Tumgik
#丸首羽織
gallerynamba · 12 days
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◇TWINSET(ツインセット)◇カーディガンが入荷しました。 定価:80,300円(税込) 弊社通販サイト商品ページ⇒http://www.gallery-jpg.com/item/643-350-061/ AUTUMN&WINTER 素材: (本体)アクリル80%、毛20% (付属1)アクリル70%、毛30% (付属2)ナイロン38%、レーヨン38%、コットン24% (刺繍)ポリエステル100% カラー:ホワイト サイズ:XS 総丈約53cm、肩幅約34cm、袖丈約64cm、バスト約92cm、ウエスト約89cm (平置きの状態で測っています。) プードルヤーンを使い編み上げたニットカーディガン。 その毛糸を使い何段にもフリンジをあしらっています。 また、レースの縁をブラック糸でトリミングした、ハニカムレースに花柄を織り込んだパーツをニットに縫い付けています。 ネックラインと袖口はリブ仕立て。
前立て部分はスナップボタン開閉。 インパクトのあるカーディガンです。 ※ご覧頂いている媒体により、色の見え方が多少変わる場合がございます。 ※店頭でも同商品を販売しておりますので、通販サイトの在庫反映が遅れる場合があり商品をご用意出来ない場合がございます。予めご了承頂きますようお願い致します。 // 🗣 いいね・保存・コメント大歓迎!ご来店お待ちしております! \\ ━━━━━━━━━■アクセス□━━━━━━━━━         なんばCITY本館の1階     大阪難波郵便局側から入って1軒目        靴のダイアナ(DIANA)の隣 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Gallery なんばCITY本館1階店 〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波5-1-60 なんばCITY本館1階 【営業時間】11:00~21:00 【休館日】9月無休 【PHONE】06-6644-2526 【e-mail】[email protected]
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da-daism · 4 months
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おはようございます。
昨日ちょっと着物に触れたので最近着てみた着物など…。
どちらも手代木家の家紋入り『丸に違い鷹の羽』です。結構ポピュラーな家紋なので、うちもこれだよーって方、多いかもしれないですね。(因みに母方は丸なしの桔梗紋です。桔梗紋は色々曰くがあるようですね;。)
この着物は私と妹のために母がしつらえてくれていたらしく、寸法も合っていて、色味も今時っぽくて可愛い!と先日思い切って塩釜神社に参拝に着て行ったのですが、着付けの先生に紋付はそんなにカジュアルに着ていくものじゃないと釘を刺されてしまい;その時着て行った羽織も着方を間違えていたらしく;これがなかなか自信を持って着物を着て外へ出れない理由でもあります…。
まだ着付けそのものもですが着物によってのTPOが理解しきれていないんですよね;;
紋付は、これまでの続いてきた先祖を背負って、代表とする場に来ていくものだと聞きました。
今はそこまで気にすることはないのかもしれないですが、こんなに可愛いのに、着ていく場が限られているのは勿体なさすぎる…;;と、ここであげておきます。。
いつかまたサイン会とかする機会があったら。気合い入れて着ていきたいものです…。
あと首にかけているのは老眼鏡です。ついに作ってしまいました。。結構目が深刻にやばいです…アナログに戻そうか迷い中です。。
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rosysnow · 6 months
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ずっとそばに
きっとふたりは、もっと近くて
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 ゆっくり、夜の街に明かりが戻ってきたと感じる。居酒屋やスナックが夜遅くまで光を灯している。
 そんな通りに並ぶ、とあるバーに大学時代からよく行っている。ゲイバーじゃないけど、ママがニューハーフで、トークがなかなか愉快なのだ。そんなママを気に入って、店によく来る奴のメンツもだいたい決まっている。
 その人々の中に、いつからそのカップルがいたのかは憶えていない。自然と、名前と顔は一致するようになっていた。長身でワインレッドのメッシュを入れた男が真寿、黒髪ショートのきりっとした女が寧々だ。真寿は二十六の俺とタメくらいで、寧々はそれより年上で三十手前だろうか。
 見ている感じ、真寿は寧々の尻に敷かれている。寧々が何かしら一方的に言うと、真寿はしゅんとして謝っている。
 あんな女、俺なら嫌だな。そう思うけど、だからこそ、好きこのんで寧々とつきあう真寿は、よほど彼女が好きなのだろうと俺は思っている。
「あの子も、あんなモラハラみたいな女、やめとけばいいのに」
 その日も仕事を終えて、帰宅前にカウンターで一杯飲んでいた。すると、大学時代に同じサークルだった茅乃も顔を出し、俺の隣でカクテルを飲みはじめた。お局に対する愚痴をひと通り述べたあと、ボックス席にいる真寿と寧々を一瞥して、茅乃はそう言った。
「モラハラって」
「いつも怒られてるじゃん、あの子」
「あいつが彼女のこと好きなら、勝手なんじゃね」
「克宏も、好きな女だったらああいうのOKなの?」
「……俺は嫌だけどな」
「ほら。あーあ、真寿くんならもっといい女がいるのにさ」
 俺は静かにハイボールを飲んだあと、「それは、お前が『いい女』だと自称してるのか?」と眉を寄せた。
「悪い?」
「お前は『いい女』ではないな」
「克宏にはそれでいいけど」
「真寿くんに興味あんの?」
「私は可哀想な男が好きなの」
「可哀想って……」
「放っておけない。私が幸せにしたい」
「本人は幸せだと思うぞ」
「あれを見て、本気でそう思う?」
 真寿と寧々がいるボックス席をちらりとした。寧々は腕を組んでソファにもたれ、何か言っている。真寿はやっぱりうなだれている。会話はジャズと客の話し声に紛れている。
「絶対モラハラだわ、あれは」
 茅乃はひとりうなずき、オレンジ色のカクテルを飲んだ。「そうですか」と俺は聞き流して、スマホを手に取っていじる。
 今まで、真寿と寧々のそういう関係は、当たり前のように見ていた。でも、実は真寿は寧々に負担を感じているのだろうか。だとしたら、別れない理由が俺には分からないけど、真寿は別れたいと切り出せるタイプじゃなさそうだなとは思う。
 やがてアルコールが軆にまわり、ほどよいほてりを覚えてきた。茅乃には「あんま野暮なこと考えんなよ」と釘を刺し、俺はママに支払いをしてバーをあとにした。
 びゅうっと寒風が吹きつけてくる。十二月になって、一気に冷えこむようになった。マスクが隠れるくらい、マフラーをぐるぐるに巻いて、���へと革靴の足を向ける。
 この通りは、パンデミック前は酔っ払いもかなりふらふらしていて、やや治安が良くない感じだった。でも、時短営業を機に閉じた店も多く、現在はそこまでうるさくない。灯っている明かりは増えたけど、活気が戻るのはまだもう少し先なのかなと思う。
 恋人もいない俺は、毎日会社で仕事をやるしかない。リモートワークも選べるけど、実家住まいの俺は、フルリモートが解除されたら、さっさと出社するようになった。リモート授業の大学生の妹に、「満員電車に乗ってきて、そのまま近づかないでよね」とか言われるが、そもそもお前がそんなふうに生意気だから家でゆっくりできねえんだよと思う。そして、これを口にしたら、両親は確実に妹の味方をするのも鬱陶しい。
 年末感が濃くなる金曜日、俺はまたバーにおもむいた。今年は土日がクリスマスなので、何となくうんざりしていた。彼女持ちの後輩は、「彼女とゆっくり過ごせるから最高ですよね」とか言って、俺は引き攣った苦笑いをするしかなかった。
「今年は久しぶりにオールのクリスマスイベントやるから、うちに来たら? 出逢いもあるかもしれないわよ」
 ママになぐさめられて、それもありかもしれないと深刻な面持ちで検討していると、からん、とドアベルが響いた。ついで、「こんばんは」と誰か店に入ってくる。
「あら、真寿くん。寧々ちゃんは?」
 俺はグラスから顔を上げ、入ってきたのが紺色のコートを羽織った真寿であることを認めた。彼は相変わらずな印象の弱気な笑みを見せると、ホールのボックス席でなく、俺のいるカウンターにやってくる。
 手にしたメニューを見つめた真寿は、吐息をついて、「とりあえず水を……」と言った。
「いいの? お水でもお金はいただくわよ」
「分かってます」
 ママは肩をすくめ、ミネラルウォーターをペットボトルごと真寿に渡した。しかし、受け取った真寿は、それに手をつけようとしない。
「何かあったの?」
 スツールがあいだにふたつあるけど、その横顔を見兼ねて、俺は声をかけてみた。はっと真寿はこちらを見る。女顔だなあと失礼ながら思っていると、「……克宏くん」と真寿はつぶやく。話すのは初めてだが、名前ぐらい把握されていても驚かない。
 真寿は視線を下げると、「あの子……」とぽつりと口を開いた。
「君の恋人ではなかったんだね」
「はい?」
「茅乃さん。ずっと、そう思ってたよ」
「………、え、茅乃と何かあったのか?」
 真寿はやっとペットボトルを開封すると、ごくんと喉仏を動かして、ミネラルウォーターを飲みこんだ。
「夕べ、茅乃さんと一緒だったんだ」
「はっ?」
「それが寧々に見つかって、怒られちゃって」
 え……と。
 何言ってんだ、こいつ。茅乃と夕べ一緒だった?
 もしや、この男、おとなしそうな顔して下半身は緩いのか。一緒だったということは、まあ、そういうことだろう。そりゃあ寧々も怒る。
 いやいや、待て。茅乃は先日、モラハラとかめんどくさいことを勝手に言っていた。
「もしかして、茅乃に無理に迫られた?」
「……まあ」
「マジか。それは……何か、あいつの友達として謝らないとな」
「いやっ、僕が流されただけで」
 そこは確かにお前も悪い。と言うのはこらえて、「真寿くんって、寧々さんとうまくいってなかったりする?」と問う。
「え? そんなことはないけど」
「じゃあ、あんまり……良くはなかったな」
 あんまりというレベルじゃないが、そう言っておく。真寿は黙りこんでしまい、ただ不安そうな顔で水を飲む。
「茅乃は、その──あいつなりに、真寿くんを心配にしてたみたいだから」
 沈黙が窮屈になった俺の言葉に、「心配?」と真寿は首をかたむける。ワインレッドのメッシュがさらりと流れる。
「真寿くんが、寧々さんにモラハラ受けてんじゃないかって」
 真寿は心底驚いた丸い目になって、「それはないよっ」と身まで乗り出してきた。
「確かに、寧々は僕のダメなところに目敏いし、よく指摘するよ。でも、それはほんとに僕が直さなきゃいけないところで」
「お、おう」
「ふたりきりになれば、寧々は僕のいいところもたくさん褒めてくれるんだ。すごく厳しいけど、すごく優しいんだよ」
「そう、なのか……」
「寧々はかっこいい。ずっと僕の憧れだった」
「ずっと?」
「うん。友達のおねえさんだったんだ、もともと。何年も、すれちがうときに挨拶するだけで。寧々からお茶に誘ってくれたときは、夢みたいに嬉しかったなあ」
 真寿は幸せそうに寧々との馴れ初めを語り、俺は臆しながらそれを聞く。
 何か、こんなに寧々にベタ惚れしていて、こいつ、本当に茅乃と寝たのか?
 そこのところを、具体的に訊けずにいたときだった。
「やっぱりここにいた」
 からん、とベルを鳴らして、店に入るなりそう言ったのは、カーキのオーバーと細いデニムを合わせた、いつも通りボーイッシュな寧々だった。
 真寿ははたと寧々を振り向き、口ごもる。
「ねえ、あんたの部屋にあたしとあの子とふたりきりにして、あんたは逃げ出すって何なの?」
 おいおい、そんな修羅場を投げてきたのかよ。ついそう思ったが、同じ男として、そんな現場は逃げたくなる気持ちも分からなくはない。
 真寿は気まずそうにうつむいているので、思わず「友達が失礼したみたいで」と俺は口をはさんだ。寧々はこちらに、長い睫毛がナイフみたいにも感じる鋭利な目を向ける。
「あの女の子の友達?」
「そうです」
「友達は選んだほうがいいわよ。で、真寿、あんたはあたしに言い訳ぐらいしたらどうなの?」
「言い訳なんて……悪いのは、僕だし」
「それで、何も説明しないのはもっとずるい。あたしがどうでもいいってことなら別だけど」
「それはないよ! 僕が好きなのは寧々だよ、絶対に。寧々のこと、大好きだよ」
「あの子にも同じことを言ったの?」
「言うわけないっ」
「じゃあ、それは、あたしにきちんと説明してほしかったな」
「……ごめん」
「あと、一緒に過ごしたくらいで、だいぶ大ごとに捕えてるみたいだけど、何もなかったならあたしは怒らないわよ」
 え? 俺は思わずぽかんとして、真寿もまばたきをする。
「あの子が言ってた、『相手にされなかったから』って」
「信じて……くれるの?」
「むしろ、信じないと思われるほうが不愉快ね」
「ご、ごめんっ。僕だったら、寧々がほかの男とふたりで過ごしたら許せないし、たぶん、何もなかったなんて信じられないから。そんなの、頭が変になると思う」
「……あたしも、頭は変になりかけたけどね」
 むすっとした感じで寧々が言うと、真寿はぱあっと笑顔になり、スツールを立ち上がって「ごめんね」と彼女を抱きしめた。「あらあら」なんてママはにっこりしているけど、俺にしたら痴話喧嘩なので、しょうもないと思いながらスマホを取り出す。
 いつのまにか、通話着信がついている。茅乃からだ。俺はいったん席を立ち、壁際で茅乃に通話をかけた。奴はワンコールで出た。
「真寿くんとひと晩過ごして、何もなかったことは聞いた」
 俺が開口で言うと、茅乃は『ありえないでしょ……』と絶望的な涙声でつぶやいた。
「だから、真寿くんはそれだけ寧々さんに惚れてんだよ」
『うー、つらいよお。私、真寿くんのこと、けっこうマジで好きだったんだよ?』
 俺は壁に背中をもたせかけ、けっこうマジで好きなのはこっちもだけどな、と思う。
 本当に、見る目がない女だ。そんなお前に恋をした俺が悪いんだろうけど。マジで、鈍感すぎる。
 俺がいつも隣にいるって気づいてくれよ。何だかんだ、ずっとそばにいるじゃないか。でも、こいつはおもしろいくらいに気づいてくれない。
 真寿と寧々は、いつも通りのホールのボックス席に移動している。寧々が何か言っても、真寿はいつになく嬉しそうだ。
 あのふたりは、ずっとお互いのそばにいるんだろうな。茅乃の泣き言を聞きながら、そんなことを思う。
 俺が茅乃とあんなふうになれるかは分からないけど、憂鬱だった週末のクリスマスは、ひとまず彼女のやけ酒につきあって過ごすことになりそうだ。
 FIN
【THANKS/診断メーカー『お題ひねり出してみた(ID:392860)』】
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shukiiflog · 1 year
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ある画家の手記if.39  告白
三人で家族旅行をして、香澄の睡眠も落ち着きだしてからしばらく経ったある日に、情香ちゃんは唐突にこの家を出て行った。 もともとこのままずっとここにいる気じゃないのは僕も香澄も分かってたし、出ていくことに変な他意はなくて、そろそろいつもの体を動かす忙しい仕事に戻りたくなったんだろうなと思った。
