#最近日本のテレビや漫画とかを勉強のため使ってるけ���
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Oh god I'm going to meet with someone and speak Japanese tomorrow for the first time in like 8 months, let's hope I don't spontaneously combust
#trying to figure out how to say fungal diseases rn#最近日本のテレビや漫画とかを勉強のため使ってるけど#ここに日本人はいないから滅多に話せないよ#とにかく…[菌類病気]で大丈夫かな?#植物の病気#知らないな#高レベル単語をたくさん忘れちゃたな
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30代女性。セクシャリティがよくわからないので性欲と性癖について聞いてほしい。 【幼少期】小さい頃から性欲が強くよく父親の持っている週刊誌のグラビアページを見てニヤニヤしていた。セーラームーンのアニメが大好きで戦闘シーンのパンチラ(レオタードなので正確にはパンチラではない)をコマ送りにしてもらって喜んでいた。幼稚園で親友の女の子が用を足しているのをドアの上から覗いたり(ごめんなさい)公衆トイレで母親が用を足しているのをドアの下から覗いたり(ごめんなさい)公園で母親のスカートをめくって死ぬほど怒られたり(ごめんなさい)母親の実家に帰省したとき叔母の風呂を覗いたりした。(ごめんなさい)ただその後ふつうに叔母に風呂に入れてもらったときは恥ずかしくてずっと下を向いていたので、単に��が好きというより相手の意に反して隠されているところを晒したいという加害欲込みだったんだと思う。 女体に興奮するのとは別に手のひらサイズの小さくてかわいい生き物を狭い所に閉じ込めてつついたりしたいという欲求もあった。ディズニーの「不思議の国のアリス」で牡蠣の赤ちゃんたちがまとめてセイウチに食べられるシーンの顔と悲鳴はたまらなかった。よく妖精のような生き物をいじめる妄想をしたけど自分はその対象が好きなのにいじめるとその対象に嫌われちゃうな…というジレンマがあった。 【小学生時代】夕方に再放送していた水戸黄門や大岡越前で町娘が悪いおっさんに手籠めにされそうになるシーンにものすごく興奮した。ただ子供なので裸に剝いたあとどうするのかはわからなかった。病院の待合室のテレビでそういうシーンが流れたとき明らかにいつもより人が見入っていてなぁんだみんな好きなんだとちょっと安心した。この頃まで性的対象は女性だった。(本当に女性が好きなのかショタや男の娘みたいに性的客体化されていれば男性でもよかったのかはわからない) 【中学生時代】オタク女性向けサブカル雑誌「ぱふ」を読む。記事や投稿コーナーで腐女子が男性キャラに「美人」とか「エロい」と言って盛り上がっている様子を読んで「男の人をそういう目で見ていいんだ…!」「男性を女性と同じようにオカズ要員として扱う界隈がこの世にあるんだ…!」という人生最大のカルチャーショックを受ける。ここらへんで主な性欲の対象が男性に移り変わる。リアルの恋愛には興味がなく周りの女の子たちがどうしてアイドルや恋バナに夢中になっているのか理解できなかった(今でもどんな人がタイプ?とか嵐だと誰が好き?と聞かれてもわからないので困る) 【高校生時代】テニプリ、BLEACH、銀魂、リボーンなど腐女子に人気のあるジャンプ漫画の全盛期で毎日起きた瞬間から寝る直前まで推しキャラや推しカプのことを考えていた。一番好きなのは受けがモブおじさんや攻めにレイプされる展開でそういう二次創作を読んだり妄想したりした。メインで好きなのはBLだったけど平行して女体に興奮するヘキも残っていたので、ドラマや漫画の女性登場人物がヌード写真集を見て嫌がるシーンを見て「これが一般的な女性の反応で見入ってしまう自分は異常なのではないか…」と不安になる。 【���学生時代】ゆっくり虐待にハマる。ウザいゆっくりに制裁を加えるよりキュートアグレッションの文脈で性的虐待する展開の方が好きだった。これは自分でもさすがにヤバい趣味だと思うので誰にも話したことはないし記憶に蓋をして努めて考えないようにしている。 この頃から刀剣乱舞など女性向けキャラカタログコンテンツが流行し、少年漫画には存在しなかった自分のアバターが作品内に登場したことで男性キャラ×自分にも萌えるようになる。(メインは男性キャラ×男性キャラで活動してたけど)思春期のころは自分の全てにコンプレックスがあって(今もあるけど)自分がかっこいい男性キャラと特別な関係になるのが厚かましいようで苦手だったんだけど、普段性的客体化している男性キャラへ向ける攻撃性を自分へ反転すれば夢妄想もイケることに気付く。かっこよくて悪い攻めキャラにレイプされたり利用されて捨てられる妄想が好きになる。 【現在】性欲が減退したのか妄想や二次創作自体以前より楽しめなくなった。BLはそこまで興味なくて男性キャラ×自分で妄想してる。(内容は催眠とかレイプとか)フィクションより現実世界のことに興味が出てくる。 ここから悩み相談になるんですが①女性なのに女体に興奮するのはなぜなのか?バイなのか?②幼少期から現在に至るまでレイプものが一番好きなのは異常か?③キュートアグレッションがあるのはヤバいか? ①について以前朝日新聞の人生相談コーナーに「私は男性が好きで結婚もしているけれどAV鑑賞が好きで、若い頃は女友達と観てゲラゲラ笑ったりしていた。これはどういう心理なのか?女優に感情移入しているのか?」という相談があって、上野千鶴子が「女体=エロい 男体=エロくない という社会のジェンダー規範を内面化していれば女性が女性に性的興奮するのは何もおかしなことじゃない」的な回答をしていて長年の疑問が解けた…!と思ったんだけど、その理屈だと私が社会経験の乏しい幼少期から女体の秘匿された部分に強い関心を持っていたのが説明できないのでは…?やっぱり本能なのか?と気になっている。②についてDLsiteの乙女向けランキングでは無理矢理凌辱系が常連なのでそんなことはないと思いたい。ただレイプものが好きと言ってもポルノあるいは自分がポルノ認定した作品のレイプ展開が好きなのであって、普通に楽しんでいた作品でキャラクターがレイプされるとショックで何年も引きずったりする。「日出処の天子」の刀自古と「ダウントンアビー」のアンナの件はトラウマになっている。③について最近もセイレーンに味噌漬けにされるモブちいかわ族に加害欲を喚起されて困っている。(嫌いだからいじめたいんじゃなくて可愛いからいじめたいという気持ち) なんでこんなことを聞いてほしいのかというと自分の性癖がはっきりしないまま婚活とかしていいのかな…?と気になったから。人付き合いが苦手なのと怠惰な性格と2011年氷河期卒で一度も就職したことがなくて婚活市場のスタートラインにすら立てないのと中学から大学卒業までぼっちで一時期いじめられたり学校生活にろくな思い出がなくてもし子供なんかできたら自分の黒歴史の再放送を見る羽目になりそうなのが不安で今まで一度も人とお付き合いしたことがない。そもそも人に恋をしたことがない。一人の方が気楽だけど「二次元キャラじゃない生きてる人間と恋愛する」「セックスする」という人生の実績解除をしたい気持ちもあって…めちゃくちゃ自分本位で申し訳ないですが…。そこで自分のセクシャリティとか性癖に引っかかるところがあるのにそれを隠したまま恋愛とか婚活するのは不誠実かな?というのが気になって行動に移せないでいる。あと男性は慣れてない分自分が性的客体化されるのは嫌じゃないか?とか。 まとめると・女性なのに学生時代は勉強に集中できない程エロいことで頭がいっぱい・ドハマりしたキャラの8割は男性だけど視覚的にエロいと思うのは男体より女体・男性を好きになるのにも腐視点と夢視点で二種類ある・リアルの人間に恋をしたことがない。テレビで見てかっこいいなと思うことはあっても熱が持続しない・性的な妄想は好きだけど自己肯定感が低いからか自分がリアルに当事者になるのは嫌悪感や恥ずかしさがある・性欲と加害欲が結び付きがち アラサーあたりから下の二項目が結びついて「自分を性的客体化されることが地雷な私が犯されるのを客観的に見て可哀想だと思って興奮する自分」みたいなよくわからないことになってる。まあSとMは表裏一体とも聞くし…。「性欲と加害欲をぶつける愛しい他者」が「性欲と加害欲をぶつける愛しい自分」にチェンジしたのかな?そう思うと人生の主役が30代半ばにしてやっと二次元から本人になった気がするけどもう手遅れな気がする。 【追記】長いのでそもそも読んでもらえないんじゃないかと思っていたのですが皆さん意外と真面目に読んでくださって体験談やアドバイスなどもいただけててうれしいです。特に同じ女性と思しきユーザーからの共感、AVや男性向けアダルトコンテンツ好きな女性も多いのがわかってほっとしました。もっとボロクソに言われても仕方ないと思っていたら意外と「ごく普通、実行に移さな��れば問題ない。婚活でもわざわざ言う必要はない」というブコメが多くて驚いています。「性癖」の誤用についてめちゃくちゃ指摘されてた。日常的に誤用の方で使っていたのでつい…以後気を付けます。あと「一度も就職したことがない」と書いたので「子供部屋おばさんニートなのか?」とのコメントが多かったですがバイトはしてます。(パート��アルバイトの場合就職という言葉は使わないそうなので)子供部屋おばさんなのはその通りです お恥ずかしい…。以下答えられそうな範囲で返信。 「女性が女性に対しての欲望を持つって言うのはラカンかなんかで読んだ気がするな。ほぼ忘れてるから説明できんけど笑"女は存在しない"だっけ。男のホモセクシャルというのは存在するが女のレズビアンはない、女を愛するのは(身体)男にとっても(身体)女にとっても正常。なぜなら(身体女は存在するが)精神が女は存在しないから、みたいなこと書いてあった希ガス。」 「女は不死である」って本ですかね?すごく興味を惹かれました。読んでみたいです。 「なにが元増田に対して言いたいかって言うと、自分の性癖に怖がらずに、むしろ色々取り入れたらいいんじゃないかってこと。あとレイプ陵辱暴力は確かに興奮するけど、例えるならばめっちゃ味の濃い料理なので、そればっか食ってたら舌が鈍くなるんじゃないかってこと。まあ鈍くなってもいいと思うけどね、自分の人生だし。」 味の濃い料理めちゃくちゃわかります…!どんどん強い刺激に慣れてしまってふつうの萌えに不感症になるのよくないですよね…。 「②については仕事してた身から言うと、受ける側が積極性を持たない極限がレものだ。マグロのフィクション版というか…。ただそこに首絞められとか腹パンされ嘔吐、腹ボコなどが入ってくると別の願望になるよ」「レイプって自分から何かする事ないし、なんならセックスするかどうかの決定自体も「されてしまった」にする完全なる受動的性行為なんだよ。」 めちゃくちゃ納得しました。よく「令嬢が政略結婚させられるけど実は両想いで…」みたいなTL漫画の広告が流れてきますがそういう「良好な人間関係を築く手間をすっ飛ばして素敵な相手と一緒になりたい」みたいな需要のもっと極端なやつってことか。 『婚活の理由が「恋愛」と「セックス」だけど、婚活とはそこ意外と関係ないから気を付けて。婚活は「これから人生を共に生きるパートナー」を見つけるところであって恋愛したことない人を恋愛させる機関じゃないぞ。セックスの可否ももちろん夫婦生活に影響でるけど…』「それよりも、自分に結婚が本当に必要かどうか、掘り下げた方が良いのでは。」「婚活は時期尚早ではないかな まず出会いの場に行って自分が人を好きになる感覚があるのかトライしつつ、自分の食い扶持を自分で稼ぐ経済的自立をするのがまず大前提では」 それは本当にそうですね…。言われてからよく考えたら「結婚したい」じゃなくて「結婚したいと思えるほどリアルの世界で好きな人が欲しい」だったかもしれません…。 『「女性はエロいことに興味がないもの���みたいな社会通念が女性の生きづらさに繋がっている気もする。性別に関係なく性欲の多様性はある』 実際最近女性の性欲について解説した増田の内容が非常に理性的だったのと、「俺のイメージする女性の性欲に近い」というブコメが上位に来ていたので「そうじゃない奴もいるよー」と知ってほしくて書いたところはあります。(ただ私の文章読んで女だって性欲まみれじゃないか!と思われるのも世の女性に迷惑かけないか心配になってきた…) 「言っちゃ悪いけどクソしょうもない凡庸な悩み。長文書いていいのはやかんが沸騰するの見て興奮するとかそんなレベル。」「正直どうでもいい凡庸な自分語りだけど一度も就職したことなくて今何してるんだ?婚活してる場合だろうか。たぶんその前に友達作るとこから始めた方が良さそう。性癖以前にコミュニケーションに問題ありそう。」 そう言われましてもアンケートとか取ったことないし本当にわからなかったので…。みんな普通に友人と何に勃つかとか何に萎えるとか会話するものなんですか?羨ましいです…。 「こういう長文を書くのは最も増田らしい増田の使い方のひとつだと思うしみんなどんどん書いてほしい。」 優しい。 『性癖や嗜好よりも学生時代のいじめとコミュニケーション不全の方が問題。現実逃避からやっと今に目が配れるようになったと。あなたに告げたいのは「これからよくなるから大丈夫」てこと。』 優しい。泣く。 「性欲が強いと豪語するなら、自分の自慰行為や性行為について語らなければそれは性欲として見做すことは間違っている。同性が性的に辱められている不様さを愉悦する悪趣味なだけだ。同性の友人の不幸にも興奮してそう」 それは全然違います。男性キャラがレイプされると女性キャラと同じくらいかそれ以上に興奮するので「同性が性的に辱められている不様さを愉悦する」には当てはまらないし、本文にも書いてありますが「好きor可愛い」と思っているキャラがひどい目に遭う展開に興奮するのでむしろ制裁されてスカッとするようなキャラがレイプされも全く嬉しくありません。「同性の友人の不幸にも興奮してそう」←尊敬するフォロイーの痴漢され報告ツイートを見てその人の良さを何も理解していない知らない男に雑に消費されたのが悲しくて未だにふっと思い出して嫌な気持ちになるのでそういうことを言われると腹が立ちます。侮辱された気分です。
自分の性欲と性癖について聞いてほしい。【追記】
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2023.9.8fri_tokyo
8時半起床、夜中に流れてきた岡田索雲さんの「追燈」というネットcomicを読み始めて、読み終えた後眠れなくなって3時に寝たので眠いです。漫画は関東大震災が起きた100年前の東京を舞台に、朝鮮半島出身者の男の子が目の当たりにした出来事のお話。受け止めなきゃと思いながら、人間の狂気が怖くて眠れなかった。 ※リンクから無料で読めます
ちょうど昨日、俳優のカトウシンスケくんに偶然あって、彼が出演している現在上映中の”福田村事件”の話をしたところ。これも関東大震災直後の実話に基づくお話で、映画の予告を見ると「十五円五十銭」と言わされるシーンがあり、胸が痛すぎる。漫画にも出てくる狂気の言葉。映画、絶対見なければいけない。
そういえば5時半に寒くて一回起きてしまったのだった。暑すぎた夏だったけど、もう寒くてかけ布団を探すなんて。寂しい気持ちになりながら、台風が近づいている雨の音に耳をすます。静かにしとしと、地面や草花に雨が当たる音、きれい。
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7月から、下北沢のボーナストラ���クという施設を運営している会社で、週に2回くらい働き始めていて、10時半からはその金曜定例会議。雨が強すぎるので、オンラインで参加することにして準備。こないだ鎌倉で買ったパラダイスアレイのパンを食べながら(酸味がうま〜)、報告内容をまとめる。余った時間で、個人活動として動いている案件を進める。秋に開催のいくつかのイベントの更新や、各所にメールの返信をするも、永遠にタスクが溜まっていくのだ。告知もめっちゃ溜まっている。自分のキャパせま、おそ、つら。うそ、順番にやるしかないだけなので、シンプル。やる。
新しい仕事が始まってからは、インプットが多い毎日で、リズムがうまく生み出せなくて、この2ヶ月は、飲み会もライブも遠���けてきた。人と話すのも、音楽聴くのも、ちょっとキャパオーバーで断りまくり。(みなさんごめんなさい)特に音は聞けない泣 だけど9月に入ってから、これだ!っていう感じで、うまく気持ちを抜けるようになってきたので、心も暮らしも復活してきた。それでも、コロナが落ち着いてきたここ半年くらいの世の中の急な全力疾走にはついていけなくて。けど、ついては行かずに、でも、止まらずに歩いて行き先を決めていくことをしながら、バランス取って休む。みたいなことができるようになった。あと、毎日歳もとっているので。
10時半。会議は毎度面白いなーと思う。毎回約10人が参加していて、それぞれ発言の時間があるのだが、発表の仕方も話の聞き方にも個性があって、勉強になる。自分が今進めていることも信じてくれることとか、すぐに自由にやらせてもらえることとか、とても嬉しいし気力になるし応えたい。
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12時に終了して、今日は朝からずっと卵焼き食べたいと思ってたので、白米を食べようと、ささっと茄子の味噌汁も作る。家に必ず常備している鳥取の”陶山商店”さんの乾物のうるめ(ワカメみたいだけど強い食感がおいしい)と奥出雲の干し椎茸で出汁をとる。うまい〜 この乾物シリーズには太田夏来さんのレシピがついていてそれも最高なのだ。納豆と、山クラゲの和物、キューリ塩揉み、茗荷の梅酢漬、質素で簡単なご飯だけど、こういうのが一番贅沢。10分で準備して、15分間で食べる。テレビも音楽も聞かずに携帯も遠くに投げて、食べるだけをする時間をする。食べるを意識することだけの時間、だいじ。
14時から打ち合わせがあるので、カッパを着て駅まで向かい電車で3分の下北沢へ。施設で毎月開催している本のマルシェの担当になるので、施設内の本屋さんとも、もっと連動できないか相談と、これからの進め方について。やるからには、自分が一番楽しいと思えることがやりたいし、諦めるをしたくないので、伝える。いい話ができた1時間だった。無理なく、だけど熱量を持ってやっていきたい。
この後の会議の前に、施設内ギャラリーでやってる新潟のツバメコーヒーさんの10周年を記念した、”工芸と工業のあわいにあるもの”という展示会へ。今展示会で初お披露目のオリジナルドリッパーを試しながら自分でコーヒーを淹れることができるので、久々にコーヒーを淹れる。「丁寧に淹れますね」と言われるが、自分にとっては心地よいリズムなのと、どんなに癖のある豆を使っても、コクとかを飛ばして、スッキリシンプルな味わいになっちゃうのが悩みだったので、相談すると、「スッキリって何事にも良くないですか」と返してくれた。ツバメの田中さん、すごくおもしろそうな方だった。もっと喋ってみたかった。
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16時からのイベント反省会は、みんなが正直ですごく良い会議だった。ここが好きだよ!ここむかついたよ!気づかなくてごめんね!みたいな、正直な大人たちの優しいぶつかり合い、大好き。会社のみんなは本当に個性強くて、それぞれのやり方や、得意・不得意があるけど(自分も然り)人の話をちゃんと聞いてくれる優しい人たち。頭の回転が早く、柔軟で、おもしろい。ちゃんと愛があるし。
そんなブレストは2時間を超えて、飲み会へと移行されていき、それぞれの人生における大事な音楽を発表→みんなに聴いてもらう→それについてみんなで語る。という、胸熱な時間になっていきました。久々に聞いたラポン・シュポンのライブ映像、めちゃくちゃよかった。
最初はカラオケの順番みたいに、ルールを守ってたけど、最後はみんなかけたいタイミングで音楽を流していく始末(とてもいい始末)。時間は流れていき、舞台を見るために途中抜けしたはずのあやかたんも(まだやってるの?笑 と)戻ってきてくれて、酒を飲みながら、スナック菓子をひたすら食べまくる永久時間は終電ゴングで終了。雨が降っていなければ、半分はチャリメンだから、永遠に終わらない飲み会だったので、終電様感謝。雨も小雨になってきた。
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その後、降りる駅が一緒のミヤジと歩いて帰りながら「この信号が変わったらもういくからね!」を繰り返して30分後、無事帰宅。 今日のタスク全然終わってない、やばいな…………みんなごめん…って思いながら、顔だけ洗って寝転んで、��らに超眠いのに、どうしても「ハヤブサ消防団」が見たくて、パソコン開いてTverつけたままご臨終。
日記で振り返りながら、今年は特に、1日が終わっていくのが、1週間が、1年が早すぎる。仕事も友達と遊ぶのも大好きで大事だけど、それより何より、誰かとデートがしたいです。旅行いって、ダラダラする感じ、やらないと。改めて感じたのであります。赤裸々日記終わりでございます!
-プロフィール- 鷹取愛 40 山ト波 @opantoc
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Recently enjoyed (2023/01~03)
Been a while since my last update: life has been shifted to somehow an interesting direction😎 Just crossing all of my fingers (including toes) for lucks of myself and my favs🤞
驚くほど放置してしまいました。この期間は中村倫也さん作品に浸りつつ地上波ドラマを追っていました。このクール最高すぎて毎週テレビの前で爆泣きしていたのはきっと私だけではないはず。。。4〜7月と7月以降も手書きのノートにはまとめてるのでまたちまちまメモしにきます。
ハリー・ポッターと呪いの子(劇場鑑賞)
湯道(イオンシネマ)
ケンジトシ(舞台配信)
Lie To Me (Amazon Videoレンタル)
リバース(Hulu)
ビリギャル(Hulu)
春なれや(Hulu)
THE FIRST SLAM DUNK (横浜ブルク13 / IMAX)
貞子vs伽耶子(実家のJCOMでやってたの見てました)
シン・仮面ライダー(TJOY横浜)
シンゴジラ(Amazon Prime)
シンウルトラマン(Amazon Prime)
僕等がいた(Amazon Prime)
2023年1月期に追ってたドラマは下記。
Get Ready!(TBS)
ブラッシュアップライフ(日テレ)
女神��教室(フジテレビ)
星降る夜に(テレ朝)
夕暮れに、手をつなぐ(TBS)
大奥(NHK)
リバーサルオーケストラ(日テレ)
警視庁アウトサイダー(テレ朝)
100万回言えばよかった(TBS)
今夜すき焼きだよ(テレ東)
三千円の使い方(フジテレビ)
ハリー・ポッターと呪いの子(劇場鑑賞) 年明け初日、向井理さんハリー回見てきました。顔ちっっっさ……足なっっっが……舞台作品って主役級のキャラクターは5分くらい焦らしてから登場する感じのイメージが謎にあったため、本作で体感開始30秒くらいで向井ハリーが普通にど真ん中出てきた際にはヒエ〜〜言うてました。劇伴CDと配信版聞いた感じ曲と曲の繋ぎ目がほとんど分からない感じだったので結構厳密に時間が決まってたのかな?第一幕みなさんかなり早口だな〜と思っていましたがすぐに慣れました。マチネだったのですが見終わって時計見たらぴったりの時刻をさしてたので驚きました… とにかく魔法がすごい、ディメンターが怖い、という噂だけ聞いていたためとりあえず本筋だけ把握していこ〜と思ってシナリオブック(?)を事前に読んでいって正解だったかもしれません。「この場面のセリフじっくり聞きたい!」と狙いを定めて臨まなかったら脳の処理が追いつかなかったかも…と思うほど魔法が魔法でした。魔法だ…(?) マルフォイ父子の好きなシーン(闇の世界のあのシーン)が今回の上演ではカットされていたのですが、宮尾ドラコと門田スコがセリフのない場面で互いにとても大切にしあっているお芝居をされていて大号泣しました… ホラン千秋さんの「ミルベキ」で見て以来エハラマサヒロさんのロンを見たくて見たくてそわそわしていたので本当に最高でした…🤣他のキャストさんでも見たいなあ…
湯道(イオンシネマ) コメディとジーンとするシーンとの切り替えや塩梅が絶妙で、「良い映画見た」というより「良い時間だったな〜」と思いながら映画館を出ました😚♨️ 円盤で手元に置きたい……初日に見に行ったのに夕方だったからかグッズがほとんど売り切れていてま��きんのアクリルキーホルダーだけお迎えして帰りました。手拭いほしいなあ。 スーパー銭湯はよく行くものの純粋なピュア銭湯そういえば行ったことないな〜と思って近所の銭湯を検索したところ素敵な場所がまだまだたくさんあることもわかったので地道に開拓してみたいです。お風呂大好き…日本に生まれて良かった…
ケンジトシ(舞台配信) 中村倫也さんと黒木華さんという凪のお暇コンビが宮沢賢治とトシの物語をされるなんて‼️と張り切ってチケット先行やら抽選やらに星の数ほど(正確には両手の指の数ほど)参加して全て落選し血涙を流していた昨年末の私へ……シスカンパニーさんが配信してくださいましたよ!!!やったーー!!!きっと同じく落選続きで悲しんでいた仲間の中に前世で世界を救った方がいらしたんでしょう。その”徳”に便乗させていただいてしまいました。 小説悲劇喜劇 (2020年7月号) に掲載されていた脚本だけ読んだら脳内にハテナしか浮かなかったのですが配信でも舞台を実際に見たら………ハテナが三倍になりました。笑 舞台演劇については昨年10月に鑑賞した「夏の砂の上」のティーチインで脚本家の松田正隆さんがお話ししていた、「劇場というのは不思議な場所」というくだりのことを思い出しつつ、理性で理解するストーリーではないんだなあということだけ考えていました。(こっちの感想の方でちょっとメモしてました) 宮沢賢治に限らず詩作に思いを馳せて言葉に浸る・ということを、とんと行っていないここ数年だったのでとても良い時間を過ごしました。この作品こそ劇場で見たかったな〜
Lie To Me (Amazon Videoレンタル) 1話だけ見ました。The Mentalist やら Suits やらが好き、という話をしていたらお薦めしていただきました。英語の勉強も兼ねようと思ったんですがお仕事ドラマの英語まじではええ〜🤣 息をするように下ネタが出てくるのは、日本のオフィスラブ系ドラマで未婚や年齢・見た目いじりがスルッと出てくるのと似たようなノリなのかな〜と悶々としていたら終わっていました。同僚がセックスライフに口出ししてくるのと見た目のコンプレックスを笑ってくるのと、どっちの方が嫌と優劣をつけるものでもないんですが、これは慣れというか文化というか、「見慣れている」か否かの感覚の違いなのかなとも思いました。(有名な比較で言うと、アメリカのコメディアンがエスニック関連のジョークを言うのと日本のお笑い芸人が相方を叩くのとで反応が違うような) 閑話休題、サスペンス面とマイクロジェスチャー関連の出し方のバランスがきっとシーズン重ねるごとに面白さを増すんだろうなと期待したところで見終わりました。うーん、The Mentalist はメインキャラの中で積極的に性の話をする人がいなかったので見やすかったのかなと思いました。リグズビーが初っ端からグレースを狙ってたくらいしかしばらく言及がないので… 議員さんが若気の至りでできた子とはいえ、身を挺して娘を守ろうとする未来への解決(過去を無為に責めない)展開すごい好きでした。
リバース(Hulu) 藤原竜也主演、湊かなえ原作ドラマ。おすすめされていた作品をようやく見ました。面白かった〜〜!原作小説は二億年ほど前に読んで結末も忘れていたのでああこんな終わり方だったっけと思ったらちょっとハピエンになっていたようです。藤原竜也の将棋ドラマとハリポタ舞台をこのあと 2023 年 6 月に見たのでお芝居の振り幅すごすぎて頭抱えてました。俳優さんてすごい…… あと市原隼人の顔が良すぎてどこかのシーンでビール飲んでるところで一時停止して飲み物を取りに行き、戻ってきてテレビに目を戻したらCMのような良い飲みっぷりの静止画だったので笑いました。顎から鎖骨にかけての首筋が綺麗!
