#奥尻漁港
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shukiiflog · 1 year ago
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ある画家の手記if.87- 佐伯光視点 逃避行
しあわせなふりをするのは得意だった。 そのためには外のことなんてなにもしらないでいることが肝要だった。 真澄の車に乗りこんだとき、おわりが始まったとおもった。
いつまでいっしょにいられるか、真澄が途中でわたしを捨ててっちゃうかもしれないし、わたしがしんじゃってそこまでかもしれない、そのおわりは1時間後かもしれないし、5分後かもしれない、そのときがいつきたって大丈夫なように今しか頭にないみたいにふるまった。いつ捨ててもわたしはしあわせいっぱいに見えるように。 それは半分くらいはほんとうのことだった。やっぱり外にでてほんものを色々見てみたりさわったりするうちに、しらないものに出会って感動するたび、そのときは確かに今しかないみたいな気持ちにもなったきがする。 どんどん引きかえす場所がくずれて、うしなわれていく。 真澄がどうするつもりなのかはしらなかった。 でも「さがさないでください」なんて紙をあちこちに提出したってことはわたしが無事におなじ場所へかえっても問題なくその後もすごせる保険をかけていったってことだ。 真澄の保険でもあるかもしれないけど、でも実際あれから帰ってきたおなじ施設のなかに、わたしは今もいる。
***
真澄におわかれを言って、ひとりでだれもいない電車にのって、窓から海が見えてきたら車をおりた。 靴を両手にもって、海辺をはだしで波をぱしゃぱしゃ蹴りながらあるいて。太陽がたかく登ってきたころに陽に照らされすぎてあつくて浜にたおれた。 …かえらなきゃ 真澄… 「うーわー水死体?うちあげられちゃったかんじ?」 「馬鹿言うな 生きてるだろう 呼吸と脈の確認をしろ」 「おーマジだ生きてる。これって救急?ケーサツ?」 「まだ午前だからな 軽度の日射病ならどっちも必要ない 持病がなければな… 」 「じゃあお持ち帰り?」 「お前が世話をするなら」 「はぁぁ?ジョーダン。ペットにペットは飼えないっすわ〜」 ………脈とか取られたきがする、 頭上からやりとりが聞こえてきて、わたしのことかな���とおもったからうつぶせに倒れてた状態からがんばって起きあがった。ぐらぐらしてよく見えないけど、ふたりの男のひとがいた、しっかり声もでないけど這いつくばった状態で頼んだら黒髪のひとがケータイを貸してくれた。 「ーーーーもしもし…佐伯光です…」 110番して、家出して一ヶ月くらい行方不明だったこと、ここがどこかよくわからないこと、ひとりでいることなんかを告げたら、褪せた茶髪のひとが話してる途中でわたしからケータイをとりあげた。そのひとがわたしの額に手をあてた。 「彼女にケータイを貸した通りすがりの者です 場所は***海岸の**漁港から東に4キロ付近の浜辺 本人は意識がやや混濁しています 目立った外傷はありませんが歩行は困難なようです 体温が異様に高い 背格好はーーーー、ーーーー、ーーーー…」 そのひとの声が耳からとおくなって薄れていく。 なんとかすこし起きあがってた体がぺしゃんてまた砂浜のうえにくずれた。 …しねない 真澄に連絡しようとして、ずっといっしょにいたから連絡先なんてなにもしらないままだったことに気づいて、警察にした。それで家にはかえれる …真澄に会う
外をしればしるほど もう二度と、とてもちいさくてせまかった施設のなかにはもどれなくなって 真澄といっしょにいてしあわせだった わたしは真澄がすきだから しあわせなのはわたしひとりだった そのことに気づいて 無視できなくなって それでも寂しさをわたしはうまく隠せてたとおもう 旅の途中からわたしに目的ができた 真澄もだれかをしあわせにできるって事実を真澄にあげたかった わたしにできることなんてそれくらいしか思いつかなかった …なのに、最後の最後でそれもちゃんとやり遂げられなかった 観覧車のくだりにかこつけてほんのちょっと本心を溢したら、涙なんてばかみたいなもの出てきた、なにもかもぶちこわしだ、そのままずらずら出てきた言葉は本心と願望と前はそうだったわたしと今はもう違うわたしがぐちゃぐちゃに混ざったみたいななにかだった …なにを言いたいのかもよくわからないような それでも なにかの意味は汲めてしまうようなことば ぜんぶぶちこわしだ わたしは真澄のことをすきなだけで愛されなくたってしあわせいっぱいで でもそんなわけにいかないじゃないか あんなに大事に扱われて いちいち着替えたりごはん食べたり眠れなくても横になったり、真澄はわたしに生き延びるすべを説こうとしてた 真澄も苦しみながら わたしはわたしに嘘ついてるわけにいかなくなっちゃった 真澄にだいじにしてもらえたわたしはわたしの気持ちを粗末に放置してそのへんにおいてけないじゃないか、それが…わたしが真澄にあげたかったものを最後にぶちこわした
…真澄にひどいことを言って出てきた もう施設には帰れない、あのなかでこれまでとおなじようには生きられない、真澄に愛されないまましあわせそうにそばにもいられない、ずっとこんな旅つづかない、わたしは熱がさがらない、でも真澄の目の前で死んでたまるもんか、わたしだけそんなことが真澄に許されるなんて許さない ぜったいにそれだけは許さない そうおもって、それ以上の考えもなく出てきた 真澄の目の前にわたしの死体が転がらないように しねない でも生き延びられるかもわからない なら病院にかかるためにそこからまっすぐ警察署でも交番でもいけばよかったのに なんで海なんて見にきちゃったんだろう …ぜんぜんだめだわたしは 茶髪のひとがわたしを抱えてちかくの木陰に移動させられた 木に寄りかかるように座らされて、そのままふたりはどこかに行って戻らなかった 一歩もうごけないまま朦朧としてたら、救急の制服機たひとたちが持ってきた担架にわたしをのせて
目がさめたら病院だった 中身がなんなのかわかんない点滴とか体のあちこちから伸びてて、口にあててある呼吸器みたいなマスクが大きすぎて顔に合ってなくてこれで付けてて意味あるのかな…なんてぼんやりおもってるうちに、処置はおわって、自宅療養に切りかわった
まだちゃんと自立歩行もできない状態で運ばれて帰ってきたわたしを、父はしかるでも殴るでもなくなにも言わずにただ部屋に閉じこめた 父の好みでずっと長かった腰くらいまであった髪は、真澄に切ってもらってお腹のあたりまでにみじかくなってた このほうが動きやすくて好きだった 父の好みではないけど 部屋にいつも食事をもってきてくれたり新しい服を買ってきてくれたりするわたしの世話係みたいなひとがまたわたしの部屋に出入りするようになった このひとにもやりたいようにさせてきてた 帰ってきてまだぐったりして指先を動かすので精一杯なくらいのわたしにこのひとはこれまでとおなじことをした …ころしてやる 真澄が大事にしてくれた体を 毎日泣きながら涙の奥の瞳にありったけの憎悪をこめてただそのひとにすきなようにされるだけの日々が続いた とにかく体が回復して中途半端にじゃなくしっかり動けるようになるまでじっと耐えた だいぶ日が経ってようやくちゃんと動けるようになった日にわたしはいつも通り服に手をかけてきたそのひとの手に噛みついて指を噛みちぎった そのひとは叫びながら逃げていって、部屋には外から鍵がかけられた きもちわるい、不清潔な他人の指を口のなかから吐き捨てた 気が狂ったと思われたらしい 次からは別のひとになって、みたこともない、わたしに関心もなさそうな大学生くらいの女の子、バイトでやってるみたいで、わたしになにも聞いてこなかった、はなしかけても無視された、こたえちゃだめだって言われてるのかも 実際会話してなかよくなれるならこのひとを懐柔してこの部屋から出ようとおもってたから 真澄をひとりにしちゃだめだ
カレンダーも紙もペン一本もないから閉じこめられてどれくらい経ったのかわからない 毎日朝おきたら真澄がしてくれたのとおなじように髪の毛をじぶんでふたつのみつあみに結 った 真澄といっしょに食べたときのこと思い出しながら、これまでほとんど手をつけないできた食事を閉じこめられてからはなるべく食べた あいかわらず味覚が強すぎるし、刺激臭のするものはがんばって食べたあとにも結局胃の中や体から匂いがにじんできて気持ちわるくて吐いちゃった それでも吐き戻しても毎日ぜんぶ食 べた それで太っちゃったのかな 体感の重さや動きやすさはあんまり変わりないのに胸とかお尻がすこし膨らんできた..慣れなくてまだちょっときもちわるい…ずっと痩せた子供みたいな体型だったから
この部屋にはベッドがひとつと、壁際にきれいに本がならんだ本棚 天井付近に窓 これだけ
本棚のなかにはいろいろ私がたのんで買ってきてもらったもの 文学や思想書や哲学書や画集 ここから一生出ていけなくても、幼稚で無邪気な発想を抱えたまま心身の時間を止めてても、せめて豊かな世界が頭のなかだけでも構築できるように スティーブン・ホーキングやトゥールーズ=ロートレック、動けないことに人生を妨げられても豊かだったひとたちは歴史上いっぱいいる そういうひとたちのたくさんの本に支えられて、わたしは真澄に会いにいける
夜、ぜったいにだれもこないひとりだけの時間になってから、高い天井ちかくの窓のしたの床と壁に、本棚から丈夫な本を運びだして、階段みたいに積み上げた 足で踏みつけてごめんなさい でもここから出たら真澄に会いにいける 積みあげて天辺にのぼって、窓を開けた 安全のためにすこししか開かないようになってる仕組みの窓だけど、わたしは細くて小さいから実はここから通り抜けられることはずっと前から知ってた 他のだれも知らない ここから出れば真澄を探しにいける
***
ーーーーーーそれで、今。 1回目は失敗して地面におちちゃった。ちかくに植えてある樹に飛べばとどくとおもったのに…次はせまいけどなるべく助走と勢いつけて飛ぼう おちるとおもってなかったから転がらないで普通に着地しちゃったせいで両足首を骨折した ついでにあちこち捻挫とか打撲とか擦り傷とかできて、身体中ガーゼとか包帯があちこちについてる しばらくまたあんまり動けないけど、出られるまで何度でもためしてみる 次はもっとうまくやれる 旅の途中で真澄が着せてくれたシャツは大事にとってある 毎晩シャツをお守りがわりに抱いて横になる シャツに顔を寄せたら真澄の気配がする気がする 会えるまではシャツだけで我慢…わたしは真澄のとこにいく それで���度こそ、最期にわたしが真澄を失うんだ
動けるようになるまで時間かかっちゃう 書くものがないけどわたしが生きてることとか伝えなきゃ 本のページを破ってつかおう。 傷だらけの体と折れた足をひきずって四つん這いになって本棚の前まできた。床と擦れて膝すりむいた。 梯子の取りはずされた高い本棚を見上げる。 どの本もぼんやり内容おぼえてる、どこに欲しい文字があるか、わかる。立てないから下のほうの段の本から探さなきゃ。
 ” 光 です。 生きて る 。
   四  F の、 天 ま ド がある 端 の���屋
  カ ぎ がかか ツ てる。 出 られ 無い
   ごめん な さ い
  Liebens
   会い 鯛 。
    真澄 “
…怪文書みたい。「真澄」って文字だけでもちゃんとした漢字にしようとおもってがんばって探してたら時間かかった。 ほんとは会って直接言いたいことばっかりだ。でもまず会えなきゃどうにもならない… 愛って言葉が入ってる本ですぐ浮かぶのはエーリッヒ・フロムだけだったから、表紙のタイトルを使った。前後の文脈が欠けてるからへんな言葉になってそうだけど日本語よりニュアンスで伝わるかも。真澄に、何度も何度も無視できないくらいたくさん言った言葉。
定時にきたいつもの世話係の女の子にやっとできた手紙をみせた。 相変わらず返事してくれないけど、いつもわたしが一方的に話しかけていろんなこと話してたから、なんだかわたしはこの子といろんなこともう話したみたいな気になっちゃってる。 根本から信頼関係がないから、懐柔になるかはわからない。でも話さないよりましかなとおもって、自分の身の上話のうちで、その子が聞けば虚言癖とはおもわれない程度のわたしの事実を、大袈裟じゃなくひつようなだけ、調整してうちあけるように、これまで話してきた。 その子は手紙を見たら、なんでかわかんないけど泣きだした。 「…どうしたの?どこかいたいの?」 その子は首を横に振って、しっかり涙がとまってから目元を綺麗に拭いて崩れたお化粧をなおした。…同情と憐みの涙 だと期待しよう。 前任のひとの指噛みちぎっちゃった話とかをきいてて、わたしに襲いかかられそうで怖いかもしれない。 わたしはまたいっしょうけんめい這って、その子からいちばん遠い部屋のすみっこまで行って、そこの床に手紙をそっと置いた。 それからまた一番はなれたベッドの上に戻っておとなしく横になって、 「雪村真澄ってひとに渡して。施設内のひとに聞けば知ってるよ。でも父にだけは内緒にしてね」って言った。 それから、その子の挙動をわざと見れないように頭から布団かぶって、まんまるくなって音だけ耳を澄まして目をつぶった。しばらく間があって、その子は手紙を拾って持っていってくれたみたいだった。 「…捨てないでね」 部屋から出ていく寸前のその子に、布団の中からちいさな声でおねがいした。 捨てられちゃうかも…父に届けられてもっとよくないことになるかも、それでも言わないより言っておいた。 這いずって擦った膝が痛い。 布団の中にいたからその子がわたしのことばになにかリアクションしたのかは分かんなかったし、やっぱりなにも言ってはくれなかった。 それでも 真澄に届きますように
真澄視点・逃避行 続き
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kyono-toritori · 2 years ago
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とてもいいお天気で、なじみの漁港に足を運んだ。珍しいカモはいないかな…。
まずはカルガモ、ヒドリガモ。
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私の好きなウミアイサがつがいでやってきた。モヒカンヘアがセクシー。
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手前にホシハジロ、奥にスズガモ。
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ヒドリガモは額のクリーム色がとても可愛いらしいカモなのだけど、今日は機嫌が悪そう。どのカモも大声でメスの尻尾に攻撃している。遊んでるのか、求愛なのか。
そして興味なさそうなメス…w
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一枚に色んなカモの様子が見えるのが、漁港の楽しみ。 岩に立ってる右から2番目のカモだけ、マガモのメスだと思う。多分。オスはどうした。
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一羽でやってきたオオハクチョウに仲間が合流。こちらにすいーっと寄ってきた。こりゃ餌付けされてるな…?
真ん中の子は水飲み中。下を向いたまま水を飲めないらしくて、嘴に水を乗せてから上を向いて流し込むみたい。しょっぱそう…。
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今日は1個の漁港しか行けなかった。
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のぎわ公園で、マガンの渡り。ケラケラ…。ケラケラケラ…。
青森市はビルばかりで都会だなぁと思ってたけど、空が高いな。広い空も、高い空も好き。
のぎわでは、エナガ、コゲラなどを目撃。まだ雪が多くて、春になったら出直そう。
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khrbuild · 2 years ago
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初物っていいもんです。
食べると長生きするってね。
貝塚市水間寺会館
貝塚市水間町 新築 リフォーム坂口建設
何気なく1年経つのが早いと口にする。
日々流れていく時間と季節に区切りをつけて1年がすぎる。
地球や太陽がグルっとまわるとはっきりわかる前からある時間。
そしてそこに始まりがあるから正月ができ、良くも悪くも心機一転始められる。
だから初物という言葉が生まれるんですね。
それを食べると長生きするなんて言葉もね。
そうやって人々はけじめをつけて慎ましやかに喜びを生み出して生活を営んでる。
最高〜!!
季節を感じるには 、食文化が1番わかりやすいですかね。
そんな意味でいうとこの貝塚市というところは、山もありの海も近いから食での季節がわかりやすい。
ちなみに山育ちの私は春になるとタケノコ、菜の花、玉ねぎって感じですが、
この季節の海の幸はやっぱりワカメちゃん!!
昨日��愛しのわかめちゃんを探しに、カツオになった気分で、久しぶりに田尻漁港に朝からおでかけ。
コロナも落ち着いて人が賑わってます。
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ありましたよ、このお店!
わかめちゃん専門店
トロ箱100円!!
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物価の上昇にも負けず、今年も安くて大量。
すぐさまGET!!
その他にも春のものといえば、ナマコにハマグリと ハンターの気持ちになって店先を1軒1軒くまなく物色!
マナコもGETし、ハマグリさんを発見するも今年はまだまだ小振りで、買うのは断念。
ジュディ−は大好物の小さい穴子をてんぷらにして食べるが好きなので、それもゲット。
そしてこういう市場に来ると、お魚だけでなく野菜や干物にこんにゃく、どて焼きと色んなものが売られてる。
ちなみに私のもう一つのお目当ては、ここで売られてるチャンジャ。
これまたビールに合う。
そしてよく朝からご飯食べずにここに行きては、
この市場の1番奥にあるお店で、タコライスとうどんを食べるのが楽しみ。
今日は食べてない、なぜかはすぐわかる。
そのお店には鳥の唐揚げが売られてるんですが、このお店は泉南の樽井で有名な鳥の精肉店 「鳥甚」というお店らしい。
土曜日も我が家の夜ご飯、ジュディーお得意の鳥の唐揚げだったんです。
朝起きてあまりにもお腹が減ってるので我慢できずに食パン食べよと台所に行くと、昨晩の唐揚げが5つばかり残ってたんです。
早速パンに乗せてチーズとマヨネーズかけて、チキンチーズバーガーならぬチキンチーズサンドを作って食べてたらジュディーが洗濯物干して降りてきて、
「あっ!唐揚げたべられてる!!」
なんや君、食べたかったんかーーい。
すいません(-_-;)
お詫びに買いましたよ、田尻漁港で鳥甚の唐揚げ。
めちゃ美味しかったけどねw
いやいや鳥甚さんには悪いけど、ジュディーの味に比べたら足元にもおよびませんけどね
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ヌードバー君、その場合はゴマやがな(^o^;)
よし、ここまで来たら昼からプッシュ!!いわすでーーー!!!
もう一つ最後のトドメのビールのあてや、
田尻漁港からは帰りがけの泉佐野大宮にある春日通り商店街のアーケードを出てすぐにある、
「ちうち商店」練り物屋さんです。
ここのてんぷらがまた旨い。
タイミング良ければ揚げたてホカホカがゲットできる。
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店先でオヤジさんが練ってすぐあげてくれてる。
揚がったてんぷらは店先のカゴに入ってます。
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今書いててもヨダレが(^o^;)
ちなみに私はごぼ天ははずせませんが、紅生姜を細かく刻んだのが入ってるの好き。
みんな美味しいけどね。
まぁ、そんなこんなで帰ったら直ぐに、
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行儀悪いお皿にあけてと叱られながら
わかめを茹でてもらって、ナマコを切って
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わかめの茎の硬い部分がまたコリコリして美味しいよね。
甘くダシで炊いても美味しいけど、そのままポン酢で食べるのがたまらなく美味しい。
春ですねw
また今度機会あればハマグリの美味しい食べ方お見せしまーす。
リフレッシュして今週も寒いて言うけどがんばろー!
