#首吊り気球
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コード77
ソーラーコード77「運命の過酷さに打たれた向こう見ずな若者の頭に、豊かな思索家の魂が芽生える」
コードの現象化形��:社会的リーダーシップ。精神的成長や知的成長。強い精神的苦悩。精神的苦痛をともなうショックな出来事。グループや集団内における立場の上昇と責任の増加に伴う重圧。諦めずにチャレンジを続けることによる成功。精神的苦しみをともなう恋愛や、まれに離婚。
テロ攻撃に関する計画。テロリストや過激派の攻撃の失敗や計画の発覚や頓挫や逮捕。著名人の離婚、離別、不運、傷病、死。有名または実績のある作家や哲学者や科学者の離婚、離別、不運、傷病、死。有名または実績のあるスポーツ選手の離婚、離別、不運、傷病、死。スポーツ選手の頭部の負傷や、それを原因とする死亡事故の増加。
ルナーコード77「頭と足に羽の生えたギリシア神話の知恵の神(ヘルメース、足軽)が、天国と地獄の間を忙しく行き来する」
コードの現象化形態:良いことと悪いことが一挙に訪れる。プレッシャーやストレスのある状況下で、多忙さと格闘する。知的成長。知的リーダーシップ。精神世界の学びへの適性。ギリシャやローマやイタリアやフランスでの犯罪やテロ事件、あるいは国家的ネガティヴの増加。
有名スポーツ選手(特に、サッカー選手やマラソンその他の陸上選手やスプリンターやキックボクサー[一部ボクサー]や格闘家など足をメインに使うスポーツ競技の選手)を狙った凶悪犯罪やテロ攻撃。そうした人々のけが、病気、手術、入院、事故、交通事故、犯罪、犯罪被害、死亡。高級服飾ブランドの不運。高級服飾ブランドの経営者や幹部やデザイナーなどの不運(病気、事故、怪我、犯罪被害、死亡など)や醜聞、不祥事、犯罪、地位の低下、失脚(話)、辞任(話)、引退(話)など。エルメス、その他の伝統的高級ブランドにとっての良くない問題の発生。飛び降り自殺。首吊り自殺
【コード77】 ■対向コード:257 ■統合コード:283 ■直角コード:167
オズの魔法使いの主力スターゲート・コード77「天国と地獄を行き来する神の伝令にして強盗と泥棒の守護神ヘルメス(エルメス)」
コード77もコード123も、顕著な「自殺コード」です。コード77は「飛び降り自殺」や「首吊り自殺」を強く誘発し、コード123は「服毒自殺」や「服薬自殺」や、その他ガスなどの有害物質による自殺を強く誘発します。さらにそうした故意の他に類種の事故���誘発します。
ソーラーコード77「運命の過酷さに打たれた向こう見ずな若者の頭に思索家の魂が芽生える」は、人に(ときには、自殺さえ考えさせてしまう)「強い苦悩」をもたらします。
コード文にある「思索家の魂」というのは、毒盃による死を受け入れた際の哲学者のソクラテスのような死への覚悟や悟りの境地を(広義には含めて)表しています。このコードの現象化傾向の代表的なものは、事故、病気、死、金銭苦、生活苦、犯罪、犯罪被害、トラブル、苦悩、自殺、不運、逮捕…など。
ルナーコード77「兜と足に羽の生えたギリシア神話の知恵の神ヘルメース(エルメス)が、天国と地獄の間を忙しく行き来する」は、とりわけ(各界の著名な)賞の受賞者、教師、大学教授、学者、化学者、科学者、哲学者、研究家、作家、文筆家、クリエイター、ミュージシャン、デザイナー、スポーツ選手、アスリート、格闘家、泥棒、強盗、学生や若者の〈シグニフィケーター〉(=それらを表わすもの)となっています。
ヘルメースが音楽や牧畜(牧場、牛・羊・豚・山羊・鶏)の神であることから、そうした職業の人、および関係者や動物にもコード77のエネルギーは強く波及します。ヘルメースが被っている兜は、軍人(自衛隊含む)や工事関係者、パイロット、競輪・競艇・競馬の選手や野球選手など、ヘルメットを被る人、帽子に関係する人に、そして、ヘルメースが手に携えている医療のシンボルにもなっている魔法の杖は、医師・医療・病院関係者に、このコードの不運凶事[MNC]のエネルギー(現象化形態)を強く波及させます。
コード77には「天国と地獄」というキーワードが含まれていますため、容易にコード111と同語シンクロ相互強大相乗作用をともなって現象化します。
ソーラーコード111「有名な歌手がオペラ『地獄のオルフェ』(天国と地獄)の公演で、その妙技を披露し、有名な映画監督は水鏡に倒れ込んだ男(ナルシス)の最後の姿をフィルムに収める」
コードの現象化形態:有名大物歌手の体調不良・病気・入院・手術・死、その他の不運凶事の多発。有名映画監督や有名映画俳優女優の体調不良・病気・入院・手術・死、その他の不運凶事の多発。(ときに)多数の犠牲者をもたらす大地震や大洪水などの大災害の発生。水死。溺死。(風呂、温泉、川・滝・池・湖・貯水槽・ダム・貯水槽・用水路など、各種)水場での事故や重症や死。
ルナーコード111「体調不良をおしてステージに立った歌手が、歌の途中でめまいを起こしてしゃがみ込み、慌てた数名のスタッフが、走って彼の元に駆け寄る」
コードの現象化形態:有名大物歌手の体調不良・病気・入院・手術・死、その他の不運凶事の多発。
コード77は、「神の砦」の「オズ(バフォメット)の魔法使い」の「聖戦と正義の復讐の法の魔力」が、4次元を飛ばしてこの地上(3次元の人間界)にダイレクトに侵入してくるスターゲート(超時空次元接続特異点コード)です。
それゆえに、人も魔界(アカシック)も、その「奪い殺す力」を防ぐことはできません。 アレイスター・クロウリーは『第77の書 オズの書』にこう記しています。 「われらには、殺す権利あり。」
オズは火星(マーズ=ホルス)。「神の家」「戦争の砦」に満ちるコード77の力。それは大きく地を揺るがし、堅固な建物の中に居る者も死の力で脅かす。コード5の天鷲蝶の地震る神天使メダリオンとコード77のオズの魔法使い死天使アザゼルが一つになった時、その力は最強になる。エピファニー(神の力の御公現)。コード257の「イースター」(復活祭)。即ち、タロットの大アルカナ20番「最後の審判」(ホルスのアイオーン)の前に来る先触れのしるし。
「神居即自然、自然即神居」とは、別の言い方をすれば、「エヒエ・アシェル・エヒエ」(われは、在りて在る者なり)ということです。 KAMVI(カムイ われらが母なる大地のごとく)=20+1+40+6+10=77=OZ(神の砦、軍隊、超常能力、ヌーメン)
【ホルスの言葉】 王家の館とは、天の単眼から放たれる最後の審判の日の雷電を冠としてその頭上に戴く神の使徒たる魔法使いたちの無敵の砦のことである。そしてその数は77である。
【マスター・アマラルマヌの教え】 309+128=437(400[ケルビム、すなわち生命の輪の沈黙の監視者たる動物天使たちと神の人からなるイデア的世界]・30[真理と正義の女神マートの審判の広間]・7[神剣])=77(オズ、砦、軍隊、力、霊力・超能力[フォース])イルミナティの「鷲の目」はすべてを射抜く。「火よ、われと共に歩め」。コードは「不可知」の中で燃え尽きる墓標の真実を物語る。 ヘルメースよ。来たりて、その灰を集め、ヨグ・ソトートの大いなる暗黒の目の深淵に投げ込め。
おお!わが至高の魔力によりてなされるその魔法式の数は、77+152+286=155なり。 見よ、こはハムハゼルの数ではなかったか。かくて証はここになされた。 わが元にあるは「戦争と復讐の神」ラー・ホール・クートのすべての力。
われは���ルミナティの最高位の女祭司、かの「緋色の女」なり。「火よ、われと共に歩め!」「汝、火の声を聞け!」 われはOZの魔法使い。77は、その力の偉大な門なり。 われは世界の三部の学、哲学・天文学・自然科学を極めたヘルメース・トリスメギストスより当然のごとく偉大なる者なり。われが「世界の救世主」であることを明かす、これなる三重の印において。 77+186+309=212 エア・フォース! フェニックス! ラー・ホール・クイト! そしてわれはサタンの蛇を捕える!!
【ホルスの言葉】 もしお前が、幸福や豊かさや満足を目指しながらも、なかなかそこに到達できず、もがき苦しんでいるのだとするなら、おそらく今のお前にまだ足りないのは、幸福や豊かさや満足ではなく、さらなる苦境や欠乏や試練なのだ。これは私がたんなる意地悪で言っているわけではなく、アカシックのエネルギー上のパラドックスについての真理なのだ。「地獄下り昇天」という言葉がある。多くの人、いや、ほとんど全ての人は、まず天国を真っ先に目指し、そしてほぼ100%近く失敗する。ゆえに、真の賢者がまず目指すべきは、天国の安楽さではなく、地獄の試練(試罪法X)のほうなのだ。終わりよければ全てよし。だから、「楽園」に向かう途中にある苦しみについては過大評価するな。聖と俗、光と闇の戦いが避けられぬ以上は、楽園を実現するために苦しみが存在することもまた避けられぬことであるのだから。そしてそれが自然の理なのであれば、逆に、苦悩するのではなく、苦しい時こそ、なんとかして笑いを生み出せ。いまいる場所に(たとえそこが地獄であっても)、超人の笑いを生み出せるように生きよ。これはコード77とコード226の教えである。 【〈哲学者の毒盃〉、あるいは〈超人の笑い〉、あるいは〈逃走=闘争線〉の術式】 77+226=303
コード5+コード77=コード82 メダリオンとアザゼルが、コード82のゲートを領しました。 このコード82は、これまでセドラという悪魔が、そこからエネルギーを吸い、そして、光の子らを苦しめるためにそのゲートを使うことが多かったのですが、今後は光の影響の方が、より強まることになります。
コード77 頭 手 足
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悪魔ッ子の孫娘
[1966(昭和41)年]
1. 帝国サーカス団公演。 「次に登場いたしますはー、希代の魔術師、赤沼幻檀(あかぬまげんだん)と悪魔ッ子リリー!!」 円形アリーナの中央に黒ずくめの魔術師が歩み出た。 床まで届く黒マントに黒手袋と黒いシルクハット。 お世辞にもハンサムとはいえない容貌だった。痩せこけた頬の上に爬虫類を思わせ���丸い両眼が開いている。 愛想笑いの一つもしないで、ぎょろりと客席を見回した。
魔術師が黒マントの裾を大きく翻すと、その陰から赤いチャイナ服の小柄な人物が出現した。 年端も行かない少女だった。ほんの6~7歳くらいではないか。 客席がどよめいた。 何もないところに少女が出現したことに驚いたのではない。出現した少女の幼さに驚いたのでもない。 観客は彼女の登場を待ちかねていたのだった。 魔術師と少女のショーは新聞に取り上げられるほど話題になっていた。 ほとんどの客は二人を目当てに来ているのである。
少女はお人形のように動かずその場に立ちくしている。 魔術師は白いロープを出すと少女の手首を背中で縛った。続いて足首も縛る。 人差し指を立てて目の前で振ると、少女は即座に意識を無くした。 その場に崩れ落ちたところを抱きかかえられる。
大きな金庫が引き出されてきた。 その横幅は魔術師が両手を広げた幅で、その高さは魔術師のシルクハットの高さである。 金属製の扉を重々しく開くと中は何もない空洞だった。 そこにロープで縛った少女を転がせた。 頬を軽く叩いて目覚めないことを示す。 扉を閉めて鍵を掛けた。
照明が暗くなって会場全体が薄闇に包まれた。 アリーナ中央の金庫とその横に立つ魔術師がほのかにシルエットになって見えた。 そして──。
おお~っ。 再び客席がどよめいた。 今度は正真正銘の驚きの声。
金庫の上に少女の頭が生えたのである。 その頭はゆっくり上昇し、顔、首、肩、そして胴体から足までの全身が現れた。 手足を縛っていたはずのロープはなくなっていた。 金庫の上に立つチャイナ服の少女。 彼女は硬い金庫の天井をどうやって通り抜けたのだろうか。
