) ☆時給制 
トライアル期間1h=¥1,000 トライアル終了後1h=¥1,150
・勤務地最寄り駅 小田急線・井の頭線 下北沢駅のKLASINAアトリエ。 ・交通費支給(上限あり。往復交通費1,000円まで。駐輪場代不可)
【待遇】 ・アルバイト割引あり アルバイト稼働日は10%割引でお買い物いただけます
※ご希望等は面接にて応相談。
以上にて、長々お読みくださりありがとうございます! 良いご縁をお待ちしてます!
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oka-akina · 1 year
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リチとの遭遇(冒頭試し読み)&通販のお知らせ
 こたつの天板をひっくり返すと麻雀のラシャだった。あの緑色が現れると夜だった。布端がちょっとほつれて毛羽立っていて、直行はいつも焦れったかった。剥がれかけたかさぶたを引っ掻くみたいに手が伸び、びーーっと引っ張りたくてたまらなかったが、あれは父とその友人、あるいは伯父た���が夜な夜なジャラジャラやるためのものだった。勝手に触ると叱られそうな気がしてがまんしていた。  母家の隣のプレハブ小屋だ。父たちはしょっちゅうそこに集まり、ときには半裸になって酒を飲んでいた。母や祖母はほとんど来ない部屋だった。酒とかつまみとかを運んで溢れた灰皿を交換する役目は直行だった。夏の小屋はかなり蒸すが、窓も扉も全開にして扇風機をまわしておくと夜風が涼しかった。  ぶおお……ぶおお……と風に乗って鳴き声が響く。あれは牛蛙だと祖父が言った。火を通すとささみみたいだがあまりうまくはない、ただし唐揚げにすれば鶏か蛙かわからない。直行は、六年生になったら授業でカエルの解剖をやる、一人一匹カエルを与えられて必ずお腹を割かねばならないと上級生からおどかされていたため、いつまでも響く鳴き声が怖かった。そうしたら祖父が励ますみたいに「鳴いているのはみんな雄だ」と教えてくれた。変な励ましだと思った。  日が暮れる。父は小屋に向かう。麻雀牌にベビーパウダーをまぶし、夏場は長い時間やっているうちに牌と牌が汗でくっついてしまうからで、直行が赤ん坊のころ汗疹やおむつかぶれにはたかれたのと同じ粉だった。いそいそと作業する父の背中は汗ばんで、太い首が桃色に染まっていた。小屋の中を甘いにおいでいっぱいにして仕度し、父は客を待った。そうしていいにおいは男たちの汗やたばこでたちまちぐちゃぐちゃになった。  牌は杏仁豆腐みたいに見えた。しっかり固くて、スプーンを押し当てたらすとんと切れる、甘いシロップの中に浮かんでいる……。牌山を見ているとひんやりと甘い味が口の中によみがえった。甘味が虫歯に滲みる気さえした。あるいは父たちのツモったり切ったりの手つきは寿司職人みたいだと思っていた。伏せられた牌の白色はシャリで、背の黄色は……、黄色いネタって何かな。沢庵とか卵とか。もしくは辛子を塗られた? そんなもの見たことはないがたぶんバラエティ番組の罰ゲームっぽい何かが頭にあった。直行がじっと見ていても父も誰も麻雀のルールを教えてくれなかった。そばで携帯ゲーム機をいじりながら勝手な想像ばかりしていた。  父の後輩らしきちょっと若い男。日焼けした体がケヤキの若木みたいで、背中も眉も額も、体の全部がまっすぐだった。定規で引いたみたいな輪郭だと直行は思った。彼が「ロンです」と控えめに発声する感じがいいなと思っていた。あ、ロンです。あ、ツモ。おとなしく勝つ感じが格好いいもののように思えた。ただどうもロンとかツモとか宣言しても必ずしも勝ちとはならないようで、直行にはますます謎めいていた。  昼。男たちがいなくなったあとも直行はそれについて考えた。授業中や掃除の時間にふと思い出した。ポン、チー。卓のあっちからこっちへやりとりされる点棒。あれは算数セットの何かに似ていなくもない。小屋の麻雀はいつも長い時間やっているから直行は途中で寝てしまうこともあり、誰かが布団へ運んでくれた。男の横顔。彼はたばこを吸わない。漬物の茄子を齧るとき、汁がこぼれないようにあるいは惜しむように、口に運んだ箸をちょっと吸う。直行も真似をしてみたが茄子漬けを好きになれなかった。においも感触も苦手だった。鉢に残った漬け汁の青色は朝顔みたいな色だと思った。授業で育てた朝顔。直行のだけ成長が遅かった。みんなが実をスケッチしたり種を収穫したりしているころ、直行の鉢だけまだ青い花を咲かせていた。  苦手だとわかっているのに客の前で見栄をはり、茄子を口に入れたら飲み込めなくてべえっと吐いた。父はべつに叱らなかったが声をかけてくれるでもなかった。若い男がティッシュをとってくれた。しゅっしゅっとすばやく二枚。二枚も使って母親に怒られないかと、小屋にはいないのにとてもどきどきした。そうして若い男は出し抜けに「子どものころ学校のトイレでうんこするのが恥ずかしくて、体育館横のトイレは幽霊が出るって噂を流したよ」と言った。おれ専用のトイレにしたんだと笑った。  鳴いている蛙はみんな雄だ。いつかの祖父の励ましは理屈として通らないと思ったが、あれは理屈を言いたいわけではなかったのだとしばらく経ってからふと思い至った。体育館でマットを運んでいたら急にそう思った。たんになぐさめようとして言葉を継いだのだ。直行の学校は体育館の横にトイレはなかった。渡り廊下がいつも薄暗かった。  それならばと直行は思い、父たちのいない昼のうちにこっそりラシャのほつれを毟ることにした。学校から帰ってきてそっと忍び込み、昼間の小屋はかえって薄暗かった。カーテンの隙間から差し込む光が埃の粒子に跳ね返り、光の道筋を作ってキラキラしていた。直行は口を開け、ぱくっぱくっと空気をかじって吸い込んでみた。キラキラが埃だというのはわかっていた。汚い粒が自分の胃袋に溜まっていく背徳感に酔った。  天板を浮かせて隙間に手をつっこみ、布端を探った。天板は重く、指を挟むと爪がぎゅっと白くなった。痛くはないが圧迫される感じがよかった。思ったより少ししか糸はほどけず、びーーっとはならなかった。千切った糸は絨毯の裏に隠した。すっかり擦り切れたパンチカーペットで、タバコの焦げ穴があいている。直行の人差し指がちょうど嵌まる穴。そこに指を突っ込むのが好きだった。自分の指が芋虫になって絨毯を食う。きっと穴はどこかちがう場所につながっている。ワープ。そのころ髪を抜くのもちょっと癖になっていて、ぷちっと抜いたときの案外痛くない感じがやみつきになっていた。根元の白いかたまりが大きいとうれしくて、いい感じのかたまりが取れるまでぶちぶち抜いた。抜いた毛も糸と一緒に絨毯に挟んだ。  直行は一人で小屋に入り浸るようになった。毎日緑の布地をこすった。父たちがラシャと呼んでいたからこれはラシャなんだろうなあとおぼえたが、本当はもっとちがう名前があるのか、このような敷物がラシャというのは世の中の常識なのか、直行にはわからなかった。ラシャは音を消した。酔った父たちのでかい声に反し、牌を切る音はことんことんとおとなしかった。おらっとふざけて乱暴な打牌をすることはあったが、それでも大した音は鳴らない。寿司っぽい。寿司のことはよく知らないけど。白い調理服の男のイメージ。たまに連れて行ってもらう回転寿司は若いアルバイトとおばさんのアルバイトが多く、ちょっとちがった。伯父は醤油をむらさきと呼ぶ。伯父の太鼓腹には盲腸の手術跡がある。盲腸の痛みがいかに大変だったか、伯父は大仰に語り直行を怖がらせたが、手術跡というのは格好いい気がしていた。酔った伯父のひたいはてかてか赤く光った。  重い天板に手首の骨のところをわざと挟んでみて、痛くないのに痛がってみた。手がちぎれる! 罠が仕掛けられていた! 鰐に噛まれた! そういう想像。なかなかいい演技だったと直行は思うが一人きりでやっていたことなので誰も見ていない。昼間の小屋には誰も来なかった。やがて自慰を覚えた。  挟まれる感じといえば、重たい布団に押しつぶされるのも好きだった。押入れに積まれた布団の間に体をねじこみ、圧迫される感じがうれしかった。そしてそういう喜びは人に知られてはいけないものだろうと直感していた。これは誰にもばれてはいけない感情だと直行は噛み締めた。  でも従兄弟たちは察していたのかもしれない。集まった子どもたちで床にうつぶせになって何人も重なる遊びをよくやっていて、直行は一番下にされがちだった。その遊びのことはペチャンペチャンと呼んでいた。一番下はじゃんけんで決めようとは言うが小さい子が下になってはかわいそうだともっともらしく言われ、だいたいいつも直行が下敷きになった。どんどんみんな積み重なって、他人の体と密着したのはこれが最初の記憶かもしれない。自分ではない体のぐにゃっとした重さや熱。におい。  二つ上の従兄はそんなに背が高いわけではなかったが腕や足が骨っぽくて重かった。のしかかられると日焼けした腕にうっすら毛が生えているのがよく見えた。従兄の輪郭も定規で引き直されつつあると思った。直行が重いと叫ぶと毛が揺れた。草原だと思った。自分のとはちがうよその家の服のにおいがくすぐったかった。ペチャンペチャンをやっていると母たちに叱られた。内臓が破裂しちゃったらどうするの。直行はそのスリルにもひそかにドキドキしていた。ペチャンペチャンは三人目くらいから腹がぐっと押され、潰される感じで、苦しい苦しい、痛い痛い、ぺちゃんこになっちゃうよと直行はわめいた。ほんとはそんなに痛くなかった。痛みよりも快感があったのだが、ごまかすみたいに苦しいと叫んでいた。  やがて従兄は中学生になり麻雀の輪に入っていった。卓を囲む四人の男たち。じゃあ、従兄が入ったぶん誰が抜けたのだろう。それとも誰も抜けずに仲良く交代で? 疑問に答えは出ないまま、やがて直行が中学に入るころには父たちはあまり集まって遊ばなくなった。若い男は結婚し、子どもが生まれたときいた。直行は小屋をもらって自分の部屋とした。
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5/21文学フリマ東京の新刊です。3万字くらいの短い小説で、薄い文庫本です。
通販開始しましたのでよかったら覗いてみてください〜
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tanakadntt · 1 year
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旧東隊の小説(二次創作)
刺身蕎麦クッキー
三輪秀次の好物は、ざる蕎麦、刺身、クッキーである。
一、刺身
ドアがあくと、まずプンと磯臭い空気が部屋に入ってきた。ここは東隊の作戦室で、三輪は同隊隊員である。
「大漁だぞー」
ついで入ってきたのは、発泡スチロールの箱を抱えた隊長の東春秋である。機嫌がいい。私服である。本日、東隊は任務のないシフトであったが、学校のあと、隊員は作戦室に集まっていた。仕事のためではない。