荷物もないし玄関まででいいというから、香澄と二人で玄関で見送る。 一人靴を履いた情香ちゃんは玄関で香澄の頭を髪が爆発したみたいになるまでわしわし撫でたあとで、満足したみたいに笑った。 「ん。もうそんな痩せこけてないな」 「…うん。ありがとう。情香さんの料理おいしかった」 情香ちゃんが香澄をまっすぐ見つめる。 「困ったらいつでも呼びなよ」 「うん」 「…香澄の目は綺麗だな」 そう言って情香ちゃんが香澄の頭を両手で挟んで持って引き寄せ て 「?!」 「ちょっ…」 香澄の目元に軽くキスしていった。香澄はフリーズして目をぱちくりさせてる。 僕は後ろから香澄を抱きしめて牽制する。 「…情香ちゃん、や、やめて…。香澄口説かないで」絶対僕が負けるから。 「そう思うならもう少しお前も大人になるんだな」 情香ちゃんは笑いながら颯爽と扉の向こうに消えていった。 「……。」 「………。」 室内に残された二人でしばらく同じ体勢のまま固まる。 「……香澄…情香ちゃんに心変わり「してないよ?!」 つっこまれるみたいに否定されてほっと息をつく。…へんな感じだ。前だったらそんな、香澄が誰を好きだって、こんなに焦ったりしなかったのに…今僕に気持ちの余裕がないのかな、家族になろうって言ったときだって僕は、香澄にほかに彼女とかがいるならそれで…って思ったり…してたのに。 ……もしかしてこれが独占欲ってやつかな。 もやもやを新鮮に感じながら、香澄に提案する。 「…ねえ香澄。僕はこれからどうしてもやりたいことがあるんだけど、香澄も手伝ってくれる?」 香澄は後ろから抱きしめてくる僕の腕の上に手を乗せて、僕の足の上に足を乗せて、僕もそれに合わせて足をぶらぶらさせたり体をゆらゆらさせて二人で玄関先で一緒に揺れる。 「いいよ。やりたいこと?」 僕はそのまま足の甲に香澄を乗せて二人羽織みたいな二足歩行を戯れにしながらリビングまで戻った。 香澄をソファに待機させると、家族旅行で買ったばかりの防寒具一式をすばやく取ってくる。 ソファに座った香澄にぐるぐるマフラーを巻いて頭に大きめのニット帽をしっかりかぶせて耳まで覆った。体にコートをかける。 僕は寒さに強いから適当なコート一枚でいいや。 「よし、出発」 二人で家を出て、すぐ隣のひらけた公園まできた。 まだ雪が積もったままで、隅のほうに少しだけ子供が雪で遊んだあとが残ってる。 一番綺麗に高く積もったあたりを二人で探して見つけた。 「…よし。香澄、雪だるま作るよ」 僕の真剣な声にとなりの香澄がふっと息を噴き出すみたいに笑った。 「…え。なにに笑ったの」 香澄は手袋をした手で口をおさえて笑いを堪えるみたいにしてる。 「な、なんでもないよ…作ろっか」 …また僕へんなことやらかしたのかな…でも香澄は嫌な気になってるわけじゃないみたいだ 「香澄…」 じと…と香澄を半目で見たら、香澄が笑って両手を掲げて降参しながら白状する。 「直人かわいいなと思ってつい、だってすごく気合い入ってて、ほんとに真剣にやりたいことみたいだったから、なにかと思ったら…」 まだ笑ってる。雪だるまは子供の遊びじゃないんだぞ。 二人で小さな雪玉を転がしながら、僕が胴体、香澄が頭を担当することになった。 香澄が凍った空気に白い息を吐く。 「はー…… 今日からもう情香さんいないんだね…」 「香澄が呼べばきっといつでもまた来てくれるよ。僕が呼んでもあんまり来てくれないけど…」 「そういえば直人は情香さんと一緒に暮らしたことないって言ってたけど、二人が一緒にいるのすごく自然だったよ。幸せそうだった。どうして別々に暮らしてたの?」 「………」 僕の返事がそこで途切れたから香澄は慌ててつけくわえた。 「ごめん、口出しなんて…「いや、なんでも聞いていいよ。香澄も家族なんだから」 笑って香澄が謝るのを遮ったものの、質問には答えられずに、話は自然と別のことにうつっていった。 かなり大きくなった雪玉を、バランスをとりながらふたつ重ねて、二人で支えてしっかり立たせる。 長身の男二人で丸め続けた雪だるまの身長はなかなかのものになった。少なくとも子供が集まって作れるサイズ感じゃない。 「僕は目を探してくるから、香澄は鼻か口を見つけてきてくれる?」 「なんでもいいの?」 「いいよ」 二人で手分けして公園内の木や石を見て回って、手頃なものを探す。僕は黒々としたつぶらな石の瞳と元気に広がった枝の腕二本を見つけた。香澄も尖った石を持ってきて、顔の真ん中に鼻にして刺した。 目も腕もついて、ちょっとだけ天を仰ぐ顔の角度で、かわいくできた。完成だ。 「香澄、ケータイ持ってきた?」 「持ってるよ。写真撮ろうか」 「うん、……誰か…撮ってくれる人がいたら…」公園内は平日だからか閑散としてる。香澄と僕と雪だるまを撮ってくれそうな人が通りがからないか待ってみる。 すると一匹の大きなシェパードが遠くから僕らのほうに向かって猛スピードで走り寄ってくるのが見えた。 人なつこいのか、雪だるまに興味があるのかな。 「首輪つけてるね、飼い主に写真が頼めないかな」 二人で飼い主の影がどこかにないか見回す。 すぐに体に触れられるほど近くにきた犬の頭を撫でる。吠えたり噛んだりもしない、よく躾けられたいい子だ。 「直人、犬には嫌われないんだ」 「ね、猫だけだよ…あんなに嫌われるのは」 「犬も好き?」 聞かれて一瞬ぼうっとする …似てるってよく言われるな 犬は好き 特に大きい犬は僕がぎゅ��て抱きしめても骨を折ったりしなくて安心だし 犬は好きだったよ 飼い主が …いや、飼い主のことだって別に嫌ってたわけじゃ その時、雪上に大きな指笛の音がまっすぐ空間を貫通するように響き渡った 「…あ、この子の飼い主さんかな」 香澄が音のしたほうに振り返って、丘の上の散策路に人影を見つけた。 笛の音で犬は全身をぴしっと引き締めてまた一直線に音のしたほうへ駆け出した。 犬の…首輪に下がってたあれは名札? BU…STER…? 「come,バスター」 散策路の人影が一言発した 介助犬とかの訓練用に共通で決められてる命令語だ 犬と一緒にすぐ木立の陰に消えていって僕にはほとんど見えなかった 襟を立てたロングコートだけちらりと見えた 「………人違い…」 …だと思う。あの人はこの時期に日本に滞在してることは滅多にないし ここに居るほうが変だ 「直人」 横から怪我してないほうの腕を香澄にひっぱられた。顔を覗き込まれる。 「変な顔してるよ。大丈夫?」 「…うん。なんでもない」 いつも通り笑ったつもりだったけど香澄に手袋をはめた手で顔を挟まれる。…心配かけちゃってる。 「…さっきの人、知り合いだった?」 「…ううん、人違いだよ」 今度こそうまくちゃんと笑って、香澄をぎゅっと抱きしめる。 「雪だるま…大きく作ったからきっと明日もまだちゃんと残ってる。今日は写真は諦めて帰ろうか」 「…うん」 二人で雪だるまを公園に残して家のほうへ歩き出す。 まだちょっと心配そうにする香澄の頭をわしゃわしゃ撫でて頭を胸に引き寄せてこめかみにキスした。 香澄の右手から手袋をすぽっと取ると、素手になった香澄の指に自分の指を絡めて、しっかり繋いだ手を僕のコートの左ポケットに突っ込んだ。 夜。久しぶりに二人だけで夕飯を作って食べる。 ひとり分の賑やかさが消えて、ほんの少しだけ寂しいような、不安なような。 それをかき消すように二人でいつもより手間をかけて凝った料理をいくつも作った。 食事が終わって片付けも済んで、僕がソファに座ったら香澄が横からするりと僕の膝の上に座った。…かわいいな。 香澄の体を包むように抱きしめる。 「…こういうの久しぶりだね」 って、自分で口に出しておいてだんだん恥ずかしくなる。 情香ちゃんもいたときはそういうことを意識して避けてたわけではなくて、自然とそういう気分にはならなかった。 「…香澄��こっち向いて」 僕の腕の中でゆったりリラックスしてた香澄が顔をあげて僕を見る、手で顎をとって軽く開かせると舌をさし入れて深くキスした。香澄も目を閉じて舌が口内でゆっくり絡み合う。一度少し唇を離してもう一度、角度を変えてもう一度、そうやって何度も深いキスを繰り返してるうちに、身体の芯からじんわり溶けそうになる。…気持ちよくて目が潤む。 一旦休憩。口を離すと少しだけあがった息が至近距離で混ざり合う。 「…香澄… …したい」 正直にこう言っても大丈夫。香澄はもう嫌なときはちゃんと嫌って言える。迫られても襲われても、意に沿わないときは自分の身を守れる。…帰ってきてくれた。それがすべてだった。 香澄の両腕が僕の背中に回って、ぎゅっと僕の体に絡められた。 「……うん…」 首元にあてられた香澄の顔は見えないけど、ちゃんと聞こえた、返事。 そのまま香澄の脚の下に腕を通してもう片腕で背中を支えて、横抱きにしてソファから抱え上げる。 左腕に少しだけ痛みがあった。負担がそっちにいかないように香澄の体の重心を少しずらす。 ドアを開けっぱなしだった僕の部屋に入ってベッドの上に香澄をおろすと、少し赤らんだ頰にキスを落とした。
続き
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bearbench-tokaido · 23 days
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七篇 上 その一
京見物をしている弥次郎兵衛と北八。 五条の遊所でのひと悶着があって、 やっとのことで切り抜けた。
ある人の句に
花尊い 都に本寺 本寺かな
とある。
そう詠んだのが思い出されるほどに、この都の寺院、堂塔は広大無辺にしてその荘厳麗秀さも、言葉にあわらせないほどである。 ことに花の咲き乱れる春や紅葉の秋は、古今東西に聞こえているほどの名だたる景勝の地である。 また加茂川の名酒の樽とともに、人の魂をとかしてしまう。
この地の商人は、きれいな衣装をきているがこれは、他の地では見られない光景だ。 まさしく京の着倒れとはこのことか。 これは、西陣の織元よりでたことらしく染めた衣の華やかさは、堀川の水のように清い。 その他にも名産、奇製の品物、あまたあるこの都にたまたま、入こむ場違いな二人がいる。 弥次郎兵衛と北八だ。
この二人、抜け参りのついでにと淀川の下り船に乗ったつもりが、勘違いで荷物は失うは五条新地で一杯ひっかっけて、丸裸となってしまった。 北八はしかたなく、連れの弥次郎兵衛の木綿の合羽を借りて着ているのが、せめてもの救いである。 まさしく北八は、“着た八”なのに丸裸である。 本来ならこの都は面白いはずなのに、今の二人にとっては朝の風が身にしみわたっているだけである。
さて五条の橋に差し掛かったのだが、ここは弁慶が千人切りしたという所で北八は、それを思い出しながら一首詠んだ。
かかる身は うしわか丸の はだかにて 弁慶しまの 布子こいしき
二人はその五条の橋を渡って、西の方に行く。 河原院の旧跡や門出八幡も素通りして、高瀬ぶねの網にひかれてたどりゆく道すがら北八が、弥次郎兵衛に言った。 「思えば、つまらないに事になったもんだ。 はやく古着屋でも見つけて、どんなんでもいいから綿入れが一枚ほしいが、金もあんまりねえし弥次さんよ。いい知恵はねえか。」 「なに、買わなくてもいいじゃねえか。こちとら、江戸っ子だ。 江戸っ子の抜け参りなんだから裸になって帰るのは、あたりまえってもんだ。」 と弥次郎兵衛は、本気かどうか笑って答える。 「そうはいうけどな、寒くてならない。」 と北八が、肩を抱くようなしぐさをするので、 「そんならちょうどいい。湯屋と書いてある。 この銭湯でちょっくら温ったまっていかねえか。」
「ああ、ほんとだ。湯屋とかいてあらあ。 こりゃいい。弥次さん、お先。」 と北八は一目散にのれんを潜り抜けるとすっと奥に入って、裸になりだした。 とそれを見ていたここの亭主が、慌てて言う。 「もしもし、こんさん。誰じゃいな、何さんすのじゃ。」 そう言われて北八は、あらためてあたりを見回すとどうやら、銭湯とは雰囲気が違う。 「ええい、いまいましい。湯屋かとおもった。」 「ははは、家の暖簾に湯の字があるさかい、それで銭湯かと思うてじゃの。」 と亭主は笑っている。
「ありや“済生湯(薬の名)”というお湯にといて飲む、薬の名じゃわいな。」 「と言うことは、ここは薬屋か。こいつはいい。大笑いだ。」 と弥次郎兵衛は、脱いだ合羽を又着ている北八を横目に見ながら、腹を抱えて笑ってる。 「くそ、また、一段と寒くなった。いまいましい。」 と小言を言いながら北八は、こそこそとそこを出る。
しばらく行くと、しみたれの古着屋が一軒あるのがみえてきた。 店先にいかにも古そうな、布やつるしが架かっている。 北八は弥次郎兵衛をくどいて、布一枚買おうとその店先にたって、その布をひねくりまわしだした。 「もし、この布こは、いくらだね。」 「はいはい、こっちゃへおかけなされ。」 と亭主は、愛想がいい。 「これ、お茶もてこんかいな。 お煙草の火もないわいな。はよう、ちゃちゃっとくさんせ。」 北八は、それどころではではない。 「いや、茶も煙草もいりゃせん。こりゃいくらだというに。」 「はいはい、そりゃ、結構で、ござりますな。 お安うしてあげようわいな。」 亭主はもみ手をしながら、言う。
そこにこの店の小僧さんが、 「はい、お茶あがりなされ。」 とお茶を持ってくる。 亭主は湯気のたっていないのをみて、 「長吉。そりゃ、おぬるいじゃないかいな。 なぜ、熱い茶あげんぞい。」 と言うと、小僧さんは店の奥をうかがうように、 「いや、おかみさんが、今朝は茶粥じゃさかい、お茶をたくなと、おっしゃってござります。 それは昨日たいたまんまの、茶でござりますわいな。」 と小さな声で言う。
弥次郎兵衛はその茶をさっと取り上げると、一口飲んで、 「なるほど。昨日の出がらしだ。まるで、河童の屁のようだ。」 と盆にお茶を返す。 「いや屁のついでにビロウながら、御亭主さん便所に行きたい。ちょっとかりますよ。」 「はいはい。便所にお出でかいな。」 と亭主が、裏の方を指し示そうとすると、さっきの小僧さんが、 「便所は、ぬるうはござりませぬ。 ようわいてじゃあろぞいな。」 と言う。 これを聞いて、ここの亭主は、 「なに、便所をだれが沸かしたぞい。」 と小憎を見ると、 「それじゃてて、たったいま、わたしが済ましたところじゃさかい、すぐいて見なされ。ぽっぽと煙が出てじゃあろ。」 と小さくなりながら、小僧が答える。 「ええい、むさいこというやつじゃ。」 と亭主は、呆れ顔である。
「そんなことより、この布子はいくらだ。 早くきめてくんねえ。寒くてたまんねえ。」 北八は、亭主と小僧のやり取りも聞こえぬ風で両手に持っている布を亭主の方に、押しやる。 「ははあ、お寒いなら、もっとそっちやへよりなされ。 そないによう日がさして、じゃわいな。」 と亭主は、日のあたるほうに北八を誘うと、 「昨日も着物を買いにお出らおかたが、こりゃ、いい。えろうぬくい家じゃいうて、ほれそこで、一日、日向ぼっこしていなれましたが。」 亭主は北八にお構いなしに話し続ける。
「そのお方が言われるには、もう着物買うて着いでもかまわない。 毎日ここの家へ、日向ぼこしにこうわいなと、こないにいうてじゃあったわいな。」 北八は、持っている布を、亭主に押し付けるようにすると、 「ええ、じれってえ。こりゃあ、売るのか売らねえのか。どっちなんだ。」 と詰め寄る。 「はいはい、売ります。うりますよ。せわしない人じゃ。」 と亭主は、やっと北八の手から布を取り上げた。 「安くしてくんねえ。」 と、北八は、亭主に言う。 「この紺の木綿の綿入れはと。」 とそろばんぱちぱち、やりだした。
「銀で三十五。これが、ぎりぎりじゃわいな。」 北八は、顔の前で手を振りながら、 「高いたかい。わっちらは江戸ものだが、古着は商売がらでいくらもとりあつかっているから、無駄な時間はつかいたくねえ。ほんとうの所をいいなせえ。」 亭主は、ちょっと顔をしかめて、 「はあ、御商売がらとあれば、おまいさま、古着屋なされてかいな。」 と北八の方を見る。 「いや、わっちは質やさ。」 と北八は、すまして言う。 「しちとあれば、何かいな。おとりなさるのか、置きなさるのかいな。」 と聞くと、横から弥次郎兵衛が、 「おくのが、この男の商売さ。」 と横槍を入れる。
つづく。
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kotoko326 · 4 months
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紅の深染めの衣色深く
みかつるが主である審神者を探しに黄泉路へ行く話。
「次の作戦が終わったら、三日月宗近をお前の隊の副隊長にしようと思うんだ」
大阪へ出陣前の朝、第一部隊隊長であり近侍でもある鶴丸国永を私室に呼び付けるなり、まだ幼さの残る横顔で審神者が明るい調子で言った。 寒さも残る初春の日だった。袖を通さずに羽織を肩から掛け、折り畳み式の文机の前に審神者が寛いだ様子で腰かけている。そのすぐ傍の火鉢からは、パチパチと小気味よく炭の音が鳴る。 「これまた突然な話だな」 刀としての性か、寒さにはあまり耐性のない鶴丸が、審神者の背後を陣取る形で火鉢に近づき、両腕を摩りながら言った。 主である審神者の生きる時代では「くーらー」なる物があり、これが中々快適なのだが、電気の通らない今居る元禄の時代には、用意できるのは火鉢くらいなものだった。 「突然でもないよ。前々から��えていたんだ。で、その報告が今日になっただけの話」 寒そうにする鶴丸に、審神者が体を半分傾けて灰式懐炉を投げてよこす。 受け取った灰式懐炉から漂う木炭の強い燃臭が、鼻腔にこびりついた。どうもこいつの臭いは好きじゃない。灰式懐炉を両手で包み込むと、ほんのりだが掌にぬくもりが広がる。 浮かない様子の鶴丸をじっと見つめながら、審神者が不思議そうな顔をした。 「何か問題が?三日月は人当たりも良いし、実戦経験はまだ少ないけど第一部隊でも十分通用するくらい強いよ」 「別に問題はないさ。……ただなあ……」 「ただ?」 「いやいや、何でもない」 まだ本丸に来て日が浅い三日月宗近が、鶴丸はどうにも苦手だった。避けている訳ではないが、積極的に関わりたいとも思わなかった。 師弟刀という仲でもあるし、今回が初対面という事でもない。美術品として共に隣同士に並んだ過去もある。人見知りしている訳じゃあない。 本丸では、実直でよく笑う男と評判だったが、鶴丸にはそれが今一つしっくりこなかったからだ。 確かに良く笑うし、人当たりも良い。強いというのも、経験上何となく感覚として知っている。だが、以前内番で手合わせした時は、本気を出さずのらりくらりとかわされてしまった。予測が出来ない男、そう思った。 鶴丸は驚きが好きだ。予測出来ない事が起こるとわくわくするし、それをどう乗り越えてやろうかと熱くなる。 その点では、鶴丸にとって三日月宗近という存在は、何を考えているか分からない、予想出来なくて面白い存在の筈だった。 だが、だからこそ、三日月が苦手なのかもしれないと、鶴丸は思う。 三日月宗近は冷めている。驚きとは、全く無縁の境地に達している様に見えるのだ。一言でいえば、心が死んでしまっているようだった。 なら、いっそ驚かし甲斐があるではないか?そう考える半面、彼と居ると、そちら側へ引き込まれてしまいそうになる気がした。三日月の瞳には、そんな力がある。これは確信だった。 心が死んでしまう事は、鶴丸が一番危惧している事だ。それだけは、あっちゃならない。 「しかし、きみは随分と彼を買っているんだな。いっそのこと三日月宗近を近侍にしてみたらどうだい」 顎に右手を当てて、面白半分で言ってやれば、審神者はむっとした表情になり、鶴丸の正面に向き直るとむすっとした声できっぱりと言い放った。 「それはお前じゃないと駄目だ」 「おやおや、嬉しい事を言ってくれるねぇ。それまたどうしてだい?まさか俺に惚れているなんて言う訳じゃないだろう」 「お前を見ていると、昔貰った千羽鶴を思い出すんだよ」 「そりゃ何だ?」 軽口をするっとかわした主の思いもよらない返答に、鶴丸はきょとんとした。 「折り紙の折り鶴を、文字通り千羽作って糸で綴じて束ねた物だよ。鶴は長寿のシンボルだろ?病気快癒や長寿の俗信があって、床に伏せてる人への贈り物として好まれてるんだ。って折り紙から説明しないとダメか」 そういうと審神者は、懐から四角い手拭いを出すと器用にそれを畳んでいく。すると、みるみる内にそれはただの手拭いから見事な鳥の形になった。ほう、と鶴丸はため息を吐いた。 「こういうの。本当は和紙で作るんだけど」 ピン、と、両翼に当たる部分をひっぱると、鶴丸に良く見えるように掌に乗せて見せた。 「こいつは驚いた!人間ってのは器用なもんだ…成程確かに鶴らしい」 「あはは、まあね」 素直に感心する鶴丸に、審神者が微笑む。それから、真面目な表情になってどこか遠くを見る目で言った。 「昔さ、事故に遭って死にかけた事があるんだ。その時の事は、正直あまり覚えてないんだけど。目が覚めた時、病室に真っ白い千羽鶴が飾られていたんだ。縁起が悪いからって、ご丁寧に首が折られてない奴がね。本当は折るのが正解らしいけど、嬉しかった」 「……きみは慕われてたんだな」 「そうだね。まあ贈り主に再会する前に、面会謝絶のままとんとんと審神者になったんだけど」 軽く肩をすくめて見せた後、昔話だと笑う。 鶴丸も主の立場を深く知っている訳ではないが、時の政府とやらは結構強引らしい事が感じ取れて、権力者というのは何百年経っても変わらないのだなと、心の中で嘆息した。 「それで?その千羽鶴が、中途半端に鶴らしい所が俺を思い出すってのかい?」 「ああ、違う違う。縁起が良いなあって思うんだよ。鶴丸は時々変に卑屈になるね」 別に卑屈になった訳じゃない、言えば向きになっていると返されそうなので、言いかけた言葉を喉元に留める。 「縁起が良いから、お前を近侍にしたいんだよ。僕を死地から連れ出してくれた、真っ白な千羽鶴みたいにね。それに鶴はめでたいだろ?」 「あっははは、験担ぎって訳か」 「そういうこと」 にっと笑う審神者に、鶴丸もつられて笑う。 この人は、相も変わらず何の迷いもなく俺を鶴だと言ってくれる。鶴丸は、灰式懐炉のじんわりとしたぬくもりが心の中にも広がるような心地だった。 「と、そろそろ出陣の時間だね。三日月の話は作戦が終わったらまた話すよ。相変わらず僕は本陣で待機だけど、戦果を期待して待ってるよ」 懐中時計をちらりと見て、審神者は鶴丸に顔を向けて再び悪戯っぽく笑いかける。 「ああ、驚きの結果をきみにもたらそう」