今週もどうぞよろしくおねがいします。
貝塚市 岸和田市 泉佐野市 泉大津市 和泉市 泉南市 阪南市 熊取町 忠岡町 田尻町
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tsukaexp · 2 years ago
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2022/08/13
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leblog400 · 2 years ago
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kuro-tetsu-tanuki · 3 years ago
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裕くんが三日月亭でバイトする話(タイトル)
定晴ルート入った辺りのお話。
委員会イベやら本編の描写やらとあるルートネタバレやら有。
「なぁ裕。お前、数日ここでバイトしねえか?」 「は?バイト?」
いつものように三日月亭に買い物に来ていた俺は、店長から唐突な申し出を受けた。
「お前ドニーズでバイトしてたって言ってたよな?調理スタッフとしてもやれるだろ?」 「はあ。まぁ、確かにキッチンもやってたのでやれなくはないですが。どうしたんです?随分と突然ですね」
三日月亭は店長が一人で回している。 繁盛している時間は確かに忙しそうではあるが、注文、調理、配膳と見事に捌いている。 港の食堂を稼働させていた時の俺のような状態ではとてもない。 これが経験の差というものか。 いや、それは兎も角人員を雇う必要性をあまり感じないのだがどうしたというのだろうか。
「いや、その・・・ちょっと腰が・・・な」 「腰?店長腰悪くしたんですか?ちょ、大丈夫ですか!?海堂さん呼んできましょうか?あの人ああ見えてマッサージ得意なので」 「あー・・・そういうワケじゃ、いや、元はと言えばお前らがブランコなんか・・・」
なんだかよくわからないが随分と歯切れが悪い。 腰悪くしたことがそんなに言いにくい事なのか? 言葉尻が小さくて上手く聞き取れない。
「・・・あー、海堂の旦那の事は頼む。屈んだりすると結構痛むもんでな。基本はホール、こっちが手一杯になったらキッチンもやってもらうつもりだ。で、どうだ?まかない付きで給料もしっかり出すぜ。時給は・・・こんくらいでどうだ?」 「おお・・・意外と結構な金額出しますね」 「臨時とは言えこっちから頼んでるわけだしな。その分コキ使ってやるが」
海堂さんの事を頼まれつつ、仕事内容も確認する。 まぁ、ドニーズの頃と左程変わらないだろう。お酒の提供が主、くらいの違いか。 時給もこんな離島の��酒屋とは思えない程には良い。田舎の離島で時給四桁は驚きだ。 内容的にも特に問題ない。直ぐにでも始められるだろう。 とはいえ、���敷に世話になっている身。勝手に決められるものでもない。
「非常に魅力的ではあるんですが、即断即決とは・・・。申し訳ないですが、一度持ち帰らせてください」 「おう。言っとくが夜の居酒屋の方だからな」 「キッチンの話出しといて昼間だったらそれはそれでビックリですよ。わかりました、また明日にでも返事に来ますよ」
話を終え、買い物を済ませて三日月亭を後にする。 バイト、かぁ・・・。
夕食後。皆で食後のお茶をいただいている時に俺は話を切り出した。 夜間の外出になるのでまずは照道さんに相談するべきだし、海堂さんにもマッサージの話をしなければならない。
「成程。裕さんがやりたいと思うなら、私は反対はしませんよ。店長には日ごろからお世話になっていますし」 「ほー。ま、いいんじゃねぇの?懐があったかくなることは悪いことじゃあねえじゃねえか。マッサージの方も受けといてやるよ。店長に借り作っとくのも悪くないしな」
難しい顔をされるかと思ったが、話はあっさりと通った。 海堂さんに至っては難色を示すかと思っていたが、損得を計算したのかこちらもすんなりと了承を得た。 ちょっと拍子抜けしつつ、改めて照道さんに確認する。
「えっと、本当にいいんですか?」 「ええ。ただ、裕さんの事を考えると帰りだけは誰かしらに迎えに行ってもらった方がいいかもしれませんね」
確かに。禍月の時ではなくても、この島は気性が荒い人は少なくない。 まして居酒屋で働くのだ。店長がいるとはいえ何かしらトラブルに巻き込まれる可能性もある。
「じゃあ、俺が迎えに行くぜ。なんなら向こうで普通に飲んでてもいいしな」
お茶を啜っていた勇魚さんがニカッと笑う。 あ、湯呑が空になってる。 急須を取り、勇魚さんの湯呑にお茶を注ぎながら問い返す。
「俺は助かりますけどいいんですか?はい、お茶のおかわり」 「お、さんきゅ。いいんだよ、俺がやりてえんだから。俺なら酔いつぶれることもねえしな。それに、そういうのは旦那の仕事だろ?」
自然な流れで旦那発言が出てきて驚きつつ、その事実に一気に顔が火照る。 うん、そうなんだけど。嬉しいんだけど。そうストレートに言われると恥ずかしいというかなんというか。
「え、と・・・ありがとうございます」 「けっ、惚気は余所でやれってんだ」 「ふふ・・・」
海堂さんのヤジも、照道さんの温かな眼差しもどこか遠くに感じる。 ヤバい。凄い嬉しい。でもやっぱ恥ずかしい。 そんな思いに悶々としていると、冴さんがコトリと湯呑を置いた。
「で、バイトはいいんだけど、その間誰が私達のお��まみを用意してくれるの?」 「はっ、そういやそうだ!オイ裕!お前自分の仕事はどうする気なんだ」
冴さんの一言に、海堂さんが即座に反応する。 ええ・・・酒飲みたちへのおつまみの提供、俺の仕事になってたの・・・?
「それこそ三日月亭に飲みに来ればいいのでは・・・?」 「それも悪くはないけれど、静かに飲みたい時には向かないのよ、あそこ。それに、この髭親父を担いで帰るなんて事、か弱い乙女の私にさせるの?」
確かに三日月亭は漁師の人達がいつもいるから賑やか、というかうるさい。 ゆったり飲むには確かに向かないかもしれない。ましてや冴さんは女性だから漁師たちの視線を集めまくることだろう。 さり気なく、海堂さんを担ぐのを無理ともできないとも言わない辺りが冴さんらしい。
「ふむ。俺が裕につまみのレシピを教えてもらっておけばいいだろう。新しいものは無理だが既存のレシピであれば再現して提供できる」 「それが無難ですかね。すみません、洋一さん。今日の分、一緒に作りましょう。他にもいくつか教えておきますので」 「ああ、問題ない」
結局、洋一さんが俺の代わりにおつまみ提供をしてくれる事になり、事なきを得た。
翌日、午前中に店長へと返事をした後、島を探索。 少々の収穫もありつつ、昼過ぎには切り上げ、陽が落ち始める前には三日月亭へと足を運んでいた。
「説明は大体こんなもんか。不明な点が出てきたら逐一聞いてくれ」 「はい。多分大丈夫だと思います」
注文の仕方、調理場の決まり、会計の方法。 業務の大半はドニーズでの経験がそのまま役立ちそうだ。 むしろ、クーポンだのポイントだのない分こちらの方がシンプルで楽かもしれない。 渡されたエプロンを付けて腰紐を後ろで縛る。うん、準備は万全だ。
「さ、頼むぞルーキー」 「店長が楽できるよう努めさせてもらいますよ」
そんな軽口をたたき合いながら店を開ける。 数分も経たないうちに、入り口がガラリと音を立てた。
「いらっしゃい」 「いらっしゃいませー!」
現れたのは見慣れた凸凹コンビ。 吾郎さんと潮さんだ。
「あれ?裕?お前こんなとこで何してんだ?」 「バイト・・・えっと、店長が腰悪くしたみたいで臨時の手伝いです」 「なに、店長が。平気なのか?」 「動けないって程じゃないらしいので良くなってくと思いますよ。マッサージも頼んでありますし。それまでは短期の手伝いです」 「成程なぁ・・・」
ここで働くようになった経緯を話しつつ、カウンター近くの席へご案内。 おしぼりを渡しつつ、注文用のクリップボードを取り出す。
「ご注文は?まずは生ビールです?生でいいですよね?」 「随分ビールを推すなお前・・・まぁ、それでいいか。潮もいいか?」 「ああ、ビールでいいぞ。後は―」
少々のおつまみの注文を受けつつ、それを店長へと投げる。
「はい、店長。チキン南蛮1、鶏もも塩4、ネギま塩4、ツナサラダ1」 「おう。ほい、お通しだ」
冷蔵庫から出された本日のお通し、マグロの漬けをお盆にのせつつ、冷えたビールジョッキを用意する。 ジョッキを斜めに傾けながらビールサーバーの取っ手を手前へ。 黄金の液体を静かに注ぎながら垂直に傾けていく。 ビールがジョッキ取っ手の高さまで注がれたら奥側に向けてサーバーの取っ手を倒す。 きめ細かな白い泡が注がれ、見事な7:3のビールの完成。 うん、我ながら完璧だ。 前いたドニーズのサーバーは全自動だったから一回やってみたかったんだよなぁ、これ。
「はい、生二丁お待たせしました。こっちはお通しのマグロの漬けです」 「おう。んじゃ、乾杯ー!」 「ああ、乾杯」
吾郎さん達がビールを流し込むと同時に、入り口の引き戸が開く音がした。 そちらを向きつつ、俺は息を吸い込む。
「いらっしゃいませー!」
そんなスタートを切って、およそ2時間後。 既に席の半分は埋まり、三日月亭は盛況だ。 そんな中、またも入り口の引き戸が開き、見知った顔が入って来た。
「いらっしゃいませー!」 「おう、裕!頑張ってるみたいだな!」 「やあ、裕。店を手伝っているそうだな」 「勇魚さん。あれ、勇海さんも。お二人で飲みに来られたんですか?」
現れたのは勇魚さんと勇海さんの二人組。 俺にとっても良く見知ったコンビだ。
「勇魚から裕がここで働き始めたと聞いてな。様子見ついでに飲まないかと誘われてな」 「成程。こっちの席へどうぞ。・・・はい、おしぼりです。勇魚さんは益荒男ですよね。勇海さんも益荒男で大丈夫ですか?」 「ああ、頼むよ」 「はは、裕。様になってるぞ!」 「ありがとうございます。あまりお構いできませんがゆっくりしていってくださいね」
勇魚さんは俺の様子見と俺の迎えを兼ねて、今日はこのままここで飲むつもりなのだろう。 それで、勇海さんを誘ったと。 もう少しここにいたいが注文で呼ばれてしまっては仕方ない。 別の席で注文を取りつつ、すぐさまお酒の用意を準備をしなければ。
「いらっしゃいませー!」 「おッ、マジでいた!よう裕!遊びに来てやったぜ!」 「あれ、嵐の兄さん、照雄さんまで。何でここに?」
勇魚さん達が来てからしばらく経ったころ、店に見知った大柄な人物がやってくる。 道場の昭雄さんと嵐の兄さんだ。
「漁師連中の噂で三日月亭に新しい店員がいるって話を聞いてな」 「話を聞いて裕っぽいと思ったんだが大当たりだな!」 「確認するためだけにわざわざ・・・。ともかく、こっちの席にどうぞ。はい、おしぼりです」
働き始めたの、今日なんだけどな・・・。 田舎の噂の拡散力は恐ろしいな。 そんな事を思いつつ、2人を席に誘導する。 椅子に座って一息ついたのを確認し、おしぼりを渡しクリップボードの準備をする。
「おお。結構様になってるな。手際もいい」 「そりゃ照雄さんと違って裕は飲み込みいいからな」 「・・・おい」
照雄さんが俺を見て感心したように褒めてくれる。 何故か嵐の兄さんが誇らしげに褒めてくれるが、いつものように昭雄さん弄りも混じる。 そんな嵐の兄さんを、照雄さんが何か言いたげに半目��睨む。ああ、いつもの道場の光景だ。
「はは・・・似たようなことの経験があるので。お二人ともビールでいいですか?」 「おう!ついでに、裕が何か適当につまみ作ってくれよ」 「え!?やっていいのかな・・・店長に確認してみますね」
嵐の兄さんの提案により、店長によって「限定:臨時店員のおすすめ一品」が即座にメニューに追加されることとなった。 このおかげで俺の仕事は当社比2倍になったことを追記しておく。 後で申し訳なさそうに謝る嵐の兄さんが印象的でした。 あの銭ゲバ絶対許さねえ。
「おーい、兄ちゃん!注文ー!」 「はーい、只今ー!」
キッチン仕事の比重も上がった状態でホールもしなければならず、一気にてんてこ舞いに。
「おお、あんちゃん中々可愛い面してるなぁ!」 「はは・・・ありがとうございます」
時折本気なのか冗談なのかよくわからないお言葉を頂きつつ、適当に濁しながら仕事を進める。 勇魚さんもこっちを心配してくれているのか、心配そうな目と時折視線があう。 『大丈夫』という気持ちを込めて頷いてみせると『頑張れよ』と勇魚さんの口元が動いた。 なんかいいなァ、こういうの。 こっからも、まだまだ頑張れそうだ。
「そういえば、裕は道場で武術を学んでいるのだったか」 「おう。時たまかなり扱かれて帰って来るぜ。飲み込みが早いのかかなりの速度で上達してる。頑張り屋だよなぁ、ホント」 「ふふ、道場の者とも仲良くやっているようだな。嵐の奴、相当裕が気に入ったのだな」 「・・・おう、そうだな。・・・いい事じゃねえか」 「まるで兄弟みたいじゃないか。・・・どうした勇魚。複雑そうだな」 「勇海、お前さんわかって言ってるだろ」 「はは、どうだろうな。・・・ほら、また裕が口説かれているぞ」 「何っ!?ってオイ!勇海!」 「はははははっ!悪い。お前が何度もちらちらと裕の方を見ているのでな。あれだけ島の者を惹きつけているのだ、心配も当然だろう」 「裕を疑うわけじゃねえ。が、アイツ変なところで無防備だからよ。目を離した隙に手を出されちまうんじゃないかと気が気じゃねえんだよ」
何を話しているのかはここからじゃ聞こえないが、気安い親父たちの会話が交わされているらしい。 勇魚さんも勇海さんもなんだか楽しそうだ。
「成程な、当然だ。ふうむ・・・ならば勇魚よ、『網絡め』をしてみるか?立会人は俺がしてやろう」 「『網絡め』?なんだそりゃ」 「『網絡め』というのはだな―」
あまりにも楽しそうに会話しているので、まさかここであんな話をしているとは夢にも思わなかった。 盛大なイベントのフラグが既にここで立っていたのだが、この時点の俺にはあずかり知らぬ出来事であった。
そんなこんなで時間は過ぎ、あっという間に閉店時刻に。 店内の掃除を終え、食器を洗い、軽く明日の準備をしておく。 店長は本日の売り上げを清算しているが、傍から見ても上機嫌なのがわかる。 俺の目から見ても今日はかなり繁盛していた。 売り上げも中々良いはずだろう。
「いや���、やっぱお前を雇って正解だったな!調理に集中しやすいし、お前のおかげで客も増えるし財布も緩くなる!」 「おかげでこっちはクタクタですけどね・・・」 「真面目な話、本当に助かった。手際も良いしフードもいける。島にいる間定期的に雇ってもいいくらいだ。もっと早くお前の有用性に気づくべきだったな」
仕事ぶりを評価してくれているのか、便利な人材として認識されたのか。 両方か。
「俺も俺でやることがあるので定期は流石��・・・」 「ま、ひと夏の短期バイトが関の山か。ともかく、明日もよろしく頼むぜ」 「はい。店長もお大事に。また明日」
金銭管理は店長の管轄だし、もうやれることはない。 店長に挨拶をし、帰路につくことにする。 店を出ると、勇魚さんが出迎えてくれた。
「さ、帰ろうぜ、裕」 「お待たせしました。ありがとうございます、勇魚さん」 「いいって事よ」
三日月亭を離れ、屋敷までの道を二人で歩いていく。 店に居た時はあんなに騒がしかったのに、今はとても静かだ。 そんな静かな道を二人っきりで歩くのって・・・何か、いいな。
「・・・にしてもお前、よく頑張ってたな」 「いや、途中からてんてこ舞いでしたけどね。飲食業はやっぱ大変だなぁ」 「そうか?そう言う割にはよく働いてたと思うぜ?ミスもねえし仕事遅くもなかったし」 「寧ろあれを日がな一人で捌いてる店長が凄いですよ」 「はは!そりゃあ本業だしな。じゃなきゃやってけねえだろうさ」
勇魚さんに褒められるのは単純に嬉しいのだが、内心は複雑だ。 一日目にしてはそれなりにやれたという自覚もあるが、まだまだ仕事効率的にも改善点は多い。 そういう部分も無駄なくこなしている店長は、何だかんだで凄いのだ。
「にしても、この島の人達はやっぱり気さくというか・・・気安い方が多いですね」 「そう、だな・・・」
酒も入るからか、陽気になるのは兎も角、やたらとスキンシップが多かった。 肩を組んでくるとかならまだいいが、引き寄せるように腰を掴んできたり、ちょっとしたセクハラ発言が飛んできたり。 幸か不幸か海堂さんのおかげで耐性がついてしまったため、適当に流すことは出来るのだが。
「裕、お前気を付けろよ」 「はい?何がですか?」 「この島の連中、何だかんだでお前の事気に入ってる奴多いからな。こっちは心配でよ」 「勇魚さんも俺の事言えないと思いますけど・・・。大丈夫ですよ、俺は勇魚さん一筋ですから」 「お、おう・・・」
勇魚さんは俺の事が心配なのか、どこか不安そうな顔で俺を見る。 モテ具合で言ったら寧ろ勇魚さんの方が凄まじい気がするので俺としてはそっちの方が心配だ。 でも、その気遣いが、寄せられる想いが嬉しい。 その温かな気持ちのまま、勇魚さんの手を握る。 一瞬驚いた顔をした勇魚さんだが、すぐさま力強く握り返される。
「へへっ・・・」 「あははっ」
握った手から、勇魚さんの熱が伝わってくる。 あったかい。手も。胸も。 温かな何かが、胸の奥から止まることなく滾々と湧き出てくるようだ。 なんだろう。今、すごく幸せだ。
「なぁ、裕。帰ったら風呂入って、その後晩酌しようぜ」 「閉店直前まで勇海さんと結構飲んでましたよね?大丈夫なんですか?」 「あんくらいじゃ潰れもしねえさ。な、いいだろ。ちょっとだけ付き合ってくれよ」 「全くもう・・・。わかりましたよ。つまむもの何かあったかなぁ」
という訳でお風呂で汗を流した後、縁側で勇魚さんとちょっとだけ晩酌を。 もう夜も遅いので、おつまみは火を使わない冷奴とぬか漬けと大根おろしを。
「お待たせしました」 「おっ、やっこにぬか漬けに大根おろしか。たまにはこういうのもいいなあ」 「もう夜遅いですからね。火をつかうものは避けました」
火を使っても問題は無いのだが、しっかりと料理を始めたら何処からかその匂いにつられた輩が来る可能性もある。 晩酌のお誘いを受けたのだ。 どうせなら二人きりで楽しみたい。
