#人間こんなに一日中汗をかけるものなのかというほど汗をかき続けていたら、くっきりと塩が浮いていた
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妻を殺害した疑いがかけられている元長野県議会議員の丸山大輔被告(50)の初公判が10月16日に行われた。裁判の冒頭、丸山被告は「妻を殺害したのは私ではありません」と容疑を否認し、妻の実家への借金などを理由に殺害したという検察の主張と真っ向から対立している。 真相究明の一助となるため、丸山被告の人��や経歴、夫婦関係について追った当時の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」2022年12月15日号。年齢、肩書等は当時のまま) ◇◇◇ 「地元のために汗を流します。貢献したいんです」 2022年10月22日、長野県塩尻市の会館には300人を超える後援者が一堂に会していた。この日行われたのは、来年の統一地方選の決起集会。地元選出の後藤茂之経済再生担当相や百瀬敬塩尻市長が控える中、自民党の丸山大輔長野県議(48)はマイクを握り、飄々とした表情で挨拶をした。 だが、約1カ月後の11月28日、丸山は妻・希美さん(享年47)に対する殺人容疑で逮捕されたのだ。 「昨年9月29日の未明から早朝にかけ、塩尻市の自宅兼事務所で希美さんを窒息死させた疑いが持たれている。希美さんの首には絞められた跡や抵抗した際に付いたと見られるすり傷があり、喉の骨の一部が折れていた」(社会部記者) 事件前日の晩、丸山は同僚議員と飲食し、「その後は長野市の議員会館にいた」と全面否認を続けている。 県議の傍ら、約140年続く酒造会社「笑亀(しょうき)酒造」の四代目当主を兼務していた丸山だが、自らが杜氏となって世に出した酒は「深みがなく、まるで水のように軽かった」(同業他社)と酷評されている。周辺取材で浮かび上がったのは、まさに「笑亀」のような半生だった――。 地元の名門校から一浪して慶応大へ 1974年、丸山は塩尻市内で2人きょうだいの長男として生まれた。中学時代の同級生が振り返る。 「中学時代は吹奏楽でチューバを演奏していた。言われたことをちゃんとこなすタイプで、リーダーシップをとる感じではなかった」 中学卒業後、丸山は地元一の名門校である県立松本深志高校に進学。 「D(丸山のあだ名)はチャラくて陽気な男で、高2の頃には美人の同級生と付き合っていた」(高校の同級生) 「あの同窓生と1回だけヤッた」 一浪を経て、慶応大学経済学部に合格。すると、次第に“欲望の刃”を周囲に向けるようになる��� 松本市内の宴会場で催された高校の同窓会に参加した丸山は、勢い良く酒を呷ると、同級生の女性に“性的サービス”を要求。その場には白けた空気が漂った。 「彼は友人に『あの同窓生と1回だけヤッた』と吹聴するなど、異性関係をひけらかすようになっていきました。当時、父親が東京の信濃町にマンションを持っており、そこで1人暮らしをしていましたね」(友人) 大学卒業後、丸山は公認会計士を目指す。ところが、2002年に父が事務所内で倒れ、急逝。丸山は27歳で家業を継ぐことを決意し、帰郷する。杜氏の修業を積む一方、塩尻青年会議所に積極的に出入りし、理事長を務めた。 「父親の死後、昔からの杜氏が辞めてしまった。丸山は杜氏の真似事をして奮闘していたが、所詮は素人。濁ってるし、腐ってるしで飲めたもんじゃなく、得意先の飲食店はどぶに流して捨てていたほど」(後援者) 教育熱心だった希美さん そんな苦境を陰で支えたのが、糟糠の妻だった。 1974年、希美さんは400年以上続く木曽漆器で知られる町に生まれた。実家は約100店舗ある木曽漆器店のうち3本の指に入る名店。都内の大学を卒業した彼女は一時、実家で経理業務を担当していたという。 「希美さんと丸山は青年会議所を通じて知り合い、意気投合。結婚後に2人の子宝に恵まれた。長男が産まれたとき、旦那さんは酒蔵にちなんだ名前をつけて、『この名前、どうですかね』と嬉しそうに話していました」(希美さんの知人) 一方、琴を嗜む希美さんは長男にピアノやサッカーを習わせ、教育熱心な母の顔を周囲に見せていた。 「酒屋では食えない」と政治の道へ だが、家業は茨の道が続いた。夫婦の奮闘虚しく酒造りは軌道に乗らず、丸山は「酒屋では食えない」と周囲に吐露。別の道を模索して地元企業グループの御曹司だった高校の同級生に相談したところ、政治への道が拓けたのだ。 当時の市長の全面支援を得た丸山は、2015年の統一地方選でトップ当選。晴れて県議としての人生をスタートさせた。ところが――。 松本城を望むホテルに約60人のメンバーが集まったのは、2018年1月のこと。同窓会が催されたその日、会場を見渡した丸山は「今日は随分少ないじゃねえか」と悪態をついた。学校関係者が振り返る。 「丸山は自分が話したい女性と話すために『どけ!』という態度で周りの同級生を恫喝し、割って入ったりしていた。泥酔し、終始ぞんざいな態度でしたね」 表に出始めた“卑猥”な性癖 地元有力者に担がれているという慢心と共に表に出始めたのが“卑猥”な性癖だった。2020年1月15日深夜、丸山の姿は塩尻市内のバーにあった。ウルフルズの曲「ええねん」がかかると、おもむろにマイクを握り、替え歌を披露する。 「ちんこ出したらええねん~♪」 同店関係者が明かす。 「その日は青年会議所OBの飲み会でした。近藤真彦の『ギンギラギンにさりげなく』の替え歌で『ギンギラギンで縦振りだぁ!』と叫び、連れてきた30代の女性をカウンターの前に立たせ、ひたすら股間をすり当てていました。常連のフィリピンパブで下半身を露出し、“ちんちん踊り”をする様も頻繁に目撃されていましたね」 そんな丸山が、密かに熱い視線を送る女性がいた。 長野県庁議会棟2階にある自民党県議団。会派室の職員として20年にわたり仕事をこなしてきた地元出身のA子さん(41)だ。 「2人は不倫している」と囁かれるように 彼女を知る県議会議員が仕事ぶりを評する。 「県議団が雇っている職員で、字が上手いもんだから重宝されていた。御礼状など『一筆書いて』と頼むと、きちんと仕上げてくれる。議員の体調を心配するなど気遣いもできる子で、年配の女性が多い中、自民県議のアイドル的な存在です」 5、6年前に離婚し、今は独り身のA子さんに、丸山は急接近していく。 「半年ほど前から複数の県庁職員が長野市内でディナーをする2人の姿を目撃するようになり、『2人は不倫している』とまことしやかに囁かれるようになった」(県庁関係者) 妻の実家に多額の資金援助を… 他方、丸山は酒造会社の経営を巡り、妻と意見が対立するようになっていく。 「経営難に喘いだ末、希美さんの実家に助けを求め、多額の資金援助をしてもらったのです。“担保”として12年2月、会社の建物のうち1棟を希美さんに贈与。一帯の物件には1億円の根抵当権も付けられています」(漆器店関係者) 丸山が希美さんを連れ、行きつけの寿司店に顔を出したのは昨年夏のこと。座敷で出迎えたのは、10人前後の後援会関係者だった。 「支援者が『奥さんにも食わせてあげてほしい』と言って2人を招いたんです。帰り際には支援者の畑でとれた野菜を渡されていました。彼女は3歩下がって付いていく人。それが最後に見た姿だった」(店主) それから約1カ月後、酒に酔った丸山は自家用車のハンドルを握り、議員宿舎から自宅へと向かった――。 県警は“重要参考人”として、A子さんを複数回にわたり聴取している。 「A子さんの存在を巡り、夫婦関係が悪化し��ことが殺害動機の1つになっていると見て、裏付け捜査が進んでいる」(前出・社会部記者) 希美さんの遺体の第一発見者は、当時小学1年生の次男だった。両親を失った2人の息子は、東京に住む希美さんの親族宅に預けられているという。
〈初公判で無罪主張〉妻の実家に借金も…妻殺害で起訴の丸山大輔元県議(50) 長野県警が聴取していた不倫相手は“自民党のアイドル”だった(文春オンライン) - Yahoo!ニュース
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暴風林さめざめ
ここ数日日記を書く気力がわかない日が続いた。日記を書かない日はたいてい「日記を書く」という発想自体がなく、つまり忘れていることが多いのだが、そうではなく「日記でも書いて寝ようかな、いや、無理だな、日記を書く体力はない」という感じで、失意のもとに「書けなかった」という有様だった。「書くことが思い浮かばない」と思った日は自動的に(無意識的にかつ意図的に)日記の存在を忘れているのだと思う。書くとなると、まあその日に起こったことを書けばいいわけだから、何かしらは書ける。ちなみに今は5:26で、0時に寝てから中途覚醒でこの時間である。疲れてぐったり0時に寝れる日もあれば、不穏なことに4時や5時まで眠れない日も出てきている。今日は眠れたほうなのでよかった。
睡眠に関してはよかったのだが、食欲が止まらない。爆食をする、というのではなく、暴食が習慣になってしまっている感じだ。常に何かを食べていたい。何かを食べて数時間経つと、まだお腹がすいていないのに、もう次のものを食べたくなっている。異常だ。クエチアピン服用期間のような状態にセルフでなっている。体重は減らず、体脂肪率も落ちず、トレーナーさんをがっかりさせる日々。今日もまた1日5食くらい食べてしまった。何がどうしてそうなっているのか?疲れているのか?ストレスか?不眠がぶり返していることから、なんらかのバランスが崩れていると感じる。
そんな中、昨日は「ヒートショックプロテイン」という、熱いドームのなかに入って汗をビシャビシャにかいて代謝をあげるという、ジムの付属コースのようなものに行ったのだが(そのあとトレーニング)、4時間睡眠だったのと、夜からの吐き気とで、ドームに入って20分経つ頃に、吐き気が限界を迎えた。吐いてはいないのだが、体中がじんわり「嫌な感じ」を発し、「死ぬ……?」となぜか唐突に思った。そういう場合は枕元のナースコールみたいなのを押してスタッフさんに告げなければならないのだが、もうどうせそろそろ終わるし、と思い我慢してしまった。それがかなり良くなかった。スタッフのとても優しいかた���好きなお姉さん)にすごく心配をかけてしまったし、昨日はそのあとのトレーニングのトレーナーさんも珍しく女性で(この方も素敵なかただ)、さんざん気遣いをさせながらなんとか50分のトレーニングを終えた。びっくりするほど弱ってしまった。(しかも夕方頃、ドーム担当のお姉さんから無事帰宅できたかどうか心配なのでこちらのメールに返信してほしい、という謝罪込みの安全確認メールまで頂いてしまい、反省&恐縮した。)吐き気はおそらく食べ過ぎ、かつ、体力不足による消化機能の停止のせいだと思う。夏にアルバイトに行けなくなった時も(その時は暴食はしていなかったが)このような感じがずっと続いていた。吐き気くらいでいちいち行動不能になるな、という感じだが、数時間でおさまらず、24時間続く吐き気というのは結構消耗する。この吐き気はなんなのだろうと思いながら、病院で貰った吐き気止めを飲みながら、なんとか出勤するが、レジの仕事中になんどもえづいてしまい、かなりきつかった。別に吐くわけではないのだが、ただ胃が気持ち悪く、喉が詰まっている感じがし、吐き気止めは特に効かなかった(消化の問題ではなかったのかも?)。とにかく色んな方に心配されながらジムを出、そのまま帰ればいいのにベローチェで勉強していこうという初志を貫徹してしまい、しかし結局あまり進まず帰った。最初から帰れ。一昨日は疲れているのになぜか外出して化粧品を爆買いしてしまったし(しかも爆買いの結果を1時間弱の動画に撮った)、リミッターがもろもろ壊れている。
今日は東京にやって来た友人を出迎えるためKITTEのタリーズで勉強しながら待ち、をしていたのだが、英文を読みながら途中から寝ていた。たぶん根本的に疲れているのだと思う。ただ、自分が疲れているのかどうかの判断ができない。そして食べすぎる。体重が減らず自己嫌悪。負の循環。友人とKITTEのラグジュアリ〜な(というと少し違うのだが言い回しが思いつかない)雑貨店などを回りながら、最終的に文房具と本の店でわれわれは足止めを食らい、これ!とかあれ!とか、わあわあ言いつつ、何もかも「最高じゃん」というテンションで、私は久しぶりに万年筆とカートリッジを買った。なんでやねん。カヴェコの2500円。人気モデルの復刻版らしいのだが、軸が16角形でキャップが八角形で、色が最高にALKALOIDという感じでもう誰にも止められなかった。カートリッジもミッドナイトブルーというインク色が一箱残っているのを友人が見つけ、言われるがままにそれを買った。友人はい��も私にいろんな「もの」をレコメンドしてくれるのだが、これ、生で(対面で)やられるとやばいな、かなり買ってしまうな、と、友人の推薦能力に舌を巻いた。
その後友人と別れ、勉強の続きをするか、と思いいつものエクセルシオールに行ったが、写真のごとく万年筆で遊ぶだけに終わった。ノートに適当な文を書き付けているうちに、最近こうして文房具で遊ぶこともなく、そういうストレスが蓄積していたのかもなとも思った。文房具に触れている時間をとれなくなると私の精神は死ぬ。文房具と私が真っ向から向かい合い、ともに青空をはしゃぎ回る時間が必要なのだ(きもい言い回しだ)。
帰宅して即布団に入ったが、まったく���れず(9時間睡眠をしていたため?)、2時間ほど経ち、かなり迷った末、ケンタッキーをウーバーイーツした。かなり高価だった。それでも、ケンタッキーを食べればなんとか���き出せるような気がしたのだった。本当は冷蔵庫の中のしいたけを焼いて塩をかけて醤油をかけて食べたかった。しかしその気力はぎりぎりなかった。チキン1とポテトSの半分、そしてチキンポットパイ(デミグラス)を食べたため(夜にそんなに食べてはいけないし、一日のカロリー摂取量を大幅に超過している)、満足感はすごかった。満腹のはずなのに満腹感はなかった。もくりを立てていたら友人達が来てくれ、話しながら英語をやっているうちに23時になった。転職関連の話題で、前澤友作の資産管理の会社の求人が出ていることにかなり盛り上がった(最初に「このみるからにアブネーー求人なんだ?」となり、友人がインターネット力を駆使して調べたところ、かの人の資産管理会社だと突き止めていた)。英語をかろうじて毎日少しは読むようにしているが、かなり記憶力も集中力も落ちているのを感じる。何より、社会学の教科書を進められていない。「家族」の章に入って、こここそ私がやるべき各論なのだが、なんだかぐったりしていて、重くて分厚い教科書をひらく元気がずっと出ていない。そもそも重くて持ち歩くことを諦めている(いつもは持ち歩いている、アンソニー・ギデンズの『社会学 第5版』)。
元気が出るまで一日でも二日でも寝るべきなのかもしれないが、ジムの予約をばんばん入れてしまっている、少しペースダウンすべきなのかもしれない。そして気温の下がり。体の冷え。暑がりではあるが、その分冷える時は急激に冷える(汗と共に)。げぼ吐きそう。正直げぼ吐きそう。しかしそれは思うだけで、実際に吐くわけではない。試験がちかづいてナーバスになっているのだろうか。私はよくナーバスという語とナイーヴという語を混同しがちで、今も最初はナイーヴと書いていて、あれ?違うような…と思って意味を調べて書き直した。ナーヴァス。神経質な。ナイーヴ。純朴な。だいぶ違う。なんでナイーヴという石鹸はそんなに「緊張状態」みたいな名前をつけたのだ、と思ったが、それはナーバスのほうだった。
消化が進んでお腹が空いてくるような錯覚を覚えるが、全然そんなまやかしの感覚を信じてはいけない。お腹はすいていないし、食べても結局吐き気に襲われるだけで、一回、胃の中を空っぽにしてみるべきなのかもしれない。では、二度寝というか、これにて中途覚醒を終える。
2023.11.15
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よしもとかよ「日々是好日」。vol.106 (2023/4/26 + 5/3 )
2023 26th april + 3rd may
M1 とても正確なことが (さねよしいさ子)
M2 petite, petite (Michel Polnareff) M3 a little time (Edie Brickell & New Bohemians)
M4 mini, mini, mini (Jacques Dutronc) M5 the weight (Jackie DeShannon) M6 so many ways (Carole King) M7 le grand amour (Albin De La Simone) M8 viiddisvuohta (Niko Valkeapaa)
< 好日の素 …サイズをはかること >
この春から 新しい環境での暮らしがはじまった方や、 あるいは 大型連休中に お部屋の模様替えを考えている、という方も いらっしゃるのかもしれないな、と思いまして…。 そしてわたしにとっても 決して他人事ではなく、 未だに引っ越し作業+片付けが 継続中なので 今回のテーマはなかなかどうして 重要なのです。 実は 今まで「なんとなくこのくらいかなー」で 判断してきたのが 実際に家具などを配置してみたところ 思いのほか大きかったり 出っ張りが気になったり… 「ありゃ!」と汗をかいてしまうことが 幾度かあったのです。 部屋の広さや置き場所のことにかまけていて 玄関や階段を通過できるかどうかを 考えもせず、 いざ運び込もうとしたら ギリギリだった、なんて 経験もしました…汗。 その反省も含めて サイズをあらかじめ はかることはとても大切だな、と。 ネットでさまざまなものを 買えるようになったということもあり、 これは家具に限らず 衣服や靴にも言えること。 アイテムそのものはもちろんのこと 着用する側のサイズも できれば確認しておいた方がいいですね。 (目を瞑りたくなる点もあるけれど…!) 下着など、着心地に関わるものは なおのこと。 そんなこんなで すっかり メジャーが必須アイテムに。 ささやかなうれしみを感じることと同じくらい、 ささやかなストレスを解消することも 大切だな、と思うこの頃です。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * < 日々是食べたい! … いちごとレンズ豆のサラダ >
どういう経緯で知ったか 思い出せないのですが、 わたしにとっては そのくらい長く 好きなサラダのひとつ、ということなのだと思います。 サラダというと 生野菜を盛り合わせただけのものから いくつもの調理の過程を必要とするものまで 実にさまざまです。 具材が多ければ多��ほど 手間もかかることを思うと、 サラダもある意味 ご馳走なのかもしれません。 旬のおいしい食材が入っているなら、なおさらです。 このいちごとレンズ豆のサラダも いちごを小さく切る、とか レンズ豆を茹でる、とか 胡桃を刻む、とか どちらかというと 手順が多い方だと思います。 それでも、 いちごの香りや酸味、 ナッツのかりかりした食感、 ハムの塩味、 レタスやベビーリーフのシャキシャキ感が 混然一体となって なんともしあわせな気分にさせてくれることを 思えば、がんばれてしまう(笑! レンズ豆が多少 ぐずぐずした感じになるのですが、 他の具材に ドレッシングが絡みやすくなりますし 豆ならではのほっくりした食感が プラスされて、 思わず口角が上がってしまうのです。 小粒で酸味のあるいちごに 出会ったら、 真っ先に脳裏に浮かぶほど 大好きな、春のご馳走サラダです。
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ごりんごりんのチョーク プヂン.....多分これもプヂン!!🍮ソルティーペッパーレモンソーダとのことで、同じ商店街の方が気に入ったモンゴルの塩です☺️って🤣ソルティードッグみたいな感じで飲んでくださいということで レモン味の恋しい夏や
椅子は全て売り物という
街ぶらのげーじゅつさい 寺、神社、幼稚園がひと並びの道。緑ノロノロの澱んだ池には大きめの亀と小さい亀が謎の浮かぶ石板に登っているが、皆してすぐに身の危険を察知したように水中にちゃぽん。野生感。
スタンプラリーもあり私のメガネノートは一冊フィニッシュ あっという間に70個くらい集まってびっくりする ※そもそもこのイベントはスタンプ46+1個みたく都道府県?な多さで、11箇所は集められたみたい。子供たちにも楽しいかもしれない。 眼��屋さんでもスタンプを押し、そこ��ガラス壁で隔てた事務スペース?との境にある作品を観、大きな大人しい犬を跨ぎ、サングラスの偏光や調光の説明を受ける。すんごい!そしてこんなカラフルなの?パンフ読もう楽しそう 不二家にスタンプだけ押しに入る不思議、歌が聞こえてなんと大画面でチョコまみれさんアニメ流れてる。歌あるんだ...31アイスのピスタチオも売ってるんだ...!(最寄りでは以前3種くらいしかなかったぜぃ) 入っても何にも言われもしない箇所もあったけれど 行く先々で営業または小話、巻き込み合う面白い企画と思えた。少し前にこの在廊ボランティアやろうかと思っていたけれど、でも結局やっぱり机に向かっていた🤣(沈んでいかなくてはならないと感じるタイミング来ている) ある日(またはイニシエーションで)雷に打たれて無我夢中でアートに没頭のようなキャプションも読んで、私は何を雷として辿れ切るわけでもないかもしれなくても、ある種悩まされた「辿れない」そこで立ち止まれればもう そこで他の冒険には逸れられないのさと言葉になった 当たり前すぎて悲しいだけの、なのに言葉が敵や夢や願望なのだもの 景色を作り続けてね ある意味 自分に当たるライトのような分が自然界そのものではなくて象徴、人間の内なるほうだということさえ発見だったのかも、良かった冷や汗じゃない発見があって
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#リハビリ|接続されたヒト(13)
新型コロナウィルスで入院中の患者が病院を脱走して温泉施設を利用していたというニュースを聞いて、急性期入院中のお風呂ライフを思い出した。
当たり前だが、入院中は自由にお風呂に入れない。短期で退院する人が多い急性期の病院では、ここでお風呂に入ることなど想像もせずに退院する患者の方が多いだろう。だが、ほぼ1ヶ月入院していたわたしは、退院までに計3回、院内でお風呂のお世話になった。
寝たきりの状態でも、看護士さんが毎日ちゃんとタオルで身体を拭いてくれた(病院では「清拭」と呼ばれていた)こともあり、「入院中=入浴できない」のが前提だからだろう、と納得していた。ところが、S F的な機器に満ちた現代の病院では、左側がほとんど完全に麻痺した「接続されたヒト」だったわたしでも入浴が可能だったのだ。
1回目と3回目は、介護用の特別な浴槽を利用した。患者が横たわったまま、入浴用のストレッチャーごと水平状態を保って浴槽の中に移動することができる入浴装置だ。接続されていたチューブ類は、病室でいったん外してから移動してきた。浅目の浴槽だが、温かいお湯がじわーっと身体を包み込んでいくときの心地よさは、得も言われぬほど。思わず目を閉じて、麻痺していない皮膚や筋肉の感覚を全開にして、お湯のあたたかさを思い切り味わう。うう〜、お風呂って、本当に気持ちいい!
