#コトリちゃん
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nikomaki123 · 2 years ago
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【blog】オーダー うさぎとコトリちゃんの衣装 / custom made outfits for a bunny and a birdie
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honnakagawa · 6 months ago
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7月10日(水)open12-18
休業明け、オープンしております。 休業中もほぼ毎日手を動かしていたので、諸々とご連絡、お知らせ等が追いつかない状況ですが、徐々に進めて参ります! 今日からギャラリーには、絵描き やまぐちめぐみさんの作品が並んでいますよ。 49歳という若さで亡くなられた、めぐみさん。 めぐみさんの知らない場所で、知らない所で、私がどんな風に皆さんにめぐみさんのことを伝えられるだろうか…と、少し不安に思う部分もありましたが、生前めぐみさんと親交のあった皆さんが、 大丈夫だよって背中を押してくれました。 早速、めぐみさんを知らなかった方も、他の会場でもご覧になった方も、作品集を当店で購入してくださった方々も、次々とお出かけくださっています。 今月28日まで、どうぞめぐみさんに会いにいらしてくださいね。 ギャラリー内には、めぐみさんの記事が掲載されている『暮しの手帖 19号』(こちらはバックナンバーの販売があります)、めぐみさんととりごえまりさん @torigoemari の共作の絵本『コトリちゃん』(こちらは重版未定で注文不可となっています)も並んでいますので、ゆっくりとご覧ください。
会期中、新装版の作品集(ミルブックス刊)をお買い上げの方には、ノベルティのポストカードセットを差し上げます。 めぐみさんの絵をプリントしたハンカチやトートバッグも並んでいますので、あわせてご覧くださいね。
早速、黒猫を抱く女の子の絵を窓の外からのぞきに来た黒猫さん🐈‍⬛
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switch-souken · 4 months ago
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六本木アートナイトスイッチ2024
5年振り5度目の六本木アートナイト。あの狂騒、いや祝祭空間ふたたび!!常軌を逸したあの24時間街なか広域上演から約10年。スイッチ総研が六本木アートナイトに再びおじゃまいたします。今回も街なかのあちこちでスイッチを上演。どなたさまも、ぜひお気軽に遊びにいらしてください!「大人げないことを大人のやり方で」お待ちしております!!
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六本木アートナイト2024参加 スイッチ総研 『六本木アートナイトスイッチ2024』 2024年9月27日(金)、28日(土)、29日(日)    【日時|会場】  ■ 9月27日(金) 21:00~21:45 @ 六本木ヒルズ ノースタワー前 → 上演エリア詳細
■ 9月28日(土) 16:00〜16:20 @ 麻布消防署仮庁舎建設用地 → 上演エリア詳細 ※NEXT六本木クロスクールフェスティバル(6フェス)にて
■ 9月29日(日) 19:00〜20:00  @ 東京ミッドタウン プラザ1階 キャノピー・スクエア周辺 & 港区立檜町公園 → 上演エリア詳細
【作】  スイッチ総研
【脚本/演出】  光瀬指絵
【研究開発/出演】  大石将弘 光瀬指絵
<契約所員> 石倉来輝 ※ 小林義典 竹内 蓮(劇団スポーツ) 田島冴香 間野律子 ※研究開発のみ
<遠隔契約所員> 福永マリカ ※ 細谷貴宏 ※ ※研究開発のみ
<客員研究員> 内田倭史(劇団スポーツ)※29日のみ出演 瓜生和成(小松台東) 川田 希 洪 雄大(中野成樹+フランケンズ)※29日のみ出演 長南洸生 中嶋千歩 ※29日のみ出演 花戸祐介 ※29日のみ出演 廣川三憲(ナイロン100℃)※29日のみ出演 森下 亮(クロムモリブデン)※29日のみ出演 矢野昌幸 ※29日のみ出演 山森大輔(文学座)※27日、29日のみ出演
<非常勤研究員> 伊藤駿九郎(theatre PEOPLE PURPLE) 岩谷百恵 牛尾茉由(演劇集団円) 宇都有里紗 大野篤志 大見祥太郎 川鍋知記 川��真奈(コトリ会議) 國田 葵 渋谷盛太(ill SKool) 白鳥真生 しんえな 津賀保乃(天才劇団バカバッカ) 手代木花野 遠田風馬 長岡俊輔 永田佑衣(日本のラジオ) 渚 まな美 藤谷みき(青年団・cigars) 望月麻里(椿組) 森田 亘 山田裕子 よし乃 渡辺たくみ(nidone.works) ※非常勤研究員=27日、29日のみ出演
【主催】  東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、港区、六本木アートナイト実行委員会【国立新美術館、サントリー美術館、東京ミッドタウン、21_21 DESIGN SIGHT、森美術館、森ビル、六本木商店街振興組合(五十音順)】
https://www.roppongiartnight.com/2024/programs/19195  
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▲『六本木アートナイトスイッチ2017』
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▲『六本木アートナイトスイッチ2016』
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▲『六本木アートナイトスイッチ2016』
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suimint · 16 days ago
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2024 観劇記録
例年より見た作品が少ないような気もするし、この辺の舞台見る金額は家計的に減らしたいとも思っていないこともない。 あと、見たい舞台は本当はもっとあった。果てとチーク、マームとジプシー「equal」はタイミング合わなくて悲しい。 何個か印象的な舞台をメモしていく。 ディミトリス・パパイオアヌー「INK」は劇場の使い方が圧巻だった。圧倒的な舞台体験。大量の水と、美しくむき出しな身体、様々なモチーフの力関係の変化と展開を目の当たりにしてただ受け取るしかなかった。そこには様々な問いと怒りと事実があったはずだ。 高谷史郎の関わる2作はどちらも素晴らしかった。これを2024年生で見ることができたことが嬉しい。TIMEでは、私はまだまだ人生を生きてて出会えない境地だと思った。感じるには何もかも足りていなかった。田中泯さんをあと何年観られるのか。私があの舞台をもう一度観たい時、世界はまた変わるが、あの舞台の美しさは変わっていないと思う。 春は大きい劇場で高いお金をかけてみる舞台に疑問を感じることが続いてしまって、色々休憩していた。DJもやりだしてそちらばっかりになっていたのもあるけれど。 演劇見るのは高い。1万円かけて、見に行って、その価値あったのかな、と思ってしまうギャンブル性が常に付き纏う。この趣味も考えものである。2000円で映画観た方がましだ、5000円あったらいいアフターヌーンティーできるじゃんと分かっているのに、観に行って、観なきゃよかったと思うかもしれない場所に行くのだから。 ウンゲツィーファも好きだった。丁寧な会話と、塞がるしかない現実を前に幸せを信じることが多い気がする。脚本家の方はきっとどうしようもない状況でもどうしようもない優しさがあることを信じていてそれを実行しているような方なのかもしれない。救いはなくても救いや光はどこかにあってほしいと思うのでとても好きだ。それは私のフィクションへの祈りな気がしている。 福井さんのシアターマテリアルもめーーちゃめちゃ面白かった。11月以降面白いもの見た?については、シアターマテリアルと返している。言葉をもたない写真の集まりが戯曲になっていたことに驚き、納得する。再演してほしいし、E9以外でもやってほしいが、E9で3年やられていた活動の集大成としたら、やはりE9が一番ふさわしい場所なのだと思う。 また、修正、追記はしていそうだけれど勢いで書いた。
1/18 ディミトリス・パパイオアヌー「INK」京都ロームシアター 1/20 KAAT芸術劇場プロデュース「ジャズ大名」高槻城公園芸術文化劇場 2/9 高谷史郎「tangent」京都ロームシアター 3/6 「テラヤマキャバレー」 梅田芸術劇場 3/9 パルコ・プロデュース「最高の家出」森ノ宮ピロティホール 3/17 演出早坂彩「新ハムレット」Theatre E9 Kyoto 3/23 コトリ会議 第蓋話・第糸話 扇町ミュージアムキューブ 3/31 坂本龍一+高谷史郎「TIME」 新国立劇場 4/19 ウンゲツィーファ「動く物」「旅の支度」神保町PARA 4/27 銀河鉄道の夜 チーム蟹座 こまばアゴラ劇場 6/22 彩の国シェイクスピア展シリーズ2nd vol1「ハムレット」梅田芸術劇場 7/3 泊まれる演劇「QUEEN's MOTEL」HOTEL SHE KYOTO 7/9 範宙遊泳「心の声など聞こえるか」東京芸術劇場 8/10 NODA・MAP 「正三角関係」東京芸術劇場 9/8 かるがも団地「三ノ輪の三姉妹」三鷹市芸術文化センター 9/16 幻灯劇場「フィストダイバー」Theatre E9 Kyoto 9/27 ダウ90000「旅館じゃないんだからさ」近鉄アート館 10/19 コンプソンズ「ビッグ虚無」下北沢駅前劇場 10/27 ウンゲツィーファ「8hのメビウス」スタジオ��洞 11/2 チャミチャム「いちごオレのみながらあいつのうわさ話した」中野水性 11/16 いいむろなおきマイムカンパニー「ゾウをのみこんだウワバミの絵」伊丹AI-HALL 11/17 ブルーエゴナク「たしかめようのない」Theatre E9 Kyoto 11/23 福井裕孝「シアターマテリアル(上演)」Theatre E9 Kyoto 11/24 坂元裕二「忘れえぬ忘れえぬ」日経ホール
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kotorikaigi · 3 months ago
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ハンディキャップ割について
こんにちは。若旦那です。 コトリ会議で初めてハンディキャップ割というものを導入する��とにしました。
障害者手帳に記されている特性によって、「観劇から遠ざかっている方に公演を観てもらいたい」、「観劇の障壁を少しでも緩和したい」という思いからです。 障害者手帳をお持ちの方の中には普段から観劇されている方もいらっしゃると思いますが、観に行きづらいと感じている方々もいる、ということがわかってきました。
「観たいけど、観にいくには不安がある」という方の不安をなるべく取り除けるように取り掛かろうと思っています。 この割引で予約された方とは個別にお話をさせていただき、こちらがお客さまの観劇の為にできる対応を提案をしたいと思っています。その際、個人情報はしっかりと守ります。
ただ個別に対応していくことと、われわれの対応のキャパシティから各回は5名まで。また予約を頂いてから対応を検討する時間が必要な為、11月10日いっぱいまでの予約になります。
また、暗転や大きい音などに敏感な方、思わず声を上げてしまったり立ち上がったりしてしまう方でも劇場に来て欲しいという思いから、「明るい公演」を12月8日(日)11:00に設けました。
「明るい公演」は他の回と違い、劇場の常備灯をつけたまま照明を変化させたり、音響のボリュームも控えめに鳴らす、客席はひろびろとさせるなどの変更があります。また、お客さまの状況によっては上演をとめる可能性もあります。ご了承ください。
この試みはコトリ会議というそれほど大きくない劇団だから、またフラットで広く使い慣れたAI・HALLでの公演だからこそ、試せることだと思います。この経験がこれから先の演劇を外に広げていく小さなきっかけになればと思っています。
コトリ会議 制作 若旦那家康
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hale-home · 1 year ago
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【加古川の雑貨店ハレヨンジュウヨンです】
今日の雑貨:金の羽が生えたコトリの箸置き
________________________________________
【通販サイトにアップしました】
〝金の羽が生えた〟コトリの箸置き。
このフレーズだけで、幸せな気分に♡
おしゃれに食卓を彩るアイテムとして、箸置きを
食事や季節に合わせて選ぶといいですね◎
また、箸先が直接テーブルに付くことを防いだり
転がらないようにする為に用いるもので
箸枕、箸休めともいって、ダイエット効果も。
【箸置き】
箸が日本に伝わったのは、時代は定かではないようですが、弥生時代後期頃、神様にお供えする物に対して、手づかみは神様に無礼だ。として、神器として伝わったと言われています。
そのため、直接置かずに置き台に乗せたのが箸置きの始まりといわれ、日本が始めたそうです。


#madeinjapan #日本のいいもの
#箸置き #箸置きコレクション
¥600(税込価格¥6600)
________________________________________
無料ラッピングお伺いできます。
通販できます🛍
お気軽にお問い合わせください。
hale44(ハレヨンジュウヨン)
〠675-0052
兵庫県加古川市東神吉町出河原862番地
イオンタウン加古川
☎︎079-433-0771
10:00〜19:00
不定休
#hale44について
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#雑貨 #雑貨屋 #雑貨屋さん #雑貨店
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販売店 @hale_hale44
姉妹店 @hale_hale88
姉妹店 @hale_ehaleha
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theatrum-wl · 2 years ago
