#塩尻市立図書館
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honnakagawa · 1 year ago
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9月17日(日)open 12-18
連休2日目。 気温は36℃予報… 皆さまどうぞお気をつけてお過ごしくださいね。 ITO MISA きり絵展の最終日に開催する影絵の会。 実はツアーのように3ヶ所開催なのですが、どこの会場も満員御礼になったそうです! フジコ・M・フジコの佐藤美代さんの投稿をリポスト。 愉快な影絵、楽しみですね〜!
@satomiyo22 1週間後にはじまるフジコエムフジコの長野県の塩尻市、松本市、伊那市で行う影絵公演ですが、全3公演が予約満員御礼となりました。
本当にありがたいことです。 あとは体調管理をしっかりして、準備と練習します。 それぞれ��会場でお待ちしています。
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fukagawakaidan · 4 months ago
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「お化けの棲家」に登場したお化け。
1、骨女〔ほねおんな〕 鳥山石燕の「今昔画 図続百鬼』に骨だけ の女として描かれ、 【これは御伽ぼうこうに見えたる年ふる女の骸骨、牡丹の灯籠を携へ、人間の交をなせし形にして、もとは剪灯新話のうちに牡丹灯記とてあり】と記されている。石燕が描いた骨女 は、「伽婢子」「牡丹灯籠」に出てくる女つゆの亡霊、弥子(三遊亭円朝の「怪談牡丹灯 籠」ではお露にあたる)のことをいっている。これとは別物だと思うが、「東北怪談の旅」にも骨女という妖怪がある。 安永7年~8年(1778年~1779年)の青森に現れたもので、盆の晩、骸骨女がカタリカタリと音をたてて町中を歩いたという。この骨女は、生前は醜いといわれていたが、 死んでからの骸骨の容姿が優れているので、 人々に見せるために出歩くのだという。魚の骨をしゃぶることを好み、高僧に出会うと崩れ落ちてしまうという。 「鳥山石燕 画図百鬼夜行」高田衛監修・稲 田篤信・田中直日編 「東北怪談の旅」山田 野理夫
2、堀田様のお人形
以下の話が伝わっている。 「佐賀町に堀田様の下屋敷があって、うちの先祖はそこの出入りだったの。それで、先代のおばあさんが堀田様から“金太郎”の人形を拝領になって「赤ちゃん、赤ちゃん」といわれていたんだけど、この人形に魂が入っちゃって。関東大震災のとき、人形と一緒に逃げたら箱の中であちこちぶつけてこぶができたから、修復してもらうのに鼠屋っていう人形師に預けたんだけど少しすると修復されずに返ってきた。聞くと「夜になると人形が夜泣きしてまずいんです」と言われた。 (『古老が語る江東区のよもやま話』所収)
3、ハサミの付喪神(つくもがみ)
九十九神とも表記される。室町時代に描かれた「付喪神絵巻」には、「陰陽雑記云器物百年を経て化して精霊を得てよく人を訛かす、是を付喪神と号といへり」 という巻頭の文がある。 煤祓いで捨てられた器物が妖怪となり���物を粗末に扱う人間に対して仕返しをするという内容だ が、古来日本では、器物も歳月を経ると、怪しい能力を持つと考えられていた。 民俗資料にも擂り粉木(すりこぎ)や杓文字、枕や蒲団といった器物や道具が化けた話しがある。それらは付喪神とよばれていないが、基本的な考え方は「付喪神絵巻」にあるようなことと同じで あろう。 (吉川観方『絵画に見えたる妖怪』)
4、五徳猫(ごとくねこ)  五徳猫は鳥山石燕「画図百器徒然袋」に尾が2つに分かれた猫又の姿として描かれており、「七徳の舞をふたつわすれて、五徳の官者と言いしためしも あれば、この猫もいかなることをか忘れけんと、夢の中におもひぬ」とある。鳥山石燕「画図百器徒然袋」の解説によれば、その姿は室町期の伝・土佐光信画「百鬼夜行絵巻」に描かれた五徳猫を頭に 乗せた妖怪をモデルとし、内容は「徒然袋」にある「平家物語」の 作者といわれる信濃前司行長にまつわる話をもとにしているとある。行長は学識ある人物だったが、七徳の舞という、唐の太宗の武の七徳に基づく舞のうち、2つを忘れてしまったために、五徳の冠者のあだ名がつけられた。そのため、世に嫌気がさし、隠れて生活するようになったという。五徳猫はこのエピソードと、囲炉裏にある五徳(薬缶などを載せる台)を引っ掛けて創作された 妖怪なのであろう。ちなみに土佐光信画「百鬼夜行絵巻」に描かれている妖怪は、手には火吹き 竹を持っているが、猫の妖怪ではなさそうである。 ( 高田衛監修/稲田篤信・田中直日編『鳥山石燕画図百鬼夜行』)→鳥山石燕『百器徒然袋』より 「五徳猫」
5、のっぺらぼー 設置予定場所:梅の井 柳下 永代の辺りで人魂を見たという古老の話しです。その他にも、背中からおんぶされて、みたら三つ目 小僧だったり、渋沢倉庫の横の河岸の辺りでのっぺらぼーを見たという話しが残っています。 (『古老が語る江東区のよもやま話』所収) のっぺらぼーは、顔になにもない卵のような顔の妖怪。特に小泉八雲『怪談』にある、ムジナの話が良く知られている。ある男が東京赤坂の紀国坂で目鼻口のない女に出会い、驚き逃げて蕎麦 屋台の主人に話すと、その顔も同じだったという話。その顔も同じだったという話。
6、アマビエアマビエ 弘化3年(1846年) 4月中旬と記 された瓦版に書かれているもの。 肥後国(熊本県)の海中に毎夜光るものが あるので、ある役人が行ってみたところ、ア マビエと名乗る化け物が現れて、「��年より はやりやまいはや 6ヵ月は豊作となるが、もし流行病が流行ったら人々に私の写しを見せるように」といって、再び海中に没したという。この瓦版には、髪の毛が長く、くちばしを持った人魚のようなアマビエの姿が描かれ、肥後の役人が写したとある。 湯本豪一の「明治妖怪新聞」によれば、アマピエはアマピコのことではないかという。 アマピコは瓦版や絵入り新聞に見える妖怪で、 あま彦、天彦、天日子などと書かれる。件やクダ部、神社姫といった、病気や豊凶の予言をし、その絵姿を持っていれば難から逃れられるという妖怪とほぼ同じものといえる。 アマビコの記事を別の瓦版に写す際、間違 えてアマビエと記してしまったのだというのが湯本説である。 『明治妖怪新聞」湯本豪一「『妖怪展 現代に 蘇る百鬼夜行』川崎市市民ミュージアム編
7、かさばけ(傘お化け) 設置予定場所:多田屋の入口作品です。 一つ目あるいは、二つ目がついた傘から2本の腕が伸び、一本足でピョンピョン跳ねまわる傘の化け物とされる。よく知られた妖怪のわりには戯画などに見えるくらいで、実際に現れたなどの記録はないようである。(阿部主計『妖怪学入門』)歌川芳員「百種怪談妖物双六」に描 かれている傘の妖怪「一本足」
8、猫股(ねこまた)  猫股は化け猫で、尻尾が二股になるまで、齢を経た猫 で、さまざまな怪しいふるまいをすると恐れられた。人をあざむき、人を食らうともいわれる。飼い猫が年をとり、猫股になるため、猫を長く飼うもので はないとか、齢を経た飼い猫は家を離れて山に入り、猫股 になるなどと、各地に俗信がある。 このような猫の持つ妖力から、歌舞伎ではお騒動と化け猫をからめて「猫騒動もの」のジャンルがあり、
「岡崎の猫」「鍋島の猫」「有馬の猫」が三代化け猫とされる。
9、毛羽毛現(けうけげん) 設置予定場所:相模屋の庭 鳥山石燕の「今昔百鬼拾遺」に毛むくじゃらの妖怪として描かれた もので、 「毛羽毛現は惣身に毛生ひたる事毛女のごとくなればかくいふ か。或いは希有希現とかきて、ある事まれに、見る事まれなれば なりとぞ」とある。毛女とは中国の仙女のことで、華陰の山中(中国陝西省陰県の西 獄華山)に住み、自ら語るところによると、もともとは秦が亡んだため 山に逃げ込んだ。そのとき、谷春という道士に出会い、松葉を食すことを教わって、遂に寒さも飢えも感じなくなり、身は空を飛ぶほど軽くなった。すで��170余年経つなどと「列仙伝」にある。この毛羽毛現は家の周辺でじめじめした場所に現れる妖怪とされるが、実際は石燕の創作妖 怪のようである。 (高田衛監修/稲田篤信・田中直日編『鳥山石燕 画図百鬼夜行』→鳥山石燕「今昔百鬼 拾遺」より「毛羽毛現」
10、河童(かっぱ) 設置予定場所:猪牙船 ◇ 河童(『耳袋』) 江戸時代、仙台藩の蔵屋敷に近い仙台堀には河童が出たと言われています。これは、子どもたちが、 なんの前触れもなく掘割におちてしまう事が続き探索したところ、泥の中から河童が出てきたというも のです。その河童は、仙台藩の人により塩漬けにして屋敷に保管したそうです。 ◇ 河童、深川で捕獲される「河童・川太郎図」/国立歴史民俗博物館蔵 深川木場で捕獲された河童。河童は川や沼を住処とする妖怪で、人を水中に引き込む等の悪事を働く 反面、水の恵みをもたらす霊力の持ち主として畏怖されていた ◇ 河童の伝説(『江戸深川情緒の研究』) 安永年間(1772~1781) 深川入船町であった話しです。ある男が水浴びをしていると、河童がその男 を捕えようとしました。しかし、男はとても強力だったので逆に河童を捕えて陸に引き上げ三十三間堂の前で殴り殺そうとしたところ、通りかかった人々が河童を助けました。それ以来、深川では河童が人 間を捕らなくなったといいます。→妖怪画で知られる鳥山石燕による河童
11、白容商〔しろうねり〕
鳥山石燕「画図百器 徒然袋」に描かれ、【白うるりは徒然のならいなるよし。この白うねりはふるき布巾のばけたるものなれども、外にならいもやはべると、夢のうちにおもひぬ】 と解説されている。白うるりとは、吉田兼好の『徒然草」第六十段に登場する、 芋頭(いもがしら)が異常に好きな坊主のあだ名である。  この白うるりという名前に倣って、布雑巾 の化けたものを白容裔(しろうねり)と名づけたといっているので、つまりは石燕の創作妖怪であろう。古い雑巾などが化けて人を襲う、などの説 明がされることがあるが、これは山田野理夫 の『東北怪談の旅』にある古雑巾の妖怪を白 容裔の話として使ったにすぎない。 『鳥山石燕画図百鬼夜行』高田衛監修・稲 田篤信・田中直日編
12、轆轤首〔ろくろくび〕
抜け首、飛頭蛮とも つな いう。身体から首が完全に分離して活動する ものと、細紐のような首で身体と頭が繋がっているものの二形態があるようである。 日本の文献には江戸時代から多くみえはじ め、『古今百物語評判』『太平百物語』『新説 百物語」などの怪談集や、『甲子夜話』『耳 囊」「北窓瑣談」「蕉斎��記』『閑田耕筆』と いった随筆の他、石燕の『画図百鬼夜行」に 代表される妖怪画にも多く描かれた。 一般的な轆轤首の話としては、夜中に首が 抜け出たところを誰かに目撃されたとする内 容がほとんどで、下働きの女や遊女、女房、 娘などと女性である場合が多い。 男の轆轤首は「蕉斎筆記』にみえる。 ある夜、増上寺の和尚の胸の辺りに人の 首が来たので、そのまま取って投げつけると、 どこかへいってしまった。翌朝、気分が悪いと訴えて寝ていた下総出 身の下働きの男が、昼過ぎに起き出して、和 尚に暇を乞うた。わけ その理由を問えば、「昨夜お部屋に首が参りませんでしたか」と妙なことを訊く。確か に来たと答えると、「私には抜け首の病があります。昨日、手水鉢に水を入れるのが遅い とお叱りを受けましたが、そんなにお叱りに なることもないのにと思っていると、 夜中に首が抜けてしまったのです」 といって、これ以上は奉公に差支えがあるからと里に帰って しまった。 下総国にはこの病が多いそうだと、 「蕉斎筆記』は記している。  轆轤首を飛頭蛮と表記する文献があるが、 これはもともと中国由来のものである。「和漢三才図会』では、『三才図会」「南方異 物誌」「太平広記」「搜神記』といった中国の 書籍を引いて、飛頭蛮が大闍波国(ジャワ) や嶺南(広東、広西、ベトナム)、竜城(熱 洞省朝陽県の西南の地)の西南に出没したことを述べている。昼間は人間と変わらないが、夜になると首 が分離し、耳を翼にして飛び回る。虫、蟹、 ミミズなどを捕食して、朝になると元通りの 身体になる。この種族は首の周囲に赤い糸のような傷跡がある、などの特徴を記している。中国南部や東南アジアには、古くから首だけの妖怪が伝わっており、マレーシアのポン ティアナやペナンガルなどは、現在でもその 存在が信じられている。 日本の轆轤首は、こうした中国、東南アジ アの妖怪がその原型になっているようである。 また、離魂病とでもいうのだろうか、睡眠中に魂が抜け出てしまう怪異譚がある。例えば「曽呂利物語」に「女の妄念迷い歩 <事」という話がある。ある女の魂が睡眠中に身体から抜け出て、 野外で鶏になったり女の首になったりしているところを旅人に目撃される。旅人は刀を抜いてその首を追いかけていく と、首はある家に入っていく。すると、その家から女房らしき声が聞こえ、 「ああ恐ろしい夢を見た。刀を抜いた男が追 いかけてきて、家まで逃げてきたところで目 が醒めた」などといっていたという話である。これの類話は現代の民俗資料にも見え、抜け出た魂は火の玉や首となって目撃されている。先に紹介した「蕉斎筆記』の男の轆轤首 も、これと同じように遊離する魂ということ で説明ができるだろう。 轆轤首という妖怪は、中国や東南アジア由 来の首の妖怪や、離魂病の怪異譚、見世物に 出た作りものの轆轤首などが影響しあって、 日本独自の妖怪となっていったようである。 【和漢三才図会』寺島良安編・島田勇雄・竹 島淳夫・樋口元巳訳注 『江戸怪談集(中)』 高田衛編/校注『妖異博物館』柴田宵曲 『随筆辞典奇談異聞編」柴田宵曲編 『日本 怪談集 妖怪篇』今野円輔編著 『大語園』巌谷小波編
13、加牟波理入道〔がんばりにゅうどう〕
雁婆梨入道、眼張入道とも書く。便所の妖怪。 鳥山石燕の「画図百鬼夜行」には、便所の台があるよう 脇で口から鳥を吐く入道姿の妖怪として描かれており、【大晦日の夜、厠にゆきて「がんばり入道郭公」と唱ふれば、妖怪を見さるよし、世俗のしる所也。もろこしにては厠 神名を郭登といへり。これ遊天飛騎大殺将軍 とて、人に禍福をあたふと云。郭登郭公同日 は龕のの談なるべし】と解説されている。 松浦静山の『甲子夜話」では雁婆梨入道という字を当て、厠でこの名を唱えると下から入道の頭が現れ、 その頭を取って左の袖に入れてまたとりだすと 頭は小判に変化するなどの記述がある。 「がんばり入道ホトトギス」と唱えると怪異 にあわないというのは、江戸時代にいわれた 俗信だが、この呪文はよい効果を生む(前述 ことわざわざわい ●小判を得る話を含め)場合と、禍をよぶ 場合があるようで、「諺苑」には、大晦日に この話を思い出せば不祥なりと書かれている。 また、石燕は郭公と書いてホトトギスと読ませているが、これは江戸時代では郭公とホト トギスが混同されていたことによる。 ホトトギスと便所との関係は中国由来のようで、「荊楚歲時記』にその記述が見える。 ホトトギスの初鳴きを一番最初に聞いたもの は別離することになるとか、その声を真似すると吐血するなどといったことが記されており、厠に入ってこの声を聞くと、不祥事が起 こるとある。これを避けるには、犬の声を出 して答えればよいとあるが、なぜかこの部分 だけは日本では広まらなかったようである。 『鳥山石燕画図百鬼夜行』高田衛監修・稲 田篤信・田中直日編 『江戸文学俗信辞典』 石川一郎編『史実と伝説の間」李家正文
14、三つ目小僧
顔に三つの目を持つ童子姿の妖怪。 長野県東筑摩郡教育委員会による調査資料に名は見られるが、資料中には名前があるのみ で解説は無く、どのような妖怪かは詳細に語られていない。 東京の下谷にあった高厳寺という寺では、タヌキが三つ目小僧に化けて現れたという。このタヌ キは本来、百年以上前の修行熱心な和尚が境内に住まわせて寵愛していたために寺に住みついたものだが、それ以来、寺を汚したり荒らしたりする者に対しては妖怪となって現れるようになり、体の大きさを変えたり提灯を明滅させて人を脅したり、人を溝に放り込んだりしたので、人はこれ を高厳寺小僧と呼んで恐れたという。困った寺は、このタヌキを小僧稲荷として境内に祀った。この寺は現存せず、小僧稲荷は巣鴨町に移転している。 また、本所七不思議の一つ・置行堀の近くに住んでいたタヌキが三つ目小僧に化けて人を脅したという言い伝えもある。日野巌・日野綏彦 著「日本妖怪変化語彙」、村上健司校訂 編『動物妖怪譚』 下、中央公論新社〈中公文庫〉、2006年、301頁。 佐藤隆三『江戸伝説』坂本書店、1926年、79-81頁。 『江戸伝説』、147-148頁。
15、双頭の蛇 設置予定場所:水茶屋 「兎園小説」には、「両頭蛇」として以下の内容が著してある。 「文政7年(1824)11月24日、本所竪川通りの町方掛り浚場所で、卯之助という男性 が両頭の蛇を捕まえた。長さは3尺あったという。」
文政7年(1824)11月24日、一の橋より二十町程東よりの川(竪川、現墨田区)で、三尺程の 「両頭之蛇」がかかったと言う話です。詳細な図解が示されています。 (曲亭馬琴「兎園小説」所収『兎園小説』(屋代弘賢編『弘賢随筆』所収) 滝沢馬琴他編 文政8年(1825) 国立公文書館蔵
16、深川心行寺の泣き茶釜
文福茶釜は「狸」が茶釜に化けて、和尚に恩返しをする昔話でよく知られています。群馬県館林の茂 林寺の話が有名ですが、深川2丁目の心行寺にも文福茶釜が存在したといいます。『新撰東京名所図会』 の心行寺の記述には「什宝には、狩野春湖筆涅槃像一幅 ―及び文福茶釜(泣茶釜と称す)とあり」 とあります。また、小説家の泉鏡花『深川浅景』の中で、この茶釜を紹介しています。残念ながら、関 東大震災(1923年)で泣茶釜は、他の什物とともに焼失してしまい、文福茶釜(泣き茶釜)という狸が 化けたという同名が残るのみです。鳥山石燕「今昔百鬼拾遺」には、館林の茂森寺(もりんじ)に伝わる茶釜の話があります。いくら湯を 汲んでも尽きず、福を分け与える釜といわれています。 【主な参考資料】村上健司 編著/水木しげる 画『日本妖怪大辞典』(角川出版)
17、家鳴(やなり) 設置予定場所:大吉、松次郎の家の下)  家鳴りは鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に描かれたものだが、(石燕は鳴屋と表記)、とくに解説はつけられて いない。石燕はかなりの数の妖怪を創作しているが、初期の 「画図百鬼夜行」では、過去の怪談本や民間でいう妖怪などを選んで描いており、家鳴りも巷(ちまた)に知られた妖怪だったようである。 昔は何でもないのに突然家が軋むことがあると、家鳴りのような妖怪のしわざだと考えたようである。小泉八雲は「化け物の歌」の中で、「ヤナリといふ語の・・・それは地震中、家屋の震動 する音を意味するとだけ我々に語って・・・その薄気 味悪い意義を近時の字書は無視して居る。しかし此語 はもと化け物が動かす家の震動の音を意味して居た もので、眼には見えぬ、その震動者も亦(また) ヤナ リと呼んで居たのである。判然たる原因無くして或る 家が夜中震ひ軋り唸ると、超自然な悪心が外から揺り動かすのだと想像してゐたものである」と延べ、「狂歌百物語」に記載された「床の間に活けし立ち木も倒れけりやなりに山の動く掛軸」という歌を紹介している。 (高田衛監修/稲田篤信・田中直日編『鳥山石燕画図百鬼夜行』、『小泉八雲全集』第7巻)
18、しょうけら 設置予定場所:おしづの家の屋根 鳥山石燕「画図百鬼夜行」に、天井の明かり取り窓を覗く妖怪として描かれているもの。石燕による解説はないが、 ショウケラは庚申(こうしん) 信仰に関係したものといわれる。 庚申信仰は道教の三尸(さんし)説がもとにあるといわ れ、60日ごとに巡ってくる庚申の夜に、寝ている人間の身 体から三尸虫(頭と胸、臍の下にいるとされる)が抜け出し、天に昇って天帝にその人の罪科を告げる。この報告により天帝は人の命を奪うと信じられ、対策とし て、庚申の日は眠らずに夜を明かし、三尸虫を体外に出さ ないようにした。また、これによる害を防ぐために「ショウケラはわたとてまたか我宿へねぬぞねたかぞねたかぞ ねぬば」との呪文も伝わっている。 石燕の描いたショウケラは、この庚申の日に現れる鬼、ということがいえるようである。
19、蔵の大足
御手洗主計という旗本の屋敷に現れた、長さ3尺程(約9m)の大足。(「やまと新聞」明治20年4月29日より)
20、お岩ちょうちん
四世鶴屋南北の代表作である「東海道四谷怪談」のお岩 を、葛飾北斎は「百物語シリーズ」の中で破れ提灯にお岩が 宿る斬新な構図で描いている。北斎は同シリーズで、当時の 怪談話のもう一人のヒロインである「番町皿屋敷のお菊」も描 く。「東海道四谷怪談」は、四世南北が暮らし、没した深川を舞台にした生世話物(きぜわもの)の最高傑作。文政8年(1825) 7月中村座初演。深川に住んだ七代目市川團十郎が民谷伊 右衛門を、三代目尾上菊五郎がお岩を演じた。そのストーリーは当時評判だった実話を南北が取材して描 いている。男女が戸板にくくられて神田川に流された話、また 砂村隠亡堀に流れついた心中物の話など。「砂村隠亡堀の場」、「深川三角屋敷の場」など、「四谷怪 談」の中で深川は重要な舞台として登場する。
21、管狐(くだぎつね)  長野県を中心にした中部地方に多く分布し、東海、関東南部、東北の一部でいう憑き物。関東 南部、つまり千葉県や神奈川県以外の土地は、オサキ狐の勢力になるようである。管狐は鼬(いたち)と鼠(ねずみ)の中間くらいの小動物で、名前の通り、竹筒に入ってしまうほどの大きさだという。あるいはマッチ箱に入るほどの大きさで、75匹に増える動物などとも伝わる個人に憑くこともあるが、それよりも家に憑くものとしての伝承が多い。管狐が憑いた家は管屋(くだや)とか管使いとかいわれ、多くの場合は「家に憑いた」ではなく「家で飼っている」という表現をしている。管狐を飼うと金持ちになるといった伝承はほとんどの土地でいわれることで、これは管 狐を使って他家から金や品物を集めているからだなどという。また、一旦は裕福になるが、管狐は 大食漢で、しかも75匹にも増えるのでやがては食いつぶされるといわれている。 同じ狐の憑き物でも、オサキなどは、家の主人が意図しなくても、狐が勝手に行動して金品を集 めたり、他人を病気にするといった特徴があるが、管狐の場合は使う者の意図によって行動すると考えられているようである。もともと管狐は山伏が使う動物とされ、修行を終えた山伏が、金峰山 (きんぷさん)や大峰(おおみね)といった、山伏に官位を出す山から授かるものだという。山伏は それを竹筒の中で飼育し、管狐の能力を使うことで不思議な術を行った。 管狐は食事を与えると、人の心の中や考えていることを悟って飼い主に知らせ、また、飼い主の 命令で人に取り憑き、病気にしたりするのである。このような山伏は狐使いと呼ばれ、自在に狐を 使役すると思われていた。しかし、管狐の扱いは難しく、いったん竹筒から抜け出た狐を再び元に 戻すのさえ容易ではないという。狐使いが死んで、飼い主不在となった管狐は、やがて関東の狐の親分のお膝元である王子村(東京都北区)に棲むといわれた。主をなくした管狐は、命令する者がいないので、人に憑くことはないという。 (石塚尊俊『日本の憑きもの』、桜井徳太郎編『民間信仰辞典』、金子準二編著『日本狐憑史資料 集成』)
22、かいなで 設置予定場所: 長屋の厠 京都府でいう妖怪。カイナゼともいう。節分の夜に便所へ行くとカイナデに撫でられるといい、これを避けるには、「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」という呪文を唱えればよいという。 昭和17年(1942年)頃の大阪市立木川小学校では、女子便所に入ると、どこからともなく「赤い 紙やろか、白い紙やろか」と声が聞こえてくる。返事をしなければ何事もないが、返事をすると、尻を舐められたり撫でられたりするという怪談があったという。いわゆる学校の怪談というものだが、 類話は各地に見られる。カイナデのような家庭内でいわれた怪異が、学校という公共の場に持ち込まれたものと思われる。普通は夜の学校の便所を使うことはないだろうから、節分の夜という条件が消失してしまったのだろう。 しかし、この節分の夜ということは、実に重要なキーワードなのである。節分の夜とは、古くは年越しの意味があり、年越しに便所神を祭るという風習は各地に見ることができる。その起源は中国に求められるようで、中国には、紫姑神(しこじん)という便所神の由来を説く次のような伝説がある。 寿陽県の李景という県知事が、何媚(かび) (何麗卿(かれいきょう)とも)という女性を迎えたが、 本妻がそれを妬み、旧暦正月 15 日に便所で何媚を殺害した。やがて便所で怪異が起こるようになり、それをきっかけに本妻の犯行が明るみに出た。後に、何媚を哀れんだ人々は、正月に何媚を便所の神として祭祀するようになったという(この紫姑神は日本の便所神だけではなく、花子さんや紫婆(むらさきばばあ)などの学校の怪談に登場する妖怪にも影響を与えている。) 紫姑神だけを日本の便所神のルーツとするのは安易だが、影響を受けていることは確かであろう。このような便所神祭祀の意味が忘れられ、その記憶の断片化が進むと、カイナデのような妖怪が生まれてくるようである。 新潟県柏崎では、大晦日に便所神の祭りを行うが、便所に上げた灯明がともっている間は決して便所に入ってはいけないといわれる。このケースは便所神に対する信仰がまだ生きているが、便所神の存在が忘れられた例が山田野理夫『怪談の世界』に見える。同書では、便所の中で「神くれ神くれ」と女の声がしたときは、理由は分からなくとも「正月��でまだ遠い」と答えればよいという。便所神は正月に祀るものという断片的記憶が、妖怪として伝えられたものといえる。また、「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」という呪文も、便所神の祭りの際に行われた行為の名残を伝えて いる。便所神の祭りで紙製の人形を供える土地は多く、茨城県真壁郡では青と赤、あるいは白と赤の 男女の紙人形を便所に供えるという。つまり、カイナデの怪異に遭遇しないために「赤い紙やろう か、白い紙やろうか」と唱えるのは、この供え物を意味していると思われるのである。本来は神様に供えるという行為なのに、「赤とか白の紙をやるから、怪しいふるまいをするなよ」というように変化してしまったのではないだろうか。さらに、学校の怪談で語られる便所の怪異では、妖怪化した便所神のほうから、「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」とか「青い紙やろうか、赤い紙やろうか」というようになり、より妖怪化が進ん でいったようである。こうしてみると、近年の小学生は古い信仰の断片を口コミで伝え残しているともいえる。 島根県出雲の佐太神社や出雲大社では、出雲に集まった神々を送り出す神事をカラサデという が、氏子がこの日の夜に便所に入ると、カラサデ婆あるいはカラサデ爺に尻を撫でられるという伝 承がある。このカラサデ婆というものがどのようなものか詳細は不明だが、カイナデと何か関係があるのかもしれない。 (民俗学研究所編『綜合日本民俗語彙』、大塚民俗学会編『日本民俗学事典』、『民間伝承』通巻 173号(川端豊彦「厠神とタカガミと」)ほか)
