#奥出雲美容室
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ひとこと日記📓 2024.10
10.1- 「ちひろさん」の映画を観る。有村架純の演技が好き。ふとした瞬間、整形する前のお姉さんの面影が浮かぶ。もう整形前の彼女はこの世に存在しないと思うと切ない。会いたくても会えないのだから。/ 血便がでてヒヤッとした。ジョブズみたいな人間がいる反面、何一つなし得ないで死んでいく人間もごまんと居るのだ。
10.2- 今日は仕事が少なかった。こんなにゆるい仕事なのに、前の仕事より時給がいいの世の中のバグ。
10.3- 毎日が蛇口から出る水のように流れていく。どうしたらもっと時間を意識した生活ができるか考えている。在宅でできる仕事に就いたとして、通勤1時間を毎日他のことに当てられる。7時起床、8時に仕事をスタートする。フルタイムで働いたとして、休憩1時間で17時上がり。7時間睡眠を確保するために22時に寝る。そう考えると、あんまり今の生活と変わらないな。結局、労働時間を減らすが効果的だが、金も減る。/ 元彼から電話。今週末の約束の確認のための電話だったけど30分も話してしまった。ずっと笑っていたけど、内心は嫌なことを聞かれないか、また尋問みたいな時間が始まらないかとヒヤヒヤしていた。彼から電話があるまで、自分から電話しなくてえらかった。
10.4- 朝起きたらいつも家を出る時間になっていて、大急ぎで家を出た。間に合ったからよかった。理想は職場の休憩室で軽く朝ごはんを食べて英語を勉強してから仕事を始めたい。/ 感じよく話しただけで脈ありと勘違いしたり彼氏面してくる男が多すぎて気色悪い。
10.5- 昼前に元同僚の男とカフェに行く。恋愛や仕事に対する価値観の話をして、わたしにとっては魅力のない価値観を持つ人だなと思った。価値観の合うパートナーと少しだけ意識の高い人生を送りたいです。
10.6- 午前1:18にアパートの廊下の電灯が消えることを知る。午後1時、元彼と会う。質疑応答会議をする。彼からの質問リストにひとつずつ回答を用意してそれについて詳細を確認し合うというもの。とても不安定な気持ちに振り回されてクタクタになった。ちゃんと気持ちが固まるまでセックスしないと約束したのに、あっさり自分から約束を破った。子宮まで到達しちゃうそれはわたしの体のサイズには見合わない。窓の外でジョギングしている人たちは、少し目線を上げた窓の向こうで何が起こっているのか知る由もない。彼はINTPで超論理的(病的)だけど、結局いつも最後は気持ちなの。
easy=簡単な uneasy≠簡単じゃない
10.7- また一週間が始まった。無理やり捻出したみたいな無駄な仕事に人生を費やしているひとになりたくない。/ 好きな人の好きなところが死んでいくのは悲しい。/ 帰宅してから、マックポテトを食べてTwitterを眺めるしかできなかった。頭の中では動きたいと思っていてエネルギーも余っているのに、動けなかった。
10.8- 出社すると、毎日わたしの机に仕事をいくつか用意しておいてくれる営業マンがひとりいる。わたしが仕事に参加できるよう、仕事を振り分けてくれているのだと思う。時々、付箋にメッセージを書いてくれる。些細な優しさに助けられる。
10.9- 弟の運動会。嫌いな母から産まれた子なのに、どうしても1番かわいく見えてしまう。血には抗えない。
10.10- 秋、カフェイン摂ったときの高揚感をカフェインなしで感じられる時がある。やりたいことがたくさんあってわくわくして焦ってる感じ。
10.11- 今週も無事、仕事が終わった。むずかしいことはなく、ただ次から次へと発生する庶務を処理していくだけ。/ 夜、最近メッセージしていたロシア人とビデオ通話する。日本語がほとんど話せなくてかわいい。元彼にもこんな時期があったんだよな。わたしと出会った頃に比べて、だいぶ自然な会話ができるようになったね。
10.12- 早起きしたけど、結局昼寝して17時ごろから活動。1日あればなんでもできるな。/ はじめて本格的なゴスロリのドレスを買ってみた。ハロウィン用。
10.13- ボーリング��スコアがついに120まできた。すこし前まで60だったから、どんな���していいかわからない。/ 風呂で髪を染めながら本を読む。効率的。
10.14- 性欲オバケになっている。生理終わったのになぜだろう。
10.15-
10.16-眠る前、元彼と電話をして案の定ケンカになって、こいつはクソだなと思った。わたしも違うタイプのクソだけど。/ Tim とひみつの会話をする。
10.17- 一日中、怒りと憎しみの感情に支配される。何のために命を繋いでいるのかわからないけど、お金があって死にたいより、お金がなくて死にたいのはもっと苦しいから、仕事には行く。
10.18- 会社の飲み会
10.19- 洗濯掃除染髪雑務/「最後まで行く」を観る。綾野剛っていつも黒スーツだね。
10.20- ハイエースをレンタルして冷蔵庫とテレビを運んだ。元彼に手伝ってもらい3階まで。秋晴れ。ジメジメした心も無理やり乾かされた。違う世界線を考えてみる。大嫌いな元彼の女友達を毛嫌いしなかった世界線。潔く隠し事をせずに元彼を選んでいた世界線。今更もう遅いんだけどね。元彼は2月に引っ越して遠くに行くようです。わたしをここに置いて。
10.16- 仕事に行くべきだったが、しんどすぎて休んでしまった。昨晩のことがこたえている。/ 銭湯に行く。変な意味抜きで裸をみるのが好き。
10.22- 昨日の日記が10.16付になっている。頭が回っていない。/ LINEのアイコンがわたしの撮った写真から別のものに変わった。/折れた爪が少しずつ伸びていく。生きている。/いつも数ヶ月先まで予約が埋まっている美容室。年末に予約をとってみる。
10.23- またお風呂入らずに寝てしまった。一緒に入ってくれる人がいないと自分を律せない。
10.24- ばーか、なわたし。
10.25- 恋愛むず過ぎ。色恋がなくても生きてる意味を感じられるようになりたい。what can I do to make it right?
10.26- 気が落ちてる時、面白いほどことごとくいろんなことがうまくいかない。営業してるはずの店が臨時休業、約束のドタキャン、あれ?意外とそれだけだった。もっとわるいことたくさん合った気がするのに。要は思い込み、考え方の癖なんだ。レイトショーでジョーカー観てくる。元彼と行くはずだったけど、ひとりで。
10.27- 日付変わってから帰宅。元彼に連れてってもらったバーに勇気を出して行ってみた。アルバイトの男に一緒にバーに行くかと誘われて、いつもと違うことしなくちゃ何も変わらないって強迫観念みたいなものが湧いてきて、飲み屋街に行った。元彼つながりの知人がいるバーに入った。その知人は以前、わたしと元彼との関係について元彼とケンカしてくれた人だ。その日について、ちゃんと謝罪がしたかったから会えてうれしかった。I'll take to your side. と言ってくれた。本当に優しい人。彼と彼の奥さんと話して、アルバイトの男のことはすっかり忘れていたし、不純そうだったからそれでよかったと思う。帰宅して元彼に電話した。1週間未読無視されていたけど、何度か電話したら出た。ごめんなさい、こんな私で。/ 人生で初めてゴスロリファッションに挑��した。/選挙に行った。
10.28- 元彼とメッセージが続いている。メルカリで初めて物が売れたから嬉しかったそう。なぜ私に報告するの?/頭が痛いと言うと、彼はいつも「お水飲んでね「と言ってくれる。
10.29- 今日も元彼とメッセージが続いている。スニーカーを買ってと言ったら、高すぎると言われて、私の価値は18,920円以下か。/帰宅してすぐお風呂に入った。髪が長くなるにつれ、抜け毛の量が多く感じる。抜け毛のない世界だったらよかったのに。
10.30- 不要な関係は自然と終わりに向かうし、どれだけ傷つけあっても必要な関係は続く。と信じたい。
10.31- 正直に申すと、何のためにあったのかわからない1ヶ月だった。ずーっと心に重たい雲がかかってる感じ。寂しさとの向き合い方は知っているけど、向き合いたくないから敢えて間違った方法で寂しさを埋めようとして悪循環にはまってみる。行くところまで行って落ち着いてきた感はある。自分かわいい大好きな気持ちをもっと育てたいけど少し間違えると自己愛性になるから難しいね。/ 11月にしたいことは、近所にあるタロットの占い屋さんと、タイ式マッサージに行く。
完
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三輪秀次の小説(二次創作)
きみは河を渡る
切れた電線はうねり、パチパチと鳴っている。もうもうと立ちのぼる埃と煙は視界を狭める。降ってくる灰を吸い込んで、喉が痛い。ゴホと咳が出た。
空を雲が厚く覆っていた。
時折、低く戦闘機が飛ぶ。空気を震わせる爆音も、いつの間にか聞こえなくなる。
無駄を知り還ったのだ。替わりにヘリコプターのバタバタという回転音が耳に障る。避難を促すサイレンがとうとう途絶えた。
道路や瓦礫の上にうち捨てられた、おびただしい数の死体ももはや何も言わなかった。
それらの胸には皆、着衣の上から同じ箇所にこぶし大ほどの穴が開いていた。彼らが開けていったのだ。心臓の脇を的確に単調にえぐり取っていく様子は、実りの季節を迎えて収穫にいそしむ農夫のようだった。
鋭い鉄の匂いが鼻の奥を刺す。血だまりに足が取られる。地面のいたるところにできた血液の浅い湖は徐々に固まり、粘度を持ちはじめていた。その上に、ぽつりぽつりと何かが落ちてくる。
……雨。
『姉さん』
三輪は姉を探して��た。
「お断りします」
��三輪の返事に根付は下がり気味の眉をさらに下げた。
「うーん、やっぱり無理かねえ」
「去年に引き続き、申し訳ありませんが……」
これ以上は目を合わせないように顔を伏せて押し黙る。可愛げのない態度だったが、断る選択肢しか持っていない。
ボーダー本部メディア対策室である。
いかにもオフィス然としたレイアウトだ。メディア対策室の名の通り、棚を並べた一角があり、派手なロゴのついたグッズたちが飾られている。
棚の横にも小ぶりの段ボールがいくつか置かれ、中にはビニールに包装された何かが入っていた。
さらにはミニスタジオのようなものがつくってある。
雑然としているが、外部の人間への窓口だけあって、明るい開放的な空間であった。
三輪がめったに訪れない部署だ。それも入り口で済ませる所用くらいで、もしかしたら、ボーダーに所属して四年近く、初めて足を踏み入れたかもしれない。
A級隊員の嵐山をデフォルメしたぬいぐるみの飾ってあるテーブルで、茶を勧められている。早く作戦室に帰りたい。自然と眉間が寄ったが長い前髪に隠されて、根付が気づいた様子はなかった。おそらく、気にしてもいない。
「原稿はこちらで用意するし、内容はちゃんとチェックしてもらうんだけどね、ダメかね」
根付が頼んでいるのは、来月に行われる三門市主催の追悼式典のスピーチだった。
近界民による大規模侵攻から四年目の式典となる。
公会堂のステージに設置した祭壇を花で埋め尽くし厳粛に行われる。市外からお偉方や著名人がたくさんやって来て、それぞれ追悼の意を表わす。最後に遺族代表数人にお鉢が回ってくる。大人枠が何名かと青少年枠が一名。
三輪に白羽の矢がたったのはその青少年枠だった。理由はボーダー隊員で遺族である人物のうち、比較的年下で一番長く所属しているからである。
日頃から「ボーダーの印象向上」を仕事にしている根付からの依頼は筋の通ったものだった。
しかも、直属ではないが上役である。
「三輪くんには業務外のことを頼んでいるのはわかっているんだけどねえ」
人を丸め込む技量の高さがなんぼの職に就いている根付だが、実はかなり弱気に出ている。
理由はわかる。
三輪に式典のスピーチを依頼するのは初めてではない。
一年目のとき、三輪は流されるままに引き受けたものの、原稿に目を通した段階で押し寄��てきた感情に引きずられて過呼吸を引き起こしてぶっ倒れ、騒ぎになったのだ。当然、本番のスピーチは見送られた。彼が中二のときの話だ。
二年目は話がやってこなかった。当時、所属していた隊の隊長である東が反対したのだと思う。頼まれたとしてもとても務まらなかっただろう。
三年目は根付は本部長を同伴してわざわざ頼みにきた。しかし、断った。三輪にとってこの依頼は荷が重く、片手間にできるものではなかった。高校生になったばかりで何かと忙しかったし、そのころ広報部隊としてメディア展開をはじめた嵐山隊を売り出す根付の派手な手法に若干いやな予感がしたのだ。
そして、四回目の式典である。
遺族でボーダー所属、さらに今年は初めて自分の部隊を結成している。
千六百人超の死者行方不明者を出した異世界からの侵略戦争によって、最愛の家族を失いながらも生き延びた子どもが立派に成長し、隊長となって隊員を率い街を守っている。
『これからもボーダーの一員として、三門市を守っていくことを誓います』
おそらく、そんな言葉で締めくくられるであろう、未来への宣誓。
三輪もボーダーの印象がよくなることに否やはない。
いまのところ命令はされていないが、任務ならば遂行しなければならないというのもわかっている。
ただ、ことこれに関してはそつなくこなせる自信はなかった。
「ちょっとしたインタビューもあるけど、一局に絞るから」
「……」
元々、要領のいいほうではない。愛想はかけらも持ち合わせていない。人前でしゃべることも苦手だ。ましてや全国に映像が配信されるなどと聞くと気が遠くなる。
それだけではない。
……雨はあっという間に激しくなった。
血のにおいに、ドブのようなそれが加わるなか、ようやく彼は探し人に出会えた。
折り重なるように積み上がった死体の山が崩れたのか、その脇に彼女は転がっていた。
他のそれらと全く変わることなく、彼女の胸にはぽっかりと穴が開いていた。死に神は何もこぼさずに等しく命を刈り取っていったのだ。
「姉さん」
誰か。
誰か姉さんを。
当日は各メディアも入り、騒がしくなるであろう時期を避けて、そこを訪れることにしている。
追悼の意を込めた公園は市街地に近い高台に造られていた。
本当の追悼の場所は、いまだボーダー管理下の警戒区域だ。
まだ真新しい石碑が幾本か建っている。
円柱の形をした石碑には名前がただ刻んである。犠牲者の名前だ。
三輪は一つの石碑の前でたたずんでいた。腕を上げ、石碑にそっと触れる。指を滑らせる。知っている名前もある、知らない名前もある。ゆっくり��滑らせていく。
一点で指が止まる。
彼女の名前だった。
『誰か』
『誰か姉さんを助けて』
目の前に広がる風景はいまも鮮やかだ。音も匂いも。足にまとわりつく重さも。降ってくる雨の粒まで。
足下の彼らはみな目を開けているが、そのまぶたは動かない。その指は動かない。
今の彼は知っている。死体は苦しまない。
大丈夫だ。
向こう岸で、穏やかに微笑んでいる。そこまでの距離はいつでも一歩��。ひとあし、踏み出すだけで届くほどに近い。
時間は流れる。仮にマイクの前に立ち、メディア対策室のしたためた美しい文章を読み上げても、もう息がくるしくなることはないだろう。それでも、引き受ける気にはならなかった。
三輪は立ち上がると頭を下げた。
「お役にたてず、申し訳ありません」
強引に話を終わらせる態度を根付は咎めず、一緒に席を立った。
「残念だけどねえ。来年もまたお願いすることになると思うけど」
来年は五年という節目の年のために大々的になるという。おおっぴらに全国規模でボーダーの存在をアピール出来る数少ない機会だ。遠征には金がかかる。そのスポンサー集めも兼ねているという。民間組織であるボーダーにとって、金の話はいつでも切実だ。
「まあ、気にしないでいい、他に方法はあるからね」