ビリギャル(Hulu) 有村架純さんが主演と知らず、石子さーん!と思いながら見ました。可愛かった……聡明さと天真爛漫さのマリアージュが絶品でした。 私自身個別指導の塾講師として勤務していたことがあり(というか今でも副業で続けており)、伊藤淳史さん演じる先生が褒めて伸ばすスタンスなことに共感しながら見ていました。宿題をやってこなかったり、できて当然の(むしろ年齢に対しできていないとまずい)問題を間違えたり、呆れたり怒ったりすることはいくらでもできるのですが、塾に来る生徒さんは何かしら課題や目標を抱えている状態が多く、もう既に散々呆れられたり怒られたりしてきている方もいます。そんな嫌な思い出しかない勉強をしに、本当ならのんびりしたい夜の時間に塾にきてくれた生徒さんに少しでもポジティブな気持ちになってもらいたくて私もとにかく褒める指導をしている派です。 もちろん、そういう講師に対してはハナから知らん顔をする生徒さんもおり、そうなると私の力量ではどうもできないので別の指導アプローチ��する先生に相談したり、最終的にはチェンジになったりしています。 個別指導の良いところというか面白みは、生徒���んのスタンスと講師側のアプローチのスタイルが合致した場合に天井知らずの爆発的な伸びを見せることがある、という点にあると思っています。違う世代の若い考え方に触れる機会もありがたく、これからも続けられたらなあ…などなど、めちゃめちゃ自分語りなことを考えながら見ていました。父と弟の変化についてはフィクションだからこその綺麗なまとまり方で良かったです。ここまでくれば名大を受けていた同級生男子も合格してハピエン全振りでも…と思ったりもしていました。
春なれや(Hulu) 何みようかな〜と適当に Hulu のトップページをスクロールダウンしていた時に春を感じるドラマ特集の一覧に村上虹郎さんの顔を見つけて再生しました。17分くらいしかないのですが、じんわり心があたたかくなる作品で素敵でした。 全体的にセリフも少なくぽつぽつ会話するのが印象的で、宿命も春には及ばず。来年もまた咲くわね、という穏やかなセリフが記憶に残っています。
THE FIRST SLAM DUNK (横浜ブルク13 / IMAX) 漫画でリョーちんに憧れて PG 志願した小学生が私でした。アニメは見ていなかったので声優さんについても特に何も感じず、ただ3Dってどんなんだろうな〜と思いながら見に行き、良い試合を見た後のような高揚感で帰ってきました。めちゃめちゃ集中している試合の時ってコートで中腰になってる間の記憶が飛ぶんですが、変なタイミングでふと昔のこと思い出したりしてたのでリョーちんの回想が入ってくるのも「ああ〜」と思いながら見ていました。てか沖縄!?兄!?!知らなかった……
Get Ready!(TBS) 今でもあのマスク型キーホルダーとかスイーツの食玩グッズ販売待ってます(2023年8月現在) このドラマ見てお医者さん憧れるお子さんも多いんじゃないかなと思いました。ゲーミング手術室はともかく AI アシストと最低限の人数での施術ってもう導入されてたりするんでしょうか……現代世界線に SF 要素とヒューマンドラマが混ざり合って面白かったです。
ブラッシュアップライフ(日テレ) バカリズムさん原作のウェディング・ハイ!を見て以来楽しみにしており、この3ヶ月本当に楽しく過ごさせていただきました。面白かった…! 当初、悪口や噂話ベースでナレーションが入るので主人公のことが苦手だったのですがそこについても二周目の人生で早々に回収されていて笑いました。友人を大切に思う気持ちがものすごく共感できて泣いたり笑ったり心地よく情緒を揺さぶっていただきました。また長い休みにまとめて見るか、毎日1話ずつ見るような感じでもっかい見たいな…
女神の教室(フジテレビ) 北川景子様の圧倒的”美”とオレンジ色の優しい画面に毎週癒されていました。法律にいろんな解釈があるのは相棒やら99.9やらでなんとなく知っていたものの完全に法曹界側(しかも学生側)から垣間見ることができたので面白かった…!フィクションであることは念頭に置きつつ、全然知らない職業についてちょっぴり知ることができるのもドラマの良いところ…
星降る夜に(テレ朝) びびるほど毎週泣いてました。ディーンフジオカをこんな癒し要素の配役にしてくださってありがとうございました……可愛かった……と思ったら後半胸が苦しすぎて一周回って大盛り上がりでした。 間の取り方と BGM が天才すぎて主題歌聞いただけで胸が熱くなります。JIN だ……
夕暮れに、手をつなぐ(TBS) ヨルシカと n-buna さん大好きの民、ティザーの時から楽しみにしていたので何もかもに大喜びでした。春泥棒のアレンジ音源ほしい… 主題歌のアルジャーノンが良すぎて、小学生の時に読もうとして冒頭のプラトン「国家」引用部分でくじけたままだった「アルジャーノンに花束を」をようやく読み、放心していました。もっと早くに読みたかった…10代の頃に読めていれば、もっと優しい人間になれたかもしれなかった…
大奥(NHK) 冨永愛様目当てで見て毎週口開けっ放しでした。全員、かっこいい…… 原作漫画を確か有功が亡くなるか僧になったんだかするところまで読んだような気がするのですが全然覚えてない…くらいの状態で見たので毎週の展開にハラハラしながら大盛り上がりでした。面白かった……10月から第二期ということで楽しみすぎます。三浦透子さんが一瞬わからないほどだったので今後もさらに楽しみです。半分怖いくらい…
リバーサルオーケストラ(日テレ) 門脇麦さんの魅力に完全にやられました。可愛かった…!!! 箱推しドラマとはまさにこのこと…と思いつつ、実は1話が録画できていなかったので最終回間近になってからやっと Hulu で全話追い、最後数話をリアタイした形でした。のだめ大好き勢なのでオーケストラものが嫌いなはずがなかったのですが、そもそも学生オケと社会人オケなので当たり前に全然違う、全く違う方向性で最高に面白いドラマでした。楽しかった… のだめは千秋やのだめといった天才が音楽と当たり前に生きる中での葛藤や戦いの物語だったのに対し、リバーサルオーケストラの方は主人公の二人以外にもしっかり焦点が当たっていて、天才というより秀才寄りのキャラクターたちが大好きな音楽にしがみついてもがいて生きる様子も描かれていて泣きました。芸術にしがみついて生きるのって辛いけど、幸せ… あと門脇麦さん演じる主人公が周囲の期待や圧と戦う描写も繊細で好きでした。面白かった〜〜😭円盤買いたい…
警視庁アウトサイダー(テレ朝) 特撮大好きな友人が大盛り上がりで見ていたので元ネタを教えてもらったり出演者さんのネタを教えてもらったりでキャッキャしながら視聴しました。楽しかった!私は唯一 BLACK SUN ネタ���けわかったので大喜びでした。歌川親子が切なかった……🥲
100万回言えばよかった(TBS) ビターエンド最高すぎました。井上真央さんには個人的に、あの笑顔や花男のイメージでどうしてもめちゃめちゃ太陽のようなポジティブパワーがある方だと思っていたので、この方をしてバッドエンド(というか死別しっぱなし)になるはずがないと思い込んでいました。そのため中盤で佐藤健の死亡が確定した時点でだいぶ動揺し、そのままラストまで見てしましました。泣いた……最後海辺を一人歩く井上真央さんのシルエットの美しさよ……
今夜すき焼きだよ(テレ東) エンディング曲が最近友人が推しているリルリーグさんだと最後の方にやっと気づきました。ダンス可愛かった…
三千円の使い方(フジテレビ) 浪費家なので倹約のコツとかあるかな…と思って見始め、録画設定のミスで途中から撮れなくなってしまっていました。無念…
貞子vs伽耶子(JCOMの何かの局での放送) 実家に帰って深夜にチャンネル回してた時に流れてて見ました。お手本のような邦ホラーで、これは高校生の時に友人と見て盛り上がりたかったな…と思いました。最終絶叫計画の系譜を感じつつも本格的なホラーっぽく、ドンと驚かすところはびっくり効果が最大だったのですごかったなあと思って後で調べたら真剣なホラー映画だったっぽいことが分かり文字通り瞠目しました。
シン・仮面ライダー(TJOY横浜 / Dolby) エヴァンゲリヲン含めシンシリーズというか庵野監督作品をちゃんと見るのが初めてで色々度肝を抜かれました。森山未來がマ〜〜美しい……そしてハチオーグのるりるりへのもはや暴力的な執着にも似た友愛は多分女子なら誰でも小中学校くらいの頃に経験があるんじゃないだろうか……
シンゴジラ(Amazon Prime) 無駄に足を引っ張ったりごねたりする人間がおらず、各々がそれぞれの仕事をバキッとこなしていてかっこよすぎました。最高のお仕事映画…! 未曾有の事態に決して諦めず仕事し続ける官公庁側の人間たちが最高すぎました。怪物の生き物感というか造形が全体的にめちゃめちゃエヴァでウフフ言うてました。
シンウルトラマン(Amazon Prime) シンシリーズすごいのは元の作品を全然知らない状態で見ても血湧き肉踊り大盛り上がりで見終われる点でした。米津玄師のエンディングがつええ〜
僕等がいた(Amazon Prime) アマプラ配信終了間近だったので前後編一気に見ました。生田斗真と吉高由里子の平成恋愛映画最高すぎました。BGM良かった〜映像が美しかった〜あと生田斗真に辛いエピ背負わせてくれてありがとう……
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ある画家の手記if.85−+ 名廊雅人/直人視点 告白
直子にないと言われた育児の能力が僕にあるのか、直子より意識が少しはっきりしているように装える、その程度の差しかないこの僕に。
あの日、直人に言った言葉ーーー嘘をつくな、と。それは直人の中に深く刷り込まれるようにして全身に浸透してしまった。 相手が言葉のどの部分を重く受け止めるのかは分からない。ただ、直人はあれ以来、必要以上に嘘をつくことができなくなった。 適当に流すなり誤魔化していいものを、そのままを口にしてしまうようになった。 それが相手を傷つける結果になったり自分にとっての敵を増やすことに繋がろうと、それより遥かに嘘をつかないことのほうが直人の中では重要であるようだった。 僕にはそれを歪だと叱り飛ばすことも愚行だと一蹴することもできなかった。無理に改めさせれば直人の精神がもたないことを意味しているのかもしれなかったからだ。 ただ引き金を引いた者として、親としても、最低限の躾に留める以外なかった。 嘘をつけないのなら思ったことを軽々しく口にしてはならない、慎み深くありなさいと。僕に言えるのはいつも至極当たり前のつまらないことばかりだった。
「兄さん」 夜中、小さな明かりをつけてベッドの上で本を読んでいた僕の部屋の扉を少しだけ開けて、隙間から直人の目が僕の顔をじっと見つめていた。 「直人 おいで」 本を閉じて部屋に招くと、パジャマを着た直人はベッドの横までやってきた。 「眠れないか」 「うん」 直人は僕が布団を少し持ち上げてやるとベッドの上によじ登ってきて布団に潜り込み、僕の横に小さく丸まって寝た。直人の体に布団をしっかり掛け直すと、明かりを消して僕も一緒に目を閉じた。 4、5時間の睡眠で事足りるから僕は昔から大して眠らないが、直人はよく眠る子供だった。 それがあの日を境に、直人は僕以上に眠らなくなった。この年齢から睡眠薬を常用させるのはあまり良くないかと思い、なるべく眠れるように気休めにホットミルクを飲ませたり適度に日光に当てて環境を整えてやる程度で、医者に診せたりはしなかった。 僕の判断が正しいかは分からない。誰にも分からないだろう。
***
僕は小学校に上がる前の直人を���育園や幼稚園や、僕や名廊の人間が定石のように通ってきた西蘭の幼稚舎に行かせることをしなかった。 教育や発達の面からみても同年代の子供たちと触れ合わせてやるべきなのだろうが、直人は全く手のかからない子だった上に、少し家が離れてはいるものの比較的近所に近い年齢の子供たちがいないわけでもなかった、直人はそういう歳の近い子供たちと遊んだり共に過ごすのが苦手なようだった。 その頃の僕はどんな形であれ教育というものすべてに払拭できない疑念のような何かを抱いていた。翻って自分の育児への猜疑心と表裏一体だったのだろうが、僕にも焦りがあったのか、懐疑は安らぎだった、疑うことはいつもあまりに容易かった。 直人は言葉も早く、文字や数字も幼いうちに覚えて小学校に上がる前には漢字を学んでいた。見ている限り視覚処理に強い体質を持って生まれたようだが、数字という概念や抽象化されたものへの飲み込みも随分と早い。そういうものへの理解の年齢は9歳前後が平均だ。 僕も少しは教えたが、理人の教え方が上手かったのだろう。直人と僕の二人きりの家に、弟の理人はよく顔を出しにきた。
「兄さん、明日直人を連れて動物園に行ってきてもいい?」 理人が笑って切り出した。僕たちは直人が眠ってから遅い夕食を食べていた。 「お前…、次の学会までもう日がないとか言っていただろう」 「それは平気、やること終わって俺も時間あいちゃった。直人も好きな動物が一匹でも見つかったらいいと思わない? 同世代の子に関心なくても生き物は好きみたいだよ」 「生き物?」 「川に連れてったらカニとか捕まえてくるし、このあたりの猫をよく追いかけ回してるよ。かわいい」 屈託のない笑顔で直人のことを語る理人はいつも嬉しそうだ。 自分の教えることをよく吸収して興味深い素朴な疑問を抱く直人は幼いながらにもう優秀な学者候補であり教えがいがある、でもこの家にいるだけでは自分が教えてあげられないものの方が膨大すぎる、思考力は四角四面の勉強とは無縁そうな遊びから授けられるものだ、と。 そういう考えは僕にも理解できるものの、仕事でなかなか時間をとってやれない、僕のかわりに直人の相手をしてくれる理人には随分助けられていた。 早く銀行勤めから家でできる投資やコンサルタント業に仕事を移行させていこうと考えていた。それまでは理人の力も借りるべきだろう。 「俺より兄さんのほうが本家からの資金援助を受けるべきだよ、直人の養育費も含めてさ。ほんとうに優秀な人材って兄さんが思うほどあちこちに簡単に転がってるものじゃないんだからね」 理人は事あるごとに僕が本家から半ば見限られたことへの不平を言っていた。 「お前は昔から僕を高く評価しすぎだ」 「そうかなぁ…銀行に務め���のだって堅実な生活のためでしょ?他にいくらでも才覚を発揮できる分野があったのに…」 納得のいかない顔で料理を切り分けている。
堅実な生活。せめてあの子に金銭面での苦労は生涯させまいというだけだった。直人を放置してでも���いたい何かが何もなかったともいえる。そして僕に親としてできるのは金絡みの、その程度のことだった。 もともと僕に父親の真似事など不向きにも程があった。直人に対して僕はたった一人の家族としても父親としても兄としてもあまりに冷徹で無関心なのだろう、少なくとも周囲からはそのように見られていた。 どれだけ深い愛情を抱えていようと直人に伝わる必要はなかった。あの子を守るために小賢しく立ち回り、本家の敵を惨いやり方で潰し、必要であれば追い込み殺す、それらの理由を直人に起因させ浴びせかけることが僕には我慢ならないほど卑劣に思われた。当時の僕はそんな風にしか考えることができなかった。 直人は僕から愛されていないと感じただろう、幼い子どもにとってそういうものがどれほど重要か分かっていながら、僕は直人に厳しく接することしかできなかった。僕の歪みが直人をこの世に産み落としたことに、どこかでは気づいていたろうに。 翌日、直人は理人に連れられて外出して、クジラのぬいぐるみを大事そうに抱いて帰ってきた。 「ホエールウォッチに変更したのか?」 理人に聞くと、直人はぬいぐるみの中から一つを選べず動物園にいなかった動物を買うことにしたらしかった。 「それにクジラが好きなんだって、大きくて兄さんと似てるからって言ってたよ」
直人は理人によく懐いていた。 僕としてもそれは嬉しかった。理人は明るく天真爛漫で僕とはまるで違ったから、直人にはああいう人間も身近に必要だと思った。 直人は生まれてこのかたほとんどの日を僕と家で過ごしていたが、直人が自然に使いはじめた一人称は「俺」だった。テレビもつかない静まり返った家で外部からの情報が入ってこない以上、書物か、理人の影響だろう。 疑うことが安らぎになるような自分を寂しい人間だと無意識に嘲笑することに疲れたタイミングで理人はいつも僕に寄り添ってくれた、幼い頃から。 僕は理人に対してだけ、完全に注意を怠っていたし、昔から意識的にそうあろうとさえしていた。信じたいと願える数少ない人間の一人だった。
***
今の直人の一人称は「僕」だ。 あの日から、急に変わってしまった。おそらく僕の真似なのだということは言動の端々の変化でも見てとれた。 僕の隣に小さくなって眠った直人の体を布団の上からさすってあやす。ようやく少し眠ったと思えば声もたてずに静かに泣き出す。大人しくて穏やかな子ではあったがこんなにしょっちゅう泣く子ではなかった。
あの日、僕は誰より愛していた人を切り捨てて直人を選んだ。 僕の静かな決断と決別を目の当たりにした直人も、僕と生きる道を選んだ。ただ幼��ぎて手段がなかったのだろう、直人のそういう想いは僕と歪に同化していくような形をとった。 真実かは分からない、ただ僕は直人を選んだしこれからも愛すだろう、死ぬまで、直人のために必要ならどんなことでもするだろう。 それらをせめて直人本人に悟られずに終わらせることができれば…そこが僕の人生の僕なりの及第点かもしれない。 僕が最期に選ぶのも直人だろう。今ではないというだけで。 明日から、僕は自分の一人称を改める。この齢の男児が真似するには少し抵抗感のあるだろう「私」に。 直人が僕になってしまうのなら、僕は別のものになろう。直人の中で僕と自分の境界が曖昧に揺れて壊れることのないように。
名廊理人視点
(雅人/直人視点について)
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ハロー(´ー∀ー`)
昼ご飯で珍しくシフォンケーキを食べてたら、ハタチの子に「女子力の塊〜」と言われた私です。
そのテンションにはついていけませーん。
手作りではありませーん。
シフォンケーキなど作った事ありませーん。
(女子力ゼロでーす
はい、私のコミュ障が伝わったところで←
今回はゲームについて。
FF6が終わって、次はどれを片付けようかなーと迷っていました。
私の積みゲーは約30ほどあります。
(積みすぎて死ぬわ
悩んだ挙句、次のゲームは「ゴーストオブツシマ」にしました。
以前、ありすチャンネルの方で何となく配信してましたが、配信外でプレイする事を決めて数日前にプレイを再開しました。
(誠に勝手ですみまめーん
借り物なので早く返そうと思って←
世界観もストーリーも操作も全て忘れ去っていましたが、何とか武士の感覚が戻ってきました←
蒙古の頭・コトゥンハーンに伯父を人質に取られ、主人公の境井仁が繋がりのある人々に助力を請いながら救出へ向かう、というお話。
蒙古って無知の私にはあまり聞き馴染みのない言葉。
調べたら昔のモンゴルやその地域の事みたいな感じっぽい。長崎・対馬へのモンゴル人来襲って表現でストーリーは運ばれているようです。
テーマは「元寇」らしいのですが、社会で習いましたよね←
殆ど記憶にない私です。元寇という言葉は聞いた事ありますが。
時代劇をゲーム化した(稚拙な表現で申し訳ない)ようなこの作品。
私は大人になってから「遮那王義経」という漫画を読んで、歴史ものってこんなに面白いんだ!という感情を知りました。
なので昔のお侍さんの時代に、どんな生き様があり、どんな感情があり、どんな矜持があり、高貴さや誉を抱えて生を終えたのか。
そうい��た事を知るのはとても興味はありました。
現代からすると理解が難しい表現や、言葉遣いなども多々あります。
こんな事を語っていますが、私の進行度はまだまだ序盤(笑)
メインストーリーを積極的に進めてはいますが、この先の旅は長いものになりそうです。
一点、このゲームは日本産ではないという部分。
言葉運びは私の知らないものも沢山出てきて、難しい言葉に「???」となる事もw
むしろ日本人なのにすぐに理解できないことが恥ずかしいとさえ思う。
日本人よりも日本に詳しい海外の方をテレビとかで見ると、日本人の私は勉強不足で無知でハズカシイデスニホンノハジセップクシロ
(言い過ぎ
現時点では、仲間を集めて伯父上を救出しに金田城(かねたのき)に突入したところでまで進みました。
城を「き」と読む事もほえーっとなりました。言葉遣い真似したくなるねw
痛み入りますとか普通に使ったら和みそう。
ただねー、まだ序盤なのにもう飽きてきてるんですね←
オープンワールドの楽しさはゼルダのブレワイで知ったんですけど、ツシマは…特にワクワクを感じません←
必殺技を習得するためのサブクエなんか、2つ目でもう既に「めんどくさい」ってなってしまって。
絵の場所見つけたりだとか、中ボスとの戦闘とかガードして回避して隙に攻撃してってワンパターンの繰り返し。
他のサブクエや刀や弓の強化なども全てが苦痛な作業に感じ、強化してくれる人が村のどこにいるのかとかマークも非常にわかりにくい…汗
花を集めるシステムもそこまで必要と感じる事はなく。移動中も同じ画面内にマップを表示できるシステムだったらいいのに…とか、メニュー画面のままいっそのこと強化できればいいのに…とか、少し不便だなーと感じる部分があります。
まだストーリークリアしてないので評価は下せませんが、ハマる事はなさそうです←
(借りた分際で何を言ってるんだか
ツシマ終わったら何しようかをもう既に考え中…
ホライゾンゼロドーンを放置してる事がずっと心にありますが、なかなかヤル気もモチベも出ない←
とりあえずは他のものを片付けようかな笑
PSVRのゲームも沢山あるので、そちらを片付けたい気持ちもあります。
話は変わって、最近前髪を巻くのにハマっています。私はカールアイロンよりもストレートアイロンの方が巻きやすいけど、巻き方があまり上手くないので毎日違う形になります😕
インスタとかで勉強すると、皆巻くのが上手すぎて参考にならないんですよねw
これはもう日々の努力、積み重ねの賜物なんだろうな…ってとにかく実践し続けるしかないのでしょうね。
器用な人多いな。
本日のうまくいった前髪はこちら。夕方にはこのカールがあらぬ方向へ暴走してる時がありますw
気分屋の前髪です
この猫かわいい笑
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20200611世は初夏の日と。
知らん間に日が延びていて春もいつの間にか19時になってやっと沈む太陽の影に隠れて見えなくなった。最近は、なにもかもがおもんないわーという感じがやたらとしている。おもんないわーって思わない?おれだけ?毎日朝起きてさ、仕事してメシ食ってねるだけ。いやコロナ以前の世界が言うほど毎日感動に満ち満ちていたかというとそうでもないんだが、四六時中なにをしてても退屈で、淡々としていてどうにかなりそうで、柄にもなく部屋に花を飾ったりお気に入りの音楽を流してなんとか自分の機嫌を取ってるみたいな生活が、今だ。この今の感じを青春時代に似ているとかなんとか言ってる人がいてなるほど言われてみれば群馬の田舎で過ごした中学時代にクリソツだ。最終学歴はクリ卒。今のギャグは普通にいらんかったな。
おれの中学時代といえば、とにかく毎日が退屈でしょうがなかった。退屈でしょうがなかったけど別に不登校という選択肢を取るでもなく、ただ漫然と学校に行ってそこそこ真面目に勉強して部活をして恋をしたりしていた。山あいの小さな村だったので大した娯楽もなく、テレビも大して好きじゃなかった。自分が何が好きで何を面白いと思うのかよく分からないまま、手探りでなにか面白いものを模索していたし、10年そこそこに小さな村でおれの身や周りで起きたなんてこたない過去の出来事に思いを馳せたりして暮らしていた。今の生活もそれに似たようなことが起きていて、娯楽がかなり限定されたホームにステイしないといけない状況下にあって、なんか面白いことないかな~っとインタネッツを眺めたり、あの頃と比べりゃそりゃーそれなりに増えた過去の出来事を思い出したりなんかしている。小学校時代に転校していった友達のこととか、中学時代、最後の大会前におれ主将やってたもんだから喝入れていこうぜってことで頭を丸刈りにしたんだけど、他のメンバーが誰一人ついてこなくて、むしろなんかちょっと引いてねお前ら?みたいな感じだったこととか、高校時代遠い町の学校に試合に行くのに道中の電車で後輩使って近くの女子高��をナンパさせたものの普通に断られて思いのほか後輩がヘコんでしまったのを慰めたりしたこととか、大学時代仲良かった友達と新宿の映画館でレイトショーを見てそのまま歌舞伎町の雑居ビルの屋上にのぼって朝になるのをずっと待っていたこととか、ほんと最近おれ近々死ぬんじゃねと思うくらいいろんなことを思い出すんだけど、それって中学時代のおれが家で退屈で死にそうになりながらやってたこととおんなじなんですね。あれからそりゃそれなりに時間が経ったし、社会的地位も多少なりとも変わってるわけで、産毛しか生えてなかった口元にも毎日剃らないといけない厄介なヒゲが生えたりしてるわけなんですが、本質的なところは13歳のころから何一つ変わっちゃいない。鏡に映るのはジレットフュージョンを持った、ブカブカの学ランを着たおれだ。いや嘘だわおれの中学は制服着るのは試験のときだけだったからちょっとこのくだりやり直すね。鏡に映るのは、ラムダッシュを持った、体操服を着た俺だ。ほら~二回同じようなこと言うからイマイチ決まらないじゃねえか~しかもなんで二回目シレっと電動シェーバーに持ち替えたんだよ。バランスを取るためにギャグを入れました。わかってくれ
13歳のとき、第一次世界退屈期の真っ只中にいたおれは、なにかどこかに面白いものは転がっていないものかととにかく躍起になっていた。晩御飯を食べながら観るテレビにも週刊少年ジャンプにも2ちゃんねるのまとめサイトにも心から面白いと思えるものがなかったおれは、夜の深さに助けを求めていた。深夜、布団の中で聞く伊集院光の深夜ラジオとやまだひさしのラジアンリミテッドがおれの中の娯楽と呼べる代物だった。深夜の東京から飛んでくる電波はこんなにも面白いのかと思った。あとは何度か書いているような気がするが、テスト期間になると、深夜家を抜け出して何もない夜の村を朝が来るまで歩き回ることが大好きだった。あの頃見上げた夜空に、この星と絶妙なディスタンスを保ってぽっかりと浮かんでいた丸い天体。いざともなればそこに飛んででも行けばいいような気がした一大スペクタクル的アレはいまも変わらずおれの頭の上にあって、その天体の下、面白いものを拾い集めていたあの頃と今はなんだか被って見える。あの頃も今も変わらずおもしろ電波を飛ばし続けている花の都大東京にあって、面白いものなんかそこかしこに転がっているし、年々低下していく視力で霞んで見えないんだったら月にでも飛んでいけばいい。あのころよりかは自分の中のスキが幾分クリアに見える。と、するならばおれはなんか今のこの生活もそこまで悪いもんでもねえのかなーと思う。世界全体が退屈だと嘆いてなんだか最近元気がなくなっているおれの中で、どっこいハートのBPMは加速している。クソが全員爆発しやがれ。そんな感じ��す。
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NoxRika
桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べてね」
と家を出て行った。
中学の時に一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だっ��、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に刻まれた、我が名四文字の美しきかな。
