Tumgik
#岩鳶水泳部
robotshowtunes · 2 years
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Happy New Year! 🎍🧨🎆🎉🎊🥂🍾
“Only the phoenix arises and does not descend. And everything changes. And nothing is truly lost.” — Neil Gaiman, “Exiles” (The Sandman #74)
Original image from the eleventh episode of Free!-Eternal Summer-
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isakicoto2 · 2 years
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つまさきになみのおと
そういえば、自分から電話することだって滅多になかったのだった。 ディスプレイに浮かぶ名前を、そっとなぞるように見つめる。漢字三文字、向かって右手側の画数が多いそれは、普段呼んでいるものよりもなんとなく遠くに感じる。同じ、たったひとりの人を指す名前なのに。こんな場面でやけに緊張しているのは、そのせいなのだろうか。うんと昔は、もっとこれに近い名前で呼んでいたくせに。本人の前でも、居ないところでだって、なんだか誇らしいような、ただ憧れのまなざしで。 訳もなく一度ベンチを立ち上がって、ゆるゆると力なく座り込んだ。ただ電話をかけるだけなのに、なんだってこんなに落ち着かないんだろう。らしくないと叱咤する自分と、考え過ぎてナーバスになっている自分が、交互に胸の中を行き来する。何度も真っ暗になる画面に触れなおして、またひとつ詰めていた息を吐き出した。 寮の廊下はしんと静まり返っていた。巡回する寮監が消していく共同部分の照明、それ以外は規定の中だけで生きているはずの消灯時間をとうに過ぎている。水泳部員の集まるこのフロアに関して言えば、週末の夜にはもう少し笑い声も聞こえてくるはずだ。けれど、今日は夜更かしする元気もなく、すっかり寝息を立ててしまっているらしい。 午前中から半日以上かけて行われた、岩鳶高校水泳部との合同練習。夏の大きな大会が終わってからというもの緩みがちな意識を締める意味でも、そして次の世代に向けての引き継ぎの意味でも、今日の内容は濃密で、いつも以上に気合いが入っていた。 「凛先輩、今日は一段と鬼っスよぉ」 残り数本となった練習メニューのさなか、プールサイドに響き渡るくらい大きな声で、後輩の百太郎は泣き言を口にしていた。「おーい、気張れよ」「モモちゃん、ファイト!」鮫柄、岩鳶両部員から口々にそんな言葉がかけられる。けれどそんな中、同じく後輩の愛一郎が「あと一本」と飛び込む姿を見て、思うところがあったらしい。こちらが声を掛ける前に、外しかけたスイミングキャップをふたたび深く被りなおしていた。 春に部長になってからというもの、試行錯誤を繰り返しながら無我夢中で率いていたこの水泳部も、気が付けばこうやってしっかりと揺るぎのない形を成している。最近は、離れたところから眺めることも増えてきた。それは頼もしい半面、少しだけ寂しさのような気持ちを抱かせた。 たとえば、一人歩きを始めた子供を見つめるときって、こんな気持ちなのだろうか。いや、代々続くものを受け継いだだけで、一から作り上げたわけではないから、子供というのも少し違うか。けれど、決して遠くない感情ではある気がする。そんなことを考えながら、プールサイドからレーンの方に視線を移した。 四人、三人と並んでフリースタイルで泳ぐその中で、ひときわ飛沫の少ない泳ぎをしている。二人に並んで、そうして先頭に立った。ぐんぐんと前に進んでいく。ひとかきが滑らかで、やはり速い。そして綺麗だった。そのままぼんやりと目で追い続けそうになって、慌ててかぶりを振る。 「よし、終わった奴から、各自休憩を取れ。十分後目安に次のメニュー始めるぞ」 プールサイドに振り返って声を張ると、了解の意の野太い声が大きく響いた。
暗闇の中、小さく光を纏いながら目の前に佇む自動販売機が、ブウンと唸るように音を立てた。同じくらいの価格が等間隔に並んで表示されている。価格帯はおそらく公共の施設に置いてあるそれよりも少しだけ安い。その中に『売り切れ』の赤い文字がひとつ、ポツンと浮き上がるように光っている。 ふたたび、小さく吐き出すように息をついた。こんな物陰にいて、飲み物を買いに来た誰かに見られたら、きっと驚かせてしまうだろう。灯りを点けず、飲み物を選んでいるわけでも、ましてや飲んでいるわけでもない。手にしているのはダイヤル画面を表示したままの携帯電話で、ただベンチでひとり、座り込んでいるだけなのだから。 あと一歩のきっかけをどうしても掴めない。けれど同時に、画面の端に表示された時刻がそんな気持ちを追い立て、焦らせていた。もう少しで日をまたいで越えてしまう。意味もなくあまり夜更かしをしないはずの相手だから、後になればなるほどハードルが高くなってしまうのだ。 今日は遅いし、日をあらためるか。いつになく弱気な考えが頭をもたげてきたとき、不意に今日の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。途端に息苦しさのような、胸の痛みがよみがえる。やはり、このままでいたくなかった。あのままで今日を終えてしまいたくない。 焦りと重ねて、とん、と軽く押された勢いのまま、操作ボタンを動かした。ずっと踏み出せなかったのに、そこは淡々と発信画面に切り替わり、やがて無機質な呼び出し音が小さく聞こえ始めた。 耳に当てて、あまり音を立てないように深く呼吸をしながら、じっと待つ。呼び出し音が流れ続ける。長い。手元に置いていないのだろうか。固定電話もあるくせに、何のための携帯電話なのか。そんなの、今に始まったことじゃないけれど。それに留守電設定にもしていない。そもそも設定の仕方、知ってんのかな。…やけに長い。風呂か、もしくはもう寝てしまっているとか。 よく考えたら、このまま不在着信が残ってしまうほうが、なんだか気まずいな。そんな考えが浮かんできたとき、ふっと不安ごと取り上げられたみたいに呼び出し音が途切れた。 「もしもし…凛?」 繋がった。たぶん、少しだけ心拍数が上がった。ぴんと反射的に背筋が伸びる。鼓膜に届いた遙の声色は小さいけれど、不機嫌じゃない。いつもの、凪いだ水面みたいな。 そんなことを考えて思わず詰まらせた第一声を、慌てて喉から押し出した。 「よ、よぉ、ハル。遅くにわりぃな。あー、別に急ぎじゃないんだけどさ、その…今なにしてた? もう寝てたか?」 隙間なく沈黙を埋めるように、つい矢継ぎ早に並べ立ててしまった。違う、こんな風に訊くつもりじゃなかったのに。いつも通りにつとめて、早く出ろよ、とか、悪態の一つでもついてやろうと思ってたのに。これではわざとらしいことこの上なかった。 「いや…風呂に入ってきたところだ。まだ寝ない」 ぐるぐると頭の中を渦巻くそんな思いなんて知らずに、遙はいつもの調子でのんびりと答えた。ひとまず色々と問われることはなくて、良かった。��っと胸を撫で下ろす。 「そ。それなら、良かった」 電話の向こう側に遙の家の音が聞こえる。耳を澄ませると、何かの扉を閉じる音、続けて、小さくガラスのような音が鳴った。それから、水の音、飲み下す音。 …あ、そっか、風呂上がりっつってたな。向こう側の景色が目の前に浮かぶようだった。台所の、頭上から降る白い光。まだ濡れたまま、少しのあいだ眠っているだけの料理道具たち。水滴の残るシンクは古くて所々鈍い色をしているけれど、よく手入れがされて光っている。水回りは実家よりも祖母の家に似ていて、どこか懐かしい。ハルの家、ここのところしばらく行ってないな。あの風呂も、いいな。静かで落ち着くんだよなぁ。 「それで、どうしたんだ」 ぼんやり、ぽやぽやと考えているうちに、水かお茶か、何かを飲んで一息ついた遙がおもむろに投げかけてきた。ハッと弾かれるように顔を上げ、慌てて言葉を紡ぎ出す。 「あー、いや…今日さ、そっち行けなかっただろ。悪かったな」 「…ああ、そのことか」 なるほど、合点がいったというふうに遙が小さく声を零した。 そっち、というのは遙の家のことだ。今日の合同練習の後、岩鳶の面々に「これから集まるから一緒に行かないか」と誘われていたのだった。 「明日は日曜日なんだしさ、久しぶりに、リンちゃんも行こうよ」 ねぇ、いいでしょ。練習終わりのロッカールームで渚がそう言った。濡れた髪のままで、くりくりとした大きな目を真っすぐこちらに向けて。熱心に誘ってきたのは主に彼だったけれど、怜も真琴も、他人の家である以上あまり強くは勧めてこなかったけれど、渚と同じように返事を期待しているみたいだった。当の家主はというと、どうなんだと視線を送っても、きょとんとした顔をして目を瞬かせているだけだったけれど。きっと、別に来てもいいってことなのだろう。明確に断る理由はなかったはずだった。 けれど、内心迷っていた。夏の大きな大会が終わってやっと一息ついて、岩鳶のメンバーとも久しぶりに水入らずでゆっくり過ごしたかった。それに何より、他校で��暮らしをしている身で、遙の家に行ける機会なんてそう多くはない。その上、一番ハードルの高い『訪問する理由』というものが、今回はあらかじめ用意されているのだ。行っても良かったのだ。けれど。 「わりぃ、渚。今日は行かれねぇ」 結局、それらしい適当な理由を並べて断わってしまったのだった。ミーティングがあるからとか、休みのうちに片付けなきゃならないことがあるとか、今思えば至極どうでもいいことを理由にしていた気がする。 始めのうちは、ええーっと大きく不満の声を上げ、頬を膨らませてごねていた渚も、真琴に宥められて、しぶしぶ飲み込んだみたいだった。 「また次にな」 まるで幼い子供に言い聞かせるようにやわらかい口調につとめてそう言うと、うん、分かったと渚は小さく頷いた。そうして、きゅっと唇を噛みしめた。 「でもでも、今度こそ、絶対、ぜーったいだからね!」 渚は声のトーンを上げてそう口にした。表向きはいつものように明るくつとめていたけれど、物分かりの良いふりをしているのはすぐに知れた。ふと垣間見えた表情はうっすらと陰り曇って、最後まで完全に晴れることはなかった。なんだかひどく悪いことをしてしまったみたいで、胸の内側が痛んだ。 ハルは、どうなんだ。ちらりとふたたび視線をやる。けれど、もうすっかり興味をなくしたのか、遙はロッカーから引き出したエナメルバッグを肩に引っ掛け、ふいっと背を向けた。 「あ、ハル」隣にいた真琴が呼びかけたけれど、遙は振り返らずに、そのまま出入り口へ歩いていってしまった。こんなとき、自分にはとっさに呼び止める言葉が出てこなくて、ただ見送ることしかできない。強く引っ掛かれたみたいに、いっそう胸がちくちくした。 「なんか、ごめんね」 帰り際、真琴はそう言って困ったように微笑んだ。何が、とは言わないけれど、渚の誘いと、多分、先ほどの遙のことも指しているのだろう。 「いーって。真琴が謝ることじゃねぇだろ」 軽い調子で答えると、真琴は肩をすくめて曖昧に笑った。 「うん、まぁ、そうなんだけどさ」 そう言って向けた視線の先には、帰り支度を終えて集まる渚、怜、江、そして遙の姿があった。ゆるく小さな輪になって、渚を中心に談笑している。この方向からでは遙の顔は見えない。顔の見える皆は楽しそうに、ときどき声を立てて笑っていた。 「言わなきゃ、分からないのにね」 目を細めて、独り言のように真琴は口にした。何か返そうと言葉を探したけれど、何も言えずにそのまま口をつぐんだ。 その後、合同練習としては一旦解散して、鮫柄水泳部のみでミーティングを行うために改めて集合をかけた。ぞろぞろと整列する部員たちの向こうで、校門の方向へ向かう岩鳶水泳部員の後ろ姿がちらちらと見え隠れした。小さな溜め息と共に足元に視線を落とし、ぐっと気を入れ直して顔を上げた。遙とは今日はそれっきりだった。 「行かなくて良かったのか?」 食堂で夕食を終えて部屋に戻る道中、宗介がおもむろに口を開いてそう言った。近くで、ロッカールームでの事の一部始終を見ていたらしかった。何が、とわざわざ訊くのも癪だったので、じっとねめつけるように顔を見上げた。 「んだよ、今さら」 「別に断る理由なんてなかったんじゃねぇか」 ぐっと喉が詰まる。まるで全部見透かしたみたいに。その表情は心なしか、成り行きを楽しんでいるようにも見えた。 「…うっせぇよ」 小さく舌打ちをして、その脚を軽く蹴とばしてやる。宗介は一歩前によろけて、いてぇなと声を上げた。けれどすぐに、くつくつと喉を鳴らして愉快そうに笑っていた。 「顔にでっかく書いてあんだよ」 ここぞとばかりに、面白がりやがって。
それから風呂に入っても、言い訳に使った課題に手を付けていても、ずっと何かがつかえたままだった。宗介にはああいう態度をとったものの、やはり気にかかって仕方がない。ちょっとどころではない、悪いことをしてしまったみたいだった。 だからなのか、電話をしようと思った。他でもなく、遙に。今日の後ろ姿から、記憶を上塗りしたかった。そうしなければ、ずっと胸が苦しいままだった。とにかくすぐに、その声が聞きたいと思った。 寮全体が寝静まった頃を見計らって、携帯電話片手にひと気のない場所を探した。いざ発信する段階になってから、きっかけが掴めなくて踏ん切りがつかずに、やけに悩んで時間がかかってしまったけれど。 それでも、やっとこうして、無事に遙と通話するに至ったのだった。 「…らしくないな、凛が自分からそんなこと言い出すなんて」 こちらの言葉を受けて、たっぷりと間を置いてから遙は言った。そんなの自分でも分かっているつもりだったけれど、改まってそう言われてしまうと、なんとなく恥ずかしい。じわじわと広がって、両頬が熱くなる。 「んだよ、いいだろ別に。そういうときもあんだよ」 「まぁ、いいけど」 遙は浅く笑ったみたいだった。きっと少しだけ肩を揺らして。風がそよぐような、さらさらとした声だった。 「でも、渚がすごく残念がってた」 「ん…それは、悪かったよ」 あのときの渚の表情を思い浮かべて、ぐっと胸が詰まる思いがした。自分のした返事一つであんなに気落ちさせてしまったことはやはり気がかりで、後悔していた。いっつもつれない、なんて、妹の江にも言われ続けていたことだったけれど。たまにはわがままを聞いてやるべきだったのかもしれない。近いうちにかならず埋め合わせをしようと心に決めている。 「次に会うときにちゃんと言ってやれ」 「そうする」 答えたのち、ふっとあることに気が付いた。 「そういえば、渚たちは?」 渚の口ぶりから、てっきり今晩は遙の家でお泊り会にでもなっているのだと思っていた。ところが電話の向こう側からは話し声どころか、遙以外のひとの気配さえないようだった。 「ああ。晩飯前には帰っていった」 「…そっか」 つい、沈んだ声色になってしまった。何でもないみたいにさらりと遙は答えたけれど、早々にお開きになったのは、やはり自分が行かなかったせいだろうか。過ぎたことをあまり考えてもどうにもならないけれど、それでも引っ掛かってしまう。 しばらく沈黙を置いて、それからおもむろに、先に口を開いたのは遙の方だった。 「言っておくが、そもそも人数分泊める用意なんてしてなかったからな」 渚のお願いは、いつも突然だよな。遙は少し困ったように笑ってそう言った。ぱちりぱちりと目を瞬かせながら、ゆっくりと状況を飲み込んだ。なんだか、こんな遙は珍しかった。やわらかくて、なにか膜のようなものがなくて、まるで触れられそうなくらいに近くて、すぐ傍にいる。 そうだな、とつられて笑みをこぼしたけれど、同時に胸の内側があまく締め付けられていた。気を抜けば、そのまま惚けてしまいそうだった。 そうして、ぽつんとふたたび沈黙が落ちた。はっとして、取り出せる言葉を慌てて探した。だんだんと降り積もるのが分かるのに、こういうとき、何から話せばいいのか分からない。そんなことをしていたら先に問われるか離れてしまうか。そう思っていたのに、遙は何も訊かずに、黙ってそこにいてくれた。 「えっと」 ようやく声が出た。小石につまづいてよろけたように、それは不格好だったけれど。 「あ、あのさ、ハル」 「ん?」 それは、やっと、でもなく、突然のこと、でもなく。遙は電話越しにそっと拾ってくれた。ただそれだけのことなのに、胸がいっぱいになる。ぐっとせり上がって、その表面が波打った。目元がじわりと熱くなるのが分かった。 「どうした、凛」 言葉に詰まっていると、そっと覗き込むように問われた。その声はひどく穏やかでやわらかい。だめだ。遙がときどき見せてくれるこの一面に、もう気付いてしまったのだった。それを心地よく感じていることも。そうして、知る前には戻れなくなってしまった。もう、どうしようもないのだった。 「…いや、わりぃ。やっぱなんでもねぇ」 切り出したものの、後には続かなかった。ゆるく首を振って、ごまかすようにつま先を揺らして、わざと軽い調子で、何でもないみたいにそう言った。 遙は「そうか」とひとつ返事をして、深く問い詰めることはしなかった。 そうしていくつか言葉を交わした後に、「じゃあまたな」と締めくくって、通話を切った。 ひとりになった瞬間、項垂れるようにして、肺の中に溜め込んでいた息を長く長く吐き出した。そうしてゆっくりと深呼吸をして、新しい空気を取り入れた。ずっと潜水していた深い場所から上がってきたみたいだった。 唇を閉じると、しんと静寂が辺りを包んでいた。ただ目の前にある自動販売機は、変わらず小さく唸り続けている。手の中にある携帯電話を見やると、自動で待ち受け状態に戻っていた。まるで何ごともなかったみたいに、日付はまだ今日のままだった。夢ではない証しのように充電だけが僅かに減っていた。 明るさがワントーン落ちて、やがて画面は真っ暗になった。そっと親指の腹で撫でながら、今のはきっと、「おやすみ」と言えば良かったんだと気が付いた。
