#袖口装飾ブラウス
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3 to 8 × SINA SUIEN -ガールガイド-
あやちゃんから受け取ったのは40年代のシルク素材のブラウス。フロントはファスナー開きで、肩の部分はシフォン素材で透けています。1940年代らしい、細身のシャープなデザインです。
このブラウスを着た人は世界大戦前後の時代を、どんな暮らしをして生き抜いたのでしょう。
どんな状況でも明るい心で生きること、装うこと、生活の工夫は続きます。そんなことに想いを馳せながらリメイクしました。
とても繊細でなめらかな織り目、上質なシルクシフォンに可愛らしい立体のお花のレースが丁寧に縫い付けられていました。
腕の擦れる部分などに損傷が激しかったので全部解いて一つ一つの布片にし、使えるところをピックアップし縫い合わせたパッチワークのキャミソールワンピースにしました。
襟や袖のフリルが可愛かったので胸元に装飾として配置しました。
裏地は、表地の透ける特徴を活かし重なった時に動きが魅力的になるよう計算して構成しました。
肩紐は長さ調節機能がついているので丈や身幅を調節できます。
レースのお花を全体に散りばめて咲かせました。
ボーイスカウトの創始者は戦争で軍に入隊した時に培った経験を大いに活かしボーイスカウト運動を始めたそうです。
すこやかであること、持っているものに満足し、それを最大限に活用し、まわりに幸福を分け与えること。
ボーイスカウト、ガールガイドは清潔な心の現れなのだと思います。
今の時代を生きぬくための羽毛のようにふんわり軽いワンピースです。
【有本ゆみこ(SINA SUIEN)新作発表会「コアラの人」】
会場|3 to 8 (サントゥエイト) Vintage Apartment Store(東京都渋谷区西原3-32-6 グランメール上原201)Closet gallery*代々木上原駅東口より徒歩2分
会期|2024年2月1日(木)ー2月13日(火)*6日、7日は休み
オープニングパーティー|2月3日(土)18:00-20:00
営業時間|平日13:00-19:00 土/日12:00-19:00
問い合わせ先|Instagram @3_to_8_apartment_store *DMよりお問い合わせ下さい
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Tカップ幼馴染
完全に自家発電用。
「128.3センチ、………どうして、どうしてなの。………���
するすると、その豊かすぎるほどに膨らんだおっぱいから巻き尺の帯が落ちて、はらりと床に散らばる。
「どうして、昨日から変わっていないの。……何が私に足りないの。………」
と言いつつ、顔よりも大きくなってしまったおっぱいを揉んだが、触り心地は昨日と、一昨日と、一昨々日と何も変わらない。柔らかく、ハリがあって物凄く気持ちが良い、――気分としてはバスケットボール大の水風船を揉んでいるような感じか。
「だったらまだ、……まだTカップ、………」
床に散乱した巻き尺を跨ぎ越して、ベッドの傍まで行って、二つ並んだ白いブラジャーのうち左手にある方を取り、顔の前で広げて、バサバサと振る。片方のカップですら顔をすっぽりと包むブラジャーには、U65という英数字が太��字で刻まれているけれども、アンダーバストが悲しいかな、70センチ弱ある紀咲(きさき)にとっては、かなり無理をしないとサイドベルトが通らない。恨めしくタグを見つめても、カップ数もアンダーバストも負けた事実は変わらず、ため息をついてベッドの上へ投げ捨てると、右手にあったブラジャーを手に取る。そのブラジャーのタグにはV65という字が印刷されているのであるが、全く擦り切れておらず、広げて全体を見てみても、どこもほつれていないし、どこも傷んでなどいない。ただ四段あるホックのみが軽く歪んで、以前の持ち主が居たことを示している。
「あいつ、もしかして寝ている時に着ていたのか」
――もしくはこのブラジャーを着けて激しく運動したか。けれども、Vカップにもなるおっぱいを引っ提げて運動など、どれだけ頼まれてもしたくないことは、Tカップの今ですら階段を駆け下りたくない自分を見ていたらすぐに分かる、況してやあの鈍くさい女がそう簡単に走るものか。昔から急げと言ってもゆっくりと歩いて、なのにすぐ息を切らすのである。羨ましいことに、初(はじめ)が着替えるのを手伝っているらしいのだけれども、彼がこんな高価な物をぞんざいに扱う訳も無いから、この歪んだホックはきっと、寝ている間ににすーっと膨らんでいくおっぱいに耐えきれなかった事実を物語っているのであろうが、未だに信じられぬ。およそこの世のどこに、一晩でVカップのブラジャーをひしゃげさせるほどおっぱいが大きくなる女性が居るのであろうか。しかもそれが、まだ��どけない顔をしていた中学二年生の女の子だと、どう言えば信じてくれるのか。可愛い顔をしているのに、その胸元を見てみると、大人の女性を遥かに超えるビーチボールみたいなおっぱいで制服にはブラの跡が浮かび上がっているし、目障りなほどにたぷんたぷんと揺れ動いているし、しかもあいつはその揺れを抑えようと腕で抱え込むものだから、いつだってぐにゃりと艶かしく形が変わっているのである。それだけでもムカッとくるというのに、あいつはあの頃そんな速度でおっぱいを成長させていたのか。紀咲は、どこかバカにされたような気がして、〝あいつ〟が中学生の頃に着けていたVカップの大きな大きなブラジャーをベッドに叩きつけると、クシャクシャになって広がっているUカップのブラジャーを再び手に取って、そのカップを自分のTカップのおっぱいに軽く合わせながら、勉強机の横に置いてある姿見の前に向かう。
鏡に映し出されたのは上半身裸の、付くべきところにほどよく肉のついた、――もちろんおっぱいはTカップなのだから極端ではあるけれども、腰はくびれているし、お尻はふっくらと大きいし、日頃の食生活のおかげで自分でも中々のスタイルなのではないかと思っている、高校3年生の女の子。紀咲はストラップに腕を片方ずつ通し通しして、後髪をかき上げると、今一度カップにきちんとおっぱいを宛てがい少し前傾姿勢へ。Tカップのおっぱいはそれほど垂れてないとは言え、やはりその重さからすとんと、雫のような形で垂れ下がり、ブラジャーを少しだけずり落としたが、あまり気にせずにストラップを、ぐいっと引き上げ肩に乗せる。本来ならばこの時点で、ブラジャーのワイヤーとバージスラインを合わせなければいけないのだけれども、Tカップともなるとどうしても、おっぱいに引っ張られてカップが沈んでしまうので、その工程を飛ばしてサイドベルトを手の平に受ける。するりと背中へ持っていき、キュッと力を入れて左右のホックの部分を合わせ、腕の攣るのに気をつけながら何とかして金具を繋ぎ止める。――このときが一番恨めしい。………女子中学生におっぱいのサイズで負け、アンダーバストで負けたことは先にも言ったとおりだが、その事をはっきりと自覚させられるのはこの時なのである。
ホックが全部繋がるまでには結構な時間がかかるから、彼女がこのUカップのブラジャーを手に入れた経緯を説明することにしよう。元々の持ち主は紀咲の幼馴染である初の、その妹であり、彼女が〝あいつ〟と呼んでいる、今年高校生になったばかりの、いつもおずおずと兄の後ろを一歩下がってついていく、――莉々香(りりか)と言う名の少女。両者について��この先登場するから説明はしないが、ある日莉々香とたまたま帰り道が一緒になった紀咲は、隣で揺れ動いている股下まで大きく膨らんだ塊を目の隅に留めつつ、特に話すこともなく歩いていたところ、突然、姉さん、と呼び止められる。なに? と素っ気なく返事をすると、あの、……ブラジャー間に合ってますか、たしか姉さんくらいの大きさから全然売ってなかったような気がして、……昔私が使っていたので良ければ差し上げます。あっ、でも、どれも一回くらいしか着けてないから綺麗ですよ、それに買ったけど結局使わなかったのもありますし、――と莉々香が言う。確かにその頃紀咲のおっぱいは、努力の甲斐もあってPカップに上がろうかというくらいの大きさになっていたのであるが、よく行くランジェリーショップで、PはまだありますがQカップになりますと、アンダーを大きくするか、オーダーメイドになるか、……今私共の方で新たなブランドを探しておりますが、もし運良く見つかっても海外製ですからかなり高く付きます、――などと言われて弱っていたところだったので、二つ返事で承諾すると早速家に招かれ、珍しく初の部屋を素通りして莉々香の部屋へ入る。彼女のことは生まれた時から知っているけれども、そういえばここ5年間くらいは部屋に入ったことがない。昔と同じように綺麗なのかなと思って見渡すと、案の定整理整頓が行き届いている。けれども机の上の鉛筆すら綺麗に並び揃えられている有様には、莉々香の異常さを感じずにはいられず、鞄を置くのさえ躊躇われてしまい、ドアの前で突っ立っていると、どうぞどうぞと、猫やら熊やら犬やらクジラやら、……そういう動物のぬいぐるみが、これまたきっかり背の順に並び揃えられたベッドの上に座るよう促される。莉々香はあの巨大なおっぱいを壁にめり込ませながらクローゼットの中を漁っていたのだが、しばらくかかりそうだったので、すぐ側にあった猫のぬいぐるみを撫でつつ待っていると、やがて両手いっぱいにブラジャーを抱えてやって来る。プラプラと垂れているストラップは、幅が2センチくらいのもあれば5センチくらいあるものもあって、一体どれだけ持って帰らせようとしているのかと思ったものの、気になったのはその色。とにかく白い。初からオーダーメイドのブラジャーを買っているとは聞いていたから、こっそり色んな色のブラジャーがあるのだと決めつけていた紀咲は、がっかりとした目で自分の真横にドサッ、と置かれた白い布を見る。どうでしょう、姉さんのおっぱいがどれだけ大きくなるか分からないから、とりあえず私が1、2年生の頃にしていたブラジャーを持ってきましたが、ちょっと多すぎ、……かな? 下にあるのは結構大きめのなので、ちょっと片付けてきますね。たぶんこの一番上の小さいのが、……あ、ほら、Qカップだからきっとこの塊の中に、姉さんのおっぱいに合うブラジャーがきっとありますよ。と嬉しそうに言って、下の方にあるブランケットのような布地を再びクローゼットに持って行ったのであるが、その何気ない言葉と行動がどれほど心をえぐったか。紀咲は今すぐにでも部屋を飛び出したい気持ちをグッと抑えて、上半分にあった〝小さめ〟のブラジャーを一つ手にとって広げてみたが、それでも明らかに自分のおっぱいには大きい、……大きすぎる。タグを見ると、Y65とある。おかしくなって思わず笑みが溢れる。……一体この世に何人、Yカップのブラジャーをサイズが合うからと言う理由で持ち帰れる女性が居るといういうのか。まだ莉々香がクローゼットに顔を突っ込んでいるのを確認してYカップのブラジャーを放り投げ、もう一つ下のブラジャーを手に取って広げてみる。さっきよりは小さいがそれでも自分のおっぱいには絶対に合わぬから、タグを見てみるとV65とある。今度は笑みさえ浮かべられない。……どんな食生活を送れば中学生でVカップが小さいと言えるのであろう、あゝ、もう嫌だ。これ以上このブラの山を漁りたくない。でも一枚くらいは持って帰らないと彼女に悪い気がする。―――と、そんな感じで心が折りつつ自分の胸に合うブラジャーを探していたのであるが、結局その日持って帰れそうだったのは一番最初に莉々香が手にしたQカップのブラジャーのみ。もうさっさと帰って今日は好きなだけ泣こうと思い、そのQカップのブラジャーを鞄にしまいこんで立ち上がったところ、ひどく申し訳無さそうな顔をした莉々香がトドメと言わんばかりに、あ、あの、……今は奥の方にあるから取れないんですけど、小学生の頃に着けてたもう少し小さめのブラジャーを今度持っていきましょうか? と言ってくるのでその瞬間、――華奢な肩に手をかけてしまっていたが、胸の内に沸き起こる感情をなんとか抑えようと一つ息をつき、ちょっと意地になって、けれども今気がついたように、よく考えればこれから大きくなるかもしれないんだし、もうちょっと大きめのブラジャーももらっていい? と、やっぱり耐えきれずに涙声で言ってもらってきたのが、今彼女がホックを全てつけ終わったこのUカップのブラジャーなのである。
「くっ、ふっ、……」
前傾姿勢から背筋を伸ばした体勢に戻った紀咲は、胸下を締め付けてくるワイヤーに苦しそうな息を漏らしてしまう。ホックを延長するアジャスターがあることは知っているけれども、もうそんな屈辱はこのブラジャーを着けるだけで十分である。ストラップを浮かせて、おっぱいを脇から中央へ寄せている間も、ブラジャーの締め付けで息は苦しいし、肌はツンと痒くなってくるし、けれどもあんまりお金の無い紀咲の家庭では、オーダーメイドのブラジャーなんてそう何回も作れるようなものではないから、屈辱的でもあの女が中学生の頃に着けていたブラジャーで我慢しなくてはならぬ。
紀咲はブラジャーを着け終わると、姿見にもう一歩近づいて、自分の胸元を鏡に写し込む。見たところTカップのおっぱいは、溢れること無くすっぽりとU65のブラジャーに収まって、恐らく男子たちにとってはたまらない谷間が、クレバスのように深い闇を作っている。ちょっと心配になって、ふるふると揺らしてみると、ブラジャーからは悲鳴が��がったが、溢れること無くちゃんとおっぱいの動きに付いてきたので、これなら今日一日どんなに初に振り回されようとも、大丈夫であろう。紀咲はブラジャーの模様である花の刺繍を感じつつ深い息をつくと、下着姿のまま今度は机の前へ向かい、怪しげな英文の書かれたプラスチックの容器を手にとって見つめる。毎日欠かさず一回2錠を朝と夜に飲む習慣は、初と二人きりで遊ぶときも決して欠かさない。パカっと蓋を開いて真っ赤な錠剤を、指でつまみ上げる。別に匂いや味なんてないけれども、その毒々しい色が嫌で何となく息を止めて、口の奥へ放り込み、すぐ水で喉に流し込む。――膨乳薬と自称しているその薬を小学生の頃から愛飲しているために、ほんとうにおっぱいを大きくする効果があるのかどうか分からないが、世の中にTカップにまで育った女性は全く居ないから、たぶん本物の膨乳薬であろう。親に見つからないように買わないといけないし、薬自体結構な値段のするのに加えて、海外からわざわざ空輸してくるから送料もバカにならず、校則で禁止されているバイトをしないといけないから、毎日朝夕合計4錠飲むのも大変ではあるけれども、膨乳の効果が本物である以上頼らざるは得ない。依存と言えば依存である。だがやめられない。彼女には莉々香という全く勝ち目の無い恋敵が居るのだから。……
元々大きな胸というものに憧れていたのに加えて、初恋の相手が大の巨乳好きとあらば、怪しい薬を買うほど必死で育乳をし始めたのも納得して頂けるであろう。胸をマッサージし始めたのは小学4年生くらいからだし、食生活を心がけて運動もきっちりとこなすのもずっと昔からだし、意味がないと知っていても牛乳をたくさん飲むし、キャベツもたくさん食べるし、時には母親や叔母の壁のような胸元を見て絶望することもあったけれど、いつも自分を奮い立たせて前を見てきたのである。そんな努力があったからこそ彼女はTカップなどという、普通の女性ではそうそう辿り着けないおっぱいを持っているのだが、それをあざ笑うかのようにあっさりと追い越していったのは、妹の莉々香で。昔は紀咲のおっぱいを見て、やたら羨ましがって、自分のぺったんこなおっぱいを虚しい目で見ていたというのに、小学6年生の秋ごろから急に胸元がふっくらしてきたかと思いきや、二ヶ月やそこらで当時Iカップだった紀咲を追い抜き、小学生を卒業する頃にはQカップだかRカップだかにまで成長をしていたらしい。その後も爆発的な成長を遂げていることは、先のブラジャー談義の際に、Yカップのブラが小さいと言ったことから何となく想像して頂けよう。紀咲はそんな莉々香のおっぱいを見て、さすがに大きすぎて気持ち悪い、私はそこま��は要らないや、……と思ったけれども、初の妹を見つめる目を見ていると、そうも言ってられなかった、――あの男はあろうことか、実の妹のバカでかいおっぱいを見て興奮していたのである。しかも年々ひどくなっていくのである。今では紀咲と莉々香が並んで立っていると、初の目はずっと莉々香のおっぱいに釘付けである。おっぱいで気持ちよくさせてあげている間もギュッと目を瞑って、魅惑的なはずの紀咲の谷間を見てくれないのである。以前は手を広げて「おいで」と言うとがっついてきたのに、今では片手で仕方なしに揉むだけなのである。……
胸の成長期もそろそろ終わろうかと言う今日このごろ、膨乳薬のケースにAttention!! と黄色背景に黒文字で書かれている事を実行するかどうか、いまだ決心の付かない紀咲は薬を机の引き出しの奥の奥にしまい込んでから、コップに残っていた水を雑にコクコクと飲み干して、衣装ケースからいくつか服を取り出し始める。今週末は暇だからどこか行こう、ちょっと距離があるけど大久野島とかどうよ、昔家族で行った時には俺も莉々香もすごい数のうさぎに囲まれ��な、ビニール袋いっぱいに人参スティックを詰めてたんだけど、一瞬で無くなって、………と、先日そんな風に初から誘われたので、今日はいわゆるデートというやつなのであるが、何を着ていこうかしらん? Tカップともなれば似合う服などかなり限られてしまうから、そんなに選択肢は無い。それに似合っていても、胸があまり目立つとまた知らないおじさんにねっとりとした目で見られてしまうから、結局は地味な装いになってしまう。彼女の顔立ちはどちらかと言えば各々のパーツがはっきりとしていて、ほんとうは派手に着飾る方が魅力的に映るのであるが、こればかりは仕方のないことである。以前彼に可愛いと言われたベージュ色のブラウスを取って、姿見の前で合わせてみる。丈があまり気味だが問題は無い、一年くらい前であれば体にぴったりな服でもおっぱいが入ったのであるが、Tカップの今ではひょんなことで破れそうで仕方がないし、それに丈がある程度無いと胸に布地を取られてお腹が見えてしまうから、今では一段か二段くらい大きめのサイズを買わなくてはならない。ただ、そういう大きなそういう大きなサイズの服を身につけると必ず、ただでさえ大きなおっぱいで太って見えるシルエットが、着ぶくれしたようにさらにふっくらしてしまう。半袖ならばキュッと引き締まった二の腕を見せつけることで、ある程度は線の細さを主張することはできるけれども、元来下半身に肉が付きやすいらしい彼女の体質では、長袖だと足首くらいしか自信のある箇所が無い。はぁ、……とため息をついて、一応の組み合わせに袖を通して、鏡に映る自分の姿を見ると、……やっぱり着ぶくれしてしまっている。どんなに胸が大きくなろうとも、決してそのほっそりとした体のラインを崩すことのないあいつに比べて、なんてみっともない姿なのだろう、これが薬に頼って胸を大きくした者の末路なのだろうか。
