#耳取峠
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南さつま市坊津の耳取峠展望所の寒緋桜にて(^^)/ 春が始まりだしています🐤 #鹿児島 #鹿児島観光 #南さつま市 #南さつま市観光 #坊津 #耳取峠 #メジロ #寒緋桜 #japan #kagoshima (耳取峠) https://www.instagram.com/p/Coe3gjUP4WI/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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2024年12月21日(土)
今日は冬至、冬のピークであるが、言い換えれば峠を越えて明日からは春に向かう日でもある。朝から年内最終落語で天満天神繁昌亭へ向かい、夜はお風呂に柚子ならぬ奥川ファームの無農薬レモンを浮かべて疲れを癒す(モデルのツレアイには了解済み)。今年も残すところ後十日、幸い私も家族もコロナもインフも無縁な日々、このまま無事に年越ししたいと心底思うのだ。
5時30分起床。
洗濯開始。
いつも通り、彼女が息子たちの朝食を用意して、私が夫婦の朝食を準備する。何と言うことか、撮影を忘れてしまった。
洗濯物を干す。
珈琲を入れる。
昨晩露の新幸さんにメールで予約を入れた1/11(土)の落語会、定員20名と激戦であったが何とか予約を取れてホッとする。
彼女はキルト展で忙しいが、私は年内最後の落語会で天満天神繁昌亭へ向かう。
今日は朝席の<月刊笑福亭たま>、たま君が偉いのは朝席と夜席、両方で自分の会を展開し、しかも若年層の割引が高いこと。さすがマーケティングがしっかりしており、そのせいか、客席もほぼ満杯。詳細は省くが、笑利君の代演の米輝君が凄い、できることなら追っかけしたくなるような存在である。
阪急桂駅で下車、運良くすぐに市バス33系統が来てくれた。西大路七条で下りて買物に。
今春のキャンペーンでnanacoのアプリを入れていたが、今日の買物で残高6円、無事に役割終了、アプリを削除する。
明日に依頼していた奥川ファームの定期便が本日到着、次男が受け取ってくれていたので、開封して最低限の処理をする。
<もったいない本舗>に送付する段ボールのパッキング、結局今回は6箱となってクロネコに集荷を依頼する。蔵書整理もほぼ目処が付いて、春からは床の見える書斎が復活することであろう。
食材の関係で、今夜は鶏ムネ肉のカツに決定、早めに準備開始。
今夜もつれ合いは遅くなるので、息子たちの夕飯開始。
19時30分に彼女が帰宅、すぐに三男とともにココに点滴。
20時になって、ようやく晩酌開始、いつも通り🍶+🍷。
土曜は寅さん、録画モードで鑑賞する。
さくら(倍賞千恵子)は息子・満男のためピアノを買う夢を語るが、博(前田吟)はつれない。妹の願いを耳にした車寅次郎(渥美清)が手に入れてきたのはおもちゃのピアノ、それが原因で大ゲンカに…。再び旅に出た寅次郎は、北海道・網走で旅回りの歌手リリー(浅丘ルリ子)と出会い、意気投合する。生まれや育ち、現在の生業も自分の身の上に似ていて、妙に心に残る存在のリリー。地道に生きようと思い立った寅次郎は北海道の農場で働き始めるが、3日と持たず寝込んでしまう。迎えにきたさくらと柴又に戻った寅次郎は、ある日、とらやの店先でリリーとばったり再会。派手で美しいリリーが寅次郎に腕を絡める様を見て、柴又の人々はざわめく。家庭に縁が薄かったリリーはとらやでの家族団らんに感激。それを見た寅次郎はリリーへの愛しさが募り…
私はこの作品で、浅丘ルリ子がちゃんとした俳優であることを認識したのだった。
片付け、入浴、体重は50g増。
ハーパーのハイボール舐めながら日誌書く。
歩数が少し届かないが、まぁよしとしよう。
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@耳取峠
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各地句会報
花鳥誌 令和6年8月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和6年5月2日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
ホロホロと鍬に砕ける春の土 喜代子 亡き猫の声かと覚む春の闇 同 四姉妹母に供へる柏餅 由季子 薫風にうだつの揚る���町 都 青嵐甍の波をひとつ飛び 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
誰待つや水子地蔵と風車 毬子 愛宕山水の匂ひのして立夏 光子 湧水の鯉は真珠になりたくて きみよ 虎ノ門ヒルズそれとも蜃楼 光子 そそくさと愛宕詣での蟻ひとつ 三郎 新しきビルの隙間にある新樹 久 常盤木の落葉は坂の底の底 小鳥 日傘手に男の上る女坂 昌文 虎ノ門ヒルズ這ひ来し蚯蚓かな 美紀
岡田順子選 特選句
新緑の堂宇律する木魚かな 毬子 猿寺のへその緒めきし花藻かな 小鳥 耳に髪かけたる指が蝶を呼ぶ 和子 生まれては緋目高といふ名を借りて 小鳥 風車回らぬほどの風を受く はるか そそくさと愛宕詣での蟻ひとつ 三郎 馬駆けし愛宕山とは蝶ひとつ 俊樹 緑蔭のどれも過去向く拡声器 きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
壱岐対馬越えて釜山へ卯波立つ たかし 人を待つ昂りに似て卯浪立つ 孝子 春愁はもつれたあやとりの紐 修二 さまざまの風に出合つて若葉かな 孝子 逃水を追ひいくばくの疲労感 修二 しやぼんだま戦火の子らに向けて吹く 朝子 雲雀の巣踏み潰し行く重戦車 たかし チューリップ手足ふつくり乳母車 成子 八方に餓鬼うづくまる黄砂かな 朝子 糸柳お岩は細き指を垂れ 修二 十字架を仰げば風の薫りけり 孝子 廃校の土俵に花の散りしきぬ 朝子 卯波立つ沖を眺めて昼の酒 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月6日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
柿若葉母の天麩羅語り種 和魚 ふくよかに葉音さらさら風五月 聰 山匂ひ水音響く五月かな 三無 沖へ帆の連なりわくや風五月 聰 パステルを選びて描く若葉山 ことこ 浅間への雑木若葉の葉音きき ます江 岩に波飛び散る光五月来ぬ 秋尚 日に濡るる若葉見上げつ峠越ゆ 三無 鯖街道歩きしところ穂高見ゆ ます江 甥つ子の声変はりして五月来ぬ 美貴 風五月江の電海へ大曲り 三無 思ひやる言葉を選び五月の夜 貴薫
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
蛇穴を出でて振り向く顔もたず 雪 聞きに来よてふは椿の落ちる音 同 女踏む如���男の踏む椿 同 藤房の先に見えざる風生まる かづを 葉桜の神社まはりを鎮めをり 匠 アイリスを活けてサツチモ聞く深夜 清女 朧夜や母に逢ふ夢覚めやすき 笑子 荷を解けば青き匂ひの莢豌豆 希子 葉桜や旧制校のありし跡 泰俊 万象の輝く五月来りけり 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
やはらかき音の騒めき若楓 秋尚 結び目に母の思ひの粽解く 百合子 リハビリを終へて正午や街薄暑 恭子 中子師を偲ぶ五月の句座なりし 亜栄子 樟若葉風に煌めく音静か 秋尚 海の風山の風吹く捩花 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
何某の宿祢の杜やかかり藤 都 花祭瑞雲を呼ぶ釈迦の指 宇太郎 余花の雨幹の裂傷深くして 都 新緑にろ過され朝の息甘し 佐代子 手に湿り春椎茸の肉厚く 和子 葉桜の土手ゆく白き犬曳いて 悦子 老眼のルーペで愛でし花楓 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
後遺症無いとは云へず蝶の昼 清女 福助の貯金箱あり五月晴 ただし 手鏡の髪なで乍ら土用干し 世詩明 戻り来て剥がす日めくり四月馬鹿 ただし 花卯木友と語りし通学路 英美子 金色の囲む在所や麦の秋 みす枝 夏来るシャンパングラス走る泡 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月13日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
紙灯篭復興祈る輪島初夏 みえこ 初夏の列車に恐竜描かれし あけみ 花水木街路にいつか咲いてをり 令子 折紙の金環太き鯉幟 実加 祭町子等のよろこぶ菓子選び 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月14日 萩花鳥会
鴨ゆきて燕戻りて川住居 祐子 花の雨抜けて仮眠の深夜便 健雄 残されしボール一つに浅き夏 俊文 更衣する間も無くて半袖に ゆかり 水田の浅瀬泳ぐや鯉のぼり 明子 急階段挑みて天守若葉風 美恵子
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令和6年5月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
扁額の一字が読めず梅雨の宿 世詩明 若葉風わらべ地蔵をつつみゆく 笑子 お精舎の風鐸ゆらす梅雨晴間 同 路地裏をしよぼしよぼ歩く梅雨鴉 希子 獣めく匂も混じる草いきれ 泰俊 古りたりな三国祭の誘ひ文 雪 牡丹を切りて一日の贅とせん 同 牡丹に待てば現れさうな人 同 退屈を欠伸してゐる葱坊主 同 椿落つ終の一花と云ふ色に 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月17日 さきたま花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
葉桜や百葉箱はぽつねんと 月惑 黙祷の黙に扇子の音止まず 裕章 古民家も古木も包む若葉風 泉 せがまるる父の草笛音の出ず 康子 十薬の干されしままに家売られ 順子 蚕豆は反重力の世界とも 月惑 朝日受け夜来の雨に光る薔薇 彩香 道をしへ誘はれ来れば妓楼跡 裕章 薔薇一輪仏に供へ留守頼む 順子 祝酒ちよこに浮き立つ夏の月 同 結跏趺坐する禅堂に蚊は廻る 月惑 お互ひにためらひもなき更衣 八草 母の日や乳を持ちたる大銀杏 紀花 菖蒲田に挙るサーベルの直線 月惑 五月晴れ複々線の縄電車 良江 母の日の無口の兄の大あくび としゑ 掌に乗る子猫にも髭のあり みのり 夏館蒼穹の野へ開け放つ 裕章
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
万緑を深く映して奥の池 亜栄子 師の句碑に句友の墓碑に黒揚羽 三無 沙羅の花散りて積れる密寺かな 慶月 雨雲の近づく気配蝸牛 久 草むらに昼顔溺れさうに浮く 秋尚 十薬の花もかをりも無縁墓と 亜栄子 D51は永遠や夏野に据ゑられて 久子 新緑のメタセコイアは太古の香 久子 蛙田に昭和の声の残りたる 千種
栗林圭魚選 特選句
子等のこゑ池塘に生るる太藺かな 幸風 鮮やかな青翻へし瑠璃蜥蜴 久 一面の青草の丘登り急 軽象 師の句碑に句友の墓碑に黒揚羽 三無 沙羅の花散りて積れる密寺かな 慶月 暗闇坂薄暑の袖を捲りけり 斉 老鶯やメタセコイアの闇を抜け 亜栄子 新緑の森に山鳩奥の池 経彦 隠沼の静寂破りて蟇 芙佐子 新緑の木漏れ日揺るる年尾句碑 経彦 寺出でて定家かづらの香に触るる 秋尚 キャンパスに続く山道夏薊 久子 花卯木森の昏さに寄り添ひし 斉 草むらに昼顔溺れさうに浮く 秋尚 峠路に仰ぐ卯の花空重く 芙佐子 寄せ墓に甘茶の花の日和かな 亜栄子 ひと筋に姫沙羅の花すつと落つ 秋尚 隠沼にメタセコイアの新樹光 幸風 お絵描きの子らや泰山木の花 斉 野薊のぱつと明るき母の塔 文英 日ざしきて暗さ呼び込む新樹蔭 千種 石仏の眼にも優しきさつき雨 軽象 切株に園児忘れし夏帽子 経彦 菖蒲田の間に間に低き白菖蒲 久子 新緑のメタセコイアは太古の香 同 走り茶を呷り民話の始まれり 経彦 堂前に沙羅の花散る僧の留守 亜栄子 初夏の少し気怠き二人の歩 斉 庫裡裏に零れる実梅夥し 芙佐子 蜘蛛の囲の元禄仏の肩に揺る 慶月
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和6年5月22日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
覗くまじ編笠百合の笠の中 雪 伊勢神楽牡丹の庭に舞ひ納む 同 大蚯蚓這ひ出て暗き穴残る 同 花は葉に店に残りし桜餅 ただし 大杉も岩も当時の夏の庭 洋子 かづら橋渡りきりたる夏の声 紀代美 万緑に全身染まる露天風呂 みす枝 胸奥は語らぬことに草を引く 一涓 春炬燵触れたる足のなかりけり 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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古材調達@リビセン
先週は金曜日から軽井沢へ。北軽井沢の山荘の現場は、2月末から木製サッシュの取り付けが進み、ぐっと家らしくなっています。
前の週の現場は2月の大雪の時より雪深くなっていました。20cmの雪が2回降ったとのことで、現場の雪かきも大変なことです。金曜日、浅間山も真っ白でした。
1週間で、内部の羽目板が着々と進んでいました。
打合せ事項が満載ですが、金曜はまず電気屋さんとの打合せ。「もう施工してしまった」という箇所があるなかで、その場でより良い方法を考え指示を出す形で決定していきます
そして翌日土曜日、今回のメインイベント、「土に還る家にしたい」という命題のもと、これまで3回ほど訪れたリビルディングセンター、いよいよ現実的が古材調達へ。昨年の5月、11月に続き、3度目の訪問。
今までは、古材をどう使うかお施主様とのイメージ共有のための訪問でしたが、今回は材を購入する最終段階。前回、このブログでもご紹介しましたが(『リビセン再び、上諏���へ』)リビセンデザインの周辺施設を見学し、頭の中で設計図を描いたものの、いざ、古材置き場に立つと、どう選んで、どう使えばいいのやら。。。
というわけで、スタッフの方に頼ります。
耳のついた無垢材を洗面カウンターに使いたい、とか、固定棚に使いたいということを伝えると『詳しい工場スタッフを呼んできます』と登場したナカジマさん。この日、たまたま作業場からこちらに来ていたとのことで、アドバイスをもらいながら、たくさんの材の中から寸法がとれそうなものを物色。お施主様とは写真でイメージを共有していたものの、いざたくさんの古材を前に、仕上がりのイメージが掴めないのでは?
というわけで、近隣の施設の見学へ向かうことにしました。ちょうどオープンしたばかりという麻婆豆腐屋さんがあるというので、ランチを兼ねて向かった先がこちら。
4軒長屋を改修したという複合スペース『ポータリー』、街の中にふいにあらわれる広いデッキスペースが素敵です。
中の様子。
細い廊下の途中には2階への階段が。デザイン事務所などが入っているとのこと。
麻婆豆腐屋さんに入り、お店のテーブルや棚、
共用部の洗面を見たりして、お施主様とイメージを共有しつつ、
美味しい麻婆豆腐をいただきました。
昨年から、自分の事務所も兼ねたシェアスペースとなる場を探し中ですが、外部空間が共有の場として充実しているのが、とても理想的な空間でした。戻って調べて見たら、リノベ前の様子を発見しました。(web komachiさんより)
こうも素敵に変身を遂げる技量にひたすら感心する。。。
その後、ambirdさんに立ち寄って内部を見せてもらい、fumiさんでお茶しながら打ち合わせをして、リビセンに戻り、再びナカジマさんに頼る。たくさんの材の中から探し出すのも一苦労、ポータリーの棚はどんな材はどんな材か、などとたずね���色々とよさそうな材を探し出してくれた中からお施主様が最終決定へ。
洗面や固定棚などの造作材を決定したあとは、テーブルとキッチン作業カウンターの材探しに移ります。リビセン店内にある、ワークショップで製作できるテーブルを参考に、
再び古材売り場へ、ナカジマさんに力を貸していただきながら、実際に並べてみて、作り方の相談にものっていただく。
パッチワーク材もセレクト。
適当な材に出会えなかったら通常の形で作る、ということで進めていた今回の古材利用。古材が素敵に活きる空間に仕上げられるか、使いあぐねそうなプレッシャーもありましたが、心強いアドバイスのおかげで具体的な作り方を頭に浮かべながら、リビセンをあとにしました。
軽井沢と諏訪の途中には中山道の最高地点の和田峠があります。新道側を超えるもののなかなかのカーブ道ありの2時間弱の長い道のり、長野県広いですね。東御の道の駅での休憩時、いつもと���側の黒斑山側からの夕暮れの浅間山がきれいでした。
翌日曜日は、お施主様と共にリビセンで入手した資材の搬入と、現場の進捗確認や、家具製作の打合せへと続きます。
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初篇 その十四
北八は、苦々��い顔で、 「ふん、今夜は、一段とつまらない。やけどをするは、金は取られるは、その上、一人で寝るなんて。本当に今日はついてない。」 「ハハハ。まあ、そのうちお前にもいいことがあるさ。 なんか、どきどきしてきた。 ハハハ、おや、北八、もう寝るのか、もっと起きていたらどうだ。」
北八は、弥次郎兵衛の言葉にも耳をかさず、ふて寝する。 さて、残された弥次郎兵衛は、どきどきしてどうも落着かない。 「それにしても、遅い。」 さては、先に金をやったのは、失敗だったか。 と、気が気でなくなり、たまりかねて、やたらに手を叩き、旅館の者を呼んだ。 やって来たのは、この旅館のおかみだ。 「はて、お客さん。こんな時間にどうしました。」 弥次郎兵衛は、それでも、 「いや、おかみさんでは、わからないだろう、さっきの女中に、ちょっと頼んでおいたことがあるんだが、呼んで来てくれないか。」 おかみさんは、ちょっと考えて、 「ああ、あなたがたの世話をしていた女中は、別の旅館から応援で来てもらっていたもので、もう、帰らしました。」 「ああ、そうか。そんなら、まあ、いいか。」 「はい、じゃ、お休みなさいませ。」 と、がっかりした弥次郎兵衛を尻目に、おかみさんは台所の方へ行ってしまう。
この様子を、たぬき寝入りしていた北八が聞きつけて、 「ワハハハ。」 と、思わず笑いだす。 「ふん、畜生め。何がおかしい。」 「ハハハ。いや、これで、安心して寝られる。ハハハ。」 「勝手にしやがれ。」 と、毒づく哀れな弥次郎兵衛は、北八がしくんだこととも知らないで、女中にやった金がもったいないやら、恨めしいやら、で、結局、独りで寝るはめになった。 この様子をおかしく見ていた北八は、一首詠む。
胡麻塩の 弥次郎だまされ 塩をふく 女はこわいと 塩をまく
そのうちに二人とも寝てしまった。
一夜明けて、遠くの寺の鐘の音が聞こえる。 二人は、起き出して、そこそこにしたくして旅館を出れば、今日はかの有名な箱根八里越えである。 道も心なしか上り坂になってきたようだ。 石の高く飛び出た石畳の道を行けば、風祭の里(小田原市)も近くなって、弥次郎兵衛は一首詠む。
人の足に 踏めど叩けど 箱根山 漆塗り箱なる 石高の道
さて、ここ湯本(箱根)の宿場というのは、両側の店の作りがきらびやかで、どこの店でも美人の店員が、二、三人でて、名物の箱根細工の挽き物を売っている。 北八は一軒一軒覗いて店員をみると、 「おやおや、みんな病気なのかね。どいつもこいつも、顔と手が真っ白だ。」 「せっかくだ。何か買っていこうか。」 弥次郎兵衛も店のぞいてまわり答える。
<飲まず食わず> 「いらっっしゃいませ。お土産はどうですか。」 の声につられて振り向くと、そこには弥次郎兵衛の好みの女店員がいる。 それとばかりにこの店に入ってみる。 「これこれ、すまんが、そこにあるものを見せてくれ。」 と言うのに、その女店員は、知らん顔で、他の客の相手をしている。 と、奥から婆さんが走り出てきて、 「はいはい。これですか。」 と、弥次郎兵衛が指し示したものを取り上げる。 弥次郎兵衛は、女店員ではなくて、婆さんが対応に出て来たのがきにいらない。 「ええい、それじゃね。おい、そっちのを見せてくれ。」 と、わざと、女店員の側をさしていう。 「はいはい、これですか。」 器用に立ち回って、先程の婆さんが、弥次郎兵衛の指し示したものを取り上げる。 弥次郎兵衛は、舌打ちして、 「違う、違う、それでもねえ。ほれ、その店員が手に持て持っている物だ。」 それで、やっと、この女店員が弥次郎兵衛に方を向いた。 「はいはい、お煙草入れでございます。」 と、弥次郎兵衛は、やっと、女店員��話が出来たことがうれしくて、 ニコニコしながら、 「そうそう、それのことだ。で、それはいくらだ。」 それに答えて、その女店員、 「はい、三百文でございます。」 弥次郎兵衛は、まだニコニコしたまま、 「それは、かなり高い。百文でも、高いと思うが。」 と、いうのにも、女店員動じず、 「あなた様の言いようは、ひどいです。 私どもは、お客様があっての商売、高い値段は言ってはおりません。 それだけ、いいものを売っているのでございます。」 と、弥次郎兵衛をじろりと見る。弥次郎たちまちデレっとなって、 「そんなら二百文でどうだ。」 「男らしくもない。もうちょっと、おだしくださいませ。」 と、おかしくもないはずなのに、満面の笑顔を作って、 弥次郎兵衛をまたじろりと見る。 弥次郎兵衛は、そんな女店員の様子にすっかりのせられて、 「そんなら三百、三百文でどうだ。」 「まだまだ、もっとでございますよ。オホホホ。」 と、いう、女店員の様子にますます乗せられてつい、 「ええい、面倒だ。四百文だ。これ以上は出せない。」 と、四百文をそこに放り出して煙草入れを買い取る。 弥次郎兵衛は、満足げに 「北八、さあ、行こうか。」 それを見送る女店員。 「ありがとうございました。また、きてください。」 と、手を振っている。
その様子をずっと見ていた北八は、 「ハハハ。初めてみた。三百の物を四百で買うとは、珍しい。」 それに答えて、弥次郎兵衛は、得意満面で、 「それでも惜しくはねえぞ。あの娘は、俺に気があったみたいだ。」 「いいきなもんだ。ハハハ。」 「それでも最初から、おれの顔ばかり見ていたぞ。」 「当たり前だろう。あの娘の目を見たか。ありゃ、斜視だ。 目線があってなかったろ。ハハハ。」
「おっと、あの音はなんだ。」 と、北八は、僧侶がならす杖の先についた鐘の音を聞いて言うと、 弥次郎兵衛が、目を凝らしてみて、 「どうやら、賽の河原へついたようだ。」 と、言いながら、続けて一首詠む。
辻堂は さすがに賽の かはら屋根 されども鬼は 見えぬ極楽
これは、普通、道端の辻堂は、みすぼらしい草屋根なのに、ここでは当時なら贅沢な瓦屋根だったのを、賽の河原とかけたのである。 それに答えて北八も一首詠む。
お茶漬けの 賽のかはらの 辻堂に 煮しめたような 形の坊さま
その先に、あの箱根の関所がある。そこも、手形のおかげで難なく通れた。 箱根の峠の宿場に旅館を見つけると、二人は箱根まで来たことを祝して、よろこびの酒をくみかわした。 で、弥次郎兵衛が、一首詠む。
春風の 手形をあけて 君が代の 戸ざさぬ関を 越ゆるめでたさ
これで、初篇は終わりです。
二篇に続きます。
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南さつま市坊津の耳取峠へ(^-^)/ 昨年、寒緋桜が咲く時期、早朝に訪ねて、魅了されたこの場所🌸 今年も早起きして訪ねてきました🌅 ここは風景だけでなく、陽が昇ったあとは、メジロやヒヨドリの撮影も楽しめるのが最高でして、結局、到着から4時間ぐらいこの場所におりました💧 あと、全く関係ないですが、Instagramの複数枚投稿が不具合でうまくいかなかったのですが、アプリのアップデートにより改善されたので安心しました💧 ※ご一緒の撮影となった @y.y835 さん、一部場所を占拠してしまいごめんなさい💦 そして、楽しい時間を共有させて頂きありがとうございましたm(__)m #鹿児島 #鹿児島観光 #南さつま市 #南さつま市観光 #坊津 #耳取峠 #メジロ #寒緋桜 #japan #kagoshima (耳取峠) https://www.instagram.com/p/CocYE-vvF7S/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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各地句会報
花鳥誌 令和5年7月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年4月1日 零の会 坊城俊樹選 特選句
一葉の家へ霞の階を きみよ 春昼や質屋の硝子なないろに 小鳥 伊勢屋質店今生の花とほく 光子 菊坂に豆煎る音や花の昼 和子 一葉の質屋は鎖して春の闇 はるか 本郷の亀を鳴かせて露地住ひ 順子 おかめ蕎麦小声で頼み万愚節 いづみ 文士らの騒めきとすれ違ふ春 三郎 一葉を待つ一滴の春の水 光子 物干に如雨露干したり路地の春 和子
岡田順子選 特選句
一葉の家へ霞の階を きみよ 金魚坂狭め遅日の笊洗ふ 千種 菊坂の底ひの春の空小さし 光子 坂の名のみな懐かしき日永かな 要 赤貧の欠片も少し春の土 いづみ 本郷の間借りの部屋の猫の妻 同 質店の中より子規の春の咳 俊樹 止宿者の碑のみ残すや蝶の舞 眞理子 本郷の北窓開く古本屋 きみよ かぎろひの街をはみ出す観覧車 いづみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月1日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