頼りになるだろう、と彼はにやりと笑った。
これからの物語を紡ぐことは彼にとっては今までの物語をひとまず終わらせることになる。彼にはそれはどうしてもできない。
向こう岸はまだそこにある、いつでも行ける。死者たちは微笑んで待っている。一歩、踏み出せばすぐに会える。
黒い河の冷たい流れに脚を膝まで浸し、目の前の彼岸を見つめて彼は立っている。
この場所から立ち去りたくはないのだ。
いまは、まだなお。
了
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
アイウエオカキクケコガギグゲゴサシスセソザジズゼゾタチツテトダ ヂ ヅ デ ドナニヌネノハヒフヘホバ ビ ブ ベ ボパ ピ プ ペ ポマミムメモヤユヨrラリルレロワヰヱヲあいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを日一国会人年大十二本中長出三同時政事自行社見月分議後前民生連五発間対上部東者党地合市業内相方四定今回新場金員九入選立開手米力学問高代明実円関決子動京全目表戦経通外最言氏現理調体化田当八六約主題下首意法不来作性的要用制治度���強気小七成期公持野協取都和統以機平総加山思家話世受区領多県続進正安設保改数記院女初北午指権心界支第産結百派点教報済書府活原先共得解名交資予川向際査勝面委告軍文反元重近千考判認画海参売利組知案道信策集在件団別物側任引使求所次水半品昨論計死官増係感特情投示変打男基私各始島直両朝革価式確村提運終挙果西勢減台広容必応演電歳住争談能無再位置企真流格有疑口過局少放税検藤町常校料沢裁状工建語球営空職証土与急止送援供可役構木割聞身費付施切由説転食比難防補車優夫研収断井何南石足違消境神番規術護展態導鮮備宅害配副算視条幹独警宮究育席輸訪楽起万着乗店述残想線率病農州武声質念待試族象銀域助労例衛然早張映限親額監環験追審商葉義伝働形景落欧担好退準賞訴辺造英被株頭技低毎医復仕去姿味負閣韓渡失移差衆個門写評課末守若脳極種美岡影命含福蔵量望松非撃佐核観察整段横融型白深字答夜製票況音申様財港識注呼渉達良響阪帰針専推谷古候史天階程満敗管値歌買突兵接請器士光討路悪科攻崎督授催細効図週積丸他及湾録処省旧室憲太橋歩離岸客風紙激否周師摘材登系批郎母易健黒火戸速存花春飛殺央券赤号単盟座青破編捜竹除完降超責並療従右修捕隊危採織森競拡故館振給屋介読弁根色友苦就迎走販園具左異歴辞将秋因献厳馬愛幅休維富浜父遺彼般未塁貿講邦舞林装諸夏素亡劇河遣航抗冷模雄適婦鉄寄益込顔緊類児余禁印逆王返標換久短油妻暴輪占宣背昭廃植熱宿薬伊江清習険頼僚覚吉盛船倍均億途圧芸許皇臨踏駅署抜壊債便伸留罪停興爆陸玉源儀波��障継筋狙帯延羽努固闘精則葬乱避普散司康測豊洋静善逮婚厚喜齢囲卒迫略承浮惑崩順紀聴脱旅絶級幸岩練押軽倒了庁博城患締等救執層版老令角絡損房募曲撤裏払削密庭徒措仏績築貨志混載昇池陣我勤為血遅抑幕居染温雑招奈季困星傷永択秀著徴誌庫弾償刊像功拠香欠更秘拒刑坂刻底賛塚致抱繰服犯尾描布恐寺鈴盤息宇項喪伴遠養懸戻街巨震願絵希越契掲躍棄欲痛触邸依籍汚縮還枚属笑互複慮郵束仲栄札枠似夕恵板列露沖探逃借緩節需骨射傾届曜遊迷夢巻購揮君燃充雨閉緒跡包駐貢鹿弱却端賃折紹獲郡併草徹飲貴埼衝焦奪雇災浦暮替析預焼簡譲称肉納樹挑章臓律誘紛貸至宗促慎控贈智握照宙酒俊銭薄堂渋群銃悲秒操携奥診詰託晴撮誕侵括掛謝双孝刺到駆寝透津壁稲仮暗裂敏鳥純是飯排裕堅訳盗芝綱吸典賀扱顧弘看訟戒祉誉歓勉奏勧騒翌陽閥甲快縄片郷敬揺免既薦隣悩華泉御範隠冬徳皮哲漁杉里釈己荒貯硬妥威豪熊歯滞微隆埋症暫忠倉昼茶彦肝柱喚沿妙唱祭袋阿索誠忘襲雪筆吹訓懇浴俳童宝柄驚麻封胸娘砂李塩浩誤剤瀬趣陥斎貫仙慰賢序弟旬腕兼聖旨即洗柳舎偽較覇兆床畑慣詳毛緑尊抵脅祝礼窓柔茂犠旗距雅飾網竜詩昔繁殿濃翼牛茨潟敵魅嫌魚斉液貧敷擁衣肩圏零酸兄罰怒滅泳礎腐祖幼脚菱荷潮梅泊尽杯僕桜滑孤黄煕炎賠句寿鋼頑甘臣鎖彩摩浅励掃雲掘縦輝蓄軸巡疲稼瞬捨皆砲軟噴沈誇祥牲秩帝宏唆鳴阻泰賄撲凍堀腹菊絞乳煙縁唯膨矢耐恋塾漏紅慶猛芳懲郊剣腰炭踊幌彰棋丁冊恒眠揚冒之勇曽械倫陳憶怖犬菜耳潜珍
“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 �� 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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図書室のアーカイブ
Friday 1 August 2014
真観は、禅寺に行った。 昨日と同じ1炷、開山堂の縁側で坐禅をした。 昨日とは少し違う場所にしてみた。 それでも人の気配が気になった。
1炷終えてからだと茶畑庵に6時半には戻れる。 6時半から真観は食料の買い出し以外は1日茶畑庵で過ごした。
学校の図書室から借りているビデオを全て見てDVD-Rにコピーした。
「林芙美子」 映画「浮き雲」からこの作家を知る様になった。 48歳で亡くなり葬式の時、川端康成の弔辞が有名。 建てた家が新宿区中井に現存しているらしいから訪ねてみたい。 他の女流作家たちにどんな意地悪をしたのだろうか? 森光子が舞台で演じていた「放浪記」とは林芙美子のことだったとは知らなかった。 映画「放浪記」はまだ観ていない。もちろん本も読んでいない。 そしてYouTubeで「放浪記」全文の朗読が聴ける。 1920年、ノーベル文学賞のクヌート・ハムスンの「飢え」をヒントに林芙美子は自身の生涯を小説に書く様になったと言う。 「宮武外骨」 この人を知ったのは90年代半ば。 友人のヘアーメイクの奥さんが雑誌「ユリイカ」の宮武外骨の特集号を持っていて興味を持ち貸してもらった。そしてまだ返していない。 大杉栄は1885年生まれ。宮武外骨は1867年生まれであるから18歳年上でほぼ同時代に生きている。同じ匂いを感じる。 「ダーウィン」 マルサスの「人口論」からの影響から「進化論」 最近知った言葉「相互扶助」アナーキストのクロポトキンはダーウィンの「進化論」に異を唱えた。 ダーウィンの「進化論」しかしこの「進化論」発表にはもう一人の重要人物がいた。ダーウィンはこの人物の存在を生涯大切にしリスペクトした。このエピソードは相互扶助にも通じる内容だと思う。 人間には道徳観念がある。ダーウィンという人の人柄に対して共感した。
やっとライブラリーの整理も終わりウェブサイトの写真をUPしている。 どのページもまんべんなく更新出来る様に頑張りたい。 それで誰に見せるんだろうか?真観にも分らない。 でもピンポイントで見せれば良いと考えている。
夜、先ほど落雷がありゴロゴロピカピカ。 2度停電をした。ビックリした。 iMacは問題なかった。
もう寝よう。
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鳳凰三山 初テント泊縦走。
先々週のことになりますが、念願の鳳凰三山、山の日の出を味わいたいので一泊予定、が、小屋がとれなかったので、テントかついで登ることにしました。
木曜夜21時のあずさに乗って韮崎に前乗り。韮崎駅すぐのハイカー用のゲ��トハウスに宿泊し、朝7時のバスで青木鉱泉登山口へ。
丸窓が印象的な趣のある青木鉱泉の宿の前から、8:10出発です。
ドンドコ沢をあがるルート。愉快な名前だが、愉快ではない急登が待ち構えている。
夏の山、花も楽しみ。ソバナ?
なかなかな登りが続く。
水の音が涼しげではありますが、暑い。
1時間半ほどで、南精進ヶ滝に到着。滝浴びたい。
渡渉したり、ロープでよじ登ったりしながら、登る登る。
登山道からはずれて、鳳凰の滝までアプローチ。
白糸の滝。
まだまだ登る。
道中のかわいい花たち。ミネウスユキソウ。
コバノイチヤクソウ。
オトギリソウ。
タカネグンナイフウロ。
クルマユリ。
ドンドコ沢、4つ目の滝、五色の滝。しぶきがとんでくる!
ここから1時間くらい、最後まで容赦ない登りをゆき、
予定��り少し早く、12:45、鳳凰小屋に到着。
心配していたテントぎゅうぎゅう詰めも、平日だったので、余裕あり。
テントを張って、着替えて、乾杯!思い出しても美味しいビール。
このあと、のんびりと山の時間を過ごしました。
河原の石の上に寝っ転がってただ空を見るだけの時間、普段せわしない私には贅沢な時間でした。
初のテント泊登山、まわりの雰囲気で、17時前にはごはんを食べて、19時くらいには寝袋に入ったのですが、もちろん眠れず。そのうちに、いびきの多重奏、ますます眠れないー!と思わず吹き出しながら、じきに眠りました。2時半過ぎに目がさめてテントの外に出たら、びっくり仰天な星星星。人生一番の星空だった。
そして15時半前には出発。
地蔵岳へザレ場を登る。踏み跡をみながら。そして、振り返るとこの景色。
夜明け前の、この空の色が見たいが故に登ります。富士山と、登っている人のヘッドライトがつながって見えました。
夜明け前に地蔵岳まで到着し、オベリスクを目指す。
雲海に浮かぶ八ヶ岳。
富士山も美しく!
そして日の出。AM4:49。
朝焼けの甲斐駒ケ岳。
オベリスクの最頂点手前。ここまで来れれば十分。自然の迫力に圧倒される。
岩の間に力強く美しく咲くタカネビランジ。
賽の河原のお地蔵様とオベリスク。
オベリスクを後にして進む。ハクサンシャクナゲが群生していました。
一昨年登った、北岳、間ノ岳、農鳥岳をみながら
登る。
そして観音岳に到着。
観音岳からの甲斐駒ケ岳。
気持ちのよい稜線歩きに、荷物の重さも吹っ飛ぶ。
かわいい花を愛でながら。ゴゼンタチバナ。
ヒメコゴメグサ。
鳳凰三山、三座目。薬師岳!
薬師岳から、当初は青木鉱泉に戻る周回ルートも検討していましたが、夜叉神峠への縦走に。赤い屋根が薬師小屋。
楽しい稜線歩きが終わり、下山へ。高い山は下りが長い。
南御室小屋を経て
ひたすら下る。薬師岳から3時間15分で夜叉神峠に到着。
さらに30分強歩き、無事にバス停に。夜叉神ヒュッテでお風呂に入り、バスに乗って甲府駅へ。
2日間の山行の無事に乾杯@鳥モツ発祥の店、奥藤にて。
テントも食料も背負っての山行は、レースでは経験があったものの、高山縦走は初めてでなかなかに緊張しましたが、天気にも恵まれ、とにかく楽しい2日間で、心洗われました。バディに感謝。次は仙丈ヶ岳を狙っています。
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へへへ ハハハハハ 我 月光と漆黒を背負う 革命のナイト 四十物十四 Fourteenth moon
何の冗談? 抱え込んだ疑問 いきなり邪魔モン 笑えない 理由もなく始まった陰湿なBulling 惨めな日々のRoutine 狂った人生の歯車 夜な夜な見る黒い夢の中 底無し沼のような地���に 蜘蛛の糸垂らしてくれと 祈り叫んでた空虚な過去にお別れ
戻れない やり直せない 立ち止まれない 前に進むしかない Crybabyから変化する為に One, Two, Three 指折り数え 満ちる日を待つ兎 月の影に探して 雲の奥に幻想の島見出す 宵待月の名を背負い 孤独でも歩くと決め今に至るのさ
暗がり 照らす月明かり マイク手に取り さぁ行こうかアマンダ 明日のその先 光が待つこと信じて 不退転の心抱いて 塞ぎ込むようなことばかり けど立ち上がり さぁ行こうかアマンダ 握る拳力強く 涙拭き Never Never Never Never Give up, Give up
磨く容姿 通う美容室 異質な目で見る者達には直筆サインをプレゼント さぁどうぞ 「我の世界に取り込んでやろうぞ」 台詞が厨二? 意見ご自由に 君を夢中にするヴィジュアル重視 居座る重鎮に向ける銃身 終日できてる革命の準備
恐れない まだ倒れない 揺るがない 心はまだ死んじゃいない Skull LadyのKiss受けるまでに 墓場背に向け 銀色の薔薇片手に 地下深くから這い上がり 頂上目指して掴めアンダーグラウンドロマンス 始まるぞ狂乱の宴 悔い残さぬよう大いに騒げ
暗がり 照らす月明かり マイク手に取り さぁ行こうかアマンダ 明日のその先 光が待つこと信じて 不退転の心抱いて 塞ぎ込むようなことばかり けど立ち上がり さぁ行こうかアマンダ 握る拳力強く 涙拭き Never Never Never Never Give up, Give up
そういや誰かが言ってたなぁ そうやって派手な見た目だけじゃ 通用しないって中身を見てから言いな 食わず嫌いの偏食家か何か? 常に自分の魅せ方 突き詰めるのが十四のやり方 生き様 スポットライト浴び輝きを増す マイク掴めば誰だって誰かのヒーロー
その脳で肌で全身で感じろカタルシスを得るヒプノシス 三つ巴 Bad Ass Temple 揃えばまさに三銃士 異質な存在にディスでいつもギスギス 未来を見ず閉ざす扉にKick 今に見とけ 革命の爆弾 導火線に火つける我こそが14th Moon
もう涙は零さないように 星眺め笑って行こうかアマンダ 明日のその先 光が待つこと信じて 不退転の心抱いて 塞ぎ込むような日に立ち向かい つらい日も乗り越え行こうかアマンダ 握る拳力強く���明日へ向け Never Never Never Never Give up, Give up Never Give up, Give up Never Give up, Give up
Stop. 🍀
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TEDにて
マチウ・リカール:幸せの習慣
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
幸せとは、何で、どうやったら幸せになれるのでしょうか?
生化学者から仏門を選んだマチウリカールは、我々の心を鍛えて満ち足りた状態を習慣にすることによって、心の奥底からの静かな充足を生み出すことができると言います。
これもグローバリゼーションのおかげなのでしょうね。
エベレストの山頂にコカコーラの缶、モントレーに僧侶(私はちょうど、2日前。皆さんのお招きに上がりヒマラヤ山脈から来ました。ですから、皆さんをしばらくの間。ヒマラヤ山脈に招待したいと思います)
そして、私のような修行僧がいる場所にご案内しましょう。
私はパスツール研究所の分子生物学者でしたが、山に入る道を選びました。さてと、幸福について語りましょう。私は、フランス人ですが、フランスには幸福に全く興味のない知識人が多いです。
では、幸福または満たされた状態について話しましょう。
まず、最初にフランスの知識人がなんと言おうと朝から「今日も一日苦しむだろうか」と考えながら起きる人は誰もいません!つまり、意識しようがしまいが、直接であれ間接であれ、すぐのことでも将来のことでも我々がすること。
望むこと。夢見ること。そういったこと全てが心の奥底で幸せを求めることにつながっているのです。
東洋や西洋の書物を調べれば、幸せの定義は驚くほど多彩でしょう。こう言う人がいます。「過去の記憶を信じて、将来を想像し、現在は念頭にない」こう言う人もいます。「幸せとは、今という瞬間。今という瞬間の新鮮さの度合いである」
そして、これは、フランスの哲学者アンリベルクソンにこう言わせました「すべての偉大な人文科学の思想家は、幸せを曖昧なまま残した彼らが自分達の言葉で幸せを定義できるように」
人生において幸せにそれほど関心がないならかまわないでしょう。しかし、幸せが人生のあらゆる瞬間の質を定めるものだとしたら?私たちは、それが何であるかを知り、はっきりした考えを持った方が良いでしょう。
そして、おそらく私たちが幸せについてよく知らないことが理由となって、しばしば、幸せを求めながらそれに背を向けてしまうのでしょう。
苦しみから逃れたいのに苦しみに向って走っているかのようです。それはある種の勘違いが原因かもしれません!