「私の努力��て何だったんだろうな。……」
と床に落ちていてそのままだった巻き尺を片付ける紀咲の目元は、涙で濡れていた。
それから15分くらいして初の家の門をくぐった紀咲は、どういう運命だったのか、莉々香の部屋の前で渋い顔をしながら、またもやため息をつく。
「勉強って言っても、私よりあいつの方が頭良いんだから、教える必要なんてないでしょ。……」
ともう一度ため息をついてドアノブに手をかける。約束の時間に部屋に赴いたというのに、初はまだ着替えてすらおらず、ごめんごめん、今から着替えるから、暇だったら莉々香にあれこれ教えてやってくれ。今たぶん勉強しているから、と言われて部屋から追い出されたのであるが、昔から英才教育を受けてきた莉々香に教えられることは何も無い。むしろ今度の定期試験を乗り越えるためにこちらが教えてもらいたいくらいである。紀咲はいまいち初の意図が分からない時が多々あるけれども、さっきの一言はようよう考えても結論が出ないから、ただ単に莉々香と話をしていてくれと、そういう思いで言ったのだろうと解釈して、ガチャリと扉を開ける。相変わらずきっちりと無駄なく家具の置かれた、整理整頓されすぎて虚しささえ感じる部屋である、昔と変わっているのはベッドの上にあるぬいぐるみが増えたことくらいか。莉々香はその部屋の中央部分にちゃぶ台を置いて、自身の体よりも大きくなってしまったおっぱいが邪魔にならないよう体を横向きにして、紀咲が部屋に入ってきたことにも気づかないくらい熱心に、鉛筆を動かしている。覗いてみると、英語で何やら書いているようだが、何なのかは分からない。――とそこで、ノートに影が落ちたのに気がついたのか、ハッとなって、
「姉さん! 入ってきたなら言ってくださいよ」
と鉛筆を机の上にそっと置くと、立ち上がろうとする。
「あっ、いいっていいって。そのままで」
それを制しながら紀咲はちゃぶ台の対面に座って、ニコニコと嬉しそうな表情を浮かべる憎き恋敵と相対する。だがどんなに憎くとも、その巨大なおっぱいを一目見ると同情心が湧いてくるもので、片方だけでも100キロは超えているらしいその塊を持ちながら立たせるなんて、どんな鬼でも出来ないであろう。莉々香のおっぱいには簡単に毛布がかけられているのであるが、それがまた何とも言えない哀愁を誘っていて、紀咲もこの時ばかりは目の前の可愛らしい笑みが、少しばかり儚く見えてしまうのである。
「やっぱり、もう椅子には座れない?」
「そう、……ですね。椅子に座ると床に着くから、楽といえば楽なんですけど、それでも重くて。………」
「今バストは何センチになったの?」
「えっと、……ここ一週間くらい測ってないから正確じゃないけど、先週の木曜日で374センチでした」
「さ、さんびゃく、……」
果たしてその数字が女性のバストサイズだと分かる人は居るのであろうか。
「姉さんは?」
「128センチのTカップ。やっと中学生のころのあんたに追いついたわ」
どこか馬���にされた心地がしたので、ちょっとだけぶっきらぼうに言う。
「いいなぁ。……私のおっぱいも、そのくらいで止まってくれると嬉しかったんですけどね。……」
あれ? と思うと先程感じていた同情心がどんどん消えていく。莉々香は恐らく、本音として紀咲のおっぱいを羨ましがっているけれども、やはり馬鹿にされている気がしてならない。
「あ、もしかして今私のブラジャーを着けてますか? 前、アンダーが合わないって言ってましたけど、延長ホック? っていうのがあるらしくて、それ使うといいかもしれません」
と、知っていることをどこか上から目線で言われて、カチンと来る。そういえば、いつからだったか、おっぱいのことに関してはすっかり先輩の立場で、莉々香は紀咲に色々とアドバイスをするのである。
「……知ってる。………」
――だから、余計にイラつかせられるのである。
「姉さん?」
「知ってるって言ってるの。なに? いつの間に私に物を言う立場になったの?」
「ね、姉さ、――」
「そんな化物みたいなおっぱいが、そんなに偉いって言うの? ねえ、答えてよ」
「化物だなんて、……姉さん落ち着いて」
「落ち着いてなんていられるかっての。今もあんたのブラジャーが私を締め付けてるの、分かる? この気持。中学生の女子におっぱいで負けるこの気持。世界で一番大きいおっぱいを持つあんたには分からないでしょうね。………」
この女の前では絶対に泣かないつもりであったが、今まで誰にも打つけられなかった思いを吐き出していると、一度溢れた涙は止めどもなく頬を伝って行く。
「何よ何よ。私がどれだけ努力しているのか知らずに、いつも見せつけるようにおっぱいを強調して、そうやって毎日あの変態を誑かしてるんでしょう? ――どうして、どうしてあんただけそんなに恵まれてるのよ。どうして。………」
とそこで、ぐす……、という鼻をすする音がしたので、そっと涙を拭って前を向くと、莉々香は机の上で握りこぶしを震えさせながら俯いている。ゆっくりと顔が上がって、すーっとした涙の跡が陽の光に照らされる。
「私だって、………私だって紀咲姉さんの事が羨ましい。ほんとうに羨ましい」
「………」
「Tカップって、まだ常識的な大きさだし、着る服はあるし、姉さんは私のお下がりのブラジャーを使ってますけど、ちゃんと売ってますから、ちゃんと市販されてますから。……私のブラジャーが一着いくらするか知ってますか? 8万円ですよ、8万円。ブラジャー一個作るのに10万円近く取られるんですよ。……ほんとうに姉さんくらいの小さなおっぱいが良かった。ほんとうに、ほんとうに、………」
「りり、……」
「いえ、姉さんが羨ましいのはそれだけじゃないです。どれだけ胸が大きくなっても兄さんは振り向いてくれないんですもの。……」
「えっ?」
「もう何回もチャレンジしましたよ。兄さんを押し倒して、姉さんみたいにおっぱいで気持ちよくさせようと。……けど駄目でした。どうしてなんでしょうね。私だったら体ごとおちんちんを挟んであげられるのに、体全体をおっぱいで包んであげられるのに、兄さんは手すらおっぱいに触れずに『紀咲、紀咲』って言って逃げちゃうの。……」
初のことだから、もうすでに欲望に負けてそういう行為をしていると思っていた紀咲は、驚いて彼の部屋の方を向く。
「��から、意味がなかった。意味が無かったんです、――」
と莉々香は体を捻って手を伸ばして、本棚の一番下の段から手にしたのは紀咲もよく知っている、怪しげな英文の書かれたプラスチックの容器。
「小学生の頃からこれを飲み続けてきた意味が無かったんです。……」
「りりもそれ飲んでたの」
そういえば昔、どうしてそんなに大きくなるんですか、と聞かれた時に一回だけ見せびらかしたことがある。
「ええ、……でもね姉さん、私の場合違うの。兄さんが、……えっと、そういう女性を好きなのは分かっていましたから、こう、……手の平にがさっと適当に出して、お水で無理やり飲んでました」
「それ一体一回何錠くらい、……」
「15錠くらいだったような気がします。駄目ですよね、注意書きにも駄目って書いてますし」
容器のAttention と書かれた下には、〝必ず一日4錠を超えてはならない〟と一番上に太文字であるから、莉々香は4日分をたった一回で飲んでいたということになる。そういうことだったのか。………
「でもどんどん大きくなっていくおっぱいが嬉しくって、最終的に一週間も経たずに一瓶開けるようになって、……最後は兄さんが救ってくれたんですけど、飲んでないのに、おっぱい大きくなるの止まらなくて、………もう着る服なんて無いのに、おっぱいは重くて動けないのに、でも全然止まる気配がなくて、………紀咲姉さん、私どうしたらいいんだろう」
と、さめざめと泣き出したのであるが、どうしたらいいのかなんて紀咲には全然分からず、ただ気休めな言葉を投げかけていると、しばらくして初がやって来たので、せめてこの哀れな少女の気を少しでも晴らそうと、その日は3人で日が暮れるまで淫らな行為をし続けたのである。
(おわり)
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mb-009
no : mb-009 series name :そのにおい
item:ブラウス
color : オフホワイト(製品洗) ライラック(製品染)
スミクロ(製品染)
material : 表地1 / cotton100
表地2 / linen100
size : 裄丈80 / 身幅60~ / 着丈(F)59(B)66
delivery : 10月中~末頃
price : 26,000yen
28.600yen(taxin)
2��類の素材・レースを切り替え製品後加工を施したブラウス。
パーツによってコットンタイプライターとリネン素材を使い分け、
部分的にレースを切り替えたデザインは、
製品後加工を施すことで風合いの差が表情豊かな仕上がりに。
レースの装飾が特徴的なヨーク、そこから入るギャザー、
たっぷりと空気をはらむオーバーサイズの身頃シルエット、
たくさんのギャザーが袖口に窄んでゆく大きなスリーブ、が
贅沢な1着。
※お使い のパソコンのモニターによって、実際の色味と多少異なって見える場合があります。
※掲載画像はサンプルです。実際の商品と仕様、加工が異なる場合がございます。
※生産状況により納期遅れの可能性がございます。
上記予めご了承いただけますようお願いいたします
サンプル画像からレースが変更となっています
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春も楽しめるコート~ osakentaro coat
こんばんは。
・
明日からカーリングの日本選手権が始まります。
東京五輪問題もありますが、2022年には北京の冬季五輪もあります。
これもどうなるかまだ不透明ですが、この大会はそんな北京五輪にも繋がる大会ということで個人的にはめちゃくちゃ気になっている大会です。
前回、平昌五輪で女子カーリング初のメダルを手にしたロコソラーレが勝つのか。それとも他のチームが勝つのか。非常にワクワクしております。
ちなみに個人的には中部電力を応援しております。
・
さて、まずは明日からの営業予定のお知らせです。
2/8 (月) ~ 2/14 (日) 営業予定
2/8 (月) 13:00 ~ 19:00
2/9 (火) お休み
2/10 (水) お休み
2/11 (木) 13:00 ~ 19:00
2/12 (金) 13:00 ~ 19:00
2/13 (土) 13:00 ~ 19:00
2/14 (日) 13:00 ~ 19:00
引き続き、新型コロナウイルス感染対策をしての営業となります。ご協力よろしくお���いいたします。
また、現在関西三府県に緊急事態宣言が発令されております。それを受け、営業時間を19時までの短縮営業とさせていただきます。
今後の状況次第で臨時休業とさせていただく可能性もございます。
ご理解、ご協力何卒よろしくお願いいたします。
・
とさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
それでは本日の本題に。
本日は春(2月から4月くらい)まで活躍する羽織りものをご紹介させて頂きます。
・
暦では春を迎えたとはいえ、少し肌寒かったり、逆に日中は冬用のコートをきると少し汗ばむ。
実際、この週末はお店に行くまで、家から歩くと暖かいな思うお天気でした。
そんな日もこれから増えてきそうですね。
今回はそんな季節にぴったりなアウターをご紹介させて頂きます。
それでは早速。
osakentaro : brown wool jacket ¥50,000 (+tax)
まずはユニセックスでご着用をお楽しみいただけるアイテムからピックしてみます。
こちらはブラウンのメルトン素材を使った羽織りとなります。
襟元はノーカラーの仕様となるため、すっきりとして見えますね。
一方、身幅はかなりボリュームをとっておりますので、女性はもちろんですが、男性にもご着用いただくことができます。
こちらは男性が着用した場合となります。
インナーには厚手のしっかりとしたニットと着用しております。
しかし、これから徐々に暖かくなるにつれてインナーを薄手のアイテムに変えて頂ければ、3月、4月の装いをサポートしてくれるのではないかと思っております。
こちらは女性が着用したイメージとなります。
男性は少しオーバーサイズのアウターとして、一方女性はかなりゆったりとしたオーバーサイズのコートとしてご着用いただくことができます。
今からの季節ですと、男性の着画イメージのように���体的にベージュや生成りなどの淡い色味と合わせても良いかと思いますし、女性の着画イメージのように差し色として鮮やかな色味を持ってくるのも素敵ですね。
osakentaro : light blue coat ¥66,000 (+tax)
続いては淡いブルーが素敵なコートになります。
こちらもユニセックスでご着用のできるアイテムとなります。
こちらが男性が着用したイメージとなります。
ダッフルコートのような見え方となりますが、フードは無く、襟付きのアウターとなります。
これからの季節は女性の着画イメージのように前を開けてざっくりと羽織っていただくのがオススメです。
白や生成りといったアイテムと合わせると春らしい装いになるのではないかと思います。
また、ちょっとチャレンジしてオレンジ、イエロー、ピンクなどのカラーとの相性も良いかと思います。
春らしく色味を取り入れた装いもオススメですよ。
osakentaro : white wool coat (green stitch) ¥47,000 (+tax)
柔らかな白のウール素材をベースにグリーンのジグザクステッチが映える一着となります。
斜めに配置されたポケットの付き方もユニークで、可愛らしいですね。
こちらも肩を落として着用いただくような、ゆとりのあるサイズ感のアイテムとなります。
丈もちょうど腰くらいまでのアイテムとなりますので、コーディテートにも取り入れて頂きやすいのではないかと思います。
このように肩から掛けて羽織るだけでも素敵ですよ。
気温が徐々に暖かくなると、日中はこのような着用の仕方も一つの方法かもしれませんね。
osakentaro : gray short coat ¥40,000 (+tax)
非常にショート丈なアウターはレイヤードを楽しめるので、これからの季節にもぴったりなアイテムかもしれません。
個人的には前を開けてインナーを見せるような着用の仕方をお勧めしております。
インナーに合わせたブラウスがしっかりと見える丈感となります。
そのためアウターとインナーの色の組み合わせを楽しむのがお勧めですよ。
そのように聞くとちょっと面倒とか難しそうとか思う方もいらっしゃる方もいるかもしれません。
しかし、ベースがグレーのアイテムになりますので、比較的組み合わせの幅も広いため、ご安心くださいませ。
淡いカラーのニットやブラウスと合わせると春らしい装いができるのではないかと思います。
イエロー、グリーン、ブルー、ピンクなどは春らしいイメージにもぴったりかと思います。
そういった色味のアイテムがご自宅にない方は白やネイビーといったカラーと合わせても素敵だと思いますよ。
ちなみに、この背面の仕様もとても可愛らしいですね。
osakentaro : white wool big pocket coat ¥63,000 (+tax)
こちらはオフワイトカラーのオーバーサイズのコートになります。
ポイントは立体的なポケット。
大きな立体ポケットが左右に配されており、実際に携帯などを入れて使っても良いですし、飾りとしてもとても素敵です。
また、もう一つのオススメのポイントは袖口を結んだ時にキュッとなり、袖のシルエットに変化をつけて着用できる点にあります。
非常に女性らしいスタイリングでは無いかと思います。
着丈も長く、すっぽりと覆ってくれるようなシルエットがとても素敵ですね。
前のボタンが一つしかありませんので、ざっくりと前を開けて着用しても良いですよ。
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ということでざっとではありますが5点、これからの季節にオススメしたいアウターをピックしました。
なぜこれからの時期にオススメか。
それは、基本、本日ご紹介したアウター類に裏地はございません。
そのため、ウールのコートでも、よりライトに羽織っていただけるアイテム達になります。
なので、インナーを調整することでまだまだ活躍する場面がございますよ。
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スプリングコートとして春のお出かけのお供に。
