#ぴーしぇん豆板醤
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怒涛のように過ぎた一週間。ウナギを50ユーロも出して食べに行ったドイツ国籍日本人のお店は、色々な意味で興味深かった。普段の私ならば、絶対に行かない店だ。大体、ワシは海外にいる日本人はほぼ全員嫌いである。よっぽどの事がない限り、身元がしっかりしていると思わるる大使館員とでさえ、会話ど��ろか御挨拶も避けたい。バンコクでもNYCでも、どこにいようが、海外在住日本人どもとお付き合いするのは、まっぴら御免被りたい。従い、日本人経営のスーパーがあると、N婦人に教わったが、そこにも一歩も近づいていない。
Isabelの娘Noaが来ているので、今週は関西弁喋る癖にマジで濃い味の料理しか作れない不思議な方々のレストランの後は、こちらの中華ドイツ友好文化交流組合みたいな所が作っている、頤和園という中華料理を奢ってもらう。麻婆豆腐は、こちらではまるっきりヴェジタリアン食だそうで、ワシの作る麻婆豆腐に豚肉ミンチを入れて山椒(shichuan pepperという)を用いる事にドン引きしたIsabel親子。昨年末からずっと、いつか一緒に行こうと誘ってくれていたレストラン。まぁ不味くは無いのだが、豆板醤とケチャップだけで味付け。キクラゲとネギが少し入っていて、上から香草を散らしてある。うーむ。これは麻婆豆腐では無い。。。つーか、日本のド田舎の中華な感じ。そーだ。河口湖へ行く途中の街道筋にある、あの東京で修行した自慢で売っている店と、味付けのコンセプトが全く同じ。
困ったらケチャップと醤油と、豆板醤。この三点セットに、場合によっては砂糖を少し加えてみたりと、どの料理もベースは同じ味付けである。飽きるだろ、とワシは思うが、ドイツ人には最高に美味しいらしい。確かに、アミノ酸の量は少なめで、ワシも安心して食べる事ができたが。。。ナス炒めにしても、何にしても、同じ味付けなのには閉口する。田舎なので、大量の白米にカレーのようにナス炒めでも、肉炒めでも、なんでもかんでもごちゃごちゃにして食べるのが、ドイツ流らしい。うーむ。ワシ、自分の料理でいいッス。
木曜日は、来年度からのフェロー選考会があったため、彼らの選考会に合わせて開かれたハンブルグ市内Walkingツアーがあったので、便乗参加する。当然、自慢のPlantenundBlumenに連行され、日本庭園自慢。まぁ、菖蒲が綺麗でした。しかし、Irisといっても通じない事が判明。菖蒲はirisだが、あの花は蓮のwater lilyだと言い張られる。いやぁ、ワシは確かに御立派なドイツ人様達と比べると東洋のバカザルですが、花菖蒲と蓮は違うと思うよ。。。と言っておく。立派な人には逆らわないのが良い。王様が裸でフルチンでも、えっ、王様の癖にパンツ履いてないじゃん。。などと公に呟いてはいけないのだ。ワシは、日本では一早く、王様が裸だと焦るタイプで、何なら、ねぇねぇと隣のボ~っとした脳味噌半分豆腐の奴に注意喚起したりしていた。
しかしだ。ドイツに来て、やっと、ママが言っていた事が分かってきた。バカにバーカって言っちゃいけません!とワシを叱ってくれていたママ。ママはある意味で正しかった。バカにバーカって言うと、後が面倒臭いのだ。バカは自分が一番正しいと信じるある種の新興宗教の方々だから、そんな奴ら相手に、あなたは無知ですね、なぁんて言ってもキレるだけである。正しいのは常に自分だからだ。この手の方々は御自身が、もはや無敵全能の神である。おまけにもっと面倒臭いのは、小賢しいバカは、神のフリも心得ているので、バカと言ってくる相手にはにこやかに対応し、己の無知でさえ恥でなくチャームポイント的に自己アピールするので、余計に疲れる。相手にするだけ無駄である。
ということはだ。気付いてしまった。。。ワシは、バカな日本人の間で理解できなかった、関わり過ぎてはいけない、という教訓を学べ無かったので、神様が、しゃーないなぁマキは。。。とか言いながら、強化レッスン先としてドイツを選んだんかもしれんちゅぅこっちゃ。ワシャ、段々、バカと切断する。付き合いつつも遮断する。無関与の関与を身に付けるじょ。ブハハ。ドイツでドイツ人相手に猛特訓やで〜!
