#花柄カーテン
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cotton-milkyway · 9 months ago
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綿麻キャンバス
チャコールグレー✕生成り
レトロな花柄
オシャレな壁紙の様
クッションカバーやカーテンなどのインテリアに
エプロンにも
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綿麻キャンバス
森の動物
リス・うさぎ・キノコ
印象的なバンビ
ナチュラル感のある
ざっくりした織り布です
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doctormaki · 5 months ago
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久しぶりにヘリコプターや小型ジェットの騒音が無い土曜日の朝である。なんだかボーっとする。ロンドンっていつも、帰ってきた場所な感じがする。私のイギリス英語は、ロンドンではロンドンっ子だけウケが良い。ロンドンでは、もはや、イギリス英語を話す人々に会えないことが判明。中国人と韓国人、インド人、スペイン人どもの群れの中で窒息しそうになるワシ。
昔良く行ったHarrodsも、Fortnum and Masonsも、もうイギリス資本では無い今のロンドン。まだ昔の面影を残すらしいLiberty本店に行く。East CourtのホテルからLibertyに着くと、丁度正午で、正午を告げるチャイムと共に、騎士がワシ=竜と戦っていた。Liberty柄も昔より大柄になっていて、カヨがアスに着せたがっていた可愛い小柄の花柄はなかなか無い。
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でも、古い布の棚に並ぶ美しい布たちを見ているだけで、幸せ。幼稚園の頃、祖母や母とワクワクお買い物に行った神戸三宮アーケードの布地屋さんやボタン屋さん、毛糸屋さん���どを思い出す。懐かしい感じがして、心が潤う。ピカディリーからサビルロウ通り沿いに歩いていくとあるLiberty。80年代に三越が入っていたビルには土産物屋が入り、その隣はハードロックカフェになっていた。時代が変わった。
Libertyの最上階にイランの絨毯を売るコーナーがあった。驚いた事に、使い古された、地織が見えている絨毯でさえ、目玉が飛び出る価格で売られている。興味津々で見ていると、店員が声をかけてきたので、父が一時期、イランのシルク絨毯にアホみたいに投資していた事を話す。なかなかの趣味ね。今は、昔の絨毯ほど高いんだよ、と。店員のおばちゃん、おっちゃんとお喋り。80年代のロンドンを知る彼らは、私の記憶の中のロンドンを共に慈しみ思い出す。昔は、私たち店員も、背広着て正装していたんだよ。ネクタイまで絞めてと、おじちゃんは笑いながら言う。昔は良かった。秩序があって、そこにはエレガンスとcharmがあったねって、ついさっき、話していたところなんだよと、店員のおばちゃんを指差す。私のロンドン訛りを、喜び、お喋りを楽しむ。ほぼほぼ裸寸前の格好で買い物に来る観光客だらけで、本当のお客様は来ないよと、愚痴。
今は、中国人、インド人、アメリカ人が多いんだよ、と。そして金持ちの彼らは、ロンドンの中心街に家を買い、ほぼ空き家の状態にして、一年に数回、あるいは数年に一回来る位で、その時には豪遊し、失業しているbutler clubに登録しているbutlerを、滞在中だけ雇ってこき使うんだよ。信頼も何も無く、ただただお金を払って消費して、文句言って、社会の維持に役立つ消費はしないのさ、と二人は口々に教えてくれる。彼らが帰った後は、また執事達は失業さ。そんな事で執事なんかできないよ、と。でも、それはどこも同じ。東京も京都もハンブルグも。世界中の貧相な人々がお金を持つ時代に、ノブリスオブリージュの考え方なんて通用しない。私達は、静かに耐えるしかないし、でも、このままじゃ駄目ですって確実に思っている人間が、ここに3人もいる。これこそが、hopeさ。まだまだ、世の中は捨てたものでは無いと思いますよ、とおじさんはウィンクしながら笑う。久しぶりに、イギリス英語、久しぶりにイギリスの冗談を聞き、ホッとするワシ。幸せ。
そして、セール中だったので、下階では、ファイナルセール品の小さいサイズの綿ブラウスとシルクブラウスを、半額以下でゲット。綿ブラウスは、Liberty創業当時からの柄で着替え室のカーテン柄にも採用されている古典柄の彩色だけを最近風にしたもの。シルクブラウスは、黒地に色とりどりのお花柄。半額以下でも少しお高いのだが、半額以下でも無いと悩むことすらしないだろう。という事で、二枚とも着てみて速攻買う。母にブラウスは必ず試着してから!と言われてから、なかなか身体に合うシャツを見つけられないので、着られるシャツは購入。ワシ、アイロンかけるブラウス大好き。
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昨晩、評判が高いので入ったチャイナタウンの飲茶は期待外れだったので、お口直しに、昔良く通っていた飲茶のお店があった通りから1本異なる通りにある、1977年から続く飲茶ハウスへ飛び込む。店員が、香港の中国人の顔をしている。ロンドンのチャイナタウンは、今やメインランド中国との密かな戦いをしているらしいのだが、昨晩行ったところは、中国本土の人々が運営しているっぽい。飲茶と言いつつ、なんか違う。しかし、今日入ったお店は正解。顔を見ると、広東系なのか分かっちゃう位、香港好きのワシ。PJファミリーの食い倒れ香港旅行に一時期、毎年一緒に行っていたしね。ニシャシャ。
両親と通っていた飲茶のお店は閉店しており、なんか変な中華系レストランがたくさんできている。この10年位で、本土系の中国人がお金にものを言わせて、元々いる香港系の人々を追い出しているらしい事は知っていたが、ここまで酷いとは。。。飲茶は、どれも美味しく。一人で5皿も食べるワシ。日本円にして8000円のランチ。1ポンド200円ですから。。。昔よりもポンドは弱いのにねぇ。もっと弱い日本。。。ガックシ。
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ap20co · 9 months ago
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3/15
「百万円と苦虫女」と「すばらしき世界」を観た。
百万円と苦虫女は蒼井優がとにかく可愛かった。白くて華奢で、小花柄のワンピースやカーテンが似合うのが羨ましい。逃げる自分と逃げない弟との対比が面白かった。
すばらしき世界は真っ直ぐでありすぎるが故に一般社会の中で生きていくことが難しい人のことを描いていた。無敵の人状態から人との繋がりや居場所を得て、一般社会に溶け込もうと努力する様子は見ていて胸が痛かった。い��の間にか私はおかしいことをおかしいと言う自信も持てず、大きな声でも言えず、受け流せるよう��大人になろうとしていることにも気がついた。変な感触だった。一般社会で難なく生きられるということは、社会的弱者にいる人より必ずしも人間性が優れていて、立場が上だなんてことはない。三上さんを支えていた人達のように、もっと、その人がどんな過去を背負っていようとも、どんな人であるか自分の目で見て、話をして、自分で判断する必要があるのだなと思った。無闇に人のことを馬鹿にするような態度も取りたくないと思った。
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shukiiflog · 1 year ago
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ある画家の手記if.101 告白
朝。病院まで急いでたらちょうど出入り口のところで絢と鉢合わせた。
僕の横についてくる絢と一緒に病室に向かいながら、マフラーに埋めた口元でおさえた声で話しをする。
「直にぃはどっちのお見舞い?」 「どっちも。…僕は慧の部屋のことも、香澄の怪我も、知ってたから」 「行かせちゃった自分のせいだとかお手軽な自責感でオチてないよね?」 「うん。香澄が慧と関わろうとしてくれたことも、慧が自分を無理して否定せずに香澄を受け入れたかったことも、どっちも大事だから」 「俺はあの人に恩があるし世話にもなったけど、必要なら香澄を守るためにあの人を悪者にするよ」 「いいよ」 「…そこで本人じゃなくて直にぃが良いって返事すんの」 「こういうとき慧のことは昔から僕が決めていいんだよ。絢は慧より香澄と一緒にいてあげて」 「……。まずどっち行くの?」 「僕は先に慧の様子みてくる。どういう状態かわからないけど」 「香澄一人にしたのは俺だし、俺にもどっちへの責任もあるのは承知の上だけど、あの人は直にぃに任せていい?」 「最初からそのつもりだったよ。今回に限っては、誰かひとりのせいじゃないし誰のせいでもなかった、なんてオチにはできない。…絢」 「何」 「脚の具合は大丈夫?」 「…うん。」 一度立ち止まって僕のほうを少し意外そうな顔つきで絢が見上げる。 ニット帽の上から丸い頭を撫でたら、僕の片手に頭がおさまりそうなくらい小さく感じられた。 「香澄のことが心配だろうけど、絢は思うまま好きなように香澄と関わっていいんだよ」 「……そうしてるよ」 「絢は頭がいいからきっと勝手にいろんなことをたくさん考えちゃうだろうけど、思い至ったことに対しての責任まで負わなくていいんだよ。想定内の危機回避に失敗したら哀しくて辛い思いをするだろうけど、もうそれで充分だよ」 「………」 マフラーで隠れて見えないかもしれないけど、目元で優しく微笑みかける。 「取り返しのつかないことも、これから香澄にいくらも起きるかもしれないけど。本当にどうしようもなくなった時、最後に責任を取れるのは僕だから。」
そこで絢とは一度別れた。絢は香澄の病室に行くみたいだった。
訪れた病室は慧以外に人の気配がなくて、幾重にも連なったカーテンに朝の陽でベッドの影が落ちてる。 まったく違う状況なのに数年前の春の日を連想した。 ベッドに近寄ったけど慧は寝てるのか起きてるのか分からなかった。 顔の半分が処置されて隠れてて顔はほとんど見えない、体にも細かい怪我が散ってるみたいだった。 目を開けるのも口をきくのも難しいのかもしれない。 ベッドの端に浅く腰かけて慧の体に背を向ける。 無事だった慧の片手がベッドの上に力なく横たわってる。その蒼白い手のひらを指先で軽く叩く。 「慧、意識はある? 無理じゃなければ指先曲げて」 かすかに指先が曲がるのを確認して、静かにベッド脇で続ける。 「…僕は、怒ってるよ。なんでかは慧の方がよく分かってると思うけど 僕はあの部屋 ガラスの 壊れちゃえばいいなと 前から思ってた …学生の頃から でも、慧があの空間で安らげないことが救いになるなら、それを無理に変えてほしくもなかった 人それぞれで自分なりに生きた年月で築いた生活空間があるなら それを否定したくなかった だからいつかこういうことになっても それで慧が命を落としても 僕はそれでよかったし受け入れられた …僕はね いつかこうなることを 待ってたでしょう 持て囃される自分の容姿が不可抗力でこんなふうにめちゃめちゃになるのを そういうところは 卑怯だよ 不慮の事故なんかじゃないこんなのは …誰かを招き入れる空間じゃなかった以上、香澄をそこに引き止めたのは …」 一度言葉を切る。 こんな誰にでも言えるような説教じみた言葉じゃなくて、慧に寄り添えたらよかった。 僕と慧は寄り添わない 寄り添えない お互いのすることや決めること、相手に勝手に願う幸せを勝手に押し付けあって赦し合うだけで 「…香澄はきっと慧のことを悪く思ったりはしないと思うけど、…だから僕が怒るよ 今回だけは…」 小さなかいじゅうくんの丸いぬいぐるみを慧の枕元において続ける。