可愛らしいアウターを羽織だけでキマるアイテムは一着あるととても便利かもしれません。
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それでは次回もお楽しみに。
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漫画のもと♯1「沈んだエンター」
公開しておく。プロットと思ったら小説になった今描きたい漫画の一話目。
第一話「沈んだエンター」
音量だけは申し分ない、薄っぺらな演奏が部屋を満たしている。メロディこそないが、あまりにも耳慣れた曲であるため、大して鳴らない口笛を吹きながら体を揺らす。おっと、アイラインはずれるといけない。
「例えばさ、そのとき付き合ってる人のことを歌った曲が大ヒットするじゃん。ライブで歌ってほしい曲ナンバーワンになったり、歌番組に出るときの十八番になったりする。でも実は別れてて思い出したくもありません! みたいな関係性にもうなっちゃってたとき、どんな気持ちで歌えるんだろうね?」
少し間があった後で、目を閉じたままの彼女は小さく笑った。
「……面白いこと言うね」
「あっ、これで最後だから目開けないで。こんなにラブラブなのに我に返る時がさ! 来るんだよ、実際この歌手も浮気されて離婚してんじゃん」
「そうなの?」
本来の目的以外のために使われているカラオケボックスの個室には、女子高生が二人。テーブルには使いっぱなしの化粧道具がいくつも転がり、それらの装飾部分を天井のミラーボールが機嫌よく照らし、まるで魔法の道具のように見える。化粧を施す佳奈子の眼の端では、頑丈そうな黒い細長い箱が存在感を主張している。
「ごめんね、土曜なのに呼び出して」
「ちょうどお互い課外あったし、気にするなって」
ちょっとミスったかも。カラオケの個室は外気よりずっと暖かくて、ちょっと暑すぎるくらいで佳奈子のむきだしの膝は喜んだけれど、橙色の照明と肌の上をちらちら通るミラーボールの光の中色を選んでは、太陽光の中で見たときに印象が変わってしまうかもしれない。まとい(・・・)を送り出す直前にトイレの白い照明でも確認しないとならないな、と思う。二人の通う高校の最寄り駅のトイレやフードコートで同じことをしてもよかったのだが、まといがあまりにも大荷物かつ着込んでいたので、なんとなくはばかられたのである。佳奈子は、最近動画で見たのと同じように、ベースの色を載せてから深いワイン色のアイシャドウをぼかし、少しだけモスグリーンを目尻に置いた。派手すぎないアクセントカラーが、まといの猫目を引き立ててくれると信じながら、さりげなく、��重に。
「……まだ経験したことないからわかんないなあ」
「うん、もう一回言って?」
独り言のようなその言葉に反応が遅れた。
「佳奈子ちゃんのさっきの。わたしには大事な人がいた経験がないからわからない。けど、その瞬間瞬間の気持ちに正直な表現の方がずっと美しいと思うから」
脈絡がないようで、しかし先ほどの佳奈子の発言を踏まえた、まといの意見らしかった。
「どういうこと?」
「だってきっと、嫌でしょう。いつまで持つかな~この恋人と、って思いながら作る曲なんてかっこうよくないじゃない。聞き手も恋人も」
まといは変人だ。
*
今日がこんなことになっているのは、佳奈子がまといへ話しかけたことがきっかけである。もっとも、とっさに振り返り声をかけてしまうほどの��めの眼力を背後から飛ばしていたまといのせいである、と言い換えたい。修了式を行う体育館へ移動するにも前クラスの着席に時間がかかっているらしく、学年で最もケツ(・・)の一年H組は、長いこと廊下で出席番号順に整列させられていた。もとより苦手な人などいない佳奈子であったが、その日はやや精神が不安定な自分を察知し、イヤホンをして動画を観ることで、人とのつながりを遮断し、この後のクラスでの打ち上げやお別れムードに向けてエネルギーを備蓄していたのであった。
とはいえ、話しかけられるよりも視線のほうが協力で無視しがたい圧があることを、佳奈子は初めて知った。目算で一五センチほど佳奈子より上背のあるまといが、佳奈子のつむじのさらに奥を上からのぞき込もうとすれば、まず影になる。無礼にならないよう配慮しているのか、見たり見なかったり、やっぱり気になるのか見たり…とかかる影がゆらゆらと揺れればそちらの方が気になるものである。イヤホンを外し、やや怪訝な気持ちで振り向くと、出席番号が一つ後ろのまといがピクリと肩を揺らした。
「まといちゃん、どうかした?」
おいおい佳奈子を気にしていたのはそちらでしょう、視線を泳がせて言葉を発しないまといを佳奈子はじっと待ってみた。そしておもむろに発した言葉。
「佳奈子ちゃん、お化粧できる……?」
*
最後にかかったのは、長いこと人気曲ランキング上位のアニメソングだ。サビ前の激しいベース音が心地いいが、曲の盛り上がりにかき消されないように声を張る。
「まといちゃんさあ、正直こんな綺麗にして行くものじゃなくない? 老人ホームでしょ」
「いやいや。きっと喜んでくれるよ~、やっぱり非日常を感じられる方が気分も晴れるんじゃないかなあ」
どうやらまといは、ときどきボランティアでギター演奏��披露しているらしく、それは一年間出席番号が前後である仲だったにも関わらずずっと知らなかったことだった。まと���と仲のいいクラスの子がそのことを知っているのかも定かではない。クラスでも、背筋の伸びた長身というだけで存在感はあった。ギターも似合うだろうなあと思う。クラスに中学からの友達が多かったのもあり、出席番号をきっかけに仲のいい子をつくらなかった佳奈子は、それが少々悔やまれるなあと思った。
数日前に佳奈子に化粧を頼んだまといが、いざ今日二人きりになると佳奈子より気まずそうにするものだからと、始めにBGMとしてデンモクの月間ランキングから適当に入れた。その五曲が流れ終わるのと同時に、濃い目に紅を引き、まといのメイクアップは無事完了した。
「できたよ。うわっ、我ながらいいんじゃない。まといちゃんって化粧映えする顔してるもんねえ。普段の自分のメイクより三倍くらいやりがいを感じましたね…。一応、まといちゃんがここ出るとき変じゃないかトイレで確認させて」
ほら、と手鏡を手渡すとこちらに向かって、まといがわかりやすく笑顔になる。佳奈子は息をのんだ。人を敬遠しているような普段の釣り目が垂れて、敵意をまるで感じさせないほどの柔らかく笑んだ。じっと見つめたまま動かず、佳奈子の耳には液晶の中でインタビューされるアーティストの声が徐々に聞こえてきた。まといほどじゃないけれど、佳奈子も少しのあいだ見惚れていたようだ。まといは唇を震わせて、目がうるんで、えっ、泣いちゃうの?
「すごい…きれい。生まれ変わったみたい。ありがとう」
そうつぶやいたきりいまだ自分の顔を見て恍惚とするまといが現実へ戻って来ないので、佳奈子はナルシストの語源となる神話なんかを思い出していた。自分の美しさに見惚れてもっと自分の映る川だか海だかの水面に近づこうと飛び込み死んでしまうナルキッソス。こんなに美しかったら、自分の映る水の中に飛び込んでしまうのも仕方ないよなあなどとぼんやり考えた。まといはついぞ泣かなかったけれど、その喜びように、じわじわと達成感が押し寄せてきて、まといに正面から抱き着いた。ひぃと引き笑いの途中のような声を上げ、まといが体を強張らせる。どうやら現実に戻ってきたらしい。よかった。佳奈子はさらに、まといにハイタッチを求める。
「そんなに喜んでもらえて光栄だなあ。わたし、メイクアップアーティストになるしかないなこれは! 素材がいいって最高だな……こちらこそ、カラオケ代払ってもらっちゃうし」
まといのここを発つ時間が迫るので、やりっぱなし状態の化粧品をポーチに戻す。
「佳奈子ちゃんはこのあともヒトカラしてくよね」
うんと頷くと、まといは学生二人・休日二時間分の料金を伝票の上に載せた。学生の分際でお金でのお礼はいやらしいぞ、と思いながら���対価なのでときかなかった。フワフワしているように見えて、そういうところはしっかりしているんだなあ、とやや失礼なことを思う。春の近づきを感じさせる若草色のハイネックリブニットとスキニージーンズは細身な体型を引き出しているし、佳奈子の淡いグレーのロングカーディガンは動きやすく、まといの演奏を邪魔しないだろう。残念なことに、長身のまといが着るとそれは膝上そこそこの丈になってしまったが。袖もやや短めに見えるが、不自然なほどではない。そもそもそれまでまともな私腹を持っていなかったらしいまといは、そんなことを一ミリも考えている様子はなかった。
「あ、じゃあ、また明日ね! いやその前に明日も課外あるよね?」
本当に言いたいことを口に出すか悩みながらも、佳奈子は別れを告げた。蛍光灯下での見え方の確認がてらカラオケ店の出口まで見送ると、ギターケースを下げたまといが振り向いた。
「行ってきます」
まといは変人だ。そして、まといは美しい。
「本当に言いたいこと」について、解決するのはすぐ翌日だった。すでに数人が教室にいるのに誰も電気をつけようとしないものだから、誰もつけないのかよ怖いなあ、ありがとう佳奈子様、などと軽口を応酬しながらボタンに近づくと、背後にたった今登校してきたまといがいた。思わずのけぞり、距離をとる。他の人の視線も痛い。自習を邪魔してごめん。
「まといちゃんせめて近づいてくるときに声かけて、びっくりするから!」
「おはよう」
「え、無視」
昨日二人でハグしたことも忘れたような距離感がなんとなく悲しいが、無言のまといが差し出す紙袋をのぞくと、貸していたカーディガンと一緒に、チラシが入っていた。黄色の蛍光ペンで、一か所だけ線が引いてある。
「これ何のチラシ?」
「服まで選んでくれて、すごいいっぱい声かけられた、から」
「それはわたしも楽しかったしいいよ」
ワンターンの会話では質問へ回答は貰えないらしい。仕方ないのでまといのペースに乗ることにする。
「来週の宣伝。お礼には足りないけど……合唱サークルの伴奏したあとで歌う時間貰えたから」
佳奈子は目を見開いた。頬の血色が良くなるのがわかる。
「本当⁉ わたし行っていいの」
「いいよ。でも人にはあまり言わないでね」
わたしもどんな歌を歌うのか興味があったの、とニヤニヤが止まらないまままといの手を握り締めると、人に言わないでって言ったんだけど、聞いてた? と訊かれるものだから、佳奈子はそれまといちゃんが言うの? 返した。昨日はカラオケに行ったにもかかわらずまといの歌声がどんなものか聴けなかったから、好奇心があったのだ。ギターを持っているというだけで、化粧をしているだけでさらに見栄えするまとい。どんなものでもいいから、聴いてみたかった。嬉しさの余り抱こうとしたまといの肩は高すぎて届かず、まといの���がかくんと折らせることになった。まきかなこぉ、とにぎやかな集団の気配がしたので、「楽しみにしてる」と一言残し、佳奈子はまといのもとを去った。その集団に向けて、佳奈子はフルネームを呼び返した。
人の賑わいを見ているとわくわくしてしまう。今日だって、近隣の他県からもそこそこ集まるマラソン大会の裏側で、様々なパフォーマンスやら出店やらで、子どもから老人まで楽しそうな声が聞こえてくる。肌寒さはあるけれど、春始まりの空は大変に澄んでいて気持ちがいい。マラソン日和だ。肺にその冷たい空気をいっぱい吸い込む。
段の高さが低く幅の広い階段は屋外ステージのほうを向いており、十時のおやつかマラソン完走後のご褒美か、腰を下ろしてほおばる人の数は二クラス分ほどいそうだ。結構大きい舞台じゃないか、と思いながらまといの出番を待機していると、聞き覚えのあるゲラゲラ笑う声が聞こえた。振り向くと、指をさされている。
「まきかなこじゃん、何してんの」
「あらおはよ! 何って出待ちよ。早映と心愛はなんでいるの」
「早映が昨日うち泊まってたから、家からここに遅い朝ごはん食べにきた」
「そういえば実家この辺だっけね」
「それにしても佳奈子、めちゃくちゃ楽しんでるじゃん」
「そりゃ人生楽しむ天才だからね、わたしは」
防寒対策にレジャーシート、みたらし団子とのり団子、片手には甘酒。我が子の発表を待つ父兄にも勝るほどに準備万端、今日を楽しむ準備はばっちりである。楽しんでいるのは、もちろん佳奈子も例外ではないのであった。
今日はまといに化粧を断られてしまった。今日のまといの役割は合唱隊の伴奏がメインなので、目立ちすぎず、いつも通りでいいらしい。
「で、佳奈子はなに目当て?」
チラシを確認する。
「えっとね、カンレキーズの合唱……?」
「渋いな」
「身内出るのか」
「ネーミングセンスがない団体だな」
好き放題言われているのを流しながら、まといに言われたことを思い出す。人には言わないようにと念を押されたが、掲載されているのは合唱サークル名のみだ。まといの名前はなかったので、ばらしても問題はないということにしておこう。
「あっ、きたきた!」
幼稚園児たちのダンス発表が終わり、次のステージには平均年齢のぐんと上がり、おばさまとおじさまが十人ほどだ。そして間隔をあけて後に続くのはまぎれもなく、まといだ。ギターを抱えている。
――カンレキーズです! よろしくお願いします。毎年このステージには上がらせてもらってるんですが、今年も楽しみにしてきました――
はらはらするところの一切ない貫禄のあるMCの中、まといは用意されたパイプ椅子に静かに座った。大人たちと同じ白いブラウスに、浅葱色のギャザースカート���履いたまといは、自分の存在感を大人たちと違うところに移そうとしているように見えた。ブラウスの下は各自の私物なのか、派手な大判の花柄のスカートや、明度の高いパンツが多く、めいめいが目立つことを楽しんでいるふうだ。
――今回披露するのはジブリメドレーです。ギターの音に乗せて、ぜひお楽しみください――
ふいにスポットを当てられたまといは、わずかにびくっとしたようだったが、指揮者に合わせて優しく弦をなぜるように弾き始めた。まといはギターが上手かった。なるほどメンバーはなかなかのベテランらしい、ぴたりと重なり合うハーモニーに、一方まといも、
それを邪魔しないよう徹底した細やかで穏やかな演奏だった。
箒やお面などの小道具、軽やかなステップも最後までそろったひたすらに楽しい時間に、観客から放たれた拍手は盛大なものだった。
「すっごいねえ……」
ため息とともにつかれた佳奈子の言葉に、早映と心愛は「ガチ恋みたいだね」と絡もうとしたが、やめた。佳奈子ももれなく心を動かされ、放心状態だった。すごい。彼女は生み出せる人間だ。自らが生み出したもので人を幸せにできる人間だ。まといは部活にも入っていなかったから、普段どんなことをして過ごしているのか想像がつかなかったし、特に想像してもこなかった。佳奈子は自分が一番輝いているという自負が揺るがない、幸福な人間でもあった。世界が広がるような気持ちだった。
感動はまといの言葉を忘れかけるほどで、そろそろ行こうか、このあと遊ぼうと佳奈子の腕を引き立たせようとする二人の友人に反応しようとするが、引っかかるものがある。まといはなんて言ってたっけ。
――盛大な拍手、ありがとうございます。最後に、今回伴奏をしてくれたまといちゃんにバトンタッチして、終わろうと思います――
「そうじゃん! 待って、わたしこれ最後まで聴かなきゃ」
――このサークルの平均年齢をがくっと下げてくれているのが、まといちゃんですからね。いつも素敵な伴奏をしてくれるんですが、今日は彼女の作った曲を皆さんにも聴いていただけたらと思います――
慌ててもといた場所にしゃがみ直した。ステージに一人にされるまとい。あの変人は大丈夫か。佳奈子の心配をよそに、まといは安定した声であいさつをした。
「このような機会を貰えて嬉しいです。よろしくお願いします」
今日はポニーテールだった。毛束が丸い頭をするりと滑って前にくるほど、深々と礼をして椅子に腰かける。
「あれ、うちのクラスの的井さんじゃない?」
「えっまじか、ギター弾くんだ」
早映と心愛の気づきに構うはずもなく、まといは息を吸い込んだ。佳奈子は手に汗を握った。平坦で温かみの残った声だった。
「沈んだエンター」
喝采の中で、佳奈子は誰よりも拍手した。
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人々は常に何か非常に白ときれいなようにSFを描写する方法ではない
つの優雅さとしてポーズをとっているモデルは、ねじれた、そして、鋲でおおわれている白い網の層の下で複雑に切られたシルトを着ました。彼らは縛られていなかったが、結束した織物と一緒に髪を織って結ばれ、団結して団結した。その言葉は顔に銀で塗られた。専制政治は赤い、プリーツのパンテットによって表現されました。メイクアップアーティストのインゲンGrognardによる青い口紅は、モデルの顔の向こう側に広げられました圧政は抑圧する。恐怖は分ける。アパシーレスト.ボイスコール。勇気ブレー��ス.統一バインド。修理治療。「希望は君臨します」と、ショーメモは、宣言しました。あなた。それら。」
明り、カメラ、クラブ子供。ブリッツクラブ時代のカラフルなキャラクターに触発され、プレンの秋冬の17コレクションは、新しいロマンティックへのラブレターだった。誇張されたキャバリエのブラウス、緩やかなパンタロン、と汚れたリーボリーのメーキャップメイクアップを考える。 バレンシアガはヴェトモンより人気パレットは主に宝石のような色と花のプリントの活気のあるブロックによって相殺された全体のスパンコールの外観で混ざった厳しい黒人から成りました。他の場所では、コルセット、ラム袖の足、およびツイードとカラフルなせん断でエドワーディアンスタイルのコートとサプリメントに参照がありましたロンドンのアーチ。80年代のブリッツクラブ子供とそれらの勇敢な従属者は最も自然なベッドフェルトでありません、それは政治的な声明の形として服の彼らの共有使用でした投票する権利のためのIGN -これは、このコレクションをとても痛烈にします。これらの乱流回では、創造性は、日を保存することができます。