さて、本題。どこの主要都市でも、ジェント��フィケーションが問題になっとる。なんやそれ?と最初思って、辞書引っ張っても、今どきの言語学者はバブルパリピなので、gentrificationは、日本語でジェントリフィケーションとしか出てこんのですよ、皆様。ワシは、アホなので、全く意味分からんのですが、お灯台とか桶言おうとか出ると、意味がサックリ分かるらしい。ワシは絶望。桶言おうで修士号とってお灯台で博士号とっても、このワシの生まれつきのアホは治りませんことよ。ワシは頭悪い、口悪い、目が悪いの三重苦だから、ヘレン・ケラーもおののくような障害者ならぬギフテッドパーソンですことよ。全く実に哀れむべき対象ですことよ。。詠嘆。
っで、ジェントリフィケーションとは、要は都市の中心部の昔、労働者階層の住む地区が、gentryに貴族階級に支配されて、労働者が郊外へ移住させられていく過程で、多くの労働者階級の文化が失われたり、住居跡が破壊されていく過程を表す。こうした動きに反するため、ハンブルグでは80年代後半から、建物の価値を付けるために、落書きをするのが流行ったらしい。日本では落書きアートは眉ひそめる対象で、最近になってやっと学歴詐欺の小池百合子のお陰でバンクシーが知れ渡り、落書きアートに何百万、何千万円と払われる事に気付いたようだ。が、ハンブルグでは、80年代から、この落書きアート効果を古い労働者住宅の保存のために、アートを使って行っている。ハンブルグは港湾都市なので、カモメが良く飛んでいる。上の写真は、保存運動対象のボロいアパートに描かれていたアート。アート、アートってうるせー。ただの落書きじゃろ。と、目が悪くて趣味を共有できない東洋のバカは、心の中でツイツイ思っていた。
ちなみに菖蒲の写真の左隣の写真は、道路に埋め込まれているユダヤ人達の碑です。これの説明は、一切無し。そして、当然、説明されないので、研究所の人々も、ガシガシ踏みつけて歩いておられました。こういう事で傷付くワシは繊細なバカなので、繊細すぎて四重苦かもしれん。
心を落ち着けるために、大好きな象さんを、と思い立ち、折り紙で三種類の象さんを折る。土を捏ねると無心になれるとほざいとった、ワシの父上を名乗る方がいるが、無心とは、色々と多分、無心レベルが違うんだろうなぁと、ふと思う。最近、エキゾチックが大好きなドイツ人達の間では仏教や瞑想ブーム。それで大���けしている胡散臭い輩がわんさかおる。そして、胡散臭い事に気付き、自分がついている師がタダのインチキ金むしり取り野郎だった事を素直に認める事のできない、ある意味での拝金主義者は、仏教とは無だの空だの言って、意味が無いという議論を展開しとる。なんか、下らないので、ベムりんみたいに耳だけそばだてて聞いていけど、目を開けてまでして相手する気すら起きない。
何故か。自分に問う。これは多分、上の無心の問題と同じだ。理解したいという理解度レベルと、知識レベルの乖離から、多くの人は、自分の知識と理解度が常に同等であると勘違いする罠に陥っている。知識は、知識が多いから意味がある訳ではない。体験も同じ。いっぱい練習しても伸びない時期もあるのと同じ。理解度というのは。当然、知識や体験と連動して正の相関にある。しかし、それはある程度のレベルまででしかない。その先を目指す時、違う次元に行く時、知識偏重や体験主義だけでは乗り越えられない何かがある。
まぁね、知識も無く、体験もしないでシッタカブッタになれて、自分の立派さに素直に酔える人には、到達できない次元ちゅーんが、あるって事ですなぁ。素直は大事。でも、素直の次元、無知の次元、無心の次元。同じ言葉を使っているけれど、異次元レベルの話をしている事が、時としてあって、人とはオメデタクできているので、その人の次元に合ったことしか受け取れないし、それで満足してたら、オワリ。それだけの事ですな。
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Chen’s Ma Po Tofu 陳麻婆豆腐 at Cucina di Norry #gourmand #おいしいものだいすき #szechuancuisine #chengdu #chenmapotofu #chenmapo #陳麻婆豆腐 #ぴーしぇん豆板醤 #sichuancuisine #sichuanpeppercorn #ほあじゃおきいてる (at Fairfax County, Virginia) https://www.instagram.com/p/BoDVdmjAxGz/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=s4plu1981psc
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【マインドマップレシピ 豚バラカボチャの豆板醤炒め】 これは、「簡単・うまい」の代表選手。 カボチャというと、硬い皮のおかげで、敬遠しがちでした。 切る前にレンチンしてからやると楽々っていうのを、つい先日知りました。 今までの苦労(硬ぇーんだよカボチャ。危ないだろ!)は、何だったのだろうか。と、いうぐらい楽々です。 何でも、カボチャは、栄養も豊富で免疫力もUPできるとか。 今のご時世にちょうど良いですね。 このレシピは、豆板醤のピリ辛が、カボチャの甘さと豚バラのホンワカした味にぴったりです。 そして、材料には、かき忘れましたが、しめじを入れるとさらにうまいです。 マインドマップには、左下のほうに、あとから書き足しました。デジタルの便利なところですね。 かき忘れても、対処法を考えるといろいろ、楽しく修正できます。TEFCASだー。 TEFCASを知りたい人は、マインドマップを習いましょう。 #マインドマップ #レシピ #豆板醤 #豚バラ #カボチャ #しめじ https://www.instagram.com/p/B9dMBucDohN/?igshid=1y98g4tl7bgo