「お、このぬか漬け。よく漬かってんな。屋敷で出してくれるのとちと違う気がするが・・・」 「千波のお母さんからぬか床を貰いまして。照道さんには、俺個人で消費して欲しいと言われてますので・・・」 「ああ、ぬか床戦争って奴だな!この島にもあんのか」
ぬか漬け、美味しいんだけどその度に沙夜さんと照道さんのあの時の圧を思い出して何とも言えない気分になるんだよなぁ。 こうして勇魚さんにぬか漬けを提供できる点に関しては沙夜さんに感謝なんだけど。 というかぬか床戦争なんて単語、勇魚さんの口から出ることに驚きを感じますよ・・・。 他の地域にもあるのか?・・・いや、深く考えないようにしよう。
「そういえば前にからみ餅食べましたけど、普通の大根おろしも俺は好きですねえ」 「絡み・・・」
大根おろしを食べていると白耀節の時を思い出す。 そういえば勇魚さんと海堂さんでバター醤油か砂糖醬油かで争ってたこともあったなぁ。 と、先ほどまで饒舌に喋っていた勇魚さんが静かになったような気がする。 何があったかと思い勇魚さんを見ると、心なしか顔が赤くなっているような気がする。
「勇魚さん?どうしました?やっぱりお酒回ってきました?」 「いや・・・うん。なんでもねえ、気にすんな!」 「・・・???まぁ、勇魚さんがそう言うなら」
ちょっと腑に落ちない感じではあったが、気にしてもしょうがないだろう。 そこから小一時間程、俺は勇魚さんとの晩酌を楽しんだのであった。
翌日、夕方。 三日月亭にて―
「兄ちゃん!注文いいかー?この臨時店員のおすすめ一品っての2つ!」 「こっちにも3つ頼むぜー」 「はーい、今用意しまーす!ちょ、店長!なんか今日やたら客多くないですか!?」 「おう、ビビるぐらい客が来るな。やっぱりお前の効果か・・・?」
もうすぐ陽が沈む頃だと言うのに既に三日月亭は大盛況である。 昨日の同時刻より明らかに客数が多い。 ちょ、これはキツい・・・。
「ちわーっとぉ、盛況だなオイ」 「裕ー!面白そうだから様子見に来たわよー」 「・・・大変そうだな、裕��
そんな中、海堂さんと冴さん、洋一さんがご来店。 前二人は最早冷���かしじゃないのか。
「面白そうって・・・割と混んでるのであんまり構えませんよ。はい、お通しとビール」 「いいわよォ、勝手にやってるから。私、唐揚げとポテトサラダね」 「エイヒレ頼むわ。後ホッケ」 「はいはい・・・」
本日のお通しである卯の花を出しながらビールジョッキを3つテーブルに置く。 この二人、頼み方が屋敷の時のソレである。 ぶれなさすぎな態度に実家のような安心感すら感じr・・・いや感じないな。 何だ今の感想。我が事ながら意味がわからない。
「裕。この『限定:臨時店員のおすすめ一品』というのは何だ?」 「俺が日替わりでご用意する一品目ですね。まぁ、色々あってメニューに追加になりまして」 「ふむ。では、俺はこの『限定:臨時店員のおすすめ一品』で頼む」 「お出しする前にメニューが何かもお伝え出来ますよ?」 「いや、ここは何が来るかを期待しながら待つとしよう」 「ハードル上げるなァ。唐揚げ1ポテサラ1エイヒレ1ホッケ1おすすめ1ですね。店長、3番オーダー入りまーす」
他の料理は店長に投げ、俺もキッチンに立つ。 本日のおすすめは鯵のなめろう。 処理した鯵を包丁でたたいて細かく刻み、そこにネギと大葉を加えてさらに叩いて刻む。 すりおろしたにんにくとショウガ、醤油、味噌、を加え更に細かく叩く。 馴染んだら下に大葉を敷いて盛り付けて完成。 手は疲れるが、結構簡単に作れるものなのだ。 そうして用意したなめろうを、それぞれのテーブルへと運んでいく。 まだまだピークはこれからだ。気合い入れて頑張ろう。
そう気合を入れ直した直後にまたも入り口の引き戸が音を立てたのであった。 わぁい、きょうはせんきゃくばんらいだー。
「おーい裕の兄ちゃん!今日も来たぜ!」 「いらっしゃいませー!連日飲んでて大丈夫なんですか?明日も朝早いんでしょう?」 「はっは、そんくらいで漁に行けない軟弱な野郎なんざこの打波にはいねえさ」 「むしろ、お前さんの顔見て元気になるってもんだ」 「はァ、そういうもんですか?とは言え、飲み過ぎないように気を付けてくださいね」
「なぁあんちゃん。酌してくれよ」 「はいはい、只今。・・・はい、どうぞ」 「っかー!いいねぇ!酒が美味ぇ!」 「手酌よりかはマシとは言え、野郎の酌で変わるもんです?」 「おうよ!あんちゃんみたいな可愛い奴に酌されると気分もいいしな!あんちゃんなら尺でもいいぜ?」 「お酌なら今しているのでは・・・?」 「・・・がはは、そうだな!」
「おい、兄ちゃんも一杯どうだ?飲めない訳じゃねえんだろ?」 「飲める歳ではありますけど仕事中ですので。皆さんだってお酒飲みながら漁には出ないでしょう?」 「そらそうだ!悪かったな。・・・今度、漁が終わったら一緒に飲もうぜ!」 「はは、考えておきますね」
ただのバイトに来ている筈なのに、何だか何処ぞのスナックのママみたいな気分になってくる。 それも、この島の人達の雰囲気のせいなのだろうか。
「あいつすげぇな。看板娘みてぇな扱いになってんぞ」 「流石裕ね。二日目にして店の常連共を掌握するとは。崇といい、これも��海の血なのかしら?」 「もぐもぐ」 「さぁな。にしても、嫁があんなモテモテだと勇魚の野郎も大変だねぇ」 「裕の相手があの勇魚だって知った上で尚挑めるのかが見ものね」 「もぐもぐ」 「洋一、もしかしてなめろう気に入ったのか?」 「・・・うまい。巌もどうだ?」 「お、おう」
料理を運んでいる途中、洋一さんがひたすらなめろうを口に運んでいるのが目に入る。 もしかして、気に入ったのかな? そんな風にちょっとほっこりした気持ちになった頃、嵐は唐突に現れた。 嵐の兄さんじゃないよ。嵐の到来って奴。
「おーう裕。頑張っとるようじゃのう」 「あれ、疾海さん?珍しいですね、ここに来るなんて」 「げ、疾海のジジィだと!?帰れ帰れ!ここにはアンタに出すもんなんてねぇ!裕、塩持って来い塩!」
勇海さんのお父さんである疾海さんが来店。 この人がここにやってくる姿はほとんど見たことがないけれど、どうしたんだろう。 というか店長知り合いだったのか。
「なんじゃ店主、つれないのう。こないだはあんなに儂に縋り付いておったというのに」 「バッ・・・うるせェ!人の体好き放題しやがって!おかげで俺は・・・!」 「何言っとる。儂はちょいとお前さんの体を開いただけじゃろが。その後に若い衆に好き放題されて悦んどったのはお前さんの方じゃろ」
あー・・・そういう事ね。店長の腰をやった原因の一端は疾海さんか。 うん、これは聞かなかったことにしておこう。 というか、あけっぴろげに性事情を暴露されるとか店長が不憫でならない。
「のう、裕よ。お主も興味あるじゃろ?店主がどんな風に儂に縋り付いてきたか、その後どんな風に悦んでおったか」 「ちょ、ジジィてめぇ・・・」 「疾海さん、もうその辺で勘弁してあげてくださいよ。店長の腰がやられてるのは事実ですし、そのせいで俺が臨時で雇われてるんですから。益荒男でいいですか?どうぞ、そこの席にかけてください」 「おい、裕!」 「店長も落ち着いて。俺は何も見てませんし聞いてません。閉店までまだまだ遠いんですから今体力使ってもしょうがないでしょう。俺が疾海さんの相手しますから」 「―ッ、スマン。頼んだぞ、裕」
店長は顔を真っ赤にして逃げるようにキッチンへと戻っていった。 うん、あの、何て言うか・・・ご愁傷様です。 憐れみの視線を店長に送りつつお通しと益荒男を準備し、疾海さんの席へと提供する。
「よう店主の手綱を握ったのう、裕。やるもんじゃな」 「もとはと言えば疾海さんが店長をおちょくるからでしょう。あんまりからかわないでくださいよ」
にやにやと笑う疾海さんにため息が出てくる。 全く・・・このエロ爺は本当、悪戯っ子みたいな人だ。 その悪戯が天元突破したセクハラばかりというのもまた酷い。 しかも相手を即落ち、沈溺させるレベルのエロ技術を習得しているからなおさら性質が悪い。
「にしても、裕。お前さんもいい尻をしておるのう。勇魚の竿はもう受けたか?しっかりと耕さんとアレは辛いじゃろうて」
おもむろに尻を揉まれる。いや、揉みしだかれる。 しかも、その指が尻の割れ目に・・・ってオイ!
「―ッ!」
脳が危険信号を最大限に発し、半ば反射的に体が動く。 右手で尻を揉みしだく手を払いのけ、その勢いのまま相手の顔面に左の裏拳を叩き込む! が、振り抜いた拳に手ごたえは無く、空を切ったのを感じる。 俺は即座に一歩下がり、構えを解かずに臨戦態勢を維持。 チッ、屈んで避けたか・・・。
「っとぉ、危ないのう、裕。儂の男前な顔を台無しにするつもりか?」 「うるせえジジイおもてでろ」 「ほう、その構え・・・。成程、お前さん辰巳の孫のとこに師事したんか。道理で覚えのある動きじゃ。じゃが、キレがまだまだ甘いのう」
かなりのスピードで打ち込んだ筈なのに易々と回避されてしまった。 やはりこのジジイ只者ではない。 俺に攻撃をされたにも関わらず、にやにやとした笑いを崩さず、のんびりと酒を呷っている。 クソッ、俺にもっと力があれば・・・!
「おい裕、どうした。何か擦れた音が、ってオイ。マジでどうした!空気が尋常じゃねぇぞ!?」
店内に突如響いた地面を擦る音に、店長が様子を見に来たようだ。 俺の状態に即座に気づいたようで、後ろから店長に羽交い締めにされる。
「店長どいてそいつころせない」 「落ち着け!何があったか想像はつくが店ん中で暴れんな!」 「かかかっ!可愛い奴よな、裕。さて、儂はまだ行くところがあるでの。金はここに置いとくぞ」
俺が店長に止められている間に、エロ爺は笑いながら店を後にした。 飲み食い代よりもかなり多めの金額が置かれているのにも腹が立つ。
「店長!塩!」 「お、おう・・・」
さっきとはまるきり立場が逆である。 店の引き戸を力任せにこじ開け、保存容器から塩を鷲掴む。
「祓い給え、清め給え!!消毒!殺菌!滅菌ッ!!!」
適当な言葉と共に店の前に塩をぶちまける。 お店の前に、白い塩粒が散弾のように飛び散った。
「ふー、ふー、ふーッ!・・・ふぅ」 「・・・落ち着いたか?」 「・・・ええ、何とか」
ひとしきり塩をぶちまけるとようやく気持ちが落ち着いてきた。 店長の気遣うような声色に、何ともやるせない気持ちになりながら返答する。 疲労と倦怠感に包まれながら店の中に戻ると、盛大な歓声で出迎えられる。
「兄さん、アンタやるじゃねぇか!」 「うおッ!?」 「疾海のじいさんにちょっかいかけられたら大体はそのまま食われちまうのに」 「ひょろっちい奴だと思ってたがすげえ身のこなしだったな!惚れ惚れするぜ!」 「あ、ありがとうございます・・・はは・・・」
疾海さんは俺と勇魚さんの事を知っているから、単にからかってきただけだろうとは思っている。 エロいし奔放だし子供みたいだが、意外と筋は通すし。 あくまで「比較的」通す方であっ��手を出さない訳ではないというのが困りものではあるが。 そんな裏事情をお客の人達が知っている訳もなく、武術で疾海さんを退けたという扱いになっているらしい。 けど、あのジジイが本気になったら俺の付け焼刃な武術じゃ相手にならない気がする。 さっきの物言いを考えると辰馬のおじいさんとやりあってたって事になる。 ・・・うん、無理そう。
「おっし!そんなあんちゃんに俺が一杯奢ってやろう!祝杯だ!」 「いいねえ!俺も奢るぜ兄ちゃん!」 「抜け駆けすんな俺も奢るぞ!」 「ええっ!?いや、困りますって・・・俺、仕事中ですし・・・」 「裕、折角なんだし受けておきなさいな」
どうしようかと途方に暮れていると、いつの間にか冴さんが隣に来ていた。 と、それとなく手の中に器のようなものを握らされた。
「冴さん。あれ、これって・・・」
横目でちらりと見ると『咲』の字が入った器。 これ、咲夜の盃・・・だよな?
「腕も立って酒にも強いと知っとけば、あの連中も少しは大人しくなるでしょ。自衛は大事よ」 「はぁ・・・自衛、ですか」 「後でちゃんと返してね」
これって確か、持ってるだけで酒が強くなるって盃だったっけ。 その効果は一度使って知っているので、有難く使わせてもらうとしよう。 店長もこっちのやりとりを見ていたのか何も言うこと無く調理をしていた。
「おっ、姐さんも一緒に飲むかい!?」 「ええ。折角だから裕にあやからせてもらうわ。さぁ、飛ばしていくわよ野郎共ー!」 「「「「おおーっ!!」」」」 「お、おー・・・」
その後、ガンガン注がれるお酒を消費しつつ、盃を返す、を何度か繰り返すことになった。 途中からは冴さんの独壇場となり、並み居る野郎共を悉く轟沈させて回っていた。 流石っス、姐さん。 ちなみに俺は盃のご利益もあり、その横で飲んでいるだけで終わる事になった。
そんな一波乱がありつつも、夜は更けていったのだった。
そんなこんなで本日の営業終了時刻が近づいてくる。 店内には冴さん、海堂さん、洋一さんの3人。 冴さんはいまだ飲んでおり、その底を見せない。ワクなのかこの人。 海堂さんはテーブルに突っ伏してイビキをかいており、完全に寝てしまっている。 洋一さんはそんな海堂さんを気にしつつ、お茶を啜っている。 あんなにいた野郎共も冴さんに轟沈させられた後、呻きながら帰って行った。 明日の仕事、大丈夫なんだろうか・・・。
後片付けや掃除もほぼ終わり、後は冴さん達の使っているテーブルだけとなった時、入り口が壊れそうな勢いで乱暴に開いた。
「裕ッ!」 「うわっ、びっくりした。・・・勇魚さん、お疲れ様です」
入り口を開けて飛び込んできたのは勇魚さんだった。 いきなりの大声にかなり驚いたが、相手が勇魚さんとわかれば安心に変わる。 だが、勇魚さんはドスドスと近づいてくると俺の両肩をガシリと掴んだ。
「オイ裕!大丈夫だったか!?変な事されてねえだろうな!」
勇魚さんにしては珍しく、かなり切羽詰まった様子だ。 こんなに心配される事、あったっけ・・・? 疑問符が浮かぶがちらりと見えた勇海さんの姿にああ、と納得する。 というか苦しい。掴まれた肩もミシミシ言ってる気がする。
「うわっ!?大丈夫、大丈夫ですって。ちょ、勇魚さん苦しいです」 「お、おう。すまねえ・・・」
宥めると少し落ち着いたのか、手を放してくれる。 勇魚さんに続いて入って来た勇海さんが、申し訳なさそうに口を開いた。
「裕、すまないな。親父殿が無礼を働いたそうだな」 「勇海さんが気にすることではないですよ。反撃もしましたし。まぁ、逃げられたんですけど」 「裕は勇魚のつがいだと言うのに、全く仕方のないことだ。親父殿には私から言い聞かせておく。勘弁してやって欲しい」 「疾海さんには『次やったらその玉潰す』、とお伝えください」 「ははは、必ず伝えておくよ」
俺の返答に納得したのか、勇海さんは愉快そうに笑う。 本当にその時が来た時の為に、俺も更なる修練を積まなければ。 ・・・気は進まないけど、辰馬のおじいさんに鍛えてもらう事も視野に入れなければならないかもしれない。
「裕、今日はもう上がっていいぞ。そいつら連れて帰れ」 「え、いいんですか?」 「掃除も殆ど終わってるしな。色々あったんだ、帰って休んどけ」
俺に気を遣ってくれたのか、はたまたさっさと全員を返したかったのか、店長から退勤の許可が出た。 ここは有難く上がらせてもらおう。色々あって疲れたのは事実だ。
「じゃあ、折角ですので上がらせてもらいます。お疲れ様でした」 「おう。明日も頼むぞ」
店長に挨拶をし、皆で店を出る。 勇海さんはここでお別れとなり、俺、勇魚さん、冴さん、海堂さん、洋一さんの5人で帰る。 寝こけている海堂さんは洋一さんが背負っている。
「裕、ホントに他に何も無かったんだろうな!?」 「ですから、疾海さんにセクハラ受けただけですって。その後は特に何も無かったですし・・・」
で、帰り道。勇魚さんに詰問されております。 心配してくれるのはとても嬉しい。 嬉しいんだけど、過剰な心配のような気もしてちょっと気おくれしてしまう。
「俺に気を遣って嘘ついたりすんじゃねえぞ」 「冴さん達も一緒にいたのに嘘も何もないんですが・・・」 「裕の言ってる事に嘘はないわよ。疾海の爺さんに尻揉まれてたのも事実だけど」 「・・・思い出したら何か腹立ってきました。あのジジイ、次に会ったら確実に潰さなきゃ」
被害者を減らすにはその大本である性欲を無くすしかないかな? やっぱり金的か。ゴールデンクラッシュするしかないか。 あの驚異的な回避力に追いつくためにはどうすればいいか・・・。 搦め手でも奇襲なんでもいい、当てさえすればこちらのものだろう。 そう思いながら突きを繰り出し胡桃的な何かを握り潰す動作を数回。 駄目だな、やっぱりスピードが足りない。
「成程、金的か」 「裕、その、ソイツは・・・」
洋一さんは俺の所作から何をしようとしているかを読み取ったようだ。 その言葉にさっきまで心配一色だった勇魚さんの顔色変わる。 どうしました?なんで微妙に股間を押さえて青ざめてるんです?
「冴さん。こう、男を不能寸前まで追い込むような護身術��かないですかね?」 「あるにはあるけど、そういうの覚えるよりもっと確実な方法があるわよ」 「え?」 「勇魚。アンタもっと裕と一緒にいなさい。で、裕は俺の嫁アピールしときなさい」
嫁。勇魚さんのお嫁さん。 うん、事実そうなんだけどそれを改めて言われるとなんというか。 嬉しいんだけど、ねぇ?この照れくさいような微妙な男心。
「裕。頬がだいぶ紅潮しているようだが大丈夫か?」 「だ、大丈夫です。何というか、改めて人に言われると急に、その・・・」 「ふむ?お前が勇魚のパートナーである事は事実だろう。港の方でも知れ渡っていると聞いている。恥ずべきことではないと思うが?」 「恥ずかしいんじゃなくて嬉しくも照れくさいというか・・・」 「・・・そういうものか。難しいものだな」
洋一さんに指摘され、更に顔が赤くなる。 恥ずかしいわけじゃない。むしろ嬉しい。 でも、同じくらい照れくささが湧き上がってくる。 イカン、今凄い顔が緩みまくってる自覚がある。
「流石にアンタ相手に真正面から裕に手を出す輩はいないでしょう。事実が知れ渡れば虫よけにもなって一石二鳥よ」 「お、おお!そうだな!そっちの方が俺も安心だ!うん、そうしろ裕!」
冴さんの案に我が意を得たりといった顔の勇魚さん。 妙に食いつきがいいなァ。 でも、それって四六時中勇魚さんと一緒にいろって事では?