喜びを、幸せと思い込む事は、よくあります。
この2つの特徴をよく見てみると喜びは、時間、目的、場所に左右されます。その本質は相対的に変わりうるものです。チョコレートケーキの最初の一切れはおいしいです。二切れ目はそれほどでもなく、三切れ目には嫌気がさします。
それが人間の欲望の本質です。
飽きが来ます。私は、昔、バッハが大好きでギターで弾いたりしました。5回聴いても飽きません。もし、24時間休みなしで聴くことになれば飽きるかもしれません。寒いとき、火のそばに近づくのは気持ちがいいです。
そして、しばらくすると少し後ろに下がります。それからすごく熱く感じます。
喜びは経験とともに消費されるかのようです。
そして、それは、あなたから発せられるものではありません。あなたが強い喜びを感じることでまわりの人が大いに苦しむこともありえます。ゲーム理論のゼロサムゲームのこと
では、幸福とはいったいなんでしょう?
幸福というとあまりにも漠然とした言葉なので満ち足りた状態と定義しましょう。
仏教徒の見解から、最もふさわしい定義は、満ち足りた状態とは、ただ楽しいという感覚ではないということです。
それは心の奥底を静かに満たすものです。
人生におけるあらゆる心の働きや喜びや悲しみにも、しみ渡ってその根底に横たわっています。皆さんは驚くかもしれません。悲しみのさなかでも満ち足りていることは、ある意味可能です。なぜなら、私たちは別のレベルの話をしているからです。
岸辺に寄せる波をごらんなさい。波の谷間にいれば、海底に当たります。
堅い岩にあたります。波の上にのっているときは意気揚揚としています。海面は上へ下へと揺れ動きます。外洋をごらんなさい。そこには鏡のように美しく穏やかな海があるかもしれません。嵐の海かもしれません。
しかし、海の深さはそこにあり変わらないのです。どういうことでしょう?それは、つかの間の感情や感覚でなく、そのものの状態です。喜びもまた幸福の源となりえますが、誰かの苦しみを喜ぶというような邪悪な喜びもあります。
ではどのように幸せを探しましょうか?
たいていは外界から探し出そうとします。「幸せ」になるためにすべての状況。すべての条件を満たせば幸せになれると考えます。すべてを得ることで幸せになる!
こんな考え方の幸福には、崩壊が待ち構えています!!すべてを持つこと。何かが欠ければそれは崩れます。
何かがうまく行かないといつも外界を修正しようとします。しかし、私たちが外に及ぼす力は限られたもの。一時のもの。錯覚かもしれません。では、内部の状況を見てください。それらはより強くありませんか?
外界から幸福や苦しみを捉えるのは心ではないですか?心の影響が強くないですか?小さなパラダイスのようなところに住んでいてもまったく不幸せなこともあるのをご存知でしょう。
ダライラマがポルトガルに行ったとき、そこでは、至る所で建設工事が行われていました。ある晩、彼は言いました「立派な建物を建てるよりも、心の中に何か築き上げるのが良いのではありませんか?」
そして、こう言いました「もし、あなたが素晴らしくモダンで居心地の良いハイテクのマンションの100階に住んでいても内面でひどく不幸だったら飛び降りるための窓を探してしまうでしょう」
では、反対に非常に厳しい状況下でも落ち着き、芯の強さ、自由、信頼を失わない人が沢山います。では、内面の条件が強ければどうか?もちろん、外部状況は影響するでしょう。
そして、健康に長生きすることや情報が得られ。教育が受けられ、旅行が出来。自由でいられることは素晴らしいことです。大変望ましいことです。
しかし、これだけでは十分ではありません。補助的な条件に過ぎないのです。
すべてに解釈を与えるのは、心の中に存在する経験です。内面の幸せの条件をどうはぐくむかと自問していくと幸せを妨げるものが自らの内面に見出されたりもします。これを解るにはいくらかの経験が必要です。
ある種の心の状態があることに気付かなければなりません!
それは、この幸せ、この満ち足りた状態につながる心の状態でギリシア人がユーダイモニアと呼んだものです。
こんな満ち足りた状態の妨げとなるものもあります。自らの経験の中から探しても怒りや憎悪、嫉妬、ごう慢、しつこいほどの欲望、執着。そんな感情にとらわれた後はあまりよい状態とはいえません。
そのうえ、それらは他人の幸せにも有害です。これらのものが心に侵入すればするほど、連鎖反応のようにますます惨めになり苦悩を感じます。憎しみの連鎖とも呼ばれてます。
逆に、誰もが知っていることですが、献身的で、寛大な行為の奥底では、遠くからであっても、他の誰に知られることがなくても、子どもの生命を救い。誰かを、幸せにすることができます。
我々は、認識されることも、感謝されることも必要としません。ただ、そうする事が、心の深みにおいて、満ち足りたものを与えます。それは、常にそうありたいと思う「姿」です。
では、生き方を変えて心の在りようを変容させることが可能でしょうか?
生まれつき心が持っていた否定的な気持ちや破壊的な感情を?我々のムードや特徴。そして、感情を変化させることは可能でしょうか?そのためにはこう尋ねなければなりません。
心の性質とは何でしょう?
経験的な観点から見れば、意識の主な性質というものは、単に事実を認識し、気付くことなのです。
意識は、すべてのイメージを映し出す鏡のようです。
醜い顔も美しい顔も鏡は気にしません。鏡は汚されず、イメージによって変質する事もありません。同様にすべての思考の背後には、ありのままの意識。純粋な認識があります。
そういう性質なのです。意識は、憎悪や嫉妬によって損なわれるようなことはありません。全体��、染料で染められても、布は布であるように、常に、意識は、そこにあります。
我々は、いつも怒っていたり、嫉妬深かったり、気前がよかったりするわけではありません。意識という布地は、純粋に認識をするというその性質において、石とは違っていて、だから、変化の可能性があります。
すべての感情は過ぎ去っていくからです。それが、心の訓練の基盤です。
心の訓練は、2つの対立する精神要因が、同時に起こり得ないという考えに基づきます。愛から憎しみへ行くことはできます。でも、同じ時間に同じもの。同じ人に対し、害悪を願いながら、善を願うことはできません。あなたは、握手しながら殴ることはできません。
我々の内面が、満ち足りようとするのを妨げる感情に対して、自然の特効薬がある!!ということです。
そこに進むべき道があります。
嫉妬に対しては、喜び。貧欲な執着に対しては、内心の自由。憎悪に対しては、慈愛あふれる親切。もちろん、それぞれの感情ごとに、特定の解毒剤が必要です。
これは、仏教の最古の経典とされる南伝パーリ語のスッタニパータにもある「貪・瞋・痴(とん・じん・ち)」の克服方法です!!
もう一つの方法は、全ての感情の特質を分析することで、対抗手段を見出そうとするものです。
通常、我々が、誰かに対し、不快や憎しみ。動揺を感じたり、何かに執着すると我々の心は、その対象のことを繰り返し考えます。その対象に思いを寄せるたびに、執着心や不快感が増します。
その過程は、際限なく膨らみ、繰り返されていきます。今、我々が見るべきなのは、外を見る代わりに、内観するということです。
「怒り」そのものを「ああっ自分は怒ってるな〜」と注視してください。それは、非常に恐ろしげに沸き立つモンスーンか雷雲のように見えます。その雲に座ることすらできそうに見えますが、近づけばただの霧にすぎません。
同様に、あなたが怒りという感情を直視すると、それは、朝日のあたった霜のように消えます!!これもブッタのプラスサムの智恵です。
何度も繰り返して、怒りの感情を直視して、解消しているうちに、怒りの繰り返しは、解消するたびに、だんだん小さくなります。そして、ついには、たとえ怒りが生じても心をかすめるのみで、空を渡る鳥のように痕跡も残さなくなります。
これが心の訓練の基本であるウィパッサナー瞑想法です!!
時間はかかります!心の欠点や性癖を積み重ねるのに、時間がかかったように、それらを解きほぐすのにも時間がかかります。
しかし、それしか方法はありません!!
心の変容こそが、瞑想の意味することろです。新しい在り方やものの受け止め方を習熟することです。そのほうがより現実であり、相互に支えあい。流れのように連続的な変化であるもの。
それが、我々の存在であり意識であるのです。それでは、認知科学との接点について、この話をする必要があります。短い限られた時間で話さな��ればなりません。
脳の可塑性に関して、以前は、脳の機能は不変のものと思われていました。20年ほど前までは、すべての神経の接続の総数は、成人した後には、ほとんど変化しなくなるものと考えられていました。最近では、それは大きく変化しうることが解かっています。
10,000時間。バイオリンの特訓をしたバイオリン奏者の話を聞きましたが、指の動きを制御する脳の部分は大いに変化して、シナプス接続が強化されます。人間の品位において、愛あふれる慈悲や忍耐強さ。開かれた心によっても同じことができるでしょうか?
これは、それらの偉大な瞑想家が行っていることです。ウィスコンシンのマディソン。
または、バークレーの研究室に来た達人の中には、2万から4万時間も瞑想をした人がいます。彼らは、3年間ほどの隠遁生活を送り、その間、毎日12時間、その後も毎日3-4時間瞑想します。彼らは、心の訓練の真のオリンピック勝者です。
何が明らかになったでしょうか?
さきほどの話と同じです。研究に関しては、まだお話できないのですが、この研究では、無条件の慈悲について調べました。何年も何年もかけて、心の中に慈しみをあふれるさせることができるようになった瞑想家に実験をMRIにて手伝ってもらいました。
そこに至る訓練の途上では対象として、苦しんでいる人々のこと。愛する人々のことを考えますが、やがて、慈しみがあふれて、全てを覆い尽くすことができるのです。科学的な結果の全てを述べる時間はありません。またの機会があることを期待しましょう。
肝心なことは、この実験は、サーカスのように特別なことができる人を見せようというものではなく、精神鍛錬は、重要だと言いたいのです。これは、ただの贅沢ではなく、精神のビタミン栄養剤でもありません。
これは、我々の人生のすべての瞬間の品質を決定するものです!!
皆さん。教育には、すすんで15年を費やし、ジョギングやフィットネスなど、表面上の美貌を維持するためにあらゆる事を行います。しかし、心の動かし方、心の美貌などという最も重要なことには、驚くほど無関心で訓練に時間をかけません。
それは、我々の経験の質を決定する根本的なことなのです!!
宗教の創始者たちの概念上の教え。
原本は、ものすごくパワー(「パワーかフォースか?」の本でのパワー)の高い状態であることが確認されている。
ここで言われる「Powerパワー」は(スターウォーズでのライトサイドのForceフォース)そして、「Forceフォース」は(ダークサイトの方)という前提です。
しかし、宗教概念が、二元的であればあるほど(例えば、「神と悪魔」や「法律で暴力装置をがんじがらめにしたテロリスト集団が警察機構なのに絶対に善のような先入観を強調する構造」など)
つまり、ゼロサムになると誤訳される危険性も大きくなるように思います。
ロジェカイヨワの戦争論にある「いけにえ」も似ている。
あれこれと姿は変わっても、それらは常に存在し続けてきました。
上があれば下があるように、光と闇があります。人間の心理への探求、そして、高い精神的レベルに達しようとするコミットメントは、宗教として社会的に組織化されます。
逆に、そうなることによって、最も低いエネルギーフィールドに落ちていくのです。
よく組織に入ると優秀な人���無能化するのもこの構造原理にあるためです。
なぜなら、組織化されると言う偽りが最初から伴っているからです!!
だから、マスメディアを通すと意味が反転して届き易くなる傾向があります。
世界中のさまざまな宗教の創始者たちの概念上の教えが言うように、慈愛と言うエネルギーフィールドは、一神教でいう神の恩恵への入り口です。
多神教の仏教では慈悲とも言う「悟りへの入り口」とも呼びます。「ラーマ」「道(タオ)」バージョンもあります。
これらのキャパシティを増やすことで、私たちは、誰であり、なぜ?ここにいるのかと言う最終的な気づきに導かれ。
さらに、このアトラクタフィールドの光の中では溶かされ、すべての存在の究極の源へと導かれます。
これが、この世界で自らのパワーを高める唯一の方法なのです!!
または・・・
皆さんにも、「イラっ」とした感覚が生じる瞬間があるはずです。これは、「憎しみ」と誤解して、表現する書物がたくさんある。
しかし、誤りです。ブッタによると、「憎くて憎くて、あんたが憎い!だから、私の最大の敵なんだ〜」として、「イラっという感覚」と「目の前の敵」をリンクさせたがる。
これも、誤りです。ブッタは「私は、おまえの敵ではない!おまえの敵は自分自身なのだ!」と言います。自分自身ほど手強いライバルはいないとも言います。つまり、人間の特質がそうさせる自我がライバルです!
アインシュタインの相対性理論によるとある時点で光が、トポロジー的に反転して、今、自分の見ている対象が、自分自身の姿として写って脳内が認識してしまう!という現象も計算で判明しており、鏡のようになってしまうこともあり得ます。
「イラっという感覚」と「他者を敵という概念」は、リンクせず、関連もない!ただ単に、自分自身の勘違いと言うこと。これが理解できれば、憎しみの連鎖は断ち切れます。他人に教えても減らないプラスサムのブッタの知恵です。
また、ネイティブアメリカンでも、「イラっ」とする感情は、慈愛、慈しみと言うらしいです。
そして、親、兄弟姉妹は、ウザいという感情表現は、最高の慈愛、慈しみを感じてるから!らしいです。最悪、感情を自分自身で消化できないなら、物理的な距離感を大事にすればいい。ということになります。
これと似た現象に、政府の陰謀?影の政府?誰かの陰謀と具体的でない言葉で発言して自分以外の責任になすりつける人物や団体には、盲点があります。
つまり、邪悪な影の政府は具体的に発信している本人自身ということ。
なぜ?言葉の定義もなく指摘も抽象的ならその人や団体自体が最も具体的だから!
自分自身が、真の影の政府になるというパラドックス
日本では、西遊記の物語にでてくる天竺(てんじく)に行く三蔵法師が有名だが、アビダンマは、根本経典である三蔵(経・律・論)の一部。
阿毘達磨とも。サンスクリット語から、漢字に翻訳するとこう書かれる。武道の達人でもあった達磨大師。ダルマ様とも呼ばれる。
数十年単位では、悪性でも数百年単位では善性という事象は多数ある!
なぜ?一神教に比べて、多神教や漢字などに概念が多いのは、お釈迦さまが膨大に構築し、先人達の蓄積したアビダンマが根本だから!
<個人的なアイデア>
2019年に日本では、元号も「令和」に変わっていくため、ここで記しておくことは、今後の人類の発展に貢献できるかもしれないためでもあります。
マインドフルネスという瞑想法が流行していますが、個人的には危険性が高いと思っています。まだ科学的とはいえ「魔境」の克服が解明されていません。
仏教は、長い年月で練られた瞑想法が確立されているので、克服法も適切な指導者にて行わないと日常生活に支障が生じる恐れがあります。
瞑想法は気軽にするものではなく、自己責任でどうぞ。警告として、記入しておきます。
続いて
2020年後半くらいから様々な占いで出てきてた時代の変わり目。それが、西洋占星術で具体的に「風」の時代という形で出てきました。
私が、感じとってたインスピレーションは、たぶんこれかな?
兆しは、世界的な金融ビックバンの1970年代、IT革命のミレニアムの前から出ていたけど。
これは、これまでの約200年間。物質やリアリティの影響力優位「土」の属性の時代から、量子コンピューター、ビットやインターネットなどといった物質ではないものに影響力が増していく「風」の属性の時代に。
そして、本格的に軌道にのっていく属性は、今後200年程続くことになるのです(2020年12月22日から、2100年当たりをピークに少しずつ衰退していく2220年まで)
<おすすめサイト>
ポール・ピフ:お金の独占が人と大企業を嫌なヤツにする?