しかし、いくら優秀な入浴機器があっても、入り心地の決め手は人である。女性の看護士さんが二人がかりで、わたしを病棟用から入浴専用のストレッチャーの上にスライドさせてくれ、麻痺した身体でストレッチャーの上にいる不安を解消するように、「はい、今から入浴用のストレッチャーに移動しますよ〜」「ゆっくり浴槽の中に入って行きますよ〜」と声かけしてくれる。入浴のためにすっぽんぽん状態になるのだが、その際、さっと上から軽くタオルをかけてくれるという気遣い。これはきっと患者が女性の場合に限ったことではないだろう。
入院していると、自分が「治療をされる」という受動的な立場に固定され、「患者」という名の客体、モノ的な存在のように感じてしまう瞬間がある。そういう日々のなかで、医療行為の一環としての入浴にとっては無意味な(あるいは邪魔な)はずの「恥ずかしさ」や無防備であることの「不安」に対して払われる配慮。それは、シグナルだ。モノ的な存在ではない、「恥ずかしさ」や「不安」を感じる主体として認識していますよ、というシグナルである。
こちらは「恥ずかしい」「不安だ」などと口に出してもいないし、恥ずかしさや不安をそこまで明確に感じていたかと自問すると、それも定かでない。むしろ、ふわっと軽くタオルをかけてもらったことで、潜在していた恥ずかしさや不安が浮上することを許されたようなところがある。それらは浮上して初めて解消される。だからこそ、不意を突かれたように、ほっとした気持ちになった。無防備な身体にふわっと軽くタオルをかける動作。それは、看護士さんたちにとっては決められた手順の一つかもしれないが、それがルーティンになっていく過程には、きっといろんな経験の積み重ねがあったはずだ。
顎より上にはお湯が迫ってこない、ひたひたの煮汁に浸かった大根のように、いい塩梅でお湯を楽しみ、そのうえシャンプーまでしてもらって、全身キレイキレイ。最後は熱めのシャワーで流してもらって完了。これはもう、「患者という名のモノ」どころか、「患者という名の王様」ではなかろうか。
だが、ストレッチャーを使って横になったままお風呂に入るという極楽な1回目とは違って、2回目のお風呂はかなりチャレンジングというか、ほとんどアドベンチャーのような体験だった。
手���後、端座位(椅子やベッドの端に足を下ろして座る姿勢)の練習を続けて、両脇に肘掛のある椅子なら、15分程度は姿勢を崩さずに座っていられるようになった頃だったと思う。入浴ができると告げられ、「やった!」と喜んでいたのだが、その日は前回とは違う別の場所を利用するとのこと。
介助をしてくれることになったのは、看護チームの中でも若手の、今どきのアイドルみたいな美人さん(ここではヴァーチャル界の巨星に名を借りてミクさんとしておこう)。車椅子で移動した先は、畳一枚分くらいの狭いシャワーブース。その手前に、車椅子も置いておく、着替え用のスペース。こちらは洗面台とあわせて四畳半程度の広さ。車椅子一台と看護士さん一人が入ると、かなりぎちぎち。今なら間違いなく「三密」と言われそうな環境だ。
さて、どうやってお風呂に入るのか。シャワーブースを見ると、中央にいかにも頼り甲斐ありそうに鎮座している介護用の入浴椅子がある。高さもあり、座面も脚も滑りにくそうだし、両側に肘掛がついている。「あの椅子に座ってもらって、身体を洗いますね」とミクさん。なるほど、車椅子とベッドの間の移乗、車椅子とトイレ便座への移乗などを練習してきたわたし。今日は、車椅子からお風呂椅子に移乗して、シャワーを浴びるという段取りに挑戦ということか。確かに、あのしっかりしたお風呂椅子の座面に上手く座ることができさえすれば、術後の傷が残る頭をシャンプーしてもらう間もなんとか姿勢を保持していられそうだ。
ところがどっこい。ここは、普段練習している車椅子とベッド、車椅子とトイレ便座の間の移乗とは、勝手が違った。いつもは、健側の右側に重心を置いて、重介助をしてもらって、クルッと半回転して移乗する。だが、ここは着替えスペースからシャワーブースは基本的に一人���移動するための幅しかなく、車椅子からお風呂椅子までは、半回転ではたどり着けない距離がある。ギリギリまで車椅子をシャワーブースに近づけるが、それでも大人の足で一歩半位の距離がある(健常者には「たった一歩半」の距離だが、麻痺のある身にはこの差が大きい)。介助に入ってもらうためのスペースや角度も十分ではない。いったん、右足に体重をかけて立つ姿勢に引き上げてもらい、その状態で一歩半の距離を引きずってもらうことになった。彼女の腰には相当な負担がかかっているはずだ。申し訳ない。わたし自身も長く姿勢を保持できないので、一歩半ずるっと引きずられる間に左側がスライムのように床に崩れて行きそうになる。わあああ。
もうちょっとで崩れ落ちる!という瞬間、ミクさんはお風呂椅子の前でわたしの身体を「よいしょお!」と抱え直した。わたしのほうも必死で感覚のある右側に体重をかけて半回転し、半分滑り落ちるようにしてお風呂椅子に収まった。ぜえぜえ。ミクさんもわたしも、すでに息が上がっている。ここから、水が外に���れないように、シャワーブースの扉を閉めると、中は満員電車並みのぎゅうぎゅう状態。いやあ、これはかなり無理がある。それでも、ミクさんはTシャツにジャージの裾をまくり上げた姿で、汗まみれになってわたしを洗ってくれた。こっちも必死でお風呂椅子の肘掛を右手で掴み、スライム状態の左側を引き留め、なんとか椅子から落ちないように耐え切った。
狭いシャトルの中で任務をこなす宇宙飛行士もかくや、というミクさんの頑張り。たぶん肘とか膝とかを壁にぶつけたんじゃなかろうか。何度かガコッと音がした。「大丈夫ですか?」「はい。ザジさんも大丈夫ですか?」。わたしたちは、お互いを気遣いつつ、さらにぜえぜえ息を切らしながら、この「お風呂に入る」というミッションをクリアした。ミクさんは、汗とシャワーの水で、わたしと同じくらいびしょびしょになってしまったのではないだろうか。
前回とは大違いの、緊迫感に満ちたお風呂タイム。ミッションを終えて車椅子で病棟に向かいつつ、どちらからともなく「あのシャワーブースに二人で入るのって、無理がありますよね〜」と笑い合った。退院前、3回目の入浴がストレッチャーを使う特別な浴槽になったのは、ミクさんが状況報告してくれたからだろう。
というわけで、実は入院中でもお風呂に入ることは出来る。だが、それはあくまでも医師の許可と看護士さんたちの協力があってこそ。湿気の多い梅雨時期、長引く入院でお風呂に入りたかった気持ちはわからなくはないが、脱走はいかんね。
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Gold can Stay #08
学生たちはそわそわしていた。夏休みが近づいている。しかし気を抜いてはいられない。全国各地で暑さが猛威を振るっていた。 毎日のように水分や塩分を奪われ、救急車で運ばれる人々の多さがニュースで伝えられていた。ひのでのクラスでもデッサン中に体調を崩してしまった生徒がいる。 外で��動する運動部は特にひどい状況のようだった。どの科でも教師たちはしつこいくらいに生徒たちへ給水を促す。指図されなくとも生徒は渇いた喉を潤した。校内の自販機の冷たい飲料は売り切れが続出していた。
そんな危険な夏、今年も弟の誕生日がやってきた。 小学校から真っ直ぐ帰った弟は友達からもらったお菓子やら折り紙やら手紙を一つ一つ誰からもらったか嬉しそうに兄へ説明した。きっと母たち相手にも後で同じことをするのだ。 兄は両親が仕事から帰ってくる前にプレゼントを渡した。渡しているところを見られるのは照れ臭かった。 「にしび、誕生日おめでとう」 「わあ! ひのちゃんありがとう!」 リボンのついた小さな包みとバースデーカードを渡した。弟はカードをじっと見た。 「これマーラ? マーラの親子! かわいい! アルマジロもちゃんといる!」 毎年、動物好きな弟のブームの動物と最愛のアルマジロを描いている。今年はマーラだ。ウサギのようなネズミのような動物だ。 「かわいいね! またマーラ見に行きたいね!」 「そうだな」 弟が包みよりカードに目を止めたことに兄は安堵した。どちらも一生懸命考えて用意したものだが、まだこうして自分の手掛けたものを喜んでくれる弟を抱きしめたかった。 毎年渡しているバースデーカードは弟が生まれた日に兄が赤ちゃんへ書いた手紙が基となっている。当時は手紙を書いているつもりだったが、誰が見ても添えたイラストの方がメインだと思うだろう。幼少から絵が得意だった兄が弟の誕生の喜びを最大限に表現できるのはやはり絵だった。これは家、これはお父さんにお母さん、こっちは僕と赤ちゃん、と描いた絵を母の腕に包まれている弟に解説した。 手紙を書いたことを父に伝えると赤ちゃんが大きくなっても読み返せるように保管しておこうと預かってくれた。そして、去年、弟が小学生になって初めての誕生日にファイルにとじてまとめて渡した。きっと今年のマーラとアルマジロもそのファイルにしまわれるのだろう。
「こっちはなにかなあ」 紙が破れないようにテープを慎重に剥がして弟はプレゼントを取り出した。多少破けたがなかなか器用だと兄は思った。 「これ、おさいふ?」 「そうだよ。今使ってるの、俺のお古じゃん。新しいの使いな」 弟が小学校に入った際に彼専用の財布が用意された。五百円玉と緊急用の小さく折りたたまれた千円札、家や両親の職場、兄の学校、祖父母の連絡先の書かれた重要な紙が入れてある。 兄が使い古したものだったが弟は自分の財布を持てることに大喜びでおさがりに不満はなかった。それでも兄は弟に弟だけのものを持たせてあげたかった。 「ありがとう!」 弟は兄に抱きついて感謝を表した。自分のお腹のあたりにある弟の頭をそっと撫でる。 「お前、大きくなったな。まだまだちっちゃいけど」 「クラスで一番ちいさいんだよ」 「……友達に馬鹿にされる?」 「あんまなかよしじゃない子がやめてって言ってもチビって言う」 「そんなの気にすんな……って言っても無理か。どんな奴にでも嫌なこと言われるのは嫌だよな」 「ぼく気にしてないよ!」 「そっか……」 弟の返答に驚いた。兄が弟の立場だったらすぐに殴り合いになっているだろう。同じ兄弟でもこうも性格が正反対なものか。もし、自分と弟が双子だったら短絡的な兄は温和な弟をいじめていたかもしれない。 「先生がまだ心配しなくていいって言ってた。だから、たくさん食べてはやくねて、いっぱい体うごかすといいんだよ。ひのちゃんは大きいけど大きい?」 「高校の友達と比べてってこと? 俺は平均かな」 「へんきんってなに?」 「平均。ちょうど真ん中くらい。特別小さくもないし大きくもないよ」 「ひのちゃんくらい大きくなるかな」 父と母の身長を思い浮かべる。母はやや小柄だが父と自分はもう大差ないように感じた。 「きっと大丈夫。俺の身長抜かしちゃうかもな」 そう言ってやると弟はにこにこして兄から離れ、腕を伸ばしてきた。 「グルグルして!」 グルグルとは兄弟が数年前によく行っていた遊びだ。後ろから弟の脇の下に両手を組んで振り回す。遠心力に弟は病みつきになった。兄も目が回るのを楽しんでいた。しかしこれをやると親に叱られる。室内ならなおさらだ。 「いや、もう……」 前回遊んだ時より弟の背は伸び、体重も増えた。狭い家の中でできるわけがなかった。 「……じゃあ、外でやるか」 「うん!」 兄が高校から帰った時間より空はうっすら濃くなっていた。朝顔がちらほら咲く決して広いとは言えない庭に出る。もうじき草むしりを命じられるだろう。 久しぶりに弟を持ち上げる。今もまだこんなに小さいのに確実に大きくなっていることを実感した。十数回回ると汗が噴き出てきた。反対方向からも回してやった。 「はい! おしまい!」 「もっと!」 「そろそろお父さんもお母さんも帰ってくるからさぁ」 「もう一回だけ!」 弟の言うもう一回はもう数十回だ。本日の主役に付き合ってやった。 日々成長している弟を振り回すことはこの狭い庭でもきっとすぐにできなくなる。兄は弟の重さとくらくら回る視界を覚えていようと決めた。
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2019.08 白馬三山(2日目)
↑白馬岳山頂より
1日目より
1時頃に自然と目が覚めた、まぁだいたい 6時間睡眠か。さすがにこんな時間に行動できないので二度寝しようと思ったのだが、なんかやけにテントがばさばさ言うなと思って確認してみたら、前室のフライシートのペグが外れていた。補修して浅い眠りにつく。その後何度か目覚めてはやはり前室のペグが外れていて補修を何度か繰り返した(もういいや)。
0515くらいにちゃんと起きて朝ごはん準備。クッキー10枚と昨日飲みきれなかったラーメンの汁。クッキーはカロリーも高いし結構美味しいし、意外といいかも。ラーメンの汁も体温まるし水分と塩分補給にはぴったり。
外は15℃くらいか。風がやや強くて寒いが、テント片さないとしょうがないので渋々動く。そのとき気がついたんだが、すべての固定ヒモが緩んでいた。やや強い夜風で緩んだみたいだが、これは対策必要かもしれん。フライシートがバサバサ言ってたのはこいつらのせいでもあったか。
片付けの時点で半分くらいのテントはすでに撤収済み。風が強く、手を離したらテントが飛ばされ回収不能となるがそこは上手に利用して普段より綺麗にたためた。その他の片付けも、北海道から数えてさすがに3回目ともなるとテキパキできた。
【コースタイム】テン場出発(0640)→白馬山荘(0655)→白馬山頂 (0715)→ 休憩→出発 (0740)→ 三国境 (0805)→ 小蓮華山 (0840)→ 船越ノ頭 (0920)→ 白馬大池 (0955)→ 乗鞍岳山頂 (1035)→ 天狗原 (1120)→ 銀嶺水 (1140)→ 栂池ヒュッテ (1205)→ 休憩 → RW→ バス停 (1315)→ 白馬駅 (1345)
昨日の予想は的中し、早朝は快晴、すべての荷物を背負って稜線へ出ると朝日に照らされた登山道が山頂へと続く。
白馬岳山頂に到着。テン場からは20分くらい歩けば到着する。白馬山荘を見学していたのでそれより時間かかったけど。
30分も登ってない早朝のテンションが吹き飛び、一気に目が冴える 。景色の方は・・・写真では全く伝わらない��だが、山ってすごい、山っていいなとしか浮かんでこなかった。寒さを忘れて1時間でもずっと眺めていられる。
隣のおじさんが「今まで白馬10回登ったけど、今日が1番景色いい」とのこと。
昨日は見え隠れしていた剱岳が一番手前に(写真右端)、そこから立山連峰がずっと先まで続く光景。向こうの人達も今こっち見ているんだろうね。
写真中央やや左が八ヶ岳+富士山、写真中央が南アルプス。
下を見下ろすと崖になっていて、立ちすくむほどの高度感・・・こんなに切れ落ちているのか。昨日登ってきた雪渓も見える。恐ろしく下にあるけど、あんなに高度を上げてきたのか。調べたらバスを降りた猿倉荘からの標高差が1682mあった。
ここから白馬大池まではずっと稜線を縦走。日本海側から風が吹くので気持ちいいが太平洋側へ下る箇所は無風で、さすが夏の日差し、とても暑くなる(ほとんど稜線上で風があったからそこまで汗かかないけどね)
これから進む道が見渡せる。果て無く続く稜線。ずっとここにいたいけど、そろそろ下山せねば。
山頂より30分ほど下って三国境に。左が鉢ヶ岳、右が雪倉岳かな。この稜線もいいな、いつか行ってみたい。
ずっと下るんだと思っていたけどピークはいくつもある。ただ、昨日ほど激しいアップダウンは無い。 8時を過ぎると昨日と同じく下から雲が湧いてきて、行く先にガスがかかり始める。
振り返ると白馬岳も食われていく。 やはり天気は早朝のみか。気温が高くなる夏はすぐに雲が湧く。
山頂から1時間で小蓮華山に到着。稜線上は休む場所が無く、ピーク毎が休憩スポットとなっている。ここは今までのピークよりも特に人が多いかも。
この山頂で「雷鳥の砂浴びを見ましたか?」というピンポイントな質問をおじさんから受けたので昨日白馬鑓で見たことを伝えたのだが、どうやら山頂に人が到着する度に聞いているみたい。白馬大池方面で見たかどうかのアンケートだったので、残念ながら自分の証言はカウントされなかった笑
そのやり取りを聞いていた人が話しかけてきて、昨日雷鳥の砂浴びを一緒に目撃していた人たちだった。唐松から縦走してきたとのこと。
小蓮華山~船越ノ頭。この間は特にお花畑が綺麗だった。
ようやく白馬大池が見えた!雲がなければもっと前から気がついていたかな。これでもまだ距離はある。
あれが船越ノ頭(だったはず)
船越ノ頭より今来た道を振り返る。白馬は完全に雲の向こう。稜線・・・綺麗・・・。下りでも割��楽しかったけど、この景色ならこれから白馬に向かう人達は最高の稜線歩きできるね。
山頂から約2時間で白馬大池に到着。栂池方面から登ってくる場合は、ほぼ確実にここに泊まることになる(と思う)。山頂から栂池ヒュッテ(RWまで)まで休憩なしで4時間半かかっているので、登りとなれば7-8時間くらい?おまけにRWの始業時間も考えると、一日で白馬岳へ到着するにはかなり強行軍となる。一気に山頂まで行かずに、ここで一泊しておいた方が無難。
乗鞍岳方面から白馬大池と、その先にはさっきまで縦走してきた山の稜線が見える。白馬大池は透明度がすごく高く、池の底が普通に見える。テン場としては最高のロケーションだから、さぞ気持ちがいいと思う。
白馬大池からは道がちょっと厳しいかな。というのも、そこそこ標高を下げてきたので足に負担がかかっている上で、岩の上を歩けばいいのか土を歩けばいいのかよくわからないゴーロ帯を登っていき乗鞍岳山頂に到達する(本日最後の登り)。ここはまぁまだ問題ないのだが・・・。
乗鞍岳を過ぎた下り、結構足にくる強い傾斜(下りだから余計に足に来る)。白馬大池までのなだらかな道から急変する。あと、一度だけ少雪渓を横断する。ほんの20mくらいで踏み跡がちゃんと残っており、特にアイゼンはいらないかな。
・・・少雪渓の先、こんなゴーロ帯。登りも下りもかなりキツイのだが、こんな感じの道が意外と長い!みんなヨイショヨイショで登ってる。
下るにつれて岩の大きさが小さくなっていく。今度は浮石を気をつけなければならないガレ。ずーっと続いた先にようやく木道が見える。���れが見えてもゴールの栂池RWはまだ先。
白馬大池から天狗原までは1時間半。ここからRWまではまだ40分ほどかかる。山頂から稜線を下り、白馬大池を越しても、乗鞍岳を越しても、木道を越してもまだゴールが見えないというのはしんどい。
天狗原から下はずっと景色の見えない樹林帯となる。特に今日みたいに日差しが強い日はサウナ状態となるので注意?ようやく栂池ヒュッテが見えた!と思ったら、それからもちょっと長い。早くついてくれー!!