なんだか全身が火照っているような気がして、屋外で涼んでから部屋に戻ることにした。同室の宗介は、少なくとも部屋を出てくるときには既に床に就いていたけれど、この空気を纏って戻るのは気が引けた。 寮の玄関口の扉は既に施錠されていた。こっそりと内側から錠を開けて、外に抜け出る。施錠後の玄関の出入りは、事前申請がない限り基本的には禁止されている。防犯の観点からも推奨はできない。ただ手口だけは簡単なので、施錠後もこっそり出入りする寮生が少なくないのが実情だった。 そういえば、前にこれをやって呼び出しを受けた寮生がいたと聞いた。そいつはそのまま校門から学校自体を抜け出して、挙げ句無断外泊して大目玉を食らったらしいけれど、さすがに夜風にあたる目的で表の中庭を歩くくらいなら、たとえばれたとしてもそこまでお咎めを受けることはないだろう。何なら、プールに忘れものをしたから取りに行ったとでも言えばいい。 そうして誰もいない寮の中庭を、ゆっくりと歩いた。まるで夜の中に浸かったみたいなその場所を、あてもなくただ浮かんで揺蕩うように。オレンジがかった外灯の光が点々とあちこちに広がって、影に濃淡をつくっている。空を仰ぐと、雲がかかって鈍い色をしていた。そういえば、未明から雨が降ると予報で伝えていたのを思い出した。 弱い風の吹く夜だった。時折近くの木の葉がかすかに揺れて、さわさわと音を立てた。気が付けば、ほんの半月ほど前まで残っていたはずの夏の匂いは、もうすっかりしなくなっていた。 寝巻代わりの半袖に綿のパーカーを羽織っていたので、さして寒さは感じない。けれど、ここから肌寒くなるのはあっという間だ。衣替えもして、そろそろ着るものも考えなければならない。 夏が過ぎ去って、あの熱い時間からもしばらく経って、秋を歩く今、夜はこれから一足先に冬へ向かおうとしている。まどろんでいるうちに瞼が落ちているように、きっとすぐに冬はやってくる。じきに雪が降る。そうして年を越して、降る雪が積もり始めて、何度か溶けて積もってを繰り返して、その頃にはもう目前に控えているのだ。この場所を出て、この地を離れて、���るか遠くへ行くということ。 たったひとつを除いては、別れは自分から選んできた。昔からずっとそうだった。走り出したら振り返らなかった。自分が抱く信念や想いのために、自分で何もかも決めたことなのに、後ろ髪を引かれているわけではないのに、最近はときどきこうやって考える。 誰かと離れがたいなんて、考えなかった。考えてこなかった。今だってそうかと言えばそうじゃない。半年も前のことだったらともかく、今やそれぞれ進むべき道が定まりつつある。信じて、ひたむきに、ただ前へ進めばいいだけだ。 けれど、なぜだろう。 ときどき無性に、理由もなく、どうしようもなく、遙に会いたくなる。
ふと、ポケットに入れていた携帯電話が震え出したのに気が付いた。メールにしては長い。どうやら電話着信のようだった。一旦足を止め、手早く取り出して確認する。 ディスプレイには、登録済みの名前が浮かんでいる。その発信者名を目にするなり、どきりと心臓が跳ねた。 「も、もしもし、ハル?」 逡巡する間もなく、気が付けば反射的に受話ボタンを押していた。慌てて出てしまったのは、きっと遙にも知れた。 「凛」 けれど、今はそれでも良かった。その声で名を呼ばれると、また隅々にまで血が巡っていって、じんわりと体温が上がる。 「悪い、起こしたか」 「や、まだ寝てなかったから…」 そわそわと、目にかかった前髪を指でよける。立ち止まったままの足先が落ち着かず、ゆるい振り子のように小さくかかとを揺らす。スニーカーの底で砂と地面が擦れて、ざりりっと音を立てた。 「…外に出てるのか? 風の音がする」 「あー、うん、ちょっとな。散歩してた」 まさか、お前と話して、どきどきして顔が火照ったから涼んでるんだ、なんて口が裂けても言えない。胸の下で相変わらず心臓は速く打っているけれど、ここは先に会話の主導権を握ってしまう方がいい。背筋を伸ばして、口角をゆるく上げた。 「それより、もう日も跨いじまったぜ。なんだよ、あらたまって。もしかして、うちのプールに忘れもんしたか?」 調子が戻ってきた。ようやく笑って、冗談交じりの軽口も叩けるようになってきた。 「プールには、忘れてない」 「んだよ、ホントに忘れたのかよ」 「そういうことじゃない」 「…なんかよく分かんねぇけど」 「ん…そうだな。だけど、その」 遙にしては珍しい、はっきりとしない物言いに首を傾げる。言葉をひとつずつひっくり返して確かめるようにして、遙は言いよどみながら、ぽつぽつと告げてきた。 「…いや、さっき凛が…何か、言いかけてただろ。やっぱり、気になって。それで」 そう続けた遙の声は小さく、言葉は尻切れだった。恥ずかしそうに、すいと視線を逸らしたのが電話越しにも分かった。 どこかが震えたような気がした。身体の内側のどこか、触れられないところ。 「…はは。それで、なんだよ。それが忘れもの? おれのことが気になって仕方なくって、それでわざわざ電話してきたのかよ」 精一杯虚勢を張って、そうやってわざと冗談めかした。そうしなければ、覆い隠していたその存在を表に出してしまいそうだった。喉を鳴らして笑っているつもりなのに、唇が小さく震えそうだった。 遙はこちらの問いかけには返事をせずに、けれど無言で、そうだ、と肯定した。 「凛の考えてることが知りたい」 だから。そっとひとつ前置きをして、遙は言った。 「聞かせてほしい」 凛。それは静かに押し寄せる波みたいだった。胸に迫って、どうしようもなかった。 顔が、熱い。燃えるように熱い。視界の半分が滲んだ。泣きたいわけじゃないのに、じわりと表面が波打った。 きっと。きっと知らなかった頃には、こんなことにも、ただ冗談めかして、ごまかすだけで終わらせていた。 ハル。きゅっと強く、目を瞑った。胸が苦しい。汗ばんだ手のひらを心臓の上にそっとのせて、ゆるく掴むように握った。 今はもう知っているから。こんなに苦しいのも、こんなに嬉しいのも、理由はたったひとつだった。ひたひたといっぱいに満たされた胸の内で、何度も唱えていた。 「…凛? 聞いてるのか」 遙の声がする。黙ったままだから、きっとほんの少し眉を寄せて、怪訝そうな顔をしている。 「ん、聞いてる」 聞いてるよ。心の中で唱え続ける。 だって声、聞きたいしさ、知りたい。知りてぇもん。おれだって、ハルのこと。 「ちゃんと言うから」 開いた唇からこぼれた声はふわふわとして、なんだか自分のものではないうわ言みたいで、おかしかった。 できるだけいつも通りに、まるで重しを付けて喋るように努めた。こんなの、格好悪くて仕方がない。手の甲を頬に当ててみた。そこはじんわりと熱をもっている。きっと鏡で見たら、ほんのりと紅く色づいているのだろう。はぁ、とかすかに吐き出した息は熱くこもっていた。 「あのさ、ハル」 差し出す瞬間は、いつだってどきどきする。心臓がつぶれてしま��そうなくらい。こんなに毎日鍛えているのに、こういうとき、どうにもならないんだな。夜の中の電話越しで、良かった。面と向かえば、次の朝になれば、きっと言えなかった。 「こ、今度、行っていいか、ハルの家」 上擦った調子で、小さく勢いづいてそう言った。ひとりで、とはついに言えなかったけれど。 「行きたい」 触れた手のひらの下で、どくどく、と心臓が弾むように鳴っているのが分かる。 無言のまま、少し間が開いた。少しなのに、果てしなく長く感じられる。やがて遙は、ほころんだみたいに淡く笑みを零した。そうして静かに言葉を紡いだ。 「…うん、いつでも来い」 顔は見えないけれど、それはひらかれた声だった。すべてゆるんで、溢れ出しそうだった。頑張って、堪えたけれど。 待ってる。最後に、かすかに音として聞こえた気がしたけれど、本当に遙がそう言ったのかは分からなかった。ほとんど息ばかりのそれは風の音だったのかもしれないし、あるいは別の言葉を、自分がそう聞きたかっただけなのかもしれない。あえて訊き返さずに、この夜の中に漂わせておくことにした。 「それまでに、ちゃんと布団も干しておく」 続けてそう告げる遙の声に、今度は迷いも揺らぎも見えなかった。ただ真っすぐ伝えてくるものだから、おかしくてつい吹き出してしまった。 「…ふっ、はは、泊まる前提なのかよ」 「違うのか」 「違わねぇけどさ」 「なら、いい」 「うん」 くるくると喉を鳴らして笑った。肩を揺らしていると、耳元で、遙の控えめな笑い声も聞こえてきた。 いま、その顔が見たいな。目を細めると、睫毛越しに外灯のオレンジ色の光が煌めいて、辺りがきらきらと輝いて見えた。 それから他愛のない会話をひとつふたつと交わして、あらためて、そろそろ、とどちらともなく話を折りたたんだ。本当は名残惜しいような気持ちも抱いていることを、今夜くらいは素直に認めようと思った。口にはしないし、そんなのきっと、自分ばっかりなのだろうけど。 「遅くまでわりぃな。また連絡する」 「ああ」 そうして、さっき言えなかったことを胸の内で丁寧になぞって、そっと唇に乗せた。 「じゃあ、おやすみ」 「おやすみ」
地に足がつかないとは、こういうことなのかもしれない。中庭から、玄関口、廊下を通ってきたのに、ほとんどその意識がなかった。幸い、誰かに見つかることはなかったけれど。 終始ふわふわとした心地で、けれど音を立てないように、部屋のドアをいつもより小さく開けて身体を滑り込ませた。カーテンを閉め切った部屋の中は暗く、しんと静まっていた。宗介は見かけに反して、意外と静かに眠るのだ。あるいは、ただ寝たふりなのかもしれないけれど。息をひそめて、自分のベッドに潜り込んだ。何か言われるだろうかと思ったけれど、とうとう声は降ってこなかった。 横向きに寝転んで目を閉じるけれど、意識がなかなか寝に入らない。夜は普段言えない気持ちがするすると顔を出してきて、気が付けば口にしているんだって。あの夏にもあったことなのに。 重なったつま先を擦りつけあう。深く呼吸を繰り返す。首筋にそっと触れると、上がった体温でうっすら汗ばんでいた。 なんか、熱出たときみてぇ。こんなの自分の身体じゃないみたいだった。心臓だって、まだトクトクと高鳴ったまま静まらない。 ふっと、あのときの声が聞こえた気がした。訊き返さなかったけれど、そう思っていていいのかな。分からない。リンは奥手だから、といつだかホストファミリーにも笑われた気がする。だって、むずかしい。その正体はまだよく分からなかった。 枕に顔を埋めて、頭の先まで掛け布団を被った。目をぎゅっと瞑っても、その声が波のように、何度も何度も耳元で寄せては引いた。胸の内側がまだいっぱいに満たされていた。むずむず、そわそわ。それから、どきどき。 ああ、でも、わくわくする。たとえるなら、何だろう。そう、まるで穏やかな春の、波打ち際に立っているみたいに。
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(2018/03/18)
両片想いアンソロジーに寄稿させていただいた作品です。
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kyoya-itata · 3 years
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このところずっと頭の中でLaughterのイントロが流れているのはなぜだろう。公式YouTubeを眺めていて気がついた、アップロード日時が2020年7月17日であることに。昨年の今頃、私はいろいろなことを思いながらこの曲を聴いていたのだ。動画のコメント欄を見ると、多くの人々がこの曲に祈りを託していることが伝わってくる。
音楽を聴いて誰が何を思おうと制御することはできないしむしろ自由だ。時として作り手の意図に反することもあるだろう。それでも言わせてほしい。
この歌が7月と共にあることが救いです。音楽は永遠だから。
もしもこの文を読んだために曲の捉え方が変わってしまった人がいたら余計なことをしたものだと思う。お詫びします。聴いてほしい気持ちに勝てなかった。こんなに美しい和音の連なりが生まれる地球で暮らせて幸せなので。特にAメロの伴奏は言葉にできない。
Music videoは美しい物たちで溢れた6分の映画です。私がこれ以上ごしゃごしゃ言うよりも再生するが早い。
https://www.youtube.com/watch?v=kff_DXor7jc
Reach for answerのこともまだまだ話し足りない。ご存知ない方にご紹介すると、Reach for answerは『Free! 劇場版-Road to the World- 夢』の劇伴であり、遙(主人公)が卒業したあとの岩鳶高校水泳部のメンバーたちが大会でリレーを泳ぐシーンで流れている。新入部員のロミオくんがフライングの恐怖を克服する印象的な場面だ。名作だらけのFree!劇伴の中で、私は特に強い思い入れを抱いている。
Blue DestinationをベースとしながらEVER BLUEがこんなに美しく織り込まれているなんて、加藤さんは本当にすごい方です(みんな知ってる)。私のお気に入りポイントは0:58からどんどんと音形が上がっていくところで、翼が生えたように空を感じる。これまで遙がいないのに遙の存在を感じる曲だったのが、完全新作劇場版ティザーPVによりどんぴしゃで遙の曲になってしまったんだな。いまだにPVを再生すると0:37でぶわりと涙が出てくる。
https://www.youtube.com/watch?v=FBwLJWcTBaE
私のピアノを聴いてFree!面白そうだな、昔やめたけどまた続きを観てみようかなと思う人が現れたら、こんなに嬉しいことはありません。なぜ明るい選曲をと違和感を持たれたかもしれないが、半分そのために投稿しました。
皆さんの心に寄り添う音楽がありますように。
大好きな人たちの元に笑顔がありますように。
2021. 7
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eidolon1087 · 4 years
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伽藍 01
伽藍         がらん
          宮古藍的屏風之下,一只金魚缽放置於檜木紋的櫃檯。
  簷廊,彼岸花綻放著,凜冽的鮮紅倒映於三途川的水紋粼粼,錦鯉悠游在水中,和室的琉璃光院,窗櫺懸掛著一只鳥籠,神的使者,八咫烏鴉在籠中啞鳴。
  這裡,是「伽藍」,梵語為saṃghārāma,靈魂修習神道的清淨居所。
 「今天入住了128個靈魂,出走了56個靈魂。」
 低沉嗓音輕聲說,一手托著臉,了無興致的登記於宿泊者名簿。
  深藍色髮絲飛舞於風中,俊俏白皙的容顏抬起,幽深的玄黑色眼眸望著入口處,他穿著昭和時代的黑色排釦立領襯衫,一只軍帽斜戴於髮絲之間,斗篷翻飛。
  宇智波佐助閉眸,煩悶的嘆了口氣。
  此岸與彼岸之間,往生的純淨靈魂會來到伽藍,修行神道,作為「神器」的備選。
  「今天也很努力的贖罪呢,佐助。」
 一名黑髮的男人微笑著,以雙手揉握著米飯,製作飯糰。
  俊秀白皙的容顏映照著晨曦,柔和的黑眸斂下目光,黑長髮於肩膀紮成了一束,他穿著火扇的立領上衣、圍裙,一道「鼬」字的小篆文體刺青,銘刻於頸項之間。
  宇智波鼬站在廚房,以飯匙在竹筒掬起了另一斛米飯,回眸,笑彎了眼。
  伽藍,因為是靈魂暫住修行的清淨居所,被稱為是「彼岸的酒店」。
  大正浪漫時代的木造建築物坐落於石磚街道,紙燈籠搖曳著,燈火照亮了藤屋,男女、老少的靈魂完成了今日的修行,享受著銀山溫泉,一起浸泡於露天風呂。
  「啊、好想回到高天原。」
 一名黑捲髮的男人打著哈欠,拿起了清掃用具,刷洗著公共澡堂。
  俊朗白皙的容顏一臉無奈,英氣的眉宇之間,黑瞳抬起,微捲的黑髮飛舞於風中,他從和室取下了鳥籠,手背,是一道「水」字的小篆文體刺青,作為神明的契約。
  宇智波止水打開了鳥籠,以神饌的果物餵食著八咫烏鴉。
  伽藍神(がらんじん),是伽藍的守護神,八百萬神明之末,被稱為「酒店經理」。
  「這樣的日子不知道還要多久呢。」
 止水一手托著臉,似乎是想捉弄佐助,閉眸,故作無奈的嘆了口氣。
 「因陀羅的轉世神明,宇智波佐助,觸犯了天條,被貶謫到伽藍作為守護神……
我們這些神器也要跟著一起受罪,擔任酒店經理的侍者。」
  他吐了吐舌,眨眼,開朗的漾笑,鼬在一旁也忍不住笑了出聲。
  ……….。
佐助沉默著,有些心虛的低下頭,兩位哥哥看著他的背影不自覺掩面偷笑。
    *
    海霧之彼方,低沉的雷鳴隱沒於天空,灰暗厚重的雲靄掩去了陽光,山雨欲來。
  煤氣街燈之下,北野町的洋房渲染了異國的風情,摩耶山的纜車搭載著觀光客,神戶港的觀景鐵塔坐落於岸邊,明石海峽大橋下的船隻揚起了風帆,駛入碼頭。
  這裡,是明治時代知名的港灣,神戶市。
  一名粉緋色髮少女回眸,以雙手提著書包,聽見了隱約的雷鳴。
  絕美白皙的容顏抬起,澄澈的翠綠色眼眸望著天空,細雨霏霏,濡濕了鳥囀鶯鳴,她穿著粉色系的高中���服,繫上了格子紋的領結,裙瓣飛舞著,走出三宮車站。
  春野櫻旋身,臨風佇立於石階上,雨水碎落於石磚地,暈開了濕潤的痕。
  ......下雨了?
  她以雙手舉起了書包,慌亂的躲進一間神社,雨水濺濕於鞋襪。
  明明是晴朗的天氣呀,怎麼會突然......
  此時,莊嚴的太鼓聲響錯落於耳畔,似遠似近,神秘、儼然,繚繞於霧隱之森。
  「那是......?」
 櫻不自覺止步,澄澈的翠綠色眼眸看著神社的鳥居之下,模糊的影子逐漸靠近。
  狐狸娶親(狐の嫁入り)。
 依據《古事記》的記載,如果晴朗的天氣下雨,就是狐狸舉行婚禮儀式的日子,下雨是為了提醒人類迎親隊伍即將出發,請別任意打擾,也有另一個說法是為了不讓人類看見狐狸新娘的面貌。
  紙傘下,一名穿著白無垢的女性走入神社,純潔、典雅,雪白的綿帽掩去了臉龐。
  神前式的隊伍演奏著雅樂,另一名穿著紋付羽織袴的男性與新娘並肩,接受祝福,紙燈籠的幽光搖曳著,穿著和服的孩子們走入神社,以雙手捧著一束栀子花。
  櫻屏息著,穿著白無垢的新娘抬眸,長睫之下,細長的黑瞳與她對視。
  ……那不是人類的眼睛。
  「唔......」
 櫻不自覺掩口失聲,踉蹌著,手中的書包掉落,雙腳癱軟,失去了意識。
  宿泊者名簿自動翻閱到最後一頁,“春野サクラ”的名字浮動於半空中。
  「人類……?」
 佐助低聲說,看著浮動於空中的名字化作墨水,浸入紙張中,綻放了光芒。
 「……為什麼人類會出現在這裡?」
  宿泊者名簿的備註欄位下方,寫著“人類”。
  伽藍的入口,一道朱紅色鳥居佇立於碧藍的海洋之中,刻畫了潮汐的痕跡。
  彼岸的酒店於大海延伸了水紋粼粼的倒影,燈影泅沉著,好似永無止盡的迴廊,滿潮,赤紅的朱砂鳥居倒映於水中,退潮,海水退去的岩岸沖蝕了生苔的石階。
  一名粉緋色髮的少女閉眸,沉睡著,側躺在海上鳥居的圓柱旁,濕髮散落於水中。
   「應該是神隱,誤入了彼岸吧。」
 止水俐落的躍上了枝梢,眺望於伽藍的入口,思忖著,環抱雙臂。
 「人類在神域是撐不過七天的,必須要趕快送小女孩回去才行,否則她在此岸的緣分會逐漸消失,最後就沒辦法回到此岸了。」
  神隱,在日語中的意義是“被神明、妖怪隱藏起來”。
  「此岸與彼岸的入口,七天才會再次開啟。」
 佐助煩悶的咬牙,一手拋開了宿泊者名簿,走出和室。
 「……真的很煩人。」
  「這名人類女孩的年紀似乎和佐助相近呢。」
 鼬看著佐助的背影,嘴角,是一抹好看的輕哂。
    *
    夕染暮色的天空之下,穿著和服的孩子們牽起了手,圍繞一圈,唱著童謠。
  「籠の中の鳥は(籠中的鳥兒)
いついつ出やる(什麼時候能出來?)
