#試合も好きだけど試合前のノックのが好き
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フームその5
41話 ・「(カービィが)何したって言うの?バカみたい…。」 ・「何考えてんだか、あまりにもバカバカしくて分からないわ~。」 ・「メーベル。デデデ、なんだって?」 ・「やっぱメーベルにでもダメか…。」 ・「じゃあ…メーベルは占い師って言うより…(カウンセラーなのね)。」 ・「そうね…話を聞いてもらえば、不安や悩みを持つ人は癒される。」 ・「(サモに対して)あなたのように世慣れた人が?」 ・「お願い、サモ。メーベルに頼んでくれない?デデデのことを調べるように。このままだと(カービィ恐怖症のデデデが)何を始めるか知れないから。」 ・「頑張ってメーベル…。」 ・「(調べたいなら)私が案内するわ。」 ・「デデデはもう眠っている頃よ…。デデデとエスカルゴンの研究室よ。天体望遠鏡だわ。デデデは新しいモノ好きだけど、飽きるのも早いから。」 ・「カービィ、吸いこんで!(氷を吸いこませようとするが失敗する)」 ・「カービィもう一度!あなたには吸いこめるはずよ…カービィ!(無茶振り)」 ・「でもメーベル、これで良いの?その妖星ゲラスって、本当にぶつかるの?」
42話 ・「メーベルの占いの秘密が分かった…。」 ・「彼女はパブのマスターのサモから、村の人たちの噂を聞いていたの…。つまり、そうやって彼女は不安や悩みを抱えている人の話を聞いてやる「カウンセラー」をしていたワケ。」 ・「だから…予言が当たらなくても、皆はメーベルを頼りにしてる。」 ・「そんなある夜…デデデは紅く燃えるボールに追いかけられる悪夢を見た。」 ・「アイツったら、それがカービィだと思い込んで、冷凍魔獣をけしかけた。もちろんカービィは「ファイア」になってやっつけたわ…。」 ・「すると、メーベルはびっくりするような予言をしたの。宇宙をさまよう『妖星ゲラス』が、プププランドに近づいているって。そして、この世の終わりが来るって…まさかね。」 ・「(デデデに対して)あるに決まってるでしょ!全然約束が違うじゃないの!とにかく!こんな気持ちの悪い像早く壊して!」 ・「(ネズミの大群を見て)あ、やだ…。どういうこと…?メタナイト卿!例えば…どんな未来?ということは…まさか!」 ・「(ゲラスの)見かけ上の直径と速さは分かっている。あとは…。」 ・「あと48時間!計算では、あと2日後に衝突よ!何言ってるの…まだ時間はあるわ!待ってみんな!諦めたわけじゃないでしょ!助かる方法を考えるのよ!カブー…もう私たちの未来を変えることはできないの…?」 ・「(ローラースケートで遊ぶデデデ達を見て)この世の終わりを前にして、やりたいことはあれ?私は諦めないわ!行動開始よ!」 ・「1人になっても…最後まで生きる努力を続けたいの。え…(メタナイトが)手伝ってくれるの!?みんなありがとう!お城の大砲で、あの星を破壊するの!どの角度で飛ばせばよいか私が計算するから、急いで大砲を並べて欲しいの!(ソドブレに破壊は無理だと言われるが)助かる方法はそれしかないのよ!ありがとう、メタナイト卿!え、地震!?」 ・「星の軌道がそれますように…。」 ・「来て、ワープスター!」 ・「カービィお願い!砲弾を!」
43話 ・「オオカミが来たぞー!オオカミが来たぞー!という羊飼いの少年の叫び声を聞いて、村人たちは駆けつけました。でも、オオカミというのは少年の嘘でした。それが2度3度と続くうちに、本当にオオカミがやって来たとき、村人たちは誰も信じませんでした。嘘をついていると、本当のときに誰も信じてくれなくなっちゃうっていうお話よ。」 ・「あのね…このお話はそうじゃなくて…。(「オオカミは悪くないの?」と聞かれて)悪いわよ。でも…(イローに遮られる)このプププランドにはオオカミなんていないから、心配しないで。さ、そろそろお帰りなさい。さようなら~。」 ・「はぁ~、もうオオカミなんていないから(絶滅したニホンオオカミのこと?)、あの子たちには分からないのかもね~。」 ・「見たんです!ヒツジがカービィを…(突き飛ばしたところを)。」 ・「今度こそ分かったでしょ?ヒツジ達が一斉に暴れて、カービィを襲ったの!でもたった今見たのよぉ!本当なんだったら!」 ・「もう!これじゃまるで私、オオカミ少女じゃない!」 ・「(弟に対して)アンタまで私を信じないの!ブンったら!」 ・「私は見たの!良いわ…こうなったら嘘じゃないことを証明して見せる…。」 ・「う~ん、120匹までは調べたわ…。あとはあっち側ね。あ~どれがどれだかわからなくなっちゃった~!も~なぜヒツジって羊飼いの言うことだけは聞くのかしら…。(吹き飛ばされた羊飼いに対して)これで信じてくれる?でもどうしちゃったのかしら…ヒツジたち。」 ・「(ヒツジ達が)暴走したのよ。(羊飼いを責めるレン村長に対して)待って、彼のせいじゃないわ。ヒツジ達の中に悪いのがいるの。」 ・「やっぱり…あの目つきの悪いヒツジがリーダーになって仲間をけしかけてたのよ。それに遠吠えなんて変よね…。」 ・「みんな(城に)急いで―!(ヒツジ達が)すぐそこまで来てる!」 ・「(「メェ~」としか言わない村人たちに対して)みんな何してんの?それじゃまるでヒツジじゃない!ちょっとそこの目つきの悪い���!オオカミ気取りで何のつもり?」 ・「(アモンの)気持ちは分からないこともないわ…でも。」 ・「みんな何してるの?ヒツジになるつもり?」 ・「彼はプププランドを救いに来た星の戦士よ!」 ・「カービィ、吸いこみよ!」 ・「そうだ!(羊飼いから笛を)借りるわ!」 ・「(アモンに対して)あなたの気持ちはよく分かるわ…。また旅に?」
44話 ・「え?カービィとブンが何ですってぇ!?」 ・「(ブンに対して)あなたたち、何してたの?ウィスピーが動物たちを追い出せと言ったの?でしょ、気と動物たちは助け合ってるのよ!だから追い出すなんて最低なの!」 ・「ブン、アコルに迫っている危険は、多分別のことよ!」 ・「カービィ、(デデデのチェンソーを)吸いこみよ!」 ・「カッターカービィ!」 ・「お礼はカービィに言えば?」 ・「いくらカービィでも、こんな自然の力には勝てないわ!分かった、ウィスピーウッズが心配してたのは…(嵐のことだったのね)。私たちも手伝うわ~!」 ・「頑張って、アコル!頑張りなさい!トッコリ!」 ・「鉄砲水よ!」 ・「分かった?森は元通りよ。」
45話 ・「しょうがないわね…。カービィ!カービィ!返事してー!…ったくもう。」 ・「(カービィを発見して)大丈夫?いつもボールと間違われちゃって、かわいそうに…。」 ・「この森こんなに暗かったんだ…。戻ろ、カービィ。急ぐわよ、カービィ!」 ・「(ジジイ村人たちに)ど、どういうこと!?肝試し?」 ・「(弟に肝試しのことを聞かれて)ん、初耳よ。何か妙に張り切ってたのよね村長さんたち~。」 ・「つまり、いろんなことをこじつけて…(大人たちが楽しみたいってワケね)。」 ・「(肝試しに参加するか聞かれて)いいえ行くわ!理由もわからずに怖がる自分が許せない!二度とあんなふうにならないようにトレーニングするには良いんじゃない?」 ・「肝試しなんかでビビっちゃうような臆病者じゃないわ私たち!」 ・「だ、誰からって~。(鳥の飛び立つ音を聞いて)どうして何でも怖く思えてくるのかな~?」 ・「さぁ、行くわよ!必ずクリアして、大人たちの鼻を明かしてやるわ!カービィ!」 ・「(弟にオバケがいるのか聞かれて)こんなときに変なこと聞かないでよ~。待ちなさいブーン!待ちなさいー!違うわよ、アレは村長さんたちが作った偽物よ!(村長の手作りオバケにビビって逃げる弟を止める)さぁ、先へ進むわよ。」 ・「きっと村長が脅かしてるのよ(※エスカルゴンです)。もうカービィったら~(エスカルゴンの真似をするカービィに対して)。」 ・「見てらっしゃい…そこよ!(エスカルゴンに石を投げつける)ほーらね、ボルン署長!そこに隠れているのはお見通しよ!さ、行きましょ。」 ・「こーゆーのって、心が細やかで想像力が豊かなほど、堪えるのよね…。どうしたの?ブン…。気味悪いこと言わないで!…(ズボンに枝が)引っかかってただけ。」 ・「���音がしたの…し!」 ・「(エスカルゴンらしき声を聞いて)なんですって?ゲス?もしかして…あ!ふーん…どうやらお邪魔虫が断わりもなく参加してるようね…。」 ・「(デデデに対して)良い気味よ。邪魔者は消えたし、優勝者は私たちで決まりね。」 ・「あ!森が終わるわ!」 ・「矢印に従っていけば、キュリオさんたちが埋めた印があるのよきっと!怖がってる場合じゃないわよね、カービィを見習わなくっちゃ!あ、(宝箱が)あったわ!あなたのおかげよカービィ。さ、開けて。」 ・「(英雄バッジよりも)食べ物のほうがよっぽどマシね。でもまぁ良いじゃない…カービィがこんなに喜んでるんだから。」 ・「(雨が降ってきて)こんな雨の中歩いたら、風邪ひいちゃうわ。(弟に対して)変なこと言わないでー!」 ・「(ドアをノックして)すみませーん!開けてくださーい!誰もいないのかしら?何よ、さっき怖がらないって誓ったでしょ?(オバケ屋敷に入りたくないというブンに足して)そ、そんなワケないでしょ!入るわよ?」 ・「おかしいわ?何で開かないの?ブン!来ちゃダメ!誰か助けを呼んできて!(流石に入るの躊躇しようよ…)」 ・「大丈夫よ、カービィ。オバケなんているワケないものね…。(ユーレイ型に集まる光を見て)どうなっちゃうの…。」
46話 ・「よせばいいのに…村人たちが始めた肝試し大会。真夜中に、森の奥の墓場に埋めてある勇者の印を手に入れるという、懐かしいゲームですって!」 ・「気は進まなかったけど、そう…ワケもなく理屈に合わないものを怖がる自分が嫌だから、私はトレーニングのつもりで出かけたわ…カービィと一緒に。」 ・「彼ったら、何を見てもちっとも怖がらないから、とても心強いの。正直言うと…怖かったわ。村長さんたちが仕掛けたユーレイとは、別に何かが本当にいる気がして…。」 ・「でも、それはデデデ達のイタズラで、やっぱりユーレイなんているはずないと、私たちは気を取り直して、目的の墓場にたどり着いた…。」 ・「そのとき、見たこともないふる~い屋敷が目の前に現れた。嵐を避けて、中に入った私たちは、建物に閉じ込められちゃった!いくら私でも、これはプレッシャーよ!(前回のあらすじ)」 ・「(ユーレイ型に集まる光を見て)私の理性が崩れていく…やっぱり幽霊は本当に…。いやあああ!」 ・「カービィ待って!この屋敷…何もかもおかしいわ…。この階段だって…変よ!カービィ気をつけて!」 ・「気持ち悪い…(ドクロから謎の紅い液体が出る様子を見て)。」 ・「見てこれ!(さっきのドクロから出てたのは)赤い絵の具よ!こんなのに騙されてたのよ、私たち。(デデデ達の声を聞いて)やっぱりアイツらだったのね…。ブン!メタナイト卿!」 ・「(デデデ達を驚かして)やったわね、カービィ!」 ・「(デデデの悲鳴を聞いて)一体何が?やめて、せっかく(理性が)まとも��なったのに~。(デデデのビデオを見て)バカみたい…早送り早送り。待って!今のところ!見過ごせないわ!」 ・「カービィ、今よ!(吸いこんで)」 ・「(ガボンがスカだと教えるメタナイトに対して)そーゆーことは先に言ってよ~。」 ・「あんなことがあったなんて夢みたい。ね、カービィ。」
47話 ・「何ですって!?(ワドルディが全員クビ?)ひどい!(デデデは)いっぺんだって給料なんか払ったことないのに~。」 ・「ワドルディ達をクビにするなんて、ひどいんじゃない?こんな広いお城、ワドルディなしでやっていけるワケないでしょ!」 ・「これまで私たち…ワドルディのことをあまりにも知らな過ぎた…。こうしちゃいられないわ!」 ・「ねぇ、(ワドルディ達は)渡り鳥みたいにどこかへ行く気?」 ・「のんきに生態観察している場合じゃないわ!(ワドルディ達が)何をする気か確かめないと!洞窟を調べるのよ!」 ・「調べたいことがあるのよ、どいてくれない?ねぇワドルドゥ…私たち、ワドルディ達に興味があるの。」 ・「ポヨはダメ、いい?はい、(カメラを渡す)ボタンを押すだけよ。」 ・「(戻ってきたカービィに)さぁ、カメラを貸して!(カービィが撮った写真を見て)何かしらこれ…箱!?やっぱり海を渡るつもりなのよ。」 ・「カービィ、吸いこみよ!」 ・「やったー!ストーンカービィ!」 ・「ワドルディ達はデデデのヘソクリを守ってやったのね。」
48話 ・「ちょ、ちょっと!あなたたち!旅のしおり?パンフレットだわ。」 ・「観光スポット?ひどいわ!第一この村は…。」 ・「(観光客の捨てたゴミを見て)うわ~ひど~い!なによこれ~!大変だわ!早くやめさせないと!こんな事続いたら村はボロボロでしょ!あれ?ブンとカービィはどこ?」 ・「そもそもプププランドを観光地で売ろうとするのが無理なのよ。」 ・「えー!あたしがガイドー!?良いかもしれないわー!観光客にこの村のありのままの姿を見せるのよ!」 ・「みなさーん!では出発しまーす!(弟に服が似合ってると言われて)うるさいわねー。押さないで下さーい!」 ・「カブーは地質的年代を生きている偉大な石の賢者で…お金を入れないでー!(カブーにラクガキする観光客に対して)重要文化財になんてことするの!」 ・「カブーごめんなさい!あとできれいにするわ!」 ・「次は…ウィスピ―ウッズの森?予定変更ね…皆様ー!次はギラウエア火山でございますー!」 ・「左に見えておりますギラウエア火山は、プププランド唯一の活火山です!氷の水筒は持ちましたか~?暑いですから忘れないで下さいね~。」 ・「あんまり近くに行くと危険ですよ~!」 ・「カービィ(炎を)吸いこんで!」 ・「来て!ワープスター!」 ・「大変!カービィの炎が小さくなってる!」 ・「そうだ!火がダメなら氷よ!(水筒の氷をカービィに投げる)カービィ!(氷を)吸いこんで!」 ・「皆!氷をカービィに投げて!カービィ!吸いこみよ!」
49話 ・「うふふ、見てなさい。これが動くんだから。」 ・「(私の描いた絵が動いて見えるのは)目の性質のせいよ。前の絵が残って見えるから、少しずつ違った絵を描くと、動いて見えるの。」 ・「ドラマと違って、アニメは描いた絵が動くの!」 ・「まず、企画会議を開かないと!企画っていうのは「誰に見せるのか、予算はどうか、物語や主人公をどうするか」決めることよ。」 ・「(アニメの主人公がデデデマンと聞いて)えー!デデデがー!?そんな変なキャラ、ヒーローに出来ないわ!そうねぇ…可愛いけど強い…例えば…カービィなんか!どう?」 ・「キャラが良くてもシナリオがなきゃダメね。物語の台本のこと。」 ・「えー!?私がアシスタント!?」 ・「あ~…結構難しいな…。カービィアンタってやっぱりヒーローって柄じゃないわ…。」 ・「(父と弟に対して)2人ともすごい!真理をついてる!そんなありふれた話…。」 ・「というワケで、カービィは最初はやられるけど、最後に悪を倒す!これでおしまい!」 ・「じゃあ次はストーリーボードね。」 ・「そして、クライマックス!こうして敵が攻めてくる。その前にカービィが立ちはだかる。そして、こうなるの!でも…絵を動かすアニメーターは大変よ?」 ・「皆、デデデマンの絵がキャラ表にどれだけ似てるか見せて?(住民達の下手なイラストを見て)思ったより深刻ねぇ…。」 ・「(エスカルゴンに反論)監督はアンタでしょ!作画監督をやれってゆーの!?」 ・「トッコリ!?そんなところで何してんのよ!政策…?じゃあスケジュールの遅れはアンタのせいね!こっちは下手くそな絵の後始末をさせられてるんですからね!」 ・「(メーベルに対して)このカットの次は…こっちのカットよ。アニメーターが遅れてるの…ごめんなさい。」 ・「なんですってぇ!?明後日の朝に放送!?」 ・「ダメよ!とても完成しないわ!」 ・「(ぶっつけ本番で声優をやれと言われて)そんなん無茶よ!」 ・「見て!主役がデデデになってる!オープニングが終わるわ!」 ・「太ったほ…太った訪問者!?あれ?こういう題だったの!?」 ・「(ヒツジを吸いこむカービィに対して)ひどいわ!魔獣がカービィになってる!カービィ!こんな仕事やめましょ!あなた悪人にされてるのよ!」 ・「(アニメ内のデデエスの会話を見て)なによ~、こんなくだらないセリフに書き換えて…。」 ・「さっきから全然動かないでつったって喋ってばかり…。でもホラ…カメラワークはあるわ。」 ・「ひどい!私の役をエスカルゴンが…。」 ・「あら、カワサキ…どうしたの?(カブーの声真似を聞いて)上手ねぇ…レストランやめて声優になったら?」 ・「(デデデが)私たちをアニメに使って儲けようとしたのが悪いのよ~。」 ・「(星のデデデの続編を見て)ひどさを極めると、芸術ねぇ…。」
50話 ・「(デデデ人形を見て)おえ~!なにこれ~!気色わる…デデデにそっくり。」 ・「どーせロクなことはないけど、一応確かめないと…(デデデ人形と一緒に寝る)。」 ・「あ、メタナイト卿…。えぇ、だって人形の中のお金がいっぱいになったから…。」 ・「え?デデデが人形を回収?それはそうと…パパもママもその顔は?」 ・「バカなこと考えるからよ、今頃アンタの銀行は潰れてるわ。」 ・「(地面に潜るデデデを見て)なんて器用なの…。」
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吸血鬼の友達(前編)
静寂に包まれた深い夜。 ポツリポツリと等間隔で佇む街灯は、どこまでも続く長い道を照らしている。 その道を行く人影がひとつ。 それは少女のものだった。 銀色の髪は上半分を結い、青いリボンで留めている。 青で揃えられた上品な服装とは対照的に、その手には武骨で重たげな鞄が提げられていた。
彼女はため息を吐き、空を見上げた。
「宿場町、通り過ぎたみたい……」
肩を落とす彼女に追い打ちをかけるかのように、冷たい風が吹く。 その風は疲れ切った彼女の身体を容赦なく刺した。 グッと縮こまったその刹那、鼻先に雨粒を感じた。 ハッと青ざめると、やはり思った通りに雨脚がきつくなってきた。 今夜はとことんついていない。
どこか雨を凌げるところはないかと見渡してみる。 ここは農地に囲まれた一本道。 真っ直ぐに進むしか選択肢は無かった。
降りしきる雨で視界が悪くなる中、右前方にオレンジ色の灯りがあることに気が付く。 雨と疲労で重くなる脚に鞭を打ち、彼女は駆け足で向かった。 近づくとわかった。 そこは大きな屋敷だった。 遠くから見えていた灯りは、二階にある一室の窓から漏れているものだった。 彼女は住人に気づかれないよう、石塀の際に生えている大きな木の陰に身を寄せる。 髪も服も、どれも濡れてしまった。 これほど不快なことはない……。 クタクタに疲れ切った彼女は、ため息とともに視線を落とした。
「ん?」
足元に小石が転がってくる。 コロコロ、コロと3つ、4つ。 どれも同じ方向からだ。 小石が転がってくる先に目を遣ると、勢いよく転がる小石が地面を弾き、彼女の額を衝いた。
「痛っ!」
ああ、なんて災難な日なのだろう……。
痛む額に手を当て、再び小石の転がってくる先���見る。 それは遠くから見えていた灯りの灯る一室で、窓辺には女の子がいた。 どうやら慌てた様子だ。 部屋の灯りは残されたまま、女の子の姿が消えた。
ビチャビチャビチャ――
遠くから雨音に混じって足音が近づいて来る。 足音の正体は案の定、窓辺にいた女の子だった。
「ごめんなさいっ!こっちに気づいて欲しかっただけなの。ごめんなさい!」 「平気よ、大丈夫」
その女の子は暗闇を照らす光のようだった。 というのも、髪は白く長く、肌も透き通るほどに白い。 身に纏ったネグリジェも、その上に羽織るケープも、何から何まで白に包まれていたからだ。 幻覚でも見ているかのような不思議な感覚に陥り、気づけば目を奪われていた。
「本当にごめんなさい……。ところであなた、こんな雨の中何してるの?」
宿場町を通り過ぎてしまい、宿を探している事を話した。
「そうなの?それならここへ泊るといいわ!誰もいない離れがあるから丁度いい!」 「いいの?」 「もちろん、さあ上がって」
二人は大きな門をくぐる。 正面にそびえる古めかしくも豪壮な屋敷の脇に、その離れがあった。 木製の重厚な扉を開けると、薄暗い空間が広がっていた。 雨のせいもあってか黴臭さが漂う。
「ずっと誰も使ってないから少し汚れているけど」 「いいえ、ありがとう」
女の子は笑みを浮かべ身体に纏った雨粒を払うと、腰のあたりまである髪を絞った。
「ところであなた名前は?私はケイト」 「アルマよ。よろしくねケイト」 「少し待ってて、必要そうな物を持ってくるから」
ケイトは笑みを浮かべ、弾む足取りで雨の中を進んで行った。 ひと先ずは宿がみつかり、アルマは胸をなでおろした。
しばらくするとケイトはたくさんの品を抱え戻って来た。 それらを手渡すと彼女は風のように去っていった。 アルマは感謝の気持ちでいっぱいだった。 ただ、気になったことがひとつだけあった。 一瞬触れた彼女の手はとても冷たかったのだ。 雨に濡れたせいなのかもしれないが。
次の日の朝。 窓から差し込む光によってアルマは眠りから覚めた。 離れの二階、古びたベッドの上でフカフカの大きな白いタオルに包まれている。 これはケイトが用意してくれたものだ。 彼女にお礼を言わなければ……。
窓の外を見てみると、昨夜の雨が嘘だったかのように空は晴れ渡っている。 昨夜は暗くてわからなかったが、庭の木々を挟んだ先には母屋が見えた。 ケイトはそこにいるのだろう。 窓から目を離そうとしたその時、数名の人物が屋敷への門を潜り入って来るところだった。
「お客さんかな?」
忙しくしていれば悪いと思い、少ししてからケイトのところへ行くことにした。
昼を過ぎた頃、朝に見た数名の人物は帰っていくようだった。 そろそろケイトの元へ行こう。
屋敷から一歩踏み出すと、時間が動き出したかのように爽快な風が���しく吹いた。 足取りも軽やかに辺りを見渡してみる。 庭は広いが、どの木々も手入れをされていない。 しかし、屋敷はやはり立派だった。 階段を数段上がったところが玄関らしい。 大きな扉をノックする。 すると、一人の老婆が現れた。
「はい、どちら様で。何か御用でしょうか」 「私は昨夜、隣に泊めていただいた者です。ケイトさん、いらっしゃいますか?」 老婆は眉をひそめた。 「隣……、そうですか。少しこちらでお待ちいただけますか」 「はい」
5分程すると、先ほどの老婆が再び現れた。 「すみません、今は忙しいようです。夕方ごろでしたら、またこちらにいらしてください」 「そうですか、わかりました」
アルマは離れへ戻ることにした。
爽やかな外の空気を知ったからには、このままではいられない。 埃と黴の臭いを払うため、屋敷の窓をすべて開け放った。 掃除を試みたが、長い年月が積み重ねてきたであろう汚れと屋敷の広さに断念した。 唯一清潔な白いタオルに寝転がった。 高い天井へ向け地図を広げる。
それにしても、どこで迷ったんだろう……。
地図を見つめ、頭の中で考えを巡らせていると、窓の外は夕暮れに染まっていた。 集中するといつもこうだ。 そろそろケイトに会えるだろうか。 アルマは再び母屋へ向かった。
コン、コン、コン――
「はい」
開いた扉の先には、白い服に身を包んだケイトがいた。 ほんの一瞬、表情を曇らせていたように見えたが、気のせいだったようだ。 パアッと明るい笑顔が飛び込んできた。
「アルマ!」 「ケイト、こんばんは」
夕暮れの中に佇むケイトは、アルマの目にはどこか不思議に映った。
「どうしたの?まるで幽霊でも見ているようね」
ケイトはクスクスと笑った。
「ごめんなさい、何だかぼうっとして。ケイト、いま忙しい?」 「ううん、もう平気!ずっとアルマに会いたかったの」 「そうなの?私も、昨日のお礼が言いたくて……泊めてくれてありがとう、ケイト」 「いいからいいから、そうだ!夕食はいかが?」
ケイトはアルマの両手を取り、同意を求める眼差しを向ける。 アルマの手に伝わってくる彼女の冷たい温度は、昨夜の雨の記憶を思い出させた。
「そうね、いただこうかな」 「さあ、入って入って!」
アルマはケイトに押し込まれるようにして屋敷へ上がった。 広々としたエントランスを抜け、薄暗く長い廊下を進んだ先の大広間へと通された。 表からは確認できなかったが、廊下の窓ガラスは所々割れていた。 ケイト曰く、以前に来た嵐の影響で屋敷は被害を受け、未だ修理できていないらしい。
「さあ、ここよ」
ケイトは大きな両開きの扉を開く。 暗い廊下にまで光が溢れ出す。 そこは無数の蝋燭に照らされ暖かい光に包まれていた。 広間の中央には食卓。 壁や床、天井の装飾はどれも豪華絢爛だ。
「すごい豪華ね……�� 「私のお気に入りの場所よ、そう言ってもらえて嬉しいわ」
二人が席に着くと、数名の使用人が料理を運んできた。
「さあ、召し上がれ」 「いただきます」
食卓には二人では食べきれない量の料理が並べられた。 アルマは少し驚いた。 ケイトはその様子に心配して尋ねた。
「もしかして、苦手なものがあったりする?」 「いいえ、大丈夫。好き嫌いは特にないから」 「よかった!私も好き嫌いはないわ」
「そういえば、アルマは旅人?どこへ行くの?」 「ええ、すごく遠いところ。山岳地帯を越えた先なんだけど……」 「もしかしてあの山?かなり遠いところよね。それに危険な山だと本で読んだことがあるわ」
それから二人の話題は、共通の趣味だと判明した読書に移った。
「とてもオススメの一冊よ!探しておくわ」 「ありがとう、楽しみにしてるね」
食事を終え、アルマはケイトに見送られ離れへ戻った。
――――――――
それから数日間、アルマは離れに泊めてもらいながら旅に必要な品を買い集めた。 その日々の中で、気が合う二人は交流を深める事となった。 けれど、日中にアルマとケイトが会うことは一度もなかった。 ケイトはいつも来客の対応で忙しいらしい。 そのため、二人が会うのは陽が落ちた後になってからと決まっていた。
この日は二人で夕食を終えた後、初めてケイトの部屋へ通してもらった。 白を基調とした部屋は彼女らしさを醸し出していた。
「いい部屋ね、ケイトらしい」
――?
「アルマ、どうしたの?」 「ううん、何でもないよ」
アルマは違和感を覚えた。 嗅いだことのある香りが鼻をついた気がした。 けれど気にしないことにした。
「忘れてた!お茶を淹れるから待っててね」
ケイトを待つ間、アルマは部屋を見渡した。 ある一角には背の高い棚が並んでいる。 上段には様々な種類の本が詰め込まれていた。 読書好きな彼女らしいスペースだ。 下段には引き出しと、金庫のような扉があった。 その扉は閉め忘れているのか、少しばかり開いていた。 アルマは悪い気もしたが、好奇心から覗いてみることにした。 近づくととてもヒンヤリしていた。 扉の中は薄暗く、目を凝らしてみた。 そこには、この部屋に似つかわしくない大量の血液が収納されていた。
「これは……」
アルマは眩暈がした。
しばらくするとお茶を持ったケイトが戻って来た。
「アルマどうしたの?顔色が悪いけど……」 「うん、ちょっと気分が。ごめん、今日はもう向こうに戻るね」 「そうなの大変、ゆっくり休んで」
アルマは屋敷を後にした。 そして後で気づいた。 あの時の違和感。 それは、彼女から漂う何人もの血の匂いだった。
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昨日2月24日で、ロシアが隣国ウクライナを相手に戦争を始めて一年になります。ロシアと昔から仲が良くない平和的な友達グループにウクライナが入るのを邪魔するためです。ロシアが一方的にウクライナに「私たちはいつも一緒だったのに、裏切るなんてヒドイ!」と言い出し、無理やり自分の言う事を聞かせるために色々な嫌がらせをしてきましたが、なかなか効果が出ないので、最終的に暴力を使ってウクライナを振り向かせようとしているのです。
この戦争は対岸の火事ではありません。家庭、学校、職場など日常のあらゆるシーンで、似たような争いが起こっています。親子や夫婦、友人知人、教師と生徒、上司と部下の間で、自分の方が正しい、優れているという一方的な価値観やジャッジのもと、自分への服従を求める諍いが起こっています。戦争や武力という大きな言葉が使われていなくても、同じ事です。私たち一人ひとりがそれに気づき、認め、手放さなければ、地球上に争いという負の遺産は生ま���続けるでしょう。
今週は、マスタークラス、オールレベルクラスと久しぶりにドロップイン・ナイトを開催しました。たくさんの方々の光と愛のエネルギーに触れ、充実した時間を過ごすことができましたことに、心より感謝いたします。今回のドロップイン・ナイトでは、スピリット・ガイド(指導霊)のポートレートを描きました。その時の様子をダイジェスト版でお伝えします。読みやすいように、後から編集しています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
森:次の方は初めましてですね。アイイスのクラスは受けていますか?
女性:はい、でもまだ瞑想中に指導霊と会ったことがなくて…。
森:そうなんですね。ご自身のところには、修道女がいらっしゃっています。(描きながら)キリスト教の尼さん、シスターと呼ばれる人ですよね。ちなみに、ご自身はキリスト教には興味あります?
女性:いえ、全く縁がないです。
森:縁もゆかりもない…じゃあ教会とかも興味がないですよね。
女性:そうですね。
森:この方は日常的なお祈りのこともおっしゃっているんですけれども、あの、グリーフケアのことをおっしゃっています。(女性の反応を見て)あ、何か思い当たります?
女性:わかります。
森:そうなんです?やっていらっしゃる?
女性:実は今月、2月からグリーフケアの講座を受け始めたんですね、アイイスでの霊性開花と並行しつつ学ぼうかと…。
森:人が悲しみを乗り越えるのを支える、それをご自身が学び始めたので、この方がいらっしゃっているんですよ。この方は「お祈りを通じて人は救われる」ということをおっしゃっています。宗教的なものじゃない信念とか信仰、自分が信じる「核」みたいなものを持つ。英語で「faith」っていうんですか、そういうものが自分の中の核となってしっかりと根を張っていくと、悲しみを乗り越えていくことができるとおっしゃっています。あとは、お掃除をやっているな…この方。ものが綺麗になる過程もグリーフケアなんですって。
女性:はい、はい…掃除のボランティアを最近しているんです。
森:なるほどね…じゃあ、ピッタリじゃないですか。それは、ご自身がこの指導霊とちゃんと繋がっているからなんです。指導霊が指導してくださっていても、気づかない方もいらっしゃるんですよ。でも、ご自身の志がハッキリしていて、具体的に何かしようっていうことを模索されていて、自分で色々調べていく行動力、能動的な活動をこの指導霊が喜んでいらっしゃいます。ちゃんと指導が通じてる、みたいな感じで。(笑)ご自身は霊性開花の勉強を始めて、瞑想中もまだ指導霊に会ったことがない、と���ほどおっしゃったけれども…指導霊はいるのかなって確信に近づいた感じ、します?(笑)
女性:すごい、ビックリしてます。(笑)
森:嬉しいです。(笑)ですから信じてください、スピリット・ガイド(指導霊)の存在を。それで、スピリット・ガイドと繋がるためにもう一つ大事なことがあるんです。まずは、自分から近づいていくこと、こちらからドアをノックすることが大事なんです。私たちが本当に必要な時に手を差し伸べてくれる、私たちの自由意志を尊重しているのが指導霊です。(絵を見せて)こういうシスターがいらっしゃっています。(写真3枚目)
女性:ありがとうございました。
森:次の方も初めまして、なんですね、指導霊は髪の毛の長い女の方っぽいですね。(描きながら)西洋人で、ちょっと女神っぽい感じ。女神っていってもキラキラキラ〜っとしたディズニープリンセスって感じじゃなくって、もっと地に足が着いた土臭い感じです。王子様が現れなくても私一人で大丈夫、って感じの(笑)。なんの女神なんだろう、緑色が見えるな…ちょっと大地の女神みたいな感じですね、ドルイドっぽい感じ。ドルイドはご存じですか?
女性:良くは知らないです、名前だけですね。
森:ドルイドの女性版で、ドルイダスっていう人がいるんですよ。特に自然に関してのお仕事とかもされていない?
女性:していないです。
森:白髪で迫力のある中年女性…年配の女性なんですよね。ドルイダスだから、自然なんですよね、やっぱり。土いじりとかお庭で色々やったりとかは、お好きですか?
女性:まぁまぁ好きです。
森:お庭ってあります?
女性:あります。
森:そこで植物を育てたりはしてます?
女性:そうですね。
森:もっとこれからやっていくと、合うかもしれないですね。こういう方がいらっしゃるってことは、植物を扱うのが得意な方だと思うんですけど…。枯らしちゃった、ってこと、結構ありますか?
女性:あります。(笑)
森:それも多分、試行錯誤だと思うんだけどね…あんまり苦手意識を持って欲しくないんですよね、土いじりがご自身の感性を伸ばす、直感を磨く良い方法だと指導霊がおっしゃっています。霊性開花とともに上手になっていくんじゃないかな。植木鉢は見えないので、地植えなんですよ。この指導霊がシャベルで土を掘り起こしている姿を見せてくださっているんですけど、そういったことはお庭でできそうですか?
女性:あ、できます。
森:だったら、それをやると良いかもしれませんね…それ、やらなきゃいけないとかあります?今、状況的に。
女性:まぁ、あります。家の庭は毎年やらなきゃいけないので。
森:土を掘り返す作業も、毎年やってます?
女性:そうですね、私か夫が。
森:で、ちょっと苦手意識がありますか?
女性:あんまり、そこまで土をいじりたくない…。(笑)
森:うちなんかベランダしかないから、羨ましいくらいですよ。(笑)(指導霊から)土いじりをやらされているんだと思いますよ。
女性:なるほど。(笑)
森:土いじりの恩恵を知るようになるっていうのは、ご自身の霊性開花と並行していくようです。やっていくうちに、今まではただの土いじりだったのが、そうじゃない部分が見えてくるんだと思いますよ。なので、楽しんでくださいね。色々な試行錯誤が必要みたい。あんまり調べないでくださいって(指導霊が)言っていますよ。この植物だとこの頻度で水��あげましょう、ではなくて、その場所によってエネルギーが違うから、マニュアル通りにしないでください、って。あなたの勘だけが頼りです。で、ちょっと過保護な部分、ありません?ご自身は。
女性:あるかもしれません。(笑)
森:水をあげすぎちゃったり、手をかけすぎちゃったりとか。(指導霊が)我慢して、待つことを覚えてください、っておっしゃっていますよ。本当に必要なケアは何か、あなたはわかっているから、その自信をまずつける。タイミングが来るまでギリギリまで待つ、過保護にしない、その事は何にでも役立つって言っていますよ。「早くお水ちょうだい」っていう(植物の)声が聞こえるまで待ってください、それが聞こえる筈です。指導霊にいつ水をあげたら良いですか、って聞いてもいいですね、サインをくださる筈なので、自信を持って下さい。(絵を見せて)こんな感じの指導霊です。(写真6枚目)
女性:はい、ありがとうございます。
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明日、26日は久しぶりにサンデーサービスを担当いたします。お時間のある方は、ぜひお立ち寄りください。お待ちしています!(一口500円からの寄付金を受け付けています)
ご参加は以下のURLまたはミーティングIDからどうぞ。
https://us02web.zoom.us/j/86041010794
ミーティングID: 860 4101 0794
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先日告知したプラクティカル・ミディアムシップのレクチャー内容を更新いたしました。明晰夢の見方や明晰夢が霊性開花にどう役立つか、そして、指導霊を確認する方法を追加しています。
今後のイベント・ワークショップ
・4/9 アイイス・スプリングフェスティバル(一口500円からの寄付金を受け付けています)
https://us02web.zoom.us/j/85445747688
ミーティングID: 854 4574 7688
・4/21, 22, 24 プラクティカル・ミディアムシップ お申し込みはこちらまで
・4/27 アイイス・ドロップイン・ナイト お申し込みはこちらまで
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ナゴヤドーム初参戦の根尾くんも試合前ノックから見れました⚾ . #野球 #プロ野球 #球春 #球春到来 #オープン戦 #根尾くん #根尾さん #根尾 #試合も好きだけど試合前のノックのが好き https://www.instagram.com/p/Bu7_9awHuLX/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=rfb4a439paqj
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fan’s voice「オードリー ・ヘプバーン」最速試写会レポート!
