#みどり色の水泡にキス
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shukiiflog · 1 year ago
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ある画家の手記if.98 告白
かわいい 香澄
僕の体の下で必死に身悶えて、抑えようもないみたいな声をあげて、 僕のすること一つ一つに感じてくれる 受けとってくれる これ以上込められないくらい全身すべてに愛情を乗せて触れる 自然に指先は香澄の体を愛しげに撫でて、唇は感じやすいところを食んで、 なかが僕のを締めつける、離れがたいみたいに 僕を欲しがってくれる 香澄の腰が痙攣して跳ねるたびに煽られて 煽って 一度出しても繋がったまま続けて すっかり力が抜けて快感だけで痙攣する、僕がつけた痕だらけの、汗と体液に��れた体 かわいい…  ずっとあげ続けてた嬌声で香澄が少し喉を枯らし始めた頃合いで、香澄の頭を撫でて汗に濡れた髪を梳いて、こめかみにキスしてゆっくり抜いて上から退いた
テーブルの上のグラスに注いだままにしてた水を口に含んで、香澄の上体を少し抱き起こしてから口付ける じっと口付けたまま、ゆっくり時間をかけて少しずつ喉に水を通して、喉を浸して湿らせるようにして 息が苦しくないようにたまに唇を離して ちゃんと飲み込んでいく香澄の頰をくすぐるように優しく撫でる えらいね 畳で体を擦らせないように緩衝材みたいに散々使い倒した布団はぐっしょり濡れてしまったから、僕も少しだけ水を飲んでから、香澄の体を抱き上げて隣の使ってないきれいな布団に二人でうつった。 その前にお風呂に入れてあげたかったけど、珍しく少し体が怠くて、このまま余韻の中で一緒に眠りたかった。 湿って濡れた浴衣を香澄の体から脱がせて、僕も脱ぎ捨てて布団に入る。 腕枕して香澄の頭を乗せて、香澄の体にしっかり布団をかけて温める。身を寄せ合ってそのまま眠った。
朝。まだ眠っている香澄を腕に抱いた姿勢でぼんやり目が覚めた。 薄暗いのは、早朝だからじゃなくて …外は雨だからだ 換気のために開け放した窓から冷たい空気に混じって少しの湿気を感じる。 僕も香澄も眠ってる間に体は渇いてた。目の前にある香澄の髪の毛がかわいく跳ねてうねってる。雨だ。 髪の毛の中に鼻先つっこんで地肌にキスしてたら腕の中で香澄もぼんやり目を覚ました。 「………」 「おはよう」って声かけても僕の顔見ながら少し唇あけてぼんやりしてる。香澄がされる側なのは久しぶりだったから少し負担が大きかったかな。にっこり笑って頭を胸に抱き寄せる。 「どこも痛くない?」 「うん…… 雨の音…?」 ぼんやりしたまま香澄が呟いた。 「そうだね」 「………雪だるま…」 ぎりぎり屋根の下にいるけど、降り込んできてるこの雨に晒されたら溶けちゃうね。 僕は一度一人で布団から出て、雪だるまの頭にかぶせてた雨よけの紙の傘をそっと取った。 雨を受けて、雪だるまの形が崩れて、頰をくっつけて並んでた二人の体が溶けて境界をなくしてひとつの雪のかたまりになっていく。 おとなしく横になってる布団の中の香澄の隣にまた潜り込んで、暖をとる。 「…溶けちゃうね」 「うん」 香澄の髪の毛を撫でながら、静かに目を閉じる。 …ときどきすごく怖くなるよ、幸せなぶんだけ、前よりひどく 香澄を愛せば愛すほど 香澄に愛されるほどに この瞬間に何もかも終わって��まえばいいような気になる お互いに自由なままで一緒に居ようと思うのがこんなに怖いことだなんて 香澄を大事に抱いてる今 二人でここで静かに終われたら …そんな風にもどこかでまだ思う、僕は弱いね 香澄と一緒に生きてたい  そう思うのも本当で その気持ちに支えられて僕は何度も生き永らえた でもどちらもある一方の気持ちだけを見てそれだけに縋りつくような生き方はもうしない 香澄と一緒に生きてたいって、香澄に向けて口にするのはそちら側だけ もう片方は、僕が一生一人で抱えていようと思う 嘘偽りのない寂しい欲求を、誰に向けてあらわすこともしないで そんな僕から香澄を守りながら 「……代わりに溶けて消えてくれるよ」 小さく呟いて香澄を抱きしめたら、香澄は疑問符を浮かべた声で聞き返してきた 「……なんの代わり…?」 やむ気配のない雨音の中で抱きしめた香澄の頭に頰をすり寄せる。 「……内緒。」
うつらうつら二人で二度寝して、昼頃になってようやくちゃんと起きる。 僕が布団から体を起こしても香澄はくったり横になったままで、「気分が悪い?」って聞いてみたらふるふる首を振って、でも同じ姿勢でなんだかぼーっとしてる。 額に手を当てても熱もなさそうだし、顔色はむしろよくて血行よさそうに頰も唇も紅くて、ゆっくり布団を首まで持ち上げたと思ったら顔半分くらいもぞもぞ布団に埋めてる… なんとなくクリスマスの翌朝の自分の状態を思い出して、似たような感じなのかな…と思って勝手に嬉しくなる。本当に体の芯から気持ちいいとああなっちゃうのかも…? 香澄の顔を覗き込むようにしてもう一度横になって、しばらく香澄の体を布団の上からよしよし撫でる。恥ずかしいのかだんだん小さく丸まっていく。かわいい…布団と一緒にぎゅっと抱きしめる。
いつまでもこうしてられないな…たくさん動いて汗掻いたから、そろそろ何か飲んだり食べたりしないとね。 香澄を抱き上げて、「お風呂に入るよ」って言いながら風呂場まで連れていく。 すでにのぼせてるみたいな顔してるから、湯船には入れないでなるべく楽な姿勢で座らせて、綺麗な手拭いをお湯に浸して香澄の体を拭いていく。 手首をとって軽く腕を持ち上げて脇から指先や指の間、爪までくまなく拭き上げて、同じように全身を綺麗にしていく。 湯船の淵に頭を乗せさせて髪の毛を梳かしてから洗う。髪の毛についた泡を流しながら耳を手で包む。 ずっとくたっと脱力してる香澄はぼんやり僕のすることを目で追いながら、されるがままになってる。 「香澄は肌が白くて綺麗だから痕が綺麗に残るね」 体に残った鬱血痕の上を優しく拭きながら言ったら、ちょっと顔赤くしてる。 「…痛くない?」肌に傷はつけてないけど、うっかり内��血してたりするかもしれないから。 「…うん…痛くない」 ぼんやりしてて表情は少ないけど、あったかい湯気が立つ手拭いで体を拭うたびに顔を赤らめて、目を細めて潤ませる、気持ちよさそうに薄く唇を開いて安心しきったみたいな顔するのがかわいくて、一度瞼にキスした。目に入れても痛くないってこんな感じかな。 僕も軽く体を洗って流して、夜の名残りを落とす。 体をバスタオルで包んで香澄を濡れたまま抱え上げて、座敷に移動する。 壁に背中をつけて畳の上に胡座をかいて、膝に香澄を乗せて僕の体に凭れさせながら包んだバスタオルで体を拭く。大きなバスタオルで僕にくっついてる香澄を抱いて拭いてるうちに僕も勝手に乾いた。 赤い髪の毛をひと束ずつ丁寧にバスタオルで柔らかく握って水気をとっていく。バスタオルごしに香澄のほっぺたを両手で包んで軽くつまんで解したら香澄がふにゃって顔を崩して笑った。綺麗な虹彩が笑んで細くなる、かわいい、雨の中で太陽が笑ってる。
髪が乾いたら浴衣を着せて、僕も着て、朝昼ご飯は部屋でとることにする。 すぐにくたって弛緩しちゃうから僕がずっと膝に抱えたまま、ご飯を食べながら、香澄のぶんも口に入れて咀嚼して、膝の上でおとなしく僕に寄りかかってる香澄に口付けて食べさせる。 「…気持ち悪くない?」 唇を離して様子を伺う。 「…うん…おいしい」 こくりと小さく喉を鳴らして飲み込んでから、僕の首筋に額をすり寄せてくる。かわいい。ちゃんと飲み込めたのを褒めるようなふりして軽く唇を啄ばんだ。 自分が食べるのと交互に香澄に口移ししてたから香澄と一緒にご飯を食べ終わった。 歯磨きをしてあげるのは難しいな…と思って、膝に乗せたまま香澄の口に手を添えて軽く開かせてから口付ける。咀嚼したものをそのまま呑んでるからひどく汚れてはないけど、舌を入れて歯を綺麗になぞって舐めとって唾液ごと飲み込む。奥歯の裏までしっかり舐めとろうとして顔を傾けて口付けを深くする。逃げ腰になる香澄の後頭部を、背中を抱えてない方の手で支えて固定して、奥まで綺麗に舐めてから唇を離したら、香澄が目を回したみたいに顔赤くしてくらくらしてた。「な、直人…」 「ん?」さっきまでより自立しなくなってふにゃっと崩れそうな香澄の体を両腕で抱きとめたら胸に顔つっこんできて、額でぐりぐり押しながら小声で何か言ってる。 顔を寄せてよく聞いたら体が疼いてきついなんてかわいいこと言ってる。今ので反応させちゃったかな…。 「香澄、顔あげて、こっち見て」 背中をさすりながら呼びかける。顔をあげた香澄の頰を撫でて、両脇に手を入れると体を一度持ち上げて、そのまま抱っこして奥のソファの上に降ろす。 肘置きと背凭れの間に体を寄りかからせて、肘置きに手をついて頰に軽くキスする。「…触ってもいい?」 ソファから降りて、こくんと頷いたのを確認して香澄の足元に跪く。浴衣の合わせに手を差し入れてそっと下に触れたらたちかけてた。指先についてきた先走りを舐める。このままどうにもならないんじゃ苦しいだろうな… 「少し我慢してね。…出せそうなら出して」 浴衣の前を少し開いて香澄の両脚を開かせて間に入って膝立ちになる。首を伸ばして香澄の足の付け根に顔を埋める。小さな吐息交じりの声が頭上から降ってくる。 煽ったり焦らさないで、早く出せるように片手で袋や根元を優しく揉む。後ろには触れない。口の中で、舌で先をつついてくすぐって、なぞって舐め上げて、唾液でたっぷり濡らしてから、頭を動かして扱く。 我慢してたのかすぐに口の中に吐き出してくれた。まだ口に含んだまま、顔の横で小さく痙攣する内股をさすって褒める。ごくんと呑み込んでしまってから立ち上がって、口を濯ぎにいく前に香澄の頭を笑顔で軽く撫でた。「いい子」 また、せっかく旅行中なのにとか、迷惑かけてるなんて言葉は、言い出せもしないくらい、甘やかして、かわいがりたい。
洗面台で軽く口を濯いでからすぐに香澄のそばに戻って、抱き上げて僕がソファに座ってから膝の上に降ろす。 今日は一日じゅうこうして過ごす。前にもこんなふうに過ごしたことあったね。あのとき香澄が楽しそうですごく嬉しかったな。 「…肖像画、最初に描くのは香澄がいいな」 香澄が首元から顔をあげて僕の目を見つめる。僕も至近距離から見つめ返しながら、香澄の頰を親指でなぞる。 「前にも描こうとして、描けなかったね。…美しいものを、僕が描くことで踏み躙るような気がして怖かった」…あの頃のことをうまく言葉になおして語るのは難しい。全然違ったことだったようにも思うし、記憶自体も少し朧げで、でもちゃんと今に繋がってる。 「美しいもの…?」 香澄が小さく呟いた。 「  …でも、それなら俺は…、…」 そこまで言って、言いあぐねたのか口を噤んでしまった。 僕がまた絵を描くってせっかく自分で決めた決断の先行きを、曇らせるようなことは言いたくない? 香澄が今考えてることは、僕の想像であってるかな… 「…僕は傷痕を美しいと思ってた、だからもう傷痕のない香澄に、僕は美しいなんて感じたことはない、…って思ってる…?」 訊いてみたら控えめに頷いた。外れてはないのかな。 美しいって感じたのを、絵にして終わり、の期間がこれまでの人生で長かったから、香澄にも感じたことを言葉にして伝えるのを怠けてたかもしれない。 香澄の顎に手を添えて、顔を僕のほうに向かせて、しっかり目を合わせながら話す。 「…いつも、感じるだけで精一杯だよ、僕は。 きれいに言葉にして伝えてあげられなくて、ごめんね。傷痕だけを美しく思ってた��ともあったけど。それを抱えてくれた香澄がいたから傷痕もあった、…そういう順序が、以前の僕は、…狂ってたのかな。 …僕は香澄の存在が愛しいよ、傷痕があったことも、二人でそれを消したことも、香澄と一緒に丁寧に積み重ねられた時間を、僕は美しく思う、…今の香澄の姿にね」 それだけ言葉にしたあとで、おもむろに言い足していく。 …���太陽みたいだ  あったかくて 笑ってくれると陽だまりに居るみたい ほかの沢��のものも照らして 僕の視界を鮮やかに塗り替えてくれる 優しい気持ちにしてくれる  木漏れ日をいっぱいためて溢れるような瞳 真っ白に澄みきって輝く白目 癖のない涼やかな目元 長くてまっすぐの艶を湛えた睫毛 陽を浴びると頰に長い繊細な影を落とす 滑らかに高く伸びた鼻筋 引き締まった薄い唇 精悍な輪郭と骨格に支えられて 整った見事な比でおさまってる 白い肌 一緒に暮らし始めてからますますきめ細かく艶やかになったね …目の前の顔ひとつとっても僕にはうまく言えないけど いつも感じるだけでいっぱいになって 冷静な言葉に行き着かない それでも香澄は美しい子だよ 陳腐な言葉かもしれないけど 僕は毎日、恋に落ちてる、繰り返し、香澄ひとりに
「……だからね、最初の肖像画は香澄がいいんだ、この世でもっとも美しい人だから」
香澄は自分で自分を視たことがないし、僕にも、誰にも自分自身の目で自分の姿を捉えられる日はこない だから僕が視てる香澄を、香澄にも視てもらいたいな それが僕にできるもっとも正確無比な、美しさの伝え方だから
ここまでゆっくり伝えてから、すでに息がお互いの顔にかかるほど間近にあった顔を見つめて、静かに目を閉じてキスした。 雨音が優しく室内を満たす。香澄を抱き寄せて、背中を一定のリズムであやすように軽く叩く。一緒にしばらく微睡んだ。
その後もまた一緒にご飯を食べて、香澄はそろそろ一人で動けそうだったけど少し僕がわがまま言って食べさせた。家に帰ったらこういう機会はなかなかなさそうだなと思って。香澄はずっと僕の浴衣の裾を小さく掴んで僕の胸に寄りかかって頬を紅くしてた。 明日の午前中にはここを出なくちゃいけなくて少し名残惜しいけど、また二人で旅行とかしたいね。
ソファで香澄を抱いたまま僕が目の前のテーブルに広げた紙に絵を描いてたら香澄が訊いてきた。 「家…の絵…?」 「うん。新しい僕と香澄の家。」 にっこり笑ってスケッチを続ける。まだこの世にないものを描くのは不思議な感じがしたけど、特に無理をして描いてはいなかった。 「…香澄はどんな家がいい?」 「家…  ゼロから建てるの?」 「そうだよ。僕は建築とかの知識はからっきしだけど、二階か三階建ての庭付き一軒家ならそんなに特殊な建物でもないと思うし…香澄の仕事場に近くていい土地があるといいんだけど」 話しながら描いてるスケッチは一応建築基準法の範囲内にはおさまってそうな一軒家。ロールスが停められて、もう一台分お客さんが来たり香澄が自分の車を買っても大丈夫なように駐車場をとる。庭に木造りのブランコ。あま��好きなようにデザインしすぎて近所から浮くと個人特定されやすいから、ほどほどにありふれた外観におさめる。 「…家を建てて…ここに一生腰を据えようってことでもないんだ。必要になればいつでも越していいし、…香澄につきまといなんかがいつまでもしつこければ、僕はもっとずっと遠くに… 香澄のことを誰も知らないような土地に、二人で引っ越すのもいいなと思ってる。香澄がそれでよければね」 抱き抱えた背中をさすりながら話し聞かせる。 「今回も、引っ越すにしても借家でも問題ないんだけど… ずっといつでも捨てられるような借り物の場所にしか暮してこなかったから…自分の家を、ひとつは持ってみたい気がして。…僕が責任を持たなきゃいけないようなものを」 家さえ建てればそれが達成できるってものでもないんだろうけど…  僕と情香ちゃんが長くそうだったように、家とか住まいってものに重点を置かないで身軽でいれば他人を守りたいときに素早く動けて面倒が少ない。 でも香澄は家族だから、居を構えて、それで守り方の応用がより効くのかどうか、試してみたい。今のマンションには少しのスペースしかない庭とかもあったらいいなって思うし、一軒家だと土地ごと完全に自分のものになるから、生活もかなり自由に幅がきかせられるようになる。その分ご近所との付き合いとか煩わしいものもついてくるけど、そういう点も試してみないとどう転ぶかは分からない。うまくいかなかったり問題があれば借家にしたり売り払ったりどうとでもなる。 香澄が毎日帰ってくるのが楽しみになるような家ができたらいいな。 「……。」 香澄が僕の首筋に額をぐりぐり擦りよせてくるから「僕が居るなら香澄はどんな家でも構わないのかな」ってふざけて訊いたら頷かれた。なんとなく僕のほうが照れる。
香澄がそろそろ一人で歩いたり座ったりしたそうだったから寝る前に二人でお風呂に入った。念のため僕が脱がせて抱き抱えたまま一緒に湯船に浸かる。 立ち昇る湯気が赤い髪に映えて綺麗。 湯船の中で香澄の背中を淵と後ろの壁につけて正面から腕で囲い込むようにしてキスしたら、応じる香澄の両手が僕の両肩にちょこんと添えられた。…かわいい 「…、」 お互いに煽り合わないうちに体を離して、お湯から出てた香澄の肩に湯船のお湯をかけてさする。 ここで長く続けたら香澄がまたのぼせそうだし、その気になっちゃったら今夜もしないではいられなさそうで。
お風呂から上がったら櫛やブラシを使いながら香澄の髪の毛を綺麗にブローしていく。 いくらまっすぐにしてもぴよんて癖毛がはねるのがかわいい。雨の日はよくこうなるね。 湯船でほかほかあったまった体で二人とも布団に入る。 香澄の体を布団ごと抱き寄せて額にキスして 二人で首まで布団に入ってうとうとしてると一緒に胎内を漂ってるみたいだ 僕はここに居て 香澄のことをちゃんと守れたかな まだたくさん間違ってても 今の僕にできることをちゃんと尽くせたかな…
翌朝になったら香澄はすっきりした顔で目覚めてた。 ひんやり冷えた空気の中でしばらくあったかい布団にこもって二人でじゃれる。 チェックアウト間近になってから浴衣から着てきた服に二人とも着替える。香澄の首に僕がマフラーを巻いた。
館内のお土産屋さんで香澄は何人ぶんもお土産を選んでた。 絢やまことくんへのお土産にまじって綺麗な飴細工を冷泉に選んでたから香澄の頭をくしゃくしゃ撫でた。 冷泉はあれで香澄のことをすごく大事に思ってくれてると思うけど、表現方法がいつも間接的というか、伝わりにくいだろうから、香澄がなんとなくでもそれを受け取ってくれてたら嬉しい。
雪だるまは朝見たらもう影も形もなかった。誰かが着せてくれた外套とマフラーだけが薄く積もった雪の上に遺されてた。 香澄の記憶に残ってたクーラーボックス 雪だるまと一緒に中に入れた 香澄に喜んでほしかった気持ち ちゃんと拾われて   今は僕が居るだけで喜んでくれる香澄 跡形もなく溶けてしまった、そのことに、もうあの時のような哀しみはなかった。
香澄視点 続き
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liar-10 · 2 years ago
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ピンクのエナメル
 ベッドサイドに置かれたグラスにロゼ・シャンパンが三分の一ほど残っていた。白いスーツに身を包んだ名前も思い出せない化身──顔は菊好みに整っていた──に押しつけられた時はなかなか心外であったが、先ほどの退屈なキスを一瞬でも忘れることができるならなんでも良かった。美人が纏う香水みたいな風が鼻腔をくぐり抜ける。色も香りも上等な分、男の私には似合わない、と思う。別になんだって良いのだけど。傾けた華奢なグラスが甘ったるい室内灯をゆるやかに捻じ曲げている。薔薇色の泡も、肌の白い人外も、菊にとっては全てがただの気休めだった。割り切った、大人の関係というやつだ。それを不潔だと罵るのは世界でただ一人、目を赤くぎらつかせた自分の幻影くらいなもので、それも不健康なわけではないから良心を傷めたりはしない。私には必要なことなのだ。全部必要なことだったのだ。
 昨夜は慣れないベッドで寝たので目覚めるのは早かった。隣には滑らかな背中が横たわっていて、それに少しも心が動かない自分に、また何一つ忘れられていないのか��うんざりした。背後で赤目の “菊” がつまらなそうに鼻を鳴らしたような気がする。腹が立つが、所詮は幻影だ。無視して、菊はやけに柔らかいベッドをなるべく揺らさないように這い出た。カーテンの隙間から漏れ出る光は柔らかい。昨日は気にも止めなかった室内のモダンな装飾を眺めながら、ソファに引っ掛けてあったワイシャツのボタンを順にとめていく。スラックスに手が伸びた頃にようやく彼がお目覚めになったようだ。まだ覚醒しきっていないのか上体を起こしてぼうっとこちらを眺めているが、菊は「昨日はどうも。」と微笑んだだけで手を止めない。身支度を整えたあと、二言三言大人の挨拶を交わしてから部屋を後にした。もう二度と帰らないであろうと思いながら、廊下の窓ガラスに映った自分を見た時には既に頭の中には朝食のことしかなかった。
 
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lsoshipt · 2 years ago
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「クリスマス・キャロルは遠い音」 2020.7.16
 ショーウィンドウにはクリスマスに浮かれた街並みと、常どおり冴えない顔の自分が映り込んでいる。ガラスは液体で、寒風によってさざ波だつことのない静かな水面だ。代り映えのない短い黒髪と、部屋着に近いようなだらしのない服装。革靴だけは不似合いに磨きあげられていて、俯くと自分の顔が映る。自身の華のない、特徴に欠く顔だちはしかし、ある種の女性に、また男性に好まれることを光は知っていた。美人というのは平均的な顔だちをした人間のことだという言説をなんとなしに思い出す。自分はつまらない女だと思った。
 しばらくして、女が光の前に姿を現した。くすんだピンクいろをしたノーカラーのコートのしたに、白いワンピースを着ている。生地も縫製もよいものらしく、ああこの娘は私とデートをしに来たのだなと、どこか他人事のように考える。こんな如何わしい女のために着飾るなんて馬鹿げている。光はひそかに彼女に憐憫の情をむける。それと自己嫌悪。どうしようもなく不実の身であった。嫌なことばかりを考えるのは、どうにも寒いせいだろう。
「待った?」
「ううん、今きたところ。」
小首を傾げた彼女の微笑は完璧で、計算し尽くされているように思われた。光は判で押したような、常どおりのへらへらとした締まりのない笑みを浮かべているのだろう。笑ってさえいればおそらく彼女はすくなくとも否定的な感情はもたないだろうから、どうでもよいかと思った。デート相手にもたれうる感情を計算するのはもはや癖となっていた。女の子が好きで、女の子に喜んでほしいから。そんなのは綺麗ごとであって、実際にはひとに失望されるのを恐れているからだというのが光の自己評価である。それとまあ、金のない身としては、生きていくにはどうにも愛嬌が要る。それだけのことである。光は結局のところ自己保身しか考えていないのだと思う。実際のところどうであるかなんてなにひとつわからなくて、ただ光はあいまい��笑みを浮かべているつもりであるという、それだけではあるのだけれど。