23、木まくら 展示予定場所:政助の布団の上 江東区富岡にあった三十三間堂の側の家に住んだ医師が病気になり、元凶を探した所 黒く汚れた木枕が出た。その枕を焼くと、死体を焼く匂いがして、人を焼くのと同じ時間がかかったという。 (『古老が語る江東区のよもやま話』所収)
24、油赤子〔あぶらあかご〕鳥山石燕の『今昔 画図続百鬼』に描かれた妖怪。【近江国大津 の八町に、玉のごとくの火飛行する事あり。土人云「むかし志賀の里に油うるものあり。 夜毎に大津辻の地蔵の油をぬすみけるが、その者死て魂魄炎となりて、今に迷いの火となれる」とぞ。しからば油をなむる赤子は此ものの再生せしにや】と記されている。 石燕が引いている【むかし志賀(滋賀) の】の部分は、「諸国里人談』や『本朝故事 因縁集」にある油盗みの火のことである。油盗みの火とは、昔、夜毎に大津辻の地蔵 の油を盗んで売っていた油売りがいたが、死 後は火の玉となり、近江大津(滋賀県大津 市)の八町を��横に飛行してまわったという もの。石燕はこの怪火をヒントに、油を嘗める赤ん坊を創作したようである。 『鳥山石燕画図百鬼夜行』高田衛監修・稲 田篤信・田中直日編 『一冊で日本怪異文学 100冊を読む」檜谷昭彦監修『日本随筆大成編集部編
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shintani24 · 9 months ago
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2024年4月9日
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「露骨な組合員切り」長崎・アマゾン配達員、契約解除 真面目に働いてきたのに…(長崎新聞)
最後の1日も大量の荷物を運んだ男性。「無念さはあるが、組合を結成し、正しいことを主張できた。悔いはない」と話した=長崎市内
インターネット通販大手アマゾンジャパン(東京)の荷物を長崎・諫早エリアで運ぶフリーランス(個人事業主)の配達員ら十数人が8日、契約を解除された。労働環境改善を求めて労働組合を結成し、ストライキも決行した50代の男性配達員は「露骨な組合員切りだ」と無念の表情を見せた。
時折雨がぱらつく8日の長崎市内。男性は「amazon」と書かれた段ボール箱を黙々と届け続けた。「雨の日は置き配の荷物にビニールをかぶせなきゃいけない」と苦笑い。一日で計188個の荷物を夜9時前に配り終えた。
男性は労働組合、東京ユニオンのアマゾン配達員組合長崎支部を、2022年9月に仲間と結成���役員として活動してきた。
男性らアマゾンの商品を扱うフリーの配達員が契約する2次下請け企業(埼玉県川口市)に対し、1次下請け企業(横浜市)が、アマゾン商品配達の委託契約を4月8日で打ち切ると通告してきたのは、昨年12月のことだった。
撤回を求めて1次下請けに団体交渉を申し入れたが拒否され、苦渋の決断で3月8日にストライキ。さらに1次下請けによる不当労働行為の救済を東京都労働委員会に申し立てるなど手を尽くした。それでも何も変わらなかった。
男性は契約解除について「複合的な要素が重なったと思う」としながらも労組結成が大きな要因と感じている。労組に入らなかった配達員の多くは別の2次下請け企業に移籍を持ちかけられたが、組合員には声がかからなかった。
男性は「無念さはある」とつぶやく。「ただ、間違ったことを『おかしい』と指摘してきたことに悔いはない。事故もなく、真面目に働いてきた自分や仲間たちが首を切られ、世間ではドライバー不足なのに移籍もできない。こんな露骨な組合員切りがあったことを知ってほしい」と言葉に力を込めた。
男性によると、ストライキを実施した組合員ら約20人のうち、半数程度が8日までに転職。男性を含めた数人が契約解除となった。
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アマゾン配達員スト突入なら 一日最大8千個の荷物に影響 長崎のフリーランス「雇用守って」(長崎新聞 3月5日)2024年4月9日に追記
長崎市で通販大手アマゾンジャパンの商品を扱うフリーランス配達員���下請け運送会社の契約打ち切りを不服としてストライキを通告した���題で、配達員らが4日、同市内で会見した。下請け会社側が団体交渉に応じない場合、配達員らは8日以降、無期限で業務を停止する構え。県内6市町で1日最大計8千個の荷物が配達されなくなる。
配達員が契約する2次下請け(埼玉県川口市)に対し、1次下請け(横浜市)が昨年12月、アマゾン商品配達の委託契約を今年4月上旬で打ち切ると通告した。この2次下請けは長崎と諫早の集荷所を担当。配達員計約70人が失業する恐れがある。
配達員でつくる労働組合「東京ユニオン」が1次下請けに団体交渉を求めていたが、回答が得られず、2月29日にスト実行を通告した。3月7日までに納得のいく回答を得られなかった場合は、配達員らが集荷所を閉鎖し業務を停止する。影響は長崎、西彼時津、長与、諫早、大村、東彼東彼杵各市町に及ぶ。
会見に出席した配達員は「契約解除は一方的」と主張し、これまでの1次下請けの運営にも問題があったと指摘。アマゾンに対し「適切な運営をしている2次下請けと直接契約し、私たちの雇用を守ってほしい」と訴えた。
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アマゾンのフリーランス配達員らスト決行 全国初、長崎で 「生活成り立たない」(長崎新聞 3月9日)2024年4月9日に追記
窮状を訴え���アマゾンのフリーランス配達員=長崎市桜町、県勤労福祉会館
長崎県を拠点に通販大手アマゾンジャパンの商品を運ぶフリーランス(個人事業主)の配達員ら約20人が8日、失業の恐れがあるのに1次下請け運送会社に団体交渉を拒否されたとして、ストライキを決行した。所属する労働組合「東京ユニオン」によると、アマゾンの荷物を扱う配達員によるストは全国で初めて。
配達員は2次下請け「トランプ」(埼玉県川口市)と個別に契約。1次下請け「若葉ネットワーク」(横浜市)がトランプとの業務委託を4月8日に打ち切ると通告したため、同労組は「一方的で不当」として団体交渉に応じるよう訴えてきた。トランプは長野県塩尻市、福岡市、大分市にも配達拠点があり、委託打ち切りに伴い約200人(うち本県約70人)が仕事を失う可能性がある。
���の日、スト参加者は長崎市内で集会を開いた。60代男性は「荷物量が倍に増えても、ガソリン代が約1.5倍に高騰し手取りが減っても、お客さんのために一生懸命働いてきた。何の説明もなく一方的に切られるのは納得できない」と憤った。40代男性は「契約を解除されたら、次の仕事を探さないと生活が成り立たない」として、業務を継続できるかどうか早く回答するよう若葉に対し訴えた。同労組は「配達員の労働環境は非常に悪い。ストをきっかけに消費者にも目を向けてほしい」と呼びかけた。
ストは当初、無期限の予定だったが、8日のみで終結。一部の配達員が「日当が出ないと生活に困る」といった事情で当日も業務を続けたため、集荷所の封鎖も見送られた。アマゾンジャパンは同日午後5時時点で「配送に遅延はなく、お客さまには予定通りお届けできている」としている。
同労組は同日、アマゾンジャパンに対しても、発注元として配達員の就業機会を確保するよう文書で要請した。
これまで同労組による団交申し入れに対し、若葉側は、配達員と直接契約を結んでおらず、応じる立場にないとの理由で拒否してきた。取材に「本件の詳細に関するコメントは差し控える」とした。
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アマゾン下請け配達員がスト決行 全国初か、契約打ち切り巡り(共同通信 3月8日)
「ストライキ決行中」と記された紙を手に集会に参加する、アマゾンジャパンの商品を扱うフリーランスの配達員=8日午前、長崎市
長崎県を拠点として通販大手アマゾンジャパンの商品を扱うフリーランス(個人事業主)の配達員ら約20人が8日、ストライキを決行した。配達員が契約している埼玉県の2次下請け会社への業務委託を、1次下請け会社が一方的に打ち切るのは不当と訴えている。2次下請けは長野県塩尻市、福岡市、大分市にも配達の拠点があり、打ち切りにより約200人が仕事を失う可能性がある。
労働組合「東京ユニオン」によると、アマゾンジャパンの荷物を扱う配達員によるストは全国で初めてとみられる。
ストは当初、無期限の予定だったが、8日のみとなった。スト参加者は8日午前、長崎市内で集会を開催。40代の男性配達員は「配達量が契約の倍近くなっても必死に働いてきたのに、なぜ突然切られなければいけないのか」と憤った。
アマゾンジャパンは「配送に対する影響は見込まれない」としている。
配達員らは団体交渉を要求してきたが、1次下請け側は、フリーランスの配達員とは直接契約を結んでおらず、団交に応じる立場にないとして拒否した。
今野晴貴(NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者)3月8日 解説 「2024年問題」でドライバー不足が懸念されているが、このようなアマゾンや一次下請けの対応はますますそれに拍車をかけるだろう。今回のストは、二次下請けの運送会社が一次下請けから契約を打ち切られたことで、結果として二次下請けのドライバーの契約も打ち切りになったからだ。
じつは世界的にも同様のことが起こっている。アメリカでは数年前から大手運送会社から零細運送会社への切り替えを進めており、そのたびに大手運送会社では数千人単位での大量解雇が行われた。その際の切り替えで、アマゾンは運送費を5%ほどカットできたという。日本における再編も、配達運賃の値下げが背景にあるかもしれない。
この多重下請け構造によってアマゾンは下請けとの契約を解除するだけで、実質的に「解雇」できる。全国各地に同じように契約解除されたドライバーがいる可能性もある中、労働者は労組法上の「スト権」を行使する以外の手段が限られている。
アマゾン下請けに抗議 長崎のフリーランス配達員スト 「窮状を伝え、運送業界を改善したかった」 (長崎新聞 3月15日)
長崎県を拠点に通販大手アマゾンジャパンの商品を運ぶフリーランス(個人事業主)配達員の労働組合が14日、県庁で会見し、団体交渉に応じない1次下請け運送会社に抗議した8日のストライキについて「配達員の窮状を伝え、運送業界を改善したかった」と意図を改めて主張した。
約20人によるスト中も、ほかの配達員が業務を継続したため県内で荷物の遅配はなかったが、東京ユニオンアマゾン配達員組合長崎支部の男性幹部は会見で「(配達先に)迷惑をかけて申し訳ない」と陳謝。だが現在も1次下請けが団体交渉に応じる気配はなく、「少数では効果が薄い」とスト続行を断念したという。
下請け会社間の契約解除に伴い失業の恐れがあるとして団体交渉を要求しているが、たとえ就業が継続されても「配達員は使い捨て。ボロ雑巾みたいな形で働かされるのが続くと思うと耐えられない」と職場環境の改善を訴えた。
スト後、ニュース配信サイト「ヤフーニュース」のコメント欄に「他の仕事を探せばいい」という趣旨の投稿が相次いだのに対し、幹部は「それで済ませると何も変わらない。長崎が発端になって全国に飛び火して、運送業界の多重構造が変わってくれれば」と意義を強調。同席した50代の男性配達員も「下請けの配達員が理不尽に切られる業界に違和感がある。泣き寝入りの文化を改善したい」と話した。
配達員は2次下請け(埼玉県川口市)と個別に契約。1次下請け(横浜市)が昨年12月、2次下請けとの業務委託契約を4月8日に打ちきると通告した。同労組によると、既に2次下請けは地位保全を求める仮処分を横浜地裁に申請。併せて1次下請けの関係会社を詐欺容疑で埼玉県警に告訴している。
同労組は1次下請けによる不当労働行為の救済を東京都労働委員会に申し立てており、4月4日に審問が始まる予定。
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「マイナ保険証」利用促進 最大20万円の一時金支給へ 3月の利用率は5.47%と伸び悩み(TBS NEWS DIG)
「マイナ保険証」の利用率向上のため、厚生労働省は利用者が増えた病院に対し、最大20万円の一時金を支給することを明らかにしました。
政府は、今年12月2日からは健康保険証を新たに発行しないことを決めていますが、今年3月時点の「マイナ保険証」の利用率は前の月から0.48ポイント増の5.47%にとどまっています。
武見厚生労働大臣 「本年5月から7月までをマイナ保険証利用促進集中取り組み月間として、医療DXのパスポートとなるマイナ保険証の利用促進に全力を挙げて取り組みます」
武見厚生労働大臣は、医療機関での患者への「マイナ保険証」の利用の呼びかけやチラシの配布など、利用率向上のための取り組みを来月から7月まで集中的に行うことを明らかにしました。
そのうえで、この期間に「マイナ保険証」を利用した人数の増加に応じて、▼クリニックに対しては最大10万円、▼病院に対しては最大20万円の一時金を支給することとしました。
白鳥浩(法政大学大学院教授/現代政治分析)解説 「マイナ保険証」は、国民に広く受け入れられているとはいいがたい。これまで、マイナカードの��行は、「マイナポイントが付くから」ということで順調であったが、ここにきてマイナ保険証の利用率の低いことが問題視されるようになった。
当然である。マイナカードの取得は「任意」であったはずな��に、これはほとんど実質「強制」になってきているからだ。
それをまた、「カネ」をわたすことで強硬にその利用を推し進めようとしている。国民の不信感が払しょくできていないにもかかわらず、紙の保険証の廃止を強行するという政策自体に問題がある。
岸田政権の行う政策は、このマイナカードからはじまり、国民の不信感をあおるものばかりなのはどういうわけだろうか。しっかりと、政策を反省してもらいたい。
門倉貴史(エコノミスト/経済評論家)見解 マイナ保険証の利用促進のために利用者が増えた病院に一時金を支給する政策を導入しても利用促進の効果は期待できない。
国民の多くは、漏えいや不正利用の危険性から「マイナ保険証を持たない」「一度取得したマイナ保険証を解除する」といった選択をしているのであり、根本的なところで漏えいや不正利用の問題を解決しない限り、マイナ保険証の利用率を高めることはできないだろう。
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翻訳、通訳、著述、番組制作と幅広く仕事を手がけ、「職業=ドイツ人」を自称するマライ・メントラインさん
「ザ・日本人」強要してない? “純血”意識、ドイツはこう変わった(朝日新聞)2024年4月9日
日独二刀流のマライ・メントラインさんに聞く
今年のミス日本コンテストで、ウクライナ生まれの椎野カロリーナさんがグランプリに選ばれた。途端にSNSでは「どう見ても外国人」「どこが日本人なの?」などと中傷する声が上がった。ミスコンの是非やルッキズムの問題はさしあたり措き、「日本的な美」といえば直毛の黒髪――。そんな幻想の根強さも感じられる。様々なルーツを持つ同胞がますます増えているのに、なかなか「日本人」の自画像は更新されていないようだ。
日本に住み16年、翻訳家や著述家として活躍するドイツ人のマライ・メントラインさんは、そうした単一民族幻想の強化にメディアが一役買ってきた、と見る。ドイツもかつては日本同様に民族や純血への志向が強かったとされるが、人々の意識はかなり変わってきたという。
「私たち」って誰? 「私」は入っているの?
日本に暮らして17年目になりました。永住許可も得ているので、マインドとしては半分日本人……いや、正確に言えば、ドイツ人であり同時に日本人という感覚かな。ただ、日本は重国籍を認めていないので、日本国籍は取得していません。
時々テレビの討論番組に出演しますが、求められる役割はいつも「外国人」。国籍からすれば事実なので仕方ないですが、自分としては、この国の未来に責任を持つ一員という意識があるので、モヤモヤします。だから「私たち」と口にする時、一瞬言葉に詰まります。どういう意味で受け止められるだろう、って。自分でも、そこに私自身が入っているのか、考えてしまうのです。
でもイエス・ノーをはっきり答えなかったり、空気を読んだりすると、「まるで日本人ですね」と驚かれます。褒め言葉として。
逆に、自己主張する帰国子女は負の意味を込めて「日本人ぽくない」と言われ、スタイルの良い人は「日本人離れしている」とうらやましがられる。
ただ、「日本人らしさ」とは何を指すのでしょうか。日本に住む誰もがご飯とみそ汁と焼き魚が好きなわけではないし、必ず節分で豆まきするわけでもない。奥ゆかしい性格の人ばかりでもない。「日本的」なるものは時代ごとに移り変わってきたし、そもそもあいまいなもの。あいまいだからこそ声の大きな人の定義がまかり通ってしまうのでしょうが、多様なルーツを持つ日本人が増えた現在、こうした「ザ・日本人」像の押しつけは、マイクロアグレッション(何げない差別)です。メディアはそれに加担すべきではありません。
守るべき価値 議論して見えてきた
ドイツも以前は民族意識が強く、国籍法も血統主義でした。でも移民や難民を受け入れることで人々の意識はかなり変わり、1999年の法改正で出生地主義の要素も採り入れました。
2016年に公共放送が面白い特集番組を作っています。何が「ドイツ人」を決めるのか、というテーマで、出演者が「行動」「言語」「価値観」「遺伝子」「見た目」などから選び、討論したんです。ちょうどシリアなど中東から難民が大勢入国し、メルケル首相(当時)への批判や排外的な動きも含めて大議論になっていた時期です。
結論を出す番組ではなかったものの、そこで確認したのは、「私たちの社会は民主主義と男女平等を重んじる」ということ。というのは、移民の中には、権威主義的で、女性との握手を拒むアラブ系の男性もいたからです。「同化」を強要はしないが、これだけは守ってもらわなければ我々の仲間ではない――その大切な共有すべき価値とは何なのかを、確かめる作業だったと言えます。
言うなれば、ここで再確認したのは、ドイツ連邦共和国基本法(憲法)の原則にコミットすることがドイツ人をかたちづくる、ということだったかもしれません。
日本でも、こうした議論をすべきです。結論を求めるのではなく、日本人とは何かを問い直す過程そのものが、自らを「純ジャパ」と信じて疑わない圧倒的マジョリティーの側に、発見をもたらしてくれるはずです。無意識に抱いていた偏見とか、日本人アイデンティティーが実は多様であることとか……。
この国に共生する人々を表す言葉、できたらいい
日本では首相や閣僚がよく「国民の皆さん」と呼びかけますよね。政治的共同体の構成員として国籍を重視するのは理解しますが、ドイツの政治家はほぼ使わず、代わりに「Mitbu(uに¨(ウムラウト)付き)rger」という語を多用します。「市民」とも「同胞」ともニュアンスが少し違い、なかなか訳しづらいですが、「国に共に暮らす人々」といった意味。日本での私のような立場の者も含みます。これに該当する概念や単語が、日本語にもできるといいなと思います。
その言葉が定着するころには、「日本人」という語の意味合いや用法も変わっているかもしれませんね。(聞き手・石川智也)
1983年、ドイツのキール生まれ。姫路飾西高校、早稲田大に留学。ボン大卒業後の2008年から日本在住。15年からZDF(第2ドイツテレビ)東京支局プロデューサー。翻訳、通訳、著述、番組制作と幅広く仕事をこなし、「職業はドイツ人」を自称する。
コメントプラス
真鍋弘樹(朝日新聞フォーラム編集長=社会、国際)【視点】 移民を受け入れ���ことによるドイツ社会の意識の変化について、メントラインさんが語っていることがたいへん参考になります。いったい、何が「ドイツ人」を決めるのか。行動か、言語か、価値観か、遺伝子か、見た目か……。そこで浮かび上がったのは、「私たちの社会は何を重んじるのか」という問いであり、「共有すべき価値」とは何かを考えることだった、と。
これは、移民国家と呼ばれる国々が自問自答してきた問いです。アメリカでは今もこの問いが繰り返されており、それがトランプ氏をめぐる政治的な分断にもつながっているわけですが、これは多民族国家にとって決して避けることができない議論でしょう。
今後、日本でも外国にルーツを持つ人々が確実に増え続けます。見た目や文化、言語が違う「日本に住む人」がどんどん増えていったら、私たちは何をもって「日本人」と考えるのか。移民を受け入れるということは、逆説的に「自分たちは何者なのか」を問う作業なのだと思います。
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illaalli444 · 1 year ago
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"イチ"をめぐって:『犬王』作中における当道座の拠点どこやねん問題
劇場アニメーション『犬王』のいわゆる「聖地」のひとつに挙げられる当道職屋敷址。仏光寺通に面する洛央小学校の敷地内にその碑はある。のだが、この「職屋敷跡」は近世のものらしい。では中世、���に『犬王』の舞台と思われる1370年代の当道座の拠点はどこか。インターネットで拾える情報がやや錯綜していると感じたので整理しておきたい。
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関連スポットの地図を作りました。ていうかこれが伝わればだいぶ満足です。Google Mapもあるよ(https://maps.app.goo.gl/Qqe48CYHHGXKvGSi9?g_st=i)。
はじまりのイチ:『犬王』の時代の当道座はどこにあったか
まずこの問題、手がかりになる情報の多くは兵藤裕己『平家物語の歴史と芸能』(吉川弘文館、2000年)から得ることができます。岩波新書『琵琶法師』で『犬王』ファンにはおなじみの兵藤先生の単著! 現在は入手困難ぽいのででっかい図書館とか駆使して読もう。特に関連するのは以下の箇所。
第一部 第一章「覚一本の伝来―源氏将軍家の芸能―」pp.8-30(初出:「覚一本平家物語の伝来をめぐって」『平家琵琶―語りと音楽』ひつじ書房、1993年)
第二部 第三章「当道の形成と再編―琵琶法師・市・時衆―」pp.157-173(初出:「琵琶法師・市・時衆」『一遍聖絵を読み解く』吉川弘文館、1999年)
こちらを参考にすると、結論からいえば『犬王』の時代の当道座(一方派)の拠点は平安京の東市周辺だったとみてよさそう。『琵琶法師』でも言及されているように、『梁塵秘抄異本口伝集』巻十四にみえる「さめうしの盲目ども」のエピソードから、仁安年間(1166-69)の段階で東市北辺にあたる佐女牛小路付近を拠点とする琵琶法師の集団が形成されていたとみられる。その後、明石覚一を派祖とする一方派の拠点がどこに置かれたかははっきりしないけど、定一の次の代の総検校・慶一の在名が"塩小路慶一"(塩小路は東市の南辺)であることから、この頃まではまだ東市周辺に彼らの拠点があったと考えられるようです。
さらに絞り込むなら、以下は私の推測ですが、『犬王』の時代には、東市周辺でも佐女牛側(北側)ではなく塩小路側(南側)が拠点だったのではなかろうか。すなわち、先に触れた慶一の在名が塩小路であることに加え、(1)律令制の衰退とともに東市は廃れ、その東南側、七条大路と町尻小路の交差点付近を中心とする"七条町"に商工業地帯が展開すること、(2)空也と一遍が布教をおこない市屋道場・金光寺となったのは東市の南半であること(参考:リーフレット京都No.65「東西の市」)などをふまえると、慶一よりも前の世代から、一方の拠点は市の南側に移動していたと考えてよさそう。
ということで、『犬王』の時代の当道座の拠点は京都駅の北西から西本願寺の南側にかけて…くらいの場所と考えておくのがよいのではないでしょうか。(東市の位置はおおむね現在の西本願寺にあたるわけですが、2022年10月に西本願寺で『平家物語 犬王の巻』の朗読イベントやったのエモすぎません?!)