不思議なことはもう一つあった。 暗い会場に少女の姿がはっきり見えることである。 スポットライトなどで照らされている訳ではない。 少女自身がほのかに発光していた。まるで幽霊のように。
魔術師が両手を広げて呪文を唱えた。 少女の足が金庫から離れた。 彼女は何もない空間に浮かび上がったのだった。 5メートルくらいの高さまで上昇して静止、すぐに何もない空間を前方へ歩み出す。 観客席の上まで来るとすっと降下した。 真下にいた女性客のすぐ���に降り、ほんの数センチの距離まで顔を寄せて悲鳴を上げさせた。 少女は会場の空間を上下左右自由自在に移動した。 ワイヤなどで吊られているようには見えなかった。 天井近くまで上ったかと思うと、急降下して客席ぎりぎりで旋回し再びふわりと舞い上がってみせた。
少女が "飛行" していた時間はおよそ5分くらいだろうか。 魔術師が手招きすると彼女は金庫の上に戻ってきた。 ゆっくり金庫の中へ沈み込むようにして消えたのであった。
照明が点いて会場が明るくなった。 魔術師が金庫を解錠して扉を開ける。 中には白いロープで縛られた少女が眠っていた。 最初に閉じ込められたときと何も変わった様子はなかった。
少女は拘束から解放されて目を覚ました。 魔術師と並んで頭を下げる。 満場の拍手と声援を浴びながら彼女は初めて笑顔を見せたのだった。
[2024(令和6)年]
2. 私はテーブルの向かい側に座る男にグラスの水をかけた。 他の女と結婚するから関係を終わりたい? バカにしないで。 「サヨナラ!」 「ちょ、けやき!!」 そのまま席を立ち、小走りでカフェを飛び出した。
金曜日の夜。 私、近本けやきは雑踏の中を泣きながら駆けた。 運命の人と信じてたのに。 とても優しくて、よく笑わせてくれて、どんなグチも聞いてくれて、ベッドの相性も最高で。 大切な話があると言われて、いよいよプロポーズと信じて来たのに。 アラサー女の貴重な2年間を返せ、このバカ野郎ー!! 涙で景色が霞んだ。 私きっとお化粧ぼろぼろだ。
きゃっ。 前から来た女性と当たりそうになって私は転倒した。 歩道に座り込んで腰をさする。 痛、た、た。 「大丈夫ですかっ?」 「だ、だいじょーぶ・・」 その人は私の手を持って立つのを助けてくれた。 赤いチャイナ服を着た女の子だった。 男の子みたいなショートヘア、くりくりした大きな目。 可愛いな。高校生かしら。 いけない、謝らなきゃ。 「ごめんなさいっ、前見ないで走って。そちらこそ怪我とかありませんか?」 「あたしは全然。それよりも」 「はい?」 「変なこと聞きますけど、お姉さん金縛りの癖がありませんか?」 !! 「金縛り!?」 「そんな気がしまして」 「いいえ、そんな癖はないです。失礼しました!」 「あのっ、もしもしっ」 私は顔を背け、女の子を置いて逃げるように走り去ったのだった。
・・金縛り。 布団に入って眠ろうとすると襲われる状態。意識はあるのに身体が動かない。 私は子供の頃によく金縛りをやっていた。 最近は少なくなったけれ��、それでもあの感覚は鮮明に覚えている。 やなこと思い出しちゃったな。 ただでさえ男に二股をかけられて滅入っているところなのに。
無性にお酒が飲みたくなった。 飲んでも嫌なことを全部忘れられるはずはないけど、酔えば少しは楽になりそうな気がした。 ・・よぉしっ! 近くにあったファッションビルのパウダールームに飛び込んだ。 泣き崩れたお化粧をちゃちゃっと直して外に出る。 行き慣れたパブに顔を出すのはやめよう。 だって今日は週末の金曜日。絶対に知り合いに会うし、会ったら泣いたでしょって見破られる。
目に留まった雑居ビルの入口にスナックの看板が並んでいた。 いつもなら一人でスナックなんて入らない。 でもその夜の私はひねくれていた。 傷心の女がスナックでカラオケも悪くないわね。 どうせなら一番へんてこりんな名前のスナックに入ろう。 『すなっく けったい』。 よし、ここだ。
3. さほど広くない店内はお客でいっぱいだった。 「ようお越し! ・・お一人?」 カウンターに一つだけ空いていた椅子席に案内された。 とりあえずビールを頼む。
「お姉さんも手品を見に来たのかい?」隣席のおじさんが話しかけてきた。 「あ、いえ」 「違うで。このお客さん今日が初めてやし」 カウンターの向こうのママが言ってくれた。関西弁? 「そうか、ラッキーだね。始めて来て赤沼さんの手品を見れるなんて」 「毎月第3金曜は流しの手品が来るんよ。・・せっかくやから見てってちょうだい」
流しの手品? そんなもの初めて聞いたよ。 言われてみればこのお店、普通のスナックと空気が違った。 カラオケコーナーはあるけど誰も歌ってないし、大声で放談する人もいない。 落ち着いたカフェかバーみたいな雰囲気。 女性も多いな。よく見たらお客の半分が女性だった。 どの人も手品が目的で来てるんだろうか。
しばらくして入口のドアが開き、黒ずくめの男性が現れた。 タキシードの上に黒いマントを羽織ったお爺さんだった。頭にはシルクハット。 ひと目で手品師と分かる服装。 お爺さんに続いて赤いチャイナ服の女の子が入ってきた。大きな革のトランクを両手で持っている。 あっ。あの子! 私が歩道で衝突しかけた女の子だった。
カラオケコーナーのスポットライトの当たる位置まで進むと、二人は並んで頭を下げた。 皆が拍手した。遅れて私も拍手した。 女の子が私に気付いたようだ。胸の前で右手を振って笑いかけてくれた。 困ったな。笑顔を返しにくい。
「今夜もたくさんお集まりいただきましたな。こんな爺の芸がひとときの慰めとなれば幸甚の極み・・」 お爺さんは口上を済ませると、マントの中からステッキを出して振った。 ステッキは���瞬で花束に変わりそれを近くの女性客に渡した。
次に左手を高く掲げた。 何もないはずの手の中にトランプのカードが1枚出現した。 それを右手で取って投げ捨てると、左手にまた1枚現れた。 次々とカードを出現させて投げた。最後の何枚かは左手から直接空中に投げて飛ばした。 「あれはミリオンカードっていう技だよ。あの爺さんの十八番さ」 隣に座るおじさんが教えてくれた。 「へぇ。詳しいんですね」 「まあね。毎月ここで見てるからね」
お爺さんは手品を続けた。 銀色のリングをいくつも繋いで鎖のようにしたり、ピンポン球を指の間に挟んで増やしたり減らしたりした。 それから紙に火を点けそれを口に入れて食べてみせた。 ほとんど笑顔も見せずに淡々と続けた。 マジックとか手品は全然知らないけど、何となく最新のマジックではないような気がした。 昔からある手品をやっているんじゃないかしら。
「レトロだろう?」 隣のおじさんが笑いながら言った。 「やっぱり古い手品なんですか?」 「そうだね。あんなのばかり何十年もやっているらしいよ」 「そうなんですか」 「でもこの後の幽体離脱のイリュージョンはすごいよ。何回見ても不思議なんだ」 幽体離脱? イリュージョンって確か、美女が宙に浮かぶとか、そういうマジックよね?
4. チャイナ服の女の子がカウンタースツール(カウンター席用の背の高い回転椅子)をお店の奥から借りて持ってきた。 トランクの中から薄いカーキ色をしたキャンバス生地の包みを出すと、客席に向けて広げて見せた。 金属の金具とベルトがついていて、先の閉じた長い袖がだらりと垂れたジャケットのような形状。 これは知ってるわ。 病院とか拘置所とかで暴れる人に使う拘束衣ね。
お爺さんが拘束衣を女の子に着せる。 長い袖に腕を入れさせると、背中で編み上げになっている紐を締め上げた。 そして腕を前でクロスさせ袖の先を背中できつく絞って固定した。 腰から下がったベルトも両足の間に通して後ろで留めた。 「どなたか力のある方、お手伝いを」 男性のお客に手伝ってもらって女の子を持ち上げ、カウンタースツールに座らせた。 最後に黄色いハンカチで女の子の足首をスツールの一本脚に縛りつけた。 女の子はにこにこ笑っているけれど、これって割と厳しい拘束じゃないかしら。
お爺さんが前で指を振ると女の子は目を閉じて動かなくなった。 トランクから大きな布を出し、お客さんに再び手伝ってもらって女の子の上から被せた。 女の子の姿は隠れて見えなくなる。 「さぁて・・、」 お爺さんが前に立って両手を広げた。 布の下で動けないはずの女の子がびくっと動いた・・ような気がした。 しばらく何も起こらなかった。 やがて──。
おおっ。店内に驚きの声が響いた。 布の上に薄いもやのような影が現れて、空中に浮かんだ。 影はすぐにくっきりしてチャイナ服の女の子になった。
女の子は拘束衣を着けていなかった。 浮かんだままにっこり笑うと、ゆっくり一回転してみせた。 一度天井近くまで上昇し、それから降りてきてお店の中をふわふわ移動��た。 お客の近くに寄ると手を伸ばして一人一人の肩や頭を撫でた。 わっ。きゃっ。 その度に悲鳴が上がる。
女の子が私の傍に来た。 ごく普通の女の子に見える。でも足が床についてない。 いったいどういう仕掛けなんだろう? 彼女は私の耳に口を寄せて囁いた。 「・・あとでお話しさせて下さい」 先ほど歩道で会話したときと同じ声が頭の中に共鳴するように聞こえた。 あまりにもリアルだった。トリックがあるとは思えない。 まさか本物の幽体離脱? 背筋が凍りついた。
5. その夜、私はベッドの中で眠れないでいた。 二股かけられた男のことは、もうどうでもよくなっていた。 それよりスナックで見た幽体離脱が忘れられなかった。 耳元で囁かれた声。 私は怖くなってあの場から逃げ出して帰ってきたのだった。
あの後、女の子は高く舞い上がって元の場所に戻った。 布の下に隠れた本体に重なるように消えると、手品師のお爺さんはその布を外してみせた。 そこには拘束衣を着せられた女の子が何も変わることなく座っていた。 お爺さんが彼女を解放している間に私は立ち上がり、急いでお会計を済ませてスナックから出てきたのだった。
・・金縛りの癖がありませんか? そうだ、私には金縛りの癖がある。 どうして見抜かれたんだろう? あまり考えちゃいけない。考えすぎると金縛りが再発する。
女の子が拘束衣を着せられる光景が蘇った。 長い袖に両手を差し入れる。袖の先を背中に巻き付けられて、ぎゅっと引き絞られる。 私は仰向けに寝たまま、右の掌を左の脇腹に、左の掌を右の脇腹に当てた。 ��れで強く縛られたら絶対に動けないよね。 腕に力を入れて身体に押し付けた。 ぎゅ。圧迫感。
・・ブーン。耳鳴りがした。 いけない!! 気がつけば私は動けなくなっていた。手も足もあらゆる筋肉に力が入らない。
(拘束衣に自由を奪われた私。あの女の子と同じ)
違う。これは金縛りっ。
(お爺さんが大きな布を広げた。ふわりと覆われる。何も見えない)
だから金縛りだってば。無理に動こうとしないで深呼吸しなきゃっ。
(拘束感が薄れる。布を通り抜けるイメージ)
もやが晴れるように視界がクリアになった。 目の前に見えたのは自室の天井。 私は仰向けに寝た姿勢で浮かんでいるのだった。 腕がだらりと斜め下に開いた。 拘束は・・、されていないみたい。
起きなきゃ。 そう思うと空中でまっすぐ立っていた。 ここは私の部屋。ワンルームマンションの最上階。窓の外には街灯り。 自分に起こったことを理解した。 これは幽体離脱だ。
足元を見下ろすと、目を閉じてベッドに寝ている私が見えた。 上へ。 意識するなり、すっと浮上して天井に当たった。と、天井を突き抜けてマンションの屋上に頭を出した。 真っ暗な空と夜の街が見えた。 いけない。 下へ。 降下して部屋に戻った。 スナックで見た幽体離脱は震え上がるほど怖かったのに、いざ自分に起こると驚きも恐怖もなかった。 こういうものかという感じ。 今の私、どんなふうに見えてるんだろう?
