#ズレたんは今日も元気に飛び回るぜ
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どうも〜!!役者紹介で〜〜す!!!
こんにちは。らびです🐰
今回は役者の皆さんを独断と偏見でボケとツッコミに分けてみました。私が見てみたいだけです。みんなの秋公コントも見てみたいな〜( ◜ᴗ◝)
あ、決して本編とは関係ないですよ。私の出るシーンとも関係ないです。ほんとにね
縦縞コリー:ツッコミ
標準語の役ばっかりだからたまにはゴリゴリ関西弁のツッコミが見たい
今回の若い役は新鮮ですが素のピュアさが前面に出てて良いよね
緒田舞里:ボケ
ラランドのネタみたいにボケを連発してツッコミを困惑させたり振り回したりしてほしいですね
まりおさんの天真爛漫元気いっぱいに見えてどこかに影がある感じの役が非常に好きですねぇ
帝京魂:ボケ
なんかどっちもいけそう でも個人的な好みとしてはクソデカ声でボケ側に回ってる方かな
今回の役は「感情4種盛りプレート」といったところでしょうか…?
水琴冬雪:ボケ
こちらもどっちもいけそうですが普段結構ヌルッとボケ挟んできたりするのでこっちで
例のシーン、ゲネでセリフ変わってましたね。ああいうの、”良い”ですよねぇ…
七枚目:ボケ
定期的に唐突にズレた事言い出すもんね…みそかちゃん、自分と遠い役をやりたいから変人役やりたいって言ってたけど十分変な所あるよ…
もっとぶりっ子して〜!!!!!
苔丸:ボケ
当たり前の顔して変なこと言ってそう ……なんか見たことあるな
先日ちょっとだけ苔丸の代役したのですがあんな重労働してたんですね…
岡崎仁美:ボケ
ダウ90000みたいな大人数のコントにいそう
今回のどこか様子がおかしい純粋な子ども、ああいうのめっちゃ好きなんですよね
西峰ケイ:ボケ
本当はボケたい。
今年の消費者コントは”権���”行使しちゃいましょうかね〜
あろハム権左衛門:ボケ
とぼけた感じの顔でズレたことを言ったりぶっ飛んだ行動してほしい …それはいつものアローか
相変わらず声も立ち姿もスタイリッシュでカッケー!!
大福小餅:ボケ
当たり前の顔してぶっ飛んだこと言ってほしい。……それはいつものこふくちゃんか
ふわふわ裁判長かわいいね〜〜
肆桜逸:ボケ
めっちゃキザな役とか見てみたいんですけど、どうですかね?
あまりにもスーツ姿が似合いすぎている
たぴおか太郎:ツッコミ
不条理な現状にブチギレしてるとことか見てみたいですね
いつも声にハリがあってめっちゃ好きです
ミル鍋:ボケ
定期的にやってくれる令和ロマンのネタ再現が好きすぎる
あの…自分施設長めっちゃすきでェ……短い出番ながらもあんなにインパクト残せるなんてゆにちゃんだからこそ出来る事なんですよね…本当に憧れ
園堂香莉:ボケ
綺麗な声でキレッキレの悪口とか言ってるとこ見てみたいですね…
綺麗と可愛いを反復横跳びしてる
海泥波波美:ツッコミ
普段は破天荒な言動をしがちですが個人的には怖い話でのツッコミがかなり好きなので
でも今回の適当なあの商人感も面白い
衿君:ボケ
パワー系ゴリ押しボケではっちゃけてる所がもっと見てみたいです
今回も生き生きしてる姿が見られて良いよね
黒井白子:ボケ
定期的に色んな芸人のネタを再現してくれるけどめっちゃキレッキレでおもろすぎるんだよな
諸々の演技指導では大変お世話になりました………漫才劇場はぜひ行きましょう!!!
近未来ミイラ:ツッコミ
みーらのブチギレクソデカツッコミめっちゃ好きなんですよね、ボソッと言った小ボケをみーらが拾ってくれると嬉しくなっちゃう
……ボケ多いな
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ゲンシンはPUが新章入ったから神ポジとか所謂人権枠とか言われる人気キャラの復刻が続いてていつまで経っても自分の主力キャラの復刻が回ってこない(というか初PU以降一度も復刻されてない)からあちこちガサ入れしてはため息ついてる状態
唯一楽しみと言えるのは5.0で先陣をきったナタの有望な若手勢が語っている◯◯について⋯で出てくるまだ見ぬキャラクターかな⋯
◯◯について⋯で語られるキャラって今後プレイアブルキャラとして実装される可能性の高いキャラか、ナタのトレーラームービーで既に名前と顔が公開されている=ナタ編で出番があってその辺のモブではない特殊なモデルを持ったキャラ(重役)だから
カチーナ、ムアラニがそれぞれ紹介してる花翼の集のイファって竜医(not獣医)が気になってる
カチーナと懸木の医者見習いの子?はイファお兄ちゃんって呼んでて、ムアラニはイファお兄さんって呼んでた気がする⋯
キィニチもおそらくイファについて⋯があると思うんだけど、シナリオでの活躍とか出番見た限りではキィニチ自体あまり人と積極的に関わりに行くタイプではないように感じた(そのかわりアハウが周りの空気に水さしたり威張り散らかしてうるさいタイプ)のでキィニチがイファと関わりがあるか、何て呼んでいるかでだいたい少年体型か、大人体型のどちらか想像出来ると思う
ただ、ムアラニ曰くイファは何をやらせても理解が早くて要領が良くて呼べば直ぐにでも(多分花翼の集=クク竜っていう飛竜と暮らす民だから物理的に)すっ飛んで来る、遊びに誘ってもノリ良く参加してくれる
⋯ってあたりなんかこうw
竜医だから頭は切れるんだろうけど医者キャラである白朮先生とか看護師長のシグウィ��とは違って全然落ち着いた印象が無いので、これで成人男性モデルだとどこぞの青い髪のお兄さんを彷彿としてしまうわけで
しかもナタって部族ごとに暮らす竜と属性がほぼ決まってるから、既に5.0のシナリオに登場してる花翼の集出身のチャスカが風元素な���でイファもおそらく実装されるのであれば風元素で来ると思うんだよな⋯
医者キャラだけどヒーラーだとそのまんまナタ版白朮先生みたいになってしまいそうだから似たキャラは出さないだろうと考えるとバッファーか、スタレの椒丘みたいに医者の癖にデバフ撒いて敵の防御・元素耐性下げるとかサブアタッカーだったら笑うけど
かえってメインアタッカーと交代しても機能するサポーターとかサブアタッカーは重宝するのでいればいるだけ編成幅が広がるし、風のオフフィールドキャラ(サブアタ、シールドetc⋯)は今までいたっけ⋯?
風は基本集敵、拡散、ヒーラー、バッファーかデバッファーでアタッカーは珍しいのでファルザン先輩とかカズハみたいに強力なサポート性能持ってるキャラはいてもだいたい一発バフかデバフ撒いて即メインアタッカーと交代するって立ち回りになるから、行秋とか忍みたいに引っ込めてもスキルが消えない風キャラがいたら結構⋯いや真面目な話斬新だと思うし欲しいな
スタレで今日からPU始まった飛霄が自分を軸に竜巻を起こして敵を巻き込みながら走るっていうめちゃくちゃな秘技持ってるから、チームは違えどやろうと思えば出来るんでは⋯?
それにナタキャラといえば夜魂トランスって独自バフとかそれぞれ固有の便利な移動手段持ってるし、花翼の集の民はクク竜に乗って空を飛ぶ、ユムカ竜と鉤縄でフックアクションを移動手段とする懸木の民とはお互い高いところに拠点があるとか高所を移動する民って事で結構交流関係があるようだし
花翼の星5枠はチャスカが入る(しれっとモチーフ武器みたいなものを使ってたから)だろうけど、だとしたらイファは★4あたりか⋯
実装タイミングも分からないからフォンテで言うところの千織とかエミリエ、シュヴルーズみたいにフォンテ編が一段落してからやっと実装される系かもしれないし
シャルロットみたいに早めに出番とかPUがあるともどかしくなくて助かるんだけどなぁ
あと隊長⋯カピターノは結局プレイアブルになるのか⋯?ファトゥス実はいい人でした〜展開で最初プレイヤーに立ちはだかった淑女だけ死んじゃってる(とはいえモデリング見れば明らかにプレイアブルの身長ではなかったり、崖登りや泳ぎが出来そうに無い特殊モデルだったから隊長も近付いて見比べるチャンスがあれば検証出来そうではある)
噂というかスメール編で散々吐き気を催す邪悪な実験やったりそもそもあまりにも倫理的にヤバい研究ばかりしてるから教令院追放された過去のあるドットーレ(博士)はプレイアブルに出来そうな規格でモデリングされてるって噂があるけど
やらかした罪と実験の犠牲者があまりにも多すぎるわ、既にプレイアブルとして実装されてる放浪者の明確な仇なのでご都合うんぬん実は悲しい過去が〜ですんなり加入ルートはまず無い筈で⋯
しかもマッドサイエンティストなので自分の複製体を年齢や価値観、性格違いを何体も創ってシナリオ中に出てきたのはどれも本人ではないコピーだったけど交渉の条件としてナヒーダがそれを全て消去させた
ただしナヒーダは基本的にスメールの地にいる人じゃないと心を読んだり感知できない?のでナヒーダが感知出来ないところにしぶとくまだ目覚めていない複製体を残してるかもしれないし、ナヒーダと交渉してたあれも結局一番利己的で交渉に長けた個体だって本人がベラベラ喋ってたから
本体はまだどこかにいて、悠々と実験の続きをしてるわけだよな
フォンテ後半でプレイアブルになったお父様(召使い)も結局良からぬ事をしてたのは先代の召使いで、現召使いは(ムショに入りそうなヤバい衝動を抱えていたり、人格的に難がある)孤児達の面倒を見つつエージェントとして育成してるくらいで、それを博士は
お前のところに落ちこぼれはいないのか?いたら寄越せ、被験体にしたい!
みたいな⋯全くといっていいほど人の心のない純粋悪の手本みたいな発言をしてて全然懲りてないから召使いの方がうちの子供達に手を出すなってキレてるレベルだし、他のファトゥスとの関係性もあまり良くない(博士が好奇心で璃月に遺跡守衛の工場を作ってみたはいいものの、ある程度量産したら飽きてそのまんま管理権限を放棄したのでタルタリヤが工場と量産守衛ぶっ壊す羽目になったり)
とりあえずなんかやべー研究してるなって思ってたら飽きて、すぐまた新しいやべー事思いついて、その辺から子供やら大人やらをサンプルとして拉致って来て黒線で塗りつぶされるようなエグい研究をメモして、でもなんか署名みたいなところの消し方が水で滲んでたり火で炙られて焼かれてたり〜を繰り返してるのが雑で笑ってしまう
あとなんか聞いてもいないのに自分で自分の研究がいかに高度で素晴らしいか語って越に浸ってしまうところとかwww
でもドットーレ実装されたら間違いなく引くね⋯
ドン引くって意味じゃなく完凸させる勢いで好きだから引くね⋯
善悪二元論じゃ語れない子供並の純粋さで銀河のあらゆる存在を貪り尽くして破滅させかけた激ヤバカブトムシ神のクローンを
『私なりにアレンジして創ってみました、不完全なのでそのうち自壊するでしょうけど、万が一の為に始末をお願いします』
つって逆自白剤(誰にも相談出来ず助けも求められない)混ぜた菓子を出会い頭に食わせてくる倫理観が崩壊したお姉さんも好きだからね
自分が好きなキャラだいたい倫理観とか常識?なんですかそれ?????の世界で生きてるから誰かに好きなキャラ訊かれた時に正直に答えると
もれなくドン引きされる
でもほら、類友?っていうやつなのか親近感わくな〜とかそういうキャラを好きに(?)なる傾向があるから自分もきっとおそらく問題がある性格をしてるんだろう
幸い神経質なので(というのも変だけど)あまり人と関わる場所に行かないから他者を巻き込まずに済んでいるだけ⋯な気がする
だってこれまで人と取引や契約以外の感情的な?付き合いが長く続いた事はひとつも無いから、やっぱ根本的に何かが欠けたりズレたり浮いたりしてるんだと思う
協調性をどれだけ意識したとしても奇異の目で見られたり距離をおかれてしまうというのか⋯
よく人から『あなたは何を考えているのかわからない』『優しい人かと思ったら違った』『あなたといると感情が混乱する』『怖い』って言われるんだけど
その理由が自分では分からないから自己分析をしてみたり、人と関わってみたりするけど何も掴むことが出来ない
自分に分からないものを他人が理解出来るはずもないと思ってるけど他人の方が自分の事をよく知っているパターンなのか?でも関わった人々は自分と距離をおいて、過度に関わってこようとはしなくなる
ってことはさぁ⋯やっぱり⋯
どうしたら人間達とうまくやっていけると思う?って誰かに聞いてみたいけどこの質問が自体が人間のセリフじゃないみたいで自嘲するしかない
同じヒトモドキを探すしかないのだろうか⋯
ヒトモドキとは⋯⋯??????
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2024-06-13 / connecting the dots
最近はどこへいってもLLM LLMの大合唱だけれども、かくいう自分もなんだかんだマルチモーダルな人になっていて vision-language pre-training で最近はメシを食っている。ふと考えてみると、今の自分っていうのは色んな偶然に左右されているなと思う。好むと好まざるとにかかわらず(村上春樹風味)。そんなことを考えていた時に頭に思い出された諸々の殴り書き。
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「アプリケーション開発がやりたい」と面接で主張していたにも関わらず、新卒で入社した会社ではインフラの保守運用色が強いチームに配属になったところからスタートした自分のキャリア。けどこれがきっかけでサーバやネットワークの事を勉強することができて(まぁ当時は不満だったけれども)、それがのちにクラウドベンダーへ転職することにつながった。そのクラウドベンダーではITシステムの下から上まで、幅広い知識が求められ、前職で経験したITインフラ関連の知識だけでなく、学生時代にやっていたプログラマのアルバイトで経験したり就職してから終業後や週末にやっていたwebアプリケーション開発の知識も総動員した。
しばらくは幅広く色んな分野を引き続き勉強していくだけで手一杯だったけれど、ある程度経ってからは自分独自の領域を作らないとと焦る中で、当時チームに専門家が少なかった(一人いたのだが、自分が入社して程なく米国本社へと転籍して我々からは遠くにいってしまった)ビッグデータ関連の技術に目をつけて勉強を始める。当時、会社のCTOがブログで論文読みのシリーズを書いており、それに感化された自分もMapReduceやBigTableなどビッグデータ関連の論文を読んでみようと思いつく。また、それらを学ぶ中で機械学習という分野に出会うことになる(自分が卒業し��大学の情報科学科には当時、機械学習の授業は無く、シンボリックないわゆる論理型人工知能しか知らなかった。)遅かれ早かれ、これだけブームになって現在に至るわけで機械学習には手を出していたと思うが、この時点でビッグデータ関連の技術に自分のフォーカスを持っていっていなければその後自分がどうなっていたのかは全くわからない。機械学習に非常にワクワクさせられ、かつ久しぶりに論文を読む中で楽しさを感じていた自分はいつからか博士課程に行って研究をしてみたいと思うに至る。
幸いカリフォルニアのとある大学院に受け入れてもらえることが決まり、2017年に渡米(そういえば、このブログを始めたのは確か「これからの貴重な留学生活を全て記録してやろう」と思い立ってのことだった。。程なくして更新は滞ってしまったが。。)DQNやAlphaGoに興奮していた自分は自然に強化学習をテーマとして選ぶ。入学のほんの一年半か二年ほど前からほぼ独学でスタートした機械学習だったので博士課程では散々苦労したけれどもなんとか学位を取得することができ(もちろんここで簡潔に書き切れるようなボリュームではない)、卒業後はとあるBig Techの画像検索のチームにサイエンティストとして就職する。
思えばこのチームに入ったのも本当に偶然だった。最初は、前職の同僚のコネクションを頼ってリファラルをもらい最初のインターンの機会をなんとか掴んだところから始まった。最初にインターンをしたチームの仕事は人事関連 x 機械学習(今だとHR Techとか言うのだろうか)で、正直自分の興味としてはハテナだったのだが、とにかく一度やってみないことにはわからないだろうという性格なので飛び込んでみることに。米国本社でのインターンは非常に楽しく充実した経験になり、幸いリターンオファーまで頂くことができて成功だったが、やっぱり分野的に自分の興味関心とは少しズレている感じがありオファーは断り次の夏は研究室にこもろうと決意する。という事で、リターンオファーを断ったのでインターンのことは全く考えていなかったのだが翌年の春に突然リクルーターからメールが来て、「Visual Searchのチームに興味はないか?」とのこと。「この夏は研究室にこもってバリバリ研究するぜ!」と燃えていたはずなのに、少し考えた後にはもう「Visual Search!面白そう!!」となってYESと返信していた自分(研究の進捗が芳しくなくてちょっと逃避したかったのもあるかな 笑。)面接は1st phone screen的な非常にカジュアルな会話だけでなぜか終わり、ラッキーなことにオファーをゲット。その年と翌年の二度のインターンを経てフルタイムオファーを貰うという流れにつながる。この時の面接官でかつインターンの際のメンター・マネージャーだった同僚には、なんで自分に声をか��てきたのか、それともあれはリクルーターが偶然自分のレジュメをプールの中からピックアップして彼に共有しただけのことなのか聞けてはいない。インターンリターンオファーは半年前に断っていたのに、なぜ自分に再度連絡が来たのかはわからないし、特に知ろうともしていないのだけど。
長くなったが、そんなこんなで入社した画像検索のチーム。強化学習を博士課程で研究していた自分にとってはそれなりに未知の分野だったので、必死でキャッチアップを試みる日々が始まった。入社からしばらく経って、一部の同僚たちが画像検索に使うモデルのマルチモーダル化に取り組んでいることに気づく。コンピュータビジョンのキャッチアップだけでも手一杯なのに自然言語のことまではちょっと手が回らないなぁ、と横目で見ていたのだが、入社から半年ほどした頃になんと自分にも関連したプロジェクトの話が回ってきて、(「仕方がなく」と言うとアレだけれど、実際「仕方がない」と覚悟を決めて)必死にキャッチアップが始まる。そうこうしている中で、ChatGPTの登場を機に世の中が猫も杓子もLLMという状況に。
ようやく冒頭の内容に戻るが、ふと自分のこれまでと現状を眺めてみると、実験で使う環境の整備にはこれまで培ったITインフラ・クラウドの知識が動員され、データの処理にはそれらの知識に加えてPySparkなどのビッグデータ関連の知識を用い、そして実験結果のビジュアライズにはwebアプリ開発の知識がそこそこ役に立っている。そしてコアの部分としては機械学習の知識、特にマルチモーダルなモデルのトレーニングから、さらにここにきてRLHFの登場により自分の強化学習のバックグラウンドまで役にたつという流れができている。こうして見てみると、今までやってきたことが集まって今の自分を構成しているんだなと本当に思う。Steve Jobsが "connecting the dots" という話をしていたけれども、確かにこれは振り返ってみるととても自然に思えるけれども自分が前に進んでいる時にそれらを繋げようと意識していたかというと意識していないことの方が多いし、その時は偶然目の前に現れた機会に自分の持てる道具でただただ立ち向かっているだけで必死になっていてそんなことは考えていないことが往往にして多い。こうしてそれなりに見通しの良い場所に立っている幸運に感謝しつつ、また一年後なのか三年後なのか五年後なのかわからないけれど後ろを振り返った時に、どんな自明なつながりを発見することになるのか今から楽しみだ。(こうやって振り返る際には喉元過ぎればなんとやらで、実態は毎日毎日キャッチアップと成果を出すのにひぃひぃ言ってるのの繰り返しなんだけどね)
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ある画家の手記if.80 雪村絢/名廊直人視点 告白
俺は 俺の意思だけで生きてこれたわけじゃなかった たくさんの人の支えがあった その中に この人への憎悪と関心 見つかったことの恐怖や 見つけてもらえたことへの戸惑いや あの人へ演じ続けた本物と 演じた偽物の自分 ほとんど会ってもないのに加害であって被害でもある傷つけあった関係 そういう、すべてが あった
電車でしばらく行ったらすぐに最寄駅に着けた。 探さないでもすぐ分かった。ここからぱっと見て徒歩五分圏内に、30階もある高さのマンションは一つしかなかったから。 それなりの高級住宅街ではあるのかな。階数はなくても周りも綺麗なマンションとかアパートが多い。手入れされてない荒れた公園とか、無秩序にゴミや廃棄物の積まれたエリアとかは、行き着くまでに見かけなかった。 近づくほどに思う。このマンション…本当に直にぃが選んだのか? あの人のことよく知らないけど、小学生の俺が会った時の直にぃの格好は、よれたシャツに履き古して色の落ちたデニム、髪はぼさぼさでいい加減に後ろでひとつに縛ってた、それもなんか輪ゴムとかだったような。ちょっと本家に寄るだけにしてもあまりに浮きすぎてて印象に残ってる。 実際すごい顰蹙かってたけど、直にぃはまるで気にしてなかった。俺と話してる短い時間の途中で皮肉をかけていった親戚もいたけど、気にしてないどころか直にぃには言ってることの意味がわからないみたいだった。 俺の中の直にぃの心象は、そのときの本人の様子とそこから俺が類推できることで形作られてる。その心象からこのマンションにはたどり着かないけどーーー実際がどうかは、これから会えばわかる。
*
絢が無事だった。 誠人くんの話しぶりでは絢がもう死んだみたいだった。つい最近まで香澄と会って、元気に仲良くしてるみたいだったのに… そう思ってた頃に、沈んでたのが態度に出ちゃってたのか、香澄が知ってることを話してくれた。僕に話すとこうやって態度に出ちゃうから黙ってたんだって。香澄が絢の安全を優先してくれてて嬉しかったから香澄を褒めてお礼を言った。 僕は血縁者ーーーいとこか、ではあるし、理人さんを介しての関係なら…あったけど、絢本人と個人的な繋がりはーーーない。 …でも、ずっと忘れてたことだけど、香澄から初めて絢の名前が出てきた日に、思い出したこともあった。 そういういろんなことを、絢とちゃんと話したい、例えば僕が嫌われてて、たった一度でもう二度と会えないことになったとしても。そう思って、電話をした。 午前の日が眩しい。香澄は今は起きてて、リビングのソファにいる。 ここ最近、香澄は僕の部屋の本棚から『星の王子さま』の古い本を出してきて読んでた。今はその本を開いたページで胸に乗せてソファでうとうとしてる。絢が引用したって言ってたっけ。 …香澄もきっと、絢に会いたい。 まだ自傷がおさまらなくて僕の腕には引っかき傷が残ったままだけど、僕は怪我が治るのも早いからひどく傷んだりはしてない。 それで僕は今はお昼ご飯を作ってる。
*
1705室のインターホンを押した。 香澄の声で応答がきたから「絢です」って言ったらろくに本人確認の質疑応答もないまま解錠された。見つかりそうになって誰かから逃げてきたとか思われちゃったかな。特にマスクとか帽子とかは何もつけてないから、香澄ならモニターで顔見れば俺だってわかるか。 エレベーターに乗って17階まで上がる。聞いたところによると直にぃは画家だった頃に相当な数の自殺未遂を繰り返してるんだとか。経歴うまく伏せるかごまかしてマンション買ったな。じゃないと17階なんて、不動産屋やオーナーやかかってるなら病院の審査に通るわけない。ここ高そうな物件だしいくら財産持ってても厳しいはずだ。…遠くからマンションの外観を見たときと同じブレがある。直にぃがうまく自分の経歴をごまかす? 誰か別の人の名義で買ってでもいるのか…部屋を譲られたとか…なにか、直にぃに変化があった、画家をやめたのとここを買ったのは同時期かもしれない。…でも昨日話した直にぃは昔の心象からそれほどズレてない。まぁ…ひとが綺麗にまっすぐな一本道で今日につながってるわけないから、怪しむほどでも、ないのか…どうか
扉を開けたところで香澄が待ってて、エレベーターから降りてきた俺を部屋の前で一度ぎゅっと抱きしめた。 体を離して、香澄が先に口を開いた。 「勝手に直人に話して…ごめんなさい…」 しょんぼりした香澄の頭を撫でて「いいよ」って笑う。 「…なんて呼んだらいい?」 「今の名前は雪村絢だよ。香澄の好きに呼んで」 絢の一文字が残ったら嬉しいって言ったら絢の一文字だけでとくに何もくっつけられずに他全部ぶっとばされた。真澄さんらしいな…。 「絢…」 香澄が感慨深そうに俺の名前を口にした。 「なに?」 優しく笑って返事したら香澄は眉を下げてにこにこした。つられて俺もにこにこする。 香澄の体に腕を回してぎゅっと抱きついたら香澄もまた抱き返してきた。香澄の肩に頭を乗せて、頭を傾けて頰を肩にくっつける。…あったかい
*
香澄が部屋の前でドアを開けて待つって言うから、僕は突然のことに急いで畳んだまま置いてた洗濯物とかを寝室に運び込んだりしてた。 絢がきた、って、昨日「近いうちに」なんて言ってただけだったのに、何も準備してない、せっかく会えるなら、受け取ってくれるかはわからないけど絢にもなにかプレゼント準備したかったな… 廊下で話してたのか、少ししてから香澄と一緒に部屋に一人の青年が入ってきた くすんだ金髪の、香澄と同じくらいの背で、 「ーーーーーーー………」 靴も脱がずに玄関から廊下にいる僕をじっと見つめる、大きな両目はどこか少し心細そうで、繊細な印象をしてた 「…………絢…」 「直にぃ。久しぶり。…ほとんど初めましてに近いけど」 そう言って柔らかく笑って、靴を脱いで香澄と一緒に部屋に上がってきた 「…………絢。…こっちにきて」 僕は絢に歩み寄って、その背に腕を回してダイニングの方のテーブルの前に誘導した。 適当にそこらのいらない紙をとってテーブルに置いて、近くにあったペンを一本、絢に差し出す。 「絢。ここにこう書いてくれる?ーー………、」 絢はしばらく無言でじっと白紙を見つめてたけど、おもむろにペンをとった 淀みなくすらすらとした筆致に筆跡を偽るような気配は感じられなかった 一目見て確信することができた 「やっぱり、あれは絢だったんだね」
“名廊雅人”
ほとんど癖のない綺麗な楷書だけど毎回同じだれかの筆跡だってことだけは分かった 視たものをまだちゃんと覚えてる 僕に兄さんの名前を名乗っていくことの意味を深く考えたことなんてなかったし、今も僕にはわからない 昔は なにもかもそのままで終わっていって過ぎ去っていってた 意味なんてものは問わなかった なにに対しても 僕にはそのことに痛みも悲しみも なにもなかった でも僕はいま聞いてみようと思う、僕にはわからないことを、相手を大切にするために、心から知りたいと思うから 「どうして僕に…この名前を名乗ったの?」
*
久しぶりに会った直にぃは、少し身なりがこざっぱりしたくらいで、ほとんどなにも変わってないみたいだった これまでの話より何より真っ先にさせられることが これだなんて思ってなかった ほんとうのことなんて 言えるわけない でも隣で背に優しく手をあてて微笑んだまま俺をまっすぐ見つめて捉えて離さない瞳が、いま、この場で、このことについてだけは、俺にいっさいの嘘を許さなかった 言ったことをなんでもそのままにすべて信じる、滑稽なほど正直で素直な、非武装の姿をそのまま惜しげなく晒す 昔となにも変わってない 危うい生き方だ 危険な視線だ その無防備さが対峙した相手にも武装を解くように訴えてくる なぜか、ただ愚直だと笑い飛ばせる類のものじゃなかった この人はこれで40年以上生きてきた いつも真剣で 自分の愚直さに気づけないほどにいつも一生懸命だ 他のことならいくらでも嘘もつくし事実も捻じ曲げよう、この人にできないのなら俺がやろう、そう思って その当人から、こんなことを問われてる 俺のことを深く知らないにしたってそんなことと関係なくあんまりにも心ってものに無神経すぎるよ それでも俺は このことについては 嘘をつけない さっきまでの快活な口調でいられなくなって 俯いて 喉が詰まる 小さな声しか出なかった 「…雅人さんの遺体の第一発見者が、直にぃだって本家で聞いたんだ。それで …苦しめばいいと思った。作品のむこうにいる俺にまで…まっすぐな目を向けてくるから 悪意もなく ���自覚に 暴きたててくる視線が怖かった それが ずっと つらかった…」
*
絢の言ってることは、僕にはわかるようでわからない 作品ーーーあの、感想文か、『星の王子さま』の 僕は作品から作者を見ることはほとんどない 特にあの頃はそうだったと思う でも絢の表現は絵ではなかった 文章は一目瞭然じゃないから、僕は絢の書いたものを視たんじゃなくて「読んだ」 その頃の僕は今よりもっと文章や特に物語を読むのが苦手で、文章は知識を頭に入れていくだけのもので、感想も解釈も僕の中には生まれなかった 絢の書いた意訳と感想文を眩しく思ったのを覚えてる でもそれだけではなかった 文章の向こうに 痛切に姿を隠そうとする誰かが視えた 僕は視えたものが偶然ひとだったから、あのとき声をかけた 絢に 思ったことを言った でもーーーあの頃の僕は どうやってひととモノを分けて 視ていたっけ すべては描けるかどうかで、描けるならそれは それそのもの以外の何でもなかった それだけのものだったはずだ ーーー昔の感覚が 覚えていられなかったはずの過去の記憶に引き寄せられる 絢は僕に 苦しめられていた そんなことは知ってた でも、理人兄さんのことを抜きにしても、…そうか、関係して 続いてたんだ 絢の中では 僕に見つかって怖かった… 僕は言ってはいけないことを言っていた? 「………」 少し俯いて首を傾けた絢の大きな目に睫毛に支えられるみたいにして涙がいっぱい溜まってる …ああ なんて美しい かけがえのないものだろう 簡単に謝ろうとした言葉をのみこんで 絢の背にあてた手を肩に回して引き寄せて、絢の頭にこつんと僕も頭をあてて 目を閉じる 肩に回した手をそっと頭にあてて金髪を撫でる 絵も文章もない触覚だけの くらい世界 それでもたしかに 絢はここにいる
*
あのとき直にぃに見つかった俺は、ただ怯えて戸惑って感情のやり場を失った でもあのことがなかったら、俺は理人さんを亡くした くらい部屋の中から歩みだして、何かを最後にしておこうなんて 思っただろうか なんとなくのその延長線上でフランス文学やフランス語、翻訳や意訳を続けたことが、今の俺が生活していく支えになろうとしてる 意訳は俺にできるギリギリの自己表現だったんだろう 直にぃみたいに絵なんて直接的なものはあらわせなかったし、隠れ蓑がないと怖かった だから訳をしてた 原著を書いたのは俺じゃないから でもどうしても意訳をしたくなる癖が抜けなかったのはーーー寂しかったんだ 誰かに見つけてほしかった 見つかりたくないのと 同じくらいに 目に溜まっていた涙がとうとうボロっと溢れてテーブルに落ちた 背中から回ってた直にぃの大きな手が俺の頭を体ごと引き寄せて、俺の顔を自分の肩口にそっと押し付けさせた 直にぃのシャツに涙が吸われて沁みていく 俺は確かにこの人にも生かされてた 幸せを願ってたよ 憎んでたのと同じくらいに その憎しみを、ようやく手放す時がきたのかもしれない そんなものに縋らなくても、俺にはもうしたいことや守りたいものがあって、生きていけるようになったから
今日まで生きてこれたことを心から喜べると思う それだけではないけど それでも ここに至るまでにどんな思惑があったんだとしても、言葉にして伝えたいことは…
「「生きててくれて ありがとう」」
二人、ほとんど同じタイミングで発した同じ言葉が重なった しばらく顔を見合わせてお互いにぽかんとしたけど 二人して思わず吹き出して笑ってしまった
直にぃから離れてぼんやり部屋の中を見渡す俺の後ろに静かに香澄がきて、俺の手を握った 握られた手を握りかえす テーブルの上に一冊の本が置きっぱなしになってた 俺が香澄に暗誦したのを覚えててくれたのかな
香澄の体に軽く背中を預けて、香澄の首筋や両腕や爪の傷口を刺激しないようにしながら、香澄の両腕をひいて後ろから俺の体を包むみたいに前で絡ませた 香澄の額に俺の額をそっと合わせて静かに目を閉じる 明るい室内にむけて 優しく囁くように物語の終幕を暗誦した
「Si alors un enfant vient à vous, s’il rit, s’il a des cheveux d’or, s’il ne répond pas quand on l’interroge, vous devinerez bien qui il est. Alors soyez gentils. Ne me laissez pas tellement triste : écrivez-moivita qu’il est revenu……..」
”もしその時、一人の子どもがあなたたちのところへ来て、笑ったり、金髪をしていたり、質問に答えなかったりしたら、彼がだれであるかあなたには分かるはず。 その時が来たら、親切にしてほしい。僕をこんなに悲しんでいるままにしておかないで。 すぐに、僕に教えて、便りをください、「王子さまが帰ってきたよ」と………”
ーーーーーーーーーアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著 『星の王子さま』より
香澄視点 続き
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走馬灯
Disc1
01.あなたへわたしより feat.重音テト
02.紫陽花とアマゾナイト feat.雪歌ユフ,重音テト
03.懐かしい夏の日 feat.ちかしくん
04.アイスクリーム feat.重音テト
05.BackSpace feat.重音テト
06.マシュマロファクトリー feat.唄音ウタ
07.魔女とマシーン feat.唄音ウタ,重音テト
08.赤い子 feat.桃音モモ
09.Falling apple feat.重音テト
10.あの人 feat.唄音ウタ
11.ゴースト feat.唄音ウタ
12.Mosquitone Remix feat.桃音モモ
13.竜の落とし子 feat.櫻歌アリス
14.シーズンオフ feat.重音テト
15.雨雨雨 feat.重音テト
16.散る散る満ちる feat.櫻歌アリス
Disc2
17.シンデレラコンプレックス
18.ソメイヨシノ feat.桃音モモ
19.サクラナク feat.唄音ウタ
20.改札バイバイ feat.桃音モモ
21.show you feat.唄音ウタ
22.運命は? feat.重音テト
23.自我は何ゴミ? feat.桃音モモ
24.永遠の16歳
25.ババアが抱えるシークレット
26.玉なしの銃 feat.重音テト
27.旬を決めたのは誰だ feat.重音テト
28.永遠は? feat.雪歌ユフ
29.美しい嘘 feat.重音テト
30.初夢 feat.唄音ウタ
31.タール feat.雪歌ユフ
------------------
01.あなたへわたしより feat.重音テト
思い出ばっか重たくなって
どこへも行けなくなりました
集めたどんぐりに虫涌いて
写真はセピア色に焼けて
どれもこれも壊れた過去
思い出と名の付いた鎖
ここは一つ全て捨てて
それから考えてみます
不思議だな
今のほうが懐かしいよ
昔はさ
晴れていればそれでよかった
ああ知らない窓外の景色で
わたしは元気でいます
あなたも大丈夫、きっと
いつかまた会えるでしょう必要ならば
だから大丈夫、きっと
------------------
02.紫陽花とアマゾナイト feat.雪歌ユフ,重音テト
わからない
なにも
秋の夕暮れ沙迷うごとく
わからない
ぜんぶ
水の溢れるコップみたいに
わからない
すべて
きみの読んでる占いもそう
わからない
いつも
紫陽花が首を傾げては揺れる
わからない
あなたが偶然性を放棄して
生命力を軽視して
あたしは感情的に頬を撫ぜる
人間性を教えて
地球を巡る水のこと
身体を回る血液も
どうして知れると言うだろう
愛していると言えるだろう
タートルネックにネックレス忍ばせる
アマゾナイトの淡い青
紫陽花と同じ青
蛹が完全体へ変化して
当然として羽ばたくように
突然ぜんぶ認知して
血流に耳を澄ませれば
わかるわ、今なら
あなたの傘へ、雨となって行くよ
------------------
03.懐かしい夏の日 feat.ちかしくん
波間で跳ねるあなたが光る
7日で死ぬとは知らぬ蝉のよう
狭間で迷うあたしは若く
まさか死ぬとは知らぬ蝉のよう
叫べど遠くあなたは素面
すでに死んだとは知らぬ蝉のよう
懐かしい服着て
夏の日に飛び入れば
生きるも死ぬも
同じようなことだろう
車で駆ける夜は短く
いつか終わると知らぬ夏の夜
------------------
04.アイスクリーム feat.重音テト
パンパンに膨らんだ眼球が見てた強姦犯
青春が輝いた
かんかんだらになりたいな
カンニングがバレた少年がソングライター
「そう、俺は空っぽさ。もう音楽しかないんだ。」
芸術に逃げたんだ 他にはなにもないからな
勉強が現実だ 知りたくないことだらけさ
ああ、愛ってなんだろな
生命保険か?バージンか?