山頂から4時間半か��てようやく栂池ヒュッテに到着!長かったー!下りでさえもきつかったのに、登りとなるとやはり白馬大池で1泊が妥当である。
まずは泥落とし、どころではなく真っ先にサルナシソフトを食す。ほのかにキウイみたいな酸味の効いたバニラでめちゃくちゃ美味い!疲れた後のソフトクリームがこんなに美味いとは!!!体冷やされるし、早朝から行動してほとんど休憩せずにいつの間にかお昼になっているし、エネルギー補給せねば。登山のときは甘いもの+酸っぱいものの組み合わせが優秀なんだな、初めて知った。
RWは片道1920円で、途中乗り換えを1回行う。最初はRW、次にゴンドラなんだけど、このゴンドラが乗車時間20分とすごく長い。山頂駅から山麓駅までの標高差が約900mあるが、下るにしたがってグングンと湿度が上がり空気が濃くなっていくのを感じる。
1316発長野行きバスに乗って白馬駅まで向かうつもりだったが、まちてぇ(バス停)に着いときにはバスがすでに発車準備中で超ギリギリだった。これに乗れたおかげで白馬発の特急あずさに乗ることができ、新宿まで乗換なしで行けることに。白馬→新宿と松本→新宿の特急代金は変わらないので、白馬から乗れたほうがお得・・・新宿まで4時間もかかるけどね(茂原までだとトータル6時間)。
遅い昼飯は白馬駅前の小さい蕎麦屋さんで。「信州そば」看板があったのでそれに釣られて。昔小さい頃の旅行で岐阜のどこかで食べたり、最近だと西穂高岳の帰りで食べた信州そばがうますぎたので、それに釣られた。とろろ蕎麦を注文したが、ザルそばにするべきだったかも。 おいしかったけど、やはり蕎麦そのものを味わうにはシンプルにザルかな。
席はがら空きだったけど、松本からは半分以上埋まり、最終的にはほぼ埋まりかけていた。お盆の始まりだもんな。
噂通り、白馬岳はすべてが美しかったな・・・。 車窓からは見えるのは、のどかな田畑と遠くに山と夏の空。目の前の景色を��ーっと眺め、昨日今日の景色を思い出しながら、次はどの山に登ろうかなーっと思案する。とても充実した旅だった。
北海道からの負担か、足の指先が若干痺れる感じがする。
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この花火をわすれるころには
──もう、はぐれないでって言ったのに。
毎年、この時期になると実家から少しの距離にある小さな神社で夏まつりが開かれる。小規模ではあるけど、境内にはところ狭しと出店が数多く並び、家族連れやカップルなどで賑わう夏の終わりの一大イベントだ。近所の浜辺では花火も上がる。
「今日っておまつりあるんだって? いいじゃないか、行こうよ勇利。おれと2人で」
さっき練習の合間に優ちゃんに聞いたらしい。滑り終えて汗を拭うぼくの肩を抱きながら、彼が有無を言わさない笑顔でのぞき込む。
「えぇ……。ヴィクトル行ったら大変なことにならない? まあ、もう町の人たちも大分慣れて来てるとは思うけど……」
「だぁいじょうぶさ。ふだんその辺おれが歩いてたってみんな普通に挨拶してくれるだけで誰も騒がない。行こうよ。日本のおまつり興味あるよ」
うーん、と少し悩んだけど、まあ、ぼくももう何年も日本のお祭りなんて行けなかったし、折角だからヴィクトルにもこの町のイベントを楽しんで欲しいし。
「そうだね、行こっか! でも、人多いと思うから絶対にぼくからはぐれないでね」
「分かった。じゃ手繋ぐ?」
「つなぎません」
そうして午後の練習を少しだけ早めに切り上げたあと、軽く晩ご飯を食べてから2人で神社までの道を歩いた。
「ちょっとずつだけど日が暮れるのが早くなってきてるね」
「そうだねえ。日中は暑かったけどこの時間はだいぶ涼しくなってて助かるよ」
彼に話しかけながら見上げると、澄み渡った空の青からまだらな紫陽花色が混ざり、淡いグラデーションを作っている。まだ明るい夕焼けをバックに、浴衣を着た中学生くらいのグループやカップルがそれぞれにはしゃいだ声をあげながらぼくたちを追い越していった。
「勇利は浴衣着ないの? 似合いそうなのに」
「ぼく? いやいやもう何年も着てないよ。こんなちっさい頃に着せてもらったきりかなあ」
手のひらを低くすると彼がワオ、そんなに? と大げさに笑った。
「ヴィクトルのほうが似合いそう。着てみたかった?」
「んー……そうだなあ。勇利とお揃いで着るなんてのもいいね」
友達同士、お揃いの柄の浴衣を着て歩く女子たちを眺めながら彼が僕の肩を抱いた。
「えっ やだよお揃いの浴衣なんてはずかしい……。ていうか暑いでしょそんなくっつかないで」
夕暮れの時間とはいえ、歩いていればじんわりと汗が滲んでくる。それでも彼は御構い無しにぼくより体温の高い体をさらに密着させた。
「お揃いいや? じゃあ柄違いにしよう。来年の夏はそれ着てまたおまつり行こうよ」
耳元で囁かれるお誘いの言葉に思わずぞくりとする。蒸し暑さも厭わず爽やかに笑う彼に対して、ぼくは、う、ん……と返事にもならないものしか返せなかった。
「もう、だから言ったのに…… ヴィクトルどこ行ったんだろ」
神社に着くと、いい匂いを漂わせた屋台がずらりと並び、すでに早めに来て楽しんでいる家族連れなどでなかなかの賑わいを見せている。はじめはちゃんとぴったり横について、この棒に刺さった肉はなに? あそこのたくさん魚がいるのはなに?と楽しげに騒いでいたヴィクトルが、気がついたらいない。メッセージを送っても既読にもならない。
──まあ、あれだけ長身だし目立つ容姿をしてるから、すぐに見つかるかな。
とはいえ、すでに日は暮れてしまっていて向こうの方までは暗くて見えにくい。屋台が並ぶ参道はそう広くはないし人混みを掻き分けて進むのは気がひける。せっかくだし、ぼくは色とりどりの屋台を眺めながらゆっくりと歩くことにした。フランクフルト、ベビーカステラ、焼きそば、りんご飴、……あ。かき氷だ。去年の夏、ピチットくんと作って食べたの、あれ美味しかったんだ。……いいなぁ、久しぶりにお祭りのかき氷食べたいなあ。だめかなあ……。
よし、とぼくは本腰を入れて彼を探し出した。ほんとは勝手に食べたいけどきっとバレるし、こっそり食べたと怒られたらやだし。コーチに許しをもらわなきゃ。
周りをキョロキョロと見渡しながら少しずつ前に進んでいく。出店の白熱灯は明るいけど、それだけじゃこの人混みの中を探すのはやっぱり難しい。あちこちから威勢のいい呼び声が飛び交う中、楽しげな学生のグループやカップルが笑い声を上げ手を繋ぎながらすれ違っていく。ひとりぼっちでこんなところウロついてるのなんて、ぼくぐらいだ。
……あーあ。彼には行くのを少し渋った素振りを見せたけど、ほんとうはぼくだってヴィクトルとお祭りに来れて嬉しかったんだ。ここ数年お祭りなんて縁がなかったっていうのもあるけど、それよりも、ただ思い出がほしくて。彼と過ごす、最初で最後の夏の終わりの、ささやかな思い出が。彼は来年は浴衣を着て来ようね、そう言ったけど、きっとそれは叶わない。来年の今頃、ぼくがどこで何をしているかわからないけど、彼はきっとロシアに戻り氷の上に立っている。かならず、そうでなくちゃだめなんだ。
でも、それまでは彼はぼくのコーチだ。毎日、誰よりもそばにいてくれる。信じられないけど、限られた今だけ、ぼくはそれを許されている。だからこんな小さなお祭りの思い出だって欲しいし、一緒に楽しみたいのに。
「……どこいったんだよ……」
屋台の列が途切れてため息が零れた瞬間、突然後ろから腕を引っ張られた。
「勇利! やっと見つけた! だめじゃないか、迷子になっちゃあ」
「……ヴィクトル」
振り向くと、片手に缶ビールを持った彼が悠然と笑みを浮かべながら立っていた。……迷子って、それこっちのセリフなんだけど……。
「……どうした? そんな泣きそうな顔して。あ、一人でさみしかった? ごめんね早く見つけてあげられなくて」
へらへらと笑う彼になんか腹が立つが、不覚にもすこしだけ心細くなってたのは事実なので強く否定できない。黙ってしまったぼくがほんとにさみしがってたとでも思ったのか、彼はぼくの右手をとると、そのまま優しく握った。
「これで迷子にならないから大丈夫だ。キョロキョロしてはぐれないでよ、勇利」
「もう、さっきから…… はぐれたのはヴィクトルのほうだろ? いったいどこいってたの」
「あっちに美味しそうな店がたくさんあったんだよ。いか焼きに焼きそば、魚の塩焼き、唐揚げ、どれもうまいし味が濃くて最高にビールに合う」
「そんな食べたの!? さっきご飯食べたじゃん!」
「こういう場所で食べるのはまた格別だろ?勇利は?何か買った?」
えぇーどんだけ……。ぼくなんてかき氷ひとつ食べるのにも悩んだのに……。あ。
「あっ ねえ!ぼくかき氷食べたい!ほか何も食べてないから!ねえ、だめ?だめですかコーチ」
懇願するように見上げると、彼が少し驚いた顔をしたあと、ぷ、と吹��出した。
「なんだ、そんなの。いいよ、せっかくお祭りに来たんだ。勇利も楽しもう。そうだ、おれが買ってあげるよ!優しいコーチのおごり」
そう例の如くキザなウィンクを飛ばすと、ぼくの手を握ったまま喧騒の中を歩き出す。さっき通ったのとほぼ同じ場所を歩いてるのに、不思議だ。景色が全然ちがう。そばに彼がいるだけで、こんなに世界の彩度は変わって見えるんだろうか。
「ほらー勇利早く。 ちゃんとはぐれないでよ」
ぼくの手を引きながら、ほろ酔い顔の彼が笑顔で振り向く。缶ビールを煽りながら、完全に酔っ払いみたいな顔してる。あーあ、もうしょうがないな。でも何だか楽しいや。さっきから胸がどきどきするのにあったかい。ふわふわする。やっぱり不思議だ。
「あれー、ないなあ…… さっきは見かけたんだけどなあ…… あ」
かき氷を探していたぼくたちの目線の先にあったのは、射的の屋台だった。
「銃? えらく物騒なものがあるね」
「コルク銃だよ。あそこに並んでる賞品どれかを狙って撃ち落とせたらもらえるんだよ。ヴィクトル腕長いし得意なんじゃない」
「……ふーん、面白そうだね……」
「やってみる?」
店のはしでのんびりタバコをふかすおじさんに料金を払うと、コルク弾を4つ渡される。台に並んでいる銃を選ぶと、中にコルクを詰めて彼に渡した。
「なに狙うの? ヴィクトル。多分上の段が一番むずかしいと思うよ」
景品は3段の棚に等間隔に並んでいて、下の段にはキャラメルやビスケット、飴など小さくて軽そうなお菓子、真ん中の段はフィギュアや小さめの置物などの小物類、上の段はゲーム機や大きめのぬいぐるみなどが置かれている。
「そうだなあ……。勇利、どれがほしい?」
「え? そんな、ヴィクトルが欲しいのにしなよ。せっかくなんだから」
「だっておれよく分からないし。勇利の欲しいものがいいよ」
えぇ、そう言われても。何がいいだろ……。でもやっぱり落としやすそうな物がいいよね。戸惑いつつも景��の並ぶ棚を順番に眺めていく、と……。
「あ…… あれがいい……!」
思わず指差した先に視線を向けると、彼がオーケー、と頷きながらぼくの後頭部に軽く触れた。
おもむろに右手で銃をとり、片方の手を台につくと標的に向けて長い腕がすっと伸びていく。前髪に隠れて表情は見えないけど、その姿は恐ろしいほど様になっていて、めちゃくちゃかっこいい。毎日一緒に過ごして、何だかんだ見慣れた筈なのに、ふとした時にぼくの心をぎゅっと掴んで虜にする。やっぱり彼は……。
その表情の見えない横顔に見惚れているうちに、パン、と横から弾けるような音が響く。瞬時に我にかえると、ヴィクトルが狙った標的に弾が命中したようで、ぱたんとひっくり返っている。一発で撃ち落とすことができなかったからか、彼は少しくやしそうな様子で軽く舌打ちをしていた。
「あー惜しいな。 でもだいたい要領はつかんだ」
「……えっ、すご……!ふつうは倒すだけでもむずかしいのに……」
まさかの凄腕に思わず興奮して彼を見ると、まぁまかせなよ、そう笑いながら彼が左腕でぼくの肩を抱いた。そのまま銃を構えると、再び標的めがけてゆっくり腕を伸ばしていく。
「……え……」
この姿勢で? とあっけに取られていると、ぼくの肩を抱く手にうっすらと力がこもる。今度は見逃さないように、ぼくが強請った標的をじっと見つめると、パン、と音とともに見事にそれは棚の後ろに倒れ落ちていった。
「……う、わ、やったぁ……! え、すごい、ねえ、ほんとにすごい……!」
「すげぇな兄ちゃん」
横でのんびり眺めていたお店のおじさんも驚いたように首を振りながら手を叩いてる。もうひたすらにかっこいい、すごい、かっこいいを連呼するぼくらにヴィクトルは当然、とばかりに満足気に頷いていた。
「すごいすごい! ねえヴィクトルまだ弾2つ残ってるよ! 何狙うの?」
興奮のままに彼の腕を揺さぶると、はい、と銃を渡された。
「今度は勇利がやりなよ。おれはもう楽しんだし」
「ぅえっ ぼくが?」
こんな凄腕のあとに撃つなんてだいぶ気がひけるんだけど。
「何狙う? 勇利」
「……んー せっかくだから難しいのがいいな。 上の段の、あのゲームとか」
ちょっとやそっとの弾じゃ倒れなさそうな、人気のゲームソフトのパネルを指差す。負けず嫌いを発揮するぼくに、彼がニヤリと嬉しそうに笑った。
「いいねえ。 そういうとこ大好きだよ」
コルク弾を詰めると、銃を持った右腕をギリギリまで伸ばす。やっぱりヴィクトルほど距離は縮められないな。うーん、と狙いすまし、パン、と撃った弾はうまく標的に命中はしたけどびくとも動く様子はなかった。
「うわーやっぱり難しいな…… 威力が足りないのかな……」
最後の弾を、今度はぎゅうぎゅうに詰めてみる。いつのまにかぼくの背後に立っていたヴィクトルが、両肩に触れながらそっと耳打ちをした。
「角を狙うんだよ、勇利。右でも左でもいい、上部の角を狙うんだ」
静かな吐息とともに耳元に吹き込まれる声に、思わずぞくりと肌が粟立つ。
「は、はい……」
もう一度、標的めがけて思いきり腕を伸ばす。肩に乗ったままの彼の手のひらからじんと熱さがつたわってくる。教え通りに、ぼくは標的の右上に狙いを定めて引き金を引く。
「よし……」
パン! とコルクが目標の位置にうまく当たって跳ねた。軽快な音に弾かれるようにパネルがくるりと回る。そのままバランスを失うと、回転しながら後ろに倒れ落ちていった。
「勇利!!」
ワァ、と小さく歓声が上がると同時に後ろから思いきり抱きしめられる。
「すごいじゃないか、勇利! やっぱりおれの勇利は最高だ!」
ギュムギュムと抱きすくめられながら周りを見ると、気づかないうちに結構な人だかりができていた。
「あれ、ゆうりだ」「ヴィクトルじゃない?」そんな小さなざわめきがだんだんと広がっていく。
「わ、やばい……」
せっかくみんなそれぞれにお祭りを楽しんでるのに騒ぎになっちゃう、そう青ざめたそのとき。
「ほら行くよ、勇利。みんなお祭り楽しんでねー!」
ぐい、とぼくの手首を掴むと周りにヒラヒラと手を振りながら走り出す。
「あ、ちょ、ヴィクトル、待って……! っ、あ、すみませ……」
そのまま巧みに人の波を掻き分けてどんどん進む。まるで祭り囃子の笛に乗るように器用にステップを踏んでいく。屋台の群れから外れ、ようやくペースを落とすとふいに彼がこちらを振り向いた。
「勇利、人気の無さそうな場所はどこ?」
「え、人気のないところ……? どこだろ……」
ふと、周りを見渡すとさっきお参りした本殿のそばまで来ていた。──そうだ。
「ヴィクトル、こっちこっち」
手を繋いだまま彼を本殿の裏に引っ張っていく。薄暗いそこは木が生い茂るだけで何もなく、お祭りの喧騒がうそのように静黙と落ち着いている。ぼくたちは はあ、と一息つくと、顔を見合わせてどちらからともなく笑っていた。
「あー つかれた…… 人集まっちゃったね」
「やっぱりヴィクトル目立つんだって!あんなカッコよく決めちゃうんだもん、みんな見るよ……」
「えぇ? 勇利が人を寄せたんだろ? ……あ、そうだ。 はい、勇利が勝ち取ったゲームと、これ」
彼がぼくの手を取り、ぽん、と掌に乗せてくれたのは、透明なケースに入った、薄いブルーの、小さなトイプードルを模ったクリスタルの置物。ヴィクトルに、どの景品がいいかと聞かれてねだったもの。
「……わ、ありがとう……! やっぱりヴィっちゃんみたいだ、かわいい…… ありがとう、ヴィクトル……」
彼がぼくの為にとってくれた、それだけでたまらなく嬉しい。一生の宝物だ。
両手で大切にそれを包みながら彼を見上げると、うす暗闇でもわかる綺麗な碧の瞳が静かにぼくを見下ろしている。今までに憶えのない眼差しに息をするのも忘れて見とれていると、ふいに彼の指先がおとがいを上げ、唇をなぞってくる。そのまま少し捲られた、と思った瞬間、あたたかい息と柔らかな感触がふわりと唇にふれた。
「……っ」
どれくらい、息を止めていたのだろう。実際には一秒もなかったのかもしれない。我に返って唇を離すと、ひときわ鋭く光る瞳に射抜かれる。わけがわからない。いま、彼とぼくは何をした?
反射的に遠ざかろうとする体を彼の強い腕が捕まえる。大きな掌に後頭部を掴まれると、こんどはさっきよりも激しく、噛み付くように唇をこじ開けられた。
「ん……、ぅ……っ」
鼻先を擦り付けながら、角度を変えて何度も唇を啄ばまれる。何もかもを塞がれているみたいに、うまく息ができなくて苦しい。舌を吸い上げるように引っ張り出されて端から唾液がだらりと垂れ落ちていく。顔も体も火照るように熱くて、体中が心臓になったみたいに騒がしく脈打っている。足に力が入らなくてまともに立っていられないのに、ぼくを支えるヴィクトルの腕が、離れることを許さない。どうして、なぜ彼はこんな。ぼくは、なにかおかしな夢でも見ているんだろうか。
混乱する頭の中、突然、静寂を破るように乾いた音が轟く。立て続けにドーン、ドーン、とお腹にずしん��響くような爆発音が鳴り響く。
やっとの思いで唇を離すと、向こうの空に色鮮やかな花火が咲くのが見えた。次から次へと下から打ち上げられた細い火柱が爆音とともに暗闇を彩り、菊、牡丹、椰子、柳、さまざまに美しい色を開かせる。なかには可愛らしい猫の形も。
「……わぁ……」
抱き寄せられた体は解放されないまま、カラフルに色を変える空をただ眺めていた。こんなに美しい花火を見ているのに、背中に触れる彼の熱い手のひらにどうしようもなく心が乱される。いま、彼はどんな顔で見ているのか。気になるのに、視線を合わせるのがこわい。それでも、体を離すこともできない。触れられる手の強さが少しずつ増していき、うるさいのは、花火の音なのか、だれかの心臓の音なのか。
「ヴィクトル……、花火、綺麗だね……」
やっと絞り出した声は小さく掠れて、爆音にかき消される。それでも耳に届いたのか、彼の大きな手のひらがぼくの頬を包むように触れてくる。そのまま眼鏡を外すと、ゆっくりと唇が近づいた。
「……勇利のほうが綺麗だよ」
隙間に見えた、その瞳の色が違って見えたのは鮮やかな空のせいか。
「……ん……、ぅ……」
その瞬間、まるで透明になったように周りの音はすべて消えた。耳に入るのは2人の鼓動と、唇の絡み合う音だけ。
すがるように逞しい背中に手を回すと、後頭部を押さえる手がくしゃりと髪の毛を搔きまわす。
彼とぼくの間に距離は一ミリもなかった。ぴったりと、まるで体がひとつだけになったみたいに、体温までも溶け合っていく。どちらともなく、からだを擦り付けるように強く抱きしめ合う。
このまま、ほんとうにひとつになれたらいいのに。ぴったりくっついたままひとつになれば、ずっと離れないでいられるのに。
「はぁ……っ」
苦しさに唇を解放させても、髪に差し込まれた手の強さに押さえつけるようにまた捕らえられる。くちゅり、くちゅりと卑猥な音をさせながら、舌の先までひとつになるように絡めあっていく。
ひときわ大きな音がして、再び耳元にさざめきが戻った。クライマックスが近いのか、派手な音とともにいっそう華やかな大輪の花を咲かせている。うっすらと開けた視界で眺めた色はぼんやりとしか見えないけれど、まるで終わりを惜しむように鮮やかに大きく広がっていく。いつだって、儚いものは美しくて、だからこそ目が離せない。この花火が消えれば、煌々とした明るさが嘘のように夜空に静寂が戻っていく。
ぐい、と咎めるような手つきが後頭部を掴んだ。集中しろと言わんばかりに激しい動きで口内を攻めたてられる。燃えるように熱い、ぼくの舌も、彼のも。
それでもいつの日かこの熱でさえ何もなかったように消えて無くなる。残るのは少しの思い出と寂しさだけ。
そのうち今日みたいに2人で屋台ではしゃいだことも、一緒にスケートをしたことも、彼が長谷津に来たことさえも、遠い記憶の中に消え去って、きっと思い出すこともなくなる。
2人で見た、この花火のことも忘れてしまう。
──そんな日が、いつかほんとうに来るんだろうか。
「花火、綺麗だったねえ。最近のは動物の型とかあるんでびっくりしたよ。あ、あとゲームのキャラのとか」
帰り道は静かだった。祭り客はみんな浜の方に行ったんだろう。街灯が少なく立ち並ぶ夜道を2人でぽつぽつと歩く。
さっきからずっと、ヴィクトルはほとんど無言だった。無言で何かの雰囲気を醸し出そうとしていた。それを感じたくないぼくは、微妙な空気をかき消すかのようにずっとしゃべり続けた。
「マッカチン何してるだろうね? まりねえちゃん、おやつあげすぎてないといいけど」
「そうだね」
「そういえば優ちゃんたちもお祭りに行くって言ってたのに会わなかったね。浜の方に見に行ったのかなあ」
「そうかもね」
「あ、さっき当てたゲームさあ、多分ユリオ好きなやつだよ。こないだ長谷津に来た時似たようなのやってたから。あれ人気なんだよねー」
「……そう」
「……そうだ、途中でコンビニ寄っていい?ぼくなにか飲み物」
「勇利」
数歩前を歩いていた彼が、立ち止まってぼくを見た。街灯の灯りが遠くて、その表情まではよくわからない。
「……どうしたの? さっきからずっと喋ってばっかりで子どもみたい」
薄明かりのなかで、彼の銀髪だけが煌めいてみえた。夏の終わりを思う風がひやりと頬を冷やしていく。
「……そう? べつに?」
何もわからないような顔で笑う��、彼が少し間を置いて再び歩き出す。ぼんやりと佇んだままその後ろ姿を見ていると、歩きながら振り向いた彼がその長い腕を伸ばした。
「ほら、はやくおいで勇利。コンビニ寄るんだろ? コーチのおごりのアイス、食べたくないの?」
「……たべる!」
いつもの彼の声に、弾かれたように駆け出して手を伸ばす。暖かい手のひらを掴むと、ポケットのなかの宝物がコロン、と踊るようにちいさく揺れるのを感じた。
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ミコとマチ
リビングで目が醒めた瞬間あわてて手元のスマホで時間を見た。5時31分、やばい、40分には家を出ないとバイトに遅刻する。渾身のスピードで歯を磨いて顔を洗い自室に駆け込みばたばたとスウェットを脱ぎ床に脱ぎっぱなしの縒れたデニムを穿きYシャツを全力で着て一張羅の苔色のカーディガンを羽織ってほとんど空っぽのリュックを背負う。化粧は諦めて大きめの風邪マスクでごまかすことにした。幸い原稿を作成してるうちに座椅子に座ったまま寝落ちしていたので髪は乱れていなかった。平日ならマチが起こしてくれるのに、今日は土曜日だから私の部屋の向かいの彼女の部屋で、マチは一週間分の疲れを取るべく昼までおねんねだ。私は「いってきます」とぼそっと呟いて全力でドアから飛び出しオレンジのチャリに跨がり立ち漕ぎで駆けた。早朝の澄んだ空気を抜ける冷たい風が私の全開のおでこに当たる。三月の霞がかった曖昧な風景を私は右、左、右、とぐっとペダルを踏んで追い越して行く。それにつれ眼がだんだんと冴えて来た。息を切らしぐんぐんと駅までの道を走りながら私は書きかけの原稿の続きのことを考え出していた。どきどきと小さな心臓が高鳴り血が巡り、私の身体に熱が漲って���るのを感じる。まだ人がまばらな駅前のロータリーを抜け、高架を潜り、なんとか出勤時間ぎりぎりに店に着いた。ドアを開くとコーヒーの温かくて甘い香りがふわっと鼻を突く。これを嗅ぐと私の頭はたちまちだらしがなくてうだつの上がらないワナビー女から「「鯤」のウエイトレスモード」にかちっと切り替わる。「おはようございますっ」私は店に入るなり弾丸のように一直線にバックヤードに突っ込みエプロンを着る。「おー、毎度のことながら作家さんは朝に弱いねえ」店長の蓮さんが茶化す。「朝まだなんだろ?これ食っちまえ」蓮さんは厨房からカウンター越しに私にロールパンを投げ渡した。「いただきます」私は風邪マスクをぐいとずらし、拳大のそれを口に詰め込んだ。それから蓮さんに渡された水をぐっと飲み干す。「鯤」は駅前の喫茶店なので、平日は開店するなりモーニングをしにくるサラリーマンなんかがぞくぞくと来て大童なのだが、今日みたいな休日は最初の30分なんかはかなり暇だ。コーヒーにつけて出すゆで卵もいつもならあらかじめいくつか小皿に分けて置くのだけど、今日はカウンターのバスケットにまだこんもりと盛ってある。その光景はまるで平和の象徴のような安心感を私に与える。しばらく待っても客が1人も来ないので、私はトイレで簡単な化粧を済ませ、カウンターにかけて蓮さんが淹れてくれたアメリカンをゆっくりと飲んだ。「原稿はどんな感じ?」「うん、方向性はだいぶ定まってきたからあとはそれを形にしていくだけかな」「なるほど、ついに俺の息子がミコが手がけたゲームをやる日がくるんだなあ、あっ今のうちサイン貰っとこうかな、店に飾るわ」「蓮さんってば気が早すぎ」蓮さんはことあるごとに茶化すけど、芯のところでは私のことをそのつど気にかけてくれているのが私にはありありとわかった。嬉しいことだ。