「こうなることを わかってたくせに 香澄が自分から関わろうって行動した矢先に そんなつもりじゃなくたってお前は香澄のことを利用しただろう こうなった以上いくらお前が真摯に関わろうって気持ちを抱いてたとしても、関わる覚悟なんてできてなかったんだ、それとも香澄に甘えてたの? 自分で負った怪我はこれっきりでもうお前一人のものじゃなくなったんだよ いつまでひとりのつもりでいるんだ ほかの誰でもないお前にお土産を持ってきた香澄のことをどう思ってた たかが自己破綻と自己嫌悪のために お前のことを信じて訪ねて ちゃんと頼った香澄の気持ちをめちゃくちゃに踏み躙った 許さないよ、それだけは 本当はこんなこと言いたくない、優しい言葉だけかけて帰れたら どれだけ 楽か… 」
頰を伝って落ちた涙を袖口で拭ってとめた。
「簡単にひとりで終われると思うな、これで諦められてひとりになれるなんて思うなよ!」
最後にそれだけ言って、病室を出た。
美しい存在でいなければいけない、自分の美しさがとうに損なわれたことを誰より痛感してるのに なにかを隠すこともできない、隠されたことによって損なわれてしまったから なかったことにもできない、なにかをなかったことにすれば同時に自分の中の片割れも簡単になかったことになってしまう 慧の苦しみがどうすれば報われるのか 僕にも分からない だからって終わりにはできない これまで何でも許しあってきたからこそ 今回は僕は許さないでいようと思う 慧だってもう気づいてるはずなんだから
次に香澄の病室に行った。 まだ香澄は起きてなかったから、静かに病室に入って近寄ると、枕元にウサギのぬいぐるみが置かれてた。…耳が垂れてる金色のうさぎ… 妙な既視感があるけど… 絢が置いていったのかな? 僕もたくさんお土産持ってきたから、寝てる香澄のまわりに起こさないようにそっと並べていく。 香澄の顔の横にノエルを座らせた。ノエルは服の着せ替えがたくさん売ってるぬいぐるみだったから白衣と聴診器をつけてる服を買ってきて着せた。 となりにかいじゅうくんを並べる。まだ寒いからニットのケープを着せてきた。 小さな花束を窓辺に乗せて。 かいじゅうくんの丸いお手玉、慧にひとつあげたのを、香澄のベッドと壁の間に一匹ずつ並べていく。十二匹のかいじゅうくんの雛が並んだ。 ふかふかしたかいじゅうくんのブランケットを香澄の体にかける。 ベッドにたくさん敷き詰めながら、香澄の首元までブランケットをかけてあっためて、そっと頬を撫でる。 「………」 せっかく眠って体を回復させてるのに話しかけたら起こしちゃうかな…  それとも、何か固形物を食べたりするためにも、一度は目がさめるように働きかけたほうがいいのかな… 香澄の隣に静かに椅子を引いてきて、座ってそっと香澄の額に手をのせる。平熱より熱いけど点滴のおかげかひどい高熱じゃないみたいだ… 枕元に腕を組んで首を凭せかけながら、香澄の怪我してないほうの片手を握ってもう片手でそっと包み込んで摩る。 「香澄… 怖かったね 慧は大丈夫だよ あちこちに 連絡してくれてありがとう 慧はね こうなるのをずっと待ってたんだよ 自分からなにかを起こして破滅することができなくて ちゃんと安全な場所を確保して��くことも怠れなかった あの部屋は破滅願望だけでできてるんじゃない 生きるために ずっとああだった 自分で壊れられない 自分で変化できない だから外側にああして でも慧は自分のことを とっくに壊れたガラスだと思ってて …僕も 慧はそうなんだって 受け入れてしまってた 危ない場所にいることをだれにも知られないようにして だれも慧に踏み込めないまま 慧はあの部屋にひとりだった あの部屋を 壊してくれて 慧と一緒にいてくれて ありがとう …香澄 だから僕は慧と喧嘩してきたよ 初めてかもしれない 関わろうとする香澄の気持ちを踏み躙る可能性を軽視したから …ほんとは慧ももうわかってるよ あの生き方で自分が傷つくだけじゃ済まないこと 香澄が嫌じゃなければ 目が覚めたら また仲良くしてあげてね」
額の髪の毛をよけてキスしてから、香澄の布団の中にノエルを一緒に寝かせて、頰にノエルの顔をぴたっと寄せて、椅子から立ち上がって病室を出ていった。 手術着みたいな簡易の服を着せられてたから、看護師さんにかいじゅうくん柄のパジャマを渡して、目を覚ましたら替えてくれるようにお願いした。
ここにいて目がさめるのを待てたらいいけど、僕は今日の午後から仕事が入ってる。辞めるまであと少しだけど 香澄の目がさめるのを待ちながら、僕は僕でやるべきことをやらなくちゃ。
数日間、仕事の行き帰りに病院に寄って、そのたびにお土産を置いていってたら香澄のベッドまわりはかなり賑やかになった。 熱はもうだいぶ下がってるけどいつまでも意識が戻らないから香澄には点滴が増えた。 このままずっと目が覚めないってことはないだろうとは医師からも言ってもらえたけど、不安が勝り始めた頃、また病室の前で絢と鉢合わせた。 「なおとくんだ。」 絢は光くんを一緒に連れてた。並んでると仲のいい兄妹みたいで微笑ましいね。 「光くんも香澄のお見舞い?」 「んー。ちょっとちがうけどそれもある」 「光さん、喋るのは最小限ね」 「んー。」 口の中怪我してて喋れるようにはなったけど食事が難しいから点滴にここ通ってんの。って絢が簡単に説明しながら病室に三人で入る。 光くんは絢と繋いでた手を離して香澄のベッドに走り寄ると上体をベッドに乗り上げるようにして、香澄の枕元で頬杖ついて香澄の顔を覗き込んでる。 僕は椅子を二つひっぱってきて絢にひとつすすめる。 「金色のうさぎ…  あれは絢のぬいぐるみ?」 「うん。直にぃこそお土産ムダに盛りすぎじゃん。ベッドから落ちそうになってる。持って帰るときのことも考えなよ」 「うーん… それよりも僕は仕事でずっとついててあげられないから、目を覚ましたときにひとりぼっちの可能性が高いかと思って…それで」 「おきた。」 光くんが小さな声で呟いたので僕も絢も席から立ち上がってベッドのそばに寄る。 香澄の顔と10センチもないくらいの至近距離から光くんに見つめられて、香澄はまだぼーっとしてるみたいだ。 とりあえず目が覚めてくれたこと��安堵してもう一度後ろの椅子に倒れこむ。 「こんにちは。光です。」 「香澄、このひと俺の母さん。」 「絢の母です。」 絢と光くんが香澄に続けて言ったら、だいぶ長く黙って視線を彷徨わせた香澄がまだ少し力の弱い声で答えた。 「…はじめまして…あの…ふつつかな兄ですがどうぞよろしくお願いします…」 「かすみくんはあやのかれしなの?」 香澄に向かって至近距離から突然光くんが爆弾落として思わず椅子の背から体を起こす。 「そう俺の彼氏。」 「絢ぁぁぁ?!?!」 な、なんでそういう方向に  おたおたしてたら光くんが「ふつつかなむすこですがよろしくおねがいします…」なんて香澄に向かって深々と頭を下げ始めた 「ちょ 光くん?!?」 足にくっつきそうなくらい下げた頭で三つ編みを反対側に垂らしながら顔が背後に向いた光くんが誰にも見えない角度で僕にだけにまっと笑った。…じょ、冗談か なんだか洒落にならないな 「いえあの俺はその直人の…彼氏?で…す…」 光くんに向かって香澄が顔赤くしながら一生懸命答えてる。…香澄って僕の彼氏だったのか… なんとなく顔が熱くなる 「絢は…絢は大事な…大事な人で…」 「ごめんごめん、その辺でいいよ香澄、これは俺が悪かった」絢が少し申し訳なさそうに笑いながら寝てる香澄の言葉を遮る。 香澄は布団で鼻の上まで隠しちゃってる。 またベッドの上で香澄の顔を覗き込む体勢に戻ってた光くんが頬杖をついてない方の腕を伸ばして香澄の額に手をあてた。 「…うん、ねつさがった。ちゃんとおきれたかすみくんはいいこ。」 小さな口元は微かに微笑んで、いつもぱっちり大きく開いた目が優しげに眇められてる。絢はそんな光くんの様子になにか別のものを感じたのか、嬉しそうな、少し震えるような目をしてた。 それからしばらく絢と光くんが香澄の話し相手になってるのを僕は横でじっと見てた。 絢が金色のうさぎを香澄に見せて、二人に買ってもらった絢ちゃん、って紹介して、まことくんから預かったらしいお土産を香澄に渡して、賑やかにしてた。 香澄が倒れる前に思い起こしたのはきっと半身にガラス片を浴びた冷泉だろうから、現実にあるのはそれだけじゃないことをこうして示していってくれる人が目を覚ましたときにいてよかった。 「香澄」 二人の横を抜けて香澄のベッドの足元あたりに腰をおろして、寝てる香澄に微笑みかける。 「具合はどう? 倒れてからもうすぐ一週間くらいになるけど」 「直人…   先生は…?」 僕と香澄が話し始めたら、絢と光くんは自然な形で病室から出ていった。 扉が閉まる音がしてから、話を続ける。 「慧は大丈夫だよ。まずは香澄がしっかり回復しないとね」 香澄がゆっく��体を起こす。横に一緒に寝てたノエルと一緒に香澄をぎゅっと抱きしめた。 「僕ちょっと慧と喧嘩してきたよ」 「喧嘩?!…なおとが…」 「うん。慧と喧嘩したのは初めてだったかも」 笑いながら香澄の頭を撫でて向かい合うとしっかり目を見て言葉をかける。 「今回は、香澄は自分を責めたらいけないよ。慧が負うべき責任を香澄が横取りしちゃいけない。一緒に背負うことになったとしても、慧が一人で受け止めきれてからだよ。ちゃんと慧に背負わせてあげよう。…いいね」 香澄は僕の目を見詰めてしばらくじっと黙ってたけど、静かに頷いた。僕もそんな香澄を見て、にっこり笑って頷いた。 「おはよう、香澄」
香澄視点 続き
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ichinichi-okure · 1 year ago
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2023.9.20wed_tokyo
朝起きて、着替える (同じ服を上下5枚づつ、同じ靴下を7枚 いつも同じ服←)
見上げて空を確認
お気に入りの電動自転車で坂を登ってお店に向かう (電動ではない自転車の学生さんが必死に立ち漕ぎしてるのを通り越す、、すまん)
スーパーに寄って買い出し (顔見知りのスタッフさんいて安心)
本物のアヒルがいるお花屋さんでドウダンツツジを買う
その後はお豆腐屋さんにいく お菓子に使う国産のトロッと濃い豆乳を買う (三角巾と花柄エプロンしたお母さんが作った 豆腐のお惣菜が大好き。人柄も大好き。 今日のお昼は、おかかの焼きおにぎりと ピーマンの豆腐詰め おすすめ!)
近所に、八百屋さん、国産はちみつ屋さんやお抹茶屋さんもあってありがたい (八百屋さんのおねーさんは野菜の話をするとき 目が輝いてる!お抹茶屋さんのお孫さん家族も よくお店にきてくれる嬉)
やっとお店について、 頭にネットをかぶって、コロコロして エプロンをゆるくつけて
もう頭の中で決めていた流れでお菓子を 焼き始める (流れがうまくいくように組み立てることもすき)
ポッドキャストを聴きながら 今日は下準備しておいた、愛知県いちじくや北海道かぼちゃなどをケーキに入れて焼いていく日
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(美味しいフルーツ。農園さんに感謝)
お店を作る時に、大きい窓の前を作業台にすることだけは 決めていた(ひとりキッチンにいる時間もすき)
今日は夕方から雨が降ったので カーテンを開いて作業
雨の日もすきだな (お客さんと雨いいよねって話をしたのを 思い出す)
明日 は 粉の日!!
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販売も自分でしてるので お客さんの顔を想像して、ケーキを焼けることがほんとに 幸せなことだなと思う
あっという間に夜になっていて 区民プールに行ってひと泳ぎして帰路 (タイル張りの浴槽は光や泡が綺麗に見えてすき)
日記を書いて改めて思った
毎日こんな感じで なにもないけど
私はこの町と人がすきだ!