イチの痕跡:佐女牛八幡と市姫神社
現在の西本願寺周辺には当道座そのものの痕跡は残らないけれど、東市と周辺の人々に思いを馳せることができる場所はいくつかある。ここでは兵藤の『琵琶法師』でも言及がある佐女牛八幡と市姫神社に��点をあてたい。
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「さめうしの盲目ども」の拠点とみられる佐女牛八幡=若宮八幡は、東市から北東に位置する。源頼義(八幡太郎義家の父)がその邸内に営んだことに始まり、以降、源氏の氏神として深い信仰を集めた。豊臣秀吉の京都改造によって五条坂に移ったが、旧地にも小さな"若宮八幡宮"が再建されている(写真)。移転先の五条の若宮八幡には足利義満寄進の手水鉢が残る。
ほかに「佐女牛」の名を残すスポットとしては、やはり源頼義の邸内にあったとされる佐女牛井(さめがい)がある。京の名水に数えられた井戸らしいけど、第二次世界大戦後に埋められ、西本願寺の北側、堀川通沿いに跡地の碑が立つ。また、西本願寺の北西にある緑のタイルが印象的な"井筒佐女牛ビル"5階には風俗博物館が入る。平安貴族の復元衣装や人形展示が見られるけど、日祝休館でタイミングによっては長期休館もあるので注意。
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市姫神社は東市に祀られた市の守護神。やはり秀吉の京都改造で河原町五条に移っている(市比賣神社)。旧地は西本願寺の寺域になっており何も残らないけど、JR山陰線を越えて西側、京都中央卸売市場の付近にも"市姫神社"がある。これは何なんやと思ったら、中央卸売市場の開設にあたって市比賣神社から分祀されているらしい。現代の市もお守りされているの、なんかいいですね。
移転先、五条の市姫社は女人厄除で有名で、マンションと一体化した入口も面白い。その西側には、やはり東市で空也と一遍が活動した市屋道場に端を発する市中山金光寺がある。非公開寺院。市姫神社とセットでこの地に移転しているわけで、東市と時衆の関係の深さがわかる。
京都観光Navi「若宮八幡」
フィールドミュージアム京都「佐女牛井跡」
京都観光Navi「市比賣神社」
その後のイチ:浄教寺と当道職屋敷跡
この文章の早い段��で、いや中世の当道座って浄教寺にあったんちゃうんかい、と思った方もいらっしゃると思うので、当道座の拠点が近世の職屋敷跡、仏光寺の北に移るまでの歩みも整理しておきたい。
兵藤の『平家物語の歴史と芸能』では、永享4年(1432)に「惣検校城存」が錦小路富小路の東頬に屋敷地を賜ったこと(『室町家御内所案』巻下)、永享9年(1437)に慶一の後を継いだ井口相一が「山法師戒浄」の屋敷を賜ったことを挙げ、15世紀初めには四条・五条の町地区へと移ったとしている。(ただ、城存は「城」の字からみて八坂方だろうし、山法師戒浄がどんな人で屋敷がどこにあったかまでは私は調べられていないです...。)
また、『職代記』には応仁の乱の際に当道の文書類が浄教寺で失われたという記載があるそうで、この頃には浄教寺に座務期間がおかれていたとされている。現在の浄教寺は四条寺町にあるけれど、これもやっぱり秀吉の京都改造で移ってきたもので、その前の所在地は五条東洞院。浄教寺は元は平重盛が小松殿に営んだ燈籠堂に端を発すると伝えられ、五条東洞院には"燈籠町"の地名が残る。なお、本来の重盛の燈籠堂は『平家物語』巻三にもあるとおり東山の小松谷にあった。現在、七条のフォーシーズンズホテル敷地内となっている"積翠園"は小松殿の庭園遺構であるとか。
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近世の当道職屋敷は、微妙な位置の変化はありつつも基本的には仏光寺の北にあったらしい(職屋敷址の碑は写真の植え込みのなかにあり)。絵図から位置が抑えられるのが寛永14年(1637)から。このあたりは以下の梅田論文に詳しいです。
梅田千尋2008「近世京都惣検校職屋敷の構造」『世界人権問題研究センター研究紀要』
なお、この論文では、永禄11年(1567)の当道座宛ての禁制文書の宛先が「四条かんこく惣けんぎやう町」となっていることから、戦国期には四条の函谷鉾町が拠点だったのではという指摘もされてる。
さて、ここまでつらつら書いてきましたが、『犬王』作中での描かれ方をみると、ラストの友有疾走シーンが四条室町っぽい(通りの描写の参考にしたと思われる国立歴史民俗博物館の復元ジオラマがここ。洛中洛外図屏風が描かれた頃の繁華街)ので、イメージとしては四条の街なかに位置していると捉えてもいいんじゃないかなと思います。平安・中世の東市周辺にしても、中世後半〜近世の四条・五条にしても色んな人がごちゃごちゃいて新しい音楽が生まれるのにふさわしい場所だったことは確かそう。私は劇場アニメーション『犬王』の、都市の物語でもあるところが大好きです。
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yaasita · 3 years ago
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https://nordot.app/861917205323988992
現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか(後編) 身元判明、そして分かったこと 2022/2/21 07:00 (JST)© 株式会社全国新聞ネット
タグ 47リポーターズ 社会 広島 特集ページを見る 地域再生大賞 📷 全国の地方新聞46紙と共同通信社が、地域モデルとなる活動団体を表彰しています
行旅死亡人の女性。遺品のアルバムから 📷 現金3400万円を残して亡くなった高齢女性。警察も探偵も身元を明らかにできなかった「行旅死亡人」だが、遺品の印鑑に刻まれた「沖宗」という珍しい姓を手がかりに、私たちはついに女性の身元を特定した。(共同通信=武田惇志、伊藤亜衣)(前編はこちら)https://nordot.app/861908753767972864?c=39546741839462401▽全国に100人程度しかいない珍しい姓インターネット上の情報では、「沖宗」姓は全国に100人程度しかいないという。沖宗家のルーツをブログで追究する広島県府中市の自営業、沖宗生郎さん(72)にメールで調査への協力を依頼すると、「私の親戚かもしれない人ですしね」と快諾してくれた。まず、電話帳で調べた各地の沖宗さんに取材しつつ、生郎さんが持つ江戸時代からの系図とつなぎ合わせることで、沖宗一族の家系図を作成することにした。その中に、よど号ハイジャック事件(1970年)の際に搭乗していた元客室乗務員の沖宗(旧姓)陽子さん(73)も含まれていた。彼女が保有していた詳細な系図を提供してくれたこともあり、ほぼ全国の沖宗姓の分布を網羅。その結果、系図が判明しないのは広島市内に点在する沖宗姓に絞られた。そこで昨年6月中旬の休日、広島市へ赴き、接触できていない沖宗姓を尋ね歩いた。2日間で計約10軒の沖宗さん宅を訪れ、「周囲で行方が分からない女性はいませんか」と聞いたり、女性の写真を見せたりして回った。しかし「聞いたことありませんね」と言われるばかりで、ほとんど手応えが得られなかった。元広島市議の沖宗正明さん 📷 唯一、気になる話をしたのが元広島市議(自民)の沖宗正明さん(70)だ。玄関先で取材に応対してくれた。事情を説明すると「今春、亡くなった母には妹がいたそうですが、どこにいるのか…。母は何も話したがらず、気になっていました」と明かし、「市役所で戸籍を確認してみます」と言ってくれた。▽興奮した口調で「私の叔母でした」「千津子は私の叔母でした」。週明け、普段の仕事をしていると正明さんから携帯に電話があり、興奮した口ぶりでそう告げられた。戸籍上、千津子さんは正明さんの母である照子(故人)さんの妹で、4人姉妹の次女に当たっていた。姉妹は広島市南区の宇品地区の出身で、病院のカルテにあった「23歳まで広島におり、3人姉妹がいた」との生前の本人証言とも合致する。唯一違ったのは、生年が1933年となっていたこと。45年9月生まれとなっていた年金手帳の記載より12年も古かったことだ。33年と45年9月の間には、第二次世界大戦がある。「なんらかの理由で、生年月日を45年8月6日の原爆の日の後にずらそうとしたのだろうか?」との疑問も浮かんだ。正明さんによると、経緯は分からないが照子さんは被爆者健康手帳を持っていたという。それにしても実年齢と干支(えと)が1回りも違っていたとは衝撃的だった。戸籍謄本と年金関連の書類。生年月日が12年も違っている 📷 相続財産管理人の太田弁護士を通じ、判明した事情を兵庫県警へ連絡したところ、事態は動きだした。警察はDNA鑑定を実施。そして4カ月後、ついに遺体が「沖宗千津子」さん本人と判明した。婚姻歴がなく、自宅の契約名義だった「田中」姓には改姓していなかったことも分かった。正明さんもその後、少しずつ叔母の記憶を思い出していった。「確かに、子どものころ会った覚えがあります。けれど、彼女が30歳前後に広島を離れて関西へ出て以降、疎遠になったままでした。こんな形で再会するとは…人生とは何かを考えさせられる出来事です」残念ながら、千津子さんの姉妹のうち2歳年上の長女の照子さんと、10歳年下の末妹の2人は亡くなっていた。存命の三女も認知症で、詳しい話を聞くことはできない。めいの一人は「母は3姉妹だと聞いていた」と驚いていた。このエピソードも、千津子さんが何らかの事情で身を隠して生きていかざるをえなかった事情を私たちに想起させるものだった。▽「卒業後ぱたっと音信が…」千津子さんが生まれた広島市南区の宇品地区も訪れた。すでに姉妹の生家はなく、新たな住宅が建っており、当時を知る人は見つからなかった。一方、姉妹の母の生まれ故郷で、千津子さんが国民学校と中学時代を過ごした広島県呉市川尻町の小用(こよう)地区には、確かな痕跡が残されていた。広島県呉市川尻町の小用地区の風景 📷 瀬戸内海に面した港町、小用地区は漁業と海運の町として知られており、姉妹の父も船乗りをしていた。父母がどのように出会い、結婚したのかは定かではない。地区は山に沿って小さな民家が所狭しと立ち並んでいるが、一帯は空き家が多い。一歩入ると、車が通れないほど細い道が迷路のように続いていた。沖宗家を知る人を訪ね歩い��1時間。出会ったのが中土井ヒサヱさん(87)で、千津子さんより1学年下だが、同じ中学校に通っていたという。千津子さんの写真を見せると、「これや、千津子さんやな。千津子さんはどこ行っとったんかね。ええような人じゃった」と目を細めた。「千津子さんの親戚が住んどるけん」。教えてもらった住宅に行くと、親族の女性が現れ、千津子さんの実家を案内してくれた。坂の途中に建つ木造の平屋は葉に覆われ、長年空き家となっていた。千津子さんが住んでいた平屋 📷 太平洋戦争末期、広島市で国民学校生徒の疎開が始まったころ、11歳前後だった千津子さんは宇品地区から小用に疎開。終戦後に隣町の安登中学校を卒業している。中学時代の千津子さん(前列右から3番目) 📷 中土井さんの紹介で、国民学校と中学時代の同級生だった川岡シマヱさん(88)とも会うことができた。隣町に続く長い坂道を通って毎日、一緒に登校していたという親友だった。「千津ちゃんは、たいへんおとなしい人なんじゃわ。学校行きよる時、うちが家から出てくるのを遠慮がちに待ちよってねえ」。中学時代の千津子さんとの写真を見ながら「千津ちゃんは髪が癖毛じゃった。歌が上手やった」と懐かしんだ。千津子さんは原爆投下時、疎開で小用にいたことになり、川岡さんも小用からキノコ雲を目撃したという。「中学を卒業して、広島市に戻ったのを最後にぱたっと音信がなくなって。どうしとんじゃろうと、村でも話題になっとったが…」川岡シマヱさん 📷 ▽姉妹でたばこ工場に勤めていたおいの正明さんによると、母の照子さんは日本専売公社の社員だったが、一時期、姉妹で広島市南区の広島工場に通っていた記憶があるという。後身の日本たばこ産業(JT)が運営する「たばこと塩の博物館」(東京都墨田区)に問い合わせると、1956年度の広島工場の名簿が残されており、「巻上課」に「沖宗千津子」の名前があった。元社員数人に問い合わせても彼女を知る人はいなかったものの、唯一、広島市の丹羽和光さん(81)が覚えていた。丹羽さんは59年に専売公社に入社。丹羽さんによると、当時巻上課には約200人の社員がおり、一番人数の多い部署だった。そのうち男性は5分の1程度の女性職場で、千津子さんは機械の操作員だった。名簿に残された氏名=「たばこと塩の博物館」蔵(一部修正しています) 📷 丹羽さんが千津子さんのことを覚えているのはなぜかと問うと「小柄できれいな人だったから」とはにかんだ。67年に新しい機械を導入したころには千津子さんは退職していたと記憶しているらしい。千津子さんは生前、「23歳の時に広島を出た」と話している。実年齢に合わせると当時は35歳だったことになり、1968年ごろだ。高度成長期の真っただ中。大阪は、70年開催の万博へ向かって活気にあふれていた。私たちは再び、原点の尼崎市にあった千津子さんの自宅に戻った。広島���らここに移り住んだ彼女はどんな生活をしていたのだろうか。94年に製缶工場で起きた労災事故からさらなる手掛かりを見つけられないかと考えた。製缶工場は99年に看板を畳み、跡地には住宅が建っていた。周辺を訪ね歩いて出会った経営者の親族女性は、あの事故のことを覚えていた。千津子さんが普段より早く昼休みから工場に戻り、業務を再開した直後に事故が起きたという。沖宗千津子さんの年表 📷 60歳を過ぎてから右手指を全て失う事故は、彼女にどのような影を落としただろうか。女性によると、事故後は工場ともめることもなく退職したということだった。「(千津子さんには)旦那さんがいたはず。周囲とあまりコミュニケーションを取らず、誰に対しても心を開いてなさそうだった」と打ち明けてくれた。▽遺骨は届けられ、遺産も解決したが…警察庁によると2019年、全国で行方不明者は約8万7千人。行旅死亡人は年間600~700件ほどが官報に公告される。高齢者の孤独死に関する公的な全国統計はないが、ニッセイ基礎研究所が2011年に発表した推計では年間約2万7千人に上っている。何らかの事情で地縁や血縁から離れた末、人知れず亡くなる人々は万単位で存在するが、千津子さんもその一人だった。遺品には子どもの写真が2枚含まれていた。1枚は姉照子さんの次男、もう1枚は妹の長女と判明した。長い間、連絡を絶っていた姉妹の子どもの写真を大事に持っていたのはなぜなのか。故郷を離れて世間の目から隠れるように暮らしながらも、ずっと家族のことは忘れていなかったのだろう。無縁仏として尼崎市の斎場に納められていた千津子さんの遺骨は、昨年末、おいの正明さんの元に届き、菩提寺に納められた。自称・田中千津子さんが沖宗千津子さんと判明したことで、その相続人も確定し、遺産の件も無事、落着した。千津子さんが育った町を歩き、友人や知人を取材していると、ほとんどが無縁仏となる「行旅死亡人」にもそれぞれの人生があり、生の痕跡が確実にどこかに残されているものだ、ということを強く思った。しかし、それでも彼女がどんな後半生を送ったのか
は分からないまま。尼崎市のアパートを契約した「田中〇〇」という男性がどこの誰かも分かっていない。千津子さんの部屋には「田中〇●(〇〇と漢字が一字異なる)」宛ての大型家電量販店やガス会社からのはがきが残されていた。「田中〇●」の名前で購読していた新聞は2011年に契約を打ち切っていた。沖宗千津子さん(右)と一緒にいた男性 📷 千津子さんはなぜ広島を出たのか。12歳も年齢を偽っていた理由は何だったか。アパートで亡くなるまで身を隠すように暮らしていた日々について、何か新たな手掛かりは見つかるだろうか。「故郷を50年以上も離れ、叔母はどんな人生を送ったのだろう。幸せだったんでしょうか?」。正明さんの言葉が重く切なく響いた。情報提供やご意見は共同通信大阪社会部にお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]/ツイッター:@kyodonewsosaka
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yumie-morohoshi · 4 years ago
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やまがたり-出羽國如月独り旅
旅に出る場所。
私は寒いのが大の苦手、という理由だけで
それまでは、自分の生まれ育った関東より西南の、どちらかというと温暖な地域に偏っていた。
真冬の北国だなんて、聞いただけで寒気がしてきていた。
ところが、である。
たまたま近所のカフェで何気なく手に取った、写真家・シャルル・フレジェの写真集「YOKAI NO SHIMA」の中に
藁でできた衣装を身に纏った人たちが、踊り回っている場面を見つけ
なんだこれは・・・面白そう、観に行きたい、という気持ちが頭をもたげてきた。
山形県上山市で毎年2月に行われる民俗行事「カセ鳥」。
寒いの嫌だ、と常日ごろ口にしていた私は
2019年の年明け、生まれて初めて、ユニクロの「ヒートテック」なるものを新宿まで買い求めに行き
「ヒートテック」なる繊維が生地に織り込まれている靴下と肌着を手に入れた。
それまで、ヒートテックというものがどういう形状をしているのか、まったく想像がつかなかった。
東北へ足を運ぶのは人生2度目、10年ぶり。
銀座にある、山形のアンテナショップの観光案内でバスの時刻表や地図をもらい
旅の相談をした。
まずは、昔ながらの旅館の外壁に鏝絵が施されているという銀山温泉。
翌日にちょうど、カセ鳥が行われる上山温泉。
2月の初旬、新幹線「つばさ」に乗り込んだ。
那須塩原を過ぎたあたりから雪が舞い始め、福島では止み
その後、また雪が深くなっていった。
新幹線といえば、東海道新幹線ばかり乗っている私にとって
山形に近づくにつれ、くねくねとカーブを描いてゆっくり走行していく新幹線はとても新��だった。
最初の目的地、大石田駅に到着。
もう雪が人間の背丈ほども積もっていて「わあ」と驚く。
シーズン中とあって、銀山温泉行きのバスを待つ人はかなりの長蛇の列で、当然バスの中はぎゅうぎゅう詰め。
入口近くで、なんとか足を踏ん張って30分強の道のりをやり過ごす。
銀山温泉は観光客でなかなかの賑わい。
共同浴場があるようだが、さすがにシーズン中は地元住民限定、と張り紙がしてある。
こんなに観光客が押し寄せてしまったら、昔から住んでいるかたがたは大変だろうなぁ、と思いを馳せた。
本日の宿は天童温泉。
そのまま銀山温泉に泊まればいいのに・・・とお思いかもしれないが。
あろうことか、観光案内でいただいた宿リストの上から順に電話をかけていき、シーズン中の一人客という理由で、見事にすべての宿からお断りの返答をいただいたのであった。
致し方あるまい。
もちろん銀山温泉周辺もかなりの寒さなのだが
日が落ちて、すっかり暗くなった天童の街を歩くと
しんしんと身体の奥まで染み渡る冷たさ。
スマホの地図の温度表示はマイナスを指している。
翌朝、かみのやま温泉へと向かう。
上山の街はこぢんまりし、昔ながらの建物がそこかしこに残っていて
どことなく、親しみがもてそうである。
高台にある上山城まで歩いたり、とにかくうろうろして
なんとなくの土地勘を掴む。
ここ良さそうだな、となんとなく目星をつけたカフェで
1人でも入りやすい、おすすめの夕食どころを尋ねる。
教えていただいた小さなご飯屋さんでは、年配の女性が温かく迎えてくれ
郷土料理の一つ、お麩を揚げたものをいただいた。
次の日。
いよいよカセ鳥の執り行われる当日。
上山城で祈願式が行われるのは朝10時からだったが、私はワクワクして待ちきれず
9時から敷地内にスタンバイし、着々と準備が進められる様子を眺め、関係者がやってくるのを待ち構えていた。
まず最初に、カセ鳥に扮する若者(だけではないと思うが・・・)が
頭に手ぬぐい、上半身裸(女性はタンクトップ)、ショートパンツにわらじを履いた姿で、お城の建物の前の石段にずらりと並び
一人ずつ順番に出身地と名前、カセ鳥に参加した回数を言っていく。
「埼玉県出身、○○ ○○、10回!」と参加者が声を上げるたびに、周囲から拍手や笑い声が起こって
それがまた一層、私たち見物客の心をワクワクさせるのだった。
Tumblr media
その後、若者たちは「ケンダイ」と呼ばれる、藁でできた蓑を頭から被せてもらい
何グループかに分かれて、街へと下りて行く。
私も迷わず、第一陣のグループのあとをついて、街へと下りる。
しばらく歩き、街の交差点のように少し広くなっているところへ差し掛かると
先頭にいたおじさんが、スピーカーで
「カセ鳥さまのーお通りだー!」と声を張り上げたのを合図に
ソレ カッカッカーのカッカッカー
カセ鳥 カセ鳥 お祝いだ
商売繁盛 火の用心
ソレ カッカッカーのカッカッカー
と、カセ鳥たちが声を揃えて囃し立てながら
輪になってユーモラスに踊る。
彼らが踊っているとき、街を練り歩いているとき。
住民たちは構わず、彼らに柄杓やらバケツやらを使って水をかけまくる。
カセ鳥たちは黙って受け入れる。
いや、むしろ自ら進んで水をかけられに行く、という方が正しいだろうか。
当日、雪でも降っていたら、カセ鳥さんたちはさぞかし辛いだろう・・・と思っていたのだが
幸い、穏やかに晴れ上がり、寒さもそれほど厳しくはなかった。
Tumblr media
周りで見守る地元住民も、カセ鳥に扮した面々も、私のように後をついて回る見物客たちも
みな、満面の笑みを浮かべている。
藁の衣装を纏っていないにしても、まるで自分がお祭りの主役の一員になったかのような
一体感、高揚感を身体に感じつつ、結局正午くらいまで、ずっと一緒になって街を歩き回った。
しかし---さすがに、ずっと歩き通しではそろそろ空腹を感じる時分に差し掛かった。
一段落したタイミングを見計らって、駅から40分あまり歩いたところにあるドーナツ屋さんを目指した。
カセ鳥を追って歩き回った上、さらにそこそこの距離を歩いたものだから
店に辿り着くや否や、空腹に耐えきれず、普段どちらかというと少食ぎみの私が、気づけばドーナツを4つも注文��ており
お店のかたが「大丈夫ですか?」と面食らっていた。
案の定、3つ目を食す頃にかなりの満腹を感じたため
残りの1つは持ち帰りにしてもらった。
そして、空腹だけではなく---もう一つの危機感を覚えることになる。
カメラのフィルムの残り、である。
カセ鳥の活躍っぷりを余すところなく捉えたい、と意気込んで撮影し続けるあまり
フィルムの残が心もとなくなっていた。
ここはほぼ土地勘のない東北、山形・・・
上山は大都市というほどの規模ではないから、フィルムを置いているお店がまったくない、という可能性も十分ありうる。
とりあえず足で探すしかない、とばかりに
近くのコンビニ、土産物屋、写真館などをあたってみるが、手応えはないまま。
どうしよう・・・と焦りばかりを募らせていた、のだったが。
あれ?
そういえば・・・駅のすぐ近くに、レトロな佇まいの写真屋さんがあったよな・・・
もしかしたら、あそこなら、置いてあるかもしれない・・・
どきどきしながら、ドアを開ける。
左手のショーケースには年季の入ったカメラ(おそらくフィルムカメラなのではと思う)が数台並び
年の頃が私と同じくらいか、少し若いくらいのお兄さんが正面のカウンターに立っている。
「フィルム?ありますよ!」
やった!