「勇魚さんはそれでいいんですか?対セクハラ魔の為だけに勇魚さんの時間を割いてもらうのは流石にどうかと思うんですが」 「んなこたあねえよ。俺だってお前の事が心配なんだ。これくらいさせてくれよ」 「そう言われると断れない・・・」
申し訳ない旨を伝えると、純粋な好意と気遣いを返される。 実際勇魚さんと一緒に居られるのは嬉しいし、安心感があるのも事実だ。
「裕、あんたはあんたで危機感を持った方がいいわよ」 「危機感、といいますとやっぱりセクハラ親父やセクハラ爺の対処の話ですか?」
冴さんの言葉に、2人の男の顔が思い浮かぶ。 悪戯、セクハラ、煽りにからかい。あの人たちそういうの大好きだからなぁ。 でも、だいぶ耐性はついたし流せるようになってきたと思ってるんだけど。
「違うわよ。いやある意味同じようなモンか」 「客だ、裕」 「客?お店に来るお客さんって事ですか?」
え、海堂さんとか疾海さんじゃないのか。 そう思っていると意外な答えが洋一さんの方から返って来た。 客の人達に何かされたりは・・・ない筈だったけど。
「店にいた男たちはかなりの人数が裕を泥酔させようと画策していたな。冴が悉くを潰し返していたが」 「何っ!?」 「え!?洋一さん、それどういう・・・」
何その事実今初めて知った。どういうことなの。
「今日店に居た男たちは皆一様にお前をターゲットとしていたようだ。やたらお前に酒を勧めていただろう。お前自身は仕事中だと断っていたし、店長もお前に酒がいかないようそれとなくガードしていた。だがお前が疾海を撃退したとなった後、躍起になるようにお前に飲ませようとしていただろう。だから冴が向かったという訳だ」 「疾海の爺さん、なんだかんだでこ��島でもかなりの手練れみたいだしね。物理でだめならお酒でって寸法だったみたいね」 「えっと・・・」 「食堂に来てた立波さん、だったかしら。ここまで言えばわかるでしょ?店長も何だかんだでそういう事にならないよう気を配ってたわよ」
あァ、成程そういう事か。ようやく俺も理解した。 どうやら俺は三日月亭でそういう意味での好意を集めてしまったという事らしい。 で、以前店長が言っていた「紳士的でない方法」をしようとしていたが、疾海さんとのやりとりと冴さんのおかげで事なきを得たと、そういう事か。
「えー・・・」 「裕・・・」
勇魚さんが俺を見る。ええ、心配って顔に書いてますね。 そうですね、俺も逆の立場だったら心配しますよ。
「なあ裕。明日の手伝いは休んどけ。店には俺が行くからよ」 「いや、そういうワケにもいかないでしょう。勇魚さん、魚は捌けるでしょうけど料理できましたっけ?」 「何、料理ができない訳じゃねえ・・・なんとかなるだろ」
あっけらかんと笑う勇魚さんだが、俺には不安要素しかない。 確かに料理ができない訳じゃないけど如何せん漢の料理だ。店長の補助とかができるかと言うと怪しい。 この島に来てからの勇魚さんの功績をふと思い返す。 餅つき・・・臼・・・ウッアタマガ。 ・・・ダメだ、食材ごとまな板真っ二つにしそうだし、食器を雑に扱って破壊しそうな予感しかしない。 勇魚さんの事だからセクハラされたりもしそうだ。 ダメダメ、そんなの俺が許容しません。
「様々な観点から見て却下します」 「裕ぅ~・・・」
そんなおねだりみたいな声したって駄目です。 却下です却下。
「裕、ならば俺が行くか?」 「お願いしたいのは山々なんですが洋一さんは明日北の集落に行く予定でしたよね。時間かかるって仰ってたでしょう?」 「ふむ。ならば巌に―」 「いえ、海堂さんには店長のマッサージもお願いしてますしこれ以上は・・・」
洋一さんが申し出てくれるが、洋一さんは洋一さんで抱えてる事がある。 流石にそれを曲げてもらうわけにはいかない。 海堂さんなら色んな意味で文句なしの人材ではあるのだが、既にマッサージもお願いしている。 それに、迂闊に海堂さんに借りを作りたくない。後が怖い。
「洋一も無理、巌も無理とするならどうするつもりなんだ?高瀬か?」 「勇魚さん、三日月亭の厨房を地獄の窯にするつもりですか?」 「失礼ねェ。頼まれてもやらないわよ」
勇魚さんからまさかの選択が投げられるがそれは無理。 冴さんとか藤馬さんに立たせたら三日月亭から死人が出る。三日月亭が営業停止する未来すらありえる。 頼まれてもやらないと冴さんは仰るが、「やれないからやらない」のか「やりたくないからやらない」のかどっちなんだ。
「明日も普通に俺が行きますよ。ついでに今後についても店長に相談します」 「それが一番ね。店長も裕の状況に気づいてるでしょうし」 「巌の話だとマッサージのおかげかだいぶ良くなってきているらしい。そう長引きはしないだろう」 「後は勇魚がガードすればいいのよ」 「おう、そうか。そうだな」
そんなこんなで話も固まり、俺達は屋敷に到着した。 明日は何事もなく終わってくれればいいんだけど・・・。 そんな不安も抱えつつ、夜は過ぎていった。
そしてバイト三日目。 俺は少し早めに三日月亭へと来ていた。
「ああ、だよなぁ。すまんな、そっちの可能性も考えてなかったワケじゃ無いんだが・・・そうなっちまうよなあ」
俺の状況と今後の事を掻い摘んで説明すると、店長は疲れたように天井を仰ぐ。
「何というか・・・すみません。腰の具合はどうです?」
別に俺が何かをしたわけではないけれど、状況の中心にいるのは確かなので申し訳ないとは思う。
「海堂の旦那のおかげでだいぶ良くなった。もう一人でも回せそうだ。何なら今日から手伝わなくてもいいんだぞ?」
店長はそう言うが、完治しているわけでもない。 悪化するわけではないだろうが気になるのも事実。 なので、昨日のうちに勇魚さんと決めていた提案を出すことにする。
「でも全快というわけでもないんでしょう?引き受けたのは自分です。勇魚さんもいますし、せめて今日までは手伝わせてくださいよ」 「心意気はありがてえが・・・。わかった、面倒ごとになりそうだったらすぐさま離れろよ?勇魚の旦那も頼むぜ」 「おう!」 「はい!さ、今日も頑張りましょう!」
昨日話した通り今日は開店から勇魚さんも店に居てくれる。 万が一な状態になれば即座に飛んできてくれるだろう。 それだけで心の余裕も段違いだ。
「裕、無理すんなよ」 「わかってますよ。勇魚さんも、頼みますね」 「おう、任せときな!」
勇魚さんには店内を見渡せる席に座ってもらい、適当に時間を潰してもらう。 俺は店長と一緒に仕込みを始めながら新メニューの話も始める。 途中、勇魚さんにビールとお通しを出すのも忘れずに。
「新しいメニュー、どうすっかねぇ」 「今日の一品、新レシピも兼ねてゴーヤーチャンプルーでいこうかと思うんですよ」 「ほー。確かに苦瓜なら栽培してるとこはそこそこあるしな。行けるだろう」 「スパム缶は無くても豚肉や鶏肉でいけますからね。肉が合わないなら練り物やツナでも大丈夫です。材料さえあれば炒めるだけってのも高ポイント」 「肉に卵にと寅吉んとこには世話になりっぱなしだな。だが、いいねえ。俺も久しぶりにチャンプルーとビールが恋しくなってきやがった」 「後で少し味見してくださいよ。島の人達の好み一番把握してるの店長なんだから。・・・でも、やっぱり新メニュー考えるのは楽しいな」 「・・・ったく、面倒ごとさえ無けりゃあこのまま働いてもらえるってのに。無自覚に野郎共の純情を弄びやがって」 「それ俺のせいじゃないですよね・・・」
調理実習をする学生みたいにわいわい喋りながら厨房に立つ俺達を、勇魚さんはニコニコしながら見ている。 あ、ビールもう空きそう。おかわりいるかな? そんな風に営業準備をしていると時間はあっという間に過ぎ去り、開店時間になる。 開店して数分も経たないうちに、店の引き戸がガラリと開いた。
「いらっしゃいませー!」
「裕、お前まだここで働いてたのか」 「潮さん、こんばんは。今日までですけどね。あくまで臨時なので」 「ふむ、そうか。勇魚の旦那もいるのか」 「おう、潮。裕の付き添いでな」 「・・・ああ、成程な。それは確かに必要だ」
「おっ、今日も兄ちゃんいるのか!」 「いらっしゃいませ!ははは、今日で終わりなんですけどね」 「そうなのか!?寂しくなるなぁ・・・。なら、今日こそ一杯奢らせてくれよ」 「一杯だけならお受けしま��よ。それ以上は無しですからね」
「裕の兄ちゃん!今日でいなくなっちまうって本当か!?」 「臨時ですので。店長の具合もよくなりましたし」 「兄ちゃんのおすすめ一品、好きだったんだけどよ・・・」 「はは、ありがとうございます。今日も用意してますから良かったら出しますよ」 「おう、頼むぜ!」
続々とやってくる常連客を捌きつつ、厨房にも立つ。 店長の動きを見てもほぼ問題ない。治ってきてるのも事実のようだ。 時折お客さんからの奢りも一杯限定で頂く。 今日は以前もらった方の咲夜の盃を持ってきているので酔う心配もない。
「おう、裕のあんちゃん!今日も来たぜ!」 「い、いらっしゃいませ・・・」
再びガラリと入り口が空き、大柄な人物がドスドスと入ってくる。 俺を見つけるとがっしと肩を組まれる。 日に焼けた肌が特徴の熊のような人だ。名前は・・・確か井灘さん、だったかな? 初日に俺に可愛いと言い、昨日は酌を頼まれ、冴さんに潰されてた人だ。 スキンシップも多く、昨日の一件を考えると警戒せざるを得ない。 取り合えず席に案内し、おしぼりを渡す。
「ガハハ、今日もあんちゃんの可愛い顔が見れるたぁツイてるな!」 「あ、ありがとうございます。注文はどうしますか?」 「まずはビール。食いモンは・・・そうさな、あんちゃんが適当に見繕ってくれよ」 「俺が、ですか。井灘さんの好みとかわかりませんけど・・・」 「大丈夫だ。俺、食えねえもんはねえからよ。頼むぜ!」 「はあ・・・分かりました」
何か丸投げされた感が凄いが適当に三品程見繕って出せばいいか。 ついでだからゴーヤーチャンプルーも試してもらおうかな。 そんな事を考えながら、俺は井灘さんにビールとお通しを出す。
「む・・・」 「どうした旦那。ん?アイツ、井灘か?」 「知ってるのか、潮」 「ああ。俺達とは違う港の漁師でな。悪い奴では無いんだが、気に入った奴にすぐ手を出すのが玉に瑕でな」 「そうか・・・」 「旦那、気を付けた方がいいぞ。井灘の奴、あの様子じゃ確実に裕に手を出すぞ」 「・・・おう」
こんな会話が勇魚さんと潮さんの間でなされていたとはつゆ知らず。 俺は店長と一緒に厨房で鍋を振っていた。
「はい、井灘さん。お待たせしました」 「おう、来た来た」 「つくね、ネギま、ぼんじりの塩の串盛り。マグロの山かけ。そして今日のおすすめ一品のゴーヤーチャンプルーです」 「いいねえ、流石あんちゃん。で、なんだそのごーやーちゃんぷうるってのは?」 「内地の料理ですよ。苦瓜と肉と豆腐と卵の炒め物、ってとこでしょうか。(厳密には内地の料理とはちょっと違うけど)」 「ほー苦瓜。滅多に食わねえが・・・あむ。うん、美味え!美味えぞあんちゃん!」 「それは良かった」 「お、美味そうだな。兄ちゃん、俺にもそのごーやーちゃんぷうるってのくれよ」 「俺も!」 「はいはい、ただいま」
井灘さんが美味しいと言ってくれたおかげで他の人もゴーヤーチャンプルーを頼み始める。 よしよし、ゴーヤーチャンプルーは当たりメニューになるかもしれない。 そう思いながら厨房に引っ込んでゴーヤーを取り出し始めた。
それからしばらくして井灘さんから再びゴーヤーチャンプルーの注文が入る。 気に入ったのだろうか。
「はい、井灘さん。ゴーヤーチャンプルー、お待たせ」 「おう!いやー美味えな、コレ!気に入ったぜ、ごーやーちゃんぷうる!」 「あはは、ありがとうございます」
自分の料理を美味い美味いと言ってもりもり食べてくれる様はやっぱり嬉しいものだ。 作る側冥利に��きる。 が、作ってる最中に店長にも「アイツは気を付けとけ」釘を刺されたので手放しに喜ぶわけにもいかない。
「毎日こんな美味いモン食わせてくれるなんざあんちゃんと一緒になる奴は幸せだなあ!」 「はは・・・ありがとう、ございます?」 「あんちゃんは本当に可愛い奴だなあ」
屈託ない笑顔を向けてくれるのは嬉しいんだけど、何だか話の方向が急に怪しくなってきたぞ。
「おい、裕!早く戻ってきてこっち手伝え!」 「ッ、はーい!じゃあ井灘さん、俺仕事に戻るので・・・」
こっちの状況を察知したのか、店長が助けを出してくれる。 俺も即座に反応し、戻ろうと足を動かす。 が、その前に井灘さんの腕が俺の腕を掴む。 あ、これは・・・。
「ちょ、井灘さん?」 「なあ、裕のあんちゃん。良けりゃ、俺と・・・」
急に井灘さんの顔が真面目な顔になり、真っ直ぐに俺を見据えてくる。 なんというか、そう、男の顔だ。 あ、俺こういう顔に見覚えある。 そう、勇魚さんの時とか、立浪さんの時とか・・・。 逃げようと思うも腕をガッチリとホールドされ、逃げられない。 ・・・ヤバイ。そう思った時だった。 俺と井灘さんの間に、ズイと体を割り込ませてきた見覚えのあるシャツ姿。
「なあ、兄さん。悪いがこの手、離してくんねえか?」 「勇魚さん・・・」
低く、優しく、耳をくすぐる声。 この声だけで安堵感に包まれる。 言葉は穏やかだが、どこか有無を言わせない雰囲気に井灘さんの眉間に皺が寄る。
「アンタ・・・確か、内地の客だったか。悪いが俺の邪魔・・・」 「裕も困ってる。頼むぜ」 「おい、アンタ・・・う、腕が動かねえ!?」
井灘さんも結構な巨漢で相当な力を込めているのがわかるが、勇魚さんの手はびくともしない。 勇魚さんの怪力はよく知ってはいるけど、こんなにも圧倒的なんだなあ。
「こいつ、俺の大事な嫁さんなんだ。もし、手出しするってんなら俺が相手になるぜ」
そう言って、勇魚さんは俺の方をグッと抱き寄せる。 抱き寄せられた肩口から、勇魚さんの匂いがする。 ・・・ヤバイ。勇魚さん、カッコいい。 知ってたけど。 知ってるのに、凄いドキドキする。
「っ・・・ガハハ、成程!そいつは悪かったな、旦那!」 「おう、分かってくれて何よりだぜ。さ、裕。店長が呼んでるぜ」 「あ、ありがとうございます勇魚さん。井灘さん、すみませんけどそういう事なので・・・」
勇魚さんの言葉に怒るでもなく、井灘さんは納得したようにあっさりと手を放してくれた。 井灘さんに謝罪しつつ、促されるまま厨房へと戻る。
「おお!あんちゃんも悪かったな!旦那、詫びに一杯奢らせてくれや!」 「おう。ついでに裕���どこが気に入ったのか聞かせてくれよ」
漁師の気質なのかはたまた勇魚さんの人徳なのか。 さっきの空気はどこへやら、そのまま親し気に話始める2人。
「ちょ、勇魚さん!」 「いいぜ!旦那とあんちゃんの話も聞かせてくれよ!」 「井灘さんまで!」 「おい裕!いつまで油売ってんだ、こっち手伝え!」
店長の怒鳴り声で戻らざるを得なかった俺には二人を止める術などなく。 酒の入った声のデカい野郎共が二人、店内に響かない筈がなく・・・。
「でよ、そん時の顔がまたいじらしくってよ。可愛いんだこれが」 「かーっ!羨ましいこったぜ。旦那は果報モンだな!」 「だろ?なんたって俺の嫁さんなんだからな!」
勇魚さんも井灘さんも良い感じに酒が入ってるせいか陽気に喋っている。 可愛いと言ってくれるのは嬉しくない訳ではないけれど、連呼されると流石に男としてちょっと悲しい気分になる。 更に嫁さん嫁さん連呼されまくって複雑な心境の筈なのにどれだけ愛されているかをガンガン聞かされてオーバーヒートしそうだ。
「何故バイト中に羞恥プレイに耐えなければならないのか・・・」 「おい裕、いつまで赤くなってんだ。とっとと料理運んで来い」 「はい・・・いってきます・・・」
人が耐えながらも調理しているというのにこの銭ゲバ親父は無情にもホール仕事を投げて来る。 こんな状況で席に料理を運びに行けば当然。
「いやー、お熱いこったなあ兄ちゃん!」 「もう・・・ご勘弁を・・・」 「っははははは!」
茶化されるのは自然な流れだった。 勇魚さんと井灘さんのやりとりのお陰でスキンシップやらは無くなったが、祝言だの祝い酒だの言われて飲まされまくった。 咲夜の盃が無ければ途中で潰れてたかもしれない。
そんな揶揄いと酒漬けの時間を、俺は閉店間際まで味わうことになったのだった。
そして、もうすぐ閉店となる時間。 勇魚さんと一緒にずっと飲んでいた井灘さんも、ようやく腰を上げた。 会計を済ませ、店の前まで見送りに出る。
「じゃあな、あんちゃん。俺、マジであんちゃんに惚れてたんだぜ」 「はは・・・」 「だが、相手が勇魚の旦那じゃあ流石に分が悪い。幸せにしてもらえよ!」 「ありがとうございます・・・」 「また飲みに来るからよ。また今度、ごーやーちゃんぷうる作ってくれよな!」 「その時に居るかは約束できませんが、機会があれば」
からりとした気持ちの良い気質。 これもある種のプレイボーイなのだろうか。
「じゃあな!裕!勇魚の旦那!」 「おう!またな、井灘!」 「おやすみなさい、井灘さん」
そう言って手を振ってお見送り。 今日の三日月亭の営業も、これにて閉店。 店先の暖簾を下ろし、店内へと戻る。
「裕。そっちはどうだった?」 「こっちも終わりました。後は床掃除したら終わりですよ」 「ホント、この3日間マジ助かった。ありがとうな」 「いえいえ、久しぶりの接客も楽しかったですよ」
最後の客だった井灘さんも先程帰ったばかりだ。 店内の掃除もほぼ終わり、閉店準備もほぼ完了。 三日月亭のバイトももう終わりだ。 店長が近づいてくると、封筒を差し出してきた。
「ほい、バイト代だ。色々世話もかけたからな。イロ付けといたぜ」 「おお・・・」
ちょろっと中身を確認すると、想定していたよりかなり多めの額が入っていた。 店長なりの労いの証なのだろう。
「なあ裕。マジで今後もちょくちょく手伝いに来ねえか?お前がいると客足増えるし酒も料理も注文増えるしな。バイト料もはずむぜ」 「うーん・・・」
店長の申し出は有難いが、俺は俺でまだやらなければならない事がある。 悪くはない、んだけど余り時間を使うわけにもなぁ。 そんな風に悩んでいると、勇魚さんが俺の���にぽん、と掌をのせる。
「店長、悪いがこれ以上裕をここにはやれねえよ」 「はは、旦那がそう言うんなら無理は言えねえな。裕の人気凄まじかったからな」 「ああ。何かあったらって、心配になっちまうからな」
今回は勇魚さんのお陰で事なきを得たけど、また同じような状況になるのは俺も御免被りたい。 相手に申し訳ないのもあるけど、どうすればいいか分からなくて困ったのも事実だ。
「お店の手伝いはできないですけど、またレシピの考案はしてきますので」 「おう。売れそうなのを頼むぜ。んじゃ、気を付けて帰れよ」 「はい、店長もお大事に。お疲れ様です」 「旦那もありがとうな」 「おう、おやすみ」
ガラガラ、という音と共に三日月亭の扉が閉まる。 店の前に残ったのは、俺と勇魚さんの二人だけ。
「じゃ、帰るか。裕」 「ええ、帰りましょうか。旦那様」 「おっ・・・。へへ、そう言われるのも悪くねえな」 「嫌味のつもりだったんだけどなァ」
そう言って俺と勇魚さんは笑いながら屋敷への帰路につくのであった。
後日―
三日月亭に買い物に来た俺を見るなり、店長が頭を下げてきた。
「裕、頼む・・・助けてくれ・・・」 「ど、どうしたんです店長。随分疲れきってますけど・・・」 「いや、それがな・・・」