時は元禄から慶長一九年、大阪冬の陣。 歴史修正主義者率いる江戸改変大坂方面家康暗殺隊に対して、鶴丸率いる第一部隊は、形勢不利に陥っていた。 ��口を叩いておいてこの様だ。だが、本陣まで追い詰められての隊長同士の一騎打ち、鶴丸は負ける気がしなかった。小傷は負ったがまだまだいける。 ちらりと背後に控える総大将である主を見やれば、険しい面持ちで一騎打ちを見守っている。 主である審神者と一瞬だけ視線を交わすと、鶴丸は「任せておけ」とニッと口元に笑みを作る。 それに一拍子遅れて、審神者の表情が少し和らぐ。意味が通じたらしい。ここで負けたら主の懐刀としても名折れである。 助走をつけながら分身とも言える刀を軽く右手で構え、素早く背後に回り隊長を切り捨てると、鶴丸に届かなかった敵の刃は、空しくその場の地に突き刺さる。 後は敵総大将の首を頂きに行くだけだ。そう思うより先に鶴丸の視界の隙間に入った”それ”に悪寒が走った。 鶴丸の様子に気付いた他の隊員たちが、審神者の元へ駆け寄る。 まずい。どちらも共に距離がある。 「ええい」 軽く舌打ちをし、すぐさま足場近くの地に突き刺さった刀の鍔を蹴りあげる。 回転しながら宙を舞う切っ先がそれの左目に命中すると同時に、甲高い銃声が鳴り響いた。 この時代の物ではない拳銃を握ったまま、にっかりと笑ったそれが、血飛沫を上げながらゆっくりとした動作で倒れる中、鶴丸の背後でどさりと鈍い音がした。 遅かったか!鶴丸が振り返ると、守るべき存在である主が仰向けに倒れ、どくどくと血を流していた。 鶴丸は、さっと血の気が引いて行くのが分かった。 「主ッ!!!」 「きゅうしょは、はずしました……でも……」 鶴丸が駆け寄ると、隊員の一人である今剣が言う。真っ先に審神者の元へ駆けつけ覆いかぶさったらしい彼の衣服は、審神者の血で染まっていた。 「急いで弾を除かないと感染症の恐れがありますね」 傷口に触れながら太郎太刀が静かに言った。 気を失いながらも、呻く審神者の顔色は、平常、色素の薄い鶴丸よりも白かった。それとは対照的に、彼の真っ白な斎服袍は左の肩口から赤に染まっており、これではどちらが鶴か分かったものではない、そう鶴丸は思った。 「……すまん、俺が油断したばかりに」 「いえ、鶴丸。あなたの判断は正しかったですよ。あそこで敵の総大将を討っていなければ弾丸は逸れることなく急所を討ち抜いていたでしょう。これは隊全体の問題です。まさか結界が施された本陣に潜んでいるとは……」 「そこの御仁たち、反省会は後にしてくれないかい。作戦も一応は成功したし、早い所応急処置をして主を本丸へ連れ帰ろう」 今剣の両肩に覆いかぶさる様な姿勢でいた審神者の右肩を担ぎ直し、歌仙兼定が呆れた声で言う。それに続く様に、無言で山姥切国広が、左肩を気遣うように支える。その表情は、何時も以上に暗かった。
(弾は除かれました。今夜が峠でしょう)
本丸の救護班の報を受けた鶴丸は、灯りも持たずに主の部屋の前で立ち尽くしていた。 「峠、か……こりゃまいったね」 障子一枚を隔てた向こう側で、主である審神者は伏せっている。肉体だけが伏せっていた。 確かに息はある、しかし魂とも呼べる気配がなかった。 数は僅かばかりだが、特に霊力の強い刀剣男士たちは、その事に気付いていた。 気付いた者は、皆一様に思う所のある様な顔をして各々の寝所へ戻って行った。だが、鶴丸はその場から離れる事が出来なかった。 今朝方に見た、折り鶴を折って見せた主の顔が脳裏をよぎる。まだ、僅か十数年しか生きた事のない少年の顔。 鶴丸は両の手に握り拳を作り、わなわなと拳を震わせた。 「すまん、主……。俺は器用じゃないから、千羽の鶴は折れそうにない……。だが……」 「鶴丸」 意を決して、その場から立ち去ろうと背を向けたその背後から、たおやかな声に呼び止められる。 振り返ると、灯りを手に佇むように彼は立っていた。 視線の先は、鶴丸ではなく、審神者の部屋だった。彼も事態に気付いたのだろう。 「……遠征から帰っていたのか、三日月宗近」 「ついさっきな」 「そうかい、ご苦労さん。じゃあな」 何処かこの場には不釣り合いな、穏やかな声で話す彼に少し苛立ちを感じながら、さっさと切り上げようと背を向けた。 悪いが、今は三日月の相手をしている暇はない。 が、間髪いれずに三日月に右手首を掴まれる。存外力が込められていて、振り払う事が出来ずにいると、静かな声で尋ねられる。 「その傷で何処へ行く?」 「おいおい、傷を見ればわかるだろう。手入れ部屋に決まっている」 もう一度振り返れば、三日月の瞳とかち合う。 蝋燭の灯りに照らされて鈍く光る、闇夜に浮かぶ青の光にじっと見つめられると、まるで全てを見透かされているような気分に陥る。 「手入れ部屋とは逆方向のように見えるが?」 「……俺は方向音痴でね、ちょいと間違えただけさ」 「とてもそうは見えないが?」 「そりゃお宅の思い込みだろう」 「見た通りを言っただけだ。思い込みなどではないさ」 「それを思い込みって言うんだ。いい加減、この手を放してくれないかい。傷口が痛くて仕方ないんでね。さっさと手入れに行かせてくれ」 「鶴丸」 ばつが悪くなって、鶴丸は、はあ、と溜息を吐きながら空いた手でボリボリと頭を掻いた。 ここで再び言い逃れをしたとして、彼は見逃すだろうか?普段なら、曖昧な笑みを浮かべてはぐらかされてくれよう。だが、今宵はそうはしてくれないであろう力強さが、己の手首に込められていた。 今宵、何故こんなにも三日月が自分に執着してくるのか分からないが、存外この男は強情なのかもしれない。鶴丸は、そんな事をふと思った。 もう一度深い溜息をこぼすと、やれやれと観念したように鶴丸は白状した。 「黄泉の国へ、主を迎えに行ってくる」 「イザナギのように禁忌を犯すのか?」 「ああ」 見つめ合ったまま答えると、鶴丸の右手首に込められた力が、少しだけ緩んだ。だが、まだ解放する気はないらしい。 「……先程太郎太刀は今日が峠と言っていたが?鶴丸よ、それではまるで、審神者が死んだと言っているようではないか。確かに今あの部屋には…」 「おおっと、早とちりは止めてくれ。主はまだ死んじゃあいないさ。だが、主は”あちら側”に居る」 三日月の言葉を遮るように、鶴丸は手首を掴まれたままの手を挙げて言った。 「どういうことだ?」 少し怪訝そうな声で、三日月が問う。 「っと、そうだな……何て言えばいいか……。俺はこうして現世の肉体を得る以前に、主とそこで出会っている。丁度その時、主が黄泉の釜戸で煮炊きしたものを食べようとしていたからな、気まぐれに手を叩いてこちらへ引き戻したんだ」 「それはまた初耳だな」 「誰にも話しちゃいなかったからな。自然の摂理に背いたんだ。石切丸辺りが聞いたら、呆れるか怒るかのどっちかだろうな」 そう言って鶴丸が、少しニヤリと口元を歪めると、 「それはあるな」 三日月が、���く様に袖を口元へ寄せて笑った。 あれほど敬遠してた三日月と笑い合うなどと、鶴丸は少し奇妙な気持ちになり、表情を引き締める。 「まあ、経緯は話すと長くなるから手短に話すが…。兎に角、主は”あちら側”へ引き寄せられやすい体質になってる事は確かだ。だから、一刻も早く迎えに行ってやらないと、手遅れになる可能性がある」 「と、言うと」 「ヨモツヘグイを為す前にって事だ」 黄泉戸契、それは文字通り黄泉の国の食べ物を食べ、黄泉の国の住人になる儀式の事だった。ヨモツヘグイを為した者は、神であろうがあちら側の住人となってしまう。 かつて昔の主と共に葬斂された過去のある鶴丸は、それをよく知っていた。幸か不幸か、鶴丸はヨモツヘグイを為す前に現世へ舞い戻る事になったのだが。 「しかし今から黄泉比良坂へか?」 三日月の知る黄泉への入り口は、本丸からは遠かった。とても人の身では、一昼夜で行ける距離ではない。 すると、再び鶴丸が「誰にも言うなよ?」と、前置きをしてから白い歯を見せる。 「黄泉への抜け道を知っている。行くだけなら時間はかからない。それに俺にとっちゃ遊び場みたいなもんだ、連れ帰るだけなら何の事はないさ」 「……鶴丸、お前、かなり危険な遊びをしているようだな」 「人生には驚きが必要だろ?その一環みたいなもんさ」 実際、黄泉の国の住人を驚かすのは大層楽しかった。これは鶴丸だけの秘密である。 「そういうこった。だからこの手を放してくれ」 白状すべきことは大体白状した、もう良いだろうと、鶴丸がその手を強引に振り解こうとすると、あっさりと解放された。 拍子抜けして三日月の方を見ると、彼は何時もの曖昧な笑みを浮かべながら、口を開いた。 「あいわかった。では、俺も行くとしよう。一人より二人の方が心強いだろう」 思わぬ提案に鶴丸は少しぽかんとしたが、直ぐに眉を顰めた。 「遊びじゃないんだ、ほいほいついて来られちゃ困る」 「遊びで行くつもりはないよ」 「分からないのか?足手まといだ」 明るい調子で言う三日月を睨むようにして、語気を強めて言うが、彼は意に介していない様子で言い返す。 「こう見えても俺は強いぞ?」 「実戦の話をしてるんじゃあない。それに、黄泉への抜け道は俺だけの秘密なんだ。周りに知れ渡ったら、困るだろう」 黄泉の国へ頻繁に出入りしていたことが白日の下に晒されれば、今まで通りともいかなくなる、鶴丸はそう考えていた。それに三日月には、心を許すつもりはなかった。 「戦わぬ戦ならば、俺の方が経験豊富だぞ?それに、俺は口は堅い方だ。秘密は守ろう」 「食い下がるな……理由でもあるのか?」 あまりのしつこさに、そう漏らしてから、鶴丸はしまったと思った。このままでは押し通される。 「……まだ俺は給料分も働かせてもらっていないのでな」 言葉や表情とは裏腹に、彼の瞳は摯実そのものだった。恐らく鶴丸が初めて目の当たりにした真剣な眼差しだ。 無意識に、こくりと喉が鳴る。それから、軽く首を振ってから、三日月の目を見据える。 「どうやら本気みたいだな。分かった…ついて来い」 「あいわかった」 根負けした鶴丸に、三日月は破顔した。
「ついたぜ。ここが入り口だ」 「これはまた珍妙な場所が入り口だな」 「ま、本来は出口みたいなもんだけどな。ここはそのひとつさ」
鶴丸の後を付いて行ったその先は、本丸にある刀装部屋だった。 それから鶴丸が「よっと」と、声を出しながら、本殿の中心に鎮座する鏡を端に退ける。鏡が置かれていた場所は、ただの板張りの床であった。 その後ろ姿を見つめながら、三日月は、鶴丸の傷口から染みた衣服の血が既に黒ずんでいる事を、少し残念に思う。あれが朱色ならば、さぞ映えた身ごしらえであろうと思ったからだ。 三日月宗近は、鶴丸国永に好意を寄せていた。それも、恋の歌を詠う方の好意である。 審神者の気まぐれによる采配で決まる内番で、鶴丸と当たった時も、ついうっかり見とれてしまう程度には、自分は重症らしかった。 刀が恋とはまたおかしな話だが、一目見たその時から、鶴丸のその長く美しい細身の刀身に、自分にはない濃い血の臭いを感じ取り、惹かれた。一目惚れというやつだった。 鶴丸とは、祖を同じくする師弟刀という間柄であり、同じく平安の時代に生まれ、同じくうぶ姿で生き続けたが、片や三日月は、長年見守ってきた主の最期に、ただ一度だけ振われただけの身であった。 血を知らぬ不殺の剣との呼び声は、聞こえが良い。だが、三日月には、そんな己が酷く不格好に思え、鶴丸がいっとう眩しく見えた。あの血の宿る刀身が欲しい。 その点では、審神者は己を刀として振ってくれる。助けに行くには、十分すぎる理由があった。 鶴丸への好意は、現代で言うところの「こんぷれっくす」とやらが由来するのかもしれないが、三日月には、そんな事はどうでもよかった。ただ、戦場で赤に染まる鶴丸をずっと見てみたかった。さぞ、美しい事だろう。 だが、どうにも自分は好かれていないらしい。嫌われてはいないが、距離を置かれている。理由はわからないが、それだけは気付いていた。 故に、今回同行を許可してくれたのは意外であった。我を通してみるものだなと思いつつ、鶴丸は思いの外押しに弱いのかもしれないと、まるで弱点を見つけたようで、少し愉快な気持ちになる。 そう一人ほくそ笑んでいる時だった。 「俺の手を握ってくれ」 鶴丸のほっそりと、だがしっかりとした青白い手が、己に向かって差し出される。 「世話されるのは好きだが、流石の俺もそこまで童ではないのだが…」 少しはにかんで、遠まわしに拒否してみると、鶴丸が面倒くさそうな顔をする。 「……これはあちら側へ向かう時の約束事みたいなもんだ」 「そういうものか」 「ああ。今から俺が言った事は、必ず守ってくれ。俺達は付喪神と言っても、今は人の身だ。下手をすると戻れなくなる可能性が出てくる」 「あいわかった」 何時になく真剣な様子で言う鶴丸に、三日月は、何時もの調子で雅やかに頷いた後、鶴丸の左手を固く握りしめる。その手は、想像以上に薄く張りがなく少々心配になった。 そんな己を胡乱気な目で見ながら、鶴丸は一呼吸置いてから続けた。 「ひとつめは、俺の手を決して離さない事だ」 「この手を離してしまったら、俺の魂ごと引き裂かれてしまいそうな話だな」 ふと、そんなフレーズが頭に過り、口をついて出る。存外この状態は悪いものではない気がしたのだ。 「真面目に聞いてくれ。ふたつめ、何があっても絶対に抜刀するな」 「何があってもか?」 「そうだ。これも人の身である俺たちの約束事だな。黄泉の国の連中は、食い意地の張った奴らが多いが、下手に刺激しない限り手を出しては来ない。勿論手を出して負けるなんて事は思ってないが、今回は主探しが主役だからな」 手を出した事があるのか?と、少し思ったが、敢えて口を噤んだ。これ以上鶴丸を刺激したら、連れて行ってもらえなくなる可能性があるからだ。 「そして、声をかけられても後ろは振り返るな。何があってもだ。破ったらどうなるかは、流石の俺も知らないんでね」 「それで最後か?」 「そうだな、それからこれは後の話になるが……黄泉の国から帰ったら必ず禊を行う」 これについては、神である三日月もピンときた。黄泉の穢れを流すための儀式だ。神は穢れを嫌う。刀の付喪神である三日月も例外ではなかった。そう思うと、鶴丸の血に惹かれる己は、もう妖刀なのかもしれないな、と心のどこかで思った。 と、そこまで考えた所で、ある事に気付く。 「……もしや、怪我もしてないお前が時折、手入れ部屋に入ってるのは……」 「何で知ってるのかは知らないが、そういうこった」 悪びれもせずに言ってのける鶴丸に、三日月は思わず嫣然と笑った。 「さて、覚悟は良いな」 「ああ、出来ているぞ」 合図するように鶴丸の左手を握りしめると、鶴丸が何かを思い出したような顔をする。 「おおっと、そうだ。少しだけ目を瞑っててくんな」 「あいわかった」 「それじゃあいっちょ、行くとするかねぇ」 三日月が、鶴丸に応じた瞬間、足場が揺らいだ。 ふわふわと宙を浮いたかの様になったかと思うと、次の瞬間、まるで氷の壁を強引に突き破るような、激痛と冷たさが同時に襲い、思わず目を見開く。真っ暗闇だ。 「さーて、鶴丸御一行の到着だ」 鶴丸が事もなげに告げると、痛みは消え去り、足場も安定していた。しかし、視界は暗いままだった。 「……先に説明して欲しかったものだなあ」 「文句は言いっこなしだぜ。入口の開き方は秘密にしときたかったんでね。それに、最初に言った筈だぜ?”出口みたいなもん”だってな」 ニヤニヤとした声だ。どうやら鶴丸に、からかわれてしまったらしい。 「しかし黄泉の国とは、斯様に暗いのか」 「ここはまだ入り口だ。先はもっと暗くなるぜ?」 鶴丸が一人で行きたがった理由が、分かった気がした。これは一人の方が格段に楽だ。 そこへ己を連れてきた。鶴丸の覚悟を考えると、三日月は心が躍った。 「っと、そうだ。これを持っててくれ。流石に片手じゃ難しいからなあ」 そういうと鶴丸は、何やら四角い小さな小箱を手渡してきた。そのまま動かすなよ、と念を押して。 なにしろ暗くてよく見えないが、ひとしきり物音を立てた後、じゅっという音がしたかと思えば、一瞬だけ場が明るくなる。どうやらマッチ箱だったらしい。それにしても、マッチとは驚いた。審神者にでも貰ったのだろうか。 そして、暫くしてから微かだが蓬の臭いがした。 「煙管か?」 「ご名答。こいつはまあ、魔除けみたいなものだな」 「それなら俺も持ってるぞ。遠征土産にと、貰ってきたものがある」 懐から黄色い手拭いで包んだ物を得意げに見せてみるが、鶴丸の反応はいまいちだった。 決まりが悪くなって、懐にそれを戻すと、三日月は本題に入った。 「して、審神者をどう探す?霊力を辿るのが簡捷と思うが……」 「ああ、それは俺も考えていた。だが、それだけじゃあ頼りない」 この途方もない闇の中、流石に審神者のまだ小さい霊力を辿るのは至難の業だ。かといって三日月にはそれ以外の方法は知らない。 「すると?」 「見当を付けておいた」 「ほう」 成程、これは一度この地で審神者と出会った経験が生きるな。三日月は、素直に感心した。 「黄泉の釜戸へ向かうぜ。道案内は任せておけ」 「ならば俺はその助け舟となろうぞ」 三日月は、頭の房紐を解くと、ふっと己の息を吹きかけた。すると、房紐がするすると音を立てながら、蔦に変化して伸びて行く。 「葡萄葛の蔦だ。これをしおり糸としようではないか」 そう言うと、蔦の先が鶴丸の右手小指に巻きつき、余りの蔦が地面に落ちた。興味本位に引っ張れば、ピンと張る。なるほど見事なしおり糸だ。 「こいつは凄いな、お宅、そんな芸当が出来るのか」 「はっはっは……これくらいは造作もないぞ。では、ゆくとするか」