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高い声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかける。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働音だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分��仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙し騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて��まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入って来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ばれて香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「はい」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気��遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを理由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠けたものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付けられた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その挙動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また優しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「ご飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を��ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女��席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空いた席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ、元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行ってたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生を確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはとっくに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ���
駐輪場でもたもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室さんだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感は、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実もまた、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花ちゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだな。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは緩んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物���肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら、捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
まりあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインターホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らして��、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じきるか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、不安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあのスマートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違いが一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺してやろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度も、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつもこんなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケーだったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟きをBGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よろめきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレーを温めている。
「おかえり、お前の分も温めてるよ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくる���、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いたくない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。枕カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達に、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄っぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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2019.12.07 感が動くと思考がとまる。そしてDQウォーク
このところ、趣味の激辛料理摂取をやめている。うどんに七味、パスタにタバスコくらいは軽くエンジョイするものの、人体に戦いを挑んでくる種の凶暴なチャレンジメニュー=大好物とは距離をおくよう心がけている。
というのも、酒と激辛の大量摂取のおかげさまで順当に罹った逆流性食道炎が、悪化傾向にあるからだ。刺激物を摂ると、明らかにみぞおちと背中が痛む。酒も飲みすぎると、塩に触れたかすり傷のごとく内臓がひりひりする。
長年飼っている胆石が悪暴れしている可能性も否めない。みぞおちの痛みはまさしくその症状のひとつ。胆石の中には投薬治療できる種もあるらしいが、私の子らには薬は効かず、いよいよ暴れた場合は入院手術が必要となる。
その胆石や生活習慣の影響を監視すべく、毎年胃カメラとエコーの検査を欠かさずおこなっている。小心者の大酒飲みの激辛愛好家ゆえに、いつまでも容赦のない刺激を受け続けるための健康チェックには余念がない。
余談だが、血液検査と尿検査は毎月おこなう。その都度、逆流性食道炎とか食後血糖値症とか自律神経失調症とか頚椎椎間板ヘルニアとか貧血とか、いろいろな不備が発見される。そう羅列するといかにも体調不良のオンパレードだが、最近思うのだ。私、お医者さんに行き過ぎなのではないかと。
もう中年なのだからまったくの健康体であるはずがない。内臓にダメージを食らわせる生活習慣にも心当たりがあり過ぎる。加えてそう頻繁に病院に出向いていたら、何かしらの不備が見つかるに決まっている。
健康診断を受けずに、突然大病を患い、こまめに受けておけばよかったと後悔したという話をよく聞く。それを避けたい一心でこまめにチェックしているわけだが、そもそも病気の原因となる生活習慣を改善する気がさっぱりないのはどういうつもりなのだろうか。
しかしそう鷹揚に構えているわけにもいかなくなった。今年は内視鏡等の診断結果が悪く、いよいよ明確に食道ガン予備軍と宣告されてしまった。さすがに反省し、先々月はとり急ぎ1週間アルコールをぬき、激辛とカフェインも控えた。
結果、食道の調子はすこぶる良くなった。が、困ったことに、頭がまったく働かない。集中力が低下し、原稿が書けない。単語は出てきても、文脈がまとまらない。6時間かけてなんとか記した文章は、たったの2行だ。
数年前までは、蒙古タンメン中本の北極10倍辛を汁まで食らって平らげた後、日中はコーヒーを、夜は焼酎をがぶ飲みながら1晩で2万字書いてた。それが一転、ひたすらに脳がもじゃもじゃして2行しか書けないのだから、廃業まっしぐらだ。
2年半前に煙草をやめたときもそうだった。煙草を吸いながら原稿を書く習慣がセットになってしまっていたせいで、片方を禁じたらさっぱり書けなくなってしまった。禁煙直後は、それまで2日で終えていた文章量の執筆に2ヶ月かかった。
それはいわゆるニコチン依存症の離脱症状で、ニコチンによって脳内に日常的に大量分泌されていた快楽物質ドーパミンが欠乏することにより、イライラしたり、怠くなったり、無気力になったり、眠くなったり、集中力が低下したり、抑うつ状態に陥ったりする。
アルコールもドーパミンをじゃんじゃん分泌させる。激辛のカプサイシンは脳内麻薬エンドルフィンをじゃんじゃん誘発する。疲労や眠気の受容を邪魔するカフェインも含め、様々に多幸感溢れる脳内分泌物によって散々鼓舞され、覚醒し続けた我が脳は、今、ドーピングを失い、すっかり鈍化した。
それまで酷使してきた疲労も蓄積されているのだろう。自ら動く力が弱まっている。我が脳は、いうなれば脳内麻薬の人参がなければ走れない馬。私は脳の持ち主のはずなのに、その分泌物に行動を制限されるとは情けない。
諸々の依存は、人間の意志や思考を無視して人間を支配する。身体にもダメージを与える。私は煙草の吸いすぎによって肺気腫になったし、酒と激辛の摂りすぎによって逆流性食道炎になった。なんとわかりやすい構造だろうか。わかっているのになぜ先にやめないのか。
呆れ果てながらも、身体からのダメだしを受けて、なんとか生活習慣の改善を試みる。禁煙を続け、激辛を避け、なるべく消化の良い食べ物を摂取する。コーヒーも常飲をやめ、外食ランチのときに1杯だけ飲んでいいご馳走方向へと切り替えた。
ところが、酒だけがやめられない。強敵。我慢できても、がんばって1週間。その後はご褒美とばかりにまた飲み出す。もっぱら焼酎の緑茶割りを飲んでいるのだが、緑茶もカフェインを含むわけだからコーヒーのみご馳走扱いしても意味がない。
さらに困ったことには、頭がクリアになってしまうのだ。依存のメカニズム上、本当は鈍重化を促進させているのだが、頭が軽くなり、気も晴れるような錯覚が生成され、調子がいいぞと脳が騙される。主治医曰く「酒はうつ症状の素。陽気になるのは脳が騙されてるだけ」とのこと。
アルコール依存の仕組みはひととおり理解している。支配されているだけで、心身ともに良いことなどないと承知のうえである。しかしながら酒を飲むとするする文章が書けてしまう。まじでただのドーピング、ヒロポンさながら。
コーヒーを飲むと、如実に頭が冴える。錆びて動かない思考の歯車が回転し始める。カプサイシンを摂ると急に霞のかかった脳内がクリアになる。気力活力ともに大充実。しかし食道は痛む。再び2、3日、それらを抜いて調子を整える。
ノンカフェイン、ノンアルコール、ノンカプサイシンの日々は憂鬱で、脳のひだというひだに灰が詰まったみたいに頭が重い。それも偏にカフェイン、アルコール、カプサイシン、かつてはニコチンがもたらした後遺症に他ならないのだから、ただの因果応報だ。
最も困るのは、私の意志や思考の許可なく、動きだしてしまう「感」である。脳内麻薬も、私の人体内の活動であるにも関わらず当の私の許可なく私を支配するが、感情や感覚もまた、私の意志や思考を無視して勝手に反応するのでうんざりする。
テレビで見かけた、親子の断絶とお涙頂戴の仲直りのような予定調和を斜めに見ながら、まじでくそくだらないと心底軽蔑している最中、なぜか、号泣している。頭は、感動ポルノなんか消滅してしまえと思考しているのに、身体はそれを無視して嗚咽を漏らしている。
Netflixで延々と映画やドラマを見続けて、頭では分かりきっているフィクションの設定に対し、脊髄反射的に激怒し、大笑いする。お笑い芸人さんにガチ恋してYouTubeを漁るうちに、おまえ本当にガチ恋してるけど大丈夫か、と自問自答することさえ忘れ、ただひたすらに漁り続ける。
買い物に行けば、すれ違った幼い子供を見て、子供を産まなかった自分の人生を、がらにもなく逡巡し始める。その選択には意味があった。理由もあった。何より意志がある。しかしそうした私の思考は棚上げされた状態で、感が動き、メランコリー質の戸惑いに心をとらわれる。
レジの長い列や混雑している病院の待合室で、公共のルールを守ってきちんと並んで順番を待とう、社会は自分の都合の良いようにできていないと考える一方で、なぜそんなにと理由を問いただしたくなるくらい激怒し、地団駄を踏みたくなる。ちょっとしたことで意味もなく喚き散らしたくなる。
他方、ふらっと立ち寄った手芸店で可愛らしいくるみのボタンを見つけたときには、本当は可愛らしいものが好きなのに照れて意識的に隠し、粗野な男みたいに凶暴に振る舞うペルソナを社会で機能させたわけだが、そんな設定どうでもいいくらい超可愛いなにこれ大好きと、激しいテンションで少女のごとく嬉々とする。ちなみに、後日見ると全然可愛くない。
ある日は、犬を見て泣いた。完全に情緒不安定である。これはおそらく、無情の灰の塊のように固まった脳に、私なのか、無意識なのか、脳自らなのかわからないが、何かが、刺激を与えて動かすべく、感情を故意に昂ぶらせにかかっているのではないかと推測する。
ならば、気に入らない。脳内分泌物質に支配され、思考が鈍った。その隙に感情がつけ入り、いよいよ思考が止まった。そして、感情に支配される。私の人体が、脳内物質と感情に乗っ取られている。そこには、私がいない。私の言動に、私の自己決定が反映されていない。その私とは、果たして誰だろうか。
脳内物質が分泌されるきっかけを作ったのは、私の嗜好であり、摂取したのは私の選択である以上、その不足による不調は自己責任の範疇にある。人体の一部に滲み出る脳内物質の分際で私を支配するのは気に入らないが、自分の言動の結果として理解はしている。
だが、感情は、私の所有物ではない。自分の心に湧き上がる感情や、外部の刺激を察知する感覚は、私と、他者や社会や外界との摩擦によって生成されるただの反射反応である。私サイドには、私に与えられた環境や経験より培った価値観や思想があり、それが様々なひと・こと・ものと遭遇し、ある感情がどこからともなく現れたり、五感の感覚が生まれたりする。
その感じ方には、個体差がある。私にとって嬉しいことを、悲しいと捉える人がいる。誰かにとって美味しいものも、不味いと思う人がいる。よって、こと・ものを主語に据えた形で、「そのことは嬉しい」「そのものは美味しい」という事実はこの世には存在しない。ひとを主語に、「そのひとは、そのことが嬉しい」「そのひとは、そのものが美味しい」が正解である。
時に、他者と同様であるとは証明し得ない自分の感情や感覚を、無自覚的に全世界の事実と取り違えたり、「感じ方」を根拠に自分とは異なる「感じ方」の持ち主を人非人として断罪したり、そうした「感じ方」「お気持ち」を故意に引き合いに出してファクトを捻じ曲げたりする人を見かけるが、そういう方々は自分と「感」と他者と世界の境界線が有耶無耶になっていると「感じる」。
私は境界線に意識的でありたい。感情は反射・反応でしかない。それを感じる素養や肉体は私のものであっても、相対するものがなければ発生しない以上、すべて私が所有するとは言い難い。
両者の接触より発生する性質を鑑みると、作用とでもいうべきか。翻って私の意志や思考や決定権は、私の所有物だ。それが正しかろうが間違っていようが知ったことではない。それらは私だけのものなのだ。
その大切な私の所有物が、ただの反射反応の作用である感情によって、ねじ伏せられている。無意味、無思考、無許可のまま、漫然と犬を見ただけでメランコリーに陥り、泣いてしまうようなことがあっていいのか。
ノンアルコール、ノンカフェイン、ノンカプサイシンの、ないない尽くしの毎日をぼうっとやり過ごして、それでいいというのか己よ。嫌だろうよ。
とはいえ、ここにきて感情がのさばっている状況にも因果はある。私には、物心ついた時から感情を「ただの反射反応」と小馬鹿にし、思考と理由と意志を執拗に言語化して愛でる癖がある。
子供の頃、感情が怖かった。うちは親の教育が厳しかったので、親の意向に沿わない感情、つまり自我が芽生えると、「なにこの感情、勝手に生成されちゃってるけどすごい罪悪感。これを自由にさせておくとまた叱られる。迷惑」などと考えて、ありのままの自分を受容せず、感情を抑圧した。
親や先生の求める理想像になるべく、頭を使って演技した。それが結果的にのちの自分を苦しめた。その抑圧に対する仕返しが、今さらの感情のでしゃばりを誘発しているのではないか。
あるいは、私には感情の解放こそ必要であるとも考えられる。そういえば、思考を黙らせ、感情的な動物になるための装置として、大酒を食らっていたような節もある。
そして脳と身体、思考と感情などと、対立構造を煽って客観視する風情で、全部自分事という得意の独り相撲を楽しむ最中において、脳も身体も思考も感情もほどほどに仲良くするためには、どうすればいいのだろうかと、重たい脳で考える。
そういえば、昔主治医に「鬱々としたときは、有酸素運動を20分以上続けると、脳内麻薬βエンドルフィンが分泌され、スッキリするからやってみて」と言われ、それから週に2回、ジムのトレッドミルで早歩きウォーキングをおこなっていたのだった。
走るのは、嫌いなうえに頚椎ヘルニアのおかげさまで無理なので、早歩きで。普段も万歩計アプリを覗きながら、極力歩くように心がけた。ところが夏にジムが潰れてしまい、外出自体もあまりしなくなり、明らかに運動不足に陥っていた。
そうだ、歩こう。脳も喜ぶし、身体にも良い。脳が喜ぶと身体が悲鳴をあげ、身体を労ると脳が鈍化するこの状況を打開する策として、もってこいだ。好きな美術館や古着屋を巡ったり、都内近郊の海辺を散歩したりするのも良い。少し趣味に寄せてアレンジすると手放しに楽しいうえに、確かに頭もスッキリする。
しかし手軽な近所の散歩となると、飽きる。うちの周りは国道と住宅街と公園と団地と坂しかないので、行きたい場所がない。そうだ、あれだ、スマホの歩行ゲーム。ゲームを取り入れたら退屈せずに歩けるかもしれない。今、話題のやつなんだっけ。そうそうDQウォーク。
というわけで、ドラゴンクエストウォークに嵌る。ゲームも楽しいのだが、近隣を散策していると、思わぬところに美味しい豆腐店や絶景スポットを発見。周辺を地図アプリで検索すると、また知らないお店などが出てくるので、スマホ片手にせっせとレベルをあげながら右往左往している次第。
ただ一点、スマホを見おろす姿勢には難儀する。いわゆるスマホ首は、頚椎ヘルニアには大打撃なので、極力顔の前に画面を持ってきて操作し、歩き、立ち止まって操作し、を繰り返す。完全に不審者だ。しかもその歩き方ではウォーキングの効果も激減である。スカウターはまだか。
最後に、DQウォークしながら立ち寄った本屋で、酒がやめられない私のために神が遣わせた聖書を入手した。町田康先生の新書「しらふで生きる」。完全に天のお導き。勉強させていただきます。
というわけで、読み始める前に、アルコールとニコチンとカプサイシンとカフェインを摂れば半日もかからなかったであろうこの内容も目的も意味もないペラペラの雑記を書くために、しらふで3日もかかったため、これを労い、今日は酒を飲んで良いことにする。作戦は「いのちだいじ」で、ほどほどに。
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昔、おじさんのふりをして書いた映画感想文10個
【愛の渦】
この作品はR18指定がついています。それもそのはず、性的な行為のシーンが物語の大半を占め、AVさながらのかなり刺激的なカットがいくつもあります。名実ともに「大人向け」の作品と言えるでしょう。
「乱○パーティー」と検索しないと出てこないサイトから、相手を選ばず性交を目的に集まった8人の男女を中心に話が進んでいきます。行為に至るまでの過程や、その先に見えるものとは、人間性とは…と何か考えさせられるような作品です。
「気まずい感じ」「人同士のやりとりの戸惑う感じ」をよく見せたいという意図なのか、とくに映画の前半部分は会話や場の空気感、男女のやりとりに尺を長くとられており、かなりもどかしく感じる人もいるのではないでしょうか。それくらい、人の心の細やかな描写が多く見られます。
もし自分が同じ状況になったら、どう行動するか…ということを、思わず想像してしまいます。こういう場所には興味はあっても、なかな��勇気が出ず行けないという人も多いのではないでしょうか。踏み入ったことのない全く未知の世界を擬似的に体験できることも、映画の楽しみだと思います。
私は洋画よりも圧倒的に邦画が好きなのですが、こういう人間関係の描写に湿度を感じられるような、心の奥の奥の部分をむき出しに描き、時に目を背けたくなるようなリアルなストーリーは、かなり心に残るものがあり、中毒性があります。
【平成狸合戦ぽんぽこ】
小さい頃から、家で何度もなんどもビデオで見返したアニメがこの「ぽんぽこ」。ジブリ作品には名作が大変多いですが、自分の中で一番好きなジブリ作品です。
子供の頃は、大まかなストーリーを楽しむよりも、細かな描写に目を奪われることが多くありました。例えば秋にたぬきが木の実を食べるシーン。動物の毛並みや、草の葉の細かな描き方がたぬきの愛らしさを増長させます。また、例えば、化けたたぬきたちがハンバーガーを食べるシーン。年を食った化けタヌキたちが口元をソースで汚しながら口いっぱいにハンバーガーを頬張って、おいしそうに食べるところは、思わずハンバーガーが食べたくなってしまいます。ジブリ作品は食べ物が美味しそうに描かれるシーンに定評がありますが、この「ぽんぽこ」にもそういった印象的なシーンが多くあります。
化けタヌキたちが人間の前に姿を現す百鬼夜行のシーンでも、小さい頃には画面の賑やかさや楽しさに目を奪われていて、ただ子供心に楽しんでいました。繊細かつ非現実的な、「アニメらしい」動き、よくできた画集を眺めているような感覚で楽しむところが大きかったような気がします。
しかし大人になってから見返してみると、ストーリーに心を打たれてしまいました。生きる場所を奪われる悲しさ、変わっていくことで生きていく切なさ。そういうものが理解できて、本当の意味でこの作品を楽しめるようになり、最後に主題歌が流れるラストシーンでは号泣してしまいました。
観る年齢によって見方が変わるのも、この作品の魅力の一つです。
【帝一の國】
私は原作を未読でこの映画を見たのですが、原作者の他の漫画は読んだことがあり、原作者の絵や作風だけは知っていました。その事前情報だけでも、この映画は「原作再現」がよくできているのでは、と伺えるところが多くありました。マンガのような大仰な演出、漫画キャラクターらしく極端なヘアスタイルや学生服など、原作を未読なのに、原作者の絵が脳内に浮かんできてしまいそうでした。
漫画原作の実写化というのは、特にファンの間では賛否両論別れる作品が多いですが、私はあまり漫画の実写化には、クオリティーや再現度のことを考えるとあまり肯定的にはなれません。実際、「ああ、これは売れ筋の俳優を使いたかっただけの映画なんだな、そのために原作を使っただけなんだな」と思うことも少なくなく、落胆してしまうことが多いからです。
しかしこの映画は、前述の通り「マンガっぽさ」を残したまま映像化している、という感じがあって、実写化の中でも好きな作品です。ストーリーも最後まで予想がつかず、「こうくるか!」「おもしろかった!」と思えました。実写化でありがちな「原作を知っている人だけが楽しめる」という雰囲気もなく、この映画単体で楽しめたのも良い点です。
【耳をすませば】
ジブリ作品の中でもファンの多い作品。とくに「耳をすませば」は、甘酸っぱい恋愛や、十代の爽やかな青春ものとして好きだという人も多いのではないでしょうか。中学生といういちばん悩み多き年代の男女がだんだん心を通わせ、最後は夜明けとともに告白し結ばれる。雫と聖司の「ちょっと恥ずかしい」と言われるほどのやりとりを目的に、この映画を見るという人も多いでしょう。
ただ、私はあまりこの作品の恋愛映画としての魅力はあまりわからなくて、どちらかというと、主人公の雫が「創作者として悩むシーン」のほうが刺さってしまします。小説を書きながら思い悩む雫と、それをおじいちゃんに相談するシーン。おじいちゃんの(小説を書くことに対して)「最初から完璧を目指さなくていい」「原石を見つけて、時間をかけて磨くこと」と助言をするシーン。雫が泣き崩れて、自分の力不足を自覚し、不安が溢れ出てしまうシーン。このあたりに、心当たりがありすぎて、共感と感情移入が止まりませんでした。
また、バロン公爵と同じ空間にいて、幻想的な宝石がたくさん散りばめられた空間で、雫がもがきながら探し続けるシーンでは、ジブリらしいファンタジックな画面で、雫の内面が描写され、かなり印象的な部分です。
【シャイニング】
映画好きの人には、古典として一度は見てもらいたい作品です。もちろん純粋に作品として楽しむこともできますが、映画の歴史や手法を勉強するために観てもいいのではないでしょうか。「2001年宇宙の旅」「時計仕掛けのオレンジ」など、世界的に名作と呼ばれる映画の監督スタンリー・キューブリックが手がけた作品です。
モダンホラーの傑作と言われていますが、ホラーやサスペンス映画が苦手な方は少し耐性がないと観られないかもしれません。登場人物が狂気に染まっていく場面や、斧を持って襲いかかってくるシーンなどは、指の隙間から観てしまいました。あまりにも有名な、壊れた扉の隙間から男が顔を覗かせる画面も、きちんと観るときちんと怖いので注意です。
キューブリック監督作品で特筆すべきは、画面の構成の美しさ。色彩の鮮やかな場面が、視聴者を惹きつけます。なかでも、ホテルの廊下で血のような真っ赤な液体が波のようにどっと溢れ出るシーンは、最近のホラーゲームなどでも引用される(この映画のパロディになっている)など、リスペクトされ語り継がれている部分です。ホテルの美しい内装、不可解な雰囲気の美しく幼い双子…。恐怖を感じさせながらも幻想的なシーンで、物語の中でも印象的に使われます。
【エヴァンゲリオン新劇場版:序】
1995年にアニメシリーズが放送されてから、根強いファンを獲得し続けている「エヴァ」シリーズ。その噂は聞いてはいたものの、アラサーの自分はリアルタイムで見たことはなかったので、エヴァはこれが初視聴。息をつかせぬ怒涛の展開で、みるみる引き込まれていきました。
エヴァを観る前に、同じ庵野監督作品の邦画『シン・ゴジラ』を先に見ていたので、ところどころ既視感を覚える部分があり、庵野監督の持ち味を感じることができたのも、楽しみの一つでした。なかでも特筆すべきはかの有名な「ヤシマ作戦」のシーン。日本全土にわたる停電によって電力を「エヴァ」に供給させ、敵と戦うシーンです。『シン・ゴジラ』の中に出てきた「ヤシオリ作戦」のシーンでも使われた「デンデンデンデン!ドンドン♪」という印象的なBGMで場面を盛り上げます。このシーンはかなりテンションが上がりました!