誰でも、Ruポールのドラッグレースのファンですか?シーズン7、特にエピソード11 -クイーンズは、みんなのお気に入りの日本のアイコンのハローキティに敬意を表しておしゃれな衣装を作成する必要がありますか?さて、ライアン・ローがシーズン7にいたならば、彼は「今週の挑戦の勝者」でした。コレクションの他の場所では、ライアンは、いくつかのスーパーカワイのインスピレーションのために、今も消滅した雑誌の果物だけでなく、香港の彼の青春期に瞑想した。そして、ロゼットの詳細による集められたドレスは、超長い多色の束(髪マエストロサムMcKnightの礼儀)で完了しました。頬のリンゴの上の誇張された赤面(イサマヤFFrenchのおかげ)は、渋谷の通りからまっすぐ裂けました。
「ディストピアな中世のSF将来」は、マット・ボバンがLuluケネディの才能インキュベータファッション東のために彼のBarnstorming第2のキャットウォーク外出を説明した方法です。バレンシアガ tシャツ 偽物将来のビジョンは、“しかし、人々は常に何か非常に白ときれいなようにSFを描写する方法ではない、それは砂のような、”彼は説明した、布はすべて処理され、洗って、フェルトのほとんど神聖な品質を与えるために。モデルの信じられないほどのラインアップ- Opener Chantelle WINNY、象徴的なグレースボル、およびI - Dのカバーを含むADWAA Aboahとディロン星-ボバンの重層ルックスを着ていた。
非対称で、細くて、パッチワークスタイルのニットウェアは、トップとスカートと魔女と悪魔の1400年代から木版画で印刷されて階層化されました。明るいオレンジ色のトーン・デニムは分離します、そして、Tomboyishズボンは「ボバン社」パッチでもぎ取られました。パッチは、外国人とブレードランナーのようなSF - Filmへの頬参照で舌でした。装飾はまた、彼の生産についての冗談だった-すべてのMattyの衣服はユニークな1つのオフです。ルックスは彼のお母さん、プラム・ボバンと一緒に作ったミキシング・メディア・ジュエリーで仕上げられました。革バッグはコーチによって貢献されて、Mattyによってカスタマイズされました。
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第一話「不可思議と影」 (6)
「ハノちゃんって、いうのかい? 花が咲くような、大地にうるおいを与えるような素敵な名だね……僕はユエ、一応このフライハイトに所属している者さ」 青年はやわらかにほほ笑んで、礼儀正しく会釈をした。 ハノは、はっとして辺りを見回した。壁に飾られた、雄々しい白い鳥が描かれた旗を見つけて確信する。この建物は昨晩村長にも教わった冒険者協会フライハイトそのものだったのだ。民間人の護衛や情報収集、魔物の退治など様々な依頼を承っている、いわゆるなんでも屋のようなものだ。 清潔感漂う小奇麗な木造の建物で、大きく育った観葉植物がところどころに飾られている。それに数個ほどならべてある木の丸テーブルやイスも、使い古されているのか、傷はあれどまだまだ丈夫そうだ。スプリードの一番広い部屋より広い、酒場を思わせるような場所だ。“定職にもつかず、武器を振り回すならず者”と呼ばれる者たちのすみかにはとても見えなかった。 しかし、そこにいるがたいのいい男らは剣や斧をテーブルに立てかけ、傷だらけでごつごつした大きな手でジョッキを握り、豪快に酒を飲み交わしている。やはり、ハノが想像する冒険者のすみかなのである。 「アンタみたいなすごいひとに出会えてよかったよ。あぶないところを助けてくれてほんとうにありがとう、ユエ!」 ハノが握手をもとめると、ユエもそれを快く受け入れてくれた。 「どういたしまして。君は無邪気であたたかくて、まるで太陽を思わせるようだね。そんな魅力的な女性に出会えたことを僕は誇りに思うよ」 これが一般的には口説かれているのだということに気がつくはずもなく、彼のつむぐ言葉やどことなく優雅なしぐさが、森に住む少女にはとても神妙に映った。はじめて会ったひとは彼を一目見て冒険者だとはわからないだろう。 細身で長身である彼のいでたちは、温暖なこの国には不釣合いな北国のものだった。コートの襟や袖にあしらわれた黒い毛皮、その下にまとったチュニックは金糸で紡がれた優美な模様が描かれ、首元をリボンタイでまとめた純白のブラウスが、高貴で上品な香りを漂わせていた。白い肌にかかった長い白藤色の髪はリボンでゆるく束ねられている。貴族のような美しい装いの青年であったが、そういうひとびとに慣れていないハノにも、近寄りがたいとか親しみにくさというものはなかった。 「なにをしでかしたのかなんて野暮なことは聞かないけれど、ユミリア王国軍には気をつけたほうがいいよ。君みたいなかわいい少女にだって容赦しないからね」 水のように澄んだ青い瞳が、ハノの表情を映す。あっけにとられたような顔だ。 「ユミリア王国軍ってまさか……」 肝心なことが頭から抜けてしまうのは、ハノの悪いくせである。村長に叩き込まれた知識が、滝のようにハノの脳内に流れて出てくる。その瞬間最初に理解できたのが、逃げきれたのは運がよかったということ。彼らはこの国が率いる兵士達で、そしてその中でも黒服を着た集団は特別治安部隊”セイバー”と呼ばれている優秀な人材を集めた者たちだ。彼らはなにか大事な任務を成し遂げようとしていたのかもしれない。おそらくハノは、その邪魔をした敵と思われているに違いないだろう。 「オレはただ、鳥人のおんなのこを助けただけなのに」 ハノはうつむいて、ささやくようにひとりごちる。ユエの眉がわずかに動いて、そっと彼女の顔を覗きこんだ。 「鳥人のおんなのこ、とは?」 「……綺麗なみどり色の目をした子だったよ。王国軍の――黒い眼帯をしている男を見てすごく怯えていたんだ。あれはただ事じゃないと思ってさ、それで思わず逃がしたんだ」 「なるほど、君は共犯とでも思われたのだろうね」 その時の状況を思い出し、ルビーの瞳は輝きをにごらせる。治安部隊に追われるということは、あの少女がなにか悪事を働いたのだろうと、ユエは予想しているのだ。しかしハノにはどうしてもそうは思えなかった。明確な根拠があるわけではない。ただ、涙に濡れなにかを訴えるようなエメラルドの瞳が脳裏に焼きついて離れないのだ。 「あの子は、悪いことをして逃げているようには見えなかった」 その言葉を聞いて、ユエはすこし考えるような仕草をした。それから一瞬おどろいたような、おもいついたようにも見える表情をすると、ハノを手招いて小声でつぶやいた。 「だとしたらそのおんなのこは、この国で起きている事件の被害者かもしれないね」 「……事件って、どんな?」 ユエの表情がわずかにくもったような気がした。ハノは聞いてはまずかったかと思いながら、物語るように淡々と話を進める彼に耳をかたむけた。 「精霊病と呼ばれた病を患ったひとがいる。そのひとは何かにとり憑かれたように、暴れまわり周囲の人間に被害を与える。ただ一般人が暴れるだけなら僕たちには止められるんだけど、厄介な事にその病にかかったひとは人間でも、鳥人が使うような魔法を使えるんだ。それも結構強力なものをね」 鳥人には、男性が鳥に変化することができ、女性は風を起こす力を持っていることは、ハノも知っていた。万物に宿る精霊に力を借りるだとかそんな話を聞いたことがある。人間にはその精霊の姿も声も聞こえないはずだった。 「そこで鳥人の王族に病にかかった人間を見せたら、なにか精霊と近いものの気配がすると言ったそうだ。精霊は純粋な血統を持つ鳥人ではない限りその姿を見たり、話したりすることはできない。見ることができても、止められなければ意味がないけどね……王族でも気配を感じ取るだけで精一杯だった。だから、今のところ��り憑かれたひとを隔離するしか、対処のしようがない」 諦めたようなユエの言葉に、ハノは思わず身を乗り出していた。 「鳥人なんて街にたくさんいるだろ! 誰かひとりくらいはどうにかできるんじゃないか?」 ユエは参ったというように肩をすくめて、 「いや、ここは鳥人が治める国だけど、人間の数も半分ちかくいるだろう? 純粋な血統は年々途絶え、今は王族だけといわれているんだよ。でも、その王族も役に立たなかった。それで、さっきのユミリア王国軍のデスティ・リューリスはその精霊に取り憑かれた人を助けるべく、殺すという選択を実行している」 そう語る時の瞳はどこか遠くをみつめていた。 ハノは驚きのあまり言葉もでなかった。助けるために殺さなければならないなんて、それは助けるとは言わない。胸の奥から、言い表せないなにかがふつふつと沸いてくる。 「当然とり憑かれた人間が亡くなれば、騒ぎはしばらく治まるけど、憑きものが消滅したわけではないから……また別の人に乗り移る可能性は大きい。根本的な解決にはならないんだ。実際にもう十人以上は被害に遭っているし」 「さっきのおんなのこが、その病気にかかっているっていうのか?」 「あくまでも、憶測だよ」 念を入れるように、冷静な声でユエは言った。 こんな悲惨な事件があったなんて、全く知るよしもなかった。自分のなくしものをのん気に探している場合なのだろうか。己の無知さにハノは拳を強く握るしかない。この街は豊かで活気のある、平和な街だと思っていたのに。 ユエはうつむいているハノを見、ちいさくため息をついて、苦い笑みをうかべた。 「ああ、ごめんね。会ったばかりの君にこんな話をするつもりはなかったんだけど」 気にしなくて良いという意を込めて、ハノは黙って首を横に振った。そのあと、無意識に心のなかにうずまいていた決意が勝手に口をついてでてきた。 「なあ、ユエ! あの鳥人のおんなのこが殺されるなんて納得いかないよ。助けたい」 「その子は、君の知り合いなのかい?」 「……そうじゃないけど、ほっとけないよ。だってあの男、絶対本気だ」 まるで憎悪をぶつけるかのような紅い瞳を思い出すと、今でも背筋が凍りつく。あれを殺気というのだろうか。 ハノは先ほどからずっと、目の前にある旗を見ていた。女性の鳥人には、この旗に描かれた鳥のように大空を羽ばたく力はない。この城塞の檻の外に逃げることなんてできない無力な雛。助けてくれる者が必要なのだ。 ユエはふと、木窓の外をちらりと横目で見てから、ハノの方に視線を戻した。 「君はやさしいんだね。でも、今は自分の心配をしたほうがいいと思うよ」 ハノは理由を問うように、ユエの顔を見た。そこにはいつものようにおだやかな笑みはなく、無表情でありながらも警戒の色がうかがえた。 「三人……いや、四人かな」 「……なんのことだ?」 「この協会の周りを張っているネズミの数さ。僕が見張られているのか、もしかしたら君が出てくるのを待っているのかもしれない。どっちにしても僕は彼らからとことん信用されていないらしいね」 噂をすればなんとやらか――そう言ってやれやれと肩をすくめる時の表情は、どこか楽しんでいるようにも見えた。まるで他人事のようである。 ハノは一瞬、背筋に黒い影が通り抜けたような気がした。 「……もしかして、王国軍がいるのか?」 ハノがつぶやいたちょうどその時、カウンターの奥の扉から妙齢の女性が姿を現した。おそらく協会の職員だろうか。読書にふけっていたのか、ぶあつい本を片手に抱え、来客に今しがた気づいた様子だった。目についたハノをもの珍しそうに頭の先からつま先まで見たあと、その傍らにいたユエの方へ視線を向けあきれた風に口を開いた。 「やはりユエさんでしたか。女性をたぶらかしている場合ではありませんよ」 「やあ、ノア。君も気づいたのかい? さすがユミリアの野に咲く美しい薔薇だ。突然だけど、ここを頼めるかな」 彼女の冷めた視線を溶かすように、ユエが向ける瞳はとても嬉々たるものだった。先ほどまではハノにもそんな視線を向けていたので、どうやら彼は女性とあらばいつもこの調子なのだろう。 ノアと呼ばれた真面目そうな女性はといえば、ユエの頼みを聞いているのか聞いてないのか、さりげなく握られた手を押しのけるとハノの方へ歩み寄って軽く会釈をした。 「ようこそ、冒険者協会フライハイトへ。お話は伺っています。私は依頼の受付を担当しているノアと申します。あなた様のお名前は?」 「ハノだ」 「ハノ様、うちの冒険者がご迷惑をおかけしました。あなた様の安全は彼がお守りしますので、ご心配なく」 ノアは切れ長の目で睨みつけるようにユエを見た。それでも彼は、余裕しゃくしゃくたる態度でのん気に笑っている。ご機嫌にノアの手を握って別れを言ったあと、片手でハノの肩を抱きカウンターの奥の部屋へと促した。 ハノにはなにがなんだか把握できず、されるがままの状態でユエの横顔を見上げた。 「ユエ、これからどうするんだ?」 「僕と愛の逃避行なんてどうかな? 秘密のデートコースがあるんだ」 「無駄口は逃げ切れてからお願いします」 背後から聞こえたノアの声に、ユエは片目を閉じて合図を送った。
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【2018年春夏AFWT ハイライト4】 大御所の参加、若手の躍動で盛り上がり 「大人モード」に深み
(写真 TOGA)
「アマゾン ファッション ウィーク東京(Amazon Fashion Week TOKYO、AFWT)」2018年春夏は、伸び盛りの若手と成熟の実力派ブランドが持ち味を発揮する一方、パリ、ロンドンで発表している日本のトップブランドが参加するというサプライズも加わって、これまでで最大の盛り上がりを見せた。
メディア関係者やスタイリストなどの業界人にとどまらず、著名人やインフルエンサー、ファッション学生などの来場が増え、会場内の華やさと話題性もアップ。クリエーション面でもグローバルなトレンドを映し出しているのはもちろん、若手のチャレンジや、中堅・ベテランの打ち出す「大人モード」など、幅広い層に受け入れられそうなノーエイジ提案、ダイバーシティーへの目配りなどが今の時代の空気を写し込んでいた。運営の仕掛けにも新発想が生かされていて、AFWTの発展を期待させた。
◆トーガ(TOGA)
ロンドン・ファッションウイークで先に2018年春夏コレクションを発表済みの「TOGA(トーガ)」は東京でのお披露目に当たって、メンズモデルを加えるという趣向を用意した。ロンドンではおごそかなムードに身の引き締まるような大聖堂で発表。
東京で舞台に選んだのは、開館10周年の国立新美術館。今回はAmazon Fashionのスペシャルプログラム「AT TOKYO」の一環であると同時に、ブランド創立20周年の節目となるショー。記念の晴れ舞台となったこともあって、大勢の著名人が詰め掛けた。
メンズモデルも登場したおかげで、ウィメンズオンリーだったロンドンで見たときよりもコレクション全体としてのジェンダーレスなたたずまいが際立った。「Holes,Suits,Crumpled(しわくちゃに)」というメッセージが物語るように、既成のルールや常識を軽やかに踏み越えるようなクリエーションがたたみかけるように繰り出された。解体のひな形になったのは、英国式テーラーリングの象徴である紳士の装い。
たとえばジャケットは身頃だけがスーツライクだったり、極端にショート丈のジャケットだったり。透明ビニール素材のコートはつやめきを帯びた。両袖をばっさり裁ち落としたかのようなジャケットは肩口にほつれを残した。繰り返し登場したボトムスはひだの細かいプリーツスカート。大胆に脚が透けるトランスペアレント仕立ても披露した。あちこちにカットアウト(くり抜き)を施して素肌をのぞかせ、アシンメトリーも多用。片袖だけをパフィに仕上げたり、ノースリーブとロングスリーブを組み合わせたりと、ドラマティックに演出した。
メンズでは背中にベルトのバックルを回すような、ウィットに富んだ提案が相次いだ。英国服飾文化に敬意を払いつつ、踏み込んだ解体と再構成で、20年のクリエーションを凝縮したかのようなコレクションにまとめ上げていた。
◆ハイク(HYKE)
早くも東コレの主役的存在となった「ハイク(HYKE)」。もともとミリタリーやアウトドアに根っこを持つブランドらしく、タフなムードを下敷きにしつつも、エレガンスや軽やかさを注ぎ込んでダイナミックに再解釈してみせた。 圧倒的な構成力が奇想のシルエットに動感を備わらせている。
キーアイテムとして打ち出されたのは、ミリタリージャケットをスーパーショート丈に切り詰めたようなボレロ風のアウター。肋骨辺りのラウンド裾にギャザーを寄せて、フェミニンな雰囲気をまとわせている。胸から上しかないボレロ風ジャケットはMA-1ブルゾンにも応用して、新しいコンパクトアウターにトランスフォームしてみせた。
強さと可憐さを交じり合わせている。ミリタリー風のノースリーブ・ジャケットには、透けるプリーツスカートを引き合わせた。カーキ色を多用しながら、シースルーのブラウスの袖だけを生かしたアームカバーのようなフェミニンアイテムと交わらせ、武骨さとたおやかさを同居させた。黒系パンツの上から、シフォン系のプリーツスカートを重ねるボトムスレイヤードは繰り返し登場させた。
アウトドアの有力ブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」とのコラボレーションを披露。ドレスのように着丈が長いアウターはパイソン柄を配してサプライズを呼び込んだ。フーディーもドレスライクにリモデル。 アウトドアレディーの装いを組み上げた。
全体のシルエットは縦長のレイヤード。ボレロ風ジャケットを軸に、ムードや質感を立体的に調和させ、持ち味のミニマルにジェンダーレス感と茶目っ気をプラスし、別格のクリエーションを見せつけていた。
◆アクオド バイ チャヌ(ACUOD BY CHANU)