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4月24日(日)都内で行われた本作の試写会に、オードリー・ヘプバーンと親交が厚く、日本の親友としてプライベートでも親密な関係を築いてきた加藤タキさんが登場。映画の公開を記念して、オードリーから贈られたという直筆のお手紙を披露し、加藤さんだからこそ知るオードリーの意外な素顔やプライベートのオードリーがどんな女性だったのか、エピソードを明かしました。
タキさんは20年以上にわたって公私ともにオードリーと親交を結んできたが、そんなタキさんもこのドキュメンタリー映画を見て「『そういうことだったのか…。あぁ、なるほど』と納得したことが多々ありました」と初めて知ることが多かったと明かす。 「これまで疑問に思っていたことで、(映画を観て)一番納得がいったのが、彼女の『愛』に対する考え方。(オードリーは)慈愛に満ちていると言うけど、どうして彼女は求める愛ではなく、与える愛を選んだのか? このドキュメンタリーを見て『なるほど』と思いました」とうなずいた。
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【↑1982年当時の写真/オードリーとタキさん】
タキさんが初めてオードリーと顔を合わせたのは、ウィッグのCMのコーディネーターとしてオードリーのローマの自宅を訪ねた51年前の1971年で、タキさんは当時26歳だった。「ツタの生えたレンガ造りのアパートメントで、大きな木の扉をノックし、メイドさんがいらっしゃるかと思ったら、オードリーさん本人がワインカラーのニットのワンピース姿で『ウェルカム!』と迎えてくださいました。何にびっくりしたって、15人ほどのスタッフを連れて伺ったのですが、ひとりひとり自己紹介したら、次の瞬間からちゃんと全員の名前を覚えて呼んでくださるんです。みんな『オードリーさんのためなら何でもやろう!』と思わせてくれました」と驚きのエピソードを明かす。
さらに「ひと段落してお茶を…となった時、銀のトレイに乗った銀のポットでコーヒーと紅茶を、レモンもミルクも全部自分で用意してくださるんです。ひとりひとりに『コーヒー? ティー?』と聞いてくださって、そんなオードリーさんにみんな吸い込まれちゃうんです!」と世界的大スターでありながら、スタッフひとりずつに細やかな気遣いをする女性だったと語る。仕事の場に限らず、普段からオードリーは「ごく普通の方。ナチュラルでした」と明かすタキさん。2回目のCM撮影で、パリを訪れた際も「(パリの常宿に)朝の7時半に迎えに行くんですが、7時29分に下から電話をすると、7時30分20秒にはおひとりで、ルイ・ヴィトンのバッグを持って降りてらっしゃるんです。『お持ちしますよ』と言っても、『これは自分の荷物だから』と。本当に自然体で偉ぶることがなくて、それはこのドキュメンタリーでも出ていたと思います」と語った。
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【↑1971年、ウィッグのCM撮影時のスナップ】
ファッションに関しても「普段からとてもシンプルでした」とのこと。 ある時、オードリーから「相談に乗ってほしい」と言われ、何かと思ったら「寒波が来るので、初めて毛皮を買うんだけど、何を買っていいかわからない」とアドバ��スを求められたという。オードリーは普段から毛皮はおろか「カシミヤでもないウールのコートを着ていて、『これが居心地が良いし、私には似合うから。毛皮は似合わない』とおっしゃっていました」と明かし、タキさんが映画の中で彼女が身に着けていた毛皮やアクセサリーがとても似合っていたと本人に伝えると「タキ、あなたは勘違いしてるわ。あれは映画の中のオードリー・ヘプバーンが演じているだけで、素のオードリー・ヘプバーンには居心地が悪いし似合わないわ」と言われたという。
一方のタキさんは、当時からたくさんのアクセサリーを身に着けていたが、オードリーはそれに対して「タキはいっぱい着けるのが良く似合うわ。THAT IS YOU.(それがあなたなのよ)」と言ってくれたという。タキさんは「自身の価値観を他人に押し付けるようなことはせず、『自分は自分。他人は他人。成熟した人間ならわかるわよね?』という方でした」とふり返る。
また、プライベートでは愛に恵まれなかったと評されることが多い、オードリーの恋愛に対する考えに話が及ぶと、タキさんはパリでの撮影時の彼女との印象深いエピソードを披露。当時、オードリーは2度の結婚と離婚を経て、ロバート・ウォルダース氏と付き合っていたが、彼が席を外している時にタキさんはオードリーに「どういう男性が好きなの?」と尋ねたという。「すぐに返ってきたのが『A strong man(強い男)』という答えでした。思わず『え?』という顔をすると、彼女はウインクしながら『いま、マッチョな男を想像した(笑)? 違うわ。強い人というのは、挫折を知っている人のこと。挫折を味わった人は、それが強さと優しさに変わっていくのよ。それが“Strong man”よ』とおっしゃいました」と明かした。タキさんは、オードリーの恋愛観について「父親から与えられなかった愛が、彼女の挫折感、トラウマになっていたことが、この映画を観て理解できました。愛に恵まれなかった人は、世の中に対し斜に構えて素直になれないことが多いですが、オードリーさんはこの映画の最初のほうで『愛を受け入れるか? 拒絶するかの人生しかない』ということを本で読んだと言っていました。彼女は受け入れ、そうすることによって、求めても、求めても、与えられなかった愛を“与える愛”に進化させていったんだと、私は思いました」としみじみと語っていた。
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【↑オードリー直筆の手紙(1992年)】
また、オードリーは晩年の人生をユニセフ親善大使の活動に捧げ、世界中の貧困地域を訪れたが、タキさんはオードリーが口にした忘れられない2つの言葉を明かしてくれた。ひとつは、世界的な女優である自身がユニセフ大使として募金活動に奔走すると、多くのお金が集まることについて口にした「私はそのために女優をやってきた気がする」という言葉。もうひとつは、バブル期に来日した際にホテルでビュッフェ形式で行われた歓迎パーティーでの言葉で、オードリーはパーティ会場の隅で、人々が食事を皿に盛る様子を見ながら、寂しそうな眼差しで「タキ、日本だけじゃなく、アメリカでもヨーロッパでも、みんな自分が取った食事を食べきらないうちに皿を置いて、次の食事を取りに行ってるわ。もったいない。私は残飯でいいから、全てを引っさらって、このまま飛行機でバングラディシュに行きたい」と語ったという。少し前に大使として訪れたバングラディシュで、オードリーは、ある子どもから、配給で配られた1個のコッペパンの半分を「はい」と差し出されたそうで「それを手にしたとき、私はこんな大きな愛情をもらっているんだと、それが大きな喜びになった」と語っていたという。
この日のトークでは、タキさんがオードリーから受け取ったという直筆の手紙も披露。亡くなる前年の1992年の8月の日付の手紙には、グラフィックデザインを学ぶ次男のために、日本のデザインの本を送ってくれたタキさんへのお礼や、おかげで次男が無事に卒業できたという報告、さらに「息子はちゃんとあなたにお礼状を書いたかしら?」という“母親”の顔をのぞかせる言葉がつづられていたという。その頃、彼女身体は既に病魔に蝕まれていたが、タキさんは「9月に入ってお電話をいただいて『ようやくユニセフの1年の予定が終わって、帰ってきたばかりで、1か月お休みだけど、10月からまた来年のユニセフの活動の計画を立てるわ』と言っていて、ひと言も『具合が悪い』といったことがおっしゃいませんでした」と述懐。
その後、タキさんは年末にクリスマスカードを送ったが、例年ならすぐにお礼の連絡をくれるのに、何の音沙汰もなかったことからおかしいと思って電話をし、そこで彼女がアメリカにいることを知り、息子と連絡を取って、病気であることを知らされたという。それでも、タキさんはそこまで症状が重いと��思ってなかったという。1993年1月20日にオードリーは63歳でこの世を去ったが、タキさんは「21日の朝にラジオをつけたら、彼女の曲が掛かっていて、(死を知り)本当にびっくりしました…。早すぎて…。心を痛めるというのは、ストレスになり、病を引き起こすことになるんですね。よく(恋人の)ロバートさんが『休ませなきゃ』と言ってましたが、そういうことだったんですね。いま、ご存命だったら、ウクライナのことを彼女はどう感じて、どういう行動をとっていらしたかな? と思います」と声を詰まらせながら、語った。
トークの最後にタキさんは、オードリーが無類の親日家だったことにも言及。欧米のスターを迎える際にも控えめな態度だと聞いていた日本のファンが、熱狂的に出迎えてくれたことを非常に喜んでいたそうで、タキさんは「ある時、彼女は私に『タキ、私は前世で日本人だったかも。それくらい、日本が好き』と言っていました」と語り、死後30年近くが経ったいまでも映画雑誌などの好きな女優ランキングでオードリーが上位にランクインされることについて「日本のみなさんは、どこかで彼女の本質を見抜いているんだと思います。いまでも、こうして彼女の映画にみなさんが集まってくれることを、とってもお喜びになると思います」と語っていた。
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死後、30年近くを経ていまなお世界中で愛され続ける偉大なる映画スター、オードリー・ヘプバーンの真の姿に迫るドキュメンタリー映画「オードリー・ヘプバーン」は、5月6日(金)ロードショー。
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ぼくのばか
世界選手権が終わると、全力を尽くしたみちたりた気持ちと、ひとつのシーズンをやりきったという安堵の思いとで、さわやかな気分になる。次にやりたいことを考えればわくわくするけれど、それは一度置いておいて、勇利は自由な感覚にこころゆくまでひたるつもりだった。しかし、それははめを外そうという心構えではなく、クロージングバンケ���トではごくひかえめに、静かに過ごそうと思っていたのだが……。 「勇利」 「ヴィクトル、だめだよ」 「いいじゃないか。いままで厳しい環境にずっと身を置いてきたんだ。すこしくらいゆっくりしてもかまわないさ」 「ゆっくりするって、これってゆっくりすることになるの?」 ヴィクトルは人気のないバルコニーに勇利を連れ出して、熱烈に抱きしめ、キスまでしようとしていた。勇利だってそれにこたえるのはちっともいやではないけれど、すぐそこに参加者がたくさんいるし、その気配ははっきりと伝わってくるしで、我を忘れることはとてもできなかった。 「ぼくたちがここへ入るとき、ロシア��日本のスケ連の人たちがにらんでたよ。気づかなかった?」 「気づいた。国際スケ連からもにらんでる人がいた。気づいた?」 「だったらすこしはふるまいに気をつけて、慎んでよ!」 「気にすることはないよ。彼らはもう理解してるし、ちょっとお説教されるだけのことさ」 「何を理解してるの?」 「いろいろだ」 くちびるがふれた。勇利は目を閉じながらも、大丈夫かなとまだ不安だった。しかし本当にヴィクトルはかっこうよい。試合でもすてきだったから、彼の演技のときは勇利はもうぽーっとなっていたのだけれど、ヴィクトルはいまも新調のスーツを着こなして、洗練された物腰である。勇利はますますとろけてしまった。 「ヴィクトル、もう戻らないと……ほんとに怒られるよ……」 「勇利、俺はね……きみの演技に魅了されたんだ……おまえのうつくしさにおぼれたんだ。俺をこんなにしておいて、相手をしていられないなんて、よくもおまえはそんなことを……」 「相手ができないなんて言ってない。ただ、そういうのはあとで……」 「待てないよ。待てるわけない。やっぱりおまえはひどいな……」 「バンケットが終わるまでだよ」 「どうしてそんな残酷なことが言えるんだ? こんなに勇利を愛してるのに」 「それはぼくもだけど……」 会話のあいまにくちづけを交わしながら、勇利はどうすればよいのかわからなかった。ヴィクトルとは一緒にいたいけれど、世界選手権で優勝するような選手が、公的な理由もなく会場にいないなんて、あまりよくないことだろう。 「勇利、バンケットを抜け出そう」 ヴィクトルがささやいた。それはあまりに魅力的な提案だったが、勇利はやはりためらった。 「だめだよ……」 「すこしだけだ。また戻ってくる。ちょっと部屋でいちゃいちゃするだけさ」 「いちゃいちゃってどんなこと?」 「それは部屋へ行ったとき教えてあげるよ。さあ行こう」 「待ってヴィクトル。だめだよ」 「だめじゃない。ぜんぜんだめじゃない」 「ヴィクトル……」 結局勇利はヴィクトルに手を引かれ、部屋まで連れていかれた。そっと会場から出るとき、またにらまれている気がして勇利は顔を上げられなかった。もし呼び止められてどこへ行くのかと訊かれたら、「部屋でヴィクトルといちゃいちゃするんです」と素直に答えてしまいそうだった。さいわい、誰にも呼び止められることはなかった。 ヴィクトルは扉が閉まるなり、勇利を抱きしめて壁に押しつけ、くちびるを重ねた。勇利はヴィクトルにすがりつきながら、熱い吐息を漏らした。 「やっとふたりきりになれた……」 そのとおりだった。試合のあとは表彰式や取材、打ち合わせなど、することが多く、外にいれば常にカメラを向けられるという状態だったので、ずっと緊張しており、息をつくことができなかった。 「勇利……」 「ちょっと。服を脱がせないで……」 勇利はスーツのボタンを外したヴィクトルの手をとがめるように撫でた。ヴィクトルは気にせず、ベストのボタンも外し、ネクタイをほどき始めた。 「ヴィクトル」 「いちゃいちゃするんだ。服は脱がせるだろ?」 「何するつもり?」 「だから、服を脱がなければできないことだよ」 「服を脱がないとできないことってなに?」 「勇利……、それは��まから教えてあげるから……」 「待ってよ。困るよ……」 「なに考えてる?」 「ヴィクトルこそ何を考えてるの?」 「だからこういうことだよ……」 「だめだって……」 だめ、いい、時間がない、大丈夫、という言い争いを、甘いキスを交わしながらした。勇利はベッドのほうへ導かれ、そこで結局上着とネクタイを取られてしまった。 「ヴィクトル、あのね……こんなこと……」 「うんうん」 「うんうんじゃないよ」 「大丈夫。ちゃんとバンケットに戻るから」 「本当に?」 「すこしだけだよ」 「だめだってば。あとで。あとで……」 「俺はいますぐ勇利を抱きしめたいんだ」 いいだろ、勇利、愛してる、ほんのすこし、とささやきが続くと、ま、まあいいか……という気持ちになってしまう。まったくヴィクトルは……自由なんだから……もう……好き……。 「……すこしってどれくらい?」 ヴィクトルの首筋に腕をまわし、くちびるをふれあわせながら勇利はささやいた。あかりをつけていないので暗いけれど、フットライトのひかりだけでヴィクトルの瞳のきらめきがうかがえた。 「勇利……時間を区切れと言ってるのか……」 「だってあんまり長いと誰か来るかもしれない……。困るよ。こんなところでノックされたら……」 「問題ない。バンケットを抜け出して部屋にいるふたりなんて、何をしているか簡単に想像がつく。誰だって、ここまで様子をうかがいに来る勇気はとてもないよ」 「ぼくたちが何してるかみんなわかってるの!?」 勇利はぎょっとして声を高くした。 「おっと余計なことを言ったかな」 「もう……。何分?」 「だから……。三十分だ。三十分」 「本当に?」 「愛に時間は関係ないよ」 「意味わからない……」 三十分ではすこし足りなかった。しかし勇利はそれだけの時間が過ぎたことに気がつかなかった。 「もう三十分経っちゃったの……?」 みちたりた気持ちで陶酔し、勇利はヴィクトルに甘えるように尋ねた。甘い余韻からすぐに抜け出すことができず、ふたりは寄り添ったまま静かに過ごし、ときおりくちづけを交わした。 「四十分くらい経った……?」 「どうかな……まだ二十分程度じゃないか?」 「二十分っていうことはないと思う……」 「十分くらいかな?」 「短くなってる……」 「どちらにしろ、まだゆっくりしていていいはずだよ」 「そうかな……」 そうは思えないんだけど……と思いつつ、キスをされると目を閉じてしまう。時間を確認しないと……いま何時だろう……気持ちいいなあ……眠い……。 ヴィクトルの匂いに包まれてうっとりしていると、突然、携帯電話が音をたてた。静寂の中にいたので勇利は驚き、びくっとしてしまった。 「あ、ぼくの……?」 「無視していいんじゃないかな」 「だめ……」 携帯電話はどこ? 勇利はボタンが外れているスラックスのポケットを探ってみた。あった。 「なんて?」 ヴィクトルは勇利を抱きしめながら、一緒に画面をのぞきこんだ。勇利は慌てた。ピチットからのメッセージだった。 『どこで何してるのか知らないけど(想像はついてるけど)日本のスケ連が探してるみたいだよ。えらい人もいるっぽいから、ほっておくとあとで大変かも。いま出てくるのも大変だろうけどね!』 「やばい」 勇利は飛び起きた。やばいやばいやばい、と焦っているというのに、ヴィクトルは平気なもので、「そんなのうちやっておけばいいさ……」とのんきに勇利を抱き寄せようとした。 「だめだよ! どこで何してたんだって訊かれたら困るよ!」 「ヴィクトル��部屋でいちゃついてましたと言えばいい」 「ばか!」 勇利はボタンがすべてひらいていたシャツのみだれを整えると、ふとんの中からネクタイを捜し出し、急いで締めた。ベストはもういい。 「上着……上着……あった!」 暗い中で上着をつかみ、腕を通して立ち上がった。スラックスもベルトももとに戻して、全体的な身支度をさっと済ませ、眼鏡をかけて、勇利は最後に靴を履いた。 「ちょっと行ってくる!」 「早く終わらせて戻っておいで。いちゃいちゃの続きをしよう」 「なに言ってるんだよ! ヴィクトルもあとから来るんだよ!」 「会場でいちゃいちゃするのかい?」 「ばか!」 勇利は部屋を飛び出し、エレベータに勢いよく乗りこんだ。慌てていたし、急いでもいたけれど、しかし彼は着くまでのあいだ、ほうっと吐息をつき、紅潮した頬に手を当てて、ヴィクトルとのひとときを思い起こした。優しくてすてきな愛の時間だった。 会場は相変わらず人でいっぱいで、にぎやかだった。勇利はあまりの明るさにちょっとくらっとした。さっきまでの静かでひっそりとした空間となんとちがうことだろうか。ヴィクトルとふたりきりで闇の中、むつごとを交わしていたのとは別世界だ。 勇利は急ぎ足で奥へ向かった。自分を捜している人たちはどこにいるのだろう? もう用事はなくなったのだろうか? そうだとしても挨拶はしておいたほうがよい。テーブルのあいだを抜け、知っている顔はないかときょろきょろしていると、「勝生くん」と後ろから声をかけられた。勇利はぱっと振り返った。 「どこに行ってたの? ずいぶん捜したんだけど」 「すみません、ちょっと……」 勇利は言葉を濁した。「部屋でヴィクトルといちゃいちゃしていました」なんて説明してなるものか。 「そうですか。ところで……」 相手の女性は何か言いさし、ふしぎそうな顔で勇利をじっと見た。勇利は焦った。どこかおかしいだろうか? 服装がみだれている? ヴィクトルといちゃいちゃしていたことがばれてしまっただろうか。もしかしたら頬が赤いかもしれない。目がうるんでいるとか……。 「あ、あの、なんでしょうか?」 勇利は急いで自分から尋ねた。相手は奥のほうを手で示しながら、「君に挨拶したいというかたがいらしてて……」と説明した。彼女について歩いていくと、すれちがう人々が、やけに自分に注目している気がした。気のせいだろうか? おかしな身なりだったらどうしようと不安になっているから、視線を感じるように思えてしまうのだろうか? 顔見知りもいるので訊きたいけれど、たとえばそこにいるミラに尋ねたら、「なに? ヴィクトルとセックスしてきたの?」などと言われそうでこわい。そんなにわかりやすいかな、ぼく……いや、べつに彼との時間が露見してるわけじゃない……ただぼくのかっこうがおかしくてみんな笑ってるだけだ……きっと……。 「勝生くん、こちらのかたです」 スケート連盟の役員に言われて、勇利は慌てて顔を上げた。すると、見たことがある男性が三人、親しげにほほえんで英語で話しかけてきた。誰だっけ、と思いながら勇利はどうにか笑顔をつくって挨拶した。英語にロシア語のような抑揚がある。そう思った瞬間思い出した。ロシアのスケート連盟の人たちだ! 「あ、あの、ヴィクトルコーチにはいつも的確な指導をいただいています」 勇利は思わず日本式にぺこっとお辞儀した。そういえばこの人たち、今夜のバンケットの始まりにヴィクトルと一緒にいたような……。ヴィクトルはいつも自国のスケート連盟のことを「融通が利かない」「やけにぴりぴりしてるんだよね」「すぐ口うるさくいろんなことを言ってくる」と批評しているけれど、いまここにいる彼らは、勇利に何か「口うるさい」ことを言おうとしてはおらず、「ぴりぴり」していることもなかった。しかし、勇利をまっすぐに見た途端、彼らは全員、まるで示し合わせたように同じ表情をした。つまり、勇利をここまで案内してきた女性が浮かべたような、ふしぎそうな顔になったのである。勇利はどきっとした。ぼく、そんなにおかしいかな!? ヴィクトルの関係者が相手だとなおさら慌ててしまう。ヴィクトルといろいろしていたことが伝わってしまったらどうしよう? 「ところでさっきまでヴィクトルといちゃいちゃしていたようだが」なんて言われたらどう答えればいいの!? 勇利は頭がぐるぐるしてものを考えられなくなった。いや、その……いちゃいちゃはしていましたが……ぼくたちは結婚の約束をしていますし……やましいことなんてありません……ぼくたちは愛しあっているんです! もちろん彼らは、ヴィクトルとの「いちゃいちゃ」などを指摘することはなく、ただヴィクトルの所属する団体の者として勇利に挨拶をしただけだった。しかし、話しているあいだじゅう、奇妙な雰囲気が漂っていたことは否定できないし、勇利はぶしつけでない程度の視線をちらちらと感じていた。ほんの五分程度の会話だったのに、どっと汗をかいてしまった。 「あの、もう行ってもかまわないでしょうか?」 紳士たちが立ち去ったあと、勇利は気力を使い果たしたという様子で女性に尋ねた。彼女は何か言いたげな顔をしてから、うなずいてどうぞとうながした。勇利はふらふらしながら飲み物のテーブルに向かった。水を一杯飲みたかった。 一杯では済まず、二杯目のグラスを手にして壁にもたれていると、全員ではないけれど、行きすぎる選手たちがやはり勇利のほうをふしぎそうに、あるいは冷やかすように見るのに気がついた。勇利は不安になった。いったいなんなんだ、とそわそわした。ネクタイが曲がってるのかな? しかし手でふれてみたところ、きちんと襟のあいだにおさまっているようである。全体的な着こなしがお��しいのだろうか? そうだ、トイレに行って確かめよう。勇利はそう思いついた。混乱しすぎてそんなことも考えられなかったのだ。 「えっと……」 手洗いはどこかな? 勇利はきょろきょろとあたりを見まわした。きっと会場にはないだろうから、一度廊下へ出たほうがよいだろう。そういえばヴィクトルはまだ現れない。あのまま寝ちゃったのかも、と勇利はあやぶんだ。 水を飲み干し、グラスを戻しておいて、勇利は手洗いへ行こうと歩きだした。そのとき、すれちがったミラに、「まったく、カツキって大胆ね!」と笑いながらからかわれた。勇利は思わず立ち止まった。 「ミラ、待って」 「何かしら?」 「あの……」 勇利はなんと言おうか迷った。とりみだすあまり、もうすこしで、「ぼくってヴィクトルといちゃいちゃしてきたように見える!?」と尋ねるところだった。あぶないあぶない……。 「えっと……、そう、なんだかみんながかなりひんぱんに見てくる気がするんだ。視線を感じる。気のせいかもしれないけど……。ぼくってどこかおかしいかな? 服装が崩れてる? それとも別の問題がある?」 勇利のためらい��ちな質問に、ミラは目をまるくしてきょとんとした。しかし彼女はすぐに笑いだし、可笑しそうに勇利を眺めた。 「なに、それ。からかってるの?」 「え?」 勇利はわけがわからなかった。からかっているのはミラのほうだろう。何をからかわれているのかは不明だけれど、あきらかにそんな意図を感じる。 「それとも、のろけてるの?」 ミラは予想外のことを言いだした。こんなに慌てて焦っているのに、のろけるとはいったいなんだろう。 「言わせたいわけ? しあわせそうでけっこうね。ああ、私も彼氏が欲しい」 「どういう意味? ミラ、なに言ってるの?」 「まったく、ごちそうさまって感じよね。いいのよ、楽しいから……今後も期待してるわ」 「何を? 何を期待するの?」 「そういうことをよ。じゃあね!」 ミラは笑顔で手を振って行ってしまった。勇利はぽかんとして彼女の後ろ姿を見送った。結局何も解決しなかった。いったいなんだというのだろう。 彼女の言ったことをひとつひとつ思い起こしてみた。からかっている。のろけ。しあわせそう。彼氏。ごちそうさま。期待してる……。 「ぜんぜんわからない……」 勇利は頭を抱えたくなった。ヴィクトルに来てもらいたかった。よくわからないけれど、何か致命的なまちがいがある気がする。自分の何が変なのか、彼に言ってもらいたい。いや、もしかしたら、このまま気づかないほうがしあわせなのか……。 とにかく手洗いへ行こう。そうすれば謎が解けるかもしれない。きっと、着こなしがみだれているとかそういうことなのだ。みっともないけれどそれならいい。それではミラの発言があてはまらないけれど、勇利は考えないようにした。 「あっ、勇利」 足早に歩く勇利の向かいから、ピチットがやってきた。クリストフもいる。勇利は足を止め、彼らも立ち止まった。 「戻ってきたんだ。大変だっただろうね」 ピチットは言いながら含み笑いを漏らし、そして──、勇利の全身を見て、目をみひらいた。その表情の変化に勇利はぎくっとした。それは、いままでに奇妙な反応をした人たちの誰よりもあからさまな態度だった。やっぱりかなりおかしいのかな!? 勇利はどぎまぎした。ピチットほど仲がよいと、遠慮なく、率直なふるまいになるのかもしれない。勇利はさっとクリストフを見た。クリストフもなんとも言えない、笑いだしそうな表情で勇利を眺めていた。どうにか笑うのをこらえているといった様子だ。 「勇利、それ──」 「ねえ、なんなの!?」 勇利は泣きそうになりながらピチットに詰め寄った。 「さっきからみんなすごく妙な顔でぼくをじろじろ見るんだ! ぼく、変? 何かおかしい!? 何がおかしいの!?」 「何がって……変って……勇利……」 ピチットは勇利を頭のてっぺんからつまさきまで観察したあげく、盛大に噴き出し、近くの壁に両手をついてもたれかかった。勇利は衝撃を受けた。そ、そんなに……。 「あー、うん、勇利……」 クリストフはピチットよりすこしだけ──ほんのすこしだけ落ち着いていて、笑わずにいることに成功しているようだった。しかし彼もいつその我慢が崩壊するかわからないといった具合だ。 「たぶんわかってないと思うんだけど……、俺もわからないよ。どうしてそんなことになったんだい? ヴィクトルと一緒にいたんだよね?」 勇利はぎくっとした。彼は呼吸を止め、頬を赤くして、ためらいがちにうなずいた。 「それで、君は──もしかして、服を着るときにあかりをつけなかったの?」 言い当てられて勇利はまた��くっとした。なぜわかるのだろう? あかり? あかりをつけなかったらどうなるのか──。 「どうしてわかるの?」 勇利の中の不安がいっぱいまでふくれ上がった。クリストフは「やっぱり」とつぶやき、もう本当に笑いだしそうだった。 「クリス、いったいぼくの何が──」 「勇利!」 そのとき、待ちわびていた声がして、顔を向けると、ヴィクトルが足早にやってくるところだった。勇利はほっとした。ヴィクトルは可笑しそうに口元をほころばせ、腕に上着をかけていた。どうして着ていないのだろう? 「勇利、もう用事は終わったかい?」 「うん。ねえヴィクトル──」 「ヴィクトル」 クリストフがからかうようにヴィクトルに言った。 「服を着るときくらいあかりをつけなよ。勇利、自分で気づいてないようだよ」 「ああ、そうなのかい? でもとくに不都合はないだろう?」 「君はね」 「なに? なんなの? どういうことなの?」 ヴィクトルはわかっているのだろうか? いまここに来たばかりなのに、勇利に起こった問題が? 勇利は両手をヴィクトルの腕にかけ、彼を一生懸命見上げた。そのとき──、奇妙な違和感をおぼえた。 「勇利」 ヴィクトルは腕に持っていた上着をひろげて勇利に見せた。 「これを──」 「え? 上着がどうしたの?」 勇利は混乱しながら訊き返した。違和感の正体がわからないのに、関係なさそうな上着の話をされてますますとりみだした。 「ヴィクトル、なんで着てないの? ねえヴィクトル、なんだかヴィクトルを見ると、ぼく──」 「着られないんだ」 ヴィクトルは笑いながら言った。 「どうして?」 「サイズが合わない」 勇利はきょとんとした。そんなことがあるだろうか? ヴィクトルの上着なのにヴィクトルに合わないとは。これは新調したばかりではないか。勇利のと一緒に仕立てたのだ。すこしだけ色合いを変えた暗色系で、ふたりぶんを同じ店でつくった。 「どうして合わないの?」 勇利はしごくもっともな質問をした。するとヴィクトルは笑いながら答えた。 「勇利のだからだよ」 「…………」 勇利はしばらくぽかんとしてヴィクトルをみつめていた。クリストフがとうとう笑いだし、ピチットも相変わらず話せないようだった。 「……ぼくの?」 「そう、勇利のだ」 「ぼくの……」 勇利はなおもぼんやりしてから、いきなり我に返って自分が身に着けている上着を見た。確かに、あきらかに大きかった。身体に合っていない。ヴィクトルのだった。全体の丈も袖丈もずいぶん長いし、胸まわりも胴まわりも、彼のほうがずっとたくましいのだ。改めて観察してみると、勇利がヴィクトルの上着を着るというのは確実に不格好で、おかしなことだった。なぜ気づかなかったのだろう? ──着るときは急いでいたし、部屋を出てからも慌てていたからだ。 勇利は目をみひらいてヴィクトルを見た。ヴィクトルが笑った。そこで勇利はまたはっとした。違和感の正体がわかった。ヴィクトルの──ヴィクトルの──。 「ヴィクトルのネクタイ、ぼくのだ!」 ヴィクトルが勇利のネクタイを締めている。彼のものはどうしたのだろう? 勇利はすぐにぴんときた。急いで自分のネクタイを見下ろすと、それはやはりヴィクトルのものだった。ヴィクトルのネクタイをして、ヴィクトルの上着を着て歩いていた。部屋を出てからずっと。 「勇利、ついでに言うとね……」 クリストフが可笑しくてたまらないというように、笑い声の下から教えた。 「君、髪型も変わってるよ。バンケットが始まったときは前髪を上げてたよね?」 「!」 勇利は思わず額を押さえた。いまは髪がふんわりと下りていた。今夜は試合のときのようには、しっかりと上げていなかった。ヴィクトルが彼のワックスでふわっとかき上げる程度にしてくれたのだ。ヴィクトルといろいろな──いちゃいちゃする行為をした結果、それが落ちてきてしまった。 バンケットの途中から、ネクタイ���上着がヴィクトルのものになっている。しかも髪型まで変わってしまっている。ヴィクトルと一緒にいなくなって、戻ってきたらそんなふうに──。 何をしてきたか、誰だってわかる。 勇利は頭を抱えてうめいた。ピチットの笑い声が大きくなり、クリストフも、ようやくおさまりかけていたのに、またくくっと笑いだした。勇利は両手でおもてを覆った。 「変だと思ったんだ……変だと思ったんだ……」 彼はよわよわしくつぶやいた。 「みんなすごく見てくるから……ふしぎそうだったり、冷やかすみたいににやにやしてたり、何か言いたそうに見てくるから……」 ヴィクトルが洗練された身なりで現れることは誰だって知っている。彼の服装を毎回楽しみにしている者も大勢いる。ヴィクトルがどんなネクタイをしているか、見た者は多いだろう。それなのに勇利がそのネクタイを身につけ、そのうえ、いかにも合っていない上着を着ているのだ。ひとこと言いたくなるのは当たり前だ。ミラの言葉の意味がわかった。まさに彼女は──いや、誰もみな、「ヴィクトルといちゃいちゃしてきたんだ」と思っていたのだ。そしてそれは事実だ。 「うわーん、ヴィクトル!」 勇利はヴィクトルに泣きついた。ヴィクトルは瞬いて勇利の背を抱き、「どうしたんだい?」と優しく尋ねた。 「どうしたって、わかるでしょ! みんなにばればれだったんだよ! ばればれだったんだよ!」 「何が?」 「だから──」 勇利は叫んだ。 「いちゃいちゃしてたことがだよ!」 「ああ、服とか髪型とかが変わってたから? べつにいいじゃないか。本当のことなんだし」 「そういう問題じゃない!」 「俺たちがいちゃついてることなんて、もう公の話だよ。何を恥ずかしがる?」 わかってない。ヴィクトルは何もわかってない。勇利はまっかな顔を伏せたまま、彼の胸をぽかぽかとぶった。ヴィクトルは勇利の背中をただ優しく撫でていた。 「ヴィクトル、あんまり言わないほうがいいよ……勇利の神経にさわるだけだから……」 「何が?」 クリストフの助言をヴィクトルは理解できないようだ。 「だからね……」 「いちゃついてる時間は楽しかったよ」 ピチットが新たに噴き出した。勇利はぱっと顔を上げた。 「ロシアのスケ連の人に挨拶したんだよぅ!」 「え? ああ、そうなのかい? 用事ってそれだったの?」 「この──このかっこうで──彼らも何か言いたそうにしてた──してた……」 「気にすることないだろ?」 ヴィクトルは相変わらず平然としていた。 「俺はいつも、勇利をどれだけ愛してるか彼らに語ってるし……」 「ヴィクトルのばか!」 いや、ばかなのは自分だ。勇利は自分を激しく責めた。どうしてあかりをつけて確かめなかったのだ。いくら急いでいるからといって、そんな横着をするなんて。ばか。ばか、ばかばかばか! ぼくのばか! 勇利は全身で「ヴィクトルといちゃついてきました」と表現していた自分を思うと、恥ずかしさのあまりそのあたりを転げまわりたい気分だった。ヴィクトルの胸から顔を上げられなかった。ヴィクトルは勇利のつむりを撫で、髪にキスして「大丈夫かい?」と甘い声で尋ねた。まわりから冷やかしの歓声や口笛が飛んできた。 「勇利、元気を出して」 「ぼくのばか……」 ピチットとクリストフはバンケットがおひらきになるまで、この事件を思い出しては笑っていた。 「もうスケート界から消えちゃいたい……」 「なんてことを言うんだ。まだまだ一緒にスケートするぞ」 「バンケットなんて二度と行かない……」 「そんなこと言わずに、またふたりで行こう」 「もうだめだ……もう……」 「だめじゃないよ。勇利はかわゆいし可���だしうつくしい」 「ぼくのばか……」 勇利はその夜、ヴィクトルの腕の中でさんざん甘えて泣き言を言った。ヴィクトルは明るく宣言した。 「一度こういうことがあったからには、次からは俺たちがいなくなっても誰もなんとも思わないだろうから、安心して姿を消せるね!」
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エドワード王 八巻
昔日の王の一代記、八巻
ワイルダーランド
ヴァレンウッドの旅は楽しいものでした。ほとんどの場所で昼間は晴れて、夜間は涼しい気持ちの良い天候が続きました。彼らの馬の足元に、舞い落ちる朱色や茜色、金色や緑の明るい色の葉っぱが降り積もってカーペットを作っていました。ヴァレンウッドは、曇りがちで急峻な森林の多いハイロックとはとても違っていました。北の国境に着いた時、振り返ったエドワードの目には、ほとんど丸裸で、栄光を失ってしまったような木々が見えました。彼らの前には、数えるほどしか木が生えていない、丘がうねる広大な緑の土地が広がっていました。それは永遠に続いているように思えました。
「エドワード、これがワイルダーランドだ」モラーリンが言いました。「気をつけるんだぞ。気持ちのいい土地に見えるが、この辺りを治める方法を知る王はいない。皆互いのやり方を否定している――人間より悪いものもいる。ここではタムリエルのすべての種族がいて、衝突している。身を守るんだ、ことによればな」
彼らの旅は、ちょっとした事件とともに、それから数日続きました。カジートの盗賊団が夜に彼らのキャンプに這い寄ったこと以外は。彼らはたやすく撃退されました。シルクが一人を倒すと、残りは叫びながら逃げて行きました。大人しいウッドエルフの少女、ウィローは彼らの後ろに向かって弧を描くように火の玉を投げました。街道はありませんでした。互いに交差し、どこにも続いていないように見える小路ばかりでした。
力強く馬を飛ばして二週間ののち、彼らは土地が途切れるボウルのような形の丘に着きました。収穫物が積まれた畑は整っているようでしたが、そこにいた人々は覇気がなく、ぼろをまとっていて、友好的ではありませんでした。宿についての質問も、ただ肩をすくめて困ったような顔をされただけでした。その時、武装した一団が現れて、用件を言えと要求しました。モラーリンがモロウィンドに向かっていると答えると、何も盗まずに早く行ってしまえと言われました。
「通過できただけで充分だ」モラーリンが静かに言いました。
「あの田舎者たちに誰か礼儀作法を教えるべきだ」普段は穏やかなマッツが唸りました。
「それなら、留まってエチケットの学校でも開いてみるか」モラーリンが言いました。「ああいう悪党のために講義をしてやるには、私の人生は短すぎると思うがね。空の具合が気に入らないな、あれはあの村人よりも邪悪に見える。町で運試しをしてみようか」
町は木の柵で囲まれ、丈夫な門がありました。彼らを見渡すと、衛兵が入場を拒絶しました。「人間だけだ、エルフ。下等な仲間を連れて去れ」
「わかった。アリ、マッツ、エドワード、お前たちがここで暖かく迎えられることを保証しているようだ。我々はどこか雨宿りできる場所を探すよ」
アリエラは、この門に足を踏み入れた途端、嵐が来る前にみんなファーストホールドに吹き飛ばされるのが目に見えるようだと皆に言いました。そこで彼らは町を迂回し、砦らしきものの中にある岩壁を備えた堀を渡りました。北に延びている 近くの道の脇に、大きな納屋がある小さい家があります。どちらも粗末な修繕しかしていないように見えましたが、モラーリンはドアをノックして納屋で眠らせてもらえるかを尋ねるのに、アリエラとエドワードを行かせました。あとの者たちは道で待っていました。
年かさの女性がノックに応えて出てきました。彼らに会って喜んでいるようでした。「泊まりたいんですって?話し相手ができてうれしいですよ。納屋で寝なくたってかまやしませんよ、奥様。空いている部屋がありますからね。私はオラ・エンゲルスドッターと言います」アリエラは待っている仲間たちに合図をしました。女性は眼をすがめて彼らの方を見ました。「ご主人とお友達がいなさるの?ええ、それじゃみんな寄り集まっていましょう。その方が暖かいでしょうからね。火にスープの鍋が掛けてあるんですよ。一週間分の食事ですけど、どうかお気になさらず。まだ作れますよ」
「夫はエルフですの」
「そうなんですか?あの方はあなたと息子さんの面倒をよく見なさっているように見えますね。豚みたいによく太って。あの人たちを連れておいでなさい。私の孫娘にも、こんな風に気にかけてくれる方がいるといいのにねえ」
客人のもてなしに金を払わせなければならないほど困窮していないと言って、オラは支払いを拒否しました。その夜の物語と歌の楽しさで充分だと言いました。雨漏りの最悪の事態を避けるために、鍋と皿が置かれていました。彼女はその位置を熟知していました。雨戸と扉をしっかりと閉め、屋根が全部飛んでいかないかと怯えるような嵐が荒れ狂う中、彼らは暖炉の周りに集まって、とても楽しく過ごしました。
「奥様、教えてくださいな」オラがアリエラだけに囁きました。「あの方は本当にあなたに良くしておられる?あの方はとても大きくて、とても黒いのね」
「本当に良くしてくれますのよ」口は真面目そうな形を保っていましたが、アリエラの目は笑っていました。
「ああ、それはいいことですよ。あの方が大きくて黒いものだから、ちょっと男爵を思い出してしまって。あの人は孫娘のキャロンをさらって行ったんです――それに、あの子を手厚く扱ってくれやしません。あの人は――あの人はあの子を傷つけるんです、奥様。そして、あの子は逃げ出すこともできやしないんです。どこに行けるって言うんです?」オラの目に涙が浮かんで、使い古されて親しみのあるしわに沿って頬を流れ落ちて行きました。
女主人が就寝のために部屋に引き取ったあと、アリエラは彼女が話したことを皆に繰り返して聞かせました。
「その子を助け出そう」ビーチが言った。「怠惰な生活で腐っちまう」
「賛成!」シルクとウイローが即座に言いました。
マッツが同意を示して唸りました。ミスとスサ��スは興味があるように見えました。
モラーリンは疑わしげでした。「我々はタムリエルのすべての間違いを正すことはできないよ。この男爵は村人に避難所のようなものを提供しているのだし。よそがいいと思えば、彼らは出ていくだろう」
「賛成」ミスが言いました。「盗賊を遠ざけてるから、そいつは楽しみのために村人から盗むのかもな」
「それで、彼を引きずり降ろすのかね?代わりになる誰かがいるだろう。あるいは、よそ者がやって来て、根こそぎ持って行かれるさ」
「この不潔な何かに勝るものはない」マッツが言いました。
「そういうことね」嵐は過ぎ去ったようでした。アリエラは戸口に行って、雲が素早く行きすぎる東の月を見上げました。一つの大きな輝く青い星が、月の近くに浮かんでいました。「ゼニタールがタムリエルの近くにいるわ。モラーリン?」
「明日ここの屋根を修繕しようと思っていた、それが公正ならね」彼女が炎のそばに戻ってくると彼は言いました。「少なくとも、大仕事だよ。一夜の宿にしてはね――違うか?」
「彼女なりに……私に助けを求めたのよ……そして私――風の中にゼニタールの声を聞き、今夜の雨の中に彼の手を感じたの」
「君の試練、というわけだね、奥さん」
アリエラは頷きました。笑ってはいませんでした。彼女は煙突がある隅でモラーリンと一緒に身体を丸め、少しの間囁き合って笑いました。エドワードは眠っていました。朝になると、彼はビーチとウィローが新しいこけら板を置くのを手伝いに屋根の上にやられました。モラーリンは手紙を書いて、夕食の時間に間に合うように、徒歩で男爵に持っていくようにと、マッツに言い付けました。
「女の子のために彼に挑戦するつもりなんだね!」エドワードがにやりと笑いました。「でも彼は戦うかな?それに、僕たちがいなくなったら、またその子を取り返すんじゃない?」
「いや、彼は私を町に入れなかったから、代わりにお前の母上は彼を我々の家に招くことを考えたんだ」モラーリンはシグネットリングで手紙に封をしてマッツに渡しました。
「わあ。でも、おうちまでは遠いんじゃない?」エドワードはこの救出劇が差し迫ったものでないことに、少しがっかりしました。でも、彼には8人の人間だけで砦を奪おうなんて、とても筋の通ったこととは思えませんでした。たとえそれがモラーリンの仲間たちであってもです。多分、あの歌は彼らの行いを大げさに言っているのでしょう。
モラーリンはにやりと笑ってエドワードの髪をくしゃくしゃと撫で、質問をやめて屋根に行き、母上の心配をしなさいと言いました。モラーリンとミスは一緒に歩いて出発しました。アリエラは狩りに行ったのだと言いました。夕飯時になっても、彼らは戻ってきませんでした。アリエラはエドワードに心配はいらない、あとで会えるから、と言いました。
女主人にお別れを告げたのは、日が沈んでからかなり時間が経ったときでした。彼らは馬を全部連れて行き、砦の北側の壁の近くの木立に置いていきました。アリエラはエドワードに馬と一緒に待っていたいかと尋ねました。エドワードがどこに行くのかと訊きた。
「私たちは砦に入ってオラのお孫さんを取り戻すのよ。質問は駄目です、エドワード。あなたが来るなら、私と一緒にいて、言われた通りのことをなさい。堀はレビテトで渡るの。私は泳がなきゃだめね。渡り終えたら塀をよじ登るのよ。中に入ったら、私についてきて、できるだけ音をたてないようにして」
エドワードはぽかんと口を開けて、母と他の仲間たちを見ました。彼ら6人でどうやって砦を襲うというのでしょう?3人の女性と、2人の男性と、男の子が1人で?壁の上には衛兵がいるでしょうし、中にはもっといるでしょう。マッツも一緒に中に入るだろうけど、と彼は考えました。でも、モラーリンとミスはどこに?