今日証拠でもらったペンダントもう壊れた
生きる意味を見出す暇もない程はやく溶けてくアイスクリーム
食べ続けるしか術もないから
シーズン掴むこともできず
過ぎてゆくの季節
歳をとる
バンバンと飛び出した鉄砲の先にあなた
あっけないものだなあ
人生ってこんなものか
タイミングがズレた少女が歌っていた
「あたしは空っぽか?脳も血も涙もあるのに。」
いつか夢だったミュージック
趣味になりつつある
老けてく肌を隠して
息、続けるしか他がないのよ
アイス溶けたあとに残る
役立たずで使えぬ液のように
死ねば身体だけが残る
夏が過ぎる速度を感じては溶けるアイスクリーム
I scream aisiteru
生きてくこととアイス食べることは似てる
彼女はちょっと季節に敏感すぎただけ
駅ナカすれ違う人のはやさのように
肌を過ぎる季節 あーびりびりする
バージン失くして尚、愛の意味わからなかったよ
教えて芭蕉 この世はなぜつねに無常
シーズン過ぎ去ってもあなたは変わらないでよ
あたし馬鹿なの!
少女に早すぎる酒 持ってきて
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05.BackSpace feat.重音テト
指先にこう、抗うように
時間にもそう、従うように
唇にこう、溢れるように
言葉にもそう、収まるように
あたしはね
チョコが甘さだけ残し
それが証拠だ
嘘じゃないのに
(透明なまま止められない指先が)
------------------
06.マシュマロファクトリー feat.唄音ウタ
明け渡す夜に
夢はだいぶ向こうに
あなたは論理的に
あの約束無効にして
人ゴミと街
置いて彼ひとり
閉じないで瞳
変えるのはあたし
才能がないなら感情はいらないよ
肺の穴から這い出た怪物が
喉を揺らしてあなたを問い質すの
どうしてよ どうしてよ
ら〜ららら、ら〜ららら、らら
国を食う総理
吐いてOh,I'm sorry!
噛み砕く氷
うざいあいつの代わりみたい
今は平成
置いてかれてひとり
流されて時代
帰る気はもうない!
天才じゃないなら恋愛もしたくないよ
灰の山から這い出た怪物が
髪燃やしてあなたを追い詰めるの
どうしてもう どうしてもう
この爪も何も彼も
一体だれが作ったの
------------------
07.魔女とマシーン feat.唄音ウタ,重音テト
欠いた脳
どうでもいいけど
書いたの
どいつも思うこと
こうしよう
愛した本能で殺せよ
生まれたみたいに��
生きることしかできずに
言い切ることもできずに
息吸うことで傷に癒える術をあげる
雪は太陽ですぐに行ける空に
あたし、言えなかったんだ 気づく
あなたは泣けるから
(ああ、空は遠くなる。夢の通りだ。
なんで飛べない?怖いのさ、本当は。
それは遠く鳴る夢の終わりだ。
言葉が出ない。怖いのさ、地面が。)
飛べない人間
彼氏もいません
重ねるバースデー
枯れ死にそうです
少女は永遠じゃないと知って
30歳なんてすぐだぜ
ハイヒール鳴らして空になろう!
いっそ流星になりたい
いっそ死んでしまいたい
(あたしの価値、あたしの勝ち、あたしたち似たもの同士)
生きることしかできずに
言い切ることもできずに
粋がると泣けずに
言えることもないわ
それが本性とすぐにわかるはずだったのに
聞けなかったんだ、意味を
あなたが全てだわ
(ああ、空は遠くなる。夢の終わりだ。
なんで言えない?怖いのさ、本当は。
それは遠く鳴る夢の終わりだ。
夢が覚めない。怖いのさ、地面が。)
------------------
08.赤い子 feat.桃音モモ
愛から醒めたように赤子は泣き出した
愛からできたのに赤子は証だった
消えないよ
酒を呑んだ ママがぶった
頬に引いた 線を切った
3時で雨は止んでだれかは走り出した
惨事はいつもどおり遅めで顔を出した
酔いから醒めたようにだれかは首を吊った
愛した人に全部持って行かれたそうだ
永遠を探して
延々と続く街を行け
えんえんと泣く赤子を抱いて
愛とか声は目に見えないから嫌だ
まるでとっくに雨は止んでいるのに
傘をさして歩いている人みたいだ
気づかなければなんも悲しくないのよ
季節が変わるたんび泣いてるよ
酒のせいにして言いたかった
酒を飲んだけど酔えなかった
永遠なんてないぜ
年々老いる母の肉食べて
健全に育つ赤子を抱いて
酒を飲んだ
運命を探して
点々と浮かぶ泡に触れて
運命なんてないぜ
瞬間に消える命飛んで
永遠なんてない
運命だってない
けど信じてないと生きていけない
笑えよ ロマンチストだって
眠れないディスコナイト舞ってる
あの時代はもう来ない
だから明日も働け凡人万々歳
------------------
09.Falling apple feat.重音テト
別れ話のさわれそうなとこ
きみの拳と
あたしの涙、だけ
風と重力のさわれそうなとこ
落ちる林檎を見てる、誰かと
現象のない桃源郷
感情はどこから来たの?
想像しようよ桃源郷
ねえきみはなにを思ったの?
現状脳内桃源郷
生命はどこから来たの?
妄想使用外桃源郷
ねえあたしのなにがわかるの?
さわれないものはすべてが嘘なのか?
さわれないものはすべてが虚像なの?
トプ画の自撮りも
囁いた言葉も
風も重力も
言い訳のような数字があるの
前近代の桃源郷
あたしの手 ふれていいよ
因果関係の実証
ねえきみになにがわかるの?
統計の言う数値上
きみの手は誰のもの?
西洋文明の結晶
ねえあたしのなにがわかるの?
みんな知らない自分の在りか
------------------
10.あの人 feat.唄音ウタ
過去は
歳月の記憶と
カレンダーの薄い青
にしか過ぎないの
だからもう
あの人を思い出すのはやめた
夢でしか会えない人よりも
記憶でしかない過去よりも
匂いのある、色のある今と
予定のある明日を生きていたい
------------------
11.ゴースト feat.唄音ウタ
ひとりで帰り道歩く
誰かにつけられてるような?
すれ違う棒人間曰く
あなたがここにいた夜は
ひとりでに扉が開く
そんなにあたしに会いたいの?
ひとりでにガラスが割れる
そんなにあたしの気を引きたいの?
合わせ鏡の向こう
あたしの心をあなたが貫いた心霊現象
抱きしめようと手を伸ばしすり抜けてく
かなわないの?
触れたいのに
「最後までそれを望み、あなたが奇跡を待つならいいけど。
その永遠を欲しがるなら、あたしが全てを捨ててもいいのよ。」
kill me,kissme,おやすみ
------------------
12.Mosquitone Remix feat.桃音モモ
どうしてよ
あたしを知らないように
大きな目を逸らすのやめて
なんでよ
あの日を知らないように
笑って 笑って
あなたが羽ばたいた瞬いたまだ泣いたあたし連れて
逃げたいな溶けたいな消えたいなあなた連れて
まだ無いのわかんないの待てないのあたしズレて
あなたが羽ばたいた駆け出したまだ泣いたあたし連れて
逃げたいの?溶けたいの?消えたいの!あなた連れて
まだ無いよわかんないもん待てないのあたし触れて
…いつまで見てるの?
聞こえないあーあー
------------------
13.竜の落とし子 feat.櫻歌アリス
雨は降るための理由を探している
嫌な予感が鼻を打てば
空を見上る
かつて私の涙だった水の礫よ
おかえり
乾燥肌のあなたへ
缶コーヒーを投げつけて
感情論は干からびて
関係ないことばかり言って
また
乾燥肌のあなたへ
缶コーヒーを投げつけて
感情論は干からびて
関係ないことで泣いて
さあ私の頬へ戻っておいで
(ねえ私の方へ戻っておいで)
------------------
14.シーズンオフ feat.重音テト
去るときは告げてくれとあれほど言っただろう
気づいたらもうどこにもいないの
過ぎたあの夏のように
見捨てるようにすぐ安売り
しがみつくようにあたしは買った白いセーター
過ぎ去るよりこのままがいい
割増のタクシー、あいつを追って
見えなくなるまで
抜くときは告げてくれとあれほど言っただろう
だけど彼はまた無言で果てては過ぎ去るだけ
死ぬときもこんなふうに逝ってしまうのだろう
気づいたらもう空が陰って
不意にいなくなるのかなシーズン
それでもいいの3人目
あなたのチューで吸いこんで
どこから来たの生態系
どこかへ行くよ抱きしめて
いくときは言ってくれと、あなたがそう言うの
あたしはまだわかってないよ
なぜ過ぎねばならないのシーズン
どこへいくの
どこからきたの
なにをするの
なにになるの
何も彼もそう
いつ死ぬかも
わからないけど
ここにいるよ
(なにか言ってよ
シーズン、ダーリン、ベイビー、バージン)
------------------
15.雨雨雨 feat.重音テト
あめ、ア��、飴、ame
降れよ、雨
彼が覚えてた場所
どこだろう
傘が折れてもいいの
走るよ
雨が鞭打つあたしの神経網
冷えたとこから腐るよ
心身症
やまないで
(脈打つ血管の中の感情論
浮かぶプランクトン)
やめないで
(ラメで描く涙の塩分濃度
嘘でもいいの)
雨はどこから来るの
水平線?
飴の色を知りたいの
吐き出して
雨が鞭打つ地面のアスファルト
夢で見たように光るよ
カーライト
病んで
(雨請う中央線、あたしを見て
はみ出す黄色い線)
晴れないで
(枯れてる噴水の影を踏むよ
いつか悔やんでよ)
------------------
16.散る散る満ちる feat.櫻歌アリス
蕾の中はぐちゃぐちゃのまま
青い小鳥が啄んだ空
咲いたならこれで最後でしょう
開花する時期を選べず
授かった種子が実悶える
簡単に繰りかえさないで
あなたの翼で
この種を
遠くへと持って行ってくれ
腰から下の根が重たくって
どこにも行けないんだ
あなたになりたくて
生まれ変わろうとしたって
散ることしかできなくて
あたしのスカートの中に
赤い花が咲く 赤い花が咲く 赤い花が咲く
そして腐りゆく
散る散る満ちる
この血はいつまでも赤くいられない
殴たれた頬が染まっては
夕焼けがやがて夜になる道理と同じで
いつかあなたのことを嫌いになる
それまででいいからどうか
すべてに嘘をついてください
季節は巡る
散る散る満ちる
------------------
17.シンデレラコンプレックス
珍しい目覚まし
今朝はファンデーションがないので
新しいあたしにしては不安でしょうがないのです
アイラインいらない
あたし女だからなんなのよ
悲しい寂しい、厚く塗って隠した本心
ファンデーションがない
不安でしょうがない
靴がない
下らない螺旋状の愛とファンタジー
駆け出して裸足
ありのまんまは放送禁止
不感症治らない
不完全少女じゃない
ファンレターいらない
不安定感やばい
ファンデーションがない
不安でしょうがない
------------------
18.ソメイヨシノ feat.桃音モモ
ソメイヨシノが春に一斉に咲くのは
長すぎた冬の寒さを恨んでいるから
ソメイヨシノが街にたくさんあるのは
あの春がもう来ないと知っているから
咲け 叫ぶぜ
さあ芸術をして
咲け 酒飲め
さあ警察から逃げて
咲け
さあ今朝の夢を語ろう
ソメイヨシノの種子は芽吹かないから
涙を拭かず歩く
夜の桜並木
------------------
19.サクラナク feat.唄音ウタ
鳥の子
風 影 追い駆け
瞳と髪 指 口 桜
鳥の子
雨 声 車
取り残された道路で遡る思い出 笑顔
巻き戻せない花びら
ひとりの帰り道
暮れた瞳を塗りつぶす群青
掘り起こすあの日の言葉
忘れそう あなたの声を
あぁ!待って!まだ言えてないことがあるの
立っていたあなたは気づいた
桜が舞って余ることなく
そう、あたしのように泣いて散るのでしょう
鳥の子 風抜けるまま
あなたのいない道路で
それでも待っていた笑顔、やり直せない季節
時が経って
まだやれてないことばかりだ
なんであのとき言えなかった
さぁ立って!まだやれてないことがあるのでしょう
あぁ!黙って!まだ言えてないことがあるの
歌って声はカタチになんない
桜が舞って止まらない涙
言葉は余って なにも言えないまま
これでいいのかな、さようなら
------------------
20.改札バイバイ feat.桃音モモ
目が覚める老婆
むかしの夢を見ていた
思い出す10代
すべて昨日のようだった
知りすぎたんだ女の子というにはもう
似合わなくなったひらひらの真白なスカート
あなたが言った
「果たして愛はあったのか?」
わからないまんま、目を逸らすようにキスをした
覚めたらまた見たくなる
悪い夢でもいいの
寝がえりぐらいで覚める夢
そんな恋でよかったの?
必ず朝がきて冷める酒
そんな恋でよかったの?
それでも確かに見てた夢
いまは忘れそうだよ
過ぎる人々がまるで風
どこへ行くのだろう
きっとこのまま捻くれる
見る/見れぬもなく日は暮れる
そっとこのまま皮肉れる
見ぬ/見えるもなく日は暮れる
上智早慶 女子高生
大志を抱け処女童貞
そんなものでしか見出せねえ
あたしの価値はなんだっけ
寂しさばっかかんじるようになったんだ
許せ缶チューハイ
飲み込め2粒 鎮痛剤
寝がえりぐらいで夢が覚める
そんな恋でもいいの
必ず朝が来て酔いが醒める
そんな恋でもいいの
佇む少女の頃の影
いまはどこにいるんだろう
さよなら 手を振り消えてゆく
改札を抜けて
なにから逃げてた?
迫る歳月か?
どこから逃げてた?
母の愛からか?
東京から逃げ帰る人々
さぞかし家は素敵なんでしょう
東京は逃げられてからっぽ
この街はたぶんもともとからっぽ
下りばかりが満員御礼
帰ればひとりでチューハイフライデー
キスしたことないフリはしないで
あとは下るだけ そうこの人生
駆け込む刹那に思い馳せる改札前のキス
------------------
21.show you feat.唄音ウタ
醤油 垂らす 夜空 ひとつぶ
とろとろ走って
とろろをかけて完成
これを食べれば眠れるだろうか
夜は長いのに
日々は早すぎて
歳さえ忘れてしまいそうだ
------------------
22.運命は? feat.重音テト
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
バナナでもいいのかもしれない
飴でもいいのかもしれない
さみしいきもち
金木犀にのって
ひとりとひとり
秋の夜長をゆく
流れ星のように
東海道にそって
さみしいふたり
鉄の中でゆれる
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
たまたまあなたがそこにいた
これでも運命と呼べるの?
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
それでもあなたを選んだの
これを運命と呼びましょう
なんでもするわあなたにな��
どこへでもいくわあなたとなら
わたしは夜が好きだから
このまま遠くへ逃げよう
(もう遠くへ
ああ、もっと奥へ
もうとっくに
ああ、もっと奥に)
------------------
23.自我は何ゴミ? feat.桃音モモ
ああ そんなにわたしの夢が欲しいか
くれてやるよ あげたいよ
ああ そんなにわたしのことが憎いか
別にいいよ 構わないよ
ああ こんなにわたしの夢が肥大化
持て余して 溢れ出して
ああ どんなにわたしのことを恨んだって
死にきれない 愛は取れない 油汚れのように
ああ そんなにわたしのことが欲しいか
くれてやるよ いらないもん
ああ どんなに世界が正しいとしたって
知らないよ わたしだもん
鳥の翼を捥ぐように
わたしの自我を削いでくれ
百合のおしべを取るように
脇毛を剃って出かけます
(ビニール袋に入れた自我の声)
------------------
24.永遠の16歳
キーボードは涙で壊れた
昨日から文字では話せない
どうしよ できれば殺して
少女のまんまで歌いたいから
でも少女の漫画は燃やした
少女のまんまじゃいられない
当社の予定はお嫁さん
現在片手にスマホ持って
ただ立ち尽くしてる
腐る街
降り注いでる傘の上
音は消え
また鳴る天
もう少女じゃないから許しちゃくれないよ
でも少女でいいなら化粧もいらないよ
ああ将来の夢は趣味で終わりそう
まあ正直ギリギリ生きてる
夏休みを待って
道路は涙で濡らした
土曜日は起きても予定ない
電波がなくては話せない
少女のまんまでいられるんなら
蝶々が飛んでる
なりたくて捕まえた
でも少女でいるには知りすぎたのよ
生涯かけてた恋も終わりそう
ああ勝敗なんてもういいの
あなたのこと待って
ああもう着れない白いワンピース
代わりに鳴らす高いハイヒール
------------------
25.ババアが抱えるシークレット
知らなかったんだ
こんなに痛いだなんて
知りたかったのは
見える愛の色
知りたがったんだ
なにが出るのか
この道の奥まで行く覚悟 決めていて
止まない 止まない雨も
あまりに早すぎる日々も
なにもかもを忘れて生きるしかないの
けれど知らない 知らないことや
まだ見ぬ先の未来も
忘れたくないよ
知らなかったんだ こんなに早いだなんて
この日々の果てまで
あなたと駆け抜けて
アナタノナラバ ユルセルカモナ
アナタトナラバドコデモイケルワ
------------------
26.玉なしの銃 feat.重音テト
あなたのまねをして
銃をつきつけた
愛してる と言わせるために
あなたはこう言った
お前は愛してないのか?
助けてくれ 女神だろ?
雲が流れる間に
鳥がさえずるように
生き物の呪いを
悲しく教えてくれ
銃のような言葉で打たれたのは心のみならず
銃のような身体で貫かれた少女の身はあらず
身体を破る穴
スカートをはくと寒い
心に空いた穴
火照るなら武器を持て
銃にさえ優しく
女神のように抱きしめろってこと?
12時で悟るわ
あなたの愛はまるで脅すだけね
あたしも銃を持つわ
あなたより、太くて大きい
女らしくなくてもいいの
------------------
27.旬を決めたのは誰だ feat.重音テト
生まれ、消えてくのが使命だから仕方ない
花びらが土になるも理、仕方ない
冬が終わり春が来るよ、それを待てばいい
夢が終わり朝が来るも自明、起きなさい
剥けど剥けどなにも見つけられずネギを食う
生まれ生まれ、なにも意味がないと言われてるようだ
------------------
28.永遠は? feat.雪歌ユフ
ああ
どこかにあるのなら あなたを連れ出すわ
野外 都内 未来 どこかに
ああ
ちぎれる雲のなか なにかを諦めた
いない なにもないふたりは弁明した
泣き出すロンリーガイ
生命体である以上あなたと体内外
手繋いでも境界線
それでも永遠はどこかにあるの と
ふたりで弁明して
ないとわかった上で
言葉もなくていい
身体もなくていいのに
制服もなくていい
教科書もなくていいのに
それじゃダメらしい
それじゃダメらしいのだ
もっと簡単でいい
もっとシンプルでいいのに
いらない論理以外
最難関に行くんでしょ
見兼ねた大先輩 諂いでも正方形
それでも数学は嘘をつかない、と
あなたは証明して
ないとわかった上で
駆け出すロンリーガイ
生命体なぼくらに課された細胞膜
隔たれた外界へあなたとフォーリンラブ
共同体になろうとした
ふたりの懸命な試みを笑うなよ
永遠がないならこうするしかないだろ
------------------
29.美しい嘘 feat.重音テト
(きみのせいだXXX)
吐くものはないのに
出てきたこれはなんだろう
履く靴もないのに出て行った
あなたを見ていた
正しくて汚い真実が
見辛くて認めたくなくて
誤ってて美しい嘘を
信じたくて傷つけたきみのせい
(それでいいの きみのせい)
------------------
30.初夢 feat.唄音ウタ
きみが好きなものも愛せたらよかったのに
知りすぎたことを許してくれた時のように
日々は「あ」と言う間もくれず過ぎるけど過ぎるけど過ぎるけど
意味のない言葉も愛せたらよかったのに
あたしの全てを抱きしめるような雨粒に
わからない言葉を愛すすべを聞くも
ただ降るだけ
濡れるだけ
「お前は夢を見ているのだ、今すぐ目を覚ませよ馬鹿」
みたいに降る 雨が降る
日々がまるで夢を見ているように過ぎても
切りすぎた髪は止まんないまま明日は来る
きみのないあたしを愛すすべを聞くも
ただ在るだけ
伸びるだけ
きみが好きなものも愛せたらよかったのに!
長い夢を見ているんだ
幻なのかもわからない日々はどこに行くんだろう
もしくはどこにもないのか?
------------------
31.タール feat.雪歌ユフ
ヤニにまみれて
部屋で液体と化す
闇に紛れて
燃え尽きるのを待った
黄ばんだカーテン
あんなに綺麗だったのに
黄ばんだ肺へ
もう元には戻れないのが
悲しいわけじゃない、煙がしみただけ
ヤニにまみれて
ママには嫌われた
闇に紛れて
少し家出をしようぜ
網にから���って
自虐がやめられない
間にに間に合って
吸い尽くしたら行った
黄ばんだ思い出
ああなぜうまく思い出せない
地盤が緩んで
もう過去には戻れないのに
黄ばんだ歯で笑ってみたのだけど
自分がまるでもう別の誰かみたいだな
最初に吸った日のことは
今でもよく覚えてるんだ
でもこれ何箱目だか
誰にもわかんないけどな
そうさわたしは薄情さ
回数が増えれば当たり前か
忘れてしまうぐらいに
一緒にいたってことかな
黄ばんだカーテン
黄ばんだ肺へ
黄ばんだ思い出
黄ばんだ歯で
悲しいわけじゃない、煙がしみただけ
------------------
ご視聴いただきありがとうございました。
tamaGOより
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目が覚めたので朝の運動的にオープンワールドについての雑記2を
前回の記事に付け足して言うべきこと何点かある
Morrowindにおけるメニュー画面…メニュー画面は本シリーズにおいて「ジャーナル」と呼ばれる ジャーナル、つまり日記だが、Morrowindにおいてジャーナルは本の体を保つという記述があった。Oblivionでも本っぽい見た目のジャーナルになっていたが、これは最新作Skyrimにはない特徴 Skyrimのジャーナルは基本的に他のゲームの「メニュー画面」と同じで、謎のUIが画面に出現し、星座を眺めてスキルポイントを割り振ったり、世界を上空からドローン視点で眺めることができる。この変更には良しと悪しがある
良しな点として、ジャーナル機能は死ぬほど見にくい ありえん Morrowindは未プレイなのでゲームカタログに記述されている情報を鵜呑みにするなら、体裁が完全に日記(ジャーナル)なので、どのページに何の情報が描かれているかを覚えておく必要があるとのこと 論外だろう、こんなもの Oblivionでは多少改善されてはいたようだが、アイテムが五十音順に並ぶことの弊害や、マップそのものの見づらさなど上げればきりがない不具合があった。いくらなんでもオープンワールドを冒険する人間の日記をメニュー画面にするというのは無理があったのではないかと思う
それともう一つ、「日記」という体裁はそもそもプレイヤーと相性が悪い それはプレイヤーの日記ではないため、キャラクターが抱えている自我を垣間見てしまうことになる その日記がいかに平易な文章を心がけていたとしても、日記とは殆ど主観そのものであり、プレイヤー・プレイヤーキャラクター間の距離を確実に遠ざける この方式を辞めるというのも納得がいく 誰かが書いたジャーナル(日記)より、メニュー画面の方がいい意味でゲーム的だと思う
悪しな点はもちろん見た目と雰囲気 正直これにつきる Oblivion内でメニュー画面を開くと何か物と物が擦れあったような効果音が鳴り、羊皮紙的なサムシングが画面に広がり、なんか雰囲気がある マップなどそれが顕著だ マップはなあ、紙でなければならんのだ ことタムリエルにおいては! スカイリムのマップは、誰がどう見たってGoogle Earthだ タムリエルにGoogle Earthはない!
というまあどうでもよいことは置いておいて、次に付け足すべき点として、前回の記事は「Skyrimを前作と比較して自由度が失われているというもう何年も前にみんなで話して終わったやつ」でしかないが、しかしそれは悪いことではない(という何年も前にみんなで話して終わったやつ) という話をしたい
そもそもがSkyrimはそういう方向性なのだという話 前記事におけるパーサーナックスの台詞引用を見ても分かる通りベセスダはこの事にかなり自覚的に見える Oblivionにおいて、主人公は何者にでもなれた 何者かと何者かを並行してロールプレイすることさえできる自由さだった 何かになりたくなければならなくてよいという、それはもはや現実じゃん
ここで着目したいのは、2作の舞台だ The elder scrollsシリーズというのは「ムンダス」というゲーム全体が表象しているここではないどこかの宇宙にある、「ニルン」という星を舞台にしたゲームシリーズで、そこには広大な大地と海が存在する 「タムリエル」という広大な大陸を中心に展開していたこのシリーズは、その規模の大きさとゲームの描画レベルを釣り合わせるため、一つ一つのゲームで描く範囲を「地域」に分けることにした
タムリエルには「ヴァレンウッド」「エルスウェア」「ブラックマーシュ」「モロウウィンド」「スカイリム」「シロディール」みたいな感じで地域ごとに名前で区分けされており(あと何個かあった気がする)、それぞれの地方を舞台にゲームが展開する 「Oblivion」はシロディール、「Skyrim」はスカイリム といった感じ
Skyrimに比べ、Oblivionはプレイヤーキャラクターの透明さにやけに注力されている 彼だけが後のシリーズにおいてどうなったかを確認できる術がなく、後作であるSkyrimでなんとなく曖昧なヒントを与えられるだけで、確定的な証拠はない。彼は最後まで何者でもなく、何の血も引いておらず、何の神でもない これは昔のJRPGなどではあまりなかった設定であると思われる 彼はどうがんばっても「何か先天的に特殊な存在」にはなれない(それも一種の不自由か?)