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【投稿企画】先月の1本・来月の1本(2023年1月)
2年間のお休みをいただきました「先月の1本・来月の1本」を今年から再開します。また先月の観劇の記憶を思い起こしながら、来月の観劇のご予定にお役立ていただければと思います。再スタートに際してご投稿が少なかったですが、どなたでもご参加いただけますので奮ってご投稿いただき、また舞台芸術を盛り上げていただければと願っています。
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・りいちろ (11本以上) 【先月の1本】 MCR「無情」(OFF・OFFシアター) 「ムシラセ」、「ぱぷりか」、「殿様ランチ」、「動物自殺倶楽部」、「中野坂上デーモンズ」、「東京にこにこちゃん」、「なかないで、毒きのこちゃん」などほぼ一線の面白さ。実に盛りだくさん。あとRAFTでにもじ『こうさてん』を観て今後の歩みが楽しみに。 【来月の1本】 木ノ下歌舞伎「 桜姫東文章 」(あうるすぽっと) 岡田脚本・演出で木ノ下歌舞伎にはまた新たな歌舞伎の世界が訪れそうな予感がする。これはもう喰らいついていきたいところ。「お寿司」、「FUKAIPRODUCE羽衣」、「牡丹茶房」などの公演も楽しみ。 ・小泉うめ 観劇人・WLスタッフ(6~10本) 【先月の1本】 コトリ会議「みはるかす、くもへい線の」 (AI・HALL) 年末回顧でも書いた通り、劇団の力も山本正典の劇作も新たなステージに入った印象を受けた。またAI・HALLへの強い思いも感じられたし、その場所を支えようという気持ちもかくあるべしと思う。 【来月の1本】 努力クラブ「世界対僕」(ロームシアター京都 ノースホール) かつて京都の新黄金世代と評していた中で遅れてやってきた感じはするがここ数年いよいよその動きが本格化してきた。ほとんどツアー無しの団体なので関西エリア外の方にも観て欲しい。
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mayonoenoe · 2 years ago
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照れです! 草舟あんとす号さんには自費出版絵本の「あーん ねんねん」置いてくださっておりますので、 精神的な里帰りのような、 うふふ、な気持ちでした。 。 私最近外出時間がおそくて、うっかりしていたのでコトリ花店さんが終わってしまっておりました。 次は絶対伺おうと思います。 。 ねんねんちゃんはまた連れていくんだ! 。 #新小平 #holygarden #草舟あんとす号 #妖精ねんねん #ぬいどり #ぬい撮り #ぬいぐるみ  (草舟 あんとす号) https://www.instagram.com/p/CoAARpzPN4d/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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crista-learns-japanese · 2 years ago
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みどりがいっぱい「And The Green Grass Grew」
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森の中 mori no naka forest’s inside [In the forest]
                       一本の木                       ippon no ki [there was]  one       tree
          見たこともない           mita koto mo nai [I’ve] seen              never
               素敵  な 木                suteki na ki [such a]  lovely      tree
        木 が  生えた      穴                 穴  が ある           丘         ki   ga   haeta      ana                ana ga aru             oka the tree   grew [in a] hole,   [the] hole       was [on a] hill
                   草  が  生えて   グングン      伸びて                  kusa ga   haete       gungun         nobite [and the] grass       grew    faster-faster      grew
              緑が          いっぱい               midori ga      ippai [till it’s] green       everywhere
木  に  生えた                    一本  の   枝  ki    ni    haeta                     ippon no  eda tree on  grew, [there was]  one      branch
          見たこともない           mita koto mo nai [I’ve] seen              never
               素敵   な  枝                suteki na eda [such a]  lovely    branch
枝   の    上 の eda no   ue no branch,  above [above the branch]
           トリさんの巣            tori-san no su [was] Mr. Bird’s nest
          見たこともない           mita koto mo nai [I’ve] seen              never
               素敵   な  巣                suteki na  su [such a]  lovely    nest
トリさんの巣に tori-san no su ni Mr Bird’s nest in
     一つ    の  タマゴ     hitotsu no tamago [is] one            egg
          見たこともない           mita koto mo nai [I’ve] seen              never
               素敵   な  タマゴ                suteki na  tamago [such a]  lovely          egg
        タマゴ  の     中     は         tamago no   naka   wa [the] egg        ’s   inside  is
コトリちゃん    kotori-chan    Baby Bird
          見たこともない           mita koto mo nai [I’ve] seen              never
               素敵   な  コトリ                suteki na  kotori [such a]  lovely    baby bird
            コトリ  の              タマゴ              kotori   no               tamago [the] Baby Bird [was in the] egg
       タマゴ  が  ある       巣        tamago ga    aru         su [the] egg             is [in a] nest
           巣  が  ある         枝            su ga    aru           eda [the] nest       is [on a] branch
             枝  が  生えた            木             eda ga   haeta               ki [the] branch grows [on the] tree
        木 が  生えた      穴                 穴  が ある           丘         ki   ga   haeta      ana                ana ga aru             oka the tree   grew [in a] hole,   [the] hole       was [on a] hill
                   草  が  生えて   グングン      伸びて                  kusa ga   haete       gungun         nobite [and the] grass       grew    faster-faster      grew
              緑が          いっぱい               midori ga      ippai [till it’s] green       everywhere
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kuro-tetsu-tanuki · 3 years ago
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裕くんが三日月亭でバイトする話(タイトル)
定晴ルート入った辺りのお話。
委員会イベやら本編の描写やらとあるルートネタバレやら有。
「なぁ裕。お前、数日ここでバイトしねえか?」 「は?バイト?」
いつものように三日月亭に買い物に来ていた俺は、店長から唐突な申し出を受けた。
「お前ドニーズでバイトしてたって言ってたよな?調理スタッフとしてもやれるだろ?」 「はあ。まぁ、確かにキッチンもやってたのでやれなくはないですが。どうしたんです?随分と突然ですね」
三日月亭は店長が一人で回している。 繁盛している時間は確かに忙しそうではあるが、注文、調理、配膳と見事に捌いている。 港の食堂を稼働させていた時の俺のような状態ではとてもない。 これが経験の差というものか。 いや、それは兎も角人員を雇う必要性をあまり感じないのだがどうしたというのだろうか。
「いや、その・・・ちょっと腰が・・・な」 「腰?店長腰悪くしたんですか?ちょ、大丈夫ですか!?海堂さん呼んできましょうか?あの人ああ見えてマッサージ得意なので」 「あー・・・そういうワケじゃ、いや、元はと言えばお前らがブランコなんか・・・」
なんだかよくわからないが随分と歯切れが悪い。 腰悪くしたことがそんなに言いにくい事なのか? 言葉尻が小さくて上手く聞き取れない。
「・・・あー、海堂の旦那の事は頼む。屈んだりすると結構痛むもんでな。基本はホール、こっちが手一杯になったらキッチンもやってもらうつもりだ。で、どうだ?まかない付きで給料もしっかり出すぜ。時給は・・・こんくらいでどうだ?」 「おお・・・意外と結構な金額出しますね」 「臨時とは言えこっちから頼んでるわけだしな。その分コキ使ってやるが」
海堂さんの事を頼まれつつ、仕事内容も確認する。 まぁ、ドニーズの頃と左程変わらないだろう。お酒の提供が主、くらいの違いか。 時給もこんな離島の居酒屋とは思えない程には良い。田舎の離島で時給四桁は驚きだ。 内容的にも特に問題ない。直ぐにでも始められるだろう。 とはいえ、屋敷に世話になっている身。勝手に決められるものでもない。
「非常に魅力的ではあるんですが、即断即決とは・・・。申し訳ないですが、一度持ち帰らせてください」 「おう。言っとくが夜の居酒屋の方だからな��� 「キッチンの話出しといて昼間だったらそれはそれでビックリですよ。わかりました、また明日にでも返事に来ますよ」
話を終え、買い物を済ませて三日月亭を後にする。 バイト、かぁ・・・。
夕食後。皆で食後のお茶をいただいている時に俺は話を切り出した。 夜間の外出になるのでまずは照道さん���相談するべきだし、海堂さんにもマッサージの話をしなければならない。
「成程。裕さんがやりたいと思うなら、私は反対はしませんよ。店長には日ごろからお世話になっていますし」 「ほー。ま、いいんじゃねぇの?懐があったかくなることは悪いことじゃあねえじゃねえか。マッサージの方も受けといてやるよ。店長に借り作っとくのも悪くないしな」
難しい顔をされるかと思ったが、話はあっさりと通った。 海堂さんに至っては難色を示すかと思っていたが、損得を計算したのかこちらもすんなりと了承を得た。 ちょっと拍子抜けしつつ、改めて照道さんに確認する。
「えっと、本当にいいんですか?」 「ええ。ただ、裕さんの事を考えると帰りだけは誰かしらに迎えに行ってもらった方がいいかもしれませんね」
確かに。禍月の時ではなくても、この島は気性が荒い人は少なくない。 まして居酒屋で働くのだ。店長がいるとはいえ何かしらトラブルに巻き込まれる可能性もある。
「じゃあ、俺が迎えに行くぜ。なんなら向こうで普通に飲んでてもいいしな」
お茶を啜っていた勇魚さんがニカッと笑う。 あ、湯呑が空になってる。 急須を取り、勇魚さんの湯呑にお茶を注ぎながら問い返す。
「俺は助かりますけどいいんですか?はい、お茶のおかわり」 「お、さんきゅ。いいんだよ、俺がやりてえんだから。俺なら酔いつぶれることもねえしな。それに、そういうのは旦那の仕事だろ?」
自然な流れで旦那発言が出てきて驚きつつ、その事実に一気に顔が火照る。 うん、そうなんだけど。嬉しいんだけど。そうストレートに言われると恥ずかしいというかなんというか。
「え、と・・・ありがとうございます」 「けっ、惚気は余所でやれってんだ」 「ふふ・・・」
海堂さんのヤジも、照道さんの温かな眼差しもどこか遠くに感じる。 ヤバい。凄い嬉しい。でもやっぱ恥ずかしい。 そんな思いに悶々としていると、冴さんがコトリと湯呑を置いた。
「で、バイトはいいんだけど、その間誰が私達のおつまみを用意してくれるの?」 「はっ、そういやそうだ!オイ裕!お前自分の仕事はどうする気なんだ」
冴さんの一言に、海堂さんが即座に反応する。 ええ・・・酒飲みたちへのおつまみの提供、俺の仕事になってたの・・・?
