#英雄のポーズ
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現代に蔓延する上っ面の多様性の背後には、互いに認め合い、尊重するためにはそれぞれがそれぞれに誰かの役に立たなければならないという暗黙の目配せがそこかしこに溢れている。取ってつけたような「弱者救済」というポーズの背後に、どれだけの排他精神が蠢いていることか。高齢者、子ども、障がい者、生活困窮者、クィアをある種の符号に落とし込んでマーケティングに利用するのは、いつだって政治的悪辣の最たるものである。本来は音楽という鐘楼に集いし落伍者たちの解放区として機能していたクラブやライブハウスに於いてさえ、いつしか高い倫理観が求められるようになり、暗黙のドレスコードにより、世にも奇妙な選民思想が根付き始めている。互いに認め合い、互いを支え合うことを前提とした空間に、自分のような人間の居場所がなくなりつつあると感じることが少なくない。音楽が爆音で鳴り響く暗闇のなかには聖職者もいれば犯罪者もいる、心優しき英雄もいれば屑のような悪党もいる、互いの胸のうちに共通するものは何もなく、もちろん自発的な歩み寄りもない。鳴り響く猥雑な音楽だけが両者を辛うじて暗闇の内側にとどめ、足もとの溝を埋めていく。いまの時代、そういう多元的な現場や空間はもはや存在しないのかもしれない。
(『僕のヒーローアカデミア』233話より)
前置きが長くなってしまったが、タラウマラには日々、様々な��情を抱えた「世の人」たちが入れ替わり立ち替わり訪れる。それは決して居心地の良いものではないし、少なくとも当店にとって、彼らは何の役にも立たない。どちらかと言えばこちらのストレスになるだけだ。それでも彼らはやって来る。そういう人たちをこの社会から見えにくくしているのが無自覚なダイバーシティが夢想するユートピアであり、権力者たちが吹聴する「美しい国」の実態なのだと思う。
(世の人①:東淀川を代表するファッショニスタ)
まず最初に紹介したい人物が、自他とも認める東淀川のNo.1ファッショニスタ、清水氏だ。氏の特徴を挙げるとすれば、とにかくオシャレ、ひたすらオシャレ、無慈悲にオシャレ。この人がひとたび領域を展開したら、その術式から逃れる術はなく、世の中で最も役に立たないゴミのような服飾情報を一方的に脳内に流し込まれ、結果、見事に誰もが骨抜きにされる。かつて偶然にもその場に居合わせたWD sounds のオーナーLIL MERCY氏さえも凍りつかせた脅威の人物だ。自身の首元を指して「これは希少なFENDIのネクタイだ」と豪語するので、恐る恐るネクタイ裏のタグを確認すると、なんとブランドロゴではなく素材を示すflannelの文字。どつくぞ。そんな清水氏の母親が昨年亡くなったのだが、ある日、沈鬱な表情でタラウマラを訪れた氏が朴訥と胸中を吐露し始めた(聞いてもいないのに)。ずっと母の介護に身を捧げてきた自分としては、親の死を簡単に受け入れることができず、いまは食事も喉を通らない。母が使っていたベッドの上で呆然と天を仰いで、そのまま朝を迎えることも珍しくない、日に日に自身の身体が痩せ細ってきたことを自覚しており、周囲の者からも心配されている、というような内容をエモーショナルに語る。さすがに気の毒だと思い、親身になって耳を傾けていたのだが、次の瞬間、この男の口から耳を疑うようなセリフが飛び出した。「俺はもともとスタイルが良いのに、これ以上痩せたらモデルと間違えられるんちゃうやろか。ほんでこのベルトもかっこええやろ?」。恐ろしいことに、またしても僕は氏の領域に引きずり込まれていたのだ。その後もお決まりのファッション自慢を嫌というほど聞かされ、全身から血の気が引いていくのを感じた。最愛の母親の死さえも、己のファッショントークの「振り」に使う正真正銘のク◯である。しかも亡くなって間もない、死にたての状況で。
(世の人②:東淀川のジャコメッティ)
次に紹介したいのは、東淀川のジャコメッティ。ある日の営業日、下駄履きのおっさんがタラウマラに訪れ、店内の書棚を一瞥して咆哮した。「ここの本ぜんぶキミらが読んでるんか?やとしたら相当わかってるな!」。僕たちは当店取り扱い書籍はすべて自分たちで読んで、仕入れ、仕入れて、読んでいることを伝えた。するとおっさんの眼は鋭く輝き「キミらは大阪の文化を1ミリ底上げしとるな。大阪で1ミリってことは世界で1ミリってことや!気に入った!儂の家にある本を全部キミら��あげよう、今夜でも我が家に取りに来なさい」と快活に言い放った。その後もジャコメッティやカフカ、折口信夫について興味深い話を聞かせてくれた。おっさんの名は矢嶋博士、淀川とともに生きる彫刻家であり歌人であった。博士から自宅住所と電話番号を書いたメモを受け取り、タラウマラ閉店後にお伺いすることを約束した。博士は帰り際に「もし良かったら、儂の家にある本ぜんぶとキミらのジャコメッティを交換しよう」と言った。僕は何となく話題を逸らして、夜を待った。タラウマラ閉店後に近所のキンキーガールりんちゃんを誘って矢嶋宅へと向かった。ゲトーなアパートのゲトーな階段を上がりゲトーな玄関を開けると、果たしてそこは博士のアトリエ兼寝床であった。三畳一間に所狭しと並べられた謎の彫刻と珍奇植物、藁と見紛う敷布団とヘドロ化したホルモン、呑みさしの酒瓶、そしてあっち系のアダルトコンテンツが視界を過ったことは記憶に留めておこうと思った。博士は「何を突っ立っとんねん、腰おろして寛ぎなさい」と着座することを薦めてくれたので、僕は「どこに?」という言葉をかろうじて飲み込んで、藁のような敷布団に腰を下ろした。ぴったり寄り添うようにりんちゃんの背中がある。博士は1,000冊つくって50冊しか売れていないという自著『淀川。よ』(幻冬舎)を僕たちに1冊ずつプレゼントしてくれた。「芸術家なんて世間様に認められたら負けや。儂はいまの生活で十分幸せやから、死ぬまで作品を作っていくだけや。売れたいなんて思ったことない」という博士の言葉に負け惜しみや諦念は微塵も感じられず、寧ろ清々しい。りんちゃんの興奮が伝わってきた。僕たちは小一時間ほど色んな話をして、席を立った。「階段の上に本を置いてるから全部持っていきや!頑張れよ、若者たち」と言って博士は扉を閉めた。ゲトーなアパートのゲトーな階段の上に大量の書籍が置かれていたが、なんとその8割程度が司馬遼太郎の著作だった。ジャコメッティを交換条件として差し出さなかった自分を心から讃えた。僕たちは自転車のカゴに大量の司馬を積み込んで帰路に着き、その足ですべて「本の森」に寄贈した。
(世の人③:ラッパーの母)
最後はタラウマラの元スタッフであるマリヲ君の実母を紹介する。この方は初来店時に食パンの差入れを持ってきてくれて、淡路商店街で食パンと言えば、当時の人気店「熟成純生 食パン専門店|本多」(2022年9月に閉店)のものに違いないと早合点し「そんな高級なやつ頂いて良いんですか?」と言うと「え?そこのイズミヤで買ったやつよ、え?こっちの方が良かった?」とテヘペロ。なんと僕には廉価食パンを差し出し、ご自身用に高級品を隠し持っていたのだ。2度目の来店時は前回購入してくれたAFTERのTシャツ(画像参照)のコーディネートを見せに来てくれたのだが、タイミング悪くパンク修理の最中だった僕は、店内で少しお待ち頂きたい旨を伝えて作業に注力した。ところがパンク修理を終えて顔を上げると、マリヲ母は嘘のように店内から姿を消していた。それから何度かタラウマラにやって来ては、僕の目を気にしてか、まるでプッシャーマンのような所作で袖の下からマリヲくんに小遣いを渡していたり、連日おばあちゃんの就寝時の写真を送ってきて、マリヲくんが「ばあちゃん元気そうで良かった」と返信すると「おばあちゃんじゃなくて、おばあちゃんが着てるパジャマを見て欲しかった」と返す刀がぴこぴこハンマー。よく見るとパジャマの花柄はすべて微妙に違っていた。そうかと思えば「おばあちゃん、明日あたり死にそうです」と唐突に不安を煽るメッセージを送りつけてきたりもする(因みにおばあちゃんはいまも元気にご存命)。或いは道頓堀川で殺人事件が起きた際には被害者の男性が我が子でないかと執拗に心配していた。報道で被害者はベトナム人男性だと報じられているにも関わらず、だ。
そして、日々の寂寥感を紛らわせるようにSiriというバーチャルアシスタントと夜毎ピロートークを繰り広げていたある時期のマリヲくんが、酔った勢いでSiriに「好きだ!」と告白した瞬間、マリヲ母から「私も!」とLINEメッセージが届いたとき(別の文脈でのやり取りをしていたらしいが、偶然タイミングが重なったようだ)には膝から崩れ落ちた。やはり異能の子は異能、この親にしてこの子あり、ということだろう。
(マリヲ母については息子の著書に詳しい)
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Ⅰ
人形に恋を��る。
江戸川乱歩の話ではない。本当に人形に魅了され恋のような気分になってしまうことがある。わたくしのその恋は異性への温度のある恋ではなく、アイドルへの恋心のような、日頃の摩擦で帯電していた心がパチパチッと放電するようなものだった。と同時に、この人形の持つ、確かに人形だが人間をも思わせる雰囲気を幾らか薄気味悪く思っていた。造形は見るからに人形だが、どこか〝こちらを見ている〟〝動き出す〟と思わせるディテールがある。恋心と少しの不気味さを併せた感情のわたくしの心を、あの人形は魅了し続けた。少し前まで。
Ⅱ
『虎に翼』 の主題歌を気に入って、テレビから流れるものでは足らず、とうとうYouTubeの世話になった。ここで初めて、米津玄師をまじまじと見ることになる。赤いスーツにお下げ髪の米津さんはライオットの首謀者なのか、店内を見て回り 「打壊しはここに決めた」 とばかりに音楽にのって陽気に踊る。ドラマの愛らしい色合いとだいぶかけ離れた赤い男と夜の暴動を容受するため暫く動画を繰り返し眺めた。…不意にあの人形の記憶が蘇る。胸がざわざわとして落ち着かない。鏡に向かう米津さんを10秒戻しては何度も確認する。米津さんとあの人形は似ているだろうか。切れ長の目で鏡の中の己を見据える姿が、あの人形の記憶を呼び起こし、仕舞い込まれていた記憶の欠片が一つ一つ飛び出してきた。
Ⅲ
山車人形(だしにんぎょう)をご存知か。神社の祭で地域を練り廻す山車の上部に乗せる大型の人形で、神話の登場人物や英雄の姿を模して作られている。江戸時代に流行した能や歌舞伎の影響を受けているさまは一目瞭然。震災や空襲で山車や人形が破壊されたり、都市化により大きな山車が引き廻せなくなって一時絶えたり、祭自体がなくなったりと、数奇な運命の山車人形であるが、保管倉庫に密かに保存され、不遇な時期を乗り切った人形たちもいる。
埼玉では川越氷川神社の川越まつりで、東京では神田明神や日枝神社、赤坂氷川神社の例大祭で今でも見られる。
Ⅳ
2021年、港区立郷土歴史館で赤坂氷川神社の山車人形の一つ〝日本武尊〟が展示されると聞きつけ、心躍らせながらその日を待った。わたくしの心がパチっとなったのはまさしくこの日本武尊だった。長い黒髪、���白で艷やかな頭部、敵を睨みつける切れ長の目、衣被(かずき)を支える白い腕。もうそれはそれは色っぽくわたくしを魅了し、こんな人形がこの世にあるのかと何度も問いかけながら見入った。しかもここは山車の上ではなく天井のある建物の中。日本武尊がすぐそこにいる。目が合った!…それにしてもデカい。今にも動き出しそうなポーズが恐怖心を煽る。前のめりで凝視したり、のけ反ったり、念願の日本武尊を目の前に、興奮と恐怖で足が固まって、わたくしの歩行はまるでロボットだ。『異常な状態での異常な行動は正常』 フランクルの言葉が思い出される。
Ⅴ
この人形は少年ヤマトタケルが少女に化けて九州の熊襲兄弟を倒す場面を表している。女物の着物で顔を隠して乙女になりすまし、油断した熊襲をくいっと睨む。一撃直前の一瞬だ。たまらん。「おまえ男なのか!」 熊襲もさぞ驚いたことだろう。動きの少ないの人形が多い中、物語の一瞬を捉えたこのポーズは規格外の仕上がりだ。(片手でかずきを支えるポーズは築土神社所蔵の絵に似ている。)この人形の制作に携わった人々とそのやる気を、そして、あの造形の感覚を、わたくしは愛してやまれない。
https://www.hikawadashi.or.jp/
✒2024年6月9日
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各地句会報
花鳥誌 令和6年3月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年12月2日 零の会 坊城俊樹選 特選句
氷川丸の円窓いくつ北塞ぐ 昌文 十字架のかたちに燃る蔦紅葉 美紀 倫敦を遠く大使の冬薔薇 佑天 望郷の眠りの中に木の実降る きみよ 女学院に尖塔のかげ冬紅葉 久 冬木立の向かうをつくりものの海 緋路 昏き灯のランプシェードとポインセチア 和子 十字架を解かざる蔦の冬紅葉 光子 凍空や十字架赤き鉄であり 和子 誰も振り返らぬ早過ぎた聖樹 佑天
岡田順子選 特選句
みなと町古物を売りに行く師走 荘吉 窓は冷たく望郷のピアノの音 俊樹 氷川丸の円窓いつく北塞ぐ 昌文 冬館キラキラ星のもれ聞こゆ 美紀 冬日和トーストに染むバタと蜜 季凜 ガンダムを磔にする師走かな 緋路 革命は起こすものかも冬薔薇 緋路 誰も振り返らぬ早過ぎた聖樹 佑天 胼の手の婆キューピーを路地に売る 俊樹 古硝子歪めし冬の空はあを 久
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月2日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
神鏡の底まで蒼く冬の月 かおり 右手上げ思索のポーズ漱石忌 修二 綿虫のうすき影負ふ百度石 かおり 戯れにペアのセーターそれは無理 美穂 冬帝の裾に鉄橋灯されて かおり 赴任地は裏鬼門なり漱石忌 美穂 後戻りできぬ吊橋冬枯るる 愛 大枯野則天去私のここに居る 美穂 綿虫のことづてありと君に来る 愛 牝狐の頭に木の葉町娘 成子 憑き物を落とす霰に打たれをり 愛 落葉踏む音を楽しむ童かな 修二
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月3日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