「そお? ならよかったあ。行こ。」
彼女は光の手をつかむ。光は反射的に指を絡めた。我ながらふざけた癖であると思う。光には友人よりも学生時代ならいざ知らず、いまの光には一般的な友人の範疇にいる人間がごく少なかった。そういいきれるのは柚月くらいのものだろう。尤も、柚月はそうは言わないだろうけれど。幼馴染だから、柚月は自分のことが好きだから、光はそれに甘えてずるずると卑怯な関係を続けているのだ。
 彼女は手え冷たいね、待ったでしょう。と眉を下げた。光は首を振る。それは否定の表明と、同時にいまの考えを振り払うためのおこないだった。ひとと対峙しながら、眼前にない人間のことを考えるなんて、まるで恋でもしているみたいかもしれないと思った。光は自分の不誠実さを恥じながら、意味をなさないであろう謝罪を飲み込んで、彼女の求めるであろう光を装うことに専心する。
「ううん。──のこと考えてたら、すぐだったし。」
自分の出せる最も甘ったるい声を出して彼女の名を呼んだ。彼女のはにかむのに合わせて、ていねいに塗られた唇の、グロスが街明かりを反射して艶艶とひかった。キスしたら移るだろうな。そんなことを考える。帰って柚月がみたら、きっとすこしだけ睫毛を伏せるのだろう。
 帰路でひとり、缶チューハイでも空けて帰ろうと思った。クリスマスイヴで、これからデートだというのに、なぜだかどうにも気分の良くない夜だった。
 帰宅は夜半のことで、鍵をあけると柚月がシャワーから出たところらしかった。湯でぬくまった肌は、光の酒でぬくまった肌とおなじいろをとる。その瞳のいろも相まって、ウサギのような印象をあたえる白い肌は、ぼうっとしたほの赤さをしている。
「おかえり。」
柚月は常通りの、温度を感じさせない声色で言った。視線が合わないのはいつものことだ。それほどまでにふたりはふたりでいることに慣れきっていた。
「お土産、シャンパン。とね、コンビニのだけどケーキ。あー、シャンパンはもらったやつだから、大丈夫。いいやつだよ。」
メリークリスマス。光はへらりと笑った。アルコールに浸かった脳は光を常より饒舌にさせる。ふわふわとした浮遊感を感じながら、同時に脳味噌の奥底のつめたいところが、いまの自分の振る舞いすべては空元気だと告げている。空っぽの自分を、酒とご馳走でむりやりに満たそうとしている。
「……メリー、クリスマス。」
柚月は狭いながらも機能的に整えられた台所から栓抜きとグラスを取り出す。
「そういうの、あした作るつもりだったんだけど。今日は仕事だったから。」
「それはそれ、これはこれ。イヴだよ。騒ごうよ。」
光は柚月の手から栓抜きを取り上げると、慣れた手つきで瓶をあけた。解放された炭酸ガスが威勢のいい音を上げて、柚月はわ��か顔をしかめる。光はシャンパンをグラスに注いで、柚月の手に持たせた。
「もう日付変わってるけど。」
「それでもイヴ。」
乾杯! グラスが高い音を立てる。柚月は諦めたような眼差しをして、グラスに口づけた。グラスの縁にリップクリームの脂が白く残る。
「キスしたらね、グロスの紅いのが、いや、ピンク? わかんない。ラメの入ったのが私の唇にまで移ったよ。」
光の舌は、アルコールで鈍麻した脳を置いてぺらぺらと軽薄に回る。何を言おうとしていたのだっけ? 柚月の唇を、グラスの縁を見ていた。あの娘とは違うなと。光が対峙しているのは、たしかに柚月だなと。
「なんで紅い唇に魅力を感じるんだろうね。血色、健康そうだからかなあ。健康な個体は健康な子孫をつくりやすいから? 女どうし、子供なんかできやしないのにね。」
「……そう。」
光の唇はとうにキスの残滓も見られず、まっさらな粘膜の色を残すのみであったのに、わざわざ彼女を傷つける告白をしてしまったことに、光は今更気付いた。しかしながら、クリスマスイヴにアルバイトでもなく外出をしている時点で、すでに柚月は少なからず傷ついているのだ。光はひそかに嘆息した。柚月と暮らす以上、いやきっと誰とであっても、光はその相手を傷つけることなしに生きることはできないのだと思った。
 光はグラスに残ったシャンパンを、ぐいっと一気に呷った。口内で、喉元で、泡がはじける。
「光が強いとはいえ、そんな飲むのやめなよ。」
しばしの沈黙の後、柚月はボトルに栓をして仕舞い込んだ。グラスのなか、いまだなみなみと残る液面にたいしてその頬は赤さを増している。ほら、歯磨くよ。光はしずかに首肯して、ふたりは洗面所へと立つ。窓越しに、時たま浮かれた若者たちの喧騒が聞こえた。卓上では、プラスティックのパックのなかで、ショートケーキが安っぽくひかっている。
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recordsthing · 3 years ago
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鎖を花に 縄を糸に
 何もしてないのに、全部が解決してハッピーエンドで永遠に。そんな日が来ないことは重々承知していた。だからこそ、緩慢で怠惰で堕落した生活を受け入れようとしていたんだ。
 いつものように同じベッドの上、二人で寝ようとしていたある日、晴ちゃんが少し悲しそうに、でも何かを決心したような強い瞳でこちらを見てきた。
「頼みがあるんだ」
「……なーに?」
 一瞬だけ返事をためらってしまう。晴ちゃんはこの生活の中でずっと怯えているのか、話しかけてくるときはあたしの名前を呼んでから話すようにしていた。それなのに、どうして今日は呼んでくれないのだろう。こちらの様子を窺う余裕もないくらい、いや、窺う必要がないくらいに決めたことがあるのだろうか。
 ある程度ついている予測と嫌な予感を交えながら、晴ちゃんの口が動くのを待った。
「もう、こんな生活、やめたい……」
「…………そう」
「でも、わかんないんだ……どうしてこんなことになってしまったのか……プロデューサーも……家族も怖くて、ファンの人たちのあたたかった言葉が全部感じ取れなくなって……オレになにがあったのか……オレだけがわからなくて……このままじゃいけないって……わかってるのに……ごめん、ごめん……」
 せぐりあげる声で紡がれる謝罪の言葉が、あたしの心も心臓も切り刻んでいくようだ。あんなこと、その場凌ぎでなんの糧にもならないってわかってた。それでも、晴ちゃんにいつものように笑ってほしかった。何もかもが上手��いって、また日常に戻れるはずだという淡い期待が、今あたしも晴ちゃんも傷つけている。
「しきぃ……おしえて……オレ……どうすれば……」
 きっと、誤魔化すことだってできる。なんともないよ、あたしがなんとかするからって言ってもいい。でも、その先は?ずっとこのまま一生嘘をついて、地獄の釜で煮られるような苦痛を二人で共にしてていいのだろうか。自分は耐えられる。だって全部自業自得だから。でも、目の前の愛しい恋人は一体なにをしたというのだろうか。酷い目に遭わされて、記憶を無理やり封じてしまってまた苦しんで、今もこうして震えてる。
 ……大丈夫、細心の注意を払おう。できることさえちゃんとしてれば、きっとなんとかなるはずだ。
「あのね、晴ちゃん。前に交通事故にあったって言ったじゃん?」
「うん……?」
「あれはね、全部嘘。晴ちゃんが傷つかないように、またいつもの日常に戻れるようについたんだ。ごめんね」
「……そっか」
 初めて話したはずなのに、さほど驚いた様子がない。きっと薄々察してはいたのだろう。
「だから、これから本当のことを話すね?ずっとずっと残酷で、悲しい話をするけどいい?」
 言葉の代わりに、ゆっくり頷いてくれた。
 落ち着いて、できるだけマイルドに。変な表現を使いすぎないように。そのせいか、思考のために酸素を使ってしまって、声が上手く出ない。話をする度に晴ちゃんの顔がどんどん青ざめる。あたしに向けられたものじゃないってわかってるのに、胸が締めつけられるように痛い。
「あたしが助けられたら良かったんだよね……ごめんね……」
 そんな言葉で強引に話を打ち切った。話が終わって様子を見ると、両腕で自分を抱きしめるようにして震えている。
 特になにかを考えたわけじゃないけど、その震えを包み込むようにして抱きしめる。
「……思いだした……」
 ぽつりと零れたその言葉に少しだけ解放された気になる。
「ウソだろ……なんで、アイツが…………アイツがぁっ!!?」
「っ!!!」
 想像したくはなかった。晴ちゃんがこんなに傷ついてる理由。
 晴ちゃんを襲ってナイフで傷つけた犯人は、晴ちゃんが知ってる人だったということ。
 晴ちゃんが机の上に立っている。危ないよ、と駆け出そうとした足が動かない。天井から長いものがぶら下がっている。太くて長いソレは、人がぶら下がったとしても切れることはないだろう。
 嘘だよね?声を出そうとしているのに、口が開いたり閉まったりするだけで音が出ない。目の前の恋人の身長が少し伸びる。そして、少しだけ宙に浮かんだままになって空中で重力を失ったかのようにぶらん、と横に上下に揺れる。ぎし、ぎしと言う音が痛々しすぎる。まだ間に合う。まだ応急処置をすれば間に合うはずだから、動いてよ、ねえ。
「晴ちゃん!」
 はっ、となって目が覚める。今まで見た夢の中で間違いなく最悪の夢だ。背中も手も冷や汗が伝って、びしょびしょだ。両腕で包んでいたぬくもりはまだ確かにそこにあって、大きな息とともに安堵を覚��る。ただし、その顔には涙の跡がしっかり残っていて、悲しい気持ちに襲われる。
 あの後、ひたすら晴ちゃんを落ち着けさせようと背中を一定のリズムで叩いてかけられる慰めの言葉をずっとかけていた。夜が明けてもずっとそうやって必死に声を出したせいか、喉が少し痛い。アイドル失格だな、なんてもう辞めてしまった世界のことに少しだけ思いを馳せる。
 でも、起きた晴ちゃんになんて声をかければいいんだろう。結局二度晴ちゃんを傷つけただけで、これからのことなんて何も考えられない。すぅ、すぅという寝息がなんとも愛おしくて今はこれだけでもいい。
 今のあたしにできることは、夢が現実にならないように、強く抱きしめて離さないことだった。
 不意の感触で目が覚めると、晴ちゃんの顔が目の前にあった。柔らかい感触があたしの唇に当たっている。
「起きたか?」
 口が放され、少し寂しそうな声でそう聞かれる。
「王子さまはお姫さまのキスで目覚めるのでした、あれ?逆だったっけ?どっちでもいいか♪」
 わざとらしく明るい口調でそう言うと、少しだけ微笑んでくれた。晴ちゃんの笑顔が見れたことで、少しだけ安心する。
「……どうすればいいんだろう、オレ」
 顔見知りの相手、程度だったらこんな風には思わないだろう。きっと晴ちゃんにとって身近な人間が関係しているのかもしれない。あまりこういう時に名案が閃くタイプじゃないから、とりあえず常識的な返答をすることにした。
「とりあえず……警察に行こうか?」
 旅館でチェックアウトを済ませて、タクシーを呼んで駅へと向かう。荷物は場所を転々としているのもあるけど、必要な時に必要なものだけ買っているので小さなリュック一つに収まる程度だ。できるだけ現場に近い警察署の方がいいだろう、ということで新幹線で晴ちゃんが元々住んでいたあたりまで戻ることにした。切符の買い方……というか乗り方は正直覚えてはいないけど、晴ちゃんがいればなんとかなるだろう、と思った。
 なんだかんだベッドの上で時間を使ってしまったせいか、駅に着いたころには日が落ちてしまっていた。ただ、そのおかげか人が少なくて晴ちゃんが怯えずに済みそうで良かった。もちろん、夜というより土地柄のせいもあるのだろうけど。
 券売機の前でフリーズしてると、晴ちゃんがさっさと操作してくれて支払い画面になった。金額が表示されて、少しだけ申し訳なさそうにする姿が少し愛らしい。カードを入れて支払いを済ませると、切符が四枚出てくる。晴ちゃんが取って、あたしに二枚渡してくれる。
「これ、ここに二枚同時に入れればいいから」
 改札に入れて晴ちゃんがホームの方に向かって行く。同じようにしてついていこうとすると、振り向いた晴ちゃんが目を見開いて驚いた。
「志希!切符取り忘れてるぞ!」
「あれ?持っとかなきゃいかないの?」
「ったく、しっかりしてくれよな……」
 なんだか慌てたり焦ったりしてるものの、少しずつ晴ちゃんが元々の話し方とか喋り方に戻ってる気がする。あたしといることでそうなってるなら、たまらなく嬉しいことだ。とっとと戻って改札��ら出てたそれをポケットにしまって、晴ちゃんの元へと向かう。
「なんか不安だから、オレが持っておくよ……」
「わーお、一蓮托生だねっ!」
 ポケットから切符を差し出して、晴ちゃんについていく。全然人がいない構内を進んで、エスカレーターに乗ると目当てのホームにたどり着いた。なんとなく贅沢、というか移動で不満を抱えたくなくてグリーン車の席をとった。夜の新幹線を待つ人はまばらにいるが、わざわざグリーン車に乗るような人はいなさそうだ。待ってる時間にも人が傍にいると、晴ちゃんが不安がってしまいそうなのでありがたい。
 十分ほどして、アナウンスが流れる。晴ちゃんが前に出すぎてたあたしを引っ張ってくれて、黄色い線の内側まで戻される。新幹線が目の前を高速で通って行って、髪型と服がたなびく。速度を落ちていって、静止したかと思うと扉が開いた。
「ねえ、本当に大丈夫?乗ったらもう引き返せないよ?」
 別にそんなことはない。途中下車したっていいのだから。これは、ただの確認だ。
「大丈夫、だって今度は志希がいるから」
 手を繋いで新幹線へと乗り込む。廊下側だと通る人が近いことがあるため窓側の席に座ってもらう。景色を見るのにも丁度いいし、気晴らしになってくれたらいいな、程度のものだ。しかし、晴ちゃんは席について早々眠ってしまった。そりゃそうか、気疲れもあるだろうしいっぱい泣いてたから。
 手を繋いであたしは起きておくことにした。しっかり寝ていて眠くないのもあったが、この二人だけの時間を少しでも長く感じていたかったから。
 数時間して、目当ての駅まで来た。晴ちゃんの家まではまだ大分距離があるが、眠そうにしていたため近くのビジネスホテルで一夜を過ごすことにした。さすがに都心に近いせいか、夜中に近い時間だというのに、人がそれなりにいる。人が降りて進んでいくのを見ながら、人ごみにぶつからないように待つ。少しすると、ホームに人っ気が少なくなって進みやすくなった。晴ちゃんの近くに人が来ないように警戒しながら、切符をうけとって改札から出る。
 こういう駅の近くには、格安のホテルが複数並んでいることが多い。別にわざわざ安いところを選ぶ理由もなかったが、晴ちゃんを早く寝かせてあげたかったため、とりあえず近場のホテルに駆け込んだ。未成年だからなにかうるさいこと言われないかな、と心配だったが向こうも慣れているのか問題なくチェックインできた。エレベーターに乗って、部屋へと向かう。明日はどうしようかな、シャワーは……明日でいいや。
 あたし自身も疲れていたのかもしれない。晴ちゃんを連れて部屋に入った途端に、二人共々ダブルベッドに倒れて意識を失ってしまった。
 目が覚めると、全く同時に起きたのか寝ぼけまなこの晴ちゃんと目が合った。
「おはよ、シャワー浴びよっか」
「うん……」
 二人で寝ぼけながら、服を脱いでシャワー室へと向かう。ユニットバスなのが少し嫌だけど、今更そんなことを気にしてもしょうがない。服を脱いで、狭い浴槽で二人重なるようにしてシャワーを浴びる。
「なんか……恥ずかしいんだけど」
 晴ちゃんとはずっとこうやって一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげたりしたけど、そんなことを祝てたのは久々だ。恥じらい、という感情が生まれたことが嬉しくもあり寂しくもある。
「まぁまぁ、疲れてるだろうしあたしが洗ってあげるから~♪」
「んぅ……」
 体に触れると、確かな体温と反応が伝わってくる。恥ずかしいところを手で隠そうとするのがなんともいじらしくて意地悪したくなっちゃうけど、今はまだ抑えておくことにした。一通りボディーソープで身体を包んで、シャワーで一気に洗い流す。身体から滴り落ちる水と泡が、垢を巻き込んで流してくれる。
「次はオレがやるから」
「そう?じゃあお願い♪」
 浴槽に座り込んで、目を閉じて待つ。晴ちゃんの指があたしの髪を掻き分けて、ごしごしと洗ってくれる。髪が長いせいで大変だろうに、しっかり洗ってくれる。こうしているときのあたしの背中は無防備だろうけど、後ろにいる恋人はきっと信頼に応えてくれるって思えるこの時間が心地いい。
 そんな時間に浸っていると、シャワーが頭の上から降り注ぐ。しゃあー、という水の音と共に頭が軽くなってスッキリしていくのがわかる。頭を振って目を開けると、晴ちゃんは自分の頭にシャワーを当てていた。
 シャワーを元にあった場所に戻して、一緒に浴槽から出る。ホテル特有の大きめのバスタオルが身体を包んでくれる。しっかり拭き残しがないようにして、着替える。朝食をとるには既に時間は過ぎている。今日のやるべきことは決まっているが、さてどうしようか。
「早く行こうぜ、こういうの後に残しとくと気持ち悪いしな」
「そうだねー」
 身支度をして、ホテルをチェックアウトする。向かうべきは、とりあえず警察署だろう。
 途中のハンバーガー屋さんで遅い朝食を取ってから、警察署で事情聴取を受けた。本当はあたしが付き添って上げたかったけど、守秘義務とかなんとかで同席させてもらえなかった。対応してくれたのは優しそうな婦警さんで、ちゃんと話を聞いてくれたらしい。どうやら騒動も知っていたらしく、ずっと心配していたとのことだった。正直そこまでいくと口だけじゃないのかな、って疑ってしまうのはあたしの悪い癖だ。
「それで、どうだったの?」
「うん、心当たりがある人がいるなら捜査しやすいから助かるって……でもやっぱり証拠がないと大変だって……」
「……そうだよね」
 あたしが余計なことをしなければもっと捜査が早くなって、意外にあっさりと事件が解決したのかもしれない。自分の身勝手さに嫌になる。
「あのさ、志希」
「なーに?」
 あたしの名前をわざわざ呼んだ。なんとなく嫌な予感がする。
「オレ、そいつの家に行きたいんだ。誤解ならいいんだけど、どうしてそんなことをしたのかって……聞かなくちゃ」
 その一軒家はオレの家の近くにある。アニキの友達で、家が近いこともあってかよく遊んでもらっていたんだ。これならプロデューサーの名刺を持っていたことも���明がつく。オレの家に遊びにも来ていたし、名刺を盗んだりこっそりコピーするのもそんなに難しくないだろう。オレが狙われたのも……���からなくもない。ただ、もちろん他人の空似だって可能性がある。その微かな可能性を信じて、呼び鈴を押した。少しして、インターホンがつながる。
「どなたですか?」
「結城……晴です」
「晴ちゃん!?ちょっと待ってね!」
 どたどたと音がして、玄関を開けて出てきたのは昔からのアニキの友達で、オレもよく遊んでもらった相手だ。アニキの一つ上だから、大学に入ったばかりだったっけ。髪は茶髪になってるしどことなく遊んでいる雰囲気がある。
「急にどうしたの?まぁいいや、上がって上がって!」
「……っす」
 前の印象通り、どちらかというと気のいい兄ちゃんって感じで、とてもオレを襲うようには見えない。家に上がらせてもらおうとすると、靴の様子から一人しかいないことがわかる。
「……一人なんすか?」
「ああ、両親は仕事でね。お茶とお菓子をもってくから先に部屋に行っててよ」
 少し古い木材でできた階段を昇って、部屋へと向かう。8畳の狭すぎず広すぎない部屋には、本棚と机とベッドがある。ただ、本当になんとなく机の上の写真立てに目線をやると、そこに映っていたものに驚いて思わず駆け寄ってしまう。
「オレだ……」
 そこに入っていた写真は、アイドルをやっているときのオレだ。よく机の上を見てみると、プラスチックの敷台の下にオレが載っている週刊誌の記事や写真が所狭しと敷き詰められている。疑念が確信に変わって、身体に力が入らなくなる。腰が抜けて膝から下の感覚がなくなって、その場に崩れ落ちる。
「あー、見ちゃったか」
 振り返ると、そいつは部屋の入口にお茶とお菓子を盆に乗っけてやってきていた。
「せっかくお茶に色々仕込んだのに……無駄骨になっちゃたな」
 盆をその場に落として、派手に食器が割れる。お茶とお菓子が飛び散って辺りを汚した。
「なんで……こんなことするんだよ……」
 その言葉に口端を歪める。汚い大人のような笑みを浮かべてこちらを見る。
「君と会ったのは、三年くらい前だったね。あの頃は小さい子供……弟みたいな子だと思ったんだよ。失礼かもしれないけど、見分けがつかなくてね。でも、そんな君がアイドルになったっていうじゃないか!驚いたね!サッカー仲間だった君が可愛らしい衣装を着てステージの上に立っていたんだから!その時の興奮といったら……もう言葉じゃ言い表せないほどだった。会って話をするために家にも行ったんだけど、忙しそうな君とは中々会えなかったんだ。そんなときにたまたまあいつの部屋で名刺を見つけてね。もう僕にはそれが天国へのチケットに見えたよ!あとはそういうことに詳しい友達に頼んで君を襲ったってわけさ!」
 あまりにも衝撃的な言葉が流れてきて、理解が追いつかない。
「そんな……理由で……オレを……」
「君はもっと自分が魅力的だということと、無防備であることを自覚した方がいいよ。あの時の続き……ここでさせてもらおうか!」
 そいつ��オレに近づこうとした瞬間、声も出さずにその場に前向きに倒れた。立っていた場所に代わりに立っている人物がいる。
「正義のヒーロー志希ちゃん、ここに参上!……こういうのはキャラじゃないけどね」
「……ありがとな」
 こっそり家に入ってくれていた志希はぎりぎりのところで助けてくれた。後少し早かったら証拠が掴めなかったし、遅かったとしたらまた酷い目に遭わされていただろう。もっとも、志希がいるってわかっていたから、後者の状況になることは初めから頭になかったのだけれども。
「ナイスタイミングだったね~♪」
 志希がこちらに近づいて、オレのポケットからボイスレコーダーを取り出す。
「これがあれば警察もちゃんと動いてくれるでしょ~♪ささ、通報通報」
 確かにボイスレコーダーがあれば、さっきの発言で捕まえることができるだろう。しかし、よくよく考えるとなぜオレのポケットにそんなものが入っているのだろう。録音するなら別に志希が持っててもよくないか?確かにオレが持っていた方がちゃんと録音できるだろうけど、壊されでもしたらどうするつもりだったんだろうか。
「大丈夫、予備のボイスレコーダーを晴ちゃんに仕込んでるから♪」
「……なあ、それ聞いてねーんだけど」
 気まずい沈黙が流れる。そのうち、どちらからともなく笑ってしまって、全てが解決したことをお互いに喜び合った。