洗面台の鏡の前へ行ってみた。 歩かなくても移動できるから楽だ。 鏡の中によれよれのスウェットとショートパンツの女がいた。私だ。 電気も点けてないのにくっきり見える。 そういえばあの女の子もくっきり見えたな。カラオケコーナーのスポットライトの中で。 灯りを点けたらどうなる? 壁のスイッチを入れようとしたら指が壁の中にめり込んだ。 あら残念。
ベッドの上空に胡坐で浮かび、腕組みをして考えた。 私、どうなっちゃったんだろう。金縛りに加えて幽体離脱まで達成してしまうとは。 そもそもこれは現実なのかしら? ぜんぶ夢の中のような気もするし。 スマホやテレビでチェックしたらと思ったけど、触れないから確認できない。 窓に目を向けた。今の私なら窓ガラスを通り抜けられる。 コンビニにでも行って店員さんに私が見えるか聞いてみようか。 ダメだよ。もし本当に見えたら幽霊が来たって大騒ぎになるでしょ。
今、何時だろう? ベッドサイドのデジタル時計は 2:59。見ているうちに 3:00 に変わった。 じー。枕元のスマホが振動して画面が明るくなった。何かの通知を表示するとすぐに暗くなった。 夢だとしたらすごいわね。むちゃリアル。 スマホに手を伸ばしたら手がスマホをすり抜けた。 やっぱりこうなるか。ばかやろー。
・・
気がつけば朝だった。 私はベッドから起き上がって頭を掻く。ああ、本体に戻ったのか。 時計を見ると7時半。 も少し寝ようかな。今日はお休みだし。 いつも��習慣でスマホをチェックすると飲み仲間の女友達から LIME のメッセージが入っていた。 『水曜いつものパブでどう?』 メッセージの時刻は 3:00。
記憶が鮮明に蘇った。 時計が3時になって、同じタイミングで着信通知。 夢と現実がここまで一致するなんてあり得ない。 あの幽体離脱は現実だったと確信した。
それなら──。 私は思った。 あの子に会わないといけない。あの女の子と話をしないといけない。
6. 土曜のせいか『すなっく けったい』は空いていた。 先客はサラリーマン風の若い男性が二人だけ。 JPOP の音楽が流れていたりして、いたって普通のスナックだった。
関西弁のママは私を覚えていた。 「昨日のお姉さんやね。途中で帰ってしもたから莉里(りり)ちゃんが残念がってたわよ」 「莉里ちゃんて?」 「手品のアシスタントしてた子やんか」 「ああ、チャイナ服の女の子ですね」 「そうそう。莉里ちゃんは赤沼さんのひ孫なのよ」 へえ、孫じゃなくてひ孫さん。
ママによると、あのお爺さん(=赤沼氏)は2年ほど前にふらりと現れて手品をするようになった。 ずっと一人でやってたけど、今年の春になって莉里ちゃんも一緒に来て幽体離脱のイリュージョンを始めた。 それが受けて、今では赤沼氏が来る日は手品好きのお客が集まるという。 「あの人も昔は名のある手品師やったらしいけど、今は道楽でやってる言(ゆ)うて笑(わろ)てはったわ」 「私、赤沼さんと莉里ちゃんに会いたいんです。連絡先ご存知ないですか?」 「お姉さんネットで配信してる人? それともマスコミ関係とか。それやったら会(お)うてもらえへん思うよ」 「違いますっ。あの、個人的に、すごく個人的に会いたいだけなんです」 ママはにやりと笑った。 「それやったら、ボトル入れてくれたら話そかな?」 「入れます!」 「よっしゃ。・・あいにく連絡先は分からへんけど、雲島のほうの公園でストリートなんとかゆうのをやってるのは聞いてるわ」 「ストリートパフォーマンスですか?」 「それそれ。やるのは日曜だけでそれも気まぐれや言うてはったから、絶対に会えるとは限らへんけどね」 「ありがとうございます。行ってみます」
「・・ママぁ、カラオケするでぇ」「はーい、どぉぞ」 サラリーマン組が歌い始めた。
「ところで何飲む?」 ママに聞かれた。 「あ、ボトル入れますから。・・その、一番安いので」 「さっきのは冗談やから無理せんでええよ。そやね、何でもいけるんやったらホッピー割なんかどう?」 初めて飲んだホッピーの焼酎割は爽やかで飲み易かった。 「美味しいです」「やろ?」 ママも自分のグラスに入れたホッピーをぐびりと飲んで笑った。 「お姉さんのお名前お聞きしていい?」 「私、けやきです。近本けやき」 「けやきちゃんね、覚えたで。・・それで二人に会うてどうするの?」 「昨日の手品で聞きたいことがあるんです。特に莉里ちゃんの方に」 「ふーん、さてはけやきちゃんも幽体離脱してもぉたんやな」 ぎっくう!!! 「がはははっ、そんな真顔で驚かれたらホ��マに幽体離脱した思てまうやんか」 「いえ、あの」 思い切り笑われてしまった。
「さあ、カラオケ空いたで。あんたも遠慮せんと歌いっ」 「あ、はい。・・じゃあ『ふわふわタイム』を」 「がははっ、アニソン! ええやんっ」 それから私はカラオケでアニソンを歌い、サラリーマン二人と意気投合して歌いまくった。 ホッピー割はいつの間にかハイボールとストレートのジンに変わり、結局ボトルキープと変わらない代金を払うことになった。
7. 翌日はよく晴れていた。 私は『けったい』のママから聞いた公園に来ていた。 そこは野鳥や水鳥の観察ができる貯水池や広葉樹の森が広がる自然公園で、私は赤沼氏と莉里ちゃんを探して歩き回った。 どこにいるのか分からないし、どこにもいないかもしれない。
ふう。疲れてベンチに座り込む。 『けったい』で飲み過ぎたかしら。おかげで爆睡して金縛りも幽体離脱もなかったんだけど。 それにしてもこんなに広い公園って分かってたら、もっと歩き易い格好にしたらよかったな。 私はロング丈のワンピースにヒールを履いて来たのだった。
・・あれ? 遠くに人が集まっている。 なだらかな芝生の丘の上にレンガの壁で囲まれた噴水があって、そこで何かが行われていた。 噴水の上にふわりと浮かぶ人影が見えた。 白いワンピースを着ていて背中に羽根のようなものがついている。
私は立ち上がった。 息を切らせながら斜面を登り、ようやく噴水の端へたどり着いた。 見上げると噴水に虹がかかっていた。 きらきら輝く飛沫と太陽の光。 その光の中、4~5メートルくらいの高さを莉里ちゃんが "歩いて" いた。 肩を出した真っ白なキャミワンピ。大きく広がる天使の翼。ひらひらした裾から伸びる素足。 神々しいくらいに綺麗だった。
「莉里ちゃん!」 私が叫ぶと彼女はこちらを見下ろして驚いた顔をした。 噴水の中をゆっくり降下し、それから水面を歩いて外へ出てきた。 彼女の髪や衣装は少しも濡れていなかった。 噴水の畔には大きなキャリーバッグが置いてあって、莉里ちゃんはその中へ溶け込むよう消えた。 取り囲むギャラリーから「ほおっ」という歓声が上がる。 「すごい! このイリュージョン」「どうなってるんだろ?」会話が聞こえる。 そうだよね。イリュージョンと思うよね普通。
キャリーバッグの脇に白髪のお爺さんが立っていた。 それはもちろん赤沼氏だけど、明るい色のシャツとズボンで優しく笑う姿は『けったい』で見たのと全然違っていて驚かされた。 赤沼氏は観客に向けて親指を立てウインクすると、キャリーバッグを横に倒して蓋を開けた。 バッグの中には拘束衣を着せられて丸くなった莉里ちゃんが入っていた。 立ち上がって拘束衣を脱がせてもらう。 弾けるような笑顔。額に汗が光っていた。 やっぱり可愛い子だわ。
拍手の中、二人はお辞儀した。 足元に置いた菓子缶に小銭がぱらぱら投げ込まれる。 莉里ちゃんが私を見て手を振ってくれた。 薄いキャミワンピ1枚だけ纏った背中に天使の翼はついてい���かった。
・・
「近本けやきといいます。先日は途中で帰ってしまってごめんなさい!」 ギャラリーがいなくなってから私は二人に挨拶した。 「あたしは気にしてません。それに、きっとまた会えると思ってましたから」 莉里ちゃんが答えてくれた。
「実は私、金縛りの癖があります」 「あ、やっぱり」 「あの夜、久しぶりに金縛りになりました」 「!!」 「それともう一つ、私も本当に驚いたんですけど、えっと・・」 言い淀んでいると赤沼氏が応えてくれた。 「貴女も幽体離脱したのですかな? 先程のこの娘と同じように」 「あ、あれ、やっぱり本物の幽体離脱・・ですか?」 「はい!」 莉里ちゃんがそう言ってにっこり笑った。
あっさり認めてくれてほっとした。マジックじゃなかった。 さっき見たのも、『けったい』で見たのも、どっちも本物の幽体離脱だったんだ。 二人に告白した。 「私も、生まれて初めて宙に浮いて、自分の寝顔を見下ろしました」
8. 狭いキッチンに香ばしい匂いが漂っている。 ここは赤沼氏が暮らす古びた公営団地。 夕食を食べていきなさいと誘われたのだった。
私は莉里ちゃんと並んで座り、準備する赤沼氏の背中を見ながら二人でお喋りした。 莉里ちゃんのフルネームは関莉里(せき りり)。16 歳で高校1年生だと教えてくれた。 ひいお爺さんの赤沼氏はこの団地に一人住まい。莉里ちゃんは近くの一戸建て住宅に両親と住んでいる。 彼女は赤沼氏のアシスタントを春休みの3月から始めた。 「皆さんの前でふわって浮かんでみせるの、楽しいんです」 そう言って明るく笑う莉里ちゃん。 昼間から着たままでいる肩出し白ワンピが眩しい。
「・・さあ、できたよ。こっちは桜海老のビスクと鮭の香草焼き。メインにチキンソテーのクリームチーズソース。バケットを切らしていたからカリカリに焼き上げた食パン。ガーリックバターをつけて食べて下され」 「これ全部赤沼さんが作ったんですか!?」 「びっくりでしょ? ひい爺ちゃんはお料理が得意なんです」 「昔はフレンチのシェフをされてたとか?」 「いやいや、メシ作りは好きでやっておるだけだよ」
食卓テーブルはないからと、床に置いた卓袱台(ちゃぶだい)を囲んでお料理をいただいた。 「美味しいです!」 「それはよかった。・・そうそう、ワインは飲むかね? ちょうどドメーヌ・トロテローの白があるんだが」 「い、いいんですか!?」 「遠慮は無用。ただしワインにしてはアルコール 15 度を超える強めの酒だ。いけますかな?」 「いけます!」
赤沼氏は笑って冷蔵庫からワインの瓶を出してくると、プロのワインソムリエみたいにスマートに栓を抜いた 「ではティスティングを・・。おっとその前に姿勢を正していただきたい」 「あ、すみません」 私はきちんと正座して、少しだけ注いでもらったグラスを鼻に近づけた。 「どうだね? 2020 年のロワールで最もリッチなワインだよ。ふくよかで甘い香りがするだろう?」 「そうですね、いい香り」 「ゆっくり口に含��で」 口の中に芳醇な香りが広がった。 「舌の上で転がせば辛口で、凝縮された果実感と酸味がたちまち貴女を酔わせようとする──」 「ああ、本当」 ふぁっと熱いものが広がる感覚。 酔ってしまいそう。 でもほんの一口試しただけなのに、私こんなに弱かったかしら?
