Missing the Target
N Engl J Med 2020; 382: 1353-9.
8月某日, Bostonに住む58歳の男性が, 約2週間の経過で左下腹部から腰部, 鼠径部に広がる激しい痛みを主訴に救急外来を受診した. 痛みの他, 臍周囲から両側下肢の知覚鈍麻もあるとのこと. これらの症状に先行して外傷を負ったり, 足腰を酷使したりといったことはなかった. 尿失禁や便失禁, 発熱, 頭痛, 羞明, 体重減少, 皮疹の自覚, 血尿, 排尿困難, 下痢はなかったが, 受診3日前から排便がないとのこと.
Radiculopathyを認めた場合には, 脊髄圧迫, 馬尾症候群, 硬膜外膿瘍の除外が必須である. 本例では, 横断性脊髄炎も鑑別疾患には挙がる.
Mantle細胞リンパ腫の既往があり, また, 数年前より脂質異常症, 逆流性食道炎に対して, Simvastatin, Omeprazoleの内服を継続しているとのこと.
悪性リンパ腫の既往があることから, その中枢神経再発による脊髄圧迫の可能性は考慮すべきである.
Mantle細胞リンパ腫については, 約5年前に全身リンパ節腫大と脾腫を契機として発見され, 典型的な(11;14)(q13;q32)転座が確認されており, 予後予測因子として知られるKi-67 proliferation indexは10%であった(※Ki67 proliferation indexが高値であるほど, 予後不良とされる). LDHは366U/Lであった(※MCL International Prognostic Index(MIPI) ☞ Age/Performance status/LDH/WBCより算出され, International Prognostic Index(IPI)よりも予後予測能が高い). Rituximab とBendamustineによる化学療法を3サイクル受けた後, RituximabとCytarabineによる治療が追加された. それらの治療後に自家造血幹細胞移植を受け, 完全寛解に至った.
特記すべき家族歴として, 弟がParkinson病, 叔父がHodgkinリンパ腫をそれぞれ発症しているとのこと. 喫煙歴・飲酒歴・違法薬物使用歴はなかった. 受診8ヶ月前にJamaicaへ旅行し, 受診2週間にNew York州北部で家族と過ごしていた(New York州北部を訪れた際にはすでに症状を自覚している状態であったと). 鯉を飼っており, 妻とともに園芸も楽しんでいるが, 特に虫に刺された覚えはないとのこと.
Mantle細胞リンパ腫診断時のLDH及びKi-67 proliferation indexからは, 再発を起こし得るような病勢であったとは考え難く, 悪性リンパ腫の中枢神経再発以外の鑑別疾患についても引き続き考慮する必要がある.
Vital signは体温36.8℃, 心拍数63/min, 血圧157/89mmHg, 呼吸数18/min, SpO2 99%(室内気)であり, 呼吸促迫や苦悶様表情はないものの, なんとなく具合の悪そうな様子であった. 眼球結膜に黄染なく, 咽頭所見に異常は認められなかった. 口腔粘膜は湿潤しており, 項部硬直はなく, 頚部リンパ節腫大も認められなかった. 心音及び呼吸音に異常所見はなかった. 腹部やや膨隆し, 腸蠕動音は聴かれないものの, 触診上は軟で圧痛はなかった. 肝脾腫も認められなかった. 背部に発赤や熱感, 傍脊柱筋の圧痛や脊椎のアライメント異常も認められなかった. 浮腫はなく, 末梢循環は保たれていた. 明らかな皮疹は認められなかった. 意識清明で見当識障害なく, 第II~XII脳神経障害を示唆する所見は認められなかった. 筋萎縮やトーヌス異常, 筋力低下はなく, 腹壁運動の非対称性も認められなかった. 左膝蓋腱反射が僅かに減弱している以外には, 明らかな腱反射異常は認められず, Babinski徴候は両側とも陰性であった. 臍より尾側では, 右下腹部から右下肢前外側部に痛覚低下を認めた(第11胸髄〜第2腰髄のデルマトームに一致する範囲). 肛門周囲の感覚障害はなく, 歩行異常も認められなかった.
(参考)Superficial Abdominal Reflex; https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1308153
血小板数110,000/μL(基準値; 150,000~450,000/μL)であり, 平時の数値(80,000~120,000/μL)と比べて変化はなかった. 白血球数及び好中球数は基準値内であり, 貧血もなかった. 電解質・腎機能・肝機能は何れも基準値内であった. LDH 238U/Lで上昇を認めなかった. 尿定性及び沈渣に異常所見はなかった. 腹部~骨盤部CTで明らかな異常所見は認められなかった. 脊髄造影MRIでは, 胸髄レベルの髄膜に広範な造影効果が認められた. 馬尾神経根にも僅かな肥厚と造影効果が認められた(Fig. 1).