ショーン・エイカー :幸福と成功の意外な関係
バリー・シュワルツ:選択の自由パラドックスについて語る
ダン•ギルバート:私たちが幸せを感じる理由
日本テーラワーダ仏教協会
仏教と物理学
ボブ•サーマン:私たちは、だれでも仏陀になれるという話
マチウ・リカール:慈しみと愛他性(アルトルーイズム)に導かれる生き方
カイラシュ・サティーアーティ:怒りの昇華で世界に平和をもたらす方法?
<提供>
東京都北区神谷の高橋クリーニングプレゼント
独自サービス展開中!服の高橋クリーニング店は職人による手仕上げ。お手頃50ですよ。往復送料、曲Song購入可。詳細は、今すぐ電話。東京都内限定。北部、東部、渋谷区周囲。地元周辺区もOKです
東京都北区神谷のハイブリッドな直送ウェブサービス(Hybrid Synergy Service)高橋クリーニングFacebook版
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28/海に屍と濡羽菊
(SILENTにおける全てのネタバレが存在します)
(2021年7月某日の話)
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きっとそれが黒い大輪の菊に見えたのは、炎天下で首裏が焼かれる感覚と、足首が波に冷やされる感覚が起こした倒錯のせいなのだ。
波音にのって、生ぬるい潮風が鼻先を撫でる。七月の海辺、日差しは朝だというのに既に強い。これが浜辺いっぱいにうざったい椰子の群れでもずらりと並んでとかいるのであれば影ができて話が別なのだろうが、本土の海岸でそんな植生は見たことがない。精々がシュロ、或いはマングローブ。それがあるにしても亜熱帯の地域だけ。こんな東海の片田舎の海辺にそんな耐塩制植物の群れが生えているわけもなく、よって首筋は陽に晒された結果じわじわと焼かれている。 七月、朝の日差し。生えかけの入道雲が山並みに沿って起き上がっている。 フィールドワークは私の日課だ。本業と言ってもいい。海洋生物群の調査、兼磯釣り、兼浜辺散策。SILENTからの任務が特にない週、そのうちの数度はフィールドワークに出かける。部屋に閉じこもって研究するのも良い――特にクソみたいに暑い日は――が、自分の分野は実地でのデータを得ないとまずはじまらない。釣りや磯漁りは趣味のようなものだが、得られないものがないわけではない。魚はおいしい。自分で捌いて食べるものはもっと。 だからその日磯に向かったのは偶然であり、運命だった。竿先の糸をのんびり垂らしているのにも飽きて、ぶらぶらと向かった先の潮だまりはすでにぬるくなっていた。岩場いっぱいに磯の匂いがじらじらと立ち上り、鼻の奥に潮を塗り付けてくる。 岩礁を二、三歩海側に跳ねるように歩いたところで、波打ち際になにか黒いものが打ち上げられているのが見えた。大輪の花のような黒い何か。 ��それはちょうど岩礁に乗り上げたような格好で岩に引っかかっており、波が何度か柔らかくさらって行こうと泡を投げかけていたけれど、黒い大きな花弁はふわふわと濁った泡の網の間にゆれるばかりだった。 一抱えもあるそれをぱっと見て、私はそれを海中に落ちた菊のようだと思った。細長く薄い花弁は濃い青の上に艶をもって浮かんでおり、波に揺れてふわふわと佇んでいた。 岩のふちには近づきすぎず、タモ網を伸ばしてそのかたまりを慎重に掬いあげると、確かな肉の重さが手の平に伝わってきて目を見ひらいた。やがてそれが大輪の花などではないことに気が付いた。それは、大きなカラスの亡骸だった。 「……なんで、海なんかに」 水を含んだ体を網から外して、抱きあげた。その拍子に翼がだらりと垂れ下がり、屍はいやに大きく見えた。 死んでしばらく経っているのか、からだは硬直が解けて僅かに柔らかかった。炎天下の潮水に晒されていたせいか微かに肉が生ぬるい。羽は潮水にもまれたのか一部があちこち変な方向にねじれ、痛んでいた。 頭部の形はあまり見慣れないもので、くちばしの形はハシブトガラスやハシボソガラスにしては整っている。在来種でないことは一目で解った。喉の羽毛が逆巻いており、濡れたせいでいっそうオパールのような七色に艶めいていた。彼は、ワタリガラスだろうと思う。北国の鳥であることはたしかで、どうしてこんな真夏の、よりにもよって辺境の海辺なんかに。 私は思わず周辺を見渡した。カラスの群れはどこにもいない。ざあんと波が岩場にうちつける音ばかり轟いている。沖合��らミャウミャウとウミネコの声がした。背後を仰げば遠くに鳶の影が見えた。黒い翼は、案の定どこにも飛んではいない。 羽織ったパーカーが濡れるのも構わず、私は反射的にその遺骸を抱いていた。胸元はすでに水を吸い、じっとりと布がよれている。濡れた肌に海風が吹き付けてようやく私は亡骸の冷たさを感じた。翼の形が崩れてしまわないよう、慎重に彼の翼を折りたたんで抱きなおした。 若い個体のようだった。堕ちてしまったにしては外傷はなく、きれいな体をしている。岩礁に打ち上げられたときに擦れてしまったのかくちばしの端だけが少し欠けていた。瞼はぴっちりと閉じられて開かない。潮だまりで水浴びをしようとして、波にさらわれてしまったのだろうか。こんなところで、一羽きり、誰もいないところで。 日はじりじりと首を焼いている。太陽は中天に近づくにつれいよいよ勢いを増していた。ワタリガラスからは、まだ死臭がしなかった。 私は汐で痛んだ体を抱きかかえて車に戻った。急いでトランクからクーラーボックスを取り出すと、黒い遺骸をタオルと防水シートでくるみ、氷の内側に埋めるようにしてから蓋をした。内径90センチのクーラーボックスは彼の尾羽を折らないぎりぎりの大きさだった。それから磯に戻って、バケツの中に入ったイサキ二匹をしぶしぶ海に放流した。銀のうろこがやがて海底に沈んで見えなくなったところで、車のエンジンを掛けに戻る。時刻は九時四十分を指していた。普段家に帰るにしては、あまりにも早すぎる時間だった。
家に着いてまず行ったことは着替えることでもシャワーを浴びることでもなく、亡骸の洗浄だった。石鹸水を含ませたタオルで綺麗に全体をぬぐう。全身潮びたしなので、羽の隙間や翼の関節、足のつけねまで塩を取り除くように丹念に手入れした。 このとき微かに腐敗が始まったようで、肉の解けるにおいが作業場に籠り始めていた。過剰に冷やした暗室はばかみたいに涼しくて、私の乾いた足には砂がまだまとわりついたままだった。 翼を開いたり閉じたりしながら、写真を撮り、記録を付ける。体長79センチ、翼開長150センチ、オス、年齢不明だが二歳程度、くちばしに微細な欠け。 同定にさほど時間はかからなかった。確かに彼はワタリガラスだった。紙面にCorvus coraxと走り書いて、まじまじと閉じた瞳を覗き込んだ。東海の沿岸部にワタリガラスが飛来したことはもしかしたらどこかを探れば履歴が残っているのかもしれないけれど、私は一例だって知らない。不勉強を嘆くべきなのだろうか、それともこのようなイレギュラーに知識なしで遭遇したことを僥倖と思うべきなのだろうか。 慣れない夏の、冬のそれとはまったく様相の違うぎらつく太陽の下、ふらふらと一羽(ひとり)でこんなところまで翼をはためかせて飛んでいたのであろうことを思うと、私は自分の呼吸が浅くなるのを感じた。唐突に両の肺が痛んだ。 石膏粉をはたくと、まるで埃をかぶったように姿がみすぼらしくなる。水気をとってから一度粉を落とし、今度はまんべんなく駆虫粉をまぶす。潮ざらしになっているからそこまで虫はついていないと思うけれど、野生種はダニなどに食われやすいので丁寧に殺虫をする。毛の流れに逆らって粉をはたくと、時折やわらかな灰色の羽毛がふわりと抜けて私の鼻先をくすぐっていった。 粉をきれいに払ってから、体を台の上で仰向けにする。私はその広い胸にゆっくりとメスを埋めた。正中線に沿う腹と胸をつなぐ場所に羽毛の無い部分がある。肌は柔らかな灰青色をしており、つぷ、と刃先を飲み込んだ。 腹部を切り開いて、こんどは首と両肩に向かって皮を剥いでいく。腹膜と皮下脂肪の間の腱を切るようにしてメスを少しずつ滑らせていく。皮が剥がれた裏側にミョウバンを刷り込みながら、肉の塊と皮を丁寧に分離させる。 かるく私の身長ほどはある両翼は大きく、肩の骨もそれに見あって立派だった。骨を折らないように慎重な手つきで関節を根元から抜く。くちばしの真下まで慎重に切れ目を入れ、頸椎と食道を分離させる。思っている以上に綺麗に骨が抜けたので、骨格標本も作れるかもしれないとふと思い立った。喉の羽毛は切り開かれてもなお逆巻いて、玉虫色の渦のようにきらきらと光っている。ただ、きれいだった。 白い脂肪を掻き出しながら、ゆっくりと背側を剥いていく。首と胸を繋ぐ筋を切り落とし、服を脱がせるようにして皮を裏返した。私は彼を暴いている。 内側の肉たちは思っているより静かだった。腹膜の内側でころりところげるのに時折どきっとするけれど、それらは存外おとなしく、じっと皮が分離していくのを見つめていた。腐敗のせいで肉は少しだけ酸っぱいにおいがした。夏は足がはやい。もう少しはやく見つけてあげればよかった。それでも潮溜まりより、ずっと腹膜は冷たかった。 私は無言で皮を剥ぐ。やがて油脂腺の油でメスがどろどろになった。尾羽の付け根を切る。綺麗な濡羽色をしている。一つだったからだと内臓が分離していく。 弾力のある腹膜ごと内臓を左手でそっと支えると、指の腹が肉に埋もれて脂肪で濡れた。人の肉もこれくらい柔いのだろうか? 無心で皮を剥ぐ。やがて直腸を総排泄孔の手前で切断する。鉗子で先端を抑え、静かに抜け殻から肉を引き抜く。アルミトレイの上に乗せられた体内は、羊膜が破れていないままの胎児にも似ていた。腹膜を透かして素嚢が見えている。胸でようやく抱きかかえられるほどの大きさだから、人間の嬰児よりは少し大きかった。 まだ翼と脚と頭の肉が残っている。肩口から皮を裏返しながら肉を削ぎ、慎重に骨を抜いてはホウ酸の粉をはたく。代わりに針金の骨を入れて翼を固定する。 学術用の剥製にしたほうが楽なことは解っているが、立派な体なのだから本剥製にしたかった。腿の肉を掻き出して骨を抜く。上体に再度手をのばす。キジやサギにくらべ、首が短いカラスは頭骨を剥ぐのがやりやすい。首を裏返す。賢い頭蓋が剥き出しになり、隙間から脳が見えた。 眼窩にピンセットを差し込んで視神経ごとちいさな丸い眼球をずるりと抜き出す。黒曜石のような、小さくて綺麗な黒い色だった。あらかた顔まわりの筋肉を削ぎ終えたら、最後に脳を掻き出す。針に通した糸でまんべんなく、こそげとるようにさらう。 剥製を作るとき、頭骨だけは皮の内側に遺しておくことになる。余った肉を削いでいく。ミョウバンとホウ酸粉を丹念に塗りつけて、脂肪を慎重に削いで、最後に骨を拭って除肉は終わる。 抜いた骨たちは別のトレイに置き、皮を乾かしながら一度休憩をとった。午前中から作成を始めたのに、すでに日暮れに近い時間になっている。集中が切れたせいか唐突に異様なほど空腹を感じた。台所にいくと、妹が作りっぱなしのサンドイッチが冷蔵庫に放置されていたので勝手にいただく。クリームチーズが塗ったくられていることだけはとりあえずわかった。やはり不味い。おそらくあいつは料理の才能がないのだろうと結論をつけて、胃にパンを落とすことだけを考え、口元をぬぐった。皿を洗ってから作業部屋に戻る。 皮が変に縮まないうちに形を整えなければならなかった。翼などの一部を除いて内容物をあらいざらい引き抜かれたからだは二次元のように平らだ。骨の代わりに針金を、脂肪の代わりにわたを、臓器と筋肉の代わりに綿(めん)を入れ、生前の容貌を再現していく。そこに魂が宿らないことは知っていても、還ってこないことはわかっていても、可能な限り精巧なすがたを作り上げたかった。生きていたということを遺したかった。 そんなこと誰に頼まれたわけでもないのに。 そうやって作業に没頭し続けて数時間、すでにとっぷりと日が暮れ切った夜半にようやく剥製の全体が整った。切り開いた場所を簡単に縫合して、形が崩れないようにガラス棚の中へ保管しておく。 そこで初めて息をついて、ガラスの向こうに閉じ込められた濡羽色のきれいなからだを眺めた。死体とは思えないほど美しいそれは、しかしどうしたって死んでいた。からっぽのからだ。からっぽののうみそ。動かないつばさ。欠けたくちばし。 飛んでいるときの姿を知らない私にとって、その翼がどうやって風を切るのか、瞳はどう海を映したのか、止まり木をどうしならせるのか、梢と尾羽の擦れあう音がどんな高さなのか、それらのうち一つきりさえわかることはなかった。 私は彼を知らない。死体はもう鳴き声の一つも上げない。 恐る恐る手を伸ばして、くちばしの先から根元までをそっと撫でた。なめらかなくちばしは、しかし欠けた部分だけがざらついていた。あごの付け根を軽くさすって、そっと手を離した。ガラス戸を��める静かな音が濃い潮の匂いに染まる部屋のなかに響いて消えた。私はアルミトレーの上に放り込まれた骨々を溶液に漬け込んで、部屋の電気を消す。
彼の剥製を教授に譲ることにしたのは、研究室で暇を持てあましてパソコンを抱えながら遠心分離機とにらめっこしていたときに教授が構われたがりそうに話しかけてきたことが発端だった。会話の中で駿河湾の話になって、不意にこの間ワタリガラスが飛来していたことを思い出したのでそれをいうと、彼はひどく興味津々にその話題に首をつっこんできた。 「飛来、って言っても、拾ったのは死骸ですよ」 「どちらにしても珍しいことには変わりないよ。剥製にできるほど状態がよかったということでもあるし」 「トキやらなんやらだったら生息域のマーキングに使えますけど、ワタリガラスですよ。北海道にでも行けば冬場死ぬほどいる」 「はは、謙遜するなあ。そういう珍しいものを珍しいと理解して、適切に判断、処理できることを褒めているんだから、素直に受け取れば良いのに。とても珍しいことだよ、私も直に見たかった」 謙遜なんていわれても、私はみつけただけであってここまで飛んできたのは彼自身である。僅かな空しさを感じて私は返答に困り、「はあ」とだけ零してまた遠心分離機の液晶パネルを見た。残り時間はまだ二分もある。この後もう一回遠心分離をかけないといけない。パソコンの画面と液晶パネルを無産的に交互に見てから、ぼんやり口を開いた。 「差し上げましょうか、剥製。気になるのなら」 「え、良いのかい」 「別に……。それに作ったのはいいですけど、家にあったって、管理しきれないですし。本剥製に仕立てちゃいましたけどそれでいいのなら」 どうします。と聞くまでもなく、彼の返答は「勿論」だった。研究室に飾ってくれるのであれば、虫に食われることも、腐敗してカビだらけになることも懸念しなくていい。四角いガラスケースの中で、作り物の止まり木に掴まってはばたく直前の格好をしながら、朽ちるまで永遠の沈黙を��いていることができる彼のことを想像すると、安堵の隙間にどこか血の匂いのする溜め息が滲んだ。 教授は別れ際に、私に向かってこう言った。「そもそも、君がしっかり作り上げる本剥製自体珍しいから、それがよほどきれいな個体だったのだろうなと気になったのは否定しないよ」と。
その日家に帰ってから瞳に埋め込むための石を取り寄せることにした。実のところ、本剥製はまだ完成させていなかった。けれど他人に渡すのであれば面倒臭くとも仕上げをしなければならない。私は剥製職人ではないが時間をかければそれなりのものは作製できる。性格ゆえに、作りきる根気が滅多に出ないだけであって。 やることを整理する。まずパーツが届く間に、ポーズを整えて、縫合をしっかりして、毛並みをもう一度整えて。そうやって手を尽くして、ガラス越しに見る誰の目にも君が凜々しく見えるように。 だか��こそ二も三もなく、彼の眼窩にぴったりな黒い瞳を探すつもりだったのだけれど、どうしてかふいに私の無意識が抵抗して、勝手に動作の主導権を握った。腕は勝手に、月色の丸い石のページを表示させていた。 数秒、その画面を見て固まる。まぶたの閉じないくぼみに嵌められた良く晴れた夜半の空のようなそれを脳裏で一瞬再生してしまい、引き攣るように笑って無理に頭を振った。濡羽に金の目。その文字列が、文字列以外のイメージに行きつかないよう強制的に思考の根をシャットアウトして、私はページを反射的に閉じる。その後は余計なことを何も考えず、黒曜石を選択してカートに入れるだけだった。だって、黒いワタリガラスに金色の目を持つ個体なんていない。 「きれいっつったって、そう見えてるのは多分、見てんのが自分だからですよ、教授」 誰に聞かせるわけでもない独白は部屋の中に溶かして、チェアをリクライニングぎりぎりまで傾ぐ。背もたれはギィ、と音をたてて軋む。LEDの柔らかな白色が、いたいくらいに眩しくて顔を覆った。エアコンの風が虫の声のように静かに空気をふるわせている。 夜の窓辺に、青白いシルエットのワタリガラスの骨格標本が静かに佇んでいる。肉と皮の一切を剥奪され、頭部さえもすっかり喪われたそれは、もはや私に何も語りかける言葉もなく、ただじっともう二度と手が届かない空を、ガラス窓越しに見上げるばかりだった。
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【QN】ある館の惨劇
片田舎で依頼をこなした、その帰り道。 この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。 それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。 珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」 革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。 肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。 ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。 村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。 2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
この道はもう、殆ど利用されていないようだ。 雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果てている。 鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。 「うげっ」 思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。 その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」 小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。 慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。 次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。 曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。 泥濘み始めた地面をせっせと走り、館の玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。 だが、それが却って不審さを増していた。
――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付けた。 しばらく待ってみるが、応答はない。 「どなたかいらっしゃいませんかー!?」 もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。 雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。 季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。 無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。 「……あれ」 ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。 こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。 とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。 玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。 「……?」 暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。 「えっ」 それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。 「ちょっ、大丈夫で――」 慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。 「ひっ」 すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。 その人間には、首が無かった。 服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考え���に、この死体は腐りかけだ。 切断された首は辺りには見当たらない。 玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。 何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。 喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。 逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