テレビ版放映当初から賛否両論あった作品ということからもわかるように、主人公のシンジの性格がかなり内向的で、主人公に似つかわしくないウジウジした言動を繰り返すことで、見ていてもどかしい思いをすることもあるかもしれません。しかしちょうどシンジと同じくらいの年代の思春期の時、かなり内向的だった自分は、シンシの言動を「わかる」と思ってしまいました。同じような性格ではなかった人も大丈夫、他にもかなり癖のあるキャラが登場します。魅力的なキャラクターたちに感情移入しながら、物語を楽しむことができるはずです。
【エヴァンゲリオン新劇場版:破】
「破」に続く、新劇場版4部作の第二弾。ここでは式波・���スカ・ラングレーが物語のキーになっています。「あんたバカぁ!?」のセリフでおなじみのアスカはシリーズ内でも人気が高く、当時からファンたちの間では「レイ派vsアスカ派」の派閥があったといわれています。自分は圧倒的にアスカ派です!主人公のシンジほどわかりやすく見えてはいないものの、アスカもかなりの闇をかかえた女の子ということが、だんだんわかってきます。そもそもこの「エヴァ」に出てくる登場人物は、大人も子供も、みんながみんな何かしらの「闇」を抱えているのです。
そんなアスカが心を解放していき、晴れ晴れとした気持ちになる矢先に、絶望的な事件が起こるシーンでは、庵野監督の持ち味なのでしょう、壮大な美しい音楽が流れます。BGMにも注目して見てみると、さらに「エヴァ」が深まるのではないでしょうか。視聴者からすれば、また物語上では「一番起こってほしくないこと」が起こってしまう、ということも、他では味わえない感覚を楽しめるのではないかと思います。
また、テレビシリーズには登場しなかった、新劇場版からの新キャラである真希波・マリ・ラストリアスも物語に関わってきます。マリは謎の多いキャラクターなのですが、初登場時からの意味深なセリフと行動に注目してみてみるといいと思います。
【エヴァンゲリオン新劇場版:Q】
新劇場版4部作の第3作目で、評価がかなり分かれる作品になっています。ファンの間で考察や予想がさかんに行われ、「ここのセリフはどういう意味か?」「今後の展開は?」など、様々な憶測が飛び交っています。
「序」「破」から雰囲気が一変して、物語は急に難解になります。今まで注意深く映画を見ていた人でも戸惑ってしまうような変化がたくさん起こっていて、おそらく、一度見ただけではわからない部分が数多くあります。そのため評価が分かれることもあるのですが、よくよく考察し、時には旧テレビアニメ版と比較することによって、物語の本質がわかってくるという構造になっています。
そもそも物語は、地球にまだ生命が誕生していない頃に、隕石が衝突して、そこから飛び出た石から生命体が落下し…という、映画内では全く描写されていない部分から始まっていることを知ることからはじめてみるといいでしょう。登場人物の台���などから窺い知ることができるのですが、なにせ詳細に描写されていないことなので、なんとなく見ているだけではわからないことが多くあります。ですが難解な展開や台詞の端々から、よくよく考察していくと見えてくることなので、ぜひインターネットの記事やファン同士のやりとりを見ていってもらいたいと思います。そういう映画以外の部分まで全部ひっくるめて、「エヴァ」を楽しむということなのですから。
【インセプション】
夢の中に潜り、人の潜在意識の中からアイデアを盗み出したり、悪いアイデアをこっそりと植え付けるという違法行為を行う主人公たちの話ですが、その物語の構造そのものがおもしろく、みるみるうちに引き込まれていってしまいました。
夢の中に潜り、更にそこで寝て夢を見て、もう一つ先の夢に潜り込み…と複雑に展開する場面もあり、たまに混乱しそうになることもありますが、注意深く見ていると構造がちゃんとわかるので、「ここは今、どこの階層なのか」を考えながら見ることをお勧めします。
映画の中で夢の中のシーンが大部分を占めるため、「夢の中は想像した通りのことが起こる」ということで、現実ではあり得ないシーンが数多くあり、そこも見所です。ハリウッド映画らしくCGを多用したダイナミックなアクションシーンや、建物の中で上下左右があべこべになった無重力の中で戦闘するシーンなど、わくわくするところが多く見応えがあります。
評価が分かれるラストシーンですが、自分は肯定派です。最後は視聴者に投げかけるような、意味を考えさせられるようなラストになっており、それが「最後をはっきりさせないなんて、消化不良だ」という人もいますが、最後までハラハラさせてくれる、エキサイティングな映画だという受け止め方をしたので、最後のシーンまで大好きな映画です。
【インサイドヘッド】
「これは、あなたの物語」というキャッチコピーからもわかるように、これは特別な人間のお話ではなく、主人公を視聴者たち=自分に置き換えて見ることができる作品です。ピクサーのアニメーション作品ということで、単純明快な物語で子供向け映画のように見えますが、大人が見ても十分楽しめる、むしろ大人が見た方が良さが深まるのでは?と思える作品です。
主人公となる女の子の頭の中に住む5つの感情が擬人化されたキャラクターが登場し、物語は展開します。物語の中心となるのは「喜び」と「悲しみ」で、最終的には「ポジティブとネガティブ、どちらも持っているから『思い出』(記憶)が生まれ、人間の感情を作る」というメッセージにつながります。一見単純なお話のように見えますが、子供向けにわかりやすくキャラクター化し描いているだけで、実はかなり人間の本質的な部分を描いているため、おそらく人間科学や心理学的な考察をすると、かなり複雑で、深みのある作品なのではないかと思います。これをきっかけに、少し「人間の情緒とは?」「人間の記憶とは?」など、興味を持って少し調べてしまいました。自分の頭の中で起こっていることを知りたくなり、感情のメカニズムを知ることで、自分の持っている記憶や色々な思い出について考えるきっかけになり、まさに「あなたの物語」となってしまったわけです。制作側の思う壺ですね(笑)。
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今日はみんなに 投資の前に捨てることが大切な5つのもの💕 を伝えるね!! 先に出さないと得られない、みたいなことわざがある。 投資で稼ごうと思っても、捨てないと稼げないの。 1、無駄な時間の使い方 だらだら他人のSNSをみる、ゲームをやる、テレビを観る、あまり会いたくない人と会ったり気の乗らない飲み会に出る。 時間というのは大切な資本で有限!!永遠に生きるわけじゃないよね だから無駄な時間を使っているということは無駄なお金を使っていると言うこと。 2、無駄な節約をやめ、必要な節約はする 例えば、1000円ポイントをもらうためにネットでごちゃごちゃやったり、1000円安い���らと言って1時間もかけて一番安いものを探したり!! 自分の時給に対して割に合わない時間とエネルギーがかかる節約はしない。 逆に、固定費は徹底的に排除する。なぜかというと、毎月20��円の給料の人が、 家賃、光熱費、いろんなアプリのサブスク、スマホ、保険、車の維持費などで12万円使っているとすると、 その人の毎月の給料は8万円ということになる。 12万円の維持費のために、労働一か月分の60%の時間を使っている。つまり毎月大家さんや電気会社、保険、アプリ会社に自分の時間を売っていることになる。 保険はお金持ちになれば要らない。先にお金持ちになるべき。 3、無駄な人 関わるべきでない人と、惰性、またはお金のためにつきあっていないか? 例えばくだらない女子会、愚痴だらけの飲み会、あとは一緒にいてもプラスにならないし、お互いに大切な関係ではない人。 お金持ちになりたいなら、なりたいイメージに近い人達と新たに友達になり、古い人脈は思い切って捨てる! 4、元本毀損するリスクのあるギャンブル投資、相手からくる投資話、ネットワークビジネスに参加すること FX,仮想通貨、ワンルームマンション投資、投資信託など関わってはいけない。こういうのは本当の不労所得ではなく、情報弱者がひっかかるもの。 5、やりたくない仕事 これは早急になんとかするべき。人は好きなことでしか稼げない。 夢中になれる好きな仕事に変更すべき。 だよ~(^o^)/ これら、投資する前の基本!! また、大切なこういうネタアップするね。 みんなで経済的自由を手に入れて幸せなお金持ちになろう~ 公式LINE限定セミナー🐸 「庶民のレールに乗らないための お金のルール」 プレゼント中~ プレゼント申請方法🍑 動画プレゼント希望の方はトークに Fire と入れて下さい。 ↓LINEIDからお友達登録してね。 @084imbnu #現物 #現物投資 #不動産投資 #お金 #人生 #仮想通貨 #fx #社員旅行 #トレーダー #写真撮ってる人と繋がりたい #資産構築 #勉強 #仕事 #投資 #資産運用 #副業 #名古屋 #大学生 #占い #アフィリエイト #アラサー #イベント #独立 #起業 #成長 #漫画 #節約 #不動産取得税 #インスタ映え #最高 https://www.instagram.com/p/CbSS2_UJLRK/?utm_medium=tumblr
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5人のファイナリストがHulu本社に集結。 好きな作品・尊敬する人物から気になる賞金の使い道まで、直撃インタビュー!
いよいよ投票締切が3月18日に迫った「Hulu U35クリエイターズ・チャレンジ(通称: #HU35 )」のオーディエンス・アワード(投票はこちら)。5人のファイナリストがどんな人物なのか、気になる方も多いのでは…?! そこで、最終決戦を前に5人がHulu本社に緊急集結したのを機に「HU35の㊙エピソードから個人的なことまで」詳しくお話を伺いました。
◆まず、あなたが好きな作品や、影響を受けた人物などを3つ挙げてください。
近藤啓介監督 『脱走球児』
①一番好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」。ああいう作品を作りたいと常々思ってます。 ②ブルーハーツの曲。聴くといつも元気をもらえます。 ③サウナ芸人のマグ万平さん。この人がサウナを紹介しているのを見て、サウナにハマりました。
老山綾乃監督 『まんたろうのラジオ体操』
①映画「花束みたいな恋をした」。その撮影監督の鎌苅洋一さん、助監督の石井純さんが今回自分の組に入ってくださり、すごく幸せでした。 ②是枝裕和監督。ドキュメンタリーとフィクションの境目をうまく映像化する手腕に憧れます。 ③ディズニー映画「魔法にかけられて」。実はディズニープリンセスの曲���全部歌えるくらい大好きなんです。
上田迅監督『速水早苗は一足遅い』
①「踊る大捜査線」は自分が作り手を志すきっかけになった大切な作品。 ②是枝裕和監督。「いつか是枝さんのような作品を作りたい」が大きな目標です。 ③藤井道人監督。一度お仕事でご一緒しましたが、作品も人柄も本当に素晴らしい方なので。
幡豆彌呂史監督『鶴美さんのメリバ講座』
①アニメだと「呪術廻戦」。アクションとシリアスの間に挟まれる小話の癖が強いところ。 ②パニック系ゾンビものの中でも、「ウォーキング・デッド」は一番リアルかつキャラクター造形も深くて大好きです。 ③ドラマ「今日から俺は!!」。喧嘩というメインのテーマありつつも、それをコメディで描けるのがすごい!!
吉川肇監督 『瑠璃とカラス』
①松本人志さんは僕のお笑い好きのルーツとなった人。(実は父親がダウンタウンの二人と小学校の同級生) ②千原ジュニアさん。不登校だった中2の時に読んだジュニアさんの「14歳」という小説が心に響いて…。この二人は僕の人生に不可欠な存在。 ③佐久間宣行さんは初めてエンドロールで名前を確認した作り手。佐久間さんに憧れてテレビ東京に入社しました。
◆早速、ライバルの4作品を観ましたか?気になった作品は?
近藤:どれもみんな面白かった。「こんなにも違うものになるんだ」と驚きました。
老山:「脱走球児」の、タイトルが出るまでの10分間が大好き!あのスピード感とワクワクは、ライバルとか意識せず素直にすごいと思いました。
上田:「鶴美さんのメリバ講座」はバイタリティ、エネルギーが最後までずっと続く。下積みなしで、あそこまで撮れるとは…。ちなみに、ドラマのプロデューサーをしている妻は「まんたろうのラジオ体操」推しです。
幡豆:関西出身なので、「瑠璃とカラス」の話し方などがすごく気になって観てしまいました。
吉川:一番ストレートだったのは「速水早苗は一足遅い」。おしゃれで、メッセージ性もあって、女優さんの使い方も巧いと感心しました。
◆そもそも、HU35に応募したきっかけは?
近藤:映画会社の東京テアトルが制作を担当すること、憧れの沖田修一監督が審査員長を務めること。この2つがいいなと思った。締切ギリギリに知ったんですけど、「自分の全てをぶち込んだ最高に面白い映画を作りたい」と奮起して、企画書を2日で書き上げました。 老山:日本テレビ「真相報道 バンキシャ!」のAD(アシスタント・ディレクター)をしながら、映画や映像制作にも関心を持っていました。所属する制作会社にHU35の募集告知が回ってきて、「報道で積み重ねてきたものをここで発信したい」と思って応募しました。 上田:制作会社勤務の助監督としての下積みだけでは演出する機会やチャンス自体が減っている現状で、HU35では自らの企画・脚本・演出で制作に携われると知って、大きな魅力を感じました。 幡豆:お恥ずかしい話なんですが、実は制作費の1000万円を賞金だと勘違いしてまして…。「企画を考えるだけでこんな大金をもらえるなんて、なんて素晴らしいコンペなんだ!」と。選考に通った後に自分で脚本・監督を担当すると知り、経験が全くないのでちょっと焦りました(笑)。 吉川:もともと映画に強い憧れを持っていて、さらにテレビ局でADやディレクターの仕事に忙殺される中で、いつの間にか上司にOKをもらうために作っている自分に気づき、「本当にやりたいことを、伝えたい人に作りたい」と、初心に立ち返る気持ちで応募しました。
◆制作中、一番大変だったことは?
近藤:数日間の撮影のために坊主頭になれるキャストを集めること。オーディションでは1日に80人に会ったことも…。「撮影できないのでは」というところまで追い込まれて、粘って、最後にようやく気合の入った良い役者に巡り会えました。 老山:俳優さんやスタッフとのコミュニケーション。監督の価値観だけで演技の良し悪しを判断してはいけないとスタッフに叱られ、「じゃあ監督って何のためにいるんだろう」って悩みました。 上田:脚本の直し。撮影日数・予算など現実的な面で削らないといけない部分と、どう物語をスムーズに進めていくかの着地点を探して葛藤し、改稿は30稿を超えました。 幡豆:もう、全てです!! まずは助監督さんに「演出の仕方」から教わり、近藤監督の「本読み」(※キャストとの脚本の読み合わせ)にも同席させてもらって勉強しました。いざ撮影が始まると、今度は「監督が立つ位置」も分からず…(汗)。映画やドラマを作るのがこんなに大変だなんて、自分が監督して初めて知りました。 吉川:クライマックスの漫才シーン。主演の島村龍乃介さんと中山慎悟さんは、稽古日以外にも陰でずっと自主練してくださっていたとマネージャーさんから聞きました。
監督たちの奮闘を描いたHU35密着ドキュメンタリー「名もなき若者 監督になる」配信中!
◆もしも賞金を獲得したら、どんなことに使いたいですか?(※お世話になった方々への御礼のほかに)
近藤:今はバイトもしていないので、現実的には生活費ですかね…。あとはサウナに通う。毎日サウナで新作の脚本を書いてるんです。 老山:猫を飼っているんですが、もう少し駅近の便利な物件に引っ越したい。あとは猫にキャットタワーを買ってあげたりと、猫のために使いたいです。 上田:ドキュメンタリーを見たら思いのほか髪が薄くなってきていたので、賞金で育毛にチャレンジしたいです(笑)。 幡豆:漫画が好きなので、複製原画を大人買いしたいです!! 普段は『高くて無理や』って諦めてしまうので。 吉川:3歳下の弟が大阪のテレビ局でADとして働いてて、お互い忙しくてなかなか会えてないので、二人でご飯とか行きたいです。
◆今後、プライベートで「チャレンジ」したいことは?
近藤:この間「しきじ」という静岡の有名なサウナまで行ってきたんですけど、次は、“水風呂が飲めるぐらい美味しい”っていう評判の熊本のサウナをちょっと狙ってます。 老山:アイルランドの雰囲気が好きなので、英語の勉強に挑戦したい。あとそうだ、20代のうちに素敵な人と出会って恋人を作る!「語学と恋人」、この二つです。 上田:それはもう、「育毛」ですよ(笑)。 幡豆:大好きなバレーボール選手が高校卒業後にアルゼンチンのチームに行ってしまったので、スペイン語を勉強したいです!! ちなみにその選手は「及川徹」という二次元のキャラクターなんですけど…(注:漫画「ハイキュー!!」の登場人物) 吉川:小学生の頃に所属していた野球チームのチームメイトと中学時代に疎遠になったきりなので、コロナが落ち着いたら定期的に皆で集まって酒を飲みたいです。
◆最後に、作品を観てくださる方へのメッセージをお願いします!
近藤:「脱走球児」は一見、青春映画っぽいタイトルやビジュアルだけど、むしろ大人に響くような、いま頑張っている人みんなが分かるような作品にしたつもり。「決してただの青春映画じゃないぞ」と声を大にして言いたい。ぜひ観てください。 老山:言葉にならないけど生きづらいなぁって日々感じている人、特に誰かに話すほどでもないような、名前のついていないもやもやを抱えている人へ、「まんたろうのラジオ体操」は38分という短い作品なので、肩ひじ張らずにぜひ観て欲しいです。
上田:「速水早苗は一足遅い」は、本当にどストレートなメッセージをど直球に込めた作品。観た後に「大事な誰かに連絡したいなぁ」とか「誰かに会いたいなぁ」とか、そんな風に思っていただけたら幸いです。 幡豆:“推し”がいる人はもちろん、今、好きなものや人が特にいないという人にも「鶴美さんのメリバ講座」をぜひ観てもらいたいです。きっと、それぞれのキャラクターに自分と似ているところを見つけられると思います! 吉川:「瑠璃とカラス」は、不登校で青春を経験していない自分が、青春への憧れを詰め込んだ作品。同じような日々を過ごしている人がいたら観てほしいです。そしてお笑いへの愛、深夜ラジオやポップカルチャーへのリスペクトを感じ取ってもらえたら嬉しいです。 互いに切磋琢磨するライバルである一方で、「戦友」とも言える貴重な関係を築いてきた5人。次に一堂に会するのは、いよいよ最終決戦となる3月22日!この日に「グランプリ」「オーディエンス・アワード」の両賞が決定し、授賞式が行われます。(※授賞式はHuluでライブ配信を予定)
ラストチャンス!オーディエンス・アワード投票はいよいよ3/18まで!!
Hulu会員が選ぶ〈オーディエンス・アワード〉の投票受付は3月18(金)18:00まで!3月22日開催の授賞式にて結果発表を行い、最多得票数を獲得したファイナリストには賞金50万円が授与されます。あなたの1票で、ファイナリストの未来が決まります! 投票はこちら(※Huluストアサービスのみをご利用の会員、Hulu会員でない方は対象外になります)
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弱虫ヒーロー
「ぼくがヒーローになるよ」 どんくささが災いし幼稚園でいじめられて涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた私に突然彼女はそう言って手を差し伸べた。 私達にとってヒーローとは日曜の朝にテレビで放送される戦隊物のイメージだった。毎週悪者が出てきて、町を荒らして、人の平和を脅かす。その脅威に立ち向かう戦士達。最終的に爽快な展開になって、子供はみんな憧れて、変身グッズを身に着けてヒーロー気分で跳ね回る。 その時、園内に植えられた巨大な木の陰で私は隠れて泣いていた。室内でおりがみを折ったりおままごとをするのが好きなのに、おそとで遊ぶのも大切だからと先生に連れ出されて、やりたくもないおにごっこに巻き込まれて、案の定さっさと鬼にされて、でも誰に追いつくこともできなくて、からかわれてばかりで、とてもいやな気分になって、悔しさとか惨めさとかに苛まれてしくしくと泣いていた。 私のことなんて忘れて違う遊びに切り替えたから、誰も私を探しには来ず、思う存分泣くことができた。唯一やってきたのが、彼女だった。きらきらとした木漏れ日が当たって、彼女を含めたあらゆる景色がきれいだった。 「まもってくれる?」 私が問いかけると、男の子みたいに髪を短くした彼女は自信満々といったように歯を見せた。 「まかせろよ」 小指が重なり、絡まる。指切りげんまんが交わされて、私たちの間には秘密が生まれた。 それから彼女は私にくっついてくれた。正しくは、私が彼女にくっついていた。 彼女は男の子に負けない体格の良さをしていた。幼児における男女差なんてそんなものだ。彼女は四月生まれで同学年だと一番成長しているはずで、私は翌年三月の早生まれで比較的小さい子供だった。四月生まれと三月生まれではあらゆる点で差が生じる。 彼女は負けん気が強くて、男の子にも果敢に挑んでいった。女の子たちは彼女のことを慕っていた。私は金魚の糞みたいなもので誰の視界にもうまく入らなかっただろうけど、とにもかくにも彼女が味方してくれているだけで私は随分と助けられた。 しかし、その年の三月に彼女は急に園を去ることになった。親の転勤が理由だった。 私にとって世界の終わりと同様だった。 うそつき、と言った。自分勝手に。まもってくれるって、言ったのに。私はあの日、彼女と約束を交わした日よりもずっとかなしい涙を流しながら、彼女にそんなこころない言葉をかけてしまった。ごめん。彼女は本当につらそうに謝った。私もとてもつらかった。彼女と離れることも、彼女が離れてしまった後のことも、あらゆることが不安でつらかった。 それから彼女はこの町を去って、私と彼女の秘密は遠く細く引き延ばされてぷつんと切れてしまった。
*
時が経過し、私は地元の公立中学に入学することになった。 私服登校だった小学校と違い、真新しくてぱりぱりしてて固い生地の、制服に袖を通す。私立や少女漫画みたいに可愛いチェックスカートも赤いリボンも無い、ただの紺無地のプリーツスカートにブレザー、リボンもネクタイも無し。ちょっと不満だったけど、身につけてみるとそれだけでお姉さんになったみたいで嬉しくなった。お母さんもお父さんもいたく喜んでくれて、入学式に臨む。 何校かの小学校の学区が複合しているので、元の小学校の友達は勿論、他の小学校の子もたくさん入学してくることになる。幼稚園では手痛くいじめられたが、小学校でなんとか少し持ち直し、友達もできた。中学校はどうか、クラスでうまくやっていけるか、部活はどうするか、勉強は大丈夫か、だとか期待と不安がぐるぐると回転している。 一年三組に組み込まれ、教室の後ろから父母に見守れながら私達は一人ずつ自己紹介をしていった。私はたいてい一番最初の出席番号になる「会澤真実」で、この一番最初という位置にどれほど振り回されてきたか分からない。会澤苗字のお父さんをどれだけ恨んだことか。 先生に呼ばれて、席を立ち上がる。最初がみんなにとっても肝心だということはよくわかる。みんなの視線が集まって、負けそうになる。やばい、吐きそうだ。知っている子を咄嗟に探す。真ん中あたりに小学校の友人がいて、あの子が傍にいてくれたらどれだけ心強かっただろうと思いながらも、彼女が小さく手を振ってくれたのを見てほっとして、なんとか私は噛まずに自己紹介を始める。名前と、出身校と、抱負。無難に終わらせて、ぱらぱらと拍手が起こる。 しばらくは多大な緊張がずっと糸を引いていて、意識が他の子たちの方に向かなかった。じくじくと鳴る心臓がやがて収まってきたころには、さ行までやってきていた。 「清水律」と聞いて、私はふと顔を上げた。どこかで聞き覚えのある音並びだった。立ち上がったのは学ランを纏った、中くらいの背の男子だった。中性的な顔つきで、どちらかというとイケメンな部類に入るような感じがする。しみずりつ、と心の中で繰り返す。なんだろう、このデジャヴ。 淡々と続いていた自己紹介に衝撃が走ったのは、そんな彼が発した次の言葉だった。 「ぼくは性別は女ですが、心は男なので、学校にお願いして男子として生活することにさせていただきました。よろしくお願いします」 教室に薄い困惑が広がった。 そして私は思い至った。どうしてこんなに大事なひとの名前を忘れていたのだろう。 昔、約束を交わした、私にとっての正義のヒーロー。 「りっちゃん」だ。
*
「りっちゃん」 つつがなく入学初日を終えて、静かな興奮と動揺の残る教室で、りっちゃんの周りの子たちがいなくなったのを見計らって私は思いきって話しかけた。 りっちゃんはやっぱり学ランを着て、普通の男子とおなじような雰囲気をしている。でもさっき一緒にいた子達は女子だった。多分、同じ小学校の子たちで、友達なのだろう。なんで、とか、聞こえたから、たぶん彼女達もりっちゃんが男子の格好をしていることに驚いたのだろう。心が男だというくらいだから小学校でもボーイッシュな格好をしていたのかもしれないが、女子と男子で明確に見た目が区分される中学校でまで学ランを着てくるとは誰も予想していなかったように窺えた。 はじめりっちゃんは目をぱちくりと瞬かせたけど、ふわっと笑った。 「久しぶり。やっぱりまみちゃんだったんだ」 「うん」 私はどきどきした。なんだかずっと落ち着いた声色に思う。男子は少しずつ声変わりしつつある人も出てきているけれど、りっちゃんは当然ながら男らしい野太い声ではない。むしろ澄んでいる印象があった。なんだか大人っぽい。 「最初名前を聞いて、似てるなあって思ったんだ。思い違いだったら恥ずかしかったんだけどさ」 「私も……いや、最初は、その、名前を聞いてもなかなか思い出せなかったんだけど、りっちゃんが男子の格好をしてますって言った時に、思い出した」 「めっちゃ事細かに教えてくれるじゃん。てか、りっちゃんって懐かしいな」 私はちょっと慌てた。そうか、りっちゃんはりっちゃんだけど、男子として生きているんだとしたら、ちゃん付けは嫌かもしれない。 「小学校ではどう呼ばれていたの?」 「律が多いな。それか清水。こういうのだから、ちゃんとかくんとかややこしくて、呼び捨てが多かったんだ。でも呼びやすいようにしてくれればいいよ。別にりっちゃんでも。男でもちゃん付けのニックネームってあるしさ」 この余裕はどこから生まれてくるんだろう。私はたった少しだけの時間でりっちゃんはやっぱりすごい子なのだと思った。すごいね、と何気なく言うと、りっちゃんは首を傾げた。 「何が?」 「いや、いろんなことが。幼稚園の頃より落ち着いてるし、大人びて見える」 「幼稚園の頃よりは成長してたいわ。流石に」 「そっそうだよね。ごめん」 「いいよ謝らなくたって。まみちゃんはなんか、ちょっときょどきょどした雰囲気は残ってるね。懐かしい」 きょどきょど、という言い方がちょっと可愛いけど、多分良く言われているわけじゃない。 「でも、さっきの自己紹介とかさ、一番で緊張するだろうにちゃんとしててかっこよかったよ」 クラスの子たちに嘗められたりいじめられたりしないようにするには第一印象が何よりも重要だ。りっちゃんにそう言われると、たぶん割と大丈夫だったのだろうとわかり、ほっとする。 「すっごく、あがっちゃったけど」 「うん、緊張感は伝わってきた。女の子はそのくらいの方が可愛らしくていいよ」 りっちゃんはさばさばと笑う。けれど、どうしてもその言い方に引っかかってしまう。 「……あの、りっちゃんの、心は男っていうのは」 思ったよりすらすらと会話が進んだので、私は決意して尋ねてみることにした。 「ああ」りっちゃんはなんてことないように学ランの襟元を摘まむ。「言った通り。いろいろ迷って親や先生方ともよく相談したんだけど、ぼくは自分で着るならブレザーとスカートより学ランとズボン派だっていうだけ」 でも、まみちゃんの制服姿はとても似合ってる、とさらっと褒めてきた。はぐらかされたのだと解った。私は頬がちょっと熱くなるのを感じながら、辛うじて、りっちゃんも学ラン似合ってる、と返した。本当に似合っていた。私もそうだけど、制服に着せられている子ばっかりな中で、りっちゃんはそのぴしっとした制服の頑なさがりっちゃん自身にフィットしていた。 「そうか?��良かった」 ほっと肩の力が少し抜けたのを見て、ああ、涼やかな顔をしてるりっちゃんも緊張してたのだと知る。 「小学校の友達にもちゃんと言ってなかったからさ。皆びっくりしてて。でも、なんとかなるか。堂々としてればいいよな」 「うん」 私は素直に頷いた。 それから簡単に会話を交わして別れた。また明日、と言い合って。 また明日。反芻する。また明日、りっちゃんに会えるのだ。同じ教室で。幼稚園の頃と少し形は違うけれど、あの時永遠の別れみたいにたくさん泣いたのに、奇跡が起こって再会できた。そう考えるとなんだか嬉しくてたまらなくなった。 私は大きくなったりっちゃんの素振りや言葉を思い返す。 先生、だけではなく先生方とつける。果たして、小学校の時、そんな風にさらっと言える人は周りにいただろうか。中学一年生なんて、制服で無理矢理ラベリングされただけで、中身はまだ殆ど小学生みたいなものだ。その些細な気遣いのような言葉の選び方に、私は今のりっちゃんの人間性を垣間見たような気がした。