ファスナー(ジップ)使いに強みを持つユニセックスブランド「アクオド バイ チャヌ(ACUOD BY CHANU)」は戦国武将のイメージを持ち込んで一皮むけたようなコレクションを披露した。織田信長に着想を得たというデザイナーは甲冑(かっちゅう)をモダナイズ。勇ましさとパンク感をねじり合わせた。
信長が好んで舞ったとされる、幸若舞(こうわかまい)の「敦盛」でスタート。続いて、ロサンゼルス生まれの激しいダンス「KRUMP(クランプ)」の パフォーマンスがあり、戦国時代と現代を交差する雰囲気が立ちこめる中、ファーストルックが登場。レザージャケットは和服風に斜めに打ち合わせる仕立て。肩からひじにかけては大ぶりなアイレット(鳩目)をびっしりあしらい、よろいのように見せている。
袖や裾のあちこちにファスナーを配して、自在に開け閉めできる工夫を施した。ひじから先を着脱できるライトアウターはシーズンレスに着られそうだ。 「ZIP OUT TO THE WORLD」というテーマを掲げて、ファスナーを勢いよく開閉する際の音を銃撃に見立て、「世界を撃つ」という気概を込めた。
ファスナーと鳩目の2大ディテールに加え、今回は家紋モチーフを投入した。信長が使った織田木瓜(おだもっこう)をはじめ、武田菱、真田六文銭など、武将の紋所を取り入れて、ジャパネスクな風情を醸し出している。漢字モチーフも目新しい。当時を象徴する「下剋上」は、戦国時代と現代ファッション業界に共通した「におい」をかぎ取ったのだそう。「アクオド」に当てた「新黒扇動」もデザイナーの心意気を感じさせる。
甲冑は武装であると同時に、主君や敵に己をアピールするツールでもあった。だから、目立って威圧的な色使いも好まれた。甲冑の歴史を学んだというデザイナーは甲冑の柄や色を自分流にアレンジしてオリジナル柄のプリントに昇華。背中にも家紋を大きく配した。これまでは黒主体だった装いにレッドやイエローを持ち込んで、ワクワク感を高めた。
韓国出身のデザイナーが日本史に根差したクリエーションに挑んだ、文化と歴史のクロスオーバーという世界トレンドから見て興味深いアプローチだった。 ストリートやパンクのムードが強かったテイストにカルチャーミックスの深みが加わっていた。
◆ファイブノット(5-KNOT)
過去に「Ujoh」や「CHRISTIAN DADA」などが受賞している、世界での活躍が期待されるデザイナーに贈られる賞「DHL デザイナーアワード」を、鬼澤瑛菜氏と西野岳人氏の2人が手がけるブランド「ファイブノット(5-KNOT)」が受賞した。今回のショーでは軽やかなサマーレイヤードを提案。受賞にふさわしい表現力を証明した。
ジャケットとパンツのチェック柄セットアップに、レーシーなブラウスやストライプ柄のロングシャツを差し込んで、趣の深い重ね着を組み立てている。ストライプ柄ワンピースに花柄ベストを重ねるレイヤードも味わい深いテイストを生んだ。イエローを差し色的に使って、ジューシーな着映えに導いている。
あちこちから短いコードを垂らして遊ばせるディテールが着姿を弾ませた。デニムの質感を巧みに生かして、気負わないムードを漂わせている。つやめく細身パンツ、透明ビニール風のライトアウターは世界トレンドのケミカル質感を目に飛び込ませる。全体に若々しくてアクティブなたたずまい。程よくウィットを忍び込ませ、チアフルな装いにまとめ上げていた。
◆ハナエモリ マニュスクリ(HANAE MORI MANUSCRIT)
「ハナエモリ マニュスクリ(HANAE MORI MANUSCRIT)」は、絶え間なく流れ続けるというニュアンスを帯びた「Flux」をテーマに選んで、流麗な着姿を提案した。会場の真ん中に置かれたのは、大きなフラワーデコレーション。「花」を名前に抱くこのブランドならではの壮麗な演出だ。
テーマでうたった通り、流れるような落ち感のあるシルエットでフェミニンを演出。エレガントな装いは場面を選びがちだが、今回用意されたのは、様々なシーンで使えそうなワンピースやブラウス、スカート。過剰なデコラティブを遠ざけ、自在に着こなしやすそうなドレッシーウエアをそろえた。
ギャザーやラッフルをあしらって、優美なムードを醸し出している。キーモチーフである花柄は健在。ユルシスブルー、アグリアスレッドなど、花に由来する色を用いて、ナチュラルなあでやかさを引き出した。一方、スポーティーなディテールのドローコードも取り入れて、若々しい気分を引き寄せている。
上品なテイストはそのままに、左右非対称のアシンメトリーなフォルムで着姿にドラマを宿した。布の表情が際立つテキスタイルを選び抜いて、無用に飾り立ててはいないのに、自然とノーブル感が残る装いに整えていた。
◆ミントデザインズ(MINTDESIGNS)
文化や歴史のクロスオーバーが世界的なうねりとなる中、東京では「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」がその潮流を受け止めた。中国と西洋を交差させつつ、その両方と接点を持つ日本ならではのマリアージュを試した。キリスト教文化を絡ませながらやわらかいタッチのカルチャーミックスを紡ぎ上げた。
ランウェイ上でモデルに写真家がカメラを向けるという、フォトシューティングのような演出でショーが進んだ。中国のイメージを帯びていたのは、立ち襟のマオカラーや、陶磁器風のシノワズリー柄。腰に巻いたひも状のベルトもオリエンタルな風情。ボディーを締めつけない、ゆったりしたシルエットにも東洋テイストが感じられた。
半面、中国から見た西洋のシンボルはキリスト教的アイコンに託された。十字架や天使のモチーフがあしらわれ、コレクション全体で東から西へ、西から東へというまなざしの交錯を示している。薄手のウエアを不規則な打ち合わせで組み合わせた、重層的なレイヤードも文化の交差を印象づけた。
ピンク、グリーンなどの淡いカラートーンに交じって、中国で好まれる赤が主張。「FASHION WASTE COLLECTION」の文字がプリントされた、ごみ袋モチーフが毒っ気を添えた。タッセル飾り付きのシューズが着こなしにマニッシュなムードをうっすらと上乗せ。左右のアシンメトリーや上下のアンバランス量感も着姿にリズムを添えていた。
Text by Rie Miayata (http://www.apalog.com/riemiyata/) Photo by Ko Tsuchiya
2018年春夏東京ファッションウィークの画像・記事・ムービーはこちらから
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私は悲しい
千葉2次受けてきたよ♡というブログを書いていたのに、編集ページを開いたままニコニコ動画を見ていたら消えた…あとちょっとのところまで書いたのに、すっげー長く書いたのに全部消えていました。かなしいからもう書き直せない…
まとめると、千葉だろうが試験だろうが新宿だろうが、のどか節炸裂ゥな通常営業で大騒ぎでしたとさ(笑)
そしてね、千葉で出会った「椿屋茶房」という素晴らしすぎるお店については別に記事を書こうと思ってたの…その素晴らしさを図解でなんとか伝えたかったんだけど、可愛すぎて書けなかったのであきらめて文章と写真で書きます。本当はニヤニヤしながら絵を描こうと思ったんだけど描けなかった…こっちもリハビリしないとな…ということで、興味のある人や暇な人は続きからど~ぞ
そもそも椿屋茶房とは?って話だと思うのだけど、このお店はずばり喫茶店です!でもディナーメニューもあるそうでした。
一言で表すと大正浪漫!のどかの趣味好み全部ここにあります!みたいなお店です…うふふ…昔懐かしいコーヒーフロートやぜんざいなど、昭和初期の銀座?がコンセプトみたいです。(いやたぶんここから見たほうが早いです)
千葉入りした日の晩ご飯を探すときに出会い、お店の制服の可愛さに動悸をおぼえましてですね、その日は中村屋でオムライスを食べたので次の日…つまり試験後にともちゃんと二人でレッツゴーしたわけです!
では実際にどんなところがサイコーなのか?!書いていきたいと思いますお!
制服がかわいい
内装がかわいい
コーヒーがおいしい(素人でもわかるぞ)
甘味がおいしい
こんな感じでGOです
1.制服がかわいい
うん、これはね本当に可愛いの。一言でいうと、由緒正しい旧家のお屋敷の給仕さん。決してチープな意味での「メイドさん」ではないんですよ。私はこういう��待ってたんですよ、こういうものを!待っていた!!薄っぺらい適当なエプロンではないんだよ。露出度も求めてはいないんだよ。お上品なのが好きなんですよ…そういう意味ではぐう有能(クソ失礼)なデザインでした…
ブラウスはこげ茶色。はいもうかわいい。そして襟が詰まった私好みのもの!ブラウスみたいな襟ではなくて、ボトルネックみたいな…しかも端にはフリルがついていてもう無理。さらに袖口にもフリルがついていました。それどこで買えますか?
エプロンは普通に袖がない物なんだけど、これがちょっと変わっていて、着物や浴衣の合わせ目みたいになっているのだ。胸元はVの字みたいな。外側にはこれまたフリルがついていて大変可愛かったよ!後ろでリボン結びをしていました。どこを切ってもかわいい~~
スカートは黒くて膝より少し長いくらい。黒いタイツを履いて、黒いパンプスを履いているようでした。お屋敷ってどんな靴履いてるんだろう。やっぱりバレエシューズみないなものを履いているのかな?ブーツはちょっと違うと思うし…
とまあ、そんな感じで、どこを見てもかわいい制服でした…お上品かつ可愛いというのはあこがれるので、私もそういう私腹を目指してえ~!!
2.内装がかわいい
席もかわいいんだこれが!!おそらくコンセプトは先にも述べたように、大正ないし昭和初期の銀座の喫茶店。モダンな感じでしたね。席の仕切りの穴がお花型になっていたり、椿をあしらったデザインのステンドグラスが飾られていたり…あとこれは本当に失敗したなと思ったんだけど、カウンターにはコーヒーを淹れる機械?みたいなのがあって、そこがよく見える席に座ればヨカッタナ…(なんとなく奥のほうに座ってしまった…)
内装は店舗ごとにさまざまなようなので、ほかの店舗にもいかねばなるまいな?!?!
3.コーヒーがおいしい(素人でもわかるぞ)
肝心のスイーツはどうなのかと思われそうですが安心してください、最高ですよ…
私はクリミア抹茶パフェとアイスコーヒーをセットで注文しました!それほど待たずにコーヒーが来ました~♡
なんだこのおしゃれなカップは?!?!銅みたいな色のが来ました。そしてパフェ用のスプーンも一緒に来ました。
ともちゃんはアイスティーを注文。ガムシロップとミルクの入った器もまたかわいいんだなこれが!どこで売ってるの…?
私はコーヒー通でもなんでもないし、何ならホットのブラックは飲めない女なんですけど、このコーヒーはただ苦いだけじゃなくてちゃんとおいしかった…素人でもわかるおいしさでした。いい匂いがしたなあ…パフェが甘くてちょうどよかったです。
4.甘味がおいしい
そしてクリミア抹茶パフェがキターーーーー!!!!
奥にはともちゃんのあんみつ?ぜんざい?が♡
いや~~みなさん。クリミア知ってますか?身近なところだと喜久水庵とかで食べられるんですけど、手っ取り早く言うとラングドシャがコーンになっている高級なソフトクリーム、ってところですね!それがこう!こんなに大胆に!しかもこのコーンの中にもアイスたっぷりですよ!どんな出血大サービスですか?!
さらにその下には、ミルク抹茶ゼリーと餡子と白玉がこれまた最後までたっぷりです。もうどうしたらいいかわかりません。胸もお腹もいっぱいです。クリミアソフトクリームと餡子はこんなにも合うなんて思わなかったの…
もう一度言いますが、結構おなかがいっぱいになりました(笑)
さてそんなわけで、千葉そごうで出会った「椿屋茶房」について熱く長く語り続けてみました。最後まで読んだ人すごいよ。すごいついでに千葉行ってみてほんと。一緒に行く??
このあと新宿に向かいJKにまざってプリント倶楽部をキメたり、海外からの観光客にまざって都庁展望室をキメたりするなど、ともちゃんと一緒に楽しい夜を過ごしました(笑)翌朝の朝マックまでセット、さらにそのあとは学校で講演会のボランティアも…(笑)
千葉も新宿も暑くて大変だったけど、仲間たちが愉快で2日間エンジョイできました!これで受かってたら最高だなあ(笑)こんな人材、ほしくない?!
たくさん書いて満足したので、明日からまた頑張るとこはがんばって、楽しむとこは楽しみます!
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艦隊これくしょん、改造後(艦これ)、時雨(艦これ)、夕立(艦これ)、吹雪(艦これ)、北上(艦これ)、大井(艦これ)、呂500(艦これ)、蒼龍(艦これ)、明石(艦これ)、大淀(艦これ)、飛龍(艦これ)、伊58(艦これ)、伊401(艦これ)、利根(艦これ)、白雪(艦これ)、ポーラ(艦これ)、any (lucky denver mint)、5:4アスペクト比、レッターボクス化、ビーチ、リボン、レンチ、エプロン、スカート、ピカピカ、ブラウス、マフラー、ジャケット、ヘアバンド、ヘアリボン、ヘルメット、ロングヘア、カーディガン、ショートヘア、ツインテール、ネッカチーフ、ポニーテール、クロップトップ、ダッチアングル、ショートスリーブ、プリーツスカート、ローポニーテール、カウボーイショット、ショートツインテール、ショートポニーテール、anchor symbol、brown skirt、crane、day、forced perspective、hair flaps、hand up、open hand、optical illusion、pouch、rigging、sleeve cuffs、tools、tress ribbon、シングル三つ編み、三つ編み、上げた両腕、二つ結び、伸ばした両腕、写真(物体)、別れた前髪、前髪、前髪ぱっつん、夕焼け、夜、太陽、女二人、女性、学校制服、安全帽、寺院、屋外、後ろから、徒渉、恒星、手繋ぎ、手袋、指している、指なし手袋、日焼け、星空、曇り空、セーラー服、服の下に水着を着ている、機械装置、歩いている、アホ毛、水、水中、水着、ワンピース水着、海洋、生脚、グレー目、眼鏡、瞑目、砂、カノン砲、砲塔、空、立っている、笑顔、結んだ髪、緑目、肩にかかった髪、脚、お花、お花飾り、茶色の瞳、茶髪、裸足、複数の女性、褐色肌、セーラー襟、足、遠近法、金髪、長袖、開口、雲、青いスカート、青い目、青空、つやのある髪、ピンクの髪、髪に手、髪飾り、黒いセーラー服、黒髪 | Sankaku Channel
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プレフォールはちょっと主張強めに ギャザー袖ブラウスや飾り襟付きTシャツ
春夏・秋冬というメインシーズンに比べて、それ以外の時期に企画されるコレクションは割と自由な発想のクリエーションが見られるといわれます。それは季節感にあまりとらわれないで済むのに加え、今の気分を素直に写し込みやすいから。「MUVEIL(ミュベール)」のプレフォール・コレクションもほとんどオールシーズンで着やすいアイテムが多くなっています。今回はプレフォールの新作からお薦めの品をピックアップしてご紹介します。
袖に表情を持たせる「袖コンシャス」は盛り上がりが続いています。こちらのコットン地ブラウスはひじのあたりから先にたっぷりのギャザーを寄せて、やわらかいボリューム感を帯びさせました。しかも、袖口がリブ編みになっているおかげで、ひじから先の量感が一段と引き立って見えます。
こちらは身頃正面に植物柄の刺繍が施してあるうえ、スリーブに動きがあるので、1枚で着たくなります。赤は薔薇(バラ)、イエローはミモザ、青はアジサイをイメージした、やや抽象的なモチーフです。
背中にも工夫があって、4カ所でリボンを結んでいます。ひもの垂れ下がる景色がロマンティックで、後方からの視線を受け止めるアクセントになっています。地色はホワイト、ホワイト×ブルーのストライプ柄、ブルー、ネイビーから選べます。
Tシャツは気軽に着られて便利ですが、退屈に見えやすい点が悩ましいところ。こちらのTシャツは大ぶりのニット襟が添えてあり、クラシカルな雰囲気。胸に配した「ROSA」の文字はギリシャ語で「薔薇」という意味です。ニットの襟は取り外しできるから、丸首のシンプルなTシャツとしても使い分けられます。
大襟の左右にあしらったレース部分はマーガレットの花を織り込んであります。まるでお金持ちの家の庭に咲いてあるようなイメージだそうで、Tシャツに優美なムードを寄り添わせています。身頃の色はホワイト、グレー、ネイビーが用意されています。襟の色はホワイトにはホワイト、グレーにはブルー系、ネイビーにはグリーン系が引き合わせてあって、素敵なコントラストをなしています。
ロングヒットになっているワイドパンツと、新たなトレンドに浮上したストライプ。その魅力を兼ね備えているのがこのペンシルストライプパンツです。ウエスト部分にゴムを仕込んであるおかげで、楽ちんなはき心地。絶妙な幅がかえって脚をすっきり見せてくれます。
メンズのスーツでよく見かけるペンシルストライプですが、こちらのワイドパンツではネイビー地には水色のラインを走らせ、グレー地には薄いピンクのラインを効かせています。オリジナルな色の組み合わせが生きて、表情に深みが増しました。地色はネイビーとグレーの2色です。
近頃は主張を宿したベルトが装いを華やがせています。このリボンベルトは立体的なリボンが視線を呼び込むデザイン。しっかりした太さ、カウレザーのつややかさが堂々としたフェミニンを印象づけます。プレーンなウエアにもエレガンスを薫らせてくれそう。いつものコーディネートにオンするだけで、着こなしにたおやかなムードが漂います。色はブラックとボルドーの2色から選べます。