「それこそ三日月亭に飲みに来ればいいのでは・・・?」 「それも悪くはないけれど、静かに飲みたい時には向かないのよ、あそこ。それに、この髭親父を担いで帰るなんて事、か弱い乙女の私にさせるの?」
確かに三日月亭は漁師の人達がいつもいるから賑やか、というかうるさい。 ゆったり飲むには確かに向かないかもしれない。ましてや冴さんは女性だから漁師たちの視線を集めまくることだろう。 さり気なく、海堂さんを担ぐのを無理ともできないとも言わない辺りが冴さんらしい。
「ふむ。俺が裕につまみのレシピを教えてもらっておけばいいだろう。新しいものは無理だが既存のレシピであれば再現して提供できる」 「それが無難ですかね。すみません、洋一さん。今日の分、一緒に作りましょう。他にもいくつか教えておきますので」 「ああ、問題ない」
結局、洋一さんが俺の代わりにおつまみ提供をしてくれる事になり、事なきを得た。
翌日、午前中に店長へと返事をした後、島を探索。 少々の収穫もありつつ、昼過ぎには切り上げ、陽が落ち始める前には三日月亭へと足を運んでいた。
「説明は大体こんなもんか。不明な点が出てきたら逐一聞いてくれ」 「はい。多分大丈夫だと思います」
注文の仕方、調理場の決まり、会計の方法。 業務の大半はドニーズでの経験がそのまま役立ちそうだ。 むしろ、クーポンだのポイントだのない分こちらの方がシンプルで楽かもしれない。 渡されたエプロンを付けて腰紐を後ろで縛る。うん、準備は万全だ。
「さ、頼むぞルーキー」 「店長が楽できるよう努めさせてもらいますよ」
そんな軽口をたたき合いながら店を開ける。 数分も経たないうちに、入り口がガラリと音を立てた。
「いらっしゃい」 「いらっしゃいませー!」
現れたのは見慣れた凸凹コンビ。 吾郎さんと潮さんだ。
「あれ?裕?お前こんなとこで何してんだ?」 「バイト・・・えっと、店長が腰悪くしたみたいで臨時の手伝いです」 「なに、店長が。平気なのか?」 「動けないって程じゃないらしいので良くなってくと思いますよ。マッサージも頼んでありますし。それまでは短期の手伝いです」 「成程なぁ・・・」
ここで働くようになった経緯を話しつつ、カウンター近くの席へご案内。 おしぼりを渡しつつ、注文用のクリップボードを取り出す。
「ご注文は?まずは生ビールです?生でいいですよね?」 「随分ビールを推すなお前・・・まぁ、それでいいか。潮もいいか?」 「ああ、ビールでいいぞ。後は―」
少々のおつまみの注文を受けつつ、それを店長へと投げる。
「はい、店長。チキン南蛮1、鶏もも塩4、ネギま塩4、ツナサラダ1」 「おう。ほい、お通しだ」
冷蔵庫から出された本日のお通し、マグロの漬けをお盆にのせつつ、冷えたビールジョッキを用意する。 ジョッキを斜めに傾けながらビールサーバーの取っ手を手前へ。 黄金���液体を静かに注ぎながら垂直に傾けていく。 ビールがジョッキ取っ手の高さまで注がれたら奥側に向けてサーバーの取っ手を倒す。 きめ細かな白い泡が注がれ、見事な7:3のビールの完成。 うん、我ながら完璧だ。 前いたドニーズのサーバーは全自動だったから一回やってみたかったんだよなぁ、これ。
「はい、生二丁お待たせしました。こっちはお通しのマグロの漬けです」 「おう。んじゃ、乾杯ー!」 「ああ、乾杯」
吾郎さん達がビールを流し込むと同時に、入り口の引き戸が開く音がした。 そちらを向きつつ、俺は息を吸い込む。
「いらっしゃいませー!」
そんなスタートを切って、およそ2時間後。 既に席の半分は埋まり、三日月亭は盛況だ。 そんな中、またも入り口の引き戸が開き、見知った顔が入って来た。
「いらっしゃいませー!」 「おう、裕!頑張ってるみたいだな!」 「やあ、裕。店を手伝っているそうだな」 「勇魚さん。あれ、勇海さんも。お二人で飲みに来られたんですか?」
現れたのは勇魚さんと勇海さんの二人組。 俺にとっても良く見知ったコンビだ。
「勇魚から裕がここで働き始めたと聞いてな。様子見ついでに飲まないかと誘われてな」 「成程。こっちの席へどうぞ。・・・はい、おしぼりです。勇魚さんは益荒男ですよね。勇海さんも益荒男で大丈夫ですか?」 「ああ、頼むよ」 「はは、裕。様になってるぞ!」 「ありがとうございます。あまりお構いできませんがゆっくりしていってくださいね」
勇魚さんは俺の様子見と俺の迎えを兼ねて、今日はこのままここで飲むつもりなのだろう。 それで、勇海さんを誘ったと。 もう少しここにいたいが注文で呼ばれてしまっては仕方ない。 別の席で注文を取りつつ、すぐさまお酒の用意を準備をしなければ。
「いらっしゃいませー!」 「おッ、マジでいた!よう裕!遊びに来てやったぜ!」 「あれ、嵐の兄さん、照雄さんまで。何でここに?」
勇魚さん達が来てからしばらく経ったころ、店に見知った大柄な人物がやってくる。 道場の昭雄さんと嵐の兄さんだ。
「漁師連中の噂で三日月亭に新しい店員がいるって話を聞いてな」 「話を聞いて裕っぽいと思ったんだが大当たりだな!」 「確認するためだけにわざわざ・・・。ともかく、こっちの席にどうぞ。はい、おしぼりです」
働き始めたの、今日なんだけどな・・・。 田舎の噂の拡散力は恐ろしいな。 そんな事を思いつつ、2人を席に誘導する。 椅子に座って一息ついたのを確認し、おしぼりを渡しクリップボードの準備をする。
「おお。結構様になってるな。手際もいい」 「そりゃ照雄さんと違って裕は飲み込みいいからな」 「・・・おい」
照雄さんが俺を見て感心したように褒めてくれる。 何故か嵐の兄さんが誇らしげに褒めてくれるが、いつものように昭雄さん弄りも混じる。 そんな嵐の兄さんを、照雄さんが何か言いたげに半目で睨む。ああ、いつもの道場の光景だ。
「はは・・・似たようなことの経験があるので。お二人ともビールでいいですか?」 「おう!ついでに、裕が何か適当につまみ作ってくれよ」 「え!?やっていいのかな・・・店長に確認してみますね」
嵐の兄さんの提案により、店長によって「限定:臨時店員のおすすめ一品」が即座にメニューに追加されることとなった。 このおかげで俺の仕事は当社比2倍になったことを追記しておく。 後で申し訳なさそうに謝る嵐の兄さんが印象的でした。 あの銭ゲバ絶対許さねえ。
「おーい、兄ちゃん!注文ー!」 「はーい、只今ー!」
キッチン仕事の比重も上がった状態でホールもしなければならず、一気にてんてこ舞いに。
「おお、あんちゃん中々可愛い面してるなぁ!」 「はは・・・ありがとうございます」
時折本気なのか冗談なのかよくわからないお言葉を頂きつつ、適当に濁しながら仕事を進める。 勇魚さんもこっちを心配してくれているのか、心配そうな目と時折視線があう。 『大丈夫』という気持ちを込めて頷いてみせると『頑張れよ』と勇魚さんの口元が動いた。 なんかいいなァ、こういうの。 こっからも、まだまだ頑張れそうだ。
「そういえば、裕は道場で武術を学んでいるのだったか」 「おう。時たまかなり扱かれて帰って来るぜ。飲み込みが早いのかかなりの速度で上達してる。頑張り屋だよなぁ、ホント」 「ふふ、道場の者とも仲良くやっているようだな。嵐の奴、相当裕が気に入ったのだな」 「・・・おう、そうだな。・・・いい事じゃねえか」 「まるで兄弟みたいじゃないか。・・・どうした勇魚。複雑そうだな」 「勇海、お前さんわかって言ってるだろ」 「はは、どうだろうな。・・・ほら、また裕が口説かれているぞ」 「何っ!?ってオイ!勇海!」 「はははははっ!悪い。お前が何度もちらちらと裕の方を見ているのでな。あれだけ島の者を惹きつけているのだ、心配も当然だろう」 「裕を疑うわけじゃねえ。が、アイツ変なところで無防備だからよ。目を離した隙に手を出されちまうんじゃないかと気が気じゃねえんだよ」
何を話しているのかはここからじゃ聞こえないが、気安い親父たちの会話が交わされているらしい。 勇魚さんも勇海さんもなんだか楽しそうだ。
「成程な、当然だ。ふうむ・・・ならば勇魚よ、『網絡め』をしてみるか?立会人は俺がしてやろう」 「『網絡め』?なんだそりゃ」 「『網絡め』というのはだな―」
あまりにも楽しそうに会話しているので、まさかここであんな話をしているとは夢にも思わなかった。 盛大なイベントのフラグが既にここで立っていたのだが、この時点の俺にはあずかり知らぬ出来事であった。
そんなこんなで時間は過ぎ、あっという間に閉店時刻に。 店内の掃除を終え、食器を洗い、軽く明日の準備をしておく。 店長は本日の売り上げを清算しているが、傍から見ても上機嫌なのがわかる。 俺の目から見ても今日はかなり繁盛していた。 売り上げも中々良いはずだろう。
「いやぁ、やっぱお前を雇って正解だったな!調理に集中しやすいし、お前のおかげで客も増えるし財布も緩くなる!」 「おかげでこっちはクタクタですけどね・・・」 「真面目な話、本当に助か���た。手際も良いしフードもいける。島にいる間定期的に雇ってもいいくらいだ。もっと早くお前の有用性に気づくべきだったな」
仕事ぶりを評価してくれているのか、便利な人材として認識されたのか。 両方か。
「俺も俺でやることがあるので定期は流石に・・・」 「ま、ひと夏の短期バイトが関の山か。ともかく、明日もよろしく頼むぜ」 「はい。店長もお大事に。また明日」
金銭管理は店長の管轄だし、もうやれることはない。 店長に挨拶をし、帰路につくことにする。 店を出ると、勇魚さんが出迎えてくれた。
「さ、帰ろうぜ、裕」 「お待たせしました。ありがとうございます、勇魚さん」 「いいって事よ」
三日月亭を離れ、屋敷までの道を二人で歩いていく。 店に居た時はあんなに騒がしかったのに、今はとても静かだ。 そんな静かな道を二人っきりで歩くのって・・・何か、いいな。
「・・・にしてもお前、よく頑張ってたな」 「いや、途中からてんてこ舞いでしたけどね。飲食業はやっぱ大変だなぁ」 「そうか?そう言う割にはよく働いてたと思うぜ?ミスもねえし仕事遅くもなかったし」 「寧ろあれを日がな一人で捌いてる店長が凄いですよ」 「はは!そりゃあ本業だしな。じゃなきゃやってけねえだろうさ」
勇魚さんに褒められるのは単純に嬉しいのだが、内心は複雑だ。 一日目にしてはそれなりにやれたという自覚もあるが、まだまだ仕事効率的にも改善点は多い。 そういう部分も無駄なくこなしている店長は、何だかんだで凄いのだ。
「にしても、この島の人達はやっぱり気さくというか・・・気安い方が多いですね」 「そう、だな・・・」
酒も入るからか、陽気になるのは兎も角、やたらとスキンシップが多かった。 肩を組んでくるとかならまだいいが、引き寄せるように腰を掴んできたり、ちょっとしたセクハラ発言が飛んできたり。 幸か不幸か海堂さんのおかげで耐性がついてしまったため、適当に流すことは出来るのだが。
「裕、お前気を付けろよ」 「はい?何がですか?」 「この島の連中、何だかんだでお前の事気に入ってる奴多いからな。こっちは心配でよ」 「勇魚さんも俺の事言えないと思いますけど・・・。大丈夫ですよ、俺は勇魚さん一筋ですから」 「お、おう・・・」
勇魚さんは俺の事が心配なのか、どこか不安そうな顔で俺を見る。 モテ具合で言ったら寧ろ勇魚さんの方が凄まじい気がするので俺としてはそっちの方が心配だ。 でも、その気遣いが、寄せられる想いが嬉しい。 その温かな気持ちのまま、勇魚さんの手を握る。 一瞬驚いた顔をした勇魚さんだが、すぐさま力強く握り返される。
「へへっ・・・」 「あははっ」
握った手から、勇魚さんの熱が伝わってくる。 あったかい。手も。胸も。 温かな何かが、胸の奥から止まることなく滾々と湧き出てくるようだ。 なんだろう。今、すごく幸せだ。
「なぁ、裕。帰ったら風呂入って、その後晩酌しようぜ」 「閉店直前まで勇海さんと結構飲んでましたよね?大丈夫なんですか?」 「あんくらいじゃ潰れ���しねえさ。な、いいだろ。ちょっとだけ付き合ってくれよ」 「全くもう・・・。わかりましたよ。つまむもの何かあったかなぁ」
という訳でお風呂で汗を流した後、縁側で勇魚さんとちょっとだけ晩酌を。 もう夜も遅いので、おつまみは火を使わない冷奴とぬか漬けと大根おろしを。