――何かが、脚を掴んだ。 咄嗟に振り向き、そして。 「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」 パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」 脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。 全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。 幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。 雨宿りの代金が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。 玄関扉に手をかけ、開こうとする。 「な、なんでぇ!?」 扉が開かない。 よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。 思い切り体当りした。びくともしない。 鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。 「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」 泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。 「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」 息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。 どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」 どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。 こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。 改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。 指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。 「銀……。匙……。……鳥」 魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。 だが、少なくとも手がかりは得た。
立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。 首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。 「あー……やだやだやだ……!!」 悪態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。 花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。 目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
扉の先は、どうやら食堂のようだった。 食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。 生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。 まず、絵画に目が行った。油絵だ。 幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。 この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。 続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。 「うえぇぇっ……!」 内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。 それはどう見ても人の指だった。 視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。 「……これ!」 そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。 銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。 しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。 持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。 「……待てよ」 ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。 ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。 スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。 「うわっ! ……最悪っ」 扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。 鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。 それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。 些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。 「……あった!」 銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。 意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。 まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。 「うん……?」 代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
"朝食は8時半。 10時にはお茶を。 昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。 ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。 廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。 一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。 クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。 特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。 小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。 あの、首なしメイドだろうか。 「っ……!」 部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。 「うあー……!」 心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。 「くそー!!」 思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。 「――っ」 中から飛び出してきたのは、首のない死体。
――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」 もう大声を上げないとやってられなかった。 即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。 都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。 矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。 徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。 すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。 「……先にあっちにしよ」 最終的に2階も調べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいのは誰だって同じだと思った。 食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。 獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。 選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。 まずは目の前の扉を開く。 調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。 不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。 こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。 すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた! 「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」 素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。 しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。 「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」 二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。 慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。 人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。 大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。 「ほわぁー!?」 幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。 「っ! これでっ!!」 予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。 放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。 「……いよっし!」 動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。 ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。 獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。 「……ラシー、ド……うーん、ということは……」 あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。 思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。 いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。 こうなると、やはり2階を探索するしかない。 「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。 まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。 暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。 本来頭があるべき場所に何もないことも。 服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。 「うげぇ……」 その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。 指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。 「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」 この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。 部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。 更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。 息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。 殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。 自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。 更に読み進めていけば、気になる記述があった。 「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」 この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。 しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。 「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」 書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。 「ひょわぁぁぁっ!?」 仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。 なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。 「あーもー! もー! くそー!」 悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。 ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。 めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。 ピアノは、まだ音が出そうだった。 「……待てよ……」 弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。 本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。 「うわ……マジですか」 ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。 「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」 その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。 ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。 当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。 しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。 その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。 逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。 「……まだ、いるんだろうなぁ」 あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。 スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。 もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。 食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。 「あれ……?」 よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。 「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」 これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。 「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」 では、5分前とは。 「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」 地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」 食堂の隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。 「おやつは3時……その、5分前……!」 2時55分。時計の針を指し示す。 「ぴぃっ!?」 背後で物音がして、心臓が縮み上がった。 慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。 なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。 恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。 「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」 しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。 ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。 涙を拭いながら、階段を降りていく。
降りた先は、石造りの通路だった。 異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
――死を間近に感じた悪寒。