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金曜日 土曜日 粉の日
-プロフィール- 橋本春佳 東武練馬駅(とーねり) 焼き菓子屋 粉の日 instagram:@kona_no_hi_
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tajimahiroe · 1 year ago
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葉っぱにょきにょき🌱
地面の草花✳︎
・・・
葉書をご購入頂けるお店のお問合せを頂きまして、サイトが分かりづらくなってしまっているので、今一度こちらにて。。
現在は以下のお店でお取り扱い頂いています◯
(いずれも、大体1柄ずつの束の中からお選び頂く形なので、その時々やお店によってラインナップが異なるかと思います😊)
・町立湯河原美術館
・NARAYA CAFE(箱根)
@naraya_cafe_
・基地-teshigoto-(熱海)
@atami_kichi_teshigoto_
・TE HANDEL platform(大磯)
@tehandelplatform
・三村養蜂場のアトリエショップ(茅ヶ崎)
@mimurayohojo.no
数が少しかと思いますが↓
・yuha Lab.(真鶴)
@yuha_lab
その他、個展や企画展の会場にて。。
いつも沢山の種類の中からお選び頂きまして、、ありがとうございます😆
その時々の良き出会いがありましたら…とても嬉しいです♡
・・・
今年の朝顔さんたち✳︎✴︎
毎日、ギラギラな太陽に向かって元気に咲いていて…尊敬するばかり!写真も撮らずに今日まで🌞
東向き緑のカーテンには、小さな花たちが頑張って🌬
南向きの緑のカーテンでは、大きく丈夫そうな花たちが毎日沢山🌬🌬
日本古来の種類のものは、朝顔に限らず…虫の襲撃に物凄く遭って無残な姿になりがちな印象😭
桔梗とか、撫子とか、葉っぱは勿論花が凄く食べられてしまう🥲
柔らかくて美味しいんだろうなあ…と💧
みんな可憐で可愛いイメージ。
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nemuripoem · 2 years ago
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2020-11-14
2020-11-14 23:34:33
私にはなんの取り柄もない。
絵だってそこまで上手いわけではないし、何か突出してできることがない。何も取り柄のないつまらない人間だ。
何もない私は、笑うのが精一杯で何をしても虚しくて仕方がなかった。
何故私には何もないのだろうか、それは私が日々努力をしていないからにつきるのだが。
花になりたかった、泥の中で咲く花に。希望を捨てないでいたかった、幕引きの夜。
自暴自棄になったってなんの意味もないよ。そこにあるのは何もない荒野だけだ。
馬鹿みたいだ、私は私で有り続けることに疲労しか感じていない。
そもそも私らしいってなんだ、空っぽの私には、私らしいなんて言葉は永遠に無縁だろう。
昨日夜の散歩で、自分の息が白いことに気づいた。
もう冬が来てるのか、何もかもを凍らせて、眠らせる冬が。
さようなら、私の心よ。お前にはもう愛想尽きてしまったよ。
それでも生きていくしかなくて、ただ虚しく足を進めるしかなくて、死にたいなんて言ったところで死ぬ勇気もない。
過去に有りたい私たち。未来に生きるのはいつだってつらくて、息ができなくなった。
君と私の間には薄いカーテンがかかっていて、私はそのカーテンを開けることもないし、君のもとへ行くこともないだろう。
君はどうか、希望を持って前に進んでほしい。振り返らないで、私を置いていってください、とそんなことばかり考えていたよ。
でも本当は手を繋いで横にいてほしくて、そんな欲望は捨ててしまいたかった。
誰かの足を引っ張るだけが得意技だった。ごめんなさいの言葉ばかりがリフレインする。
なぁ、いつからそんなに駄目になってしまったん。いつからそんな取り返しのつかないことになってしまったん。
光る星々を見て涙を流す夜に、私も早くそこへ連れて行ってなんて考えていたよ。届かないものに手を伸ばすのは滑稽だろうか。
全てが嘘だったらよかった。私を包む現実が、全て嘘だったらよかったのにな。そうしたら私は無意味に泣くこともなかったし、この世界に希望も持たなくて良かった。でも嘘じゃなくて、紛れもない真実で、その事実を受け入れることができなくて、また泣くのだ。
どうやって生きてきたっけ、どうやって歩いてきたっけ。そんなことももう忘れてしまって、私は布団の中から出ずに生きている。
永遠に夢を見れたら良かった。死んでしまうのと殆ど同じだけれど、私が死んだら誰か泣いてくれるだろうか?と考えながら自分の葬式のことを考えていた。ありもしないことを言われるのだろうか、生前は優しかったとか、笑顔が良かったとか、そういう嘘ばかり並べられてしまう葬式、憎いなぁと思う。でも自分の葬式は見てみたい。死んでしまった私の顔をそっと撫でて、次はちゃんとした人生に生まれようねなんて、輪廻転生なんて信じちゃいないけど。
生きることが虚しくて仕方がなかった。空虚で、本当に何もない。人は簡単に死ぬ、私も簡単に死ねたらよかったのに。
いつだって、死ぬ勇気のない奴の死にたいが一番迷惑だったよ。
明日からどうやって生きていこう、そんなことを毎日考えて、結局何もせずに呼吸だけを続けていた。
ねぇ、本当に死んでしまいたいね。生きる苦痛と、死ぬ苦痛、後者のほうが圧倒的に楽なのだ。一瞬で終わるから。
光を探していた私たち、暗闇の泥の中で生きている。
手を差し伸べて欲しかった、大丈夫だと言って欲しかった、頑張ったねと認めてほしかった。そう思うのは傲慢だろう。
毎月のodが、娯楽から逃げに変わってきている気がする。
薬を大量に飲んで見る幻覚は楽しかった。すべてを忘れさせてくれる気がしたから。きっと今後もやめられないんだろうな、とぼんやり思う。
うまく生きている人はどれくらいいるだろうか、皆どこか患って、下手くそに生きている。私もその一人だろうか。
愛を貰わなかった子どもたち、母親の手料理の味を知らず。
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matsuri269 · 2 years ago
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ドンブラザーズ短歌まとめ
さいしょからなにもなかったてのひらは鳥を放してやることもない 
からっぽになにを入れてもたいせつな器の柄がよく見えないな 
カーテンを閉めたからもう寒くない きみのぬくもりであたたかな部屋
でもこれはぼくの翼だ 平凡で鋭さもなく色のあせても 
コーヒーで音を立てればあのひとはぼくをぎゅっとだきしめてくれたよ
宝石を、ぼくががんばって手に入れたきれいな石を取り上げないで 
友人と口にするのと有罪を宣告するのはおなじくちびる
オムレツを焦がしてしまった朝こそをゆるしてくれたからきみがすき
 刷り込み《インプリンティング》のようにあなたを好きになり小鳥のように手に入れている
喉を焼く砂糖水を飲み干したなら明日まできっとしあわせでしょう
あめだまをください あめだまだけで��い 愛だったならもっといいなあ
夕暮れの彼岸花からにんげんの死を想起するきみはやさしい
寒椿 きみの食べてる柘榴ほど赤くはなくてよかったね 冬
きみの手にさくらの枝をあげたくて折って渡してそのままにする
ひまわりの下に誰かが埋まってることなんてきみは知らなくていい /雉野つよし
もしヒトの子として育てられたならいまごろ鬼であっただろうか
この世こそ楽園というくちびるは嘘をつかないという真実
ヒーローってなんですかたとえば小高い丘の上で死んでたりしますか /桃井タロウ
主系列星のなかの太陽のように歩いている人間でいる/猿原真一
青と青が似ているという誤謬さえよろこばしいと思う水面
あかつきの同じひとみを持ったのでとなりで月はもう見られない /ソノイ
平凡なあなたをわたしの夢にしてすてきなオムライスを口にする/鶴の獣人
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kyliegirlreika · 4 years ago
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♥️𝕎𝕒𝕤𝕤𝕙𝕠𝕚♥️ㅤ ✊🏾💖ㅤ 💖ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤㅤ🏩🏩 @radychan_no_insta Radyのpinkの花柄カーテン つけたょ~💯✨ 👏🏻👏🏻👏🏼👏🏼👏🏽👏🏽👏🏾👏🏾👏🏿👏🏿 #地雷系女子 #地雷女 #歌舞伎町キャバ嬢 #海外コスメ #ピープス女子 #ピープス #ピープス女子になりたい #ストリートファッション #エックスガール #ウィゴー #xgirl #xgirl_ootd #wego #rady #rady購入品 #rady好きさんと繋がりたい #radyカーテン #カーテン #花柄 #花柄カーテン #ピンク #ピンク好きな人と繋がりたい #ピンク好き #ピンクかわいい #ピンク大好き #kyliejenner #kylie #kyliecosmetics #kylieskin #kylie💋 @radychan_no_insta @kyliecosmetics @kyliejenner @thedisneyprincesses @dress_sugar @kyliejenner @kyliecosmetics @xgirljp @xgirl_ootd @chanelofficial @prada @xgirljp (マイハウス) https://www.instagram.com/p/CDhmfxVFjee/?igshid=kx0x7kwnmfkd
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tomoryoshka · 3 years ago
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カーテン変えました #年末 #カーテン #花柄 https://www.instagram.com/p/CXrsVw-vZWS/?utm_medium=tumblr
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kurihara-yumeko · 4 years ago
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【小説】The day I say good-bye (1/4) 【再録】
 今日は朝から雨だった。
 確か去年も雨だったよな、と僕は窓ガラスに反射している自分の顔を見つめて思った。僕を乗せたバスは、小雨の降る日曜の午後を北へ向かって走る。乗客は少ない。
 予定より五分遅れて、予定通りバス停「船頭町三丁目」で降りた。灰色に濁った水が流れる大きな樫岸川を横切る橋を渡り、広げた傘に雨音が当たる雑音を聞きながら、柳の並木道を歩く。
 小さな古本屋の角を右へ、古い木造家屋の住宅ばかりが建ち並ぶ細い路地を抜けたら左へ。途中、不機嫌そうな面構えの三毛猫が行く手を横切った。長い長い緩やかな坂を上り、苔生した石段を踏み締めて、赤い郵便ポストがあるところを左へ。突然広くなった道を行き、椿だか山茶花だかの生け垣のある家の角をまた左へ。
 そうすると、大きなお寺の屋根が見えてくる。囲われた塀の中、門の向こうには、静かな墓地が広がっている。
 そこの一角に、あーちゃんは眠っている。
 砂利道を歩きながら、結構な数の墓の中から、あーちゃんの墓へ辿り着く。もう既に誰かが来たのだろう。墓には真っ白な百合と、あーちゃんの好物であった焼きそばパンが供えてあった。あーちゃんのご両親だろうか。
 手ぶらで来てしまった僕は、ただ墓石を見上げる。周りの墓石に比べてまだ新しいその石は、手入れが行き届いていることもあって、朝から雨の今日であっても穏やかに光を反射している。
 そっと墓石に触れてみた。無機質な冷たさと硬さだけが僕の指先に応えてくれる。
 あーちゃんは墓石になった。僕にはそんな感覚がある。
 あーちゃんは死んだ。死んで、燃やされて、灰になり、この石の下に閉じ込められている。埋められているのは、ただの灰だ。あーちゃんの灰。
 ああ。あーちゃんは、どこに行ってしまったんだろう。
 目を閉じた。指先は墓石に触れたまま。このままじっとしていたら、僕まで石になれそうだ。深く息をした。深く、深く。息を吐く時、わずかに震えた。まだ石じゃない。まだ僕は、石になれない。
 ここに来ると、僕はいつも泣��たくなる。
 ここに来ると、僕はいつも死にたくなる。
 一体どれくらい、そうしていたのだろう。やがて後ろから、砂利を踏んで歩いてくる音が聞こえてきたので、僕は目を開き、手を引っ込めて振り向いた。
「よぉ、少年」
 その人は僕の顔を見て、にっこり笑っていた。
 総白髪かと疑うような灰色の頭髪。自己主張の激しい目元。頭の上の帽子から足元の厚底ブーツまで塗り潰したように真っ黒な恰好の人。
「やっほー」
 蝙蝠傘を差す左手と、僕に向けてひらひらと振るその右手の手袋さえも黒く、ちらりと見えた中指の指輪の石の色さえも黒い。
「……どうも」
 僕はそんな彼女に対し、顔の筋肉が引きつっているのを無理矢理に動かして、なんとか笑顔で応えて見せたりする。
 彼女はすぐ側までやってきて、馴れ馴れしくも僕の頭を二、三度柔らかく叩く。
「こんなところで奇遇だねぇ。少年も墓参りに来たのかい」
「先生も、墓参りですか」
「せんせーって呼ぶなしぃ。あたしゃ、あんたにせんせー呼ばわりされるようなもんじゃございませんって」
 彼女――日褄小雨先生はそう言って、だけど笑った。それから日褄先生は僕が先程までそうしていたのと同じように、あーちゃんの墓石を見上げた。彼女も手ぶらだった。
「直正が死んで、一年か」
 先生は上着のポケットから煙草の箱とライターを取り出す。黒いその箱から取り出された煙草も、同じように黒い。
「あたしゃ、ここに来ると後悔ばかりするね」
 ライターのかちっという音、吐き出される白い煙、どこか甘ったるい、ココナッツに似たにおいが漂う。
「あいつは、厄介なガキだったよ。つらいなら、『つらい』って言えばいい、それだけのことなんだ。あいつだって、つらいなら『つらい』って言ったんだろうさ。だけどあいつは、可哀想なことに、最後の最後まで自分がつらいってことに気付かなかったんだな」
 煙草の煙を揺らしながら、そう言う先生の表情には、苦痛と後悔が入り混じった色が見える。口に煙草を咥えたまま、墓前で手を合わせ、彼女はただ目を閉じていた。瞼にしつこいほど塗られた濃い黒い化粧に、雨の滴が垂れる。
 先生はしばらくして瞼を開き、煙草を一度口元から離すと、ヤニ臭いような甘ったるいような煙を吐き出して、それから僕を見て、優しく笑いかけた。それから先生は背を向け、歩き出してしまう。僕は黙ってそれを追った。
 何も言わなくてもわかっていた。ここに立っていたって、悲しみとも虚しさとも呼ぶことのできない、吐き気がするような、叫び出したくなるような、暴れ出したくなるような、そんな感情が繰り返し繰り返し、波のようにやってきては僕の心の中を掻き回していくだけだ。先生は僕に、帰ろう、と言ったのだ。唇の端で、瞳の奥で。
 先生の、まるで影法師が歩いているかのような黒い後ろ姿を見つめて、僕はかつてたった一度だけ見た、あーちゃんの黒いランドセルを思い出す。
 彼がこっちに引っ越してきてからの三年間、一度も使われることのなかった傷だらけのランドセル。物置きの中で埃を被っていたそれには、あーちゃんの苦しみがどれだけ詰まっていたのだろう。
 道の途中で振り返る。先程までと同じように、墓石はただそこにあった。墓前でかけるべき言葉も、抱くべき感情も、するべき行為も、何ひとつ僕は持ち合わせていない。
 あーちゃんはもう死んだ。
 わかりきっていたことだ。死んでから何かしてあげても無駄だ。生きているうちにしてあげないと、意味がない。だから、僕がこうしてここに立っている意味も、僕は見出すことができない。僕がここで、こうして呼吸をしていて、もうとっくに死んでしまったあーちゃんのお墓の前で、墓石を見つめている、その意味すら。
 もう一度、あーちゃんの墓に背中を向けて、僕は今度こそ歩き始めた。
「最近調子はどう?」