「おかえりなさい」
現地で購入したとおぼしき白い箱の中身は釣った魚だ。手持ちのクーラーボックスに入りきらなかったらしい。肩に下げているクーラーボックスだってかなり大きいのに、発泡スチロールの箱はさらに大きかった。重そうだ。三輪は発泡スチロールのほうを受け取った。ずっしりとしていて、よろける。氷がゴロゴロ動く音がした。
「床を濡らさないでください」
二宮匡貴が用意しておいたブルーシートを指す。
「気が利くな」
ニコニコしながら、東がクーラーボックスを肩から下ろす。三輪を手伝ってやりながら、二宮は黙って頷いた。
「東さん、長靴と道具は?」
「まだ車の中だな」
「後で取りに行きましょ。ほっとくと忘れちゃうわ」
加古望がキッチンから顔を出した。
ペリペリとビニールテープを剥がして、蓋を開ける。
のぞき込むと
「…大きい魚」
「鯛だな」
氷水の中に魚の王様が埋まっている。
東が器用にさばいていく脇で三人の隊員も忙しい。キッチンが臭くなるのは嫌と、加古はあらかじめ新聞紙をシンクに敷いていた。
「内臓はここに入れてね」
新聞紙で作った箱は暇なときに皆が折ってストックしてある。
タッパーや折を用意していくのは三輪の役目だ。紙袋にもポン、ポンと保冷剤を入れていく。
「秀次は手際がいいな」
「俺が教えました」
「あら、私が教えたのよ」
「今日、本部にいるのは誰かな? いつものことで悪いが、
手分けして、配りに行ってくれ」
「二宮、了解」
「加古、了解」
「了解です」
テンポよく言えずに、三輪は口の中でつぶやいた。
「ねえねえ、東さん、海鮮しゃぶしゃぶにしてみない?」
加古はカレイを見ながら提案する。
「新鮮なんだから、刺身だろう」
二宮が言い返す。二人はいつもこんな調子だ。
本日は、東隊長の釣ってきた魚を堪能する会なのだ。作戦室では飲酒禁止なので、ビールを飲みたい東の希望もあって、このあと本部内の彼の持っている居住スペースにお邪魔させてもらっての開催である。
「鍋があるからできるが、それなら最後はうどんで締めたいなあ」
「売店で売ってるんじゃないかしら」
東は包丁の手を止めてそうだなあと言いながら、チョイチョイと手招きして三輪を呼んだ。
「はい」
てっきり、うどんを買ってくるよう言われると思っていた三輪に東は、
「味見」
鯛の切れ端をヒョイと三輪の口の中にいれた。
「どうだ」
「おいしいです」
白身魚が甘いのを三輪はここにきて初めて知った。
ニ、クッキー
「暑いわね」
盆である。
この時期、食堂が休みなのだ。若者はコンビニに行き、偉い人は仕出し弁当を頼む。
今日の東隊長は上層部に呼ばれて会議に出席中である。これはよくあることで、片手間で隊長をやってるのではないかと思うほど忙しい人なのだ。今頃、上層部と高級弁当を食べていることだろう。
時刻は午後一時である。
「お腹が空いたわね」
先程から、加古は暑いとお腹が空いたしか言わないと気がついて、三輪は少しおかしかった。二宮はまだ到着していない。要領のよい彼のことなので、どこかで食事をしてからやってくるのだろう。
「コンビニで買ってきます」
三輪は立ち上がった。本部の中にも最近コンビニができたのだ。
「今日はコンビニのご飯って気分じゃないのよねえ」
と、加古は顎に長い指を当てた。二宮がいたなら、わがままだとののしったに違いないが、三輪はあまり気にならない。
「外へも買いに行きますよ」
どのみち三輪も何か腹に入れないといけない。
「本部の外は暑いわよ」
「そうだけど」
最近、加古に対しては敬語がすっぽ抜けるときがある。年上とか年下だとかそういうのを突き抜けたところが加古にあるからだ。
加古は天井に視線を送って、しばし考えたあと、
「どっかにクッキーがあったはず」
ぽんと手を叩いて、立ち上がった。
「東さんがもらってきてた」
「え! あれ? 」
あれは確かお中元でもらった高級クッキーだった。お中元をもらう大学生もどうかと思うが、東はよく頂きものをする。ご相伴にありつくのは隊員の役得だ。
しかし、いいとこのクッキーを昼飯代わりとは。
棚をゴソゴソとあさって、すぐに加古はクッキーの四角い缶を見つけてきた。目星をつけていたらしい。
「これこれ」
遠慮なくカパッとあけると、ほとんど���つかずの高級焼き菓子が現れる。
「三輪くん、冷蔵庫から飲み物持ってきて。私、アイスティー」
三輪は麦茶にした。
「お前らばっかり何食ってんだ」
案の定、程なくして現れた二宮は呆れた声を出した。
「太るぞ」
「三輪くんはもうちょっと太ったほうがいいわ」
「お前だ、加古」
「ご飯代わりだもの。それにこれから、動くから問題ないわ」
「トリオン体じゃあ関係ないだろう」
そう言いつつも、二宮もクッキーに手を伸ばす。
「二宮先輩、何飲みますか?」
「牛乳」
結局、三人でバリボリ食べて、缶のクッキーはすっかりなくなってしまった。
「内緒ね」
「証拠隠滅だな」
三輪くんの方で捨てておいてねと空の缶を持たされた。三輪が本部に住んでいるからだ。
なんとなく捨てそびれて、東隊が解散して、それぞれが別の隊を持つようになった今でも、その缶は三輪の部屋にある。
三、ざる蕎麦
「なんだ、引っ越したばかりなのか」
東隊が結成されたばかりの頃の話だ。
なんの用事だったか。多分、東からの言伝てがあったのに三輪へのメールが既読にもならないし、電話にも出ない。
二宮、すまない。俺、手が離せないから、伝えるついでに様子をちょっと見てきてやってくれ、そのまま帰っていいから。
隊長にそう頼まれたら、二宮も嫌とは言えない。もう、夜と言っても差し支えない時間だった。加古は既に帰宅している。
東に聞いた区画で三輪の部屋を見つけ、何度か呼び鈴を鳴らして、ようやくドアはあいた。
単身者用らしく、玄関から見渡せるほどの部屋だ。
およそ、生活感というものがない部屋だった。
中はガランとしていて、薄い蒲団が敷いてある他は、ダンボール箱がひとつおいてあるだけだ。入り口すぐに見えるキッチンも使っている形跡がない。
だから、二宮は引っ越してきたばかりかと聞いたのだ。三輪は焦点の合わない目をして、否とも応とも言わなかった。
出会ってまもないが、三輪には時々そういう不安定な状態に陥るときがある。何もかもが億劫になるらしく、食べることも眠ることもしなくなる。反応も鈍い。
この街には、この街独特の事情によって、そういう人間は割と存在し、容認されている。だから、二宮もそれほど奇異には思わない。あの日あのとき、『あち��側』だったんだなと思うだけだ。
それでも淡々と任務をこなす姿は評価するが、面倒な後輩であることにはかわりなかった。
東からの用件を伝え、確認をとったらもう二宮の任務は終わりだ。
しかし、
「夕飯は食ったのか?」
「ああ、はい、いえ」
返事は要領は得ないが、おそらく食べていない。
(昼も食べてなかったな)
「夕飯、食うぞ」
「……え?」
やはり反応が鈍い。二宮はイラッとしたが、今の三輪相手に何か言う気はしない。
三輪を連れて、食堂に行こうとする。
が、二宮はふと気が変わった。
「鍋あるか?」
「ないです」
「皿は?」
「ないです」
「コップは?」
「ないです」
二宮がため息をつくと、すみませんと三輪が謝った。徐々に意識が浮上してきたようだ。
「あの、二宮先輩、食堂で」
「いや、待ってろ」
三十分後、調理道具一式を調達してきた二宮は再び三輪の部屋に現れたのだった。
「蕎麦を茹でるぞ」
「…蕎麦ですか?」
その頃には、三輪もうつ状態になっているどころではない。二宮のペースに乗っかりもできず、さりとて落ちることもできない。
「あの、なんで、蕎麦」
「引っ越ししたら引っ越し蕎麦だろう」
引っ越しのことを考えたら、最初に思いついたのが蕎麦だった。新居で食べるのにふさわしい。
「あちこちから、借りてきたからな。明日、返しに行くぞ」
本格的な塗りの四角いセイロまである。三輪はおっかなびっくり持ち上げて、意味なく裏をのぞき込んだ。
その間に、二宮は鍋を沸かし、乾蕎麦を放り込んでいる。
「七分、計ってくれ」
「了解です。料理されるんですね」
「麺を茹でるくらい料理に入らんと思うぞ」
菜箸で、麺を動かしながら、二宮はこともなげに言った。
「三輪も食堂の飯ばっか食ってないで、蕎麦くらい茹でろ」
「はい」
思いの外、大量に茹で上がった蕎麦をセイロに山のように盛って、二人ですすった。箸もなくて割り箸だった。
もうここに一年ほど住んでいますと言えずに三輪は黙って、蕎麦を食べた。
この日にようやく三輪の引っ越しが終わったといえるかもしれない。
終わり
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sasuray · 1 year
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毎年社長が家庭で奥さんが作ってくれない献立を社員に振舞う。当日近くになると社長はスーパーのレジ袋をえっさほいさ汗をかきながら運んでいる。朝出社する時は生こんにゃくと里芋を運んでいた。いつもキウイを輪切りにしたピンバッヂを右胸に付けている。ダブルジャケットコートの柄が白黒のチェックに細いオレンジの線が入っている。その下はネイビーのタートルネックセーターを着ている。寒がりなんじゃないかと思った。冬を先取りしている。買い出し手伝うのでどんどん言ってください。社長のこと嫌じゃないから。でもなんで換気しまくった喫煙所でやるんですか。社長、私も実は芋煮食べたことなかったんで嬉しいです。ここに骨埋めます。あと料理分ける時、菜箸ちゃんと置いてくれて気配りありがとう。クリスマスじゃ無いなんもない平日にやってくれてありがとう。普段私は予定が無くて本ばかり読んで気が付いたら夜になっていてなんとなくごはんを作って食べてシャワー浴びて顔の手入れしてオイル垂らしてむくみとりやって寝るので。割と気が合うんじゃ無いかと思う。
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shukiiflog · 11 months
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ある画家の手記if.72 名廊絢人視点 告白
………なんか楽しい。
熱が出ても脚がおかしくても鎮痛解熱剤飲むか飲まないか程度で普段とくに何もしないで寝てるんだけど、病院にかかったら一瞬で熱がひいた。意識がない間になにか処置されたのかな。普段から病院避けてるから何されたのかはよくわかってない。
病院を出る頃には雨もやんでて脚も動いた。 俺は歩いても良かったんだけど病院出たらまことくんがもうタクシー呼んでた。 「俺の家に帰るぞ」って言われた… なんとなく、勝手に歩かせたら俺がさっさと自分ちに帰りそうなのを先回りされて防がれたような… 考えすぎかな。 二人でタクシーに乗ってて思い出す。まことくんはバイク運転できるんだった。俺はなんの免許も持ってないけどそれでもバイクって後ろとかに乗れるんだっけ…?