夜明けの晩に(黎明將至的夜晚)
後ろの正面だあれ?(背後的那個人是誰呢?)」
  栀子花搖曳著,小男孩、小女孩牽著手,人影錯落,圍繞的圓圈中央,沒有人。
  「背後的那個人,是誰呢?」
 孩子們回眸,白狐的側臉映照了夕陽的微光,細長的黑瞳半掩,咧嘴笑了。
  櫻不自覺瑟縮著身體,驚醒,冷汗濡濕了髮絲,喘息著,以指尖緊抓於床褥。
  「……妳醒了?」
 低沉嗓音輕聲說,佐助坐在和室的一隅,幽深的玄黑色眼眸抬起,與她對視。
  「這裡是……?」
 櫻抬眸,看著和室的琉璃光院,在床緣坐起,雪白側顏映照了柔和的微光。
  「伽藍,是一個靈魂暫住的地方。」
 佐助閉眸,一手摘下軍帽,以指尖輕撥了深藍色髮絲,淡然的開口。
 「神明與靈魂簽訂契約,以靈魂作為“神器”,伽藍就是靈魂修行神道的居所,靈魂完成修行之後,神明就會來挑選與自己契合的神器,靈魂就會離開……」
  「佐助,你這樣解釋,人類的女孩聽不懂吧?」
 鼬忍不住掩嘴,失笑,穿著立領上衣的背影坐在榻榻米的圓墊,砌了一壺茶。
  「伽藍,就是彼岸的酒店哦。」
 止水坐在簷廊,回眸,開朗的笑了,肩膀上的八咫烏鴉,鳴叫了幾聲。
 「各種設施都有,客房、餐廳、健身房,還有風呂,像是人類的五星級飯店一樣,以前是神明的招待所,現在是靈魂實習如何好好當一個神器的地方。」
  「你說,彼岸……?」
 櫻輕聲說,一臉困惑的以雙手抱著枕頭,看著和室、以及三名陌生的男人。
 「還有神明,靈魂,神器?」
  「妳的名字是櫻吧?宿泊者名簿是這樣寫的。」
 鼬輕聲說,將茶壺放上火缽,柔和的微笑著,散發了成熟的風雅氣質。
 「妳失去意識之前的事情,還記得嗎?」
  「我記得是放學後,一開始是晴朗的天氣,卻下起了雨。」
 櫻回憶著,澄澈的翠綠色眼眸斂下目光,幾綹粉髮滑落於白皙的側臉。
 「為了躲雨,我跑進了一間神社,然後聽見奇怪的太鼓聲響,濃霧中,看到一名穿著白無垢的新娘,我不自覺和新娘對上了視線,發現不是人類的臉,是狐狸……」
  「啊啊,稻荷神,那傢伙……」
 止水忍不住出聲抱怨,似乎是恍然大悟、又惱怒的拍了一下額頭。
 「每次都這麼任性,竟然看到想捉弄的人類就丟到這裡來!」
  「誒?」
 櫻抬眸,長睫之下,清澈的碧綠眼瞳好似花間彌生的湖影,粼粼而動。
  「……聽起來,似乎是稻荷神讓妳神隱了呢。」
 鼬取下火缽的茶壺,一手斟壺注入茶水,無奈的笑了。
  「妳看到了狐狸娶親,是不祥之事。」
 佐助輕聲說,反手戴上了軍帽,幽深的玄黑色眼眸與她對視,嘆了口氣。
 「稻荷神那傢伙,似乎是覺得妳很有趣,就丟到這裡來了。」
  「……誒誒誒誒誒?」
 櫻不自覺往後跌落於床邊,以雙手緊抓著枕頭。有、有趣?
    *
    「佐助是一個神明哦。」
 止水佇立於湖畔,以手上下拋擲著一個石頭,似乎在瞄準著最佳的角度。
 「伽藍是彼岸靈魂修行的清淨居所,佐助做了一些事情讓其他的神明不太高興,所以呢,就被流放到這裡來了,守護著伽藍的神明,被稱為“伽藍神”。」
  鳶尾花綻放著,龍鳳錦鯉泅泳於水紋粼粼之中,柔和的擺尾、悠游,湖光瀲灩。
  「那麼,止水哥和鼬哥哥也是神明嗎?」
 櫻坐在和室的簷廊,玻璃風鈴旋轉著,清脆的鈴音迴盪於紫藤花飄落的庭園。
  「不,我和鼬都是佐助的神器。」
 嘿、止水俐落的反手,以準確的20度夾角拋擲出石頭。
 「……神器嘛,以人類的語言來說,就是神明的武器吧?」
  打水漂的石頭在水面彈跳了一次、兩次、三次、四次、五次,接著,沉入水中。
  「伽藍神的工作是登記入住、退房的靈魂。」
 止水回眸,一臉開朗的笑了。
 「因為工作的內容就像是管理著彼岸酒店的經理一樣,所以又被稱為酒店經理。」
  紙拉門被推開,一名黑髮男子探首,俊秀白皙的容顏映照了湖水的微光。
  「啊、小櫻,妳在這裡。」
 鼬微笑著,拿著親手做的三色丸子,招了招手,示意她過來。
 「……我幫妳做了點心,還有一些東西要給妳。」
  和室,三色丸子吃完的竹籤擱置於瓷盤中,火缽的茶壺飄散了縈迴繚繞的煙縷。
  「……這件穿起來合身嗎?」
 鼬欠身,在收納箱翻找著,一手拿起了小紋和服、浴衣。
 「如果要在這裡留宿的話,還是要有替換的衣服比較好呢,可以掩蓋人類的氣息……所以,我在倉庫找到了一些女性的衣物,妳試試看哪一件合身,就換上吧。」
  鏡中,花樣年華的少女,從紙拉門半掩的另一間和室走了出來。
  粉緋色髮絲之下,絕美白皙的容顏抬起,澄澈的翠綠色眼眸望著全身鏡中的自己,她穿著撫子色的振袖和服,華麗的繪羽圖案垂墜於袖口,繫以立矢結的腰帶。
  櫻回眸,旋身、原地轉了幾圈,和服的振袖好似吹雪般散落的花舞,如夢似幻。
  「看起來很適合妳呢。」
 鼬笑了,俊秀白皙的容顏勾起了一綹柔和的弧度,面色溫煦的為她整理衣袖。
  「哇啊,好可愛呢。」
 止水從廚房拿著另一盤三色丸子,走入和室,回眸,笑彎了眼。
 「吶,佐助,你覺得小櫻穿這件好看嗎?」
  ……….。
 佐助不語,軍帽之下,俊俏白皙的容顏沉著臉,環抱著雙臂,煩悶的嘆了口氣。
  櫻抬眸,與鏡中的佐助對視,可愛白皙的容顏渲染了淡淡的紅暈,一臉羞怯。
  唔……
 兩人驚覺對上了視線,羞紅著臉,神色慌亂的別開了目光。
  簷廊,八咫烏鴉於鳥籠中啞鳴了幾聲,不安的騷動著,曜黑的羽翎散落。
  「......啊啊,今天又出現了呢。」
 鼬回眸,俊秀白皙的容顏輕哂,黑瞳望著天空,似乎感受了某種不祥的氣息。
  「誒,是什麼出現了嗎?」
 櫻看著鼬的側臉,澄澈的翠綠色眼眸倒映了好看的輪廓。
  「哼。」
 佐助走出和室,俊俏白皙的容顏斂起了神色,幽深的玄黑色眼眸抬起,目光一凜。
 「……人類的氣息會吸引妖怪。」
  伽藍的入口,一只蜇伏的魔物蠢動著,蛇妖般的身體纏繞於海上鳥居。
  妖異舞魅的魔物泅沉於海水中,面色猙獰的咧開了大口,百目鬼的眼睛轉動著,牠嗅聞著人類的氣味,一臉癲狂、嗤笑的以頭部衝撞於神域鳥居所劃下的結界。
  「時化了嗎?」
 鼬輕聲說,俐落的躍上了瓦簷,黑髮紮起的馬尾飛舞於風中。
  棲息於人類的死角之中,那就是……妖。
 妖魔身負怨念和詛咒,大小、姿態不一,但是全都沒有生命,是彼岸的謎樣存在,此岸的人類是看不見妖魔的,可以看見它們的是動物與孩童,以人類為食。
  「看來是晚了一步,已經時化了。」
 佐助望著妖魔身旁的黑暗氣息,一臉淡漠。
  妖魔相當喜歡陰鬱的氣氛,斬殺牠們的神明,將之稱為“時化”。
  「那麼,只能斬開它了?」
 止水輕咬著三色丸子的竹籤,伸了伸懶腰,回眸,自信的一笑。
 「但是這種大小的妖怪,佐助應該兩三下就解決了吧。」
  「那個是……」
 櫻走出了和室,澄澈的翠綠色眼眸望著妖魔,顫然的低語著。
  「妳待在這裡。」
 佐助旋身,修長指尖握緊了櫻的手,幽深的玄黑色眼眸與她對視,神色凜然。
 「那東西是為了妳才出現的,不要靠近它。」
  櫻屏息著,絕美白皙的容顏羞紅了臉,感受著指尖的溫度,一時語塞。
  「佐助,發動一次讓小櫻看看吧。」
 止水微笑著,看著佐助的眼神,像是一名對於後輩感到驕傲的兄長。
 「你可是因陀羅,雷電暴風之武神,別忘了,伽藍神只是暫時的職稱而已。」
  佐助以指尖解開了頸項之間的鈕扣,黑色斗篷彷彿脫籠之鳥,飄然的飛落風中。
  逆光之中,伽藍神的服裝似是流沙般的消散,一瞬幻化為白練色的立領和服。
  神器(しんき),就是得到神許可的武器。
 往生的靈魂徘徊於彼岸之時,被神召喚,而與神明簽訂契約,賦予其容身之所,從此長久留在該名神明身邊,平時是人類的姿態,主人呼喚時會變化為某種武器,侍奉不同的主人則作為武器的型態也會不同。
 神明擁有賜名的權力,賜名會以漢字的形式銘刻在身體上,名為訓讀,器為音讀。
  掌管雷電與戰事的武神、軍神,宇智波佐助的目光一凜,深藍色髮絲飛舞於風中。
  「獲持諱名,止於此地。」他閉眼,抬起手。「假名已稱,為吾僕眾。」
 低沉嗓音在嘴邊輕喃未知的咒文,白練色和服繫著注連繩的腰帶,穿戴了長靴,修長指尖的前端燃起了靛藍色光芒,俐落、傲然的以指尖於風中劃開光之軌跡。
 「從此尊名,其皿以音,謹聽吾命,化吾神器。」
  佐助睜開了雙眼,以指尖在面前結成刀印。「鼬器、水器。」
  此時,銘刻於兩名黑髮男子頸項與手背的漢文「鼬」、「水」二字,綻放了光芒,止水與鼬對視著,微笑,神之契約,具像化的小篆字體躍然的浮動於半空中。
  柔和的白色光芒包覆了止水與鼬的身體,化作光箭直抵於佐助的手心。
  深藍色髮少年俐落的揮袖,一只火紋的草薙劍於風中閃動著凜然的鋒芒。
  「神明、因陀羅……」
 櫻不自覺低喃著,澄澈的翠綠色眼眸望著佐助的背影,無聲顫動。
          _待續
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ssuziii · 5 years
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[凜遙]後日談
本來是在寫同居三十題的相擁入眠,後來跑題了乾脆獨立出來吧xD
時間軸按照官方
隨心所欲的寫,自己很喜歡的一篇(* ॑꒳ ॑* )
/
  在澳洲的時候他們是背對背睡著的,松岡凜沒說出口的是,他其實很想擁抱對方。
  接到真琴的電話以後,他能想到的就只有帶遙去看看澳洲的海水,去體會他體會過的那些激昂澎湃的心情。不知道有多久沒有和遙單獨相處,從下飛機開始他的腳步就快得讓遙差點追不上,他不停地在腦中思考如何組織語言,畢竟突然要對方跟自己去一趟澳洲怎麼想都很荒謬,更荒謬的是遙居然答應了。
  「……我啊,一直都很憧憬你。」
  在各種句子排列組合後,凜吐出的是這句,他真的尷尬到想立刻消失。
  摸摸後腦杓要遙跟上,沒有特別著墨那句話想表達的意思,逕自帶遙去他和維尼一起看海的那個沙灘。他跟遙說了他在澳洲的故事——一直以來都只有宗介知道的那些,遙是第二個。他當初怕遙知道他在澳洲挫敗的樣子一直沒有說出口��自尊心也告訴自己不能讓自己脆弱的樣子被他看見,然而當遙將自己蜷縮在沙灘上對海水不聞不問的時候,他突然有些心疼。
  他心疼遙在水裡得不到自由,也害怕再也沒有機會和遙一起游泳,被喜歡的事物束縛住該有多麼痛苦啊,這點他不是最清楚的嗎。
  他帶著遙去看了他看過的風景,那時的自己是孤身一人,只能望著海平面思念著幾千幾萬公里外的人,可是現在,那個人就在身旁。
  「——我希望你一直走在我的前面,你得比我走得更高更遠才行。」
  凜閉著眼睛,眼前浮現的是第一次見到遙的時候他輕輕甩掉頭髮上水珠,眼神平和,與世無爭自由自在的樣子,從那時起他就一直在追逐那個人,每一次遙在水裡擺動著雙腿,他就覺得遙是人魚,不小心就會變成泡沫,所以他一直小心翼翼地不要被他發現自己有多麼喜歡他。
  他問:「遙,那時候你沒有感覺到什麼嗎?」
  飯店插的百合花散發著淡淡清香,和遙的沉默一起飄散在空氣中,凜看著他的背影想伸出手,理性卻又告訴自己該止住,他用盡所有的力氣告訴人魚他有多想和他一起在湛藍的海裡游泳,可是人魚沒有回答。
  回國以後就是全國大賽,凜同他鮫柄的隊友和遙在決賽上相遇,接力到最後一棒時鮫柄稍微領先,凜縱身一躍,緊接在後是岩鳶的隊伍,遙約以零點幾秒之差跳入水中,一直到轉身前凜都保持領先,但是後方卻有股不容忽視的力量,強烈的水波在泳池裡翻騰,凜加快了划水的速度卻擺脫不了在後方緊咬的遙,於是他們平行僵持,在終點前十公尺內凜被超越了,以微秒之差輸給了遙。
  那天岩鳶走得很快,凜也得整理部員,他沒有多餘的時間去找遙。
  所以晚上他約遙到岩鳶國小看看那棵櫻花樹,天氣還有點涼,尚不是開花的時節,但是隱約能看到幾朵花苞正在等待開放。
  「今天你的表現真是棒呆了!」他說。
  「你也是。」
  遙淡淡地笑著,從澳洲回來後他認為追求速度的競泳也未嘗不是個選擇,他開始想要站上世界的舞臺,和凜一起。
  「……遙,你知道的吧,之前在澳洲的教練問我要不要回去。」
  「嗯。」
  「一直以來我都追求著勝負,但是對我來說更重要的是夥伴,雖然去了澳洲就是個人賽的訓練,可能暫時沒辦法游接力了,但是我不會放棄的,不管是過去還是現在,我都喜歡和你們一起游接力的感覺。」
  他突然有點想哭,喉嚨像是哽著什麼似的無法呼吸,很快就要春天了,到那時,他就會離開,離開岩鳶町、離開鮫柄、離開遙。
  「凜?」遙發現對方不太對勁,忍不住開口喊他的名字。
  「……你會來找我吧?」他低語。
  「什麽?」
  「我們用不同的方式站上世界的舞臺,到那時你會來找我的吧?」
  凜把頭抬起來,視線對上遙那雙湛藍的眼眸,遙回答:「會的。」
  他眼角一熱,終於忍不住哭泣,他好想在那雙眸子裡永存,他希望遙只看著他,如果藍色的眼睛是海,那他就是魚,魚不能離開海洋,就像他自己無法想像離開七瀬遙。
  六年前去澳洲的時候他每天都在想念他,寫了信卻不敢寄出去只好寄給宗介,但他不知道宗介早已把那封信交給遙,更不知道遙一直都將它好好收著,他只知道在澳洲每個難過痛苦的日子,只要想到海洋另一端的遙他就能撐下去。
  可如今逐漸膨脹的心情已經快要撐不住了,他不想離開遙也不想放棄夢想,他覺得自己真是個貪心的大爛人。
  「吶遙……」他吞吐,語氣中還有剛剛哭過的鼻音:
  「你會不會捨不得我?」
  聞言,遙的臉上閃過一絲驚慌,像是心思被人看透那般,他皺著眉頭,無意識地張開嘴想說什麼,又被他吞了回去,他不知道現在應該看未開花的櫻花樹,還是有他們兩個足跡的沙地——或是凜。
  「我……」
  「我啊,可是超級捨不得你的啊。」
  正想開口,凜先說話了,他露出他尖尖的牙齒輕笑,沒有看遙,只是低著頭露出悵然若失的表情。
  「我說過我在澳洲的那段時間常常過得很不順利對吧?可是每一次當我到海邊的時候,我都會想,在這片海的另一端有你在,想到這裡,我就覺得什麼困難我都能克服。」
  「那你當初回來還那麼盛氣凌人的樣子。」
  「抱歉,因為那時被勝負沖昏頭了嘛。」
  他笑著轉過頭,繼續說:「我原本以為我能和那時候一樣,靠著想念你就能度過,可是越接近離開的時間,我才發現我沒辦法將你放下。」
  「凜……你……」
  「……因為我真的好喜歡你啊。」
  語畢,凜赤色的眼睛泛起淚光,就像日暮時分夕陽下的波浪。
  他一邊用手胡亂抹掉臉上的眼淚,但淚水卻無法停止地湧出,他低低咒罵:「可惡……都幾歲了還哭成這樣,有夠丟臉……」
  「我會。」
  「哈?」
  「我說我會捨不得你。」
  凜疑惑的看著遙,而對方則是一如既往那個冷漠的表情。
  「你去澳洲的那陣子,我才發現你不在我身邊我有多寂寞。」他說。「是你告訴我接力的美好,初中一年級我還認識了幾個新的夥伴,我們一起游了接力,可是當棒次傳到我這裡而那不是你的時候我卻覺得心裡很不好受。」
  遙撇過頭,凜注意到他的耳朵微微泛紅,他不知道那是不是他所想的樣子,不過至少知道自己沒有被討厭,他鬆了一大口氣。
  「而且其實,山崎有把一封信交給我。」
  「宗介!?什麼時候……」
  「初中一年級,比賽的時候有遇到。」
  「可惡……那傢伙……」
  凜記得那一封信,他本來想寄給遙,卻不好意思,只好把遙的名字全部改掉寄給宗介,想到那些內容很早就被遙看過了,他尷尬得漲紅了臉,咬牙切齒心想明天去學校絕對要胖揍那個混帳。
  「凜,你不在的這段時間我會精進自己,然後追上你,到時候再來一決勝負吧。」
  凜聽完以後噗哧出聲,抱著肚子大笑:「不愧是遙啊,我剛剛的告白頓時都不浪漫了。」
  遙不悅地皺眉,喂了幾聲都被笑聲掩蓋,他惱怒得正想轉身卻被凜抓住手腕,和過去不同,凜的力道很輕,像是試探,不用太用力就能掙脫,可是遙並沒有甩開。
  「我會非常想你的,遙。」
  遙臉上的紅暈從耳尖蔓延到臉頰,他低下頭,下意識地用另一隻手遮住臉,凜看著他,問道:「我能抱你嗎?」
  「喂……你在說什……」
  「如果不可以的話就拒絕我啊。」
  「……也不是、不行……」
  止不住的笑意綻放在凜的嘴角,他伸出雙臂將遙抱緊。自從發現自己喜歡遙以後他沒有一天不想這麼做,就連他們一起去澳洲對他而言都像是一場夢,而現在他卻真真切切的感受到遙急促的心跳和自己的重疊,這不是夢。
  那天晚上凜向宿舍申請了外宿一日,理由是回家探親。
  他去了遙家,吃他做的鯖魚飯,聊了在澳洲的故事,遙也講了中學時候的事。在凜又一遍一遍強調自己多麼喜歡遙的時候,遙忍不住躲到浴室冷靜,凜就蹲在外面等他。
  其實他超想衝進去的。
  關燈以後他們親吻彼此,然後哪一方都不願先闔眼,凜將手放在遙的腰際,另一手輕輕撫摸他的頭髮,他想著,閉眼的前一刻看見的是遙,睜眼後第一個見到的也是遙,他的身影、他的睫毛、他的頭髮,他都想好好記著,然後帶著這份心情前往澳洲,因為他知道海的另一端有遙在,僅僅這點就讓他感到喜悅。
  凜在遙的眼裡看見了自己,他想,他終於找到了容身的海洋。
END
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helveticaneues · 7 years
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     一
『こんなの愛だなんて、認めない』  遠くから、ふっと芝居がかった女の声が耳に飛び込んできて、触れていた凛が動きを止めた。いや、遙も。遙もだった。あまりに同時のことで、どちらが先に声に気を取られたのかすぐにわからなくなった。  声がしたのは、つけっぱなしの、テレビからだった。  教習所の帰りに二人で夕飯を食べて、岩鳶の家に帰ってきてからしばらく、壁にもたれるようにしてお互いの頬や、唇や、鼻筋や、その気配で遊んでいた凛が、遙とほとんど同時に顔を逸らし、自ら光るテレビの画面を見つめた。遙が気を取られたのはあまりに一瞬だったので、すぐに目の前の少し汗ばんだ筋張った首筋にふたたび引き寄せられる。  遙の家に、凛が来ていた。  今更ながら、どうしてこんなことになっているのだろうとは、思う。だが筋張った首筋に唇を押しつけるとすぐにどうでもよくなった。  二人で自動車教習所に通い始めたのは、少し前のこと。仮免の試験を受けられるのは十八歳の誕生日から。凛が逆算して教習所に通い始めたとき、なぜか一緒に行かないかと誘われた。  遙はそのころ、真琴もクラスメイトも皆、受験に向けて忙しく、スポッと穴に落ちたみたいな気分でいた。気が向いたら自力で出られる心地よい空白めいた場所で、しばらく一人で過ごすつもりだったのに、ふっと気がつくと隣に凛がいた。昔からそうしていたみたいに凛が隣にいた。  そして何度か教習所の帰りに、週末に、凛が家に来た。セックスをした。  今日も、一緒に遙の家に帰ってきて、風呂に入って、テレビを見ていたら、自然とそういう流れになった。遙も凛で遊びたくなった。頬を引っ張り、首筋に唇をつけた。唇を甘く噛む。水の味がする。まだ湿ったままの髪を噛んだ。  だが、凛に触れていた間にすっと他人の声が入ってきた。  苛立ちと言うよりも不思議な気持ちでそれを見つめた。  テレビの画面では、どこかで見たことがある若い女優が、母親役と思われる女にそう言い放ったところだった。いつの間にかさっきまで見ていたどうでもいい情報番組は終わり、ドラマが始まっていたらしい。 『あたしは認めない。これが愛だというのなら、あたしはいらない』  俯きがちに、泣きじゃくる女を、凛とただ眺めた。  視線は画面に据えたまま、凛が尋ねてきた。 「……ハル、このドラマ見たいのか?」 「いや。テレビ消すか」  遙は立ち上がってテレビを消し、ついでに電気も消してしまった。目が慣れないせいで一瞬、何も見えない。戻ろうとすると、思ったよりも凛は近い場所にいて、足を引っかけてしまった。 「痛っ。蹴るなよ、ハル」 「凛の足が長いのが悪い」 「……そう褒められると悪い気はしねえな」  嬉しそうな声だ。暗闇から手を引かれた。ぱちっと音がして手首を掴まれる。膝をついた先はふたたび凛のすぐそばだった。あたたかい、気配がする。目が慣れてくる。暗くなった視界の端で、消したばかりのテレビが、余韻を残すようにうすぼんやりと光って見える。  ふたたび闇雲に引き寄せられ、キスされた。唇に息がかかる。今度は凛の顔がちゃんと見えた。  自ら光を放つよ��に明るい色をした凛の瞳が見えた。そしてそれが少し、からかうように笑う。目が細められた。 「……こんなの愛だなんて、認めない」  芝居がかった凛の声。凛が笑う。薄く開いた唇の赤は見えない。  凛が軽く言う。テレビの中の台詞を真似てみただけだ。全部が冗談だ、って言うみたいに凛が笑う。  だが、遙はその言葉でなんとなくわかってしまった。どうしてお互いに、その声が耳に飛び込んできたのか。  ——こんなの愛だなんて、認めない。  そして認めるとか、認めないとか、そんなことが、お互いに心のどこかでずっと気にかかっていたからなのだ。