鶴丸の歩調は淀みなかった。目的地へ迷いなく進んでいる足取りだ。相当こなれている事が分かる。 暫くすると、腐った果実の香りが辺りに満ちた。どこか心惹かれる、危険な甘さを孕んだ香りだと、三日月は思った。 奥へ進むほど、その腐った果実の様な、甘く濃い匂いは強くなっていく。臭覚が麻痺しそうだ、そう思った時、三日月は、ある事に気付いた。この匂いには覚えがある。 「鶴丸よ」 「何だ?」 握った手を強引に引き寄せると、そのまま三日月は、自身の腕の中に鶴丸を収める。その弾みで鶴丸の煙管が、ぽとりと地面に落ちた。 鶴丸の、さらりとした滑らかな髪の毛が頬に触れる。少々こそばゆいが、そのまま鶴丸の頭に鼻を寄せると、いよいよ疑惑は確信へと変わった。 「やはりな」 「いきなり何だ」 片手で軽く押しのけようとする鶴丸の背を空いた手で押さえながら、三日月は呟いた。 「お前からは、良い匂いがするな」 「おいおい、いくら俺が男前だからって、こんな時に口説くかい?するなら後にしてくれ。今はそれどころじゃあ……」 「だが、それは死の臭いだ」 「何だと?」 笑いを含みながらも戸惑った様な鶴丸の声が、一瞬で張り詰めた。 「お前からは、死臭がすると言っているのだ」 静かに、だがはっきりと、三日月は告げる。 「……もう一度言ってみろ。ただじゃあ置かないぜ」 少し怒気の含まれた声音だ。だが、三日月はそれを受け流す。 「何度でも言うぞ。鶴丸よ、これ以上黄泉の国への出入りは止めろ。このままでは、自身で審神者を傷つける事になるぞ」 暗に妖刀になるぞ、と、念を押せば鶴丸の殺気は一層強くなった。 「三日月宗近。てめぇに指図される筋合いはない、俺がどうするかは、俺が決める事だ。少なくともてめぇじゃあない」 初めて聞く、押し殺したような低い声だった。だが、三日月には、それは強がりに思えてならなかった。 「そんなに死ぬのが怖いか」 「何を」 闇の中で、鶴丸が引き攣るのが分かった。 「黄泉へ出入りしているのは、死への恐怖からではないのか?死が満ち足りたここならば、自分が生きている事が実感出来るからなあ」 辺りを軽く見回しながら、歌うような抑揚を帯びた口調で三日月が言う。 すると鶴丸は、何時もの調子を取り戻したように、笑いを含んだ声で返した。 「おいおい、俺��ちは刀だ。何時折れるかも分からない刀が死ぬのを怖がってたら、話にならないだろう」 「卵の白身の方だ。心、とも言うな」 鶴丸が反発するより早く、三日月は続ける。 「心が揺れなくなるのが、そんなに怖いか?」 「いい加減に……」 詰問するような三日月に、うんざりした様に鶴丸が口を開くが、やはり彼は意に介さず、口元を綻ばせた。 「驚きなら、俺が与えてやろう。さすれば不安も解消されるであろう」 まるで名案だと言わんばかりの、自信満々な声で言う。 沈黙が辺りを包んだ。 力を抜き、黙って答えを待つ三日月の胸に身を預けると、鶴丸はぼそりと、呟く様に言った。 「…………そりゃ無理な話だな。三日月宗近、心が死んじまってる人間に、ゆで卵のお宅に、そんな芸当出来る筈がない」 「ゆで卵……俺がか?」 きょとんとした声で、三日月が問い返すと、鶴丸は真面目な様子で言った。 「ああ、凝り固まって、何をしても揺れないゆで卵だ」 まるで確信した様な言い回しに、三日月は苦笑した。 「俺だって、揺れる事はあるぞ。今も揺れに揺れておる」 「どうだかな」 ぶっきら棒に、鶴丸は否定する。 「好きだ」 「は?」 「鶴丸よ、お前を好いていると言っているのだ」 突然の告白に、鶴丸がいよいよ当惑した顔になる。が、三日月はそれに気付かない。 「どういう意味だ、そりゃ」 「こういう意味だ」 そう言って、三日月が空いた手で、鶴丸の頬に触れる。辿るように、その手に柔らかなそれを見つけると、そこに己の唇を押し付けた。 鶴丸の痩身が強張るのと同時に、三日月の足を踏みつけ、押しのけようと必死にもがく様が伝わった。 足の痛みに構わず、さらに深く口付ける。暗闇の中で、卑猥な音だけが響いた。 生温かいそれを口内に侵入させると、鶴丸はより一層激しく暴れたが、繋いだ左手を離そうとはしなかった。何とも律儀な奴だな、と、三日月は苦く笑うと、解放してやる。 「ん……ふっ……はっ……は」 「分かってくれたか?」 ぜえぜえと息を吐く鶴丸に、三日月は真剣な声で問うた。 呼吸を整えると、己の腕の中で鶴丸がくつくつと喉を鳴らし、体を震わせる。 「あっはっは、こりゃ愉快だ。刀が恋だって?しかも天下五剣様が、この俺にかい?」 さっきまでの暴れ様とは裏腹に、鶴丸は平常心を保っていた。 「そうだぞ。一目惚れだ」 「ふざけるのも大概にしてくれ」 ひとしきり大笑いした後、鶴丸は呆れた声で告げた。 「どうやっても信じてくれんか」 意気消沈した声で聞けば、鶴丸は少し考えるように答えた。 「そうだな、俺を心の底から驚かしてくれたら信じてやるさ……だが、それは主を」 「では試そうか」 鶴丸が言い終わるのを待たずに、す、と、三日月の手が離された。 「おい、馬鹿!」 鶴丸が離された手を掴み直そうとするが、空しく空気を掴む。空気を掴むと同時に、気配が一瞬で消えた。三日月の霊力を辿ろうにも、ぷつりと糸が途切れてしまっている。これは意図的に消されたものだ。 「くそっ!!!あの野郎!!!」 三日月の房紐だけが、鶴丸の小指に残された。
ざわざわと、しだれ柳が揺れる様な音がする闇の中、審神者は辺りをふらふらと彷徨っていた。 ぼんやりとした意識の中、審神者は思った。ここには覚えがある。以前、真っ暗闇の中で白く光る鶴を見た場所だ。 「今回は居ないなあ……」 きょろきょろとあたりを見回すが、鶴は見当たらなかった。 「……腹、減ったなあ」 あれほど嫌悪していた無味無臭の兵糧丸が、今は恋しかった。 「ん?」 くん、と鼻を鳴らすと、どこからか良い匂いがした。 その匂いを釣られるように辿っていくと、ぐつぐつと音を立てる釜戸のある場所に辿り着く。 辺りは先程までの暗闇と違い、やや明るかった。周りにはうっすらだが人影が沢山見える。 釜戸の前には、何やら列が出来ていた。列があると並びたくなる。そんな習性に従って審神者が最後尾につくと、後ろから枯れた声がした。 「今日はあなたが最後です」 「最後って?」 何となく振り返ってはいけない気がして、振り向かずに尋ねる。 「千人目ということですよ。ささ、お食べなさい」 後ろの声が、脇から手を差し出す。その手には、とりめしに似た握り飯が乗っていた。何の肉かはわからないが、とても食欲のそそる良い匂いがして美味しそうだ。 「ありがとう。凄くお腹が減ってたんだ」 手に取ろうとしたその時だった。背後から瑞々しい音と共に「ぎゃ!」という喉を絞った様な悲鳴が上がり、審神者が手に取るより早く握り飯が地に落ちた。 形を崩した握り飯からは、じゅうじゅうと音を立てながら煙が上がり、中からは大量のウジ虫がうぞうぞと蠢いている。 「ひっ」 思わず飛び退くと、暫くして、むっとした強烈な腐臭が辺りに広がる。噎せていると、その背をやさしく撫でる大きな手の感触があった。 「これ審神者、それを食べてはならないぞ」 「……三日月?三日月じゃないか!」 振り向くと、審神者を覗きこむように伺う三日月の顔があった。 「はっはっは。捕まえたぞ」 そう言って、背後から三日月が審神者を優しく抱きしめてくる。気付けば腐臭は消え去っていた。 「それにしても、三日月はどうしてここにいるの?」 「お前を探しておったのだ」 「探す?探すって……そうだ、ここは何処なんだろう?三日月は知ってる?」 気付いたらここに居た。そうだ、自分はどうしてここに居るのだろう。前後の記憶がぷっつりと途切れてしまっていた。 「さあなあ」 とぼけた様な三日月の声。これは知っている声だ。でも教えてもくれない声だ。審神者はそれをよく知っている。 「ねえ……」 「出しにしてすまんな」 言いかけた声を制止して、くしゃりと審神者の頭を撫でながら、三日月が言う。 その声音は、何時になく柔らかく、そしてすまなそうだった。 「何の事?」 あまりにもすまなそうな声だから、不思議に思い、尋ねたが、やっぱり笑って誤魔化されてしまう。 面白くなくて、頬を膨らませれば、益々すまなそうな顔をされので、ここは大人になろうと審神者は思った。 「さて、ここは危険だ。早々に立ち去ろうぞ。……待ち人も居るからなあ」 腕の中の審神者を解放してやりながら、三日月が微笑んだ。 「待ち人って、もしかして……」 審神者が言いかけた、その時だった。 「見つけたぜ」 聞きなれた声がした。 「その声は……鶴丸!」 振り返れば、血の付着したぼろぼろの衣を纏った鶴丸が立っていた。表情は良く見えないが、少し硬いように思えた。 慌てて駆け寄ってみれば、鶴丸は審神者を認めてニッと笑う。良かった、いつもの鶴丸だ。そう安心して息を吐く。 「俺より先に主を見つけて驚かそうとしたんだろうが……生憎だが、予想通りだぜ」 鶴丸が、淡々とした口調で言った。何の話だろうか。 「ふむ、駄目だったか」 対して三日月も、独り言のように零した。何となくピンとくる。さっきの謝罪はこれだ。 「実直と評判の三日月宗近様だ。主をほっぽって俺を驚かそうなんて考えないだろうからな」 そう言う鶴丸の言葉が、何時になく尖っているものだから、審神者はぎょっとして顔を見る。冷たく醒めた笑い顔だ。 喧嘩でもしたのだろうか?二人とも、ああ見えても大人だったので、審神者にはそれが想像が出来なかった。 「まだ怒っておるのか」 「もう怒っちゃいない。人生は長い。ま、ただの戯れだと思っておくさ」 「戯れ、か」 そう呟いて、微笑む三日月の顔が少し曇った様に、審神者は見えた。 「つ……」 審神者が口を開きかけた時だった。審神者でも分かるくらいに周囲が殺気立ち、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。 どうやら周囲を何かに囲まれたらしい。ぶつぶつと何か言っている声が聞こえるが、うまく聞きとれない。 「……三日月宗近。俺が居ない時に一体何をしたんだ」 審神者を守るように傍に寄り添い、周囲を見渡しながら、鶴丸が尋ねる。 「審神者に飯を供する輩がいたものでな。桃を投げてやったぞ」 剣は抜いてないぞ、そう言いたげな三日月に、鶴丸は溜息をついた。 「……やれやれだぜ」 已むを得まい、そう鶴丸が刀に手をかけた時だった。 「鶴丸よ。下がっておれ」 鶴丸の前を三日月が立ちはだかった。 「三日月宗近?そこをどけ。尻ぬぐいは俺がやる」 「さっきも言ったであろう。これ以上穢れれば、ただでは済まぬと」 「ただで済まないのはお宅の方だぜ。今回ばかりは、天下五剣様の出る幕じゃあない」 ここは黄泉の国だ。黄泉の国では剣の強さより、穢れへの耐性がものを言う。 その点では、三日月より勝っていると、鶴丸は自負していた。 だが、三日月は退こうとせず、鶴丸の指に結ばれた房紐が垂れる方角を見て、そちらへ身体を向けた。 「はっはっは、審神者は頼んだぞ」 そう一笑すると、鶴丸が剣を抜くより早く、三日月が抜刀した。 「分らず屋!」 鶴丸の叫びを振り切るように、黄泉の者を斬り付けると、腐った肉片が、びちゃりと音を立てて、三日月の衣服に飛び散った。 「押し通る」 そのまま構わずに、黄泉の穢れを浴びながら三日月は道を作り、走り抜ける。 審神者の手を引きながら、その背に続く鶴丸は、案じた。 ある意味、穢れに馴れ切ってしまっている自分とは違う。血の穢れすらもまともに知らぬ三日月に、黄泉の穢れは刺激が強過ぎる。 鶴丸の予感は的中した。 闇が薄まり、出口まで後僅かばかりかという時だった。がくりと、三日月が膝をついた。 「三日月!!」 思わず鶴丸が声を上げる。 「やあ、嬉しいな……三日月と呼んでくれるか」 「どうして抜いた!!」 三日月も馬鹿ではない、こうなる事くらいはわかっていたであろう。だからこそ、鶴丸にはそれが理解できなかった。 「これ以上、鶴丸が穢れたら困るからなあ……審神者も悲しむだろう」 「三日月!三日月!!」 枯れた様な三日月の声に、審神者が縋りつく。 「泣いてくれるな。審神者よ、少し穢れを被っただけだ。死ぬわけじゃないぞ……」 その頬に触れながら、三日月は諭す様に言った。 「……くそ、約束を二つも破りやがって……やっぱり足手まといじゃないか」 苦虫を噛み潰したような顔で鶴丸が言えば、三日月は笑った。 「はっはっは……それでもお前は、俺に来いと言ってくれたではないか」 「それは」 本気の目をしていたから。そうだ、最初から三日月は本気だった。それなのに、鶴丸はどこかでそれを否定していた。分らず屋は、自分だったのだ。 「もう、見守っているだけというのは、嫌だからなあ……」 そう呟く三日月に、鶴丸は思い知らされた。 三日月宗近は達観などしていない、ただ、大らか過ぎるだけだったのだ。どうして、そんな単純なことにも気付かなかったのか、鶴丸は、奥歯を噛み締めた。 彼だって、普通に傷つくし、寂しいと思うこともあるだろう。だが、自分と形は違えど同じように、悠久とも思える時の中で、凪いだ海の様に振舞う事で心を守ってきただけなのだ。鶴丸は、そう思った。 「もういい、喋るな。すまん……ゆで卵なんて言って」 「……鶴丸?」 三日月が不思議そうな顔をする。 「気持ちは分かったって、言っているんだ」 判然とした、確かな声で鶴丸は三日月に告げる。自分への好意は本物なのであろう、と。 「そうか、そうか……俺は幸せ者だなあ」 別に気持ちを受け入れた訳じゃない、そう言う前に三日月は静かに瞼を閉じた。 「鶴丸!どうしよう、どうしよう……」 三日月の手を握り、審神者が鶴丸を見る。蒼白で、今にも泣き出しそうな顔だ。 「……大丈夫だ。三日月の言うとおり、死んだわけじゃない。少し穢れを浴び過ぎただけだ」 だが、このままではまずい。手入れ部屋まで行き禊をするまでには、時間がかかり過ぎる。 考えろ、何か手はある筈だ。鶴丸がそう頭をひねった時だった。三日月の懐から黄色い手拭いがちらりと見えた。 「これは……」
「三日月!良かった!」 三日月が、瞳を開くと、薄闇の中で安心したような審神者の声がした。 「気付いたか、三日月。……遠征先の人に感謝するんだな」 ぶっきら棒に、しかし明るい声音で鶴丸が言う。 鶴丸の手には、三日月の手拭いが握られていた。 桃の木は霊木で、その木から生る桃は穢れを払う。どうやら鶴丸は、自分に桃の汁を飲ませて穢れを払ったらしかった。 どのようにして飲ませたのか、三日月は胸が高鳴ったが、あえそこには触れない事にする。 「礼を言うぞ、鶴丸」 「礼なら遠征先の人に言ってくれ」 微笑めば、鶴丸が少しばつの悪そうな顔で告げる。 「それもそうか」 言いながら、三日月が立ちあがる。それを認めてから、鶴丸が息を吐いた。 「さて主、主とは一先ずここでお別れだ」 不安そうに鶴丸の顔を見上げる審神者の頭に、鶴丸がぽんと手を置く。 「心配するな。ここを抜ければ、きみは元の肉体に戻る。ここでの事も、忘れちまうだろう」 「そういうものなの?」 「ああ。主にとって、ここは夢みたいなもんだからな」 「そう……でも、良かった」 「何がだ」 不思議そうにする鶴丸に、審神者がはにかんだ。 「三日月とのこと、少し心配していたんだ。でも、これなら彼を副隊長に据えても大丈夫そうだね」 「何の話だ?」 三日月がきょとんとしている。 主の危機に、鶴丸はすっかり忘れていたが、そういえば朝そんな話をしていたことを思い出す。 三日月に近寄りたくなくて、嫌がっていた、朝の自分。それが今はおかしくて仕方が無かった。 「……ああ、そうだな。これから右腕として、宜しく頼むぜ」 そう言って鶴丸が三日月の肩に手を置く。 「はっはっは。右腕、か」 「不満かい?三日月の旦那」 笑みを含んだ声で鶴丸に聞き返されれば、三日月は改まった声で言う。 「あいや、よきかなよきかな」
戦場で、朱に染まりながら舞う白い鶴を傍で見れる。 三日月は、それが慶賀に堪えなかった。
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heitaiya · 6 months
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ちょっと羽織る、薄手のカーディ
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昨晩からしっかり雨☔。これからちょっと強く降る予報ですねー。少し肌寒く感じます、上手く調整して体調にはお気を付けくださいね。明日から天気も回復して、ずっと晴れる☀️わけではなさそうですが20度位の気持ちのいい気候になりそうです。
今回は薄着になっても初夏まで使える、薄手のカーディガンをご紹介。気温が上がってもカットソーやブラウス一枚より、少し薄手の羽織りものがあると安心です。もちろん身体のラインカバーにもなりますし、カーディガンを加えるだけで少しキチンとした印象にもなりますよ🌸。
写真のピンクのトッパータイプ(5,400yen)はアクリルとポリエステルに和紙系の繊維を混紡したサラッとした素材感、もちろんおウチ洗いも大丈夫です。
ペールグリーンの丸首タイプ(4,900yen)はレーヨンとポリエステル。サラッとよく伸びて袖もやや短めでもちろんおウチ洗いOKです。薄手で半袖やノースリーブのインナーの上に羽織って初夏に活躍しそうです。ワンピースなどと合わせても上半身がコンパクトな印象になってバランスがキレイです。
どちらもこれから日中の気温が上がるシーズンにもしっかり使っていただけますよ!