あの3日間の後、事あるごとに常連客から俺は居ないのかと聞かれるようになったそうな。 俺がまだ島にいるのも事実なので連れて来るのは不可能だとも言えず。 更に井灘さんがちょくちょく仲間漁師を連れて来るらしく、『姿が見えない料理上手な可愛い店員』の話だけが独り歩きしてるらしい。 最近では聞かれ過ぎて返す言葉すら億劫になってきているそうな。 ぐったりした様子から、相当疲弊しているのがわかる。
「な、裕。頼む後生だ。俺を助けると思って・・・」 「ええ・・・」
それから。 たまーに勇魚さん同伴で三日月亭にバイトに行く日ができました。
更に後日。
勇魚さんと一緒に『網絡め』という儀式をすることになり、勇海さんに見られながら致すというしこたま恥ずかしいプレイで羞恥死しそうな思いをしたことをここに記録しておきます。
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nagatafolio · 5 years ago
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寡黙で熱いフィッシャーマン! 尻池宏典さん
(駒ヶ林浦漁業会 漁師)
JR新長田駅から15分ほど南に歩くと港があります。駒ヶ林の町に接する長田港です。そこには数十隻の漁船が並び、漁が行われ、毎朝セリが行われています。長田港の漁師で、PTA会長の経験があり、こども食堂等の地域活動に熱心に取り組まれている尻池宏典さんにお話を聞きました。(2019年8月23日インタビュー)
尻池さんとは6年程前からの知り合いですが、少人数で飲む機会はあまりありませんでした。今回は他の取材スタッフが諸々の事情で大幅に遅れて到着したため、2人でじっくりお話をすることができました。見た目どおりの誠実なお人柄が溢れる内容となりました。
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生まれも育ちも駒ヶ林ですか。
生まれたのは長田神社近くの宮川町で、6歳まで住んでいました。祖父が駒ヶ林で漁師をしていたのですが、私の父は三男でもともと大工になりたかったようです。それで、父は宮川町に引越してガラスブロックの職人をやっていました。漁師になったのは40歳頃で、とても遅かったです。漁師歴が短いのに駒ヶ林浦漁業会の会長もしていました。
長男の伯父はカメラが好きで漁師にならず、広告を作る仕事をしていました。駒ヶ林の写真もたくさん撮影し、町の歴史を記録していました。それで、次男の伯父が中学生の時から祖父と一緒に船に乗り漁師をしていたのです。でも、海苔の養殖を始めて独立することになったので、父が急きょ漁師を手伝うことになったのです。昔は駒ヶ林でも海苔の養殖をしていましたが、今は誰もやっていません。
どんなお子さんでしたか。
子どもの頃は今とは違って、落ち着きが全くなく、喧嘩ばっかりしていました。少年野球を頑張っていて将来はプロ野球選手になりかったんです。小学校の卒業式の時には「日本一の漁師になりたい。」と言って、周りの人から感心されましたが、ええ格好をしたかっただけで、実は本心はそうではなかったんです。
少年野球のエースでしたが、肘を壊してしまい、小学校6年生の時には球を投げられなくなって、野球の道をあきらめました。当時から身長が高かったので、中学ではバスケットボールを一生懸命にやって、バスケットボールの名門と言われていた高校に進学しました。ただ、強豪校過ぎました。練習が厳しくて体罰も日常茶飯事で、頬には毎日手形が残っ��いたほどでした。さすがに続けられずに1年で退部しました。
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漁師の道に進まれたきっかけは。
バスケットボール部の退部後はいわゆる帰宅部で、夏休みや冬休みに父親の船に乗る機会が増えたんです。漁師の仕事は体験したらおもしろかった。無茶苦茶たくさんの魚が取れて、それがすぐに高く売れるのがおもしろかったです。漁師には高校卒業後にすぐになりました。というか、高校の卒業式の前からイカナゴ漁には行ってましたけど。 漁師になったのは、阪神・淡路大震災の影響も大きかったです。高校2年の時に震災がありました。自宅は瓦がずれたくらいで被害が少なかったんですが、家族を見つめなおすきっかけになりました。親孝行や家族を守る必要を強く感じたことも漁師になった理由です。 その思いは、PTAの会長や青少年育成協議会といった地域活動に取り組んでいることにつながっています。
奥様との馴れ初めを聞かせて下さい。
中学2年生の時に妻から告白されました。バスケットボールをしている姿がかっこ良かったそうです。それから10年目の24歳で結婚しました。ハードルは色々あったんですが、それを乗り越えての結婚です。一途な恋です。妻はきれいやったし、性格も良かった。今も全く変わっていません。
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こども食堂をされていますのが、そのきっかけは。
PTAの会長をやると子供の家庭の事情を知ることが多いのです。PTAが終わってから何もしないのはどうも納得がいかなかったところに、テレビでこども食堂のことを知ったんです。協力してくれる人もいて、ふたば学舎で3年ほど前に始めました。月1回ですが多い時は30人ほど来てくれます。誰が来ても良いことにしています。自分が獲った新鮮な魚を提供できて、特色のあるこども食堂になっていると思っています。
漁師の仕事はいかがですか。
漁師を辞めたいと思ったことは1回もないです。自分に合っていると思います。でも、まだ足りてないし、海の事を半分も知っていないと思います。漁師は博打感がかなり高くて、それがストレスにもなるけど、喜びにもなります。昨年は神戸で一網で一番しらすを獲ったことで表彰されました。20年間の積み上げで、データではなく感性で魚が獲れるようになりました。
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長田区内で一番お気に入りの場所はどこですか。
小さい時のお気に入りは、住んでいた宮川町の近くの西山公園です。ドラえもんに出てくる公園みたいな感じで思い出の場所です。今は駒林神社の鳥居の南側の港が見える所です。一番好きです。仕事場なんですけど、見ないと落ち着かない。
長田区の好きなところ、嫌いなところは。
好きなところはお節介なところ。そういう街に育ったから、自分もお節介になっています。嫌いなところはすっと出てこない。あるようでないような…。昔の長田はもっと濃かった。もっと息苦しかった。今はそんなことありません。ずっと長田にいるから、居心地がよいですね。人生の90%長田にいますから。
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これから新長田のまちをこうしたいとか、こうなってほしいというのはありますか。
長田は高齢者も多いけど、若い世代もいる。昔の風景も残している中で新しいものもあって、まぜこぜに入り混じった所が良いです。色々なことを受け入れられる度量のある街です。震災の影響も大きいと思います。駒ヶ林でミャンマー人の難民が住み始めた時も受け入れることができた。DANCEBOXの活動もあってこそです。ニュータウンみたいな街には決してなってほしくない。
尻池さんに会うにはここへ
長田港 JR新長田駅から15分ほど南に歩いたところにあります。
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インタビュー会場は、新長田駅近くで、地域の人が集う居酒屋さん
居酒屋楽  神戸市長田区若松町4丁目4−1 アスタ・クエスタ南棟201
http://bit.ly/2NvZjOX
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reco9isle · 7 years ago
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1-4
 帰還したリコナとローガンは、身支度を整えてから、揃って村長の家を訪ねた。  そして、ここ数日の森の様子や、アオアシラの死骸のこと、そして光る海と、海から覗いた影のことを伝える。伝えて、訊いた。  一体あれはなんなのか? その心当たりを。  応えは程なくして返ってきた。村長の顔を彩るのは渋面ともつかない微細な苦みだ。ため息と共に吐き出された紫煙はゆっくりとほどけて、天井へ上っていく。 「心当たりがある」 「それは?」  急かすように言ったのはリコナだった。それも当然だろう。ここしばらくの、得体の知れない危機感や疑問が解消されるのだから。 「それは、ラギアクルスと呼ばれておる」 「ラギアクルス……その名前は、聞いたことがないな」 「ローガンは、以前は大陸でハンターをしていただろう。知らなくてもおかしくない。何せラギアクルスは海に棲むものなのだからな」 「なるほど」  それから村長はラギアクルスについて知っていることを語った。  ラギアクルスは別名では海竜と呼ばれ、近隣の島々でも書物や詩歌にと語り継がれている存在だという。そして海に棲み、雷を操る故、その際には海が光ること。普段は人界に立ち寄る事はないが、たまに姿を見せることがあることを口にする。 「神様の遣いとする話もある。そうすると、刺繍のパターンにも使われる場合があるわけじゃ。ほれ、ここを見なさい」  村長が、足元の敷物にある一点を指さす。  そこには首の長い竜のようなものが描かれていた。  そして近くには雷雲と、舟の刺繍。舟には皿をもった人の姿がある。先ほどの話を考えれば、これは嵐を収めて貰おうとラギアクルスに捧げ物をするシーンを示しているのだろうか。リコナは、もうじきやってくる雨季の事を思い出した。  符号していると思った。ラギアクルスの外見やもうじき雨期に入ろうかと言う時期に、それから雷を操り海を光らせるという点。 「よく分かった」  リコナが思案している横で、ローガンはそう言って席を立とうとする。 「ちょっと、ローガン?」 「なんだ」  呼び止められた男は面倒くさそうな目でリコナを見る。 「いや、なんだじゃなくて。これからどうするか決めなきゃ……」 「それは決まっているだろう。無視するんだよ」 「ええ……?」  ローガンが深い息を一つついて、座り直した。 「神様扱いされていて、供物を渡したこともある。この刺繍にあしらわれた事や言い伝えの全部が真実とは言わないが、だとしてもこいつはそうそう人間に危害を与える存在ではない」 「そうかもだけど」 「いいか? お前が勝手に嫌な予感を抱いているだけで、ラギアクルスとやらは未だ何もしていない。やったことと言えば、リコナが把握してる限りでも僅かに二度、アオアシラを喰った事だけだ。竜だって腹が空けば飯くらい食う。その程度の話だよ」  そう言われてしまえば、それはその通りだった。反論の余地もない。 「ちなみに村長、ラギアクルスってのはどのくらいの大きさなんだ」 「言い伝えでは頭から尾まで、大人が四、五人といったところだと聞いておるが」 「結構大きいか……。まあ、いざとなっても狩れないレベルじゃないだろう?」  そう言いきるローガンは頼もしい。  きっと何かが起こった時にはラギアクルスを狩る気ではいるのだろう。そう思いつつもリコナは釈然としなかった。
 * * * 
「それはきっと、何かが起こってからでは遅いと思ってるかどうか、ではないでしょうか?」  疲れた体を引きずって自宅に帰ったときには、もう真夜中になっていた。手早く汗を流して着替えたリコナに、その従者であるカナトは言う。  彼は漁師が大半を占めるこの村の子供としては線が細い方だ。それは彼の体が人より少し弱いことに起因する。その代わりと言っては難だが、同年代の男の子のなかでは飛び抜けて賢かったし、落ち着きがあった。だからこそ、リコナはカナトのことを従者に選んだのだ。 「……そうだね」  そして、その通りだ。何かが起きてるということは、それについて既に手遅れなのだから。 「リコナさんは、ずっと何かが起こる前に対処していましたから」 「それって普通でしょ? 誰かが怪我したり、死んだりしてからじゃ遅いじゃん」 「うーん、それはそうですね。ただ、そうあり続けることは、リコナさんにとって、やはり負担なのだと思っています」  そう言ってカナトは、机の上に広がった地図や、壁に貼られたモンスターの目撃情報メモの方をちらりと見た。それらは全て、リコナが誰にも言われるでもなく、自分の手に届く範囲を守るために収集した情報の積み重ねだった。  常に新しい情報を入れるために、リコナは狩りに出ない日も部屋にこもって眠り更ける……ということはしない。出かけて、村人の仕事を手伝うことすらあった。夜は夜で、見聞きした情報をまとめて、考察をする。その結果、危険だと思えば狩りに行くし、もちろん問題ないとする範囲ならばわざわざ狩ることはしない。  それはとても勤勉な姿だ。だからこそ負担もあるとカナトは言う。 「まあねえ」  リコナはベッドに寝そべり、さもありなんと思う。そういう細かい心労や肉体の疲労は、全て、心当たりのあることだ。だからといって、止める気はないけれど。  ローガンの部屋を思い出す。彼の部屋には酒瓶がたくさんあった。それが彼のストレス解消方法なのは容易に想像がつく。自分にとってのそれは、きっと……。リコナはそう思いながら、目を閉じる。  疲労は、彼女の意識をあっという間に眠りへと誘った。  その翌日、リコナはいつも通り夜明け前に目を覚ました。  動きやすい服装に着替えて、軽くストレッチを始める。黒いレザーのトップスとホットパンツは、リコナがハンターになる際に教官を務めた人物から記念にと贈られたものだ。戦うには心許ないので実戦では使っていないが、体の動きを阻害しないのでトレーニングには便利なものだ。  一通りストレッチを終えると、付属の鎧を着ける。彼女の持つ最も上等な鎧よりは全然軽いものではあるのだが、重要なのは、少しでも重いものを身につけると身体の動かし方も変わるということだ。 「さて、と。……っとお!」 「わ、すみません」  部屋を出るところで、リコナはカナト少年とぶつかった。カナトの手にあったバスケットが揺れて、危うく落ちかけるのを、リコナは空中でキャッチする。 「今日も早いね、カナトくん」 「いえ、リコナさんこそ。昨晩は遅かったので、さすがに寝ていらっしゃるかと思いました」  従者はハンターの家に住み込むことも出来るのだが、冷静に考えればカナト少年も思春期なわけ��、と思って通わせている状態だ。それでもいつも、カナトはリコナの起床に合わせて部屋を訪れていた。  ふと、ローガンは……というよりラシェアはどうしてるのだろうと考えかけて、リコナは頭を振った。それは考えても詮無いことだ。 「目が覚めちゃってね。まあ適当に流して直ぐに戻るから、部屋で待っててね」 「はい」  切り替えよう。リコナはバスケットをカナトに返し、大地を蹴った。  身に纏った軽装の鎧は、心地よい重みをもたらし、カチャカチャという音を響かせる。潮風が素肌を擽った。今日は港の方まで足を伸ばしてみよう。リコナは軽快な足取りで坂を下る。
 * * * 
 村を一回りした後、リコナは部屋に戻った。カナトが持ってきたバケットから朝食を摂り、それから地図を手にベッドに座る。 「何か、気になることでもありましたか?」 「ちょっとね」  リコナは地図をざっと見ると、昨日、目星をつけたメラルーの住処や生活圏、アオアシラの死骸の発見地点を割り出して印をつける。随分と時間が経った気がするが、案外しっかり記憶していることに自分の事ながら感心する。 「ふむ」  印を指で辿ってみる。  それらは一直線とは行かないまでも綺麗に道なりになっており、リコナの推測が正しいことを教えてくれた。 「間違ってない。と、思う」  最後に、あの時ラギアクルスがいたであろう箇所にバツをつける。  ラギアクルスは海に棲む竜種だという。アオアシラが海岸を歩いていたところ、突然襲われたと思われた。油断していたアオアシラは、その初撃で絶命したはずだ。  ラシェアと薬草取りに出かけた日に現れた方のアオアシラは、逃げ出す事には成功したのだろう。しかしその傷は深く、パニックに陥りながら逃げるうちに失血……力尽きるに至った。 「んー」  リコナはそのまま仰向けに寝転んで考える。ローガンの言葉が脳裏に残っていた。  ラギアクルスは餌を獲っていただけで、まだ何の問題も起こしてない。だからまだ狩る必要はない。  確かにそうだ。そもそもラギアクルスがいた場所も、村からは離れた狩猟区の奥。心配するのも馬鹿らしいほど遠いのだ。 「カナトくんは、もし隣にとても凶暴な肉食のモンスターがいたとして、でもこのモンスターは人を襲ったことがないから平気だろうって言われたら、納得できる?」 「どうでしょうか……」  カナトは微妙な苦笑いを浮かべる。それがリコナの意地悪な設問なのが直ぐに分かったからだ。  本音を言えば、大丈夫ではない。怖いだろう。例えそれがアオアシラであり、鎖に繋がれ、檻に入っていたとしても恐ろしいものは恐ろしい。でもそう答えるということは、リコナを戦いに駆り立てることと同義だと思えた。  この世界での暮らしは、何処までいってもモンスターの直ぐ隣。モンスターという危険な隣人を許容しなければとてもではないが、この世界の何処にも安寧の地は見出せない。しかし、それが隣にいることが分かっていて、平然とすることもできはしないのだ。いつ、その牙が、ひとを脅かすかも知れない限りは。
