#紫式部観察
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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)12月27日(水曜日)参
通巻第8070号
AIは喜怒哀楽を表現できない。人間の霊的な精神の営為を超えることはない
文学の名作は豊かな情感と創造性の霊感がつくりだしたのだ
*************************
わずか五七五の十七文字で、すべてを印象的に表現できる芸術が俳句である。三十一文字に表すのが和歌である。文学の極地といってよい。
どんな新聞や雑誌にも俳句と和歌の欄があり、多くの読者を引きつけている。その魅力の源泉に、私たちはAI時代の創作のあり方を見いだせるのではないか。
「荒海や佐渡によこたう天の川」、「夏草や強者どもが夢の跡」、「無残やな甲の下の蟋蟀」、「旅に病で夢は枯野をかけ巡る」。。。。。
このような芭蕉の俳句を、AIは真似事は出来るだろうが、人の心を打つ名句をひねり出すとは考えにくい。和歌もそうだろう。
『春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天香具山』(持統天皇)
皇族から庶民に至るまで日本人は深い味わいが籠もる歌を詠んだ。歌の伝統はすでにスサノオの出雲八重垣にはじまり、ヤマトタケルの「まほろば」へとうたいつがれた。
しかし人工知能(AI)の開発を米国と凌ぎを削る中国で、ついにAIが書いたSF小説が文学賞を受賞した。衝撃に近いニュースである。
生成AIで対話を繰り返し、たったの3時間で��品が完成したと『武漢晩報』(12月26日)が報じた。この作品は『機憶(機械の記憶)の地』と題され、実験の失敗で家族の記憶を失った神経工学の専門家が、AIとともに仮想空間「メタバース」を旅して自らの記憶を取り戻そうとする短編。作者は清華大でAIを研究する沈陽教授である。生成AIと66回の対話を重ね、沈教授はこの作品を「江蘇省青年SF作品大賞」に応募した。AIが生成した作品であることを予め知らされていたのは選考委員6人のうち1人だけで、委員3人がこの作品を推薦し
「2等賞」受賞となったとか。
きっと近年中に芥川賞、直木賞、谷崎賞、川端賞のほかに文学界新人賞、群像賞など新人が応募できる文学賞は中止することになるのでは? 考えようによっては、それは恐るべき時代ではないのか。
文学の名作は最初の一行が作家の精神の凝縮として呻吟から産まれるのである。
紫式部『源氏物語』の有名な書き出しはこうである。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり」
ライバルは清少納言だった。「春は曙、やうやう白く成り行く山際すこし明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる」(清少納言『『枕草子』』
「かくありし時すぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経るひとありけり」(道綱母『蜻蛉日記』)
額田女王の和歌の代表作とされるのは、愛媛の港で白村江へ向かおうとする船団の情景を齊明天王の心情に託して詠んだ。
「熟田津に 船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕こぎ出いでな」(『万葉集』)。
「昔、男初冠して、平城の京春日の郷に、しるよしして、狩りにいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。」(『伊勢物語』)
▼中世の日本人はかくも情緒にみちていた
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)はかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」(『方丈記』)
『平家物語』の書き出しは誰もが知っている。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響き��り。 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者も遂にはほろびぬ、 偏(ひとへ)に風の前の塵におなじ」。
『太平記』の書き出しは「蒙(もう)竊(ひそ)かに古今の変化を探つて、安危の所由を察(み)るに、覆つて外(ほか)なきは天の徳なり」(『太平記』兵藤祐己校注、岩波文庫版)
「つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」(『徒然草』)
古代から平安時代まで日本の文学は無常観を基盤としている。
江戸時代になると、文章が多彩に変わる。
井原西鶴の『好色一代男』の書き出しは「「本朝遊女のはじまり、江州の朝妻、播州の室津より事起こりて、いま国々になりぬ」
上田秋成の『雨月物語』の書き出しはこうだ。
「あふ坂の関守にゆるされてより、秋こし山の黄葉(もみぢ)見過しがたく、浜千鳥の跡ふみつくる鳴海がた、不尽(ふじ)の高嶺の煙、浮島がはら、清見が関、大磯小いその浦々」。
近代文学は文体がかわって合理性を帯びてくる。
「木曽路はすべて山の中である」(島崎藤村『夜明け前』)
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜ぬかした事がある」(夏目漱石『坊っちゃん』)
「石炭をば早はや積み果てつ。中等室の卓つくゑのほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒らなり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌カルタ仲間もホテルに宿りて、舟に残れるは余一人ひとりのみなれば」(森鴎外『舞姫』)。
描写は絵画的になり実生活の情緒が溢れる。
「国境の長いトンネルをぬけると雪国だった」(川端康成『雪国』)
谷崎潤一郎『細雪』の書き出しは写実的になる。
「『こいさん、頼むわ』。鏡の中で、廊下からうしろへ這入はいって来た妙子を見ると、自分で襟えりを塗りかけていた刷毛はけを渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見��みすえながら、『雪子ちゃん下で何してる』と、幸子はきいた」。
「或春の日暮れです。唐の都洛陽の西の門の下に、ばんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました」(芥川龍之介『杜子春』)
▼戦後文学はかなり変質を遂げたが。。。
戦後文学はそれぞれが独自の文体を発揮し始めた。
「朝、食堂でスウプをひとさじ吸って、お母様が『あ』と幽(かす)かな声をお挙げになった」(太宰治『斜陽』)
「その頃も旅をしていた。ある国を出て、別の国に入り、そこの首府の学生町の安い旅館で寝たり起きたりして私はその日その日をすごしていた」(開高健『夏の闇』)
「雪後庵は起伏の多い小石川の高台にあって、幸いに戦災を免れた」(三島由紀夫『宴のあと』)
和歌もかなりの変質を遂げた。
正統派の辞世は
「益荒男が 手挟む太刀の鞘鳴りに 幾とせ耐えて今日の初霜」(三島由紀夫)
「散るをいとふ 世にも人にも さきがけて 散るこそ花と 吹く小夜嵐」(同)
サラダ記念日などのような前衛は例外としても、たとえば寺山修司の和歌は
「マッチ擦る つかのま海に霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや。」
わずか三十一文字のなかで総てが凝縮されている。そこから想像が拡がっていく。
こうした絶望、空虚、無常を表す人間の微細な感情は、喜怒哀楽のない機械が想像出来るとはとうてい考えられないのである。
AIは人間の霊感、霊的な精神の営みをこえることはない。
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日本はドラッグ無法地帯!? ドラッグの世界潮流と日本ドラッグ事情
2009/07/25 18:00
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『週刊現代』8月9日号(講談社)
「犯罪者である彼あるいは彼女にも我々同様に人生があり、そして罪を犯した理由が必ずある。その理由を解明することはまた、被害者のためにもなるのでは?」こんな考えを胸に、犯罪学者で元警視庁刑事・北芝健が、現代日本の犯罪と、それを取り巻く社会の関係を鋭く考察!
昨今の日本では、ドラッグ関連の報道はもはや珍しいものでもなんでもない。芸能界からスポーツ界、有名大学の学内、そのほかありとあらゆるところにドラッグが蔓延しているのが現実である。ドラッグは日本の闇の文化の一つとして成り立ってしまったといっても過言ではない。そしてそれは、世界的なドラッグの流通ルートに、日本が組み込まれていることをも意味する。今や世界のドラッグ業界において、日本は無視することのできないほど大きな市場の一つなのである。
日本におけるドラッグ全体のシェアは、大麻がトップ、次いで覚せい剤とMDMA(合成麻薬)が肩を並べる。そして、この三種類が日本に出回るドラッグのほぼすべてを占めている。これらのドラッグは、大麻が『ダウナー系ドラッグ』、ほかの2つが『アウェイキング・ドラッグ(またはアッパー系ドラッグ)』と呼ばれ、程度の差はあるがどれも自身の感覚が鋭敏になり、セックスの快楽を増す作用がある。ダウナー系は他者に対しての警戒心が鈍くなり、羞恥心が薄らぎ、多幸感、および大麻であればマッタリ感、アッパー系なら極度の強迫観念や攻撃性が増すようになる。これらのドラッグの売値は、クラブに出入りするプロのディーラー(卸元)やプッシャー(密売人)など取り扱う者にもよるが、平均してMDMAは1錠2,000~4,000円(末端価格。以下同)。大麻はタバコ状になっているもので1本2,000~3,000円。覚せい剤は1g4~7万円前後。これは近年値上がりした価格で、それまでは長い間耳かき一杯で7,000円前後の相場であった。これらのドラッグの流通には当然、闇社会が関わっている場合がほとんどで、相場価格はコントロールされているため大きな値崩れはない。
日本に入ってくる覚せい剤は、北朝鮮で製造され海を渡ってくるものが有名だが、中国の香港や大連からも密輸される。ヘロインやアヘンはミャンマーとタイ、ラオスの三国境が交わる山岳地帯、業界では『ゴールデン・トライアングル』とも呼ばれる一大麻薬密造地帯から日本に来るルートがある。これは、まずバンコクを通り、グアム経由で成田や関空に入ってくる。また、バンコクからシーチャン島~台湾~沖縄を通る、台湾マフィア”チクレンパン”が仕切っているルートもある。なお、余談だが、実はチクレンパンが仕切るこのルートはオウム真理教の手配犯、高橋克也、平田信(菊地直子は偽造パスポートで関西空港からバンコクへ出国)が国外に逃亡したルートでもある。オウムと麻薬組織とのつながりは、オウムが覚せい剤を密造していた関係からできたものであり、現在、彼らはミャンマーの山村で”麻薬将軍”ことウェイ・シューカンに保護されている。3人がかつて潜伏していたというミャンマー北部の一軒屋には、昨年私の友人や捜査官も実際に足を運び、その痕跡を確認したので間違いないはずだと思っている。
大麻は世界中のいたるところで密造されている。世界的に有名なのはインドのガンジャや中東、東南アジアのタイ、南アフリカ、アメリカならばカルフォルニアのビッグ・サーあたりであろう。世界中というのには当然日本も含まれており、福島や栃木の山間部や北海道に違法な大麻畑があるという情報もある。欧州発のドラッグであるMDMAは、主にオランダ、ポーランド、チェコで密造され世界各国に流れる。ドラッグ市場の規模で言えば日本以上である欧州は、ドラッグの種類に関わらずその多くがヨーロッパドラッグカルチャーの中心であるオランダ・アムステルダムに一度集められて欧州全土に広まるが、日本にはオランダ経由で航空貨物やシベリア鉄道などを通じ流入する。日本に入ると、まず六本木に集められ新幹線を使って全国のクラブにばらまかれる。
三大ドラッグと比べれば数は少ないが、アヘンやヘロインも少しずつだが日本に入ってきている。アヘンに関しては1988年にイラン・イラク戦争が終わり、イラン人が日本に大量に入国した際、『テリヤキ』と呼ばれるアヘンスティックを持ってきたことで流行した。当時それらは1本6,000円くらいで取引されていたが、これが現在でもイランからのルートで国内に入ってきている。また、昨今は01年のアフガン戦争以降、アフガニスタンでは厳しく取り締まられていたケシ畑がタリバンによって復活し、アヘンや精製されたヘロインが国内にも流れてきている。ただ、アヘンは日本ではさほど需要がなくアメリカや欧州、中東、アフリカにおいて多くが取引されている。
以上が、日本に流入するドラッグの主だったルートであるが、このようなルートが各国に存在し、それこそドラッグの世界潮流とも言うべきものを為している。これだけわかっていて、なぜドラッグの流入を防げないのか? そう考える人もおられるかと思うが、実際に国内へのドラッグ流入を阻止するのは非常に難しいのが現実だ。まず、空港に入ってくるドラッグの場合だが、家具や家電に巧妙に隠され税関をスルーしていく。個人では身体に巻きつけたり、防水加工したりして体内に隠す場合もある。国内に来る人、荷物の数に比して空港警察や税関職員、厚生省麻薬取締官、麻薬犬の数は圧倒的に不足している現状では、一定の成果を上げているとは言っても、残念ながらその何倍ものドラッグが空港を通過していると考えられる。そして、船を使った場合は漁船でやられたらほぼ100%スルーになってしまうのが現状だ。数は減ったとはいえ、依然として北朝鮮製覚せい剤がドラッグ市場からなくならないのも、海からの流入を防げないからである。北朝鮮から積み出された覚せい剤は、日本海沿岸において防水加工され海に流される。それを、広域暴力団に雇われた漁船が吊り上げ、日本に持ち帰るのだ。つまり、いくら港の税関の取締りを厳しくしてもドラッグの流入は防げないのが日本の現実なのだ。
日本はこのように、島国といえども関係なくドラッグに入り込まれやすい地帯なのだ。ドラッグから身を守るためには、そんな現実を認めて個人各々が「ドラッグには手を出さない」という強い意志を持っていくしかないのである。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)
shibakenprf.jpg●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。早稲田大学卒。元警視庁刑事。伝統空手六段。近著に、『続・警察裏物語』(バジリコ)などがある。
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最終更新:2009/07/25 18:00
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東大など、光合成活性を持った葉緑体の動物の細胞への移植に成功 2024/11/01 17:32
著者:波留久泉
東京大学(東大)、理化学研究所(理研)、東京理科大学(理科大)、早稲田大学(早大)、科学技術振興機構(JST)は10月31日、藻類から光合成活性を持つ葉緑体を取り出し、ハムスターの培養細胞内に移植することに成功し、少なくとも2日間は同培養細胞内で光合成活性を保持していたことを確認できたことを発表した。
今回の研究による、光合成活性のある葉緑体を持つ動物細胞の模式図 今回の研究による、光合成活性のある葉緑体を持つ動物細胞の模式図 (出所:理科大Webサイト)
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻の青木遼太大学院生、同・乾弥生特任研究員、同・岡部耀二大学院生、同・澤田幸希大学院生(研究当時)、同・森田隼登(研究当時)、同・ジェノ・バティスト特任研究員、同・丸山真一朗准教授、同・松永幸大教授、理研 環境資源科学研究センターの佐藤繭子技師、同・武田紀子テクニカルスタッフII、同・豊岡公徳上級技師、理科大 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部の鞆達也教授、早大 教育・総合科学学術院の園池公毅教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本学士院が刊行する自然科学の幅広い分野を扱う英文学術士「Proceedings of the Japan Academy, Series B, Physical and Biological Sciences」に掲載された。
葉緑体は、多数のクロロフィル(葉緑素)を有する植物細胞や藻類にある細胞内小器官で、光合成を担うことで知られる。今から12~16億年前、酸素発生型光合成細菌の「シアノバクテリア」(の先祖)が動物細胞(真核生物)に共生し、藻類が誕生したことで葉緑体が誕生したと考えられているが、動物細胞は通常、葉緑体を異物として認識して消化してしまうため、移植は困難とされてきた。そこで研究チームは今回、新たな手法を用いて葉緑体を動物細胞に取り込ませることにしたという。
具体的には、原始的な藻類で、最小の細胞サイズ、最少の遺伝子数、細胞内小器官を1個ずつしか持たないなど、光合成細菌が共生を開始して藻類が出現して間もない頃の姿を留めていることが特徴の「シアニディシゾン」(シゾン)から光合成活性を持った状態の葉緑体の単離が試みられた。葉緑体のゲノムに関して、進化するに従ってサイズが小さくなり遺伝子数が減少していくが、シゾンのものは他の藻類や植物の約2倍の遺伝子数を保持しており、それだけ原始的であることがわかるという。
葉緑体の移植手法はこれまで、細いガラス管を用いて細胞内に注入したり、物理的に細胞膜に穴を開けて取り込ませるといった方法が取られていたが、半世紀以上も前から移植実験は行われてきたものの、これまで取り込まれた葉緑体が光合成活性が確認されたことはなかったことから、今回の研究では、ハムスターの卵巣から確立された培養細胞の「CHO細胞」が有する「貪食作用」(細胞が異物を取り込む能力)を高めるという新たな手法を開発することで、同細胞に最大で45個の葉緑体を取り込ませることに成功したという。