 あれからアニキの友達は逮捕されて、押収されたパソコンからもう一人の共犯者も逮捕された。何日も事情聴取に付き合った後、オレは家族の元へと帰った。両親もアニキ達も一日中泣いて、片っ端から出前をとったり、オレの好きなものばっかりの料理で祝ってくれた。ひたすらに喜んで騒いで、戻ってきたものをひたすらに喜んだ。いや、まだ取り戻してないものがある。それを埋めるため、今オレは志希と共に事務所の前にいる。ある資料を持って。
「晴ちゃんとアタシのアイドル復帰から二人の新ユニット結成と新楽曲!これは沸き立つよね!」
 今例の二人逮捕されて、またオレの名前が悪い方向に広まってしまっている。それを全部吹き飛ばすために、二人であれこれ作戦を練った結果これしかない!となった。
「でも上手くいくかな……オレら結構サボってたし」
「ん~?事前に連絡したけど別にいいって!アタシこう見えて優秀だからね~♪」
 ちゃっかりしている。でもそのおかげで、緊張とか色々そういうのが抜け落ちてしまった。
「……晴ちゃん、本当にいいの?」
「何がだよ」
「アイドル活動してたら、またああいうことになるかもしれないよ?」
「その時は、志希が守ってくれるんだろ」
 返事の代わりに、ウィンクで返される。
「せっかくならさー、付き合ってることも公表しちゃおうよ♪そっちのがやりやすいし」
「……好きにしろよ」
「あれ?否定しないんだ」
 当たり前だ。というか二人で失踪して復帰してって時点で、なにかあると勘繰られるのは普通だろう。
 だけど、本当の理由はそうじゃない。偶��降り注いだ不幸で鳥籠の中に一緒に縛られるよりか、お互いがお互いを愛し合って思いあって縛りあうように生きていくほうが何倍も何十倍も何百倍もいいから。
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rmpgkzm · 5 years ago
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Review of "The Riot"
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さて、本日は何の日でしょうか。そうです、THE RAMPAGEの2ndアルバム「THE RIOT」の発売日です。RIOTというのは訳すると暴動という意味を持ちますが、"THAT'S A RIOT"とすると"面白い、盛り上がる"という意味にもなり、その二つのダブルミーニングを込めて今回のアルバムのタイトルに決めました。
結構前に、Tumblrで書く事が無いなと悩んでいた時。THE RAMPAGEの全ての楽曲の紹介というかレビューというか、そういうのを書こうかなっていうアイデアを思い浮かんだ事が有りました。何人かから読みたいとかやってみなよとか後押しを貰ったんすけど、結局それは俺の不精が祟って実現せずに終わって。今回アルバム発売というタイミングでそれをふと思い出して、時間も有るし今作の楽曲だけでも書いてみようと思い立った訳です。予想以上に大変で諦め掛けたんすけど、どうにか形に出来たので自己満足で載せたいと思います。でも折角書くのに普通の宣伝ツイートのような内容だけじゃつまらないし、俺らしさや俺が存在する意味も出ないと思ったので。今回は、公式や本家の目線と、俺自身の目線、フォロワーさんなどの目線、この三つの面からの紹介をします。なので俺自身の目線はもう私情出まくりです。多分読めば「此奴はこの曲をゴリ推ししてるな」とか「この曲はあんまり好きじゃないんだろうな…」とか色んな事が見え見えな気しかしません(笑)なので本家らしさを求める方はofficial sideだけを、俺自身の好みも知ってみたいよって方はown sideも、他の人の意見も聞いてみたいよって方はfollower's sideも併せて。折角ならアルバムを聴きながら読んで貰えたらと思います。それでは行きますよ。(そして何よりこの度企画に協力して下さった方々、時間も限られてる中で本当に���難うございました。そして何より、普段から俺らの楽曲を聴いて下さってる事に心から感謝です。これからも末永く、THE RAMPAGEを宜しくお願いします。)
01. THROW YA FIST
◇official side
‪初のアリーナツアーのタイトルに���なった楽曲。"THROW YA FIST IN THE AIR"は訳すると"天に拳を上げろ"という意味で、ライブでは俺達もファンの方もそこに居る全員でTHE RAMPAGEの象徴でもある拳を掲げます。因みにその部分の掛け声は、パフォーマー含む16人全員が集まりスタジオで収録。ツアーに対する意気込みの詰まった熱い楽曲となりました。
◆own side‬
‪初っ端から掛け声パートでかっ飛ばしてるので、この曲は最初から思い切りぶち上がる。初めて聴いた時からライブ一曲目はこれで決まりだなと思わずには居られませんでした。オススメは、Cメロ前の少し静まる間奏のパフォーマーダンスからの、ボーカルソロ回しからの、大サビまでの上がってくあの流れ。「Let it go, Let it go 拳上げて」はバチバチに気合入ってるんで、注目して聴いてやって下さい(笑)‬
◎follower's side
やっぱりこの曲を聴いて思い浮かぶのはアリーナツアー。YouTubeにも映像があがっていますが、オープニングから花道で16人一列になって拳を掲げる光景はかなりのインパクトです。あと忘れないで欲しいのは「Throw ya fist in the air」の部分。ボーカルだけじゃなく、16人全員の声が入っています。だからって訳じゃないけどすごく気合いの入る曲。これを聴いて通勤も通学も拳掲げて乗り切りましょう。(written by 藤原樹)
Throw Ya Fistはですね、みなさんあれなんじゃないですか?聞いた瞬間あのLIVEがこうブワッと蘇ってくるんじゃないですか?拳を掲げろという意味があるだけあってむちゃくちゃ曲頭から気合の入った仕上がりになってますよね!ボーカルだけじゃなく、パフォーマー含め全員でRECしたのもいい思い出です(笑)ぜひDVDにもしっかり収録されてるLIVEと合わせて楽しんでいただきたいのでね、ご購入前って方はぜひDVD付きの方で!なんてね!(written by RIKU)
02. Move the World
◇official side
‪このアルバムの表題となってる楽曲。"Move the World"というタイトルには「自らの手で世界を変える」「先を求めて世界を移り渡る」という二つの意味が込められていて、今迄の軌跡と未来への決意が感じられる作品に仕上がりました。振り付けも四人体制で行い、レゲエベースという事で"Fandango"と"LA FIESTA"もモチーフにされています。そんなダンスも合わせてご覧下さい。‬
◆own side
‪この曲はTHE RAMPAGEの楽曲にはあまり多くない、音サビの楽曲。つまり、あくまでボーカルがメインでは無いと思っていて。パフォーマーのダンスや今迄の軌跡が詰まったMVに、歌で意味を添えるのが俺らの役割だと思うんすよね。なので是非MVを観ながら聴いて欲しいです。このチーム分けエモいなとか、この振付やMV懐かしいなとか、色んな楽しみ方が出来ると思います。‬
◎follower's side
俺が注目してほしい��の曲のアピールポイントは、冠詞に 「a」 をひとつも使っていない、英語表現。「どこにたどり着けるのかまだわからない」 とは言えども、迷いや不安はない。見つけたい道も、動かしたい世界も、既に本人たちの中に答えが出ていると言外に伝えてくる姿勢の頼もしさ。英語と日本語の使い分け、そして細かい言葉選びがあまりにも堪能で、感嘆せざるを得ない一曲。是非、よくよくよく歌詞を追って聴いてほしい。何度も聞いて、噛み砕いて、自分なりの解釈を見つけてほしい。意図的に解釈に幅を持たせた表現が故に、きっとこの歌はあらゆる人に響くと思います。 (written by 佐藤大樹)
Move the Worldの面白いところはボーカルの歌割りが変わるだけでガラッと印象の違った曲になるところだと僕は思ってます。一見音サビというかパフォーマーメインともとれるかもしれないけど聞き込めば聴き込むほどいろんな表情が見えてくるんですよ。何度かテレビで歌わせてますがどうぞ長い目で見るならぬ長い耳で聞いてやってください、どんどん変わって聞こえますよ!(written by RIKU)
03. DOWN BY LOW
◇official side
‪アニメ「FAIRY TAIL」の主題歌としても起用して頂いた楽曲。アニメの世界観を反映させた、仲間や家族を大事に想うというメッセージ性が強く歌詞に表れています。アニメ主題歌らしくポップでキャッチーなノリの良いメロディーラインにもラップが融合されていたりと、THE RAMPAGEにとって新しい音楽性を生み出せた一曲にもなっています。‬
◆own side
‪ポップで聴いた瞬間から思わず身体が動いてしまうような楽曲。ライブではサビで皆んなで手を振るんですけど、やっぱりなと納得でした。メロディーラインの合間に、メロディアスなラップらしくないラップが綺麗に組み込まれているのが新しくて好きです。そして何より、こういう楽曲をパフォーマンスしている時のメンバーが楽しそうで良い。その場に居る全員が笑顔になれる一曲です。‬
◎follower's side
軽快なサウンド、爽やかで前向きな歌詞の中に響くボーカルのクールなラップパート。どこをどう切り取っても魅力的なメロディしか無く、壱馬・陸・北人それぞれのパートが絡み合うラスサビのメロディが気持ち良い。ライブになるとサビ部分にファンのみんなとの一体感も生まれるような演出もあって、イントロの一音が鳴った瞬間から無条件で心が高まる。(written by 岩田剛典)
DOWN BY LAWは僕個人的に一番好きな応援歌なんですよね。【僕らならどんな期待値も超えていくto the top】っていう歌詞の部分がむちゃくちゃ好きです!なんかこうファンの方も同じ風に思ってくれるところなんじゃないかなと。歌っている僕らが言うとこじゃないっすね(笑)テンポよく聞けるしキャッチーな感じでもあるんで聴きやすいと思います!(written by RIKU)
04. SUMMER DAYS
◇official side
‪イメージキャラクターを務めさせて頂いてる"ICE BOX"のCMにも起用して頂いている楽曲。疾走感があってキャッチーなトラックの爽やかさに対して、力強い歌詞の熱さ。その二つが織り成す、まさに「これぞ夏ソング」という仕上がりになっています。伸びやかなボーカルワークにも注目頂けたらと。ライブでも盛り上がる事間違いナシな一曲です。
◆own side
‪この曲を流した瞬間に「夏が来た!」とテンションが上がりますよね。きっと真冬に聴いても思わず体温が上がる、はず。この王道なキラキラな爽やかさが俺は結構好きです。野外フェスでやったら最高な感じ。因みに此処だけの話、これは誰に合う曲だなーという印象を持つ事があるのですが、この曲はダントツで"リクさん曲"です。高音で伸びやかで熱さのある彼の声が一番映えますね。‬
◎follower's side
SUMMER DAYSの好きなところはサビ前の北ちゃんと壱馬のI Believeの発音の良さ(笑)良くない?共感してくれた方はぜひ教えて!いつか夏のライブとかフェスなんかに参加させてもらったらぜひやりたい夏らしい曲だよね、水鉄砲持ってさ、お客さんにかけたりしながら一緒に楽しみたいです!参加希望の方もお待ちしてます!(笑) (written by RIKU)
05. WELCOME 2 PARADISE
◇official side
‪グループにとって新境地と言える"ゆるさ"がテーマとなっている楽曲。浮遊感はありつつも、THE RAMPAGEらしいヒップホップテイストは残されている、ベストなトラックに仕上がったのではないかと。SUMMER DAYSとはベクトルの違う夏ソングとなっています。韓国のリゾート施設"パラダイスシティ"にてラグジュアリーな非日常感のある雰囲気での撮影で、ドレスアップしたメンバーの新たな一面も見れるMVにも注目です。‬
◆own side
‪今年、フォロワーさんから「この曲が好き」との声を最も貰った楽曲だと思います。因みに俺も個人的に凄え好き。THE RAMPAGEの表現の幅を間違い無く広げてくれた一曲かなと。2番サビでの横並びでのパフォーマンスがお気に入りで、抜け感のあるジャケットを用いたダンスもキャッチーで可愛いですよね。是非この曲を聴いて"解けない魔法"に掛かって下さい。…そこのフレーズはやっぱり一押しポイントです(笑)‬
◎follower's side
ワタクシ、中島裕翔が選ぶ、THE RAMPAGE's BEST SONG of "THE RIOT"はもう圧倒的にコレでした。「WELCOME 2 PARADISE」です。通称W2P。この曲で一気にTHE RAMPAGEにどハマりした入門曲。元々低音域でリズムを取るようなEDM系の曲が好きなんですが、重低音とフィンガースナップで始まるAメロと、それに乗せて奏でられる壱馬ちゃんのカッコいいボーカル。最高でしかなかった。俺のツボをまとめて鷲掴みされました。イントロのラップも当たり前にカッコいいですしね。そこからまた激しい転調もなく、聴き心地抜群のサウンドに乗せた清涼感溢れる陸くんの歌声と、甘く柔らかな北ちゃんの歌声も最高で。あとね、MVもランペのみんなが楽しそうでめちゃくちゃ好きだし、振りもこれ絶対踊って楽しいだろー!っていう複雑過ぎず、単調過ぎないダンスで見てても楽しいです。個人的に2番のサビの振り付けが1番好き。ランペのみんなが横一列に並んで踊るのがまた可愛らしいなぁと思いながらMVを鬼リピしてました。一時期。サマーソングといえばズバ抜けて明るいアイドルソングが定番というか、思い浮かべがちかもしれないんですけど、俺の中ではもうW2Pです。真っ青な空に浮かぶ綿飴みたいな入道雲というワクワクするような景色を見ると、絶対に聞きたくなるのがこの曲。是非聞いてください。聞かないと貴方の人生、9割損します。(written by 中島裕翔)
こちらのWELCOME 2 PARADISEはちょっと大人な雰囲気の夏曲ですね。MVで海外に行かせていただき、かなり派手に撮影して陣くんの鼻の下が伸びっぱなしだったこと…皆さんも忘れてないですよね…(笑)雰囲気たっぷりなこの曲なのでぜひ夏だけじゃなくこれからの季節もパーティーシーンで活躍できる一曲だと思ってるのでどうぞ!(written by RIKU)
06. All day
◇official side
‪今回のアルバムで一番好きだと某インタビューで自身が答えた楽曲。繊細かつ軽快なトラックに、洋楽として聴き込めるクオリティーを追求したボーカルワークを乗せました。Nobodyに続いての挑戦である全編英語詞の本作。幼い頃から英会話を習って来たのを最大限に生かし、発音に関しては自信しかないです。高音、中音、低音とスリーボーカルがそれぞれの持ち味を最大限に引き出してます。‬
◆own side
‪初めてこの曲を聴いた時から、何と無く俺は水を連想させられるんすよね。川の流れのような、静かに波寄せる海のような、炭酸飲料の表面に浮かんで来る泡のような。この表現が共感を貰えるかは分かりませんが、兎に角それくらい耳馴染みが良くて聴き心地が良い。そんな柔らかさが売りです。Nobodyと同じようなパート振りですし製作陣も一緒ですが、表と裏のような異なる魅力を持つ洋楽を楽しんで貰えると思います。‬
◎follower's side
これはまだ曲の流れを完璧に覚える程聴き込んではいないんだけど、個人的な意見として「You got 〜」から始まる一番最初の壱馬のパート、そこを聴いた瞬間にマジでコイツ天才なんじゃね?って思いました。表現が子供すぎるけど(笑)聴き進めるうちに、ああ、やっぱり逸材って存在するんだなあと。Nobodyもそうだけど、英語歌詞をただ単語の発音と音程だけ覚えて歌うんじゃなくて、完璧に「歌」を自分のものにして歌ってるのが聴いてて衝撃を受けた。(written by 岩田剛典)
洋楽好きな方はきっと好きになるメロディライン。運転中に聴きたくなる一曲です。(written by 窪田正孝)
僕らの2つ目の全英詞楽曲。爽やかなメロディが心地いい1曲。英語の意味がわかるとなお聴き入ってしまう楽曲じゃないかなと。簡単に言うと愛する人への想いを謳った歌詞。もうひとつの英詞楽曲とはまた雰囲気の違った曲で、ボーカル達の色んな表情が見れると思います。(written by 長谷川慎)
全編英語歌詞の第2���としてやらせてもらってるのがこのAll dayですね。この曲個人的にむちゃくちゃ思い入れが強い!片思いの曲ではあるんだけどかなりストレートな表現が多くて好きなんだよね。好きな子はやっぱり特別に見えるのなんて当たり前だしさ、君しかいない、君だけを想いすぎてる…なんて事を爽やかに歌い上げてます(笑) (written by RIKU)
���調からまずツボです。曲頭から30秒のちょっと明るいポップ音からのビート音がたまりません。そこからの最後の高音がもう…言葉失うやつです。そこにきて、歌詞が、幸せいっぱいですね。こんなに想われて幸せいっぱいになる人が沢山いればな、なんて思えちゃう曲です。以上です。(written by K)
07. Nobody
◇official side
‪THE RAMPAGEにとって初の全編英語詞の大人っぽい楽曲。メロディーと歌詞共にとてもセクシーで、R&B調のラブソングとなってます。総じてとても攻めた挑戦とも言える楽曲。All dayと同じく英語は得意分野なので、自分の強みを最大限に活かさせて貰いました。楽曲に合った流れるような艶っぽいダンスも、普段のエネルギッシュなパフォーマンスとのギャップが有ってオススメです。‬
◆own side
‪最初の一音目だけで、ああこの曲はオシャレだなって確信出来る。個人的にグループ楽曲の中でも五本指に入るくらい好きです。自分で言うのは大変烏滸がましい事だと重々承知の上ですし、批判も幾らでも受け付けますが、この曲は俺の曲だなと。勝手に思ってます、はい。2番のAメロから長いパートを一人で歌わせて貰ってるんすけど、最大級に格好付けてるのでライブでパフォーマンスを見て欲しいです。是非。‬
◎follower's side
好きな所は歌詞で言うとBaby give me your love,you know I can't get enough.の部分。どれだけあっても足りないくらい君が好きーみたいな感じじゃん?和訳は合ってるか不明(おい)やけど、自分が今恋愛してる身としては凄い気持ちが分かるなーって。トータルで見ちゃうとめちゃくちゃエロい曲だけど、相手のことを一途に想うのってめちゃくちゃ素敵なんやなって思えた曲。(written by 片寄涼太)
Nobodyは初めて全編英語歌詞の曲としてやらせてもらった曲でね、まー…大人ですよ!かなりセクシー(笑)でも曲が出来上がった時、パフォーマーのみんながめちゃくちゃ褒めてくれて、早く踊りたいだとかうちのボーカルたちは天才なんてことをSNSとかにあげてくれてたりして、なんかRAMPAGEっていいなって思いました。(written by RIKU)
08. So Good
◇official side
‪グループに今迄無かったジャンル、ブラックミュージックの楽曲。都会的なムードを纏ったスロウジャムで、極上のラブソングとなってます。特別な人への想いを綴った歌詞を、語り掛けるように歌わせて貰いました。飾り気の無いミニマルなトラックだからこそ映える、経験を積んだ今だからこそ出せるスリーボーカルのコーラスワーク。間違い無く、今作の中でもボーカルの自信作に仕上がってます。‬
◆own side
‪一回聴いただけで衝撃を受けたのは、Nobodyに続いて二度目でした。いや、それを超えたかもしれない。こんな歌い方が出来るのか、こんな綺麗なコーラスワークを織り成せるのか、とボーカル勢の表現の幅の広がりに��服。THE RAMPAGEとしてではなく1アーティストとしてなら、知らない人にオススメを聞かれたら何の迷いも無くこの楽曲を提示します。それくらいに好き。鬼リピしてるので皆さんも是非。‬
◎follower's side
一番好きかもしれないです。すごく踊ってみたい曲。ブラック要素のあるものはこれまでにもありましたが、こんなにしっとりした曲は初めて。最初に聴いた時の印象は大人になったRAMPAGEのちょっとセクシーな曲。でもよくよく歌詞を見ていると相手のことが好きでたまらない、初々しさを感じる曲。この年代だから表現できる色気に男性も女性もキュンとして欲しいです。(written by 藤原樹)
凄く好き。何だろうなぁ、三人の甘い声がとにかくいい感じに合わさっていて聴いていて心地良いし、何より歌詞が凄く情熱的で良いなって思った。いい意味でランペっぽくないと言うか、また違った雰囲気が素敵だなって思った一曲!(written by 志尊淳)
So Goodは初めてかな?王道R&Bでね、まさにって感じの曲。個人的に好きなジャンルなのでこれはもう気合い入れてRECしましたね。かなり心地のいいサウンドになってますからね、気持ちを落ち着かせたい時とかぜひ目を閉じて僕らの歌声に癒されてください、癒します!(written by RIKU)
09. One More Kiss
◇official side
‪DHCさんとのコラボでリップクリームのCMにも起用して頂いた楽曲。大人っぽくセクシーなミッドバラードで、現在進行形の恋愛をテーマにしたラブソングになってます。今迄に磨いて来た表現力を最大限に詰め込んで、情感たっぷりに歌い上げさせて貰いました。これも今迄のTHE RAMPAGEには無かった曲調で、良い意味でイメージを崩せたのではないかと思ってます。‬
◆own side
‪CMで披露させて頂いたあんなクサい台詞にも負けないくらいの、王道ラブソング。そりゃそうですよ、タイトルだって「もう一度キス」なんてベタな感じなんですから。切なくて、触れたくて、伝えたくて。そんな不器用な男の真っ直ぐな愛情が歌詞に其の儘詰め込まれているので、きっと聴いたらドキドキして貰えるんじゃねえかなって思ってます。一口齧るだけで、もっともっと欲しくなる。はず。‬
◎follower's side
まっすぐでどこか切ない恋する気持ちを謳った歌詞を、バラードらしくないアップテンポな曲調で、でも心に染みるような自慢のうちのボーカルたちの声に乗せて届ける1曲。数ある僕らの楽曲の中でもお気に入りの楽曲です。(written by 長谷川慎)
One More Kissは好きな方多いんじゃないですか!歌詞がいいのはおそらく皆さん分かってらっしゃると思うので俺の好きなポイントはBメロの流れるようにボーカルの人パートが切り替わっていくところです(笑)あの感じなんか良くない?ねえ!(笑) (written by RIKU)