「でも、僕は、リコナさんの思うことであれば、信じたいです。リコナさんが、平気だって言うのなら」 「……そうだね」  リコナは小さく嘆息する。  カナトの言いたいことはつまり、リコナが常に村の安全を第一として、精力的に狩りを行ってきたことに対して、信頼したいとする考えだ。  リコナというハンターは、少しでも危険を見出せばそれらを全て排除してきた。だからこそ、そのリコナが安全だというのなら、それは妥当なものであると。  でも、自らの幼い従者が、そんな打算的な思いの下に言葉を発したとは思いたくなかった。リコナは、カナトの感情をこそ、受け取りたかった。 「あの、僕は何か間違ったことを言ってしまったでしょうか?」 「ううん。そんなことない。カナトくんの気持ち、嬉しいよ」  本音だった。本音だと思いたい。リコナはそう思う。  リコナはそこで手にした地図をテーブルの上に放り投げた。それから少しだけ勢いをつけて立ち上がる。  何となく気分が暗くて、気合いを入れないと立ち上がれなかった。 「お出かけですか?」 「うん。また少し、走ろうと思う」 「ええっと、疲れてませんか?」 「それとこれとは別の話だよ。ハンターは体力勝負。その体力は日々の鍛錬で培うもので、サボればそれだけ体力は落ちちゃうの」 「うーん。仰りたいことは、分かります」  そう言いながら、カナトはリコナの進路を塞いだ。 「言ってる事とやってることが違ってるよ」  リコナは困ったように言うが、彼は首を振って、リコナのことをベッドに押し戻した。休め、と言うことか。リコナは思う。  リコナがベッドに腰掛けたせいで、彼の方が少し目線が上になる。そうすると、リコナは少しだけ落ち着かない気分になった。 「ここ最近、リコナさんが何かを気にして気を張ってることは、誰の目から見ても明らかだと思いました。その結果、リコナさんが体調を崩したら、僕は何のために従者をしているんだということになりかねません」 「そう……かもね」 「というわけで、今日はお休みです。久しぶりにマッサージでもどうですか?」  カナトはそう言って、身軽な動きでリコナの後ろに回った。  指先が首筋をさわりと擽って、それから肩をぐっと押し込む。ぞわりとしたのは一瞬で、じわりと広がる気持ちよさにリコナは深く息を吸った。  どちらかと言えば、リコナもマッサージをする側の立場だ。長老衆の集会所では、リコナはよくよく肩揉みをお願いされる。若い女性に肩を揉まれるというのは、肉体、精神共に一定の快楽を伴うものなのかも知れない。リコナは年寄り臭いと思いながらもそれに同意するに近い事は考えていた。  触れ合いというのは、どこかで欲してるものなんだなと。  肩をひとしきり揉んでから、カナトはぐいぐいとリコナの背を押す。どうやらまだまだ続けるらしい。リコナがベッドに寝転ぶと、カナトと覚しき重みがかかって、微かに息苦しくなるのを感じた。 「カナトくーん、体重増えたんじゃないかなぁ」 「どうでしょうか。自分ではよく分からないです。でも、友達と比べればまだまだ全然軽いとは思います」 「うーん」  そうかもしれない。村で見かける子供たちは、子供であっても筋肉は結構あるように見受けられるから。そもそも、そういった子らは背中に乗せるのはいろいろ心配だろう。悪戯的な意味で。上で跳ね飛ばれたりして、腰を傷める羽目になっては叶わない。  リコナは、身体の奥から滲み出すように出てきた睡魔を噛み殺しながら、カナトの指先の感覚を追うのに集中した。  肩から、背中を押して、腰へと降りて、ちょっと飛んで、太腿に触れる。太腿に触るときに少しだけ戸惑いが感じられるのはご愛嬌だろう。  彼にとって、このマッサージは生殺しなのか、ご褒美なのか。少しだけリコナは気になったが、その脳内議会が立ち上がる前に、その意識は眠気の波にさらわれていく。  さすがに無防備すぎではないかと思ったが、それは眠気を散らすほどの感情には満たなかったようだった。
 * * * 
 木々が粉微塵に砕け、水柱が高く立つかのような轟音で、リコナは目を覚ました。  部屋は暗い。夜になってしまったようだ。一つだけランプが付いているのは、カナトが自分のためにつけたものだろうと思う。扉は開きっぱなしになっており、カナトの姿は室内にはなかった。  リコナはゆっくりと身体を起こすと、念のために双剣を持つ。部屋を出ると、少し離れたところにカナトは立っていた。 「カナトくん。今の音って……」  轟音で目が覚めたにしては、静かだった。リコナが暗闇に立ち尽くす従者に並ぶと、そこからは村を一望することができた。リコナが住む家は、村の高台にあるのだ。  しかしそこに広がっていた光景は、のどかな村の港ではない。  ごうっと風が吹く。  風は焦げ臭い。  リコナは眼下に広がる光景に絶句した。港が燃えている。海の上に浮かぶデッキはバラバラになり、陸上にある部分は燃え盛り、闇夜を煌々と照らしていた。  遅れて、悲鳴と、何かが激しく燃える音が、耳に届く。 「何なの、これは」  リコナは呟いた。  目の前にある光景が信じられなかった。これまで必死に守ってきた村が、燃えている。  何で?  そう思った瞬間、村に、咆哮が轟く。青い光が、闇を奔った。そしてまた何処かが燃える。 「まさか……、こ、の……!」  気付いたときには、リコナは走りだしていた。  クロオビの装備は、耐久性が不安だとか、そういうことは脇に置いておく。むしろ普段着に着替えてなかったことこそ僥倖だ。  一息に坂を駆け下りると、そこはまるでまるで地獄絵図かの様だった。家屋は燃え、砕けた木片は辺りに散らばっていた。そしてそんな破滅の光に照らされ、薄暗闇のなか睥睨するのは、海竜だった。  何が、村からは離れた狩猟区の奥だからだ。馬鹿なんじゃないのか。リコナは歯噛みした。相手は海を縄張りとする竜なのだ。だとすれば、安全なのは内陸に村がある場合であって、間違っても港のあるような海沿いの村は安全ではない。  リコナは双剣を構え、ラギアクルスと対峙する。  しかし、かの竜は、余りにもあっさりと背を向けると、水底へと潜っていった。 「ちょっと……!」  拍子抜けだ。納得できない!  リコナは海に飛び込もうとして、誰かに腕を掴まれる。  そして目の前で、村を滅茶苦茶に蹂躙したラギアクルスは、姿を消した。後に残ったのは、バラバラに砕かれて燃える港と、無力なハンターの少女��けだった。 「落ち着け」  そう声がして、リコナは自分の腕を掴んで止めているのがローガンだと気付いた。 「なんで止めたの!」 「お前な……夜の海だぞ。俺はそこまで海の狩りには詳しくないが、これだけは分かるって事がある。今飛び込んでも、暗くて何も見えやしない。返り討ちに遭う可能性が高いって事だ」  正論だ。  だからこそラギアクルスも、去ることを選んだのだろうと思える。海のなかは海竜のフィールドであり、ハンターの領域ではない。夜の海であれば尚更だ。 「それより、手伝ってくれ。ラシェアが見つかってない」  追い打ちのようなローガンの言葉にリコナは総毛立つのを感じた。冷や汗がどっと溢れて、声が震える。 「どういうこと!?」 「タイミング的には、俺の所から家に帰っているところかと思う。いつもどういう道を歩いてるのかは分からんが、もしかしたら港を通ったかもしれない。とにかく、ラシェアが見つかってないんだ」 「嘘……」  リコナの脳裏にラシェアの顔が浮かぶ。この村に来てからの付き合い��はあるが、親友と呼んで差し支えない相手のことだ。  辺りを見渡す。この酷く荒れた港の何処かにいるのだろうか? リコナは駆けた。  駆けつけた村人たちの姿が見え始めていた。そちらにも目を向けるが、やはりラシェアはいない。ラギアクルスはアオアシラを襲っていた。それは食糧を得るためだ。でも、だからといって、まさか。 「リコナ、こっちだ!」  ローガンの声に、少女はハッと顔を上げた。声を頼りに合流すると、ローガンはラシェアを抱きかかえていた。ぐったりと、ローガンに身体を預けている。 「大丈夫なんだよね?」 「目立った外傷はないと思う。血が出てる様子もない。単に気を失ってるだけ、だと思いたいな」 「とりあえず、休ませよう」  リコナの言葉に、ローガンは賛成だと頷いた。 「リコナは、ここで引き続き、行方不明になってる奴とか、怪我人がいないか見ててくれないか。俺も、ラシェアを寝かせたら直ぐに戻る」 「わかった。ラシェアのこと、お願いね」  夜中にも関わらず、港はざわつき始めていた。でもそれは普段通りの何処か心地よい喧噪ではなくて、例えば手を貸してくれと叫ぶ声だったり、見るも無惨に破壊された港を嘆く声だったりした。  悲痛だった。無力だった。  リコナは泣き叫びそうになるのを堪えた。きつく手を握りしめた。でも握った手は何処にも振り下ろせなくて、自嘲する。  こんな思いをするためにハンターになったんじゃないのに、と。 「リコナちゃん、すまねえ、こっち手伝ってくれえ」  誰かの声がする。  リコナを必要とする声だった。少女は己の無力を忘れるために、その夜が明けるまで、我武者羅に働いた。
 * * * 
「おい、リコナ?」  ローガンの声が聞こえた。  反応して、身体を動かそうとするが、それは上手くいかなかった。  リコナは、眠りの淵にある己の状況を見直そうとする。しかし、港で人助けして、片付けをして、それ以降の記憶は見つからなかった。  目を開く。目の前にあったのはベッドの脚だ。どうやら家に帰り着いたところで限界を迎えて、意識を失っていたらしい。硬い床の上で眠っていたせいか、彼女の身体は強張っていた。 「リコナ、返事をしろ」  扉がどんどんと叩かれている。これ以上、返事がなければ今にも侵入せんという勢いだった。昨晩の事を考えれば当然ではあるが。  リコナは身体に力をこめて、立ち上がる。床に倒れたの無様な格好で迎えるわけにはいかなかった。着替えもしてないし、とても他人様に見せられる様ではない事に気付く。慌てて扉の向こうに返事をした。 「起きたみたいだな。別に急がなくてもいいが、ラシェアの家に行ってやれ。目を覚ましたらしいからな」  リコナは慌てて身支度を整えるが、着たままにしていたクロオビ装備を干す頃には、日は高くなっていた。水が滴る髪を乾かすのももどかしく、歩くうちに乾くだろうと家を出る。  そこで、ちょうどカナトが歩いてくるのにかち合った。 「あ……」  気まずそうな表情を浮かべた。カナトの視線がリコナの顔を捉えて、それから地面に落ちる  手にはいつもの、パンの入ったバケット。 「おはよ、じゃなくて、こんにちは……かな」 「……はい」 「珍しく寝坊しちゃってさ、はは、カナトくんも?」 「そう、ですね」  歯切れの悪いカナトの様子に、リコナは首を傾げた。彼は体質上、常から声にそこまでの張りがあるわけではないが、変に言葉尻を濁したり、あからさまに沈んだ声を出すことは珍しかった。 「どうしたの?」  リコナはチュニックの裾を押さえて、カナトの前にしゃがんだ。覗き込んだ彼の顔は、今にも泣いてしまいそうに見えた。 「僕の……あれは、僕のせいです。僕が、リコナさんに休んだ方が良いって言って、だけど、いつも通り見回りしてたら、もしかしたら気付けてたかもしれなくて」 「……それは」  昨日は全然、そんなことは思わなかった。だけどそう思っても仕方のない事かもしれない。  その二つは、少しも無関係だとは思えないほどの関わりがあった。確かにリコナが外にいれば、眠っていなければ、それはもう少し早くに分かったのかもしれなかった。それは事実かもしれなくて、カナトはそれを気に病んでいた。
「カナトくん」  でも、それはそれだ。 「それは、カナトくんが背負う重みじゃない」  リコナは、カナトの持っていたバスケットを脇において、それから少年の身体を抱きしめてやる。 「それは、ハンターである私が背負うべき重みだからさ。カナトくんは気にしなくていいの」  そうなのだと、リコナは自分でも思った。  確かにカナトは、リコナに休むよう気遣いから提案した。でもリコナは、村の安全の為に、それを断ることができたのだ。ラギアクルスの事を知っているのだから、そうするべきだったのに。  それは、ハンターであるリコナの判断の誤りであって、カナトの発言に責任はない。 「それはカナトくんが、ちゃーんと従者の仕事を考えてるって事なんだよ。私はそれが嬉しい」「でも」 「でも、じゃないの。私はね、あの竜の���を知っていたの。そういうやつがいるんだって知ってて、危ないなって思ってたの。でも些細な事ばかり気にしててさ。それで、見誤ったんだ」  それは言うまでもなくローガンのことだった。彼と足並みを揃えるべきなのではないか、という遠慮だ。  でも、ローガンが来なければ、リコナは一人でさっさとラギアクルスを倒しに行くはずだった。そうしたら、こんな酷いことになんてならなかったのだ。 「カナトくんだって、それを知ってたら、休んだらなんて言わなかったはずだった。でも、私は直接には言わないで、曖昧な事を言ったから、それはカナトくんには分からないわけで」 「それは……」 「ほら。だから、カナトくんは悪くないよ。それは、私の重みなんだよ」 「…………はい」  答えるのを待ってから、リコナは、抱擁を解いた。  カナトは、今にも泣きそうな顔だった。必死にこらえていたけど、それでも、もうすぐそれは決壊して、泣いてしまうんだろうとリコナは思う。  それでも我慢している姿は、とても強かった。 「私は、ちょっとラシェアのところに行ってくるよ。しばらく戻らないけど、お腹は空いてるから、家で待っていて」  一緒に食べよう?  そう言ってリコナは少年の頭を撫でて、それから、その場を足早に去った。カナトが見せた強がりを無駄にしないように。  悔しいだろうなと、思った。  その口惜しさを、消化しないまま奪ってしまったのはリコナだ。でも、これでよかったのだとも思った。カナト少年は、身体が弱い。日常生活に苦労するほどではないが、生まれついた体力の無さはその細い線に表れていて、ハンターを目指すことなど到底できないだろう。  モンスターに関する悩みの殆どは、その相手を討ち倒せば解決できる。今回の事も、そうだ。でもそれは、カナトには叶わない。だから最初から、彼にその口惜しさを自力で解消できる手段なんてなかったのだ。
 * * * 
 カナトと分かれたリコナは、村はずれにあるイクスジニア家を訪ねた。イクスジニア家は、村の薬師の家で、ラシェアはその三姉妹の三女だった。  リコナが家に入ると、計四対の視線が彼女を刺した。刺したというのはリコナの主観で、それは事故を防げなかったという負い目から来るものなのだが。 「リコナちゃん、よく来たわね。ラシェアはもう起きてるから、ちょっと話し相手になってあげてよ」  イクスジニアおばさんは、そう言ってリコナを歓迎した。  姉妹の二人も、やれ「ラシェアったら薬が苦いなんて文句言うのよ、薬ってそんなものだって自分で分かってるだろうのに」だとか「ちょっと怪我してるからって果物が食べたいなんて姉を使いっ走りさせるなんて」だとか、口々にリコナへと愚痴を向ける。  誰も、これがリコナの怠慢から招かれたことだとは思っていなかった。それが少し彼女の気持ちを軽くする。会釈して、リコナはラシェアの部屋に入った。  ラシェアは憮然とした顔で「もう苦い滋養強壮剤なんて要らないわ。怪我もしてないのに……」と言ってから、それからリコナの姿を認めて、笑顔になる。 「あら、お見舞いに来てくれたの?」  そう言われてから、リコナは特に何も持ってきてないことに気づいた。不死虫がひとつまみもあれば、冗句にはなったかもしれないのに。 「えっと、顔を見に来ただけだよ」 「それを、お見舞いに来たと言うんじゃないかな……」  ラシェアが苦笑して、ベッドの上で身体を起こした。  部屋の空気が動くと、リコナの鼻腔を快い香りが擽る。花の香りだ。ポプリか何かか。部屋の主に似た優しさを感じた。 「ラシェア、無理しなくていいよ」 「ううん。平気。というか、特に怪我はしてないの。元気だし。なのにこんな大事みたいにして、心配性よね」 「……ラシェアの事が大切なんだよ」  リコナは、ベッドの縁に座り、身体を起こしたラシェアの様子を窺う。  確かに、ローガンの見立てや彼女の自己申告の通り、目立った傷はないようだ。身体を起こす所作も、微かに気怠げな雰囲気が混じるだけで、筋を傷めているとか、骨を折っているとか、そういった気配はなかった。 「そうそう、リコナかローガンが来たら聞こ��と思ってた事があるの」 「?」 「姉さんたちがこんなに私に構ってるってことは、怪我人は居なかったって事で良いんだよね?」 「少なくとも昨日の段階では、ね。今日、正確な被害がハッキリすると思うけど。怪我に関して言えば、たぶん、ラシェアが一番、重症なんじゃないかな」 「よかった」 「うーん、それは、よかった……と言えるのかなあ」  あっけらかんと、被害者が思ったより少なかった事を喜ぶラシェアに、少女は微妙そうな笑みで返す。見た目、怪我はしてない。だけど気は失っていた。その時点で、何事もなかったはずがない。  あの夜、何が起きたのか。リコナは正確に知る必要があった。  ラギアクルスが襲撃し、港の一部が破壊されたというのは、あくまでもアウトラインだ。詳細ではない。そしてそれを聞くのは、ラシェア以外ではあり得なかった。 「……いや」と、リコナの口元が小さく動く。  それはやっぱり、言い訳にしかならない情報だ。  結局、ラギアクルスを討伐するのは間違いない。そして、リコナは、それを可能な限り早く成したかった。引き延ばすほど、村が危険に曝される可能性が高まるからだ。  でもローガンにとっては、今回のラギアクルスの襲撃は未だ様子見の領域みたいだった。そのつもりなら、第一声は、ラシェアの体調ではなくて、討伐についてだったろうからだ。  彼が考えているのは、精々、夜中にもちょっと見回りしよう、程度のものだろう。それが、彼のスタンス。  そうしたらリコナは、討伐を早める理由をローガンに示さないといけない。もしラシェアの体験のなかに、ラギアクルスの危険性や再襲撃の可能性を示唆するものがあれば、それを足がかりにしてローガンを説く事になるだろう。そのために正確な情報が知りたいが、それは、リコナの都合だ。 「? リコナ、どうしたの?」  ラシェアが、数瞬、意識を逸らしたリコナの顔を覗き込んでいた。心配そうな表情だ。心配なのはこっちなのにと、リコナは思った。  ラシェアに問うことは簡単だ。  でもそれを聞いたら、彼女はそれを思い出すことになる。昨晩の、お世辞にも素敵とは言えないであろう恐ろしい体験を反芻することになるのだ。  それは、自分の都合によって引き起こされてよい事だろうか? リコナは、言葉を飲み込んだ。 「ん……明け方まで作業があったからね。ちょっとは寝たんだけど、本調子じゃないのかも」 「お疲れさまだね」 「いえいえ。じゃあ、そろそろ帰ろうかな。カナトくんも待たせてるし」  リコナは立ち上がる。小さな未練のようなものが、身体を重くしたような気がした。  いや、気のせいじゃない。服を引っ張られてるのだ。誰に何て、考えるまでもない。 「なーに、ラシェア?」  振り向いて、リコナはどきりとする。 「……リコナ」  声は、震えていた。  気丈に笑っていたはずの表情は凍っていて、ラシェアは今にも泣きそうな顔で、リコナを呼び止める。  リコナは座り直して、ラシェアの頭を撫でてやった。  ああ、なんて馬鹿だったんだ。人の痛みと言うものがまったく分かってない人間だ。カナト少年には大人のふりをする事はできた。でも、それはあくまで自分の為の行動に理屈を付けてるだけのことだったのだ。  リコナは溜息を押し込めて、ただ、友を労る。  恐ろしい体験を反芻させることになる、というのはリコナから見ての話だった。実際は、彼女はどの道、絶対に反芻することになる。だから怖いことを怖いまま抱えることの方が、辛いに決まってるのだ。  それに触れないで置くというのは、その恐怖の解決に手は貸しませんよと突き放すのと同じこと。  リコナは、それでよかった。恐ろしいモンスターとの邂逅を経た後でも、ハンターだからという思いがあれば、自重を支える事ができた。  でもラシェアはそうじゃない。  ハンターじゃないから。見た目で平気そうだなんて思わないで、きちんと気を配るべきだったんだ。 「ねえ、ラシェア。昨日、何があったか聞いていいかな。その重みを、少しだけでも私に預けてほしいんだ」
 * * * 