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gallerynamba · 11 days
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◇TWINSET(ツインセット)◇カーディガンが入荷しました。 定価:77,000円(税込) 弊社通販サイト商品ページ⇒http://www.gallery-jpg.com/item/643-450-502/ AUTUMN&WINTER 素材: (本体)ナイロン70%、毛30% (装飾)ポリエステル100% カラー:ブラック サイズ:XS 総丈約51cm、肩幅約35cm、袖丈約61.5cm、バスト約91cm、ウエスト約90cm (平置きの状態で測っています。) 丸首デザインのケーブルニットカーディガン。 身頃だけではなく、袖もケーブル編みを使っています。 デザインの隙間にアクセントになっているのは台座付きのドロップ型ビジュー。 袖はカット入りの丸型ビジュー。 光を反射してキラキラ光ります。 1960年代風のレトロな雰囲気を残しつつ、現代的な装飾を施したカーディガンです。 スナップボタン開閉。 ※ご覧頂いている媒体により、色の見え方が多少変わる場合がございます。 ※店頭でも同商品を販売しておりますので、通販サイトの在庫反映が遅れる場合があり商品をご用意出来ない場合がございます。予めご了承頂きますようお願い致します。 // 🗣 いいね・保存・コメント大歓迎!ご来店お待ちしております! ��\ ━━━━━━━━━■アクセス□━━━━━━━━━         なんばCITY本館の1階     大阪難波郵便局側から入って1軒目        靴のダイアナ(DIANA)の隣 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Gallery なんばCITY本館1階店 〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波5-1-60 なんばCITY本館1階 【営業時間】11:00~21:00 【休館日】9月無休 【PHONE】06-6644-2526 【e-mail】[email protected]
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kachoushi · 8 months
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各地句会報
花鳥誌 令和6年2月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年11月1日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
星の出るいつも見る山鳥渡る 世詩明 人の世や女に生まれて木の葉髪 同 九頭竜の風のひらめき秋桜 ただし 太陽をのせて冬木の眠りけり 同 生死また十一月の風の音 同 朝湯して菊の香に上ぐ正信偈 清女 懸崖の赤き菊花の流れ落つ 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
秋空の深き水色限りなし 喜代子 故里は豊作とやら草紅葉 由季子 菊花展我等夫婦は無口なり 同 しぐれ来る老舗ののれん擦り切れて 都 狛犬の阿吽語らず冬に入る 同 謎々のすつきり解けた小春の日 同 杣山の織火となりぬ紅葉山 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
綿虫と彼女が指せばそれらしく 瑠璃 梵鐘のはらわたに闇暮の秋 緋路 逝く秋をくづれゝば積み古書店主 順子 綿虫や浄土の風が抜けるとき はるか 太き棘許してをりぬ秋薔薇 和子 弥陀仏の慈顔半眼草の花 昌文 綿虫のうすむらさきや九品仏 小鳥 参道で拾ふ木の実を投げ捨てる 久 綿虫は仏の日溜りにいつも 順子 香煙はとほく菩提樹の実は土に 小鳥
岡田順子選 特選句
腰かける丸太と秋を惜しみけり 光子 九品の印契結ぶや冬近し 眞理子 古に大根洗ひし九品仏 風頭 綿虫や浄土の風が抜けるとき はるか 奪衣婆の知る猿酒の在り処 光子 神無月ならば阿弥陀も金ぴかに 俊樹 蚤の市に売る秋風と鳥籠と 和子 下品仏とて金秋の色溢れ 俊樹 綿虫と彼女が指せばそれらしく 瑠璃 梵鐘のはらわたに闇暮の秋 緋路
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
ありきたりの秋思の襞を畳みをり かおり 秋日入む落剝しるき四郎像 たかし 返り花ままよと棄つる文の束 美穂 凩や客のまばらな湖西線 久美子 凩のやうな漢とすれ違ふ 睦子 小鳥来る小さなことには目をつむり 光子 流れ星キトラの星は朽ちてゆき 修二 凩に雲や斜めにほどかれて かおり 人肌を知らぬ男のぬくめ酒 たかし 老人が老人負うて秋の暮 朝子 冬の日や吾が影長く汝に触れて 同 身に入むや妣の財布の一セント 久美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
秋思消ゆ「亀山蠟燭」点せば 悦子 この町へ一途に滾り冬夕焼 都 新蕎麦を打つ店主にも代替はり 佐代子 添ふ風に方位はあらず狂ひ花 悦子 HCU記号音満つ夜の長し 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
トランペット響く多摩川冬に入る 美枝子 竹林の風音乾き神の留守 秋尚 公園の隣りに棲みて落葉掃く 亜栄子 句碑の辺の風弄ぶ式部の実 同 新のりの茶漬に香る酒の締め 同 歩を伸ばす小春日和や夫の癒え 百合子 朔風や見下ろす街の鈍色に 秋尚 ぽつぽつと咲き茶の花の垣低き 同 リハビリの靴新調し落葉ふむ 多美女 濡れそぼつ桜落葉の華やぎぬ 文英 露凝りて句碑に雫の朝かな 幸風 大寺の庭きりもなや木の葉散る 美枝子 山寺の風の落葉を坐して聞き 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
風除の日だまりちよっと立ち話 和魚 風除の分厚き樹林影高き 秋尚 揚げと煮し切り干やさし里の味 あき子 薄日さす暗闇坂に帰り花 史空 渦状の切干甘き桜島 貴薫 切干や日の甘さ溜め縮みたる 三無 風除けをせねばと今日も一日過ぎ 怜 切干や少し甘めに味継がれ 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
確かむる一点一画秋灯下 昭子 幽玄な美女の小面紅葉映ゆ 時江 釣り糸の浮きは沈みし日向ぼこ 三四郎 六地蔵一体づつにある秋思 英美子 赤い靴なかに団栗二つ三つ 三四郎 着飾りて姉妹三人千歳飴 ただし 正装で背中に眠る七五三 ��す枝 雪吊の神の恐れぬ高さまで 世詩明 七五三五人姉妹の薄化粧 ただし トランペット音を休めば息白し 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月14日 萩花鳥会
夜鴨鳴く門川住居六十年 祐子 捨てられて案山子初めて天を知る 健雄 ゴルフ玉直ぐも曲るも秋日向 俊文 山茶花や現役もまた楽しかり ゆかり 舟一艘ただぼんやりと霧の中 恒雄 献茶式津和野城下や朝時雨 美惠子
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令和5年11月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
秋の暮百均で買ふ髪飾 令子 虫食ひの跡そのままに紅葉かな 紀子 背の丸き鏡の我やうそ寒し 同 小春日や杖つく母を見んとする 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
小春日や日々好日と思ひたり 世詩明 禅林を通り来る風秋深し 啓子 何事も無き一日や神の旅 同 炉開きの一花一輪定位置に 泰俊 一本の池に煌めく櫨紅葉 同 三猿を掲ぐ日光冬日濃し 同 立冬こそ自己を晒せと橋の上 数幸 小六月笏谷石は饒舌に 同 如何にせん蟷螂は枯れ僧恙 雪 猫じやらしもて驚かしてみたき人 同 一匹の枯蟷螂に法の庭 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月17日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
小鳥来る赤き実に又白き実に 雪 幽霊の出るトンネルを抜け花野 同 おばあちやん子で育ちしと生身魂 同 見に入みぬ八卦見くれし一瞥に やす香 時雨るるやのつぺらぼうの石仏 同 近松忌逝きし句友の幾人ぞ 同 季は移り美しき言葉白秋忌 一涓 菅公の一首の如く山紅葉 同 落葉踏み歩幅小さくなる二人 同 冬ざれや真紅の句帳持ちて立つ 昭子 今日の朝寒む寒む小僧来たりけり やすえ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月17日 さきたま花鳥句会
からつぽの空に熟柿は朱を灯し 月惑 白壁の色変へてゆく初時雨 八草 六切の白菜余すひとり鍋 裕章 一切の雲を掃き出し冬立ちぬ 紀花 小春日や草履寄せある躙口 孝江 柿を剥く母似の叔母のうしろ影 ふゆ子 いわし雲よせ来る波の鹿島灘 ふじ穂 鵙たける庵に細き煙たつ 康子 雲切れて稜線きりり冬日和 恵美子 水鳥の羽音に湖の明けにけり 良江
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令和5年11月18日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
紫のさしも衰へ実紫 雪 蟷螂の静かに枯るる法の庭 同 二人居て又一人言時雨の夜 清女 母と子の唄の聞こゆる柚子湯かな みす枝 還りゆく地をねんごろに冬耕す 真栄 帰省子を見送る兄は窓叩く 世詩明 人に無く芒にありし帰り花 同 香水の口よりとどめさす言葉 かづを 時雨をり故山の景を暗めつつ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
浮寝鳥日陰に夢の深からむ 久子 呪術にも使へさうなる冬木かな 久 無敵なる尻振り進む鴨の陣 軽象 冬日和弥生も今も児ら走る 同 冬蝶の古代植物へと消えぬ 慶月 谿の日を薄く集める花八手 斉 冬天へ白樫動かざる晴れ間 慶月 青空へ枝先細き大枯木 秋尚 旋回す鳶の瞳に冬の海 久 冬の蜂おのが影這ふばかりなり 千種 水かげろうふ木陰に遊ぶ小春かな 斉
栗林圭魚選 特選句
竹藪の一画伐られ烏瓜 千種 遠富士をくっきり嵌めて冬の晴 秋尚 白樫の落葉急かせる風のこゑ 幸風 切り株に鋸の香遺る冬日和 久子 四阿にそそぐ光りや枯れ芙蓉 幸風 白樫の木洩れ日吸ひて石蕗咲けり 三無 小春の日熊鈴つけしリュック負ひ 同 青空へ枝先細き大枯木 秋尚 寒禽の忙しく鳴ける雑木林 貴薫 草の葉を休み休みの冬の蝶 秋尚 逞しく子等のサッカー石蕗咲けり 亜栄子 甘やかな香放ち桂紅葉散る 貴薫 あづまやの天井揺らぐ池の秋 れい
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
薄き日を余さず纏ふ花八手 昌文 耳たぶに冬の真珠のあたたかく 和子 黒松の肌の亀甲冬ざるる 要 雪吊をおくるみとして老松は 緋路 冬空を縫ふジェットコースターの弧 月惑 ペチカ燃ゆフランス人形ほほそめる て津子 上手に嘘つかれてしまふ裘 政江 嘘つつむやうに小さく手に咳を 和子 手袋に言葉のかたち作りけり 順子
岡田順子選 特選句
池一枚裁ち切つてゆく鴨の水尾 緋路 黒松の肌の亀甲冬ざるる 要 自惚の冬の紅葉は水境へ 光子 玄冬の塒を巻きぬジェットコースター 同 光圀の松は過保護に菰巻きぬ 同 ペチカ燃ゆフランス人形ほほそめる て津子 雪吊を一の松より仕上げをり 佑天 不老水涸れをり茶屋に売る団子 要 遊園地もの食ふ匂ひある時雨 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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lupasiat · 9 months
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あけましておめでとうございます2024 お年賀絵はありませんが妄想の絵があります(?)
ダブクロのうちの子らに羽子板をやらせたらどうなるかな? と考えてみたら三者三様だったのでメモ代わりに落書き 文字でも少しだけ書き足しておきます
【 玲遠ちゃんの場合 】
どう頑張っても運動音痴なので全敗😫
仲良しトリオの中では弓道部の弓花ちゃんが一番強そう🏹 (和服で動くことにも慣れていそうなところも含めて) その弓花ちゃんといい勝負をしそうなのが若菜ちゃん 生徒会長に出来ないことなどないのだ
でも手加減しようか?という提案に対しては 頑なに首を横へ振り続けるのが玲遠ちゃん ちょっと意地っ張りである
最後は3人で仲良くお汁粉とか食べて欲しい🍀
【 伊織くんの場合 】
とにかく負けそうにない🏆 プロログロス自陣内 羽子板ランキング: 伊織くん≧八坂くん≧真白ちゃん>セイラちゃん?