亡き父よもう雪囲ひ始めしか 喜代子 百二才冬空へ帰られし 同 眠る山内で動めく獣達 都 年忘れ新入り下戸でじよう舌なり 同 門松の早や立ち初め禅の寺 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月7日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
冬菊を挿して祈りの夙夜かな 宇太郎 布教師の顎鬚白し報恩講 すみ子 投薬のまた一つ増え落葉蹴る 悦子 入隅に猫の目青し冬館 宇太郎 三途から戻りし者の年忘 同 ���一枚まとひてよりの浮寝鳥 都 露座仏の思惟の指さす空は冬 美智子
(順不同特選句のみ掲載) ……��………………………………………………………
令和5年12月9日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
冬の朝遠くに今日の始む音 恭子 空青く舞ふ白鳥の透きとほり 幸子 塀の猫すとんと消えて師走かな 三無 冬の雲切れて見下ろす日本海 白陶 枯菊のかをり残して括られる 多美女 路地裏に声の弾みし焼芋屋 美枝子 カリオンの音の明るさや十二月 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月11日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
寄せ鍋を囲みし人のまた逝きて 秋尚 まろまろと伊豆の山やま冬景色 怜 乾きたる足音空へ冬山路 三無 子離れの小さき寄鍋溢れをり のりこ 床の間に父の碁盤や白障子 三無 ご奉仕の障子新し寺の庭 和魚 信楽のたぬきと見合ふ障子越し 貴薫 煌めきをところどころに冬の山 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月11日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
茶の花やエプロンで無く割烹着 昭子 風花にして降るとも降らぬとも 世詩明 ポインセチア抱けば幸せさうに見ゆ 昭子 武生花鳥必死に守る年の暮 みす枝 彩りも音も無く山眠りけり 英美子 雪まろげ仕上げは母の手の加へ 時江 糶終へて皮ジャンパーの急ぎ足 昭子 着膨れて女は手より立ち上がる 世詩明 古暦パリの街角にて終はる 昭子 街師走吹かるる如く人行き来 みす枝
令和5年12月12日 萩花鳥会
冬の月句友ともども偲ばれて 祐子 五羽が風邪萬羽が処分魔の鶏舎 健雄 冬の空めげず生きると決心す ゆかり 一年の抱負も薄れ年の暮 吉之 首かけし手袋母の匂して 美惠子
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令和5年12月13日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
この先は冬雲傾れ込む山路 あけみ 白菜を抱きかかへつつ持つ女 令子 こんなにも長年参じ近松忌 同 オリオンの名残惜しみて冬の朝 あけみ 晩秋や娘の云ふを聞き入れる 令子 さきたま花鳥句会(十二月十五日) 初霜や狭山の畑を曳く煙 月惑 頑なに一花残して冬薔薇 八草 終焉の一ト日のたぎり冬紅葉 紀花 枝折り戸の軋む庵や枇杷の花 孝江 今年酒老舗の店や菰飾 ふゆ子 くちやくちやの枯葉纏ひて大欅 ふじ穂 廃校を渋柿たわわ守りをり 康子 三年間無事に埋めよと日記買ふ 恵美子 何をするわけでも無しに師走かな みのり 落葉積む赤き帽子の六地蔵 彩香 嫁ぎ来て冬至南瓜を五十年 良江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
口重き男に隣り近松忌 雪 九頭竜の黙が寒さを増すばかり かづを 散る紅葉散りゆく黄葉なる古刹 同 枯菊や香りと共に燃え上がる 英美子 手焙に触れれば遠き父の事 同 賀状かく龍天空へ飛躍せり 玲子 父母の眠る故郷恵方道 やす香 山眠るひもじき獣抱き抱へ みす枝 鼻水をすすれば妻もすすりけり 世詩明 熟し柿つつく鴉は夫婦らし 同 人にやや離れて生きて帰り花 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月17日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
黒門の枡形山に裘 幸風 冬蝶を労はるやうに母の塔 同 眠る山起こさぬやうに歩き出す 白陶 隠れんぼ使ひ切れざる紅葉山 経彦 冬帝と対峙の富士や猛々し 三無 笹鳴や少し傾く城主墓 芙佐子 山門へ黄落の磴細く掃く 斉 黄落の野仏は皆西へ向き 炳子
栗林圭魚選 特選句
蒼天に山脈低く雪の富士 芙佐子 空を抱くメタセコイアの冬支度 三無 SLに群がる揃ひの冬帽子 経彦 かなしことうすれゆきたり冬霞 幸子 笹鳴の過ぐ内室の小さき墓 慶月 法鼓聴く銀杏落葉の女坂 亜栄子 古寺の法鼓の渡る師走かな 久子 冬帝や明るき供花を陽子墓碑 文英 笹鳴や少し傾く城主墓 芙佐子 枯芝の広場の狭鬼ごつこ 経彦
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月19日 福井花鳥会
赤き玉転がしながら毛糸編む 啓子 住み古りて遺木の数多なる落葉 清女 着膨れてストレス無しと云ふは嘘 同 雲たれて空塞ぎをり十二月 笑子 ささやきを交はす綿虫寄り来たり 同 神殿に大絵馬掲げ年用意 同 毒舌も競り合ふ友や年忘 泰俊 それぞれの色を尽して末枯るる 雪 小説を地で生く男近松忌 同 墨をもて仏描きし古扇 同
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令和5年12月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
母と娘の悲喜こもごもや古暦 雪 大いなる一つの鳥居や神の留守 同 近松忌日有り気の一文箱 同 筆に生れ筆に死す恋近松忌 同 初雪や瓦は白く波打てり みす枝 初雪や誰彼となく首縮め 同 さんざめく市井を抜けて見る聖樹 一涓 神々の眠れる山や風の音 ただし 捨て猫のすがる眼や雪催 清女
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年12月24日 月例会 全選句を掲載いたします。◎が特選句です。 当日の席題は「青」でした。
坊城俊樹選 特選句
二百万余の英霊よ竜の玉 昌文 暦売る神となりし日遠くして 慶月 ���極月や足踏みかすか男衛士 音呼 ◎聖マリア棘やはらかき冬薔薇 和子 楽団の喧騒を待つポインセチア 順子 幔幕のうちは見せざり年用意 千種 聖夜待つランプの中の空青し 和子 悴んで十字架を小学生仰ぐ 順子 ◎十字架に鳩の休息クリスマス 要 朱き鯉悴みもせず行者めき 軽象 一枚の青空に垂れ冬薔薇 和子 著ぶくれのままカフェオレを飲むつもり 光子 著ぶくれの犬にユニオンジャックかな 佑天 冬帝のふくらませゆく日章旗 和子 ◎冬深む宿痾なる瘤持つ鯉へ 光子 ◎身じろがぬ寒鯉威してはならぬ 慶月 寒禽の寄り添うてゐる像の肩 政江 ◎擬態して聖夜の街に紛るるか 炳子 旧華族らしき猫背を外套に 順子 二の鳥居辺り冬帝在し険し 慶月 寒鯉の鐚一文も動かざる 千種 凍雲に閂かけよ大鳥居 月惑 ◎大鳥居いくつも潜りクリスマス はるか ◎きらめける虚構を踏みぬ霜柱 妙子 オルガンを踏み込むクリスマスの朝 光子 ◎くちびるの端で笑つて懐手 和子 数へ日の水あをいろに神の池 要 外套のポケットに怒りを握る 和子 冬ざれの鯉の影なき池の底 炳子 上野は勝つてゐるか像の極月 慶月 歳晩や動きさうなるさざれ石 眞理子 聖樹の灯巻き込んでゆくボロネーゼ はるか 冬眠の蛇を諾ふ斎庭なる 光子
岡田順子選 特選句
◎神の鳥冷たき影を像に置く はるか ◎極月や足踏みかすか男衛士 音呼 初対面黄色のマフラーして彼女 政江 花柊零るる坂の神父館 要 未知の先あるかのごとく日記買ふ 妙子 聖マリアと棘やはらかき冬薔薇 和子 ◎枯蓮のいのちの水に眠る朝 佑天 裳裾冷たき暁星のマリア像 俊樹 なかなかに僧には会へぬ師走かな 眞理子 十字架に鳩の休息クリスマス 要 鷗外の全集売れぬ隙間風 俊樹 窓越しに著ぶくれの手が師を招く はるか 朱き鯉悴みもせず行者めき 軽象 一枚の青空に垂れ冬薔薇 和子 著ぶくれの犬にユニオンジャックかな 佑天 霜晴や空ラのリヤカー巡回す 千種 ◎英霊の言の葉の外年詰まる 軽象 寒禽の寄り添うてゐる像の肩 政江 年逝くや素木の鳥居乾くまま 要 擬態して聖夜の街に紛るるか 炳子 数へ日の嵌つてしまふ小津映画 炳子 大鳥居いくつも潜りクリスマス はるか きらめける虚構を踏みぬ霜柱 妙子 オルガンを踏み込むクリスマスの朝 光子 ◎くちびるの端で笑つて懐手 和子 ◎手つかずの落葉を散らす神の鳥 はるか 数へ日の水あをいろに神の池 要 ◎外套のポケットに怒りを握る 和子 サグラダファミリアみたいな銀杏枯れ 俊樹 風冷た悲しくなけれども涙 政江 二百万余の英霊よ竜の玉 昌文 ◎微動だにせぬ��戦と年忘れ 俊樹
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2023-09-02 17:10
昨日からリングフィットアドベンチャーを始めた。腰痛改善向けのセットに入っている『英雄3のポーズ』で全身が震えた。
ここ最近は体調が悪い時期の反動がやってきているようかのようにやりたいことや学びたいことが多く、それらに対してとりあえず取り��んでみる姿勢でいる。
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RRR
2022年/インド/182分/カラー
3時間という超尺作品でありながら大ヒット中のインド映画「RRR」をシネリーブル神戸で見てきました。
インド独立運動の英雄、コムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュの二人がもし同時期・同場所に巡り会っていたら、というSF的要素を入れた歴史物となっています。
1920年、インド。インド総督スコット・バクストン(架空の人物。レイ・スティーブンソン)と妻のキャサリン(アリソン・ドゥーディ)はゴーンド族の集落を訪れ、そこの娘マッリの歌・アートの才能を気に入り強引にデリーに連れて行ってしまう。村の守護役であるビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)はマッリを取り戻すために仲間三人とイスラム教徒のふりをしてアスラムと偽名を使いデリーに潜入する。
一方ラージュ(ラーム・チャラン)はイギリスによって組織された警察官をつとめている。独立運動家が逮捕された事で警察所が多数のインド人デモ隊に取り囲まれ、助けも遅れ絶体絶命の中、ラージュが一人でデモ隊を鎮圧してしまう。大きな功績をあげたものの、あまりの鬼神ぶりに恐れをなしたイギリス人上司によって階級が上がることは無かった。
やがてビーム達の事が警察にも伝わり、その捜査をラージュに託される事になる。ラージュはビームの弟分の事が解ったためその似顔絵を制作し、��リー中を探す事になった。そんな中で橋を通っていた貨物列車の燃料が爆発し、魚取りの少年が窮地に陥る。それを見ていたビームとラージュはアイコンタクトでそれぞれ馬とバイクに乗り少年を救助することに成功する。
このことで友情を深めた二人だが、追う者・追われる者と知らずに交流するのだが…というのが第一部の冒頭の話になります。
いやー、本当に面白かった!面白かったんだけど、困ったのは今まで映画の感想を書く時には過去見た映画や芝居、脚本の解説本からの経験値に基づいて書いてきたんですが、これが何処にも当てはまらない(苦笑)。もう見たこと無い世界の映画という感じです。過去インド映画は数少ないながら見てはいるんですが、それでも当てはまらない作品でした。映画見終わった後は「大体こんな感じで書こうかな」というビジョンが見えてくるものなのですが、全く見えないので手探りの状態で書こうとしています。
強いて言うと超人バトルという点でドラゴンボールの世界に似ているのかなぁ?ただ完全架空のアニメの世界と、実写で脚色があるとはいえ現実を舞台にした世界では超人を描こうとするとどうしても「そんなアホな!」と思ってしまうのですが、観客にそれを考える隙を本当に与えない手腕はお見事でした。本筋がどうかしていても脇道の方を観客が気になるように仕掛けておいて(「RRR」の場合コメディ的展開、ダンス、BL的要素など)、徐々に世界観を観客に教育していき、少しネタバレですが終盤主人公二人がもうインドの神のようになっていた時点では完全に受け入れている状態になっているのです。
では力業ばかりのお話かというとそうでもなくて、伏線とまでは行かないかもしれませんがネタ振りはキチンと事前に置いてあるんですよね。確かに勢いの方が真っ先に目が行くのでB級作品とかカルト作品と思ってしまう気持ちも解らない事も無いけれど、お金も、才能も、時間もかけて丁寧に作り上げた作品である以上、これはちゃんとした作品として扱わないといけないと失礼に当たるんじゃないかと思います。ただカルト映画の「デタラメなところが面白くなっている」のを上手く引用しているのはあるかな?ビームとラージュのファーストコンタクトで少年を助けるために腕でクロスしたり色んなポーズを決めるだけで伝わるなんてどうかしていますし、その後もそんな話ばっかりだし(苦笑)。
当初ビームは革命という事までは考えていなく少女マッリを取り戻す事しか考えていなかったわけですが、それが家族を取り戻すというシンプルな導入部にすることで世界中でも、世代を超えて受け入れられる様にして、でも一方でインド総督がマッリを連れ去るというのが当時のイギリスがインドを搾取していた事の縮図であるという事を密かにではあるけれど明確に示しています。そして第一章のビームの話からの第二章の革命家ラージュの話にシフトアップの仕方が上手い。イギリス側から見れば主人公達はテロリストな訳なので敵役がいかに倒すべき相手なのかの説明や描き方が中途半端になってしまうと主人公側への感情移入までも中途半端になってしまった可能性もあったと思います。更に言えばこうして描かないとビームとラージュについての事前知識が無いインド以外ではヒットには結びつかず、主人公達を説明しなくても知っているインドのローカルヒットで終わっていたかもしれません。
あと主人公達の最終形態としてインドの神のようになっていたのがインドの長い歴史までも象徴した存在になった事で文句なしの存在になったと思います。一般人から革命家、そして神とジョブチェンジしたことでRPGゲームのような盛り上がりに観客が熱狂しやすくなったのはあるんじゃないかな?