一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。 「……! うぅぅ~……!!」 また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。 破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。 「~~~っ!!!」 その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。 棚に首が、並んでいる。誰のものか考えなくともわかる。 合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。 調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。 一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。 二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。 三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。 四つ目も女性の首。絶望に沈みきった表情。メイドのものだろう。 「……これ……」 メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。 鳥の意匠が施された銀のスプーン。 「こ、これだぁ……!!」 これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。 しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。 ――何かが、階段を降りてきている。 「あぁ……」 それが何か、もうとっくに知っていた。逃���場は、無かった。弓を構えた。 「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」 粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。 "元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。 理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。 ゆっくりと、近づいてくる。 「……くそぉ……」 歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。 「死んで……たまるかぁ……!!」 先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。 それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。 接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。 対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃないでしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」 ――死なない。 今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。 「し、死なない化け物な��ているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」 矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。 パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。 「くそぅっ! くそぅっ!」 5本、4本。 「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」 3本、2本。 「頼むからー! 死にたくないからー!!」 1本。 「あああぁぁぁぁっ!!!」 0。 最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。 ――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」 頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。 「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」 死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。 すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。 後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。 「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」 玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。 無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。 異形が歪な腕を、伸ばしてくる。 「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」 もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけた。 肩を、異形の手が叩く。 「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」 もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。 後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。 叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。 「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」 かちゃり、と音がした。 と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
いつしか雨は止んでいた。 雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。 「あ、あぁ……」 西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。 もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。 ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。 「……あ……」 ――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。 翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。 館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。 事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。 館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。 それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。 ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。 「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」 リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
――ある館の、惨劇。
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第42話 『クリス・ウォーリーの奇妙な事件(2) - 異変です』 The Case of Chris Wally chapter 2 - “Strange!”
クリス・ウォーリーがこの町にやってきたのは、数年前の事である。
クリスは生後しばらくは両親と共にあちこちの港を転々としながら、2人の仕事を手伝いながら暮らしていたらしい。
その時期では、生活のほとんどは船上であったとも聞く。
両親を流行り病で亡くすに前後して、彼は伝染を避けるためにも、泣く泣くこの町に移り住む事に決めたらしい。
彼の邸宅には元々彼の伯父であるカール氏が住んでいたが、入れ替わる形でカール氏は町を出て、商売の拠点に港に移したとの事らしい。
それからしばらく、クリス氏はデイティの邸宅に身を落ち着けた。
しかし、多くの町民は、彼の姿を見ることは稀であった。
クリス氏は自宅から外に出る事はほとんどなかったらしい。
必要な用事や買い出しも、ほとんどが召使いのバルトが代行していた。
そのバルトも、町の人々とは言葉が通じなかったため、クリス氏から託されたメモを頼りに用を済ませる、という奇妙なものだった。
町民はバルトを気味悪がったが、それでもクリス氏を尊重する態度は見せていた。
というのも、クリス氏は毎年、町に対して多額の寄付をしていた。
この寄付は目録にも記録が残っており、その額は町でも1,2を争うほどであった。
両親から相続した遺産がどれほどの額であったかを知る者はいなかったが、���付額から、余程の事がない限り食べていくに困る事もないだろうと想像されていた。
直接語る機会は多くは持たなかったが、たまに顔を見せる時、クリスはいつでも袖の長い外套とフードをまとって、蒼白で、不健康そうに見えた。
体が弱く病気がちで、なかなか外出することもままならないと、事あるごとに町の者達に愚痴をこぼしていたらしい。
自分はこんな状態だからろくに町の活動に参加することもままならない事が本当に申し訳ない、寄付はその代わりだ、と語っていた。
殊勝なことだ、と町の老人達は口々に漏らしていた。
そんなクリス氏ではあったが、唯一足繁く通っていた場所があった。
町の西端、斜面を降りる急な坂を降りた先にある、教会である。
多くの町でそうであるように、かつてはこの教会も王国の制定した国教を司る施設として、半ば町の自治組織の集会場のような役割を担っていた。
しかし、度重なる内乱、王国体制の変革、国外からの難民の流入などを経て、国教遵守の義務は事実上形骸化しており、各地で様々な外来あるいは新興の宗教が蔓延していた。
デイティも例外ではなく、ここ数十年で名も聞かぬような新興宗教が新たに勃興し、町内で勢いを伸ばしていた。
そしてその教会も今では、買い取ったその宗教団体が拠点施設として利用していた。
クリス氏はどうやら、その新興宗教に熱を上げていたらしい、という事が、多くの町民への聞き込みから判明した。
その宗教はいわば一種の終末思想を掲げており、まもなく訪れる破滅の時に、信じる者だけが救われる、あるいは運悪く命を落としたり、大切な人がそのような目に遭っても、信じる者達は蘇る事ができるとすら喧伝していたらしい。
一昔前であればそのような胡散臭い団体は煙たがられ避けられたものだが、デイティにおいては事情が違った。
不安定な情勢や教主の異様な弁舌が町の人々を瞬く間���惹きつけて、信者が多数派に回るまでそれほど時間はかからなかったようである。
そうした事情から、クリス氏がその施設に出入りする事にわざわざ意識を払う者もいなかった。
ただ、生活必需品の買い出しさえ召使いに任せる男が、宗教施設には自らの足で通うのを厭わなかった事は、町民にとっても訝しい点ではあったようだが。
クリス氏の熱心さは折り紙付きであったが、彼がそこまで宗教に入れ込むのも、健康上の問題に起因しているのではないかと噂されていた。
つまり、病魔を、あるいは近く訪れうる死を克服したいという、願望というか、執着のようなものが彼にはあるように思われていたわけだ。
さらに数十年前、この宗教の関係者が町に初めて訪れたとき、布教や理解を広めることに腐心したのが、他ならぬ伯父カールであったという事もわかった。
その経緯は当然、クリス氏がこの宗教に強く入れ込んでいる状況を説明する形にもなっていた。
多額の寄付、疎らな交流によって、特別好意を持たれるわけでもないが、同時にトラブルとも無縁だったはずの彼が、唯一トラブルを起こしていたのが、ウォルターと呼ばれる男性である。
ウォルターはデイティの農夫の息子であり、クリス氏とは同じ年頃の青年だ。
彼は定職につかず、気まぐれに父の手伝いをする事もあったが、多くの場合日がな一日酒を片手に町をぶらぶらするような、半分ごろつきのような輩だった。
そのため、当然のことながら彼の評判はすこぶる悪かった。
それでも周囲が彼を邪険に扱えなかったのは、町に献身的で真面目だった父のおかげと見られる。
あるとき、ヴィルマという若い乙女が彼の目に留まった。
彼女は特別美人というわけではなかったが、愛嬌があり、気立てが良く、友人も多かった。
ヴィルマはウォルターに付きまとわれて、ひどく迷惑していたが、ある時、彼女は言った。
「私は、心に決めた方がいるんです」
それは、男を諦めさせるために咄嗟についた、よくある嘘だったのだろう。
だが、ウォルターは、あろうことかその相手がクリス氏ではないかと勘ぐり始めたのだ。
実際、クリス氏にはそういった噂がなかったわけではなかった。
年頃で、痩身ながら長身で、やや不健康そうな点を除けば憂いを伴った端正な顔立ちは一部の少女達にとって憧れを抱いても不思議はない、と思われるようなものだった。
しかし、クリス氏とヴィルマにはそもそも面識がなく、仮に互いの顔を見知った事があったとしても、逢瀬を重ねるような時間が、ヴィルマの方にそもそもなかった。
だが、恋は盲目とでも言おうか、ウォルターはそうした第三者からの助言にも耳を貸さず、クリス氏に憎悪を募らせていった。
ウォルターは、直接クリス氏の自宅を訪ねては無関係の者も不快になるような猥雑な内容の質問を浴びせたり、外出するクリス氏を尾行したり、様々な嫌がらせをするようになった。
クリス氏自身は、辟易してはいるようだったものの、意に介さず普段通りの生活を過ごそうと努めていた。
そこに来て、ヴィルマが荷馬車に轢かれる事故に遭い、亡くなった。
タイミングとしては、まさに最悪であった。
ウォルターは悲嘆し、そして憎悪をさらに強める事となった。
ヴィルマの葬儀の夜、彼はクリス邸を訪ねて、門前払いを受けながらも、玄関先で思いつく限りのあらゆる罵倒語を並べて、帰っていった。
それからと言うものの、ウォルターは方々に「クリスがヴィルマを殺した」を吹聴し始めた。
周囲は当然、彼の言う事を信じるわけはなかった。
だが、さらにウォルターは「クリスは死んだヴィルマの亡骸を掘り起こして、自分のものにしようとしてる」などとまで言い始めた。
さすがに周囲はこのようなウォルターの発言を咎めた。
愛する人を失った悲しみによって、気が触れてしまったのではないか、とまで言われた。
鬼気迫る彼を恐れて、周囲の人間は徐々に彼に近寄らなくなった。
今回のクリス氏失踪で、当然ながら彼は第一に容疑をかけられていたが、クリス氏失踪の夜、彼が一晩中町のバーで酔いつぶれて眠っていた事を店員と他の客が証言した事で、疑いは晴れたらしい。
また、ウォルターの父へのインタビューでも「あいつに他人をどうこうするような度胸はない」と断じられた。
ここまで得られた情報は、全て町に住む多数の住民から得られた証言によって、裏を取る事ができた。
以下が、彼が失踪した日について得られた情報である。
・雲ひとつない、晴れの夜だった。
・クリス氏は夕暮れ時に教会に行った。夜明け前に教会を出ていくところを見た、と証言する者が複数いた。
・クリス邸にクリス氏が戻ってくるところを見た、という者もいた。ひどく疲れて、憔悴しているように見えたらしい。
・その後、クリス氏を見た者はいなかった。
こうなると当然、最後にクリス氏を見たのはバルトという事になるのだが、質問に応じようとするバルトの話す西方の言葉を理解できる者が町内にいなかった。ただ、カール氏がクリス氏の残した衣類と身振り手振りとでバルトに質問の意図を伝えようとしたところ、寂しそうな顔をして、玄関を指差しただけだったそうだ。
教会でのインタビューは、また要領を得ないものだった。
私を出迎えたのは、教主のアロイスという小柄な男だった。
曰く、彼はこの教会に来てから2代目の教主で、数十年前に町へやってきたとき、先代教主に拾われた孤児だったらしい。
まだ30代後半と若かったが、そうとは思えぬほどに老け込み、老成してすら見える様子は、ある意味では教主らしい風格を携えている、教主に相応しい人物のようにも見えた。
彼は部外者に対して強く警戒心を持っている様子だったが、クリス氏の捜索の旨を伝えたところ、快く調査協力に応じてくれた。
曰く、クリス氏は町だけでなくこの教会に対しても惜しみない寄付を行っていたらしい。
���してそれは、カール氏もまた、同様であった事も知る事ができた。
失踪した夜に何があったかを尋ねたが、それについては、やはり要領を得ない結果となった。
クリス氏はいつものように教会を訪れ、アロイス教主と少し言葉をかわした後、ずっと礼拝堂に一人でいたとの事だった。
祈っていたのであろう、とアロイス教主は言うが、実際に見たというわけでもないらしい。
アロイス教主自身は、やはり一人で、教会奥の寝室で遅くまで読書し、その後床についたとの事だった。
それは静かな夜でしたよ、とも答えた。
突然いなくなるなんて、そんな予兆は微塵もなかったのに、とアロイスは残念そうに語った。
「…結局、何故いなくなったのかも、その後足取りも全くつかめなかったってわけか」
「相変わらず飲み込みが早いですなぁ、ドミニク殿は」
ドミニクとシュンは、橋のたもとで落ち合っていた。
「それじゃあ、どうすんだ?絶対見つけるなんて啖呵切っちまったんだろ?」
「もう見つけましたよ、クリス氏は」
「なんだと!?」
手すりに腰掛けていたドミニクは立ち上がりながら怒鳴った。
「大きな声を出さないでください…」
「まず説明をしろと言ってるんだ。お前は毎度毎度、一人合点してばっかで何も説明しやがらない。わかってる事があれば、こっちだって動ける事、やりようが色々あるんだ。とにかくちゃんと話せ」
「…すみません、ドミニク殿の言う通りですね。ただですね、私の中でも、確実な事と不確実な事がまだ無い混ぜの状態で、下手に説明すれば混乱させるかもしれない、と思いまして」
「何も説明されないよりマシだ」
シュンは大きなため息をついて、観念したように口を開いた。
「クリス氏はまだ、あの屋敷にいます」
~つづく~
第43話 クリス・ウォーリーの奇妙な事件(3) 発見です
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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NoxRika
桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べてね」
と家を出て行った。
中学の時に一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だって、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に刻まれた、我が名四文字の美しきかな。
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高い声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかける。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働音だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分を仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙し騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて固まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入って来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ばれて香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「はい」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気を遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを理由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠け���ものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付けられた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その挙動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また優しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「ご飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を委ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女の席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空��た席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ、元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行ってたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生を確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはとっくに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ。
駐輪場でもたもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室さんだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感は、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実も���た、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花ちゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだ��。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは緩んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物の肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら、捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
まりあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインターホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らしても、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じきるか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、不安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあのスマートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違いが一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺して���ろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度���、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつもこんなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように���の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケーだったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟きをBGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よろめきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレーを温めている。