*
りっちゃんの噂は教室を超えて一年生全体に広がった。 面白半分に様子を見に来る野次馬根性の人もたくさんいた。初めのうちは私の席は入り口から一番近かったので、廊下にたむろしているりっちゃん目当ての人たちの声がよく聞こえた。どれ? あれあれ、あの座ってるやつ、へー、みたいな、好奇心だけが剥き出しになってる言葉が殆どだった。その中には、りっちゃんの元小の子たちもいて、小学校の時もやっぱり男子っぽさはあって、男子にまじってサッカーをしたり、誰にも負けないくらい足が速かったり、その一方で女子ともYouTubeの話をしたり恋バナをしたりしていたらしい、という情報を横耳で仕入れた。 要はクラスの中心人物として立っていた。あれだけ大人っぽかったら、確かに自然と中心になりそうだ。悪い意味ではなく「違う」感じがする。私とは全然違うし、皆とも違う。彼女は少し、違う。あれ、彼女っていうべきなのかな、それとも彼っていうべきなのかな。 たぶん、私が抱いているそういう戸惑いをみんなが持っていた。 そんな皆の戸惑いは素知らぬふうで、りっちゃんは「男子」として中学生活を送っていた。男女一緒くたの陸上部に入部して、毎日放課後に校庭でランニングしているのを見かける。私は小学校の友達に誘われて美術部に入った。絵なんて全然上手じゃないし好きじゃないけど、何かしらの部活には入っておいた方が友達ができると思ったからだ。友達はいるぶんだけ安心する。 実際、美術部は先輩後輩の上下関係も薄くて気が楽だった。プロみたいにびっくりするほど上手い先輩もいれば、幽霊部員もざらにいる。アニメっぽい絵を描いて騒いでる人もいれば、静かに一人で模型造りに没頭している人もいる。みんなそれぞれで自由にしていて、地味さが私にちょうど良かった。新しい友達もできた。 私とりっちゃんは全然違う世界の人だな、というのは、部活に入ってしばらくしてから実感するようになった。 初めのうちはちょくちょくタイミングを見計らって話したけれど、それぞれ友達ができたし、瞬く間に忙しくなった。小学校よりもずっと授業のスピードが早いし宿題は大��。塾に行っている子は更に塾の宿題や授業もあるのだから大変だ。私はらくちんな部類のはずなのに、目眩が起こりそうだった。 それでもたまに話す機会があった。委員会が同じだったからだ。園芸委員会である。だいたいこういう類は人気が無い。毎日の水やりが面倒臭いし花壇いじりは汚れるからだ。私のような地味な人間には似合うが、りっちゃんが立候補するのは意外だった。曰く、植物って癒やされるから、らしい。 校舎に沿うようにして花壇が設けられており、クラス毎に区分されている。定期的に全学年で集会があって、植える花の種類を決める。大体決まり切っているので、すぐに終わる。そして土いじりをして苗を植えて、水やりをする。水やりは曜日を決めて交代でしているので、りっちゃんとゆっくり隣で話すのは土いじりをするときくらいだ。だから、私はそんなに植物が元々好きだったわけじゃないけれど、この時間が結構好きだ。 「暑くなってきたよなあ」 とりっちゃんは腕まくりをして苗を植えながら言った。りっちゃんの腕はあんまり骨張っていないけれど、陸上部の走り込むようになって黒くなりつつあって、健康的な肌をしていた。 「そうだね。そろそろ衣替えだよね」 既に男子は学ランを脱いで、女子はブレザーを脱いでいる。女子はベストを羽織っているひともいるけれど、本格的に暑くなってきたら半袖に切り替わる。 「やだなあ」 りっちゃんは軽い感じで苦笑し、お、みみず、と言って、指先でうねうねうごめくみみずを摘まんだ。私は思わず顔を顰める。 「ええ、きもちわる」 「みみずっていいやつなんだよ。みみずのいる土は栄養分たっぷりってこと。だからここに植えた苗はきれいな花が咲く」 「知ってるけど」私は口を尖らせる。「きもちわるいものはきもちわるい」 「それは仕方ないな」 りっちゃんはおかしそうに笑い、みみずを元の土に返してやる。 「りっちゃんは家でもこういう園芸とか、するの?」 結局私は慣れている「りっちゃん」呼びを続けているけれど、クラスでそういうのは私だけだった。ただ、普段周りがいる中でそう呼ぶのはなんか恥ずかしいし、りっちゃんもちょっと嫌かもしれないから、「清水くん」と使い分けている。 「たまにね。母さんが庭いじり好きだから。雑草取りとかよくやるよ。暑くなるといくら取っても草ぼーぼーになるから、それも嫌だな。嫌いじゃないんだけどさ。植物って何も言わないし、無心になれるというか」 「ふうん」 「まみちゃんはこういうのやらない?」 「全然。うち、マンションだし。でも、委員会でやるようになってちょっと好きになった」 「いいね。まみちゃんはきっと綺麗な花を咲かせる」 「綺麗な花?」 「植物は人の感情を反映させるという噂がある」 りっちゃんは基本的には大人っぽくて男子らしさは確かにあるのだけれど、時々こういう可愛らしいというかロマンチックなことを言う。 「だからおれはいっつも雑な咲かせ方をする」 入学時には「ぼく」を使っていたけれど、五月頃には「おれ」と言うようになった。 「私も自信ない」 「じゃあ三組はみんなより変な花が咲くかもな」 二人して笑った。りっちゃんの冗談は心地良い明るさがあって、話していて楽しい。
*
最初の明らかな違和は、やはりというかなんというか、プールの授業だった。 暑くなってプール開きが示されて、教室にはいろんな声が沸き立った。女子の中には水着姿になるのが嫌だという子もいたし、男子は大体嬉しそうだった。でも三組には他の教室に無い疑問が浮かんでいただろう。 清水律はどうするのだろう。 りっちゃんは普段男子の格好をしているけれど、身体は女だ。だから、当たり前だけど、上半身はだかになる男子の水着姿はたいへんなことになる。かといって、女子のスクール水着を着たら、それはそれでなんだかおかしい感じがする。 トイレは男女共有のバリアフリースペースを使って凌いでいるけれど、こればかりはどうしようもない。陽の下に明らかになってしまうことなのだ。 結論からすると、りっちゃんは一切のプールの授業を休んだ。休んで、レポートを提出した。 プールを休む子は他にもいる。女子も結構休んだりする。女子には生理がある。体育の先生に直接生理だという理由を伝えるのは嫌だけど、お腹が痛いとか言ったら大体通じて休める。明らかに生理休みが長すぎる子は流石に指摘されて、しぶしぶ出たりするけれど。 一方でりっちゃんはずっと休んだ。それを不満げに見ている子もいた。レポートで済むなんて楽だよね、と嫌みったらしく言う子もいる。そんなの、仕方ないじゃんと思うのだけれど。りっちゃんだって休みたくて休んでいるわけじゃないのだ。たぶん。 そういえば、りっちゃんは生理はどうしているのだろう。あんまりにデリカシーが無いから訊けないけど。 生理に限らず、中学生の時期は男女で大きく身体が分かれていく。 女子の生理は小学生高学年から中学生にかけて初潮がやってきて、身体は丸みをおびて、胸がすこしずつ大きくなっていく。男子は、あんまりよくわからないけれど、声変わりして、ちょっとひげが出てきたりする。身体も大きくなってくる。女子も身長はよく伸びるし私も春から夏にかけて二センチくらい伸びたけど、男子は女子の比じゃないという。特に中学校で凄まじい勢いで伸びていって、ごはんの量も半端じゃない。エネルギーの塊、みたいな感じ。 りっちゃんは男子だけど、女子だ。身体は、女子なのだ。 衣替えになって、りっちゃんはひとり長袖のシャツをしていた。私はなんとなくその理由を察した。半袖のシャツは長袖のシャツよりも生地が薄くて、透けやすい。りっちゃんの胸は薄いけれど、たぶん多少は膨らんでいて、ブラだってしている。キャミソールとかタンクトップを上に着て、女子もブラが透けないように気をつけるけれど、りっちゃんはそのものを隠そうとしているのではないか。本人には訊けないけれど。 そういったことが違和感が表面化してきたのは、夏休みが近くなった頃だった。 花壇に植えた向日葵の背が高くなって、もうじき花開こうという頃である。 他愛も無いからかいのつもりだったのだろう。座って次の授業の準備をしていたりっちゃんの背中を、男子の指が上から下へなぞった。 そうしようとしているのを、私は教室の後ろ側から、美術部の友達で一番仲が良いさきちゃんと会話しながら見ていた。やばい、と直感していた。男子達がそわそわしていて、なにかをりっちゃんに向けてしようとしていると解った。それがなんなのかまでは、会話まで聞こえていなかったから見当がつかなかったけれど、感じの悪いことであることには間違いないと思った。 そしてその指がりっちゃんのきれいな背筋を辿った時、私は思わず息を詰める。 男子が大きな声で、ブラしてる、と興奮なんだか卑下なんだか、宣言した。 りっちゃんは驚いて彼を振り返っていた。その男子のグループは手を叩いて笑っていた。やっぱり���してる」んだ、と謎を解き明かして、ものすごくおかしいことみたいにめちゃくちゃ笑っていた。一連の行為は三組みんなの耳に入っていただろう。 私は凄まじくその男子のことを嫌悪したけれど、りっちゃんの次の行動に、驚いた。 あの大人びて、いつも穏やかなりっちゃんが、手を上げた。 がたんと椅子を勢い良く倒して、触れた手をひらひらと揺らしている男子に、殴りかかろうとした。 その顔は、遠くにいても、ものすごく冷たくて、恐ろしかった。怒りというものは振り切れてしまうと烈しい色ではなくもっと静かな色をしているのかもしれないと知った。 りっちゃんの怒りの拳はからぶった。 がん、と固い音。 降り下げられた先は、机だった。木の板が割れるんじゃないかと錯覚するほどの強い音だった。いよいよ教室中の空気が氷点下に下がった。窓の外の油蝉の声がやたらとよく聞こえて、虚しいほどだった。 「……ごめん」 脅える男子を前に俯くりっちゃんはそう呟いて、教室を出て行った。 静まりかえった教室だったが、りっちゃんがいなくなったことでどよめきが起こり始めた。間もなくチャイムが鳴って、先生が入ってきた途端、教室の異様な雰囲気を感じ取って目を丸くする。 「あれ、清水くんは?」 先生がそう言った。なんでそんな蒸し返すようなことをわざわざ尋ねるの、と、先生はなんにも悪くないのに私は強く思った。 「保健室です」 最前列にいる委員長がそう言って適当にやりすごした。 結局りっちゃんはその後教室に戻ってこなかった。翌日の学校を休んで週末を挟み、月曜からはまた学校にきた。私はほっと胸を撫で下ろした。りっちゃんはいつもと同じ涼しげな顔をして挨拶をした。クラスの反応はそれぞれだった。私みたいに安心していつも通りみたいな挨拶を返す子もいれば、ぎこちない子もやっぱりいて、そしてひそひそ話をする子もいた。 嫌な予感がした。 しかし、幸いというのかなんなのか、間もなく一学期が終わろうとしていた。 私は、夏休みを挟んで、この事件が生み出したこわばりが薄まることを、切に願った。
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夏休み。 美術部は自由登校だ。一応コンクールはあるけれど、締め切りにさえ間に合えばあとはどうだっていい。 私はそれでも学校に来ていた。絵はそんなに好きじゃなかったけど、塾も無いし、やることがあんまりなかったから、なんとなく向日葵に水やりをしにきた。ひんやりとクーラーがよく利いた美術室で一休みしている間に、静まりかえった校舎にブラスバンドの練習している音が響く。同じ学校なのに、普段のせわしなさが無くて異世界みたいだった。こののんびりとした静けさは、いいな、と思う。ずっとこのくらい優しい時間が流れていればいい。 私はスケッチブックを脇に、ペンケースを片手に、花壇の方へ向かった。途中で青のじょうろを手に取り、水を入れる。日光に当てられているせいか最初は熱湯が出てきて驚いた。こんなに熱くては向日葵の根に悪そうで、充分冷たくなってからたっぷりと補給する。 たぷんたぷんと重たく跳ねる水。ときどきはみ出して、乾いた校庭にしみをつくる。 花壇側は影がほとんど無かったが、花壇の後ろの数段の階段部分、つまり一階の教室に直接通じる部分はぎりぎり黒い影になっていた。花壇から校庭側に目を向ければ入道雲が光り輝く夏の青空が広がり、とんでもない直射日光の下で運動部が練習している。サッカー部と、それに陸上部もいる。思わずりっちゃんを探したけれど、見当たらなくてちょっと残念だった。りっちゃんは高跳びをやるようになっていていた。助走をつけた直後の一瞬の筋肉の収縮と跳ね返り、そして跳んだ瞬間の弛緩した雰囲気、全身をバネにしてポールを越える刹那に懸ける感じが、きれいで、りっちゃんにぴったりだった。私はこっそり練習を遠目に見かけてスケッチブックに描いてみたけれど、あまりに下手すぎてお蔵入りだ。人体は難しい。 そうしてぽんやりと歩いて行くと、三組の花壇の前には思わぬ先客がいた。 「りっちゃん?」 声をあげると、りっちゃんが顔をあげた。その手には緑のじょうろを携えていた。 「あ、おはよう」 あまりに普通に挨拶された。慌てて挨拶を返す。 「すごい。夏休みなのに水やりしにきたのか。あ、部活か。美術部って夏休みもあるんだな」 りっちゃんはスケッチブックに視線を遣った。その中にはりっちゃんの跳ぶ瞬間を描いた下手くそな絵もあるので、慌てて後ろ手に隠した。 「りっちゃんこそ。というか、りっちゃんの方こそ部活は?」 まさに、陸上部がすぐそこで練習に励んでいる。えいえい、おー、だとか、かけ声を出しながら、走り込みをしている。 真夏のまばゆい陽に照らされて、りっちゃんは少しさみしげに笑った。りっちゃんに特有の大人っぽさに切なさが加わって、私はたったそれだけで胸が摑まれた。 「辞めたんだ」 咄嗟に、耳を疑った。 蝉の声がじんと大きくなる。 「辞めた?」 「ああ」 「陸上部を?」 「ああ」 私は信じられなくて、一瞬目の前がくらっとした。 真面目に頑張っていて、りっちゃんは楽しそうだった。身体を動かすのが好きで、小学校でだってスポーツが得意で男子にも負けなかったくらいだったという。足だって速かったという。実際、りっちゃんの足は速い。体育で私はそれをまざまざと見て、本当に、本当の男子にも負けていなくて、びっくりしたし、かっこよかった。 「なんで?」 蝉が近くでうるさく鳴いて、風を掻き回している。 「言わなきゃ駄目?」 りっちゃんは薄く笑った。なんでもあけっぴろげにしてくれるりっちゃんが見せた小さな拒絶だった。ショックを受けていると、りっちゃんは嘘だよ、と撤回した。 「陸上って、まあ、スポーツって全般的にそうだけど、男女で種目が分かれてるだろ」 「……うん」 どんくさいくせに、私はもうなんだか道筋が見えて、理由を訊いた自分がいかに無知で馬鹿か自覚することになった。 「どっちがいいのか、結構揉めてさ。そりゃ、身体は女子だから、身体を考えると女子になる。でもおれは男子でいたいから、男子で出場したいんだけど、なかなかそうはいかないんだとさ。ほら、戸��とか学校の登録では女だから。おれ、格好が男なだけなんだよな。それに、やっぱり先輩とか見てるとそのうち絶対本物の男子とは差が出てくるんだよな。それってどうしようもないことだしさ。今はおれの方が成績良くても、そのうちあいつらは軽々と俺ができないバーを越えていくようになる。てか、今、おれが高く跳べるとか、速く走れるっていうのも、どうもあんまり良くないみたいでさ。実力主義って言って割り切れたらいいんだけど、どうもそういうわけにはいかないらしい。運動部って上下関係厳しいしさ。腫れ物扱いっていうかさ。なんかあらゆることが面倒臭くなって、そもそもおれの存在自体が面倒臭いんだって気付いて、辞めちゃった」 一気に言い切って、あはは、とりっちゃんは空虚に笑い飛ばした。あまりに中身が無い笑い方だった。 私は自分が立っている地面の堅さを意識しなければ、自分が立っているかどうかの認識すら危うかった。 「おれも美術部に入ろうかなあ」 などと、絶対に本心からではないことを言った。 「絵が下手でもやれる?」 りっちゃんの顔がにじむ。 「壊滅的に下手だから、美術部は流石に無理か」 また、からからと笑った。あはは、からから、表面だけの心にもない笑い方。 「……まみちゃん」 りっちゃんが驚いた顔をして、近付いてくる。 「なんで泣いてるんだ?」 私はまたたいた。いっぱいになった瞳から、堪えきれず涙が溢れて頬を伝った。 「ええ、どうした。なんかおれまずいこと言った?」 慌てて引き笑いをするりっちゃんの顔をしっかりと見ることができない。私は咄嗟に首を横に振り、嗚咽した。ほんとに、なんで泣いてるんだろ。私がどうして泣いているのだろう。 水の入ったじょうろが指から滑り落ちた。水が派手に跳ねて、じょうろは横倒れになって、乾いた地面に水溜まりが広がっていく。 空いた手で私は涙を拭く。肌で拭ったところで全然止まらなくて、スカートのポケットを探る。そうして今日に限ってハンカチを忘れたことに気が付いた。美術室に戻れば鞄の中にタオルがあるけれど、戻る余裕が無かった。私はじっと静かに泣いた。 やがて、りっちゃんから、黙って、青いハンカチが差し出された。 綺麗な無地のハンカチ。私は最初断ろうとしたけど、りっちゃんは自然なそぶりでそのハンカチで私の頬を拭った。このさりげなく出来てしまうりっちゃんの大人びた優しさが、いいところだ。やわらかな綿の生地が触れて、群青のしみが広がっていく。私は諦めて受け取り、自分で目頭に当てた。ついでに鼻水まで出てきて、ハンカチは申し訳ないくらい私の涙と鼻水をたっぷり吸い込んでしまった。りっちゃんは何も言わなかった。静かに待ってくれた。私は、頭が真っ白になりながら、頭のどこかで、この二人向かい合っている状況が誰の目にも入らなければいいと思った。りっちゃんも、私も、ややこしいなにかに巻き込まれないように。でも、隣のグラウンドではたくさんの生徒がいる。校舎内ではブラスバンド部が練習している。こんなところ、誰の目にも触れない方が無理だ。こんな時までそんなことを考える私は、最低だ。 「思い過ごしかもしれないけど」 私の嗚咽がピークを迎えてやや落ち着いてきた頃、りっちゃんは静かに滑り込むように呟く。 「まみちゃんが考えているよりおれは平気だから、大丈夫だよ」 嘘だ。 私は充血した目をハンカチから覗かせて、りっちゃんの顔を見上げた。女性的でも男性的でもある、きれいなりっちゃんの顔。りっちゃんは笑っていた。愛想笑いだった。 ほら、やっぱり嘘だよ。 「りっちゃんらしくないよ」 私はどう言ったらいいのか解らなくて、ようやく絞り出したのは、その言葉だった。 りっちゃんの顔が冷める。 「おれらしいって、なに?」 思わず息を止める。私はりっちゃんの冷たい双眸を凝視した。笑った仮面を剥がした、静かで、恐い、りっちゃんの表情。冷たい怒り���拳というかたちに変換して振り上げた、あの教室での鮮烈な映像が過った。 ぬるい風が強く吹いて、軽くなったじょうろがかたんと音を立てる。 りっちゃんは我に返ったように表情を変えた。ありありと後悔が浮かんでいる。 「ごめん」 そう口早に謝って、りっちゃんは俯いた。 「ヒーロー失格だな」 りっちゃんは呟いて、その場を去った。私の後ろの方へ足音が遠ざかっていって、やがて消えた。 蝉の声と、ブラスバンドの音と、運動部のかけ声、それにあまりにも重たい沈黙だけが残った。 なんてことを言ってしまったのだろうと、烈しい後悔に襲われてももう遅い。りっちゃんのハンカチで顔を覆ってうじうじと座り込んだ。私、小さい頃と何も変わっていない。うそつき、と心ないことを言ってりっちゃんを困らせたあの頃と、なんにも変わっていない。 他のクラスより堂々と高々と咲き誇った向日葵がふらふらと揺れていた。高い分、風によく煽られてしまうのだった。 それから私は何度か向日葵に水やりをしに来たけれど、りっちゃんと会うことはなかった。向日葵はだんだんとくたびれて、重たい頭でっかちな花の部分をもたげて、急速に枯れていった。
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二学期がやってきた。 りっちゃんは一人でいることが多くなっていた。 腫れ物、とまでは言わないにしても、なんとなくクラスのみんながりっちゃんに対してよそよそしくなっていた。夏休みを跨いでも、りっちゃんのちょっとした特異性の受け入れ方を迷っていた。勿論、普通に話しかける子もいる。私も、すれちがった時に挨拶はするし、園芸委員会で一緒になると普通に喋る。りっちゃんは夏休みの出来事が無かったことみたいに、自然に喋ってくれた。私にはうまく出来ない芸当だ。でも、私はそのりっちゃんの優しさに甘えて、何も言わずに安堵して会話した。 私はりっちゃんにずっと甘えている。幼稚園の頃からずっと。 苦しんでいるりっちゃんを前にしても、それでも透明人間みたいに、クラスのはじっこの方で、りっちゃんの背中を見ている。そして秘密の会議みたいな園芸委員会の時間だけ喋って特別感に浸ってる。りっちゃんのことを分かっているような気で、でも分かっていない。 残暑が厳しい中、次なる行事である運動会に向けて学校は動き出していた。 運動会は、学年種目、すなわち学年毎のクラス対抗の種目と、個人種目、すなわちクラス毎で定められた枠の人数で個人が立候補して争う種目と、二種類ある。そして応援合戦があって、これは三年生が主体となってダンスをする。 りっちゃんは基本的に男子なので、種目も男子の枠で出場するし、応援合戦でも男子として出る。 りっちゃんの噂は高学年にも伝わっているらしく、合同練習をするようになって、少し奇異な視線が向けられる。先輩たちも最初は迷ったようだが、男子の列にりっちゃんは加わった。りっちゃんはなんでもないように振る舞っている。 私は身体を動かすのがとにかく苦手なので、運動会なんて休みたいくらいだった。でも普段からそうして休むわけにはいかないので参加する。横一列になってみんなでよーいどん、なのでそこから置いていかれてはみ出さないようにすることで精一杯だった。 あと運動会まで一週間、というところで、園芸委員会では向日葵を根こそぎ捨てて、パンジーやビオラを植えた。ベタだけれど、寒い冬でも花を咲かせるという力強い品種らしい。それぞれのクラスに割り当てられた花の色はカラフルだった。とはいえまだどれも蕾なので、実際に咲いたらどうなるのか考えるとわくわくした。 スコップを土に突き立て、掘り起こす。りっちゃんと話し合いながら、三列になるように均等な間をつくり苗を植え替えていく。 「でも、冬になる頃にはもう園芸委員も終わってるな」 りっちゃんの言葉で気付いた。委員会は上期と下期で分かれるので、りっちゃんとのこうした共同作業ができる時間はもうすぐ終わるのだ。上期で委員会をした人は、下期では役職無しになる。そうしたら、私はほとんどりっちゃんと話せなくなるかもしれない。それは、寂しい。 私は、ふと、りっちゃんのことを好きなのだろうか、と考えた。 あまり深く考えたことが無かった。りっちゃんのことは好きだ。確かに好きだけれど、恋愛的な好きなのだろうか。尊敬してるし、かっこいいとも思う。顔だって素敵だ。特にやわらかく笑んだ顔を見ると心があたたかくなる。 クラスには、付き合ってるとか、そういう噂話も回ってくる。私は、りっちゃんと付き合いたいだろうか。付き合ったら、園芸委員という理由なんて無しにりっちゃんと一緒にいたとしても、なにもおかしなことはないだろうか。 でも、付き合うということは、りっちゃんは彼氏になるのだろうか。それとも、彼女? 私は女だから、彼女というのもなんだかおかしい気もする。女の子同士で付き合うこともあるというのは漫画で知っているけれど、実際自分にあててみると、どうなのだろう。男子に興味が無いわけではないのだけれど、男子といるよりも、りっちゃんといる方が楽しいし落ち着くし、心地が良い。というか、りっちゃんは、男子だし、でも、女子だし。 ううん。 考えるほどに分からなくなってしまう。 それに、りっちゃんと付き合うということは、りっちゃんも私を好きだということとイコールになる。 りっちゃんが私を好きかと言うと、それは自信が無い。私がりっちゃんを好きになる可能性はあっても、りっちゃんが私を好きになる可能性は、限りなく低い。どんくさいし、泣き虫だし、クラスの中で釘が飛び出ないように透明であろうとして、みんなのなかにいることに必死で、りっちゃんみたいにちょっと変わった部分を堂々としていられるような勇気も自信も無い。つまり、りっちゃんが私を好きになることは、無い。 そう至って、浮かんだ桃色の案が破裂した。 うん、無いな。 私はりっちゃんのファンみたいなものなのだ。推しなのだ。だから、りっちゃんの幸せを願っているし、りっちゃんが苦しんでいると途轍もなく悲しくなる。りっちゃんが優しく接してくれることに甘えているけれど、それ以上を求めるのは烏滸がましい。だから、園芸委員を期に離れてようやく普通になるんだ。きっと。 「何を頷いてるんだ?」 「ひょおおええ」 手を止めて自分の思考に没頭していた私に、りっちゃんが恐る恐る話しかけてきて、思わず奇声をあげた。りっちゃんはぶふっと笑った。しかも止まらなくて、ずっと笑い続けて、涙まで出して、お腹を抱えている。 「そこまで笑わなくてもいいじゃん!」 「だって、なに? ひょおおええって」 あっはははは。私は耳まで熱くなっていたけれど、一方で、りっちゃんがこうして思いっきり笑っている姿を見たのは随分と久しぶりだったから、胸がぽかぽかと温かくなった。恥ずかしいけど、まあいいや。私もつられて笑った。三組の花壇で二人して、げらげらと笑っていた。 翌日の朝。 私は水やりをしに少し早起きして登校した。 じょうろに水をためる。朝の暑さは真夏になると収まりつつあって、蛇口から出る水もすぐに冷たいものになった。たぷんたぷん、揺れる水の重みを片手に感じながら、私は花壇に向かった。 そこで、昏い現実を目の当たりにすることになる。 三組の花壇だけ、無残に掘り起こされていた。りっちゃんと一緒に丹念に植えたパンジーもビオラもぼろぼろに引きちぎられて、ぐちゃぐちゃに踏み荒らされて、原型を留めていなかった。 私はしばらく目の前の現実を受け入れられなくて、呆然と立ち尽くした。 なんだろう、これは。 誰かによる、暴力的な、意図的な、明確な悪意であることは確かだ。 蕾だけが投げ出されて、散らばっている。 葉も根もばらばらだ。 土はおかしなでこぼこができていて、靴の跡も窺える。 なんだろう、これは。 なんでだろう、これは。 りっちゃんと笑った、昨日の光景が浮かんだ。手を土で汚して、話し合って、ひとつひとつ苗を植えていった大切な時間や記憶が、汚い靴で踏み抜かれていく。 足が浮かんでるみたいだ。 なんで。 あまりに悲しくて言葉が出なかった。 りっちゃんにこの花壇を見てほしくなかったけれど、私の力ではどうにもできなかった。
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おとこおんな、とりっちゃんについて誰かが言った。 園芸を揶揄してか、みみずりつ、と誰かが呟いて笑った。 クラスがなんだかおかしな方に向かっていた。 夏に傾いていた頃、背中のおうとつに指を当てられてからかわれたりっちゃんは、拳を上げた。 でも、もうりっちゃんは何も言わなくなっていた。 静かに、本を読んだり、次の授業に向けて教科書を開いたりしていた。 根暗でどよんとした空気を漂わせているわけじゃない。りっちゃんはいつだって背筋を伸ばして、堂々と座っている。だけど、その背中が寂しげに見えたのは、私の感情的なフィルターを通した光景だろうか。 さきちゃんをはじめとした友達は、りっちゃんの話題に触れなかった。彼女たちには私とりっちゃんが実は幼稚園が一緒だという話をしていたからか、むしろあんまり近付かないように警告した。私は知っている。私とりっちゃんのことが、影で噂されていること。私からは直接見え��い、LINE等で噂されていること。私と一緒にいてくれる友人達はそれが勘違いであることをちゃんと解っているけれど、下手なことはするな、と暗に伝えているのだった。LINEのことを教えてくれたのもさきちゃんだった。それを聞いた時、正直私はぞっとした。 私は透明人間で、釘が飛び出ないように、必死だった。それは、幼稚園時代のようにいじめられることがとても恐いからだ。人の、無意識であろうと意識的であろうと、異端だと判断したときの容赦のなさは恐い。その恐怖に再び晒されてしまったらと考えただけで足が竦んでしまう。 りっちゃんは、女子だけど、男子であるという、りっちゃんそのものであることで、釘が飛び出てしまっていて、打たれつつある。 りっちゃん。 私は心で話しかける。 心で言ったところで、りっちゃんにはなんにも伝わらないのに。 りっちゃん。 私、どうしよう。