藻類から移植された葉緑体を持つCHO細胞 藻類から移植された葉緑体を持つCHO細胞。青緑は細胞核、黄緑は膜構造を持った細胞内小器官、赤紫は葉緑体。細胞核近傍や細胞質に2~6個の葉緑体が確認できる。葉緑体の中央部分には、青い葉緑体DNAも観察される (出所:理科大Webサイト)
また、CHO細胞は葉緑体を取り込んで、その増殖は阻害されず、正常に細胞分裂も行われたことも確認。取り込まれた葉緑体はCHO細胞の細胞質に存在しており、その一部は細胞核の周りを取り囲むように配置していることも観察されたとする。
シゾンから単離された葉緑体の電子顕微鏡像 シゾンから単離された葉緑体の電子顕微鏡像。二重膜で囲まれた葉緑体内部に、光合成を行う酵素が配置されているチラコイド膜の構造が層状に保たれていることが見て取れる (出所:理科大Webサイト)
取り込まれた葉緑体を単離して詳細な解析が行われたところ、細胞内で光合成に関与する酵素が配置される「チラコイド膜」の構造が維持されていることが判明。葉緑体はCHO細胞に取り込まれた後、同膜に包まれた状態で細胞質に存在しており、取り込まれてから2日間は同膜の構造が保持されていたことも確認されたほか、葉緑体がCHO細胞の細胞核の外膜に接触している様子やミトコンドリアに取り囲まれている様子も観察されたという。ただし、���の後の4日目の時点で同膜の構造が崩れていることがわかったとしている。
葉緑体移植後、数時間後のCHO細胞内の電子顕微鏡像 葉緑体移植後、数時間後のCHO細胞内の電子顕微鏡像。中央の球状の物体が、移植されたシゾンの葉緑体。シゾンの葉緑体はすぐに分解されず、葉緑体内部の膜構造を維持し光合成活性が維持されていた。また葉緑体は、細胞核の外膜に接触しており、その周りをミトコンドリアが取り囲んでいた (出所:理科大Webサイト)
4個の葉緑体を取り込んだ後、2日目のCHO細胞内の電子顕微鏡像 4個の葉緑体を取り込んだ後、2日目のCHO細胞内の電子顕微鏡像。葉緑体の内部構造は維持されており、光合成活性が維持されていた。葉緑体内の黒い点は、ストレスを受けると形成される顆粒 (出所:理科大Webサイト)
さらに、取り込まれた葉緑体の光合成活性の測定が行われたところ、シゾン葉緑体は取り込まれてから2日間は光合成活性を保持していたが、4日目に入るとその活性が著しく減少しており、チラコイド膜の構造が崩れたタイミングと一致していることが判明したともしている。
葉緑体移植後、4日目のCHO細胞内部の電子顕微鏡像 葉緑体移植後、4日目のCHO細胞内部の電子顕微鏡像。葉緑体の内部構造のチラコイド膜構造は失われ、葉緑体の形状も崩れていることが確認された (出所:理科大Webサイト)
なお、研究チームは現在、移植した葉緑体が動物細胞内でより長く光合成活性を維持するための技術開発を進めているというとのことで、その実現には移植した葉緑体から発生する酸素量や動物細胞内で固定されるCO2量を、同位体標識法を用いて定量していく必要があるとしている。
研究チームは、植物の機能を持つ「プラニマル細胞」(PlantとAnimalに由来する造語で、研究チームの松永教授が2018年に提唱)の創製を目指した研究を推進しており、今回の葉緑体移植法の開発は、プラニマル細胞によるグリーントランスフォーメーションを達成するゲームチェンジャー創製のための突破口になることが期待されるとのことで、今後も、CO2排出削減による持続的社会の実現を目指して、革新的なバイオテクノロジー技術を開発していくとしている。
(東大など、光合成活性を持った葉緑体の動物の細胞への移植に成功 | TECH+(テックプラス)から)
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魔霧の城 第1章
(一)
晩秋の早朝。湖畔には、朝霧が立ち込めていた。
周囲には誰もいない。車も通らず、民家も見えない。静寂しかない。
その中を、追内翔は一人で歩いている。
橙色に染めた髪は傷み切っており、天然パーマな故に、手入れされてない頭髪なのは一目でわかる。日焼けした顔も、百八十近い長身も、服の上からでもわかる体格の良さも全て潰す、陰鬱な雰囲気。
彼は全身が倦怠感に覆われ、目覚めたばかりの朦朧とした意識で、目的地まで歩いていく。
追内が向かった先には、枯れ草と野草に埋もれる切り株があった。その切り株の根元は煤けていて、燃えた跡が残っている。
追内は切り株を一瞥すると、外套のポケットから結婚式の招待状を取り出した。
その留め具にあったのは、色褪せたリボン。元はもう少し濃い紫色だったが、時間経過とともに色が落ち始めて、随分と淡い色になっていた。
リボンを取り、中を見ればとっくに過ぎ去った日付と、綾文れいと金剛司紀の名前が記されていた。
追内は指先が出た手袋を取らず、招待状の名前の部分をなぞる。何度も、何度もなぞる。
なぞっていた指先にピリリとした痛みが走った。手入れもされていない彼の指は荒れに荒れており、血が滲んでいる。
だが、追内は痛みを無視してなぞり続ける。
側から見れば不審な動きしかしていない彼は、しかし脳裏で大切な幼馴染たちの三年前の葬儀を思い出していた。
葬儀場で啜り泣きながら、金剛と綾文の両親たちが互いを慰���合っていた。
『息子だけでなく、義娘になったばかりのれいちゃんまで』
『あの子、司紀くんとせっかく一緒になれたのに、こんなことに』
突然の訃報に誰もが呆然とした表情で、二つの遺影を眺めている。追内もまた力抜けたまま、椅子に座って写真を眺めていた。
『例の爆発事件で、遺体の損壊が激しすぎたらしいわ』
『それで火葬された状態で返されたの?』
『最後に顔を見ることさえできないなんて』
『警察はなんて?』
『犯行グループを全力突き止めるってテレビでは盛んに報道しているけど』
『もう見るのも辛いわ。何度も何度も、あの現場が流れてくるの。他にも亡くなった人がいるのでしょう』
『地下鉄なんて、あんな人が多い場所で……逃げられなかった人はさぞや辛かったでだろうに』
弔問客の囁き声が、この場に二つの棺がない理由として広がっていく。
どうして、なぜ、二人がこんなことにと続く言葉に、一番同意したいのは追内だ。
楽しみにしていた幼馴染たちの結婚式、それまでとっておけと言われた涙。その幸せな未来は、二人の葬儀と別れの涙で塗り替えられた。
包帯が巻かれた手を顔にあてて、追内は嗚咽を漏らす。嗚咽ではなく、むしろ叫びたいほどだったが、未だ彼の喉は回復していない。
『追内』
学生時代の先輩であり、友人でもあった稲里豊が、追内の肩を慰めるように叩く。
『……悲しいな』
絞り出した稲里の言葉は短く、そこに大きな悲哀だけが込められていた。彼は追内の手を外し、包帯の上からさする。
稲里の横には、能面のように感情を削ぎ落とした後輩の迂音一が立っていた。
『……先輩、僕も悲しいです。先輩よりも付き合いの短かった僕ですら、こんなに悲しいんです。きっと先輩は、もっと悲しいんですよね』
でも、と迂音は追内に告げる。
『だからといって、先輩が自責の念で傷ついていい訳じゃないですよ』
迂音が顔を追内に近づける。能面のようだと表現した彼の目尻は、泣き腫らした痕がくっきりと残っていた。
『先輩、追内先輩……お願いですから、あの二人の後を追わないでください。これ以上、僕たちを悲しませないでください』
懇願する後輩の視線から逃れるように、追内は稲里を見る。だが、稲里もまた追内の治らない手のひらを見つめていた。
『……だって、俺のせいなんだ。俺が前を走っていたから、二人は後にいた。俺が後にいれば、あの二人は助かったんだ』
『追内!』
稲里が声を初めて荒げた。周囲が何事かと追内たちを見る。
『俺だけが助かった! 俺だけが……俺だけ』
堰を切ったように追内は心情を吐露する。鬱屈した思いがぶちまけられる。
『なんでだよ、どうしてだよ、なんであの日だったんだ、どうして俺だけが生き延びて、あの二人が死ぬんだよ。だって、あの日に結婚式の招待状をもらったんだ。俺泣いて喜んで、楽しみにしてた。なのに、どうして? なぁ、どうしてなんだよ! 俺、あの二人を助けようとしたんだ。必死に、何を犠牲にしてもよかった、なのに、なのにッ』
支離滅裂な、起承転結すらもない、追内の掠れた声による叫び。
稲里は何度も『わかる、ああ、お前の気持ちは痛いほど分かる』と返す。迂音は『先輩。追内先輩、落ち着いて。先輩の傷、まだ治ってないんです』と宥める。
痛ましいものを見るように弔問客の視線が三人に向けられていた。
綾文と金剛の両親たちもまた少し近づく仕草をしたが、却って追内の混乱が悪化した過去を思い出し、留まる。
なんで、どうしてと嘆く追内の声は徐々に小さくなっていったが、終ぞ言葉がなくなることはなかった。
葬儀が終わるまでずっと、追内は自分を責め続けていた。
以来、追内は漫然とした人生を送っている。
脳内の時間旅行から帰ってきた追内は、招待状から目を離し。今度は切り株に注目する。
未だ彼から自責の念は消えず、思い出すだけで息切れをする始末。死ぬことは許さないの身内たちの言葉から、自らを傷つけることだけはやめられた。ただ何もかもから逃げたくて、三年ほど誰とも繋がらず、音信不通状態で過ごしている。
「……三年てあっという間だよなぁ。全然、忘れられねえよ」
ぽつりと零した独り言が、追内の意識を縛る。忘れられないと呟く度に、何度も何度も彼の脳内に反芻される悲劇が劣化することはない。
いつの間にか風が強くなっていた。
霧が風で動いていく。湖の表面が波立つ。周囲が見えなくなっていく。
それが爆発事件のあった日を思い起こした。
爆発音が響き、逃げ惑う人々を飲み込むように、地下鉄の駅構内を煙が覆っていく光景を思い出す。
追内は未だ思い出にできない過去に、背筋がそわりとしたのを感じ取った。
吐き出す呼吸がか細くなっていく。
しかし、自分の呼吸だけが聞こえるはずの場でシュー、シューと何かが漏れ出るような音が、近くでし始めた。
ギギギと錆びた金属が擦れ合う音もする。
悲劇に浸ったままのぼんやりとした意識で、追内は音のする方に振り向いた。
「……あ」
思わず声が出る。
そこにいたのは、追内よりも小柄な女性だった。
真っ赤なドレスで人形のように着飾られた金髪の女性が、背後におぞましい異形を従えて立っていた。
追内は一歩、後ずさる。
濃霧で細部は見えないが、異形は人型のようだった。女性と似たような構造の衣服を身に纏っていたようだが、それでも手足は長く、アンバランスで、顔がベールで隠されているとはいえ目があると思われる場所が煌々と光っている。
ヒュー、���ューと霧を吐き出しながら、ギギギと腕や足を覆う錆びた金属を引っ掻きながら、異形は女性の背後にいた。
だが、女性は追内を見つめ、続けてその背後にあった切り株を見つめる。異形には一切の関心を払っていない。
そして唐突に喋り出した。
「器が燃えたにも関わらず、力はその織紐に移っていたのですね」
通りでここへ来られたわけです、と続く言葉とともに、彼女の指が追内が持っていた招待状のリボンを差す。
追内は「何が」と尋ねるが、それへの答えは返されない。
逆に女性は、さらに意味のわからないお願い事を口にした。
「一つ、あなたに頼みたいのです。彼に魔霧の件はしかたがなかったと伝えてください」
「なに、え? まぎり?」
「魔霧です」
そこで女性は初めて微笑んだ。それは慈愛にも満ちたものでありながらも、諦観の色が色濃く乗っている。
「どれだけ人々が魔霧を崇めたとしても、あれはただの現象にすぎない。彼がどれほど後悔しても、力があろうが、努力を積み重ねようが、結末は変えられなかったのです。だから、しかたなかったとお伝えください」
努力を積み重ねようが結末は変えられなかったの言葉に、追内の脳内に幼馴染を助けようと瓦礫をどけようとした光景が蘇り、怒りを抱く。
あれを無意味だと他人に言われたくはなかった。
「ふざけるな! どうして、どうしてそんな言葉を俺が」
「あなただからこそ、彼に共感できるからです」
互いの背景など欠片も知らないと言うのに、追内は自分勝手な苛立ちを女性にぶつけようとする。だが、女性は追内を遮り、まるで彼の立場をよく知っているかのように語りかけた。
「あの魔霧立ち込める場で、あなただけが彼を理解できたのだから」
再度、彼女は「あなただけ」と強調する。
一歩、追内が問い詰めようと足を前に出した時、霧が動き始める。たった一メートル先さえも分からないほどの濃霧。女性の姿が霧に埋もれ始める。
「どうか、どうか魔霧の城の終焉を責めないで」
追内は何歩か前に出る。だが、先ほどまでいたはずの女性の姿はどこにもなかった。そして、あの奇妙な異形の姿もなく、再度静寂が戻る。
「なんだったんだ」
呆然とした追内は、視界が開けると同時に、思考もまた澄んだような気がした。
(二)
初夏特有の燦々と降り注ぐ太陽光と、未だ湿り気を含んではいない風が、追内の頭を撫でていた。
東京、新宿の東口の広場。人々が集まるこの場所は、昼休憩の時間帯のため弁当を持つ人が多かった。もしくは、これから食事に向かおうとする人々か。
その中でボストンバッグ一つを足元に置いて、彼は電話を掛けている。
「と、いうわけでえ、火事で家が無くなった俺に愛の手を」
電話口の相手、追内の先輩で友人でもある稲里豊は深々とため息を吐く。
『追内……お前、お祓い行った方がいいんじゃないか』
「正直、行きたい。行きたいけど��まずは寝床が欲しいです」
切実なんですよ、と続く追内の心情に、稲里もそれはそうだなと納得する。
『一時避難で俺の家に転がり込むのは、まぁ問題ないが』
そこまで答えて、稲里は歯切れ悪く確認する。
『不仲の元凶である俺が言うのもどうかと思うが……その、ご実家の方は頼らないのか?』
「……それは」
両親、特に父親とは長年連絡を取り合っていない追内にとって、その選択肢はないに等しい。だが、続く稲里の言葉は意外なものであった。
『お前と親父さんの件は知っているが、それでもお袋さんはお前の味方だろ? ご両親とも、あの二人の三回忌のときに心配されてたぞ』
彼が告げるあの二人と言えば、五年前に亡くなった共通の友人である金剛司紀と綾文れいのことだった。
稲里が二人の三回忌に参加するの自体は意外でも何でもなかったのだが、追内の両親と話していたのは驚きである。
「え、豊さん参加してたの? うちの親も? え、何それ知らない、いつの話?」
混乱のあまり、最後には訳のわからない問いかけをしたが、稲里は『あのな』と呆れ混じりで説明する。
『音信不通で連絡先すら知らせないでどこかに行ってたお前に、どうやって知らせろと』
「えーと、豊さん経由とか」
『俺にすら二年前まで、まともに連絡入れずにいたくせに?』
「うっ」
二年前に突然戻った追内。
そんな彼を稲里は、音信不通時代に何をしていたのか問い詰めることはせず、粛々と受け入れた。しかし時間経過と共に、徐々に踏み込んだ話題を出すようになってきている。
『……なあ、追内。お前さ、いい加減に墓参りくらい行けよ』
それは表面上は元に戻りつつある追内が、未だ金剛と綾文の二人に関係するもの全て――墓参りも法事も思い出の場所への話題すらも――から背を向けているのを知っているからだった。
『五年前の爆発事件で、あの二人を目の前で亡くしたお前の悲しみは、理解できる』
でもな、と稲里は慰めの言葉を紡ぐ。
『お前はあの二人の代わりに一人の子供を救ったんだ。お前と金剛と綾文の三人がいたからこそ、子供は救われた』
記憶の中で追内は、自分が二人の前を走っていたからだと責めている。
だがあの日、追内は傷ついた子供を背負い先行し、金剛と綾文の二人はその子を守るために後ろを走ったのだった。
結果、先行していた追内とその背にいた子供だけは、地下鉄通路の崩落に巻き込まれず、無事であった。
『お前はあの二人のご両親に顔向けできないと嘆くが、子供の命を救ったお前が責められる謂われはないんだ。お前のご両親も、まだ自分を許せてないのかと心配されてたんだぞ』
三人で一つの命を救おうとし、結果二人が犠牲となった。これは、単純な足し算でも引き算でもない話である。
「でも……でもさ、子供を助けるだけなら俺じゃなくても」
『追内!』
稲里からの強い呼びかけで、それ以上何かを言おうとした追内は黙った。
それでも追内翔は幼馴染たちの死を受け入れきれない。あの日、爆発事件が起きた後の、もしもの行動を夢想してしまうのだ。
その夢物語に囚われて三年間もの間自責の念に苛まれていたと思われる追内に気づいているからこそ、稲里は彼の言葉を否定する。
『とりあえず、今は俺の家に避難でも構わない。でも、いつかは問題と向き合え、逃げるな』
いいな、と念押しされた追内は、嫌々ながらも了承する。
そのまま電話が切られようとしたが、本題を思い出した稲里によって待ち合わせ時刻と場所が確認された。
「……豊さん、昔よりお節介になってるなぁ」
つい独り言が零れた。
スマホをしまい、五月晴れの空を見つめる。日差しが強く、手で影を作った。
次に追内はジャケットの内ポケットにいれたままの結婚式の招待状に、布の上から触れる。もはや持ち続けることが癖になったそれは、変わりなくあった。
「俺なんかに世話焼いてると、婚期逃しそうなのに」
追内も稲里も互いにいい歳であるから、その辺りの話題くらいは出てきておかしくない。だがお付き合いについて、あるいは結婚の話題の一つも稲里からは出てこない。
再会してから女性の影も見えないので、本当にいないのだろう。しかし、結婚式直前の幼馴染たちを亡くして傷心している追内のことを慮って、わざと教えていない可能性もあった。
「豊さんのパートナーか……ちょっと審査はさせてもらうかもしれないけど、基本俺は祝うからね、うん」
金剛と綾文が結ばれた際は無条件で祝福した追内だが、基本身内贔屓だ。なんだかんだで懐いている先輩の稲里の結婚相手には、少し辛口意見を言ってしまうかもしれない。でも、幸せになってくれるなら嬉しいのも事実だった。
その時、メッセージの着信を知らせるメロディがスマホから流れる。
なんだろうと彼が確認すれば、もう一人いる長い付き合いの後輩である、迂音一からだった。
「豊さん、はじめちゃんまで巻き込まないでよ」
メッセージに記されたのは、稲里の仕事終わりまで迂音の持つ店で時間潰しをしたらどうか、という誘い。
昼休憩真っ最中、しかもこの後は夕方の開店までの仕込みの時間だと思われるが、後々のことを考えると追内にはありがたい提案だ。
肯定と感謝のメッセージを送り、駅へと向かう。
燦々と降り注ぐ太陽光から逃れるように、追内は地下へと潜っていた。
目的のホームへ向かう道中、追内がそのポスターを見つけたのは偶然だった。
何かのキャンペーン中なのか、連続したスマホゲームのポスターが並んでいる。