夏のうちから着られるプレフォールは冬にもレイヤードに組み込めて、長く付き合えます。程よくアイキャッチーなデザインは装いに「ミュベール」らしさを帯びさせてくれるはずです。(ファッションジャーナリスト 宮田理江)
ギャザースリーブ ブラウス white/white×blue/navy ¥34,000(+TAX)
ニット衿付きTシャツ white/gray/navy ¥28,000(+TAX)
ペンシルストライプ パンツ gray/navy ¥38,000(+TAX)
リボンベルト black/bordeaux ¥36,000(+TAX)
GALLERY MUVEIL
東京都港区南青山5-12-24 シャトー東洋南青山 B1F
TEL: 03-6427-2162
OPEN: 11:30~20:00
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3|或る晴れた日に
あゝ笑つてゐる――
斯波の視線の先には庭で花を愛でる百合子がいた。 自動車を野宮の邸の道の脇に停め、車窓ごしに庭を盗み見る。 硝子を隔てた上に、遠目からなのでその表情は実は殆ど見えない。 けれど、斯波には分かった。 柔らかい藤色の着物の裾の動き、繻子のように白いしなやかな腕の動き一つで、 百合子が今幸せなのだと。 その仕草に、目が離せなかった。 無言で、背凭れに身体を預けて、百合子の様子を息を潜めて見守る。 耳を澄ませれば、百合子の明るい声さえも聞こえてきそうだった。 斯波は春の日差しの眩しさに目を細める。 運転手が無粋にもその沈黙を割って声をかけた。
「邸に入られなくてよろしいのですか?」 「ここで良い」
短く答える。 そろそろ自動車を動かさなければ不審に思われる。 分かっているのに、名残惜しく斯波は運転手に声を掛けられない。 百合子の姿が木陰で隠れ見えなくなってしまって、ようやく重く一つ息を吐く。 そして、頬にぴりりと視線を感じて邸を見ると、瑞人が二階の部屋から見下ろす様に立っていた。 斯波は視線をそらせて、正面を向いた。
「出せ」
一番見られたくない人間に見つかって斯波は舌打ちする。 ある舞踏会に招かれた夜、どこで斯波の所在を知ったのか瑞人が乗り込んできて大勢の目の前で斯波を殴った。 ひ弱な若様と侮っていたが、殴られた後の左顎は一週間は青く腫れ、熱を帯びていた。 しばらくは咀嚼も難儀で肉も食べられず、洋酒も歯茎に滲みるので避けたほどだ。 もう痛みのない顎に手をやって、足を組み直す。
清との貿易が上手く行かなくなって半年が過ぎた。 どうにか状況を打開しようと、国内の工場を新しく稼働したがこれも順調とは言いがたい。 斯波の仲間内では、もう船で儲けられる時代は終わった、と誰もが口にする。 それを考慮しても大道洋行の凋落は世情や景気の所為とは考えにくい事態だった。 船を出せば出すほど赤字になる様なら、いっそ事業を分散させ別々に売り払った方がいい。 山崎と話し合いそう決めたが、まだ株主や社員への通達が残っていた。 エンジンの音と自動車の揺れを身体で感じながら、斯波は重い瞼を閉じる。
毎日会社に通い詰め、遅く帰っても百合子はいつも憂鬱そうな暗い顔をしていた。 どんな贈り物を贈っても能書きのような感謝の言葉と作り物の笑顔。
「貴方は純粋に俺の金が目的で結婚したんだろうな――」
何もかも上手くいかない、その苛立ちからいつにない厳しい言葉で百合子を追い詰めた。 自分と結婚するように仕向けたのは斯波自身だというのに、まるで百合子を攻めるように言葉を続けた。 それが八つ当たりだと自分でも分かっていたが止められなかった。 十ほども幼い小さな少女を乱暴に抱いて、増々百合子の心が離れていくのが分かった。 百合子が妊娠したと知っても、辛く当たるのを止められなかった。
(金が目的ならばそれで良いじゃないか。今更それをあばいてどうなる。 だが、もし、金がなくなったら? 彼女は俺の元から去ってしまう――)
そう考えると恐怖でどうにかなってしまいそうだった。 斯波は何かに追い立てられ逃げるように洋行の船に乗る。 手酷く抱いた朝は自己嫌悪で吐き気がしたのに、一日も経てばまた百合子を抱きたくなった。 未だ見たことのない、百合子の心からの笑顔を思い描いては、洋行先の店で宝石や流行りの服を買う。 百合子に贈り物を止めてほしい、と言われた時の虚しさと悲しみ。 いつも百合子を思い、品を定めるのは斯波の唯一の楽しみになっていた。 それを、百合子自身に否定され、斯波は悲しみを怒りで覆い被せて隠してしまった。
百合子の月のものが止まったのが、妊娠ではなく心因的な物だと言うのは船の上の手紙で知った。 妊娠したという事が分かった時、百合子はどんな贈り物でも開かなかった心を少しだけ開いた。 口元を綻ばせ、瞳に涙を滲ませながら、亡くなった父母に知らせたいと、墓参りに行った。
帰京した夜、斯波は百合子の顔を見るのが怖くてたまらなかった。 そして虚ろな表情で、抱いてほしいと繰り言を呟く百合子が痛ましく耐えられなかった。 百合子をここまで追い詰めたのは自分だ。 客間で百合子を寝かせ、女中に眠れる薬を出させる。 扉の影から百合子が泣きはらした瞳で、しゃっくりを上げながら薬を飲むのを見る。 飲み終わって敷布にくるまり、声を押し殺してまた泣くのを部屋の外で聞く。
(――俺は彼女を助けるために、その為だけに生きてきたんじゃないのか)
今更百合子に愛を求めるのは、あまりにも強欲に思えた。 何よりその斯波の強欲さが、百合子は不幸にしてしまう。 すすり泣く声が寝息に変わる。 しばらくして斯波はゆっくりと音を立てないように扉を開けて部屋へ入った。 広い寝台に百合子が横になっているのを新台の側で佇んで見入った。 赤く火照った頬に涙の後が残り、髪の毛を一筋張り付けている。 寝台に腰掛ける。 百合子の蒼いほど白い額、熱を持った頬、艶やかな髪の毛に手をやった。 頬にかかった髪の毛を優しい仕草で脇にやり、髪を梳いた。
愛していたから、結婚した。 そして、愛しているから離縁するのだ。
斯波はようやく決心をつけ、眠っている百合子に口付けた。 頬から伝う涙が百合子の頬に落ち、濡らす。 柔らかな唇にそっと触れるだけの口付けを繰り返す。 斯波が最後に百合子に贈った物。 それは、手に触れられなければ、身にも飾れない、目にすら見えない物だった。
(ああ、笑っている――)
どんな贈り物をしても心を開かなかった百合子が、笑っていた。 幸せそうに、笑っていたのだ。 例えそこに自分がいなくても百合子が笑っている。それで十分だった。
///
「随分と足元を見られたものだな」
同業者に船や倉庫を売り渡す時期になって、そのあまりの安さに斯波は顔をしかめた。 相手は同じ貿易業者として何度も言葉を交わした事のある相手だ。 夫人の催しの茶会や会社の記念式にも招かれる親しい間柄だった。 倒産の話をしたら、いかにも残念そうな顔をし何でも力になると固く手を握ってきた。 情に厚く気の良い友人の様に思っていたが、実際はそうではなかったらしい。 会社の傾きが明るみになると、今までは友人のように思っていた人間が次々と斯波の前から消えていった。 商売は信用で成り立っている、取引相手などは仕方がないとまだ諦められる。 だが、社内にも問題が残り、突然積荷が消えたり在庫が減る事態に見舞われた。 元々信頼を寄せる部下も山崎と僅かしかいなかったのだが、能力による不遇を逆恨みする人間が居る様だ。
「何もかもが莫迦らしくなってくる……」
煙草に火を付けて、煙を燻らせながら自虐的に笑う。 銀座に構えていたビルは次の買い手が決まり、不要な事務用品を運び出していた。 その喧騒を避けるように、応接室に灰皿だけを持って窓辺に腰掛ける。 銀座街道と呼ばれる通りは自動車や俥、電車が行き交い、 モダンで洒落た格好をした人が気取って歩く。 かつてその一員だった斯波は、どんな気取った人間も纏っているもの一枚脱げば獣だと笑う。 茶色の封筒に書類を戻して、山崎に渡す。
「向こうの言い値で売れ」 「しかし――では、私に交渉役をやらせてください。向こうの値の倍はつくはずです」
斯波は山崎の言葉に顔を上げる。 煙草の火を灰皿に押し当てて消すと、改めて姿勢を正して山崎を見る。
「お前は向こうの会社に引き抜かれる事が決まっているだろう。 そんな事をしたらそれもどうなるか分からんぞ」 「この会社は――我々が育てた子供の様な存在です。 売ってしまうとして、どうして悪条件で手放せましょう」
斯波一人の会社なのではないと、山崎は言う。 社長は一人だが、その下には何人も社員が部下がいる、全てを含めて一つの会社なのだと。
「社長はお仕事をされている時、とても楽しそうでした。 それが付き合いのための会食や、根回しのための舞踏会などであっても。 いつも堂々とされた姿に、我々は本当に誇り高かったものです」 「――楽しそう、か」
斯波は山崎の言葉を反芻する。 生来の気性からか、人付き合いは苦ではなく世辞も冗談も嫌いではなかった。 会社が軌道に乗ってからは、社員が増えると事務作業や現場の作業をする機会は減り、 人付き合いや会社の付き合いの方が多くなっていった。
「会食や会合、舞踏会や芸者遊びを無駄遣いと一概に責める人間はそれこそ視野が狭い。 そこで作られる財界の伝手、政治的繋がりがどれほど重要か分かっていないのです」 「お前、新聞を読んだのか」
斯波は苦笑いしながら言った。 新聞がそれらの叩きやすい事柄をやり玉にあげていたのを思い出す。 斯波の邸も成金趣味と辛辣に斬り捨てられ、庭の桜を日本人的情緒の欠落とも書かれた。
「――お前の言うことは分かった。だが……」 「ご心配には及びません、私は優秀なので引く手数多ですから」 「随分と勇ましいな」 「社長に借財を残す訳には参りません」
山崎はそう言ったが、損失分に加え社員や工員の給料の未払いが随分ある。 切り替えが早かったので首を括るという事態は避けられそうだが、相当額の借財になりそうだった。 野宮の借財の権利が高利貸しに譲渡されていた時のことを思い出す。二の轍を踏むわけにはいかない。
「社長は――今後はどうされるおつもりなのですか?」 「……そうだな、ある知り合いが工場の責任者を探していると言うのでな」 「奥様はどうなさいます」
百合子から何度か連絡があったのを斯波も山崎も知っていた。 応接室の外をがやがやと家具を運ぶ声が聞こえる。 大勢の足音が去り、一旦静かになるのを待って答えた。
「別れた妻だ。今更何も関係ない。 何を聞かれても俺のことは言うな」 「――分かりました」
山崎は斯波から書類を受け取ると、一礼して部屋から出た。 斯波は窓から山崎が忙しなく雑踏に紛れるのを見て、溜息を漏らした。
二度と、会わない方がいいのだ。 そうでないと、固く誓った決意が揺らいでしまう。
百合子と瑞人の名代で藤田が銀座のビルにまで来たのは五月の終わり頃だった。 その頃には殆どの片付けは終わっていて、ビルも人手に渡っていた。 残った借財は信用の置ける知り合いに肩代わりしてもらい、斯波はその人物の持つ工場で働くことになっていた。 東京の郊外、工場の近くに家を借りて今はそこで寝泊まりしていた。 上質の布地のオーダーメイドの洋装に久しぶりに袖を通す。 これが終われば、この服も売る手はずだった。 野宮の家令と会うのにあまり見窄らしい格好では示しがつかない。
藤田が怒り心頭とばかりに応接室を出て行く。 紙の焦げる匂いに、ふと甘い匂いが混じっている様な気がする。 灰になってしまった手紙は指で摘むと、ぽろぽろと崩れ落ちた。
(何と書いてあったのだろう)
斯波は考えを巡らせたが、もはや一生分からない。 百合子から斯波への手紙など、初めて書かれた物ではないだろうか。 内容の知れぬ手紙。 薄い桃色の封筒の端に書かれた”百合子”という美しい手蹟ばかりが瞼の裏に残った。
///
(ここに置けだと? ――どういうつもりだ。 あの家令も殿様も、何故止めない!)
百合子と藤田を乗せた自動車の音が遠ざかるのを聞いて、斯波はよろよろと立ち上がった。 背を預けていた引き戸がみしりと軋む。
家の中は明かりがつけられ、淡黄色の光が居間を照らす。 居間には畳んでいた卓袱台が出て、上に布巾が掛けられている。 取り払ってみると、小皿に焼いた茄子やつけものが乗っていた。 櫃には温かいご飯に、竈の上には味噌汁の入った鍋が置いてある。
(――まさかこれを? ……いや、藤田か)
そして斯波は居間の畳に、忘れられたらしい巾着が置かれているのに気がついた。 その中に一葉の写真を見つけた。掌ほどの小さな写真だ。 写真の中の百合子の顔。
(あんな顔をさせたいんじゃないんだ)
今日の暗がりの中で見た百合子の顔を思い出す。 野宮の邸で見せていた笑顔とは程遠い、斯波に怯えたような顔。 百合子の姿を見た時、まさかと思った。 何故という疑問と驚きの中に、隠し切れない喜びがあったのを斯波自身分かっていた。
借財の額に、仕事の過酷さ、見窄らしい借家、食べ物の貧しさ。 百合子にはそう言った苦労とは無縁であるべきだ。 美しい庭で花に囲まれ、穏やかな日々を過ごす。 百合子の幸せの為に、離縁したのだ。
ぶんぶん、と紛れ込んだ蛾が光に惹かれてこつこつと電球にぶつかる。 斯波はようやく立ち上がり、土間に降りた。 そして湯のみに水を入れ、一気に飲み干す。 隣の竈の味噌汁の匂いに誘われ、お玉で一口掬い啜ってみた。 塩味の足りない味噌汁は、味が薄くお世辞にも美味しいとは言い難い。 だからこそ、余計に斯波を戸惑わせるのだった。
(同情だ) (どうして今更) (信じられるものか) (どうせ、もう二度と来ない) (また去って行く) (彼女が不幸になる) (会いたかった) (駄目だ) (嬉しい) (責任感だ) (明日は来ない) (俺は期待している) (一時の気の迷いだ) (会いたい、駄目だ、駄目だ)
様々な思いが交錯し斯波は両手で頭を抱える。 心臓の鼓動が早い。胸が、苦しい。 忙しく働くようになって、久しく忘れていた感情がざわめき立つ。 狂おしいまでの愛憎だった。
一度会ってしまえば決心が揺らぐと分かっていた。 百合子を愛しくて愛しくて堪らない。
だが、百合子は斯波を愛してはいない。 この家に来たのも同情心と責任感からだ。 そして、百合子の言葉通り百合子をここに置き、一緒に暮らすようにでもなれば。 そうなれば、斯波は百合子を二度と手放せないだろうと思った。 例えそれが、百合子を不幸に貶めると分かっていても。
(俺は恐ろしい……)
同情だろうが責任感だろうが、もはや構わないとすら思う。 愛する人を不幸にすると分かっていながらも、これ程までに強く求めてしまう自分自身が。
///
野宮百合子様
私が貴方の元から去ってしまって、随分と経ったような気がします。 あの頃の貴方は、老齢の女の様で、それでいて五つの童女の様でした。
今になって、何故貴方に手紙を書くのか――。 友人が、無精だから手紙は書かないと言っていたのを思い出します。
けれど、私は今、何だかとても、無性に。貴方に。 今の私の気持ちを書き残しておきたいと思ったのです。
一方的に別れを告げておいて、何を今更と思う事でしょう。 私は貴方を捨てて逃げながら、その実何度も貴方を探しました。
そして日々の中、貴方は遠くへ行ってしまったと思いながらも、 どうしてか、いつも貴方が側に居てくれていた様にも思うのです。
この手紙が実際に過去に届く事はないのですから、 これは私のひとりよがりにすぎません。
それでも、あの日何もかもに惑っていた私へ届く事を願います。
///
淡い緑色の紗。 百合子は夏らしい爽やかな色合いの着物を手に取りふと考えこむ。
「お洋服にしようかしら……」
箪笥の隣のクロゼットを開ける。 斯波から譲り受けた夜会服が掛けられる分だけと、滅多に装わない洋服もいくつか掛かっていた。 長袖の白いブラウスに、丈の長い濃紺のスカートを手に取り、寝台の上に並べる。 着物と見比べ、一つ頷いて百合子は洋服に着替えた。 背中まである長い髪を深緑のリボンで一つに結わえて胸に垂らす。 クロゼットの底部に備え付けられた棚に磨かれた黒い靴もあった。 鏡に全身を映してみると、着物の時よりも幾分幼く見えた。 昨日の斯波の言葉を思い出し、心が不安に揺れる。 ふるふると首を振り、目を閉じて大きく深呼吸を繰り返す。 朝の清廉な空気が胸いっぱいになり、揺れた心が収まった。 藤田の待つ玄関まで駆けて降りる。
「藤田、お待たせ」 「お早う御座います、姫様。 ――洋服ですか?」 「そう、着物は袂を上手く纏められないし……変かしら?」 「いいえ、お似合いです。 何だかお若く見えますね、女学生の頃のようです」 「私も同じ様なことを思ったわ」
藤田の言葉に百合子は微笑った。 自動車に乗り込むと藤田がエンジンを掛ける。 昨夜斯波にあんな追い出され方をしたのに、藤田は百合子に何も言わなかった。
斯波の家に行く前に、朝市に寄り野菜の選び方やお金の使い方を藤田に教えてもらう。 百合子は馬鈴薯や魚の干物、朝市名物のおこわを買う。 上品な若い女の客と言うだけで、饅頭や漬物などをおまけしてくれた。
「でも、悪いわ……こんなに」 「今後も贔屓に、と言うことでしょう。 それに、姫様は昔から愛敬さんでしたから――」 「愛敬? そう言われてみればそうかもしれないわ。 お前もよくチョコレートをくれたものね」 「屈託なく笑われるお顔を見るとどうしても甘くなってしまいます」
藤田が珍しく苦笑するのを見て百合子の心も明るくなる。 市場のざわめきが何とも耳に心地よかった。
斯波の家に着くと、仕事に出た後だった。 藤田が家の鍵を開けるのを見ながら呟く。
「――今思ったのだけれど、これって泥棒よね」 「何も盗まず、夕ごはんを作って帰る泥棒ですか?」 「藤田、今日は私一人で居るわ。 昨日の様にお前にまで迷惑掛けられないもの」 「……ですが」 「大丈夫よ、ね?」 「……」
百合子が明るく笑って言ってみるが、藤田は顔を顰めて百合子を見下ろす。 迷っている藤田の腕を持って百合子は続ける。