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運動会を翌日に控えて、ダンスの最終練習に向けて、みんな衣装に着替えていた。一年三組は赤組なので、赤を基調として、体操服に布を張り付けたり、はちまきを手首に巻いて回転したときに動きが派手になるように工夫がなされている。女子はスカートを思いっきり短くする。長いとちょっとかっこわるいからだ。一年生はみんな膝下に伸ばしているので、普段はできないびっくりするような短さにそれぞれ色めきだっていた。私はちょっと恥ずかしかった。下に短パンを履いているからマシだけど。 男子はズボンはそのままだ。上は女子と対照的になるようなデザインになっている。 私はりっちゃんをちらりと見やった。りっちゃんは窓際の席で、机に腰を軽く乗せて、ぼんやりと教室を眺めているようだった。 「清水さあ」 窓際でたむろしているうちの男子の一人が言った。りっちゃんの視線が���く。 「本当はスカート履きたいんじゃないの?」 「は?」 りっちゃんが反抗を見せる。りっちゃんは最近おとなしいが、怒ると恐いことは皆知っている。 だけど、りっちゃんは教室の中で圧倒的にマイノリティで、りっちゃんの特異性を釘として打とうとしている誰かと、無言で見守る生徒達という多数からしてみれば、りっちゃんがいくら怒ろうとも、孤独だった。 「だって、女子のことちらちら見てさあ、本当はあっちが良かったって思ってんじゃねえの。ダンスも、競技も」 「馬鹿じゃねえの。お前らこそ短いスカートの女子に興奮してるくせに」 りっちゃんが吐き捨てる。いつになく顕著に苛立ちを発して、なんだかおかしいくらいだ。男子は一瞬息を詰まらせた。その隙にりっちゃんはその場を立つ。 「また逃げるのか? 図星だからだろ」 りっちゃんは無視する。無視すんな、という声も全部、無視して、教室を出た。 「サイテー、なに言ってんの?」 男子にも物怖じせずに話す派手めの女子が言う。その子も、本気で言っているというよりも、面白がっているように見えた。 「本気じゃねえよ。ああいう風にされると、冷めるよな」 「冗談が通じない清水さん」 あはは、と笑った。 不快だ。とにかく全てが不快だ。 「真実、大丈夫?」 隣でさきちゃんが声をかけてくれる。私はどうやら相当青い顔をしていたらしい。いつのまにか拳を握りしめすぎて、伸びた爪で皮膚を浅く抉って、じわりと血が滲んでいた。 ダンスの全体練習では、先輩の厳しい目もあるから、みんな従順に励む。私もなんとか振り付けを覚えて、人並みに踊れるようになった。軽快でポップな曲に合わせてステップを踏む。腕を振る、回す。先輩から指示が飛んで、修正する。三年生はこれが最後だから、やりきって満足する思い出が必要なのだ。その情熱にあてられて、三学年跨いでみんな頑張る。 りっちゃんは私の斜め前の方にいる。いつも通りの凜々しい涼しい顔で、日光に当てられて、白い顔でたくさん汗を散らしていた。 しかし、ダンスの通し練習の一回目が終わった時だ。みんなのびのびと小休止をして、屋上から全体をコーチしている先輩の指示を待っていると、りっちゃんが急に座り込んだ。 こんなことでバテるような人ではない。よろしくない雰囲気がする。後ろにいる男子が恐る恐る声をかけると、りっちゃんは首を横に振った。大丈夫、だと言っているように見えた。大丈夫という単語から連鎖して、夏休みに目の当たりにしたりっちゃんの「大丈夫」を思い出した。りっちゃんの大丈夫は、本当は、大丈夫じゃないかもしれない。 「会澤さん?」 後ろの子が、驚いたように声をあげた。急に私が列を外れたからだ。 私はりっちゃんに駆け寄った。 みんなから飛び出るという私の感覚でとりわけ恐ろしいことをしていると自覚していた。けれど、りっちゃんが苦しんでいるのを分かっていながら見て見ぬふりをするのはもっとしんどかった。 「清水くん」 こういう時でも、私は使い分ける。 「……まみちゃん?」 りっちゃんはぼそりと呟いて、私を見上げた。まばゆい太陽に照らされるりっちゃんの顔は、白いというより、病的なまでに青ざめていた。 戸惑う周囲を置いて、私はりっちゃんに顔を寄せる。 「どうしたの、急に座り込んで」 「大丈夫……」 ああ。ほら、やっぱり、大丈夫と言っていたのだ。私の観察眼もたまにはちゃんと的を射る。 「大丈夫じゃないよ。顔が青い……汗もすごい。熱中症とか?」 私が言うが、りっちゃんは頑なに口を暫く閉ざしていた。 「今日、暑いし。ちょっと休もう。通し練習一回終わったし、体調不良ならしょうがないよ」 「駄目だ。本当、大丈夫だから。もう一回、通しが終わったらちゃんと休む」 りっちゃんのいいところは真面目なところだ。でも、悪いところでもあるのかもしれない。 「本当のこと言って」 私が強く言うと、りっちゃんは私を見た。 周りが私たちに注目しているのが、よくわかった。視線を集めていて居心地が悪い。見ないでよ。りっちゃんが更に言いづらくなるでしょう。 暫く沈黙が続いたが、りっちゃんは諦めたように項垂れ、ぼそりと何かを呟いた。 「え?」 聞き取れずに聞き返す。こういうところが私はどんくさい。 耳を近付けた先で、りっちゃんはもう一度同じことを呟いた。お腹が痛い、と。 瞬時にいろいろと察した。だからりっちゃんは言えなかったのだ。それは本当の男子だったら起こりえないことだった。でも、結構辛い。酷いとげろげろ吐くくらい、途轍もない痛みを伴って立っていることも辛くなる。 三年生の先輩が流石におかしいと気付いて、駆け寄ってきてくれた。 「先輩。清水くん、ちょっと体調が悪くて踊れなさそうなので、保健室に連れて行きます」 「え、大丈夫?」 先輩が慌てた。大丈夫、とは便利な言葉だ。 「すみません。ダンスを抜けて……」 「いいよ。通しは一回終わったし。ちゃんと休んで」 溌剌とした優しさに弱々しくなったりっちゃんは頷いた。 男子の見た目をしたりっちゃんと、女子の私が一緒に、身体を密接にひっつけているのは周囲からするとどう映るだろう。気にしない、というわけにはいかない。私は気にしいだし、りっちゃんもなんだかんだ和を重んじる人だ。重んじるがゆえに、自分を犠牲にする、強くて同時に弱い優しさがあるのだ。清水律という名に恥じない、清らかな水のように凜としていて、自分を厳しく律する生き方をしている。 りっちゃんは私の肩を借りて、ゆっくりとダンスの列を外れた。背後がやや騒然としているのが背中から感じ取れるが、気にしている場合ではなかった。どうせ、距離を置いてしまえば、聞こえなくなるし見えなくなる。 でも、私達は一年三組という閉じた空間での運命共同体だ。 後先考えずに行動した後、どうなるのかは分からない。 「ありがとう」 りっちゃんは、力の抜けた声で呟いた。 「ううん。良かった、言ってくれて」 「ごめんな」 「謝らなくていいよ」 むしろ、私の方がずっと、りっちゃんには謝らなければならなかったのだ。 私はずっとりっちゃんに甘えて、りっちゃんに助けてもらって、素敵なことを受け取ってきた。 りっちゃんが苦しんでいるのなら、私が助けてあげられることがもしあるのだとしたら、今度は助けてあげたい。 乾いた校庭からひんやりとした校舎に戻り、りっちゃんを保健室に連れて行く。その前にトイレに行くべきか尋ねたが、首を横に振った。 保健室の先生に事情を説明した。りっちゃんの口からはなかなか直接的に言えないと思うので、私がそれとなく伝えて、ベッドに寝かせてもらった。 急いで教室に戻り、常備している鎮痛剤と水筒を持って保健室に戻った。そしてりっちゃんのベッドに駆け寄る。 りっちゃんの顔は歪んでいて、いつも伸びている背筋を曲げて、くるまった。よくここまで頑張ったのだと感心してしまう。でも、りっちゃんは頑張るしかなかったのだ。負けたくなかったのだ。昔から負けん気が強かった。それはりっちゃんの人間性で、どれだけ大人っぽくて、言葉遣いが丁寧で、優しくて、男子の格好をしていても、根っこは変わっていないのだ。でも、その人間性ゆえに、りっちゃんは苦しんでいるのかもしれなかった。 鎮痛剤と水筒を枕元に起き、私は項垂れる。 「りっちゃん」 ぽつんと呟いた。 「何もしてあげられなくて、ごめんね」 ここで泣くのは違うから堪えた。 「苦しかったらちゃんと言ってね。女子とか男子とかそんなの関係なく、私、りっちゃんのことが好きだから、りっちゃんにはいっぱい笑っていてほしい」 りっちゃんは何も言わなかった。 肩が震えているように見えたので、私はカーテンを閉めた。 ダンスは二回目の通し練習に入っていた。私は外に出て、遠くから眺める。私とりっちゃんの穴は目立つかもしれないけれど、私達がいなくても、整然と全体は動いている。それは思ったよりきれいな光景だった。きっと屋上から見たらよりきれいなのだろう。同じ動きをしてチームとして創り出す巨大な作品。それは素敵なことだ。それはそれで、本当に素敵なことなのだ。 通し練習が終わってから、私は勇気を出して列に戻った。またいろんな人の視線が集まった。興味だとか、戸惑いだとか、不安だとか、ないまぜになっているだろう。一身に受け止めると息が詰まりそうになる。自己紹介の緊張と同じだ。注目を浴びるのが苦手だから、注目されないように慎重に周りの目を窺ってきた。それが私の生きるための術だった。りっちゃんを助ける行為は私の信条を外れる。それはとても恐ろしいことだった。けれど、後ろめたさがなりを潜めて、少しだけ強くなれたような、そんな気がした。 「清水くん、大丈夫そう?」 さきちゃんが心配そうに声をかけてくれる。 「うん。とりあえず保健室で寝てる」 「そっか」さきちゃんは安堵の表情を浮かべる。「真実は、平気?」 「うん。平気」 私は穏やかに頷いた。りっちゃんの大人びた静けさのある笑顔を真似するように頷いた。
*
ダンス練習が終わり、一年三組に熱っぽいざわめきが押し込まれる。最後に蒸気する先輩が活を入れに教室までやってきて、先輩が「優勝するぞー!」と叫ぶと、全員で「おー!」と青春百パーセントな眩しいやりとりがなされた。私も折角練習したのだから、どうせなら優勝したい。でもそれよりりっちゃんが気になった。 先輩が教室を後にするところで、りっちゃんとたまたま鉢合わせた。 「あっきみ、平気? 元気になった?」 教室の空気が若干変容する。 「あ、大丈夫です。おかげで元気になりました。ごめんなさい、練習中断して」 「平気平気。明日は出れそう?」 「はい」 りっちゃんの肩を先輩が叩く。りっちゃんは恐縮げに頭を下げ、教室に戻る。 汗は引き、顔色も戻っていて私はひとまずほっとした。 何も無かったように、りっちゃんは自分の席に戻る。和を乱さないように、平然とした表情で男子の列に戻る。でも、今や、マイノリティのりっちゃんは、一致団結した教室のはみだしものと認識されているのだろう。 担任の先生もりっちゃんに声をかけ、終礼を進める。最後にさようならと声を揃えると、教室の空気は弛緩した。運動会前日らしい緊張と興奮に、ちょっと変な空気がまだ残っている。 りっちゃんが、勢い良く踏み出した。 なんとなくみんな、視線を寄せた。りっちゃんは良くも悪くも目立つ。 先程ダンスの練習直前にいじってきた男子の集団の前に立つ。私は緊張した。また殴りかかるのではないかと恐くなる。けれどりっちゃんは冷静で、いつも以上に凜としていた。 「おれ、明日も出るから」 はっきりと宣言する。 「男としてダンスもするし、競技もする。それだけだから」 特別叫んだわけでもない。しかし���りっちゃんのまっすぐとした声は、生徒の間をするする通り抜けて教室中にきちんと響いた。 りっちゃんの正義。ヒーローのような正義。敵に立ち向かう正義。それは時にあまりにもまっすぐで誠実で、人の気に入らない部分も刺激してしまうのかもしれない。でも、りっちゃんは、自分に根ざしている心を偽ることも、馬鹿にされることも、許せないのだ。 「……当たり前だろ」 静かな威圧にやられて、相手はしどろもどろになる。なあ、と言い合う。まるでりっちゃんが空気の読めない���タいやつみたいに。 りっちゃんは翻し、たまたまその正面に位置した私と目が合った。りっちゃんは微笑んだ。ぼろぼろになってしまった花壇でいつも見せてくれる、優しい、りっちゃんらしい笑顔だ。私は嬉しくなって、笑い返した。 でも、私はとても耳がいいので、次の言葉を逃さなかった。 「おとこおんな」 大衆の前で羞恥を晒されたことに耐えかねたのか、ぼそりとりっちゃんの背後で彼は言った。 真顔になったりっちゃんが振り返ろうとした。振り返りきらなかったのは、りっちゃんの正面で突然走り出した存在がいたからだ。 つまり、私だ。 「ふざけんな!!」 私は叫んだ。彼等に掴みかかる勢いだったが、さきちゃん達と、そしてりっちゃんが慌てて身体に腕を絡ませて止めていた。 「ふざけんな……っふざけんな!! りっちゃんは、りっちゃんはねえ……! あたしらなんかよりよっぽど、大人で! 自分に正直なだけで! それでも自分を律して、自分を犠牲にして! それをあたしたちが、馬鹿にする権利なんて!! どこにも!! ないんだから!! ふっざけんな!!」 「まみちゃん、落ち着いて!」 「真実-! どうどうどう!」 正面にいる男子は完全にたじろいでいた。むしろ引いていた。 私はいつのまにか涙と鼻水をまき散らしながら、その後もなんか言ってた気がするけど、何も覚えていない。記憶が吹っ飛ぶくらい、私の思考回路はぶち切れてしまったらしい。
*
運動会は、優勝しなかった。ダンスも優勝しなかった。 先輩達は号泣し「うちらは赤組が一番だと思ってるから! 赤組最高!」とやはり青春まっしぐらの文句を高らかに言い放ち、拍手喝采が湧き上がり、不思議な感動のうちに幕を閉じた。 声援で盛り上がったグラウンドは、しんと静まりかえって、夕陽色が全面に広がっている。 今日は部活も全部休みだ。それぞれのクラスで打ち上げが予定されている。私もりっちゃんも出る予定だったけど、こっそり抜けた。ああいった事件の直後なので流石に無理と判断した。不器用な私たちよりずっと器用なさきちゃん達が計らってくれた。 運動会の最中はスポーツが創り出す団結感によって、りっちゃんを馬鹿にした男子も、派手な女子グループも、たくさんの傍観組も、私の大切な友人も、りっちゃんも、私も、頑張った。全体として赤組は優勝しなかったが、一年三組は学年競技で一位になった。男女問わず、みんな手を叩いて喜んだ。 私は身体を動かすことは苦手だけれど、こういうのもたまにはいいかもしれない。細かい価値観の違いだとか、性別だとか、性格だとか、身体の特徴やかたちだとかそういった、それぞれで生じる違いや個性を超えて、一つの目標めがけて力を合わせることは。 りっちゃんは個人でも活躍した。決まっていたことではあるが、クラスで一番足が速いので、メドレーリレーに出場し、二位でバトンを受け取った後、辞めてしまった陸上部の仲間だった黄組の男子生徒に迫り、デッドヒートを繰り広げ、ぎりぎりで追い抜いた。その瞬間の盛り上がりようといったら、りっちゃんの纏っていた仄暗さを吹き飛ばすものだった。みんな調子がいいんだ。それはそうとして、りっちゃんはかっこいい。やはり、りっちゃんは自分を消すように着席しているよりも、太陽の下で輝いているヒーローみたいな立ち位置がよく似合う。 だけど、明日からの日常はどうなるかわからない。 今日と明日は違う。 でも私達はたぶんそんなに暗い顔をしていない。 きれいに整えた花壇の前で、手を叩く。 「いつかやりたいと思ってたけど、ようやくできたなあ」 りっちゃんは満足げに笑った。花壇を踏み潰された事件は実に陰湿でショッキングだったし、結局誰の仕業かは判明していない。あのパンジーやビオラは戻ってこないけど、一応、元通りだ。 「運動会の後に花壇をきれいにしたいなんて、りっちゃんもよくやるよね」 「ずっと心残りだったんだ。でもそれどころじゃなかったから」 「そうだね」 あらゆることがとりあえず一つの区切りを迎えたのだと思う。りっちゃんは気持ちの良い表情をしていた。 「またパンジーとビオラの苗、頼んで用意してもらうか」 「せっかくだから、違うのでもいいかも」 「なんかあるかな。調べてみるか。でも、三組だけ違うのもなんか変じゃない? こういうのは統一感があってもいいと思うんだよな」 「たまにはいいよ」 一年のくせに生意気だと言われるかもしれない。でも本当に通るかどうかなんて分からないんだから、言うだけ言ってみるのも手だろう。 「でも、園芸委員、もうちょっとしたら終わっちゃうんだよね」 「継続で立候補したらいいんじゃない? やりたいって言ったら別に誰も止めないだろ。他の子で園芸委員やりたいって奴がいたら別だけど、いないだろうし」 「いないだろうねえ」 私は土まみれになった手を見やる。汚いけれど、健康的な手だ。 「おれもその方がちょうどいいな。まみちゃんと一緒だし」 「えっ」私は大きな声をあげる。「また私と一緒でいいの?」 「え? うん」りっちゃんは目を瞬かせる。「え?」 なんだか変な沈黙が訪れる。 りっちゃんは怪訝な表情を浮かべているが、何か変なことを言っただろうか。 でも、一緒がいいと言ってくれるのは素直に嬉しいので、私は何も考えずにぽわんと笑みを零した。 「そっかあ。りっちゃんと後期も委員会一緒なら、楽しいね」 「……うん。そうだな」 りっちゃんは相変わらずちょっと挙動不審だけれど、まあいいか、とやがて大きな息を吐いた。 遠くでかすれ声のようなひぐらしが鳴っている。向日葵は枯れて、とうに夏は過ぎたと思っていたのに、まだ蝉は鳴いているのだと驚く。だけどじきにこの声も聞こえなくなるだろう。 「まみちゃん、垢抜けたというか」私を見ながら、しみじみとりっちゃんは言う。「さっぱりしたな」 「誰かさんの影響かな」 「誰だろうなあ」 「誰だろうねえ」 ふふ、と笑い合った。なんだか幸せである。 「でも、殴るのはやめた方がいいな。ああいうのは、どんだけ相手がくだらない挑発をしていたとしても、先に手出した方が悪者になるんだ。それに殴った方は結構痛い」 「りっちゃん、痛そうだったもんね」 夏休み前の、りっちゃん暴力未遂事件である。 「あれはまじ、やばいぐらい痛かった。今までで断トツ。おれがあの時逃げたのは、痛すぎて、そして恥ずかしすぎたからだから。廊下に出てから、ちょっと泣いた」 「うそー」 「ほんと。まみちゃんも一回机殴ってみたら? まじで痛いから」 「やだよ」 しかし、振り返ってみるとなんと暴力的な園芸委員だろうか。実際、とんでもないおまけが付いてきた。 おとなしいやつほど怒らせると恐い。私とりっちゃんが一年三組に植え付けた強迫観念の一つである。園芸委員の二人は、そのおっとりとした穏やかな響きの肩書きとは裏腹に、暴力的なレッテルが追加されることになった。自分達の正義というか本能というか、挑発に乗った愚かさというか、そういったものが生んだので、名誉といったらいいのか不名誉といったらいいのか微妙なところである。先生も親も驚いた。多分、運動会が過ぎて、明日以降のどこかで話があるだろう。 これで、三組に渦巻く嫌な空気が吹き飛べばいいのだけれど。 少なくとも、直接的な影響がでなければまずはそれでいい。裏で何を言われてようと、遠く離れていれば気にするほどのことではない。 「さて、これからどうする?」 「うーん」 なんとなくこの大切な時間が終わってしまうのが寂しくてごまかす。 私は、一つ提案した。りっちゃんは嫌そうな顔をしたが、受け入れてくれた。 「なんかポーズをした方がいいのか?」 「いらないいらない」 私はおかしくて笑い、スケッチブックを捲り、鉛筆を立てる。 真剣な目つきで、ただ、花壇裏の階段に座るりっちゃんの横からの姿を写生した。 無自覚のうちに自分を律するりっちゃんは、リラックスした空気であっても肩の力が抜けていても背筋がきれいだ。ちょうどいい鼻の高さ、中性的な顔つき、長い白シャツとズボンの下が女性的でも、りっちゃんを形作る雰囲気は男性的で、どちらも兼ね備えるりっちゃんは普通と少し違って、素敵だ。でもきっと、みんなそれぞれ少しずつ違う。たまたまりっちゃんが目に見えやすいだけで。 強い夕陽に照らされて儚げな横顔。暗くなって見えなくなる前に、私は真剣に紙に写し取る。この瞬間を完全に切り取ることはできなくても、この瞬間を、私の目が捉えるこの瞬間を、できるだけ忠実に切り取りたい。 拙くても、私は一生懸命鉛筆を走らせる。 「ちょっと喋っていい?」 「うん。でも動かないで」 「厳しい」 りっちゃんは笑う。ぎこちなかった真顔よりこっちの方がいいな。私は消しゴムで口許を修正し、微笑みを与える。うん、りっちゃんらしい。 「おれ、幼稚園の頃、いじめられて泣いているまみちゃんを見て、守らなきゃって思って、ヒーローになるって言ったの。覚えてる?」 「もちろん」 明るい記憶ではなく、むしろ掘り起こされたくない部分でもあるが、りっちゃんに助けてもらったことは何にも代え難い私の希望だった。指切りまでして、約束を交わしたことを、よく覚えている。 「りっちゃんは、私のヒーローだった」 「うん。そうなりたいと思っていた。でも、実はまみちゃんもヒーローだったんだな」 「私が?」 咄嗟に素っ頓狂な声をあげて、手を止めそうになるが耐える。しかし、ふらふらと明らかに動揺した線になってしまう。 「おれ、結構きつかったんだわ。いろんなこと。男子として生きてみようと思ったのはいいけど、親がまず困る。親はきっと、おれのブレザーとスカートの晴れ姿を見たかったんだ。前例が無いせいで先生方も困惑してるし、みんながど���受け止めるべきか困っているのも解ったし。気持ち悪いものが気持ち悪いのは、しょうがないじゃん。単純なことかと思ってたら、おれだけの問題じゃないんだなってよく解って、でも、おれはおれであることからは逃れられないから、そことのギャップも、地味ないたずらも、苦しかったんだ」 「うん」 「昨日、ダンス練習して、一日目だったからやばいかもなーとは考えていたんだ。でも、もうこれ自体もさ、おれがどうあがいても女子っていう証拠で、覆せなくて、それがむかつくやら苛立つやら悔しいやら、でもどうしようもないから隠すしかない。でも、あの時は耐えられなかったな。最近あんまり寝れてなかったし」 「……そっか」 大人びたりっちゃんを創る、本当のりっちゃんが話しているのだ。私は余計な邪魔をせず、相槌に専念しつつ、絵を完成へ近付ける。 「身体の変化にはあらがえないと実感したけど、まみちゃんが助けてくれて、本当に助かったんだ。それに、その後まみちゃんが取り乱したのも、びっくりしたけど、この子は味方でいてくれるんだって」 りっちゃんが振り返る。私は、動かないで、と言わなかった。 「ありがとう」 夕陽を逆光にして、りっちゃんはきれいに笑った。本当に嬉しそうに笑った。 私は鉛筆を止めて、呆然とした。そしてまた号泣していた。 「いやいやいや、だからなんで泣くんだよ」 「わかんない」 りっちゃんは戸惑いというよりもおかしく笑った。私は鞄からタオルを取りだそうとして、青いハンカチが目に入った。あれから良い機会が全然無くて、返せずにずっと鞄に入れっぱなしにしていたのだ。私は泣きながらとりあえず返そうとする。 「いや、それで拭きなよ」冷静なりっちゃんは呆れる。「そのうち返してくれればいいし」 運動会の汗をたっぷり吸い込んだタオルよりもずっと清潔なハンカチに、また沁みができた。申し訳なさやらなんやらが積み込まれた、重たいハンカチになっていく。 「泣き虫だなあ」 りっちゃんは苦笑する。 「泣き虫だし、いつまでも、りっちゃんに甘えてばっかりで、弱虫で……だからずっとりっちゃんが苦しんでるの知ってたのに、見て見ぬふりして……全然、私、ヒーローなんかじゃない」 私はぽつんぽつんと涙ぐみながら言う。りっちゃんは首を横に振った。 「そんなことない。みんな弱虫だ。おれもそう」 「りっちゃんは、すごいから、私なんかと全然違って」 「すごくない。おれはまみちゃんの方がよっぽどすごいと思う。嘘をつく方がよっぽど楽なことだってあるじゃん。ちょっとはみだすことって、本当に大変で、勇気がいることだから。その一歩が一番大変だ。だから、真実ちゃんはすごいし、おれのヒーローだよ」 「うええ……」 身に余る言葉ばかりたくさん浴びて、私は写生どころではなくなってしまった。微笑むりっちゃんを写した拙い絵に、涙が一粒落ちる。 「うわっすげえ。この短時間で? めっちゃ上手いな。ちょっと気にしすぎなくらい人のこと見てるもんな。絵の才能あるんじゃないか?」 りっちゃんはスケッチブックを私の膝上からあっさり引き抜いた。 「他のも見せてよ」 了承を得る前に、まったく悪気が無い手さばきでりっちゃんは過去のページを捲る。 涙が瞬時に止まった。真顔になり、さっと血の気が引く。 その中には、こっそり、隠し撮りならぬ隠し描きした、りっちゃんの高跳びをする瞬間の写生画が入っているのだ。 「や、やめてーーーーー!!」
透明人間だった私に、輪郭が描かれ、あざやかな色が塗られていく。
了
「弱虫ヒーロー」 三題噺お題:世界の終わり、嘘をつく、指切りげんまん
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ベルギー・アントワープの「フランダースの犬」の石碑が中国資本の像に変わったという話
トヨタ寄贈の「フランダースの犬」記念碑はなぜ中国資本寄贈の石像に置き換わったのか 毎日新聞2019年4月20日 12時10分(最終更新 4月20日 12時31分)
名作童話として読み継がれ、日本では1970年代にテレビアニメも大ヒットした「フランダースの犬」。ベルギー北部フランダース地方のアントワープにある聖母大聖堂は、主人公の少年ネロが最期を迎えた舞台として、今なお日本人観光客の「巡礼地」であり続けている。大聖堂の前にはかつて、日本とアントワープの友好の象徴として、物語をモチーフに建てられた記念碑があった。ところが2年半前に取り壊され、現在では中国資本が寄贈した新たな石像に置き換わっている。欧州で拡大する中国の影響力は、ここにも表れているのだろうか。フランダース地方出身のインターン記者と共に取材した。
大聖堂前の広場から消えた「日の丸」
<パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ。パトラッシュ…>
真冬のアントワープ聖母大聖堂。憧れの巨匠ルーベンスの祭壇画を目にすることができた少年ネロはその場で力尽き、愛犬パトラッシュを抱いて冷たい石の床に横たわったまま最期の時を迎えた。75年に放映されたアニメシリーズ「フランダースの犬」の印象的なエンディングである。
【画像省略】 「フランダースの犬」の舞台となったアントワープの聖母大聖堂=アントワープで2017年2月11日、八田浩輔撮影
このシーンを想起させる少年と犬の白い石像が、アントワープ中心部にある大聖堂前の広場に完成したのは、2016年12月のことだった。寄贈したのは中国・深センに本社を置くジュエリーブランド「周大生」。石像のわきにあるパネルには、中国の人々と周大生が、アントワープのダイヤモンド産業に貢献したことへの謝意が記されている。港湾都市アントワープは、世界で流通するダイヤモンドの原石の8割が集まるダイヤ取引の中心地だ。
広場の同じ場所にはかつて、日本の関係者の協力で03年に建てられた記念碑が存在していた。「フランダースの犬」は英国の作家ウィーダが19世紀後半に発表した作品だが、舞台として描かれたベルギーのフランダース地方では、物語を知る人は多くない。ゆかりあるアントワープにも「フランダースの犬」にちなんだ記念碑などは存在せず、現地の日本人社会が建造を働きかけたのだった。
03年5月9日。記念碑の完成式典には当時の駐ベルギー日本大使やアントワープ市幹部らが出席し、日ベルギーの友好の証しとして両国の国旗も記念碑の上にかけられた。御影(みかげ)石で作られた記念碑は縦1メートル・横2メートル・高さ45センチの箱形で、ネロとパトラッシュを描いた円形のガラスが中心部にはめ込まれていた。夜���になるとガラス部分の内側から赤い照明がともり、日の丸のように浮かび上がる仕掛けもあった。4万ユーロの建設費はトヨタ自動車の現地法人が寄付し、上面には日本語でこう刻まれていた。
<この物語は悲しみの奥底から見出す事の出来る本当の希望と友情であり、永遠に語り継がれる私達の宝物なのです>
【画像は別掲】大聖堂前の広場に新しく建てられたネロとパトラッシュの石像=アントワープで2019年2月1日、久野華代撮影
碑文を考えたのは、ウェブデザイナーの日本人男性(50)だ。男性はそれまでベルギーを訪れたこともなかったが、「フランダースの犬」に関する情報を紹介するウェブサイト「PATRASCHE.NET」(パトラッシュ・ドット・ネット)を90年代後半から運営する筋金入りの愛好家として白羽の矢が立った。
電話取材に応じた男性は「『フランダースの犬』は自分の人生にとって大切な宝もの。聖書と同じようなものです」と物語への思いを語る。テレビでアニメシリーズが放映されたのは、小学生の低学年のころだった。母がいない主人公ネロと同じ境遇で育った自分を重ね合わせて共感し、作品の持つキリスト教的なメッセージは、後にクリスチャンになるきっかけになったという。
男性は数年前、記念碑が移動するかもしれないとの情報を現地の知人を通して耳にした。「最初はフランダースの犬が多くの人に広まるのであれば、残念だけどやむを得ないと思いました。でも……」。それからしばらくして記念碑は取り壊され、同じ場所にネロとパトラッシュの新しい石像ができたことを知った。
男性は経緯を尋ねるために、現地の関係者や日本の外務省、在京のベルギー大使館などに問い合わせたが、現在に至るまで納得できる回答は得られていない。
「寂しい思いしかない」。男性は何度も繰り返した。
「正しい方向であればスポンサーは誰でも構わない」
記念碑はなぜ撤去されなければいけなかったのか。新しい石像の建造とスポンサー探しにかかわったアントワープの観光ガイド、タンギー・オットマーさん(37)を訪ねた。飼い犬をパトラッシュと名付ける彼もまた「フランダースの犬」に魅せられた一人である。
「いつも記念碑が壊れているのを見るのが悲しかった」。オットマーさんは、建て替えが必要と考えた理由について、説明を始めた。記念碑は、広場を取り囲むレストランを回る配送トラックがたびたび接触し、破損と修復を繰り返していた。時には壊れたまま2カ月近く放置されることもあった。「フランダースの犬」を知らない地元の人たちから記念碑として関心を寄せられず、45センチというちょうどいい高さ故に腰掛けとして使われて「トヨタベンチ」と呼ばれていたことも残念に感じていたという。
