#戻り梅雨だけど暑中見舞い的な
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yuurn1n · 5 months ago
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0605-0608
前日に夜行バスに乗って朝6時に京都につく���友人が四条にいるので電車に移動。吉野家を��べて朝の鴨川へ。化粧して西本願寺へあるいていく。もうそろ梅雨だというのにカンカンに晴れていた。母親と爺ちゃんが晴れさせてんだなーと思う。西本願寺へお参りして案内ツアーの話を盗み聞き。床の木が古くなったら木を何かしらの形にかたどってハメて補修しているらしい。丁度葬式?行われていて見学、僧侶が3人で仏説を唱えており凄い迫力であったし、音楽に近いものを感じた。念仏を唱えるというのは念仏を言うとかは言わないし、古くから受け継がれるものはメロディが付き物なのかもしれない。12時、西本願寺近くの喫茶店でランチ。一人の店主が切り盛りしている愛されている店で、お茶だったりを運んでいたら寡黙そうな店主が笑って感謝してくれた。からあげ定食800円、さっぱりとした味付けに大根おろし、付け合わせは漬物。ポテトサラダ的なものも味濃くなくて美味。席数こそ多くないが常連に愛されているんだなと思った。壁には孫と思われる人物の絵が飾ってあった。お茶の温度は人肌で、最後には笑顔でおおきに!と言ってくれた。昼を食べていたらゆこ氏が来店してお茶。なぎちゃんはじめまして。
ひたすら暑かったんだけど、ゆこ氏セレクトではっぴー六原へ。タイムスレンタカーで前に借りたひとの履歴に残っていたらしい。いざ歩いて向かってみると、商店街の入り口のような見た目の看板にスーパーとブティックが併設されていた。スーパーでアイスかった。そしたらまたおおきに!て言ってくれた。横の服屋はいったら店内が無音で何故か面白くて、店主もフレンドリーだった。
そこからまた歩いて清水寺へ。時間も15時くらいなのもあって、すごく人が多かったが、清水の舞台から見える京都の街並みとこの時期らしい緑には圧巻された。しかし熱い。
その後は京都中華の老舗へ。舞妓さんでも口を汚さずに食べれるように一口サイズに切ってあったりにんにくが未使用だとしているらしい。確かに、小さなサイズであったり味付けが甘くて優しい。ここでも京都弁。なんか試されているみたいで緊張した。ゆこ氏のキュンキュンする話を聞いたり話したりしていると笑いが溢れてく��瞬間があった。うふふ、あははと、なんだかすごく幸せな気持ちに溢れて、幸せすぎて怖いわーとまた笑いあった。
民族楽器「コイズミ」にもいった。店主の豊富な知識量に圧倒されて1970年に音楽は全部やりつくして、結局我々はそれを繰り返しているということに妙に納得した。いやな気持ちはしなかった。
その後は祇園四条を歩いて、ハロードリィへ。テキーラサンライズを頼んで談笑していると、惹かれるサックスの音が流れてきた。シャザムすると松丸契のサックスであった。なんだか心がぽこぽこしてきて、これが興奮か!と自負。あのどきどきを忘れないようにしよう。ともだちはさいこーだ。
次の日、体が案の定重い。12時ごろ家から出て、肥後橋へ。以前通販でジャカルタ人が描いた守り神の絵を買ったんだけど、その店が大阪にあって、やることもないからそこへむかった。神戸市在住の作者が沖縄に住んで書いたZINEと書店の店主が書いたインドネシアの観光図を購入した。帰り際に店主からイスラエルのジェノサイドに対する反対署名にサイン。たこ焼きをもとめて心斎橋へ。やっぱり観光客が多い!疲れたのでなぎちゃん家へ戻って近くの弁当屋で購入したアジフライ弁当を食べた。元気な店主だった。2時間くらい休憩してソーコアファクトリーへ。怪談話はそりゃ怖かったけど友人が働いている様を2年ぶりくらいに見れたし、おーけー。スーパーで寿司買って食べた。1時間くらい仮眠したら案の定金縛りにあって、6/3に親戚と金縛りの話をしたのを思い出した。
朝7時に友人とバイバイ。JRバスで8時間の旅へ出発。そして帰宅して母親と夕ご飯を食べた。疲れた。
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thanatochu · 8 months ago
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Hydrangea
綾子主ほのぼの日常編 黒い森を抜けたあと、の続き
春の終わりに、出会ったばかりの僕たちが共同生活を始めてしばらく経った。 今ではもう梅雨の季節で毎日雨が降ったり止んだり、じめじめとしたお天気が続く。樹さんに頼んで乾燥機買ってもらえて良かった。 樹さんは割と子煩悩というか叔父馬鹿なところがあって、甥っ子の快適な生活のためなら金と労力は惜しまないと豪語する。 僕としてはそんなに甘やかしちゃ駄目だよとブレーキ役のパターンが多くなってるんだけど、多紀を甘やかしたいのは正直とてもよく分かるので結局甘々な僕たちを多紀本人が諌めてくるという構図。 多紀はこの春から転校して近所の小学校2年生になった。 最初は内気なのもあってポツンとしていたようだけど、僕らと暮らすようになってから笑顔も増えて友達も出来たらしい。お勉強も頑張っていると連絡帳にも書いてあった。 僕は表向き、樹さんたちの遠縁ということにしてもらっている。みんな苗字がバラバラでも辻褄が合うように。ごく普通のママとパパがいる家庭ではないと、多紀が変な噂を立てられないように外面は良くしておくに越したことはない。 同級生のママさんやPTA、ご近所付き合いまで僕が一手に引き受けているけど、若い女の子たちとの会話とはまた違ったスキルが要求されるので、慣れるまで大変だ。 実のところ僕は2009年どころかもっと先の未来のことまで知っているので、2000年代初頭に生きる人たちと話しているとジェネレーションギャップみたいな気分になっちゃうことがよくある。うっかりSDGsが、とか言わないようにしないと。 でも皆さん基本的に良い人たちだ。近所には緑も多い公園があり、曜日によって種類の変わる安売りセールのスーパーと、閑静な住宅街で広々とした居住スペース。子供を育てる生活環境としては今のところ何の問題もなく満足している。 最初にこの環境を整えてくれていた樹さんには頭が上がらない。 多紀の父方の親戚連中に随分とご立腹の様子で、その頃の多紀を見たらそれは無理もないだろうなと推測する。 親戚たらい回しの放置されっぱなし、愛情のお水を貰えずに干涸びて。そんな環境で育ったら他人に期待しなくなるのは当たり前だ。 巌戸台に越してきたばかりの、舞い散る桜も空の青も、綺麗なものを何も映していないような君の灰色に霞んだ瞳を思い出す。 どうでもいいなんて言わせない。そのために僕らは家族になったんだ。
そろそろ多紀が学校から帰ってくる時間だ。 僕は樹さんと多紀が選んでくれた黒のデニム生地のエプロンを締め直して、おやつ作りに取り掛かる。 蒸し暑くなってきたからゼリーとか涼しげなのも良いなあ、なんて考えながら定番のホットケーキだ。休日の朝ご飯にはじゃがいもをすり下ろしたパンケーキが好評だったけど、今回はおやつなのでメープルシロップとバターを多めに。 「ただいまー」 焼き上がったいいタイミングで玄関のドアが開いた。 「おかえり。今日も楽しかった?」 「うん。今度ね、遠足があるみたい。おべんと作ってくれる?」 「へえ!いいねえ〜頑張ってお弁当さん作っちゃうよ」 おやつがあるから手洗ってね、と言うと多紀は素直にランドセルを置いて洗面所に向かった。 冷たい牛乳と一緒にホットケーキを並べると、戻ってきた彼が「いいにおい」と顔をふんわり綻ばせる。もう、うちの子すっごく可愛い。 僕の分は最初に焼いた、あんまり上手い焼き色にならなかった1枚でカフェオレと。やっぱり皆で選びに行ったランチョンマットは色違いの豚さんだ。 「ジュジュの分ある?」 「あるよ、ちゃんと作ってあるから大丈夫」 ジュジュとは樹さんのことだ。音読みで、じゅ。 教えてもらった時は微笑ましいなと思ったけど、最初に言い始めたのは樹さんのお姉さんなんだそうだ。つまり多紀の亡くなったお母さん。 ひと回り近く歳の離れたしっかり者のお姉さんだったそうで、もう姉というより母親が2人いるみたいだったと樹さんが溜息を吐いていた。 「ジュジュ今日も帰り遅いのかなあ。おしごと大変なのかな」 「夏休み取れるように今から頑張ってるんだって。お祖父ちゃんち行くんだもんね」 「うん!」 学校が夏休みになって樹さんも纏まった休みが取れたら、実家のお祖父さんとお祖母さんに会いに行こうと計画している。 長閑な田舎に遊びに行く夏休み、なんて絵日記が捗る子供らしいイベントだ。 多紀は小さい頃に会っただけで記憶も曖昧だけど、電話ではよく話しているので2人に早く会いたいと毎日とても待ち遠しそうだ。 こんな時に、そういえば向こうの多紀もお爺さんお婆さんが好きだったな、なんて考えたりする。文吉さんにクリームパンをポケットに捩じ込まれたと満更でもなさそうに僕に半分くれたことがあって、くすりと思い出し笑いが漏れた。 とても懐かしいし君に会いたいなとは思うけど、その彼を堂々と迎えに行くために此処に来たんだ。ホットケーキを咀嚼して感傷的になってしまった気分を振り払った。
遠足はどこに行くの?お弁当は何食べたい?などと話しながら夕飯を2人で済ませ、お風呂上がりに水分補給していると樹さんがようやく帰宅した。 「あー、つっかれた…」 「ジュジュ、おかえり」 疲労と空腹でよろけている叔父さんを玄関まで��紀がお出迎えする。手には飲みかけの乳酸菌飲料が入ったコップだ。 「ただいま〜。良いもん飲んでるな。ひと口くれよ」 「ええ〜。ひとくちって言ってジュジュいっぱい飲むんだもん」 「この前は喉乾いてて、つい。悪かったよ。それとジュジュじゃなくてたつきって呼べ」 パ���ャマ姿の甥っ子をハグして謝りながらも文句を言う。 こうしていると本当に雰囲気が似ている叔父と甥だなと思う。樹さんのほうが少し癖っ毛で毛先が跳ねているけど、2人とも青みがかった艶やかな黒髪だ。僕も黒髪だけど、色味が違う。 樹さんはよく見るとアメジストみたいな瞳の色をしていて、仕事中は外しているけど左の耳にピアス穴がある。 多紀と違うところといえば、叔父さんの方が男の色気があるところかな。多紀��もっと中性的だし。 これで大手企業にお勤めなんて、かなりモテるんだろうなあ…とぼんやり思うけど今のところお付き合いしている恋人さんはいなそうだ。普段はできる限り早く帰宅するし、仕事と甥っ子に全振りしている。 そんな叔父さんに渋々ながらも結局自分の飲み物をひと口あげている多紀は偉いなあ、と家族の考え事をしながら樹さんのご飯の支度をした。 「玄関の紫陽花、綺麗だな。買ってきたのか?」 シューズボックスの上に置いた花瓶を見たのだろう、ネクタイを外しながら樹さんが訊いてくる。 「ご近所の榊さんのお庭にたくさん咲いたからって、お裾分けしてもらったんだ」 色とりどり、形も豊富な紫陽花をお世話するの上手ですねって正直に感想を述べたら、少し切ってあげると品の良い老婦人が花束にしてくれた。 バラや百合みたいな派手さはないけど、今の時期しか嗅げない匂い。梅雨も悪くないなって思えて結構好きなんだ。 ドライフラワーにしても綺麗なのよ、とその人は笑っていた。 「ぼくもあじさい好きだよ。雨の雫が似合うよね。あっ、でも遠足の日は晴れて欲しいなあ」 「遠足があるのか。そりゃ雨じゃちょっと残念だもんな」 席に座って、いただきますとお箸を手に取りながら樹さんが頷く。 「近くなったらてるてる坊主作ろうね。すごく大きいのと、小さいのたくさん作るのどっちがいい?」 「小さいのいっぱい!」 「ふふ。布の端切れもいっぱいあるからカラフルなの作ろう」 そんな話をしているともう夜の9時を回っていた。いけない、多紀の寝る時間だ。 「歯磨いて寝る準備出来た?じゃあ昨日の続きから少し絵本読もうか」 「うん、歯みがいた。ばっちり!」 「樹さん、食べ終わったら食器は水につけておいて。お疲れなんだから早くお風呂入って寝てね」 「ふぁい」 夕飯のチキンソテーとおやつのホットケーキを頬張りながら樹さんが返事をする。 「たつきもおやすみなさーい」 「ん、おやすみ」 挨拶のあと子供部屋へと入る。樹さんが用意した多紀の部屋は愛に溢れていて、子供用らしく可愛いパステル色で揃えられた壁紙やラグ、家具と小物に至るまで趣味がいい。おもちゃも温かみのある木が多く使われていて、こういうのお値段結構するんだろうなと思う。 多紀をベッドで待っていたのは小さめのクマちゃん。樹さんが買ってくれたぬいぐるみで、キャメル色の毛並みに水色のリボンを首に巻いている。 多紀はいつも枕元で座っているクマちゃんと、その下に畳んであった柔らかく肌触りのいい木綿のタオルケットを抱きしめる。 青と黄色のチェック柄で、両親と住んでいた昔から愛用している所謂セキュリティブランケットだ。 それらに囲まれてふかふかのお布団に入り、少し絵本を読み聞かせるとすぐに多紀はうとうとし始める。 以前までは寝つきが悪かったようなので、精神的に安定してきたなら何よりだ。 しっかり眠ったのを確認して掛け布団を整えて、僕はキッチンへと戻った。丁度お風呂上がりの樹さんがタオルで髪の毛を拭きながらテレビのリモコンを操作している。 僕が温かいほうじ茶を淹れてテレビ前のテーブルに置くと、「お、ありがと」と笑ってひと口啜った。 樹さんは家ではお茶とコーヒーばかりだ。仕事の付き合い程度にはお酒を飲むけど、プライベートまで飲むほど好きでもないそうだ。 僕もお酒は飲めないのでちょっと親近感。もう半月くらいすると、多紀と一緒に漬けた梅ジュースが飲み頃になるから楽しみなんだ。 「多紀は今日も元気だったか?」 「うん。ジュジュの分のホットケーキはあるの?って心配してた」 「ははっ。無かったら半分くれる気かな」 多分ね、と相槌を打ったら樹さんはしみじみと優しいなあと呟いた。 「さてと。俺もメールチェックして早めに寝るかな。ごちそーさま」 「お疲れさま。おやすみなさい」 樹さんが自室に入る足音を聞きながら残りの洗い物を片付けて、自分も休む。 当然ここでも毎晩影時間はある。多紀が象徴化しないのはもちろんだけど、樹さんもペルソナ使いだからか、それとも適性の問題か、普通に棺桶にならずに寝ている。それでも影時間のことは認識していない。 一応シャドウが2人に悪さをしないように、いつ多紀が影時間に目覚めてパニックを起こしても対処できるように周囲の気配を見守っているつもりだけど、現時点ではそんな心配もいらないようだった。
遠足は今週末の金曜日。天気予報では雨の確率は50%といったところで、今日帰ってきたら多紀と一緒にてるてる坊主を作ろうと約束していた。 本日のおやつはいちごババロアが冷蔵庫に冷えている。お湯と牛乳で作れるもので簡単で美味しい。 布団乾燥機を稼働させながら夕飯の下拵えまで終わったところで、多紀がまだ帰ってこない���とに首を傾げた。 奥様方が小学生にも子供用PHSを持たせようか、まだ早いか話題に上がっていたのを思い出す。いざという時に連絡がつく安心感は重要だ。 小雨の降る窓の外を眺め、エントランスまで様子を見に行こうかとヤキモキしていたら多紀が帰ってきた。 「ただいまー」 「あっおかえり。ちょっと遅かったね?何かあったの」 「うん。リサちゃんちでね、子犬が生まれたって聞いたから触らせてもらいにいったの」 レインコートを脱いで傘立ての横にある壁のフックに引っ掛けながら、多紀が早口で説明してくれる。 ふわふわの触り心地を思い出したのか「これぐらいでね、茶色くて」と両手で抱える真似をしながら、かわいかった〜なんて笑うから、心配していた僕のほうまで笑顔になる。 中型犬より大きめの体で、毛が長くフサフサした母犬だと言っていたので数ヶ月もすれば子犬もすぐに大きくなるんだろう。 「りょーじも今度いっしょに見に行こう?」 「うん、僕も出来れば抱っこしてみたいな」 おやつの後にお裁縫道具と端切れを出してきて、てるてる坊主作りに取り掛かった。 そのまま吊るすと頭の重さでひっくり返っちゃうからどうしようか、と2人で相談して体の部分に重りを仕込めばいいんじゃない?という結論に至った。 多紀にビー玉を提供してもらって、いくつか綿と一緒に袋詰めして端切れを縫い合わせたマントの中に仕込んだら、顔を描いて首にリボンを取り付ける。 「ジュジュと、りょーじと、ぼくと、じいじとばあばね」 5体のカラフルなパッチワークてるてるが出来上がり、カーテンレールに並んで吊るされた様子はなかなか可愛い。 「これで金曜日は晴れるね」 「うん!」 「樹さんが帰ってきたら見てもらおう」 「どれがジュジュか分かるかなあ」 「きっと分かるよ、多紀がみんなの顔描いたんだもん」 多紀とは逆に、今日は少し早く帰宅した樹さんが感心したようにカーテンレールを眺める。 「へえ。随分イケメンに描いてくれたな」 「だってジュジュいけめんでしょ」 「望月だってイケメンだろうけど。タレ目と吊り目の違いか?」 樹さんのてるてる坊主はキリッとした印象で、ピアスも忘れずに描かれている。僕の顔はぐりぐりした目の横にホクロが描いてある。ちゃんと黄色いマフラーも多紀が首に巻いてくれた。 久しぶりに皆揃って夕飯を食べながらリサちゃんちの子犬の話になった。 「多紀は犬が好きか。うちの実家にも白い雑種の、ももがいるぞ。覚えてるか?」 「…いぬ?お鼻がピンクの子?ジュジュが撮った写真があった」 「そうそう。もう今年10歳だからおばあちゃんだけどな。まだまだ元気だって聞いてるから夏休みに会えるよ」 「うん。ぼくのこと覚えてるといいな」 「ももちゃんかあ。僕も仲良くなれるかな」 野生の本能なのか、動物全般に僕はあんまり好かれない。そもそも近くに寄り付かないし、威嚇される時もある。怯えさせないようにしたいんだけど。 僕と眼を合わせられるコロマルくんの度胸はすごかったなあ、なんて記憶の中の白い犬を思い浮かべた。 「飼いたいなら…うちでも飼えるんだぞ。ここのマンション中型犬までなら大丈夫だし。猫だっていいけど」 「えっ。…ええと、そっか。でも、もうちょっとちゃんと考えてみる…」 多紀は最初に分かりやすく目を輝かせたけれど、ぐっと踏み止まって大人みたいな対応をした。確かに命を預かる責任が生じることだ。 「ああ。よく考えて、どんなことが必要か勉強しておこう。そうすればきっと出会うのに相応しい時に会えるよ。こういうのも縁だからな」 叔父さんに頭を撫でられて、多紀は嬉しそうに頷いた。
ついに遠足当日。朝のお天気は薄曇りで、念の為の折り畳み傘だけで済みそう。 お弁当は前日から練習してみたけど微妙なヒーホーくんキャラ弁。まだこの時代には100円ショップを探してもそれほど種類豊富なお弁当グッズが売ってないので、ちょっと苦戦した。 海苔とスライスチーズでフロストの顔を作り、体はミニハンバーグ。彩り重視で卵焼きにウィンナー、ブロッコリーとミニトマト。仕上げに保冷剤代わりの、冷凍にした小さいゼリーを添えて。 小さめのおにぎりを2つ入れたら準備完了だ。出来栄えは食べる時のお楽しみね、と多紀には言ってある。 おやつは多紀の好きなお菓子と水筒には麦茶。これだけで小さな体には結構な荷物だ。 「忘れ物はないかな?」 「えーと、うん。みんな入ってる」 「よしよし。じゃあ気をつけていってらっしゃい」 「うん。いってきます」 多紀が靴を履いていると洗面所から樹さんが慌てて玄関までやって来た。 「待て。俺にいってきますのチューは?」 「チューなんていつもしてないよ」 呆れながら多紀は膝をついて屈んだ樹さんにハグをしてあげる。ぽんぽん、とリュックを背負った背中を叩いて樹さんが「楽しんでこいよ」と笑った。 笑い返して頷いた多紀を送り出すと樹さんが身支度に戻る。僕は彼にトーストとコーヒーを用意して、後はお弁当の残りおかずで朝ごはんとする。 「てるてる坊主のご利益があったな」 「そうだね。帰りまで保てばいいけど」 照ってはいないが朝から土砂降り、なんてことにならないだけ御の字だ。 たくさん作った分の効果があったのかな。
金曜日はお肉セールの日。豚コマと鶏挽肉を買ったスーパーの帰り道に「望月くん」と声を掛けられた。声がした生垣の方を見ると、先日の紫陽花の老婦人が手招きしている。 「榊さん。こんにちは、先日は綺麗な紫陽花ありがとうございました」 「いえいえ、どういたしまして。それでね、今日も良かったらなんだけど」 今度はやや小さく、もこもことした可愛い白色の紫陽花をくれた。 「紫陽花の花言葉は移り気なんて言われるけど、てまりの種類には家族や団欒なんていうのもあるの。白い紫陽花は寛容とか一途な愛情。色や形で様々な花言葉があるのも魅力ね」 「そうなんですね…家族か。うちにぴったりです」 「でしょう?それとね、これはお裾分けなんだけど。ちょっと時期はズレちゃったけど美味しいものは変わらないわ」 渡された紙袋の中を見ると柏餅だ。葉っぱが緑のと茶色いのがあって、中身の餡が違うのだそうだ。こし餡と味噌餡。どっちも美味しそう。 「わあ、今年の端午の節句はもう終わっちゃってて、お祝いできなかったので嬉しいです。ありがとうございます」 「よく行く和菓子屋さんのなんだけど、まだ柏餅売ってたから買って来ちゃった。多紀ちゃんによろしくね」 ぺこり、とお辞儀し合ってまた歩き出す。我が家はみんな甘いもの好きだから、洋菓子和菓子関係なく喜ぶ。 空を見上げると���は厚いものの、まだ雨は降らなそうだ。多紀が遠足から帰ってきたら柏餅でおやつにしよう、なんて考えながら家路を急いだ。
貰った白い紫陽花は壁際のキッチンカウンターに飾った。花瓶も可愛らしく小ぶりな桜色にして、部屋も明るくなったようで見ていると和む。 「ただいまー」 玄関が開く音のあと、すぐ元気な声が続いた。 「おかえり。遠足どうだった?」 「楽しかったけど、ちょっとバス酔っちゃった」 「あれ。酔い止め効かなかったかな」 「帰りは平気だったよ」 「そっか。良かった」 話しながら多紀がリュックからゴソゴソと取り出したのは空のお弁当箱と水筒。それからやっぱり全部空になったお菓子袋。 「おべんと、ごちそうさまでした。みんながねー、すごいってほめてくれた」 「おお!ひとまず安心したけど、個人的にはクオリティがいまいちなので…次に頑張るね」 「そなの?上手だし、おいしかったよ」 「…うちの子って、なんて良い子なんだろ」 首を傾げる愛くるしさにぎゅーっと抱き締めると「わかったわかった」と腕をぽんぽん叩いてあしらわれる。さっさと抜け出した多紀は手を洗いに行ってしまった。 真似してるのか無自覚か、仕種が叔父さんに似てきたなあ。 「お皿のね、絵付けたいけんしてきた。焼いてから学校に送ってくれるんだって」 「へー!なに描いたの?」 「ひみつ!」 笑いながらリビングへ入って、てるてる坊主に「雨ふらなかったよ、ありがとう」なんてお礼を言ってる。それから白い紫陽花に気づいて顔を近づけた。 「あれ?新しいのだ。きれいだね」 「さっき買い物帰りに榊さんに会ってね、また貰ったの。それと多紀にって柏餅も貰ったよ」 「かしわもち!こどもの日に食べるやつだ」 「みんなで住み始めたの大型連休過ぎてたから、お祝いしそびれてたよね。お祝いといえばお誕生日も!来年は盛大にやろう。ケーキ作っちゃおう」 「うん。その前に2人のたんじょうびだと思うけど…ジュジュは夏生まれだって言ってた。りょーじは?」 「僕?うーん僕は���秋生まれかなあ?」 正直、誕生日も歳もよく分からない。どこから数えたらいいのかも曖昧だ。 強いて言うなら、君にファルロスとしてお別れを言った朝の、次の日なのかなと思っている。そこから今の僕が形成された。もう随分昔のことみたいだけど。 「じゃあ、きせつが変わるたびにお祝いできるね。ケーキぼくも手伝う!」 にこにこ笑った多紀が、はたと思い出したように紫陽花を見上げた。 「あじさいのおばあちゃんにお礼したいな」 「そうだね。一緒にお菓子か何か作って持って行こう。ケーキの予行練習でもいいよ」 またひとつ、数日先、1年後までの約束と楽しみが増えた。こんなことの積み重ねで幸せが作られていくんだろうな。 柏餅は、こし餡と味噌餡どっちにする?と訊いたら迷うことなく「どっちも!」と答えるところは子供らしいというより多紀らしい、と笑ってしまったけど。 「ジュジュに半分ずつあげるの。どっちも食べたいでしょ」 「そうだねえ。樹さんも両方食べたかったーってなるよねえ」 樹さんがまた喜んじゃうなあ、と子供特有の猫っ毛でサラサラの髪の毛を撫でた。 柏餅を食べながら、教わった紫陽花の花言葉について話し合う。多紀は興味を持った様子で、今度学校の図書館でお花の図鑑を借りてくると言っていた。 まんまるで、人の心を和ませる。そんな世界一の団欒が作っていけたら良いなあ。 ささやかで壮大なことを願いながらエプロンを付け、夕食の準備に取り掛かった。
このお話の時代考証というか、どこまで詳細にやったらいいのか悩みまして、結論。 ファンタジーミレニアムにすることにしました。この時代にまだそれ無いじゃない…? とか色々挙げればキリがないのと、この望月さんは全部体験はしていなくとも 令和まで知識として知ってるという未来人っぽさを醸し出してもらおう!という…。 チートなハウスキーパーというより所帯染みた専業主夫になってますが 子主さんにいろんな体験をさせてあげたいものです。 叔父さんはマキちゃんと友達以上恋人未満のいい感じになってて欲しい もうお前ら早く付き合っちゃえよ!(願望)
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marucyou · 2 years ago
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・ atelier : July, 2022
これといってお知らせすることもないまま時が過ぎていきますが、私はずっと絵を描いて過ごしています みなさまどうぞ健やかな夏をお過ごしください
Wishing you healthy summer. - アートワークは t_isa のアカウントに移行しました my art work → t_isa  ------------------------------------------
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hitodenashi · 5 years ago
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27/肚の内
(はるゆき)(のような何か)
(※CoCシナリオ「ストックホルムに愛を唄え」のネタバレがあります)
(一般的に不快を催すであろうような感じの描写があるかもしれない)
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 幼い頃から疑問だったのだ。
 どうして野獣が得なければならなかったのは、人間からの真実の愛だったのかと。