主要キャラクターたちと思われる絵と、その背後にキャラたちを襲おうとするモンスターたち。キャラの服装や背景からすると、スチームパンクもののようだ。だが、歯車や金メッキ、ドレスや古臭いスーツを彩るアイテムの中に、魔法らしきものが見え隠れしている。
どう言う世界観なのだろう、と人の流れから離れてまじまじとポスターを眺める追内。とりあえずゲームタイトルを確認しよと視線をズラ��たところで、気づいた。
「……魔霧の城」
ゲームのタイトルを追内は口にする。
二年前に出会った謎の女性。
その女性が最後に告げたのは「魔霧の城の終焉を責めないで」だった。
追内の中で、彼女の告げた「まぎり」が「魔霧」へと変換される。
鮮明に覚えている、あの不可思議な一時。二年も前の出来事だというのに、未だ色褪せない記憶。
なぜなら女性が告げた「あなただけが共感できる」の言葉に、ほんの少しだけ彼が救われたからだった。
稲里も迂音も、追内の悲しみを理解できると慰めた。確かにそうだろう。彼らもまた、大切な友人を同時に失ったのだから。
だが、追内の仄暗い心の中で、否定が先走る。
あの日、目の前で通路が崩れ、分断され、無情にも二人が目の前でいなくなった恐怖を、虚無を、焦りを早々に理解できるのかと疑念が浮かぶ。
共感など誰もできないだろう。
理解などできないに違いない。
けれど、追内のその孤独を理解できる人間がどこかにいるのだと、彼女の言葉で慰められた。だからこそ追内は、友人たちの前に戻れたのだった。
「なんで、そんな馬鹿な」
その追内の思い出の中にしかないはずの、魔霧というキーワードが目の前にある。
口をぽかんと開けた彼は、目だけで周囲を観察した。
追内以外の通行人はポスターには目もくれずに通り過ぎていく。時折、プレイヤーと思われる人が写真を撮るために足を止めてもいた。が、それも人の多いここでは少数だった。
日常にしか見え��い光景。
だが、何かがおかしいと焦燥感を募らせる。
そして、さらに彼を混乱に陥れるポスターを見つけた。
「あの時の……異形」
謎の女性の背後にいた、奇妙な形をした何か。
主人公と思われる少年が振り上げた剣の先に佇むそれは、巨大で、アンバランスな体型の人らしき何かだった。
赤黒いドレスを纏い、煌々と光る目をベールで隠し、金属で覆われた両手は優雅にスカートの裾をつまみ上げている。赤い薔薇を足元に這わせ、同じくアンバランスな騎士を従えた何か。
そのポスターに書かれた煽り文句は他のものに比べてシンプルだった。
――魔霧の女王、魔霧に呑まれた旧都の支配者
早鐘のように追内の心臓が鼓動を細かく刻む。
ポスターに掲示された検索ワードですぐさまアプリをダウンロードし始めた。
屋外であるために遅々としたペースでしか進まないダウンロードバー。
確か迂音の店には無料WiーFiがあったはずだと思い出した追内は、足早にホームへと駆けた。
時刻は午後二時手前。追内は、到着のアナウンスと目的地の案内を確認した。次に来るのが、思ったよりも早い。
一旦アプリのダウンロードを止めて、落ち着くために音楽でも聴こうとワイヤレスイヤホンを耳に着けて、再生ボタンを押した。
徐々に緊張が溶け、心音がゆっくりになっていく。
直後やってきた電車の通過音がホームに響��。
風が轟音となって耳に流れる音楽を打ち消す。
アナウンスが、がちゃがちゃと何かを伝えようとしている。
電車の扉が開いて、追内は人の流れに乗って足を踏み出した……つもりだった。
「は?」
電車内に足を踏み入れたところで違和感に気付く。
誰一人乗っていない車両、ホームにいる誰一人その顔を向けない電車、電気一つ点かない薄暗い車内。
ただ、それ以外は普通の電車だった。釣り広告に違和感はなく、座席は誰もいないだけで古びている。ゆらゆらと揺れるつり革は、先程まで誰かが握っていたように、いくつかが大きく揺れている。
「やばっ」
追内が間違えたかと思って慌てて降りようとしたとき、無情にも電車の扉が閉まる。
一人閉じ込められた彼は、誰も視線が合わない外へと顔を向けた。
――ザザッ
イヤホンからノイズが聞こえ始めた。
「待って、待ってくれよ。おい、何が……なんで」
焦る追内は大きな独り言を口にし、扉を何度も叩くが開くことはない。しかも通り過ぎるホームにいる人々の誰一人として、彼を――否、電車を認識できないでいるようだった。
――ザザッ
――ザッ
――ザザザッ
不規則で、神経を逆撫でするようなノイズが続く。
それが余計に追内の不安を加速させた。
「おい、なんだよ。何が起きてんだよ」
電車は進む、進む、進み続ける。
揺れる、傾く、車輪の音が響く。
そのまま地上を走るのかと思われた電車は、なぜか地下へと入っていった。もちろん、追内が乗ったのは地下鉄ではない。ありえない場所から、ゆっくりと地面に沈んだのだった。だが妙な揺れも、異音もなく、地下特有の騒音が車内に轟く。
乗った時に薄暗かった車内は、暗闇に支配された。
窓の外は何も見えない。ただ、次の行き先を告げる車内の画面だけが煌々と光る。
記された文字は、裏東京の三文字。前後にある駅名は文字化けしている。
そこで、ようやく追内はスマホの存在を思い出した。どこに、何を、どう伝えればいいのかわからない。だが、とにかく助けを呼ぼうとホーム画面を開いた。しかし、無情にも圏外の表記が目に入る。
ネットでお馴染みの怪異かよ、と舌打ちをした彼は、しかし奇妙なことに気づいた。
先程ダウンロードしを中断したはずのアプリ「魔霧の城」が、更新し始めているのだ。確かに圏外であるはずなのに、進むはずのない更新バーとその下の数値が確かに動いている。
再び、追内の胸が痛み出した気がした。
『……そ…………では……織……』
直後、追内のイヤホンから低い、掠れた男の声が聞こえた。
音楽ではない。誰かが電話のように喋っているのだ。ぼそぼそと、受話器の向こうで喋っている。
先程までのイヤホンから聴こえる断続的なノイズが少なくなり、声が明瞭になっていく。
『共鳴、共感、なるほど転移先は呼ばれた結果か』
その声の主は、大変歳をとった男であると分かった。感情の昂りを感じるものの掠れがひどく、荒い息遣いと、今にも咳き込みそうな声の出し方。
『では、私は扉の向こうへ渡った全てを集めよう』
聞き取れたのは強い決意だった。今にも笑いだしそうなほどの、激しい喜びがありありとわかるだけの、高らかな宣言だ。
追内は恐怖のあまり、ワイヤレスイヤホンを外した。その直後、彼は微かな息遣いにようやく気づく。
ぎこちなく、ゆっくりと、本当は何も見たくないと言わんばかりに嫌々と追内は首を回す。
真っ暗な車内。
次の停車駅を知らせる車内テレビだけが光源の車両の陰影は僅かだ。
だが、電車はどこかの駅を通り過ぎる。
結果、煌々とホームを照らす照明の光が車内に差し込まれたので、追内はそれの姿をはっきりと見ることになった。
「……あ」
悲鳴とは違う、何の意味もない音が追内の口から出た。
それはおそらく人だ。
金色の糸で複雑な紋様が刺繍された紺色のローブに包まれた誰かが、隣の車両との接続部近くに立っている。
フードを深く被っていることで顔は見えないが、追内よりも少し低い身長と、袖から見える皺だらけの手。
周囲に靄が立ち込める。密室のはずの車内で、謎の人物と追内の足元が靄に沈んでいく。
「そうして魔霧の終わり、つまり魔霧の城に終焉を与えよう」
先程までイヤホンから聞こえてきていた掠れた男の声が、目の前の人物から発せられた。
その瞬間、再び車内は暗闇に包まれる。
駅を通過し切ったらしい。
追内の眼球は暗反応に追いつかず、けれど構うものかと彼は謎の人物がいるのとは真逆の方向へと走り出した。
走る、ぶつかる、扉を開けて、再び走り出す。
誰もいない、荒い呼吸音は一つのみ。
電車が揺れて、体勢が崩れる、咄嗟にどこかに掴もうとして掴み損ね、転ぶ。肩を思い切り打ちつけて、冷たい床の感触が頬に伝わった。
「――ッ」
それでも追内は諦めずに立ち上がり、車内を走ろうとする。
一瞬だけ背後を気にして、けれど何も見つけられずに前を向き直す。
一両、二両、三両と通り抜けたとき、急激に電車のスピードが落ちたことに気づいた。
そして再び、横から煌々とした光が叩き込まれる。
――ここは裏東京、裏東京。魔霧が満ちています、お気をつけて。
流暢なアナウンスが流れ、電車は止まり、扉が開かれる。そしコンサートなどで使われるスモークのような、重い霧が車内に流れ込んできた。
冷気が足元を撫でる。甘い匂いが充満する。
むせかえるほどの匂いと湿気、そして喉を刺激する冷気に、追内は数秒だけ躊躇うも、その足をホームへと向けた。
――ご利用ありがとうございました。またのご利用ができますことをお祈りいたします。
彼が降りたと同時に電車の扉が閉められる。
そして不吉なアナウンスとともに、電車は去っていった。
追内は周囲を見回す。
等間隔で並ぶ柱、遠くに見える階段。
誰もいないが、たびたび追内も訪れた東京駅の地下ホームによく似ている。似ているが違う。その決定的な違いは霧と奇妙な蔦だ。
ホーム全体の床を覆い、���下まで立ち込める霧。それらに隠れていたが柱や看板に何らかの蔦が絡み、毒々しい紫の葉が生い茂り、禍々しいほどの赤色の花が咲いていた。
「……なんなんだよ、これ。夢にしちゃ」
リアルすぎる、と呟こうとした彼に「逃げて!」と女性の鋭い声が届く。
直後、彼は誰かに抱えられて宙を舞った。
(三)
追内の眼下に見えるのは、蔦が絡まる駅の備品たちと霧に覆われた駅のホーム。
彼の腰を強く抱え込み、高く飛び上がった人物の顔は残念ながら見えない。
霧が追内の視界の中心でうねり、その中から歪んだ剣先が追内に向かって競り上がった。
ゆっくりと動いているように錯覚するが、それは彼が現状を理解できないからだ。
剣先から、剣の刀身、そして柄と姿を表しながらも、その剣を持つ人物が現れてくる。
それは全身を鎧に覆われた騎士だった。ぼろぼろになった臙脂色のマントを翻した騎士。胸元を真紅の薔薇に寄生された、鈍色に光を反射させる鎧を纏った騎士。
その姿は、あの魔霧の女王が率いていた騎士とよく似ていた。まるで絵から出てきたように、そっくりであった。
「……ッ」
声が出る暇などなかった。
剣を向けた騎士は、追内を追いかけて跳躍する。瞬きをする暇もなく、騎士が追内の目の前にくる。霧を蹴散らし、空気を切り裂き、重厚な鎧が一瞬で彼の前に踊り出た。
だが、光の線が追内と騎士の間を通り抜ける。
光の線は紐のように曲がり、剣に巻きついた。その直後、騎士はより上昇し、追内たちは降下していったのだが、離れてようやく何が起きたのか分かる。あの光の紐を巻きつけた剣を起点にして、追内を抱えた誰かが騎士を投げ離したのだ。
騎士は勢いよく天井へとぶつかり、結果衝撃で空間全体が揺れた。
勢いよく地面へと着陸した誰か。そのまま支えられていた腰を手放された追内は、べちゃりと床に落ちる。
無様にも口の中に土煙が入ってしまった追内は、げほげほと吐き出しながら、彼を助けてくれた人物をようやく見た。
そこに立っていたのは、美しく凛々しい異国の女性だった。
真っ白な髪と真っ白な肌。細められた目は天井へと向けられており、口元は革製のマスクで覆われている。
あの騎士ほどではないが胸部や腕、脛には金属製の防具で覆われていた。
そして特徴的であったのは、手に持つ奇妙な模様の装飾がされた棒。片方からは例の光の紐が出ており、もう片方からは周囲の霧を吸い込む穴がある。パッと見る限りは鞭を彷彿とさせた。
「……えっと?」
呆然としたまま、追内は異国の女性を見つめる。だが、女性は追内ではなく、ひたすらに天井を、あの騎士がいるはずの場所を険しい表情で睨みつけていた。
「大丈夫?」
異国の女性ではない、少し甲高い少女の声が追内に掛けられる。
いつの間にか彼の背後に、少女が立っていた。
少女は追内に手を差し出す。疑いもなく彼は少女の手を取った。
追内の身長からするとだいぶ下に見える、染め��いないこげ茶の髪と、同じ色合いの目の彼女の顔つきは幼い。彼には少女が高校生くらいに見えた。
その少女は、追内の目を真っ直ぐに見つめて、とんでもないことを喋り始める。
「あなたがヴァポレから派遣された応援ね。あたしは福来鈴花。あの子は、あたしの召喚キャラのフー」
「は?」
「手短に説明するわ。先日のレイド戦で打ち破った星見の賢者の空���で、女王たちの居場所に繋がる手がかりがないか調査してたの。だけど、なぜか女王の薔薇騎士がやってきて……知っての通り、あいつは魔霧の女王の最高戦力よ。今は撤退の隙を作って欲しいの」
つらつらと告げられた内容は、追内には意味がわからない。
「星見の……賢者? 魔霧の女王て、あのポスターにあった」
かろうじて知っている単語を口にすれば、少女――福来は怪訝な表情を浮かべた。
「何当たり前のこと言ってるのよ。時間がないわ。あなたの召喚戦士を早く出してちょうだい」
さらに意味のわからない単語が出てくる。
「何のことだよ、つーか、魔霧の城のゲーム世界が……本当にあるのか?」
追内の言動にようやく、福来は異常だと気づいたようだった。
血の気が引いたように、少女の顔色が悪くなる。そのまま一、二歩後ずさった。
福来の視線が追内から逸らされ、左右へと忙しなく動く。
「待って、どうやってあなたここに来たの? ここはヴァポレの通行証がないと入れない筈なのに」
震える指先で掴んだ少女の手にあったのは、手のひらサイズのガラス玉に霧がこめられたものである。
もちろん、追内に見覚えのあるものではなかった。
「し、知らない」
慌てて追内は首を横に振る。そのまま、言葉がつっかえながらも、今に至る説明をした。
「普通に電車に乗ったら、えっと訳のわからないやつしか乗ってなくて、そいつから逃げるために降りたら、ここだったんだ」
しどろもどろの、整合性もない説明だった。が、福来は一部が気になったようだった。
「訳のわからないやつ?」
「年寄りだった。それで」
説明の途中でぱらりと、上から土塊が落ちてきた。
はっとした福来が、フーと呼んだ異国の女性に顔を向ける。その直後、あの騎士が三人の上から勢いよく落ちてきた。
今度は追内も自力で避けた。つもりだったが、少女と彼の頭上には光の紐で編み込まれたネットが貼られ、騎士の攻撃が阻められている。
「マスター! ご無事ですか」
異国の女性――フーはぎりぎりと手に持つ棒を構え、騎士を睨みつけながらも福来の無事を確認する。
「大丈夫! あとごめん、この人ヴァポレの応援じゃなかったわ」
「では敵ですか?」
女性の問いかけに、福来は一瞬追内を見て、再度フーへ向け直す。
「たぶん違う。巻き込まれただけの一般人よ」
キリッとした眼差しで言い返す少女に、何か言いたいことがあるような顔をフーはした。が、目の前にいる敵のせいで余裕がないのだろう。
ぶちぶちぶちと騎士によって光のネットが切られていく。
「マスター! ご指示を」
フーの呼びかけに福来がスマホを構える。
少女がスマホ画面の何かを押したところ、フー��周囲の霧が蠢き出した。
霧は女性の周囲を取り囲み、狼の形の装甲となった。
より巨大になったフーの鞭が唸る。先程までとは比べ物にならない威力と速さで、騎士の胴体を叩きつけた。
次いでフーはその場から飛び出し、騎士へと追撃を放とうとする。だが、見切ったと言わんばかりに、騎士もまた素早く回避した。
第二撃、第三撃は掠るばかりで、最初の攻撃ほどはダメージが与えられていないようだ。
「スキルを使ったけど、やっぱり決め手にはならない。薔薇騎士相手じゃ、フーの攻撃力だと僅かなダメージしか入らない」
福来のスマホ画面に表示されていたのは、フーのステータスと、敵対する騎士の推測ステータス。
彼女には相当な焦りがあるのだろう。冷や汗が流れ、顔色が悪い。
ブツブツと独り言をこぼし、必死になって考えているのが見てとれた。
「このままじゃ、らちがあかない」
そして福来は覚悟を決めたように、大声を出した。
「一か八かだけど、通行証を割るわ!」
その宣言の意味は、追内には分からない。だが、フーには通じたようだった。
「しかし、それではマスターの御身が!」
騎士を相手にするには、明らかな隙であった。それだけ動揺したのか、フーは騎士が繰り出す剣を避け損ね、脇腹にあった装甲を破壊される。
「ぎりぎりで耐えられるかもしれないでしょ。魔霧への耐性はある方よ。異形化しないかもしれない」
もう隙を作るにはこれしかないの、と悲壮感まで背負った少女の様子に、追内はようやく口を挟んだ。
「異形化って、もしかして、あんな風になっちまうってことか?」
追内が指さした先にいたのは薔薇騎士。明らかに胸元が薔薇に寄生された異形だった。
「なるかもしれないし、ならないかもしれない。賭けよ」
「待ってくれ、何か。何か他に手はないのか?」
追内の中で五年前の出来事がフラッシュバックする。
あれとは状況が違うが、目の前で人が死ぬかもしれないこの状態が、すでに彼は恐怖でしかなかった。
追内の過去など知らない福来は、簡単に言い返す。
「あなたが助かるなら、それもいいわ。あなたも、ここに来られるからには召喚の資質があるのだろうけど、今戦力を持ってるのはあたしだけなの」
だから、と続く少女の言葉を追内は無理矢理遮った。
「素質があるなら、俺がキャラクターを召喚する。ちょっと時間がかかるかもしれないけど」
「でも、この場を変えられるキャラが出るとは限らないでしょ」
微かな希望を打ち砕くような福来の指摘に、追内はグッと息を詰まらせる。だが、戦闘の合間を縫ってフーが彼を後押しした。
「ですが、一度はやってみる価値があります。僅かとは言え、可能性を試してみるべきです」
「……わかった」
渋々と頷いた福来に、追内はパッと笑みを浮かべる。そして彼はスマホを取りだした。
「じゃあ、召喚方法教えてくれない?」
追内の質問に、福来は呆れた表情を浮かべるも親切に説明する。
「ゲームを起動して、オープニングが終われば最初の召喚画面よ。どうせ、あなたもここに来られたなら自動で召喚できるわ」
追内のスマホにはいつ��間にダウンロードとアップデートが完了したのかわからないゲーム「魔霧の城」のアイコンが��座している。
タップし、ゲームを起動した。
スマホの画面に文字が浮かび上がる。
そしてマイクが起動したのが分かった。
恐る恐る追内は画面に記された文章を読み上げる。
「集え魔霧に屠られし英雄 集え魔霧を憎みし英雄
理不尽に対抗せよ 女王に叛逆せよ 英雄のなり損ないたち」
その言葉に応じて、ゆっくりと霧が渦巻き、扉の形となっていく。
扉の出現に騎士は動きを止め、剣を構えより警戒を顕にした。あまりにも隙がなさすぎて、フーもまた動きを止めざるを得ない。
徐々に扉は実物となり、やがてゆっくりと開いていく。
扉の向こうに誰かが立っていたが、その奥行きは全く分からない。
暗闇だけが広がる場所で、誰かが一歩その足を動かした。
カツンと床が鳴る。