     二
 遙はコーチと兼業で泳がせてもらっている大学を出、車で家路についた。変わらない岩鳶の家を目指す。  どこかでスーパーに寄らないと。今日の夜は何を食べようか……と考えたが、来週は大学の水泳部に帯同するから、あまり買いだめはできそうもない。まあ、だが、何をするにしても一人暮らしなので気楽なものだ。  国道をしばし走り、途中のスーパーの駐車場に車を停める。しばらく肉を食べていないな、と思ったので豚肉を買った。あと日持ちする卵と。魚は確かまだ冷凍室に入っている。白菜も近所の人から貰ったものがある、とピーマンとにんじんと片栗粉と牛乳を買った。 店を出る時に唐突に、「七瀬さん!」と子連れの妙齢の女性に声を掛けられた。「がんばってくださいね!」と言われた。これでは同級生か、ただの応援の人かわからない。だが、遙は一度深く頭を下げた。  後部座席に袋を投げ込んで助手席に座り、エンジンをかけたところで、もうすぐ食器用洗剤がなくなることを思い出したが、戻るのも面倒だ。そのまま遙はサイドブレーキを下げて車を動かした。  どこまでも、見慣れた田園風景が広がっている。空はどこまでも続く曇天だ。風は強い。遠くの山が、まだ新緑の残るまだら模様で、春の名残を残していた。桜は終わっていたが、田植えの準備か、畑には人が出ている。  海はまだ見えないが、駅を通り過ぎ、このまままっすぐ行けば海が見えるところまできた。  信号を一つ、過ぎたところだった。  パッと視界に入ってくる男の後姿があった。  大きな紙袋を持った、細身のグレイスーツの男が歩いている。後ろ姿だけなのに、雰囲気のせいなのか、歩き方のせいなのか、こんな場所で見かけるにはあまりに異質で、思わず通りすがりに見てしまった。  ——あ、と声が出た。  咄嗟の自分の目が信用できない。  こんなところにいるはずがない。  横顔で、その雰囲気で。そう思ったが、たぶん見間違いだ。そのままアクセルを踏もうと思ったが、どうしても一瞬の感覚を流すことができない。  遙は一秒、二秒、心の中で逡巡してから、車を路肩に寄せて止めた。ウィンカーを出してハンドルを握ったまま後ろを確認する。  まっすぐに、だがゆったりと歩いてくる男が見えた。  近づいてくる。車を停めた遙に気づく様子もなく、海からの風を浴びながら、男が近づいてくる。表情まではよく見えない。  だが、こんなところにいないはずの男がいる。  それはもう、間違いがない。 「凛」  声が出た。遙はもはや疑いようもない人の名前を無意識に口に出していた。  窓を開け、助手席に身を乗り出すようにして声を出す。  迷いはなかった。今は、迷ってもいい関係であるような気がするが、声を出した瞬間は、何も迷わなかった。 「凛!!」  近づいてくる凛は、物思いにふけるようにぼんやりしていた。その表情が、遙を見つけた瞬間にふっと崩れた。豆腐を千切って味噌汁に入れた気分だ。そんなことを思った。脆い、としか言えないその変化を、遙は何も言えずにずっと見守ってしまった。  凛は呼ばれた声に小さく口を開き、誰だ、という警戒心を覗かせ、遙だ、と気づいて、驚いて、おそらく気まずくて、驚いて、たぶん少し安堵して、驚いて、驚いて、ぼろぼろと何かが剥がれ落ちるようにゆっくりと崩れていった。  そして、それから、少しだけその表情を取り繕った男が車に近づいてきた。開いた車の窓からこちらを覗き込む。 「ハル」 「どこ行くんだ? 乗ってくか?」 「…………海でも、見ようかと」 「帰ってたんだな」  気まずそうに窓枠に手をかけた男に、遙もどこから何を尋ねていいのかわからなくなる。「じゃあ、乗っていけ」とロックを外すと、凛は一瞬逡巡を見せたもののやがてドアに手をかけた。  海風のせいか、他に理由があるのか、凛の鼻の頭と目の周りが赤かった。凛は助手席に収まり、大きな荷物を膝の上に抱える。 「凛、泣いてたのか?」  もう少しオブラートに包もうと思ったのに全然だめだった。二言目にそう尋ねると、凛が拗ねたように唇を尖らせた。 「泣いてねー……。いや、最中はさすがにうるっとしたけどよ。それは普通だろ? あ、いや、今日は鮫柄の後輩の結婚式だったんだ。ハル、お前、名前言って覚えてるかなあ」  そう言って口にした名前は、覚えているような覚えてないようなやつで、ただ黙っていると「その反応、ハルっぽい」と静かに言われた。怒られはしなかった。  だが、なるほど。今日は大安吉日の土曜日。凛が抱えている巨大な袋は引き出物か。  だが、それにしても終わりの時間が早い。まだ夕暮れまでも間がある時間で、遙はほんの少しだけ春の名残を残す浅い色をした木々を眺めた。 「二次会、行かなかったのか?」 「そこからかよ。いや、出席出した時は今日中に飛行機に乗るつもりだったから……。予定変わったんだけどな。二次会、飛び込み参加でもよかったんだけど、まあ、ちょっとな。先輩がでかい面してもな。実家にも顔を出したいし」 「そうか。凛は有名人だしな」 「それはお前もだろ?」  横目で笑われた。自分で言っておきながら「有名人」の定義がわからない。五輪のメダリストを有名人というのなら、確かに有名人かもしれないが。それだけで一生食えるかというと、怪しいものだ。  二度出たオリンピック。取れたメダルは三つ。それはただ、これから正しく生きなければいけないという枷にも近い。  車でゆっくりと坂を下る。傾きだした太陽が、目を刺すようだ。 「……ハル、元気だったか?」 「ああ」   ——凛と会うのは半年振りだった。  三十の坂を越え、自分の体と相談することが増えた。一年前には足首の手術もした。  その足首の怪我の経過が芳しくなく、バランスを取っていた膝にもがたがきた。春の大会には出なかったから、凛と会うのも久しぶりだ。  もともとは怪我はそこまで多くないほうだったが、最近は違う。毎朝起きてストレッチをしながら、体に尋ねる。腰はいつも通り。腕、肩甲骨、首、動く。膝、今日はまし。毎日がその確認の繰り返しだ。  それだけを繰り返しながら、東京で競泳をすることに限界を感じ、地元の大学から声を掛けられていたこともあり、去年、コーチ兼業の取り決めで地元に戻った。少し距離はあるが、岩鳶の家からも通勤圏内だ。おかげで、精神的にはだいぶ安定した。  凛も、競泳を続けているが、十年前と全く同じというわけじゃない気がする。どういうスタンスで泳いでるのか逐一話すほど近い関係ではなくなってしまったが、それくらいはわかる。華やかな容姿のせいか競泳選手としてテレビに出ることも多い凛は、忙しくオーストラリアと東京を行ったり来たりしている。五年前だったら出なかっただろう。  ……自然と、会う機会は減った。  半年振りもになるわけだ。  車はほどなく海岸線を走る道へと辿り着き、すぐに遙は海辺の駐車場に車を停めた。  迷いなくドアを開けて車を降りる凛と一緒に遙も外に出た。「じゃあな」とこのまま帰る気にもならなかったのだ。ついてくる遙に、凛は何も言わなかった。砂を踏み、砂で埋もれそうになっているコンクリートの階段を下りる。踏み込むたびに埋まる靴に、凛のきれいに磨かれた靴がどんどん白くなっていく。遙も靴の中に入り込んでくる砂だけが不快だった。だが、海と凛の姿を見ていると心が凪いでくる。  夕暮れが近づいている気配はするが、まだ昼の範疇だ。夏でも冬でもない海辺には、遠くに地元の子どもたちと家族連れがいるだけで、誰もいなかった。風だけが強い。波の音と、防砂林と背の高い草が一斉に音を立てていた。声を張らないと届きそうもない。  海はきれいだった。白波に、透明度を増す夏の気配だけがする。小さな船が港に向かって戻っていく。  凛の隣に立って、凛越しに日の光を眺めた。凛は変わったようで変わっていないな、と思う。姿勢の良い姿にぱっと視線を奪われる。どこにいても凛だけは見間違えない。歩道を歩く凛を、どうしたって見つけてしまったみたいに。
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ohmamechan · 7 years
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沖をゆく青い舟
 ※大昔に出した本の、短編を中途半端に再録です。  夏合宿の前に、一日だけ実家に戻った。  母が物置をひっくり返して大騒動をしているので何かと思えば、遺品の整理をしているのだと言う。 「来年はお父さんの十三回忌でしょう?久しぶりに、色々片付けようかと思って」  そう言いながらも、母が何一つ父に関わるものを捨てる気が無いのを知っている。七回忌の時もそうだったからだ。  仕舞い込まれていたものを取り出しては並べ、天日に干して、また元通りに収める。  各種大会で取ったメダルや額入りの賞状。トロフィー。くたびれた皮のジャケットやジーンズ、ぼろぼろのスニーカー。色あせた大漁旗。古びたランタン。  とりとのめのない、父を思い起こさせる物ものたち。  それらは、普段は目のつかないところに収められているけれど、その物ものたちの存在を忘れることは決してない。母は特にそうだろう。普段の食事や、居間で和んでい る時、ふとした会話の端々に、父の存在を滲ませる。父がいたこと、父が今はもうこの世にはいないこと、そのどちらも当たり前にしている。母はそんな話し方をする人だ った。 「このTシャツなんか、もうあんたにぴったりじゃない?」  時代を感じさせるスポーツメーカーのTシャツを、背中にあてがわれる。靴を脱ぎ終わらないうちから、母が玄関に飛んできてそんなことを言うのだ。  江は、居間にテーブルにアルバムを広げて、色あせた写真を眺めていた。 「いっつも思うんだけど、私もお兄ちゃんも、ちっともお父さんに似てないのよね。花ちゃんのとこは、みんなお父さんに似てるのよ。娘は父に似るって言うけどうちは違 うわね。全部、お母さんに寄っちゃったみたい」  などと、一人で何やら分析している。  そこへ母が戻ってきて「ほら、このTシャツよ。みんなで海へ出かけた時に着てたのよ」と手にしていたTシャツとアルバムの写真を交互に見ながら言う。どちらも見比 べてみた江が、ほんとだ、と感激する。  以前は、このやり取りを見ているのが苦痛だった。二人が、父の話を和気あいあいとする中に、うまく混ざることができなかった。父の写真を持ち歩きながらも、本当は 写真の中の父と目を合わせるのはこわかった。母に会えば、父の思い出や存在に嫌でも向き合わなければならなくなる。あからさまに避けていたわけではないけれど、あれ これと理由を付けて帰らなかったのは事実だ。  それなのに母は、いつも子ども部屋を出て行ったままにしておいてくれた。小学生の時に使っていた机��椅子も本棚も洋服箪笥も。そう広くもない平屋住まいなのだから 、ほとんど帰らない息子の部屋を物置にするぐらいのことをしても誰も咎めやしないのに。  荷物を自分の部屋に置いて居間に戻った。  アルバムを熱心に覗き込んでいる姉妹みたいな二人に自分も加わる。  どれどれ、と覗き込むと、 「お兄ちゃんは見ないで。この頃の私、太っててやだ」  と江がアルバムの左上のあたりを手のひらで覆い隠した。写真は見えなかったが、指の間から書きこまれた文字だけはなんとか読めた。日付からして、江が二歳、凛が三 歳の頃の写真が収められたページのようだ。 「お前、食っては寝てばっかだったもんな」 「そうね、江はおっとりしていてまったく手がかからなかったわ。おやつをあげればご機嫌で、あとはすやすや寝てたもの。お兄ちゃんがちょこまか動いて忙しかった分、 助かったものよ」 「そうだっけ」  おやつを食べかけたまま寝こける江の姿は記憶にあるのに、自分がどうだったかなんて、まるで覚えていない。 「そうよ。走り回るあんたをおっかけて、ご飯を食べさせるの大変だったんだから。一時もじっとしてなかったのよ」  ふうん、と頷きながら、するりとアルバムに置かれた江の手をスライドさせる。 「あっ、お兄ちゃんだめったら」  露わになった写真に写っていたのは、浜辺に佇む家族の姿だった。祖母の家があるあの町の海岸かもしれない。母に抱えられた江はベビービスケットを頬張っている。腕 はふくふくとしていて、顔はハムスターの頬袋のようにまるい。とてもかわいらしい赤ん坊だと思うのに、江は顔を真っ赤にして「見ないでよ」と憤慨している。  同じく写真に写っている自分はというと、父の肩にまるで荷袋のように抱えられて笑っている。浅黒く日焼けした父も笑っている。こうして顔が並んでいるところを見れ ば、つくりは多少違うけれど笑い方は似ている気がする。 「これ、お父さんが外海に出る前に撮った写真ね」 「全然覚えてないわ」 「おれも」 「まだ小さかったもんね。外に出れば一ヶ月は戻れないから、大変だったのよ。お父さんが」 「大変って?」 「離れてる間にあんたたちに忘れられちゃうんじゃないかって、不安がるのよ。お見送りの時はいっつもさめざめと泣いてたわ」  お父さんかわいい、と江が小さく噴き出した。  中にはいくつか風景写真もあった。眺めているうちに、見覚えのある海岸線が写っているものを見つけた。 「これは、おとうさんの船で島まで渡った時のものね」 「あ、ほんとだ」  母と江がそろって覗き込んで来る。小さいながらも、父は自分の船を持っていた。青い船体に赤い縁取りの漁船。普段は大型漁船の乗組員として沖合や外洋に出ていたが 、禁漁で船が出せない期間は、よく自分の船に乗せて近海に連れ出してくれたものだ。小島を渡って、釣りをしたり、磯で生き物を探したりした。  小学生の時も、オーストラリアにいる時も、父を思わない日は無かった。けれどそれは、こうして思い出に浸るようなものとは少し違っていた。自分が何のために泳ぐの か、今なぜここにいるのかを確かめるための座標のようなものだった。そこに、感傷はあるようで無かった。感傷を背負い込む余裕すらなかったのだ。 「今度、江も凛もここに合宿に行くんでしょ?」 「うん」 「まさか、またあのコーチに船出してもらうのか?」 「いいじゃない!結構楽しいよ」 「お父さんが生きていたら、喜んで船を出してくれたでしょうねえ」  ゆっくりと母が言った。  昨年の夏、あれほどの問題を起こしたのに、鮫柄高校水泳部と岩鳶高校水泳部は頻繁に合同練習を行い、大会前は対抗試合を行うほど親交が深まった。  許してくれる人間もいればそうではない人間もいる。部内には、凛に対して風当たりの強い部員も当然いる。岩鳶高校と交流を持つことをよく思わない部員もいる。そん な中でも、御子柴部長は率先して岩鳶高校を自校へ招待したし、自分たちも岩鳶へ遠征した。今春から後を引き継いだ新しい部長が今回の合同夏合宿を持ちかけたのも、O Bの意見を取り入れたからだ。  彼の言動というよりも人柄が、凛が水泳部に居座ることを不快に思う部員たちの意識を変えていった。 「だって、江くんと会える絶好の機会じゃないかあ」  などと茶化してはいたが、彼がどれだけ気を遣い、部内の雰囲気を良好に保つために力を割いてくれたのか、側で見ていた凛には痛いほどよく分かる。  自分にできることと言ったら、泳ぐことしかなかった。御子柴の厚意に甘えるばかりでは、何も示せない。ひたすら、どんな時も、誰よりも真剣に泳いで見せた。泳ぐこ との他には、先輩に礼を尽し、後輩を支えた。それは部員として当たり前のことばかりだったが、その当たり前を一心にやり通すこと。それが素直にうれしくもあった。  六月末、島へ渡り、例年通り屋内プールを貸し切っての合宿が始まった。昨年と異なるのは、岩鳶高校と合同だという点だ。  合宿の中日は、午前中のみオフタイムとなり自由行動が与えられた。五日間のうち、四日間は泳ぎっぱなし。合宿後はすぐに県大会に向けて最終調整に入る。ではここぞ とばかりに休もう、ではなく、遊ぼう、と考えるのは、まさに渚らしかった。 「ねえねえ、凛ちゃん。明日のお休み、みんなで海で遊ぼうよ」  合宿二日目、専門種目の練習の最中、隣のコースに並ぶ渚がのん気に話しかけてきた。そういう話は後にしろ、とたしなめても、彼はにこにこしながらなおも言った。 「絶対行こうよ。おもしろい景色、見せてあげるから!怜ちゃんが!」  そんなことを大声で言うので、やや離れたところでフォームのチェックをしてもらっていた怜がぎょっとしていた。  渚の言う「おもしろい景色」とは、まさにおもしろい景色だった。 「お前、なんだそのナリは」  晴天の下、焼け付く白砂の上に降り立った怜を見て、凛は顔をしかめた。 「し、仕方ないでしょう。これがないと、ぼくは海へ出ちゃいけないって、真琴先輩が…」  しどろもどろな怜の腰、両方の上腕にはヘルパーが取り付けられ、腕には浮き輪を抱えている。浮き輪はピンクの水玉模様。先日、江が押入れから取り出して合宿用の荷 物の中に加えているのを確かに見た。まさか、怜のためのものだったとは。 「おもしろいでしょ?怜ちゃんてば、去年色々やらかして大変だったんだから、まあしょうがないよね」  何をやらかしたかについては、大体聞いている。夜の海に出て溺れかけたらしい。一歩間違えれば大変なことになっていた危険な行為だ。だからと言って、これはあんま りだろう。 「お前、ほんとに水泳部員かよ」 「どこからどう見ても、水泳部員です!昨日見ましたか、ぼくの美しいバッタを!」 「あ?全然なってねえ。せっかく俺がじきじきに教えてやってるのに、もうちょっとましになったらどうだ」 「知識・理論の習得と実践の間には時間差があるものです。だから昨日あなたに教わったことはですね…」 「もうまた始まった!バッタの話になると長いんだからやめて、二人とも!」  そうして三人で波打ち際で騒いでいると、 「まあまあ、三人とも、とりあえず泳ごうよ」  やわらかい声がすんなりと差し込まれた。真琴がにこにこしながら海を指差す。 「ハル、待ちきれずにもう行っちゃった���」  見れば、遙が波打ち際から遠く離れた場所をすいすいと気持ちよさそうに泳いでいた。 「なんて美しい…海で泳ぐ姿は、本当にイルカや人魚のようですね」  怜がうっとりした顔をしていた。男のくせになんつう比喩だ、と毒づきたくなるが、あながち外れてもいない。 「僕もあんな風に海で泳ぎたいものです」  怜が唯一泳げるのはバッタのみで、他の泳法は壊滅的にだめなのだそうだ。一年をかけて少しずつ特訓してきたが、どうしても上達しない。合同練習で会えばバッタの練 習しかしないので、遙と同じく「ぼくはバッタしか泳ぎません」というスタンスなのかと思っていたが、違うらしい。 「鮫柄の皆さんにカナヅチがばれてしまうのも時間の問題です」 「いや、ばれてるよ、怜ちゃん」 「怜…残念ながら」  渚と真琴がそろって悲しげな顔を作った。 「諦めんなよ。練習しろ」  とりあえず励ましておくことにすると、怜は「でも…」と暗い顔で俯いてしまった。その背中を渚が押して、「そうそう、練習しよう!」と無理やり水辺へと引っ張って 行く。 「さあ、特訓だ!松岡教室開講~!」 「いやです!今はオフです!」 「秘密の特訓をして、みんなを驚かせたくないの?」 「それは…」 「いいから来いよ、怜」 腰が引けているその手を取ると、怜は恐る恐る波に足を浸けた。 「やさしくしてください…」などと、目を潤ませ、怯えた小鹿のように言うので、笑いをこらえるのがやっとだった。 「たぶん大丈夫だろうけど」と言いつつ遙を一人で泳がせておくのが心配になったらしい真琴は、遙の後を追って沖へと泳いで行った。遙の姿はもう小さな点にしか見えな いくらい遠のいていた。一人で遠泳でもするつもりなのだろうか。  そういえば、遙とは昨日も今日もろくに言葉を交わしていないことに気付いた。練習中は専門種目が違うのでウオーミングアップやリレーの練習の時ぐらいしか接点がな い。オフだからと浜辺に集まった今朝は、黙々と一人で体をほぐしていた。 小島まで泳いで渡るつもりなら自分も行きたい。前もって伝えておけばよかったな、と思った。別に、必ず遙と一緒でなければならない理由ではないのだけど。 胸のあたりまでの深さのところで、怜の特訓が始まった。 