  初夏。午後の教室には、青葉の匂いが満ちている。気の早いあぶらぜみが、もう中庭で鳴き始めていた。遅い梅雨がようやく明けた六月の空は夜のように青い。再来週に期末テストが近づいていることも吹き飛んでしまうほど、一般的に良い空模様をしていた。  エアコンが稼働しているのに、教室はじんわりと暑かった。手扇でぱたぱたと首元を仰いでも、汗はなかなか引いてくれない。  五限開始のチャイムまで、あと一分三十秒。窓際の席の人たちは、あついあついと口々に言いながら、友達の席を囲んで談笑している。廊下側の席は直射日光が届かず、エアコンの冷風も程よく流れてくるので、ちょっとは居心地がよいけれど、教師たちはやれ空気が悪くなるだの、エアコンの使い過ぎは体に毒だので設定温度を高くしているし、常に教室の窓はどこかしらが換気のために開いているので、さほど教室が快適だとは言い難い。  廊下側でこうなのだから、窓側の席はもう少し不快なことだろう。外から吹き込んでくる生ぬるい風は、すでに気の早い夏の色をしている。  パンティングのような呼吸を一瞬だけして、すぐ咽頭の渇きを覚え、口を閉じた。そして、誰にもばれないようにそっと窓際の席に目を向ける。生成色のカーテンに隠れて、銀色の髪が陽に透けているのが見えた。静かに窓の外を見ている。夏服の白い襟に、首筋を伝った汗がすっと沁みて消えた。  本鈴のチャイムが鳴って先生が入ってくると、皆慌てて席に着いた。初老の国語教師のつまらない口上と、前回授業の振り返りを聞く。指定されたページは言われる前からもう開いている。中国のどこかで撮影されたらしい竹林の写真は、鬱蒼としてひどく涼しげだった。  ぼんやりと指先でシャープペンを回していると、頭上に微かな視線を感じていやな気持ちになった。 「じゃあ二十六ページ、始めから、二十八ページ八行目まで。誰か読んでくれる奴ー」  挙手を促しても、誰が進んで読みた��ることなんかないだろうに、必ずこの教師はそうやって聞く。誰も彼も指名されたくなくて、いっそう息を潜めてしまうのが、少し面白かった。現文の時間って、挙手したらテスト悪くても内申上がるのかな。なんて、皆が嘲笑混じりに言っていることを彼が知っているかどうかはわからなかった。  再度、視線を感じる。薄らと、今度は四方から。  反応は返さず、藪の中で息を潜めるように呼吸を小さくする。教師は頭を掻きながら「誰もいないのかあ」なんて決まりきった言葉を吐く。いつもそう。自主性の無い奴は成績が上がらないぞ。それに続いて出る言葉を、私は良く知っている。 「じゃあ、鏡。十八ページから」  いつもの名指し。決まりきったこと。周囲のやっぱり、そう��るよね。という、安堵の呼気を聞いた。「はい」短く返事をする。みんなそんなに読みたくないのだろうか。別に、朗読しろって訳でもないのに、難しい漢字や、句読点の息継ぎがそんなに恥ずかしいものだろうか。  席に腰を下ろしたまま、段落の頭を指でなぞった。唇を舐める。唾液がねばついていた。暑さからだろうか。水が欲しい、生ぬるくてもいいから。 「“なぜこんな運命になったかわからぬと先刻は言ったが、しかし考えようによれば、思い当たることが全然ないでもない。”」  グラウンドから、体操の掛け声がこだましている。見て面白い光景でもないだろう。犬の吐息のように生ぬるい風が、開いた窓から吹き込んでいる。微かに汗ばんだ首筋に、髪が張り付いて鬱陶しかった。横髪を耳に掛ける。  そもそも、どうして髪を伸ばし始めたのだっけ。  ふと思い返したことだが、私は今まで、美容室へ行ったことがない。髪はいつも、母が大事に切ってくれるので、外で誰かに切ってもらうという習慣がなかった。  幼稚園のころ、お遊戯会で赤ずきんちゃんをやったことを覚えている。  私は赤ずきんちゃんをやりたかったのに、生まれの早い私は他の子と比べて背が高く、赤ずきんちゃんは似合わないという理由で、悪いオオカミの役になってしまった。当時の私はそれはそれは落胆して、練習の度に落ち込んでいたのだが、本番の舞台の時、母親が主役の子よりも綺麗に見えるようにと張り切って髪を整えてくれたので、不機嫌にならず演じ切れたことを覚えている。  髪を大きく切ったのは、恐らくその記憶が最後だ。  それ以来、なんで髪を切っていないんだったか。母親がそもそも、女の子は髪が長いほうが良いと夢見るように言っていたからだったような気もする。けれど、多分決定的なものは違う。  そうだ。確か、綺麗だねって、一言褒められたから、伸ばしていたのだ。  多分、そんなありきたりで下らない理由だ。  恐らく、言った本人は、きっともうそんなこと忘れている。それくらい、下らない一言だった筈だ。 「……“人間はだれでも猛獣使いであり、その猛獣にあたるのが各人��性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。”」  一つだけ、色合いの違う視線を感じた。窓側、私の左後方から。 「“虎だったのだ。”」  それが誰のものであるか、理解はした。それでも私の目線は、教科書体の黒いインキの上を見ている。俯いた頬に横髪が再び零れてきて、私は句読点の間に小さく唸り声を上げた。  がり。内側で、何かが私を引っ掻いた。  生成りのカーテンが風を孕んでゆったりと膨らむ。囁くような衣擦れ。まるで、下草がざわめくような。私の視界にはない青葉が、窓の向こうに揺れている。 「“ちょうど、人間だったころ、おれの傷つきやすい内心をだれも理解してくれなかったように。おれの毛皮のぬれたのは、夜露のためばかりではない。”」  俯いたまま文字を追う。横髪は、また音もなく滴り落ちてくる。  私は未だ、髪を伸ばし続けている。窓の外に垂らすことのできる日なんて、来るはずもないのに。  私は初めから、窓辺になんていない。
 じわじわじわじわ。
 籠もったような、あぶらぜみの声が耳について離れない。  微かなアンモニアの匂い。薄暗い女子トイレの個室の壁を爪で引っ掻くと、骨を齧ったような乾いた音がした。  放課後の校舎は、どこもかしこもじっとりと暑い。さっきまで涼しい図書室にいたのに、廊下を数歩歩いただけで、もうぶわりと汗が噴き出している。肌に薄い夏服がくっついている。怠い下腹部を抱えて、溜め息を吐いた。 「最悪……」  淀んだ、濃い血液の匂いが鼻についた。  道理で日中、思考がぐらぐらすると思ったのだ。経血にぬるついた下着を下げるだけで不快感が強くて、思わず眉を顰める。不運にも替えの下着���持ってきていないので、血の着いたクロッチ部分をふき取るだけに留める。咥えたサニタリーポーチから、ナプキンを取り出す。  月経血の生臭さは、腐敗した肉の生臭さによく似ていると思った。スカートの裾を引っ張って、後ろに血が滲んでいないことを確認して、一先ず胸をなでおろす。  暑さが纏わりついてくる。途端に全身が重く感じる。 「……帰ろう……」  図書当番を早引けするのは申し訳ないが、幸い今日当番にいるのは後輩の女の子たちばかりだったので、素直に話せば事情は汲んで貰えた。さっさと荷物を抱えて図書室を後にし、下駄箱のたたきにローファーを放り投げる。  気の早い午後の日差しは痛いほど強い。日光を避けて、軒をずるずると這うように歩いていると、ふと、剣道場から人の声がするのを聞いてしまった。  足が止まる。日影から足先が出る。  私の足が勝手に剣道場へ向かっていた。
 剣道場自体に足を運ぶことは、ほとんどない。体育の授業でも、部活棟の辺りは使わないからだ。  グラウンドの隅にある剣道場周辺にはとくに樹が少なくて、日影がない。立ち寄る生徒は運動部の子たちくらいだった。剥き出しの皮膚が、じりじりと焼かれて痛んだ。  道場の外壁には高窓しかついておらず、見上げて聳えるそれはまるで刑務所の壁のように見えた。果たして内側と、こちら側のどちらが閉じ込められているのか、私には判別ができなかった。  通用口と、グラウンド側に繋がる大きな出入口は空いているが、そこから中を覗くことは、とてもじゃないけれど私にはできない。  木目に擬態した道場の外壁に手を当てると、壁は日差しに焼かれて鉄板のように熱かった。内側からは、剣道部特有の咆哮が響いている。  私はたくさんの遠吠えの中から、彼の波形を探した。汗の匂い。くぐもった反響。壁の振動。声はすぐに見つかった。北西側、反対側の壁際、多分三列目。  沢山の気配の中に、彼が混ざっていた。  彼ではない気配の中に、紛れるように、しかし違和を残しながら、そこに溶けていた。水に落とされた、油みたいに。
 不意に、私はどうしたらいいかわからなくなってしまって、その場にただ立ち竦んだ。  人がいるのだ。この中には人がいる。  当たり前のことだ。ここは、学校なのだから。しかし、私ではない人間たちがいた。私が知らない彼を、知っている人間がいた。そうして、会話して、戦って、視線を交わすのだろう。私の知らない、触れあって。  知らないで、見ないで、触れないで。見るな。私の、 。
 喘いだ。  湿度の高い、熱せられた空気が喉に絡んで、小さく噎せた。自分を支えることが困難になって、鉄板のように熱い壁に額をつけて凭れる。壁は、焼けるように熱くて痛い。強く爪を立てると、ぎゃり、と不快な音がした。私の爪は鋭かった。そして、空しい音を立てるばかりだった。
 おとぎ話は、人間が夢を見る為にある。  幼い頃から、私は世界に王子様とお姫様がいることを、疑いはしなかった。本の世界にばかり、足を浸していたからだ。物語に主役がいるのであれば、邪な竜も、野獣もこの世界には存在することになる。役割は、必ずしも自分が望むとおりに振り分けられるわけではない。幼稚園のお遊戯会と一緒。誰も彼もが王子様やお姫様になれる訳じゃない。紡ぎ車も狼も、そうなりたくてなった訳ではないだろう。私が、悪いオオカミを演じたように。
 そうだ。だから、私だって、彼だって、例外じゃないことなんて。
 どうして野獣が得なければならなかったのは、人間からの真実の愛だったのか。  そうだ、小さい頃からずっと疑問だった。彼がたとえ野獣に身を窶しても、同じ野獣の番であれば、傷をなめ合うことのできるはずなのに、って。どうして彼は貶されて、傷を深められても、人間からの愛を得て、人間に戻りたいと思ったのだろう、って。
 おとぎ話は、人間が夢を見る為にある。  頭の中にある書物のページをいくら捲っても、化物と化物が結ばれた結末なんて、一つだってなかった。化物が化物のまま、幸せになる物語なんて���かったのだ。シルヴィアも、李徴も、グレゴールも、みんなみんな。  おとぎ話は人間しか幸せにしてくれない。幸せになりたいなら、人間になるしかない。それを私は知っていた。だから私は人間でいなければいけなかった。人間でいる必要があった。私だけでも、人間でいなければいけなかった。人間で居たかった、人間で居たかった、人間で居たかった。  そうでなければいけなかったのに。  おとぎ話の世界で、私は。
 月が零れる。  獣の匂いが、否応なく下腹部から立ち上る。つま先から皮膚がひっくり返っていく。全身の毛皮があわく月夜に煌めいたとして、たとえそれを千枚縫い合わせても、光り輝くドレスになんかならない。  私は全部、知っていた。最初から分かっていた。目を背けていただけだった。  足元で、ぽたぽたと水滴の垂れる音がした。それは異様に粘ついていて、腐肉の匂いがした。  私の中にいる私が、そっと耳元で囁いた。
 もうどうしようも無いんだったら、はやく喉に噛みついちゃえばいいじゃない。って。  
 ラ・ベッラなんて、最初からいなかった。  狼だったのだ。
 †
 意識は冷たくて、白濁していた。  そこで私は初めて、気を失った時に世界が真っ白になるということを知った。  全身はまんべんなくずきずきと痛んでいる。頭は特に割れるように痛む。焼けた火箸で頭蓋の内側をぐちゃぐちゃにかき混ぜられているような痛みだ。床の感触が冷たいのに、脇腹が異常に熱を持っている。  熱いから痛いのか、痛いから熱いのかわからなかった。全ての熱がそこに集まってしまったようで、事実、指先は凍えていて一切動かない。  私は薄らと目を開いた。  下水のような、饐えた汚物の匂いがする。そして血の匂い。地下室は、ひたすら暗い。髪を垂らす窓も無く、寝台もなく、ただ檻のような壁だけがあった。  晴。  名前を呼びたくても、舌が動かない。呼んで、どうなるというのだ。私が目を覚ましたことを、気付かせるだけではないのか。  床に投げ出された私の手のひらは、まだらな赤褐色に乾いていた。それからは、微かに甘い匂いがした。床がまだ新しい血で赤く濡れていて、それはひどく生臭かった。きっと狼の血なのだろう。  なんとか視界を広げようと瞼を上げると、部屋の中に晴が立っていることだけが解った。後ろ姿だけのそれを見るや否や、たちまち悔いと後ろめたさが燻った。後悔の念が尽きない。
 私が願わなければ、こんなことにならなかった。ましてや、晴が傷つくことなんて、望んでいなかった。
 私はただ、庭先に咲いた私だけの薔薇を誰にも盗られたくなかっただけ。ただ、それだけだった。  傷つけることを、望んでなんていなかった。  けれど、それを今誰が証明してくれるだろう。現に私は晴を閉じ込め、切り裂いて、頭から丸呑みにしようとした。きっと、またすぐに私は狼になってしまう。狼である証拠に、私は彼を酷く甘いものだと思い込んでいる。一体、これのどこが人間だと言うのだ。健常な意識ですら、獣性を否定できていないのだから。  私は目を閉じた。  目を覚ましたくなくて、冷たい眠気へ緩やかに身を任せる。  そうだ、このまま私が眠っていれば、少なくとも私が晴を傷つけることはない。目を覚ませば、私はたちまち狂気に取りつかれて、彼に牙を立てることしかできなくなってしまう。もう彼を傷つけるのも、怯えた瞳で名前を呼ばれるのも嫌だった。
 眠っていよう。  これ以上、晴を傷つけないように。いっそ、私が救われなくたっていい。茨の内側が暴かれなければ、私はいつまでもお姫様と誤認されたままでいられるでしょう。狼がお姫様を丸呑みにしてドレスを着て、精一杯着飾ったところで、大きな口と生臭い匂いですぐに狼だとばれてしまう。  そんな姿は、晴に見せることができない。彼がまだ、私を人間だと思っているうちに、朽ち果ててしまいたかった。  微睡みは心地よかった。  ふと、何か、喧騒のようなものが聞こえた。悲鳴か、怒号かわからない叫び声のように思った。ただ、晴の声ではないことだけは理解して、どうでもよくなった。それも私の意識が氷湖の底に沈んでいくうちに、ぼやけて遠くなっていった。  夜明けの笛の音も、白く光を亡くした月もなく、薔薇の花も無い。深い眠りの水底には、ただ長い静寂が横たわるだけだった。
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2ttf · 13 years ago
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tokyomariegold · 2 years ago
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2022/8/13〜
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8月13日 図太いおばさんに服を引っ張られて心が死んでいる!
東京都現代美術館で“私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ”展を鑑賞。とても大切なことを訴えている展示だった。こうゆうのは一人で観たくなかったし、今日の気分的にちょっと避けておきたかった。題材が題材なだけに、大切なことです��ね、うん、としか言えない。受け止められない人もいる。
台風だからか、学生の時平日に行く美術館みたいだった。駅までの道には例のごとくかかしがたくさんいた。 東京土産を買いに銀座の資生堂へ。台風の街もとても空いていた。
私の正しさが誰かの悲しみや憎しみになる構図って、もうそれしかないよね、と考える。“正しさ”って異常。
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8月14日 旅行の準備をする。今日受け取る荷物で旅行に持って行きたいものがあるのに、19時以降の時間指定をしていたのに、18:03に届けに来ていたらしく、ちょっとどうしよう…という感じ(この後電話して無事配達してもらった)。 暑中お見舞いも20枚ほど印刷。
胃が良くないので薬局で1類医薬品の胃薬を購入しようとしたら、症状的には他の胃薬がおすすめとのこと。明日から、元気でなくとも無事に行って帰ってこれるといいな。
そろそろいいかしら、と、新500円玉をお会計で出したら「これ、新しい500じゃないですか!いいんですか?」と言われる。そうゆう風に反応してくれる人の元に渡ってよかった。
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8月15日 旅行に行くとなると、準備や帰ってきたことを思って、出かける前にいつもへとへとになってしまう。お掃除や洗濯を済ませて、思ったより重い荷物を背負って出発。
東京駅で、三ノ宮の最寄りは新神戸で、私が乗る新幹線は新大阪行きだと気がつく。あれ〜、失敗。新大阪から三ノ宮まで在来線を使うことに。
新幹線では日記の更新をした。コピぺがうまくいかず、消えては打ち直しで疲れていたらもう名古屋。車内で暑中お見舞いを書く予定だったけれど、のぞみの速度の圧に勝てず字がぶれてしまうので書くことができなかった。 新幹線はとても空いていた。
新大阪では、駅のつくりとか人の入り混じり様とか、外国に来たみたいでなんか怖くて帽子を深く被って乗り換えた。 ホームでは落下防止ゲートではなくて、ロープが上下していた。関東で見たことがないので、そこまで画期的なアイデアではなかったのだろうな。
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三ノ宮で友人と待ち合わせをして阪急デパートや大丸や地下街を案内してもらいつつ、連れて行ってもらうまま、15:30からの神戸税関の見学へ行った。 税関の広報担当の方がたっぷり1時間ご案内してくれて楽しかった。展示も建物もすてき。案内してくれた方が最後に「ニコンのF3ですね!私はF5を使ってます。」とフィルムカメラ仲間だとお話ししてくれた。 カスタムくんは税関ごとにつくりが少しずつ異なることも教えてくれた。たしかに、東京のカスタムくんはもっとプリンみたいだった。
見慣れない風景やものを横目に見ながら友人と街を歩く。炎天下の知らない街では、誰か流してくれる人がいないと何もできなくなってしまうけれど、でも、見逃しているものもとってもたくさんある気がして、そわそわしてしまった。
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結婚して神戸に住んでいる友人。苗字が変わったけれど、旧も新もしっくりくる苗字だね、と話した。 別れ際に「前より元気そうだね。食べられてそうだね。」と言ってもらって落ち込んだりした。
友人と別れて、もう一度街を歩く。 終戦記念日だからか、公園で蝋燭を灯していた。それと、山を見たら“KOBE”の灯りがあった。
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8月16日 もう一度阪急百貨店へ行きTOOTH TOOTHで焼き菓子のセットを買う。昨日買ったお茶と一緒に郵便局で配送の手配をして荷物を減らす。
阪急、京阪、阪神、JR。関西の電車もややこしい。 山に近い路線の方が格式が高いと教えてもらった(大阪-三ノ宮間でいうと、阪急>JR>阪神、とのこと)。阪急で梅田まで向かう。ミッフィー とコラボしているポスターをたくさん見られた! 梅田駅は終点で、池袋みたいだった。 阪急百貨店はこちらが本拠地なのか、三ノ宮よりも格段に大きくてハイブランドが一通り揃っている。やっぱり西武デパートの、���袋と所沢的な関係とも似ている!と思ったけれど、その後会った方曰く、梅田は東京で言うと東京駅と新宿駅が合わさった感じらしい。
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9階の催事場でスヌーピーのグッズや展示を観る。夏休みっぽい。emmiとpeanutsのコラボトートがかわいい…と思いその場を後にしたけれど、後ろ髪を引かれすぎてUターンして購入してしまった。荷物を減らしたいのでは…
中之島でお友達と合流。 静かで人はいるけれど街に人気がなくて関西じゃないみたい。お友達もその旦那さん(その方もわたしの友達)も「ここは東京みたいです。」と言っていた。
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新しくできた美術館をふらついて、近くの喫茶店でお茶をした。 お茶目な感じのおばさんが接客してくれる。ここの名物っぽいポジションの方なのかしら、と思ったら、カウンターの中にもう1人おばさんがいらして、お会計は更におばあさんが対応してくれた。みなさんお茶目な感じ。 喫茶店のテレビでは甲子園の試合が放送されていて、私達はときどき、夏休みだね〜、と言い合った。
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結婚して知らない土地で何をして過ごしているの?という質問を、言葉を変えては繰り返ししてしまった気がする。私は、どう生きていくか、みたいな話が好きすぎる。 少し迷いながら日々の歩みを進めている方々に救われていて、それを話してくれる時の言葉や仕草に心が持っていかれることが多いし、そうゆう時に写真を撮りたくなる。
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お友達の旦那さんもお仕事の最中合流してくれてお茶をした。2人と雑司ヶ谷でいつもみたいに喫茶店で時間を過ごして、でも外に出たらそこは全く知らない大阪で、やっぱりみんな変わっていってるな、と思った。
丁寧に乗り換えを教えてくれる。ホームまで届けてくれてとても優しい。2人共、大学時代を東京で過ごしただけで、実家も別の場所のため「東京に行く理由がないかな…」と言っていて驚いてしまった。なんだかんだ、私は東京生まれ東京育ちなのかもしれない(本当にそうだけれど)。
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三ノ宮や梅田の都市の話ができて楽しかった。 三ノ宮は震災以降元気がないらしい。私は震災以降の神戸の街に初めて降りた時、山も海も街もガラクタみたいなところも高架の道路もお役所街もあるのに、どこか整然としているのは、震災でリセットされた結果なのかな、と思っていた。そしてその街がとても良い!と思っていた。でもかつての元気はないらしい。 風化させてはいけない出来事があって、でもそれを全く知らない人が「とっても良い街!」と思って、それだけの印象で生き続けるのは間違えなのかしら、と、京都から守山までの琵琶湖線の中で考えていた。
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京都は送り火の日だったらしく、人が多かった。 いつも行く祇園のチョコレートのお店だけ寄った。お店の外で、曲がり角を折れて私の姿が見えなくなるまで店員さんがお辞儀をしてくれていた。 いつもお部屋で見ている京都駅前のライブカメラ の場所を探してうろうろ。噴水があるらしいけれど、それっぽいものは見当たらず、カメラの写真を撮って京都を出た。
守山のホテルは当たり! とってもヘトヘトで、夕食を買いにコンビニやスーパーへ行った。近くの西友は売り場が改修中で、冷蔵コーナーが店内の中央に集められていて、冷蔵庫のモーター?の熱気が凄かった。店を出ると雷雨!送り火大丈夫なのかな…と、濡れながらホテルへ戻った。 ホテルのお部屋で送り火の生中継を観る。時間をずらして火を灯したらしい。
だんだん���トヘトが重なってきて体がキツいのでここまで。
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eyes8honpo · 3 years ago
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四章 重力崩壊
「こっ、のぉ~! 落ちぶれ、貴族のっ、クセに! 生意気だぞ~!」 「そういう、ことは! 我々に! 勝ってから! 言ってもらいましょうか成金貴族!」 「むき~! テニスだったら絶対負けないのに~!」 「姫ちゃん落ち着くんだぜ~! 連携が崩れちゃうんだぜ!」 「今です春川くん! 攻めていきますよ!」 「HaHa~! みんなでバドミントン楽しいな~? 宙はとっても気に入りました!」  なんで、あんなに元気に動き回れるんだろう。  体育館の壁にもたれかかって、両膝を抱え込んだ翠は、目の前で走り回る同級生たちの姿にげっそりと肩を落とした。隙間から吹いてくる風は生ぬるく、湿気を帯びて翠の体力を奪い続ける。今年の梅雨明けは、例年より早い見込みです。連日流れるテレビのニュースに、うそつけ、と悪態をついた。朝から酷い濁り方を見せていた空は、雨こそ降らないものの、翠を心の底から憂鬱にさせた。 「ちょっと~暗い暗い! 暗いよ翠くん! そんなんじゃ幸せ逃げちゃうよ~?」  頭上から降ってきた底抜けに明るい声に、翠はあからさまに眉をひそめた。別に、逃げてもいいし。投げやりに答えると、ひなたは「ふーん」とどうでもよさそうに言って、翠の隣に腰をおろした。一人にしておいてほしかったのに。内心、そうは思ったものの、さすがにこのあと同じコートに立つ相方を邪険にするわけにもいかず、翠は座り込んだひなたのことを恨みがましくじっと見ていた。 「ずいぶん機嫌が悪そうだけど、どうしちゃったのさ。ライブは大成功だったって聞いたけど?」 「……誰にきいたの」 「忍くん。ま、聞いたのは俺じゃなくてゆうたくんだけどね!」 「���、そう……」  そっけない翠の対応に、ひなたは動じなかった。  すごいお客さんだったらしいね。さっすが流星隊。一年生の子も堂々としてたって、話題になってるみたいだよ――会話するでもなく一方的に話し続けるひなたに、翠は辟易しきっていた。視線の先では、光のスマッシュが決まったのか、桃李と宙が嬉しそうに跳びはね、司だけが悔しそうに唇を曲げていた。  ライブが成功したというのは事実だった。  去年と同じ舞台。  遊園地でのヒーローショウ。  スーパーノヴァの再演。 「やりたいことがあったら、どんどん言ってほしいッス」  鉄虎の言葉に、後輩二人は目を輝かせて即答した。  勢いに圧倒されて、やや仰け反った鉄虎の背中を昨日のことのように思い出せる。実現させるためには、小さなことからコツコツと、ッス。まずはどうしても公園での定期的なヒーローショウとか、ゴミ拾いとか、そういうボランティア活動がメインになっちゃうッスけど。申し訳なさそうに告げた鉄虎に、二人は「やります」と嬉しそうに笑った。去年度の実績があるとはいえ、抜けた先代の穴は大きい。それを分かってか、望美も環も恐ろしく熱心にレッスンをこなし、どんな小さなライブにも手を抜かなかった。 「自分たちが入ったことで、流星隊の人気が落ちるなんてこと、あっちゃいけませんから」  普段あれほど気弱な環が、毅然とした表情でそう告げたのが、とどめだったように思う。  その日を境に鉄虎はあまり笑わなくなった。  昼休みも放課後も、隙を見ては企画書に赤ペンを引いて唸るような日々が続いた。外部の仕事を拾ってくるのは、翠たち三人が思っていたより遥かに困難だった。プロデュース科に頼ろうにも、あちらはあちらで新入生の育成に手一杯で、去年のように各ユニットのことを気にかけられる状態ではなくなっていた。かろうじて忍が生徒会経由で取ってきた仕事が成功したからよかったものの、鉄虎の表情は沈んだままだった。 ――あのひとは、やっぱりヒーローだったんスね。  ぽつりとこぼれた言葉の意味が、最初、翠には分からなかった。疲れきった鉄虎の右手がスーパーノヴァと書かれた企画書の束を高々と掲げ、一年生が割れんばかりの歓声をあげたその時になって、ようやく理解した。あの真っ赤な背中はいつも、たった一人であちこちを飛び回り、そんな努力の形跡など微塵も見せずに、誰かの願いを叶えていったのだということ。そして、あれと同じ色を背負った重圧から、鉄虎は必死で駆けずり回っていたのだということ―― 「鉄くんはさ」  心臓を掴まれたような悪寒が身体中に走る。 ��大丈夫なのかな」  心を読まれたのかと思った。  血の気の引いた指先を握る。  隣を伺えば、ひなたの深いエメラルドの瞳が悩ましげに細められていた。 「……本人は大丈夫って、言ってるけど……」 「うーん。翠くんが相手でもそうか。困ったなあ。俺も友くんも、結構あの手この手で話しかけてるけど、大丈夫の一点張りだし。……なんとかしてあげたいんだけど。鉄くん、ちょっと頑張りすぎ。あんなんじゃそのうち倒れちゃうよね」 「……流石に、倒れるまで無茶しないとは思いたい……あんな分かりやすい反面教師がいたんだし……」 「反面教師がいるのとそれを自分に活かせるかどうかは別物だよ」  冷ややかな視線が、どこか遠くを見つめるように投げ出された。  ゾワ、と背中を嫌なものが駆けていく。 「ていうか、本気でそう思ってるんなら、ちょ~っとおめでたいんじゃないかな〜」  独り言のように呟くと、ひなたは今さっきまでの騒がしさが嘘のように黙ってしまった。  不穏な沈黙が、湿気と混ざり合って、ドロドロと質量を増していく。