堀では恐ろしいことがありました。エドワードは抗議しかけましたが、それからその方がいいと考え直しました。スサースが最初に堀に滑り込みました。小さな水音とシューッという声がして、水面が静まりました。アリエラが水の中に入りました。他の者たちは宙を浮いて渡りました。
「ロープがある」ビーチが壁を探りながら言いました。3本のロープがありました。エドワードとビーチとスサースが最初に上に上がりました。アリエラ、ウィロー、シルクがそのあとに続きました。モラーリンとミスが上で待っていました。二人の衛兵は荒れ果てた建物の上で穏やかにいびきをかいていました。
「どう―」エドワードが言い始めると、母が片手で彼の口をぴしゃりと叩いたのがわかりました。他の場所の壁の上にいる衛兵が大きな声で呼びかけ、エドワードは心臓が止まりそうになりました。ミスが何かを叫び返すと、どしどしという足音が遠ざかって行きました。
仲間たちは静かに階段を下りて、影のよ���に中庭を横切りました。砦の中に入る扉には、衛兵が一人もいませんでした。通路の中は不気味なほど静かでした。彼らは堂々とした扉のところで身を屈め、壁にぴったりと身体をつけました。中の声が聞こえます。か細い、ゾッとするような泣き声がして、静かになりました。モラーリンがそのあとに続いた静寂に向かって口笛で短い曲を吹きました。ドアが大きく開き、彼らは中に駆け込んで、猛烈な勢いで驚いていた衛兵の上に身体を投げ出しました。
エドワードがトゥースを手に最後に中に入りました。彼は一番近くにいた衛兵の脇腹に突き刺して、ビーチが頭への一撃でとどめを刺しました。マッツはずっと中にいました。扉を開けたのはマッツだったのです。彼の斧が一人の衛兵の頭を割り、それから内側のドアに向かって振り抜きました。アリエラとウィローが外側のドアに素早くかんぬきを掛けました。モラーリンの敵はとても若い男でした。彼は大きなダークエルフを一目見ると、彼の剣を床に捨てて跪き、慈悲を請いました。
モラーリンは汚らわしいものを見るような目で彼を見て言いました。「ゼニタールによろしく言ってくれ。エボンハートのモラーリンが慈悲を推奨していたとな。お前のような者に対しては、私には持ち合わせがない」彼は若い衛兵の喉を切りました。モラーリンの革鎧に血が吹きかかりました。彼の犠牲者は床に倒れ、ゴボゴボと恐ろしい音をたてています。燃えるような酸味がエドワードの喉にせり上がってきましたが、彼は固唾を呑んで目をそらしました。
控えの間の中にいた衛兵たちは処刑されましたが、ドアの外では怒号と足音が轟いて、ドアに体当たりする音が聞こえました。エドワードは母のあとについて、���大なベッドに鷹が羽を広げるような形で縛り付けられた裸の少女を除いては誰もいない、奥の部屋に行きました。彼女の眼が彼らを見つめていました。
アリエラが彼女の肩を押さえている間に、仲間たちが彼女の縄を切って自由にしてやりました。「おばあさまが私たちをよこしなさったの。男爵はどこ?」
少女は本棚を指さして、アリエラにしがみつきました。彼女はエドワードより大きくもなく、年もそう変わらないように見えました。彼女の胸は膨らみ始めたばかりです。彼女の体はみみずばれと血と紫色と黄色の打撲で覆われていました。アリエラは自分のマントで彼女を包みました。ビーチが彼女を抱き上げました。ミスの指先が本棚を探っています。カチリという音がして、横に滑りました。彼は慎重に中に入りました。他の者たちがあとに続くと、秘密の扉が彼らの後ろで閉じました。
「それはただのねじ穴だと思う」ミスが言いました。「だけど、罠を仕掛けてあるだろう。間違いない」
「じゃあ、気をつけて」アリエラが言いました。「急ぐことはないわ。男爵は戸口で客の見送りをする準備をしてるでしょう、いい主人の常識みたいにね」
細い通路が左側に開けました。ミスは雷の矢を打ち込みました。床は骨でいっぱいです。人間の骨です。小さな頭蓋骨が空っぽの目で見つめていました。「彼を殺すことを楽しむことにするよ」モラーリンが言いました。
「駄目よ!」アリエラが抗議しました。「私の試練です、私が殺すの!」
モラーリンが彼女の方を振り向きました。「アリエラ――」
「私はアリエラの手によって死んだと歌われたいの!彼と対決する権利を主張しますわ、我が王よ」
「私に任せるんだ、歌は君の言った通り歌うから!彼は君の二倍はあるんだぞ。権利のために私と戦いたいのかね?」エルフは彼女に向って身を屈めました。彼は彼女の頭一つ分余計に身長がありました。
「必要ならね」アリエラは彼を撫でて通り過ぎ、腕につけた盾を鳴らしました。そして走り出すと、彼女のショートソードを抜きました。
モラーリンは彼女を掴みましたが、掴み損ねて彼女のあとを走って追いかけました」彼の大きな体は低くて狭い通路で引っかかりました。不用意に壁にぶつかると、彼の魔法のシールドから火花が飛びました。
「二人とも、早く」ミスが前方で叫びました。「お前らのためにやつを取っておくとは約束してないぞ」
「モラーリン」エドワードが彼の後ろを走りながら喘ぐように言いました。「母さまにやらせないつもりなの!」
「させるさ!どうやって止められるか教えてくれるのか?私は提案を受け付けるぞ。実際に彼女と戦うには知識が不足している」彼は半分怒っていて、半分は面白がっているように見えました。
「た、多分あいつはもう逃げちゃってるよ」
「ないな。彼は我々と一緒にここに閉じ込められたんだ。さっき反対側から出口を見つけてミスが男爵には開けられない鍵をかけた」
「じゃあ、麻痺させよう。父さまは運べる」
「彼女は盾を使ってる。他にも効果はあるが、あれは呪文を跳ね返すんだ。私はただ自分を麻痺させるだけだし、私は運ぶには不便だ。彼女は大丈夫さ。あれはす���らしい盾だ。とても強い魔法を使える。アイリック本人が細工をしたんだよ」
「今晩、鍵にちょっとした問題がおありかな、男爵?」前方からミスの声が聞こえました。彼らは広い部屋に出てきました。そこでは、男爵が巨大なドアの隣のスイッチを虚しく引っかいていました。
「彼には必要ないでしょう」アリエラが鼻で笑いました。仲間たちは彼女の周りに半円状に広がりました。男爵は背中を扉につけて戦う間合いを取りました。彼は大男で、マッツほどの大きさがありました。そして、彼はマッツが持っているのと同じくらい大きな斧を抱え、ブレストプレートと兜を身に着けていました。彼はモラーリンを指さしました。
「9対1だ。お前のような黒い悪魔たちからのオッズを期待しているぞ」モラーリンはグループの後ろにいましたが、男爵は彼をリーダーに選び出しました。なぜかみんなそうするのです。
「ウェイトでアドバンテージを取るのがお好みなのだろう?だが、妻が戦いたいそうでね。お前の魅力に抗えないと見える。私もだ。招待への返事を待ち切れなくてね。だから代わりに来てやったぞ」
「俺があの女を負かしたら、残りのお前らが俺を殺すのか?はっ!その値打ちはあるかもな」彼はアリエラを冷酷な黒い瞳で見つめながら付け加えました。
アリエラは恐ろしい微笑みを見せました。彼女の黒い髪は肩の辺りで奔放に揺れ、彼女は輝いているようです。「男爵、お前はこの女を打ち負かすことはできないでしょう。ですが、もしできるなら、どこにでもお行きなさい。今夜、お前は私だけのものです。皆に誓います、ゼニタールに懸けて!もしまかり間違って彼が私を殺したら、私の幽霊が墓まで、その先も彼を追い立てるわ」彼女の声は予想よりも楽しそうでした。エドワードは震え始めました。
「ゼニタールに懸けて!」
男爵は笑いました。「信じられんな。だが俺のコレクションにまた女が加わるわけだ。その女にそんなに飽きてるのか、エルフ?」
「そんなに彼女を恐れているなら、代わりに私とやる方がいいか?」エドワードの心が、どこか深いところでかのエルフが正しいことを理解しました。男爵の虚勢にもかかわらず、彼はアリエラを恐れていました。エドワードは彼らとともには誓いませんでした。彼はしっかりと杖を握り締めていましたが、足は床に根を張っているようでした。
男爵は再び笑って、答え代わりにアリエラに強力な一撃を繰り出しました。でも、それは彼女の盾に傷もつけずに跳ね返されました。彼女が魔法でシールドを張っていることがわかると、彼の目が見開かれました。アリエラは踊るように脇に避け、彼の腕を切りました。彼女は敏捷でしたが、彼はどうにか多くの攻撃を当てることに成功しました。もし彼女のシールドが切れ…エドワードには最後まで考えませんでした。
彼女の盾の効果を消すことばかり考えて、彼が体を開いていたため、彼女は彼の足に何度も攻撃を加えました。彼女は打撃を低く保って、足を鈍らせ、血を流させようとしていました。その間中、彼が死んだら玉を抜いてやると言いながら、彼女は彼の男らしさをあざ笑って挑発していました。猛烈な一撃が彼女を後ろに下がらせました。彼女の盾が光ると、消えてしまったのです。
男爵は彼女の頭を一撃で割ろうとして斧を高く構えました。彼女は腕を後ろに引き、細身のショートソードを敵の目のにまっすぐ投げ込みました。彼は斧を取り落として叫びながら膝をつき、両手を顔に這わせました。アリエラは前に進み出て、彼の脳に深く貫通するほど、痛烈に剣を突き刺しました。身をよじり、痙攣させながら、彼は倒れました。
「よくやった、奥さん!」
「私にはすばらしいトレーナーと、いい甲冑師がいますもの!」アリエラは笑って、やがて頭を戻し、こぶしを握り締め、両手を挙げて言葉ではない勝利の叫びを上げました。
「お前のおかげだ!」モラーリンはシルクを掴むと荒々しく抱きしめて大きな音をたててキスしました。「お前が彼女に教えてくれた、いかしたトリックのおかげだよ、シルク」
「私のトレーナーさんを口説くのをやめて下さったらありがたいんですけど、旦那様!」細身のアダマンティウムの剣を慎重に拭いながらアリエラが言いました。
「私が?口説くって?怒っていないだろうね……それに、君の盾はまだ魔力がある。私はただ感謝しただけだよ。次に会った時はアイリックにキスしよう」
「本当に死んだの?」戦闘の間中、キャロンは目をつぶってビーチにしがみついていました。今の彼女はアリエラを――畏敬のまなざしで見つめていました。エドワードは適切な言葉だと考えました。エドワードも何か同じことを感じていたのです。恐怖に近いものでしたけれど。
「充分死んでいるわ」アリエラは、まだかすかにぴくぴくと動く身体を満足気に見つめながら言いました。少女は近寄り、彼の隣に膝をつきました。彼女は石を持ち上げると、泣きながら、何度も何度も彼の顔にぶつけました。彼女がそれを終えると、スサースが彼女に治癒の呪文をかけました。ミスが鍵を開けて外に出ると、馬を置いて行った場所のすぐ近くでした。
彼らは少女を母親の家に送り届け、彼女を冒涜しようとする人間には誰にでも、もし彼女が傷つけられたら、ゼニタールの番人たちが戻って来ると言うように、と教えて立ち去りました。まごついた老女は孫娘を抱きしめました。彼女が別れの挨拶をすると、夫の面倒を見るようにとアリエラに耳打ちしました。
「あら、そうしますわ」アリエラは言いました。「そうしますとも」
*******
彼らが休憩のために足を止め、アリエラが話をしようとエドワードの方に行きましたが、彼はとても疲れていて、ただただ眠りたいと抗議しました。息子に必要とされていない時は、君を必要としている夫に会えるだろうと言いながら、モラーリンが彼女を引き離しました。二人は火を囲む輪の外に出て行きました。エドワードは目を覚ましたまま起きていて、二人の小さな、鼻を鳴らすような音を聞いていました。それは、珍しいことではありませんでした。最初は気になりました。「眠れないよ、二人ともうるさいんだもん」ある夜、彼は抗議しました。「ねえ、何してるの?」その言葉は仲間たちから忍び笑いを引き出しました。「少なくとも、眠る振りぐらいできないのか?」モラーリンが平静を装って尋ねました。「僕は今、どうしてダークエルフがよく一人以上子供がいるのかわかったよ。僕がわからないのは、どうやって人間がこんなにいっぱい増えたかってことだ」モラーリンとアリエラは、その夜彼に嘘をつくために戻ってこなければなりませんでしたが、彼が眠ったふりをしたあとは、他の夜と同じようにしていました。
その騒音はあまりにも身近なものだったので、その夜の冒険の映像が彼の心の中で明滅するのを防ぐことができず、まるでそれらが再び本当に起こっているように、生き生きとしていました。彼は自分のデイドラが餌を食べ、それを止められないのを感じていました。不公平だ、と彼は考えましたが、自分のデイドラに餌をやり、それでも神々とともに歩むというモラーリンの言葉の意味を理解し始めていました。ゼニタールとともに。
モラーリンがアリエラを抱えて戻ってきました。彼は彼女を優しく下ろしてから、エドワードと彼女の間に横になりました。
「女でいるということは困難に違いないね」彼は優しく言いました。「彼女を見ていると大変だ。ただ見ているだけでね」
エドワードは頷きました。
「私はそれについてよく尋ねたものだ、彼女に」モラーリンは続けました。「彼女はそれがどんなに大変か教えてくれたが、今晩まで知らなかった。彼女が勝つことは知っていた。ゼニタールが彼女とともにあって、男爵にはデイドラしかいなかったからな。それでも、見ているのはとても辛かった。彼女は10回のうちの9回を使った。そして、もし失敗すればあの盾にはさらに使い道がある……彼が疲れ切ってしまう前に、消耗を回復したかもしれん」
「僕もそのことを考えていたの……そしてあの衛兵…彼は命乞いをした?」
「わかっているよ。だが、彼は同じ言葉を聞いていた……毎晩毎晩な。それでも彼は男爵の手下であり続けた」
「大抵の男は父さまみたいに強くないんだよ。自分でもどうしようもなかったんじゃない?」なぜ彼は、もう死んでしまった男の弁護をしているのでしょう?彼の心はその夜の出来事を、良くも悪くも違う結果になったかもしれないと何度も繰り返し考えていたのです。
「あのように腐った魂のような邪悪を目にしたのに、ただ見ているだけで何もしないなどとは……マッツは持っている値打ちなどない私の片手を持ったままだったかもしれないな。それに、若者にとってはさらに悪い。今夜のようなことを経験させて済まなかった」
「僕の魂は腐っちゃった?」
「苦虫を噛み潰したような気持ちだろう、みんなそうだ。だが、治るよ」
「今治せる?」
「もちろんだとも」モラーリンは彼を腕の中に引き寄せて寝返りを打ち、エドワードが両親の間で横になれるようにしました。アリエラは眠ったまま彼女の両腕を彼に回しました。エドワードの鼻で、彼女の強い女性の香りと、モラーリンの麝香の暗いスパイスの香りが混じりました。
「母さま、とても怒ってた」エドワードは囁きました。彼はまた同じような気持ちで母を見られるようになるかしら、と考えました。きっと、モラーリンもその安心感を求めていて、それを求めるには充分賢明だったのでしょう。
「彼女は女だ。他者に対するああいう類の傷は、彼女の心の琴線に触れる」彼は言いました。
どのぐらい?少年はその質問を口に出せるわけがないことを察しました。
「お前の父上は怪物ではない。だが、彼女は自分のことを気にもかけない男に嫁いだ。そして、彼の下から去ることができなかった。お前の種族にはよくあることだが、だからと言ってそれが耐えることをたやすくはしないと私は思うよ」
「じゃあ、母さまにもデイドラがいるの?」エドワードは悲しげに尋ねました。
「それについては本人と話さなければいけない」
「今日のはほんとには公正な戦いじゃなかった。母さまはシールドがあったし、彼にはなかったもの」
「公正な戦いは闘技場のためのものさ、坊や。お前は狼やヘルハウンドが何も持っていないからって、武器も呪文も鎧もなしに戦うのかい?私は使うだろうな」
「男爵が死んじゃって、キャロンとオラはどうなるの?それに他の村の人たちも。」
「私が予言者マルクに見えるかね?わかるわけがない。春までここにいて、今夜我々が焼いた畑に何が育つかを見ることはできる。私は留まる気も、耕す気もないがね。私には私の、手入れすべき畑がある――聞いたかい、ノルドの農夫みたいじゃないか。鉱山の方がもっと私らしいな」彼はあくびをしました。
「他のみんなはあとのことは考えてなかった。父さまは考えてた」
「私は王だよ。それが仕事さ」
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SW2.5シナリオ 『タポの神隠し』
シナリオ名 : 『タポの神隠し』 推奨人数 : 3-5人 推奨レベル : 2-3 ジャンル : はじめてのばんぞくたいじ 難易度 : ★★★☆☆ メモ : 百番煎じ
●概要 “導きの港”ハーヴェス王国から北に向かって約一日。タポの村と呼ばれる農村で、ここ数か月謎の失踪事件が起きているという。 滅多に蛮族の被害も無い平和な村に一体何が起きたのか。新米冒険者達はその謎を解き明かす為、タポの村の奥地へと赴いた──。
●GM向けシナリオ概略 タポの村周辺に、レッサーオーガが率いる蛮族の小さな集団が隠れるようにして居座っていた。初めは狼や猪などの害獣や森の木のみを食べて過ごしていたが、群れが大きくなるにつれ、食料が足りなくなっていく。 そこで群れのボスであるレッサーオーガはタポの村に目を付け、ある日の夜に村長であるライアンを食い殺す。 その後村長ライアンに成りすましたレッサーオーガは、月に一度の頻度で村人を森へ誘導し、子分たちの食料としていた。 更なる群れの巨大化を目指すレッサーオーガは、これ以上に無い餌場を手にしたのだった。
●シナリオの流れ 1.導入 2.タポの村へ~村を散策 3.東の森 4.蛮族の洞窟 5.報告 6.レッサーオーガとの決戦 7.結末
●1.導入
PC達の関係性はご自由に。朝8時に、ハーヴェス王国にある水龍の逆鱗亭の店内から描写が始まります。
多様な冒険者が集う“導きの港”ハーヴェス王国。絢爛豪華な湾岸都市の一画にある、【水龍の逆鱗亭】にてこの物語は始まる。 木製の暖かな店内を、二メートル以上の巨体を持つ男が見渡す。 手に持った依頼書に見合った実力を持つのであろう、君達○人に大声を張り上げた。 「おい、そこの新米達! 仕事を探してるならこっちに来てくれないか!」 「まずは自己紹介をしておこう。俺の名前はナッシュ・ヴァルター」 「この水龍の逆鱗亭の店主だ」 「経験を積みたいってなら丁度いい仕事があるぜ? 話だけでも聞いてみないか」
元々一流の冒険者であったナッシュ(熊リカント/男性/57歳)は、ハーヴェス王国でも有名な冒険者の宿の店主です。 彼の指導の下、大成した冒険者も数多くいる事から、彼は信頼に足る人物であるという事はPCも知っていて良いでしょう。 承諾すれば、ナッシュは仕事の内容について話してくれます。
「お前達にやって貰いたいのは、“人探し”だ」 「このハーヴェス王国から北に一日かけて向かった所に、タポの村と呼ばれる農村がある」 「タポの村では四か月程前から、月に一人くらいの感覚で人が消えているらしい」 「──そこでお前達冒険者の出番ってわけさ」 「依頼内容は行方が知れなくなった四人の村人の捜索」 「村の近場には魔物も出ないって聞くし、お前らみたいな新米には丁度いいだろう」 「報酬は前金一人300ガメル、達成で更に一人700ガメル支払われる」 「どうだ、受けてみないか」
ここでナッシュが語る依頼の達成とは、「居なくなった四人の安否の確認」という事になります。 全員が生きている必要はなく、最悪死体の確認だけでも問題はありません。勿論、生きている事に越した事はないと併せて伝えて下さい。 本来であれば「失踪の謎の解明、及び解決」も必要となりますが、あくまでも村からの依頼は失踪した村人の捜索となります。 この依頼に了承したPC達に、ナッシュは一人300ガメルの前金を支払ってくれます。
●2. タポの村へ~村を散策
ここから自由に探索が可能になります。GMは、日数計算に気をつけて下さい。 前金が支払われた段階から、72時間。それまでにPC達が囚われた村人を解放出来なければ、村人は食べられてしまいます。 タポの村へはナッシュの言葉通り、24時間で辿りつけます。それまでに買い物を行ったり、何か調べ物をしたりした分の時間はざっくり計算すると良いでしょう。
タポの村は大きな畑が広がっており、牧歌的な空気が村を包み込んでいる。 村の東には深い森、北には鉱山としても使われている切り立った山がある。
タポの村に着けば、見張り番である男、ベッポ(人間/男性/25歳)がPC達を出迎えてくれます。
「おお、こんな村に客人とは珍しい」 「……まさかその出で立ち、アンタ達が依頼を引き受けてくれた冒険者様かい?」 「ああ、やっぱり! アンタ達を呼んだのは俺だ!」 「俺はベッポ、この村の見張り番だ。よろしく頼むよ!」
好青年であるベッポは、十日前に最愛の妹アンジェが神隠しにあっています。村長に扮したレッサーオーガが上手く時間稼ぎをしましたが、遂に痺れを切らしたベッポを始めとする村人達が独断で冒険者に依頼を出しているのです。 ベッポは村の立ち入りの為には村長への挨拶が必要とし、冒険者達をタポの村村長、ライアンの家へと案内します。 ライアンの家は小屋とも呼べる程度の他の村人の家とは異なり、立派な木製の家です。ベッポはその扉をノックし、大声で来客を伝えるとPC達を家の中に招き入れます。
一人で暮らすには少々広めの空間に、木製の椅子に腰かける老人の姿がある。 何処か険しい表情を浮かべた老人は、君達を睨み付けるように覗き見た。 「……ようこそ御出でなすった」 「儂はライアン、この村の村長です」
勿論、この時は既にライアンは死亡しており、家の中で白骨化しています。 レッサーオーガは用心深く、粗を出さない為にも率先して冒険者と話をしようとはしません。 あくまで邪険に扱い、さっさと村から出ていって貰おうとします。PC達から質問を受けても、「知らない、分からない、覚えていない」の三種類くらいしか喋りません。さっさと家から追い出そうとまでします。
このシーン以降、ライアンと同じ場所にいる状態で、PLがライアンを怪しむ発言を行った際には、真偽判定を振らせましょう。 村で情報を集める前に行った場合の達成値は「12」。後述する情報を取得した場合は「8」になります。 もしこの真偽判定を達成した場合、一気にシーンは「● 6.レッサーオーガとの決戦 」へと移ります。
上記のライアンとの話を終え、村長の家を追い出されたPC達をベッポが迎えます。
「アンタ達には期待してるぜ、冒険者さん」 「消えた中には俺の妹アンジェも居るんだ」 「よろしく頼むよ!」
これ以降、PC達は自由に行動する事が出来ます。 ベッポを含む、他の村人達に聞き込み等を行う場合は以下の中から必要な項目を拾い、応えて下さい。 この辺りはGMのさじ加減で、上手くPC達を誘導してあげると良いでしょう。 特に重要になるのは、「村長の様子がおかしくな���た」事と、「村長ではなく村人(ベッポ)達が依頼を出した」という事です。
「アンジェは二週間前、森へ果物を取りにいったんだ」 「…だがそれから返ってくる事はなかった」 「もう我慢ならないと、他の村人からカンパを募ってアンタ達冒険者を呼んだのさ」
「村人が居なくなってから、村長の元気が無くなっちまったんだよな」 「お疲れなんだろう」
「そういえば最近、夜に村長が出歩いてる所見てないなぁ」 「ついこの間までは、村の見回りを日課にしてたんだが」
「村の男達で森や鉱山を探したんだが、何も見つからなかった」
「この村は貧乏だから、アンタ達冒険者を呼ぶのに時間がかかっちまったんだ」 「村長は結構金を持ってるって聞いてたから期待してたんだけど、実際は無一文だったみたいでね」
森、鉱山に向かう場合は、片道一時間かかります。 鉱山では特にイベントはありません。
●3.東の森
東の森までは、一時間も掛ければたどり着く事が出来る。 森の木々たちの背は高く、陽が出ていてもどこか薄暗い印象を受けるだろう。
森では足跡追跡判定、もしくは探索判定を行う事が出来ます。 足跡追跡判定は達成値7、探索判定は達成値8で判定を行い、成功した場合は以下の描写を読んでください。
大小様々な足跡が伸びている。 その中でも特段小さな足跡が正規の道から外れて、巧妙に隠されていた獣道へ続いている事がわかる。 また、その足跡のすぐ傍に、何かを引きずったような跡も続いている。
これは蛮族が村人を襲い、自分達の洞窟へ攫った跡です。 もし判定に失敗した場合、5時間の探索を経て自動で獣道を発見する事が出来ます。その場合は足跡などの描写は不要です。
更に一時間ほど獣道を進めば、岩場にぽっかりと口をあけた洞窟に辿り着きます。 洞窟の内部は暗く、暗視が無ければ光源が無い限り見渡す事は出来ません。
● 4.蛮族の洞窟
レッサーオーガの群れの子分である蛮族達の住処です。群れはゴブリン(『Ⅰ』439p)、ダガーフッド (『Ⅰ』438p)、アローフッド (『Ⅰ』437p)で構成されています。 数はゴブリンが二匹で固定、ダガーフッドとアローフッドは(PC数-1)として下さい。
蛮族は二つのグループに分かれており、それぞれゴブリンを隊長としてダガーフッドとアローフッドが半分づついます。 半分は洞窟で待機、もう半分は狩りに出かけています。 PC達がこの洞窟の内部に侵入を試みた瞬間から、丁度30分後に狩りにでた蛮族が戻って来ます。GMはここでも時間管理を行って下さい。
まず洞窟の入口には早速罠が配置されています。 罠感知判定、達成値8に失敗すると、5mの落とし穴に落ち15点の物理ダメージが入ります。更に穴の下には小石が散りばめられており、大きな音が響きます。 その音で蛮族の待機グループが穴から這い出し、即時戦闘となります。穴に落ちたPC達の処遇はGMに任せます。 この罠を回避すれば、蛮族の待機グループは洞窟の内部に居る状態になります。
洞窟は一本道になっており、5分もあるけば分かれ道に出ます。 分かれ道では北、西、東に進む事が出来ます。 狩りに出かけた蛮族が戻ってきた場合、彼らは真っ直ぐに北の道を目指します。
・洞窟西:奴隷置き場 依頼承諾から48時間以内であれば、PC達の耳に金属音が聞こえます。 その奥では、壁に鎖でつながれた村人アンジェ(人間/女性/20歳)の姿があるでしょう。 彼女は蛮族に連れ去られて以降、何とか生き延びていました。 アンジェはそれ以降、PC達に同行を申し入れます。戦闘などが入る場合、蛮族は彼女を含めた中からランダムで攻撃対象を決定して下さい。 アンジェの能力はHP12、他は全て0です。 もし依頼承諾から48時間以上が経過している場合、この場所には鎖があるだけで他には何も見当たりません。
・洞窟東:ゴミ捨て場 この場所には蛮族達の生活ゴミが捨てられています。 基本的には動物の骨などです。この場所では探索判定を試みる事が出来ます。 自動成功で、獣の骨に混じって人骨も見つかります。 更に冒険者レベル+器用で判定を行い、8以上が出ればその人骨が三人分(アンジェ死亡時、四人分)である事がわかります。 この探索判定を行えば、依頼は完了したとみなされます。PC達に伝えてあげると良いでしょう。 達成値5以上で「ピアス」「指輪」「ネックレス」(売却値100G)が見つかります。これは既に死亡した村人達の遺品です。
・洞窟北:居住区 ここは蛮族達の寝床として使われており、広い地面には藁が乱雑に敷かれています。更に部屋の奥には宝箱が一つあります。また、壁には松明が掛けられており視界は良好です。 もし最初の罠で戦闘になっていない場合、蛮族の待機グループはこの場所で寝そべっています。 蛮族退治後、この場所では探索判定を行う事が出来ます。 達成値5以上で、敷かれた藁の数が確認出来ます。小さな藁の束が(ダガーフッドの数+アローフッドの数)分、中くらいの藁の束が二つ(ゴブリンの数)分ある事を伝えて下さい。 達成値8以上で、洞窟の壁に文字が刻まれている事が分かります。汎用蛮族語で書かれています。
『女 未だ 食うな』 『人族 警戒 しろ』 『次 満月 戻る』
宝箱には鍵が掛かっています。解除判定、達成値は10です。 中には「能力増強の指輪」(『Ⅰ』329p)が一つ入っています。指輪の内容はダイスで決めるか、GMが決めて下さい。
●5.報告
洞窟の蛮族を倒せば報告を行う事になります。この際、「誰に報告をするか」、「アンジェを連れているか」、「遺品をどうするか」で分岐があります。 ライアンに報告した場合、「お疲れ様でした」と短く言うだけで、特に労う事もせずに冒険者達を返そうとします。 ベッポに報告した場合、アンジェを連れ帰れば泣きながらお礼を言います。アンジェが死体となっていれば、ベッポはがっかりとした様子でPC達を見送ります。 どちらにせよ、「村人の安否が決定」した時点で、彼らは冒険者を見送ろうとするでしょう。
遺品の三種類は売却する事も可能ですが、それぞれの家族に返す事も出来ます。 返した場合、エンディングで更に報酬500ガメルが追加されます。
●6.レッサーオーガとの決戦
村長ライアンに成りすましたレッサーオーガに対し、真偽判定を試みて成功した場合、レッサーオーガは本性を顕します。 基本的には家から出る事はないので、家の中での描写となるでしょう。 見破った際、即座に戦闘を仕掛ければ奇襲を掛けたと見なせます。先制判定に確実に成功し、ライアンは自分の手番でようやく人化を解除出来ます。 ご丁寧に見破った旨をライアンに伝えた場合は、正々堂々戦う事になります。
ライアンの瞳が怪しく輝く。 「ほう、私の姿を見破ったか」 「村人共め、勝手に冒険者なんぞ送り込みよって……全く面倒な事を」 「ここは貴重な餌場だ、簡単に手放すつもりもなければ──この事を知った貴様らを、生かして帰す道理もない」
ここではライアンに扮するレッサーオーガ(『Ⅰ』p442)との戦闘です。PCの数が4人以上の場合は、剣の欠片を(人数-3個)持たせましょう。 レッサーオーガ は一人で、援軍等はありません。家の中といえども容赦なく魔法をぶっ放してきます。 レッサーオーガ を倒せば、最後に彼は恨み言を残します。
「馬鹿な……!」 「だが、これで終わったと思うな……!」 「私という歯止めがなくなった以上、もう、この村は……」
更に洞窟攻略後、それをPC達が伝えた場合は更に悔恨に満ちた顔を浮かべ、呟きます。
「な、何だと!?」 「クソ、忌々しい人族共め!」 「貴様らさえ、居なければ……!」
レッサーオーガ死亡後、ライアンの家で探索判定を行えます。 自動成功として、家の隅から人骨が一人分見つかります。これは勿論、本物のライアンの物です。 達成値9以上で、ライアンの隠し財産が見つかります。宝石が箱に入っており、全て売却すれば500ガメル相当になるでしょう。
●7. 結末
PCが洞窟攻略(蛮族全討伐)してなおかつレッサーオーガを倒した場合は自動でエンディングを迎えます。 やり残したことがある場合、PC達にどうするか尋ね、自発的にハーヴェス王国に戻る事を選択した場合でもエンディングを迎えます。
エンディングは特定の要素によって変化します。
【エンディングA】…レッサーオーガを倒し、蛮族を全て討伐 君達の依頼完了から数か月後。 タポの村では作物が大豊作となり、君達宛てにたくさんの野菜が届く事になる。 そこに添えられた手紙には、君達への感謝が所せましと並べられていた。 もうあの村で人が消えるような事件は起こらないだろう。 君達が、あの悪しき蛮族を討伐したのだから。
【エンディングB】…レッサーオーガを倒すも、蛮族を打ち残す。 君達の依頼完了から数週間後。 君達の耳に、驚くべきニュースが飛び込んでくる。 タポの村、蛮族により崩壊。 次に改訂されるであろう地図から、タポの村は永遠に消失した。
【エンディングC】…レッサーオーガを倒していない。 君達の依頼完了から数か月後。 水龍の逆鱗亭に、新たな依頼が舞い込んだ。 ──タポの村にて、人探しをお願いします。 タポの村では月に一回、誰かが消える。 その恐ろしい事件は、終わらなかった。
また、上記に加えて遺品を村人に返したかの有無で、報酬金額が500ガメル変動します。
報酬として一人1000ガメル(前金300、達成700)が支払われます。 そのほかの戦利品や、物資の売却品、遺品返却による報酬などはプレイヤーの頭数で割って下さい。
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Hello, With my love,
スティーブ・ロジャース、プロジェクトマネージャー、32歳。基本項目を入力して画面に現れる質問に4段階で答えていく。『自分の知識が生かせている?』イエス、『仕事にやりがいを感じる?』イエス、『職場の環境は快適?』どちらかといえばイエスかな、自販機のメニューがもっと豊富になれば嬉しいけど。『最近の懸念は?』ええと――
「――トレーニング用の鶏肉レシピに飽きつつあること……」 記述項目まで漏れなく打ち込んで送信ボタンを押す。画面に現れた「ご協力ありがとうございました」のポップな字体を確認してからスティーブはタブを閉じた。 定期的に行われる社内のストレスチェック。トレーニングジムをいくつか展開しているスティーブの会社は、オフィス側の人間だけなら両手で数えられるくらいの規模のものだ。それこそ、ストレスチェックなんて面談で済ませば事足りる程度の。それでもオフィスにはほとんど顔を出さないジムのトレーナーのケアが目的だというこの作業を、スティーブはランチ後の眠気覚ましとして使っていた。 画面そのまま現れたメールボックスを眺めながら、コーヒーを口に運ぶ。新店舗立ち上げのプロジェクトが進行中なこともあり、最近は未読メールが溜まるのも速い。それらの一つ一つを処理していけば、顧客対応をしているスタッフからの転送メールに行き当たった。 (……珍しいな) オープンにしている会社のアドレスには一般の問い合わせに混じって営業のメールが送られてくることも少なくない。基本的にはスルーしてしまうことが多いが、彼のお眼鏡にかなったものが、ごく稀にスティーブの元に転送されてくるのだ。そして例にたがわず今回も外部からの営業メール。そのメールは礼節を守ってこう始まっていた。
『Dear Sirs and Madams, ――』 内容には、自分たちはジムの利用者用にトレーニングの管理アプリを作っている会社であるということ。パーソナルトレーナーも利用することができ、顧客管理にも役立てられることなどが綴られていた。 『もし興味を持ってくれたなら詳しい話をさせて欲しい。 your sincerely, James Barnes 』
スティーブはメールを最後まで読み終えると、文末に添えられていた会社のURLをクリックした。IT系らしく洗練されたサイトによると、ジェームズの会社は2年前に立ち上がったスタートアップらしい。アプリの紹介ページを開き、内容を精査していく。スティーブの元に届いた時点で有象無象の営業メールからは抜きん出ているのだが、それにしたって全ての業者に会うほど暇ではない。そうした審査の気持ちでページを見ていくと、スティーブの目がふと興味深い内容に行き着いた。どうやら彼の会社はもともとリハビリ用の管理アプリを病院や施設に提供していたらしい。そのノウハウを踏まえ、今度はジムの方面にも挑戦してきたというわけだ。 (……丁度良いかもしれない) 最近ではトレーニングジムにもユニバーサルデザインを取り入れ、特に身体にハンデを持つ人でも利用できるような施設が増えている。そして企画進行中の新店舗も、まさにその一つになる予定だった。 新店舗は新しいサービスを導入するのに最適なタイミングだ。なにより彼らに話を聞けば、新しい店舗へのアドバイスも出てくるかもしれない。そう考えたスティーブは丁寧に返信を打ち始めた。
『Dear James―― メールをありがとう。プロジェクトマネージャーのロジャースです。提案いただいたアプリについて――』
最後に署名を添えて送信ボタンを押した。忘れないうちに顧客対応のスタッフにも『ありがとう』の一言を送っておく。諸々を考慮してこのメールを届けてくれたのだとしたら、彼の功績を称えなければいけないだろう。ビジネスだけじゃなく、何事においてもタイミングは重要だ。 程なくしてジェームズから返信が届いた。不特定の誰かではなく『Dear Steve』に変わったメールには、目を通してくれたことや営業のチャンスをもらえたことへの感謝、会社が近い場所にあるのでスティーブの都合にあわせて訪問したい旨、そしていくつかの日程が心地よい文体で書かれていた。営業をかけているのだから丁寧になって当然だが、ジェームズのメールはスティーブにとって特に読み心地が良いものだった。早々にフランクになる相手は苦手だし、反対にかしこまられすぎても居心地が悪い。メールの文体というのはたとえビジネスであっても千差万別なもので、良い印象を持ったままでいられることは意外と少ない。特に自分のように人見知りの気がある人間にとってはどうしても敏感になる部分だった。 一通りのやり取りを終え、スティーブはすっかり冷たくなったコーヒーを口に含んだ。ふう、と一息ついて、会えるのを楽しみにしていますというジェームズからのメールを眺める。どんな人物だろう。スタートアップといえば若いイメージがあるが彼はどうか。メールの雰囲気から浮ついた感じはしないが、正直言って自分は初対面の人間と会話をすることに少し苦手意識があるから、願わくば話しやすい人であって欲しい。そう思いながら続々と返ってきているその他のメールをさばいていった。