「おかえり、お前の分も温めてるよ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくると、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いたくない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。枕カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達��、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄っぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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はるまち
「ロシア選手権では必ず金メダルを獲るから」 ヴィクトルは勇利の手を握りしめてそう約束した。 「うん、信じてるよ」 勇利はヴィクトルの青い瞳をみつめ、物穏やかにほほえんでうなずいた。 「ヴィクトルが負けるわけないからね」 「勇利の演技も絶対に見るから」 ヴィクトルはさらに誓った。 「俺が目を離していないことを意識して。常に俺が見ていると思いながら演技するんだよ」 「うん……わかった」 「勇利よりも勇利が勝つと信じている」 ヴィクトルは熱心に言った。 「ありがとう。もうロシア大会のときのようなみっともない演技はしないから」 「俺はあの演技も好きだよ」 ヴィクトルは勇利の額におごそかにくちづけた。 「勇利は、いつも俺のこころに訴えかけてきて、激しく揺さぶる」 「じゃあ、ミスなしでそれができるようにするよ」 「ああ……」 ヴィクトルは名残惜しげにじっと勇利をみつめると、ぎゅっと抱きしめて、「……離れたくない」と苦しそうにささやいた。勇利は笑った。 「ぼく、ヴィクトルの復帰、ものすごく喜んでるんだよ」 「すこしはさびしそうにしてくれ」 「貴方の試合、楽しみにしてるから」 「勇利の全日本選手権に付き添いたかった」 「ヴィクトルが……」 勇利はつぶやいた。 「次に会ったとき、金メダルにキスさせてくれたら最高だな……」 ヴィクトルはさっと身体を離し、勇利に情熱的な視線をそそいだ。 「約束する」 勇利はにっこりしてうなずいた。 「勇利もそうさせてくれ」 「わかったよ」 「勇利」 「なに?」 「愛している」 「うん」 「それから……、」 ヴィクトルは目を伏せると、勇利の指輪にこころのこもったくちづけをした。 「離れても、こころはずっとそばにいるから……」 「おかえり。疲れたやろ。ようやったね。えらかったね。おなかはすいとる? 温泉入ってゆっくりしてきんさい」 家に帰りつくと、母親があたたかく迎えてくれた。勇利は微笑し、「ただいま」と挨拶した。 「勇利」 「はい」 「ヴィっちゃんは……?」 「ヴィクトルは……」 勇利はもう一度笑った。 「選手に復帰するから……、ロシアに戻って練習を……」 「でもこっちに帰ってくるとやろ?」 勇利はためらった。彼はうなずこうとしたけれど、自然と言葉がすべり出ていた。 「わからない……」 夕食のあと、荷物も片づけず、勇利はインターネットでニュースを調べた。ヴィクトルの選手復帰は歓迎され、彼は陽気に取材に答えていた。世界が沸き立ち、興奮している様子が伝わってきた。よかった、と勇利は思った。よかった。ヴィクトルのスケートは死ななかった。ヴィクトル・ニキフォロフは生きているのだ……。 勇利はヴィクトルを想った。この八ヶ月間、ぴったりと寄り添って、勇利のことをなにくれとなく気にかけてくれた彼だった。練習だけではない。日常生活でも、ヴィクトルはいつも勇利のそばにいた。勇利が落ちこんでいれば気持ちを引き立てようと遊びに誘い、落ちこんでいなくても、あそこへ行こう、あれをしようと提案した。食事も入浴も一緒で、たわいない話をたくさんした。夜、急に思いついたことがあって勇利が叩き起こしても、ヴィクトルは目をこすりながら起き上がって話を聞いてくれた。明日にしろとか、リンクで聞くよとか、そんなことはひとことも言わなかった。いつも勇利を愛し、いつくしみ、抱きしめてくれた。ヴィクトルはすぐ隣にいた。勇利は望めば彼のところへ行き、彼の姿を見、声を聞き、手を握り合うことができた。 しかし、いま、ヴィクトルの私室は暗闇に沈んでいる。もうあの部屋に、陽気で優しい彼はいないのだ。帰ってくるかもわからない。──帰ってこないだろう。ヴィクトルは勇利のコーチではあるけれど、私生活をともにする時期はもう過ぎた。これまでのように、何をするにも一緒というふうには二度となれないにちがいない。あの貴重で濃密な時間──ふたりだけの世界、互いしか存在しなかった空間は、もう戻ってこないのだ。 そう思うと勇利はたまらなく苦しくなり、両手でおもてを覆って激しく泣き出した。涙がぐっしょりとてのひらを濡らし、嗚咽が止まらなかった。わかっていたことだった。もともと、グランプリファイナルで終わるはずだったのだ。ヴィクトルはここへは帰ってこないだろうと思っていたし、覚悟はできていた。ふたりでスケートを続けられるのだから、いまは、考えていたよりずっとよい具合なのである。しかしそれでも、勇利はやはりつらくてかなしくて、彼はベッドの上でちいさくなり、いつまでもかよわい様子で泣きじゃくっていた。やがて涙は止まり、胸があまりに痛くて泣くこともできなくなり、勇利はぼんやりと放心した。泣き疲れて眠ってしまえればよかったのにと思った。ヴィクトルのことを考えると、こころがずきずきと痛んで、とても眠ることなんてできそうになかった。ふとかたわらにふわふわしたぬくもりがやってきて、勇利は驚き、顔を上げた。マッカチンが心配そうに勇利を見ていた。 「ごめんね、マッカチン。ぼくは大丈夫だよ」 そう言った途端、涙がまた転がり落ちた。 「マッカチンもさびしいのにね。でも安心して。ヴィクトルはマッカチンのことは迎えに来てくれるから」 勇利は手の甲で涙をぬぐった。そのとき、携帯電話がふるえ、ヴィクトルの名前が表示された。勇利は濡れた瞳でしばらくその文字をみつめ、深く呼吸して気持ちを落ち着かせた。声は大丈夫だろうか? 呼吸は? ヴィクトルに心配をかけるわけにはいかない。 「ハロー……」 「勇利? 俺だよ」 ヴィクトルの優しい声が耳元でささやいた。勇利の目から涙があふれた。 「そっちは夜だね。元気かい?」 「……うん、元気だよ」 勇利は嗚咽を抑えて静かに言った。 「ヴィクトルは?」 「勇利に会えなくてたまらなくさびしいよ」 勇利はまぶたを閉じた。 「……みんな歓迎してくれたでしょ?」 「もちろんさ。うれしかった。でも勇利が隣にいればよかったのに」 「無茶言って……」 「一緒に連れて帰って紹介したかったな。この子��俺の生徒ですってね……」 「もうみんな知ってるよ。ロシア大会のフリーでめちゃくちゃな演技をした選手だって」 「ああ、みんな知ってるだろうね。グランプリファイナルで最高のフリーを演じ、俺の記録を抜いた選手だって」 勇利はこらえようとしても勝手にこぼれてくるしずくを、一生懸命に手でこすっていた。声がふるえそうだ。嗚咽も漏れてしまいそう……。我慢しなければ。ああ、せっかくヴィクトルと話しているのに、こんなことを気にして。もっと彼の声をよく聞きたいのに……。 「勇利、さびしいよ」 ヴィクトルがつぶやいた。 「がんばって」 勇利は笑って答えた。 「勇利がいないとだめになっちゃったみたいだ」 「そんなことないよ。気のせいだよ」 「すごく胸が苦しい」 「別れたばかりだからね。すぐに慣れるよ」 「何か楽しいことを思いついても、勇利に話せないのはつらい」 「いま話して」 「すぐに話せないのはつらい」 「電話して」 「食事をしたとき、美味しいねと言えないのはつらい」 「写真に撮って送ってきて」 「俺がおかしなことをしたとき、『ヴィクトル、何やってんの』と叱ってもらえないとさびしい」 「ヤコフコーチが言ってくれるよ」 「綺麗な景色を見たとき……」 ヴィクトルはせつなげにささやいた。 「勇利に見せられないのが、かなしい……」 勇利はうつむいた。嗚咽がこらえられないくらいこみ上げて、息ができなかった。 「……は、離れても、こころはそばにいるよ」 勇利は無理に明るく言った。 「だから大丈夫。平気だよ」 「勇利……、勇利、おまえは強いね」 ヴィクトルは笑い、溜息をついた。 「俺も強いつもりだったんだけどね。自分で自分を強くしてきたつもりだったんだが。でも、本当はよわかったみたいだ。それとも、勇利が俺をよわくしたのかな」 「ヴィクトルは最強の男だよ」 勇利ははっきりと言った。 「いい? 誰にも負けないんだよ、ヴィクトル・ニキフォロフは。絶対王者なんだからね。ぼくは知ってる」 「勇利……」 「明日から練習するの、楽しみでしょ?」 「……ああ」 「新しいスケートができることにわくわくしてるでしょ?」 「そうだね」 「あんな俺やこんな俺を見せてやるぞ! ってたくさん考えてるでしょ?」 「その通りだ」 「ぼくも、どんなヴィクトルが見られるのかなって、いろいろ想像して、期待に胸をふくらませてるよ」 「そうかい?」 「うん」 勇利は新しくこぼれてきた涙をぐいとぬぐった。 「あぁ、新しいヴィクトルの演技が見たいなあ。これまでとはぜんぜんちがう新鮮なヴィクトルが金メダルを獲るところが見たいなあ」 ヴィクトルがくすっと笑った。 「何か提案はないかな? ぼくがどきどきするようなの……」 「勇利」 ヴィクトルは楽しそうに言った。 「演技に関しては、驚かせたいからひみつだけど、これくらいならいいかな。勝ったとき、インタビューで勇利の名を叫ぶよ」 「あははっ」 「キスも贈るよ。ちゃんと見ていて」 「わかったよ」 「勇利もしてね」 「そんな恥ずかしいことはできないよ」 「俺にはさせるのに、自分ではしないのか? 薄情だね……」 「ヴィクトルはいいの」 勇利はほほえんでうつむいた。 「絵になるから……」 「勇利、気持ちが落ち着いたよ。きみは魔法使いだな」 「ヴィクトル、マッカチンは元気だよ。ぼくと一緒にヴィクトルを応援してるって」 「本当かい? 俺のぶんもたくさん撫でておいて」 「わかった」 「勇利」 「なに?」 「愛してるよ……きみもそうだと言ってくれ」 「恥ずかしいよ」 「言って」 「……好きだよヴィクトル。おやすみなさい」 「いまライクって言った?」 「……ラブだよ」 「おやすみ」 勇利はベッドに倒れこみ、まくらに頬を押しつけた。また涙がこぼれてきた。胸が苦しい。ヴィクトル。ヴィクトルの部屋へ行けばいつもみたいに話を聞いて、なぐさめてくれるかな。……ちがう、隣にヴィクトルはいないんだった……。 勇利は目を閉じた。ヴィクトルの声を聞いたからだろうか。このほどは、泣き疲れて眠ることができた。 全日本選手権が終わり、勇利は長谷津へ戻ってきた。今季は��四大陸選手権と世界選手権の代表に選ばれたのでほっとしていた。これから次の試合に向けて練習しなければならない。勇利は連日ひとりでリンクへ通い、稽古をした。上手くいかなかったところ、不得意なところ、工夫すべきところを集中してさらったが、休憩時間になると、ともすればヴィクトルとふたり、ここで過ごしたことが思い出されて、ぼんやりと放心することが多かった。ヴィクトルは長谷津へ戻ってこないし、このリンクにももう来ないだろう。勇利は戸口のほうを見た。いまにもヴィクトルが入ってきて、「じゃあ続きをやろうか!」と元気に言いそうだった。 ヴィクトルから連絡はない。忙しいのだろう。ロシア選手権は終わったけれど、すぐにヨーロッパ選手権があるし、ヴィクトルはブランクを取り戻す必要がある。取材陣も連日つめかけているようだ。とても勇利の相手をしている余裕などない。勇利も、それでいいと思った。声を聞いてもさびしくなるばかりだ。早くひとりに慣れなければならない。 年末が近づき、まわりが慌ただしくなってきた。しかし勇利は自分のやり方で練習を続けるだけだった。朝と夜にはリンクへおもむき、昼間は陸上で体力作りをするか、帰宅して昼寝をするかし、夜の練習のあとには外へ走りに行く。そんな毎日だった。それだけだった。勇利の毎日は……スケートだけだった。 その日も、勇利はいつも通りの予定をこなし、すこしの休憩のあと、基礎訓練のため、外に出ようとしていた。年末年始はリンクはどうなるんだろう、開けてもらえるかな、西郡たちに世話をかけるのは悪いから鍵だけ貸して欲しいんだけどな、などと考えていた。 「わっ!?」 扉をひらいた途端、何かが飛びついてきて勇利は驚いた。ふらつき、後退して尻もちをつく。なんかこの感じはおぼえがあるぞ、と思った。でもマッカチンは一階で寝てたし……。 なつかしい匂いがした。あたたかく抱きしめられる。 「勇利!」 勇利は目をみひらいた。ヴィクトルが青い瞳を輝かせ、うれしそうに勇利を見ていた。 「やっと帰ってこられた! もう忙しくてさんざんだったよ! でも年越しは勇利と一緒にするぞ!」 勇利はぱちぱちと瞬いた。状況がよくわからない。 「……ヴィクトル?」 「そうだよ」 「……ほんとにヴィクトル?」 「そうだとも」 勇利はきょとんとした。 「なんでいるの?」 「せっかく帰ってきたのに勇利はつめたいな!」 ヴィクトルが憤慨して抗議した。 「もっと言うことがあるんじゃないのか? 会えてうれしいとか、さびしかったとか、ロシア選手権金メダルおめでとうとか、ぼくも金メダルだったんだよとか、会えてうれしいとか、会えてうれしいとか、さびしかったとか、さびしかったとか、愛してるよとか、……愛してるよとか」 「なに言ってるの?」 「勇利がつめたい!」 ヴィクトルは重ねて言っておおげさに嘆いた。 「わかってたさ。勇利はそういう子だ。知ってる」 「あの……、年が明けるまでここにいるの?」 「そうだよ! 何か問題でもあるのか!?」 「いや、ないけど……、お母さんに伝えてこなくちゃ」 勇利は立ち上がり、奥へ行って、「お母さん、ヴィクトル帰ってきたよ」と報告した。 「ヴィクトル、長旅で疲れただろ。温泉入ってゆっくりしててよ」 「ああ、そうしたいな。勇利は?」 「ぼくこれから基礎訓練だから。行ってくるね」 「え!?」 「マッカチン、ヴィクトルのこと待ってたと思うから、撫でてあげて」 「ちょっと勇利」 「じゃあ」 「うそだろう? 本当に行くのか!?」 勇利は城を目指して走った。いつもの練習内容を、丁寧に、ひとつひとつこなしていく。淡々と行動した。汗が流れてきたら拭いて、水分補給をして、無心に動いた。あまりものは考えなかった。ほとんど機械のようだった。日が傾き、あたりがほの暗くなり、月と星があらわれても、同じことをしていた。すべてをやり終え、帰るころになって、ふと夜空を見上げた。きらきらと輝く星をみつめ、息を吐いた。 ……ヴィクトルが家にいる。 帰宅すると、ヴィクトルが常連の客につかまり、一緒に楽しく食事をしていた。勇利はそれを横目で見ながら温泉に入り、夕食を摂った。ヴィクトルはいつの間にかマッカチンを抱きしめて眠りこんでいた。ロシアで忙しく立ち働き、旅で疲れ、いろいろと話し相手をさせられてぐったりしたのだろう。勇利はほほえみ、毛布をかけてやると、バックパックを背負って玄関へ向かった。 「練習?」 「うん。リンクいってきます」 「気をつけなさいよ」 姉に手を上げ、外へ出た。リンクまで走っていって、いつも通りの練習をした。帰ったのは零時近くで、勇利はまず風呂に入った。温泉ではなく、自宅の風呂である。手早く済ませ、さっさと寝よう、と廊下を歩いていたら、ふと、居間の襖の隙間からひかりが漏れているのに気がついた。誰か起きてるのかな? 勇利は気になり、そっとのぞいてみた。彼は目をみひらいた。 「ヴィクトル」 ヴィクトルが、何かよくわからない深夜の番組を見ていた。勇利は驚いて部屋に入った。 「何してるの?」 「…………」 「寝ないの? いっぱい寝たから眠れない?」 「…………」 「マッカチンは? ぼくの部屋? ここんとこ、ずっとぼくと一緒にいたから……」 「…………」 「ヴィクトル、どうしたの? 何かあったの?」 ヴィクトルがゆっくりと振り返った。彼は勇利をにらみつけ、腹立たしげに言った。 「勇利、なんでそんなに普通なんだ?」 「え?」 「ようやく会えたんだよ。俺はずっと勇利に会いたかった。勇利のことを考えない日はなかった」 「…………」 「勇利はそうじゃないのか? どうして平然としてる?」 「…………」 「当たり前みたいな顔で練習に行ったりして」 「稽古は大事だから……」 「それはそうだ。でも、すこしくらい喜んでくれてもいいだろう? まるで俺なんか、いてもいなくてもどうでもいいみたいだ」 「……そんなことはないよ」 「俺は飛行機の中で、勇利を抱きしめることばっかり考えてたんだ。勇利はどんな顔をするかな、笑ってくれるかな、連絡くらいしてって怒るかな。……いろんなことを想像していた」 「…………」 「でも当の勇利は、まるで昨日も会ったみたいに、すっきりした顔をしている。愛しているのは俺だけなのか?」 「…………」 「……もういい」 ヴィクトルは立ち上がると、テレビを消して廊下へ出た。勇利はあとについていった。ヴィクトルが息をついた。 「……勇利を責めることじゃないのはわかっている。俺が勝手に好きだと言ってるだけなんだから」 「…………」 「でも……、ちょっとくらい……」 ヴィクトルはゆっくりと階段を上った。勇利はうつむきがちになりながらあとに続いた。 「……部屋はあのままなのかな?」 「え?」 「玄関に荷物を置きっぱなしだ。まだ俺の部屋に入っていない。使えるんだろうか」 「大丈夫だと思うよ。お母さんがふとんの手入れをしてたし、掃除もやってたみたいだから」 「みたい?」 階段を上りきった。ヴィクトルが不思議そうに振り返る。 「勇利は見ていないのか?」 「うん、見て��いよ」 「なぜ?」 「なぜって、ヴィクトルの部屋に用事ないし、勝手に入るのも悪いし……」 「マッカチンが入りたがるだろう?」 「寝るときはずっとぼくの部屋にいたから。ヴィクトルの部屋、締めきってたし。昼間はお母さんが風を入れてただろうけど」 「どうして?」 「え?」 「なんでそんなに俺の部屋をいやがる? なぜ避けるんだ?」 「…………」 「勇利、きみは……」 ヴィクトルがつぶやくように言った。 「部屋を見るのもいやなくらい……俺のことを、嫌って──」 彼は言葉を切った。空に浮かんでいるほの白い月を、厚い雲が覆い隠した。そのため、廊下が一瞬、暗闇に沈んだ。しかし風が強いのか、すぐに雲は吹き払われ、月明かりで、ヴィクトルの端正な面立ちがあらわになった。そのうつくしい、上品な顔をみつめたいのに、勇利にはよく見えなかった。視界がかすみ、みるみるうちに目に涙が溜まって、頬にこぼれ落ちた。 「勇利……」 「ごめん、入れなかったんだ」 勇利の声が苦しそうにつまった。 「見たくなかったんだ。ヴィクトルのいない部屋なんて」 「…………」 「目にしたら、ヴィクトルがいないことを思い知らされるから」 ヴィクトルがわずかに口をひらいた。 「いやだったんだ。ヴィクトルが帰ってこないことを考えるのは」 「勇利……」 「ヴィクトルはもうここにはいないんだって、それしか頭になくて……、だから今日、会うことができても、なんだか信じられなくて、ヴィクトルに近づくと泣いてしまいそうで、どうしたらいいかわからなかった」 勇利はくちびるをふるわせてほほえんだ。 「結局泣いちゃった」 それだけ言うと、勇利は我慢できず、嗚咽を激しく漏らし始めた。涙が廊下に落ちるので、手で子どものようにぬぐった。抑えられなくて、幾度もしゃくり上げた。泣きじゃくっていたら、ふいにヴィクトルが勇利の肩を引き寄せ、部屋の障子を開けた。 「一緒に入ろう」 ヴィクトルは優しく言った。 「俺はここにちゃんといるから」 歩けたのかどうかわからない。前が見えない。背後で障子の閉まる音がした。 「ひとりじゃないよ」 ヴィクトルがささやいた。 「俺も勇利も、離れててもこころはそばにいると言ったのに……」 眼鏡を外される。ヴィクトルが勇利の頬を両手で包み、顔を上げさせた。 「仕方のない子だな……」 勇利は泣き濡れたおもてをヴィクトルに向けた。 「みっともないから、見ないで」 「かわいい」 ヴィクトルが甘くつぶやき、まぶたを閉じて、くちびるを勇利の鼻先にふれさせた。彼は勇利をベッドに横たえ、服を脱がせて裸にした。 「勇利、愛してる」 「うん」 「俺は帰ってくるよ。勇利のところへ」 勇利は泣きながらヴィクトルにしがみついた。 「信じるかい?」 「……うん」 「本当かな」 ヴィクトルがほほえんだ。彼はみずからも服を脱ぎ捨て、勇利に身体を重ねてきつく抱きしめた。苦しいくらいに……。 「いまから時間をかけて約束しよう」 早朝に目がさめた。まだ部屋は暗く、空気がひどく冷えていた。勇利は甘えるようにヴィクトルにすり寄った。 「起きたのかい?」 「ん……」 「まだ寝てていいよ。あまり眠れてないだろう」 「喉渇いた……」 「待って」 ヴィクトルはまくらべのあかりをともすと、ペットボトルを取り、それを口移しでじょうずに勇利に飲ませた。 「どうだい?」 「美味しい……」 「よかった」 「どうしたの、これ……」 「勇利が寝てから、タオルを濡らしてくるついでに持ってきた」 勇利はまだ裸身のままだけれど、身体は綺麗にぬぐわれ、清潔になっていた。勇利は黙ってヴィクトルに抱きついた。 「ひとりにしてごめん。でもすこしのあいだだけだよ。勇利の身体を拭いてあげたかったからね」 「うん……」 「もう離れない。大丈夫だ」 「……ん」 勇利はヴィクトルの腕につむりをあずけ、彼の肩のあたりに顔をうめてうとうとした。 「勇利……」 「ん……なに……?」 「俺はヨーロッパ選手権の前にはまたあっちへ行くけど……」 「……うん」 「ここで寝なよ」 「え?」 勇利は顔を上げた。ヴィクトルが優しく笑っていた。 「マッカチンと一緒にここで寝なよ」 「でも……」 「大丈夫だよ。俺がいなくても、俺の匂いがすればさびしくない。勇利は俺の匂いが大好きじゃないか。それに、出発するまでにここでたくさん勇利を愛するから」 「……そんな思い出があったら、ますますさびしくなるよ」 「さびしくなったときは電話してくれればいい」 「電話したらもっとさびしくなるかも」 「……そのときは」 ヴィクトルは声をひそめ、情熱的に、つやっぽくささやいた。 「テレフォンセックスしよう」 「えっ」 「離れててもこころはそばにいるし、離れてても俺は勇利をかわいがってあげられるよ」 ヴィクトルがいたずらめいた微笑を浮かべた。 「だからここで寝なよ」 勇利はまっかになった。ヴィクトルが陽気に笑った。 「そして春になったら……」 ヴィクトルは夢見るような瞳をして、勇利をいとおしそうにみつめた。 「ロシアで一緒に暮らそう」 勇利は目をみひらいた。 「たまには長谷津にも帰ってこよう」 「…………」 「いつか、また長谷津をホームにしてもいいし」 「…………」 「ふたりとも引退したら、ロシアでも、日本でも、そのほかの国でも、どこでもいい……勇利の好きなところへ行こう」 「…………」 「どこへでも連れていってあげるよ」 「…………」 「ね? どうだい?」 「…………」 「いいだろ? オーケィと言ってくれ」 ヴィクトルは目をほそめて幸福そうにほほえむと、勇利の手を握り、指輪にそっとくちづけた。 「誓うよ、この指輪に。愛する俺の勇利……」 ヨーロッパ選手権の直前まで、勇利はヴィクトルと楽しく過ごした。ともにリンクへ行き、長谷津城に通って体力作りをし、一緒に温泉に入り、マッカチンと眠り、時にはふたりで熱をわけあった。とてもすてきで、充実した日々だった。ヴィクトルは空港で別れるとき、片目を閉じ、「ちゃんと俺の部屋で寝るように」とひとさし指を立てて指導した。 「ひとりでえっちなことしちゃだめだからね。するときは俺に電話するんだよ」 「ねえ、そんなことよりさ」 「あのね……そんなことよりって……」 「あの話だけど」 「なに?」 「ヴィクトルが初めて抱いてくれたときにぼくにした話」 勇利は声をひそめ、ヴィクトルの耳元に口を近づけてささやいた。 「あれ、オーケィだよ……」 保留にしていた返事を、頬を赤くしてはにかみながらようやく返すと、ヴィクトルはぱちりと瞬き、ぱっと顔を輝かせ、おおげさなくらいはしゃいで勇利を抱きしめた。そして乱暴に髪を撫でてくちびるにキスした。勇利は笑ってヴィクトルにくっついた。 「まったく、俺をこんなに待たせるのは、アエロフロートと勇利くらいだよ!」