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【良食生活】久しぶりの投稿f^_^; 本格四川風激辛激旨麻婆豆腐です。 手前味噌ですが本当に美味い。 味の決め手は、四川の郫県豆瓣醬(ぴーしぇんとうばんじゃん)と和歌山産ブドウ山椒(四川の花椒より遥かに美味い)です。どっちも欠かせません。 .. #2019 [10月06日] #良食生活 #ryoshokuseikatsu #yummyandgoodforhealthfoodlife #豆板醤 #豆板醬 #郫県豆瓣醬 #四川 #中華料理 #doubanjiang #doubanjiangpaste #broadbeanchilipaste #chinesechilibeansauce #山椒 #青山椒 #花椒 #花山椒 #ブドウ山椒 #szechuanpepper #sichuanpepper https://www.instagram.com/p/B3UeFRUn3xW/?igshid=h6mz5tguxemf
#2019#良食生活#ryoshokuseikatsu#yummyandgoodforhealthfoodlife#豆板醤#豆板醬#郫県豆瓣醬#四川#中華料理#doubanjiang#doubanjiangpaste#broadbeanchilipaste#chinesechilibeansauce#山椒#青山椒#花椒#花山椒#ブドウ山椒#szechuanpepper#sichuanpepper
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天ヶ瀬さんちの今日のごはん9
『肉じゃが』with 神速一魂
9月中旬。世界はようやく秋の存在を思い出し、ゆったりと気温を下げていこうとしていた。稀に手を滑らせたかのような猛暑日の時もあるが、天の気まぐれと言う奴なのだろう。暑くなったり寒くなったり台風が来たり、天気予報を見ていても「忙しい」という感想ばかりを抱く。
忙しい、その言葉は冬馬自身にも言えた。 秋クールのドラマの主演。冬馬にとっても事務所にとっても世間に名を知らしめる非常に大きな仕事が舞い込んできていた。 幸いなことに恋愛系ではなく漫画を原作としたスポーツ漫画で、ヒロインとの恋愛も仄かなまま終わると事前情報で告げられた。ともすれば、以前冬馬を色んな意味で散々悩ませたキスシーンは皆無。 いつかは出来なければいけないということは分かっていつつも女子を、それも演技とは言え自分の事を好いているような蕩けた顔の少女を眼前にすると脳味噌が沸騰し、全身が固まってしまうのが現状である。今回は無くて良かった。 「天ヶ瀬ー! こっちも頼む!」 「冬馬君! 次はこっちも……」 「あまがせー!!!!」 「あーあー! 全部行くからちょっと待ってろ!!!」 そんな冬馬は今、久しぶりに高校に顔を出している。 前述した通り、有難いことに仕事は大変忙しいのだが、秋を迎えようとしている9月中旬に担任の教師へ電話で「秋クールにドラマ出るんでしばらく学校行けないっス」などと伝えると、電話口の先生が神妙そうな声音で一言、 「天ヶ瀬君あなた、このままだと留年するわよ」と。 一度はトップアイドルに上り詰めたとはいえ、冬馬はまだ高校二年生である。961プロダクションに所属していた時の黒井社長の口添えのおかげでいくらか学業の免除の効力は続いているものの、それでも全く授業に出ずに進級できるほど高校は甘くない。 出席課時数が足りてないと言われればドラマの主演などという輝かしい肩書が待っていようとも有無を言わさず指定の授業に参加しなければならない。プロデューサーと話し合った結果、仕事をしながらの登校という多忙な数週間を迎えることが決まった。 学校帰りに「学業のことを失念していました」と酷く所在なさげに言ったプロデューサーがアイドル達以上に疲労を溜めている気がして、冬馬は心労を和らげるために「気付かなかった俺も悪いんだ」と差し込む。実際、アイドルの方に熱中しすぎて学業が���かになっていたのは確かである。 当然、ドラマの撮影は既に始まっているので夕方から撮影だと言う時にも午前中からお昼過ぎにかけて授業に出席、タクシーを飛ばして現地へ向かう。そんな忙しい日々、流石の同級生達も時折気を遣って食堂の自販機のパックジュースを知らぬ間に冬馬の机の上に積み重ねていってくれた。 「ごめんねえ、天ヶ瀬君が家庭科得意なのは十分分かってるんだけど県の決まりだから」 いつも家で使用するエプロンを首に通し、冬馬は女子に借りた髪ゴムで後ろ髪を結ぶ。隣で本校唯一の家庭科教師が久しぶりの冬馬の存在を前にニコニコしている。彼女は家庭科が得意な生徒は好きなのであって、決してその生温かな視線はアイドルの冬馬に対してのものではない。 大きく溜め息を吐く。調理室一帯が生徒達の雑談で敷き詰められていた。 冬馬はアイドルを始めてからというもの、一度もまともに調理実習と言う物に参加したことがない。これは以前High×Jokerの五人が家に来た時にそう言えばと思い至ったのだが、たまのオフに学校へ顔を出すと決まって家庭科の授業は裁縫なり調理実習なりと予備知識または長期的な製作を想定された授業にぶち当たる。その際は決まって『どうせ次も来れるか分からないんだろう』という決めつけの元(正しいのだが)手伝いをしてくれれば諸々を免除しようと言われた。その時ばかりは家庭科が得意で良かったと思ったものだ。 おかげさまで久しぶりの天ヶ瀬冬馬にテンションの上がった友人、及びミーハーな同級生達に引っ張りだこにされているのだが。 「ねえ、天ヶ瀬君、お水ってこれくらいでいいのかな……」 「ん? ああ、火にかけると蒸発して濃くなるからちょっと入れすぎぐらいの方が美味く仕上がると思うぜ」
「あっまがせー! 味見してくれー!」 「そんくらい自分でやれよ!」 「お前が味見した方が安心出来んだよー!」 「ったく………」 仕事現場の張り詰めた緊張感に慣れた冬馬にとっては高校で出会う人達はずっと幼く見えるしうるさく感じる。高校ってこんなところだったかとすら思うことがある。 しかし、315プロダクションやJupiterの三人でいる時の騒がしさ、そして高校での年相応の騒がしさ。そのどれもが冬馬にとってはかけがえのない居場所の一つだった。
「調理実習レポートぉ?」 無音の部屋に冬馬の声が消える。怪訝に顰めた眉毛がぴくりと跳ねたが、真面目を形作った朱雀と玄武の顔は動かない。 「ああ、協力しちゃ貰えねえかと思ってな」 ここ最近の事務所の上がり調子によるイベントやライブ、番組収録、のおかげで現役高校生である神速一魂の二人の成績資料が足りていないのだという。全国模試で優秀な結果を叩きだしている玄武はまだしも、朱雀は勉学の成績もお世辞にも良いとは言えず、その上先日のフランスツアーのおかげで出席日数すら足りていないらしい。