「お待たせしました」 「おっ、やっこにぬか漬けに大根おろしか。たまにはこういうのもいいなあ」 「もう夜遅いですからね。火をつかうものは避けました」
火を使っても問題は無いのだが、しっかりと料理を始めたら何処からかその匂いにつられた輩が来る可能性もある。 晩酌のお誘いを受けたのだ。 どうせなら二人きりで楽しみたい。
「お、このぬか漬け。よく漬かってんな。屋敷で出してくれるのとちと違う気がするが・・・」 「千波のお母さんからぬか床を貰いまして。照道さんには、俺個人で消費して欲しいと言われてますので・・・」 「ああ、ぬか床戦争って奴だな!この島にもあんのか」
ぬか漬け、美味しいんだけどその度に沙夜さんと照道さんのあの時の圧を思い出して何とも言えない気分になるんだよなぁ。 こうして勇魚さんにぬか漬けを提供できる点に関しては沙夜さんに感謝なんだけど。 というかぬか床戦争なんて単語、勇魚さんの口から出ることに驚きを感じますよ・・・。 他の地域にもあるのか?・・・いや、深く考えないようにしよう。
「そういえば前にからみ餅食べましたけど、普通の大根おろしも俺は好きですねえ」 「絡み・・・」
大根おろしを食べていると白耀節の時を思い出す。 そういえば勇魚さんと海堂さんでバター醤油か砂糖醬油かで争ってたこともあったなぁ。 と、先ほどまで饒舌に喋っていた勇魚さんが静かになったような気がする。 何があったかと思い勇魚さんを見ると、心なしか顔が赤くなっているような気がする。
「勇魚さん?どうしました?やっぱりお酒回ってきました?」 「いや・・・うん。なんでもねえ、気にすんな!」 「・・・???まぁ、勇魚さんがそう言うなら」
ちょっと腑に落ちない感じではあったが、気にしてもしょうがないだろう。 そこから小一時間程、俺は勇魚さんとの晩酌を楽しんだのであった。
翌日、夕方。 三日月亭にて―
「兄ちゃん!注文いいかー?この臨時店員のおすすめ一品っての2つ!」 「こっちにも3つ頼むぜー」 「はーい、今用意しまーす!ちょ、店長!なんか今日やたら客多くないですか!?」 「おう、ビビるぐらい客が来るな。やっぱりお前の効果か・・・?」
もうすぐ陽が沈む頃だと言うのに既に三日月亭は大盛況である。 昨日の同時刻より明らかに客数が多い。 ちょ、これはキツい・・・。
「ちわーっとぉ、盛況だなオイ」 「裕ー!面白そうだから様子見に来たわよー」 「・・・大変そうだな、裕」
そんな中、海堂さんと冴さん、洋一さんがご来店。 前二人は最早冷やかしじゃないのか。
「面白そうって・・・割と混んでるのであんまり構えませんよ。はい、お通しとビール」 「いいわよォ、勝手にやってるから。私、唐揚げとポテトサラダね」 「エイヒレ頼むわ。後ホッケ」 「はいはい・・・」
本日のお通しである卯の花を出しながらビールジョッキを3つテーブルに置く。 この二人、頼み方が屋敷の時のソレである。 ぶれなさすぎな態度に実家のような安心感すら感じr・・・いや感じないな。 何だ今の感想。我が事ながら意味がわからない。
「裕。この『限定:臨時店員のおすすめ一品』というのは何だ?」 「俺が日替わりでご用意する一品目ですね。まぁ、色々あってメニューに追加になりまして」 「ふむ。では、俺はこの『限定:臨時店員のおすすめ一品』で頼む」 「お出しする前にメニューが何かもお伝え出来ますよ?」 「いや、ここは何が来るかを期待しながら待つとしよう」 「ハードル上げるなァ。唐揚げ1ポテサラ1エイヒレ1ホッケ1おすすめ1ですね。店長、3番オーダー入りまーす」
他の料理は店長に投げ、俺もキッチンに立つ。 本日のおすすめは鯵のなめろう。 処理した鯵を包丁でたたいて細かく刻み、そこにネギと大葉を加えてさらに叩いて刻む。 すりおろしたにんにくとショウガ、醤油、味噌、を加え更に細かく叩く。 馴染んだら下に大葉を敷いて盛り付けて完成。 手は疲れるが、結構簡単に作れるものなのだ。 そうして用意したなめろうを、それぞれのテーブルへと運んでいく。 まだまだピークはこれからだ。気合い入れて頑張ろう。
そう気合を入れ直した直後にまたも入り口の引き戸が音を立てたのであった。 わぁい、きょうはせんきゃくばんらいだー。
「おーい裕の兄ちゃん!今日も来たぜ!」 「いらっしゃいませー!連日飲んでて大丈夫なんですか?明日も朝早いんでしょう?」 「はっは、そんくらいで漁に行けない軟弱な野郎なんざこの打波にはいねえさ」 「むしろ、お前さんの顔見て元気になるってもんだ」 「はァ、そういうもんですか?とは言え、飲み過ぎないように気を付けてくださいね」
「なぁあんちゃん。酌してくれよ」 「はいはい、只今。・・・はい、どうぞ」 「っかー!いいねぇ!酒が美味ぇ!」 「手酌よりかはマシとは言え、野郎の酌で変わるもんです?」 「おうよ!あんちゃんみたいな可愛い奴に酌されると気分もいいしな!あんちゃんなら尺でもいいぜ?」 「お酌なら今しているのでは・・・?」 「・・・がはは、そうだな!」
「おい、兄ちゃんも一杯どうだ?飲めない訳じゃねえんだろ?」 「飲める歳ではありますけど仕事中ですので。皆さんだってお酒飲みながら漁には出ないでしょう?」 「そらそうだ!悪かったな。・・・今度、漁が終わったら一緒に飲もうぜ!」 「はは、考えておきますね」
ただのバイトに来ている筈なのに、何だか何処ぞのスナックのママみたいな気分になってくる。 それも、この島の人達の雰囲気のせいなのだろうか。
「あいつすげぇな。看板娘みてぇな扱いになってんぞ」 「流石裕ね。二日目にして店の常連共を掌握するとは。崇といい、これも旺海の血なのかしら?」 「もぐもぐ」 「さぁな。にしても、嫁があんなモテモテだと勇魚の野郎も大変だねぇ」 「裕の相手があの勇魚だって知った上で尚挑めるのかが見もの��」 「もぐもぐ」 「洋一、もしかしてなめろう気に入ったのか?」 「・・・うまい。巌もどうだ?」 「お、おう」
料理を運んでいる途中、洋一さんがひたすらなめろうを口に運んでいるのが目に入る。 もしかして、気に入ったのかな? そんな風にちょっとほっこりした気持ちになった頃、嵐は唐突に現れた。 嵐の兄さんじゃないよ。嵐の到来って奴。
「おーう裕。頑張っとるようじゃのう」 「あれ、疾海さん?珍しいですね、ここに来るなんて」 「げ、疾海のジジィだと!?帰れ帰れ!ここにはアンタに出すもんなんてねぇ!裕、塩持って来い塩!」
勇海さんのお父さんである疾海さんが来店。 この人がここにやってくる姿はほとんど見たことがないけれど、どうしたんだろう。 というか店長知り合いだったのか。
「なんじゃ店主、つれないのう。こないだはあんなに儂に縋り付いておったというのに」 「バッ・・・うるせェ!人の体好き放題しやがって!おかげで俺は・・・!」 「何言っとる。儂はちょいとお前さんの体を開いただけじゃろが。その後に若い衆に好き放題されて悦んどったのはお前さんの方じゃろ」
あー・・・そういう事ね。店長の腰をやった原因の一端は疾海さんか。 うん、これは聞かなかったことにしておこう。 というか、あけっぴろげに性事情を暴露されるとか店長が不憫でならない。
「のう、裕よ。お主も興味あるじゃろ?店主がどんな風に儂に縋り付いてきたか、その後どんな風に悦んでおったか」 「ちょ、ジジィてめぇ・・・」 「疾海さん、もうその辺で勘弁してあげてくださいよ。店長の腰がやられてるのは事実ですし、そのせいで俺が臨時で雇われてるんですから。益荒男でいいですか?どうぞ、そこの席にかけてください」 「おい、裕!」 「店長も落ち着いて。俺は何も見てませんし聞いてません。閉店までまだまだ遠いんですから今体力使ってもしょうがないでしょう。俺が疾海さんの相手しますから」 「―ッ、スマン。頼んだぞ、裕」
店長は顔を真っ赤にして逃げるようにキッチンへと戻っていった。 うん、あの、何て言うか・・・ご愁傷様です。 憐れみの視線を店長に送りつつお通しと益荒男を準備し、疾海さんの席へと提供する。
「よう店主の手綱を握ったのう、裕。やるもんじゃな」 「もとはと言えば疾海さんが店長をおちょくるからでしょう。あんまりからかわないでくださいよ」
にやにやと笑う疾海さんにため息が出てくる。 全く・・・このエロ爺は本当、悪戯っ子みたいな人だ。 その悪戯が天元突破したセクハラばかりというのもまた酷い。 しかも相手を即落ち、沈溺させるレベルのエロ技術を習得しているからなおさら性質が悪い。
「にしても、裕。お前さんもいい尻をしておるのう。勇魚の竿はもう受けたか?しっかりと耕さんとアレは辛いじゃろうて」
おもむろに尻を揉まれる。いや、揉みしだかれる。 しかも、その指が尻の割れ目に・・・ってオイ!
「―ッ���」
脳が危険信号を最大限に発し、半ば反射的に体が動く。 右手で尻を揉みしだく手を払い��け、その勢いのまま相手の顔面に左の裏拳を叩き込む! が、振り抜いた拳に手ごたえは無く、空を切ったのを感じる。 俺は即座に一歩下がり、構えを解かずに臨戦態勢を維持。 チッ、屈んで避けたか・・・。
「っとぉ、危ないのう、裕。儂の男前な顔を台無しにするつもりか?」 「うるせえジジイおもてでろ」 「ほう、その構え・・・。成程、お前さん辰巳の孫のとこに師事したんか。道理で覚えのある動きじゃ。じゃが、キレがまだまだ甘いのう」
かなりのスピードで打ち込んだ筈なのに易々と回避されてしまった。 やはりこのジジイ只者ではない。 俺に攻撃をされたにも関わらず、にやにやとした笑いを崩さず、のんびりと酒を呷っている。 クソッ、俺にもっと力があれば・・・!
「おい裕、どうした。何か擦れた音が、ってオイ。マジでどうした!空気が尋常じゃねぇぞ!?」
店内に突如響いた地面を擦る音に、店長が様子を見に来たようだ�� 俺の状態に即座に気づいたようで、後ろから店長に羽交い締めにされる。
「店長どいてそいつころせない」 「落ち着け!何があったか想像はつくが店ん中で暴れんな!」 「かかかっ!可愛い奴よな、裕。さて、儂はまだ行くところがあるでの。金はここに置いとくぞ」
俺が店長に止められている間に、エロ爺は笑いながら店を後にした。 飲み食い代よりもかなり多めの金額が置かれているのにも腹が立つ。
「店長!塩!」 「お、おう・・・」
さっきとはまるきり立場が逆である。 店の引き戸を力任せにこじ開け、保存容器から塩を鷲掴む。
「祓い給え、清め給え!!消毒!殺菌!滅菌ッ!!!」
適当な言葉と共に店の前に塩をぶちまける。 お店の前に、白い塩粒が散弾のように飛び散った。
「ふー、ふー、ふーッ!・・・ふぅ」 「・・・落ち着いたか?」 「・・・ええ、何とか」
ひとしきり塩をぶちまけるとようやく気持ちが落ち着いてきた。 店長の気遣うような声色に、何ともやるせない気持ちになりながら返答する。 疲労と倦怠感に包まれながら店の中に戻ると、盛大な歓声で出迎えられる。
「兄さん、アンタやるじゃねぇか!」 「うおッ!?」 「疾海のじいさんにちょっかいかけられたら大体はそのまま食われちまうのに」 「ひょろっちい奴だと思ってたがすげえ身のこなしだったな!惚れ惚れするぜ!」 「あ、ありがとうございます・・・はは・・・」
疾海さんは俺と勇魚さんの事を知っているから、単にからかってきただけだろうとは思っている。 エロいし奔放だし子供みたいだが、意外と筋は通すし。 あくまで「比較的」通す方であって手を出さない訳ではないというのが困りものではあるが。 そんな裏事情をお客の人達が知っている訳もなく、武術で疾海さんを退けたという扱いになっているらしい。 けど、あのジジイが本気になったら俺の付け焼刃な武術じゃ相手にならない気がする。 さっきの物言いを考えると辰馬のおじいさんとやりあってたって事になる。 ・・・うん、無理そう。
「おっし!そんなあんちゃんに俺が一杯奢ってやろう!祝杯だ!」 「いいねえ!俺も奢るぜ兄ちゃん!」 「抜け駆けすんな俺も奢るぞ!」 「ええっ!?いや、困りますって・・・俺、仕事中ですし・・・」 「裕、折角なんだし受けておきなさいな」
どうしようかと途方に暮れていると、いつの間にか冴さんが隣に来ていた。 と、それとなく手の中に器のようなものを握らされた。
「冴さん。あれ、これって・・・」
横目でちらりと見ると『咲』の字が入った器。 これ、咲夜の盃・・・だよな?