花冷の背後より声掛けらるる 美穂 幾年も陽炎追ひて遊びけり 散太郎 濃きほどに影のやうなる菫かな 睦子 化粧水ほどの湿りや春の土 成子 画布を抱き春の時雨を戻りけり かおり 昼月は遠く遠くへ花満開 愛 シャボン玉の吹雪や少女手妻めく 勝利 麗かや砂金三つ四つ指の先 睦子 成り行きの人生かとも半仙戯 朝子 鞦韆の羽ばたかずまた留まらず 睦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月3日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
花吹雪卍色と云ふが今 雪 花冷に後姿の観世音 同 そぼ降りてひと夜の契り花の雨 笑 観世音御手にこぼるる花の寺 同 お精舎やこの世忘れて糸桜 啓子 逝きし友逢へないままに朦月 同 裏木戸を開ければそこに花吹雪 泰俊 御仏と咲き満つ花の句座に入る 希 愛子忌や墓にたむけの落椿 匠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月5日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
縋りつく女心や桃の花 世詩明 肌寒く母の手紙はひらがなぞ 同 啓蟄や鍬突き立てし小百姓 同 日野河原菜花の香る祭りかな ただし 菜の花や石田渡しの蘇る 同 雛祭ちらしずしそへ甘納豆 輝一 ぽつたりと落ちて音なき大椿 清女 花吹雪路面電車の停車駅 同 大拙館椿一輪のみの床 洋子 花の山遠く越前富士を抱�� 同 吉野山日は傾きて夕桜 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月6日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
花の下天をを仰げば独り占め さとみ 春陰やおのが心のうつろひも 都 春耕や眠りたる物掘り起す 同 左手の指輪のくびれ花の冷え 同 園児等のお唄そろはず山笑ふ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月8日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
膝をまだ崩せずにをり桜餅 秋尚 登り来て本丸跡や花は葉に 百合子 葉脈のかをり弾けて桜餅 同 桜餅祖母の遺せし会津塗り ゆう子 売り声も色つややかに桜餅 幸子 木洩日の濡れてゐるやう柿若葉 三無 春愁や集ふふる里母忌日 多美女 伍しゐても古草の彩くすみをり 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月10日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
心経をとなへ毛虫に火をはなつ 昭子 マンホール蓋の窪みに花の屑 昭子 栄螺売潮の香りを置いてゆく 三四郎 金の蕊光る夕月てふ椿 時江 禅寺の読経流るる花筏 ただし 若者の髭に勢や麦青む みす枝 龍が吐く長命水の春を汲む 三四郎 花吹雪受けんと子等の手足舞ふ みす枝 土器の瓢の町や陽炎へり ただし 海遠く茜空背に鳥帰る 三四郎 紅梅のことほぐやうに枝広げ 時江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月10日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
片棒を担いでをりぬ四月馬鹿 三無 薬草園とふ門古りて松の花 和魚 だんだんと声ふくらみて四月馬鹿 美貴 四月馬鹿言つて言はれて生きてをり 和魚 松の花表札今も夫の居て 三無 白状は昼過ぎからや四月馬鹿 のりこ 一の鳥居までの大路や松の花 秋尚 松の花昏き玄関応へなく 美貴
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月11日 萩花鳥会
京よりの生麸草餅薄茶席 祐 不帰のヘリ御霊をおくる花筏 健雄 ただ一本ミドリヨシノの世界あり 恒雄 堂々と桜見下ろす二層門 俊文 猫に愚痴聞かせて淋し春の宵 ゆかり 杵つきの草餅が好きばあちやん子 美惠子
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令和5年4月13日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
便り待つポストをリラの房覆ふ 栄子 畑打つや鍬を担ひし西明り 宇太郎 軒下の汚れし朝や燕来る 都 桜蕊降る藩廟の染まるまで 美智子 桜蕊降るももいろの雨が降る 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
何氣なく来て何気なく咲く花に 雪 神御座す杜の新樹に聞く鳥語 かづを 老の踏むひとりの音や落椿 ただし 野辺送り喪服の背に花の蕊 嘉和 夜ざくらのぼんぼり明り水あかり 賢一 喝采の微風を受けて花は葉に 真喜栄 生きる恋はぜる恋ととや猫の妻 世詩明 葉ざくらに隠されてゐる忠魂碑 同 眩しさを残して花は葉��なれり かづを
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月16日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
極大と極小としやぼん玉宙へ 要 穴出でし蟻の列追ふ園児どち 経彦 頰をつく石仏の春愁 貴薫 酸模を噛む少年の今は無く 要 稲毛山廣福密寺百千鳥 同 瑠璃色を散らし胡蝶の羽ばたきぬ 久 春陰の如意輪仏へ女坂 慶月 棕櫚の花年尾の句碑に問ひかくる 幸風 朴の花仏顔して天にあり 三無
栗林圭魚��� 特選句
蝌蚪の群突くひとさし指の影 千種 峠道囀り交はす声響き ます江 美術館三角屋根に藤懸かる 久子 こんもりと句碑へ映るも若葉かな 慶月 微かなる香りや雨後の八重桜 貴薫 朝の日に濃淡重ね若楓 秋尚 落ちてなほ紅色失せぬ藪椿 経彦
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月19日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
通勤のバスから見ゆる日々の花 あけみ 花馬酔木白き房揺れ兄の家 令子 亡き鳥をチューリップ添へ送りけり 光子 偲ぶ日の重く出たるや春の月 令子 あの頃の記憶辿って桜散る 美加
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月19日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
矢車の音きしみ合ふ幟竿 世詩明 風よりも大きく揺れて糸柳 啓子 花万朶この世忘れて花の下 同 あたたかやお守りはねるランドセル 同 甘き香の女ごころや桜餅 千加江 春場所や贔屓の力士背に砂 令子 落椿掃きゐてふつと愛子忌と 清女 春の虹待ちて河口に愛子の忌 笑子 散りそめし花の余韻も愛子の忌 同 城の濠指呼の先には花の渦 和子 花筏哲学の道清めたる 隆司 故郷の深き眠りや花の雨 泰俊 山道の明るさを増す百千鳥 同 ほころびて色つぽくなり紫木蓮 数幸 花桃に出迎へられて左内像 同 瞬きは空の青さよ犬ふぐり 雪
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
忠直郷ゆかりの鬱金桜とぞ 雪 椿てふ呪縛の解けて落つ椿 同 春愁や言葉一つを呑み込んで 同 御襁褓取り駈け出す嬰や麦は穂に みす枝 鶯の機嫌良き日や鍬高く 同 ただならぬ人の世よそに蝌蚪の国 一涓 あの角を曲つてみたき春の宵 日登美 春の果次も女に生れたし 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月21日 さきたま花鳥句会(四月二十一日)
清冽な水は山葵を磨き上げ 月惑 連写して柳絮の舞ふを収めけり 八草 天守閉ぢ黙す鯱鉾朧月 裕章 行き先は行きつく所柳絮飛ぶ 紀花 南無大師遍照金剛春の風 孝江 揚浜に春の虹立つ製塩所 とし江 柳絮飛ぶ二匹の亀の不動なり ふじ穂 筍堀り父編むいじこ背負ひ来て 康子 花吹雪ひと���まりの風の道 恵美子 満天星の花揺らしつつ風過ぎる 彩香 夢叶へ入学の地へ夜行バス 静子 啓蟄やピンポンパンの歌聞こゆ 良江
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令和5年4月23日 月例会 坊城俊樹選 特選句
真榊はあをばの中に立つてをり いづみ 水の上の空のその上鳥の恋 順子 掌の中の春の蚊深き息を吐き 炳子 耳朶を掠めて蝶のうすみどり 緋路 仕上りの緻密なる蒲公英の絮 秋尚 手放して風船空へ落ちてゆく 緋路 春の闇より声掛けて写真館 順子 零戦機日永の昼の星���ふ ゆう子
岡田順子選 特選句
玉砂利の音来て黒揚羽乱舞 和子 耳朶を掠めて蝶のうすみどり 緋路 仕上りの緻密なる蒲公英の絮 秋尚 風光る誰にも座られぬベンチ 緋路 緋鯉とて水陽炎の中に棲み 俊樹 手放して風船空へ落ちてゆく 緋路 蜂唸る神の園生に丸き井戸 炳子 佐保姫は夜に舞ひしか能舞台 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年4月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
つかまへし子亀に問へり亀鳴くか 美穂 亀鳴くや拷問石にある哀史 ちぐさ 亀鳴ける賓頭盧尊者撫でをれば 美穂 板の戸に志功の天女花朧 喜和 連子窓に卯の花腐し閉ぢ込めて かおり 大人へのふらここ一つ山の上 光子 ふらここや無心はたまた思ひつめ 同 ふらここや関門海峡見下ろして 同 さくら貝ひとつ拾ひて漕ぎ出しぬ かおり 午後一時直射にぬめる蜥蜴の背 勝利 花冷の全身かたき乳鋲かな 睦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
落城の如く散りたる落椿 世詩明 三人の卒業生以て閉校す 同 双葉より学びし学舎卒業す 同 氏神の木椅子はぬくし梅の花 ただし 鳥帰る戦士の墓は北向きに 同 草引く手こんなですよと節くれて 清女 雛あられ生きとし生くる色やとも 洋子 官女雛一人は薄く口開けて やす香 露天湯肩へ風花ちらちらと 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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ノクチルと人形たちの森
「こわいね~円香せんぱ~い」 「怖くない」 「だだだ、だいじょうぶだよ、円香ちゃん……怖くないよ……」 「怖くない」 「ふふ。閉じてる。めっちゃ目」 「閉じてない」 人形。 果たして円香は目を閉じている。車はゆっくり進んでいる。追跡者の姿はない。瞼の裏っかわの無間の闇を円香はさまよっている。人形。時おりちらちら光が見える。円香は光に近づく。人形。白樺の樹皮の肌。底の無い眼窩。痩けた頬。人形。口らしい意匠はない。鼻筋は削がれたよう。人形。円香は目を閉じる。しゃがみこみ耳を塞ぐ。人形。人形。人形……。 「樋口」 透が呼ぶ。 円香はゆっくり目をあける。 透はそこにいる。後部座席、円香の隣に座っており、平常なにも変わらないかのようなほほえみを投げかける。 「大丈夫だよ。樋口」 なにが大丈夫なのか。円香は思う。人形。透の背後、車外の闇林を白い影がよぎる。影はどこへも追ってくる。円香がなによりおそろしいのは、いま人形は動かなかっただろうか? 林道に並べられた白い人形たちは、その眼窩の闇に、私たちを捕えては見ていないだろうか。 手を掴む。 透は温かい。 フラッシュバック。
*
なんかたまったから。 透が言ったときもう手遅れだった。円香には珍しくない。なるわアイドル宣言がそういう取り返しのつかない事態のトップランナーで、今度はそれに及ばないもののトップスリー入りが予想された。求。自動車。譲。百万円。 「イエー」 透が百万円で車を買ってきた。 「あは~」「とと、と……」「……」 円香は驚かなかった。むしろ感心した。書類手続きとかよくひとりでできたな。それであとあと契約書のたぐいを確認しようと決めた。車は青く、ぴかぴかだった。海の色だと素直に感じた。 「行こうよ」 ということで旅に出た。 実際にはおよそ一ヶ月後、二泊三日の旅程に休みを合わせ、ぴかぴかの青い車で海を目指した。ところが海にはすぐ着いた。三十分かからなかったかもしれない。車を買って海へ行く。子どものころからの大きな夢が叶ったというのに感動はいまいちだった。それは車のどこかからがりがり異音がひっきりなし聞こえていたからかもしれない。あるいは夏休み時期の海がフェスさながら騒々しく乱れていたからかもしれないし、彼女たちが夢の海原をとっくに飛び越えていたからなのかもしれない。とりあえずラムネを買って飲んだ。ラムネはぬるく、長居せず海を出た。 「な、なんか……」小糸は言う。それから、二の句を継げず黙ってしまう。 「これからっしょ」後部座席。透が言う。「いけるいける」 「がっかりしたね~」助手席の雛菜が言う。言葉のわりに口ぶりは明るい。「ホテルの海もこんなんじゃなかったらいいな~」 円香は何も言わず、スマートフォンを見た。目的地は西の海のそばのリゾートホテルだった。ウェブサイトの”プライベートビーチ”は宿泊者専用となっておりイメージフォトの加工済のブルーはいかにもリゾートらしく見えるが、実際のところはわからない。だから円香は何も言わなかった。アメの袋を開き、後部座席から配った。 つまり、運転手は小糸だ。 どうして小糸が運転手かといえば、雛菜の推薦だった。雛菜と小糸は、ほんの数ヶ月前いっしょに運転免許を取ったばかりだった。透と円香はそれぞれ免許を取って一年以上をペーパードライバーで過ごしていたから、提案は即時可決となった。透が運転をしたかったかはわからない。しかし円香は正直なところ、透の動かす車には乗りたくなかった。免許を取れたのだから偏見だと理解しつつも、無事に降りられるイメージがどうしても湧かなかった。 道すがら海を何度も見た。山を越え谷を越えトンネルをくぐれば海海々。海はもはやSRだったが、道中楽しいことはたくさんあった。海沿いのサービスエリアでは海岸を散策してみた。きめのあまり細かいため踏んだ砂が鳴くということだったが、ついぞ声はしなかった。けれど足湯はよかった。波打ちぎわのほど近くで足湯を味わうのはなんとも心地がよく、うっかり将来はこのあたりで暮らそうかと盛り上がった。おまけにサービスエリアのイベント広場では地元のアイドルがイベントをしていたものだから、ついつい六十分の出番とヒーローショーのゲスト出演までを見届けてしまい、時間は遅くなった。 夕暮れが迫っていた。 夏深い、暮れのことだった。 「こ、これ、合ってるよね……?」 小糸の不安はあらわだった。 「ん~? 大丈夫だよ~」 雛菜は普段通りの様子だが、まわりをよく見た。それは車が山へ山へ、山の中へ彼女たちを連れていくからだった。 数十分ほど前、下手の太平洋が消えた。海を背に、丘を登ると青青ススキの原が広がり、原を過ぎて山に入った。山はいつ終わるとも知れなかった。 「越えたらホテルだから」 円香はグーグルマップをたしかめて言う。ほんの少し縮尺を広げると、車は山中取り残された。縮尺を狭めると、すぐにホテルは消えてしまった。だから円香は指で山道をたどり、ホテルまでたどり着こうとするのだけど、途中で道を見失った。どうしても、何度くり返しても同じだった。ついに日が沈むとあたりは暗くなり、すると街灯が、深橙の灯で心許なくも道のあることを教えた。 しかしそれもすぐ消える。 山林を縫う道は見る見る細くなる。つづら折りに山を登り、片側は崖だ。木々が鬱々繁っていた。ガードレールはなく、ぽつぽつ立ったポールが命を守った。いくつかは折れ曲がり、なまなましくも反射板が砕けていた。 ぴゃあ~~……。 小糸の悲鳴が崖を落ちる。 「来る」 透が言う。 「小糸ちゃん。後ろから来てるっぽい」 それで円香は見た。光が、通ってきた山道を登ってくる。ヘッドライトだ。ものすごい速さだった。つづら折りの坂を信じられないほどなめらかな軌道で光は追いかけてきた。 「どこかで譲っ��ゃお~」 雛菜がのんびり言うのは、小糸を救うようだった。 しかし山道はあまり細い。つづら折りの坂を終えても左手には崖が続いた。逆側では、白樺の木々が道路の際を浸食していた。途端に光は追いついた。それは車だった。車は白かった。運転手は見えなかった。 「まぶしい~」 「っていうか煽ってるんでしょ」 「ぴぇ………………」 光は近付いた。近付き、離れ、また近付いたが相手は見えなかった。 「ゆっくりいこ、安全だいいち~」 「う、うん……」 小糸は怯えていた。視線はうろうろ定まらなかった。あるいは事故につながるかもしれない。円香は思った。いっそクラクションでも鳴らしてくれたほうがわかりやすい。しかし車は離れて近付きをくり返すばかりで、見ていると一定の時間を刻んでいた。六秒。きっかり六秒ごとくり返される車の動きは何か蠕動じみて感じられ、どうにも不気味だった。 「あった……!」 そのうち待避所があらわれ、小糸は慌てて車を入れる。白い車は彼女たちを追い抜くとまたたく間森に消えた。 「小糸ちゃんがんばったね~」 雛菜のいたわりに、小糸はほっと息をつく。 「撮れてるの?」 「ばっちり。たぶん」 透は車載カメラを見てこたえる。念のため円香がたしかめると、録画ランプが赤く点灯していた。 「小糸。ゆっくり行っても一時間かからないから」 円香は言う。 車はふたたび走り出す。 山道は続く。曲がりくねり、底無い崖と樺の深林とに挟まれ、車はいかにも孤独らしい。 円香は電話をかける。チェックインが遅れている。夕食には間に合うようだ。明るくはきはきしたホテルスタッフとの会話に、いくらか心の落ち着くのを感じた。森は暗かった。樹冠が月を隠していた。 「ぴゃっ!」 とつぜん、小糸が悲鳴をあげる。背後からヘッドライトが照らした。円香は振り返り、まっ白い光をまともに浴びる。 六秒。 光は離れる。 六秒してまた近付く。 「さっきのじゃん」 透が言う。 車は白い。 「お、おお、追い越す場所、なかったよね……?」 「でもあったんでしょ~?」 「……悪質」 円香は苛立った。追跡者の行為よりかは、その不気味さを感じる自身に苛立つようだった。 「すみませんが、煽り運転をされています」 円香は電話をした。一一〇。現状を解決してくれるはずもないが、少なくとも罰してくれるかもしれない。相手はきびきび話した。 『場所はどちらですか』 「木折峠を入って一時間……Nホテルに続く山道です」 『わかりました。向かいます』 「……ええと、いま来られても」 『わかりました。対応します』 「……いえ、……たとえば、山道を抜けた先で待っていただくことなどは、可能ですか……?」 『わかりました。向かいます』 「……」 『わかりました……』 声の途中で電話は切れた。円香はすっきりしなかった。先のホテルとは異なり、人と話した心地がない。電話の彼が来るのではないだろうが、救ってくれる相手だとは思われなかった……。 「円香せんぱい、つながったの~?」 雛菜がたずねる。 「雛菜ずっと圏外だよ~?」 円香はスマートフォンをたしかめる。圏外。……検索中。圏外。圏外。これはいつから圏外だったのか? あの警察官は? ホテルスタッフは? 繋がったのだから、圏外ではなかったのだろうが。 「……だ、誰か……来るのかな」 小糸が言った。 沈黙。 「ふふ」 透が不意に笑う。 「小糸ちゃん。いまめちゃこわかった」 小糸はなにか言おうとするが、光は再び迫る。左手に崖。逆側に森。逃げ場はなく、先は暗澹として暗い。 しかしそのとき救いが差す。 道が分かれるのだ。 ナビはまっすぐ先を示した。森の奥へ進む道は、地図に載らなかった。 「ゆずっちゃえ~!」 雛菜は明るく言う。小糸はウインカーを出し、ゆっくり右へ折れる。邪魔にならないよう、車体を完全に森の道へ押し込む。追跡者が背後に迫る。ほとんど追突する近くに止まる。道を塞ぐ。 「こ、こっち……」 小糸はふるえて言う。 「バックして……一旦戻って譲ればいいでしょ」 円香は小さな寒気を感じる。 小糸はギアを操作する。警告音が鳴り、モノクロのバックモニタが追跡者の足もとを映す。ナンバーは掠れており、削られたようにも見える。円香は身を乗り出し、目を細める。がりがりがりがり。異音は突然起きた。円香は驚き顔を上げるが、小糸はブレーキを踏んでいた。それは車内から聞こえたようだった。 追跡者は動かない。 いっこう。 「頼んでくる? 私」 透の気安い提案を、円香は切って捨てる。小糸も雛菜も、考えは同じだった。山道。圏外。追跡者。降りていいはずがなかった。この車内でだけ、安全をは約束されるのかもしれなかった。 「進んで」雛菜が言う。「どこかで折りかえそ~……」 進む。円香は耳を疑ったが、それしかないことは理解している。背後を追跡者が塞いでいる。両側を白樺の森が閉ざしている。行けるのはこの舗装のされた、地図に載らない、森へ入る狭道しかないのだった。 「じゃ、行こっか」 今度透は了承される。 小糸がアクセルを踏み、車はゆっくり走り出す。ゆっくりと、追跡者は追ってくる。しかしもう迫らなかった。等距離をおき、追跡者は彼女たちをむしろ導くようだった。 圏外。 円香はスマートフォンをたしかめる。地図はもう読み込まれない。いま、木の影に誰かいなかった? 円香は目線をそっと下げる。「あ~」雛菜が言う。「看板? なんかあるよ~」 車は速度をゆるめる。合わせて追跡者も。ヘッドライトが降りかかり、道の傍の看板はよく見える。こう書いてある。文字はほとんど消えている。 〈……禁……染し……啞……ずる…………fection……cloak……〉 そう書いてある。 看板は、杭に平らな板を打ちつけただけの簡素なもので、十数文字かけ四列の言葉ほとんどが風化あるいは腐食のため読み取れなくなっている。看板には白い縄が結わえられ、縄は三本、間に六つの結び目を挟んで先の杭とつながっている。杭は延々続き、縄は闇に消える。そうして白樺の森を、杭と縄が隔てて道は延びる。 それでも、進むよりほかないのだ。 縄の内を車は進んだ。追跡者は止まらなかった。閉じ込められていると感じた。 「だ、誰かいるよ……!」 小糸が言う。円香は息を呑む。こんなところに? 人影はたしかに見える。円香は身構える。近付いていく。その姿を認めると、「は」覚えず息を吐いた。 「人形……」 誰がそれをささやいただろう。 人形は、のろのろと近付いてくる。人形は、店頭ディスプレイによく使われるものくらいの大きさで、全身まっ白く、ほっそりして、白樺の樹皮のように所々色を変えた。人形の顔��異常なまでに痩けており、また口のないために顎は飢餓的に尖っていた。鼻筋は削れていた……それは元より無かったのではなく、意図して削られており、目が無かった。目は暗い虚穴だった。窪んで底の無い眼窩が、円香をじっと見つめていた……。 人形は増殖した。一体ぽつんと現れた人形は、次の一体が現れたと思うと、途端に道の両側に並んだ。柵のこちらだった。人形は、みな同じ顔をしていたが皮膚の模様だけがみな違っていた。それらはまるで篝火だった。一体一体、すべての人形がどれも鮮明に見られるのは、整えられた樹冠の招き入れる夜光が等しく照らすためだった。 いつか追跡者は消えている。 小糸はゆっくり車を止める。 ぼんやりした闇が、あとに残っている。 「い、いないよ」小糸は続ける。「戻って、みよっか……」 「……戻ってどうするの」 「ぴぇ……」 覚えず厳しい言葉になった。小糸はふるえていた。 「……戻っても、きっとあれが待ってる」 「そ、そうだよね、でも……」 でも。 言葉は続かなかった。でも、もしかして戻れるかもしれない。でも、進んだらどこまで行くのかわからない。いま、人形は動かなかっただろうか。円香は見る。円香が目をそらすまで、人形は黙っている。 「電波~!」 雛菜がとつぜん大声をあげ、車内が揺れる。人形は動かなかった? 雛菜は「あ~」と続ける。 「電波あったのに~また消えちゃった~……」 それで彼女たちはスマートフォンをたしかめる。圏外。圏外。検索中。円香は息を呑み、ほとんど祈る。検索中。円香は祈る。そうしているうちは、人形から目を背けていられる。検索中。検索中……。 「あった」 透が言った。 電波は一本、かろうじてつながるようだった。円香は一一〇を呼んだ。発信中が表示され、すぐ消えた。圏外。検索中……。今度はホテルをコールした。発信は間に合わなかった。円香はふたたび祈るより、チェインを開いた。『××さん』円香はトークを送った。『緊急です』『電話をください』それは電波の復活とともに送信されると、すぐに既読の通知があった。円香は祈った、祈りは四人のものだった。『着信 ××さん』円香は瞬間タップをした。スピーカーフォンにすると、彼との会話を始めた。彼の声は鮮明だった。 『どうした、円香』 ××さん。 彼女たちのプロデューサー。 その声に安堵したと、円香は素直に認められた。 『……円香、おーい。聞こえてるか?』 「すみません。緊急なので急ぎ伝えます」 『ああ。いいよ』 「今、U県にいるのですが、追われています。浅倉たちもいっしょです」 『ああ』 「……こちらから電話がつながりません。あなたから警察に連絡をお願いします。木折峠から、Nホテルへ続く山道を、一時間ほど進んだ場所です」 『なるほど、そうだったのか』 「……聞こえていますか」 『なら、傘を置いていったらどうだ?』 「は?」 『しまった。別のことを言えばよかったな……』 円香は黙る。 彼女たちは黙っている。 『どうした、円香』 彼が続ける。 円香はこたえる。 「いま話したことは……」 『うん』 「……××さん」 『そうかな、そうかもしれないな』 「……」 『いい風だな』 「……」 『よし、楽しく話せたな』 円香は黙っている。 『どうした、円香』 彼は続ける。 『朝食は食べた?』『中身は見てない?』『花の香りかな』『なくしたのか?』『勉強?』『メイクを変えた?』『出会った時のこと、覚えてるか?』がりがりがりがり。 円香は叫びかけ、寸前に透が通話終了をタップする。『××さん』ビープ音とともに画面が戻る。トークは既読になっていない。表示は今度圏外を変わらない。 「戻ってみよっか」 透の言うのに、誰も異を唱えなかった。 小糸がゆっくり、白い車との遭遇に備えながら、ゆっくりと車をバックさせる。すると路傍のかれらはかがやいて見える。バックライトを浴びながら、しかしその目玉は暗い。