「Morrowind」の主人公はメインクエストのプレイ中に自身が神であることに気づくことになり、「Skyrim」の主人公は序盤からドラゴンの力を持った勇者であると気づくことになる Skyrimの主人公ドヴァキンはめちゃくちゃ「主人公」している
少々前回の記事と内容が被ってしまった。ようはSkyrimの主人公とOblivionの主人公がキャラクターとして抱えている濃度の差の話だ 以下に改めて書く
・Oblivionの主人公…囚人。メインクエストを終え、シロディールの勇者と呼ばれることとなる。しかし皇帝の血は途絶え、世に混乱が訪れることとなった。DLCシナリオをクリアすることで、狂気のデイドラ王シェオゴラスを倒し、シェオゴラスのもう一つの人格ジャガラグに「そう…お前という人間…人間…?王…いや、神…うーん…あー…、さらばだ…シェオゴラスよ…」みたいなわけのわからん事を言われる(曖昧さここに極まるといった台詞だ デイドラの王はそもそも不死であるし、第4紀に現れるシェオゴラスは何故か未だグレイマーチに悩まされている そもそも何を持ってシェオゴラスをシェオゴラスたらしめているのかというような問題になりかねない危うい台詞でもある)
・Skyrimの主人公…冤罪で帝国に処刑される直前であったが、神話・伝説の存在とされていた「ドラゴン」の襲来に乗じて刑を免れる。自身が「声の力」を持ち、ドラゴンを殺しうる者「ドラゴンボーン」であると知り、悪のドラゴン「アルドゥイン」を倒すためあれこれした後、ソブンガルデという異世界でかつて神話の時代にドラゴンを滅ぼした勇者たちと共にアルドゥインを倒すことに成功する。付け加えて、彼は神話の時代の壁画に書き残されていた「アルドゥインが再び現れる時、最後のドラゴンボーンが現れる」という感じの記述に従うならば最後のドラゴンボーンであり、本編終了後のDLCクエスト「Dragonborn」にて、「最初のドラゴンボーン」と戦うこととなる
(最初のドラゴンボーン・ミラーク。彼の設定もまた面白い)
おかしいだろ Skyrimの主人公、主人公すぎる そんなことある?これに更に付け加えて言うならば、Skyrimの主人公がアルドゥインを倒すために使う特殊なアーティファクト「星霜の書」は、無理に読もうとすると目が焼け死ぬという人智を遥かに超えた宝具的サムシングで、原文では「Elder scroll」である う、嘘やろ?これもう、お前が主人公じゃん シリーズタイトルを回収するな TESシリーズの主人公のクセにタイトル回収するんじゃあないよ
Oblivionがありとあらゆるところで明示的な言及を避け続けているのに対して、Skyrimはとんでもないほどにドヴァキンに物語が付随している
めちゃくちゃ前説が長くなってしまった。この、なんというべきか、主人公度の差というべきか、プレイヤーキャラクターとしての透明度の違いは、誤解を恐れずに言うなら「土地柄」が出ているような気がする という話だ
Oblivionの舞台であるシロディールは、タムリエルの中心に位置し、帝国が支配する四季あふれる豊かな土地だ 高低差のない広い平野が広がっていて、そこに様々な植物があり、人が住み、生きているという感じの… 時間軸としては、皇帝が何世代にも渡って守り続けてきたオブリビオン(魔界的な何か)へ通じる扉が開かれる直前に始まる物語でもある
Skyrimの舞台である��カイリムは、タムリエル北部に位置する雪国地域で、そこには「冬」しかない 山は険しく、生活に困窮する村もある 時間軸としては、帝国軍と反乱軍の争いに決着が付いた直後、伝説として語られていた「ドラゴン」が現れる直前から始まる物語だ(因みに、この”山”はオープンワールドとして問題を孕んでいるという意見が友人から何度か出たことがある 山によってマップが区分けされているせいで、物理的にシームレスな移動が可能なオープンワールドであるにも関わらず”シームレスではない”という意見だ わからないこともない そういう土地だから仕方ない気もする)
ここに、地域性、土地柄がある。雪に覆われた地というのはそれ自体が持つ物語性を有していて、彼らは「スカイリムの子ら」という自意識を持っていて、一人ひとりがそういった物語を濃淡様々に抱えている。そして何より「ドラゴン」は古来よりRPGの世界が驚異として描いてきた最強の物語だ Oblivionに出てくる敵はまあ適当に言えば悪魔みたいな感じで、神話的な意味合いを持っているといえるが、神話は現実との距離が遠い。RPGの世界において、神話より「伝説」の方が聞き馴染みがあり慣れ親しんできたという感覚、わかるだろうか つまり、シロディールの平坦な大地へ赴き冒険する主人公に対して、スカイリムの子を自称する雪国の冒険者は、抱えている物語が大きくて当たり前なのだ(これはちょっと日本人の感覚すぎる話だろうか)
Oblivion、Skyrim共にどんな種族の誰にでもなれるわけだが、どちらも「一般的に選ばれる”人間”に最も近い種族」というのがある Oblivionでは「インペリアル」という、帝国の人間であり、彼らはメチャクチャ普通の人間の見た目をしている 対してSkyrimを起動しだれもが最初に選ぶことになる種族は「ノルド」と呼ばれる、筋肉質で髭を蓄えたたくましい雪の男である
「ノルド」はスカイリム地方に住む多くの人間の事を指す。彼らノルドには種族としての物語がとても色濃く残っている。ノルドとして生まれた者は北の大地を踏みしめ生き、膝に矢を受けて死ぬ。死することで「ソブンガルデ」と呼ばれるノルド専用の天国に行くことができるという信仰があり、これって実在していて…ソブンガルデは実在する。ノルド達は口々にこの世界の名前を叫ぶ。「勝利か、ソブンガルデかだ!」彼らは他の種族と全く違う価値観の元に生きている。根本的に死への恐れの種類が違う。恐れを知らず生き、恐れを知らず逝った。更に彼らの信仰する神「タロス」は、かつて「タイバー・セプティム」というタムリエル全土を支配した最上の皇帝であり、伝承ではノルドとされている。インペリアルが創り上げた八太神信仰を、ノルドは九太神信仰へと変えた
Skyrimのラスボス戦の舞台はソブンガルデであり、プレイヤーがノルドではない、例えばアルゴニアンやカジートである場合、特別にソブンガルデに入れてもらえることになる。が、なんだかとっても変な感じがする 例えば君がエルフとしてソブンガルデに招待されたとしよう。生粋のエルフRPをしている君は、そもそもショールを悪魔とする思想を持っているはずで、ソブンガルデに赴くことそれ自体宗教的にマズいのではと悩む羽目になる…だが、大方のプレイヤーがエルフ系の種族を選ぶのは決まって2周目3周目だ。何故なら、トレイラーを見てスカイリムへの冒険に憧れ購入したプレイヤーはもはやその時点でノルドであり、ドラゴンを打ち倒すノルドの勇者になるべくしてゲームを起動しているのだから
1周目で早速ダークエルフプレイなどをしている多くの異端プレイヤーにマイノリティ宣言をして本当に申し訳ないと思っているが、実際そうだ スカイリムといえばノルド ノルドといえばソブンガルデ、ソブンガルデといえばタロス これはもう否定しようがない このように、Skyrimはその地方を選んだ時点で、物語を有してしまっている。The elder scrollsシリーズが描いたのは世界であり、神話であり、そして人であり、人にとって物語は隣人であり、友人であり、恋人でもあり、子であり親である
ようはSkyrimの主人公は主人公になるべくして産まれた主人公だ ラスト・ドラゴンボーン 勇者
ここにまだ更に付け加えて言おう スカイリムにおける独自システムでもありこのゲームの要となる、ドラゴンボーンの特殊な力「シャウト」は、ドラゴンを殺すことでその力を蓄え、スカイリムの各地の遺跡でドラゴン文字を解読することによりその種類を増やすスキルだ シャウトを扱える人間は少なく、元を辿るとシャウトはドラゴンの力でもある。ドラゴンはシャウト…つまり「声」を力に変える生き物だ
この、「声/シャウト」というのがそもそも生き物が持つあまりに身近な力だ 歓喜するとき、驚愕するとき、悲嘆するとき、皆叫ぶ その「叫び」に物理的な力を齎すというフィクションは、なんなら「魔法」なんかよりよっぽど物語している。 スカイリムをまっとうにプレイした君なら、シャウトでドラゴンを従え、シャウトで空を晴らし、シャウトで敵を吹き飛ばすことが可能なはず
こんなに長く語ればもう分かるだろう The elder scrollsシリーズが5作目を迎えた10年前、Skyrimをその舞台とすると決めたその瞬間から、ドヴァーキンは主人公だった Oblivionに対し方向性を変えるのは当たり前だ 日本でTESシリーズの知名度が爆上がりしたのは間違いなくSkyrimの功績だが、それはオープンワールドゲームとしての完成度が高かったからとか、日本人にまだ馴染みやすいゲームシステムだったからだとか、そういうことではない、敵がドラゴンであり、お前がドヴァーキンになれるからこそ、日本人にもバカ受けした ロトの勇者や、ソルジャークラス1stになっていた君は、ドヴァーキンにもなれた
https://www.youtube.com/watch?v=qJnnPh44Rlo&has_verified=1&ab_channel=BethesdaSoftworks
見ろこのクソ地味なトレイラーを 盛り上がりもクソもない なんかよくわからんポリゴンの世界があって、なんかよくわからん人がいて、なんかよくわからんまま終わる!このゲームの主人公が主人公であるわけがない しかしそれ故にあなたは何にでもなれた
https://www.youtube.com/watch?v=JSRtYpNRoN0&has_verified=1&ab_channel=BethesdaSoftworks
なんだこのトレイラーは、俺はノルドなのか 俺はノルドだ スカイリムの子だ 俺はかつて小学生の時に読んだドラゴンスレイヤーアカデミーを思い出す ドラゴンを殺し世界を救うため、この世に産まれたという使命をうっかり思い出してしまう 雪…雪!雪だ 雪は白いから好きだ 叫びを上げドラゴンを殺しドラゴンの力を奪う しかしそれ故にあなたはドラゴンボーンにしかなれない お前がアルゴニアンであろうとハイエルフであろうと関係ない お前はドラゴンボーンだ ひとたびお前がドラゴンを殺せば、その魂を吸収してしまうだろう それは確定事実だ 2011年の11月11日からお前はドラゴンボーンだった
まとめると、OblivionとSkyrimは同じく広い世界を自由に探検できるゲームであるという前提の元、物語とプレイヤーの距離感を変えることでゲームの目指す方向性を分けている。別にどちらのゲームも、メインクエストをやってもやらなくてもいいし、何をしてもいいのは事実として、物理的にそうだ ただ、オープンワールドでありノンリニアを名乗るゲームにおけるメインクエストというのは、「やってもやらなくてもいい」という事実に関係なく、ゲームの自由度に縛りをかける。最近のIGNの記事にもあったが、オープンワールドと物語は決定的な矛盾を孕んでいる あなたはドラゴンが世界を滅ぼそうとしている時になんの目的もなくパンを盗んだりできるが、「可能」であれば「自由」であるわけではないだろう それとこれとは話が別だ メインのストーリーに背を向けることができるかどうかは、そのストーリーが持つ主人公との関係性によってプレイヤーに大きく委ねられる。倫理観や使命感のRPとのズレ。ゲームにそんなものは必要ないと言うならテトリスでもやってろハゲ
(テトリスおもしろいよね)
Oblivionは限りなく主人公を透明にすることで、シロディールというファンタジー世界の地域を限りなく自由に探検することができる。それも、何者として探検するか、というところに至るまでの自由だ 暗殺者にも、���士にも、魔法使いにもなれる なったら、何がしたい?
Skyrimは主人公を極度に不透明にすることで、スカイリムの子として雪の国を救う勇者「ドラゴンボーン」になれる。これはめちゃくちゃJRPGっぽいが、それはそれとして、世界を救わない選択も可能だし、世界を救った後にのんびり観光してもいい。暗殺者にも、戦士にも、魔法使いにもなれる。が、君はドラゴンボーンであり、この世界が好きだからこそ、世界を救う。
ようはプレイヤーとプレイヤーキャラクターの距離の違いでもある プレイヤーはこの世にいくらでもいて、それぞれがたくさんの人生の合間にこの世界に顔を覗かせる。その時あなたが、あなたとして世界を冒険したいのか、誰かに自己を投影して冒険したいのか、というのは好みによるところだろう(一応言っておくが、Oblivionでも真剣にメインクエストに向き合い皇帝にアミュレットを託された人間としてシロディールを救う勇者になりきることもできるし、Skyrimでメインクエストを放置して一介の凡人として何者かになろうとすることも全然できる ようはゲームが持つ雰囲気が、どういったゲームプレイをオススメしてくるのかというかなり曖昧な話だ、これは)
(これはニコニコ大百科のドラゴンボーンの記事の項目の一つ ここの記述はものすごく良くて、Skyrimの主人公も”フリーダム”だ ただ、この通りのゲームプレイをしていると、こういった「おかしさ」「面白さ」が発生してしまうというのは誰でも理解できよう)
どちらも稀代の名作であり、本当に面白く本当に良いゲームだ どっちも好き Oblivionの自由は真に現実が自由であるということを思い起こさせる良さがある 緑あふれるシロディールの地は綺麗で、あの時代のポリゴンは私が最もノスタルジックになれる Skyrimの雪は高知に住む私の雪への憧れを刺激する ドラゴンボーンとなってアルドゥインを倒すメインクエストは、盛り上がりに欠けるところはままあるが、そもそも物語が持つ熱量が濃くて良い
続くThe elder scrolls:Ⅵはどちらの方向に傾くのか、どっちでもいいが、スカイリムで「誰か」になるのを十分楽しみ満足した節があるので、次はOblivionの方向性だと嬉しいな 何より、Skyrimの方向性のゲームは世に溢れている そうだ そもそもその話をしようとこういった記事群を書き始めたんだった うっかり好きなゲームを語るだけの記事になってしまった
余談ではあるが、ここで気になるのは「Oblivion」というタイトルだ シリーズのタイトルを並べてみると「Arena」「Daggerfall」「Morrowind」「Oblivion」「Skyrim」となるが、この内、Arenaは大陸全土の揶揄表現で、Daggerfallは都市の名で、Morrowind、Skyrimは地域の名だ しかしOblivionという名前はそもそも異界の呼称で、ムンダス(宇宙)を覆うように存在するデイドラの住まう魔界のことだ 素直にシロディールをタイトルに起用していない理由などがどこかに記載されているかはわからない(ここまで読んで何度もあなた方が訝しんだ通り、これらの記事はまともな調査も行わず適当を並べ立てているだけでなんの論理性もない雑文だということは改めて説明するまでもない) Oblivionというのはそもそも英語で「忘却」や「無意識」という言葉だ 造語でないタイトルはArenaとOblivionだけで、果たして何か面白い意味をこじつけることはできないかとうんうんうなってみたが、うーん無理そう
以前の記事で「ダークソウル」と「GTA」について語るという旨のメモを残したが、「GTA」に関してはそもそもプレイするモチベーションがないのでやめる ダクソは実はもう買ってあり、難易度にへこたれてプレイしきれていないだけなので、今度時間を取ってクリアした後、書く 他にも、以前書いたような「メタルギアソリッド2とボクと魔王」の話を改めて書きたい まあこれらは一旦置いておいて、次は「魔女と百騎兵」の話��する 現在は仕事に追われていて(まんがタイムきららMAXにて連載中の「ぬるめた」という私の漫画の1巻が2021年1月27日、つまり明日発売だ そして来年4月からは、ぬるめたと同時進行で「青騎士」という角川の新雑誌にて全く別の漫画を開始する予定でもある)ゲームがプレイできていないため、「ガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団」をプレイしていない
これを近いうちプレイした後、この「魔女」のシリーズについてメモを残す 今までも何度かしたことがあるような気もするが、「魔女」のシリーズが行った「プレイヤーとプレイヤーキャラクターの距離感」の取り方は完全に今までで類を見ない全く新しい奇抜な発想であり、面白すぎる SkyrimやOblivionにおけるプレイヤーとプレイヤーキャラクターの距離感についての話、物語とプレイヤーの距離の話、こういった話で我々が常に無視し続けている問題がある。それは、「Oblivionをプレイしたプレイヤーの中には、”後に”Skyrimをプレイするプレイヤーもいれば、しないプレイヤーもいるし、”以前”Morrowindをプレイしたことがある人もいれば、したことのないプレイヤーもいるし、”先に”Skyrim”をプレイしてからOblivionをプレイし始めた人もいれば、そうではないプレイヤーもいる」という、かなり「えッそんなの考慮するわけないじゃん」問題である。そう、プレイヤーはゲームのシリーズをプレイする時、そのゲームがシリーズ最初にプレイしたゲームではない可能性があるのだ しか���、これまでにプレイしてきたシリーズの順番さえ、わからないのだ もしあなたがOblivionをプレイしたことがあって、Skyrimをこれからプレイしようとするとある若者であったとしよう、なぜ、Skyrimの主人公はOblivionの記憶を持っていないんだ?Skyrimの主人公はあなたなのに? という、どうしようもない問題が立ちはだかっていたのだ これはTESシリーズにおいても無視されている問題だ、プレイヤーの持つシリーズ世界の記憶。ようはどうしようもなさすぎるが故に誰も目を向けていない問題だったのだ
だが、「魔女」シリーズはそこに解答を出している…というメチャクチャ面白い話です おわり つかれた
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国破れて山河あり
『国破れて山河あり』
中国(当時は唐ですね)の詩人・杜甫の詠んだ詩の一節です。皆さんもどこかで耳にしたことがあるかと思います。"戦で国が崩壊しようとも、山や川などの自然は常に変わらずそこにある"という意味合いの言葉です。
私は羽生さんの新FS『天と地と』を観た際(というか観ながら)、理由はよく分かりませんがなぜかこの言葉がふと浮かび、そしていまのいままでずっとふよふよとこの一節に付き纏われ続けている次第なのです。というか正直に言うと、家族に「羽生くんの新プロって何?」と聞かれて「えっ、く、国破れて山河ありみたいなやつ」と答えてしまったくらいには憑かれてしまってました。ファンとしてこれはナイ。もっとちゃんと説明して。はてさてこれいかに。
これは羽生さんやスケートを観る・観ないに限らず、生まれつきの自分の性質だと思っているのですが、ひとつの事象を身に受けると、一見無関係っぽい言葉や別の事象が無意識の内から炙り出されるクセがあるようです。つまるところ思考のマジカルバナナです。そしてそれをやたらと突き詰めて考えてしまい、(更にそこに共通点や接点を見出しひとりで喜ぶ)その整理整頓のために筆記して思考を開示することに生き甲斐を感じる——
というわけで今回の記事はプログラムの要素やその技術についてはほぼ触れず(私はそこまでルールに明るくないのでそこは詳しい方がきっとわかりやすく解説してくれる!笑)プログラムや彼自身の姿勢から私が個人的に感じた印象や想起させられたものについて勝手に書きたいと思います。まぁ前までの記事もそんなんなんですがへへ…
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さてタイトルにもしていますが、冒頭に書いた杜甫の詩の一節に話を戻しましょう。この一節は「変わる人の世」と「変わらない自然」を比較、またそれを受けての思いを表現した言葉であるとされています。
今年、世界中で猛威を奮った(また現在進行形で奮っている)新型コロナウイルス感染症。これに対して羽生さんはインタビューで「震災(後)と重なる部分がある」という旨の話をされていました。
どちらも突然に我々の日常を非日常に変えた、あまりにも大きすぎる世界的な出来事。
しかしそんな中にあっても、人々は諦めず光を探そうとします。それどころか、悲しみの中にあっても知らずのうちに"美しいもの"を見出し、生きる活力とすることの出来る細やかな感性すら備えている。「震災の時に見た星空は本当に綺麗だった」と語った彼の言葉も、よくその性質を表しているなと時折感じ入ったりもします。
そして今回、全日本という大きな舞台で初披露された新FS『天と地と』。はじめ曲名だけ速報で見た際、「恒例のセルフ命名プロかな?」と思いました。SEIMEI以降ずっとそうだったからね。その後割とすぐに上杉謙信公の生涯を描いた大河ドラマのテーマ曲ということが判りました。ほぅ、オペラ座ぶりのそのまんまタイトル。実はここもちょっと気になるところがあったのですが今回は割愛します!笑
元曲を初めて聴いた時、もうめちゃくちゃ滾りました。だって琵琶ですよ琵琶。個人的に凄く好みの楽器です。なぜそんなに滾ったかは以下のツイートを是非ご覧頂きたい。
私は羽生さんの人ならざる雰囲気(勿論、ちゃんと人間であると認識している前提での印象の話ですよ!)やある種の超自然的な在り方に琵琶はめちゃくちゃ合うだろう、いや合わないはずがないと確信したのです。
そしてそれに続くツイートが以下。
そんな訳で(?)私は琵琶から飛躍して平家物語に行きつきました。おいおい勝手にマジカルバナナするんじゃあない。この曲は謙信公のドラマのテーマであって、琵琶を使っているからって別の物語を持ち出すんじゃあない。このツイートをした後、若干ちょっと恥ずかしくなったのを思い出します。
が、次の日!
驚きました。なんと羽生さんの編曲には『新・平家物語』のテーマも含まれていたことが複数のファンの方のツイートで判ったのです。
えっ、マジ…?マジで平家物語関係あった…。いや主題には掲げていないから恐らく直接の関係は(多分)ないのでしょうが私が滾るには十分すぎる事実でした。(なんやそれ)
平家物語と言えばとにかく冒頭が有名ですよね。中学の時、国語の授業でひたすら暗記させられたのをよく覚えています。特に私は漫画『銀魂』が好きだったのでスルスル入ってきました。オタク特有の偏ったスキル。
その冒頭の中でも"諸行無常"という言葉は大変印象的でした。「この世は常に移り変わり、同じ状態のもの・ことはひとつもない」という意味の言葉。
やること・成すことに意味を持たせるのに強い拘りのある彼のことなので、『平家物語』に対して意図や想いが全くないとはあまり思えない…のですが、彼がどこまで意図してプログラムを作り上げたかいまの時点では分かりかねるので勝手なことは言いますまい。
しかしいまの変わりゆく世の中の憂い…つまり無常感を『平家〜』で表現しながらも、謙信公の姿を自らに重ね、そんな中にあってもあくまでも高潔に戦う意志や決意を示していたのかな、と思わないではいられないのです。
「SEIMEIとは異なり、大河らしく人間の業のようなものも内包した演技だった」という旨のツイートも見かけましたが、私はこれにとても共感しました。
戦いを表している、という場面でもSEIMEIのような明確なヒロイックさはなく、どこか懊悩しているような、だけど凪いでもいるような…とにかく一言では表せない、いち人間が抱きうる感情すべてが滲んでいるような複雑性に満ちていたように思います。
彼は「物語ではなく自身を表現する」と語りました。複数の物語を編み上げて作られているプログラムゆえ、ひとつのストーリーとして���立できないからこその発言かと初めは思いましたが、改めて考えるとまず彼は出場そのものに対して葛藤していた訳で。そんな自身の心象世界をプログラム(またはその題材)に託し、なぞらえ表出させることで、いまのこの世の中での生き方(在り方)を宣言したというか…個人の感覚ですが、そんな印象を受けたのでした。
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話しているうちになんか主軸がズレたような気がしてならないですが許して下さい。感じたことを破綻なく綴るってめっちゃ難しくないです??か???
国破れて山河あり…似ている言葉でも、諸行無常よりこちらの言葉を使いたいのは、美しさを見出し讃える人々の気持ちが見えるからです。勿論国が破れるのはいけません。でも以前のままではなくなってしまったことは事実。
しかし何時であっても山河は大切にしたい。当たり前のようにそこにあると思っているものだって、整え、磨かれ、何より愛されていないと在り続けられない。当たり前のことはこの世にひとつもないといつも思っています。
彼の演技、ひいては存在そのものは紛れもなく山河であると思うのです。
そのヒトらしさを、勇気を、泥臭いリアルを何時も美しいと思えるようでありたいし、より輝いていて欲しいとも思います。そのためには自分も自分の人生をきっちり全うしないといけないなと、それこそが回復された未来を実現するための一番の寄与だよな、と改めて背筋が伸びましたね。いやはや、ありがてえ…ありがてえ…。
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今回はFSだけ、しかも要素や技術面ではなく印象の話に終始してしまいました。
まだまだ沢山思うことはあるのですが、とにかくいま一番出力しておきたいことを新鮮なうちに形にした次第です!笑
あまりここは更新がありませんが、今後もぼちぼちとガッツリした長文での筆記開示に利用しようと思います。ツイートには限界があるからね!
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます!今後もよろしくお願いします!
おまけ
平家物語の中に安倍晴明が絡む話があってあまりの"羽生力"に痺れたし吹き飛んだ
すごいね彼。
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Doc Martin(ドクターマーティン)1-4
マーティンが断り余ってしまったダンスパーティーのチケットを、ルイーザは駐在マークにあげてしまい、頭の痛い勘違いを引き起こす。一方マーティンは、ポートウェンから離れて住む森林保護官のもとへ出張診療するが。。。
気になる語彙・ノート
医療
- bacterial strain:細菌株
- nitrazepam:ニトラゼパム - ベンゾジアゼピンの一種で睡眠薬などとして処方される - 依存性が強く、長期服用の場合などは忌避される
- insomnia:不眠症
- benzodiazepine:ベンゾジアゼピン
- CPN:地域精神専門看護師 - イギリスの地域精神医療制度のもよう。自宅へ行ったり、GPの診療所へ出張して診療し、より高度な医局へreferしたりする - GPも含めて、イギリスの地域医療はナカナカ面白い仕組みの模様
- sprain:捻挫
- ligament:靭帯
- ascorbic acid:アスコルビン酸 - ビタミンCとして作用する
- de-alpha tocopherol:D-α-トコフェロール - ビタミンEとして作用する
- pyridoxine:ピリドキシン - ビタミンB6として作用する
一般
- mug:強請る、たかる - ほかにもマグカップ、バカ、変顔する、(知識を)詰め込むなど幅広い意味がある - The drug is a mug’s game:ヤクなんてのは愚か者のやることさ
- auspicious:素晴らしい、吉兆の、成功を見込む
- nab:取り押さえる、捕まえる、とっ捕まえる - We’ve got to gather 4 people to play Mahjong and still one to go. Why don’t we nab the guy over there? Hey Stewart, come over!:麻雀するには4人必要だが、あと一人たりない。あそこのヤツをとっつかまえるとするか。おいスチュワート、こっちこいよ!
- pass up:(良い機会を)のがす
- appal:ぞっとさせる、嫌悪感をもよおさせる
- blimey:冗談じゃない、おいおい、まじか - イギリスではよくつかわれる表現 - ハリーポッターの親友ロンが連発する傾向にあり、邦訳で「おったまげー」などと訳されているのは”blimey”
- blackbird:クロウタドリ
- blackcap:スグロムシクイ
- bluetit:アオガラ
- brambling:アトリ属の一種
- bullfinch:ウソ
- chaffinch:ズアオアトリ
- thistle:アザミ
- groundsel:キオン属の総称、主にノボロギク
- whinger:泣き言野郎、不平屋
- perky:はつらつな、活発な、生意気な
- the showers:勃起時と通常時で男性器の大きさが変わらないこと - the growersが対義語 - 劇中では、この「シャワーズ」のことなのか、シャワーで見る限りではということなのか少し判別つかない。面白いから「シャワーズ」の意味でとっている笑
- arm and a leg:(コストが)莫大な
- afar:遠く - from afarなどとするが、少し古風な用法
- jamboree:お祭り騒ぎ、パーティー、ボーイスカウトのキャンプ大会
- bloke:lad、chapに同じ - この手の言葉のニュアンスの違いをだれか教えてほしい。。。おそらく地域や年代によって差異があるのだろうが
- lynch:私刑、リンチ - 古典的な”lynch”は”get tar and feathers”。。。タールと羽を体中にくっつけて市中引き回しというマジで意味不明な儀式 - 宗教もしくはケルトの伝統か?