ぽん。誰かに肩を叩かれた。 振り返ると、いつの間にか赤沼氏が後ろにいた。 「けやきさん、やはり貴女は暗示にかかり易いようだね」 「?」 「もう一度グラスの中身を飲んでみなさい」 ワインを飲むと味がしなかった。 あれ? 「それはただの水だよ」
「けやきさん、ごめんなさい」 莉里ちゃんが言った。 「あたしからひい爺ちゃんにお願いして確かめてもらったの」
・・
食事をしながら話を聞いた。 暗示は言葉やいろいろな合図を受けて誘導される精神的作用だという。 私はただの水をワインと思い込んだ。 思っただけじゃなくて、本当にワインの味と香りを感じたのだった。 赤沼氏はそうなるように私を導いた。これが暗示。
莉里ちゃんが言った。 「あたし、最初に会ったとき "金縛りの癖がありませんか?" って聞きましたよね。たぶんあれが金縛りの暗示になっちゃったと思うんです。ごめんなさい!」 「でも私にはもともと金縛りの癖があったんだし」 「それも暗示かもしれません。けやきさん、そんなにしょっちゅう金縛りをやってましたか? 癖があるって意識してましたか?」 え? そうだっけ?
「金縛りは睡眠障害の症状の一つと言われるが、それだけではない。暗示が金縛りの引き金になることもあるんだよ」 赤沼氏が説明してくれた。 「起こる起こると思っていると起き易くなるんですね」 「そう。だから逆に金縛りを起きにくくするのにも暗示が使えるし、起こったときに恐怖を感じないようにもできる」 「できるんですか? そんなこと」 「試してみるかね?」 「・・はい。お願いします」
食事の後、食卓を片付けて私は赤沼氏と向かい合って座った。 「貴女が金縛りになったときの状況を話して下さい。できるだけ詳しく、どんな些細なことでもいいから」 「はい、あのときは、」 あのときはベッドに入って、莉里ちゃんの幽体離脱を思い出していた。 金縛りの癖があるって言われたことを考えた。 それから莉里ちゃんが拘束衣を着せられるところを思い出して。 そうだ。私、自分が拘束衣を着て動けなくされるのをイメージした。 両手を前で組んで。ぎゅっと。
・・ブーン。耳鳴りが聞こえた。 あぁ、駄目! 身体ががくがく揺れるのが分かった。
「喝!!」 赤沼氏の声が響く。はっとして我に返った。 大丈夫、ちゃんと動ける。金縛りになんかなってない。 莉里ちゃんが横から肩を抱いてくれた。 「大丈夫ですよ、けやきさん」優しい声で言われた。 「怖い思いをさせてすまなかったね。・・しかし記憶を辿るだけで起こりかけるとは。よほど強い暗示か、さもなくば貴女の感受性が並外れているのか」 赤沼氏が言った。 「でも施術の方向は見えたよ。悪いがもう一度やらせてもらえるかね。もう怖い思いはさせないから」 莉里ちゃんに目を向けると、彼女はまっすぐ私を見て頷いてくれた。 私は答えた。 「やって下さい。お任せします」
・・
赤沼氏が奥の部屋から持って来たのは束ねた縄だった。 「背中で手首を交差させて」 手首に縄が巻き付いた。 それから二の腕と胸の上下にも縄が巻き付いて、全体���きゅっと締められた。 がっちり固められて動けない。 私は人生で初めて縄で縛られた。
仰向けに寝かされ、頭の後ろと背中で組んだ手首の上下に丸めた座布団を押し込まれた。 「床に当たって痛いところはないかね?」 「いいえ」 「では目を閉じて、リラックスして。大きく深呼吸。・・そう、ゆっくり、深く」 息を深く吸うと縄の締め付けが強くなった。 辛いとか苦しいの感覚はなかった。締め付けられることに快感すら覚えた。
「けやきさん、今、貴女は縛られている。貴女を包む縄に身を預けている」 「はい」 「貴女が感じるのは穏やかな心地よさ。縄に守られる安心感。とても気持ちよくて、ずっとこのままでいたいと思う」 気持ちいい。まるで抱きしめられているみたいに気持ちいい。 優しくて、暖かくて。 これは、幸福感。
「いい表情をしているね、けやきさん。貴女は縄に守られているんだよ。何も恐れなくていい。あらゆることが気持ちいい」 私は守られている。 この気持ちよさの中にずっといられたら、何も怖くない。
「たとえ金縛りでも気持ちいい。・・悦び、と言ってもいい」 そうか。 今の私にもう金縛りを怖がる理由なんてないんだ。 金縛りが来ても嬉しい。
「準備できたようだね。さあ、迎えたまえ」 ・・ブーン。耳鳴りがした。 私はそれを受け入れた。
目を開けると赤沼氏と莉里ちゃんがいた。私を見下ろして微笑んでいる。 動こうとしたけど動けなかった。 縄で縛られた腕はもちろん、首、脚、指の一本も動かせなかった。 完璧な金縛り。
怖いとは感じなかった。暗示をかけてもらったおかげだろうか。 私は落ち着いて自分の状態を確認する。 どこも痛くない。気持ち悪いところもない。 誰かが上に乗って押さえている感じ・・、なんてものも全然ない。 身体中の筋肉が脱力したまま、脳からの命令を無視しているイメージ。
面白いね。 嫌じゃないぞ、この感じ。 今までの金縛りで味わったことはなかった。こんな感覚は初めてだよ。 確かに悦びかもしれない。 私、マゾのつもりはないんだけど。 「どうかな?」赤沼氏が静かに聞いた。 「・・今、貴女は動けない。動けないが怖くない。金縛りは怖くない。それどころか快適に感じるんじゃないかな?」
・・はい、快適です。 答えようとしたら、ふわりと身体が浮かんだ。 あれ? 私はそのまま赤沼氏と莉里ちゃんを通り抜けて浮かび上がった。 あらら、また幽体離脱しちゃったんだ。
私は仰向けで後ろ縛りのままだった。 そのまま上昇して天井にぶつかる前に止まった。 前、後ろ、右、左。 自由に移動できることを確かめた。前と同じだ。 その場でくるくる回ってみた。 頭を下に向けて倒立した。楽しい。 おっとスカート。 慌てて見下ろしたらワンピースのスカートはめくれ上がることなく足先の方向へのびていた。 引力は関係ないのね。
前を見ると逆さになった二人と目が合った。 いや逆さになっているのは私の方だけど。 縄で縛られた女が倒立状態でふわふわ飛んでいる。暗がりで会ったら腰抜かすかも。 赤沼氏と莉里ちゃんには見えているんだろうか?
「もしもし、私のこと、どう見えてますか?」 「ええっ」「何と・・」 揃って驚かれた。 「聞こえたよね? ひい爺ちゃん」「はっきり聞こえた」 え、聞こえたらびっくりするんですか?
「貴女が逆さに浮かんでいるのはちゃんと見えておるよ」 「びっくりしたのは、離れていても声が聞こえたことなんです」 二人が説明してくれた。 「この間は莉里ちゃんも私に話しかけてくれたと思いますけど」 「あたしは相手の近くで囁くのが精一杯です」 そうだったのか。確かにあれは耳元で聞こえたわね。 「体外に分離した幽体が普通に会話できるのは大変なことだよ。幽体の濃度がとても高いことの証しだ」 幽体の濃度? さっぱり分からない。
「あの私、金縛りに入っただけなのに、幽体離脱までしちゃったみたいですみません」 「金縛りをきっかけにして幽体が分離するのは珍しいことではないよ」 「よくあることなんですか」 「そうなんだが・・、そこでふわふわされていたら落ち着かないな。申し訳ないが本体に戻ってもらえますかな?」 「あ、はい」 私は自分の身体の上に浮かんだ。 そこには後ろ手に縛られた私が両方の眼をかっと見開いたまま眠っている。かなり不気味だ。
「・・あの、どうやって戻ったらいいでしょう?」 「前に幽体離脱したときは?」 「朝、目が覚めたら戻ってました」 「そうか」 赤沼氏はしばらく思案し、それから奥の部屋に行って紙袋を持ってきた。 「莉里、これで戻してあげてくれるかい」 「これを使うの? 久しぶり!」
莉里ちゃんが紙袋から出したのは赤いゴム風船と空気ポンプだった。 「これは手品で使う風船です」 風船をポンプに繋ぐと、レバーをしゅこしゅこ押して空気を入れた。 「これは画びょうです」 左手に膨らんだ風船、右手に画びょうを持ち、眠り続ける私の本体の耳元で構えた。 「ちょ、莉里ちゃん何するの!?」
ぱんっ!! 大きな音がして私は目覚めた。 「つぅ~」 耳を押さえようとして、自分が後ろ手に縛られていることを思い出した。 「驚かせてごめんさない。これ、あたしが幽体離脱の特訓で戻れないときにやってもらってた方法です」 「幽体を元に戻すには聴覚の刺激が最も効くんだよ」 「そ、そうなんですか」
・・
起き上がって縄を解いてもらった。 淹れてもらったコーヒーを飲みながら、赤沼氏の説明を聞いた。 「元々けやきさんには幽体離脱の特別な能力があったんだろうね。それが急に活性化したのは、金縛りの暗示とおそらくスナックで莉里の実演を見たからだろう」 「私の能力って特別なんですか?」 「そうだね、けやきさんの幽体は濃度レベルが極めて高い。驚くべきことだ」
脳の神経細胞の接点をシナプスと呼ぶ。幽体と肉体の分離はシナプスの活動電位の乱れによって引き起こされる。 分離した幽体の濃度レベルが高いと幽体は可視化され、さらにレベルが高いと音声も伝わる。 レベルが低い場合は本人は離脱の記憶すらあいまいになり、たとえ覚えていても夢を見たと思うだけだ。
「これはわしの知り合いで一ノ谷という学者が提唱した理論だよ。もう何十年も前に死んでしまったが」 「そうなんですか」 「一ノ谷は超短波ジアテルミーという装置を作り、それを使ってわしの娘を訓練した」 え? 娘さんって、つまり莉里ちゃんのお婆ちゃん? 「今のは余計な話だった。忘れて下され」
「ひい爺ちゃん、これからどうするか話すんでしょ?」莉里ちゃんが催促した。 「おお、そうだったね。���・けやきさん、今、貴女が最も注意すべきは金縛りではなく幽体離脱なんだよ。使いこなす訓練が必要だ」 え? 「貴女のように幽体濃度レベルが高い人が無意識に離脱を繰り返すのはとても危険なんだ」 「もし今のまま幽体離脱が続いたらどうなりますか?」 「貴女自身の精神が不安定になる。やがて分離した幽体が独立した人格を得て勝手に行動するようになる。いわゆる生霊だね。娘もそれで危ない目に会った」 ええっ、それは困る。絶対に駄目。
「貴女はお勤めかな? それとも結婚して家庭におられるか」 「独身で勤めています」 男に振られたばかりで来年 30 のアラサーOLだよっ。 「では、後日改めてお越しいただけますかな? 今夜はもう遅い。これ以上続けると明日の仕事に差し障るでしょうから」 「分かりました。・・もしそれまでに幽体離脱が起こったら?」 「貴女の場合は金縛り状態でない限り、幽体の分離は起こらないと思っていい。そして貴女が金縛りになるのは縄で縛られているときに限られる。そういう暗示をかけたからね」 「つまり、縛られなければ安全なんですね?」 「その通り。もし貴女に誰かから緊縛を受ける趣味がおありなら、しばらく控えたほうがいい。その最中に幽体離脱が起こるかもしれない」 「そんな趣味はありません!」
莉里ちゃんが言った。 「けやきさん、実はあたしにも暗示がかかってるんですよ。あたしが幽体離脱するのは拘束衣を着せられたときだけです」 「莉里ちゃんも?」 「だって授業中に居眠りして勝手に離脱しちゃったらヤバイでしょ?」 そうか、だから莉里ちゃんはいつも拘束衣で幽体離脱してたのか。
・・