鹿児島・枕崎に次いで、ここ山形でも運良く命拾いをしたのであった。
お祭りがお開きになる15時ごろ、一連のカセ鳥たちが一斉に駅前の広場に集まって
カッカッカー、カッカッカーと締めの踊りを披露する。
カセ鳥役の若者たちが、次々と藁のケンダイを頭から脱いでいく。
役割を終えたケンダイは軽トラに無造作に放り込まれ、そのままどこかへ持って行かれてしまった。
名残惜しいけれども、終バスに間に合うよう、次の目的地の宿に向かわねばならない。
在来線のボックス席に腰掛け、どこまでも広がる雪の積もった��野を眺める。
夕陽が薄く差してはいたが、雲は厚くたれ込め、真っ白い畑の向こうに数軒の家がぽつぽつ見える。
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もし私が、こういう雪国に生まれ、生活していたとしたら・・・
なんとなく、気分が塞いでしまうのではないか。
ここに住むひとたちは、厳しい環境下にあっても
それなりに日常を愉しめているだろうか・・・
地元のかたには失礼極まりないかもしれないが、そんなことをぼんやり考えていた。
17時ごろ、米沢駅に着き
白布(しらぶ)温泉行きのバスに乗り込む。
この温泉地は、たまたま銀座にある山形のアンテナショップの観光案内でお薦めされ
当初、訪れるつもりはなかったけれども予定に組み込んだ地である。
バスは、すっかり暗くなり、灯りも差さない山道をくねくねと進んでいく。
ほんとうにこんな山奥に、温泉なんてあるんだろうか・・・
バスには乗客は私一人しか乗っておらず、道中不安で心細くて仕方なかったが
バス停に着くと・・・ほど近いところに門柱があり、男性が懐中電灯を持って待っていてくれた。
すっかり雪の積もった石段を下る。
「足下、気をつけて下さいね」と懐中電灯で照らしてくれた。
なんて温かい心遣いなんだろう・・・
宿の入口を入ると、正面に囲炉裏のある和室があり
女将さんが、甘酒を振る舞ってくださった。
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それまでの不安は一気に払拭され
温かな感謝の気持ちでいっぱいになった。
宿はなかなか年季の入った建物だが、丁寧に手入れされている。
当日は祝日で、翌日が平日だったからか
宿泊客はあまりおらず
大浴場も、利用した際は私一人だけだった。
こんなに広々としたお風呂や空間を独り占めしてよいものか…
少々戸惑いながらも、仄かな白熱灯の灯る空間の湯船でゆったり身体を休めた。
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翌朝。
せっかくなので、露天風呂に入ってみようと思い立ち
大浴場の隣の、簡易な脱衣所の引き戸を開ける。
やはり、今日も誰もいない。
屋外に出てみると
予想通り、身を斬るような冷たさが全身を襲う。
しかし、ひとたび湯船に身を沈めると…
筆舌に尽くし難いほどの幸福感、安心感。
辺りには雪を冠った針葉樹が広がり
時折、ばさっ、と音を立てて雪が雪崩れ落ちる。
そんな様子を眺めながら
ぼんやりと、朝の雪国の空気と、じんわり身体を包み込むお湯の温かさを膚で感じていたのであった。
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旅の道中、積もった雪を観るばかりで
あまり雪に降られることはなかったのだが
米沢の街に来たところで、しんしんと
けっこうな量の雪が降り始めた。
バスの便が悪く、お昼を食べようと思った喫茶店まで
駅から40分あまりの道のりを、降雪をかき分け歩くことになった。
米沢牛、と書かれた看板のお店を尻目に
橋を渡り、喫茶店へ。
お昼を食べて、また40分あまりかけて
駅へと戻る。
雪は勢いを衰えさせることなく、ただしんしんと降り続けている。
駅の軒先で、ふう、と一息つくと
いつの間に現れたのか、見知らぬご婦人が
「ねえ、ちょっと、雪払っていい?」と仰って
雪をサッサっと払ってくださり
そのまま、何も言わずに去ってしまった。
自分では分からなかったのだが…私はその時、全身かなりの雪まみれだったようである。
土地勘のない雪国で、住民と一体になってカセ鳥を楽しんだこと。
温かなおもてなしをいただいたこと。
思わぬ親切を受けたこと。
2月のこの思い出は、静かに穏やかに
いまも私のこころを暖かくさせる。
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50suke · 4 years ago
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柊有花さんの個展(塩尻市立図書館)見てきました。 なごみとしずけさとちょっとさびしさとやさしさと https://www.instagram.com/p/CLRdNu6sNQ0/?igshid=bud27llsls31
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htsurukai · 4 years ago
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お店のあとに、奥さんについてこにらを観に。塩尻えんぱーくで展示中で素敵な展示ですよ。 (えんぱーく 塩尻市立図書館) https://www.instagram.com/p/CKqQzAWhuB8/?igshid=11zg2m79mfl9o
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abcboiler · 4 years ago
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【黒バス】love me tender/tell me killer
2013/10/27発行オフ本web再録
※殺し屋パロ
「はじめまして」
「……はじめまして」
「っへへ、やっぱ声も思ったとおり綺麗だわ。な、俺、タカオっての。お前、名前は?」
伝統の白壁作りの家々は、夜の闇にその白さをすっかり沈めてしまっている。時刻は零時を丁度回ったところ。街路樹が全て色を変えた季節のこと。
この国の秋はもう寒い。話しかけられた男の方は、きっちりと白いシャツのボタンを首筋まで止め、黒いネクタイを締め、黒いコートを風にはためかせている。コートを縁どる赤いラインがやけに目立った。話しかけた男はといえば対照的に、夜闇でも目立つ真夏のオレンジ色をしたつなぎを着ているのみだ。チャックを引き上げているとはいえ、その中身は薄いTシャツかタンクトップだろう。
しかし突然話しかけられたにも関わらず男は無表情を保ったままで、鮮やかな髪色と同じ、眼鏡の奥のエメラルドの瞳は瞬き一つしなかった。そしてまた対照的に、オレンジのつなぎを着た男は軽薄というタイトルを背負ったような顔で笑っている。不釣合いな二人は、真夜中の淵、高級住宅街の一つの屋根の上で会話をしていた。
「何故名乗らねばならん」
「え、それ聞いちゃう? だってそりゃ、好きな人の名前は知りたいっしょ」
「成程」
初対面である男に唐突な告白を受けても、緑色の男はやはり一つの動揺も見せなかった。その代わりに僅かに、それは誰も気がつかないほど僅かに、白い首を傾げた。白壁すら闇に沈む中で、その首筋の白さだけが際立っていた。
「ならば、死ね」
魔法のように男の手に現れたサイレンサー付きの拳銃から、嫌に現実的な、空気を吐き出す僅かな音。
雑多な人種が集い、少年が指先で数億の金を動かし、老人が路地裏で幼子を襲い、幼子がピストルを煌めかせるような腐った街で、世界を変える力など持たない二人の男が、この日、出会った。
             【ターゲットは運命!?】
  「ねえ真ちゃんー、愛の営みしようよー、それかアレ、限りなく純粋なセックス」
「お前が言う愛の営みの定義と限りなく純粋なセックスの定義を教えろ」
「やべえ真ちゃんの口からセックスって単語出てくるだけで興奮するわ」
  高尾がそう告げ終わるか否かの瞬間に彼の目の前をナイフが通り抜けた。それは高尾が首を僅かに後ろに傾げたからこそ目の前を通り過ぎたのであって、もしもそのままパスタを茹でていたら今頃、寸胴鍋の湯は彼の血で真っ赤に染まっていただろう。壁に突き刺さったそれを抜き取りながら、彼は血の代わりに塩を入れる。
「お腹空いてんの?」
「朝から何も食べていない」
「ありゃー、それはそれは」
お仕事お疲れさん、と高尾は笑う。時刻は深夜一時、まっとうな人間、まっとうな仕事ならば既に眠って明日への英気を養っている時間帯である。
そしてその両方が当てはまらない人間は、こうやっておかしな時間帯に、優雅な夕食を食べようとしていた。落ち着いた深い木の色で統一されたリビングで、緑間はさして興味もない新聞を眺めている。N社の不正献金、農作物が近年稀に見る大豊作、オークション開催のお知らせ云々が雑多に並ぶ。
「しかし久々にやりがいがある」
「真ちゃんがそこまで言うなんてめずらし」
「ああ、俺の運命の相手だ」
緑間がそう告げた瞬間に、台所の方からザク��という壁がえぐれるような音がした。椅子に座る緑間は新聞から目を外すと、僅かに首を傾けてその方向を確認する。見慣れた黒髪と白い湯気。
「……ねえ真ちゃん、詳しく聞かせてよそれ」
「どうした高尾、腹が減っているのか」
「そうだね……俺は昼にシャーリィんとこのバーガー食ったかな……」
微笑みながら振り返る高尾の左手には先程緑間が投げたナイフが握られている。それなりに堅い建材の壁が綺麗にえぐれていることも確認して、彼は小さく溜息をついた。
(台所は本当に壁が傷つきやすいな)
寝所やリビングはもう少しマシなのだが、と周囲を見渡せば、そうはいうもののあちこちに古いものから新しいものまで、大小様々な切り傷や銃創が残っている。床、壁、天井、家具、小物にタペストリー。無傷なものを探すほうが難しい。彼は一通り確認して、もう一度台所に視線をやって、さらにもう一度、リビングを確認する。
(この家は本当に壁が傷つきやすいな)
そう認識を改めると、緑間は満足げに頷いた。自分が正しく現状を認識したことに満足して。もしもここにまともな感性の人間がいたならば、壁が傷つきやすいのではなく、お前たちが壁を傷つけているのだと頭を抱えただろう。良い家だが、と緑間は思っている。その良い家を傷つけているのが誰かというのは、気にしない。
「はい、真ちゃん、どうぞ」
高尾は左手でナイフをいじったまま、緑間の前にクリームパスタをごとりと置く。ベーコン、玉ねぎ、にんにく、サーモン、それから強めの黒胡椒。
「そろそろ引越しを考えるか」
「え、どうしたの、別に良いけど」
そして悲しいことに、あるいは都合のいいことに、この部屋にはまともな感性の人間など一人としていないのであった。
引越しだ、引越しをしなくてはいけない。
     *
緑間真太郎と高尾和成はフリーランスの殺し屋である。特殊な職業だねと八百屋の青年は冗談で流すかもしれないが、それは特殊であるというだけであって、この街ではありふれた職でもあった。なんなら、その八百屋の青年は、夜になったら配達先でナイフを燐かせているかもしれない。その程度である。その程度のありきたりさで、緑間と高尾はコンビで殺し屋をしていた。
しかし殺し屋がコンビを組むのは珍しいことではないが、コンビを組んだまま、というのはこの街でも非常に珍しいことだった。報酬の取り分や仕事のスタイル、そういったことで直ぐに仲違いをして、どちらかがゴミ溜めの上で頭から血を流すことになるのがオチだからである。
かといって、誰もがそんな下らないことで命を落としたくないと考えているのもまた事実で、コンビを組むのは一回か二回、そこで別れるのが一般的にスマートなやり方とされていた。
殺すも殺されるも一期一会と下品な男たちは笑う。
「ま、俺と真ちゃんは運命だから、そんなことにはなりませんけど」
笑いながら高尾は、真昼の路上を歩いている。彼にとって報酬はどうでもいいものであり、ただ緑間真太郎の隣にいることが彼の報酬そのものといえた。
別れるくらいなら死んだほうがマシ。いや真ちゃんが悲しむから死なないけど、あーでも真ちゃんかばって死ぬならまあギリギリ有りかな……いやいや高尾和成、人事を尽くせよそこは一緒に生き残るだろう? でも真ちゃんが万が一俺と別れたいと言ってきたらどうする? 緑間真太郎を殺して俺も死ぬか? いやいやいやいや、何がどうあれ、俺が、真ちゃんを殺すなんてありえない。ありえない!
微笑みを浮かべながら闊歩する高尾の脳内は地獄さながらに沸き立っている。けれど誰も彼を気に止めない。夕飯の買い物やのんびりとしたランチを楽しむ善良な市民たちに溶け込んで、柔らかい日差しを吸い込んでいる。世界に何億人といる、特徴のない好青年。その程度の存在として高尾は歩く。歩きながら考えている。
そう、そもそもそんなことになる筈がないのだ。だって、俺の運命の相手は緑間真太郎その人なんだから。
「運命の相手、ねえ……」
昨晩、正式には日付を跨いでいたので今日の夜だが、その夜、に、当の緑間真太郎が告げた台詞が高尾和成を苦しめている。俺の運命の相手。運命の相手。運命。いやいやいや、俺の目の前で真ちゃん、他の男の話とか無しっしょマジで。
意気消沈する高尾は、しかしそれで諦めるほどかわいらしい精神をしていない。彼がみすみす獲物を逃すことはないのである。逃すくらいなら奪って殺す。けれど彼に緑間真太郎を殺すことはできない。何故ならば愛しているからだ。ならば、彼の取るべき手段は一つだけだった。
「運命の相手の方殺すしかねーだろ」
いや別に殺さなくてもいい、相手が緑間真太郎を振ってくれるならそれでいい。いや、あの緑間真太郎を振る? それこそ万死に値するお前ごときが何真ちゃん振ってんだよそれはそれで死ねよもう。
自分で出した問いと答えに自分で怒りを爆発させるという器用なことをしながら、高尾和成は尾行していた。緑間真太郎を。
真ちゃん、今日も一日美しいね。
     *
「ねえ真ちゃん、真ちゃん今日一日何してた……」
「仕事だが」
「うん、そうだね、そうだよね」
ビーフストロガノフを頬張りながら高尾は溜息をつく。その向かいでは黙々と緑間が口にスプーンを運んでいる。湯気で僅かに眼鏡がくもっているが本人は気にしていないらしい。
「ねえ真ちゃん、ちなみにどんなお仕事なの」
「個人の仕事には口を出さないのがルールだろう」
「それも知ってた……」
そう、フリーでコンビを組んでいるとはいえど、二人の得意とする分野はまるで違う。だからこそ互いに補い合えるわけだが、逆に言えば苦手な分野でない限りは、どちらか一人で事足りてしまうのだ。
そもそもコンビを組むまでに築き上げてきた地盤もお互い全く別のもの。必要以上の情報は公開しないことはお互いのためにも必然だった。
「あーあー、もー。高尾くんがこんなに悩んでんのに真ちゃんはお澄ましさんだもんなー」
「悩んでいるのか? おめでとう」
「ありがと」
お前に悩むだけの脳みそがあったことに乾杯、と言いながら緑間は赤ワインを傾ける。それに応えながら、高尾は左手に持っていた食事用のナイフを壁に投擲した。それはまるでバターを切る時のように白壁に刺さる。とすり、と軽い音。
「今度引越しをしよう、高尾」
「それこの前も言ってたね」
「ああ、俺が運命の相手を見つけたら、すぐにでも」
なに真ちゃん別居宣言なのいくらなんでも酷くない?! 泣きながらビーフシチューを掻き込む高尾に緑間は首を傾げていた。
高尾、食べやすいからと言ってライスを噛まないのはよくないぞ。
     *
尾行が四日目にもなれば、いくら『人生楽しんだもん勝ち』を座右の銘に掲げる高尾といえど、纏う空気は重くなるというものだった。それもそのはず、この四日間緑間真太郎はといえば、近くの図書館にこもりきりなのだから。
「いや、でも、わかったこともある……」
窓際に座る緑間が見える、図書館向かいのカフェでジンジャエールをすすりながら高尾は溜息をつく。
まず、緑間真太郎が本を読みに行っているわけではないこと。毎回場所を変えてはいるけれど、常に入口が見える位置に陣取っていること。つまり、緑間は図書館に訪れるであろう誰かをずっと待っている。
それはわかった。しかしそれは、一日目の段階から薄々わかっていたことであった。ならば後は緑間が接触した相手を尾行し、暗がりにでも連れて行き、少し脅してどこか地球の裏側に行ってもらうか空の国に行ってもらえばいいと、彼はそう高をくくっていたのである。ところが、だ。
「なんで真ちゃん誰とも会わねーの……」
そう、緑間は誰とも接触をしていなかった。ただ黙々と本の頁をめくり、そして閉館時間までそこにいるのである。本に何かの暗号が隠されているのではと、その後忍び込んでみたが、まあ面白い程に何も無かった。
では本の種類か、と思ったが一体全体星占いの本で何を伝えるというのか。では帰り道か、そう思ってつけてみれば、そのまま家へと直帰したので夕飯の支度をしていなかった高尾は慌てふためいた。何せまだ夜の八時、普段からすれば早すぎるのである。
どうやら緑間は運命の相手探しとは別に、他の仕事をいくつか同時に請け負っているようだった。それが無い日は早く、あれば帰りにさっとどこかに寄って仕事をこなして帰っている。そして今の仕事は図書館で星占いの勉強だ。どうなってる、と高尾は頭を抱えることしかできない。
つまり朝家を出て、図書館に行き、帰る、今の緑間は基本的にはそれだけのことしかしていないのである。たまに何か軽い仕事をして帰る。何かに似ていると思ったら、職を追われたことを妻に隠して公園で鳩に餌をあげるサラリーマンだった。
そして今日も緑間真太郎は閉館時間まで本を読んでいる。もうその本を確認する気にもならなかった高尾は、緑間が立ち上がると同時に立ち上がった。
この図書館に何かあるのは間違いない。館内は飲食禁止というのを律儀に守る緑間真太郎は、毎晩腹を空かせて帰ってくるのだから。昼を食べに外に出ることも惜しんでいるのだろう。その間にターゲットが来てはたまらないから。そこまで緑間に想われている相手が憎くもあり、羨ましくもあり、そして今日も出会わなかったことに少しの安堵を覚えつつ、夕飯は何にしようと、高尾はもう考え始めている。
まずは胃袋をつかめって言うしな!
     *
「ねえ真ちゃん、俺に何か隠し事してない?」
「数え切れないほどあるが」
フリットを黙々と頬張りながら緑間真太郎は首を傾げる。この姿を見るといつも餌付けしているような気持ちになって、高尾の心の独占欲やら征服欲やらが幾分か満足するのだが、今ばかりはその小首を傾げた姿が憎らしい。昼飯を抜いている緑間はよく食べる。とはいえど、もともと食が細い方なため、これでようやく高尾と同じくらいなのだが。
「いや仕事以外でさ、仕事以外」
「む」
少し遠回りに何かヒントでも出して貰えないだろうかとやけくそで告げた言葉だった。しかしその瞬間に緑間の眉が僅かに跳ね上がったのを、高尾は見逃しはしなかった。何かある。間違いない。
もしも心暗いところが無ければ、こんな質問は一蹴されて終わりなのに緑間はまだ頬張った白米を咀嚼しているのだから確定である。きっかり五十回噛んだのち、緑間はゆっくりと口を開いた。
「何故バレた」
「バレたっていうか、自分であんだけ色々言っておいてバレたも何も無いっつーか……」
「仕方がないだろう。住所やら証明印やら保証人だか何だかが必要だとぐちゃぐちゃ抜かしてくるから、カードごと叩きつけてきたのだよ」
「ごっめん待って真ちゃん俺は一体全体何の秘密を暴いちゃってるわけ?」
全く噛み合わない会話に高尾は額を押さえた。これはまずい、とカンカンカンカン警鐘が鳴る。響き渡っている。これは、恋や愛などのロマンチックなものではなく、もっともっと切実な話だ。
「? 俺のラッキーアイテムのことを言っているのではなかったのか」
「真ちゃん今度は何買ってきたの?!怪しい骨董買うのはもうやめなさいって言ったでしょ?!」
「怪しくは無いのだよ。曰くつきではあるが」
ちらりと視線をやった先には緑間が愛用する真っ黒ななめし革の鞄。フォークを置くのもそこそこに高尾が飛びついて中を確認すれば、ご大層なジュエルケースが無造作に突っ込まれていた。
「し、んちゃん、これ、何カラット……?」
彼が震える手で開いてみれば、そこには美術館で赤外線センサー付きガラスケースに収まっているような宝石がごろりと存在感を放っていた。青い光が安い蛍光灯の光を反射して奇しく光る。角度を変えれば色も虹色にさんざめいた。
「百七だったか。ポラリスの涙とかいう宝石で、手にした者は皆その宝石の美しさにやられて、目から血を流して死んでいくだとかなんだとか」
「それってただ単にこの宝石巡って争い起きまくってきましたってだけだろ! おい待てこれちょっとおい怖い聞くの怖い、いくら俺でも聞くの怖い怖すぎる怖すぎるけど聞くけどいくら」
「オークションで七億」
「俺たちの全財産じゃねえか!」
緑間真太郎は占いに傾倒している。そのことを高尾は出会って少ししてから知ったが、その理由は知らない。けれど事実として、緑間は好んで占いの情報を入手するし、そこに書かれていることは実行しようとする。物欲の無い緑間の、唯一の趣味だと高尾は思って普段はそれを流しているが、それにしても今回のは過去最高額も最高額、記録をゼロ二桁ほど抜かしてしまった。
手の平に収まる石が高尾をあざ笑うように輝く。
「それが身分を確認するだとかなんだとか面倒くさいことを言うし、まさか言うわけにもいかないし、仕方がないから口座のカードに暗証番号書いて叩きつけて来たのだよ」
「ああ、なるほど、そこに繋がるわけね?! 確かに俺たちの口座普通に偽名だし辿られても問題ないと思うけど、待ってまさか分散させてた口座全部」
「叩きつけてきた」
「もう普通に殺して奪えよ!」
愛は盲目とは言うが、盲目であっても腹は減るし、愛で空腹は満たせないのである。名の通った殺し屋として法外の報酬を得てきた二人にまさか明日の食事を気にしなければならない日が来るとは高尾はついぞ思っていなかった。
カードに暗証番号を全て書いて怒りながら叩きつけた緑間を思うと、本当に何故そんな手段しか取れなかったのかと高尾は純粋に疑問で仕方がない。方法は他にもっとあった筈である。いや、そもそも七億の宝石を買おうと思う時点でおかしいのだが。せめて盗め、ていうかもう殺して奪え、そう思う高尾の主張は、ろくでなしとしては非常に正しかった。
「馬鹿が。普通に殺すとはなんだ。殺しとは普通のことではない。そして普通、モノのやりとりには正当な対価が必要なのだよ」
「そうだね、でも俺たち殺し屋だからね?!」
しかしそれは同じろくでなしである筈の緑間には全く通用しないらしかった。台詞だけを取り出せば間違っているのは高尾だろうが、この状況を見れば正しいのは自分だと彼は自分を慰める。知らぬ間に目尻に浮かんだ涙に、それを宝石に落としてしまっては一大事だと高尾は慌てて輝くそれをしまった。
そして、どうやら一文無しになったことを悟った高尾は項垂れた。確かに二人の口座は共有で、さらに緑間は、今はもう抜けた組織の下にいた頃に膨大な金を蓄えている。割合で言えば緑間の取り分の方が余程多いだろう。
それでもそのうち一億くらいは俺の取り分だったと思うんだけどな、と高尾は涙目を隠しきれない。それは自分の分の報酬を取られたことではなく、明日からの食事の献立を考え直さねばならないことに対しての涙だったけれど。
あまりにも凹んでいる高尾の様子に、流石に罪悪感を覚えたのか緑間は僅かに視線を泳がせながら打ちひしがれる高尾の方に手をおいた。
「高尾、その、なんだ」
「真ちゃん……」
「明日には二百万稼げるから」
「そういう問題じゃねーよ! いやでもそういう問題か?! じゃあ明日も豪華な飯作るからな?!」
半泣きになりながら告げる高尾に緑間は頷きながらグラタンが良い、と答えた。
また適度に面倒くさいモン注文するよなお前は。
     *
「で、真ちゃんそれいつ買ったの」
「一週間前」
一度落ち着こうと、二人はテーブルでコーヒーをすすっている。緑間の方は牛乳を入れすぎてもはや殆ど白い色をしているがそれで本人は満足らしい。
「あーー、一週間前じゃもう完全に差し押さえられてるよな……」
「だろうな」
「はーあ、真ちゃんの我侭にも困ったもんだわー」
机に頬をつけるようにして高尾は溜息をつく。左手でくるくると回していたナイフを机に突き立てればあっさりとめり込んだ。その様子を見て緑間は繰り返す。高尾、引越しをしよう、と。それにへいへいと頷きながら高尾はまたそのナイフを引き抜いて、寸分違わずに同じ場所に差し込む。
「あーあー、もー、真ちゃんのこんな我侭許してあげんの、俺だけだからな? 真ちゃんの運命の相手だってこんなの許してくれないよ?」
「お前は何を言っている。運命の相手に許すも許さないも無いのだよ」
「あー、はいはい、もうそんなの超越してるって?でもさ」
「いや、だから」
お前は何を言っているんだ? 本気で当惑したような表情の緑間に、どうやらこれは腰を据える必要があると高尾は顔をあげた。机に刺さったナイフは幾度も繰り返し繰り返し差し込んだことでついに貫通してしまっている。
取り敢えず、真ちゃん、コーヒーのおかわりいる?