あと着物が着崩れても気にしないので パフォーマンスが落ちないぶん強いかも そこは気にして
八坂くんが負けるとPC2のセイラちゃんが 顔にバッテンとか書きそう それに対して八坂くんが 「なんでお前が書くんだよ!💢」と ツッこむまでがワンセット😉
最後は勝敗関係なく伊織くんお手製の お雑煮が振る舞われて~Happy End~ (※八坂くんだけお餅が複数入っている)
【 烏丸くんの場合 】
一回りくらい歳の離れた弟と妹が 遊んでいるのを見守っている😊
途中で妹に「こうしたらエエよ」とか 弟に「桃李(妹の名前)の取りやすいトコへ 返しよし」とか言ってそう
一緒に遊ぼうと言われたら適度に負けてあげる 優しいお兄ちゃんである
家に帰ってきたら遊び疲れて お昼寝をしている弟妹の傍で 静かにお茶を飲みながら読書とかしてそう🍵
なんだかんだで平穏なお正月を過ごせそうな 我が家のオーヴァードたちでした🕊
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ichinichi-okure · 9 months
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2023.12.29fri_ishikawa
朝。8時に起きて、恒例のポケモンスリープ測定。サナギラスが着々と育ってきているし、イシツブテの良い個体も育て始めた。あと1〜2ヶ月はトープ洞窟を攻めたい。布団のなかでひとしきりもぞもぞしてから起き上がり、シンクの生ゴミや灰皿の吸い殻をゴミ袋にまとめ、パジャマのまま外に出て公園前のゴミ捨てネットへ。今年最後の可燃ごみ回収日に無事ゴミを捨てることができた。達成感。
昨日まで読んでいた高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』の影響か、それとも微妙に根本が腐っていた薬味ネギを白子の味噌汁に入れてしまったからなのか、数日前から胃腸の調子がおかしくて、寝苦しい夜を連日過ごしていたのだけど、今日はなんだか久しぶりに胃腸が元気そうで、おそるおそる納豆と白米を食べてみる。問題なさそう。でも怖いから念のため食後に百草丸を飲んでおく(正露丸と百草丸には日々ほんとうにお世話になっております。今年もありがとう)。コップと水筒それぞれに白湯を入れて、コップのほうにはポッカレモンをちょっとだけ垂らす。コーヒーを淹れて、着替えて、ナップザックに本数冊(郡司ペギオ幸夫『やってくる』、ナイス害『午後のトラガス』、ロベルト・ボラーニョ『野生の探偵たち』上巻)と10年メモとノートと筆記具と水筒と巻きタバコ一式とコルセットと財布を入れて、白湯を飲んだりコーヒーを飲んだりタバコを巻いて吸ったりしているとあっという間に9時半で、コートを羽織ってマスクをして家を出る(わたしはシンプルにただマスクという物体が好きで、コロナ禍を経て季節問わずつけるようになった。寝るときも基本つけている)。先週あたりに積もった雪はすっかり溶けてしまって、日当たりの悪い路地や側溝に残っている程度で、去年の年末はこんなもんじゃなかった気がするけれど、金沢で暮らし始めてまだ2年目だからなにが例年通りなのかがまだわからない。去年の雪がすごかったということなのかもしれないし、去年くらいが平常で今年が異常なのかもしれない。まだなにもわからない。わたしはまだなにもわかっていない。10時前にバイト先のホテルに着いて淡々と働く。ビジネスホテルの年末というのは案外暇なものらしく、今月はシフトを減らされまくっているが来月の給料はどうなるんだろうか。あんまり考えたくない。
こんなこと言うと怒られそうだし、ホテルの威信的にもあんまり良くないのかもしれないけれど、ホテルの清掃で大切なのは「キレイにする」ことではなく「キレイに見せる」ことだ(一応言い添えると、キレイにすることももちろんあたりまえに大事)。マジックに近い。「コインがコップの底をすり抜けた」のではなく、「コインがコップの底をすり抜けたように見えた」ということ。ホテルの清掃員というのはほとんどマジシャンなのかもしれない。だからマジック(清掃)の種もここでは明かさない……。
そして少子高齢化に伴い、ホテルの清掃員というのはだんだんと介護職みを帯びてくる。というより、少子高齢化社会というのは、あらゆる職種・職能がだんだんと介護職の変奏になっていく、ということなのかもしれない。すべてがゆるやかに老人ホームになる社会。おおきなひとつの老人ホームとしてのこの国……。
しかし数日前のM-1はよかった。敗者復活戦のロングコートダディもぎょうぶもナイチンゲールダンスもダイタクもななまがりもママタルトもオズワルドも良かったし、三回戦のシンクロニシティやからし蓮根やパンプキンポテトフライや男性ブランコも良かったし、決勝の令和ロマンは本当にすごかった。競技人口が増えるとはこういうことなのだな、大会の規模が大きくなり、かかるお金、関わる人間の桁が変わり、権威が権威として機能するとはこういうことなのだな、というのをまざまざと見せつけられたような感じがして、斜陽と言われてもうずいぶん経つ出版業界と年々日本社会における存在感を良くも悪くも増していくお笑い業界の違いをまざまざと見せつけられたような感じがした。それだけに松本人志のあの記事は……。
……みたいなあれこれを、単調な清掃作業の最中に毎度考える。これから出る本のこと(来年はすくなくとも2冊、がんばれば3冊出版されるはず。さてどうなるかな)について考えることもあれば、昔のこと、ここ数年会っていない人のこと、数ヶ月前のできごと、アァッと声が出てしまうような過去のしくじり、いたたまれない記憶、たられば、そんなあれこれが混じり合い反発し合いときにそれは短歌となって抽出される。
口閉じて歯だけ動かし前を向く(嫌いな奴が活躍してる)
ずいぶん鬱屈した一首が出てきた。ベッドシーツを敷く手を一旦止めてスマホにメモしておく。 週刊文春による松本人志にまつわる告発記事だけでなく、あらゆる告発、あらゆる「昔したこと/されたことをいま話す」という事柄において、「昔のことをいまさらあーだこーだ言うな」「なぜいまになって◯年も前のことを?」みたいなことを言う人は一定数必ず出てくるが、そのツッコミはまったく意味を成さない。なぜなら告発する側、トラウマを持つ側にとって、その話は"昔"の話ではなく"いま"の話だからだ。
ある強烈な記憶、トラウマは、映画(と映画館)のようなもので、当事者はトラウマという映画が上映されている映画館に着席して、いままさにその映画を観ている。いまこの瞬間、眼の前のスクリーンで上映されている映画を指差すようにして当事者は語る。だがその映画館の席には当事者しか座っていない。その映画を"いま"観ているのは当事者しかいない。当事者はときにそれがわからなかったりする。どうしても理解できなかったりする。その映画館にいるのは自分ひとりだけなのだと、その映画を"いま"観ているのは自分しかいないのだと気づいたときの絶望感に当事者の心が耐えられるかどうかは正直運でしかないと思う。 時間の流れ/認識というのは、平常時においては「過去、いま、未来」だが、深刻なトラウマ体験から抜け出せずにいる人にとっての時間は「いま、いま、いま」だ。"いま"が凍りつき、"いま"のまま停止しつづけている状態。だから、だれも昔の話なんかしていない。ほんとうは、だれも◯年前の話なんかしていない。みんな"いま"の話をしている。そこから始めないと、相互理解も解決も生まれないのだと思う。 過去と未来を取り戻すためには、映画館から出ないといけない。あるいは、その映画館へ行って、一緒になって同じ映画を観ないと(見届けないと)いけない。それには当事者の強い意思が必要で、同じくらい、他者や社会の手助けが必要だ。
なるほどね太陽だから明るくてわたしはひとのために泣けない
またずいぶんビターな一首が出てきた。今日はこういうモードなのかもしれない。 15時前にバイトを終え、セブンイレブンで週刊文春とおにぎり(エビマヨネーズ)とドーナツを買ってイートインコーナーでもさもさ食べながら松本人志の記事を食い入るように読む。自分のこの反応も、過去のなにかのトラウマが関係しているのだろうな、と思う。読み終え、いくつかの記憶がちかちかとよぎり、振り払うようにセブンイレブンを出る。それにしても今年は年末感が全然ない。明日がバイト納めで、バイト始めは3日後つまり元旦だ。それも影響しているのかもしれないが、年末年始に働くのはいつものことだし、やっぱり今年の12月は年末っぽい寒さではないのかもしれない。もっと寒くなってほしい。
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いつもだったらこのあと県立図書館か泉野図書館へ行くのだが、今日から正月明けまで近隣すべての図書館が年末年始休館に入るため、近くのドトールへ。このドトールは昨今めずらしく喫煙席(加熱式オンリーなんてせせこましいものではなく)が設けられていて、しかも喫煙席と禁煙席の境目があいまいで、エリアを区切るための扉がない。分煙?よそへ行きな、と言わんばかりの造りだ。そのため禁煙席にも容赦なくタバコのにおいが漏れ出ており、Googleマップのレビューではそのことへの苦言が耐えない。めずらしすぎる。重要文化財として保護してほしい。ブレンドコーヒーのMを頼んで喫煙席に座り、コートを脱ぎ、ナップザックから本やら筆記具やらを一通り取り出して、タバコを巻いてひとしきり吸ってから10年メモに昨日と今日のできごとを書く。使っている10年メモはもう9年目で、大学4回生のときに京都の恵文社で買ったものだ。そのころのわたしはとにかく自らの手で自らの命を絶ってしまわないための楔のようなものをできるだけ多く用意しておこうと必死で、これもそのひとつ。なにか書いてあるページよりなにも書いていないページのほうが目立つが、それはそれで「このころは大変だったんだな」「いそがしかったんだな」「そんな余裕なかったんだな」ということがわかって、それだけでも買った意味があった。2017年の12月29日には書き込みがあって、「今年最後の注射と採血の結果開示」「黄体ホルモンを打つのはしばらくやめてみることにした」「不安」 「ふくしまのミスドで泣きそうになった」「全肯定ナベ会」「スッポンの出汁でアホほど食べて飲んだ」とある。睾丸を切除して10ヶ月後の悲喜こもごも、といったところか。このあたりのできごとは映画化(トラウマ化)されていない。よかった。 10年メモを書き終えて、さあ本を読もう、と思っていたのだが、もうすこし短歌を出したいモードらしく、自分の欲求につきあうことにする。三首出てきて、バイト中に出てきた二首と合わせてタイトルがついて、連作になった。
立ち止まれ なるほどね太陽だから明るくてわたしはひとのために泣けない 霆に頬照らされて雪道の足跡たちよ励ましてくれ 口閉じて歯だけ動かし前を向く(嫌いな奴が活躍してる) 熊狩りの音を背中に捺印を拭く 明日から雹雨の予報 いつまでも江戸川コナンに出会わない だからすべては未遂の事件
立ち止まれ。なんのことだろう。 短歌の形を整えたり眺めたりしていると恋人からLINEが来て、今日は工房でひたすら藁を切っているようだ。水色のバケツいっぱいに細切れになった藁が入っている写真が送られてくる。作業が単調すぎて苦しくなってきたらしい。もうやりたくない、というLINEに対し、ちょうど部外者が手伝いたくなるような作業だね、手伝いたい、と返事をしてみる。
それで集中が切れて、本を読む気分でもなくなってきたためドトールを出る。やっぱり図書館ほどは集中できないし長居もしづらい。困ったなあ、年末年始��外はすっかり暗くなっていて、帰り道の途中にある椎木迎賓館にはラッシュ時の京王線くらいの密度でカラスが集まっていた。 スーパーは明日行こう。年越しそばと雑煮の準備も明日から。 そんなことを考えつつも気持ちはまた松本人志の記事に引っ張られていて(ダウンタウンのことも松本人志のことも、なんなら吉本興業のこともぜんぜん好きではないのに。いや好きではないからこそか)、菊地成孔『ユングのサウンドトラック』文庫版のまえがきで書かれていた"映画監督"松本人志評をもういちど読み返してみようかな、とか思ったりする。もう読んだのはずいぶん前だけど、読んだときの衝撃は覚えている。あれはすごかった。帰宅して炊飯器をセットしてからシャワーを浴び、その後ラランド・ツキの兎を聴きながら夕飯を食べる。洗い物をかんたんに済ませて、読みかけの本、近々に読みたい本、読んでおきたい本、背表紙だけは常に意識しておきたい本、などを細々入れ替える。とくに意識はしていないけれどこの作業はおそらく毎日やっていて、この作業自体も読書だと思っているふしがある。そんなことをしていると恋人からまたLINEが来ていて、ポケモンスリープで色違いのメタモンを捕まえたとの報。 「ソーダ味みたいな色だね」 「ふつうのメタモンは巨峰味」 「ソーダも巨峰も夏の季語?」 「ソーダ水は夏の季語だね。ぶどう(巨峰含め)は仲秋の季語らしい」 という会話の流れでわたしが歳時記を取り出して、ソーダ水まわりの例句を一通り書き写して送ってみる。
一生の楽しきころのソーダ水 富安風生 サイダーの泡少年をかけのぼる 高橋邦夫 大阪やラムネ立ち飲む橋の上 伊丹三樹彦 男にも唇ありぬ氷水 小川軽舟
軽舟の句いいな……と送ると、「解説求む」という返事がきた。 解説してみる。 「「唇」というと、なんだか官能的な響きから女性の表象のように感じるけれど、胸だって脚だって腕だって目だって性別関係なく備わっているように「唇」もひとつの身体の器官(というか部位)でしかなくて。そうした、あくまで即物的に身体の一部分を見る(観察する)という姿勢と、「氷水」というものの硬さ、無骨さの取り合わせが美しく、「唇」を見る眼差しと「氷水」を眼差す冷え冷えとした視点が一貫してもいる。そして「氷水」はそれぞれの温度が違うだけでひとつの「水」、異なる「水」の組み合わせとも言えるし、「唇」も、性別をとっぱらった「人間」一般の要素のひとつとも言えるし、「唇」があって「人間」とも言える。こうしたミクロの視点とマクロの視点、組み合わせの妙が合わさったシンプルながら技巧的な句。」 「あとはもうちょっと情景的な話をすると、なんかかわいい句でもあるな、と。「男にだって唇はあるんだぞ」と、謎にふてくされたような態度でしか居れない、奥手な男性が喫茶店あたりで氷水を啜っているような、そんな風景も浮かび、茶目っ気もある。」
「………………だと思いました!」と送ると、すごいすごい、あなたは何者?とおだててくるのでまんまと尊大な気持ちになり、作家です、と送ったつもりが誤変換されて 「作歌です」 と送ってしまった。ちょうどいい。わたしは作歌です。
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-プロフィール- 仲西森奈 31歳 石川県金沢市 インスタ https://www.instagram.com/morinakanishi/ ツイッター https://twitter.com/mori_na_kanishi リンクツリー https://linktr.ee/morinakanishi
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rokuromi6963 · 10 months
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rokuromi SELECT
shaggy check balloon jacket
リサイクル素材を使用したウールファブリックブランド『ECOLANA(エコラーナ)』。
ウールとリサイクルポリエステルを複合し、温かみのあるウールと合繊の良さをバランスよくブレンドした新しいサスティナブルレーベルです。
環境に配慮した素材でありながらファッション性はそのままに、ふわふわの着心地感と遊び心のあるシャギーチェック♪
軽さがあり温かく、肌寒いときにぱっと羽織れる、新しい時代にぴったりのウールブレンド素材です。
前身と後身の裾を前後逆ラウンドさせることで、裾に向かって丸みのあるバルーンシルエットを演出!
首元は、モックVネックカーディガンの様に、後ろ襟がスタンドになっていて、
スタンドカラーとVネックの良いとこどりの首元になっております。
全体的に丸みを帯びたシルエットが秀逸です♬
早くもラスイチ!!お早めー🐏に!
【MADE IN JAPAN】
#rokuromi #ロクロミ #ろくろみ #tokyo #高円寺 #ルック商店街 #Allgender #style #styling
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shukiiflog · 11 months
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ある画家の手記if.90 名廊情香/雪村絢視点 告白
絢に簡単に語った、私と直人との馴れ初め話。 端折ってるってことも言ったはずだ、あれじゃあ私のほうがヤバい人間だってことも。 なにせ不穏な話だから絢の不安感ばっか煽っても話す意味がないかと思って、直人のことを教えるつもりで話した。私のことは誰も知らなくていい。
あのあと慧と会って直人の様子なんかを聞いたけど、どうやら直人にもまだ私の知らないものがあった、それで本人もきっと知らないまま生きるだろうって慧は言ってたか。記憶の抜け。 聞いた感じの第一印象は解離性同一性障害、慧もそんな把握でいた。病名ってのはてっとり早いもんだな、注意点や問題点がもうはっきりしたみたいだ。 って慧にも言ったら 「俺はお前ほど強くねぇからな、心細いから言葉になおす、よすがが欲しくなる」 …そう言っていた。 慧は言葉で武装してる。誰にでも通じる理解しやすい万人へ向けた話し方をする。講義を仕事にする人間としては最適なんだろう。社会的な場でのコミュニケーションにおける強者。 実態は、他者と肉体で関われない分の空虚をそうやって宙に吐いた言葉で補ってる。補うつもりが虚しくなって、言葉にすればするほど、人と人の体が離れていく。…慧はそういう、話し方をする。 誰もが慧に“他人”として適切な距離感からしか触れられなくなる。言葉の通じない直人にそれはまさしく通用しなかった。それで直人は大学時代、慧に躊躇せず踏み込んだ。 悲惨な結果に終わったし、慧は誰も愛せ��いと自認してるけど、私はそうは思わないな。正確には、それで終わってほしくはないな。 私の願望だ。 人生に愛の要らない人間もいるだろうが、平然としてるふりが板についてるけどあれで直人以上に寂しがりなのは充分わかるよ、あのガランとした冷たい部屋に一人で居てシェーズロングに腰掛けずに寄り添うように床に座って寝てる  そういうとこ見てると そう思うよ
今日会う人間にも、肩書きから入るつもりはない。 私は名廊情香だけど、姓も名も大した意味はない。だから名廊香澄の母親としてでもない、名廊直人の妻としてでもない、私の感じた不快感とただ守りたいもののために。 相手が手段を選ばないんなら私も武装する必要があるんだろうな。 チューイングガムを噛みながら服を着替え��、自室の棚からそういう時のものを出す。よくしなる頑丈な皮のベルト、腕時計の中に刃物、シャツの襟やブラの中に薄いのを一応入れておく、水に溶ける薬も。要らないならそれでいい。 ほとんどの道具は置いてきた。 絢から聞いた感じ世間的にはカタギらしいからテーブルの裏から拳銃が出てくるなんてことはないだろうし、ならなるべく身ひとつのほうが私の気が楽だ。いざとなれば素手でもいけるし、生活空間なら相手の部屋の中になんか使えそうなモンはあるだろ。 シャツの下にデニムを履いてベルトを締めて、長めの丈のコートを羽織った。人間の頭蓋骨を殴っても折れない頑丈な素材にヒールの部分だけ変えてもらった編み上げブーツの革紐をしっかりくくって締めていく。噛んでいたガムを口から出して奥歯だけに着けるマウスピースに仕込む。 ここまでの警戒がかえって非礼にあたるような相手なら、その方がいい。そういう可能性もある。 不快感を薙ぎ払いたいのか、なら私は薙ぎ払って得られる快感のためにこうするのか、…そういうことを考え始めると、慧の在り方は少し羨ましいよ。こんなときは特に。武装なんて初めからできないほうが。すべてが言葉で済むならそれが一番だ。