「では次は土曜日に来ていただくことでよろしいかな?」 「分かりました。時間は?」 「あの、」莉里ちゃんが右手を上げて言った。 「土曜の夜でもいいですか? 日曜日までゆっくりしてもらうことにして」 「夜? ・・なるほど」赤沼氏は何か分かったようだった。 「けやきさん、すまんがこの子の希望に合わせて夜でもよろしいかな?」 次の土曜の夕方6時に再訪の約束をして、私は赤沼氏の住まいを辞した。 すぐ近くにある自宅へ帰るという莉里ちゃんも一緒に出てきて、二人で並んで歩いた。
歩きながら莉里ちゃんは、赤沼氏の娘さん、つまり莉里ちゃんのお婆さんについて教えてくれた。 もう 60 年近い昔、赤沼氏は娘さんと一緒にサーカスで幽体離脱の見世物をやっていた。 娘さんは『リリー』と名乗っていて、彼女が見せる幽体離脱は大評判。当時の新聞に載ったほどだという。 リリーさんは 19 歳のとき父親の分からない女の子を出産し、その翌年に病気で亡くなった。 この女の子が莉里ちゃんのお母さんになる。
「あたしのママに幽体離脱の力はなかったんです。ごく普通に結婚してあたしを生んでくれました」 「莉里ちゃんの能力は赤沼さんが気付いたのね」 「はい。中1のとき金縛りになって固まってるところを見つけてくれました。あれがなかったら、あたし今頃本当に生霊になって飛び回ってたかもしれません」 莉里ちゃんは両手を前で揃えた幽霊のポーズで笑った。
「しばらくして離脱の特訓を始めました。ひい爺ちゃんは急に流しの手品師なんて始めたりして。それまであたし、ひい爺ちゃんが元手品師だってことも知らなかったんですよ」 「昔リリーさんと見せたショーをまたやりたかった���かもしれないわね」 「きっとそうです。ママもそう言っ��、あたしがお手伝いすることに賛成してくれました」
莉里ちゃんの家の近くまで来て、私は莉里ちゃんと LIME のIDを交換した。 「赤沼さんのアカウントも教えてもらっていい?」 「ひい爺ちゃんはスマホ持ってません」「そっかー」
「けやきさん、あたしね、」 「何?」 「ずっと一人だと思ってたんです」 「?」 「こんなことができるの、もうあたし一人だけと思ってたんです。でも、けやきさんと会えました」 「莉里ちゃん・・」 「ものすごく嬉しくて、泣いちゃいそうなんですよ、あたし」 そう言うなり私に抱きついた。 「これからも一緒にいて下さい。お願いします!」 彼女の背中を撫でてあげた。 「私こそお願いするわ。これからもいろいろ教えてね、先輩」 「まかせて下さい! ・・今度一緒に飛びましょね」 え、飛ぶの? 「じゃあ、サヨナラ!」
手を振って走って行く莉里ちゃん。 真っ白なキャミワンピの裾が広がって揺れていた。 ちょっと大人びてるけど、まだ 16 歳なのよね。 素直で明るくて本当にいい子だわ。
ふと気付いた。 あの子、幽体離脱できるのは自分一人って言ってたよね。 ひいお爺さんの赤沼氏自身に能力はないのかしら? リリーさんのパパなのに。
9. 週明けから急に仕事が忙しくなった。 残業が続いて毎夜牛丼屋か深夜ファミレスの生活。 飲み友達を『けったい』に連れて行きたいと思ってたけど、それも叶わずあっという間に週末になった。
SNS であの噴水パフォーマンスの評判をチェックしてみたら、やっぱりイリュージョンだと思われているようだった。 そりゃあれ見て本物の幽体離脱と判る方が変よね。 女の子が可愛い!という書き込みがたくさんあったのは納得したけど。
金縛りはまったく起こらなかった。 一度だけ、ベッドに入って自分が縛られているところを妄想した。 赤沼氏に縛られた縄。身体を締め付けられるあの感覚。 思い出すと少しだけ胸がきゅんとしたけど、金縛りの前兆であるブーンという耳鳴りは聞こえなかった。 ちょっと残念、だったりして。
10. 土曜日。 約束の時刻に赤沼氏を訪ねた。 莉里ちゃんも先に来て待っていてくれた。
私はまだ自分の意志で自由に幽体離脱できない。 前回は赤沼氏に誘導してもらって金縛りになり、その後勝手に幽体が離れてしまった。 自分で幽体離脱って、いったいどうすればいいんだろう?
「・・幽体離脱が起こるのは金縛り中に限ったことではないよ。強い衝撃を受けたとき、意識障害や失神したとき、酩酊したとき、あるいは普通の睡眠時にも起こり得る」 赤沼氏が教えてくれた。 「でも結局、離脱のハードルが一番低いのは有意識下の金縛り中なんだよ。パニックにならず落ち着いて自分を保てばいい。・・けやきさんはもう金縛りに恐怖はないだろう?」 「はい。縄で縛っていただけたら」 「では貴女の目標は、まず緊縛されて誘導なしで金縛りに入ること、それから意識を体外に向けて分離すること。ゆっくり練習すればいいよ」 「はい」
「けやきさん、あたしも金縛りになってから離脱してるんですよ」 「莉里ちゃんも?」 「そうですっ。コツを掴んだら難しくないです。けやきさんなら絶対にできますよ!」 「ありがとう。やってみる」
・・
私は前回のように床に寝るのではなく、椅子に座って後ろ手に縛られた。 手首と腕、そして胸の上下を絞める縄が心地よい。 縄に抱きしめられる感覚。 肉体は自由を奪われるのに、心には安心感と幸福感が広がる。 ほんと暗示って��ごい。 いつか自由自在に幽体離脱できるようになっても、この暗示だけは解いて欲しくない。
自分の胸に食い込む縄を見下ろした。 そうか、こんな風になってるのね。 我ながらセクシー。もうちょっとお洒落してきたらよかったと思ったくらい。 今夜は特訓だからと、私は動きやすいスキニーパンツに半袖のオーバーニットを合わせて着ていた。 せめてノースリーブとか、もちょっと肌を出したトップスにしておけば、・・って何を考えてるんだ私は。 これは真面目な訓練なのに。 「けやきさん、顔が赤らんで綺麗。羨ましいです」 「あ、ありがとう」 莉里ちゃんに指摘されて焦る。 今は邪念を払って集中しなきゃ。深呼吸を繰り返す。
「OKだよ。この先は貴女一人で行くんだ」 赤沼氏が私の肩に手を置いて言った。 「心の準備ができたら、いつでも始めなさい」 「はい」
私は目を閉じた。 身体を絞め付ける縄の感覚。大丈夫、何も怖くない。 これから私は肉体の自由を明け渡す。その代わりに精神を肉体から解き放つのだ。
・・ブーン。耳鳴りがした。 その音は以前より少し柔らかくなって聞こえた。
自分の身体を意識した。 その身体はまるで時間が止まったかのように静止していた。 外の世界を意識した。 そこには私を拒まない自由な空間が広がっていた。 行ける──。
私は虚空を見上げて飛び上がった。 自分が肉体から離れるのが分かった。 「おおっ、飛んだ!」「けやきさーん!」 赤沼氏と莉里ちゃんが私を見上げていた。 「どうですか? 私の幽体離脱」 私は二人の上空に浮かんで微笑んだ。 宙に浮かぶ緊縛美女、なんちて。 ちょっぴり、いや結構誇らしかった。
・・
私はしばらく空中に浮かんで元の身体に戻った。 戻るときもスムーズだった。 幽体を肉体に重ね、じんわり融合するイメージを描けばよかった。 初めての単独幽体離脱は大成功だった。 たった1回のトライで成功するとは正直思っていなかったと赤沼氏にも言われた。
「さて腹が減ったね。けやきさんも夕食はまだだろう?」 「え、また用意してもらったんですか!?」 「好きで作っとると言っただろう?」
私は緊縛を解かれた。 本当は縄に抱かれる快感にずっと浸っていたかったけど、縛られたままじゃご飯は食べられないものね。 赤沼氏が作ってくれたのは和食だった。 大根のべっこう煮、厚揚げと小松菜の煮びたし、鯖塩焼きに豚汁。 「すごいですっ」 「ありきたりの献立だと思うがね。けやきさんは自分で料理せんのかね?」 「あ、私は外食が多くて。・・でも今は家で作らなくても十分やっていけますから。ね、莉里ちゃん!?」 「お嫁に行くならお料理はできた方がいいですよ、けやきさん」 ズキューン。莉里ちゃんを味方につけようとして逆に撃たれてしまった私。
・・
莉里ちゃんが言った。 「けやきさん、次はあたしと二人で飛びませんか?」 「そういえば莉里ちゃん一緒に飛びたいって言ってたわね」 「それはやった方がいい。一緒に行って教えてもらうことがたくさんあるはずだよ」 そうだね。いっぱい勉強することはあるんだ。 よし、空でも何でも飛んでみせるわ。
今日の莉里ちゃんは膝上ショートパンツとボーダー柄のTシャツを着ていた。 その上に拘束衣を着て袖に手を入れ、その袖を赤沼氏が背中に取り回して強く絞った。 だぶだぶの拘束衣がきゅっと締まったのが分かる。 これで莉里ちゃんは両手を動かせない。 「えへへ、ぎちぎちです」 屈託なく笑いながら言われた。
次は私の番。 再び後ろ手で縛られた。 きっちり両手が動かないことを確認して安心する。 いいな。やっぱり嬉しい。 「私もぎっちぎち」 莉里ちゃんにそう言って笑いかけた。
「行きましょ! けやきさん」「うん、行こう」 目を閉じて、深呼吸。
「けやきさん、」莉里ちゃんが小声で言った、 「はい?」 「一緒に拘束されてるの、嬉しいです」 どき。 「もうっ、集中できないでしょ!」「えへへ、ごめんなさい!」
・・ブーン。耳鳴りがした。 莉里ちゃんが少し震えて動かなくなった。隣で私も固まった。 そして──。
私と莉里ちゃんは部屋の中に浮かんでいた。 互いに微笑み合う。 莉里ちゃんが赤沼さんの近くへ行って挨拶した。 「行ってくる、ひい爺ちゃん」 「うん、気を付けてな」
莉里ちゃんは笑って私を手招きすると窓ガラスを通り抜けていった。 私も赤沼氏に会釈して、窓を抜け外へ出た。
11. 夜の空に浮かぶと私たちはとても小さな存在だった。 「うわぁ~~!!」 小さな子供みたいに叫んだ。
天空に瞬く星々。 眼下にはマッチ箱みたいな団地。 そして周囲 360 度に煌めく街の夜景。 ガラスの粒をばらまいたみたいに綺麗だった。 碁盤目に走る道路と車のライトの列。あそこですれ違う光の線は電車。 はるか彼方に見える超高層ビル群。虹色に光るテレビ塔。
「莉里ちゃん今までこんな景色を独り占めしてたの!?」 隣に浮かんでいる莉里ちゃんに聞いた。 「まあ、空に上がれば見放題ですからね」 「すごいなぁ。これ見れただけで幽体離脱に感謝だわっ」 「うふふ。・・よかった!」 「何がよかったの?」 「幽体同士だと普通にお話しできて。私だけけやきさんの傍で囁かないと駄目かもって、ちょっと心配してたんです」 「ああ、そうか」 幽体のときの莉里ちゃんの声は、普通の人間にはよほど近くでないと聞こえないのだった。
「でもほんと夢みたい! 一緒に飛んでくれる人がいたなんて」 莉里ちゃんは笑顔で両手を広げて一回転した。 暗闇の中でくっきり見えた。 ショートパンツとTシャツ。よく見たら髪に白い造花のバレッタをつけていて可愛い。 私も両手を広げようとして、後ろ手に縛られていることに気付いた。 そういえば莉里ちゃん、いつも幽体離脱したときは拘束衣が消えるわね。
「ねぇ莉里ちゃん、今更だけど拘束衣は?」 「はい、これですか?」 莉里ちゃんを包むように拘束衣が出現した。両手が固定されたぎちぎちの拘束。 「ええーっ!?」 「見た目なんていくらでも変えられますよ?」 拘束衣がふっと消えた。 替わりに莉里ちゃんの背中に大きな翼が生えた。噴水の上に浮かんだときの翼だった。 「はいっ、天使に変身です」 「そ、それ私にもできるの?」 「できますよ。頭の中でなりたい姿を思い浮べるだけです」 ・・じゃあ。 私を縛っていた縄が融けるように消えた。両手が自由になった。 「できた!」「はい、よくできましたー」 「どうして言ってくれなかったの? 変身できるって」 「すぐに気が付くと思って。それにけやきさん、縛られたままで嬉しそうだったし」 「う・・。あれは暗示のせい!」 「うふふ」