そこで、仕方なく出されたのが各科目の課題。 うち家庭科は『調理実習レポート』と呼ばれるA4サイズ2~3枚のポートフォリオで、曰く『授業で作った肉じゃがを家で作り、作り方や考察、感想などを纏めてくれば今回の単位は免除してあげる』とのことだった。つまり、冬馬がすべきことは彼らの前で肉じゃがを作り、レポートに書き込める雑学を伝えること。 二人からの依頼を聞いた瞬間、冬馬は真っ先に『お前らもか』と思った。一連の問題は心当たりがありすぎる。むしろ、家で出来るだけまだ冬馬よりもマシというものだ。 「なるほどな、だから肉じゃがなのか」 「俺達がいない間に調理実習で作ったらしい。一応レシピは貰ってきたが同じ作り方じゃなくても良いと言っていたから冬馬に任せる」 「料理ならアスランさんの方がうめえと思うんだけどな……」 「俺達も初めはそう思ってアスランさんのとこ行ったんだけどよ、なんかシモベとか、ケンゾク、とかって全然分かんなかったんだよな」 「ああ、アスランアニさんの料理の腕は確かだが、今回は[[rb:黜陟幽明 > ちゅっちょくゆうめい]]。冬馬に相談することにした、忙しい中引き受けてくれて感謝するぜ」 「こんくらいなら飯作りながら一人事言うのと変わんねえしな。材料は買ってあるから遅くならねえ内に作り始めるぞ。レシピ見せてくれ」 朱雀からぐしゃぐしゃのそれを手渡され、広げながらキッチンに向かっていく。内容はなんてことないスタンダードな肉じゃがの作り方である。材料はじゃがいも、牛肉、玉ねぎ、人参。白滝は無し。 「すき焼きのたれ……は、使わないか」 スタンダードとされる肉じゃがのレシピの中で使用されるのは醤油、みりん、砂糖、場合によっては酒の日本食テンプレートだ。しかし、最近では調味料も随分と進化してきたもので素人が頑張って一から作るよりもずっと美味しく仕上がる魔法の液体が売られている。 その中の一つが『すき焼きのたれ』であった。 本来肉じゃがのつゆは日本食テンプレートの調味料と出汁を混ぜて作られる。出汁を取るのには鍋を沸かして大量の鰹節や昆布を用意してと、面倒を凝縮したような工程が必要なのだが、なんと驚くべきことに『すき焼きのたれ』さえあればその面倒な作業を全てカット出来るのである。 冬馬自身も手間暇かける料理は好き��が、出汁の貯蔵が無い限りはすき焼きのたれの世話になっている。調味料の節約にもなるし、何より時短になるのだ、使わない手はない。 しかし、レシピも手間暇かけていることだし、なにより折角遠路はるばる神速一魂の二人が冬馬の家を訪ねてくれたのだ。どうせならば良い物を食べさせてやりたいと思うのが自分である。 「っし!」 冷凍庫のシリコンボックスには黄金色の氷が半分ほど入っている。これだけあれば十分。 「なんだそれ?」 「ただの氷じゃ無さそうだが」 二人から隠すようにぱたりと冷凍庫を押し込んで不敵な笑みを残す。説明してやりたいのは山々だが、折角解説をするのだからかっこいいところは格好良く決めたいと思うのが男心というやつだ。料理を嗜む天道にすら「すごい」と言わしめた秘密兵器の出番はまだ後である。 「そんじゃ、まずは野菜の皮剥きから手伝ってもらっていいか?」 パックまな板と包丁を置くと、すかさず玄武が資料用に携帯電話で写真を撮る。そうか、レポート用の写真も必要なのか。北斗もごく稀に大学で出されたというレポート作成の為にパソコンを叩いているが、確か彼も参考資料を集めるのに苦労していたと思う。結局いつの間にかどこかから回収してきていたのだが。 そう言う意味では確かに誰かに作ってもらって随時撮影して資料を集めていくのは賢い。 「皮剥きってよ、包丁使わねえといけねえんだよな?」 「使わない手もあるから無理しなくていいぞ。確かピーラーなら……っと」 調理器具を大量にしまい込んでいる棚の中から使い古されたピーラーを一つ取り出す。冬馬が小さい時に使っていたものは昔じゃがいもを剥く時に壊れてしまったから、これは二代目だか三代目だかだった気がする。包丁での皮剥きに慣れてからは使われることもなく棚の肥やしになっていたものだ。 水道水と石鹸で埃や汚れをよく流し、朱雀に渡そうとする。が、耳を刺す玄武の声と共に冬馬はその光景を目にしてしまう。ぎょっとして咄嗟にピーラーを置いた。 「危ねえ!」 高校生にしては大きめの手をぷるぷると震わせ、朱雀はその鋭い刃先をじゃがいもに向けていた。冬馬がたまの休みに砥石で砥ぎ、購入してから数年は鋭利を保ち続けている包丁だ。緊張して強張る朱雀を刺激しないよう、冬馬はゆっくりと言葉を掛ける。 「一旦下ろせ、な?」 「お、おう……やっぱアスランさんと天道さんみてえにスパパパーン! とはいかねえな……」 「ったく、野菜どころか指も簡単に切れちまうから気を付けろよ。ほら、ピーラー。脇の丸い突起使えば芽も取れるぜ」 言われた通りに受け取ったピーラーでじゃがいもの皮を剥いでいくが、動きはどうにもぎこちない。ピーラーで腕の皮まで剥いてしまうことは流石に無いだろうが念の為に玄武に見張っててもら��ことにした。 その間、冬馬が朱雀の言う『スパパパーン!』の早さで人参の皮を落としていくと、隣チームが三つ剥き終わる頃には残る全ての皮剥きを終えてしまった。 「冬馬、これは何て品種の芋なんだ?」 「ああ、メークインだよ」 玄武が抜かりなくメモを取っていく。冬馬も横目で確認しつつ野菜に包丁を差し込んでいく。洗ったじゃがいもを四等分、人参は乱切り。 「『男爵いも』とか『メークイン』とか『新じゃがいも』とか色々あるけど、煮物は長い間火にかけるから崩れにくいメークインを使った方が見た目が綺麗になるんだ。つっても、少し崩れた方がとろとろになって美味いって思う奴もいるから人ぞれぞれだな」 温めた鍋にサラダ油を引き、玉ねぎを炒める。この辺りは洋風のスープなどを作る際も共通している作業だ。あまり炒めすぎると玉ねぎの形が無くなってしまうので程良く固さの残っているところで牛肉を投入、軽く炒めて水にさらしておいたじゃがいもと人参を加えた。 すると、あっという間に鍋の中はごろごろと野菜だらけになってしまう。水気が油に跳ねてぱちぱちじゅうじゅう鳴いている。 「そしたらここに出汁を入れる」 ドヤ顔で言うと、朱雀が「出汁ィ?」