潜ることは抵抗なくできるというので、とりあえずヘルパーを外して自分の体だけで楽に浮く練習から始めた。だるま浮きだの大の字浮きだの初心者向きの手ほどきは散々 やって来たことらしいのだが、それすら怪しいのだと言う。 「海水は水より浮力があるからな。少しは浮くんじゃねえの」  本当は波のないプールの方が断然初心者には向いているし、浮力が問題ではないと思われた。けれど、慰めにそう言ってみると、怜は「なるほど」と素直にうなずいてい た。なんだかすっかりその気のようだ。  怜はすう、と大きく息を吸って水に潜った。だるま浮きから水面近くに浮いて来たところでじわじわと手足を伸ばす。水面下10cmあたりのところで怜の体がゆらゆら と揺れる。 「わあ、海水マジック!浮いてるよ怜ちゃん!プールの時よりもずっと!」  渚が歓喜して大げさに拍手する。とても浮いているうちには入らないような気がするのだが。  次、バタ足を付けてみろよ、と指示を出すと、怜は恐る恐る水を蹴った。ぱちゃぱちゃとバタ足を数回繰り返したところでその体がずぶずぶと沈んでいく。 「おいおい」  掌を掬い上げて浮力を助ける。ぶはあ、と怜が苦しげに息を吐いて体を起こした。 「はあ…途中まではいい感じだったんですが」 「うんうん、進んでたよ」 「潜水艦みたいにな。もう一度やってみろ」  再度バタ足にチャレンジする怜に「もうちょっと顎を引け」と伝えると、すぐに言われたとおりにしてみせた。怜は理屈っぽいところがあるが、素直だ。力を伸ばすのに はそれは大切な要素だ。  顎を引いた分だけ浮力を得て、わずかなりとも浮きやすくなるはずだ。しかし、怜の場合は逆効果だった。頭の方から斜めに沈んでいく。まさに、潜水艦のごとくだ。 「わあ、頭から沈んでいく人、初めて見たあ」  渚の遠慮のないコメントに笑ってはいけないのに、こらえきれずに小さく噴き出してしまった。 「ちょっと!笑わないでください!ひどいです!」  びしょびしょに濡れた髪を振り乱して怜が喚く。 「わりい…いや、ちょっとした衝撃映像だったから」 「動画、とっとけばよかったね!」  渚と二人で笑い合っていると、怜はもう泣きそうな顔をしていた。 「しょうがねえよ。体質だ」  怜の肩に軽く手を置いて慰めた。 「体質?」 「お前、陸上やってたんだろ?」 「はい」 「筋肉質で体脂肪が少ない上に、骨が太くて重いんじゃねえの。ついでに頭も」 「怜ちゃん、頭いいもんね。脳みそ重いんだね」 「なるほど…」 「もうどうしようもなく浮くようにできてねーんだよ。そういうやつ、たまにいるぜ」 「そうなんですか?僕だけじゃなく?」  凛はしっかりと頷いて見せた。 「極端に痩せた人はもちろん、筋肉をがちがちに鍛えた人も当然浮きにくいよな」 「物理の法則からするとその通りですね。僕の体は、そもそも水に浮くようにできていない…」  しょんぼりと肩を落とす怜を、渚が心配そうに覗き込む。 「怜ちゃん…楽に浮けるようになりたかったら、脂肪を蓄えるしかないね。ドカ食い、付き合うよ」 「いや、脂肪は付きすぎると水泳にとっては邪魔なものです」 「そうだっけ?」 「ようはバランスだな」 「カロリー、体脂肪率、筋肉の質…僕の体にとってのこれらの黄金律を導き出さなければ…!」  怜はかけてもいない眼鏡のツルを押し上げる身振りをして、ぶつぶつとつぶやき始めた。 「ま、でもバッタが泳げりゃいいんじゃね?」  あまり思いつめるのもどうかと心配になったのでそう軽い調子で言うと、怜は切実そうに訴えた。 「あなたまで皆さんと同じことを。ここまで焚きつけておいて」 「だってよ、ここまでとは思わなかったからな」 「ひどいです���僕だって、みなさんと同じように泳げるようになりたい」  顔をくしゃりと崩す怜を見ていると、ふと幼いころを思い出した。こんな風に、父と海で泳ぐ練習をした覚えがある。海育ちは、潜るのは得意だが、わざわざフォームを 整えて浮いたり泳いだりはしない。潜って魚を捕ったり、磯で生き物をいじって遊んだりするのがほとんどだった。だから、幼稚園のプールでいざ泳いでみて、ショックだ った。潜水したままプールの床底を進む凛に、友だちが「それ泳ぐのと違うんじゃない」と言ったのだ。スイミングスクールに通っている同じ年の子どもが、それなりに様 になったクロールを披露してくれた。水の中にいるのなんて息を吸うように当たり前にできるのに、あんな風に泳ぎ進む、ということがどうやったらできるのかわからなか った。  しょげかえる凛を見かねて、父が特訓してくれた。当時は祖母の家の隣の長屋に住んでいて、目の前は海だった。幼稚園から帰ってすぐに海へ駆け出して行って、ひたす ら泳いだ。「がんばれ」と両手を広げる父まで、辿り着こうと必死で水を掻いた。毎日練習を繰り返して泳げるようになったとき、父はうれしそうに笑っていた。  もうずっと昔のことが鮮明に思い出されて、懐かしさで胸がいっぱいになった。  だからなのか、肩を落とす怜に思わず言っていた。 「わかった。とことん付き合ってやるから、がんばれよ」  怜が顔を上げて、その目を輝かせた。ええもう遊ぼうよお、と渚が後ろに倒れ込みながらぼやいた。  それから小一時間練習して、休憩に入った。  怜は、沈みがちではあったが、バタ足で10mほど進めるようになった。クロールのストロークはもとより様になっていたので、特に言うことは無かった。推進力はある のだから、ブレスでなるべく浮力とスピードを落とさないようにすれば、それなりに泳げそうだった。あくまでも、それなりにだったが。  三人で丸太のように木陰に転がり、ほてった肌を冷ました。 「感動です…ぼくでも何となく形になりました」 「怜ちゃん、感動したよぼくも!」  わざわざ凛を挟んで、渚と怜が会話する。凛は浮き輪を枕にして、二人のやり取りを聞いた。 「渚くんは、途中から変な顔をして僕を笑わせようとしていたでしょう!手伝っているのか邪魔しているのかわかりません!」 「心外だなあ。リラックスさせようと思ってやったんだよ。緊張したら体が硬くなるでしょ?怜ちゃんぷかぷか作戦の一つだったのに!」 「そ、そうだったんですか」 「なんてね」  渚はそう言うや、跳び起きて海へと駆けだして行った。怜からの反論を見越していたのか、見事な逃げっぷりだった。 「ぼくも、向こうの島まで行って来るねー!」  ぶんぶんと手を振り、あっという間に波間に消えて行った。 「あの人は、いつもああなんです」 「楽しそうだな」 「疲れます」  それには頷くしかない。 「あなたも、泳ぎに行かなくていいんですか?」 「ああ、いいんだよ。ちょっと、疲れも溜まってるし」 「…すみません。オフなのに疲れさせてしまって」  怜が顔を曇らせる。 「いや、お前のせいじゃねえよ。ついオーバーユースしちまうから、オフの日はなるべく休めってコーチに言われてんだよ」 本当は島まで遠泳できるならしてみたかったが、心残りになるほどでもなかった。ひんやりとした木陰の砂の上に転がって、潮風を受けていると、とても気持ちがいい。瞼 の裏に枝葉をすり抜けてきた光が差して、まだらにかぎろった。 「あなたが、ぼくに泳ぎ方を教えてくれるのは、昨年のことを気にしているからですか?」  まるで独り言のような小さな呟きが耳に届いて、凛は瞼を起こした。  怜が生真面目な顔でこちらを見ていた。 「なんだよ急に」 「すみません、確かめておきたくて」  怜が言っているのは、昨年の地方大会のことに違いなかった。彼を差し置いて、岩鳶高校の選手としてリレーに出た。彼らの厚意に乗っかって、大事な試合をふいにして しまった。得ることの方が大きかったけれど、負い目を感じないわけがない。しかし、負い目があるから怜に泳ぎを教えているのではない。それははっきりと、違うと言え る。 「あなたがいつまでも、ぼくに負い目を感じる必要はありません。ぼくが決め、あなたたちが選んだ。それだけのことです。そりゃあ、問題になりましたが、いつまでも引 きずっていても…」 「待て待て、怜」  怜の言葉をやんわりと止めて、上半身を起こした。乾いた白い砂の粒が、はらはらと肌の上を滑って落ちる。怜も体を起こして凛と向き合った。きちんと居住まいを正す ところが、怜の真面目で誠実なところだ。 「負い目って言われるとどうかと思うけど、それは一生無くならない。失くせって言われても無理だ。そういうもんなんだ。でも、罪滅ぼしのために、お前に泳ぎを教えて んじゃねえよ」 「ではなぜですか」  面と向かって問われると、答えざるを得ない空気が漂う。凛はがしがしと後ろ頭を掻いた。 「お前が一生懸命だからだ」 「一生懸命?」 「一生懸命練習しているやつがいたら、手伝いたくなるだろ。そういうもんだ」 「敵に塩を送ることになっても?」 「一人前なこと言うな、お前」 「だって、そうでしょう」  凛は口端を上げた。自然に笑みが湧いた。 「一にも二にも努力努力っていうけどよ。努力すらできないやつだって、ごまんといるんだよな。努力する才能ってやつも必要だ。お前にはそれがある。それは…すごいこ となんだ。そういうやつを、俺は尊敬してる」 「尊敬、ですか」  怜がしみじみと噛みしめるように言った。 「あんだけ見事な潜水艦だったのに、さっきの特訓では一度も音を上げなかったしな。俺だったら三分で逃げ出してる」 潜水艦って言わないでください、と怜はむっとした顔を作った。けれど、すぐにそれを解いて微笑んだ。 「ぼく、とても楽しみなんです。今度は、ぼくもあなたたちと一緒に泳げる。いつだってこうして楽しく泳ごうと思えば泳げるけど。試合で泳ぐのは、特別な気がします」 「確かにな」 「緊張もするけれど、わくわくします」  わくわくします。それはいい言葉だった。長らく自分が見失っていた感情に近い気がした。 「あなたは勝ち負け以外の何があるんだって、言っていましたが」 「どうしたって、勝ち負けはあるんだぜ」 「知っています。でも、ぼくはわくわくするんです。勝つかどうかもわからない。勝ったらどんな感情を抱くのか。負けたらどんな自分が出て来るのか。それは理論では計 り知れない。そういう未知なる気配が、おもしろいと思えるようになったんです」 「俺もそう思う」 「わくわくしますか」 「ああ、する」 「一緒ですね」  怜がふわりとはにかむ。隙だらけのあどけない顔をするので、思わずその頭をわしわしと撫でまわしてしまった。 「なんだよお前。ガキみたいな顔しやがって」 「だって」  怜は泣き笑いのように顔をくしゃくしゃにした。 「僕にも、皆さんと同じ景色が見られるんじゃないかって、今、すごく思えたから」 「そうかよ。楽しみにしてろよな」 「はい」 「怜、ありがとな」 「はい…えっ?」  まさか礼を言われるとは思っていなかったらしい怜は、戸惑っていた。妙に照れくさくなってしまって、そんな怜を置いて弾みをつけて立ち上がった。 「やっぱ泳ぐかあ。あいつら、どこまで行ったんだ?」  木陰から一歩踏み出ると、目が眩むほどの強い日差しに、何度か瞬きをした。  そこへ「せんぱあーい!」と似鳥の甲高い声が聞こえてきた。防風林の向こうから駆けて来る姿があった。 「自主練終わりました!ぼくも仲間に入れてください!」  そういえば、似鳥も海水浴に行きたいと言っていた。わざわざ断ってくるところが彼らしい。 「愛ちゃんさん、自主練をしていたんですね。見習わなければ」 「お前も自主練みたいなもんだろ」  似鳥はあっという間に、なだからかな浜を駆け下ってきた。 「御子柴ぶちょ…あ、元部長が差し入れにいらしてましたよ」 「暇なのか?あの人」 「そんなこと言ったら泣いちゃいますよ。ちゃんと後であいさつしてくださいね」 「わかってるよ」  怜を連れ出して沖まで行くか、と相談しているところに、今度は「おにいちゃーん!」と江の声が届いた。  見れば、ビニール袋を提げた両手をがさがさと振っている。言わずもがなのアピール。  「手伝います」という後輩たちを置いて、パーカーを羽織ると江のもとへ浜を駆けのぼった。怜は真琴の言いつけ通りの完全防備で、似鳥に浮き輪ごと曳航されて沖へと 出て行った。 「のんびりしてたのに、ごめんね」と江は詫びつつも、しっかり凛に重い荷物を譲り渡した。買い出しのために顧問に車を出してもらおうとしていたら、鮫柄の顧問から呼 び出しがかかってしまったらしい。 「ったく、買い出しくらいあいつらにさせろ。それか、マネ増やせ」 「そうね、マネも増やしたいなあ。時々、花ちゃんが手伝ってくれるんだけどね」  麦わら帽子をちょんと被りなおした江が、それにしても暑いねえ、とのんびり言う。  岩鳶高校が宿にしている民宿は、浜からそれほど遠くない。ビーチサンダルで砂利を踏みながら、江と並んで歩いた。太陽はますます高く、縮んだ濃い影が、舗装された 白い道に焼き付いてしまいそうだった。 「あ、ねえ、お兄ちゃん、見て」  江が白い腕を伸ばし、海のかなたを指した。 「あの船、お父さんの船に似てるね」  見れば、はるか沖を行く船たちの姿が、ぽつぽつとあった。マッチ箱ほどの小さな船影の中に、確かに、父の船と似ているものがあった。青い船体に、白い縁取りの漁船 だ。青い船は、白波を立てて水平線を滑るように進んでいく。やがてその姿は、小島の向こうに消えて見えなくなった。  二人で船を見送ったあと、わたしね、と江が言った。 「一つ、思い出したことがあるの」 「何を?」 「お兄ちゃん、お父さんが死んじゃったあと、よく海に出かけて行ってたでしょ?ひとりで」 「そうだったか?」 「そうだったよ。お母さんが、夜になっても戻らないって、すごく心配してたの。あの時、お兄ちゃんは、何をしに行ってたのかなあって」 「海に行くのは、いつものことだっただろ」 「そうなんだけど。お父さんが死んだあとのことよ。毎日、毎日、お兄ちゃんが帰って来ないって、お母さんが玄関の前でうろうろしてた。それを見て、わたしはすごく不 安だったことを思い出したの」  突然、遠い昔の話を出されて困惑してしまう。確かに、父が亡くなったあと、毎晩のように浜辺へ通っていた覚えがある。けれど、何のためにそうしていたのか、よく思 い出せない。 「でもね、お兄ちゃんは、ちゃんと帰って来た。お兄ちゃんが海から家に帰って来たら、ああ、よかったあ、ていつも思うの。待つことしかできなくて、とっても不安だっ たけど、ああよかった、お兄ちゃんは、どこへも行かずにちゃんと帰って来てくれて、って安心するの。そういう記憶」  沖をじっと見つめていた江が、また歩き始めた。歩調を合わせてゆっくり歩いた。 「お父さんが死んだとき、私はまだ小さかったから記憶はおぼろげなんだけど、最近は、よく思い出すんだ。お父さんが死んだ時の、お母さんの顔とか、海に出て行ったお 兄ちゃんが庭に放りだした自転車とか、お父さんの大きな手とか、声の感じとか、色々、ごちゃまぜに」 「そうか」 「なんでかな、今まで忘れてたわけじゃないんだよ。毎日、仏壇にお線香上げるし、お花の水も換えるし、お祈りもする。けど、そういう決まったことのように亡くなった 人のことを思うんじゃなくて、勝手に湧いてくるの。ふとした時に、お父さんの気配みたいなものが」  それは、凛にもわかるような気がした。さっきだって、怜に泳ぎ方を教えながら、それを感じたばかりだからだ。もう形を持たないはずの父が本当にそこにいるかのよう な感覚。五感のどこかに残っている父の記憶のかけらが、不意に集まって形作るような。 「海にいるからかな」 「そうかもな」 「お兄ちゃんが、お父さんの話をするようになったからかもしれないよ」 「どっちだよ」 「どっちもよ」  江がそう言うのなら、そうなのだろう。  並んで歩きながら、沖を行く船の姿を探した。けれど、もうあの青い船の姿は見えなかった。その名残のように、小さな白波がいくつもいくつも、生まれては消えた。太 陽の高度はますます上がり、水面に踊る光の粒がまばゆく目を刺した。  江を送り届けて海岸に戻ると、遙がぽつんと遊歩道に立っていた。もう海から上がっていたらしい。  江から、あと小一時間ほどしたら宿に戻って食事を摂り、午後からの練習に備えて休むように言ってほしい、と頼まれていた。それを伝えようと軽く手を振ると、遙はふ い、と顔を背けて再び浜へ下りて行ってしまった。なんだよ、とつい零したくなるような態度だ。迎えに来てくれていたわけではないのは分かっていたが、あまりにも素っ 気ない。まあ彼としては珍しく��ない振る舞いなので、まあいいかとすぐに思い直した。  真琴や渚たちも沖から戻っていた。彼らは屋根付きの休憩所で水分補給をしていた。 「怜がちょっと泳げるようになってたから、俺、感動しちゃったよ」  真琴が声を弾ませて言う。怜はその隣ですっかり得意げな顔だ。 「浮く練習なら深いところがいいって愛ちゃんさんが言うから、やってみたんです。そしたらできました」 「へえ、やるじゃねえか」 「はい。…しかしまあ、愛ちゃんさんがすごく怖くて。ヘルパーも浮き輪も容赦なく外してしまうし」 「愛ちゃん、スパルタだったよ!」  渚の隣で、似鳥は恐縮したように肩をすくめた。 「凛先輩ほどじゃありませんよう」 「いや、おれよりお前の方がえげつない練習メニュー考えるよな。この合宿のメニューだってさ、一年が、青ざめちまってたもんな」 「え、そうですかあ?ぼく、もしかして、後輩にびびられてますか?」  似鳥が困惑顔で腕に縋り付いてくる。いや、それはない、とすぐに否定しておく。童顔な彼は、どうかすると後輩に舐められてしまいがちだが、面倒見が一番いいのでよ く頼られている。 「似鳥、俺たちはそろそろ戻るか」 「もうですか?」 「午後連の前にミーティングと、OBに挨拶があるんだろ?」 「そうですね…。もうちょっと、皆さんと泳ぎたかったですけど」 「え~、愛ちゃんも凛ちゃんも行っちゃうの?」  似鳥の縋った腕とは反対の腕に、渚がぶら下がる。重い。 「しょうがねえだろ。OB様は、大事にしておかねえとな」  残念がる似鳥を促して、荷物の整理をしていると、それまでベンチの隅にしゃがんでいた遙が、急に立ち上がった。もの言いたげにこちらを見るので、「なんだよ」と思 わず言ってしまう。そのくらい、視線が重い。何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。 「なんか言いたいことあるなら言えよ、ハル」 「別に」  何もない、と遙はまたそっぽを向く。明らかに何もないわけがない態度だったが、もう放っておくことにした。 「お前らもぼちぼち戻れよ。江が、メシ作ってるって」  ちえ、バカンスは終わりかあ、と渚は盛大にこぼし、真琴は部長らしく「手伝いに戻ろっか」とお開きのひと声を発した。まるでそれを待っていたかのように、ぷしゅ、 と空気の抜ける音がした。遙が水玉模様の浮き輪の空気を抜く音だった。無言のまま、ぎゅうぎゅうと体重をかけて押しつぶしている。むっと口を結んでいるところを見る と、やはりご機嫌ななめらしい。 ほんと、よくわかんねえやつ。  手伝うよ、と真琴が遙に歩み寄る。その様を見ているのがなんとなく癪で、凛は「帰るぞ」と似鳥を連れて宿に向かって歩き始めた。  明け方の白砂は、潮を含んで重かった。  少し足を取られながらも、波打ち際を流すようにゆっくりと走った。連日の猛練習の疲れは残っているが、だらだらと眠るよりも、こうして体を動かしている方がすっき りする。  夜の間に渡って来たらしい雲が、東の空から羽を広げるようにたなびいている。それを、水平線に覗いた朝日がうっすらと赤く染めている。波も、同じ色に染まっている 。  朝日の中を行く船があった。まばゆい光の中にあって、色はわからない。  ゆるやかな海岸線の中ほどで、凛は足を止めた。上がった息を鎮めながら、沖合に目を凝らした。  なぜ、父が亡くなった後、毎日海へ出かけたのか。  昨日、江にたずねられたことを改めて考えているうちに、あることを思い出した。昨夜、眠りに落ちる前に、ふとおぼろげな記憶の中から浮かび上がってきた。   父は、凛が五歳の時に亡くなった。夏の終わりの大時化で、船と共に沈んでしまった。船そのものも、遺体も上がらなかった。何日も捜索が続き、母は毎日、港に通った。 何かしら知らせが来るのを待ち続けたけれど、ついに父は戻らなかった。船長を含めた十数人が行方不明のまま、捜索は打ち切られてしまった。