     *
「小学生?!」
「ああ」
「し、真ちゃんって、そんな趣味だった、の、いやお前年上好きって……でも俺今から小学生に……」
「違う、が、その少年しか手がかりが無いのだよ」
高尾の動揺を全て無視して緑間は説明を続けた。曰く、その少年が持っている物がほしい。曰く、姿格好や出会った時間帯から小学生であることは間違いない。曰く、出会ったのは運命だ。
「で、なんでそれが図書館につながるわけ?」
「この街で小学校に通うということはそれなりに裕福な家庭だろう。服も仕立ての良いものだったからな。そしてその年頃の子供の移動範囲は広くない。行ける施設も限られているだろう。治安が良い場所で、そんな小学生が行く場所といったら図書館しかない」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
自信満々に超理論を展開する緑間に、高尾は渾身の力で首を振った。この男は殺しに対してはとんでもない頭脳を発揮するし、普段からその利発さは留まることを知らない、才能の塊だと高尾は思っているが、たまに、とんでもなく、馬鹿だ。
「まあ小学生なのも移動範囲狭いのもいいとして、旅行者かもとか親に連れられてたかもとか色んなのも置いといて、なんで図書館なんだよ!」
「ほかに何がある」
「漫画あるとこでもいいし街中でもいいし公園とかでいいだろ! 図書館とか最も行かねえよ!」
あまりの言われように緑間も何か言い返そうと口を開いたが、「お前がいる間図書館に来た子供の数思い出せ!」という一言には反論ができなかったらしい。口を閉じて悔しそうに高尾を睨みつける。
いや、そりゃそうだろうと高尾は思う。そもそも図書館自体が上流階級の持ち物だ。緑間は何の気負いもなく入っていったが、高尾だってそうそう入りたい場所ではない。そこに、いくら身なりが整っているとしても子供が入っていく筈が無いだろう。
ふてくされた表情のまま、じゃあどうすればいいのだよと緑間は問う。
「その近辺の子供が行きそうな所しらみ潰しに探すしかねえだろ。路地裏とか屋上とか廃屋とか、公園とか、まあ、そういうの」
「面倒だな……」
「言いだしっぺお前!」
露骨に嫌そうな顔をした緑間に左手でナイフを投擲すれば緑間は瞬きもせずにその先を見送った。それは緑間の耳の真横を過ぎていったが、彼は微動だにもしない。ただ壁にナイフが刺さる音と、真新しい傷が一つ増えただけだった。
「てか何をそんなに探してるわけ?」
「俺もわからん」
「はあ?」
もう投げるナイフは無いんだけどなと思いながら高尾は笑顔で続きを促す。普通の人間ならばこの笑顔だけで凍りつかんばかりの恐怖を覚えるのだが、こと緑間にそれは通用しない。何も悪くないといった様子のまま、堂々と信じられない言葉を紡ぐ。
「わからん、が、あの子供に会えば自ずとわかるだろう。その少年が全てを握っているのだよ」
一体全体どこの組織の黒幕だ、といった内容だが、緑間の話しぶりからして恐らくただの中流のちょっと上くらい、育ちの良い所の坊ちゃんでしかないだろう。真に受けるにはあまりにも馬鹿らしい主張だが、緑間真太郎は嘘をつかない。会えばわかるのだろう。会えば。つまりどうしても会わなくてはいけないらしい。そして、一度決めた緑間真太郎を止める要素など高尾和成は持っていなかった。
「いーよ、協力するよ協力します」
「良いのか」
「いや、遠慮するポイントがいまいちよくわかんねーよ真ちゃん」
苦笑を浮かべながら、その表情にそぐわない満足気な声で、高尾はため息のように言葉を継いだ。
「俺はお前の目だからね」
その言葉を緑間は否定しない。否定しないということは肯定しているのと同じことだ。そのことは高尾を満足させるに十分である。
まあ、運命の相手が自分が考えていたものと違っただけえでも御の字とするべきだろう、そう高尾は考える。気持ちも浮上していく。つい先程七億円を失ったことなどすっかり頭の隅に追いやって、高尾はご機嫌に尋ねた。良いだろう、緑間真太郎が探すものならこの俺が探してやろう。俺の目から、逃れられるものなど、そういやしないのだから。
「で、真ちゃん、特徴は?」
サクッと見つけてこの問題を終わらせようとした高尾の、当然の質問は長い沈黙で返された。今まで一度も返答をためらわなかった緑間が、それこそ七億の時ですら堂々としていたあの緑間真太郎の目が泳いでいる。背中をつたう汗に気がついて、高尾の骨が僅かに震える。ここに来てまだこの愛しいお馬鹿さんは爆弾を落としてくれようというのか。おいまさか、おい、緑間。
「……………………ええとだな」
「特徴は?」
頑なに視線を合わせようとしない緑間の顎を掴んで無理矢理自分の方へと向けた高尾の瞳の奥は笑っていない。それでも視線を合わせようとしない緑間は、長い長い沈黙のあとに、聞こえなければいいというような小声で呟いた。
「………………小さかった」
「子供はみんな小さいし、だいたいの人間はお前より小せえよ! お前にデカいって言われるような小学生こっちがお断りだわ! てかお前それで探してたの?! あいかわらず人の顔覚えないのな?!」
「興味がないものを覚えても仕方がないだろう!」
「いや運命なんだろ?! 頑張れよ!」
「見ればわかる!」
「いやいやいや、俺が見てわかんなきゃ協力しようがないじゃん!」
ここぞとばかりに糾弾すれば言い返せないことが悔しいのか緑間の眉がどんどんひそめられていく。
鬱憤晴らしに顎を押さえていた手を離し、両手でエイヤと高尾が緑間の頬を挟めば男前も形無しの唇を突き出したような顔になって高尾は笑ってしまった。ここまでなすがままにされる緑間というのもレアである。どうやら今は何をしても良さそうだとその頬をいじる高尾の手は数秒後に跳ね除けられた。
流石にやりすぎたか、でも元はといえば真ちゃんが、そう言おうとした高尾の目に映るのは、僅かに微笑みを浮かべた緑間真太郎。
「そういえば高尾、お前、何故俺が図書館にこもっていたことを知っていた?」
先程投げて壁に刺さっていた筈のナイフがその手に握られている。
形勢逆転、ちょっと待ってよ真ちゃん。
     *
「あ、緑のおじちゃんだ!」
「おじちゃんではない。おい、お前、この前のあの飲み物はどこで手に入れた」
夕方の公園、イチョウやカエデが舞い落ちる真っ赤な広場で、厳しい瞳をした緑間は無邪気そうな子供に話しかけている。高尾はといえばベンチに腰掛けてぐったりとしていた。
いくらなんでも瞳を酷使しすぎた。既にあの会話をした日から三日間が経過し、高尾はその広い視野を使って全力で子供を探していた。
ようやく見つけた少年は五歳ほどで、せめておおよその年齢くらいは指定が欲しかったと彼は目の周りをほぐしながら思う。
「この前の? 飲み物? ああ、おしるこのこと?」
「わからんがそれだ」
「あれはお母さんの手作りだよー」
遠くからその会話を聞きながら、いやわからないのにそれだとか断言しちゃって良いの真ちゃん、と高尾は心でツッコミを入れる。ナイフを投げる気力は残っていない。当の緑間はといえば、いたって真面目に、そうか、と頷くとコートの内ポケットから一つの袋と白い封筒を取り出してその少年に渡す。
「いいか小僧、あの味は素晴らしかった」
「そお? 甘すぎて僕そんなに好きじゃないなあ」
「あの良さがわからないとは……まあいい。今から俺が言う所にそのおしるこを持っていくのだよ。いいか、この紙と一緒に持っていけ。赤司征十郎に会わせろ、そう言うといい。手土産にはこれで十分だ」
しばらくやりとりを続けたあと、緑間が何を言ったのか高尾はもう聞き取れなかったが、どうやら子供は納得したらしい。明るい笑顔で駆けていった。その眩しい背中を見送る高尾に、緑間は、終わった、とそう一言声をかける。
「ねえ真ちゃん、あの子赤司ん所に送っちゃってよかったの?」
「何だ、何か問題でも」
「いや、普通、自分の命狙ってる奴のところに子供送らないでしょ」
緑間真太郎は友人であり元家族である赤司征十郎に指名手配されている。その原因でもある高尾は少しそのことを申し訳なく思っていなくもないのだが、当の本人だけは全く気にしていない。
「ふん、赤司は無駄な殺しはしないのだよ。俺に関わったというだけで殺していてはこの街が全滅だ」
逆に、関わったの定義が街全体に及び、その気になれば全滅させられるのだということを暗に示しているその言葉は恐怖しか呼び起こさないが、緑間は何故かそれを安全の担保にする。あいつは子供が好きだしな、という言葉には高尾の方が意外そうな顔をした。
「すでに行き詰まった大人と違って未来の可能性に満ちているから、らしいぞ」
「いやその資本主義やめようぜ」
高尾の言葉を無視して、緑間は家路を辿ろうとする。置いていかれそうになった高尾は慌てて立ち上がって隣に並んだ。真っ黒いコートと、オレンジ色のつなぎは夕日の色合いに似ている。そして高尾が必死についてくることを当然のように享受しながら、緑間は、まあともかく、と言葉を継ぐ。
「俺に関しては、ただちょっとばかし秘密を知りすぎているから取り敢えず殺しておけ、くらいのノリなのだよ」
「いや軽すぎ軽すぎ」
やはり変人の友人は変人だと、変人を愛する高尾は自分を他所にそう考えている。そして腹が鳴った瞬間に、そんなことも忘れてしまった。
「ま、全部終わったお祝いだし? 真ちゃん今日何食べたい?」
「できるだけ簡単なものでいい」
「ありゃ」
大げさに首をひねりながら、なんだろ、サンドイッチとかかな? と適当に言えば、ああそれが良いとこたえが返ってきた。
お祝いって言ってるのに、なんだか欲がないのね真ちゃん。
     *
ガシャンと窓の割れる音がしたのと、二人がテーブルから飛びずさったのはほぼ同時だった。床板をはねあげて高尾はナイフを数本取り出し、緑間は棚を引き倒して奥にあるピストルを手に取る。
次の瞬間、ライフルとマシンガンの音が玄関先から飛んでくる。勿論、音だけではなく、銃弾も。入口からは死角になる場所で二人は身を小さくして様子を伺っていた。
「あーあー、食事中なんだけどな!」
「ふむ、やはり来たか」
「え、まさか真ちゃんだから簡単なので良いって」
「赤司のもとに人をやったからな。久々に真太郎を殺しに行ってもいいな、とか思われる可能性があるとは思っていたのだよ」
「だから軽すぎんだよお前の元家族!」
呆れた顔で高尾は手近にあった鏡を銃弾の嵐の中に投げ込む。投げた瞬間に全て粉々に砕けたが、その一瞬と散らばった破片で彼には十分だった。その動作を当たり前のように見ながら、緑間はやれやれとでも言いだしそうな顔で続ける。
「だから引越しをしようと言っただろう」
「いやいや、ええ、嘘だろ?! えっ、あれってそういうことなの?!」
運命の相手を見つけたら引越しをしよう。そんなことを確かに言っていたような気もするが、その説明は一言も無かった。もうちょっと説明があっても良いと思うんだけど、と、その言葉を口にはせずに高尾は鏡の反射で見えた人物像を緑間に告げる。男六人。全員黒髪で恐らくイタリア系。
「真ちゃん誰か知り合いいる?」
「いいや���知らん。外部から雇ったんだろう」
「そっか、じゃあ誰も殺せねえなあ」
鳴り止まない銃声の中で二人は呑気に会話を続ける。恐らく出口は全て塞がれている。銃声は段々と近づいてくる。どうやら絨毯爆撃ローラー作戦よろしくじわじわと追い詰めるつもりらしい。それでも二人に焦る様子は無い。
「真ちゃ���ん、貴重品は持ちましたかー」
「新しい銀行口座と印鑑持ったのだよ」
「俺との愛は?」
「お前が持ってろ」
台所に付けられたナイフの痕。あまりにも傷つきすぎて、それは、そう、きっと、大きな衝撃を与えれば崩れるだろう。爆発のような、大きな衝撃があれば、穴が空く。
良い家だったと緑間は笑う。笑いながら構えたのは、改造されたショットガンSH03-R。
「俺と真ちゃんの運命は切り離せないっての!」
轟音。
     *
新居のあちこちに鼻歌をしつつ隠し扉や倉庫を作っていた高尾和成は、いつになく幸せそうな緑間真太郎の様子に首を傾げた。引越しの片付けを手伝うでもなく、ソファに座って何か手紙を読んでいる。この上機嫌は、先程届いた巨大なダンボール箱を開けてからである。あまりにも幸せそうな様子に、こっそりとその箱を覗いてみれば、そこにはぎっしりと同じ種類の缶が詰めこまれていた。
「新商品、デザート感覚で楽しめる魔法のスイーツ飲料『OSIRUKO』……?」
はっ、として会社を見てみればそれは赤司征十郎の経営する会社の傘下である食品会社の一つであり、オシルコという名前に高尾は聞き覚えがある。まさか、と思い振り返れば、緑間は同封された手紙を読み終わったところだった。
「し、真ちゃん、それ見せてもらえない?!」
「構わんぞ」
機嫌が最高潮に良いらしい緑間はあっさりと自分宛の手紙を高尾へと回した。そこに書いてある文面を読み終えて、彼は新居の床にうずくまる。
『親愛なる真太郎へ。
元気にしているようだね。少年から事情を聞いたよ。今年はアズキが豊作過ぎて廃棄していたから丁度良かった。お陰様で新商品が出来たので送る。お前が好きなら定期的に送ろう。それくらいの利益は出させてもらったのでね。刺激が足りないだろうと思って幾人かフリーの殺し屋を手配しておいたので一緒に楽しんでほしい。ではまた。これから寒さが厳しくなるが風邪などひかないように』
いやいやいや、殺そうとしてる相手に風邪の心配とか殺し屋サービスとかちょっと意味がわからないし、新商品? あのオシルコとかいう飲み物が? 緑間はそれを狙って赤司のところに少年を送ったのか? っていうかもう新居の場所バレてんじゃん?
数限りなく溢れてくる疑問とそれがもたらす頭痛に高尾は呻く。
高尾の視界の端で、緑間は幸せそうにオシルコの缶を開けている。よくよく見ればもう三缶目で、お前の運命の相手ってそういうことだったのと高尾は肩を落とさざるを得ない。そうだね、お前、コーヒー苦手だったもんね。
もういい、問題は全て投げ出してしまおう。やけくそになって高尾も缶のプルタブを開けた。勢いだけで喉に流し込む。噎せる。
どうも緑間の運命は、緑間に甘くできているらしい。
           【昔の話Ⅰ】
 「ひさしぶりー」
「そうだな、昨日ぶりだ」
暗に久しぶりではないと告げながら、黒いコートをまとった男の顔は目に見えて引きつった。初回に、死ね、と銃を顔面すれすれに撃ち込んでも瞬き一つしなかった、やけに自分を気に入っているらしい同業者のことはここ数日で危険人物として認定されている。この場から消えようにも、如何せん仕事前で、この場所は最も良いポイントだ。タカオと名乗る男は、恐ろしく目ざとくいつも彼を見つけた。
「ねえ、いい加減に名前教えてよ」
「断る」
「本当にほとんど毎日仕事してるよね? 疲れない? 休みたくならない? 手とか抜きたくなったりしない?」
「別に、そこにやるべきことがあるから人事を尽くしているだけだ」
お前には関係ないだろうと睨む緑髪の男には、出会った当初には伺えなかった諦めの色が僅かに浮かんでいる。どうせそう言っても、このタカオと名乗る男は気にしないのだろうと。
「うーん、やっぱ格好いいわ。好きだよ」
百発百中の殺し屋、誰にも媚びず決しておごり高ぶらない、緑色の死神。
「なんだそれは」
「え、知らないの? 巷じゃこっそり噂になってんだよ。緑色の美しい死神がいるってさ」
「下らない」
取り付く島もない返事にも、タカオは楽しそうに笑う。一体全体何がそんなに楽しいのかわからないまま、死神と呼ばれた男は苛立ちだけを募らせていく。早いところ、殺してしまった方が良い。殺してしまったほうが良い。けれど、今はまだ出来ない理由が彼にはあった。
              【ターゲットは瞳!?】
  「ねえ真ちゃん、いっぱい働こうね」
「なんだいきなり」
「お前が男らしく七億使った直後に引越し、装備も半分くらい置いてく羽目になって揃え直し、まあ金がねぇんだよ! 借金まみれだよ!」
「働いているぞ、俺は」
「俺もね! それでも全然足りないの!」
カレーを頬張りながら不満げな顔をする緑間に、高尾はこめかみを押さえる。緑間の金銭感覚がまともではないのは出会った当初からだが、今まではそれを支えるだけの収入と貯蓄があった。しかしいかな売れっ子殺し屋の二人とはいえど、七億の宝石は手に余る存在だった。なまじ緑間が派手に買っていったためにしばらくは闇に流すのも問題がある。いまいち状況を理解していない緑間に恨みがましい瞳を向けながら高尾は苦言を呈した。
「ご飯にも困るし、三食赤司からのおしるこは駄目だろ」
「それはそれで構わないが」
「栄養考えて! 俺は別に糖尿病の真ちゃんでも愛せるけどさ! でも糖尿病になって欲しいかって別の話じゃん!」
そもそも俺甘いものそんな好きじゃねえし、そう泣き言を言えども、緑間はお前の好みなど知ったことではないと取り付く島もない。新居は白い家具で揃えられているが、そこに切り傷が付くのも時間の問題と言えた。
「言っておくけど、このままだとラッキーアイテムも買えなくなるぞ」
「それは困る」
最終手段として持ち出してみれば、ようやく緑間は食いついた。カレーを丁寧に掬い取って口に入れる前に、仕方がない考えておくのだよ、とありがたいお言葉が高尾に降り注いだ。
なに真ちゃん、三大欲求よりラッキーアイテムですか。
     *
「昔ペアを組んだ相手?」
「ああ」
数日後から緑間は頻繁に外に出るようになったが、その表情は日に日に厳しくなっているようだった。これは緑間には珍しいことである。彼は基本的に性格に難アリでも仕事に関しては天才だ。行き詰まるということは滅多にない。日を追えば追うほど狙いに迫り、予定日に目的を果たす。緑間のグラフは右肩上がり以外の形を取らない。
その男が、日を重ねるほどに重い空気を纏う。はて、何か難航しているのだろうかと高尾が首を傾げた頃、緑間の方から声がかかった。
「次の依頼はお前の協力がいる」
「おお?」
シチューを煮込む手を止めて高尾が緑間のもとへ向かえば、人に物を頼もうとしているとは思えないほど嫌そうな顔が高尾を出迎えた。緑間が何かを頼む際はおおよそ常にこのような感じなので高尾はもう気にしていない。むしろ愛する人から頼られて嬉しくない男がいるだろうかと、反比例するかのように高尾はご機嫌である。
「なになに珍しいね、いいよ手伝うけどどういう感じなの?」
「お前がいれば簡単な仕事なんだがな、俺だけでは少し厳しい」
「それこそ珍しいね。なんで?」
「俺のやり方を知っている相手がいる」
「んんん? どういうこと?」
そして緑間の口から告げられた言葉に、新しい家に記念すべき一つ目の傷がつけられたのであった。
「昔ペアを組んだ奴が相手だ」
ねえ、なんか前も言った気がすんだけど、だから他の男の話なんてしないでよ真ちゃん。
     *
「組んだのはお前と会う前の一度きりだったし、顔を見て暫くしてようやく思い出したくらいの奴なんだが」
「それでも、真ちゃんが覚えてるなんて珍しいね」
「ああ」
なかなかに、印象的な奴だったからな、と他意なく言ったのであろう緑間の言葉に高尾は手に持っていたフォークを机に刺した。
緑間真太郎は興味の無いことは覚えない。関係の無い人物は覚えない。それはいっそ清々しいほどに全て忘れる。その緑間の意識に残っているというだけで高尾からすれば嫉妬に値した。けれどシチューに生クリームを垂らしている緑間は気にすることなく食事を続ける。
「それで? そいつがどうしたって?」
「今回の俺の標的に、そいつがボディガードとしてついている。そして、ここからが一番問題なんだが、どうやら俺に狙われていることを今回の標的は知っているらしい」
「情報が漏れてるってこと?」
「恐らく」
緑間が嫌そうな顔をしている理由がわかって高尾も溜息をついた。引き抜いたフォークで青いブロッコリーを突き刺す。さくりといく。
標的が緑間のことを知っていることが問題なのではない、情報が漏れていることの方が致命的なのだ。今バレているということは、これからもバレる可能性がある。単純な話だ。そしてそれは暗殺という点で致命的だった。その流出源を突き止めるのは、人を殺すよりもよほど面倒で手間がかかる。
「まあそちらを突き止めるのは後回しだ。時間がかかるしな」
「あいよ。ボディガード雇うってことはどうせお偉いさんでしょ」
「ネムジャカンパニーの社長だな」
「ああ、あの。なんだっけ、この前新聞で見たわ。ガウロ氏だっけ。結構長生きしてる会社じゃん。十年前くらいから勢い増してるとこか。まあ勢い良くなるの��一緒に悪い噂も増えたけど」
「どうせどこかで恨みを買ったんだろう。どうでもいい」
緑間がどうでもいいと言うならば、彼にとってそれは本当にどうでもいいことな��だ。どうやらこの話題は彼にとってあまり面白くないものらしいと高尾は悟った。自分から振ってきた仕事の話なのになあと彼は溜息をつく。ウイスキーを割りながら高尾はこの話題を終わらせるべく次へ進むことに決めた。
「で、次のチャンスっていつなわけ」
「明後日だ」
あまりにも急な話に高尾の喉から漏れたのはウイスキーと細かく砕きすぎた氷の欠片だ。噎せている高尾を、緑間は汚いと一蹴する。ごめんごめんと謝りながらも、何故自分が謝っているのか高尾は分かっていない。
ねえ真ちゃん、連絡はせめて一週間前って習わなかった?
     *
「射程距離は一キロ、標的まで直線が開いてさえいれば決して外すことのない百発百中のスナイパー」
B級映画のような宣伝文句、それを現実に実行してしまう男がこの世の中にいるとは誰も思わないだろう。そう、緑間真太郎と、出会わなければ。
オーダーメイドのスーツに身を包み、新品の革靴を光らせ、髪の毛をきっちりセットした高尾は薄笑いを浮かべながら、現在八百mほど離れた屋上にいる男に思いを馳せる。まあ人外だよな、と彼は思う。
熟練した銃の狙撃はただでさえ厄介だ。それが一キロ先ともなれば視認することはまず不可能。周囲一キロを全て護衛することなど大統領クラスでなければ到底できやしない。いいや、今まで暗殺に倒れた大統領の中で、誰が数百メートル先からの銃弾に当たっただろうか。それは全て、至近距離からのものではなかったか。キロ単位なんて前代未聞。
そして一キロの距離を、弾丸は一秒で詰める。
それを避けられる人間がいるならば見てみたいと高尾は思う。
「失礼」
するすると宝飾にまみれた人ごみを避けて高尾は歩く。その動きは不審ではないが、もしも誰かがじいっと見つめていたらその滑らかさに感嘆したかもしれない。
けれど、どれだけ滑らかに動けども、人が歩く速度には限界がある。乗り物に乗って移動するにも限度がある。バイクに乗っても一キロ先に行くのに一分はかかるだろう。
そう一キロ先からの狙撃とは、そういうことだった。捕まえることが、出来ないのだ。
仮に一分でたどり着くとしても、その一分の間に緑間は装備を解体して車に乗り込むことができる。後は逃げればいいだけだ。それも、一キロ離れた狙撃元を明確に理解できていたら、というとんでもない前提をもとにした話、実際はそううまくはいかない。探す時間を含めて三分で済めば奇跡だろう。そしてそれは逃亡するには十分な時間である。
サイレンサーを付ければ音も消え、狙撃元はよりわかりにくくなる。
まだ高尾が緑間と直接出会う前、緑の死神と風の噂で流れては来たが、彼の緑色を捉えた時点で、その人物は相当の人間だったのであろう。普通は、その姿を見ることなく全て終わるのだから。
「招待状をこちらへ」
「お招きに預かり光栄です、ガウロ氏のお屋敷一度拝見したいと思っておりました」
人好きのする笑顔を浮かべながら高尾は招待状を差し出す。ポーターは無表情のまま招待状を受け取って裏へと消えていく。その間は警備員が高尾を見張っている。招待状は無論偽物だがバレるとは思っていない。ここでつまづいていては話にならないのだ。裏で招待状が綿密にチェックされている間、欠伸を噛み殺して、彼は愛する緑間真太郎を思う。この寒空の下、呼吸すら失ってただ静かにタイミングを待っている男のことを。
銃の射程距離は遠距離狙撃で三キロ以上のものもある。一キロという着弾距離自体は、別にないものではない。しかしそれが、百発百中というのが問題なのだ。問題。そう、緑間のそれは災害とも言うべき問題だ。一キロ先。天候や筋肉の微細な動き、銃の調子、全てがそれを左右する。一ミリのずれは、一キロ離れればメートル単位の誤差だ。それが百発百中というのだから、その技術がどれだけ繊細で神がかっているかわかるだろう。
「ようこそおいでくださいました、ミスタ」
暫くして出てきたポーターは招待状を高尾に返すと僅かに微笑んだ。うやうやしいお辞儀に見送られながら高尾は赤い絨毯を踏みしめる。
着飾った婦人と紳士の間を交わしながら、彼はホールへと向かう。この豪邸から少し離れた場所では子供たちがゴミ山で暖を取りながら埋もれていることなど信じられないような、きらびやかな世界。
しかしその華やかさとは裏腹に、全てのカーテンは分厚く閉ざされ、少し閉塞感を生み出していた。ご丁寧に固定され、風や客の手遊びで開いたりすることのないようになっている。
(成程、こりゃ確かにバレてるわ)
しかし緑間の正確さ、それは逆に言えば、つまり緑間の視界から外れさえすれば、狙われることは無いということである。
見えないものに向かって撃つことはできても、狙うことは出来ない。
これが緑間の正確さの弱点でもあった。他にも緑間には、自分の信念に基づいた致命的に大きな制限がある。故に、彼を相手にする際、他者を巻き込むような乱射や爆破に注意する必要は無い。スナイパーライフルは巨大だし、小型のピストルだって会場の入口で持ち物検査で引っかかって終わりだ。今回も勿論高尾は綿密なチェックを受けている。そもそも近距離で殺してしまっては、そこから逃げ出せるという緑間の特性が全く生かされない。
わざわざシェルターに閉じこもらなくとも、カーテンを締め切るだけで、緑間の視界からは外れる。単純だが効果的な手段だ。一生、緑間の目から逃れられるなら、緑間に殺されることはない。
けれど、金持ちが誰にも合わずにいられるはずもないのだ。
全くもって皮肉なことだと高尾は思う。金持ちになればなるほど恨まれやすくなり、標的になりやすくなる。そして、金持ちであればあるほど、社会的に上の立場にいればいるほど、彼らはそれをアピールしなければならない。そういった付き合いをしなくてはいけない。自分の権力を、財産を、力を、知らしめなければいけない。それが彼らの仕事の一つだ。そうしてまた、恨みを買っていく。その連鎖。
今回、高尾が潜り込んだのは、手に入れた宝石のお披露目パーティーとやらであった。その話を聞いた時はあまりのくだらなさに呆けてしまったものである。命を狙われていると知っているのに、しかもそれが緑間真太郎であると知っているのに、こんな下らないパーティーで命を危険に晒すというのか。
(ま、しかし赤司さまさまだわ)
それとも、潜り込むことなど出来ないという自信でもあるのだろうか。確かに緑間は近接の暗殺には向いていないし、コンビである高尾の存在を知らない人間は多いだろう。そのためにも、二人、極力別々に仕事をしているという側面もあるのだ。
まあ、それが運の尽きだと、何の感慨もなく彼は飲み込む。高尾和成を知らないことが、運命に選ばれなかったということなのだと。
(確かに赤司いなかったら厳しかったかもだし)
金持ちの親戚付き合い知り合い付き合いというのは広い。誰それの娘婿の弟の従兄弟の云々。関係は蜘蛛の巣のように広がり絡まっていく。そして結束を強くし、いらないものを切り捨てて肥えるものは益々肥えていく、それが金持ちの常套手段だ。顔も知らない相手を、利益になりそうだからと平気で招く。だからこそ招待カードには華美と工夫が凝らされるわけだが、それさえ偽造できてしまえばあとはこちらのものだった。
そして大抵の招待状は赤司の元に届いている。
それを緑間がどのようなやりとりの結果入手したのかは知らないが、流石に本物を使うことは禁止されていたが、本物があれば高尾にとってそれを偽造することはたやすい。緑間と違って近距離、接近しての暗殺がメインの高尾が長年の間に身につけた技術であった。
立食形式になっているらしい会場で、白い丸テーブルがランダムに、けれど一定の景観を損ねないように並んでいる。盛り付けられた花やレースは美しく、どうやらプランナーは一流のようだった。主席が来るであろう位置を確認した高尾は、それに背を向けるようにして適当なテーブルに陣取る。手持ち無沙汰にしている一人の婦人を見つけて笑いかける。そしてボーイから二つグラスを受け取って近づいていった。
さて、どうしましょうかね。
     *
耳に当てた通信機から、数秒おいて悲鳴と怒号が聞こえたことを確認して緑間は伸びをした。数時間同じ姿勢で微動だにしなかった筋肉は固まっている。ストレッチをしながら、耳元の悲鳴をBGMに、仕事が成功したらしいことを思う。
てきぱきと荷物を片付けると彼は走ることもなく、平然と階段に向かっていく。下手に目立つことをする方が危ないと彼は知っている。どうせ、この場所を見つけるまでに五分はかかるのだから。焦る方が間抜けだと彼は思っていた。
さて、これからどうやって情報流出者を突き止めようかと次のことを考えていた彼の耳元で、唐突に音が途切れた。叫び声が消え、途端に夜の静寂が彼に襲いかかる。聞こえるのは彼自身の呼吸だけ。
通信が途切れた緑間は首を傾げた。無音。自分の機械を確認してみるが電源は変わらずに点いている。
脱出し、落ち合うまで通信機は入れっぱなしであるのが常である。何か非常事態があって電源を落としたとも考えられるが、そもそも通信機は見た目でバレるようなものではない。持ち物検査でも気がつかれないのだ。緑間から高尾に飛ばせない、高尾から緑間への音声の一方通行である代わりに、最大限に小型化され、洋服に仕込まれている。
数秒固まった緑間は、僅かに眉を潜めると屋上でコートを翻して走り出した。手すりに引っ掛けるようにしたロープを掴んで、減速することなく飛び降りる。ビルの下にはバイクがつけてある。
今高尾は潜入するために丸腰だ。小型通信機の持ち込みだけで精一杯。故障や何かの不慮の事故で電源が落ちただけならばいい。
けれどもしもそうでなかったなら、もしも見つかってしまったなら。もしも、緑間の仲間だと気がつかれたなら。
さて、どうしてやろうか。
     *
「よくまあ気づいたよなあ。俺、目立つような行動一切してなかったはずなんだけど」
「お前がシンと一緒に歩いている所を見た」
「んあー、成程、そういうこと」
顔面から血を流して高尾は笑う。骨折まではしていないようだが、十分に痛めつけられているとわかる姿で、彼は一人の大男に引きずられていた。手足は拘束され、身動き一つ取れない状況で、屋敷の奥へと無理矢理連れられながら高尾は笑う。
「そうだよなあ、真ちゃんは目立つからなあ」
「よくあの男をそんな風に呼べるな」
「真ちゃん? 真ちゃんを真ちゃんって呼んでいいのは俺だけだし、真ちゃんって言葉じゃ表現できないくらいにかわいくてかわいくて仕方ないけど、でも別にそのかわいさを教えてやるつもりもないしなあ」
「いや、わかった、お前も相当にクレイジーな奴だ」
捉えられている筈の高尾は陽気に、そして引きずっている筈の男のほうが顔を引きつらせながら曲がりくねった廊下を歩く。侵入者を拒むように、複雑に作られた屋敷。
セレモニーの場に現れた男、今回のターゲットが額から血を溢れさせた時、高尾はその男に背を向けて談笑していた。目の前の婦人の悲鳴、さもそれで気がついたかのように後ろを振り返り、緑間の仕事が見事に成功したことを悟り、気を失いそうな婦人を介抱するフリをして外へ出ればそれで高尾の仕事は完了だったわけだが、どうやら本当に運の悪いことに、緑間とペアを組んでいた男は、高尾の顔も知っていたらしい。
いや、緑間が顔を見て思い出したと言っていた。そのことを高尾はこの期に及んで思い出す。緑間から見えたということは、この男からも見えたということだ。その時、高尾が側にいなかったと、誰が断言できるだろう。自分の迂闊さに彼は血の味しかしない口をあげて笑う。
「で、なんで殺さないわけ……って、わかりきってるか、そんなの」
「ああ」
「大分ボコってくれたけど」
「人の命を奪っているのだから、それくらいの報いはうけろ」
「そりゃ、その通りだわ」
高尾の左ポケットに入れていた通信機は衝撃で壊れている。小型はヤワでいけないねえと彼は改良を心に決めた。緑間に現状を伝える術はない。それでも、引きずられている自分の姿と、その男から伝わる振動に、高尾は笑っている。
ああ、もう、本当に、これだから!