誰かがその音を聞いた直後に、リズミカルに、楽しそうに駆け出す。
そして足音とは違う、何かを床に叩くような音も同時にした。
「その名を告げよ」
最後の一文を読み上げた追内は、扉から現れた男をまじまじと見た。
そこに立っていたのは、追内よりも若かった。
日に焼けていない真っ白な肌。薄い唇、整った顔立ち。黒髪は長く後ろに結いでいて、顔に納められた切れ目の紫色はキラキラと輝いている。
複雑な細工がなされた杖と、一目で高級品だとわかる織物で作られた衣服。
立ち振る舞いは、年齢にそぐわないほどに堂々としており、いつだったかプレイしたゲームでみたような、高慢な貴族に見えた。
男は周囲と自分の体を眺め、その次に追内を認識する。
「なるほど、お前が私の主か。なんとも間抜けな顔だ」
男は堂々と追内を貶す。
あまりにも滑らかに侮辱されたために、一瞬追内は何を言われたのか分からなかった。
言い返す間もなく、今度は福来と、フーを男は認識する。特にフーをまじまじと、不躾に見た後に、彼は鼻先で彼女を笑った。
「銀狼の一族か。その装備と見目、王都派遣されたツェツェリの血族だな」
「……なぜ我が血族の装備を知っている」
人を見下す男の態度に不快感と不信感を隠さないフー。だが、その感情すらどうでもよさそうな雰囲気で、男は理由を述べた。
「北の辺境まで詳細な噂は届いていたさ。面倒かつ意味のない政争に巻き込まれたと思ったがね」
その説明に、フーは目を見開く。
「北の辺境……その紫の目となると、まさか貴殿は⁉︎」
男の正体に気づいたフーは、真実を受け入れきれなかったのか。自らを落ち着かせるように、喉元を摩った。
そして、遂に薔薇騎士に気づいた男は、ニンマリと笑う。
うずうずと身体を揺らし、浮き足立ったように一歩一歩と距離を詰めた。
「久しいな、薔薇騎士! ああ、本当に久しぶりだ。こんな、こんな地獄のような魔霧に満ちた場所で出会えるなど、神に感謝してやってもいい!」
傲慢な口調で、興奮を隠さないほどに早口に告げる。
だが、騎士は手に持つ剣を男へ向けた。
それが気に入らなかったのか。男は先程までの笑みをすぐさま消し、今度は無表情で杖を床に何度も叩きつける。
「なぜ剣を私に向ける? ああ、私のことを覚えていないのか。そんな鳥頭に誰がした」
スッと彼の紫の目が細められ、騎士の胸元に寄生している薔薇に向けられた。
「なるほど、理性をなくす狂火の文様か。なんとまぁ、無粋な魔術を受けているんだか……女王陛下の薔薇騎士が聞いて呆れる」
これではただの犬ではないか、とうんざりとした口調で男は告げた。その瞬間、侮蔑を感じ取った騎士が攻撃を仕掛ける。
パチンと男は指を鳴らした。
その直後に彼の背後の霧から、いくつもの長銃が列を成して現れる。
「放て!」
男の号令に合わせていくつもの銃弾の雨が降り注いだ。
騎士の立っていた場所の床が細かく砕けていく。
霧だけではない土煙が周囲を覆う。
ばちばちばちと響く振動と衝撃に、フーだけではなく、離れた場所にいたはずの福来や追内ですら耳を塞いだ。
前列が放ち終わり、一糸乱れぬ動きで、次の小銃から弾丸が放たれる。
一度、二度、三度、四度……と繰り返すこと十回の破裂音が響いたところで、男は手を挙げた。
土煙が晴れた後でも、騎士は立っていた。だが、胸元にあった赤薔薇の花弁は砕け散り、その胸部は露出している。
そこには黒と赤の薔薇を模した紋様が記されていた。
「狂火の文様は、女王陛下に賜ったものか。くだらん執着を捨てればよかったものを」
男の変わらない温度に、騎士は怒りを顕にする。
――AAAAAAAAAAAAAAA
雄叫びとともに騎士が剣を構え、振るう。
先程までフーが相手にしていた速さとは桁違いになっている。
それを男は杖を一度ついて地面から鎖を生やし、呆気なく止めた。
「この駄犬め。かつての主に二度も剣を向けるとは、躾がなってないな」
傲慢とも言え���うな言葉遣いではあったが、男は圧倒的な力を持ってしてこの場に立っていた。
先程までの絶体絶命のピンチから大逆転していることに、福来は信じられないようなものを見ている。
対し追内は、自身のスマホ画面に出ている召喚したキャラクターのステータス画面を凝視していた。そこに記されていたのは、補助系スキルの説明。つまり、これだけの攻撃力を持ちながらも、この男の本領発揮は全く別の部分なのだ。
ごくりと追内は唾を飲み込む。
震える指で、スマホ画面に映し出されるスキル使用のボタンをタップした。
パキンと何かが割れた。
いや、違う。追内の背後で、霧からさまざまな金属の板が生み出され、複雑に重なり合い、奇妙な形の鎧となっていったのだ。
「――ヒッ」
追内の側にいた福来が怯えとともに後ずさる。フーが騎士から離れ、追内と少女の間に立った。
「おや、それを使うのか」
騎士を固定したまま、男は追内を見つめる。男の表情に浮かぶ感情は喜色へと変化しており、再び機嫌が直ったようだった。
「なるほど、思っていた以上��魔霧への耐性が高いようだな。これは幸運だ、ありがたい」
パチンと金属の留め具が嵌められた音がした。
スマホを持ったまま、追内が自分の足元を見ると、金属の拘束具が足に取り付けられていた。
それを認識したが故に「あ?」と間抜けな声が追内の口から出る。
「大丈夫だ、主。これは散々、目の前にいるあの薔薇騎士で試したものだから、改良はしっかりしているさ。さぁ次は腕、そして顔だ」
続く台詞に、握られていたスマホを男に取られ、拘束具が足につけられる。
続けて、口元にも何かが取り付けられた。
ガチガチに拘束されて、身動きができないままに視線が上がる。
奇妙な器具が取り付けられた追内の姿は、一見すると蜘蛛と蟷螂が足されたキメラのようなものだった。
腰から下は八本の金属の足が取り付けられており、重心を取るためか本来の彼の足が固定されて腹の位置にある。
上半身は前屈みになっており、両手は巨大な鎌が取り付けられていた。
そして顔につけられたのはペストマスクのような何か。
ガラスのレンズがきらりと光り、その奥で本来の黒からエメラルドグリーンに染まってしまった追内の目が、覗いている。
蜘蛛のような足のうち一本が動いた。
関節部から蒸気のように霧が溢れ出る。
追内が呼吸をするたびに、ペストマスクの嘴のような場所から白い煙が上っていた。
「思うがままに暴れてみるんだ、主。何も考えず、屠ればいい。魔霧の意思のままに、聞こえるままに」
男の行けという言葉に従うかのように――マスターであるはずの追内を下僕のように操り、鎖で固定されていた女王の薔薇騎士へとけし掛ける。
その直後に騎士を拘束していた鎖は解かれ、薔薇騎士の抱いた剣が真横に振られた。
鼓膜を切り裂くような、不快な金属音がギギギと響く。
フーと福来は、耳を塞いだ。
だが、男は不快な表情すら浮かべずに、二体の戦いを眺める。
薔薇騎士の剣が、追内の鎌とぶつかりあった。
だが二本足である薔薇騎士は、八本の金属の足を持つ追内に比べればそのバランスが崩れやすい。
戦闘慣れしているからこそ、力比べには持ち込まなかった。
騎士は早々にその態勢を整えるために後退する。
それを許そうとはせずに、力一杯、追内はつけられた足で地面を踏みしめた。
石畳が砕け、破片が周囲に飛び散る。
その圧は風となって霧を動かした。が、それでも薔薇騎士のマントの一部が地面に縫い留められるだけに終わる。
対し薔薇騎士はこれまでの力任せの動きではなく、明確に一対一の、暴れるだけの戦闘から流れるような美しい剣技へと動きを変える。
結果、あっさりと騎士はマントを切り裂いて脱出した。
まだ余力があるのかと、内心で追内は舌打ちをする。もちろんその動きに素人の彼が追いつけるわけもない。
足と腕を使っての防御一辺倒へと追い込まれる。
騎士の剣は奇妙な鎧を貫くことはできなかったが、それでも手足の痺れを追内にもたらした。
踏み込まれ、鎧の隙間から胸を貫かれそうになる追内。
その動きを待っていた���のように、地面から生えた鎖が両者を固定した。
追内も薔薇騎士も、突然の出来事に驚きが隠せない。
戦闘を眺めることしかできなかった福来とフーもまた、呆然としたまま棒立ちしている。
「ご苦労、主」
その中で、パチパチパチとやる気のない、ゆっくりとした拍手をしながらも、男は追内と騎士の側にやってきた。
「この駄犬の攻守は優れてすぎていた。私でさえ、先程の拘束でも近づけば切られただろう」
カツカツと靴底で鳴らし、両者の間に立つ男。言動からするとどうも、この状況を狙っていたらしい。
離している間に彼の手に握る杖が光り輝く。
「さて、その狂火の文様を失えば、少しは話が分かる犬になるだろう。さっさと目を覚ませ、ニール・ホルスター」
ガンッと力一杯、杖が女王の薔薇騎士――ニール・ホルスターと呼ばれた異形の胸元にぶつけられる。
バチバチと男の持つ杖と、文様の間に火花が散った。
――AAAAAAAAAAAAAAA
騎士が叫ぶ。だが男は手加減することなく、火花を散らし続ける。やがて鎧に描かれていた黒と赤の薔薇の紋様が消え去った。
――AAAAAあああああああああああぁぁ。
徐々に悲鳴の声が化け物じみた、人間とは到底思えないものから、確かに人間の声帯から発せられたものに変化していく。
――ああああぁぁぁぁ……あいつら、あいつらは許さない、許せない。
そして叫びはやがて言葉となり、意味を込められ、最終的に呪詛となる。
「許してやるものか、魔術師ども!」
頭を振った騎士、その鎧の頭部が砕ける。
そこから現れたのは淡い金髪をポニーテールにした、青白い肌の男だった。だが、その顔の至る所に薔薇の根が蔓延り、葉と蕾が這っている。
死人のように白い肌とは対照的にエメラルドグリーンの目だけが、爛々と生気を主張していた。
「なぜだ、なぜ貴様が魔術師どもの味方をする!」
騎士の理性がようやく男の存在を認識した。
すぐ側ににいる追内へは目を向けず、彼らを拘束し続ける謎の男に向かって呪詛を吐く。
「女王陛下への忠義はどうした、魔霧の辺境伯!」
ようやく男の正体が分かった。
しかし魔霧の辺境伯と呼ばれた男は、ニンマリと笑いながら躊躇なくその手に収めた杖でニールの顔を殴る。
あまりの勢いに、目の前で見ていた追内はビクリと震える。
「おやおや、久しぶりに会ったというのに随分な態度だ。偉くなったものだな、ニール」
殴られて呆然とした騎士は、未だ現状が飲み込めていない。
遠くにいる女性二人も同様だ。
だが、近くで全てを見ていた追内だけは、形だけでも口元を歪めていた男の目が、少しも笑っていなかったことに気づいたのだった。
なおも男――魔霧の辺境伯は、薔薇の騎士――ニールの顔を殴り続ける。
「女王陛下を守る近衛騎士ともあろう者が、異形化とは笑えない。お前を推薦した私の立場もない。実に愚かだ」
「わ、私は」
殴られ続けながらも、うわ言のように何かを言おうとしたニール。だが、魔霧の辺境伯は聞こうとはしない。
「言い訳などいらない。そんなものは何の意味もない」
さらに殴り続ける男に、追内は躊躇いながらも「お、おい」と声を掛ける。
「何かね……この駄犬への躾を止めるほどの価値がある内容か?」
「その辺で終われよ。そんなに殴ってたら、死んじまう」
「死ぬ? 構わんだろう。これは女王陛下を守れなかった愚か者だ」
あっさりと言い放った内容に、追内は食ってかかる。
「あんた、人の命をなんだと思ってんだ!」
未だニールと同じく鎖で押さえつけられたままだが、それでも追内は持てる力で動き出そうと試みた。
ギリギリと拘束していた鎖が引っ張られ、歪み始める。
その様子を見た魔霧の辺境伯は、やれやれと肩を竦め、ぱちんと指を鳴らした。途端に、追内が身につけていた奇妙な鎧が霧となって消える。ついでに彼を拘束していた鎖もまた消え失せた。
おわっと叫びながら、再び床に倒れた追内の上に、男はスマホを投げつけた。
「勘違いするな、主。これはもう人ではない。異形になっても理性を保てたのは賞賛するが、それが仇となったのだろう。憐れんだ女王陛下は、苦しまないようにこれに狂火の文様を授けた」
慈悲を掛けるのなら殺すべきだったがな、と続く魔霧の辺境伯の言葉。彼の視線の先には、未だ呆然としていたニールがいる。
「じゃあ、なんで文様を消したんだ! 生かすつもりがないのなら、わざわざ消すことはなかったじゃないか」
起き上がった追内の噛み付きに、男は目を少しだけ泳がした。
しかしガチリと奥歯が鳴らされると、短くはっきりとした言い方で返す。
「自覚だ、罪の自覚」
先程までのどこか飄々とした物言いではない。喜怒どころではない激情を内に秘めながらも、必死にそれを隠した声色。
「王都を守れなかった、女王陛下を守れなかった、馬鹿な男に罪を自覚させるためだ!」
魔霧の辺境伯は、持っていた杖をさらに強く握り込んだ。そして高く腕を持ち上げる。
未だ鎖で拘束されたままのニールは、ゆっくりと辺境伯へとその視線を向け直した。
追内は再び男が手をあげようとしたのを止めようと動き出す。
その直後、美しい歌唱が駅のホームに響いた。
歌が聴こえた瞬間に、魔霧の辺境伯の動きが止まり、ニールの目に光が戻ったのを追内は見ていた。
「……へいか……陛下、女王陛下!」
徐々に力強く言葉を発するニールは、力強く拘束している鎖を引きずり壊す。
魔霧の辺境伯もまた、ニールの変化に気づいたのか。追内を連れて福来たちの元に撤退する。
「な、なに? 何が起きているの?」
混乱する福良に、フーが緊張した面持ちで告げた。
「これは魔霧の女王の歌でしょう。あの方が薔薇騎士を呼んでいるのです」
「ラスボス登場ってこと?」
「……登場だけで終わってくれれば良いのですが」
ちらりとフーは魔霧の辺境伯に視線を向ける。
男はその紫の目をニールに向けたままだ。過度な緊張もしていなければ、呼吸が荒くもなっていない。
彼は先程まで見えた激情を綺麗に隠し、胡乱な雰囲気を纏ったまま、自らが生み出した鎖が薔薇騎士に粉々にされていくのを眺めていた。
「陛下、今戻ります。ああ、悲しまないでください。苦しまないでください。いつだって、あなたの騎士は側におります」
うっとりとしたニールは、自由になった両手両足を広げる���青白い肌が少しだけ色づいたようにも見えた。
「あなたの敵を、あなたの憂いを、あなたの悲しみをきっと無くしてみせます。ですが、ああ、ですが、今だけはあれらを置いて、あなたの側に戻りましょう」
自らを抱きしめる薔薇騎士の姿が変わっていく。
「――ッ」
「――ヒ」
福来と、それまで黙っていた追内は、その変化に息を呑む。
騎士ニールの足から、薔薇の蔦が絡まり蜘蛛の足のように生えた。
それは先程まで追内は身につけた金属の足と似たような形だった。が、追内のが取り付けられたものだったの対し、騎士の足元から寄生した薔薇が生えてくる光景は、グロテスクとしか言いようがない。
そのまま薔薇騎士は四人を振り返ることなく、跳躍する。
まさに蜘蛛と同じ動きだった。軽やかに、けれど簡単に土へ足をめり込ませながら、天井や壁を伝いどこかへ消える。
薔薇騎士の姿が消えると、歌唱が遠のいていく。
細く、美しい旋律を奏でた女性の声も聴こえなくなった頃、ようやく福来は終わったのだと思えた。
「マスター!」
安堵のあまり、足から力が抜けたのか。しゃがみこんだ福来に焦ったフーが、彼女を抱え込んだ。
「大丈夫か? どこか怪我したとかないか?」
追内も心配して、彼女の体をざっとではあるが観察する。見ている限りでは、擦り傷はあっても大きな怪我はなさそうだった。
「……大丈夫。あと、ありがと」
「何が?」
「一発逆転のキャラ召喚。ファインプレーだったわ」
「……ああ」
そのことか、と追内は内心で思った。彼自身は、偶然でしかなく大した活躍とは思っていなかったのだが、福来は違ったらしい。
「単体で薔薇騎士に対抗できるとか、壊れ性能すぎるわよ。しかも召喚主への強化もできるなんて……でも、これで薔薇騎士攻略が楽になるわ」
やったわね、と笑いながら告げる福来。だが、彼女のキャラであるフーは浮かない顔をする。
「マスター、油断しないでください」
「フー」
「確かに彼の戦力は魅力的です。ですが、あの魔霧の辺境伯という人物は魔霧研究の第一人者。翡翠の魔術師と並ぶ、いえ、あの魔術師よりも遥かに危険な研究者です」
「翡翠の魔術師って、鷹崎さんのことよね? あの人確か、王国の中でも魔霧研究の専門家だったって」
つらつらと紡がれる女性二人の会話。
その内容についていけない追内は、自らが召喚したキャラを改めて見た。
魔霧の辺境伯と呼ばれた男は、三人の様子を気にするそぶりもなく、あの騎士が消えていった方向を眺めている。
何か声をかけようと思った追内だが、どう声をかけていいのかも分からない。
いや、そもそも彼の名前さえ知らないことに今更気づいた。召喚のときにも、スキル使用のときですら、スマホの画面に彼の名前は書かれていなかった気がする。
「あー、えっと、その」
適当すぎる呼びかけをしながらも、追内は男の背後に近寄った。すると彼は振り向いて、主と呼ぶ。
「私に何の用だ?」
「その、あんたの名前って」
ああ、と納得したような声が男から発せられた。
男は身なりを軽く整えると、カツンと杖を床につける。改めて、その名前を告げようとしたのだが、ピクリと男の眉が顰められた。
ホーム内で電車到着のメロディが鳴り響く。
線路をガタガタと鳴らし、風で霧を吹き飛ばしながらも、四人の前に電車が到着した。
ドアから複数人が武装して出てくる。だが、その最前線にいたのは、非武装の若い男だった。彼だけは木製の、宝石のような装飾をつけた杖を手にしている。
武装した面々は福来とフーへと歩みを進め、若い男は丸メガネの位置をかちゃりと直しながらも、追内たちの方へ近づく。
だが若い男は追内を通り過ぎ、魔霧の辺境伯と呼ばれた人物と相対する。
髪の根本は白髪で、毛先は黒い。若いと評したが、もしかしたら歳はもっと上なのかもしれない。だが、肌艶の良さは若者のそれだった。
「……召喚されたのは貴公でしたか」
丁寧な言葉使いではあるが、冷え冷えとした雰囲気をもっていた。その態度を当然と受け止めた魔霧の辺境伯は、せせら笑って挨拶をした。
「久しいな、翡翠の魔術師」
辺境伯は片手を顎に置き、わざとらしく若い男を上から下まで眺める。
上下ともにモノトーン調のシャツとズボン。羽織っている春物コートの前は開けられており、全体的にゆったりとした服装なのが見て取れる。
辺境伯は現代服の男へ、嫌味を隠さずに問いかけた。
「ところで、そのふざけた姿はなんだ?」
若い男は手に持つ杖を魔霧の辺境伯に向けて、言い返した。
「これが、この世界の服装なのですよ、デューリュ・ソン・ハルバッハ卿」
辺境伯と魔術師の両者ともに、一触即発の空気を醸し出す。
その様子に、名前が分かったのはいいが、また面倒な事態になったのだと追内は悟った。
0 notes
Text
--深海人形-- Q.お前がカミーユになるんだよ! A.嫌だよ!