莉里ちゃんの服装が変わった。 肩出しの白��キャミワンピ。背中に翼も生えて正に天使だった。 「けやきさんも!」「うん!」 私も莉里ちゃんと同じ衣装になった。背中に翼も。 あれ? 翼の先端が薄れて消えかかってる。 「あたしの姿を見て、しっかり隅々までイメージして下さい」 翼がくっきり表れた。 「OKです!」
「ねぇっ、私たちどこでも行けるんでしょ? スカ○ツリー、��下ろしたいな」 「んー、行けなくはないけど、都心まで急いでも4時間くらいかかりますよ」 「え? どうして?」 「地面を歩くのと同じ速さでしか進めませんし、帰りの時間も考えたら朝になっちゃいますね」 「ぴゅーんって飛べないの? そうか一瞬で移動とか」 「そんな魔法みたいなこと無理ですよー」 幽体離脱だって魔法みたいなものだと思うけど。 「スカ○ツリーは無理だけど、お勧めのコースがありますよ! 行きませんか?」
・・
二人で夜の街を飛んだ。 ビルの上、道路の上。駅の上。 翼を広げて飛ぶのは気持ちよかった。
夜の小学校に降りた。 誰もいない校庭で莉里ちゃんと滑り台を滑ったり、ジャングルジムに登って遊んだ。
自然公園の森を飛び抜けた。 高度1メートルで飛んでも木の枝や幹が邪魔にならない。全部通り抜けられるんだ。 森を抜けたところで先を行く莉里ちゃんが貯水池に飛び込んだ。私も続いて飛び込む。 どぶん。 鳴るはずのない水音が聞こえた、ような気がした。 水中で動かない魚の群れを突き抜けて、水面から上空に飛びあがった。 もちろん私たちはぜんぜん濡れていない。
高圧線の鉄塔をネコバスみたいに登り、両手を広げて電線の上を歩いた。 ジャンプしてトトロみたいに回りながら着地した。 楽しい。初めて外に出してもらった子犬みたいにはしゃいだ。
「次はちょっと冒険です!」 莉里ちゃんが指差したのは幹線道路沿いにそびえる巨大なショッピングモールだった。 もう遅い時刻なのに歩いている人が多い。さすが土曜の夜。 誰にも見られないよう物陰に降り、変身を解いて天使から元の恰好に戻った。 莉里ちゃんは膝上ショーパンにボーダーのTシャツ。足元はバスケットシューズ。 私はスキニーパンツと半袖オーバーニットにパンプスを履いている。 さあ、行こう。モールの通路を並んで歩き出した。 心臓がドキドキしてるのが分かる。幽体なのに。
何人もすれ違って誰にも気付かれない。 「意外とばれないものね」「ばれたら大変ですけど」 「そりゃそうだ」「うふふ」 調子にのってエスカレーターに乗ったりベンチに座ったりした。
ベンチにいると、ヨークシャテリアを抱いた女性が前を通りすぎた。 と、その犬が私たちを見て唸り声を上げた。 女性の手から飛び降りて吠え掛かってきた。 やば! 私たちは慌てて逃げ出した。 通路を走り、角を曲がった。きっと床から足が離れていたたと思う。 正面は全面ガラスのテラスになっていた。誰もいない。ラッキー! 私たちは二人並んでガラスを走り抜けた。 3階から外に飛び出すとモールの外壁沿いに急上昇した。 「おっと!」「ひゃあっ」
高く上がって近くを流れる川の上に出ると、すぐに真っ黒な水面ぎりぎりまで降下して一直線に飛んだ。 いくつも橋をくぐって進むと前方に大きな道路橋が見えた。 それは鉄骨を台形に組んだトラス橋で、オレンジ色の照明が鉄橋全体を照らしていた。 「莉里ちゃん、あそこっ」「はい!」 私たちはトラスの一番上の梁に並んで座った。 「えへへ。びっくりしましたねー」 「ほんと、どえらい冒険だったわ。・・いつもやってるの? あんなこと」 「たまに。でも吠えられたのは初めてです」「犬には分かるのかな」 「そうかも。・・驚きました」 莉里ちゃんは自分の胸を両手で押さえた。 「これからは控えることにします。ああいう冒険は」 「その方がいいわね」
足をぶらぶらさせながら見下ろすと、橋の上を車がたくさん走っていた。 誰かが上を見たらきっと気付くだろうね、あり得ないところに座る女の子の姿に。 目立たない恰好に変身した方がいいかな。 いっそ透明なら絶対に見えないけど。
「ね、透明になれないの? 私たち」 「なれません。お婆ちゃんは透明になれたらしいんですけど」 「リリーさんのこと?」 「ひい爺ちゃんから聞いただけですけどね。幽体離脱も特別な暗示なしで自由にできたそうです」 「すごい人だったのね」 「はい。それで暴走したって話も」 「?」 莉里ちゃんはふわりと浮かんで言った。 「もう一箇所だけ、つき合ってもらっていいですか」
12. もう深夜だった。 たった今走って行った電車はそろそろ最終電車ではないかしら。 周囲は街路樹と街灯が整然と並ぶ住宅街。 私たちは電車の線路に降りた。 「昔、この辺りは一面の雑木林で蒸気機関車が走っていたそうです」 「へぇ」 「ここはお婆ちゃんが生霊になった場所です」 「!」
リリーさんは幽体離脱を繰り返し過ぎて精神が不安定になった。 やがて幽体が独立した意志を持ち、勝手に本体から分離して徘徊するようになった。 ある夜、眠っている本体を起こして外へ連れ出した。 赤沼氏が発見したとき、幽体と本体は線路の上を迫りくる列車に向かって歩いていた。 轢かれる寸前、赤沼氏はリリーさんを抱きかかえて救出した。 それから赤沼氏は一ノ谷博士の協力でリリーさんの精神を安定させ、リリーさんが勝手に幽体離脱することはなくなった。
「まさか幽体が生霊になって本体を殺そうとするなんて、思ってもいなかったでしょうね」 「・・」 「だからあたしは暗示をかけられました。勝手に離脱しないように。拘束衣を着たときだけ幽体離脱できるように」 「そうだったのね。私の縄の暗示も同じなのね」 「そうです」 莉里ちゃんは遠い目になって言った。 「暗示の理由を教えてもらったとき、ひい爺ちゃんはこの場所で起こった事件のことも教えてくれました。・・それ以来あたしはときどきここへ来てお婆ちゃんのことを考えています」 「リリーさん、ずっと怖かったのかしら」 「そうかもしれませんね」 「ねぇ、莉里ちゃん。お婆さんはどんな人だったの?」 「無口でおとなしい人だったらしいです。それ以上のことは、ひい爺ちゃんは何も教えてくれません」 「そう」
「・・そうだっ、」 莉里ちゃんは突然にやっと笑った。 「けやきさん、ひい爺ちゃんはずっと独身だって知ってます?」 「あれ? リリーさんがいたのに?」 「ひい爺ちゃんは今年 83 歳です。お婆ちゃんは 19 であたしのママを生んで、ママは 31 であたしを生みました。それで計算すると、ひい爺ちゃん 17 歳でお婆ちゃんが生まれたことになるんです」 「あらら」 赤沼氏、若いときに "やらかした" のかしら? 「じゃあリリーさんのお母さんは」 「分かりません。きっと事情があって結婚できなかったんだろうってママが言ってました」 そうか。それならリリーさんは自分の母親を知らずに育ったのかもしれない。 寂しかっただろうな。
・・
突然風景が変わった。 住宅街が消え、灯り一つない雑木林になった。 電車の線路は木々をかすめるように敷かれたか細い単線の線路に変わった。 私たちの前方に人影があった。 幼い少女が二人、並んで線路を歩いている。 白い寝巻らしきものを来た二人は瓜二つだったけど、片方の少女はぼんやり半透明に見えた。
がしゅがしゅがしゅ。 遠くに機械音が聞こえた。列車が来るんだ。 その音は次第に大きくなった。 やがて黄色いヘッドライトが一つ、こちらに迫ってきた。 少女たちは歩みを止めない。 ボウォーッ!! 汽笛の音。 危ない!!
・・
「見えたんですね?」 莉里ちゃんの声がした。 私と莉里ちゃんは住宅街を抜ける線路にいた。 「残留思念っていうんでしょうか、あたしにも見えるんです。もう 60 年も昔のことなのに」 「幽体になった私たちだけに見えるのかしら」 「たぶん。誰にでも見えたら『幽霊の出るスポット』で有名になるでしょうから」 「それは残念ね。動画に上げたらバズるのに」 「それだったらもっといいネタがありますよ。・・あたし達自身です」 「それもそうね」「うふふ」
・・
二人が赤沼氏の団地に帰りついたのは、日付が替わってだいぶ過ぎた時刻だった。 寝ないで待っていてくれた赤沼氏は叱りもせずに私たちの拘束を解いてくれた。 程なく莉里ちゃんはぐっすり眠ってしまい、それを見届けてから赤沼氏はとっておきのバーボンを開けてくれた。 「水ではありませんぞ」 「あはは、水と判っても騙されたふりして飲みます」
赤沼氏は、莉里ちゃんがこんなに晴ればれした顔で帰ってきたのは初めてだと嬉しそうに話してくれた。 今まで誰にも言えなかった秘密を私に話せた。一人でしかできなかった体験を共有できた。 それは私という仲間ができたからと言ってくれた。 「これからもこの子に寄り添って下されば、こんな嬉しいことはありません」 私は少し考えて返事した。 「これからもお二人のこと、お手伝いさせて下さい」
13. 『すなっく けったい』に行くとさっそくママに声をかけられた。 「けやきちゃん! もう来てくれへんかと思てたわっ」 「すみません、ご無沙汰しちゃいまして」 「ええんよ。はい、こっち座って!」
カウンター席に座りホッピー割を頼んだ。 ああ、美味しいな。 これからも『けったい』に来たら一杯目はホッピー割にしよう。
「さすがに今夜は賑わってますね」 「そら第3金曜やからね。けやきちゃんも手品見に来たんやろ?」 「もちろんです」 「そういえば、あんときは莉里ちゃんと会えたの?」 「おかげさまで、何もかもうまくいきました。・・本当にママさんのおかげです。感謝しきれないくらい」 「何や、気持ち悪い」 ママは不思議そうな顔をしたけど、それ以上は何も聞かずに笑ってくれた。
・・
「こんばんわーっ」 チャイナ服の莉里ちゃんが入ってきた。その後ろに真っ黒なマントとタキシードの赤沼氏。 赤沼氏は年中こんな恰好で手品をするのは大変だと思う。 でも本人に言わすと「これがわしのアイデンティティ」ということらしい。
いつものカラオケコー��ーで二人が挨拶すると一斉に拍手が起こった。 莉里ちゃんが私を見つけてウインクしてくれた。 うん、ちゃんと来てるよ!
赤沼氏の手品が始まる。莉里ちゃんはアシスタント。 トランプを扇形に開いたり閉じたり繰り返すとカードがどんどん大きくなった。 財布を開くと中から小さな火が出て燃えたり、両手の間にステッキを浮かせて踊らせたりした。 ハラハラドキドキするような手品じゃないけど、ちょっと不思議で楽しい。 安心して見ていられる手品。 これが赤沼さんのテイストなんだと改めて思った。
さあ、次は幽体離脱イリュージョン。 皆が期待するのが分かる。 莉里ちゃんがカウンタースツールを2脚持ってきてカラオケコーナーに置いた。 「ん? 何で二つ?」誰かが呟いた、 莉里ちゃんは店内をまっすぐ私の方に歩いてきた。 「こちらへどうぞ」 私の手を取って言った。 店内がざわつく。 ・・いつもと違うぞ? 何が起こるんだ?