大した距離じゃなかったからすぐにまことくんちに着いて、うがい手洗いだけさせられたと思ったらそのまま直行便みたいに布団の中に寝ることになった。 俺がおとなしく寝たあとで布団の上に着替えがぽいぽいっと置かれた。 「着替えられそうなときに楽な服に変えとけ」 この前貸してもらったのと似てる、すごく伸びる服だ。俺も家で寝るときはパジャマに着替えるけど、パジャマもなんかきっちりした布で、こんな手品みたいに伸びない。 「…ありがと」 まことくんは寝てる俺の横にスポーツドリンクとミネラルウォーターのペットボトルを一本ずつ置きながら、俺の格好を見て言った。 「この前会ったときとぶっちゃけ服の見分けがついてないんだけど、そういう服が好きなのか?」 「………。」 じっと目を覗き込まれる。訊かれてることの主旨は服の嗜好のその先っぽい。いつも似たようなかっちりした古めかしい服だからたまに訊かれることではある。こういうとき「この格好が落ち着くんだよね」って言えばそれ以上誰も何も言わないし終わり、なんだけど… 「……こういう服しか用意してもらえないんだ。全部親戚からのお下がりとか。どれも長く着られる良いものだし」 なんとなくほんとのこと答えた。 「もう少し楽な服買えよ。心臓やらに問題あるのにいつも革のベルトきつく締めてたり脚が悪いのに締め付けるような革靴履くのはどうかと思うぞ」 大学生なんて寝巻きに寝癖ついた頭でかかと潰れたサンダルつっかけて学校きても誰も文句言わねえよ。…って言われた。そういう学生がいるのはわかってるけど… 「身なりとかだらしないと家の人がうるさいし」 「……。」 まことくんはちょっと考えた末にそれ以上は結局何も言わなかった。 俺が寝てる少し近くまでテーブルひっぱってきて俺に背を向けて座って色々本とか資料みたいなの広げてる。勉強…じゃなくて研究かな。院生って言ってたし。英語とフランス語なら手伝えることあるかもしれないけど… 「………。」 …この歳で全身家の言いなりってのは確かに変かも…?あんまり考えたことなかったや。俺に服の趣味とかあるかな?絶対着たくない服とかだったら…なくもない? まことくんの着てる服はどれも好き。香澄が着てる服は、仕事着とそうじゃないっぽい服で雰囲気ちょっと違ったから、どっちかは直にぃが選んで買ってるとかなのかな。香澄の服も好き。俺に似合うかは分かんないけど。 まことくんが一応わざわざ背を向けてくれたっぽいから、その間に着替えようとして作業の邪魔にならないように静かに起き上がって服を脱いでたら、ふいに何か俺に尋ねようとしたのかまことくんに振り返られて、反射的にガバッと頭から全身に布団かぶった。 …びっくりした。生娘じゃないんだし同性だし別にただの下着姿くらい���られていいんだけど、脚がキモいから。…ん? でも俺、香澄に平気で見せたし、そんな隠してるわけでもないし、そもそも言われ慣れてるし、こんな気にしたことあったっけ。 頭から布団かぶっちゃったからまことくんのリアクション全然伺えなくなった。何もできないじゃん。マジでこれどういう反応だよ、俺が。 とりあえず布団かぶったまま布団の中でかしこまって三角座りして謝る。正座はちょっと脚が痛くてきついから。 「不快なもの見せてごめん。」 そしたら呆れたみたいな意味不明みたいな声で「ハァ?」って返ってきた。俺が布団から出てこないままでいたら一拍おいて言い添えられた。 「あー…まぁ苦手な人も居るかもな」 うん。いるかもっていうか、わりと居るよ。………いや…もしかして、違う…?…。 「俺は平気だから気にすんなよ」 それだけ言われて、また定位置に腰を下ろしてペンを走らせる音が聞こえ出した。作業に戻ったんだ。布団から顔だけ出したら何事もなかったみたいにさっきと同じ後ろ姿のまことくんがいた。 俺が顔だしたのに気配で気づいたのか、こっちは見ないでペンを持った方の手をあげて、ペン先で俺の横にあるペットボトル二つを軽く指して言われた。 「もうちょいしたら飯は作るけど、点滴だと思ってなるべく飲んで。少しずつな」 「……。」 ほんとに気にしてなさそう…? そういえば香澄も、見たとき反応はしてたけど、嫌悪や蔑視の眼差しじゃ…なかった。 家に…ってか本家にいたら、脚隠してても俺のこと見かけた人は脚のほうにあからさまに視線向けてきて、めちゃくちゃ嫌な顔する。通りすがりにわざわざ脚を扇子の先で打ったり「みっともない」って小声で囁かれたりとか。まぁうちの家の中の時代が外界から50年遅れてるとしても、火傷ってあそこまで気味悪がられたり嫌がられるものでもないのか…? 「……。」 …いや。知らないからか、まことくんも、香澄も。なんの火傷で、誰がどう火をつけて、その人と俺がどういう関係で、どういうふうに終わったのか。香澄には口が滑ってペラペラ話した部分もあるけど。家の人間はもっと詳しく知ってるから、火傷よりその事情に眉を顰めてるのか。そういうのも、あんまり考えてこなかったな。いちいち考え込んだり悩んでたらついてけない家なのもあるけど。 ……俺が家の人間の視線に殉じて火傷痕を恥じるのは…俺も家と一緒になって俺自身のことを迫害してる、ようなものなのか。 「……まことくん」 「ん?」 「ありがとう」 まことくんは何のことかも聞かずに「ん。」てだけ返事した。
その後、まことくんはカルボナーラ(大量)を作って皿に山盛りにしてからちょっと出かけるって鍵かけて出てった。大学かな? ていうか鍵…。俺預かってないからどこも行けないじゃん… てことで仕方なく、カルボナーラ(大量)を平らげて、布団の上でまことくんが帰るまでだらだらする。 普段のあの服だとパキッとしてなきゃむしろ居心地悪いけど、この服着てると楽でついだらだらしちゃうな。手持ちの本読もうって感じでもない。布団の上で、ひとりで変な体勢になってみたり丸まったり転がったりしてみる。こんな妙なこと初めてした。…なんか楽しい。 暇だけどあんまり人の家嗅ぎ回るのもやだから、カラーボックスの中に立てられてる本を見てみる。人の本棚を見るのは好き。………。…教育学、教育史、教育行政史、体育原理、発達心理学、倫理学、家政学、etc.…………ここまでお手上げの本棚はじめて見た気がする…。こういう学部があるのも学問があるのも知ってるけど、俺こんな授業必修でもとったっけ…?記憶にないや…。周りにこういうの勉強してる友達とかってこれまでいなかったな…
布団の上でだらだらしてたらいつの間にか眠ってたらしい。 鍵が回る音で起きた。人の家で眠り込むなんて珍しいな… もう時刻は夜で外も暗い、俺が布団から体を起こしたら部屋が真っ暗なのにびっくりされて「起きてるなら電気くらいつけろよ」ってまことくんがつっこみながら電気つけて入ってきた。 後ろから香澄がぴょこっと顔を出した。一緒だったんだ。 香澄が俺の横まで来て、俺の顔色見ながら「照明強いと頭痛がする?」って聞いてきた。 「そういう日もあるけど、今は平気。」にっこり笑って答える。 二人とも両手に持てるしこってくらいのすごい量の買い物袋さげてるけどこれから何かするのかな…と思ったら三人分の夕食だった。
「絢人くんいっぱい食べるってまことから聞いたよ。味に飽きないように色々買ってみたけど…本当にこれだけ食べるの?」 「俺が一度目の前で目撃してるから。まだこれでも足りねえかもな…」 「うん。いっさい食べ残したりはしないから生ゴミ出ないよ」 「掃除機かよ。てかまだ開いてねえのにもう箸を割るなよ食にだけ勢いやべえな」 「いただきまーす」 「そういえば俺と初めて話した時もケーキすごい数食べてたっけ、店員さんが休めないくらい」 「ああ、あの時は初対面だったから香澄に引かれないようにあんまりたくさん頼めなかったんだ」 「お前ら微妙に言ってることズレてるからな」 「ケーキが好きなのかと思って絢人くん用にケーキたくさん買っちゃったけど、ケーキだけが好きなんじゃなかったんだ。食べ切れるかな」 「心配なくらいの数買ってきたの?大丈夫、俺に任せて。」 「あんまり食べ過ぎるのも健康とは言えないぞ」 「まことくんも香澄もちょっと痩せすぎじゃない?もっと食べないと」 「絢人くんもそんなに食べても痩せてるのに」 「綾がもうすこし食ったほうがいいのには同意」 「でも俺は今くらいの方が……。…………。」 「だからなんなの最近のお前のそれ」 「まことくん野暮なこと聞いちゃだめだってば。ねえ香澄」 「はぁ?野暮ってなんだ」 「…………。」
三人でなんてことない話をしながらたくさんのビニール袋を開けて、テーブルになんて乗りきらないから床に大きなお皿たくさん置いて盛って、床に座って好きにとり合いながら食べた。 こういう話するの初めてだ。勉強とか本についてとかじゃない、意見交換でもディスカッションやディベートでもない、誰も妙に緊張してたりもしない、内容はちっとも有意義じゃない、ほんとになんにもならない役に立たないみたいで、ーーー楽しい。
「…。絢人くん、公園で倒れてるとこにまことが救急車呼んだって…」 香澄の声が急にしょぼんと勢いをなくした。 「悪い。道すがら俺が勝手に軽く綾にも事情説明した」 まことくんは謝ったけど、俺はにっこりいつもどおり笑う。 「いいよ。香澄と別れたすぐあとだったから、香澄も気分良くないんじゃないかと思って気にしてた」まことくんが香澄に話すのは想像ついたし。「あれは香澄のせいとかじゃないよ。珍しく気分で行動したらやっぱりミスったっていうか。」 二人とも、意図的に俺の頭の包帯に視線をいかせないようにしてくれてる。これは家に帰る途中の道で捨てればいいや。今日一日まことくんちの布団で遠慮なくだらだらできたのは、包帯してたおかげであちこち汚すの気にしなくてよかったからだし、勝手にさっさと取らないでよかった。 「まことくんのおかげで検査とかも初めてできたし。考え事してたからぼんやりしか結果聞けなかったけど」 「初めて?」 二人が妙な顔をして俺のこと見てくるから、話すことにした。 「心臓とか弱いのも、俺が覚えてる限り病院にはかかったことない。名廊本家の人に仕事が医者の人がいるから、いつもその人が必要なときにちょっと診てくれる。医者は基本的に身内を診ないし、自宅に専門的な医療器具を私用で抱えるわけにいかないから、俺を診るのもあくまでその人の個人的見解の範囲内で、今回みたいにきちんと診てもらったことはないよ。ちゃんと病院にかかったのはたぶん脚の火傷で心肺停止したときくらい」 二人の顔つきがさらに剣呑になった。…正直口が滑って香澄に話しすぎた時、何をどこまで話したのか把握しきれてないんだよな…。今なんか俺やばいこと言ったのかな そのあと俺もなんとなくしょんぼりして黙ったまま、黙々とケーキを食べてたら「食べることだけはちゃんとするんだな」ってまことくんからつっこまれて、おかげでちょっと陰った空気がまた戻った。 またたわいもないこと話しながら食べてるうちに、だいぶ時間が遅くなってきた。
「あやとくんは泊まってけよ」ってまことくんになぜか決められた。 「綾は今夜どうする?」 「俺は帰るよ。少し遅くなっても連絡したら直人は車出してくれると思う」 まことくんは香澄と俺の顔を見比べながら軽く提案した。 「あやとくん、俺んちより親戚の直人さんちに泊まった方がいいってことあるか?」 俺はいつもどおり、直にぃに会うつもりはない、ってかんじのこと返そうとした、