「もしも、追い出されたらどうにか電話のある邸を探して連絡するわ」 「夜半にですか? 無茶すぎます」 「大丈夫、追い出されたりしないわ」 「――分かりました。では私は一旦お邸に帰ります。 そして夜半ごろまた様子を伺いに参ります」 「分かったわ」
藤田はそう言うと市場で買った野菜を土間に運んだ。 心配そうな顔をしていたが、百合子が何度も念押しするとようやく自動車に乗った。 自動車を出すまで延々と心配事が口をついて出て、百合子はその言葉一つ一つに分かっているとばかりに何度も頷くことになった。
「火傷には気をつけてくださいね。それから火事にも。 訪問客が来たからと邸の様に軽々出てはいけません。 刃物に気をつけて、お皿も割ってしまったらその破片に気をつけてください」
最後は野菜の棘や魚の小骨に気をつけろとまで話しが及ぶ。 それでもまだ心配だと藤田が続けようとした所で、他の自動車が後ろに現れて仕方なしに自動車を発進する。 離れ行く自動車に向かって百合子は小さく手を振った。 藤田の乗った自動車があぜ道を抜けて小さくなっていく。 その先には晴れ渡った青い空に真っ白な入道雲が広がる。 午に近くなって、太陽が増々明るく、じりじりじりと蝉が鳴く。
居間の机の上には布巾をかけたまま手付かずのままの昨日の夕食が置いてあった。
(悲しいなんて思う資格、私には無いわ)
百合子は自分にそう言い聞かせて残った夕食を土間に運ぶ。 不恰好な切り口の胡瓜の漬物、身の殆ど無くなった焼き茄子、塩辛すぎる味噌汁。 それでも、百合子は斯波がこれを口にしただろうかと何度も思い返していた。 手を付けていないかもしれないと自分に言い聞かせてみた。
(でも、こんなにも悲しいなんて……)
斯波の邸で食欲が無いからと食べ物を残していたのを思い出した。 百合子は冷たくなったご飯に塩を振って握る。 皿におにぎり三つと漬物を乗せて布巾を掛けると、戸棚の涼しい所へ置いた。
「お部屋が少ないから、お掃除も簡単ね」
百合子はつとめて明るく言うと、雨戸を開けて風を通しながら部屋の中を掃除する。 布巾を濡らして固く絞り、机や家具を拭く。 居間の隅に畳まれた布団を、表の物干しで干した。 日差しは増々強くなり、肌が焼けるようだった。
百合子は不思議と涼しい土間に戻ると朝市で買ったばかりの馬鈴薯を取り出した。 蛇口を捻り盥に水を溜めて馬鈴薯を洗う。 土が水に流されて、黄色い皮が見えてくる。 水は出始めは生ぬるかったが井戸から引いている水は、次第に指先が震えるほど冷たくなった。
���気の通り道に気を払いながら、竈に火を入れる。 百合子は鞄の中から料理の覚え書きを書いたノートを取り出して水道の横に置く。 まだ料理が得意ではない百合子のために、藤田が料理に工夫を凝らしてくれたのを注釈で書いている。
(本来なら、馬鈴薯の皮は最初に剥いた方が良いでしょう。 けれど、慣れるまでは皮つきのまま茹でて下さい。 茹で上がった時に手で剥いだ方が安全です)
百合子は馬鈴薯の泥を落とすと、鍋に水を入れて馬鈴薯を2つ転がす。 そしてそのまま竈の上に置いた。
(マッシュは早めに作って置くといいでしょう。 魚の干物は斯波様がお帰りになる頃に焼きあがるようにすると良いかと)
藤田の言葉を思い出しながら、馬鈴薯をつつく。 茹で上がると火傷に気をつけながら湯を捨てて、まな板の上で半分に切る。 上手く茹でられた馬鈴薯は身と皮が剥がれやすく、手で簡単にするすると剥けた。 小さく切って深い皿に入れ、木杓で潰す。途中塩と胡椒で味をつけて、味を見る。
「美味しいと思うのだけれど――」
料理が下手な自分だけでは正確な評価は心許なかった。 一息着くと、丁度午砲が鳴る。 戸棚にしまっていたおにぎりと漬物、冷たい味噌汁で昼ごはんにした。 質素な食事だったが、自分で作ったからかお腹が空いていたからか美味しく感じた。
午後からは持って来た裁縫道具で箪笥の中のシャツの釦留めをしたり、家の前を竹箒で掃いたりした。 日が暮れ始めると干していた布団を取り込み、雨戸を閉める。 蚊取り線香に火を入れ、電気をつける。 昼の内は汗が流れるほど暑かったが、日が落ちると急に冷え込んだ。 溝の蛙がげこげこと喉を鳴らし、小川がさらさらと流れる。 時折、子供たちのはしゃぐ声が遠くに聞こえ、突然の風に青々とした草葉が揺れる。
百合子は机に馬鈴薯のマッシュの皿を置き、市場で買ったおこわを茶碗に盛り、湯のみを置く。 七輪に火を入れて、網を乗せ魚の干物を炙る。 じゅわと干物の脂が炭に落ちる度にもくもくと白い煙が上がった。 ぱちぱちと炭が爆ぜる度に、きらきらと火の粉が舞う。 しばらく炙っていると、魚の焼けるいい匂いがしてきた。
そろそろ焼き上がりと言う時に、家の勝手口の引き戸が開く。 怒ったような表情をした斯波が大股で百合子に近づくと腕を掴んで引き上げる。
「俺に関わるなと何度言えば分かるんだ!」 「どうして、どうして、関わってはいけないの?」 「迷惑だと言っているんだ! 同情か気紛れかしらないが、もう二度とここには来るな!」
斯波の気迫に呑まれ百合子は唇を噛む。 男性から怒鳴られた事のない百合子は斯波の声と言葉に怯む。 掴まれた腕が痛み、目を強く瞑って首を振る。
「貴方にはこんな生活は無理だ!」 「無理なんかじゃないわ!」
百合子が気丈にそう言い返すも、斯波は居間に置いていた鞄と巾着を掴み百合子に押し付ける。 そして百合子を家の外に押し出して引き戸を閉める。 押し付けられた荷物が腕から地面に落ちる。 百合子はしゃがんでそれを拾うが、身体が重く立ち上がれなかった。
「無理なんかじゃ、ないわ……」
小さく呟くとぎゅうと荷物を抱きしめる。 朝市での買い物や、料理に掃除に裁縫――今まで出来なかった事を少しずつだが覚えていったのだ。 百合子は引き戸に向き直り、声を絞り出すように言葉を紡ぐ。
「私、毎日だって来ます。明日も、明後日も……」 「どうしてだ。――どうして、今更!」 「それは――」
百合子の声が詰まり、沈黙が降りる。 ささくれだった引き戸にそっと触れて、息を吐く。
「貴方と、同じ気持ちだから……」
百合子の言葉に斯波は答えなかった。 静寂の夜に、ざわざわ、と青葉が揺れる音が響く。 人の気配がしてそちらを見ると藤田が自動車で迎えに来ていた。 そっと引き戸から手を放し、鞄を持つ手に力を込める。
「馬鈴薯のマッシュ。水っぽくなってしまったの。 でも、――明日はもっと上手く作れるわ」
百合子はそう言うと踵を返した。 斯波は足音が遠ざかるのを聞��、土壁を拳で殴る。 乱暴に前髪を掻き毟り、頭を抱えて自分に言い聞かせるように怒鳴る。
「嘘だ! 信じられるものか! 彼女は俺を愛していない! 愛してなどいなかった!」
乱暴に居間に上がり、夕食の乗った机の端を持つ。 こんなもの、と怒りに任せてめちゃくちゃにしてしまいたかったが出来なかった。 机を持つ手が震えて、力なく居間に座り込んだ。
「明日も来る――お姫さんが明日も……」
斯波は箪笥に背中を預けて、ぼんやりと天井を仰ぎ見る。 そして、力なく笑った。
///
本来なら寝ている時間帯だ。 瑞人は蒸し暑い銀座をいつもの着物姿で歩いていた。 昼をすぎてくらくらしそうなほど眩しく健全な日差しにうんざりとばかりに溜息をつく。 石畳の道路は熱気を孕み、温石のように足元から温める。
「あーあ、何でこんな日にこんな所でもって……」
少し歩いただけなのにもう額に汗が浮いている。 指先で濡れた前髪を払いながら、ようやく目当てのカフェを見つける。 黒檀の落ち着いた色合いのモダンな扉に、真鍮造りの窓枠、色硝子の嵌められた仕切り。 外の壁は赤い煉瓦造りで、緑の蔦を青々と繁らせていた。 ひんやりとした空気が流れていて、瑞人は大きく息を吸った。
女給が寄ってくるので、にこやかに微笑んで待ち合わせだと告げる。 奥まった机に案内されて、籐で編んだ涼しげな椅子に座ってひとごこちつく。 呼び出した当の本人はまだ居ないようだった。
「お飲み物は?」 「カルピスにしようかなあ、暑いから」
そう言って目を細めて笑った。 グラスに波々と注がれたカルピスを一口飲んで喉を潤す。 甘ったるい酸味が舌の上に広がり、知らない内に瑞人は微笑んでいた。 がらんがらんと乱暴な音がしてカフェの扉が開いたので、瑞人は待ち人が来たと感じて眉を顰める。 足音も大きく、仕切りから現れた長身の男は乱暴に椅子を引いて座る。 女給が慌てて聞く。
「お飲み物は――?」 「いらん!」
やれやれとため息をつくと、先程まで良い心地だったカルピスの甘酸っぱさが胸に焼けるようだと思った。 赤っぽい髪の毛を撫で付けて、半袖のシャツに茶色のズボン。 首からは手ぬぐいを下げていて、よく見るとシャツもところどころ油染みが浮いている。
「で、何の用だい」 「分かっているだろ、お姫さんの事だ!」 「百合子がどうかした?」 「どうかしたじゃないだろう――」 「怒鳴らなくても聞こえるよ」
相変わらずの早口で強引な口調に、瑞人は呆れて身を引き腕を組んだ。 斯波は腰を浮かせて畳み掛けていたが、のらりと瑞人に話の腰を折られて憤然と椅子に掛け直す。 そうして向い合ってようやく余裕が生まれたのか、特有の傲慢さの滲み出る笑いで顔を歪める。
「殿様は相変わらずのご様子ですね。 妹がどこで何をしていようが、興味も無いらしいな」 「百合子は、確かに僕の妹だがあの子ももう大人だ。 何をしようが、あの子の自由だよ」 「自由! 随分と都合のいい言葉だ」
斯波が鼻で笑う。 瑞人はそれを一瞥して首を傾げる。
「百合子の事なら、直接百合子に言えばいい。 どうして、僕を呼び出したりするんだい?」 「迷惑だと何度も伝えたが、止めないから貴方を呼び出したんだ」 「本当に迷惑だと思うなら、家の鍵を変えればいい。引っ越せばいい。 それとも手でも上げてみればいいじゃないか、どうしてそうしない?」 「貴方は――お姫さんが不幸になってもいいのか?」
斯波は机の上に置いた手を固く握る。 瑞人はグラスを傾けて、もう飲みたくも無くなったカルピスを一口含む。 今は眉間に皺を寄せるほど、甘い。 瑞人ののんびりとした動作を、斯波は苛立ちながら見ているのが分かる。 視線を合わせず、伏せていた瞳をあげ、ぱさりと垂れた前髪も掻き上げる。
「あの時の百合子、幸せそうに見えたかい?」
斯波は一瞬口を噤む。 あの時、と明確な日時を言わなかったが、おそらく斯波が百合子を盗み見た日だろうと推測する。 瑞人の涼やかな目元は感情がなく、何を考えているのか読み取れなかった。 そうだと認めるのは、あまりに悔しく斯波は喉から声を絞り出すように唸った。
「ああ、見えたさ! 俺の邸に居た時とはまるで違った!」 「――君は分からないだろうから、言うけれど。 あの子は、僕達の前では幸せそうに笑うんだよ」 「幸せだからだろう!? 家族も、使用人も邸も金も花も、あるからだ!」 「僕達が心配するから幸せそうに振る舞うんだ」
瑞人は一つ大きく息を吐く。 そして痛ましげに顔を歪ませた。
「まるで、幼い頃の様に。そうさせているのは僕達だ」 「――それならそれで、新しい縁談でも探してやるのが貴方の役目だろう!」 「あの子がそれを望んでいないのに? またあの子を苦しめろと?」 「また百合子さんを借金まみれにしたいのか?」 「こちらにも備えがある。 財産を整理し、爵位を返上する用意があるんだ」
瑞人の言葉に斯波は息を呑んだ。 野宮の財産のほとんどは斯波が百合子に譲った物ばかりだ。 百合子が野宮の邸で恙無く暮らせるように、というその思いだけだ。
「何故、俺を放っておいてくれない」 「それを、僕から説明されたいのかい」
冷たく言い放たれ、斯波は呻きながら肘をついて手を握る。 頭が鉛を詰め込まれたように重い。ぐらぐらする思考、瑞人の言葉が反響する。 脂汗が背中を流れて、暑いはずなのに全身に寒気が立ち震える。
「百合子は、自分の誕生日の夜会に父を亡くした。そのすぐ後に母を。 あの子が!僕に聞いたんだ! 自分は幸せになってもいいのかと!」
瑞人は声を荒げて斯波に言う。 けれど、本当に責めたいのは自分自身にだった。 百合子は不幸な連鎖の原因が自分にあると思い、ずっと罪を背負ってきた。 どうして、それを気づいてやれなかったのか。 百合子は言えなかっただろう、瑞人は父も母も血が継ってはいない。 ずっと家族のふりをしてきた。 二人の死でそれがようやく終わったと思い、心のどこかで安堵していた。 そんな、名ばかりの兄に百合子はとても言えはしなかっただろう。
家族や使用人を心配させまいと、幸せそうに笑う。 瑞人の複雑な心の裡を察して、一人で苦しむ。
瑞人は瞳を閉じる。心を落ち着けて、昔を懐かしむように言った。
「百合子はね、みんなに好かれていたよ。 いい子で、笑顔が可愛くて、話が上手で。 どんな嫌な子とだって、誰とだって、上手くやれるとても賢い子だった」 「……だが、俺は嫌われていた」
斯波が自嘲的に笑う。 瑞人はいつも通りの嫌味らしい苦笑いを顔に張り付けて淡々と言った。
「君みたいな野蛮人にだって、百合子はにっこり笑って愛しているふりだって出来たに違いない。 けれど、そうしなかった。出来なかった。なぜか? 考えてみるといい」
瑞人はそれだけ言い残すとカルピスの代金を机に置いて、立ち上がる。 淀んでいた空気が動き、一気に店内の雑音が耳に戻る。 店を出る際に置き時計を見て、つい目があった女給に少し微笑んで扉を開けた。 長く話し込んだと思ったのに五分と経っていなかった。 暗い店内が夢だったように、眩しい日差しと湿った熱気が全身にまとわりつく。 雑踏の喧しさに蝉の鳴き声に頭が割れるようだった。 眩しさに目を細めながら、銀座の街へ歩き出した。
///
百合子は居間へ入るなり、机の上をみて目を丸くした。 おこわにも魚の干物にも手をつけられてはいなかったが、唯一馬鈴薯のマッシュだけは無くなっていた。 食べ終わった皿と箸を流し台に運び、洗う。 固くなってしまった干物は身をほぐしてお茶漬けにすればいいと藤田が教えてくれた。 薬味の生姜とか葱を少しと、海苔を炙って散らすと美味しいと言っていたのだ。
「暑いから食欲がないのかもしれないわ」
百合子はそう頷きながら、干物をほぐして皿にまとめる。 おこわもおにぎりにしてしまう。 固くなっているかもと不安になったが、胡麻油が入っているようで一晩たってももっちりとしていた。 戸棚には白いおにぎりと焼き茄子がある。 傷んでいないか匂いで確かめながらも、はっきりと分からずに首をかしげる。 一緒におこわのおにぎりと干物も戸棚に入���てきっちりと戸を閉める。 日の高い内に布団を干し、掃除を終える。 ふと竹で編んだ籠を見てみると、汚れたシャツに手拭い、下履きの肌着があった。 百合子は一人はっと息を飲む。そして、じわじわと頬が染まるのを首を振って追い払う。 茶色い染みが浮いているシャツを取ると機械油の苦い匂いがした。 そのかわりに、いつも斯波が付けていたオー・デ・コロンの香りも紙巻煙草の匂いもしなかった。 大胆に鼻を近づけてシャツの匂いを嗅いでいる事に気が付き、慌てて身から離す。 すっかり顔なじみになった又隣に住む道子に洗濯用の盥と洗濯板と石鹸を借りる。 三つの女の子と生まれたばかりの男の子の世話で忙しそうな様子だった。 手伝おうかと言われたが、量も無かったので断った。
「そういえば、いつも中庭に洗濯物が干してあったわ」
それは斯波の邸の記憶だった。 あの大きな邸の洗濯物は一体どれほどになるのだろう。 灰色に濁る水を外の水道の流しに捨てた。 夏は涼しくて良いが、冬だと寒くて大変だとまだ先のことをちらりと心配する。 洗濯物を干し終えて額の汗を払いながら冷やしたお茶を飲む。 午砲はまだだったが、おこわのおにぎりと焼き茄子を食べた。
靴下に出来た穴を不器用ながらに繕い、余所行きらしい黒い靴の泥を落として磨く。 水回りを細かく掃除して、勝手口のあたりの雑草を抜く。 見渡せば、道の端は全て青々とした雑草なので、真剣に草抜きを始めると切りが無い。 日が傾く頃になると洗濯物と布団をしまう。
「習慣になってきたら、何をすればいいか分かってきたわ」
百合子は洗濯したものを畳んで箪笥にしまいながら呟く。 土間に降りて、泥のついた馬鈴薯を二つ取り出した。
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買い物三昧
2017.3.20(月)
さ。様々が忙しい中で日々を過ごしています。
私の仕事も、上の子の準備も、下の子の準備も。
慌ただしくも幸せな日々です。
慌ただしい中、せっかくの(この慌ただしい)経験を楽しむことを疎かにしないようにするのはちょと大変ですね(^^;)
隙があれば飲んでますよ、私。今日も買い物が終わってホッとしたところでプシュッと。
一番気を遣うのはこの家を出ていく上の子の準備。
いくら考えても足りない位、気になる(笑) でも本人は全く気にしていない(大笑)
これも仕方ないですねぇ。もともと気が回るタイプじゃないし、生活に執着があるタイプでもないですしね。
私が「これが必要だと思うけど、どっちがいい?」とか「これいる?」と聞いても、「なんでもいい」「どっちでもいい」ばっかりで。結局私(と下の子)が気を回して揃えているような状態です。
ま、性格上、年齢上、仕方ないのか・・・(今だけだぞ、お母さんが揃えるのは)
と、思いつつ、下の子の準備にも余念がなく。
っても、学校の準備よりも「上の子の入学式に参加する準備」に余念がありません(笑)
先日、市街のショッピングセンターや市内のショップに出かけ、下の子の衣装(ワンピース、ブラウス、ストッキング、靴、スプリングコート)を揃えました。一式だね・・・
白を基調とした半袖のワンピースと、同じく白のブラウス。ブラウスはきちんとした感じだけど袖口に変化かあって、単品でデニムに合わせても可愛いと思います。
靴は同系色のベージュ系の丸いフォルムのパンプス。すでに通学用の茶のローファーがあったけど、さすがに兼用はできないよね(^^;)
コートはピンクベージュの短い丈のもの。これは普段着でも全然大丈夫。色はピンクベージュの他に淡いブルーとベージュで迷ったけけど、私は迷わずピンクベージュを選びました。だって下の子に断然似合うんだもの!