※クロスオーバーネタ注意
※全体的に閲覧注意
※雑多にネタをぶち込み
※キャラ崩壊注意
※女の名前で悪かったな!(※ロマサガ3最強体術 タイガーブレイク)。
クワトロ「最近な、私はニュータイプの超感応を封じるには、精神汚染が一番有効では?…との考えに至ったのだ。」
カミーユ「そうですか。じゃ、大尉が実際精神汚染されて実例見せて下さいよ。」
クワトロ(…此のガキィ……。)
…後日。
シロッコ「…私だけ(ry 、一緒に連(ry 」
※「…お前も一緒に連れて行くゥ!!」で主人公を精神汚染して来た系ラスボス(※自分で自分を精神汚染しちゃってニュータイプとしても役立たずにならねぇかな此奴)。
…。
…ニュータイプに匹敵するオールドタイプの実力者のヤザンとガトーは、面白い程まるで気質が正反対なので、「…よくぞ、此処迄、対照的に作ったな……(感嘆)。」…としか言い様が無い(※戦いへの動機が軽い奴と重い奴、思想が弱い奴と強い奴)。
…。
一部の界隈でソロモンの悪夢がニュータイプと一度も交戦して無いのにも関わらず『ニュータイプに対抗出来る特記戦力オールドタイプ(※…本当にニュータイプと戦って勝ったオールドタイプと同格)』扱いされて居るのは、作中で、試作三号機に乗って居た時のコウは、明らかに擬似ニュータイプか強化人間と化して居たので、其処のシーンが論拠になって居ると思う(※本当にワイでは珍しい真面目な考察)。
…。
※最近のガソダムネタに付いて行けない読者へ。読んでね⭐︎
※明らかに簡単でも分かり易くも無い説明
宇宙世紀は、基本的に激烈な男尊女卑の男社会(然し、実際、現実の宇宙開発分野は、極端に女性が少ない男社会になって居るので、其の延長線上でしか無かったりする)である上、地球至上主義(但し、宇宙戦国時代以降は立場が逆転する)で、特権階級である生粋のアースノイドが、宇宙移民(スペースノイド 宇宙棄民とも)を重税やら産業やらで支配し搾取して居る構図が成り立っています。
…だからこそ、後者を理由に、サイド3のジオン公国は、コロニー落としで地球を虐め、��邦に楯突いて一年戦争をはじめ、其の後、公国が解体されて共和国になった後も、名も無き有象無象のスペースノイド(連邦視点)達、アクシズ、ネオ ジオン、袖付き、デラーズフリート等の、「…一体、何処から、湧いて出て来たんだテメェ等!?(※率直な感想)。」…としか言い様の無い出現の仕方(※作劇とプラモデル販促の都合上やけにポッと出が多い)をするジオン残党が、アースノイド、引き続き、連邦を憎んで、軍事力によるスペースノイドの独立を目指して、テロリズム、反乱を行ったり、其奴等を取り締まる為の軍事組織、ティターンズみたいなエリート()集団が結成されたり、…更に、男尊女卑観点で言うと、紫BBA(キシ姉)が矢鱈他の父と兄弟達に負けない様に頑張ってたり(※ニュータイプ研究へ熱心に出資したり、キマイラ隊、ノイジーフェアリー隊を自らの配下として結成し運用してる。…物の見方を変えれば、長男と末っ子の坊やが軍事面で出来ない、手を回せ無い分、頭が良くない兄弟の頭が回らないのを補完する分を、率先的に請け負って居るとも考える事が出来る)、Zガンダムでレコア辺りが全力で女の惨めさだのと主張し出したり、シロッコの様な不審者が女性解放を謳ったり、もっと、後世になると、マリア主義を謳うザンスカール帝国みたいな何かアレな人達(※言語化難しい)が台頭して来たりする。
…まぁ、未だ、度重なるコロニー落としやらで人類の九割が死滅して皆ドン底のアフター コロニー、そして、我等がコズミック・イラよりかは遥かにマシ。
…と言うか、コズミック・イラは、第一目標が『相手方の絶滅(共存等絶対しない!出来ない!無理!彼奴等は俺達と同じ人間である筈が無い!!)』とか言う双方が絶滅戦争を極めて居る状況ですので……()。
※結論:ガンダムは アニメじゃないけど アニメ見ろ(※外伝含めて本編見ろ)。
…其れでもついていけなくなったり、辛くなったり、何が何だか分からなくなった時は、最悪、機械類だけを、MS、MAだけを見ていましょう(※此れはW、SEED、鉄血、水星等の、アナザー方面のでも同じと言える)。
…。
某弓術素人に負けるks雑魚弓兵話読んで、「…シロッコって中国語分かるの?(※宇宙世紀ってC.Eと違って英語しか使われて無いよね?)」…って思った方へ。シロッコは分からないけど、RXQ-03は分かります。其う言う調整を受けて居るから(※他のEffigy、RXQも調整受ければ、アストラギウス銀河の公用語だろうが、グラドスの言語だろうが、ペンタゴナ星系の公用語だろうが、ククト語だろうが分かる様になる。通訳としても運用出来ますね⭐︎)。
…。
宇宙世紀同じ穴の狢選手権〜罵り合い宇宙
※クロスオーバー?注意
※キャラ崩壊注意
※会議形式
※敢えて名前を出さず寸劇進行
※美形会議のパロディあり
「おい、シロッコが最終話でやった事覚えてるか?彼奴ジオン絡みの痴話喧嘩に入って行った最中にティターンズ艦隊ソーラレイで焼き払われてたぞ?!」
「お、おい……辞めろヤザン。」
「…つか、閣下は、全然、前線に出て無いよな?…自分で参戦せず、遠くから見てるだけ。ティターンズ乗っ取った後に、後ろで見てるだけのリーダーに終始しなかったシロッコを見習ったら如何だ?」
「ヤザン!許さぬ!!連邦兵士の分際で閣下を閣下呼ばわり等と!!」
(コーヒー吹く)
「…かっ、…閣下……!!…ぬぬ!やはりティターンズ!!貴様等は悪辣外道!!」
「うっうっ、コーヒーが喉に詰まった、…だが、お前の言うシロッコが、本当に実戦闘にも参加する(※注:…詳しくは分かりませんが、白兵戦徽章は前線のみならず、後方、輸送路勤務でも取れるようです。モデルとなった独逸軍の白兵戦章が其うでした)儂の様では無い(自虐)リーダーであるのならば、あんな痴話喧嘩の見物人などしておらんだろう……。」
「かはっ!!!!!!!!」
「うわー!!シロッコが血を吐いたーー!!ならんかったんだ!前線に出たのは部下に示しが付かないから、…と建前では言いながら、本音では、元から前線に立って戦う気なんて全然無かっただなんて!」
「かはぁ!!!!!!!!!」
「身内が追い討ちをかけて居るな。」
「ティターンズは阿保の集まりと言う事か。」
「そうか……。では、此の問題に答えてみるが良い(急にタブレットから画像出す)。」
**問題:** 関数 \( f(x) = e^{x^2} \) の次の項目を求めなさい。
\( f(x) \) の導関数 \( f'(x) \)
(※注:Chat gptに作らせました。問題に不備があるなら、其れの所為です。責めるならChat gptを責めて下さい)
「…答えは、\[ f'(x) = \frac{d}{dx} e^{x^2} = 2x e^{x^2} \]…だな。」
「 「!?!???!?!?!???」」
「流石だな、ヤザン。…さて、こんな問題も分からないのか?アナベルとやら。」
「…かっ、閣下ァ!!!!(助けて下さいの意)。」
「…うむっ……………何じゃこりゃぁ?!」
「…閣下ァ!この様な問題を解くのは、私には、到底、無理です!」
「フハハハハハッ!どうやらティターンズの方がお前達残党より賢かった様だな!」
「…ぬぬぬぬっ!やはりティターンズは悪辣外道!」
※…何��れ???????(※部外者の声)。
…。
ワイと縁のあるおもちゃ達
アスラン・ズラ ほぼ公式公認かがりん大好きかがりん大好きすぎて何て破廉恥な!妄想を普通にする殿堂入りおもちゃ。トゥー!ヘァー(界隈共通の挨拶)!ザラじゃない!ズラだ!