そのとき俺の携帯に着信が入った。ーーーーーーきらきら星………
「絢人くんの着メロかわいいね」 香澄が笑って言う。オルゴール音のきらきら星。確かになんか癒される系の音してる。じゃないとかかってきた時ビビって俺の心臓とまっちゃうかもしんないじゃん、なんてのは冗談でも言わないけど。これが鳴るのは、設定してる一つの番号からだけだ。 「…家からなら無視でいいんじゃねえ?」 まことくんがさっき一瞬見せた目つきだけ剣呑な様子で、あえて声には重みを乗せないでそう言った。まことくんの言葉で香澄もその可能性に気づいたみたいだった。…なんで二人して妙に勘がいいの…俺まだ態度になにも出してないんだけど…。 「いや、家からっていうか、この人はただの親戚のお兄さんだよ。ごめん、ちょっと出るね」 いつもの調子で二人に笑いかけて笑顔で淀みなく通話ボタンを押す。あえて二人の目の前で堂々と会話した。 「ーーーーーーうん。………うん。…今夜はちゃんと帰るよ。……………うん、そうだね。忘れてた俺がどうかしてたかも。帰ったらそっちに顔出します」 向こうから通話が切られたから、俺も通話を終える。別に口調も最後まで普段どおりだったはずだ。笑みも絶やしてない。そのままタクシーも電話でここに呼んだ。急いだ方がいい。 「絢人くん、今…帰らない方がいいよ」 もう立ち上がって遠慮なくその場で服脱いでさっさと着替えてからコートを羽織ってカバンを手に取る俺に、香澄が躊躇いがちに言った。 「香澄、ラブホでやっぱちょっと俺余計なこと話しすぎたね。あんなのもうどれも何年も前の話だよ。問題の人は香澄も知っての通りすでに亡くなってるし」 「ーーーでも頭の怪我はつい最近のだ」 痛いとこつくな、ってかいつまでも大げさな包帯巻いてれば当然か。 香澄がうつむき気味に俺のコートの裾を掴んだ。その手の上に自分の手を乗せてそっと香澄に手を離させる。 「……香澄。俺が今住んでるのは、いろいろあったとこからちょっと離れた家で、そこで一緒に暮らしてる今の家族はみんないい人たちだよ。そこで暮らすための条件で、定期的に本家に顔出すってことになってたんだ。その約束うっかり破ったのは俺だから、それは謝んないとさ…」 「……、」 うつむいたままの香澄の眉が心配そうに下がっていく。…なんか直にぃと似てるな。夫婦になると似てくるってやつかな。 玄関先まで来て靴を履く俺に二人ともついてくる。まことくんが腕を組んで玄関横の壁に背をついて言った。 「約束破って帰るって。理不尽な報復が待ってるとしか考えられないけど」 俺の頭の包帯部分を指すみたいに頭を指差し指でトントンて叩いて示される。香澄もだけど、まことくんにも病院で俺が狼狽えたせいでもういろいろバレてるな。 「…。説得力ないのは自分でもわかってるけどさ、でもまだ約束すっぽかしたのこれが一回目だし。帰ってから会わなきゃいけない人は、アル中の暴力野郎とか我を忘れてキレるやばい奴とかそんなテンプレみたいな人じゃないよ。ちゃんと話せばわかる人。そんなやばいのじゃ医者とか務まんないからね」 あちこち嘘ついてる。生良の家に泊まってた時は「大学の友達と勉強会がある」って言ってたけど彼女いるのバレたっぽいし、どうも雅人さんの家にあの人がわざわざ来て桜子さんにいろいろ詰問していったみたいで、他にもあれこれバレたっぽい、結構やばい、それに、人間性の破綻した最低のクズ野郎にも医者は務まる。 「今すぐ帰んないと家の中でもっと俺の立場やばくなるって。」 そう言ったら二人とも黙り込んでしまった。 こんなに気にかけられると思ってなかった。…なにも話さない方が良かったのかな。でもなんとなく、話したいような気もしたんだ。前はもっと考えて行動してたのに…自制心が落ちてんのかな…。 そうこう言ってたらタクシーが前の道に停まる音が聞こえた。 半分引き留めるみたいな格好で見送ってくれる二人に、乗り込んだタクシーの中から笑って小さく手を振って、声は出さずに口の形だけで伝える
「 ま た ね 」
続き
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yururikurashi · 2 years
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入院グッズ記録𓍯 また万が一のこともあるかも知れないので 自分用の備忘もかねて 4歳の付き添い入院グッズをまとめました。 ◯救急車に乗ったときの持ち物 あわてていたので以下だけ持って出ました。 スマホ充電器と上着が自分的にグッジョブでした。 靴はスニーカーで出ちゃったけど、入院になると部屋でスリッパ代わりに履けるフラットパンプス(かかとつぶせるタイプ)が大正解だったので後から持ってきてもらいました。 ・保険証 ・医療証 ・母子手帳 ・おくすり手帳 ・財布 ・スマホ ・スマホ充電器 ・会社携帯 ・イヤホン ・オムツ、おしりふき、着替え1セット(いつもマザーズバッグに入ってるモノ) ・母上着(フリース系のビッグサイズのやつ羽織って出たら、病室で毛布代わりにもなり◎付き添い入院の親の分は掛布団もないのね…) ◯後から持ってきてもらった物 旦那さんに翌日持ってきてもらいました。 家のネットをポケットwifiにしておくとこういうときは助かりますね。 ・iPad(YouTube、知育系アプリ、お絵描きアプリなど暇つぶしと私のリモートワークにと大活躍でした) ・iPad充電器 ・会社携帯充電器 ・ポケットwifi ・wifi充電器 ・オムツ(トイトレ進んでるけど点滴繋がれてるうちはベッドから動けなかったので結構大量に必要) ・おしりふき ・ボックスティッシュ ・2人分着替え一式 ・マスク替え ・フラットパンプス ・子の靴 ・保湿クリーム、歯ブラシ、歯磨き粉(子用、母用) ・キシリトールタブレット ・母スキンケア類、シャンプーリンス(試供品) ・身体拭きシート ・ドライシャンプー ・タオル ・子用コップ、スプーン、フォーク ・余分の紙袋、レジ袋(荷物仕分け、院内コンビニ買い出しに便利でした) ・家にあったバナナ、みかん、おやつ、のりなどむすこの好きな食べやすいもの ・お気に入りの図鑑 ・クレヨン、色鉛筆 ・トミカ少し ◯院内コンビニで調達した物 ・割り箸、プラスチックスプーン(お弁当とか買えば貰えるけど、自分と子どもで使い分けたり余裕欲しかったんで買いました。病院食にはカトラリーついてこなかった泣) ・インスタントコーヒー ・母用コップ(コーヒー飲んだり歯磨きしたり) ・こむぎねんど(暇つぶしにめちゃくちゃ活躍) ・知育ドリル ◯あればよかったものなど ・子用スリッパor室内履き ・爪切り(病院で借りれたけど、使い慣れたものが◎) ・片手で遊べるおもちゃ(点滴やらモニターやらで手が塞がりがち。利き手塞がってるとクレヨンも持ちにくいのでお絵描きもしにくい) ・給水マット的なもの(洗ったコップやカトラリーを置いておける場所) 旦那さんが いろいろ家の中からリクエストしたものかき集めてくれたけど 大変そうだったので いざというときのために どこになにがあるか分かりやすくする収納は 改めて大事だなと思いました。 --- #入院グッズ #入院準備 #入院準備リスト https://www.instagram.com/p/ClgW-ufpqBH/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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gacchan-recipe · 2 years
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【レシピまとめ】味が染み込む美味しい食材◎油揚げPart2
味が染み込む美味しい食材◎油揚げPart2 #油揚げ #油揚げレシピ  過去投稿したレシピより 今日は我が家の #油揚げレシピ にピックアップしてレシピ をご紹介📝 味が染み込みやすく、いろいろな味や食材と相性が良い食材です!お財布にも優しく、我が家の常備食です🌱 バリエーションを増やしたい方ぜひご参考にどうぞ💡 #がっちゃんレシピ #料理好きな人と繋がりたい #料理好きな人とつながりたい
美味しい甘み◎いなり寿司 ① ご飯2人分に〈酢大さじ2・砂糖大さじ1/2・塩小さじ1/4・ごま大さじ1〉を入れて酢飯を作る ② 油揚げ4枚の上を菜箸を転がし(袋になりやすくなります!)斜めに切って2等分にする ③ 鍋に〈水80ml・砂糖大さじ1・酒大さじ1・みりん大さじ1・醤油大さじ1・顆粒和風だし小さじ1/2〉を入れて煮立たせ、②を入れて10分程度加熱し味が染み込んだら火を止める ④ ①の酢飯を8等分にしたわら型にしたら③を軽く絞って、油揚げの長い部分に酢飯を置き、丸めながら三角のポッケに入れ込む 投稿ページ Instagram 見た目も可愛い◎卵入り油揚げの煮物 ① 油揚げ2枚を箸で押しながら転がし、2等分にする ② 卵4個をそれぞれの油揚げに入れる(一度別の器に割ってから入れると入れやすいです) ③ 巾着の上をパスタか爪楊枝で止め鍋に並べる ④…
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myonbl · 4 years
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2021年1月1日(金)
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ここ数年、旧暦の日めくりを使ってきた。今年は、少し趣向を変えて<宙(そら)の日めくりカレンダー>を選んでみた。その日の<月の様子>が大きくプリントされ、下には宇宙に因んだ色んな出来事や人物、名言などが紹介されている。今日はガガーリンが<ロシアの宇宙飛行士>として紹介されているが、やはりここは<旧・ソ連の宇宙飛行士>とすべきだろう。歴史は正しく伝えなければと、昭和のおじさんの正直な気持ちである。
今日は全員休み。
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毎年、三が日に使用する祝い箸はツレアイが用意してくれる。吉野の間伐材を利用した杉箸を、それぞれの名前の入った手製の袋に入れてレッドリボンで仕上げてくれた。
雑煮は私の担当、鶏モモ肉の甘辛煮・かまぼこ・三ツ葉、それにお澄ましというのが私流、今年の餅は奥川ファームから頂いたアオサ入り。
家族それぞれ自分のペースでノンビリと、私はBSでラグビーの番組を楽しむ。
2021年元旦 BS1では、日本を熱狂させたラグビーワールドカップの桜の戦士たちの戦いを一挙、再放送する。大会前の世界ランク1位だったアイルランドとの一戦。日本ラグビー史に永遠に語り続けられる熱戦を、日本代表の司令塔、田村優選手、スクラムハーフ田中史朗選手とともに振り返る。さらには、すでに出場が決まった2023年、フランスW杯への意気込みもたっぷりとお伝えする!