Figure 1. Thoracic and Lumbar MRI Showing Leptomeningeal Enhancement around the Thoracic Spinal Cord and Thickened Cauda Equina.
患者は悪性リンパ腫の中枢神経再発の疑いで, 腫瘍内科へ入院となり, 腰椎穿刺が施行された. 初圧は基準値内であり, 髄液糖は67mg/dL(基準値; 40~70mg/dL), 髄液蛋白は165.9mg/dL(基準値; 44mg/dL未満)であった. 白血球数は190/μL(リンパ球比率 77%)であり, 4本目のスピッツでの赤血球数が530/μLであった(1本目のスピッツでの赤血球数は30,000/μLであった). 細胞診にて悪性細胞はなく, Flow cytometryでも悪性リンパ腫を示唆する異常所見は認められず, 形質細胞様リンパ球や免疫芽細胞を含む, 多様な形態のリンパ球浸潤が認められるのみであった. 血清及び髄液検体は, 梅毒, 結核, Lyme病, VZV, HSV, HHV-6, West Nile virusに関するスクリーニング検査へ提出された. 頭部造影MRIでは, 橋前槽に於ける両側三叉神経の造影効果を認めた(Fig. 2). 眼科的検査では, 硝子体及び網膜に明らかな異常所見は認められなかった. FDG-PETを施行したところ, 頚部及び腋窩リンパ節に複数の集積が認められた. 下位腰髄にも僅かながら集積が認められた.
Figure 2. MRI Scan of the Brain.
リンパ球優位の髄液細胞数増加に関して, 感染症科へのコンサルテーションがなされた. 感染症科医による診察では, 左鼠径部から左前大腿部にかけて, 境界明瞭な環状の紅斑が認められた(Fig. 3). 鱗屑付着や苔癬化, 潰瘍形成は認められなかった. 他の部位には明らかな皮疹は認められなかった. 患者自身はこの皮疹に気づいていなかった.
Figure 3. Patient’s Left Groin and Anterior Thigh, with an Annular, Erythematous Rash(※有害指定回避のため一部改変).
Lyme神経Borrelia症の診断で, 4週間のCeftriaxone投与が行われた. なお, 12誘導心電図検査では伝導障害は認められなかった. ELISA法にて陽性であったものの, Western Blot法ではIgM/IgGともに陰性であった. 髄液検体による他の病原体に対するスクリーニング検査は陰性であり, 塗抹及び培養検査でも抗酸菌は検出されなかった.
(参考)国立感染症研究所(NIID; National Institute of Infectious Diseases)HP; https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/524-lyme.html
米国国内に於ける2017年のLyme病報告例は, 29, 513例に上るものの, 未診断例も含めると, 年間300, 000例ほどと推測されている.
Borrelia症患者のうち, 10~15%に何らかの神経合併症(Neuroborreliosis)が生じるとされるが, 臨床症状は多岐に渡り, 診断が遅れる理由のひとつとなる. 特徴的な皮疹は診断に有用であるものの, しばしば見逃されてしまう.
本例では初診時, 知覚鈍麻, 便秘, 複数領域のデルマトームに一致する神経根痛が認められていた. 造影MRIでは三叉神経, 胸髄, 馬尾といった広範な部位での造影効果が認められた. Mantle細胞リンパ腫の既往があったことから, その中枢神経再発が強く疑われたものの, 同リンパ腫診断時のKi67 proliferation indexは10%であり, 中枢神経再発が起き得るとされる値(>30%)を大きく下回っていた.
本例の臨床経過は, Borrelial meningoradiculitis, いわゆるBannwarth症候群に合致する. Borrelial meningoradiculitisは, (1)激しい神経根痛, (2)筋力低下, (3)脳神経障害, (4)リンパ球優位の髄液細胞数増多, (5)髄液糖低下を伴わない髄液蛋白上昇を特徴とする, Lyme神経Borrelia症の稀な病型であり, 欧州での報告例が多い. 男性により多く, また, 7月~10月に多いとされ, 何れも本例に合致する.
米国では殆どがBorrelia burgdorferi sensu stricto(いわゆるB. burgdorferi)によるものである一方, 欧州では殆どがB. garinii, あるいはB. afezeliiによるものであり, この違いが臨床症状の違いに関連している可能性がある.
米国では全ての州でBorrelia症を発症する可能性があるが, 特に北西部~中北部が流行地とされる. マダニの活動性は湿度と気温に依存するため, 気候変動により今世紀半ばまでに, Borrelia症が20%以上増加すると推定されている.