そこは暗く、どんな光もたやすく飲んだ。 「ぴゃ」 不意に小糸がこぼす。 ブレーキランプの赤色灯が、その姿をあらわにする。 「……なかった」 円香は言った。しかし人形はあった。白樺の樹皮の人形が数十体道のまん中佇んだ。めくら四方を向き、互いを見ず、この暗い森の、何を見るのだろうか。 誰も言わなかった。 ギアチェンジの音がした。がりがりがり。異音はやまない。 人形は後方へ遠ざかりやがて見えなくなった。 「こわいね~円香せんぱ~い」 円香は恐ろしい。 「だだだ、だいじょうぶだよ、円香ちゃん……怖くないよ……」 円香は恐ろしい。 「ふふ。閉じてる。めっちゃ目」 円香は目を閉じている。 まなうらで人形が踊った。人形は、しゃがみ込み目を閉じ、耳を塞いだ円香のまわりを踊っていた。火が揺れていた。円香は供えられているのだと思った。影は揺れ、奇妙にも青紫の火影が伸びていた。それは人形の身投げする炎だった。声なく静止した人形が、同胞をおくっているのがわかった。頬に冷たい感触があった。触られたのだ。円香は必死に目を閉じた。触られていた。それは冷たく、熱はなくどこまでも冷たかった。がりがり。がりがりがりがり。円香は耳を塞いだ。決してその声を聞いてはならないのだった……。 「樋口」 円香はゆっくり目を開ける。 後部座席だった。透がそうっとほほえみかけた。 「大丈夫だよ。樋口」 透は言った。 その手はたしかに温かかった。 「……なにが」 円香はこたえた。 「……このどこが、大丈夫なの」 そんなふうに言うべきでないとわかりながら円香が言ってしまったのは、道がついに行き止まりになったからだ。 森と闇の檻の隙間を縫った道はふっと消え、木立の群が塞いだ。木立は濃密だった。互いの枝葉を異国の織物のよう絡ませ、ヘッドライトは肌を滲みる樹液さえ照らした。人形があった。人形はさながら若木のように林立し、すべて円香を見た。見られていた。円香はその目の虚穴と柵と森と深い闇に囚われていた。そして青い車さえ、がりがりがり、いまや彼女たちの檻なのだった。 「あ」 雛菜がこぼす。 「うそ……」 人形が動く。 人形は動いた。それはぎこちなかった。ギイ、ギイ、と四肢を運ばせ、関節の軋みの聞こえるようだった。円香は夢の続きを望む朝のようにぼんやり眺めながら、いつか見たテレビを思い出した。緑の胴に黄色い頭の芋虫が、コマ撮りで動く子ども向けの番組だ。芋虫はいかにも愛らしくデフォルメされていたが、高熱に苦しむ円香にそれは恐ろしく見えた。芋虫は夢に出た。ギイ、ギイ、と蠢く巨体にどこまでも追いすがられやがて押し潰される、そういう夢だった。 「ど、どう……」 「戻って~!」 これは、しかし目を開いて終わらない。 ギイ、ギイ。 がりがりがりがりがり。 車は動かない。 がりがりがりがりがり。 小糸はアクセルを踏んでいる。ブレーキ。アクセル。しかし車は動かない。異音はいまや車内そこかしこから鳴り、車はいっこう動かない。円香はロックをたしかめる。人形が近付く。 「後ろ」透が言う。「来てる」 円香は後ろを見る。人形は小糸の踏んだブレーキにあかるく光る。 ギイ……。 人形が窓に触る。まっ白いてのひらを押しつけ叩く。それはやけにのんびりしている。しかし一体が、二体に、十体が数十体になるとその打ちつける粗雑な不定のポリリズムはついに頭上でも鳴り出す。 「割れない」円香は祈る。「そんな簡単に……壊れるわけない……」 祈りは誤った神へ届く。人形は、後部座席の円香のそばの窓を叩いていた人形たちはふと動きを止めたと思うと、一体の腕を引きちぎる。次は左腕。またたく間四肢をもがれ人形は転がる。微小の破片が石灰粉のように風で散る。ああ、風が吹いていたんだ。円香は思う。窓にひびが入る。二度目の殴打でガラスは砕ける。破片に円香は身を伏せ、人形が手を掴む。信じられない冷たさだった。「いや」円香は振り払う。白い手はあっけなく折れる。手は次々入ってくる。円香を掴む。ロックを外す。ドアが開き円香は引きずり出される。「やだ……!」空気はやけにぬるかった。透も小糸も雛菜も、誰の声も聞こえなかった。円香は何が起きるのかわからなかった。最後、虚穴の目の笑うのがわかった。
*
円香は夢を見なかった。 回想もフラッシュバックさえ許されず、目を開くとふたたび現実に囚われなければならなかった。 人形。 円香は息を呑む。悲鳴はあげられず、口を塞がれていた。噛むのは布らしいが土とも木とも知れない淡い苦みがあった。腹を吐き気と酸のにおいがのぼったが、戻すのはどうにか避けられた。 人形。 手足を縛られている。 人形。 ほかに誰もいない。 人形。 森がひらけていた。 人形が頬をなでる。それは冷たい。ひとかけの熱も感じられないほどに冷たかった。人形の手は濡れていた。手は丹念に円香の左頬に触った。なにかを塗られるのがわかった。人形はそれを終えると後に下がり、次の人形が続いた。今度は触らなかった。円香を見ていた。それから三体をあけて、人形は円香をなでた。右頬だった。人形は、ぼんやりとして並び数体ごと円香になにか塗りたくると、行列を離れ輪に戻った。輪の中心には壊れた人形たちがあった。かれらはばらばらに砕けると無造作に積まれ、落ちる月を反射し、まるでかれら自身が発光するかのように、青白い灯火で原を照らしていた。 円香は気絶したかった。恐怖がそれを許さなかった。触る手がひとたびごと円香に鮮やかに恐怖を喚起させ、しかし感情は次第に摩耗した。諦めは体を痺れさせた。 浅倉は。 円香は思う。 小糸は、雛菜は、どうなっただろう。 わからないけれど、逃げていればいい。 こんなめに遭っていなければ、いい。 やがてすべて人形が訪れ終えると、縄が解かれ轡が外された。円香はへたり込み、遅れて逃げようと気付くのだがそのときには人形が囲んでいた。円香は見守られた。まるで、初めて子どもの歩くのを待ちわびるようだった。円香はおそるおそる立ち上がった。道が開けた。人形が分かれたのだ。円香は預言者のようひらかれた人形の谷を進んだ。姿を見ないよう円香は顔を伏せて歩いた。すると腕や脚を粗雑に白塗りされているのがわかった。爪で掻くとぼろぼろこぼれた。石膏に似ているが、ひどく脆い。あの人形たちと同じものなのだろうか。円香は肌のひりひりするのを感じた。それは不思議と鮮明だった。ぬるく湿った夏の夜風が肌をなでると、鈍磨した感覚の甦るのを感じた。それは残酷な眼前の運命への、円香の精神の最期の抵抗なのかもしれなかった。 円香は考えた。 振り返ると、来た道を人形が閉ざした。 そして行く先はひらけていた。 谷の先にはひらけた原と、台座があった。台座はちょうど人がひとり横たわるような大きさで、まっ白く塗られているが土台は石造りであるらしかった。台座のそばにはなにもなかった。誰もおらず、逃げるのであれば一瞬だと思った。 望みの潰えるのさえ、一瞬のことだった。 人形は掴んだ。円香の手。円香は振り解いた。人形の手は折れ、新たな手が掴んだ。円香は暴れた。人形は無数だった。無限の四肢の異形の生物に捕縛されるよう、円香は人形に押さえつけられ台座へ横たえられた。そこは祭壇だった。円香にそれがわかるのは、残された悲痛と嘆きがぬるく香るからだった。 「やだ……っ!」 円香は叫んだ。口を塞がれた。ぞっとするほど冷たい手が離れると、口はもう開かなかった。塗り固められたのだ。全身を捕らわれた。めちゃめちゃに暴れるのだが、数十本の人形の手は砕かれなかった。 んうーー……っ! 円香は悲鳴をあげ続けた。喉が痛んだ。涙が流れた。息が苦しくそのうち頭がぼうっとするのを感じた。しかし今度は諦めなかった。手足を白く塗られ、口を塞がれ、では次は。 人形が見下ろした。人形は口がなかった。鼻は削がれ、目が無かった。目のあった場所には深い闇が、永劫暗く虚しい洞が広がっていた。 「んんーーっ!」 指が近付く。 ゆっくりと、慎重な様子で迫る人形の指を円香は逃げた。しかしすぐに、頭を押さえつけられた。六本の手に拘束され、もう円香は涙をこぼすしかできない。人形が目もとにふれた。その冷たい指で優しくも涙をぬぐうと、瞼をこじあけた。指が近付いた。おや指とひとさし指。キイ、キイ。指の軋みが円香に聞こえた。それはかすかだったが、苦痛の絶叫に似ていた……。 そしてすべてがまっ白くなる。 しかし、いっこう痛みは訪れない。 円香はまばたきをする。 ……まばたきができる。 瞼を広げた指は離れ、目の前がまっ白いのは人形のつやつやして白い指先が、まばゆい光を浴びるからだった。 「まぁーー……」 声が聞こえる。 「……どかせんぱーーい!」 雛菜。 ハイビーム。円香は目を細める。 ふっと拘束が緩まる。人形の手が離れている。 円香は思う。 無事でよかった。 「小糸ちゃんいけ~~~~!」 雛菜は叫んだ。フラッシュライト。小糸の――運転する青い車のエンジンの――けたたましい雄叫びが人形を襲った。蹂躙した。���ぎ倒し、轢き潰し、粉々に破壊していった。気高くも勇ましい、『ワルキューレの騎行』が円香に高らか鳴り響いていた。 「樋口、いける?」 いつの間に透がそばにいる。 「どうして……」 口の石膏を剥がされ、円香は立ち上がる。 「あとで話そ。来て」 円香は透について走る。向かう先には雛菜がいる。雛菜は踊るようだった。松濤館空手小学生の部県三位の雛菜は、月へと奉納するような美しい演舞でもって襲い来る人形を破壊し続けていた。 「やば」 透が言う。 たしかに。円香も思う。 そうして雛菜の暴れるところへ、小糸がやってくる。百万円の青い車で人形を破壊しながら、土煙をあげて急停止する。円香たちは乗り込む。「い、行くよ……!」小糸が言う。ハンドルを握りしめる。人形は無数に破壊され、しかし無数に追いかける。小糸がアクセルを踏み込み、車は人形を置き去りに森へ入る。 「人形。襲って、きて、樋口がさら、われて、から、やつけた、ぜんぶ……」 「わかった、浅倉、もう、大丈、ぶ」 車はどかどか揺れて走った。森の木々の合間を縫い、小糸は車を走らせた。数十センチの余白を外さず、轍を完璧になぞる小糸の手さばきはなにか神がかりさえ感じさせた。 「ぶつかる!」 小糸が言う。振動が起き、ばらばらの人形が窓を横切る。見ると前方から、左右から後方から人形はやってきた。しかし人形は脆い。小糸は構わず轢き飛ばし、やがて踏み倒した柵を越える。森の中の狭道を、もと来た方へ戻っていく。速度をあげる。人形をすべて破壊していく。「いけいけ~!」雛菜が歓喜する。それは円香に気持ちいい。雛菜の大声はいま円香に天使の歌にさえ感じられる。 「樋口」急に、透が真面目らしく言う。「白いよ。顔」 円香は思い出す。およそ固まりかけた白いそれを円香は剥がしていく。頬が額が、腕や脚が、剥がした箇所すべてがひりひり痛む。その痛みを贖うかのように、人形は破壊され続け、やがて姿が見えなくなる。木々のみが夜に浮かび、文字の掠れた看板を抜けると柵も消えた。 終わった。 そう感じた。 「このまま、降りるからね……」 小糸はささやいた。いままでと一転して慎重な運転になるのは遭遇を警戒するからかもしれなかったが、あの、白い車はあらわれなかった。そうしてついに分かれ道に着いた。 「やは~!」 雛菜が言った。 「もどっ……!」 それは最後まで言われなかった。光が襲い、車が揺れた。衝撃は激しかった。爆発のようだった。円香は身をかがめ、しかし寸前にあの白い車を見た。すべてが静まり周囲がまっ暗になるまで時間は果てしなく感じられたが、今度円香は気を失わなかった。 ポォン。 ポォォン……。 ドアが開いていた。夜のしじまに警告音が響き、ハザードランプが明滅して森を照らした。 円香は車を転がり出て、背中をしたたか打つ。はっ、はっ。どうにか呼吸を取り戻すうち、体そこかしこの痛みを感じる。おそるおそる、地面に手をつく。コンクリートがもやもや熱い。腕は、脚は無事にはたらく。立ち上がり、重傷のないらしいことに安堵する。頬のかすかにひやっとするのは、ふれてみると血のせいだった。側頭を切ったらしい。肩口で顔を拭うと、血痕はさほど大きくない。円香は息をつく。呼ぶ。 「浅倉」 ハザード。 「……小糸」 喉が痛む。円香は血のあじのつばを吐き捨てる。それはハザードにぬめって光る。 「……雛菜」 車は木に衝突していた。ひしゃげて半開きのエンジンルームから白い煙がかすかに出たが、車体はさほど歪まなかった。追跡者は? わからないが、轍が見える。焦げ付いたタイヤ痕は崖へ続いている。落ちたのかもしれない。 はっ。はっ。 車内を見る。 透は目を閉じている。 「浅倉……!」 円香は呼ぶ。そばに寄り、くり返すが返事はない。口もとに耳を近づけると、ゆっくり息をしているのがわかる。大きな傷は見られない。小糸を、雛菜をたしかめる。ふたりとも、はっきりと息をしているが、小糸の頭部からの出血は少なくなかった。円香はタオルと、カーディガンを取り出し傷のあたりに巻いた。それらがみるみる赤く染まるということはなかったが、安堵できる状況ではなかった。 エンジンキーを押す。 森は静かだ。 ぬるい風が吹き、木々ががさがさ鳴った。 はっ。 はっ。 ハザード。 はっ。はっ。 円香は見ていた。サイドミラー。夜の森の木々の影を。そして、闇よりあらわれ出る人形を、鏡越し見た。 森。 月はない。 ハザードの点滅ごと人形は数を増した。 近付いた。 円香はとっさに発煙筒を掴んだ。使い方は、映画で見るのと同じだった。冷たくも赤い火が噴き出し、周囲をこうこう照らした。人形は数十体いた。手の折れたものも、脚をなくし体を引きずるものもいた。なんとかなるかもしれない。円香は雛菜を思い出す。しかし、できなかった。体は動かなかった。円香は景色が揺れるのに気付いた。発煙筒の、手の、体のふるえることに気付いた。円香は恐ろしいのだった。 「……来ないで」 円香は言う。 人形は近付く。 「来ないでっ!」 円香はほとんど悲鳴をあげる。 人形が足を止め、一瞬してまた近付く。あざけるのだと感じる。 「やだっ……!」 円香が振った発煙筒が、人形にぶつかる。それは偶然にも突き刺さった体を、肩口より焼き切っていく。円香の手に振動が伝う。電ノコで人体を切断するような感触に円香はおびえ、手を引く。人形は倒れ、発煙筒がその下敷きとなる。 ハザード。 数十体いた。 円香は後ずさり、やがて車に背をつける。守らなければならない。しかし人形は近付く。目の前にいる。あの暗い虚。円香は全身の力の消えるのを感じる。人形がふれる。その冷たさ。恐怖に目を閉じ、そして、円香は――。 「あー」 声を聞く。 「……そっか。えっと、樋口」 浅倉透があらわれる。 「大丈夫だよ」 しかし円香は思う。いったい、何が、大丈夫なのか。雛菜であればそうかもしれない。けれど透が、透は言う。 「よっしゃ」 続ける。 「いくぞー」 透はつかつか歩く。散歩するよう人形へ向かうと、いちばん円香に近いそれに肘を叩き込む。猿臂。頭を砕かれ人形はあっけなく崩れる。透は勢いを殺さず次の人形に鉤突きを打ち込む。脇腹に大穴を受け、続けざまの肘で二体目が崩れる。手刀。首が落ちる。貫手。鳩尾を抜かれた人形の手が肩を掴むが透は止まらない。下段足刀。飛びついて頬を打った腕を中段前蹴りで引き剥がし、二歩の加速で上段膝蹴りを叩き込む。ほほえんで血まじりの唾を吐くと、猿臂で顎を砕き、鉄槌で頭部を割り、中段膝で胴を破壊し、蹴り上げて人形を真二つに切断する。透はなにか、そうと決められた流れをたどるようなめらかに、人形を破壊し続ける。見る見る人形は減る、円香はそれを見ている。ハザードランプの明滅のひとつごと透はかたちを変え、そのたび人形が消える。風が吹いている。破片が白くはらはら舞う。それはさながら雪花のよう散る。 順突き。 最後の一体が消える。 透はゆっくり息を吐き、円香を見る。大丈夫。透は言わない。「……風」髪をかき上げる。爽やかな汗のたまが、きらきらと光をはじいている。「きもちいいね」 円香は夢を見るようだった。人形はもういなかった。恐怖が、荒々しく塗り変えられるのを感じた。胸のうちが激しく熱く、涙をこらえるような心地だった。 「浅倉」 円香はたずねる。 「どこで……そんなこと覚えたの」 透は円香を見つめる。「え?」とだけ言い、しばらく口をつぐむと、円香がたずね直そうとした頃ようやく言う。 「えーと、ルールそのいち」 透はこたえる。 「ファイト・クラブについて口にしてはならない」 ハザード。
*
『あと一時間以内で着けると思う』『できるだけ巻いて行くよ』 彼からのトークを眺める。 タップ。 『こちらは問題ありません』『急がず来てください』 送信し、既読がつくと円香は後悔する。余計なことばだと思ったが、取り消せることでもないので諦めることにした。番号札十六番の方が呼ばれると、松葉杖をついた若い男性が億劫そうに会計へ歩いていった。 「よ」 透が言う。隣へ腰をおろす。 「うい」 円香はこたえる。 「小糸ちゃん、シーティーだって。さっき会った」 「そう」 「あれって、どんな気分かな。輪切り? になるんでしょ」 「さあ」 「小糸ちゃん、平気かな」 「……平気なんじゃないの」 円香は急に面倒になり、スマートフォンを眺める。画面は割れていた。円香の被害といえばそれと、側頭の切り傷くらいだった。しかし小糸は額を何針か縫わなければならず、雛菜は右腕を骨折していた。百万円の車は壊れ、ホテルは当日キャンセルとなり、検査や治療に数千円かかった。 人形。 円香は振り向く。 病院はそこかしこ人人でごった返すも静かで、画面を反射して見えた影は、待合の明かりのどこにも、見つからなかった。 あの場所はなんだったのか。 車載カメラには何も映っていなかった。人形も、看板や柵も、追跡者の白い車さえ映像には残っておらず、ただ慌てふためく彼女たちの声や鬱蒼暗い森の様子が、記録されているばかりだった。 ふと、肩にふれられるのを感じる。 「樋口」 言うのは透だった。 「大丈夫だよ」 透は優しくほほえんだ。円香はそれで安堵して、透の手をとった。手は冷たかった。円香は目を見開いた。透はその澄んで美しいまなこに円香をとらえたまま、「どうしたの、樋口」とたずねた。手は冷たかった。ぞっとして冷えた手を覚えず振り払うと折れた。 腕は落ち、砕けた。 透の、白い腕。 「あー」 透は言った。折れた腕をぼんやりと円香へ差し出した。円香は突き飛ばした。透は床へ倒れるとばらばらに砕けた。破片は白かった。風もないのにさらさら動いた。 「どうしたの~?」「ま、まどかちゃん……」 雛菜が。小糸が言った。円香を掴んだ。それは冷たかった。円香は突き飛ばした。雛菜と小糸が砕けた。 円香は悲鳴をあげた。
*
まっ白い光。 円香は目をぎゅうっと閉じる。反射だった。目のまわりが、顔が燃えるみたいだったが、身をよじると熱さは落ち着いた。 円香は目をひらく。 がりがりがりがり。 スマートフォンが、ドアと擦れてけたたましくふるえている。円香は手に取る。『着信 ××さん』なにげなく、応答をタップする。 『……円香! よかった、大丈夫か?』 電話越し言う。 「うるさ……」 円香は思わずつぶやき、耳を離す。声は頭にがんがん響いた。体が重かった。どうも車中で、眠っていたらしかった。それに気付くと、寝起きのひどいのも納得された。 『無事か? 無事なんだな? 円香、いまどこにいるんだ?』 「どこって……」 森。 頭上の樹冠のあいまより、眩しい朝日が注いでいる。 『チェインを見たんだ。すまない、眠ってて……ともかく……』 「チェイン……」 そうして円香は思い出す。 彼に送ったトークを、そして、あのできごとのすべてを。 円香は隣を見る。透が眠っている。くちびるに、耳もとを近づけ穏やかな寝息をたしかめる。小糸は、雛菜は。運転席で、助手席で眠っている。やはり寝息は聞こえる。車は無事だった。木に衝突もせず、差しかかった分かれ道の手前で止まっていた。窓を開けると人形はもちろん、白い車の痕跡もなく、分かれ道はすぐ先で森に変わっていた。かつては道があったのかもしれない。しかしいまは、車の通れるはずもなく、折り重なる木々の奥に看板らしいものが見えるような気もしたが、結局それは定かでなかった。 『……円香? 聞こえてるのか? 円香……』 円香はこたえる。 「大丈夫です」 耳を遠ざけ、息をつく。 喉が渇いている。 円香は透を見る。ゆっくりと手を伸ばし、てのひらにふれる。そこはしっかり温かい。血の通う、慣れ親しんだ透の肌がそこにある。 円香は目を閉じる。 ぬるい風が吹いている。
*
それから。 彼女たちは一時間せず山を下り、ホテルで一泊をして、温泉でうんと体を休めた。当然前日は無断キャンセルになっており、確認らしい着信が残っていた。事前に到着時間を伝えた上でのキャンセルだったが、理由を隠し謝罪のみを伝えるとそれ以上の追求はなかった。 まる一日羽根を休めると予定通りに東京へ戻り、翌日には仕事をした。××さんの追求には酔っていたとこたえた。酔いすぎて、ほんのいたずらのつもりどころかトークを送るつもりもなかった。謝罪とともにそういう説明をすると、彼は納得したようだった。そんなふうに、すべてが日常へ帰っていった。 あれはなんだったのか。 ふと、思い出すことがある。 「……して平気~?」 なにか雛菜がたずねている。 「ま、円香ちゃん……」 小糸はどうやら気遣うらしい。 円香はシートに背中をあずけなおし、「任せる」と言った。窓の外を眺めると、景色の過ぎるのは速かった。 「オッケー」 透がこたえた。 彼女たちは透の車に乗っていた。車はぴかぴか青かった。空の色だ、と円香は感じた。 円香は感じていた。 車はこういう色だっただろうか。 なにげなく海を過ぎた。海は、車あるいは空は、私のてのひらはこういう色をしていただろうか。夏とはこれほどに暑かっただろうか。この歌のキーはAだっただろうか。夢とは色のあるものではなかっただろうか。××さんはああいうふうに簡単に引き下がる人間だっただろうか。雛菜の肌はこんなにもまっ白かっただろうか。小糸はこれほどに暑がりだっただろうか。透は―― 「どうかした?」 運転席の、透が言う。 「円香」 それで円香は思う。 私たちは、どこへ向かっているのだろうか。 「……別に」 円香はこたえると、目を閉じる。知っている。浅倉透を知っている。わかっている。円香は続ける。 「大丈夫だよ。透」 透の手は、円香に温かく感じられる。
*
『_____人形たち__』
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テント泊デビューは笠取山
「初めてのテント泊に最適」と噂の奥秩父にある笠取山で、念願のテント泊デビュー。テントは購入から7ヶ月、バックパックは購入から1年…。4月から5月に跨がるこの日、ようやく陽の目を見ることと相成りました。
たまたまだけど、全員青系のバックパック。左脇のOSPREYが私のもの。 1番容量が少ない(52L)のに大きく見えるのは、何故???
ちなみにOSPREYとはミサゴという鳥のことなんだそうですね。 だから鳥のマークなのか…今さらだけど。
今回はリーダーが車を出してくれたので、バスではアクセ��出来ない作場平口からスタート! GWにも拘わらず道がずっと空いていたので「笠取山も今日は人が少ないのかな」思いきや、臨時駐車場はなかなかの混み具合でした。
この登山口の手前にはベンチと公衆トイレもあるので何かと安心です。
ここから山頂までは2時間ほどの道のりですが、登山道は非常によく整備されていて、案内版も多く出て来ます。
とは言え、15キロ(何かパッキングを間違えた)を2時間背負って歩くので、今回は迷わずトレッキング・ポールのお世話になりました。
このような細い沢を何度も渡ります。 「源流のみち」と言うだけあって、水がとっても綺麗♬
ほどなく、一休坂分岐に到着。ベンチで休む人達がいました。 ここは山梨県の筈だけど、東京都水道局が管理しているんですね。
ここ数日、結構雨が降ったので水量は豊富ですね。 晴れて暑くなって来たけれど、沢の音に癒されます。
何度か沢を渡って、ヤブ沢に到着。 テント場まではあと20分ほどですが、ベンチで少し行動食を摂りました。
この辺りにはモフモフの苔の生えた岩も。触ると気持ち良い♬
途中、大菩薩嶺が見える尾根がありました。綺麗な山容ですね。
程なく、テント場が見えて来ました! ちなみに道の左手に見えるのはバイオトイレ。臭くなくて綺麗でした。
ここが笠取小屋です。 ビール(500円)やコーヒー&ソフトドリンク(200円)の販売もしています。 テントは1張り700円。
小屋の前の広場。テーブルとベンチがあり、夕食・朝食はここで食べました。 水場はこの下にありました。
小屋の裏手の綺麗に整地された場所を指定され、さっそく設営。 家で何度か練習はしたものの、先にペグを打たなかったせいでポールの組立に苦労しました。 長辺入口に拘ってのNEMOのアトム2Pでしたが、何だか一人で場所取ってますね…。
昼食を作るため、水を確保。 うっかり1Lのプラティパスを持参したけれど、2Lの方を持ってくれば水汲みも一度で済んだな…と気付いたのでした。
お昼は五木の「熊本もっこすラーメン」。 マルタイの棒ラーメンは2食入りですが、これは1食入りなので薄くて持ち運びに便利です(麺もマルタイよりやや太め)。 普段はラーメン断ちをしているので、山で食べると格別なのです。
テントを張った場所の正面に低いテーブルがあったので、そこで作りました。
ランチの後は、笠取山の山頂へ向かいます。 先ずは歩きやすい木道で雁峠分岐まで。やっぱり東京都水道局の管轄なのね。
何故かと言えば、ここには「小さな分水嶺」があるから。 ここに降った雨粒は3方向へ分かれ、多摩川、荒川、富士川となるそうで。 多摩川側の水は先ほどの沢→奥多摩湖→多摩川となって東京都民の口に入る。だから東京都水道局。なるほどね。
詳しい説明はこちらをご参照くださいませ。
私もここに降った水を飲んでいる訳ですね。 ほんの数センチずれただけで、違う川へと流れ込むとは面白い…雨粒の運命。
南アルプス方面も見えました。
さあ、いよいよ山頂アタックです。 これがかの有名な急登なのね…。ほぼ一本道ですな。
斜面の中腹にて。下から撮って貰うとこんな感じ。 ここでも迷わずポールを使います。リーダーはテントに置いて来たそうで。
見下ろすと、まるでゲレンデにいるかのよう。直滑降したくなっちゃう!
ここを登っている途中、山頂から戻ってくる女性と少し会話しました。 一休坂分岐やヤブ沢他、ベンチがある毎に座っていた方だなと思ったら、 登山靴のつま先が両方ともパッカン(剥離)してしまったのだそう。 だから気になってベンチがあるごとに座って様子を確認していたのね…。
何でも、山小屋でもらったガムテープでグルグル巻きにして応急処置したとか。 実際に目にしたのは10年前の屋久島以来だけど、可能性としてある事なのね。 やっぱりダクトテープと予備の靴紐を持ち歩くのは続けようっと!