2021年元旦 BS1では、日本を熱狂させたラグビーワールドカップの桜の戦士たちの戦いを一挙、再放送する。夢のベスト8進出をかけた相手は宿敵スコットランド。日本ラグビー史に永遠に語り続けられる死闘を、日本代表��司令塔、田村優選手、スクラムハーフ田中史朗選手とともに振り返る。さらには、すでに出場が決まった2023年、フランスW杯への意気込みもたっぷりとお伝えする!
スポーツは得意ではないが、見るのは何でも好き。中でもラグビーが一番好きかな、激しいコンタクトと厳しいルール、<自律のスポーツ>であることが大きな理由である。
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ランチは、昨晩も年越しに頂いた<深川ラーメン>と🍶、麺が美味しくつゆも優しい。
昼酒が効いて、軽く午睡。
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腹ごなしのウォーキング、梅小路公園3週コース、45分/4.5km。
明日は次男が仕事、早めの夕飯準備。
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今年もお節は京都大丸、大原千鶴さん監修のものを選択。4人用の三段重、種類が豊富、味も良し、十二分に満足出来た。
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今夜のワイン、毎年私の誕生日にO君が送ってくれるジョージアワイン、味の濃さとボトルの重さが比例する逸品、感謝していただく。
早めに切り上げ、早めの入浴。
またもテレビ。
偉人たちの至高のレシピ~京都・板前割烹の献立帖~
客の目の前のカウンターで料理することを日本で最初に始めた京都の板前割烹。昭和の初めから多くの著名人がその技と味を満喫してきた。谷崎潤一郎の好物はハモ椀、湯川秀樹は胡麻豆腐、川端康成は何とハムエッグ!こうした料理はいかにして生まれたのか。チャップリンのウズラ料理、女優グレース・ケリーの伊勢海老とは?中村吉右衛門や有馬稲子も“ごひいき”として登場。数々のエピソードとともに、至高のレシピを味わい尽くす。
これ、録画しておけば良かった!
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例年元日に酒を共にするW姉、会えないところからかこんな本を送ってくれた。
落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ (ちくま文庫)
ちゃんと聴いたことがあるのに、そのうえで興味が持てない。落語は落ちが命、と言われるのに、落ちの何が面白いのかさっぱりわからなかった…。そんな人は案外多い。「落語は面白くないのがあたりまえ」から始まる落語案内。桂米朝、古今亭志ん生ら噺家はもちろん、カフカやディケンズ、漱石まで登場し、耳の物語・落語の楽しみ方を紹介する、まったく新しい入門書。
いやぁ、面白い! 教えてくれたW姉に感謝!
今年から、<日誌>はその日のうちに準備することにする。
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今年も、<3つのリング完成>を日課として頑張ろう
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poddyshobbies · 4 years
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駅弁
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Boxed meal (e.g. at a station)
今日は SL 鬼滅の刃の運行二日目。列車と言うより人出を撮影するために停車駅の鳥栖駅に出かけました。帰りは災害で不通になっている久大本線の代行バス区間に乗車して、ぐるっと回り道をしてきました。大分から乗車した特急電車ソニック50号でしたが、黒崎を出発して次は終点の博多とアナウンスがあったのもつかの間、停車するはずのない福間に停車しました。けやき台駅と基山駅の途中の踏切で列車が通過した際に停車中の車に木片が当たったため、現場検証が行われているということで、博多駅に着いたのは66分遅れになりました。
それはそうとして、今日は三食すべて駅弁になりました。そして思いもよらず、昼と夜の弁当は鳥栖の中央軒というお弁当屋さんのものでした。昼は初めからわかってましたが、まさか博多駅で買ったものまでそうだったとは思いもよりませんでした。
前回は右の「源次郎」 で購入したので、今日は左の洋風丼ぶりのお店で購入。朝のワンコイン割引中でした。どれでも500円。
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博多駅の5・6番のりばのベンチでいただきました。「チキンのガパオ」です。ちょいピリ辛。
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お昼は鳥栖駅で定番の焼売弁当(税込み740円)を購入。
豊後森行きの特急ゆふ3号の車内でいただきました。
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鳥栖駅改札横のうどん屋(駅弁の売店)は大忙しでした。また、ホームのうどん屋(売店)も営業してました。
豊後森駅から代行バス
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代行バスは庄内駅まで。普通列車に乗継。その際の様子などをアップしたいのですが、未整理・未編集のファイルがたまっていく一方でいつになるかわかりません。
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大分駅 ~ 17:44 発、博多行きソニック50号
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福間駅でコンテナ列車と並んで信号待ち。
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66分遅れで博多に到着 ~ 遅れてなくても駅弁を買って帰るつもりにしてました。
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自宅で
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このお店はレジ袋付きで販売してます。
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「あれ~」、開けてびっくり。昼と同じお箸が付いてました。
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鳥栖の中央軒の製造でした。まさか、お昼とかぶるとは…。(内容は全く違いますが。)
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税込み930円でした。で、やはり駅弁は列車の中が一番です。特急列車の中で、しばしぜいたくな気分になれました。
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malaycurry · 4 years
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京都のおいし~お店紹介
そろそろ京都のおいし~ご飯屋さんの情報を残しておかないと勿体ないと思ったのでここに残していきます。写真は用意するのが面倒臭かったので代わりにGoogle MapのURL載せておきます。各自飛んで情報をご確認下さい。紹介するお店は京都に住む学生の日常として過ごすならなではなお店ばかりですので、京都らしい湯葉とか懐石のお店とかはないです。京都来たのに一回も食べれてない。たべて~!
 庶民 立ち飲み にんにく丸揚げ・さつま揚げ・刺身3種盛
京都で一番安くて美味しいお店はどこかと聞かれたら、まずはこのお店を紹介するようにしています。とにかく安い!!生ビール(250YEN)。芋焼酎(200YEN)。この二つだけでも既に最強のお店って感じがしますが。庶民の本当に凄いところは、肴も安いところです。絶対に頼んだ方が良いのは、ニンニクの丸揚げ(100YEN)、さつま揚げ(150YEN)、刺身の三種盛(500YEN)この三種盛は必ずしめ鯖が入っているのですが、個人的には抜いて別のお魚を入れてもらった方がお勧めです。庶民は本当に混んでいるお店なので、ナイジェリアの市場ぐらい人でパンパンです。灰皿は頼まないと出てこないので気を付けてください。喜劇の上回生で後輩に奢りたいけど、お金が……という人はここで奢れば無問題です。3人でたらふく食って飲んで3000円行くことはまあないです。ただお店の狭さと立ち飲みであることを踏まえると3人ぐらいが限界の人数だと思います。先輩後輩だと3人ぐらいの飲み会が一番楽しくない?俺はそう思うぞ。この庶民の辺りは大宮という飲み屋街なので、ここを一軒目にして、そっから遊び狂うのが正解だと思っています。銭湯もあるので飲んでから銭湯行くも良し、風呂使ってから飲むも良しです。未だにどちらが正しいのかがよく分かんないままだけど。
 https://goo.gl/maps/ec3VGC5BYK3GLPkMA
 バール・カフェ・ジーニョ 喫茶店 コーヒー・サンドイッチ
個人的な思い出がいっぱいのお店です。今住んでいる家はこのお店があるから近くに住みたいという理由で決めました。それぐらいこのお店の居心地は良かったんです。サンドイッチ200円、コーヒー200円なのに、京都で一番美味しいコーヒーとボリュームのあるサンドイッチを出してくれます。ブラジルの国旗がお店の前に���げてあるので、僕は「ブラジル」と呼んでいましたが本当の名前は全然違うし、かっこよかったです。申し訳ないです。昔はタバコが吸えて、授業の合間にこのお店で涼んでゆっくりしてからまた大学に戻るというのを繰り返していました。タバコが吸えなくなって久しいですが、それでもここを訪れる価値はあると思います。
 https://goo.gl/maps/fkqrKJPBKhwdLNYL9
 村屋 居酒屋 酒盗クリームチーズ 日本酒
昔は少し駅から遠くにあって、古い木の建物とネオンが異質の雰囲気を放っていた店でしたが、ある日突然の閉店がアナウンスされ、絶望していました。しばらくして後輩のユヅキと一緒に銭湯の脱衣所で「村屋無くなって寂しいなあ、あのお店の代わりは見つからないよ~」と喪失感を共有していたら、「あるよ。村屋復活するよ」と知らないおじさんから急に情報が与えられ、おじさんの言う通りに村屋は場所を変え復活しました。
京阪出町柳駅から徒歩一分、後輩のオダギの家からは徒歩30秒の場所に復活した村屋は、記憶と違わない怪しいネオンを光らせています。お勧めはその日のメニューの中から味の濃そうなおつまみと酒盗クリームチーズ(300YEN)を頼んで、焼酎(350YEN~)日本酒(400YEN~)泡盛(300YEN~)を注文し、酒盗クリームチーズを箸の先っちょに乗せ、箸までねぶってから酒を入れることです。これさえあればあとはどうでもいいと思わせてくれる、そんな味です。現在もタバコが吸える店且つ夜が明けるまでお店を開けていることが多いので、呑んでいい気分のまま朝焼けの鴨川デルタに突撃するのもハチャメチャに楽しいですよ。眠たくなったらオタギが優しく泊めてくれる立地ですのでぶっ倒れるまで飲んでいただいても大丈夫です。
 https://goo.gl/maps/pEDQSEY3wokFeiAy7
 イルカ喫茶バー カクテル
バイト先の京都造形大に通っていた人から紹介してもらったのがこのバー、閑静な住宅街の中にありながら、かなり本格的で多様なカクテルを飲むことができます。値段も財布に優しく、カクテルは基本的に300円から、スナックは200円くらいからだったと思います。チャージの概念はもちろんないので、京都で初めてバーに行きたいと思ったら、このお店は三条四条のお店より落ち着いていて、メニューにカクテルの詳細が載っていますし、結果的に満足できると思います。昔は吸えましたが、時代の流れということでダメになりました寂しいですね。
 https://goo.gl/maps/6VsvjtBEDAgJ8yPs9
 かふぇじーの 喫茶店 ポットコーヒー
大徳寺の近くにあるジャズ喫茶です。窓からの景色がいいのと500円のポットで頼むとコーヒーが二杯飲める量が来るので、長居に向いています。本が雑多に置いてあるので適当に読むも良し。マスターは気さくに対応してくれるので、空いてたらカウンター側に座るのも良しです。かなり中心部から離れているので、時間があるときに訪れてみると良いと思います。昔は吸えましたが今はもうダメです。残念!しゃあない!