元々は一式揃えるつもりじゃなかったけど、中途半端な服だなんて自分ならいたたまれなくない?中途半端で恥ずかしくなるくらいなら、いっそ何もない方がマシと思わない? と、個人的に思いますので、結局揃えちゃった(^^;)
それを見た祖母は、自分の真珠のネックレス(可愛い系)を「貸してあげる」と言ってくれました。本人にはフェイクの真珠のイヤリングがありますので、装飾はそれで完璧です。
「アナタ、一式揃えたんだから、妙な髪型とかしたら怒るからね」と言いましたら、ウキウキ顔でOKしていました。
いいね、オシャレできるのって(笑)
で、私はと言えば、各ショップを見ていた時に「もしサイズがあったら、買う」と心に決めたスーツと、「もしスーツが買えたらこのデザインの靴にする。なかったら買わない」と、「もし」尽くしでしたが、見事にというか、なんというか、結局買いました。スーツと靴。
最初見た時にはつり下げられてなかったけど、よく探したらマネキンが9号サイズを着てたんだもん。試着して合ってたら買うでしょ。
それに、9号で合わないわけないし。パンツなら合わないかもしれないけど、タイトスカートだし。
ということで、無事に「スーツがパツパツだから緊急ダイエット」が終了しました。
でもね、2月中旬からの1か月で4kg痩せまして。努力(途中浮き沈みはあったけど)の成果にちょっとビビってました。
もしこれ以上は痩せずに現状維持だったとしても、4月上旬の入学式×2回は特に困らなかったかもしれません。
でも、昔のスーツなのでスカート丈が短かったので気になってたしね。(若さゆえの短さよ)
シャネル曰く「女の膝は最も醜い部位だから見せてはいけない」。つまり、エレガンスは膝下丈、ですよ。うん。
っていうか、この「膝」は運動してない30代以降の膝なんじゃないかと思うんだけどさ。(膝、見事に落ちるよね・・・)
ま、いいや。ともかく、買っちゃったしね~(笑)
さて。入学式が楽しみです。
いや、その前に明日入学説明会+教科書購入のイベントがあるので、そっちを頑張ります。(終わったら仕事しなきゃ・・・)
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プレフォールからより抜き ファー襟の紺ブレや、ドッグ刺繍のスカジャン
季節はこれから夏に向かう時期ですが、現実よりも3カ月ほど先を行っていて、プレフォールのコレクションがショップに並び始めるタイミングになりつつあります。そこで今回は数あるプレフォール新作の中でも、東京・南青山のコンセプトショップ「GALLERY MUVEIL(ギャラリー ミュベール)」が特にお薦めのアイテムをご紹介しましょう。
この秋冬には世界的にファーがキー素材になります。中でもファーを襟や袖にあしらう「ポイント使い」が装いのアクセントに。「MUVEIL(ミュベール)」は、プレフォールからファーのポイント使いを打ち出していきます。
中山路子デザイナーが一番のお薦めに挙げるアイテムは、ファー襟を備えた2種類のアウター。紺ブレザーとダブルブレストコートです。今回のコレクションを象徴する紺ブレザーは、レオパード柄のファー襟がグラマラスな表情。さらに、リボンでこしらえたボタンがレディー感を漂わせています。
秋口は袖をまくり上げて、軽快に着こなせます。スーパーロング袖のブラウスと合わせて、袖先をあふれさせるレイヤードも楽しめそう。袖裏に程よい主張を宿すアレンジを加えました。裏地は赤地のストライプ柄。襟裏のカラークロスも赤を選んで、飾りステッチを効かせています。
背中のデザインは2パターンから選べます。紺ブレもコートも背中の左右に弓矢を構えたエンジェルのワッペン刺繍を施しました。背骨の真ん中あたりには真っ赤なハートモチーフ。筆記体のブランドロゴも大きめに赤く刺繍されています。もう1パターンは刺繍飾りのない無地タイプ。コートはファーのボリュームをさらにアップ。背中側からファー襟がしっかり見えて、ゴージャスな後ろ姿に仕上がっています。
のどかな着映えに導くウエアとして注目を集めているのは、ローブやガウンといった、ゆったり羽織るタイプのアウターです。「ミュベール」がプレフォールで用意したのは、刺繍入りのガウンコート。色はホワイトとネイビーから選べます。どちらの色にもすっきりしたストライプ柄を配してあるので、着丈の長さも手伝って、着姿が縦に長く映ります。
ガウンコートの左胸にあしらったフロントワッペンには、「MUVEIL」のロゴ、「M」「V」「L」のイニシャルを組み合わせたマークを刺繍しました。背中の真ん中には名門一族の紋章を思わせる、王冠や馬、楯などを組み合わせたオリジナルモチーフを刺繍しています。
厚手の羽織り物は重たく見えがちですが、こちらのガウンコートは上質なイタリア製の綿レーヨンで仕立ててあるので、さらりとした着心地。だから、夏のうちから着られそう。袖まくりもできます。前をしっかり重ねないで、ゆるく打ち合わせると、内側に着込んだウエアがのぞいて、軽やかな印象に。生地の適度な光沢感がリッチなムードを引き出しているから、ルーズにまとってもたるんで見えません。
今シーズンはベルトを垂らして縦落ち感や自然体ムードを漂わせるスタイリングが支持される気配が見えています。ガウンコートとセットになっているベルトもきつく結ばず、長く遊ばせて、伸びやかな雰囲気を醸し出せます。真正面で結び目をこしらえないで、左右のどちらかにずらすだけでも、表情が変わります。
シーズンに関係なく重宝するTシャツですが、いかにもイージーな見え具合は避けたいもの。こちらのTシャツは、先ほどご紹介したガウンコートの背中と同じような、王冠や馬などを組み合わせた紋章風モチーフが身頃の正面に特大サイズで刺繍されています。ありきたりのプリント柄ではなく、しっかりとした起伏が感じられる刺繍なので、Tシャツだけで着てもさびしく見えません。ワッペンでもなく、服地の上からダイレクトに刺繍しているから、しわになったり、ごわついたりもせず、快適に着られます。
ネック周りに切り替えが施してあり、丁寧な仕上がり具合を感じさせます。裏毛仕様で肌当たりもソフト。色はグレーとネイビーを用意しました。
最後は「ミュベール」ならではのウィットフルなスカジャンをご紹介します。スカジャンと言えば、見どころは派手めの刺繍。こちらは背中に犬2頭がちんまりと並んだ姿をビッグモチーフのワッペン刺繍であしらいました。しかも、普通の刺繍にとどまらず、フェイクファーを使って、犬の耳や足を立体的に見せています。フワフワしたフェイクファーが愛くるしさを目に飛び込ませます。
バックスタイルには「Oinusama」「BOW WOW」という文字が添えられています。ただのペットではなく、過剰に甘やかされている「お犬様(Oinusama)」なのです。しかも「ワンワン(BOW WOW)」とやかましい。表情もかわいらしいのだけれど、どこか素直じゃない雰囲気を帯びています。
正面側には左右の胸元に異なる花モチーフを刺繍しました。真っ赤な花には黄色い蜂が寄り添っています。昆虫柄は「ミュベール」の定番的モチーフです。襟と袖先のリブ編み部分にはラインを走らせ、スポーティー感を引き立てています。ラインを構成するレッドとグリーンは葉っぱとも響き合って見えます。
スカジャンの地色はボルドーとネイビーの2色があります。犬のモチーフは茶色と白の2種類。地色と柄の組み合わせはボルドー×ブラウンドッグ、ボルドー×ホワイトドッグ、ネイビー×ブラウンドッグの計3パターンから選べます。スカジャン生地は柔らかいうえに、光沢のある綿レーヨンツイルを使用しています。
プレフォールコレクションのよさは、実は初夏や春先にも着られて、ほとんど通年で出番があるところ。気候や気分に合わせて、自在の着こなしに生かせます。「ミュベール」らしいしゃれっ気やこだわりも注ぎ込まれているので、5月26日からの立ち上がりを見逃さないように、ショップを訪ねてみてください。(ファッションジャーナリスト 宮田理江)
ファー付き紺ブレザー(エンジェル刺繍入り) ¥78,000(+TAX)
ファー付き紺ブレザー(エンジェル刺繍無し) ¥54,000(+TAX)
ファー付きWコート(エンジェル刺繍入り) ¥89,000(+TAX)
ファー付きWコート(エンジェル刺繍無し) ¥68,000(+TAX)
刺繍入りガウンコート white / navy ¥89,000(+TAX)
馬刺繍 裏毛Tシャツgray / navy ¥76,000(+TAX)
犬刺繍スカジャン bordeaux×brown dog / bordeaux×white dog /navy×brown dog¥76,000(+TAX)
GALLERY MUVEIL
東京都港区南青山5-12-24 シャトー東洋南青山 B1F
TEL: 03-6427-2162
OPEN: 11:30~20:00
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チャイナドレスやパジャマ風アイテムで着姿に程よいスパイス 3月から「刺繍の教室」もGALLERY MUVEILでスタート
ある素敵な女性にオマージュを捧げるような形で企画されている、2017年春夏シーズンの「MUVEIL(ミュベール)」。そのミューズになった実在の女性はチャイナドレスやパジャマ風ウエアといった、一癖あるアイテムまで自己流に着こなして見せるスタイリングの達人。今回は春夏アイテムから、チャイナシリーズとパジャマシリーズをご紹介しましょう。
チャイナと言えば代名詞的なチャイナドレスははずせません。誰もが思い浮かぶシルエットですが、ミュベール版はワンピースの裾からアンダードレスをあえてはみ出させています。東洋風のフラワーモチーフがカラフルな刺繍で大きくあしらわれました。縁を彩るグリーンのパイピングも利いています。チャイナボタンは手作りです。
生地にも工夫を施しました。肌が触れると、ひんやり心地よい接触冷感仕上げだから、夏も涼しく着られます。テンセル素材独特のソフトタッチも快適な着心地の理由。袖幅の余裕がたっぷりあるので、風通しは良好。風合いや色味に自然なムラ感があって、普段使いしやすいのもうれしいところです。色は落ち着いたネイビーで、大人っぽくまといやすくなっています。
チャイナシリーズではジャケットも用意されました。色はネイビー1色です。正面の合わせは5個のチャイナボタンが並んで、オリエンタルなたたずまい。胸元にはにぎやか色の植物柄刺繍を施しています。スタンドカラーは首をすっきり見せてくれそう。チュールを挟み込んだ裾がムードを深くしました。背中側はボックスタックで動きとボリュームを出しています。ワインが大好きなミューズにちなんで、「乾杯」の意味がある「Cheers」の言葉も刺繍で添えました。
近頃はバスローブやナイトガウンといった、おうちでもくつろぐ気分を象徴するウエアを外着にアレンジする試みが世界的に盛り上がっています。チャイナガウンコートはまるで着丈の長いパジャマを羽織ったかのような、ゆったりした着姿。ガウン特有の抜け感もあって、リラクシングに着こなせそうです。
コートの腰に巻いた布ベルトには「ベロンベロンに酔っぱらう」といった意味のメッセージが英語で刺繍されています。この言葉はミューズ女性がワイン好きであるところからの着想。両胸と背中にはこのメッセージに含まれる「FRUIT」の言葉から、色とりどりの果物が刺繍で描き込まれました。色はネイビーです。布を贅沢に使って、ガウンらしい楽ちんな、つかず離れずの着心地を実現しています。
パジャマは本来、他人に見せないタイプの服ですが、あえて場面をずらす「シーンフリー」のスタイリングが拡張して、最近は意外性の高いタウンウエアの仲間入り。今回のパジャマシリーズではブラウス、パンツ、オールインワンの3点をラインアップしました。3アイテムとも細かいリップ柄を全面にプリント。こちらもミューズになった女性の印象的な唇をモチーフにしています。ブランドイニシャル風の「m.v.」の文字も控えめに刺繍されています。
ブラウスは丸みを帯びたパジャマ特有の襟が朗らかな表情。パンツはパジャマライクなゴムウエストで楽に着られそう。でも、センタープリーツが利いていて、過剰にだらしなくは見えません。オールインワンはウエストにギャザーが寄せてあって、ゆるゆるに見えにくい演出。いずれも地色はブラウンとブルーから選べます。
本当に間違えてパジャマで外に出てしまったと勘違いされないよう、ボトムスの上からチュールを巻いたり、主張の強いアウターを羽織ったりといった「足し算」のコーディネートを試したくなります。先にご紹介したチャイナガウンコートを重ねると、のどかさと意外感が交差する装いに。春夏は薄着になり、印象も弱まる傾向があるだけに、チャイナやパジャマといった、サプライズなムードを呼び込んでくれるデザインは着姿に程よいスパイスを添えてくれるはずです。(ファッションジャーナリスト 宮田理江)
チャイナドレス navy ¥74,000(+TAX)
チャイナジャケット navy ¥78,000(+TAX)
チャイナガウンコート navy ¥130,000(+TAX)
GALLERY MUVEIL
東京都港区南青山5-12-24 シャトー東洋南青山 B1F
TEL: 03-6427-2162
OPEN: 11:30~20:00
丁寧な手仕事技を大切にしている「MUVEIL」はハンドクラフトをより特別なものとして提案しています。GALERY MUVEILでは3月から、刺繍教室を開催することになりました。MUVEILらしさを取り入れた刺繍教室は毎月定例として開く予定です。第1回の教室は、刺繍デザイナーの田口あゆみ氏による「刺繍を学ぶ」です。手仕事のよさがあらためて関心を集めているのに加え、自分好みにアレンジする「DIY」を楽しむおしゃれが盛り上がりを見せつつある中、またとない機会となりそうです。
3月の刺繍教室 「刺繍を学ぶ」
開催日:3月4日(土)・3月11日(土)の全2回の受講になります。
時間:どちらも13:00~15:00
参加費:2回受講として9000円
定員:10人
持ち物:はさみと針。持ち合わせがない方は講師から借りることができます。
刺繍の初歩的なテクニックを学ぶ教室ですので、初めての人でも参加しやすいコースとなっています。カリキュラムに沿った作品をつくりますが、3パータンのモチーフはご自身でお選びいただけます。作品完成後には希望者に限って講師にポーチのお仕立てを依頼できます。(受講料以外に1500円+税の別途お支払いとなります)
4月は「イニシャル刺繍を学ぶ」を予定しています。
4月の日程は4月1日(土)、8日(土)、15日(土)の全3回の受講になります。
定員が5~6人と、少ない人数でしっかり学ぶことができます。こちらも作品が完成後には、希望者に限ってトートのお仕立てを依頼できます。
なお、4月以降は平日開催の教室も検討しています。詳しくはGALLERY MUVEILへお問い合わせください。
<講師プロフィール>
田口あゆみ 刺繍デザイナー
文化服装学院卒。アパレル企業でデザイナーとして約10年間勤務した後、フリーランスでの活動を開始。コレクションブランドの刺繍・加工デザイン、雑貨の企画、舞台衣装の装飾等を手がける。刺繍の技術は独学。
教室の予約はGALLERY MUVEILへお問い合わせください。定員に達し次第、締め切らせていただきますので、ご了承ください。
<ご予約・お問い合わせ>
GALLERY MUVEIL
東京都港区南青山5-12-24
シャトー東洋南青山B1F
TEL: 03-6427-2162
OPEN: 11:30~20:00
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