「腕も立って酒にも強いと知っとけば、あの連中も少しは大人しくなるでしょ。自衛は大事よ」 「はぁ・・・自衛、ですか」 「後でちゃんと返してね」
これって確か、持ってるだけで酒が強くなるって盃だったっけ。 その効果は一度使って知っているので、有難く使わせてもらうとしよう。 店長もこっちのやりとりを見ていたのか何も言うこと無く調理をしていた。
「おっ、姐さんも一緒に飲むかい!?」 「ええ。折角だから裕にあやからせてもらうわ。さぁ、飛ばしていくわよ野郎共ー!」 「「「「おおーっ!!」」」」 「お、おー・・・」
その後、ガンガン注がれるお酒を消費しつつ、盃を返す、を何度か繰り返すことになった。 途中からは冴さんの独壇場となり、並み居る野郎共を悉く轟沈させて回っていた。 流石っス、姐さん。 ちなみに俺は盃のご利益もあり、その横で飲んでいるだけで終わる事になった。
そんな一波乱がありつつも、夜は更けていったのだった。
そんなこんなで本日の営業終了時刻が近づいてくる。 店内には冴さん、海堂さん、洋一さんの3人。 冴さんはいまだ飲んでおり、その底を見せない。ワクなのかこの人。 海堂さんはテーブルに突っ伏してイビキをかいており、完全に寝てしまっている。 洋一さんはそんな海堂さんを気にしつつ、お茶を啜っている。 あんなにいた野郎共も冴さんに轟沈させられた後、呻きながら帰って行った。 明日の仕事、大丈夫なんだろうか・・・。
後片付けや掃除もほぼ終わり、後は冴さん達の使っているテーブルだけとなった時、入り口が壊れそうな勢いで乱暴に開いた。
「裕ッ!」 「うわっ、びっくりした。・・・勇魚さん、お疲れ様です」
入り口を開けて飛び込んできたのは勇魚さんだった。 いきなりの大声にかなり驚いたが、相手が勇魚さんとわかれば安心に変わる。 だが、勇魚さんはドスドスと近づいてくると俺の両肩をガシリと掴んだ。
「オイ裕!大丈夫だったか!?変な事されてねえだろうな!」
勇魚さんにしては珍しく、かなり切羽詰まった様子だ。 こんなに心配される事、あったっけ・・・? 疑問符が浮かぶがちらりと見えた勇海さんの姿にああ、と納得する。 というか苦しい。掴まれた肩もミシミシ言ってる気がする。
「うわっ!?大丈夫、大丈夫ですって。ちょ、勇魚さん苦しいです」 「お、おう。すまねえ・・・」
宥めると少し落ち着いたのか、手を放してくれる。 勇魚さんに続いて入って来た勇海さんが、申し訳なさそうに口を開いた。
「裕、すまないな。親父殿が無礼を働いたそうだな」 「勇海さんが気にすることではないですよ。反撃もしましたし。まぁ、逃げられたんですけど」 「裕は勇魚のつがいだと言うのに、全く仕方のないことだ。親父殿には私から言い聞かせておく。勘弁してやって欲しい」 「疾海さんには『次やったらその玉潰す』、とお伝えください」 「ははは、必ず伝えておくよ」
俺の返答に納得したのか、勇海さんは愉快そうに笑う。 本当にその時が来た時の為に、俺も更なる修練を積まなければ。 ・・・気は進まないけど、辰馬のおじいさんに鍛えてもらう事も視野に入れなければならないかもしれない。
「裕、今日はもう上がっていいぞ。そいつら連れて帰れ」 「え、いいんですか?」 「掃除も殆ど終わってるしな。色々あったんだ、帰って休んどけ」
俺に気を遣ってくれたのか、はたまたさっさと全員を返したかったのか、店長から退勤の許可が出た。 ここは有難く上がらせてもらおう。色々あって疲れたのは事実だ。
「じゃあ、折角ですので上がらせてもらいます。お疲れ様でした」 「おう。明日も頼むぞ」
店長に挨拶をし、皆で店を出る。 勇海さんはここでお別れとなり、俺、勇魚さん、冴さん、海堂さん、洋一さんの5人で帰る。 寝こけている海堂さんは洋一さんが背負っている。
「裕、ホントに他に何も無かったんだろうな!?」 「ですから、疾海さんにセクハラ受けただけですって。その後は特に何も無かったですし・・・」
で、帰り道。勇魚さんに詰問されております。 心配してくれるのはとても嬉しい。 嬉しいんだけど、過剰な心配のような気もしてちょっと気おくれしてしまう。
「俺に気を遣って嘘ついたりすんじゃねえぞ」 「冴さん達も一緒にいたのに嘘も何もないんですが・・・」 「裕の言ってる事に嘘はないわよ。疾海の爺さんに尻揉まれてたのも事実だけど」 「・・・思い出したら何か腹立ってきました。あのジジイ、次に会ったら確実に潰さなきゃ」
被害者を減らすにはその大本である性欲を無くすしかないかな? やっぱり金的か。ゴールデンクラッシュするしかないか。 あの驚異的な回避力に追いつくためにはどうすればいいか・・・。 搦め手でも奇襲なんでもいい、当てさえすればこちらのものだろう。 そう思いながら突きを繰り出し胡桃的な何かを握り潰す動作を数回。 駄目だな、やっぱりスピードが足りない。
「成程、金的か」 「裕、その、ソイツは・・・」
洋一さんは俺の所作から何をしようとしているかを読み取ったようだ。 その言葉にさっきまで心配一色だった勇魚さんの顔色変わる。 どうしました?なんで微妙に股間を押さえて青ざめてるんです?
「冴さん。こう、男を不能寸前まで追い込むような護身術とかないですかね?」 「あるにはあるけど、そういうの覚えるよりもっと確実な方法があるわよ」 「え?」 「勇魚。アンタもっと裕と一緒にいなさい。で、裕は俺の嫁ア��ールしときなさい」
嫁。勇魚さんのお嫁さん。 うん、事実そうなんだけどそれを改めて言われるとなんというか。 嬉しいんだけど、ねぇ?この照れくさいような微妙な男心。
「裕。頬がだいぶ紅潮しているようだが大丈夫か?」 「だ、大丈夫です。何というか、改めて人に言われると急に、その・・・」 「ふむ?お前が勇魚のパートナーである事は事実だろう。港の方でも知れ渡っていると聞いている。恥ずべきことではないと思うが?」 「恥ずかしいんじゃなくて嬉しくも照れくさいというか・・・」 「・・・そういうものか。難しいものだな」
洋一さんに指摘され、更に顔が赤くなる。 恥ずかしいわけじゃない。むしろ嬉しい。 でも、同じくらい照れくささが湧き上がってくる。 イカン、今凄い顔が緩みまくってる自覚がある。
「流石にアンタ相手に真正面から裕に手を出す輩はいないでしょう。事実が知れ渡れば虫よけにもなって一石二鳥よ」 「お、おお!そうだな!そっちの方が俺も安心だ!うん、そうしろ裕!」
冴さんの案に我が意を得たりといった顔の勇魚さん。 妙に食いつきがいいなァ。 でも、それって四六時中勇魚さんと一緒にいろって事では?
「勇魚さんはそれでいいんですか?対セクハラ魔の為だけに勇魚さんの時間を割いてもらうのは流石にどうかと思うんですが」 「んなこたあねえよ。俺だってお前の事が心配なんだ。これくらいさせてくれよ」 「そう言われると断れない・・・」
申し訳ない旨を伝えると、純粋な好意と気遣いを返される。 実際勇魚さんと一緒に居られるのは嬉しいし、安心感があるのも事実だ。
「裕、あんたはあんたで危機感を持った方がいいわよ」 「危機感、といいますとやっぱりセクハラ親父やセクハラ爺の対処の話ですか?」
冴さんの言葉に、2人の男の顔が思い浮かぶ。 悪戯、セクハラ、煽りにからかい。あの人たちそういうの大好きだからなぁ。 でも、だいぶ耐性はついたし流せるようになってきたと思ってるんだけど。
「違うわよ。いやある意味同じようなモンか」 「客だ、裕」 「客?お店に来るお客さんって事ですか?」
え、海堂さんとか疾海さんじゃないのか。 そう思っていると意外な答えが洋一さんの方から返って来た。 客の人達に何かされたりは・・・ない筈だったけど。
「店にいた男たちはかなりの人数が裕を泥酔させようと画策していたな。冴が悉くを潰し返していたが」 「何っ!?」 「え!?洋一さん、それどういう・・・」
何その事実今初めて知った。どういうことなの。
「今日店に居た男たちは皆一様にお前をターゲットとしていたようだ。やたらお前に酒を勧めていただろう。お前自身は仕事中だと断っていたし、店長もお前に酒がいかないようそれとなくガードしていた。だがお前が疾海を撃退したとなった後、躍起になるようにお前に飲ませようとしていただろう。だから冴が向かったという訳だ」 「疾海の爺さん、なんだかんだでこの島でもかなりの手練れみたいだしね。物理でだめならお酒でって寸法だったみたいね」 「えっと・・・」 「食堂に来てた立波さん、だったかしら。ここまで言えばわかるでしょ?店長も何だかんだでそういう事にならないよう気を配ってたわよ」
あァ、成程そういう事か。ようやく俺も理解した。 どうやら俺は三日月亭でそういう意味��の好意を集めてしまったという事らしい。 で、以前店長が言っていた「紳士的でない方法」をしようとしていたが、疾海さんとのやりとりと冴さんのおかげで事なきを得たと、そういう事か。
「えー・・・」 「裕・・・」
勇魚さんが俺を見る。ええ、心配って顔に書いてますね。 そうですね、俺も逆の立場だったら心配しますよ。
「なあ裕。明日の手伝いは休んどけ。店には俺が行くからよ」 「いや、そういうワケにもいかないでしょう。勇魚さん、魚は捌けるでしょうけど料理できましたっけ?」 「何、料理ができない訳じゃねえ・・・なんとかなるだろ」
あっけらかんと笑う勇魚さんだが、俺には不安要素しかない。 確かに料理ができない訳じゃないけど如何せん漢の料理だ。店長の補助とかができるかと言うと怪しい。 この島に来てからの勇魚さんの功績をふと思い返す。 餅つき・・・臼・・・ウッアタマガ。 ・・・ダメだ、食材ごとまな板真っ二つにしそうだし、食器を雑に扱って破壊しそうな予感しかしない。 勇魚さんの事だからセクハラされたりもしそうだ。 ダメダメ、そんなの俺が許容しません。
「様々な観点から見て却下します」 「裕ぅ~・・・」
そんなおねだりみたいな声したって駄目です。 却下です却下。
「裕、ならば俺が行くか?」 「お願いしたいのは山々なんですが洋一さんは明日北の集落に行く予定でしたよね。時間かかるって仰ってたでしょう?」 「ふむ。ならば巌に―」 「いえ、海堂さんには店長のマッサージもお願いしてますしこれ以上は・・・」
洋一さんが申し出てくれるが、洋一さんは洋一さんで抱えてる事がある。 流石にそれを曲げてもらうわけにはいかない。 海堂さんなら色んな意味で文句なしの人材ではあるのだが、既にマッサージもお願いしている。 それに、迂闊に海堂さんに借りを作りたくない。後が怖い。
「洋一も無理、巌も無理とするならどうするつもりなんだ?高瀬か?」 「勇魚さん、三日月亭の厨房を地獄の窯にするつもりですか?」 「失礼ねェ。頼まれてもやらないわよ」
勇魚さんからまさかの選択が投げられるがそれは無理。 冴さんとか藤馬さんに立たせたら三日月亭から死人が出る。三日月亭が営業停止する未来すらありえる。 頼まれてもやらないと冴さんは仰るが、「やれないからやらない」のか「やりたくないからやらない」のかどっちなんだ。
「明日も普通に俺が行きますよ。ついでに今後についても店長に相談します」 「それが一番ね。店長も裕の状況に気づいてるでしょうし」 「巌の話だとマッサージのおかげかだいぶ良くなってきているらしい。そう長引きはしないだろう」 「後は勇魚がガードすればいいのよ」 「おう、そうか。そうだな」
そんなこんなで話も固まり、俺達は屋敷に到着した。 明日は何事もなく終わってくれればいいんだけど・・・。 そんな不安も抱えつつ、夜は過ぎていった。
そしてバイト三日目。 俺は少し早めに三日月亭へと来ていた。
「ああ、だよなぁ。すまんな、そっちの可能性も考えてなかったワケじゃ無いんだが・・・そうなっちまうよなあ」
俺の状況と今後の事を掻い摘んで説明すると、店長は疲れたように天井を仰ぐ。
「何というか���・・すみません。腰の具合はどうです?」
別に俺が何かをしたわけではないけれど、状況の中心にいるのは確かなので申し訳ないとは思う。
「海堂の旦那のおかげでだいぶ良くなった。もう一人でも回せそうだ。何なら今日から手伝わなくてもいいんだぞ?」
店長はそう言うが、完治しているわけでもない。 悪化するわけではないだろうが気になるのも事実。 なので、昨日のうちに勇魚さんと決めていた提案を出すことにする。