「ひなちゃん! 交代な~!」  呼び声がして、翠もひなたも顔をあげた。  黄色い髪をふわふわと揺らしながら、宙が駆け寄ってくる。 「宙くん」  名前を呼び返しながら、ひなたが立ち上がった。ちょっと前までは苦手だと思っていたのに、今この場に限っては声をかけてくれて助かったとさえ思う。隣の不快な重圧が小さくなって消えたのを感じて、翠は身勝手にもほっとしていた。  コートの隅では、勝敗が決まったにも関わらず、桃李と司が睨み合いを続けていた。光の姿はそこにはなかった。代わりに遠くの方で、走るな天満、と教師の怒声が響いていた。 「お���かれ! アンドおめでと~! すっごい接戦だったね!」 「なかなか終わらなくて楽しかったな~? 次のゲームも今みたいにずーっと続いてほしいです! 宙はバドミントンが大好きになりました!」 「あはは、それはよかった。よーしじゃあ俺も頑張ってこよっかな! ぐんぐん勝ち上がって宙くんたちと当たりたいよね! 翠くん!」 「いや、俺に振らないで……ていうか勝手にやる気出されても困る――」  重い腰を上げてようやく立ち上がると、目線の高さに待ち受けていた形相に翠は息を飲んだ。 「ねえねえ、まっさかと思うけどさ~あ?」  この、時折見せる、辛辣な態度。 「鉄くんにも同じこと、言ってないよね」  薄々勘付いていた。だから近寄ってほしくなかった。  去年の今頃苛立ちと共にぶつけられた言葉が脳裏によぎる。俺、そんな子たちと一緒にやるの、嫌だな。オレンジ色の髪だけじゃなくて、きっと中身も似てるんだろう。翠は眉をひそめた。わざわざ嫌がることを分かった上で踏み込んでくる姿があの暑苦しい太陽の背中と重なって見えるところも、翠を不機嫌にさせた。 「……言わないよ」  爛々と見開かれた相貌を、睨み返すように見据えた。どうにも、今日の自分は酷く虫の居所が悪い。いつもだったらこんなことは絶対にしないはずだ。だって、余計に面倒なことになるに決まっている。そう思いながらも、翠は嫌悪感を隠せなかった。 「二人とも、どんより曇り空の灰色な~? 何か嫌なこと、あったんですか?」  肩の辺りで、小動物の耳のような黄色が、フワ、と揺れた。  驚いて見下ろせば、青とも緑ともつかない不思議な色の瞳が、空気の重さを打ち消すように輝いていた。翠が返事に窮した数秒の間に、ひなたは二度まばたきをして、いつもの明るさを取り戻していた。 「ううん! なーんにも!」  そう言って笑い、コートのほうへと駆けるひなたの背中を、翠は険のある表情で見送った。  なんにもないわけないじゃないか。下唇を噛んで、俯きがちに歩き出す。 「みどちゃん」  呼び止められて振り向いた。この子が自分の名前をこうして呼ぶのは、珍しい。なりゆきで何度か一緒に遊んだことはあっても、翠にとって宙は友達の友達で、特別親しい間柄というわけでもなかった。それでも宙の声に含まれる気遣いの色は本物だった。宙のように実際色が見えるわけではないが、それくらいのことは翠にも分かった。 「みどちゃん、大丈夫ですか? もう、ず~っと長い間、みどちゃんのまわりで色が濁って、みどちゃんの色が……よく見えないな?」  ううん、と片目をこすって、宙は不安そうに眉をよせた。 「……俺の色って、どんな、」  すがるようなか細い声だった。あまりの不甲斐なさに、消えてなくなってしまいたい、と思った。誰でもいいから助けてほしいと、心のどこかで考えている自分のことが、嫌で嫌でたまらなかった。同時に、不機嫌の理由を突きつけられたような気がして、翠の心はいっそう濁った。  単なる自己嫌悪じゃないか。  かっこわるい。 「普段のみどちゃんはもっと、お日さまの光をいっぱいに受けたみたいな、淡くて明るい葉っぱの色な~。でも……宙が灰色のぐるぐるじゃない時のみどちゃんを最後に見たの、もう随分前のことです」 「……元々、灰色なんじゃないかな……」 「そんなことはありません! それにみどちゃん、ステージに上がると時々、弾ける花火みたいにとってもカラフルになる瞬間があるな~! きっとモヤモヤに隠れて今は見えないだけです! だから、モヤモヤを吹き飛ばして、宙はまたみどちゃんの色と出会いたいな~? 何かお手伝いできますか?」  真剣に考え込んで小さく唸った宙の、鮮やかな黄色のつむじを見つめて、翠はもう一度唇を噛む。どうして、誰もがみんな、こんなに他人のために一生懸命なんだろう。自分のためにすらろくに動けない自分が、余計に惨めだ。黙ったままの翠の、うつろな視線の先で、ポンと軽快な音が鳴る。驚いて少し仰け反ると、宙はその小さな手のひらに、まっしろい鳩を一羽、乗せていた。  くる、くる。  あっけにとられる翠の顔を見上げて、鳩は小さく鳴いた。  かわいい。  けど、どこから?  呟いた翠に、宙はにっこりと笑った。そしてまたポンと煙を起こして、手の中のものを消してしまった。翠は目を丸くして、からっぽになった宙の、小さな手のひらを見つめていた。 「宙はまだ、ししょ~みたいに魔法が上手く使えません。大ししょ~みたいなマジックも難しいな~? でも願います! みどちゃんの色がキラキラの、本当の色になるように!」  ぱちん、と鳴らした宙の指先に輝くネオンのような光に、翠は目を瞬かせた。  なにかの見間違いかな。  数回のまばたきのあと、その光は跡形もなく消えてしまった。 「みどちゃん」  いってらっしゃい。  見送りの挨拶に、はっと我に返って顔を上げると、コートの向こうでひなたが大きく手招きをしていた。 「うん……ありがとう、春川くん」  駆け出した両足は、不思議と少し軽くなっていた。それが魔法だというのなら、翠は宙のことを立派な魔法使いだと思う。  でも、もし本当に魔法が、あるのなら。 「どーしったのっ? 翠くん。宙くん、手品でも見せてくれた?」  いつも通りの朗らかな笑みを携えて、ひなたがラケットを投げてよこした。  慌てて受け止めながら、うん、とぎこちなく返事をする。 「そっか。……よかった」  穏やかにそう言って、ひなたはコートの中央線をまたいでいった。さっきまでの淀んだ空気は、綺麗さっぱりなくなっていた。不思議だ。ラケットのグリップを握り直しながら、翠も自分の位置についた。  本当に魔法があるのなら。  それをかけてあげたいのは、もっと。  俺なんかじゃなくて。  脳裏にちらつく黒いえりあし。その項垂れた首が、疲弊した背中が、同じように少しでも軽くなればいいのにと、願わずにはいられなかった。ピィ、と吹き鳴らされたスタートの合図に、翠は深々と息を吐き出した。
   ★
「あれっ? 嵐ちゃん先輩なんだぜ?」  教室のドアの前に佇む人影を見て、光が駆け出した。あいつ、元気すぎ。汗だくの桃李がげんなりと眉間にしわを刻む。一ヶ月ほど前までは甲斐甲斐しく注意を飛ばしていた桃李だったが、全く聞く耳を持たないのでとうとう諦めたらしい。 「あらしちゃーんせーんぱーい」  大声で叫びながら手を振る光に、嵐は顔を上げて、あら、と口元を押さえた。 「やァだ、体育だったのねェ。道理で誰もいないはずだわ」 「うん! さっきまでバドミントンしてたんだぜっ! グランドがぐちゃぐちゃだからって、最近ずっと体育館にぎゅうぎゅう詰めで、オレすっごく窮屈だったんだぜ~」 「そうよね、最近雨ばっかりでなかなか外を走れないもの。アタシも思った以上にストレスだわ」 「きっとアドちゃん先輩に聞いてもおんなじこと言うんだぜ! アドちゃん先輩も絶対、広いとこのほうが好きだもん! やっぱり世界は広いほうがいいんだぜっ!」 「ウフフ。また随分と話が大きくなったわねェ。アタシは別に体育館でも言うほど困らないけど……あっ! あらヤダ司ちゃん!」  ぞろぞろと教室へ入っていく集団を、嵐が慌てた様子で呼び止める。ちょうど廊下から教室へと踏み込んだばかりの司が、つんのめって半回転した。邪魔ぁ、と桃李が低く吐き捨てた���、幸い司の耳には届いていないようだった。 「はい、鳴上先輩! 司でしたらこちらに!」 「危ないところだったわァ、司ちゃんに用があったのよアタシ。今日の練習なんだけどね、訳あって押さえてた場所を他に譲ることになったの。申し訳ないんだけど、放課後はスタジオの方に来てくれるかしら?」 「承知致しました、ではそちらへお伺いします。……しかし、わざわざお立ち寄りくださるとは。この程度のこと、Mailして頂ければ結構ですのに……」  不思議そうに小首を傾げる司を、ぼんやりと眺めたあと、嵐は教室のドアからわずかに中を伺って、小さく息をついた。 「……どうかなさいました?」 「鉄虎クン、は……そうね。このクラスじゃないものね」 「ええ。彼はA組です。何かご用でも?」 「用って程でもないんだけど……ちょっとだけ、ね。急に心配になっちゃったの。……思い詰めてるカンジだったらフォローしてあげたかったんだけど」 「そう――でしたか」  ほんの少し、察したように表情を曇らせて、司が相槌を打つ。 「鉄ちゃん、どうかしたの?」  きょとんと目を丸くさせて、光が嵐と司を交互に見た。  言い淀んだ司の横で、嵐は「なんでもないわ」と微笑んだ。 「アタシの杞憂で済むんなら、それに越したことはないのよ」  付け足された祈りのような言葉に、司も静かに頷いた。 「それじゃ司ちゃん、放課後にね」 「……はい。また後ほど!」 「光ちゃんもあんまり変なとこ走っちゃダメよォ? 椚センセに叱られちゃうから」 「ええ~? うーん、分かったんだぜ~……」  光がしぶしぶ返事をすると、嵐は「ホントに分かったのかしら」と困ったように眉尻を下げて笑った。駆け足で教室に戻っていく光と、軽く会釈をした司に、嵐もひらりと右手を振って歩き出す。
「あっ、あの」  それは予想外のことだったのだと思う。  呼び止められた嵐は、訝しげな表情でゆっくりと振り向いた。  そして声の主を捉えると、納得したように「あぁ」と頷いた。さほど面識があるわけではなかったが、顔くらいは覚えられていたのだろう。どうも、と首をすくめて、翠は胃のあたりで両手を組んだ。 「その、鉄虎くん……何か言ってました、か――」 ――やっぱりやめておけばよかった。  みるみるうちに後悔したのは、嵐の長いまつげがぴんと伸びて、次第に怒りを滲ませ始めたからだった。 「あのねェ」  凄みの利いた低音が、翠の鼓膜をふるわせる。  飲み込んだ息が、ヒ、と悲鳴のように鳴った。 「聞きたいのはアタシの方だわ。あの子、一体どうしちゃったっていうの? ちょっと見ない間にこわァい顔になっちゃって……似合わないったらないわ。眉間にシワの寄ったアイドルなんて泉ちゃんだけで充分よ、全く」  一歩、また一歩と嵐が詰め寄ってきて、翠は大きく後ずさった。捲し立てられた言葉が、ぐるぐると頭の中を駆けめぐる。ぎゅっと握った体操服の裾。廊下の隅に落ちた視線。嵐はくの字に折れた翠の体を一瞥して、ため息まじりに前髪をかきあげた。 「アナタ、同じユニットでしょうに。アタシに声をかけるだけの勇気があるんならね、ちゃんと本人を気にかけてあげなさいな」  冷ややかな声だった。  勇気を出したつもりで、一番肝心なところから逃げた卑怯者。そうなじられたようで、ぐわん、と頭の後ろが痛んだ。やっぱりやめておけばよかった。再び後悔がわいてきて、目頭に滲む。  いつもこうじゃないか。  中途半端になにかして、なにかした気になって、安心したいだけ。  本当にやるべきことは、別にあるのに。  分かっているのに。 「……ごめんなさい。流石にちょっと、言い過ぎだわ」  顔を上げてくれる?  ほんの少しやわらいだ口調に、翠は恐る恐る、目だけを向けた。絡んだ視線の先、淡い紫の瞳。何度かの瞬きのあと、悔やむように眉をさげて、嵐は息を吐き出した。 「あぁ、やだ、これじゃただの弱い者いじめじゃない。カッコ悪い。そうよね、自分の不甲斐なさを棚に上げて、偉そうなこと言えた義理じゃないわよね。でもどうしても見過ごせなかったのよ、アタシ。アナタには分からないかもしれないけど……人がボロボロに崩れ落ちる瞬間なんて、本当にあっという間なんだから」  渋い表情のまま一息にそう言うと、嵐は目を細め、ぼんやりと虚空を見つめた。 「崩れ落ちたあと、元に戻る保障もないのにね。……残酷な世界よねェ」  ゾ、と背筋が凍る。  粟立った両腕を、反射的にさすった。  嵐は、頬に片手を添えて大きくため息を落とした。 「そろそろ、着替えないといけないわよね。授業が始まっちゃう。……鉄虎クンには、アタシからも声をかけてみるわ。お互い勇気を出しましょ、“翠クン”」  え、と弾かれたように顔を上げる。名前。翠がそう呟くと、嵐はやわらかく微笑んだ。 「あの子がそう呼ぶから、ついね。イヤだったかしら?」  いえ、別に。ゆっくりと首を横に振ると、嵐は満足そうにもう一度笑って、じゃあね、と身を翻した。翠はしばらくそこに立ち尽くしていた。翠クン。翠くん。頭の中で、呼ぶ声を思い出そうとして、急に恐ろしくなった。一緒になって浮かんでくる表情の中に、笑顔が見つからない。翠くん。みどりくん。最近、呼んでくれることさえ少なくなった。行きと帰りの重たい沈黙。また明日。呟くとき、頬に落ちる、暗い陰。 「高峯くん」 「ひっ」  大きく肩を震わせて振り向くと、そこにはぎょっと目を見開いた司が立っていた。  胸元にはきちんと結ばれた、青のネクタイ。 「す、すみません。驚かせてしまったようで」 「いや、俺も、すごい声出しちゃって……びっくりしたよね……?」 「ふふ。少々驚きましたが、お気になさらず。それより高峯くん、ご無事でしたか?」 「ぶ、無事って、何が……」 「いえ……鳴上先輩は、普段はお優しい方なのですが、ひとたびお怒りに��るとそれはそれは恐ろしい形相でこちらへ詰め寄っていらっしゃいますので……」  我が身のことのようにぞっとする司の表情に、翠は少し驚いた。 「……朱桜くんが怒られることなんかあるの」  この品行方正で、完璧にも思える小さな王様が。  不思議に思って尋ねると、司は普段の凛々しさから一転して、恥ずかしそうに頬をかいた。 「私もPerfectではありませんから。人としても、Leaderとしても、まだまだ未熟者です。ご指導頂くことの方が多いですよ。……意外でしたか?」  うん、と素直に頷いた翠に、司はもう一度照れたように笑った。先日も、後輩と激しい口論になって、先輩方に叱られたばかりでして。続く言葉に、ぽかんと口が開く。 「誰しも、Perfectな人間にはなれないものですね。……私も認められるようになったのは、つい最近のことですが。叱られて、Supportして頂いて、それが悪いことではないのだと思えてからは随分楽になりました。なにせ先代がああですから私の失態など可愛いものです。あそこまでFreedomに生きるのは命じられても困難というも��……ああいえ、すみません、これは余計な話でした」  照れ隠しなのか、ただの愚痴なのか、司は一息にそう言うと、口元に手をやって咳払いした。  なんだか、ただの同級生みたいだ。  間抜けな感想を抱きながら、翠はまばたきを繰り返した。  戦場で戦う背中しか知らなかった。遠い世界の人間だと勝手に思い込んでいた。完璧な人間なんかいない。いつかの赤い炎が、目の奥によみがえる。  それでいいんだと、あんたも言っていたっけ―― 「……彼も、あまり思い詰めないといいのですが」  は、と我に返る。見下ろした司は浮かない表情で眉をひそめていた。胸のあたりがぞわぞわしてきて、翠はきつく両手を組み直す。戻りましょう。司が促したちょうどその時、チャイムが響いた。少しして入ってきた教師は、体操着のままの翠を見て意外そうな顔をしていた。あと一時間。掛け時計の短針を静かに見つめながら、翠は小さく身を縮ませていた。
   ★
「それじゃあ俺、鍵取りに行ってくるッス――」  教室から勢いよく飛び出してきた鉄虎は、廊下へ降り立ってぴたりと動きを止めた。  むぎゅ。忍がぶつかったのか、後方で潰れたような悲鳴があがる。 「お、お疲れ……」  かすれた声で言って、翠は鞄のひもを握り締めた。お疲れッス。返事をしながらも、鉄虎の目は不思議なものを見つめるようにきょとんとしていた。 「あれっ? どうしたんでござるか? 今日部活でござろう」 「うん、今から行く……けど……」  鉄虎の肩の向こうから、背伸びした忍のまるい頭がのぞく。煮え切らない語尾に、鉄虎はゆっくりと眉をひそめた。部活、遅れるッスよ。生真面目な、硬い声が飛んでくる。うん、とまたひとつ頷き返して、翠は縮こまった。忍は不安そうに、翠と鉄虎の表情を伺っていた。 「な、鳴上先輩が」  呻くような、苦しい声だった。鉄虎は少し目を見開いた。 「心配、してた。……鉄虎くんのこと……」  また。逃げる。  頭のうしろが、ズキ、と痛んだ。  数秒の沈黙があった。拙者、鍵、取ってくるね。囁くように忍が言って、そうっと鉄虎の背中に触れる。鉄虎が返事をする前に、忍は音もなく廊下を駆けていった。ぼう、とその背中を見送りながら、鉄虎も静かに呟いた。鳴上先輩。 「……いつの話ッスか?」 「さっき……五限のあと、たまたま会って」 「先輩、なんて」 「……最近。顔がこわい、って」  かお。  繰り返して、ぺたり、と頬に手をやる。  自覚すらなかったのかと、再び悪寒が走った。アタシに話しかける勇気がある��なら。よみがえった叱咤の言葉に、強く、強く両手を握りしめる。 「てっ……鉄虎くんは、その……大丈夫なの?」  絞り出したそれが、翠にとっての精一杯だった。ばくばくと鳴る心臓を必死で押さえつけながら、沈黙に耐える。なにか、誰か、何か言って。祈るように一度目をつぶり、思い切って顔を上げた瞬間、翠はまた静かに後悔するのだった。 「大丈夫ってなんスか」  低い声。  寄せられた眉。  不服そうに曲げられた唇。 「な、んで怒るの……」 「別に怒ってないッス」 「だから、顔、怖いんだって……」 「元々こういう顔ッスよ。で、何が大丈夫じゃないんスか」 「そうは言ってないじゃん……ただ、その……ちょっと頑張りすぎなんじゃないかって、思っただけで……」  一時間前、体育館で聞いた台詞をなぞり返す。  言いたいことはもっとある。このところ減った口数のこと。目の下のなくならない隈。 「大丈夫ッスよ」  それを誤魔化そうとする、不自然なほどの明るい声。 「俺、頑丈ッスからね! ちょっと頑張りすぎるくらいがちょうどいいッス!」 「頑丈なのは、まあ、そうかもしれないけどさ……あんまり根詰めすぎてもよくないっていうか……照明案、帰ったあともやってるんでしょ?」 「だって、やんなきゃ終わんないッスから。さっさとやっつけて、一日も早くレッスンに入らないと。間に合わないッス。去年なんか散々だったじゃないッスか。あんなのは御免ッスよ、もう」  鋭い声で言い放った鉄虎の瞳は、去年の今頃のようにわずかに血走っていた。ステージ上での成功よりも、練習の出鼻をくじかれた苦い記憶のほうが強いのだろう。 「今年こそ、ちゃんと成功させるッス。休んでる暇なんかないんスよ」  あの時感じた焦燥と危うさだ。  とめなきゃ。 「でも……でもさぁ。それでもし、鉄虎くんが倒れちゃったりでもしたら俺たち」 「倒れないッスよ!」  翠の言葉を遮って力の限りに吼えると、鉄虎ははっと顔をあげて息を飲んだ。 「……ごめん。ごめんね。大声なんか出して。びっくりさせちゃって……翠くん、もうそろそろ、行かないとじゃないッスか? 部活、ちゃんと出ないと、ダメッスよ」  ぎこちない笑顔で笑いかけてくる鉄虎に、翠はもう何も言えなかった。  振り絞った勇気は粉々に散ってしまった。これ以上は、踏み込めない。 「俺、忍くんと、待ってるから。……また、あとでね」  無言で頷き返すと、鉄虎は申し訳なさそうに眉尻をさげたまま、廊下を駆けていった。翠も萎縮した体をなんとか動かして歩き出す。鉛のように重たい足だった。本当はもう何もする気にならなかったし、このまま家に帰って寝てしまいたかった。けれど、頭の中でガンガンと鳴り響く鉄虎の声が、翠を立ち止まらせてはくれなかった。待ってるから。その言葉を置き去りにして帰るなんて、できない。滑り落ちてくる涙を手の甲でぬぐいながら、翠は歩き続けた。  遅れて体育館に入ってきた翠を見て、真緒は驚いたように目を見開いた。  そしてすぐに真剣な表情になって、声を潜めた。 「今日は帰るか? 高峯」  問いかけに、帰れません、と首を振る。  渋い顔をした真緒は、分かった、とだけ言って翠の肩をぽんと叩いた。翠の動きはいつも以上に酷い有り様だった。それでも翠は懸命にボールを追った。途中、とげのある声で叱咤を飛ばしていたスバルも、次第にその必死さに口をつぐんだようだった。気付けば時間は過ぎて、真緒が終了の号令をかけていた。 「タカミン、しゃがんで」  その言葉に翠が反応する前に、スバルは器用に背伸びして、翠の頭をぐしゃぐしゃと撫でていった。驚いて固まっていると、「みんな帰るぞ~」と真緒の声がした。荒い呼吸を整えながら時計を見やる。行かなきゃ。大きく深呼吸をして、翠は歩き出した。
 ごめん 先帰る
 着替え終わって携帯を開くと、予想もしなかった一文が液晶の上部に浮かんでいた。受信したのは一時間ほど前のこと。一体、何が。戸惑いながら画面をなぞると、その数分後にもう一通、メッセージが送られていた。
 部活が終わり次第、至急AV室に来られたし。
 いつもはかわいいと感じるカエルのユーザーアイコンが、今日ばかりは不吉なものに見えて仕方なかった。いま行く。返信を打ちながら、慌てて部室を飛び出した。 「おっ、おいっ! どうした高峯!」  尋ねた真緒の声は、翠の耳には届かなかった。
   ★
「し、忍くんっ……」   飛び込んだ視聴覚室で、ぽつんと座る忍は、翠の顔を見るなり椅子から飛び上がった。 「翠くんっ! おつかれでござる!」 「うんお疲れ、鉄虎くんは――」  ぜえぜえと短く息を吐きながら、翠は部屋を見渡した。  いない。  携帯の画面を見た時から分かっていたはずなのに、自分の目で確かめてようやく実感が湧いてきた。いない。鉄虎くんがいない。先帰る。頭の中でぐるぐると文字が躍る。不気味なほどに真っ赤な西日が強く目の奥に差し込んで、酔いそうで、気持ち悪い。 「それが……鉄虎くん、一時間くらい前に、なんかぼーっとするって言い出して……熱でもあるんじゃないかって、保健室に行かせたんでござるけど……」  そのあとすぐ佐賀美先生が来て、先に帰らせるぞって、鞄とか、持っていっちゃったんでござるよ。詳しいことは、拙者にもよく。風邪とかござろうか。心配でござる。やっぱり疲れが溜まってたんでござるな――  説明しながら忍は鞄に荷物を詰め込んで、翠のもとへと駆け寄ってきた。翠は、忍の声を聞きながら呆然としていた。 「……帰る、でござろう? 翠くん」  忍が、不安げに眉を寄せ、翠の腕をつつく。 「――うん」  返事をしながらも、翠はがらんとした視聴覚室を、しばらくじっと見つめていた。  そこから先のことは、あまり覚えがない。気付いたらもう家で、夕飯を食べ終えて、布団の上に横たわっていた。酷く疲れていて、目を閉じればすぐにでも眠ってしまいそうだった。今の翠にとっては都合がよかった。このまま起きていたら、嫌な予感が身体中を埋め尽くして、はち切れてしまいそうだ。ゆっくりと呼吸をして、布団を頭までかぶり直す。どうか、俺のろくでもない予感が、的はずれでありますように――眠る間際の切実な願いは、叶わなかった。  翌朝鉄虎は翠を迎えにこなかった。  次の日も、そのまた次の日も、こなかった。  梅雨はすっかり明けてしまった。晴れ渡る空の下、ひとりきりで歩く商店街はあまりにいつも通りで、翠は途方に暮れてしまった。
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delorean · 6 years ago
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記録的豪雨で被害が出ています
すでにニュースになっている通り、先週末からの雨で、西日本を中心に土砂崩れや川の氾濫、住宅への浸水など、各地で甚大な被害が出ています。被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。
広島でも死者・行方不明者が多数で、山陽道や国道2号など主要な道も上の地図のように、あちこちで寸断されているようです。物流が止まっており、店舗では品薄な状況が続いています。でもやっと、県の東西をつなぐ道(黄色の道)が確保されたようですね。
私の家は小高い丘の上にあるマンションなので、被害はありませんでした。でも2、3キロ先の場所で被害が出ていますから、何とも言葉になりません。
本日(9日)は一転、梅雨明けでカンカン照り。暑くなりそうです。水も引いてくるでしょうから、本格的な復旧作業が始まるでしょう。関係者や被災者の皆さん、くれぐれも水分補給をしっかり取って体調管理に気をつけてくださいね。1日も早く平穏な生活が戻りますよう。
なお、電気自動車やハイブリッド車は、ショートの恐れがありますから不用意に電源を入れないよう。走行用バッテリーの高電圧を遮断するサービスプラグは、抜いた方がいいと思います。いちど取扱説明書をチェックしてみてください。
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sakurai-shouten-blog · 3 years ago
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本日7月19日。
苦手な梅雨も終わって、いよいよ夏まっしぐら!