だから今も、墓の下に父の 骨は無い。墓石や仏壇に手を合わせる時、どこか空虚な気がするのは、そのせいかもしれなかった。 飛行機に乗って世界中のどこへでも行けるし、ロケットに乗って月へも行けるのに、たった沖合3kmのところに沈んだ船を見つけることができないなんて、おかしな話だ 。捜索を打ち切って、浜から上がって来るゴムボートを眺めながら、そんなことを思っていた。 父が戻らないことを凛と江に告げる母は、やつれて生気を失ったような顔をしていたが、どこかほっとしているようでもあった。何か一つの区切りを迎えなければ、母は限 界だったのだろうと思う。毎晩、祖母に縋り付いて泣いているのを、凛は知っていた。江と一緒に仏間の布団に寝かされ、小さくなって眠る振りをしながら、母の細い嗚咽 を聞いた。母は、泣いて泣いて泣き伏すうちに、いつか細い煙になって消えてしまうんじゃないかと心配だった。朝になると、母は気丈に振る舞っていたので、その不安は 消えるのだけど、夜になって母のすすり泣きが聞こえてくると、家全体が薄いカーテンの中に包まれて、そこだけが悲しみに浸かっているような気がした。 捜索が打ち切られた数日後、形ばかりの葬儀が行われた。遺体の上がらなかった何世帯が一緒に弔いをすることになり、白い服を着た大人たちに連なって、海沿いを延々と 歩いた。波は嘘のように穏やかだった。岬で読経を上げる時、持たされた線香の煙がまっすぐに天へ昇っていったのをよく覚えている。  葬儀が終わると、生活のすべてがもとに戻り始めた。母には笑顔が戻った。友だちと外で遊び、お腹が空いたらつまみ食いをした。江は勝手に歌を作って歌い、ちょっと 転んだだけで泣いた。いつもと同じ毎日だった。  けれどもそれは、凛にとっては、大きく波に揺り動かされて、遠くへ投げ出されてしまったかのように強引で、拭いようのない違和感に満ちていた。誰もかれも、日常の 続きを演じているような奇妙さがあった。  四十九日が済むと、海辺の家を離れて、平屋のアパートを借りてそこで三人で暮らすことになった。父の船は、知り合いに引き取ってもらうことになった。新しい家も、 父の船が人の手に渡ってしまうことも、嫌だった。けれど、決まったことなのよ、と母に泣きそうな顔をされると、何も言えなかった。  引越しをする少し前から、毎日海へ通うことになった。  行き慣れた海岸は、潮が引くと、磯を渡って沖まで行くことができた。ごつごつとした岩場を歩き、磯の終わるところまで足を運ぶと、そこに座り込んで海を眺めて過ご した。  せり出した磯は、ずいぶん海の深いところまで伸びていて、水面から覗き込んでも海底は見えない。もっと小さい頃は、一人では行くなと言われていた場所だった。磯か ら足を滑らせれば、足の着かない深みにはまって危険だからと。  しかし、磯の岩場には、釣り人もいたし、浜辺には船の修理をする近所の大人の姿もあったので、凛は構わず出かけた。  手にはランタンを提げて行った。父が納屋で網を繕う時に、手元を照らすためにいつも使っていた、電池式のランタンだ。凛は、暗くなるとそれを灯して、いつまでも磯 にいた。  父が戻らないことは、幼心にもわかっていた。これから、父のいない生活を送らねばならないことも。  もう二度と、あの青い船に乗せてもらえないこと。泳ぐのが上達しても、大げさなくらい喜んで、頭を撫でてもらえないこと。大きな広い背中に抱き付いて、一緒に泳ぐ こと。朝霧の中を、船で進む父に手を振ること。お帰りなさい、と迎えること。そんなことは、もう、ないのだとわかっていた。  わかっていたけれど、誰も父を探そうとしてくれないことが、誰もが当たり前の顔をして日常に戻ってしまうことが、悔しかった。かなしかった。  海へ通い続けたのは、ぶつけどころのない感情を、なんとか収めようとしていたからなのかもしれない。海はただそこにあるだけで、凛に何も返さない。何を投げても、 すべてを吸い込み、飲み込み、秘密のままにしてくれる。父を飲み込んだ海なのに、憎いとか恨めしいとか、そんな感情は浮かばなかった。むしろ、誰よりも、そばにいて くれている気がしていたのだ。  ある風の強い日だった。その日も、いつものように海へ出かけた。波は荒く、岩にぶつかっては白い泡になって弾けていた。大きな雨雲の船団が、どんどん湧いては風に 押し流されていた。空は、黒い雲と青い晴れ間のまだら模様で、それを移す海も同じ模様をしていた。  嵐の日と、その次の日には海へ行くなと言われていた。嵐の後には、いろんなものが流れ着くからだ。投棄されたごみならよくあることだが、時に死体が流れ着くことが ある。入り組んだ海岸線が、潮の吹き溜まりを作っていたのだ。  父と海に出かけた時に、一度だけ水死体が岩場の端に引っかかっているのを見つけたことがあった、凛は離れているように言われたので、遠目にしか見えなかったが、白 くてふくふくとした塊を、父や漁協の仲間が引き上げていた。あとで父は、凛に諭すように言った。 「嵐の後の海には、こわいものがいる。海に引きずり込まれるかもしれないから、近寄ってはいけない」と。  あの時の教えを忘れたわけではなかったけれど、凛は横風に煽られながら磯の際を歩いた。いかにも子どもらしい発想だ。本当に見つけたとして、どうしていいのか何も わかっていなかったというのに。  雨雲の隙間から、光が差していた。波に洗われて、日に照らされた岩肌は、滑らかに光っていた。海面にはスポットライトのようにまるく光が差し込み、まるで南海のよ うにエメラルドグリーンに透き通って見えた。雨上がりの海の景色の美しさにすっかり心を奪われた。深い深い海の底に、何かもっと美しい景色や生き物がいるのではない か。凛は、父を探すのも忘れて、磯の際に手と膝をつき、夢中で覗き込んだ。きらきらと光のかぎろう碧が美しくて、ため息が漏れた。鼻先が海面に付くかつかないかとい うところで、びゅう、と背中から風が吹いた。ど、と勢いよく押されて、体が前に倒れ込んだ。あぶない、と気付いた時には遅かった。頭から海に落ちてしまう。海にはこ わいものがいる。引きずり込まれるかもしれない。近寄ってはいけない。あれほど言われていたのに。恐怖に体の自由を奪われて、抗えないまま海へ落ちてしまう寸前、後 ろから、ぐい、と強く腕を引っぱられた。 「危ないよ」  と声がした。  慌てて振り返ってみたが、誰もいなかった。ただ、小雨に濡れて黒々とした岩場が広がっているだけだった。  少し遅れて、心臓がばくばく鳴り始めた。  たった今、海に引きずり込まれそうになったこと。それを誰かが助けてくれたこと。その誰かの姿は、どこにも見当たらないこと。  なにか、今、不思議なことが起きたのだ。  凛は泣きそうになりながら、家へ駆け戻った。とにかく、怖かったのが一番。次には、懐かしいようなうれしいような気持ちでいっぱいだった。  危ないよ、という声が、父の声のように思われたからだ。  不思議な出来事は、その一度きりだった。二度と海が不思議な光を放つこともなかったし、助けてくれた声の主と出合うこともなかった。  海辺の家を離れて、母と江と三人で暮らし始めると、そんなことがあったことすら忘れていた。  あれはなんだったのだろうと思う。海面が光って見えたのは見間違いかもしれないし、引きずり込まれそうになったと感じたのは、ただの風のせいだったのかもしれない 。本当はあの時、通りすがりの釣り人がいて、海に落ちそうになっている子どもに声をかけただけかもしれない。  とにかく、奇妙な体験だった。海では不思議なことが起こるものだと感覚で知っている。言い伝えや昔話も多くあり、それを聞いて育つからだ。でも、自分の体験したこ とをどう片付ければいいのか、わからない。  今は、朝日を浴びて美しいばかりの海は、暗くて深い水底を隠し持っている。この海は、父の命を飲み込んだあの海とつながっている。このどこかに、今も父がいるのだ 。 「凛」  不意に声をかけられて、身をすくめる。  気づけば、足元を波にさらわれていた。慌てて、波打ち際から離れる。 「そのままで泳ぐつもりだったのか?」  遙だった。凛と同じようにロードワークに出ていたのか、汗ばんだTシャツが肌に貼り付いていた。  返事ができずにいる凛を、遙は不審そうに見ている。 「いや、泳がねえよ」  首を振ってこたえると、遙の視線が凛の足元に落ちた。 「濡れちまった」  波に浸かってぐっしょりと重くなったランニングシューズを脱いで、裸足になった。砂の付いたかかとを波で洗う。 「どこまで走るんだ?」  気を取り直すようにたずねると、遙は「岬の方まで」と答えた。答えたものの、凛の顔をじっと見つめたまま走り出そうとしない。  昨日は、午後練になってもろくに口を利かなかったからか、どこか気まずい。 「何を見ていたんだ」  遙が言った。 「何って…海しかないだろ」  凛の答えに納得したようではなかったけれど、遙は海を向いた。 「お前も、真琴みたいに海がこわいのか」 「そんなわけねえだろ。俺は海育ちだぞ」 「そうか。真琴みたいな顔をしてた」  相変わらず言葉足らずで要領を得ないやりとりだったが、どうやら心配してくれているらしい。  遠くから霧笛が響いた。大きなタンカーが沖へ向けて港を出て行く。 「船が…あっちの方に、船がいたから、見てた。それだけだ」  そう付け足すみたいに言うと、遙は船の姿を探して、沖合に目を凝らした。潮風にあおられて、彼のまっすぐな黒髪がさらさらと揺れた。遙の目は、「本当にそうか?」 と不思議そうにしていた。遙の目は雄弁だ。誤魔化さずに本当のことを言わなければならないような、そんな気がしてくる。だから、というだけではないけれど、凛はほと んど独り言をつぶやくみたいに、小さく言った。 「船、見てたらさ。俺、思い出したことがあんだよ。昔のことなんだけどさ」  遙を見ると、彼はまだ遥かな沖合に目を向けていた。凛の話を聞いているようでもあるし、波音や風の音に耳を澄ましているようでもあった。 「親父が死んだあと、毎日海に行ったんだ。何をするのでもなかったんだけど。ランタンなんか提げてさ。暗くなるまで海にいた。それで…嵐が来た次の日にも海に行った らさ、おかしなことがあったんだ」  遙がこちらを見ないことをいいことに、一方的に語った。昨夜ふと蘇った、海での不思議な出来事の記憶を。  遙にこんなことを話しても仕方がない。誰かに聞いてほしかったわけでもない。でも、船の姿を探しているような遙の横顔を見ていると、ほろりと漏れだしてしまったの だ。  彼にとってはどうでもいい話。きっと聞いたからといって、何をどうしようとも思わないだろう。  そういう気楽さがもどかしい時もあれば、救われることもあることを知っている。 「あれは、一体なんだったんだろうな」  話終えると、心の中も随分片付いていた。昔のことだから、記憶はおぼろげだし、端から消えていくように心もとない。事実とは異なるところもきっとあるのだろう。  けれど、あの時、海に落ちそうになった自分を助けてくれたのは父だったと思いたがっている自分がいる。  どうしようもない、独りよがりの感傷かもしれないけれど。 「俺も、見たことがある」  遙がふと口を開いたのは、いくらか時を置いてからだった。ごくごく小さく呟くので、凛が語ったことへ返されたものだとはすぐに気が付かなかった。 「見たって、なにを?」  たずねると、遙は、「海が光るのを」と言った。 「一人で遊んでいる時に。海が、とても美しい碧色をしていて、水底まで透けそうだった。子どもの頃の話だ。あの頃はまだばあちゃんが生きていて、話したら、近づくな って言われた」 「どうしてだ」  遙は少しだけ横目でこちらを見て、すぐにまた海へと視線を戻した。 「死は、時々美しい姿で扉を開くんだって言ってた。小さかったから、よくわからなかったけど」 「そんなの…迷信かなんかだろ」 「そうかもな」  でも、と遙は言い添えた。 「お前の親父さんだったかもな」  不意に父の話に繋がって、けれども相変わらずタイミングはちぐはぐで、理解するのにひと呼吸、必要だった。けれど、遙が言おうとしていることは分かった。凛の気持 ちを汲んで、そう言ってくれたことも。  あの海での不思議な体験は、幼かったので、本当はどうだったかわからない。けれど、それでいいのだと思えた。父が、海に落ちそうになった凛を助けてくれた。そう思 いたければ思えばいい。遙のまっすぐな言葉が、不確かだった記憶をすとりと凛の中に収めてくれる気がした。 「…んじゃあ、そういうことにする」  素直にうなずくと、遙はちらりと意外そうな顔をした。朝の美しい海を前に、わざわざ意地を張る必要もない。  凛は頬をゆるめて、遙かに向かって言った。 「あっちまで走るつもりだったんだろ。行って来いよ」 「お前は?」 「俺は、足、こんなだし。散歩でもして戻るわ」 「じゃあ、俺も散歩する」  一緒に波打ち際を歩き出しながら凛は言った。 「ハル、お前、昨日はなんで怒ってたんだよ」 「べつに、怒ってない」  遙が小さな波をぱしゃりと蹴り上げる。その態度が、すでに、なのだが。 「いーや、むすっとしただろ。言いたいことがあんなら言えよ」 「べつにない」 「べつにって言うのやめろ」 「べつにって言っちゃいけない決まりなんかないだろ、べつに」  ついさっきまで、たどたどしくも心がつながったような、そんな気がしていたのに、もういつもの言い合いが始まってしまった。陸に上がると大概そうなってしまう。  はあ、とわざとらしく長いため息をついて見せると、遙はやや口を尖らせて、ぼそりと言った。 「…島に、行きたかったのに」 「行っただろ、真琴たちと」 「いや、行ってない。泳いだけど、すぐに引き返した」 「行けばよかったじゃねえか」  そんなに行きたい島があったのだろうか。 「お前も、連れて行きたかったのに」 ※このあと、二人で海辺を散歩して、微妙ななんだかそわそわする雰囲気に雰囲気になって、宿の手前で、みんなに会う前にハルちゃんが不意打ちでチューをかまして・・・みたいな展開でした。中途半端な再録ですみません・・・
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robotshowtunes · 2 years
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“The water is alive. Once you dive in, it will immediately bare its fangs and attack. But there’s nothing to fear. Don’t resist the water.” 🦈🐬🐋🐧🦋
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harukoc · 7 years
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aja154ever · 7 years
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High☆Speed Free! Starting Days Event – 03/19/2017 Evening
Again, as in my previous event reports, I am posting this for the record, and for my feelings. ^_^ I’ve been busy these past few days so this came in late. Again this is based on my limited Japanese skills and memories. (Also thanks to other reports I used as reference @aitaikimochi @what-isti )
FREE! is a very precious anime to me. I have soooooo much love for this anime. The story is really beautiful, so I hate it when people judge the anime by its appearance (it’s not all fan service; you know it’s a swimming anime so being half-naked is common sense). I just want people to see that it offers something more than the characters’ bodies. You also do not have to be a fujoshi to appreciate it (I don’t mind the ships; as for me I can still watch Free! objectively and see that the characters’ relationships are platonically normal for guys)
I actually had no plans of going to this event because I am way too attached on the Free! anime series. High Speed is a bit different; sure Haru and Makoto are still there but it just pains me that the others (both characters and seiyuu) aren’t. I did not even buy the High Speed DVD where the lottery ticket for the event was enclosed. But it was Haru and Shimazaki Nobunaga’s fault! Lol To keep the explanation short, Haru is who you would call my ultimate husbando in the anime world lolol. I just thought that this could be the last chance for me to hear his voice live because I no longer expect Free! to have more events like this in the future. I mean I can still meet Zakki in his other events because I really do want to meet this seiyuu too, but as Haru, there might be no next time. In the end, I couldn’t resist not going to this precious event so when I found out that the general ticket sale was still ongoing, I bought one immediately. It was pretty much late (it was March 6 already OMG) so the seat I got was not really good. It was in the far, far end of Ryogoku stadium and worse, I had their backs facing me. But because the stage/pool is at the center of the stadium, the seiyuus do not necessarily always face just one side of the audience.