山頂(山梨県側)に到着。本当の山頂は更に奥なのだそうです。 ここの尾根が、山梨と埼玉の県境なのですね。 先ほどよりも雲が増えて、真っ正面の富士山が殆ど隠れてしまいました。
リーダーがお湯を沸かしてくれたので、粉末のカフェ・オ・レを!
他に誰も居ない山頂で、優雅な時間を過ごしました♬
ちなみに、本当の山頂(埼玉県側)はこちら。1,953m。渋い! ここまでの道は思っていた以上に険しく、切れ落ちている箇所もありました。
ここからの景色も良し。 手前の岩の模様が不思議…というか、不気味。
お次は「水干(みずひ)」に向かいます。 ここはあと数週間でシャクナゲ(石楠花)ロードになりそうですね。
水干へのショートカットルートを下って来ました。 ここもなかなか急な坂でした…靴紐締めてなくて、つま先が痛い。
水干に到着。奥の洞穴へとしみ出した一滴が、多摩川の源流だそうです。 先ほどの分水嶺に降った雨水が、地層を通ってここに出て来る…と。 東京湾まで138km、長い道のりですね〜。
詳しくはこちら。多摩川の最初の一滴、しかと見ました!
テント場へ戻り、夕飯と朝食用の水を汲みに。 先ほどは気付かなかった水芭蕉が咲いていました。もう終わりかけですね。
夕飯は豪華メニュー。ステーキ、お餅ピザ、キノコソテー、水餃子…。 お肉は生藤山で見て以来、頭に焼き付いてしまった私のリクエスト。 リーダー、2キロもある鉄板を運ばせてゴメンナサイ…。 A4ランクの希少部位、とっても美味しかったです!
私は4種のキノコソテーと具沢山のポテトサラダを担当。 なんちゃってコーラと共に頂きました。 本当はデザートも用意されていたのですが、満腹なので明日の朝食後に。
夕飯を食べている途中から霧が濃くなり、星空は拝めませんでした。
テントの中。メルカリで買ったCARRY THE SUN(キャリー ザ・サン)。 吊る仕方が逆ですね。帰って写真見て気付きました。 家で試しに吊した時は正しく出来てたのに…テンパってたな、私。 それなりに明るかったから全然気付かなかった…。
天井には予めガイラインを張っておき、靴下などを干しました。
それにしても、回りのイビキが煩いな〜。耳栓持って来て良かったよ〜。
本当は御来光を見る予定でしたが、21:30頃から雨が降り出し、明け方まで。 そのまま朝食だけ食べて下山も寂しいので、霧の中を分水嶺まで散歩。 昨日は別の山のように、南アルプス方面も真っ白になっています。
これが昨夜頂く予定だったデザート。杏仁豆腐の苺添え。 山での食事とは思えません…。持ち寄り料理、楽しいですね。
食後は、木々からポタポタ降ってくる水滴と闘いながらのテント撤収。 濡れたテントを片付けるのは確かに大変だったけれど、 初めてのテント泊でコレを経験しておけば、次回以降は楽になるはず! お陰で、パッキングについて改善すべき点が浮き彫りになりました。
帰りはお喋りしながらノンストップで一休坂分岐まで。 往きは気付かなかったけれど、オオカメノキの花が綺麗に咲いていました。
作場平まで降りると、昨日山頂手前で会話した女性に遭遇。 大型の���イクにテントを括り付けて荷造り中とは…格好良すぎる!!!
下山後は「道の駅たばやま」にある「丹波山温泉のめこい湯」でサッパリし、 リーダーの希望で奥多摩湖沿いにある定食屋「島勝」さんへ。 テレビでも取り上げられる有名店らしく混んでおり、外で少し待ちました。
こちらの人気メニューは「とろろめし定食」(写真奥)らしいのですが、 店名からトンカツの店と勘違いしていた私はすっかりカツの口になっており、 たまたまカツ丼定食があったので迷わずそちらを注文しました。 ちなみに他の3人は、ちゃんと名物の定食を食べていましたよ。
それにしても、今回は完全に肉食旅だったなぁ。 はぁ〜、体重計に乗るのが怖い…(しっかり増えてた)。
初めてのテント泊、星空と御来光はお預けとなったものの、 雨の降る夜を経験出来たのは、ある意味収穫。 帰ってからの道具の後片付けが大変だったけれど、それも経験ということで。
まだ少し先になりそうですが、次回のテント泊が楽しみです♬
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南さつま市坊津の耳取峠展望所へ(^^)/ 寒緋桜、今年も綺麗に咲いていますね! 早朝の日の出撮影後にメジロやヒヨドリを📷 #鹿児島 #鹿児島観光 #南さつま市 #南さつま市観光 #坊津 #耳取峠 #メジロ #寒緋桜 #japan #kagoshima https://www.instagram.com/p/CoZsvlKhh6A/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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おまグンタイアップツアー 感想
前回のクレフェスのときは興奮しているうちに記憶が薄れて、文章に起こせなかったので、その反省を生かし、今回はちょっとでも記憶があるうちに文字に起こそうと、わざわざグンマにパソコンまで持ち込んだアホなオタクです。 もうすでに土曜日に出発したときのことが3か月前の出来事ばりに記憶が薄いのですが、頑張って書き起こしてまいります。
※ 当方、笠間さんのファンなので、笠間さんの話が多いのはご容赦ください。
そんなわけで参加して参りました、「おまえはまだグンマを知らない」タイアップツアー!
今回は天下のクラブツーリズムさん主催、近��日本ツーリストさん企画の1泊2日群馬ツアー。 群馬と言えば、草津と学生のときに赤城山の裾野に合宿行ったくらいだなと思いつつ、開催月がお誕生日月だったので、よっしゃセルフ誕生日プレゼントだと息巻いて、ぼっち参戦をキメることにしました。
結果、グンマから生きて帰ってこれませんでした。 これを書いているのはグンマゾンビです。 おまグンの言うことは正しかったんじゃ。
行程としては、観光先や食事のタイミングなど、要所で笠間さんと梶原さんが登場し、一緒に過ごしてくださるとのことだったのですが、色々と当日知らされることやサプライズが多くて、いい意味で「聞いてないよ!!」という悲鳴をちょいちょい上げた二日間でした。 その極みがあれですね、1日目夕食の席での笠間さん・梶原さんとの2対2でのお話タイム。やると聞かされたときは完全にツアーで一番の悲鳴が上がったわけですが、いや上がらいでか。 ご本人とお話しできる機会なんで、お渡し会は10秒くらい、サイン会だって1分はないわけで、それが1~2分だというんですから、そりゃ悲鳴も上がります。 蓋を開けてみると、笠間さん・梶原さんが2人で客の目の前に座ってくださって、ひとりひとりにお酌と乾杯をしてくれるという、攻撃力アップと宝具威力アップとB威力アップと魔術礼装で単体攻撃力アップをかけたOC500% 単体B特攻宝具ぶっぱなされたレベルで頭がついていかない事態に。(FGO知らない人はスルーしてください。) お酌されるとは聞いてたけど、2回もしていただけるなんて聞いてないぞ!!!!!本当に本当にありがとうございました!!!!!
笠間さん、梶原さんのお二人には色々とよくして頂き、感謝の言葉しかありません。 ありがとうございました。そして本当にお疲れ様でした!!
観光としても、自分でグンマ観光してもルートに入れなそうなところに連れてって頂いてなかなか楽しかったです。(王道の観光地にあんまり行かないオタクなので…) めがね橋も白衣観音も時間の都合ですべてを見て回れたわけではないので、次に来るときにまた行ってみたいなと思いました。
先ほど、ぼっち参戦と書きましたが、実際に行ってみるとぼっち参戦の方は全体の約1/3を占めてました。 おかげさまで、なんだかんだぼっち同士楽しくつるんで行動したり遊んだりしてまして、ぼっちをエンジョイする時間というのはほどんどなかったように思います。 参加者も一クラス分しかおりませんでしたので次第にお互いの顔も覚えて何となくお話しするようになりましたし、最終的には何人かの方と名刺を交換させて頂きました(P特有の習性)。 ツイッターで繋がった方も沢山できて嬉しかったです。みなさん、次のイベントでお会いできることを楽しみにしております。
ちゃんと仲間広げましたよ、クラツーさん。 第二回もぜひよろしくお願いします。
以上感想の総括でした。 以下、記憶の喪失を恐れる長文オタクのだらだらしたメモです。 案の定とんでもなく長くなったので、興味がある方はお時間のある時にお付き合いください。 (ハイライトだけ見たい方はページ内検索で「!!!」を検索してください。大体私が狂って逆ギレしてるところが引っかかります。)
■行程の話 大体の行程はこんな感じでした。(時間は詳細覚えてないので適当です) 1日目 9:00 新宿出発 12:20 高崎駅で高崎駅発着の参加者を回収 13:30 伊香保で昼食(水沢うどん) 16:00 草津で湯もみショー見学 with 笠間さん・梶原さん 18:00 ディナーショー 個別お話しタイム(←聞いてない)、質問コーナー(←聞いてない)、カラオケコーナー 20:00 上毛かるた大会 記念写真撮影 21:30 1日目行程終了 2日目 9:00 宿出発 9:30 浅間酒造にてお酒の試飲と記念品手渡し by 笠間さん・梶原さん お買い物 with 笠間さん・梶原さん(←聞いてない) 11:30 めがね橋 観光 13:00 お昼 峠の釜めし 何故かいる笠間さん・梶原さんと遭遇(←聞いてない) 14:30 白衣観音 観光 15:30 ガトーフェスタハラダでお買い物 16:30 高崎駅で高崎駅発着の参加者下車 19:50 新宿駅着
秋の行楽シーズン真っ只中に北関に向かったため、行きも帰りももろに渋滞に引っかかっていましたが、それ以外は支障なく動いていたような印象です。 見ていただくとお分かりかもしれませんが、観光とお2人の登場が交互に設定されていたので、なかなか普通の観光気分になれませんでした(笑)これはサウナですか?熱い部屋と冷水を行き来するサウナなんですか?心のぜい肉を落とせということなんですかね???
■新宿出発の話 集合場所は新宿のバスが入れるターミナルの一つでした。 私は行き慣れていない場所だったのでちょっと不安でしたが、着いて早々ツアコンさんに「グンマに行かれる方ですか?」と声をかけていただいて安心しました。 ツアー名を大声で読み上げないご配慮、嬉しかったです。
■1日目お昼の話 バスの隣の席の方とお腹すきましたね~なんてお話ししている頃に伊香保に到着。 水沢うどんを頂きました。コシが強くて食べでがあっておいしかったです。カシューナッツが入ったゴマダレというのもいいものでした。今度自分で試してみよう。 一部のオタクたちは一緒に出てきたてんぷらのきのこに反応(きのこの話は9月の黄昏古書堂のチャ限配信をご覧ください)するも、 ここまでは「なんか普通の観光みたいで実感ないですね~」なんて話をしていた記憶があります。 このときはまだ我が身に降りかかることなぞ知る由もなかった。
■すんごい寒かった話 お昼の時からなんとなく肌寒いかな~とは思っていましたが、草津に着いたらくっそ寒かったです。 道中立っていた外の温度計よると14℃とか。それは寒い!! みなさんバスから降りるなりストールを取り出して羽織っていました。 湯もみショーの列整理をしていたおっちゃんに聞いたら、草津はここの所毎日こんな気温だとのこと。 ちょっと調べが足りなかったなと反省いたしました。 なお、笠間さん・梶原さんはばっちり冬の恰好されていました。夜にお話を伺ったら前乗りしていたスタッフさんから事前に聞いていたそうです。あったかそうで何よりでした。
■草津 湯もみショー見学の話
湯もみショーでお2人と一緒って正直何やるんだ?まさか一緒に湯もみするわけでもあるまいと疑問符を頭の上に浮かべていました。 開場が始まると入口の傍にお2人の姿が。気付いた瞬間悲鳴が上がりました。そりゃ上げますわ!!! 梶原さんを生で見るのは初めてだったんですが、大きいしかっこいいですね!!予習にガクともチャンネルの上毛かるた回を見たはずなんですが、あれ、こんなにイケメンでしたっけ……?ぶっちゃけ別人かと思った。
中に通されると、奥の一段高いところにステージ、中央に湯もみ実演のためのステージ、それを取り囲むように客席が設置されていました。 適当に最前列の席に陣取ってカメラの調整をしていたら、まさかの笠間さん・梶原さんも普通に入場。他の一般のお客さんに混ざって客席に座った状態で、湯もみショーの見学スタートしました。 さっきまで観光楽しもうとカメラ弄ってたのに、もう気が気じゃない。湯もみ見たいけどお2人も気になってしまって集中できない。お二人の真正面と隣に座った方達大丈夫ですか。息してますか。 そして湯もみ体験コーナーではお二人の湯もみ姿も拝見できました。まさかの一緒に湯もみでした。ありがてえ。 湯もみショーが終わったところで、お二人のお見送りで会場を出て(湯もみに限らず今回めちゃくちゃお出迎えとお見送りされた気がする)ちょっと自由時間がありましが、お二人もそこらへんぶらっとしてたみたいですね。
個人的な話ですが、体験コーナーの前半が終わったあと、お2人は客席の後ろを通ってお見送りのために出口の方に移動されてたみたいなんですが、フォロワーさんの湯もみ体験の姿をほっこりしながら見てたら、急に後ろからめっちゃエエ声の笑い声が聞こえて本当に心臓止まるかと思いました。ええ。
■宿に着くまでの話 いやこれトピックにするほどの話かと思うのですが。 湯もみショーで読めていたトラップに見事にハマって既に若干疲れ気味のツアー参加者���一同はバスの中で近ツーのツアコンさんから宿に着いてからのレクを受けていたのですが、
J('ー`)し「皆さんこちらを楽しみに参加された方も多いと思いますが、」 (´-`).。oO(そうそう、ディナーショー歌うんだよな~!めっちゃ楽しみ~!)
J('ー`)し「お2人と1分間、お話しして頂きます!」
*゚Д゚)*゚д゚)*゚Д゚) ハァ???
き、聞いてねえぞ!!!!!いや、聞いてたら大変なことになってたけど!!!!!!!!この人数だから決まった話なのかも知れないけど!!!!!!聞いてねえ!!!!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!! いやもう面白いくらい、バスの中が一気に混乱に陥りました。これはしょうがない。人間だもの。みつお。 そして直前まで言わない近ツーさんにしてやられた感です。 なお、このツアー1番の悲鳴が上がった件はディナーショーのときに近ツーさんからバラされ、お二人に爆笑されました。
■ディナーショーの話
もう1分間お話しのネタ出しで頭がいっぱいで、宿に着いてから1時間、風呂にも行けず、お茶を飲んで落ち着こうとしたり、死期を悟って声オタの先輩にラインで助けを求めたりしていたわけですが、こういうときに限ってどういう訳だか時が経つのが早い。緊張で半分上の空で会場に向かいました。 会場は畳敷きの大広間で、スクリーンを中心にコの字型に足つきのお膳が並べられているという、絵に描いたような温泉旅館の宴会セッティング。ディナーショーという言葉でイメージするものとはちょっと違いました。 席に着くと、事前に注文がとられた乾杯用の飲み物が配膳されたわけですが、ここでふと気付く。ビールがビンで来たんですよね。いや、確かに中ビンって注文書に書いてありましたけど、ソフトドリンクもビンが多い。あ、これ会社の飲み会で見たことあるやつだ。挨拶にビン持って回るやつじゃんか。やべえ。やべえ予感がする。死期が近い。
そんなこんなでさらに緊張が高まる中、ディナーショーがスタート。 大体こんな感じの流れでした。
・おまグン 1話鑑賞 ・生アフレコからのドッキリ登場 ・乾杯 ・2対2のお話しタイム ・質問コーナー ・休憩 ・カラオケタイム ・〆の挨拶 ・退場
いやもうね!!!!!これ飯どころじゃねえよな!!!!!!! お膳にはこれまた温泉旅館感のある小鉢やらなんやらいろいろなお料理が並べられていましたが、もう完全に気もそぞろ。 笠間さんは何かとサプライズみたいな、こちらを驚かすのがお好きな印象があるのですが、登場からして開いた襖とは全く別の襖から勢いよく登場されて、開幕悲鳴が上がりましたからね!!マネさんの入れ知恵ですか!!ほんと有能ですね!!!!!
乾杯のあと、お待ちかねというか緊張の、運命のお話しタイム。 お二人がさっそく下手側のお膳の目の前に座って、ひとりひとりに飲み物を継がれて乾杯をされたわけですよ。 それを見てざわつく会場。会話の内容に耳をそばだてるのに忙しすぎて、完全に箸が止まっている周辺の席の人々。やっぱり注ぐのかよ!!!!!!と胸の内で悲鳴を上げるわい。悲喜こもごもの人間模様がそこにはありました。 近ツーのツアコンさんの「あと10秒です」「そろそろ終わりにしないと延長料金入りますよ」などのユーモア溢れるタイムキーピングに合わせて、結局一組2~3分は��話しさせて頂いたように思います。 笠間さんはとても気さくな感じでお話ししてくださいましたし、梶原さんも慣れない中で緊張されていたみたいでしたが、笠間さんにフォローされつつお話しを聞かせてくださいました。この距離感がまるで法事で大人になってから久しぶりに会った親戚の兄ちゃんと甥っ子みたいで色々と!お脳のあたりが!!大変でした!!!!! しかし、前回のクレフェスのサイン会の時は緊張のあまり黙ってしまう時間もあって悔しい思いをした。その轍を踏むまいと逸る気持ちを抑え、噛みそうになる舌と震えそうになる指をぐっと押さえて、今回は何とか普通の会話が!できた気が!す……る……???やったぜ!!!!! 貴重な機会を本当にありがとうございました。お話しできて嬉しかったです。注いで頂いたビールは最高に美味しい一杯でした。
もう胸がいっぱい頭もいっぱいいっぱいの状態で、質問コーナーに突入。 事前に参加者がバスの中で書いた質問用紙をその場でランダムに二人が引いて、そこに書かれた質問に答えていくという趣旨のものでした。 質問と答えの詳細はきっとグンマゾンビのみなさんがツイッターに報告を載せてると思うので細かく書きませんが、初めて聞く話も沢山あって楽しかったです。笠間さんは指先に気を溜めてガシャを引くらしいぞ。 笠間さんは適度にこちらのレスポンスを受けて話を深堀して頂けました。ありがてぇ。 梶原さんは自称コミュ障ということだったんですが、次第に空気感に慣れてきたのか、徐々に表情が柔らかくなっていって大変ほっこりいたしました(叔母目線。
カラオケの前に機材の準備で休憩タイムが設けられたのですが、その際カラオケで普段何を歌うかという話題になりまして、
笠「『アンバランスなkissをして』とか歌うかな~」 (反応する一部の参加者) 笠「当時、まだシングルCDがなくて、どこに行っても買えなくて。知ってる? これくらいの小さいCD(8㎝CD)」 (頷く一部の参加者) 梶「え、知らないです」
そ、そうか~~梶原さんの世代だと知らないんですね~~。目指せポケモンマスターとかだんご3兄弟とかそのサイズだったような。 (しかし参加者の世代がバレる案件だった)
この雑談が元で笠間さんは急遽披露する曲を『アンバランスなkissをして』に変更。笠間さんのサービス精神には本当に頭が下がります。 歌詞カードの準備がなかったのに、マネージャーさんが速攻で歌詞を検索してスマホを渡しておりました。さすがです。 マネさんいつもありがとうございます。お世話になっております。たそこしょで手だけ拝見しております。
カラオケはまず、歌は本邦初公開という梶原さんから。 曲はback numberの「ハッピーエンド」。(であってますよね?) 私は知らない曲だったんですが、めちゃめちゃいい曲でした。 いやというか梶原さん歌うま…!! 私はさっぱり音楽の素養がないんですけど、いやでも歌いだしから目が丸くなりました。正直光る棒が欲しかった。 次回から光る棒持ち込みおっけーにしてくれませんか近ツーさん。
そしてお次が笠間さん。 無論とっくにしかと存じ上げておりましたがやっぱり歌が上手い。 もう圧倒的です。さすがです。こんな少人数の前で披露して頂けるなんて、なんて贅沢。言葉もありません。ゾンビなんで。
最後に言語野が消失していく中、ショーは終了していきました。 あまりにも贅沢な時間でした。
ところでこれ書きながら気づいたんですが、 宿で飯食いながらお酌してもらって楽しませてもらって歌まで披露して頂いて、 これってお座敷遊びってやつでは…???
■上毛かるた大会の話
おまグンタイアップということで組み込まれたこのレクリエーション。 グンマローカルかるたであるところの上毛かるたを3~4人ずつのチーム戦で実際にプレイしようという企画でした。 事前に勝ったチームには景品があると聞かされていたので、バスの中でも食事の席でも部屋でも、上毛かるたの予習方法や、おすすめアプリの情報交換が積極的に行われておりました。そう、戦いはすでに始まっていたのです。 かくいう私もガクともチャンネルで予習をするほか、ちはやふるを読んでイメトレを重ねておりました。
ディナーショーの余韻も冷めやらぬまま会場に向かうと、そこにはすでに座布団と並べられたかるたが。 わ~ちはやふるで見たやつだ~とテンションも上がって、席に着くなり早速目の前の札を覚える作業にとりかかる。最初の暗記が肝心だってちはやふるでも言ってた。
そうこうするうちに時間になり、グンマ出身の近ツー社員さん司会でルール説明がスタート。 実はこの方、ツアーにはこのときだけ参加されまして、おそらくこのカルタ大会のためだけにいらしてくださったのだと思われます。本当にありがとうございました。おかげさまではじめての上毛かるたを思いっきり楽しむことができました。
一通りのルール説明が終わってから、笠間さん・梶原さんが読み手として再登場。これまた贅沢なかるた大会です。 「30分休憩挟んだら空気感忘れちゃった…」とまた緊張モードに戻ってしまった梶原さんを余所にそこでようやく、今回の景品が発表。
司会「お二人が片方目を入れた、サイン入りのダルマを優勝チームにひとり一つ差し上げます。」
そんな��欲しいに決まっとるがな!!!!! 参加者全員の目の色が変わる中、梶原さんの読み上げでかるた大会がスタートしました。
ちょっとここで今回プレイした上毛かるたのルールを説明します。 上毛かるたでは読み札を2回読み上げますが、読み上げ1回目は精神を研ぎ澄ます時間。そこで札を取ってはいけません。札を取っていいのは、2回目に読み上げるときです。 つまり、初心者でも1回目の読み上げの間に札を探す時間があるわけで。
2回目を読み上げた瞬間、スタンッ!!とあらん限りの瞬発力を以て畳を打ち付ける音が複数響きました。 チームによっては同時に手をついた札を取り合って白熱のじゃんけん大会が勃発。しょっぱなから大盛り上がりとなりました。
笠「なんか俺らの時よりめちゃくちゃ盛り上がってるな~」 梶「まず札探すところからしてタイムラグありましたからね」 (ガクともチャンネル参照)
酒が入った大人のオタクを舐めちゃいけない。遊ぶのには全力ですし、景品がかかってるんですからそりゃ本気ですとも。 私が所属していたチームでも、対戦チームとお互いに速攻を決めたり札を払ったりじゃんけんしたりと、一進一退の攻防が続きました。
予想以上の盛り上がりを見せる会場に、負けじと笠間さんも梶原さんもあの手この手で読み方を変えて参加者を翻弄。 詳しいことは何分3か月前(体感)の出来事のためもう記憶が定かではないので、やっぱりグンマゾンビのみなさんのツイートを参照してほしいのですが、 ・近ツーのツアコンさんのモノマネ ・お嬢様風 ・インテリ ・ショタ ・オラオラ系 などなど、途中から参加者��リクエストも拾って頂いてさらに大盛り上がり。 エエ声で「そのきれいな瞳でちゃんと札見てろよ」とか言うのやめてください!!!!!集中できねえ!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!なお、梶原さんは「アドリブ入れるとしんじゃう」とのことでしたので、アドリブはほぼなかった気がします。 個人的に笠間さんの「いっくわよー!チャリオット・マイ・ラブ!!」を聞いてしまって爆発しておりました。メイヴちゃんサイコー!!弊デアにもいつかきてください。(なおピックアップは爆死した模様)
そんなこんなで全札の読み上げが終わり、獲得枚数30枚以上と群を抜いて多かったチームが優勝しました。 私のチームは対戦チームと獲得札同数、「鶴舞う形の群馬県」の札を獲得していたお相手のチームの勝利でした。次機会があったらもっとイメトレ積んで行かねば……
■記念撮影とお見送りの話 楽しいかるた大会のあとは、全員集合の記念撮影とお見送り。 記念撮影はお二人を真ん中に、近ツーのお姉さんの「はい、グンマー!……いや、スベるので普通に戻します」という愉快な掛け声に合わせてガクともチャンネルグンマのGポーズと自由ポーズで撮影。このときのお写真は後日メールで送って頂きました。みなさんめっちゃいい笑顔で幸せな1枚です。 最後はお二人が手でアーチを作り、そこをくぐってお見送りでした。え、なんだろうこれ卒業式…??? 最後の最後まで、楽しませて頂きました。
これにて1日目の行程は終了。 そうなんです。これまだ1日目の話なんです。まだ折り返しなんだ。恐ろしいことに。
■近ツーのツアコンのおねえさんの話 なんだかちらほら話題が出てくる今回の旅の立役者の一人、近ツーのツアコンのおねえさんの話をちょっとさせてください。 この方、大変ユーモアのある方で、ことあるごとにくすっと来るトークを披露されていたのですが、何よりすごかったのはオタクの心理をよくご理解されていること。 覚えている分だけでも書き出すと、
・湯もみショー入場開始直前 「これからお二人とご一緒します。お化粧はばっちりですか~?」 ・1分間のお話タイムについて 「緊張しすぎて「こんにちは」だけしか言えないなんてことがないように、話題用意しておいてくださいね!」 ・かるた大会について 「お二人の声に聞き惚れて札が取れないなんてことがないように注意してください!勝ちに行ってください!」
オタクの習性をよく理解されてますね!!「こんにちは」だけしか言えなかったとかめっちゃ覚えあるわ!!!!!(クレフェスの苦い記憶) あんまりにもよくご存知なのでてっきりおねえさんも何かのオタクなのかと思って、ちょっとお話したときに伺ったら、お友達がアニメ好きで、その方からいろいろ聞いたのだそう。 真偽のほどは置いといて、この方が企画を担当されたと聞いて、あまりにも信頼がおけすぎるなと思いました。 第二回の開催や他の声優さんコラボ企画の開催も目指しているとのことでしたので、アンケも本音でご協力いたしました!!第二回楽しみにしております!!応援しております!!