そうしていると、程なくして客がちらほらと入り出した。休日の朝は老人ばっかりだ。常連のみんなはお話し好きで、四方山話や身の上話を滔々と聞かせてくださる。いつものように私は給仕や食器洗いをこなしながらそれにふんふんと頷いた。でも頭の中は原稿の続きのことでいっぱいだった。先週、駆け出しライターの私に初めてクライアントからSNSのダイレクトメッセージで、ソシャゲのシナリオの執筆依頼が来たのだ。それは聞いたことないような小さな会社で、その依頼されたゲームも予算的にみてメインストリームに敵うポテンシャルがあるとはとうてい思えなかったが、なにせ執筆の依頼が来ることなんて初めてだったので、私は半端ない緊張ととめどなく沸いてくる意気込みでここ一週間ギンギンだった。原稿のことを考えると下腹のあたりがヒュンとする。これは誰もが知っているRPGのシナリオを手がけるという私の夢への第一歩だし、なにより、就職せずに創作活動に専心することにした私の決意が報われた心持ちだった。それはどう考えてもぜんぜん早計なのだけれど。とにかく、私は今とても浮かれていた。
正午前あたりから客足が徐々に増しなかなか忙しなり、あっという間に15時になった。退勤まであと1時間だ。
「いらっしゃい。おっ荘くん」だしぬけに蓮さんの朗らかな声が厨房から客席に向け広がる。荘くんが来ると、蓮さんは私を茶化す意味でわざと私に呼びかけるような声音で叫ぶのだった。これもいつものことだ。
私はお気に入りの窓際の2人がけのテーブルにギターケースをすとん立てかけて座る荘くんのところへ注文をとりにいった。心臓の音が高鳴るのが荘くんにばれている気がした。
「いらっしゃい、今日はスタジオ?いよいよ来週だね。」
「そうだな、あっ、チケット忘れんうちに今渡しとく」
荘くんにひょいと渡された黄色いチケットにでかでかと、
「jurar 初ワンマン!」と書いてあった。その楠んだチケットのデザインは全体的に少し古くさい気がした。
「ついにだね」
「うん、絶対に成功させるよ、やっとここまでこれたんだ。そろそろ俺たちもプロへの切符を勝ち取りたいな」
「うん、私応援してるから」荘くんの襟足から煙草とシャンプーの混じったえも言われぬ匂いがかすかに漂う。それは、ほんとうのほんとうに良い匂いだ。
「サンキュな、ミコちゃんも頑張ってるもんな、俺も負けてらんないよ。あっ、そうそう、そういえば…明後日柴さんにアクアマターのライブ来ないかって誘われたんだけど、ミコちゃんあのバンド好きだったよね、もし暇だったら一緒に来る?蕗川ビンテージだよ。柴さんももう一人くらいだったらチケット用意できるから連れて来ていいって」
「いいの?行きたい!」
「よっしゃ、じゃあまたラインするわ」
「まじか…」私は心中でひとりごちた。まさかのまさか、こんな地味な女が荘くんにデートに誘われたのだ。注文伝票をレジに持って行き蓮さんのほうをちらと見てみた。すると蓮さんははにかみながらしゅっと素早く腰のところでガッツポーズを出した。私は心中でもう一度、「ま、じ、か…」と丁寧にひとりごちてみた。
荘くんはブレンドを急いで飲み干して会計をし、「じゃあ」と去って行った。そうこうしているうちにやがて退勤時間となり、出勤してきた蓮さんの奥さんに引き継ぎをして、私はタイムカードを切った。「お疲れさまです」挨拶をして表口から店を出ると、スプリングコートのポケットに両手を突っ込んで含み笑いしているマチが立っていた。目が合った私たちはそのまま見つめ合った。一瞬、時間が止まったようだった。ピィ、ピィ、とけたたましい鳥の声が、狭い路地裏にこだました。
「オハヨ」マチは宣誓のように右手をしゅっと突き出してそう言った。
マチの手は真っ白で、春のひかりをぼんやりと帯びていた。ぼんやりとその手を見ていると、なんだか眠くなった。
「マチ、何してたの?」
「さんぽ」
「起きたばっかり?」
「寝すぎちった」
私は自転車を押してマチととぼとぼと散歩した。外は朝は肌寒かったけれど、今は歩いていると少し汗ばむほどの気温まで上がっていた。電線と雑居ビルたちに乱雑に切り取られた街の高い空を、鳴き交わしつつひっきりなしに飛び交う春の鳥たち、私たちはゆっくりと歩きながらそんな風景を見るともなく見ていた。
私たちはそれぞれあたたかい缶コーヒーを自販機で買い、駅から少し離れたところにあるたこ(多幸)公園へたどり着いた。私とマチは予定のない天気のいい日にはよくここで何となく過ごす。
「そういえばさ」
「ん?」
「さっき店に荘くんが来てね」
「なになに?」ブランコに座っているマチは両足をばたばたとせわしなく蹴っている。
「「明後日アクアマターのライブに誘われたんだけど一緒にこないか」って」
「デートか!」
「そういうこと」
「やったー!」マチはブランコからたんっと飛び降りて両腕を上にぐんと伸ばして叫んだ。
「いや、誘われたの私だし」
「わがことのようにうれしいっ」
「よーし今日はなべだー」マチは私に背を向けて起き上がった猫のように盛大なのびをした。
「なべ、若干季節外れじゃない?」
「めでたい日は鍋パって相場がきまってるのよっ。ミコの恋愛成就を祝って今日は私のおごりで鍋だー」
「マチってば気が早すぎ」
私たちはスーパーでたくさん鍋の具材と酒とつまみを買って、大きなレジ袋を2人で片側ずつ持って帰った。2人でわいわい作った鍋は多すぎて全然食べきれなかった。飲みまくって酔いつぶれた私たちはリビングでそのまま気を失い、翌朝私は風邪を引いていた。私がなにも纏わず床で寝ていたのに対して、マチが抜け目無く毛布を被ってソファーを独占していたのが恨めしかった。
荘くんは待ち合わせの駅前のマクドナルドへ15分遅刻してきた。10分でも20分でもなく15分遅れるというのがなんだか荘くんらしいなと私は妙に感心した。「蕗川ビンテージ」は私の家の隣町の、駅のロータリーから伸びる商店街の丁度真ん中のあたりにある。私はこの街に来たことがなかったのでライブハウスまで荘くんが先導してくれた。風は強く、空は重く曇っている。商店街や幾本かの路線でごちゃごちゃしたこの街は、私とマチが住んでいるところに比べてなんだか窮屈な感じだった。前を歩くやや猫背の荘くんに付いて駅からしばらく歩くとやがて「蕗川ビンテージ」に辿り着いた。荘くんが「あそこ」と指を指してくれなかったら私はそれがそうだと気付かなかっただろう。「蕗川ビンテージ」はどう見てもただの寂れた雑居ビルだった。よく見ると、ぽっかりと空いたビルの地下へと続く入り口の前���「アクアマター」のワンマンの掲示があった。その入り口の前に、いかにもバンドマンといった出で立ちの5人の男女が���笑していた。若いのか、それとも私たちよりずっと歳上なのか、いまいち判然としない風貌の人たちだった。その5人はやって来た荘くんを認めると手を振り、荘くんはそれに応えて私をほったらかしてポケットに手を突っ込んだまま5人に駆け寄った。荘くんが1人の男の横腹を肘で小突く、するとその男は笑いながら荘くんにヘッドロックを決め、ほかの人たちもげらげらと盛り上がった。どうやら荘くんととても親しい人たちらしい。少し話すと荘くんは突っ立っている私のほうに戻って来た。それから私の手を引いて、地下への階段を降りて行く。荘くんが近い、かつてないほどに近い荘くんのうなじから、シャンプーと煙草が良い塩梅に混じった私の好きな匂いが漂ってくる。匂いはたしかに近いけれど、暗すぎて当の荘くんの姿がよく見えない。なにかがずれている気がした。私たちは、どこか歪な気がした。私たちが、というか私だけが明らかに場違いだった。「マチは今どうしているだろう、そろそろ帰ってる頃かな、晩ご飯は私がいないから今日は外食なんだろうな」好きな男に手を引かれているというのに私の頭に浮かんで来るのはマチのことだった。やれやれ。
2人分のチケットを荘くんが受付の初老の男に手渡す、そして荘くんはまたその男としばらく談笑し始めた。「ちょっとお手洗い行ってくるね」と私はその間に用を足した。戻ってくると受付の前に荘くんを中心に人だかりが出来ていた。荘くんの周りにおそらく10人以上はいたが、その中の誰1人として私の知っている顔はなかったし、荘くんを含め、そこに誰1人として私のことを気にする人はいなかった。私はまるで透明人間にでもなったかのような心持ちだった。あそこで人の輪に囲まれ楽しそうに話しているあの人はいったい誰なんだろう。いつも「鯤」に来て親しく話してくれるあの人。私がいつか「アクアマター」が好きだとこぼしたことを覚えてくれていて、デートに誘ってくれたあの人。でも冷静に考えると当たり前のことだったのだ。界隈で突出した人気を誇る若手バンドのフロントマンの荘くんと、街の隅でこそこそと暮らしている私みたいな誰も知らない地味な女なんて、そもそもステージが違うのだ。私は知らないライブハウスの柔らかくて厚い防音材の壁にもたれながら、誰にも知られず夜空でひっそりと翳りゆく月のように、緩やかに卑屈になっていった。誰かここから連れ出してくれないかな、これがまさしく「壁の花」ってやつね。卑屈の次にやってくる自嘲。思えば幾度も覚えたことのある感覚だ。いままでに縁のあった男はみんな、折々こんな風に私のことをないがしろにした。
ほどなくしてライブが始まった。ライブは、よかった。横にいた荘くんは頻繁に何処かへ消えた。たぶん、知り合いの誰かと話しに行っているのだろう。そう、ここでは私以外のみんなが知り合いなのだ。ライブの終盤、ストロボが瞬くクライマックスの轟音の中荘くんは強く私の手を握ってきた。私はそれを知らんぷりした。スモークの甘ったるい匂いがやけに鼻についた。ライブ自体は、本当によかった。
外に出ると小雨が降っていた。荘くんはライブの終わりからずっと私の手を握ったままで、駅の方へ私を引いて歩いていく。私はなにも考えずにそれに従う。疲れて、頭がぼーっとしていた。商店街の出入り口のアーチの辺りで、荘くんは「じゃあいまからウチで飲もっか」と切り出した。私はまっぴらごめんだと思い「えーと今日はもう帰ろうかな、明日も朝早いし…」と丁重にお断りした。
「別にいいじゃん、ご近所さんなんだしバイトは朝、俺の部屋から出勤すれば」荘くんはしつこかった。
「いやーやっぱ何だか悪いしルームメイトもいるんで今日は家に帰ります。今日はほんとにありがとう」
私は返答に窮して言い訳にならない言い訳を口走っていた。そのとき私ははっと息をのんだ。荘くんは怒っていた。彼の表情こそ変わらないが、私なんかにプライドを傷つけられたこの男が激怒しているのがわかった。
それから突如荘くんは声を荒げ
「んだよ、俺とヤりたいんじゃなかったのか?」
と今まで私が聞いたことのない荒荒しい声音で言い放った。そのとき私は頭が真っ白になった。私はこの人が何を言ってるのかわからなかった。信じられなかった。この人も自分が何を言っているのかきっとわからないに違いない。そうであってほしい、と私は願った。
私はいつの間にか私の肘を強く掴んでいた彼の手をばっと振り切り、夢中で駅まで走った。後ろであの人がこっちに向かってなにか喚いている気がした。私はそれから逃げるために全力で走る。とつぜん視界がぐにゃあと歪んだ。音のない雨は、いつのまにか本降りになっていた。頬を伝って落ちる生温いものが春の雨なのかそれとも涙なのか、わからなかった。
マチは私に何も訊ねなかった。あの夜ずぶ濡れで帰ったきた私の
様子を見て何となく察したのだろう。お風呂から上がってきた私に何も言わずに中華粥を作ってくれた。荘くんはあの日以来鯤に来ることはなくなった。蓮さんは
「まあ今回は縁がなかったってだけさ。月並みな言葉だが男なんて星の数ほどいるんだぜ」と慰めてくれた。
でもそれを言うならば女だってそうだ。それこそ私は荘くんにとって星の数ほどいる「都合のいい女候補A」にすぎなかったんだ。私はまた卑屈になっていた。このことをマチに話すと「処置無しね」の表情をされた。マチの「処置なしね」の表情。白いつるつるの眉間に少し皺が走りいたましげに私の顎辺りに視線を落とすこの仕草が私は密かに好きだ。ソシャゲの依頼はなんとか納期に間に合ったが、私は次の賞に挑む気力が沸かなかった。スランプに陥ってしまったのだ。なんだかどうしても力が入らなくて、私は湯葉のようにふやけてしまっていた。このままなんの意思も目的も持たず、たゆたうクラゲのように何処かへ攫われてしまいたかった。あの失恋で、まるで私とこの世界とを繋いで私を立たせているピンと張った一本の糸が、ぷつりと切れてしまったようだ。私は休みの日のほとんどを寝て過ごすようになった。
私が一ヶ月以上もそんな状態だったので、放任主義のマチもさすがに見かねたらしく、「ミコ、餃子をやろう」と私に切り出した。パジャマの私はソファでクッションを抱いて寝転びながら「うぇえい」と曖昧に返事した、ミコが「マチはかわいいなあ」と言って後ろから抱きつこうとしてきたが私はそれをひょいと躱し、勢い余ったマチはフローリングでおでこを打ち「ぎゃっ」と叫んだ。そのとき私に被さったミコの身体はとてもひんやりとしていた。
餃子の買い出しから仕度まで殆どミコがやってくれた。私はソファに寝転んで夕方のニュースを見ながらミコが手際よく餃子を包んで行くのを背中で感じていた。辛い時は甘えられるだけ相手に甘えるのが私たちの生活の掟なのだ。私とマチは、いまままでずっとそうやってきた。
「いざ!」待ちくたびれて私がうつらうつらし出した時にマチは意気込んで餃子を焼き出した。しゅわあと蒸気が立つ音とともに、むわっとした空気がリビングに立ち込めた。私は薄目でせかせかと餃子を焼くマチの背中を見ていた。「このまま帰りたくないな」そんな素朴な気持ちが不意に、去来する。私たちには他にいるべき場所があって、いつまでもこの生活が続くわけないのはお互い、何処かで理解していた。けれど私たちはそれに気付かないフリをしている。
マチの背中って小さいんだなあ。そんなことを考えると何だか目頭が熱くなってきたので、私は寝返りをうち、狸寝入りを決め込んだ。クッションに顔を埋めてきゅっと眼を瞑っていると、まるで幽霊になって、空中を漂いながらミコのことを見守っているような、ふわふわと暖かくて寂しい気持ちになった。
「ほらほら引きこもりさん、餃子が仕上がって来たわよ。テーブルにお皿とビール出しといて」
「あいさー」
テーブルの皿に綺麗に連なって円になっているマチの餃子はつやつやでぱつぱつだった。マチは餃子の達人だ。マチよりおいしい餃子を作る女を私は知らない。
「じゃあ、餃子にかんぱーい」
「かんぱーい」
最初の一皿を私たちはあっという間に平らげた。
「じゃあ第2波いきまーす」
「いえーい」
マチは餃子をじゃんじゃん焼いた。私がもう食べられないよと喘いでも取り合わず焼きまくった。マチは何かに取り憑かれたようにワインを呷りつつ、一心不乱に餃子を焼き続けた。「餃子の鬼や…」私がそう呟くとマチはこっちを振り向いてにいっ、と歯を出して笑った。
餃子パーティも無事に終わり、私たちはソファで映画を見ながらワインをちびちびと飲んでいた。
「ミコ、この映画つまらないね」
マチがずっと見たいと言っていたから私がバイト終わりに借りてきてあげた映画だった。
「たしかに、脚本は悪くないけど演出が単調だね」
マチは冷蔵庫から新しい缶チューハイを持って来てぐびと勢い良く飲んだ。それから酒の勢いを借りたようにこう言った。
「ミコ、屋上に行こうか」
私は缶ビール、マチは缶チューハイを片手に最上階の廊下のフェンスを跨いだ。マチは私の手を引いて真っ暗で何も見えない中、屋上へと続く鉄骨階段を上がっていく。あれだけ餃子を焼いたにも関わらずマチの手は冷たかった。たん、たん、と微妙にずれたふたつのゆっくり階段を踏む冷たい音が闇の中密やかに響く。酒気を帯びたマチのにおいがする。なんだか懐かしいにおいだ。毎日のように嗅いでいるはずなのに。私はマチをぎゅっと抱きしめた���った。
屋上は無風だった。しんとしていて、まるで世界が止まったみたいだった。私たちの住むマンションは台地のてっぺんに建っているので、屋上からは街が良く見渡せる。酒の缶を持った私たちは並んで囲いの柵に凭れて、街の灯をぼんやりと眺めていた。不意にささやかな音で聞き覚えのあるイントロが流れ出した。最初はか細い月明かりのような調子のその曲は、やがて雲の隙間から抜け出して鮮烈な満月となる。
「Tomorrow never knows」
私はこの曲を聴いた時にいつもこんな印象を受ける。いつかマチはこの曲のことを夜の森の奥で誰にも知られずに燃える焚き火みたいと言っていた。思えば、性格がまるで違う私たちを繋ぐきっかけとなったのはこの曲だった。
あれは私がまだ大学一年生のときの冬だった。私はサークルの先輩に合コンに来てくれと頼まれて不承不承承知した。相手は同じ大学の違うサークルの連中だった。明らかに人数合わせで参加した合コンだ、面白いはずもなく、私はうんざりした。いつ「じゃあ私はこの辺で…」と切り出そうかずっと迷っていたが、二次会のカラオケにも流れで行くことになってしまった。そしてそのカラオケに遅れてやって来たのがマチだった。先輩の説明によると、マチは男側の知り合いだそうだ、それで先輩とも面識があったので呼ぶ運びとなったのらしい。部屋に入って来たマチを見て私は「きれいな女の子だなー」とうっとりとした。マチは空いていた私の横にすとんと座った。思わず頬が緩むようないいにおいがした。スキニーを穿いた華奢な脚のラインが綺麗で、横に座っていると、私の若干むくんだそれと比べずにはいられなかった。マチは終止にこにこしていた。男たちは明らかにみんなこの場で一番綺麗なマチを狙っていた。私は半ばいやいや参加したとはいえ、やはりみじめな気持ちだった。下を向いて鬱々としていると私にマイクが回って来た。あまり歌は得意ではないのだが…と思いつつ私は渡されたマイクを掴み、ええいままよとミスチルの「Tomorrow never knows」を歌った。歌っている時にマチがじっとこっちを見ていたのを不審に感じたが私は気付かないふりをして歌いきった。合コンはつつがなく終わった。解散してターミナル駅のコンコースを歩く私たちの集団は1人ずつ空中分解していき、やがて私とこの初対面で良く知らないマチという女の子だけが残った。私たちは無言で微妙な距離を保ちながら並んでしばらく歩いた。
「私って合コンとか苦手なんだ~」やにはにマチが間延びした調子で呟いた。それからふわあと大きなあくびをした。私はその様子を見てなんて美しいひとなんだろうとうっとりした。合コンのさなか、表面上は取繕っていたが、明らかに退屈そうにしていたのも見て取れたので、私はマチに好感を抱き始めていた。
「なんか���同世代の男の子って苦手だな、何話したら良いかよくわからないし」
「私もああいう場は少し、苦手」
「ねえ、お腹空かない?」
「ちょっぴり」
「ラーメンでも食べにいこっか」
「うん、いいよ。この辺?」
「うん、北口からちょっと歩いたところにおいしいラーメン屋があるんだ。塩ラーメンなんだけど、大丈夫?」
「大丈夫、塩ラーメン好きだから」
「それではお嬢さま、エスコートいたします。」
とマチは腰を落として片足を後ろに引く紳士の挨拶のポーズをした。
「で、では、よろしく」
私もコートの腰のところを両手でつまんで膝を曲げ淑女の挨拶でぎこちなく応じる。
私たちは改札の前で踵を返し、ラーメン屋へと向かった。
「ミスチル、好きなんだね」
「うん、親の影響なんだけど」
「私も好きなんだ。だから、君がさっき歌ってたとき嬉しかった。周りに音楽の趣味が合う人がいなくってさ、ミスチルとか今の若い人もうあんまり聴かないもんね」
「うん、カラオケとか行くとみんな今時の曲ばっかり歌うもんね。特に合コンなんかだと顕著」
「男も女もなんだかんだ言っても最終的に画一性を自分に強いたほうが楽なのだということなのかも知れんね。ところで君、名前は?」
「私はフジサワミコ。あなたは?」
「私も名前二文字なんだ。湊マチ」
「みなとまち」
「マチでいいよ」
「わかった、私のこともミコって呼んでよ」
「そうだ、ハタチになったら一緒に飲みにいこうよ。ライン交換しよ」
それがきっかけで私たちはことあるごとに2人でつるむようになった。私がこっぴどく振られた時も、マチの就活が難航を極めていたときも、いつも酒なんかを飲みながら互いに慰め合った。ルームシェアをしようと言い出したのはマチのほうからだった。それは私が就職を諦め夢を追うことにするとマチに打ち明けた次の日だった。
「私はミコがどんなでもそばにいてあげるよ」
マチはことあるごとにこんなことを言うのだった。
「どんなのでもって、もし私がアメーバみたいな真核生物でも?」
「アメーバでも好きだよ」
「私も、マチがアメーバでも好き」
赤ら顔の私たちは屋上で「Tomorrow never knows」を歌った。
「はーてしなーいやみのむーこうへーおっおー てをのばそー」
呂律の回らない舌で私たちは叫びながら柵の向こうへ両手をぴんと伸ばした。伸ばした指の先に、滲んでぼやけた街の灯りたちが、きらきらと輝いていた。
私はそのプロポーズを受けることにした。相手は麗さんという人で、マチの紹介で知り合った10歳上の高校の生物の教師だった。マチはあの失恋以来落胆している私を励ますために、荘くんとは真逆のタイプの男を紹介してくれたのだった。交際は、以前の私ではとても考えられないくらいにうまくいった。私は素敵な男をあてがってくれたマチに心の底から感謝した。彼はとても良く尽くしてくれたし、私も彼のことがとても好きだった。彼と付き合い出してから、彼の家に泊まって部屋に帰らないこともしばしばあった。そして私と対照的にマチはその頃からだんだんと不安定になっていった。なにかといらいらしてたまに私にあたるようになったのだ。私は何故そうなったかマチに聞くこともなかった、何となく察しがつくだけに余計聞く気がしなかった。喧嘩も私が帰らなくなった日のぶんだけ増えていった。
ある日3日間麗さんの家に泊まってから帰ると、私の部屋のものが全部廊下に放り出されていた。
「なにこれ」私はこっちを振り向きもしないリビングでソファにかけてテレビを見ているマチに問いかけた。
「もう出て行くのかと思って部屋を片付けといてあげたよ」
「ばかじゃないの?ほんとガキだね」
なんてみっともないんだ。私にいつまでもこだわって、ばかばかしい。
ずかずかと歩いてリビングに入ると不意にマチが振り向いてこっちをきっと睨みつけたので私は立ち竦んでしまった。
「ミコ、ミコの夢は、努力は何だったの?なんで…そんなに簡単に諦めるの?」
マチの声は掠れていた
「前にも言ったけど私には才能がないんだしもう筆を折ったんだよ」
「なんでも手に入れることのできるマチには私のことはわからないよ。知ったような口を聞かないで」
私はいつしか心の何処かで自分の夢と、マチから解放されたいと思い始めていた。
「そういえば言ってなかったんだけど私あの人にプロポーズされたんだ」
マチはまたテレビの方を向いて石像のように固まって何も言わなかった。
「おめでとうとか、ないの?」
マチは依然としてだんまりだった。
そのとき、私の頭のなかでぐわん、という音がした。誰かに後頭部を殴られたような衝撃だった。それから涙が、とめどなく溢れてきた。私は泣きながら廊下に放り出された荷物を出来る限りまとめた。それから麗さんに電話をしてワゴンを出してもらい部屋の私の家具や持ち物を全て、3往復して麗さんの家に運んだ。それっきり、あの部屋には二度と戻らなかった。それはあまりにもあっけない幕切れだった。麗さんは「人のつながりなんて、そんなもんさ」とやけに達観した口ぶりで私を慰めてくれた。3ヶ月後に披露宴の招待をマチにラインしてみたが既読すら付かなかった。
「もう、終わりにしよう」