- neurotic:神経質な、神経症の
- audacity:豪胆さ、厚顔さ、ずうずうしさ
- conceive:妊娠する、はらませる - 劇中の表現にならえば、こうなるか - Christmas Eve. It’s the night most of Japanese children are conceived. - 言い過ぎは承知笑
- fussy:小うるさい、こだわり屋
- delusion:妄想、錯覚、間違った信念
- every now and then:しばしば、時折、折に触れて
- over the top:やりすぎる、いきすぎる - You’d better apologize to her for the last night drink. You’ve gone over the top.:昨日飲んだ時のこと、彼女に誤っておいたほうがいい。あれはやりすぎ。
- gang up on:寄ってたかって攻撃する、徒党を組む
ストーリー・感想(※ネタばれ注意)
第3話のラストで一緒にパブに出かけるなど、少し距離が近くなったルイーザとマーティン。バートからダンスパーティーのチケットを二枚買ったルイーザは、マーティンを誘う。本話もルイーザが積極的に動くものの、マーティンのような人間に「パーティー」なんて持ち出すのは論外だろう。案の定、断られてしまう。 やむを得ずパーティーに参加することがあっても壁に寄りかかって静かに時間をやり過ごし、頃合いを見て早退するのが 、私も含めたこういう手合いの生態だ笑
行き場を失ったチケットは、たまたま通りがかった駐在マークの手に入る。これが要らぬ誤解を生んでしまう。 マークはアホとまで言わないが、そこら辺にいる「ちょっと挙動が人とズレた」感じの人だ。例にもれず異性関係も得意でない。そんな人だから、実は恋焦がれていたルイーザからパーティーのチケットをもらったとき、即座に「デートに誘われた」と解釈してしまったのだった。 まあ世の大半の男性であれば、少しソワソワしてしまうシチュエーションだし、私もするだろう笑 そして同じような文脈で本当にデートのパターンだって少なくないだろうことを思えば、ルイーザの言動も軽率だったはずだ。女性の意見を聞きたい笑
さて、彼のウキウキもつかの間である。マークは以前付き合った女性に”too gentle”と言われてフラれたことを曲解?してか、アレの大きさが不安でしょうがない。不安のあまり、ネットで見つけたサプリを常用しているほど。 ルイーザの「誘い」をきっかけに、彼は診療所を訪ねる。ここのやり取りがナカナカ秀逸だ。
Netflixの邦訳はかなり飛ばしたり暈したりしているので、拙訳を下記に。
Doc「つまり、あー、君はアレの大きさに問題があると?」 PC「わからない。”The showers”であることも一つだけど、わからない」 Doc「専門医を紹介しよう」 PC 「いや、普通のサイズを知りたいだけなんだ」 Doc「普通にも範囲があって……」 PC 「そうじゃなくて、僕も測ったわけじゃないけど……そう、6インチ、6インチは普通だと思うか?」 Doc 「6インチなら普通だろう、うん、うん……よし、問題は解決だな」 PC「そうか……」
一度席をたつが、振り返るマーク
PC 「……つまり、5インチあたりは少し……」 Doc 「そうとも限らないさ」 PC 「さらに言えば、5インチよりも小さいのは良くない…と?」 Doc 「いや、あー、問い合わせてみないことには」 PC 「7-8インチであれば、と、と、問い合わせる必要すらないだろう?」
ちなみに、イギリスの公的保険機関である”National Health Service”は男性器のサイズについて大学との共同研究結果を公表している。 こちらの大本の研究やKCLの研究によれば、通常時は約9.2cm、勃起時は約13.1cmつまり5.1-2インチ程度ということらしい。らしいぞ、男性諸君。 そしてこの話題が男にとって如何に興味惹かれるテーマかは、マークの言動や、私がどれだけ字数を割いているかからもお察しいただけよう笑 くれぐれも言動には注意し給へ、女性諸君。
閑話休題、ここからは2つ目のサブストーリーも展開されていく。 エレインが現れ、町はずれに住むレンジャー(森林保護官)の電話が繋がらないから出張診療が必要であるという。 マークがルイーザからデートに誘われたとその直前に聞いたマーティンは明らかに動揺しており、レンジャーについての大事な情報を聞き逃す。
レンジャーのスチュアートを訪れるマーティン。Portwenn住民の悪口で意気投合するが、依存性の強い向精神薬を寄こせといい、さらにその薬はスチュアート本人ではなく友人アンソニーのためのものだという。
Ranger「アンソニーは今とても心細いんだ。ハイイロどもがそこら中にいやがるし」 Doc「ハイイロ?」 Ranger「ああ、やつらは何処にでも出てくる。しかもかなり攻撃的だ。お陰でアカはほとんど残っていない……おいおい、アカがいつもおびえて暮らしてるのはみんな知って…」
いきなり散弾銃をかますスチュアート
Ranger「見たか?あのクソいまいましいやつめ!ただ違う色だとか、触り心地がよさそうだとか言う輩もいるが、奴らはリス版のナチスだ!」 Doc「あー……君の友人アンソニーはリスなのか?」 Ranger「そうさ、この国には昔300万ものアカがいたものさ。いいか、300万だ。アンソニーはただのリスなんかじゃない。生残者だ」
いきなり妄想に向かって散弾銃をぶっぱなすイカレ野郎であった。さらに言えば、このアンソニーは人間大の赤毛のリスだという。怖いわ! スチュアートが引き留める中、マーティンはなんとかPortwennに帰り着く。彼をしかるべき保護監視下におくため、ダンスパーティー会場にいる駐在マークを探しにいく。
折しもダンスパーティーはピークだった。ルイーザはなんとか誤解を解こうと話をもちかけるが、マークはお気に入りのナンバーにノリノリで、とても話ができる状態ではない。音響もうるさいからと彼の耳元へ口を寄せた瞬間、間の悪いことにマーティンが到着し、二人の目が合う。ルイーザは言葉を失い、マーティンはそのまま会場を後にする。
会場を出ると、外は外で人だかりがある。スチュアートが激情して、他人の家で鳥の餌やりなどを壊して回っていたのだ。 翌朝、マーティンはマークとともにスチュアートを再訪し、薬を手渡す。前任者がニトラゼパムと偽って処方していたのがただのビタミン錠だと知り、しばらくはマーティンも同じやり方で様子見することにしたらしい。
帰りの車内で、ルイーザとの関係が進展しなかったこと、「これが運命の人」だと思えなかったことをマークから聞くマーティン。それで表情を緩めてしまうマーティンが可愛い。マーティンは逆に、マークが購入した「増大化サプリ」の真の姿はマルチビタミン錠、つまりプラシーボであることを明かす。もちろん動転するマークだが、ルイーザの件で振り回されたマーティンとしては多少胸のすく想いだろう笑
ちなみに本話には、小さいが大事な3つめのサブストーリーがある。小学生ピーターは学業的には極めて優秀。しかし社交性がなく、思ったことをずけずけと言い放ち、むだな教育には関心を示さない、教師としては扱いづらい生徒だろう。さながらミニマーティンだ。 ピーターは、本話の途中、スチュアートが破壊した鳥の餌場を持っているところを発見され、状況証拠から犯人に仕立てあげられてしまっていた。パーティーの夜の騒ぎで真犯人が判明すると、ルイーザからは「勘違いで咎められて、なぜ弁明しないのか」と問われ肩をすくめる。
これは盛大なブーメランではないか。ルイーザにあっても、誤解を与えたと思ったなら、マークやマーティンにすぐ説明すればよかったのだ。大人が子供を詰問するとき、冷静に考えるとブーメラン発言ということは少なくない。本話の視聴者に向けたメタ的メッセージと捉えるのがよさそうだ。
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決定版!ヤブニラミ文体のすべて、でヤンス
さて、いよいよTumblrでの更新もあとわずかになったわけで、今回からTumblrでの更新終了までの間は800文字以内という制限を取っ払っていこうと。 その中でも今回のはかなり長めになってるので覚悟の上で、どうぞ。 今回の主題である「文体」の話って、とっくにやってそうで実はやってなかった。 いやチラチラとは書いてたんだけど、完全に文体だけに絞ったエントリは17年間で一度も書いたことがありませんでした。 何故今回、それをやろうと思ったかというと、noteを始めるにあたってね、本気でいろいろ文体について考えてみた結果、やっと答えらしきものが見つかったのでね、ああ、だからアタシはこういう感じの文体で長年���文を書いてきたんだってのに気づいたっつーか。 何から片付けたらいいのかわかりませんが、とりあえず一人称の話から始めます。 2003年、アタシは待望のマイサイトを始めるにあたって、まず悩んだのが「一人称をどうするか」でした。 <オレ>ではエラソーだし<ぼく>ではいい子ちゃんすぎる。かと言って<妾は>とか<余は>、はたまた<小生>じゃあ狙いすぎでイタい。<オイラ>だとビートたけしとかひろゆきになっちゃうし。 かと言って<私>では如何にも硬いので、ちょっとひねってね、最初の時点で有力候補だったのが<私>のカタカナ表記、つまり<ワタシ>だったんです。 ただどうも、文字で書くとオカマっぽいニュアンスが出てしまう。それこそ金本知憲が監督時代の発言「○○だわね」と一緒でね、<音>で聴いてたら別にオカマっぽさなんか皆無なのに、文字にすると女性言葉っぽくなってしまうんです。 そこで<アタシ>ってのが急浮上してきた。 たしかに<アタシ>も、どちらかというと女性的な一人称なのですが、江戸落語の噺家さんなんかは一人称として<アタシ>を使ったりするし、つかちょっと東京っぽい感じになるんですよ。 ああ、これは、アリかもしれないな、と。 ここでち��っと話がズレます。 自分の書いた文章について、ちょっとへりくだる場合<駄文>とか<拙文>なんて言ったりしますが、ま、アタシもそのように書いてきたんだけど、本心は違うんです。 と言っても「名文」と思ってるってことじゃなくて、何というか、これは文章というよりも「独り言の文字起こし」だなぁと。 だから駄文や拙文というよりは<駄弁>や<拙弁>といった方がしっくりくるんです。 そもそもアタシはものすごく独り言が多い。部屋でひとりでいる時とかずっとブツクサ独り言を言ってるレベルでして、ブツクサなんて書くと文句ばっかりってイメージになっちゃうけど、くだらないことだったり、鼻唄だったりね、とにかくすべての感情を口にしないと気持ち悪いんです。 むしろ文句とか罵声、あと愚痴のようなね、いわゆるネガティブ方面の独り言はほとんどない。野球を見てる時でさえ、んで我が贔屓である阪神の監督(今なら矢野)の采配を疑問に思った時でさえ、せいぜい「それは止めた方がいいんじゃないかなぁ・・・」レベルのことしか言わないんです。 その代わり、屁理屈みたいなことは良く考えているので、あれは、つまり、こうじゃないかな、みたいなね、ひとり合点の独り言は、それこそ小学生の時からやっていたのです。 今までアタシは「yabuniramiJAPANを始めるにあたって、泉麻人のコラムや色川武大のエッセイを念頭に置いていた」と書いてきました。 もちろんこれは嘘じゃない。ただね、それはもう、文章として完成させる最終段階での話で、もし、自分がウェブ上に何か書くのなら、もう「独り言の文字起こし」しかないと思っていたんです。 一応、不特定多数の人に読んでもらうことになるんだから、横柄ではない「言葉遣い」をしなければ、というのがあったし、だからといって妙にバカ丁寧っつーかへりくだるみたいになるのもダメだと思ったんで、半丁寧語、とでも言えばいいのか、とにかく基本は「ですます調」なんだけど、全部のセンテンツがそうではなく、話が佳境に入ったりしたら「ですます」を後退させる、というふうにした。 いやこれは、イメージとしては完全に落語なのです。 噺だってマクラやト書きのような<地>の箇所は半丁寧語で喋るし、つかマクラを付けたがるのも落語の発想。サゲ、とまではいかないにしろ、最後に段落を変えて短くまとめるのも落語の構成に近い。 「独り言の文字起こし」というスタイルを突き詰めるほどに「落語の文字起こし」に接近していった。もちろん独り言と落語はまったく違うんだけど、結局「ひとりで話を語り始め、ひとりで話を進め、ひとりで話を語り終わる」究極の形が落語だったってことです。 だったら一人称も、落語っぽい、というか噺家っぽい<アタシ>が最適なのではないか、と。 余談だけど、このスタイルをさらに落語に近づけたのが一人二役で独り言を言う「さかい親子の大阪噺」です。 yabuniramiJAPANを始めてもう17年になるけど、あれって落語の影響が濃厚ですよね、と看破されたことは一度もない。 別に落語(噺家を含む)そのものの話はほとんど書いてないし、普段は戦前モダニズムがドータラとかが多いので、いわば時代劇の世界とも言える落語とアタシが結びつかないんでしょう。 それでも鋭い人から、アンタが書いてるアレはコラムでも分析サイトでもない。というかアレは<文章>ではなく<独り喋り>だ、という指摘ならされたことはあります。 まったくその通りでして、ま、独り言って言うから逆にややこしいんだけど、もっとわかりやすく言うなら、インターネットという媒体を 使った、んで本当に喋るわけではなく文字起こしした一種の「スタンダップコミック」なんです。 ま、スタンダップコミックって言い切っちゃうと「笑わせるのに特化した」っぽくなってしまうんでアレだけど、随所にジョークめいたことを挟み込みたがるのは、落語にしろスタンダップコミックにしろ「笑いの芸能」がベースになってるからなんです。 ここまで書けば、アタシが「改行がやたらに多い」もしくは「一行飛ばし」が嫌いなのを、察してもらえるかもしれません。 かなりそもそもの話ですが、「改行がやたらに多い」「一行飛ばし」の方が「ことウェブ上(というかブラウザ上)では読みやすい」という説は嘘だと思っています。 これね、アタシは「RG現象」と読んでいる。って何のことだかわからないと思いますが、この手の改行多用文体って、結果的に「意味もなく引っ張ってる」ことになると思うんです。 これがね、スマホであれPCであれ、1画面で全文が見渡せる程度の長さであれば、まァ、改行多用でもかまわないと思う。 だけれども、それ以上の長さの場合、スクロールさせなきゃいけないわけです。つまり全部が見えない状態で読み進めなければいけない。 無駄にスクロールさせると、無駄に期待値を上げてしまう。 これはつまりRG風に言えば あるある いいたい あるあるが いいたい yabuniramiJAPANのあるあるを いいたいよ~ yabuniramiJAPANのあるあるは たとえば いろいろあるけど それがいいたいんだよ~ じゃあいうよ yabuniramiJAPANの~ あるあるを~ これからいうよ~ yabuniramiJAPANのあるある 「たとえ話がたとえになってない」 まァね、RGがあるあるネタをやる時は必ずガヤから「早よ言えや!」ってツッコミが入るし、今では「なかなか言わない」ってのが浸透してきてるので本気でイラつく人はいないはずです。 それでもやっぱり、ツッコミなしのあるあるネタは難しすぎるんですよ。 この、無駄に引っ張った感をウェブ上で再現すると、つまりは「改行多用」になるのではないかと。 もう一度言います。yabuniramiJAPANのベースは独り言です。 んで、それを文章として起こすために「もっとも練り上げられてきた独り喋り」である落語をベースに文体を組み上げた。 落語がベースであるからには何より重要なのは「間」です。「間」はリズムと言い��えてもかまいませんが、つまり、極端に言えば内容よりも「間=リズム」が出来不出来を支配すると言ってもいい。 改行多用は良く言えば「リズムが等間隔」、悪く言えば「リズムのコントロールがほぼ無理」ってことに他ならない。しかもウェブ上の場合は引っ張っれば引っ張るほどスクロールを強要することになるし、スクロールさせればさせるほど無意味な期待値を上げてしまう。 さっきの例として書いた「あるあるネタ」もね、ほとんどの人には散々引っ張っておいて、何だそのオチは、としかならないと思うんです。 フィクションであろうが実録(って書いちゃうと任侠モノみたいだけど、ノンフィクションというかドキュメンタリーというか「事実を元に」書かれたもの)であろうが、文章というものは「語り始められた時点で、語り終わることが前提」なのです。当然読者は「文末には語り終えられている」ことを前提に読み進める。 別にたいしたオチじゃなくてもいいんです。とにかく筆者に「語り終えようという意思」がある、と感じることが出来れば読者は満足な読後感を得られる。 ところが改行多用文体は「語り終えようという意思」が極端に見えづらい。となると改行多用に本当に向くのは書籍だろうがウェブ上であろうがマジでポエムくらいなんです。 さっき、どんな文章でも語り終えることが前提と書いたけど、ポエムは例外で、徹底的にムード重視、筆者がどこで書き終わっても、読者がどこで読み終わっても成立する。 アタシ的に言えば「日記に近いようなものをポエムふうの文体にする」なんて自殺行為なんですよ。 もうひとつ、改行が少ないとウェブ上(つまりブラウザ上)では文章が「ひとかたまり」に見えて読みづらい、という意見もあきらかにおかしい。 じゃあ、書
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劇評など critic
作品をめぐるこれまでのテキスト ※敬称略 ※所属や肩書きは執筆当時のもの
カトリヒデトシ(2010) 平山富康(2010) 亀田恵子(2010) Marianne Bevand(2011) 間瀬幸江(2011) 唐津絵理(2011) 金山古都美(2012) 島貴之(2012)
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カトリヒデトシ(エム・マッティーナ 主宰 舞台芸術批評)
「なぜ日本人がチェホフをやるのか?」と問うのは、かなりダサい。
今までの蓄積に付け加える、新しい文脈・意味を発見し提示するのだという優等生的な答えは間違っていると思っている。それでは、ヨーロッパ文化をきちんと学んだという模範解答になり、単なるレポートになってしまうだろう。
古典を何度でも取り上げることは、芸術の目指す「絶対的有」への敬虔な奉仕である。「有りて在るもの」への畏怖の気持ちは洋の東西といったものは関係ない。芸術へひざまづき、頭をたれ���ことは、芸術家の基本的な資質であるし、それこそが歴史や文化的差異を超えようとする意思の現れにつながっていく。現代から古典を読み直し、古典から現在を照らすことにこそ、古典に取り組む大きな意味がある。
また、孔子は論語で「子は怪力乱神を語らず」といった。これは軽々しくそれについて語ってはならないと理解するべきで、超常現象にインテリは関わらないということではない。芸術は人間を超えた存在、「不可知な存在」を認知することが第一歩であろうから。
第七の演劇には、不可知が全体を包みこもうとする力。またそれに触れた人間の、根源的な「生」への畏怖がよく現れている。
それらの二点で第七劇場は大切な存在だとおもっている。 たとえば、今回の「かもめ」はチェホフの本質に迫ろうとする試みである。
ダメな人間がダメなことしかしないで、どんどんダメになっていってしまうのがチェホフ世界の典型である。そこには没落していく帝政時代の裕福な階級を描き続けた、彼の本質が現れている。
それはチェホフには、たれもが時代に「とり残されていく」、乗り遅れていく存在であるという認識があるからである。つまり、「いつも間に合わないこと」こそが人の本質なのだという考えである。
取り残されていくことは悲しい。何も変わらなければ既得権を維持できるものを、時代の変化によって、何もかもが「今まで通り」ではいかなくなる。チェホフはそれを、「われわれは絶えず間に合わず、遅れていく存在なのだ」と確信にみちて描く。苦い認識である。
人間はいつでも誰でも、既にできあがった世界の中に生み落とされる。誰もがすべてのものが現前している中にやってくる。個々人は、養育や教育によって適応をうながされるだけである。人は限りない可塑性をもって生まれるが、時代や地域や環境によって、むしろ何にでも成り得たはずの可能性をどんどん削ぎ落とされていく。
現在ではすたれてしまったが、日本には古代から連綿と続いた信仰に「御霊」というものがある。人は死んだ際に、現世に怨みを残して死ぬと、祟るものだという信仰である。「御霊」は、残った人たちに、天災を起こしたり、疫病を流行らせたりする。やがて人々は天災疫病が起こった時に、誰の「祟り」であろうと考えるようになる。それを畏れるために死んだものの魂が荒ぶらないように崇め拝めるようになっていく。人々に拝まれ、畏怖されるうちに、荒ぶった魂は落ち着いていき、「神」として今度は人々を護る存在へと変わっていく。だから「御霊」はおそろしいものであるだけではない。
「荒ぶる魂」を、第七は「かもめ」の登場人物たちの「遅れ」「取り残されていく」姿の絶望の結果に見る。舞台はその絶望からの荒ぶりに共振し、増幅し、畏怖を現す。
チェホフの持っていた、人に対する「諦観」を���きな包容力で抱え込んこんだ上に、零落していくことへの激しい動揺を、魂の「荒ぶり」として表現する。それは現在の私たちでは到底もち得ない、激しい「生」の身悶えである。
その方法として舞台に遠近法が援用される。 奥行き作り出すことによって、「位相=層=レイヤー」が作りだされる。 後景の美しいオブジェは遥かに遠い「自然」の層で、あたかも人の世を見つめ続ける「永遠」や「普遍」を感じさせる。そして中景は「六号室」のドールンのいる老練の世界、経験に基づいて生きる老人の世界である。患者たちは遊戯する体を持ち、永遠の世界を希求する。その三層を背負って、最前景で「かもめ」の世界が現れる。かれらは都会と田舎、人と人の現世の距離によって引き裂かれていき、苦しみ世界を生きるものとして描かれるのだ。
そう、日本人「にも」チェホフが描けるのではない。 日本人「にしか」描けないチェホフがあるのである。
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平山富康(財団法人 名古屋市文化振興事業団 名古屋市千種文化小劇場 館長)
遡って2010年2月、名古屋市の千種文化小劇場で企画実施した演劇事業『千種セレクション』(同劇場の特徴的な“円形舞台”を充分に活用できそうな演出家・団体を集めた演劇祭)で、第七劇場の『かもめ』は上演されました。企画の立ち上がった頃には、第七劇場は『新装 四谷怪談』の名古屋公演を既に果たしていて、その空間演出力が注目されていた事から企画の趣旨に最適でした。参加団体は4つ、持ち時間は各60分。それぞれ会話劇・現代劇の再構成・半私小説的創作劇とラインナップが決まる中、第七劇場のプレゼンは“チェーホフの『かもめ』を始めとする幾つかの作品”との事…たったの60分で。一体、どんな手法で時間と空間の制約に収めるつもりなのか。当惑をよそに第七劇場が舞台に作ったのは、さしずめ「白い画布」でした。舞台は一面、真っ白なリノリウムが敷かれ、無骨な机や椅子との対照が、銅版画のように鋭利な空間を立ち上げていました。舞台と同じく白い衣装をまとった俳優(彼女らは『六号室』の患者たち)は静謐な余白のようです。が、幕が開いて、彼女らが見せる不安な彷徨と激した叫びが「鋭利な銅版画」の印象をより強めていきます。この画布が変化を見せるのは、チェーホフの他作品の人物たちが続々と舞台に位置を占めていく時でした。彼らは暗い色の衣装をまとって、これまでの描線とは異なる雰囲気です。こうして、既にある版画の上から幾人もの画家が新たな絵画を描くように芝居は進みました。幾つもの物語の人物が、互いの世界を触れあわせていく現場。彼らが発する言葉と声、静と動が入り混じる身体の動きは、新たな画材でした。時に水墨画、木炭、無機質なフェルトペン。余白を塗り込めたと思えば余白にはねのけられる「常に固定されない描画」のようにスリリングな作劇が、観客の前でリアルタイムに展開されたのです。終演後のアンケートでは“視覚的に美しい贅沢な構成” “話を追いそこねても目が離せなかった” “世界がつくられていく感覚” “難しい様で実はわかりやすい”と、中には観劇の枠に留まらない感想も多々あり、第七劇場が『千種セレクション』で残したのは、限られた空間で無限に絵画を描く様な演劇の可能性だった…というのが当時の記憶です。名古屋市の小劇場で室内実験のように生まれたその作品が、再び三重県で展開され、これから皆さまはどのように記憶されるか。非常に楽しみです。
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亀田恵子(Arts&Theatre Literacy)
第七劇場の『かもめ』を見終わったあと、どうしようもなく胸高鳴る自分がいた。新しい表現の領域を見つけてしまったという心密かな喜びと、その現場に居合わせることの出来た幸運に震えた。彼らの『かもめ』は演劇作品に違いなかったが、別の何かだとも感じた。「ライブ・インスタレーション」という言葉がピタリと腹に落ちた。「インスタレーション」とは、主に現代美術の領域で用いられる言葉で、作家の意図によって空間を構成・変化させながら場所や空間全体を作品として観客に体験させる方法だ。元々パフォーミング・アーツの演出方法を巡る試行錯誤の中から独立した経緯があるというから、演劇との親和性は高いのだろう。しかし、すべての演劇作品が「インスタレーション」を感じさえるかといえばそうではない。
舞台を四方から客席が取り囲む独自な構造を持つ千種文化小劇場・通称“ちくさ座”(名古屋市)。この舞台に置かれていたのは白い天板の長テーブルが1つに、黒いイスが数客。天井からは白いブランコが1つと、羽を広げた“かもめ”のオブジェが吊られており、床は八角形状に白いパネルが敷き詰められていた。役者たちの衣装もモノトーンやベージュといった大人っぽい配色でまとめられ、全体としてスタイリッシュな印象だ。舞台セットの影響なのか、作品中のセリフでは、チェーホフの『六号室』や『ともしび』といった他の作品の一部も引用され、人間の生々しい欲望や絶望を色濃く孕むセリフが続くが、不思議と重苦しさに傾くことがない。むしろチェーホフの描く狂気や人生における悲しいズレが、役者の身体と現実の時間を手に入れ、終末に向かって疾走する快感へと変容していく。役者たちの独自の強い身体性が、無機質な空間の中で描く軌跡は、従来の演劇の魅力だけでは説明が難しい絶妙なバランスを生み出しているのだ。
第七劇場の『かもめ』は、演劇の枠だけで完結しなければ「インスタレーション」作品として押し黙っている存在でもない。戯曲に閉じ込められた時間を劇場という空間に新たにインストールし、生きた役者の身体によって再生する。それは観客との間に「今、この瞬間」を共有する「ライブ・インスタレーション」として新たな領域を創造する行為に他ならない。
「インスタレーション」は、観客の体験(見たり、聞いたり、感じたり、考えたり)する方法をどう変化させるかが肝らしい。この作品は優れた演劇作品であると同時に「インスタレーションの肝」そのものではないかと思うのである。
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Marianne Bevand(フランス・舞台芸術プロデューサー)
2011年3月、パリで第七劇場の『かもめ』を観たとき、このよく知られたチェーホフの戯曲において何が問題となっているかを、はじめてよく理解できた機会だった。『かもめ』は昨年にあまり成功していないと感じるいくつかの演出版しか観ていなかったが、私の心を奪ったこのロシア演劇の日本人演出を私はたまたま観る機会を得た。
私は演出・鳴海康平の力量に感動した。深く人間性を表現できる俳優への的確な演出があり、とても美しいシーンを舞台上に構成していた。このすばらしいパフォーマンスの中で、私はある種の普遍性を感じた。私の演劇に関する感覚的な願いが実現するためには、この日本の第七劇場を待たなければならなかった。チェーホフ戯曲の人物を演じながら、偉大なる悲劇だけに可能な想像空間のひとつへと、私を連れ去ることに俳優たちは成功していた。この芝居の最初から私は現実の世界から引き離され、登場人物が衝動や欲求や悲しみによってつき動かされることに目を見張った。それは『かもめ』の中心となる感情である。
素晴らしい身体的なパフォーマンスを通して、俳優たちはコンテンポラリーダンスを想起させる一連のムーヴメントを創り、ときに印象的な間の中で静止する。手をあげる彼女たちは、まるで空を飛びその状況から逃げ出したしたいかのようである。しかし、閉じこめられているかのように最終的には彼女たちは地上に留まる。自由への抵抗の中で、もしくは自由が欠けた結果として、白い服を着た3人の女性の登場人物(訳者注:患者2人とニーナの3人)は、狂気の中へ落ちていくように見える。彼女たちは動きが速く、それは視覚的には、黒い服を着た他の人物たちの緩慢な動きと対照的である。舞台の中央から端へとぐるぐると回る彼女たちを見て、彼女たちは自分たちが生きている規定された世界を象徴するある種の領域を爆破したいかのようなイメージが私の心に浮かんだ。黒い服を着た人物たちは、外部の者に自分の居場所を思い出させる支配社会の象徴を思わせる。
このことは私に、チェーホフがこの作品でいかにアーティストが社会の外側に位置し、つらい時代を生きていたかを明らかにすることで当時のアーティスト状況の描写を試みたことを思い出させる。かもめにおいて、3人の女性の人物たちは、ある異なる精神状態の中で、そして目まぐるしい時空の中で彼らがいかに必死に生きるか、また彼女たちがいつもいかに社会の爪に捕えられているかを現している。
この芝居の終わりに私は自問した。「もしあなたが他の誰かとは異なるふるまいをするなら、あなたは気が狂っているとみなされるのだろうか?」いずれにせよ、第七劇場のパフォーマンスが国��を越えて、いくつかの問いを私に起こしたことは確かである。
この美しく芸術的な作品とともに第七劇場が受けるにふさわしい大きな成功を果たすことを、そしてあらゆる世界を横断し、さらに多くの観客の目と心を開くことを、私は願っている。
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間瀬幸江(早稲田大学 文学学術院 助教)
チェーホフは世界を面や立体としてとらえていた。人物という点や、人間関係という線は、それじたい基幹的ではあるにせよ、作品世界全体の構成要素のひとつでしかない。作品世界のこの広がりから何を「切り出す」のかが、舞台づくりの鍵を握る。
今回、第七劇場の「かもめ」(シアタートラム、9月8日~11日 構成・演出・美術:鳴海康平)で中心的主題として切り出されたのは、トレープレフがニーナに演じさせる劇中劇「人も、動物も…」の部分である。母親のアルカージナに「デカダン」と嘲笑され、当の演者であるニーナにも「よく分からない��と距離を置かれてしまうこの一人芝居の内容は、人間がいかに「やさしく」接しようともいずれ寿命を迎えて消滅することが決まっている地球という惑星の命の時間から考えれば、まったき現実である。その「現実」が、舞台奥中央の老木のオブジェによって密やかに具象される。活人画を思わせるこのオブジェは、開場とともに舞台に姿を見せる、ニーナを思わせる4人の女たちの狂気を孕む無造作な動きはもちろんのこと、見やすい席の確保を願うささやかな「姑息さ」を抱えつつ舞台上の彼女たちを横目で眺める観客たちの動きも、暗がりから見つめ続けている。そして本編が始まり、いつからかそこに照明があてられ、雪のようなものがしんしんと降りだすころ、前景では「かもめ」のいくつかのシークエンスが狂乱的リズムで反復運動を始める。母親にも恋人にも振り向いてもらえずに絶望する青年の物語にせよ、成功という幻想にからめとられたまま一歩も進めない女の物語にせよ、息子を愛しながらその愛を届けることに不器用な母親の物語にせよ、ツルゲーネフには勝てないと感じる自意識の牢獄から逃れることのできない小説家の物語にせよ、個別の物語が抱え込む不毛な反復のエネルギーから発せられる絶叫は、しんしんと降り積もる雪の世界に消えていくしかない。トレープレフは、チェーホフの作った物語のとおり、最後にはピストルの引き金を引く。発射音は聞こえない。しかしそれは、弾丸が発せられなかったからではない。観客は、朽木に降り積もる雪の世界から、トレープレフの自殺や、ニーナの破滅を眺めている。人も動物もヒトデも消えうせた孤独な世界に、ピストル音が届くのは、何万光年も先なのだ。
2011年の日本で、「終わり」というブラックホールを概念としてではなく実体としてほんの一瞬でも覗き見てしまった私たちにとって、朽木の住まう冷えきった世界は、もはや象徴主義の産物ではなくなってしまった。しかし、この終末感を100年前にこの世を去ったチェーホフがすでに言いきっていたことにこそ、私たちはかすかな希望をみるのである。「三人姉妹」を演出したマチアス・ランゴフは、「私たちはチェーホフのずっと後ろを歩いているのです」と言った。それから20年が経過した今なお、チェーホフは私たちの少し前を歩いていて、たまにふと振り返りいささか悲しげに微笑んでみせるのである。鳴海康平は、劇中劇を「切り出す」ことで、無数の点と線とが錯綜して作られる立体的な時空間の表出に成功した。その数多の点や線を大事に拾い出しながらもう一度観てみたかったとの感慨を抱きつつ、9月11日のシアタートラムを後にした。演技者たちの凛とした佇まいも素晴らしかった。
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唐津絵理(愛知芸術文化センター シニアディレクター)
私たちの深層心理に迫りくる懐かしさの気配、演劇を超えて広がる舞台芸術への希求、それが第七劇場『かもめ』初見の印象だった。
白のリノリウムが敷かれ、白紗幕が下がった劇場は、ブラックボックスでありながらも、ホワイトキューブ的展示室をも想像させる洗練された空間。そこにあるのは、白い長テーブルと幾つかの黒い椅子、天井から吊られた真っ白のブランコやかもめのオブジェ、そして座ったり蹲ったりしている俳優たちの身体だ。白い空間にじっと佇む身体は、彫刻作品のようでもある。上演中も俳優たちは役柄を演じるというより、配役のないコロス的身体性を表出させている。身体の匿名性は、観客自身が自らの身体の記憶と結び付けるための回路を作り出す。それは抽象度の高いダンスパフォーマンスと通ずる身体。前半は僅かに歩いたり、ゆすったりしていた身体が、後半になるにつれて、走ったり、体を払ったり、震わせたりと、より激しく痙攣的になっていく。演劇的マイム性とは一線を画したこれらの身振りが、絶望的に重苦しく表現主義的になりがちなロシアの物語を今日の日本に切り開いていると言ってもよいかもしれない。
怒涛のラストシーンまで、作品全編を演出家・鳴海の真摯さが貫いていく。しんしんと静かに降り積もる雪のように、一見穏やかに見える身体の佇まいの内には、静かな情熱の灯がいつまでも熱く燃え続けている。それがこの作品の確かな強度となっているのだと思う。
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金山古都美(金沢市民芸術村ドラマ工房ディレクター)
2010年2月千種文化小劇場、12月三重県文化会館で第七劇場の「かもめ」を観劇。時の交錯を感じた千種、閉塞と決壊を感じた三重。どちらについてもその『観後感』は、まったく違っていて。鳴海氏の構築する世界は、その“場所”で変化し、その“人”で変化するようです。“人”とは、役者はもとより、スタッフ、劇場の人々、そして当日来られる観客、すべての“人”を包んでいます。実際観に行った私自身の変化も少なからず影響しあいながら「劇場」という空間が形成されていくのでは。そしてそれは建物の中だろうが、外だろうが、1人だろうが1万人だろうが変わらないのでは・・・違うな。変わらないのではなく、変わることも含めての「作品」なのです。白い床も、テーブルも椅子も、ブランコも「かもめ」のオブジェも、何一つ変わっていないようなのに・・・。そんな演劇のもつ『その場でしか出会えない幸せ』に皆さんで会いに行きましょう。
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島貴之(aji 演出家)
金沢21世紀美術館にあるジェームズ・タレル作「ブルー・プラネット・スカイ」という作品を見た事がありますか?
四角い白色の天井の中央が四角くくり抜かれ、そこから空が見える。故郷へ帰る度に見上げる空。移ろいやすい金沢の空。晴天、夕刻、曇り空、雨。冬はそのグレイの穴から雪が舞い落ちるのです。
曇り空の四角いグレイのグラデーション。無彩色に見えるグレイに、私は何度もさまざまな色を見た事があります。それを見上げる人の心情がそこに色を齎すのです。天井の枠に囲われた今の自分が、その遠く向こうにあるものを見通す瞬間に—。
この作品では登場人物が纏う衣装を見渡すと白から黒へのグラデーションとなっています。そして劇中では、登場人物の性格や事象に伴う心情があらゆる要素により明確に描かれています。個としての居場所、表情、身体、言葉_そしてそれらが合わさりバランスを変化させる事で、その瞬間にしかない色が次々と生まれては消えて行くのです。
それは、移ろいやすい金沢の空のようであり、また、あなたの心情を映すあのグレイのグラデーションであってほしいと願うのです。
2011年の9月に私は第七劇場の「かもめ」を拝見しました。大胆に再構成されたこの舞台に流れる時間は、キリスト教的な時間感覚の、すでに始まったが未だ終わっていない「時のあいだ」を意識させるものでした。時間は、何分・何秒という座標を流れているとされる概念だけでなく、事件・タイミングによって認識される感覚との2つに分けて考えることができます。あのハイコントラストな世界は、ニーナの事件史のある時点なのだろうと納得して観ました。クロノスでなくケイロス、あるいはゲシヒテによって物語を紡ぐ方法は個に依った場合は有効で、むしろ本質的な問いは、なぜそのように構成したかにあると思われました。それが私には「かもめ」の本体をよく知るために境界線を明らかにしようとしているというだけではなく、ほんのりと漂うロマンチックな印象に隠されているような気がしています。舞台を構成するあらゆる要素は一見、清貧とも言えるほど禁欲的に佇み、それがある種の理想として観客に迫っていましたが、私達は同時にその内側にあるもっと柔らかで繊細なモノも見ていました。その存在が、内側からも外側からもこの作品の再演を促しているのではないかと思っています。
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第34話 『旧き世に禍いあれ (2) - “ブラストフォート城塞"』 Catastrophe in the past chapter 2 - “Blastfort Citadel”
ブラストフォート城塞を見渡せば、『城』という華やかな言葉の印象とは遠い、石造りの堅牢な風貌は砦のそれと言っていいだろう。
スヴェンはこの建造物も元は修道院だったと噂では聞いていた。ただ、城塞に研究所を設けた時には既に砦として使われていて、実際のところどうだったかは、皆目見当がつかない。むしろ験を担いだ誰かの作り話ではないかと考えていた。作り変えられた施設にしては、礼拝堂だったと見られる建物もなく、険しい斜面をわざわざ切り出して作られた来歴の割には、この地に作られた由来すら記録に残されていないのも疑念の余地がある点だった。
城塞と名を冠しながらも、城壁の内側に市街はない。居並ぶのは兵舎や倉庫、そして厩舎などの背の低い軍用の建物で、全てが同じように暗い色をしていた。
はぁと深い息を吐く。その息は白く、スヴェンは体をぶるりと震わせた。外套の襟を直し、足を早める。
短い秋は瞬く間に過ぎ去り、もうすっかりと冬だ。視界に入る山岳はすっかりと白い雪に閉ざされている。ブラストフォート���年中気温が低く、1年の半分以上は雪に覆われている。
この城塞は、トラエ、ラウニとソルデの三国間で起きた紛争の中心地となった。三国の国境線が交わる丁度中央地点で、思惑も戦線もぶつかり合った。互いの国へ進攻するに際しても、ここを通らず他二国に兵站を送るにはどうあってもリスクの高い迂回が生じる関係で、攻めるも守るも、話はまずこの城塞を手中にしてから、という事情もあった。この要塞を抑えた国が勝つと信じられ、激しい争奪戦が目下進行している。
トラエがこの城塞を維持し続けられているのは、”軍神”ゴットフリートのおかげだ。不敗を誇るゴットフリートは、皇帝の厚い信望を受け、ブラストフォート城塞に陣を敷いた。ここを確実に堅持し続けることが、即ち勝利を意味する。武勲で比肩する者のいないゴットフリートが此度の采配を受けたのも、当然の帰結であり、疑いを示す者もいなかった。
対するラウニやソルデもそれを理解していたからこそ、戦火はさらに激しくなって行った。トラエ無双の英雄が、史上最も堅牢を誇る城を守護している。つまり、ここを打ち崩したもの、あるいは守り抜いたものが、この戦争を制するに等しい。この三国戦争の顛末を決定づける、天下分け目の決戦地の様相を呈していった。
ゴットフリートは戦場で一度もその膝を地面についたことはなかった。スヴェンが城に派遣されて3年、ブラストフォート城塞は今もトラエ帝国領のままだ。各地で名を馳せたどんな名だたる英雄が攻めてこようとも、この城塞を越えた者は未だかつていなかった。
(砦としての適切なつくりと、それを最大限に生かす武将……。理屈で言うは容易いが、それがこうして揃い立つと、これほどまでに守り抜けるものなのか)
スヴェンは眼鏡のブリッジを押し上げて、先を急ぐ。その手は幾冊もの分厚い魔術書があった。
激戦地とはいえ、兵糧が乏しくなるこの季節には大きな動きも見られなくなる。天候によってはなお一層、双方ともに大人しいものだ。攻めあぐねた敵軍に二面三面と包囲されながらも、ブラストフォート城塞はまるで平時のように静まり返っていた。
(ああ……どうしてうまく行かないのだ……)
城塞の中にある研究室の扉を開ける。
真っ暗な部屋を、たったひとつのランタンが照らしていた。本来はもっと採光がいい窓があったのだが、スヴェン自身が本棚で潰してしまっていた。外光は観測を伴う実験に不向きだ。
城塞の中の、私の城。眼鏡を再度押し上げて、ふふと短く笑う。
「次はうまくやってみせる……この書こそ本物だ、今度こそ……吾輩が見つけるのだ」
ぶつぶつと言葉を口の中で繰り返しながら、長い執務机の上に置かれていた書類や本を床にすべて落とし、新しい本を置いた。
本棚やコートハンガーにかけられた外套、並んだ靴などは嫌と言うほど規則正しく、寸分のずれもないように置かれているというのに、余程気が高ぶっているのか、今は床に落ちた本たちを気にして直すそぶりもない。
大きな椅子に腰かけて、その本を開いてページを手繰り始めた。
世界を知るということに限りはあるのだろうか。スヴェンは幼い頃からずっと考えていた。世界を知るためにありとあらゆる本を読み解き、特例を受けて最高学府に進級したときも、当然のこと、以外には特に何も思わなかった。神童と呼ばれ、世界の知識を見る間に吸収し、未知の研究に邁進し、知性で遥かに劣る両親とは縁を切り、知こそが価値とする者達とこそ縁を深め、生きてきた。
――この世界は、一個の生命だ。
そう悟ったのはいつのころだろう。それからスヴェンの関心は世界の表層を辿ることではなく、世界の成り立ちの根源を掴むことに移った。
この感覚までも理解し共有できる者はさすがにいなかったが、スヴェンは気にすることはなかった。目的と到達点は明確だったからだ。
世界が生まれた瞬間を見る。つまり、過去へ遡行しその瞬間を観測することが出来れば、世界が生命であり、巨大な有機体であり、何がどうやってそれを作り出したのかを証明できるのではないか、と考えた。菌類はそれぞれの菌根で膨大な情報網を作り上げることで知られている。ならば世界は? 世界と世界を構成する生命や物質との関係も、似たものではないのか?