にしても、さっそく暑すぎやしませんか・・・
先月のこと。
家の近くの川へ、ホタルを見に行きました。
水のキレイな今の場所に移り住み、はや5年。
あまり「ホタル」の思い出を持ち合わせていないわたしは、
ここは見れるよ!と聞いてもどこか盛り上がりにかけてしまって、
その姿を一度も見ることなく、毎年梅雨ととも���1年の半分が終わっていく・・
それが常でした。
が、今年。
何に対しても、フットワークが超〜軽いご近所さんが
「今年はまだ見ませんねー」
      ・
      ・
「昨日は2匹いましたよー」
      ・
      ・
「昨日は20匹くらい飛んでましたよ!」
      ・
      ・
と、顔を合わす度にどんどん新しい情報を持って来てくれるので、
その親切さとアクティブさ、そして勢いに圧倒され、
これはもう、行くしかないと決意。
雨の上がった満月の夜に、めがねさんと二人で出発しました。
教えてもらった場所は、集落から少し外れた林道沿いの小さな川のそば。
あたりに街灯はないし、ヘッドライトを消すともちろん真っ暗なわけだけど、
月明かりで、木々の輪郭だけがほうっと青白く浮かび上がっている。
思わずその光景に見入ってしまいそうになりながら、
今回の主役を思い出し、さながらナイトサファリのようにトロトロと車を進めていく・・・
と!
前方にふわ〜っと、小さな光が・・・
 「 いたっ!!」
ホタルとの遭遇に思わず声を上げ、興奮気味に車の外に出ると、
私より前のめりに、スマホのシャッターを切りまくっては首を傾げる人影が。
・・・ん? めがねか。
(来る前まで、「テレビが見たい・・」とか言ってなかったか?)
ふとそう思いながらも、
ふわふわと舞うように、一定のリズムでついたり消えたりを繰り返す小さな光の点々には、
瞬時に人を惹きつけるだけの魅力を感じるし、
これは確かに、みんな見たいよな〜と、納得。
教えてもらった通り、ざっと20匹はいただろうか?
ホタルの不思議な浮遊感をしばらく眺め、
その贅沢な光景を堪能したわたしたちは、
ご近所さんにお礼言わなきゃね〜なんて言いながら、車に乗り込みその場を後にした。
Uターンできる場所を探して、林道をさらに奥へと進んでいくと、次第に闇が一段と深くなり、空を覆いかぶさる木々で月明かりさえ届かなくなった。
前方にちょうど旋回できそうな、少し開けた場所を発見し、
暗くておっかないから、早く帰ろうとビビっていた次の瞬間、
闇一面に広がる発光体が目に飛び込んできた!
「えーー!!?」
「何これすっげーー!!!」
先ほど見たのが比にならないくらい、ものすごい数のホタルの群れが、
わたしたちを取り囲むかのように静かに光を放っていた。
「すご〜〜・・」
すぐにエンジンとヘッドライトを消し、
窓越しに車の中から外を見上げてみる。
ホタルは飛んだりはせず、ただその場にじーっと止まりながら、
静寂な森に光を宿しては消えてと、反復を続けていた。
無音の中、あまりに幻想的すぎるこの景色は、
まるでプラネタ��ウムを見てるかのようで。
今、見ているものは現実なのか、それともつくりものなのか。
異世界の入口にわたしたちは来てしまった・・
そう本気で思ってしまうほど、信じられない体験でした。
エンジン音に、一気に現実世界へと引き戻されながら家へと向かうと、
次第にまぶしい外灯が見え出して、そのつくられた人工的な光に、何とも言えない違和感を感じてしまった。
それでもきっと、また家に入れば、夜を照らしてくれる人工の明かりに感謝するのは目に見えてるのだけれど・・。
ひとつひとつの光は小さくても、そこには想像以上に秘められたパワーがあって。
まわりと息を合わせながら、惜しみなくその姿を見せてくれたホタルと、
私たちにとっても素敵な出会いをくれたご近所さんに感謝!!
あ〜、見に行って良かったぁ〜。
来年もまた、見れますように!
おしまい。
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chirinovel · 5 years ago
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NOxMaria
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風呂蔵まりあ
明け方まで授業の予習ノート作りが終わらなかった。白む窓の外を見て、世界よ滅びろと強く願う。諦めてベッドに入ると、乾いた目に光線が透けるのが痛くて、もう一度心の底から世界を怨んだ。
そのまま、日付が越える頃までスマートフォンでだらだらと読んでいたホラー漫画の展開や、そのおどろおどろしい描写について考えていた。
部屋の前まで足音が、ギッ、ギッ、ギッ、と近づいてきて、「開けてくれ」と雨水混じりの泥をこねるようなまろやかな声がする。その声の呼ぶままに扉を開けてしまうと…。
身体にグッと力が入る。目を一度固く閉じると、外の世界が妄想の通りになっていても、それに気づけない。我慢の限界になると、恐怖と言うのか、なんというか、取り残されてしまうような不安で、ハッと目を開けてしまう。そんなことを繰り返していると、スマートフォンの穏やかなアラームが鳴った。
また眠そびれた。
今日は午後が英語文法と古文で、五限の英単語小テスト対策は午前中の授業中にこっそりやるとして、六限の古文は最初にノートを集める。どう誤魔化そうか。もう、なんでもいいや。忘れ物さえしなければ、どうにかなる。頭がぼんやりしてるうちに、学校へ行ってしまえ。今日はこれで押し切る。
制服に着替えて、リュックを持ってリビングに降りると、昨日買っておいたコンビニのお弁当が袋のまましなびていた。テレビを点けて、電子レンジにお弁当を差し入れて、六〇〇ワットで二分半。テレビからニュースが流れ始めた。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
聞き覚えのある高校の名前に手を止める。すぐにスマートフォンでSNSの友人用アカウントを開くと、昨日の夕方から夜にかけて大騒ぎだった。ネットの情報では、私が通う高校に一番近い高校の文化祭で、男子生徒が刃物を振り回して
「七名が意識不明の重体…?」
ニュースから流れる速報は聞き逃した。
電子レンジの温めが終わり、響くアラームのなかで、茫然と立ち尽くした。ついさっきまで世の中を恨んでいたとは自分でも信じられないほど、強く胸が痛む。
刃物を振り回した生徒の、のっぴきならない胸のうち。もう二度と彼とは友達に戻れない、顔も知らない被害者たち。悲しいニュースの向こうから、悲しみにまみれた命をひりひりと身に感じて、寝不足の鈍く痛む眼球の裏からぼたりと涙が溢れてきた。
泣きながらご飯を食べ、のろまな足取りのままで家を出た。
外の蒸し暑い空気は少しも動く気配が無い。日差しは白く霞んで何かを誤魔化していて、とても気持ちが悪い。自転車のサドルはほんのりとヒビ割れて、そこからジトリと見つめる梅雨を連れ去った後の湿気。詰め込んだお弁当ごと胃が縮み、小さくえずいた。
コンビニでお昼ご飯を買っても、だいぶ早い時間に学校に着いた。じんわり汗ばんだ制服ではたはたと風を送りながら、ようやく教室へ辿り着く。教室の扉は開け放たれて、エアコンの涼風がむき出しの腕を撫でる。中で勉強をしている人影が見える。
あ、莉花ちゃんだ。
ちょっと嬉しくなって、
「おはよー」
そう声をかけると、少しこちらを見つめてから、不機嫌そうにイヤホンを取った。
鋭い眼差しに、少したじろぐ。莉花ちゃんとは、学校でいつも一緒にいる関係だけれど、機嫌が悪い時の容赦なさには、未だに慣れない。私が悪いことがほとんどだけれど、時折こんな風に、私にはどうしようもないことで傷つけてくる時もある。
彼女の機嫌が悪い時は、なるべく黙るようにしているけれど、今日は睡眠不足でちょっと気分が昂ぶっていた。どうにか笑って欲しい、ご機嫌がいい時みたいに、楽しく笑いあいたいと、思ってしまった。
そのまま、本来は別の生徒のものである、彼女の前の空席に腰掛けてみた。彼女の視線は私ではなく、手元の分厚い英単語帳に注がれていた。
「早くない?」
 なるべく自然に、続きを求める眼差しを彼女に向ける。会話を続けたい意思に気づいて欲しくて、無邪気に振る舞う。
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
大げさに笑えば、時々釣られて笑ってくれる。莉花ちゃんは、馬鹿みたいに振る舞う私が好きみたい。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけられた返事に、体の中心で氷の塊がドキッと強く跳ねた。あからさまな嫌悪と手応えのないコミュニケーションに、顔はニコニコしたまま、頭が真っ白になる。
「いや���、はは」
口の中が乾いて、吸い込んだ空気は少し苦かった。外では野球部が朝練をしている。埃立つグラウンドは、ゆらゆら揺れているようだった。
彼女とは、このクラスになってから、アイドルの話題で仲良くなった。クラス替えからしばらく騒ついていたクラスメイトたちが各々グループで落ち着いた頃、私は風邪を引いて一週間学校を休んだ。その翌日の学校で、担任の堀田先生に、学校での人間関係は上手くいっているかと聞かれた。
その時は、担任の勘違いを解かなきゃ、と思って慌てたけれど、それまでは平気だったことが、急に死にたくなるほど恥ずかしく感じて、いてもたってもいられなくなってしまった。例えば、授業中に集中力が切れ睡魔に抗えず、先生に「オイ」と指さされることや、課題が終わらないこと、小テストに落ちること。本当に、クラスメイトとはなにもなかったし、関係の浅かった子たちが段々と離れていくのは普通のことだと頭では理解していた。それでも、春先に満ちた自尊心があらかた去っていった後に、羞恥心とふたりきり残されたこの教室は、確かに居心地が悪かった。
もしかしたら、堀田先生の心配通り、私はクラスメイトと上手くやれてなかったのかもしれないと思うと、不安で月曜日の学校に行けなくなった。
その頃、英語の授業を習熟度で分けたクラスで莉花ちゃんと一緒になった。
私のスマートフォンの待受を見て、「ねえ、その俳優さ、今度ナントカって映画で声優やるよね?」と、声をかけてくれた。「私もそのグループ好きなの、友だちになろう」すごく優しい子だと、思った。
今も、そう思っている。
それは見れば分かる。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
  ボールに飛びつく野球部の姿をぼんやり目で追っていると、彼女の方が声をかけてくれた。彼女の方を向くと、今度はきちんと私を見てくれている。何が原因かも分からない機嫌の悪さは、申し訳なさそうな色で上書きされている。ほら、今度はきっと、優しくしてくれる。心がふっと浮く。
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
あ、しまった。でも今は、不謹慎だとかよりも、目の前の彼女の機嫌を損ねたくない一心だった。必死に、「あー、ごめん。つい」片手をこめかみに当て、オーバーなアクションをする。視線を彼��に移すと、また英単語にラインマーカーで一生懸命線を引いていた。
「ごめん」
彼女が、私といてちっとも楽しくなさそうな時、私にはその理由がわからない。彼女はひどい時も優しい時もあるけれど、私は、莉花ちゃんのことが大好きだった。彼女の気に入らないところは直したいと、彼女の不機嫌の理由を一生懸命考えた。
彼女は、私を視界の外に、黙々と単語帳に線を引き続ける。
彼女のイヤホンから漏れる低い音が、まるで心音のようだった。胸元の「桝」の名札が、小刻みに揺れる。莉花ちゃんの息づかいに耳を澄ませながら、ふと残酷なことを思いつく。
あの事件のように今、私が刃物を振り回し、こんなに機嫌の悪い彼女が、慌てて逃げ出す様が見たい。いや、もしかしたら、彼女なら、逃げ出すより先に、「やめなよ」と言ってくれるかもしれない。そんな子が、事件のあった高校にも、居たかもしれない。だって、仮にも、同い年の友達だったはずだから。それでも命を落としてしまっただれかのことを想像すると、また鼻の奥が涙でツンとした。
犯行の動機が何であれ、他人の命に干渉してまで抑圧から解放されたら、その時は繰り返してきた自身の葛藤なんて、くだらなかったと思うのかな。
しばらくすると、他の生徒たちがやってきて、グラウンドの土と制汗剤の香りが教室一杯に混ざり合った。
午前中は、事件のことばかり想像していた。
例えば、今私が突然立ち上がって、刃物を振り回したら、どうなるんだろうか。人を刺す感覚や、肌を裂く感覚は、その時初めて知るものなのだろうか。事件に遭遇したことがないから分からないけれど、想像に難くないのは、両手で刃物を持って、力を込めて腹部を刺す光景。どのくらい痛がるんだろう。すぐに気を失ったりするものなのだろうか。先生が止めに来るかな。担任の先生は、どんな顔をするだろうか。
私が警察官に取り押さえられた時、それを見て、クラスは安堵で一杯になるのか、それとも、まだ犯人とクラスメイトとの境界は曖昧で、先生に友だちが怒られてる時のような、茶化せずにはいられない気まずい空気になったりするのかな。
そんなことをしてまで得られるものってなんだろう。
授業には集中できなくて、手元ばかり見つめていると、頭がぼんやりとしてくる。クーラーの効いた教室で、眠気に火照る肌が、科学素材のように嫌な熱気を放っていた。
そのうちすぐに瞼が重くなって、気を抜くとすぐ船を漕いでしまう。瞬きを何度もしながら手の甲を抓ると、痛覚は不甲斐無さばかりを呼び覚まし、蛇口を開けたみたいに悲しさが溢れ出した。
午後の小テストも、きっともうダメだ。ノートの提出も出来ない。嫌だな、今日は乗り越えられないかもしれない。いや、ダメだ!頑張らないと。朝、何か、これで乗り切ろうと思ったことがあったけど、なんだったっけ。
ちらりと莉花ちゃんの方を見ると、彼女もまた、俯いて静かに固まっていた。寝ているのかな。
少し元気が出てきた。期待を持って教室を見渡すと、周りはみんな、しっかりと授業を受けているように見えた。眼球の筋肉が軋むのを自覚しながらもう一度視線を戻すと、彼女も今度はしっかりと黒板を見ていた。
四限が終わるチャイムで目が覚め、少し泣きそうになった。スマートフォンと、朝に買ったサンドイッチの入ったコンビニ袋を持って教室を飛び出した。
どうして、みんなに出来ることが、私には出来ないんだろう。悲しくて、悔しくて、申し訳なくて恥ずかしくて、落ちるように階段を駆け下りた。
思えばずっと、話が噛み合わなかったり、誤魔化さなくていいことを誤魔化して来た気がする。
私も学校の意味を哲学したいけど、みんなと同じゴールを据えたいけれど、ずっとピントが合わないな。景色はボヤけたまま、名を呼ぶ声を頼りに、ただ今日を生きなくちゃ。吐き気のするような一秒の積み重ねを耐え抜いて、誰にも言えない痛みを、私だって知らなくちゃ。
でも、私だけどうしてこんなに辛いんだろう。悪いのは、私なんだけれど、悪者だけが原因とは限らないんじゃない。もっと他に理由があるかもしれない。そんな希望にさえ縋る。若者は無限の可能性を持っているなんて、酷い脅し文句だ。
遣る瀬なく涙を堪えて伏せた視線は、すれ違う生徒たちの腹部に行き着いた。女子は特に、柔らかそうだと、思った。
一階体育館昇降口へ続く廊下の途中に保健室がある。窓から廊下へ差す陽の光がジリジリと暑いのに、その日差しの中に舞うホコリは、ゆったり流れる。それをぼんやりと眺めると、辛く苦しい気持ちは段々と薄らいできた。
その安心は、このまま一秒でも長く頑張らなきゃと切迫したしこりも一緒に溶かした。こうなると、泣きながらでも教室に居続けることは、もう出来ない。
「帰っちゃおう」
呟くと、自分の息でホコリは流れを変える。それは、救いのような光に見えた。
保健室のとなりにある保健体育の準備室の前で足を止めた。自分の教室には居られない時、いつもここでご飯を食べる。
その広さは普通の教室の三分の一程度しかなく、教科書の在庫から、応急処置の実習に使う器具までが押し込められている。基本的には無人で、軽くノックしても、思った通り、なんの返事もない。私のために保健の先生が立ててくれた会議用の長机と理科室の椅子に腰掛ける。
カリカリと机を爪で引っ掻いていると、廊下から入ってきた方とは別の、保健室に直接繋がる扉から、養護教諭の仁科先生が顔を覗かせた。仁科先生は子どもがまだ小さいらしく、たまに居なかったりする。
「ああびっくりした!」
「あ、せんせえ」
「来てるなら言ってよね。なに今日、頑張ったじゃん」
「ちょっと辛いからもう帰る!」
「えー、もうちょっと頑張ろうよ、保健室で休んでもいいんだよ」
「ご飯食べて決めてもいい?あ、せんせえ、カフェオレ作ってよ」
「あんたねえ」
「お願い!今日で最後にするから!」
「もー、最後だからね」
そう言いながら保健室に消えていった。間も無く、陶器のカチャカチャぶつかる音と、コンロに火がつく音がした。
片手にカップを持った先生が現れたのは、すぐだった。
「あっ、聞かずにホットにしてしまった!大丈夫?」
「笑う!夏だよいま!えー、でも大丈夫、ありがとうせんせえ」
「ちょっと、火傷しないでよ」
「いただきまーす」
すぐにごくごく飲んだ。甘くて熱くて、喉が少しずつしか胃に落としてくれなかった。持ち上げたカップ越しに一瞬だけ先生を見た。いつもの表情。先生は、私がこれを飲んでいる時、決まって安心したような顔をする。確信が満ちているように見える。カフェオレの、糖分とか鉄分とか、カルシウムとか、そういうものが私の胃に落ちて、分解されて、栄養素に変わって行くのを、しかと見たぞといわんばかりに。それが少し面白かった。
「あんまり見ないでくださあい」
「なによ、かわいい生徒を見たらいかんのか」
「いやちょっと気持ち悪いんですけど!」
おかしくて笑った。先生は���にかを言いかけた、ように見えたけれど、保健室から呼ぶ別の生徒の声にはあい、と返事して、そのまま去って行った。
静かになった準備室で、机の上に今朝買ったサンドイッチを出した。少し歪になったサンドイッチからはみ出すトマトを、袋の上から一生懸命押し戻す。ポケットに入れたスマートフォンが振動し、画面が明るくなった。そこには、教室にいる彼女から「そっち行ってもいい?」と、メッセージがきていた。アプリを開いて、いいよ、の返事を送った。
本当は、会いたくなかった。繰り返し繰り返しした妄想で殺してしまった人に、会い直す。どんな顔をしたらいいのか分からない。
人生は変えられないけど、人を殺したら、人生観は変わるかな。気を引きたいとか、謝って欲しいとか、構って欲しいとかぶち壊したいとか、そう言う気持ちを暴力で発散し切ったら、人の言葉のひとつに救われたり、傷ついたりしたなんて閉塞的な世界からは出られるだろうか。
子供が互いに干渉し合って、大人になっていくんだから、ろくなこと、あるわけないよなあ。
欠けた月の、欠けた方をじっと見るような心地。そわそわと落ち着かない手でサンドイッチをビニール袋に戻した。
準備室のドアが、廊下から叩かれる。いつもはそんなことしないのに。
今朝方ベッドの中でしていた想像が、ふとよぎった。足音が近づいてきて、「開けてくれ」と囁く。妄想を振り払うように思い切りドアを開けた。
何度も刺してしまった顔が、目の前に現れた。
「ありがとね」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
彼女の手を準備室の中へ引きながらぎこちなく踵を返すと、保健室と準備室を繋ぐ扉から、仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒に食べるの?」
「はい」
彼女がにっこりと答えた。
先生は何度か頷き、おしゃべりは小さい声でね、と言い残し保健室に戻っていった。彼女はにこにこしたままで、さっきまで私が座っていた椅子に座りながら、問いかけてくる。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
カフェオレのカップを覗き込みながら、手は持ってきたお弁当や英単語帳を机に広げていく。
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
少し不機嫌な声。粗探しをするような視線が、机の上を泳ぐのが分かった。そんな彼女の、小刻みに動く素直なまつげを、私は立ち尽くしたまま眺めた。
今なら彼女の考えていること、全部分かってしまいそう。それでも私は、こうして来てくれてとても嬉しいよ。
彼女の向かい側に腰掛けて、机の上にあったコンビニの袋の口を膝の上でこっそり縛った。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
そのまま、そっと袋を床に置いた。
「食べてていいよ」
手前に並べられた彼女の英単語をこちらに引き寄せる。ボロボロの表紙を、マスキングテープでがっちりと固定してある。形から入るところがちょっと可愛くて、掠れた印刷を撫でるようにそっとめくった。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
莉花ちゃんは、勉強がそんなに得意じゃないらしい。教科ごとの習熟度別クラスは、私と同じ基礎クラスで、小テストも不合格で、よくペナルティ課題を出しているのを知っている。本人は隠したがっているし、私の前では決してペナルティ課題をしない。彼女は見栄っ張りで、分かりやすい歪さを持っている。それはきっと深さだね。私とは全然違うタイプだけど、いつかもっと仲良くなったら、きっとすごい友達になれるよ。でも今は今朝の仕返しで、ちょっと意地悪させてね。
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
今日の出題範囲とは違う単語を、適当に口にする。
「はあ?」
莉花ちゃんがお弁当のミートボールを一生懸命噛んでいるのをうっとりと眺めていると、視線がぶつかった。
嫌な顔をしていない!それが嬉しくて、上手に仲良くできているのが幸せで、自分の頬が緩むのがわかった。                                                                                                   
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
ちょっと焦った自身の声の流れへ沿うように、箸を置いて、手が伸びてくる。私の目前から取り上げられ、彼女の元に戻っていく英単語帳の描く放物線。固定されたカバーは、調和を崩さない。
莉花ちゃん、安心して。単語ひとつ答えられないくらい��ゃ恥ずかしくないよ。    
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
笑い声が少し混じるのもまた、どんどん私の心を躍らせた。
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
目の前に突き返された単語帳に、雲流れて黄金の日差しが窓から降りて、キラキラと光って見えた。遺跡はどんな豪華な神殿にも負けない響きを私の中にくっきりと残し、一生忘れない、と思った。
張り切ってページをめくるたびに、細かい埃が空気中を舞う。彼女と上手く笑い合えるひと時に異常なほど心踊らせる私には、魔法の粉にすら思えた。
光の帯の向こう側で、顔をしゃんと挙げたまま、蝶々みたいに軽く鮮やかな箸でご飯をまとめて、その先に真珠くらいの一口を乗せ、上品に尖らせた唇の間に隠すようにしてご飯を食べる。彼女は、その動作の中で、こっちを見ることもなく呟いた。
「午後出ないの?」
彼女の声は緊張しているように聞こえた。 まるで、世を転覆させる作戦か何かを、本当にやるのかと念を押すように。
真面目な彼女は、私が当然のように学校をサボったり、誤魔化しきれないズルをする時に、こういう反応をする。その度に、彼女の世界に成り立った文化や法律から、私は逸しているのだと実感する。だとしたら、私を見下すような振る舞いをすることも、納得できる。
こういうの、世界史の授業でやったなあ。
何世紀たっても、理解しがたいものに対して、人の中に湧き上がる感情は変わらない。汚くて、時に愛しくすら思う。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
 彼女は、無理に優しい顔をした。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
「うん。ありがとう。机入れといて。いつもごめんね」
手元だけはお弁当を片付けながら、黒いまつ毛に囲まれた双眸がこちらを見つめる。
莉花ちゃんは、なにか言いたいけれど切り出せない時にこの表情をする。どきっとするようなその姿を黄金に霞ませていた太陽は、雲に隠されまたゆっくり静かに翳った。
何を言いたいんだろう。「今朝はごめんね」?、午後も出ようよ」?「家までプリント持って行くよ」?