別れを切り出したのは英治のほうからだった。英治はセックスが終わってしばらくして呟くようにそう言った。実のところ私は、英治のほうからそう言ってくれるのをずっと待っていた。いかにも安ラブホテルの調度品といった感じのチープなガラスのテーブルの上の、パフェ皿の底に残って溶けたソフトクリームがピンクの照明を反射しててらてら光るのを、私は裸でシーツも被らずに茫然と眺めている。英治がシャワーを浴びる音が聞こえる。英治が上がったら私もシャワーしなくちゃ。…どうしてこうなっちゃったんだろう…どうして。やにわにテーブルに起きっぱなしのスマホが震え出した。ガラスの上でがちゃがちゃ騒ぎ立てるそれに私はいらっとして。ぱっと手に取った。その画面には「麗さん」と表示があった。
「来月の裕太の体育祭どうする」
メッセージの内容はこれだけだった。私はスマホの画面を暗転させて枕元にぽんと投げ捨てベッドに潜り込んだ。麗さんと英太にはもう一年以上会っていなかった。毎日仕事漬けで夫と子供を捨てて出て行き、愛人と日中に安ラブホにしけこんでいる私のような女が今更どの面下げて元伴侶と息子に会いに行けばいいんだ。いやだ、このままなにもしていたくない。この地の底のような穴ぐらで、誰にも干渉されずにずっと踞っていたい。
「ミコ、ミコ、ミーティングに遅れちゃうよ。起きて」
そうだ、私は次の作品の企画ミーティングに行かなければならない。何せビッグタイトルのナンバリングだ。集中しなければ。
ミーティングはかなり難航したもののなんとかまとまった。私も英治も、いつものようにメンバーに振る舞った。私たちの関係に気付いている人は、どうやら1人もいないようだった。帰りがけに私と英治は小さな居酒屋に寄った。ここは私たちが関係を持ちだしたころ英治が教えてくれた店だ。
「今度のプロジェクト、うまく行くといいな」英治は燗を呷って少し上機嫌になっていた。昼間のラブホテルでの言葉を取繕うためなのかもしれない。
「なんたってミコには実績があるもんな。大丈夫、ミコならこの先一人でもうまくやっていけるさ」
「聞きたくない…」
「え?」
「「聞きたくない、そんな言葉」」
私は思わずそんなことを口走りそうになったが、かろうじてそれを飲み込んだ。
「英治はどうなの」
「どうって?」
「この前も辞めたがってたじゃん。この仕事、自分に向いてると思う?」
そうだ、私が英治の仕事や家庭の愚痴を聞いてあげるようになったのがこの関係の始まりだった。
「うーん…向いていようが向いてまいが、俺にはやるしかないな。やっぱり何度も言ってるけど、自分の夢のために邁進してきたミコと俺はスタンスが違うよね、それに俺…」
「俺?」促しても英治は先を言うのを躊躇うので私はいらいらした。握りしめた水割りを私はぐいっと飲んだ。
「俺…2人目ができたんだ…」
「ふうん、おめでとう、ね」
「そうなんだ、だから、この関係もそろそろ潮時なのかなって。」
私はカウンターに万札を叩き付けて店をあとにした。なにも英治に腹が立った訳ではない。私は全てがいやになってしまったのだ。夢も、仕事も、家族も。
「違う…私は…私は…」
私は無意識にそう呟きながら明後日の方向へ駆け出していた。後ろで英治が私を呼びかけながら付いてきていたが私はその声がしなくなるまで走り続けた。走って走って、私は知らないバーに駆け込んだ。それからジャックダニエルのロックを注文した。なにも考えたくなかった。ぼうとそれをちびちびなめていると、やにはにスマホがポケットのなかで震えた。英治がなにか取繕うためのメッセージを送ってきたのかと思い私はうんざりしながら画面を見た。しかしそこに表示されていた名前は「英治」ではなく「マチ」だった。
私は反射的にスマホをカウンターに伏せて置いた。そしてウイスキーを飲み干しておそるおそる画面をタップして内容を確認すると。
「久しぶり、突然ですみません。今度会えませんか。」とあった。
私は胸がざわざわした、けれどもう何も考えないことにした。すぐにマチに「いいですよ」と返信した。
待ち合わせは2人が分かりやすい場所が良いとのことで「鯤」にした。私は待ち合わせの時間より少し早くに鯤に来た。
「いらっしゃい。おお、ミコ」
蓮さんは最近白髪が増えたものの相変わらず元気だった。私は鯤には昔のなじみで今でもたまに来るのだ。
「ごぶさたじゃないか。仕事忙しいのか。なんか、顔が疲れてるぞ」
「うん、ちょっと最近いろいろあって、でも大丈夫だよ、ありがとう」
蓮さんはいつでもぶれずに蓮さんなので話していると私は安心する。蓮さんって私にとってオアシスのような人だ。
「今日ね、マチと会うんだ。ここで待ち合わせしてるの」
「マジで!すごいな、何年振りだ?」
「10年振り…」
「そうか、あれから10年も経つのか…なんかあっというまだな」
「うん、いろいろあったね」
本当にいろいろあった。でも、私とマチの時間はあの時のまま止まっている。私が部屋を飛び出したあの日のまま…マチはいったいどうしていたのだろう。
私は緊張してテーブルにかけて俯いていた、しばらくしてドアに取り付けたベルがからん、と鳴った。顔を上げると、入り口にスプリングコートを着たマチが立っていた。そのシルエットは背後から射す春の陽射しに象られていた。
「おおお、マチちゃん!久しぶりー!」
「マスター、お久しぶりです。」
「相変わらずべっぴんさんだね。ここに2人がいるとなんだかあの頃に戻ったようだな。ゆっくりしていってな」
「マスターも相変わらずみたいで。ありがとうございます」
マチははにかんだように微笑みながら、私の向かいに掛けた。私は気恥ずかしかった。何を話したらいいのか全くわからない。マチもそうなのだろう。ずっとそわそわして後ろを振り向いたりしていた。私はマチが少しだけふくよかになっていることに気が付いた。
しばらくしてマチが話し始めた。
「最近いろいろあって考えたの…私どうしてもあのときのこと謝っておきたくて…寂しくてミコを傷つけることしかできなかった。ミコがいないとだめなのは自分のほうなのに、そして、そう思えば思うほど心細かった。こんな風にミコを呼び出して謝るのも独りよがりだけど。どうしてもそれだけは伝えたくて、ほんとにごめんね、ミコ」
そう言ったマチの眼から涙がひとすじ流れ落ちた。
そうか、みんな寂しかったんだ。私とマチだけじゃない。麗も、英治も、それから荘くんだって。ミコの涙を見て私のなかで何かがはらりと落ちていった。それはたぶん、いつの間にか私の心に巣食っていた「あきらめ」のようなものだった。
「いいんだよ、マチ、もういい」
「あ、あり、ありがとう、ミコ、うわーん」
マチはぐしょぐしょに泣いてバッグから出したハンカチで顔を抑えていた。ほかの客もびっくりして、カウンターに掛けているおばあちゃんも「あれあれ」と茶化してきた。私もつられて泣きそうになったがこらえてマチの手をとって店の外へ出た。
私は泣き止んできたマチの手を引いてしばらく歩いた。
「見てマチ、ここのスーパーでよく買い物したよね」
「あっこの公園覚えてる?よくブランコ漕ぎながら酒飲んだよね」
マチは鼻をすすりながら「うん、うん」と相槌をうつ。
春の気持ちのいい暖かい風が、懐かしい気持ちを呼び起こす。マチの手は、あの頃と同じで冷たい。
私はマチの手を引きながらマチとの部屋を後にしてからのことを吶吶と話した。結婚して間もなく、昔穫ったグランプリの作品を目にしたディレクターに大手ゲーム会社のシナリオライターとして抜擢されたこと…麗さんとの子供が産まれたこと…仕事が多忙なのが原因で離婚したこと…仕事が忙しすぎて疲れていること…同僚の不倫相手との関係が終わったこと…
マチは私のところどころくすりと笑いながらただ聞いてくれていた。
「ぜんぶミコだね」
「え?」
「恋愛でポカするのも、仕事や夢に疲れて参っちゃうのもぜんぶあの頃と同じミコだ。ミコは私が知らない間もミコをやってたんだね」
「たしかに、全部わたしだ。わたしらしい…わたし」
そしてマチもずっとマチだ。あの頃と同じ、強い肯定も否定もせずただ私に寄り添ってくれる。そんなマチを見ていると今日の朝までずっと私を苛んでいた罪の意識や漠然とした憎悪が緩やかに解れていった。
「ねえマチ」
「ん?」
「屋上に行かない?」
私たちの住んでいたマンションはまるでタイムスリップしたかのようにあの頃と同じで、どこも全く変わっていなかった。
いけないことと知りつつ、私はマチの手を引きそうっと忍び���で、屋上への階段を昇る。
私たちは昔のように並んで囲い柵によりかかり街を見渡した。
「どこもかしこもなーんにも変わっていないね」
「そだね、あ、でも私は少し変わったかも」
「どんなところが?」
「私、結婚するんだ。式は挙げないことにしたんだけど。それでね、今お腹に赤ちゃんがいるの」
「え?」
私は不意をつかれて唖然とした。
「何ヶ月?」
「3ヶ月」
「えーっと…夫さんはどんな人?」
「優しい人だよ、今の職場で知り合ったの」
「おめでとう、マチ」
「ありがとう、ミコ」
私たちは手を繋いだまま顔を見合ってくしゃっと笑った。
「これ、覚えてる?」
私はスマホのプレーヤーを開いて再生をタップした。
「うわ、懐かしい、私今でも聴いてるよ」
「私も聴いてる」
あの夜この屋上でマチと一緒に歌った…そしてマチと私を繋ぐきっかけになったこの曲。
「Tomorrow never knows」
私たちはあの頃を思い出しながら小さな声で一緒に歌った。これまでと、これからの全てが、発酵するパン生地みたいに私のなかでふわり広がって行った。
心のまま僕は行くのさ、誰も知ることのない明日へ
そうだ、私とマチは私とマチのままで、あの頃のような万能感はなくともしっかりと歩いて行くんだ。癒えない傷を抱えながら。あらゆる柵に絶えながら。
私たちの目の前には、霞がかってぼやけたなんでもない街が広がっていた。
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無題
ふたなり、おねショタ、あと最後の方に若干長身女性ネタとおっぱいネタがあります
[一日目]
僕は今、とてもではないけど顔を上げられずにいる。原因はたった一つ。人が誰も居ないガランとした電車の中、一駅か二駅が過ぎようとした時に乗ってきた一人のお姉さん、……それだけだ。
一目見て綺麗な人だと思った。口をあんぐり開ける僕をチラリと見て微笑むと、向かい側に腰掛けて鞄から一冊の本を取り出し、髪をかき分けてから真剣な眼差しで読み始める。着ている制服は、ここの辺りでは誰でも知っているお嬢様学校、……たぶんそこの高等部のもの。ページをめくる仕草一つ取っても、あくび一つ取っても、どこかお上品な感じがする。
僕は見とれてしまっていた。胸がグッと締め付けられるような心地がしてしょうがなかった。
気づかれたのは電車がガタン! と大きく揺れた時だったと思う。僕も驚けば、お姉さんも驚いて、辺りを見回しているうちに見つめてくる視線に気がつく、――僕にはそう見えた。
以来、お姉さんは本を鞄にしまってから、じいっと僕を見つめてきている。今この瞬間も視線を感じてしょうがない。先程、チラと見た時には微笑まれていたけれど今はどうだろう、こんなに長く見つめてくるのだから、もしかしたら睨まれているのかも。……
キュッと自然に体が縮こまる。怖い。どうして僕はお姉さんを見つめてしまっていたのだろう。謝らなきゃ。そうだ、謝れば、きっと今なら許してくれる。――
僕は意を決した。一度深呼吸をして、お姉さんの視線にまずは答えようと、顔を上げる。
「――えっ?」
と、僕はそんな声を出していた。
眼の前には信じられない光景が広がっていた。まずお姉さんは睨んでなんて居なかった。代わりに物凄く熱い目をこちらにむけていた。頬は赤く、浅い息を吐き出す口は少し開き、時々顔にかかる髪の毛を払い除けている。そして、――ここからが信じられないことだけども、お姉さんは軽く広げた足のあいだから生えている〝アレ〟を、手でガシガシと擦っていた。――
「……あ、え? え?」
僕はもう一度変な声を上げると、目をこすって目を瞬いた。
お姉さんの顔は変わらず火傷しそうなほどに赤い。視線をずらしていくと、大きな胸が見える。キュッと引き締まったお腹が見える。白い肌のほっそりとした腕が見える。そこまでは完璧に女の人だった。でも、やっぱり、その途中でどうしても、お姉さんのような綺麗な人にはあるまじき〝アレ〟が見えてきてしまう。
紛れもなくおちんちんだ。……何度目を擦っても、お姉さんの股からは僕たち男にしか無い、おちんちんが生えている。
でも、大きさは途方もない。僕のものとは比べ物にならないのは当然として、これほどまで大きなおちんちんを持つ男の人が居るかどうか。長さも太さも腕くらいある。先の部分なんかは拳みたいにぶわりと広がっている。――大きい、大きすぎる。……
けれどもどうして、僕はこんなに惹かれているのだろう。ただのおちんちんなのに、しかもとんでもない大きさのおちんちんだというのに、目を離すことが出来ない。僕も息が荒くなってきた。ふと手を股間にやると、感覚がなくなるほどに固くなっている。なんで、……どうして、……変だ、……僕はどうしておちんちんなんかに興奮しているんだろう、……どうして、どうしてお姉さんにおちんちんが生えているんだろう、……分からない。もう何も分からない。変だ、………
と、その時お姉さんが笑った。おちんちんを擦る手が一層激しくなる。ビクビクと震えるその猛々しい肉棒は、ぬるぬるとてかり、先端部分がより一層膨らむ。
――あ、そろそろだ。
と思った。お姉さんから生えているおちんちんからも出てくるのかは分からないけれども、もうこうなってはどうでもよく感じる。出てきたとしても不思議じゃない。でも、このまま出してしまうと、床が汚れてしまうし、お姉さんの足にもかかるかもしれない。
が、そんな僕の心配をよそに、お姉さんは自身のおちんちんを擦って行く。そしてキュッと目を瞑った。と、同時に、
ビシュ! ……
と僕の横を白い何かが掠めていった。しかも止まらない、止まらない。次々と僕の両脇を白い何かが通り過ぎていく。頭の上を通り過ぎたのもあった。
長い長い絶頂がようやく終わって、恐る恐る窓を見てみると、べっとりと張り付いた白い何かが、ゆっくりと落ちて来ている。恐る恐る隣のシートを見てみると、水たまりが出来るほどに、白い何かが降り積もっている。恐る恐る足元を見てみると、でも何故かそこには何も無かった。最後にお姉さんの方を見てみると、生々しいおちんちんはそのままに、ティッシュを数枚取って手を拭いていた。
ほんとうに出てきた。恐ろしいまでの量はともかくとして、そのふるふると電車に震える白い液体は、明らかに精液だった。不思議なことに、僕には一切かかっていなかったのはなぜだろうか。お姉さんはさらにティッシュを取って、我が子のように自身のおちんちんを優しく丁寧に拭いている。
電車が止まった。何事もなかったかのように再び本を読み初めていたお姉さんは、扉が開くと同時にさらりと出て行った。残された僕は、誰かにこの惨状を見られたらと思いながら座っていたけれども、誰も乗って来ないことにホッとして違う車両に移ると、まだ鼻に残る匂いにお姉さんを思い浮かべながら、自宅の最寄り駅に着くまで悶々と過ごしていた。
[二日目]
一夜明けて、昨日の一件は夢だったのだろうと思うことにした僕は、今日も変わり映えのしない一日を過ごしていた。
電車に突然、綺麗な女の人が入ってきたかと思えば、その人におちんちんが生えていて、僕の眼の前でオ��ニーを初めて、しかもあろうことか、男の人の何十、何百倍もの精液を撒き散らすなんて、白昼夢というやつだったのだろう。思えば昨日は一日中ぼうっとしていたような気がする。でも今日は、体調もよく、授業もちゃんと集中して受けられたのじゃないかと思う。
僕は違う路線に乗る友達と駅で別れて、電車に乗った。今日もお姉さんに会えるかもしれないと言う淡い期待はあったけれども、僕の乗った車両には居なかった。
「ほら、やっぱり夢だったんだ」
とつぶやいて誰も居ないガランとした席に座る。
「あ、そうだ」
としばらくして思い出した。そういえば昨日は違う車両に乗っていたのだった。確かすぐ隣の車両だったことを思い出すと、僕はすぐさま立ち上がる。
どうしても会いたかった。これが一目惚れというものなのだろう。おちんちんが生えていることも、今の僕にとっては魅力的に感じられる。
車両の連結部に来た時、僕の手は震えていた。窓からは、昨日も見たお嬢様学校の制服に身を包んだ、一人の女子高校生が座っているのがかすかに見える。昨日と同じ席、昨日と同じさらりとした黒い髪の毛、……
間違いない、お姉さんだ。ガラリと扉を開けると、彼女はびっくりしたようにこちらを一瞬だけ眺めて、柔らかく微笑む。――昨日見た、あのおぞましいおちんちんが頭に浮かびあがってくる。男のそれよりも大きく、男のそれよりも太く、男のそれよりも女性を虜にしそうなおちんちん、……やっぱり、こんな綺麗な女の人に生えているとは思えない。
「やっぱり夢だったんだ」
と思いながら立ちすくんでいると、彼女がぽんぽんと隣の席を叩いていることに気がついた。たぶん隣に座れということなのだろう、僕は吸い込まれるようにお姉さんの元へ行って、挨拶を交わした。
開口一番に、昨日はびっくりした? と言ってきたお姉さんは、僕の予想通りとあるお嬢様学校の高等部二年生、名前は菜桜子と言う。なおちゃんと言ってくださいな、と言って来たけれども、僕にはそんなこと恥ずかしくって出来るわけがない。お姉さん、お姉さん、と呼び続けていると、それならお姉ちゃんと呼んでと言うので、
「お姉ちゃん」
と試しに言ってみると、本を胸に抱いて、嬉しそうに笑った。
そして肝心の昨日の一件は、白昼夢でも幻想でも何でも無く、現実だった。なぜなら僕が隣に座ったときから、お姉ちゃんのスカートからは、すでに大きくなりかけたおちんちんがはみ出していたのだから。
ふたなりって言うの。――と、お姉ちゃんは言った。生えてるけど体は女の子のものだよ? ほら、おっぱいとか触ってみる? と言って、胸に手をやろうとしてくるので、慌てて手を引っ込めてしまった。
クスクスとこそばゆく笑う彼女。じゃあ、こっちは? と僕の手を取って、次は自分の股の方へ近づけて行く。――おちんちんを触らせてこようとするのには、なぜか抗えなかった。それどころか、スカートの中から雁首を伸ばすその肉棒に、僕は自分から手を近づけていってしまった。
「熱っ!」
と思わず声を上げて、手を離してしまう。
それほどまでに、お姉ちゃんのおちんちんは熱かった。笑いの止まらない彼女は、ゆっくり、ゆっくり触ってごらん? と言って、僕の手をそのしなやかな手で包むと、ゆっくりと先端部に近づけていく。
……今度はちゃんと触れた。しっかりと握ってと言われたので、思いっきり力を込めていたけれども、お姉ちゃんのおちんちんの方が僕の力よりも遥かに強いらしく、ビクビクと動いてしまう。それはもはや自分と同じ器官だとは思えなかった。火傷しそうなほど熱く、僕の力では抑え切れないほど力強く、握ってもびくともしないほど強靭で、それでいてひどく蠱惑的だった。
「す、すごい。……」
自然、感嘆の声を上げていた。
ふふ、……とお姉ちゃんは笑うと、今度はお姉ちゃんがしてたように、動かしてみようか、と言って来る。僕はその言葉に従った。お姉ちゃんからは何か甘い良い匂いが漂ってきていて、体が言うことを聞いてくれない。ゆっくりと上へ、下へと手を動かしてしまう。
一回、二回、三回、………と手を動かすに連れてお姉ちゃんは気持ちよさそうな顔をして、よしよしと僕の頭を撫でてくる。その手付き、その優しさ、――彼女を喜ばせようとしている僕の方が、逆に喜ばされてされている。
もうたまらなかった。僕は手の動きを激しくした。お姉ちゃんはますます気持ちよさそうにしてくれた。聞いているこちらが恥ずかしくなるような声を上げ始めていた。そして、とうとうその時が訪れたのか、お姉ちゃんはそろそろイキそう、……と言って、キュウッと体を縮こまらせ始める。
「あ、だ、ダメ。……えっと、何か。……」
僕は昨日の惨状を思い出して、何か覆えるものを探した。けれども、思いついたのは一本のペットボトルのみ。幸い、中身は飲みきっていたから、鞄から取り出すと、お姉ちゃんのおちんちんの先っぽにあてがう。
ビクン! ビクン!
と、跳ね上がりながら精液を放つ彼女のおちんちんは、あっという間に500 ミリリットルのペットボトルを一杯にすると、あちこちへ白い液体を撒き散らしながら、ゆっくりと落ち着いていく。まだ出てくる精液は僕の手をべとべとにし、床を汚し、あと一歩のところでお姉ちゃんのスカートも汚してしまうところだった。
「うぇ。……」
まさかこんなことになるとは思って居なかった。500 ミリリットル程度では足りないだろうとは思っていたけれども、出口を抑えたホースのようになるとは思っていなかった。飛び散った精液はお姉ちゃんの足元も、僕の足元も濡らしている。怒られてしまうかもしれない。……
ビクビクしながら顔を上げると、お姉ちゃんは微笑んでいた。汚さないようにしてくれたんだね、ありがとう、やっぱりゆうくんは偉いね。よしよし、――と、僕の頭をひとしきり撫でてくれた後、ほら、手を出して、拭いてあげるから、と自身のおちんちんはそっちのけに僕の手を拭いてくれる。お姉ちゃんの手はひたすらに心地よかった。暖かく、優しく、手触り良く、綺麗に切りそろえられた爪は見ているだけでも心が安らいでいくようだった。
そんな彼女の手の心地よさに酔いしれていると、最後に匂いが残らないようにと言って、シュッと香水をふりかけてくれた。思わず手を嗅いで見ると、お姉ちゃんと同じ甘い匂いがする。感動して泣きそうになった。僕の手はお姉ちゃんと同じ匂いを発している。……
彼女がおちんちんを拭いているあいだ、僕はぼーっと精液の詰まったペットボトルを眺めていた。飲んじゃダメだよ、飲んだらゆうくんのこと嫌いになるからね、と声がかかるので見ると、お姉ちゃんは最後の仕上げにスカートをパンパンとはたきながら、僕のことを真剣な眼差しで見つめてきている。
「の、飲まないよ」
と少々怯えつつ言うと、ふふ、嫌いになるっていうのは冗談だよ、ほら、捨ててくるからそれちょうだい、と手を伸ばしてくるので、
「あ、……えと、僕が片付けておくから、お姉ちゃんはそのままで。……」
と思い切ってみると、目の色を変えて、そう、ならよろしくね。ありがとう、ゆうくん。と言って、再び頭をなでてくる。
僕はどうしてもこの、お姉ちゃんの精液の入ったペットボトルが欲しかった。お姉ちゃんの種、お姉ちゃんの子供の元、お姉ちゃんそのもの、お姉ちゃんがここに居た証、……まだ暖かさの残るこのペットボトルは宝物のように感じられた。僕は持っていたタオルにそれを包むと鞄の中へ丁寧に入れた。使い道は特に考えてないけれども、大切に保管したい。
そしてお姉ちゃんと話ていると、電車の止まるブレーキ音が聞こえてきた。お姉ちゃんはもう一回、飲んじゃダメだよ、と言ってから、昨日と同じように颯爽と電車の外へ出て行った。僕はまた会えることを楽しみにして、鞄の中からペットボトルを取り出すと、じっと眺めて残りの時間を過ごした。
[三日目]
昨日は大変だった。実は家に帰った後、あのペットボトルを開けて、少しだけ手のひらに出して、ペロリとなめてみたところ、とてつもない衝動に駆られてしまい、外が明るくなるまで、夜通し自分の小さなおちんちんで自分を慰め続けてしまった。今日の僕はもうダメだ。体のだるさと眠気もあるけれども、アレだけオナニーをしたのにも関わらず、手が勝手に股間へと伸びてしまう。
ああ、そうか、お姉ちゃんが飲んじゃダメだよと言っていたのはこのことだったのか、……
ふらふらと帰りの電車に乗ると、僕は倒れ込むようにして座席に座った。もう眠くて仕方がない。
「帰ったらあのペットボトルは捨てよう、中身は川にでも流して、それから、……」
そこで意識が途切れて、うとうとしていると目の前に人影が居るような気がした。
「お姉ちゃん、……」
と寝ながら言うと、もう、飲んじゃダメって言ったのに、ゆうくんは言うことが聞けないの、と、僕の顔を持ち上げながら怒ったように言う。でも、軽く明けた目に映るお姉ちゃんの顔は確かに笑っていた。かわいいかわいい、けれども綺麗な顔立ちを歪ませて、僕を見てきている。
「お姉ちゃん、……」
ともう一度言った。お姉ちゃんはそんな僕を座席に深く腰掛けさせると、スカートを捲りあげていた。昨日も一昨日も見た猛々しいおちんちんが、今か今かと雁首を跳ね上げさせているのが見える。
――これだ、これが僕は欲しかったんだ。何回も何回も絶頂を繰り返して、それでも満たされることの無かった欲求、……それはお姉ちゃんのおちんちんでしか救えないのだということに、今ようやく気がついた。
欲しい、……欲しい。お姉ちゃんのおちんちんが欲しい。……もう目の前にある、目の前にある!