夢を見ていると言われた。気が狂ったとも。けれど、スヴェンは時間を移動することに執着し、トラエ皇帝はスヴェンの情熱に理解を示した。思えばこんな突拍子もない目的に意義を見出す皇帝というのもまた、妙ではあるとは思った。皇帝にもまた、過去に遡行する事で成し遂げたい、”過去に戻ってでもやり直し���い何か”が、心中にあったのかもしれないが、それを聞き出す術をスヴェンは持たないし、スヴェン自身興味もなかった。少なくとも、時間遡行がもたらしうる皇家の安定、全ての危険を排し、あるいは時を超えて未来の悲劇を食い止め続けて、皇家そのものを永遠に君臨させる、という”表向きの”理由――そのために、皇帝はスヴェンを支援することを決定し、臣君達も、やや半信半疑ではありながらも、それを支持した。
「これだ」
今日も皇帝に頼んでいた奇書が届けられた。
スヴェンはブリッジを押し上げ、眼鏡の位置を直す。正常な観測のためには、眼球とレンズの距離は常に1.5cmを保たねばならない。立ち上がろうとして自分が先程叩き落した本を見やり、露骨に眉をしかめる。頭の中を整理し終えて一息ついたら、急に普段の几帳面さが顔を出した。手早くそれらを元あった場所へそそくさと戻して、室内を完璧に揃え、部屋の中心に立った。
「まず、魔石を用意して……」
木箱に詰めてある魔石を取り出し、机に置く。魔石は貴重な資源である。研究には大量の魔石が不可欠だった。魔石なしには、相当な魔力量を消耗する実験を繰り返し行うことは出来ない。ブラストフォートは戦地だ。当然、魔術師部隊が使うために魔石も大量に集められていたが、落城までには湯水のごとく消費されていた魔石も、入城し防衛に転じてからは、ゴットフリートを中心とした白兵戦主体の迎撃戦において、これらが投入される機会も乏しく、結果余剰が出ていた。山と積まれた荷物を運び出すにも、労力がかかる。それならば、国内にいる魔石を必要とする人員が、逆にブラストフォートまで来れば良い。研究をする場所としては些か物騒な地ではあったが、自由にできる大量の魔石が得られる機会には代えがたかった。スヴェンは二つ返事で前線まで足を運んだ。研究には様々な代償がつきものだ。それを理解してくれる後ろ盾を得たスヴェンは、他の誰よりも恵まれていると言えるだろう。
取り上げたいくつかの魔石の中から、更に質の良いものを選ぶ。一番大きいものはナリだけで中身は薄く、魔力自体は少ないようだ。ページをたぐる仕草に似た動作で、一粒ずつ指を触れては次の石に触れ、研ぎ澄ませた感覚で内容量を確認していく。最後に触れた人差し指ほどの魔石が最も密度が高く、多くの魔力を秘めていた。
「よし……よし……まずは一時間前に戻る……そうだ……」
長い間研究し、様々な方法を用いたが、まだ成功させたことがない。
スヴェンも焦り始めていた。戦火は年を追って激しさを増している。今は冬期で戦線が膠着しているが、雪が溶ける頃にはまた激化される。2国がこの城塞を攻め、帝国は防戦し続ける。魔石の余剰が出ているのも今だけだ。魔石の消費量も年々増え続け、そうなればいつ自分に回してもらえる分が枯渇するとも知れない。そう考えれば、時間は限られている事になる。一度でも成功させられれば、魔石を消耗する前の時間に何度でも戻って、ほぼ無限の実験を繰り返し、術式完成を確実なものにすることが出来る。それが理想であり、今の目標だ。勿論この方法は戻る人間の肉体時間の経過は加味されておらず、スヴェン本人の寿命の解決という課題が残ってはいるが、禁術に手を出せば、その辺りは時間遡行に比べれば造作もないだろうと見当がついていた。
本のページを睨むように再度読み上げようとした時、パチン、と何かが弾ける音がした。ふぅっと風が頬を撫でる。
音がした方向を振り向いて、スヴェンは動けなくなった。
空間に大きな渦が現れたのだ。
その渦に向かって風が吹き込んでいる。
「おお!」
未知なる光景に弾んだ声を上げる。
まず渦から出てきたのは、手だった。男の両の手が伸び、時空の切れ目をこじ開けて、その姿を現した。これから始めようとしていた実験によって、数分か数時間の未来から自分が戻ってきたのではないか。どうやら、今実験している術式は成功したのではないか。歓喜に身が打ち震える。
単純な転移魔術など、スヴェンも何度も見たことがあるし、日常的に行使している。周辺空間に生じた歪の性質や姿の現れ方から、今目の前で行われているものは、通常のそれとは質が異なることは一目で判断できる。それは”理論上、時間遡行が成功すればこのような形で転移が成されるだろう”と想定した結果そのものだった。
「スヴェン博士か?」
渦から現れた男に尋ねられ、スヴェンは驚いて身を竦めた。
男は自分の身なりに気が付いたのか、ゴーグルの中の目を丸めて、被っていたマスクを外した。城塞の戦士たちよりも重装備だが、防寒具として見ても、防具として見ても、異様な姿をしていた。それはむしろ、ガスや毒に汚染された領域に立ち入る者が使う防護服に似ていた。
男は軽く会釈した。
「僕はフィリップ。スヴェン博士で間違いありませんか?」
「いかにも、吾輩はスヴェンだが……」
答えながら、興奮で何度もメガネを押し上げる。
「僕は未来から来た」
「おお、やはり! では、未来では時間移動の方法が確立されたのか! 素晴らしい! 素晴らしい!!」
スヴェンは無邪気に飛び跳ねた。
悲願だ。
奇跡が目の前で起きたのだ。経緯こそまだ判然としないが、宿願が果たされたのだ。
「その方法が知りたいか?」
「ああ、無論だ。吾輩にとって、生涯をかけた研究の成果だ!」
「僕の生きる時代にはその技術は確立している」
身の内から湧きあがる感動に震える。長い時間をかけた研究が実を結ぶのだ。喜ばない人間がいようものか。
スヴェンはズレたメガネを何度も押し上げ、唇をペロリと舐めた。
「未来では、あなたの完成させた基礎を発展させ、実際に過去に飛ぶことが出来るようになった」
「そうか……そうか……! それで」
「研究資料はある。それを渡してもいい」
フィリップと名乗った男は荷物からひとつの本を取り出して見せた。スヴェンは手を伸ばしたが、ぴたりと手を止める。
「……吾輩は、基礎を完成させた……?」
「ああ、そうだ」
「つまりは吾輩が術式を確立させたわけではないのだな」
基礎を完成させた研究者が自分だとして、その先、実際に技術転用することは別の次元の話になるはずだ。魔術、火薬、物理……この世の全ての技術はそうして生み出されてきた。小さな研究の成果を種として多くの科学者が取り組み、発展的に理論を大成させていく。芽吹いたものを育てひとつの大樹とするにはそれだけの手間と時間と閃きが必要になる。
今までもスヴェンは『時間遡行の第一発見者』『行使者』となるために、寝食を忘れ、周囲から気味悪がられるほど、研究に必死で取り組んできた。
それでも時間が足りないと感じていた。その肌感覚は間違いではなかったのだ。
目の前に提示された本は確かにスヴェンを求めた結果に導くだろう。
だが、同時に自身の敗北を決定づけるのだ。己の力量だけではここには辿り着けなかったのだと、認めることとなる。
フィリップは静かに逡巡するスヴェンを見ていたが、やがて、微笑みながら頷いた。
「これは’’真実’だ。研究者としての矜持はさておき、”真実”を知りたくはないか?」
スヴェンはハッとして顔を上げた。
真実。
私は何のためにここまで進み続けてきたのか。
彼が言っていることが正しく、自身で術式を完成することがなかったとしても、それは過程に過ぎない。私が目指していたものは、あくまで”真実”ではないのか?
「もしも、それをいただくと言ったら? 何が望みだ?」
心のどこかで、素直にそれを受け取る事に呵責が生じていたのだろう。だから、それを受け取る事を、無意識に合理化したがっていたのかもしれない。未来から来た男に対価を返すことで、”真実”を受け取ってしまう自分に理由を与えようとしていた。
予見した通りにスヴェンの瞳に灯った貪欲な光を見出して、フィリップはにやりと笑った。
「城塞内の警備情報をいただこう」
「警備の? 何故だ?」
「知らない方がいい。あなたには関係のないことだ」
「……そもそもお前は、何のためにここにいるのだ?」
「知れば、来たるべき未来のことも伝えねばならなくなる。必要以上に過去を変える事は避けたい……ただ、必要なものがあるとだけ。それを持ち帰る事だけなら、この時代の歴史には影響しない、それは保証しても良い」
まるで台本があるかのように、フィリップは淀みなくスヴェンに語り掛ける。
未来から来た。それは間違いないだろう。スヴェンが口外もしていなかったはずの、仮説段階の転移の様子そのものが目前に展開したことで、疑う気持ちなど寸分もなくなっていた。受け取った資料に目を通せば、そこからもまたフィリップが未来から来た事が真実であるという証拠を得る事もできるだろう。ただ、もう一声、フィリップが信頼に値するという、自身が”真実”を受け取る事に感じる呵責を打ち消すだけの理由を求めたかった。
「受け入れたいのは山々だが、警備情報をとなると難しい。未来から来た事が仮に真実でも、君がトラエ以外の人間であったならば、私の立場からすれば利敵行為に与しかねない事になる。理解してくれるか」
���ヴェンはこう言い放ちながら、内心で自嘲した。スヴェンは、フィリップがトラエの人間である事を証明してくれる事を期待していた。彼があらかじめ私の呵責を砕く準備までした上でここに来ていると、察しが付いていた。その上でこんな事を方便にするのは、戯曲を棒読みする姿を見透かされるようで、歯がゆかった。
フィリップは答えをやはり用意していたようで、間髪入れずに分厚い上着��ポケットから、ひとつのネックレスを取り出した。金色のネックレスは傷がつき、古いものだった。スヴェンはその取り出す様を見ながら、やはり見透かされていたのだと、思わず赤面した。
「開けてみてくれ」
スヴェンはおずおずと受け取り、開いた。そして息を飲む。
「これは……!」
「一緒に映っているいる赤ん坊が僕だ」
一目見て分かった。写真に写った男は、ゴットフリートだ。城塞の食堂で目にした、岩でも噛み砕きそうな厚い顎、豹を思わせる眼光、右頬と左こめかみに負った特徴的な傷跡。スヴェンの知るゴットフリートよりもかなり年を重ね、白髪や白髭を蓄えた風貌で笑っていた。
――未来だ……。
スヴェンは、ごくりと息を飲んだ。
「あのゴットフリートが、人の親、果ては老人か……。戦場で死ぬような者ではないとは、思っていたが」
「祖父は一族の誇りだ」
「……分かった。警備情報を渡そう。だが、本当に面倒事は起こさないのか……?」
「表立っては何も起きないから、安心していただきたい。この時代には捨て置かれたものを、持ち帰るだけだ」
スヴェンには、その言葉の意味まではわからなかった。
その後の逡巡を見越したように、ゆっくりと研究書をスヴェンに差し出す。
「戻れる先は魔力の量に左右される。魔力を1点に集中すればいい。杖を使えばいいだろう」
「お……おお……」
「この本に詳しくまとめられている。運命は、未来は変わらない」
「本当に?」
「あなたが、あなたのために使うだけに留めれば、自ずとそうなるだろう」
答えないスヴェンの胸に、ドンと本が叩きつけられる。
その感触に、スヴェンの理性はぐらりとふらついた。
月が高く上ったのを見上げて、フィリップはゆっくりと山岳の斜面を進んだ。姿勢を低くし、音を立てないように。
(……不安はあったが、狙ったタイミングに戻れたな……)
グレーテルと徹底的に城塞の歴史を調べた。
激しい攻防戦から間がなく、その後しばらく戦闘がない、天候が落ち着いている時期。かつ、当日の天気が晴天で満月であること。
いくら協力を得ることが出来て警備の状況が把握できていても、誰もいないはずの山の斜面で灯りを用いて、遠目にでも見つかる危険を冒すことは避けるべきだ。暦を遡り、目途をつけたのが今日この日だった。
斜面には雪が積もっている。この積雪から数日、戦線に動きはなかったと記録されている。束の間の平和。だが、その直前には、この斜面で、たくさんの人と人が殺し合ったのだ。静寂に包まれた雪景色の中、あちこちに矢が突き刺さったまま放置されていた。戦闘の跡だ。
左右を見渡してから、フィリップは一番近くの雪を掻いた。そこにも矢が刺さっている。
(……矢先の雪がほのかに赤い)
山岳地の雪らしく、水を含まないさらさらとした雪で、払えば埋もれたものが簡単に姿を現す。
「……あった」
雪の下には、傷の少ない兵士が眠るように倒れていた。
念のため体を検めるが、四肢も無事で、背中に矢を受けた痕があるだけだ。専門外だが、転がした下の赤黒い土の色から察するに、死因は失血だろう。
こんなに状態のいい屍体を見たのは、いつぶりか。
ここはまさに、フィリップにとって宝の山だ。
見渡す限り、無数の屍体が隠されている。先日攻め入ってきたが退路を断たれ、殲滅の憂き目にあったラウニの一個師団がこの斜面に眠っている。
ざっと見積もっても数千から万を超すだろう。 この雪の下にある屍体さえあれば、それらは全て、二人が未来で戦うための手足となる。計り知れないほどの戦力だ。
グレーテルも転送を待っているだろう。と言っても、未来で待つ彼女の方からしたら、突然数千の屍体が目前に現れるような形になるのかもしれないが。
兵士を完全に雪の上に横たえてから、フィリップは術式を展開した。過去に遡行することに比べ、未来に送ることは難しくはない。状態が劣化しない静止した時空間に屍体を閉じ込める。そして、ある特定の時期に来たら、閉じた時空間から屍体を現実に表出させるように仕込んでおく。川の流れを下るように、時の流れに逆らわずに未来へ向かうのであれば、身を任せるだけで良い。逆に、流れに逆らって上流に向かおうとするには、莫大なエネルギーを要する。それが、時間遡行研究者たちがたどり着いた、ひとつの答えであった。
遺体はぼぉっと青白い光に包まれて、ふっと消えた。
成功だ。
こうして閉じ込めた屍体全てが、グレーテルの元で姿を現すだろう。彼女も状態のよさとその数に感動するはずだ。周囲を見渡し、笑みが溢れる。
屍体の数は多ければ多いだけいい。フィリップは近くの雪中を再び探り始めた。
「ん? なんだぁ?」
突然降ってきた声に、フィリップはぴたりと動きを止めた。
振り向けば、豪奢な装備に身を包む屈強そうな男が、首を傾げながらこちらを見ていた。ありえない。
「――……巡回はいないはずじゃ……」
スヴェンから得た警備資料は棚から即座に取り出されたものであって、あの場で嘘を取り繕うためにあらかじめ用意できるようなものではなかったはずだ。
だからこそ、その内容を信じたフィリップは夜を待って行動を開始したのだ。
「巡回なんざしてねえさ。散歩してただけだ」
男は野太い声で言った。
「しっかし、誰だ、お前は。さっき屍体を掘り返してたよな?」
「……何のことだ」
「おいおい、しらばっくれても無駄だ。見てたぞ。目の前から消えたんだからな」
失敗した。
頭の中で思考が急回転を始める。どうやってこの場を切り抜ける? 取り繕うか、命を奪い口を封じるか、逃げるか?
「転送魔法か? それで屍体を運んで何しようってんだ」
「それは……」
なにかうまい口実はないか、言葉を手繰ろうとするフィリップを待たずに、男は叫んだ。
「戦場泥棒は重罪だぜ!」
雪をギュッと踏みしめる音を立てて、男はフィリップに飛び掛かる。
やるしかないか。
咄嗟に、重力歪曲《グラビティプレス》の術式を展開する。
跳躍し上向いた兜の中の顔を、月明かりがはっきりと照らす。豹のような眼光がこちらを見据えていた。一瞬、フィリップの胸中に幼い日が去来した。
(――……ゴットフリート爺さん!)
逃げなければならない。話も通じない。殺してはいけない。
月明りを背に大きな影が落ちる。
フィリップは咄嗟に術式を変じて、空間移動《テレポート》に切り替えた。短い距離であればすぐに展開して移れる。
鈍い音を立てて、ゴットフリートが鞘から引き抜いた剣が雪に突き刺さる。さきほどまでフィリップが立っていた雪の跡は、衝撃で爆ぜて消え失せる。そのまま、目線を数歩先のフィリップに向ける。
「はっ、やっぱり転移か。ラウニの連中は知ったこっちゃねぇが、ここには俺の隊の奴も幾人か眠ってんだ…」
雪から剣を振り上げるように引き抜き、巻き上げられた細かい雪がまるで煙幕のように広がる。視界が真っ白に染まる。
フィリップは咄嗟に腕で顔を庇ったが、視界に影が過る。
(まずい!)
二度目の転送が一瞬遅れ、避け切れなかった。ゴットフリートの剣先は肩から胸にかけて切り裂く。傷は浅いが痛みによろめく。
雪の影から突きを繰り出したゴットフリートは、目をぎらりと輝かせる。
「魔術師相手は滅多にやれねえんだ。面白えな……!」
まともにやり合ったら、殺される。
運が悪すぎる。
本気でやり合ったところで、ゴットフリートに勝てるわけもない。仮に勝てたとしても、祖父である彼を今この場で殺したら、未来から来た自分は一体どうなる? 前例がなく、全く予想がつかない。年老いてからも��の話を全く聞かなかったあの男が、戦場跡をうろつく怪しい男が語る”理由”なぞ、おとなしく聞いてくれるはずもない。殺さずに無力化出来るような術も持ち合わせてはいない。
なんとかやり過ごして、逃げるしかない。
再度テレポートをしようと身構えたフィリップに向��って、ゴットフリートが大きく踏み出そうとして、ぴたりと止まった。
「……なんだ? 臭ぇな……」
眉をぐっと止せ険しい表情で辺りを見渡す。
確かに何か匂いがする。嗅いだことのない匂いだ。
「屍体の臭いでもないな……なんの臭いだ……?」
唐突に、その匂いが一層強くなった。
屍体は確かに掘り返した。けれども、この気温で、雪の下にあった兵士の体は腐敗するはずがない。凍てつき、匂いもなかったはずだ。
腐ったような、けれどももっと酷く脳を直接刺激するような……嗅いだことのないほど異臭。
「……うっ」
胸が悪くなる。
ゴットフリートも片手で鼻を抑えながら、周囲を見渡した。
ふたりの視点が1点にとまった。打ち捨てられた盾だ。放り出されて地面に突き立ったままのそれが、奇妙な黒い靄に包まれている。
「おい、小僧、お前の術か、ありゃあ?」
ゆらゆらと噴き出ていた黒い煙の密度が増す。
フィリップは自分の背中が粟立つのを感じた。
あれは、だめだ。
理由はわからない。ただ、本能が叫ぶ。けれど、足が竦んで動かない。
盾を包んでいた煙は次第に細くなり、盾と地面が成す角から勢いよく噴き出した。そして、その煙が見たこともない不気味な黒い猟犬の姿を取った。
~つづく~
原作: ohNussy
著作: 森きいこ
※今回のショートストーリーはohNussyが作成したプロットを元に代筆していただく形を取っております。ご了承ください。
旧き世に禍いあれ(3) - “猟犬の追尾”
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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「岩田さん」について“いま”思うこと
どうも。
「ドクターマリオ ワールド」で、どれだけ魔法陣をつくっても、課金しても、最推しのガボンが出ず、それならばと京都でガチャをしようと試みるも、ダイヤもコインも調達に間に合わず、結局何もできなさそうなめぐめです。
前置きはさておき、今回は「岩田さん」について“いま”私が思うことを書いていこうと思います。
自分語り中心ですね。
ここに来られているかたは、私の言う「岩田さん」というのが、どの岩田さんを指しているのか、ご存知かと思いますが、まぁ、任天堂の社長だった岩田さんのことですね。
ご命日が7月11日なので、この日をきっかけに、今年も岩田さんに思いを馳せるかたたちが、ちらほらいらっしゃいました。
かく言う私も、今年も定番の麦チョコと、ケーキを買って、食べてました。イタリアンがお好きだったということで、夕飯はパスタにしました。
去年は、11日に合わせて京都に旅行してました。今年も、日にちこそズレましたが、京都に旅行します。
今年はちょっと特別なんです。
なぜなら、「岩田さん」の本が出るからです。
今度、ほぼ日さんから出る岩田さんの本は、今まで出た岩田さんに関するどの本とも、ちょっとまた違うんですよね。
今までのもみんな特別だし、こっちも特別なんですけど。
この、ほぼ日さんから出る「岩田さん」という書籍。ご存知でないかたは、とにかくホームページに飛んで詳細を確認していただきたいのですが、もう、大事件ですよね。だって、「岩田さん」という、ひとりの人物そのものの本が出ると言っても過言ではない、そんな内容ですよ。
https://www.1101.com/books/iwatasan/index.html
書籍に関する私の感想は、別途場所を設けて述べる予定です。
そして、書籍の予約開始日……というか、命日に合わせて更新されていた、編集者の永田さんの言葉を読んでいて、とにかく、同意の連続で……。
https://www.1101.com/books/iwatasan/editor/2019-07-08.html
今回、私がこのように、場所を設けて岩田さんのことを書き始めたのは、この永田さんの言葉がきっかけです。
ほぼ日の糸井さんも、ダイヤモンドオンラインにて、岩田さんのことを語っています。
https://diamond.jp/articles/-/208327?display=b
こちらも読んでいて、涙が出たんですが……やっぱり、目線が、岩田さんに近しい、糸井重里という人物によるものなんですよね。
どちらかというと、永田さんの目線や言葉が、私の感じていたものに、ちょっぴり近い。この4ページにわたる永田さんの言葉に触発されまして、私もちょっと書いてみようかなと思った���けです。
……最近の私は、もう滅多に岩田さんのこと、喋らないですからね。昔はあれだけやっていたのに……。
その……永田さんがおっしゃっていた言葉で、個人的に引っかかった部分があったんです。
以下、引用も、私の言葉も、とても長くなってしまいますが、ご了承ください。
“岩田さんが亡くなってから、SNSなどを通じて、ほぼ日やぼく個人のところへ、岩田さんの本をつくってほしいという声はいくつも届いていた。正直にいえば、ぼくもすぐそれを思った。けれども、即座に打ち消す自分もいた。
岩田さんご自身が、希望されないだろうなぁと思ったからだ。
岩田さんは自分が前に出るとき、つねに「私がそれをやるのがいちばん合理的だから」というふうにおっしゃっていた。大勢に自分の考えを発表したいわけではなく、個人の名を広めたい気持ちなんてなく、そうするのがいま進めていることにとっていちばんいいと判断して、岩田さんは行動していた。
もしも岩田さんに本を出していいですかと訊いたら、「永田さんの時間をそれにつかうのはベストな選択でしょうかね?」なんておっしゃるのだろうとぼくは思った。
それでも、とぼくはずっと考えていた。たぶん、ぼくは、岩田さんについて、なにかしたくてたまらなかったのだと思う。なんでもいいからなにかしたくて、そうでないと全部がすっと通り過ぎていきそうで、追悼の一文をどこかに書いても半端に当事者を気取ったごまかしになりそうで、なにかできないかとずっと思っていた。
大きな喪失があったとき、人はきっとそういうふうになるのだと思う。ぼくに「岩田さんの本を出してください」と言ってきたたくさんのゲームファンの人たちも、あるいは、いま、岩田さんの本が出ると知って、それを自分に向けたものだと強く感じている人たちも、きっと同じように、あの日から大きな喪失を抱えて、自分なりになにかしたいと、ずっと思ってきたのだと思う。
https://www.1101.com/books/iwatasan/editor/2019-07-08.html”
そして、こちらが、岩田さんが亡くなられた直後から約半年間の私です(記事自体は2017年のものです)。
“何を迷っていたかですが、当時の私は岩田さんが亡くなってからの約5ヶ月、どうしていけばいいのか分からずにいました。私は少なくとも、それまでの5年ほどは、岩田さんのファンとして活動していましたし、ファンでいることが自分の存在意義の1つでもありました。
しかし岩田さんが亡くなり、確実に、今までしてきたことはしづらくなりました。私は、「できるかぎり今まで通りでいたい」と思っていました。世の中、亡くなってからその人物が偉人のように扱われ始める風潮が少なからずあると思いますが、私自身はそうではなく、自分が見聞きしてきた岩田さんという存在を、そのままの形で心の中に残しておきたいと思っていました。
ほかの人から見て少なくとも不快にはならないような、私にしかできない、ファンとしての活動とは何か。私は約5ヶ月の間、試行錯誤を繰り返し、考えてきました。その答えのひとつが、ブログ内にある「岩田聡氏追悼記事ピックアップ」だとか、162ある発言のソースを全て調べ直してまとめた「岩田 聡botツイート一覧」という記事なのです。
それでもなお道筋をみつけられたわけではなく、絵を描くのはどうだろうかとか、いろいろ考えてはいました。しかし、本当はやらなくてもいいことを、使命感に駆られてやることに対して、基本的に自由人な私は、心の底では少し不自由に感じていました。不自由に感じていても、何もしないのはもっとイヤでしたし、自分がファンとして動いていることが1番だと信じていました。
https://megumeedamame.tumblr.com/post/162825480859/不思議な夢の話”
思ったんです。
あぁ、永田さん、あの時の私と同じようなこと考えてる、と。
“岩田さんについて、なにかしたくてたまらなかったのだと思う。なんでもいいからなにかしたくて、そうでないと全部がすっと通り過ぎていきそうで”
そう、私も、なにかしたくてたまらなかったんです。
“私にしかできない、ファンとしての活動とは何か。私は約5ヶ月の間、試行錯誤を繰り返し、考えてきました”
“それでもなお道筋をみつけられたわけではなく、絵を描くのはどうだろうかとか、いろいろ考えてはいました”
こんな風に思い悩んでいて、心の片隅に常にある、ちょっとした悩みのタネでもありました。
“もしも岩田さんに本を出していいですかと訊いたら、「永田さんの時間をそれにつかうのはベストな選択でしょうかね?」なんておっしゃるのだろうとぼくは思った”
これに関しても、似たようなことを私も感じていて、
“本当はやらなくてもいいことを、使命感に駆られてやることに対して、基本的に自由人な私は、心の底では少し不自由に感じていました”
本当はやらなくてもいいことやる……その、本当はやらなくてもいいことに費やした時間は、別のことに使えた可能性もあるわけで、はたして、その時の選択はベストなのか? ……当時の私は、自分でやっておきながら、腑に落ちないところがあったんでしょうね。だから、不自由に感じていた部分もあったんです。
そして、当時の私はこう続けています。
“不自由に感じていても、何もしないのはもっとイヤでしたし、自分がファンとして動いていることが1番だと信じていました”
そう、自分がやるのが1番だと。自称群馬一の岩田さんのファンとしてやってきた、その立場(?)で、引き続き自分にしかできないことをするのがいいと、信じていたんです。
ただ……「合理的だから」、というより、ただしいのかどうか、納得できてない自分を動かすために、「言い聞かせていた」という意味合いが強いと思います。悩みのタネにも、なりますよね。
一応言っておきますが、この悩みのタネは今はありません。夢に岩田さんが出てきて、いろいろあったからです。
夢に出てきただなんて、頭おかしいと思われますでしょうが、私の言葉の引用元の、2017年の記事で経緯を綴ってますので、ご興味のあるかたはまたそちらで……。
話を戻しまして……まぁ、ほぼ日の永田さんと、岩田さんにお会いしたこともない私を比べるなどと、月とスッポン……とても比べられるものじゃないのは、承知なんですけどね。でも、同じように考えていた人がここに居たんだという、安心感があったんですよね。
そんな、永田さんが編集を務めた岩田さんの言葉をまとめた本が、遂に出るわけですが、永田さんがこの「岩田さん」という本に感じていることも、本当によくわかる。
https://www.1101.com/books/iwatasan/editor/2019-07-11.html
この4ページ目に書かれていること、全てに同意したい。引用できるレベルじゃないほどまで、同じ思いなんです。
商品ページを読んだときから、永田さんがおっしゃっているように、「この本は名言集ではない」と感じていました。
“ほぼ日刊イトイ新聞に掲載されたたくさんのインタビューや対談、そして任天堂公式ページに掲載された「社長が訊く」シリーズから重要なことばを抜粋し、ひとり語りのかたちに再構成しました。
https://www.1101.com/books/iwatasan/index.html”
単に岩田さんの名言集を作りたいのであれば、例えばこの有名な言葉、
“On my business card, I am a corporate president. In my mind, I am a game developer. But in my heart, I am a gamer.”