10. SWAG & PRIDE
◇official side
‪主演を務めさせて頂いた"HiGH & LOW THE WORST"の主題歌として起用して頂いた楽曲。重厚なサウンドに、映画の世界観を盛り込んだ頂に向けて駆け上がる覚悟を綴った歌詞を刻み込むように力強く歌ってます。作品に携わらせて頂いたメンバーも多い為、MVも含めて特に気合を感じて頂ける一曲になっているかと。辻と芝マンが考えた、ハイロー感満載の男らしい振付も要チェック。‬
◆own side
‪映画を観て下さった方は、この曲を聴いた瞬間に色んな場面が蘇って来��すよね。俺はもうフラッシュバックしまくり。俺演じる楓士雄が歌の傍らで「行くぞテメェら!」って叫んでるのもきっと聞こえて来るはずです。ハイローの曲という印象が強過ぎて、ふとタイトル何だっけ?ってなりがち。それくらい映画にも勢いを与え、映画によって更に彩って貰えた、そんな一曲かなと。‬
◎follower's side
やっぱ贔屓目ありありなのは承知で言いますが「SWAG&PRIDE」は外せない!曲はもちろんだけど、MVにもカッコ良さが詰め込まれていて。メンバーそれぞれみんな表現力が豊かで凄くカッコいいけど、俺的には特に壱馬の色んな表情が一気に見れるMVな気がして凄くお気に入りです。映画とも凄くリンクしていて、こう聴けば聴くほど胸が熱くなると言いますか。推しに推しまくりたい一曲!(written by 志尊淳)
THE RAMPAGEってどんなグループ?って訊かれたらまずはこの曲を聴いてみて、って薦めたい一曲です。映画版のHiGH&LOWシリーズはEXILE TRIBEさんのイメージがあったので、どういう切り口で世界観に食い込んでくるんだろうと思っていたんですけど、この曲は作品にぴったり合っているなぁと感じました。サビの部分の壱馬くんが物凄く格好良い。(written by 窪田正孝)
SWAG&PRIDEは俺の相棒たちの映画の主題歌にもなってましたね!RAMPAGEらしくこうゴリゴリに踊る力強い曲に仕上がってます。MVでは俺がほとんど服着てないみたいなこと言われてましたがちゃんと着てますので安心して見てみてください(笑) (written by RIKU)
11. FIRED UP
◇official side
‪SWAG & PRIDEと同じく、"HiGH&LOW THE WORST"の挿入歌として起用して頂いた楽曲。過去のレパートリーには無かった、THE RAMPAGE流儀のゴリゴリのロックチューンです。これまた映画の世界観を上手く落とし込んだ攻撃的なトラックとリリックが格好良過ぎる。聴くだけでボルテージを最高潮に上げて、貴方の心にも火を付ける事間違いナシです。
◆own side
‪言いたい事は一曲前と同じ。聴き出した途端に、きっと頭の中で漢達がテッペン目指して拳で暴れ回り出しますよね。そして聴き終わる頃には燃え上がって、貴方も戦いたくなってるはず。それはそうと、少し余談挟むと。聴き始めた頃、この曲とSWAG & PRIDEが混ざって仕方無かったんすけど、共感者居ません?俺だけかな。それ程きっと何方もハイローの世界観の色濃い楽曲なんだなって解釈です。兎にも角にも、行くぞテメェら!‬
◎follower's side
FIRED UPは映画の挿入歌なんだけどね、これがまたいっちばんかっこいいところで流れるんだよね!もう映画館でうおーって言いたくなるくらいいいタイミング!2人が映画で頑張ってる分、俺も歌声で後押しできたらな、なんて思いもありますんでライブで披露させてもらった時はつい力が入っちゃいました(笑)まあ次回作はね、リンダマンとして僕リクも出演を…夢見てますので(笑)オファーお待ちしてます!(written by RIKU)
12. Starlight
◇official side
‪ドラマ"ゆうべはお楽しみでしたね"の主題歌��起用して頂いた楽曲。星空をテーマに淡い思い出を歌った、冬にぴったりの王道なラブソングになってます。グループとしては2作目のオリジナルバ��ードです。JAY'EDさんが手掛けて下さった歌詞が切ないメロディーに乗っかって、聴いている方を冬ならではの独特な情緒的な世界に引き込んでくれます。‬貴方もきっと夜空を見上げたくなるはず。
◆own side
‪カラオケに行くと、必ずと言って良い程この曲をリクエストされがち。フォロワーさんからも好評の一曲。バラード大好き人間の俺にとっても大好物です。そしてこれはまさに"北人曲"ですね。彼の透き通った甘い声が最も映える、本人も大好きな曲みたいです。俺のオススメの部分は、ラストの大サビ。個人的に転調に滅法弱いので、メロディーラインにあっという間に感情を誘われる。実は歌ってる時もこの部分で毎回涙腺やられそうになります。っていう、此処だけの秘密の話を添えて。‬
◎follower's side
「星のないこの街の空のように、心も淀んでしまうのかな」この歌詞に一目惚れして好きになった『Starlight』もちろん胸打たれたのは歌詞だけじゃなく、耳と心へ届けてくれた歌声とメロディがあったからで。特に歌うのなんか他の誰かではダメ、彼達じゃないと。この曲は皆がいろんな恋愛をしてきた中で密かに持っている恋情に綺麗な色付けしてくれるようなものだと思っていて。最初のメロディが流れた瞬間からこの曲の雰囲気とか世界に引き込まれるし、どの季節の夜にも合うと思います。だから太陽ほど明るくない恋の感情に浸りたい夜や、ふと淋しくなったらこの曲に寄り添ってもらってみてください。きっとどこかあたたかい月明かりが聴いた方の心にまで届くはずです。(written by 今市隆二)
切ないけど綺麗な情景が目に浮かぶような歌詞とゆっくりで優しい曲調で、聴きやすい曲だし切なくて胸がぎゅっとはなるけど本当に素敵な曲だと思う。それにボーカル3人の声が上手くマッチしていてさらにこの曲の魅力を引き立てていて最高の一曲です。(written by 町田啓太)
StarlightってあのStarlight?これはもう壱馬にオススメされてから俺の大好きな一曲になって、何か曲聴こうってなった時は必ず聴いている一曲だよ。本当に大好きな曲。これもボーカル三人の甘い声が堪らなく良くて本当に気持ちが良い。曲調ととにかく好き!ドストライク!(written by 志尊淳)
Starlightの好きなところは北ちゃんの声だね(笑)サビ終わりのとこの【今も1人探してるStarlight】の最後のらーぃって感じでちょっと上がるのがいいの!もう、そこがね!(笑)曲自体はかなり切ないから僕たちもかなり心を込めて歌い上げてますから!思い切り切ない気持ちになって聴いてください。(written by RIKU)
13. Seasons
◇official side
‪繊細かつ壮大な王道バラード楽曲です。グループ結成から5年間の軌跡、何時も共に夢を追い掛け切磋琢磨し合えるメンバーやサポートして下さるフ��ンの皆様への感謝、そして未来へ進み続ける決意を綴った歌詞を情感たっぷりに歌い上げました。このアルバムの中でも大事なラストソングになっていて、俺らが抱える感情全てが詰まっています。THE RAMPAGEが今一番届けたい、そんな一曲です。‬
◆own side
‪THE RAMPAGEとして活動して来て五年。この曲の詞をなぞって貰えれば、俺らがどんな感情で歩��で来たか、どんな感情をメンバーやファンの方々という愛する存在に届けたいか、全てを解って頂けると思います。日記のようなラブレターのような、そんな一曲です。オススメの部分、探しましたが選べませんでした。この曲に関しては聴いて全てを受け取って欲しい。どうかこれからも、ずっと一緒に。‬
◎follower's side
Seasonsは特別な曲ですね。言うなれば僕らRAMPAGEから応援してくれる全ての方に宛てた最初のラブレターです。ぜひ歌詞を読んでいただいて、それから曲を聴いてもらえたら。決して自分たちの力だけでは到底ここに来れなかったこと、今までもこれからも皆さんがいてくれるから僕らが前を向いて、夢を見れること。そんなことが伝わればいいなと想います。(written by RIKU)
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shosawatari · 6 years ago
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観劇後、劇場そばにてタンメン🤤 美味い美味い美味い😋 #キ上の空論 #新垣里沙 #岩井七世 #みどり色の水泡にキス #あうるすぽっと#清水みさと (だいはち 大塚店) https://www.instagram.com/p/BpMZ-ESF6hS/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=1wnjxy2thwunz
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lllusioninthehead · 5 years ago
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2019/06/26
「浮気してるの?」
彼女の照れ隠し。容姿を褒めるとき、服装を褒めるとき、髪型を褒めるとき。
顔の半面が見えないようにそっぽを向いてそう言う。
苦笑いしながら「してないよ、なんで?服よく似合ってるよ」と視線を送る。
マルイ本館の前で待ち合わせ。目当ての映画に振られた彼女は膨れっ面をしていた。水曜日ではや上がりの会社が多いこともあり、レディースディということもあり。
「上映期間がもう終わっちゃうのにな」と言う、彼女をなだめながらお茶漬けを食べたいという謎のオーダーならお店を探す。
新宿三丁目の上品な焼鳥のお店が思い当たり人混みをかき分けながら移動する。
途中、お店の奥まで吹き抜けになっているタイ料理屋さんからアジア料理の甘い匂いがした。ビールを飲みながらがやがやと楽しそう。でも、残念彼女は辛いものが苦手。
焼き鳥がお皿で出てくるお店。ももとせせりとつくねと水餃子とサラダ。あと、彼女だけだし茶漬け。
昨日あった友達が離婚しそうな話と、彼女が不正出血で産婦人科に行った話とNBAのドラフトで日本人初の1巡目指名があった話。
9位で指名されたその選手は大学4年生にならずに中退でプロになる(NBAのドラフトでは普通のこと)
いきなり大学生から4億円プレイヤーなのだから夢のある話だ。
お金持ちになったら何する?と定番の話もあまり夢が膨らまない二人。ギャンブル、異性との派手な遊び、旅行、車や家…あまり興味がない。
彼女の夢は郊外に広い庭で犬と暮らすこと。そこに俺の姿はない。家族の姿もない。彼女の心は孤独で美しい。遠い未来の話はしないようにしてるのかもしれない。
店を出て、パンプスなのに歩いて帰るのを承諾してくれて、途中手を繋いで、汗をかいて離して。
家についてなんとなく映画を見始めた。
“ビューティーインサイド”少し前の韓国映画。毎日起きるたびに別人になってしまう(比喩ではなく姿形が)インテリアデザイナーと家具販売員の女性の恋愛。
「恋愛映画は苦手」とか言うくせに、見始めると足を組んで食い入るように観るので話しかけるタイミングも迷ってしまうよ。
観るのが3回目だったので、ソファーの隣に座って新しく来た炊飯器の説明書を読んでいた。
土鍋で炊き上げるそれは、どうやらすぐには使えないらしい。
「目止めって言うんだよ」と百貨店の調理器具コーナーで働く彼女は優しく教えてくれる。陶芸品は使う前に気泡を塞がないと割れやすくなってしまうとことだ。その為にお粥を炊いたり、お米の時汁に漬けたりして糊どめをするそうな。
映画を見終わって、顔が変わると免許証やパスポートの更新が大変だだとか、おっさんの時は近寄りたくないだとか好き勝手言いながらベッドに寝ころんだ。
この顔は好きだと彼女は言う。平べったい顔が嫌いだから流行りの塩顔もあまりピンとこないらしい。
「別に濃い顔してないけどね」と頬を触る彼女の手に手を重ねる。いつの間にかに上に乗ってたくさんキスをしてくれる。髪をワシャワシャしたり鼻をつまんでみたり。犬なった気分だ。
今度は八景島シーパラダイスにでも行こうと曖昧な約束をして、彼女の身体を労りながら中に入って。ランニングし始めてから胸が小さくなったと恥ずかしがる彼女の首元からおへその辺りまで唇を這わせた。体温の高いこちらの汗を拭ってくれる。
“ほら、またひとつの色合いが思い出に足された”
最近、気になってる曲が頭の中を流れる。セックスの最中、意外と別のことを考えてしまう。身体は補助線に沿って自動的に動くから。
ghost like girlfriend/girlfriend
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こんな見事な歌い出し知らない。
“過ぎた時間は息をし続ける。戻らないけど”
いつも思うよ。
対人記憶力の薄いから、すぐに君の顔を忘れてしまう。こんなに肌を重ねても、明後日にはあまり思い出せない。だから、会ってるときだけ好きで満足していて。
すぐに忘れてしまうよ、ごめんね。また、思い出させてほしい。何度でも。
しばらく抱き合ったあと、
シーツの残る少しの汚れ、彼女がシャワーを浴びてる間に「気にするかな?」と吹いてタオルを被せた。
夢を見るなら、昔の夢がいい。ゴチャ混ぜの淡い記憶。由来で混ざって、もう判別がつかなくて。感情に触れて
あれ?この感情はいつのだっけ?と辿ってなんとかいくつかの場面を思い出して…。
ほんとはこんな事をしてあげたかったとか。
あのとき、この人はなぜそんなことを言ったのかとか。
思い出すたびに、より深くわかるから。
海底の奥底に記憶を沈め続けている。何度でも潜るよ。その為にいまを積み重ねてる。
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nemurumade · 6 years ago
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ベランダの熱帯魚
 午後十時を回っても、東京の街の気温は二十七度を超えていた。過ぎたばかりの台風の名残か、その空気は少しだけ湿っていて、濃紺色の夜空は分厚い雲で覆われていた。  そんな雲にも似た蒸気が、成人男性二人で入るには狭い浴室を満たし、目の前の男の輪郭をぼんやりと滲ませていた。  シャワーを占領する彼の背後にしゃがみ、レオは浴槽に張ったお湯を頭からかぶった。長い髪の毛先からその水滴がタイルに落ちて音を立てた。顔を上げて髪を搔き上げると、鏡越しに泉と目が合った。 「……なあに、セナ」 「……なんでもなぁい」  と、目を逸らした彼の背骨を人差し指の腹でなぞれば、色��ぽい悲鳴を上げた。  二人は珍しく飲み会に参加した。Knightsの新しいアルバムの完成を祝ってのものだった。とは言っても、酒に弱い泉と司は早々にダウンし、レオは酔う暇もなく、暴走し出した泉——チューハイ二杯を飲み終えてレオのシャツの裾から手を入れてきた——を抱えるようにして自宅へ帰ってきたのだった。  れおくん、と甘い声で囁きながら、泉はレオを壁に縫いつけた。彼のバードキスをレオが受け入れると、彼は赤らめた頰をさらに色づけ、 「シャワー、浴びよう」  と遠慮がちに強請った。こんなに飲ませたのは凛月か、嵐か、それともスタッフの誰かか、と考えを巡らす前に、レオは、うん、と答えた。  レオが身体を洗っていると、丁寧に洗顔をしていた泉はハンドルを捻り、動きを止めた。 「……セナ、」 「なに、」  先ほどよりも声のトーンが低く落ち着いていた。彼の手からシャワーを奪うときに、わざと身体を密着させれば、その耳の裏が仄かに赤くなったのが分かった。 「醒めてきたんだろ」
 そう問えば、彼はなにも答えなかった。どうやら図星らしい彼の耳元にわざと息を吹きかけてやれば、彼の唇から、ン、と甘い声が漏れた。 「え、どっち?」 「醒めてるから!」 「怒るなよ〜、誘ってきたのはセナだろ」  レオはシャンプーを手に取って泡立て、目の前の濡れた頭にその泡を乗せて、優しくマッサージするように指を動かした。 「頼んでないんだけど」 「おれがしたいの」  時折、レオの指が耳に触れると彼の肩が微かに震えた。アルコールが入ると彼が敏感になるのは二十歳の頃に知った。特に耳、と、首。  シャワーの微温湯でそれを洗い流し終えると、彼が振り返ってレオの首の後ろに腕を回し、その身体をぐ、と引き寄せた。彼の呼吸は柔らかなアルコールの匂いがした。  ゆっくりと唇を重ね、その味を確かめ合うように幾度も角度を変える。隙間から差し込まれた男の薄い舌を受け入れれば、それはレオの歯列をなぞり、上顎の輪郭をゆっくりと辿った。  レオは手持ち無沙汰の両手を彼に向ける。右手で彼の後頭部を抑え、左手は首筋から臍の辺りまでを往復する。鳴った咽喉に手を這わせば、キスの合間に吐息が漏れた。泉が空いた左手で、レオの顔にかかった長い横髪を耳に掛けた。  暑い夜は、歯止めが効かなくなる。  いつか、今日みたいな熱帯夜に盛ったら、彼に、発情期なの、と笑われて無性に腹が立ったので、勃起したままの彼にお預けを食らわせたことがある。しかしお預けなのはレオも一緒だ。その夜は同じ屋根の下で、違う場所(レオは自分の作業部屋だった、トイレから微かに聞こえた彼の声を録音したことは未だにバレていない)で自分を慰めるというなんの利益にもならないことをした。今冷静に考えるとばかばか��くて笑ってしまう。  二人でするにしても、生産性という面から見れば、なんの利益もないのは変わらないけれど、と思いながら、離れていく泉の唇を見つめた。 「……セナ、」  彼の唇の端の唾液を拭う。どちらのものか判らないし、判る必要もないと思った。  目を合わせて、それから、もう一度、キスをする。 「のぼせそう」 「……俺も」 「ちょっと、せめてTシャツ着てよ」  パンツ一枚のままベランダに出るレオを、泉はベッドの上から咎めた。 「見てるの、おまえだけだろ」  そう振り返って答えれば、裸のままの泉は何も言わず、腕だけ伸ばして、床に放った自分のパンツを拾い上げた。  ムッとした空気は二時間前とさほど変わっていないように思えた。  メンソールの煙草を一本取り出して、その先端にライターで火をつける。長く息を吐き出せば、紫煙が熱された空気に揺蕩う。  夏は夜、って誰が言ったんだっけ、とまだ冷め切らない頭で考える。中学生か、高校生のときに、古典の授業で習った文章。  夏は夜。冷えたビールにアイスクリーム、それから煙草。汗を流すシャワーの微温湯の温度。泉のひんやりとした滑らかな肌と、熱く火照った唇。  そんなふうに考えていると、 「れおくん、」  と泉に呼ばれた。暗い部屋の中で、ベッドに横たわった彼の白い肌がぼんやりと光っているように見えた。 「……来て」  半分も吸わずに、煙草を灰皿に押しつけて火を消した。皺の寄ったスーツの上に乗り、男の背中に身を寄せた。  髪が短くなって、昨日までは見えていなかった頸の上の方に音を立てて口づけて、その皮膚をつよく吸えば、紅い跡がくっきりと残る。  泉は驚いたようにそこを手で覆って振り返った。 「マーキング」  とはにかんで言えば、 「バカ殿」  と力無い反論が返ってきて、レオはまた笑った。
20180729
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letme--takeyoutoheaven · 2 years ago
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「おかえり」
開かれた扉の向こうで待ち構えた最愛の彼の表情に、肩の力が抜けた。
『ただいま』
インターホンを鳴らしたほんの一、二秒後。玄関のドアが開いた瞬間に、美味しくて懐かしい匂いが漂った。その心当たりはすぐに見つけられた。夕方五時のチャイムを合図に友達にまたねと手を振って、駆けて帰る道中、あの子の家から流れるあの香り。そして、ドアを開ける前にもう半分靴を脱ぎながら玄関に飛び込んだ時、その言葉とほとんど同時に届くあの香り、だ。 彼が一瞬、俺の両の瞳をじっと見つめて、それから眦を下げて微笑む。
『飯作ってくれたの』
「うん、簡単なやつだけど。食べるでしょ?」
スリッパをぱたぱた鳴らしながら彼が先を歩く。キャップを脱ぎながらその背中を追いかけた。
『食べる。何?』
「味噌煮込みうどん」
「ちゃんとしてくれてんな」
IHコンロの前に戻った彼の背中に張り付き首筋に口許を寄せると、「危ないでしょ」と小言を言われたが聞こえなかったことにした。ほんの少しだけ高い肩口に顎を乗せて覗くと、柔らかく食欲を唆る香りが立ち上って来た。
「いや、適当飯だよ。冷凍うどんぶち込んだだけだし」
『いやいや、実に丁寧過ぎる暮らしだわ』
「エ、なんか馬鹿にされてる気がするんだけど」
『なわけないじゃん。俺、御前が作る飯ならなんでも好き』
わざとらしく怒った風の声を作った彼に、肩をすくめてわざとらしく芝居がかった声を作って返せば、彼はけらけら笑った。
『あー、腹減った』
「俺も。もうできるから手洗いうがいしてきて」
『はあい。��、たまご落として』
「お、いいね」
軽やかな口笛を吹くその唇の先へもついでにキスのひとつでも落としてやろうかと思ったけれど、そんな一瞬の魔でこの大事な男に何処の馬の骨とも知らないウイルスが付き纏ってしまったら堪らないので、大人しく洗面所へ向かった。
きっちり指の根元や爪の間まで洗い上げ、泡を水で流した。清潔な白いタオルで水分を拭っていると、ふと見遣った鏡越しに疲れた顔をした男と目が合って、つい、溜息がこぼれ落ちた。閉じ切らなかった洗面所の扉の向こうから乳白色の明かりが漏れていた。食器の音が聞こえる。人の気配とは温かいものなのだな、なんてことは、彼と過ごすようになってから気が付いた。
『ごちそうさまでした』
「ごちそうさまでした」
揃って手を合わせてから、二人分の器を持って立ち上がった。「ありがとう」と言いながら、箸休め用にと出していた浅漬けの皿に彼がラップをかける。作る方と片付ける方、特段取り決めを交わしたわけでは無いのに、気が付けば役割分担がなされている。ときどき逆にもなるけれど、お互いが自然とそのように動く事実が俺はなんとなく好きだった。自然な流れの中にも毎回きちんと感謝の言葉を紛れ込ませる彼のことも、それに紛れて『ありがと、おいしかった』と素直に言える自分のことも。シンクで洗い物を片していると、彼が隣でケトルのスイッチを入れた。
『なに?』
「コーヒー。照も飲むでしょ」
『御前の愛情がたっぷり込められたヤツなら飲む』
「ドリップバッグだけどスタバの社員さんの愛情なら存分に込められてると思うよ」
『まあ、及第点』
「いや及第点貰えちゃうの。嘘だよ、込めとくよ愛情」