     *
「ようこそ。君がシンの相棒?」
「ありゃ、随分とちっせえなあ」
高尾が連れてこられた場所は屋敷の最奥、巨大な樫の木の扉を開いた応接室だった。扉を正面に、革張りの椅子に座る人物は、その椅子の重さに比べて、随分と軽そうな、男。
「ええ、ですがあと数年もしたら伸び始めますよ」
そう、男というよりは、少年という方が的確だった。まだ伸びきっていない手足に、滑らかな肌、声変わりをしたのか定かではない柔らかい声。
「あんたがこの屋敷の主人?」
「ええ」
「随分若いんだね」
「今年十六になります」
「そりゃ良いね」
「いやあ、良い事なんて何も無いですよ」
椅子に合わせた机にも、少年の体は不釣り合いだ。それでも、そこに座るのが当然といった様子で彼は微笑んでいる。何かに似ている、と思った高尾は、一度だけ遭遇した緑間の元家族を思い出して溜息をついた。世の中には、たまにとんでもない子供が生まれるものだ。
「六歳の時に父さんや母さん兄さんを殺したまでは良かったんですけど、当時の僕は馬鹿でね、六歳なんて社会的になんの力も説得力もないということに気がついていなかったんです」。
「あんた、家族全員殺したのか」
「まあ、そういうことになりますけど、どうでもいいじゃないですか」
「そうかな」
「ええ」
僅かに目を細めた高尾に気がついているのか気がついていないのか、少年は話し続けている。その頬が僅かに上気していることに気がついて、高尾は僅かに哀れみを覚えた。
「殺してもらった彼は遠い遠い親戚なんですが、僕の力でここまで来れたというのに段々調子に乗ってきてね……まあ幸いにも、僕も自分の意思が認められる年齢になりましたから、ここらで死んでもらおうと思いまして」
これは、少年の自慢話なのだ。
「依頼主はぼくですよ」
種明かしをするように楽しそうに少年は笑うが、そんなことはこの部屋に入った瞬間から高尾にはわかっていたことであった。
「じゃ、なんで俺は捕まえられたわけ? あんたの希叶って良かったんじゃないの?」
「殺し屋を捕まえたほうが後継は楽でしょう」
そしてまた予想通りの答えに高尾は苦笑してしまう。
この少年が社会的にどういった扱いになっているのかはしらないが、ガウロを殺した実行犯を見つけ、ついでに誰か適当な人間をそのクライアントだったと糾弾し、自分がこの屋敷の正統な血統だと証明して跡を次ぐ。そんなシナリオを描いているのだろう。正直な話し、稚拙だ。稚拙で、単純である。しかし稚拙で単純なストーリーは人々の心に届きやすい。それは、わかりやすさに繋がるからだ。その点で、この少年は確かに正しかった。
「あなたたちのこと調べさせて頂きました。百%の達成率を誇る殺し屋。あの男が万全の警備をすることはわかりきっていましたしね、殺せないんじゃ仕方ない」
「別に俺たち以外にも適任は沢山いたと思うけど」
「調べさせてもらったと言ったでしょう。あなたがたは依頼された人物以外は殺さない。女子供老人若者、一般人もマフィアも。何故そんなポリシーを持っているのかは知りませんが、何より、敵に襲撃をされても殺さないというのは驚嘆に値します。だったら、僕が君たちを裏切っても、君たちは僕を殺せないでしょう?」
そう、少年の計画は単純ながら、単純ゆえに、正しかった。ただ、前提を圧倒的に間違えていただけであった。
「いや、君のこと頭良い少年かと思ったけど全部撤回するわ。君、ただの馬鹿だわ。それも、大馬鹿。ただのガキんちょ」
「なんですって」
「そんなちっこい体? あれ? 君百六十ある? ギリそんくらいだよね? まあそんな体でこんな計画して調子乗っちゃってんのはわかるけど、そんなでっけー椅子にふんぞり返って座っても大人にゃなれねえよ」
「負け惜しみですか」
「んん? 別にそう思ってもいいけど、真正面からお前に向き合ってる人間にそういうこと言うのはどうよ」
上気していた少年の頬は今怒りで赤く染まっている。それを見て、高尾はやはり哀れみしか覚えない。馬鹿だなあ、と、そう思うのみだ。そもそも十六歳という年齢に頼らなければ大人を従えられないという時点で器は知れていた。
赤司、お前と似てるとか言っちゃってごめん。少なくともお前は自分の年齢を言い訳になんて一度もしなかった。
「いやー、なんでこんな奴ん所で働いてるわけ?」
今までの全ての口上を無視して自分を連れてきた男に高尾は話しかけた。その様子に少年は気色ばんだが、話しかけられた男は、なんてことないようにその質問に答える。
「今度子供ができるんだ」
「なるほど」
満足げに笑って、高尾は少年に向き直った。その顔は笑ってはいたが、その瞳は猛禽類のように尖っている。少年は僅かに怯んだが、それはきっと、高尾に怯えるには少し遅すぎた。少年が、世界を知るには、遅すぎた。
口を開く最後の瞬間まで、高尾の表情は笑顔で象られていた。
「だってさ、真ちゃん」
「成程」
その瞬間、空気がかすれるような音が二発響いた。
いいや、殆どの人間には一発にしか聞こえなかっただろう。それほどまでにその音は連続しており、微笑む高尾の前で、少年は額から血をあふれさせている。そうしてそのまま、机にうつ伏せるように倒れた。その表情は高尾に怯えた瞬間のまま、自分が死んでいることにも気がついていない。
扉に空いた穴は一つ。正確な射撃は、一発目と全く同じ軌道で、一ミリもずれることなく二発目を撃ち込んだ。
障壁を壊す一発目はどうしても軌道がずれる。それをカバーするように、全く同じ軌道で撃ち込まれた二発目は正確に少年の額を貫いた。それは、先程ガウロを殺した時と全く同じ手段。
次の瞬間にドアノブが外側から高い金属音を立てて飛び散った。開く扉の向こうでは緑間が冷たい瞳で待っている。その瞳はたった今一人の少年を殺したとは思えないほど凪いでいた。
「俺の目から逃れられると思うな」
そう告げる緑間の言葉は、少年には届かない。
狙われた人間は緑間の視界から外れれば、死なないで済む。それは絶対の真理だ。緑間の目に、映らなければ。そう、風の噂で緑の死神を知っている人間はいれども、その死神にコンビがいることを知っている人間は少ない。
死神の瞳が、四つあることを、知っている人間は少ないのだ。
「久しぶりだな、ビル」
「廊下には十五人配置しといたんだけどなあ」
「百人用意しておけ」
十五人の警備がいたという廊下からは呻き声が聞こえる。死んではいないが、手足は使い物にならなくなっているのだろう。
うつ伏せて死んでいる少年に目もくれずに緑間は高尾のもとへと歩く。へらりと笑った頭を思い切り叩くと、拘束具をほどきにかかった。そのあまりの唯我独尊ぶりを、相変わらず��なとビルと呼ばれた男は笑う。
「あんたの相棒にちっとは手を出したが、そうじゃなきゃ俺が雇い主に疑われるんだ。骨まではやってねえ。勘弁してくれ」
ちらりと高尾から視線を上げると、緑間は暫く無言だったが、苦々しげに吐き捨てた。
「……まあ、お前には家族がいるしな」
その一言に、やはりまだあのルールは有効だったのかとビルは笑う。
緑間真太郎が自らに課した最も大きな制限、それは、家族がいる者は殺さない、そんな歪んだ正義である。その理由を知る者は少ない。緑間も正しいと思っているわけではなく、ただそれが彼のルールであるというだけだ。依頼を引き受けるか否かの基準も基本的には全てそれである。家族がいなければ良し、いれば断る。
彼が周囲の他の人物を殺さないのは、襲撃をされても決して殺さないのは、ただ、家族がいるかどうか咄嗟にはわからないから、その一点のみである。もしも天涯孤独の身の上ばかりをターゲットの周りに配置したならば、きっと緑間は無表情のままマシンガンを乱射していただろう。
「しっかしビルさん震えすぎだろマジで。俺笑い堪えんの必死だったわ」
「当たり前だ、緑の死神に依頼したって聞いた時はションベンちびるかと思ったぜ」
冗談を装っているが、実際にビルに触れてここまで連れてこられた高尾はその言葉が嘘でないことを知っている。彼はずっと怯えていた。元ペアを組んだ、緑の死神を、ずっと恐れていた。その振動は、引きずられている時から伝わっていた。その気持ちはわからなくもないと高尾は思う。間近で見ていたからこそ、その恐ろしさを知っている。
緑間の武器は銃全てだ。何もスナイパーライフルのみではない。ただ、安全面から遠距離を選択しただけ。近いのと遠いのだったら、逃げるとき遠い方がお得だろう、そんな単純な理論で彼は一キロ先からの狙撃を実現させた。
屋敷の奥、招待客がいなくなった場所で、緑間が遠慮する理由など一つもない。
「しかしまあビルさん、これから大丈夫なわけ? 依頼主死んじゃったし、報酬もないんじゃない?」
「別に警備団長ってわけじゃなし、そもそも殺し屋だ。こっち方面で評判が落ちたって気にすることじゃねえやな」
そうやって笑うビルには怯えた様子はもう見受けられず、なかなかにタフな男だと高尾は認識する。この世界で生き残っていくために必要な臆病さとタフさを、彼はしっかり兼ね備えているようだった。
「エリーは元気なようだな」
「お陰様で。今度見に来るかい」
「断固断る」
しかし目の前で高尾のわからない話を始める二人に、殴られても捕らわれても笑みを崩さなかった高尾はみるみるうちに不機嫌になっていった。
「ねえ真ちゃん!」
「なんだ」
「俺の前で前の男と話さないでよ!」
その瞬間に容赦なく振り下ろされた拳に、ビルは呆れたような溜息をついた。
緑の死神も、随分と俗物になったもんだ。
     *
「え、真ちゃん、どうしたのこのお金」
「今回の報酬だ」
「いや、だって依頼主殺しちゃったじゃん?」
「俺のところに来た依頼は、カンパニーの社長を殺せ、という依頼だったからな」
「え?」
アタッシュケースを放り出した緑間は興味がないのか、くるくるとぬいぐるみの熊の手をいじっている。それは昨日までこの部屋に無かったはずのもので、どうやら緑間はまた散財をしたらしい。しかしそれを注意する余裕は今の高尾には無かった。
「何故名前の指定がないのかと思ったが、表と裏で二人いたのなら納得だ。全く、こんなことならもう少しふんだくればよかったのだよ」
「え、いや、だって依頼主ってその裏の少年の方で」
「ああ、そちらから、あの男、ガウロを殺せという依頼を受けて、ほかの奴からはカンパニーの社長を殺せという依頼がきた」
「同時に受けたの?!」
「同時期に来たのだから、両方受けて両方から金をもらうほうがお得だろう」
まあ今回は結局片方からしか受け取れなかったわけだが、零報酬よりはマシだったのだよと緑間は何でもないかのように言う。標的が同時期にかぶるというだけでも偶然の力は凄いが、じゃあお得だしという理由で両方同時に受けてしまう緑間の図太さも並大抵のものではない。
「嘘はついていないのだし」
と本人は言うがギリギリのところだろう。しかし。
「これで借金が返せるな」
と、そう言葉を継がれては高尾に返す言葉はないのであった。
真ちゃんって、本当に素直でかわいいおバカさんだよね。
               【昔の話Ⅱ】
  「いい加減に教えたらどうだ」
「何を?」
「お前の家族構成だ」
「えー、どうしよっかなー」
連日現れるタカオに、彼は苛立っていた。いらないことはべらべらと喋る癖に、肝心なことは一つも話そうとしない。
「早く教えろ、でなければお前を殺せない」
「情熱的だなあ」
へらへらと笑いながらも、タカオは彼に教えようとしない。銃口を突きつけても全く動揺する気配がない。家族構成を知らなければ殺せないと、口を滑らせるべきではなかったと彼は後悔する。けれど、最初の弾丸に全く怯えなかった時点で、この男に下手な脅しは無意味だと薄々気がついてしまったのだ。
「あ、じゃあさじゃあさ」
「なんだ、教える気になったか」
「名前! 教えてくれたら俺も教えるよ。どう?」
「却下だ」
一瞬もためらわずに切り捨てたことにタカオは落胆の色を隠さない。
「なんで? そんなに悪い条件じゃないと思うんだけど。俺はもう名前教えてるしさ、別に名前知られたら死ぬわけじゃないだろ? 日常生活、全部本名で暮らしてるわけじゃないだろうしさ」
「断る」
「なんで」
「名前は、家族だけが知っていればいいものだ」
「ええー」
一般とはかけ離れたその理論に、タカオ���首を落とす。そうしてしばらく唸った後に、彼はさも名案を思いついたと言わんばかりにこう告げたのだった。
「じゃ、俺、お前の未来の家族になるわ!」
これは、いつかのどこか、昔の話である。
               【ターゲットは君!?】
 緑間真太郎が朝目覚めてみると高尾和成の姿がなく、朝食の準備もされていなかった。普段嫌というほどまとわりつき、朝になればベッドに潜り込んでいることもある煩い男は、忽然と姿を消した。
その日一日、彼は何も無いまま過ごした。そして高尾の作りおきのおしるこが無くなったことを確認して、缶のしるこを飲み、缶のしるこが残り八缶である、そのことを確認した。流石に夜になると腹が空いて仕方がなかったので、外に食べにでかけた。
そんなことを三日ほど繰り返したある日、彼は先日仕事で久々に再開した男にまた出会った。そういえば、と彼は思う。街で高尾と一緒にいるところを見られたのだから、似たような場所に住んでいる可能性は高かった。
     *
「今日はタカオくん、一緒じゃないのか」
「消えた」
「え、大丈夫なのかよ、いつ」
「三日前の朝だ」
あまりにも常と変わらない緑間の様子にビルは戸惑っているようだった。以前の様子から、二人が互いのことを憎からず思っているのは自明の理のように思えた。それがどうだ、消えたというのに、片割れは平然とスパゲッティを口に運んでいる。
「お前、タカオくんのこと好き?」
「馬鹿か」
「あっそ、彼はのろけまくってくれたのにな」
「会ったのか」
「おう。つっても今日じゃねえよ。あれの四日後くらいかな。エリーって誰だって滅茶苦茶しつこく聞かれた。面白かったから言わなかったけどよ、お前、猫だって言ってなかったのか」
「そういえば言っていなかったな」
ビルの家族は猫だ。両親と死に別れたというビルは天涯孤独の身の上である。それを知った時、ではお前は殺してもいいな、と緑間は呟いたが、その時に彼は必死に主張したのだ。
確かに俺には親も恋人もいないが、俺にはエリーっつう大切な奴がいる。娘でもないし親でもないし恋人でもないが、俺の家族だ。
その主張を緑間は受け入れた。猫なんてあんな動物を家族と思うだなんて、お前は随分と変わっているなと、そのことは緑間の意識に強く残った。今度生まれるという子供も、そのエリーの子供だろう。
「そもそもお前、アイツと、タカオくんとどうやって出会ったんだよ」
猫を家族と呼んで憚らない男は、食事のつまみに思い出話を求める。
なあ、なんか、ロマンチックな出会いでもしたのか?
     *
「何故昼間までついてくる……」
「いや、冷静に考えたんだよね」
「何をだ」
「なんで俺のこと信じてくれないかって。それで思ったんだけど、やっぱいきなり夜這いはまずかったよね。ちゃんとお日様の下、清く正しいデートをしてからのお付き合いが必要っつーか」
「死んでくれ」
仕事の時に毎回現れる男が、まっ昼間のカフェで現れた時、今度こそ彼は逃げようと思った。運ばれてきたばかりの前菜など知ったことではない。消えよう。立ち上がろうとする男に、タカオは勝手に向かいの席に座ると注文を済ませてしまう。そのタイミングでスープが運ばれてくれば、完全に彼は時期を逸してしまった。
「ねえ」
「なんだ」
「名前」
「断る」
サラダを食みながら緑髪の男はあっさりと切り捨てる。何度も尋ねればいずれ答えてもらえるとでも思っているのだろうか。何度聞いても答えはノーでしかないというのに、である。
けれどわざわざ昼間に出てくるだけあって、今度のタカオは少し方向性を変えたようだった。
「じゃあさ、あだ名教えてよ」
「は?」
「あだ名っつか、コードネームみたいなのあるだろ。仕事の都合で使う名前。本名じゃなくていいからさ」
「何故教えなくてはいけないんだ」
「だって俺これからもつきまとうけど、教えるつもりは無いんだろ? 俺に馴れ馴れしく『お前』とか呼ばれ続けたい?」
「…………」
「な、本名じゃなくていいから」
そしてきっと、彼が折れてしまったのも、ここが長閑な昼間のカフェだったからに違いないのだ。
「…………シン」
「え?」
「シン、だ。呼ぶなよ」
「わかった! じゃあシンちゃんね!」
「は?!」
渋々教えた仕事用の名前が、そら恐ろしい響きのものとして返ってきたことに彼は驚いた。それ��、怯えに近いほどに驚いた。彼はそのように呼ばれたことなど無かった。それを発したタカオはといえば、遂に名前のはし切れを教えてもらえたことが嬉しいのか上機嫌でシンちゃんシンちゃんと繰り返す。
「即刻やめろ。今すぐにやめろ」
「ふふふーん、シンちゃんシンちゃん」
「やめろと言っているだろう、タカオ!」
激高した彼は街中だというのに普通に怒鳴ってしまった。視線が彼に集中する。しまった、と思うがすでに遅い。しかし、それに対してタカオが反省するでも怒るでもなく、酷く嬉しそうにしているもので、周囲の注意は案外すぐに逸れることとなった。
「今、俺のこと呼んでくれたね?!」
「はあ?」
「初めて俺のこと呼んでくれたじゃん! うわ、超嬉しい!」
どうやら自分がうっかり相手の名前を呼んだことにここまで喜ばれていると悟って、彼は遂に体から力を抜いた。真剣に対応している自分が酷く馬鹿らしく、滑稽に見える。
運ばれてきたメインディッシュを見て、彼はフォークをひっつかんだ。食べることに集中しよう。そう思ったのである。
そもそも何故こんな奴にまとわりつかれなくちゃいけないんだ。
     *
「お前は何故俺にこだわる」
「シンちゃんのことが好きだから」
「ふざけるな」
そういえばその理由というものをしっかり聞いたことがなかったと、彼はことここに至ってようやく気がついた。いつもいつも、好きだ愛してる名前教えてと適当な言葉で誤魔化されて、本心など聞く前に疲弊しつくしていたのである。
タカオは左手でくるくるとパスタを巻きながら笑っている。誤魔化すつもりらしい。けれど彼に折れるつもりが無いのだと悟ると、タカオにしては珍しい、気まずそうな表情で語りだした。
「俺さ、実は前にシンちゃんにあったことあるんだ」
「なんだと?」
「いや、会ったっつーか、会ってないんだけど、なんつーかさ」
そこで僅かに首を傾げる動作を入れて、タカオは考え込んでいるようだった。それは、話す内容に悩んでいるというよりは、話している自分に疑問を抱いている、といったような様子である。
「俺の獲物横取りされたわけ」
「は」
「俺もさ、こう見えてもそれなりに仕事にゃプライド持ってたし、ちゃんと周囲に他に人がいないかとか全部気をつけてたのに、それでもお前に気がつかなかった。まさか一キロ先から狙撃してくるとは思ってなかったけどさ、そういう想定外の存在がいたっつーのが、なんか、悔しくてな」
「悔しいのか」
「悔しいさそりゃ」
怯えられ、恐れられ、疎まれることこそ始終だったが、悔しいと言われたことが初めてだった彼は戸惑った。以前一度だけ都合上仕方なくコンビを組んだ相手も、お前が怖いと、はっきりと彼に告げていた。そうはっきりと告げるだけ、そのコンビの相手はやりやすかったとも言えるが、それでも、だ。それでも、彼の周囲につきまとうのは怯え、あるいは、それを上回る怒りのみだった。
それ以外の感情を、彼に教えたのは、唯一。
「お前は、少し、赤司に似ているな」
「アカシ? 誰それ」
「…………俺の家族だ」
今度こそ完全に口をすべらせたことを悟って彼は舌打ちをした。その様子をタカオは不思議そうに眺めていたが、小さく「アカシ、ね」と呟くと、何事もなかったかのように続きを話し始める。
「ま、そんなわけで悔しくて悔しくてぜってーいつかお前超えてやると思って色々頑張ったり調べたりしてるうちになんかすっかりファンになっちゃって、好きになっちゃって、以上」
「全くわからないのだよ」
「恋ってそんなもんじゃねえの。じゃ、次シンちゃんの番な」
「は?」
「俺ばっかり話しても仕方ないじゃん。タカオくんから質問ターイム」
ふざけるな、俺は話さないぞ、そう言う前にタカオは笑みと共にたたみかけた。
「アカシって誰?」
ああ、やはり、昼間に会うべきではなかったのだ。彼の胸に襲い来るのは果てしない後悔である。何が何でも消えれば良かった。けれど日差しは柔らかく、人々が笑いさざめいているこの穏やかな世界で、無駄な波乱を起こすことは、どうも彼にはためらわれたのだ。
「…………家族だと言っただろう」
「家族ねえ」
「ああ」
「家族かあ」
タカオは首を傾げている。シンちゃんは、家族を大切にするんだねえ、と一人で納得している。その様子が何故か不快で、これ以上話すまいと思っているにも関わらず彼の口からは言葉が飛び出した。
「家族を大切にしない奴はいないだろう」
「そうかな。家族でも酷いことするのなんてありふれた話じゃん」
「それは、家族ではないのだよ」
「ふーん?」
楽しそうにタカオは話を聞いている。けれど実際、楽しそうなのはその表情だけで、瞳の奥が全く笑っていないことに彼は気がついていた。家族は、誰にでも存在する、誰にでも存在するからこそ、誰もの傷に直結しているのだと、そう彼に教えたのも赤司だった。
「シンちゃんにとっての家族ってなにさ」
「家族は、家族だろう」
「血の繋がりってこと?」
「結婚した男女間に血のつながりはないだろう」
「そういうものじゃない。もっと精神的なものってこと?」
「そうだな、血が繋がっている必要は、無い」
「成程成程」
じゃあさ、とタカオは尋ねる。笑いながら尋ねる。けれど、その瞳の奥は確かに燃えている。彼にとって家族という存在が全ての基準になるように、タカオにとってもまた、その言葉は看過することのできない鍵の一つだったのだろう。
「もしも家族に殺されそうになったらどうすんの」
「家族は、殺さない」
「いや、そうじゃなくてさ」
「家族は、殺しあわないものだ。家族は、家族を殺さない」
そう、赤司が言っていたのだよ。そう告げた彼の表情を見て、タカオは先程までの炎はどこへやら、呆けたように彼を見つめていた。彼の、エメラルドの瞳を見つめていた。
「ごめん、ごめんシンちゃん、意地悪な質問した。ごめん。だから泣かないでよ」
タカオの言っている言葉の意味が彼にはわからない。泣いてなどいないのだよ。そう告げれば、でも泣きそうだよと笑われた。
「なあ、俺、わかった」
暫くの間、二人の間には沈黙が降りた。ウエイターが食後のコーヒーを持ってきたことを皮切りに、タカオはまた話し出す。俺、わかったよ。
「シンちゃんはさ、やっぱ、普通に幸せになるべきだ。素敵な幸せを手に入れるべきだ。こんなんじゃなくてさ。こんな殺し屋なんてやめちゃいなよ。シンちゃんなら他にいくらでもやりようがあるよ。この街ならやり直しなんていくらでもきく。そんでさ、幸せな家族作るべきだよ。『ただいま』って言ったら、『おかえり』って返ってきて、美味いメシとあったかい風呂があってさ、なんか適当にじゃれあいながらその日のこと話したりして寝るの。そういう、普通の幸せ。そういう家族をさ、手に入れるべきだって。」
微笑みながらタカオは畳み掛ける。シンちゃんはそれがいい。シンちゃんは、お日様の下が似合うよ。
「そしたら、俺は邪魔だけどさー」
笑いながら彼は告げる。暗殺者にふさわしくない、太陽のような笑顔で告げる。
シンちゃんがそれで幸せになるなら、俺は嬉しいなあ。
     *
「真太郎」
「なんだ、赤司」
「次の依頼だ。ちょっといつもとは勝手が違う」
「どういうことだ」
「相手はお前と同じ殺し屋だ。どうも最近しつこく嗅ぎ回られて不愉快だからね」
「わかった」
「お前なら大丈夫だとは思うけど、一応相手もプロだから気をつけて。無理はするなよ。お前が怪我をするところはあまり見たくない」
「心配するな。俺なら問題無い」
「ああ、信じているよ」
「これが、資料か」
「ああ、そうだ。勿論相手に家族はいない。きっちり調べてあるから間違いない。遠慮なくいってくれ」
「…………」
「真太郎?」
「なんだ」
「僕はお前の家族だよ」
「……ああ、知っているのだよ」
「それなら良いんだ」
「赤司」
「なんだい?」
「…………いや、なんでもない」
「うん。それじゃあ、『行ってらっしゃい』」
     *
「え、あれ、嘘、シンちゃんから会いに来てくれるとか、なにこれ夢かな?!」
真夜中の零時。彼の前でタカオは笑う。二人の距離は五メートル。走れば一秒かからないであろう距離。
けれど弾丸は、それよりも早い。
「なーんて、んな訳ないよなあ」
「っ、タカオ!」
銃声は一発、タカオが一瞬で左手に構えたナイフを弾き飛ばした。
それを成したのは常に彼が愛用しているスナイパーライフルではない。M28クレイジーホース、その愛機を彼は置いてきた。代わりに手にするのは近距離用リボルバー。
「はは、シンちゃん、手加減してくれたんだ」
直接撃ち抜かれたわけではないとはいえ、ナイフ越しに至近距離で当てられた左手は痺れて感覚も無いだろう。骨が砕けていてもおかしくない。
それでもタカオは笑っている。
「今、俺の頭撃ち抜けばそれで一発だったのに。それで全部終わったのに。なんでそういうことしちゃうかな、シンちゃんは」
「タカオ、お前は」
「俺、期待しちゃうじゃん」
その言葉が終わるか否かのうちにタカオは彼に向かって一直線に突っ込んできた。使えなくなった左手の代わりに、右手に別のナイフを持っている。
彼は咄嗟に、またそのナイフを狙った。迷いなく引かれた引き金は、そのナイフを弾き飛ばす。
「な、」
はずだったのだ。
けれど引き金と同じタイミングで、タカオはナイフを投げた。一直線に。真っ直ぐに。それは決して彼の弾道がブレないと信じているからこその賭けである。ナイフの中心を一ミリもずれずに狙った弾は、一ミリもずれることのないナイフに弾かれた。
次の瞬間、タカオの手には次のナイフが現れている。
「!」
次の瞬間には彼を押し倒すようにして、喉元にナイフをつきつけるタカオがいた。その額には、彼のリボルバーが突きつけられている。互いの命を互いが握っている状況で、タカオは笑っている。
「ダメだって、近距離戦じゃ。シンちゃんの武器はさ、それじゃないっしょ」
「お前、今の、ナイフ捌き」
「ああ、うん、気がついた?」
タカオは笑っている。悲しそうに笑っている。
「俺は右利きだよ、シンちゃん」