ジェームズからのメールを受けた翌々日。またも昼下がりのオフィスで、スティーブはそのジェームズの来訪を待っていた。窓際に置かれた観葉植物には気持ち良さそうな日光が当たっている。四月のニューヨークらしくまだまだ外は寒いが、日差しだけを見れば春が近づいてきているのがわかる。スティーブは植物たちを眺めながら、来客時用のジャケットを羽織った。 丁度その時、入り口から来客を知らせる声があった。振り向くとスタッフの隣に一人の男性が立っている。 「スティーブ、お客さんよ」 その声に手を挙げて答えると、隣の男性がスティーブに気づいて微笑んだ。上品なグレーのニットに濃いブラウンのスラックス。目があった男性は、驚くほど整った顔をしていた。 スティーブはノートパソコンを抱えて男性の元へと向かう。 「はじめまして、ジェームズだ」 自己紹介とともに差し出された手を握る。遠目からではわからなかったがジェームズは長い髪を後ろでひとまとめにしていて、微笑むと口角がキュッと上がるチャーミングな男性だった。灰色がかったブルーの大きな目が優しげに細められている。 「スティーブだ。来てくれてありがとう」 「こちらこそ、時間をもらえて嬉しいよ」 そう言ったジェームズをミーティングスペースへと案内する。彼が動いたと同時に控えめなムスクの香りがした。 席に着くとジェームズは簡単な会社の紹介のあと、ipadを使ってアプリの説明を始めた。 「リリースして間もないから荒削りな部分は多いけど、むしろフィードバックには柔軟に対応できると思う。それが小さい会社の強みでもあるしな」 そう言って実際にアプリを動かしてみせてくれる。なぜか彼の左手には薄手の手袋がはめられたままだった。それに気をとられていたのがわかったのか、ジェームズは軽く左手を振って「怪我をしてるんだ、大げさですまない」という言葉とともに申し訳なさそうに笑う。 スティーブは不躾に凝視してしまったことを恥じ、それを補うかのように彼の言葉を補った。 「今、新しい店舗の計画が進んでる。うちのジムは一つ一つの規模が小さいから、今ままでは専用のシステムは入れてなかったんだ。もしそのアプリが有用だと判断できたら、このタイミングで導入できればと考えてる」 「本当に? 良かった。実はまだ導入実績が少なくて。いくつか話は進んでるけど……だから新しい店舗で要望があれば、こっちもそれに合わせてある程度改修できる」 ジェームズは朗らかに答えた。エンジニアを信頼している物言いが好ましい。スティーブは一つ笑うと、兼ねてからの相談を持ちかけた。 「……実は、こちらから一つ相談があるんだ。君の会社のサイトを見たけど、リハビリ業界でも仕事をしていたんだろう」 そう言ってスティーブは新しい店舗をユニバーサルデザインにする予定であること。自分のジムでは初めての試みだから、よければ意見を聞かせて欲しいということを伝えた。営業に対して駆け引きじみた提案ではあるが、想像に反してジェームズはわお、と破顔してくれた。 「そんな、嬉しいよ。このアプリを作ったのも元々そういうジムが増えてきて、もっと細かいデータ管理になるだろうと思ったってのもあるんだ。だからもしできることがあるなら喜んで手伝うよ」 ジェームズの反応���スティーブは安堵する。「……有難いな。詳しく説明すると、例えばマシンの導入とか配置とかを見てもらって、もし気になったと箇所があれば教えて欲しいんだ」 「ああ、もちろんいいぜ」 彼がよく笑うせいか、打ち合わせは非常に朗らかに進んだ。同僚にはよく恐そうな印象を与えると言われてしまう自分には驚くべきことだ。メールの印象も良かったが、実際に話してみるとその印象が更に強まる。ジェームズには押し付けがましかったり、斜に構えたりする部分がない。そしてこちらの要望を理解するのも速かった。 「無理のない程度で構わないんだけど、ユーザーになりうる人に話も聞いてみたくて。誰か、そういった人に心当たりはあるかな」 スティーブが尋ねると、彼はあー、と空中を見つめた。おそらくツテを考えてくれているのだろう。アプリには直接関係のない話にも関わらず真摯に対応してくれる彼に心の中で感謝する。スティーブは温かな気持ちで彼の返答を待った。 しかし、しばらく経ってもジェームズは相変わらず小さく唸ることをやめなかった。そればかりか、うっすらと眉間に皺が刻まれている。優しげだった目元が一転して凶悪ともとれる雰囲気になる。スティーブはたまらず目の前で唸る彼に声をかけた。 「ジェームズ……? あの、無理して探してもらう必要はないんだ。もしいればくらいの気持ちで」 その言葉にジェームズはパチリと目を瞬かせた。眉間の皺が消え、きょとんとしている彼は今までよりも随分と幼い。その顔を見るに、どうやら自分が不吉な表情をしていることには気づいていなかったようだ。どこか慌てた様子のスティーブに気づいたのか、彼は申し訳なさそうに眉尻を下げた。ころころと変わるジェームズの表情に、スティーブもつられて笑う。 「ああ……ごめん、少し考えすぎた。ええと、モデルケースが欲しいんだよな?」 「まあそうだね」 「身体にハンデがあるけどジムに通いたいか、あるいは通ってる人間? 年齢はどのあたりを考えてる?」 「そうだな……一旦は20代後半から40代かな。男女は気にしないよ」 そう言うとジェームズは再び小さく唸ると、ええと、と口を開いた。 「関係者を辿ればそういう人間は何人か紹介できると思う。けど――」 「……けど?」 「まあ、もう少し手頃なところにぴったりの奴がいるなと思って……。えっと、そのまあ、俺なんだけど」 え、というスティーブの言葉を待たずに、ジェームズは左手を覆っていた手袋をはずす。その下から現れたのは銀色をした滑らかな義手だった。 「俺、左腕が義手なんだ。年齢は30代。ランニングと、筋トレは家でやってる。……な、ぴったりだろ」 そう言ってジェームズは吹っ切れたように笑った。先ほどの逡巡はおそらく自分を挙げるかどうかを迷っていたのだろう。予想外の内容に、今度はスティーブが口を詰まらせる番だった。それを見越していたのか、ジェームズがすぐに言葉を続ける。 「ごめん、いきなりで驚いたよな。あんまりバレないから自分で言うことも少ないんだけど……イメージを聞く感じ誰かに話を回すより俺の方がいいんじゃないかと思って」 苦笑しながら告げるジェームズを見てスティーブはハッと我に返った。ごめんなんかじゃない。一体自分は何をしているんだ。彼が謝ることなんてないのに。 「僕こそごめん! 少し驚いたのは本当だけど、君が謝ることじゃないよ。むしろ、そうだな。君が手伝ってくれるなら……その、嫌じゃないなら……すごく嬉しいよ」 実際ジェームズの申し出はありがたいものだ。関係者をたどって、紹介してもらってとなるとお互いに負担が増えるのは確かであるし、そこまで望んでしまう申し訳なさもある。何より、本来の営業から外れているのに、ジェームズ自身が請け負うと言ってくれたことがスティーブには嬉しかった。彼はとても責任感の強い人間なんだろう。スティーブの中でジェームズに対する好感度がぐんぐんと上がっていく。彼と仕事ができたらどんなに良いだろう。 「そうか、なら良かった」 ジェームズもスティーブの言葉に安心してくれたようで、ふっと優しげに笑う。不思議な感覚だった。彼の笑顔でこちらの心まで軽くなるような気がする。横広の大きな目が雄弁に気持ちを伝えてくれているようだ。スティーブがふわつく心を持て余していると、ジェームズがちらりと時計を見てあ、と声をあげた。 「悪い、結構長く居座っちまった。ええとそしたら……」 そう言って今後の約束をいくつか交わし、驚くほどの収穫を得た打ち合わせは終了した。何より、ジェームズとの関係は今日が初めてだとは思えないほど良好だ。終盤にはだいぶフランクに話していたことに気づき、スティーブは今更ながら気恥ずかしさを覚える。 オフィスの入り口まで同行すると、最後にスティーブは今日の礼を述べた。先ほどはきちんと言えなかったことも。 「じゃあ、ジェームズ。今日は本当にありがとう。それと……君の腕のこと、不躾に見たりしてすまなかった。気を悪くさせていたら申し訳ない」 ジェームズはその言葉に少し目を見開き、柔らかく微笑んだ。 「いや……優しいんだな、スティーブは。むしろこっちが驚かせて悪かったけど……そうだな、そしたら俺も一個質問をしても?」 「もちろん、仕事のこと?」 ジェームズは少し眉をひそめて、周囲を伺うようにスティーブの耳に口を近づける。そして、声をひそめてこう告げた。 「いや――、ジムの社員になるって、その胸筋が必須なのか?」 「……え?」 ぽかん、と一瞬呆気に取られた隙にジェームズはぽんとスティーブの胸を軽く叩いた。同時にふはっと快活な笑いをこぼし、すばやく身を離す。 「ごめん、冗談。立派な体つきだからつい。さっきのこと、本当に気にしてないんだ。今日はありがとう」 そう言うと彼はさっとオフィスを後にしてしまった。からかわれたと思ったのは一瞬で、それがスティーブの気を軽くする為のものだったと気づいた頃には、ドアの向こうに彼の姿はなくなっていた。きっと、自分が申し訳なさそうな顔をしていたから。気にしすぎる性分だと見抜かれていたのだろう。彼は……彼は、きっとすごく優しい人だ。 (……うわ) 彼に触れられた胸がじんわりと熱を持っている気がする。スティーブはしばらくドアの前に佇んだまま、その熱が収まるのを待っていた。
『Hello Steve, ―― 今日は時間を取ってくれてありがとう。アプリのデモ版を送るから使ってくれ。あと、新店舗の詳細はいつでも大丈夫だ。都合のいい時に連絡をくれ。 Regards, James Bucky (周りはみんなバッキーって呼ぶんだ。もしそうしてくれたら嬉しい)』
夕方に届いたメールは少しフランクになった挨拶から始まり、続いて今日の礼が綴られていた。そして彼の愛称も。こんな風に誰かとの距離が近づいていくのを嬉しいと思うのはいつぶりだろう。たとえ仕事上のつきあいだったとしても、ジェームズ――バッキーは間違いなく魅力のある人間だったし、それを嫌味に感じさせない軽快さも好ましかった。スティーブはその距離を嬉しく思いながら返信を打ち始めた。
『Hello Bucky, ――』
そうして始まったバッキーとの仕事は至極順調に進んだ。アプリの導入も本格的に決まり、スティーブもバッキーも相応に忙しい日々を送っていた。
『Hi Steve, ―― 週末はゆっくり休めたか? 先週もらった内容だけど――』
『家の掃除で一日潰れたよ。クローゼットは悪夢だ。そうだね、トレーナーによると―― Thanks, Steve 』
バッキーのレスポンスは速いし無駄がない。そしてそこにさりげなく添えられる気遣いの一言は、スティーブにとって日々の潤いと言っても良かった。なんなら定型文だって構わない。多くの関係者とやり取りしている今だからこそ、彼からのメールは一際嬉しいものだった。 バッキーはそういったバランスを取るのが非常にうまい人間だった。時折チャットのようになるメールも、こちらからの質問――特にバッキーをモデルケースにしている件だ――に丁寧に答える文面も、タイミングを計り間違えることがない。向こうが自分をどう評価しているかはわからないが、スティーブにはこれが稀有なことであるという確信があった。 彼の会社が近いというのは本当で、何度かランチミーティングをした際には共同経営者だというサムを伴ってくることもあった。彼はなんと元カウンセラーで、その仕事をやめてバッキーと会社を立ち上げたらしい。すごい決心だと素直に述べると、サムは「こいつと一緒にいたらわかるよ」と苦笑していた。バッキーが気のおけない様子でサムの脇腹を小突いている。その光景に笑いを返しながらも、スティーブは胸の内に靄がかかるのを自覚していた。 バッキーは魅力的な人間だ。それはこの1ヶ月で十分にわかっている。そんな彼だからこそ、自分よりも先に出会った人間が自分と同じように彼と仕事をしたいと、夢や未来を共有したいと思ってもそれは仕方がないことだ。でも、もし自分の方が早かったら? もし彼ともっと前に出会えていたら? そう思うと、まだ距離があるバッキーと自分との間に少なからず悔しさを覚えてしまう。ましてや、自分は仕事上の関係でしかない。そこに別のものを求めてしまうのは我儘だろうか。 スティーブはコーヒーを飲みながら、次のランチはバッキーと2人であることを密かに願った。
街を行く人たちの手から上着がなくなり、代わりににアイスコーヒーが握られる。時間はあっという間に過ぎていく。工事の視察、トレーナーや業者との打ち合わせ、やることが山のようだ。オープンがいよいよ間近に迫ってきたスティーブは、追い込み時期らしく夜遅くまでオフィスに残ることが多くなっていた。早く帰りなさいよという同僚を後ろ手に送り、一人になったオフィスで堪らずにため息をつく。 「疲れたな……」 思わず口にすると一気に疲労がやってきた。ネオンの光こそ入ってこないが、金曜日の21時、街が一番賑やかな時間に、静かなオフィスでタイピングの音だけを響かせている。 (土日はゆっくり休もう……) 大きく肩を回してパソコンに向き合うと、期せずしてバッキーからのメールが届いていた。
『Steve, ―― 悪いがこの前言っていたアップデートにまだ時間がかかりそうなんだ。週明けには送れると思うから、もう少しだけ待っていてくれ。 Bucky, 』
取り急ぎ、という感じで送られたそれに苦笑しながら返信する。どうやら彼もこの休前日を楽しめていないらしい。
『Hello Bucky, ―― 構わないよ。むしろ最近はいつでもパソコンの前にいるから君達のペースでやってくれ。 Thanks Steve, 』
送信ボタンを押すと、ものの数分で返信を示すポップアップが表示される。 『わお、残業仲間か。まだオフィス?』 『そうだ。早くビールが飲みたいよ』 『俺もだ。飯は食った?』 『いや、まだだ』 チャットのようにお互いの苦労をねぎらっていると、ふとバッキーからの返信が止んだ。作業が進んだのかと思いスティーブも資料に目を通し始める。3ブロック先で彼も同じように眼精疲労と戦っているのかと思うと、少しだけ気分が軽くなる。こちらのオープンに合わせて作業をしてもらっているから、彼の忙しさの一旦は自分に責があるのだが。そんなことを考えていると、再びポップアップが表示された。スティーブはその内容を確認して思わず目を見開いた。 『差し入れ、要る?』 「……わお」 思いがけない提案にスティーブの胸は跳ね上がった。彼が自分を気遣ってくれている、そしてここまでやってきてくれるなんて。遅くまで頑張っている自分へのギフトかもしれない。スティーブはニヤついてしまう口元を抑えながら、極めて理性的に返信を打った。 『魅力的な言葉だ、でも君の仕事は?』 『あるにはあるけど、今はエンジニアの作業待ちなんだ。というか、俺も腹が減って死にそう』 そこまで言われてしまえば答えは「イエス」しかない。 『じゃあお願いしようかな』 『了解、嫌いなものはある?』 正直この状況で出されたらなんだって美味しいと言えるだろう。たとえ嫌いなものがあったって今日から好きになれる気がする。そう思いながら『何もないよ』と返信する。少し待っててと言うバッキーのメールを見つめて、スティーブは今度こそ楽しげに息を吐き出した。
30分後、スティーブが契約書と格闘していると、後ろからノックの音が聞こえた。振り返るとガラス張りのドアの向こうでバッキーが手を挙げている。スティーブはすぐさま立ち上がりドアのロックを解除した。バッキーを迎え入れると、いつもはまとめてある髪が下されていることに気がついた。よう、と首を傾げたのに合わせて後ろ髪がふわりと揺れる。正直にいってスティーブはそれに真剣に見惚れた。 「お疲れさま。チャイナにしたけど良かったか?」 スティーブの内心など露も知らないバッキーが手元のビニール包装を掲げる。途端に鼻腔をくすぐる料理の匂いが、一点で止まっていたスティーブの意識を現実に引き戻した。 「あ、ああ。ありがとう……ええと、そこにかけて待っててくれるか?」 呆けていた頭を動かし、バッキーに休憩スペースをしめす。ウォーターサーバーから水を注ぐ間も、うるさく鳴り続ける心臓が治まってくれる気配はない。それどころかコップを差し出したタイミングでこちらを見上げたバッキーに「皺がすごいぞ? チャイナは嫌いだったか?」などと言われてしまい、さらに動揺するはめになった。 「いや、好きだよ……ちょっと疲れがね……」 「お疲れだな、よし、食おうぜ」 これが炒飯で、これがエビチリ、とバッキーは次々に箱を開けていく。その姿を見ながらスティーブは悟られないように深く深く息を吐いた。 だって、びっくりするほど格好良かったのだ。初対面からハンサムだと思ってはいたが、ほんの少し違うだけの姿にこれほど動揺するとは思っていなかった。挨拶と同時にキュッと上がる口角も、こんなに目を惹きつけるものだったろうか。見慣れない髪型に引きずられて、バッキーが別人のように見えてしまう。スティーブは思わず手元の水を口に運ぶ。落ち着く為の行為だったはずなのに、ごくりと大きな音がしてしまい返って赤面する羽目になった。 「髪の毛……おろしてるのは初めてだ……」 耐えきれずに口に出す。バッキーは料理に向けていた目線を持ち上げるとああ、と笑った。 「夜まであれだと頭が痛くなってくるんだ。飯を食うときは結ぶよ」 そう言うやいなや手首にはめていたゴムで素早く髪をまとめてしまう。スティーブは自分の失言ぶりに思わず舌打ちをしそうになった。そのままでいいよと反射的に言葉が浮かぶが、この場でそれはあまりにもおかしい。結局、いつものバッキーに戻ったおかげでなんとか気持ちを飲み込んだスティーブは、気を取り直して目の前の料理に意識を向けることにした。 買ってきてもらったことへの礼を述べて料理に手を伸ばす。熱で温まった紙箱を掴むと忘れていた空腹が急激にスティーブを襲った。 「……思ってたより腹が空いてたみたいだ」 「はは、良かった。いっぱい買ってきたから」 紙箱を手に、真面目につぶやくスティーブが面白かったのかバッキーが目を細めて笑う。 「……チャイナ食ってるとさ、小難しいことを言わなきゃいけない気がしてくる」 しばらく黙々と料理を口に運んでいると、ふいにバッキーが呟いた。 「……マンハッタン?」 「あ、わかる? 家ならまだしも、公園なんかで食ってても思い出すんだよな」 なんなんだろうな、と苦笑するバッキーにつられて笑う。人気のないオフィスに紙箱とプラスチックのスプーンが擦れる音、そして2人の笑い声が静かに響いている。 「……映画、好きなのか?」 スティーブが尋ねるとバッキーはうーん、と曖昧に頷いた。 「俺、怪我で引きこもってた時期があってさ、その時には良く見てた」 「……その、腕の?」 「そう。結構前のことだからもう忘れてる映画も多いけど」 何でもないことのように告げると、バッキーは「スティーブは映画好き?」なんて聞いてくる。それに答えられるはずもなく、スティーブは静かに尋ねた。 「それは、事故で……?」 「え……ああ。車の事故で、当時は結構荒れたんだけど今はまあ、時間も経ったし、いい義手も買えたから。死なずに済んだだけ良かったかなって……ええと、そんな深刻な意味じゃなくてさ」 からりと笑う彼がジムのモニター以外で腕のことに触れたのは、初対面の時と今日で2度目だ。その間、彼はなんのハンデもないかのように笑っていた。バッキーはそう言うが、スティーブは眉を寄せるのを止められない。それを見て、バッキーは困ったように微笑んだ。 「まあそれこそジムにはちょっと行きにくいけどな。それ以外は、今の仕事もこのことがあったから始めたようなもんだし、サムに出会ったのもそうだ。悪いことばかりじゃないよ」 そう言われてしまえば、ステイーブはそれ以上何も言うことができなかった。きっと彼は同情や心配を厭というほど受けて、今���うして話してくれているのだから。 「……君がジムの件を引き受けてくれて、心から感謝してるよ」 精一杯の気持ちをその言葉に乗せる。それは間違いなく本当のことだったし、それ以上のことも。相手に伝えたい気持ちと、少しも傷つけたくない気持ちを混ぜ込んで、ぎりぎり許せるラインの言葉をスティーブは押し出した。たとえその中に、その時の彼の傍に居たかったなんていう傲慢な気持ちがあったとしても。 「いや、こちらこそ。会社としてもいい機会だったし……何より、下心もあった」 「――え?」 思わぬ言葉に口を開けたスティーブに、バッキーはニヤリと口元を引き上げた。こんな時でさえ、その表情がとても様になっている。 「今度できるジム、俺の家の近くなんだ。だからめい一杯俺好みのジムにして、会員になろうかなって」 「え、そうなのか?」 「そうだよ。まあ場所は途中で知ったんだけど」 たしかにバッキーにも一度工事中のジムに足を運んでもらった。実際に見てもらうに越したことはないからだ。そのときは何も言っていなかったのに。 「……だったら、名誉会員扱いにしないとな」 「え、そんなのがあるのか。プロテイン飲み放題とか?」 目を煌めかせたバッキーを見て、今度こそ2人で笑う。こうしてずっと彼の笑顔を見ていたいと、スティーブは強く思った。強くて優しい彼の笑顔を。 「あ、じゃあ僕もそっちのジムに登録し直そうかな」 「ん?」 「そうしたら君と一緒にトレーニングができるだろ」 そう言ってバッキーに笑いかける。この仕事がひと段落したら彼に会えるペースは少なくなるだろう。たとえアプリで継続的に関係が続くと言っても、今ほどじゃない。ましてや顔を突き合わせて話す機会なんてぐっと減るはずだ。そう考えたらジムの案は自分でも良い提案のように思えてくる。どう? と彼の顔を伺うと、バッキーは一瞬なんとも言えない顔つきをした後、小さくわおと呟いた。 「……あんたと一緒にトレーニングしたら、その胸筋が手に入る?」 「どうだろう、でも僕のメニューは教えてあげられるよ」 バッキーはついに耐えきれないといった様子で破顔した。眉を思いっきり下げたそれは、彼の笑顔の中でも特にスティーブの好きなものだった。 「最高だ」
その時、タイミングを見計らったかのように、机に置いていたバッキーの携帯が鳴った。バッキーは横目で画面を確認すると、スプーンを置いてそれを取り上げる。しばらくして画面に落とされていた目がスティーブを捉えた。 「アップロードが終わったって。URLを送るってさ」 「え、あ、そうか。良かった」 「ああ……、じゃあ、これ片付けちまわないとな」 そう言ってバッキーは手元の紙箱から炒飯をすくった。スティーブも我に返ったように残りの料理を食べ始める。いつの間にかそれらはすっかり冷めていて、でも不味いとは全く思わない。それでもこの時間が明確に終わってしまったことが残念で、ちらりとバッキーを覗き見る。しかし、目の前の彼と視線が合うことはなかった。 2人は今まで食事もそっちのけで話していたのが嘘かのように無言で料理を口に運び続けた。
『Hello Steve, ―― 新店舗オープンおめでとう。最後の方はとにかく慌ただしそうだったけど、体調は崩してないか? これがひと段落したらゆっくり休めることを祈るよ。アプリの方も一旦は問題なさそうで良かった。また何かあったら教えて欲しい。 今回スティーブの会社と一緒に仕事ができて良かったよ。いろんなデータが得られたし、現場のフィードバックがもらえたのも、うちにとって大きな財産になった。もちろん、個人的に協力させてもらえたことにも感謝してる。今の会社も腕のことがあってのことで、そうやって自分が感じてきたことが本当の意味で役立てられたような気がして、すごく嬉しかったんだ。微力でしかなかったけど、何かしら良いアドバイスができていたら嬉しい。(まあそれはこれから自分で体感するんだけど) 改めて、おめでとう。今後もお互いの仕事の成功を願ってる。 Best regards, Bucky』
『Hello Bucky, ―― 嬉しい言葉をありがとう。やりがいのある仕事だったよ、だけで終われたら良いんだけど、正直ヘトヘトだ。今度の土日は自堕落を許すことにするよ。 僕も君と、君の会社と仕事ができて良かった。本当に、心からそう思ってるよ。君らとの仕事は驚くほどやりやすかったし、いろんなことを助けてもらった。君の想像以上にね。新しくオープンしたジムが成功したなら、それは間違いなく君たちのおかげでもあるよ。ありがとう。 それから、君と出会えたことにも深く感謝している。君と出会うまで僕がどれだけ狭い世界に生きていたかを思い知らされたよ。この年齢になってもまだ学ぶことが多いと気付かされた。そしてそれを教えてくれたのが君で良かった。 君も、いろいろ我儘に付き合ってくれてありがとう。しっかり休んでくれ。 Regards Steve, 』
スティーブは画面の文章を何度も読み返し、おかしな所がないかを入念にチェックした。新店舗のオープン日に届いていたメールは、現場で奔走していたスティーブの目に一日遅れで入ってくることになった。メールを読んだときは思わずデスクに突っ伏してしまったし、そのせいで同僚から白い目で見られた。しかしスティーブにそんなことを気にしている暇はなかった。はちきれそうな嬉しさと、すぐに返事ができなかった申し訳なさでどうにかなりそうだったのだ。そして大至急返事を認め、長くなりすぎたそれを添削しては寝かせてまた添削するという作業を繰り返していた。 ビジネスで仲良くなった相手に送る文章としてはおそらくこれが正解だ。そして自分の気持ちも正直に告げている。バッキーに出会えたことでスティーブが得たものは、言葉にできないほど大きかった。3度目の確認を終えて、スティーブはゆっくりと送信ボタンを押した。
ふう、と吐き出したそれには、しかし多少の迷いが込められていた。 (……本当にこれだけで良いのか?) この文章で、きっと今後も彼とは良い関係を築いていけるだろう。ジムの約束もしたし、彼との仕事上の付き合いは多少頻度が減ったとしても続いていく。それでも、スティーブが一番伝えたいことは、今のメールには含まれていない。まだ名前をつけていないステイーブの気持ち。それを伝えるのに、今を逃したら次はいつになるのだろう。――いや、きっと次なんてない。 スティーブはもう一度返信画面を開き、素早く文章を打ち込んでいった。心臓がバクバクとうるさい。気をそらすな、不安に負けるな。全てはタイミングだ。そしてそれは、今だ。
『追伸 もし良ければ、君の連絡先を教えてもらえないだろうか。できれば、私用の』
送信ボタンを押して深く深く息を吐く。そしてスティーブはすぐさまメールを閉じようとした。 その瞬間、デスク上に置いておいた携帯がいきなり震えだす。 「わっ」 気が抜けていたせいで変な声が出てしまった。画面の表示を見ると知らない番号から着信がきている。スティーブは動揺を押し隠しながら画面をスワイプした。 そうして聞こえてきた呆れ声に、すぐにその顔は笑顔になる。 『――さすがに奥手すぎだろ、スティーブ』
きっと近いうちに、彼らの挨拶はもう1段階進んだものになるだろう。
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ざこば・鶴瓶らくごのご お題一覧 1992年 1 過労死・つくし・小錦の脂肪 2 一年生・時短・ニューハーフ 3 レントゲン・混浴・アニマル 4 ゴールデンウイーク・JFK・セクハラ 5 暴走族・かさぶた・バーコード 6 タイガース・母の日・入れ墨 7 目借り時・風呂桶・よだれ 8 しびれ・歯抜け・未婚の娘 9 ヘルニア・目ばちこ・フォークボール 10 造幣局・社員割引・オリンピック 11 父の日・猥褻・丁髷 12 ピエロ・ナメクジ・深爪 13 ミスユニバース・特許・虫さされ 14 魔法使いサリー・祇園祭・円形脱毛症 15 サザエさん・ジャンケン・バーゲンセール 16 ト音記号・北方領土・干瓢 17 妊婦体操・蚊帳・ビヤガーデン 18 身代わり・車だん吉・プラネタリウム 19 床づれ・追っかけ・男の涙 20 海月・肩パット・鶏冠 21 放送禁止用語・お年寄り・ピンポンパン 22 おかま・芋掘り・大人げない 23 復活・憧れ・食い逃げ 24 蒲鉾・風は旅人・半尻 25 泉ピン子・ヘルメット・クリーニング 26 美人姉妹・河童・合格 27 スカート捲り・ケツカッチン・秋の虫 28 チンパンジー・フォークダンス・いなりずし 29 稲刈り・小麦粉・フランス人 30 日本シリーズ・鶴瓶・落葉 31 クロスカウンター・学園祭・タクシー 32 付け睫毛・褌ペアー誕生・ツアーコンダクター 33 泣きみそ・ボーナス一括払い・ぎゅうぎゅう詰め 34 静電気・孝行娘・ホノルルマラソン 35 暴れん坊将軍・モスラ・久留米餅 1993年 36 栗きんとん・鶴・朝丸 37 成人式・ヤクルトミルミル・まんまんちゃんあん 38 夫婦善哉・歯磨き粉・夜更かし 39 金の鯱・オーディション・チャリティーオークション 40 ひ孫・いかりや長介・掃除機 41 北京原人・お味噌汁・雪祭り 42 視力検査・フレアースカート・美術館めぐり 43 矢鴨・植毛・うまいもんはうまい 44 卒業式・美人・転た寝 45 らくごのご・浅蜊の酒蒸し・ハットリ君 46 コレラ・さぶいぼ・お花見 47 パンツ泥棒・オキシドール・上岡龍太郎 48 番台・ボランティア・健忘症 49 長嶋監督・割引債・厄年 50 指パッチン・葉桜・ポールマッカートニー 51 同級生・竹輪・ホモ 52 破れた靴下・海上コンテナ・日本庭園 53 シルバーシート・十二単衣・筍 54 ぶんぷく茶釜・結納・横山ノック 55 睡眠不足・紫陽花・厄介者 56 平成教育委員会・有給休暇・馬耳東風 57 生欠伸・枕・短気は損気 58 雨蛙・脱税・右肩脱臼 59 鮪・教育実習・嘘つき 60 天の川・女子短期大学・冷やし中華 61 東京特許許可局・落雷・蚊とり線香 62 真夜中の屁・プロポーズ・水戸黄門諸国漫遊 63 五条坂陶器祭・空中庭園・雷 64 目玉親父・恐竜・熱帯夜 65 深夜徘徊・パンツ・宮参り 66 美少女戦士セーラームーン・盆踊り・素麺つゆ 67 水浴び・丸坊主・早口言葉 68 桃栗三年柿八年・中耳炎・網タイツ 69 釣瓶落とし・サゲ・一卵性双生児 70 台風の目・幸・ラグビー 71 年下の男の子・宝くじ・松茸狩り 72 関西弁・肉まんあんまん・盗塁王 73 新婚初夜・サボテン・高みの見物 74 パナコランで肩こらん・秋鯖・知恵 75 禁煙・お茶どすがな・銀幕 76 ラクロス・姥捨山・就職浪��� 77 掛軸・瀬戸大橋・二回目 78 海外留学・逆児・マスターズトーナメント 79 バットマン・戴帽式・フライングスポーツシューター 80 法螺貝・コロッケ・ウルグアイラウンド 81 明治大正昭和平成・武士道・チゲ鍋 1994年 82 アイルトンセナ・正月特番・蟹鋤 83 豚キムチ・過疎対策・安物買いの銭失い 84 合格祈願・パーソナルコンピューター・年女 85 一途・血便・太鼓橋 86 告白・ラーメン定食・鬼は外、福は内 87 カラー軍手・放火・卸売市場 88 パピヨン・所得税減税・幕間 89 二十四・Jリーグ・大雪 90 動物苛め・下市温泉秋津荘・ボンタンアメ 91 雪見酒・アメダス・六十歳 92 座蒲団・蛸焼・引越し 93 米寿の祝・外人さん・コチョコチョ 94 談合・太極拳・花便り 95 猫の盛り・二日酔・タイ米 96 赤切符・キューピー・入社式 97 リストラ・龍神伝説・空巣 98 人間喞筒・版画・単身赴任 99 コッペン・定年退職・ハンドボール 100 百回記念・扇子・唐辛子 101 ビクターの手拭い・カーネーション・鉄腕アトム 102 自転車泥棒・見猿言わ猿聞か猿・トマト 103 紫陽花寺・豚骨スープ・阪神優勝 104 三角定規・黒帯・泥棒根性 105 横浜銀蝿・他人のふり・安産祈願 106 月下美人・フィラデルフィア・大山椒魚 107 鯨・親知らず・ピンクの蝿叩き 108 蛍狩・玉子丼・ウィンブルドン 109 西部劇・トップレス・レバー 110 流し素麺・目高の交尾・向日葵 111 河童の皿・コロンビア・内定通知 112 防災頭巾・電気按摩・双子 113 河内音頭・跡取り息子・蛸焼パーティ 114 骨髄バンク・銀杏並木・芋名月 115 秋桜・ぁ結婚式・電動の車椅子 116 運動会・松茸御飯・石焼芋 117 サンデーズサンのカキフライ・休日出勤・ウーパールーパー 118 浮石・カクテル・彼氏募集中 119 涙の解剖実習・就職難・釣瓶落し 120 ノーベル賞・めちゃ旨・台風1号 121 大草原・食い込みパンツ・歯科技工士 122 助けてドラえもん・米沢牛・寿貧乏 123 祭・借金・パンチ佐藤引退 124 山乃芋・泥鰌掬い・吊し柿 125 不合格通知・九州場所・ピラミッドパワー 126 紅葉渋滞・再チャレンジ・日本の伝統 127 臨時収入・邪魔者・大掃除 128 アラファト議長・正月映画封切り・ピンクのモーツァルト 1995年 129 御節・達磨ストーブ・再就職 130 晴着・新春シャンソンショー・瞼の母 131 家政婦・卒業論文・酔っ払い 132 姦し娘・如月・使い捨て懐炉 133 立春・インドネシア・大正琴全国大会 134 卒業旅行・招待状・引っ手繰り 135 モンブラン・和製英語・和風吸血鬼 136 確定申告・侘助・青春時代 137 点字ブロック・新入社員・玉筋魚の新子 138 祭と女で三十年・櫻咲く・御神酒徳利 139 茶髪・緊張と緩和・来なかったお父さん 140 痔・恋女房・月の法善寺横丁 141 ひばり館・阿亀鸚哥・染み 142 初めてのチュー・豆御飯・鶴瓶の女たらし 143 アデランス・いてまえだへん(いてまえ打線)・クラス替え 144 長男の嫁・足痺れ・銅鑼焼 145 新知事・つるや食堂・南無阿弥陀仏 146 もぐりん・五月病・石楠花の花 147 音痴・赤いちゃんちゃんこ・野崎詣り 148 酒は百薬の長・お地蔵さん・可愛いベイビー 149 山菜取り・絶好調・ポラロイドカメラ 150 お父さんありがとう・舟歌・一日一善 151 出発進行・夢をかたちに・ピンセット 152 ホタテマン・���夜放送・FMラジオ 153 アトピッ子・結婚披露宴の二次会・おさげ 154 初産・紫陽花の花・川藤出さんかい 155 ビーチバレー・轆轤首・上方芸能 156 ワイキキデート・鹿煎餅・一家団欒 157 但空・高所恐怖症・合唱コンクール 158 中村監督・水着の跡・進め落語少年 159 通信教育・遠距離恋愛・ダイエット 160 華麗なる変身・遠赤ブレスレット・夏の火遊び 161 親子二代・垢擦り・筏下り 162 鮪漁船・新築祝・入れ歯 163 泣き虫、笑い虫・甚兵衛鮫・新妻参上 164 オペラ座の怪人・トルネード・ハイオクガソリン 165 小手面胴・裏のお婆ちゃん・ガングリオン 166 栗拾い・天国と地獄・芋雑炊 167 夜汽車・鳩饅頭・スシ食いねぇ! 168 長便所・大ファン・腓返り 169 美人勢揃い・雨戸・大江健三郎 170 親守・巻き舌・結婚おめでとう 171 乳首・ポン酢・ファッションショー 172 仮装パーティー・ぎっくり腰・夜更し 173 ギブス・当選発表・ちゃった祭 174 超氷河期・平等院・猪鹿蝶 175 コーラス・靴泥棒・胃拡張 176 誕生日・闘病生活・心機一転 177 毒蜘蛛・国際結婚・世間体 1996年 178 シナ婆ちゃん・有給休暇・免停 179 三姉妹・バリ・総辞職 180 家庭菜園・ピンクレディーメドレー・国家試験 181 ほっけ・欠陥商品・黒タイツ 182 内股・シャッターチャンス・金剛登山 183 嘘つき娘・再出発・神学部 184 金柑・恋の奴隷・ミッキーマウス 185 露天風呂・部員募集・ぞろ目 186 でんでん太鼓・ちゃんこ鍋・脳腫瘍 187 夢心地・旅の母・ペアウオッチ 188 (不明につき空欄) 189 福寿草・和気藹々・社交ダンス 190 奢り・貧乏・男便所 191 八十四歳・奥さんパワー・��心忘るべからず 192 お花見・無駄毛・プラチナ 193 粒揃い・高野山・十分の一 194 おぃ鬼太郎・シュークリーム・小室哲哉 195 くさい足・オリーブ・いやいや 196 ダイエットテープ・北京故宮展・細雪 197 若い季節・自動両替機・糞ころがし 198 おやじのパソコン・なみはや国体・紙婚式 199 降灰袋・ハンブルグ・乳首マッサージ 200 雪見酒・臭い足・貧乏・タイ米・コチョコチョ・雷・明治大正昭和平成・上岡龍太郎・お茶どすがな・トップレス(総集編、10題リレー落語) 201 夫婦喧嘩・川下り・取越し苦労 202 横綱・占い研究部・日本のへそ 203 マオカラー・海の日・息継ぎ 204 カモメール・モアイ・子供の事情 205 ありがとさん・文武両道・梅雨明け 206 団扇・ボーナス定期・芸の道 207 宅配・入道雲・草叢 208 回転木馬・大文字・献血 209 寝茣蓙・メロンパン・初孫 210 方向音痴・家鴨・非売品 211 年金生活・女子高生・ロングブーツ 212 エキストラ・デカンショ祭・トイレトレーニング 213 行けず後家・オーロラ・瓜二つ 214 金婚式・月光仮面・ロックンローラー 215 孫・有頂天・狸 216 雪女・携帯電話・交代制勤務 217 赤いバスローブ・スイミング・おでこ 218 参勤交代・ケーブルカー・七人兄弟 219 秋雨前線・腹八分・シルバーシート 220 関東煮・年賀葉書・学童保育 221 バンコク・七五三・鼻血 222 ホルモン焼き・男襦袢・学園祭
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%96%E3%81%93%E3%81%B0%E3%83%BB%E9%B6%B4%E7%93%B6%E3%82%89%E3%81%8F%E3%81%94%E3%81%AE%E3%81%94
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妹のために、妹のために、妹のために。(推敲中)
ふたなり怪力娘もの。血なまぐさいので注意。
扠、ここはある民家の一室、凡そ八畳程の広さの中に机が二つ、二段ベッドが一つ、その他本棚や観葉植物などが置いてある、言つてしまえば普通の部屋に男が二人顔を突き合はせ何やらヒソヒソと、いや、別に小声で話してゐるわけではないのであるが何者かに気づかれないよう静かに話し合つてゐる。一人は少し痩せ型の、黒い髪の毛に黒い縁のメガネが聡明な印象を与へる、如何にも生真面目さうな好青年で、もう一人は少し恰幅の良い、短く切られた髪の毛に色の濃い肌が健康な印象を与へる、如何にも運動が得意さうな好青年である。前者の名は那央と言ひ、後者の名は詩乃と言ふ、見た目も性格の型も違えど同じ高校に通つてゐる仲の良い兄弟である。二人の間にはノートの切れ端と思しきメモと、丁度半月ほど前に買つた十キロのダンベルが、そのシャフトを「く」の字に曲げ事切れたやうにして床に寝そべつてゐた。
何故メモがあるのか、何故ダンベルのシャフトが「く」の字に曲がつてゐるのか、何故二人の兄弟がそれらを囲んで真剣な話し合ひをしてゐるのか、その説明をするにはもう一つ紹介しておかねばならぬ事があるのであるが、恐らく大層な話を聞かずとも直ぐに状況を何となく分かつて頂けるであらう。其れと云ふのも二人にはもう一人血を同じくする、一五〇センチに満たぬ身の丈に、ぷにぷにとした餅のやうな頬、風でさらさらと棚引き陽の光をあちこちに返す黒い髪、触つた此方が溶け落ちるほど柔らかな肌、此れからの成長を予感させる胸の膨らみ、長いまつ毛に真珠を嵌めたやうな黒目を持った、--------少々変はつてゐる所と言へば女性なのに男性器が付いてゐるくらゐの、非常に可愛らしい中学一年生の妹が居るのである。名前は心百合と言ふ。成る程、ふたなりの妹が居るなら話は早い、メモもダンベルも話し合ひも、全てこの妹が原因であらう。実際、メモにはやたら達筆な字でかうあつた。-----------
前々から言ってきたけど、こんな軽いウェイトでやっても意味が無いと思うから、使わないように。次はちゃんと、最低でも一〇〇キロはあるダンベルを買ってください。私も力加減の練習がしたいのでお願いします。曲げたのは直すので、これを読んだら持ってきてください。
あと全部解き終わったので、先週から借りてた那央にぃの数学の問題集を返しました。机の上に置いてあります。全然手応えが無かったから、ちょっと優しすぎると思います。新しく買ったらまた言ってください。
心百合より
このメモは「く」の字に曲がつたシャフトの丁度折り目に置かれてあつて、凡そ午前九時に起床した詩乃がまず最初に見つけ、其の時は寝ぼけてゐたせいもありダンベルの惨状に気を取られメモを読まないまま、折角値の張る買ひ物をしたのにどうして、一体何が起きてこんなことに、…………と悲嘆に暮れてゐたのであるが、そんな簡単に風で飛ぶような物でも無いし、それに落ちたとしても直径二センチ以上ある金属がさう易易と曲がるわけでも無いから何者かが手を加えたに違ひ無く、自然と犯人の顔が思ひ浮かんでくるのであつた。わざわざ此れを言ひたいがためにダンベルを使ひ物にならなくしたのか。俺たちにとつては一〇キロでもそこそこ重さを感じると云ふのに、一〇〇キロなんて持ち上げられるわけが無い、しかもその一〇〇キロも、"最低でも"だとか、"力加減"だとか書かれてゐるので妹はもつと重いダンベルを御所望であるのか。確かにふたなりからすると、一〇〇キロも二〇〇キロも軽いと感じるだらうが、此れは俺たちが自分の体を鍛えるための道具であるからそつとしておいて欲しい。さう彼は文句を言ひたくなるものの、未だ中学一年生とは言へ、本来車でも打つから無ければ曲がるはずも無いシャフトを綺麗に曲げてしまつたと云ふ事実に、ただひたすら恐怖を感じ震える手でこめかみあたりに垂れてきた冷ややかな汗を拭ふのであつた。
一体全体、ふたなりの女の子は力が強いのである。そして其れは心百合も例外では無く、生まれて間もない時から異常な怪力ぶりを発揮してきた。例へば此れはある日の朝のことであつたか、彼ら彼女の父親が出勤しようとしてガレージのシャッターを開けると、何の恥ずかしげもなく無断駐車してゐる車の、後ろ数十センチが見えてゐたことがあつた。幸ひにも丁度車一台分通れるくらゐの隙間はあるし、其れに父親の向かふ方向とは逆の位置にあつたので、何とか避けて車を出せさうではあつたのであるが、如何せん狭いガレージと、狭い通りと、幅のある車であるから、ふとした拍子で擦つてしまふかもしれない。かと言つて警察やらレッカーやらを呼ぶ時間も手間も勿体無い。仕方が無いので父親は、当時十四歳であつた那央と、当時十二歳であつた詩乃を呼び出して、ほんの数センチでも良いからこの車を向かふ側へ押せないかと、提案して自身も全身を奮ひ立たせたのであるが当然の如く動く気配は無かつた。ならばせめて角度だけでもつけようと思ひ、三人で掛け声をかけ少しでも摩擦を減らさうと車の後ろ半分を浮かせようと頑張つたものの、此れまた持ち上がる気配も無くたつた数秒程度で皆バテてしまつた。さうして諦めた父親は携帯を取り出し、諦めた二人の兄弟は数歩離れたところにある壁に凭れ、こんなん無理やろ、何が入つてんねん、と那央が言つたのをきつかけに談笑し始めた丁度其の時、登校しようと玄関から出てきた心百合が近寄つてきて、どうしたの? さつきから何やつてたの? と声をかけてきた。そこで詩乃が其の頭を撫でながら事情を説明して、ま、無理なものは無理だし、今日こそ親父は遅刻するかもな、と笑ひながら言ふと心百合は、
「んー、………じゃあ私がやってみてもいい?」
と言ひながらランドセルを那央に押し付け、唖然とする兄たちを余所に例の車へ向かつて行く。そしてトランクにまでたどり着くと、屈んで持ち易く力の入れ易い箇所を探しだす。----------当時彼女は小学三年生、僅か九歳である。自分の背丈と同じくらゐの高さの車を持ち上げようと、九歳の女の子がトランクの下を漁つてゐるのである。流石に兄たちも其の様子を黙つて見てゐられなくなり駆け寄つて、ついでに電話を掛けてゐる最中の父親も駆け付けて来て、結局左から順に父親、心百合、詩乃、那央の並びでもう一度車と相対することになつたのであるが、那央が、せえの! と声を掛け皆で一斉に力を入れる前に、よつと、と云ふ可愛らしい声が車の周りに小さく響いた。かと思ひきや次の瞬間には、グググ、と車体が浮き上がりたうたう後輪が地面から離れ初め、男たちが顔を見合はせ何が起きてゐるのか理解するうちに、一〇センチ、一五センチは持ち上がつてしまつた。男たちのどよめきを聞きながら、心百合は未だ六割程度しか力を入れてゐないことに少しばかり拍子抜けして、これならと思ひ、
「お父さんも、お兄ちゃんたちも、もう大丈夫だから手を離していいよ」
と言ふと、片手を離しひらひらと振り、余裕である旨を大して役に立つてゐない他の皆に伝え背筋を伸ばした。
「それで、これどうしたらいいの?」
男たちが恐る恐る手を離し、すつかり一人で車の後部を持ち上げてゐる状態になつた頃、娘が其のやうに聞いて来たので一寸だけ前に寄せてくれたら良いと、父親が答えると心百合は、分かつた、とだけ言つてから、そのまま足を踏み出して前へ進もうとした。すると、初めの方こそ靴が滑つて上手く進めなかつたのであるが、心百合も勝手が分かつて来たのか、しつかりと足に全体重と車の重量を掛け思ひ切り踏ん張つてゐると遂には、タイヤと地面の擦れる非常に耳障りな音を立てて車が前へと動き出したのである。そして、家の前だと邪魔になるだらうから、このまま公園の方まで持つて行くねと言つて、公園の側にある少し道が広がつてゐる所、家から凡そ三〇メートル程離れてゐる所まで、車を持ち上げたままゆつくりと押して行つてしまつた。