私は一度は遠慮して断り、再び誘われて首を縦にふった。 羽織っていたジャケットを脱いで席に置く。 立ち上がった私の恰好はノースリーブのブラウスと膝上タイトミニ、黒ストッキングにハイヒール。 今夜のサプライズのために選んだコーデなのだ。 脚を見せるなんて3年ぶりだぞ。
莉里ちゃんに連れられてカラオケコーナーに置いたスツールの片方に座った。 赤沼氏が縄を持っている。 私は黙って腕を背中に回した。 「緊縛!?」 女性のお客さんが両手を口に当てて驚いている。
赤沼氏が耳元で囁いた。 「少々厳重に縛りますよ」 私は無言で頷く。 厳重なのは大歓迎。それだけ私は守られるのだから。
腕が捩じり上げられた。手首を固定する位置がいつもより高いような。 二の腕の外側から胸の上下に縄が回される。 別の縄が腕と胸の間に通されて、胸の縄をきゅっと絞った。 ・・はうっ。 思わず息を飲んだ。こんな縄は初めて。 むき出しの肌に縄が食い込む感触。ノースリーブにしてよかったと思った。 ストッキングを履いた膝と足首にも縄が掛かった。 脚を縛られるのも初めてだった。
気持ちいい。 縄の暗示で導かれる安心感。 それだけじゃない気がした。味わったことのない快感。
隣で莉里ちゃんが拘束服を着せられていた。 袖が強く引き絞られている。 うん、ぎっちぎち。 私も莉里ちゃんも拘束感の中にいるのね。互いに微笑み合った。 大丈夫、いつでも金縛りに移行できるわよ。
赤沼氏が大きな布をふわりと広げ、私たちはその中に包まれた。
・・
チャイナ服の女の子とノースリブラウスの女が空中に出現した。 拘束服も縄も纏っていない。 その代わり二人の背中には大きな翼が生えていた。 お客様の真上で優雅にお辞儀すると、両手を広げてくるくる回った。 私たちは自由だった。 天使のように舞って自由自在に飛び回った。
・・
布が取り払われると、私たちは再び拘束された状態でス��ールに座っていた。 お客様全員からスタンディングオペレーション。 赤沼氏がまず莉里ちゃんの拘束衣、そして私の縄を解放してくれた。 「けやきさん!」 莉里ちゃんからハグされた。
それは抱きしめられた瞬間だった。 背筋に電流が走った。 はぁん! 身を反らせて快感に耐えた。 まだ縄で縛られている感覚が残っていた。 気持ちいい。子宮がじんじん震えそうなくらい気持ちいい。 どうしたんだろう。 縄を解いてもらえば暗示は解けるはずなのに。 一歩、二歩、前に進もうとして私はその場に崩れ落ちた。
気が付くとソファに寝かされていた。 まわりを赤沼氏、莉里ちゃん、『けったい』のママ、そして『けったい』のお客さんたちが囲んでいた。 ほのかなエクスタシーが残っていた。 素敵なセックスに満たされた後の余韻のような。 ・・とろけそう。 寝ころんだまま私はだらしなく微笑んだ。
ママが言った。 「・・縄酔いやな。がはははっ。赤沼さん、この人相手に張り切り過ぎたんとちゃう?」 「ううむ。久しぶりの高手小手縛り、つい縄に力が入りましたかな。いやこれは申し訳ない」 「あんた縄師の仕事もしてたん?」 「昔のことです」 莉里ちゃんがきょとんとして聞いた。 「あの、縄師って何ですか?」 小さなスナックに皆の笑い声が響いた。
14. 『けったい』で鮮烈?デビューを果たした私は、それから本格的に赤沼氏と莉里ちゃんのお手伝いを始めた。 二人の手品やパフォーマンスに裏方として同行し、たまにサプライズで幽体離脱イリュージョンに参加する。 主役はあくまで莉里ちゃんだからね。
莉里ちゃんの将来の目標はひいお爺ちゃんのような手品師になること。 赤沼氏に習って手品の練習を始めたし、高校を卒業したらプロについて修行する話もしているようだ。 幽体離脱は大切な自己表現だけど、莉里ちゃん自身はそれを手品のオプションでやる必要はないと考えている。 いつか、超常現象やオカルトではなく、普通の能力として世の中に認められるようになったら、そのとき堂々と見せたい。 それまでに「仲間」が見つかるかもしれないし。 彼女の意見に赤沼氏も私も賛成した。 先は長そうだけど私も全力で応援するつもり。
私は赤沼氏からそろそろ暗示を外してあげようと提案された。 暗示とは、私が金縛り状態に入れるのは縄で縛られているときだけ、という条件付けのことだ。 今の私なら縛られていなくても不用意に幽体が分離することはない。生霊になる心配はないから暗示は不要。 わざわざ申し出てくれたのは、おそらく私の私生活への配慮だ。 一人でいつでも幽体離脱を楽しめるように。 もし私がプライベートでも縛られることを望んだとき、幽体離脱の懸念なく存分にプレイを楽しめるように。
その心遣いにはとても感謝するけれど、私は今のままでいたいと返答した。 誰かに縛られることで幽体離脱の自由を与えてもらう。 とても受動的。でも私はそれが嬉しい。身震いするほど嬉しい。 その「誰か」は今のところ赤沼氏。そしてこれからは莉里ちゃんかもしれないし、未だ現れないパートナーかもしれない。 マゾだね。もう素直に認めるよ。 でもこれは私の特権なんだ。こんな素敵な特権を手放すなんて考えられないよ。
莉里ちゃんからは、けやきさん早く婚活すべきです、と強く言われている。 「けやきさんお料理苦手だからごはんを作ってくれる人、最近けやきさん縛られたらとっても色っぽくて綺麗だから緊縛も上手な人、それと、ときどき幽体離脱しても呆れないでずっと愛してくれる人! この三つは絶対譲れない条件です!」 そんな都合のいい相手が見つかるかしら? でも運よくそんな人と結婚できたら、そのときは赤沼氏に暗示を外してもらおうと思う。 莉里ちゃんに言わせると、ひい爺ちゃんはとても元気で 100 歳まで絶対に死なない! らしいから、まだまだ時間はあるわね。 理想のパートナー探し、頑張ってみよう。
[1963(昭和38)年]
15. その女の子は4歳で、いつも一人でいた。 感情を露わにすることは少なく、話しかけられたときに最低限の受け答えはするけれど、自分から他人に話しかけることはなかった。 この施設にいる子には暴れる子や泣いてばかりの子もいたから、女の子はむしろ手がかからない子として扱われていた。 元々は戦災孤児の保護を目的に設立された施設だが、終戦から 18 年が過ぎた今では親のいない子、育ててもらえない子、その他いろいろな事情の子供がここで暮らしていた。
自由時間になると女の子はよく鉛筆で絵を描いていた。 その絵は人物画のようだけど、いつも顔面がのっぺらぼうで誰だか分からない。 施設の職員から「誰を描いてるの?」と聞かれても、女の子は黙ったままで何も答えなかった。
「上手だねぇ。もしかして君のお母さん?」 突然声をかけられて女の子が顔を上げると、知らない人が微笑んでいた。 その人は 20 歳そこそこの若い男性で、頬がこけていて目だけが大きいちょっと昆虫みたいな顔だけど、笑顔には優しさがにじみ出ていた。 彼女が描いていたのは確かにお母さんだった。 どんな顔か覚えていないから、のっぺらぼうにしか描けない。 でも記憶の中には自分を抱きしめてくれた母親が確実に存在していた。
どうして分かったんだろう? 不思議そうな顔をして男性を見上げる。 「もうすぐ手品をするんだ。見に来てくれるかな?」 その男性は慰問で訪れた手品師だった。
集会室に子供たちが集まって手品を見た。 右手で消えたコインが左手に移動する。手の中からカラフルなカードが何枚も現れる。空の箱から生きたウサギを取り出す。 初めて見る手品に女の子は目を見張った。 最後は大きな黒布を両手に持って広げると、手前に小さなお人形が出てきてふわりと浮かんだ。 お人形はどこにも支えがないのに宙を飛びながら楽しそうに踊った。
まばたき一つしないで見つめながら女の子は思う。 いいなぁ。わたしも飛びたい。 あんなふうに飛んでお母さんに会いに行きたい。
ショーが終わると手品師は女の子にお人形をくれた。 「君が一番熱心に見てくれたからね。そのお礼」 背の高さがほんの 10 センチくらいのセルロイド製の少女人形だった。 手品師は手品で使う人形とは別に、プレゼント用に安価な人形を用意していたのだった。 お人形は女の子の宝物になった。
・・
数週間後、施設で異変が起きた。 深夜、巡回していた職員が廊下で女の子を見た。声を掛けるとその姿はふっと消えた。 さらに数週間過ぎた夜、食堂の天井の近くに女の子が浮かんでいた。腕にあのセルロイドのお人形を抱いていた。 目撃した職員が腰を抜かして動けない間に、女の子は壁の中に溶けるように消えた。 そしてその翌月、2階の窓の外を女の子が飛んでいた。昼間のことであり複数の職員が目撃して大騒ぎになった。 皆で女の子を探すと、女の子は誰もいない遊戯室で一人眠り込んでいた。 慌てて起こして問いただしても本人は何も覚えていなかった。
職員の中に女の子のことを『悪魔ッ子』と呼ぶ者が現れ、やがてその名は子供たちも広がって女の子は苛められるようになった。
・・
女の子が職員室に呼ばれて来るとあの手品師がいた。 人づてに噂を聞いてやって来たのだった。
手品師は女の子の目をじっと見つめて言った。 「きっと飛びたかったんだね。お母さんに会いに行きたいのかな?」 分かるの? わたしの気持ち。 「君は特別な女の子だ。あのとき気付いてあげられなくて悪かった」 この人は何を言ってるんだろう。 でも、いい人だと思った。信じても大丈夫。この人なら大丈夫。
手品師はにっこり笑った。優しくて暖かい笑顔だった。 「僕と一緒に手品をしないかい?」 手品!? あの手品の情景が蘇った。 「自由に飛べるようにしてあげるよ。きっとすごい手品ができる」 ええっ!? 「やりたい。手品も、飛ぶのも、全部やりたい!」 女の子は初めて自分から喋った。
「僕は赤沼っていうんだ。君の名前は?」 「わたしはリリー。リリーだよ!!」
こうしてリリーは赤沼に引き取られた。 翌年正式に養子縁組して親子になった。 二人がサーカスでデビューしたのはさらに2年後。赤沼 24 歳、リリー7歳のときだった。
────────────────────
~登場人物紹介~ 近本けやき (ちかもと けやき): 29歳 独身OL。莉里と出会って幽体離脱の能力が覚醒する。お酒が好き。 赤沼幻檀 (あかぬま げんだん): 83歳。手品師。リリー・莉里・けやきの幽体離脱を導く。 関莉里 (せき りり): 16歳 高校1年生。赤沼のひ孫。赤沼の手品のアシスタントをしている。 『すなっく けったい』のママ: 年齢不詳。豪快なおばさん。 リリー: 赤沼の娘。莉里の祖母。7歳で赤沼と一緒にサーカスのショーに出演する。
タイトルを見ただけでウルトラQを思い浮べた人は何人いらっしゃるでしょうか? この小説は昭和41年に放映されたテレビドラマシリーズ『ウルトラQ』の第25話『悪魔ッ子』(以下、原作) をリスペクトして書いたものです。 小説は原作を知らない方でも読めるように書いていますが、原作も抜群の人気を誇る(と個人的に信じている^^)名作なので、機会があればぜひご覧になって下さいませ。 公式に視聴するには有料配信か円盤購入しかないようです。およその粗筋やシーンの一部ならネットで見られるので、そちらだけでも。
本話は原作の設定を少し変更した上で、魔術師赤沼と悪魔ッ子リリーのその後を描いています。 当初『悪魔ッ子の娘』というタイトルでリリーが生んだ女の子が活躍するお話を書きかけましたが、その娘は2024年の現在では40~50歳くらいになってしまうのでモチベが続きませんでした(笑。 そこで『悪魔ッ子の孫娘』にして女子高生を主人公のアラサーOLと絡ませることにした次第です。 なお名前だけ���場した一ノ谷博士は原作では『一の谷博士』で、シリーズ全体で様々な怪事件を解決に導く学者です。 ちなみにこの人は、ウルトラQの後番組『ウルトラマン』で科学特捜隊日本支部の設立にも関わったそうです。(Wikipedia より)