 https://goo.gl/maps/MKBoNYyTeNbnbzcv9
 丸二食堂 定食屋 焼きめし
「炒飯」と「焼きめし」は確実な断絶があり、一度「炒飯」を作れるようになってしまうと、二度とお袋が作ってくれる「「焼きめし」」は作れなくなってしまう。
というのが僕の好きな漫画である「がらくたストリート」の中で語られていました。実際に中華屋で頼む炒飯と定食屋で頼む焼きめしは不思議と違いがあると皆さん感じますよね?僕は感じます。僕はその断絶はパラパラかベチャベチャかでその違いが決まると思ってます。
 長々と話をしましたが、炒飯のNo1のお店は未だによく分からないままです。でも焼きめしのNo1、キングオブ焼きめしを出す店はこの丸二食堂であると自信を持って言えます。揚げ物やボリュームのコスパで語られることが多い丸二ですが、本当に頼むべきはここの焼きめしです。確か大盛で500円だったと思いますが、コスパとかそういうものは関係なしにここの焼きめしはめちゃくちゃ美味いです。ほんのりと香るニンニクと湿った醤油の焦げた匂いのする焼きめしは、他のどこも敵うことのない美味しさです。注文は入り口に置いてある、紙とペンに書いて一応口頭でもお願いするといいです。ジャンプ、サンデー、チャンピオンが置いてあって、あまりマガジンを読まない僕はこのチョイスが最強です。因みにオダギの家には大量のマガジンが置いてあります。マガジン派の方はオタギの家にGO!!昔は畳の座敷でタバコが吸えたお店でしたが、よく子供連れの方も来られていたので、禁煙にして良かったと思えるお店です。
 https://goo.gl/maps/99r5a7r4kumUJ8x48
 國田屋酒店 角打ち ハートランドビール
色んなビールが世の中にはありますが、このお店では三大ビールではないハートランドの樽生が飲めます。飲み方としては、まず土曜日の午前の11時近く遅めの時間に起きてもらって、何の予定も、やりたいことも思い浮かばなかったら適当な昼飯を食べて、このお店の近くの銭湯で、浴槽でのんびりしてサウナ入ってからここに向かいましょう。そして700円の1リットルのジョッキを頼んでちゃっちゃっと飲み干しましょう!以上!
まあ普通に美味しいビール飲みたくなったら行ってもいいと思います。ここは酒屋さんなだけあって日本酒の種類も豊富で200円でちっちゃなコップ、400円で大きなコップで色んな日本酒を飲めます。ビールも日本酒もあまり好きじゃないという方は、季の実という美味しいジンをトニックで割ったジントニックが素晴らしく美味しいので是非飲んでみてください。酒のおつまみは缶詰やソーセージ、ベビースターなどがメインでTHE角打ちって感じです。因みに巻きたばこの無料試吸があって手先が器用な方なら無限にタバコ吸えます。良心が傷むギリギリまで吸っちゃってください。後輩のユヅキ君は5,6本吸ってました。僕はいつも1本にしてます。
 https://goo.gl/maps/egWE87zE8E3USEbe6
 キッチン瑞穂 洋食屋 クリームコロッケ
京都はハイカラな洋食屋さんが多くて、その中でも学生に優しくて美味しいお店はこのキッチン瑞穂です。ここは夜でもランチが頼めるのでそれを頼むとパンかご飯を選べて、サラダも付いてくるのでオススメです。特にコロッケランチ(640YEN)を食べてみて欲しいです。 急ですが実家にいたころ、ステーキメインのお店なのにそこのクリームコロッケカレーが美味しいからとよく家族で行ってたのですが、正直カレーよりも、そのお店の水槽がとっても大きくて綺麗だったことの方が印象的だし、一回もステーキ頼んでないのおかしいんじゃないかと思います。頼みたかったのに何故か頼ませてくれませんでした。食べたかったなステーキ。そういう訳であまりクリームコロッケに縁を感じることもなく生きてきたのですが、ここでぶち当たりましたねクリームコロッケの縁に。クリームコロッケに興味を持ったことない人にこそ食べて頂きたいです。小さなエビが入っていてパンにもご飯にも滅茶苦茶合います。カツカレーもとっても美味しくてボリューミーなので腹ペコだったらそちらも是非!昔は洋食屋さんなのにタバコが吸えるというかなり珍しいお店でしたが、今は不明です。どちらにせよ良い店です。
 https://goo.gl/maps/rCh3buQg6apqQiNR8
 京香園 麻婆豆腐
京都は中華料理屋さんが多い割にしっかりとバランス型の中華をしてるお店が見つかりづらかったりします。どうしても日本よりの味付けになっていたり、本場により過ぎて留学生しかいってないようなお店だったりで、言葉にするのが難しい丁度良さがあるんです。丁度良さを持ってるお店は基本的に値段が張るお店だったりするのですが、この京香園は丁度良さのどストレートを行くお店です。回鍋肉も、チンジャオロースもとても美味しくご飯が止まらなくなるのですが何といってもここは麻婆豆腐!ここの麻婆豆腐を激辛で食べてください!辛いのが苦手な人は他のメニューを食べてもいいです。普通のマーボーは美味しいけれども、圧倒的ではないです。ここの激辛麻婆豆腐は酢漬けの唐辛子が入っているのがポイントで、この唐辛子のおかげで米の進むスピードが∞kmになります。激辛と普通のマーボーで体積が二倍ぐらいになるので、激辛にしてくださいを必ず言った方が良いです。じんわり汗をかくタイプのマーボーで激辛と言いつつも辛いのが得意な人なら気軽に頼んでもらって大丈夫です。因みにここは府上の元下宿先が近くて二人でよく行ってバクバク食べてたら元々おかわり無制限だったのが、2杯までになりました。人生でおかわり制限食らったのはここで2度目だったのでかなりショックでした。大盛は自由なのでお腹が減ってたら一発目から大盛で行きましょう!禁煙!
 https://goo.gl/maps/e2kaXTaGVj7RRbNR6
 トレド 焼きそば
喜劇の皆はここで何度腹いっぱいにしてもらって、ビラ配り後の飯タイムで大量の後輩に奢る時ここに何度救ってもらったんでしょうか。数えられんぐらい行ったし、同じだけ笑ったお店だと思います。焼きそば、ナポリタン、カレー、サンドイッチ、基本400円でセットにするとコーラかコーヒーを付けて700円という安さ。
長居のしやすい空間、一人でホールを回すせわしないおばちゃん、面白い形の灰皿、トイレに行くまでにある京都特有の町屋の中庭、お金を入れるだけの機械になっているレジ、頼んだら出てくるでっかいマヨネーズ。小さなお店だっただけに細かいところが手に取るように思い出せます。
今は閉まっちゃっていていつ頃再オープンするのかが未定のお店ですが、皆の思い出の場所だと思います。この店は僕が最初に発見したことを今でも後輩に自慢散らかしています。因みに後輩のミヨシはこのお店があまりに長く閉まっていたのを心配して、お店の前に置手紙を残したという一歩間違えたら怖すぎる奇行をやらかしてます。その行為自体、俺は素晴らしいと思うけど、同志社OBという全くの別人格として手紙を出すのはズルだと思うぞ!
 https://goo.gl/maps/zhpV89bAMvM2pT8G6
 スペースネコ穴 ??
一番店じゃない店。ここはお店として紹介するのが変な感じになる居酒屋?さんです。検索してもらったら分かると思うのですが、店内が本当に無秩序。他のお客さんがつまんでいる料理を一緒につまんでも全く問題ないですし、勝手に冷蔵庫を開けて横の栓抜きで赤星を開けて飲むのがルールです。蓋は床に放置して大丈夫です。ユヅキと一緒に初めて行ったときの思い出は、ウィスキーとコーラが置いてあったのでコークハイをお願いしたら、「どっちも他のお客さんのキープしているもので出来ないの」と店主さんに断られ、しょげてると「あったあった」と言って代わりにテキーラとジンジャエールが出され、ジョッキに7割程テキーラが注がれて、ほんの少しのジンジャエールをちょぼちょぼと垂らして出されました。飲みながら死を覚悟し、横目に猫がこたつを横切るのを見ました。その後それを飲み干したユヅキはダウンし、僕はトイレに駆け込んで全部戻してから意識を無くし、店主さんに「もう家出るから、起きて」と優しい声で起こされた時にはもう朝になってました。そしてお会計の時に「う~ん、ビールとこれとおつまみと…」数秒程考えてから「うん!1500円!」という衝撃の値段が飛び出てきました。自信を持って言われましたが、チェックすらまばらで曖昧な会計をしてあんなに自信のある「うん!」を僕は聞いたことが無いです。普通に一晩寝させてくれていたという事実に衝撃を受け同時に底の知れない優しさは時に恐怖を生むのだなと考えさせられたお店です。
他にも僕、府上、ユヅキで午後10時頃お店を尋ねたところ、店主さんは他のお客さん数名を楽しくお話をしていたので僕らでしっぽりと飲んでいたところ急に「私、この人達と飲みに出かけるから、このお店好きにしていいよ!適当にコンビニとかで買ってここで飲んでもいいし、適当に飲んだら適当にお金置いてって!」と店主。と?今、冷静に書いていると明らかにおかしいです。狂気すら感じます。僕らがお店のお酒を勝手に飲んで、お金すら置かずに帰ったら?当時ですら色々な疑問が浮かびましたが、先に飲んだお金だけ先に支払いました。その後、雨の中皆でコンビニに行き初訪問時に飲めなかったコークハイを作って、勝手にFishmansやThee Michelle Gun ElephantのCDを勝手に流して飲めや歌えや踊れやで爆笑し続けました。世の中には当たり前が溢れすぎていて、生き続けると考え方が段々と固まってしまって、当たり前で社会は回っていて、その当たり前すら否定するのがスペース猫穴です。宇宙もこんな未知で溢れていて欲しいですね。エピソードは他にも腐るほどあるのですが、気になったら聞いてください。
 https://goo.gl/maps/k9KHXTkkYD1dMZXL6
 色んなお店を思い出と共に語ってきましたが、とりあえずここら辺にしとこうと思います。他にも紹介したい店や書きたいことはあるので、たまに書こうと思います。あと、もしあなたがどこかに住んでいて、お気に入りのお店があったら匿名でも何でもいいので教えてくれると嬉しいです。近く行ったら寄ります。では!