了
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ダ-ティ・松本 不健全マンガ家歴30年[-α]史 ●はじめに この文章は同人誌「FUCK OFF!7」において書かれたものをベースにして逐次増補改定を加えていき、いずれ歴史の証言として、[というほど大袈裟なものでは無いが…]一冊の本にまとめたいという意図のもと、近年どんどん脳が劣化していくダ-松の覚え書きとしても使用の予定。事実関係は間違いに気付き次第 訂正。同人誌発表時のものも今回自粛配慮して、実名、エピソード等を削除した箇所有り。有り難い事に某出版社よりすでに出版打診があったがまだまだその時期ではない、マンガを描く事が苦痛になったら活字の方も気分転換にいいかも…。 /*マークは今後書き加える予定のメモと心得たし。 ●前史/修行時代・1970 さいとうプロの短くて濃い日々…… 1968年に上京。数カ月後東京は戦場に。熱い季節の始まりだった。 2年後親元を飛び出し友人のアパートに転がり込む。場所は渋谷から井の頭線で駒場東大駅下車、徒歩5分。地図で見ると現在の駒場公園あたり。昼間でも裸電球を付けなければ真っ暗という馬小屋のような部屋。数メートル先には当時の建設大臣の豪邸が…。前を通りかかるだびに警備のおまわりがじろり。 いつまでも友人に迷惑もかけられないのでとりあえずアシスタントでも…と手元にあったマンガ誌をひっくり返し募集を探す。幸いさいとうプロと横山まさみち氏のところでアシ募集があり両方応募。どっちか一つ通れば…と思っていたら何と両方受かってしまい、双方に条件を聞く。当時高円寺 のアパート、風呂無し4畳半の部屋で相場12000円の時代。前者一ケ月の��料10000円、後者20000円との事。給料の方がボロアパートの家賃より安いとは…!どう考えても前者は食う方法がないと判断し、後者さいとうプロへ入社。 ここに居たのはたったの半年に過ぎないけれど今思えばこれだけで本が一冊描ける位の濃い半年だった。しかしこのあと2X年分も書かねばならないことを思えば今回はいくつかのエピソードを書くだけに留めよう。 ダー松が入った時は小池一夫氏[クビ?]、神田たけ志氏や神江里見氏、きしもとのり氏[現・松文館社長]等と入れ替わりの時で、きし氏の女遊びの凄さと神江氏の絵のうまさは伝説になっていた。現在「亀有」「ゴルゴ」が歴代単行本の巻数の多いベスト1、2位だが[ともに100巻を越えた]、3位は神江氏の「弐十手物語」[70巻以上]だという事は知ってる人は少ないだろう。 当時の制作部は、さいとうたかを[以下ゴリ]をトップに石川班[ゴルゴ13、影狩り]、甲良班[バロム1]、竹本班[シュガー、どぶ等]の3つに分かれ、それぞれのキャップにサブ・チーフが一人づついて、ヒラが2~6人いるというシステムで総16名。独立し現在も活躍中の叶精作、小山ゆう、やまさき拓味の3名がそれぞれの班のサブ・チーフ。ダー松は石川班で左右1メートル以内に叶氏とゴリにはさまれ、のんびり出来ない状態で、はなはだ窮屈。叶氏はほとんどマンガ家になりたいとも思った事のなかった人で、設計事務所みたいなところで図面を引いていた人がなぜマンガプロダクションに来たのか不思議だった。格別マンガ好きというわけでもなかったせいか現在まで全ての作品が原作もので、オリジナルは一本もないのはそのせい?祭りなどの人がうじゃうじゃ出てくる群集場面が得意。 やまさき氏は大の競馬好き、現在競馬マンガを多く描くのは当時からの趣味が生きたというべきか。もう一つの趣味である風俗についてはここでは書くのは差し控えよう。小山氏は後日ここの事務の女性と結婚するが、当時はつき合っているとは誰も知らず、スタッフの一人がやめる時その女性に交際を申し込んだら、茶店に呼び出されて小山氏からと凄まれたと聞いたが嘘か本当かは不明。 ここでの生活は新入り[ダー松を含めて3名]は朝の9時前に会社に行き、タイムカードを押し、前日のごみをひとまとめして外に出し、トイレ掃除をして、16人分のお茶を2Fで入れて制作部のある3Fへの狭い階段をふらふら昇り、机ごとに置いて歩��、終れば、一息ついて買っておいたパンと牛乳を3分で食べて、やっとそれから仕事。しかし新入りの3名の内1人折茂は常に遅刻なのでいつも佐藤と2人でやっていた。佐藤も遅れる時はダー松1人で。辞めてから10年位、16人分のお茶を持って階段をふらふら歩きお盆をひっくり返す夢をよく見たものだが、実際ひっくり返したのは折茂と佐藤の2人で、よく茶碗を割っていた。 たまには夕方6時には帰れるが、普通は夜10時までで、アパートに帰って銭湯に行けばもう明日にそなえて寝る時刻、このくり返しの日々。週1日は徹夜で明け方に帰り、その時は当日の昼12時出勤。休日は日曜日のみで忙しい時はそれも取り消し。つまり休みは月3日。[これで給料2万円!]そんな日々の繰り返し。 夕方までは皆和気あいあいと仕事していたが、ゴリが夕方6時頃に「おはようさん」と現れると、全員無駄口がたたけなくなり、仕事場はシーンと静まり返り、以下その日が終わるまでは疲れる時間がただひたすら流れるのみ。 当時石川班は「ゴルゴ13」と「影狩り」を描いていたがゴリは主人公の顔と擬音のみ。マジックで最後に入れる擬音はさすがに入れる位置がうまいと感心。ゴルゴの顔はアルバムに大小取り混ぜてコピーがとってあり、忙しい時は叶氏がピンセットで身体に合わせて「これが合うかな~」といった感じで貼り付けていた。 その頃すでに「ゴルゴ」は近々終わると噂されていたが、現在もまだ続いているとは感嘆ものだ。 ゴリと石川氏が「ゴルゴ」の最終回の終わり方を話しているのを聞いたら、何ともつまらない終わり方。しかしあれから20年以上も経つ事だし、きっともっといい終わり方を考えてあるだろうなと思っていたら、先日TVで本人が最初から考えてある終わり方だと言うのを聞き、がっくり。企業秘密だろうから書かないが、作品の最初の方に伏線が数度出ているのでわかる人にはすぐわかる筈。 辞めた小池一夫氏とさいとうプロに何があったかは知らないが、漏れ聞く話では結構もめ事があったみたいだ。 「子連れ狼」で「ゴルゴ13」と同じ設定の回があった時、「小池のガキャー訴えたるー!」とゴリが吠えていたものだが、結局たち消え。さいとうプロ作品で脚本を書いた本人が辞めた後、他の作品で同趣向の作品を書いても著作権は脚本を書いた原作者のものだと思うがどんなものだろう。その回のタイトルは忘れたが、ある場所に居合わせた人々が武器を持った集団の人質となり、その中に素人だと思われていた主人公、実は殺しのプロフェッショナルがいて、次々とその集団を殺していく、といったプロットで、ミッキー・スピレーンの短編に同じような作品があり、本当に訴えていたら恥をかいたと思うが・・・。 そういえば事務の方には山本又一郎という男がいたが、後年映画プロデューサーとして 「ベル薔薇」や「太陽を盗んだ男」等を創る事になるが、この野郎が生意気な男で当時皆に対して10歳は年上、といった感じの振る舞いだったが後日俺と一つしか年が離れてなかった事を知り、そんな若造だったとは、と皆怒ったものだ。以来奴の事を「マタさん」から「クソマタ」と呼ぶようになる。 さて半年後に先輩たちが積もり積もった不満を爆発させる反乱事件が勃発し、2年は居るつもりでいたここでの生活も、辞めるか残るかの選択を迫られる。残ればさいとうプロの現体制を認める事となるので、ダー松も退社。 しかし反乱グループとは別行動をとって一人だけの肉体労働のアルバイター生活へ突入。超ヘビーな労働の製氷工場、人使いの荒い印刷所、命綱もない高所の足場で働く建設現場等々。トラックの助手をしていた時は運ちゃんが「本宮ひろしって知ってるか?うちの息子の友達でさぁ、昔、おっちゃんメシ食わしてくれーなんて言ってきたもんだが、今は偉くなっちゃってさー、自分のビル建てたらしいよ。赤木圭一郎みたいにいい男なんだ。」とうれしそうに話してくれたが、運ちゃんには悪いがそいつは今も昔も一番嫌いなマンガ家なんだ。あの権力志向はどうにかならんか。天下を取る話ばかりだもんなぁ。 ところで後日、単行本の解説で高取英が「さいとうたかをのヤローぶっ殺してやる!」とダー松が言ったなどと書いているが、小生はそんな危ない事言った覚えはないのでここできっちり訂正しておきます。 「会社に火ィつけてやる!」位は言ったかも・・・[嘘] 。 悪口は言っても別に怨みなど無い。ところでアシスタントとしてのダー松は無遅刻、無欠勤以外は無能なアシだったと反省しきり。理想的なアシスタントとはどんなものか、それはまた別の機会に。 *入社試験はどんな事を? *さいとうプロには当時ほとんどろくな資料は無かった? *ハイジャックの回の飛行機内部の絵は、映画「大空港」を社内カメラマンが映画館で写してきたものをもとに描く。 *当時のトーンは印刷が裏面にしてあり上からカッターでけずったり出来ない。 *トーンの種類は網トーンが数種、それ以外はほんの3、4種類位しかなかった。 *仕事中のB.G.M.はアシの一人が加山雄三ばかりかけるので大ひんしゅく。好評だったのは広沢虎造の浪曲「次郎長三国志」、初代桂春団次の落語。眠気もふっとぶ位笑えた。 ダ-松が岡林信康の「見る前に跳べ」をかけてる��ゴリは「何じゃー!この歌は!」と怒る。名曲「私たちの望むものは」はこの男には理解不能。 ●1 9 7 1 ~ 1 9 7 4 持 ち 込 み & 実 話 雑 誌 時 代 当時は青年劇画誌全盛時代で、もともと望月三起也氏や園田光慶氏のファンで活劇志向が強く、 主にアクションもののマンガを描いて持ち込みに行っていた。今のようにマンガ雑誌が溢れかえって、山のようにマンガ出版社がある時代ではなく、数社廻るともう行くところがない、という状態で大手では「ビッグコミック」があっただけで 「モーニング」も「スピリッツ」も「ヤン・ジャン」も当然まだない。テーマを盛り込んだ作品を持って行くと編集から「君ィ、うちは商売でやっているんだからねぇ」と言われ、アクションに徹した作品を持って行くと「君ぃ、ただおもしろいだけじゃあねぇ」と言われ 「おい、おっさん!どっちなんだ?」とむかつく事多し。この辺の事は山のように書く事があるが、有りすぎるのでパス。 *そのうち書く事にする。 ただ金属バットで頭をカチ割って脳みそをぶちまけてやりたいような奴が何人もいたのは事実。今年[’97]「モーニング」に持ち込みに行って、断られた奴が何万回もいやがらせの電話をかけて逮捕された事件があったが、そのうちトカレフを持って殴り込みに行く奴が出てくるとおもしろい。出版社も武装して大銃撃戦だぁ!などと馬鹿な事書いてどうする!とにかく持ち込みにはいい思い出が何もない。そんな中、数本だけ載った作品は渡哲也の映画「無頼」シリーズの人斬り五郎みたいな主人公がドスで斬り合う現代やくざもの[この頃の渡哲也は最高!]、ドン・シーゲルの「殺人者たち」みたいな二人組の殺し屋を主人公にした『汚れたジャングル』、陽水の「傘がない」が好きだという編集さんの出したテーマで車泥棒とブラックパンサーの闘士とのロード・ムービー風『グッバイ・ブラザー』、拳銃セールスマンを主人公にした『ザ・セールスマン』、等々10本ちょい位。 さてその頃並行してまだエロマンガ専門誌といえるようなものがなかったような時代で、実話雑誌という写真と記事ページからなる雑誌に4~10ページ位を雑誌の味付けとして描かせてもらう。当時、お手本になるようなエロマンガなど皆無で、エロ写真雑誌を古本屋で買ってきてからみのポーズを模写。マンガで裸を描く事はほとんど初めてで、これがなかなか難しいのだがエロシーンを描くのは結構楽しい。当時出版社に原稿持って行き帰りにグラフ誌をどっともらって帰るのが楽しみだった。SM雑誌の写真ページも参考になる。なお当時のペンネームは編集部が適当につけた池田達彦、上高地源太[この名前はいけてます。また使いたい]等。その数年後、逆にマンガが主で記事が味付けというエロマンガ誌が続々と創刊される。 *さいとうプロをやめたあと編集や知人に頼まれて数人のマンガ家の所へ手伝いに行く。秋田書店「漫画ホット」で『ジェノサイド』を連載中の峰岸とおる氏の所へ行き、仕事が終わったあとまだ売れてない頃の榊まさる氏も交え酒を飲む/川崎のぼる大先生のところへ数日だけ/3000円たこ部屋/小山ゆうオリオンププロ *当時のアルバイトは記憶によると時給150~200円位/大日本印刷市ヶ谷駐屯地/坂/ *一食100円/どんなに貧しい漫画家もみかん箱の上で書くやつはいない/TV萩原サムデイ *ろくでなし編集者 ●1 9 7 5 ~ エ ロ マ ン ガ 誌 時 代 に 突 入 実話誌は意外とエロは抑え目で描くように口すっぱく言われていたのだが、以前活劇っぽい作品を描かせてもらってたが潰れてしまった出版社にいた児島さんが編集する「漫画ダイナマイト」で打合せも何にもなしに好きに描かせてもらい、ここでエロマンガ家としての才能[?]が開花する。描いてて実に楽しく眠る時間がもったいない位で、人に睡眠時間が必要な事を恨んだ程。出来る事なら一日中休まず描いていたい気分で完全にはまってしまう。 初の連載作品「屠殺人シリーズ」はこの頃から/『漫画ポポ』。中島史雄氏は大学時代にこの作品を見ていたとの事で、トレンチコートにドクター・ペッパー模様のサイレンサーつきマグナム銃で遊戯人・竜崎一也が犯しまくり殺しまくり、サディスト、マゾヒスト、殺人狂、まともな奴が一人も出てこない性と暴力の祭典。ちなみにタイトルページは描かないでいい、との事でどうするのかと思っていたら編集部が中のワンカットを拡大してタイトルページを創り、1ページぶんの原稿料をけちるというせこいやり方だった。けちるといえば、原稿の1/3にCMを入れる際、原稿料を1/3削った会社もあり。 ●1 9 7 6 ~ 後に発禁仲間となる高取英と出逢い、『長編コミック劇場』で「ウルフガイ」みたいのをやろうと、怒りに震えると黒豹に変身してしまう異常体質の主人公を設定し、獣姦のイメージで「性猟鬼」なるエロマンガをスタート!しかしその号で雑誌が潰れる。この路線は今でもいけそうな気がするがどんなものだろう。 この頃の珍品に「快楽痴態公園」がある。タイガースに11-0とワンサイドで打ちまくられ、怒ったジャイアンツファンのおっさんが公園でデート中の女をずこずこに犯りまくり、その���にジャイアンツは9回裏に12-11とゲームをひっくり返してしまうのである!その時のジャイアンツの監督はもちろんミスター長嶋、先発堀内、打者は柴田、土井、高田、王、張本等々がいる。タイガース監督は吉田、ピッチャー江本、キャッチャーフライを落球する田淵、そしてあの川藤もいる。解説は牧野…… ●1 9 7 7 ~ 上記2作品を含む初の単行本「肉の奴隷人形」が久保書店より発行。後にリングスの会場で逢った佐竹雅昭氏はこの本が一番好きとの事だった。 「闇の淫虐師」もこの年スタート。一話完結でバレリーナ、バトンガール等々、毎回いろんな女たちをダッチワイフのごとくいたぶりまくるフェチマンガとして1979年まで続け、単行本は「堕天使女王」「裂かれた花嫁」「エロスの狂宴」「陶酔への誘い」「終りなき闇の宴」の全5巻。ちなみに今年「闇の淫虐師’97」を『コミック・ピクシィ』にて発表。いつか『闇の淫虐師・ベスト選集』でも出したいところ。 [’98に実現、’99には続刊が出る] ●1 9 7 8 ~ 久保書店より第2弾の単行本「狂った微惑人形」。収録作品の「犯された白鳥」は持ち込み時代に描いた初のバレリーナもの。結構気に入っていた作品なのに、後年再録の際、印刷所の掃除のおばさんが捨ててしまい、この世にもはや存在しない不幸な子となる。[’99に宝島スピード・ブックに本より直接スキャンして収録] エロ、グロ、ナンセンスの会心作「恍惚下着専科」を発表。サン出版より同名の単行本発行。また同出版より「コミック・ペット/堕天使画集」として今までの作品を続々単行本化。全10巻位。これは今でも古本屋で流通しているとの事で、まだまだ世間様のお役にたっているらしい。 この年、「堕天使たちの狂宴」を描いていた『漫画エロジェニカ』が発禁処分、来年でもう20年目となる事だし、当時の人たちと集まってその大放談を収録し「発禁20周年特集号」でも創ってみようかと計画中。さて当時の秘話としてもう時効だろうから書いてみるけど、前述の『堕天使画集』に「堕天使たちの狂宴」は収録される事となり、当然修正をガンガン入れて出版されるものと覚悟していたら、米国から帰国後出来上がった本を見ると発禁になった状態のまま再録されている!以下桜木編集長との会話 ダ/いや~、いい度胸してますね。 編/だって修正してあるじゃない。 ダ/その修正状態で発禁���なったんですよ 編/・・・・・ ダ/・・・・ 以下どんな会話が続いたのか失念…… それにしてもサドの「悪徳の栄え���の翻訳本は発禁後20年以上して復刻されたけれど、「堕天使たちの狂宴」は半年もしない内に単行本になっていたとはエロ本業界とは何といいかげんな世界!しかし作品そのものは、今見るとリメイクする気にもならないどうという事もない可愛い作品で、結局あれもあの時代の姑息な政治のひとかけらに過ぎなかったのだろう。いい点があるとしたら一つだけ、それまでのエロマンガになかった瞳パッチリの少女マンガ的ヒロインを登場させた事位か。今の美少女エロマンガは本家の少女マンガもかくや!という位眼が大きいが当時としては画期的だったかも。 ●1 9 7 9 ~ この年の「淫花蝶の舞踏」は「堕天使たちの狂宴」よりずっといい/『漫画ソフト』。今年出た「別冊宝島/日本一のマンガを探せ!」でベスト2000のマンガがセレクトされているが、ダー松の作品の中ではこの作品が選ばれている。教師と生徒、二人の女たちが様々な男たちの手によってに次々ともてあそばれ、闇の世界を転々として再び巡り会う時、女たちは蝶と化し水平線の彼方に飛び去り、男たちは殺し合い血の海の中で屍と化す。ダー松作品にはこのように男根が女陰の海に飲み込まれてに負けるパターンが多い。[性狩人、遊戯の森の妖精、美少女たちの宴、人魚のたわむれ・・等々] この年からスタートの「性狩人たち」シリーズ[劇画悦楽号]はバレエ、バイオレンス、SEXの三要素がうまくからみあい、それぞれが頂点まで達する幸福な神話的作品だ。ここから派生した路線も多く、美少年路線は’83の「聖少女黙示録」へ。身体障害者路線は’80の「遊戯の森の妖精」、’84からの「美姉妹肉煉獄」へと繋がる。’81の最終話「ハルマゲドンの戦い」ではせりふなしで24ページ全てが大殺戮シーンという回もあり、中でも一度やりたかった見開きで銃撃戦の擬音のみという事も実現。こんな事がエロマンガ誌で許される時代だった。ちなみにこの回は[OKコラルの決闘・100周年記念]だが、何の意味もない。単行本は最初サン出版より、その後久保書店より「白鳥の飛翔」「少女飼育篇」「ヘラクレスを撃て!」「眼球愛」「海の女神」の全5刊。現在入手出来るのは後の3刊のみ。[「海の女神」も最近在庫切れ] この年出た「人魚のたわむれ」の表題作は性器に{たこ}を挿入するカットを見た編集長が「・・・[沈黙]・・・頭おかしいんじゃ・・ブツブツ・・気違い・・・ブツブツ・・・」と呆れてつぶやいていたのを記憶している。たこソーニューは今年出た「夜顔武闘伝」で久しぶりに再現。なおこの作品は’83にマンガと実写を噛み合せたビデオの珍品となる。水中スローモーションファックがなかなかよい。 ●1 9 8 0 ~ なぜか「JUNE」の増刊として作品集「美少女たちの宴」がサン出版より出版され、その短編集をもとに脚本化し日活で映画が創られる事となる。[「花の応援団」を当てたこの映画の企画者・成田氏は日活退社後「桜の園」等を創る。]その際、初めて映画撮影所を見学し、せこいセットがスクリーン上ではきちんとした絵になってるのを見て映画のマジックに感心。タイトルはなぜか「性狩人」で、’96にビデオ化された。監督・池田敏春のデビュー第2作となり現在までコンスタントに作品を発表しているが、出来のいい作品も多いのになぜか代表作がない。初期の「人魚伝説」が一番いいか。 この映画に合わせて「美少女たちの宴」を2~3回のつもりで「漫画ラブラブ」で描き出すがどんどん話がふくらみ、おまけに描いてる出版社が潰れたり、雑誌が潰れたりで雑誌を転々とし条例による警告の嵐がきた「漫画大飯店」を経て、「漫画ハンター」誌上で完結したのは’83になる。この作品でクリトリスを手術してペニスのように巨大化させるという人体改造ものを初めて描く。 この年の「遊戯の森の妖精」は身体障害者いじめ鬼畜路線の第2弾!森の中の別荘に乱入したろくでなしの二人組が精薄の少女の両親達を虐殺し、暴行の限りをつくすむちゃくちゃな作品で、雷鳴の中、少女の性器に男達のペニスが2本同時に挿入されるシーンは圧巻!しかしこのとんでもない男達も少女の性のエネルギーに飲み込まれ、朽ち果てていく・・・。 ●1 9 8 1 ~ 美少女マンガ誌のはしり「レモン・ピープル」誌創刊。そこで描いたのが「白鳥の湖」。虚構の世界のヒロインを犯すというコンセプトは、アニメやゲームのヒロインをずこずこにするという今の同人誌のコンセプトと同じかも。バレエ「白鳥の湖」において悪魔に捕われたオデット姫が白鳥の姿に変えられる前に何にもされてない筈がないというモチーフにより生まれたこの作品は、悪魔に男根を植えつけられたヒロインが命じられるままに次々と妖精を犯して歩き悪魔の娘となるまでを描くが、あまり成功したとは言えない。ただ人形サイズの妖精をしゃぶりまくり淫核で犯すアイデアは他に「少女破壊幻想」で一回やっただけなのでそろそろもう一度やってみたいところ。「ダーティ松本の白雪姫」はその逆をいき、犯す方を小さくした作品で7人の小人が白雪姫の性器の中にはいり、しゃぶったり、処女膜を食べたり、と乱暴狼藉![ちなみに両者をでかくしたのが同人誌「FUCK YOU!3」の「ゴジラVSジュピター」]この童話シリーズは意外と好評で続いて「ダーティ松本の赤い靴」を上記の単行本に描き下ろして収録。童話は結構残酷なものが多く、この作品も切られた足だけが荒野を踊りながら去って行くラストは原作通り。 *近年童話ブームだがこの頃もっと描いておけば「こんなに危ない童話」として刊行出来たのにとくやまれる。 「2001年快楽の旅」もこの本に収録。快楽マシーンを逆にレイプしてしまう、��しく映画「2001年宇宙の旅」風のSF作品。 掲載誌を決めずに出来る限り多くのマンガ誌で描こうというコンセプトで始めたのがこの年スタートした「怪人サドラン博士」シリーズ。「不死蝶」シリーズや「美少女たちの宴」シリーズの中にも乱入し、「漫画ハンター」最終号では地球をぶっ壊して[その際地球は絶頂の喘ぎ声をあげ昇天する!]他の惑星へ行ってしまう。今のところ10誌位に登場。いつかこのサドラン・シリーズだけ集めて単行本化したいところ。ちなみに「サド」と「乱歩」を足して「サドラン博士」と命名。作者の分身と言っていい。 [後年、「魔界の怪人」として全作品を収録して刊行、04年現在品切れ中] この年描いて’82の単行本『妖精たちの宴』に収録の「とけていく・・」はレズの女たちが愛戯の果てに、肉体が溶けて一匹の軟体動物と化す、タイトルも内容も奇妙な作品。作者の頭もとけていた? ●1 9 8 2 ~ 1 9 8 3 ’83年に「美少女たちの宴」が完結。全てが無に帰すラストのページは真っ白のままで、このページの原稿料はいりません、と言ったにもかかわらず払ってくれた久保書店、偉い![明文社やCM頁の稿料を削った出版社=某少年画報社なら払わなかっただろうな……と思われる……]この作品以外は短編が多く、加速度をつけてのっていく描き方が得意のダー松としてはのりの悪い時期に突入。また10年近く走ってきてだれてきた頃でもあり第一次落ち込み期と言っていい。マンガがスタンプを押すように描けないものか、などとふとどきな考えまで湧いてくる。思えば一本の作品には、いったい何本の線を引いて出来上がっているものなのか。数えた馬鹿はいないだろうが数千本は引いている筈。一ヵ月に何万本とペンで線を引く日々・・うんざりする筈です。 この頃のめぼしい短編をいくつか書くと、少女マンガ家の家に税務調査にきた税務署員が過小申告をネタにねちねちいたぶるが、アシスタントに発見された署員は撲殺される。そして板橋税務署は焼き討ちにあう、といった作品「[タイトル失念]xx税務調査」。[後日読者よりこのタイトルを「色欲ダニ野郎」と教えていただく。ひどいタイトル *編集者のつけるタイトルはその人のセンスが実によくわかる。しかしサイテ-の題だなこりゃ…。 果てるまで「おまんこして!」と言わせながら処女をやりまくる「美処女/犯す!」はラスト、狂った少女が歩行者天国の通行人を撃ちまくり血の海にする。「嬲る!」はパンチドランカーとなった矢吹ジョーが白木葉子をサンドバッグに縛りつけ、殴って、殴って、殴りまくる。段平おっちゃんの最後のセリフ「・・ブスブスくすぶっちゃいるが・・・」「打てッ!打つんだ!ジョー!」「お前はまだ燃えつきちゃいねえ!」とはエロ・ドランカーの自分自身に向けて発した言葉だったのかも。トビー・フーパーばりの「淫魔のはらわた」は電気ドリルでアナルを広げてのファック!とどめにチェーンソーで尻を切断!いまだに単行本に収録出来ず。[’98の「絶頂伝説」にやっと収録]「からみあい」は夫の愛人の性器を噛みちぎる。「危険な関係」はアルコール浣腸をして火をつけ尻から火を吹かせる。この手は『FUCK YOU!2』の「セーラー・ハルマゲドン」で復元。そういえばこの作品の序章と終章だけ描いて、間の100章位をとばすやりかたはこの頃の「禁断の性獣」より。女性器にとりつき、男性器に変身するエイリアンの侵略により地球は女性器を失い滅亡する、といったストーリーで当時聞いた話では谷山浩子のD.J.でこの作品がリスナーの投書でとりあげられ、ダー松の名はダーティ・杉本と読まれたそうな。ヒロインの少女がひろ子という名前なのでこのハガキが選ばれたのかもしれないが、作者は薬師丸ひろ子からとったつもりだったのだが・・。[別にファンではない。] 「女教師狩り」は映画館で観客に犯される女教師とスクリーン上の同名のエロ映画の二本が同時進行し、一本で二本分楽しめるお得な作品。 ’83は’80に「漫画エロス」にて描いた「エロスの乱反射」の最終回の原稿が紛失したため単行本が出せないでいたのを、またまた「仏の久保さん」に頼んでラスト近くをふくらませて「漫画ハンター」に3回程描かせてもらい、やっと’85に出版。見られる事に快感を覚えるファッション・モデルが調教される内に、次第に露出狂となっていき、街中で突然裸になって交通事故を起こさせたり、最後はビルの屋上でストリップショー。そしてカメラのフラッシュの中に飛び降りていき、ラスト1ページはその性器のアップでエンド! 本格美少年・ゲイ・マンガ「聖少女黙示録」も’83。レズの姉たちの手によって女装に目覚めた少年がホモのダンサーたちに縛られなぶられ初のポコチンこすり合いの射精シーン。そして性転換して女となった主いるが、その中の’84の「白い肌の湖」はタイトルで解る通りのバレリーナものだがポコチンを焼かれた男が、一緒に暮ら人公が手術で男になった少女と暮らすハッピーエンド。この作品は単行本「美少女ハンター」に収録されてす二人の女と一人の男に復讐するエンディングがすごい!まず男の性器を切り取り、片方の女の性器にねじ込んだあと、その女の性器ごとえぐり取る。そしてその二つの性器をつかんだまま、もう一人の女の性器にフィストファック!のあげく、その二つの性器を入れたままの女性器をナイフでまた切って、ほとんどビックマック状態でまだヒクヒクうごめく血まみれの三つの性器を握りしめるとんでもない終り方!全くダー松はこんな事ばかりやっていたのかとあきれかえる。もう鬼畜としか言い様がない!しかし「ウィンナー」を二枚の「ハム」で包むなんて・・GOODなアイデア��、又やってみよう。 ●1 9 8 4 ~ 「漫画ハンター」で「闇の宴」前後篇を描き、後日これをビデオ化。雪に包まれた六本木のスタジオで痔に苦しみながらの撮影。特別出演として中島史雄氏が絶妙の指使い、東デの学生時代の萩原一至が二役、取材に来たJITAN氏もスタジオに入ってきた瞬間、即出演で生玉子1000個の海で大乱交。カメラマンが凝り性で照明が気に入るまでカメラを廻さず、たった二日の撮影はやりたい事の半分も出来ず。撮影が終ると痔はすぐに完治。どうもプレッシャーからくる神経性だったみたいでこれに懲りてビデオは一本のみ。 この年の「肉の漂流」は親子丼もので、近所の書店のオヤジからこの本はよく売れたと聞いたが、一時よく描いたこのパターンは最近では「FUCK YOU!3」の「母娘シャワー」のみ。熟女と少女の両方が描けるところが利点。「血の舞踏」は久しぶりの吸血鬼もの。股間を針で刺し、噛んで血を吸うシーン等々いい場面はあるが、うまくストーリーが転がらず3回で止める。短編「果てるまで・・」は核戦争後のシェルターの中で、父が娘とタイトル通り果てるまでやりまくる話。被爆していた父が死んだ後、娘はSEXの相手を捜して黒い雨の中をさまよう。 またリサ・ライオンの写真集を見て筋肉美に目覚め、マッチョ女ものをこの頃から描き出す。しかしなかなか筋肉をエロティックに描くのは難しい。 ●1 9 8 5 ~ くたびれ果ててすっかりダレてきたこの頃、8年間働いてくれたアシスタント女史に代わってパワーのかたまり萩原一至、鶴田洋久等が東京デザイナ���学院卒業後加わってダーティ・マーケットも第2期に突入!新旧取り混ぜておもしろいマンガをいろいろ教えて貰って読みまくる。「バリバリ伝説」「ビーバップハイスクール」「ペリカンロード」「めぞん一刻」「わたしは真悟」「Be Free!」「緑山高校」「日出処の天子」「吉祥天女」「純情クレイジー・フルーツ」「アクター」「北斗の拳」「炎の転校生」「アイドルをさがせ」「綿の国星」「いつもポケットにショパン」「バツ&テリー」「六三四の剣」永井豪の絶頂期の作品「バイオレンス・ジャック」「凄之王」「デビルマン」等々100冊以上とても書ききれない位で、う~ん・・マンガってこんなにおもしろかったのか、と感動! そこで眠狂四郎を学園にほうり込んで、今まであまり描かなかった学園マンガをエロマンガに、というコンセプトで始めたのが「斬姦狂死郎」。「六三四の剣」ばりに単行本20巻を目指すものの、少年マンガのノリは今では当たり前だが、当時はまだエロマンガとして評価されず、ほんの少し時代が早すぎたかも。’86に中断、今年’97に「ホリディ・コミック」にて復活!