車に乗る。 私の愛車はメルセデスベンツだ。それも少し古い型で、頑丈さに定評がある。普通の日本車に車体をぶつければほぼ100パーセント相手の車のほうが潰れる。 簡単に潰れるのは中の人間を衝撃から守るためだ。潰れなかった硬い車に乗った人間が車内でどうなるか。私は車種を選ぶときそこに重きを置かなかった。これまでこの車に乗るのは私一人だったから。 強くあればよかった。そのための健康と、鍛えた体、リズムの整った衣食住、バランスのいい食事、動きやすい服。 脆いから周りを壊してしまう、力だけ持ってる直人。関わりたきゃ必要なときはあの巨躯を圧倒できる程度にはしておかないと。 でもそういう部分も少し改めなきゃいけないんだろうな。 一年前にはコイツを直人に貸したし、この前は香澄と絢を乗せた。…守り方を、変えていかなきゃ守れない人間もいる。
絢と電話で打ち合わせて決めた時間に間に合うように相手の家まで車を走らせる。 絢も同席すると言ってた。 私がむこうの家に直接訪ねるのは絢の事情を考えればリスキーなんだろうけど、あいつはあいつで無茶するからな…。慧が少しなだめるようなことを言ったらしいけど。
***
時間が近くなってきてからは、部屋の窓から外を見てた。 情香さんがそろそろ来るはず。 見てると近くのパーキングエリアに黒いベンツが停まって、情香さんが降りてきた。 不審じゃない程度の早足でうちに歩いてくる。黒のレザーコートがこんなに似合う女の人いるの… 俺がよく見知ってる女性って桜子さんとか桜とか歴代彼女とか、みんななんかふわっとしてる感じの人が多かったから、情香さんはいまだにちょっと未知の生き物感ある。 「あやー、もうくる?なおとくんのかのじょ」 俺の背中に飛び乗ってきた光さんをおんぶしながら、この人のほうがもっと未知の生き物だった…とか思う。 情香さんが34歳とか言ってたっけ…? 光さんのほうが歳上じゃん。 「ん。もう来るみたい。姿見えたし。あと彼女じゃなくて奥さんね」 「そのひとも絢の友だち?敵じゃないひと?」
光さんにも俺は、前の家のこととか話した。
詳しくは話してないけど、光さんが人質にとられたり危害を加えられたり…とかは、あの家で誠人さんが感知してる範囲では起きないと思うけど。 でも俺と真澄さんならどうにか切り抜けられる場面でも、光さんは体格的にどうにもならないようなことが多そうだから。 話したら光さんは正座して真剣な顔で向かいあって聞いてくれた。 「なるほど。絢にはかえりたくない家があって、敵に追われて逃げている。それでここにせんぷくしている。」 って言った後で、光さんは眉を下げて滅多にしないような泣きそうな顔して聞いてきた。 「…じゃあ追われなくなったら絢はどこかにいっちゃうの? ここにいるのはそのためなの?」 光さんはすぐ後ろのソファに座ってた真澄さんのほうにも振り返って、俺と真澄さんを交互に見た。不安そうに彷徨う視線に、真澄さんは何も言わない。 だから俺が言った。 「安全になっても俺はずっとここにいるよ。ここにいるのは隠れるためだけじゃなくて俺の意思だから」 本当のことだ。死ぬまで一生ここに居るかどうかは誰にも断言できないことだけど、今は、今の話をすればいい。 「絢も真澄のことがすき?」 真正面から聞かれる。光さんはこういうとこ物怖じしないというか、一周して逆に気遣われてんのかなとか、まだ謎だったりする。俺は笑って答えた。 「うん」 泣きそうだった光さんの目がぱっと開いて笑顔になる。そのまま笑って後ろにいた真澄さんの膝の上によじ登って、真澄さんの頰を小さな手で挟んで至近距離から顔を覗き込んでる。 「真澄も絢のことがすきだよね」 「うん」 ………。なんかすごいこと訊かれてたし簡単にすごい返事された気がする… 光さんは「真澄がいいこだ!」って真澄さんの首にぎゅっと抱きついてた。
「今日来る人は敵じゃないよ」 背中の光さんに言ったら警戒心より好奇心のほうが上回ったみたいに目をきらきらさせてた。 インターホンが鳴った「俺が出る」「わたしも」 光さんも一緒に玄関まで行った。 「情香さん、いらっしゃい」 扉を開けて情香さんを出迎える。お土産にお菓子もらった。 「お邪魔します。長居はしないから」 この前会ったときと何も変わらない、ちょっとだけ服装がかっちりしてるけど、他人の家に初めて訪問するときってそんなもんかな。 「なんかかわいい服着てんな。部屋着だといつもこうなのか?」 情香さんが俺の服を見て言う。 「これ、ジェラートピケってやつ。光さんが買ってくれた。俺に似合うって」 「光さん?」 「わたしです。」 俺の背中にきれいに隠れてた光さんがくるっと体を翻して情香さんの前に出た。 玄関で靴を脱いで端に揃えて上がる情香さんは光さんを見て目を瞬かせてる。そういえば光さんが居ることはまだなにも話してなかった。 光さんはじっと情香さんを見つめて「ジョーカちゃん。なおとくんの奥さん。」って言った。 「初めまして。お邪魔します。あなたは直人を知ってるの?」情香さんは優しい目で光さんに話しかける。 「なおとくんはわたしの義理のむすこで、人間を高次に導くものを探求するなかま。」 こういうことにこにこしながらも真面目に言うから、俺は慣れてきたけど、情香さんはさらに目を丸くして首を傾げてた。
情香さんをリビングに案内したら真澄さんはお茶いれて待っててくれた。 促されて情香さんは軽く会釈をしながらコートを脱いでソファに座って、コートは俺が受け取ってハンガーにかけといた。 真澄さんと向かい合って座った情香さんが先に挨拶した。 「初めまして。名廊情香と申します。突然の一方的な申し出を快諾していただいて、ありがとうございます」 情香さんの話してたことからして微妙に剣呑な空気になるのかと思ってたけど、情香さんは普段より優しく穏やかに笑ってる。真澄さんも空気感を合わせるみたいに返す。 「初めまして。私が雪村真澄です」 真澄さんのとなりに光さんが座ったから、真澄さんは少し顔を傾けて光さんのことを示す。「妻です」 「こんにちは。」 笑顔で情香さんにもう一度ちゃんと挨拶する光さんに情香さんは微笑みで返す。すぐに真澄さんにまっすぐ戻された視線に応えるように真澄さんが切り出した。 「直人さんとは何度か面識がありますが貴女にお会いするのは初めてですね?」 「ええ、そうなります。戸籍上は直人の妻で香澄の母ということになりますが、今回は個人的にあなたにお聞きしたいことがあってこうしてお訪ねしました。ただ、絢の身の上を考えるにあたって私がここに長居するのは好ましくないのではないかと思います。失礼ですが、当たり障りのない話は省いて、早速本題に入ってもよろしいですか?」 …情香さんの聞きたいこと。俺はまだ真澄さんにそのことはなにも訊いてない。俺の事情について俺が独断で情香さんに勝手に喋ったことは真澄さんに全部報告した。誰がなんの情報を持ってるかは共有しといたほうがいい。 「はい」 「では。今からちょうど一年ほど前、自宅に居た香澄が突然行方不明になりました。香澄のケータイから追って一人の該当人物に行き当たりました。該当者の名前は香澄のケータイの表示では雪村真澄となっていましたが、これはあなたのことで間違いありませんか」 「ええ」 表情は変わってないのに情香さんの目が一瞬だけ光ったような気がした。 「直人に連れ帰られた香澄は満身創痍と言っていい状態でした。山中で逃走するためにかなり無茶をしたようで、その怪我もあったでしょう。ただ、香澄の首には人為的に絞殺されかけた痕がありました。香澄に問い質したところ、それはあなたの行動によるものだと。それは事実ですか」 人為的に、殺されかけた痕 絞殺。…痕が残るほどの 「満身創痍…」 真澄さんの言葉に微動だにせずじっと聞き入る、いまだに穏やかな笑顔の情香さんが少し怖い気がした。 「事実ですよ。…いや、…」 真澄さんが一度口元を手で覆って、言葉を途中で彷徨わせた。…珍しいな。話してて言い淀みそうなときはいつも最初から黙ってるのに。 「満身創痍という表現では食い違いがあるかも知れませんね。全身打撲と身体中に裂傷、筋肉の断裂、低体温症、裸足で走った足の裏は肉が抉れていました。足を骨折していて手術をしています。しばらく発熱が続き、意識が混濁した状態で直人に会おうと入院した院内を歩き回り、ベッドに拘束される処置を施されました。満身創痍とは、このような状態でした」 まだ詳しく聞いてなかったことがどんどん出てくる。俺が聞いたのはどっちかというと直にぃの行動とか体に残った後遺症のこととかだったから。 ーーーー殺されかけて 逃げ延びた … 「あなたにされたことから逃れるための行動としてはごく自然に思えますが、あなたはどう思いますか。…いえ、行動するとき、あなたはどうお考えになりましたか」 「自然でしょうね。私はあの子の話を聞こうとはしませんでしたから」  真澄さんが…香澄の話を聞かなかったのは 香澄が意思を持たないと…自分ではなにも判断できないと思ってたからなんじゃないか  …横から口を挟もうかと思ったけど、情香さんは俺のほうを一度も見ない、それだけで、「お前は今は黙ってろ」って言われてる気がした。そしたら真澄さんが言ってくれた。 「私はその自然な反応をあの子ができると思っていませんでした」 …よかった。自分をちょっとでもフォローするような言葉を真澄さんは避けがちだから 「…絞殺されかけた…ことを、あの子は自分の口でそう言いましたか」 「言っていません。香澄は、首を絞められた、とだけ言いました。それも私が問い質してようやくです。香澄の中に絞殺という言葉は今も浮かんですらいないでしょうね。夫の直人にもその発想はないかも知れません。ただ、首に痕が残るほどの締め方は本来ならお戯れでは済まないことのはずです。ただでさえ人体の急所を集中して狙っているのですから、そこに死という結果と殺意がないというほうが、無理があるかと私は考えましたが。何か見当違いな部分があったら忌憚のない答えをいただければと思います」 情香さんは…落とし所を探しにきてるのか。真澄さんを極悪人だと決めつけてきたわけじゃ…なさそうだ。多分。 「いえ…納得しました」 目を伏せた真澄さんはしばらく黙ってた。光さんがソファに置いてる手のすぐ横にあった真澄さんのシャツの袖を小さくぎゅっと握ったのが見えた。 「話を遮って申し訳ない。どうぞ続けてください」 「…少し私の疑問からは話が逸れますが、これもあなたの口から聞いておかなければいけません。事が起きる前に、香澄は夫にあなたのことを簡単に説明していたようです。曰く、あらゆる家族関係を包括したような、自分を庇護してくれる存在であったと。香澄が行方不明になったとき、直人はそのことに憤っていました、なぜあなたがいながら自分のような存在に関わらせたまま香澄は今日ま���放置されたのか、と。…何故ですか。事の顛末や絞殺未遂を一旦脇においてお尋ねします。香澄を救助する目的の誘拐であったなら、何故あのタイミングだったのですか?」 「香澄を救助…ね」 それから真澄さんはいつも以上に言葉にすることを吟味するみたいにして話し出した。 ーーーー私は直人さんのことをほとんど存じておりません…直人さんが香澄に具体的にどのような態度で関わっていたのかも。知っていたのは直人さんと関わってから香澄が入退院を繰り返すようになったこと…だけ  あの子を救助するとは思っていませんでしたよ。それはそうだったらいい…というだけの私の勝手な願望でしかありませんでした …浚ったのは彼らが家族になったからです。共に生活をし始めたから… 香澄が人生の一部になってしまうのは…危ういと思った、一時ならば構わない、あの子は直人さんを助けたかもしれない…けれど… 要領を得ずすみません…ただの勘だった…とも、経験則だったとも言える、あそこが限度だろうと私が勘でそう思った…そういうことにさせてもらいますーーーー 「……。」 ぜんぶ、一年も前の話だ。今と違うから、筋の通った説明は…事情を知らない相手にはできない… 「限度、ですか」 情香さんはまっすぐに見つめていた真澄さんからふと視線をはずして、穏やかに笑うのをやめた。少し目を伏せてぼんやり遠くを眺めるような目をしてる。 「……私の話になりますが、私は夫…直人と夫婦らしい共同生活をした事がありません。夫の現状もほとんど把握していない有り様で、香澄といつからどのように関わり始めたのかも、直人から聞いたに過ぎません。 ただ、あなたの経験則という言葉を借りるなら、ーーー私ははじめにあなたと同じ判断を下しました、直人に対して。誠実さと暴力性の境界線を弁えろと諭しましたが……それでも二人は紆余曲折を経て家族になる道を選んだ。 養子縁組の話が持ち上がって、初めて私は香澄に会いました。家族になるにあたって香澄のこれまでの略歴や自分についてを香澄自身に尋ねましたが、問い詰めてもほとんど曖昧模糊とした返答しか返ってきませんでした。…私が香澄と家族になる覚悟と決意を固めたのはその時です。これも言葉を借りるなら、香澄を直人と居させたいだけにしておけば「限度を超える」と。おそらくは双方に言えることです。 正式な家族になれば、私が堂々と二人に立ち入る口実ができます。…私はまだ香澄のことをあなたほど深く把握しているわけではありませんが…奇しくも逆の方法で、守ろうとしていたと これは…そう考えて、いいものでしょうか」 情香さんは、香澄を守るために家族になったのか。…直にぃと家族になったときと、少し似てるな。これが情香さんのやり方ってことなのかな…。 「…あの子が大事なんですね」 「どうでしょう、私の動機を言葉にすればそういう表現になるのかも知れませんが、私に持ちうる手段が他になく無力だったというだけでもあると思いますよ」 絶対に揺らがない軸をもって行動してるように見えたけど、ただ独善的なわけでもない。…それはこの前の話からも、わかる。 「手段は動機の後にある、必要な力も」 コーヒーを口に運びながら真澄さんが言った。 「貴女は香澄を大事に思って…守ろうとしている…のかもしれませんが、僕についてはあいつを守ろうとしてたとは、思わない方がいいですよ」 「それなら守ろうとする以外で、絞殺しようとした理由は …なんだったんです」 その後に真澄さんが言ったことは 俺の想像の範囲内にあったけど、何度も否定してきた そのものだった
「殺そうか迷ったんですよ」
「もう何度も…何度も、迷った」
「あの子はいつものことだなんて…言わなかったでしょうけど」
ーーーーかわいそうだと思うよ…。
「殺すって  なんで…?」 口をついて出た 黙ってられなかった   なんで… 「絢は香澄が生きる方へ向かっていたんじゃないかと話してたね。そういう人間も居るだろう。僕も可能性くらいは知っていた…だが香澄はそうじゃ無かったんだよ」 そうじゃなかった …そうじゃなかった? なんで それを知ってるんだ 誰も 誰かのことなんて 「なんで真澄さんがそれを知ってるの?」 誰かの本当のことなんて 自分の本当のことだって 「僕が…あの子に何かある度生かし続けたというだけだ  以前の香澄は守るべき自我を持ってなかった、そう話したね。あの子はどれほど痛め付けられても尊厳を踏みにじられても自殺する意思すらなかっただけで…死ぬ寸前で僕が遮っていた」 「………」 「僕のせいで生きているなら僕があの子に死をあげるべきなんじゃないか …そう思っては首に手を掛けた」 ……… 「生きていてほしいのと同じくらい死んでほしかった 僕のことも僕とは認識せずにされるがままで 香澄はもう自分から死にたいとさえ言えなかったからね」
「でも僕は結局いくら関わっても自分が責を負わなくて済むことを知っていてあの子の傍にいました」
「迷ったまま…香澄が逃げ出すまで何もできませんでした」
「ーーーー誰も誰かの本当のことなんて分からない、一生、どれだけ長く一緒にいても、どれだけ注意深くその人を見てたって、どれだけその人を深く愛したって、憎んだって、誰も誰かのことなんてわかるはずない、なのに そうじゃなかったって? 自我���ないのも意思がないのも香澄の外側を見てそう考えただけの真澄さんの妄想だ 遮られなきゃ死んでたかどうかだって誰にも分かるもんか、香澄は生きてる、起きなかったことなんて全部ぜんぶただの妄想だ 希望も理想も抱かないから良いほうに事が運んだときにそれが奇跡だなんて滑稽な言葉になるんだ 周りがそれを担わないで終わらせることばっかり考えてなにが良いほうにいくもんか
誰かを終わらせる権利や資格が誰かにあってたまるか そんなものあってたまるか!!!」
最後のほうは叫ぶみたいな口調になった 泣きそうだと思ったからその前に立ち上がったそのまま書斎に駆け込んだ
***
珍しく…というかまだそんなに接したことがあるわけじゃないけど、感情を剥き出しにするのをなるべく避けてるような印象があったから、今の絢の言葉と行動は少し意外だった。 絢のあとをあの小さな女の子…光さん、か、が「わたしがいく。」って追いかけてった。 「…絢もこの場に居た方がよろしければ呼んできますが」 絢が駆け込んでった部屋の扉を見るともなしに見てたら向かいから言われた。 「必要ありません。私が聞きたいことはあと一つだけでしたけれど、今のお話をお聞きして、もうお尋ねする必要はないと思いました。あとはこちらのご家族の問題でしょうから」 そう言ったあとで、絢も女の子も居なくなったリビングで軽い話を振る。 「随分若い奥さんですね」 「光は僕より年上です。… 一応」 「………不思議なこともあるもんだな…」 つい普段の口調が出た。 一呼吸置いて、シャツの上に着てた薄手のジャケットを脱ぐ。シャツの襟やあちこちに仕込んでた物を全部その場で出してベルトを腰から引き抜いて、シャツの背中からアーミーナイフを取り出す。 それらをひとつずつテーブルの上に並べていく。 「ティッシュかなにかお借りしても?」 訊くと「どうぞ」って箱ごと渡されたから遠慮なく大量に引き出して手で口元を隠しながらマウスピースとガムを取り出してティッシュの中に丸めて包み込んで、ゴミ箱が見当たらないからジャケットのポケットにとりあえず突っ込んだ。 洗面所だけ借りて手を一度洗ってからリビングに戻る。 ずらっと並んだ物騒な物を前に、膝に手を置いて相手に頭を下げて謝罪する。 「最悪の事態のために最低限の備えをしてきました、非礼をお詫びします」 「いえ」 道具を全部かき集めてまとめてジャケットの上に放って、風呂敷みたいに包んで持つ。 わざわざ晒す必要もないんだろうが、こうしとかなきゃ勘付かれてた場合に私が信用を落とすからな。 ソファから立ち上がって、コートを肩に引っ掛けて持つ。 「それじゃあ、私はそろそろ失礼します。どうも私が引っかき回したようで…絢は放っといて大丈夫ですか」 「…光がついてますから大丈夫でしょう。一声掛けます?」 「今は結構ですが、帰る前にひとつだけ。絢が、直人のことを調べて回ってますね?」 「そうなんですか? 知りませんでした。絢が何をしているかまで干渉していないもので」 ガリガリ頭をかいてセットしてた髪型を崩す。滑らかに嘘をつくタイプか…?…直人とは逆に難儀なやつだな。深く関わらねぇならこんなもんなんだろうけど。 「……どちらにせよ知っておくべきことですから。絶対に関わらせてはいけないしあなたも極力避けるべき人間についてです。中郷稔という、直人の…まぁ恩師のような存在なんですが。関われば死人が出るのを避けられない厄介な人種です。もうご存知かもしれませんが、被害当事者としての警告です。直人を辿れば早い段階で行き着いてしまう。いつ誰にむけて何をするかはまったく読めないと思って、警戒を怠らないようにお願いします」 「…どうも」 「まってまって!まだかえらないで!」 絢の入ってった部屋から女の子…光さん、が出てきて、私を呼びとめた。 その子はポケットからスマホを取り出して画面を操作しながら言う。 「ジョーカちゃん、メアドこうかんしよ。」 まだこの子にどう接するか定まらないまま言われた通りに私もスマホを取り出して連絡先を交換した。 「よし。ともだちがふえた。…あとでききたいことあるからメールするね…。」 語尾にむかってだんだん声が小さくなってる。聞きたいこと? まぁいいか。