       おわり~(100%)
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chirinovel · 5 years
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桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
 「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べてね」
と家を出て行った。
中学の時に一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
 地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だって、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に刻まれた、我が名四文字の美しきかな。        
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高い声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
 いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかける。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働音だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分を仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙し騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて固まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入って来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ばれて香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「はい」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気を遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを理由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠けたものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付けられた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その挙動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また優しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「ご飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を委ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女の席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空いた席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ、元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。 
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」 
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行ってたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
 教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生を確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはとっくに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ。
駐輪場で���たもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室さんだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感は、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実もまた、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
 「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花ちゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだな。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは緩んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物の肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら、捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
���りあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインターホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らしても、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じきるか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、不安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあのスマートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違い���一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺してやろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度も、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつもこんなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
 柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケーだったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟きをBGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」  
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よろめきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレーを温めている。
「おかえり、お前の分も温めてるよ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくると、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いたくない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。枕カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達に、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄っぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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gallery-f · 5 years
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コンビニおかずで手軽にうどん
12/1/2019
用意したもの:タイマー、雪平鍋、お湯、うどんだし少々、味しみ鶏大根(半熟玉子)、うどん(半生)
手順
今回用意したうどんは「りつりん印 讃岐うどん 半生」昨日釜揚げで食べてみて美味しかったので今日はちょっと工夫を加えました。
雪平鍋に(普通の片手鍋で代用可)お湯をたっぷり沸かし、好きな量のうどんを入れます。ぼくは炭水化物でお腹いっぱいにしたくない人なので、少なめ。袋の後ろを見ると茹で時間10分と書いてあったので、ニワトリ型の手動タイマーで6分を設定。
じりじりじり、と鳴った時点で一人用ケトルに水を入れてお湯を沸かします。
セブンの味しみ鶏大根ですが、500wで2分30秒。うちのは700wなので、1分半に設定して温めます。
ケトルの水が沸く前、暖かい感じの時にお気に入りの鉢を出し、ケトルから少々のお湯を入れて鉢を温めます。
で、大体うどんが柔らかくなり、菜箸で持ち上げてみて半透明になって来たので火を止め、鉢にうどんのみ入れます。
その上から、味しみ鶏大根を汁ごとかけまわし、鶏は鶏、大根は大根と並べて上からケトルのお湯をほどほどに入れます。この汁は辛いけどうどん用ではないので田舎から送ってくれたうどん出しをほんのちょっと隠し味に。
なかなかうまかった。汁はやはり塩辛いので味付け用と割り切ります。
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maki0725 · 5 years
Text
Klavquill 1-6
Maybe I have to learn how to connect the articles(the former parts of the idea). They look messy a little. Next time I try it(`・ω・´)
Many Japanese people usually spend new year holidays(12/29-1/3) with their families but they hardly have them so they are gathering... And it’s usual for Japanese to have year-crossing Soba(for long life) and go to first visit to a shrine (some people go right after midnight and some people go daytime). Japanese people are not religious at all in many cases, first visit is a regular event. Going to Shinto shrine or Buddhist temple are both okay (some people go to them continuously).
記事同士を繋げられるはずなんですけど、よく分からないので放置しちゃってます。でも他の記事も混じってごちゃごちゃしてるので次はやってみたいと思います!
At 6 p.m. on New Year’s Eve, WAA has a cheerful vibe. New Year’s Eve is always special but Apollo Justice has come back today for the first time in six months, it makes the day more special. Trucy and Athena are so excited.
“Polly! Cook the hotpot for the first time in a while!”
“Me!? I just got back today noon!”
“You are the best cook here”
“She’s right, Herr Forehead, you should be nice to the girls”
Apollo starts to cook reluctantly in the tiny WAA’s kitchen. They have already bought foodstuff, Gavin and Simon paid for it. Gavin suggested that in exchange for WAA’s offering the place. Though he seems to have meant to make Apollo cook, he leaves the kitchen and comes to the reception where Simon and Phoenix sit. They have already set the portable gas stove, paper plates, cups and disposable chopsticks. He takes a refined bottle out of the paper bag brought with him.
“This is for the girls”
“Don’t tell me it’s alcohol, do you?”
“No way, soda”
Simon has a doubt only for a moment because it looks like a bottled wine but Gavin never lets the underaged girls drink. It is proven by the backside label that Simon has checked inconspicuously.
“This is for you, Mr. Wright”
He offers the adult lawyer a different kind of joy, that’s not Simon’s business.
“Doesn’t our chief come?”
“He is coming about when today will become tomorrow”
“Oh, we’ll just miss each other”
They are planning to have year-crossing Soba and go to the shrine near the office at midnight. After that they break up the gathering.
“Prosecutor Franziska von Karma has got back in private”
“Really? I wish I could see her”
“Do you know her?”
“We’ve met in the U.S.”
“She wants Edgeworth to see someone today”
“Ah......is that a happy event?”
“Yeah, it’s marriage announcement practically. Have you ever met her, Blackquii?”
“......No”
Simon hasn’t seen her in person but of course he knows her. She is Edgeworth’s sister-in-law in a way inspired by von Karma, now she takes the phantom case as a competent international prosecutor......the progress of the case is classified as a top secret, Simon can’t get any information about it though he has been involved in the case.
He was questioned by Edgeworth in connection with the UR-1 case and the statement has been sent to her with all of the evidences. He can never take the case that he can never forget till the end of his life, the remorse for it keeps haunting him.
“Dinner is ready!”
Trucy is leading Apollo taking the hotpot with him for the reception. He sets the steaming pot on the portable gas stove and turns on it.
“You can have it right now”
“Oh, let’s get started”
The small party starts with Phoenix’s toast. No one talks about the similar party that should have held a few days ago. It is mainly because one of the the central figures has been in Khura’in though if it was Apollo who played Simon’s part they must have teased him.
They talk about Apollo’s daily life in the foreign country almost all the time(the girls are so excited), Gavin sometimes joins the conversation but almost every time he and Phoenix drink and talk quietly. Simon sips Sake sold in a glass tumblr little by little rubbing Taka’s chin.
He has to feed Taka. Simon leaves inconspicuously and enters the small kitchen in where there is still some raw meat. Though he and his little partner find much more fresh prey right after the entry, Simon let Taka aim at the poor mouse next to the shabby wall.
“Go, Taka”
Athena comes to the kitchen for another food or something and finds them.
“Simon, you’re here......oh, good job Taka!”
“Don’t be noisy, it might raise the dust. I would thank you for Taka’s sake, have you cleaned here properly?”
The rest of the members have gathered in the kitchen hearing Athena’s voice.
“Ah......not so often as Apollo was here......”
“I’m busy at magic......”
Apollo rolls his eyes when Athena says that they did the year-end deep cleaning on the last day of the work.
“You did!?”
“You are rude, Polly! Daddy is bad at cleaning!”
“Me!?”
Phoenix gets surprised when suddenly his daughter starts pointing her accusing finger at him but he admits he isn’t a good cleaner and suggests that they will clean the office on the first day of the work(January 4th).
“I see......we were wrong about depending on Apollo too much......”
Simon thinks that it must be the cleanest on the first day of the work but he is hesitant to say it as he has come here on a holiday and he helps getting the office messy. Apollo says that he is going to make a Japanese omelette to his co-workers as if he were cheering them, they grow lively. Apollo’s cooking is great.
“What are you doing tomorrow?”
Apollo asks the girls taking a hot omelette from the kitchen. He says he is going back to Khura’in tonight, his ex-boss asks him if he starts working tomorrow fearfully and he gets “Yes”. He sighs starting having a slice of the omelette.
His daughter declares vigorously making fists.
“The new-year magic show! The best time to make a profit”
She has become popular remarkably, she can hardly have holidays as same as Apollo. Athena has got a late start because omelette is stuffed in her mouth.
“(Mumbling) I’m going to the first visit to the shrine and new-year sale with Juniper!”
“It’s not first visit”
They are going to go to a shrine tonight. Simon has a slice of the omelette. It is good, so juicy.
“No problem! It’s first for me and Juniper. I’m going to go to her home next morning and we have new-year dishes her gramma made, they are so good! I had all of them last time”
“Don’t tell me “all” means all of the lacquered boxes......?”
“Of course it is, I also got the second helping!”
“Be modest, Athena”
“Oh, Simon, Juniper’s gramma was really pleased! She said that she felt like she had have another granddaughter”
Simon can’t say anything because she looks so happy.
“I have to go to sleep as soon as I get home tonight to have my stomach empty”
“......You’ll have Soba in a while”
Whet Soba shop is going to deliver year-crossing Soba before midnight, Simon already paid that as treat for the party.
“It’s a piece of cake for you, Athena”
“Exactly!”
She laughs brightly and it lightens Simon’s mind.
Gavin says nothing and Simon keeps silence about their plan. He didn’t talk about the plan to even Athena. He doesn’t care if the other members come to know their interaction but he would be embarrassed slightly for some reason. It’s a good point of this meeting that they leave someone saying nothing.