悪い子にはバツを与えないとね、――お姉ちゃんは僕の肩を掴んで無理やり体を起こさせてくるや、自身の肉棒を僕の顔に近づけてきた。僕は当然のように口を開けた。期待と恐ろしさから心臓はこれほどないまでにバクバクと脈打ち、体はガタガタと震え、緩みきった尿道からはおしっこがどくどくと出てくる。
目なんて開けていられなかった。それでもお姉ちゃんのおちんちんは確かに口元を熱くしているから、もう触れるか触れないかの距離にあると思う。――あ、唇に当たった。思ったよりも大き、……えっ、ちょっとまって。嘘、こんなに大きいなんて、……うぁ、…… 顎が外れてしまう! あ、あ、喉に! ああ!!
「んんんっ!!!」
お姉ちゃんのおちんちんは僕の喉に当たった瞬間にその歩みを止めた。息はかろうじて鼻からできるけれども、もう苦しくって仕方がない。
――今回は口だけで許してあげる。でもしっかりと気持ちよくするんだよ? わかった? ゆうくん?
僕は頷こうとしたけれども、お姉ちゃんのおちんちんはそれを許さなかった。鉄の棒が口に入っているように、僕の顔は全く動かず、かすかに震えるくらいしか出来ない。目から止めどもなく溢れてくる涙と吹き出てくる汗で、ものすごく気持ち悪い。……
それから僕は一生懸命舌を使って、お姉ちゃんを気持ちよくさせた。最初の一分や二分で僕の舌は疲れ切ってしまったけれども、それでも頑張った。そうそう、ゆうくん上手いね。もしかして私以外に経験あったりする? ……ふふ、冗談だよ。あ、もう少し上の方を舐めてくれないかな? ――こんなお姉ちゃんの要求にはすぐさま答えた。でないと何をされるか分からないから。もし喉の奥底にまで突っ込まれでもしたら、大変なことになるのは分かりきっていたから。もう僕は、お姉ちゃんに都合のいい人形になってしまったのかもしれない。……
でも射精の瞬間はかなり呆気なかった。あ、そろそろ出るからそのつもりでね。と、お姉ちゃんが言ってから準備する間もなく、おちんちんから吹き出た精液は僕の胃をあっという間に満たし、途中からは僕の周囲を昨日と、一昨日と同じように電車内を白く染め上げた。
「ひっ、ひっ、……お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」
と、絶頂が終わった時、僕は声を上げて泣いていた。どんどん萎えて行くおちんちんをスカートの中へ収めたお姉ちゃんは、僕の口周り、額、頬、鼻先、眉間、……等々をハンカチで拭き、よしよし、気持ちよかったよ。もう飲んじゃダメだからね、わかった? お姉ちゃんとの約束だよ? と僕の頭を優しく撫でてくる。――やっぱりお姉ちゃんのなでなではたまらなかった。まるで魔法のような手付きに、僕は怖くて泣いているのか、それとも嬉しく泣いているのか分からなくなってしまった。
しばらくそうやっていると電車が止まったようで、ドアの開く音がする。じゃあね、また明日も会いましょう、とお姉ちゃんは去っていったけれども、僕はまだ涙を流しながら、口の中に残る嫌な塩味を何度も何度も飲み込んでいた。昨日の晩から続くどうしようもない欲求は、完全とは言えないまでも、とりあえず何とかなるまでに消えているようだった。
[四日目]
明くる日、僕は学校へ向かえるような体調ではなかったけれども、それでも行った。昨日お姉ちゃんは別れ際に、明日も会いましょうと言っていたから、彼女との約束のような気がして、這ってでも行かなければならない。――そんな気がした。
授業���もはや受けられるものではなく、体育は保健室で過ごし、後の授業はほとんど寝て過ごした。昨日から続く眠気は一日で取れるようなものではなかったし、それにお姉ちゃんのおちんちんを口に含んだ瞬間の恐怖が蘇って、昨晩は寝ようにも寝られなかった。
ようやく今日最後の授業が終わった。やっとだ、やっとお姉ちゃんに会いに行ける。――トボトボと駅まで歩いて行き、僕は24時間待ち望んだ大いなる期待を抱きながら電車に乗った。
相変わらず人の居ないガランとした電車に腰掛けると、やっぱり寝てしまっていたようだった。それにすら気がついていなかった辺り、僕は相当に疲れているのだろう。でも、そろそろお姉ちゃんが乗ってくる駅だ。寝ている訳にはいかない。
体を起こして座り直して、向かい側の景色に目を向けていると、直に電車が遅くなり始める。いよいよお姉ちゃんが乗ってくる、そう思うと唐突に目が覚めてきて、僕は立ち上がると扉の側にあるポールに手をかけて、その時を待った。
と、その時扉が開いて入って来たのは彼女と同じお嬢様学校の生徒たちだった。
「えっ? えっ?」
どうしてこんなに、今まで無かったのに、……と思っているうちにぞろぞろ入ってくるその生徒たちは、あっという間に僕を包んでしまった。
「うわ、うわ。……」
みんなお姉ちゃんと同じように綺麗な人達ばかりで、僕はつい声を上げていた。何だか良い匂いも車内に充満してきて、桃源郷に居るみたいな心地がする。
あの学校の生徒ってこんなんなんだ。……
僕はお姉ちゃんと最初に会った時のように、今乗って来た生徒たち一人一人に見とれてしまっていた。談笑を初めた生徒も、一人本を読み始めた生徒も、ぼんやり外を眺めている生徒も、みんなしてみんな可愛い。……
――ゆうくん?
そんなことをしていると、突然後ろから声をかけられた。車内を眺めているうちに、いつの間にかお姉ちゃんが乗ってきていたらしい。振り向くと、いつものように微笑んでいるお姉ちゃんが、……
「へ?」
と僕はまたしても声を上げてしまった。視界にはドン! と制服を突き破らんばかりに張り出した、大きな大きな女の人の胸元しか映っていなかった。恐る恐る見上げると、だいぶ遠くの方で、お姉ちゃんが僕を見下ろしながら微笑んでいる。
――お、大きい、……いや、胸もそうだけれど、お姉ちゃんの背がこんなに高かったなんて、……
僕はそんな感想を頭に浮かべながら、今日は暑かったねー、と呑気に言うお姉ちゃんに反応できずにいた。チビと罵られるほどに身長が低くて、会う人全てに見下される僕にとって、女の人に、――それもお姉ちゃんにこれほどまで見下される事実は衝撃的だった。目算だけれども、たぶん175 センチくらい、……いや、もしかしたら180 センチにも達しているかも、……
口をあんぐり開けていると、唐突にお姉ちゃんは頭をなでてきた。ふふ、大丈夫だよ、ゆうくんもこれから伸びるから。まだ中学一年生でしょ? たくさん食べて、お姉ちゃんよりも大きくなってね。と、言ってくる。でも、お姉ちゃんくらい高くなる人はそんなに多くは居ない気がする。……
と、その時ゴトン! と電車が大きく揺れた。それは三日前にお姉ちゃんが僕の目線に気がついた時と同じ揺れだった。
「わっ」
と僕はバランスを崩して、つんのめってしまった。でも、僕の眼の前と言えば、お姉ちゃんの、……お姉ちゃんのおっぱいが、………
「ごめんなさい!」
一瞬天国を味わった後、僕はなんとか足を踏ん張って体を起こそうとした。――が、良くわからないうちに、またもやボフン! とお姉ちゃんの胸元へ顔を押し付けられてしまった。
どうやら、後ろからお姉ちゃんが僕の頭を押さえつけているようだった。たぶんクラスの男子に言うと、ものすごく羨ましがられる状況だろう。どうしてそんなことになったんだ、どうしてなんだ、と言うに違いない。でも、当の本人である僕としては、もはや顔中に広がるその柔らかな感触が心地よすぎて、理由なんてどうでもいい。思いっきり息を吸い込んで、触覚と嗅覚を目いっぱいに使い、お姉ちゃんのおっぱいを堪能する。
もうダメだった。頭をそっくりそのまま包んでくる柔らかさと、ほのかに匂ってくるミルクのような香りに、僕の意識はどんどん遠のいて行く。あれよあれよという間に、全身をお姉ちゃんに預けさせて、とうとう彼女に抱っこされる体勢になってしまった。
そんな中、お姉ちゃんがそっと囁いてくる。それは、今鼻腔中に漂う香りのように甘い提案だった。僕は頷くと、後はお姉ちゃんの胸の中ですやすやと子供のように眠って、いつもとは違う駅までの道のりを過ごした。
(おわり)
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光のない夜を纏って、彼女は笑う。おかしい。こらえきれない。そんなふうに口もとを手で隠す。「ごめんなさい」と言って、嬉しそうに彼女は続ける。「そんな、かわいらしいねだり方もするのね」理解できずにいる私を確かめて、彼女は人差し指を唇に添えると、こう言った。「キス」 それで、意味がわかった。気絶しそうなくらい恥ずかしくて、まだ夢を見てていいんだと思うと嬉しくて、私はもう笑うしかなかった。 私たちは、すれ違う。 そんな、幸せなすれ違いをする。 「やだ、照れる、もう言わんといて」 「ええ、ええ。大丈夫、秘密にする」 「笑いすぎでしょ」 「あなたも」 「私はほら、被害者」 「私も同じよ」 「もー、行こ行こ」 「ああ、暑い」 交わした笑いの余熱を感じながら、高架を過ぎて坂道を下る。繋ぎなおした手のひらや触れ合った腕からは、ひんやりとした夏が伝った。 下り坂を終えて信号を渡ると、立ち並ぶビルを横目に線路沿いを歩いた。真新しい舗装や街路樹で整えられた道は、静寂で満ちている。非常灯、夜間入口に点る明かりは、否応なく夜の深さを感じさせた。 どうしてか、交わす言葉はほとんどなくなった。疲れたのかもしれない。私はともかく彼女にはちょうど、一日の疲れが訪れるような時間だとも思う。 だから、道沿いの公園へ彼女の手を引いた。ちょっと休ませて。そういうことを言って、公園のブランコに腰を下ろす。彼女はあまり乗り気ではなかったけど、腰かけた体をゆっくりと揺らした。漕ぐのではなく、揺らす。揺れる。この夜に浮かぶ小さな舟の上、音もなく漂う私たちを、夜風が受け入れた。 公園のフェンスを越えて目で線路を辿ると、遠くにホームの明かりが見えた。そこはいつも使う駅で、私には、この場所から私たちの家までの道を簡単に思い描くことができた。 「周子」彼女がぽつりと言葉を落とす。それがやけに寂しそうで、私は目をそらしたままでいる。「眠れそう?」 「わかんない、かな」私は答える。凍るみたいな声に驚いて、甦らせようとした温もりを失った。 「いっそ、朝まで起きていましょうか。疲れて、気を失うみたいに眠るまで、ずっと」 「いいねそれ。でも意外と、おふとんに入ったらすぐ眠っちゃうかも」 「そのまま眠り続ける?」 「あはは、ありえる」 「……本当に、そう思う?」 「たぶん」 「周子」 「……だめかな」意味のない会話だと思う。こんな言葉遊び、退屈しのぎに髪を編んだり腕をくすぐるみたいに触るのと何も変わらない。「そんなのも悪くないって、そう、思うよ」 フェンスの向こうを、電車が過ぎていく。まばらな乗客の、誰もが眠っている。かたいシートに腰を落ち着けて、うつむいたまま目を閉じている。みんな目を開くこともなくいつまでも眠り続けて、そのまま遠くへ行く。 ホームに止まった電車が動き出すと、明かりの下にはいくつかの人影が残った。色のある影が気怠そうにエスカレーターを昇って姿を消すと、やがて、明かりが落とされた。今日を終えて、駅は眠りにつく。常夜灯がその形を夜に残して、私だけを置き去りにした。 「もう、帰りましょう」と彼女は言う。私には、それが悲しかった。離してしまった手のひらに、気付きたくなかった。たやすく冷める熱なんて、はじめから知らなければ良かった。 夢の終わりなんて、私にはいらなかった。 「もうちょっと」そう答えて、私は足で地面を蹴る。勢いをつけて漕ぎ出した小舟は、大好きな家から、彼女の声からも私を遠ざけてくれた。「ちょっとだけ、付き合ってよ」 夜を泳ぎながら、空を眺めた。雲で蓋をされた夜空からこぼれ落ちたのは、星じゃなかった。降り出した雨は優しく頬を濡らす、それが、心地良かった。舟を漕ぐ力さえ惜しくなって、重力に委ねた体を雨粒にさらす。それは、夢を見続けるためには、とてもうまい方法だと思えた。 雨は見る間に勢いを増して、舟はもう、沈もうとしている。 「周子」 雨の隙間から、彼女は私を呼んだ。視線だけを向けると、彼女は私を見つめていた。みだれた髪が片目を隠していて、降り注ぐ滴は涙のように見える。その形がふっと近付いたかと思うと、体に衝撃があって、彼女が濡れた地面に膝をついていた。何が起きたのか、理解するよりも早く私には、消え入りそうな悲鳴が聞こえた。 重力だ。 私の重力が、彼女を傷つけた。 「ごめん」私は、言う。「ほんとに、ごめん」膝をついて、冷たい頬に触れる。「痛いよね、ごめんね」 「……平気」彼女は私の手に触れて、弱々しくほほえむ。濡れた土にまみれた膝には、赤々とした血が滲んだ。「私が望んだことだから」 「違うよ、私が」 「望んだ?」そう言って、彼女は笑う。雨が下ろした幕の内側で、ほほえみは変容を遂げていく。「これが、あなたの望み?」 私は答えられない。伏した彼女の瞳の先、土に汚れた膝の上、血と雨や土が混じりながら流れ落ちる。 私は、答えられなかった。 膝をついたまま、体を屈めた。血の色が目を焼いて、においが鼻をくすぐると、激しく喉が乾いた。唇の欲求は、逆らいようもなく鮮やかだった。 私は、ずっとそうしたかったと気付く。夢の中でも、夢じゃなくても、消えない痕を彼女に残したかった。私にだって、刻んでほしかった。 特別な、私たちだけにしかない、いつだってそういうあかしを求めていた。 なのに彼女は、そっと私を引き止める。肩をおさえてまっすぐに視線を重ねるから、私は今さらみたいに言う。「奏ちゃんは、綺麗だよね」 「あなたこそ」そう言って、頬を撫でてくれる。私たちは互いに冷え切っていて、なのに触れ合うと温かくなって、それが不思議だった。「触ってて、くれる?」 私は頷いて、手のひらを彼女の膝に重ねる。痛くないように、できるだけ優しく。そこには激しい雨にも落ち切らない砂粒が残っているから、私は指で傷を拭う。 「ちょっと、我慢して」と私は言う。 「大丈夫」彼女は目を細めた。 指を数往復させると砂粒は消えて、傷がその形を露わにする。ほんのかすり傷だった。ほとんど血は止まっていて、きっと痕も残らない。その場所にもう一度手のひらを重ねると、傷口から小さな熱が伝った。 「ありがとう」彼女はまた笑って、よくできました、そう言うみたいに私の髪を梳かしたり滴を絞ったり、そういう触れ方をした。「私のこと、傷つけたい?」 「うん」私はなんだかひどく素直な気持ちになって、頷いた。出会ってから、もしかして生まれてからずっと凍っていたところが、融けたみたいだった。 「奏ちゃんに優しくしたい。でも、傷つけたい。傷つけられたい」彼女の瞳が優しくて、水の中の空みたいにかがやくから、私は何も隠したくなかった。「血を吸う夢を見たんだよ。そういうこと、奏ちゃんとしたい。それでもいいって、言ってほしい。抱きしめたら、背中に爪だって立ててほしい」 「ええ」 「でも、嫌いにならないで。ううん、好きでいて」 「わがまま」 「奏ちゃんだけだよ。他の人なんていない、もう」 「じゃあ、いいわ」そう言うと、彼女は私にキスをした。一度、二度、唇を浅く重ねて、私が応えると深くまで。 もっと、欲しい。 そう思うと、重ねた唇に一瞬の痛みが走った。私はそれを、炎だと思った。だけど反射で引き離した唇は焼けてなんていなくて、触れて確かめた指先には、赤い血が滲んだ。 私は、彼女を見る。彼女は、それを待っていたみたいに、唇に残った赤い血を舐めとった。私が、舌の上から体の中に、彼女に飲み込まれていった。 「おかえし」彼女はそっと私を抱きしめると、雨粒に溶かした声を耳もとに落とした。「傷つけて、いいよ。あなたになら、私は」 その声は震えていて、きっと、雨に濡れたせいなのだと思う。夏の雨は冷たくて優しいから、私たちは少し長居をしすぎた。 帰ろうと私は言う。彼女が頷いて、私たちは家路を辿った。手を繋いで、歩調を合わせて、シャワーやベッド、互いの肌や真っ青な空、できるだけ温かいものを描きながら続いていく夏を夢に見た。
目を覚ますと、空はよく晴れていた。 私は、眠る彼女を見た。穏やかな寝息に合わせて揺れるまつげを、薄く開いたカーテンから差し込む光が照らしている。もうすぐに、この光のせいで彼女が目を覚ますから、私はカーテンを閉じる。しっかりと、決して光が入り込まないようにして、彼女の寝顔をじっと見つめた。 私は、そうしていたかった。少しだけ、長い眠りを二人でおくりたかった。 だけど、彼女は目を覚ます。おはようと言う、その声が少しだけ掠れていたから、私は彼女に触れた。額や頬に軽く触れて、体調を崩してはいないことを確かめる。ウォーターサーバーから汲んだ水はいつも冷たすぎるから、新しいペットボトルを開いた。透明な水が一口、二口と喉をふるわせるのを眺めると、ゆっくりと体を起こした彼女の隣、ベッドに腰を下ろして、みだれた前髪を整えたり弄んだりした。 本当は、綺麗だと言いたかった。 「考えがあるんだけど」私は言う。寝不足の彼女が今日へたどり着くにはまだ少し時間が必要らしく、それをいいことに首すじや二の腕の柔らかい場所に触れては、繊細な手触りを楽しんだ。「っていうか、オフだよね?」 「明日もね」あくびを噛みころして、彼女は答える。その仕草が好きで、いつか大きなあくびだって見せてくれたらいいと思うけど、そんなことを伝えたら彼女は一生忘れてくれないだろうから言わないようにと今決めた。「聞かせてくれる?」 うん、と口にして一時間後には、私たちは青い海を眺めている。プロダクションの保養所(よく知ってるのね、と彼女はたぶん、褒めてくれた)の海を目の前にして、砂浜に腰を下ろす。ビニールシートもビーチパラソルも、道中調達した。くたびれたお店の軒下で涼む老犬を彼女が撫でるから、私はせんこう花火を一袋だけ買うことにする。彼女には内緒で、だって、呆れたみたいに笑ってほしかった。 二人きりの砂浜からは、果てのない海が見えた。白い雲の一つさえそこには浮かばない。飛行機やカモメの影は現れて、また消えていく。人影はなく、立ち並ぶ防風林が私たちを世界から切り離している。 「いや、こんなにうまくいくと思わなかったんだよ」と私は言う。彼女はラムネを開けると溢れ出した滴で脚を濡らして、ああ、とこぼした。 お店のおばちゃんが言ってたのに。そう思いながら私が差し出したタオルを拒んで、彼女は言う。「水着でも持ってくれば良かった?」 「そう、ほんとに」 「お預けね」 「奏ちゃん、水着とか持ってるの?」 「なんだと思ってるの」 「だって、見たことないし」 「見たい?」 「見せてくれる?」 「どうかしら」そう言って、彼女は笑った。脱ぎ捨てたサンダルが散らす砂が光をはじくと、夏はもう、彼女のものになったみたいだった。「あなた次第、かもね」 がんばりますとか任せてよとか言おうとしたまま、私は彼女を追いかける。背中から抱きついて、振り解かれて、早足は駆け足になって、一緒になって浅い波間に脚を躍らせた。振り返ると脱ぎ捨てたサンダルが、点々と足跡が続いていて、どうしてか、私は泣きそうになる。足跡は砂浜から防風林を抜けると、やがて、二人の家に続いていく。そんな当たり前のことが嬉しくて、たまらなくなる。 そうやって浮かれた顔に、水滴が降りかかった。温かい水だ。きっと、私たちの体を流れるくらいの、優しいぬくもり。 「なに、考えてるの?」と彼女は言う。腰のあたりまで浸かった海の中で、ワンピースの裾が揺らめいている。まるで空を泳ぐくらげの傘みたいに、その形にはとりとめがなかった。「聞かせて。あなた次第よ」 「ん、なんていうか」私は空を見た。眩しくて、強い光だ。熱すぎるくらいの日射しや髪をなびかせる潮風。唇から入り込んだ海の水が、とても塩辛い。 それから、彼女を見る。残光が眩ませた姿を、私はすぐに取り戻す。寄せて返す波が彼女を揺らしていて、まるで、ダンスに誘うみたいだった。 ぎこちない、波に浚われるようなステップを描いて一人で笑うと、私は答える。 「生きてて良かった、そう思うよ」 瞳は一瞬だけ揺れた。彼女はそっと、一雫さえこぼしてしまわないよう丁寧に私の言葉をすくい取る。 「まさか、死のうなんて思ってたの?」 「まさか。ぜんぜん、まったく」 「なら」 「でも、生きてなかった、わけじゃないね。なんだろ、えっと……そう、起きた。目を覚ました、そんな感じ」彼女が一生懸命にわかろうとする顔を浮かべるから、私は言う。「おはよう、奏ちゃん」 それから、いっぱいに笑う。空より太陽より、この世界の何よりも眩しく笑えたらこの心は伝わると、そう思った。「ずっと、一緒にいようね」 なに、それ。そう言って、彼女は笑う。一緒になって笑っていると、波のしぶきが舞った。温かな滴は頬を伝って、音もなく海へ還っていった。 「私にも、考えがあるの」 ひとしきり笑うと目のはじを拭って、彼女は言う。両手を広げて私を見つめると、わっと花が開くときみたいな声をあげた。 「抱きしめて! 映画みたいに」 それから、私たちは海へ飛び込んだ。水の中でのろのろと抱きしめ合って、それが少しもロマンチックじゃないから、たまらなくなって空へ躍り上がる。水面のガラスを突き破ると、何もかもが変わった。びしょびしょの肌や頬にはりつく髪、私たちは生まれたばっかりみたいな姿になって、生まれて初めてみたいなキスをした。それがひどく塩辛くて、唇の傷をかすかに痛ませた。 きっと、彼女も同じだ。 だとしたら、そんなものいらなかった。傷も痛みも、痕を残すことなんてはじめから私たちには必要なかった。私たちは、そういう二人だ。青い海や白い砂浜、眩しい光、そんなありきたりのロマンに夢中になる、そんな、当たり前の恋人だった。 はしゃぎながら波をぶつけ合う。たまらなくなって抱きしめる。ありふれた愛さえ、二人なら映画みたいに生まれ変わる。世界中が私たちの舞台だ。海も、街も家も、緑道やゆるやかな坂道、高架橋や公園、ステージだって例外じゃない。夜には星の光を点して、朝になればどこまでも続く青い空を描く。私たちには、それができる。どんな光だって、私たちによく似合う。そうやって、日々を生きよう。あらゆる季節のかがやきを眺めて、綺麗だって笑ったら、キスをしよう。 だって、私たちは恋をした。 私たちは、今、恋をしている。