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中国で千年村をみつける
2019年中国雲南省調査
9/15-23に中国に調査旅行へ行ってきました。調査は雲南大学との共同で行われました。雲南大学との調査は今年で2年目です。今年は中谷先生を含め4名(中谷、余、蔡、齋藤)が参加しました。雲南省昆明の周辺で詳細な調査を行った3つの村落を含め、7つの村落を訪問しました。 昆明は雲南省の中心都市であり、滇池という大きな湖がつくる平野部分に立地しています。昆明の都市を中心にこの平野部(滇池バーツ*)では大規模な都市開発が現在でもすごい勢いで進められています。今回の調査では都市部の周縁や周辺部の地域で古くから持続していそうな村を調査しました。 *雲南省の総面積の9割以上が山地であり、残りの山間部や川沿いの平地は「バーツ」と呼ばれています。
本日は、研究室を卒業してから現在は行方市で地域おこし協力隊として活動している松木直人さんをお迎えして、調査内容を振り返りました。我々が調査で撮った写真を机の上に並べ、その中から松木さんに興味を持ったものを選んでいただき、そこから話を進めていきました。話題は調査で発見したことから始まり、中国と日本の村落の比較、さらには地域を研究する意義とは何か、というテーマにまで発展しました。ここではその様子を対談形式でお伝えします。
雲南での千年村調査とは
蔡(M2)、以下蔡)本日はよろしくお願いします。まずは今回の雲南調査についての概要を簡単に説明いたします。調査対象は雲南省の中心都市昆明というところで、滇池という大きな湖を持っています。 松木さん、以下松木)昆明には空港がありますよね。インド行くときなど乗り換えで使ったことが何回もあります。 齋藤(M1)、以下齋藤)雲南省は西南シルクロードと言われるようなルートが通っていたと言われ、昔から中国と東南アジアやインドへの交通の要衝でした。今でも空路を含め、交通的には重要な場所であるということですね。 蔡)調査目的の重要な一つとしては日本の千年村的手法が中国でも実現可能かどうかを試すことです。今回は滇池東側の呈貢区について古い文献からプロットしました。そして、水系図、地質図などを参照しながら、山、丘、低地という立地の幾つかの調査対象村落を選定しました。松木さん、まずはこのなかの写真から選んでいただき、自由な感想をください。
観光化が進む城子村
雲南省紅河州瀘西県永宁郷城子村
松木)この村は山を切り開いてつくっていますね。村の前の湿地帯の左側では稲作をやってますが、右側は庭園のようなになっておりまるでモンサンミッシェルのようです。なんでこんな状況が生まれたんでしょう。 蔡)この村は城子村という村です。昆明から車で3時間ほど離れた立地で、今回の調査の中では、先ほど述べた調査目的からは性格が違うものです。 齋藤)まず、湿地帯についてですが、かつてはすべて田んぼでした。庭園はなぜ造られたのかというと、この村はもともとはイ族という民族によってつくられた村でしたが、現在は政府による観光地化が進められています。それによって田んぼから庭園に変えられてしまいました。 蔡)つい10年ほど前は田んぼだったようです。 松木)観光地化によってどのような人が来るのでしょうか。 蔡)まだ計画中で完全にパブリックにはなっていません。家もボロボロの状態のものがあるので整備が必要で、リノベーションしてイ族文化体験施設や宿泊所にしようとしています。もとの住人たちは外に追い出されてしまうこともあるようです。 齋藤)建物のでき方はおもしろいです。屋根は陸屋根であり土で固められています。屋根にはパラペットのような仕組みがありました。ちょうど調査の終わりかけたときに雨が降り始めて、雨が日干し煉瓦の壁に直接当たらないようにする工夫も見ることができました。 蔡)観光化されたら、行ってみたいですか? 松木)はい。この写真みたいに家畜がいる風景がドラマチックですね。
齋藤)調査中、斜面のトウモロコシ畑を登っていると、急に奥からロバが現れびっくりしました。今でも斜面に入っていくにはロバなど家畜の力が必要です。 蔡)このあたりの田んぼの土は固いものであったこともあり、耕作のための牛の働きも重要でした。 松木)機械化以前の世界では家畜の力を借りる必要がありますね。 齋藤)集落の中の道も狭いため車は入れません。荷台付きの二輪車でも切り返しができるポイントがないためか後ろ向きでギリギリ走っていくところを目撃しました。超絶テクニックがないと二輪者でも厳しいのです。 蔡)観光価値はあるが交通が不便な所にあるため、観光客は行きにくい状況にあります。 松木)観光化についてどう捉えるかですが、この場所で稲作の必要性が薄れているとしたら、昔のような生活の様式を維持していくのは難しいでしょう。建物を中心として考えるなら観光化はひとつの道というようにもいえます。大きな経済原理の中で考えると自然なこととかもしれません。
移住するのか?江尾村
雲南省呈貢区斗南街道江尾村
蔡)つづいてはこの写真ですね。 松木)不思議な集まりの様子ですね。青い布を頭に巻いていますね。 蔡)これは昔ながらの風俗です。今でもおばあちゃんたちは布を頭に着けています。この村は滇池のすぐ近く��ある江尾村という村です。昔は漁業が盛んだったり、滇池の西側と交易するなど水運が栄えていました。ちなみに西側からは石が運ばれていました。 松木)このお年寄りたちはなぜ集まっているのでしょうか。 蔡)若者が少ないこの村は、やはり残っている人たちが寂しいのではないでしょうか。実は、この村は政府が滇池をまもるために、近年から近くに30階くらいの高層マンションを建てて住民を移住させる計画があります。高層マンションだとそこから農業を行うのは難しくなってしまう。高齢者たちにとっても外に出ることが大変不便になるでしょう。そうすれば、写真のような楽しい集まりも見えなくなってしまうかもしれませんね。また、残った空き家はどういう風に扱われるでしょうか。実は城子村ほどの独特と言えないですが、この村の古い住宅も面白かったですね。 齋藤)はい。日干しレンガの中に貝殻が含まれている壁を見つけました。原料となった泥に貝殻が含まれていたのです。新石器時代の地図を見ると、滇池の水岸線は全体的に現在よりも高い位置にありますが、この村があると思われる場所は湖にはりだす岬のような地形に立地していました。この時代に住んでいた人が貝を捨てでできた貝塚が、後の時代の人によって建築材料の原料の採取地として発見されたのだと考えられます。
松木)貝が含まれていると頑丈になるんでしょうか? 齋藤)その土地のそこにあった土にたまたま貝が含まれていただけかもしれません。そこに積極的な意味があったかどうかはわかりません。 蔡)住人は貝が含まれている方が頑丈なのではないかと言っていましたよ。 松木)私もヴァナキュラーな知恵があるのだと思います。ケヴィン・リンチ『廃棄の文化誌』という本で、巨大な貝塚が時を経て発見され、それが石灰の原料の採掘所として有効に使われたという例が紹介されてます。昔の人が廃棄物として集めたものが後の時代の人にとっては恩恵になったという例です。この村ではそのような資源性を発見し、選択的に貝を含んだものを選んだ可能性も充分に考えられるでしょう。
ここは譲れない!斗南村
雲南省呈貢区斗南街道斗南村
蔡)開発と移住の話が出て来ましたので、江尾村と同様の立地の村落であるにも関わらず、違う道を歩いている斗南村もぜひ合わせて紹介したいと思います。江尾村は古い建物が残っているのに対して、斗南村は比較的新しい5階建て程度の建物が並んでいます。すぐ近くには高層ビルが建てられています。この村はすぐ周りが都市化されているのにも関わらず、ここはなぜ高層ビルが建てられないでいるのでしょうか。 松木)地域のコミュニティが強いからでしょうか? 齋藤)その通りだと思います。実はこの村落は我々がこの調査で最初に訪れた場所でした。村落というイメージからすると、新しい建物に変わってしまっているイメージを最初は持ちましたが、ある様子を見てそのイメージが変わりました。この建物は集会所のように使われているのですが、そこで結婚式をやっていました。結婚式ではほぼ村民全員を呼んで、食事をふるまっています。どういう流れか、我々もそこで食事を御馳走になることになりました。建物に入ってみるとその奥には多くの人が食事を楽しんでおり、ものすごい活気でした。これが村の建物の様子は変わっても、コミュニティはしっかりと維持されていると感じた理由です。
蔡)住人のコミュニティが強く地域経営がしっかりと維持されています。 松木)若い人が多いですね。この建物群が出来たくらいに育った世代なのではないでしょうか。日本でも団地が出来て住み始めた最初の世代は境遇が似ているので、つながりが強いというようなことがあったようです。ここでもそのような同時に住み始めたことによる強いつながりがあるかもしれませんね。 蔡)現在の問題で考えると、高層ビルでもこのコミュニティの強さは生まれるかということですね。中国ではこれからは高層ビルが日常になるという考えを持っている人は多いです。近年中国の建築家はこのなかでどのようにコミュニティができるかを考えている人が多いです。また、この村では周辺の土地は買収されてしまったのにも関わらず、他の県の土地を借りて花の栽培が続けられおり、家の一階ではパッケージが行われたりしています。やはり生業が続けられているということが重要だと思います。
復活の刘家营村
雲南省呈貢区吴家営街道刘家营村
蔡)続いては刘家营村ですね。刘家营は昆明の平野部から少し入り込んだ山間部の斜面に立地する村です。すぐ上流側にはダムがあります。実はかつての村は1950年代に建設されたダムの底に沈んでしまっていたのです。ダムに沈没後、各地に移動していた住人たちがやはり昔の集まりを懐かしんで、政府に願望を出しました。政府もちゃんと願望に応えたので、今の村は政府主導の下に、呈貢区の多数の村落の村民たちの協働によって、1960年代に計画的につくられた村落だったのです。 齋藤)確かに新しくつくられた村であるためか、山の中腹というちょっと不自然な立地に在りますよね。このような立地なので大きな開発はできないでしょう。また都市に近いので都市まで通勤することもできます。またその土地での生業としては観賞用の葉っぱが栽培されています。 蔡)8割の人が外へ通勤し、2割の人がこの土地での農業をやっています。夜になると、外で働いている方もちゃんと戻るため、この村は割と元気な感じがしますね。 齋藤)都市との距離という視点が重要ですね。 松木)多数の村落の村民たちの協働によってできたというのが面白いですね。写真ですと際立った特徴はわかりませんが、経済的安定がそれとなく感じられます。世代が降れば山を降りていくのか、都市化して広がっていくのか、これからの動きが気になりますね。
浙江省の高地の村落
浙江省金華市磐安県烏石村・横路村ほか
松木)次に、この別荘が気になりました。 蔡)実は、ここは雲南省ではないですね。おまけとして紹介いたします。 齋藤)我々は雲南をあとにし、上海を経由し、杭州から車で3時間の、浙江省の山奥の地域に向かいました。 蔡)ここは、農村のなかの高級別荘です。ディベロッパーは周りの伝統的な村を修復し、そこを観光価値として高めるだけでなく、その近くに別荘を建てて売るというように、これらを全体的にひとつのブランドとして計画しようとしています。 松木)集落を含めたブランディングというのが日本と大きく異なっており、面白いですね。住んでる側はたまったもんじゃないですが、地域に根付いた暮らしの形をフィクションとしてしか生き残らないものとして受け止め、残す方向を探るというのはとても現代的な価値観な気がします。
蔡)石でできた街並みの村を2つ訪問しました。ここは海でとれた塩を運ぶための道があり、そのために栄えた村落です。 齋藤)黒くて重たい石がびっしりと積まれている風景が印象的でした。石の家のでき方が気になりました。複数の家がまとまって一つの建物にアパートのように集住しています。通りに面する面は石積みの壁ですが、家の内部側は木造がむき出しになっています。なぜこのような形態になったのでしょうか。まず、通りに側のみを石の壁にしているのは防御のためだと考えられます。ひとつなぎにすることで石を積む作業が省略できますし、防御性も上がると思います。 松木)石の積み方に順番があるのがわかりますね。意匠性の高い積み方をしている部分と、無造作に積まれている部分などがあって面白いですね。崩れたりして増築したりした跡が見えます。
さいごに
蔡)この調査では色々な村の住まい方を見ることができました。建物が新しく変わっても、昔ながらの生活を維持しているところもありますし、古い建物を残すために生活様式を維持するのが難しい例などありました。
松木)生活の様式とその土地から生まれている状態は美しく感動的ですが、それがずれていっている。しかし、それがずれていった状態も積極的に捉えて、元地域の住民と外部の人間が共有される価値として定着していく��いいです
一同)ありがとうございました!
2019.10.11 at中谷研究室
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20191019
雑記(ウーパールーパー等、家の話)。
ジョゼ太郎。42日経過して9.5cm。ほとんど泳が��くなった。立派なフサフサにするために換水頻度を上げている。そろそろ隔離ケースが狭くなってきた。
来た時は4.5cmだったので5cmでかくなった。
ヒドジョウ。名前はみかん。
パキポディウムのエブレネウムは子葉、第一葉と展開して第二葉が生え始めた。最初に播いて残った一粒種は2ヶ月経っても本葉が生えずこの後腐ってしまった。追加で播いたドイツ種子は32粒中26粒発芽。輸入種子は敬遠すべきという情報ばかりだったが、道を知っていることと実際に歩くことは違う、とモーフィアスがネオに言った通りでありました。
新袖。継ぎの台木用に買ったけど色々教えてもらった結果柱サボテンに興味が湧き正木で育てることにした。袖ヶ浦という継ぎ木用のサボテンは広く愛好されているにも関わらず原種が謎なのだという。棘の形がデフォルメされているみたいで面白いと思う。
サボテンの芽の横にきのこ生えてた。
狼関連���本を読む。民俗学、信仰、オカルト、生物学など色んな角度から眺める。軸が一つ決まると体系的に読めるので良い。オセロの角取った感じ。
台北ストーリー、ゼログラビティをツタヤで借りて見た。
https://www.youtube.com/watch?v=IX0vZK_l7tU
台北ストーリーはこの↑Vansireの曲の動画を見て気になって見たのだが、80年代や90年代のイメージと違って昭和30〜40年代の日本みたいな暗さだった。
最近祝詞を一文暗記したが、詩吟みたいに節をそれっぽく付けて読むのは面白いのだが漢文調の方が快感があって、蛇腹の経典を買って開経偈から懺悔文と一から暗記し始めた。一応以前覚えた般若心経の倍の観音経を暗記する予定であります。何の為に?と自分でも思うのだがよくわからない。
アイデンティティが一度崩れてから新しく身に付けたものは血肉化し始めたとしても異物感をどっかに残していてそれを意識しているのが変な感じで面白い。
祝詞を完全に暗記完了した日がたまたま台風直撃の日とシンクロして神妙な気分で過ごした。以前登った甲武信ヶ岳は荒川、千曲川(信濃川)、笛吹川(釜無川と合流し富士川)の源流となっており奥秩父に振り注いだ雨が今回の台風で多くの被害をもたらした。こないだ書いた二瀬ダムの放水や昔住んでた下宿のすぐ横にあった日野橋が陥没したニュースを見て気持ちがざわざわした。
話は変わって、身内の話。
死んだ母方の婆さんは、平家の隠れ里というようなどこの土地にもあるどちらかというと少々バイアスのかかった目で見られる土地(当時)の出自なのだが、最近その本家の母の従兄弟が家系図を辿って岐阜の土岐市まで行って親戚に話を聞いたら、「妻木」という明智光秀の正室(細川ガラシャの母)の家筋だったことがわかったという。明治期に山梨に移住し堀内姓に改名したらしいのだが貧しい土地に他所から来て「堀の内」と元来の出自を誇示したかったのかもしれない。夭逝した曾祖父が近衛兵だったという話は案外大法螺でも無いのかも知れないが母親が毎回親戚に聞き忘れてしまう。そういやこち亀の初代担当編集で集英社の社長の堀内丸恵はこの地域���身だと新聞で見た。
爺さんは庄屋筋の家で��婚する時に婆さんの出自が貧乏だからとひい爺さんだかが軍刀持って追っかけるぐらいの大反対にあい駆け落ちして四国で反物の行商していたらしい。(婆さんの姉たちが織った絹織物を内緒で送りそれを売って歩いたという。)婆さんは織物や料理のセンス、商才はあったが因業の人で(湯婆婆をイメージして欲しい。)一代で旅館を大繁盛させ「〜のイメルダ夫人」などと嘲りと畏怖を込めて呼ばれたが、結局一代で取り潰してしまった。
母親は婆さんから政略結婚のように勝手に嫁ぎ先を決められていたため大学を辞め京都でヒッピーまがいの生活をしていたがロック喫茶で働いていた親父と出会ったという。
因果は巡るもので自分の両親が結婚する際、婆さんは京都から来たどこの馬の骨ともわからん私の父との結婚をかつて自らがされたように大反対したが、父親の家筋がどうやら良いことを知りくるりと手のひらを返したらしい。
父方は島根の戦国大名尼子氏に仕えた宇山久兼という家老職の人物が先祖で、その久兼は尼子家存亡をかけた毛利元就との篭城戦となった月山富田城の戦いで兵糧攻めに遭い主君尼子義久を励まし私財を投げ打ち尽力したにもかかわらず味方の讒言に依り謀反の疑いを掛けられて誅殺された悲運の武将と云われる。この城内の混乱によって尼子側は総崩れになり結果尼子氏は滅亡した。これを知ってから八つ墓村に出てくる尼子の八人の落ち武者の無念も祟りももはや他人事とは思えない。
祖父は元は宇山姓で祖母の鳥取の湯淺家に婿入りするが祖母も元は島根の多胡家から親戚筋の湯淺家に養女に貰われているので少し込み入っている。多胡という家も尼子に関係しているらしい。
直接の血のつながりはないものの湯淺の曾祖父の亀二郎は大戦前に華道の師範としてシアトルに移住したが嫁さんが同判を拒否したためお妾さんを連れていったらしい。その後日系人強制収容所で病死して荷物だけ帰ってきたという。
ずっと父方は鳥取の米子がルーツだと思っていたが出雲だと分かった時、自分にまとわりつく死の影や陰の気は、出雲という幽 (かくり)の土地由来のものだと妙に納得した。
聞いたことを思い出しながらだらだら書いてたらしょぼいファミリーヒストリーみたいな日記になったが、親戚が家柄を今頃知って大見得を切り出すのも、私がこんなとこにわざわざこれ見よがしに書くのも傍流もいいとこの所業だろうとは思う。既にもう母親は日本三代美女の血が入っているだのとやけに誇らしげにしている。
親世代がいつかいなくなったら、かろうじて知っているのは私だけという状況がやってくるのを非常に心細く感じる。だからこうして記すのかもしれない。
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【 i r o r i 】 . 2022.3.20(sun)で 現店舗をクローズし . 2022.4〜5月に 縮小移転し 奥さんと2人で 新しいお店をする事になりました . 僕らの新しいチャレンジ よろしくお願いします。 . . #出雲 #出雲美容室 #雲南市美容室 #島根美容室 #松江美容室 #大田市美容室 #江津美容室 #バーバースタイル #出雲バーバー #島根barber #mens #mens #barberstyle #irori #フェードカット #フェード #fade #fadecut #menshair #mensstyle #出雲市 #島根県 #出雲理容室 #vlogger #メンズヘア #メンズファッション #mensfashion #メンズコーデ #メンズカット #囲炉裏整髪堂 #videographer (irori) https://www.instagram.com/p/CWtyVSEhhan/?utm_medium=tumblr
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