フランダースの像
オットマーさんは16歳のころ、アントワープの歴史を調べる中で、ネロとパトラッシュの物語を偶然知った。観光ガイドとなってからその魅力に改めてひかれ、人気の背景を知ろうと日本を訪れたこともある。アントワープ市が観光資源として「フランダースの犬」を十分活用していない状況を変え、フランダース地方を含むベルギー全体で知名度を高めたいという思いを持ち続けていたという。
オットマーさんは10年、「フランダースの犬」をモチーフにした新しい像の建造に向けた国際デザインコンクールを企画したが、市側の協力を得られずに開催には至らなかった。この時、日系企業のスポンサーも探したが、「良い反応は得られなかった」という。状況が変わったのは16年だった。ガイドの顧客だった中国のジュエリーブランド「周大生」の関係者を通して、同社から金銭的な支援を得られることになったのだ。
市側の事情も変わっていた。アントワープ市政は13年からフランダース地方の分離独立を掲げる中道右派の新フランデレン同盟(N―VA)が握った。破損を繰り返す記念碑の修復費用を負担していた市側は、新しい像の寄贈を持ちかけたオットマーさんらの提案に乗った。
観光客の動向も影響した可能生がある。アントワープ市を訪れる日本からの観光客は近年、顕著に減っている。07年には1万4700人だった日本人観光客は、17年には5500人まで落ち込んだ。取って代わるように中国からの観光客は増加を続けている。12年を境に日本人観光客を上回り、17年は9800人と日本人観光客の倍近くが訪れた。
「フランダースの犬は、友情や信念、そして前向きな思考の大切さを伝える普遍的な物語です。(像が示すメッセージが)正しい方向であれば、スポンサーは誰であっても構わないはずです」とオットマーさんは言う。
同じ16年の5月、「フランダースの犬」の原作にならって、受賞者がアントワープの王立芸術アカデミーで1年間勉強できる市長主催のデザインコンクールが開かれた。優勝したベルギー人アーティストがデザインした白い大理石のネロとパトラッシュ像は、記念碑の跡地に12月に完成した。くしくもこの年は、日本とベルギーが外交関係を樹立して150周年にあたる節目の年だった。
【画像省略】「フランダースの犬」の新しい石像の制作にかかわったアントワープの観光ガイド、タンギー・オットマーさん=アントワープで2018年3月19日、ヤーロー・マナート撮影
オットマーさんは「私がガイドした多くの日本人からは、新しい像についてとても良い反応をもらっています」と笑顔を見せた。
軽視された物語の価値
「記念碑が撤去されたことは残念でした。石像と互いに補完することができたはずだからです」。そう語るのは、ベルギーのドキュメンタリー作家、ディディエ・ボルカールトさん(47)だ。フランダース地方で知名度の低い物語が、日本で愛され続ける背景に迫ったドキュメンタリー映画「パトラッシュ、フランダースの犬 メイド・イン・ジャパン」を07年に製作し、これを基にした編著は「誰がネロとパトラッシュを殺すのか」(岩波書店)として邦訳もされている。
「フランダースの犬は、異なる文化を結びつける力がある物語です。しかし、アントワープ市はその重要性を十分に認識しているとは思えません」とボルカールトさんは言う。実際、日本側の協力で記念碑が建てられた後も、アントワープでは「フランダースの犬」を使った観光キャンペーンなどは行われず、それを避ける雰囲気すらあった。その理由について、ボルカールトさんは「フランダース人の目から見ると、これは貧しく、何よりも人生に失敗する物語であり、自分たちが打ち出したいイメージとは違う」と著書で指摘している。
欧州を代表する港湾都市アントワープは、ダイヤモンド産業のほかにもファッションの街として知られ、ベルギー経済を支える活力あふれる街だ。「アントワープにとって『フランダースの犬』は関心事ではありません。重視するのはダイヤモンドやチョ���レートなど観光客に売れるものです。『フランダースの犬』は文化であり、アントワープには(経済的利益を)何ももたらしません。日本の人たちは、それは違うと言うかもしれません。しかし、ダイヤモンドがもたらすものとは比較にならないのは明らかです」
「日本のアニメを見て育った」というボルカールトさんは、日本のアニメとオタク文化の研究で博士号を取得した。「フランダースの犬」をテーマにしたドキュメンタリー映画を製作したのは、ベルギーの人々に物語を広めると共に、「日本に恩返しをして、より良い関係につなげたいと考えた」からだという。
ボルカールトさんたちの調査によると、フランダース地方の公用語オランダ語で「フランダースの犬」の完訳版が初めて発売されたのは85年と遅かった。きっかけとなったのは、アントワープに「巡礼」に訪れる日本人観光客だったという。英国人作家がフランダースを描いた物語は、日本を経由してその地で暮らす人々に知られることになったのだ。
【画像省略】「フランダースの犬」をテーマにした作品もあるドキュメンタリー作家のディディエ・ボルカールトさん=ブリュッセルで2019年3月27日、八田浩輔撮影
映画の発表から10年以上がたったが、ベルギー国内での状況は「何も変わらなかった」とボルカールトさんは嘆く。「本当の希望と友情」の証しだった記念碑の撤去は、それを象徴する出来事だった。【ヤーロー・マナート、八田浩輔】
地元出身インターン記者の思いは……
私はフランダース地方のデンデルモンデという街で育ちました。現在はルーベン・カトリック大学大学院でビジネス・コミュニケーションを専攻しています。2018年8月まで1年間、九州大学に留学していました。
「フランダースの犬」を初めて知ったのは、ベルギーの大学で受けた日本語の授業でした。日本語と日本に興味を持っていなければ、私は自分が育った地域を描いた話を知ることがなかったかもしれません。ベルギーで「フランダースの犬」は子供向けの本も漫画もなく、学校でも教わりません。日本で製作されたアニメシリーズは、さまざまな言葉に翻訳されていますが、ベルギーでは一度も放映されたことがありません。こうした事実は、フランダース地方とベルギーにおいて、この物語がどれほど知られていないかを示すものです。
アントワープ聖母大聖堂の前の広場にあった日本とベルギーの友好を象徴する記念碑は、中国企業がスポンサーになった石像に置き換わりました。最初は中国による干渉も頭をよぎりました。しかし実際には、関わった人たちに悪意はなく、ネロとパトラッシュの物語への敬意から何かがしたいと考えた結果だと分かりました。
【画像省略】中国のジュエリーブランド「周大生」が、「フランダースの犬」の石像のスポンサーであることを記すパネル=アントワープで2017年2月11日、八田浩輔撮影
私は、記念碑は取り壊されるべきではなく、新しい石像と共存することができたと考えています。記念碑が何度も損傷したことから、アントワープ市が撤去を決めたことも理解できますが、物語の価値と日本とのつながりを認識していない市を擁護する気にはなれません。
日本でもテレビシリーズの放映から40年以上がたち、若い世代でこの物語を知らない人たちが増えることを心配しています。私の日本の20代の友人も「フランダースの犬」を知りませんでした。
ネロとパトラッシュが日本とベルギーで忘れられないために、三つのことが必要だと思っています。一つはアントワープ市が、この物語を通して政治・経済を超えたレベルで日本とつながる重要性を認識することです。次に、フランダースの人々がこの物語を知り、たとえ自分が持つフランダースのイメージと異なるとしても、それを���け入れること。最後に日本の若い世代にこの物語を知る機会が増えてほしいと思います。友情の物語が、子供や孫たちの世代にも長く生き続けることを願っています。【ヤーロー・マナート(毎日新聞ブリュッセル支局インターン)】
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発音は大切
日本語を勉強するとき、発音が重要だと考えています。中国人なので、日本の漢字は知らなくても推測できる。でも、これ方は違いですね。文章を書いている時や、日本語を話している時、いつも間違った言葉を使っていました。本当に難しいですね。
私が日本語の勉強をそる目的は何?日本で生活することなのか?翻訳なしで漫画やテレビや映画を理解できるようになることなのか?そういうの理由じゃない。最初は、タイトルは覚えないが日本のゲ-ムで遊んでいた、第一話は中国語に翻訳されていた。でも、第二話から翻訳されていなかったこともあり、これはゲ-ムが続けられないので、その日から日本語を勉強した。でも、あのゲームは全部忘れた。
最近、日本のゲームは中国語に翻訳されていて、日本語を勉強の理由にはならない、しかし、個人的には、一度始めたら結果が欲しいですね。
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NOxMaria
風呂蔵まりあ
明け方まで授業の予習ノート作りが終わらなかった。白む窓の外を見て、世界よ滅びろと強く願う。諦めてベッドに入ると、乾いた目に光線が透けるのが痛くて、もう一度心の底から世界を怨んだ。
そのまま、日付が越える頃までスマートフォンでだらだらと読んでいたホラー漫画の展開や、そのおどろおどろしい描写について考えていた。
部屋の前まで足音が、ギッ、ギッ、ギッ、と近づいてきて、「開けてくれ」と雨水混じりの泥をこねるようなまろやかな声がする。その声の呼ぶままに扉を開けてしまうと…。
身体にグッと力が入る。目を一度固く閉じると、外の世界が妄想の通りになっていても、それに気づけない。我慢の限界になると、恐怖と言うのか、なんというか、取り残されてしまうような不安で、ハッと目を開けてしまう。そんなことを繰り返していると、スマートフォンの穏やかなアラームが鳴った。
また眠そびれた。
今日は午後が英語文法と古文で、五限の英単語小テスト対策は午前中の授業中にこっそりやるとして、六限の古文は最初にノートを集める。どう誤魔化そうか。もう、なんでもいいや。忘れ物さえしなければ、どうにかなる。頭がぼんやりしてるうちに、学校へ行ってしまえ。今日はこれで押し切る。
制服に着替えて、リュックを持ってリビングに降りると、昨日買っておいたコンビニのお弁当が袋のまましなびていた。テレビを点けて、電子レンジにお弁当を差し入れて、六〇〇ワットで二分半。テレビからニュースが流れ始めた。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
聞き覚えのある高校の名前に手を止める。すぐにスマートフォンでSNSの友人用アカウントを開くと、昨日の夕方から夜にかけて大騒ぎだった。ネットの情報では、私が通う高校に一番近い高校の文化祭で、男子生徒が刃物を振り回して
「七名が意識不明の重体…?」
ニュースから流れる速報は聞き逃した。
電子レンジの温めが終わり、響くアラームのなかで、茫然と立ち尽くした。ついさっきまで世の中を恨んでいたとは自分でも信じられないほど、強く胸が痛む。
刃物を振り回した生徒の、のっぴきならない胸のうち。もう二度と彼とは友達に戻れない、顔も知らない被害者たち。悲しいニュースの向こうから、悲しみにまみれた命をひりひりと身に感じて、寝不足の鈍く痛む眼球の裏からぼたりと涙が溢れてきた。
泣きながらご飯を食べ、のろまな足取りのままで家を出た。
外の蒸し暑い空気は少しも動く気配が無い。日差しは白く霞んで何かを誤魔化していて、とても気持ちが悪い。自転車のサドルはほんのりとヒビ割れて、そこからジトリと見つめる梅雨を連れ去った後の湿気。詰め込んだお弁当ごと胃が縮み、小さくえずいた。
コンビニでお昼ご飯を買っても、だいぶ早い時間に学校に着いた。じんわり汗ばんだ制服ではたはたと風を送りながら、ようやく教室へ辿り着く。教室の扉は開け放たれて、エアコンの涼風がむき出しの腕を撫でる。中で勉強をしている人影が見える。
あ、莉花ちゃんだ。
ちょっと嬉しくなって、
「おはよー」
そう声をかけると、少しこちらを見つめてから、不機嫌そうにイヤホンを取った。
鋭い眼差しに、少したじろぐ。莉花ちゃんとは、学校でいつも一緒にいる関係だけれど、機嫌が悪い時の容赦なさには、未だに慣れない。私が悪いことがほとんどだけれど、時折こんな風に、私にはどうしようもないことで傷つけてくる時もある。
彼女の機嫌が悪い時は、なるべく黙るようにしているけれど、今日は睡眠不足でちょっと気分が昂ぶっていた。どうにか笑って欲しい、ご機嫌がいい時みたいに、楽しく笑いあいたいと、思ってしまった。
そのまま、本来は別の生徒のものである、彼女の前の空席に腰掛けてみた。彼女の視線は私ではなく、手元の分厚い英単語帳に注がれていた。
「早くない?」
なるべく自然に、続きを求める眼差しを彼女に向ける。会話を続けたい意思に気づいて欲しくて、無邪気に振る舞う。
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
大げさに笑えば、時々釣られて笑ってくれる。莉花ちゃんは、馬鹿みたいに振る舞う私が好きみたい。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけられた返事に、体の中心で氷の塊がドキッと強く跳ねた。あからさまな嫌悪と手応えのないコミュニケーションに、顔はニコニコしたまま、頭が真っ白になる。
「いやー、はは」
口の中が乾いて、吸い込んだ空気は少し苦かった。外では野球部が朝練をしている。埃立つグラウンドは、ゆらゆら揺れているようだった。
彼女とは、このクラスになってから、アイドルの話題で仲良くなった。クラス替えからしばらく騒ついていたクラスメイトたちが各々グループで落ち着いた頃、私は風邪を引いて一週間学校を休んだ。その翌日の学校で、担任の堀田先生に、学校での人間関係は上手くいっているかと聞かれた。
その時は、担任の勘違いを解かなきゃ、と思って慌てたけれど、それまでは平気だったことが、急に死にたくなるほど恥ずかしく感じて、いてもたってもいられなくなってしまった。例えば、授業中に集中力が切れ睡魔に抗えず、先生に「オイ」と指さされることや、課題が終わらないこと、小テストに落ちること。本当に、クラスメイトとはなにもなかったし、関係の浅かった子たちが段々と離れていくのは普通のことだと頭では理解していた。それでも、春先に満ちた自尊心があらかた去っていった後に、羞恥心とふたりきり残されたこの教室は、確かに居心地が悪かった。
もしかしたら、堀田先生の心配通り、私はクラスメイトと上手くやれてなかったのかもしれないと思うと、不安で月曜日の学校に行けなくなった。
その頃、英語の授業を習熟度で分けたクラスで莉花ちゃんと一緒になった。
私のスマートフォンの待受を見て、「ねえ、その俳優さ、今度ナントカって映画で声優やるよね?」と、声をかけてくれた。「私もそのグループ好きなの、友だちになろう」すごく優しい子だと、思った。
今も、そう思っている。
それは見れば分かる。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
ボールに飛びつく野球部の姿をぼんやり目で追っていると、彼女の方が声をかけてくれた。彼女の方を向くと、今度はきちんと私を見てくれている。何が原因かも分からない機嫌の悪さは、申し訳なさそうな色で上書きされている。ほら、今度はきっと、優しくしてくれる。心がふっと浮く。
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
あ、しまった。でも今は、不謹慎だとかよりも、目の前の彼女の機嫌を損ねたくない一心だった。必死に、「あー、ごめん。つい」片手をこめかみに当て、オーバーなアクションをする。視線を彼女に移すと、また英単語にラインマーカーで一生懸命線を引いていた。
「ごめん」
彼女が、私といてちっとも楽しくなさそうな時、私にはその理由がわからない。彼女はひどい時も優しい時もあるけれど、私は、莉花ちゃんのことが大好きだった。彼女の気に入らないところは直したいと、彼女の不機嫌の理由を一生懸命考えた。
彼女は、私を視界の外に、黙々と単語帳に線を引き続ける。
彼女のイヤホンから漏れる低い音が、まるで心音のようだった。胸元の「桝」の名札が、小刻みに揺れる。莉花ちゃんの息づかいに耳を澄ませながら、ふと残酷なことを思いつく。
あの事件のように今、私が刃物を振り回し、こんなに機嫌の悪い彼女が、慌てて逃げ出す様が見たい。いや、もしかしたら、彼女なら、逃げ出すより先に、「やめなよ」と言ってくれるかもしれない。そんな子が、事件のあった高校にも、居たかもしれない。だって、仮にも、同い年の友達だったはずだから。それでも命を落としてしまっただれかのことを想像すると、また鼻の奥が涙でツンとした。
犯行の動機が何であれ、他人の命に干渉してまで抑圧から解放されたら、その時は繰り返してきた自身の葛藤なんて、くだらなかったと思うのかな。
しばらくすると、他の生徒たちがやってきて、グラウンドの土と制汗剤の香りが教室一杯に混ざり合った。
午前中は、事件のことばかり想像していた。
例えば、今私が突然立ち上がって、刃物を振り回したら、どうなるんだろうか。人を刺す感覚や、肌を裂く感覚は、その時初めて知るものなのだろうか。事件に遭遇したことがないから分からないけれど、想像に難くないのは、両手で刃物を持って、力を込めて腹部を刺す光景。どのくらい痛がるんだろう。すぐに気を失ったりするものなのだろうか。先生が止めに来るかな。担任の先生は、どんな顔をするだろうか。
私が警察官に取り押さえられた時、それを見て、クラスは安堵で一杯になるのか、それとも、まだ犯人とクラスメイトとの境界は曖昧で、先生に友だちが怒られてる時のような、茶化せずにはいられない気まずい空気になったりするのかな。
そんなことをしてまで得られるものってなんだろう。
授業には集中できなくて、手元ばかり見つめていると、頭がぼんやりとしてくる。クーラーの効いた教室で、眠気に火照る肌が、科学素材のように嫌な熱気を放っていた。
そのうちすぐに瞼が重くなって、気を抜くとすぐ船を漕いでしまう。瞬きを何度もしながら手の甲を抓ると、痛覚は不甲斐無さばかりを呼び覚まし、蛇口を開けたみたいに悲しさが溢れ出した。
午後の小テストも、きっともうダメだ。ノートの提出も出来ない。嫌だな、今日は乗り越えられないかもしれない。いや、ダメだ!頑張らないと。朝、何か、これで乗り切ろうと思ったことがあったけど、なんだったっけ。
ちらりと莉花ちゃんの方を見ると、彼女もまた、俯いて静かに固まっていた。寝ているのかな。
少し元気が出てきた。期待を持って教室を見渡すと、周りはみんな、しっかりと授業を受けているように見えた。眼球の筋肉が軋むのを自覚しながらもう一度視線を戻すと、彼女も今度はしっかりと黒板を見ていた。
四限が終わるチャイムで目が覚め、少し泣きそうになった。スマートフォンと、朝に買ったサンドイッチの入ったコンビニ袋を持って教室を飛び出した。
どうして、みんなに出来ることが、私には出来ないんだろう。悲しくて、悔しくて、申し訳なくて恥ずかしくて、落ちるように階段を駆け下りた。
思えばずっと、話が噛み合わなかったり、誤魔化さなくていいことを誤魔化して来た気がする。
私も学校の意味を哲学したいけど、みんなと同じゴールを据えたいけれど、ずっとピントが合わないな。景色はボヤけたまま、名を呼ぶ声を頼りに、ただ今日を生きなくちゃ。吐き気のするような一秒の積み重ねを耐え抜いて、誰にも言えない痛みを、私だって知らなくちゃ。
でも、私だけどうしてこんなに辛いんだろう。悪いのは、私なんだけれど、悪者だけが原因とは限らないんじゃない。もっと他に理由があるかもしれない。そんな希望にさえ縋る。若者は無限の可能性を持っているなんて、酷い脅し文句だ。
遣る瀬なく涙を堪えて伏せた視線は、すれ違う生徒たちの腹部に行き着いた。女子は特に、柔らかそうだと、思った。
一階体育館昇降口へ続く廊下の途中に保健室がある。窓から廊下へ差す陽の光がジリジリと暑いのに、その日差しの中に舞うホコリは、ゆったり流れる。それをぼんやりと眺めると、辛く苦しい気持ちは段々と薄らいできた。
その安心は、このまま一秒でも長く頑張らなきゃと切迫したしこりも一緒に溶かした。こうなると、泣きながらでも教室に居続けることは、もう出来ない。
「帰っちゃおう」
呟くと、自分の息でホコリは流れを変える。それは、救いのような光に見えた。
保健室のとなりにある保健体育の準備室の前で足を止めた。自分の教室には居られない時、いつもここでご飯を食べる。
その広さは普通の教室の三分の一程度しかなく、教科書の在庫から、応急処置の実習に使う器具までが押し込められている。基本的には無人で、軽くノックしても、思った通り、なんの返事もない。私のために保健の先生が立ててくれた会議用の長机と理科室の椅子に腰掛ける。
カリカリと机を爪で引っ掻いていると、廊下から入ってきた方とは別の、保健室に直接繋がる扉から、養護教諭の仁科先生が顔を覗かせた。仁科先生は子どもがまだ小さいらしく、たまに居なかったりする。
「ああびっくりした!」
「あ、せんせえ」
「来てるなら言ってよね。なに今日、頑張ったじゃん」
「ちょっと辛いからもう帰る!」
「えー、もうちょっと頑張ろうよ、保健室で休んでもいいんだよ」
「ご飯食べて決めてもいい?あ、せんせえ、カフェオレ作ってよ」
「あんたねえ」
「お願い!今日で最後にするから!」
「もー、最後だからね」
そう言いながら保健室に消えていった。間も無く、陶器のカチャカチャぶつかる音と、コンロに火がつく音がした。
片手にカップを持った先生が現れたのは、すぐだった。
「あっ、聞かずにホットにしてしまった!大丈夫?」
「笑う!夏だよいま!えー、でも大丈夫、ありが���うせんせえ」
「ちょっと、火傷しないでよ」
「いただきまーす」
すぐにごくごく飲んだ。甘くて熱くて、喉が少しずつしか胃に落としてくれなかった。持ち上げたカップ越しに一瞬だけ先生を見た。いつもの表情。先生は、私がこれを飲んでいる時、決まって安心したような顔をする。確信が満ちているように見える。カフェオレの、糖分とか鉄分とか、カルシウムとか、そういうものが私の胃に落ちて、分解されて、栄養素に変わって行くのを、しかと見たぞといわんばかりに。それが少し面白かった。
「あんまり見ないでくださあい」
「なによ、かわいい生徒を見たらいかんのか」
「いやちょっと気持ち悪いんですけど!」
おかしくて笑った。先生はなにかを言いかけた、ように見えたけれど、保健室から呼ぶ別の生徒の声にはあい、と返事して、そのまま去って行った。
静かになった準備室で、机の上に今朝買ったサンドイッチを出した。少し歪になったサンドイッチからはみ出すトマトを、袋の上から一生懸命押し戻す。ポケットに入れたスマートフォンが振動し、画面が明るくなった。そこには、教室にいる彼女から「そっち行ってもいい?」と、メッセージがきていた。アプリを開いて、いいよ、の返事を送った。
本当は、会いたくなかった。繰り返し繰り返しした妄想で殺してしまった人に、会い直す。どんな顔をしたらいいのか分からない。
人生は変えられないけど、人を殺したら、人生観は変わるかな。気を引きたいとか、謝って欲しいとか、構って欲しいとかぶち壊したいとか、そう言う気持ちを暴力で発散し切ったら、人の言葉のひとつに救われたり、傷ついたりしたなんて閉塞的な世界からは出られるだろうか。
子供が互いに干渉し合って、大人になっていくんだから、ろくなこと、あるわけないよなあ。
欠けた月の、欠けた方をじっと見るような心地。そわそわと落ち着かない手でサンドイッチをビニール袋に戻した。
準備室のドアが、廊下から叩かれる。いつもはそんなことしないのに。
今朝方ベッドの中でしていた想像が、ふとよぎった。足音が近づいてきて、「開けてくれ」と囁く。妄想を振り払うように思い切りドアを開けた。
何度も刺してしまった顔が、目の前に現れた。
「ありがとね」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
彼女の手を準備室の中へ引きながらぎこちなく踵を返すと、保健室と準備室を繋ぐ扉から、仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒に食べるの?」
「はい」
彼女がにっこりと答えた。
先生は何度か頷き、おしゃべりは小さい声でね、と言い残し保健室に戻っていった。彼女はにこにこしたままで、さっきまで私が座っていた椅子に座りながら、問いかけてくる。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
カフェオレのカップを覗き込みながら、手は持ってきたお弁当や英単語帳を机に広げていく。
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
少し不機嫌な声。粗探しをするような視線が、机の上を泳ぐのが分かった。そんな彼女の、小刻みに動く素直なまつげを、私は立ち尽くしたまま眺めた。
今なら彼女の考えていること、全部分かってしまいそう。それでも私は、こうして来てくれてとても嬉しいよ。
彼女の向かい側に腰掛けて、机の上にあったコンビニの袋の口を膝の上でこっそり縛った。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
そのまま、そっと袋を床に置いた。
「食べてていいよ」
手前に並べられた彼女の英単語をこちらに引き寄せる。ボロボロの表紙を、マスキングテープでがっちりと固定してある。形から入るところがちょっと可愛くて、掠れた印刷を撫でるようにそっとめくった。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
莉花ちゃんは、勉強がそんなに得意じゃないらしい。教科ごとの習熟度別クラスは、私と同じ基礎クラスで、小テストも不合格で、よくペナルティ課題を出しているのを知っている。本人は隠したがっているし、私の前では決してペナルティ課題をしない。彼女は見栄っ張りで、分かりやすい歪さを持っている。それはきっと深さだね。私とは全然違うタイプだけど、いつかもっと仲良くなったら、きっとすごい友達になれるよ。でも今は今朝の仕返しで、ちょっと意地悪させてね。
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
今日の出題範囲とは違う単語を、適当に口にする。
「はあ?」
莉花ちゃんがお弁当のミートボールを一生懸命噛んでいるのをうっとりと眺めていると、視線がぶつかった。
嫌な顔をしていない!それが嬉しくて、上手に仲良くできているのが幸せで、自分の頬が緩むのがわかった。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
ちょっと焦った自身の声の流れへ沿うように、箸を置いて、手が伸びてくる。私の目前から取り上げられ、彼女の元に戻っていく英単語帳の描く放物線。固定されたカバーは、調和を崩さない。
莉花ちゃん、安心して。単語ひとつ答えられないくらいじゃ恥ずかしくないよ。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
笑い声が少し混じるのもまた、どんどん私の心を躍らせた。
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
目の前に突き返された単語帳に、雲流れて黄金の日差しが窓から降りて、キラキラと光って見えた。遺跡はどんな豪華な神殿にも負けない響きを私の中にくっきりと残し、一生忘れない、と思った。
張り切ってページをめくるたびに、細かい埃が空気中を舞う。彼女と上手く笑い合えるひと時に異常なほど心踊らせる私には、魔法の粉にすら思えた。
光の帯の向こう側で、顔をしゃんと挙げたまま、蝶々みたいに軽く鮮やかな箸でご飯をまとめて、その先に真珠くらいの一口を乗せ、上品に尖らせた唇の間に隠すようにしてご飯を食べる。彼女は、その動作の中で、こっちを見ることもなく呟いた。
「午後出ないの?」
彼女の声は緊張しているように聞こえた。 まるで、世を転覆させる作戦か何かを、本当にやるのかと念を押すように。
真面目な彼女は、私が当然のように学校をサボったり、誤魔化しきれないズルをする時に、こういう反応をする。その度に、彼女の世界に成り立った文化や法律から、私は逸しているのだと実感する。だとしたら、私を見下すような振る舞いをすることも、納得できる。
こういうの、世界史の授業でやったなあ。
何世紀たっても、理解しがたいものに対して、人の中に湧き上がる感情は変わらない。汚くて、時に愛しくすら思う。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
彼女は、無理に優しい顔をした。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
「うん。ありがとう。机入れといて。いつもごめんね」
手元だけはお弁当を片付けながら、黒いまつ毛に囲まれた双眸がこちらを見つめる。
莉花ちゃんは、なにか言いたいけれど切り出せない時にこの表情をする。どきっとするようなその姿を黄金に霞ませていた太陽は、雲に隠されまたゆっくり静かに翳った。
何を言いたいんだろう。「今朝はごめんね」?、午後も出ようよ」?「家までプリント持って行くよ」?