果たしていつまで続けられるか? →後に「斬姦狂死郎・制服狩り」、「斬姦狂死郎・美教師狩り」として刊行完結 前年末から始めた「美姉妹肉煉獄」は身障者いじめの鬼畜路線。盲目の姉とその妹を調教して性風俗店等で働かせ、娼婦に堕していく不健全・不道徳な作品で、肉の快楽にひたっていく盲目の姉に対し妹も「春琴抄」の如く己の眼を突き、自らも暗黒の快楽の世界にはいり、快楽の光に目覚めるラスト。 また、これからは女王様物だ!となぜか突然ひらめき「筋肉女」シリーズの延長としてフィットネス・スタジオを舞台に「メタル・クイーン」シリーズも開始。これは単行本2冊分描いたが、連載途中でヒロインの髪型を歌手ステファニーのヘア・スタイルにチェンジしたり、レオタードもたっぷり描けてわりと気に入っている。 10年近く描いた「美蝶」先生シリーズもこの年スタート!こうしてみるとマンガを描く喜びに満ちた大充実の年だったかも。 ●1 9 8 6 ~ この年は前年からの連載ものがほとんどだが、「エレクト・ボーイ」は空中でファックするシーンが描いてみたくて始めた初の超能力エロマンガ。コメディ的要素がうまくいかず2回で止める。この路線は翌年の「堕天使輪舞」で開花。 「夜の彷徨人」は自分の育てた新体操選手が怪我で選手生命を失ったため、その女を馬肉のごとく娼婦として夜の世界に売り渡した主人公という設定。しかし腕を折られ、女にも逆に捨てられ、そして事故によってその女を失ったあげく不能となってしまう。失った快楽を取り戻すため無くした片腕にバイブレーターを取りつけ、夜の街をさすらい次々と女たちをレイプしていくというストーリー。がっちり設定したキャラだったのにまったく話がはずまず、男のポコチンは勃起しないままに作品も不発のまま終る。 「斬姦狂死郎」が不本意のまま終わったため学園エロス・シリーズは「放課後の媚娼女」へと引き継がれる。当時見ていた南野陽子のTV「スケバン刑事・」とS・レオーネの「ウエスタン」風に料理。ラストの「男といっしょじゃ歩けないんだ」のセリフは一番好きな映画、鈴木清順の「東京流れ者」からのもじり。単行本は最初司書房から出て、数年後ミリオン出版から再販、そして’97久保書店より再々販ながら結構売れて今年また再版。この作品は親を助けてくれる有難い孝行息子といったところ。 ●1 9 8 7 ~ さいとうプロOBで那珂川尚という名のマンガ家だった友人の津田が「漫画ダイナマイト」の編集者になっていて、実に久しぶりに同誌で「堕天使輪舞」を描く。超能力エロマンガの第2弾。今回はエロと超能力合戦とがうまくミックスされ一応成功といっていい。この路線は「エレクト・ボーイ」とこの作品、そして’96の「夜顔武闘伝」も含めてもいいかも。一時、この手の作品は数多くあったが最近はめったに見かけない。しかし、まだまだこの路線には鉱脈が眠っているとに���んでいるがどんなものだろう。 ●1 9 8 8 ~ 「放課後の媚娼女」に続いて抜かずの凶一無頼控え「放課後の熱い祭り」を2年がかりで描く。’89に完結し司書房より単行本化。そして今年’97に改定してめでたく完全版として復刊!この頃が一番劇画っぽい絵で、たった2~3人のスタッフでよくこれだけ描き込めたなと改めて感心!エロシーンがちょっと少なめながら中島史雄氏がダー松作品でこの作品が一番好き、とお褒めの言葉を頂戴する。 TVで三流アマゾネス映画を見ている内、むくむくとイメージがふくらみ、昔から描きたかった西部劇と時代劇がこれで描けると、この年スタートさせたのが「不死蝶伝説」なるアマゾネス路線。昔々青年誌の創世期にあのケン月影氏がマカロニ・ウエスタンを描いていたことを知る人は少ないだろう。俺もあの頃デビューしていたらウエスタンが描けたのに、と思う事もあったが、このシリーズでほんの少しだけその願望がかなう。 この頃、アシスタントやってくれてた格闘技マニアの鶴田洋久に誘われ、近所の空手道場通いの日々。若い頃修行のため新宿でやくざに喧嘩を売って歩いたという寺内師範は、もう鬼のような人で、行けば地獄が待っていると判っててなぜ行く?と不思議な位休まず通う。体育会系はマゾの世界と知る。組手は寸止めではなく顔面以外は当てて可だったので身体中打撲のあざだらけ、ビデオで研究したという鶴田の体重をかけたムエタイ式の蹴りをくらい、右手が饅頭のように腫れ上がる。先輩たちの組手の試合も蹴りがもろにはいってあばら骨が折れたりで、なぜこんなヘビーな事をする?と思うが、闘う事によって身体の奥から何か沸き上がってくるものがある。スリランカの元コマンドと組手をやった時、格闘家の気持ちが少しだけ判るようになった。 ●1 9 8 9 ~ ’94まで続く「美蝶」シリーズでこの年は『ノスフェラトウ篇』を描き、シリーズ中これが一番のお気に入り。同人誌の「王夢」はこれが原点。 短編では「悪夢の中へ」はスプラッタ・エロマンガで久しぶりにチェーンソゥでお尻のぶった切り!はらわた引きずり出し、人肉食いちぎり!顔面叩き割り等々でラストに「ホラービデオの規制をするバカは俺が許さん!」などと書いているので、この年が宮崎事件の年か?世間は彼が日野日出志・作のホラービデオ「ギニーピッグ」を見てあの犯罪をおかした、としてさんざんホラービデオの規制をやっといて、結局見てもいなかったとわかったあとは誰一人日野日出志氏にもホラービデオさんにも謝らす゛知らんぷり。残ったのは規制だけで、馬鹿のやる事には全く困ったもんである。先日の「酒鬼薔薇・14才」の時も犯罪おたくの心理学者が、「これはマンガやビデオの影響です。」などと相も変わらずたわけた寝言をぬかしていたが、馬鹿��いつまでたっても馬鹿のまま。少しは進歩しろよ!お前だよ、お前!短絡的で幼稚な坊や、小田晋!よぅく首を洗っとけ!コラ! 「獣人たちの儀式」は退学者や少年院送りになつた生徒、暴走族、ヤクザ達が集まって酒盛りしながら女教師たちをずこずこにしてOB会をひらく不健全作品。編集長が「また危ない作品を・・・」とこぼしたものだが、岡野さん、田舎で元気にお過しでしょうか。この頃の「漫画エロス」には「ケンペーくん」だとか「アリスのお茶会」だとかおもしろい作品が載っていたものです。「爆走遊戯」は伝説のストーカー・ろくでなしマンガ家の早見純が一番好きな作品と言ってくれたが、なぜだかわからない。人の好みはいろいろです。以上3本は単行本「熱き唇の女神」に収録。 「ふしだらな女獣たち」はフェミニストの女二人が美少年をいじめる話。これは「氷の部屋の女」に収録。 ●1 9 9 0 ~ この年の「美蝶」シリーズは『ダンシング・クイーン篇』。マネキン工場跡でJ・ブラウンの「セックス・マシーン」にのせて5人プレイをするシーンや文化祭でのダンスシーン等々結構好きな場面多し。暗くて硬い作品が多いので、この「美蝶」シリーズは肩肘張らずに、かなり軽いノリでキャラクターの動きに任せて、ストーリーも、そして次のコマさえも先の事は何にも考えず、ほとんどアドリブで描いた時もある。 「不死蝶伝説」に続いてシリーズ第2弾「不死蝶」は2誌にまたがって2年位続ける。これも結構お気に入りの一遍。 ●1 9 9 1 ~ 1 9 9 3 「性狩人たち」の近未来版、といった感じの「夜戦士」は学園物が多くなったので、マグナム銃で脳天をぶっとばすようなものが又描きたくなって始めたミニシリーズ。全5話位。松文館より単行本「黒い夜と夢魔の闇」に収録。 この年から知り合いの編集者がレディス・コミックを始める人が多く、依頼されてどうしたものかと思ったが、エロなら何でもやってみよう精神と何か新しい世界が開けるかも、という事から’94位までやってみたものの結果的に不毛の時代に終わる。与えられた素材が体験告白物という事で、非現実的なものは描けないという事は得意技を封印して戦うようなもので苦戦を強いられ、これって内山亜紀氏がやまさき十三原作の人情話を描いたようなミス・マッチングで不発だったかな。今後、もしやることがあれば美少年SMのレディス・コミックのみ。そんな雑誌が出来れば、の話だが。 いくつかやったレディコミの編集の一人「アイリス」の鈴木さんは同じさいとうプロOBで、マンガ・アシスタント、マンガ家、マンガ誌の編集、そして今はマンガ学校の講師、とこれだけ多くのマンガに関わる仕事をしてきた人はあまりいないだろう。これでマンガ評論でもやれば全て制覇だが・・・。 この頃はいつもと同じ位の30~40本の作品を毎年描いて���たが、レディコミは一本30~40枚とページが多く結構身体にガタがきた頃で、右手のひじが腱傷炎になり1年以上苦痛が続く。医者通いではさっぱり痛みがひかず、電気針で針灸治療を半年位続けてやっと完治。その後、住んでいたマンションの理事長を押しつけられ、マンション戦争の渦中に巻き込まれひどい目にあう。攻撃するのは楽だが、話をまとめるなどというのは社会生活不適格のダー松には大の苦手で「お前等!わがままばかり言うのはいいかげんにしろー!」と頭をカチ割りたくなるような事ばかりで、ひたすら我慢の日々で血圧がガンガン上がり、病院通いの日々。確実に寿命が5年は縮まる。あの時はマジで人に殺意を抱いたものだが、今でも金属バット持って押しかけて奴等の脳みそをクラッシュしたい気分になる時もある。いつかこの時の事をマンガにしようと思っていて、まだ誰も描いてない「マンション・マンガ」というジャンル、タイトルは「我が闘争」。え?誰も読みたくない? この間に出た単行本は「血を吸う夜」、「赤い月の化身」「熱き唇の女神」[以上・久保書店] /「牝猫の花園」「真夜中の人魚たち」[以上久保書店]、「美蝶/放課後篇」「美蝶/ダンシング・クイーン篇」「不死蝶/鋼鉄の女王篇・上巻」[以上ミリオン出版]。 ●1 9 9 4 ~ 1 9 9 5 ろくでもない事が続くのは厄払いをしなかったせいか、このままここにいたら頭がおかしくなる、と15年以上いたマンションから引っ越し。板橋から巣鴨へ移動し気分一新!以前からうちもやりましょうよ、と言われていた同人誌創りをそのうち、そのうちと伸ばしてきたものの遂に申し込んでしまい、創らざるをえなくなる。しかもそれが引っ越しの時期と重なってしまい大いに後悔する。しかしいろんな人にお願いして何とか一冊でっちあげ、ムシ風呂のような夏コミに初参加。これが運命の分岐点。レディコミもこの年で切り上げ、以下同人街道をまっしぐら。現在まで「FUCK OFF!」が9まで、「FUCK YOU!」が4まで計10+&冊創る。 ’95からダーティ松本の名前にも飽きてきたしJr,Sam名でも描き始める。 レディコミ時代は松本美蝶。あと2つ位違うペンネームも考案中。 この間の単行本「氷の部屋の女」「双子座の戯れ」[久保書店]、「黒い夜と夢魔の闇」[松文館]、「危険な女教師/美蝶」[ミリオン] ●1 9 9 6 ~ 美少女路線の絵柄もこの年の「夜顔武闘伝」あたりでほぼ完成、今後また少し変化させる予定。しかしこの作品は超能力、アマゾネス、忍法エロマンガとでも呼ぶべきか。「グラップラー刃牙」みたいに闘技場での勝ち抜き性武道合戦までいきたかったけれど、残念ながらたどり着けず。 「冬の堕天使」は久しぶりの吸血鬼もの。都営住宅で生活保護をうけている吸血鬼母子のイメージが浮かび、そこから漫画家協会・��藤芳郎を撃つ有害図書騒動のマンガへ。吸血鬼少年が光の世界との戦いに旅立つまでを描き、「闇に潜みし者」は時空を越えて近未来での戦い。その間を描く作品を今後創らなければ。 「FUCK CITY 2006」はクソ溜めと化した近未来のTOKYOを舞台に久しぶりにダーティ・バイオレンスが炸裂!ハード・エロ劇画と同人誌風・美少女路線の合体は果たしてうまくいったかどうか?30ページほど描き足して、’97、9月にフランス書院のコミック文庫にて発売。[「少女水中花」] 「放課後の媚娼女」と「人形愛」刊行。[いずれも久保書店刊]前者は以前、上下巻だったのを一冊にまとめて。後者は近作を集めた同人時代を経ての初単行本で、同人誌を知らなかった読者はショックを受ける。メタルフアンから以下のようなお手紙を受け取る。「これはジューダス・プリーストの『ターボ』だ。ラストの『眠れる森の少女』は『レックレス』にあたる。しかしジューダスもその後『ラム・イット・ダウン』や『ペイン・キラー』という傑作を世に出した事だし、今後を期待したい」という意のダー松のようなメタルファン以外は意味不明の激励をうける。 ●1 9 9 7 同人誌「エロス大百科シリーズ」スタート!いろんな項目別に年2刊づつ計100ページ位を別刊シリーズとして出し続ければ10年で1000ページになり、以前「谷岡ヤスジ1000ページ」という枕に最適の本があったが、これも一冊にまとめて枕にして寝れば、目覚める頃は3回夢精しているなんて事に・・・などとまだたった40ページの段階で言っても何の説得力もないか。飽きたら2~3号でSTOPするだろうし・・。[推測通り「毛剃り」「美少年SM」「女装」3号でストップ中]冬にはやおい系にも進出の予定。 今年出した単行本は厚くて濃いエロマンガを集めた久保書店MAXシリーズ第2弾!「放課後の熱い祭り/完全版」と「夜顔武闘伝」オークラ出版。ともに大幅描き足して25周年記念出版として刊行。ティーツー出版よりJr,Sam名で「昼下がりの少女」、9月にはフランス書院より「少女水中花」の文庫本が出る予定で現在、この同人誌と並行して描き足し中。「斬姦狂死郎」第2部も「ホリディ・COMIC」誌にて6月よりスタート!年内創刊予定の『腐肉クラブ』なる死体姦専門のマンガ誌にも執筆予定。 さてさて25年間、旅行の時を除いて、現在まで2日続けてマンガを描かなかった事はほとんどない。これはその昔、伊東元気氏というマンガ家とお会いしたとき「今月何ページ描いた?」との問いに、「今月仕事ないんでぜんぜん描いてません」と答えたら、「そんな事じゃ駄目だ。仕事があろうがなかろうが、毎月100頁は描かなきゃ。」と言われ、以後その教えを守り[描けるページ数は減ったが]、マンガは仕事ではなくなり、朝起きたら顔を洗うのと同じで生活そのものとなり現在に至る。 今は何でも描けそうなハイな状態で、以前はたまには外出しないと煮詰まってしまうので週いち位ガス抜きをしていたものだが、最近はせいぜい月いち休めば十分の「純エロマンガ体」。[純粋にエロマンガを描くためだけの肉体、の意。ダー松の造語] こうしてふり返ると、この路線はまだえぐり足りない、これはあと数回描くべし、なぜこれを一度しか描かない!等々、残り時間にやるべき事、やりたい事の何と多い事! 爆裂昇天のその日まで・・・ 燃 え よ ペ ン ! なお続きは 1997年後期 1998年 INDEX
http://www.rx.sakura.ne.jp/~dirty/gurafty.html
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銀河英雄伝説/ヤン・ウェンリー
カメラマン:カメ先さん
80年代あるあるな絶妙に表現の難しいウィッグ、かっこつけずに自然体なポーズ、地味な色合い。武器もない。
ポーズがないことが一番困るがしかし、それが不敗の魔術師。
余談だが、コスにも使えるのでは..?と買ってみた同盟軍寝間着、めちゃめちゃ小さいです。
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ストレス解消におすすめのヨガポーズとは?