■お風呂の話 1日目行程終了して、ようやく化粧が落とせるとお風呂に行きました。 せっかく草津に来たんですから、お風呂に入らなきゃ勿体ない。 お風呂は大浴場というだけあって広くて、露天風呂もあって気持ちよかったです。 宿には他にも団体客が宿泊していたようですが、時間が遅いこともあって、ほとんどおまグンツアー参加者ばかり。 おかげでお風呂の中でも参加者のみなさんと「記憶が薄れていく…」「記憶の補間をしなきゃ…」とその日の話で盛り上がることができて楽しかったです。なんかもうお名前存じ上げない方とも普通にお話ししていました。まるで一つライブが終わったあとのようで、連帯感とほどよい疲労感が気持ち良かったです。
ちなみに笠間さん、梶原さんをはじめスタッフのみなさん同じ宿にお泊りだったのですが、私は翌日ロビーで遭遇するまで知りませんでした。(朝の起き抜けの時とかに遭遇しなくてよかった……)
2日目
■浅間酒造の話
2日目出発して早々メインイベントの一つ、浅間酒造へ。 浅間酒造ではお酒の試飲を予定していたのですが、その試飲するお酒を笠間さん・梶原さんに注いでいただけるというものでした。 この旅2回目のお酌ですよ。いやほんとは昨日のお酌がイレギュラーというかサプライズであって、このお酌が本来の予定だったわけですよ。今回はお二人に本当に楽しませて頂いているんだなと改めて思いました。
酒造の販売スタッフのお兄さんに「お酌コーナーはこちらです」とイートインコーナーまで案内され、1列に並んで試飲を待つことに。 イートインコーナーでは販売員さんよろしく酒造の赤い法被を着た笠間さんが希望のお酒を注ぎ、青い法被を着た梶原さんが記念品のサイン入りかるたを手渡してくれるという、お渡し会にお酌がついたような状態でした。(いやお酌は普通つきませんけど。) しかしこちらとて前日のディナーショーとかるた大会の洗礼を受けた身。いい意味で何とかお二人の存在に慣れて、変に緊張しすぎて挙動不審になるのは回避出来るはず。はずです。 私は先にお手洗いを借りたので順番が最後になってしまったのですが、例の愉快な近ツーのおねえさんとお話ししているうちにあっという間に自分の番。寄っていくと、笠間さんから「お待たせしました」と言って頂けました。とんでもないです。むしろお疲れ様です。 私が頂いたかるたの札は、その後に観光予定だった白衣観音の札。実はおまグンおまけ映像のロケで最初にお二人が行ったのが白衣観音だったそうで。そんなエピソードを伺いつつ、前日他の参加者さんから教えもらった上毛かるたアプリの話をしつつ、お酒を頂きました。 私が試飲したのは大吟醸「秘幻」というお酒だったんですが、さっぱりして飲みやす かったです。他にもヨーグルト酒やら仕込み水やらが用意されてました。仕込み水ちょっと気になります。
そのあと20分ほどその酒造でお買い物タイム。 試飲したお酒を買おうと店内をうろうろしていると、気づけば笠間さんと梶原さんも普通に店内うろうろしている。それどころか、買い物してるツアー参加者にめっちゃ普通に話しかけている。 こ、この親戚の兄ちゃんと甥っ子、全然大人しくしててくれねえ!!ごめんなさい慣れたとかナマ言いました!!買い物してる最中もう気になっちゃってしょうがなかったです!!!!!
話は変わりますが、こちらの酒造には「酒ガシャ」なるものが設置されておりまして。 1等が酒造イチオシのお酒1本まるまる、その他色々な景品が当たるくじ引きが1回400円で出来るというもの。まあ今回のツアー参加者のみなさんは多かれ少なかれ日常的にガシャに苦しめられている、もとい楽しんでいるわけで、そんなところにガシャを置かれていたらつい回してしまうのが人情というものです。中毒じゃありません。ロマンを忘れない大人なんです。 そんなわけで局地的に酒ガシャが大人気に。中には一等を出す人もいて大盛り上がりしていると「みんな酒ガシャ引いてるね。何当たったの」とナチュラルに輪に入ってきたのが笠間さん。またも親戚の兄ちゃんみたいな距離感でひょいと入ってきてにこにこしながらツアー参加者の酒ガシャ結果聞いてるんですよこのお人!!なんなんだこの状況!!混乱する!!処理しきれん!!!!!
なんとなくですが、少なくとも笠間さんはツアー参加者全員に一回ずつ話しかけようとしてくださってたんじゃないかな〜、という気がします。もしそうだとしたら、なんというか、本当にそのお心遣いがありがたい限りです。 ちなみに私は酒ガシャでは酒造オリジナル盃を当てました。試飲でお借りした盃と同じものに、酒造のロゴが入ったものです。レジに景品交換に行くと、店員さんが「酒ガシャブームでは!?」と盛り上が���てました。すみません、オタクの群れが来ただけです。 盃はもりもり家で使ってます。大切にします。
買い物が終わってバスに戻ると、乗降口の前に笠間さんと梶原さんが記念品の湯もみちゃんタオルを手に迎えてくれました。 そう何を隠そう、お二人がご一緒して下さるのはこのイベントが最後なのです。ですからこれが正真正銘最後のお見送り。名残惜しいですが心の底からのお礼を伝えて、手渡して頂いた湯もみちゃんタオルを握りしめてバスに乗りました。 バスに全員乗車すると、お二人がバスの中に乗ってきて最後のご挨拶をしてくださいました。
梶「楽しかったです。」 笠「もう終わり?」 梶「いや、コミュ障なんで」
ここにきてコミュ障を発動させる梶原さんに思わずほっこりするバスの中。
笠「ここでお別れですけど、まだグンマにはいるんで。どこかでお会いできたら嬉しいです。お会いしたら後ろから近付いて『お写真撮りましょうか?』ってナンパの常套句みたいに話しかけるかも(笑)」
いやそれ心臓に悪すぎるな!?勘弁してください!!その際はぜひよろしくお願いします!!!!! そんなこんなでバスの出発の時間に。お二人はバスの外で手を振ってお見送りしてくださいました。寂しさと名残惜しさとファンサに対する条件反射でこちらも手を振り返すと、梶原さんは走り出すバスを追っかけてまで手を振ってくれました。つらい。 しかし誰かが言った「サファリパークみたい」という言葉が忘れられません。猛獣はバスに乗ってるこちらってことですよね。
■めがね橋の話 一行は曲がりくねった山道を抜けて、めがね橋へ。 日本最大のレンガ造りの橋だそうで、昔は鉄道が通っていましたが、新幹線の開通に合わせて使われなくなり、今は観光地になっているそうです。 山道でちょっと酔いましたが、降りてみれば山の中の静かな場所で気持ちがよかったです。もう少し遅ければきれいに色づいた山も楽しめたかもしれないですね。 レンガ橋は30メートルもあるそうで、上まであがるのは常時運動不足の身ではちょっとしんどかったです。あがると橋の両脇にはこれまたレンガ造りのトンネルがあり、ホラー好きとしてむしろこっちで大変テンションが上がりました。こういうトンネルで追いかけっこをするんだよ!! このあたりになるとみなさんようやく普通の観光を楽しめる程度には落ち着いてきて、お互いに写真を撮る光景がそこかしこで見受けられました。かくいう私も持参したカメラを抱えてうろうろしながら、なかなかの撮れ高とほくそ笑んでおりました。
■お昼の話
落ち着いて観光をしたところで、昼食に。 本日は駅弁なんかでも見たことがある峠の釜めしが頂けるとのことだったんですが、到着後、なんだか妙に待たされる。なんかトラブルかな~と思ってたら、隣の方に肩を叩かれて「今マネさんいました」と。 実はディナーショーの際、笠間さんに「うちのマネージャー、イケメンでしょ。見かけたら挨拶してあげてね。」とご紹介いただいておりましたので、マネージャーさんのお顔は存じ上げておりました。いや待て、マネさん単体でいるわけないだろ。え?どゆこと?
静かな動揺が広がる中、2階の食堂に通されると、すぐそこに見覚えのあるお背中が。 いや普通にいるし!!!なんじゃこりゃ!!!!!! 笠間さんと梶原さんが、何やら作業をされている横を通り席につく一同。すっかり観光モードになっていたところに予告なくお二人が登場して混乱に陥っていると、したり顔のツアコンさんから「お二人も釜飯を食べたいとのことで」とご説明がありました。 いやこれ絶対サプライズですね。梶原さんもいい笑顔だし、笠間さんなんかめっちゃ「やってやったぜ」って顔してますもん。そういうとこだぞ!!!この男追っかけてるとほんと心臓に悪い!!!!!本当にありがとうございます!!!!!
どうぞ召し上がってくださいと言われてあったかい釜飯を開け始めましたが、みんなそわそわしちゃって仕方ない。 笠間さんも完全に悪戯大成功の顔で「お写真撮りましょうか?」とか話しかけてくるし。そこで伏線回収するのかよ。さすがです。 とは言っても予定にはなかったので、本当に10分程度でお別れ。 梶原さんは参加者話しかけられて何やら嬉しそうにお話ししていたら笠間さんに置いてかれてしまって、「行っちゃったから」と慌ててばいばいと手を振って去っていきました。つらい。
これが本当に最後のお二人とご一緒した時間だったのですが、 お疲れのところ最後の最後まで楽しませていただきありがとうございました。
お二人が去ってからようやくちゃんと頂きましたが、釜飯も美味しかったです。味のしみたシイタケとタケノコが好きです。
食事が終わってからは下のお店でお買い物。 名物の力餅も残り僅かのところをゲットできました。お餅をあんこで包んだものでしたが、思ったよりあんこの比率が高くて食べ応えがあり、濃い目のお茶が欲しくなるお味でした。 店内にはおまグングッズのコーナーもあったので幾つかグッズを購入。あと、ツアー内のグンマちゃんグッズ所持率が異様に高くて、つられて私も買ってしまいました。ツアーが終わった今となってはスマホにつけたグンマちゃんが心の支えです。買ってよかった。
そろそろバスに戻るかというところで、クラツーのツアコンさんに店内にキャストサイン入りおまグンポスターがあると教えていただいて、早速写真を撮りに向かう。 ポスターの前ではしゃいでいると、「おまグンお好きですか?」とボードを持ったおねえさんに話しかけられました。 実はこのおねえさん、お店がある安中市の観光協会の方で、アンケートに回答すると安中市でしか出回っていないおまグン×安中市コラボトレーディングカード「おまえはまだあんなかを知らない」(全5種)を頂けるとか。 悲しいかな、地域限定トレカと聞いて俄然ほしくなるのがオタクの性。 時間がないので巻きでアンケに応じたのですが、
おねえさん「こちらにはどういった形でいらしたんですか?」 オタク「バスツアーです。」 おねえさん「(参加者バッジを見て)ああ、クラツーさんですか。どういうツアーですか。」 オタク「実は、おまグンのタイアップツアーでして。」 おねえさん「ええっ!?」
そうなんです、おねえさん大当たりをお引きになったんです。おねえさんが想定していたであろう聖地巡礼のお客さんとは若干趣旨が違いますが、まさしくそのトレカを欲しがる人の群れなんです。 おねえさんは今回のツアーがあること自体をご存知なかったそうで、「ツアーのみなさん全員にアンケとりたい」と悔しそうでしたが、結局ツアー参加者全員にトレカ全種くださいました。 その節は本当にありがとうございました。大事にします。
■白衣観音の話 一行は最後の観光地、高崎の白衣観音へ。 山の上に立つ高さ40メートルの観音像で、途中バスの中から見た感じではブラジルのコルコバードの巨大キリスト像を連想しました。(腕は広げてませんが。) バスで山の上まで連れてかれて、そこからお土産物屋さんが並ぶ参道を徒歩10分。途中焼きまんじゅうの屋台があって一同ざわめきましたが、残念ながらやっておらず。 参道を歩く猫さんの撮影会をしたりしながら進むと、ようやく観音様の足元に到着。観音様は中が空洞になっていて、肩のあたりまで登れるそうなのですが、今回は時間の都合で断念。写真を撮ったりお寺のお堂を覗いたりしました。御朱印帳持っていけばよかったです。
バスまで戻る途中、ご一緒した方と「焼きまんじゅう食べたかったですね~」などと話しながら参道を下っていると、や、焼きまんじゅうの屋台におばちゃんが!!そして思いっきり焼いてる!!! 前を歩いていたツアー参加者さんも気づいて迷わずおばちゃんに注文。私も無事に焼きまんじゅうにありつくことができました。 早速焼きまんじゅうを頂いたんですが、あまじょっぱくて、とっても不思議な食感……なんだろう、本当にお饅頭の皮のところだけみたいな……美味しいけど不思議…… (なんでこんなに焼きまんじゅうに過剰反応しているかわからない方はおまグンをご参照ください。)
■ガトーフェスタハラダの話 お店の名前を聞いてもピンとこなかったのですが、商品を見たらわかりました。よくお土産で頂くラスクの工場はグンマにあったんですね。 当日は工場はお休みだったので、工場の隣のなぜかギリシャ風の柱が据えられている直売所でお買い物タイム。 私はあんまりラスクは食べないので、解凍に3時間かかる冷凍のバターケーキを購入しました。お値段お手頃で持ち帰りもしやすくておいしかったです。 次はぜひ工場見学したい!帰り際に、おそらく工場見学者に配布しているであろうラスクとカタログを頂戴してしまいました。お土産セットに同封されてたラスクステッカーが何気にかわいいです。
■帰路の話 たった2日間、されど15000字感想が書けるほど濃密な2日間でしたが、終わりの時は来るもの。 高崎駅で近ツーのおねえさん含め、行きのときよりたくさんの方がお別れすることに。秋の行楽シーズン真っ只中で長時間渋滞に引っかかることが予想されたため、遠方から参加した方の中には急遽高崎駅下車に変更する方が結構いたんですね。私もお隣の方とはここでお別れになりました。 人が減ってしまって寂しい車内。ある意味サウナのように緊張と弛緩を繰り返した2日間の疲れで、高速に乗って間もなく大半の方が寝てたんじゃないかと思います。私も速攻寝ました。 休憩をはさみつつ、なんだ��んだで予定から1時間弱の遅れで東京へ。 東京に入った途端、ああもうツアーも終わりなんだなという実感が湧くと急に名残惜しくなりました。せっかくお互い顔を覚えてお話しできた、グンマまで来るレベルの筋金入りの同好の士。どっかの現場でどうせ顔合わせるんだろ、というか既に12月頭の城崎がグンマ同窓会みたいになる予感しかしねえとは思っていましたが、このまま解散してしまえばきっと「あ、どこかで見た顔だな~」で終わってしまう。それはもったいない。なんとか繋がりを維持したい。具体的に言うとツイッター繋がっておきてえ。薄れゆくグンマの記憶を補間しあえる人材を確保してえ。
そんなわけで、車内の一部で急に名刺交換会がはじまりました。 みなさん、どこにでも名刺を持っていくPちゃんの鑑です。すばらしい。 おかげで絵師多くね…?という意外な事実が発覚したりしておりました。 私は持ち込んだ名刺が少なかったので一部の方にしかお渡しできませんでした。名刺切らしちゃってお渡しできなかった方すんません!次回お会いしたときにお渡しさせてください!
バスを降りた後も名刺を持っていなかった方を含め、その場で一部の方のツイッターをフォロー。 再会を誓って、オタクたちは夜の新宿に散って行くのだった。
【完】
■総括 正直に言ってしまえば、参加にはちょっと勇気がいりました。 バスツアーというもの自体に参加することがはじめてで、ぼっち参戦。2日間完全に拘束されますし、値段も決して安いわけではない。少なからず不安に思うこともありました。
でも、行ってみればこの通り、最高に楽しい2日間でした。 本当に行って良かったです。 笠間さんが「ファン同士の交流の機会を提供できたなら嬉しい」といったことを仰ってましたが、本当にそんな旅になったなと振り返ってみて思います。
何度も言うようですが、本当にお二人のサービス精神に支えられた幸せな企画でした。勿論そういう企画だったところも多分にありますが、ことあるごとにお二人が積極的に参加者を楽しませようとして下さったからこそ、こんなに充実した2日間を過ごすことができたのだとそう強く思います。 また、2日時間同行してくださったツアコンさんをはじめ、近ツーさん、クラツーさん、バス会社さん、そしてDMMピクチャーズさんのご助力があったからこそ、ツアーそのものが実現し、最後まで大きなトラブルもなく終わりました。 そして、ツアーをご一緒した参加者のみなさんにも色々とよくして頂きました。またどこかでお会いできたら嬉しいです。
次回があったらぜひ参加したいと思います。近ツーさん、よろしくお願いします!! ここまで読んで頂きありがとうございました。
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各地句会報
花鳥誌 令和4年2月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和3年11月4日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
小六月ぼちぼち仕舞ふ鍬と鎌 由季子 木枯や五分刈り頭分け目つけ さとみ 気にかゝる今日の運勢冬に入る 都 短冊の文字のくづしや一葉の忌 同 兄逝きて里は遠きに冬ざるる 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月6日 零の会 坊城俊樹 選特選句
江戸よりのお香に塗れ菊仏 順子 古井戸を漕ぎて船屋の冬支度 はるか 舟魂の神は留守なる佃島 いづみ 鉄を裁つ音が遠くや小六月 光子 参道は潮へつづき神の旅 同 馬鹿高きビルの月島秋日和 梓渕 菊日和ひなたのまんなかに赤子 光子 秋寂の魑魅魍魎のもんじや焼 炳子 汐風にすだれ名残の佃煮屋 はるか 冬蝶の羽根重たげに船溜り 美智子
岡田順子選 特選句
教会に貼る福音や野ばらの実 和子 離れ里紅葉且つ散り元は海 いづみ 聖ルカの曳く影長し冬近し 眞理子 もんじや屋の電球秋のエレキテル 俊樹 鉄を裁つ音が遠くや小六月 光子 参道は潮へつづき神の旅 同 聖ルカへひと声高く海猫帰る 三郎 江戸風味買ひに佃の冬浅し いづみ 佃煮を売りて一献今年酒 三郎 元漁師ばかりがゐたり報恩講 いづみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
恋しても愛してならぬ木の葉髪 世詩明 神苑の葉擦れの音や神の旅 みす枝 吹かれても土を離れぬ秋の蝶 信子 幾度も糸先舐めて一葉忌 上嶋昭子 見えねども秋を惜しみてゐる鳥語 信子 おそろしき閉館あとの菊人形 上嶋昭子 褒貶は湯気の彼方におでん酒 同 秋天にハングライダーゆつたりと 錦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月8日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
浅漬の出るおやつ時祖母の家 美貴 流れゆく綿虫瑠璃を極だたせ 三無 日輪に溶けて綿虫見失ふ 同 そば処まづは浅漬け山盛りに 迪子 浅漬の昆布のぬめりも一菜に 貴薫 大綿の行先未だ定まらず 秋尚 冬あたたかへら鮒釣りの竿の黙 三無 重力を無くし大綿さ迷ひぬ 秋尚 今もなほ冬温かき笠智衆 有有 冬あたたかベンチに鳩の忘れ羽根三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月11日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
窓を打つ音傾ける古簾 雪 菩提樹は枯れ秋潮は音も無く 同 叡山の虚子碑しぐれて古り給ふ 匠 俊樹選なしと来る文そぞろ寒 清女 新米と仏に告げて供へけり 和子 手紙には里の落葉も入れもして 雪子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月12日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
峠路は叩く雨降る神の留守 あけみ か細くも白さ汚さず菊残る 紀子 白日の耳目を引いて冬の虫 登美子 まだ若き葉もありさうな柿紅葉 紀子 山間の忠霊場に木の実降る 同 干柿を吊るして揺れる風を見る 光子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 令和3年11月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
来ては去る鳥語の中に笹鳴も 和子 学園祭ネイルの指で大根売る 都 松茸や鉄灸の香に偲ぶ郷 宇太郎 山粧ふ電動椅子の行く田舎 同 渡し場の冬の小石に下駄乾して 悦子 鐘楼に釣鐘は無し帰り花 益恵 橡の実干す山家の縁を鉄に 美智子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月12日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
今朝の富士凜とそびえて冬��入る 和代 陽子墓碑ぬくき冬日を肩に乗せ 三無 凩の夜は読みきかすごんぎつね ゆう子 庭を掃く音の乾きや冬に入る 三無 凩や磨き上げたる鍋ふたつ ゆう子 木洩れ日の落葉の音を踏み登る 秋尚 一湾に凩の波せめぎ合ふ 美枝子 凩やくつきり浮かぶ富士の峰 白陶 茶の花や暗き葉影にぽつんと黄 三無 多摩川も富士も一望冬に入る 教子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月13日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
秋天に知床岬盛り上がる 独舟 時雨るゝやかの花街は川向う 晶子 煙突の遺る銭湯冬の月 同 凩の夜の決断のプロポーズ 岬月 蝦夷富士の裾を踏みつけ大根引く 雅春 蝦夷富士のひつくり返る大根引 同 風花や小樽運河に舟一艘 同 (順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月16日 萩花鳥句会
茶の花やコロナの谷間吾娘来たる 祐子 畑で買ふ丹後枝豆宅急便 美恵子 初霜や名も無き草の薄化粧 吉之 庵主逝く嵯峨野路泣くや京しぐれ 健雄 茶の花や母の法要一人して 陽子 冬立つや里の浜辺は波静か ゆかり 野良猫も日向につどひ冬ぬくし 克弘
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令和3年11月16日 伊藤柏翆俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
九頭竜の黙が募らせゐる寒さ かづを 師を偲ぶ三国時雨の中にかな 同 ひとつ付き二つ付いては秋灯る 富子 大根の畝高々と鍬を打つ 真喜栄 越前の七浦繋ぐ野水仙 みす枝 旧仮名の句集読みたる夜長かな 世詩明 高虚子を継ぐ中子忌を修しけり 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月17日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
凩の風の縺れは雨が解く 世詩明 面影はしぐれの中に去来せる 和子 木枯しに病棟の樹の揺れ止まず 昭子 木枯しに独りの髪をかき上げつ 同 夫のこと母のこととも時雨るる夜 同 黒猫も散歩してゐし小六月 啓子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
刀傷めける一すぢ蔦紅葉 千種 水音と鳥語に紅葉且つ散りぬ 三無 冬鳥の礫の黒く梢渡る 斉 大玻璃戸腕組む漢冬に入る 亜栄子 移築校舎に金の標章鳥渡る 炳子 盆栽の松へと大いなる落葉 千種 火炎立て三和土を焦がす榾火かな幸風 どの道も櫟落葉やこの径も 亜栄子 行秋や薬舗の壁に由美かおる 月惑 縄文は地下の賑はひ落葉踏む 菟生 鬼ごつこ落葉舞ひ上げ走る鬼 三無
栗林圭魚選 特選句
お醤油の焼ける匂ひのして小春 久 盆栽の松へと大いなる落葉 千種 万葉の歌碑に散りつぐ紅葉かな 芙佐子 菅公の梅に冬芽の尖り立つ 同 防人を恋ふ妻の歌碑積む落葉 眞理子 静寂なるハケの小川の冬桜 文英 梁は漆黒の蔵神の留守 亜栄子 鯉跳ねて十一月の水歪む 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月22日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
角取れし男の如く古団扇 雪 虚子の野菊左千夫の野菊いづれとも 同 落葉踏み思索の道となりにけり 上嶋昭子 七五三まうすまうすと祝詞かな 同 今日ばかり御座す神の子七五三 一涓 晩秋や朽ちて横たふ榧巨木 紀代美 冬空に硝子をはめる指物師 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年11月25日 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
落葉して見知らぬ空のあるばかり 美穂 天空に続く棚田や神渡 千代 冬薔薇の空の向うは眩しくて かおり 蒼穹に掛けたる稲架やかくれ里 千代 終りなき螺旋階段冬の月 愛 大根積む仏頂面の女かな かおり テーブルの日向を歩く冬の蝿 桂 手に触るる化石の時間虎落笛 喜和 山茶花やエロスを説きし比丘尼逝く 久美子 不実なる昼と夜の顔月夜茸 睦子 驛ピアノ男の指が生む小春 美穂 メレンゲの如く白鳥眠りけり 久恵 箱階段踏めばみしりと冬館 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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生の輪郭ー谷川連峰登山
8月27、28日の両日、群馬県みなかみ町の谷川岳を含む登山コース「馬蹄形」を縦走してきた。
朝4時半のアラームで起き、上下にスポーツ用のタイツを履いて身体に圧がかかると、いよいよ、という感じがする。前日までに必要な荷物を詰めておいたザック、カメラバッグ、道中に食べるおやつを車に投げ入れて、5時半。エンジンをかける。
東北道に入ると、太陽が昇るに連れて細かい雲がだんだんに切れていく。Siriに適当な音楽を頼むと、宇多田ヒカルのAutomaticが始まった。軽やかな気分になる。30分ぐらい走り、群馬県をめがけて北関東道へ。片道約2時間のドライブだ。
谷川岳へはロープウェイを使って標高を稼げる。営業時間は午前8時から。30分ほど前に麓の駅に到着。荷物を少しだけ整理し、車を出る。エレベーターで6階に。10人ぐらい並んでいる列に混じり、片道チケットを1200円ちょっとで購入。さらに上の階へスロープを使って上がり、複数の登山者とゴンドラに乗り込む。
8月は週末の天気が悪く、行きたいと思う日に山に来れない日が続いた。27日はしっかり晴れた。ロープウェイの降り場からリフトを使って天神平まで行く。利用者はまばら。400円と少しの料金を支払い、ザックと一緒に腰をかけて、静かに丘の上を上がる。5分ぐらいで到着する。
岩肌が露出して白っぽい山肌。今から目指す山頂を写真に収め、ハイカーたちが歩き出す。年齢はやや高めの人たちが多い。西黒尾根のルートはきついけど、ここなら確かに手軽に登れるだろう。午前9時手前、谷川岳を目指して歩き始める。
今日の目的地は蓬峠にある蓬ヒュッテ。そこでテントを張る。そのための装備を揃えてきた。岩場が多い山道を他のハイカーと距離をとって、ひたすら行く。谷川岳山頂に向かう途中から、ガスが立ち込めて来ていた。
谷川岳は「耳」と呼ばれるピークが2つある。さらに2座超えたところに、今日1日目の目的地がある。2つ目を超えて先を進む。ガスは晴れないままだ。霧に包まれながら歩いていく。
道中、右側の崖にせり出している岩肌に四角くくり抜かれたような黒いものが見えた。よく近づいて見ると、それが遭難者を弔うものだとわかった。一瞬だけガスが晴れたときに見える山肌は絶壁そのもので、ここでコケたら落ちる感じなのだろうと震えた。遭難事故は今年のゴールデンウィークにも起きている(https://yamap.com/magazine/28285) 。
歩くのに慎重になりたいのに、ガスが晴れたら、体を燃やすように太陽が照りつけてきた。切り立った崖を過ぎたあたりで、休憩を挟みながら歩く。ガスは濃くなったり晴れたりを繰り返した。霧の中での笹原は天国かどこか、俗世とはかけ離れた場所のように思えた。
蓬ヒュッテに着いた午後3時半ごろには、へとへとになっていた。すでに3組がテントを張っている。受付をし、テントを組み立て、片道10分程度の水場まで水を汲みにいく。
ガス火で湯を沸かしてそうめんを茹で、もってきたレトルトカレーに突っ込んで食べる。ザックには暇つぶしようにとレイチェル・カーソン『沈黙の春』を突っ込んで来たのだけど、疲れて結局読まないまま寝てしまった。日が落ちた後、雨が降って来た。雨のテンションが変わっていくのを、フライに打ち付ける音で感じながら眠った。