さて これで言うべきことも聞くべきことも済んだ。 私の憂いが晴れただけなんだけど、今日はこれで満足するしかないな。
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bearbench-tokaido · 2 months
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六篇 下 その二
京見物をしている弥次郎兵衛と北八。 方広寺の柱の穴につっかえてしまった弥次郎��衛。 やっとのことでくぐり抜けることが出来た。
それより二人は境内をめぐり歩いて、蓮花王院の三十三間堂にて、
いやたかき 五重の塔に くらべ見ん 三十三間 堂のながさを
と詠む。 ここよりこの御門前を北の方に行くと往来は、ことに賑わしくなる。
いかにも都の風俗は男女ともにどことなく柔和温順にして、馬方や荷物を運搬する人足までも綺麗に洗濯して、きっちりと折り目の付いている衣装を着ていて行儀正しい。 それに、あの『おっしゃりますことわいな』と言う言葉もなまめかしくておかしい。 二人は目にするもの耳にするもの、すべてが珍しくてあちらこちらを見ながら歩いていたがそのうち、にわかに往来が騒がしくなってきた。 「ほうほ、よいよい。えっこらさっさ。ほうほ、よいよい、えっこらさっさ。」 と誰も彼もが、走り出している。
弥次郎兵衛は、 「やたらと人が走っているようだが、向こうに何かあるんだろうか。この人ごみはすごい。」 と言うと、往来の人に問いかけてみる。 「もしもし、なんで、ございやすね。」 「あこにえらい、いさかいがあるわいの。」 と聞かれてた男は答える。 「なるほど、けんかか。京のけんかも珍しい。」 と北八も見物しようと駆け出している。 弥次郎兵衛もそれに追いつこうと駆け出してみると見物人は、山のごとくで行き来も出来ないほどになってきた。 二人はこの人を押し分け押し分け、前に進む。
さて、けんかの一人は魚屋らしく、そこに魚屋が使う大きな桶をおろしておりその相手は、職人の男らしい。 いづれも極めて屈強な若者たちであるが、都の人は心も悠長にして最初から、殴りあうわけでもなく日あたりのいいところで、ふたり向かい合って立っている。
魚屋が言った。 「これいの。お前の方から当りくさって、そないなこというもんじゃないわい。おのれ脳天、叩いてこまそかい。」 相手の職人が答える。 「おきくされ。普通に歩いておっただけで、手がちょっとふれただけじゃ。」 と言いつつ手ぬぐいを丁寧におって、鉢巻をする。 これが江戸っ子なら、ねじり鉢巻だというところ。
「えらそうな口をきくもんじゃな。いってえ、わりゃどこのもんじゃい。」 「俺かい。おりゃ、堀川姉が小路さがるところじゃわい。」 「名はなんというぞい。」 「喜兵衛というわい。」 「としはいくつじゃ。」 「二十四じゃわい。」 「おきくされ。おのれ二十四にしちゃ、えろう若い。うそつきくさるな。」 「何いうぞい。ほんまじゃわい。前厄で、今年、かかあを死なしたわい。」 「そりゃ、えらい力をおとしとったじゃあろ。よい気味さらしたな。」 「いや、そればかりじゃない。乳飲みくさるがきがあるさかい、えらい難儀なめにおうてるわい。」 「そんなら、おりゃ、われの二つ上じゃわい。」 「うそぬかすくさりゃ。われも若い。家はどこじゃぞい。」 「一条、猪熊通り、東へ入所じゃわい。」 「そうかい。やい、あそこに目の見えん、寸伯という針医があろがな。」 「おお針医がありゃ、どうじゃというな。」 「いや、こちの親戚じゃさかい、おのれが逃げ出すなら、言伝、たのもうとおもてじゃ。」 「いやじゃわい。 なんで、われの言伝を、誰がいうんなら。えらいあほうめじゃな。」 と掛け合い漫才のように、やっている。
見物の人があくびしながら 「十兵衛さん、もういのうかい。」 「またんせ。今に打ちあうじゃあろ。」 と話しかけられて男は、答える。 「いや、わしゃ家に客ほっておいてきたさかい。」 「そしたらそのお客、つれてごんせ。 そのついでに一枚、羽織るものでももってきなせえ。少し、寒くなってきた。」 と話している。
又、こちらの方にいる見物は軒下に座り込んで、無精ひげをぬきぬき、 「見なされ、あっちゃの若者のほうがえらいやつじゃわいな。」 「いやこっちゃの男も、えらい頭じゃ。」 「ほんに。その頭で思い出した。奥方はどうじゃいな。痛所はえいかいな。」 「はい、おかたじけなうござります。 落ち着いておりましたが、昨日から急に様態がわるうなってつい昨夜、死にましたわいな。」 「そりゃ、おまい御愁傷じゃあろ。御葬礼はいつじゃいあな。」 「それが、今出しておりますとこじゃあったがえらいいさかいがあると、人が走るさかいわしもついつられて、ちいとばっかし見てからにしようかと、それまで待てと言うて、待たしておきましたわいの。」 とおのおの気の長いものばかりである。
皆が皆、悠々と見物していると職人の男が、 「こりゃ、やい。もうちょっと、こっちゃへよりくされ。 日がかげって、寒うなったさかい。」 「おおよったぞ。わりゃ、どうすりゃ。」 「おのれ今、俺がことをあほうとぬかしおったがなんで、俺があほうじゃろ。」 「あほうじゃさかいあほうじゃわい。」 「なにぬかしくさる。そういうわれがあほうじゃわい。」 「いや、こちゃあほうじゃない。賢いわい。」 「われが、賢いなら、おれも賢いわい。」 「おお、われも賢いか。そしたら、このけんかはやめにしょうわい。」 「ひょっとして互いに、競りあって着物でもひきさいたら、損じゃさかい。 やめにしてこまそうかい。」
「えろう、遅なった。もういんでこまそ。」 「俺も、われがいにくさるのと同じ道じゃほどに連れだって、帰ってやるわい。それにしても今日は、いい天気じゃあったな。」 「ほんに暖こうて、えいわい。」 と互いに、挨拶してこの二人連れ立って帰って行く。 見物人もこそこそとちりじりにみな帰っていったのを見て、弥次郎兵衛と北八は腹を抱えて笑いだす。 「ははは、なるほど、上方ものは、気が長い。 あんなうすのろのけんかが、どこにあるもんだ。」 「あのなかで損得を考えて、やめにしたんだから大笑いだ。」
公家衆の います都は おのづから 喧嘩やめるも うたとよみなり
などと詠みながらそこを過ぎ行くと、はやくも清水寺に到る清水坂についた。
両側の茶屋からはそれぞれの店で商っている田楽を焼く団扇の音が聞こえかぶせるように、賑やかな呼び声がかかる。 「もしな、お入りなされ。茶あがって、お出んかいな。」 「名物、南蛮うどんあがらんかいな、おやすみなされ。なされ。」 弥次郎兵衛は、その声の方をちらっと見たが、 「うまそうだが、もっと先に行ってからにしよう。」 と言うと、北八も黙ってうなずく。
まもなく、清水寺についた。 境内を巡り歩いて音羽の滝をみてから、弥次郎兵衛が一首詠む。
名に聞こう 音羽の滝の あるからか のぼりつめたる 清弦の恋
本堂には十一面千手観世音があり、その昔、延鎮(えんちんと読み、僧侶の名前)が夢の中でみた霊像だということだ。 坂の上田村丸が建立したといわれている。 北八と弥次郎兵衛はしばらくこの、宝前で休みながら一首詠む。
境内に 数ある桜は すき間なく 手もたくさんな 千手観音
二人が休んでいるところの側の小高いところに、机が置いてありそこに寄りかかるように座っている僧が参詣する人に、 「当山観世音の御影は、これから出ますぞ。 誠に霊験あらたかなる事は目が見えないものが、見えるようになり耳の聞こえないものが、聞こえるようになり足の悪いものが、歩いて帰れるようになる。」 と喋っている。 「一度、拝すれば、いかなる無病達者なものでもたちまち西方、極楽浄土へすくいとらんとの御請願じゃ。 どなたもいただいておかへりなされ。 賽銭は、たくさんはいらぬ。 お心もちしだいで結構。御信心のかたは、ござりませぬかな。」
北八は、坊様の様子を見ながら、 「よくしゃべる坊主めだ。」 と笑っている。
つづく。
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milehighdad · 1 year
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豊臣秀頼、淀君ら自刄(じじん)の地。 1615年8月5日、大坂夏の陣にて落城。火を放って自害したため誰であるかはわからない状態だった、吉光の短刀(秀吉から与えられたもの)のそばにあった首のない遺体を秀頼と確認した。 昭和55年、大坂城西側、外堀北側(豊臣時代の二の丸京橋口前の郭)発掘中に頭蓋骨を発見。貝(当時は身の入ったもの)を敷き、織部焼や唐津焼の陶器(当時の高級品)。などの副葬品も出土。鑑定の結果、20−25歳の男性と判明。さらに大型馬の骨も見つかっている(170センチ以上のアラブ系の馬だった。当時の馬は蒙古系で現在の仔馬程度、徳川秀忠の馬でも160センチ。)。豊臣秀頼は大柄で180センチ以上の大男だったと言われている。江戸時代の書物、明良洪範(めいりょうこうはん)には、197センチ、161キロという記述がある。秀頼は当時太平楽という大型の馬に乗っていた。この頭蓋骨は、豊臣家ゆかりの京都清涼寺に首塚が作られて埋葬された。 薩摩、琉球に逃亡したという生存説もある。
大坂の陣の後にうたわれていたわらべ歌。 花のようなる秀頼さまを鬼のようなる真田がつれて退(の)きも退いたよ加護島へ。 鹿児島の谷山には、秀頼の墓がある。当時、「谷山の酔喰(えいぐら)」と呼ばれていた、常に酔っ払って無銭飲食を繰り返す男がいたが、国主から手出し禁止というお達しが出ていて、住民から秀頼ではないかと噂されていた。 秀頼の兄弟 羽柴秀勝(石松丸 −1576)。実子か養子か不明。 長浜の曳山祭(4月15日 ひきやま、京都の祇園祭、高山の高山祭と並んで、日本三大山車祭りに数えられる)は、1574年に秀吉に男児が誕生したのを祝って始められたという伝承がある。 豊臣鶴松(−1591)。淀殿が生んだ長子。3歳で病気で亡くなる。 秀頼の正室。 千姫。徳川秀忠。江(信長の妹、お市の娘。淀殿の妹)の娘。7歳で秀頼と結婚。大坂城から脱出。天秀尼(秀頼の娘)を養女にして命を助ける。本多忠刻(ただくに 1596−1626 姫路藩藩主、本多忠勝の孫。宮本武蔵が師事)と再婚。姫路城に移り、播磨姫君と呼ばれた。夫が亡くなった後、江戸城に移り、70歳まで生きる。千姫事件。 秀頼の子供。 国松(母親は側室の伊茶)。6歳の時に初めて秀頼と面会。8歳の時に、捕らえられて市中引き回しの上斬首。 国松生存説。 真田大助(幸村の嫡子)と共に九州に逃亡、生存説あり。 木下延由(のぶよし-1614)=国松説。 木下延俊(ねねの兄の息子)。豊後国(大分県)日出(ひじ)藩初代藩主。国松を四男の延由と名前を変えさせ、息子として育てた言い伝えがあるという。 木下延由の位牌には俗名「木下縫殿助豊臣延由」と記させている。四男という立場で5千石の領主に抜擢、上級旗本にも命じられ、羽柴姓も与えられている。
他の秀頼の子供 天秀尼(てんしゅうに)、鎌倉にある東慶寺で仏門。 求厭(ぐえん -1688)。増上寺の僧。80歳でなくなる前に国松の弟、秀頼の次男であると明かす。
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lostsidech · 1 year
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3-①
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 ニューヨーク州クイーンズ区、フラッシング・メドウズ・コロナ・パーク。
 紅葉に包まれた一一月の公園内の道を、大会目的の観光客や関係者が出入りしている。旧国連仮本部も置かれた広大な公園内には急遽巨大な仮アリーナが建設され、開花異能者たちの戦いを擁するトーナメント場になっている。  二〇世紀前半のニューヨーク万博時代から名所である、地球儀を模したモニュメント。その正面にアリーナは入り口を開けていた。その周囲にたくさんの出店や案内板が並び、観光客と出番を待つ出場者たちの憩いの場と写真スポットになっていた。  会場にはやってきたものの、望夢たち補欠がすることはほとんどない。ポップコーンやホットドッグ売り場で適当に食べ物を調達し、アリーナの周囲を練り歩いた。  試合については事前に説明を受けていた。参加チームは全部で三二。トップが決まるまでは五試合だ。一試合ごとにゲーム内容は変わる。内容は告知されているレパートリーの中から直前に開催委員のくじ引きで決定される。ゲームには基本的に二人組で出場する。ただし連続して二試合以上同じメンバーが出場することはできない。参加組織は、各ラウンドで所属メンバーの強みを活かしながら、これからくじで引かれる選択肢にも備えて戦力を温存する必要があった。 「あ、いたいた。アメリカチームだ。壮観だね」  隣を歩いていた新野がのんびりと言った。彼は開会式中は雑用係で会場のほうに呼ばれていたらしいが、ようやく一息ついて望夢に合流してきたのだ。逆に開会式中一緒だった翔成は、大会出場者に召集が掛かると同時にパネルディスカッションに参加する莉梨から呼び出しを受け、一旦別会場に向かっている。万一補欠の出番が来たら一試合以上前に呼び戻すことになっていた。  新野がこの状況で瑠真や他の子供たちを心配していないはずはない。しかし彼が努めて穏やかでいるように見えるのは、当人なりに真剣にリラックスしている結果だろう。重い事態でこそ力を抜くタイプだ。瑠真はと訊くと控室に籠もっていると肩をすくめていた。  望夢はフライドポテトをつまみながら、 「ん。どこ?」 「あっち」  新野が指さす。その指先を追い、会場前でミーティングらしく顔を合わせている、無国籍なチームを発見する。中には見覚えのある金髪とカチューシャの髪飾りの姿もあった。 「……なんつーか、層が厚そう」 「うん、そういう話だ。日本も負けてないはずなんだけどね、ちょっとさすがのアメリカは見栄えは違うね」  SEEP設立時、中心となった国の一つであるアメリカは当然のように協会所属者人数も多く、優勝候補国だ。それから次点で優勝候補とみなされているのが、社会的にSEEPの影響が強い日本。比較的遅くに協会相当機関が設立された南米や西アジアの諸国に関しては、異能統括組織としての力が弱くそれほど戦力も充当できないらしい。  そのアメリカのトーナメント代表チームは、中央で胸を張る小柄なシオンを取り巻いて、仲良さげに談笑していた。  一番小さい人影がシオン。その次に若いらしいのが、ハイティーンに見えるそば��すの少女だ。堀りの深さと褐色の肌を見るに、南米系の血が入っているのだろう。身長はすらりと高いが表情の動きは小さく、ぼそぼそと喋る声はこちらまでは聞こえない。シオンに笑いかけられると慌てたり戸惑ったりする様子が見える。気弱なのかもしれない。  次に青年が二人いた。片方は不健康なほど細い色白の青年。学生か社会人かといった年代だ。帽子を目深に被った下から長い前髪が覗いており、裾の長いシャツを着ている。積極的に発言しているようだが口調には棘がある。もう片方はがっしりした身体つきの男で、肌色は黒く、こちらもアメリカ系の顔立ちではない。年齢はますます分からないが、原色の赤いシャツの上からジャケットを羽織った服装の雰囲気からいって少なくとも二十代半ば以上といったところだろう。  最後の一人は小さな老齢の男だった。ラフな開襟シャツにくしゃくしゃになったズボン、手には赤い石のついた大きな指輪を嵌めている。大岩のような男と並ぶと短い枯れ木のようだが、シオンに負けず劣らぬ存在感の笑顔で話している。シオンを除く若者たちが、あまりフレンドリーな性格には見えない中、この男性のコミュニケーションが場を和やかに繋いでいるように見受けられた。全員に目を向け、愉快げに笑いながら頷く。若くても六〇近くに見えたが、動きは活き活きと若々しかった。 「モリー・スミス、アンドリュー・キング、ドミニク・エジャー、シルヴェスタ・ローウェル。シオンはもう芸名みたいなもので、フルネームは分からないね」  新野が指さしながら一人一人を名指す。手には公式の参加者が載せられたパンフレットがある。 「ふぅん」 「それぞれ何が得意かだとか、調べてる?」 「いや、別に……俺たち出場者じゃないし。ていうか別に勝ちたいわけでもないし……」 「それはそうなんだけどね」  新野は苦笑しているようだった。 「君は自分の仕事に忠実だからな。せっかくなら試合を楽しんでもいいんじゃない。日本と違う協会の華、特等席で見られるチャンスだし。シオンは知っての通り舞台パフォーマンスが得意、モリーは絵を描くらしいよ。アンドリューは音楽家、ドミニクはスポーツ、シルヴェスタは事業家」 「それって奴らの超常術に関係あるの?」 「さあ……。紹介に書いてあること読んだだけ」  新野もそれほど熱心な観戦者でもないようで間の抜けた返事を返した。望夢はフライドポテトを頬張りながら無遠慮にアメリカチームを眺めた。  絵を描くと言われたモリーは斜め掛けに画材が入りそうな大きさの鞄を提げている。アンドリューの恰好は日本チームの深弦や隼二を思わせる、ただしそれより主張が強いロック風シャツだ。ドミニクの服の裾から覗く手足には引き締まった筋が見て取れる。事業家と言われたシルヴェスタのこの話しぶりは経歴から来るものだろうか。  と、ふいにシオンと目が合った。  シオンがにっこりとこちらに手を振る。モリーが慌てたようにシオンの手を下げさせた。シオンが不満げに何か英語で喋る中、アンドリューがこちらにずかずかと進んできた。 「え?」 「So you are the one of our Japanese counterparts Sion said, right?」 「えーと」 「What do you think about Holly Children?」 「ん?」 「Boy──」  目の前に黒いロック青年がぬっと立ちふさがってまくしたてる。英語自体にというより、その剣幕に気おされてとっさに何を言われているのかわからなかった。新野が横で目をしばたいた。 「ホーリィチルドレン──ヒイラギ会のこと、訊かれてるんじゃない」 「ああ、……ハロー?」  とりあえず返事しようと話しかけたとき、慌てて追いついてきたモリーが目の前のアンドリューの手を取った。 「Sorry(ごめんなさい)。No, Andrew, come on, now come back(だめよ、アンドリュー、おいで、戻ってきて)」  アンドリューは不満げにモリーを振り向いて何か言った。モリーは何度か首を振って答える。後ろを垣間見ればドミニクやシルヴェスタは様子を変えることなく、ただ黙ってこちらを眺めている。  シオンが向こうから声を張り上げた。 「悪いね。失礼をするつもりはなかったんだ」  どうやら日本語を流暢に話せるのは彼だけらしい。 「ヒイラギ会は日本発祥だからね。みんなやっぱり気になってるんだよ」  しばらく目の前で押し問答をした末、モリーに丸め込まれたらしいアンドリューがそのままアメリカチームの元いたほうへ引き戻されていく。こちらを振り向いてまだ何か言いたげな顔をしていた。望夢はきょとんとしている新野に向かってぼそりと「何がなんだか」と呟く。 「あの子とは知り合い?」  新野がシオンを示して尋ねる。望夢は頷いた。 「気になられたって、俺たちだって何も言えない」  こちらもアメリカチームに聞こえるように声を張ると、シオンは向こうでにやりと笑った。 「そうかぁ。まあ、リヴィーラーズ・システムからすると目の敵だものね」 「……なんだよ」 「失礼をしたって言ったでしょ。それに試合で君たちの術を見たいとも」  嫌味な言い方だ。開場前の通路を通り抜ける人々がこちらの会話に気が付いたのかざわざわと近くでささめいている。純粋に通路を挟んでこんな会話をしていたら邪魔だろう。望夢は首を振った。 「俺は出場者じゃない」 「じゃあ伝えておいてよ」  そんなふうに、何故かこんなところでライバルのような会話を交わした直後、会場アナウンスの音声が鳴り響いた。
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