『ふは、ありがとう』
シンクの底を打つ水を止めて濡れた指先を拭いた。仕事の早い電気ケトルさんを手にしたその肩に顎を乗せて後ろから腰に腕を回すと、彼はくすぐったそうな声で「なあに」と甘く言った。
「照、ブラックでいい?」
『んー、牛乳あったよね。うんと甘いやつがいい』
「了解」
じゃあおれもそうしよー、と努めて朗らかな声で彼が言った。腰に回した手に、彼の手のぬるい温度が重なる。慣れた手つきで、彼はドリップバッグの備え付けられた二人分のマグにお湯を注いだ。刹那、ほろにがく豊かな香りが空間に広がる。それを鼻腔に吸い込んでから、彼のグレーのスウェットの肩口に顔を埋めて、長く吐き出した。コーヒーのそれと混じり合う君の匂い。ケトルを戻した右手は俺の頭に伸びて、さらりと髪を梳く。ぽたり、焦茶色の雫が水面に落ちる音が聞こえた気がした。
『聞かないんだ?』
「何が?」
とぼけたように彼が言う。あちち、とドリップバッグを指先で摘み上げると三角コーナーに放り、小洒落た白いシュ���ーポットに手を伸ばす。それぞれのマグに角砂糖をふたつずつ、甘党の俺好み。
『分かってて甘やかしてくれてんだろ?』
「今日の照さんはお疲れなのかな、って思ってただけよ」
背中にひっついた俺ことはそのままに、彼は数歩先の冷蔵庫にえっちらおっちら辿り着き、そこから牛乳のパックを取り出した。並べて湯気を燻らせているマグに注げば、どちらも等しく白が溶けて混ざり合っていく。
今日の仕事は、ずいぶん長引いた。同棲し始めて以降、将来の為と大幅に増えた仕事には、もうとっくに慣れたつもりだったけれど、今日はなんだか、ひどく空回った、気がする。接待の場での上司からの手酷いイジりにうまく笑えなかった。自分や友達、彼のことを馬鹿にされるのは、本当はすごく嫌いだった。それでもいつもなら適当に聞き流せていた程度の言葉だったのに、何故だか今日は喉の奥に刺さった魚の小骨みたいに引っかかって、飲み込めなかった。求められている返答を返せなかった。それでもなんとか体裁を取り繕ってかわしたつもりだったけど、接待も終わり帰ろうとした時、先方が薄く笑いながら俺の肩に手を置いた。
「大人になんなよ。もういい歳でしょ」
かっと頬が熱くなるのを感じた。すみません、と小さく答えるのがやっとで、今思えばその態度すらも社会人らしからぬそれだ。自分が迷惑をかけたのだから、もっときちんと頭を下げるべきだっただろう。長く同じ会社に身を置いていて、こういう類いの笑いに乗っかり相手方との親睦を深める事が新人の俺の役目で、いちいちそれをまっすぐ受け止めていたらキリがないことくらい、それこそ大人になる前から知っている。そういう世界で生きてきた。でも何故だか、今日はうまくいかなかった。思えば今日は、昨夜仕事が終わるのが遅く睡眠時間があまり取れないまま臨んだ昼間の会議から思うようにいかず、それもあって気分が落ちていたのだろう。すなわち、俺の問題だ。自分のモチベーションの問題。何の反論もなく、大人なら、こなせないといけない仕事だった。自分の大事なものを馬鹿にされても、大人なら、作り笑顔を貼り付けて求められる言葉を発しなければいけなかった。いつもはもっと鈍感に、それができるのに。
その腰に回した腕に、つい、力を込め過ぎた。彼が「ウ、照くん、流石に苦しいかも」と音を上げて初めて気付く。
『ごめん』
ぱっと拘束をほどくと、彼が振り返り、俺と同じ香りのする髪が鼻先を掠める。黒い瞳が覗いた。
「照が話したいなら聞くよ。だけど、そうじゃないんでしょ?」
そう言った彼の声があんまり優しいから、ぐっと胸の奥が詰まって、何も答えられなかった。シンクの縁に軽く腰掛けた彼は、うんともすんとも言わない俺の腕を引いて、 己の腕の中に導いた。斜め下に位置した彼の胸に収まる。
「いいよ、言わないで。照が今それを口にすることで、もう一度傷付く必要なんかない」
彼の無骨な手が、俺の後頭部をぽんぽんと軽く叩く。肩口に額を押し付けながら、はあ、と吐き切った息は湿っていた。同じ部屋に居る人間に隠し通せないほど気持ちが落ちていることくらいは、さすがに自覚があった。タクシーの窓の外を流れる見慣れた光の街にさえいやに感傷をかき立てられてしまって、あ、なんか無理かも、と思った。だけど、そうか。俺は傷付いていたのか。言い当てられて気が付くなんてまぬけだなあと思うし、気が付いてしまえばそれはじんじん痛かった。
「良いよ。俺のことハンカチにしても」
『泣いてねえよ』
「んは、はいはい」
泣いていなかった。本当に、そのときまでは。けれど、それを許されるとやっぱりちょっと涙が出た。彼のスウェットはグレーの生地だから、水分を含むと痕跡がよく目立った。確かに痛みを伴って存在を主張する傷が体の奥の方にあって、だけど同時に、それを癒そうと甘やかな何かが沁みていた。
『なあ、』
「うん?」
『俺、平気だから』
「うん」
『本当だよ』
頭の後ろに添えられていた手は背中に滑って、子どもを寝かしつけるときのそれみたいに、静かに一定のリズムを打った。
「うん。たぶんね、大丈夫なんだと思う。照が大丈夫って言うなら」
『うん』
「だけど、もし本当にやんなっちゃったときの逃げ場くらいになら、俺、なるからね。覚えておいて」
『うん』
ふっと息が抜けた。明けない夜はないとか、また朝日は登るよとか、そんなことは言わない奴だ。だから好きになったし、守りたいと思った。不確かで曖昧で無責任な言葉に呼吸が楽になって、そして、体を離して顔を上げて、驚いた。
————御前、なんて顔してんの。まるで、自分が傷付いたみたいな。その表情を目にした途端、ぎゅっと胸が締まった。痛かった。そして、ああ————なるほど、理解した。俺たち二人の痛みは、厄介なことに、どうやら伝染するらしい。
「ということで今日は、あったかいもん飲んで甘いもん食って、ふかふかの布団で、寝ろ!」
俺の鼻先にまだ湯気が揺れるカフェオレを突きつけて、彼はくるりと表情を作り替えて笑った。甘くて優しくて温かい香りが面前でふわり流れる。彼のもう一方の手には、きちんと俺の分もある。 こつん、と控えめな音を立ててマグの上部を合わせた。なんだかちょっとくすぐったくて、小声で『お疲れ』と言うと、「お疲れ様!」と彼はやたら楽しげな声で応える。
『てか、甘いもんもあんの?』
「えっとね、アイスと、あとなんか貰い物のロールケーキが一本ある」
『うは、男と同棲してる男にロールケーキまるまる一本贈るの何者? それ俺のことバレてんじゃないの?』
「バカ言わないで怖い怖い、深く考えないようにしよう。照くんの恋人である俺がロールケーキ切りますよー」
『んは、お願いします』
一口だけ含んだカフェオレのマグをケトルの隣に置いて、冷蔵庫の扉に手を掛けようと後ろを向いた彼の背中が視界に映った。見慣れた背中。綺麗な首筋。だけど、その瞬間だけは何故だか少し小さく見えて、思わず飛び付いた。
「オワッびっくりした、何?ていうかカフェオレこぼれるよ?」
『なあ、』
「���によ」
『有難う、大好きだよ』
痛みは、伝染して、そして分散するのだ。何も言わなくても勝手に一緒に背負ってしまって、そして軽くしてくれてしまう君は、骨格から逞しく見られがちだけど存外華奢なその背中に、きっとひとよりちょっぴり多めの荷物を載せている。そして、どうやら俺にも彼とお揃いのその痛覚共有機能が備わっているようなので、今度ぴぴーんとセンサーが察知した暁には、そうだな、俺はキムチ鍋でも作ってやるか。
友達と喧嘩をして帰った日。何も言っていないのに、なぜだか母はいつも自分が怪我をしたみたいに痛そうな顔をして、その日の晩ご飯は俺の分のおかずだけ兄弟より一切れ多かったことを、思い出していた。本当はあの頃から、何にも変わっていないのかもしれない。大人になったなんてとんだ思い上がりだ。だけど、もらったものにちゃんと気付けるくらいには、もう子どもじゃないから。
「ふは、なんか照いつもと違うね?」
『今日は素直な日だからさ』
振り返った彼と小鳥が啄むみたいな短いキスをすると、口の中に含んだ息を転がすようにして嬉しそうに笑った。
彼の言ったとおりにあったかいもん飲んで甘いもん食って、あとついでに一本ずつ缶ビールも飲んで、ふかふかの布団に包まれて抱き合ってたくさん寝たら、翌朝は二人揃って顔がすこぶる浮腫んだ。指を差し合って大笑いしていたら、あ、大丈夫だ、と気が付いた。
もう大丈夫、今日からはまた御前のこと俺が守ってくから。
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usickyou · 2 years ago
Text
ニーナ
(ニーナちゃん①)
 はじめて出会った日と同じようにニーナちゃんは「朝ですよ! おきて、おきてくだせー!」と私のおなかに飛び乗った。「うう」と私はだらしなくうめいて、それからスマートフォンを見る。時間を確かめる。彼女はいつもアラームの五分前、計ったように私を起こしてくれる。こういう荒っぽい方法を取ることも多くて、それはちょっとだけ、最近の悩みの種だった。  アラームを止めたり予定を思い出しながら目を覚ましているうちに、「美優おねーさん」と彼女は私を呼んだ。「美優おねーさん、朝ごはんはどうしやがりますか?」と、うすく濡れた土の色をした瞳はかがやいた。  それは命をはぐくむ色だ。私はその目で見つめられると、いつも背中がまっすぐになっていくのを感じた。 「どうしようかしら」とつぶやいて、私はベッドを離れる。カーディガンをはおると、リビングの扉を開く。そこには淡くくすんだ五月の朝日が降っていて、少しだけ先の未来を、ソファやダイニングテーブルを優しく温めた。  この家が好きだった。好きになった。彼女と出会ってやっと、私はこの家に規則正しく降る朝日のことを知った。もっとも、それは彼女と出会う前には存在していなかったようにさえ思える。 「ニーナちゃんは、なにが食べたい?」と私は言う。 「たまごやきです!」と彼女は答える。はきはきと大きな声で、嬉しそうに。 「待っていてね」と私は言う。  キッチンのフックにはエッグパンがひっかけてあって、それを手に取るとき私はいつも途方もない喜びにおそわれる。目の前はくらくらとして、息がうまくできなくなる。その感覚はやがておさまるけれど、なくならず、私の中に溶け残った。定着した。少しずつ、心にあった白が色づいていくのを感じた。  隣では、彼女がお野菜をちぎっている。大人のために作られたキッチンで、背を伸ばして、ガラスのボウルの冷たい水にあおい葉っぱを浸している。  私は、夜の残りのスープを温めはじめると、バターロールをオーブンにかけた。それから、玉子を三つ割ってとかすと、お砂糖をいれてまた混ぜた。エッグパンにバターを溶かして、充分に温まったのを確かめると玉子を半分流し入れた。すると、気泡を潰したり玉子を折ったりするので手元が忙しくなる。「ニーナちゃん、サラダの盛りつけもお願いできる?」と言うと、彼女は嬉しそうに「はい!」と言う。もう半分を流し入れると、半熟のところができないように、焦がしてしまわないように、丁寧に焼いた。お皿の上にペーパータオルでくるんで、粗熱を冷ます間にスープやバターロールを盛りつける。彼女が次々テーブルまで運んでくれるから、私はホットミルクをレンジで温めた。「熱いから、気をつけて」と手渡すと、「平気でごぜーますよ」と彼女はスヌーピーのマグを誇らしげに受け取った。  ダイニングテーブルで、私たちは隣どうし並んで座る。食卓はもうはじまりを待っていて、私は、もったいぶるみたいにウッドプレートのたまごやきに包丁を入れる。黄金と真珠を溶かし合わせたみたいな断面に彼女が感嘆の声と拍手をくれてから、やっと「いただきます」と声を揃えた。待ちきれなかったみたいに彼女はたまごやきにお箸を伸ばして、ひと切れをほおばる。小さなお口はいっぱいになって、彼女はおなかの底からの喜びの声をあげる。足をばたばたさせたり私の手を取ったり、世界中の宝石ぜんぶをぎゅっと凝縮しような瞳で、私を見つめたりする。 「飲み込んでから、ね」と言いながら、私はもうお行儀とかそんなことはどうでもよくなっていて、彼女の真似をしてたまごやきを口に放り込む。  すごく、甘かった。これまで生きてきた中でいちばん甘くて、おいしくて、幸せで、私は飲み込むと「ありがとう」と思わずこぼした。おかしなことに。 「こちらこそ、ありがとうごぜーます!」と彼女は言った。ふた切れめをお皿に置いて、「美優おねーさんのたまごやきが、ニーナはいちばん大好きです」と笑った。  彼女のくちびるの端にはちっちゃなかけらがついていて、私はそれを指でぬぐうと「でもね、どれもバランスよく食べなきゃだめよ」と言った。彼女は「えへへ」とはにかむと半分のたまごやきを食べて、サラダやスープに手をつけはじめる。  たっぷり時間をかけて、ごはんや瞬間のひとかけらひとかけらを味わい尽くして、「ごちそうさまでした」とふたりで声を重ねた。それから私は、盛りつけたときと同じ、全て残ったままの彼女のためのものだった料理にラップをかけたりお弁当箱に移したりした。  本当に、ゆっくりと時間をかけたのであとは急いで、洗い物や身支度を済ませる。遅れはしないだろうけど、タクシーを使った方がいいかもしれない。そんなふうに思いながらパンプスを履くと、彼女が私を呼ぶ。玄関には段差があって、私たちの目線は同じくらいの高さになる。  私は「行ってきます」と言って、彼女の頬にキスをする。彼女はぎゅっと目を細めて、私にキスのお返しをすると「気をつけて行ってきてくだせー」と大きく手を振る。私は手を振り返しながら扉を閉じる。その瞬間あたりはふっと静かになる。廊下の真っ白な明かりが、私の影だけを色濃く落としている。  このときを待っていたように、スマートフォンが震えた。 『おはようございます。今日は夏日になるみたいなので、おひさまーにやられないようにがんばりましょう』  楓さんからのトークは続いた。 『お弁当、はりきって作っちゃいました。楽しみです』  私はしばらく画面を眺めた。そのうちにエレベーターを呼んで、返事を悩んだ。マンションを出てからもしばらくそうして、タクシーに乗るとやっと、とりとめのない返事をすることができた。  私はきっと、恋をしていた。はっきりとしない、惹かれ方さえもわからない不確かな恋を、彼女に。
(楓さん①)
 年始頃の共演をきっかけに、一緒の仕事が増えた。多くは撮影、ラジオのマンスリーゲストや一度だけの旅番組。並んだときの画や穏やかな会話のリズムがいいと言われて、実際、仕事の評判も良いと聞いた。楓さんはまっすぐ喜んでくれて、二人で食事をしたり外でお酒を飲んだりする機会も増えていった。私も嬉しくて、笑っている時間が増えた。日々が明るい色に染まっていくのを感じた。 「今日は控えめですね」と言って、彼女は小さく笑う。その表情は五月の木陰にある清い日射しを伴って、夏日だなんてすぐに忘れさせた。「でも、足りますか?」 「実は時間がなくて、ほとんど残りものなんです」私は苦笑いをしてみせると、鞄から百円のミニクロワッサンを取り出してもっともらしくつけ加えた。「それにこれ、マイブームで」  彼女は頷いて「それは、ほっとしました」と言った。  二人でする、とりとめのないやり取りが好きだった。お弁当箱の中を見比べたり、公園をはしゃぎ回る子どもを目で追ったり、そういうこと。私はいつも、そんなとき空間が明確な形を失っていくように感じた。私たちを取り囲むものごとの一つひとつがゆっくりと混じり合い、この世界が、近い場所から次々塗り変わっていく。元あったものは同じようにありながら、まるで違う意味を持つ。それは目覚めの予感に満ちていて、雪融けの地平をのぞむ瞬間によく似ていた。 「提案があるんです」と彼女は私の目を覗く。その目が見れないとか胸が苦しくなるとかそんなことはなくて、私はその視線に触れると、優しくなりたいといつも思った。「たまごやきを、いただけませんか。もちろんただとは言いません、私からはこちらのマスカットを」 「釣り合いませんよ」と私は少し笑って、お弁当箱を差し出す。彼女が欲しがってくれたなら、たぶん、私にはなんだって惜しくないような気がした。「どうぞ、お好きなだけ」 「では遠慮なく。それと、どうぞ」楓さんはたまごやきの最後の一つを箸で取って、空いたところにマスカットを何個か転がした。ちょうど木もれびを反射すると、それは宝物みたいにかがやいて見えた。「私、美優さんのたまごやきが好きなんです。これ、言いましたっけ?」 「甘いのがお好きなんですよね」 「そう、そうなんです。私の母が作るといつもひき肉とか青菜が入っていて、なんて言うんでしょう、なんだか大げさで」 「おいしそうですけど」 「おいしいんです。でも……残念、うまく言葉にできないみたい」 「思いついたら教えてくださいね」  私がそう言うと、楓さんはどこかぼんやりとした表情を見せた。なにかおかしなことを、と私が慌てるとすぐに笑って、とても楽しげに「覚えておきます」と言った。  それからたまごやきを口にして、もう一度「覚えておきます���」と笑った。
(ニーナちゃん②)
 六月に入るとすぐに雨の日が続くようになった。元より休みの日に好んで外出する性格ではないので、食べ物の管理が手間だとか洋服を選ぶときに悩まされるとかの些細なことが気になるくらいで、あとはおおむねこの季節が好きだった。静かに漂う倦怠の空気や彩度をうしなう景色に時おり咲く黄色い傘、何より、雨音。その優しい音を聞いていると、私はいつも許されるような心地がした。  許されるか、許されないか。それが私の人生を形作ったように思う。  今は、少し違うけれど。 「美優おねーさん見てくだせー、こっちです!」とニーナちゃんが呼んだ。テレビを眺めながら、きらきらとその目がかがやいている。私は早採れのスイカを切り分けていたので「ちょっとだけ、待っててね」とキッチンから声をかける。ちゃんと言われた通り彼女はちょっとだけ待って「早くはやく!」と言った。  半分のスイカを切り終えるまで、もう一度そんなやり取りをくり返した。  テレビには遊園地の光景が映っていて、今はちょうどレポーターの女性がジェットコースターに乗り込むところだった。映像はヘッドカメラに切り替わり、いくつかのギネス記録を更新したという回転数とか最高速度を画面越しにまざまざ見せつける。私は何度か視線をそらしたし、そのたび彼女が膨らませる期待を目にした。  放心状態になったレポーターが何かのクイズに答えているところを眺めながら、「乗りたいの?」と私は訊く。にこにこと笑いながら、彼女は大きく頷いて「乗りてーです!」と答えた。 「じゃあ、一緒に行きましょうか」 「いっしょに! ですか?」 「ええ。関西だから、そうね……連休のときに泊まりがけで行くとか、ジェットコースターだけなら近くでも乗れるから……」 「美優おねーさん!」と、彼女がとつぜん飛びついてくる。手にしたスイカがちょっとこぼれて、頬を濡らした。私は少し慌ててティッシュで拭うのに、彼女はくすぐったそうにして、「約束ですよ」と目をぎゅっと細めた。 「約束、ね」と私はくり返して、小指を差し出す。結ばれてもしばらく、彼女は膝の上を離れなかった。  けれど世の中は、時として残酷な表情を見せる。テレビに表示された『12才、140cm以上から』というテロップは、いとも簡単に私たちの間に芽生えたささやかな夢を摘み取ってしまう。  彼女は、理解したみたいだった。それでジェットコースターには乗れないとわかると、ひどく寂しそうに笑った。私は、そんな表情は見せてほしくないと思う。ニーナちゃんには、物わかりがいいみたいに笑ってほしくないと、そう。  メリーゴーラウンドが回っている。やわらかに、真新しい白い馬やハートの馬車はくるくると音楽に合わせて。  膝の上に、彼女の呼吸を感じる。温かくて、ちょっと重たい。さらさらの髪はなんの抵抗もなく私の指のあいだをすり抜けていく。  私は「もう少し、大きくなったらね」と言って、頬をくすぐる。親指のおなかで、そっと。
(楓さん②)
 日付をまたいでしばらくした頃に意識を取り戻すと、目の前に楓さんの寝顔があった。はじかれるように飛び起きて、足のしびれに悲鳴をあげそうになる。起こした方がいいのかまだわからなかったので、声をあげずにしばらく耐えた。  彼女はソファで眠っていた。うつらうつらとかではなく、深く。私がさっきまで伏していたテーブルにはお酒の瓶や空いたグラス、乾きかけたクリームチーズなんかがあって、だいたいはそれでわかる。  素敵な一日だった。楽しいこと、嬉しいできごとばかりが続いて、私たちは時間も忘れてはしゃいだ。いつものお店から二軒目、高架橋の上から乗り過ごした電車を眺めるとタクシーに乗って、ごく自然に宅飲みをすることが決まった。  楓さんと、ふたりでする、初めての。  私は、彼女の眠る姿をじっと眺める。私より高くて、華奢で、繊細なかたちをした体を窮屈そうにまるめている。胸には水色のクッションを抱いていて、生きているなんて信じられなくなるくらい静かだった。  きれいだった。  紅色の頬はもう、メイクなのかお酒のせいなのかわからない。けれど目のきわ、一日の仕事をすっかり終えたマスカラがうっすらほころんで、いつもより彼女をつややかに映す。あんなふうに、子どもみたいに声をあげて笑っていたのに、と私は思う。あまり不思議で、見せてくれたたくさんの表情を彼女の寝顔にしばらく重ねた。  それから膝で、少しだけ彼女に近づいた。  私は、酔っていると思う。  メイクを落としたりシャワーを浴びたり、ちゃんと明日のための準備をしないといけない。もう大人なのだから、それこそ子どもみたいにこのまま眠るなんてそんなの、と。 「楓おねーさんが好きでいやがりますか?」ニーナちゃんが突然言った。私が答えられずにいると、「ニーナは、美優おねーさんが大好きですよ」と言って、背中から抱きしめてくれた。  優しく、羽根みたいに。  私はしばらくそうして、立ち上がる。しっかりメイクを落とすとシャワーを浴びて、テーブルやキッチンを片づけた。  そういう支度を全部済ませて、楓さんを起こす。それからふたり、別々に眠るまで二時間くらいかかった。
(ニーナちゃん③)