“私の名刺には社長と書いてありますが、頭の中はゲーム開発者です。でも、心はゲーマーです。”
この、GDC 2005の基調講演で言った言葉は必須なはずですし、承諾を得るにしても、任天堂に話をつければいいと思います。任天堂の社長としての講演でしたし、どこかの経済誌がとってきた言葉でもないですし。
しかし、そうはしなかった。
それどころか、範囲がグッと狭く、「ほぼ日」と「社長が訊く」限定なんですよね。つまり、ネット上で、誰でも無料で読めるものを、まとめて書籍にして売るわけなんですよ。
この判断は、とても素晴らしいと思います。ほぼ日さんでないとできないことだとも思います。
“たぶん、私たちは、私たちの知っている「岩田さん」の話をしたいのです。
ひょいとオフィスに遊びにくる「岩田さん」を。こんな本を読んだんですけどね、とうれしそうに語る「岩田さん」を。目の前のお菓子をぱくぱく食べる「岩田さん」を。雑談なのに聞いてる人が思わず手帳を開いてメモしたくなるような見事な仮説を披露する「岩田さん」を。会話の中でわからないことがあったときにふっと黙ってその理由を考えている「岩田さん」を。うれしいことを報告するときずっとニコニコ笑っている「岩田さん」を。
https://www.1101.com/books/iwatasan/editor/2019-07-11.html”
そうなんです。私も、そんな岩田さんの話がしたいし、みたいんです。
「ほぼ日」で、糸井さんたちと面白い話題を、面白そうにおしゃべりする岩田さん。
「社長が訊く」で、開発者のかたたちと、ゲームの話をしつつ、興味津々に、楽しそうに語り合う岩田さん。
この2つのコンテンツの岩田さんは、「岩田さん」という人物の“色”が、よく表れていると私は思います。
だから、例えば私個人が、岩田さんに関する好きな読み物をいくつか挙げるとすれば、「ほぼ日」か「社長が訊く」になると、断言できます。
いろんな場所で、いろんな言葉を残されています。でも、岩田さんという人物を語るのであれば、まずは、この2つです。
だから私は……このほぼ日さんの行動が、「岩田さんの本を出す」というような、ただの“出版”ではないと感じます。岩田さんというひとりの人間を、いろいろな手段がある中で、本という手段をとって、かたちにして、この世に残した……そういう姿勢まで、たったちょっとのリリースで感じとれるんです。
本のタイトルだって、まずは「岩田さん」なんですよね。正式名称は、「岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」ですけれど。
“岩田さんのことをいまも思う人が、思うときに呼びかける名前がこの本のタイトルなのだと思います。ですから、なんだか煙に巻くようですが、岩田さんのことを「いわっち」とこころで呼んでいる人にとっては、この本は「いわっち」でいいのだと思います。
https://www.1101.com/books/iwatasan/editor/2019-07-11.html”
そうです、私も岩田さんのことを思うときは「岩田さん」です。任天堂の社長としての岩田さんを語るときは、「岩田社長」です。親しみを込めて呼ぶときは、一般的ではないですが、「[岩田]」と呼んでま��。
存命の頃に「[岩田]」と呼んでいたら、直接関係があるのかは不明ですが、岩田さん本人が4Gamerの対談企画で「なんで俺、呼び捨てにされてるんだろう?(笑)」なんて言ったことがありまして……それを見た時は戦慄しましたけど……でも、呼び名ひとつでも思い出があって、強く岩田さんのぬくもりを感じられるのが「岩田さん」という呼び名なんです。
……だから、この本のタイトルも、すごく簡潔なんですけれど、それでいてこれ以上のない表現で、適切なタイトルなんですよね。
私も……過去に岩田さんの言葉をまとめたことがありました。ツイッター上で、岩田さんの言葉を定期的に投稿し続ける、「岩田 聡bot」のことです。今でも稼働しているbotですが、もう、新しく言葉を登録することはないだろうと思っていますので、過去形です。
私がbotをつくろうと思ったあの頃、身の回りでbotをつくるのが流行っていたと記憶しています。定期的に投稿するだけでなく、返信すると、それに対して自動で返信する。それが、若かった私には羨ましくて、自分もやってみたいと思った。それが、最初の動機でした。8年前のことでした。
8年前の2011年というと、当時は3DSが発売して間もない頃で、社長が訊くはありましたが、まだニンテンドーダイレクトはありませんでした。だから、岩田さんの知名度は、ゲームファン全体からすれば、「知る人ぞ知る」という感じだったのではないかなと思います。
実際、岩田 聡botのフォロワー数は、ダイレクトが始まってしばらくして、岩田さんという人物が多くの人の目に触れるようになってから、増えだしたように記憶しています。岩田 聡botと、姉妹botである宮本 茂botのフォロワー数は、今は岩田さんのほうが700近く多いですが、確か最初の何年かは、宮本さんのほうが多かったんです。
まぁつまり……需要があってつくったわけじゃなかったんです。8年前のうっすらとした記憶ですが、周りの友人は制作について推してくれたと思います。でも、最初はまず、自分がやりたいからだったんです。
botをつくるにしても、なにを題材にするか。そこで出てきたのが、「岩田さんの言葉」だった。
自分の好きな岩田さんの、言葉を集めようと思ったんです。いわゆる“名言”と称されるものから、ふとした瞬間に出た、岩田さんらしい素敵なものまで……その言葉にどんなに意味がなくても、「岩田さんの言葉」であるのに変わりないから……魅力を感じましたし、取りあげていきました。
ほぼ日さんの「岩田さん」の詳細が公開されて、正直ドキッとしました。
生まれた経緯こそ違いますが、コンセプトが、私のbotと似てますから。
こんな表現はシャクにさわるかもしれませんが、私のbotはこれで役目が終わって、畳むときが来たのかなと、思ったんです。あれは、私が“勝手に”やってるものですから……。
漬物が苦手な岩田さんを、ちゃんとした形で世に残せるのは、ほぼ日さんしかいないんです。そのほぼ日さんが成し遂げたなら、私はそれを推すだけです。
ただ、こう言ってはなんですが、既に書いたとおり、ほぼ日さんの本には「ほぼ日」と「社長が訊く」しか載っていません(宮本さんと糸井さんの対談もありますけど)。だから、“隙間”があるんですよね。その“隙間”に、私のbotが居ても、いいかな、なんて、今は思っています。
すぐに居なくならなくても、いいかなと。もうしばらく、図々しくしてみようかなと。もう、言い訳や、甘えですけど、居ます。追い出されそうですけど。
漬物が苦手な岩田さんを、ちゃんとした形で世に残せるのは、ほぼ日さんしかいない。
それと同時に、岩田さんのキーホルダーを正規の方法で出せるのも、ほぼ日さんしかいない。
岩田さんのキーホルダーが付くストアは限られてますが、とにかくかたちとして存在していることが、なにより嬉しくて……自分で、自分のためだけに勝手に作るのもいいんですけど、それはそれ、これはこれ……本と同じくらい楽しみにしてて、どこに付けようか、ずっと考えてます。
あれから4年が経って、私は岩田さんのことは滅多に口にすることはなくなりましたけど、今でも心のなかに、居ます。
具体的に細かいことを思い出すのは、正直難しくなりましたが、心の基盤となった「岩田さん」という人物を忘れることは、絶対にありません。
任天堂という大きな企業の社長で、社長になってからは直接ゲームを作っていたわけではなかった岩田さん。お客であった私にとって、とても遠いところに居た存在なのに、すごく身近に感じていました。
岩田さんの言葉や姿勢からはぬくもりを感じたし、親近感もあったし、可愛らしさもあったし、とにかく楽しく面白い人物だった。
あれから4年。そんな、私にとってとても大切な人物に、今また“会える”。
あの本が世に出たら、今度はなにが起きるだろうか。みんなにとっての「岩田さん」が、また聞けるだろうか。
きっと、楽しいことが起きるに違いないと、楽しみにしています。
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幻想の一年、夢のやうな将来。
おっぱい!!!!
今日は志望校の模試を受けると云うので、色々尽くしてきた訳なのであるが、まさかこうも簡単に心がかき乱されるとは思っても見ていなかった。それもこれも全部、隣で黙々と試験を受けている制服姿の、――恐らくは母校からもう少し北に行ったところにある進学校に通っている女生徒の、その胸元、――つまり「おっぱい」が原因であつた。――
明らかに異常としか言いようがない。白い夏用のセーラー服を弾けさせんばかりの膨らみは、大きさにしてバスケットボールぐらいであろうか、横にも縦にも30センチは彼女の胸元から飛び出している。それに引っ張られて制服にはシワが出来ていたり、脇のあたりなどに変に折り目がついていたりしているのであるが、彼女の本来の体格には合っていないのか、お腹の辺りはダボダボと生地が余っている。彼女が消しゴムをかけると、それに合わせて揺れる揺れる。机の縁に当たれば、その形に合わせて柔らかく変形する。下に何枚も着ていないのか、パンパンに張った制服には薄っすらとブラジャーと思しき四角い模様が浮かび上がっている。時として彼女が肩を揉む仕草をするのは、やはり途方もなく重いからであろうか。
しかし、俺にはそんな光景が信じられなかった。
――女性の乳房がここまで大きくなるのか?
俺は彼女が席についた時から、純粋にそんな気持ちを抱いていた。どう考えてもありえない。彼女の顔よりも、俺の顔よりも、まだまだずっと大きい胸の膨らみは白昼夢のレベルである。現実に存在していい大きさではない。もし、ほんとうに存在するのなら、確実にネットだとか、テレビだとかで話題になっているはずである。受験のプレッシャーに負けて頭のおかしくなった女生徒が、詰め物をしている、――そうに違いない。このおっぱいは偽物である。もしくは俺は今、幻想を見ている。――
そう思わなくてはこちらの頭がおかしくなりそうだった。そもそも一体何カップなのかも検討がつかない。P カップ? U カップ? Xカップ? いやいや、Z カップオーバーと云われても何も不思議ではない。
しかしもしそうだとして、ならば一体どうやったらそんな大きさになるのだろう。小学生の頃から大きくなったとしても、一年に5カップ弱は大きくならなければ、こんな暑い時期にZ カップを超えることは出来ない。すると、中学を卒業する時点で少なくともP カップは無くてはならない。……いやいや、今の大きさもそうだが、中学生でP カップだなんて、そんなばかなことはありはしないであろう。しかし、現実にこの大きさになるにはそ��くらいの成長速度が必要である。やはり偽物としか思えない。……
いや、そうでなかったとしても、こんな可愛らしい女子高校生に、こんな大きなおっぱいを与えるなぞ、神はあまりにも不平等である。彼女を初めて見た時、その巨大すぎる胸の膨らみに脳が麻痺したのか、まず俺が眺めたのは彼女の顔だった。黒い艷やかなセミロングの髪の毛を軽く後ろで束ね、ふんわりとした目元に、指で摘んだような鼻に、すうと真横に伸びた唇、白い肌、長いまつげ、……まさに完璧な瓜実顔と云ってもよかろう。おっぱいがまるでなかったとしても、他の女性とは一線を画している。――
もうこれ以上問題を解くなんて出来ないと判断した俺は、まだ開いて���らいない化学の問題用紙を一瞬間眺めた後、取り敢えず物理の回答を見直すことにした。チラリと目を向けると、彼女は胸に邪魔をされながらも一生懸命に問題を解いている。普段なら焦る心地ではあるけれども、もう今日は何もかもを諦めてしまった。俺は机に突っ伏すと、隣で繰り広げられているであろう蠱惑的な光景に、残り時間いっぱい思いを馳せることにした。
例の模試からまる二ヶ月、俺は予備校へ通いながら何の進展のない日々を過ごしていた。結局彼女はあの後、俺が放心しているうちに試験会場を後にしてしまっていたから、連絡先も���換できていないし、そもそも声すら聞いていないのである。それでも制服から高校が判明したから、友達からは校門で待ち構えろと云われたのだが、そんなストーカーまがいのこと、冗談でも俺にはできない。ただただ悶々とした日々を過ごしている一方であった。
で、いま何をしているかと云えば、この時期から、――ちゃんと云うと8月のとある週から、この予備校では夏期講習が行われるから、浪人生である俺は必ず出席しなければならない、――と、ここまで云えば分かるだろうか。そう云えば去年も行ったような気がするので、恐らくは現役生も交えた講習である。高校生からすると、中々新鮮味があるだろうが、毎日をここで過ごしている俺からすれば、全くもって面白くない。――
と、思いつつ、昨日から解きかけで残しておいた数学の問題を解こうとノートを取り出したのだが、ふと隣の席に座ってくる人影が視界の隅に見えた。授業開始にはまだ時間はあるので、空いている席はたくさんある。前にも後ろにもある。そんな中でわざわざ俺の隣に座ってくるのは、一体誰だ……? と思って見てみると、――
――彼女だった。
見間違えようがない。相変わらず、風船でも入れているのではないかと思うほどセーラー服をパンパンにさせ、髪の毛を後ろで束ね、あの可愛らしい顔を若干こわばらせている。同じようにテキストとノートを取り出した彼女は、下敷きで顔を軽く扇ぎながら、何をするわけでもなく黒板をぼんやりと眺めていた。
――それにしても大きい膨らみだ。真横に居るものだから以前よりもその膨らみは大きく感じられる。今日はブラジャーの跡こそ見えないけれども、セーラー服が破れてしまわないかこちらがハラハラするほどに、胸の頭だとか、脇のあたりだとか、背中のあたりだとかが張っている。彼女が顔を扇ぐ度に、机に当たってふにふにと形を変えるおっぱいは、見ていても心地よく感じられる。それに、何とも重そうに揺れるのである。もはやここまでされては、決して詰め物だとは云えない。確かに俺の真横には、途方もない重量を持つ塊がある。
「おはよう」
もうどうしようもなくなった俺は、意を決して彼女に話しかけた。
「お、おはようございます」
とおどおどした声が返ってきたので、出来るだけ朗らかに、彼女と再開した時に備えて練習した言葉を云う。
「何ヶ月か前の模試に居なかった? ほら、O大学の、……」
「はい。たしかあなたは、……私の隣に居ました、……よね?」
と、首をかしげる、その顔には笑みが。
「そうそう。あまりに一生懸命解いてたから、なんか面影があるなーって思ったけど、やっぱりそうだったんだ」
「ふふふ、私も隣で一生懸命解いてる姿は良く憶えてますよ」
「隣に座ったのは偶然?」
「いえ、実は誰も知ってる人が居なくて心細かったんです。……」
と彼女は恥ずかしそうに笑った。
話はそれから自己紹介の流れになったのであるが、とにかく胸元の存在感がすごくて、何度も何度も目をやりそうになった。聞くと彼女の名前は沓名 楓(くつな かえで)と云う。苗字は珍しいから名前で呼んで欲しいとのことだけども、初対面の女子高生を下の名で呼ぶ、その気恥ずかしさと云ったらない。が、彼女はほんとうに気にならないのか、むしろ言葉に詰まる俺を見てくすくすとこそばゆく笑っていた。
物理選択と生物選択で俺たちは分かれることになったのであるが、離れ離れになるのはそれくらいで夏期講習のコースは凡そ一致していたから、その後も一緒に受けることになった。その外見に似合わず、意外にも楓はお茶目で、授業中にもしばしば筆談で会話をした。中でも面白かったのは彼女は絵が上手く、教壇に立つ先生の似顔絵を描いては笑わせてくる事で、それが唐突に見せてくるものだから、授業中に何度も何度も吹き出すハメになってしまった。
純粋に楽しかった。もちろんおっぱいは気になり続けてはいたけれども、再び数学の問題に向かう余裕ができるほどに、彼女と授業を受けるのは楽しいと感じられた。だから俺はつい楓に、
「大丈夫?」
と云っていた。もう何度も彼女が肩に手をやるから気になったのである。
「へ? 何がです?」
「いや、肩が痛いのかなって」
と云うと、楓の顔は一気に真っ赤になる。
「あ、えとですね。……その、重くて、……」
「え?」
「お、おっぱいが重くてズレちゃうんです。……」
と二つの膨らみを抱えながら小さな声で云う。分かってはいたが、デリカシーのなさすぎる問いに、後悔が募る。
「ごめん。今のは無神経すぎた。許してくれ」
「いえ、云ってくれた方が、お互い気が楽になりますから。……」
しばらく無言が続いた。俺は居心地の悪さにまたノートに向かってまだ解けきっていない問題に向かうことにした。楓はぼうっと黒板を眺めていたのだが、いつしか同じようにノートに向かって、何やら一生懸命に書いていた。
もう残すところ授業は後一つである。いつのまにか予備校でも屈指の変わり者と評判の高い数学のS 先生が教壇に立っており、気がつけば受講カードが配られてきた。
その時間、彼女と目を合わせたのは結局、受講カードを手渡した時だけであった。
「柴谷さん」
と、テキストを片している俺に、楓が声をかけてくる。
「今日はありがとうございました。あのまま声をかけられなかったら、心細さで死んでしまったかもしれません」
「ははは、生きててよかったよ。俺も今日は楽しかった」
「それで、これを、……」
とノートの切れ端を折り曲げたのを俺に手渡して、………こなかった。途中であの豊かな胸に丸め込まれる。チラリと見て唸る。
「………やっぱり、これは明日にします! さようなら!」
と云って、楓はぱぱっと教室から出て行ってしまった。残された俺は彼女が何を渡そうとしたのか気になったけれども、それよりも彼女とお近づきになれた嬉しさと、中々上手く事が運んだ安堵にほっと息をついて、体から力を抜いた。自習室に行くのはそれから30分もしてからであった。
結局、楓があの時何を渡そうとしていたのか分からずじまいであった。明日にしますと云っていたのが、また明日にしますになって、そして明くる日も、また明日にしますになり、それが続いてとうとう夏期講習も最後の日となってしまった。とは云っても、俺たちはそのあいだ、朝来てから帰るまで、時には自習室で夜遅くまで籠もる時もほとんど一緒に居たからあまり気にはなっていない。気になる気にならないと云う話なら、楓のおっぱいの方がよっぽど気になっている。
彼女は胸の大きな人にありがちな、太って見えることを非常に気にしているようで、歩く時には必ずと云っていいほど制服のお腹のあたりを抑えていた。それが却って扇情的になっていて、俺はいつも目のやり場に困っているのであるが、確かに抑えていないと二回りは横に広がっているように見えてしまう。それがなぜかと云えば、恐らく巨大な胸を入れるために自分の体格に合わない制服を着ているからであろう。バストはもとよりお腹周りに余裕があるせいで、いわゆる乳袋が出来てしまっている。それに袖もブカブカで、しかもその余った袖が胸に引っ張られるせいで、横から見ると一回りも二回りも腕が太く見えてしまう。要はおっぱいのせいでせっかくのセーラー服を上手く着こなせていないのである。着る物一つにしても、楓は苦心しているようであった。
彼女のおっぱいについて気になったと云えば、もう一つある。それは一緒に自習室に行った時のお話で、楓は至って真面目に勉強を進めるのであるが、その日は疲れていたのかよくあくびをしていた。眠い? と聞くと、めっちゃ眠いっす、……と云うので、寝てもバチは当たらないから一眠りしな。起こしてあげるからと云うと、うぅ、……いつもは逆なのに。……と云いながら机に突っ伏してしまった。
……おっぱいを枕にして。気持ち良さそうな顔を、少しだけこちらに向けて。
俺もあのおっぱいを枕にしたらさぞかし気持ちがよいだろうと云う想像はしていたが、まさか本人がするとは思ってもいなかった。テキストやらノートやら全てを押しつぶしてなお余りあるおっぱい枕は、彼女の顔を柔らかく受け止めていた。しかもうつ伏せなものだから、絶対にいい匂いがする。あのおっぱいで出来る谷間に俺も顔を突っ込んでみたい。――俺はそんなことを思いながら、写真を撮ろうとする手を止めて参考書に向かったが、今度は机に重々しくのるおっぱいに手が伸びようとする。なんせ彼女はすっかり寝息を立てて寝ているし、今は周りに誰も居ないし、ちょっと突いてもバレることは無い。あのブラジャーの模様をちょっと触るだけ、なぞるだけ、……
もちろん、思うだけで終わった。何度かトイレに行くフリをして気を紛らわせていたら、楓が起こしてと云った時間になっていたので、その日はそのまま背中をトントンと叩いてやった。体を起こす時にストン、ストンと地に向かって落ちるおっぱいを見られただけでも俺には充分であった。
「とうとう今日が最後なんですね」
と、帰り際に楓が云った。
「だなぁ。あっという間だったなぁ。……」
「あの時話しかけてくれて、ほんとうにありがとうございます、柴谷さん。夏期講習がこんなに楽しくなるなんて思ってませんでした」
「俺もだよ。この調子で一緒に大学に行こうな」
とんでもないことを云ったような気がするのであるが、楓はにっこりと笑って、
「行けますよ、私たちなら。きっと」
「俺は一度失敗してるからなぁ、……ま、頑張ろう」
「ふふ、柴谷さんなら大丈夫ですよ。……あ、そうだ。渡したいものが」
楓は例のノートの切れ端、……ではなくルーズリーフを数枚手渡してくる。今度はちゃんと俺の手に渡った。
「えっと、あ、今は見ないでくださると嬉しいです。……色々書いちゃったので。………」
「分かった。家に帰ってからゆっくり読むよ」
「お願いします」
俺たちはそれから一緒に駅まで歩いて行って、楓の乗る電車が来るまで待って、これほどにない寂しい別れに涙を飲んだ。
楓から渡されたルーズリーフを読んだのはそれから一週間後の深夜であった。何度も何度も渋って渡してくれなかった上に、いざ渡してくれたときの真剣な眼差しを思うと、どうしてもそのくらいの日数は経たないといけないような気がしたのである。しかも書き出しがこうなのである。――
柴谷仁士様へ
ここに書いてゐる事柄は母にも、姉にも、友人にも明かしたことの無い、私の胸に関することです。本当は直接口で云へると良かつたのですが、恥ずかしさに負けてしまひました。回りくどい方法をご容赦ください。なにぶん初めて人に打ち明けるので、ひどく恥ずかしいのです。ですが、柴谷さんならきつと許していただけると信じてゐます。
さて、夏の日差しが強い中、―――
それからしばらくは恋文とも取れるような文章が並んでいるのであるが、二枚目からようやく本題に入ったらしく、彼女の生い立ちから順にいわゆる「成長記録」が記されている。原文のまま写すとこうである。
初めて私の姿を見た時、どう思ひましたか? 柴谷さんも驚いたことでせう。ええ、もう初対面の人にも、同じクラスの人にも、昔から気心の知れる幼馴染にも驚かれてゐるのですから、きつとさうに違ひありません。初めてお会ひしたのはO 大学のオープン模試でしたよね。私の姿を一目見て、目の色が変はつたのはよく憶えてゐます。その後すぐに視線を前に向けて、机の上にあつたポレポレを取つてゐましたね。ああ、怒つてゐるのではありません。安心してください。
それでもう一度問ひますが、二週間一緒に過ごしてみて、私の体についてどう思つてゐますか? これを読む頃には忘れかけてゐるかもしれませんから、スリーサイズを記しておきませう。上から148-54-72 です。どうです? すごいでせう? ウエストも、ヒップも、倍にしたところでバストには敵はない。……これが私の体なんです。胸だけが異常に発達した決して美しいとは云へない体、……それが沓名楓なんです。
ちなみに、アンダーバストはぴつたり60センチとなつてをります。カップ数は日本だと2.5センチ刻みで、A カップ、B カップ、C カップ、……と云ふ風に変はります。さて、バスト148センチ、アンダーバスト60センチの私は一体何カップでせうか? 5分以内に答へよ。
せうもありませんでしたね。すみません。正解は7Z カップです。聞き慣れないかもしれませんから、一応云つておきますが、7Z カップとはZ カップからさらに6つ上のカップ数で、アルファベットで云ふと二週目のF カップとなつてをります。どうです? すごいでせう? 私にとつて、Z カップは小さいのです。先程試したところ、そこらぢうからお胸のお肉がはみ出してしまひました。一応Z カップのブラジャーでも、顔はすつぽりと包めるくらゐは大きいのですけどね。……
さて、こんな異常な胸を持つてゐるせいで、私はこれまで何度もいぢめに会ひました。小学生の時、中学生の時、――高校生の今ではみんな黙つてゐますが、陰口はたまに聞きます。あ、何度もと云つた割には多くて三回でしたね。すみません。
最初のいぢめは小学生の時でした。私の胸の成長は早いもので確か小学5年生か6年生かそのくらゐの時に始まりました。私もその時は普通の女の子でしたから、当然嬉しかつたです。同じやうに大きくなり始めた友達もゐましたし、それに成長したと云つても、可愛らしい大きさですから、少し羨ましがられるだけでした。
けれど私の胸は異常だつたのです。確か小学校を卒業する頃にはK カップか、L カップと云ふ大きさにまで成長してゐました。もちろん、今からすればしごく可愛らしい大きさには違ひありません。ですが、AAA カップにも満たない子がほとんどの小学生の中に、L カップの小学生が紛れてゐる場面を想像してみてください。……どうでせう? いくら恥ずかしがつて隠さうとしても、目立つて仕方ありませんよね。今でも集合写真やら何やらを眺めると、すぐに私の姿が目についてしまひます。あ、機会があれば見せませうか。すごいですよ? ほんたうに一人だけ胸が飛び出てゐますから。
で、本題に戻ると、そんな目立つ子がいぢめのターゲットにされるのは当たり前のことで、しかも私の場合胸の大きさと云ふ、女の子からも、男の子からも標的にされやすい話題でしたから、一度ハブられると、もう止まりませんでした。身体的な特徴が原因のいぢめは止めやうがありません。具体的な内容は、女の子からはハブられ陰口、男の子からは胸の大きさを揶揄するやうな行動や仕草、――例へばボールを胸に入れてどつちが大きいか比べたり、……さう云ふ感じです。
両親には云つてません。――いえ、ちやんと云ふと、恥ずかしさから何も云ひ出せませんでした。先生もまた、私を妬んでゐたのでせう、こちらは勇気を出していぢめを訴へたのですが、特に行動を起こしてくれませんでした。ただ、中学までの辛抱だから、とは云はれましたね。問題を投げたのでせう。けれども、昔の私はその言葉を信じてひつそりと絵を書いて日々を過ごしてゐました。だから絵はそこそこ上達してゐるのですよ、褒めてくれるのは柴谷さんが初めてでしたが。……
それで中学に上がつて何か変はつたかと云へば、何も変はりませんでした。あ、いや、お胸だけはすくすくと成長してゐましたから、「何も」と云ふのは違ひますね。大きくなる波がありますからはつきりとは云へませんが、だいたい2、3ヶ月に1カップ程度は成長してゐました。ですから、中学1年の夏にはバスト98センチのM カップ、秋にはバスト103センチのO カップ、冬の記録はありませんから飛ばして、中学二年に上がつた時の身体測定では、バスト107センチのQ カップ、……とそんな感じです。どうです? すごいでせう? 柴谷さんは男性ですからピンと来ないかもしれませんが、O カップだとか、P カップだとか、そんな大きさになってもこの速度で成長して行くのは、はつきり云つて異常です。でも止まらないのです。日々食べるものを我慢しても、どんなに運動をしても、何をしても、この胸はほとんど変はらない速度で大きくなり続けて行くのです。周りの子たちがC カップとか、D カップになつたと沸き起こる中、私だけM からN へ、N からO へ、O からP へ、P からQ へ、どんどんどんどん大きくなつて行くのです。優越感も何もありません。ただひたすら恐怖を感じてゐました。このまま胸の成長が止まらなかつたらどうしよう、もう嫌だ、嫌だ、普通の大きさになりたい、普通になりたい、……さう思つて毎晩ひとしきり泣いてから床についてゐました。
ブラジャーに関しては、姉が(世間一般で云ふところの)立派な乳房を持つてゐますから、この頃はまだお下がりでなんとかなつてゐました。尤も、私の方が華車な体つきをしてゐますから、カップ数的には小さめのブラジャーでしたが、兎に角、アンダーバストの合わないブラジャーに、無理やりお胸のお肉を詰め込んで学校に通つてゐました。しかしそれも中学二年の夏前には終はりましたが。
何せ6月になる頃には私のバストは113センチにもなつてゐましたからね。カップ数はT。姉はP カップでしたから5カップも差があると階段を降りるだけでも溢れてしまひます、仕方ないんです。私は初めて母親に連れられてランジェリーショップでオーダーメイドのブラジャーを注文しました。別にT カップのブラジャーは海外では市販されてゐるやうでしたから、それを購入しても良かつたのですが、グラマーな方向けしかないらしく、私の体には絶対に合はないだらうと、それに胸にも悪いからと、さう店員さんに云はれて渋々購入した、とそんな感じです。なんと云つても高かつた。母は決して値段を教へてくれませんでしたが、一度に三つ四つは買はないと日々の生活に間に合ひませんから、父に早く昇進して給料を上げてくれと云つてゐる様子を何度も見ました。
ですが、オーダーメイドのブラジャーを着けた時の心地よさは、何事にも例へがたい快感がありました。……あ、それよりも、夏だから水泳の授業がどうなつたか気になりますか? ふふふ、これについては上手く行つたのですよ。何せ見学が許可されましたからね! 私の居た中学では7月の第二週と第三週が水泳の授業だつたのですけど、もうそのころには私のバストは129センチのV カップになつてましたから、合ふ水着なんて、――況してやそんなV カップが入るやうなスクール水着なんて、全国どこを探しても無いのですから仕方ありません。一人プールサイドでこの忌々しいお胸を抱きながら、体育座りをして楽しさうな光景を眺めてゐました。ま、さうやつて見学してると、後からサボつてるだの何だのと嫌味をたくさん吐きかけられたのですけどね。
結局、私は中学生の時は一人ぼつちでした。これで胸が少しでも普通なら、――せめて姉のやうにP カップ程度で成長が止まつてくれてゐたなら、そんなに目立つこともなく、後々、あゝさう云ふ人も居たよね、で済んだでせう。しかし、中学を卒業する頃には、先のV カップが可愛く見えるほどに私のお胸は大きく成長してしまひました。記録を乗せませう。中学二年の秋になるとバスト122センチのW カップ、冬はそれほど変は��ませんが、三月になる頃にはバスト126センチのX カップ。恥ずかしながらこの時やけ食いをしてゐまして、少々アンダーバストが大きくなつてゐます。ですが、お医者様から健康になつたねと云はれたので、今でもその時の体重を維持してゐます。もちろん、体重と云ふのはこの醜いお胸以外ですけどね。あるのと無いのとでは10キロ15キロは違ふのですよ。で、中学三年の身体測定ではバスト129センチのY カップ。夏にはたうとうバスト134センチとなり、晴れてZ カップになつてしまひました。さう云へばこの時から成長が鈍化したやうな気がします。冬にはバスト137センチの2Z カップ、卒業する頃には138センチの3Z カップ。どうです? すごいでせう? Zカップオーバーの女子中学生なんて、私以外に居ますか? 居てもK カップ程度でせう。そんな小さなバストなんて小学生の時にすでに超えてゐます。いやはや、かうして書いてみると自分でもすごいですね。3Z カップの中学生なんて、今懐かしくなつてアルバムにある写真を見てゐるのですが、もう物凄いです。妊娠してゐるみたいです。隣の子の腕が私の胸で隠れて、この写真をみたあの人達に、……ああ、泣きさう。……嫌だ。もう思ひ出したくもない。……
ああ、さうだ、昔ほんたうに辛かつた時、カッターで胸を切り落とさうとしたことがありました。ですが、もちろんそんな度胸はもちろんなく、見ての通り未遂で終はつてゐます。安心してください。一応胸の付け根のあたりに2センチくらいの跡はありますが、それくらゐです。私は大丈夫です。ふふふ、見たいですか? 私は見せたい方ですから、いつでもおつしやつて下さい。もちろん人気のない場所でお願いします。柴谷さんだけにお見せしてあげますから。
一人ぼつちが辛かつたことは云ふまでもありません。しかし良かつたこともあります。絵は描けましたし、勉強は出来ましたし、そのおかげで県内で一番の進学校へ通うことが出来ました。高校の入学式の日のみんなの視線は痛かつたですが、次第に慣れたのか、誰も何も云ひはしなくなりました。みんなどこか引いたやうな目で私を見てくる。胸の話はタブーとして扱われてゐる。……中学の時のやうに強烈に無視されたりする方がまだ居心地は良かつたのかもしれません。私はここでもまた一人ぼつちです。誰も何も話題にしない。自分が幽霊になつたやうな感覚を感じながら過ごしてゐます。ほんたうはみんなと喋りたい、別に胸のことを話題にしてもいいから楽しい雰囲気に混ざりたい、……さう思ひながら過ごしてゐたら、いつの間にかあと半年で卒業となつてゐました。もう無理なのでせうか。……
あ、湿つぽくなつてしまひましたね。いけないいけない。それで最後に聞きますが、私の姿をご想像して、どう思つてゐますか? 柴谷さんは、こんな醜い体の私を受け入れてくれますか? 私はあなたが思つてゐるよりも小心者です。心も醜いです。ですけど、これからも仲良くしてくれると大変嬉しく思ひます。
いえ、此処まで読んで頂いたのなら、もうそれだけで嬉しいです。ありがたうございました。