あれから四年、恐らく妹の力はさらに強くなつてゐるであらう。日常では兎に角優しく、優しく触る事を心がけてゐるらしいから俺たちは怪我をしないで済んでゐる、いやもつと云ふと、五体満足で、しかも生きてゐる。だが今まで何度も危ない時はあつた。喧嘩は全然しない、と云ふより一度も歪みあつたことは無いけれども、昼寝をしてゐる妹の邪魔をしたりだとか、凡ミスのせいでテストで満点を逃し機嫌が悪い時に何時もの調子で話しかけたりだとか、手を繋いでゐる最中に妹が何か、------例へば彼女の趣味である古典文学の展示に夢中になつたりだとか、さういう時は腕の一本や二本覚悟しなければならず打ち震えてゐたのであるが、なんと情けない話であらう。俺たちは妹の機嫌一つ、力加減一つで恐怖を覚えてしまふ。俺たちにはあの未発達で肉付きの良い手が人の命を刈り取る鎌に見える。俺たちにはあの産毛すら見えず芸術品かと思はれる程美しい太腿も、人の肉を潰したがつてゐる万力のやうに見える。……………本来さう云つた恐怖に少しでも対抗しようとダンベルを買つたのであるが、丸切り無駄であつた、矢張り妹には勝てぬのか。直接手を下されたわけでも無いのに、またしても負けてしまふのか。もう身体能力だけでなく、学力も大きな差をつけられたと云ふのに。---------------心百合は元々、小学校のテストでは常に満点を、…………少しドジなところがあるからたまにせうもない間違ひを犯すことがあるが、其れは仕方ないとして試験は常に満点を取り続けてをり、ある日学校から帰つて来るや、授業が暇で暇で、暇で仕方がないからお兄ちゃん何とかしてと言ふので、有らう事か俺たちは、其れならどんどん先の内容をこつそりと予習すると良い、と教えてしまつた。其れから心百合は教室だけでなく家でも勉強を進め、タガが外れたやうにもう恐ろしい早さで知識を吸収したつた一週間か二週間かで其の学年、-----確か小学四年生の教科書を読み終えると、兄から譲り受けた教科書を使って次の学年、次の次の学年、次の次の次の学年、…………といつたやうに、兄たちの言ふ通りどんどん先の内容を理解していき、一年も経たぬ間に高校入試の問題が全て解けるようになつてゐた。かと思えば、那央の持つてゐる高校の教科書やら問題集やら参考書やらを、兄の迷惑にならぬよう借りて勉強を推し進め、今度は半年程度で大学入試の問題をネットから引つ張り、遊び半分で解いてゐたのである。そして此方が分からないと言つてゐるのに答え合はせをして欲しいと頼んで来たり、又ある時は那央が置きつぱなしにしてゐた模試を勝手に解いては、簡単な問題ばかりで詰まんなかつた、お兄ちゃんでも全部解けたでせう? この程度の問題は、と云ふ。そんなだから中学一年生の今ではもはや、勉強をしてゐるうちに好きになつた古典文学を読み漁りながら、受験を控えた那央の勉強を教えるためにも、彼が過去問題集に取り組む前にはまず、心百合が一度目を通し、一度問題を全て解き感想を言つて、時間をかけるべきか、さうでないかの判断の手助けをしてゐるのである。先のメモにあつた後半の内容はまさに此の事で、どんなに難しさうな問題集を持つて行つても簡単だから考へ直すべしと言はれ凹む那央を見てゐると、詩乃は二年後の自分が果たしてまともな精神で居られるのかどうか、不安になつて来るのであつた。
さうすると此の兄弟が妹に勝つている点は何であらうか、多分身長以外には無い気がするが、もう後数年もすると頭一つ分超えられてしまふだらう。聞くところに寄ると、ふたなりは第二次成長期が落ち着き始める一四、五歳頃から突然第三次成長期を迎え、一八歳になる頃には平均して身長一八七センチに達すると云ふのである。実際、那央のクラスにも一人ふたなりの子が居るのであるが、一年生の初め頃にはまだ辛うじて見下ろせた其の顔も今では、首を天井に向けるが如く顔を上げないと目が合はないのである。だが彼らは未だに、こんな胸元にすつぽりと収まる可愛い可愛い妹が、まさか見上げるほど背を高くしないであらうと、愚かにも思つてゐるのであるがしかし、さうでも思はないとふたなりの妹が近くに居ること自体怖くて怖くて仕方なく、心百合を家に残しどこか遠い場所で生活をしたい衝動に駆られるのであつた。
扠、読者の中には恐らくふたなりをよくご存知でない方が何名かいらつしやるであらうから、どうして此の兄弟が、可愛い、たつた一人だけの、愛しい、よく出来た妹にここまで恐怖を感じるのか説明しておかねばならぬのであるが、恐らく其れには引き続き三人の兄妹の話をするだけで事足りるであらう。何分其処に大体の理由は詰まつてゐる。-------------
ふたなりによる男性への強姦事件は度々ニュースになるし、其れに世の男達なら全員、中学校の保健体育で習つた記憶がどこかにあるから皆知つてゐるだらう。本日未明、〇〇県〇〇市在住の路上で男性が倒れてゐるのを誰々が発見し、現場に残された体液から警察は近くに住む何たら言ふ名前の女性を逮捕した。-----例へばさう云ふニュースの事である。凡そ犯人の側に「体液」と「女性」などと云つた語が出てきたら其れはふたなりによる強姦を意味するのであるが、世の中に伝えられる話は、実際に起きた出来事にオブラートにオブラートを重ね、さらに其の上からオブラートで包み込んだやうな話であつて、もはやお伽噺となつてゐる。考へてみると、大人になれば一九〇センチ近い身長に、ダンベルのシャフトのやうな金属すら曲げる怪力を持つ女性が今日の男性を暴行し無理やり犯せば、そもそも人の形が残るかどうかも怪しくなるのは容易に想像できる。実際、幾つか例を挙げてみると、ふたなりの"体液"を口から注ぎ込まれ腹が破裂し死亡した男や、行方不明になつてゐたかと思えば四肢が完全に握りつぶされ、そしてお尻の穴が完全に破壊された状態でゴミのやうに捨てられてゐた男や、ふたなりの"ソレ"に耐えきれず喉が裂け窒息死した男や、彼女たちの異常な性欲を解消するための道具と成り果て精液のみで生きる男、……………挙げだすとキリがない。二人の兄弟は、ふたなりの妹が居るからと言つて昔からさう云ふ話を両親から嫌と言ふほど聞いて来たのであるが、恐ろしいのはほとんどの被害者が家族、特に歳を近くする兄弟である事と、ふたなりが居る家庭は一つの例外なく崩壊してゐる事であつた。と云つても此の世の大多数の人間と同じやうに、彼らも話を言伝されるくらゐではふたなりの恐ろしさと云ふ物を、其れこそお伽噺程度にしか感じてゐなかつたのであるが、一年前、小学六年生の妹に、高校生二年と中学三年の兄二人が揃つて勉強を教えてもらつてゐたある夜、机の間を行つたり来たりするうちに何故かセーラー服のスカートを押し上げてしまつた心百合の、男の"モノ"を見た時、彼らの考へは変はり初めた。其の、スカートから覗く自分たちの二倍、三倍、いや、もう少しあらうか、兎に角妹の体格に全く不釣り合いな男性器に、兄たちが気を取られてゐると心百合は少し早口で、
「しばらくしたら収まると思うから見ないでよ。えっち。それよりこの文章、声に出して読んでみた? 文法間違いが多くて全然自然に読めないでしょ? 一度は自分で音読してみるべしだよ、えっちなお兄ちゃん。でも単語は覚えてないと仕方ないね。じゃあ、来週までに、この単語帳にある単語と、この文法書の内容を全部覚えて来ること。----------」
と顔を真赤にして云ふと、下の兄に高校入試を模して作つた問題を解かせつつ、上の兄が書いた英文の添削を再開してしまつた。が、ほんの数分もしないうちに息を荒げ出し、そして巨大な肉棒の先端から、とろとろと透明な液体を漏らし淫猥な香りを部屋中に漂はせ初めると、
「ど、どうしよう、…………いつもは勝手に収まるのに。………………」
と言つて兄たちに助けを求める。どうやら彼女は五〇センチ近い巨大な肉棒を持ちながら其の時未だ、射精を味はつた事が無かつたやうである。そこで、ふたなりの射精量は尋常ではないと聞いていた那央は、あれの仕方を教えてあげてと、詩乃に言ふと急いでバケツと、絶対に要らないだろうとは思ひつつもしかしたらと思つて、ゴミ袋を一つ手に取り部屋に戻つたところ、中はすでに妹が前かがみになりながら両手を使つて激しく自分のモノを扱き、其の様子を弟が恍惚とした表情で見守ると云ふ状況になつてゐる。----------何だ此れは、此れは俺の知る自慰では無い。此れがふたなりの自慰なのか。………………さうは思ひながら、ぼたぼたと垂れて床を濡らしてゐる液体を受け止めるよう、バケツを丁度肉棒の先の下に置くと、そのまま棒立ちで妹の自慰を見守つた。そしていよいよ、心百合が肉棒の先端をバケツに向け其の手の動きを激しくしだしたかと思えば、
「あっ、あっ、お兄ちゃん! 何これ! ああぁあんっ!!」
と云ふ、ひどくいやらしい声と共に、パツクリと開いた鈴口から消防車のやうに精液が���き出初め、射精とは思へないほどおぞましい音が聞こえて来る。そしてあれよあれよと云ふ間にバケツは満杯になり、床に白くドロドロとした精液が広がり始めたので、那央は慌ててゴミ袋を妹のモノに宛てがつて、袋が射精の勢ひで吹き飛ばぬよう、又自分自身も射精の勢ひで弾き飛ばされぬよう肉棒にしがみついた。-------
結局心百合はバケツ一杯分と、二〇リットルのゴミ袋半分程の精液を出して射精を終え、ベタベタになつた手と肉棒をティッシュで拭いてから、呆然と立ちすくんでゐる兄たちに声をかけた。
「お兄ちゃん? おにいちゃーん? 大丈夫?」
「あ、あぁ。…………大丈夫。………………」
「しぃにぃは?」
彼女は詩乃の事をさう呼ぶ。幼い頃はきちんと「しのおにいちゃん」と読んでゐたのであるが、いつしか「しのにぃ」となつて、今では「の」が略されて「しぃにぃ」となつてゐる。舌足らずな彼女の声を考へると、「しーにー」と書いたほうが近いか。
「……………」
「おい、詩乃、大丈夫か?」
「お、………おう。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ。………………」
「もう、お兄ちゃんたちしっかりしてよ。特にしぃにぃは最初以外何もしてなかったでしょ。……………て、いうか私が一番恥ずかしいはずなのに、何でお兄ちゃんたちがダメージ受けてるのん。………………」
心百合はさう言ふと、本当に恥ずかしくなつてきたのか、まだまだ大きいが萎えつつある肉棒をスカートの中に隠すと、さつとパンツの中にしまつてしまつた。
「とりあえず、片付けるか。…………」
「おう。……………」
「お兄ちゃんたち部屋汚しちゃってごめん。私も手伝わせて」
「いいよ、いいよ。俺たちがやっておくから、心百合はお風呂にでも入っておいで。------」
このやうにして性欲の解消を覚えた心百合は、毎日風呂に入る前に自慰をし最近ではバケツ数杯分の精液を出すのであつたが、そのまま流すとあつと言ふ間に配管が詰まるので、其の始末は那央と詩乃がやつてをり、彼女が湯に浸かつてゐるあひだ、夜の闇に紛れて家から徒歩数分の所にある川へ、音を立てぬよう、白い色が残らないよう、ゆつくりと妹の種を放つてゐるのであつた。空になつたバケツを見て二人の兄弟は思ふ。------------いつかここにあつた精液が、ふとしたきつかけで体に注がれたら俺たちの体はどうなる? そもそも其の前に、あの同じ男性器とは思へないほど巨大な肉棒が、口やお尻に突つ込まれでもしたらたら俺たちの体はどうなる? いや、其れ以前に、あの怪力が俺たちの身に降り掛かつたらどうなる? ふたなりによる強姦の被害者の話は嘘ではない。腹の中で射精されて体が爆発しただなんて、昔は笑いものにしてゐたけれども何一つ笑へる要素などありはしない、あの量を、あの勢いで注がれたら俺たち男の体なんて軽く吹き飛ぶ。其れにあんなのが口に、お尻に入り込まうとするなんて、想像するだけでも恐ろしくつて手が震えてくる。聞けば、顎の骨を砕かうが、骨盤を割らうが、其んな事お構ひなしにねじ込んで来ると云ふではないか。此れから先、何を犠牲にしてでも妹の機嫌を取らなくては、…………其れが駄目ならせめて手でやるくらゐで我慢してもらはねば。…………………
だが彼らは此れもまた、わざわざ時間を割いてまでして兄の勉強を見てくれるほど情に満ちた妹のことだから、まさかさう云ふ展開にはならないであらうと、間抜けにも程があると云ふのに思つてゐるのであるが、そろそろなのである。ふたなりの女の子が豹変するあの時期が、そろそろ彼らの妹にも来ようとしているのである。其れ以降は何を言つても無駄になるのである。だから今しかチャンスは無いのである。俺たちを犯さないでくださいと、お願ひするのは今しか無いのである。そして、其の願ひを叶えてくれる確率が零で無いのは今だけなのである。
「------もうこれ以上引き伸ばしても駄目だ。言いに行くぞ」
ダンベルとメモを持ち、勢ひよく立つた那央がさう云ふ。
「だけど、………それ言ったら言ったらで、ふたなりを刺激するんだろ?!」
「あぁ。…………でも、少しでも確率があるならやらないと。このままだと、遅かれ早かれ後数年もしないうちに死ぬぞ。俺ら。………………」
「くっ、…………クソッ。……………」
「大丈夫、もし妹がその気になっても、あっちは一人で、こっちは二人なんだから上手くやればなんとかなるさ、……………たぶん。………………」
「最後の「たぶん」は余計だわ。……………」
「あと心百合を信じよう。大丈夫だって、あんなに優しい妹じゃないか。きっと、真剣に頼めば聞いてくれるはず。……………」
「兄貴って、たまにそういう根拠のない自信を持つよな。………」
さう言ふと、詩乃も立ち上がり一つ深呼吸をすると、兄と共に部屋を後にするのであつた。
心百合の部屋は、兄たちの部屋に比べると少しばかり狭いが其れでも一人で過ごすには物寂しさを感じる程度には広い、よく風が通つて夏は涼しく、よく日が当たつて冬は暖かく、東側にある窓からは枯れ葉に花を添えるやうはらはらと山に降り積もる雪が、南側にある窓からはずつと遠くに活気ある大阪の街が見える、非常に快適で感性を刺激する角部屋であつた。そこに彼女は本棚を此れでもかと云ふほど敷き詰めて新たな壁とし、嘗ての文豪の全集を筆頭に、古い物は源氏物語から諸々の文芸作品を入れ、哲学書を入れ、社会思想本を入れ、経済学書を入れ、そして目を閉じて適当に選んだ評論などを入れてゐるのであるが、最近では文系の本だけでは釣り合ひが取れてない気がすると言ひ初め、つい一ヶ月か二ヶ月前に、家から三駅ほど離れた大学までふらりと遊びに行つて、お兄ちゃんのためと云ふ建前で、解析学やら電磁気学やら位相空間論やらと云つた、一年か二年の理系大学生が使ふであらう教科書と、あとさう云ふ系統の雑誌を、合わせて十冊買つ��来たのであつた。そして、春までには読み終はらせておくから、お兄ちゃんが必要になつたらいつでも言つてねと、那央には伝えてゐたのであつたが、意外に面白くてもう大方読んでしまつたし、途中の計算はまだし終えてないけれども問題はほとんど解き終はつてしまつた。またもう一歩背伸びをして新しく本を買いに行きたいが、前回大量にレジへ持つて行き過ぎたせいで、大学生協の店員にえらく不思議さうな顔をされたのが何だか癪に障つて、自分ではもう行きたくない。早くなおにぃの受験が終はつてくれないかしらん。さうしたら彼処にある本を買つて来てもらへるのに。それか二年後と言はず今すぐにでも飛び級させてくれたらいいのに。…………と、まだ真新しい装丁をしてゐる本を眺めては思ふのであつた。
なので那央が大学生になるまで数学やら物理学は封印しようと、一回読んだきりでもはや文鎮と化してゐた本たちを本棚にしまひ、昨日電子書籍として買つてみた源氏物語の訳書を、暇つぶしとしてベッドの上に寝転びながら読んでゐると、コンコンコン、…………と、部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。
「はーい、なにー?」
「心百合、入ってもいいか?」
少し澄んだ声をしてゐるから那央であらう。
「いいよー」
ガチャリと開いたドアから那央が、朝に軽いイタズラとして曲げたダンベルと、その時残しておいたメモを手に持つて入つて来たかと思えば、其の後ろから、何やら真剣な表情を浮かべて居る詩乃も部屋に入つて来る。
「あれ? しぃにぃも? どったの二人とも?」
タブレットを枕の横に投げ出すと心百合は体を起こし、お尻をずるりとベッドの縁まで滑らせ、もう目の前までやつて来てゐる兄二人と対峙するやうにして座つた。
「あぁ、…………えとな。…………」
「ん?」
「えっと、………お、おい、詩乃、……代わりに言ってくれ。…………」
「えっ、………ちょっと、兄貴。俺は嫌だよ。…………」
「俺だって嫌だよ。後で飯おごってやるから頼む。……………」
「………言い出しっぺは兄貴なんだから、兄貴がしてくれよ。…………」
あんなに真剣な表情をしてゐた兄たちが何故かしどろもどろ、………と、云ふよりグジグジと醜い言ひ争ひをし始めたので、心百合は居心地が悪くなり一つため息をつくと、
「もう、それ元通りにして欲しくて来たんじゃないの?」
と言つて、那央の持つてゐるダンベルに手を伸ばし、トントンと叩く。が、那央も詩乃も、キュッと体を縮こませ、
「えっと、…………それは、…………ち、ちが、ちがってて…………」
などと云ふ声にならぬ声を出すばかりで一向にダンベルを渡してくれない。一体何が違つてゐるのだらう、………ま、ダンベルを持つて来たのだから直して欲しいには違ひない、と、云ふより直すと書いたのだから直してあげないと、------などと思つて、重りの部分に手をかけると、半ば引つたくるやうにして無理やりダンベルを奪ひ去つた。
「いくらお兄ちゃんたちに力が無いって言っても、こんな指の体操にもならないウェイトだと意味無いでしょ。今度はちゃんとしたの買いなよ」
さう云ふと、心百合はまず手の平を上にして「く」の字に曲がつたシャフトを、一辺一辺順に掴んでから、ひ弱な兄たちに見せつけるよう軽く手を伸ばし、一言、よく見ててね、と言つた。そして彼女が目を瞑つて、グッ…と其の手と腕に力を込め始めると、二人の兄弟がいくら頑張つても、--------時には詩乃が勝手に父親の車に乗り込んで轢いてみても、其の素振りすら見せなかつたシャフトが植物の繊維が裂けるやうな音と共にゆつくりと反り返つていき、どんどん元の状態に戻つて行く。其の様子はまるで熱した飴の形を整えてゐるやうであつて、彼らには決して太い金属の棒を曲げてゐるやうには見えなかつた。しかもさつきまで目を閉じてゐた妹が、いつの間にか此方に向かつて笑みを浮かべてゐる。……………其のあまりの呆気なさに、そして其のあまりの可愛いさに、彼らは己の中にある恐怖心が、少しばかり薄らいだやうな気がするのであつたが、ミシリ、ミシリ、と嫌に耳につく金属の悲鳴を聞いてゐると矢張り、目の前に居る一人の可憐で繊細で、人々の理想とも形容すべき美しい少女が、何か恐ろしい怪物のやうに見えてくるのであつた。
「はい、直ったよ。曲がってた所は熱いから気をつけてね」
すつかり元通りになつたダンベルを、真ん中には触れないやう気をつけながら受け取ると、那央はすぐに違和感に気がついた。一体どう云ふ事だ、このシャフトはこんなにでこぼこしてゐただらうか。---------まさかと思つて、さつきの妹の持ち方を真似してダンベルを持つてみると、多少合はないとは言え、シャフトのへこんでゐる箇所が自分の手の平にもぴつたりと当てはまる。其れにギュッと握つてみると、指先にも若干の凹凸を感じる。もしかして、--------もしかして、この手の平に感じるへこみだとか、指先に感じるでこぼこは、もしかして、もしかして、妹の手の跡だと云ふのであらうか。まさか、あの小さく、柔らかく、暖かく、ずつと触れてゐたくなるやうなほど触り心地の良い、妹の手そのものに、この頑丈な金属の棒が負けてしまつたとでも云ふのであらうか。彼はさう思いつつ、もしかしたらと自分も出来るかもしれないと思つて力を入れてみたが、ダンベルは何の反応もせずただ自分の手が痛くなるばかりであつた。
「で、他に何か話があるんだよね。何なの?」
「あ、…………えっ、と。…………」
「もう、何なの。言いたいことはちゃんと言わないと分からないよ。特に、なおにぃはもう大学生なんだから、ちゃんとしなきゃ」
と五歳も年下の妹に諭されても、情けないことに兄がダンベルを見つめたまま固まつてゐるので、恐怖心を押さえつけ幾らか平静になつた詩乃が、意を決して口を開けた。
「それはだな。…………えっと、……心百合って、ふたなりだろ? だからさ、今後気が高ぶっても俺らでやらないで欲しい。……………」
ついに言つてしまつた、だけどこれで、…………と詩乃はどこか安堵した気がするのであつたが、
「えっ、…………いや、それはちょっと無理かも。………だって。…………………」
心百合がさう云ふと、少し足を開いた。すると那央と詩乃の鼻孔にまで、いやに生々しい匂ひが漂ふ。
「………だって、お兄ちゃ��たちが可愛くって、最近この子勝手にこうなるんだもん」
心百合がスカートの上からもぞもぞと股の間をいじると、ぬらぬらと輝く巨大な"ソレ"が勢いよく姿を現し、そして自分自信の力で血をめぐらせるかのやうに、ビクン、ビクン、と跳ねつつ天井へ伸びて行く。
「ねっ、お兄ちゃん、私ちょっと"気が高ぶった"から、お尻貸してくれない?」
「い、いや、………それは。…………」
「心百合、……………落ちつい、--------」
「ねっ、ねっ、お願いっ! ちょっとだけでいいから! 先っぽしか挿れないからお尻貸して!!」
心百合は弾むやうにして立ち上がると、詩乃の手首を握つた。と、その時、ゴトリ、と云ふ重い物が落ちる音がしたかと思ひきや、那央が扉に向かつて駆けて行く様子が、詩乃の肩越しに見えた。
「あっ、なおにぃどこ行くの!」
心百合は詩乃をベッドの上に投げ捨て、今にもドアノブに手をかけようとしてゐた那央に、勢ひよく後ろから抱きつく。
「あああああああああああ!!!!!!」
「ふふん、なおにぃ捕まえた~」
ほんの少し強く抱きしめただけで心地よく絶叫してくれる那央に、彼女はますます"気を高ぶらせ"、
「しぃにぃを放って、どこに行こうとしていたのかなぁ? ねぇ、那央お兄ちゃん?」
と云ひ、彼が今まで味はつたことすら無い力ではあるが、出来るだけ怪我をさせないような軽い力で壁に向かつて投げつけると、たつたそれだけでぐつたりとし起き上がらなくなつてしまつた。
「もしかして気絶しちゃったのん? 情けないなぁ。………仕方ないから、しぃにぃから先にやっちゃお」
ベッドに染み付いてゐる妹の、甘く芳しい匂いで思考が止まりかけてゐた詩乃は、其の言葉を聞くや、何とかベッドから這い出て、四つん這ひの体勢のまま何とか逃げようとしたのであるが、ふと眼の前にひどく熱つぽい物を感じるたかと思えば、ぶじゅっ、と云ふ下品な音と共に、透明な液体が床にぼとりと落ちて行くのが見えた。--------あゝ、失敗した。もう逃げられぬ。もう文字通り、目と鼻の先に"アレ"がある。俺は今から僅か十三歳の幼い、其れも実の妹に何の抵抗も出来ぬまま犯されてしまふ。泣かうが喚かうが、体が破壊されようが関係なく犯されてしまふ。あゝ、でも良かつた。最後の最後に、こんな天上に御はします高潔な少女に使つて頂けるなんて、なんと光栄な死に方であらうか。-----------------
「しぃにぃ、よく見てよ、私のおちんちん。お兄ちゃんを見てるだけでもうこんなに大きくなつたんだよ?」
さう云ふと、心百合は詩乃の髪を雑に掴んで顔を上げさせ、自身の腕よりもずつとずつと太い肉棒を無理やり見せると、其の手が汚れるのも構はずに、まるで我が子の頭を撫でるかのやうな愛ほしい手付きで、ズルリと皮の剥けた雁首を撫でる。だが彼には其の様子は見えない。見えるのはドクドクと脈打つ指のやうな血管と、男性器に沿つて真つ直ぐ走るホースのやうな尿道と、たらりたらりと垂れて床を濡らすカウパー液のみである。其れと云ふのも当然であらう、亀頭の部分は持ち主の顔と同じ高さの場所にあるのである。------まだ大きくなつてゐたのか。…………彼にはもう、久しぶりに会ふことになつた妹の陰茎が、もはや自分の心臓を串刺しにする鉄の杭にしか見えなかつたのであるがしかし、其のあまりにも艶めかしい佇まひに、其のあまりにも圧倒的な存在感に、手が打ち震えるほど惹かれてしまつてもうどんなに嫌だと思つても目が離せなかつた。
「んふふ、……お兄ちゃんには、この子がそんなに美味しそうに見えるのん?」
「………そ、そんな、……そんなことは、ない。…………」
さうは云ふものの、詩乃は瞬きすらしない。
「でもさ、------」
心百合はさう云ふと、自身の肉棒を上から押さえつけて、亀頭を彼の口に触れ��か触れないかの位置で止める。
「------お兄ちゃんのお口だと、先っぽも入らないかもねぇ」
と妹が云ふので、もしかしたらこの、俺の握りこぶしよりも大きい亀頭の餌食にならないで済むかもしれない、…………と詩乃は哀れにも少しだけ期待するのであつたが、ふいに、ぴゅるっと口の中に何やら熱い液体が入り込んで来る。あゝ、もしかしてこれは。………………
「………けど、そんなに美味しそうな顔されたら諦めるのも悪いよねっ。じゃあ、お兄ちゃん、お口開けて? ………ほら、もっと大きく開けないと大変なことになるよ? たぶん」
「あっ、………やっ、………やめ、やめやめ、いゃ、ややめ、あが、………………」
………まだ彼は、心百合が途中で行為を中断してくれると心のどこかで思つてゐたのであらう、カタカタと震える唇で一言、やめてくださいと、言ほうとしてゐるのであつた。だがさうやつてアワアワ云ふのも束の間、腰を引かせた妹に両肩を掴まれ、愉悦と期待に満ちた表情で微笑まれ、クスクスとこそばゆい声で笑はれ、そしてトドメと言はんばかりに首を可愛らしくかしげられると、もう諦めてしまつたのか静かになり、遂には顔が醜くなるほど口を大きく開けてしまつた。
「んふ、もっと力抜いて? …………そうそう、そういう感じ。じゃあ息を吸ってー。………止めてー。………はい、お兄ちゃんお待ちかね、心百合のおちんちんだよ。よく味わってねー」
其の声はいつもと変はらない、中学生にしては舌つ足らずな甚く可愛いらしい声であつたが、詩乃が其の余韻に浸る前に、彼の眼の前にあつた男性器はもう前歯に当たつてゐた。かと思えばソレはゆつくりと口の中へ侵入し、頬を裂し血を滴らせるほどに顎をこじ開け、瞬きをするあひだに喉まで辿り着くと、
「ゴリュゴリュゴリュ………! 」
と云ふ、凡そ人体から発生するべきでは無い肉の潰れる音を部屋中に響き渡らせ始める。そして、彼が必死の形相で肉棒を恵方巻きのやうに持つて細やかな抵抗してゐるうちに、妹のソレはどんどん口の中へ入つていき、ボコリ、ボコリとまず首を膨らませ、鎖骨を浮き上がらせ、肋骨を左右に開かせ、あつと云ふ間にみぞおちの辺りまで自身の存在を示し出してしまつた。もうこれ以上は死んでしまふ、死んでしまふから!止めてください!! ———と彼は、酸素の薄れ行く頭で思ふのであつたが恐ろしい事に、其れでも彼女のモノはまだ半分程度口の外に残り、ドクンドクンと血管を脈打たせてゐる。いや、詩乃にとつてもつと恐ろしいのは次の瞬間であつた。彼が其の鼓動を唇に数回感じた頃合ひ、もう兄を気遣うことも面倒くさくなつた心百合が、もともと肩に痛いほど食い込んでゐた手に骨を握りつぶさんとさらに力を入れ、此れからの行為で彼の体が動かないようにすると、
「ふぅ、………そろそろ動いても良い? まぁ、駄目って言ってもやるんだけどね。良いよね、お兄ちゃん?」
と云ひ、突き抜かれて動かない首を懸命に震はせる兄の返事など無視して、そのまま本能に身を任せ自分の思ふがまま腰を振り始めてしまつたのである。
「〜〜〜???!!!! 〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「んー? なぁに、お兄ちゃん。しぃにぃも高校生なんだから、ちゃんと言わないと誰にも伝わらないよぉ? 」
「〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「あはっ、お兄ちゃん死にかけのカエルみたい。惨めだねぇ、実の妹にお口を犯されるのはどんな気分? 悔しい? それとも嬉しい?」
心百合は残酷にも、気道など完全に潰しているのに優しく惚けた声でさう問ひかける。問ひかけつつ、
「ごぎゅ! ごぎゅ! ずちゅり! ……ぐぼぁ!…………」
などと、耳を覆いたくなるやうな、腹の中をカリでぐちゃぐちゃにかき乱し、喉を潰し、口の中をズタズタにする音を立てながら兄を犯してゐる。度々聞こえてくる下品な音は、彼女の陰茎に押されて肺の中の空気が出てくる音であらうか。詩乃は心百合の問ひかけに何も答えられず、ただ彼女の動きに合はせて首を長くしたり、短くしたりするばかりであつたが、そもそもそんな音が耳元で鳴り響いてゐては、妹の可愛らしい声も聞こえてゐなかつたのであらう。
もちろん、彼もまた男の端くれであるので、たつた十三歳の妹にやられつぱなしというわけではなく、なんとか対抗しようとしてはゐる。現に今も、肩やら胸やら腹のあたりに感じる激痛に耐へて、力の入らぬ手を、心百合の未だくびれの無い未成熟な脇腹に当て、渾身の力で其の体を押し返そうとしてゐるのである。………が、如何せん力の差がありすぎて、全くもつて妹には届いてゐない。其の上、触れた場所がかなり悪かつた。
「何その手は。私、腰触られるとムズムズするから嫌だって昔言ったよね? お兄ちゃん頭悪いからもう忘れちゃったの? -----------
……………あ、分かった。もしかしてもっと突っ込んでほしいんだ!」
心百合はさう云ふと、腰の動きを止め、一つ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり怯えきつてゐる兄の顔を至極愛ほしさうに撫でる。そして、
「もう、お兄ちゃん、そんなに心百合のおちんちんが好きだなんて早く言ってくれたらよかったのに。昔、精通した時に怯えてたから嫌いなんだと思ってた。…………
--------んふ、んふふ、…………じゃあ心置きなくやっちゃってもいいんだね?」
と変はらず詩乃の頭を撫でながら云つて、彼を四つん這いの状態から正座に近い体勢にし、自身は其の体に覆いかぶさるよう前かがみになると、必死で妹の男性器を引き抜こうと踏ん張る彼の頭を両手で掴み、鼠径部が彼の鼻に当たるまで一気に、自身のモノを押し込んだ。
「~~~~~~~??????!!!!!!!!!!」
「あんっ、……お兄ちゃんのお口の中気持ちいい。…………うん? お口? お腹? ………どっちでもいいや。---------」
心百合は恍惚(ルビは「うっとり」)とした表情で、陰茎に絡みつく絶妙な快感に酔ひしれた。どうしてもつと早く此の気持ちよさを味ははなかつたのだらう。なおにぃも、しぃにぃも、ただ年齢が上なだけで、もはや何をやつても私の後追ひになつてゐるのに、私がちょつと睨んだだけで土下座をして来る勢ひで謝つて来るくせに、私がどんなに仕様もないお願いをしても、まるでフリスビーを追ふ犬のやうにすぐに飛んでいくのに、-----------特に、二人共どうしてこんなに勉強が出来ないのだらうか。私が小学生の頃に楽々と解いてゐた問題が二人には解答を理解することすら難しいらしい、それに、そもそも理解力も無ければ記憶力も無いから、一週間、時には二週間も時間をあげてるのに本一つ覚えてこなければ、読んでくることすら出来ず、しかもこちらが言つてることもすぐには分かつてくれないから、毎回毎回、何度も何度も同じ説明をするハメになる。高校で習う内容の何がそんなに難しいのだらうか、私には分からぬ。そんなだから、あまりにも物分りの悪い兄たちに向かつて、手を上げる衝動に襲われたことも何度かあるのではあるけれども、別にやつてもよかつた。其れこそあの、精通をむかえたあの夜に、二人揃つて犯しておけばよかつた。あれから二人の顔を見る度にムクムクと大きくなつて来るので、軽く手を強く握ったり、わざと不機嫌な真似をして怯えさせたりした時の顔を思ひ出して自慰をし、自分の中にもくもくと膨らんでくる加虐心を発散させてゐるのであるが、最近では押さえが効かなくなつてもう何度、二人の部屋に押し入つてやらうかしらんと、思つたことか。さう云へば他のクラスに一人だけ居るふたなりの友達が数ヶ月前に、兄を嬲つて嬲つて嬲つて最後はお尻に突つ込んでるよ、と云つてゐるのを聞いて、本当にそんな事をして良いのかと戸惑つてゐたが、いざやつてみると自分の体が快楽を貪るために、自然と兄の頭を押さえつけてしまふももである。このなんと気持ちの良いことであらう、那央にぃもまずはお口から犯してあげよう、さうしよう。…………………
と、心百合は夢心地で思ふのであつたが、詩乃にとつて此の行為は地獄であらう。さつきまで彼女の腰を掴んでゐた手は、すでにだらんと床に力無く垂れてゐる。それに彼女の鼠径部がもろに当たる鼻は、-------恐らく彼女は手だけ力を加減してゐるのであらう、其の衝撃に耐えきれずに潰れてしまつてゐる。とてもではないが、彼に未だ意識があるとは思えないし、未だ生きてゐるかどうかも分からない。が、心百合の手の間からときたま見える目はまだ開いてをり、意外にもしつかりと彼女のお臍の辺りを眺めてゐるのであつた。しかも其の目には恐怖の他に、どこか心百合と同じやうな悦びを蓄えてゐる��うに見える。口を引き裂かれ、喉を拡げられ、内臓を痛めつけられ、息をすることすら奪われてゐるのに、彼は心の奥底では喜んでゐる。…………これがふたなりに屈した者の末路なのであらう、四歳離れた中学生の妹に気持ちよくなつて頂けてゐる、其れは彼にとつて、死を感じる苦痛以上に重要なことであり、別に自分の体がどうなろとも知つたことではない。実は、心百合が俺たちに対して呆れてゐるのは分かつてゐたけれども、一体彼女に何を差し上げると、それに何をしてあげると喜んでくれるのか分からなかつたし、それに間違つて逆鱗に触れてしまつたらどうしようかと悩んで、何も出来なかつた。だが、かうして彼女の役に立つてみるとなんと満たされることか。やはり俺たち兄弟はあの夜、自慰のやり方を教へるのではなく、口を差し出し尻を差し出し、犯されれば良かつたのだ。さうすればもつと早く妹に気持ちよくなつてもらえたのに、……………あゝ、だけどやつぱり命は惜しい、未だしたい事は山程ある、けど今はこの感覚を全身に染み込ませなければ、もうこんなことは二度と無いかもしれぬ。-------さう思ふと気を失ふわけにはいかず、幼い顔つきからは想像もできないほど卑猥な吐息を漏らす妹を彼は其の目に焼き付けるのであつた。
「お兄ちゃん、そろそろ出るよぉ? 準備はいーい? かるーく出すだけにしておいたげるから、耐えるんだよ?」
心百合はさう云ふと、腰を細かく震わせるやう��振つて、いよいよ絶頂への最後の一歩を踏み出そうとする。そして間もなくすると、目をギュッと閉じ、体をキュッと縮こませ、そして、
「んっ、………」
と短く声を漏らし快楽に身を震はせた。と、同時に、薄つすら筋肉の筋が見える、詩乃の見事なお腹が小さくぽつこりと膨らんだかと思ひきや、其れは風船のやうにどんどん広がつて行き、男なのに妊婦のやうな膨らみになつて遂には、ほんの少し針で突つつけば破裂してしまふのではないのかと疑はれるほど大きくなつてしまつた。軽く出すからね、と云ふ妹の言葉は嘘では無いのだが、其れでも腹部に感じる異常な腹のハリに詩乃はあの、腹が爆発して死んでしまつた強姦被害者の話を思ひ出して、もう限界だ、やめてくださいと、言葉に出す代はりに彼女の腕を数回弱々しく叩いた。
「えー、………もう終わり? お兄ちゃんいつもあんなにご飯食べてるのに、私の精液はこれだけしか入らないの?」
とは云ひつつ詩乃の肩に手をかけて、其の肉棒を引き抜き始める。
「ま、いいや、お尻もやらなきゃいけないし、その分、余裕を持たせておかなきゃね」
そしてそのままズルズルと、未だ跳ね上がる肉棒をゆつくり引き抜いていくのであるが、根本から先つぽまで様々な液体で濡れた彼女の男性器は、心なしか入れる前よりおぞましさを増してゐるやうに見える。さうして最後、心百合は喉に引つかかつた雁首を少々強引に引つこ抜くと、
「あっ、ごめ、もうちょっと出る。…………」
と云つて、"最後の一滴"を詩乃の顔にかけてから手を離した。
「ぐげぇぇぇぇぇぇぇ…………………!!!!お”、お”え”ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一体どこからそんな音を発してゐるのか、詩乃が人間とは思へない声を出しながら体に入り切らぬ妹の精子たちを、己の血と共に吐き出して行く。が、心百合はそんな彼の事など気にも止めずもう一つの標的、つまり壁の側で倒れてゐる那央に向かつて歩みを進めてゐた。
「なおにぃ、いつまで寝たフリしてるの? もしかしてバレてないとでも思ってた?」
「あ、…………え、…………や、やめ。…………」
「えへへ、やめるとでも思ってるのん? しぃにぃはちゃんと私の愛を受け止めてくれたんだよ、………ちょっと死にかけてるけど。 なおにぃはどうなるかな?」
那央は体を起こし、そのまま尻もちをついた状態で後ずさろうとしたものの、哀れなことに後ろは壁であつた。
「お、お願いします、………やめ、やめてください。お願いします。………………」
「んー? お兄ちゃんは自分に拒否権があると思ってるのん? それに、私は今、"気持ちが高ぶってる"んだから、お兄ちゃんがするべきなのは、そんな逃げ回るゴキブリみたいに壁を這うことじゃなくて、首を立てに振ることだよ」
だが裂けた口から精子を吐き出し続けてゐる弟を見て、誰が首を縦に振れようか、ヒクヒクとうごめく鈴口からカウパー液を放出し続けてゐる肉棒を見て、誰がうんと頷けようか。彼に選択権は無いとは言つても、命乞ひくらゐはさせても良いであらう。
「お兄ちゃんさ、情けないと思わない? 妹にハグされただけで絶叫して、妹に軽く投げられただけで気絶して、妹に敬語を使いながら怯えてさ、……………そんなにこの子の餌食になりたいのん?」
「こ、心百合、……………頼む。…………頼むから落ち着いてくれ。……………」
「んふふ、お兄ちゃんって諦めが悪いよね。でも嫌いじゃないよ、そういうところ。------」
「あ、あ、…………や、やめて、…………ああぁ、や、やめてくださ…………………」
「もう、しぃにぃと同じ反応しないで! お兄ちゃんでしょ? 弟の方がまだ潔くて男の子らしかったよ? っていうかさっき私に、犯さないで、って言ったのもしぃにぃだったじゃん」
心百合は土下座のやうに下を向く那央の頭を上げさせ、肉棒の先つぽを軽く口の中へねじ込む。
「あ、あが、………。ひ、ひや。……………」
「だからぁ、………バツとしてなおにぃを犯す時は、遠慮しないことにしよっかな。-----えへへ、大丈夫だって、しぃにぃはまだ生きてるし、大丈夫大丈夫。----------」
さうして彼女は本当に容赦なく、那央の頭を手で掴み固定して、一気に自身のモノの半分ほどを突つ込んだ。そして、前のめりになつて暴れる兄の体に背中から覆いかぶさるように抱きしめると、
「よっ、と。………」
と軽い掛け声をかけ、そのままスツと、まるでお腹にボールでも抱えてゐるかのやうに、何事も無く男一人を抱えて立ち上がつた。体勢としては、妹の男性器に串刺しにされた那央が、逆立ちするやうに足を天井へ向けて、心百合に抱きかかえられてゐる、と云へば伝はるであらうか、兎に角、小学生と言はれても不自然ではない小柄な体格の女の子に、標準体型の男が上下を逆にして抱えられてゐると云ふ、見慣れぬ人にとつては異様な状況である。
「~~!!!~~~~~~!!!!!!!」
「こら、暴れないで。いや暴れてもいいけど、その分どんどん入って行くから、お兄ちゃんが困ることになるよ?」
其の言葉通り、那央が暴れれば暴れるほど彼の体は、自身の体重で深く深く心百合のモノに突き刺さつて行く。が、其れでも精一杯抵抗しようと足をジタバタ動かしてしまひ、結局彼女のモノが全部入るのにあまり時間はかからなかつた。
「もう諦めよっ? お兄ちゃんはこれから私を慰めるための玩具になるんだから、玩具は玩具らしく黙って使われてたら良いの」
だがやはり、那央は必死で心百合の太腿を掴んで彼女の男性器を引き抜こうとしてゐる。なのでもう呆れきつてしまひ、一つ、ため息をつくと、
「いい加減に、………」
と云ひながら、彼の肋骨を拉げさせつつ二、三十センチほど持ち上げ、そして、
「………して!」
と、彼の体重も利用して腕の中にある体を振り下ろし、再び腹の奥の奥にまで男性器を突つ込ませた。
「っっっっっっ!!!!!」
「あぁんっ! やっぱり男の人のお口はさいこぉ、…………!」
心百合はよだれを垂らすほどに気持ち良ささうな顔でさう云ふのであるが、反対に、自分では到底抵抗できぬ力で体を揺さぶられた那央は、其の一発で何もかもを諦めたのか手をだらりと垂れ下げ出来るだけ喉が痛くならないように脱力すると、もう静かになつてしまつた。
「んふ、…………そうそう、それでいいんだよ。お兄ちゃんはもう私の玩具なの、分かった?」
さう云ひながらポンポンと優しくお腹を叩き、そのまま兄を抱えてベッドまで向かふ。途中、未だにケロケロと精液を吐き出してゐる詩乃がゐたが、邪魔だつたので今度は彼を壁際まで蹴飛ばしてからベッドに腰掛けた。そして、
「ちゃんと気持ちよくしてね」
と簡単に云つて、彼の腰の辺りを雑に掴み直すと、人を一人持ち上げてゐるとは思へ無いほど軽やかに、------まさに人をオナホールか何かだと勘違ひさせるやうな激しい動きで、兄の体を上下させて自身の肉棒を扱き出したのであつた。股を開き局部を露出してなお、上品さを失はずに顔を赤くし甘い息を吐き綺羅びやかな黒髪を乱す其の姿は、いくら彼女が稚い顔つきをしてゐると云へ万人の股ぐらをいきり立たせるであらう。勿論其れは実の兄である詩乃も例外ではない。どころか、彼はもう随分と妹の精液を吐き出しいくらか落ち着いてきてゐたので心百合と那央の行為を薄れていく意識の中見てゐたのであるが、自身の兄をぶらぶらと、力任せに上へ下へと上下させて快楽を貪る実の妹に対しこの上なく興奮してしまつてゐるのである。なんと麗しいお姿であらうか、たとへ我が妹が俺たちを死に追ひやる世にも恐ろしい存在であらうとも、ある種女神のやうに見えてくる。そして其の女神のやうな高貴な少女が、俺たち兄弟を道具として使ひ快楽に溺れてゐる。………なんと二律背反的で、背徳的で、屈辱的な光景であらう、人生の中でこれほど美しく、尊く、猥りがましく感じた瞬間はない。------彼はもう我慢できなくなつて、密かに片手を股にやり、ズボンの上から己の粗末なモノを刺激し初めたのであるが、ふと視線に気がついてグッと上を向くと、心百合が此方を見てニタニタと其の顔を歪ませ笑つてゐた。
「くすくす、……………お兄ちゃんの変態。もしかして、なおにぃが犯されてるの見て興奮してたの?」
心百合はもう那央の体を支えてゐなかつたが、其れでも其の体は床に垂直なまま足をぶらつかせてゐる。
「ほら、お兄ちゃんも出しなよ、出して扱きなよ。知ってるよ私、お兄ちゃんが密かに私の部屋に入って、枕とか布団とかパジャマとかの匂いを嗅ぎながら自慰してるの。全部許したげるからさ、見せてよ、お兄ちゃんのおちんちん」
「あっ、………えっ、…………?」