と目を丸くするが、かまわず件の黄金色の氷を中に放り込む。常温に放置しておいたが、この短時間ではやはり溶けきらなかった。しかし、どうせ火にかければ溶けるだろう。醤油、砂糖、酒、みりんを加えて蓋をした。 「ああ、鰹節でとった出汁を凍らせただけだけどわざわざ出汁取らなくても済むだろ? つっても多分先生は出汁の取り方からやらせたいんだろうから……後でまとめて送っとく」 「助かるぜ」 「んで、落し蓋をしてっと……」 あとはアクを取り除きつつ煮込んでいくだけだ。煮込み料理は野菜と調味料を入れて放置するだけで食える物になるので多忙な人間には有難い。いつもの冬馬ならばこの間に台本のチェックなり出演イベントのタイムテーブルなりのチェックをする。 念���ためにカウンターの上に主演ドラマの台本を置いてあるが、神速一魂の二人がいる手前自身のことばかりやるのも気が引ける。 すると、朱雀が台本の存在に気付き、手に取った。 「そういや、冬馬さん今ドラマ出てんだよなァ。しかも主演だろ、すげぇよな!」 「んなことねえよ。今後もまた貰えるか分かんねし、まだまだだ」 「ふっ…俺達もまだまだだが、万里一空。一時も努力を怠るつもりはないぜ」 「おう、Jupiterともまた一緒にライブやりてぇしな!」 狭いキッチンに朱雀の咆哮が響き渡る。隣から苦情が来ないことを祈りつつも冬馬はそうだなと首肯した。 神速一魂とは時折仕事を共にすることがあるが、そう言えばここ最近は一緒になることはなかった。とは言え、15ユニットも存在している315プロダクションの中でもFRAMEやS.E.Mのように未だに同じ現場になったことがない人達���いる。 この仕事は一期一会だからと誰かが言っていた。善澤さんだっただろうか、芸能界に飛び込んでからの膨大な時間と記憶の中で曖昧になってしまったが、その言葉には頷ける。 「にゃー」 「お前もそう思うか! にゃこよ!」 「にゃーにゃー」 朱雀の肩から顔を出した猫と目が合う。二度、三度と瞬きをして小さな生き物の存在を脳みそで認識した。そしてようやく失念していたことに気が付いた。
……猫って何食うんだ? 冬馬が住んでいるマンションはペットを飼うこと自体は許されているものの、なかなか家にいることが出来ない冬馬に生き物を買うと言う選択肢すら無かった。業界人が飼っている猫や犬の自慢をしているのを羨ましく思いながら聞いている冬馬はそちら方面の知識は非常に疎い。 猫がネギ類を食してはいけないという程度の情報ならあるが、それ以上の知識はない。犬に夕飯を分け与えるということも家庭によってはあると聞いたことはあるが、冬馬が今作っている肉じゃがには玉ねぎが入っている。 困り困ってどうしたものかと頭を掻いていると、尻ポケットに差し込んでいた携帯電話が着信を告げた。
「まさかキャットフードの為に呼び出されるとは思わなかったよ」 「どうせ仕事終わったばっかだったんだろ、ついでだついで」 「俺の家反対側なんだけどな……」 突然の着信、電話口から聞こえた第一声の『突然ごめん、何かしてた?』で瞬時に要件を察した冬馬は、その後、『冬馬の声が聴きたくて』に続く"仕事に疲れた北斗構文"を適当に流して『飯食わせてやるからキャットフード買って来い』と一方的に叩きつけると、電話口の彼は珍しく困惑の色を見せたのだった。 それもそうだ、確か今日はずっと秋のコレクションイベントの新作の試着だと言っていたから、午後は服を着たり脱いだり着たり脱いだりと着せ替え人形のように扱われていたのだろう。ダンスレッスンやボーカルレッスンよりも"何もせずそこにいるだけ"の時間が一番疲れると言う北斗がその時間を終え、ようやっと癒しを求めて恋人に電話したんだろうに、愛の言葉を適当に流された挙句に前説無しの『キャットフード買って来い』なのだから、困惑して当然である。 かくかくしかじか説明すると彼はすぐに『なるほどね』と膝を打って『電話で言ってた通り、俺の分の肉じゃがもあるのかな?』と図々しくも聞いてきたのだった。 「悪いな北斗アニさん。気ぃ遣わせちまった」 「気にしなくていいよ。こないだドラスタと飲んだ時以来冬馬に会えてなかったから少し心配してたんだ。冬馬の事だから頑張りすぎてないかって」 「余計なお世話だっつーの」 キッチンの隅で眠っていたプラスチック箱の蓋に猫用カリカリを一袋出すと、にゃこが嬉しそうに鳴いた。お腹が空いているのは人間だけ��はないらしい。 玄武と朱雀に口頭で今までのおさらいを話しつつ、お茶碗に米をよそって北斗に押し付ける。彼は何も言わずにそれらを冬馬の部屋へと運んで行ったのだった。恋人とは言え、その扱いがただの召使いだ。キャットフードのお使い含めてこれが夕飯代だからな、働け働け。なんて思いつつ、冬馬は少しだけ唇を歪ませながらも仕上がった肉じゃがを器によそうのだった。 神速一魂は二人並んでいるからこそ神速一魂なのだと冬馬はしばしば思う。 315プロダクションはユニット数が15という程々の数を保ちつつ、内二人組ユニットはAltessimoとWと神速一魂の3ユニットだけだった。 しかし、Wは双子ユニットであることを売りにしていることからパフォーマンスも一心同体を体現しているかのようだし、Altessimoも並ぶと言うよりも"共に音を奏でる"と言う印象を受ける。 それを踏まえた上でも神速一魂は二人(正しくは二人と一匹なのだろうが)隣同士で何かをするというのは随分と絵になる。 今も完成した肉じゃがを見て興奮する朱雀と、冷静に料理の写真を撮影しながら「見た目も良いな」とレポートのことを気に掛ける玄武の二極化した様子が視界に収まり、微笑ましそうにしている北斗が見切れていた。 「腹減ったろ? 食おうぜ」 「おう! 冬馬さんの肉じゃが……ぜってぇうめえよなァ!」 「にゃぁ…」 肉じゃがの香りに誘われ、にゃこが"自分も食べたい"と言わんばかりに寂し気げに鳴く。 こればっかりは仕方ない、人間用の食品というのは思っている以上に人間向けの手が入っている。冬馬の中にあるほんの少しの「食べさせてやりてえな」という気持ちに素直になればにゃこを傷付けてしまいかねない。 「う、そんな目で見んなよ。ほら、終わったらこれやるから」 冬馬が掲げたそれはスティック状のキャットフードで。見るや否や垂れていた耳が勢い良く立ち上がり、先程の悲しみが嘘のようににゃこは「にゃあ!」と元気に鳴いてみせた。そんなに好きなのか、これ。 