 墓地を出て、長い長い坂を下りながら、先生は僕にそう尋ねた。
「一ヶ月間、全くカウンセリング来なかったけど、何か変化があったりした?」
 黙っていると先生はさらにそう訊いてきたので、僕は仕方なく口を開く。
「別に、何も」
「ちゃんと飯食ってる? また少し痩せたんじゃない?」
「食べてますよ」
「飯食わないから、いつまでも身長伸びないんだよ」
 先生は僕の頭を、目覚まし時計を止める時のような動作で乱雑に叩く。
「ちょ……やめて下さいよ」
「あーっはっはっはっはー」
 嫌がって身をよじろうとするが、先生はそれでもなお、僕に攻撃してくる。
「ちゃんと食わないと。摂食障害になるとつらいよ」
「食べますよ、ちゃんと……」
「あと、ちゃんと寝た方がいい。夜九時に寝ろ。身長伸びねぇぞ」
「九時に寝られる訳ないでしょう、小学生じゃあるまいし……」
「勉強なんかしてるから、身長伸びねぇんだよ」
「そんな訳ないでしょう」
 あはは、と朗らかに彼女は笑う。そして最後に優しく、僕の頭を撫でた。
「負けるな、少年」
 負けるなと言われても、一体何に――そう問いかけようとして、僕は口をつぐむ。僕が何と戦っているのか、先生はわかっているのだ。
「最近、市野谷はどうしてる?」
 先生は何気ない声で、表情で、タイミングで、あっさりとその名前を口にした。
「さぁ……。最近会ってないし、電話もないし、わからないですね」
「ふうん。あ、そう」
 先生はそれ以上、追及してくることはなかった。ただ独り言のように、「やっぱり、まだ駄目か」と言っただけだった。
 郵便ポストのところまで歩いてきた時、先生は、「あたしはあっちだから」と僕の帰り道とは違う方向を指差した。
「駐車場で、葵が待ってるからさ」
「ああ、葵さん。一緒だったんですか」
「そ。少年は、バスで来たんだろ? 家まで車で送ろうか?」
 運転するのは葵だけど、と彼女は付け足して言ったが、僕は首を横に振った。
「ひとりで帰りたいんです」
「あっそ。気を付けて帰れよ」
 先生はそう言って、出会った時と同じように、ひらひらと手を振って別れた。
 路地を右に曲がった時、僕は片手をパ��カーのポケットに入れて初めて、とっくに音楽が止まったままになっているイヤホンを、両耳に突っ込んだままだということに気が付いた。
 僕が小学校を卒業した、一年前の今日。
 あーちゃんは人生を中退した。
 自殺したのだ。十四歳だった。
 遺書の最後にはこう書かれていた。
「僕は透明人間なんです」
    あーちゃんは僕と同じ団地に住んでいて、僕より二つお兄さんだった。
 僕が小学一年生の夏に、あーちゃんは家族四人で引っ越してきた。冬は雪に閉ざされる、北の方からやって来たのだという話を聞いたことがあった。
 僕はあーちゃんの、団地で唯一の友達だった。学年の違う彼と、どんなきっかけで親しくなったのか正確には覚えていない。
 あーちゃんは物静かな人だった。小学生の時から、年齢と不釣り合いなほど彼は大人びていた。
 彼は人付き合いがあまり得意ではなく、友達がいなかった。口数は少なく、話す時もぼそぼそとした、抑揚のない平坦な喋り方で、どこか他人と距離を取りたがっていた。
 部屋にこもりがちだった彼の肌は雪みたいに白くて、青い静脈が皮膚にうっすら透けて見えた。髪が少し長くて、色も薄かった。彼の父方の祖母が外国人だったと知ったのは、ずっと後のこ��だ。銀縁の眼鏡をかけていて、何か困ったことがあるとそれをかけ直す癖があった。
 あーちゃんは器用だった。今まで何度も彼の部屋へ遊びに行ったことがあるけれど、そこには彼が組み立てたプラモデルがいくつも置かれていた。
 僕が加減を知らないままにそれを乱暴に扱い、壊してしまったこともあった。とんでもないことをしてしまったと、僕はひどく後悔してうつむいていた。ごめんなさい、と謝った。年上の友人の大切な物を壊してしまって、どうしたらよいのかわからなかった。鼻の奥がつんとした。泣きたいのは壊されたあーちゃんの方だっただろうに、僕は泣き出しそうだった。
 あーちゃんは、何も言わなかった。彼は立ち尽くす僕の前でしゃがみ込んだかと思うと、足下に散らばったいびつに欠けたパーツを拾い、引き出しの中からピンセットやら接着剤やらを取り出して、僕が壊した部分をあっという間に直してしまった。
 それらの作業がすっかり終わってから彼は僕を呼んで、「ほら見てごらん」と言った。
 恐る恐る近付くと、彼は直ったばかりの戦車のキャタピラ部分を指差して、
「ほら、もう大丈夫だよ。ちゃんと元通りになった。心配しなくてもいい。でもあと1時間は触っては駄目だ。まだ接着剤が乾かないからね」
 と静かに言った。あーちゃんは僕を叱ったりしなかった。
 僕は最後まで、あーちゃんが大声を出すところを一度も見なかった。彼が泣いている姿も、声を出して笑っているのも。
 一度だけ、あーちゃんの満面の笑みを見たことがある。
 夏のある日、僕とあーちゃんは団地の屋上に忍び込んだ。
 僕らは子供向け��雑誌に載っていた、よく飛ぶ紙飛行機の作り方を見て、それぞれ違うモデルの紙飛行機を作り、どちらがより遠くへ飛ぶのかを競走していた。
 屋上から飛ばしてみよう、と提案したのは僕だった。普段から悪戯などしない大人しいあーちゃんが、その提案に首を縦に振ったのは今思い返せば珍しいことだった。そんなことはそれ以前も以降も二度となかった。
 よく晴れた日だった。屋上から僕が飛ばした紙飛行機は、青い空を横切って、団地の駐車場の上を飛び、道路を挟んだ向かいの棟の四階、空き部屋のベランダへ不時着した。それは今まで飛ばしたどんな紙飛行機にも負けない、驚くべき距離だった。僕はすっかり嬉しくなって、得意げに叫んだ。
「僕が一番だ!」
 興奮した僕を見て、あーちゃんは肩をすくめるような動作をした。そして言った。
「まだわからないよ」
 あーちゃんの細い指が、紙飛行機を宙に放つ。丁寧に折られた白い紙飛行機は、ちょうどその時吹いてきた風に背中を押されるように屋上のフェンスを飛び越え、僕の紙飛行機と同じように駐車場の上を通り、向かいの棟の屋根を越え、それでもまだまだ飛び続け、青い空の中、最後は粒のようになって、ついには見えなくなってしまった。
 僕は自分の紙飛行機が負けた悔しさと、魔法のような素晴らしい出来事を目にした嬉しさとが半分ずつ混じった目であーちゃんを見た。その時、僕は見たのだ。
 あーちゃんは声を立てることはなかったが、満足そうな笑顔だった。
「僕は透明人間なんです」
 それがあーちゃんの残した最後の言葉だ。
 あーちゃんは、僕のことを怒ればよかったのだ。地団太を踏んで泣いてもよかったのだ。大声で笑ってもよかったのだ。彼との思い出を振り返ると、いつもそんなことばかり思う。彼はもう永遠に泣いたり笑ったりすることはない。彼は死んだのだから。
 ねぇ、あーちゃん。今のきみに、僕はどんな風に見えているんだろう。
 僕の横で静かに笑っていたきみは、決して透明なんかじゃなかったのに。
 またいつものように春が来て、僕は中学二年生になった。
 張り出されていたクラス替えの表を見て、そこに馴染みのある名前を二つ見つけた。今年は、二人とも僕と同じクラスのようだ。
 教室へ向かってみたけれど、始業の時間になっても、その二つの名前が用意された席には、誰も座ることはなかった。
「やっぱり、まだ駄目か」
 誰かと同じ言葉を口にしてみる。
 本当は少しだけ、期待していた。何かが良くなったんじゃないかと。
 だけど教室の中は新しいクラスメイトたちの喧騒でいっぱいで、新年度一発目、始業式の今日、二つの席が空白になっていることに誰も触れやしない。何も変わってなんかない。
 何も変わらないまま、僕は中学二年生になった。
 あーちゃんが死んだ時の学年と同じ、中学二年生になった。
 あの日、あーちゃんの背中を押したのであろう風を、僕はずっと探してる。
 青い空の果てに、小さく消えて行ってしまったあーちゃんを、僕と「ひーちゃん」に返してほしくて。
    鉛筆を紙の上に走らせる音が、止むことなく続いていた。
「何を描いてるの?」
「絵」
「なんの絵?」
「なんでもいいでしょ」
「今年は、同じクラスみたいだね」
「��う」
「その、よろしく」
 表情を覆い隠すほど長い前髪の下、三白眼が一瞬僕を見た。
「よろしくって、何を?」
「クラスメイトとして、いろいろ……」
「意味ない。クラスなんて、関係ない」
 抑揚のない声でそう言って、双眸は再び紙の上へと向けられてしまった。
「あ、そう……」
 昼休みの保健室。
 そこにいるのは二人の人間。
 ひとりはカーテンの開かれたベッドに腰掛け、胸にはスケッチブック、右手には鉛筆を握り締めている。
 もうひとりはベッドの脇のパイプ椅子に座り、特にすることもなく片膝を抱えている。こっちが僕だ。
 この部屋の主であるはずの鬼怒田先生は、何か用があると言って席を外している。一体なんの仕事があるのかは知らないが、この学校の養護教諭はいつも忙しそうだ。
 僕はすることもないので、ベッドに座っているそいつを少しばかり観察する。忙しそうに鉛筆を動かしている様子を見ると、今はこちらに注意を払ってはいなそうだから、好都合だ。
 伸びてきて邪魔になったから切った、と言わんばかりのショートカットの髪。正反対に長く伸ばされた前髪は、栄養状態の悪そうな青白い顔を半分近く隠している。中学二年生としては小柄で華奢な体躯。制服のスカートから伸びる足の細さが痛々しく見える。
 彼女の名前は、河野ミナモ。僕と同じクラス、出席番号は七番。
 一言で表現するならば、彼女は保健室登校児だ。
 鉛筆の音が、止んだ。
「なに?」
 ミナモの瞬きに合わせて、彼女の前髪が微かに動く。少しばかり長く見つめ続けてしまったみたいだ。「いや、なんでもない」と言って、僕は天井を仰ぐ。
 ミナモは少しの間、何も言わずに僕の方を見ていたようだが、また鉛筆を動かす作業を再開した。
 鉛筆を走らせる音だけが聞こえる保健室。廊下の向こうからは、楽しそうに駆ける生徒たちの声が聞こえてくるが、それもどこか遠くの世界の出来事のようだ。この空間は、世界から切り離されている。
「何をしに来たの」
「何をって?」
「用が済んだなら、帰れば」
 新年度が始まったばかりだからだろうか、ミナモは機嫌が悪いみたいだ。否、機嫌が悪いのではなく、具合が悪いのかもしれない。今日の彼女はいつもより顔色が悪いように見える。
「いない方がいいなら、出て行くよ」
「ここにいてほしい人なんて、いない」
 平坦な声。他人を拒絶する声。憎しみも悲しみも全て隠された無機質な声。
「出て行きたいなら、出て行けば?」
 そう言うミナモの目が、何かを試すように僕を一瞥した。僕はまだ、椅子から立ち上がらない。彼女は「あっそ」とつぶやくように言った。
「市野谷さんは、来たの?」
 ミナモの三白眼がまだ僕を見ている。
「市野谷さんも同じクラスなんでしょ」
「なんだ、河野も知ってたのか」
「質問に答えて」
「……来てないよ」
「そう」
 ミナモの前髪が揺れる。瞬きが一回。
「不登校児二人を同じクラスにするなんて、学校側の考えてることってわからない」
 彼女の言葉通り、僕のクラスに��二人の不登校児がいる。
 ひとりはこの河野ミナモ。
 そしてもうひとりは、市野谷比比子。僕は彼女のことを昔から、「ひーちゃん」と呼んでいた。
 二人とも、中学に入学してきてから一度も教室へ登校してきていない。二人の机と椅子は、一度も本人に使われることなく、今日も僕の教室にある。
 といっても、保健室登校児であるミナモはまだましな方で、彼女は一年生の頃から保健室には登校してきている。その点ひーちゃんは、中学校の門をくぐったこともなければ、制服に袖を通したことさえない。
 そんな二人が今年から僕と同じクラスに所属になったことには、正直驚いた。二人とも僕と接点があるから、なおさらだ。
「――くんも、」
 ミナモが僕の名を呼んだような気がしたが、上手く聞き取れなかった。
「大変ね、不登校児二人の面倒を見させられて」
「そんな自嘲的にならなくても……」
「だって、本当のことでしょ」
 スケッチブックを抱えるミナモの左腕、ぶかぶかのセーラー服の袖口から、包帯の巻かれた手首が見える。僕は自分の左手首を見やる。腕時計をしているその下に、隠した傷のことを思う。
「市野谷さんはともかく、教室へ行く気なんかない私の面倒まで、見なくてもいいのに」
「面倒なんて、見てるつもりないけど」
「私を訪ねに保健室に来るの、――くんくらいだよ」
 僕の名前が耳障りに響く。ミナモが僕の顔を見た。僕は妙な表情をしていないだろうか。平然を装っているつもりなのだけれど。
「まだ、気にしているの?」
「気にしてるって、何を?」
「あの日のこと」
 あの日。
 あの春の日。雨の降る屋上で、僕とミナモは初めて出会った。
「死にたがり屋と死に損ない」
 日褄先生は僕たちのことをそう呼んだ。どっちがどっちのことを指すのかは、未だに訊けていないままだ。
「……気にしてないよ」
「そう」
 あっさりとした声だった。ミナモは壁の時計をちらりと見上げ、「昼休み終わるよ、帰れば」と言った。
 今度は、僕も立ち上がった。「それじゃあ」と口にしたけれど、ミナモは既に僕への興味を失ったのか、スケッチブックに目線を落とし、返事のひとつもしなかった。
 休みなく動き続ける鉛筆。
 立ち上がった時にちらりと見えたスケッチブックは、ただただ黒く塗り潰されているだけで、何も描かれてなどいなかった。
    ふと気付くと、僕は自分自身が誰なのかわからなくなっている。
 自分が何者なのか、わからない。
 目の前で展開されていく風景が虚構なのか、それとも現実なのか、そんなことさえわからなくなる。
 だがそれはほんの一瞬のことで、本当はわかっている。
 けれど感じるのだ。自分の身体が透けていくような感覚を。「自分」という存在だけが、ぽっかりと穴を空けて突っ立っているような。常に自分だけが透明な膜で覆われて、周囲から隔離されているかのような疎外感と、なんの手応えも得られない虚無感と。
 あーちゃんがいなくなってから、僕は頻繁にこの感覚に襲われるようになった。
 最初は、授業が終わった後の短い休み時間。��は登校中と下校中。その次は授業中にも、というように、僕が僕をわからなくなる感覚は、学校にいる間じゅうずっと続くようになった。しまいには、家にいても、外にいても、どこ��いてもずっとそうだ。
 周りに人がいればいるほど、その感覚は強かった。たくさんの人の中、埋もれて、紛れて、見失う。自分がさっきまで立っていた場所は、今はもう他の人が踏み荒らしていて。僕の居場所はそれぐらい危ういところにあって。人混みの中ぼうっとしていると、僕なんて消えてしまいそうで。
 頭の奥がいつも痛かった。手足は冷え切ったみたいに血の気がなくて。酸素が薄い訳でもないのにちゃんと息ができなくて。周りの人の声がやたら大きく聞こえてきて。耳の中で何度もこだまする、誰かの声。ああ、どうして。こんなにも人が溢れているのに、ここにあーちゃんはいないんだろう。
 僕はどうして、ここにいるんだろう。
「よぉ、少年」
 旧校舎、屋上へ続く扉を開けると、そこには先客がいた。
 ペンキがところどころ剥げた緑色のフェンスにもたれるようにして、床に足を投げ出しているのは日褄先生だった。今日も真っ黒な恰好で、ココナッツのにおいがする不思議な煙草を咥えている。
「田島先生が、先生のことを昼休みに探してましたよ」
「へへっ。そりゃ参ったね」
 煙をゆらゆらと立ち昇らせて、先生は笑う。それからいつものように、「せんせーって呼ぶなよ」と付け加えた。彼女はさらに続けて言う。
「それで? 少年は何をし、こんなところに来たのかな?」
「ちょっと外の空気を吸いに」
「おお、奇遇だねぇ。あたしも外の空気を吸いに……」
「吸いにきたのはニコチンでしょう」
 僕がそう言うと、先生は、「あっはっはっはー」と高らかに笑った。よく笑う人だ。
「残念だが少年、もう午後の授業は始まっている時間だし、ここは立ち入り禁止だよ」
「お言葉ですが先生、学校の敷地内は禁煙ですよ」
「しょうがない、今からカウンセリングするってことにしておいてあげるから、あたしの喫煙を見逃しておくれ。その代わり、あたしもきみの授業放棄を許してあげよう」
 先生は右手でぽんぽんと、自分の隣、雨上がりでまだ湿気っているであろう床を叩いた。座れと言っているようだ。僕はそれに従わなかった。
 先客がいたことは予想外だったが、僕は本当に、ただ、外の空気を吸いたくなってここに来ただけだ。授業を途中で抜けてきたこともあって、長居をするつもりはない。
 ふと、視界の隅に「それ」が目に入った。
 フェンスの一角に穴が空いている。ビニールテープでぐるぐる巻きになっているそこは、テープさえなければ屋上の崖っぷちに立つことを許している。そう。一年前、あそこから、あーちゃんは――。
(ねぇ、どうしてあーちゃんは、そらをとんだの?)