「でも全快というわけでもないんでしょう?引き受けたのは自分です。勇魚さんもいますし、せめて今日までは手伝わせてくださいよ」 「心意気はありがてえが・・・。わかった、面倒ごとになりそうだったらすぐさま離れろよ?勇魚の旦那も頼むぜ」 「おう!」 「はい!さ、今日も頑張りましょう!」
昨日話した通り今日は開店から勇魚さんも店に居てくれる。 万が一な状態になれば即座に飛んできてくれるだろう。 それだけで心の余裕も段違いだ。
「裕、無理すんなよ」 「わかってますよ。勇魚さんも、頼みますね」 「おう、任せときな!」
勇魚さんには店内を見渡せる席に座ってもらい、適当に時間を潰してもらう。 俺は店長と一緒に仕込みを始めながら新メニューの話も始める。 途中、勇魚さんにビールとお通しを出すのも忘れずに。
「新しいメニュー、どうすっかねぇ」 「今日の一品、新レシピも兼ねてゴーヤーチャンプルーでいこうかと思うんですよ」 「ほー。確かに苦瓜なら栽培してるとこはそこそこあるしな。行けるだろう」 「スパム缶は無くても豚肉や鶏肉でいけますからね。肉が合わないなら練り物やツナでも大丈夫です。材料さえあれば炒めるだけってのも高ポイント」 「肉に卵にと寅吉んとこには世話になりっぱなしだな。だが、いいねえ。俺も久しぶりにチャンプルーとビールが恋しくなってきやがった」 「後で少し味見してくださいよ。島の人達の好み一番把握してるの店長なんだから。・・・でも、やっぱり新メニュー考えるのは楽しいな」 「・・・ったく、面倒ごとさえ無けりゃあこのまま働いてもらえるってのに。無自覚に野郎共の純情を弄びやがって」 「それ俺のせいじゃないですよね・・・」
調理実習をする学生みたいにわいわい喋りながら厨房に立つ俺達を、勇魚さんはニコニコしながら見ている。 あ、ビールもう空きそう。おかわりいるかな? そんな風に営業準備をしていると時間はあっという間に過ぎ去り、開店時間になる。 開店して数分も経たないうちに、店の引き戸がガラリと開いた。
「いらっしゃいませー!」
「裕、お前まだここで働いてたのか」 「潮さん、こんばんは。今日までですけどね。あくまで臨時なので」 「ふむ、そうか。勇魚の旦那もいるのか」 「おう、潮。裕の付き添いでな」 「・・・ああ、成程な。それは確かに必要だ」
「おっ、今日も兄ちゃんいるのか!」 「いらっしゃいませ!ははは、今日で終わりなんですけどね」 「そうなのか!?寂しくなるなぁ・・・。なら、今日こそ一杯奢らせてくれよ」 「一杯だけならお受けしますよ。それ以上は無しですからね」
「裕の兄ちゃん!今日でいなくなっちまうって本当か!?」 「臨時ですので。店長の具合もよくな��ましたし」 「兄ちゃんのおすすめ一品、好きだったんだけどよ・・・」 「はは、ありがとうございます。今日も用意してますから良かったら出しますよ」 「おう、頼むぜ!」
続々とやってくる常連客を捌きつつ、厨房にも立つ。 店長の動きを見てもほぼ問題ない。治ってきてるのも事実のようだ。 時折お客さんからの奢りも一杯限定で頂く。 今日は以前もらった方の咲夜の盃を持ってきているので酔う心配もない。
「おう、裕のあんちゃん!今日も来たぜ!」 「い、いらっしゃいませ・・・」
再びガラリと入り口が空き、大柄な人物がドスドスと入ってくる。 俺を見つけるとがっしと肩を組まれる。 日に焼けた肌が特徴の熊のような人だ。名前は・・・確か井灘さん、だったかな? 初日に俺に可愛いと言い、昨日は酌を頼まれ、冴さんに潰されてた人だ。 スキンシップも多く、昨日の一件を考えると警戒せざるを得ない。 取り合えず席に案内し、おしぼりを渡す。
「ガハハ、今日もあんちゃんの可愛い顔が見れるたぁツイてるな!」 「あ、ありがとうございます。注文はどうしますか?」 「まずはビール。食いモンは・・・そうさな、あんちゃんが適当に見繕ってくれよ」 「俺が、ですか。井灘さんの好みとかわかりませんけど・・・」 「大丈夫だ。俺、食えねえもんはねえからよ。頼むぜ!」 「はあ・・・分かりました」
何か丸投げされた感が凄いが適当に三品程見繕って出せばいいか。 ついでだからゴーヤーチャンプルーも試してもらおうかな。 そんな事を考えながら、俺は井灘さんにビールとお通しを出す。
「む・・・」 「どうした旦那。ん?アイツ、井灘か?」 「知ってるのか、潮」 「ああ。俺達とは違う港の漁師でな。悪い奴では無いんだが、気に入った奴にすぐ手を出すのが玉に瑕でな」 「そうか・・・」 「旦那、気を付けた方がいいぞ。井灘の奴、あの様子じゃ確実に裕に手を出すぞ」 「・・・おう」
こんな会話が勇魚さんと潮さんの間でなされていたとはつゆ知らず。 俺は店長と一緒に厨房で鍋を振っていた。
「はい、井灘さん。お待たせしました」 「おう、来た来た」 「つくね、ネギま、ぼんじりの塩の串盛り。マグロの山かけ。そして今日のおすすめ一品のゴーヤーチャンプルーです」 「いいねえ、流石あんちゃん。で、なんだそのごーやーちゃんぷうるってのは?」 「内地の料理ですよ。苦瓜と肉と豆腐と卵の炒め物、ってとこでしょうか。(厳密には内地の料理とはちょっと違うけど)」 「ほー苦瓜。滅多に食わねえが・・・あむ。うん、美味え!美味えぞあんちゃん!」 「それは良かった」 「お、美味そうだな。兄ちゃん、俺にもそのごーやーちゃんぷうるってのくれよ」 「俺も!」 「はいはい、ただいま」
井灘さんが美味しいと言ってくれたおかげで他の人もゴーヤーチャンプルーを頼み始める。 よしよし、ゴーヤーチャンプルーは当たりメニューになるかもしれない。 そう思いながら厨房に引っ込んでゴーヤーを取り出し始めた。
それからしばらくして井灘さんから再びゴーヤーチャンプルーの注文が入る。 気に入ったのだろうか。
「はい、井灘さん。ゴーヤーチャンプルー、お待たせ」 「おう!いやー美味えな、コレ!気に入ったぜ、ごーやーちゃんぷうる!」 「あはは、ありがとうございます」
自分の料理を美味い美味いと言ってもりもり食べてくれる様はやっぱり嬉しいものだ。 作る側冥利に尽きる。 が、作ってる最中に店長にも「アイツ���気を付けとけ」釘を刺されたので手放しに喜ぶわけにもいかない。
「毎日こんな美味いモン食わせてくれるなんざあんちゃんと一緒になる奴は幸せだなあ!」 「はは・・・ありがとう、ございます?」 「あんちゃんは本当に可愛い奴だなあ」
屈託ない笑顔を向けてくれるのは嬉しいんだけど、何だか話の方向が急に怪しくなってきたぞ。
「おい、裕!早く戻ってきてこっち手伝え!」 「ッ、はーい!じゃあ井灘さん、俺仕事に戻るので・・・」
こっちの状況を察知したのか、店長が助けを出してくれる。 俺も即座に反応し、戻ろうと足を動かす。 が、その前に井灘さんの腕が俺の腕を掴む。 あ、これは・・・。
「ちょ、井灘さん?」 「なあ、裕のあんちゃん。良けりゃ、俺と・・・」
急に井灘さんの顔が真面目な顔になり、真っ直ぐに俺を見据えてくる。 なんというか、そう、男の顔だ。 あ、俺こういう顔に見覚えある。 そう、勇魚さんの時とか、立浪さんの時とか・・・。 逃げようと思うも腕をガッチリとホールドされ、逃げられない。 ・・・ヤバイ。そう思った時だった。 俺と井灘さんの間に、ズイと体を割り込ませてきた見覚えのあるシャツ姿。
「なあ、兄さん。悪いがこの手、離してくんねえか?」 「勇魚さん・・・」
低く、優しく、耳をくすぐる声。 この声だけで安堵感に包まれる。 言葉は穏やかだが、どこか有無を言わせない雰囲気に井灘さんの眉間に皺が寄る。
「アンタ・・・確か、内地の客だったか。悪いが俺の邪魔・・・」 「裕も困ってる。頼むぜ」 「おい、アンタ・・・う、腕が動かねえ!?」
井灘さんも結構な巨漢で相当な力を込めているのがわかるが、勇魚さんの手はびくともしない。 勇魚さんの怪力はよく知ってはいるけど、こんなにも圧倒的なんだなあ。
「こいつ、俺の大事な嫁さんなんだ。もし、手出しするってんなら俺が相手になるぜ」
そう言って、勇魚さんは俺の方をグッと抱き寄せる。 抱き寄せられた肩口から、勇魚さんの匂いがする。 ・・・ヤバイ。勇魚さん、カッコいい。 知ってたけど。 知ってるのに、凄いドキドキする。
「っ・・・ガハハ、成程!そいつは悪かったな、旦那!」 「おう、分かってくれて何よりだぜ。さ、裕。店長が呼んでるぜ」 「あ、ありがとうございます勇魚さん。井灘さん、すみませんけどそういう事なので・・・」
勇魚さんの言葉に怒るでもなく、井灘さんは納得したようにあっさりと手を放してくれた。 井灘さんに謝罪しつつ、促されるまま厨房へと戻る。
「おお!あんちゃんも悪かったな!旦那、詫びに一杯奢らせてくれや!」 「おう。ついでに裕のどこが気に入ったのか聞かせてくれよ」
漁師の気質なのかはたまた勇魚さんの人徳なのか。 さっきの空気はどこへやら、そのまま親し気に話始める2人。
「ちょ、勇魚さん!」 「いいぜ!旦那とあんちゃんの話も聞かせてくれよ!」 「井灘さんまで!」 「おい裕!いつまで油売ってんだ、こっち手伝え!」
店長の怒鳴り声で戻らざるを得なかった俺には二人を止める術などなく。 酒の入った声のデカい野郎共が二人、店内に響かない筈がなく・・・。
「でよ、そん時の顔がまたいじらしくってよ��可愛いんだこれが」 「かーっ!��ましいこったぜ。旦那は果報モンだな!」 「だろ?なんたって俺の嫁さんなんだからな!」
勇魚さんも井灘さんも良い感じに酒が入ってるせいか陽気に喋っている。 可愛いと言ってくれるのは嬉しくない訳ではないけれど、連呼されると流石に男としてちょっと悲しい気分になる。 更に嫁さん嫁さん連呼されまくって複雑な心境の筈なのにどれだけ愛されているかをガンガン聞かされてオーバーヒートしそうだ。
「何故バイト中に羞恥プレイに耐えなければならないのか・・・」 「おい裕、いつまで赤くなってんだ。とっとと料理運んで来い」 「はい・・・いってきます・・・」
人が耐えながらも調理しているというのにこの銭ゲバ親父は無情にもホール仕事を投げて来る。 こんな状況で席に料理を運びに行けば当然。
「いやー、お熱いこったなあ兄ちゃん!」 「もう・・・ご勘弁を・・・」 「っははははは!」
茶化されるのは自然な流れだった。 勇魚さんと井灘さんのやりとりのお陰でスキンシップやらは無くなったが、祝言だの祝い酒だの言われて飲まされまくった。 咲夜の盃が無ければ途中で潰れてたかもしれない。
そんな揶揄いと酒漬けの時間を、俺は閉店間際まで味わうことになったのだった。
そして、もうすぐ閉店となる時間。 勇魚さんと一緒にずっと飲んでいた井灘さんも、ようやく腰を上げた。 会計を済ませ、店の前まで見送りに出る。
「じゃあな、あんちゃん。俺、マジであんちゃんに惚れてたんだぜ」 「はは・・・」 「だが、相手が勇魚の旦那じゃあ流石に分が悪い。幸せにしてもらえよ!」 「ありがとうございます・・・」 「また飲みに来るからよ。また今度、ごーやーちゃんぷうる作ってくれよな!」 「その時に居るかは約束できませんが、機会があれば」
からりとした気持ちの良い気質。 これもある種のプレイボーイなのだろうか。
「じゃあな!裕!勇魚の旦那!」 「おう!またな、井灘!」 「おやすみなさい、井灘さん」
そう言って手を振ってお見送り。 今日の三日月亭の営業も、これにて閉店。 店先の暖簾を下ろし、店内へと戻る。
「裕。そっちはどうだった?」 「こっちも終わりました。後は床掃除したら終わりですよ」 「ホント、この3日間マジ助かった。ありがとうな」 「いえいえ、久しぶりの接客も楽しかったですよ」
最後の客だった井灘さんも先程帰ったばかりだ。 店内の掃除もほぼ終わり、閉店準備もほぼ完了。 三日月亭のバイトももう終わりだ。 店長が近づいてくると、封筒を差し出してきた。
「ほい、バイト代だ。色々世話もかけたからな。イロ付けといたぜ」 「おお・・・」
ちょろっと中身を確認すると、想定していたよりかなり多めの額が入っていた。 店長なりの労いの証なのだろう。
「なあ裕。マジで今後もちょくちょく手伝いに来ねえか?お前がいると客足増えるし酒も料理も注文増えるしな。バイト料もはずむぜ」 「うーん・・・」