自分が出演している番組のCMにあったキャットフードの映像、スティックの先端から出る餌を猫が必死にぺろぺろと舐めとる様子は冬馬にとっては甘美な映像であった。いいなあ、試してみてえなあ、そんな思いを胸に悶々と生きていた。 しかし、そんな日々も今日までだ。北斗に我儘を言って買ってきてもらったスティックフードを前にしたにゃこの歓喜を見ればあの映像はもうすぐ目の前である。 だが、今はまず腹ごしらえだ。 「いただきます!」 時間の関係で大皿によそった肉じゃがとスーパーで買った出来合いの漬物、出汁氷で作った納豆と青ネギの簡単なお味噌汁という質素な食卓になってしまったが、先程から朱雀がうおお、だの、すげえ! だのと興奮しっぱなしなので良しとする。今まで何度も人に��事を振舞ったがここまで喜んでくれたのは朱雀が初めてかもしれない(四季達も興奮はしていたがここまでではなかったと思う) 「納豆の味噌汁か。懐かしいな、昔はよく出されて飲んでたぜ」 「そう言えばお前らって茨城出身か」 冷蔵庫の食材が乏しく、かと言って具無しも味気ない為仕方なく賞味期限が迫っていた納豆を入れたが悪くない。納豆の独特な香りが嫌いでなければ味噌と納豆の大豆コンビが良い味を出す。段々冬に向けて寒くなっている世界のことを思うと、これからは味噌汁が一層美味しい季節になるんだろうなあと温まる胃にほっと一息吐いた。 「茨城か……まだ行ったことねえな」 「ねぇのか!? Jupiterならもうとっくに全国回ってると思ってたぜ!」 「俺はドラマの撮影で行ったことあるけどね。言われてみるとJupiterではロケでも行ったことないな。食べ物も美味しいって言うし、茨城くらいなら行こうと思えば車で行けるから、仕事が落ち着いたら翔太も誘って遊びに行こうか」 「美味そうな飯があればどこにでも行くからな、あいつ。今度誘ってみようぜ」 北斗が朱雀の取り皿に肉じゃがをよそう。その間、自分でよそったじゃがいもを割って欠片を食べてみた。 口に入れたじゃがいもは舌で触れるとほろほろ形を壊していく。男爵いもなどとは違い、溶けると言うよりも崩れると言った方が正しいだろう。とろとろにした肉じゃがも美味いが、これもまた芋らしさを味わえて良い。 つゆの染みた肉をおかずに二口、三口と米を味わい、今度は平らになったお茶碗の上に箸で穴を作る。真ん中にぽっかりと出来た空間につゆをかけてやると、米粒と米粒の間を埋めるようにつゆが米を慣らしていく。肉をいくつか乗せて、真ん中に置いたじゃがいもを箸で崩せばどんぶりの完成だ。 ごくり、出来た食物兵器の味を想像し、早く早くと苦情を送る腹に唾液を送る。 一気に掻き込む。箸が茶碗の端を叩き、カカカッと小気味の良い音が響く。 「~~~~~~ッ」 腹が減っている時のどんぶりはなんて美味いんだろう。求めていた物が一気に満たされた充足感。体の中に染みる温かさとつゆの優しさ。外食ではなかなか味わうことのない肉じゃがは『作ってもらいたいものランキング』なるもので堂々の一位に輝くのも納得する。素朴な味だがじゃがいもの柔らかさから玉ねぎとにんじんの甘み、そしてつゆの香りまですべてが柔らかく、食べている側でありながらも自身が温もりに包まれているような錯覚に陥る。 再び米を掻き込むと、冬馬を真似て米ごと肉じゃがを掻き込んだ朱雀が、「肉じゃがとか久しぶりに食ったぜェ! うんめぇな、冬馬さん!」と、目を輝かせる。 「おう、まだまだあるからどんどん食えよ!」 やっぱり、自分の作った料理を美味いと言って食べてもらえるのは気持ちが良いものだ。 嬉しさに顔を綻ばせながらも冬馬はもう一度それを掻き込んだ。
「見ろ��北斗! 写真撮ってくれ!」 「はいはい」 食事を終え、皿洗いくらいはとキッチンに向かっていった神速一魂の二人を見送った冬馬は楽しみを待ちきれない少年の如き勢いで件のスティックキャットフードに手を伸ばしたのだった。 スティックの存在も考慮して少なめに入れられていたカリカリは腹ペコのにゃこの前には雀の涙で、無くなるのは驚く程一瞬の出来事だった。 スティックフードを必死に舐めとるにゃこをまるで愛し子を見つめるような瞳で見つめる冬馬はだらしない顔を隠そうともせず、ニコニコと北斗が向ける携帯電話のカメラにピースを向ける。 「撮れたよ。送っておくから」 「おう、サンキューな、後で旬と山下さんに送ろうと思ってんだ!」 「ふふ、冬馬が嬉しそうで良かったよ」 以前より"猫"を共通の話題にすることが多かったS.E.Mの山下次郎とHigh×Jokerの冬美旬はこうして事あるごとに猫の写真を送りつけ合っている。道端に突然現れた猫、仕事を共にした猫、取材で指定された喫茶店で飼われていた猫など、見つける度に写真を撮っては『どうだ、可愛かろう!』と叩きつけ、お互い癒されて終わる。 聞いたところによると、THE 虎牙道の円城寺道流が営んでいるラーメン屋の傍にも猫が出没すると聞いた。タケルと漣から聞いた話だが、チャンプと覇王という名前を聞くので二匹いるのかもしれない。機会があれば男道らーめんを食べに行くついでにこのスティックフードを片手に会いに行ってみようか。 「……冬馬、翔太からグループにメッセージが入ってるよ」 「翔太から? なんだって?」 「来月の旅孫サタデーで享介君達のお休みの回ができたからゲストで来ないかって」 「あーそういや天道さん達が今度Wとイベントやるって言ってたな。行けるなら行きてえけど……」 旅孫サタデーとは翔太と蒼井兄弟が持っているレギュラー番組で、全国のおじいさんやおばあさんのいるところを周るロケを中心としている。しかし、レギュラーと言いつつもアイドルを生業としている人達が毎週ロケの為に駆り出されるのは厳しい為、局との話し合いの上で調整次第ではイベントを優先しても良いということになっていた。その場合は315プロダクションの中から代理ゲストを立てるのだが、どうやら今回もその機会がまわってきたらしい。 「冬馬は厳しいかもしれないな。10月はドラマ撮影の真っ只中だろうし」 「だな。一応プロデューサーには頼んでみるけど、無理そうなら北斗だけでも行って来いよ。俺は一回出させてもらったことあるけどお前は初めてだろ?」 「そうだね、そうさせてもらうよ。もしも何か貰ったら冬馬の所に持ってくるから」 フードを食べ終えたにゃこが物欲しげな目で見つめてくるのをぐっと耐える。そんな宝石のような純真無垢の瞳で見られるとうっかりあげてしまいそうになる。 「ったく、少しは持って帰れよ。お前も料理は多少出来んだろ」 「出来るけど、男は恋人が作った料理を食べたいものだよ☆」 そう言ってウィンクを飛ばす北斗に、冬馬は心底面倒くさそうに長く溜め息を吐く。どうしてこの男はこうも気恥ずかしいことを簡単に言えるのか。 「……暇だったらな」 このままだと砂糖を吐きかねない気障な恋人に素っ気ない言葉を返してやると、彼は「食えないなあ」と困ったように笑ったのだった。