朝3時半、目を覚ました。雨はしばらく前に止んだみたいだ。テントから顔を出すと、南の空に星が光っていた。西側の朝日岳は暗さの度合いで、稜線がなんとなくわかった。湯を沸かし、インスタントコーヒーの粉末をマグに溶かして体を温めた。
日が昇り、テントをたたんで出かける。肌寒いが、上着は着ない。昨日すでに着ていた2組は先に出発した。今日は歩行距離10kmで、昨日よりも長い。下山もあるので、よりしんどい活動となる。
最初の七つ小屋山までは、腰より高い笹の原っぱを分けるように進む。足元の様子がわからず、小さくない石があればつまずく。
朝日岳に着くころには、朝汲んだ水は残っていなかった。山頂手前にある水場があり、再度補給。人は水がないと生きていけないというのは、太陽に焼かれないとわからないのかもしれない。山頂でプロテインバーを食べ、下山に漕ぎ出す。ここから残り3座で終わりだ。
山行中、もっともしんどいのは朝日岳を過ぎてからだった。
昨日と違ってガスが立ち込めることはなく、終始太陽が照りつけた。岩山なので日陰になるような木が生えているわけでなく、自分よりも背の低い高山植物を愛でる余裕もなく、体力が急激に減った。途中の岩場で30分ごとに休憩するとか、常に自分の今の状態に気をつけていないと簡単に熱中症になる。太陽と戦っているみたいだった。
この日朝日岳のピストンを目指してるハイカーとすれ違いながら、息を切らして進む。白毛門に着くころまでの記憶はあいまい。登っては降りての繰り返し。
今、何しているんだろうと、やっていることが頭の中ではっきりしなかった。少し止まって遠くに目をやると、山の稜線は相変わらず綺麗だった。綺麗だけど、何もしてくれない。早く帰りたいと思った瞬間から、山は抜け出すべき場所になってしまった。
白毛門の下山は、ほぼクライミングに近い岩場。岩に向かって体を向けて、1動作ずつ体を下へ持っていく。幸運なことに太陽が雲に隠れていた。
自分の汗と虫除けスプレーが混ざった匂いが鼻につく。早く帰りたい。山行中にこれほど俗世が恋しくなるとは思わなかった。しんどくてたまらない時、湧き上がる雑念にすら怒りの感情が湧き上がるのとわかった。早く帰って風呂に帰りたい、途中のコンビニで入浴剤とプロテインを買うんだ。いやクソだろ。役に立たないことを考えるな。目の前は砂利道。うっかり滑ったらどうすんだよ。集中しなければ。なぜか。帰るためだ。帰ったら...。
目に入る植物の背が高くなり、午後3時を迎える前、疲れ果てて大きな杉の木にザックを下ろし、5分ぐらい仮眠をとった。そこでふと谷川岳ロープウェイの駐車場の営業時間を調べると、ここからはペースを上げないと間に合わないと悟った。すぐにザックを背負い直した。
樹林帯は杉の根が階段のようになるからペースを上げるのは容易だったけど、ここまでの疲労が一気にきた。普通なら左右交互に足を置く場所は感覚的にわかるのに、おぼつかなくなる。息を整えながらでないと危険だ。
尾根沿いを下るルートは比較的急な道のりだった。足を踏み外してしまったら終わるので、ストックを使ってバランスを取りながら駆け下りた。
正直、この山行は楽しくはなかった。明らかな準備不足があったし、太陽の威力を甘く見積もり過ぎていた。休憩時間をもっと加味して計画を練る必要があった。もっていく食料のカロリーを意識すべきだったし、前日もっと食べておくべきだった。
営業終了3分前。帰巣本能だろこれ、という体の働きに感謝にしながらザックを後部座席に投げ入れ、靴を履き替えて駐車場を出た。間に合った。
帰り道、音楽を流してとSiriに頼むと、また宇多田ヒカルを流した。桜流し。宇多田ヒカルが死を歌った曲のうちの一つ。
暮れゆく関越道を走り抜ける。あまりにしんどい瞬間が多かった1日だった。こうして車を運転していることが、不思議に感じられた。
最後の行程でずっこけて、山で気を失っていても不思議じゃなかったし、どちからの足がつってしまうことだってあり得た。歯を食いしばって耐えるしかないほど両膝が痛んでいてもおかしくなかった。実際、帰りの車では両膝はとても痛んだ。
「開いたばかりの花が散るのを、見ていた木立のやるせなきかな」。綺麗な山の景色は、何も助けにならなかった。山肌の広がりを見届けるための場所は、終盤の自分には残されていなかったからだ。木立の存在を歌に込めた歌手のように、散りゆく可能性があった自分自身を帰路で強く意識した。
日が落ちて東北道に戻るころには、別の日常を生きている感覚になっていた。これは27日の続きなのだろうか。大げさなのは承知だが、人生が一度この世とは別のところに行っていたという感じ。今までの山行と明らかに体感が違った。
ハイカーでタレントの仲川希良さんが以前、インスタの質問ストーリーで「どうして登山するの?」という質問に「自分自身の輪郭をはっきりさせるため」と答えていた記憶がある。なぜ山に登るのか。問いを打ち砕いて生を奪えるような威力が、今回の環境にはあった。
俗世から一度離れることで、俗世のことがよくわかるという趣旨だと思っていたけど、この離れる行為が行き過ぎる場合だってある。綺麗な景色に見とれていたら、文字通り足元を救われ、谷地に落ちて行ってしまうからだ。帰ってきたことが偶然だったように感じられる危険を冒してしまったことを、書いて、刻んでおく。人生を仕切り直すような2日間だった。
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【小説】The day I say good-bye(4/4) 【再録】
(3/4)はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/648720756262502400/)
今思えば、ひーちゃんが僕のついた嘘の数々を、本気で信じていたとは思えない。
何度も何度も嘘を重ねた僕を、見抜いていたに違いない。
「きゃああああああああああああーっ!」
絶叫、された。
耳がぶっ飛ぶかと思った。
長い髪はくるくると幾重にもカーブしていた。レースと玩具の宝石であしらわれたカチューシャがまるでティアラのように僕の頭の上に鎮座している。桃色の膨らんだスカートの下には白いフリルが四段。半袖から剥き出しの腕が少し寒い。スカートの中もすーすーしてなんだか落ち着かない。初めて穿いた黒いタイツの感触も気持ちが悪い。よく見れば靴にまでリボンが付いている。
鏡に映った僕は、どう見てもただの女の子だった。
「やっだー、やだやだやだやだ、どうしよー。――くんめっちゃ女装似合うね!」
クラス委員長の長篠めいこさん(彼女がそういう名前であることはついさっき知った)は、女装させられた僕を明らかに尋常じゃない目で見つめている。彼女が僕にウィッグを被らせ、お手製のメイド服を着せた本人だというのに、僕の女装姿に瞳を爛々と輝かせている。
「準備の時に一度も来てくれないから、衣装合わせができなくてどうなるかと思っていたけど、サイズぴったりだね、良かった。――くんは華奢だし細いし顔小さいしむさくるしくないし、女装したところでノープロブレムだと思っていたけれど、これは予想以上だったよっ」
準備の際に僕が一度も教室を訪れなかったのは、連日、保健室で帆高の課題を手伝わされていたからだ。だけれどそれは口実で、本当はクラスの準備に参加したくなかったというのが本音。こんなふざけた企画、携わりたくもない。
僕が何を考えているかを知る由もない長篠さんは、両手を胸の前で合わせ、真ん丸な眼鏡のレンズ越しに僕を見つめている。レーザー光線のような視線だ。見つめられ続けていると焼け焦げてしまいそうになる。助けを求めて周囲をすばやく見渡したが、クラスメイトのほぼ全員がコスチュームに着替え終わっている僕の教室には、むさくるしい男のメイドか、ただのスーツといっても過言ではない燕尾服を着た女の執事しか見当たらない。
「すね毛を剃ってもらう時間はなかったので、急遽、脚を隠すために黒タイツを用意したのも正解だったね。このほっそい脚がさらに際立つというか。うんうん、いい感じだねっ!」
長篠さん自身、黒いスーツを身に纏っている。彼女こそが、今年の文化祭でのうちのクラスの出し物、「男女逆転メイド・執事喫茶」の発案者であり、責任者だ。こんなふざけた企画をよくも通してくれたな、と怨念を込めてにらみつけてみたけれど、彼女は僕の表情に気付いていないのかにこにこと笑顔だ。
「ねぇねぇ、――くん、せっかくだし、お化粧もしちゃう? ネイルもする? 髪の毛もっと巻いてあげようか? あたし、――くんだったらもっと可愛くなれるんじゃないかな���て思うんだけど」
僕の全身を舐め回すように見つめる長篠さんはもはや正気とは思えない。だんだんこの人が恐ろしくなってきた。
「めいこ���その辺にしておきな」
僕が何も言わないでいると、思わぬ方向から声がかかった。
振り向くと僕の後ろには、長身の女子が立っていた。男子に負けないほど背の高い彼女は、教室の中でもよく目立つ。クラスメイトの顔と名前をろくに記憶していない僕でも、彼女の姿は覚えていた。それは背が高いという理由だけではなく、言葉では上手く説明できない、長短がはっきりしている複雑で奇抜な彼女の髪型のせいでもある。
背が決して高いとは言えない僕よりも十五センチほど長身の彼女は、紫色を基調としたスーツを身に纏っている。すらっとしていて恰好いい。
「――くん、嫌がってるだろう」
「えー、あたしがせっかく可愛くしてあげようとしてるのにー」
「だったら向こうの野球部の連中を可愛くしてやってくれ。あんなの、気味悪がられて客を逃がすだけだよ」
「えー」
「えー、とか言わない。ほらさっさと行きな。クラス委員長」
彼女に言われたので仕方なく、という表情で長篠さんが僕の側から離れた。と、思い出したかのように振り向いて僕に言う。
「あ、そうだ、――くん、その腕時計、外してねっ。メイド服には合わないからっ」
この腕時計の下には、傷跡がある。
誰にも見せたことがない、傷が。
それを晒す訳にはいかなかった。僕がそれを無視して長篠さんに背を向けようとした時、側にいた長身の彼女が僕に向かって口を開いた。
「これを使うといいよ」
そう言って彼女が差し出したのは、布製のリストバンドだった。僕のメイド服の素材と同じ、ピンク色の布で作られ、白いレースと赤いリボンがあしらわれている。
「気を悪くしないでくれ。めいこは悪気がある訳じゃないんだけど……」
僕の頭の中は真っ白になっていた。突然手渡されたリストバンドに反応ができない。どうして彼女は、僕の手首の傷を隠すための物を用意してくれているんだ? 視界の隅では長篠さんがこちらに背を向けて去って行く。周りにいる珍妙な恰好のクラスメイトたちも、誰もこちらに注意を向けている様子はない。
「一体、どういう……」
そう言う僕はきっと間抜けな顔をしていたんだろう、彼女はどこか困ったような表情で頭を掻いた。
「なんて言えばいいのかな、その、きみはその傷を負った日のことを、覚えてる?」
この傷を負った日。
雨の日の屋上。あーちゃんが死んだ場所。灰色の空。緑色のフェンス。あと一歩踏み出せばあーちゃんと同じところに行ける。その一歩の距離。僕はこの傷を負って、その場所に立ち尽くしていた。
同じところに傷を負った、ミナモと初めて出会った日だ。
「その日、きみ、保健室に来たでしょ」
そうだ。僕はその後、保健室へ向かった。ミナモは保健室を抜け出して屋上へ来ていた。そのミナモを探しに来た教師に僕とミナモは発見され、ふたり揃って保健室で傷の手当を受けた。
「その時私は、保健室で熱を測っていたんだ」
あの時に保健室に他に誰かいたかなんて覚えていない。僕はただ精いっぱいだった。死のうとして死ねなかった。それだけで精いっぱいだったのだ。
長身の彼女はそう言って、ほんの少しだけ笑った。それは馬鹿にしている訳でもなく、面白がっている訳でもなく、微笑みかけてくれていた。
「だから、きみの手首に傷があることは知ってる。深い傷だったから、痕も残ってるんだろうと思って、用意しておいたんだ」
私は裁縫があまり得意ではないから、めいこの作ったものに比べるとあまり良い出来ではないけどね。彼女はそう付け足すように言う。
「使うか使わないかは、きみの自由だけど。そのまま腕時計していてもいいと思うしね。めいこは少し、完璧主義すぎるよ。こんな中学生の女装やら男装やらに、完璧さなんて求めてる人なんかいないのにね」
僕はいつも、自分のことばかりだ。今だって、僕の傷のことを考慮してくれている人間がいるなんて、思わなかった。
それじゃあ、とこちらに背を向けて去って行こうとする彼女の後ろ姿を、僕は呼び止める。
「うん?」
彼女は不思議そうな顔をして振り向いた。
「きみの、名前は?」
僕がそう尋ねると、彼女はまた笑った。
「峠茶屋桜子」
僕は生まれて初めて、クラスメイトの顔と名前を全員覚えておかなかった自分を恥じた。
峠茶屋さんが作ってくれたリストバンドは、せっかくなので使わせてもらうことにした。
それを両手首に装着して保健室へ向かってみると、そこには河野ミナモと河野帆高の姿が既にあった。
「おー、やっと来たか……って、え、ええええええええええええ!?」
椅子に腰掛け、行儀の悪いことに両足をテーブルに乗せていた帆高は、僕の来訪を視認して片手を挙げかけたところで絶叫しながら椅子から落下した。頭と床がぶつかり合う鈍い音が響く。ベッドのカーテンの隙間から様子を窺うようにこちらを見ていたミナモは、僕の姿を見てから興味なさそうに目線を逸らす。相変わらず無愛想なやつだ。
「な、何、お前のその恰好……」
床に転がったまま帆高が言う。
「何って……メイド服だけど」
帆高には、僕のクラスが男女逆転メイド・執事喫茶を文化祭の出し物でやると言っておいたはずだ。僕のメイド服姿が見物だなんだと馬鹿にされたような記憶もある。
「めっちゃ似合ってるじゃん、お前!」
「……」
不本意だけれど否定できない僕がいる。
「びびる! まじでびびる! お前って実は女の子だった訳!?」
「そんな訳ないだろ」
「ちょっと、スカートの中身、見せ……」
床に座ったまま僕のメイド服に手を伸ばす帆高の頭に鉄拳をひとつお見舞いした。
そんな帆高も頭に耳、顔に鼻、尻に尻尾を付けており、どうやら狼男に変装しているようだ。テーブルの上には両手両足に嵌めるのであろう、爪の生えた肉球付きの手袋が置いてある。これぐらいのコスプレだったらどれだけ心穏やかでいられるだろうか。僕は女装するのは人生これで最後にしようと固く誓った。
「そんな恰好で恥ずかしくないの? 親とか友達とか、今日の文化祭に来ない訳?」
「さぁ……来ないと思うけど」
僕の両親は今日も朝から仕事に行った。そもそも、今日が文化祭だという事実も知っているとは思えない。
別の中学校に通っている小学校の頃の友人たちとはもう連絡も取り合っていないし、顔も合わせていないので、来るのか来ないのかは知らない。僕以外の誰かと親交があれば来るのかもしれないが、僕には関係のない話だ。
そう、そのはずだった。だが僕の予想は覆されることになる。
午前十時に文化祭は開始された。クラス委員長である長篠めいこさんが僕に命じた役割は、クラスの出し物である男女逆転メイド・執事喫茶の宣伝をすることだった。段ボール製のプラカードを掲げて校舎内を循環し、客を呼び込もうという魂胆だ。
結局、ミナモとは一言も言葉を交わさずに出て来てしまった、と思う。うちの学校の文化祭は一般公開もしている。今日の校内にはいつも以上に人が溢れている。保健室登校のミナモにとっては、つらい一日になるかもしれない。
お化け屋敷を出し物にしているクラスばかりが並んでいる、我が校の文化祭名物「お化け屋敷ロード」をすれ違う人々に異様な目で見られていることをひしひしと感じながら、プラカードを掲げ、チラシを配りながら歩いていくと、途中で厄介な人物に遭遇した。
「おー、少年じゃん」
日褄先生だ。
目の周りを黒く塗った化粧や黒尽くめのその服装はいつも通りだったが、しばらく会わなかった間に、曇り空より白かった頭髪は、あろうことか緑色になっていた。これでスクールカウンセラーの仕事が務まるのだろうか。あまりにも奇抜すぎる。だが咄嗟のことすぎて、驚きのあまり声が出ない。
「ふーん、めいこのやつ、裁縫上手いんじゃん。よくできてる」
先生は僕の着用しているメイド服のスカートをめくろうとするので、僕はすばやく身をかわして後退した。「変態か!」と叫びたかったが、やはり声にならない。
助けを求めて周囲に視線を巡らせて、僕は人混みからずば抜けて背の高い男性がこちらに近付いてくるのがわかった。
前回、図書館の前で出会った時はオールバックであったその髪は、今日はまとめられていない。モスグリーンのワイシャツは第一ボタンが開いていて、おまけにネクタイもしていない。ズボンは腰の位置で派手なベルトで留められている。銀縁眼鏡ではなく、色の薄いサングラスをかけていた。シャツの袖をまくれば恐らくそこには、葵の御紋の刺青があるはずだ。左手の中指に日褄先生とお揃いの指輪をしている彼は、日褄先生の婚約者だ。
「葵さん……」
僕が名前を呼ぶと、彼は僕のことを睨みつけた。しばらくして、やっと僕のことが誰なのかわかったらしい。少し驚いたように片眉を上げて、口を半分開いたところで、
「…………」
だが、葵さんは何も言わなかった。
僕の脇を通り抜けて、日褄先生のところに歩いて行った。すれ違いざまに、葵さんが何か妙なものを小脇に抱えているなぁと思って振り返ってみると、それは大きなピンク色のウサギのぬいぐるみだった。
「お、葵、お帰りー」
日褄先生がそう声をかけると、葵さんは無言のままぬいぐるみを差し出した。
「なにこのうさちゃん、どうしたの?」
先生はそれを受け取り、ウサギの頭に顎を置きながらそう訊くと、葵さんは黙って歩いてきた方向を指差した。
「ああ、お化け屋敷の景品?」
葵さんはそれには答えなかった。そもそも僕は、彼が口を��いたところを見たことがない。それだけ寡黙な人なのだ。彼は再び僕を見ると、それから日褄先生へ目線を送った。ウサギの耳で遊ぶのに夢中になっていた先生はそれに気付いているのかいないのか、
「男女逆転メイド・執事喫茶、やってるんだって」
と僕の服装の理由を説明した。だが葵さんは眉間の皺を深めただけだった。そしてそのまま、彼は歩き出してしまう。日褄先生はぬいぐるみの耳をぱたぱた手で動かしていて、それを追おうともしない。
「……いいんですか? 葵さん、行っちゃいましたけど……」
「あいつ、文化祭ってものを見たことがないんだよ。ろくに学校行ってなかったから。だから連れて来てみたんだけど、なんだか予想以上にはしゃいじゃってさー」
葵さんの態度のどこがはしゃいでいるように見えるのか、僕にはわからないが、先生にはわかるのかもしれない。
「あ、そうだ、忘れるところだった、少年のこと、探しててさ」
「何か用ですか?」
「はい、チーズ」
突然、眩しい光が瞬いた。一体いつ、どこから取り出したのか、先生の手にはインスタントカメラが握られていた。写真を撮られてしまったようだ。メイド服を着て、付け毛を付けている、僕の、女装している写真が……。
「な、ななななななな……」
何をしているんですか! と声を荒げるつもりが、何も言えなかった。日褄先生は颯爽と踵を返し、「あっはっはっはっはー!」と笑いながら階段を駆け下りて行った。その勢いに、追いかける気も起きない。
僕はがっくりと肩を落とし、それでもプラカードを掲げながら校内の循環を再開することにした。僕の予想に反して、賑やかな文化祭になりそうな予感がした。
お化け屋敷ロードの一番端は、河野帆高のクラスだったが、廊下に帆高の姿はなかった。あい��はお化け役だから、教室の中にいるのだろう。
あれから、帆高はあーちゃんが僕に残したノートについて一言も口にしていない。僕の方から語ることを待っているのだろうか。協力してもらったのだから、いずれきちんと話をするべきなんじゃないかと考えてはいるけれど、今はまだ上手く、僕も言葉にできる自信がない。
廊下の端の階段を降りると、そこは射的ゲームをやっているクラスの前だった。何やら歓声が上がっているので中の様子を窺うと、葵さんが次々と景品を落としているところだった。大人の本気ってこわい。
中央階段の前の教室では、自主製作映画の上映が行われているようだった。「戦え!パイナップルマン」というタイトルの、なんとも言えないシュールな映画ポスターが廊下には貼られている。地球侵略にやってきたタコ星人ヲクトパスから地球を救うために、八百屋の片隅で売れ残っていた廃棄寸前のパイナップルが立ち上がる……ポスターに記されていた映画のあらすじをそこまで読んでやめた。
ちょうど映画の上映が終わったところらしい、教室からはわらわらと人が出てくる。僕は歩き出そうとして、そこに見知った顔を見つけてしまった。
色素の薄い髪。切れ長の瞳と、ひょろりとした体躯。物静かな印象を与える彼は、
「あっくん……」
「うー兄じゃないですか」
妙に大人びた声音。口元の端だけを僅かに上げた、作り笑いに限りなく似た笑顔。
鈴木篤人くんは、僕よりひとつ年下の、あーちゃんの弟だ。
「一瞬、誰だかわかりませんでしたよ。まるで女の子だ」
「……来てたんだ、うちの文化祭」
私立の中学校に通うあっくんが、うちの中学の文化祭に来たという話は聞いたことがない。それもそのはずだ。この学校で、彼の兄は飛び降り自殺したのだから。
「たまたま今日は部活がなかったので。ちょっと遊びに来ただけですよ」
柔和な笑みを浮かべてそう言う。だけれどその笑みは、どこか嘘っぽく見えてしまう。
「うー兄は、どうして女装を?」
「えっと、男女逆転メイド・執事喫茶っていうの、クラスでやってて……」
僕は掲げていたプラカードを指してそう説明すると、ふうん、とあっくんは頷いた。
「それじゃあ、最後にうー兄のクラスを見てから帰ろうかな」
「あ、もう帰るの?」
「本当は、もう少しゆっくり見て行くつもりだったんですが……」
彼はどこか困ったような表情をして、頭を掻いた。
「どうも、そういう訳にはいかないんです」
「何か、急用?」
「まぁ、そんなもんですかね。会いたくない人が――」
あっくんはそう言った時、その双眸を僅かに細めたのだった。
「――会いたくない人が、ここに来ているみたいなので」
「そう……なんだ」
「だからすみません、今日はそろそろ失礼します」
「ああ、うん」
「うー兄、頑張って下さい」
「ありがとう」
浅くもなく深くもない角度で頭を下げてから、あっくんは人混みの中に消えるように歩き出して行った。
友人も知人も少ない僕は、誰にも会わないだろうと思っていたけれど、やっぱり文化祭となるとそうは言っていられないみたいだ。こうもいろんな人に自分の女装姿を見られると、恥ずかしくて死にたくなる。穴があったら入りたいとはまさにこのことなんじゃないだろうか。
教室で来客の応対をしたりお菓子やお茶の用意をすることに比べたらずっと楽だが、こうやって校舎を循環しているのもなかなかに飽きてきた。保健室でずる休みでもしようか。あそこには恐らく、ミナモもいるはずだから。
そうやって僕も歩き出し、保健室へ続く廊下を歩いていると、僕は突然、頭をかち割われたような衝撃に襲われた。そう、それは突然だった。彼女は唐突に、僕の前に現れたのだ。
嘘だろ。
目が、耳が、口が、心臓が、身体が、脳が、精神が、凍りつく。
耳鳴り、頭痛、動悸、震え。
揺らぐ。視界も、思考も。
僕はやっと気付いた。あっくんが言う、「会いたくない人」の意味を。
あっくんは彼女がここに来ていることを知っていた。だから会いたくなかったのだ。
でもそんなはずはない。世界が僕を置いて行ったように、きみもそこに置いて行かれたはずだ。僕のついた不器用な嘘のせいで、あの春の日に閉じ込められたはずだ。きみの時間は、止まったはずだ。
言ったじゃないか、待つって。ずっと待つんだって。
もう二度と帰って来ない人を。
僕らの最愛の、あーちゃんを。
「あれー、うーくんだー」
へらへらと、彼女は笑った。
「なにその恰好、女の子みたいだよ」
楽しそうに、愉快そうに、面白そうに。
あーちゃんが生きていた頃は、一度だってそんな風に笑わなかったくせに。
色白の肌。華奢で小柄な体躯。相手を拒絶するかのように吊り上がった猫目。伸びた髪。身に着けている服は、制服ではなかった。
でもそうだ。
僕はわかっていたはずだ。日褄先生は僕に告げた。ひーちゃんが、学校に来るようになると。いつかこんな日が来ると。彼女が、世界に追いつく日がやって来ると。
僕だけが、置いて行かれる日が来ることを。
「久しぶりだね、うーくん」
「……久しぶり、ひーちゃん」
僕は、ちっとも笑えなかった。あーちゃんが生きていた頃は、ちゃんと笑えていたのに。
市野谷比比子はそんな僕を見て、満面の笑みをその顔に浮かべた。
「……だんじょぎゃくてん、めいど……しつじきっさ…………?」
たどたどしい口調で、ひーちゃんは僕が持っていたプラカードの文字を読み上げる。
「えっとー、男女が逆だから、うーくんが女の子の恰好で、女の子が男の子の恰好をしてるんだね」
そう言いながら、ひーちゃんはプラスチック製のフォークで福神漬けをぶすぶすと刺すと、はい、と僕に向かって差し出してくる。
「これ嫌い、うーくんにあげる」
「どうも」
僕はいつから彼女の嫌いな物処理係になったのだろう、と思いながら渡されたフォークを受け取り、素直に福神漬けを咀嚼する。
「でもうーくん、女装似合うね」
「それ、あんまり嬉しくないから」
僕とひーちゃんは向き合って座っていた。ひーちゃんに会ったのは、僕が彼女の家を訪ねた夏休み以来だ。彼女はあれから特に変わっていないように見える。着ている服は今日も黒一色だ。彼女は、最愛の弟、ろーくんが死んだあの日から、ずっと黒い服を着ている。
僕らがいるのは新校舎二階の一年二組の教室だ。PTAの皆さまが営んでいるカレー屋である。この文化祭で調理が認められているのは、大人か、調理部の連中だけだ。午後になり、生徒も父兄も体育館で行われている軽音部やら合唱部やらのコンサートを観に行ってしまっているので、校舎に残る人は少ない。店じまいしかけているカレー屋コーナーで、僕たちは遅めの昼食を摂っていた。僕は未だに、メイド服を着たままだ。
ひーちゃんとカレーライスを食べている。なんだか不思議な感覚だ。ひーちゃんがこの学校にいるということ自体が、不思議なのかもしれない。彼女は入学してからただの一度も、この学校の門をくぐったことがなかったのだ。
どうしてひーちゃんは、ここにいるんだろう。ひーちゃんにとって、ここは、もう終わってしまった場所のはずなのに。ここだけじゃない。世界じゅうが、彼女の世界ではなくなってしまったはずなのに。あーちゃんのいない世界なんて、無に等しいはずなのに。なのにひーちゃんは、僕の目の前にいて、美味しそうにカレーを食べている。
ときどき、僕の方を見て、話す。笑う。おかしい。だってひーちゃんの両目は、いつもどこか遠くを見ていたはずなのに。ここじゃないどこかを夢見ていたのに。
いつかこうなることは、わかっていた。永遠なんて存在しない。不変なんてありえない。世界が僕を置いて行ったように、いずれはひーちゃんも動き出す。僕はずっとそうわかっていたはずだ。僕が今までについた嘘を全部否定して、ひーちゃんが再び、この世界で生きようとする日が来ることを。
思い知らされる。
あの日から僕がひーちゃんにつき続けた嘘は、あーちゃんは本当は生きていて、今はどこか遠くにいるだけだと言ったあの嘘は、何ひとつ価値なんてなかったということを。僕という存在がひーちゃんにとって、何ひとつ価値がなかったということを。わかっていたはずだ。ひーちゃんにとっては僕ではなくて、あーちゃんが必要なんだということを。あーちゃんとひーちゃんと僕で、三角形だったなんて大嘘だ。僕は最初から、そんな立ち位置に立��ていなかった。全てはそう思いたかった僕のエゴだ。三角形であってほしいと願っていただけだ。
そうだ。
本当はずっと、僕はあーちゃんが妬ましかったのだ。
「カレー食べ終わったら、どうする? 少し、校内を見て行く?」
僕がそう尋ねると、ひーちゃんは首を左右に振った。
「今日は先生たちには内緒で来ちゃったから、面倒なことになる前に帰るよ」
「あ、そうなんだ……」
「来年は『僕』も、そっち側で参加できるかなぁ」
「そっち側?」
「文化祭、やれるかなぁっていうこと」
ひーちゃんは、楽しそうな笑顔だ。
楽しそうな未来を、思い描いている表情。
「……そのうち、学校に来るようになるんだって?」
「なんだー、あいつ、ばらしちゃったの? せっかく驚かせようと思ったのに」
あいつ、とは日褄先生のことだろう。ひーちゃんは日褄先生のことを語る時、いつも少し不機嫌になる。
「……大丈夫なの?」
「うん? 何が?」
僕の問いに、ひーちゃんはきょとんとした表情をした。僕はなんでもない、と言って、カレーを食べ続ける。
ねぇ、ひーちゃん。
ひーちゃんは、あーちゃんがいなくても、もう大丈夫なの?