店長の申し出は有難いが、俺は俺でまだやらなければならない事がある。 悪くはない、んだけど余り時間を使うわけにもなぁ。 そんな風に悩んでいると、勇魚さんが俺の頭にぽん、と掌をのせる。
「店長、悪いがこれ以上裕をここにはやれねえよ」 「はは、旦那がそう言うんなら無理は言えねえな。裕の人気凄まじかったからな」 「ああ。何かあった���って、心配になっちまうからな」
今回は勇魚さんのお陰で事なきを得たけど、また同じような状況になるのは俺も御免被りたい。 相手に申し訳ないのもあるけど、どうすればいいか分からなくて困ったのも事実だ。
「お店の手伝いはできないですけど、またレシピの考案はしてきますので」 「おう。売れそうなのを頼むぜ。んじゃ、気を付けて帰れよ」 「はい、店長もお大事に。お疲れ様です」 「旦那もありがとうな」 「おう、おやすみ」
ガラガラ、という音と共に三日月亭の扉が閉まる。 店の前に残ったのは、俺と勇魚さんの二人だけ。
「じゃ、帰るか。裕」 「ええ、帰りましょうか。旦那様」 「おっ・・・。へへ、そう言われるのも悪くねえな」 「嫌味のつもりだったんだけどなァ」
そう言って俺と勇魚さんは笑いながら屋敷への帰路につくのであった。
後日―
三日月亭に買い物に来た俺を見るなり、店長が頭を下げてきた。
「裕、頼む・・・助けてくれ・・・」 「ど、どうしたんです店長。随分疲れきってますけど・・・」 「いや、それがな・・・」
あの3日間の後、事あるごとに常連客から俺は居ないのかと聞かれるようになったそうな。 俺がまだ島にいるのも事実なので連れて来るのは不可能だとも言えず。 更に井灘さんがちょくちょく仲間漁師を連れて来るらしく、『姿が見えない料理上手な可愛い店員』の話だけが独り歩きしてるらしい。 最近では聞かれ過ぎて返す言葉すら億劫になってきているそうな。 ぐったりした様子から、相当疲弊しているのがわかる。
「な、裕。頼む後生だ。俺を助けると思って・・・」 「ええ・・・」
それから。 たまーに勇魚さん同伴で三日月亭にバイトに行く日ができました。
更に後日。
勇魚さんと一緒に『網絡め』という儀式をすることになり、勇海さんに見られながら致すというしこたま恥ずかしいプレイで羞恥死しそうな思いをしたことをここに記録しておきます。
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nikomaki123 · 1 year ago
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【blog】オーダー コトリちゃんと恐竜ちゃん / a custom made little bird and a little dinosaur
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honnakagawa · 6 months ago
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📢今日 明日 定休日ですが
7月の展示のお知らせをmillebooksさんがしてくださったので、リポストいたします。 7月は、画家のやまぐちめぐみさんの作品展です。 昨年秋には『やまぐちめぐみ作品集』が増補新装版として復刊されました。 復刊前のものも、当店で手に取ってくださった方がたくさんいらっしゃいましたね。 めぐみさんとお会いすることは、叶いませんでしたが、安曇野の月とビスケット. @and_biscuit さんの展示に続き、松本でもめぐみさんの作品と会っていただける貴重な機会をいただきました。 7月10日より。 是非、皆さまお出かけくださいませ。
https://www.instagram.com/millebooks/?hl=ja ・・・ 全国を巡回中のやまぐちめぐみ作品展、7月は松本の本・中川で展示いただきます。
『やまぐちめぐみ作品集 新装版』刊行記念 やまぐちめぐみ作品展  本・中川 @honnakagawa 2024年7月10日〜7月28日
49歳で夭逝した人気画家「やまぐちめぐみ」作品集が2023年秋、新たな作品を大幅に追加掲載し、増補新装版で復刊しました。本書の刊行を記念し、作品展を開催します。本格的に制作を始めた30代半ばの初期作品から、難病を発症し自由に動かない身体と向き合いながら描いた、観るものを惹きつけて離さない優美な色彩の後期作品までを展示。やまぐちめぐみさんの作品の多くはこれまでの作品展で販売されており、原画作品を一同に鑑賞できるのは非常に貴重な機会となります。やまぐちめぐみさんが命をかけて描いた作品たちに、ぜひ会いにきてください。
会場:本・中川 〒390-0803 長野県松本市元町1-3-27 電話 0263-33-8501 http://honnakagawa.com
会期:2024年7月10日(水)〜7月28日(日) 12:00-18:00(金・土は19:00まで) 月・火曜日定休 
◎やまぐちめぐみ 1966年大阪府生まれ。30代半ばから制作活動を開始。2000年セツ・モードセミナー入学。病と闘いながら絵描き、物書きに専念し個展、グループ展に参加、多数の作品を遺す。2015年9月49 歳で永眠。2016年制作途中だった作品に絵本作家とりごえまりが加筆して完成した絵本『コトリちゃん』を出版。多くの人にその絵が支持されており、画家やイラストレーターのファンも多い。没後も毎年のように作品展が開催され、毎回大盛況となっている。
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kurayamibunko · 4 years ago
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シュルシュル、サヤサヤ、カサコソ、コトリ
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『くさはら』 文:加藤幸子 絵:酒井駒子
祖母の買い物につきあって町へ行くときは、山ぎわの小道を通って国道にあるバス停まで歩いていくのが定番のルートでした。ある夏の朝、祖母と小道を歩いていると、黒い紐が道幅いっぱいに伸びているのが見えました。その先にも、その先にも、ずっと向こうまで、間をあけて黒い紐が伸びています。
後ろを歩いていた祖母に教えたところ、「ヘビとちゃうか。山ん中も暑いから涼んどるんやろ」。
夏の午前中は山の向こうがわに太陽がいるので、小道は影になります。小道に面した山ぎわは濃い緑がごちゃごちゃ絡まる藪で、いろいろな形の葉っぱがざくざく飛び出て朝露に濡れています。ヘビは、藪の中から黒々とした胴体を小道に伸ばしてひんやり涼んでいるのでした。
ヘビが嫌いな祖母のために追いはらおうと勇気を出して踏み出すと、掃除機のコードみたいにシュッと勢いよく藪の中に引っ込みました。もう一歩踏み出すと、その先もシュッと引っ込みました。面白くなってどしどし足を踏み鳴らして進むと、シュッシュッシュッと順番に藪の中に消えていきました。
「草や木や虫にも心があるんやで。ヘビかてそうや。いじめたらあかんで」「いじめてないよ、追いはらってるだけ」「青大将やから大丈夫や。せっかく涼んどるんやからほっとき。ヘビの恨みをこうたらこわいで」「どうなるの?」「七代たたるて言うな」「ななだい?」「あんたの子孫まで恨まれるゆうこっちゃ」。藪に顔を寄せると、むわむわ湿気が漂ってきます。葉っぱと葉っぱの隙間に目をこらすと、くだんの青大将がとぐろを巻いているのが見えました。夜みたいな目をして、ひっそりこちらをうかがっているようでした。
●●●
家族で川へ遊びにきた女の子。ちょうちょを追いかけてくさはらへ。夢中で進んでいくうちに、くさはらは女の子の背をこえます。
くさはらは うみの なみみたいに ゆれました。 おなかが しずんでしまいました。 かたも しずんでしまいました。
くさの うみのうえに でているのは ぼうしと かおだけになりました。
ビョーンと とびついて きたのは みどりいろの ばった。 ばったさん にげないでね。 ビョーン。 あーあ。
ちょうちょは見えなくなり、ばったもいなくなり、女の子はひとりぼっち。
うごいたら ピシッと はっぱが ほっぺたをぶちました。 なきたくなったので めを つぶりました。
きゅうに いろいろな おとが いちどきにき こえてきました。 ザワザワ。カサコソ。ジージー。ピッピッ。キリリ コロロ。 とおくで かわも シャラシャラ うたっています。
ここって どこなんだろう。
大人なら腰の高さまでもない草原や見向きもしない藪も、子どもにとっては大海原であり、何かがうごめく異世界です。大人が別のことに気をとられているうちに、子どもはきれいなものや珍しいものを追いかけて境界を越え、夢中で冒険をつづけます。独りきりであることも、帰り道も気にしません。異世界の奥深くへどんどん入っていきます。
●●●
山ぎわの小道の途中に横道があり、奥まった所にある石組みの遺構に通じていました。むかしここに水が湧き出ていて、旅人の水飲み場だったそうです。あたりには竹が群生し、鬱蒼としています。危ないから絶対に行くなと祖母に言われていましたが、地元の子どもにはうってつけの秘密基地で、わたしも友だちと何度か遊びに行きました。
あるとき、水飲み場にマムシが出て、遊んでいた子どもが噛まれる事件が起きました。野放しにしては危ないと近所の人たち総出で捕まえ、祖父が用意した一升瓶にお酒と一緒に詰められました。マムシ酒が飲めると近所の人は喜んでいました。
瓶の中でうねる立派な焦げ茶の胴体や、ウロコに刻まれたきれいな模様や、柔らかそうな牙に見とれていると、「顔おぼえられたらどないするん。見たらあかん」と言って、祖母が新聞紙で瓶をくるんでしまいました。そして、「あそこにはマムシの巣があったんや。近寄らなんだらマムシも噛まへんかったやろ。こっちが謝らんといかんのやで。マムシ酒なんかもってのほかや。きちんと供養せんとあかん」と行って、さっさとお寺に持っていってしまいました。
その夜、薄暗い廊下に置かれたおまるで用を足していると、わたしの足元を透明なヘビがゆっくり這いながら通りすぎました。一枚一枚のウロコが透けて、床が見えています。そのままシュルシュルと壁の中へ消えていきました。水飲み場で遊んでいたわたしの顔をおぼえていたのかなと思いました。寝間に戻って祖母に話すと、「成仏したんを知らせに来たんやろ」と言って、手を合わせました。わたしも一緒に手を合わせました。
その後、水飲み場には立入禁止の看板と柵が立てられました。数年後、ブルトーザーが何台も来て小道も藪も竹林もぜんぶ平らにしました。今は、家並みが整然とつづく新興住宅地になっています。
※太字は文中より引用
『くさはら』 文:加藤幸子 絵:酒井駒子 福音館書店
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annamanoxxx1 · 5 years ago
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月兎 01
 雨の中華街は、まるで小さな映画館で観る古いキネマのようだ。燻んだ灰に烟る極彩色。濡れた地面に反射する赤、黄、青。中華角灯の連なる汚れた路地裏。公園の東屋。媽祖廟に関帝廟。映画のセットに一人取り残されたような気持ちで左馬刻は夜道を歩いていた。傘はない。霧雨は、肩にかけたスカジャンの下までは染み込んではこない。こんな日は人も静かだ。観光客の少ない街は必然、客引きの声が消える。商売をしても仕方がないと皆知っているから。脇に下げたホルスターの拳銃が、重い。自然丸くなる背をポケットに突っ込んだ手で支える。息をすることすら怠い。