https://www.yogaroom.jp/yogahack/p/4414
引用:https://www.yogaroom.jp/yogahack/p/4414
ヨガはポーズによって体に対する効果が変わってくるので自分の悩みやコンプレックス改善に良いポーズを知りましょう。
1、ハッピーベイビーのポーズ
1、膝を曲げた状態で足の上を天井に向ける。(この時、胸に引き寄せる) 2、両手で足の裏をつかむ。(肘を膝の内側に入れる) 3、鼻から吸って、口から吐く複式呼吸をする。
引用:https://www.yogaroom.jp/yogahack/p/4414
ハッピーベイビーのポーズは呼吸を整えるので自立神経のリセットにも効果的。自律神経が乱れる事でストレスを感じやすくなってしまうので今日はちょっと心が疲れたなと感じた日には寝る前やお風呂上りにハッピーベイビーのポーズを行ってみると良いですね。
2、片足の鳩のポーズ
鶴のポーズはかなり難易度が高いのですが、こちらの片足の鶴のポーズは初心者の方にもおすすめのポーズですよ。 1、後ろでに手をくみ、息をすって胸をはる。 2、息を吐きながら前屈。 3、そのまま深呼吸する。
引用:https://www.yogaroom.jp/yogahack/p/4414
片足の鳩のポーズは血行促進に効果的です。ストレスによって起こってしまう血行不良などを解消したい場合にもおすすめ。長時間のでデスクワークで足付近に溜まった老廃物などを流したい場合にも◎ですね。全身の血流を良くして体内から不要なものを流しましょう。
3、仰向けの英雄座のポーズ
1、正座をし、かかとの間にお尻をいれる。 2、ゆっくりと仰向けになる。 3、頭の上で手をくんで、呼吸にあわせて足の筋を意識してのばしていく。
引用:https://www.yogaroom.jp/yogahack/p/4414
仰向けの英雄座のポーズは副交感神経を整えます。イライラした日や心が晴れない時におすすめ。副交感神経をしっかり整えて質の良い睡眠をとる事でストレス解消につながります。
今回はストレスを感じた時、ストレスが溜まった時におすすめできるヨガのポーズをご紹介しましたがいかがだったでしょうか?
ストレスとは目に見えないものですがため込むことでいずれ体にも不調は出てきてしまいます。「あっ、今ココロがつらいなぁ」と感じた時にすぐ対処できたら良いですよね(^^)/
ヨガを行う事で心身共に健康な毎日を送れますように・・♥
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ただいまハニー、おかえりダーリン
帰宅の途中、ヴィクトルの携帯電話が鳴った。ヴィクトルは荷物を抱えながら、片手で器用に通話をつないだ。 「アロー」 「やあヴィクトル。調子はどう? 勇利との結婚生活、楽しくやってる?」 「結婚してないよ」 ヴィクトルは否定しながら、顔では笑み崩れるほどに笑っていた。彼は「結婚はまだ」と言いつつ、勇利との婚姻について冷やかされるのが大好きなのだ。 「勇利とは同居してるだけ。そのほうが都合がいいから住まわせてあげてるんだよ。もちろん迷惑なんかじゃないし、俺も安心だから、それでいいんだけどね」 「へえ、そう。じゃあそういうことにしておくよ。俺はてっきり、勇利の居場所は俺の隣にしかない、ほかへ行くつもりなら俺にも考えがある、とかなんとか脅して、なかば強制的に自宅へ呼び寄せたのかと思ったよ」 「そんなこと言うわけないだろ?」 当たってはいないが遠くもないことを勇利にほのめかしたので、なんでわかるんだ、とヴィクトルは内心で冷や汗をかいた。 「で、なに? 俺をからかうためにかけてきたのかい?」 「いや、本当にどうしてるのかなと思って。突然コーチ宣言して消えた英雄が戻ってきたんだ。ロシアの国民は復帰を歓迎しただろう? オフシーズンとはいえ──というかオフシーズンだからこそ、争って露出を求められてるんじゃないかと思ってね。君はそういうところでは親切心が旺盛だから、体調はどうかと」 「ああ、まあ確かに忙しいね」 ヴィクトルは、自動車がいないことを確認してから通りをさっと渡った。 「でも、もうすぐ落ち着くはずだから」 「食事はどうしてるの? 勇利がつくってる? 彼、料理なんかできるのかい?」 「簡単なものはつくれるみたいだよ。まあ、レシピを見てその通りにつくってるだけだって言ってるけど。でも最高に美味しい」 「そりゃよかったね」 「仕事で夕食に誘われても、家で食べることにしてるからってほとんど断ってるんだ。べつに食事の当番が勇利ときまってるわけじゃないんだけどね。そのあたりも一段落してからだよ。勇利には申し訳ないと思ってる。時間ができたら、めいっぱい優しくしてあげなくちゃ」 「なんだか思ったより元気そうだね。心配して損した。勇利の癒し効果は絶大だね。何か特別なことでもしてもらってるの?」 「特別なこと?」 ヴィクトルは思わず、ふふ……と笑い声を漏らしてしまった。 「ヴィクトル……」 「なに?」 「俺はべつにいいけどね、彼は彼を知るスケーターたちのあいだでは清純で通ってるんだ。あまりいやらしいことをさせるのは感心しないな」 「人聞きが悪いな! やらしいことなんかさせてないぞ!」 「さっきの含み笑いはただごとじゃなかったよ」 「えっちなおもてなしをされてるわけじゃない。勇利はね、俺を気遣ってくれてるんだよ。俺が連日仕事詰めだからって気持ちをほぐそうとね。彼はとっても独創的ですてきなんだ。帰るたび新しいことを教えてくれる。今日も何が待っているのか楽しみだな」 「え? わりと手がこんでる感じかい? 食事が豪華とか、そういうことじゃないんだよね? 何をしてくれるの?」 「聞きたい?」 「のろけを聞くのはばからしいんだけど、悔しいことに興味をそそられるね」 「じゃあすこし話してあげよう。このあいだはね……」 ヴィクトルはいらだちながら家路を急いでいた。あの男、話が長すぎる、とその日あったことを思い出し、時計を見るとますますいらいらした。早く帰宅して勇利とゆっくりしたかったのに、それも望めそうにない。明日はすこし遅めに活動を始めるのでよいのだけれど、だからといって進んで夜更かしもできないし……。 「ただいま」 ヴィクトルは不機嫌になりながら扉をひらいた。 「勇利? いないのかい?」 マッカチンだけが駆けてき、「おかえり」というように挨拶した。ヴィクトルは彼のつむりをごしごしと撫で、「遅くなってごめんね」と謝った。 「勇利は?」 マッカチンは鼻を鳴らすばかりである。 「いないのかい?」 俺が帰ってきたのにどうして迎えてくれないんだ、とヴィクトルは腹が立った。俺がこんなに会いたいと思って帰ってきたのに、勇利はそうでもないんだろう。勇利にありそうなことだ! 「勇利!」 ヴィクトルはかばんを投げやり、コートを脱ぎ捨てながら居間へと入った。 「なんで出迎えてくれないんだ! 帰ってすぐ勇利の顔を見たいと思った俺の気持ちを、おまえは──」 ヴィクトルは言葉を切った。勇利はソファに横たわっていた。しかし眠っていたのではない。彼はすらっとした脚を高く組み、優雅に頬へ手を当て、微笑を浮かべてヴィクトルを待っていた。 「おかえり、ヴィクトル」 勇利は眼鏡をかけていなかった。前髪もすっきりと上げ、いかにもうつくしかった。それだけではない。彼は、「エロス」を演じるときに着ていた、あの魅惑的な衣装姿だった。 「た……ただいま、勇利」 ヴィクトルはほとんどぽかんとしながら挨拶した。勇利は腕をつき、けだるげな様子で起き上がると、ヴィクトルのほうへゆっくりと歩み寄ってきて、上着のボタンをひとつずつ外し始めた。 「お仕事お疲れ様。大変だったでしょ……?」 「あ、ああ……」 勇利の目つきはただごとではない。まるで演技に入りこんでいるときのようだ。そう──「いったい何のスイッチが入ってるんだ」とヴィクトルが戸惑ってしまう妖艶さである。 「ヴィクトルをこんなにこき使うなんて、ひどいスポンサーだね。ぼく、ゆるせないな……」 勇利がささやいた。ヴィクトルはくらくらした。 「今日はごはんも食べてきたんだよね? ぼくひとりでさびしかった……」 「ごめん……」 「ううん、謝って欲しいんじゃないの。さびしかったって、知ってもらいたいだけなの……」 勇利は次に、ベストのボタンを外しにかかった。その手つきのじらし上手なこと。鼻血が出るかもしれない、とヴィクトルは思った。 「ヴィクトルもすこしくらいは、さびしいって思ってくれた……?」 ベストがひらききると、勇利の指がネクタイにかかる。結び目に指がすべりこんできて、ヴィクトルはたまらない気持ちになった。 「……もちろんだよ」 「本当? うれしい……」 勇利が吐息をつき、上目遣いにヴィクトルをちらと見る。その婀娜めいた目つき……。 「ヴィクトル……」 「……なんだい?」 「ヴィクトルって、ひどいひとだよね……」 するするとネクタイをほどかれる。ヴィクトルは突っ立ったままどうすることもできない。やめろと言うなんて思いもよらない。 「……どうして?」 「こんな遠くまでぼくをさらってきて……、なのに、ずっとほうっておくんだもの……」 勇利は目を伏せると、そっと首をかたげ、ヴィクトルのおとがいの線にちょっとだけくちびるをふれさせた。これが強烈だった。ヴィクトルは、舌を入れてキスするよりも興奮した。 「もしかして貴方……、ぼくに飽きたの……?」 「…………」 「町では一番の美女だったけど、いざ故郷に連れて帰ってくると、本当はこの子たいしたことなかったんだなって……、そのことに気がついちゃった……?」 勇利の手は、いよいよシャツのボタンを外しにかかっている。 「そうだよね……、ここには綺麗な人はたくさんいるし、ヴィクトルを愛してる人も大勢だもの……」 「…………」 「結局、色男に連れ去られたら、こんなふうに不遇な暮らしをするよりほかはないんだね……愛してるなら耐えるしか……」 喉��からからだった。めまいがする。勇利の声はどうしてこんなにかすれているんだ? なぜこうも吐息混じりなんだ? なんという誘惑……。 「どんなにさびしくても貴方を待って……、お情けでふれてもらうのを待つしかないんだね……」 勇利がかなしそうに頬に手を当てた。 「ぼく……、騙されたのかしら……」 勇利のまつげが揺れ、それから瞳が甘く責めるようにヴィクトルを見た。黒い瞳の表面が濡れてひかり、とろけるような憂いを帯びて瞬く。 「確かにつかまえたと思った貴方の愛は、うそだったの……?」 勇利の手がヴィクトルの衿元にかかった。彼はそっとシャツをずらし、ほかの衣服と一緒にするっと肩からすべり落とした。 「ヴィクトル……」 「ゆ……、」 「ぼく……」 勇利は深くうつむきこみ、それからぱっとおもてを上げると、にっこり笑ってシャツを抱きしめた。 「これ、洗濯場に持っていくね。あとスーツも片づけておいてあげる。お風呂沸いてるよ。着替えも出しておいたから入っちゃって。ゆっくり浸かって、疲れを癒してね!」 勇利、とヴィクトルを抱擁しようとしたヴィクトルは、勇利が身をひるがえしたことで勢いがあまり、転びそうになった。 「え? え? ちょっと……」 「あ、ごはんはほんとに食べてきた? おなか空いてない? ぼく、明日の朝のためにサンドウィッチをつくったんだ。もし欲しいならすこしくらい食べてもいいよ。マッカチン、おいで。ヴィクトルはお風呂だからね」 「勇利!」 ヴィクトルは抗議するように呼んだ。勇利がきょとんとして振り返る。 「いまのは何だったんだ!?」 「え?」 「な、なんでそんな、衣装まで着て、俺を誘──」 「予定より遅かったから、ヴィクトルきっといらいらしてるだろうなと思って」 勇利はほほえんだ。 「何か楽しいことしてあげようかなって。ぼくの持ちネタその一。町一番の美女。どうだった? 家に帰ったら町一番の美女がいるってどんな気分? つまんなかった?」 「…………」 「あー、やっぱりそういう恋って旅先だからこそ燃え上がるものなのかなあ……。家庭的な空気の中に美女がいても白けちゃうか。行きずりの感じのほうがよかった? 失敗したかな? すべった? あ、すべったってわかる? 受けなかったってことなんだけど。まあいいや。早くお風呂──」 「勇利」 ヴィクトルは背後から勇利を抱きしめた。勇利が「え?」と驚く。 「確かに俺はいらいらしていた。でも勇利のおかげでいらだちなんて吹っ飛んだよ。いまはとても気分爽快だ」 「そ、そう? それはよかった……」 「けど、今度は別のことでもやもやを抱えている」 「あ、あの、ちょっと……」 ヴィクトルは下肢をぐいぐい勇利の臀部に押しつけた。 「勇利……、こっちも解消してくれないか……」 「待ってヴィクトル、ぼくそういうつもりじゃ」 「俺はとっくにそういうつもりなんだが」 「ぼくはただ、ヴィクトルが楽しくなればいいなと思って、」 「楽しくなってるよ」 「いや、あの、こういうことじゃなくて、むしろ『それで誘惑してるつもりなんだ? へえ』って笑ってもらいたくて」 「あれで俺が誘惑されないと思ってたんだ? へえ……」 「ヴィクトル、だめだよ、ゆっくりやすんだほうが……」 「運動したほうがぐっすり眠れる」 「だめ!」 勇利の手から衣服が落ちた。ヴィクトルはソファに勇利を押し倒した。 「ヴィクトル、そこまで詳細に教えてくれなくていいんだよ」 「あれ、そう? 聞きたいかと思って」 「勇利もばかだな。そんなことをしたらどうなるか、わかりそうなものじゃないか。ヴィクトル、やめたの?」 「衣装が汚れる、とか言って抵抗するから、俺より俺の衣装を優先するのがゆるせなくて強引に抱いた」 「鬼だな……」 「でも勇利、『ヴィクトル、かっこよかぁ……』って言ってたよ」 「ヴィクトルならなんでもいいのか」 「かわいいよね」 「それ、疲れ取れたの?」 「翌朝肌つやつやだったよ。でも勇利は『やすんで欲しかったのに……』って衝撃を受けてた。それで誘惑系はまずいと思ったんだろうね。次にはおもむきを変えてきたよ」 ヴィクトルは玄関の扉を開けると、ふう、と息をついた。おなか空いたな、と思った���よい匂いが鼻先をくすぐる。この香りは……。 「おかえり、ヴィクトル!」 勇利とマッカチンが駆けてきた。 「ただいま、勇利。カツ丼だね!」 「そうだよ、ヴィクトルのためにつくったんだよ」 「ほんとに? カツ丼は久しぶりだ。うれしいな……」 ヴィクトルは言葉を切った。そしてまじまじと勇利をみつめた。勇利はにこにこしていたが、ヴィクトルの視線に気がつくと、気恥ずかしそうに目をそらし、「そんなに見ないで……」とささやいた。 勇利の腹部はぽっこりとふくらんでいた。頬もふっくらしている。まるで長谷津で初めて会ったときの彼のようだ。しかしもちろん、いまの勇利は肥えてはいない。朝ヴィクトルを送り出すおりは、氷にのることをゆるされる、ほっそりとした洗練された勇利だった。何か仕掛けがあるらしい。 「さ、早く入って。おなか空いたでしょ。そろそろだと思ってあたためておいたよ」 「ああ、ありがとう」 ふたりは向かいあって食卓についた。マッカチンも自分のごはんをもらって食べ始めている。ヴィクトルは器用に箸を動かしてカツ丼を食べながら勇利を見た。勇利もカツ丼に取り組んでいる。