大晦日の午後6時、成歩堂なんでも事務所は賑わっていた。ほんの数日前にも同じような集まりを持ってはいたが、やはり大晦日はいつにない雰囲気がある。とりわけ今日は、王泥喜が半年ぶりに帰って来ているのだ。みぬきや心音のはしゃぎぶりは格別だった。
「オドロキさん! 久しぶりにお鍋作ってください!」
「オレが作るのかよ⁉︎ 帰ってきたの今日の昼だぞ!」
「だって先輩が作る方がおいしいですし……」
「そうだよおデコくん、お嬢さん孝行しなきゃ」
皆にせっつかれ、王泥喜は渋々事務所の狭いキッチンに立つ。材料は既に購入されていた。費用は夕神と牙琉で持っていた。牙琉が、成歩堂には場所を提供してもらうから、自分たちで負担しようと言ったのだ。
とはいえ、牙琉も調理は王泥喜にさせるつもりだったらしい。王泥喜と、まとわりつく少女たちを置いて、彼は応接スペースに戻ってきた。夕神と成歩堂に加わり、彼は持参のボトルを洒落た紙袋から取り出した。テーブルには既にカセットコンロが据え付けられ、割箸や紙皿が置かれている。
「お嬢さんたちにはこれを」
「オイ、酒か?」
「まさか、ジュースだよ」
ワインボトルのような風体に一瞬疑念を持ったが、牙琉に限って未成年に飲酒を勧めることなどあろうはずもない。さりげなく確認したラベルの表示もそれを裏付けていた。
「成歩堂弁護士さんにはこちらを」
とっくに成人している所長弁護士には、おそらく別の楽しみを提供するつもりなのだろう。そちらは夕神の与り知るところではなかった。
「局長は来ないんですか?」
「んー、年が明ける頃には来るとか言ってたよ」
「それじゃ入れ違いですね」
年越し蕎麦を食べ、除夜の鐘を聞いたら近所の神社に行き、その後解散という流れとなっていた。
「狩魔冥検事がプライベートで戻って来てるんだって」
「そうなんですか。ぼくも挨拶したかったな」
「知り合いなの?」
「アメリカでお会いしましたよ」
「今日は、御剣に会わせたい人がいるんだって」
「へえ……それは、おめでたいことでいいんですか?」
「まあね。会わせるったって、あいつも会ったことはあるけどね。実質、結婚の報告ってとこかな。きみは会ったことあるかい? 狩魔検事」
成歩堂が夕神に話を振る。
「いや、……ねェな」
直接会ったことはなかったが、名前は知っていた。狩魔の薫陶を受けた御剣のいわば義姉妹、今はーー亡霊事件を担当する敏腕国際検事。事件の進捗については極秘扱いとされており、関係者の夕神にも伏せられていた。UR-1号事件における関わりについては、既に御剣により聴取を受け、関係証拠とともに彼女に送られている。生涯忘れることのないだろうその事件を、もはや自分の手で追求できなくなったことの悔恨は苦く夕神を苛む。
「お鍋、できましたよ!」
鍋を持った王泥喜を先導し、みぬきが応接スペースにやって来る。カセットコンロの上に、既に湯気の立った鍋が下ろされ、コンロが点火される。
「もう食べられますよ」
「それじゃ始めようか」
成歩堂の音頭でささやかな宴席が始まる。本来であれば、ほんの数日前にも似たような光景が繰り広げられていたはずだったが、誰もそのことに触れない。当事者の一人がクラインに発っていることもあろうが、もし夕神の立場にあったのが王泥喜であれば、格好の揶揄いの的になっていたと思われた。
話題の中心はやはり海外に在る王泥喜の日常生活で、女子二人の愉しげな声が響く。牙琉は時折口を挟むものの、終始穏やかに成歩堂と杯を交わしていた。夕神は言葉少なにコップ酒を飲みながら、連れてきたギンの顎を撫でていた。彼にも食事をさせなければならない。まだ台所に生肉があるだろう。ひっそりと中座して台所に向かうと、パック詰めの肉よりももっと活きのいい、小さな齧歯類が壁際に顔を覗かせていた。夕神はニヤリと笑い、目を輝かせる相棒をけしかける。
「行け、ギン」
「クエ!」
ギンが丸々と肥えた哀れなネズミに狙いを定めた瞬間、飲み物か何かを取りに来たらしい心音が台所に入ってきた。
「あ、夕神さん! こっちにいたんで……あっネズミ! きゃあギンくんすごい!」
「うるせえ騒ぐな、ホコリが立つ」
ギンは当然の如く一撃で獲物を仕留め、夕神の陰でバリバリと貪る。
「ギンにとっちゃありがてェがな、おめェらちゃんと掃除してんのか?」
心音の声を聞きつけて他のメンバーも台所に顔を出した。
「うーん……先輩がいた頃ほどは……」
「みぬきも忙しくって……」
仕事納めの日に大掃除したんですけど、という心音に、王泥喜が目を剥く。
「これで⁉︎」
「シツレイですねオドロキさん! パパが掃除できないからって!」
「ぼく⁉︎」
急に標的となった成歩堂は、確かにできないけど……と複雑そうに娘と部下を見る。
「分かった、仕事始めの日はみんなで掃除しよう」
「そうですね……先輩に頼り切りだったのがいけないんです……」
仕事始めの日など一年で一番事務所が綺麗な状態ではないのかと思われるが、休日に押しかけ台所や応接スペースを汚している立場であれこれ言うのは憚られた。
王泥喜が、気落ちする同僚たちを慰めるように追加で出汁巻き卵を焼くと言うと、少女たちが色めきたった。王泥喜の料理は偉大なようだ。
「みんな明日は何するの?」
湯気の立った卵焼きを運びながら王泥喜が問いかける。オレは今夜帰るけど、とのあっさりした声に、早速出汁巻きに箸を伸ばしていた彼の元上司はまさか明日から仕事?との問いに肯定で返され、嘆息する。その娘は力強く拳を握り、勢いよく宣言した。
「新春マジックショーです! 稼ぎ時ですよ」
すっかり売れっ子になった彼女は、王泥喜同様正月休みもろくにないらしい。心音は口に卵が詰まっていたため話に出遅れていた。
「むぐ、わたしはしのぶと初詣に行ってから初売りです!」
「初詣じゃねェだろうが」
その前に、夜のうちに神社に詣でるのだから。
夕神も出汁巻を摘まむ。出汁がじゅわりと滲み、美味い。
「いいんです、しのぶとは初だから! 朝からしのぶのお家でおばあちゃんが作ってくれたおせち頂くんですよ、とっても美味しいんです」
わたし去年ぜーんぶ食べちゃいましたよ! と明るく宣言する後輩弁護士に、王泥喜が恐る恐る確認する。
「全部って、まさか重箱全部?」
「もちろんそうです。あ、おかわりも出してもらいましたよ!」
「おめえな、ちったァ遠慮しろ」
「だって、おばあちゃんすごく喜んでくれましたよ? しのぶは少食だし、孫がもう一人できたみたいだ���て」
そう言われると言い返せなかった。
「だから今日は帰ったらすぐ寝てお腹空かせないと」
「……これから蕎麦もあるんだぞ」
年明けの前に、夕神が内館庵に手配した年越し蕎麦が届くことになっていた。費用は夕神持ちで、一応これを持って差し入れとしてある。
「希月さんなら朝飯前だよね」
「確かに、朝ごはんの一食前ですね!」
「そういう意味だったっけ?」
成歩堂が首を傾げる。外国暮らしで日本語の語彙を失っているのか、夕神が若干不安を感じていると、心音は「冗談ですよー!」とコロコロと笑う。本気か否かは神のみぞ知るが、心音の明るい笑い声は夕神の心を軽くする。
牙琉は何も言わなかった。夕神も誰にも何も問われない。明日のことは心音にも話していなかった。知られて困ることはないが、牙琉との交流について話すことは少々気恥ずかしかった。積極的に言わなければ放っておいてくれるところはこの集まりの美点だ。
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nanas-cookbook · 5 years
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モンブラン・ボンブ
カスタードホイップと刻み甘栗を挟んだふわふわのドームケーキ。
__
<材料(完成15cm程度)>
【スポンジ】
● 卵黄生地
卵黄…L3個
砂糖…30g
植物油(オリーブなど)…30g
牛乳…60g
バニラエッセンス…少々
薄力粉…90g
● 卵白生地
卵白…L3個
塩…ひとつまみ
砂糖…60g
【甘栗のシロップ漬け】
むき甘栗…6個
砂糖…40g
水…20g
ラム酒…15mL
 【カスタードクリーム】
卵黄…2個
砂糖…40g
薄力粉…20g
牛乳…200mL
【マロンクリーム】
むき甘栗…180g
牛乳…100cc
生クリーム…80cc
砂糖…50g
ラム酒…適量
【ホイップクリーム】
生クリーム…120cc
砂糖…12g
【その他】
刻み甘栗(挟む用)…5〜6個分
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<作り方>
【準備】型(18cm丸型)の底だけにクッキングシートを敷く。卵(L3個)は卵白と卵黄に分け、別々のボウルに入れる。卵白は冷凍庫で冷やす。
【甘栗のシロップ漬け】鍋に砂糖(40g)、水(20g)を入れ加熱する。沸騰したら火から下ろしてラム酒(15mL)を加え、容器に移す。むき甘栗(6個)をシロップに漬けて冷蔵庫に入れておく。
【スポンジ1】卵黄のボウルに砂糖(30g)を入れ、泡立て器で白っぽくなるまで泡立てる。植物油(30g)、バニラエッセンス(少々)を加えてさらに混ぜる。牛乳(60g)をレンジで人肌程度に温め、少しずつ混ぜる。薄力粉(90g)をふるい入れ、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。オーブンを170℃(338℉)に予熱する。
【スポンジ2】メレンゲを作る。卵白のボウルを冷凍庫から出し、塩(ひとつまみ)を入れてきれいな泡立て器で混ぜる。途中砂糖(60g)を3回に分けて加えながら、ツノが立つまで泡立てる。
【スポンジ3】メレンゲの1/4をすくって卵黄生地に混ぜなじませる。メレンゲのボウルに卵黄生地を移し、ボウルを回しながらゴムべらで下からすくうようにして、全体をさっくりと混ぜる。
【スポンジ4】型に高いところから生地を流し入れ、底をトントンと台にうちつけて空気を抜く。170℃(338℉)のオーブンで30〜40分焼く。
【カスタードホイップ1】カスタードを作る。ボウルで卵黄(2個)、砂糖(40g)をすり混ぜ、ふるった薄力粉(20g)を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜる。牛乳(200mL)を沸騰直前まで鍋または電子レンジであたため、少しずつボウルに加えてカスタード液をつくる。カスタード液を漉しながら鍋に入れ、ホイッパーで混ぜながら弱〜中火にかける。とろみがついたら火から下ろし、漉しながらタッパーなどに広げ入れて空気に触れないようにラップをする。あら熱がとれたら冷蔵庫で冷やしておく。
【スポンジ5】オーブンから取り出したら、すぐに15cmほどの高さから型を2、3回落とす。型に入れたまま逆さまにしてケーキクーラーに置き冷ます。※できれば割り箸などで縁を浮かせる。
【マロンクリーム1】マロンペーストを作る。むき甘栗(180g)を耐熱容器に入れて電子レンジ500Wで4分くらい加熱して柔らかくしてから軽く潰し、鍋に入れて牛乳(100cc)、生クリーム(80cc)、砂糖(50g)を加える。中火で熱し、小さな泡が淵に立ってきたら弱火にして、甘栗を潰して煮汁を馴染ませながら滑らかなクリーム状になるまで煮詰めていく。煮詰まったら火からおろし、ラム酒(適量)を加えて練り、裏漉しして粗熱をとる。
【ホイップクリーム】生クリーム(120cc)に砂糖(12g)を加え、7分立て(すくったときにツノが立って少し下を向くくらいに泡だて)する。
【マロンクリーム2】できたホイップクリームの1/3程度をとりマロンペーストに馴染まて柔らかく練る。丸口金(またはモンブラン用口金)をつけた絞り袋に入れる。
【カスタードホイップ2】残りの2/3のホイップクリームは、冷やしたカスタードに馴染ませてカスタードホイップにする。
【組み立て1】(参考動画)スポンジが冷めたら型から取り出す。上部の焼き目を切り落とし、厚さ1cm-1.5cm程度にスライスしたスポンジを、土台用とドーム用の2枚用意する。そのうち土台用のスポンジは縁の口径が15cmくらいの小さめのボウルまたは椀を当て、口径に合わせてカットする。またそのボウル(椀)の内側を霧吹きなどで濡らし、ラップでカバーする。
【組み立て2】ラップしたボウル(椀)の形に合わせてドーム用のスポンジをボウルの形に合わせて慎重に敷き詰める。スポンジに甘栗のシロップ漬けのシロップを打ってから、カスタードホイップ、刻んだ甘栗を盛る。同様にシロップを打った土台用のスポンジで蓋をしてラップし、冷蔵庫で15分ほど冷やす。
【組みたて3】上部のラップをとってまな板等を当て、ひっくり返してドームを壊さないようにゆっくりボウル(椀)からケーキを取り出す。
【仕上げ】マロンクリームを絞り(参考動画)、盛り付け用の器に移す。余ったスポンジをおろし金でおろして底にくっつける。粉砂糖をふり、シロップ漬けした甘栗を飾って完成。
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<参照>
甘栗で作れる♡モンブラン|DELISH KITCHEN
モンブランクリームの絞り方 丸&モンブラン口金編 #08 1本絞り
【cuoca】ドームケーキ レシピ
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puchikko · 7 years
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箸袋で割り箸を切る技 割り箸二本切り タネも仕掛けもありません。 箸袋に氣を通し腕の重みで切るのみです。 #合氣道 #箸 #箸袋 #わりばし #箸袋で割り箸を切る #心身統一合氣道 #二本切り
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2ttf · 12 years
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