今まで、彼の記憶の中のタカオは常に左手を使っていた。物を食べるのにも、ナイフを構えるのにも、全て。
「お前に憧れて、左使ってただけ」
     *
「お前、何故、赤司のことを調べ回ったんだ」
「……シンちゃんの家族が気になって」
「余計なお世話だ」
互いの急所に武器をつきつけて二人は会話している。今まで、こんなに近くに来たことがあった��ろうかと、彼は場違いにも考えている。
出会ったのは、秋だった。木々の色が変わる頃。この国の秋は寒い。けれどどうだ、今はもう、日差しは柔らかくなった。いつの間にか冬すら超えて、季節はもう、春になろうとしている。
「赤司ってあのジェネラルコーポレーションの社長だろ。そんでもって、お前に殺しをさせてる張本人」
「俺が望んだことだ」
「おかしい、それは絶対に、おかしい」
「何が」
「だって、家族は殺しあわないんだろ」
かつて彼がタカオに告げた言葉が今返ってくる。彼の喉がひくりと震える。喉元に突きつけられたナイフは、その動きに合わせて僅かに深く刺さった。
「おかしいだろ。だって赤司は、お前を殺しの現場にやってんだろ。自分は安全な場所にいて、お前は死ぬかもしれない場所にやってる。それって間接的にお前のこと殺そうとしてるのと同じだろ」
「違う」
「違わない」
「違う」
「違わない!」
耳元で聞くタカオの怒鳴り声に彼は黙った。それは初めて聞く怒声だった。叫んだことを自ら恥じたのか、彼は顔を歪める。
「だが俺は殺し屋なのだよ。事実それ以外の道はない」
「そんなことない」
「ある」
「そんなことない」
「あるのだよ。お前は、俺のことを知らないだろう」
今度はタカオが黙る番だった。彼が言うことは正しかった。彼らはいくつかの季節を共に過ごしたかもしれないが、それが酷く偏った時間であることは自覚していた。否定することのできないタカオは、それでも必死に喉から声を搾り出す。
「……それでも、俺だったら、一緒に行くよ。行くなって言いたいけど、そこしか無いってんなら、その場所に行くよ。安全な場所で待ってたりなんかしない。お前が死にそうになってる場所に行って、一緒に死んでやれる」
     *
どれだけの間、そのまま二人膠着していたのかはわからない。先に動いたのはタカオだった。首にかざしていたナイフをゆっくりと外して、放り投げる。彼の上からゆっくりと、どいていく。
「お前」
「はは、俺にシンちゃん殺せるわけないじゃん」
「タカオ、お前は」
「でも本当にさ、お前の方がずっと強いのにこんなことになっちゃうんだから、情けとかかけちゃダメだぜ。一発で決めろよ。できれば遠くから。そしたら多分、きっと、あんまりシンちゃん死なないだろうし」
対して、彼はゆっくりと立ち上がりながら、照準はずらさない。その銃口は、ぴたりとタカオの額を向いたままである。うっすらとタカオは笑っている。その瞳は燃えている。既に、覚悟を決めた瞳である。
「タカオ」
「なあに、シンちゃん」
「お前の家族構成を教えろ」
「……はい?」
今にも銃弾が額を撃ち抜くかと思っていたタカオは、想定外の質問に柄にもなく間抜けな顔をさらした。唖然、といった顔だった。段々と、その表情は苦笑に変わる。
「そんなの、もう赤司から情報回ってんだろ?」
「答えろ」
「いや、だからさ」
「答えろ!」
タカオにはわからない。何故彼が泣き出しそうな顔をしているのか。以前一度、泣かせかけてしまった時、その表情の美しさにタカオは一瞬見蕩れてしまったものだが、その時はタカオの言葉が原因だった。今はその理由がわからない。
いや、わかるのだ。ただ、それが真実だとタカオは信じられずにいる。
「赤司から、書類を受け取った」
「うん」
「だが、情報が一つ足りなかったのだよ」
「へ?」
「だから俺は、確かめる必要がある」
その声は震えている。眉を釣り上げ、睨みつけるようにして、彼は怒るように泣いている。その顔を見て、タカオは、自らの想像を確信に帰る。
「……おふくろは生まれた時にはいなかった。親父はアル中で、酔っ払ったところでマフィアに絡んであっさり殺されたよ。育ての親は俺のことが邪魔になった途端に殺そうとした。兄弟姉妹はいるのかもしれないけど俺は知らねえ。年齢はわかんねえけどまあ真ちゃんと大差ないくらいじゃねえかな。勿論誕生日もわからねえけどお前と相性が良いって信じてる。血液型はO型。これは前に輸血もらった時に聞いたから確実。そんでもって、」
 「未来のお前の家族予定」
 「……緑間真太郎だ」
「……へ?」
「俺の名前。色の緑に、時間の間、真実の真に、太郎は説明しなくてもわかるな」
「へ、あ、シンちゃん、いや、え、真ちゃん」
「家族の名前を知らないのは、おかしいだろう」
   「……高尾和成です」
 「高い低いの高いに、鳥の尾羽の尾、和を成す、で和成」
      *
「何故お前に話さなくてはいけないんだ」
「へいへい、こりゃタカオくんも苦労するだろうな」
ビルの頼みをあっさり断って、緑間は珈琲を飲む。久々に飲むそれはミルクを大量に投入してもまだ苦く、彼は顔をしかめる羽目になった。
「それ、珈琲の味するのか?」
「する」
そういえば、高尾と初めて一緒に食事をした日、まだ互いの名前も知らなかった頃、同じことを聞かれたなと彼はふと思い出した。その時、緑間はなんと答えたのだろう。きっと、同じように答えたに違いなかった。
「なあ、シン、ずっと気になってたんだが」
「なんだ」
「お前さ、家族殺されたらどうするんだ?」
その問いも、やはり、あの日高尾が投げかけたものによく似ていた。家族に殺されかけたらどうする。
「一体全体どういう答えを求めているのかわからないんだが」
「求めてるとかじゃなくて、ただ気になるんだよ。お前の答えが」
「そうだな。もしもアイツが殺されても、別にいたぶったり懺悔させたり或いは……なんだ、まあ無駄なことをするつもりはない」
苦い珈琲を飲み干して緑間は答える。
「誰でも一発で殺してやる」
     *
「いやさ、真ちゃんって家族持ち殺さないじゃん、けど俺って家族いねーわけ。天涯孤独の身の上だぜ? だからさ、全然真ちゃんは俺のこと殺しちゃって良いわけよ。だけど真ちゃん、俺が何しても俺のこと殺さないんだぜ? この前ベッドに押し倒したけど、ウザそうな目で『何してる』って言われただけで、それだけだぜ? いやいやいや俺も抑えましたよ、やっぱね、こういうのは順序踏んで優しくしたいからね。でもさ、これってすげーことだろ。真ちゃんは俺のこと殺さねーんだよ、家族もいない俺を殺さねーんだよ。やっぱ愛だよなこれって。だから俺も真ちゃんのことめいっぱい大切にしたいわけなんだけど、あー、でもいつか真ちゃんに家族って認められたらそん時はもうためらわずに行っちゃうかな。いっちゃうよ。もうなんつーか、狼になります。だって家族になったってことは、それってつまりオッケーってことだろ。いまはまだ家族予定だけどさ。うん? そうだよ。俺は、家族予定の候補者なんだよ」
     *
一人取り残されたカフェで、いやはや、とビルは首を振る。おい、タカオくん、お前はどうやらとんでもない勘違いをしている。お前の執着は、どうやら、とんでもな���勘違いをしている。
背中にびっしょりとかいた汗に気がつかないフリをしながら、彼はきつい酒をメニューから探す。
彼はわざと家族、と言ったのだ。一言も、高尾とは言わなかった。けれど緑間は自ら言ったのである。「アイツ」、と。それはそう、つまり、彼の中で、もう高尾は家族として認識されている。そうしてためらうことなく言うのだ。
「誰でも殺す」と。
こと緑間に限って、その言葉の重みをビルは知っている。誰でも。誰でも。恐ろしい言葉だ。家族の有無はそこに意味をなさない。いいや、究極的には、高尾の死に、関係が無くともいいのだ。誰でもとは、そういうことなのだ。老若男女、貧富も聖人悪人も何も関係なく、きっと彼は殺すだろう。例えばそれは、街一つくらいは。それくらいは軽くやりかねないと、正面からその時の緑間の瞳を見ていた彼はそう思うのだ。
なんで俺は、あいつに出会った時、いつもと変わらないなんて思っちまったんだろう。
     *
「ただいま、真ちゃん」
「おかえり、高尾」
血まみれの高尾が入ってきた時、緑間真太郎はソファで興味の無い新聞をめくっていた。廊下にはぽたぽたと赤い染みがつき、折角引っ越したばかりの白い家具で統一された部屋を汚している。
「ごめんね真ちゃん、あったかいご飯食べよう」
「ああ」
その前に少し寝たらどうだと緑間は尋ねる。高尾は笑って、そうさせてもらおうかなと答える。実は結構眠くて死にそうなんだ、これが。
「死ぬなよ」
「死なないよ」
でも寝るわ。そう言ってバランスを崩した高尾を緑間は抱きとめた。さりげなく怪我を確認するが、いくつか深く切れている箇所は全て動脈を避けている。残りは返り血が主なようだった。
「真ちゃん」
「なんだ」
「今日も愛してるよ」
「そうか」
「真ちゃん」
「なんだ」
返事が返ってこないことに気がついた緑間は、腕の中で眠りに落ちている高尾和成に気がついた。僅かに首を傾げると、そのまま血が付くのも構わずに寝具に寝かせる。手早く応急処置をする。
安定した寝息に微笑むと、その額に僅かに触れるか触れないかの口づけを落として、緑間は笑みを崩さないまま、愛用するライフルの確認をした。それはあの日使わなかった、M28クレイジーホース。
「行ってきます」
     *
高尾が目覚めてみれば、血だらけだった洋服は清潔な物に変えられ、傷には適切な処置がされていた。ああ、少し血が足りないなと思いながら彼がリビングへ向かえば、彼の愛する家族がリビングでつまらなさそうにナイフをいじっている。
「あー、真ちゃん」
「起きたか」
「色々ありがと」
「フン、洗濯もしてやったのだよ」
「嘘?! 真ちゃん洗濯できたの?!」
「馬鹿にするな」
「いや待って真ちゃん、これちゃんと染み抜きしてないっしょ! うわ、めっちゃまだらになってる! やっべえ俺の血でシーツめっちゃまだら! やべえ!」
「うるさい。さっさと飯の支度をしろ」
「はいはいはい」
笑いながら高尾は支度を始める。こんな生活がいつまでも続くはずがないと彼らは知っている。
いつか報いを受けて惨たらしく死ぬだろう。惨めに、哀れに、けれど同情の欠片もなく、唾を吐かれ踏みにじられて死ぬだろう。
「そうだ、言い忘れてた」
けれど今ここにあるのは、確かに一つの幸福な。
「おかえり、真ちゃん」
「ただいま、高尾」
Love    me tender
Tell    me killer
死が二人を分つまで
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naoki72 · 5 years ago
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えんぱーく 塩尻市立図書館 https://www.instagram.com/p/B64aYBog2lM/?igshid=1i9w6a8twkcd2
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fukagawakaidan · 7 years ago
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深川怪談2017 「お化けの棲家」お化け詳細情報
2017年8月20日、深川江戸資料館夜間特別開館「お化けの棲家」終了致しました。ご来場の皆様、ありがとうございました!今年の江戸の町並みに潜んでいた妖怪は全部で17箇所、以下のようなものがおりました。
1.「鍋の付喪神(つくもがみ)」…八百屋の台所 2.「ハサミの付喪神(つくもがみ)」…舂米屋の座敷、箪笥の上 3.「五徳猫(ごとくねこ)」…舂米屋の座敷、長火鉢の前 4.「河童(かっぱ)」…猪牙舟の船縁*深川に伝承あり 5.「毛羽毛現(けうけげん)」…船宿「相模屋」の中庭、手水鉢の横 6.「傘化け(かさばけ)」…船宿「升田屋」の玄関 7.「がんばり入道(がんばりにゅうどう)」…船宿「升田屋」の便所、便壺の中 8.「三つ目小僧」…火の見櫓の下*深川に伝承あり 9.「深川の海坊主」…火の見櫓の裏、掘割の上*深川に伝承あり 10.「なき茶釜」…水茶屋の茶釜の上*深川に伝承あり 11.「蔵鬼女」…舂米屋の土蔵、階段裏*本所に伝承あり 12.「しょうけら」…長屋「於し津」の屋根、明かり取りの窓の上 13.「かいなで」…長屋共同便所、便壺の中 14.「家鳴り(やなり)」…長屋「木場の木挽き職人 大吉」の床下 15.「木枕」…長屋「舂米屋の職人 秀次」の部屋*深川に伝承あり 16.「狂骨(きょうこつ)」…長屋井戸の中 17.管狐(くだぎつね)」…お稲荷さんの祠横 以上、17カ所でした! いかがでしたでしょうか?アンケート等で「潜んでいた妖怪の解説を」というご要望が多数ございましたので、追記させていただきます。(『日本妖怪大辞典』村上健司編著角川書店版他より)
1.+2. 付喪神(つくもがみ) 九十九神とも表記される。室町時代の『付喪神絵巻』によれば『陰陽雑記云器物百年を経て化して精霊を得てよく人を化かす是を付喪神と号といへり』という巻頭の文がある。煤祓で捨てられた器物が妖怪となり、物を粗末に扱う人間に対して仕返しをするという内容だが、古来日本では器物も歳月を経ると、怪しい能力を持つと考えられていた。『絵画に見えたる妖怪』吉川観方 ちなみに、これらの付喪神は深川江戸資料館の壊れて廃棄処分になった展示物を再利用して作られています。展示物を粗末に扱って壊せば妖怪となる?!実物に触れる体感展示がこちらの資料館の売りではありますが、化けて出ぬよう大切に扱っていただきたいものです。
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3.五徳猫(ごとくねこ)
五徳猫は鳥山石燕の『図画百器徒然袋』に尾が二つに分かれた猫又の姿として描かれており、[七徳の舞をふたつわすれて、五徳の官者といいしためしもあれば、この猫もいかなることか忘れけんと、夢の中におもひぬ]とある。『鳥山石燕 図画百鬼夜行』の解説によれば、その姿は室町期の伝・土佐光信画『百鬼夜行絵巻』に描かれた五徳を頭に載せた妖怪をモデルとし、内容は『徒然袋』にある『平家物語』の作者といわれる信濃前司行長にまつわる話をもとにしているとある。行長は学識ある人物だったが、七徳の舞という、唐の太宗の武の七徳に基づく舞のうち、2つを忘れてしまったために、五徳の冠者のあだ名がつけられた。そのため、世に嫌気がさし、隠れて生活するようになったという。五徳猫は、このエピソードと囲炉裏にある五徳(薬缶などを載せる台)を引っ掛けて創作された妖怪なのであろう。(『鳥山石燕 図画百鬼夜行』高田衛監修・稲田篤信・田中直日編)
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4.河童(かっぱ)*深川に伝承あり 全国各地でいう水の妖怪。河童という呼称は関東地方の方言カワッパが語源だと言われている。地方によりさまざまなよび名があり、大別すると、水神を思わせる名前の系列、子供の姿を強調した名前の系列、動物の名前に近い名前の系列、その他の計4つに分けられる。 水神系には、東北地方のメドチ、北海道のミンツチなどがあり、子供の姿系には、関東地方のカッパ、カワランベ、九州地方のガラッパなどが入る。動物系には、中国四国地方のエンコウ(猿猴)、北陸地方のカブソ(川獺)、カワッソーなどが挙げられる。その他、特定の信仰に関わるものとしてのヒョウスベ、祇園坊主(ぎおんぼうず)、身体の特徴からのサンボン、テガワラなどと、上記3つの系列に入らないものがある。 姿形についても、地方によって相違があり、頭に皿が無いものや、人間の赤ん坊のようなもの、亀やすっぽんのようなものと、実にさまざまに伝えられている。 起源についても、草人形から河童になったとする説、水神が信仰の対象から外されて零落して河童になったとする説、アジア大陸から渡来して土着したとする説など諸説ある。 人に憑く、物に変化する、人間の作業の手伝いをするなど、地方ごとに河童の特徴は異なるが、ほぼ共通していることは、大の相撲好きであることと、胡瓜(きゅうり)などの夏野菜や人間の肝、尻子玉が好物だということだろう。 人間の肝をこのむというのは、昔の人たちの観察力によるものらしい。溺死した死体は腹が膨れて肛門がポカンと開いてしまうといわれる。このようなひどい姿を見て、河童が手を入れて内蔵を引き出したと人々は想像したのだろうといわれている。河童の凶暴性は水難事故の恐ろしさに起因するといっても過言ではないようである。また、相撲や胡瓜を好むのは、河童が水神としての性格を有していたことにほかならない。かつての相撲は神事であり、端午の節句や七夕あたりに行われ、東西の土地の代表者が豊凶をかけて争った。相撲は神と精霊との争いを表しているともいわれ、神が水の精霊を打ち負かすことにより、農耕に欠かせない水の供給を約束させるのだという。胡瓜などの初なりの野菜も、水信仰に欠かせない供物だった。このことからみても、河童が水神として信仰の対象になっていたと考えられる。 古(いにしえ)の水に対する信仰と、近代までの民間信仰とが複雑に絡み合い、無数の枝葉にわかれているので、一口に河童は稿であるとはいえないのが現状だろう。 深川ではカッパは、仙台堀と木場の2箇所で捕獲されていたという。仙台堀では伊達候の蔵屋敷で河童を撃ち殺して塩漬けにしたという。仔細は、伊達候の屋敷では子供がよく水難事故に遭う。怪しむべしということで、堀の内、淵ともいえるところを堰き止めて水を干したところ、泥を潜って風のように早い何かがいて、ようやく鉄砲で撃ち仕留めたという。木場入舟町では、この辺の川で水に入ると引っ張り込むものがいる。木場のいなせな兄いが捕らえてみると河童。この水辺の者には、二度と悪さをしないと詫び証文を書かせて手判を押させて許したという。(『河童の世界』石川純一郎、『河童』大島建彦編、『神話伝説辞典』朝倉治彦・井之口章次・岡野弘彦・松前健編、『総合日本民族語彙』『民俗学研究所編、『日本未確認生物辞典』笹間良彦、『日本妖怪変化語彙』日野巌・日野綏彦、『耳袋』根岸鎮衛)
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5.毛羽毛現(けうけげん) 鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』にけむくじゃらの妖怪として描かれたもので、[毛羽毛現は惣身に毛生ひたる事毛女のごとくなればかくいふか。或は稀有希現とかきて、ある事まれに、見る事まれなればなりとぞ]とある。毛女とは中国の仙女のことで、華陰の山中(中国陜西省陰県の西の空獄華山)に住み、自ら語るところによると、もともとは秦が亡んだため山に逃げ込んだ。そのとき谷春という道士に出会い、松葉を食すことを教わって、遂に寒さも飢えも感じなくなり、身は空を飛ぶほど軽くなった。すでに170余年経つなどと『列仙伝』にある。 この毛羽毛現は家の周辺でじめじめした場所に現れる妖怪とされるが、実際は石燕の創作妖怪のようである。(『鳥山石燕 画図百鬼夜行』高田衞監修・稲田篤信・田中直日編)
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6.傘化け(かさばけ) 一つ目あるいは二つの目がついた傘から日本の腕が伸び、一本足でぴょんぴょん跳ねまわる傘の化け物とされる。よく知られた妖怪のわりには戯画などに見えるくらいで、実際に現れたなどの記録はないようである。(『妖怪学入門』阿部主計)
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7. がんばり入道(がんばりにゅうどう) 加牟波理入道(がんばりにゅうどう)雁婆梨入道、眼張入道とも書く。便所の妖怪。 鳥山石燕の『図画百鬼夜行』には、便所の脇で口から鳥を吐くにゅうどう姿の妖怪として描かれており、[大晦日の夜、厠にゆきて「がんばり入道ホトトギス」と唱ふれば、妖怪を見ざるよし、世俗のしる処也。]とある。 松浦静山の『甲子夜話』では雁婆梨入道という字を当て、厠でこの名を唱えると下から入道の頭が現れ、その頭を取って左の袖に入れてまた取り出すと、頭は小判に変化するなどの記述がある。「がんばり入道ホトトギス」と唱えると怪異に会わない、というのは江戸時代に言われた俗信だが、この呪文は良い効果を生む場合と禍を呼ぶ場合があるようで『諺苑』には、大晦日にこの諺を思い出せば不詳なりと書かれている。 村上健司著『日本妖怪大辞典』より「加牟波理入道」の項より抜粋
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8.三つ目小僧(みつめこぞう)*深川に伝承あり 「海からの声」明治33年永代町生まれの伊東進一郎さんの談話 十二、三才の時でしたね。釣りに行っての帰り、お台場を通る頃には暗くなっちゃう。そうすると、「オーイ、オーイ」と声が聞こえるんです。だんだん近づいてくると、船頭が「口を聞くんじゃない」と言って、用意してきた、底の抜けた杓とか土瓶の底のないやつをほおるんです。そうすると、みんな沈めたと思って、声が聞こえなくなる。永代橋に来ると、みんなホッとしましたね。海坊主だとか、海で死んだ人の怨念だとか言われましたけど、今考えてもわからないです。 それから、人魂を永代二丁目のところでみました。もう一人いたんですけど、片っ方は腰抜かしちゃった。まだあります。うちのおばあちゃんが、渋沢倉庫の横の河岸っぷちの柳の植わっているところから。川を見ている女の人に「ねえさん、何やってるんだ」と言ったら、のっぺらぼうなので、腰抜かして、熱出して、しばらくして死んじゃった。背中からおんぶされて、みたら三つ目小僧だって、そういうの本当にあったんです。 (江東ふるさと文庫『古老が語る江東区のよもやま話』より)
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9.深川の海坊主(うみぼうず)*深川に伝承あり  これは、母から聞いたものだが、深川一帯では桑名屋徳蔵が有名であったらしい。彼は深川の何��かの掘割の岸で廻船問屋をやっていた。若い衆の数も多く、繁盛していた。ある年のおおみそか、大事なお客から今夜中に荷を運んで欲しいという伝言があった。だが、深川のあたりでは大晦日の夜はあの世のご先祖様たちが、お盆とお同じように家へ帰って家族と元旦の雑煮を祝うと信じられていた。こういうわけで、川で死んだ人の霊も水から上がって来るので、その邪魔をしてはならないと、大晦日の夜は船を出すのを厳禁していた。 徳蔵は日頃恩になっているお得意だから、そんな迷信に構っちゃいられないと考えたが。若い衆はみんな休みを取って出払っていたので、若い女房の止めるのも聞かずに船を出した。 ところが、しばらく漕いで行くと、川いっぱいに大きな山がぬーっとせり上がってきた。豪胆な徳蔵は「しゃらくせえ真似をしやがる」と叫んで、その山へまともに船をぶっつけた。その途端に、山はスーッと煙のように消え徳蔵はなお船を進めて行った。が、今度は舳先の川面に大きな海坊主が現れてケタケタと笑った。海坊主とは、首から上が目も鼻もない真っ赤な大入道で、胴体はこれも真っ赤なマントをきたような血の袋が水の上ににょきっと立ち上がっていたらしい。徳蔵は舳先に走って行って海坊主を棹で叩きのめした。海坊主はぎゃっと言って、血しぶきをあげながら川の底へ沈んでいった。だがそれをきっかけに、船のまわりに大小の海坊主がニョキニョキ現れて、声を揃えてケタケタと笑った。徳蔵は夢中になって駆け回り、片っ端から海坊主を叩きのめした。 その頃、留守宅では女房が急に癪を起こして苦しみ始めた。幸いにも表の通りから按摩の笛が聞こえてきたので、子供に呼ばせた。按摩は鍼を打たなければいけないといって、たくさんの鍼を畳の上に並べた。女房は按摩がいい男なのに安心して鍼を打たせたが、鍼を打つたびに血がパッと天井に跳ね上がり、梁の上で小さな海坊主になってケタケタト笑った。仕舞いには梁の端から端まで海坊主が並んでしまった。 徳蔵が仕事を終えて帰ってきた時には、女房は全身の血を失って白蝋のようなむくろになっていた。 田辺貞之助『江東昔話』より
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10.心行寺のなき茶釜(なきちゃがま)*深川に伝承あり 『深川心行寺の泣き茶釜』 文福茶釜は「狸」が茶釜に化けて、和尚に恩返しをする昔話でよく知られている。 群馬県館林の茂林寺の話が有名だが、江東区深川二丁目の心行寺にも文福茶釜が存在したという。 『新饌東京名所図会』の心行寺の記述には「什宝には、狩野春湖筆涅槃像一幅及び文福茶釜(泣き茶釜と称す)とあり」 とある。また、小説家の泉鏡花も『深川浅景』の中でこの茶釜を紹介している。 残念ながら関東大震災(1923)で泣き茶釜は、他の什宝と共に消失してしまい、文福茶釜(泣き茶釜)という狸が化けたとされる同名が残るのみである。文福茶釜という名前の由来は煮えたぎる湯の音がそう聞こえるという説や福を分けるという説がある。
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11.「蔵鬼女」*本所に伝承あり 『十方庵遊歴雑記』「本所数原氏石庫の妖怪」に載る話 本所二つ目の相生町と緑町との境にある横町に、数原宗得(すはらそうとく)という五百石二十人扶持の御典医が住んでいた。 屋敷には石でできた立派な蔵があったのだが、蔵の中で尿意を我慢すると小女や小坊主、傘お化け、大ダルマ、鬼女、牛馬など、色々な妖怪が出現した。 また、近くで火災がある時は、夜に蔵の中で鉄棒を引いて歩く音がした。音が聞こえて家の者が用心していると、必ず近くで火災が発生し、数原家だけは火災の難を逃れた。 ある時、近隣で出火があり、道具類を蔵の中へしまおうとしていたところ、人手が足りずに困っていると、蔵の中から髪を振り乱した女の妖怪が現れ、積まれた品々を蔵の中へと運び入れた。この時も、数原家は類焼を免れた。