 リコナはローガンの家に向かった。帰りは遅れるが、カナト少年には後で一言謝りを入れれば済むと思う。それよりも重要なのが、ローガンと今後の事を話すことだった。  結論を言えば、ラシェアの話は、何の新情報ももたらさなかった。ただの主観的な話である。そして後から現場を見れば分かるくらい、ざっくりとした記憶。  ラシェアは大きな恐怖を感じていた。そしてその恐怖が、辺りの様子や経緯を記憶することを阻害した。  あるいはショックを和らげるために、詳しいことを忘れてしまったか。  まあ考えてみれば分かる事だ。彼女の話によれば、ラギアクルスとは、かなりの至近であったという。そして彼の竜は雷を放ち、巨体をうねらせて、港を破壊していた。  目の前で暴れる竜、見慣れた港が破壊される光景。これが怖くないというのなら、何を見ても膝を抱えることはないだろう。  だから、仮にローガンが、リコナの見立て通りに、直ぐに討伐しようだなんて少しも思ってなかったら、それを論理的に説得する手段はない。すごく怖がっていたから、というのは、感情論に過ぎないからだ。目の前にいて怖くない竜種なんて存在しない。重要なのは客観的に危険かどうか。けれど。  考えている間に、ローガンの家に到着する。逡巡は、一呼吸だけ。  感情論で結構。  リコナは戸を叩いた。 「リコナか?」 「はい」 「……お前、明日じゃ駄目なのかよ」 「駄目です」  きっぱりと即答する。  対する返事は少し間があった。扉が開く。そこにいたローガンの顔は面倒臭いという表情だったし、リコナの顔を見て、さらにその色は深まった。 「とりあえず入るか」 「ううん。ここでいい」 「そうかい。で?」 「その」  リコナは、ローガンの顔を見る。面倒臭いという色はなりを潜めていた。何を話そうとしているのかの想像はついているのだろう。 「私は、ラギアクルスを討伐することにした。これについては、私が勝手にそうした方が良いと思っただけなので、はっきり言って、あなたの意見は求めてない」 「……おう」 「決して、邪魔はしないで」 「もし邪魔したら?」 「ラギアクルスと戦う前に、双剣を研ぎ直すことになる」  リコナが言うと、ローガンは参ったねと肩をすくめた。 「……本気なんだな」 「ええ」 「分かった。この村を守ってきたのはお前だ、リコナ。そこまでの覚悟で言うなら、俺も協力する」 「……」 「なんだその意外そうな顔は」 「またそんな非論理的な判断でと、咎められるかと」  ローガンは頭を掻いた。 「そう言って、結局今回のことはお前の言うとおりだったからな。だから今回はお前の顔を立てる」 「今回こそローガンの言うとおりかもよ」  リコナが言うと、ローガンは半笑いで応えた。 「じゃあその時は、その次で俺を立てないといけないな。そう言うときに限ってお前が正しいかも知れないが」 「そうだね」 「……いずれにせよだ。俺は女の刃を受けて死ぬ趣味はない」 「よく言うよ」  二度も裸を見たくせに。とは言わないけれど。 「じゃあ、リコナ。話は終わりだ。今日は休め。明日の朝、万全の体調と、装備で会おう」 「うん」  扉が閉じて、リコナは握りしめていた手を解いた。いつの間にか握っていたらしい。最悪、妨害を受けながらの狩りになると思っていたから。  でも、協力は取り付けられた。  リコナは少しだけ足取り軽く、自宅を目指した。  村には、昨晩襲来したラギアクルスの残した爪跡がしっかりと残っている。幸いにも、死者は出なかったようだが、誰の心にも恐怖を植えつけたことは間違いなかった。片づけをする村人に声をかけながら、彼女はそう思う。守らなければ。それがハンターの使命だ。この村の、爪であり、牙である者の責務であった。  翌日、リコナは身支度を整えて、家を出た。  彼女のまとう蒼い鎧は、大空を統べる王者、飛竜リオレウスの素材によるものだ。それも、ただのリオレウスではなく、その亜種となる蒼き竜のものである。  それは彼女の最高の装備であり、最も気合の入る装備だ。  言うまでもなく、彼女は倒すつもりだった。村を襲った、あの海竜……ラギアクルスを。 「……?」  しかし、ローガンの指定した待ち合わせの場所で待っていたのは、彼の従者となるラシェアだった。 「ラシェア、もう出歩いて平気なの? それも、こんな朝早くから」 「怪我をしたわけじゃないし。ずっと寝てる方が体に悪いから」  リコナが駆け寄りつつ言うと、ラシェアはあっけらかんと言ってみせる。その姿に安心してから、そうじゃなくて、と言った。 「ここには待ち合わせで来たんだけど。なんでここに? ローガンは?」  彼女はその問いに、困ったように眉を寄せてから、答える。 「ローガンは、もう出発してる」 「え、なんで!?」 「ええと……」  剣幕に圧されるラシェアの顔を見て、リコナはそこで追及をやめた。それよりも、まず追いつくことが先決だ。 「とにかく��私も急いで向かうから! ラシェアも、気をつけて家に帰ってね!」  要は、先に行っているというだけだ。  腹立たしいが、追いかければ済む話でもある。そう思えば、それをラシェアが呼び止めた。 「リコナ、待って」 「……何?」 「えっと、実はね。ローガンから、リコナを引き止めておけって言われてて」 「どうして?」  と聞きつつも、その理由は想像がつく。  きっと、怠慢で村の港を破壊されたことに対する贖罪のつもりなのだ。しかも相方のハンターが警告していたのに。それを対処不要だと断じてこれなのだから、その落とし前はつけなければならないと思っているらしいわけだ。 「これは、俺の責任だからって、ローガンは」 「そんなの知らないよ」  強く言った。  そんなの知らない。  百歩譲って先行するのは許すとしても、ラシェアを使って足止めにかかるなんて、全く理解不能だ。馬鹿みたい。呟くように毒づいた。 「リコナ……頼みたいことがあるの」  彼女の手には、二つの包みがあった。どちらも厳重に包装されており、中身はよく分からない。大きさは手のひらに載る程度で、一辺五センチもなかった。 「これは?」 「ローガンの薬。これを彼に渡してほしい」 「ふう……ん? 二つも?」  受け取ったそれをポーチに入れる。包みは二つ。よく見ると、一つにはリコナ用、とタグが打ってあった。 「えっと、彼に渡すのは、一つでいい。もう一つは、リコナ��持ってて。……本当は、こういうのは良くないの。でも、胸騒ぎがするから……」  ラシェアの言葉の意味を、リコナはうまく理解できずにいた。少なくとも、今の段階では。 「とにかく、片方をローガンに渡せばいいんだよね?」 「ええ」 「じゃあ、行くから」  走り出し、狩猟区への船渡しを目指す。  一度だけ振り返ると、ラシェアはまだこっちを見ていた。
#mh
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oriori-ki · 7 years ago
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第35回 『ときわ動物園』
宇部新川駅通りの喫茶店で
 羽田空港から90分、瀬戸内海に面した宇部空港に着きます。市の中心部の新川駅までバスに揺られて市内見学。駅前通りを散歩していると、あちこちに素晴らしい彫刻が設置してあります。これは2年おきに催されるUBEビエンナーレ展での受賞作品だそうです。
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 ぶらぶら眺めながら街を歩いていて、ふと見つけた洒落た喫茶店に入り、コーヒーをたのむと、注文をうけてから豆を挽いてサイフォンで淹れてくれました。その馥郁とした軽やかな香りを味わっていると、この街の洒落た文化の趣きが幾重にも見える気がしました。
 その店に飾られた日本各地の紅葉風景の写真を眺めながら、これからおもむく「ときわ動物園」の愉しい予感に心がときめきました。
 ときわ動物園には新川駅前からバスに乗って行きました。常盤湖周辺にある「ときわ公園」は、動物園のほかに、ときわミュージアム・ときわ遊園地・ときわ湖水ホール・石炭記念館・UBEビエンナーレ彫刻の丘などあり、楽しめる施設群からなっています。
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 公園入口事務所で動物園の入場券を買おうとすると、
「ここは、公園入口で無料です。動物園はこの先にありますから、そこで買ってください」
 係員にそういわれたので、板作りの洒落た柵が並ぶ細い坂道を上がっていくと、遊園地に出ました。動物園の入口が矢印で示されていました。
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 入口で職員に園の規模を尋ねても返事が返ってきません。調べてみると、ここには32種、200点ほどの動物が展示されていて、広さは約1.9haとごく小規模です。けれども、アジアの森林ゾーン・中南米の水辺ゾーン・アフリカの丘陵マダカスカルゾーン・山口宇部の自然ゾーン・学習施設ゾーンに分かれていて、たいへん見やすく楽しめる工夫に富んでいます。
オリの役割を小池がしているテナガザル舎
 入口からくねくねした道を上り下りして歩いて行くと、池のなかに島があり樹高20メートルほどの樹が何本も植わっていて、インドからバングラディシュの熱帯雨林山地を中心に生息しているハヌマンラングールが、手前の高い樹の梢から梢へとダイミックにぶらんぶらんと移り遊んでいます。
 島は4mほどの小池で囲まれているばかりで柵らしいものがありません。そこにいるのは、シロテナガザル(体重約4㎏、主にミヤンマー・タイ・マレーシア・北スマトラに生息)で、彼らも隣のハヌマンラングールのように、力強い長い腕で樹上生活をしています。
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 シロテナガザルはすばらしく大きな声で歌うように鳴きかわしています。オスがメスとの絆を強めるためや、みずからのテリトリーをお互い確認し合っているのです。
 はじめはやや小さく声を出してウォーミングアップをし、つぎにメス・オス交互に叫び声を繰り返します。おしまいにはメスが精一杯の叫び声をあげ、それに合わせてオスがグレートコールを張りあげて、これを交互になんどか繰り返してお互い満足して終了します。
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 たまたま園内を歩いてお客さんに説明サービスをしていた若い飼育員の木村さん(上の写真の人。「オリオリの記」掲載了承済み)が教えてくれたのです。
「柵がなくてもサルは逃げないんですか」と訊くと、
「この種のテナガザルは、樹上をじょうずに渡り歩きますが、ヒトのように泳げないのです。また、よく見ていてください。ほら、あのように2~3歩しか歩けないんです。だから柵はいらないのです。池の水が柵がわりになるのです。シンガポールの動物園に学んで、周りに池を配して設計してありますから、大丈夫なんです」
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 木村さんは、オスとメスが鳴き合ってテリトリーを主張しあうことなど、ていねいにいろいろ説明してくれました。たしかに彼らは手足で歩くのではなく、ピョンピョン跳ねるように池のふちに寄ってきて、手を洗ったり水をすくって飲んだりしていました。けれ��も、ながくは歩きません。木のうえが好きなようで2mほどの高さの切り株で、なん匹かが集まってじゃれるように遊んでいました。
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 しばらく行くと薄い網がかかったところにサルがいました。スリランカに生息しているトクモンキーという中型のサルです。頭の上に注目してください。頭部の毛が帽子を被っているように生えていて、やんちゃ坊主みたいで可愛いらしいです。けっこう珍しい種類で動物園でもめったに見られません。日本では、このときわ動物園と愛知県の日本モンキーセンターにしかいない貴重なサルです。
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トンネルをくぐるとおっぱいをねだる赤ちゃんカワウソが
 小さなトンネルをくぐると、薄暗いところにかたまって赤ちゃんコツメカワウソがおっぱいをねだっていました。寝ている母親のおっぱいはなかなか吸えなくて、なんども潜って苦労しています。ちょこちょこ動いていて、こちらになかなか顔を見せてくれません。
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 なんども撮り直して、やっと撮れた顔はまことにかわいらしいものです。すぐまた潜り込んでしまうので、表情は写真で確かめるしかありません。
 親子連れで来たお客さんが、奥まった岩のなかが暗くて探せないらしいので、
「あの奥にいるよ、赤ちゃんがおっぱいをねだっていて、顔をなかなか見せてくれない。飲み終われば、ちょこちょこ出てくるから、しばらく待っていればきっと見られます」
 何がいるのか不審顔しているので、余計なおせっかいですが、先に来てしばらく様子を見ていたから、つい言葉が出てしまったのです。
 カワウソは泳ぎがうまくて、水中では耳の穴も鼻の穴もぴったり閉じることができて、魚やカエルなどを捕まえてエサにしています。東南アジアやバングラディシュでは、彼らカワウソに魚を追い込ませて網で取る伝統漁法があるそうです。しかし現在ではあまり行われていないといいます。
 つぎに、中南米の水辺ゾーンに入ります。まず何匹かのインコがいました。黄色い色のインコはルリコンゴウインコです。トリとしては大きいほうでしょう。オウムの仲間で飼い主になつきますが、飼い主がいなくなると精神的・肉体的な障害を起こすので、ふつうの家庭で飼うのはむつかしそうです。パワフルで大きなくちばしを持っていてややもするとヒトにも傷害を与える能力があります。
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 コンゴウインコは一夫一婦で生涯過ごし、100年生きるともいわれているようですが、50年程度生きるのがふつうでしょうか。ただし彼らもまた絶滅に瀕しています。一つにはヒトによる森林破壊のためです。もう一つには、ペット取引用の不法捕獲によります。大自然を守っていくのはたいへんむつかしいことなのでしょうか。
 そばにフラミンゴがいました。ピンク色をしていてじつに綺麗で優雅な感じ。チリーフラミンゴとあります。βカロチンなどを含むプランクトンや藻類を食べることによってピンクになるので、それを食べなければ羽は白く戻るそうです。ピンクを保っている動物園のフラミンゴは、飼育員さんがピンクに染まるエサを配合して与えて維持させているようです。
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 中南米の塩湖や干潟に生息しているフラミンゴには、塩分やアルカリ性に耐えられる体質があります。トリはふつう2本足で立っているのに、フラミンゴはいつどこで見てもかならず何匹かは1本脚で立っています。不思議におもって見ていましたので調べてみると、冷たい水に体温を奪われないよう、片足立ちしているのだそうです。トリたちも知恵を絞って努力を重ねて生きているのですね。
カピバラが健康そうなフンを…
 その先に体重が3~4㎏の大きさのサル、フサオマキザルがいました。頭の毛が直立して精悍な顔つきをしています。オリの中の木を登ったり降りたり、ちょろちょろと動きまわりじっとしていません。写真を撮ろうと見ているこちらを意識してか、一瞬止まって逆ににらみ返しているような態度をします。
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 中南米の川辺や沼地や海岸の落葉熱帯林に生息していて、オス3~4頭、メス3~6頭からなる10頭ほどの群れをつくって、1日のうち大半は果実や木の葉・花・種子・根などを探し歩いて食べているそうです。
 ヘビや猛禽や肉食獣が寄ってくると警戒して声を張り上げてお互いに知らせ合ったり、石などを道具として巧みに使ったりする「頭のよいサル」として知られています。
 向かいにカピバラがいました。大きさはだいたい体重50~60㎏、体長1mを超えて、ゆったり構えてのどかな顔をしています。日本のネズミのように「チュウ」と鳴く声をきいたことは、まだありません。みなじっと声も出さず静かで、ちょこちょこと活発に動きまわりもしませんから、ネズミの仲間とは思われません。
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 どれも同じような顔をして同じような体型をしている5点ほどいたなかに、すみっこに寄ってフンをしているカピバラがいました。気持ちよさそうな顔をしており、散らばったフンは健康そうな色をしていました。
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 世界一大きなネズミだそうですが、子供たちに人気がありそうです。来合わせた家族連れはしばらく一緒に並んで眺めていましたが、あまりに動かず変化の少ない生きものなのでながく観察するのは退屈らしく、すぐ別のところに移動していきました。
 いっしょに移動して次のゾーンに行ってみることにしました。
アフリカの丘陵ゾーンの珍しいパタスモンキー
 あご・首・尻・腹・四肢の内側が真っ白くて、手脚が長い珍しいサルがいました。パスタモンキーといいます。サハラ砂漠の南からアフリカほぼ中央部のサバンナに、西は西アフリカのセネガルから東はエチオピアまで、広くに生息する乾燥に強い種です。
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 動物園でもなかなか会えず、日本では、このときわ動物園のほかには、愛知県犬山市の日本モンキーセンターと広島市安佐動物園しか現在はいません。
 体重4~12㎏、頭胴長60~75㎝でなかなかスマートな容姿をしており、足が長くて平地を速く走ります。時速55㎞でサルの仲間で世界一速く走ります。
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 1つの群れは1匹のオスと数匹のメスとその家族で20匹ほどからなっていて、子供のオスが成熟すると単独で巣立っていくそうです。群れと群れが水飲み場などで出くわすと争いになり、メスが積極的に戦うといいます。
 また、食物を探して1日に何㎞も走り、その格好がまるで軍隊の移動のように見えることから「軍隊ザル」「軽騎兵ザル」とも呼ばれています。
 雨季に交尾して妊娠期間は約5か月、5年間隔で昼間に地表で出産します。これはヒョウなど夜行性の天敵を避けるためとみられています。ところでオスの陰嚢は青くてペニスが赤い特徴があるそうです。よく眺めてみたのですが、���念ながら確認はできませんでした。
 となりにミーアキャットがいました。直立して日を浴びているようすがなんともかわいらしくて印象的ですが、今日はまったく直立してくれません。
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 キャットといってもネコ科とは関係ありません。ほんらい岩石の多いサバンナに生息しています。ペットにしたいほど一見かわいらしく見えますが、地中10㎝ほど巣穴を掘って生活し、サソリやハ虫類・クモ・トリ・小型哺乳類までエサにしてしまう、かなり獰猛なマングース科の生きものなのです。この動物園のミーアキャットの生活の場が、狭いながら岩や土が穴ぼこだらけで、活き活きとした姿を見ていると、ほんらいの野生の住まいにピッタリなように作られているとおもいました。
手書きの注意書がおもしろいぞ!