Okay, that’s too long for an introduction! Sorry, I got carried away lol. Report under the cut!
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ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』岩鳶中学水泳部 記録会お疲れ様パーティー
The format was basically the same as the 2015 event. The event began with the seiyuus going up the stage one by one in the ff. order, greeting the audience with their respective characters’ middle school voices.
Shimazaki Nobunaga (Zakki) – Nanase Haruka
Suzuki Tatsuhisa (Tatsun) – Tachibana Makoto
Toyonaga Toshiyuki (Toshi) – Shiina Asahi
Uchiyama Kouki – Kirishima Ikuya
Nojima Kenji  – Kirishima Natsuya
Hino Satoshi – Serizawa Nao
Zakki opens the event as Haru declares, “Take your mark. Ready, go!” They then proceeded to their seats around the pool. There are only six of them so they took their own benches. They first talked about how the fans who came to the day event were all posting “Yabai!” on social media after the event. It was a hint about new projects for Free! but the fans cannot spill the news yet because it still needs to be a surprise for the evening event.
Furikaeri
 Scenes, personally chosen by each character/seiyuu, were then played on the screen/pool followed by comments from the cast.
*Final relay scene - Toshi’s chosen scene (which turns out to be Tatsun’s choice, too)
We’re just getting started but this is the first scene that plays (omg my feelings) Toshi highlights Asahi’s part where he thanked Haru and Makoto. Tatsun comments that there is no other scene to be chosen but this. You know, it’s the relay that the four finally makes – the pinnacle of everything, the climax. Zakki counters that there are other good scenes, too. Tatsun laughs, “Oy, you’re setting the bar high for yourself!” as everyone would have expectations for Zakki’s chosen scene.
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*Haru and Natsuya scene, where Natsuya helps Haru carry stuff and chats a little bit esp about Ikuya – Nojima-san’s chosen scene
They joked about how Natsuya is concerned about Ikuya but does not talk to Ikuya directly. They compared it to a typical father who shyly, reluctantly, asks stuff about his son through his mother rather than talking to his son properly. Meanwhile, the scene also shows how Natsuya and Haru’s relationship is basically in good terms.
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*Natsuya and Nao scene, where they talk about the four – Hino-san’s chosen scene
They likened it to two drunk men talking about other people while drinking. lol. They also liked how Natsuya thinks highly of his brother as when he said, “Sugoi darou, ore no otouto (Isn’t he amazing, my little brother).”
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*Makoto and Haru swimming and talk scene – Tatsun’s chosen scene (apparently he has chosen another one too)
“Ore, kawaii! (I’m cute!)” – that’s the first thing Tatsun blurts out as soon as the video ended. Lol. They then corrected that it was Makoto who was cute. 
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Tatsun shares that there is a moment when he himself is surprised that such a kind of voice comes out of him. It was like the Makoto in him that spoke for a moment and not Suzuki Tatsuhisa the seiyuu. (Awww Tatsun you really love Makoto huhu)
Zakki and Tatsun lay down on the pool/floor and imitated the scene where Haru and Makoto lay down next to each other. The seiyuus also envied how good it feels to just dive into the water and swim freely with all your clothes on as is.
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*Sleepover at Haru’s house scene, where Ikuya’s ears redden as he shyly admits how he feels for the team – Kouki’s chosen scene
Kouki also comments how cute he, Ikuya rather, is on that scene. They also comment on Asahi’s straightforwardness.
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*Ikuya scene where everyone runs after him – Zakki’s chosen scene
I was really anticipating Zakki’s chosen scene because of Tatsun’s taunt earlier. And so I really liked it that he chose this scene. It was really more of an Ikuya scene, but Zakki shares that this was also a turning point for Haru as he reflects on his own feelings and comes to a realization. Toshi comments how amazed he was with the words that Haru said at that moment. “Ore ya Natsuya-senpai no ushiro janakute, minna no yoko ni narabe (Don’t stand behind me or Natsuya-senpai. Stand in line beside everyone).” Was this something a middle school kid says? That is why Ikuya cries loudly soon after with Toshi acting the “Uwaaaaaa” part. (Awww that was really touching huhuhu) It was all in all an important scene for the team.
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Iwatobi Chuugakkou Suieibu Training
The cast plays a board game. The pool flashes the letters I-W-A-T-O-B-I.  They roll a huge dice as they step on the letters and stop in accordance with the number on the dice. Each letter corresponds to an action. Zakki pairs up with Tatsun, Kouki with Toshi, and Nojima-san and Hino-san. Kouki and Toshi got to play first as they landed at “O” which stands for “Oyasumi (Break time).” They comment that the game was just getting started but then they’re having a break already lol. The pool shows a video comment from Suzuki Chihiro, Kisumi’s seiyuu. He also gets to make the audience chant “Ki-su-mi” then he sends a flying kiss. (You know the inside joke that Kisumi’s name can be translated as “Kiss me” :* )
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Meanwhile Zakki and Tatsun end up in a game where they had to have matching answers. The first question was what is something that they would have in their bento boxes. Zakki comments that this is the only possible answer. They then show up their whiteboards which as expected have “Saba” as their answer. The next question asks what’s the first thing they do after getting out of the pool. Unfortunately, they had different answers. Zakki answers the gesture that Haru does with his hair after rising from the water. Tatsun clears it out that it has to be the thing that they do after getting out of the pool. So his answer was removing water from his ear. Oh well. The last question was, “Who from the characters would they want to have as their little brother?” Kouki reacts violently that this question isn’t good. In the end, Zakki and Tatsun both answers “Ikuya.” So they had 2/3 matching answers which was good enough. The prize was a customized Iwatobi milk pack which they made Kouki drink (because Ikuya isn’t fond of milk).
It turned out to be a really fun game as the cast kept on landing on the letter “B” that made them go back three steps, which is “A.” They joked that they were there just to do a “sanpo (walk).” Meanwhile Kouki and Toshi advanced more than anyone else and even landed on the letter that gave them the power to make a team go back a few steps. They chose Zakki and Tatsun’s team. Eventually, Kouki and Toshi won the game.
A drama CD played as an introduction to the live drama acting which came in next. It was about the岩鳶中学水泳部 記録会お疲れ様パーティー (rough translation: Iwatobi Middle School Swimming Club Track Meet Thank you Party) Everyone goes to Ikuya and Natsuya-senpai’s house for the celebration. Ikuya was complaining how his brother did not do anything to help in the preparation. It was their mom who did the cooking, which everyone liked.
They played games after eating as they teamed up in unexpected pairs: Asahi and Makoto, Ikuya and Nao-senpai, and Haru and Natsuya-senpai. Makoto and Asahi were tasked to speak in Kansai accent. Asahi did a ridiculous tongue twister to which Toshi really did a great job eliciting applause and cheers from the audience. He was then teased into singing a random chant he made up on the spot. (It was really cute because he was singing in his middle school voice!!) Toshi takes a chance to get revenge as he was able to tease Tatsun into singing on the spot. Tatsun was complaining how this was not supposed to happen and that no one took notice of how Makoto did his best to speak in Kansai. Tatsun didn’t really want to sing but everyone, the audience and the cast, kept on bugging him. He tried to change the topic saying that Makoto can do other things as well, like reading Haru’s mind. They then stared at each other and Tatsun finally gives in as Haru’s mind says that he wants Makoto to sing. And OMG OMG TATSUN DID IT. He sang High Speed’s theme song, Aching Horns, in his middle school Makoto voice. It was sooooooo damn cuuuuuuute T.T Such an angelic moment Tatsun, thank you!
Meanwhile, for Haru and Natsuya-senpai’s turn, they made Haru dip underwater. Zakki just sat there covering his face with his knees. Haru was taking a loooong time under which made everyone worried that something bad may have happened to him. When Haru rose, he said he was completely fine and apparently was just savoring the moment. (Ofc you guys should’ve known this because he’s Haru and the safest place he can be is in the water right ^_^)
A video comment from Miyano Mamoru, Matsuoka Rin’s seiyuu came in next. (I almost jumped from my seat out of delight as I was not expecting any more video comments at this time and if ever, not from Rin because he barely appeared in the movie lol) And being Mamo, it ended up being a long message. He said himself that he only participated little in the movie as Rin’s letter. But he pointed out how Rin is a really special character to him and wants to keep acting as Rin and grow with Rin. He was happy to be able to experience “seishun (youth)” again because of Free. Whoa, I can really, really feel Mamo’s passion for Free! and his love for Rin. *sniffs* Mamo then led everyone to the next video which contains the special announcements.
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The special announcements – This is what I’ve been looking forward to, since the day the event was announced. Based on the anime’s ending, season 3 isn’t expected anymore. So at least OVAs or novel and manga adaptations were to suffice. I was really surprised and delighted with High Speed even if it featured their middle school days. But after that, what’s to come for Free!? Their grade school days? Well that’s when everything began as that’s when they met Rin, but if they were to adapt this, it might be hard to keep the seiyuus.
Anyway, as soon as the VTR played showing the first frame, my tears uncontrollably began to fall. Huhuhu
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My goodness, my feelings, I can no longer take this. Especially when the new Style Five song began to play, then they showed the high school Asahi and Ikuya, and then the date 4.22 ROADSHOW. 7.1 ROADSHOW. OMG There’ll be two??!! OMG What did I do to deserve this? Plus I only need to wait for a month for the first one. Then the advance ticket selling begins immediately on the Saturday of that week, 3.25. Free! What are you doing to me??!! 
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Then finally, the new movie, Take Your Marks! NEW STORY and it will be shown this year also. Okay. This has been the happiest moment of my 2017. Words can no longer express how much I was feeling. I did no longer control or bother to hide it as I heard everyone beside me was also sniffing and sniffing.
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The seiyuus were amazed by the audience’s reaction. They thanked the audience because it was all thanks to us that the Free! series continues. But no, I am badly thanking you also, everyone, not only the cast, but the staff. T.T I truly believe in Haru’s words “Owari nante nai! (There’s no such thing as ending!)” Toshi and Kouki were also happy that they get to act as Asahi and Ikuya once again, this time as high school students.
It was finally time to say goodbye so the seiyuus all gave their farewell and thank you messages. The cast was actually thankful to Zakki and Tatsun as everyone besides these two was relatively new to Free!. Hino-san says that they were actually saved by these two. From the start of High Speed’s recording, they felt how the atmosphere of these two was different as they already have deep connections to the series and the characters. This aided them (the supposed newcomers) to realize how precious this series is and so encouraged them do their best. Toshi bows down to the two in gratitude.
Tatsun gave the most touching message as usual, and I can really feel how deeply he loves Free! He remembers what he said in the last event in 2015, that he will play any Tachibana Makoto no matter what. He is really happy that the Free! series continues. He also shared how he even argued with the higher-ups about the casting of Nagisa and Rei in High Speed because he really wanted Wingu (Yonaga Tsubasa) and HiraDai (Hirakawa Daisuke) to be there.
The seiyuus finally made rounds to thank everyone, bowing and waving their goodbyes to all sides of the stadium. When the cast left, “See you next movie!” flashed on the screens, and I think a tear dropped again from my eye. T.T
Photos and screenshots from Official Twitter accounts:
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Anyway, the DVD/Blu-ray for this event has been decided! It’ll be on sale on August 18. Yey! And ofc I’ll buy this as my souvenir/memento.
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I only have one regret in this event – it’s that I did not buy the DVD so I could have joined the lottery before and so could have gotten a closer seat. Anyway, it was a fun event, though the previous one was more fun (though I haven’t gone there live) because everyone was there. I just hope that we can have an event in the future featuring the Iwatobi and Samezuka team, plus Ikuya and Asahi. Just wow. Though this is just the second seiyuu event that I’ve attended live (the first one being Bungou Stray Dogs), I just realized that you can enjoy seiyuu events best when you love the seiyuus in it and the series itself. I look forward to more events in the near future!!
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supersoniclevel · 7 years
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Free!TM約束みてきました
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(撮影・アップロード可能部分) 封切り初日から毎週行ってかれこれ4回観ました。最終週にあともう1回行く予定だけど、そのあとは円盤まで観られないとか正しい意味でつらい… 一週目の舞台挨拶で、鮫柄の衣装は宗介が選んだって言ってて、「宗介チョイスの衣装とか…不安しかねえじゃん…どうするみんな首のとこモコってなったパーカー着てたら…」とか心配したけどそれむしろ前回だったわ。 黒ランはいいものです。 舞台挨拶開始直前にジャケット脱いでジャンケン大会していて、なにやってんのお前ら…仲良しかよ……ってとてもホッコリした。ありがとう。 続きから映画の中身の感想です。 鮫柄担なので細かいことばっかり言ってて気持ち悪いかも知れないけど大目に見てくれるとうれしいな…☆ とてもいまさらですが、ねたばれ注意。
雫ピチョーンのシーンから始まったけどもう騙されないぞ。というわけでショタ凛ちゃんと一家のハートウォーミングな回想から。 早くもここで泣く…… 凛ちゃんが、お父さんのことがどれだけ大好きで、いかにして親父の夢やメドレーリレーにこだわるようになっていったかというのがよりわかりやすくなる、とてもいい追加エピソードでした。 ただ、TV版観てた頃から「凛ちゃんはお父さんを早くに亡くして一家の黒一点なのに、お母さんと妹置いて岩鳶やらオーストラリアに行っちゃうのどうなの??」と言ってたんですが、この追加エピで「(母と妹を)支えなきゃいけないと思った」ってモノローグが入ったので、だからぁ!!!!ってなった笑 虎一さんが笑った顔がすっげーーー凛ちゃんにそっくりなのに感動する… あとねー江ちゃんがめちゃめちゃかわいいんだよ…お父さんにメダル掛けて貰えなくて「江も江も-!」ってプンプンしてるの最高にかわいい。SCには一緒に行ってた(のに泳げるようにならなかった)のか… 。 というかここに限らず、要所要所で江ちゃんのシーンが入っていて、凛ちゃんや宗介を応援する「サブキャラクター」として、しっかりと扱われていたのがすごく嬉しかったなぁ。しかし宗介の通院シーンを入れるためだけに風邪をひかせるのはNG(かわいそう) ショタ宗介と凛ちゃんの回想は、シーンごとに拳をコツンと合わせるカットが繰り返し入って、ケンカしたシーンのあと、宗介が一人で拳突きだしてるカットになるという、二人が道を違えたことを思わせる演出がニクイ… そしてオープニングが始まるわけなんですけど、しょっぱなの「オレたちのFree」のとこでブワーーーーって涙が溢れ出た… その部分は映像的には二期のOPまんまなんだけど、まあ音楽との合わせの妙だよね…二期OPの中でもあのカットは本当に大好き。 んで次に泣いたのが、一期OPから持ってきた、はるりんが対峙するカットのとこ…もともとのは水中で岩鳶の仲間と一緒にいるハルちゃんVS乾いた荒野で一人の凛ちゃんというカットだったのが、凛ちゃんも水の中にいて、うしろに鮫柄の仲間が一緒にいるの、ほんっっっとーーーーに嬉しくてたまらなかった ハルちゃんと凛ちゃんが、すれ違いざまに二ッてほほ笑んで、それぞれのチームのもとへ歩いて行くシーンもとても好きだし、一期OPのラストで使われてた真琴・渚・怜のカットを全員分描いてくれたのもうれしかったし、何が言いたいかというと、OPが本当に神がかってる。このOPだけで入場料払う価値があると思う。いや本当に。 わたしは鮫柄に限定しなくても全キャラの中でモモが最推しで、県大会で泳ぐモモが一番カッコイイ!と思っているので、そこをバッサリ削られたのが初見ではだいぶショックだったんですけど、 何回も観ているうち、地方大会リレーでのモモの泳ぐシーンに県大会の映像が使われてるのがわかって、仲間のために一番手として泳いでいるモモが、あの時の最高にカッコイイ、真剣な表情をしているほうがいいような気がしてきたので、最終的には許しました。 ただ、ひとつだけ言わせてもらうならば、わたしが真に一番好きなのは県大会でゴールした直後にタイムを確認するときのモモの表情なので、それを入れてもらえなかったのはやっぱり惜しかったな…… 円盤持ってる人で、百太郎あんま注目してなかったって人はぜひ見てみて! 本当に一瞬のシーンなんだけど、あのモモが本当に真剣な顔してるのすごくグッとくるよ(もちろん泳いでる最中も真剣なのですが、その結果を必死になって確認しようとするっていうのがより本気さが出てていい) モモは基本的に、どうでもいい賑やかしのわちゃわちゃしたシーンで輝く子なので(笑)、案の定いろいろあれもこれもカットされてて、出番的にはちょっと物足りないな~という印象だったのですが、(まこりん電話シーンの繋ぎのためとはいえ)ピュン介のシーンと、オーストラリア土産をねだるシーンが入ってたのはめっちゃうれしかったです…かわいい… ところで、盆休みに引き継ぎの練習をしようとする愛ちゃんとモモの追加エピ、宗介のアドバイスが何回聞いても意味が分からないので誰か教えてくださ… 「愛はゴール前でもスピードが落ちないからよく見ておけ」的なことを言っていると思うんですが、それを見ていなければいけないのはモモではなくお前(バッタ泳者)では?? ??? そしてメインである地方大会のリレーは、TV版では無かったモモや愛ちゃんへの応援が入っていて、「鮫柄のリレー」を観られるのがとても良かったです。うおっち先輩の「モモ行けーーー!!!!」がすごい熱い。二人の先輩後輩としての関係とか、負けても後輩を全力で応援するうおっち先輩のかっこいいところが出てて好きです。 「あの」シーンで涙ボロッボロになってしまうのは言うまでもなく当然のことなので割愛しますが、それも鮫柄チームに没入して観てきたから余計グッとくるし、まだTV版のを再確認してないから間違ってたらゴメンナサイですが、凛ちゃんがゴールするシーン、県大会のハルちゃんのゴールシーンの模倣だよね? そういうところもかきおろしてくれてるのとてもうれしいなぁ。 ただスタート前のシーンは、4人が意気込みを言い合うのとても良かったんですが、TV版の「これが俺たちのチームだ。最高のな」にはどう足掻いても勝てないなぁ…。あのセリフは本当に大好きです。無いのがちょっぴり残念。 最後の、「お前が帰ってくんの、待ってるから」のシーンは、TV版だととても寂しい印象があったのですが、愛ちゃんとモモがご飯行きましょうよ!って来てくれて、4人で仲良く談笑しながら歩いてくのがとてもほほえましくて、救われます。凜と宗介が沈みがちな時に、後輩二人が引き上げてくれる感じがすごく好き。鮫柄まじ最高のチーム… で、直後に地方大会の記念写真が挿入されるのがまた泣けるんだよ… EDは、岩鳶含めたそれぞれのその後が垣間見える演出で良かったです。 怜ちゃんが次期部長に任命されるシーンで泣いちゃう…だってほんとに嬉しそうな顔するんだもん……よかったね……… ラストの、まこはるが新しい生活に踏み出していくのを競泳のスタートにかけてるシーンはとても印象的で良い演出だなと思うのですが、スタート台に岩鳶SCRのコーチ姿の真琴が立ってるのがすげーシュールでちょっと面白い笑 その他、「宗介、お前…本気じゃなかったのかよ」のシーンの音楽がクッソ格好いいとか、まこりん電話シーンが二人の関係性がとてもよく出ていて良い追加エピだったとか語り足りないところも多いのですが、とにかく鮫柄編としても、Freeの総集編としても、よくできた作品だなと思いました。 秋のTYMもとてもたのしみ。
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鮫柄最高のチーム!(凛ちゃんだけ自引きできませんでした)
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hemu-hr · 7 years
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Free!TM感想とFree!感想
Free!TMは天ちゃん先生とゴローちゃんも追加されてて嬉しかった。 リレーのメンバーだけじゃなく傍で支えてくれる人がいますって表現は絆だなと思うので。傍で協力したり心配したり応援したりしている人の存在を目に見える形で表現してくれたというのは嬉しい。
渚と怜ちゃんと江ちゃんはもっと欲しかったな。 ハルちゃんがセリフで説明する部分があったけど、どの部員だって居なかったら部が成立してないくらい重要なので。 渚はハルちゃんが再びリレーをやるだろうと信じてたからこそ、持ち前の積極性でもってハルちゃんを水泳にもう一度かかわらせることができたと思うし、怜ちゃんは外から入ってきた人間ってことで客観性と寛容さでもって過去の絆を再び取り戻すキッカケを作ってくれたし、江ちゃんは過去の水泳部の記録まで調べたりチームの士気を鼓舞してくれたり新入部員勧誘のアイデア出しやら筋肉の採点をしつつ褒める部分をおさえてご飯のチェックもしてその他もろもろ…貢献度が凄い!