私の頭の中は莉花ちゃんの言えなかった言葉で、たちまちいっぱいになった。同調してるのか、はたまた妄想かは分からないけれど、こうなると彼女のことを目で追うことしかできない。カーディガンを羽織った女性らしいシルエット、汗疹のある首、伏せた瞳の中に写るお弁当の包みの千鳥柄、そこ影を落とす前髪、その先端、食後のリップを塗られる唇、艶やかになる古い細胞。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴ったのも遠い国の出来事のようで、立ち上がった姿をまた深く潜水するように眺める。動きを魚影のようなおぼろに捉える。行っちゃう。何か、何か言わなくちゃ。
「つぎ、えいご?」
自分の口から溢れ出た言葉は、驚くほど頼りない。
「うん、教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
彼女は、また優しい顔をした気がした。窓から黄金の大流がゆっくりと幕を下ろす。
「え、んふふ。なんで?また呼んで、な」
  そう翻る彼女のスカートの一瞬は、一撃で世界を平定した。裏も表もない、細胞の凹凸も、心の手触りも、自分の輪郭も、日向も日陰も、なにもかも。人なんて殺さなくても、生死の境をたやすく超える。彼女が人生最後の友だちだ。
幸せで、ちょっと泣いた。今日を生きられなかった人、これだけ今を謳歌すれば、大志なんて抱かなくていい?午後の授業に出れなくても、存在していいよね。
「風呂蔵さん」
仁科先生に揺り起こされる。
「大丈夫?熱中症になるよ、こんな所で寝て」
「今何時ですか?」
「まだ昼休み終わって五分くらいしか経ってないよ」
「全然寝てないじゃん」
胸中に「どこからが夢だったんだろう」なんて思いがふっと湧いて私を茶化して消えた。
両手を握ったり開いたりすると、皮膚が突っ張って、三千年の眠りから覚めたような心地がする。
「私帰ります」 
「あ、待って待って。五限中に堀田先生来るって」
「え!やだ」
「そういうこと言わないの」
「何時に来るんですか?具合悪いんですけど」
「多分、もうちょっとで来ると思う。堀田先生お忙しいらしいのよ今」
「じゃあ来なくていいのに」
「かわいそう。会いたがってたよ、堀田先生」
「私会いたくない!ねぇ、仁科先生はさ、堀田先生好き?」
「はぁ?」
「私の周り、堀田ちゃん好きな子多くてさ。でも付き合うならみんな細倉先生がいいんだって。私どっちも嫌い。でも堀田の方が嫌い、おじさんじゃんあんなの」
「ちょっとあんたね、言っときますけど、堀田先生と細倉先生同い年ですからね」
 「うそ!」
「あんた��ちから見たら堀田先生らへんの歳はもうひとまとめにおじさんなんだね」
仁科先生は笑いながら私の向かいに腰掛けた。
「風呂蔵さんさ、学校、正直どう?」
仁科先生は腕組みをしながら、先生語を流暢に話す。それは時折、字幕が途切れたように、突然聞き取りにくくなる。今もまた私には先生がなにを言ってるか分からなくて、申し訳なくて、へらへら笑ってみた。
「夜眠れてる?」
穏やかな顔と穏やかな声だなあ。きっと、私のこと心配してくれて、何か伝えようとしてくれているんだ。
言葉の通じ合わない私たちは、カフェオレとか、遅刻の提出物につく三角サインとか、成績表の五段階とか、調理された感情を安心してやりとりしてきた。腹を割って話す、出したばかりの内臓みたいな感情の良さはまだわからない。大人になれば生ものも美味しくいただけるかもしれないけど、今はまだカフェオレ越しじゃないと照れちゃうな。
「そういえば、先生」
私も私の言葉で話したくて、もう一度スタート位置に戻した。
「昨日、大きな事件があったよね」
「そうねえ」
「捕まった生徒って死刑になんの?」
「えー、どうかなあ、多分ならないと思うよ。未成年だからなあ」
「かわいそうだよね」
「亡くなった生徒のこと?」
「刑務所の中で死にたくないなと思って」
「そうかあ」
どうしても、居心地が悪い。一生懸命会話をしようとするのに、どこか決まったゴールに導かれているような。
「私ね、あのね」
言葉を途切れさせないように必死に考える。
「莉花ちゃんのことを殺しちゃったらどうしようって思ったの」
「うん」
「それでね、でも、ちゃんと伝えたいことは」
身振り手振りで一生懸命伝える。
この世界は、胸が裂けるほど怖いことばかりだ。言葉も、ルールも分からない世界で、時間は待ってくれない、隠れることもできない。
私だって、みんなと同じように頑張れるはずなのに。たくさんの言葉を覚えて、言いたいことだって言えるように、みんなと、莉花ちゃんと同じだけの時間をかけて大きくなってきたのに。
私は、友だちの上手な作り方も、失敗した時の許してもらい方も、仲直りの仕方も、勉強の仕方も、ちっとも上達しなかった。同じだけ、人を傷つけたり、馬鹿にしたり、責めたりも、見よう見まねでしか手につかなくて、諦めた。
でも、それもこれも、みんなには出来て当たり前のこと。
私たちもそんな人たちと同じ言葉で、同じルールで頑張って生きていくんだよ。期待を裏切ったり、人を悲しませたり、怒らせたりしながら。出来ないことばっかりで、恥ずかしくなるけど、逃げ出したり、駄々をこねちゃだめ。私たちより頑張ってる人たちのことを邪魔するようなことは、絶対にしちゃだめ。
「ちゃんと聴いてくれるよ、莉花ちゃんなら」
自分の言葉に、涙が出そうになる。私を励ますのは、いつだって私の、そうあって欲しいと願った言葉だった。
「そっか」
「まあでも、莉花ちゃん、あんまり私のこと好きじゃないんじゃないかって思うんだよね」
「ええ、とてもそうは思えないけれど。どうしてそう思うの」
「どうしてっていうか…。先生はそういうこと、ないの?」
「人に嫌われてるなあって思う瞬間?」
「ううん。私のこと好きじゃなくても、優しくしてくれる子だなあって、嬉しくなる瞬間」
「風呂蔵さん、誰もあなたのこと嫌ってる人なんて居ないよ」
出来る限り集中していたつもりだったけれど、仁科先生の言葉は聞き取ることが難しい。
「みんなと比べてどうかなんて、どうでもよくなるほど嬉しい日がきっとくるよ」
 温かい言葉を掛けてもらって、嬉しかった。同時に、真剣な顔をさせてしまったのがどうしても申し訳なくて、大笑いしてしまった。
「仁科せんせえ、大好き!ありがと!私、トイレ行って来るね」
「あ、先生も会議あるから席外すけど、ちゃんと堀田先生に会ってから帰りなさいよね」
「はーい!じゃあね」
仁科先生は、私の背中に手を置いた。反対の手が視界に入る。午後の日差しは、薬指の結婚指輪に反射して、先生のセリフを盛り上げるように、今から来る、ハッピーエンドを祝福するように、キラキラと散った。
「ね、あのね。学校は子供のためにあるのよ、無理に来る場所じゃないの。先生もみんな味方なの、忘れないでね」
ドラマのセリフみたいだ、と思った。
ずっと欲しかった言葉だった気がするけど、早口で聞き取れなくて、それが悔しくて、トイレで子供みたいに泣いた。洋式便器の蓋の上に座って、いつまで経っても白い上履きで、足元のタイルをバタバタ叩くと、もっと涙が出た。
励ましてくれるのはいつも自分の自給自足の言葉だけだと思っていたけれど、本当は今みたいに、私がいくつも聞き逃してしまっていただけなんじゃないか。そう思うと、大げさだと笑っていた絶望という言葉が、トイレの扉のすぐ向こう側にぴったりと張り付いて、私を待っているような気がした。怖くなって飛び出た。
いつか誰かが与えてくれる感動的な救いの言葉を、楽しみにしていたのに。 
慌てて保健準備室に逃げ込んで、隅っこに丸くなって座った。
さっきまで射してたはずの、陽の光の会った場所に膝を抱えて、また雲が途切れることを祈った。薄暗い準備室は、狭いのに物で溢れて四隅が見えず、どこまでも続いている気さえする。ただ、埃や日焼けで、学校中で一番古びているようにも見える。寂れた空気を肺いっぱいに吸い込むと、砂とも紙とも埃ともつかぬ塵に、臓器が参る。こっちの方が、よほど生きている心地がした。まるで古代の遺跡にいるような気分。儀式の途中で、文明の途切れた遺跡。
捧げ物みたいに転がるサンドイッチと、山のように積まれた心と身体の教科書。先生の復活の呪文。
ちょっと笑った。
私、おかしくなっちゃったのかな。 どうしてみんなの言ってることややっていることが、私にはわからないんだろう。
まだ病気とか、人間不信とか、そういうものになりたくない。道を間違えていたとしても、滅んだ遺跡を歩いて戻って、最後にはみんなと同じ景色が見たい。
「莉花ちゃん」
初めての会話で、無理してかけてくれた、嘘のない優しい言葉を、もう一度聴きたい。
しばらく日陰を見つめていると、隣の保健室からドアが開く音がする。
そうだ、仁科先生にお願いして���カフェオレをもう一杯もらおうと思ってたんだ。
立ち上がり、乾いたカフェオレのカップを手にして、保健室に繋がるドアノブに手を掛けた。
 「せんせー、カフェオレー」
いつもの優しい声が返ってこない。不思議に思って顔を上げると、保健室の一角に設けられた簡易相談室の、目隠しとなるパーテーションに片肘をついた堀田先生が、呆れた目でこちらを見ていた。
「うわ」
「はい、まりあさん、こちらへどうぞ」
先生はゆらゆらと手招きする。
「えー!やです」
「やですじゃないです」
私は渋々カップをすすぎ、流しに置いて、パーテーションの中の丸テーブルに腰掛けた。
先生は手元のファイルに視線を落としたまま、なかなか口を開こうとしなかった。沈黙に耐えきれず、
「先生、暇そうだね」
怒らないでと願いながら、茶化した。
新年度に選んだ、身の丈に合わないこの態度も、改めるタイミングを失ったまま。
堀田先生はたまに建前で叱るけれど、基本的には何でもいい、と言ったような対応を返す。
「まりあこそ、暇そうじゃん。午後出ようよ」
「具合悪いの!」
「お前なあ」
「明日はちゃんと全部授業出る」
「勢いだけは良いんだよなあ。仮に家に帰るとして、親御さん居るの?」
具合悪いなら、誰もいない家に帰るより保健室で休んでた方がいいんだよ、と、ファイルを手で遊びながら続ける。
それを言われると、都合が悪かった。ママは夜遅くまで仕事だし、パパはもう何年も家に居ない。ただ、私には、堀田先生との会話をやり過ごす、とっておきの切り札がある。
「親は居ないけど、先生の初恋の人ならうちにいるから」
先生の初恋の人、風呂蔵いのり。十一歳も離れた私のお姉ちゃんだ。
「あほ」
すぐに手にしていたファイルで頭を軽くはたかれる。
「痛いんですけど!」
「そういうの柏原くんから吹き込まれるわけ?」
私のお姉ちゃんには、柏原くんという彼氏がいる。そして、この柏原くんというのが、堀田先生の大学時代の大親友なのである。柏原くんはうちに遊びにくると、いつも堀田先生の大学時代の話をする。酔っ払った時は、決まってにやにやしながら「本当は、堀田もいのりのことが好きだったんだぜ。しかも初めて女の子を下宿に誘ったって。でも俺が奪っちゃったんだよね、いのりのこと」とおどける。
「そう。柏原くん言ってたよ、堀田先生もうちのお姉ちゃんのこと好きだったって」
堀田先生は眉間を押さえながら、
「あなた、やっぱり元気じゃん。小テスト落ちてもいいから出なさいって」
深いため息と言葉を一度に吐き出した。
もともと、堀田先生の印象はそんなに良くなかった。保険をかけるような、建前で最低限の責任を果たすような先生の振る舞いは、子供から見上げた時の独特な大人らしさがあって、苦手だった。
私が風邪で一週間学校を休んだ次の日の「まりあ、友だちと上手くやれてる?」は、その象徴だ。思い出すと今も嫌な汗が出る。先生の言葉を聞き取りにくく感じたのも、その時が初めてだった。私は聞き取れない言葉を、先生語と名付けた。心配するような響きは建前で、本音は「うまくやれよ、不登校になるなよ」なんだと、本能的に感じ取った。
柏原くんはいつも堀田先生のことを嬉しそうに話してくるけど、柏原くんのことだって苦手。いい人だけど、私からお姉ちゃんを取ったことは、何年経っても許せない。そんな彼にも、彼の思い出の中に登場する、学校とは違う子供っぽい堀田先生にも、言葉は悪いけれど正直、うんざりしていた。
「…まりあ」
先生が、先生らしい声で私の名前を呼ぶ。 耳を澄ませて、身を固くする。
「具合悪いのは、こう、学校に居ると心が辛い、みたいな感じかな。それとも、本当に体調悪い?」
「お腹痛い!私さ、生理痛重いんですよ」
間髪入れずに笑い飛ばすと、先生の表情はわずかに歪む。
真剣な話は嫌だった。照れるし、息苦しいし、話が通じないのがバレてしまうから、暗闇で木の枝を振り回すようにおどけてしまう。まさしく振り回した木の枝が当たってしまったような、萎れた反応。
「最近の若い子って、そういうのためらい無いわけ?」
バカみたいに笑いながら、目を細めて先生の目を覗き込むと、ただ悲しくてやるせない、そんな本音を垣間見た。そのことに、少し戸惑った。まっすぐ、私の目を見て、恥ずかしいくらいに。先生の言っていることも、考えてることも分からない。でも、心が痛そう。
私、また失敗してしまったかな、加減間違えちゃったかな、傷つけちゃったかな。辛い顔しないで、ごめんね、先生。
あはは、なんて笑いながら、先生の、祈るように組んだ手を見る。窓から差した光線は、先生の手の血管に陰影を与えたり、腕時計に鋭く反射したりして、温かく周囲に散らばった。
仁科先生の手を思い出す。
欲しい言葉が聴き取れない辛さと申し訳なさ。不甲斐ない自分に強く打ちのめされる。
でも分からないんだもん。教えてよ、先生、世の中難しいことだらけだ。
先生からしたら、私の悩みなんて、きっとばかばかしいことなんだろう。莉花ちゃんだって、クラスのみんなだって当然のようにできていることなんだ。ばかばかしいことばっかり、でも難しいことばっかり。
教えて欲しい事まだあるよ、先生
「てか、先生さ」 
「はい」
先生はわざとらしく、すっと背筋を伸ばした。
「クラスの生徒のことって大事?」
「当然じゃん」
「命かけて守ろうと思う?」
ちょっと目を大きく開いた。普段、表情の変わらない人だから、珍しくて、またじっと覗き込んでしまった。
建前も本音もなく彷徨う視線が、面白かった。 
「どうかなあ。学校って色んな人がいるから、命がけで守って欲しい人も、そんなことして欲しくない人もいるんじゃないかな」
「堀田先生っぽい」
「申し出に合わせると思う」
わかりやすい答えだな、と思った。世の中の求める答えではないかもしれないけれど、私は満足した。
「風呂蔵は」
「え」
不意の仕返しに私が狼狽えるのを、キョトンと見つめながら、手を組んだり解いたり、次の言葉を選んでいる。
「命がけで守られたら、午後の授業出る?」
「今日は、本当に!」
堀田先生はあんまりにこにこしない。冗談かどうかは相手の出方で後から決める、そんな人だ。
会話に行き詰まったら、逃げるのがいい。
「まだお話済んでませんよ」
「本当に!」
ごめんなさい、下げた頭の上に、降り注ぐような終業のチャイム。時間よ早く過ぎてと垂れる頭と裏腹に、チャイムの音を心地よく聴いていた。午後の太陽は保健室いっぱいに白く広がり、不甲斐ない自分の輪郭を溶かして、先生の目眩しになって、チャイムの尖った音をまろやかにしてくれる。恥ずかしくて、申し訳なくて、でも心地よくて、このまま居なくなってしまいたい。
そのまま、誤魔化すようにすり足でパーテーションの外に出ようとすると、先生のこぼした笑いが聞こえる。それはおまけでもらったマルのようで、私は見逃してもらった不正解だけど、それで良かった。許してもらうことが、なによりも幸せだった。
ホッとして顔をあげる。私がまた「ごめんなさあい」と笑うと、わざと口をへの字にした先生のため息が、もう一度笑うように揺れる。飛び上がるほど嬉しかった。
「気をつけて帰れよ。ちゃんと仁科先生にご報告して、早退届には明日まとめてサインするから」
「ありがとうございまーす」
そのまま逃げるように準備室へと飛び込んだ。スマートフォンにイヤホンを繋いで、今月のベストヒットを上から聴く。次の授業が始まればクラスメイトはそれぞれの教室へ向かう。その隙に私は誰もいない教室へ入り、帰りの支度をして学校を出る。準備室で息をひそめ、耳のイヤホンからは今月一番買われていった愛の歌が流れる。もしも今日の日が、いつか「青春」と名乗るなら、ちょっとした悲劇だな。でもそんなことはどうでもよくて、今は頰が緩んでしまうのを感じながら、始業のチャイムと共に廊下に出た。
静まり返った校内で、白く揺らめく階段を駆け上がる。自分の足音が少しずつ軽くなって響いて、羽が生えたみたいだと感じた。
暗い教室に辿り着いた。消し忘れられたエアコンが、必死に部屋を冷やしている。今日は一日中うっすらと曇って、時折日が差す程度だったから、蛍光灯をつけてしまば朝からまるで時間が経っていないように感じる。ただ、窓際の席に莉花ちゃんだけが居ない。 
一度机の中へしまった教科書を一冊ずつリュックサックへ戻していく。倫理、現代文、数学、英語、辞書、開いたことの無い単語帳。どの教科も、「前回の続き」が何ページなのか分からない。寂しい。本当は、もっといい子になりたい。それはいつだって変わらないのに、どうしてそうなれないんだろう。もしかして、私、みんなの何歩も手前で、もう頑張れなくなってしまってるのかな。これから夢を叶えようとして、挫折とか達成感とか、そういう漫画でしか知らない感情を知って大人になっていくみんなの教室に、紛れ込んでしまったんだ、私。
急に不安になって、答えを探して瓦礫を搔きわけるように、教科書をまたリュックに詰める。
今日は、先生に怒られなくて、笑ってもらえて、その場をやり過ごせて、早退できて、嬉しい。でも、莉花ちゃんともっと話したい。
すぐに手が止まった。まだまだ机の中には、触りたくもないものが詰まってる。もやのように淀んで、何から手をつければいいか分からない。
恐る恐る触れる古文、英語文法、古典単語帳、英単語帳、英和辞典。受けなかった小テストの束、ペナルティのプリントの束。たくさんの言葉を覚えたら、この気持ちに名前がつくのかな。夢もできるし、もっとみんなの気持ちが分かるようになるのかな。私もみんなと同じになれるのかな。
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kachoushi · 5 years ago
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雑詠
花鳥誌 平成31年10月号
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雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
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香辛料広げ西日のバザールに 斎藤いづみ バザールという日常的なものであるが、香辛料を広げるということで異国の、ことに中東やインドのそれを思う。以下の句も連作となるが、季題の効果が覿面といえる。「西日」の夕刻の暑さの中のサフラン・セージ・ナツメグ・シナモン等の香りは異国そのもの。
串刺の肉削ぎ売るも溽暑なる 次の句のケバブのことか。「溽暑」という季題が見事。中近東などの暑さは到底想像できないが、「炎暑」などでは季題として弱い。マトンなどの肉を削ぎつつ砂漠の民の様子すら想像する。
黒南風や祖国を忘れケバブ売る 「祖国を忘れ」が凄い。日本に帰化しているのか、アラビアやトルコの古里はもう遠い過去の物。そこ、日本の「黒南風」がやって来る。梅雨の到来のこの風はじっとりと重い。祖国の風とは一万キロも隔てた異質のもの。これらの句は異国人の古里との逆転の現実にこそ郷愁を感じさせるという意味で立派な日本の俳句なのである。
日焼して異国の果実囓りけり 渡辺 光子 これは前の作品とは大いに異なり、異国情緒に充ちたもの。実祭には日本で味わえるかもしれぬが、その心持ちはあくまで異国の旅情である。ここでの異国の具体性はあまり意味がない。記号やコードとしての異国であればいい。
踝の砂乾きゆく夏夕べ 踝という部位に異国を感じる。海岸の砂が夕べにはもう乾いてゆくのも、タヒチなどの異国の海洋性の気候を思う。これは舞台装置としての、南国や孤島の浜辺であることのほうが味わい深い。
テキーラはショットで真夜中の跣足 テキーラが季題になるかと思ったが、たしかに彼の国の人たちは年中テキーラかもしれぬ。真夜中の跣足は不確かで艶めく恋の予感がある。こうした句の連続した場面には、現今の伝統系の偽善的な美意識にたいするアンチテーゼの要素がある。花鳥はこうした句が伝統の名を借りた、偽物の美に何かを及ばすことを賛辞する。
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己が影日時計にして辣韮掘る 田原 悦子 面白い発想。しかし、そこには砂丘という存在があってこそ、影を持たない荒涼とした風景がある。己の影しかそこに存在しない。辣韮を掘るという季題の本質もそこにあり、その影を時計として掘る時間も見えて来る。
辣韮掘り終へて砂丘へ均す砂 掘っている場所が面白い。砂丘のど真ん中ではあるまい。その広大な砂丘の周辺にある畑と解することが適切だろう。掘り終えた穴へと、そしてそれを砂丘の土台へ、あるいは方向へと戻すという気持ちがある。砂丘への豊穣の感謝とすると不思議な感覚。
浜昼顔沖は北前航路跡 この昼顔はよく風の強い浜辺で見つかる、その沖はやはり荒々しい沖のような気がする。その沖にはかつて北前船が行き来していた。その中には北へ向けて辣韮を積んでいたものもあったろう。現代と江戸自体をリンクさせた砂丘と海岸の物語とも。
目に触れしものみな烟る白雨かな 伊藤てい子 「白雨」とは単なる夕立でなく、まだその暮れ方が浅く、明るく、どちらかと言うと驟雨を言うのである。あらゆる物が烟るというこの句は季題の本意をよく掴まえている。夕闇の濃いころの夕立では矛盾がある。
罌粟の花昼を眠りて老いにけり 罌粟の花じたいが眠りつつ老いてゆくのだと感じた。罌粟という独特の世界には昏睡という感覚すらある。それが昼に咲いている時さえ眠っている。老いてゆくのは花であって人であっても良い。
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使徒として蝶の往還合歓の花 渡辺 彰子 合歓という花には多くの物語がある。えてして可愛らしい童話のような物語が似合う。しかし、そこに来る蝶は何かを知らすべく責務を持って往還するという緊張感が面白い。これぞ俳諧。
竜天に梅雨の満月吐きにけり 山﨑 久子 「竜天に登る」という春の季題があるがこれとは少し異なる。竜は天に登りつ、やがて梅雨の満月を吐くのである。梅雨の満月は雲の上に吐かれ、その雲はあたかも竜神の姿。この景色が壮大。
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羅を召して博多の御寮人さん 春田 玉子 御寮人というと貴人の息女のことを思う。あるいは若奥様とかでも。博多の若女将とすればまた羅が似合う。これが正解か。
高き鳥突然蛇を落しけり 長谷川みえこ これは当人の三句の中でも異質な句。こんな句を見たことが無い。しかし鳶とか鷲鷹の部類であればこういうこともあるだろう。一瞬の絵画的でドキュメンタリーな光景に驚かされた。
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もののふの矢倉へ鶯老を鳴く 増田さなえ 「もののふ」とは矢倉との位置関係・歴史的関係をすると源や北条などの武士か。「うぐいすおいをなく」と読むと歴史的余韻がはるかに出て来る。
香の占むるまほらおほらかなる牡丹 髙橋 野衣 「まほら」は、素晴らしい所。しかも歴史的な場所を感じる。この牡丹の香りはこの大らかな牡丹から発して、大和の国のすべての香りを包んでいるのである。
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ronpe0524 · 5 years ago