彼はふとおもてを上げ、ヴィクトルをじっとみつめた。きらきらと輝く瞳がかわいくて仕方ない。ヴィクトルは笑いそうになるのをこらえた。 「ヴィクトル、言って」 「うん?」 「言ってよ、あれ」 「何を?」 「ヴィクトル、ぼくね……、太りやすいから、試合で勝たないとこれ食べさせてもらえなかったんだ……」 「うん……」 知ってるよ。そう言いさして、ヴィクトルはようやくぴんと来た。 「ふうん。勇利は最近、このカツ丼を食べたのかい?」 「イエスイエース。よく食べてまーす」 「なぜ? 試合に勝ってもいないのに。そんなブタみたいな身体じゃ、何を教えても無駄だね! せめてシーズン中の体型に戻さなきゃ、コーチする気になれない。それまでカツ丼禁止だよ! こぶたちゃん」 「ううっ……」 勇利はおおげさにかなしそうな目をすると、横を向き、口元を手で覆った。 「わ、わかりました……」 彼は立ち上がり、戸棚から別の皿を出してきた。ブロッコリーともやしがのっている。ヴィクトルはびっくりした。サンクトペテルブルクでは、もやしは簡単には手に入らない。輸入品を取り扱っている店まで行かなければならないのである。 「今日からダイエットします……」 いかにもつらそうに勇利はブロッコリーを食べ始めた。ヴィクトルは可笑しくなり、笑いをこらえた。勇利、俺のために、そんなにめんどうな買い物までして……。 「勇利、かなしまないで。こぶたなきみも俺はかわいいと思ってるし、愛してるよ」 「でも痩せないとリンクに上がっちゃだめなんでしょ?」 「もちろんだよ!」 「すごい笑顔……」 「手ざわりとか抱きごこちはこぶたちゃんのほうがいいってば。ぷにぷにだし」 「そう……?」 勇利はちらと上目遣いでヴィクトルを見た。 「痩せてるぼくは好きじゃない……?」 「そんなわけないじゃないか! 体脂肪を落とした勇利はうつくしいよね。とりわけ腰と足首が好きだよ。あとでさわっていい?」 「ぼくはいま太ってるんです」 「ああ、そうだっけ」 「太ってるとジャンプが大変なんだよね」 勇利が溜息をついて説明を始めた。 「身体が重いし……、着氷もずしんって感じだし……」 ヴィクトルは笑いながら耳を傾ける。 「衣装を着るときはぱんぱんで、ファスナーがブチってちぎれちゃいそうだし」 「むしろあの体型で着られる衣装あるのかい?」 「…………」 「うん、それで?」 「スケートシューズを履くときはおなかがつっかえるし」 「言いすぎだろう」 「コンパルソリーやってると、左右にふらふら揺れるんだよね。右と左で肉の付き方がちがうのかな」 ヴィクトルはくすくす笑った。 「ときどき、すべるよりも転がるほうが得点高くなるんじゃないかと思ったりするよ」 「ふっ……」 「でもぼく、スピンは得意なの。重いから重心がしっかりするのかもね」 ヴィクトルは声を上げて笑った。勇利が満足そうにヴィクトルを見ている。ヴィクトルは手を差し伸べ、勇利の頬にふれて、「ありがとう」と礼を述べた。そのままほっぺたをつつくと、何かが歯に当たる音がして、ふくらみがひっこんだ。 「何を入れてるんだい」 「飴。ブロッコリーが変な味になるし、食べづらくって。もういい?」 「いいよ」 勇利は飴玉をかみ砕いてしまうと、そのあとは機嫌よくブロッコリーともやしを食べた。 「カツ丼も食べていいよ」 「試合に勝ってもいないのに?」 「今夜は特別に許可しよう」 「ありがとう、コーチ」 食事のあと、勇利を後ろから抱えてソファに座り、ヴィクトルは腹部をぽんぽんと叩いた。 「どうやってる?」 勇利は笑ってシャツを持ち上げ、中からタオルをたくさんひっぱり出した。 「ワオ、急にすらっとしちゃった」 「どう?」 「うん、うつくしい」 「抱きごこちがよくなくてごめんね」 「拗ねないの」 「どうせかたくて何の色気もない身体ですよ」 「色気ならあるよ……」 勇利が振り返った。ふたりのくちびるが優しくふれあう。 「おもしろかった?」 「うん、すごく」 「去年のぼく思い出した?」 「うん。かわいかったな」 「ほんとに?」 「動画で『もしや』とあやぶんではいたけど、会ったときやっぱりって腑に落ちて、俺の知ってる勇利とちがうって思った」 「別のやつが成り代わってると思った? スケーターとして一般的な体型をしてる勝生勇利は、どこかに閉じこめられてるんじゃないかって疑った?」 「いや……」 ヴィクトルはにっこり笑った。 「勇利が本物であることは、疑いようもなかったよ」 「がっかりした?」 「言っただろ? こぶたちゃんの勇利も愛してるよ」 「ほんとかなあ」 「今夜のは、持ちネタその二?」 「そう。こぶたの勇利」 「たまにしてくれ」 「これ好き?」 「好きだ」 「体型ネタの欠点はね、逆ができないことだよ」 「逆?」 「太ってるときに『ほっそりした勇利』はできないでしょ。持ちネタに加えたいんだけどね」 「太るつもりでいるのか」 「ん? いいでしょ? だって肥えてるぼくも愛してるって言ってくれたじゃない」 勇利はいたずらっぽく言ってヴィクトルにもたれかかった。 「それはなかなかおもしろいね」 クリストフが感心した。 「だろう? 見せたかったな。といっても、クリスは太ってる勇利のことは知らないよね。動画では見ただろうけど」 「あの動画は衝撃的だったね。ヴィクトルのプロをすべってるっていうのはもちろんなんだけど、勇利なに食べたんだって思ったよ。太りやすいとは聞いてたけど、こうなる前に誰か止めなかったのかって」 「まあそうだよね……。でもクリス、太ってる勇利も愛らしいんだよ。ころんころんしてさ。いとおしかったな……」 ヴィクトルは携帯電話を握りしめてうっとりした。 「はいはい。勇利が引退しても食べ物をたくさん与えないようにね」 「太ってもあの子はすぐ痩せられるよ。いろんな魅力を持っているんだから勇利ってすごいよね。ほっそりしてる勇利がまた美人なんだ。眼鏡を外したときなんかぞくぞくする。あの目でちらっと見られたらもう……」 「勇利、ほかには持ちネタとやらはないの? なかなか工夫してるよね。ヴィクトルのために」 「そう! 俺のために彼はいろいろ考えてくれてるんだよ! こないだのがまた最高だったな……」 扉を開けるなりのことだった。目の前に勇利とマッカチンがいて、勇利は笑顔でヴィクトルに紹介した。 「ハイ、ヴィクトル・ニキフォロフです! いつも応援ありがとう! この子は俺の大切なマッカチン。いちばんの理解者だよ!」 今夜の勇利は、ヴィクトルのナショナルジャージを着ていた。その裾から見えているのはどうやら「離れずにそばにいて」の衣装で、ヴィクトルが身につけているときにくらべて、丈がいくらかあまっていた。 「え? サイン? ごめんね、いまはペンを持っていないんだ。代わりにこれでゆるしてくれるかい? ほら!」 勇利が手を差し出した。ヴィクトルは思わず手を伸べた。勇利が握ってかるく上下させる。それからぱっと離し、眼鏡をさっと外して、ヴィクトルに向かって片目を閉じた。ヴィクトルがサングラスを取ったおりにするしぐさだ。ヴィクトルのファンはみんなこれにきゅんとなるようである。もちろんいま、ヴィクトルもきゅんとした。 「さ、こっちへ来て」 勇利は眼鏡をそのあたりに置くと、さっさと奥へ入っていった。ヴィクトルはおもしろくなっていそいそとついていった。勇利はヴィクトルの肩に手をのせ、「座って」と小声で言ってソファに座らせた。それからさっとジャージのファスナーを下げると、気取ったしぐさでそれを脱ぎ、後ろに誰か立ってでもいるかのように渡すふりをした。実際にはソファの上に置く。 「ああもうわかってるよ。大丈夫、心配いらないって。そんなこわい顔ばっかりしてると、またスケ連から『もうすこし控えるように』って言われるよ!」 ヴィクトルは噴き出しそうになった。これは彼自身がヤコフによく言うことである。実際にスケート連盟から注意を受けるのはヴィクトルで、「奇特な行動を控えるように」と通達されるのだった。だからヤコフは「おまえだろうが!」と怒っている。 「ヤコフはコーチインタビューの内容でも考えててよ。金メダルにキスさせてあげる。問題ない、ジャンプ構成は変えないよ。今日はね!」 勇利は言うと、自分で「On the ice representing Russia Victor Nikiforov!」とアナウンスした。ヴィクトルは目を輝かせ、力いっぱい拍手をする。勇利はヴィクトルの演技前のルーティンをそっくりそのまま再現した。よく見てるな、とヴィクトルは感心した。すぐに演技をするのかと思ったら、勇利はぺらぺらとしゃべり出した。 「さあ、最終滑走はロシアのヴィクトル・ニキフォロフ。さすがロシアの英雄、すごい歓声です。ショートを終わって二位ジャコメッティとは大差をつけての一位」 実況も勇利が担当するらしい。ヴィクトルはすっかり楽しくなった。ぴたっと勇利が静止する。うつむいてまぶたを閉ざしたかと思うと、彼は小声で言った。 「ヴィクトル、音楽、音楽」 「え?」 「それそれ」 ソファのすみに勇利のノート型のコンピュータが置いてあった。ディスプレイを見ると、音楽再生ソフトが立ち上がっている。再生しろということらしい。ヴィクトルは笑いをこらえ��がら「離れずにそばにいて」をスタートさせた。勇利の──ヴィクトルになりきった──演技が始まる。 「このプログラムには、四回転を四本用意しています」 演技をしながらもちゃんと実況するようだ。氷の上ではないので当然ながら流れるようにはできないけれど、手を抜かずにきちんと振りをやっている。勇利は一年間これを演じ続けたのだから、苦もなくできるだろう。しかし、エキシビションでするときとはどこかちがう。ヴィクトルがするようにしているようである。そう、あの動画で見た演技だ。勇利が勇利としてすべるのではなく、ヴィクトルの模倣。 「さあまずは最初の四回転……、四回転ルッツ綺麗にきまりました!」 勇利に四回転ルッツは跳べない。しかし、ルッツの踏み切りをちゃんとしている。回転は二回だ。 「さあ二本目はヴィクトル・ニキフォロフの代名詞──四回転フリップ、これもきめた!」 遊びかと思ったが、勇利は最後までするつもりのようである。ヴィクトルは相変わらず笑いをこらえながら勇利の演技を見守った。ジャンプはすべて二回転である。よく見ると、勇利は髪もヴィクトルのように整えているではないか。念が入っている。ヴィクトルは隣にいるマッカチンを抱き、勇利のヴィクトル・ニキフォロフの試合を観戦していた。ジャンプのあとは、ちゃんと手を叩いて称える。曲のいちばんの盛り上がり、ジャッジアピールのところでは、当然勇利はヴィクトルに向かって手を差し伸べ、ほほえみかけてくれた。ヴィクトルは喜んで拍手をした。 「さあ、最後の四回転──四回転トゥループ、トリプルトゥループ、きめました! 四回転すべて着氷!」 コンビネーションスピンを披露すると──その場でポジションをきめてじっとしているだけなので可笑しくて笑ってしまう──勇利はフィニッシュのポーズを取った。挨拶をするのかなと思ったら、その姿勢のまま「さすがヴィクトル・ニキフォロフ、すべての四回転を完璧に着氷しました! これも高い得点が出るでしょう」と実況し、それから「いやあ、すばらしい演技でしたね!」と解説まで入れたので、我慢できず、ヴィクトルは手を叩いて大笑いした。ようやく勇利は胸にてのひらを当て、優雅に一礼した。ヴィクトルに向かって投げキスをする。 「勇利、俺は挨拶でそこまではしない」 「いまのはヴィクトルが相手だから、特別」 「なるほど」 勇利は花束を拾うふりをしながら部屋のすみのほうへ行き、「ヤコフ、俺よかったでしょ!?」と言った。ヴィクトルはまた大笑いした。 「それ勇利だろ!」 勇利がくるりと振り返り、戻ってくる。終わりかと思ったがちがうようだ。いつの間に取り上げたのか、何かを手に持っている。彼はヴィクトルの前でぴたりと止まると、ヴィクトルにそれを差し出した。思わず受け取ったら、身をかがめ、首にかけて、というしぐさをする。それは金メダルだった。ヴィクトルは笑いながら勇利の首にメダルをかけた。勇利が「サンキュー」と言い、ヴィクトルと握手する。それからかるい抱擁。姿勢を戻した彼は、金メダルをかかげ、まわりに手を振った。メダルを取り上げ、気取ったやり方でキスする。 「来季の目標? 来季は日本へ行って、ユウリ・カツキのコーチをするよ!」 「え!? いきなり記者会見なのかい!? そんなこと俺言わなかったけどね!」 「勇利! 今日から俺はおまえのコーチになる! そしてグランプリファイナルで優勝させるぞっ」 「ちょっと待って飛びすぎじゃないか!?」 勇利はヴィクトルに向かってぱちんと片目をつぶった。ヴィクトルは楽しくてたまらず、差し伸べられた勇利の手を取ると、ぐいと引き、膝の上に彼を抱えこんだ。ぎゅっと抱きしめ、頬ずりをする。 「おもしろかった?」 「おもしろかった!」 「いまのは持ちネタその三。ヴィクトル・ニキフォロフの勝生勇利」 「最高!」 「似てた?」 「英語の発音まで俺に寄せてない?」 「がんばってみたけどどうかな。ロシア語っぽい発音難しいんだもの」 「なんでサングラスじゃなく眼鏡のままだったの?」 「一度サングラスでやってみたんだけど、絶望的に似合わなくて。たぶんヴィクトル死ぬほど笑って、そこからさきを冷静に見てもらえないと思ったんだ」 「えぇ? 残念だな。やってみて」 「笑い死んでも知らないよ」 「見たい!」 「うん……」 勇利は本当に一度はためしてみたらしく、すぐそこにヴィクトルのサングラスを置いていた。そっとかけ、それを外して片目を閉じる。ヴィクトルは噴き出した。 「ほら……」 「…………」 「だから言ったでしょ……もう」 「いや、かわいいよ。死ぬほどかわいい。かわい死ぬ」 ヴィクトルは肩を揺らしながら、勇利が首からかけているメダルを調べた。 「……四大陸の金メダルなんだけど」 「だってワールドのは持ってないからさ……」 「それは俺のを使わなかったの?」 「さすがに金メダルはむやみにさわれないよ」 「勇利ならいいのに。そもそも、ヴィクトル・ニキフォロフを演じてるのにワールドのじゃないって……」 「グランプリファイナルで獲れてたらそっちを活用したんだけどね。でもほら、全日本のじゃさすがにあれでしょ……ぼくが持ってる金メダルでいちばんいいのって四大陸だし……」 「うーん……」 「ほら、考えてみてよ! ヴィクトルはどんなにがんばっても四大陸の金メダルは獲れないんだよ! そういう意味ではすごくない!?」 「こじつけがすぎる」 ヴィクトルは笑顔になった。 「でも楽しかった。勇利はいろんな特技を持ってるんだねえ」 「元気出た?」 「出たよ」 「癒された?」 「癒されたよ」 「なごんだ?」 「とっても」 「よかったあ」 勇利はヴィクトルの胸にもたれかかった。彼はまぶたを閉ざし、うっとりしながらつぶやいた。 「ぼく、ヴィクトルに頼ってばかりで何もできないから、これくらいはしないとね……」 ヴィクトルは、勇利はばかだな、と思った。何のためにヴィクトルが毎日がんばっているのか、どうしてヴィクトルの日々が輝いているのか、勇利はちっともわかっていないのだった。何の苦労もなくても、勇利がいないのなら、そんな暮らしはまったく味わいやうるおいがなく、つまらない。