訊けなかった言葉は、ジャガイモと一緒に飲み込んだ。
「ねぇ、うーくん、」
ひーちゃんは僕のことを呼んだ。
うーくん。
それは、あーちゃんとひーちゃんだけが呼ぶ、僕のあだ名。
黒い瞳が僕を見上げている。
彼女の唇から、いとも簡単に嘘のような言葉が零れ落ちた。
「あーちゃんは、もういないんだよ」
「…………え?」
僕は耳を疑って、訊き返した。
「今、ひーちゃん、なんて……」
「だから早く、帰ってきてくれるといいね、あーちゃん」
そう言ってひーちゃんは、にっこり笑った。まるで何事もなかったみたいに。
あーちゃんの死なんて、あーちゃんの存在なんて、最初から何もなかったみたいに。
僕はそんなひーちゃんが怖くて、何も言わずにカレーを食べた。
「あーちゃん」こと鈴木直正が死んだ後、「ひーちゃん」こと市野谷比比子は生きる気力を失くしていた。だから「うーくん」こと僕、――――は、ひーちゃんにひとつ嘘をついた。
あーちゃんは生きている。今はどこか遠くにいるけれど、必ず彼は帰ってくる、と。
カレーを食べ終えたひーちゃんは、帰ると言うので僕は彼女を昇降口まで見送ることにした。
二人で廊下を歩いていると、ふと、ひーちゃんの目線は窓の外へと向けられる。目線の先を追えば、そこには旧校舎の屋上が見える。そう、あーちゃんが飛び降りた、屋上が見える。
「ねぇ、どうしてあーちゃんは、空を飛んだの?」
ひーちゃんは虚ろな瞳で窓から空を見上げてそう言った。
「なんであーちゃんはいなくなったの? ずっと待ってたのに、どうして帰って来ないの? ずっと待ってるって約束したのに、どうして? 違うね、約束したんじゃない、『僕』が勝手に決めたんだ。あーちゃんがいなくなってから、そう決めた。あーちゃんが帰って来るのを、ずっと待つって。待っていたら、必ず帰って来てくれるって。あーちゃんは昔からそうだったもんね。『僕』がひとりで泣いていたら、必ずどこからかやって来て、『僕』のこと慰めてくれた。だから今度も待つって決めた。だってあーちゃんが、帰って来ない訳ないもん。『僕』のことひとりぼっちにするはずないもん。そんなの、許せないよ」
僕には答える術がない。
幼稚な嘘はもう使えない。手持ちのカードは全て使い切られた。
ひーちゃんは、もうずっと前から気付いていたはずだ。あーちゃんはもう、この世界にいないなんだって。僕のついた嘘が、とても稚拙で下らないものだったんだって。
「嘘つきだよ、皆、嘘つきだよ。ろーくんも、あーちゃんも、嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき。うーくんだって、嘘つき」
ひーちゃんの言葉が、僕の心を突き刺していく。
でも僕は逃げられない。だってこれは、僕が招いた結果なのだから。
「皆大嫌い」
ひーちゃんが正面から僕に向かい合った。それがまるで決別の印であるとでも言うかのように。
ちきちきちきちきちきちきちきちき。
耳慣れた音が聞こえる。
僕の左手首の内側、その傷を作った原因の音がする。
ひーちゃんの右手はポケットの中。物騒なものを持ち歩いているんだな、ひーちゃん。
「嘘つき」
ひーちゃんの瞳。ひーちゃんの唇。ひーちゃんの眉間に刻まれた皺。
僕は思い出す。小学校の裏にあった畑。夏休みの水やり当番。あの時話しかけてきた担任にひーちゃんが向けた、殺意に満ちたあの顔。今目の前にいる彼女の表情は、その時によく似ている。
「うーくんの嘘つき」
殺意。
「帰って来るって言ったくせに」
殺意。
「あーちゃんは、帰って来るって言ったくせに!」
嘘つきなのは、どっちだよ。
「ひーちゃんだって、気付いていたくせに」
僕の嘘に気付いていたくせに。
あーちゃんは死んだってわかっていたくせに。
僕の嘘を信じたようなふりをして、部屋に引きこもって、それなのにこうやって、学校へ来ようとしているくせに。世界に馴染もうとしているくせに。あーちゃんが死んだ世界がもう終わってしまった代物だとわかっているのに、それでも生きようとしているくせに。
ひーちゃんは、もう僕の言葉にたじろいだりしなかった。
「あんたなんか、死んじゃえ」
彼女はポケットからカッターナイフを取り出すと、それを、
鈍い衝撃が身体じゅうに走った。
右肩と頭に痛みが走って、無意識に呻いた。僕は昇降口の床に叩きつけられていた。思い切り横から突き飛ばされたのだ。揺れる視界のまま僕は上半身を起こし、そして事態はもう間に合わないのだと知る。
僕はよかった。
怪我を負ってもよかった。刺されてもよかった。切りつけられてもよかった。殺されたって構わない。
だってそれが、僕がひーちゃんにできる最後の救いだと、本気で思っていたからだ。
僕はひーちゃんに嘘をついた。あーちゃんは生きていると嘘をついた。ついてはいけない嘘だった。その嘘を、彼女がどれくらい本気で信じていたのか、もしくはどれくらい本気で信じたふりを演じていてくれていたのかはわからない。でも僕は、彼女を傷つけた。だからその報いを受けたってよかった。どうなってもよかったんだ。だってもう、どうなったところで、あーちゃんは生き返ったりしないのだから。
だけど、きみはだめだ。
どうして僕を救おうとする。どうして、僕に構おうとする。放っておいてくれとあれだけ示したのに、どうして。僕はきみをあんなに傷つけたのに。どうしてきみはここにいるんだ。どうして僕を、かばったんだ。
ひーちゃんの握るカッターナイフの切っ先が、ためらうことなく彼女を切り裂いた。
ピンク色の髪留めが、宙に放られるその軌跡を僕の目は追っていた。
「佐渡さん!」
僕の叫びが、まるで僕のものじゃないみたいに響く。周りには不気味なくらい誰もいない。
市野谷比比子に切りつけられた佐渡梓は、床に倒れ込んでいく。それがスローモーションのように僕の目にはまざまざと映る。飛び散る赤い飛沫が床に舞う。
僕は起き上がり走った。ひーちゃんの虚ろな目。再度振り上げられた右手。それが再び佐渡梓を傷つける前に、僕は両手を広げ彼女をかばった。
「 」
一瞬の空白。ひーちゃんの唇が僅かに動いたのを僕は見た。その小さな声が僕の耳に届くよりも速く、刃は僕の右肩に突き刺さる。
痛み。
背後で佐渡梓の悲鳴。けれどひーちゃんは止まらない。僕の肩に突き刺さったカッターを抜くと彼女はそれをまた振り上げて、
そうだよな。
痛かったよな。
あーちゃんは、ひーちゃんの全部だったのに。
あーちゃんが生きているなんて嘘ついて、ごめん。
そして振り下ろされた。
だん、と。
地面が割れるような音がした。
一瞬、地震が起こったのかと思った。
不意に目の前が真っ暗になり、何かが宙を舞った。少し離れたところで、からんと金属のものが床に落ちたような高い音が聞こえる。
僕とひーちゃんの間に割り込んできたのは、黒衣の人物だった。ひーちゃんと同じ、全身真っ黒で整えられた服装。ただしその頭髪だけが、毒々しいまでの緑色に揺れている。
「…………日褄先生」
僕がやっとの思いで絞り出すようにそれだけ言うと、彼女は僕に背中を向けてひーちゃんと向き合ったまま、
「せんせーって呼ぶなっつってんだろ」
といつも通りの返事をした。
「ひとりで学校に来れたなんて、たいしたもんじゃねぇか」
日褄先生はひーちゃんに向けてそう言ったが、彼女は相変わらず無表情だった。
がらんどうの瞳。がらんどうの表情。がらんどうの心。がらんどうのひーちゃんは、いつもは嫌がる大嫌いな日褄先生を目の前にしても微動だにしない。
「なんで人を傷つけるようなことをしたんだよ」
先生の声は、いつになく静かだった。僕は先生が今どんな表情をしているのかはわからないけれど、それは淡々とした声音だ。
「もう誰かを失いたくないはずだろ」
廊下の向こうから誰かがやって来る。背の高いその男性は、葵さんだった。彼はひーちゃんの少し後ろに落ちているカッターナイフを無言で拾い上げている。それはさっきまで、ひーちゃんの手の中にあったはずのものだ。どうしてそんなところに落ちているのだろう。
少し前の記憶を巻き戻してみて、僕はようやく、日褄先生が僕とひーちゃんの間に割り込んだ時、それを鮮やかに蹴り上げてひーちゃんの手から吹っ飛ばしたことに気が付いた。日褄先生、一体何者なんだ。
葵さんはカッターナイフの刃を仕舞うと、それをズボンのポケットの中へと仕舞い、それからひーちゃんに後ろから歩み寄ると、その両肩を掴んで、もう彼女が暴れることができないようにした。そうされてもひーちゃんは、もう何も言葉を発さず、表情も変えなかった。先程見せたあの強い殺意も、今は嘘みたいに消えている。
それから日褄先生は僕を振り返り、その表情が僕の思っていた以上に怒りに満ちたものであることを僕の目が視認したその瞬間、頬に鉄拳が飛んできた。
ごっ、という音が自分の顔から聞こえた。骨でも折れたんじゃないかと思った。今まで受けたどんな痛みより、それが一番痛かった。
「てめーは何ぼんやり突っ立ってんだよ」
日褄先生は僕のメイド服の胸倉を乱暴に掴むと怒鳴るように言った。
「お前は何をしてんだよ、市野谷に殺されたがってんじゃねーよ。やべぇと思ったらさっさと逃げろ、なんでそれぐらいのこともできねーんだよ」
先生は僕をまっすぐに見ていた。それは恐ろしいくらい、まっすぐな瞳だった。
「なんでどいつもこいつも、自分の命が大事にできねーんだよ。お前わかってんのかよ、お前が死んだら市野谷はどうなる? 自分の弟を目の前で亡くして、大事な直正が自殺して、それでお前が市野谷に殺されたら、こいつはどうなるんだよ」
「……ひーちゃんには、僕じゃ駄目なんですよ。あーちゃんじゃないと、駄目なんです」
僕がやっとの思いでそれだけ言うと、今度は平手が反対の頬に飛んできた。
熱い。痛いというよりも、熱い。
「直正が死んでも世界は変わらなかった。世界にとっちゃ人ひとりの死なんてたいしたことねぇ、だから自分なんて世界にとってちっぽけで取るに足らない、お前はそう思ってるのかもしれないが、でもな、それでもお前が世界の一部であることには変わりないんだよ」
怒鳴る、怒鳴る、怒鳴る。
先生は僕のことを怒鳴った。
こんな風に叱られるのは初めてだ。
こんな風に、叱ってくれる人は初めてだった。
「なんでお前は市野谷に、直正は生きてるって嘘をついた? 市野谷がわかりきっているはずの嘘をどうしてつき続けた? それはなんのためだよ? どうして最後まで、市野谷がちゃんと笑えるようになるまで、側で支えてやろうって思わないんだよ」
そうだ。
そうだった。日褄先生は最初からそうだった。
優しくて、恐ろしいくらい乱暴なのだ。
「市野谷に殺されてもいい、自分なんて死んでもいいなんて思ってるんじゃねぇよ。『お前だから駄目』なんじゃねぇよ、『直正の代わりをしようとしているお前だから』駄目なんだろ?」
日褄先生は最後に怒鳴った。
「もういい加減、鈴木直正の代わりになろうとするのはやめろよ。お前は―――だろ」
お前は、潤崎颯だろ。
やっと。
やっと僕は、自分の名前が、聞き取れた。
あーちゃんが死んで、ひーちゃんに嘘をついた。
それ以来僕はずっと、自分の名前を認めることができなかった。
自分の名前を口にするのも、耳にするのも嫌だった。
僕は代わりになりたかったから。あーちゃんの代わりになりたかったから。
あーちゃんが死んだら、ひーちゃんは僕を見てくれると、そう思っていたから。
でも駄目だった。僕じゃ駄目だった。ひーちゃんはあーちゃんが死んでも、あーちゃんのことばかり見ていた。僕はあーちゃんになれなかった。だから僕なんかいらなかった。死んだってよかった。どうだってよかったんだ。
嘘まみれでずたずたで、もうどうしようもないけれど、それでもそれが、「僕」だった。
あーちゃんになれなくても、ひーちゃんを上手に救えなくても、それでも僕は、それでもそれが、潤崎颯、僕だった。
日褄先生の手が、僕の服から離れていく。床に倒れている佐渡梓は、どこか呆然と僕たちを見つめている。ひーちゃんの表情はうつろなままで、彼女の肩を後ろから掴んでいる葵さんは、まるでひーちゃんのことを支えているように見えた。
先生はひーちゃんの元へ行き、葵さんはひーちゃんからゆっくりと手を離す。そうして、先生はひーちゃんのことを抱き締めた。先生は何も言わなかった。ひーちゃんも、何も言わなかった。葵さんは無言で昇降口から出て行って、しばらくしてから帰ってきた。その時も、先生はひーちゃんを抱き締めたままで、僕はそこに突っ立っていたままだった。
やがて日褄先生はひーちゃんの肩を抱くようにして、昇降口の方へと歩き出す。葵さんは昇降口前まで車を回していたようだ。いつか見た、黒い車が停まっていた。
待って下さい、と僕は言った。
日褄先生は立ち止まった。ひーちゃんも、立ち止まる。
僕はひーちゃんに駆け寄った。
ひーちゃんは無表情だった。
僕は、ひーちゃんに謝るつもりだった。だけど言葉は出て来なかった。喉元まで込み上げた言葉は声にならず、口から嗚咽となって溢れた。僕の目からは涙がいくつも零れて、そしてその時、ひーちゃんが小さく、ごめんね、とつぶやくように言った。僕は声にならない声をいくつもあげながら、ただただ、泣いた。
ひーちゃんの空っぽな瞳からも、一粒の滴が転がり落ちて、あーちゃんの死から一年以上経ってやっと、僕とひーちゃんは一緒に泣くことができたのだった。
ひーちゃんに刺された傷は、軽傷で済んだ。
けれど僕は、二週間ほど学校を休んだ。
「災難でしたね」
あっくん、あーちゃんの弟である鈴木篤人くんは、僕の部屋を見舞いに訪れて、そう言った。
「聞きましたよ、文化祭で、ひー姉に切りつけられたんでしょう?」
あーちゃんそっくりの表情で、あっくんはそう言った。
「とうとうばれたんですか、うー兄のついていた嘘は」
「……最初から、ばれていたようなものだよ」
あーちゃんとよく似ている彼は、その日、制服姿だった。部活の帰りなのだろう、大きなエナメルバッグを肩から提げていて、手にはコンビニの袋を握っている。
「それで良かったんですよ。うー兄にとっても、ひー姉にとっても」
あっくんは僕の部屋、椅子に腰かけている。その両足をぷらぷらと揺らしていた。
「兄貴のことなんか、もう忘れていいんです。あんなやつのことなんて」
あっくんの両目が、すっと細められる。端正な顔立ちが、僅かに歪む。
思い出すのは、あーちゃんの葬式の時のこと。
式の最中、あっくんは外へ斎場の外へ出て行った。外のベンチにひとりで座っていた。どこかいらいらした様子で、追いかけて行った僕のことを見た。
「あいつ、不器用なんだ」
あっくんは不満そうな声音でそう言った。あいつとは誰だろうかと一瞬思ったけれど、すぐにそれが死んだあーちゃんのことだと思い至った。
「自殺の原因も、昔のいじめなんだって。ココロノキズがいけないんだって。せーしんかのセンセー、そう言ってた。あいつもイショに、そう書いてた」
あーちゃんが死んだ時、あっくんは小学五年生だった。今のような話し方ではなかった。彼はごく普通の男の子だった。あっくんが変わったのは、あっくんがあーちゃんのように振る舞い始めたのは、あーちゃんが死んでからだ。
「あいつ、全然悪くないのに、傷つくから駄目なんだ。だから弱くて、いじめられるんだ。おれはあいつより強くなるよ。あいつの分まで生きる。人のこといじめたりとか、絶対にしない」
あっくんは、一度も僕と目を合わさずにそう言った。僕はあーちゃんの弱さと、あっくんの強さを思った。不機嫌そうに、「あーちゃんの分まで生きる」と言った、彼の強さを思った。あっくんのような強さがあればいいのに、と思った。ひーちゃんにも、強く生きてほしかった。僕も、そう生きるべきだった。
あーちゃんが死んだ後、あーちゃんの家族はいつも騒がしそうだった。たくさんの人が入れ替わり立ち替わりやって来ては帰って行った。ときどき見かけるあっくんは、いつも機嫌が悪そうだった。あっくんはいつも怒っていた。あっくんただひとりが、あーちゃんの死を、怒っていた。
「――あんなやつのことを覚えているのは、僕だけで十分です」
あっくんはそう言って、どうしようもなさそうに、笑った。
あっくんも、僕と同じだった。
あーちゃんの代わりになろうとしていた。
ただそれは、ひーちゃんのためではなく、彼の両親のためだった。
あーちゃんが死んだ中学校には通わせられないという両親の期待に応えるために、あっくんは猛勉強をして私立の中学に合格した。
けれど悲しいことに両親は、それを心から喜びはしなかった。今のあっくんを見ていると、死んだあーちゃんを思い出すからだ。
あっくんはあーちゃんの分まで生きようとして、そしてそれが、不可能であると知った。自分は自分としてしか、生きていけないのだ。
「僕は忘れないよ、あーちゃんのこと」
僕がそうぽつりと言うと、あっくんの顔はこちらへと向いた。あっくんのかけている眼鏡のレンズが蛍光灯の光を反射して、彼の表情を隠している。そうしていると、本当に、そこにあーちゃんがいるみたいだった。
「……僕は忘れない。あーちゃんのことを、ずっと」
自分に言い聞かせるように、僕はそう続けて言った。
「僕も、あーちゃんの分まで生きるよ」
あーちゃんが欠けた、この世界で。
「…………」
あっくんは黙ったまま、少し顔の向きを変えた。レンズは光を反射しなくなり、眼鏡の下の彼の顔が見えた。それは、あーちゃんに似ているようで、だけど確かに、あっくんの表情だった。
「そうですか」
それだけつぶやくように言うと、彼は少しだけ笑った。
「兄貴もきっと、その方が喜ぶでしょう」
あっくんはそう言って、持っていたコンビニの袋に入っていたプリンを「見舞いの品です」と言って僕の机の上に置くと、帰って行った。
その後ろ姿はもう、あーちゃんのようには見えなかった。
その二日後、僕は部屋でひとり寝ていると玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、そこには河野帆高が立っていた。
「よー、潤崎くん。元気?」
「……なんで、僕の家を知ってるの?」
「とりあえずお邪魔しまーす」
「…………なんで?」
呆然としている僕の横を、帆高はすり抜けるようにして靴を脱いで上がって行く。こいつが僕の家の住所を知っているはずがない。訊かれたところで担任が教えるとも思えない。となると、住所を教えたのは、やはり、日褄先生だろうか。僕は溜め息をついた。どうしてあのカウンセラーは、生徒の個人情報を守る気がないのだろう。困ったものだ。
勝手に僕の部屋のベッドに寝転んでくつろいでいる帆高に缶ジュースを持って行くと、やつは笑いながら、
「なんか、美少女に切りつけられたり、美女に殴られたりしたんだって?」
と言った。
「間違っているような、いないような…………」
「すげー修羅場だなー」
けらけらと軽薄に、帆高が笑う。あっくんが見舞いに訪れた時と同様に、帆高も制服姿だった。学校帰りに寄ってくれたのだろう。ごくごくと喉を鳴らしてジュースを飲んでいる。
「はい、これ」
帆高は鞄の中から、紙の束を取り出して僕に差し出した。受け取って確認するまでもなかった。それは、僕が休んでいる間に学級で配布されたのであろう、プリントや手紙だった。ただ、それを他クラスに所属している帆高から受け取るというのが、いささか奇妙な気はしたけれど。
「どうも……」
「授業のノートは、学校へ行くようになってから本人にもらって。俺のノートをコピーしてもいいんだけど、やっぱクラス違うと微妙に授業の進度とか感じも違うだろうし」
「…………本人?」
僕が首をかしげると、帆高は、ああ、と思い出したように言った。
「これ、ミナモからの預かり物なんだよ。自分で届けに行けばって言ったんだけど、やっぱりそれは恥ずかしかったのかねー」
ミナモが、僕のプリントを届けることを帆高に依頼した……?
一体、どういうことだろう。だってミナモは、一日じゅう保健室にいて、教室内のことには関与していないはずだ。なんだか、嫌な予感がした。
「帆高、まさか、なんだけど…………」
「そのまさかだよ、潤崎くん」
帆高は飄々とした顔で言った。
「ミナモは、文化祭の振り替え休日が明けてからのこの二週間、ちゃんと教室に登校して、休んでるあんたの代わりに授業のノートを取ってる」
「…………は?」
「でもさー、ミナモ、ノート取る・取らない以前に、黒板に書いてある文字の内容を理解できてるのかねー? まぁノート取らないよりはマシだと思うけどさー」
「ちょ、ちょっと待って……」
ミナモが、教室で授業を受けている?
僕の代わりに、ノートを取っている?
一体、何があったんだ……?
僕は呆然とした。
「ほんと、潤崎くんはミナモに愛されてるよねー」
「…………」
ミナモが聞いたらそうしそうな気がしたから、代わりに僕が帆高の頭に鉄拳を制裁した。それでも帆高はにやにやと笑いながら、言った。
「だからさ、怪我してんのも知ってるし、学校休みたくなる気持ちもわからなくはないけど、なるべく早く、学校出て来てくれねーかな」
表情と不釣り合いに、その声音は真剣だったので、僕は面食らう。ミナモのことを気遣っていることが窺える声だった。入学して以来、一度も足を向けたことのない教室で、授業に出てノートを取っているのだから、無理をしていないはずがない。いきなりそんなことをするなんて、ミナモも無茶をするものだ。いや、無茶をさせているのは、僕なのだろうか。
あ、そうだ、と帆高は何かを思い出したかのようにつぶやき、鞄の中から丸められた画用紙を取り出した。
「……それは?」
「ミナモから、預かってきた。お見舞いの品」
ミナモから、お見舞いの品?