 ニーナちゃんの髪は、とても柔らかい。細くてつやがあって、トリートメントを指でなじませるとき私はいつも、こんなふうになめらかな日々が続けばいいと思う。思わず手を止めていることもしばしばあって、「どうしやがりましたか?」と彼女は振り返って愛らしく首をかしげる。私は小さく笑って、「じっとしてなきゃだめよ」とたしなめるみたいに言う。  彼女は「はあい」と答えて、足をぱたぱたさせた。  髪や体をしっかり洗うと、私たちはバスタブに体を沈める。ぬるめのお湯に、ちゃんと肩まで。そこでも私の腿の上が彼女の定位置で、私たちはだいたいの時間をくっついて過ごした。さすがにあひるさんを浮かべるような歳ではないけれど、手遊びや歌、それから他愛のないおしゃべりが絶えず満ちていて、バスルームは私たちの天国だった。  いつも、ここはそういう場所だった。  天井も壁も床も、照明も、乳白色のお湯や彼女の歌声も、天国には白い光を放つものばかりがあって、だから、違う色が混じるとすぐにわかる。今はそれが私で、少しだけ温度を熱くしすぎたかもしれない、そんなことを思いながら彼女を抱きしめた。彼女はびっくりして笑って、それから迷うみたいに私を呼んだ。  彼女の体は、小さい。こうして抱きしめるとすっぽり胸のうちにおさまって、出会ってからずっと眠るときはそうした。私はまるで、たましいの奥まで包まれるように深く眠ることができたし、朝になるとその日いちにちの舞台を踊りきる元気をおなかの奥底に感じた。出かけるときは「いってらっしゃい」と、帰ったら「おかえりなさい」と必ず言ってくれた。どこか透明だった部屋に、少しずつ日の光や月明かりが射し込んだ。  今、私を呼ぶ声が聞こえている。ふしぎそうに、どうしやがりましたか、と私に訊ねている。  ゆっくりと、抱きしめた腕をほどくと彼女が振り返った。「美優おねーさん」ともう一度、お日さまみたいにまぶしい声で、私を呼んでくれた。  私は、彼女の頬をくすぐる。そうして、「今日、好きな人とキスをしたの」と告白をする。
(ニーナちゃん④)
「おさんぽしてーですよ」とニーナちゃんが提案をした。私も、長湯で温まりすぎた体を冷ましたかった。  外は涼しくて、心地良かった。互いの足音がはっきり聞こえるくらい静かで、それでも、どことなく湿った空気は夏を感じさせた。  迷いなく先を行く背中に「どこまで行くの?」と訊ねてみた。彼女は振り向くと笑って「わかんねーです!」と答える。それで私は、そうだ、これはお散歩だったんだと思い出す。  でも、だったら、ひとりでなんて行かないで。  少しかけ足になって彼女の手をとると、それからはふたり並んで歩いた。  私たちは明るい道を選んだ。街灯が多くて、立ち並ぶ家々から生活の明かりがこぼれる、そういう道。だけどこの街は私が知っているよりずっと狭く、すぐに大通りへたどり着いてしまう。誰もがこぞって家路をたどるような時間ではないけれど、そこには絶えず人の気配があって、広い道に途切れることない車列が続いた。ヘッドライトが、細くながく伸びるふたつの影を照らした。  地下鉄の入り口や小さな神社を横切ると、階段が見える。歩道橋へ、彼女はのぼりたいと言う。  そこはひどく古びていて、一歩踏むたびに骨組みは大げさな音をたてた。ほど近くに信号があって、今はあまり使う人もいないのだと思う。柵は錆びついていたし、うっすらと積もった土からは青々した草が寂しげに顔を覗かせている。  中心まで進むと、私たちは橋の下を眺めた。  次々と、光が過ぎていく。まっすぐな道を信じられないような速さで、どこまでも遠くへ行って、やがて消える。この橋を揺らすくらい巨大でも、街路樹に覆われるほど微小でも、等しく。  あとに残る光の像も、目を閉じればそこにもうない。 「楓さんが、好きでいやがりますか?」とニーナちゃんは言った。楓さんとは、ちょうどこんな場所でキスした。表参道の、地下鉄入り口のすぐ近く。そこはもっと新しくて、きれいで、夢みたいに誰もいなかった。私たちは橋の中心までくると、どちらからともなく近づいて、触れ合った。ごく自然に、長い年月を連れ添った二人がするみたいに、優しいしかたで。  楓さんは階段を上がるとき、「星は、見えるのでしょうか」と言っていた。だけど私たちは駅のホームで手を振って、別れた。  私は、やっと答える。 「私ね、ううん、私たち、惹かれ合ってるみたい。もう、どうしようもないくらいに」  それを聞いてニーナちゃんは「じゃあ、大丈夫でごぜーますよ!」と笑って言った。私は「ありがとう」と言うと、繋いだ手が離れていたことに気付く。 「追いかけっこですよ」と彼女は言った。「ニーナが先で、美優おねーさんがあと! 六十かぞえたら、おうちまで競争です!」と、いつもと同じ元気な声で。  私が頷くと、「よーいどん!」と言って彼女は走り出す。橋を渡ると階段を下りて、もと来た道をどんどん進んでいく。驚くような速さで、まるで飛ぶように通りを駆け抜けると角を曲がってその姿は見えなくなる。  私はぴったり六十数えて、スマートフォンを手にする。楓さんにコールをして、遅くにすみませんとかの挨拶を終えると「今から、会えませんか」と告げる。  通話を終えるころには、すっかり声が震えていた。心臓はどきどきして、体が熱くて仕方がなかった。  私は「よーい、どん」と言う。そうして、彼女のことを追いかけはじめる。  あの、まっすぐな心を。ぴんと伸びた背中を。  もういない、小さなお友達のことを。
(楓さん③)
 その日のことを、はっきりと覚えている。  二十二時までの生放送を終えてラジオ局を後にすると、私たちはなじみのお店へ向かった。そこは小じんまりしていて、静かで、休日でも遅くまでやっているから二人でいるときの定番だった。  珍しく翌日は二人ともオフで、最初から(私たちにしては)盛り上がっていた。モンラッシェの白、14年から始まるとお酒や言葉の小さな花は絶えず咲いた。お店が閉まるころには心に花束があって、抱えながら二人でふらふら歩いた。もう春はそこまで来ているのにひどく寒くて、繋いだ手はタクシーの中でさえ離れなかった。  先に降りたのは楓さんだった。マンションに着くと「はあい」と楽しそうに言って、タクシーを降りた。私も上機嫌のまま「気を付けてくださいね」と車内から声をかけて、扉が閉まった。  それからのことは、ほんの数秒でしかなかったと思う。  彼女が何かを言った。窓越しに、スモークガラス越しに何かを言ったということだけがわかった。聞こえません、と私は言おうとした。聞こえません。いつの間にか彼女は今にも泣きそうな顔をしていて、別世界の窓の外から、何も聞こえないとわかっているのに、また言った。その姿がエントランスの壁にまじって消えていった。私は心の中で言った。聞かせてください。何度も、何度も。  彼女は手を振った。笑顔に見送られて、タクシーが走り出した。あまりずっと外を見ているので、運転手さんが「戻りますか?」と訊ねた。私は「いいえ」と言って、住所を伝えた。  部屋に戻ると習慣に体を預けて眠るまでの支度をした。寝てしまうまでそうできたら良かったのに、ベッドの中で彼女のことばかりを考えた。一緒の部屋に帰ったらかわりばんこにお風呂を済ませて、大きくはない洗面台で並んで歯みがきをして、二人で眠れたならとか、おやすみなさいとまどろみの中で笑って言えたならとか、そんなことを。  次の日、「朝ですよ! おきて、おきてくだせー!」という声と思いもしない衝撃で目を覚ました。「うう」と私はだらしなくうめいて、おなかの上の少女を眺めた。彼女は「おはようごぜーます!」と言って、それから、「ニーナでごぜーますよ!」と元気な声で名乗った。  私は「ニーナ、ちゃん」と呼んだ。ニーナちゃんは、「美優おねーさん」と笑った。そうやって私たちは出会うと、ゆっくりと互いを知っていった。  ニーナちゃん。  誰も知らない、私だけのお友達。
(三船美優と市原仁奈①)
 二人とも次の予定が事務所だったのと、しばらく時間があったのと、そういう理由で近場のカフェに落ち着くことにした。年の瀬を控えた街はどこか閑散として、あたりはひどく寒かったから、体が温まるまでゆっくりと過ごした。そうなってしまうと私たちは長いので、そろそろ動かないと昼食の時間が怪しいという頃になってようやく席を立つ。楓さんがトレーを片づけてくれたので、私はまだ途中の、頼んだばかりの二杯目のカップを持って店を出た。 「ありがとうございます」と言って、彼女はカフェモカを受け取る。そのときに、私の手の甲をそっと撫でていたずらに笑った。 「こちらこそ」と私は答えて、逃げていった指先に一瞬だけ触れた。  彼女にはそういう、子どもみたいなところがあるのは知っていた。私にもまた、同じような子どもが眠っていたのだとはじめて知った。  恋人になって、やっと知ることがたくさんある。相手のことも自分のことも、数え切れないくらい。  そのうちの一つ、お弁当のこと。  私はOL時代の習慣があって、朝食をそのまま詰めたりする。彼女は朝が弱いから、夜のうちに準備を済ませることが多い。それと、本当に不思議なことに、一緒に作って中身なんてぜんぶ知っているのに、せーのでお弁当箱を開く瞬間はいつもわくわくした。少しだけ違うものを詰めてそれを交換するとき、嬉しくて泣きそうになった。  そんな時間を味わっていると、ふと彼女が何かに気付く。私の後ろに向けた目をぱっちり開いて、柔らかく細めると小さく手を振る。誰か来たのかしら、と私は思う。このラウンジはいつも日が射していて心地良いから、今日みたいに誰もいないことはむしろ珍しい。最近は私たちがここによくいるからと、友人がお昼を食べに来ることもよくある。 「こんにちは」と楓さんが言った。つられて振り返ると私は、私だけの小さな奇跡を目にした。  かわいらしい女の子がそこにいて、彼女は怖じ気づいたり戸惑ったりすることなくすたすたと近付いてくる。そうして、「こんにちは!」と元気よく答えた。 「あらいいお返事。お名前を教えてくれる?」 「市原仁奈、九歳ですよ!」 「仁奈ちゃん、お母さんかお父さんは?」 「おかーさんは今、大人のおにーさんとおはなししてやがるです。仁奈はおとなしく待ってるですよ」 「偉いのね、すごくいい子」 「あたりまえですよ、だって仁奈はアイドルになるんですから!」 「まあ、そうなの……仁奈ちゃん、私たちもアイドルなのよ」 「すげー! おねーさんたち二人ともそうでいやがりますか?」 「ええ、私は高垣楓っていいます。こっちのお姉さんは……」  そう言って、楓さんは口をつぐんだ。少しして、やっと促されていると気付くと、私は「三船、美優です」と答えた。 「楓おねーさん、美優おねーさん」と言って、彼女はにっこり笑った。そうして私たちの手もとを見ると、きらきらと、目を輝かせる。  まるで、世界中の宝石をぜんぶ集めたみたいに。 「お弁当、すげーです! おねーさんが作ったですか?」 「ええ。お姉さんたち二人で作ったの。仁奈ちゃんもご一緒しませんか?」 「しやがります!」と答えて、彼女は同じテーブルにちょこんと座る。何度も二つのお弁当箱を見比べて、はじめにたまごやきを口にすると頬を手でおさえて、幸せそうな声をあげた。  私は「おいしかった?」と言う。彼女が頷くと、「ありがとう。いつでも作ってあげるからね」と続ける。「いいんですか?」と彼女が言うので、「もちろん」と答えた。  私は、そうしたかった。望むことは、なんでもしてあげたかった。甘いたまごやきを作るのだってこんなふうに飽きるまでおしゃべりをするのだってそう。膝枕も、おふろで髪を洗ったり遊園地に行ったり、何より手を繋いで歩きたいと、そう思った。  けれど私には、いちばんにしたいことがあった。  私は、仁奈ちゃんを見る。しっかり背中を伸ばすとまっすぐにその瞳を見つめて、「言い忘れてたことがあったの」と言う。彼女は「なんでごぜーますか?」と首をかしげる。楓さんも、どこか不思議そうに私を見ているのがわかる。  あの子と過ごした日々が、駆けめぐった。たくさんの、光の反射みたいに。  私は、仁奈ちゃんの髪に触れる。さらさらの髪を指で梳かすと、頬をなでる。彼女はくすぐったそうにして、私の手をとった。あの子と同じ感触に思わず笑うと、私は「はじめまして、仁奈ちゃん」と言う。「はじめまして美優おねーさん!」と仁奈ちゃんは答える。そうやって、私たちが始まる。
 *
 
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『毎日会いたい。』  https://twitter.com/Street195B/status/1016335180938633216
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yukue3-blog · 6 years ago
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いずれ春永に
# 綴られなかった恋
☆ 明け方の海に君はいた。 砂浜には描かれた絵が何枚も何枚も散らばっている。
「探したよ」 「まだ書いていたのね」 「その絵は?」 「手紙にして送るの。遠くの外国にね」 「そう、なんだ」 「やっぱり、わたしはこの場所で生きていくって決めたから」 ザラついた粒子が丸く柔らかい光を纏う。 空も波も砂浜も朝の色に変わっていく。
「あぁ。こうやって、ずっと笑っていられたらな。丘の上で芝生に寝転がって欠伸をしながら」 彼女は大きく伸びをして言った。
砂浜の絵たちは光を受けて、いくつもの輝きを放っている。 いつだったか確かにこの世界の片隅にあったこと。 断片的な光景がそこに閉じ込められている。 笑ったり、泣いたり、一枚一枚に違った手ざわりがある。 それは打ち上げられた誰かの思い出のようだった。
「春の海って大好き。人が少ないでしょう。みんな、夏になったら海に行こう、夏になれば海に行けるはず、だから夏までもう少し待とうって思ってるのよ。いずれ夏が来ることを知っているから。でもね、わたしは春の海に来るの。みんなが街で夏を待っている間の、この春の海が好きなの」 遥か遠くにサーフィンをする男たちが見える。 砂浜には彼女と僕だけしかいなかった。
「だけど、ここにいると季節をとても長く感じる。海は放っておかれたままだし。絵を描くのは楽しいけど、あなたと歩いている時の方がもっと楽しかった」 彼女はそう言って笑った。
「ありがとね」 それは古い映画のヘップバーンのような笑顔だった。
“Please understand……” “I’m not……”
「夏になったらまた来ようよ。長い夏休みがあるんだ」 「……ねえ、わたしに夏は来ないのよ」 「え?」 「わたしは春にだけ生きているの。夏になるとみんな忘れてしまう」 「君は……?」 「ねえ、思い出して。あなたは今、思い出しているの、言葉にしようとしているのよ」
その時、海の向こうから強い風が吹きつけて、砂浜の絵がいっせいに宙に舞った。思い出が花弁のように咲き乱れ、そして散っていく。 それは千切ってバラバラにしたはずの僕の春だった。
「六月だった。長く続いた梅雨の狭間で、窓の外に紫陽花の花が咲いていて、クローゼットにしまっていた長袖のシャツを無理矢理引き出した。そしたら、ボタンが解れてしまってね。それで、それからのことは何も思い出せないんだ」 君はそっと僕を抱きしめた。 炭酸水のような気泡が上がる。 君の思い出に包みこまれる。 記憶の栓が外れ、身体が君に溺れていく。
「恋人がいたんだ。アルバイト先で出会って、何度か話すうちに気が付いたら好きになっていた。二つ隣の駅に住んでいて、夜中によく自転車で彼女の家に遊びにいった。コンビニで缶チューハイとスナック菓子を買って、深夜のテレビを見たり、レンタルした映画を見たりして時間を食べた。酩酊したまま学校をサボっていろんなところに出かけた。お金はなかったから、二人でずっと散歩をしていた。彼女はいろんな事を知っていた。花の名前、風の行方、季節の在処。全部、彼女が教えてくれた。彼女といるとね、この世界の光の入り方が変わるんだ。どこまでも歩いて、街が次第に動いていくのを見ながら、僕は自分が変わっていっていることを感じた。君の言葉が僕の言葉になって、君の世界が僕の世界になっていった。あの頃の僕に本なんて必要なかった。頁はいつだってそこにあったから。全部が初めてだった。手を繋いだのも、キスをしたのも、抱きしめたのも。だから僕にはわからなかったんだ。彼女がいなくなった理由が。いつまでたってもわからなかった。どの頁を捲ればいいのかずっとずっとわからなかった。同じ日に君と歩いた道をもう一度歩いてみた。花も風も季節もそこにあった。でも、あの光だけがなかった。そのせいか、街はすっかり変わってしまっていて、僕だけが同じままに思えた。そのまま歩き続けていると、突然涙が止まらなくなった。自分がいる場所がどこなのかわからなくなった。変わらないといけない、でも進むことも戻ることもできない。街角はもう空っぽだった」
だから僕は本を読んだんだ。 空っぽの心に水を注ぐように、頁を捲っていった。 もっとたくさん言葉を抱えて、いつかもう一度君を描くために。
「でもね、やっぱりできそうにないよ。君はずいぶん遠くへ行ってしまったから」 「うん……」 炭酸の泡がスピードを上げ、淡い音を立てる。 飛沫が上がり、水面を揺らす。
「僕には海は作れなかった。余計なものが増えていったんだ。いや、余計なものを増やしてきたのかもしれない。僕に作れたのはせいぜい小さなプールだった。そこで僕は錯覚に溺れていたんだ。いや、そのフリをしていた。どんな言葉も君にはなれなかった。君の指先、君の声、君の睫毛、どれも言葉にすることはできなかった。僕にはきっと、その勇気がなかったんだ。君を言葉にする。君は特別だったから。何度もノートを開いては閉じてきた。模造品ばかりが生まれて、自分に嫌気がさして、そうしているうちに君がどこかへ行ってしまいそうな気持ちになった。それでもね、ありったけの言葉でようやくここまで来たんだ。ようやく、ここまで来た。でも、やっぱりまだ書けそうにないよ」 「いいの。こうして会いにきてくれたじゃない」 「僕はやはりひとりになるのかな?」 「ひとつだけ教えてあげる」 彼女はほとんど消えてしまいそうな輪郭で言った。
「春の海はね、春の空の色で出来ているのよ」 筆が止まる。 僕は大きく息を吸って吐き出す。 少しでも長く続く次の言葉を探している。
「それもカフカ?」 「わたしが考えた言葉」 もう、と言って君は笑った。
「あなたはこれから空を書くの。自由に。時間はいくらだってあるわ。沈んでいきそうになったら、芝生に寝転がって空を見るの。海は空の色でできている。空を泳ぐのよ。そこにいつだってわたしはいる。だから、書き続けてね。新しいインクで。夏が来ても、秋が来ても、必ず書いて。会えなくなったとしても、どこかであなたが書いたように生きているから」
“Two drifters, off to see the world” “There's such a lot of world to see” 誰かのラジオから音楽が流れている。
「君はその、綺麗だね。とても……」 独り言のように呟いた。 春永の瓶はもう空っぽで、君はもうそこにいない。 空���見る。 わたしは特別なのよ、と笑う声が聞こえた気がした。
(完)
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yukue & you,any  “いずれ春永に"release tour
10/6(土)吉祥寺WARP
10月27日(土)京都GROWLY
チケット予約 https://yukuemusic.wixsite.com/yukue/works-1
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colors0505 · 6 years ago
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 もう来なくていいよ。君は必要ない。さよなら。  会って三度目の男はそう言って、俺のことはもう見えなくなったように事務作業に戻った。初日に大幅に遅刻して翌日無断欠勤した俺はこうしてアルバイトをクビになった。俺はボロアパートの六畳間に戻って埃を被った機材の隙間を探り、ウィスキーの小瓶を見つけるとすぐに煽った。それからテーブルに広げられたままの数種類のシートから幾つかの錠剤を取り出してそれも一緒に流し込んだ。アルバイトの面接の前から始めた数日間の禁酒はこれで終わった。無駄だったな、と思う。それは俺が行った、だいたい全ての事柄について。  小瓶が空になる頃には気分がマシになっていた。俺は、部屋の隅に積み上げた衣類の一番上に載っていたパーカーを羽織ると外に出た。夏一歩手前の夜の空気は生ぬるく湿っていた。自宅から少し歩けば、黄色のネオンサインを掲げた古臭いゲームセンターにたどり着く。壊れた自動ドアを手動で開けて中に入ると人はまばらで、俺はいつもの席につく。筐体は古く、あちこち傷や汚れが目立っている。椅子のカバーは擦り切れ、ブラウン管はヤニで変色しぼやけている。誰もがお互いに無関心で、それが俺にとっては心地良い。子供の頃に流行ったパズルゲームの画面の前で煙草に火をつけて、それからしばらく手を動かす。ゲームに飽きる頃、手癖のように何人かの女の子に連絡をした。少し前まではすぐに何件も連絡が返ってきたものだった。しかし今は、返信すらほとんどない。1時間近く経ってようやく、今仕事が終わったという年上の女からあまり色よくない返事が送られてきた。文面に少なからず葛藤があることを読み取った俺は、そこを突くように多少強引な言葉を送った。結局彼女は終電に乗り、俺の部屋へ来ることになった。
 部屋へ来た彼女は疲れた顔をしていて、傷んだ髪の毛をしきりに気にしていた。美容院へ行く時間がなかなか取れないのだという。俺は労いの言葉をかけながら酒を飲み煙草を吸い、彼女がコンビニ弁当を食べ終わるのを待った。プラスチック容器を捨てたばかりの彼女にキスをすると、甘辛い油の匂いがした。俺は彼女をベッドに寝かせ、乾いた汗の気配と蒸れた体臭を感じながら、それなりに丁寧にあちこちを舐めてやった。彼女は、恥じらいと悦びの隙間で何度も悲しそうな目をしていた。俺はそれを見つけるたびに彼女を強く抱きしめて、これが茶番であることを忘れさせようと努めた。そんな顔をするのはやめてくれよ。俺は温かいものに絡まりながら眠りにつきたいだけなんだから。