ヤザン ZZで公式におもちゃにされた
ガトー ワイはアナベル・コケコッコーだと思ってる(鶏)。…で、あんな様でも(寧ろだからか?)異様に人気がある所為か、シロッコとは又違う変な弄られ方、コラ、ネタが多い。核条約破る会代表だの、素で頭がちょっと(可也?)弱い子の為、アナベル・ダチョー、ガトー俺恥ずかしいよ、生きてるだけで生き恥の男だのと弄られる。更に公式方面では、登場機の機動力がガタ落ちするだろうに武装マシマシで出撃したり、遺志を継ぐ偽物が出て来たり、スパロボ発のネタもある。…尚、アスラン、シロッコ等とは違い、こうしておもちゃにしてると(丁度0083作中のデラーズフリートの如く)必死に猛抗議して来る狂信的な層が居るとの事。
シロッコ 公式でも二次創作でも笑かしに来る木星帰り(この時点で木星帰りと言う称号と同じ称号を持つシャリア・ブルさんに失礼)。ガンダム総選挙によれば、75位であり50位であるヤザンよりも低い(※因みに坊やは74位でガトーは8位)。言う程、人気無い(確信)。更には、ヴァルキリプスでは何もせず、ロクに出番すら無かった(※…と言うか、早よ地獄に(ry )。
カミーユ 女みたいな名前しているだけで弄られ(&此奴による反撃)確定と言う大変かわいそうな美男子。まぁ、性格も所業もエキセントリックだから仕方無いんですけどね。ミリ知らさん。
コウ 中の人が野菜王子と同じ、モンチッチとか言うサイコパス上官に虐められる虐められっ子、アンバランスピーキーな実力と意外にあたおかな性格、作中で度々見せる顔芸、紫豚の被害者、お注射等マジでネタに事欠かない漢(でも、見た目は、野菜王子以上に合法ショタ)。
水神七瀬 最近はおもちゃにして無いけど、一応掲載。この娘は公式の時点で中々性能面でも性格面でもやべー奴なのだが、何だかんだ言って公式はその特徴を活かし切れてる気がする。そんな気がする。…ワイは活かし切れて無いけど……(※遠い目)。尚、拙作では館主様()と主頭様()の尊厳を破壊するのが主任務(※他との絡みはあんまり無い)。
ブレア御嬢様 最早R-18要素しか取り柄の無い女。それ故、まとも��(?)露出度が愚かしい迄に低い服装となった新作で、人気と支持が大きく失墜した。総合的な実力的には割と弱い方なのだが、それ故に、拙作では、上位ランクを狩って相手に恥をかかせる為に持ち出される事が多い。まるで(ジオン残党やらマフティーと言うより水星に出て来る)テロリストみたいだが。
格ゲー、CAVEシュー、アイレムシュー(特にR-TYPEシリーズ)、サガシリーズ よく此処からネタ取って来る。
ウェイン兄弟 おもちゃではありません。私の兄弟です(でも虐めるし遊ぶ)。
…。
※以下SMネタ注意
…ふーけつと館主様(※出来ればそーけつも)が、もっと、色々な、人間家具か花瓶にされる話描こうかな(※如何転んでも、塾女さんへの嫌がらせ呼ばわりされる奴)。
…。
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源川瑠々子の『星空の歌』 2024/05/16 20時配信
ゲスト◇香の伝道師・劇作家 稲坂良比呂さん ~後編~
源氏物語を通じて、紫式部の心の世界を考察します。
<再生はこちら▶️ YouTubeポッドキャスト>
【公演情報】
ひとり文芸ミュージカル「紫式部−雲隠れ−」 日時:2024年5月29日(水) 開演 13時30分 会場:観世能楽堂(東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 地下3階) 出演:紫仙女 源川瑠々子、 紅仙女 敷丸 特別出演:藤原為時役 山階彌右衛門氏 解説 観世能楽堂公演:稲坂良比呂、倉持長子 いまだて芸術館公演:三田村悦子(紫ゆかりの館館長) 2024年3月1日より公演チケット発売中♪
<ひとり文芸ミュージカル「紫式部-雲隠れ-」 2024年公演情報> 2024年06月07日(金)越前市いまだて芸術館 2024年06月08日(土)大津市伝統芸能会館能楽ホール 2024年06月09日(日)豊田市能楽堂 2024年09月14日(土)福井市ハピリンホール能舞台 2024年09月15日(日)福井市ハピリンホール能舞台 2024年11月09日(土)名古屋能楽堂 ・ひとり文芸ミュージカル「紫式部-雲隠れ-」 公式サイト
【今夜の歌】
『光の君』(舞台『紫式部ー雲隠れー』より) 作詞:スミダガワミドリ 作曲:神尾憲一 歌:源川瑠々子
<源川瑠々子の『星空の歌』> 音楽、舞台、写真などの芸術をはじめ、さまざまな分野で活躍する方々をお迎えし、魅力的なお話をお聞きします。夜空の星のようにきらきらと輝くゲストのお話で、リスナーのみなさんへパワーをお届けできたら……、こんなに嬉しいことはありません。
過去放送一覧はこちら
源川瑠々子 公式サイト
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RPGのジョブ風芸術家の理想像7種(仮)
7種:貴族 聖人 隠者 道化 芸人 職人 市民
以下それぞれのジョブの説明。
・貴族(ルールメーカー) 例:岡本かの子 蓮實重彦 後鳥羽上皇 マルセル・デュシャン 貴族とは、批評家の最も高度な形態である。もしかすると藝術家の最も高度な形態かもしれない。批評家は批評文によって物事の価値の是が非かを決定するが、貴族は卑しい批評家とは異なり、価値付けのために組織化された文章でなく、彼の振る舞いそれ自体によって物事の価値を決定する(文章上の仕草、話しぶりにおいても同様である)。このことは芸術作品が目指すところのものそのものではないか?と考える向きが現代の風潮となっている。しかしこの理想像を目指すには、多分に生まれ持った能力と階級が重要になる。人々の振る舞いの模範となるには、『失われた時』に登場するシャルリュス男爵やゲルマント公爵夫人のような、高貴さと洗練された趣味が必要になるからである。とはいえ、後者はあればいい程度のものにすぎないかもしれない。 貴族であろうとすることは、自分を社会に押し付けようとすることである。努力の仕方を間違えたり、才能の質を見誤ると、その権力への欲求が妄想の病の形を取りかねない危険がある。 現代アーティストの大半はこの類型を目指している。しかし、自然の法則からして、ルールメーカーは本質的に少人数でなければならない。数が少ないということこそ、貴族であることの証明だからだ。現代では、ルールメーカーが企業か何かのように乱立するという混乱した様相を呈している。現代アーティストが金を追求するのも当然だろう。金はルールメーカーの力を支えてくれる、もっとも分かりやすく、もっとも手に入りやすいものなのだから。 ルールメーカーの頽落した形式として、社会活動的アーティストというものがある。ときにそれは聖者が頽落したものでもありうる。
・聖者 例:石牟礼道子 ドストエフスキー(サブは道化) ゴッホ 聖者は聖なる時代には出て来ない。聖者の出現は、聖なるもの(宗教道徳、倫理、あるいはそれよりもはるかに高度な宗教感情一般)が衰退するか、衰退の危機にあるときに出てくる。宗教的なるものの衰微の兆候や既存の宗教の硬直化が、聖者が乗り越えようと目するものである。 彼らは彼らの持つ宗教感情を最大限に生かして、物語を物語ったり、詩を読んだりする。彼らが捉えたいと願い、またしばしば捉えたと信じるものは、我々人類の生活世界を越えた、より大きな世界、それもSF作家がしばしば思い描くような宇宙、混乱した雑多なものの集積物で、その奇怪さゆえに人智を越えていると考えられるような宇宙ではなく、人類を包み込む調和の取れた世界としての宇宙、ないし調和を見出すための一筋の光を見出すことができる宇宙である。この人間社会よりも高次の、より大きな秩序を探究し、作品のなかでその秩序に触れた際の人間の感情の働きを追求したいという願いが、しばしば彼らの作品の構成のための最初の目的になる。つまり、彼らは何か超越的なものを、単なる個人における探究ではなく、全人類のためのものとして、追い求めるのである。 聖者は聖なる時代には出て来ないと最初に述べた。この点で聖者は、市民社会の高度な道徳の体現者である市民から区別されなければならない。また、単に宗教的なものを求める気持と聖者の気持とは、それが超越的なエネルギーを持っているかいなかで区別される(これは、聖者とその追従者はそのエネルギーの有無で価値を判別する存在ではあるものの、その作品、藝術家の価値とはまた別の話である。)。
・隠者 :丸谷才一 正徹 トゥオンブリー 隠者は知識を重んじる。それは、つまり、過去の作品とその歴史を重んじるということである。しかし過去や歴史や文献といったものは、世間が最も嫌うものの一つでもある。過去を気にしているうちは人生を生きられないし楽しめない、と世の人々は思っている。したがって隠者は世間を離れて隠遁生活に入り、隠者同士のネットワークのなかで生きていかざるを得なくなる。 それを見て人々は彼らは禁欲的な人だとか立派な人だとか世捨て人だとか言うかもしれない。だがそれは誤った称賛だろう。隠者は隠者で、彼らの社交の場を持つからだ。隠者と宗教的な苦行者とはこの点において区別されなければならない。だが一方で宗教組織がしばしば隠者の隠れ場であったというのも事実である。大学という場が宗教組織を土台に出来上がったという事実もある。 要するに隠者とは、文学から文学���生み出す類の芸術家のことを言う。彼らは紙の中でしか息ができないために、自身の作品も、冒険そのものというより書物から書物へ移る知的な冒険を含んでしまうのである。宮廷が衰退した後に正徹が和歌をものしたことは、その最も分かりやすい例と言えよう。 隠者、つまり知識人という種族が成立するためには、ある種の個人主義を成立させるだけの自意識の発達が必要であり、つまり都市化という過程が必要であるように思われる。だが、実際のところはどうなのだろう。代々怪しげな呪文を伝えてきた古代の呪術師たちと、どの程度系譜上近接しているのか、興味深いところだが、真実が明らかになることはなさそうである。
・道化 :中原昌也 象徴主義の詩人たち アリストファネス ジェフ・クーンズ 道化師はアイロニーの達人である。ということは彼らは、人を針で突き刺すと同時に自分をも針で刺す達人だということだ。それは彼らが、その批判意識を言葉として振るわないときでも、同じである。無言のパントマイム劇の最中にも、彼らの身振り手振りは刺々しいものを含んでいる。一見彼らのポーズや放言は、おどけた愉快なものに見える。だがよくよく観察すれば、彼らは我々を楽しませようとしているのではなく、我々を腹の底から馬鹿にして虚仮にしようとしているのだということが、はっきり見て取れる。そして同時に、そんな馬鹿よりも馬鹿者として振る舞っている自分を彼らは馬鹿にするのである。 とはいえ以上で述べたようなことは、道化の姿としては現代的なものすぎないのかもしれない。古くには、演じられた馬鹿ではなく本物の馬鹿者が、道化を演じることがあったのだろう、と想像して、私は何の疑いも抱かない。馬鹿者は礼儀を知らないから、浮かれ騒ぎになれば、思ったことを何でも言ってしまったのだろう。そしてそれが、現世のすべての秩序が逆さまになる祝祭として、喜ばれたことがあったのだろう。次の時代には、馬鹿者を真似た陽気だが知的な馬鹿者が出てきた。彼らは人を馬鹿にしながら寿ぐ技を磨いた。最後の時代には、道化は陽気さを失い、何かを祝福するという術を失った。 すべてのものを馬鹿にするということは、すべてのものを自由にするということでもある。そのため道化の技は、その価値転換の目的からして、貴族のそれに近いと言えないこともない。だが道化の技はより危険である。彼の活躍の場は社交ではなく祝祭であり、祝祭を持つことのできなかった道化には、しばしば悲劇的な結末が待っている。そして現代においては、本当の価値転換が行われる祝祭というものは望まれない。ヨーロッパにおいては、神が死んでからは、祝祭は不可能になってしまったという事情もある。そういうわけで、現代の道化はかつてよりも知的で、かつてよりも暗い顔をしている。彼らは自らの性質により道化になったというよりは、価値転換を行いたいがために道化にならざるを得なかったように見える。古代と現代の間で、どちらがより優れているのかは、容易に結論の出ない疑問である。だが、現代において古代と同じものを望むのは、倒錯的だというだけではなく危険も大きいと、言っておく必要があることだけは確実だろう。
・芸人 :チャールズ・ディケンズ 紫式部 人を楽しませることを活動の目的とする人々は、観客を選好したりしない。たいていの場合、受け手がどの階級に属していようと、その場にいる大多数の人々を楽しませることが、自分の職分であると理解しているものである。そのため、芸人というこの類型は、ジャンルによらず、もっとも民主的で大衆的な芸術の作り手であると言える。 芸人という職業が誕生した歴史的経緯は無論定かではない。ただ、古事記の岩戸のエピソードが示すように、文化の発展史の初期には、芸人は宗教的な巫女の役割を兼ねていたのではないか、と想像することはできる。確かに、平家物語やホメロスの叙事詩など、職業的な芸人がその成立や普及に関わったと思われる作品には、御霊信仰や神威の偉大さを伝える話が、欠くことのできない主題としてある。このことも、芸人という職業の民衆的な性質を考えればすっかり説明できるように思われる。思想は知識階級の産物だが、一方宗教と信仰は本質的には民衆のものだからである。 その後時代が下るに連れて、芸人が内在していた宗教的価値は薄れていったようだ。まだ社会階層が分離された状態が長く続き、都市化によって社会の複雑さが増すと、それぞれの社会階層ごとの芸人というものが登場し出す。上流階級向けのバイオリン弾きもいれば、下層階級向けのエレキギター弾きもいる、といったように。しかしそうした区別は単なる階級の好みに依存しているにすぎず、その本質ではない。興味深いのは、薄れたとはいったものの、依然として芸人には何かホーリーな後光が指しているように思えることである。クラシックにしろポップスにしろ、現代のコンサートに足を運んで、そこにかつてなら宗教的なものと呼ばれたものの顕現を目にしないものはいるだろうか? またどれほど下らないと知識階級が言い張ったとしても、戯作に感涙する人はいつの時代も少なくないのである。それに、知識階級が大事にしているものですら、単に知識人向けの戯作でないとは限らないではないか。
・職人 貴族は趣味に第一の関心を持つ。聖者は超越的なるもの、隠者は作品史、芸人は観客に関心を持つ。道化は何かに関心を持ったりはしない。職人はメディウム、つまり素材に関心を持つ。 形式への問いは要するに歴史への問いであると言える。形式が歴史の産物であると見なすことは、近代以降の我々にとっては常識となっている。だが同時に、形式は素材を規定し、素材は形式を規定するものである。この点において、素材に感嘆するにしてもそれを征服しようとするにしても、職人の関心と隠者の関心が交わることもある。文学史上におけるモダニズムを思い浮かべればそのことがすぐにわかる。そしてモダニズムというものが一時代に限られたものでないということも、この事実からわかる。 一方両者の違いも明白である。隠者には彼らの作品をできるだけ複雑なものにしようとする傾向がある。過去と現実、形式と素材の対立に、彼らは美を見出す。職人においては、複雑さも歴史も第一位の関心事ではない。そのため、名工の技を鑑賞する際に特に歴史的事実を思い浮かべなくてもその美しさが十分に分かるように、洗練の極致にあったとしても、極めて単純なものを作ることもある。そういう場合の職人の技とは、あたかも人力で、石から完全な球体を削り出そうとするようなものである。 藝術家とは職人である、と考えられた時代もあった。藝術家が、言ってみればメディアを通して人々を誘惑する職業である以上、当然のことだろう。だが職人という理想像は、現代においては真面目に受け取られることは少ないようだ。たしかに職人はもっとも世俗的な芸術家像であり、その分容易に頽落した形式になる。優れた職人とそうでない職人を見分けることは、この民主化した社会においては個々人の好みの問題にすぎないとされてしまうからなおさらそうである。だがそれでも、ラディカルな職人であることの重要性は、現代において見直されるべき主題であると思われる。
・市民 :ソフォクレス ゲーテ 市民は、ある社会における理想的な人物を体得し、それを表現しようとする。彼らの表現するものは、その社会における最高の道徳と能力を、堂々たる威容として観客に提示する。彼らの提示する人物は、他の理想像が提示する人物のように、恨みを内に抱いていたり、変わっていたり、醜かったりすることがない。逆に、高次の道徳を備えた安定した社会の、最良の良心である彼らは、万人にとって重要な、ないし重要であるべき理想像を、恥も入り組んだ苦心も抜きで示す。重要であるベき、と述べたのは、いかなる道徳も衰退するものであり、衰退の時期に生まれた市民は、彼が備えた良心ゆえに、世間に逆らわざるを得ないことがしばしばあるからである。そういうときは、市民はまた別の理想像、聖者や隠者に姿を変えるかもしれない。それは未来にそうした優れた社会を打ち立てようとしたときも同様である。 聖者とは異なり、市民は超越的な感覚に二次的な興味しか抱かない。彼らが興味を抱くのは、高次の道徳とそれに伴う充実感である。彼らが神の法と言うときは、この高次の道徳を指しているのであって、そこに神秘主義の匂いを嗅ぎつけるのは誤りである。 諷刺の技を市民的芸術に含めるかどうかという問題は難しい。市民的芸術と同様に諷刺は良識によりかかっているものだが、往々にして、市民的芸術よりも実社会に対して疎遠になってしまっている。区別の基準は、結局、その作家の目的と素質に依るのかもしれない。アリストファネスやモリエールは常識に基づいて滑稽な人物を組み立てるが、市民とは呼び難いと私には思われる。また諷刺は、単に政治活動において相手方を攻撃する目的で用いられることもあるから、一芸術ジャンルとして数え上げることはできないようである。
どうでしょう。実際こんな感じなのでは? ちなみにこの文章自体は、道化と隠者が6:4ぐらいだと思います。
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白の祝宴 を読んだ
「千年の黙」の続編。いわゆる紫式部こと藤の式部または藤原香子を探偵役に据えた平安時代を舞台とした推理小説でありなおかつ今回は「紫式部日記」の成立を題材とした歴史ミステリ。
冒頭がいきなり時代が下って応仁二年(西暦1468年)の戦乱に乱れる京の都で没落した家の娘が爪に火を灯すがごとくの厳しい生活の中にありながら「紫日記」を写本するというシーン。彼女の家系を遡るとかつて兵庫(武器庫)の管理をしていた蔵人であり「紫日記」に遠い祖先の女蔵人の名前が出ているというのを確かめようと写本をしているのだが、その中でその描写にちぐはぐな面があるということを読者に提示する(写本している本人は、よくわからないけど紫式部ほどの人なのでなにか考えがあるんだろう、みたいな勝手な納得をしているけど)。これ初回は読み飛ばしてしまうけど実はここで本作を歴史ミステリとして読む場合の問題提起がされているという構図になっている。あとついでにこの時点まで「紫日記」とされていた題名を彼女が「紫式部日記」と題字を書いてしまったというのが後にこのタイトルが主となった原因(たぶん)として描かれている。
わりとすぐにわかることなのでオチを書いてしまうと、本作では「紫日記の作者は紫式部ではなく当時中宮に仕えていた女房たちの日記をとりまとめたもの」であり、もっというと「紫式部というのは藤の式部/藤原香子のことではない」ということになる(この点は寛弘の時代を書いた部分(本書の大部分)で香子のことを紫式部と公称されている部分がないか再読して確認中→やはり序章と終章でしか香子/源氏物語の作者のことを紫式部と呼称している部分はない。つまり紫式部という呼びかたは香子の宮仕えの後半またはその後に成立したものだと作中では定めていると思われる)。ではだれかというのはまあ読んでいただきたい。
一方で推理小説と��ての流れは主に木曾駒という強盗にまつわるミステリであり、阿手木とその夫の義清(かつての岩丸)が大きくかかわることになる。義清は源家に仕えていて手下として使っている童子が何人か登場して重要な役割を果たすので登場人物は前作と比べてもぐっと増えて、いわゆる推理小説っぽさは増している。のだけどこの部分はそんなにあっと驚くネタがあるわけでもなく(中宮のかかわりかたについてはいかにもファンタジーだなと思ったけど)、どちらかというと阿手木と義清の関係性とか香子が土御門邸で女房たちの間に混じって活躍している様子などがおもしろくてキャラクター小説としての楽しさのほうが強い。こうしてみると「千年の黙」ですっかりあてき/阿手木や香子といったキャラクターへの親しみが生まれていて登場人物をいきいきと書くという才能が作者にはある。
とにかく小説としてはべらぼうにおもしろい。読みはじめると一気に読めてしまう。一方で香子はしきりに「頭をかかえ」るし、同じような描写が繰り返される感があって文章がうまいかというと少し違う気もする。このおもしろさってどこからきてるんだろう……。やっぱりキャラクターの魅力かな。
それから香子は女房たちの日記を読むとだいたいつまらないと評するのだけど、ゆかりの君と和泉式部の書くものについては評価していて、そのいずれも「自分のことを客観的に第三者として観察する内省する視点を持っている」という点が肝らしくて、おそらくそれは紫式部の書くものについても共通しているのだろうなと思った。
最終章は香子の娘の賢子が太皇太后となった彰子に出仕した時のエピソードとなっていて、ここで賢子がまた「紫日記」に手を加えるという大胆なことをするのが歴史ミステリとしての本書の最後のネタとなっていて、全体としては歴史ミステリというテーマが通底しつつ合間に主要な親しみのあるキャラクターによる推理劇を挟みこんだという作品となっている。
ところで「紫日記」が複数人の手からなる文章を編集したものであるというのは「あとがき」を読むと定説であるかのように読めますが、どうも軽く検索したくらいではそういう論をなかなかみかけないので、この点もう少し真面目な文献はないかなと思っているところです。おもな参考文献をみてもこれに関連してそうな論文とかがみあたらないんですよね。
もうひとつ読み返して思い出したこと。香子が父の為時に頼んで集めてもらった公人の日記に修子姫宮の着袴や裳着の儀の記録の日付が 2つづつあったというくだりと、清少納言が徒然草で意図的に姫宮のことを無視するように記述していないことについて指摘するくだりでは、その理由がいまいちはっきりと書かれていなくて、これはなにを示唆しているのかというのがわかりにくかった。おそらく姫宮があまり重く扱われていなかったことと、顔の痣のこともあって清少納言は外の目から隠そうとしていたということなのかなと思うのだけど、それにしても日付が 2種類ずつというのはなにかしら意味ありげなのでもうちょっと説明があってもよさそう。なにか書き抜かしていることがあるんじゃなかろうか。
それから「千年の黙」でもジェンダーに関するテーマはあったけど本作はさらにその傾向が強い。なにとは書かないが紫/ゆかりの君の身の上やふるまいに和泉の君の奔放さ(ついでにいえば小少将もだけど)。また中宮が女房たちのことを後の世の記録に残したいというそもそもの日記にこめた動機を語る目線においても公的な権力から隔てられる女性の立場へのやるせなさが込められている。
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【シバタ工業株式会社】の止水板、ハリケーン・ファブリック・スクリーン等の災害対策製品27点が登録されました!