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国道4号から観光通りに入るためのNTTを曲がって、それなりにすぐの所にある「#まるきラーメン」さんにも #青ビジ のポスターを貼っていただいてましたー!!きゃーきゃー! やったー!! まるきラーメン 青森県青森市橋本2丁目7-16 Tel:017-776-2111 ググると色んな人が「#昔ながらのラーメン」って書かれてるんですが、確かに「昔ながらのラーメン」って感じがするんです。 「昔ながらのラーメン」って言われたら、美味しい物が少なった昭和の時代を思い起こさせる、懐かしさ重視、ってイメージがなんとなくあったんです(個人の見解です) でも、まるきラーメンさんで食べたラーメンは、確かに「昔ながらのラーメン」って言葉が思い浮かぶんですが、ちゃんと美味しいやんけ!!ってビックリしてしまいました。 今まで「昔ながらの味」の事を「美味しくはないけど昔を思い出せる味だよね」って意味だと勘違いしてましたけど、前までの自分にジャーマンスープレックスかけた後にブレーンバスターぶちかましてジャイアントスイングでどっかにぶん投げてやりたいと思いました。 1杯目「#支那そば」で2杯目「#醤油ラーメン」を食べたのですが、スープは一緒だけど麺が違うとの事でした。 でも、別に2杯続けて同じスープのラーメンを食べても全然美味しくて、全く飽きませんでした。 同じ味を食べ続けてると舌がマヒして味がよく分からなくなってくる、っていう現象を体験した事ある人って結構いると思うんですが、それが無かったんです。 ずっと同じ味なのに、ずっと美味しい。 昔ながらの味っていうか、昔の人たちは何かしらの魔法でも使えてたの? なんでなの? お酒飲んだあとの人に凄い気に入られているようで、スープの量が結構多くて、且つちょっとしょっぱめで、確かにアルコールの分解を促してくれそうだなー、と納得しました。 ただ、私はお酒飲んだ後じゃなかったので、「スープずっと飲んでられるくらい美味しいですね!」って大将さんに言ったら「でも体に悪いので全部飲まない方がいいですよw」って伝えられました・・・! なんて体に優しい大将さんなんだ・・・!! でもスープを掬(すく)うレンゲの手を止めることが出来ませんでした。てへぺろ。(完飲はしませんでした) スープ完飲しなかったので、もうちょっとイケるな、と思って「#塩ラーメン」も食べさせてもらったのですが、野菜がいっぱい入っていて凄い優しい味がしそうな見た目だったのですが、結構ガツンと来る味でした。 ラー油とか色んな油をミックスしたオイルがかけられてるのですが、刺激的なアクセントとしてめっちゃくちゃ好きでした。 3杯目なのにこれも全然飽きずに最後まで食べられました。もう全部の味の思い出が私の空腹感を刺激しまくります。思い出すと腹が減る・・・!!うぉぁあぁあッ!! 「#餃子」もあったので頼んでみたんですが、個人的に出されたタレとの相性が良すぎて、実はこれが一番印象に残ってます・・・! 餃子大好き人間なのですが、お腹の容量が許すならご飯も頼んで一緒に食べてみたかった・・・! ってかいつか絶対餃子とご飯でお腹を満たしに行こうと思います・・・!!! 夏のめっちゃ暑かった日にお伺いさせてもらった時は、夏季限定の「#しゃっこい麺 (多分支那そば)」と「#中華ざる」があったので頼ませてもらったのですが、これもまた来年の夏に食べに行きたいです・・・!!! ラーメン食べると汗ダクダクダク人間になってしまうので、夏はよく色々な所で冷たいのを頼ませてもらってたのですが、これも暑い日にぴったりのちょっとしょっぱめで塩分も補給できる、サッパリ感たっぷりながらもお腹いっぱいになれるメニューでした。 ちなみに食べ終わった後にも大将さんとお話させていただけたのですが、その時にふと「青森のラーメン専門店って魚介が多いですけど、定食屋さんとかって魚介じゃなくて鶏系のラーメン多いですよね」って言ったら、「魚介系のスープは他のメニューに使いまわしにくいけど、鶏系のスープは大抵のメニューに使いまわしやすいから、鶏系が多いんですよ。カレーとかにも使えますしね」と教えられて、「なるほどぉ!へぇー!!」って地味に凄い感動しました。 ポスター貼ってもらったお礼に色々な飲食店を回ってるうちになんか面白い話も色々聞けるし美味しい思いもさせてもらえるし、マジで今は楽しい仕事させてもらってるなー、と痛感する毎日です。 ウチの職場(#青森ビジネス専門学校)と青森の飲食店さん達ありがとうございます! 腹減った!! うぉああぁああッッ!! #青森県 #青森市 #青森市橋本 #橋本 #まるき #aomori #aomoricity #あおもり #アオモリ #青森市ランチ #青森グルメ #青森市グルメ #ラーメン #らーめん #拉麺 #ramen #観光通り #ギョーザ #青森ランチ #チャーシュー (まるき) https://www.instagram.com/p/CV7EaaoJwN3/?utm_medium=tumblr
#まるきラーメン#青ビジ#昔ながらのラーメン#支那そば#醤油ラーメン#塩ラーメン#餃子#しゃっこい麺#中華ざる#青森ビジネス専門学校#青森県#青森市#青森市橋本#橋本#まるき#aomori#aomoricity#あおもり#アオモリ#青森市ランチ#青森グルメ#青森市グルメ#ラーメン#らーめん#拉麺#ramen#観光通り#ギョーザ#青森ランチ#チャーシュー
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#066 オリエンタルコンクリート(1)
男も女も大人も子供も白人も黒人も黄色人種も社会人も学生も先生も生徒も日本人もアメリカ人もイタリア人もチェチェン人も総理大臣も大統領も天皇もクー・クラックス・クランもロスト・ジェネレーションもヤリマンもヤリチンも処女も童貞もヤクザもカタギも、みんなみんな、オナニーしてるんだよなあ、と考えると、どんなことも許せるような気がする。落ち込むことがあったり、人やモノにムカついたり、悲しみに暮れたり、何かとてつもなくひどい目にあったとき、そんな想像をすると、心が穏やかになる。への字口が微笑みに変わる。なんでも許せるような気持ちになって、ああ、みんなそうやって生きてるんだなぁ、と思う。敵も味方も、自国も他国も、いじめっ子もいじめられっ子も、絶頂に達する瞬間は、それぞれの場所で、たった一人なのだ。すべての垣根を飛び越えて、ただのニンゲン、ただの動物になるのだ。戦争、紛争、争い、諍い。すべてを超えて、すべてを忘れて、人はオナニーをする。どこかの国と国が戦争を起こしそうになったとき、みんながそんな想像をしていれば、すべてがバカバカしくなって、あーもういいよやめよーぜドンパチ、と言い出す人がたくさん現れるんじゃないだろうか。だって嫌だ。安心して、穏やかな場所で、絶対的に一人でいられる場所で、確実にオナニーができなくなる世界なんて。そんなの絶対に嫌だ。みんな、嫌なはずだ。ともすれば、オナニーは世界を平和にする、たった一つの完璧な手段なのかもしれない。さあ、みんなで想像しよう。シンクオナニー。ラブアンドピースアンドオナニー。
午後5時半。帰りの会も終わりダラダラと居残っていた女子もいなくなり、校庭でたむろしていた男子も帰り支度をはじめたころ、ぼくは4年2組の教室の、一番後ろの席よりさらに後ろ、窓際の、掃除用具が入っている巨人の筆箱みたいな灰色の物置と窓の間のすきっ歯みたいに微かに空いたスペースにうずくまっているミヨシを見下ろしていた。 「ねえ」 ぼくは右腕に持っているホッチキスをカチカチ鳴らしながらミヨシに声をかけ続ける。 「ねえって、ば」 ば、という声と同時にぼくは身体を抱え込みすぎて埋もれそうになっているミヨシのアゴの少し下のあたりを、足でやさしく蹴り上げる。やさしく、というのは、ぎりぎりアザにならないレベル、ということだ。 「早く受け取ってほしいな」 できるだけ穏やかに、のんびりとした口調でぼくは言う。蹴り上げたことにより顔が上がり、けれど目線だけは床��木製タイルのつなぎ目あたりに泳がせているミヨシの、その目線の先に、ぼくはホッチキスを差し出してやる。 「これ。ホッチキス。ぼくのなんだけど」 「ふ……」ミヨシの視界がホッチキスを避けようとしているのがわかる。 「おーい」 ぼくはゆっくりかがみこんでミヨシのアゴを思い切り掴む。ぼくとミヨシの顔は今、至近距離で対面している。はじめは目を逸らしていたミヨシは、どうやらそうしないとぼくが一生この体勢のまま動かないとでも思ったのか、意を決したようにぼくの目を見た。いい子だ。かわいい子。ぼくはうっすらと口元だけで笑いながら、さっき蹴り上げたミヨシのアゴを確認した。うん、アザにはならないはず。上履きの先端をもう少し硬く改造できないかな。ライターで炙ったら、どうだろうか。 極度の緊張でまばたきを忘れているのか、ミヨシの眼が水気を帯び、涙が目尻に溜まりはじめていた。いじらしい、ってこういうことだろうか。ぼくは昨日の夜、父さんの部屋の本棚からてきとうに選んで読んでいた西村京太郎のトラベルミステリで出てきた単語を思い出す。ミヨシ、ああ。ぼくとミヨシの顔は限界まで近づき、額と額がぶつかり合いそうになったところでミヨシは目をつぶり、ぼくは顔を横にそらせて唇を舌でしめらせてから、ミヨシの右目尻にキスをした。唇を離すとき、ミヨシの皮膚とぼくの唇が唾液によってできた線で一瞬繋がり、ぴふ、という、風よりも微かな音と共にまた離れた。ぼくはその唾液の跡を確認するように舌先で同じ場所を舐める。その間ミヨシは何度も身体を小さく震わせていて、ぼくは思わず荒い鼻息を漏らしてしまう。ミヨシについたぼくの唾液が、すぐ横の窓から差し込む夕陽に照らされテラテラと光っている。その姿に圧倒的な美しさを感じながら、ぼくは感動を悟られないように呼吸を整えてから顔を離し、両足のスネの前で固く結ばれているミヨシの腕を解き、ホッチキスを手渡した。 「かんたんだよ」ミヨシの手首を強く握ってぼくは言う。「すぐ、だよ」 「あの、ぼく」ミヨシの目は手の中に収まっているホッチキスとぼくの目を行ったり来たりしていた。 「ぼく?」 「ぼくは、あ、は……」言うべき言葉がそのまま口から出てこないもどかしさからか、ミヨシは小さく折りたたんでいた両足をさらに身体の中へ中へと押し込んでいくような素振りを見せた。 「だいじょうぶだよ」ぼくはこれまでで一番やさしい声を出す。「こうやってね、それを、口の中へ入れて、ベロをちょっとだけ出してね。その、ベロに、その、ホッチキスを挟み込んでね、あとは、手に力を入れるだけだよ」 「う、ふ」ぼくが言葉を区切るたびに、ミヨシは目を固く閉じ、首を縦に振ったり横に振ったりしている。もう、よくわからなくなっているんだろう。この状況が。この時間が。 ぼくがミヨシをこうして追い詰めはじめてから、すでに1時間は経っていた。 短く刈り込まれたミヨシの頭を撫でる。ランドセルの肩紐を律儀に掴んで通学路を歩くミヨシ。理科の実験で試験官を落としてあたふたするミヨシ。給食を食べるのが誰よりも遅いミヨシ。昼休みの最初から最後まで自分の机から離れず手塚治虫の漫画を読みふけるミヨシ。音読が下手なミヨシ。あらゆるミヨシがぼくの頭に浮かび、そして今、極限まで追い詰められ、なすがまま、ぼくに頭を撫でられているミヨシと繋がる。誰よりも地味でドジで目立たない日陰者のミヨシ。そのミヨシにぼくは今、スポットライトを当てているんだ。誰よりもミヨシがミヨシらしく輝く瞬間に、ぼくは立ち会っている。みぞおちの辺りを思い切り蹴りあげたい衝動を押さえつけながら、ぼくはミヨシに声をかける。 「さあ。ほら。だいじょうぶ。だいじょうぶなんだよ」
保健の授業で、担任の柏木がニヤリと笑い、 「さてみんなに問題です。赤ちゃんは、なーんーで、できるの、で、しょうか」 と黒板に同じ言葉を書きながらぼくらに問う。 にわかに騒がしくなった教室で、ぼくは一人シラけた気分で机の隅を指でこすっていた。手をつなぐ! なんだよそれカンタンすぎだろ。そういう特別な手術があるんだよきっと。どういう手術だよ。愛し合っていれば自然にできるんじゃない? だから自然ってなんなんだって。ていうかそれオレら必要? 男子は口々に自分の考察を発表し、別の男子や女子がそれに難癖や反論を加えていた。柏木は黒板の端に「仮説」と書き、みんなの意見を馬鹿丁寧に書き並べていった。 「そんなの決まってんじゃん」 後ろの席でチートスが声を上げる。 「キスだよキス」 「わたし、ちっちゃいころ弟とキスしたことあるけど、子供できなかったよ」 教室の窓側から数えて二列目の、一番前の席に座っているコトチーがすかさず口を尖らせて反論する。こいつはチートスの言動になにかと突っかかるクセがあるのだ。 「それは、それはさ」しばらく口ごもってからチートスは言う。「そのころはまだ、オレらの身体��そういう、えっと子供ができる機能? みたいなのがちゃんとできてなかったんだよ」 教室の数人から、おー……、という、納得と感心が入り混じった声が漏れる。柏木はそんな教室を一望してにやにや笑っていた。 「キスの仕方も関係、あると思う。あと、確率、みたいなのも、あるんだと思う。キスしたら確実に子供が産まれるわけじゃないっていうか」 そこまで言ってチートスは黙りこみ、教室の空気も、なにやらそれぞれが考えこんでいるのか、小さなざわめきが聴こえる以外は、表立って発言をする者はいなくなってしまった。コトチーも、一人、机の一点を見つめて黙って腕を組んでいる。 ぼくは脚を投げ出して頬杖をつきながら、誰も座っていない目の前の席をぼんやり見つめていた。ミヨシは今日、学校に来ていない。少しいじわるしすぎただろうか。ミヨシの机の引き出しに昨日ぼくが渡したピンク色のホッチキスが入れられているのが見えて、ぼくは股の周辺が熱くなっていくのを感じる。何度か脚を組み替えながら、ぼくは頬杖をやめてピンと背筋を正してみる。それを見ていた柏木が、なにを勘違いしたのか、 「トラくん、どう思う」 とぼくに意見を促してきた。 ざわめきが収まり、教室中の顔という顔がぼくの方向を見る。チートスもたぶん、目の前にあるぼくの背中をじっと見つめているのだろう。コトチーは腕を組んだまま首だけを曲げて、眉間にしわを寄せてぼくを見ていた。あんたこんなナイーブな話題に対してヘンなこと言わないでちょうだいよ、といった顔だ。コトチーの左隣に座っているガンバは両肘を机に付いた状態で微動だにしない。眠っているのだろう。柏木から一番近い席に座っていながら、大した度胸だ。その姿がなんだか冬眠前のクマのようでぼくは目を細める。 「不思議だよねえ、よく、コウノトリが運んでくるんだよ、なんて言うけど、ほんとなのかなあ。お父さんお母さんに、そういうこと、聞いたことあるかなあ、みんなのお父さんお母さんは、なんて答えたのかなあ、ほんとうは、どういう仕組みで、みんなは産まれたのかなあ、ねえ? トラくん、ねえ?」 「ちんことまんこです」 ぼくは柏木に聞こえないように小さく舌打ちをしてから間髪入れずに言ってやる。コトチーの鼻から息が漏れる音が聞こえたような気がした。 「正しくは女性器、膣、ヴァギナと、男性器、陰茎、ペニス、その二つが接合し、ペニスから発射される精液に含まれる精子というオタマジャクシ状の生殖細胞がヴァギナの奥を進み卵子という細胞と接触、結合することにより細胞分裂が起こり胎児、つまり現在のぼくたちの原型のようなものができあがっていきます。ちなみにペニスから精液を発射させるためには恒常的かつ適度な刺激が必要とされていて、ああそうだった、女性器にもある程度の刺激が必要ですね、その刺激を自らで自らの性器に与える場合もあり、これを一般的にオナニー、または自慰と言います。そして主に男性と女性がお互いの性器を刺激し合うことを性交、エッチ、セックスと呼び、これは一般的にお互いを恋い慕っている者同士が行うものだと認識されています」 「よく知っているねえ」 男、女、ヴァギナ、ペニス、精子、卵子、性器、と、柏木はぼくの発言からキーワードを抜き取って黒板に書き出した。知っている者、知らない者の反応がここで一気に分かれる。知らない者は一体こいつはなにを言ったんだろうという顔できょとんとしている。知っている者はなんとなく気まずそうだ。顔をうつむけている男子、女子。醜くニタニタ笑う男子。顔を近づけてコソコソとなにごとかささやき合っている女子、女子、男子、女子。教室の空気が微妙に変化したのを察知したのか、ガンバの身体が一瞬大きくビクンと揺れて、何事もなかったようにゆっくりと目の前の黒板に顔を向けた。チートスは机から思いっきり身を乗り出して、なあ、つまりどういうこと、とぼくの耳元で言う。コトチーはもうぼくを見ていない。スカートの裾を直してから、寝ちまったよ、いったいなんの話をしていたんだ? というお決まりの困り顔でコトチーを見つめるガンバの太もも辺りを引っぱたいて、黒板に向けてアゴをしゃくった。 ぼくは無性に腹が立って、もう一度小さく舌打ちをした。ダメなんだ。こういう状況が。知っていながらなにも言わない連中の醸し出すぬるい空気にアレルギーを起こしそうになる。ヘタクソな演技。身を乗り出したままでいたチートスがぼくの舌打ちを聞いて、なんだよ、なにキレてんだよ、とおどおどしながら身体を椅子に戻した。ぼくは貧乏ゆすりを抑えながら、にらまないように目を見開いて柏木に顔を向ける。 「そうだねトラくん。男の子の身体には、ペニスという性器がついていますねえ。ちんちん、ちんこ、という呼び方のほうが、みんなにはなじみが深���かなあ。そ、し、て。こっちのほうは、知らない子のほうが多いんじゃないかなあ? 女の子の身体には〜、ちんちんが付いていないねえ。そのかわりに、ヴァ〜ギ〜ナ、ヴァギナという、窪みのようなものがあります」 柏木はあくまで、まんこ、という言葉を使わない気でいるらしい。 くそばばあが……とぼくはつぶやく。 詳しく説明してあるビデオがあるから、それを観てみましょうねえ。と言いながら柏木はビデオテープをセットし、テレビの電源をつけた。 大人はいつからぼくらのことを侮るようになったんだろう。テレビに映る砂嵐を見ながらぼくは夜眠る前にいつも頭に浮かぶことを思った。 流された映像は、まさに今このときのために作られました、という雰囲気で満ちあふれた、いかにもな教材映像だった。仮病やほんとうの病気で学校をお休みするとき、間延びしたようなお昼どきによく観るNHKみたいな感じ。のっぺりした女の声が、簡素な空間で男性器と女性器の模型をいじくっている人間の手の動きに合わせて、性交の説明や避妊具の解説をしていた。みんな、静かに、食い入るように画面を見つめている。意外だ。でもそれはそうか。ぼくらはもう10歳で、小学4年生で、親や先生や周囲の大人のふぬけた予想よりはるかに多くのことを、知っているし、知ってしまっているし、そしてこれからも多くのことを知ってしまうだろうという微妙な予感もちゃんと抱いている。性についてなにも知らないような奴らも、かわりに同じくらい別のなにかを知っている。知っていること、知らないことの、なんていうか、レベルや経験値の振り分けが違うだけで、ぼくらの知識の総量はきっと、同じなんだ。そしてきっと、大人とぼくらの知識の総量も、変わらない。ドロケイの必勝パターンやドッチボールの自己流投球フォーム、でたらめな言葉で会話すること、一人一人の言動や身なりにピッタリよりそっているような抜群のアダ名をつけるセンス、良いぺんぺん草の見分け方、泥団子をピカピカに磨き上げる技術、百科事典で4時間遊ぶために必要な想像力と創造力、そういうなにもかもを大人たちは惜しげも無く捨て去って、脳みその、からっぽになった場所に別のものを、タイクツななにかを、社会の教科書にのっているたくさんの歴史上の人物、例えば織田信長、フランシスコ・ザビエル、聖徳太子、大塩平八郎、その人物画みたいなぼやけた眼、かすんだ顔をして、詰め込んでいく。 ミヨシ。ミヨシがいない。 ぼくはミヨシのことが知りたかった。 誰よりもなによりも、ぜんぶをぼくの中に詰め込もうと思った。テレビの画面は、精子が膣の奥へ奥へと進んでいく3Dアニメーションを映している。ぼくはミヨシの奥へ奥へ、入っていくのだ。あるいは奥へ奥へ、入ってくるミヨシを受け入れていくのだ。その方法を大人は教えてくれないということもぼくは少し前に知ってしまった。あくびをこらえすぎて左目から涙がたれる。にじんだ視界からでもコトチーの一つにくくられた後ろ髪の形くらいはわかる。今日はコトチーと帰ることになるだろう。怒られるかな。やだな。