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12.「しょうけら」 鳥山石燕『図画百鬼夜行』に、天井の明かり取り窓を覗く妖怪として描かれているもの。石燕による解説はないが、ショウケラは庚申(こうしん)信仰に関係したものといわれる。庚申信仰は道教の三尸(さんし)説がもとにあるといわれ、60日ごとに巡ってくる庚申の夜に、寝ている人間の身体から三尸虫(頭と胸、臍の下にいるとされる)が抜け出し、天に昇って天帝にその人の罪科を告げる。この報告により天帝は人の命を奪うと信じられ、対策として、庚申の日は眠らずに夜を明かし、三尸虫を体外に出さないようにした。また、これによる害を防ぐために「ショウケラはわたとてまたか我や土へねぬぞねたかぞねたかじねぬば」との呪文もつたわっている。石燕の描いたショウケラは、この庚申の日に現れる鬼、ということがいえるようである。(『衛鳥山石燕 図画百鬼夜行』高田衛監修・稲田篤信・田中直日編)
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13.かいなで 京都府でいう妖怪。カイナゼともいう。節分の夜に便所へ行くとカイナデに撫でられるといい、これを避けるには「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」という呪文を唱えればよいという。昭和17年(1942年)頃の大阪市立木川小学校では、女子便所に入ると、どこからともなく「赤い紙やろか、白い紙やろか」と声が聞こえてくる。返事をしなければ何事も無いが、返事をすると、尻を舐められたり撫でられたりするという怪談があったという。いわゆる学校の怪談という物だが、類話は各地に見られる。カイナデのような家庭内でいわれた怪異が、学校という公共の場に持ち込まれたものと思われる。普通は夜の学校で便所を使うことは無いだろうから、節分のよるという条件が焼失してしまったのだろう。しかし、この節分の夜ということは、実に重要なキーワードなのである。節分の夜とは、古くは年越しの意味があり、年越しに便所神を祭るという風習は各地に見��ことができる。その起源は中国に求められるようで、中国には、紫姑神(しこじん)という便所神の由来を説く次のような伝説がある。寿陽県の李景という県知事が、何媚(かび)(何麗卿(かれいきょう)とも)という女性を迎えたが、本妻がそれを妬み、旧暦正月15日に便所で何媚を殺害した。やがて便所で怪異が起こるようになり、それをきっかけに本妻の犯行が明るみに出た。後に何媚を哀れんだ人々は、正月に何媚を便所の神として祭祀するようになったという(この紫姑神は、日本の便所神だけではなく、花子さんや紫婆(むらさきばばあ)などの学校の怪談に登場する妖怪にも影響を与えている。) 紫姑神だけを日本の便所神のルーツとするのは安易だが、影響をうけていることは確かであろう。このような便所神祭祀の意味が忘れられ、その記憶の断片化が進むと、カイナデのような妖怪が生まれてくるようである。新潟県柏崎市では、大晦日に便所神の祭りを行うが、便所に上げた灯明がともっている間は決して便所に入ってはいけないといわれる。このケースは便所神に対する信仰がまだ生きているが、便所神の存在が忘れられた例が山野理夫の『怪談の世界』に見える。同書では、便所の中で「紙くれ紙くれ」と女の声がしたときは、理由は分からなくとも「正月まではまだ遠い」と答えればよいという。便所神は正月に祀るものという断片的記憶が、妖怪として伝えられたものといえる。また、「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」という呪文も、便所神の祭りの際に行われた行為の名残を伝えている。便所神の祭りで、紙製の人形を供える土地は多く、茨城県真壁郡では青と赤、あるいは白と赤の男女の紙人形を便所に供えるという。つまり、カイナデの怪異に遭遇しないために「赤い紙やろうか、白い紙よろうか」と唱えるのは、この供え物を意味していると思われるのである。本来は神様に供えるという行為なのに、「赤とか白の紙をやるから、怪しいふるまいをするなよ」というように変化してしまったのではないだろうか。さらに、学校の怪談で語られる便所の怪異では、変化した便所神のほうから、「赤い紙やろうか、白い紙やろうか」とか「青い紙やろうか、赤い紙やろうか」というよになり、より妖怪化がすすんでいったようである。 島根県出雲市の佐太神社や出雲大社では、出雲に集まった神々を送り出す神事をカラサデというが、氏子がこの日夜に便所に入ると、カラサデ婆あるいはカラサデ爺に尻を撫でられるという伝承がある。このカラサデ婆というものがどのようなものか詳細は不明だが、カイナデと何か関係があるかもしれない。(『総合日本民族語彙』民俗学研究所編、『日本民族辞典』大塚民族学会編、『現代民話考七 学校』松谷みよ子、『民間伝承』通巻173号「厠神とタカガミと」川端豊彦)
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14.家鳴(やなり) 家鳴は鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に描かれたものだが、(石燕は鳴家と表記)、特に解説はつけられていない。石燕はかなりの数の妖怪を創作しているが、初期の『画図百鬼夜行』では、過去の怪談本や民間でいう妖怪などを選んで描いており、家鳴りも巷(ちまた)に知られた妖怪だったようである。昔はなんでも無いのに突然家が軋むことがあると、家鳴りのしわざだと考えたようである。 小泉八雲は「化け物の歌」の中で、[ヤナリといふ語の…それは地震中、家屋の震動する音を意味するとだけ我々に語って…その薄気味悪い意義を近時の字書は無視して居る。しかし此語はもと化け物が動かす家の震動の音を意味して居たもので、眼には見えぬ、その震動者も亦(また)ヤナリと呼んで居たのである。判然たる原因無くして或る家が夜中震ひ軋り唸ると、超自然な悪心が外から揺り動かすのだと想像していたものである]と述べ、『狂歌百物語』に記載された[床の間に活けし立ち木も倒れけり やなりに山の動く掛け軸]という歌を紹介している。(『鳥山石燕 図画百鬼夜行』高田衛監修・稲田篤信・田中直日編、『小泉八雲全集』第7巻)
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15,木枕(きまくら) 昔三十三間堂近くに、住むと病気になる空き家があった。その家の持仏堂にあった木枕が妖をなすとわかり、荼毘にふしたら屍を焼いたのと同じ臭気がし、完全に焼けるまでの時間は人一人を焼き尽くす時間と同じくらいかかったという。
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16.狂骨(きょうこつ)  鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に井戸から立ち上がる骸骨姿で描かれているもので、【狂骨は井戸の中の骨なり。世の諺(ことわざ)に甚だし事をきやうこつといふも、このうらみのはなはだしきよりいふならん】と解説されている。肉の落ち尽くした白骨をきょう骨といい、神奈川県津久井郡では、すっとんきょうなけたたましいことをキョーコツナイと言う。狂骨という妖怪の伝承は無い事から、石燕が言葉遊びから創作したものと思われる。(『鳥山石燕 図画百鬼夜行』高田衛監修・稲田篤信・田中直日編)
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17.管狐(くだぎつね) 長野県を中心にした中部地方に多く分布し、東海、関東南部、東北の一部でいう憑き物。関東南部、つまり千葉県や神奈川県以外の土地は、オサキ狐の勢力になるようである。管狐は鼬(いたち)と鼠(ねずみ)の中間くらいの小動物で、名前の通り、竹筒に入ってしまうほどの大きさだという。あるいはマッチ箱に入るほどの大きさで、75匹に増える動物などとも伝わる。個人に憑くこともあるが、それよりも家に憑くものとしての伝承が多い。管狐が憑いた家は管屋(くだや)とか管使いとかいわれ、多くの場合は「家に憑いた」ではなく「家で飼っている」という表現をしている。管狐を飼うと金持ちになるといった伝承はほとんどの土地で言われることで、これは管狐をつかって他家から金や品物を集めているからだなどという。また、一旦は裕福になるが、管狐は大食漢で、しかも75匹に増えるので、やがては食いつぶされるといわれている。同じ狐の憑き物でも、オサキなどは、家の主人が意図しなくても、狐がかってに行動して金品を集めたり、他人を病気にするといった特徴があるが、管狐の場合は使う者の意図によって行動すると考えられているようである。もともと管狐は山伏が使う動物とされ、修行を終えた山伏が、金峰山(きんぷさん)や大峰(おおみね)といった、山伏に官位を出す山から授かるものだという。山伏はそれを竹筒の中で飼育し、管狐の能力を使うことで不思議な術を行った。管狐は食事を与えると、人の心の中や考えていること悟って飼い主に知らせ、また、飼い主の命令で人に取り憑き、病気にしたりするのである。このような山伏は狐使いと呼ばれ、自在に狐を使役すると思われていた。しかし、管狐の扱いは難しく、一旦竹筒から抜け出た狐を再び元に戻すのさえ容易ではないという。狐使いが死んで、飼い主不在となった管狐は、やがて関東の狐の親分のお膝元である王子村(東京都北区)に棲むといわれた。主をなくした管狐は、命令するものがいないので、人に憑くことはないという。(『日本の憑き物』石塚尊俊、『民間信仰辞典』桜井徳太郎編、『日本狐付き資料集成』金子準二編著)
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館内配置図はこちら。
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honyade · 6 years ago
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内野安彦 × 大林正智 × 野末俊比古「LIVE!!もうちょっとマニアックな図書館コレクション談義またまた」 『ちょっとマニアックな図書館コレクション談義 またまた』(樹村房)刊行記念
【ジュンク堂 池袋本店】 図書館のコレクションについて、やさしく、楽しく、ちょっとマニアックに、“またまた”考えます。
図書館をめぐっては、昨今、いろいろな発言がされています。 そういった状況を概観したうえで、図書館のコレクションとはどんな存在であるのか、図書館のコレクションを考えることはどういうことにつながるのか、そして、なぜ本書は「ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)マニアック」とならざるをえなかったのか……、を解き明かします。 今回は、情報リテラシー教育の第一人者であり、先日公開された映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」公開記念パネルディスカッションのモデレータもお務めになられた野末俊比古先生をゲストにお迎えし、終わらない図書館コレクション談義を“またまた”楽しく展開します。 ふだん図書館を利用する方も、まだ図書館を利用したことがない方も、「本は買う主義」という方も、“図書館のコレクションLIVE!! ”を体感しませんか。
【講師紹介】 内野安彦(うちの・やすひこ) ライブラリアン・コーディネーター、FMラジオパーソナリティ、立教大学兼任講師、同志社大学嘱託講師。 1956年茨城県鹿嶋市生まれ。鹿嶋市、塩尻市に33年間奉職。 両市で図書館長を務め、定年を待たず早期退職しフリーランスに。
大林正智(おおばやし・まさとし) 田原市中央図書館勤務。1967年愛知県豊橋市生まれ。 民間企業勤務の後、大学図書館委託スタッフを経て、公共図書館へ。
野末俊比古(のずえ・としひこ) 青山学院大学教育人間科学部教授、同大学図書館長・アカデミックライティングセンター長、同大学シンギュラリティ研究所共同所長。 興味関心領域は、図書館政策と情報リテラシー教育。
開催日時:2019年07月13日(土) 19:30~
★入場料はドリンク付きで1000円です。当日、会場の4F喫茶受付でお支払いくださいませ。 ※事前のご予約が必要です。1階サービスコーナーもしくはお電話にてご予約承ります。 ※トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。 ※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願い致します。(電話:03-5956-6111) ■イベントに関するお問い合わせ、ご予約は下記へお願いいたします。 ジュンク堂書店池袋本店 TEL 03-5956-6111 東京都豊島区南池袋2-15-5
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イベント情報の詳細はこちら
from honyade.com http://bit.ly/2RhHNOP
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我这辈子谈过最久的恋爱 它叫自恋🤣 (えんぱーく 塩尻市立図書館) https://www.instagram.com/p/Bx92M-6nIjU/?igshid=1u08bqom3h0uc
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warehouse-staff-blog · 6 years ago
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TSUTAYA限定です。
4月30日に発売した「ライトニング6月号」ですが、TSUTAYAさんの限定特典にて、ウエアハウスのバンダナが付録しています。
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ライトニング別注パターンのバンダナ。カラーは「ブルーグレー」です。
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ご注意:TSUTAYAさんでも、付録が付かない店舗がございますので、こちらの取り扱い店舗様一覧をご確認ください。
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Lightning 6月号限定特典の実施店舗一覧
北海道
   TSUTAYA 宮の森店    TSUTAYA 新道東駅前店    TSUTAYA 札幌インター店    TSUTAYA 南郷13丁目店    TSUTAYA あいの里店    TSUTAYA 川沿店    TSUTAYA 札幌琴似店    TSUTAYA 札幌菊水店    TSUTAYA 美しが丘    TSUTAYA 木野店    TSUTAYA 網走店    TSUTAYA サーモンパーク店    TSUTAYA 苫小牧バイパス店    TSUTAYA 上江別店    TSUTAYA 北見店    TSUTAYA 滝川店    TSUTAYA 小樽店    TSUTAYA 美幌店    TSUTAYA 岩見沢店    TSUTAYA 恵庭店    TSUTAYA 余市店    TSUTAYA 倶知安店    TSUTAYA 深川店    TSUTAYA 室蘭店    TSUTAYA 旭川永山店    TSUTAYA 苫小牧三光店
東北 青森県
   TSUTAYA 青森中央店    TSUTAYA 五所川原店    TSUTAYA 弘前店    TSUTAYA 十和田店    TSUTAYA むつ店    TSUTAYA 八戸ニュータウン店
岩手県
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happy-pix-jpn · 7 years ago
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* Photographer MIKI *
奈良県美術人協会会員。 主に奈良で行われる伝統行事の写真を撮っています。
とある小さな村の祭りで「来てくれてありがとう」と声を掛けて頂き、今までの自分の撮影スタイルに疑問を感じました。伝統を伝える、そして見て下さった人に何か感じて頂けるような写真を1枚でも多く撮りたいと思っています。 そして、何かお役に立てれば光���です☆
*-- マスコミ --*  生駒市広報誌「いこまち」(2017年2月号)に掲載して頂きました♪♪ 毎日新聞「やまと人模様」(2015年3月3日)に掲載して頂きました♪
*-- 活動内容 --* (敬称略) ★2024年 ・奈良県美術人協会写真部会員展(奈良市美術館 7/2~7) ・奈良県美術人協会展(奈良市美術館 6/19~23) ・「月刊奈良(3月号)」奈良の春景色 梅と桜めぐり 写真提供 ・「祈りの回廊」2024年春夏号 表紙写真提供 ・奈良旅手帖2024 写真提供
★2023年 ・融通念仏宗布教師会WEBサイト「融通歳時記」写真提供(2023年7月~2024年6月) ・「奈良県中小企業団体中央会」会報誌(2023年4・5月号~2024年2・3月号) 表紙写真提供 ・月刊奈良3月号 明日香村いちご狩り特集 撮影 ・奈良県美術人協会展(2/1~5) ・奈良旅手帖2023 写真提供
 ★2022年 ・奈良県美術人協会写真部会員展(7/20~24) ・融通念仏宗布教師会WEBサイト「融通歳時記」写真提供(2022年7月~2023年6月) ・奈良県美術人協会展(5/18~22) ・「奈良県中小企業団体中央会」会報誌(2022年4・5月号~2023年2・3月号) 表紙写真提供 ・海龍王寺 十一面観音春季特別開帳ポスター 雪柳写真提供 ・奈良旅手帖2022 ★2021年 ・「行基の喜光寺1300年」(京阪奈情報教育出版)仏舎利殿撮影 ・大倭印刷 カレンダー写真提供 ・「奈良県中小企業団体中央会」会報誌(2021年4・5月号~2022年2・3月号) 表紙写真提供 ・月刊大和路ならら4月号 「大和の古道・街道ある記」村屋神社代々神楽写真提供 ・奈良観光情報誌『ならり』Vol.30春夏号 東大寺十七夜写真提供 ・奈良、旅もくらしも【花暦】 写真提供 ・奈良旅手帖2021 ・鹿鳴園 修二会写真展示(2020年12月17日~2021年3月15日) ★2020年 ・大倭印刷 カレンダー写真提供 ・なら燈花会 公式撮影 ・月刊大和路ならら6月号 巻頭【大和逍遥】 ・「奈良県中小企業団体中央会」会報誌(2020年4・5月号~2021年2・3月号) 表紙写真提供 ・奈良観光情報誌『ならり』Vol.28春夏号(表紙・かき氷特集撮影担当/東大寺十七夜写真提供) ・KCNまがじん2020年3月(海龍王寺・雪柳写真5点) ・奈良旅手帖2020  ★2019年 ・全国小学校道徳教育研究会 第55回奈良大会 表紙写真提供 ・大倭印刷 カレンダー写真提供   ・「祈りの回廊」2019年秋冬版表紙 表紙写真提供 ・万葉あ~と展(犬養万葉記念館・2019/7/26~8/4) ・フォトジェニック展2019(大阪・京都・兵庫) ・「奈良県中小企業団体中央会」会報誌(2019年4・5月号~2020年2・3月号) 表紙写真提供 ・奈良県美術人協会展(5/15~19) ・奈良ひとまち大学 トップ画像(2019年4月~2020年3月) 写真提供 ・海龍王寺 十一面観音春季特別開帳ポスター ・登大路ホテル奈良 トップページ写真<修二会・尻つけ松明> 写真提供 ・奈良ちとせ祝ぐ寿ぐまつり<大立山まつり2019> 公式撮影 ・登大路ホテル奈良 【綴る奈良Vol.21】螺鈿のいろどり 奈良漆器 北村家の漆芸 ・奈良旅手帖2019 ★2018年 ・登大路ホテル奈良 【綴る奈良Vol.20】究極の筆記用品 奈良墨 松壽堂 ・登大路ホテル奈良 【綴る奈良vol.19】土と対話する 赤膚焼 大塩正人窯 ・大倭印刷 カレンダー写真提供 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展(10/27~12/16) ・登大路ホテル奈良 【綴る奈良vol.17】宝山寺と参道をあるく 聖天厄除大根炊き写真提供 ・登大路ホテル奈良 【綴る奈良vol.16】日本清酒発祥の地 奈良 写真提供 ・第9回安堵町ふれあい盆踊り大会 公式撮影 ・登大路ホテル 【綴る奈良vol.13】古都奈良の文化財―世界遺産20年― 元興寺地蔵会写真提供 ・なら燈花会 公式撮影 ・奈良県美術人協会写真部会員展(2018/7/18~22) ・登大路ホテル 【綴る奈良vol.10】夏の東大寺を楽しむ 写真提供 ・奈良県美術人協会展(2018/5/16~20) ・平城宮跡歴史公園開園記念イベント撮影(3/24) ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・登大路ホテル 【綴る奈良vol.3】東大寺二月堂修二会(しゅにえ)/ お水取り 写真提供 ・登大路ホテル 【綴る奈良vol.2】若草山焼き 写真提供 ・奈良旅手帖2018  ★2017年 ・大倭印刷カレンダー写真提供 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・奈良西大寺展(あべのハルカス開催)法要・イベント撮影 ・「アステイオン 86号」(2017年5月18日発売)題目立(奈良市上深川) ・奈良県美術人協会展(2017/5/17~21) ・なら歳時記〜それぞれの春〜(2017/2/1~28) ・なら瑠璃絵 公式撮影 ★2016年 ・「月刊事業構想」12月号 奈良県十津川村特集 ・大倭印刷カレンダー写真提供 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・葛城アートフェア出展 ・祈りの回廊 大神神社観月祭・砂掛け祭り写真提供 ・奈良県美術人協会写真部展示会(8/16~21) ・なら歳時記・夏〜奈良写真家9人展〜(8/1~31) ・奈良県美術人協会展(5/18~22) ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・旅さらら(飛鳥・橿原観光ガイドブック) ・「大宮通りジャーナル 第4号」表紙・奈良元気もんプロジェクト様写真提供 ・祈りの回廊 砂掛け祭り写真提供 ・奈良旅手帖2016 ★2015年 ・大倭印刷カレンダー写真提供 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・「大宮通りジャーナル 第3号」表紙・燈花会写真提供 ・なら燈花会 公式撮影 ・くるりかつらぎ・飛鳥・吉野大峯+十津川・桜井宇陀・大和高原(西日本出版社) ・ならびたり(生駒あさみ著) ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・奈良旅手帖2015 ★2014年 ・1300年のこころ見つけました(奈良県観光キャンペーン) おん祭 ・1300年のこころ見つけました(奈良県観光キャンペーン) 春日大社年間祭事 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・平城京ふぉと&うぉーく 11月15日開催しました。 ・なら燈花会 公式撮影 ・「JAPANSQUARE」(JR西日本・ナビバード共同運営)奈良特集 ・「JAPANSQUARE」(JR西日本・ナビバード共同運営)お水取り特集 ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・なら瑠璃絵写真集(写真・編集制作) ・奈良県発行「なら記紀・万葉名所図会 - 古事記神様・人物入門編 - 」 ・奈良旅手帖2014 ★2013年 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・近鉄奈良駅電子掲示板 東大寺修二会写真提供 ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・奈良旅手帖2013 ★2012年 ・奈良県立民俗博物館「私がとらえた大和の民俗」写真展 ・なら瑠璃絵 公式撮影 ・「知れば知るほど奈良はおもしろい 2012年冬号」表紙・巻頭・ポスター ・「まほろびすと(奈良情報季刊誌)」表紙・巻頭・歳事 ★2011年 ・なら燈花会 公式撮影 ★2010年 ・平城遷都1300年祭(フィナーレ) 公式撮影 など *敬称略させて頂いております。 *個人の方や企業様からの撮影実績は掲載しておりません。
Hi ! I introduce Japanese culture & traditions by my photos. Especially in Nara & Kyoto. My wish is to make friends,especially with people who are interested in Japan, but I welcome absolutely anyone and everyone(*^^*)
Please feel free to contact me through Twitter. https://twitter.com/happy_pix Thanks.
*-- 書籍 --* ・「くるりかつらぎ・飛鳥・吉野大峯+十津川・桜井宇陀・大和高原」写真多数掲載 ・「行基の喜光寺1300年 (京阪奈情報教育出版)」仏舎利殿撮影
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