シバタ工業株式会社は大正12年(1923年)に創業したゴムメーカーです。 ゴムの新たな可能性を求めて、ゴムと素材との複合化を追求し、安全・防災・環境をテーマに、お客様ニーズにマッチした商品を開発しています。
今回は、止水板、ハリケーン・ファブリック・スクリーン等の災害対策製品、27点をご登録いただきました。
シバタ工業 Arch-LOG 検索ページ
▼軽量シート式止水板
コンパクトに収納でき場所をとりません。 軽量かつ組み立てが簡単です。 専用工具は必要ありません。 設置場所にあわせた外観意匠の制作が可能です(収納時)
▼ハリケーン・ファブリック・スクリーン
世界初の多目的台風スクリーンです。 株式会社ハリケーン・ファブリック・ジャパンのソーラーガードは世界の最も強い、最も耐候性に優れているファブリック・スクリーンです。 その秘訣は、特殊なビニール被覆ケブラーの糸です。軽くて強い、熱の影響を受けないケブラーは航空宇宙産業、軍や警察の防弾チョッキなどにも広く使われています。 ソーラーガードは年中毎日使うことを想定して設計されています。台風の雨と暴風を95%カットし、さらに日除け(紫外線を95%までカット)や一般的な雨風、防虫網などでも力を発揮します。 色褪せや伸び縮みもなく、耐火性能にも優れています。 透明性と衝撃に対する強度、それに業界最長の耐候性を備え合わせた世界最高級の台風対策です。
▼軽量パネル脱着式止水板
新素材を使用し軽量化を実現! 浸水深1m対応までラインナップ!
軽量:アルミパネル製と比較し約4割の軽量化を実現しました。
新素材:ポリカーボネート樹脂パネルを採用
意匠性・視認性:パネル色相は、3色ご用意しています。
高い止水性能:自社試験に基づき、初期浸水時から最大水深(1000mm)まで、高い止水性能を確認しています。締めハンドルによって特殊止水パッキンを圧着するため、接地面・サイド柱にしっかりと密着し、隙間から漏水を防ぎます。
シンプルな設置方法:締めハンドルを回すだけで誰でも容易に設置可能です。
自然災害の被害を最小限に留めるための環境を整えることが可能な製品揃いです。是非ご確認ください。
シバタ工業 Arch-LOG 検索ページ
※文章中の表現/画像は一部をシバタ工業株式会社 のホームページより引用しています。
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マザコン光源氏を文学の主人公にする源氏物語作者の凄すぎる執筆スキル
世界最古の長編小説「源氏物語」その主人公は美貌のプレイボーイ光源氏です。しかし、この光源氏、冷静に観察してみるとクズもクズの最低男。どうしてこんなクズ男の恋愛遍歴が21世紀まで読み継がれるのか不思議なほどです。しかし、そこには光源氏を引き立 #源氏物語 #紫式部 #光る君へ
世界最古の長編小説「源氏物語」その主人公は美貌のプレイボーイ光源氏です。しかし、この光源氏、冷静に観察してみるとクズもクズの最低男。どうしてこんなクズ男の恋愛遍歴が21世紀まで読み継がれるのか不思議なほどです。しかし、そこには光源氏を引き立たせ悲劇の主人公にする、著者紫式部の説得力溢れる文章構成がありました。 源氏の永遠の恋人 藤壺 光源氏は時の天皇、桐壺帝とその寵妃、桐壺更衣の間に誕生します。しかし、桐壺更衣は源氏が3歳の時に若くして病死。最愛の妃を失った帝は塞ぎこみますが、その時、亡き桐壺更衣にそっくりな藤壺の噂が帝の耳に届きます。ここで藤壺がホイホイと宮中に上がるならば、ご都合主義で源氏物語は凡作になったでしょう。しかし、ここが紫式部の上手な所で、藤壺の周囲の人々に宮中は権力闘争が激しく、愛憎が渦巻く場所だから行かない方がいいと言わせているのです…
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おはようございます。 今日も暑い、洗濯物干すだけで汗ばむ… #ギボウシ #ギボウシ観察 #紫式部 #紫式部観察 https://www.instagram.com/p/CA6oorNp2wl/?igshid=nkjb4agx1uiw
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2022/10/15〜
10月15日 修理に出していたカメラを受け取って図書館へ行った。 神保町カレーフェスティバルのポスターにリラックマがいて、san-xに認められた大会になっていてすごい。私が屋台で売り子をしていた時は、小さな公園が会場で知らないコメディアンがMCを務めていたイベントだった(でも入場規制がかかる程混んでいた。)。 図書館で調べものをして、本をただ眺めているだけで、なんだか漠然と、なんでもやろう!という気持ちになれる。多分無理だろうけど、平日の夜にギンレイホールで映画を観る予定と、日曜の夜にライブへ行く予定を立ててみた。 個人空間について書かれたイーフー・トゥアンの本と、女子のSNS投稿について書かれた名物社会学者おじさんの本を借りた。SNSの方は、少し読んでみるとなんだか危なっかしい書きぶり…
お茶をしよう・写真を撮ろう、の待ち合わせに向かう。 合流できたのは1時間半後。定刻に到着してしまった私は、お祭りを控えた神社の境内を行ったり来たりして、植樹されている木の縁石の上で本を読んだりして、なんだかんだ過ごした。 合流した後、1時間ちょっとお茶をして、30分位お散歩をして別れた。お茶をしましょう、が、成り立つことって凄いな〜、と改めて思う。何を話しても「まぁ皆いろいろ大変だよね」に落としどころをつけられるのが分かりきっているのに、会ってお茶をして近況を話すのって凄い。皆それぞれ衣食住で忙しいのにね。 神保町駅の青山フラワーマーケットに可愛いバラがあったので、ぜひ一輪挿しに!と、購入。お茶の席で「まるで甥っ子と姪っ子にあげるみたいに、お二人にお花を持ってきました…」と、お花を頂いたので、私のバラをあげてしまった。頂いたふわふわの赤いお花は、私の一輪挿しには合わないかもな〜、と思いつつ、帰って生けようとしたら、包装と栄養剤だけを残してお花はどこかへ消えてしまっていた。 作った女の子と写真についてのフォトブックを観てもらった! フィルムカメラが修理から戻ってきて嬉しけれど、自分はもっと喜ぶかと思っていた。 雑司が谷の街は思いがけず人が多くて「アド街効果すごいね〜」と言っていたら「そんなにみんなアド街で生きてない」みたいなことを言われた。 今年初の「よいお年を」を言った。
10月16日 昨日、残り2つ88円に値引きされたバター餅が気になって、2回スーパーへ行った。午前中の予定を終えて、町のお花屋さんでバラを買う。昨日の分を取り戻す! 紫や青やオレンジのバラがあって、全部名前が違う。オレンジを下さい、と店主さんに言うと「アミナって言います。紙のお包みで良いですか?」と教えてくれた。お会計を済ませて店を出るときに、昨日もらった赤いふわもこのお花がいたことに気がつく。名前を確認すれば良かった…!
エレベーターを待っているとお隣さんと鉢合わせ。このところ結婚式続きなのか、いつも正装をしている気がする。「雨が降りそうですよ〜。傘持ちましたか?お気をつけて!」と言われる。 その後会った人に「目が半分くらいしか開いてなかったけれど、やっと開いてきたね。気をつけて帰ってね。」と言われる。 みんなお母さんみたい。
セリーヌ・シアマの映画も観たい。借りてきた本も読みたい。あおいちゃんがブルーハーツを歌っていた頃のファッション雑誌を読みたい。 今日は自分の文章を見たくなくて、日記を更新できなかった。 帰りにスーパーへ行くと、バター餅はまだ2つ残っていた。でも42円に値引きされていた!セルフレジでお会計をして、スーパーを出るときにもう一度確認すると、1つだけになっている!明日はついて売り切れるかも。 来週は今住んでいる町の市長選なのだけれど、あまり興味を持ちきれない。市民でいるより国民でいたい。
10月17日 バター餅はちゃんと売り切れていました! 紀の善の閉店を知って、抹茶ババロアを食べたくて仕方がなくなる。もうないものって安心して欲しいって思える。 特別にごほうび!と、修論を終えた時と、夏のなんか冴えないダメダメな日のバイト終わりに食べたことがある。いちごあんみつも美味しかったはず。 今日はつまらなさのターン。でも帰りにトゥアンの本が少し面白く読めた。 人間は神ではないので、複雑な絡みあうものたちを大きくまとめることが苦手。複雑な小さいことを処理することと、大きくて単純な仕組みを作ることが得意(回転���司?)。社会的である時は全体。生物的、超越的である時は個人。超越的存在でありたいのに、生物的側面があることに恥じて、個を好むことがある、などなど…
10月18日 昨日の夜、ひどく苦い半額シールのついた豆腐を食べたせいか、胃が気持ち悪い。 趣里ちゃんが根本宗子脚本の映画に出演するようなので是非観たい! 主演の前田あっちゃんを交えた3人でトーク番組に出演していたらしく、Tverで観てみる。おとぎ話のcosmosのPVのこと、おとぎ話みたいの映画のことを3人で「とっても良いよね〜!」と当たり前に話していて「!!!」となった。 10月19日 ライブカメラの映像を眺めるのが好きなマンスーンさんがおすすめしていた演劇をyoutubeで観てみる。 タナダユキの新作映画も観たい。 久しぶりに仕事中に、死んでしまうかも、と思った。 屋上から更に5m上の塔屋の上へ、屋外むき出しはしごで登った。何を考えて、はしごを登り降りすればいいのかよくわからなかった。一通り終えた後、このことを思い出しては、足がガクガクして手に汗を握っていて、心の負債をまた一つ負ってしまったことに気がつく。 紀の善閉店の件を知ってから、抹茶ババロアって他で食べられるところあるの?と検索している。検索結果は紀の善ばかりなので、もうこの世に抹茶ババロアはないのかも知れない!なので、抹茶ババロアが好きな食べ物です!って大声で言えるね。 栗原類って何しているのかな、と調べてみたらyoutubeにラジオをアップしていたので聴いてみている。ぼのぼのが好きすぎて、世の中でつかわれている“ほのぼの”という単語を“ぼのぼの”と無意識に読み違えていた話が良かった。
10月20日 トゥアンの本、今日はテーブルマナーから個人空間の誕生を考察した章だった。中国では伝統的な、食事の場での作法があり、食べ物を“陰”と“陽”に分けてその案配でもっと健康が維持される、と、考えられているらしい。食事を自然界までひとくくりで考えている。一方で、西洋は、獣をとにかくごった混ぜたご馳走や壺のスープを回し飲む食事から、食事毎に食べ物を切るナイフを用意し、フレーバー毎にワイングラスを用意する程、神経質なテーブルマナーへ変わったために、そこに自意識を持ち出さずにはいられない、らしい。 (中国では穏やかな集団の食事会があるが、西洋にはなく、そこから逃れるために個人空間生まれて…というような流れのようだった。) 明日に予定されていたお部屋の消防点検、時間を早めてもらって午前休をとろうかと思っていたら「いや次回で大丈夫なんで!」と今回は行わなくて良いお返事をもらった。 明日から箱根へ旅行に行く話とこの週末にディズニーランドへ行く話を聞いた。 箱根へ行く方からは、昨日ふいにロイズの小さいラングドシャクッキーをもらって、それが久しぶりにいつもじゃない食べ物過ぎて、自分じゃない人が選んだもので、とても美味しく感じた。そのことを伝えると「いつも何も美味しくないんですか…!」と、今日は塩ちんすこうをくれた。 「箱根でも、美味しいって思ってもらえるお土産を買ってきますね!」と500mlパックの低脂肪乳を飲みながらお話してくれた。
10月21日 フィルムカメラを持って貴族出勤した日。 同じバスに乗る推している方が、足を引きずって歩いているのに気がついて。大丈夫かしら。 母から珍しくメッセージが入っていて、ちらっと文を見ると、幼馴染(保育園〜中学まで)で家族ぐるみで付き合いのある人達との会が来月に予定されているらしいけれど、知ってた?とのこと。 とっても心がザラザラして、仕事中はなんとなく紛れていたけれど、帰宅してかなり焦っていることを実感している。とにかく掃除をして、爪を切って、体を洗って、さっき届いた新しい服をハンガーにかけて、バタバタしてしまった。 参加してみて何がどうなるのかを確かめたい好奇心があるのが嫌だ。 少し想像すると、その場で、社交無理でした!を120%でしでかして、何となく皆様からかわいそうだから優しくされているのを感じて泣いてしまうのが目に見える。心の負債を負うことなく母のメッセージを一先ず無視しようと決めた。セーフ。 明日は早く起きれたら映画を観に行こう。ダメだったらはとバスに乗って図書館へ予約した本を受け取りに行こう。 ひどくそわそわとザラザラが募り、カメラの前で飛び跳ねたりした。
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日本で創られた漢字の言葉
もともと大陸に無かった概念を日本が創った漢字の言葉の数々 これら無しでは台湾(中華民国)も中華人民共和国も会話が成り立たないでしょう 電気/電話/電車/自転車/病院/弁当/手帳/雑誌/美術/組合/警察/出版/倫理/意識/階級/哲学/文化/原子/時間/空間/速度/温度/概念/理念/観念/教養/義務/経験/会話/関係/理論/申請/演出/活躍/基準/主観/否定/接吻/失恋/目的/健康/常識/現金/工業/輸出/不動産/領土/投資/市場/企業/失恋/国際/経済/指数/債権/政治/革命/解決/社会/主義/法律/共産党/左翼/幹部/指導/議会/協定/市長/人権/批評/特権/共和国/文明/民族/思想/資本/階級/分配/宗教/理性/感性/客観/科学/物理/化学/分子/質量/固体/時間/文学/美術/喜劇/悲劇/社会主義/共産主義/唯物論/郵便/自由/福祉/国債/特権/平時/戦時/民主/野蛮/越権/慣行/共用/私権/実権/主権/上告/例外/支那/取締/取消/引渡/手続/目的/宗旨/権利/義務/代価/法人/当事者/第三者/強制執行/親属/継承/文憑/盲従/同化/場合/衛生/糖尿病/肺炎/暗示/意識/遺伝/入口/右翼/運動/栄養/演出/演説/鉛筆/温度/会計/概算/回収/会談/解放/活躍/化膿/環境/関係/間接/簡単/議員/議院/議会/企業/気質/規則/基地/規範/協定/業務/教養/記録/金額/銀行/金融/偶然/軍���主義/計画/計器/景気/経済/恐慌/芸術/系統/経費/劇場/化粧品/決算/権威/現役/現金/原作/現実/現象/原則/建築/原理/講演/効果/抗議/工業/広告/講座/交際/光線/交通/肯定/公認/高利貸/効率/小型/国際/克服/故障/固定/債券/財閥/債務/作者/作家/雑誌/左翼/紫外線/施行/施工/市場/指数/思想/実感/実業/失効/実績/質量/失恋/指導/支配/集団/終点/就任/主観/出発点/出版/蒸気/乗客/商業/証券/条件/常識/承認/消費/情報/私立/資料/信託/新聞記者/人民/信用/心理学/侵略/制限/政策/清算/生産/精神/性能/積極/絶対/繊維/選挙/宣伝/総合/想像/速度/体育/退化/大気/代議士/対局/対象/体操/代表/立場/棚卸/単位/探検/単純/蛋白質/知識/抽象/直接/定義/出口/哲学/電子/伝染病/電波/電報/展覧会/電流/動員/投資/独裁/図書館/内閣/内容/日程/任命/熱帯/年度/能率/背景/派遣/覇権/場所/発明/反響/反射/反対/反応/悲観/美術/必要/否定/否認/批評/備品/評価/標語/広場/舞台/物質/物理学/不動産/分子/分析/分配/方式/放射/方針/法則/方程式/法律/保険/母校/保障/本質/漫画/密度/民族/無産階級/明確/目標/要素/拉致/理想/理念/了解/領海/領空/領土/理論/倫理学/類型/冷戦/歴史/労働組合/労働者/論理学などなど。
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源川瑠々子の『星空の歌』 2024/05/09 20時配信
ゲスト◇香の伝道師・劇作家 稲坂良比呂さん ~前編~
ひとり文芸ミュージカル『紫式部-雲隠れ-』原作者の登場です。 香と源氏物語についての深い考察もお楽しみください。
<再生はこちら▶️ YouTubeポッドキャスト>
【公演情報】
ひとり文芸ミュージカル「紫式部−雲隠れ−」 日時:2024年5月29日(水) 開演 13時30分 会場:観世能楽堂(東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 地下3階) 出演:紫仙女 源川瑠々子、 紅仙女 敷丸 特別出演:藤原為時役 山階彌右衛門氏 解説 観世能楽堂公演:稲坂良比呂、倉持長子 いまだて芸術館公演:三田村悦子(紫ゆかりの館館長) 2024年3月1日より公演チケット発売中♪
<ひとり文芸ミュージカル「紫式部-雲隠れ-」 2024年公演情報> 2024年06月07日(金)越前市いまだて芸術館 2024年06月08日(土)大津市伝統芸能会館能楽ホール 2024年06月09日(日)豊田市能楽堂 2024年09月14日(土)福井市ハピリンホール能舞台 2024年09月15日(日)福井市ハピリンホール能舞台 2024年11月09日(土)名古屋能楽堂 ・ひとり文芸ミュージカル「紫式部-雲隠れ-」 公式サイト
【今夜の歌】
『光の君』(舞台『紫式部ー雲隠れー』より) 作詞:スミダガワミドリ 作曲:神尾憲一 歌:源川瑠々子
<源川瑠々子の『星空の歌』> 音楽、舞台、写真などの芸術をはじめ、さまざまな分野で活躍する方々をお迎えし、魅力的なお話をお聞きします。夜空の星のようにきらきらと輝くゲストのお話で、リスナーのみなさんへパワーをお届けできたら……、こんなに嬉しいことはありません。