自分の変態行為を全部知られてゐた、-----其の事に詩乃は頭を殴られたかのやうな衝撃を受け、ベルトを外すことすらままならないほど手を震えさせてしまひ、しかしさらに自身のモノが固くなるのを感じた。
「ほら早く、早く、-----------」
心百合はもう待ちきれないと云ふ様子である。其れは年相応にワクワクしてゐる、と云ふよりは獲物を見つけて何時飛びかかろうかと身を潜める肉食動物のやうである。
「ま、まって、…………」
と、詩乃が云ふと間もなく、ボロンとすつかり大きくなつた、しかし妹のソレからすると無視できる程小さい男の、男のモノがズボンから顔を出した。
「あははははっ、なにそれ! それで本当に大きくなってるの?」
「う、……ぐっ…………!」
「まぁ、いいや。お兄ちゃんはそこでそのおちんちん? をシコシコしていなよ。もう痛いほど大きくなってるんでしょ? 小さすぎて全然分かんないけど」
と云つて心百合は那央の体を掴み、再びおぞましい音を立てながら"自慰"に戻つた。そして詩乃もまた、彼女に言われるがまま自身の粗末な男性器を握ると悔しさやら惨めさやらで泣きそうになつたが、矢張り妹の圧倒的な巨根を見てゐると呼吸も出来ないほどに興奮して来てしまひ、ガシガシと赴くがまま手を動かすのであつた。だが一寸して、
「あ、しぃにぃ、見て見て、-------」
と、心百合が嬉しさうな声をかけてくる。………其の手は空中で軽く閉じられてをり、那央の体はまたもや妹のモノだけで支えられてゐる。------と思つてゐたら突然、ビクン! と其の体が暴れた。いや、其れは彼が自分から暴れたのではなく、何かに激しく揺さぶられたやうだと、詩乃は感じた。
「ほらほら、------」
ビクン、ビクンと那央の体が中身の無い人形のやうに暴れる。
「------お兄ちゃんのちっちゃい、よわよわおちんちんじゃ、こんなこと出来ないでしょ」
ベッドに後ろ手をつきながら、心百合がニコニコと微笑んでさう云つてきて、���うやく詩乃にも何が起きてゐるのか理解できたやうであつた。まさか妹は人を一人、其の恐ろしい陰茎で支えるのみならず、右へ左へとあの激しさで揺れ動かしてゐるとでも云ふのであらうか。いや、頭では分かつてはゐるけれども、全然理解が追ひつかない。いや、いや、ちやつと待つてくれ、其れよりもあんなに激しく暴れさせられて兄貴は無事であらうか。もう見てゐる限りでは全然手に力が入つて無く、足もただ体に合はせて動くだけ、しかも、かなり長いあひだ呼吸を肉棒で押さえつけられてゐる。……………もう死んでしまつたのでは。----------
「んぁ? なおにぃもう死にそうなの? ………………仕方ないなぁ、ちょっと早いけどここで一発出しとくね」
男性器を体に突つ込んでゐる心百合には分かるのであらう、まだ那央が死んでゐないといふ事実に詩乃は安心するのであつたが、先程自分の中に流し込まれた大量の精液を思ふと、途中で無理矢理にでも止めねば本当に兄が死んでしまふやうな気がした。
「んっ、…………あっ、来た来たっ……………」
心百合はさう云ふとより強く、より包むように那央を抱きしめ、其の体の中に精を放ち始める。が、もう彼の腹がパンパンに張らうとした頃、邪魔が入つた。
「やめ、………心百合、もうやめ、…………!」
「なに?」
見ると詩乃がゾンビのやうに床を這ひ、必死の力でベッドに手をかけ、もう片方の手で此方の腕を握って、しかもほとんど残つてゐない歯を食ひしばつて、射精を止(や)めさせようとしてゐるではないか。兄のために喉を潰されても声をあげ、兄のために激痛で力の入らぬ足で此方まで歩き、兄のために勝ち目など無いと云ふのに手を伸ばして妹を止めようとする献身的な詩乃の姿勢に、心百合は少なからず感動を覚えるのであつたが、残念なことに彼女の腕を握つてゐる手は自身の肉棒を触つた手であつた。
「お兄ちゃん? その手はさっきまで何を触ってた手だったっけ?」
と云ふと、那央がどうなるのかも考えずに無理やり肉棒を引き抜きベシャリと其の体を床に投げつけ、未だ汚い手で腕を握つてくる詩乃の襟首を掴んで、ベッドから立ち上がる。
「手、離して」
「は、はい。………」
「謝って」
「あ、あぁ、……ご、ごご、ごめんなさい。……………」
「んふ、…………妹をそんな化物でも見るみたいな目で見ないでもいいんじゃないのん? 私だって普通の女の子なんだよ?」
「……………」
「ちょっとおちんちんが生えてて、ちょっと力持ちで、ちょっと頭が良いだけなんだよ。それなのにさ、みんなお兄ちゃんみたいに怯えてさ、……………」
「心百合、…………」
「------本当に、たまらないよね」
「えっ?」
「でも良かったぁ、……………もう最近、お兄ちゃんたちだけじゃなくて、友達の怯えた表情を見てると勃ってしょうがなかったんだもん。……………」
「こ、心百合、…………」
「だからさ、今日お兄ちゃんたちが部屋に入ってきて、犯さないで、って言った時、もう我慢しなくて良いんだって思ったんだよ。だって、お兄ちゃんも知ってるんでしょ? ふたなりにそういう事を言うと逆効果だって。知ってて言ったんでしょ? -------」
「まって、……そんなことは。…………」
「んふ、……暴れても無駄だよ、お兄ちゃん。もう何もかも遅いんだよ、もう逃れられないんだよ、もう諦めるしかないんだよ、分かった?」
「ぐっ!うああ!!!」
「あはは、男の人って本当に弱いよね。みーんな軽く手を握るだけで叫んでさ、ふたなりじゃなくっても女の子の方が、今の世の中強いよ、やっぱり。お兄ちゃんも運動部に入ってるならもっと鍛えないと、中学生どころか小学生にすら勝てないよ? …………あぁ、でもそっか、そう云えば、この間の試合は負けたんだっけ? 聞かなくてもあんな顔して夜ご飯食べてたら誰だって分かっちゃうよ」
心百合はさう云ふと、片手で詩乃を壁に投げつけた。
「ぐえっ、…………」
「-----ま、そういう事は置いといて、中途半端に無理やり出しちゃって気持ち悪いから、さっさとお尻に挿れちゃうね。しぃにぃは後でやってあげるから、そこで見てて」
詩乃が何かを云ふ前に心百合は、ひどい咳と共に精液と血を吐き出し床にうずくまる那央を抱えて、無理やり四つん這いの体勢にする。そしてジャージの腰の部分に手をかけて剥ぎ取るように下ろすと、其処にはまるで此れからの行為を期待するかのやうにヒクヒクと収縮するお尻の穴と、ピクピクと跳ねる那央のモノが見えた。
「なぁに? なおにぃも私にお口を犯されて興奮してたのん?」
「ぢ、ぢが、……ぢがう。………」
と那央が云ふけれども激しく嘔吐しながらも自身のモノを大きくすると云ふことは、さう云ふ事なのであらう。
「んふふ、じゃあもう待ちきれないんだ。いいよ、それなら早く挿れてあげるよ。準備はいーい?」
さながら接吻のやうに心百合の男性器と、那央の肛門がそつと触れ合ふ。が、少なく見積もつても肛門の直径より四倍は太い彼女のモノが其処に入るとは到底思へない。
「だめ、だめ、だ、だめ、………あ”ぁ、ゃ、………」
那央は必死に、赤ん坊がハイハイする要領で心百合から逃げようとしてゐるのであるが、彼女に腰を掴まれてしまつては無意味であらう、ただ手と足とがツルツルと床を滑るのみである。しかし其のあひだにも心百合のモノはじつとりと品定めするかのやうに、肛門付近を舐め回して来て、何時突つ込まれるか分からない恐怖で体が震えて来る。一体どれほどの痛みが体に走るのであらうか。一体どれほどの精液を放たれるのであらうか。妹はすでに、俺たち二人の腹を満杯にするまで射精をしてゐるけれども、未だ普段行われる自慰の一回分にも達してをらず、相当我慢してゐることはこの足りない脳みそで考へても分かる。分かるが故に恐ろしい、今のうちに出来る限り彼女の精液を吐き出しておかないと大変な事になつてしまふ。凡そ"気が高ぶった"ふたなりが情けをかけ射精の途中で其の肉棒を引き抜いてくれるなんて甘い希望を持つてはいけない。況してや先つぽだけで我慢してくれるなど、夢のまた夢であらう。…………あゝ、こんなことになるなら初めからダンベルなど放つておけばよかつた、どうしてあの時詩乃に、云ひに行くぞ、などと持ちかけてしまつたのか、あのまま何も行動を起こさなければ後数年、いや、後数日は生きていけさうであつたのに。あゝ、どうして。-------さう悲嘆に暮れてゐると、遊びもここまでなのか、心百合が自身のモノの先端を、グイと此方の肛門に押し付けて来た。そして、
「んふ、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。-------」
と云ふ悦びに打ち震えた優しい声をかけられ、腰を掴んでいる手に力が込められ、メコリと肛門が広がる感覚が走れば直ぐ其の後、気を失ふかと思はれる程の激痛で目の前が真暗になつた。
「ぐごっ、…………ごげっ、ぐぁ、……………」
絶叫しようにも、舌が喉に詰まつて声が出てこない。だけどそんな空気の漏れる音を立ててゐるうちにも妹のソレはどんどん那央の中へ入つて来て、もう一時間もしたかと彼が思つた頃合ひにふと其の動きが止まり、次いで腰を握りつぶしてゐた手の力も抜けていき、たうたう全部入つたんだ、何とか耐えきつた、と安堵して息を吸つたのであるが、しかし心百合の言葉は彼を絶望させるのに十分であつた。
「------ちょっと先っぽだけ入れてみたけど、どう? 気持ちいい?」
「ぅご、………う、嘘だろ…………」
「嘘じゃないよ。じゃ、どんどん入れてくね」
「あがああああああああああっ、がっ、あっ、…………」
那央の絶叫は心百合に再び腰を掴まれ、メリメリメリ、………と骨が軋む音が再びし始めるとすつかり無くなつてしまつた。彼は激痛からもはや目も見えず声も出ず考へることすら出来ない状態なのだが、此れが人間の本能と云ふやつなのであらう、其れでも手を前に出し足を上げ、一人の可憐な少女から逃げようとしてゐるのである。が、いつしか手が空を切り膝が宙に浮くやうになるともう何が起きてゐるのか訳が分からなくなり、心無い者に突然抱きかかえられた猫のやうに手足をジタバタと暴れさせるだけになつてしまふ。そして、さうやつて訳が分からぬうちにも心百合の陰茎は無慈悲に入つて行き、体の中心に赤々と光る鉄の棒を突つ込まれたかのやうに全身が熱くなり汗が止まらなくなり初めた頃、いよいよお尻に柔らかい彼女の鼠径部の感触が広がつた。広がつてしまつた。
「んふふ、どう、お兄ちゃん? 気持ちいーい?」
「………………」
「黙ってたら分からないよぉ?」
と、云ひつつ心百合は腰を掴んでゐた手で那央の体を捻り其の顔を覗き込む。
「あがっ、…………」
「私はお兄ちゃんに気持ち良いかどうか、聞いてるんだけど」
「こ、こゆ、…………」
「んー?」
那央は黙つて首を横に振つた。当然であらう、自分の拳ほどの太さの陰茎を尻にねじ込まれ、体が動かないようにと腰を掴んでゐた手でいつの間にか持ち上げられ、内蔵を滅茶苦茶にしてきた陰茎で体を支えられ、もう今では中指の先しか手が床に付かないのである。例へ激痛が無くとも、腹に感じる違和感や、極度に感じる死の恐怖や、逃げられぬ絶望感から決して首を縦に振ることは出来ないであらう。
「そっか、気持ちよくないんだ。…………」
「はやく抜いてく、…………」
「------ま、関係無いけどね」
気にしないで、気にしないで、ちやんと気持ちよくしてあげるから、と続けて云ふと心百合は再び那央の腰を掴み直す。
「こ、こゆり!!! やめて!!!」
「うるさい! 女の子みたいな名前して、おちんちんで突かれたぐらいで文句言わないで!」
この言葉を切掛に、心百合は骨にヒビが入るほど其の手に力を入れ、陰茎を半分ほど引き抜いていく。そして支えを失つてもはや力なくだらりと垂れる兄を見、
「んふ、………」
と妖艶に色づいた息を漏らすと、彼のお尻に勢ひよく腰を打ち付けた。
「ぐがあぁ!!!!!」
「あぁん、お尻もさいこぉ。……………お兄ちゃんの悲鳴も聞こえるし、お口より良いかも、…………」
さう云ふと、もう止まらない。兄がどんなに泣き叫ぼうが、どんなに暴れようが自身の怪力で全て押さえ込み、其の体を己の腰使ひでもつて何度も何度も貫いて行く。そして初めこそ腰を動かして快楽を貪つてゐたが、次第に那央の事が本当に性欲を満たすための道具に見えてくると、今度は自分が動くのでは無くさつきと同じやうに彼の体を、腕の力だけで振り回して肉棒を刺激してやる。
「あぎゃっ! いぎぃ! おごぉっ!!-------」
「あはっ、お兄ちゃん���持ちよさそう。…………良かったねぇ、妹に気持ちよくしてもらえて。嬉しいでしょ?」
「こ、ごゆぅっ!! ごゆり”っ!!! ぐあぁっ!!!」
「なぁに、お兄ちゃん? 止めてなんて言わないでよね。いつもお勉強教えてあげてるのにあんな反抗的な目で見てきて、悔しかったのか知らないけど、どれだけ私が我慢してたか分かる?」
「じぬっ!! じぬがら!!! ゃめ!!!」
「…………んふ、もう大変だったんだから。毎日毎日、お風呂に入る前の一回だけで満足しなきゃいけなかった身にもなってよ」
「ぐぎぃっ!!こゆっ!!あ”あ”ぁっ!!!」
「でもさ、思うんだけど、どうしてあんな簡単な入試問題すら解けないのん? 私あの程度だったら教科書を読んだら、すぐに解けるようになってたよ? しかも小学生の頃に。入試まで後一ヶ月も無いのに大丈夫?
……………もうお兄ちゃんの代わりに大学行ったげるからさ、このままこんな風に私の玩具として生きなよ。そっちの方が頭の悪いお兄ちゃんにはお似合いだよ、きっと、たぶん、いやぜったい」
傷だらけの喉をさらに傷つけながら全力で叫ぶ那央を余所に、心百合は普段言ひたくて言ひたくて仕方無かつた事を吐露していくのであつたが、さうしてゐると自分でも驚くほどあつと云ふ間��絶頂へ向かつてしまつて、後数回も陰茎を刺激すると射精してしまひさうである。全く、この出来損ないの兄は妹一人満足させることが出来ないとでも云ふのであらうか。本当はこのまま快感の赴くがままに精液を彼の腹の中に入れてやりたい所だけど、折角手に入れた玩具を死なせてしまつては此方としても嫌だから、途中で射精を止めなければならぬ。いや、未だ壁の側で蹲つてゐるしぃにぃが居るではないか、と云ふかもしれないが人の腹の容量などたかが知れてゐて、満杯にした所で未だ未だ此の体の中には精液が波打つてゐる。-------あゝ、ほんの一合程度しか出ない男の人が羨ましい。見ると、なおにぃの股の下辺りに白い点々が着いてゐるのは多分彼の精液なのだと思ふが、なんと少ないことか。私もあのくらいしか出ないのであれば、心置き無く此の情けない体の中に精を放つことが出来るのに。……………
「------そろそろ、……そろそろ出るよ、お兄ちゃん。ちゃんと私の愛、受け止めてあげてね」
さう云ふと心百合は今までの動きが準備体操であつたかの如く、那央の体を激しく揺さぶり始める。そして最後、那央のお尻に自分のモノを全て入れきり目を閉じたかと思ひきや、
「んっ、んっ、………んん~~~。…………」
と、其の身を震わせて精子を実の兄の体の中で泳がせるのであつた。が、矢張り彼女にもどこか優しさが残つてゐたのか数秒もしないうちに、じゅるん、と男のモノを引き抜き那央を床に捨て、どろり、どろりと、止めきれ無かつた精液を其の体の上にかけると、でも矢張りどこか不満であつたのか壁際で自身の小さな小さなモノを扱いてゐたもう一人の兄の方を見た。
「しぃにぃ、おまたせ。早くしよっ」
其の軽い声とは逆に、彼女の肉棒はもう我慢出来ないと言はんばかりに、そして未だ未だ満足ではないと云はんばかりに大きく跳ね床に精液を撒き散らしてゐる。一体、妹の小さな体のどこにそんな体力があるのか、もうすでに男を滅茶苦茶に嬲り、中途半端とは云へ三回も射精をしてゐると云ふのに、此のキラキラと輝くやうな笑顔を振りまく少女は全く疲れてなどゐないのか、これがふたなりなのか。-----------
「あ、えぁ、…………」
「? どうしたの? なにか言いたげだけど。………」
「そ、その、きゅ、きゅうけい。…………」
「--------んふ、何か言った? 休憩? 私、休憩なんて必要ないよ。それにお兄ちゃんも十分休んだんだから良いでしょ。……ねっ、早くっ、早くお尻出して?」
「い、いや、いや、…………………」
起き上がつてドアまで駆け、そして妹に捕まえられる前に部屋を後にする、……………さう云ふ算段を詩乃は立ててゐたのであるが、まず起き上がることが出来ない。なぜだ、足に力が入らない、----と思つたが、かうしてゐる内にも心百合は近づいて来てゐる。其の肉棒を跳ね上げさせながらこちらに向かつて来てゐる。-------もうじつとしてなど居られない。何とか扉まで這つて行き、縋り付くやうにしてドアノブに手をかける。が、其の時、背中に火傷するかと思はれるほど熱い突起物が押し付けられたかと思つたら、ふわりと、甘い甘い、でも決して淑やかさを失ふことの無い甚く魅惑的な匂ひに襲はれ、次いで、背後から優しく、優しく、包み込まれるやうにして抱きしめられてゐた。そして首筋に体がピクリと反応するほどこそばゆい吐息を感じると、
「おにーちゃんっ、どこに行こうとしてるのん? まさか逃げようとしてたのん?」
と言はれ、ギュウゥゥ、………と腕に力を入れられてしまふ。
「ぐえぇ、………ぁがっ!………」
「-----んふふ、もう逃げられないよぉ。しぃにぃは今から私に、……この子に襲われちゃうの。襲われてたくさん私の種を吐き出されちゃうの。------ふふっ、男の子なのに妊娠しちゃうかもね」
「ご、ごゆり、…………あがっ、………だれかたすけて。……………」
と云ふが、ふいにお腹に回されてゐた手が膝の裏に来たかと思へば、いつの間にかゆつくりと体が宙に浮いて行くやうな感じがした。そして顔のちやつと下に只ならぬ存在感を感じて目を下に向けると、すぐ其処には嫌にぬめりつつビクビクと此方を見つめて来る妹の男性器が目に留まる。そして、足を曲げて座つた体勢だと云ふのに遥か遠くに床が見え、背中には意外と大きい心百合の胸の感触が広がる。…………と云ふことはもしかして俺は今、妹に逆駅弁の体位で後ろから抱きかかえられて、情けなく股を開いて男のモノを入れられるのを待つてゐる状態であるのだらうか。まさか男が女に、しかも実の妹に逆駅弁の体勢にされるとは誰が想像できよう、しかし彼女は俺の膝を抱え、俺の背中をお腹で支えて男一人を持ち上げてしまつてゐる。兄貴は心百合のモノが見えなかつたからまだマシだつただらうが、俺の場合は彼女の男性器がまるで自分のモノかのやうに股から生えてゐて、……………怖い、ただひたすらに怖い、こんなのが今から俺の尻に入らうとしてゐるのか。------
「あれ? お兄ちゃんのおちんちんは? どこ?」
詩乃はさつき自身のモノをしまふことすら忘れて扉に向かつたため、本来ならば逆駅弁の体位になつて下を向くと彼の陰茎が見えてゐるはずなのだが、可哀想なことに心百合のモノにすつぽりと隠れてしまつて全く見えなかつた。
「あっ、もしかしてこの根本に感じてる、細くて柔らかいのがそうなのかな? いや、全然分かんないけど」
心百合のモノがゆらゆらと動く度に詩乃のモノも動く。
「本当に小さいよね、お兄ちゃんのおちんちん、というか男の人のおちんちんは。私まだ中学一年生なのにもう三倍、四倍くらい?は大きいかな。…………ほんと、精液の量も少ないし、こんなのでよく人類は絶滅しなかったなぁって思うよ。-----まぁ、だから女の人って皆ふたなりさんと結婚していくんだけどね。お兄ちゃんも見てくれは良いのによく振られるのはそういうことなの気がついてる? 女の人って分かるんだよ、人間としての魅力ってものがさ。------」
「こゆり、…………下ろして。…………」
「あはは、役立たずの象徴を私のおちんちんで潰されてなに今更お願いしてるのん? ふたなりに比べて数が多いってだけで人権を与えられてる男のくせに。お兄ちゃんは、お兄ちゃんとして生まれた時点で、もう運命が決まってたんだよ。…………んふ、大丈夫大丈夫、心配しないで。もしお兄ちゃん達に人権が無くなっても、私がちゃんと飼ってあげるから、私がちゃんとお兄ちゃんにご飯を食べさせてあげるからさ、そんな不安そうな顔する必要ないよ、全然。--------」
「こゆ、り。…………」
「だって私、お兄ちゃんたちのこと大好きなんだもん。なおにぃにはあんなこと言ったけど、なんていうか二人とも、ペット? みたいで可愛いんだもん。だから普通の男の人よりは良い生活をさせてあげるから、さ、-----」
と、其の時、詩乃の体がさらに浮き始める。
「…………その代わりに使わせてね、お兄ちゃんたちの体。--------」
さう云ふと心百合は、早速兄の体を使おうと一息に詩乃を頭上へ持ち上げて、彼の尻穴と自身の雁首を触れ合はせる。意外にも詩乃が大人しいのはもう諦めてしまつたからなのか、其れとも油断させておいて逃げるつもりだからなのか。どちらにせよ動くと一番困るのは内蔵をかき乱される兄の方なのだから静かに其の時を待つてゐるのが一番賢いであらう。
「んふ、…………じゃあ、挿れるね。--------」
詩乃は其の言葉を聞くや、突然大人しく待つてなど居られなくなつたのであるが、直ぐにメリメリと骨の抉じ開けられる音が聞こえ、そして股から体が裂けていくやうな鈍い痛みが伝わりだすと、体全体が痙攣したやうに震えてしまひもはや指の一本すら云ふことを聞いてくれなかつた。其れでも懸命に手足を動かそうとするものの体勢が体勢だけにそもそも力が入らず、ひつくり返された亀のやうに妹の腹の上でしなしなと動くだけである。だがさうしてゐるうちにも、心百合は力ずくで彼の体に男のモノを入れていき、もう其の半分ほどが入つてしまつてゐた。
「そんな無駄な抵抗してないで、自分のお腹を触ってみたら? きっと感じるよ、私のおちんちん」
妹に言はれるがまま、詩乃はみぞおち辺りを手で触れる。すると、筍が地面から生えてゐるやうにぽつこりと、心百合の男性器が腹を突き破らうと山を作り、そして何やら蠢いてゐるのが分かつた。
「あっ、……はっ、………はは、俺の、俺の腹に、あぁ、……………」
「んふふ、感じた? 昔こういうの映画にあったよね、化物の子供が腹を裂いて出てくるの。私怖くて、お兄ちゃんに抱きついて見れなかったけど、こんな感じだった?」
「-----ふへ、………ふへへ、心百合の、こゆり、………こゆ、…………」
「あはっ、お兄ちゃんもう駄目になっちゃった? しょうがないなぁ、………」
と云ふと、心百合は腰を引いて詩乃の体から陰茎を少し引き抜く。
「-----じゃあ、私が目を覚まさせてあげる、………よっ!」
「っおごぁっっっ!!!!!」
其のあまりにも強烈な一撃に、詩乃は顔を天井に上げ目を白くし裂けた口から舌を出して、死んだやうに手をだらんと垂れ下げてしまつた。果たして俺は人間であるのか、其れとも妹を気持ちよくさせるための道具であるのか、いや、前者はあり得ない、俺はもう、もう、…………さう思つてゐると二発目が来る。
「ぐごげぇえええっっっっ!!!!!」
「んー、…………まだ目が醒めない? もしもーし、お兄ちゃん?」
「うぐぇ、……げほっ、げほっ、………」
「まだっぽい? じゃあ、もう一発、………もう一発しよう。そしたら後はもうちょっと優しくしたげるから!」
すると、腹の中から巨大な異物が引き抜かれていく嫌な感覚がし、次いで、彼女も興奮しだしたのか背後から艶つぽい吐息が聞こえてくるようになつた。だけど、どういふ訳か其の息に心臓を打たせてゐると安心して来て、滅茶苦茶に掻き回された頭の中が少しずつ整頓され、遂には声が出るようになつた。
「こ、こゆり。………」
「うん? なぁに、お兄ちゃん」
「も、も、ももっと、もっと、…………」
もつと優しくしてください、と云ふつもりであつた。しかし、
「えっ、もっと激しくして欲しいのん? しぃにぃ、本当に良いのん?」
「い、いや、ちが、ちが、…………」
「----しょうがないなぁ。ほんと、しぃにぃって変態なんだから。……でもさすがに死んじゃうからちょっとだけね、ちょっとだけ。-------」
さう云ふと心百合は、今度は腰を引かせるだけでなく詩乃の体を持ち上げるまでして自身の陰茎を大方引き抜くと、其のまま動きを止めてふるふると其の体を揺する。
「準備は良い? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんなんだからね、どうなっても後で文句は言わないでね」
「あっ、あっ、こゆり、ぃゃ、……」
「んふ、-------」
と、何時も彼女が愉快な心地をする際に漏らす悩ましい声が聞こえるや、詩乃は床に落ちていつた。かと思えば、バチン! と云ふ音を立てて、お尻がゴムのやうに固くも柔らかくもある彼女の鼠径部に打ち付けられ、体が跳ね、そして其の勢ひのまま再び持ち上げられ、再度落下し、心百合の鼠径部に打ち付けられる。-------此れが幾度となく繰り返されるのであつた。もはや其の光景は遊園地にある絶叫系のアトラクシオンやうであり、物凄い勢ひでもつて男が上下してゐる様は傍から見てゐても恐怖を感じる。だが実際に体験をしてゐる本人からするとそんな物は恐怖とは云へない。彼は自分ではどうすることも出来ない力でもつて体を振り回され、腹の中に巨大な異物を入れられ、肛門を引き裂かれ、骨盤を割られ、さう云ふ死の苦痛に耐えきれず力の限り叫び、さう云ふ死の恐怖から神のやうな少女に命乞ひをしてゐるのである。だが心百合は止まらない。止まるどころか彼の絶叫を聞いてさらに己を興奮させ、ちやつと、と云つたのも忘れてしまつたかの如く実の兄の体をさらに荒々しく持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、其の巨大な陰茎を刺激してゐるのであつた。
「あがあぁぁぁ!!!こゆ”り”っっっっ!!!!ぅごぉあああああっぁぁ!!!!」
「えへへ、気持ちいーい?」
「こゆりっっ!!こゆり”っ!!!!!こゆっ!!!!」
「んー? なぁに? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんでしょう?」
「あぁがぁぁっっ!!!ごゆ”り”っ!!!」
「んふふ、しぃにぃは本当に私のこと好きなんだねぇ。いくら家族でも、ちょっとドキドキしちゃうな、そこまで思ってくれると。------」
腰を性交のやうに振つて、男を一人持ち上げ、しかも其の体を激しく上下させてなお、彼女は息を乱すこともなく淡々と快楽を味はつてゐる。が、其の快楽を与えてゐる側、------詩乃はもう為すがまま陵辱され、彼女の名前を叫ぶばかりで息を吸えてをらず、わなわなと震えてゐる唇からは血の流れを感じられず、黒く開ききつてゐる瞳孔からは生の活力が感じられず、もはや処女を奪はれた生娘のやうに肛門から鮮血を垂れ流しつつ体を妹の陰茎に突き抜かれるばかり。でも、其れでも、幸せを感じてゐるやうである。何故かと云つて、彼ら兄弟は本当に妹を愛してゐるのである。其の愛とは家族愛でもあると同時に、恋ひ人に向ける愛でもあるし、崇敬愛でもあるのである。そしてそこまで愛してゐる妹が自分の体を使つて喜んでくれてゐる、いや彼の言葉を借りると、喜んで頂けてゐるのである。…………此の事がどれほど彼にとつて嬉しいか、凡そ此の世に喜ぶ妹を見て嬉しくならない兄など居ないけれども、死の淵に追ひ込まれても幸せを感じるのには感服せざるを得ない。彼を只の被虐趣味のある変態だと思ふのは間違ひであり、もしさう思つたのなら反省すべきである。なんと美しい愛であらうか。---------
「んっ、………そろそろ出そう。……………」
さうかうしてゐると、心百合はどんどん絶頂へと向かつて行き、たうたう、と云ふより、此れ以上快感を得てしまつては途中で射精を止める事が出来ない気がしたので、さつさと逝つてしまはうと其の腰の動きをさらに激しくする。
「ひぎぃ!!うぐぇ!!ごゆりっ!!じぬ”っ!!!じぬ”ぅっっっっ!!!!」
死ぬ、と、詩乃が云つた其の時、一つ、心百合のモノが暴れたかと思ひきや、唯でさへ口を犯された際の名残で大きく膨れてゐた彼の腹がさらに膨らみ、そして行き場を失つた精液が肛門をさらに切り裂きながら吹き出て来て、床に落ちるとさながら溶岩のやうに流れていく。
「あっ、あっ、ちょっ、…………そんなに出たら、………あぁ、もう! 」
心百合は急いで詩乃の体から男性器を取り出し床に捨てると、本棚に向かつて流れていく精液を兄の体を使つて堰き止め、ついでにもう殆ど動いてゐない那央を雑巾のやうに扱つて軽く床を拭き、ほつとしたやうに一息ついた。
「まだ出したり無いけど、ま、この辺にしておこうかな。………これ以上は本が濡れちゃう。-------」
続けて、
「なおにぃ、しぃにぃ、起きて起きて、-------」
だが二人とも、上と下の口から白くどろどろとした液体を吐き出し倒れたままである。
「-----ねっ、早く起きて片付けてよ。でないともう一度やっちゃうよ?」
と云つて彼らの襟を背中側から持ち、猫をつまむやうにして無理やり膝立ちにさせると、那央も詩乃も一言も声を出してくれなかつたがやがてもぞもぞと動き始め部屋の隅にある、彼女がいつも精液を出してゐるバケツを手に取り、まずは床に溜まつてゐる彼女の種を手で掬い取つては其の中に入れ、掬い取つては其の入れて"行為"の後片付けをし始めたので、其の様子を見届けながら彼女もウェットティッシュで血やら精液やらですつかり汚れてしまつた肉棒を綺麗にすると、ゴロンとベッドに寝転び、実の兄としてしまつた性交の余韻に、顔を赤くして浸るのであつた。
那央たち兄弟は体中に感じる激痛で立つことすら出来ず、ある程度心百合の精液をバケツに入れた後は這つて家の中を移動し、雑巾を取つて来て床を拭いてゐたのであるが、途中何度も何度も気を失ひかけてしまひ中々進まなかつた。なんと惨めな姿であらう、妹の精液まみれの体で、妹の精液がへばり付いた床を雑巾で拭き、妹の精液が溜まつてゐるバケツの中へ絞り出す。こんな風に心百合の精液を片付けることなど何時もやつてゐるけれども、彼女に犯されボロ雑巾のやうな姿となつた今では、自分たちが妹の奴隷として働いてゐるやうな気がして、枯れ果てた涙が自然と出て来る。-------あゝ、此の涙も拭かなくては、…………一つの拭き残しも残してしまつては、俺たちは奴隷ですらない、人間でもない、本当に妹の玩具になつてしまふ。だがいくら拭いても拭いても、自分の体が通つた場所にはナメクジのやうな軌跡が残り、其れを拭こうとして後ろへ下がるとまた跡が出来る。もう単純な掃除ですら俺たちは満足に出来ないのか。異様に眠いから早く終はらせたいのに全く進まなくて腹が立つて来る。が、読書に戻つて上機嫌に鼻歌を歌ふ妹のスカートからは、蛇のやうに”ソレ”が、未だにビクリ、ビクリと、此方を狙つてゐるかの如く動いてゐて、とてもではないがここで性交の後片付けを投げ出す事など出来やしない。いや、そもそもあれほど清らかな妹にこんな汚い仕事などさせたくない。心百合には決して染み一つつけてなるものか、決して其の体を汚してなるものか、汚れるのは俺たち奴隷のやうな兄だけで良い。-------さう思ふと急にやる気が出てきて、二人の兄達は動かない体を無理やり動かし、其れでも時間はかかつたが綺麗に、床に飛び散つた精液やら血やらを片付けてしまつた。
「心百合、………終わったよ。-----」
「おっ、やっと終わった? ありがとう」
「ごめんな、邪魔してしまって。…………」
「んふ、………いいよいいよ、その分気持ちよかったし。-------」
さう心百合が云ふのを聞いてから、兄二人は先程まで開けることすら出来なかつた扉から出て行こうとする。
「あ、お兄ちゃん、------」
心百合が二人を呼び止めた。そして、
「-----また明日もしようね」
とはにかみながら云ひ二三回手を振つたのであるが、那央も詩乃も怯えきつた顔をさらに怯えさせただけで、何も言はずそそくさと部屋から出ていつてしまつた。
「詩乃、…………すまん。…………」
心百合の部屋を後にして扉を閉めた後、さう那央が詩乃に対して云つたけれども、云はれた本人は此れにも特に反応せず自分の部屋に、妹の精液が入つたバケツと共に入りほんの一時間前まで全ての切掛となつたダンベルがあつた位置に座り込んだ。其のダンベルと云へば、結局心百合の部屋から出る時に那央が持つてゐたのであるが、自室に入る際に階段を転げ落ちてゐく音がしたから多分、兄と一緒に踊り場にでも転がつてゐるのであらう。もう其れを心配する気力も起きなければ、此れ以上動く体力も無い。なのに体中に纏わりつく心百合の精液は冬の冷気でどんどん冷え、さらに体力を奪つて来てゐる。ふとバケツの方に目を向けると、二人の血でほんのりと赤みがかつた妹の精液が半分ほど溜まつてゐるのが見える。-------一体これだけでも俺たち男の何倍、何十倍の量なのであらうか。一体俺たちがどれだけ射精すれば此の量に辿り着けるのであらうか。一体どれほどの時間をかければ人の腹を全て精液で満たすことが出来るのであらうか。しかも此の液体の中では、男の何百、何千倍と云ふ密度で妹の精子が泳いでゐると云ふではないか。…………恐ろしすぎる、もはやこの、精液で満たされぱんぱんに張つた腹が彼女の子供を授かつた妊婦の腹のやうに見えてくる。もし本当にさうなら、なんと愛ほしいお腹なのであらうか。………だが残念なことに、男は受精が出来ないから俺たちは心百合の子供を生むことなど出来ぬ。其れに比べて彼女の子供を授かれる女性の羨ましさよ、あの美しい女神と本来の意味で体を交はらせ、血を分かち合ひ、そして新たな生命を生み出す、-------実の妹の嬲り者として生まれた俺たち兄弟とは違ひ、なんと素晴らしい人生を歩めるのであらう。だが俺たちの人生も丸切無駄では無いはずである。なんせ俺達は未だ生きてゐる。生きてゐる限り心百合に使つて頂き喜んで頂ける。もう其れだけで十分有意義である。詩乃はパキパキと、すつかり乾きつつある心百合の精液を床に落としながら立ち上がると、バケツに手を��けた。
--------と、丁度其の時、妹の部屋の方向から、ガチャリと扉の開く音がしたかと思えば、トントントン…………、と階段を降りていく軽い音が聞こえてきた。さう云へば、ふたなりも男と同じで射精をした後はトイレが近くなるらしいから、階段下のトイレに向かつたのであらう。と、詩乃は思ひながら其の足音を聞いてゐたのであるが、なぜか途方もない恐怖を感じてしまひ、心百合が階段を降りきるまで一切の身動きすら取らず、静かに息を潜めて心百合が戻つて来るのを待つた。----今ここで扉を開けてしまつては何か恐ろしいことになる気がする。…………其れは確かに、今しがた瀕死になるまで犯された者の「感」と云ふものであつたがしかし、もし本当に其の感の云ふ通りであるならば、先程階段を転げ落ちていつた那央はどうなるのであらう。多分兄貴も俺と同じやうに全く体が動かせずに階段下で蹲つてゐるとは思ふが、もし其処に心百合がやつて来たら? いや、いや、あの心優しい心百合の事だし、しかももう満足さうな顔をしてゐたのだから、運が良ければ介抱してくれてゐるのかもしれない。————が、もし運が悪ければ? 此の感が伝えてゐるのは後者の方である、何か、とんでもなく悪い事が起こつてゐるやうな気がする。さう思ふと詩乃は居ても立つても居られず、静かに静かに決して音を立てぬようそつと扉を開けると、ほとんど滑り落ちながら階段を降りて行く。途中、那央が居るであらう踊り場に妹の精液の跡があつたが、兄は居なかつた。でも其の後(ご)もずつと精液の跡は続いてゐたので何とか階段を降りきつたのであらうと一安心して、自身も階段を降りきると、確かに跡はまだあるのであるが、其処から先は足を引きずつたやうな跡であり、決して体を引きずつたやうな跡ではなくなつてゐる。…………と云ふことは、兄はもしかして壁伝いに歩いたのだらうか、------と思つてゐたら、ふいに浴室の方から声が聞こえてきたやうな気がした。最初は虫でも飛んでゐるのかと思つたけれども、耳を澄ますと矢張り、毎日のやうに聞いてゐる、少し舌足らずで可愛いらしい声が、冬の静寂の中を伝はつて確かに浴室から聞こえてくる。そしてよく見れば、兄の痕跡は其の浴室へ向かつて伸びてゐる。------いや、もしかしたら精液まみれで汚れてしまつた那央を綺麗にしようと、心百合がシャワーを浴びせてゐるのかもしれない、それに自分もティッシュで拭くだけでは肉棒を綺麗にした気がせず、もしかするとお風呂にでも浸かつてゐるのかもしれない。…………が、浴室に近づけば近づくほど嫌な予感が強くなつてくる。しかも脱衣所の扉を開けると、ビシュビシュと何やら液体が、無理やり細い管から出てくるやうな音、-----毎夜、妹の部屋から聞こえてくる、兄弟たちを虜にしてやまない"あの"音が聞こえてくる。
「あ、あぁ、…………」
と声を漏らして詩乃は、膝立ちになり恐る恐る浴室の折戸を引いた。すると心百合は其処に居た。此方に背を向け少し前のめりになり、鮮やかな紺色のスカートをはためかせながら、腕を大きく動かして甘い声を出して、確かに其処に居た。-----
「こ、こゆり。……………」
「うん? もしかして、しぃにぃ?」
心百合が此方に振り向くと、変はらずとろけ落ちさうなほど可愛い彼女の顔が見え、そして彼女の手によつて扱かれてゐる、変はらず悪夢に出て来さうなほどおぞましい"ソレ"も見え、そして、
「あんっ、…………」
と、甲高い声が浴室に響いたかと思えば腕よりも太い肉棒の先から白い液体が、ドビュルルル! と天井にまで噴き上がる。
「あぇ、こゆり、………どうして、…………」
「んふ、やっぱり中途半端って良くないよね。もうムラムラしてどうしようも無かったから、いっその事、我慢しないことにしたんだぁ。……………」
其の歪んだ麗しい微笑みの奥にある浴槽からは、彼女の言葉を物語るかのやうに入り切らなかつた精液がどろどろと床へと流れ落ちていつてゐる。……………いや其れよりも、其の精液風呂から覗かせてゐる黒いボールのやうな物は、其れに縁にある拳のやうな赤い塊は、もしかして、-------もしかして。………………
「あ、兄貴、…………」
もう詩乃には何が起きてゐたのか分かつてしまつた。矢張り、良くないことが起きてゐた。其れも、最悪の出来事が起きてゐた。-------射精は途中で無理やり止めたものの合計で四回も絶頂へ達せられたし、其れなりに出せて満足した心百合は、兄たちが"行為"の後片付けをして���る最中に読書を再開したけれども、矢張りどこか不満であつたのか、鼻歌を歌ふほど上機嫌になりつつも悶々としてゐたのであらう。何しろあの時妹の肉棒は、惨めに床を拭く俺たちを狙ふかのやうに跳ねてゐたのである。其れで、兄たちが居なくなりやうやく静かになつて、高ぶつた気もついでに静まるかと思つたのだが、意外にもさうはならない、むしろ妹の男性器はどんどん上を向いていく。あゝ、やつぱりお兄ちゃんたちの顔と叫びは最高だつた。あれをおかずにもう一発出したい。………と思つても、兄たちがバケツを持つていつてしまつたので処理をしようにも出来ず、結局我慢しなければならなかつたが其のうちすつかり興奮しきつてしまひ、ベッドから起き上がつて、一体どうしたものかと悩んだ。------いや別に、バケツはあと一つ残つて居るのだから今ここで出してもよいのだけれども、其れだけで収まつてくれる筈がない。お風呂も詰まつてはいけないとお兄ちゃん達が云ふから駄目だし、外でするなんて、夜ならまだしもまだ太陽が顔を覗かせてゐる今は絶対にやりたくない。そもそも外でおちんちんを出して自慰をするなぞ其れこそ捕まつてしまふ。どうしよう。…………さう云へばさつき、さういえば階段からひどい音が聞こえたのは少し心配である。もう二人は歩くことも出来ないのかしらん。可哀想に、歩くことも出来ないなんて其れは、其れは、……………もはや捕まえて欲しいと自分から云つてゐるやうなものではないか。さうか、お兄ちゃんたちをもう一回犯せば良いんだ。どつちが階段を下りていつたのかは知らないが、歩くことも出来ないのだから下の階には二人のうちどちらかが未だ居るはず、いや、もしかしたら二人共居るかもしれない。-------と、考へると早速部屋から出て、階段を下り、下で倒れてゐた那央を見つけると服を汚さぬよう慎重に風呂場まで運んで、そして、----ここから先は想像するのも嫌であるが、心置きなく犯して犯して犯して犯したのであらう。浴室に散乱するシャンプーやらの容器から那央が必死で抵抗したのは確かであり、其れを己の力で捻じ伏せ陵辱する様は地獄絵図であつたに違いない。いや、地獄絵図なのは今も変はりは無い。何故かと云つて心百合のモノは此方を見てきてゐるのである。ビクビクと自身を跳ね上げつつ、ヒクヒクと鈴口を蠢かしてゐるのである。此の後起こることなんて直ぐ分かる。-------逃げなくては、逃げなくては、………逃げなくてはならぬが、心百合がほんのりと頬を赤くし愉快な顔で微笑んで来てゐる。あゝ、可愛い、………駄目だ、怖い、怖くて足が動かない。…………と、突つ立つてゐると心百合の手が伸びてくる。そして、抱きしめられるやうにして腰を掴まれるとやうやく、手が動くようになり床に手を付けた。が、もう遅い。ずるずると、信じられない力で彼の体は浴槽の中へ引きずり込まれていく。どれだけ彼が力強く床に手を付けようとも、どれだけ彼が腰に回された手を退けようとも、ゆつくりと確実に引きずり込まれていく。そして、またたく間に足が、腰が、腹が、胸が、肩が、頭が、腕が、どんどん浴室の中へと入つて行き、遂に戸枠にしがみつく指だけが外に出てゐる状態となつた。が、其の指も、
「次はしぃにぃの番だよ? 逃げないで。男でしょ?」
と云はれより強く引つ張られてしまふと、耐えきれずにたうたう離してしまつた。
「やめてええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心百合と云ふたつた一三歳の、未だぷにぷにと幼い顔立ちをした妹の力に全く抗えず、浴室に引きずり込まれた詩乃はさう雄叫びを上げたが、其の絶叫も浴室の戸が閉まると共に小さくなり、
「んふ、………まずはお口から。-------」
と、思はず恍惚としてしまふほど麗しい声がしたかと思ひきや、もう聞こえなくなつてしまつた。
(をはり)
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帝京野球部物語2022 其の壱
の、前に!!