 物音で目を覚ますと部屋は明るくて、彼女は身支度をしている最中だった。洗面所から出てきた彼女は俺の顔色を伺いながらゆっくりと近付いてくる。体を起こすと頭痛がして目眩がして吐き気がした。もちろん気分も最悪で、彼女のそのおどおどとした態度も癪に障った。朝日の明るさもダサい化粧をした美しくない女も薄汚いこの部屋も何もかも気に入らなかった。俺は彼女に、手振りだけでカーテンを閉めさせた。 「ごめんね、そろそろ帰るから」 「そうして」  力なく微笑む彼女を横目に、布団を被りながら冷たい声で俺はそう言った。薄暗くなった部屋に扉の閉まる音が響いて、俺はまたすぐに眠りに落ちた。時間のわからない部屋の中で俺は微睡みを繰り返したが、最後の浅い眠りの中で夢をみた。海だった。春先の海。三角形のコンクリートブロックの群れ。岩に砕ける波。空は黄みがかった灰色で海の色は濁ったエメラルドグリーン。それを見渡せる場所に古い車がのろのろと現れ停車する。助手席の女が窓を開け冷たい潮風に目を細める……  それはまるっきり俺が撮りたかった映画の風景だった。幾度も思い描き、希望とともに空想していたワンシーンが今となってはゴミクズのようだ。ため息と共に身を起こしてカーテンをめくると日は暮れていて、そのうえ雨が降っていた。気分はさらに底へと落ちた。俺はベッドの下に転がっていたぬるい発泡酒を水のように飲み、そのまま幾つかの錠剤を嚥下した。白い紙袋をひっくり返すと銀色のシートがかさかさと落ち、俺は薬を使い切ってしまったことを知った。もう終わりだと思った。俺は震えながら家じゅうの酒を飲み、手当たり次第女たちに連絡をした。しばらく待っても返信は一件も来ず、電話すら誰も出なかった。だが、本当の絶望が来る前に酒と薬が効いてくれた。俺は楽観的になり、とにかくこの部屋を出ようという気を起こした。俺はパーカーを羽織ってフードをかぶり、誰かが置いていった飲みかけの赤ワインの安っぽいボトルを引っ掴むと外へ出た。  雨はさらさらと降っていた。俺は雨に濡れ、フルボトルのワインをラッパ飲みしながら歩いた。人気のない憂鬱な風景の中を、俺は覚束ない足取りで進む。ゴミ捨て場に不法投棄されたボロボロの家具の脇を通り、濡れてくしゃくしゃになった病気の野良猫を一瞥し、シャッターの降りた店の連なる商店街をゆく。そしてその外れにあるゲームセンターだけが、煌々と黄色いネオンを光らせているのだ。いつも通り手動でドアを開け俺は椅子に腰掛けた。ゲームを始めてみても酔いが回っていて、思うように手が動かない。しばらくしてふと顔を上げると幾つもの画面だけが並んで光り、白く浮かび上がっているのが見えた。俺はその時初めて、店内が無人であることに気が付いた。もともと少ない客だけでなくカウンターの奥にいるはずの店主の姿も見当たらない。俺は急に落ち着かない気分になってポケットから煙草を取り出したが、湿って使い物にならなくなっていた。仕方なく俺はもう一口酒を飲み、その酸っぱさに顔をしかめながらカウンターの方を見やった。先ほどは気づかなかったが、従業員専用扉がほんのわずか開いている。中から、光が漏れている。  俺は吸い寄せられるようにしてその光を目指した。扉の前に立つと、漏れ出す光が看板のネオンに似た黄色をしているのがわかった。俺は思い切って扉を開け、中へ一歩踏み込んだ。その途端、軽薄な黄色の光に俺の体は包まれた。何も見えない。誰かが居る気配もない。高く低く、耳鳴りがする。光はどんどん強くなり、俺の意識を奪っていく。 「このまま何も見えなくなって感じなくなって消えられたらいい」  そんな風に願ったが黄色い光は徐々に弱くなって、いつしか健康的で透明な朝の光に変化した。俺は瞬きを2、3度繰り返すとベッドから体を起こして、物音のする方をぼんやりと眺めた。少しすると、洗面所から身支度を整えた女が出てきた。昨夜呼び出した女だ。彼女は、俺の顔色を伺いながらゆっくりと近づいてくる。俺は、目眩と頭痛と吐き気に苛まれながら、強烈な既視感を味わっていた。この風景を俺は知っている。だけどはっきり思い出せない。黙っていると俺の不調を察したのか彼女は自らカーテンを閉め弱々しく微笑んだ。 「ごめ��ね、そろそろ帰るから」  その言葉を聞いた途端俺の体に強い電流のような衝撃が走り、反射的に体が動いた。俺は身を乗り出し、彼女の腕を掴んでいた。俺は自分の行動に心底驚いた。どう考えても今の俺は一人になりたがっている。こんな気分の時、今までずっとそうしてきた。だが今彼女を帰してしまったら、取り返しのつかない事になるような気がした。多分、俺は彼女を愛しているわけではない。だったら金でも借りるつもりか?それともこの地獄の道連れにする?  彼女は不思議そうな、でも喜びを隠しきれない表情で見つめてくる。俺は一体どうするんだろう。この手を引くのか、離すのか。自分のことのはずなのに、これから何を話してどう行動するのか、想像がつかない。俺は曖昧な笑みを浮かべたまま、何故だか、馴染みのゲームセンターの黄色いネオンサインを思い描いていた。想像の中のネオンサインは夜の雨に濡れ、不穏な音を立てながら明滅を繰り返すばかりだった。
***
絵:ツクポ
http://nnnopuu.tumblr.com
文:末埼鳩
https://matsusakihato.tumblr.com
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pinoconoco · 6 years ago
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僕たちの恋愛偏差値 2
「‥君なら、振り向かせられるんじゃないの?」
我ながら本音とは言え陳腐な言葉しか出てこなかった。嫌味じゃないよとつけたそうとすれば
「かもしれないけど」
と、またしても井上さんは彼女らしくない言葉を発した。
「身体だけ奪えてもたぶん、虚しいよね」
「身体は奪える自信あるの?」
「黒崎くんお酒あんまり強くないし、情に流されやすいし。あたし胸だけは無駄に育ってるからね」
「すごい」
「何が?」
「見事な悪女っぷり発言が」
「やだぁー、ひどぉい」
きゃらきゃらと井上さんは笑った。とてもとても楽しそうに。これは真剣に聞く話なのか、一緒になって笑う話なのかわからなくなるほど彼女には悪意を感じなかった。
「この間の総会あったでしょ?」
「うん」
「あのときにさ、皆会社のだっさいネクタイ着用必須だったの、覚えてる?」
「あー、あったねぇ‥」
研修期間が終わり、いち社員として新入社員全員が参加させられた社員総会は、とんでもなくセンスのよろしくない会社のネクタイを全員が着用しなければいけなかった。
「朽木さん、ネクタイ結ぶのあんまりうまくなかったのね。直してあげようかなって思ってたら私より先に黒崎くんが、おいおまえって、朽木さん掴まえてね」
井上さんは相変わらずシャンディガフを飲む事なく、両手でグラスを掴んで泡を見つめながら淡々と話した。
ー 朽木さんになんだよこの結びかたはって怒鳴りながりも、慣れた手付きでするすると彼女のネクタイをほどいて襟を立ててやり直しだしちゃってね。さすがの朽木さんもあのときは恥ずかしかったみたいで、いつもみたくうるさいとかやめろとも言わないで真っ赤な顔で目線泳がせちゃっててさ。黒崎くんは掌ひっくり返して人差し指で朽木さんの顎に手をかけて上に向かせて「邪魔だから上向いてろ」とか言っててね。見てるあたしがきゅん、となっちゃったわよ、もう。
朽木さんも恥ずかしいのか硬直しちゃって素直に顎あげたまま、指先までぴーんと伸ばして黒崎くんにされるがままで。
あーこりゃ、だめだぁぁって、あのとき思ったんだよねー ー
うふふふふ、と井上さんは笑った。
二人のやり取りは簡単に想像できたが、それを見ていた井上さんがどんな顔をしていたのかは全く想像ができなかった。
「結び終わった黒崎くんがね、そのままちらりと朽木さんの顔を見つめてたんだよね。それで」
「まさかキスでもしたの?」
「さすがにそれはない」
クスクス、と二人で笑う。
「鼻ん中まで丸見えって。そしたら朽木さん我に返ったのかバッて顎下げて黒崎くん無言で叩いてて」
「幼稚な人達だねぇ」
「黒崎くん顔クシャクシャにして笑ってて。嘘だばーかって。スッゴい楽しそうでさぁ。だからその日にあたしがはっぱかけたんだぁ」
「はっぱかけた?」
「黒崎くん朽木さん好きなんでしょ?って」
「なんで」
「わかんない、あたし知ってるって、黒崎くんに言いたくなったのかもね。黒崎くんあっさりと、え!?って真っ赤になっちゃってねーその時はねぇ、ニコニコ黒崎くんに笑いかけながらも死んじゃえばーかって思ってたの」
ぶはっと笑えば井上さんもえへへーと笑った。笑ってからようやくシャンディガフに口をつけた。
「井上さんて面白いね」
「それよく言われるけど、今のは面白くないよ」
「ううん、面白いよ」
「石田君はあんまり笑わないしお笑いも見ないって言ってたけど、笑うのね」
「楽しいときは笑うよ、当たり前でしょ」
「じゃあもっと笑わせてあげようかな」
「いいねぇ喜んで。」
「じゃぁ、場所、変えたいな」
シャンディガフは結局一口しか口にしないまま、僕達はお会計をしてそして僕の家に彼女は来た。
そしてその夜から
僕達の「身体のおつきあい」が始まった。
■■■
この人はあたしの事好きなんだと思う。
どんなに悪態ついても駄目な自分をみせても愛想をつかすことなくそして怒らない。私を見る瞳はとても真っ直ぐだし私といるとよく笑う。仕事柄いつも傍にいる朽木さんを見る顔より私と話す時の顔のほうがイキイキしてる。これにはちょっとした優越感を与えてくれた。「誰かにとっての特別」な自分というのは嬉しいことなんだと知った。お料理も上手だし、いつふらりと家を訪ねても部屋は綺麗で居心地がいいし。でも1つだけ、たったひとつ気に入らないことがある。
「ねぇ、私達つきってる?」
「ううん、付き合ってないよね?」
どうして二人で裸で布団で汗まみれになってるこの状態で、今のあたしの言葉を疑問系で返してくるんだろう。
「この状況はどう説明するの?」
「お互いがお互いを求めた結果、でしょ」
「石田君、回数重ねる度に早くなってるよね?」
「え!?」
珍しく慌ててガバッとこっちを向いた間抜けさに、思わず笑ってしまう。
「ご、ごめんね」
更に謝る純粋な彼に、あたしのS心はスパークする。
「普通は飽きてきたら、なかなかイカなくなるんじゃないのかな~」
「‥‥」
あ、言い過ぎた。この無言はあたしが意地悪を楽しんでるのを気づいた証拠だと、そのぐらいはもうあたしも彼をわかってる。
「男の性欲はメンタルでなくても凄いんです」
「ふ~ん。あたしのこと好きで好きで大好きだからすーぐいっちゃうのかと思ったのにな。残念だなぁ」
本音と冗談を混ぜるのは得意だけど、フフンと鼻で笑って余裕を取り戻した石田君がこの頃ちょっと憎たらしく感じる。
ねぇ、どうして好きになってくれないの?
彼女にしてくれないの?
「僕は潔癖症のくそ真面目だから」
「知ってる~」
「他の男を好きな女の子を自分の彼女にしようとは思わない」
「‥もう好きじゃないかもよ?」
「ないかもって何?自分の事なのに」
素直じゃないのはお互い様で
あたしはあたしで石田君に上手に好きだと確かに言えなかった。大好き~とかふざけても言うことはなかった。だってあたしはこの人に黒崎くんを好きなんだと喋ってしまったから。ちょっと寂しくて人肌が恋しくて一晩限りのおつきあいをしたつもりが、まさかこんなにズルズル続くなんて思ってなかったから。
「ねぇこの間Francfranc行った時に、なんで歯ブラシ2本買ったの?」
「僕は気に入ると色ちがいを買うから」
「ピンクと水色?ふぅん、男と女の色みたいなの選ぶのね」
「そぉだねぇ」
嘘つき。あたしに買ってくれたくせにと思うけど言えない。石田君もあたしに買ったとは絶対言わない。
「眠いから今日泊まっていーい?」
「いいけど。明日今日と同じ服で会社行っていいの?」
「明日は直行直帰だもん。いーの」
「そう。じゃあおやすみなさい」
おやすみなさいという声は優しくて胸がキュンと痛む。腕にあたしを抱えておでこに唇を掠めるだけのキスをしてくれたから、お礼に石田君のものをぎゅっと握ってあげた。
「こら」
「落ち着くの。持ってていーい?」
「‥‥」
「大きくなったらどぉしようかな」
唇に唇が触れるか触れないかの距離で甘い声を出せば面白いくらいに石田君のものは大きく反応した。
「彼女でもない女にこーんなことされて大きくなっちゃうなんて石田君て本当に悪い男だよねー」
「好きでもない男を弄ぶ君のほうがよっぽど悪い女だよ」
そう言うと石田君はあたしを下に敷いて覆い被さってきた。切羽詰まった余裕のない声はあたしを幸せにした。
見かけより広い肩幅に両手をまわして「もう一回してもいいよ?」と耳元で囁いてあげた。
翌朝、例のピンクと水色の歯ブラシが洗面台に無造作に置かれていた。
あたしはピンクのほうの包装をばりばりとはがしてゴミ箱に棄てた。いつもは携帯用に持ち歩いている歯ブラシを使うけれど、今日はそのピンクの歯ブラシで歯を磨いて洗面台に置いてきた。ちょっと考えて、歯ブラシ立てにある石田君の歯ブラシも棄てて、水色の方も勝手に包装を解いて歯ブラシ立てにさしておいた。
次に遊びに来たときは
���ブラシ立て��2本用に変わっていて、水色とピンクの歯ブラシがそこにきちんと収まっていた。
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recordsthing · 3 years ago
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世界の果てで
 いつもと同じ日常と、アイドル生活はずっと続くものだと思っていた。そんな幻想は爆発音と聴きなれないサイレン、怒号と悲鳴によってかき消された。 「皆さん早く避難してください!誘導は私たちがしますから!」  ちひろさんが叫んで、レッスン室にいたオレ達は状況を理解しきれないまま誘導に従って外に出た。外は人と車が溢れていてまともに動けそうにない。警察なんかも案内をしているようだが、人の数が多すぎて抑えきれていない。多くの人が転んだ人間を踏みつけてでも、逃げ出している。呆然と立ち尽くしていると、会社の中から急いで出てきた人に押し出されるようにしてオレだけはぐれてしまった。体勢を整えるので精いっぱいで、皆がいた場所に戻ることはできなさそうだ。 避難する人たちからどうにか抜け出して元の場所に戻れないか振り返ってみると、人の流れとは反対向きに走ってくる人影が見えた。混乱している人の間を起用にすり抜けてこちらに向かってくる。そんな器用な真似ができて、自分の元に向かってくれるアイドルは一人しか知らない。 「はぁ……ようやく着いた~、無事なようでなにより」 「志希!!」  こんな状況でも、いつもの声のトーンが変わらないのは普段の生活、いや生まれもっての賜物なのだろうか。服の皺と額からにじみ出ている汗がここに来るまでの苦労がわかる。 「助けに来たよ!さっ早く行こ」  オレの手を取って、皆が向かう方向とは反対の方に駆けだした。 「待てよ!避難場所はあっちじゃないのか?」 「アタシにいいアテがあるんだ、皆とは合流できないかもしれないけど晴ちゃんを助けるためだから信じて」  この時、なんとなく嫌なことを察してしまった。もう二度と他の皆とは会えないかもしれない。それでも、志希は自分のことを助けたく思ってる。一瞬悩んだものの、志希の気持ちを無駄にしたくはなかった。その気持ちを伝えるために、握っている手の力を強めて返事の代わりにした。後はただただ置いて行かれないように、足を一生懸命に動かした。  足の動きがにぶってきた所で、志希は不意に止まった。町から少し離れたそこは、小さな倉庫だった。赤いトタンの屋根にコンクリートの壁、木製のドアが酷く無機質で冷たい印象を受ける。この場所は確か志希が必要な実験の薬品取ってくるために、事務所から一緒に機材を運んだことが一度か二度あったような気がする。中は本当に薬品やら機材やらがごちゃごちゃ入ってて、こんな雑に扱ってて大丈夫なのか?と思ったほどだ。 「ここに避難するのか?」 「まっさかー、こんな小さな屋根じゃ銃弾だって防げないよ♪こっちこっち」  倉庫の裏手に回ろうとする志希の後をついていくと、不意に茂みの中でしゃがみ込んだ。すると、急に地面から蓋のようなものが開いて、梯子が下にむかってかかっている穴が開いた。 「すげえな……これ……」 「志希ちゃん特製地下シェルター!ささ、扉を閉めるから入って」  梯子に手足を引っかけて、ゆっくり下へと降りていく。底がぎりぎり見えるか見えないかの高さで、怖くなって思わず身震いしてしまう。 「あんまり下みない方がいいよー」  アドバイスを聞いてできるだけ正面を向いて梯子を降りる。しばらくすると床が近くなってきたので、飛び降りた。目の前には蛍光灯の明かりに照らされた真っ白な長い廊下が続いていた。 「よっと、さっ行こうか」  志希が先導してくれるのを、後ろからついていく。カツン、カツンとオレと志希の足音だけが響いている。しかし、大きな爆発音と激しい揺れがやってきて足を取られそうになる。 「あっちゃー、いよいよヤバいね。少し急ごうか」  スタスタと駆け出した志希に置いて行かれないようについていく。少し先に進むと機械のパネルでロックされたドアがあって、志希がパスワードを打ち込んだ。ガシャン、という音と共に扉がスライドして開いていく。まるでテレビや映画でよく見るSFの実験室みたいだ。  中は広い空洞になっていて、両脇の棚には食料や生活必需品なんかが揃っている。真正面には大きな円柱の水槽があって上が空洞になっている。上から物を入れるためなのか、これまた大きな梯子がかかっている。水槽には大きな電子パネルがついてあって、志希がなにやら操作している。 「ん~ちゃんと動いてくれるかな……確かこうだったと思うけど……」  不安そうな呟きとは裏腹に、ものすごい速度で操作をしている。次々に現れる表示を捌きながらせわしなく動いている。まるで敵のディフェンダーをリフティングだけで捌いてるような動きだ。  ピーっ、という電子音と共に壁から液体が水槽へと注がれていく。 「良かった……こっちに来て、晴ちゃん」  志希はそういうと梯子を上り始めた。水槽に水が流れ込んでるせいか少し震えていて、さっきの降りているときよりか数段怖い。それでも、上を昇っている志希を見ると安心してゆっくり慎重に昇ることができた。先に昇っていた志希は水槽の淵に座り込んでオレの到着を待ってくれている。すぐに追いついて、落ちないように隣に座り込んだ。 「これはね、コールドスリープのための装置なの。世の中が安全になるまでここで時間を過ごせるようにするための装置。使う機会なんてこないと思ってたんだけどね」  コールドスリープ……聞いたことがあるけど、どんなものかはよく知らない。 「晴ちゃんはここに入って生き延びるの、皆の分までね」 「ちょっと待てよ!それってどういう……うわっ!」  再度大きな爆発音がして、揺れが発生する。その時に体勢を崩してしまって、そのまま水槽に向かって落ちてしまった。水の中に落ちると、なにかの溶液のせいなのか酷くぬるぬるしていて、身体が徐々に沈んでいく。  志希がこちらを見てなにかを言っている。必死に手を伸ばして足をばたつかせてみても、一向に水面には届かない。  おそらく志希のことだから、ここにいれば安全というのは嘘ではないと思う。それでも違う、違うんだ志希。皆の分まで生きてくなんて耐えられない。誰もいない一人の世界なんて想像できないから。  水を飲んで意識を失う直前に、白い泡が立っているのが見えた。ああ、志希だ。伸ばしていた手を握り返して志希が笑っている。この後のことなんてどうなるかはわからない。でも、二人ならどんな世界でもやっていける。手の平の確かな感触をしっかり受け止めながら、身体の感覚と意識が遠のいていった。
 目が覚めると、周囲はもう廃墟のようだった。壁も入っていた水槽もところどころ崩壊しているし、床はもう草が生い茂っている。棚に入っていた食料や生活必需品はすっかりなくなっている。身体を動かそうとすると、酷く強張っていて上手く動かない。そりゃそうか、どれくらい自分の体を動かしていないか見当さえつかない。歩くのがやっとな身体を引きずるようにして、水槽に空いた穴から外へ出る。ただ、周りを見渡しても志希の姿はどこにもなかった。  不安になって辺りを見回してみると、入り口の近くにぼろぼろのメモ用紙��貼ってあるのと、なにかがそばに積まれてあるのがわかった。駆け寄ってみると、独特な筆跡の伝言が書かれてあった。 「ハロー、晴ちゃん。先に目覚めちゃったから一足早く世界を見回してみるよ!良かったらそれを着て来てね」  積まれていたものは、菜の花畑の撮影の時につかったブルーミングエリアの衣装だった。一体どこからこんなものを入手してきたのだろうか。上に乗っかっている泥やほこりからして、相当時間が経っているはずだ。それでも志希の伝言を無視するわけにはいかなくて、手で汚れを払って着なおしてみる。撮影の時は三つ編みだったから、それも合わせることにした。鏡がないから出来栄えはわからないが、多分合っているはずだ。  意を決してドアを開けてみると、そこは別世界だった。広がっていたのは長い廊下ではなく、一面の緑世界とでも言えばいいのだろうか。崩壊した高層マンションや建物に木や草が生い茂っていて、花があちこちに咲いている。それにつられた蝶が辺りを飛び回っていて、人の姿はどこにも見えない。 「志希ー!どこだー!?」 声を上げると、植物がざわざわしてある方角に傾いている。まるでこっちに来いと言わんばかりの動きだ。酷く奇妙で不可解だが、どこか懐かしい印象を受ける。なんとなくこの方角に行けば志希に会えるんだろ思う。それでも、なにか嫌な予感がする。オレの記憶が正しければ、植物たちが向いている方向は事務所があった場所だから。  荒れた土地を草木を踏まないようにゆっくり進んでいくと、元々事務所があった場所にたどり着いた。建物はすっかり崩れてしまっているが、紫色の花が両脇に通っている場所があって道を示しているみたいだ。通りなれた道と酷似しているその道を通って中に入ると、自然の色とは似つかわしくない紫色と肌色が目に入った。光が左側にしかあたっていなくて見づらいが、そのシルエットに見覚えがないわけがない。 「志希!」  ようやく会えたことを喜んだのも束の間、駆け寄ってみるとそれはもうほとんど志希では、いや人の姿ではなかった。 「し……き……?」  右側の目の部分には大きな花が咲いており、首周りには草と花が生えている。身体を這う根が妙に痛々しい。しかし、一番気になるのは開いてある左側の目だ。綺麗で好きだった志希の濃い青の瞳が、黄緑色の毒々しい色になってしまっている。それでも肌の色はそのままで、まだ生きているのか死んでいるのかよくわからない。 「あ……はる、ちゃ……」  志希の唇が微かに動いて、オレの名前を呼んでくれる。 「それ……きてくれて……ありがと……」 「志希!!どうして……どうしてこんな……」  すがりつくように抱きしめる。身体はすっかり冷たくなってしまっていて、人の時の体温ではなかった。 「……耐えきれなかったの、だから……こうなっちゃった……ごめんね……」  オレがいない間、志希に一体なにがあったのだろうか。一人ぼっちで何を考えて、何を感じてこうなってしまったのか、もう聞ける時間はないだろう。それがあまりに悲しくて辛くて、大粒の涙をこぼすことでしか応えることができない。  少しだけ身体を離して、動かなくなりそうな唇に自分の唇を重ねる。唇の温度も冷え切ってしまっていて、まるで死んだ人とキスをしているみたいだ。 「……もう、あたしはダメだから、離れてほしいな……」  自分の体に志希の首から生えていた蔓が巻きついてくる。それでも志希の体に回していた両腕を離したくはなかった。 「ずっと一緒にいるよ、志希」  足の方から根が伝ってくるのがわかる。あまりの激痛に腕を離しそうになってしまうが、なんとか堪えて強く抱きしめる。もう志希を一人にしたくなかった。どうせこんな世界では自分だけでは生きていけないのがわかっていたから。  花がオレと志希を包んでいく。それと同時に意識がまたなくなっていく。それでも、コールドスリープの時より怖くはなかった。だってもう眠っている間も目覚めたとしてもずっと大好きな人と一緒なのだから。
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yoml · 7 years ago