あんなにけろりとして話すものだから、夏期講習に来たのに知り合いが居ない、と云うのは変だと思っていた。その原因があの大きなおっぱいにあると云うのは、うっかり楓が寝ているときにおっぱいに触って気が付かれでもしたら、恐ろしいことになっていたかもしれない。俺はこの文を読み終わった時、自然に携帯へと手が伸びていた。もちろん、彼女に読んだことを伝えるためである。
――が、その時やっと気がついたのだが、俺達は連絡先を交換してなかった。いつも早めに席に着く俺を見つけた彼女が隣に座って、そして電車に乗るまでずっと一緒に居るものだから、傍には楓が居るのが当然のようになっていたのだった。俺は今すぐにでも駆け出したかった。今すぐあの憐れな少女のもとに行って、抱きしめてやりたい衝動に駆られた。だけど名前と特徴しか分からないからどうしようもなかった。俺は手紙を読み直すことしか出来なかった。もう一度携帯に手が伸びたが、出来るのはそれだけだった。
思えば楓はもう少し上の大学、――と云っても、日本にはあと二つほどしか無いが、話を聞いていると、それを目指しても良いくらいには勉強は出来ているようであった。ならば俺が出来ることは彼女が同じ学校を志望していることを信じて、自分も合格できるように勉強にはげむことである。それに気がついてからは、これまでのだらけた生活から一転して、勉強をした。と、云うよりしてゐる。模試の結果は相変はらずであったけれども、楓を思うと全く気持ちはめげなかった。
だがそうやって頑張っていると、月日は思いの外早く巡って寒さに震える季節になっていた。するとまず訪れるのは忌々しいセンター試験である。俺は今、そのための冬期講習へと向かっている。センター試験など四分の一程度に圧縮されるから出来は気にしなくてもいいのだが、あそこでコケると自分の士気に関係するので、決して侮ってはいけない。
いつもの教室に入った俺は、一年ぶりのカリカリした空気に身を漂わせていた。焦る者、余裕のある者、黙々と自分の道を突き進む者、まだ現実味の無い者、……色々居るが、俺はどちらかと云へば不安で押しつぶされそうになっている者である。あの手紙は肌身離さず持ち歩いているけれども、自分の実力不足を感じてしまうとやはり挫けそうになる。……
と、そこで、隣の席に座ってくる者が居た。席は他にも空いているのだから他のところへ行けばいいのに、と思った。一目見て知り合いじゃなければ席を移動しようと思った。それとは別にそんなやつの顔を見てみたくなった。俺は顔を上げようと決した。と、その時、
「お久しぶりです、柴谷さん」
��云う声が降りかかった。
――楓だった。相変わらず黒い冬用のセーラー服をパツンパツンに押し広げ、可愛らしい顔をこちらに向け、軽く手を振りながら微笑んでいた。夏に会った時と違うのは、髪が少し伸びたのと、胸元の膨らみが一回りか二回りほど大きくなったことであろうか。もうこちらの席にまで届こうとしている。……
「久しぶり、楓。元気だった?」
「まずまずですね。柴谷さんは?」
「ダメダメだな。ダメダメ。もうあれから全然偏差値は上がってないし、泣きそう。助けてくれ。楓になら頼める」
と、本音を吐き出した。それは例の文に対する返事でもあったが、楓にはそれが何となく分かったようであった。脱いだコートを自分の体にかけて、体ごと俺の方へ向くと、
「ちょっと失礼します、――」
と隣に居るのに、さらに距離を詰めてくる。
「か、楓?」
「下からならたぶん分かりませんよ?」
とお腹のあたりで手をもぞもぞと動かす。見ると制服の裾を軽くめくっていた。
「い、いや、それは、……それはダメだ。歯止めがかからなくなってしまう。ほらほら、あっち行った」
俺は彼女を向こうへ押しやろうとしたのだが、力を入れれば入れるほど、グイグイとこちらへ密着してくる。
「ふふふ、やーい、へたれー」
「うるさい。……ほら、早く、――」
と、その時、肘のあたりを中心に、腕がギュッと、途方もなく柔らかい何かに押し付けられる。
「まって楓さん、マジで、マジであかんから、……うおお、やばいやばいやばい」
だがそんな必死な俺を他所に楓は、
「柴谷さん、柴谷さん、私のおっぱいなんですけど、あの日からまた大きくなっちゃって、今大変なことになってるんですよ」
と明るい声をかけてくる。
「このあいだも制服が破れちゃったし、大きすぎるのも大変ですよね。しかも今朝測ったらまた大台に乗ってまして、……」
「楓、それまた後で、後でお願い。今聞いたら、……まって、落ち着いて、楓、ちょっと楓!」
「もう、柴谷さんのせいなのに。また成長するの早くなったんですからね、ちゃんと分かってます? 責任取って下さいね? 云いますよ?」
と口を俺の耳の近くへ。
「160.2センチの12Z カップ、つまりアルファベット二週目のK カップ、……になっちゃってました! どうです? すごいでしょう? 身長よりも大きくなったおっぱい、味わいたくないんですか? ほれほれ、何とか云ってみなさい」
と、楓はぐにぐにと俺の腕をその12Z カップのおっぱいに押し付けてくる。しかし一体何なんだそのバストサイズは。160センチだって? 冗談としか思えない。いくらなんでもありえなさすぎる。嘘だ。そんな大きなおっぱい現実にあるはずがない。そうだ、幻想だ。いま腕に感じている感触も、今目の前に見えている少女とバルーンのような塊も、全て幻想だ。ほら、頭がクラクラしてきた。ようやく目が醒める。それにしてもいい夢だった。――と、あまりにも気持ちの良い感触に、俺の頭はすっかり焼け焦げてしまい、彼女の支えを失うと同時に机に突っ伏してしまった。
そうやって俺たちは久しぶりに再開したのであるが、やることは数ヶ月前と何も変わってなかった。唯一離れ離れになる物理生物の授業以外は常に一緒に行動をともにした。さすがにセンター試験前だと云うので、冬期講習は夏期講習よりも人が多く、並んで座れないときが時としてあったが、そういう時はさっさと予備校の外へ出てサボった。近くには何も無いが、楓となら一緒に街を歩くだけでも楽しいものであった。
冬期講習はそうやって過ごした。お互い大きな試験前だと云うのに、のんびりしているように感じられるが、気持ちの面で落ち着けるなら無駄ではない。不安は失敗の種である。
「あの手紙についてなんだけどな、……いや、内容については何も云わないことにして、一つ聞きたいことがあるんだが」
そんなある日、俺はどうしても聞きたかったことを、電車を待っている時に聞くことにした。
「なんです? ――うわ、寒い!」
服を着こなせないというのは昔語った通りであるが、冬でも例外ではなく、ひどい冷え込みだと云うのに彼女はコートをただ軽く肩にかけているだけだったので、風が吹く度に寒がっていた。
「何で歴史的仮名遣ひで書いたの?」
「へ? ああ、それはですね、最初の導入を書く時に恥ずかしすぎて、……で、仮名遣ひを変えて書いてみたら筆が乗っちゃって、……とにかくあんまり深い意味はないです。あ、柴谷さんの電車来ましたよ」
楓の向く方を見てみると、確かに黄色いストライプの刻まれた電車がホームに入ってきていた。
「なるほどね。じゃ��、またね楓」
「ええ、また明日も、よろしくおねがいします」
と俺は折良く開いた扉の中へ入った。中まで進んで窓から楓を見ると、彼女も俺を見ていたらしく手を振られる。それを見て、俺も手を振り返す。そうやっているうちに電車が出発して、彼女が見えなくなってしまったが、まだ手を振っているような気がして、ホームが消えてしまうまで俺は、他の乗客に見えないよう小さく手を振り続けていた。
あっという間である。このあいだ楓と一緒に冬期講習を受けていたかと思ったら、センター試験がいつの間にか終わって、心の準備が出来ていないと云うのに今日は二次試験である。しかももうあと10分もしないうちに終わってしまう。一年と云う長い期間をかけても手応えが去年と全く一緒であった。今年もダメだと云う悲愴感が俺の頭に渦巻いていた。
そう云えば楓はどうなんだろうか。冬期講習の時に志望校が同じO 大学だと判明したから、行きがけによくよく周りを見ながら試験会場の棟まで来たのだが、あの異常な膨らみを結局見つけることができなかった。尤も、俺は坂道の方の門から入ったから、もし彼女がモノレールの駅からやって来たと云うなら、十中八九会えないであろう。とすれば、後期試験なぞ無いから本当に一生会えずじまいで終わってしまうかもしれない。また連絡先を交換せずに最後の別れをしたのだから、俺が滑ればもう二度と会うことはなかろう。
まったく、この一年間は幻想を見ていたような気分であった。沓名 楓と云う頭はいいし、可愛いし、おっぱいはこの世の誰よりも大きな女子高校生と会って、仲良くなって、ついにはその膨らみに触れて、これが幻想でなくては何なのだろう。願わくば、答案用紙が回収されていくこの光景も幻想であってほしいが、今までいい思いばかりであったからたぶん現実である。
俺はトボトボと試験会場を後にした。外はすっかり暗くなっているけれども、地元と比べてかなり明るい空が広がっている。地図上ではこの大学は府の中でもかなり北の方に位置していて、一方は山、一方は世界でも有数の大都市が広がっているそうだが、なるほど確かにそちらの方向はかなり明るい。月すらも白い霞となって見えづらくなっている。
変わらずトボトボと歩いていると、三人の親子連れが目についた。父母は平凡そのものであるが、恐らく今ここで試験を受けた人の姉であろうか、楓と同じ艷やかな黒い髪の毛に、楓と同じような目鼻立ちをして、それに、――これだけは楓には全く及ばないが、それでも普通の女性にしては物凄く胸が大きい。自然に涙が出てくる。恐らく今この場で偶然彼女と再開しなければ、もう声すらも聞けないと思うと、この楓にそっくりな女性にすがりつきたくなってきた。もうさっさとホテルへ帰ってしまおう。そしてぐっすりと眠って、今日のことはひとまず忘れて、明日近くに住んでいる友達と目一杯遊んで、気分を一新しよう。――
「仁士さん?」
と、歩き始めた俺に声がかかった。それは今年一年間で、合わせて一ヶ月ほどのあいだ聞いた、そして今俺が待ちわびている、意外とお茶目な声であった。
涙を拭って振り向くと、彼女は居た。後ろから光が差しているから、はっきりとは見えづらいけれど、胸のあたりの丸いシルエットと、こじんまりした背は確かに楓である。
「もしかして、泣いてたんですか? ――ああ! ほら、やっぱり! これ使ってください」
とハンカチを手渡してくる。
「ありがとう、楓。でも、ごめんな。今年もやっぱり俺はダメだったよ。ごめん、ほんとうにごめん。……」
「いいえ、そんなことありません! まだはっきりと分かった訳ではないんですから、諦めないでください!」
意外と大きな声に、俺も周囲も驚いた。楓は本気で怒っているようで、キッと睨みつけている。
「ああ、そうだな。そうだよな、楓」
「そうです。仁士さんは肝心なところでへたれるんですから。……ほら、邪魔になってますから行きましょう」
と楓に手を取られて歩き始めたのであるが、残念なことにすぐ手を離されてしまった。けれどもすぐに手をつなぎ直されて、小声で、
「仁士さん、私たちは恋人同士ですからね? 分かってますよね?」
と云う。何が何だか分からないうちに、楓はまた歩き始めて、先程まで俺の目に写っていた三人の親子連れへ向かって行く。……
「どうしよう楓、今が今日の中で一番緊張する。助けてくれ」
「くすくす、……大丈夫ですよ。お母さんたちにはよく話をしてますから、いつも通りの仁士さんでいてください。――」
そう云って楓は俺の手を強く握ってくれたのであるが、何の心の準備が出来ていない俺は、やっぱり緊張してコチコチに固まってしまった。それを見て、彼女はくすりと笑う。俺もおかしくなってきて笑う。――幻想はまだ、続いているようであった。
(をはり)
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十二月
今年の十二月は鞄の中が牛乳まみれになったことから始まった。ボストンバッグに入れていた瓶の蓋が、事もあろうに外れてしまっていたのである。そして、まず手洗いにでも駆け込むべきところを、そのまま列車に乗ってしまった。気が動転していた。しかししばらく時間の経つうちに平静を取り戻して、終わってしまったことはどうにもならないことに諦めがつき、仕事場についたときに鞄をまるごと捨てた。そのあと、仕事仲間に笑い草にして語った。その鞄は、このように牛乳塗れになるまでに、約十ヶ月のあいだわたしに担がれてきた。それは買い付け��ときは安売りをしていて特段たいした痛手にはならなかったし、捨てた瞬間は厄介払いでもしたかのように清々しい気さえしたものだが、こういうことが積み重なると、さすがに心が弱ってくる。
ここ最近、二週間に一回は、牛乳塗れの鞄のような災難があるような気がしている。それを多いと捉えるのか、少ないと捉えるのかは、その人の人柄や性格などにも寄るのだろうが、わたしからしてみたら致命的に多かった。鍵を忘れて家族の帰宅する二十三時まで外に居なければならないとか、たった五分目を離した隙に自転車の盗難に遭うとか、些細なものだと、間違ったものを買ってきてしまうとか、ハンバーグに玉ねぎを多く入れすぎがためにただのひき肉炒めになってしまったことだとか。本当につまらない話だと思う。つまらない話は、積み重ねても積み重ねてもつまらない話でしかないが、それをたくさん乗せられた人は重さに耐え切れず死ぬんじゃないか知ら。 気丈なつもりでいたわたしも、いよいよ、押しつぶされそうになってしまったというわけである。
もうすっかり十二月だった。人生で十二月を迎えるのは、なんだかんだ言って二十五回目である。そのくせ、いつも初めて迎えるような気持ちになってしまう。人間は、生きるのに必要なこと以外は忘れるようにできている。 九月末に仕事場が移転した。企業拡大により、自分の部署だけが引っ越すことになった。列車の乗り換えも変わり、仕事場への道のりが少し長くなった。変わってからもう二ヶ月は経つのに、わたしの足は今でも稀に以前の乗り換えを目指そうとする。 仕事場では、毎日ちがう笑い話をする。愚痴を笑いに変えるのである。何も解決しないが、単に憂さ晴らしのためだった。でも、意外とこれが労力の要る作業なのかもしれない。強いふりをしているだけの人には。つまり、わたしである。
ハッピー・メリー・クリスマス! ケーキはいかがですか、お嬢さん。 樫の木でできた重厚なドアを開けると、店主が恥ずかしげもなくそう迎え入れてきた。わたしが店に入ってくるのが、硝子越しに見えたのだろう。その言葉は間違いなくわたしにだけ向けられたややおふざけ気味のものだった。 「ハッピー・ハッピー・メリー・クリスマス。楽しい時期ですね。」 「そんなしけた顔で言われちゃあね。」 店主は髪を無造作にかきあげて苦笑した。 「まあおれもそんなハッピーじゃないんだけどね。なにしろ十二月が誕生日だから、おれもいよいよ三十路なわけよ。」 わたしは、おめでとうございます、と言って、なるべくカウンターから離れた席に座った。 「いつもの?」店主でなく、カウンターの端っこに頬杖をついて座っていたノラが言った。わたしは黙って肯いて椅子に座る。ノラは、店主に「いつもの。」とそのまま伝えてまた雑誌を読み始めた。いつもの、といっても、そんなに格好いいものではない。カフェラテである。 わたしはこの店に繁く通う。なぜなら、いつ来ても席が空いているからである。広いわけではない。かといって、狭すぎるということもない。客足が思わしくないのは、駅前の道からやや外れたところにあるためだろう。しかし潰れる気配もない。それはわたしのような常連客が、まるで自分の家かのように通い詰めているからである。 ノラもまた常連だった。いつも同じ席に座っていた。人気のない席なのである。なにしろ、カウンターの端っこには雑貨が山盛りに置いてあるのでとても狭い。そして、しっかりした椅子ではなく、わりと簡易的な椅子が配置されている。ほとんどノラのために用意されたような席だった。 「随分と元気がないようで?」 ノラはくるっと振り返って、めずらしく機嫌よさそうにわたしに話しかけてきた。 「年の瀬は殺傷能力があるね。」わたしは無表情のままで言った。「物憂さだ。」 わたしの吐き出した言葉に彼は、ふうん、だか、へえ、だか、音で言い表せないような返事をして、また目線を雑誌に戻した。スウェットみたいなズボンの膝小僧を居心地悪そうに掻いて、息苦しかったのか薄いキャメルのセーターの胸の部分を軽く引っ張りおろした。ノラを一言でいうなら、近所のこぢんまりとした部屋に住む貧乏大学生といったところか。いつ来ても居るので、たしか学生だったとは思うのだが、授業に行っているのか否かはよくわからない。 店主はカウンターに座るご年配と話し込んでいる。景気良く世間話に花を咲かせながら、ほとんどノラのほうを見ずにカフェラテをカウンターの端に置いた。それを、ノラがわたしのいるテーブルに運んだ。 「もう半分、新年に足を入れているようなもんだ。」ノラが言う。 「どういう意味?」 「諦めと自棄みたいなもんですかね。」 口が止まらないのか、ノラはそのまま席へは戻らなかった。わたしの横へ細い身体をするりとくぐらせ、隣の席とわたしの席とのちょうど真ん中あたりに収まった。 「あの爺さん、ずっとマスターと話し込んでやがんだ。しかも、宝くじの話ですぜ? 当たりもしない紙切れのことを延々と。暇ったらありゃしないね。」 「そう? 夢があっていいと思うけれど。」 「おや。あなたはおれと同意見だと思ってましたけどね。」 「同意見といえば同意見だけどね。」 「なんと。嘘がお上手で。」 カラン、コロロン。ドアに取り付けてあるベルがのっそりとした揺れに躊躇いがちになると、二人目のご老人が杖をついて入ってきた。先にいた宝くじを夢見るご老人が元気に声を掛けるので、どうやら二人は知り合いらしい。 「単位は平気なの。」 何の気なしに、ノラに聞いてみた。彼は肩をすくめて見せる。「あなたに心配されるほどじゃありませんぜ。」
悲しみよこんにちはという言葉が似合うのは素敵な異国の十七歳の女の子だけであろう。 マリオンは艶めく赤みがかった髪をシャンパン・ゴールドを纏った指先で梳きながら「あーあ。ふたご座流星群見られなかったなあ。」と言い言いわたしの隣へ座ってきた。 それは冬のわりに暖かい日の一瞬のことであった。やたら風だけが強くて、わたしは何度も帽子を吹っ飛ばされた。そのくせ曇っていて、空の彼方で繰り広げられていたはずの流星群は沢山の人に待ち侘びられていたのに、ついに姿を見せることはなかったという。わたしは仕事に追い回されぐっすり眠っていたのでわからなかった。 マリオンはきらきらの爪を眺めて溜息をつく。星のことで頭がいっぱいなようだった。何も言わずとも、彼女の目の前にはココアが運ばれてきた。言わずもがな、ノラの手によって。 彼女は知らないだろうが、今日はとある旅客車の廃車日である。わたしは特に列車が好きなのではないけれど、仕事に行くのに乗っているだけでその情報はいつの間にか頭に刷り込まれていた。駅前はいつも通りの賑わいであった。 一昨日のことである。仕事帰りの列車で、大騒ぎをするスーツの群れが流れ込んできた。夜遅かったので、酒でも飲んでいたのだろう、良い歳をして、大きな声で喋っている。忘年会か、とぼんやり思った。きっと、自分の立場も年齢もマナーも、何もかも忘れてしまったのだろう。それが良いことなのか悪いことなのかは、わたしなぞが決めるようなことではない。 ただ、あらゆることを忘れて良い日というのは、なんだか素敵な響きを持っていると思える。
十二月の折でさえ初雪なんか降らなかった。昨年は天から鍋やフライパンさえ降ってきたというのにだ。風に乗って聴こえる歌は、 Gloria in excelsis deo という遠い国の言葉だった。 「ミサだ。」リュカさんが言う。「大聖堂でみんな練習してる。」 街の中には杉の木が点々と生えていたが、どれも等しく雪の衣を纏いはしなかった。不思議とさみしげな光景である。 リュカさんと昨年のストライキは大変だったねと話した。そうそう、鉄の塊が空から落ちてきたのは、さじを投げた料理人および主婦たちの怒りの声だったのだ。とはいえ鈍器が空から落ちてくる様は、今風の言葉を借りて言えば「普通に危ない」はた迷惑なものだったけれど、公安が一日で鎮めてくれて事なきを得た。その一連の流れを何をするでもなく眺めていたノラは、公安が一言漏らした「こんな事があってたまるか。」という真面目一徹の正統派の愚痴に一日中狂ったように笑い転げていた。あれから、一年経つのか。 「一年が早いです。リュカさん。」 「きみはまだ若いから分からないかもしれないけれど、ぼくほどになるともっと短く感じるよ。」 「そんなに歳変わらないじゃないですか。」 「きみの三倍は生きてる。」 「うそつき。」 リュカさんは学校に通っていた頃の二つ上の先輩である。 三倍、とは随分大きく出たものである。読書の量でいえば、わたしが一生読む文章の三倍は摂取しているのかもしれない。リュカさんは学生時代から図書館が友達だった。ヒトの友達がいないわけでもない。その教養の豊富さと人望から、リュカさんは何処へ行っても人に囲まれる性質の人物だった。 「知識の量とか、そういう意味でした?」 「んー。なんのこと?」 「なんでもありませんでした。」 わたしの三倍生きているリュカさんに、わたしの言葉足らずの疑問は届かなかったようである。
同じような不幸が訪れるのではない。人はそれぞれ毎日なにかしらの困難に立ち向かっている。「まただ。」そう思うときは、その類の不幸を貴方が乗り越えられていないでいるから、何度もぶつかっているように感じているだけだ。 これほど真理に近い言葉を耳にしたのは、そう、おそらく七歳ぶりである。
十二月二十七日。樫の木のドアを開けた。耳あたりの良い「カランコロン。」は今日は耳に届かない。おもわず上を見てやると、ベルが取り外されてしまっている。 「いらっしゃい。」店主はグラスを拭きながら言った。「今日は端へすわんないで、こっちへおいでよ。」 店主の手招く先には、ノラだけが居た。今は、ノラしか客が居ないようだ。ノラを客と言っていいものか、そういったところから議論する必要があるなら、頭が冴えるようにチョコレート・ココアをオーダーせねばならないだろう。 「今ね、一年は早かったねって、おれが言ったところ。」店主は人の良い笑みを浮かべた。 「おれは、早かったなんて思わないんですがね。」 ノラは、湯のみを持って緑茶を啜った。どう考えても、裏メニューとしか思えないシロモノである。 「お嬢さんはどう? 今年は過ぎるの早かったかな。」 「そうかもしれないと思ったこともあったけど、やっぱりそんなに変わらない気がします。去年も同じ早さで一年は過ぎていった。」 「ああそうなんだ。じゃあおれだけかあ、今年一年が早かったの。さすがだね、輝かしいね、二十代。」 「最後、三十路川柳みたい。」 「ださ。」 ノラの放った二文字で店主は笑いながら憤慨する。それを見たノラが、史上最高に面白いものを見たとでもいうような人の悪い笑みを浮かべる。まったくもって対象的な二人がゲラゲラと笑うさまをその横で見るような、そんな年の瀬を過ごすなんて、まるで今年の集大成だなあとわたしは残念な気持ちになった。
「リュカさんってすてき。」マリオンは瞳の中にうつる光彩をゆらゆらうっとりさせながら、両手を口の前であわせた。「あたしの三倍生きてるんだって。」 「騙されてるよ。」すかさずわたしは突っ込んだ。でも、マリオンはどうでもいいという風に首を大きく振った。��のたびにスモーキーピンクの髪が揺れ、甘いいちごの薫りがする。 「騙されたっていいわ。」
あした、きみは死ぬかもしれない。あさって、わたしは居なくなるかもしれない。
私小説を書かう。 と筆を持つまでして辞めたわけですよ。わかりますかね、お嬢さん。私小説なんかくだらない。不幸の積み重ねよりつまらない文の集まりですぜ。一つのことを言いたいがために、何百文字と捏造をでっち上げるなんて。酔っ払ったノラは、喉をひっかけひっかけそう言った。 本当にそうだと思った。 十二月二十七日。ドアベルの外された店の中で、流れに任せただけの忘年会が始まった。「おれたちは忘れる必要がある。」当然の権利のように、声高に叫ばれたのがそもそもの原因だった。この喫茶に酒のメニューはないが、店主とノラは家にあるだけの缶ビールを掻き集めて、ささやかな宴の幕を開いた。そして早速、ノラが酔っ払いに成り下がった。 酒に強いらしい店主は、冷蔵庫の奥からケーキを取り出してわたしに出してくれた。クリスマス用の材料が余ったからさあ、と明るく笑う。本当のことなんだか、どうなのだか。 わたしは、この場にリュカさんがいてくれたらなと思った。店主とノラの埃が舞いそうなほどの古臭い漫談には飽き飽きだった。なにせ、これはもう今年一年たっぷりと見ている。気乗りがしない。 じつは友人とけんかわかれをした。わたしがこの店へ来るほんの五分前ほどである。わたしが友人の集まりに顔を出さなかったことが原因だ。この手の不仲話は女子の中ではよくあることだった。 決定的なけんかがなくたって、友情というものはだんだんと色褪せていってしまう。今そばにある人が自分の今のすべてで、その先もその前も、何ひとつ同じものなどない。そうやって独り前に向かって歩くのだ。それが堪えないようにするために、人は飯を食らうのであろう。ケーキなどでは、なく。
さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ノラが言った。世にも奇妙な年越しケーキだよ。 いやいやいや。店主が言う。まだ二〇XX年だから。年越してないから。 ノー・ノー。もう半分二〇XY年に踏み入れているようなものさ。冬至を超えた瞬間から冬の本番っていうのは始まっていて、ある種、一年の始まりは真冬から始まるようなものなんだから、もう年越しと名乗ったって不思議じゃない。第一、三百六十五日あるうちの一日も十日も変わりゃしないんだから、そんな細かいところばかり気にするなんて、きみ、どだい時代遅れっていうものだぞ。ノラが言う。 店主はワイングラスをくっと傾けた(いつから缶ビールがなくなったのだろう)。「そういうの英語でなんて言うか知ってる?」 ノラは外国じみた身振りで首を傾げてみせた。 「GOOD GRIEF!」 そしてまた二人は大笑いをする。ノラは、意味をわかっているのだろうか。ちなみにわたしはよくわからなくて、その場ではただ苦笑いを穏やかな死海のボートのように浮かべているだけだった。家に帰ってキーボードを叩いて調べたら、画面に「ああ、呆れた。」という意訳が載っていた。
煉瓦を積み上げて渡した橋があって、その真中でリュカさんは時計を直していた。年末になると、人間が身勝手に区切った時間軸と自然の時間に僅かな隙間が出来てしまって、放っておけばあっという間に昼夜が逆転してしまう。その一年分のズレを、ほとんど凍って水位の下がった川の上にある橋のところで、調節を施すというわけである。街中の時計も、この時期すでに来年に合わせたものもあれば、今年のままの時計もある。そのため、年末の待ち合わせはちょっとした騒ぎになることもある。 つじつまを合わせるために言っておくと、時計の針は年明け後の一秒から一年を均等に区切る速度で回っていないから、夏頃には結構ずれているのだそうだ。でも、一年の中で昼と夜の長さは引っ張り合って移ろいゆくため、人間は意外にもその科学的事実に気づかない。 客は随分とまだらだった。別の目的があって橋を渡る人が、小さな木の椅子に座ってドライバーを片手に腕時計をこじ開けるリュカさんを見て、もうこんな時期か、と気づいて、ついでに直してもらう、というくらいのものだった。年末の風物詩なのだ。 「ぼくからしてみたら、まだ二〇一三年の夏さ。」リュカさんはご婦人の華奢な腕時計を、結構乱暴に開けて、言い放った。ご婦人のうっとりとした表情を見る限り、彼が商品をずさんに取り扱っていることなんて微塵も気が付いていないのだろう。リュカさんは端正な顔立ちをしているので、人生がうまくいきすぎる。ご婦人は多めのチップをリュカさんの右手にしっかり握らせ、足取り軽く橋を渡って行った。 「電池を交換していないことをそんなに格好良く言えるものなんですね。」 「そうかな? お嬢さんも、詩でも勉強したらいい。」 リュカさんはドライバーをチェスターコートの大きなポケットに仕舞い込んで、椅子を肩に担ぎあげた。閉店の合図だ。 「そういえば、きみ、まだノラと会ったりしてるの。」 「会うっていうか、店に行ったらいつもいるので。」 「ふうん。そう。」 リュカさんはそれ以上何も言わなかった。これから何処へ行くのか訪ねると、市役所へ行くとの事だった。取られすぎた税金の帳尻合わせに行くんだとか。良かったら、それが終わった頃の、七時に待ち合わせをして、パスタでも食べに行きませんかと誘ってみた。 「それはもちろん、今年の時間のだね?」 リュカさんは、世界中のやさしさをかき集めたように穏やかに笑った。
待ち合わせの時間まで、いよいよ暇になってしまった。図書館は昨日で閉館してしまった。わたしはボンヤリ橋の上で、寒さも凍えも忘れて、頬杖をついてしまう。 色々あったな。今年も。小さな溜息をついた。 でも、そのほとんどを、もう忘れてしまっていた。きっと生きるのに不要だったのであろう。つまらない話は、必要がない。 わたしの時計は、今年の時間を刻み続けている。このまま刻んでいったら、わたしはみんなより遅く歩いていけるのだろうか。みんなの一度歩いた安全な道を、踏みしめられるのだろうか……これもつまらない話なので、明日には全部忘れてわたしは時計の針を来年に合わせていることだろう。 あと三日で、十二月が終わる。誰がどう思おうと、きっかり三日だ。そうしたら、今年のことは、いとしい過去になる。
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ロマン優光のさよなら、くまさん 連載第114回 はあちゅうとしみけんの結婚