 沈んだ景色の中、不意に頭上に明かりを感じた。まるで、雲の隙間から気まぐれに顔を出す日の光のような。顔を上げると、眼鏡の男が居た。正確には、陳列窓の中に。男は、うたた寝をしているように見えた。アンティー���のソファにゆったりと体を預けている。優美な曲線を描くマホガニーの肘置きに柔らかく添う指先。鈍い光沢のジャガード生地で作られたロングのチャイナ服。細い体。柔らかな質感の濃茶の髪。完璧な形をした耳には、赤い房飾り。シノワズリ趣味。それは男の装いだけではない。透かし彫の衝立も、天井から下がる黒の角灯とクリスタルのシャンデリアも、大胆なピオニー柄の淡碧の壁紙も。現代日本とは思えぬ、杳々とした空間。その中で眠る男に興味が湧いた。硝子に顔を近づける。繊細な装飾が施された眼鏡の、黒のフレームの奥。レンズ越しの瞼をまじまじと見つめる。放射状に広がる長い睫毛。丸みを帯びたまぶた。瞳の色は何色だろうか。白い頬に落ちる影。
「なぁ、目、開けろよ」
 聞こえるはずはない。だが、話しかけずにいられない。明かりの消された店で、唯一明るい陳列窓の中で、眠る男が生身のはずはないのに。それでも、あまりに男が生々しくて。
「なぁ、なぁ」
 気狂いのようにぽつ、ぽつと何度も語りかける。
 どれ位の時間、そこに居ただろうか。縋るように硝子に手を突いて。ようやく諦めて、立ち去ろうとした。その時に。ふぅ、と男のまつ毛が持ち上がった。最初に見えたのは、明るい緑。晴れた夏の木漏れ日のような。それに見とれていると、ゆっくりとマゼンタが現れる。不思議な瞳の色だった。
「きれぇだな、お前の目」
 こちらを見ない男に、話しかける。
「あっ?おい!」
 男は無反応のまま、スゥと瞼を下ろした。何事もなかったように、上下のまつ毛が重なる。
「………くそ」
 悪態をついた瞬間、店内がパッと明るくなった。
「何か、用か」
 デカイ男が、にゅっと建物の脇から顔を出す。どうやら店の人間のようだ。裏口から回ってきたのだろう。
「あ、いや、こいつ」
 左馬刻が、陳列窓の中の男を指差す。
「あ��……今店を開けよう。待っていてくれ」
 そう言って、大柄の男が戻っていく。日の光を集めたような明るいオレンジ色の髪、晴れた海面のような明るい青の目。白色人種の特徴を持つ、彫りの深い顔立ちに、飾り窓の男と同じようなロングのチャイナ服。シノワズリを体現したかのような男と、店の佇まいが重なった。すぐに透かし彫の施された硝子扉が内側に開く。
「どうぞ」
 背の高い男に招かれて、左馬刻は店内に足を踏み入れた。エキゾチックな花の香り。外からは見えなかった場所には、壺や茶器、置物などが並んでいる。
「茶を淹れよう。座っていてくれ」
縁にカーヴィングの施された、エボニーのティーテーブル。揃いの獣脚のアームチェアにドカリと座り、左馬刻は陳列窓の男の茶色い後ろ頭を、ぼんやりと見つめた。
「気になるか?」
 オレンジの髪の男が、茶盤に並んだ茶器に湯を注ぐ。流れるような手つきで茶葉を洗い、再度鉄瓶から湯を注ぎ、蓋を閉めた小ぶりな急須に上からも湯をかける。コトリ、と目の前に置かれた透かし模様の白い湯のみに浮かぶ、黄金の輪。ず、と一口すすると、茉莉花の香りが広がった。
「銃兎も連れてこよう。起きるかどうかはわからないが」
 そう言って、オレンジの髪の男が陳列窓に近づく。あの男は『銃兎』と言うのか、と左馬刻は思った。オレンジの髪の男に抱き上げられた銃兎が、左馬刻の��かいのアームチェアにゆっくりと降ろされた。
「銃兎、茶はどうだ?貴殿の好きな碧潭飄雪(スノージャスミン)を淹れたのだが」
スゥと、銃兎の瞳が開く。けれどまたすぐに閉じてしまって、オレンジの髪の男が苦笑した。
「どうやら、今日は気が乗らないようだ。部屋に戻せと言っている。すまないが、待っていてくれ」
 そう言って、オレンジの髪の男は銃兎を抱き、カーテンに覆われた店の奥へと消えていく。それを、なぜだかひどく腹立たしい気持ちで左馬刻は見つめていた。いや、腹立たしいというのは少し違う。左馬刻は、羨ましかったのだ。オレンジの髪の男が。
「さて、待たせたな。小官は理鶯という。元軍人だ。船に乗るのが好きで、各国で買い付けをしては、こうして商いをしている。貴殿の名は?」
「左馬刻」
左馬刻は簡潔に答えた。
「銃兎、は一体なんだ?人間か?」
左馬刻の率直な問いに、理鶯が微笑む。
「あれは観用少年(プランツドール)だ」
「は?プランツ?嘘だろ?」
 『プランツドール(観用少年・観用少女)』とは、その名の通り、観用の少年・少女だ。人工の。左馬刻の属する火貂組の組長・火貂退紅も一体、少女型を所持している。左馬刻は職業柄、派手な集まりに参加することが多いが、今まで目にした観用少女たちはみな、成人男性の胸元にも満たない姿だった。何年、何十年物でも。手入れを怠らなければ、同じ姿のまま二百年の時を越える個体もいると聞いている。
「稀に、育ってしまう物もいる。稀に、だが」
 そう言って、理鶯は茉莉花茶に口をつけた。
「左馬刻、銃兎は名人の手による傑作だった。銘は『月兎(げっと)』」
 銘がつくほどの観用少年の価値を、左馬刻は知っている。退紅のオヤジのプランツも、銘を持つ逸品だった。その値段は、億を超える。しかし、理鶯は『傑作だった』と過去形を使った。
「育ってしまったプランツの価値は、ほぼ無い。それでも、銘を持つプランツなら、ワンルームマンションを買えるくらいの価値を持つ」
 語りながら、理鶯が茶を左馬刻の湯のみに注ぐ。一煎目より柔らかく重い香りが立ち上った。
「へぇ」
 左馬刻が相槌を打つ。つまりあのウサギちゃんは、高級品っていうわけだ。
「一千万でどうだ?」
理鶯の言葉に、左馬刻が顔を上げる。
「は?」
訝しげな左馬刻に、理鶯が微笑みかけた。
「銃兎は、左馬刻を気に入ったようだ。興味がなければ、一瞬でも、瞳を開いたりはしない」
「アイツ、動けんの?」
 ずっと、寝っぱなしなのかと勝手に思い込んでいたが、そういえば今まで見てきた観用少年・少女たちはみな、歩き、笑い、主人と何か会話をしていた。
「食べもんも食えんのか?」
 理鶯が茶を勧めていた事も思い出した。
「ああ、風呂もトイレも、一人でこなせる。食事は日に3度、人肌に温めたミルク。週に一度金平糖を与えると肌ツヤが良くなるぞ。全体的に疲れが見えてきたら専用の栄養剤もある。銃兎は育っているから、人間と同じ食事も摂れるが、嗜好品だ。ミルクさえ与えていれば、ことは足りる」
 左馬刻は頭を抱える。自分の家に銃兎がいる事を想像して、胸がぎゅっと熱くなった。コンクリ打ちっ放しの無機質な部屋だ。家具も最低限しかない。そんな空間に、あの、美しいものが存在する。それはなんと魅力的なことか。
「そいやさ、銃兎って名前は誰がつけたんだよ」
 銃なんて物騒な名前が付いている。けれどその名は、あのお綺麗な顔に不思議と良く似合っていた。
「前の主人が、な」
 含むように呟いた理鶯は、それきり理由を語ろうとはしなかった。
「返事は直ぐでなくていい。銃兎は気難しい。迷ったら顔を見に来るといい。眠っていても、銃兎は気づく」
 流石に、高級車が買える値段を即決することはできなかった。
「馳走になった」そう言い残して、左馬刻は店を出た。
*
「いいのか銃兎?左馬刻は帰ってしまった」     天蓋付きの中華風の寝台の上、銃兎は絹のシーツに包まって眠っていた。理鶯の言葉に、パチリと緑の瞳が開く。理鶯が差し伸べた手をとって、銃兎はゆっくりと起き上がった。
「理鶯、余計な事はしないで頂けます?」
手厳しい一言に、理鶯が苦笑する。
「大体、一千万だなんて、安すぎます。私を何だと思っているんです」
ぷぅと頬を膨らませて、銃兎が涙を滲ませる。元は、数億で取引されていた個体だ。自尊心が大いに傷つけられたのだろう。
「だが、銃兎。貴殿の日々のミルク代や服、装飾品など、一体いくらの持ち出しになっていると思う?」
 優しい声で理鶯が問う。責めているのではないことは、銃兎にはちゃんと伝わっている。けれど。
「……だから、嫌ですけど、ものすごく嫌ですけど、硝子窓で客引きしているじゃないですか」
「うん、それはとても助かっている」
 言いながら、理鶯は銃兎の頭を柔らかく撫でた。現実、銃兎を目当てに店に飛び込んで来る客は多い。しかし、銃兎はそんな客たちには決して目を開かなかった。銃兎を目当てに入って来た客の中には、店の常連になる者も多い。もともと銃兎を欲しがる客というのは、美術品の好事家が多いのだ。
「だが、銃兎、小官は貴殿をこのようなところで飼い殺しにしたくない」
 理鶯の言葉に、銃兎が泣きそうな顔をした。
「わたしは、ここに居たいんです。ずっとここに。ねえ、駄目ですか?お願い、理鶯」
理鶯の幅の広いチャイナ服の袖を掴んで、銃兎が懇願する。理鶯は銃兎を大切に扱っているが、それはあくまで商品としてだ。出来る事なら、商品としてではなく、銃兎を愛��てくれる人間に届けたかった。
「もう、人間を愛するのは嫌なんです。もう、あんな思い、二度としたくない」
 理鶯にすがり付く銃兎の背を撫でて、理鶯は物思いに耽る。通常、観用少年というのは、愛に絶望すると枯れるものだ。しかし、銃兎は、一度枯れかけはしたが、こうして未だ美しく咲いている。それは、銃兎も気が付かない心の奥底で、人の愛を望んでいるからではないのか。
「左馬刻は、きっとまた来る。ゆっくり考えたらいい」
 そう言って、理鶯は銃兎を寝台に横たえた。椅子の背に脱ぎ捨てられたチャイナ服を、ハンガーにかける。
「おやすみ、銃兎。また明日」
 暗闇の部屋から、明るい四角に足を踏み出す理鶯を、銃兎は寝台の上から静かに見送った。
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kotorikaigi · 5 years ago
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6月20日客演日誌(山本魚)
コトリ会議ははじめましてです。山本魚といいます。3月に大学を卒業して今は大学院生です。いつか京都で役者をやっています、と胸張って言えるようになれるといいなと思っています。
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コロナ自粛の間に感情がすっかり鈍麻し、愛情とか恐怖とか、ずいぶん昔のもののような気がする記憶を掘り起こしながら稽古しています。
自粛明けで困ったことがあって、人との距離がだいぶ開いてしまいました。もちろんウィルスが怖いというのもあるのですが、単純に他人に近づくのになかなかの抵抗を感じるようになりました。リアルな他人を見なさすぎて、稽古初日に「うわ、人や」となった軽い衝撃をまだ覚えています。
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頭も体も鈍くてちゃんと自分の役に届かないなと悩んでいます。今回の役では愛情というものがとても大きなエネルギー源になってるのかなと思います。愛がなんだ、一人でも生きろよ、と思う反面、届けようとする愛情と返ってくる愛情が羨ましくもあります。
人間わからんです。そして気取るつもりはないんですけど、多分あんまり人間好きじゃないんだろうなと思います。でもだから演劇やってるのかなとも思います。
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人間難しい。魚になりたい。
山本魚のこりっちhttps://ticket.corich.jp/apply/107237/skn/
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kanno-no · 5 years ago
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夜道を照らすのはあなたの命でいいですか?
「命くらいかけたって良いじゃん。減るでもなし」
コトリ。淡い影を塗りつぶすように置かれた瓶が酷��幻想的でした。伝う水滴はきっと涙の代わりなのでしょう。薄暗い店の片隅に逃げ場はありません。逃げ出したい気持ちを呑み込むようにグラスをあおりました。カラリ。
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