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「早く届かないかな」×「やることが多すぎる」×♯db7093 / しの
ピン、ポー……ン。
引っ越して、4年目。最近、うちのインターホンは調子が悪い。もう少し、スムーズに来客を知らせることってできないのか。
やっぱり、大家に連絡したほうがいいのかなぁ。
「はい。」
こんな時間に訪ねてくるのは、独りしかいない。
「……もし、俺がいなかったらどうしたの、リク?」
「カイさん、ちゃんと居たから、よくないですか?」
まだ夜は肌寒い。寝間着は半そでに移行していたけれど、もしかしたら気が早かったかもしれない。しんと冷たい空気を引き連れて、彼女が部屋へと押しかけてきた。
傷がついた白のスニーカーに、黒のレギンスパンツ。グレーのパーカーは、俺の部屋着を勝手に持って行ったものだ。
金曜日の夜。たぶん、仕事帰り。これは、彼女の今日の仕事着であるという証拠なわけで。システムエンジニアなんていう、職業は服装に頓着しなくてもいいのだと彼女が話していたことを思い出す。
洋服が好きすぎる彼女には、珍しい恰好だ。俺と会うときは、絶対に見たことがある服装はしてこないから、なんだか適当といえそうな服を身に着けた彼女は新鮮に見えた。
スニーカーを脱ぎ捨てた瞬間に、バサッと大げさすぎる音が狭い玄関に響く。革靴と、先週買ったばかりのブラックのスニーカーの間に所存なさげに汚れた彼女の小さな靴が横たわった。なんだか、カオスである。たったの3足、靴が無造作に並んでいるだけなのに。
彼女のギシギシとした雰囲気が、俺にそう見せているのだろうか。
「ん」
有無を言わせない、という確固たる意志を持って、目の前に大きめの紙袋を差し出される。仕方なく手を出すと、押し付けるようにそれを渡された。ずんと重いビニールの中をのぞくと、350mlのビールが6缶、何種類かの果実で作られたフルーツ酒、適当なチューハイが4本入っている。
「今から、飲むの?」
時計を横目で確認すると、短針が11、長針が1を指そうとしている。こんな夜から、深酒でもする気か?と、目線を向けると、こちらを見ようともせずに彼女は身に着けていた服を脱ぎだしていた。グレーのパーカーの下から、ボーダーのタンクトップが現れて、思わず目を逸らす。
「何か、Tシャツとか貸して。あと、前に置いておいた短パン。」
俺の質問には答えず、自分の要望だけ押し付けてくる傲慢さが、今はちょっとだけ腹立たしい。仕方なく、その辺に置いておいたシャツと洗濯をしておいた短パンを渡すと、布と皮膚が擦れる音が聞こえて、何を言わずに洗濯機に向かって歩いて行った。
―ぺたぺた、ぺた。狭いキッチンに彼女の足音が響く。短すぎるパンツから伸びる脚はむくんでいて、一日の疲労を訴えていた。
「飲まないよ。」
洗濯機に衣服を放り込んだリクは、ようやく目を合わせて会話をする気になったらしい。
「今は、飲まない。」
「それなのに、こんなに買ってきたわけ?」
「……休みの日の、朝から飲む酒は最高だから。」
気まずそうに、こちらの様子を窺いながらの言葉だった。
俺は、食べることが大好きだ。そして、だらしないことはそんなに好きじゃない。先輩期間、友人期間を含めた、俺たちの付き合いはもう7年にはなる。俺のそんな性質を知っているはずのリクは、衝動的に酒を持ち込んできて試すようなことをしてきた。
「……明日の朝から、飲みたいってこと?」
「そう。ダメ?」
どうでもよさそうな顔をしながらも、こちらの様子を窺っていることがわかる。ガシガシと音をさせながら、首を掻くから心配なほどに白い肌が乱暴に赤く染まっていく。
明日かぁ、とぼんやりと考える。金曜日の夜だ。いつもだったら、食材なんてまともにない。
でも、今日は、同僚たちに誘われなかったこともあって、家でちょっとした晩酌を楽しんだ。
リクは酒と一緒に炭水化物を楽しめるタイプだから、ごはんを焚いておいてもいいかもしれない。彼女が好きなイングリッシュマフィンはないけれど、バケットはある。彼女の好きなオープンサンドにしたら、きっと喜んでくれるだろう。
「……別に、ダメとは言ってないけど。いきなり訪ねてくるなんて、珍しいんじゃない?」
「カイさん、そんな言い方ってオツボネサマみたい。」
「どこがだよ」
思わず吹き出すと、それすらも気に食わないというように眉を寄せる。女に不機嫌になられるのは別にどうでといいけれど、リクの不機嫌は面倒臭い。元気がないときは、なおさらに。
「もう、寝ます。」
どう返事をするのがいいかと思案している間に、リクは俺の返事を諦めたように会話を切り上げる。さっさとベッドに潜り込むと、本格的に眠ろうとしているらしい、掛け布団をダンゴムシのように抱き込んで深いため息を、一つ吐いた。
ダンゴムシに向かって、言葉を投げてみる。
「……リク、今日はなんで家に来たんだ?迷惑とかじゃ、ないけど。何もなかったから、びっくりした。」
「家より、カイさんの家のほうが近いからです。」
「いや、お前の家から職場20分だろ。家は30分なんだから、直線距離的にもお前は……」
「心��距離。」
「心的……?」
「心的」
仕事で嫌なことでもあったのかもしれない。
‘’女性の社会進出”、なんていったところで、一筋縄ではいかない。思わず自分の職場にいる女性社員を思い浮かべて、唇を噛む。
SEなんて、男の人がまだ強いだろう。そんな中で働く彼女は、俺に見せないけれどしんどいことも多いのかもしれない。
「……あ、そういえばリク、シャワーも浴びないで布団に入りやがって」
「会社で浴びてきた!」
叫ぶように答えたあとに、入ってきたもん……と消え入りそうな声は続く。
ベッドのそばに座り込むと、音が聞こえたのか丸まった布団がビクッと動く。
「……明日、朝から酒飲みたい?」
「……飲みたい。」