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2019年9月の日記(途中から)
■2019/9/4
ここから日記の公開を再開しようかな。公開してなかった期間も日記は書いていたのでどうしても読みたい!という人がいれば個人的に連絡ください。さて8月の手術の検査結果が予想が悪い内容であり、そこからさらなる検査を続けていた日々ですがその結果を聞きに奥さんと病院へ。まず一番心配していた、病気の転移はなかった。これについては本当に良かった。問題は今度行う再手術の内容である。あまりの内容に僕は気が遠くなりかけた。奥さんがガシガシ質問してくれたのでだいたいの内容を入ってきたけど、これは大変だ。リスクもあるし、手術も長時間だし、入院も長期だし、後遺症も心配だ。でもやるしかない。その足で会社に向かい、ハイレベルの上司や、人事の人に会い即日休職となった。とりあえず年内は仕事を休む。リハビリなどの進み具合によってはさらに延長もあるだろう。とりあえずやることが決まったのでホッとした部分と、手術への不安はやはり出てきた。いろいろなとこに連絡する。
■2019/9/5
定期通院している別の病院へ。こちらは5年前の大病についての血液検査。こっちの主治医の先生にも今度の手術内容を説明。ちょっと専門的にかぶる部分もあるようですぐに大変さを理解したようだ。「がんばって」と激励をいただく。病院終わって吉祥寺へ移動。『火口のふたり』鑑賞@ UPLINK吉祥寺。さらに新宿へ移動。『ガリーボーイ』ジャパンプレミアにて鑑賞@新宿ピカデリー。matsuさんが「シネマクティフ東京支部の音声配信」をPodcast化してくれた。僕がめんどくさくてやってなかったやつをやってくれて感謝。TV録画『レジェンド・オブ・トゥモロー』S1E12を見る。
■2019/9/6
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の公開情報が出はじめたけど、作品紹介文でかなり説明しちゃうんだな。何も知らずに観たフィルメックス組は幸せだった。午前中から立川へ。図書館へ娘の本を返し、図書カードの更新。調布へ移動。某珈琲屋さんで録画したドラマ、アニメでも見るぞーと入店。まずはホットドッグを食べていると某映画監督が隣の席に座り映画の打ち合わせをはじめた。僕は音楽を聴いてるふりをしつつ打ち合わせを盗み聞き。なるほど、こうやって映画の企画は進むんだなぁ。イオンシネマ シアタス調布で『アス』鑑賞。YouTube『Kobra kai』S1E5を見る。
■2019/9/7
朝から娘と吉祥寺の眼科へ。さらに国立へ移動。娘を習い事に送ってから僕は立川へ。『SHADOW 影武者』鑑賞@シネマシティ。極上音響上映で。休職になったので定期を止めなくては。あと新幹線のチケットを購入。娘を迎えに行って夕飯を買って帰宅。YouTube『Kobra kai』S1E6を見る。
■2019/9/8
家族で立川へ。ランチを食べてから娘の矯正歯科へ。すっごい時間がかかった。やっと終わって娘と立川の図書館へ。がっつり借りて重い重い。Amazonビデオ『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を見る。Amazon prime『SICK'S 〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜 恕乃抄』E1を見る。
■2019/9/9
台風の影響で電車が止まりまくり。しかしなんとかさいたま新都心まで行きたい。かなり余裕をもって家を出たけどギリギリで到着。本当はうどんとか食べたかったのにランチはコンセッションのホットドッグとなりました。『マトリックス』鑑賞@ MOVIXさいたま。Dolby Cinema字幕で。最高だな『マトリックス』。BS録画『刑事ルーサー』S1E6を見る。YouTube『Kobra kai』S1E7を見る。Amazon prime『サイレンサー/破壊部隊』を見る。
■2019/9/10
朝から渋谷へ。ル・シネマで『帰れない二人』鑑賞。新宿へ移動、『トリプル・スレット』鑑賞@シネマート新宿。恵比寿へ移動。THA BLUE HERB LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY 5th ALBUM「THA BLUE HERB」RELEASE TOUR @リキッドルーム。あの野音以来となるブルーハーブはホーム リキッドルーム。なんと整理番号2番。体調を考慮しサイドのカウンターを陣取って見たけど、やっぱ行って良かったな。YouTube『Kobra kai』S1E8, E9を見る。
■2019/9/11
朝から渋谷へ。『フリーソロ』鑑賞@ヒュートラ渋谷、からのCINEMA9「インディーズ・シアター“ワンコイン”」『赤青緑』鑑賞@ LOFT9 Shibuya。はじめて利用したけど良い上映ですね。ヒュートラ渋谷に戻り『ヒンディー・ミディアム』と『CLIMAX クライマックス』を鑑賞。『CLIMAX クライマックス』はギャスパー・ノエのトーク付き。聞き手はなぜかSUGIURUMNで、とてもテンパっていた。『CLIMAX クライマックス』の同回を観ていたさっちゃんさんと途中まで一緒に帰る。再手術についてちょっと説明、驚かれる。そりゃそうですよね。ちなみに『フリーソロ』と『ヒンディー・ミディアム』はけんす君にもらったタダ券で観れました。ありがとう。YouTube『Kobra kai』S1E10を見る。これでシーズン1完走。ある種の雑さがあって面白い。
■2019/9/12
朝から立川へ。シネマシティで『荒野の誓い』鑑賞。そのあと八王子へ移動。手術に向けて麻酔科で説明を受けたり、追加検査を受けたり。ぐったりしつつ東京駅へ移動。うどん旬報の取材(うどん食べただけ)をしてから京橋方面のカフェへ。くつろいでいると僕の居場所をかぎつけたチートイツさんがやってきた。さすがの嗅覚。国立映画アーカイブでPFF『メランコリーの妙薬』鑑賞。同回を観ていたチートイツさん、けんす君と「きじ」へ。3人でお好み焼きを食べるまでが俺たちPFF。そして手術の話を説明してまぁまぁひかれる。でしょうね。TV録画『レジェンド・オブ・トゥモロー』S1E13を見る。
■2019/9/13
午前中から川越へ。久々の川越です。うどん旬報と焼きそば旬報の取材をしてお腹いっぱい。川越スカラ座で『RBG 最強の85才』『ビリーブ 未来への大逆転』を観る。YouTube『Kobra kai』S2E1を見る。
■2019/9/14
朝から会社へ。忘れ物も取りに行く。次に会社に行くのはいつになるかなぁ。渋谷へ。権兵衛でおにぎり買ってからイメフォへ。チートイツさんに記念撮影をしてもらってから『サタンタンゴ 』鑑賞。タル・ベーラ先生のありがたいトークまで聞いてからイメフォフェス『時間の木』も鑑賞。これが上映トラブルで開始が遅れまくり。作品は面白かったがエンドロールで退席。申し訳ない、終電に間に合わない。劇場を出たとこで谷中映画部 浅井さんを発見。肩をトントンしたら超びっくりされた。ごめんなさい。
■2019/9/15
家族でお出かけ。新宿で美味しいパフェを食べてから表参道へ移動。青山ブックセンターで暇つぶし。うちの娘は本屋であればずっといれるな。Ayumi! exhibition @ GALLERY MUVEIL  "Encounters" Exhibition へ。アユミさんの展示を見て、娘の似顔絵を描いてもらいました。アユミさんに会うのは、さよなら立誠以来だから約2年ぶり。イラスト描いてもらいながらまぁまぁアユミさんの愚痴を聞く。奥さんは昔、イラストを描いてたりしたのでペンとかについていろいろ聞いてた。娘は緊張してたみたいだけどかわいく描いてもらってご満悦。新宿で軽く食べてから帰宅。良い一日だったな。Amazonビデオ『IT』(1990)を見る。
■2019/9/16
朝から娘と立川の図書館へ。そこから実家へ行きのんびりすごす。のんびりすごしすぎて散髪に行くのを忘れてしまった。夕飯は母上が焼肉に連れてってくれた。しばらくは食べれませんからね。伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』読了。
■2019/9/17
朝から病院へ。形成の先生の説明や、リハビリの説明や、主治医の先生の説明など、いやー時間がかかった。予定をひとつ飛ばして池袋へ。「かるかや」のうどん食べてのんびり。あれ?「かるかや」もうどん旬報に書いてないな。グランドシネマサンシャインへ。映画秘宝ナイト in IMAXレーザー『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』鑑賞。超前の席だったが、その分町山さんとヨシキさんは近くで見れた。帰りにさっちゃんさんと遭遇。本当によく会う。さっちゃんさんとは『IT』前作が上映された2年前の秘宝まつりでも一緒だったんだよな。ペップさんと3人でごはん食べたのが懐かしい。BS録画『刑事ルーサー』S1E7を見る。
■2019/9/18
朝から立川へ。シネマシティで『砂の器』と『記憶にございません!』を観る。渋谷へ移動。ざぶとん亭風流企画 PRESENTS『ナツノカモ 面影スケッチコメディvol.1』@伝承ホール。まるゆさんとさっちゃんさんに遭遇。どんだけ東京は狭いんだ。TV録画『レジェンド・オブ・トゥモロー』S1E14を見る。
■2019/9/19
朝から有楽町へ。市川雷蔵祭『剣鬼』鑑賞@角川シネマ有楽町。あと2本ぐらい雷蔵映画を観ようとしてたがやめて赤羽へ。久々の「すみた」でとり天ざる。やはり東京で最高峰。近くに映画館がないからうどん旬報に書けないのが残念だ。
■2019/9/20
朝から立川へ。シネマシティで『エイス・グレード』『アナベル 死霊博物館』『アイネクライネナハトムジーク』を観る。新宿へ。MCTT『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』回、好きな映画なので話してて楽しい。音声配信もまとめて収録。来月のMCTTは残念ながら出れない。matsuさん、まるゆさん、そしてラロッカさん、留守はたのんだ。
■2019/9/21
朝から新幹線で京都へ。とりあえず出町座でチケットを取ってから出町ふたばに並び豆餅購入。そして「ごん蔵」でうどん食べる。うどん旬報でそのうち書きます。出町座で『ロング・ウェイ・ノース』鑑賞。駅に向かって歩いてたら深田監督とすれ違う。新生 みなみ会館へ。『米軍が最も恐れた男 カメジロー』鑑賞。まわりは年配の人ばかりだったけどお客さんいっぱい。旧みなみ会館で『カメジロー』前作を観てたのでこの繋がりも嬉しい。ドラクエウォークやりながら北上。chihhieさん、なんすけ君、ねこでかさん、yukaさん、そしてチートイツさんと夜ごはん。いやー楽しかったし、みんなからエールをもらった感じ。また必ず京都に行きますよ。まとめてくれたchihhieさんに感謝。先に抜けたねこでかさん以外のメンバーでyukaさんオススメのカレーうどんも食べに行って大満足だ。小ライスもつけて超満腹だ。yukaさん、chihhieさんに見送られながら宿へ。シャワー浴びてすぐ寝た。
■2019/9/22
5時に起きて宿をチェックアウト。電車移動で神戸へ。ペップさんに会い、東京支部の音声配信用音源を収録。それ以外にもいろいろ話す。うん、頑張ります。ペップさんオススメの朝粥(うまかった)をご馳走になり、がっちり再会の約束と握手をしてから京都戻り。この旅行の主目的である京都音楽博覧会2019 in 梅小路公園へ。もう野外フェス的なものが久々で楽しい楽しい。途中でチートイツさんとも合流。フェス飯を食べようとしたらめちゃ並んでいたので、会場を出て近くのラーメン屋へ。味噌ラーメンとライス。またライス。会場に戻りナンバーガールだ。ついに見れたナンバーガール。ナンバーガールの時間帯だけ信じられない土砂降りの雨。もうあの光景は一生忘れない。これのために「行ってこい」と云ってくれた奥さんに感謝。チートイツさんと喫煙所まで後退し一休み。ここでnodaさんと合流。nodaさんのは長年Twitterで合流しているが実際に会うのは2回目かな。彼女は僕の前の病気の時から知っているので今回の病気についても説明。一緒にいたチートイツさんについて「僕の倍ぐらい映画を観てる人です」と紹介したら「そんなことが可能なんですか!?」と驚かれた(笑)。トリのくるり、アンコールまで見ていたら、なんだらボロボロと泣いてしまった。なんだかひとつの節目というか、何かが終わってしまう気がして涙が止まらなかった。いや、ぜんぜん終わりではないのだけど。平気な顔をしていても心が弱っていたのかもしれない。整列退場だったので前方にいた僕らゆっくり帰る。帰り際、聞いたことのある声がした気がして振り返るとグッチーズ降矢さんが。ルーキー映画祭パンフのお礼を云い軽く挨拶。最後に奇跡的に会えた。チートイツさんと京都駅まで歩く。チートイツさんが何か食べましょう、と云ってくれたので二人でカレーうどんを食べる。もちろんライス付きだ。もう一泊するチートイツさんと別れて僕は東京戻り。ありがとう京都、会ってくれたみなさん。強行スケジュールだったけど行って良かったし、また、必ず行きます。
■2019/9/23
いよいよ入院だ。午後入院なのでゆっくり準備。娘とはいつものようにタッチをして別れたが、ちょっとだけ彼女の顔がシリアスだったような気がする。いろいろわかるのかもしれない。弟に車で送ってもらい病院へ。もうやることはほとんどない。Twitterで入院についてお知らせしたり、限られた友人にも知らせる。WOWOWオンデマンドで『エージェント・オブ・シールド』S6E2と3を見る。意外とぐっすり寝れた。
■2019/9/24
いよいよ手術当日。長時間となるため手術開始は朝9時。それより前に奥さんと母上が来てくれた。8月の手術のときよりはさすがに緊張したが、全身麻酔なので僕には何もわからない。気がついたら手を握られて、奥さんと母上の声を聞いたのは覚えている。後から弟もいたことを知ったけどそれはわからなかった。
■2019/9/25
次の記憶はもうICUだ。ICUの1日目。この日が本当に辛かった。僕の人生で一番辛い一日だっただろう。最初は時計も見えなかったし時間の感覚もよくわからず。首を手術しているので顔は固定されている。口の中を手術し、首にのとこに穴を開けそこから呼吸していて会話は不可。左手は手術していて固定されている。左足も手術していて動かすなと云われる。右手は点滴が入っていてる。右足の付け根にはがっつりカテーテル。尿道カテーテルも入っている。そして暑い。しかしそれを伝えることもできない。首の部分からの呼吸も途中まで呼吸をサポートするのが付いてたと思うけど途中で外れて自分で呼吸する感じに。「胸で呼吸する感じで」と云われてもよくわからず。なんとか深呼吸のように呼吸するがキツい。それにこれをいつまでやれというのか。苦しい。途中で「深呼吸のように呼吸してる?そうじゃなくてもっと普通に」と云われる。よくわからないがもっと早く説明してほしい内容である。自分は人から「我慢しないでもっといろいろ云え」と云われるぐらいには我慢強い人間だと思うけど、その自分が我慢できないレベルの辛さ。なのにそれが伝えられないという苦しみ。かなり時間が経過して「暑い」という内容は伝わり足にかけられていた毛布は取られた。夜ぐらいの担当看護師が「氷枕いります?」と聞いてきて激しく頷く。それだよそれ!なんでもっと早く云わないのだ。ほんのちょっと楽になる。そしてもう時間が進まない。なんなら寝たいけどまともに眠れない。僕は普段から妄想とか空想的なことをしないため、この状況だとまず暇つぶしができない。もうどうしたらいいのかわからない。
■2019/9/26
なんとかICUの2日目。先生たちが処置をして「順調なら昼には一般病棟に行けるでしょう」と。もうその言葉を信じてがんば���。そして予定どーりICUから脱出。一般病棟の個室へ。奥さんと両親が来て荷物およびスマホを持ってきてくれる。なんとか右手一本で、スマホメモでいろいろ伝える。空調を最大にしてもらったけどそれでも暑い。これはICUにいたときからだけど、喉の管の部分にはたんが溜まる。これを1時間ごとぐらいには吸引してもらわないといけない。その度にナースコールして、メモなどで伝え吸引。そしてこれが涙が出るほど苦しい。この喉の部分からの呼吸は手術後2週間と云われている。マジか。なんとか休み休みTwitterなども使う。休み休みWOWOWオンデマンド『エージェント・オブ・シールド』S6E4を見る。こんな状況ではあるが今回のシーズンは面白いな。
■2019/9/27
辛いけど日に日に状況は楽になっていくのはわかる。 この日は尿道カテーテルを外した。予想外に痛くはなかった。看護師さん付き添ってもらい個室内のトイレへ。用を足すとこまでは良かったが、立ち上がろうとしたところでグラグラと視界が。看護師さんから大声で呼びかけられる。どうやら倒れそうになったらしい。ベッドに戻り血圧を測る。急激に下がっていた。これはもう一度行ったトイレでも同様の状況。貧血もあるかもしれないとのこと。まだまだしんどい。BS録画『刑事ルーサー』S1E8を見る。WOWOWオンデマンド『エージェント・オブ・シールド』S6E5を見る。
■2019/9/28
看護師さんたちはみなさんマスクをしているので顔はよくわからない。でも多分かわいいなこの人、という人もいる。看護師さんはシフトで担当がガンガン変わるのだけど、思わず好きになってしまいそうなほど気さくな人がいて、その方と思われる人がなんと夢に出てきた。それぐらいには余裕が出てきたってことだろうか。午後、家族がお見舞いに。奥さんが娘からの手紙を持ってきてくれた。嬉しい。すぐに返事を書く。この日はついにふらつきなくトイレに行くことができた。WOWOWオンデマンド『エージェント・オブ・シールド』S6E6を見る。
■2019/9/29
娘は僕から返信の手紙を何度も読んでいるらしい。泊まりにきてたおばあちゃん(奥さんの母上)に「読んであげるね」と音読したのだが、最後の方は泣きながら読んでいたらしい。おそるべき感受性。だんだんと体から出てる管が外れていく。WOWOWオンデマンド『エージェント・オブ・シールド』S6E7を見る。
■2019/9/30
食事は鼻の管から流し込む日々。これは8月の入院でもやって慣れているが、これをやると下痢をしてしまう。しかもトイレは看護師さんを呼ばないと行けない。本当にめんどくさい。夜、弟がお見舞いに。必要になったものをいろいろ持ってきてくれた。ありがたい。TVer『時効警察・復活スペシャル』を見る。WOWOWオンデマンド『エージェント・オブ・シールド』S6E8と9を見る。そんな感じで後半しんどかった9月はおわり。
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kkagtate2 · 5 years ago
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お地蔵様
里帰りした男の話。
これは実に二十年ぶりに里帰りした時の話である。思ひ立つたのは週末の金曜日、決行したのは明くる日の土曜日であつたが、何も突然と云ふことではなく、もう何年も昔から、今は無き実家の跡地を訪れなければならないと、漠然と思つてゐ、きつかけさへあればすぐに飛び立てるやう、心の準備だけはしておいてゐたのである。で、その肝心のきつかけが何なのかと云へば、私が小学生の時分によく帰り道を共にした女の子が手招きをするだけといふ、たわいもない夢だつたのだが、私にとつてはそれだけで十分であつた。一泊二日を目安に着替へを用意し、妻へは今日こそ地元の地を踏んでくると、子供へはいゝ子にしてゐるんだよと云ひ残し、一人新幹線に乗り込んだ私は、きつかけとなつた夢を思ひ出しながら、生まれ育つた故郷へ真直ぐ下つて行つた。
実のことを云ふと、この時にはすでに旅の目的は変はつてゐたやうに思へる。私の故郷といふのは、周りを見渡せば山と川と田んぼしかないやうな田舎で、目を閉じてゆつたりと昔を懐かしんでゐると、トラクターに乗つてゆつくりとあぜ道を走るお爺さんだつたり、麦わら帽子を目深に被つてのんびり畑を耕すお婆さんだつたりと、そんなのどかな光景が頭に描かれるのであるが、新幹線のアナウンスを聞きながら何にも増してはつきりと思ひ出されたのは、一尊のお地蔵様であつた。大きさはおよそ二尺程度、もはや道とは呼べない山道の辻にぽつんと立つその地蔵様には、出会つた時から見守つていただいてきたので、私たちにとつてはもはや守り神と云へやう。私たちはお互ひ回り道になると云ふのに、道端で出会ふと毎日のやうにそのお地蔵様を目指し、ひとしきり遊んだ後、手を合はせてから袂を分かつてゐた。さう云へば最後に彼女の姿を見たのもそのお地蔵様の前であつたし、夢の中でも彼女はそのお地蔵様の傍にちよこんと座つて、リンと云ふ澄んだ鈴の音を鳴らしながら、昔と同じ人懐つこさうな目をこちらに向けてゐた。ちなみにこゝで一つお伝へしておくと、彼女の夢を見た日、それは私が故郷を離れ、大阪の街へと引つ越した日と同じなのである。そしてその時に、私は何か大切なものをそこへ埋めたやうな気がするのである。――と、こゝまで考へれば運命的な何かを感じずには居られまいか。彼女が今何処で何をしてゐるのかは分からない。が、夢を通じて何かを訴へかけてきてゐるやうな気がしてならないのである。私の旅の目的は、今は無き実家を訪れるといふのではなく、彼女との思ひ出が詰まつたその地蔵を訪れること、いや、正確には、小学校からの帰り道をもう一度この足で歩くことにあつた。
とは云つても、地元へは大阪からだと片道三四時間はかゝるので、昼過ぎに自宅を出発した私が久しぶりに地に足をつけた時にはすつかり辺りは暗くなりつゝあつた。故郷を離れた二十年のうちに帰らなかつたことはないけれど、地方都市とは云つても数年と見ないあひだに地味に発展してゐたらしく、駅周辺はこれまで見なかつた建物やオブジェがいくつか立ち並んでゐて、心なしか昔よりも賑やかな雰囲気がする。駅構内もいくつか変はつてゐるやうであつたが、いまいち昔にどんな姿をしてゐたのか記憶がはつきりしないため、案内に従つてゐたらいつの間にか外へ出てしまつてゐた程度の印象しか残つてゐない。私は泊めてくれると云ふ従妹の歓迎を受けながら車に乗り込んで、この日はその家族と賑やかな夜を飲み明かして床についた。
  明くる日、従妹の家族と共に朝食をしたゝめた私は、また機会があればぜひいらつしやい、まだ歓迎したり無いから今度は家族で来て頂戴、今度もまたけんちやんを用意して待つてゐるからと、惜しまれながら昨晩の駅で一家と別れ、いよ〳〵ふるさとへ向かふ電車へと乗つた。天気予報の通りこの日は晴れ間が続くらしく、快晴とはいかないまでも空には透き通るやうに薄い雲がいくつか浮いてゐるだけである。こんな穏やかな日曜日にわざ〳〵出かける者は居ないと見えて、二両しかない電車の中は数へられるくらゐしか乗客はをらず、思ひ〳〵の席に座ることが出来、快適と云へば快適で、私は座席の端つこに陣取つて向かひ側の窓に映る景色をぼんやりと眺めてゐたのであるが、電車が進むに連れてやはり地方の寂しさと云ふものを感じずにはゐられなかつた。実は昨晩、駅に降り立つた私が思つたのは、地方もなか〳〵やるぢやないかと云ふことであつたのだが、都会から離れゝば離れるほど、指数関数的に活気と云ふものが減衰して行くのである。たつた一駅か二駅で、寂れた町並みが現れ始め、道からは人が居なくなり、駅もどん〳〵みすぼらしくなつて行く。普段大阪で生活をしてゐる私には、電車に乗つてゐるとそのことが気になつて仕方がなかつた。さうかと云つて、今更故郷に戻る気もないところに、私は私の浅ましさを痛感せざるを得なかつたのであるが、かつての最寄り駅が近づくに従つて、かう云ふ衰退して行く街の光景も悪くは無いやうに感じられた。それは一つにはnostalgia な気持ちに駆られたのであらう、しかしそれよりも、変はり映えしないどころか何もなかつた時代に戻りつゝある街に、一種の美しさを感じたのだらうと思ふ。何にせよ電車から降り立つた時、私は懐かしさから胸いつぱいにふるさとの空気を吸つた。大きいビルも家も周りにはなく、辺り一面に田んぼの広がるこの辺の空気は、たゞ呼吸するだけでも大変に清々しい。私はバス停までのほんの少しのあひだ、久しく感じられなかつたふるさとの空気に舌鼓を打ち続けた。