 どこの動物園でも観客に注意点を記して事故に遭わないように喚起しています。おもしろく愉しい絵入りで子供たちをひきつけ、わかりやすくひらがなを多くして、漢字にはフリガナをふって読みやすく、配慮におこたりがありません。
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 動物たちにはなにげない自然な行動でも、ヒトには危険なふるまいになってしまうことが多々おこりますから、動物園側では細心の注意を払っているのです。
 つぎには山口宇部の自然ゾーンに足を運びました。まず、オシドリとクロヅルがいました。オシドリはきれいな羽根をしています。オスメス並んで睦まじく心温まるようで微笑ましく感じます。どこのオシドリを見ても同じようなむつまじさで、まさに夫婦の鑑でしょう。
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 ツルのほうは1羽ぽつんと立っていました。特別に孤独なわけではないのでしょうが、オシドリと並んで見ていると表情に乏しいせいか寂しそうに見えて、不憫に感じます。
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 このゾーンにはおなじみのニホンザルやフクロウやタヌキもいて、山口県の自然に生きている動物を紹介しています。少し北には秋吉台の岩山があり、秋芳洞の鍾乳洞は日本有数の規模を誇り、日本を代表する名所です。
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 となりに自然の遊び場があります。さらにそのとなりには、ふれあい動物広場があります。時間を区切って飼育員のお姉さんが指導してくれて、子供たちはかわいい動物たちとじかの交流が楽しめます。そこに着いた時にはすでに終了していて、動物たちを移動用のオリに戻しているところでした。
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 飼育員のお姉さんは作業しながらいろいろ説明してくれ、親切にもそばまで移動用のオリを運んで撮影させてくれました。子供たちが小さな動物たちと交流している姿をじっさいに見られなかったのがまことに残念でした。
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 帰り際にかわいらしい顔をしたけっこう大きな生きものがいました。座っていましたが立てば2mほどの背丈のアルパカです。南米、とくにペルー中心にごくふつうにいる毛がふわふわした生きものです。かわいい顔がマスコットキャラクターになって人気を博しています。この毛を毛織物にするために改良された家畜です。アルパカの毛糸でつくる洋服やセーターは軽くて温かいので、じつに高価なものとなります。
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 これでひととおり廻って出口に向かい、出てみると向かいには遊園地ゾーンの大観覧車がそびえていました。この常盤湖周辺の施設を動物園といっしょに見るために、もっとうまく計画を練って来ようと思い、こんどの楽しみを残してあとにしました。
(磯辺太郎)
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ntrcp · 8 years ago
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混乱する夫10
読むとその他愛のない内容に気が抜けた。それはただの旧友からの知らせと思われ、秘密の暴露などなかった。期待に高鳴っていた胸の鼓動は静まってはいなかったが、頭を振ると少し静まった目で再度それに目を通した。 まず、それを書いた者が気になり手紙が入っていた封筒を裏返して見たが、そこには返送先の住所などなく宛先は妻の実家の住所で宛名は妻の名前となっていた。 内容から推定するとその手紙を書いた者は妻の学生時代を知っていたと思われた。2年生での大きな出来事との記載も気になったが、わざわざ住所を伝えるに用紙の下に書かれたインターネットアドレスを書いてある点は不信だった。と、妻を嬲る犯人が海外のファイル共有サイトを常用している事が頭の中で繋がった。 考えるほどのこともなく、最初の一読で気がつかなかったことが不思議な程、それは犯人から妻への最初の連絡と知れた。犯人と妻とは学生時代に何らかの接触があり、犯人は再び接触を求めているのだった。 そこから考えれば、妻が大学卒業の後、この地方に戻って来た事が得心できた。妻は首都圏の暮らしで、2年生の折、大きな出来事に遭遇しそれから避けるために戻ってきたのだった。 脳内の一部は証拠もなく推定にしがみつく事の危険を訴えていたが、その紙片がこの閉ざされた場所にあることが何よりの証拠と別の頭が牽制するのだった。 妻はこの地域の高校生までの友人とは交流があったが、大学時代の友人と会うことは少なかった。結婚式には数人の女性を招いていたが特段怪しそうな人物はいなかったと思われた。首都圏と離れた地方という事もあったが、新婚旅行の際に海外出発の前日に空港近隣のホテルにしようと���案したが、妻が不便にも関わらず前日にこの地方の都市にあるホテルに宿泊して早朝に出発する事を推したことを思い出した。 空港までも駐車場料金が高額になるにも関わらず自家用車で向かう事を主張する妻を思い返すと、その当時は新婚生活で他者の介在しない時間を少しでも多く取るためと思ったが、妻は首都圏を避けているのかもしれなかった。 犯人へと近づく過程の手掛かりを手に入れたことに複雑な満足感を味わったが、取り出した物を寸分違わない形で戻す事は骨が折れた。狭い穴から身を乗り出して不毛な事をしている姿を第三者が眺めたら呆れるに違いない筈だったが、自分は妻の秘密に触れ、また一つ手掛かりを得たことに満足しており、事務作業のように散文的なものとしてそれを片付けた。 一旦外した屋根裏収納の板材を元通りにはめ込むと、抜いた釘を刺し戻した。そこは元通りの暗闇で自分が痕跡を残さず片付けた仕事に満足すると階下に降りた。 電源を入れたままのpcの前に座ると、秘密の手紙にあったアドレスを入力した。海外のサーバと思われ、画面の下部にある進行状況のバーに目を留めていたが、それは遅々として進まず、やがて一気に伸びると画面にはファイルが既に無いことを告げるメッセージが写しだされた。 犯人が痕跡を残す筈も無いと思っていたが、やはり画面の表示には失望感を拭えなかった。犯人からの自分宛のメッセージも確認したが、それは依然として無く、前に送った仕掛のあるファイルを犯人が送ってくることが待ち遠しかった。 その頃には日も傾いており、これからどうしたものかと暫く思案していたが、昨日帰宅して置いたままの鞄に、若者のノートpcから抜き取ったファイルがあることを思い出した。 昨晩はそれが頭の一部を確実に占めていたのだったが、風邪を引き込んだところに妻の痴態を示す映像をみてすっかりそれを忘れていた。家の中で走る必要もなかったが、急な切迫感に囚われ小走りに鞄をとって返すとメモリをpcに差し込んだ。 コンピュータウイルスを懸念したがdosから起動した為、ウイルスが活動する事は無いと思い直すと、画面には無数のファイルが写しだされた。それは画像ファイルであったので、ファイルの読み込みが進むと同時にその縮小映像を次々に写していった。 切手ほどのサイズのため、それが何を写したものか判然としなかったが、一枚を開いて直ぐに内容が分かった。それは若者が職場の机の下に隠匿したカメラから集められたものだった。 あまり解像度が高くない映像の上、暗い場所で撮影しているため、一部に荒い部分もあったがそれが椅子に腰掛けた女性用の股間を狙って写された事は明白だった。 会社の制服はどこにでもある地味なもので、元々のスカート丈は膝を隠す程度のものだったが、そのまま着ている者などおらず、大抵がウエストを折り込み短めに履いているのだった。 画像は下半身だけだったので庶務に勤務する女性などあまり知らない自分には誰か判別することは出来なかったが、むっちりとした肉感的な太腿がストッキングに包まれ、魅惑的な陰影を見せながら、スカートに隠された辺りで色を濃くしているものなど、外に見せることのないストッパー部分を見ることは既に先程妻で精を放った股間を勃起させた。ビューワーに表示されるファイルの作成日はどれも深夜となっており、おそらく膨大な時間の動画から一心不乱に見所を切り出して静止画にしている若者の姿を思い浮かべると苦笑するしかなかった。 写真は若者が自分に自慢のコレクションを見せているように、タイツからストッキング、中にはパンティストッキングではなくセクシーな大腿までのストッキングなどもあり、興奮を誘った。 女性がいつも貞節でいる訳ではないことを証明するように、だらしなく脚を開き、椅子に柔らかな太腿を載せてもその奥には白いショーツが縦のストッキングの縫合部に覆われている姿や、手が太腿のストッキングを摘み引き上げている姿は机の下の事情を覗き見る隠微さがあり、若者の鑑定眼に信用が置けることは確かだった。 はじめは丹念に見ていたが、枚数が多いこともあり次第にページを繰る速度は増した。どれも興味のあるものだったがある一枚で手が止まった。 はじめは自分好みの均整のとれた清楚な曲線に眼が留まったのだったが、それを見れば見るほどそれが妻ではないかと、画像と自分が知る妻の脚線を比べているのだった。 それは着座したものが立ち上げる寸前の脚を開いた瞬間を捉えたものの様だった。スカートは膝上となっていたが、他の映像に比べれば丈の長いものだった。妻は周囲がスカートを短く履いているところ、僅かには縮めていたにせよ、さほど短いスカートではなかった。ただ、妻は比較的高い身長だったためサイズの限られた制服を着用したところでも膝上が覗いてしまうのだった。 自分としても既婚者である妻があまり華やかな姿をすることは迷うところだったが、妻自身の趣味として淑やかな着こなしをしていることは安心できていた。 そのスカートは着席しているために丈を短くしており、だらしないほど脚を開いたことで、画面の中央上にショーツがそのまま見えていた。膝から伸びるタイツは魅惑的な曲線を描く柔らかい肉に圧迫されやや色調を薄くしており、それに包まれた肉体の白さを物語っていた。 妻の脚には黒子など目立つ特徴はないのでそれが妻とは特定できなかったが、開いた脚の奥の暗がりにやや色を明るくしている箇所はショーツに違いなかった。その部分を拡大すると我ながら行為に呆れたが興奮を宥めることは出来なかった。 何も物語らないそこを注目していると、つい先ほどまで妻の性器を見ていたにも関わらず隠微に艶やかな繊維に覆われた曲線と色調に股間が解放を訴えていた。誰もいない自宅で股間を露出することは変態じみていたが、熱が上った頭は特に考えることもなく獣の本能に従った。 次の数枚の写真は同じようなものだったので、エスカレーションを期待していた心は若者をなじったが直ぐに希望は叶った。 それは正面から股間を捉えたもので邪魔なスカートに隠れていたが、二つの伸びやかな太腿の先にあるものは明るいオレンジのショーツだった。それは先日妻が自分を喜ばせるために購入した物に相違なかった。大量生産されているとはいえ陰毛寸前までレースが切れ込んだデザインは自分が見たものと同じであり、スーパーの衣料品売り場でなく専門店で購入したものが被る可能性は低かった。 自分を驚かせたのはそれだけではなかった。ショーツの両脇はこんもりと肉感的な肉体に覆われていたがそれを覆う繊維はなかった。そのすぐ手前には肉体が僅かなたわみをみせて太腿を締め付けるバンドがあり、数センチ下から漸くほとんど肌と同じ色を見せるストッキングが始まっていた。 その画像は衝撃的なほど自分を打った。感覚でしかないが、妻の防御は今や薄い布地のショーツの厚みしかなかった。それが妻の貞操が削られている事を直感すると恐ろしいほど戦慄が背筋を流れた。 妻の着替えを眺めたことなど数度しか無かったが、ストッキングを着用する際は全て腰骨上までを覆うパンティストッキングだった。それが単なる実用上のものでしかなかったとしても、重要な部分を守る層が一つ喪失している事実は不安を誘うと同時に、耐え難い程の性的魅力を放っていた。 理性がそれを考える裏側で獣の脳はそれに突入することだけを考えていた。 望めば妻と交わることはできるが、画像はそれ以上に股間の動作を促し、驚くほどの短時間で精を放つと、画像はそのままに机の前で茫然自失としていた。 一時の興奮が冷め、落ち着きを取り戻すとやはり若者がしていた事が確実となった事を考えた。それは間違いなく盗撮であり犯罪だった。ただ、それは隠に籠った悪質な趣味であるのは確かだが、犯人が妻にしている闇と言って良いほどの醜悪さに比べればまだ若さの過ち程度の刺激でしかなかった。 若者の画像集は犯人のものと異なり、被写体には羞恥を味合わせている事はなく、どこか春画のような開け広げにされた性への探求心を感じさせた。昨晩の充実した友人関係に囲まれた人物が、犯人のような行いをするだろうかと自問したが、犯人と若者との趣味を一致させることは難しかった。 若者への行為が判断を誤らせることもあると思っていたが、なにより犯人のように妻を操ることができるなにかを持っているなら若者はそのような回りくどい行為をする必要はなく、また若者の写真集の妻を思しき画像の比率は全体からみれば少ないものだった。 いずれにしても、このような行為は若者にとり益になることも無く、まして発覚すればそのスキャンダルは非常に大きくなり、昨晩の自分を送ってくれた若者の父親にとっても害となるに違いなかった。 明日からその対策を立てることを心に決めると、興奮が冷めて病が再び身体にのしかかってきた。今日一日病欠であるところ、回復を促すようなことをなにひとつしていない事に若干の後悔を覚えたが、得たものとの帳尻は充分に合わせることができた。 不安と疑念を抱え���がらも、心はやや軽くなり寝室に向かうと床に就いた。 目覚めると額になにか貼られていた事に気がついた。手を遣りそれを剥がすと可愛い絵柄の描かれた冷却材だった。既に晩の時間となっており昨晩の睡眠時間を削ったところに日中は活動していたことで思いのほか深く眠り込んでいたようだった。 自分を気遣ってくれた妻に礼を言う為階下におりてもそこは無人だった。妻の鞄が玄関の床に放置されており、窓から庭を見ると自動車が無くなっていた。 恐らく妻は一旦帰宅して自分の様子を見た後に車で出かけたものと思われた。何事にもしっかりとした妻が鞄を玄関に置いて出かけたところをみると、よほど慌てていたものと見え、食卓に置いてあるドラッグストアの買い物袋もそれを裏付けていた。 怠さはあったものの睡眠によって体調は回復しており、昼食の後そのままにしていた食器を片付けることにした。食器をシンクに置くと喉が乾いたので冷蔵庫を開けると、数本の栄養ドリンクとゼリー状の栄養補助食品が乱雑に並べられていた。 妻の配慮に感謝しつつ缶を開け喉に流し込むと、炭酸が喉に心地よく弾け爽快な気分を味わった。手早く洗い物を片付けるとベランダにあった洗濯物を取り込んだ。 洗濯物を手にとった瞬間、それは昨晩の妻の行為を思い出させ少し嫌な気持ちになったが軽やかなその生地から漂う香りは鼻腔を心地よくくすぐった。 続けて家事を行ったことで独身の頃に全てをこなしていたことが思い出され、続けて妻との出会いと恋愛を経ての結婚までを頭を巡った。 妻が自分には大変魅力的でその生真面目な性格と自分だけに心安く見せる無防備な姿に惹かれて一つの家に暮らすこととなったところ、続けて起こる妻への出来事を考えていた。 身内の贔屓目にみても、妻は決して万人に美人といわれる程の事はない筈だった。しかし、そのスタイルははっきりとわかる程男性を惹きつける物で、遠慮のない友人などは盛んにそれを囃すのだった。妻が魅力的である事は自分の男性としての自尊心をくすぐったが、それが原因で自分以外の男性の視線を浴びるところはジレンマだった。 自分だけが妻の内面の美しさを理解している自信はあったが、妻の容姿に触れた男性が接近してその心優しい内面に触れ陥落することはあり得ない事ではなかった。それでも妻の愛情が自分だけに向けられている確信は以前は揺るぎないものと思っていたが、ここ最近はやや心許ないと感じているのだった。 虚空を見つめて考え事をしていると、庭の植木を通してチラチラと光が見えた。妻が帰宅するのかと思い、玄関に向かい車が庭に乗り入れる音を待ったが、暫くしても期待した音は響かなかった。 妻がなにか買い物にいっているらしい事は推定できたが、主人の帰りを待つ犬のように迎えに出たことが一人ながら気恥ずかしく、ノロノロと戻ろうとすると、玄関に置かれたままの妻の鞄に目が止まった。 家事を片付けた余韻が残っていたのか、それを持ち上げると食卓の椅子まで運んだ。付き合っている時に妻の鞄を持った時など思いのほか重量のあることに内容が気になったが、それを確認する機会はついぞ無かった。 昨日の妻の行為を覗き見たことや屋根裏の秘密を漁ったことで急激に膨らんだ探究心が、妻の鞄に手を入れさせた。 若干の後ろめたい自責の念も作業を押しとどめる程の事はなく、上に置かれたカーディガンを丁寧に脇に除けると細々としたポーチが数点入っていた。整理好きで几帳面な妻の性格が現れているようで関心したが、その中で一番重量のありそうな物を摘み上げるとテーブルに置いた。ジッパーを開けると、中は幾つかの収納に別れておりコンパクトな化粧品や乳液があり、出先でも涼しげな姿を崩さない妻の準備に感心した。 リップクリームの蓋を開けると柔らかな乳色が照明に当たり優しい色合いの光を放っていた。それを眼前に見ていると、いつかテレビで見た下品な芸能人が、二束三文の女性タレントの私物を舐めていた記憶がよぎり、我ながら変態じみていると思った。 側面の区切りはさらにジッパーで閉じられ���おり、デザインとは言えその小さ過ぎるツマミに呆れながら指を合わせて開けると、中には生理用品が数枚入っていた。 あまり詳しくはなかったが、それは女性が生理中に使う厚みのあるものではなく、薄いおりものシートだった。会社には生理休暇の制度はあったが妻はそれで休むことはなく、さほど生理痛が重い方ではない様子だった。 付き合い始めは、そのような事を気にすることは無かったが、ある夏の晩に少し離れた都市で開催される花火を見に行った時に、妻が恥ずかしそうに、その期間中であることを告げ早々に帰宅した晩に妻との距離が急に縮まった事が思い出された。 生理用品を取り出すことはしなかったが、その底から硬質の光が覗いていることは気になった。指を差し入れそれに触れるとプラスチック状の膨らみを持った平滑な形状で、コンタクトレンズかと思ったがそれにしては異様な大きさであることに眼前でしげしげと眺めたが、すぐに答えがでた。 それは女性器から滴るものを抑えるのでなく、逆にそこに押し込まれるものに装着し、放出される精液を胎内の子宮に注ぎ込まれることを防ぐ薄い膜だった。 以前より、妻は薬局などでそれを買うことに抵抗があり、その理由に納得できる自分が買うことが常だった。その折も一人で買うか妻を車に待たせて購入していた。 一度などそれを購入してレジを離れた後、駐車場に戻ると、レジで後ろに並んでいた好色そうな年配の男性に、車内で気付かない妻を舐め上げるような視線で見つめられている事に無性に腹が立ち、不思議がる妻の視線を浴びながら車を急発進させた事もあった。 妻との始めてのセックスでは、避妊具にたっぷりのゼリーがまぶされているものを買って後、充分な愛撫で潤滑剤など必要がないとわかってからも、同じ品物を選ぶようになっていた。 普段自分が装着するものはラミネートされた軟質のもので、硬いプラスチックが膨らみを見せるそれを使ったことは無かった。裏面をみると小さな文字で不要と思える使用方法が記載されており、体温を感じる売り文句が添えられていた。 好意的にみれば妻が買ったのであろうが、何故外出時に用いる鞄にいれているのか、また自分以外との性行為にそれを使うのかと想像すると血が頭に登った。妻を外界から隔てるストッキングを喪失したショックがあった上に、守るべき内面に挿入される避妊具の存在は一種の敗北感を自分に与えた。 勿論、暴行される事故も含めて妻が予防の為に所持している可能性も否定できないが、何故それは普段自分が妻に陰茎を挿入する前に装着しているものではないのか、また、それは断らなくても寝室の引き出しから容易に手に入れることが出来る事が一層の疑念を増大させた。 その時、庭がヘッドライトの強い光で照らされた。考え事をするあまり普段なら聞こえていた筈の音が、雑念で満たされた頭には届かなかった。数秒内に車体が庭に乗り入れると思われると、滅多に感じることのなかった緊張が背筋を走った。 可能な限り丁寧に妻の鞄を元通りに戻すと、しずしずと車体が庭に入って来たことが分かった。自分は駐車するのに道路からバックで入れるため、出庫時の利便を考え車庫のスペースに完全に収めずに頭を半ば入口に向けて駐車することが多かった。妻の整理好きは駐車にも及ぶのか、中途半端に停めた様子を妻は好まず、例え不便でも枠線にピッタリと止めることが妻の趣味だった。 妻は室内が明るいため、自分の姿をカーテン越しに認め軽く手を振った。 妻は車の運転を不得手としてはいなかったが、駐車はあまり得意ではなかった。妻自身は不得手であることを認識しているので、それを前提としてパズルでも解くように一回一回の切り返しを丁寧に確認しつつそろそろと車を駐車場のラインに合わせた。 車はここ最近妻が運転をすることがなかったので、やや違和感を覚えるようにヘッドライトを居間に向けて車庫入れを完了しやがて動きを停めた。 妻は自分のために買い出しに行ってくれており、食卓にはやや過剰と思える医薬品や栄養補助食品が並べられ妻は帰宅と同時に真っ先に自分の体調を心配してくれた。少々我慢して元気そうなところを見せると妻は安心したようで洗面に向かった。 妻は中華風のチキンスープに卵を落とし、それを啜っていると、茶碗に柔らかく炊いたご飯を持ってきた。だるさが残る中食欲はあることが不思議だったが、妻は疲労が溜まっていたのが原因ではないかと指摘した。 妻の心配げな表情を見ていると、その精神的披露の一部は妻自身の出来事に起因している事を考え、不快感と不信感が混じると不思議に笑みがこぼれるのだった。自分の複雑な表情をみてとったのか妻はその表情の理由を聞いてきたが、適当に誤魔化すと、互いの有休も溜まっているので、近々旅行でもして気晴らしをしようと提案した。 妻は表情を一転させ、自分もしばらく二人で遠出することがなかったので寂しかったと言い、明日の帰りに旅行代理店に寄ってプランを見てくると心地よい笑顔をこちらに向けるのだった。 自分に向けられた表情こそが自分に向けられた妻の心の全てと思うと、日中の出来事を忘れるほどの安心感に浸ることができた。妻はスープを茶碗に注ぐと、葱と胡麻を散らし自分に差し出してくれた。 それは妻の愛情を示すように優しい味わいであっという間にそれを空にすると、妻は得心したようにやはり疲労の蓄積が原因と思うと言いながら身を翻すとお代わりを用意する為に台所に向かった。 その足取りは先程と変化がわかるように軽く弾んでおり、妻に心配をかけたことを悔やむと共に、やはり妻は自分の側で幸福にすることを内心で決意するのだった。 軽く湯を浴び、妻が買ってきてくれた鎮痛剤を服用すると急激に意識が解れてゆく感覚が襲い、早々に床に就いた。 翌朝は多めの睡眠時間が効いたのか、病が身体に残っていることは分かったが、生活に不自由しない程度には回復していた。まだ陽がのぼって間もない時間だったので、静かに床を抜けると一階に降りた。日光を入れるため居間のカーテンを開けると車の正面がこちらを向いていた。先日ドライブレコーダーを設置したためか、車が朝の挨拶をしているように思えた。 そのままガラス戸を引いて外にでると早朝の清涼な空気が自分の腹腔を洗い、小鳥の囀りを耳にしながら大きく伸びをした。 妻のサンダルを履くと、それを伸ばしてしまわないように浅く履き直すと新聞を取りに行った。いつかここが自分が妻を襲う事態を気付く発端となったと思うと、近寄るほどに鼓動が高鳴ったがそれはいつもの同じく何ら不審なく新聞を収めているだけだった。 昨晩妻が車を使ったため、車は庭の駐車場所を示す位置にとまっていた。ここに暮した当初は自分も同じように停めていたが、次第に出入りに曲がることが面倒となり、やがて車をバックで自宅に乗り入れてそのままにするようになった。 しばらくその空気を楽しむように居間の縁に腰掛けて新聞を読んでいた。一通り読み終えると手に持っていた新聞を降ろしたタイミングで正面のヘッドランプに目があった。 車は物言わぬままこちらを見ていたかと思うと可笑しくもあったが、時折頭を掻きながら新聞を眺めていた自分をその車内の眼差しで録画されていたかと思うとやや気恥ずかしかった。 と、その画像は自宅に居間をそのまま写していそうなことに気が付いた。ここ最近妻が第三者から撮影された映像を見ていたので、それが自分の盗撮道具になると分かり、その後ろめたさに動転していると、妻が階段から自分を呼ぶ声に気が付いた。 何を取り繕う訳ではなかったが、咄嗟に妻の顔をみることができず妙な行動をしていることを自覚していたが、妻は不思議そうにこちらを見ていた。 朝食を取ると、普段と変わらない日常に回復したことが感じられ妻が自分の為に用意してくれたヨーグルトと果物を摂ると家を出た。
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