首を傾げかけた僕は、画用紙を広げ、そこに描かれたものを見て、納得した。
河野ミナモと、僕。
死にたがり屋と死に損ない。
自らの死を願って雨の降る屋上へ向かい、そこで出会った僕と彼女は、ずるずると、死んでいくように生き延びたのだ。
「……これから、授業に出るつもり、なのかな」
「ん? ああ、ミナモのことか? どうだろうなぁ」
僕は思い出していた。文化祭の朝、リストバンドをくれた、峠茶屋桜子さんのこと。僕とミナモが出会った日に、保健室で僕たちに偶然出会ったことを彼女は覚えていてくれていた。彼女のような人もクラスにはいる。僕だってミナモだって、クラスの人たちと全く関わり合いがない訳ではないのだ。僕たちもまだ、世界と繋がっている。
「河野も、変わろうとしてるのかな……」
死んだ方がいい人間だっている。
初めて出会ったあの日、河野ミナモはそう言った。
僕もそう思っていた。死んだ方がいい人間だっている。僕だって、きっとそうだと。
だけど僕たちは生きている。
ミナモが贈ってくれた絵は、やっぱり、あの屋上から見た景色だった。夏休みの宿題を頼んだ時に描いてもらった絵の構図とほとんど同じだった。屋上は無人で、僕の姿もミナモの姿もそこには描かれていない。だけど空は、澄んだ青色で塗られていた。
僕は帆高に、なるべく早く学校へ行くよ、と約束して、それから、どうかミナモの変化が明るい未来へ繋がるように祈った。
河野帆高が言っていた通り、僕が学校を休んでいた約二週間の間、ミナモは朝教室に登校してきて、授業を受け、ノートを取ってくれていた。けれど、僕が学校へ行くようになると、保健室登校に逆戻りだった。
昼休みの保健室で、僕はミナモからルーズリーフの束を受け取った。筆圧の薄い字がびっしりと書いてある。
僕は彼女が贈ってくれた絵のことを思い出した。かつてあーちゃんが飛び降りて、死のうとしていた僕と、死にたがりのミナモが出会ったあの屋上。そこから見た景色を、ミナモはのびのびとした筆使いで描いていた。綺麗な青い色の絵具を使って。
授業ノートの字は、その絵とは正反対な、神経質そうに尖っているものだった。中学入学以来、一度も登校していなかった教室に足を運び、授業を受けたのだ。ルーズリーフのところどころは皺寄っている。緊張したのだろう。
「せっかく来るようになったのに、もう教室に行かなくていいの?」
「……潤崎くんが来るなら、もう行かない」
ミナモは長い前髪の下から睨みつけるように僕を一瞥して、そう言った。
それもそうだ。ミナモは人間がこわいのだ。彼女にとっては、教室の中で他人の視線に晒されるだけでも恐ろしかったに違いないのに。
ルーズリーフを何枚かめくり、ノートの文字をよく見れば、ときどき震えていた。恐怖を抑えようとしていたのか、ルーズリーフの余白には小さな絵が描いてあることもあった。
「ありがとう、河野」
「別に」
ミナモは保健室のベッドの上、膝に乗せたスケッチブックを開き、目線をそこへと向けていた。
「行くところがあるんじゃないの?」
もう僕に興味がなくなってしまったかのような声で彼女はそう言って、ただ鉛筆を動かすだけの音が保健室には響き始めた。
僕はもう一度ミナモに礼を言ってから、保健室を後にした。
ずっと謝らなくてはいけないと思っている人がいた。
彼女はなんだか気まずそうに僕の前でうつむいている。
昼休みの廊下の片隅。僕と彼女の他には誰もいない。呼び出したのは僕の方だった。文化祭でのあの事件から、初めて登校した僕は、その日のうちに彼女の教室へ行き、彼女のクラスメイトに呼び出してもらった。
「あの…………」
「なに?」
「その、怪我の、具合は……?」
「僕はたいしたことないよ。もう治ったし。きみは?」
「私も、その、大丈夫です」
「そう……」
よかった、と言おうとした言葉を、僕は言わずに飲み込んだ。これでよいはずがない。彼女は無関係だったのだ。彼女は、僕やひーちゃん、あーちゃんたちとは、なんの関係もなかったはずなのに。
「ごめん、巻き込んでしまって」
「いえ、そんな……勝手に先輩のことをかばったのは、私ですから……」
文化祭の日。僕がひーちゃんに襲われた時、たまたま廊下を通りかかった彼女、佐渡梓は僕のことをかばい、そして傷を負った。
怪我は幸いにも、僕と同様に軽傷で済んだようだが、でもそれだけで済む話ではない。彼女は今、カウンセリングに通い、「心の傷」を癒している。それもそうだ。同じ中学校に在籍している先輩女子生徒に、カッターナイフで切りつけられたのだから。
「きみが傷を負う、必要はなかったのに……」
どうして僕のことを、かばったりしたのだろう。
僕は佐渡梓の好意を、いつも踏みつけてきた。ひどい言葉もたくさんぶつけた。渡された手紙は読まずに捨てたし、彼女にとって、僕の態度は冷徹そのものだったはずだ。なのにどうして、彼女は僕を助けようとしたのだろう。
「……潤崎先輩に、一体何があって、あんなことになったのか、私にはわかりません」
佐渡梓はそう言った。
「思えば、私、先輩のこと何も知らないんだなって、思ったんです。何が好きなのか、とか、どんな経験をしてきたのか、とか……。先輩のクラスに、不登校の人が二人いるってことは知っていました。ひとりは河野先輩で、潤崎先輩と親しいみたいだってことも。でも、もうひとりの、市野谷先輩のことは知らなくて……潤崎先輩と、幼馴染みだってことも……」
僕とひーちゃんのことを知っているのは、同じ小学校からこの中学に進学してきた連中くらいだ。と言っても、僕もひーちゃんも小学校時代の同級生とそこまで交流がある訳じゃなかったから、そこまでは知られていないのではないだろうか。僕とひーちゃん、そして、あーちゃんのことも知っているという人間は、この学校にどれくらいいるのだろう。
さらに言えば、僕とひーちゃんとあーちゃん、そして、ひーちゃんの最愛の弟ろーくんの事故のことまで知っている人間は、果たしているのだろうか。日褄先生くらいじゃないだろうか。
僕たちは、あの事故から始まった。
ひーちゃんはろーくんを目の前で失い、そして僕とあーちゃんに出会った。ひーちゃんは心にぽっかり空いた穴を、まるであーちゃんで埋めるようにして、あーちゃんを世界の全てだとでも言うようにして、生きるようになった。そんなあーちゃんは、ある日屋上から飛んで、この世界からいなくなってしまった。そうして役立たずの僕と、再び空っぽになったひーちゃんだけが残された。
そうして僕は嘘をつき、ひーちゃんは僕を裏切った。
僕を切りつけた刃の痛みは、きっとひーちゃんが今まで苦しんできた痛みだ。
あーちゃんがもういないという事実を、きっとひーちゃんは知っていた。ひーちゃんは僕の嘘に騙されたふりをした。そうすればあーちゃんの死から逃れられるとでも思っていたのかもしれない。壊れたふりをしているうちに、ひーちゃんは本当に壊れていった。僕はどうしても、彼女を正しく導くことができなかった。嘘をつき続けることもできなかった。だからひーちゃんは、騙されることをやめたのだ。自分を騙すことを、やめた。
僕はそのことを、佐渡梓に話そうとは思わなかった。彼女が理解してくれる訳がないと決めつけていた訳ではないが、わかってもらわなくてもいいと思っていた。でも僕が彼女を巻き込んでしまったことは、もはや変えようのない事実だった。
「今回のことの原因は、僕にあるんだ。詳しくは言えないけれど。だから、ひーちゃん……市野谷さんのことを責めないであげてほしい。本当は、いちばん苦しいのは市野谷さんなんだ」
僕の言葉に、佐渡梓は決して納得したような表情をしなかった。それでも僕は、黙っていた。しばらくして、彼女は口を開いた。
「私は、市野谷先輩のことを責めようとか、訴えようとか、そんな風には思いません。どうしてこんなことになったのか、理由を知りたいとは思うけれど、潤崎先輩に無理に語ってもらおうとも思いません……でも、」
彼女はそこまで言うと、うつむいていた顔を上げ、僕のことを見た。
ただ真正面から、僕を見据えていた。
「私は、潤崎先輩も、苦しかったんじゃないかって思うんです。もしかしたら、今だって、先輩は苦しいんじゃないか、って……」
僕は。
佐渡梓にそう言われて、笑って誤魔化そうとして、泣いた。
僕は苦しかったんだろうか。
僕は今も、苦しんでいるのだろうか。
ひーちゃんは、あの文化祭での事件の後、日褄先生に連れられて精神科へ行ったまま、学校には来ていない。家にも帰っていない。面会謝絶の状態で、会いに行くこともできないのだという。
僕はどうかひーちゃんが、苦しんでいないことを願った。
もう彼女は、十分はくらい苦しんできたと思ったから。
ひーちゃんから電話がかかってきたのは、三月十三日のことだった。
僕の中学校生活は何事もなかったかのように再開された。
二週間の欠席を経て登校を始めた当初は、変なうわさと奇妙な視線が僕に向けられていたけれど、もともとクラスメイトと関わり合いのなかった僕からしてみれば、どうってことはなかった。
文化祭で僕が着用したメイド服を作ってくれたクラス委員の長篠めいこさんと、リストバンドをくれた峠茶屋桜子さんとは、教室の中でときどき言葉を交わすようになった。それが一番大きな変化かもしれない。
ミナモの席もひーちゃんの席も空席のままで、それもいつも通りだ。
ミナモのはとこである帆高の方はというと、やつの方も相変わらずで、宿題の提出率は最悪みたいだ。しょっちゅう廊下で先生たちと鬼ごっこをしている。昼休みの保健室で僕とミナモがくつろいでいると、ときどき顔を出しにくる。いつもへらへら笑っていて、楽しそうだ。なんだかんだ、僕はこいつに心を開いているんだろうと思う。
佐渡梓とは、あれからあまり会わなくなってしまった。彼女は一年後輩で、校舎の中ではもともと出会わない。委員会や部活動での共通点もない。彼女が僕のことを好きになったこと自体が、ある意味奇跡のようなものだ。僕をかばって怪我をした彼女には、感謝しなくてはいけないし謝罪しなくてはいけないと思ってはいるけれど、どうしたらいいのかわからない。最近になって少しだけ、彼女に言ったたくさんの言葉を後悔するようになった。
日褄先生は、そう、日褄先生は、あれからスクールカウンセラーの仕事を辞めてしまった。婚約者の葵さんと結婚することになったらしい。僕の頬を殴っ��まで叱咤してくれた彼女は、あっさりと僕の前からいなくなってしまった。そんなこと、許されるのだろうか。僕はまだ先生に、なんのお礼もしていないのに。
僕のところには携帯電話の電話番号が記されたはがきが一枚届いて、僕は一度だけそこに電話をかけた。彼女はいつもと変わらない明るい声で、とんでもないことを平気でしゃべっていた。ひーちゃんのことも、僕のことも、彼女はたった一言、「もう大丈夫だよ」とだけ言った。
そうこうしているうちに年が明け、冬休みが終わり、そうして三学期も終わった。
三月十三日、電話が鳴った。
あーちゃんが死んだ日だった。
二年前のこの日、あーちゃんは死んだのだ。
「あーちゃんに会いたい」
電話越しだけれども、久しぶりに聞くひーちゃんの声は、やけに乾いて聞こえた。
あーちゃんにはもう会えないんだよ、そう言おうとした僕の声を遮って、彼女は言う。
「知ってる」
乾燥しきったような、淡々とした声。鼓膜の奥にこびりついて取れない、そんな声。
「あーちゃん、死んだんでしょ。二年前の今日に」
思えば。
それが僕がひーちゃんの口から初めて聞いた、あーちゃんの死だった。
「『僕』ね、ごめんね、ずっとずっと知ってた、ずっとわかってた。あーちゃんは、もういないって。だけど、ずっと認めたくなくて。そんなのずるいじゃん。そんなの、卑怯で、許せなくて、許したくなくて、ずっと信じたくなくて、ごめん、でも……」
うん、とだけ僕は答えた。
きっとそれは、僕のせいだ。
ひーちゃんを許した、僕のせいだ。
あーちゃんの死から、ずっと目を背け続けたひーちゃんを許した、僕のせいだ。
ひーちゃんにそうさせた、僕のせい。
僕の罪。
一度でもいい、僕が、あーちゃんの死を見ないようにするひーちゃんに、無理矢理にでも現実を打ち明けていたら、ひーちゃんはきっと、こんなに苦しまなくてよかったのだろう。ひーちゃんの強さを信じてあげられなかった、僕のせい。
あーちゃんが死んで、自分も死のうとしていたひーちゃんを、支えてあげられるだけの力が僕にはなかった。ひーちゃんと一緒に生きるだけの強さが僕にはなかった。だから僕は黙っていた。ひーちゃんがこれ以上壊れてしまわぬように。ひーちゃんがもっと、壊れてしまうように。
僕とひーちゃんは、二年前の今日に置き去りになった。
僕の弱さがひーちゃんの心を殺した。壊した。狂わせた。痛めつけた。苦しめた。
「でも……もう、『僕』、あーちゃんの声、何度も何度も何度も、何度考えても、もう、思い出せないんだよ……」
電話越しの声に、初めて感情というものを感じた。ひーちゃんの今にも泣き出しそうな声に、僕は心が潰れていくのを感じた。
「お願い、うーくん。『僕』を、あーちゃんのお墓に、連れてって」
本当は、二年前にこうするべきだった。
「……わかった」
僕はただ、そう言った。
僕は弱いままだったから。
彼女の言葉に、ただ頷いた。
『僕が死んだことで、きっとひーちゃんは傷ついただろうね』
そう書いてあったのは、あーちゃんが僕に残したもうひとつの遺書だ。
『僕は裏切ってしまったから。あの子との約束を、破ってしまったから』
あーちゃんとひーちゃんの間に交わされていたその約束がなんなのか、僕にはわからないけれど、ひーちゃんにはきっと、それがわかっているのだろう。
ひーちゃんがあーちゃんのことを語る度、僕はひーちゃんがどこかへ行ってしまうような気がした。
だってあんまりにも嬉しそうに、「あーちゃん、あーちゃん」って言うから。ひーちゃんの大好きなあーちゃんは、もういないのに。
ひーちゃんの両目はいつも誰かを探していて、隣にいる僕なんか見てくれないから。
ひーちゃんはバス停で待っていた。交わす言葉はなかった。すぐにバスは来て、僕たちは一番後ろの席に並んで座った。バスに乗客の姿は少なく、窓の外は雨が降っている。ひーちゃんは無表情のまま、僕の隣でただ黙って、濡れた靴の先を見つめていた。
ひーちゃんにとって、世界とはなんだろう。
ひーちゃんには昨日も今日も明日もない。
楽しいことがあっても、悲しいことがあっても、彼女は笑っていた。
あーちゃんが死んだ時、あーちゃんはひーちゃんの心を道連れにした。僕はずっと心の奥底であーちゃんのことを恨んでいた。どうして死んだんだって。ひーちゃんに心を返してくれって。僕らに世界を、返してって。
二十分もバスに揺られていると、「船頭町三丁目」のバス停に着いた。
ひーちゃんを促してバスを降りる。
雨は霧雨になっていた。持っていた傘を差すかどうか、一瞬悩んでから、やめた。
こっちだよ、とひーちゃんに声をかけて歩き始める。ひーちゃんは黙ってついてくる。
樫岸川の大きな橋の上を歩き始める。柳の並木道、古本屋のある四つ角、細い足場の悪い道、長い坂、苔の生えた石段、郵便ポストの角を左。
僕はもう何度、この道を通ったのだろう。でもきっと、ひーちゃんは初めてだ。
生け垣のある家の前を左。寺の大きな屋根が、突然目の前に現れる。
僕は、あそこだよ、と言う。ひーちゃんは少し目線を上の方に動かして、うん、と小さな声で言う。その瞳も、口元も、吐息も、横顔も、手も、足も。ひーちゃんは小さく震えていた。僕はそれに気付かないふりをして、歩き続ける。ひーちゃんもちゃんとついてくる。
ひーちゃんはきっと、ずっとずっと気付いていたのだろう。本当のことを。あーちゃんがこの世にいないことを。あーちゃんが自ら命を絶ったことも。誰もあーちゃんの苦しみに、寂しさに、気付いてあげられなかったことを。ひーちゃんでさえも。
ひーちゃんは、あーちゃんが死んでからよく笑うようになった。今までは、能面のように無表情な少女だったのに。ひーちゃんは笑っていたのだ。あーちゃんがもういない世界を。そんな世界でのうのうと生きていく自分を。ばればれの嘘をつく、僕を。
あーちゃんの墓前に立ったひーちゃんの横顔は、どこにも焦点があっていないかのように、瞳が虚ろで、だが泣いてはいなかった。そっと手を伸ばし、あーちゃんの墓石に恐る恐る触れると、霧雨に濡れて冷たくなっているその石を何度も何度も指先で撫でていた。
墓前には真っ白な百合と、やきそばパンが供えてあった。あーちゃんの両親が毎年お供えしているものだ。
線香のにおいに混じって、妙に甘ったるい、ココナッツに似たにおいがするのを僕は感じた。それが一体なんのにおいなのか、僕にはわかった。日褄先生がここに来て、煙草を吸ったのだ。彼女がいつも吸っていた、あの黒い煙草。そのにおいだった。ついさっきまで、ここに彼女も来ていたのだろうか。
「つめたい……」
ひーちゃんがぽつりと、指先の感触の感想を述べる。そりゃ石だもんな、と僕は思ったが、言葉にはしなかった。
「あーちゃんは、本当に死んでいるんだね」
墓石に触れたことで、あーちゃんの死を実感したかのように、ひーちゃんは手を引っ込めて、恐れているように一歩後ろへと下がった。
「あーちゃんは、どうして死んだの?」
「……ひとりぼっちみたいな、感覚になるんだって」
あーちゃんが僕に宛てて書いた、彼のもうひとつの遺書の内容を思い出す。
「ひとりぼっち? どうして? ……私がいたのに」
ひーちゃんはもう、自分のことを「僕」とは呼ばなかった。
「私じゃだめだった?」
「……そんなことはないと思う」
「じゃあ、どうして……」
ひーちゃんはそう言いかけて、口をつぐんだ。ゆっくりと首を横に振って、ひーちゃんは、そうか、とだけつぶやいた。
「もう考えてもしょうがないことなんだ……。あーちゃんは、もういない。私が今さら何かを思ったって、あーちゃんは帰ってこないんだ……」
ひーちゃんはまっすぐに僕を見上げて、続けるように言った。
「これが、死ぬってことなんだね」
彼女の表情は凍りついているように見えた。
「そうか……ずっと忘れていた、ろーくんも死んだんだ……」
ひーちゃんの最愛の弟、ろーくんこと市野谷品太くんは、僕たちが小学二年生の時に交通事故で亡くなった。ひーちゃんの目の前で、ろーくんの細くて小さい身体は、巨大なダンプに軽々と轢き飛ばされた。
ひーちゃんは当時、過剰なくらいろーくんを溺愛していて、そうして彼を失って以来、他人との間に頑丈な壁を築くようになった。そんな彼女の前に現れたのが、僕であり、そして、あーちゃんだった。
「すっかり忘れてた。ろーくん……そうか、ずっと、あーちゃんが……」
まるで独り言のように、ひーちゃんは言葉をぽつぽつと口にする。瞳が落ち着きなく動いている。
「そうか、そうなんだ、あーちゃんが……あーちゃんが…………」
ひーちゃんの両手が、ひーちゃんの両耳を覆う。
息を殺したような声で、彼女は言った。
「あーちゃんは、ずっと、ろーくんの代わりを……」
それからひーちゃんは、僕を見上げた。
「うーくんも、そうだったの?」
「え?」
「うーくんも、代わりになろうとしてくれていたの?」
ひーちゃんにとって、ろーくんの代わりがあーちゃんであったように。
あーちゃんが、ろーくんの代用品になろうとしていたように。
あっくんが、あーちゃんの分まで生きようとしていたように。
僕は。
僕は、あーちゃんの代わりに、なろうとしていた。
あーちゃんの代わりに、なりたかった。
けれどそれは叶わなかった。
ひーちゃんが求めていたものは、僕ではなく、代用品ではなく、正真正銘、ほんものの、あーちゃんただひとりだったから。
僕は稚拙な嘘を重ねて、ひーちゃんを現実から背けさせることしかできなかった。
ひーちゃんの手を引いて歩くことも、ひーちゃんが泣いている間待つことも、あーちゃんにはできても、僕にはできなかった。
あーちゃんという存在がいなくなって、ひーちゃんの隣に空いた空白に僕が座ることは許されなかった。代用品であることすら、認められなかった。ひーちゃんは、代用品を必要としなかった。
ひーちゃんの世界には、僕は存在していなかった。
初めから、ずっと。
ずっとずっとずっと。
ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、僕はここにいたのに。
僕はずっと寂しかった。
ひーちゃんの世界に僕がいないということが。
だからあーちゃんを、心の奥底では恨んでいた。妬ましく思っていた。
全部、あーちゃんが死んだせいにした。僕が嘘をついたのも、ひーちゃんが壊れたのも、あーちゃんが悪いと思うことにした。いっそのこと、死んだのが僕の方であれば、誰もこんな思いをしなかったのにと、自分が生きていることを呪った。
自分の命を呪った。
自分の存在を呪った。
あーちゃんのいない世界を、あーちゃんが死んだ世界を、あーちゃんが欠けたまま、それでもぐるぐると廻り続けるこの不条理で不可思議で不甲斐ない世界を、全部、ひーちゃんもあーちゃんもあっくんもろーくんも全部全部全部全部、まるっときちっとぐるっと全部、呪った。
「ごめんね、うーくん」
ひーちゃんの細い腕が、僕の服の袖を掴んでいた。握りしめているその小さな手を、僕は見下ろす。
「うーくんは、ずっと私の側にいてくれていたのにね。気付かなくて、ごめんね。うーくんは、ずっとあーちゃんの代わりをしてくれていたんだね……」
ひーちゃんはそう言って、ぽろぽろと涙を零した。綺麗な涙だった。綺麗だと、僕は思った。
僕は、ひーちゃんの手を握った。
ひーちゃんは何も言わなかった。僕も、何も言わなかった。
結局、僕らは。
誰も、誰かの代わりになんてなれなかった。あーちゃんもろーくんになることはできず、あっくんもあーちゃんになることはできず、僕も、あーちゃんにはなれなかった。あーちゃんがいなくなった後も、世界は変わらず、人々は生き続け、笑い続けたというのに。僕の身長も、ひーちゃんの髪の毛も伸びていったというのに。日褄先生やミナモや帆高や佐渡梓に、出会うことができたというのに。それでも僕らは、誰の代わりにもなれなかった。
ただ、それだけ。
それだけの、当たり前の事実が僕らには常にまとわりついてきて、その事実を否定し続けることだけが、僕らの唯一の絆だった。
僕はひーちゃんに、謝罪の言葉を口にした。いくつもいくつも、「ごめん」と謝った。今までついてきた嘘の数を同じだけ、そう言葉にした。
ひーちゃんは僕を抱き締めて、「もういいよ」と言った。もう苦しむのはいいよ、と言った。
帰り道のバスの中で、四月からちゃんと中学校に通うと、ひーちゃんが口にした。
「受験、あるし……。今から学校へ行って、間に合うかはわからないけれど……」
四月から、僕たちは中学三年生で高校受験が控えている。教室の中は、迫りくる受験という現実に少しずつ息苦しくなってきているような気がしていた。
僕は、「大丈夫」なんて言わなかった。口にすることはいくらでもできる。その方が、もしかしたらひーちゃんの心を慰めることができるかもしれない。でももう僕は、ひーちゃんに嘘をつきたくなかった。だから代わりに、「一緒に頑張ろう」と言った。
「頭のいいやつが僕の友達にいるから、一緒に勉強を教えてもらおう」
僕がそう言うと、ひーちゃんは小さく頷いた。
きっと帆高なら、ひーちゃんとも仲良くしてくれるだろう。ミナモはどうかな。時間はかかるかもしれないけれど、打ち解けてくれるような気がする。ひーちゃんはクラスに馴染めるだろうか。でも、峠茶屋さんが僕のことを気にかけてくれたように、きっと誰かが気にかけてくれるはずだ。他人なんてくそくらえだって、ずっと思っていたけれど、案外そうでもないみたいだ。僕はそのことを、あーちゃんを失ってから気付いた。
僕は必要とされたかっただけなのかもしれない。
ひーちゃんに必要とされたかったのかもしれないし、もしかしたら誰か他人だってよかったのかもしれない。誰か他人に、求めてほしかったのかもしれない。そうしたら僕が��きる理由も、見つけられるような気がして。ただそれだけだ。それは、あーちゃんも、ひーちゃんも同じだった。だから僕らは不器用に、お互いを傷つけ合う方法しか知らなかった。自分を必要としてほしかったから。
いつだったか、日褄先生に尋ねたことがあったっけ。
「嘘って、何回つけばホントになるんですか」って。先生は、「嘘は何回ついたって、嘘だろ」と答えたんだった。僕のついた嘘はいくら重ねても嘘でしかなかった。あーちゃんは、帰って来なかった。やっぱり今日は雨で、墓石は冷たく濡れていた。
けれど僕たちは、やっと、現実を生きていくことができる。
「もう大丈夫だよ」
日褄先生が僕に言ったその声が、耳元で蘇った。
もう大丈夫だ。
僕は生きていく。
あーちゃんがいないこの世界で、今度こそ、ひーちゃんの手を引いて。
ふたりで初めて手を繋いで帰った日。
僕らはやっと、あーちゃんにサヨナラができた。
あーちゃん。
世界は透明なんかじゃない。
君も透明なんかじゃない。
僕は覚えている。あーちゃんのことも、一緒に見た景色も、過ごした日々のことも。
今でも鮮明に、その色を思い出すことができる。
たとえ記憶が薄れる日がきたって、また何度でも思い出せばいい。
だからサヨナラは、言わないんだ。
了
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