私の頭の中は莉花ちゃんの言えなかった言葉で、たちまちいっぱいになった。同調してるのか、はたまた妄想かは分からないけれど、こうなると彼女のことを目で追うことしかできない。カーディガンを羽織った女性らしいシルエット、汗疹のある首、伏せた瞳の中に写るお弁当の包みの千鳥柄、そこ影を落とす前髪、その先端、食後のリップを塗られる唇、艶やかになる古い細胞。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴ったのも遠い国の出来事のようで、立ち上がった姿をまた深く潜水するように眺める。動きを魚影のようなおぼろに捉える。行っちゃう。何か、何か言わなくちゃ。
「つぎ、えいご?」
自分の口から溢れ出た言葉は、驚くほど頼りない。
「うん、教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
彼女は、また優しい顔をした気がした。窓から黄金の大流がゆっくりと幕を下ろす。
「え、んふふ。なんで?また呼んで、な」
そう翻る彼女のスカートの一瞬は、一撃で世界を平定した。裏も表もない、細胞の凹凸も、心の手触りも、自分の輪郭も、日向も日陰も、なにもかも。人なんて殺さなくても、生死の境をたやすく超える。彼女が人生最後の友だちだ。
幸せで、ちょっと泣いた。今日を生きられなかった人、これだけ今を謳歌すれば、大志なんて抱かなくていい?午後の授業に出れなくても、存在していいよね。
「風呂蔵さん」
仁科先生に揺り起こされる。
「大丈夫?熱中症になるよ、こんな所で寝て」
「今何時ですか?」
「まだ昼休み終わって五分くらいしか経ってないよ」
「全然寝てないじゃん」
胸中に「どこからが夢だったんだろう」なんて思いがふっと湧いて私を茶化して消えた。
両手を握ったり���いたりすると、皮膚が突っ張って、三千年の眠りから覚めたような心地がする。
「私帰ります」
「あ、待って待って。五限中に堀田先生来るって」
「え!やだ」
「そういうこと言わないの」
「何時に来るんですか?具合悪いんですけど」
「多分、もうちょっとで来ると思う。堀田先生お忙しいらしいのよ今」
「じゃあ来なくていいのに」
「かわいそう。会いたがってたよ、堀田先生」
「私会いたくない!ねぇ、仁科先生はさ、堀田先生好き?」
「はぁ?」
「私の周り、堀田ちゃん好きな子多くてさ。でも付き合うならみんな細倉先生がいいんだって。私どっちも嫌い。でも堀田の方が嫌い、おじさんじゃんあんなの」
「ちょっとあんたね、言っときますけど、堀田先生と細倉先生同い年ですからね」
「うそ!」
「あんたたちから見たら堀田先生らへんの歳はもうひとまとめにおじさんなんだね」
仁科先生は笑いながら私の向かいに腰掛けた。
「風呂蔵さんさ、学校、正直どう?」
仁科先生は腕組みをしながら、先生語を流暢に話す。それは時折、字幕が途切れたように、突然聞き取りにくくなる。今もまた私には先生がなにを言ってるか分からなくて、申し訳なくて、へらへら笑ってみた。
「夜眠れてる?」
穏やかな顔と穏やかな声だなあ。きっと、私のこと心配してくれて、何か伝えようとしてくれているんだ。
言葉の通じ合わない私たちは、カフェオレとか、遅刻の提出物につく三角サインとか、成績表の五段階とか、調理された感情を安心してやりとりしてきた。腹を割って話す、出したばかりの内臓みたいな感情の良さはまだわからない。大人になれば生ものも美味しくいただけるかもしれないけど、今はまだカフェオレ越しじゃないと照れちゃうな。
「そういえば、先生」
私も私���言葉で話したくて、もう一度スタート位置に戻した。
「昨日、大きな事件があったよね」
「そうねえ」
「捕まった生徒って死刑になんの?」
「えー、どうかなあ、多分ならないと思うよ。未成年だからなあ」
「かわいそうだよね」
「亡くなった生徒のこと?」
「刑務所の中で死にたくないなと思って」
「そうかあ」
どうしても、居心地が悪い。一生懸命会話をしようとするのに、どこか決まったゴールに導かれているような。
「私ね、あのね」
言葉を途切れさせないように必死に考える。
「莉花ちゃんのことを殺しちゃったらどうしようって思ったの」
「うん」
「それでね、でも、ちゃんと伝えたいことは」
身振り手振りで一生懸命伝える。
この世界は、胸が裂けるほど怖いことばかりだ。言葉も、ルールも分からない世界で、時間は待ってくれない、隠れることもできない。
私だって、みんなと同じように頑張れるはずなのに。たくさんの言葉を覚えて、言いたいことだって言えるように、みんなと、莉花ちゃんと同じだけの時間をかけて大きくなってきたのに。
私は、友だちの上手な作り方も、失敗した時の許してもらい方も、仲直りの仕方も、勉強の仕方も、ちっとも上達しなかった。同じだけ、人を傷つけたり、馬鹿にしたり、責めたりも、見よう見まねでしか手につかなくて、諦めた。
でも、それもこれも、みんなには出来て当たり前のこと。
私たちもそんな人たちと同じ言葉で、同じルールで頑張って生きていくんだよ。期待を裏切ったり、人を悲しませたり、怒らせたりしながら。出来ないことばっかりで、恥ずかしくなるけど、逃げ出したり、駄々をこねちゃだめ。私たちより頑張ってる人たちのことを邪魔するようなことは、絶対にしちゃだめ。
「ちゃんと聴いてくれるよ、莉花ちゃんなら」
自分の言葉に、涙が出そうになる。私を励ますのは、いつだって私の、そうあって欲しいと願った言葉だった。
「そっか」
「まあでも、莉花ちゃん、あんまり私のこと好きじゃないんじゃないかって思うんだよね」
「ええ、とてもそうは思えないけれど。どうしてそう思うの」
「どうしてっていうか…。先生はそういうこと、ないの?」
「人に嫌われてるなあって思う瞬間?」
「ううん。私のこと好きじゃなくても、優しくしてくれる子だなあって、嬉しくなる瞬間」
「風呂蔵さん、誰もあなたのこと嫌ってる人なんて居ないよ」
出来る限り集中していたつもりだったけれど、仁科先生の言葉は聞き取ることが難しい。
「みんなと比べてどうかなんて、どうでもよくなるほど嬉しい日がきっとくるよ」
温かい言葉を掛けてもらって、嬉しかった。同時に、真剣な顔をさせてしまったのがどうしても申し訳なくて、大笑いしてしまった。
「仁科せんせえ、大好き!ありがと!私、トイレ行って来るね」
「あ、先生も会議あるから席外すけど、ちゃんと堀田先生に会ってから帰りなさいよね」
「はーい!じゃあね」
仁科先生は、私の背中に手を置いた。反対の手が視界に入る。午後の日差しは、薬指の結婚指輪に反射して、先生のセリフを盛り上げるように、今から来る、ハッピーエンドを祝福するように、キラキラと散った。
「ね、あのね。学校は子供のためにあるのよ、無理に来る場所じゃないの。先生もみんな味方なの、忘れないでね」
ドラマのセリフみたいだ、と思った。
ずっと欲しかった言葉だった気がするけど、早口で聞き取れなくて、それが悔しくて、トイレで子供みたいに泣いた。洋式便器の蓋の上に座って、いつまで経っても白い上履きで、足元のタイルをバタバタ叩くと、もっと涙が出た。
励ましてくれるのはいつも自分の自給自足の言葉だけだと思っていたけれど、本当は今みたいに、私がいくつも聞き逃してしまっていただけなんじゃないか。そう思うと、大げさだと笑っていた絶望という言葉が、トイレの扉のすぐ向こう側にぴったりと張り付いて、私を待っているような気がした。怖くなって飛び出た。
いつか誰かが与えてくれる感動的な救いの言葉を、楽しみにしていたのに。
慌てて保健準備室に逃げ込んで、隅っこに丸くなって座った。
さっきまで射してたはずの、陽の光の会った場所に膝を抱えて、また雲が途切れることを祈った。薄暗い準備室は、狭いのに物で溢れて四隅が見えず、どこまでも続いている気さえする。ただ、埃や日焼けで、学校中で一番古びているようにも見える。寂れた空気を肺いっぱいに吸い込むと、砂とも紙とも埃ともつかぬ塵に、臓器が参る。こっちの方が、よほど生きている心地がした。まるで古代の遺跡にいるような気分。儀式の途中で、文明の途切れた遺跡。
捧げ物みたいに転がるサンドイッチと、山のように積まれた心と身体の教科書。先生の復活の呪文。
ちょっと笑った。
私、おかしくなっちゃったのかな。 どうしてみんなの言ってることややっていることが、私にはわからないんだろう。
まだ病気とか、人間不信とか、そういうものになりたくない。道を間違えていたとしても、滅んだ遺跡を歩いて戻って、最後にはみんなと同じ景色が見たい。
「莉花ちゃん」
初めての会話で、無理してかけてくれた、嘘のない優しい言葉を、もう一度聴きたい。
しばらく日陰を見つめていると、隣の保健室からドアが開く音がする。
そうだ、仁科先生にお願いして、カフェオレをもう一杯もらおうと思ってたんだ。
立ち上がり、乾いたカフェオレのカップを手にして、保健室に繋がるドアノブに手を掛けた。
「せんせー、カフェオレー」
いつもの優しい声が返ってこない。不思議に思って顔を上げると、保健室の一角に設けられた簡易相談室の、目隠しとなるパーテーションに片肘をついた堀田先生が、呆れた目でこちらを見ていた。
「うわ」
「はい、まりあさん、こちらへどうぞ」
先生はゆらゆらと手招きする。
「えー!やです」
「やですじゃないです」
私は渋々カップをすすぎ、流しに置いて、パーテーションの中の丸テーブルに腰掛けた。
先生は手元のファイルに視線を落としたまま、なかなか口を開こうとしなかった。沈黙に耐えきれず、
「先生、暇そうだね」
怒らないでと願いながら、茶化した。
新年度に選んだ、身の丈に合わないこの態度も、改めるタイミングを失ったまま。
堀田先生はたまに建前で叱るけれど、基本的には何でもいい、と言ったような対応を返す。
「まりあこそ、暇そうじゃん。午後出ようよ」
「具合悪いの!」
「お前なあ」
「明日はちゃんと全部授業出る」
「勢いだけは良いんだよなあ。仮に家に帰るとして、親御さん居るの?」
具合悪いなら、誰もいない家に帰るより保健室で休んでた方がいいんだよ、と、ファイルを手で遊びながら続ける。
それを言われると、都合が悪かった。ママは夜遅くまで仕事だし、パパはもう何年も家に居ない。ただ、私には、堀田先生との会話をやり過ごす、とっておきの切り札がある。
「親は居ないけど、先生の初恋の人ならうちにいるから」
先生の初恋の人、風呂蔵いのり。十一歳も離れた私のお姉ちゃんだ。
「あほ」
すぐに手にしていたファイルで頭を軽くはたかれる。
「痛いんですけど!」
「そういうの柏原くんから吹き込まれるわけ?」
私のお姉ちゃんには、柏原くんという彼氏がいる。そして、この柏原くんというのが、堀田先生の大学時代の大親友なのである。柏原くんはうちに遊びにくると、いつも堀田先生の大学時代の話をする。酔っ払った時は、決まってにやにやしながら「本当は、堀田もいのりのことが好きだったんだぜ。しかも初めて女の子を下宿に誘ったって。でも俺が奪っちゃったんだよね、いのりのこと」とおどける。
「そう。柏原くん言ってたよ、堀田先生もうちのお姉ちゃんのこと好きだったって」
堀田先生は眉間を押さえながら、
「あなた、やっぱり元気じゃん。小テスト落ちてもいいから出なさいって」
深いため息と言葉を一度に吐き出した。
もともと、堀田先生の印象はそんなに良くなかった。保険をかけるような、建前で最低限の責任を果たすような先生の振る舞いは、子供から見上げた時の独特な大人らしさがあって、苦手だった。
私が風邪で一週間学校を休んだ次の日の「まりあ、友だちと上手くやれてる?」は、その象徴だ。思い出すと今も嫌な汗が出る。先生の言葉を聞き取りにくく感じたのも、その時が初めてだった。私は聞き取れない言葉を、先生語と名付けた。心配するような響きは建前で、本音は「うまくやれ���、不登校になるなよ」なんだと、本能的に感じ取った。
柏原くんはいつも堀田先生のことを嬉しそうに話してくるけど、柏原くんのことだって苦手。いい人だけど、私からお姉ちゃんを取ったことは、何年経っても許せない。そんな彼にも、彼の思い出の中に登場する、学校とは違う子供っぽい堀田先生にも、言葉は悪いけれど正直、うんざりしていた。
「…まりあ」
先生が、先生らしい声で私の名前を呼ぶ。 耳を澄ませて、身を固くする。
「具合悪いのは、こう、学校に居ると心が辛い、みたいな感じかな。それとも、本当に体調悪い?」
「お腹痛い!私さ、生理痛重いんですよ」
間髪入れずに笑い飛ばすと、先生の表情はわずかに歪む。
真剣な話は嫌だった。照れるし、息苦しいし、話が通じないのがバレてしまうから、暗闇で木の枝を振り回すようにおどけてしまう。まさしく振り回した木の枝が当たってしまったような、萎れた反応。
「最近の若い子って、そういうのためらい無いわけ?」
バカみたいに笑いながら、目を細めて先生の目を覗き込むと、ただ悲しくてやるせない、そんな本音を垣間見た。そのことに、少し戸惑った。まっすぐ、私の目を見て、恥ずかしいくらいに。先生の言っていることも、考えてることも分からない。でも、心が痛そう。
私、また失敗してしまったかな、加減間違えちゃったかな、傷つけちゃったかな。辛い顔しないで、ごめんね、先生。
あはは、なんて笑いながら、先生の、祈るように組んだ手を見る。窓から差した光線は、先生の手の血管に陰影を与えたり、腕時計に鋭く反射したりして、温かく周囲に散らばった。
仁科先生の手を思い出す。
欲しい言葉が聴き取れない辛さと申し訳なさ。不甲斐ない自分に強く打ちのめされる。
でも分からないんだもん。教えてよ、先生、世の中難しいことだらけだ。
先生からしたら、私の悩みなんて、きっとばかばかしいことなんだろう。莉花ちゃんだって、クラスのみんなだって当然のようにできていることなんだ。ばかばかしいことばっかり、でも難しいことばっかり。
教えて欲しい事まだあるよ、先生
「てか、先生さ」
「はい」
先生はわざとらしく、すっと背筋を伸ばした。
「クラスの生徒のことって大事?」
「当然じゃん」
「命かけて守ろうと思う?」
ちょっと目を大きく開いた。普段、表情の変わらない人だから、珍しくて、またじっと覗き込んでしまった。
建前も本音もなく彷徨う視線が、面白かった。
「どうかなあ。学校って色んな人がいるから、命がけで守って欲しい人も、そんなことして欲しくない人もいるんじゃないかな」
「堀田先生っぽい」
「申し出に合わせると思う」
わかりやすい答えだな、と思った。世の中の求める���えではないかもしれないけれど、私は満足した。
「風呂蔵は」
「え」
不意の仕返しに私が狼狽えるのを、キョトンと見つめながら、手を組んだり解いたり、次の言葉を選んでいる。
「命がけで守られたら、午後の授業出る?」
「今日は、本当に!」
堀田先生はあんまりにこにこしない。冗談かどうかは相手の出方で後から決める、そんな人だ。
会話に行き詰まったら、逃げるのがいい。
「まだお話済んでませんよ」
「本当に!」
ごめんなさい、下げた頭の上に、降り注ぐような終業のチャイム。時間よ早く過ぎてと垂れる頭と裏腹に、チャイムの音を心地よく聴いていた。午後の太陽は保健室いっぱいに白く広がり、不甲斐ない自分の輪郭を溶かして、先生の目眩しになって、チャイムの尖った音をまろやかにしてくれる。恥ずかしくて、申し訳なくて、でも心地よくて、このまま居なくなってしまいたい。
そのまま、誤魔化すようにすり足でパーテーションの外に出ようとすると、先生のこぼした笑いが聞こえる。それはおまけでもらったマルのようで、私は見逃してもらった不正解だけど、それで良かった。許してもらうことが、なによりも幸せだった。
ホッとして顔をあげる。私がまた「ごめんなさあい」と笑うと、わざと口をへの字にした先生のため息が、もう一度笑うように揺れる。飛び上がるほど嬉しかった。
「気をつけて帰れよ。ちゃんと仁科先生にご報告して、早退届には明日まとめてサインするから」
「ありがとうございまーす」
そのまま逃げるように準備室へと飛び込んだ。スマートフォンにイヤホンを繋いで、今月のベストヒットを上から聴く。次の授業が始まればクラスメイトはそれぞれの教室へ向かう。その隙に私は誰もいない教室へ入り、帰りの支度をして学校を出る。準備室で息をひそめ、耳のイヤホンからは今月一番買われていった愛の歌が流れる。もしも今日の日が、いつか「青春」と名乗るなら、ちょっとした悲劇だな。でもそんなことはどうでもよくて、今は頰が緩んでしまうのを感じながら、始業のチャイムと共に廊下に出た。
静まり返った校内で、白く揺らめく階段を駆け上がる。自分の足音が少しずつ軽くなって響いて、羽が生えたみたいだと感じた。
暗い教室に辿り着いた。消し忘れられたエアコンが、必死に部屋を冷やしている。今日は一日中うっすらと曇って、時折日が差す程度だったから、蛍光灯をつけてしまば朝からまるで時間が経っていないように感じる。ただ、窓際の席に莉花ちゃんだけが居ない。
一度机の中へしまった教科書を一冊ずつリュックサックへ戻していく。倫理、現代文、数学、英語、辞書、開いたことの無い単語帳。どの教科も、「前回の続き」が何ページなのか分からない。寂しい。本当は、もっといい子になりたい。それはいつだって変わらないのに、どうしてそうなれないんだろう。もしかして、私、みんなの何歩も手前で、もう頑張れなくなってしまってるのかな。これから夢を叶えようとして、挫折とか達成感とか、そういう漫画でしか知らない感情を知って大人になっていくみんなの教室に、紛れ込んでしまったんだ、私。
急に不安になって、答えを探して瓦礫を搔きわけるように、教科書をまたリュックに詰める。
今日は、先生に怒られなくて、笑ってもらえて、その場をやり過ごせて、早退できて、嬉しい。でも、莉花ちゃんともっと話したい。
すぐに手が止まった。まだまだ机の中には、触りたくもないものが詰まってる。もやのように淀んで、何から手をつければいいか分からない。
恐る恐る触れる古文、英語文法、古典単語帳、英単語帳、英和辞典。受けなかった小テストの束、ペナルティのプリントの束。たくさんの言葉を覚えたら、この気持ちに名前がつくのかな。夢もできるし、もっとみんなの気持ちが分かるようになるのかな。私もみんなと同じになれるのかな。
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