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かえらない
  泡の跡をまだらに残して空になったビールジョッキの口を、ヴィクトルの人差し指がさっきから無意識になぞり続けている。ジョッキの柄に中途半端に指をかけたまま、お代わりを注文するわけでもない。皿には微妙に残った串が数本。もう数十分は手をつけられていない。話に集中しているのだ。俺が勇利の年のころはね、つまり4年前か、なんだろう、なにを考えていたかな、悩んでいたような気もするし、ただ必死だったような気もする。ヴィクトルも必死になるんだね、と言われると、ジョッキを見つめたままふっと軽く彼は笑う。あらゆる煙が視界を曇らすこんな店には不似合いかと思われる銀髪の外国人も、観光客がひしめく最近ではもう特別目立つわけでもない。一人の、夜の、酒で情緒を煽られた、どこにでもいる青年である。   勇利はと言えばそこまで飲んではいないものの、疲労と満腹感が相まって、ぽろぽろと言葉をこぼすように話すヴィクトルのつぶやきを拾うのが若干面倒になっている。ジョッキにかかる彼の指やオレンジの光に照らされた髪を見つめ、適当に相槌を打ち続けている。きれいに切りそろえられた爪。軽くまくられた袖口。そこから肩まで硬い筋肉のライン包むタイトなニット。細くて乾いた、ところどころに白髪の混じった銀色の髪。   ゆっくり視線を落としてみる。髪と同様に色素が薄く長いまつ毛、うっすらと見える目の下のそばかす、高く通った鼻筋に、ひときわ赤く腫れた唇。そこで勇利の視線は留まる。唇。とろんと塞がりそうな茶色の目で、鼻からうんうんと投げやりな相槌をもらし、混み合った狭いカウンターにいつもより近い距離で銀髪の隣に座る勇利は、だけど自分が見つめ返されていることに気付きはしない。会話が途切れる。店中のあらゆる日本語と笑い声が瞬時に狭間に割って入る。それをいいことに、二人は視線を動かさない。そしてふと、今なにを考えていたのだろうと我に返る。
  帰り道。大通りを進んでいけば、20分程度でホテルにたどり着く。歩きながら、二人の肩が何度かぶつかる。ふらついているわけではない。肩をすり寄せているのだ。どちらともなく。何度ともなく。こっちを通ればショートカットじゃない? と銀髪の彼が脇道を指差す。そう? と勇利は気のない返事をする。別に早く帰りたいわけではない。だけど二人は脇道に入る。賑やかな大通りが吐き出すように二人を捨てた。二人はそのまま脇道を進み、勘を頼りに角を曲がる。そうするうちに右側を歩くヴィクトルが、左肩で勇利の右肩をぐっと後ろに押す。二人の体は向き合う形になり、もう進行方向には進めない。2、3歩もつれて足が止まる。ヴィクトルの顔が勇利の目線まで下りてくる。冷えた鼻先が一瞬ぶつかる。さっきまで浴びていた煙のにおいに、いつもの香水の残り香がする。とん、と唇の先がわずかに触れたら、そこからは一気である。マグネットが吸着するように、柔らかな隙間は瞬時に埋められる。密着した唇の内側で、舌の感覚だけが生々しい。働か��い思考。やり場のない4本の腕。荒くなる息遣い。次の行為がわからなくて、二人はそのままキスを続ける。今なにをしているんだろう、と思いながら。しばらく我には返らない。帰り道を見失う。
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322dayo · 5 years ago
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Winter
 沸騰した鍋にパスタの束を放り込んで、さあ茹でようと思ったところでそれは不意にノートンの視界の隅に入ってきた。無地の柔らかい紙に数字が整然と並んでいるだけのカレンダー。几帳面なこの部屋の主人は、1日が終わるたびにそこに鉛筆で斜線を引いている。既に22日まで線が引かれたカレンダーを見て、ノートンは「あっ」と小さく声をあげた。 「ねえルキノさん」  リビングのソファに沈みながら分厚い本と睨めっこをしていた男はしばらく顔を上げてくれず、それから数十秒ノートンが沈黙を守ったところで、ようやく一つに結んだ三つ編みを揺らしながらこっちを向いてくれた。 「私のことを呼んだかな」  家に帰ってから飲み食いも喋りもせず、ひたすら熱心に本を読んでいた男の声は少しだけかさついていた。 「呼びました。でもまずあなたはお水を飲んだ方が良いですね」  手元にあったグラスを手に取りジャバジャバと水を入れて男に手渡す。よほど喉が渇いていたのか、男はそれを一口であっという間に飲みきった。 「麺を茹でてる匂いがする」 「もうすぐ夕飯ですよ。それで、麺を茹でていたら気づいたんですけど、あなた二十四日の予定は?」 「二十四日?‥‥‥今日は二十三だから、明日‥‥‥ああ、明日はゼミのクリスマスパーティだね」 「‥‥‥ゼミのクリスマスパーティー」  むん、と背中を伸ばしながら男は、 「ちょうど外に講演会を聞きに行くことになっていてね、ついでだからそのままクリスマスを祝おうかという話になった」 ノートンはそうですかと頷きながら、男が受け持っているゼミ生たちの顔を思い出す。「爬虫類の進化分類学」というびっくりするほどつまらそうなゼミに入っている先輩たちを一通り頭に浮かべ、クリスマスに何の予定がなくとも不思議ではないなと早々に思い至った。 「だから君とは二十五日に一緒に過ごそうと思っていたのだが、言ってなかったかな」 「聞いていませんが問題ないです。僕もバイトが入っていますから」 「クリスマスまでバイトだなんて、大変だねえ」  それはこっちの台詞だと思いつつ、ノートンは空になったコップを受け取った。キッチンに戻る間に急いでポケットから携帯を取り出してメールを開く。バイト先のマスターに「明日はラストまで大丈夫です」と用件だけのメッセージを送ると、ものの数秒で返事が返ってきた。「失恋?」とだけ表示された画面を見て、ノートンは小さく舌打ちをしながらポケットに乱暴に突っ込んだ。
 彼について人に話すとき、「それって本当に恋人なの?」と聞かれることがよくある。  そんなとき、ノートンは決まって一瞬言葉を詰まらせ、当たり前じゃないかというようなことを口にしようとして、最後にはすべて飲み込んで曖昧に笑ってしまう。彼と一緒にいる時間が長くなるにつれ、ノートンはよくそうやって笑うことが増えた。  例えば、昼間に手を繋いでポルティコの下を歩いたり、クリスマーケットをホットワインを飲みながら回ったり。そういう二人を恋人と呼ぶのなら、自分と彼はどうしたってその枠に入れない。そんな姿を誰かに見られたら彼はまず間違いなく大学を追い出されてしまうし。そうでなくとも、そもそも彼は「普通の恋人らしい行為」というものに興味がない。彼の形の良い頭蓋骨の中は未知への探究心と爬虫類への好奇心ですでにほとんどを埋め尽くされていて、ノートンはそこになんとかして自分を入れてもらおうと意地汚く努力を続けて、そうしてやっと今の関係を手に入れたのだ。  ノートンが曖昧な笑みを浮かべると、友人やバイト先のマスターは必ず「フゥン」という表情をした。そして次に「訳ありなんだ」とどこか労わるような、お節介じみた言葉を口にした。彼らがどんなラブロマンス映画を思い浮かべているのかノートンには想像もできないけれど、訳ありだなんてまったく馬鹿らしい話だ。自分と彼の関係ほどシンプルなものはないと思う。ただ言葉にするには少し寂しい、それだけのことだ。
「なんだ失恋したんじゃないのか」  ガラスの小さなグラスを揺らしながらマスターはあからさまになあんだという表情をした。  オレンジの綺麗な色のウイスキーは彼の一番のお気に入りで、予約がたくさん入っている日なんかはお水のようにゴクゴクと飲んでしまう。栄養剤だよと彼は言っているけれど、そのせいで五回に一回はメジャーカップからシロップを零すので止めてほしいと思っている。 「ご期待に添えず申し訳ないですけど、あっちに仕事が入ったってだけなので」 「クリスマスイブも仕事だなんて働くねえ‥‥‥まあ、それを言ったら私も君もそうなんだけど」 「ジョゼフさんは、あれっ、今は独り身でしたっけ」 「失礼だね君。誘えば飛んでくるような婦人は何人もいるよ」 「独り身なんですね。‥‥‥でもこんなに予約が入ってるとは思ってなかったので、これはこれで良かったかな」 マスターは眉を顰めて、 「勤勉なのは良いことだけど、学生がそんなこと言うもんじゃないよ」  となぜかノートンをたしなめた。  駅からマッジョーレ広場に向かう途中の道を少し逸れた、小さな一本道にあるこのワインバーには二年前からキッチンとして週に四回バイトをしている。この辺りは学生街で、安くていっぱい食べれる大衆料理屋が人気なのだけど、ここはお酒もつまみも少し値が張るいわゆる「ちょっといい感じのお店」だ。小さなカウンター席も、二つしかないテーブル席も普段は満席になんてならないのだけど、クリスマスイブの夜はすでにどの時間も予約で席が埋まっている。おかげでノートンは予定より二時間も早く店に呼び出され、ボウルいっぱいのジャガイモの皮むきをするはめになった。隣では同じように呼びつけられたフロアのトレイシーまでもが玉ねぎのみじん切りにかり出され、ポロポロと涙を流しながら玉ねぎの山をつくりだしていた。 「そうだよノートン!なんだって僕が、こんな、クリスマスに、玉ねぎのみじん切りをしなくちゃいけないのさ!」 「ボーナス出すからってナワーブにも声をかけたんだけど、どうしても予定があるから無理って断られたから。悪いねトレイシー」 「くそっ!あいつ絶対女だよ!���の前ロシアンテキーラした時に、恋人がめちゃくちゃロマンチストでクリスマスもすごく楽しみにしてるから今から準備が大変って酔っ払ってニヤニヤしてたもん!」 「げっ、在庫の数が合わないと思ってたらまた君たちそんなふざけた遊びを」 「ノートンの彼女はさあ、仕事人間って感じなの?」 マスターの言葉を遮ってトレイシーがノートンをちらりと見る。 「仕事人間というか、趣味を仕事にしたみたいな人だから。純粋に楽しくて仕方がないんだよ」 「ふーん」  最後の玉ねぎを切り終わったトレイシーは真っ赤になった目元を袖で擦って、 「それで、君はそういうとこを好きになったんだ」  たいして興味もなさそうに呟いた。ノートンはジャガイモに包丁を入れ���がら小さく頷いたけれど、彼女は気づかなかっただろう。  あの人を好きになったきっかけを思い出す。  それは何か一つの大きな衝撃だったかもしれないし、もしくは小さな発見の塊だったかもしれない。始まりを思い出すのが難しいくらいに、出会った日からどん��ん増えていった。柔らかいオレンジ色の髪、ジャムの瓶すら開けるのに手こずる大きくて非力な手、考え事をするときの静かな横顔、笑うと目尻にできる繊細なリネンのような皺。頭のてっぺんから爪先まで、挙げろと言われればいつまでだって口にできるくらい、本当にたくさんあるのだ。  ノートンがそれを言葉にすると、あの人はいつもなんだか困ったような表情をして笑ってしまう。それから、「私も同じだよ」と薄くて冷たいくちびるを額にくっつけてくれる。たくさんの場所でたくさんのキスをしてきたけど、この小さな子どもを相手にするようなチープなキスがノートンは一番好きだ。  一度だけ少し意地悪なことを言ったことがある。熱心に本を読んでる表情が好きだとノートンは言って、彼はいつもの言葉を返してくれた。暖かいベッドの中だったと思う。ノートンの額はうっすらと汗が滲んでいて、くちびるを落とした彼はついでにぺろりと舌を出して、「しょっぱいね」と笑っていた。 ──私も同じだって言うけど。 ──けど? ──僕、熱心に本を読んだことなんかないよ。  ノートンの言葉に、彼のオレンジのひとみがまあるくなる。  彼を困らせたいというただの意地悪なのだけど、これは本当のことだった。ノートンは勉強が好きだし、本だって人並みには読むけれど彼のように食事も忘れてかじりつくように読書をしたことなど一度もない。そもそもノートンが本を読むのはテストで良い点をとって奨学金をもらうためであって、知識が欲しい、知るのが楽しいという彼の純粋さとは根本的にかけ離れている。  オレンジ色のひとみはまあるくなったあと、ノートンを小馬鹿にするかのようにゆっくりと細くなった。 ──そりゃあ君は熱心に本を読まないが。  囁くような小さな声だった。 ──熱心に私を見るし、さわってくれる。その欲求の熱は私が本を読むのと全く同じものだ。だから私は想像できる、君がもし熱心に本を読むことがあるならこんな表情をするんだろうって。そして私は君のそういう表情がとても好きだよ。  ノートンは驚いた。彼はこうして時々、とんでもないことを言ってノートンを驚かせる。  どんな言葉を返せばよいのか分からないノートンを見て、彼はくちびるをつり上げた。ずるい大人の表情だった。いつだって欲しいときに欲しい言葉をくれるような、気のきいた恋人ではない。クリスマスの予定を一人でさっさと埋めて、次の日は一緒に過ごそうかなんて平気で言ってくる人だ。だけど、誰も知らないノートンのことを一番に見つけて好きだと言ってくれる、優しい人だった。
 七時の開店と共に店はあっという間に満席になり、いつもとは違う賑わいをみせた。  扉のベルを鳴らして店に入ってくる人たちはみんな夜の冷たい空気と、クリスマスイブの陽気で頬を赤くさせていた。扉が開くとキッチンの奥にまでほんの一瞬冷たい冬の匂いが流れてきて、頬に触れるたびノートンはどこにいるのかも分からない恋人のことを思った。  ディナーコースは提供するものが決まっていてすでに準備はできていたのでキッチンはそんなに慌ただしくはなかったのだけど、あちこちの卓からお酒の注文が止まないのでノートンは珍しくフロアの手伝いに回ることになった。お皿を下げて、注文を聞いて、ワインを注いで。休みなく動く途中、トレイシーが申し訳なさそうに目配せを何度もするので、片手を上げながらノートンはやっぱり今日はラストまで入って正解だったなと思った。  十一時を過ぎるといったん注文の波が止んで、二人は久しぶりにキッチンに奥に戻って一息つくことができた。テーブル席の客はついさっき二組とも帰っており、今はカウンターに数名お酒を楽しんでいる人が残っているだけだ。 「疲れたあ‥‥‥こんなにテキパキ動いたの、運動会ぶりだよ」  テーブルにべったりと頬をつけて座り込むトレイシーに、マスターはまかない用に取り分けてあったチキンのグラタンを差し出した。 「お疲れ様。それ食べたらもう上がっていいよ、あとはノートンがなんとかしてくれるから」 「やったーグラタン!でもまだお客さんいますよね?僕もラストまでいけますよ」 「女の子を日付を越して帰らせるわけにはいかないだろう。もう遅いからタクシーで帰って、領収書もらってきて」 「ジョゼフさんこんなに優しいのになんで彼女ができないんだろう」 「君は頭が良いのにいつも一言余計だね、静かに食べてさっさと帰りなさい。ノートンも食べ終わったらフロアに戻ってきてくれ」  用件だけ告げてマスターは駆け足でカウンターへと戻った。 「ノートンありがとうね。僕一人だったら回らなかったよ」 大きな口でグラタンを頬張りながらトレイシーが笑う。 「トレイシーも玉ねぎ手伝ってくれただろ。お互い様」 「ノートン食べるの早いから、先にこれ渡しちゃうね」  そう言ってトレイシーはポッケからごそごそと取り出したものをノートンに渡した。 「カイロ?」 「今日帰り遅くなるかなーってたくさん持ってきてたの。ノートンもあったかくして帰ってね」 「ありがとう、カイロなんて持ってきてなかったから、すごい助かる」 「よかった!‥‥‥使い捨てカイロって大丈夫だよね?彼女さん的に。イブに渡したとはいえ、使い捨てカイロだもんね?」  急にはっとした表情をして慌てだしたトレイシーに、ノートンは思わず笑ってしまった。 「全然大丈夫。そういうの全く気にしない人だから。多分僕がカルティエの財布とか貰ってきても平気な顔するよ」 「えー‥‥‥それは逆に困っちゃうね」 「もう慣れたから。カイロ本当にありがとう、僕はもう戻るから、気をつけて帰って」  笑顔のトレイシーに見送られながら、ノートンはカイロをポケットに入れてキッチンを後にした。
 すでに残っているのは常連のお客さんたちだけとなっていた。  喧騒が去った店内はさっきまでの熱気を知っていると少しだけ寂しく感じられたけれど、静かであたたかい幸福があった。ふしぎな雰囲気だった。いつも赤ワインを好んで飲む上品な身なりの夫婦は珍しくシャンパンを頼んでいて、見慣れた透明の泡さえもが、まるで天国にある水か何か、素晴らしく美しいもののようにノートンの目に映った。  シャンパンを熱心に見つめていたノートンに気づいたのは老紳士の方だった。いつもは赤を飲んでいるからふしぎに思われたのだろうと彼は、「イブは特別だからね。昔からシャンパンを飲むと決めているんだ」と言った。 「ふしぎですね。見慣れたシャンパンだけど、今日は特別美しい飲み物のように見えます」 紳士はノートンを見上げて、朗らかに笑ってみせた。
 深夜十二時半。  お店はさっきまでのあたたかさを残したまま、フロアの明かりが落とされていた。  スツールに腰を落とすと、一気に疲労感がやってきて今夜の忙しさをノートンはしみじみと感じた。あんまり忙しいので途中からは恋人のことなんてすっぽり頭から抜けていたほどだ。生徒とのパーティーなら夜通し開催しているということはないだろう、彼もそろそろアパートに帰っているだろうか。考えると無性に彼の声を聞きたくなって、そんな自分に驚いた。センチメンタルにもほどがある。明日会えるのだから、今夜の数時間がなんだと言うのか。 「お疲れ様。今夜は本当に助かったよ、片付けは明日に回すからもう上がって大丈夫」  心なしか肌や髪がくたびれたマスターは、 「あと、これ持って帰りなさい」  そう言って大きな紙袋をカウンターに置いた。  まかないの残りだろうかとのそりと体を起こして中を覗く。そこに見えたつるりとした綺麗なボトルに、ノートンは思わず声を漏らした。 「えっ」 「常連さんが君にって。詩的な言葉を貰ったから、そのお返しだってさ。‥‥‥君の口から詩だなんて、私には想像つかないけど」  引っ張り出したボトルは老夫婦が飲んでいたものと同じだった。緑色のボトルに、金色の美しい装飾が控えめに光っていた。ノートンは次にこのボトルの値段を思い浮かべた。こんな気軽に貰っていいような値段ではなかったはずだと眉をしかめている間に、マスターはノートンのコートや荷物をぽいぽいカウンターへと投げ捨てて、さっさと帰れとノートンをせっついた。 「でもジョゼフさん、僕こんな高いもの受け取れません」 「私だったらやらないさ。だけどあの人があげるって言ったんだから、素直に貰っておいたら良いよ」 「でも‥‥‥」 「さあ!さっさと帰ってくれ!私もこれから用事があるんだ、楽しい用事がね!」  コートもろくに着させてもらえないまま、ノートンは紙袋を押し付けられあっという間に店から追い出されてしまった。  外はとびきり冷たい風が吹いていて、ノートンはたまらずコートに袖を通してメインストリートへと駆け出した。冷たい夜の空気と一緒に、お店に漂っていた幸福の残り香が街にも溢れていた。ふしぎなことに足は広場をまっすぐ駆けて、自分のアパートとは反対へとぐんぐん進んでいった。  揺れる視界のあちこちにピカピカと電球の灯りがテールランプのように光り、すぐに後ろに流れて消えていく。紙袋を両手で抱えたまま走るから時々石畳につまずきそうになった。あの人のアパートが見えて、二階の角部屋に明かりがついていないのが分かると、足はのろのろとスピードを落として古い階段の前でぴたりと止まってしまった。  肩を上下させながらノートンは一階にあるポストにおもむろに手を突っ込んだ。そこに紙の感触があるのを確かに確認してから、ゆっくりと古い階段を登った。廊下を歩いて一番奥の部屋まで歩き、人の気配が少しもしない扉に背を預けてずるりとそこに座り込んだ。  背中に触れる扉も、コンクリートの地面も、抱えたシャンパンも全てが悲しいくらいに冷たかった。あれだけ街に漂っていた幸福の匂いはもうしない。視界には相変わらずピカピカと光る電球が映っているけど、それがノートンを少しだけ、本当に少しだけ悲しい気持ちにさせていた。  期待していたわけじゃなかった。だって、約束なんてしていなかったし。  誰にたいしてなのか言い訳のような言葉をノートンは胸の内でずっと呟いた。そして百個つぶやき終わったら、すっぱりと諦めて帰ろうと思った。それから二十個目でもう吐き出せる言葉がないことに気づき、呟くことも止めた。あの人が聞いたらカラカラと笑っただろう「だから本はたくさん読みなさいと言っただろう!」って。  もうそれでも良いし、ここに来てくれるのならなんでも良かった。だって今日はクリスマスで、自分たちは恋人なんだから、それくらい願ったってバチも当たらないだろうに!
「ルキノさんのアホ」 「誰がアホだって、うん?」
 ぎょっとした。  紙袋を放り投げそうになって、慌てて抱え直した。勢いよく上を向くと、ずっと会いたかった恋人の姿があった。ノートンが立ち上がるよりも早く、ルキノはその場にしゃがみこんで大きな手でノートンの頬を触った。 「どのくらい待ってたんだ。かわいそうなほど冷たいぞ」 「あなたが帰ってくるのが遅いから」 「連絡をくれれば良かったのに。気分を悪くした子がいたから、家まで送りに行ってたんだよ」 「そりゃあメールをすれば良かったんだろうけど、‥‥‥いや、そうだね。そうすれば良かったね」  何を言っても自分のわがままにしかならないことは知っていた。イブだからなんて、自分が淡い期待を勝手にしただけなのだから。  ノートンが口を閉じると、ルキノは白い息を吐いて困ったように眉を下げた。怒られるかと思ったけど彼は何も言わず、代わりに冷たくなったノートンの頬を労わるように撫でた。 「その紙袋は?」 「常連さんから貰ったシャンパン」 「それは素敵だね」 「あなたにあげるとは言ってないよ」 「意地が悪いな、君。じゃあこれと交換しよう」  ルキノの手がノートンに小さな何かを握らせた。冷たい感触に思わず手が震えた、恐る恐る視線を落とすと銀色に光るピカピカの鍵があった。傷ひとつない、作りたての鍵だった。ノートンは慌てて顔をあげた。その瞬間、くちびるに一瞬だけ冷たいものが触れた。彼のお気に入りの赤ワインの味が僅かに残っていた。どこもかしこも冷たかったけれど、彼の舌はびっくりするくらい熱くて、ワインの味がして、街に溢れていた幸せの正体がそこにはあった。夢中でそれを追っていると、彼の指がノートンの腕を痛いぐらいに掴んだ。鼻で息をするんだよと教えてくれたのには彼なのに、なぜかそれを実践できないのも彼だった。
 くちびるを離してお互いに大きく息を吸った。  冷たい鼻先をくっつけながら聞く彼のメリークリスマスは今まで聞いたこともないくらいに、とびきり美しい発音だった。
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