ヴィクトルは黙って勇利の髪を撫でた。 「合ってる?」 勇利が目を開けた。 「え?」 「髪型」 「ああ……」 「なんだか恥ずかしいな。ヴィクトルがやるからかっこいいんだなってわかったよ。今後『ヴィクトル・ニキフォロフの勝生勇利』をやるときは、髪型だけはぼくの試合のときのやつにしようかな」 「似合ってるよ」 ヴィクトルは笑ってささやいた。 「そのジャージも、衣装も似合ってる」 「そうかな……」 「うん」 ヴィクトルは勇利の耳たぶにくちびるを押し当てた。 「裾も袖も、ちょっとあまってるけどね……」 「ほっといて!」 「ヴィクトル、最高に愛されてるね」 「そうだろう? 勇利は発想が豊かで、いろいろなことを思いつくんだよ。いくらでも俺を驚かせるんだ。なのにね、自分のプログラムをどうするかっていうことになるとたちまちうんうん唸り出して、ちょっと考えるから待って、ばっかり言うんだ」 「今度パーティがあったら、余興を勇利に頼もうかな」 「だめ」 「どうして?」 「勇利の特技は俺に披露するためだけにあるんだよ。誰にも見せない」 「ひとりじめ王子だね」 クリストフがからかった。ヴィクトルは笑って電話を切り、自宅の扉の前に立った。さて、今夜の勇利は何をしてくれるだろう? あのかわいくて仕方ないヴィクトルの勇利は……。 「ハイ、勇利」 「ハイ、ヴィクトル。今日の仕事はどうだった? なんだか楽しそうだね。いいことがあったの?」 「仕事は普通だよ。クリスとさっきまで電話してたんだ。だから機嫌がいいのかも」 「へえ。ぼくといてもそんなに機嫌がよくはならないようだけどね」 「勇利のことを話してたんだよ」 「上手いこと言うね。いまのでゆるしたよ」 勇利はにっこり笑った。その笑顔が最高にかわいいとヴィクトルは思った。 「ごはんできてるよ。食べる?」 「うん。マッカチンただいま」 ヴィクトルは寄ってきたマッカチンを撫でた。 「マッカチン今日はすごくいい子だったんだよ。いつもいい子だけど、いつも以上に。ぼくの帰りがすこし遅かったのに、文句も言わずに待ってて、部屋に入ったら元気に迎えてくれて、ずっとそばにいてくれたんだ」 「そうかあ。えらいね、マッカチン」 ヴィクトルと勇利は向かいあって夕食をとった。ヴィクトルは高級な店でいくらでも食事ができるけれど、勇利のつくる料理に勝るものはこの世にはないと思った。 「勇利は今日はどうしてた?」 「ずっとリンクにいた。夢中になってすべっちゃった。みんな親切だね」 「あのリンクでいちばん勇利に優しいのは俺だよ」 勇利は笑い出した。 「そうだね」 「そうだとも」 「でもいま、ヴィクトルはリンクにいないから、そのこと忘れてしまいそう……」 「勇利……」 ヴィクトルは胸がきゅんとし、思わず身を乗り出して勇利にキスしようとした。勇利はヴィクトルのくちびるにちいさなトマトをくっつけ、それを口に押しこんだ。 「勇利……」 「何です?」 勇利はすずしい顔で答えた。ヴィクトルは苦笑を浮かべる。ヴィクトルはこのところ、毎日忙しい。遅くなることも多い。しかし勇利は文句を言わずに待ち、ヴィクトルが帰宅したら元気に迎えて楽しいことをしてくれる。勇利もいい子だ。最高に。勇利がいなければ、ヴィクトルはもう何ひとつできないだろう。 「今夜は何も用意してないんだね」 ヴィクトルは言った。 「ぼくが支度したこれ、なに?」 勇利があきれたように食卓にある食事を示す。 「いや、そういう意味じゃない。持ちネタは?」 勇利はにやっと笑った。 「がっかりした?」 「いや」 「愛がうすれた?」 「いや」 「楽しいことのできない勇利には用事はない。そう思った?」 「いや」 「もう出ていけ、おまえの顔なんか見たくもない。そういうこと?」 「勇利、精神攻撃をやめてくれ」 勇利はにやにや笑い続けている。 「ぼくの愛がうすれたのかもしれないね?」 「なんだって?」 「冗談だよ。いつもめいっぱいでたくさんであふれそうであふれてるよ」 「精神攻撃をやめてくれ……」 「ネタ切れじゃないよ」 勇利はとり澄まして言った。 「教育しておこうと思って」 「え?」 「あんまりいろいろやりすぎると、本当のぼくを忘れちゃうかもしれないでしょ」 ヴィクトルは思わず勇利を見た。勇利はいたずらっぽく笑っている。 「そんなの泣いちゃうよ。……だめだった?」 なんてかわいいことを言うんだ……。ヴィクトルはうっとりした。勇利はいつも最高だ。 「勇利、もう一度言ってくれ」 「え?」 「いまのせりふ、もう一度」 「ヴィクトルをいろいろ教育するぞっ」 「ちがう」 望みとはちがったのに、ヴィクトルは思わず噴き出してしまった。 「俺のまねが上手いよね」 「あのイーグルからのトリプルアクセルはなんだ!?」 「ほかには?」 「後半ジャンプに気持ちが行きすぎて演技がおろそかになってたよねえ。ああいうの好きじゃないなあ、俺」 「あのさ、かなり甘いことも言ってるつもりなんだけど、そういうのはないのかい?」 「まだ寝てたのぉ?」 「……なにそれ」 「バルセロナで時差ボケのぼくに言った言葉」 「……それのどこが甘いんだ?」 「え、甘いじゃない。めちゃくちゃ甘いし、���らしいよ」 「え……」 「……と、もっともらしく言ったらヴィクトルはいろいろ想像してくれるんだろうね」 「……勇利」 勇利はしばらくまじめにヴィクトルをみつめ、それからくすくす笑い出した。 「いいの。甘い言葉は、ぼくが言われたままで、ぼくのこころだけにしまっておくんだよ」 彼は上目遣いでヴィクトルを見た。 「そんなの、口に出したら、恥ずかしくって���いちゃうよ……」 ヴィクトルは目をまるくした。 「ヴィクトルの甘い言葉が聞きたいなら、ヴィクトルがぼくに言ってくれればいいんだよ……」 「勇利……」 ヴィクトルはうれしくなってほほえんだ。 「いまの、もう一度言って」 勇利はまぶたをほそめ、口元を上げて優しく言った。 「本当のぼくをヴィクトルが忘れたら、泣いちゃう」 「そうじゃない、……え」 「ヴィクトル、ぼくとの結婚生活は楽しい?」 勇利は愉快そうに尋ねた。 「えっ……」 ヴィクトルは絶句し、それからおそるおそる訊いた。 「俺たち……、結婚してたの……?」 「ヴィクトルにばっかり甘い言葉言わせるのも悪いから、たまにはぼくからも言おうかなと思って。どう?」 「まだ……結婚してないよ」 「そうだったね」 「この言葉をはしゃいで言わなかったの、初めてだよ」 勇利は重々しくうなずいた。 「ぼくも、こんなに甘い言葉を言ったの、初めてだよ」 それから彼は得意そうに言った。 「どう? 本当のぼくも、悪くないでしょ?」
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米国のマーク・エスパー(Mark Esper)国防長官は24日、リチャード・スペンサー(Richard Spencer)海軍長官に辞任を要請した。これを受け、スペンサー海軍長官は辞任した。 エスパー国防長官は辞任要請の理由について、イラク派遣中に戦争犯罪に手を染めたとして軍法会議にかけられた米海軍特殊部隊「シールズ(SEALs)」隊長の処分に関して、スペンサー海軍長官がエスパー氏に知らせず内密にホワイトハウスに提案を行ったことでスペンサー氏への「信頼を失った」ためだと説明した。 米メディアは、スペンサー海軍長官がドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領に送った書簡を掲載。その中でスペンサー氏は、「良き秩序と規律の原則について、私はもはや最高司令官と同じ理解を共有していない」と述べ、辞任すると明らかにした。 シールズ特殊作戦部隊のエドワード・ギャラガー(Edward Gallagher)隊長は、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の少年兵捕虜殺害やイラク市民への殺人未遂など複数の戦争犯罪で軍法会議にかけられたが、IS戦闘員の遺体のそばでポーズを取って写真撮影を行った罪でのみ有罪が言い渡された。
米海軍長官が辞任、特殊部隊「英雄」の処分で政権に「内密提案」 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
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75 min practice made me feel better.😊 my body is so tight💦 久々に75分続けてヨガ出来ました。身体中カチコチで自分じゃないみたい💦 #virabhadrasana1 #worrior #英雄のポーズ #yoga #yogamom #yogini #yogababy #yogainstructor #postpartum #4monthold #tomokoyoga #personalgrowth #minnesotayoga #ヨガ #ヨガポーズ #ヨガ講師 #ヨガインストラクター #ヨギーニ #ヨガママ #産後4カ月 #産後ダイエット #ダイエット #綺麗になりたいヨガ #アメリカ在住
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. いよいよ明日からシンメトリーヨガチャレンジ始まります! 日本ではあまり馴染みがないヨガチャレンジなので、簡単に流れを説明します。 ________________________________________ 💙まずはホスト、スポンサーを全てフォローして下さい 🕉Your hosts: . @momwhatsfordinner @thewovenyogi @ashlynyamayogini @_yogi_dana_ . 🕉Generous Sponsors: . @mylegwearshop @5five.jp @overthewinter @thestickandtheball @happyfishhawaii @llamaste_inc ________________________________________ 💙この写真の様に、決められたポーズを右、左とも実践して1枚の写真にして #symmetryin2017 のタグをつけて投稿するだけ! 1日1ポーズです💫 ________________________________________ 💙全て終わると、ホストとスポンサーが優勝者を決めます。優勝された方は、各スポンサーから商品が送られます😍🎁 ________________________________________ ⏬⏬指定ポーズはこちら⏬⏬ Day1:Splits(フロント#スプリッツ/#hanumanasana) . Day2:Dancer(#ダンサーのポーズ/ #natarajasana) . Day3:Revolved head to knee pose(#穂のポーズ/#parivrttajanusirsasana) . Day4:Pigeon(#鳩のポーズ/#kapotasana) . Day5:Side Crow(横向きの#カラスのポーズ/#parsvabakasana) . Day6:Wild Thing(#ワイルドシング/#camatkarasana) . Day7:Side Plank(#サイドブリッジ/#vasisthasana) . Day8:Bird Of Paradise(#楽園の鳥のポーズ/#svargadvidasana) . Day9:Humble Warrior(腰を屈めた#英雄のポーズ/#baddhavirabhadrasana) . Day10:Extended Side Angle(#サイドアングルを伸ばすポーズ/#vtthitaparsvakonasana) ________________________________________ スプリッツが完全に床につかない人は浮いててもいいんです✨大事なのはシンメトリーであること、ヨガが好きであること😌💓 もちろん柔軟性がある人は、バリエーションがたくさんあるのでいろいろ試してみてください!
#ダンサーのポーズ#ワイルドシング#symmetryin2017#hanumanasana#サイドブリッジ#穂のポーズ#鳩のポーズ#スプリッツ#カラスのポーズ#parsvabakasana#楽園の鳥のポーズ#kapotasana#vasisthasana#natarajasana#vtthitaparsvakonasana#baddhavirabhadrasana#svargadvidasana#サイドアングルを伸ばすポーズ#camatkarasana#英雄のポーズ#parivrttajanusirsasana
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#Repost @stm41244572love with @get_repost ・・・ No mother what you look like I think the key is to be happy with yourself. あなた自身でいる事が幸せのカギ #夕焼け#夕暮れ#自然#ヨガ#英雄のポーズ#ヴィラバドラーサナ#インスタ映えnavi#hapヨガ部#フィットネス女子#sunset#sunsets#sunset_pic#sunsetlovers#greatvibes#yoga #扎心了# #赞# ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ #instagrammable repost Accepting😄 If you wish to repost please tag "@instabae_navi" in the picture. #인스타빨 repost을 접수 중입니다😄 다시 게시하려면 그림에서 "@instabae_navi"라고 태그하십시오. ▼△▼△▼△ 🌈repost受付中🌺 ▼△▼△▼△ #インスタ映え 写真のrepostを受付中です🤗 🏝少しでも多く方に見て欲しい!🐠 🏝いいね数を増やしたい!🍹 🏝フォロワー数を増やしたい!🐢 そんな方は自慢の写真にタグ付け下さい🙇 🍍写真に @instabae_navi をタグ付け下さい‼️ 🍍ハッシュタグに #インスタ映えnavi もお忘れなく ‼️ ※順番に投稿しておりますので少々お待ちいただく場合がございます。 皆さまからのタグ付けをお待ちしております🙇 http://instabae-navi.com/ ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ (父母が浜海岸) https://www.instagram.com/p/BsunCFalTBO/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=1q4j422isqjo0
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