突然飛び込んできた、はあちゅうさんとしみけんさんの結婚の知らせ。自分の癖のある性的指向をオープンに語っているしみけんさんと結婚するということは、そういう部分で色々といじられることは自明の理であり、「はあちゅうさん、たいへんだなあ。でも、覚悟決めてきたんだなあ。」と思いました。また、事実婚という形態をとること��よって生まれる問題提起や、その制度的な実態が広まることはよいことであり、がんばっているなとも思ってました。 ところが、爆笑問題にTBSラジオの『JUNK爆笑問題カーボーイ』で結婚に触れられたことに対してブチ切れる彼女と、その理由を見た時に、別にそういうわけじゃなかったのが、よくわかりました。今までどおり、彼女はリスクの高い行動に果敢にうってでるわりには、実際にそれで生じる想定されるリスクにとても弱いままだったのです。 まず、はっきりさせておかなければならないのが、しみけんさんがAV男優だからという理由で職業差別的に二人を中傷することは許されないということ。はあちゅうさんに対して脅迫めいたことや、はあちゅうさんの家族や友人に対して誹謗中傷を送りつけることは許されないということです。これは当たり前の大前提ですよね。こういう目にあっていることに関しては、はあちゅうさんは本当に気の毒だし、許されないことだと思います。もし、二人に関するデマが飛ばされているなら、当然訴えてもいいと思います。 しかし、爆笑問題がラジオで語ったことは、こういったこととは全然違います。まず、太田さんははあちゅうさんについて語ったのではありません。太田さんは彼女について知識を持っていないために、特に言及することができず、しみけんさんについて語っているだけなのです。しみけんさんについて考えてみると、トップAV男優であり、その特異な個性と芸人的な面白さで知られる人物であり、その活動から考えるならば、あの扱いは不当なものでは全然なく、逆に「おいしい」と考えてもいいはずだったものです。また、ろくでなし子さん、ぱいぱいでか美さんの名前が出てきたのは、特にはあちゅうさんと一緒にしたわけではなく、単に連想ゲーム的にひらがな多めの変わった名前を連ねただけでしかないでしょう。 わかりますよ。結婚という一大イベントを外野から面白おかしくいじられるのはイヤなことです。だから、素直に「旦那の活動を考えると仕方がないことだけど、やっぱりイヤだなあ。冗談でも他の女の人と結婚したほうがよかったなんて言われたらこたえるな…。なんか悲しい」ぐらいに心情を吐露すれば、同情もあつまったことと思います。あくまで、そういう割りきれない気持ちの問題だったはずです。 それを、「太田さんはよく知らないものは全部まとめてキワモノ扱いする」と言って、ピントがずれた批判をするから、世間に反感をかってしまったわけです。そのトークで名前があがった、ろくでなし子さんやぱいぱいでか美さんに対しても、失礼であったわけだし、二人を下に見たわけではないと釈明しても、「どこからキワモノという言葉が出てきたのか? 二人の名前の印象で勝手に思ったのではないか?」という突っ込みを入れられるのは仕方がないことだと思います。 本人の釈明にある通り、嫌がらせがあってまいってるために、感情的に反応してしまって雑な文章を書いてしまった、単に誰であっても一緒にされていじられるのが嫌だったというのは、本当のことだと思います。ただ、あの二人ではなくて、浜崎あゆみさんでも嫌だったと言ってるけれど、浜崎さんだったらキワモノという言葉は出てこなかったと思うのです。そこには、無意識に二人に対する偏見が生じていた可能性を感じてしまいます。なんであれ、よく知らないと自分から言ってる人たちに対して、キワモノという言葉を出てくるのは変な話ではあるのです。 はあちゅうさんは印象だけで語っている 私は、はあちゅうさんに対して新書で一度、この連載で一���言及しています。Twitterで触れたことは、7月27日の『ニコ生避難場所 はあちゅう、ヨッピー、中川さん』の感想以外ほとんどないと思います。新書では、はあちゅうさんのビジネススタイルや文章力に対して批判的なことを書きました。連載の方では、彼女が#MeTooに踏み切った際に協力した媒体が彼女がズレた人で炎上しやすいということを考慮せず、対策を怠った結果、彼女が不当に傷つけられることになってしまったことに関する媒体批判でした。まあ、それぐらいです。特に彼女の悪口を書きまくってるという記憶はありません。それを27日のニコ生ではいつも悪口を書いてると言われていたので、さすがに盛りすぎだと思うし、批評の範疇でおさまる範囲のことしか書いてないと思います。 私は批判的な原稿を書いたので、彼女に嫌われても当たり前なので別にいいんですが、私と一緒にロマンポルシェ。というバンドをやっているだけで、彼女に関して何ら言及をしたことがない掟ポルシェさんが、悪口を言ってるから嫌いというふうに扱われるのはさすがにひどいと思うのです。 以前、この連載でオフィス北野問題について触れた回があるのですが、その内容に対する批判ツイートを水道橋博士がRTしたところ、それを引用RTしながら掟さんを中傷して「アングラ宴会芸」と評するツイートする人が出てきて、博士がさらにRT。それをさらに、はあちゅうさんがRTしたり、「悪口書いてPV取るアングラ宴会芸にみんな飽きてほしい。」と呼びかけたりしてたんですよね。しかし、アングラ宴会芸というのは掟さんのライブやDJでの芸風を中傷してるだけなので、はあちゅうさんが言ってることはトンチンカンでしかないのです。単に無実の掟さんを攻撃しただけになってしまいました。 このツイートの印象だけで調べることをせずに、掟さんが自分の悪口を言っていると思い込んだんだと思いますけど、アングラ宴会芸とか言ってたのは他人の誹謗中傷する際にのみ使用されている典型的なアカウントで、匿名アカウントによる誹謗中傷を批判している彼女が、匿名アカウントによる誹謗中傷を元に他人を攻撃していたらどうしようもないと思うのです。自分の言葉で批判的な人間に対して反論すればいいだけなのに、そんないい加減なものに乗っかって印象だけで攻撃するから、無関係な人間を叩いてしまうような事態に。 私ははあちゅうさんに対して批判的な意見を書いてますが、それはあくまで批評的なものであり悪口ではありません。物書きであるならば、漠然とした印象による悪口ではなく、ちゃんとした文章で内容に関して反論すべきなのだと思います。悪口は読みたくないというスタンスでやっているのだと思いますが、読まずに印象だけで反撃しようとしても、ただの悪口です。 ニコ生を見て、改めて思ったのは、はあちゅうさんは、自分の思ったような反応ではないものは全て自分に対する悪口だと解釈するということです。吉田豪さんと揉めた時だって、吉田さんの言ってるのは意見であって、はあちゅうさんを攻撃してるわけでもないし、あの時は世間を煽っていたわけではないと思います。あれが炎上っぽくなったのは、単にはあちゅうさんの意見が変だと思った人が単純に多かっただけで、吉田さんが炎上を煽ったわけではないですよ。まあ、そこに乗っかって叩きたいだけの人が、はあちゅうさんに嫌がらせめいたことをするので、はあちゅうさんが余計に頑なになってしまったんだと思うんですけど、批判と悪口や嫌がらせを一緒にしては駄目だと思うんですよ。自分も、理不尽な悪口を言われたり、延々と嫌がらせをされたりしたこともあるので気持ちはわかるのですが、やっぱり一緒にしては駄目なのです。 ニコ生で、個人を攻撃したりしない、会ったことのある人を悪く言わないと言ってましたが、それも考え方がおかしいと思います。仕事に関する批評は悪口ではないし、面識があろうがなかろうが意見を表明するのは攻撃ではないのです。物書きとしての基本的な考え方の訓練がなされてないんだと思います。 感情的に反応しやすく、基本的に対象に対して雑であり、批評というものの存在を理解できない、物書きとしては不向きな資質の人なのかもしれません。童貞いじりも、「なぜ早稲田だと童貞くさいのか?」「なぜ午後の紅茶を飲んでると童貞くさいのか?」といった疑問が浮かんでくるだけで、特にあるあるネタになってるわけでもなく、反応に困ります。ちなみに、私は早稲田中退で家でよく午後の紅茶を飲んでます。それはともかく、単に雑にいじってるだけだから、面白ければ味方になってくれるような中間層にも、そっぽを向かれてしまったというのはあると思います。童貞いじりで声高に叩いてる人は、はあちゅうさんが嫌いで、何でもいいから叩きたくてしようがなくて持ち出してきている人が大半だと思うのです。しかし、そういう層とは別に、雑にいじられたり、雑にいじってる様子を見てイラっとしてる人が沢山いるのも確かなのです。 はあちゅうさんはアイドルに向いている、アイドル性が高いという意見もあります。確かに、物書きとしては不向きな資質としてあげた部分も、アイドルであれば全てが「可愛い」という風に受け入れられる可能性が高いと私も思います。みんなに私を好きになってほしいという我儘も、アイドルなら可愛く思われるし、対象に対する雑さも愛すべきポンコツ性だと可愛く思われる。そういう節はアイドルの世界にあります。しゃべり方とか声もアイドル的な可愛さはありますよね。今の活動も書いているものより、本人の個人の魅力に支えられたサロン的なものが目立ってますし、そういう方向性に特化した方が支持が増えるのかもしれません。しかし、本人はプライドの高い人ですし、権威的な評価が欲しい人ですから、可愛いだけみたいに思われたくはないでしょうし、それはないんでしょうね。 最後に言っておきたいのは、はあちゅうさんや家族、友人に対して脅迫とか嫌がらせめいたことをネットでやったり、直接したりするようなことは本当にやめて欲しいです。ダチョウ倶楽部的な話じゃなくて、真面目にやめて欲しい。批判的な意見というのも、あくまで作品や言動に対する批評の一部であって、本人に対しての憎しみではないのです。私は、はあちゅうさんに対して批判的な部分はありますが、そういうやり方は許せないと思います。
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マジックハンド
巨乳な後輩のおっぱいを揉む話。
真夏、――と言ってもまだ六月ではあるけれども、クーラーの入るか入らないかギリギリの季節の図書室は、地獄と言ってもそれほど違和感は無いにも関わらず、陸也は後輩に勧められるがまま手渡された短編集を開いていたのであるが、もうかれこれ三十分ほどは字を追いかけるだけで内容なんてちっとも入って来ていなかった。正直に言って本を読むことなんて二の次なのだから、別段この灼熱地獄を耐える必要など無い。が、眼の前に座っている後輩、――汀沙(なぎさ)などとおだやかそうな名前をしている一つ歳の離れた女子が、パタパタと下敷きで自身を扇ぎながら、瞬きもあんまりせず熱心に目を上から下へ動かしているので、仕方無いけれども彼女が一息つくまで待たねばならぬ。陸也は暑さに耐えかねて静かにため息をつくと、本を少しだけ下ろして、視界を広げて、器用に片手でページをめくる彼女の姿を覗いた。彼女とはここで初めて会った、……というのは嘘だけれど、ちゃんと話したのはこの図書室が初めてなのだから、そう言っても良いであろう。その時から小生意気で、先輩というよりは友達感覚で接してきて、これがあの人の妹なのかと、ついつい声が出てしまったのであるが、それでも黙っていると美人なものは美人で。彼女の日本人らしい黒髪は、短いけれども艶々と夏の陽で輝いているし、すっと伸びた眉毛から目元、鼻先は性格に似合わず小造りであるし、パタ………、と止まった手首はほの白く、全くもって姉と同じ華車な曲線を描いている。陸也はそれだけでもかつて恋い焦がれていた〝先輩〟を思い出してしまうのであるが、机の上に重々しく乗って、扇ぐのを再開した腕に合わせてふるふると揺れ動く汀沙の、――およそ世界で一番大きいと言っても過言ではないおっぱいを見ていると、いつしか本を閉じて机の上に置いていた。
「せんぱい、せんぱい、それどうです? 面白いでしょ?」
目ざとく陸也の動きに反応した汀沙が相変わらず自分の顔を扇ぎながら言う。額にひたひたと張り付いていたかと思っていた前髪が、ふわりと浮いては、ふわりと額を撫でる。
「せやな。………」
「先輩?」
「んん?」
「その本の一番最初の話を七十字程度に要約せよ。出来なければジュース一本おごりで。――あ、二本でもいいですよ」
と得意げな顔をして言うのは、陸也が暑さで朦朧としているのを知っているからである。
「あー、あー、おごってあげるから、俺もそいつで扇いでくれ。………」
「やっぱり。仕方ないですねぇ」
と本を置いて、ぐいと、体を前に乗り出し、バサバサと両手で下敷きを持って扇いでくれる。図書室は狭いくせに結構広めの机だから、陸也に届く頃にはさらさらとしたそよ風になっていたけれども、あるか無いかでは大違いであった。だが長くは続かない。………
「はい、お終い!」
と再び自分をパタパタと扇ぎ初めた。
「えー、もう?」
「えー、じゃないです。扇ぐ方の身にもなってください」
「……俺、先輩だし。………」
「っていうか、先輩が隣に来たら良いんですよ。たぶん横の席は涼しいと思いますよ?」
とニヤリと目を細めて言い、ぽんぽんと左手にある席を叩く。確かに、汀沙の言う通り隣の席に行けば風に当たることは出来よう、しかし彼がそういう風に座らなかったのは、今更示しても無駄な理性が働いたからであった。先程、汀沙のおっぱいは世界で一番大きい、と言ったのは全くの嘘ではなく、自身の顔を超え、バスケットボールを超え、………いやそうやって辿って行くと果てしがないので一気に飛ばして言うと、バスケットボール三つ分よりもまだ大きい。恐らくこの世には、机におっぱいが乗る女性などごまんと居るであろうが、片方だけでも西瓜よりまだまだずっと大きい彼女のおっぱいは、乗る、というよりは、乗り上げる、と言った方が正しく、こんもりと山のように盛り上がったおっぱいは彼女の顎にまで当たりそうで、そして両隣の席にまで大きくはみ出しているのである。制服に包まれてその姿は拝むことは出来ないが、自身の重さで描かれるたわやかな楕円だったり、ここ最近の成長に追いつけずパツパツに張っている生地を見ていると、それだけで手が伸びてしまう。隣に座ればきっと我慢することなど出来やしない。心行くまで後輩のおっぱいを揉みしだいてしまう。だから陸也は彼女の隣に座らなかったのであるが、結局はいつものように汀沙の誘いに誘われるがまま、席を立つのであった。
「せんぱいのえっち。でも今日は��いつもより耐えられた、………ような気がします」
「いつも思うんだけど、どうしてすぐに触らせてくれないの。………」
そういえば去年の冬、試験勉強をしている最中に消しゴムが彼女の胸元へ転がって、拾おうと手を伸ばして、ちょっと触れてしまったことがあった。その時にひどく怒られて以来しばらく、陸也はすぐに彼女のおっぱいには触れられなくなったのであるが、そんなこともうどうでもよくなった汀沙からすると、今では何��か面白いから続けているようなものだし、窒息して気を失うまで胸元に押し付けられた陸也からすると、今では新たな性癖が芽生えて自分で自分を縛っているだけである。
「私はお姉ちゃんのように甘くはありませんからね。――あ、どうぞどうぞ、こちらへ。………」
とガラガラという音を立てさせつつ椅子を引いてくれたので、大人しく座った。おっぱいに引っ張られて床と平行になった胸ポケットから名札がこちらを覗いていたが、すっと目の前に出てきたのはしなやかな指に挟まれた下敷きであった。
「ん? ――」
「先輩、扇いでください。さっきは私がしてあげたでしょう?」
「………えー」
「えー、じゃないですってば。後少しで切りの良いところにたどり着くので、――ほらほら、でないと私帰っちゃいますよ?」
「しゃあなしやで」
こうやって焦らされるのはいつものことだけれども、今日は特に上機嫌なせいか、特にいじられている気がする。陸也は手でボールを転がすようにおっぱいを揺すっている汀沙に下敷きを向け、パタパタとちょうどよい力加減で扇いであげた。たなびく髪の影からちらちらと彼女のうなじが見えて来たけれども、ちょっと艶めかしすぎるので目をそらしてしまったが、今度は制服を突き抜け、インナーを突き抜けてその存在を主張するゴツゴツとした、きっと巨大であろうブラジャーが目に飛び込んできて、もうどうすることもなしにただ校舎の外に植えられているクスノキを眺め初めた。傾きかけた陽の光が木の葉に映って綺麗であった。――
汀沙の「後少し」は、ほんとうに後少しだったのか五分ともせずにパタンと、本を閉じて陸也の方を向く。
「先輩、切りの良いところまでたどり着いたので、気分転換に〝ミステリー小説を探しに行きましょう〟」
これが二人の合言葉であった。汀沙は手を机について立ち上がると、制服の裾を引っ張ってだらしのなくなった胸元をきちんと正し、ついでに肩にかかるストラップがズレているのが気に食わなくて正し、そうすると次は、そろそろ収まりの悪くなってきたブラジャーから何となくおっぱいが溢れているような気がしたが、よく考えればこれは昨日からだった。無言で陸也と視線を交わして、図書室の奥の奥、……自分たちの住む街の町史だか何だかがある、決して誰も近寄らず、空気がどんよりと留まって、嫌な匂いのする場所、……そこに向かう。図書室には基本的に人はあまり来ないから、そんな変な匂いに包まれることも無いのだが、陸也がどうしてもここでと言うからいつもそこである。今一度見渡してみると陽の光は入らないし、天上にある蛍光灯は切れたままだし、やっぱりカビ臭いし、聞こえるのは布の擦れる音と、自分と陸也の呼吸だけ。………もう誰にも見られていないに違い無いので、彼の胸元に自分の大きく育ちすぎたおっぱいを押し付けながら、強く強く抱きついた。もし、服を着ていなければ、きっと上半身をほとんど包み込めていただろうが、こうやって私と、陸也の力でぎゅっ……と距離を縮めるのも悪くはない。汀沙はそっと手を離して、半ば陸也の拘束を振りほどくように、くるりと回って背を向けた。
「先輩、今日こそ優しくおねがいします。………」
と小声で、両手を股の���りでしっかりと握りながら言うと、背中から彼の体がぴったりと密着してくる。脇の下から彼の手がそっと通ってくる。その手は迷うこと無く自分の一番敏感な部分に制服の上から触れ、こそばゆいまでに優しくおっぱい全体を撫で回す。もう一年以上、同じことを休日以外は毎日されているけれども、この瞬間だけは慣れない。汀沙は顔を赤くしながら口を抑えると、背中を陸也にすっかり預けて、砕けそうになる膝に力を入れて、すりすりとてっぺんを撫でてくる手の心地よさに必死で抗った。
やっぱり今日も、魔法の手は魔法の手だった。姉から、りっくんの手は魔法の手だから気をつけて。ほんの少しだけ触れられるだけでこう、……何て言ったら良いのかな、おっぱいのうずきが体中に広がって、背筋がゾクゾクして、膝がガクガクして、立っていられなくなるの。上手くは説明できないけど、一度体験したら分かると思う。よくスカートを汚して帰ってきたことがあったでしょう? あれはりっくんの無慈悲な手を味わい続けて、腰を抜かしてしまったからなの。女の子の扱いなんて知らないような子だから、毎回抱き起こすのが下手でね、しかもあの魔法の手で背中を擦ってきてね、腰の骨が無くなっちゃったような感じがしてね、――と、しごく嬉しそうな顔をしてのろけられたことがあったのだが、その時はまだ高校に入学する前だったので、何を言ってるんだこの姉は。よくつまづくから自分でコケたんじゃないか、と半信半疑、いや、あの常日頃ぼんやりとしているような男に姉が負ける訳が無いと、全くもって疑っていたのである。けれども一年前のゴールデンウィーク前日に、廊下を歩いていると、後ろから名前を呼びかけられると共に肩を叩かれた事があった。陸也は手を振ってさっさと去ってしまったが、妙に肩から力が抜けたような気がしてならぬ。いや、そんなことはありえないと、しかしちょっとだけ期待して図書室へ行ったが彼の姿はどこにも見当たらなかったので、その日は大人しく家に帰って眠って、ほんの一週間にも満たない休日を満喫しようと思っていた。が、やはりあの手の感触が忘れられない、それになぜだか胸が張って来たような気がする。中学生の頃からすくすくと成長してきた彼女のおっぱいは、その時すでにIカップ。クラスではもちろん一番大きいし、学年でもたぶんここまで大きい同級生は居ないはず。そんなおっぱいがぷっくりと、今までに無い瑞々しいハリを持ち始め、触ってみたらピリピリと痛んで、肌着はもちろんのことブラジャーすら、違和感でずっとは着けていられなかった。
結局ゴールデンウィークが開ける頃には彼女のおっぱいはJカップにまで育っていたが、それよりも陸也の手が気になって気になって仕方がなく、久しぶりの授業が終わるやいなや図書室へと駆け込んだ。姉からりっくんは図書室に居るよと伝えられていたし、実際四月にもしばしば姿を見かけていたので、適当に本を一冊見繕って座って待っていると、程なくして彼はやって来た。汀沙を見つけるとにっこりと笑って、対面に座り、図書室なので声を潜めてありきたりなことを喋りだす。だがこれまで挨拶を交わす程度の仲である、……すぐに話のネタが尽き無言の時間が訪れたので、汀沙は思い切って、姉から伝えられていた〝合言葉〟を口に出した。――これが彼女にとっての初めて。Jカップのおっぱいをまさぐる優しい手付きに、汀沙は一瞬で崩れ落ち、秘部からはとろとろと蜜が溢れ、足は立たず、最後にはぺたんと座り込んで恍惚(うっとり)と、背中を擦ってトドメを刺してくる陸也をぼんやり眺めるのみ。声こそ出さなかったものの、そのせいで過呼吸みたいに浅い息が止まらないし、止めどもなく出てくる涙はポタポタと床に落ちていくし、姉の言葉を信じていればと後悔したけれども、ジンジンと痺れるおっぱいは、我が子のように愛おしい。もっと撫でてほしい。………
その日を境に、汀沙のおっぱいは驚異的な成長を遂げた、いや、今も遂げている。最初の頃は二日や三日に一カップは大きくなっていっていたので、ただでさえJカップという大きなおっぱいが、ものの一ヶ月で、K、L、M、N、O、P、Q、R、………と六月に入る頃にはTカップにまで成長していた。姉からはなるほどね、という目で見られたが、友達たちにはどう言えばいいものか、特に休日を挟むと一回り大きくなっているので、校舎の反対側に居る同級生にすら、毎週月曜日は祈願も込めて汀沙のおっぱいは揉まれに揉まれた。ある人はただその感触を味わいたいが故に訪れては揉み、ある人は育乳のコツを聞くついでに訪れては揉み、まだ彼女のことを知らぬ者はギョッとして写真を撮る。汀沙はちょっとした学校の人気者になっていたのであったが、休み時間は無いようなものになったし、お昼ご飯もまともに食べられないし、それに何より放課後そういう人たちを撒くのに手間取り陸也との時間が減ったので、かなりうんざりとしていた。が、そういったいわゆる「汀沙まつり」も六月の最終週には収まった。――とうとう彼女のおっぱいがZカップを超えたのである。たった一ヶ月で頭よりも大きくなり、二ヶ月でアルファベットで数えられなくなったおっぱいに、さすがの女子たちも、それに男子たちも気味が悪いと感じたのであろうか、触れてはいけないという目で見てくるようになって、居心地の悪さと言ったらなかった。以前のように行列を作るようなことは無くなったどころか、仲の良い友達も自分のおっぱいを話題に上げることすらしない。どこか距離を置かれているような、そんな感じである。
だがそれは自分から話題を振るとやっぱり、彼女たちも我慢していたのか以前と変わらない接し方をしてくれ、週明けには何センチ大きくなった? とも聞いてくるようになったのであるが、さて困ったのは授業である。と言っても普段の授業は、机の上におっぱいが乗ってノートが取れないと言っても、出来るだけ椅子を引けば膝の上に柔らかく落ち着かせることが出来るから、そこまで支障は無い。ほんとうに困ったのは体育である。体調も悪いのでなしに休むことが出来なければ、見学することも出来ない。かと言って意外に真面目な彼女は仮病なんて使いたくない。幸いにも水泳は無かったからブラジャーと同じでバカでかい水着を買うことは無かったけれども、やはり少しくらいは授業に参加しなければならず、たぷんたぷんと揺れるおっぱいを片腕で抑えながら行うバスケやバトミントンは、思い出すだけで死にたくなってくる。殊にバスケではボールを手に持っていると友達から、あれ? ボールが三つもあるよ? などと冷やかされ、どっちの方が大きいんだろう、……などとバスケットボールとおっぱいを比べられ、うっそ、まじでおっぱいの方が大きい、………などと言われ、ちょっとした喧嘩に発展しそうになった事もある。今では片方だけで十キロ以上あるから基本的に体育は見学でも良くなったものの、去年一年間のことはもう思い出したくもない。陸也との思い出以外には。………
おっぱいを触れられてから恋心が目覚めるなど、順番がおかしいように感じるが、汀沙はあの魔法の手でおっぱいを揉まれてからというもの、その前後に交わす会話から少しずつ陸也に心が寄っていくのを感じていた。姉妹揃って同じ人物に惚れるなんてドラマじゃあるまいし、もしそうなったらドロドロになりそうで嫌だなぁ、と思っていたら現実になりかけている。「なりかけている」というのは若干の諦めが混じっているからなのだが、それが何故なのかと言うと、陸也はやっぱり姉の方に心を傾けているのである。先輩は決して遊びで私のおっぱいを揉んではいないけれども、どこかよそよそしく感じるのはどうしてだろう、姉は魔法の手でおっぱいを揉みしだかれたと言うが、私はもにもにと軽く力を入れられた記憶しかない。それだけで十分といえば十分ではあるが、やはり物足りない。やはり先輩はお姉ちゃんの方が好き。もうこんなに、――歩くのも大変で、況してや階段を降りるなんて一段一段手すりに捕まらなければ出来ないというのに、毎朝あの巨大なブラジャーを付けるのに十分は手こずるというのに、お風呂に入ればお湯が大方流れて行ってしまうというのに、毎夜寝返りも打てず目が覚めては布団を掛け直さなくてはならないというのに、電車に乗れば痴漢どころか人をこのおっぱいで飲み込まなければいけないというのに、振り向くどころか姉の影すら重ねてくれない。汀沙は今ではやけっぱちになって、陸也を弄っている折があるけれども、内心ではいつか、と言っても彼が高校を卒業するまでもう一年も無いけれど、いつかきっと、……という思いがあるのであった。
「――汀沙、そろそろ揉むよ、良い?」
と一人の女の子を快楽で悶えさせていた陸也が、今までやっていたのは準備体操と言わんばかりに軽く言う。実際、彼はおっぱいの感触を楽しむ、というよりはそれをすっぽりと包む純白のブラジャー、……のゴツゴツとした感触を制服越しになぞっていただけであった。
「お、おね、おねがい。……」
普段はよく舌の回る汀沙も、魔法の手には敵わない。ここに居る間は原則として声を発し��はいけないことになっているから、陸也からの返事は無いが、次第におっぱいを持ち上げるように手を下に入れられると、指がその柔らかな肉に食い込み始めた。ブラジャーを着けて支えていてもへそを隠してしまうおっぱいは、中々持ち上がりそうに無く、ギシギシとカップの軋む音だけが聞こえてくる。特注のブラジャーはいたる所にワイヤーが通されてかなり頑丈に作られているから、ちょっとやそっとではへこまないのであるが、そんな音が聞こえてくるということは、相当力を入れているのであろう。そう思うだけでも快感が頭にまで登ってくる。
「んっ、……」
思わず声が出てしまった。呼吸が苦しくなってきたので、口から手を離して息を吸うと、彼もまた浅く荒く呼吸しているのが分かった、目はしっかりと見開き、額に汗を��じませながら彼女の、巨大なおっぱいを揉んでいる。……汀沙はその事実がたまらなかった。例えお姉ちゃんを忘れられずに行っている陸也の自慰行為とは言っても、ただの想像だけではここまで興奮はしないはず。今だけは姉のおっぱいではなく、私のおっぱいに注目してくれている、私のおっぱいで興奮してくれている。けれどもやっぱり、その目には姉が映っているのであろう、私もその愛を受けてみたい、あんまりおっぱいは大きく無いけれど、私に向けられて言うのではないけれど、その愛を感じてみたい。――と思うと汀沙は自然に陸也の名前を呼んでいた。
「りっくん。………」
とは姉が陸也を呼ぶ時のあだ名。
「遥奈。………」
とは姉の名。あゝ、やっぱり、彼は私のことなんて見ていなかった、それにお姉ちゃんのことを「先輩」なんて呼んでいなかった。陸也の手は汀沙が彼を呼んだ時に止まってしまっていたけれども、やがて思いついたように、再びすりすりとおっぱいを大きく撫で回していた。その手を取って、無理やり自分の一番敏感な部分にピタッとつけると、ここを揉めと声に出す代わりに、魔法の手の上から自分のおっぱいを揉む。
「汀沙?」
「今は遥奈でもいいです。けど、そのかわり遠慮なんてしないでください。私をお姉ちゃんだと思って、……おねがいします。――」
言っているうちに涙が出てきて止まらなかった。汗ばんだ頬を伝って、ぽたりぽたりと、美しい形の雫が異常に発達した乳房に落つ。その時眼の前が覆われたかと思えば、意外とかわいい柄をしたハンカチで、ぽんぽんと、優しく目元を拭われていた。
「汀沙、やっぱりそれは出来ない。汀沙は汀沙だし、遥奈は遥奈だよ」
「ふ、ふ、……さっき私のこと遥奈って言ったくせになにかっこつけてるんです」
ぺらりと垂れ下がったハンカチから、極端にデフォルメされたうさぎがこちらを覗き込んでいるので、涙が引くどころか、笑みさえ浮かべる余裕が出来たのである。
「まぁ、うん、ごめんなさい。――今日はこの辺にしておく?」
「それは駄目です。もうちょっとお願いします」
「えー、……」
「えー、じゃないって何回言えば分かるんですか。早くそのファンシーなハンカチをしまってください」
と陸也がハンカチをしまったのを見て、そういえば昔、家でああいう柄をしたハンカチを見たことがあるのを思い出すと、またしても心が痛くなったけれども、所詮叶わぬ夢だったのだと思い込んで、再び魔法の手による快楽地獄に身を任せてから、シワの入ってしまった制服を整えつつ席に戻った。
「そろそろ帰るかー。暗くなりそうだし。それに夜は雨だそうだし」
と背伸びをして、陸也はポキポキと首を鳴らす。外にあるクスノキの葉は、夕焼けに照らされて鈍く赤く輝いてはいるけれども、遠くの方を見ると墨を垂らしたような黒い雲が、雨の降るのを予見していた。
「ですね。それ、借りていきます?」
と指さしたのは、例の短編集で。
「うん。まだ最初の二三話しか読めてないしね」
「ゆっくり読んでくださいね。あと声に出すともっと面白いですよ、その作者の作品はどれも、――私は好きじゃない言い方なんですけど、異様にリズムが良い文体で書かれているから。……」
「なるほど、なるほど、やってみよう。……ちょっと恥ずかしいけど」
「大丈夫ですよ。聞いてる側は鼻歌のように感じますから。……って、お姉ちゃんに言われただけなので、あんまり信憑性が無いですけどね。――」
汀沙が本を書架に返しに行っているあいだに、陸也は後輩おすすめの短編集を借りて、二人は一緒に学校の校門をくぐった。薄暗い図書室よりも、夕焼けの差す外の方が涼しくて最初こそ足は弾んだが、袂を分かつ辻にたどり着く頃には、二十キロ以上の重りを胸に着けている汀沙の背に手を回して、足並みをそろえて、付き添うようにゆっくりと歩くようになっていた。あまり車通りの無いのんびりとした交差点だからか、汀沙はふと足を止めると、不思議そうに顔を覗き込んでくる陸也の腕をとって言う。
「先輩、お父さんも、お母さんも居ないので、今日こそ私の家に来てくれませんか?」
途端、それまで柔和だった陸也の顔が引き締まる。
「それは、……駄目だろう。バレたら今度こそ会えなくなる」
「でも、一目だけでも、お姉ちゃんと会ってくれませんか? ずっとずっと待ってるんですよ、あの狭い暗い部屋の中で一人で。――」
「いや駄目だ。あと六ヶ月と二日、……それだけ待てば後は好きなだけ会えるんだ。あともう少しの辛抱なんだ。………」
陸也は現在、汀沙の姉であり、恋人である遥奈と会うことはおろか、電話すらも出来ないのであった。詳しく話せば大分長くなるのでかいつまんで説明すると、陸也は高校へ入学して早々、図書室の主であった遥奈と出会ったのであるが、もともと似た体質だったせいかすぐさま意気投合して、何にも告白などしていないにも関わらず、気がついた時には恋仲となっていた。妹の汀沙も高校一年生の時点でIカップあって胸は大きかったが、姉の遥奈はもっともっとすごく、聞けば中学一年の時点でKカップあり、早熟かと思って油断していると、あれよあれよという間にどんどん大きくなっていって、魔法の手を借りずとも高校一年生でXカップ、その年度内にZカップを超え、高校二年に上がる頃にはバストは百七十センチとなっていたと言う。当然、そんなおっぱいを持つ女性と恋仲になるということは、相当強い理性を持っていなければ、手が伸びてしまうということで、陸也はこの日のように図書室の奥の奥、……自分たちの住む街の町史だか何だかがある、決して誰も近寄らず、空気がどんよりと留まって、嫌な匂いのする場所、……そこで毎日のように遥奈と唇を重ね、太陽が沈んでもおっぱいを揉みしだいていたのである。ここで少し匂わせておくと、娘が毎日門限ギリギリに帰ってくることに遥奈らの両親は心配よりも、何かいかがわしいことをしているのでないかと、本格的な夏に入る前から疑っていたらしい。で、再びおっぱいの話に戻ると、陸也の魔法の手によって、高校一年生でIカップだった汀沙がたった一年で(――遥奈は別として、)世界一のバストを持つ女子高校生になったのだから、高校一年生でXカップあった遥奈への効果は言うまでも��かろう、半年もしないうちに、立っていても地面に柔らかく着いてしまうようになっていた。もうその頃には彼女は、そもそも身動きすらその巨大なおっぱいのために出来ず、学校へ行けなくなっていたので、陸也と会うためには彼が直接家まで向かわなければいけない。だが、ここで問題があった。彼女らの両親、……母親はともかくとして、父親がそういうことに厳格な人物らしく、男を家に上げたがらないのである。しかも親馬鹿な面も持ち合わせているので、娘が今、身動きすら取れないことに非常に心配していらっしゃるらしく、面と向かって会うのは避けた方が良い、それにお忍びで会うなんて何か素敵だよね、と遥奈が言うので、陸也は両親の居ないすきを突いて遥奈と会い、唇を重ね、おっぱいを揉みしだき、時には体を重ねた。その時唯一知られたのは、ひょんなことで中学校から帰って来た妹の汀沙であるのだが、二人の仲を切り裂くことなんて微塵も思って無く、むしろ両親に悟られないように手助けすると言って、ほんとうにあれこれ尽くしてくれた。――が、そんな汀沙の努力も虚しく見つかってしまった。それはクリスマスの少し前あたりであった。幸いにも行為が終わって余韻に浸りながら楽しく喋っているところではあったが、冷たい顔をした父親に一人別室に呼び出された陸也はそこで根掘り葉掘り、娘と何をしていたのか聞き出されることになったのである。若い男女が二人、ベッドの上で横に並び合い、手を繋いで離すなど、それだけでも父親にはたまらなかったが、何より良くなかったのはお忍びで会っていたことで、何をこそこそとやっとるんだ、もしかして遥奈の帰りが遅くなっていたのはお前のせいか、俺は娘が嘘をついていることなんて分かっていたが、やっぱりそういうことだったのか、などとまだ高校一年生の陸也には手のつけようが無いほど怒り狂ってしまい、最終的に下された結論は、二年間遥奈と会わないこと、通話もしないこと。お前もその時には十八歳になっているだろうから、その時に初めて交際を許可する。分かったなら早く家へ帰りなさい。――と、遥奈に別れも告げられずに家を追い出されたのである。
だから陸也はもう一年以上、あのおっとりとした声を聞いていないし、あのほっそりとした指で頬を撫でられていないし、あのぷっくりと麗しい唇と己の唇を重ねられていないし、あの人を一人や二人は簡単に飲み込める巨大なおっぱいに触れられていないのである。二年くらいどうってことない、すぐに過ぎ去る、と思っていたけれども、妹に己の欲望をぶつけてしまうほどに彼女が恋しい。今も一人この鮮やかに街を照らす夕日を眺めているのだろうか、それとも窓を締め切って、カーテンを締め切って、一人寂しさに打ち震えているのであろうか、はたまた無理矢理にでも攫ってくれない自分に愛想をつかしているのであろうか。――頭の中はいつだって遥奈のことでいっぱいである。汀沙から毎日のように状況は聞いているが、自分の目でその姿を見られないのが非常にもどかしい。陸也はもたれかかっていた電柱にその悔しさをぶつけると、その場に座り込んだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
「無理かも。……」
「あ、あの、……無理言ってごめんなさい。……」
「いや、汀沙が謝ることはないよ。全部俺の意気地が無いだけだから。……」
「……先輩、私はいつだって先輩とお姉ちゃんの味方ですからね。だからあと半年感、――ちょっとおっぱいは足りないけど、私をお姉ちゃんだと思って好きなだけ甘えてください。ほら、――」
さらさらと、汀沙が頬を撫でてくる、ちょうど遥奈と同じような力加減で、ちょうど遥奈と同じような手付きで。………
「ありがとう汀沙、ありがとう。………」
絞り出したその声は、震えていてついには風切り音にかき消されてしまったが、側に居る汀沙の心にはしっかりと響いていた。
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