遙と真琴の成長のシーンがあるからこそ、他は?ってなっちゃう。 遙と凛の心が動くシーンがあるからこそ、やっぱり他は?もっと色んな絆あったでしょ?って。 出てはいるけれども分量というか比率が偏ってるなって。 再編集元のESだと御子柴兄弟以外だいたい悩んでるから使いドコロが難しいっていうのもわかるんですが。 外野の言葉に影響されて作った感が否めないんです。
私は一期Free!の最後の表現に何も不満がなかったし、続編のESで怜ちゃんがFree!でしてくれた厚意に凛ちゃんも厚意で返した表現がとても好きなので。ある程度の外部からのリアクションを予想してても貫いてるものがFree!にはあったなと。ESはちょっと内部のパワーバランスが崩れたような気もしますが、それでも貫きたいものを貫いてる作品だと思うんです。
Free!の最後について、特に怜ちゃんに関して私は怜ちゃんはリレーに興味があるとこまで気持ちをもっていってたけど��目の前の好きな人達の為なら自分の枠を譲れるくらいの執着しかなかったんだと思うんです。そして凛ちゃんと泳ぎたいという遙先輩の為に、それが出来た。そして素晴らしいリレーを初めて目の前で見るんです。怜ちゃんは。みんなが拘っているリレーというもののベストな形が具現化して目前にあって、そこで初めて心の底からリレーをしてみたいと思ったんじゃないかと。凛ちゃんが父の影響でリレーに憧れを持ったように。効果スタッフさんの愛すべき機転でもって怜ちゃんチョウチョがラストのリレーに加えられてたのも素晴らしかった。あの瞬間、リレーのメンバーの席を譲ってはいたけれど、心は一緒に泳いでたと思うんです。だからこそ最後にみんなで撮った最高の笑顔の写真に心が打たれたんです。
その怜ちゃんの気持ちはESでも描かれていて、バッタ以外も泳げるようになりたいと思ったのは泳ぐことに自分自身で向き合うようになったんだなと、そう受け取れるんです。 いろいろな感情の変化を素直に受け取れるのも貫いてる作品だからかなって。
映画のハイスピード!とFree!TMはこうしたらいいんでしょって感がある。Free!がそのまま好きだからこそ周りの言葉を気にしないで作りたいものを貫いてほしいです。こうしたらってやるとやらなきゃいけない課題が増えるだけで一本の筋が通らなくなっちゃう。お仕事だからそう簡単にはいかないだろうし、いろんな人の意見も通さなきゃならないのもわかるので…Free!は奇跡みたいなアニメだったのかもなぁ。ついでに両作品、水のエフェクトが過剰なのも好みじゃないです。
遙と凛のベッドシーンを巨大スクリーン観て、Free!って泳ぐことで対話して前に進むような作品だなって思ってるんですが、凛ちゃんがハルちゃんを試した泳ぎの熱が時間差でもってもう一度ハルちゃんの中に現れる…凄く遙と凛の対話だー!!って思えて好きです。初めて泳いだときのことを二人とも覚えているのも、どの熱さも胸の中にあって気付いてなくともずっと熱いんだなって。それからハルちゃんが「覚えてる」って言うのも、あの時あの瞬間の記憶がどんなに重要かがあらわれているのと、ハルちゃんの俺だって!みたいな気持ちで言ってないかソレっていう張り合ってる感も少し出てて可愛い。七瀬遙にとっては初めて自分と対等に泳げる存在に気付いた瞬間、初めて水の中で熱くなった瞬間でもあるだろうから。遙と凛に関してはがっちがちにフィルタリングされてる目で見ちゃってるんで、何言ってるのかは自分でもよくわからない域に居ます。Free!に関してもそれは変わらないのでやっぱり変な捉え方してるんだろうな。
旭と郁弥はこれから上映される二作品にも繋がっていく線のような存在だと思ったのでまだ途中で早く最後まで観たいなと。 Free!は一本のエンディングで、ESは鮫柄と岩鳶二本かと思いきや鮫柄と岩鳶と遙と凛の三本のエンディングがあったなっていう受け止め方をしてるんですが、Free!TMからの三作品はひとつのエンディングになるのか枝分かれエンディングになるのか…最後まで観ないことにはわからないのでどうなるのか楽しみです!
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croske · 7 years
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HIGH SPEEDイベントDVD届いた!
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bani620 · 7 years
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Free!の映画最強に泣いた😭 しんどいw たまらんぐらいしんどい💖💖💖 嗚咽しながら泣いて終われば目が充血w 7月の約束なんか、大好きな凛ちゃんやし、過呼吸なるわw 絶対なるw 気持ち悪い内容ですんませんw まだ気持ちが舞い上がり中でw なかなか現実世界に戻れませんw #Free!#絆#岩鳶高校水泳部#岩鳶#しんどい#映画#オタ活#早く約束みたい
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ohmamechan · 7 years
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地方大会のリレーについて
※ES版と劇場版「約束」では、地方大会のリレーの印象が違うように感じたので、書いておきます。 ほぼ自分の妄想かもしれないし、事実は違うのかもしれない。自分が気付いていなかっただけで、今更??と思われるかもしれない。けど、…改めて、映画館であのリレー を見て、すごくすごく、胸が震えたので。 地方大会のリレーで、鮫柄はタッチの差で岩鳶に負けてしまうという結果は、ES版と劇場版で変わりがないが、レース自体の印象は全然違うものに感じた。 ES版では、岩��対鮫柄の対決図式を中心に描かれていた。それは、一期最終話の凛の「鮫柄で最強のチームを作ってやる」という発言から二期につながり、それからずっと物語 の側にあったものだった。 けれど、劇場版では、演出の違いによって、対決図式を強調したものではなく、鮫柄水泳部という大きなチームそのもののためのリレーが展開されたんだ、という印象に変わった。 ES版から疑問に思っていたのは、「鮫柄は岩鳶に負ける」という結果を用意していたのなら、なぜ凛を、50mを泳いでターンした時点で遙に追いつかせたのか、並ばせ たのか、ということだった。 そもそも、宗介が肩を故障しており、それは無視できないほどで、泳ぎ切ることすら難しいかもしれない、というハンデを鮫柄側は背負っていたので、岩鳶に勝てる可能性 は初めから低かった。リレー自体が成り立つかどうかすら、危うかった。 だから鮫柄が岩鳶に負けても「どこか仕方ない」と思わせる雰囲気はあった。だったら、ターンで一度並ぶことなく、そのままの流れで競って、タッチの差で負ける、とい う展開でもよかったのに。なぜだろう、と思っていた。  ターンで並ばせることで、��しかして勝てるのでは、と期待させたり、レースを白熱したものにすることはできる。  ES版を視聴した当時は、対決図式を盛り上がらせるための演出かな、と片付けてはいたが、そうなると、結果として凛が「リレーで最終的にせり負けた、勝てなかった 部長」になってしまっている気がして、どこか腑に落ちなかった。対決図式のみが強調されると、そうなってしまう。(もちろん、それも二期の熱い見どころの一つだったので 、これがいいとか悪いとかの話ではない)  けれど、劇場版では少し異なる。対決図式はややなりを潜めて、「鮫柄のリレー」を中心に描く演出がなされていた。  それは、遙が、凛と宗介のやり取りを聞いて、その抱えた状況やリレーへの思いを、渚たち岩鳶のメンバーに伝える場面がカットされていたこと。そして、リレーの 直前に、「岩鳶と鮫柄の泳者が順に、それぞれの思いを宣言する」場面(ES版)が、「モモ、似鳥、宗介、凛の鮫柄リレーメンバーが、それぞれのチームへの思いを語る 」場面に変わっていたことが挙げられる。 この演出が、岩鳶対鮫柄の対決図式ではなく、「鮫柄の思いのこもったリレー」にクローズアップさせる役割を果たしていたと思う。 宗介が抱えていた、重い苦しみと現実を知った上で、それぞれがどんな思いでこのレースに臨むのか、表情と声の演技で、くっきりと描かれていた。似鳥は、ずっと願って いた凛と泳ぐリレーへの思い、モモは昨年のリレーの話を聞いてから、なおリレーへの憧れを膨らませ、宗介はもう一度、凛とリレーを泳ぎたい、という夢をはっきりと見 いだせた。 その三人の思いを最終的に引き継ぐのが、第四泳者の凛だった。  レースの流れ自体は、ES版と変わらない。第一泳者のモモが真琴とそう変わらないタイミングで引き継ぎ、モモが渚に食らいついてそう遅れることなく、宗介に引き継 いだ。宗介は、途中で肩の痛みに呻き、水を掻くことができず、失速してしまう。(足をついたら失格、という緊張場面でもある)しかし、宗介は凛の呼ぶ声と、自身に残 っていた想いの強さを力に、死に物狂いで腕を掻き、やや怜に遅れを取りながらもタッチする。  このあと凛は、当然、宗介が力を振り絞って繋いだリレーを渾身の力で泳ぐ。けれど、この時凛が考えていたのは、岩鳶に勝つこと、第四泳者でライバルである遙に勝つ ことだけではなかったのではないかと思う。  なぜなら、凛には責任がある。  宗介の肩の故障というハンデを抱えながらも、本人の意思、希望、似鳥やモモの願いもあって、棄権せず、リレーメンバーの振り替えもせず、そのまま続行した。  もし、失格、もしくは結果が出せなかったら、似鳥やモモ、何より宗介に負い目が残る。自分たちだけが「結果はどうあれ、よかった。がんばって泳いだな」では済まさ れない。なぜなら、リレーに熱い思いを注ぐのは、他の部員も同じだからだ。似鳥、モモ、宗介、凛の代わりにリレーを泳ぎたかった部員がいる。(モモにメンバーの座を 奪われ、悔しがりながらも託した魚住しかり)みんなで全国にいきたい、と願って必死で声援を送る部員たちがいる。サポートに徹して来た、レギュラーになれなかった数 多くの部員たちがいる。 凛の背中の向こうには、リレーメンバーだけでなく、鮫柄水泳部そのものがいるのだ。部長として仲間とともに築き上げて来た、水泳部の存在があるのだ。  そのことに改めて気づかされたのは、新規で、応援していた鮫柄水泳部部員が、全国にいけるかどうか、固唾をのんでリザルトが表示されるのを待ち、結果を見て安堵し ていた場面が追加されていたことからだ。ここで、リレーメンバーだけではない、「リレーを熱く見守っていたみんな」の存在をよりくっきりとさせていると思う。  だから凛は部長として、リレーへの熱い思いを語って来た者として、なんとしてでも、彼らを全国へ連れて行かなければならない、と思っていたと思う。    ここで、リレーの展開の話になってくる。この時、凛が第一に考えていたのは、遙に勝つことではなく、タイムも順位も狙っていくことだったのではないか。(それが結 果的に岩鳶に、遙に、勝つことにもなるのだが) そのために、前半の50mで遙に差を詰めた。個人種目とは打って変わって、リレーでフリーを泳ぐ遙のハイスピードは相当なものであること、後半で巻き返そうとしても ノンンブレスでさらに加速して泳ぐ遙を刺すのは相当難しいことを、凛はよく分かっていたはずだ。何度も競い合ってきたから。なので、前半に出来る限りの力を突っ込ん でなんとか並び、ターンで差を広げて離す、という作戦に出た。しかし、前半に体力を相当つぎ込んでいたために、抜き去ることが難しかった。 結果として二位だし、最終泳者としては負けた。けれど、全国に出場することができる。 責任というプレッシャーに打ち勝って、凛は立派に全国へ繋いだのだ。 もはや、ES版で受け取っていた「リレーで競り負けてしまった部長」という印象とは全く異なる。 ハンデを帳消しにし、誰にも負い目を感じさせず、タイムと差を縮めて全国大会に出場できるように、見事に泳ぎ切った。 御子柴部長から打診があり、それを受け止め、部長という役割を背負った時から、凛なりにその役割を全うしようと日々つとめてきた。 その熱い思いの現れが、あのリレーの、100mフリーだったのではないか。 凛の部長としての誠実さと、勝負者としての確かな計算と熱意を感じる、レース展開と結果だと、改めて思い直した。 それに、凛にとっても、ようやく自分だけの、自分の想いで構築されたリレーができたのではないか、とも思う。 小6のリレーは、父への尊敬と思慕、七瀬遙へのあこがれ、リレーそのものへの憧憬から。 高2のリレーは、仲間との絆、水泳への想いを取り戻すためのもの。 それが、ここにきて、一から自分が作りあげたチームでリレーができた。やりたかったことを、周りを巻き込み、思いも寄らぬ形になったことすら力にして、リレーを泳ぎ 切った。凛の思いが一つ叶った瞬間だったと思う。 約束のキャッチフレーズは「あいつらに見せたい夢がある」だった。 「あいつら」が表しているのは、リレーメンバーだけだと思っていた。けれど、凛にとって、「あいつら」は鮫柄水泳部の仲間や、松岡凛に関わる全ての人たちなのではな いか、と映画を見るうちに思うようになった。 夢ってなんだ、未来ってなんだ、一生懸命生きるってなんだ。 そういうことを、日々を大切に、がむしゃらに生きて生きて、生き抜くことで体現し、投げかけている。そんな気がする。 松岡凛とは、こういう人なんだ、と改めて思い知らされた映画であり、このリレーの一場面をとっても、それがひしひしと伝わって来る。 息子さんの姿を、お父さんに見せてあげたいな。きっと、お空から見てると思うけど。 リレーから話は逸れるけれど。 その圧倒的な勢いで生きている凛が、七瀬遙が立ち止まった時だけはほろりと「前を泳いでいてくれなきゃ、困る」「じゃねえと張り合いがねえだろ」などと、半分弱音の ようなこと零すので、はるりんババアはたまらなくなりますね。 遙が立ち止まっても、迷っても、凛は泳げる。その強さがある。でも、本当は少しだけ、不安で、近しいところに指標としていてほしい…遙にだけ、そういう弱みが出ると いうか…弱みという名の人間らしさが出ると言うか…。そこがたまらない。んだよちくしょー!! また留学しようかどうか悩んでいたところや、決意までの道のりは深く描かれなかったけれど、朝焼けの中、遙に語って「リベンジだ」と宣言したのは、他でもない遙に聴 いてほしかったからじゃないかな、と。壁にぶつかったとき、尖った感情が主に遙に向かってしまっていたことを考えると、この流れもすごくまっとうで。遙は未来を見つ ける旅、凛は未来の方向を確かめる旅になった。他でもない、唯一無二のライバルと共に。この数日間の旅を、二人は一生覚えているんだろうな。  凛の突き進む強さや勇ましさはかっこいいし、魅力的だと思うけれど。ほろりと見せる本音が…また彼を魅力的にしているし、誰かと繋がって生きているんだ、と思わせ てくれる。 一期視聴時には、凛のことを「さそりの火」みたいだな、と思っていたけれど。もうそうじゃないんだな。ひとりぼっちでがんばってるんじゃない。誰かと繋がりながら、自分のためにも誰かのためにも、自分を大 切にして生きられる人になっていくんだな。 最後にやっぱり、はるりんおばさんがひょっこり顔を出したけれど、絆も約束も、一期と二期とハイスピが持っていたテーマをよりわかりやすく中心に据えて再構築され、 新たな見方や人物たちの魅力を伝えてくれる、すばらしい映画だといえる。続編に、期待しかない。 以上。
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Each and every day, the flowing time passes by Even if we're apart, we're still connected together
- Free! 岩鳶水泳部 , Clear Blue Departure.
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