バス停、……と云つてもバスらしいバスは来ないのであるが、兎に角私はバスに乗つて、ちやつとした商店に囲まれた故郷の町役場まで行くことにした。実のこと、さつきまで故郷だとかふるさとだとか云つてゐたものゝ、まだ町(ちやう)すらも違つてをり、私のほんたうの故郷へは駅からさらに十分ほどバスに揺られ無ければ辿り着けず、実家へはその町役場から歩いて二十分ほどかゝるのであるが、残念なことにそのあひだには公共交通機関の類は一切無い。しかしかう云ふ交通の便の悪さは、田舎には普通なことであらう。何をするにしても車が必須で、自転車で移動をしやうものなら急な坂道を駆け上らねばならず、歩かうものならそれ相応の覚悟が要る。私は自他ともに認める怠け者なので、タクシーを拾はうかと一瞬間悩んだけれども、結局町役場から先は歩くことした。母校の小学校までは途中まで県道となつてをり、道は広く平坦であるから、多少距離があつても、元気があるうちはそんなに苦にならないであらう、それに何にも増して道のすぐ傍を流れる川が美しいのである。歩いてゐるうちにそれは美化された思ひ出であることに気がついたけれども、周りにはほんたうに田んぼしか無く、ガードレールから下をぐつと覗き込むと、まだゴツゴツとした岩に水のぶつかつてゐるのが見え、顔を上げてずつと遠くを見渡すと、ぽつぽつと並ぶ家々の向かうに輪郭のぼやけた山々の連なる様が見え、私はついうつかり感嘆の声を漏らしてしまつた。ほんたうにのどかなものである。かうしてみると、時とは人間が勝手に意識をしてゐるだけの概念なやうにも思へる。実際、相対性理論では時間も空間的な長さもローレンツ変換によつて同列に扱はれると云ふ。汗を拭いながら足取りを進めてゐると、その昔、学校帰りに小遣ひを持ち寄り、しば〳〵友達と訪れた駄菓子屋が目に入つて来た。私が少年時代の頃にはすでに、店主は歩くのもまゝならないお婆さんであつたせいか、ガラス張りの引き戸から微かに見える店内は嫌にガランとしてゐる。昔はこゝでよく風船ガムであつたり、ドーナツであつたり、はたまた文房具を買つたりしたものであつたが、もう営んではゐないのであらう。その駄菓子屋の辺りがちやうど田んぼと人の住処の境で、県道から外れた一車線の道先に、床屋や電気屋と云つた商店や、古びたしまうたやが立ち並んでゐるのが見えるのだが、どうもゝうあまり人は居ないらしく、その多くはピシャリと門を締め切つてゐる。中には荒れ屋敷化してしまつた家もあつた。
と、そこでやうやく母校の校庭が見えて来た。町役場からゆつくり歩いて二十五分と云つたところであらうか、時刻を確認してみるとちやうど午前十一時である。徐々に気温が上がつて来てゐたので、熱中症を心配した私は、適当な自販機を見つけるとそこで水を一本買つた。小学校では何やら催し物が開催されてゐるらしく、駐車場には何台もの車が停まつてをり、拡声器を通した賑やかな声が金網越しにぼや〳〵と聞こえてきたのであるが、何をやつてゐるのかまでは確認はしてゐない。おそらく子供会のイベントでもやつてゐたのであらう。さう云へば私も昔、めんだうくさい行事に参加させられた憶えがある。この学校は作りとしてはかなり平凡であるのだが、さすがに田舎の学校ともあつて緑が豊富であり、裏には先程沿ひながら歩いて来た川が通つてゐる。久しぶりにその川にまで下つてみると、記憶とは違つてカラリと乾いた岩がゴロゴロと転がつてをり、梅雨時のじめ〳〵とする季節でも涼を取るには適してゐるやうに感じられた。一体、こゝは台風がやつて来ると自動的に被害を受ける地域で、毎年子どもたちが夏休みに入る頃には茶色く濁つた濁流が溢れるのであるが、今年はまだ台風が来てをらず、降水量も少なかつたこともあつて、さら〳〵と小川のやうな水の流れが出来てゐる。昔、一度だけ訪れたことのあるこの川の源流部でも、このやうな流れが出来てゐたやうな憶えがある。が、源流のやうに水が綺麗かと問はれゝば、決して肯定は出来ない。手で掬つてみると、太陽の光でキラキラと輝いて一瞬綺麗に見えるけれども、じつと眺めてゐると苔のやうな藻がちらほら浮いてゐるのが分かり、鼻にまで漂つて来る匂ひもなんだか生臭い。それにしても、この手の中で漂つてゐる藻を藻と呼んでいゝのかどうかは、昔から疑問である。苔のやうな、とは形容したけれども、その色は生気を感じられない黒みがかつた赤色で、実はかう云ふ細長い虫が私の手の上で蠢いてゐて、今も皮膚を食ひ破つて体の中に入らうとしてゐるのだ、と、云はれても何ら不思議ではない。さう考へると、岩に引つ付いてうよ〳〵と尻尾を漂はせてゐる様子には怖気が走る。兎に角、話が逸れてしまつたが、小学生の時分に中に入つて遊んだこの川はそんなに綺麗では無いのである。むしろ、影になつてゐるところに蜘蛛の巣がたくさん巣食つてゐたり、どす黒く腐つた木が倒れてゐたりして、汚いのである。
再び母校へと登つて、先程通つて来た道に戻り、私は歩みを進め初めた。学校から出るとすぐに曲がり角があつて、そこを曲がると、右手には小高い山、左手にはやはり先程の川があり、その川の向こう側に延々と田んぼの並んでゐるのが見える。この辺りの光景は今も昔も変はらないやうである。道の先に見える小さな小屋だつたり、ガードレールだつたり、頼りない街灯も変はつてをらず、辛うじて残つた当時の記憶と綺麗に合致してゐる。私は変はらない光景に胸を打たせつゝ、右手にある山の影の下を歩いていつた。そして、いよ〳〵突如として現れた橋の前に辿り着くや、ふと歩みを止めた。彼女と学校帰りに会ふのはいつもこゝであつた。彼女は毎回リンリンと軽快な鈴の音を辺りに響かせながら、どこからともなく現れる。それは橋の向かふ側からゆつくりと歩いて来たこともあれば、横からすり寄つて来たこともあつたし、いきなり背後を取られたこともあつた。私はゆつくりと目を閉じて、ゆつたりと深呼吸をして、そつと耳を澄ませた。――木々のざわめきの中にかすかな鈴の音が、確かに聞こえたやうな気がした。が、目を開けてみても彼女はどこにも居ない。今もどこかから出てきてくれることを期待した訳ではないが、やはり一人ぽつんと立つてゐるのは寂しく感じられる。
橋の方へ体を向けると、ちやうど真ん中あたりから強い日差しが照りつけてをり、反射した光が目に入つて大変にまばゆいので、私はもう少し影の下で居たかつたのであるが、彼女がいつも自分を待たずに先々行つてしまふことを思ひ出すと、早く歩き始めなければ置いていかれてしまふやうな気がして歩き始めた。橋を渡り終へてすぐに目に飛び込���で来たのは、川沿ひにある大きなガレージであつた。時代に取り残されたそれは、今も昔も所々に廃材が積み上げられてゐ、風が吹けば倒れてしまいさうなシャッターの中から、車だつたり、トラックの荷台だつたりがはみ出してゐるのであるが、機材や道具などが放りつぱなしになつてゐることから、未だに営んではゐるらしい。何をしてゐるのかはよく知らない。が、聞くところによると、こゝは昔からトラックなどの修理を行つてゐるところださうで、なるほど確かにたまに危なつかしくトラックが通つて行つてゐたのはそのためであつたか。しかし、今見ると、とてもではないが生計が成り立つてゐるやうには思へず、侘しさだけが私の胸に吹き込んで来た。二十年前にはまだ塗料の輝きが到るところに見えるほど真新しかつた建物は、今���は積み上げられたガラクタに埋もれたやうに古く、痛み、壁なぞは爪で引つ掻いたやうな傷跡がいくつも付けられてゐる。ガレージの奥にある小屋のやうな家で家族が暮らしてゐるやうであるのだが、その家もゝはや立つてゐるのが限界なやうである。さて、私がそんなボロボロのガレージの前で感傷に浸つてゐたのは他でもなく、彼女がこゝで遊ぶのが好きだつたからである。する〳〵と積まれたガラクタの上を登り、危ないよと云ふこちらの声を無視して、ひよい〳〵とあつちこつちに突き出た角材に乗り移つて行き、最後には体を蜘蛛の巣だらけにして降りてくる。体を払つてやらうと駆け寄つても、高貴な彼女はいつもさつと逃げてしまふので、仕方なしにそのへんに生えてゐる狗尾草(エノコログサ)を手にして待つてゐると、今度はそれで遊べと云はんばかりに近寄つて来ておねだりをする。その時の、手にグイグイグイグイ鼻を押し付けてくる仕草が殊に可愛いのであるが、だいたいすぐに飽きてしまつて、気がついた時には喉をゴロゴロと云はしながら体を擦り寄せて来る。これは愛情表現と云ふよりは、早く歩けと云ふ彼女なりの命令で、無視をしてゐるとこちらの膝に乗つてふてくされてしまふので、帰りが遅くならないようにするためには渋々立ち上がらなければならない。
さう云へばその時に何かを食べてゐたやうな気がするがと思ひ、私は彼女との思ひ出を振り返りつゝ辺りを見渡してゐた。するとガレージの横に鬱蒼と生い茂る草木の中に、柿の木と桃の木の生えてゐるのが見つかつた。だが、ほんたうに一歩も入りたくないほどに、大葉子やら犬麦やら髢草が生えてをり、当時の私が桃やら柿やらを毟り取つて食べてゐたのかは分からない。しかしさらに見渡しても、辺りは田んぼだらけで実のなる木は無いことから、もしかしたら先程の橋を渡る前に取つて来て、彼女の相手をしてゐるあひだに食べてゐたのかもしれない。先程道を歩いてゐる時にいくつかすもゝの木を見かけたから恐らくそれであらう。なるほど、すもゝと云ふ名前にはかなり聞き覚えがあるし、それになんだか懐かしい響きもする。それにしてもよく考へれば、そのあたりに生えてゐる木の実なぞ、いつどこでナメクジやら毛虫やらが通つてゐるのか分からないし、中に虫が巣食つてゐたのかもしれないのに、当時の私はよく洗いもせず口にしてゐたものである。今思ふとものすごく怖いことをしてゐたやうに感じられる。何にせよ、彼女はいつももぐ〳〵と口を動かす私を不思議さうに見てきては、差し出された木の実を匂ふだけして興味のなさゝうな顔をしてゐた。なんや食べんのか、お前いつたい、いつも何食べよんな。と、問うても我関せずと云ふ風に眼の前で伸びをするのみで、彼女は彼女でしたゝかに生きてゐるやうであつた。
気がつけば私は座り込んでゐた。眼の前では彼女が昔と同じやうに、なんちやら云ふ花の前に行つては気持ちよさゝうに匂いを嗅いで、恍惚とした表情を浮かべてゐる様子が繰り広げられてゐた。少しすると彼女の幻想は私の傍に寄つて来て、早く行きませう、けふはもう飽きてきちやいました、と云ふ。そして、リンと鈴の音を立たせながらさつと身を翻して、私の後ろ側に消えて行く。全く、相変はらず人を全く待たない子である。いや〳〵、それよりも彼女の亡霊を見るなんて、私は相当暑さにやられてゐるやうであつた。すつかりぬるくなつた水を口に含むと、再び立ち上がつて、田植えが行われたばかりの田んぼを眺めながら、彼女を追ひかけ初めた。
ところで、もうすでに読者は、延々と続く田んぼの風景に飽きてきた頃合ひであらうかと思ふ。が、そのくらゐしか私のふるさとには無いのである。私ですらこの時、懐かしみよりも飽き〳〵としてきた感情しか沸かなかつたので、もう今後田んぼが出てきたとしても記さないと約束しよう。だが歩いてゐると、いくつか昔とは違つてゐることに気がついたので、それは今こゝで記しておくことにする。まず、田んぼのあぜ道と云ふものがアスファルトで鋪装されてゐた。それも最近鋪装されたばかりであるらしく、未だにぬら〳〵と黒く輝いてをり、全くもつて傍に生えてゐる草花の色と不釣合ひであつた。かう云ふのはもはや都会人である私の嘆きでしか無いが、こんな不自然な黒さの無い時代を知つてゐるだけに残念である。二つ目は、新たに発見した田舎の美しさである。これはガレージの道のりからしばらくして空を仰いだ時に気がついたのだが、まあ、順を追つて説明していかう。断末魔のやうなツクツクホーシの鳴き声を聞くために足を止めた私は、ぼんやりと眼の前にある虎杖(いたどり)を眺めてゐた。ゆつくりと目を動かすと、崖のような勾配の向こう側に田んぼがだん〳〵になっているのが見える。決して棚田と云へるほど段と段が詰まつてゐる訳ではないが、その棚田のやうな田んぼのさらに向かふ側に、楠やら竹やら何やらが青々と茂つてゐるのが見え、そして、もう少し見渡してみると空の上に送電鉄塔がそびえているのが見えた。この鉄塔が殊に美しかつたのである。濃い緑色をした木に支へられて、淡い色の空をキャンバスに、しつかりとした質感を持つて描かれるそれは、赤と白のしま〳〵模様をしてをり、おそらく私は周りの自然とのコントラストに惹かれたのだらうと思ふ。この旅で最も美しかつたものは何ですかと聞かれたならば、空にそびえ、山と山を繋ぐ鉄塔ですと答へやう、それほどまでに私はたゞの鉄塔に感銘を受けてしまひ、また来ることがあるならば、ぜひ一枚の作品として写真を撮りたいと思ふのであつた。
ところで読者はその鉄塔の下がどのやうになつてゐるのかご存知であらうか。私は彼女と一緒に足元まで行つた事がある。行き方としてはまず田舎の道を歩くこと、山の中へ通ずる道なき小さな道を見つけること、そして藪だらけのその道に実際に飛び込んでみることである。もしかすると誰かのお墓に辿り着くかも知れないが、見上げて鉄塔がそびえてゐるならば、五分〳〵の割合でその足元まで行きつけるであらう。お地蔵様へ向かふために山道(やまみち)に入つた私は、その小さな道のある辻に来た時、つい鉄塔の方へ足を向けさうになつた。が、もうお昼時であるせいかグングン気温が上がり始め、路端(みちばた)の草いきれが目に見えるやうになつてゐたので、鉄塔の下で足を休めるのは次の機会にと思ひ、山道を登り始めた。別に恐ろしいと云ふほどではないけれども、車の音がずつと遠くに聞こえるせいか現世から隔離されたやうで、足取りはもうずいぶん歩いて来たにも関はらずかなり軽快である。私は今頃妻が子供と何をしてゐるのかぼんやりと想像しつゝ、蔓のやうな植物が、にゆる〳〵と茎を伸ばしてゐる柔らかい落ち葉の上を、一歩〳〵よく踏みしめて行つた。日曜の夕食時、もしかするとそれよりも遅くなるかもしれないが早めに帰ると云ふ約束の元、送り出してくれた妻は、今日はあなたが行きたがつてた王子動物園に行つてくるからいゝもん、と仰つていらつしやつたから、思ふに今頃は、子供を引き連れて遊びに行つてゐるのであらう。それも惜しいが、ペットたちとのんびりと過ごせなかつたのはもつと惜しい。特に、未だに懐いてくれない猫と共に週末を過ごせなかつたのは、もうかれこれ何年ぶりかしらん? あの猫を飼ひ始めてからだから、恐らく六年ぶりであらう。それにしてもどうして猫だけは私を好いてくれないのだらうか、家で飼つてゐる猫たちは、もう何年も同じ時を過ごしてゐるのに、私をひと目見るや尻尾を何倍にも膨らませて威嚇をしてくる。そんなに私が怖いのか。――などと黙々と考へてゐたのであるが、隧道のやうな木の生い茂りが開けた頃合ひであつたか、急に辺りが暗くなつて来たので空を仰いで見ると、雨の気配のする黒い雲が太陽を覆ひ隠してゐた。私は出掛けに妻に、どうせあなたのことだから雨が降ると思ふ、これを持つていけと折り畳み傘を一つ手渡されてゐたものゝ、これまで快晴だつたからやーいと思つてゐたのであるが、次第に埃つぽい匂いが立ち込めて来たので急いで傘を取り出して、じつと雨の降るのを待つた。――さう云へば、昔も雨が振りさうになつた時には彼女も傘に入れて、かうしてじつと佇んでゐたな。たゞ、そのまゝじつとしてゐてはくれず、雨に濡れると云ふのに、彼女はリンリンと軽やかな鈴の音を云はせながら傘の外に飛び出してしまふ。そして早く行かうと云はんばかりに、山道の少し上の方からこちらを見下ろして来くる。――懐かしい。今でもこの赤茶けた落ち葉と木の根の上に、彼女の通る時に出来る、狼煙のやうな白い軌跡が浮かび上がつてくるやうである。と、また昔を懐かしんでゐると、先程の陰りはお天道様のはつたりであつたらしく、木の葉の隙間から再び太陽が顔を覗かせるやうになつてゐた。私は傘を仕舞ひ込むと、再び山道を練り歩いて行つた。
だが、雨が降らなかつたゞけで、それからの道のりにはかなり恐ろしいものがあつた。陽が辺りに照つてゐるとは云へ、風が出てきて木の影がゆら〳〵とゆらめいてゐたり、ふつと後ろでざあつと音がしたかと思ひきや、落ち葉が何枚も〳〵巻き上げられてゐたり、時おり太陽が雲に隠れた時なぞは、あまりの心細さに引き返さうかとも思つた。そも〳〵藪がひどくて木の棒で掻き分けなければまともに進めやしない。やい〳〵と云ひながら山道をさらに進んで行くと、沼のやうにどんよりと暗い池が道の側にあるのだが、物音一つ、さゞなみ一つ立てずに、山の陰に佇んでゐるものだから、見てゐないうちに手が生えて来さうで、とてもではないが目を離せなかつた。そんな中で希望に持つてゐたのは、別の山道を登つても来ることの出来るとある一軒家だつたのだが、訪れてみると嫌にひつそりとしてゐる。おや、こゝはどこそこの誰かの父親か親戚か���住んでいたはずだがと思ひつゝ窓を覗いても誰もをらぬ。誰もをらぬし、ガランとした室内には酷く傷んだ畳や障子、それに砕けた天井が埃と共にバラバラと降り積もつてゐる。家具も何もなく、コンロの上にぽつんと放置されたヤカンだけが、寂しくこの家の行末を見守つてゐる。――もうとつくの昔にこの家は家主を失つて、自然に還らうとしてゐるのか。私は急に物悲しくなつてきて手の甲で目元を拭ふと、蓋の閉じられた井戸には近づかずにその家を後にした。行けば必ずジュースをご馳走してくれる気のいゝお爺さんであつた。
私の憶えでは、この家を通り過ぎるとすぐに目的のお地蔵様へと辿り着けたやうな気がするのであるが、道はどん〳〵険しくなつて行くし、全く記憶にない鉄製の階段を下らなければいけないし、どうやらまだ藪と戦はねばならないやうであつた。もうかうなつてくると、何か妖怪的なものにお地蔵様に行くのを拒まれてゐるやうな気さへした。だが、引き返す気は無かつた。記憶はほとんど残らなかったけれども、体は道順を憶えてゐるのか、足が勝手に動いてしまふ。恐怖はもはや旅の友である。先の一軒家を超えてからと云ふもの、その恐怖は猟奇性を増しつゝあり、路端(みちばた)にはモグラの死骸やネズミの死骸が、何者かに噛み殺されたのかひどい状態となつて散乱してゐたのであるが、私の歩みを止められるほど怖くは無かつた。途中、蛇の死体にも出くわしたけれども、どれも色鮮やかなアオダイショウであつたから、全く怖くは無い。そんなものよりよつぽど怖かつたのは虫の死骸である。私の行く手には所々水たまりが出来てゐたのであるが、その中ではおびただしいほどのカブトムシやカマキリが、蠢いているかのやうに浮いてゐて、ひやあ! と絶叫しながら飛び上がつてしまつた。別にカブトムシの死骸くらゐ、夜に電気をつけてゐると勝手に飛んでくるやうな地域で幼少期を過ごしたから、たいしたことではない。問題は数である。茶色に濁つた地面に、ぼつ〳〵と無数の穴が開いて、そこから黒い小さな虫が目のない顔を覗かせてゐるやうな感じがして、背中がゾク〳〵と殺気立つて仕方がなかつた。かういふ折には、ぼた〳〵と雨のやうに蛭が落ちてくるのが御約束であるのに、まつたく気持ち悪いものを見せてくるものである。
と、怒つたやうに足を進めてゐると、いつしか私は恐怖を乗り越えてゐたらしく、勇ましい足取りで山道を進んでゐた。するとゞうであらう、心なしか道も歩きやすくなり、轍が見え始め、藪もほとんど邪魔にならない程度し���前には無い。モグラの死骸もネズミの死骸も蛇の死骸も、蓮の花のやうな虫の死骸も、気がつけば道からは消えてゐた。そして一軒家を後にしてから実に二十分後、最後の藪を掻き分けると、そこには確かに記憶の通りのお地蔵様が、手をお合はせになつて私をお待ちしていらつしやつた。私は地蔵様の前まで来ると、まずは跪いてこゝまで無事に辿り着けたことに、感謝の念を唱へた。そして次々と思ひだされる彼女の姿に涙をひとしきり流し、お地蔵様にお断りを申し上げてから、その足元の土を手で掘つて行つた。冒頭で述べた、かの地蔵の傍に埋めたなにか大切な物とはこのことである。二十年のうちに土がすつかり積み重なつてしまつてゐたらしく、手で掘るのは大変だつたし、蚯蚓やら蟻やらよく分からない幼虫やらが出てきてゾツとしたけれども、しばらくするとペットボトルの蓋が見えてきた。半分ほど姿を見せたところで、渾身の力を込めて引き抜き、私は中にあつた〝それ〟を震へる手で握りこんでから、今度は傍にあつた漬物石のやうな大きな石の前に跪いた。手を合はせるときに鳴つた、リン、……と云ふ可愛らしい鈴の音は、蝉の鳴き声の中に溶け込みながら山の中へ響いて行き、恰も木霊となつて、再び私の手の中へ戻つてくるのであつた。
  帰りの道のりは行きのそれとは違つて、かなり楽であつた。恐らく道を間違へてゐたのであらうと思ふ。何せ、先程見たばかりの死骸も無ければ、足をガクガクさせながら下つた階段も無かつたし、何と云つても二三分としないうちに例の一軒家へとたどり着いたのである。私は空腹から元の道へは戻らずに一軒家の近くにある道を下つて県道へ出、一瞬間今はなき実家の跡地を眺めてから帰路についた。いやはや、なんとも不思議な体験であつた、よく考へれば蝮に噛まれてもおかしくないのによく生きて帰れたものだ、とホツとすると同時に、なんとなく肩が軽くなつたやうな心地がした。――あゝ、お前でも放つたらかしにされるのは嫌なんだな。――と、私はもう一度顔が見たいからと云つて、わざ〳〵迎へをよこしてくれることになつた従妹を小学校で待ちながら、そんなことを思つた。
結局あのペットボトルは再びお地蔵様の足元に埋めた。中に入つてゐたものは私のものではなく、彼女のものであるから、あそこに埋めておくのが一番であらう。元はと云へば、私のなけなしの小遣ひで買つたものであるから、持つて帰つても良かつた気がしないでもないが、まあ、別に心残りはない。
さて、ふるさとに帰るとやはり思ふものがありすぎて、予定してゐたよりも大変長くなってしまつたけれども、これで終はりである。ちなみに、こゝにひつそりと記した里帰りの話は、今の今まで誰一人として信じてくれてはゐないので、もしどなたか一人でも興味を引き立てられた者がいらつしやれば本望である。
 (をはり)
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sumogurishun · 7 years ago
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子どもと戯れるマイケルと海に浮かぶボス2017年8月19日〜21日