聖なる夜…。
キャっ♡何か素敵♡
そう2022年のchristmasも終わり*↟⍋*↟
皆様素敵なchristmasを過ごされた事と思います♡
子供達が小さな頃はありとあらゆる事を全てやり尽くした私です!!
(完全なる1人芝居で何役もこなしますし演技派でやらしてもらってました笑)
女将業にママに邁進していた頃は、なりふり構わずな上にワンオペでボロボロでしたが、でもどこかであの頃の自分が1番自分らしくて気に入っている私がいます。
もう今となれば我が家の子供達は大きいので
サンタクロース案件で飛び回る用事もありません。
とはいえ…。
やっぱりchristmasはやりたいじゃない♡
きっと君は来ない。1人きりの……いやいやいや
マジで冗談じゃねーし。
今年は様々な事情でchristmasパーティーは諦めていましたが奇跡的に間に合って滑り込みで毎年定番のお料理も何とか気合いで作る事ができました。
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/8e22a835f18e543f76c55c26c12b97f9/74850863fc36deec-29/s540x810/65b28311ccc7872fa7ec5be3bd68048d9914e2b2.jpg)
娘が「やっぱりママのchristmasご飯が1番好き♡」
もうすぐ20歳になる娘がマジで可愛い私です笑
ちょっと無理しても、子供達がいつか
「やっぱり家のママって最高!!」
って思ってくれる事を信じて♡
神様、仏様。 いつもと変わらないchristmasを本当にありがとう♡
そして、本日も私のブログのまとめ書きに御付き合い頂けたらと思います♡
こちらの方々を書かないと和泉屋の1年は終わらないので…♡
満を持して登場するのはやはりこちら
和泉屋と言ったら!!
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/acdc5cfe8da5772fc78a37065c25e775/74850863fc36deec-12/s540x810/3f118e3c47ec616fa7bb56cbeaea31770dacb718.jpg)
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/4b94ded710260057dbccf3ce6f1be7df/74850863fc36deec-46/s540x810/5afc1f63f10c9ac5e1d0ef6255e64532137669b0.jpg)
そう!!⚾️帝京高校野球部⚾️
今年の5月に実に2年ぶりに和泉屋に帝京が帰ってきたのです....。
いつものように和泉屋の駐車場に金田監督が運転するバスが入り停車する際のエアーの音に溢れる涙が止まりませんでした…。
おかえり。みんな…!!
いつの間にか、1年生だったのに3年生になってるし笑
当たり前か笑
そして、7月の東東京大会前の合宿。
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/3e25bbaa080ddd8e884ec1cdefceee68/74850863fc36deec-14/s540x810/aeae865d4946d48e8f052df4782080b8158aa879.jpg)
開会式が終わると霊泉寺入りして大会前の最終調整します!
3年生はこれが最後の和泉屋です…。
大会当日と同じタイムスケジュールで身体を調整する為、朝は試合当日と同じくおにぎりを食べさせるので3時起きです笑
でも頑張れちゃうのよねー♡これが!!
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/76b3c12f184d500a4dbbe78e2f52770d/74850863fc36deec-50/s540x810/7daf0ab174ee5b7d011b58db52ad569c1fbd4f65.jpg)
だってみんな可愛いんですもの…♡
てっぺんとらせたいんですもの…♡
��ーしても♡
さぁ調整が終わると和泉屋もお休みを頂き
2年ぶりの帝京応援弾丸ツアーいざ出陣!!
久しぶりの神宮…。
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/d2e9050f920f0abd74a35fe89db649d6/74850863fc36deec-c7/s540x810/362264bce0f4f2492f5b5c0d574eca79378f2a67.jpg)
そして何より見たかった金田監督のノック。。。
感激のあまり涙…。
今まで当たり前だった帝京の応援ができなくなって2年…。
結果は残念だったけど大好きな帝京野球部を近くで応援できた喜びを噛み締めた夏♡
そして、帰り際「女将さん?」と声をかけてくれたのは、一昨年東東京大会で優勝した際の主将の加田君でした。
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/8cc95ab65b1253c92d55dcf002e497ca/74850863fc36deec-c2/s540x810/cd25fa9dbaa8c7c2c4c84fcc99c5e1f20a394096.jpg)
「丸子のご飯食べたいねって昨日も話してたんですよー!」と。
ドラマチックな彼の高校野球人生を間近で見てきた私は再会できた嬉しさはもちろんですが彼の変わらない人柄にすごく心穏やかな気持ちになったのでした。
みんないつでも来てね♡待ってるよ♡ と伝えて長野へ……。
何て尊いの帝京っ子達…涙
さぁ次回のお話は夏の後半戦へ♡
こういうの壊せないタイプ♡
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/ffe92513f369b680b88baa053a036299/74850863fc36deec-22/s540x810/9281c87efe3cd7e87c4077d23f7234bc6195acb3.jpg)
つ♡づ♡く♡
にんにん
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10月11日 星期二
と言うわけで、
Tの部屋に行ってみた。
授業は午前に2時間だし、私は暇だし、何よりも奇妙だから。
前に一度、Tが体調不良の時、玄関まで後甲黃昏市場で買ったミニトマトを届けに行った。Tは文通アプリSlowlyで出会った10代の台湾人2人と暮らしている。成功大学の法学部と工学部。Tは同居人が部屋にこもってほとんど会話をしないから時々寂しくなると言っていた。ピンポンを鳴らすと早口の中文で何かしら言われたから、我是T的朋友!我是日本人。と情報を伝える。1人が階下までドアを開けに来てくれた。そこから5階まで階段。家賃が7000元にしては…。踊り場の窓から向かいのアパートメントを眺めているふりをして休憩をする。私は重力に逆らう運動が嫌いだ。5階の2。いかにもコツが入りそうな鍵をぐちゃぐちゃと鍵穴に差し込む。玄関がベランダになっている。サンダルの山をかき分ける。Tの安否を聞いてみる。英語で申し訳ない。見ないと思ったら、連絡がつかないの?真的嗎?と焦っている様子もなく言う同居人。スマホをいじりながら話す。目が合わない。どうしたいのと言われる。確かに何しに来たんだろう。返してほしいものがあると口が勝手に言っていた。部屋に何か残しているかもしれないし、興味本位で部屋を見たくなった。部屋はその人の殻だよね。
皮膚と洋服と部屋と地域と国家と地球と。
部屋開けてもらう。個別の部屋にも鍵がついてるから、円筒状ドアノブ式の鍵は自分でも開けることができそうに思えて、学生証を隙間に入れ込んで試したことがあったけど、私と大学の名前が剥げただけだったからもうしない。鍵を開ける業者を呼ぶ。業者は15分以内に来る。なんでこんな早いのかね。待ってる間に、室内にTがいる可能性に気がついた。業者を呼んでしまったから後には引けない。一応ノックする。応答はない。窓を確認しようと、玄関と反対側のベランダに出てTの部屋を覗くことを試みる。ベランダの端に置かれた洗濯機に身を乗り出して見ると、窓は閉まっていた。電気はついていない。台湾のベランダは基本的に増築されている。鉄筋の籠がベランダの開口部分にくっついている状態である。街を眺めるとき、増築空間の豊かさや籠のデザインの多様さに都市空間としての面白さを感じていた。家の内見に行った時にどうして増築するのか聞いたところ、盗難防止と洗濯物がどっか行かないためだよと言われた。なるほど、確かに実際的な理由はそうなるか。私はどうしても建築的な観点から見てしまっているものだから、実際のところ拍子抜けした。鍵も増築空間も、華人文化特有の外部への警戒心からくるものだったんだな。毎日六つの鍵を持ち歩いてるし、そりゃ部屋に締め出される人も多いだろうよ。ベランダを囲む錆びついた鉄格子に触れる。囲まれてるのに、開放的。向かいのベランダの洗濯物の間からリビングでうたた寝する老人とさらにその向こう側にベランダが垣間見える。エドワード・ヤンの映画で、外から窓から見える内部を撮ったシーンを思い出す。エドワード・ヤンと小津安二郎の撮る空間のレイヤー感は明らかに類似してるし意識されてるだろうけど、ずっとピンと来てなかった。台湾に来て実際に住宅に入り込んで初めて体感できてる。日本の伝統的な住宅のレイヤー感と、台湾のアパートメントの増築部分から部屋の中への空間のレイヤー感。台湾の場合は、日本のそれを垂直方向に積み重ねているようだね。楽しいな。好きだな。
部屋に入る。
こもった湿気の匂いがする。あと、Tの匂い。柔軟剤とこの部屋の埃とThe body shopのボディクリーム、グレープフルーツ。Tはグレープフルーツを食べないけど、匂いが好きらしい。わかるな。
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/0e59789cfe3b7cffc788001420ae2bb7/b94427a0d750918e-3b/s540x810/70d1261f21b4eb17991efae79004bd82013e0b32.jpg)
![Tumblr media](https://64.media.tumblr.com/1edf003d7b066613526e377c79877ec3/b94427a0d750918e-b2/s540x810/6f62b957def5c38bf17fcfef2f6eed2397cd67bb.jpg)
部屋は物が多いものの汚くはなかった。変ではあった。壁に大きく貼られたトレーシングペーパーに台南の地図がピンクの油性ペンで描かれており、廟と書かれた紙切れが大量に貼られている。こっわ!あとは、2000年代初期のビデオカメラとTの証明写真が目に止まった。証明写真があるってことは、VISA取ろうとはしてるね。ビデオカメラは何か記録が残ってそう。確認するために持ち帰って良いかな。今日はこれくらいで。
とってきたものは今度共有するね。
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勝生勇利の可憐なる愛
『好きなスケート選手は誰ですか?』 画面の中で、幼い勇利が頬を上気させて答えた。 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です』 『目標にしている選手はいますか?』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です。彼のスケートは実際うつくしいですし、目を奪われます』 すこしだけ成長した勇利がそう答えた。 『あこがれの選手は?』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です。彼はすべてが輝いています。いつも優雅で、かっこいいです』 『尊敬している人はいますか?』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です。演技もすばらしいですが、競技にのぞむ姿勢が、厳しくて、鋭くて、崇高だと思います』 『会ってみたい人はいますか?』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です。会いたいというか……いつか彼と同じ試合に出たいです。同じ氷の上に立ちたいです』 『勝生選手、あなたにとってのヒーローは?』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手です』 『彼のどういうところが好きですか?』 『ええっと……、ぜ、全部です』 『ヴィクトル・ニキフォロフ選手に話しかけるとしたら、どんなことを言いたいですか?』 『えっ……』 大人になった勇利はまっかになって頬を押さえた。 『何も……』 『何も?』 『恥ずかしくて、とても話なんかできません』 勇利は本当にヴィクトルが好きで、ヴィクトルはそれを常々感じており、勇利の愛こそ崇高だと思っていた。勇利は純粋で、打算や計算などを胸に持たず、瞳はいつも澄んでいた。 ヴィクトルは、勇利の昔の映像を見るのが好きだった。勇利はいつでも、誰かひとりの名を挙げて欲しいと要求されると、ヴィクトルについて口にした。ほかの誰のことも言ったりしなかった。画面の中の勇利は、大会のたび、インタビューのたび、ヴィクトルへの深い尊敬と愛情を少ない言葉で語った。ヴィクトルが勇利を知らないころの勇利は、ヴィクトルのことを知っており、そのころからずっとヴィクトルを好きだと言い続けているのだ。背が伸び、頬のまるみが落ち着き、四回転が跳べるようになっても、彼のヴィクトルへの想いだけは変わらなかった。ヴィクトルはその映像を見てはうれしくなり、自分も勇利への愛を感じ、いい気持ちになるのだった。 ノックの音がして、勇利が入ってきた。彼はヴィクトルの洗濯物を抱えており、眉を吊り上げていた。 「もーっ、ヴィクトル!」 ヴィクトルの顔を見るなり勇利は文句を言い始めた。 「洗濯機に入れるときは、ちゃんと表に返してって言ってるじゃん! シャツも靴下も、みんな裏返ってたんだよ!」 勇利はヴィクトルの鼻先に洗濯ものを突きつけながら責め立てた。 「裏返しのままたたんでやろうかと思ったよ! これ言うの何回目だよ!」 「ごめん」 ヴィクトルは素直に謝った。しかし勇利の怒りはおさまらないようだ。 「そうやって毎回謝るのに、ちっとも改善されないよね! ほんとに悪いと思ってる!?」 「それは……思ってるよ」 「なにいまの変な間!」 「いや、思っている。勇利、ごめん」 悪いとは思うのだが、こごとを言う勇利がかわいくて、ヴィクトルはあまり話を聞いていなかった。 「思ってるならちゃんとしてよ!」 勇利はぷりぷりした態度で頬をふくらませた。 「ぼくが怒って、ヴィクトルがごめんって言って、そういうやりとりが永遠に続くようじゃだめなんだよ!」 「永遠……」 「そうだよ! 何回も同じこと言わされて……」 「いいね。勇利と永遠に一緒にいたい」 勇利の目つきがさらに鋭くなった。あ、とヴィクトルが思うと同時に、彼の声が大きくなった。 「貴方本当に悪いと思ってるの!?」 「思ってるよ。悪かった」 「自分が洗濯するときもこうなの? 気にならないの? まったく……。次やったら、裏返しのままたたんで突き返すからね!」 「了解」 「まったくもう……」 勇利はぶつぶつ言いながら部屋を出ていこうとした。丁寧にたたんだ洗濯物を大切そうに抱えている。ヴィクトルの衣装戸棚に片づけるつもりなのだろう。 「勇利」 ヴィクトルは勇利が家にいるという日常にきゅんとし、胸のうずきを感じながら呼び止めた。 「なに?」 「かわいい」 「は?」 「勇利はかわいい」 「…………」 勇利は疑わしそうにじろじろヴィクトルを見たあと、そっけなく言った。 「そういうのいいから」 「本気で言ってるんだ」 「はいはい」 「勇利は清楚で純真でうつくしい。慎ましやかで肌が綺麗だ」 「わかったよ。どうもありがとう」 関心なさそうに勇利は言い捨て、「肌が綺麗って何なんだよ……」とあきれながら出ていった。彼はヴィクトルからの賛辞など気にしておらず、まったくどうでもよいといった具合だった。 ヴィクトルはノート型のコンピュータの中で停止したままの、ナショナルジャージ姿の勇利を見た。彼はまっかな頬で、「恥ずかしくてヴィクトル・ニキフォロフ選手とはとても話なんかできません」と語ったばかりで、ひどくあどけない表情だった。この映像はかなり昔のものというわけではなく、少なくともいまより二年以上前ということはなかった。 「…………」 ヴィクトルは、画面の中の勇利に向かい、閉まったばかりの扉を指さして語りかけた。 「いまの勇利はこんな感じ」 勇利がどんな感じであろうと、ヴィクトルは彼を深く愛しており、昔の映像を見て「勇利がかわいい。可憐だ。なんていちずなんだろう」と感激するのと同じように、そばにいる勇利を見て、「かわいい。しとやかでうつくしい。楚々としたところも身勝手なところも、何を言っているのかよくわからないところも、すべていとおしい」とくびったけだ。ときどき気持ちがあふれ出して止まらなくなり、勇利を抱きしめて彼の抗議も構わずキスすることがあるのだが、そうするだけではもう我慢できないところまでヴィクトルは来ており、いよいよ進退きわまったといった具合だった。 「勇利、好きだ」 ヴィクトルは、ベッドに腹ばいになり自分のノート型コンピュータで練習風景をおさらいしている勇利にささやいた。 「うん」 勇利はあきらかに聞いている態度ではなく、幾度も映像を戻しては演技の確認をしている。 「愛してるよ」 「うんうん」 「勇利、聞いてくれ。俺は──」 「そんなことよりさ」 勇利は熱心に自身を観察しながら言った。 「この演技について何か助言してよ。今日ヴィクトル、練習途中で帰っちゃったから、これ見てなかったよね? 自分ではしっくり来ない感じがあるんだけど、トレーナーはいいって言うし、ヤコフコーチも何が気に入らんのだみたいな態度だったんだよ。気に入らないっていうんじゃないんだけど、なんか……なんかさ……」 「勇利。それは明日にしよう」 「だめ。いま」 「明日だ」 「いま」 「勇利」 ヴィクトルはコンピュータを強引に閉じて勇利を振り返らせた。勇利は「何するんだよ」とくちびるをとがらせながら抗議し、しかし、ヴィクトルの真剣な目を見て口をつぐんだ。 「……なに?」 「いい?」 ヴィクトルは静かに、情熱的に言った。 「何が?」 「わかるだろ」 「……わかんないよ」 「好きだよ」 「それはぼくもだけど、だからなに?」 「わかるだろ」 「わかんないってば……」 「勇利……」 ヴィクトルは勇利を抱きしめてくちづけした。勇利はすこし身構えるように身体をかたくしたけれど、抵抗はせず、されるがままになってじっとしていた。 「好きだ」 ヴィクトルは鼻先をふれあわせてささやいた。勇利は赤い頬をして何も言わない。 「好きだよ」 「…………」 「勇利を愛してる」 「…………」 「きみのことが……」 「もうわかったよ……」 勇利は上目遣いでヴィクトルをちらと見、目が合うと急いでそらしてうつむいた。その愛らしいしぐさにヴィクトルはのぼせ上がってしまい、勇利のコンピュータを押しやって、くちびるを合わせながら彼に身体を重ねた。勇利は、ヴィクトルが寝巻を脱がせても、下着の中に手を入れても怒らなかった。もっとすごいことをしても反対しなかった。彼は熱い吐息を漏らしてまぶたを閉ざし、ヴィクトルにしがみついて、甘えるように頬をすり寄せた。 「いい……?」 ヴィクトルが尋ねると、勇利はうるみきった瞳を上げてとろけるようなまなざしを示し、おぼつかない口ぶりでつぶやいた。 「わかるでしょ……」 翌朝のヴィクトルは、勇利が目ざめるよりさきに起きて、彼のおとなしやかな、清純な寝顔をずっと眺めていた。とくに変わったことはなく、勇利はただ深く眠っているだけだというのに、見ていてちっとも飽きないのだった。やがて勇利は、ヴィクトルがカーテンを開けておいた窓からのひかりに眉を寄せ、わずかに顔をしかめて、それからゆっくりと目をひらいた。 「おはよう」 ヴィクトルはほほえんだ。勇利の黒い瞳が一瞬きらめき、不思議そうにヴィクトルを見た。急に彼は気恥ずかしそうに頬を赤くして、もぞもぞと掛布の中にもぐっていってしまった。 「勇利、どうした?」 「…………」 ヴィクトルは勇利の顔が見たかった。飾らない、ヴィクトルと抱きあったそのままの素顔が見たかった。けれど勇利はしっかりと掛布を握りしめ、ヴィクトルがそれをはぐるのに必死に抵抗した。 「勇利?」 「見ないで……」 かぼそい声がおずおずと答えた。ヴィクトルはぱちりと瞬いた。 「見ないでよ……」 「……なぜ?」 「……恥ずかしいから」 ヴィクトルは笑い出した。まるくなってしまった勇利の身体をふとんの上からぽんぽんと叩き、優しくあやしてやった。勇利はしばらく籠城して口も利かなかったけれど、そのうち、もぐりこんだときと同じように、もぞもぞと身じろいですこしだけ顔を出した。 「ん?」 もういいのかい? とヴィクトルは勇利の瞳をのぞきこんだ。すると勇利は、ぱあっとまた頬を赤く染め、ふとんの陰に隠れてしまった。 「勇利?」 「あぁあ……かっこいい……」 「え?」 「ヴィクトルがかっこいい……しんじゃう……」 「…………」 勇利はしばらく、ヴィクトルかっこいい、どうなってるの、人間じゃない、宇宙人、世の中おかしい、いや正しい、と謎のせりふをぶつぶつとつぶやいていた。どうしたものかとヴィクトルが考えこんでいると、彼はまたそっとヴィクトルの様子をうかがい、今度は隠れてしまったりせず、ヴィクトルの胸に顔をうめて声を絞り出した。 「あぁ……おかしくなりそう……ぼくおかしくなりそう……!」 「…………」 かわいい……。ヴィクトルは目を閉じ、てのひらで口元を覆って、変なうなり声が出るのを押さえた。おかしくなりそうなのは俺のほうだと思った。 「なんかもう生きていけない気がする……。こんなことになって……こんな……ヴィクトルと……こんな……」 勇利が夢見るように言いつのった。 「だって、ヴィクトルだよ……? あのヴィクトル・ニキフォロフだよ……。かっこよくて、優しくて、わけわかんなくて、宇宙人で、でも優しくて、声がすてきで、セクシーで、優しくて、かっこよくて、かっこよくて、かっこいい、あのヴィクトルニキフォロフだよ……」 「ゆ、勇利?」 「そのひとがぼくに……ぼくにさわって……あ、あんな……あんなことや……こんな……」 「勇利」 「こんな……あああ思い出したらやばか!」 勇利はふとんごともじもじと揺れ動き、ヴィクトルにぴったりとくっついた。彼のけなげな大きな瞳がじっとヴィクトルをみつめた。ヴィクトルは胸が甘く、つらいくらいだった。 「ちいさいころから……ずっと好きだったヴィクトル……」 勇利が駄々をこねるようにヴィクトルに額をこすりつけた。ヴィクトルは、そんなことばっかり言ってると朝から襲うぞ、と思った。ヴィクトルこそゆうべの勇利の愛らしさや儚さ、色っぽさ、いじらしさを思い出すにつけ、おかしな態度になりそうなのだけれど、こんな勇利を見ていると、自分がしっかりしなければという決意がわいてくるのだった。 「勇利、生きてくれ。俺をひとりにするつもりか? 愛する勇利がそんな……」 「ああー待ってください皇帝陛下!」 勇利が遮るように叫んだ。 「愛するとかやめて! 愛するはだめ!」 「なぜ? 俺は勇利を愛してるんだからごく当たり前の呼び方……」 「だめ! それはだめ! ぼくの心臓を止める気!?」 勇利は断固として拒絶し、「それはだめ」と言い張った。 「勇利、ずるいぞ。俺は──」 「ときめきすぎてしんじゃうから!」 「…………」 「しんじゃうからだめ! ぼくヴィクトルのことになるとだめなんだ!」 そんなおまえに俺がときめきすぎてしぬ。ヴィクトルは勇利のかわいらしさに苦しみさえおぼえた。 「はあ……」 一方勇利はひと息ついたのか、ヴィクトルの胸に頬を寄せてぼんやりしていた。 「はあ……」 「…………」 「はあ……」 「……勇利」 「なに……?」 「何か言ってくれ。ゆうべはどうだったのかとか。俺をどう思っているのかとか」 「え。え。どうって……」 勇利はまっかになったあと、両手でおもてを覆った。 「どうってなに!? 何を言えばいいの!? な、なんか具体的な……? どこでどう思ったとか、こうされたときどうだったとか……? えっちって、翌朝そんな試練があるものなの!?」 「いや……試練というか……」 「ごめんそれは無理!」 勇利が申し訳なさそうに、全力という様子で謝罪した。 「無理です!」 「いや、だったらいいけど……」 「ヴィクトルのことで頭いっぱいでどうにかなっちゃいそうなんだから、ぼくのことはほっといて! そっとしといて!」 「…………」 「慈悲を与えて!」 「……わかった」 ヴィクトルはひとりになる必要を感じた。彼は勇利を愛しており、もうこれは以上愛せないと思っていたのに、一夜をともにしたことでその愛はますます深まっていた。こんな勇利を延々と見せつけられたら、いろいろとたまらなくなる。彼とまだ寄り添っていたかったけれど、あまりに愛らしい勇利を過剰摂取し続けると自分がどうなるかわからなかったので、とりあえず冷静になるために離れようと思った。 「じゃあ俺は朝食をつくってくるね。勇利はベッドでゆっくりしておいで。もし起きるのがつらいようならずっといてもいいよ。食事は運んであげる。大丈夫ならシャワーを使って……」 ヴィクトルが起き上がり、シャツを羽織ってベッドから降りようとすると、勇利が裾をきゅっとつかみ、うつむいて引き止めた。 「どうした?」 「…………」 「勇利?」 勇利の赤い頬がりんごのようで、ヴィクトルはふれてみたかった。しかしふれるとそのさきもしたくなるので我慢した。勇利がぽつりと言った。 「……ぼくも行く」 「え?」 「ヴィクトルが起きるならぼくも起きる……」 ヴィクトルは目をまるくした。 「一緒に行く……」 「…………」 ヴィクトルはてのひらを目元に当てた。勇利、それってつまり……「ひとりにしないで」「ヴィクトルと一緒がいい」っていう……そういう……。 ヴィクトルは深呼吸をした。落ち着かなければ。こんなに気持ちをかきみだされたのは初めてだ。いや──ゆうべもいろいろあったのだが、それとはまたちがった感じがある。 「……わかったよ」 ヴィクトルはにっこり笑った。 「じゃあ一緒に行こう。愛する勇利」 「だから愛するはだめだって!」 「……抱いていこうか?」 「いい! いいから!」 ヴィクトルに抱き上げられることは了承しなかったけれど、勇利はヴィクトルの大きなシャツを着、ヴィクトルの服の裾をつかんだまま、ちょこちょことついてきたので、ヴィクトルはまためまいをこらえなければならなかった。俺シャツで俺のあとをついてくる……! 勇利がかわいい……。 「座って」 ヴィクトルは勇利を席につかせた。 「すぐできるものにするね。簡単で悪いけど」 「なんでもいい……」 「よし。じゃあ待っていて」 ヴィクトルはおなかをすかせた勇利のために、てきぱきと朝食の支度にとりかかった。勇利は邪魔をしなかったが、そのあいだじゅうヴィクトルにうっとりと見蕩れ、「ヴィクトル、かっこよか……」「料理するヴィクトルってすてき……」「男らしい背中たまんない……」「ヴィクトルのごはん……」「普通のシャツ着てるのにかっこいい……」「なんであんなにかっこいいんだろ……」「意味わかんない……」「かっこよすぎる……」「スケートしてるヴィクトルしぬほどかっこいい……」「でもいまは別の意味で泣くほどかっこいい……」などとつぶやいていた。 「勇利……」 「えっ、なに?」 「俺も勇利のこと、かわいいと思うよ……」 「ああー、そういうのいいから! いいから!」 勇利は両手の向こうに顔を隠してしまった。ヴィクトルは牛乳をかけたシリアルとヨーグルト、卵料理、スープを勇利の前に並べた。 「さあ食べて。飲み物は紅茶でいいかな」 「ヴィクトルの卵料理! 目玉焼き!」 「ちょっとつぶれちゃって……ごめんね」 「そんなのいい!」 勇利は目を輝かせてきっぱりと言った。 「ヴィクトルの目玉焼き! エンペラーサニーサイドアップ!」 「エン……なんだって?」 「ニキフォロフ食堂のエンペラーサニーサイドアップ!」 「…………」 「いただきます!」 勇利はひとしきり騒いだことでとりあえずは落ち着いたのか、フォークを取ってゆっくりと食べ始めた。ヴィクトルはふうと息をつき、自分も席について、愛するきよらかな子をさりげなく眺めた。黒髪は輝き、黒い瞳は幸福を帯びて、うつくしい食事作法の全体的にきちんとした様子はかわいらしかった。勇利が、たまらなくいとおしかった。 「……ヴィクトル……」 勇利が静かに呼んだ。彼のフォークは空中で止まり、視線はぼんやりしていた。 「なんだい?」 「ぼくたち……、その、ゆうべ、えっ……」 「…………」 「…………」 「…………」 「……ち、」 「…………」 「……したんだよね……?」 「……えっ?」 ヴィクトルは訊き返し、しばらく考えこんだ。あまりに間が空いたのでよくわからなかったが、常識的に組み立ててみれば、「えっち、したんだよね」ということになるのだろう。たぶん。 「……そうだよ」 ヴィクトルは微笑して優しく答えた。すると勇利は勢いよくうつむき、また両手を顔に当ててふるふるふるえながら、「し、信じられないよ」とささやいた。耳まで赤くなっていた。 「本当のことだよ」 ヴィクトルはあたたかく言った。 「し、したんだ」 「そうだよ」 「したんだ……」 「ああ」 「そ、そっか……」 後悔しているのだろうかとヴィクトルはすこし心配したが、勇利の口元はほのかな笑みをふくんでおり、うれしそうだったので、心底からほっとした。 「したんだぁ……」 勇利がほっぺたに手を添えた。彼はこのうえもなくしあわせそうで、頬はばら色に上気していた。ヴィクトルは、絶対おまえをしあわせにするからな、と思った。俺の勇利……。 「……勇利、身体は大丈夫かい?」 ヴィクトルは気遣った。 「俺もいろいろとせっぱつまっていたから、乱暴なことをしたんじゃないかと思うんだけど……」 「そ、そんなことないよ。や、や、優しかったよ」 「そうかな。それならいいんだけど、……痛くしなかった?」 勇利は顔を上げ、ぽかんとした表情でヴィクトルをみつめた。彼はすぐにまたうつむいて、絞り出すような声で答えた。 「だ、だ、大丈夫です……」 「そうかい? だったらよかった。でも、もし何かあったのなら遠慮せず言ってくれ」 「何もないよ。何も……その……」 勇利はテーブルの上でぎゅっとこぶしを握りしめた。 「き、き、きもちよかっ……」 「…………」 「ああー!」 勇利は顔を上げられないようだった。 「なに言ってるんだろぼく。なに言ってるんだろぼく」 彼は羞恥のせいか目をうるませ、そっぽを向いて口早に頼んだ。 「忘れて。いまのは忘れて」 「…………」 「忘れて!」 「……わかった」 ヴィクトルは便宜上笑顔でそう答えたが、一生忘れないぞ、と思った。そうか。勇利は気持ちがよかったのか……。 次はもっと気持ちよくしてやるからな。 勇利は疲れたのか、それ以上は何も話さず、電池が切れたかのように静かになって、もくもくと食事をした。ヴィクトルは洗い物も自分がすることにして、勇利に、「居間でやすんでなよ」と勧めた。 「う、うん。ごめん。ありがとう……」 「いいよ。ゆうべはたくさん無理させたからね」 「む、無理とか……」 ヴィクトルは流しに向かい、シャツの袖をまくって濡れないようにした。「ヴィクトル……」とおずおず呼びかけられたので、もう行ったと思っていたのにと首をかしげつつ振り返った。 「なんだい?」 「……あの」 勇利は近づいてくると、ふいにヴィクトルに抱きつき、背中に顔をうずめた。ヴィクトルがびっくりしているあいだに、彼はちいさくひとこと。 「す、す、好き……」 「…………」 「……です」 「…………」 「……じゃあ!」 勇利はさっと離れ、ぴゅーっと居間のほうへ逃げていってしまった。ヴィクトルは前を向き、スポンジを取って食器を洗い始めた。つるっと手がすべって器がものすごい音をたて、あやうく割ってしまうところだった。 「ヴィクトル、いまの音なに!?」 「だ、大丈夫だ。大丈夫……」 精神的には、ちっとも大丈夫ではなかった。 「ヴィクトル! ヴィクトル!」 勇利が叫んでいる。あの物言いは怒っているときの勇利だなとヴィクトルは思った。どうやら自分はまた何かしでかしたらしい。 「ヴィクトル、ちょっと!」 勇利は洗ったばかりの敷布を抱え、さらに手にヴィクトルの衣類を持って現れた。 「また裏返しで入れたね!」 「ああ……」 ヴィクトルは前髪をかき上げた。 「いつになったらこの癖が直るの? 一生直らないの? 本当に努力してるの?」 「勇利、勇利。そう怒らないでくれ。悪かったよ。ついぼんやりしてしまったんだ。最近はちょっと気をつけてただろう? たまたまなんだよ。いまがんばっている最中なんだ」 「本当かな」 勇利は疑わしそうにヴィクトルを見やった。ヴィクトルは神妙な顔つきで、「本当だ」と誓うようにうなずいた。 「勇利の言ったことをおぼえているようにはしてるんだけど、たまに浮かれたりして上の空になると、どうしても気が抜けてしまうんだよ」 「お風呂に入るのに、いったい何を浮かれる必要があるんだよ」 「それはもちろん、勇利と一緒に入りたいなとか、今日の勇利はかわいかったなとか、そういうことだよ」 勇利はヴィクトルの真剣な甘い言葉に惑わされることなく、厳しい物言いできっぱりと言った。 「そういうのいいから」 彼は指を振りたて、学校の先生のようにヴィクトルに言い聞かせた。 「ぼくのことなんか考えなくてけっこうです。そんなことより、脱いだものを表に返すことに気力を使ってください」 「でも勇利……考えなくても浮かんでくるんだ……勇利がかわいくて……」 「そういうのいいから」 ヴィクトルは溜息をついた。彼は、「今日の勇利はこんな感じ」とつぶやいた。 「なに!?」 「いや、なんでもないよ。とにかく俺が悪かった。気をつけるよ」 「表にするくらいちゃんとしてよ」 勇利はくるりときびすを返し、すたすたと部屋から出ていこうとした。彼はふいに扉のところでぴたりと足を止めると、洗いたての敷布とヴィクトルのシャツを抱きしめてそれに顔をうずめ、かぼそい声でつぶやいた。 「……でも、ヴィクトルがベッドでぼくを表返すときの手並みは見事だと思うし、あれ、……好きだよ」 ヴィクトルは目をまるくして勇利をみつめた。後ろ姿の勇利の耳は、まっかになってかわいらしかった。ヴィクトルはゆうべのことを思い出した。いや、ゆうべだけではない。勇利はヴィクトルと甘く愛しあう夜は、最初、必ず恥じらって背を向け、ちいさくなっているのだが、ヴィクトルはそんな彼の肩に手をかけて、優しく振り向かせるのだ。そして抱きしめてくちづけ、そのあと……。 「そ、それじゃ」 去ろうとした勇利にヴィクトルは急いで近づき、彼の肩に手を置いた。勇利の身体を向こう向きからくるりとひっくり返すと、勇利は洗濯物で顔を隠していた。 「な、なに……?」 「愛してるよ勇利」 「そ、そういうの……いい……から……」 「よくないだろ」 ヴィクトルは勇利を抱き上げた。勇利が慌ててヴィクトルの腕をつかんだ。 「ヴィクトル! まだベッドの支度できてないから!」 「俺が昼間に新しい敷布を出してやっておいたよ」 ヴィクトルはにっこり笑って机のほうを振り返った。机の上にはノート型のコンピュータがあって、画面には、ヴィクトルについて語る、気恥ずかしそうな勇利の映像が流れていた。 「今日の勇利はこんな感じ」
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もうくさくなっています
あの、小さな赤いシャベルをどうしただろう。