「俺さ、別に朝から酒飲むことは反対じゃないんだよな。俺だって、たまに朝から缶ビール開けることあるし。知ってるか?ベランダでさ、太陽が昇ってくるところを見ながらビール飲むのって最高なの。昼まで寝てた日に、起き抜けの乾いた喉を濡らすのも一興なんだけどさ。」
反応をしなくなったダンゴムシに話かけてみる。しばらくすると、鼻をすする音が聞こえて掠れた鼻声で返事がある。
「……毎日、仕事が多すぎる。必死で積み上げられた仕事をこなしていくの。最低、8時間。パソコンの画面をじぃっと見つめて指を必死で動かして。昼休みを取れないことも、当たり前みたいになってきてる。」
「うん」
「隣の席にね、サワちゃんって女の子がいたの。髪は肩くらいで、カイさんの元カノみたいな可愛い子。いつもオシャレしてて、私は仕事だし、誰かと会うわけじゃないしって腐って適当な格好してるのとは違って。」
「……うん。」
「メイクも、ばっちり。前日終電でも、髪は綺麗にアレンジしてて。そんなサワちゃん見て、言うんだよね。『“オンナノコ”はいいねぇ』って。男の人たちは、いっつも。」
おじさんの話し方を真似したのだろう、ちょっと大げさな口ぶりはすごく皮肉っぽくて、それでも全く誇張しすぎているわけではないことが容易に想像がついた。
「サワちゃんはね、今日で仕事を辞めたの。遠恋してた彼氏と結婚するんだって。すごい清々しい顔して、おじさんの誉め言葉聞くのも飽きたのって。あぁ、サワちゃんは幸せになるんだなって。別に、私が幸せじゃないわけじゃないよ。カイさんに結婚してとか、そういうことを言いに来たわけじゃない。これは、本当。でも、なんだか置いて行かれた気分がして苦しくて。会わなきゃって。金曜だから、カイさん飲み会行ってるかもなぁって思ったし、メールすれば明日の朝来てくれることも分かってたけど我慢できなかった。わがままだって分かってたけど、残業の準備してたらダメだぁって。会わなきゃって。……やっぱり、わがままだね、ごめんね。」
涙が入り混じって、最後のほうはぐじゅぐじゅと鼻水で聞き取りにくい。
それでも、彼女が俺のことを必要としていることと、自分では何も彼女を勇気��ける言葉をかけることができないのだということがわかって喉の奥がぎゅっと締め付けられる。
何も言えないのは、俺が何かを考えて生きているわけではないからだ。男女比、6:4という俺の職場は、女性が綺麗にしていることが当たり前だ。むしろ、すっぴんでクマが隠れていない人を見かけると、大人なのにねと上司は小さく笑う。彼女の職場とは真逆だ。
リクは“サワちゃん”に憧れていたのだろう。自分のペースを保つということは、思ったよりも難しい。大人になるまでに、俺たちはそのことを痛いほど身にしみている。それは、自分を許してくれる人がいるからこそできるのだ。だから、“大人”の俺は周りに合わせるということを当たり前のようにするし、自分のペースなどというものは無いものとしている、ときがある。
リクは、もろいところがある。でも、すぐに立ち直れる強さがある。大量に買い込んできた酒を横目で確認する。
「お酒はね、楽しいときに飲みたいの。そのほうが、ずっと美味しく感じられるから。」
笑いながら、いつも彼女はそんな話をする。だから、こんなにたくさんの酒を買ってきたリクは、よっぽどなのだと思う。
「……明日は、朝からパーティだな。」
つぶやいた言葉に答えるように、ずっと彼女の鼻水をすする音がなった。
*
「起きろー」
ダンゴムシになっているリクに声をかけると、唸りながらもぞもぞと山が動く。
ベッドを取られた俺は、客用布団を引っ張り出して一晩を過ごした。シングルベッドは二人で過ごす夜には向いていない。ましてや、彼女がダンゴムシになっているときには尚更だ。
床の冷気を感じながら眠ったら、寝起きもスムーズだった。深く眠れなかっただけとも言えるけれど。
テーブルの上にお揃いのグラスと、作ったばかりのつまみを並べていく。キンキンに冷やしたグラスは、ビールを美味しく楽しむためには必須だ。これだけは絶対に外せない。
寝る前に簡単に仕込んでおいたキュウリと豆板醤の浅漬けに、作り置きしておいたミートソースを使ったポテトグラタン。卵をたっぷりと使ったオムレツは彼女の大好物だ。常備菜のマリネと、買い置きをしておいたオリーブとチーズにクラッカーを盛りつけたらなんだか豪勢な朝の宴会セットが出来上がった。
「……ビール、開けるぞ」
リクの返事を待たずに、タブを引くとプシュッと小気味のいい音が狭い部屋に響く。それに反応したように、「酒!」と飛び起きた彼女の思わず苦笑する。
オープンサンドを目の前に出すと、くわっと目を開くから現金な奴だなぁと笑いが込み上げてくる。
お互いにグラスにビールを注ぎあうと、朝から酒を飲むという背徳感でグラスが輝いて見える。金色に光る飲み物は、しゅわしゅわと小さな音を立てて飲まれることを待ち遠しそうにするから、思わず喉が鳴る。
「……かんぱーい」
何となく、小さな声でカチンとグラスを重ね合わせて、くいっと罪悪感と共に喉に流し込む。
最高だ。面白いほどに喉を流れ込んでいくビールは、快感をもたらしてくれる。
「……元気になった?」
「……おかげさまで。」
いたずらが見つかった子どものような顔をしながら、くいっとグラスを上げる彼女への愛しさが胸に募る。
「これから、もっと元気になれるよ」
「おつまみで?」
「それはそうだけど、違うことで。」
そういうと、えー?と首を傾げて本当に楽しそうに笑う。ちょっとした、非現実。仕事があったら、絶対にできないこと。それを、俺たちは今二人でしている。
そんな小さなことが、嬉しくて楽しい。人間の表情を作るのは、いつだってシンプルな感情だと思う。今の彼女は、無駄なものが含まれていない笑顔をしている。たぶん、大丈夫だ。
元気がないときこそ、寝て、食べることが一番だと誰かも言っていた。それが出来ている彼女は、きっと元気になれる。
ふと、昨夜のうちにダンゴムシを眺めながらネット通販で注文したスニーカーを思い浮かべる。
傷のついた汚れたスニーカーなんかを履くから、気分が落ち込むんだ。いつも通り、足元くらいカラフルにしておけばいい。桜の花のような、極端すぎないピンクのスニーカーがあと少しで届く。手にした彼女は、どんな顔をするだろう。
シンプルに、嬉しそうな顔を見せてほしい。
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