ゴ。 いいい―――――――――――ん。 眼を開けたぼくの視界にふす――――んと厚ぼったい鼻息を繰り返すカラスウリみたいな頬の父さんが見える。 ぼくは布団の中にいて、父さんはぼくに馬乗りになっている。 しなびたボンレスハムみたいに筋張った父さんの左手は、ぼくの両腕を掴んで離しそうにない。 ぼくは寝ながらバンザイしているみたいな体勢で、父さんの眼、頬、唇、額、そしてもう一度眼を見る。にらまないように眼を見開く。 「おい」 ふす――――ん。 ゴ。 視界が一瞬青くなり、ぼくは顔をしかめようとする動きを必死にこらえる。酔った父さんは頭突きの加減を知らない。いいい―――――――――――ん。 「おい」 父さんの声を聴くと、ぼくはいつも、歌えばいいのにと思う。びっくりマークをつけなくても、びっくりマークをいくつ付けても足りないくらいどこまでも響いていくその太く伸びやかな声ならば、きっとどんな歌も祈りのように美しく切実な音に変わるのに。 「てめえは、なんに、なりてんだ。あ?」 ゴ。ゴ。ゴ。ゴ。 こういうときにミヨシのことはあんまり思い出さない。むしろ思い出すのは体育の授業、息をぜえぜえ言わせながら汗だくでサッカーボールを追いかけるガンバのことだったりする。明日は学校に行ったらガンバの机の前まで行って、今日観た『笑う犬の冒険』の話をいつもみたいにしよう。ガンバはホリケンが好きだから、ホリケンの言動をオーバーに真似するだろう。ぼくは泰造が好きだ。そしてコトチーはそんなぼくらを横目に漢字ドリルを進めたりするんだ。家はお兄ちゃんがいるから今やるの、とか言いながら。 「聞いてんのかっつってんだよ」 この家は父さん専用のスピーカーなんだと思う。壁、天井、ドア、柱、すべてが父さんの声に合わせて振動し、増幅されてぼくの耳を限界まで震わす。 「てめえはいいよな毎日毎日メシ食ってクソしてテレビ見てそれで終わりなんだからよ。てめえオヤジがくたくたで帰ってきてその態度はねえんじゃねえの」 その態度。 お風呂に入って歯を磨いて布団にもぐって眠ることを言っているのだろう。 「てめえ将来なんになりてえんだよ。おい」 耳鳴りが起こり、視界の中で父さんの顔、腕、身体が遠くなっていく。カメラのズームアウトみたいに、部屋と一緒にどんどん小さく縮んでいく。父が黙ると家全体も静まり返る。母さんはたぶん、寝室かキッチンでうずくまっている。明日は母さんのどこにアザができているか、ぼくは一瞬眼を閉じて予想してみる。鎖骨かな。数日前はこめかみだった。 なにも言葉を発しないぼくに飽きたのか、壁にとまっているハエを叩き殺すようにぼくの顔面を正面から平手でぶっ叩き、父は立ち上がって部屋から出ていった。ぼくはしばらく、バンザイの体勢のまま、天井を見つめ、自分が息を吸ったり吐いたりする音を聴いていた。枕の下に入れてある小さなマイナスドライバーを取り出して強く握り、横に寝返りをうつ。身体を布団の中で小さく畳んで、自分の腕を見つめる。眼を閉じて、服の上から自分のペニスをそっとなでる。マイナスドライバーの先端を舐める。外で強い風が吹き、窓ガラスが音を立てて揺れる。今夜はさらに冷え込みそうだ。
「うそつき」 「なにが?」 「昼休み」 「ああ」ぼくは砂利をおもいっきり蹴飛ばす。「うそじゃないよ」 「うそでしょ」コトチーも、地面の砂利を蹴るように歩く。 高速道路の高架をくぐり、獣道を抜け、深緑色に濁った真間川に沿って、ぼくたちはもう三十分くらい歩いている。コトチーと一緒に学校から帰るときは、いつだって遠回りをした。大人の身長ぎりぎりくらいに架けられた薄暗い橋の下を通る。なにを獲るためなのかわからない漁船やボートが連なって停められている。おばあちゃんの髪の毛みたいな藻が水中でぬらぬらと揺れているのがかろうじて見える。砂利道には犬の糞や食べかけのカップヌードルやぼろぼろになったピンク色の手袋やコンドームが散乱している。それでもいつも、不思議と嫌な臭いはしなかった。ぼくは(そしてたぶんコトチーも)、この道とこの川が好きだった。 「コトチー冬休みどうするの」 「どうするって?」 「なんか、するの」 「なんかって?」 「なんでもない」 ブルーシートと鉄パイプ、しめ縄、折れた踏切の棒、ベニヤ板、反射板、あべこべな材料で組まれた堅牢な小屋の前をぼくらは通り過ぎる。中から微かにラジオの音が聴こえた。 「うちにはお兄ちゃんがいるから」コトチーは小さくスキップするようにして、ランドセルを背負い直した。「どこにもいけない」 「男にだって生理はあるよ」ぼくは急に話題を戻した。「血は出ないけど」 「うそつき」 「うそじゃないよ」 「それは夢精」コトチーが身体を曲げて、ランドセルの背でぼくにぶつかってきた。「トラだってわかってるでしょそれくらい。別にわたしが気にすることでもないけどさ、なんも知らない子にそういうこと吹き込むの、あとで自分が恥ずかしくなるだけなんじゃない」 「うそじゃない」ぼくはよろけながら、そう言うしかなかった。 〈生理〉という言葉には、もちろん〈月経〉という意味もあるけれど、〈生物の体の働き〉という意味だってあるのだ。 だったら、夢精や射精、オナニーを生理と呼んだって、間違いではないんじゃないか。 でもなぜか、それをコトチーに言うことはできなかった。屁理屈や言い訳にしか聞こえないことも、なんとなくわかっていた。 空はもう赤かった。カラスの鳴き声がどこかから聞こえてくる。 「トラ、大丈夫?」 「なにが?」ぼくはわざととぼけた。 「なにが、って……」 「大丈夫だよ」ぼくは地面の石を拾って、川に向かって思いっきり投げた。石は漁船のお腹にぶつかって、鈍い音をたてて川に沈んでいった。「大丈夫」 今日、一ヶ月ぶりにミヨシが学校へ来た。 あの日。柏木が授業でセックスの話をした日から、ミヨシはずっと学校を休んでいた。みんな、誰も、何も言わなかった。まるで最初からそれが当たり前だったかのように日々が過ぎていった。ぼくと、コトチー以外は。柏木だって何も言わなかった。プリントや宿題を届ける役目を誰かに任せることもなかった。ぼくの目の前の席はずっと空っぽで、空っぽの机の中のホッチキスはずっとそのままだった。ぼくは自分が段々自分じゃなくなっていくような、それまでの自分が絡まりあった細い糸で出来ていて、その糸が少しづつほぐされて、バラバラに散ってしまっていくような気分で毎日を過ごしていた。昼休み、いつも一緒に校庭を走り回るチートスも、給食の時間、牛乳のおかわりを取り合うガンバも、ぼくのそんな内面には気づいていないみたいだった。コトチーがぼくを見つめる表情だけが、日に日に険しくなっていった。 「さすがホトケだよね。完全に無反応だった」 コトチーは、柏木のことを「ホトケの柏木」と呼んだりする。いわゆる「神様仏様」のホトケではなくて、警察官が死体のことを呼ぶ俗称としての、ホトケ。らしい。 一ヶ月ぶりに学校にやってきたミヨシは一ヶ月前となにも変わらなかった。朝の会が始まる少し前に登校し、国語の授業では句読点を無視してつっかえつっかえ音読し、理科の実験ではアルコールランプの消火にまごつき、昼休みは口角を少しだけ上げて手塚治虫の『三つ目がとおる』をじっと読んでいた。ぼくはそんなミヨシをなるべく見ないように一日を過ごした。 ミヨシはキュロットを履いていた。 それ以外、なにも変わらない、いつものミヨシだった。 真間川が終わり、東京湾の工業地帯にたどり着く。巨大な水門は今日は閉じていた。海沿いにそびえ建つセメント工場が夕陽に照らされて嬉しそうに輝いている。湾の向こう岸に建ち並ぶ工場からコンテナが運ばれていく。クレーンが動く。消えそうにない煙が立ち上っている。大きな船が小さな模型みたいにちんまりと停まっている。静かだ。重たい海水の音と、母さんがいつもベランダやキッチンや庭に置きっぱなしにするゴミ袋みたいにギチギチに人を詰め込んだJR京葉線が高架を通り過ぎる音だけがはっきりと聞こえてくる。コトチーとぼくはしばらく立ち止まって、それらすべてを並んでぼんやり眺めていた。ここは千葉なのに、今目の前に見えているこの真っ黒な海原は東京湾なんだ、というその事実に、ぼくはなんだか無性にくらくらしてしまう。 「コトチーのお兄ちゃん、ぼくがぶっ殺してあげよっか」 そんなこと言うつもりはなかったから、ぼくはぼく自身に驚いていた。 「いいね」コトチーは笑わなかった。「どうやって?」 「ゆっくり殺そう」ぼくはコトチーを見ずに言った。「まず、まっすぐに伸ばして針金にしたクリップで、両眼を刺して、ぐちゅぐちゅかき混ぜるんだ。で、眼をどろどろにしたら、排水口のぬめり取りで、歯を少しづつ溶かそう」 「あはは。サイコー」 「爪切りで少しづつ、両手両足の肉と骨を削いで、詰めていこう」 「あはは」 「髪の毛はペンチで豪快にむしり取ろう。耳にはギターを繋げたイヤホンをつけて、爆音でかき鳴らして鼓膜を壊そう。ヘソにはうんと尖らせたトンボ鉛筆を突き刺して、睾丸とペニスは……。睾丸とペニスは、」 「……睾丸とペニスは?」 「睾丸と、ペニスは……」ぼくはわざとらしく間を置いて言った。「一番みじめで一番いたくて一番ねちっこくて一番、一番ぜんぶぜんぶ後悔させるような方法で、こっぱみじんにする」 「こっぱみじん」 初めて知った言葉を口の中で転がすように、コトチーが繰り返す。 「そう、こっぱみじん」 「すごいね」 「すごいよ。こっぱだよ」 「ありがとう」 コトチーは微笑んだ。声が少し揺れていて、でもぼくはなにも言わなかった。 来た道を引き返し、ぼくとコトチーはそれぞれの家に向かって同じ道を歩く。 ぼくの家とコトチーのマンションは道を挟んで隣り合っていて、いつもみたいに、家とマンションの中間、道のど真ん中で、ぼくとコトチーはハイタッチを交わして別れる。すっかり、夜になっていた。夜に玄関をまたいでも叱られないような家に、ぼくとコトチーは住んでいる。コトチーが明日学校にやって来るまで、どうか誰もコトチーの身体を触ったりしませんようにと、ぼくはたまに祈ってみたりする。
ぼくはリビングのテーブルで、晩ごはんを食べようとしている。 晩ごはんはミヨシだった。 ミヨシはこんにゃくで、こんにゃくという食べ物がミヨシだった。 「いただきます」ぼくは言った。 味噌汁を入れるお椀のなかに、透明な液体と輪切りにされたミヨシが浮かんでいて、ぼくは白ご飯を口に含んでから、そのお椀を手に取った。 「虎彦」 ミヨシがぼくの名前を呼んだ。 ぼくはミヨシの一つを箸でつまむ。 ミヨシが微笑んだ。輪切りにされたミヨシに顔なんてないけれど、黒いぶつぶつの連なりが顔の代わりなのだということがぼくには分かる。ミヨシが微笑んでいることも、ミヨシが呼びかける声も、ぼくにしかわからない。ぼくとミヨシだけの言葉じゃない言葉だ。 母さんは、テーブル越しに対面する形で、ぼくの前に立っている。片手に包丁を持って、眼が充血している。 「てめえ何様のつもりだよ」 母さんの声は父さんで、ぼくは母さんの顔を見つめながら、ミヨシを口に入れる。 「いっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつも」 そういう動きしかできないブリキのおもちゃみたいに、母さんは手に持った包丁を上下に振り続けている。 「いっつもいっつもいっつも、いつもいつもいつもてめえはてめえは」 ぼくはミヨシを噛んで、飲み込もうとする。でも噛めば噛むほど、口の中でミヨシはどんどん膨らんで、ぼくはとうとう口の中からミヨシをこぼしてしまう。口からこぼれたミヨシはもうミヨシじゃなくてただのこんにゃくで、床の上でぷるぷる揺れている。 さっきからぼくの頭上で浮かんでいたポリバケツが、UF���みたいに光を発した。光りに照らされた、ミヨシだったこんにゃくは浮かび上がって、ポリバケツの中に吸い込まれていく。 「ミヨシ」 ぼくは立ち上がってポリバケツに手を伸ばす。でもぼくは体温計だった。水銀が暖まらないと手が伸ばせない。手というのは、赤いゲージのことだった。 そこで眼が覚めた。 ぼくはマイナスドライバーを枕の下にしまって、起き上がる。 「ミヨシ」
次の日も、次の次の日も、次の週も、ミヨシはキュロットを履いて、ぼくの目の前の席に座って、いつものミヨシみたいに振る舞っていた。仕草を変えたり、一人称を変えたりすることもなかった。周りの人間も、キュロットを履いたミヨシをいつものミヨシみたいに扱った。つまり、みんなミヨシに無関心だった。あまりに無関心すぎて、ぼくの頭がおかしくなって、ぼく一人だけが、ミヨシの幻覚を見ているのかと思ったほどだ。 「あいつさあ……」 男子トイレで隣り合って小便をしているとき、ガンバが言った。 「そういうこと、だったんだなあ」 ぼくはそれで、最近のミヨシがぼくだけの幻覚じゃないことを知った。 「でも、なんか、そういう感じ、だったのかもなあ、これまでも。うん」 ガンバはうつむいて、自分の小便を見つめていた。 「いとこがさあ、そういう感じ、なんだよなあ。オレが保育園行ってたときは、まだ、アニキって感じだったんだけど、今はもう、なんだか、そうでもない感じでさあ。……あいつよく見たらかわいらしい顔してるしさあ。オレぐらいドジだけどさあ。これからチン毛とか生えて、どうなるかわかんないけどさあ。オレ、ああそういうことかあ、って感じなんだよなあ」 ガンバがそんなことを言うのがなんだか意外で、ぼくはズボンのチャックを上げながら、ガンバの顔をまじまじと見つめてしまう。 「なんだよお」 「や……うん。うん。なんでもない」 ぼくはガンバの背中を強めに叩く。 「おいなんだよ、まだションベン中だぞ」 「さき、体育館行ってるから!」 「待てよお! おーい!」 ガンバの声が響くトイレを出てぼくは早足で歩く。ぼくは泣き出しそうだった。
ミヨシがキュロットを履くようになってから、ぼくはまだミヨシと一言も言葉を交わしていなかった。放課後は校庭でたむろしているチートスたちの元へ行くか、一人で、あるいはコトチーと二人で、逃げるように帰っていた。 ミヨシと、放課後、教室の隅で、どちらからともなく寄り添って、「ああいうこと」をするようになった、そのときから、ぼくはもうこの先のことがなんとなくわかっていた。言葉として、映像として、脳みそでわかっているわけではなかったけれど、こんなことが、このまま、この状態のまま、変わらずに続くはずがないことくらいはわかっていた。ミヨシの頬を叩くとき、ミヨシの肩をつねるとき、ミヨシの頭をなでるとき、ミヨシを言葉だけで追い詰めるとき、ミヨシの膝が夕陽に照らされているのを見たとき、ミヨシの眼に映るぼくや教室の天井を見たとき、ミヨシが「ぼくは」と言うとき、ミヨシがぼくの名前を呼ぶとき、ミヨシの身体のその中の、誰にも見えないところでボロボロに泣いているミヨシそのものにぼくは目を背けてミヨシの眼を見つめ続けてきた。学校では教えてくれないこと。父さんは、母さんは、柏木は、大人は教えてくれないこと。誰も教えてくれないこと。ほんとうは教えてほしいこと。その、「教えてほしいこと」の種類が、ぼくとミヨシでは決定的に違っているのだ。「教えてほしいこと」の種類も「認めてほしいこと」の種類も「信じてほしいこと」の種類もなにもかも。一緒だと思いたかったのは、ぼくだけだろうか。ぼくはミヨシのペニスを思いきり頬張りたかった。誰よりもやさしく乱暴に触りたかった。でもそれを望んでいるのはぼくだけなのかもしれない。ミヨシはミヨシ自身のペニスなんて触れられることすら嫌なのかもしれない。そのことを考えるだけでぼくは頭がはちきれそうになった。頭がはちきれそうになることくらいわかりきっていたから、ぼくはミヨシと、ぼくらの間だけで通じるセックスを、「ああいうこと」を続けていた。ぼくはまだ、ミヨシのペニスを見たことがない。ぼくはミヨシに今すぐ触れたかった。いま、今、すぐ。 体育館では、先に来ていたチートスたちがバスケットボールの山盛り入ったカゴを倉庫からひっぱり出しているところだった。せっかちな奴らがカゴの中のボールを手にとって、好き勝手に投げ合っている。 ぼくは早足のまま、体育館の隅で壁に寄りかかってぼんやりしているミヨシの元へ向かう。 「ミヨシ」 ミヨシはぼんやりした顔を強張らせてぼくを見つめた。放課後以外でぼくがミヨシに話しかけるのは初めてだった。 「髪」ぼくの声はかすれていた。 「かみ?」 「どうして」ぼくは右手をミヨシの肩くらいまで上げて、また下げた。 ミヨシは黙っていた。 「伸ばせばいいのに」言った途端、ぼくの眼から涙がこぼれた。 今この瞬間、この場にいる全員、消えていなくなってしまえばいいとぼくは思った。お願いだからぼくとミヨシ以外、全員、バスケットボールとゴールだけを見ていてほしかった。 ミヨシは顔を強張らせたまま口を半開きにして、数秒固まったあと、これ以上ないくらいかわいそうな人を見るような表情でぼくを見た。 「どうして」 「トラ。虎彦」 ミヨシはぼくの手の甲をなでてから、頬の涙をそっとぬぐった。 「虎彦。今日、一緒に帰ろう」 バスケットボールが床を跳ねる音の隙間から、チートスの笑い声が聞こえる。ガンバが遅れて体育館にやってきて、おい、トラ! とぼくを呼ぶ。ぼくはミヨシにうなずいてから、なんでもなかったように背を向けて走り、カゴの中のバスケットボールを取って、ガンバに向かって高めに投げる。
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身体性のようなものについて書く
手術後しばらく杖の支えで歩いた。そのときまで当たり前のようにできていたことができなくなった。病院の外の世界が覚えていた雰囲気と違って、暗かった。杖を置いたら少し歩けるのにまだ身体に自信がなかった。傷があまりに大きかったのだ。リハビリにバスで通うほかは、六畳の部屋にしばらく引きこもった。 今にしてみれば、それは自分の身体と向き合う充実した時間だった。杖がカタツムリのアンテナのように自分と世界の間にあって、それで世界を感じた。ただただ、ゆっくりと歩く辛さと喜びを感じて生きた。こんなに集中して歩いたことは今までなかった。筋肉が落ちてバランスが崩れて世界観が変わる。ただの数ヵ月間の時間が、昔話のように、深い森から出たら何年もたっていた。時間の感覚も、杖のような長い棒のような何かの塊になった。ゆっくり、ゆっくりと体があの自分の延長になった杖にだけに集中し、それ以上ものが考えられない。 イリナ・グリゴレ「蛇苺」
困惑させられるエッセイだった。
ここ数日は、フィールドノートこと日記を一日中書いている。料理人の日々の仕事がどういうものかについて。たとえばパルメジャーノチーズと生クリーム、レモン、塩を混ぜてソースを作る過程について、事細かに書いている。どういう過程があって、それぞれにどういうことを考えて、というだけでなく、それぞれの仕事には一ヶ月分の小さな出来事が付随している。教わったこととか失敗したこととか。
そうした文章に慣れた目で見ると、��の文章の書きっぷりには恐怖を覚える。細部を描写せず、大まかな描写と比喩だけで文章を進めてしまうことができるなんて。言葉を詰めた文章を書くことは怖くない。どこまで伝わっているのかがわかる。言葉が身勝手な他人様だとしても、ある程度の数を並べてあげれば常識的にこのあたりになるだろうという見通しは立つ。 グリゴレさんがそういうことを考えているとは思えない。展開していくイメージを臆せずに追いかけ臆せずに書いているようだ。途方もない素直さを持って体感覚を伝えるイメージを記しているのだと思う。言葉の効果にではなく、出来事にではなく、体感覚に描写に忠実なのだろう。比喩は単にそれを捉えるのに適切な言葉というだけなので、それ以外の部分から浮かない。比喩の部分がきちんと後の部分に係るように見える。正確ではない用語だろうが、無意識について書くことにきちんと取り組める姿勢がまばゆい。何について書いているかも、それについてどんなことが伝わるかも、確信が持ちようにないと思われるてないものについてよくも書けることよ。
これも伝えることだけを考えた紋切り型だろうか、多分そうだと思う。まだ難しい。でも練習なので大乗b(大丈夫と大乗bはそんなに違わない)
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午後になると、埃のついた汗で真っ黒になる。汗の跡で体中に面白い模様ができ、顔は日に焼けて真っ赤に���る。ビンに残ったわずかの水を飲むと、すっかりお湯になっている。そして弟が泣き始める。仕方なく祖母は私たちを連れて帰り、祖父はもう少し残って夕方の涼しい風で体を慰めながら畑仕事を続ける。祖父は日が暮れる前に帰ってくるが、薄暮の中で肩に鍬を担いで門からやってくる姿はものすごく大きく見えた。 イリナ・グリゴレ「生き物としての本(上)」
身体性について書けるのは、幼い頃から身体で生き、そのことを覚えているからなのだろうと思う。 とてもできない。本当に子供の頃のことをほとんど覚えていない。いくつかのシーンのフラッシュのような記憶があるだけだ。それだって写真から再構成をされたもののような気だってする。子供の頃だけではなく中学生や高校生の頃のことも似たようなものだ。何なら1年前のことだって日記に書いた以上のことはすべて記憶から抜け落ちている。すでに死んだようなものだ。 日記を今必死で書いているのは、研究にとって重要であるだけでなく、個人としての記憶にとっても大きな意味を持ちうるからなのだろう。
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友人が紹介していた、ピカソが絵を描くドキュメンタリーを見た。ピカソは描いたものに上書きしていく。新たに描かれた部分に基づいて、別の部分を書き換え、それを元にしてまた別の部分を書き換える。それを見る前はもちろん想像できないが、次の部分が描かれえしまえば、なんとなく納得できるような対応であるようにも思われる。否定による更新。よい。
私は以前、天使と呼ばれたことがある。おそらくそれは、それまでの言動を言葉によって軽々と否定し自分を作り変えるような軽さによっていたのではないかと思う。それを人に責められたこともあるが、だって道理がそうなっていることがわかったんだもの。 グリゴレさんが書くような身体性が僕には明らかに存在しないにせよ、それに相当するものがあるならば、この道理のあたりにあるのだろう。この文章はその道理を捉える練習。
ちょうど、多和田葉子の『雪の練習生』を読んでいる。玉乗りの経験がある主人公が自伝を書いている。自伝を書くことは玉乗りと同じようなもので、「結果が結果を生んで次々、自分でもわからないところにどんどん引っ張られていく」。最後には書いたものが主人公を追い抜き、主人公は描いたものを追いかける。同じことが自分でもできたらとてもいいじゃない、楽しそう。
そういえば、ポール・オースター『孤独の発明』が読みたいです(英語で読む元気はないです)。内容はこれに関係していたような気がするけど忘れてしまった。送ってくれる人がいたら嬉しいです。
なんでこんなものを書いているかというと、個人的なことやぼんやりと考えたことのような書きにくいことを書けるようになっておかないと研究でも困るから。
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