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ある一点を除いて私たちの計画は完璧だったので、それからも日々は何気なく続いた。汚れを落としたレインコートや手袋の類は衣類とあわせて洗うと翌日には乾いて、翌々日にそれらは収集された。通学路や事務所に行くため乗り換える駅、友達の輪やうわさ話、どこにもその喪失はあらわれなかった(少なくとも私たちが知ることはなかった)。あれ、と思うことがあっても誰もそのかたちを思い起こすことはないし、次々襲う生活の起伏はそんなもの簡単に置き去りにできるほど切実でせわしい。私たちはよく笑ったし、しっかりと生きた。指先をあと一センチ伸ばせたら、半音だけ高い声を滑らかに出せたら、そんなことで人生はすぐいっぱいになった。 それに、周子といる時間が増えた。わけもなく互いの部屋を行き来するようになった。私たちはあった。話したり、話しもしなかったり、机に向かう私の横顔を周子が眺めたり、ふたりで映画を見たりした。楽しいときもべつに楽しくないときもあって、それは大事なことじゃなかった。 部屋には簡単な鍵がついている。私は寮にいる間はめったにかけないけれど、ノックもせずに入ってくるのは周子しかいない。それは内緒で合鍵を作って渡すのとはまるで意味が違う。私は許していた。そういうふうに大事なものを差し出していた。 今日も彼女は私の部屋にいる。私がシャワーを済ませるとベッドで横になっている。最近は、そういうことが多い。本当に眠ってしまっているらしく、私の名前を呼んだり笑ったりしない。とりあえず、あまり静かなので起こさないよう机に向かう。すると大体は、イディオムや数式は頭によく入る。けれどそれだけ。記号だけが残り意味はすり抜けていく。それは病食によく似ている。味は感じられなくても、栄養は豊富にある。おかげで模試の成績は良い。この調子なら志望校には問題なく入れそう。筆記も、もちろん実技も問題はない。仕事だってうまくいっている。問題はない。何も。 そのうち周子が目を覚ます。だらだらと身体を起こすと(後ろ髪が、幼くて恐れを知らない獣みたいにぴんと跳ねている)、視線をこちらに向ける。そうして、何も言わない。私は応える。黙って勉強を続ける。彼女は冷凍庫からアイスを出して食べたりする。机の上に置いてくれるから、私も食べる。 二十三時を過ぎると参考書を畳んだ。そのときやっと、「おつかれ」と周子は言った。とりとめのない笑顔には、背すじをぞくぞくさせたり胃を痙攣させたりする、そういうおぞましさがあった。 洗面室に行く途中、階段から下りてきた紗枝に会う。彼女は小さく手を振ると、「ええ夜どすなあ」と柔らかく言った。私は頷いた。「とても」と答えて、その先の言葉が何も出てこないのに驚いた。「夜更かし? めずらし」と周子が声を引き取ってくれたので、きっと、いい夜はつながった。 「イワナのてんぷらがな、おいしかったんよ」と彼女は言った。並んで歯みがきをしながら、思い出すみたいに。「せやから幸せで、うまく寝つけへん」 「夕ご飯?」 「そ、ふたりが食べれへんかったやつ」 「そんなにおいしかったの?」 「ふぇやなあ……」一度ぺっと吐き出して紗枝は続ける。彼女は最近、少しお行儀が悪い。「最近、多いんよ。幸せで、こう、あたまん中がいっぱいになって、前みたいにできへん。朝が、すこうし寂しい。けど夜が��たらまた幸せになって、くり返しやわ」 そう言った彼女の目尻が五ミリ下がったとき、ある山林の地表がそっと隆起を起こしナラの浅い根がかすかな悲鳴をあげた。ひっというその声は毛細管から樹幹を伝い数万本の葉脈から放散すると大気を伝い、私の耳にあのシャベルを地面につきたてた瞬間の鈍い刺突音として届いた。 「そないなこと、あらしまへんか?」 私に、紗枝は言った。 「あらしハッヒーふぇもさいあくふぇもねれるたいふ」と言って周子がむせる。紗枝は笑って「もう、だらしないんやから」と言った。それでも、私を手離すつもりはないみたいだった。 私は答える。 「眠るのは苦手。昔からね」 そう言ってうがいをした、その水は信じられないほど冷たい。口の中がすうすうとして、枯れた樹林の感じる凍えを全身に与えた。そういうものを体内にとどめるのは得意だったけれど、鏡を見る気にはなれない。視界の隅にうつる鏡面の私はシャベルを手に呆けている。周子が駆け寄ってきて肩に触れる。空想は、紗枝が「そら難儀やなあ」と答えてコップを置くと砕けて終わる。かすかな高い音が鳴り止むのを待って、「うちの秘訣ならいつでも教えるさかい、聞きにきてな」と続けた。 去り際に「周子はんもやで」とつけ加える、その影が角を曲がって床を染めなくなるまで私たちは見ていた。あえて歩調を緩めていたのか廊下が延々と伸び続けていたのか、長い時間だった。 「イワナ、食べたかったね」と歩きながら周子が言う。とてもそんなふうには聞こえかったので、「そうね」とだけ答えた。実際、私たちには無理だろうと思った。いつまで、と(おそらく私が)言うが答はなかった。 部屋に戻ると、アラームの時刻を設定しなおしたり(明日は休日だった、きっと)二重のカーテンを隙間なくしっかり閉じたり、バッグの中身を一つひとつ確かめたり、儀式めいた行為をする。その間に周子はベッドに入っている。そうすると、そこは少しだけ温かくなる。私は守られている、そう感じる。 あかりを消す。何も見えなくなった、暗澹としたうろ穴を底の方まで手探りで渡ると今夜もベッドがちゃんとある。私がもぐり込むと隣には周子がいて、ごり、とくぐもった破砕音が聞こえる。彼女は私に覆い被さって、眠るためのキスをくれる。舌が入ってきて、私のとまじると粉々にされた何かが流れ込む。喉の奥、体内のひだに破片が一つ引っかかり、溶けて落ちた。 それは、ひどく苦い。 唇が離れる前に、「おやすみ」と周子は言う。私も同じことを言う。それ以上、私たちは何もしない。そのことについて意見を交わしたり体を触り合ったりしない。ただ、手をつないでいる。それはいつ始まったか明確で、いつ終わるのかがわからない。 (幸せで、うまく寝つけへん)と紗枝は言った。 私も、と笑えば良かった。
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文香ちゃんの落ち方は完璧だった。オレンジ色のマットレスに両足でしっかりと着地したら力を抜いてごろんと後ろに倒れる。彼を知り己を知れば百戦危うからずだ、とあたし受け売りにも思い出した。 「すごいじゃない、もしかして練習してきたの?」と奏ちゃんが言う。 「賢者は歴史に、経験にさえも学ぶものです」と文香ちゃんは答えた。乱れた前髪から透けた目は、らんらんとかがやいていた。 こうして、ボルダリングが始まった。元はアイドルの要望から特別講座として始まったレッスンだったけど、教室を借り上げて月二の定例になって少しずつ人数は落ち着いた。あたしや奏ちゃんは好きで通うことも多かった。文香ちゃんは初めてで、あたしたちは顔見知りのインストラクターに適度な距離で見守られながらほとんど三人で、文香ちゃんが上達していく様子を親心みたいな気持ちで眺めて過ごした。もともと(持久力は置いておいて)体格には恵まれた彼女だったし、頭が良くて、何より練習を嫌わない。見るみるうまくなって、そのたび次を目指す姿を見ていると嬉しくなった。 一方で、奏ちゃんの体はあまり向いていない。だいたい筋肉も、それを形づくる食も彼女は細い。そういう体質だから技術は自然に磨かれていって、時間をたっぷりかける登り方を身につけていた。ルートの構築は見事で、そこしかないという場所にある青いストーンを掴んだ彼女にあたしは野次を飛ばした。何か詩的に(まだ余裕があるらしい)答えたけど、ろくに聞こえなかったのであたしはただ笑ってみせた。腕が細かく震えているのは実際おもしろかったけど、そういう子だ。無理はしてほしくなかった。 「少し、つらそうですね」と文香ちゃんが言う。その何気ない言葉はあたしの平衡感覚をたやすく奪うだけ奪って、すっと流れ去った。気持ちを落ち着けている間に空気とすっかり混ざったそれは、やっとかき集めたときにはひどくいびつな形をしていた。どうやって返すか迷っている内に「無理をしていなければ良いのですが」と彼女は続けた。 (それは、どっちの?)と空想のあたしが訊く。 (おふたりが、隠していることについてです)と彼女は答える。会話は続く。 (話したら楽になるかな) (今よりは少なくとも、確証は持てませんが) (歴史に学ぶってやつ?) (私は、迷える愚者ですよ) (ならあたしはもっとあほやわ) 「周子さん」と彼女があたしを呼ぶ。「美しいと思いませんか」と、前髪をしっかり分けて高くたかくを見つめている。 そこでは奏ちゃんが、手を伸ばしている。完璧な、お手本みたいなルートを登った先にある一つの選択肢、あるゴールにたどり着くかもっと先へ進むための道を選ぶか、彼女は後者を選ぼうとしていた。左足のつま先をよすがにして重心はできるだけ壁の方へ、繊細で壊れやすい左腕はとっくにやめようと震えながら叫んでいるのに、彼女はそうしない。強い意志が必要だろう。体は心よりずっとわがままだから、抑えつけて、言うことを聞かせるためには覚悟がいる。 いま左手がついにそのストーンを掴んだ。小指から親指へと岸壁に鈎をつき立てるように、そしてその奥深くにたくわえられた地殻の重力を壁面に作用させる大自然の魔法のように彼女の手のひらはそれを決して離さず、安寧の地から見たことのない高原へ飛び込んでいった。 そうして、彼女はまた先を見る。それで小さく笑って(美しく、すべて新たな世界の景色が遠くまで開けたみたいに)、ちょっとだけ下の方を見ると合図をして飛び降りる。冒険の終わりにふさわしいきれいな着地をして、タオルで汗を拭ったり水を飲んだりすると「思ったより、できるものね」なんて涼しげに笑ってみせた。楽しいと、その目が言った。 「楽しかった?」とあたしは訊く。彼女は少し考えて、「ええ」と答えた。唇のはじがかすかに、ほんのかすかに上がったときあの山林でコンパクトカーのトランクを閉じた瞬間に飛び立ったフクロウがブナの樹枝を鋭いかぎ爪で掴んで「平気」と「絶対、大丈夫だから」とくり返し鳴いた。 「やばいよ文香ちゃん、この子めっちゃ目きらきらしてる」とあたしは冗談めかして言う。彼女は「本当に……」と、それから続けて何か言う。あたしにはその先は聞こえないし文香ちゃんの言葉がどれだけの重みを持っているのかもわからないので、ただ笑ってるふりをしながら自分が登るための準備を始めた。待ち切れない様子を装って、目をそらした。青いストーンを、奏ちゃんと同じ道を選んだ。 あたしは、少なくともこの三人の中では誰よりうまい。体力も経験も(あたしはこのスポーツがけっこう好きだった)わりとあって、当てつけるみたいに彼女のルートをたどった。ずっと速く、そうしていやみたらしく見下ろすと奏ちゃんは、文香ちゃんまでが笑っていない。落ちるために絶壁を登る自殺志願者にかける言葉を探している、そんな表情をしている。どうしてだろう。何を間違えているのだろう。考えないために、心を体にまるごと預ける。それこそ最後にきれいな��色をとどめるため必死で生きている自殺志願者みたいに、高い場所を目指す。すると全身が、軽やかに働く。指や手のひらは磁力の作用みたいにストーンを掴んだし、足先は熟練のバレエダンサーじみた強靱さとしなやかさで全身を支えた。味わったことのない自由の感覚にあたしは夢中になった。やがて奏ちゃんが最後に選んだ青いストーン(間近で見るとその力強さにあたしは驚く)を掴むと、彼女が最後に踏んだ場所に足を乗せて、飛ぼうとしてやっと落ちる。 不思議だった。何もかも完璧だったのに、すべてがうまくいっていたのに、はじかれるか拒まれたみたいに体が宙を漂った。むき出しの天井配管や色とりどりの壁のストーン(そのとき青い道はすっかり消えている)が絡みながら混ざり合って滲んだ花車のように見えた。 そうして、あたしはマットレスに落ちた。そこは柔らかい。だけど最悪の、背中も頭もひどくぶつける落ち方をしたので痛かった。息も満足にできないし意識はぼやけた。すぐに奏ちゃんと文香ちゃんが上から覗く。あたしに触れようとする。インストラクターが二人を制して、病院へ運ぶからそのままにしておいてと言う。電話をするからと彼女がいなくなると、あたしたちは取り残される。文香ちゃんが、奏ちゃんの肩を支えていて、どうしてかあたしは笑っている。時間が経ってもぜん���ん息ができないから体だけを痙攣させるみたいな気持ち悪い笑い方をしながら奏ちゃんの涙に触れて、この子をだめにしてしまいたくないと思う。
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周子は短期の入院をした。背中を強くぶつけたせいで肺にかすかな穴ができて、体内に漏れる空気を抜く必要があるらしかった。といっても本人は至ってふつうで、スマホゲームをしたりタブレットで映画を見たり、側胸から伸びた細い(それでも彼女を生かしてくれている)管をぶらつかせたまま病棟のロビーでカップの甘い抹茶オレを日々飲んだりしていた。 私は休みをもらった。ショックを受けているだろうと、それにスケジュールの都合がついたこともあって数日の配慮を受け取った。もっともそれは文香も同じで、その点において私は特別じゃない。 けれど一日、たったの一日だけ早く文香は日常に戻る。彼女の優しいまなざしやささやかな申し出を固辞して感謝を告げたとき、私はまた道を違えたと思った。彼女は追いかけてくるだろう。紗枝もそう。誰も私を、私たちを手離してくれない。愛情や慈しみ、そのあたたかな一掴みごとに私は自分が引き裂かれていると感じた。 「なんか、久しぶり」と周子がぼんやり言う。管を抜いて一日が経った、その場所を気にして触るので私は形ばかりの注意をする。周子は大げさに手を上げて「じんじんするんだよ、しゃあなくない?」と苦笑いをする。外したばかりの命綱のゆくえは、それが地面でどんな姿をさらしているか気にするのは当然だと、わかっている。 「久しぶりって?」と私は訊ねる。 「ふたりだけでいるのが」と周子が答える。 広々した個室のカーテンは閉じていて、窓の外は見えない。私は一度も、この部屋からの景色を見たことがない。 だから、時間がどれだけ過ぎたのかもわからない。 「先回り、したりしない」と私はどうにか言う。息をすることさえ、今はもう苦しい。「教えて。何を考えてるのか、ぜんぶ」 周子は私を見る。一度しっかりと目を閉じて、ただ目を向けるのでなく、見る。その仕草で、私は愛していると思う。彼女を愛していて他にどうしようもない私を感じる。瞳の内側にあるよく磨かれた黒檀、それがあまりに黒いのでほとんど私のかたちを呑み込んでしまうとき、私はかつて太古の昔に私たちがひとつの生き物であったことを夢みたいなリアリティで描くことができる。たくさんの枝分かれを越えて、また出会った。砂漠の砂粒の数ほどの時間を過ぎて私たちはもう一度ひとつになろうと誓ったのに、あれがやってきた。あのシャベルは、私たちを結ぶ糸を切ると赤く染まった。 「寝れないんだよね」と周子は言った。見ればわかるから、私は頷いた。「奏ちゃんとキスできないともうぜんぜん無理で、だから、たくさん考えた。あたしたち、このままじゃだめになるって思った。奏ちゃん、もう終わりにしよう」 「どうやって」私は言う。 「ぜんぶ打ち明けるよ」 「誰に」 「みんなに」 「何を」 「あたしがやりましたって言う。それだけ。奏ちゃんは大丈夫だから、安心して」 「嘘つかないで」 「嘘じゃない」 「やったのは私たちよ」 「違うよ」 「周子。ひとりで背負わないで、私だって」 「あたしだ!」と周子は叫んだ。それから、こう続けた。「あたしがやった。忘れられないよ。あのにぶい感触も冷たさも音も、ぐじぐじ鳴ってた、忘れられない。たぶん、一生。こんな手、誰かに振ったりあったかいごはん食べたり、こんな手で奏ちゃんに触るなんて、堪えられない」 周子は「そのたび死にたくなる」と言うと、やっと涙を落とした。それでも私を見ていて、「最後まで」と言いかけた声は震えていてまるであの樹林にいるみたいだと私は思った。私たちは、本当は今もそこにいて掘り返され埋めなおされたせいで変色している地表のグラデーションを懸命に整えながら、それで何もかもがなかったことになるみたいに泥だらけの手で土に落ち葉を被せている。必死になって、もうどうしたって元には戻らない柔らかな結びつきを恐怖が起こす神経症質な繊細さでつなぎ合わせている。けれど、私たちははり裂けた。世界有数のソプラノシンガーが出せる限界の高音にまで張りつめた心を青い風がひと撫ですると、情けなく足をもつれさせたり転びそうになる互いの体を支え合ったりして逃げ続けた。そうしてたどり着いたこの病室で、周子は「奏ちゃんを守らせて。あたしに」と言った。 終わったと、はっきり思った。 たくさんの時間が、過ぎていく。ふたり買った二足の靴を、家に帰ってなにげなく交換したらそのまま持ち主が変わった。冷蔵庫が、冷凍庫もびっくりするくらいからっぽでおなかを鳴らしながら抱き合って眠った。寒い寒いと思って測った体温が三十九度を示したときどうしてか一度キスした(結局インフルエンザには私だけがかかった)。周子のコート、カーキ色のフードのフォックスファーが心地良くて飽きるまで手をもぐらせていた。白い真昼の月を眺めながら甘い缶チューハイを初めて飲んで、何もかもから自由になったと錯覚したのは十八歳になってすぐのことだった。誇らしげに見せてくれた免許証の写真のがらが悪くて(それがあまりにもひどかったので)笑った。乗せたげへんから、と周子は冗談に言った。それが今でも本当だったなら良かった。 「時間が、戻せたならいいのに」と私は言う。心から、ひとを愛するのと同じ切実さで。 周子は頷いた。「うん」、とだけしぼり出して閉じた目のきわからきっと人生でいちばん悲しい涙がこぼれた。 私はそれに触れる。きめ細やかな頬に指のひらで、丁寧に涙をなじませると唇にキスをする。そこはかさついて、ひどく乾いていて、けれど触れるだけで足りた。こんな純粋な、澄んだキスを生きているうちにあとどれだけ周子とできるだろうと思った。 そっと唇を離すと、「聞いて」と私は言う。そうして未来の、ふたり生きる明日からの日々についての話を始める。 せめて今が最後でなくなるそのために。
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あたしたちの計画は完璧だった。ある一点、借りようとしていた白色のドイツ車を実際に見て、やっぱりやめようと思ったそれ以外は。 レンタカーショップの店員(あの日と同じ、あたしより一回りくらい歳上に見える女性)は柔らかに、空いている別の車を手配して違約金と差額分を折衷した金額を提示して、契約書を作り直すと笑顔のままあたしたちを見送った。ことが予定通り運べば明日のうちに、彼女は裏切りに気付くだろう。汚れてしまった車がどうやってここに戻るのかはわからないけど、あたしは彼女に笑っていてほしいと思った。ひどく驚いて、コンプライアンスなんて忘れて私がこの車の手配をしたのと親しい友達に話したり恋人に打ち明けたりして、一週間もしたらテレビが新しいニュースをトップに流しはじめる、それくらいの気軽さでまた笑顔を浮かべてほしかった。 そんなふうに、出会うひとや触れるもの、日々のあらゆるできごとを愛おしく感じた。 「どうして、別のにしたの」と奏ちゃんが言う。なんとなく不満げな口ぶりのそばで、小さないたずら心が笑っている。「あんなに悩んで決めたのに」 「だって逃げたくなっちゃうって思ったんよ、しゃーない」 「どこに?」 「北と南、どっちがいい?」 「それなら北ね」 「何もかも捨てて?」 「誰も知らないところで」 「新しい暮らしなんか始めたくなっちゃう」 「それは、大問題ね」 「でしょ」 あたしたちは笑っている。そうすれば、いつだって欠けている何かをおぎなえると心の深いところで信じているみたいに、たくさん。 「あれに乗るなら、始めるときだって思った」 やがてその波がしずまると、あたしは言う。奏ちゃんはそのとき、何も言わずに手を握ってくれる。 この道は、間違いじゃないとあたしは思う。 車は前に進んで、景色は少しずつ開けて、広がっていく。だけどそれはあの山林の入り口で、車一台がやっと通れるくらいに狭まる。そこは昼間でも暗い。止まらずに進むには決意がいる。隣を見ると、奏ちゃんが告白文の点検を(もう何度したかもわからないのに)している。車酔いなんかがよく似合うのに、そんな様子は少しも見せない。人生は驚きに満ちている。それが命を色づけるんだと、あたしは今彼女に伝えたい。だからしっかりと口をつぐむ。いつかのふたりのために取っておく。あたしはそう言って、彼女を色づけたかった。なんであのとき言わなかったの。そう言ったなら、嬉しくて頬を染めてほしかった。 やがて小さな展望台の小さな駐車場に停まると、「着いたよ」とあたしは言う。奏ちゃんは、「そうね」と答える。そうしてふたり、ドアを開くと目に見える景色の何もかもが雪に覆われている。枯れた樹林はその表皮さえ見えず、この世界での役目を終えて朽ちていく神殿それ自体の墓標のように映る。刻まれた無数の名前は天国に(あるいは単にここではないどこかに)旅立とうとして柱を飛び出すと、むなしい願いそのままに凍り付き取り残されて歪な形をさらしている。そんな数々の願いは方々に伸びて、空を埋め尽くした。だからこの場所はひどく暗い。叶わなかったそれは、光を食べて悲しみにほんの少しだけの癒しを得る。 踏み出すと、ブーツのほとんどくるぶしまでが埋まった。一歩、一歩と時間を進めるたびあたしは逃げ出したくなった。むせ返るほどの喜びや内蔵で焦げ付いて一生剥がれない後悔、それと何気ない暮らしの全てから。 もう、あたしたちは互いの姿を見ない。その目を、瞳の奥でがなり立て続ける喪失の声を一度でも聞けば逃げ出し��しまうとわかっている。だから進んだ。前だけを見て今だけを生きて生きて生き抜いたなら咲き誇る花と緑を想った。ふたり進む正しい道をはるか遠くの灯台がかすかに照らしはじめる、その一瞬を描き続けた。 ふたり手を繋いでいる。 百度参りに携えるともし火のように強く、決してなくしてしまわないように。 あたしたちはあの、小さな赤いシャベルをどうしただろう。それは未だまぼろしさえ見えない。だから、あたしは思う。変わらずその場所にあるそれは(たとえ二メートルの雪が降っても)、暗澹とした樹林を満たす死の影の内で鮮やかに染まっている。昇りはじめた朝日か沈み行く一日の終わりのように光りかがやいている。 やがて、その先端に一羽の蝶がとまる。体を休めてあたりをしばらく見渡すと蝶は羽ばたいた、そのとき、虹色の鱗粉が地に落ちるとあたしにはこの山林の樫で造られた古い扉がきしむ音が聞こえた。 だけどそれは開くとき、閉ざされたとき、ほとんど同じ音をたてる。その違いは肌に触れた雪が融ける音ほどにかすかで、この場所ではとても聞き分けられそうにない。 だから、あたしは触れる。そのために彼女の名前を呼ぶ。彼女は答える。そうやって、一度ずつ互いの名前を呼び合った。 「奏ってさ、きれいな名前だよね」 あたしがそう言うと、彼女がかすかな息をもらした。そのまぶたが愛のかたちに細められているのを、つないだ手のひらであたしは見た。 あたしたちは今、きれいに笑えた。
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家に帰って、掃除やらなんやらを手伝って、夕方。 俺は、隣の家のドアをノックしていた。 「はーい」 声がして、がちゃりとドアが開いた。天使のごとき、というか元天使の金髪美少女がそこにいる。 「よう」 「上がってください」 「おじゃまします、っと」 ドアを閉める。 するとその瞬間、室内の光景ががらっと変わる。 靴の5足も並ぶと一杯になる狭いたたきは、モダンな黒タイルに。木造の古い室内は、どこのデザイナーズマンションだよ、というようなコンクリート壁に無垢フローリングに。そもそも室内の面積が違う。このボロアパートに収まる空間ではありえない。 「あいかわらずでたらめな空間だよなあ……」 「さすがに、汲取式のトイレは……そもそも排泄の必要すらなかった私には、つらいものがありまして……」 「必要なかったんだ、天使」 「それ以上はノーコメントで」 ということは、いろいろ抵抗あるんじゃないだろうか。清らかなはずの自分の肉体から、こう……。 「道太、それ以上考えないほうがいいです」 「心読めるのかよ」 「……顔を見ればわかります」 はぁ、とため息をつきつつの返事。 純粋な好奇心なんだけど。 案内されたのは20畳ほどのフローリングの空間だ。これまた、どこぞのモデルルームかいな、と言わんばかりの光景だ。鮮やかなグリーンのソファ。北欧風のシンプルで見栄えのいい棚。前世でも俺はついに手に入れることはなかった大画面の液晶テレビ。 「なあ、これ、この時代で発見されちゃったらオーパーツ並みの騒ぎになるのでは?」 「道太以外の人はこの空間に入れないようになってますから」 「ヨンナ、ただの人間じゃなかったの?」 「肉体はそうですけど、天界のバックアップを受けられないとは言ってないですよ?」 カウンターキッチンのカウンターに置かれたデロンギ製のいかにも高級げなエスプレッソマシンを操作しつつヨンナが答える。 「はいどうぞ。エスプレッソ、好きなんですよね?」 「……」 1983年の日本に存在してちゃいけないやつだよね、そのエスプレッソマシン。液晶テレビもエアコンも空気清浄機も全部そうだけど。それいったら俺とヨンナの存在そのものがおかしい。空間の改変くらい笑って受け入れるべきなのだろうか……。 デミカップとソーサーを受け取る。 そのままブラックで飲むと、濃厚な味と香りが口いっぱいに広がる。 やわらかくて、ごくわずかな酸味がある。 「うまい……」 反射的にうめきみたいな感想が出る。我ながらおっさんくさい。 そんな俺を見て、ヨンナは微笑む。 「駅の向こうに古い喫茶店がありますよね。そちらで豆も売ってるんです」 「あそこかぁ。社会人になってから入ったことがあるな。確かにブレンドうまかったよなあ」 「おつかいということにして、いつもメモを持参で買ってます」 そう言うヨンナはカフェラテである。スタバの上陸、何年先だと思ってんだ。森永のカフェラッテだってまだ発売してない。 「それで今日は?」 「いや、特に用事はない。晩飯まで時間あったからさ」 家に母さんがいて、暇な時間は、こうしてヨンナの家に来る。学校では安心して相談できないことも多いし。あとコーヒーが卑怯なくらいうまい。ちなみにエスプレッソマシンとは別にドリップマシンあるのよこの家。 「ああ、そういやさ、芹ヶ谷からなんか言われた?」 「芹ヶ谷……茜さん、ですか?」 「ああ」 「特にはなにも。たまに、かなりたちの悪い嫉妬の視線はもらいますが。それがなにか?」 「やっぱそうなんだ……」 軽くため息をつきつつ、さっきスーパーで起きたことを話す。 聞き終えたヨンナは、少し難しい顔をして言った。 「芹ヶ谷さんは、女子のなかでは影響力のある立場ですからね。道太がいやがらせをされなければいいんですけど……」 「物理的な被害が出るならともかく、中坊のいやがらせなんててきとーにあしらうって」 「女は怖いですよ。特に集団になると」 「会社の暗闘にくらべりゃなあ……。金が絡むわけじゃないし」 「それもそうですね」 ヨンナと話すのは気楽だ。未来から来たことを隠す必要もないし、精神的にも対等だ。会話のテンポが噛み合うところも好ましい。もちろんかわいさでは衣紬が優勝だが。特に関係ない文脈でも妹のかわいさをねじこんでいくスタイル。 「……それにしても、衣紬はなぜ、そんなに芹ヶ谷さんに敵対的なんですか?」 「ああ、その後のこと説明してなかったな」 ヨンナには直接関係しないことだったから端折っていた。 俺は店を出てからのことを語った。いかに衣紬がかわいいかを。いかに衣紬が俺を大好きであるかを。それはもう、熱く語った。 「……というわけで、なかよく腕を組んで帰ってきた」 「道太の顔がにやけすぎでどうしようもなく気持ち悪いのはさておき」 「ねえ、もうちょっと控えて? いかにおっさんメンタルでも傷つくものは傷つくんだけど」 「鏡を見たほうがいいと思います」 「そんなに?」 「衣紬に嫌われますよ?」 「それはやばい」 顔を引き締めた。 「すいません。正��が難しいくらい気持ち悪い感じになってます」 「なんでだよ!」 俺の抗議はスルーして考え込むヨンナ。 「……なんか、いまの話にまずいとこあった?」 「いえ、特には。ところで道太、今日このあとの予定は?」 「メシ食って、そのあと衣紬と一緒に銭湯。帰ったら宿題」 「いいですね。私もご一緒していいですか、お風呂」 「もちろん」 「じゃあ7時くらいにお迎えに上がってもいいでしょうか」 「あいよー」 そういうことになった。 「じゃあとでな、衣紬、ヨンナ」 「はーい」 銭湯は坂の下にある。徒歩5分くらいだ。いまは涼しいからいいが、夏場なんかは、家に帰ったころにはもう汗をかいてた。上山はここに限らず、とにかく斜面が多い。都会の斜面集落とかいって動画で紹介されてたくらいだ。 入口で男湯と女湯に分かれて入る。 規制が緩かった時代だから、衣紬が小4になるくらいまでは一緒に男湯に入っていた記憶がある。さすがに現在の衣紬はシャンプーハット必須ではない。荷物に入ってなかった。小4までは必須だったんですのよ、この妹。 このころは、まだまだ銭湯が元気だ。うちのように内風呂がない家庭は多かった。父親に連れられた同じクラスの女子と遭遇したこともある。が、そこで第二次性徴トリガーが爆発して性の目覚めを迎えることはなかった。なかったはず。 明治生まれという番台のばーちゃんに金を払って脱衣所へ。 銭湯はレトロなものと相場が決まっているが、それは昭和30年代か40年代から建て替えがなされていないからだ。そういうわけで、この銭湯はそんなに古くない。巨大なお椀型の籐製の脱衣かごに浴室に入る。 「よう坊主、妹と一緒かー?」 さっそく顔見知りのおっさんに話しかけられる。 銭湯ってのは定期的に行くものであり、それゆえ、かぶる人は毎回かぶる。なので、銭湯のみの謎のコミュニティが存在する。 「ちゃんとチンポに毛生えたか?」 「……まあ、それなりに」 この時代の50がらみのおっさんは戦前の生まれだ。そして戦前生まれのデリカシーのなさというのは、ちょっと想像を絶するものがある。2022年の日本じゃ団塊の世代が叩かれたりするが、あれでも、その前の世代にくらべりゃマシなんだよな。 かこーんという桶の反響音。あちこちで流れているシャワーの音。いくよーという声と同時に女湯のほうから飛んでくるシャンプーの容器。銭湯というのは実によく音が響く。女湯のほうからなにやらけらけらと笑っている衣紬の声が聞こえる。 「洗うか……」 いまだに体を見るたびに微妙な気分になる。すね毛はほとんどなく、ワキに至ってはつるつる。結局52年間新品だった股間のモノもみずみずしいことこのうえない。 さらに。 「おにーちゃーん」 とうとつに女湯から声がかかる。 シャンプーが飛んでくるくらいだ。壁を挟んでの会話なんて日常茶飯事である。 「なんだー」 「上がったらアイスー」 「50円のみぞれな」 「やったーー」 この壁の向こうには全裸の衣紬がいる。 この13歳の肉体、問題がある。性欲が強い。はじめてのおしゃせいは経験済みですか、と問われると答えはイエスである。このあいだ試した。どこで、とは聞かないでください。 52歳のこじれた粘着質の性欲に13歳の健康な肉体。悪夢のような生物がここに爆誕した。 まして衣紬の裸を目撃する機会は多い。決定的に見てはいけない部分だけは見ていないが、まあ、だいたい想像できる。 妹だ。わかってる。わかってるのだが、ウェスターマーク効果が仕事しない。毎日のように新鮮に衣紬がかわいい。見た目も言動も幼いうえに、俺に死ぬほどなついてるので、まちがってお医者さんごっこのご提案をさせていただいたときには、うっかり受諾されてしまいそうな気配もある。えっちな契約が成立である。そしてそんなことを考えるとだな。 「……」 思わず股間を覗き込む。 まあいい。髪を流そう。あと明日になったら学校に行って芹が谷と顔を合わせなきゃいけない。 あえて憂鬱なことを考えると、急速に萎えていった。 「道太ー」 お、ヨンナだ。 「なんだー」 「衣紬のお肌、ぷにぷにですよー」 「……」 どこに座っているのかわかったら石鹸でも投げ込んでやったところだ。 ああいかん。想像してしまった。 ヨンナはガードが固い。しっかりと女性らしい身ごなしをする。しかし肉体は年齢なりだ。ほっそりとしていて、第二次性徴もささやかなものだ。なのに、表情だけが大人になることがある。いまのところヨンナは異性というより同志という気分が強いから、できるだけそういうことは考えないようにしている。 けど、まったく考えないかというと、それは話が別なわけで……。 なにしろ、あの肌の白さがやばい。きめが細かくて見るからにすべすべしている。指がほっそりとしていて長い。どうしても考えてしまう。下のほうも金色なのかなとかまあいろいろ。 「……相手は13歳だぞ」 俺にとっては娘以下の年齢である。 少なくとも、前世にいたときはこんなことはなかった。女の子でも、中学生くらいなら子供にしか見えなかった。それ以前に基本的に男女年齢問わず人間には一定の恐怖感があったから、そういう対象にはなりえなかった。 しかしいまは、どうやら違う。 「……」 頭のなかに百合色のとんでもない映像が浮かんできたので、洗面器に水をいっぱいに入れて頭からかぶった。ものすごい冷たい。52歳だったら死んでた。 のんびり湯船につかってから上がる。 しかしまあなんだ、白ブリーフにも慣れた。もともとボクサーブリーフ派だったので、着用感そのものに違和感はない。 番台のばーちゃんに話しかける。 「すいません、うちの妹は上がってますか」 「はい?」 「う・ち・の・い・も・う・と・は・あ・が・っ・て・ま・す・か!」 「巨人が勝ってるよ」 だめだこりゃ。番台のばーちゃんと会話は不可能である。よく接客できるな。それでいて釣銭とかまちがったことない。全部暗算でやってるっぽいんだよな……。 「道太ー、上がりましたよー」 珍しくヨンナが大きな声で呼びかけてくる。 「これから服を着ますので、いまのところまだ裸ですー」 「……」 「二人ともですよー」 その情報は欲しくなかった。あとおまえはともかく衣紬の全裸情報は流すな。許さん。 タイミングをあわせて、アイスを買って外に出る。 木製の下駄箱のある玄関ホールで合流である。 3人揃って買ったのは、みぞれバーである。アイスの世界は超がつくロングセラー商品が多いが、このみぞれバーは最近では見たことがない。グレープフルーツ味である。 「ふー」 外に出る。空気が気持ちいい。20度前後だと思うが、ほてった肌にはちょうどいい湯冷ましだ。 「いいお湯でした……」 「ヨンナ、意外に銭湯好きだよな」 「はい。それはもう」 風呂敷に包んだ銭湯セットを抱えたヨンナが、髪をかきあげながら俺の顔を覗き込んでくる。髪は濡れたまま。ふだんよりやや色が濃く見える金髪。 ぎくりとするくらい色っぽい。 「自宅に欲しくなりました」 「作るなよ。絶対に作るなよ」 「冗談ですよ」 まちがって毎日入りに行きたくなるだろうが。 ところで、さっきから衣紬がおとなしい。今日はヨンナが一緒ということで特別に支給されたアイスにもはしゃいでいる気配がない。 「衣紬」 「……」 返事がない。ぼけーっと焦点のあわない目をしている。 しかたない。俺は衣紬のほっぺたを突きつつ、もう一度呼びかけた。 「おい、衣紬」 「ひゃ、ひゃあっ!」 両手を上げて驚く衣紬。 その手から、ぼたっとアイスが落ちた。 「あ、ああぁ……」 この世の終わりのような顔をする衣紬。なにやってんだこいつ。 しかし俺はできるお兄ちゃんである。衣紬の笑顔のためなら、食べかけのアイスをあげるくらいなんでもない。 「俺のをやる」 「え、うん……いいの?」 「ああ」 衣紬にアイスを渡す。 衣紬は、じーっとアイスを睨んでいる。少しずつアイスが溶けて、ぽたりと地面に落ちる。 「衣紬、食べないのか?」 「お、お兄ちゃんの食べかけなんていらないっ」 アイスを俺に押し付けるように渡す衣紬。 「先に帰るっ」 そう言って、さっさと走っていってしまった。 衣紬は元気いっぱいだなあ。 「俺、なんかした!?」 「すみません。ガチ泣きはちょっと……」 「あの反抗期知らずの! 元気いっぱいでときどきアホかなと思うくらいのかわいい衣紬が! 俺のアイスをいらないと!」 「近い近い、顔が近いです道太」 鼻面を押し返される。 「うえぇ……衣紬ぅぅ……」 結局、その日、衣紬は俺とほとんど目をあわせてくれなかった。いつもなら布団のなかではなんだかんだとくっついてくるのにそれもなかった。 もうだめだ。おしまいだ。 俺の転生は失敗に終わったんだ……。
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