 僕の脳裏を、いつかのひーちゃんの言葉がよぎる。
(あーちゃん、かえってくるよね? また、あえるよね?)
 ひーちゃんの言葉がいくつもいくつも、風に飛ばされていく桜の花びらと同じように、僕の目の前を通り過ぎていく。
「こんなところで、何をしていたんですか」
 そう質問したのは僕の方だった。「んー?」と先生は煙草の煙を吐きながら言う。
「言っただろ、外の空気を吸いに来たんだよ」
「あーちゃんが死んだ、この場所の空気を、ですか」
 先生の目が、僕を見た。その鋭さに、一瞬��るみそうになる。彼女は強い。彼女の意思は、強い。
「同じ景色を見たいと思っただけだよ」
 先生はそう言って、また煙草をふかす。
「先生、」
「せんせーって呼ぶな」
「質問があるんですけど」
「なにかね」
「嘘って、何回つけばホントになるんですか」
「……んー?」
 淡い桜色の小さな断片が、いくつもいくつも風に流されていく。僕は黙って、それを見ている。手を伸ばすこともしないで。
「嘘は何回ついたって、嘘だろ」
「ですよね」
「嘘つきは怪人二十面相の始まりだ」
「言っている意味がわかりません」
「少年、」
「はい」
「市野谷に嘘つくの、しんどいのか?」
 先生の煙草の煙も、みるみるうちに風に流されていく。手を伸ばしたところで、掴むことなどできないまま。
「市野谷に、直正は死んでないって、嘘をつき続けるの、しんどいか?」
 ひーちゃんは知らない。あーちゃんが去年ここから死んだことを知らない。いや、知らない訳じゃない。認めていないのだ。あーちゃんの死を認めていない。彼がこの世界に僕らを置き去りにしたことを、許していない。
 ひーちゃんはずっと信じている。あーちゃんは生きていると。いつか帰ってくると。今は遠くにいるけれど、きっとまた会える日が来ると。
 だからひーちゃんは知らない。彼の墓石の冷たさも、彼が飛び降りたこの屋上の景色が、僕の目にどう映っているのかも。
 屋上。フェンス。穴。空。桜。あーちゃん。自殺。墓石。遺書。透明人間。無。なんにもない。ない。空っぽ。いない。いないいないいないいない。ここにもいない。どこにもいない。探したっていない。消えた。消えちゃった。消滅。消失。消去。消しゴム。弾んで。飛んで。落ちて。転がって。その先に拾ってくれるきみがいて。笑顔。笑って。笑ってくれて。だけどそれも消えて。全部消えて。消えて消えて消えて。ただ昨日を越えて今日が過ぎ明日が来る。それを繰り返して。きみがいない世界で。ただ繰り返して。ひーちゃん。ひーちゃんが笑わなくなって。泣いてばかりで。だけどもうきみがいない。だから僕が。僕がひーちゃんを慰めて。嘘を。嘘をついて。ついてはいけない嘘を。ついてはいけない嘘ばかりを。それでもひーちゃんはまた笑うようになって。笑顔がたくさん戻って。だけどどうしてあんなにも、ひーちゃんの笑顔は空っぽなんだろう。
「しんどくなんか、ないですよ」
 僕はそう答えた。
 先生は何も言わなかった。
 僕は明日にでも、怪人二十面相になっているかもしれなかった。
    いつの間にか梅雨が終わり、実力テストも期末テストもクリアして、夏休みまであと一週間を切っていた。
 ひと夏の解放までカウントダウンをしている今、僕のクラスの連中は完璧な気だるさに支配されていた。自主性や積極性などという言葉とは無縁の、慣性で流されているような脱力感。
 先週に教室の天井四ヶ所に取り付けられている扇風機が全て故障したこともあいまって、クラスメイトたちの授業に対する意欲はほぼゼロだ。授業がひとつ終わる度に、皆溶け出すように机に上半身を投げ出しており、次の授業が始まったところで、その姿勢から僅かに起き上がる程度の差しかない。
 そういう僕も、怠惰な中学二年生のひとりに過ぎない。さっきの英語の授業でノートに書き記したことと言えば、英語教師の松田が何回額の汗を脱ぐったのかを表す「正」の字だけだ。
 休み時間に突入し、がやがやと騒がしい教室で、ひとりだけ仲間外れのように沈黙を守っていると、肘辺りから空気中に溶け出して、透明になっていくようなそんな気分になる。保健室には来るものの、自分の教室へは絶対に足を運ばないミナモの気持ちがわかるような気がする。
 一学期がもうすぐ終わるこの時期になっても、相変わらず僕のクラスには常に二つの空席があった。ミナモも、ひーちゃんも、一度だって教室に登校してきていない。
「――くん、」
 なんだか控えめに名前を呼ばれた気はしたが、クラスの喧騒に紛れて聞き取れなかった。
 ふと机から顔を上げると、ひとりの女子が僕の机の脇に立っていた。見たことがあるような顔。もしかして、クラスメイトのひとりだろうか。彼女は廊下を指差して、「先生、呼んでる」とだけ言って立ち去った。
 あまりにも唐突な出来事でその女子にお礼を言うのも忘れたが、廊下には担任の姿が見える。僕のクラス担任の担当科目は数学だが、次の授業は国語だ。なんの用かはわからないが、呼んでいるのなら行かなくてはならない。
「おー、悪いな、呼び出して」
 去年大学を卒業したばかりの、どう見ても体育会系な容姿をしている担任は、僕を見てそう言った。
「ほい、これ」
 突然差し出されたのはプリントの束だった。三十枚くらいありそうなプリントが穴を空けられ紐を通して結んである。
「悪いがこれを、市野谷さんに届けてくれないか」
 担任がひーちゃんの名を口にしたのを聞いたのは、久しぶりのような気がした。もう朝の出欠確認の時でさえ、彼女の名前は呼ばれない。ミナモの名前だってそうだ。このクラスでは、ひーちゃんも、ミナモも、いないことが自然なのだ。
「……先生が、届けなくていいんですか」
「そうしたいのは山々なんだが、なかなか時間が取れなくてな。夏休みに入ったら家庭訪問に行こうとは思ってるんだ。このプリントは、それまでにやっておいてほしい宿題。中学に入ってから二年の一学期までに習う数学の問題を簡単にまとめたものなんだ」
「わかりました、届けます」
 受け取ったプリントの束は、思っていたよりもずっとずっしりと重かった。
「すまんな。市野谷さんと小学生の頃一番仲が良かったのは、きみだと聞いたものだから」
「いえ……」
 一年生の時から、ひーちゃんにプリントを届けてほしいと教師に頼まれることはよくあった。去年は彼女と僕は違うクラスだったけれど、同じ小学校出身の誰かに僕らが幼馴染みであると聞いたのだろう。
 僕は学校に来なくなったひーちゃんのことを毛嫌いしている訳ではない。だから、何か届け物を頼まれてもそんなに嫌な気持ちにはならない。でも、と僕は思った。
 でも僕は、ひーちゃんと一番仲が良かった訳じゃないんだ。
「じゃあ、よろしく頼むな」
 次の授業の始業のチャイムが鳴り響く。
 教室に戻り、出したままだった英語の教科書と「正」の字だけ記したノートと一緒に、ひーちゃんへのプリントの束を鞄に仕舞いながら、なんだか僕は泣きたくなった。
  三角形が壊れるのは簡単だった。
 三角形というのは、三辺と三つの角でできていて、当然のことだけれど���辺とひとつの角が消失したら、それはもう三角形ではない。
 まだ小学校に上がったばかりの頃、僕はどうして「さんかっけい」や「しかっけい」があるのに「にかっけい」がないのか、と考えていたけれど、どうやら僕の脳味噌は、その頃から数学的思考というものが不得手だったようだ。
「にかっけい」なんてあるはずがない。
 僕と、あーちゃんと、ひーちゃん。
 僕ら三人は、三角形だった。バランスの取りやすい形。
 始まりは悲劇だった。
 あの悪夢のような交通事故。ひーちゃんの弟の死。
 真っ白なワンピースが汚れることにも気付かないまま、真っ赤になった弟の身体を抱いて泣き叫ぶひーちゃんに手を伸ばしたのは、僕と一緒に下校する途中のあーちゃんだった。
 お互いの家が近かったこともあって、それから僕らは一緒にいるようになった。
 溺愛していた最愛の弟を、目の前で信号無視したダンプカーに撥ねられて亡くしたひーちゃんは、三人で一緒にいてもときどき何かを思い出したかのように暴れては泣いていたけれど、あーちゃんはいつもそれをなだめ、泣き止むまでずっと待っていた。
 口下手な彼は、ひーちゃんに上手く言葉をかけることがいつもできずにいたけれど、僕が彼の言葉を補って彼女に伝えてあげていた。
 優しくて思いやりのあるひーちゃんは、感情を表すことが苦手なあーちゃんのことをよく気遣ってくれていた。
 僕らは嘘み��いにバランスの取れた三角形だった。
 あーちゃんが、この世界からいなくなるまでは。
   「夏は嫌い」
 昔、あーちゃんはそんなことを口にしていたような気がする。
「どうして?」
 僕はそう訊いた。
 夏休み、花火、虫捕り、お祭り、向日葵、朝顔、風鈴、西瓜、プール、海。
 水の中の金魚の世界と、バニラアイスの木べらの湿り気。
 その頃の僕は今よりもずっと幼くて、四季の中で夏が一番好きだった。
 あーちゃんは部屋の窓を網戸にしていて、小さな扇風機を回していた。
 彼は夏休みも相変わらず外に出ないで、部屋の中で静かに過ごしていた。彼の傍らにはいつも、星座の本と分厚い昆虫図鑑が置いてあった。
「夏、暑いから嫌いなの?」
 僕が尋ねるとあーちゃんは抱えていた分厚い本からちょっとだけ顔を上げて、小さく首を横に振った。それから困ったように笑って、
「夏は、皆死んでいるから」
 とだけ、つぶやくように言った。あーちゃんは、時々魔法の呪文のような、不思議なことを言って僕を困惑させることがあった。この時もそうだった。
「どういう意味?」
 僕は理解できずに、ただ訊き返した。
 あーちゃんはさっきよりも大きく首を横に振ると、何を思ったのか、唐突に、
「ああ、でも、海に行ってみたいな」
 なんて言った。
「海?」
「そう、海」
「どうして、海?」
「海は、色褪せてないかもしれない。死んでないかもしれない」
 その言葉の意味がわからず、僕が首を傾げていると、あーちゃんはぱたんと本を閉じて机に置いた。
「台所へ行こうか。確か、母さんが西瓜を切ってくれていたから。一緒に食べよう」
「うん!」
 僕は西瓜に釣られて、わからなかった言葉のことも、すっかり忘れてしまった。
 でも今の僕にはわかる。
 夏の日射しは、世界を色褪せさせて僕の目に映す。
 あーちゃんはそのことを、「死んでいる」と言ったのだ。今はもう確かめられないけれど。
 結局、僕とあーちゃんが海へ行くことはなかった。彼から海へ出掛けた話を聞いたこともないから、恐らく、海へ行くことなく死んだのだろう。
 あーちゃんが見ることのなかった海。
 海は日射しを浴びても青々としたまま、「生きて」いるんだろうか。
 彼が死んでから、僕も海へ足を運んでいない。たぶん、死んでしまいたくなるだろうから。
 あーちゃん。
 彼のことを「あーちゃん」と名付けたのは僕だった。
 そういえば、どうして僕は「あーちゃん」と呼び始めたんだっけか。
 彼の名前は、鈴木直正。
 どこにも「あーちゃん」になる要素はないのに。
    うなじを焼くようなじりじりとした太陽光を浴びながら、ペダルを漕いだ。
 鼻の頭からぷつぷつと汗が噴き出すのを感じ、手の甲で汗を拭おうとしたら手は既に汗で湿っていた。雑音のように蝉の声が響いている。道路の脇には背の高い向日葵は、大きな花を咲かせているのに風がないので微動だにしない。
 赤信号に止められて、僕は自転車のブレーキをかける。
 夏がくる度、思い出す。
 僕とあーちゃんが初めてひーちゃんに出会い、そして彼女の最愛の弟「ろーくん」が死んだ、あの事故のことを。
 あの日も、世界が真っ白に焼き切れそうな、暑い日だった。
 ひーちゃんは白い木綿のワンピースを着ていて、それがとても涼しげに見えた。ろーくんの血で汚れてしまったあのワンピースを、彼女はもうとっくに捨ててしまったのだろうけれど。
 そういえば、ひーちゃんはあの事故の後、しばらくの間、弟の形見の黒いランドセルを使っていたっけ。黒い服ばかり着るようになって。周りの子はそんな彼女を気味悪がったんだ。
 でもあーちゃんは、そんなひーちゃんを気味悪がったりしなかった。
 信号が赤から青に変わる。再び漕ぎ出そうとペダルに足を乗せた時、僕の両目は横断歩道の向こうから歩いて来るその人を捉えて凍りついてしまった。