8/19 chelmicoの可愛さ(音程が気持ち良い部分が1曲に10秒ほどしかなく、カラオケでキーを合わせるのを失敗した女の子のようにラップする新しい女性たち。青鞜派)に溺れ、帽子を忘れ(傘がなく雨に濡れ君に会いに行く分には格好がつくが、真夏の砂浜で帽子がないのは死にに行くようなもんだ)、電車一本見逃す。詫びを入れるために、侘び寂びを入れるために、文芸同人誌『しんきろう』和歌浦バグースのための紹介文を書く。それがこれ。 ☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎ いきなりですが、俺たち物書きがこの海でなにができるかと言うと、書いた文章を売ること、そしてこの日を書き上げること。この結果入ったお金はあなた方に還元することはできないが、写真でも映像でも音でもなく、文字として、いや、一個人の文章として残ることは、全人類文筆家化した現代で、インターネットの海でタイムカプセル化するであろうSNSという媒体で、ではなく、紙面であなた方の体験が他人の文章で残るということはサマーウォーズでは得られない。 いま、街のこどもたちは進撃の巨人の主人��の巨人化する際に腕を噛みちぎる仕草を無我夢中で真似をしてはグロテスクなものに付き合わされている母親の潜在的自傷癖を燻らせ、親子共々リストカッターとしてカニバリズムに接近した近親相姦に励む姿が見受けられるが、あの仕草は『ときめきに死す』の沢田研二に由来しており、森田芳光監督の先見性には、とりあえず驚かされるが、この海では誰も巨人になれないし、手首の傷はもう見せていくしかない。俺たちが手首を噛みちぎって大きくできるのは股間もしくは乳首だけであり、浮き具のように股間や乳首を膨らませながら、志村けんの白鳥のように、久本雅美のレリジャスハラスメントチックな舞のように、音楽に身を任せ、俺たち文筆家は踊るしかない。みなさん一緒に楽しみましょう。 ☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎ 夏の暑さにヤられたような文章シツレイ!というような感じで、これ去年みたいに紹介する時間があるかと思ったけれど、なかったので、ボスと馬鹿でかい岩の上で大はしゃぎ(後述)している間に終わったのかもしれない。笑 ここまで書いていなかったが、しんきろう御一行は和歌山の和歌浦で『しんきろう』を売りにバグースにお邪魔した。一泊二日フゥゥ!!(めちゃくちゃデカいタヌキの腹を3発殴る) 和歌山市駅で、ボス、ゴタンダ姐御、ボビー・オロロロ姐御と合流し、詫びる。姐御の命で小指を落とし、泣きながらサングラスで傷を拭う。「川を越えてラーメンを食べよう」とボスが言い、みな「ボスは川が好きだからしょうがない」と口に出して言いながら川を渡った。川を越えた先にあるのはド・チェーン店だったことに気づいた俺はなんとか先輩たちの暑さにやられ溶けたゾンビのような行進を止めてあげるべく血眼で探し、見つけたのは大八ラーメン。中へ入ると猿かおじいさんかわからないような人と、禿げた人。「ああ、しくじった」と顏で表現するも『時効警察』並みに遅かった。看板にデカデカと「半チャーハン650円」書いてあったにも関わらず「半チャーハン今日ないよ」と言い切る猿にシャツイ(殺意)をおぼえるも、我慢し、塩バターラーメンを頼む。丼が来るまでタクシーを探していると、猿が車で駅まで送ると言ってくれ、猿もここまで優秀になったものかと感慨深く、これでラーメンがまずかったら日光へ売り飛ばしてやろうと思った矢先、丼がきた。塩ラーメンにしては珍しくこってりした色味。とんこつラーメンを頼んだボスがひとくち食べ、うまい!と言い、しょうゆラーメンを食べたボビーが、うまい!と言い、塩バターラーメンを食べた俺は笑った。���がないと笑うんだって知れてよかった。もはや何がこってりしているのかわからず、戸惑い、もうひとくち食べて笑った。不審に思ったボスはひとくち食べると「え?」と言い、笑った。味がないものを食べると人は笑う。ゴタンダ姐御も塩ラーメンを頼んで食べていたが、笑わなかった。バターの味がしたからだ。そう、バターの味はする。お湯バター。しかし、お湯バターは最悪の組み合わせであり、水バターの方がまだマシとすら思える。俺はとりあえず塩ラーメンに塩を振り食べた。そして猿を日光へ連れていき、タクシーで和歌浦へ向かった。 和歌浦に着くとボスとともに早速海に飛び込み、海に浸かった。ボスは泳いでいた。泳ぎ足りないボスと防波堤とも言える馬鹿でかい岩に降りるのが怖い高さまで登り、最悪の結果を想像しながら降りた。お湯バターが喉まで来ていたが、おのののかとの遊泳を想像し、凌ぐ。ボスはひたすら登り、まわって裏へ行き「僕は泳いで行くわ」と言って消えた。俺は素潜りと名乗りながらも泳ぐのがあまり好きではない。ボスについて行かず、来た道を戻ると、潮の流れにのって仰向きに浮かぶボスがいた。なかなかな場所に留まり浮かぶボスを見たときはさすがに「だいじょーーぶですかぁぁぁ?」と高田渡の真似で声をかけたが、ボスは遠くからでもわかるほどニヤニヤしていた。笑 その頃からずっとバグースではライヴをしており(笑)、ここにくれば何が流行っているかわかるほど、色んな人が音楽をしている。俺は砂浜でボスがくれた『創作』(作者不詳)という日記と『しんきろう』最新号を読みながら、誰が誰の日記だかわからなくなっていた。みな、日記を書き過ぎである。 『創作(1973年10月-1975年7月)』 作者不詳とあるが、栞には出版した人が色々書いている。出版した人が日記を「発見した」らしいが、あまりに作者に理解があり、あまりに肩入れしているため「おまえが書いたんじゃねえの」感が凄まじく、もし違ったとしても、もはや著者と出版人は同化しており、どうかしている。笑 この人に文学的価値を見いだすならば、もはや錆びれた日本的文学観で見た場合のみ最初の数ページ煌めくばかりで、これが本当に昭和の名も分からぬ人であることを祈るばかりである。これが誰かの創作であった時には少し辛いが、実際この本は日記なだけありスラスラ読めて面白く、笑える。まあまあ好きだが、それなら俺の日記だって出版してくれと思う。 バグースとは関係のない宿泊客の水着のお姉さんを見ながら豚バラ丼(昼飯のせいでとにかく味の濃いものを欲していた)を食べると、主催シラカワくんのバンドがはじまり、誰もかも踊り、終わった。 宿へ行き、風呂へ入るために歩いていると卓球台を見つけ、ボスとふたりで「みんなとする時のための練習」のために30分ほど汗を流した(みんなが卓球している時には卓球をしないようなふたりが)。やればやるほどふたりは上達し、互いに理解し合い、ふざけてスマッシュなんて打たないほどであった。それがふたりが共有していた価値観であって、かっこよさでもあった。ポパイ的なシティボーイとは違う、粋の話で、板前のする卓球はこんな感じかもしれない(結びはポパイ的。笑)。 去年もそうだったが、風呂に入ると、他の団体とも打ち解ける。それは人のチ☺︎子を見ると、その人のことが少しわかった気になるからで、☺︎のカッ☺︎し具合や、☺︎の☺︎び具合で、ある程度その人の美意識はわかる。 打ち上げでは、知らない人がかっこわるいことを難しく話していて、この人はダサい居酒屋に通ってこんな話ばっかりしていて、お酒を飲まないとこんなふうに話せないんだろうなあと同情した。学生時代から音楽の人がする打ち上げがとにかく苦手な俺は早く映画が観たくて仕方がなく、ボスに声をかけマイケルジャクソンの総指揮・監督作『ムーンウォーカー』を観る。 『ムーンウォーカー』 出てくる大人は悪役か���ンサーで、味方は子どもだけ。後のネヴァーランドを暗示させる。ピンチになると「マイケぇぇぇぇぇる」と叫んでくれる子どもたちと、見かけただけで「マイコォォォォオォォォォ」と叫ぶファナティックな大人たちと、どっちがいいかっていえば、ペドフィリアでなくとも前者である。ちなみに俺はといえば屈折したエフェボフィリアで、つうかエフェボフィリアなんて思春期に屈折した人しかならないんだけれど、実は☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎、☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎で☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎して☺︎☺︎☺︎☺︎したことがあって、それはつまり☺︎☺︎☺︎だから☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎が☺︎☺︎☺︎で、それがもう☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎。あっはっは(全部冗談なんで気にしないでください)。パープルレインを見て嫉妬で猛り狂ったマイケルが撮ったら、狂気を宿した子ども向け映画になってしまったという、なんとも言えないヤバすぎる映画でして、子ども向けというよりも、好きな人に向けて作った映画でしょうねえ、マイケルが子どもに向けて撮ってますもんねえ。だってマイケルがああなったりこうなったりつって何もネタバレはしませんよ。ただボスとボビーと死ぬほど笑いました(敬語でゴリラと喋る)。映画を見終えると、女性が現れ「地震…」と言って、消えたので、急いでボスがシラカワくんを呼びにいき、その間ボビーは女性に事情を聞き、俺は地震について考えていた。 8/20 朝、マイケルの『ムーンウォーカー』に出てきた大量のタランチュラが、夢に現れ、うなされる。宿を出てタクシーに乗り和歌山市駅へ。コンビニで好物の雪印のコーヒー牛乳を買う。ボスと昨日のマイケルの映画について談笑しながら(ふたりはマイケルをとっても好きになっていた!笑)電車に揺られていると、腹痛が襲う。実は俺は本当におなかが弱く、☺︎ヶ月に☺︎☺︎は☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎☺︎。だから油断ならない。新今宮で降りるはずが天下茶屋で降り、ボスと☺︎☺︎の音で別れる。なんとか腹痛も収まり、それでも腹を押さえながら帰路につき、ミートソースパスタ(お湯バターのせいで味の濃い麺類が食べたくなっていた。昨夜の打ち上げでもインスタントのカモ蕎麦を食べたほど)をかきこみ、梅田へ。タワレコでものんくるのインストアライヴがあるからで、着いたらおっさんがたくさんいてゲンナリしながら開演を待った。綺麗なお姉さんがびっくりするくらい適当な司会をし、ものんくるが登場。盤での豪華な演奏陣が嘘みたいな地味な編成で期待したほど良くはなかったし、インディーズバンドがよくやる売れるための煽りでめちゃくちゃ萎える(成孔センセーあれやめさせ��方がいいですよ)。ただ、ヨシダサラさんの歌声には本当に感動したっぴ。本当にすごいゅっ。帰って10時間寝る。 8/21 iPhoneで日記を書いたため、とても疲れた。chelmicoのMVで癒され「ああ、可愛いなあ。このまま永遠に動画が続けばいいのに。もうすぐ終わる。ああ、残念。もう一回見よう」と思い時間を確認するとまだ半分もいっておらず(半笑)、しまいには途中で飽きて消した。癒されるだけじゃだめなんだ。 そういえば『しんきろう』今号に素潜り旬は、LGBTQ文学と言いますか、ゲイ小説といいますか、そういった趣の詩小説『右手に雨が降る』を書いておりますので、機会があれば読んでみてください。興味がある方にはお渡ししますよ。500円です。
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turtur-novitius · 7 years ago
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待てと言うのなら、いつまでも。弐
審神者が居なくなってからひと月、ふた月とあっという間に時がたち、夕暮れに蜩の声が聴こえる季節となった。 切なく感じてしまうその鳴き声を聴きながら、いつもの様に二振りは岬へ向かう。足取りは、重い。
梅雨が明け、苦しいくらいに暑さが前面に出てきた頃にその変調は訪れた。最初は皆、只の仕事疲れだろうと思い、少し仕事の進行速度を落とした。 しかし、一向に躰の調子が戻る様子は無く、寧ろ悪くなる一方だった。流石におかしい、と皆が思い始めた頃に唯一仕事の手を緩めていなかった刀が倒れた。
言わずもがな、へし切長谷部である。
審神者の霊力を必要とする手入れ部屋も使うことは出来ず、原因が分からないまま彼自身の部屋で寝かせた。意識を失った彼の呼吸はしかし穏やかで、それが日本号の心を却って抉った。 看病をしながら、日本号は普段はじっくりと見ることのないその白い面を眺める。
――肌はこんなにも青白かっただろうか、頬は少し痩せているし、綺麗な藤色が見える筈の部分の下にも薄らと隈が出来ている。
もうずっと此の侭なのでは、と流石の日本号も不安に思い始めた頃、日が暮れ蜩が哭き始めた時分に、睫毛を震わせ、ゆっくりと藤色のそれが漸く現れた。ぼんやりとしていたその眸に光が灯り、がばりと勢いよく起き上がろうとした彼を、慌てて日本号は止める。 「過労で潰れてた奴がいきなり起き上がろうとすんじゃねぇ、馬鹿が!」 「…俺、倒れていたのか…」 目覚めて早々に怒鳴られて驚いた長谷部の最初の言葉はそれだった。次いで、どの位経ったか、皆はどうしたなど矢継ぎ早に質問が飛んでくる。答えない限り話が進まないと熟知している日本号はその一つ一つに丁寧に答えた。 長谷部が倒れてから一週間がたったこと、皆は彼の身を案じながらもいつもの様に振舞うよう努めていたこと等。そして。 「…燈台の燈は、」 「…おれが、代わりに」 それを聞いた長谷部はそうか、と掠れた声で一つ返すと瞼を閉じた。 また気を失ったのかと不安になった日本号だが、暫し経ってからまた長谷部が話し始めた事に安堵し、またその内容に驚愕した。
「主が、現世で、お亡くなりに、なられた」
一言ずつ、自分で自分に言い聞かせるように、掠れ震える声で、しかしはっきりと長谷部はそう言った。 「…どうして、そんなことが」 眸を隠したまま、長谷部は静かに、淡々と答えた。 「…近侍っていうのはな、日本号。その本丸内に居る刀剣男子の中で一番主に近しい存在なんだ。物理的にも、精神的にも。 人の子達はこれを『絆』、と呼んでいたなぁ。 だから、俺は、俺だけは知っていたんだ。あの御人が、現世に戻って何をしていたか、何を強いられていたのか。酷いもんだった。人を人と思わないような事をさせられていて、どんどん心が脆くなっていくのを日々感じていたよ」 だけどね、と長谷部の話は続く。その口調は、酷くゆっくりとしており、話している長谷部はいつもの此奴なのだろうか、と日本号は不安に思う。 「唯一の救いとなっていたのは夢の中だって、あの人は云っていたよ。躰は相変わらず現世に残されていたけれど、心だけこっちに来てたらしい。らしい、というのは、情けない話、俺も全く気付かなかったからなんだが。 でも、そうだなぁ。よく考えたらそうだったのかもしれないな。 俺も、夢の中でだけ、あの御人を抱きしめて、慰めて差し上げることが出来ていたのだから。…あぁ、勿論精神的な面で、だけどな」 まるでにっかり青江の様なふざけた事を云いながら、まだ長谷部の言葉は続いた。 日本号は一切口を挟まず、ただ聴いている。そうすべきだと、思ったからだ。 「それでも、やっぱり限界は訪れた。相変わらず劣悪な環境で過酷な労働を強いられていた主は突然、ふつりと糸が切れた人形みたいに崩れ落ちたんだ。死因は、過労とそれに伴う睡眠不足…恐らく、俺もそれに同調して、倒れたんだろうな。 それでそれを見たその施設の監視者、とでもいうべき奴はまるで死んだ奴はただの塵、とでも言わんばかりに施設の外へと投げ棄てた。…あの御人の躰が地面に叩きつけられた音が、今でも遺っているんだ。あの、嫌な音が、耳から全く離れてくれないんだ。 あの時程、祟ってやろうと、持てる全てを使って絶望のどん底に突き落として殺してやろうと思ったことはなかったな。 だけど、主は、」 ゆっくりと掛布団の上に投げ出されていた腕を持ち上げ、そうして長谷部は顔を隠してしまった。 「…主は、それだけはしてはいけないと言うんだ。ご自身が亡くなって、魂も残り少しだけだったにも拘わらず。俺たちが、いっとう、大切な家族だから、って言うんだよ。 更には本当に申し訳なさそうに謝罪してくるんだよ。あの人は何も悪くないのに、ごめんなさい、って。もう、傍には居てあげられなくなってしまったって」 俺達の方こそ傍で支えてあげられなくてごめんなさいと言うべきなのに、あの人はそれをさしてくれないまま、静かに消えてしまわれたよ。多分、俺達も直ぐに後を追うことになるだろうな。 審神者死亡に因る、霊力供給の停止。本丸内の刀剣男子たちが不調を訴えた理由が、其処に在ったと、日本号は漠然と理解した。
「…なぁ、日本号。俺は、俺達は、何をして差し上げれば善かったんだ? あの男が主を連れて行くのを止めればよかったのか? それこそ、人の子を殺すことになってでも。あの御人の最期の時にやはり祟ってやればよかったのか? …俺達の主が、いったい何をしたって云うんだ、なぁ、日本号、教えてくれ…」
激昂していない分、衰弱しきっている長谷部の声は悲痛だ。そしてそれが、より日本号の心を抉る。 しかし、それに答えられるほどの適切な解を日本号は持っていなかった。…恐らく誰も持ち得て等いないのだろう。 だから、日本号は死んだ主を想って静かに泪を零し始めた近侍を抱きしめて、慰めるように背を撫ぜる事しか出来なかった。
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kt-grotesque · 5 years ago
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手紙2017/8/6
お元気ですか? 梅雨明けしたのに、連日小雨が振り湿気の多い空模様に。まさに梅雨のような日々。気温も25℃に届かなかったりして、夏の盛りのはずなのに仙台付近の海辺に人影が見当たらない事態になっているかもしれません。 先日『キタコブシ』2冊と『支援連ニュース』を受け取りました。どうもありがとう。Fさんからも2年前に面会した際の様子を教えてもらっています。形のある物は必ず壊れるように、生きている者もいつかは亡くなる訳ですね。それぞれの想いはそれとして、何とも仕方がないことであります。 そんな重苦しさを払拭すべく何か読み物をと日経新聞を覗くと、日経経済を活性化するためにもオリンピックを利用すべきだとする主張を大きく載せています。オリンピックが開幕するとすべてが上手くいくような雰囲気になると、ロンドンオリンピック当時の市長だったジョンソン外相も、先日小池都知事にそんな体験談を話していたそうです。 普段は静かなイギリス人が自国チームに熱狂し、自信と高揚感が広がり溢れていく様子を、当時のジョンソンロンドン市長は目の当たりにし、その感動を小池都知事に伝えたのでありましょう。 何とも心温まるお話ではありますが、イギリス人のそんな自信と高揚感が__つまりナショナリズムの高揚が、結局はEUからの離脱を選択させたという訳ですね。ジョンソン外相はご存知のように、そんな強硬離脱派のリーダーのひとり。それ故離脱後の道筋を描けない哀れなポピュリスト政治家でもあります。 ついでに安倍改造内閣の面々を見て「新鮮味」に欠けると多くの人が感じたのは当然です。理由はいつか「見た顔」だから。20人の大臣のうち、政治家の家系にある者が13人もいますからね。改めて自民党は世襲政治家集団なのだと。 要するに権力は__利権は彼らの間でタライ回しにされてきたし、今後もされていくわけです。こうして権力__利権に連なる特権階級がいつしか、こっそりと必然的に生み出されていくのは、民主主義国家であるアメリカやフランスやイギリスにおける既成政党に対する人びとの不信感を思い起こすだけで十分でしょう。 こうした閉塞感を打ち破るため、政界の新陳代謝を有権者は望んでいるのに、わが日経新聞は何とも情けないことに、今回の疑惑に首相自身が関わっていないことを前提にいえば、首相に挽回のチャンスが与えられてしかるべきだと。政治部長の名前入りのコラムを一面に揚げていました。こんな走狗が登場するほど、この国は腐り始めているのでしょう。 ところで、「共謀罪関係」のお話です。Aちゃんが窓口となって、シナリオ作家協会と劇作家協会が弁護士を招いて合同で勉強会を開き、法案に反対する記者会見を衆院第一会館でやったそうであります。暑い最中にもかかわらず、東海林さだおチームのアイドルとして白球を追って活躍しているとばかり思っていたら、何と大間違いでした。 彼女がシナリオ作家協会の総会の際に議長をやっていたのは、ボクがしつこく書いたかもしれず、もうご存知かもしれません。少し前に『シナリオ』誌に載せるシナリオ作品の検討の場で、ある作品に彼女が反対したところ、有名シナリオライターのAが、反論を外部のメディアに、しかも誰が反対したのか分かるような形で公表したのだそうです。まあ彼女は批判を自分に言わずに__そうすれば討論できたのに、一方的にオレは正しいとばかりのあり方に腹が立ったのでしょう。即座に「やってらんねえ」とばかりに、アタイより美人の議長がいたら代わりにつけてみな、とばかりに一切の業務から手を引いたのでした。 もちろんボクはAちゃん派の大幹部だと思っているので、よくやったと褒めたし、Aなど中核派くずれだから気にするなと、適当かどうかはともかく励ました訳であります。 そしたら「共謀罪関係」に反対する記者会見でしょう。その前のシナリオ作家協会の総会でAら一派は、日頃の振る舞いとは真逆に沈黙したままだったと、返す刀でボクの友人のもうひとりのシナリオライターである、元九大全共闘徹底抗戦組にもバッサリと切り捨てられてしまいました。東京は暑いだろうに、この鼻息の荒さといったら__ ここから本題です。実はAちゃんのオリジナル作品の映画化が本格的に動き始めました。資金と配給の目途がつき、来年2月から撮影に入るそうであります。今のところ、これ以上は書けませんが、彼女はシナリオの他に、プロデューサーも兼ねるのだそうですからね。やはり鼻息が荒くなるのは仕方のないことかもしれません。 話は変わって、少し前にガンダム作家について触れましたが、その際、ボクらの合宿に赤軍派の者が来ていたことも書いたはずです。この合宿は、秋田と山形との県境付近にある小砂川(こさがわ)という小さな町の海水浴場の海の家を借りてやりました。これが「黒ヘル」グループ誕生の合宿だったと言われていますが、そう言われてみればそうかもしれませんが、でも今ひとつピンとこないため普段は殆ど忘れています。 それは参加人数すら正確に思い出せないことでも明らかだし、しかも「グループ」誕生という重々しさや禍々(まがまが)しさよりも、むしろ20歳前後の若い男女が楽しげに、嬉々としてカレーなどを作っていたという印象が強いせいでありましょう。 参加した赤軍派のAも、とても爆弾闘争をやるグループとは思えなかったといった意味の証言を法廷でしていたはずです。もっとも彼はボクらのメンバーを赤軍派にオルグするのが役割で、ひそかに何人かに誘いをかけていたのは知っていました。そのことも彼は法廷で、こう証言していたのですよ。カマタグループのメンバーと会って話をしていたが、どこからがメンバーでどこからが単なる友人なのか全然分からなかったと__ ボクが赤軍派や彼らのような厳格な規則等で縛る組織を、殆どバカにしたように見ている理由が分かるかもしれません。人は隠そうとするからばれるのであって、何も隠さずにいると周囲は逆に気づかない場合が多いのではないのかな。少なくともボクはそうしてやってきましたね。 実際ボクらが、又はボクが爆弾闘争をやっていると知っていた人は、今だから言うと、20人30人といったレベルではなかったですね。例えば合宿では早朝に鳥海山への登山道を登り、住家から少し離れた林の中でちょっとした実験をやったりしてました。そのあと海へと続く道を下りながら、朝日に輝く海面に向かうよう三々五々歩いてい���メンバーを後ろから見て、随分人数が増えたなあと。 それで東京に戻ってから、半分以上のメンバーにやめてもらいました。体が弱かったり、もっと別のことをした方がいいと思える者たちをです。でも彼らはずっと沈黙しているのではないのかな。 それはともかく、先日のFさんの手紙に、地震のあとに小砂川に降りてみたことがあったと書かれていたのです。「3.11」のあと何回も面会してくれたのに、今頃になって__しかもFさんは途中からボクらの弁護に加わってくれたので、小砂川など気にもしていなかったはずなのに。 それによると、海辺の光景は当時とまったく変わっていない感じでした。変わったのは、そこに20歳前後の笑い声をあげている男女の姿がなかったことでありましょう。 それでは又、お元気で!! (2017.8.6)
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