Borrelial meningoradiculitisは数週間の経過で亜急性に進行する. 神経根痛と筋力低下に加え, 不眠や頭痛, 倦怠感, 感覚異常, 遊走性紅斑, 顔面神経麻痺などが認められる. 神経根痛はほぼ全例で認められる症状であり, 皮疹部位に一致, あるいは隣接する複数のデルマトームに渡るのが一般的である. 上行性筋力低下, 弛緩性麻痺を呈した症例報告もある. 脳神経障害としては顔面神経麻痺が最も多く, 三叉神経麻痺は少ないとされる. 約半数の症例で, 経過中に遊走性紅斑が認められる. 本症例でも認められた腹痛や便秘, 偽性腸閉塞といった消化器症状は, 報告されてはいるものの, 一般的ではない.
診断については, ELISA法でスクリーニングを行ない, 陽性例に対してWestern blot法で確定するのが標準的ではあるが, 発症1ヶ月以内の患者では感度・特異度ともに十分ではない. 特に流行地に於いて, 典型的な遊走性紅斑が認められる場合には, 血清学的検査の結果に関わらず, 治療を開始することが推奨される. また, 近年では, B. burgdorferi C6 peptide antibodyが発症早期のスクリーニングに利用されている. 本例では, Rituximab及びBendamustineによる化学療法と自家造血幹細胞移植が, 患者の液性免疫に影響を与え, Western blot法の結果を修飾した可能性があるが, 治療終了時には, B. burgdorferi C6 peptide antibody陽性が確認されている. Lyme神経Borrelia症の診断に於いて, 確立されたガイドラインはないものの, ペア血清及び髄液での抗体価を確認することが推奨されている. 画像検査は他疾患の除外には有用であるものの, Lyme神経Borrelia症自体に特異的な所見はない.
Lyme神経Borrelia症の治療反応性は良好であり, 適切な抗菌薬治療を10~28日間行なえば, 約95%の症例で改善が期待出来る. そのため, Lyme神経Borrelia症が強く疑われる患者では, 検査結果を待たずして治療を開始することは妥当である. Penicillin, Ceftriaxone, Cefotaxime, Doxycyclineが有効であり, 欧州で行われた β-lactum系抗菌薬静注とDoxycycline内服の無作為比較試験では, 両者で治療効果に有意差はなかった.
Lyme病流行地の居住歴や渡航歴のある患者が神経根症状を呈している場合にはLyme神経Borrelia症を疑うべきであること, そして, 皮膚所見も含めた身体診察が診断に重要であることが本例の教訓である.
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@红 (Hung) [Red] 紅
https://www.youtube.com/watch?v=ipOA75fj3Kc
レスリー・チャンの歌。このビデオが一番いいが、歌は2分20秒あたりから始まる。これほど彼の魅力を前面に出した歌は他にない気がする。映画「覇王別姫」に通じる妖しい世界。ハイヒールをはいて踊るレスリーと、それにからむ男性。
Leslie Cheung sang it, and this video is from his concert in 1997.
The song begins at 2:20.
This song shows his charm most.
He dances wearing high heels, which reminded me of his cinema, “Farewell my Concubine”.
尚、このビデオは1997年のコンサートの時の物で、この時彼は母親を招待して「ぼくを自慢に思ってくれる?」と聞いていた。母親の笑顔を思うと、その6年後の彼の死は残酷すぎる。
At this concert, he invited his mother and said, “Are you proud of me?”
She was pleased then, but 6 years after, she knew his death.
What a cruel destiny!
歌詞と意味
红 像蔷薇任性的结局
红 像唇上滴血般怨毒
在晦暗里漆黑中那个美梦
从镜里看不到的一份阵痛
你像 红尘掠过一样 沉重
紅 バラの蕾が故意に閉じるように
紅 唇にしたたる血のように激しい怒り
薄闇の中で 黒い樹脂のなかに 美しい夢がある
鏡の中には傷のふるえは見えない
君は重い もう払いのけられたごみのように
HA 心花正乱坠 HA 猛火里睡
若染上了未尝便醉
那份热度从来未退
你是 最绝色的伤口 或许
私の悦びは混乱の中で落ちてゆく 残忍な火の中で私は眠っている
もし誰かが近づいたら 一口も飲まずに酔うだろう
その熱は決してさめない
君は一番ひどい傷だ 多分
红 像年华盛放的气焰
红 像斜阳渐远的纪念
是你与我纷飞的那副笑脸
如你与我掌心的生命伏线
也像 红尘泛过一样 明艳
紅 咲き誇る年代の傲慢さのように
紅 少しずつ遠ざかる落日の思い出のように
私と踊った時のそのほほえみ
君と私の掌の中心にある 人生の予兆のように
それはまた紅の粉でいっぱいになったみたいに 明るく美しい
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