 胸の奥の方が疼く。急に、聞こえてくる蝉の声が大きくなったような気がした。喉が渇いた。頬を撫でるように滴る汗が気持ち悪い。
 信号は青になったというのに、僕は動き出すことができない。向こうから歩いて来る彼は、横断歩道を半分まで渡ったところで僕に気付いたようだった。片眉を持ち上げ、ほんの少し唇の端を歪める。それが笑みだとわかったのは、それとよく似た笑顔をずいぶん昔から知っているからだ。
「うー兄じゃないですか」
 うー兄。彼は僕をそう呼んだ。
 声変わりの途中みたいな声なのに、妙に大人びた口調。ぼそぼそとした喋り方。
 色素の薄い頭髪。切れ長の一重瞼。ひょろりと伸びた背。かけているのは銀縁眼鏡。
 何もかもが似ているけれど、日に焼けた真っ黒な肌と筋肉のついた足や腕だけは、記憶の中のあーちゃんとは違う。
 道路を渡り終えてすぐ側まで来た彼は、親しげに僕に言う。
「久しぶりですね」
「……久しぶり」
 僕がやっとの思いでそう声を絞り出すと、彼は「ははっ」と笑った。きっとあーちゃんも、声を上げて笑うならそういう風に笑ったんだろうなぁ、と思う。
「どうしたんですか。驚きすぎですよ」
 困ったような笑顔で、眼鏡をかけ直す。その手つきすらも、そっくり同じ。
「嫌だなぁ。うー兄は僕のことを見る度、まるで幽霊でも見たような顔するんだから」
「ごめんごめん」
「ははは、まぁいいですよ」
 僕が謝ると、「あっくん」はまた笑った。
 彼、「あっくん」こと鈴木篤人くんは、僕の一個下、中学一年生。私立の学校に通っているので僕とは学校が違う。野球部のエースで、勉強の成績もクラストップ。僕の団地でその中学に進学できた子供は彼だけだから、団地の中で知らない人はいない優等生だ。
 年下とは思えないほど大人びた少年で、あーちゃんにそっくりな、あーちゃんの弟。
「中学は、どう? もう慣れた?」
「慣れましたね。今は部活が忙しくて」
「運動部は大変そうだもんね」
「うー兄は、帰宅部でしたっけ」
「そう。なんにもしてないよ」
「今から、どこへ行くんですか?」
「ああ、えっと、ひーちゃんに届け物」
「ひー姉のところですか」
 あっくんはほんの一瞬、愛想笑いみたいな顔をした。
「ひー姉、まだ学校に行けてないんですか?」
「うん」
「行けるようになるといいですね」
「そうだね」
「うー兄は、元気にしてましたか?」
「僕? 元気だけど……」
「そうですか。いえ、なんだかうー兄、兄貴に似てきたなぁって思ったものですから」
「僕が?」
 僕があーちゃんに似てきている?
「顔のつくりとかは、もちろん違いますけど、なんていうか、表情とか雰囲気が、兄貴に似てるなぁって」
「そうかな……」
 僕にそんな自覚はないのだけれど。
「うー兄も死んじゃいそうで、心配です」
 あっくんは柔らかい笑みを浮かべたままそう言った。
「……そう」
 僕はそう返すので精いっぱいだった。
「それじゃ、ひー姉によろしくお伝え下さい」
「じゃあ、また……」
 あーちゃんと同じ声で話し、あーちゃんと同じように笑う彼は、夏の日射しの中を歩いて行く。
(兄貴は、弱いから駄目なんだ)
 いつか彼が、あーちゃんに向けて言った言葉。
 あーちゃんは自分の弟にそう言われた時でさえ、怒ったりしなかった。ただ「そうだね」とだけ返して、少しだけ困ったような顔をしてみせた。
 あっくんは、強い。
 姿や雰囲気は似ているけれど、性格というか、芯の強さは全く違う。
 あーちゃんの死を自分なりに受け止めて、乗り越えて。部活も勉強も努力して。あっくんを見ているといつも思う。兄弟でもこんなに違うものなのだろうか、と。ひとりっ子の僕にはわからないのだけれど。
 僕は、どうだろうか。
 あーちゃんの死を受け入れて、乗り越えていけているだろうか。
「……死相でも出てるのかな」
 僕があーちゃんに似てきている、なんて。
 笑えない冗談だった。
 ふと見れば、信号はとっくに赤になっていた。青になるまで待つ間、僕の心から言い表せない不安が拭えなかった。
    遺書を思い出した。
 あーちゃんの書いた遺書。
「僕の分まで生きて。僕は透明人間なんです」
 日褄先生はそれを、「ばっかじゃねーの」って笑った。
「透明人間は見えねぇから、透明人間なんだっつーの」
 そんな風に言って、たぶん、泣いてた。
「僕の分まで生きて」
 僕は自分の鼓動を聞く度に、その言葉を繰り返し、頭の奥で聞いていたような気がする。
 その度に自分に問う。
 どうして生きているのだろうか、と。
  部屋に一歩踏み入れると、足下でガラスの破片が砕ける音がした。この部屋でスリッパを脱ぐことは自傷行為に等しい。
「あー、うーくんだー」
 閉められたカーテン。閉ざされたままの雨戸。
 散乱した物。叩き壊された物。落下したままの物。破り捨てられた物。物の残骸。
 その中心に、彼女はいる。
「久しぶりだね、ひーちゃん」
「そうだねぇ、久しぶりだねぇ」
 壁から落下して割れた時計は止まったまま。かろうじて壁にかかっているカレンダーはあの日のまま。
「あれれー、うーくん、背伸びた?」
「かもね」
「昔はこーんな小さかったのにねー」
「ひーちゃんに初めて会った時だって、そんなに小さくなかったと思うよ」
「あははははー」
 空っぽの笑い声。聞いているこっちが空しくなる。
「はい、これ」
「なに? これ」
「滝澤先生に頼まれたプリント」
「たきざわって?」
「今度のクラスの担任だよ」
「ふーん」
「あ、そうだ、今度は僕の同じクラスに……」
 彼女の手から投げ捨てられたプリントの束が、ろくに掃除されていない床に落ちて埃を巻き上げた。
「そういえば、あいつは?」
「あいつって?」
「黒尽くめの」
「黒尽くめって……日褄先生のこと?」
「まだいる?」
「日褄先生なら、今年度も学校にいるよ」
「なら、学校には行かなーい」
「どうして?」
「だってあいつ、怖いことばっかり言うんだもん」
「怖いこと?」
「あーちゃんはもう、死んだんだって」
「…………」
「ねぇ、うーくん」
「……なに?」
「うーくんはどうして、学校に行けるの? まだあーちゃんが帰って来ないのに」
 どうして僕は、生きているんだろう。
「『僕』はね、怖いんだよ、うーくん。あーちゃんがいない毎日が。『僕』の毎日の中に、あーちゃんがいないんだよ。『僕』は怖い。毎日が怖い。あーちゃんのこと、忘れそうで怖い。あーちゃんが『僕』のこと、忘れそうで怖い……」
 どうしてひーちゃんは、生きているんだろう。
「あーちゃんは今、誰の毎日の中にいるの?」
 ひーちゃんの言葉はいつだって真っ直ぐだ。僕の心を突き刺すぐらい鋭利だ。僕の心を掻き回すぐらい乱暴だ。僕の心をこてんぱんに叩きのめすぐらい凶暴だ。
「ねぇ、うーくん」
 いつだって思い知らされる。僕が駄目だってこと。
「うーくんは、どこにも行かないよね?」
 いつだって思い知らせてくれる。僕じゃ駄目だってこと。
「どこにも、行かないよ」
 僕はどこにも行けない。きみもどこにも行けない。この部屋のように時が止まったまま。あーちゃんが死んでから、何もかもが停止したまま。
「ふーん」
 どこか興味なさそうな、ひーちゃんの声。
「よかった」
 その後、他愛のない話を少しだけして、僕はひーちゃんの家を後にした。
 死にたくなるほどの夏の熱気に包まれて、一気に現実に引き戻された気分になる。
 こんな現実は嫌なんだ。あーちゃんが欠けて、ひーちゃんが壊れて、僕は嘘つきになって、こんな世界は、大嫌いだ。
 僕は自分に問う。
 どうして僕は、生きているんだろう。
 もうあーちゃんは死んだのに。
   「ひーちゃん」こと市野谷比比子は、小学生の頃からいつも奇異の目で見られていた。
「市野谷さんは、まるで死体みたいね」
 そんなことを彼女に言ったのは、僕とひーちゃんが小学四年生の時の担任だった。
 校舎の裏庭にはクラスごとの畑があって、そこで育てている作物の世話を、毎日クラスの誰かが当番制でしなくてはいけなかった。それは夏休み期間中も同じだった。
 僕とひーちゃんが当番だった夏休みのある日、黙々と草を抜いていると、担任が様子を見にやって来た。
「頑張ってるわね」とかなんとか、���初はそんな風に声をかけてきた気がする。僕はそれに、「はい」とかなんとか、適当に返事をしていた。ひーちゃんは何も言わず、手元の草を引っこ抜くことに没頭していた。
 担任は何度かひーちゃんにも声をかけたが、彼女は一度もそれに答えなかった。
 ひーちゃんはいつもそうだった。彼女が学校で口を利くのは、同じクラスの僕と、二つ上の学年のあーちゃんにだけ。他は、クラスメイトだろうと教師だろうと、一言も言葉を発さなかった。
 この当番を決める時も、そのことで揉めた。
 くじ引きでひーちゃんと同じ当番に割り当てられた意地の悪い女子が、「せんせー、市野谷さんは喋らないから、当番の仕事が一緒にやりにくいでーす」と皆の前で言ったのだ。
 それと同時に、僕と一緒の当番に割り当てられた出っ歯の野郎が、「市野谷さんと仲の良い――くんが市野谷さんと一緒にやればいいと思いまーす」と、僕の名前を指名した。
 担任は困ったような笑顔で、
「でも、その二人だけを仲の良い者同士にしたら、不公平じゃないかな? 皆だって、仲の良い人同士で一緒の当番になりたいでしょう? 先生は普段あまり仲が良くない人とも仲良くなってもらうために、当番の割り振りをくじ引きにしたのよ。市野谷さんが皆ともっと仲良くなったら、皆も嬉しいでしょう?」
 と言った。意地悪ガールは間髪入れずに、
「喋らない人とどうやって仲良くなればいいんですかー?」
 と返した。
 ためらいのない発言だった。それはただただ純粋で、悪意を含んだ発言だった。
「市野谷さんは私たちが仲良くしようとしてもいっつも無視してきまーす。それって、市野谷さんが私たちと仲良くしたくないからだと思いまーす。それなのに、無理やり仲良くさせるのは良くないと思いまーす」
「うーん、そんなことはないわよね、市野谷さん」
 ひーちゃんは何も言わなかった。まるで教室内での出来事が何も耳に入っていないかのような表情で、窓の外を眺めていた。
「市野谷さん? 聞いているの?」
「なんか言えよ市野谷」
 男子がひーちゃんの机を蹴る。その振動でひーちゃんの筆箱が机から滑り落ち、がちゃんと音を立てて中身をぶちまけたが、それでもひーちゃんには変化は訪れない。
 クラスじゅうにざわざわとした小さな悪意が満ちる。
「あの子ちょっとおかしいんじゃない?」
 そんな囁きが満ちる。担任の困惑した顔。意地悪いクラスメイトたちの汚らわしい視線。
 僕は知っている。まるでここにいないかのような顔をして、窓の外を見ているひーちゃんの、その視線の先を。窓から見える新校舎には、彼女の弟、ろーくんがいた一年生の教室と、六年生のあーちゃんがいる教室がある。
 ひーちゃんはいつも、ぼんやりとそっちばかりを見ている。教室の中を見渡すことはほとんどない。彼女がここにいないのではない。彼女にとって、こっちの世界が意味を成していないのだ。
「市野谷さんは、死体みたいね」
 夏休み、校舎裏の畑。
 その担任の一言に、僕は思わずぎょっとした。担任はしゃがみ込み、ひーちゃんに目線を合わせようとしながら、言う。
「市野谷さんは、どうしてなんにも言わないの? なんにも思わないの? あんな風に言われて、反論したいなって思わないの?」
 ひーちゃんは黙って草を抜き続けている。
「市野谷さんは、皆と仲良くなりたいって思わない? 皆は、市野谷さんと仲良くなりたいって思ってるわよ」
 ひーちゃんは黙っている。
「市野谷さんは、ずっとこのままでいるつもりなの? このままでいいの? お友達がいないままでいいの?」
 ひーちゃんは。
「市野谷さん?」
「うるさい」
 どこかで蝉が鳴き止んだ。
 彼女が僕とあーちゃん以外の人間に言葉を発したところを、僕は初めて見た。彼女は担任を睨み付けるように見つめていた。真っ黒な瞳が、鋭い眼光を放っている。
「黙れ。うるさい。耳障り」
 ひーちゃんが、僕の知らない表情をした。それはクラスメイトたちがひーちゃんに向けたような、玩具のような悪意ではなかった。それは本当の、なんの混じり気もない、殺意に満ちた顔だった。
「あんたなんか、死んじゃえ」
 振り上げたひーちゃんの右手には、草抜きのために職員室から貸し出された鎌があって――。
「ひーちゃん!」