過去放送一覧はこちら
源川瑠々子 公式サイト
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なつくもゆるる 感想
notionで書いて、tumblrに持ってくるときに改行が消えたり画像掲載枚数の上限があったりで、読みづらいかもです。
2013年にすみっこソフトより発売されたエロゲ「なつくもゆるる」の感想。SF四季シリーズとしての前作「はるまで、くるる。」とストーリー的な関係があるわけではない。プレイ時間は20時間程度。スクショを見れば分かる通り、いわゆるロリゲーです。やったね。
あらすじかくの面倒くさいので、とりあえず公式サイトの紹介文をはっつけます。
ヒッポカムポス機能不全およびBDNF発達障害。 通称、自殺病。 簡単に言ってしまえば自殺する可能性が高くなる病気。 壁川学園は、この病を発症もしくは発病前の学園生達を集めた、全寮制の学園。 学園生達は夏休みの間、実家に帰ることが許されているのだけれど……。 新型咽頭結膜熱に感染してしまった当麻進は、病気から回復後も体内にウイルスが残っている可能性がある、という理由で2週間の外出禁止を命じられてしまう。 当麻進と同じ理由で学園に残ることになったのは、 同室で人妻好きの三田舜。 スコップを振り回す狭霧紫穂。 生物部長の水名りね。 会長の鹿島ユウリ。 それと、 遊びに来ていて感染の疑いありと判断された妹の当麻姫佳。 合計6人。 2週間の外出禁止期間を学園内でそれなりに楽しく過ごしていた6人だが、ある日の夜、停電が発生。 停電の理由を探している中で、学園から教師も寮監も保健の先生もカウンセラーも、6人以外の全員が消えていることに気付く。 しかも、電気だけじゃなくて、ガスも水道も停止。 6人は壁川学園の隣にある、壁川町へ出かけるが、そこで見たものは、誰もいない廃墟と化した街だった。 いったいここで何がおこっているんだろう? どうしてこんな場所に自分達は取り残されたんだろう? 調べていく中で少しづつわかっていく世界の秘密。 自殺病の本当の意味。 重力の異常。 狂っていく時間。 夏休みの学園で見つけた、世界の終わり。 少しも嘘なんかじゃない、本当の世界の終わり。 そして、世界の終わりを許さない、 少年と少女達の物語。
まず簡単に感想を述べると、「SFミステリとしては最高」。ストーリーとして必要な設定や、エロゲのクリシェに対して(荒唐無稽なものはあれど)しっかりと意味づけがなされているので中盤以降はその伏線回収が読んでてめちゃくちゃ面白かった。その意味づけに対してSF要素を使っているので、SFのオタクとしては嬉しい限り。個人的に良かった点はたくさんあるので、まず批判点から挙げようかな……。
以下、ネタバレしか無いので閉じときます。絶対プレイしない人orプレイ済みの人だけ読んでね。
「SFミステリ"としては"最高」といったとおり、この作品エロゲとしてはどうなの……?という感じがする点が多数あった。なんならギャルゲとしても薄い気もする。というのも、ヒロイン4人の恋愛描写が非常に薄い。姫佳は登場シーンからラブラブ度120%だし、ユウリもいまいち主人公を好きになった理由がわからなかったし(これは単に読解力不足?)、りねに至ってはもう導入からしてアレだし……。メインヒロインであるところの紫穂も、(後述する"対象"が)なぜこの主人公である必要があるのか、という必然性のところから疑問点を抱いてしまう。土台となるSF要素があって、その上に半ば無理やりギャルゲ的恋愛要素を乗っけた感があるので、どうしてもそこら辺の描写に心を打たれなかった。キャラクターに魅力がないわけじゃないんですよ。むしろキャラクタ個人個人はかなり魅力的だと思う。純粋な可愛さがあります。
あとSF要素についてはびっくりするほど強いので、これエロゲにして多くのユーザー層はついていけるのか……?と思ってしまうところもある。前作(はるくる)はSF要素は非常にわかりやすくて、その見せ方がめちゃくちゃ上手かった。対して本作は割と序盤から生物学的要素をゴリゴリ提示してきて、終盤は超弦理論を元にしたSF要素が要素の説明も含めてガッツリ入ってくるので苦手な人は苦手そう。それぞれのSF要素の説明は図を交えたりしてて面白いんだけど、やっぱりある程度前提の知識が頭に入ってないと分かりづらいのかな……と思う。
結局最後はスケールがアホみたいな事になってキャラクタがかすみ始めるのもエロゲとしては致命的?。サブヒロイン全員が「踏み台」になってしまうので、サブヒロイン3人が好きな人からしたらスッキリしないんだろうなぁ……。その点前作はるくるはいい終わり方してると思います。王道展開だけどクソデカカタルシスを得られるので最高だった。
ここからは良かった点。悪かった点でもあるんだけど、やはりSF的要素が凄い。本作をSFのジャンルとして捉えるとすると、「宇宙」「未来」「仮想現実」「生物」あたりだろうか。宇宙、というより物理学かな……。素粒子物理学、宇宙物理学、超弦理論などが主軸になっている。加えて生物学的知識が多く出てくるのに驚いた。SFというとやっぱり時間渡航とか、ループとか、どちらかというと物理学的な知識がメインになってくる作品が多いと勝手に思ってるんだけども、本作では生物学――特に進化生物学や動物行動学、生態学あたりが適切なのかな?――の知識がガッツリからんで来るのが面白い。
主人公たちは学園で生物部に所属してるんだが、キャラクターの馴れ合いを眺めるだけになりがちなエロゲの部活動シーンでかなりしっかり生物部の活動をしているのは良かった。具体的に何をやっていたのかというと、学園内には海があって、その一部で生物部はタイドプールを使った実験をしている。タイドプールというのは潮の満ち引きによって岩場にできる小さな水たまりのこと。ほどよく海水で、いろんな生物がいるから生態系の観察に適しているそう。農林水産省のHPにはタイドプールに様々な生き物がいる理由について次のように書かれている。
タイドプールができる場所は「陸」と「海」のさかい目にできます。そのさかい目には魚、エビ、ヤドカリ、ナマコ、ウニ、カニ、貝、イソギンチャクなどの生き物がたくさんいます。それは、磯や干潟には岩や海藻などがたくさんあり、生き物にとってのエサが豊富にあることや、大きな生き物に食べられてしまう小さな生き物たちにとって、ちょうどよい隠れ場所になるからです。そこに、海水の満ち引き(満潮・干潮)によって、これらの多くの小さな生き物たちは、タイドプールに取り残されてしまうため、タイドプールにはたくさん生き物がいるのです。大きな生き物が入ってくることができないタイドプールは、小さな生き物たちにとって安全な場所と言えるのかもしれませんね。
で、生物部がタイドプールでやってる実験は「人での有無による比較実験」。タイドプール内での生態系の頂点は(本作では)ヒトデらしく、あるタイドプールではヒトデを完全排除、もう一方ではヒトデを放置、そうした場合どのような変化が生まれるかを観察する、という実験のようだ。で、結局どうなったかというと、ヒトデの非捕食者であるマツバガイが大量発生。現実にもこの事象の理由付けはまだ議論中らしいが、本作では頂点捕食者(ヒトデ)のおかげで生態系の多様性が守られていると仮定されている。
実際イエローストーン国立公園でも同じような事象が起こったそう。Wikipedia情報になるけれども、イエローストーン国立公園では1926年にハイイロオオカミが絶滅。その後1995年にハイイロオオカミを人為的に再導入して以降、90年代に増えすぎと言われていたワピチが減少し、さらにワピチ(アメリカエリクとも言う)によって過食されていたポプラやヤナギが健常に成長しだした。導入したオオカミはわずか8頭だったそう。なるほど、頂点捕食者の存在は全体のバランスを上手く取っているのか。https://blog.fore-ma.com/13/
イエローストーンのオオ��ミの再導入の件は作中でも触れられている。なんとオオカミがワピチを捕食する前からワピチの固体が減っていったらしい。さっき挙げたURLの記事ではこんな説明がなされている
まず、オオカミの登場によってエルクの活動と個体数が抑制されました。これは捕食はもちろんですが、オオカミが見回るエリアや逃げ場がない地形からエルクが撤退し、また捕食されるストレスが繁殖活動に影響を与えたのだそうです。するとエルクに駆逐されていたポプラが復帰。元々強い木なので一気に勢力を回復。早いものでは数年で4メートル前後に成長し、水辺に適度な木陰が形成されました。
さて、本作は全体として「進化」が重要なキーワードとして働いている。ネタバレをしてしまうと、主人公たちは「マンイーター(正式名称はグラビティーウォーカー)」という重力を感知できる新人類。人類の進化(と言っても進化には目的がなく、突然変異で生まれた固体がたまたま強く生き残って種に敷衍して初めて進化になる。この言説をエロゲで見ることになるとは)に伴って生まれたもので、実は学園はマンイーターの行動を調べるために作られたものだったんだ!という。学園内で自殺が多いのは"自殺病"によるものではなく、周囲にいるマンイーターの影響により本能的な恐れから自殺に至ってしまう、よって「マンイーター」と呼ばれるのだ(マンイーターというのは俗称で、正式名称は「グラビティーウォーカー」らしい)。主人公たちが自殺しないのは、学園内での「マンイーター」側だから。また、マンイーターは幼形成熟が多い(=ネオテニー期間が長い)。これもマンイーターが生まれるに至った進化の過程で発現したもので、幼形成熟、つまり「かわいい」ということは捕食者にとって捕食しにくい存在になる。一言でいうと、殺されにくくなる。女子供は殺しにくい、というアレだ。また、ネオテニーは環境変化に強いらしい。Wikipediaによると
進化論においてネオテニーは進化の過程に重要な役割を果たすという説がある。なぜならネオテニーだと脳や体の発達が遅くなる代わり、各種器官の特殊化の程度が低く、特殊化の進んだ他の生物の成体器官よりも適応に対する可塑性が高い。そのことで成体になるまでに環境の変化があっても柔軟に適応することができるとされる
とある。これらがマンイーターがホモサピエンスに比べて強いとされる所��。このあたりの、本作がロリゲーである物語的理由付けはめちゃくちゃ面白かった。
物語後半は生物学的要素から物理学的要素にシフトする。本作もいわゆるループものではあるのだが、よくあるループものだと2回めの周回以降、プレイヤーが知っている知識が物語ではまだ知られてないものとして進行する。対して本作では、物語を実質一本道にする代わりにループする度に物語はプレイヤーが前ループで得た知識が広く知られているものとして動いていく。(例えば、マンイーターの存在がバラされた√の次の√では、学園がマンイーターのために作られたものであることなどが既に常識となった世界になっている)。賛否両論あるシステムかもしれないが、物語の展開はテンポ良くなるので個人的には嬉しかった。はるくるも実質一本道だったし、あきくるもそうなのかな?ゲーム性を廃してストーリー性に寄せてくれるのはありがたい。
もうこの際全てネタバレしてしまおう。最後のTrue以外の全ての√はシミュレーションの中の世界。実際は西暦2000年代から10^72年後の宇宙。陽子と中性子は10^32年程で崩壊するため、あらゆる物質は崩壊。星もなにも無い宇宙が広がっていた。人類は身体を捨て、ブラックホールからのエネルギーで統合された精神のみを動かす存在と化していた。しかしそのブラックホールのエネルギーも潰える寸前で、宇宙はまもなく終わろうとしている。狭霧紫穂は人類の精神化の失敗の保険――現に失敗しようとしている――として生み出された存在。というのも、この事態はマンイーターが存在していれば防げたらしい。マンイーターは重力を感知し、場合によっては動かすこともできる。この宇宙から脱し、別の宇宙へと動けるのは、時空との繋がりがない「閉じたヒモ」であるグラビトンのみ。つまりマンイーターがいれば陽子が崩壊する前に別の宇宙へと情報を持っていけたかもしれない。しかし、マンイーターは2000年代初期に駆逐済み。後世の人類が調べたところによると、マンイーターの生存には夏休み前後の当麻進の行動にかかっている。狭霧紫穂は、これまでのデータを元にシミュレーションを繰り返し、時にはシミュレーション世界の中で当麻進に干渉しつつ、当麻進を鍛え上げてきた。√ごとに過去のループの知識が前提になっていたりするのは、シミュレーションを回すごとに過去のループの知識を組み込むように設定したから(全部リセットすると鍛えることが出来ない)。十分に重力を操ることができるようになった当麻は、宇宙空間でもなんかいろんな障害を乗り越えた後、新たな宇宙へと渡り始める。
登場人物の関係性を排除したらざっくり終わり方はこんな感じ。超弦理論についての説明が、一般的なSF作品よりだいぶ詳しくやっていたので面白かった(が、その分理論的なガバも多い。よく見るクソ長い終わりの見えない雲が宇宙ひもでした!っていうのはどうなんだ?)。全体的には超弦理論というよりブレーンワールド仮説を題材にしている感じ。まだ完全には解明されていない理論を元にすることで、説得力を与えつつファンタジスティックな物語展開に持ち込んで行けるのはSFならではだろう。
SF要素以外でこの作品を評価するとしたら、「戦闘描写」の存在が大きい。特に主人公、主人公の姉、ユウリ、喜多雲の4人は何らかの武術に長けている設定で、かなりの頻度で戦闘描写が入るのだが、体術の描写がここまで臨場感たっぷりに描かれているとは思わなかった。日常シーンは立ち絵を動かすことで雰囲気を演出している反面、戦闘シーンは立ち絵を動かさない、もしくは立ち絵なしのシーンになっている。文章に力があるので、下手に立ち絵を動かすよりこちらのほうが戦闘描写を楽しめて良い。というかこういう武術の知識ってどこで得るんだ……?
まだ言いたいことがあるような気もするが、とりあえず筆が止まったので各キャラクタについて色一言言っていきます。
当麻進
主人公。いかにも!って感じの主人公で、みんなから好かれている。前作(はるくる)では主人公の内面描写、というか地の文に謎の「イタさ」を感じたのだが、本作はそういうのもなく読みやすかった。あとロリコン。姉から仕込まれた「術」を使うが、別にそれで主人公最強になるわけではない(姉はある意味最強だが)。前述のシミュレーションの影響で、話が進む度に成長していくのが見どころ。
三田瞬
主人公の親友ポジ。ギャルゲの親友ポジっていいよね……。前作(はるくる)では親友ポジがいなかっただけに、存在が嬉しかった。ロリゲーなのに熟女好き設定なのは、主人公とヒロインたちのイベントには絡まないから安心しろ、ってこと……?(実際、主人公がヒロインたちに服ひん剥かれてイチャイチャしている横で平然とテレビを見ているシーンがあった)。終盤のとある展開は胸アツ。立ち絵の顔差分が少なすぎるのが残念……
水名りね
生物部部長。3年。他3人の乳成分を一人で受け持っているロリ巨乳枠。「~~なり法隆寺!」という謎の語尾を使っているが、これを使うに至った過去回想がかなり良かった。主人公との恋愛要素が薄い、というか導入がアレすぎて……(嫌いではない)。
当麻姫佳
当麻進の義妹。学園に入ったお兄ちゃんに久々に会いに来たら事件(?)に巻き込まれた。登場シーンから好感度120%なので特に恋愛の導入描写はない(一応過去回想がある)が、各ルートの中で一番まっとうに恋愛ゲーしていた気がする。他ヒロインのルートでも積極的に(?)ヤキモチを焼いてくる。かわいい。
鹿島ユウリ
金髪生徒会長。登場当初はクールなのだが、ユウリルート以降はキャラ崩壊寸前の面白キャラになっている。ギャップ萌えですね。ユウリルートもなかなか恋愛要素が薄い感じがしたが、どちらかというと物語の真相がどんどん明らかになっていくので恋愛まで頭の余裕が回らなかった(?)。私は全ヒロインの中で2番目くらいに好きです。
狭霧紫穂
本作のメインヒロイン。ゴスロリで、なぜかいつもスコップを持ち歩いているミステリアス少女。話し方がかわいい。事あるごとに犬化する。ワンワン!物語序盤では、街から人が消えたことを「世界の終わりだ!」と言って喜んでいるが、終盤でその理由が明かされる。彼女が「犬」っぽい理由もちゃんとあってよかった。シミュレーション世界の性格と、上位世界の性格とで別れている。
なんだかんだ本作は、狭霧紫穂が中心の物語なので、狭霧紫穂がキャラクターとして好きじゃない場合は最後の終わり方に納得がいかないんじゃないかな……と思う。私は一番好きなので大満足ですが。
どこで締めたらいいのかわからなくなったのでまとめます。最初にも書いたけど、本作は「SFミステリ」として見ればかなり面白い。むしろエロゲとしての要素の方が邪魔に感じる。エンドロールの最後で「夏への扉」が引用されるけど、どちらかというと「星を継ぐもの」の方がテイストとして近い気がする。渡辺僚一氏の知識――SFだけではなく、本作で特徴的だった武術についてや、自殺についてなど――とそれを物語に昇華させる能力は素晴らしいので、是非氏の書いた本気の「SF作品」を読んでみたいところ。
では、あきゆめくくるをプレイしてきます。
「きっとみんなの ほんとうのさいわいをさがしに行く。 どこまでもどこまでも 僕たち一緒に進んで行こう。」 ――宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
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