 間一髪だった。担任は真っ青な顔で、息も絶え絶えで、しかし、その鎌の一撃をかろうじてかわした。担任は震えながら、何かを叫びながら校舎の方へと逃げるように走り去って行く。
「ひーちゃん、大丈夫?」
 僕は地面に突き刺した鎌を固く握りしめたまま、動かなくなっている彼女に声をかけた。
「友達なら、いるもん」
 うつむいたままの彼女が、そうぽつりと言う。
「あーちゃんと、うーくんがいるもん」
 僕はただ、「そうだね」と言って、そっと彼女の頭を撫でた。
    小学生の頃からどこか危うかったひーちゃんは、あーちゃんの自殺によって完全に壊れてしまった。
 彼女にとってあーちゃんがどれだけ大切な存在だったかは、説明するのが難しい。あーちゃんは彼女にとって絶対唯一の存在だった。失ってはならない存在だった。彼女にとっては、あーちゃん以外のものは全てどうでもいいと思えるくらい、それくらい、あーちゃんは特別だった。
 ひーちゃんが溺愛していた最愛の弟、ろーくんを失ったあの日。
 あの日から、ひーちゃんの心にぽっかりと空いた穴を、あーちゃんの存在が埋めてきたからだ。
 あーちゃんはひーちゃんの支えだった。
 あーちゃんはひーちゃんの全部だった。
 あーちゃんはひーちゃんの世界だった。
 そして、彼女はあーちゃんを失った。
 彼女は入学することになっていた中学校にいつまで経っても来なかった。来るはずがなかった。来れるはずがなかった。そこはあーちゃんが通っていたのと同じ学校であり、あーちゃんが死んだ場所でもある。
 ひーちゃんは、まるで死んだみたいだった。
 一日中部屋に閉じこもって、食事を摂ることも眠ることも彼女は拒否した。
 誰とも口を利かなかった。実の親でさえも彼女は無視した。教室で誰とも言葉を交わさなかった時のように。まるで彼女の前からありとあらゆるものが消滅してしまったかのように。泣くことも笑うこともしなかった。ただ虚空を見つめているだけだった。
 そんな生活が一週間もしないうちに彼女は強制的に入院させられた。
 僕が中学に入学して、桜が全部散ってしまった頃、僕は彼女の病室を初めて訪れた。
「ひーちゃん」
 彼女は身体に管を付けられ、生かされていた。
 屍のように寝台に横たわる、変わり果てた彼女の姿。
(市野谷さんは死体みたいね)
 そんなことを言った、担任の言葉が脳裏をよぎった。
「ひーちゃんっ」
 僕はひーちゃんの手を取って、そう呼びかけた。彼女は何も言わなかった。
「そっち」へ行ってほしくなかった。置いていかれたくなかった。僕だって、あーちゃんの突然の死を受け止めきれていなかった。その上、ひーちゃんまで失うことになったら。そう考えるだけで嫌だった。
 僕はここにいたかった。
「ひーちゃん、返事してよ。いなくならないでよ。いなくなるのは、あーちゃんだけで十分なんだよっ!」
 僕が大声でそう言うと、初めてひーちゃんの瞳が、生き返った。
「……え?」
 僕を見つめる彼女の瞳は、さっきまでのがらんどうではなかった。あの時のひーちゃんの瞳を、僕は一生忘れることができないだろう。
「あーちゃん、いなくなったの?」
 ひーちゃんの声は僕の耳にこびりついた。
 何言ってるんだよ、あーちゃんは死んだだろ。そう言おうとした。言おうとしたけれど、何かが僕を引き留めた。何かが僕の口を塞いだ。頭がおかしくなりそうだった。狂っている。僕はそう思った。壊れている。破綻している。もう何もかもが終わってしまっている。
 それを言ってしまったら、ひーちゃんは死んでしまう。僕がひーちゃんを殺してしまう。ひーちゃんもあーちゃんみたいに、空を飛んでしまうのだ。
 僕はそう直感していた。だから声が出なかった。
「それで、あーちゃん、いつかえってくるの?」
 そして、僕は嘘をついた。ついてはいけない嘘だった。
 あーちゃんは生きている。今は遠くにいるけれど、��のうち必ず帰ってくる、と。
 その一週間後、ひーちゃんは無事に病院を退院した。人が変わったように元気になっていた。
 僕の嘘を信じて、ひーちゃんは生きる道を選んだ。
 それが、ひーちゃんの身体をいじくり回して管を繋いで病室で寝かせておくことよりもずっと残酷なことだということを僕は後で知った。彼女のこの上ない不幸と苦しみの中に永遠に留めておくことになってしまった。彼女にとってはもうとっくに終わってしまったこの世界で、彼女は二度と始まることのない始まりをずっと待っている。
 もう二度と帰ってこない人を、ひーちゃんは待ち続けなければいけなくなった。
 全ては僕のついた幼稚な嘘のせいで。
「学校は行かないよ」
「どうして?」
「だって、あーちゃん、いないんでしょ?」
 学校にはいつから来るの? と問いかけた僕にひーちゃんは笑顔でそう答えた。まるで、さも当たり前かのように言った。
「『僕』は、あーちゃんが帰って来るのを待つよ」
「あれ、ひーちゃん、自分のこと『僕』って呼んでたっけ?」
「ふふふ」
 ひーちゃんは笑った。幸せそうに笑った。恥ずかしそうに笑った。まるで恋をしているみたいだった。本当に何も知らないみたいに。本当に、僕の嘘を信じているみたいに。
「あーちゃんの真似、してるの。こうしてると自分のことを言う度、あーちゃんのことを思い出せるから」
 僕は笑わなかった。
 僕は、笑えなかった。
 笑おうとしたら、顔が歪んだ。
 醜い嘘に、歪んだ。
 それからひーちゃんは、部屋に閉じこもって、あーちゃんの帰りをずっと待っているのだ。
 今日も明日も明後日も、もう二度と帰ってこない人を。
※(2/4) へ続く→ https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/647000556094849024/
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73nus · 5 years ago
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Snidel 花柄刺繍ノースリワンピース ¥3900+tax
退勤後、下北沢に行った。3週間前に行った時はめぼしいものがな〜んにもなかったから手ぶらで帰ったけれど、昨日は靴一足服3点買って大荷物で図書館に立ち寄って予約資料を回収するはめに……(山内マリコの「皿洗いするの、どっち⁉︎」を読むため)。服って「今日はぜんっぜん買いたいと思う服に出会わない、どれを合わせてもしっくりこない!」という日と「どれもこれも買いたい!可愛い!世界はkawaiiでできとるんや!」と目がキラキラになる日がある気がする。かなちゃんも似たようなこと日記に書いていた。
Snidelは大文字表記になってからガーリーブリブリ路線から謎モードカジュアルに転生したので、全然趣味から外れてしまい(紫!緑!蛍光色!って感じじゃないですか)買うのは2年ぶりだった。2017のSSだからまだ小文字の王道ガーリー時代のやつ。無地より柄物の方が得な気がする!というアホな価値観も流石にもうすでに捨てたので、しばらくボーダーやストライプ以外の柄物は買っていなかったけれど、秋っぽくてうっとりして買った。花柄は「カーテンっぽくないかどうか」を基準にして買うと良い。じゃないと絶対昭和になる。
フリーサイズなのが難点。フリーサイズで得する層なんていないんだから横着せずサイズ展開して欲しい。最近ロング丈の気分だったからこの丈はしっくりくる。
ウエストの後ろが編み上げになってて地味に可愛いけど黒なのでいかんせん見えん。帯かってくらいウエストマークが極太である。
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annamanoxxx1 · 5 years ago
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月兎 01
 雨の中華街は、まるで小さな映画館で観る古いキネマのようだ。燻んだ灰に烟る極彩色。濡れた地面に反射する赤、黄、青。中華角灯の連なる汚れた路地裏。公園の東屋。媽祖廟に関帝廟。映画のセットに一人取り残されたような気持ちで左馬刻は夜道を歩いていた。傘はない。霧雨は、肩にかけたスカジャンの下までは染み込んではこない。こんな日は人も静かだ。観光客の少ない街は必然、客引きの声が消える。商売をしても仕方がないと皆知っているから。脇に下げたホルスターの拳銃が、重い。自然丸くなる背をポケットに突っ込んだ手で支える。息をすることすら怠い。
 沈んだ景色の中、不意に頭上に明かりを感じた。まるで、雲の隙間から気まぐれに顔を出す日の光のような。顔を上げると、眼鏡の男が居た。正確には、陳列窓の中に。男は、うたた寝をしているように見えた。アンティークのソファにゆったりと体を預けている。優美な曲線を描くマホガニーの肘置きに柔らかく添う指先。鈍い光沢のジャ���ード生地で作られたロングのチャイナ服。細い体。柔らかな質感の濃茶の髪。完璧な形をした耳には、赤い房飾り。シノワズリ趣味。それは男の装いだけではない。透かし彫の衝立も、天井から下がる黒の角灯とクリスタルのシャンデリアも、大胆なピオニー柄の淡碧の壁紙も。現代日本とは思えぬ、杳々とした空間。その中で眠る男に興味が湧いた。硝子に顔を近づける。繊細な装飾が施された眼鏡の、黒のフレームの奥。レンズ越しの瞼をまじまじと見つめる。放射状に広がる長い睫毛。丸みを帯びたまぶた。瞳の色は何色だろうか。白い頬に落ちる影。
「なぁ、目、開けろよ」
 聞こえるはずはない。だが、話しかけずにいられない。明かりの消された店で、唯一明るい陳列窓の中で、眠る男が生身のはずはないのに。それでも、あまりに男が生々しくて。
「なぁ、なぁ」
 気狂いのようにぽつ、ぽつと何度も語りかける。
 どれ位の時間、そこに居ただろうか。縋るように硝子に手を突いて。ようやく諦めて、立ち去ろうとした。その時に。ふぅ、と男のまつ毛が持ち上がった。最初に見えたのは、明るい緑。晴れ��夏の木漏れ日のような。それに見とれていると、ゆっくりとマゼンタが現れる。不思議な瞳の色だった。
「きれぇだな、お前の目」
 こちらを見ない男に、話しかける。
「あっ?おい!」
 男は無反応のまま、スゥと瞼を下ろした。何事もなかったように、上下のまつ毛が重なる。
「………くそ」
 悪態をついた瞬間、店内がパッと明るくなった。
「何か、用か」
 デカイ男が、にゅっと建物の脇から顔を出す。どうやら店の人間のようだ。裏口から回ってきたのだろう。
「あ、いや、こいつ」
 左馬刻が、陳列窓の中の男を指差す。
「ああ……今店を開けよう。待っていてくれ」
 そう言って、大柄の男が戻っていく。日の光を集めたような明るいオレンジ色の髪、晴れた海面のような明るい青の目。白色人種の特徴を持つ、彫りの深い顔立ちに、飾り窓の男と同じようなロングのチャイナ服。シノワズリを体現したかのような男と、店の佇まいが重なった。すぐに透かし彫の施された硝子扉が内側に開く。
「どうぞ」
 背の高い男に招かれて、左馬刻は店内に足を踏み入れた。エキゾチックな花の香り。外からは見えなかった場所には、壺や茶器、置物などが並んでいる。
「茶を淹れよう。座っていてくれ」
縁にカーヴィングの施された、エボニーのティーテーブル。揃いの獣脚のアームチェアにドカリと座り、左馬刻は陳列窓の男の茶色い後ろ頭を、ぼんやりと見つめた。
「気になるか?」
 オレンジの髪の男が、茶盤に並んだ茶器に湯を注ぐ。流れるような手つきで茶葉を洗い、再度鉄瓶から湯を注ぎ、蓋を閉めた小ぶりな急須に上からも湯をかける。コトリ、と目の前に置かれた透かし模様の白い湯のみに浮かぶ、黄金の輪。ず、と一口すすると、茉莉花の香りが広がった。
「銃兎も連れてこよう。起きるかどうかはわからないが」
 そう言って、オレンジの髪の男が陳列窓に近づく。あの男は『銃兎』と言うのか、と左馬刻は思った。オレンジの髪の男に抱き上げられた銃兎が、左馬刻の向かいのアームチェアにゆっくりと降ろされた。
「銃兎、茶はどうだ?貴殿の好きな碧潭飄雪(スノージャスミン)を淹れたのだが」
スゥと、銃兎の瞳が開く。けれどまたすぐに閉じてしまって、オレンジの髪の男が苦笑した。
「どうやら、今日は気が乗らないようだ。部屋に戻せと言っている。すまないが、待っていてくれ」
 そう言って、オレンジの髪の男は銃兎を抱き、カーテンに覆われた店の奥へと消えていく。それを、なぜだかひどく腹立たしい気持ちで左馬刻は見つめていた。いや、腹立たしいというのは少し違う。左馬刻は、羨ましかったのだ。オレンジの髪の男が。
「さて、待たせたな。小官は理鶯という。元軍人だ。船に乗るのが好きで、各国で買い付けをしては、こうして商いをしている。貴殿の名は?」
「左馬刻」
左馬刻は簡潔に答えた。
「銃兎、は一体なんだ?人間か?」
左馬刻の率直な問いに、理鶯が微笑む。
「あれは観用少年(プランツドール)だ」
「は?プランツ?嘘だろ?」
 『プランツドール(観用少年・観用少女)』とは、その名の通り、観用の少年・少女だ。人工の。左馬刻の属する火貂組の組長・火貂退紅も一体、少女型を所持している。左馬刻は職業柄、派手な集まりに参加することが多いが、今まで目にした観用少女たちはみな、成人男性の胸元にも満たない姿だった。何年、何十年物でも。手入れを怠らなければ、同じ姿のまま二百年の時を越える個体もいると聞いている。
「稀に、育ってしまう物もいる。稀に、だが」
 そう言って、理鶯は茉莉花茶に口をつけた。
「左馬刻、銃兎は名人の手による傑作だった。銘は『月兎(げっと)』」
 銘がつくほどの観用少年の価値を、左馬刻は知っている。退紅のオヤジのプランツも、銘を持つ逸品だった。その値段は、億を超える。しかし、理鶯は『傑作だった』と過去形を使った。
「育ってしまったプランツの価値は、ほぼ無い。それでも、銘を持つプランツなら、ワンルームマンションを買えるくらいの価値を持つ」
 語りながら、理鶯が茶を左馬刻の湯のみに注ぐ。一煎目より柔らかく重い香りが立ち上った。
「へぇ」
 左馬刻が相槌を打つ。つまりあのウサギちゃんは、高級品っていうわけだ。
「一千万でどうだ?」
理鶯の言葉に、左馬刻が顔を上げる。
「は?」
訝しげな左馬刻に、理鶯が微笑みかけた。
「銃兎は、左馬刻を気に入ったようだ。興味がなければ、一瞬でも、瞳を開いたりはしない」
「アイツ、動けんの?」
 ずっと、寝っぱなしなのかと勝手に思い込んでいたが、そういえば今まで見てきた観用少年・少女たちはみな、歩き、笑い、主人と何か会話をしていた。
「食べもんも食えんのか?」
 理鶯が茶を勧めていた事も思い出した。
「ああ、風呂もトイレも、一人でこなせる。食事は日に3度、人肌に温めたミルク。週に一度金平糖を与えると肌ツヤが良くなるぞ。全体的に疲れが見えてきたら専用の栄養剤もある。銃兎は育っているから、人間と同じ食事も摂れるが、嗜好品だ。ミルクさえ与えていれば、ことは足りる」
 左馬刻は頭を抱える。自分の家に銃兎がいる事を想像して、胸がぎゅっと熱くなった。コンクリ打ちっ放しの無機質な部屋だ。家具も最低限しかない。そんな空間に、あの、美しいものが存在する。それはなんと魅力的なことか。
「そいやさ、銃兎って名前は誰がつけたんだよ」
 銃なんて物騒な名前が付いている。けれどその名は、あのお綺麗な顔に不思議と良く似合っていた。
「前��主人が、な」
 含むように呟いた理鶯は、それきり理由を語ろうとはしなかった。
「返事は直ぐでなくていい。銃兎は気難しい。迷ったら顔を見に来るといい。眠っていても、銃兎は気づく」
 流石に、高級車が買える値段を即決することはできなかった。
「馳走になった」そう言い残して、左馬刻は店を出た。
*
「いいのか銃兎?左馬刻は帰ってしまった」     天蓋付きの中華風の寝台の上、銃兎は絹のシーツに包まって眠っていた。理鶯の言葉に、パチリと緑の瞳が開く。理鶯が差し伸べた手をとって、銃兎はゆっくりと起き上がった。
「理鶯、余計な事はしないで頂けます?」
手厳しい一言に、理鶯が苦笑する。
「大体、一千万だなんて、安すぎます。私を何だと思っているんです」
ぷぅと頬を膨らませて、銃兎が涙を滲ませる。元は、数億で取引されていた個体だ。自尊心が大いに傷つけられたのだろう。
「だが、銃兎。貴殿の日々のミルク代や服、装飾品など、一体いくらの持ち出しになっていると思う?」
 優しい声で理鶯が問う。責めているのではないことは、銃兎にはちゃんと伝わっている。けれど。
「……だから、嫌ですけど、ものすごく嫌ですけど、硝子窓で客引きしているじゃないですか」
「うん、それはとても助かっている」
 言いながら、理鶯は銃兎の頭を柔らかく撫でた。現実、銃兎を目当てに店に飛び込んで来る客は多い。しかし、銃兎はそんな客たちには決して目を開かなかった。銃兎を目当てに入って来た客の中には、店の常連になる者も多い。もともと銃兎を欲しがる客というのは、美術品の好事家が多いのだ。
「だが、銃兎、小官は貴殿をこのようなところで飼い殺しにしたくない」
 理鶯の言葉に、銃兎が泣きそうな顔をした。
「わたしは、ここに居たいんです。ずっとここに。ねえ、駄目ですか?お願い、理鶯」
理鶯の幅の広いチャイナ服の袖を掴んで、銃兎が懇願する。理鶯は銃兎を大切に扱っているが、それはあくまで商品としてだ。出来る事なら、商品としてではなく、銃兎を愛してくれる人間に届けたかった。
「もう、人間を愛するのは嫌なんです。もう、あんな思い、二度としたくない」
 理鶯にすがり付く銃兎の背を撫でて、理鶯は物思いに耽る。通���、観用少年というのは、愛に絶望すると枯れるものだ。しかし、銃兎は、一度枯れかけはしたが、こうして未だ美しく咲いている。それは、銃兎も気が付かない心の奥底で、人の愛を望んでいるからではないのか。
「左馬刻は、きっとまた来る。ゆっくり考えたらいい」
 そう言って、理鶯は銃兎を寝台に横たえた。椅子の背に脱ぎ捨てられたチャイナ服を、ハンガーにかける。
「おやすみ、銃兎。また明日」
 暗闇の部屋から、明るい四角に足を踏み出す理鶯を、銃兎は寝台の上から静かに見送った。
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hh-interior · 5 years ago
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【大きな屋根裏のある平屋のようなお家*U様邸】
三角屋根が特徴的なU様邸。大きな勾配天井は吹き抜けと屋根裏風のファミリーホールで繋がり開放的な空間となりました。たくさんの天窓から灯りが降り注ぐ明るいお家です。
木の梁がアクセントに効いたLDKは、アンティークな花柄カーテンやステンドランプでプロヴァンススタイルに。梁はあえて床色よりも濃く塗装し、古材風に仕上げました。花柄のカーテンはアルハンブラ製の輸入品です。
Koagariは1階の真ん中に配置し回遊可能な間取りに。間仕切り扉で個室にもリビングの一部にも使えます。メロンカラーのアクセントクロスが塗装のカラートーンにマッチしています。
Hallは壁付けにしたランプが温かみのある空間を演出。アールの下がり壁で優しくやわらかい印象になりました。
個室の扉にはステンドグラスを埋め込み、特別感のあるドアに。ひまわりのステンドグラスは細やかな模様と色合いが素敵です。
圧巻の広さのファミリーホール。お子様のプレイルーム、ドライルーム、書斎として多目的に活用できます。どんぐり型のランプやブルーグレーの花柄クロスでかわいらしく仕上がりました。
2019.8.29(THU) Gonohe
▼インテリアに関する情報、ご質問・ご要望は各店ショールームまで 八戸:http://www.heritagehome.co.jp/sns-hachinohe/ 三沢:http://www.heritagehome.co.jp/sns-misawa/ 仙台: http://www.heritagehome.co.jp/sns-sendai/
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moritamiw · 2 years ago
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◼️【moritaMiW】ポップアップショップ/丸井今井札幌本店 のお知らせ ◼️ ただいま丸井今井札幌本店 @maruiimai.sapporo_official にてmoritaMiWの期間限定ショップを開催いただいてます。 ハンカチやタオル、ステーショナリーや小皿、バッグ、ポーチ…ブランドのすべてが並んでいます。 ぜひいらしてください。 ◆丸井今井札幌本店 一条館5階タオル売場にて 2022年12月25日(日)まで …… さて、本日はその中からノートをご紹介させていただきますね。 A5サイズを少し正方形に近くした使いやすい大きさ。 ハードカヴァーはマットなコーティングがされていて、高級感ありつつ傷つきにくい仕様です。 鞄にポンッと放り込んでも開かないようにゴムバンド付きなのも推しポイントなのです。 中の紙は目に優しい生成色の無地紙。 自由にオリジナル使いしてください。 全部で3柄あって、それぞれにお話がついてます。 画像の水色の柄の絵は「空色の獏」という絵。 女性の髪のような森のような…ところを空色の獏がテクテク歩いております。 …… 「空色の獏」 ゆうべワタシの花の咲く森。 空色の獏が小径をゆったりゆったりと歩いておりました。 花の咲く森は怖い処なのか楽しい処なのか ワタシには皆目解んなかったけれど とにかく獏は鼻をヒクヒクさせて 面白そうに歩いているもんだから ワタシは不安をちょっと横に置いてみることにしたのです。 ダイジョブ。 ダイジョブ。 ダイジョブ。 って鳴くのはきっと蟲の声。 朝、目覚めてカーテン開けたら あの獏と同じ色の空と電線がある窓の外。 ワタシは少しだけ窓を開けて あの獏みたいに鼻をヒクヒクさせて世界を嗅いでみました。 #moritaMiW #森田MiW #もりたみう #モリタミウ #森田MiW✖️楠橋紋織 #楠橋紋織 #丸井今井札幌本店 #maruiimai #獏 #notebook #ノート (丸井今井札幌本店〈まるい〉) https://www.instagram.com/p/ClVF50sPOla/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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news-futatsukukuri · 2 years ago
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【futatsukukuri】エッセー商品紹介
商品ラインナップをデザイナー・谷内香衣のコメントとともにお届けします。
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「フレームバッグ」 額縁パッチワークのトートバッグ 真ん中はポケットになっていて、レースのカーテン生地を使っています よつかどに小さな石のビーズが付いています こんな風にお人形を入れてもかわいいな
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「巾着ショルダー」 タグ巾着のスマホサイズが出来ました 私は試作品を使ってみましたが、小さなお財布と鍵も入れる事が出来て日常使いにとても便利です💫 __________
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服飾ブランド・フタツククリがお送りするエッセー。 デザイナー・谷内香衣が潜在的に��響を受けていた「小花柄」を軸に 服飾小物や一点物のお洋服などを心を込めてお届けします。 どうぞ良き日にお越しください。
FUTATSUKUKURI エッセー 小花柄の夢 会期: 2022年12月16日(金)〜25日(日) 時間: 13〜19時 会場: NEW PURE +(大阪市中央区淡路町1-1-4) 電話: 06-6226-8574 *会期中無休 WEB Instagram __________
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