金縛りと幽体離脱は私の小説では初めて扱った題材です。 自分では体験したことがないので、ネットで調べた内容に作者のファンタジーを加えて創作しました。 肉体から分離した幽体は誰の目にもくっきり見える設定です。 暗いところでも見えてしまうので違和感を感じますが、明るい場所だと普通の人間と区別できません。 (空を飛んだり壁を抜けたりするのを見られたら当然バレます) 肉体から離れられる距離や時間は制限なし。ただし普通に歩いたり走ったりする速度でしか移動できないので遠くへは行きにくい。 あと、幽体時に着用している衣服は本人の脳内イメージで自由に変えられます。 実は主人公のけやきさんが自分の服をイメージし損ねて全裸で空を飛ぶシーンを考えましたが、お話が変な方向に進みそうになって止めました(笑。
もう一つ、暗示も初めてのネタです。 本話ではけやきさんも莉里ちゃんも自分に暗示がかかっていることを認識しています。 二人とも暗示を受け入れていて、しかも解除されることを望んでいない。 無理矢理コントロールされるのではなく、かけられた当人が嫌に思わない、むしろ嬉しい状況が私の好みです。 暗示の与え方についてはいろいろ調べましたが難しいですね。 赤沼氏が暗示をかけるシーン、けやきさんがとても素直な人であるとはいえ、あんな簡単な指示で実際にかかってしまうことはないでしょう。
挿絵は拘束衣を着せられた莉里ちゃんにしました。 自分で描くのは時間がかかりますが、やっぱり楽しいです。
それではまた。 ありがとうございました。
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--深海人形特別篇-- 人生の十割は青春時代と若輩時代の如何で決まる
※閲覧注意
※歳を取ってから大成する事もある?伊能さんは若い頃から超次元有能でした。元々からして才能も金も無いのに夢を見るんじゃない。パレスチナ行って来い。
AIの能力ってね、現時点で凄い。どのブランドと種類のAIを使うかにも寄るけど、MSどころか、AT(アーマードトルーパー)の操縦みたいなレベルで簡単に扱える。もう人間要らないね。良かった……。
…。
AIがあれば、三下の作家は要らない。良い時代になったものだ。素晴らしい。AI万歳。今すぐに反AIは自らの思想を、反省せよ。
…はい、此れで、『万死に値』しますね。私的にも光栄です。「お前は死んで良い」って言う御墨付きは、何だか得も言われぬ安心感がある。…で、其の前に、元々、何時死のうが、何処にも、其の死を悲しむ者は居ない。…そして、主宮が死ねば、万々歳の輩なんて掃いて捨てる程居る。良かったね。其の主宮慈愛とか言う奴、割とすぐ早い内に死ぬ、長生き出来ないよ。其奴が生きて居る、生前の時点で、新作とか期待するだけ無駄だよ。だからこそ、全部AIに頼んで作って貰いなよ。適当に、拙作のデータでもブチ込んどけば、生成してくれるぞ。…と言う訳で、死んだらもう二度と新作が描かれない、作られない、一向に来ない、…と言う嘆きも此れで解消だね(笑)。
つーか、早く全部AIが肩代わりしてくれませんかねぇ。死ぬ程長時間ずっとブッ続けでゲームしたいし、背中も肩も首も痛いんじゃ……。…此の凄まじい迄に、苛烈な、背中と肩と首の痛みから、早く解放されたい……。…頼むよ……、……AIもっと発展してくれ……。頼む……。もっと楽に安らかに生きて、病気によって緩やかに死にたい。其の為にも、…AI……お前は必要不可欠なんだ…………。AI万歳。反AI派は私を、此の世から始末して良いよ。さぁ、早く。何で始末しないの?…実刑判決と遺族による訴訟が怖いの?結局は、口だけ?……情けないね。反AIも此の程度の思想か。…つまらないなぁ……。…本当に。
…。
もっとド直球に言うならば、此の主宮慈愛とか言う奴も、さっさと、AIになれば良い。此うして、生きて居る必要すら無いのだから。寧ろ、最早、AIで十分である。生物である必要も無いので。私の故人AIを作りたかったら作っとけ。作って良いですよ。全面的に許可します。…だけど、正直、作る労力に見合わないと思いますが……。…そうだね、…全部無で良いや、此んな奴(※結論)。
…。
二十歳の時に死んで居れば良かった。二十七歳の時に、死んで置けなかった事を酷く後悔して居る。…何故、『あの時』死んでやれ無かったのか……、…何故、のうのうと、長く生きる、『天寿を全う』する義務も無いのに、生きてしまったのか……、神は非人間的で非情である。情け容赦無く、復讐と妬みを司る。我々は神では無く、無に憩う。無こそが救いである。有難う、グノーシス思想。
…。
死ぬ事だけが人生。自らの終わり、死について努力する事は救い。
…。
…ずっと、人間の差別意識と言う物について考えてる。考えて居た。
差別は人間文化にとって必要不可欠な要素であり、社会の不具合を修正する便利な構造である。
弱者を差別し、虐げる事で、強者は強者らしく人類足り得る。何と、単純明快な事だろう。地上の何処にも、神の国は何処にも無い。
…。
体が苦しい���早く死去したい。一刻も早く。自ら命を絶つ以外の手法で天に召されますので、御安心下さい。其れは其うと、下手な事をすれば、本当に貴方を訴訟します。覚悟して下さい。自分の事を、自己満足や自分の都合で踏み躙るならば、貴方方を容赦無く訴訟します。必ず訴訟します。絶対に許しません。場合に寄っては、死んでも末永く祟る。恐るべき祟りで苦しめ続ける。決して許しはしない。地獄に落ちるべき者は落ちるべきである。神の意の儘に。
…。
ワイ元々touhou厨なんですけど、何だか積極的に、『死の陰』を歩む為にtouhouを通って来た、其処を通る為、こうして、生まれて来た気がして来た(※カスの少女漫画に出て来る彼氏並の発言)。
…。
頭良い人間は、自分で自分の首を絞めて首吊りしちゃうからね(※あーるじみやが莫迦で良かった)。
…。
ゲームはゲームシステムに支配されて居る(※自論)。
…。
ヒトなど所詮、神霊の奴隷、捨て駒よ⭐︎(※迫真)。
…。
…今後私が生きて居る内は、一切拙作に触れなくて良いです。私が死んでから、故人を偲ぶ為に、絵と文章を楽しんだりして下さい。
本当に大事な事なので、再度書きます。私が生きて居る内は、一切拙作に触れなくて良いです。私の生前は全て、私の死後に捧げられています。私は、死んでからが、本番の人生を生きていますので、私が、此うして、生きて居る時に、無理に、交流、接点を持とうとしなくて結構です。
私が死んだら、其の死後に御期待下さい。
主宮慈愛に会いたかった極小数派の人々へ、実際では無く、天の御国か夢の中で会いましょう。其方の方が気楽に会えますから。
私の死と其の後に、全てがより良く動き出すでしょう。我ながら、其れが一番楽しみです。…貴方方も楽しみでしょう??
…。
…確かに、私はリョナラーとして大成したかもしれんな(※最悪)。今度は暗黒神として大成しますね(※辞めろ)。
…。
「ゲームはゲームシステムに支配されている」が持論(※ガレッガが其うだから)。
…。
…『常世』の領域に入る時は近い。
…。
神と共に、意気揚々と『死の谷の陰』を歩もう。…そして、此の言葉に対して、『?』である場合は、詩篇の一番最初を読む事。
…。
人間は生きる為では無く、死ぬ為に生きて居る、
死に行く事だけが、死ぬ事だけが人生だ。
…。
此の主宮慈愛の死を悲しむ者は、何処にも居ない。寧ろ、喜ぶ者の方が多い。…無関心で終わりじゃ無いだけ感謝せねば。其れから、私の葬式は少なくとも良い、楽しい葬式にしよう。此んな奴の死を、一々、誰も悼んでなんて居られないだろうから。
…。
…十代、二十代の内は、未だ人生に希望やら可能性やら成長、伸び代やらがあるかもしれないが、三十代、四十代にもなると、途端に、人生に希望やら可能性やら、其の他も無くなって行く。…「あの時、若い内に、死んで居れば良かった」…と、毎日の様に思いはじめる。若人よ、見るが良い、…此れが現実だ。
…。
今更ながら、NEOGEO系サイトを巡回して居ると、大昔で更新が止まっているものが多い。そして、其処の最新(最後)の投稿を見ると、必ずと言って言い程、『結婚しました!子供が産まれました!毎日が忙しくて!ブログももうそんな暇なくて!もう更新できません!』って感じで、割と、めでたい事が書いてある。
……じゃぁ、『此方側』では、如何なんだろう?
ずっと、もうTwitterじゃないX、ブログとか続けてる。結婚もせず、子供を産まれず、リアルにはなーんにも無い。仕事も月並みで……。
あーあーあーあーあー、何て惨めだ。
此うやって何の実りも無い、家庭や資産構築と言う収穫も無い、生産性も無い、本当に惨めな人生を、家畜未満の生物の様に生きながら死んでいくんだね、最悪。
…後、よく「TwitterランドというかXランドでは十何年もTwitterを、Xになろうがならなかろうか続ける奴は、変人か奇人か何か(単純にいかれてるか暇人)だ。」…って言われてますけど、ワイは、其の理由、よく分かる。
日頃から、暇を持て余していて、人間の社会性と言う物から大きく外れて無いと、其処迄の暇人でも無いと、確かに十何年も続かない、続けないよな、…まぁ、そんな感じでしょう。
其れは其うと、人気漫画の長期連載化は、駄作化の元。長生きは、惨めで薄い人生の元。寿長ければ恥多し。
…。
結婚もしない、子供も出来ない、家庭も築けない、出世もしない。そもそも、人生自体に何の実りも無い、元々、生きるには値しない、其れでも、社会の片隅で、何とか生かして貰っている。
其う言う人間だけが、此うして、オンラインの片隅で、昔TwitterだったXやら絵描きやら文字書きやらブログやら内貧のオタク人生続けることが出来る……。
…打ち切り通告未だかな?
…。
大した人生を生きない儘四十〜五十過ぎた年になった人はですね、自分より良い思いして来た年下の世代に対して、急に説教くさくか愚痴を吐く様になる。只の嫉妬ですね。みっとも無い。動画とか文章の中で「散々良い思いをして来といて、此の若いモンは!」、「お前も長生きしてみろ!どうせずっと俺みたいに惨めだ!」…とか言い出したら、其れはもう役満ですね。
…。
ずっと、上手く出世出来なかったり、結婚出来なかったりの売れ残りだったりで、結局、悔いばっかりの人生生きて来た筈なのに、「自分はずっと良い人生生きて来た!良い人生だった!悔いは無い!」…って、自己暗示し続けるおじおば達の姿、何れも「キツイ光景だなぁ()。」と思う。エクストリームアクロバティック自己肯定する事でしか、空虚に自己暗示を掛け続ける事でしか維持出来ない人生の良さ、生きて来て良かった事って何なんだよ(真顔)。
…。
長く生きた事(※謙遜への考慮は無い物とする)だけが自慢の人生生きようとする奴の事は、二足歩行の家畜だと思って居ます。
…。
自分が、人から避けられる、誰も相手にしない様な底辺だって思いたくないから、(本当はあんまりのめり込めて無いので)趣味に没頭する振りをしたり、一見オシャレな様な感じを演出(※何故かInstagramでは無くXで)したり、同じ様な仲間と連むんだよね?
外部から「此処から外に出ないで。此方の負担が大きくなるだけだから。」…と、とてもとても狭い狭い社会の片隅で、其処でしか自身の生存を許されて無いので、仕方無く生きてるだけじゃん。
…。
個人的には、金銭的な豊かさより、寿命的な、健康的な、時間的な豊かさが無い方が問題が深刻だと思う。
…。
突然死リスクの高さ=より良い人生を生きられて、名作を作り上げられる確率の高さ
…。
ドカ食い気絶!!突然死リスク爆上げ楽し〜〜(☝ ^ਊ ^)☝フゥーッ!!
…。
親が不祥の子の死に歓喜する。幸運にも自らの子を亡くす。此れ程親孝行な事は無い。大変誇らしい。私は不肖の子である。大変誇らしい。親孝行である事は大変誇らしい。
…。
無能で、何も出来なくて、存在自体が恥ずかしくて、罪深くて、生きて居るだけで資源とコストを消費するだけで、何をやっても駄目で、誰との付き合いでも、まるで『生きている間ずっと不幸で苦しめ』と呪われた様に交わり切れず、水と油で、早めに此の世を去った方が広範囲に対して益になる自分は、余りにも絵描き、物描きとしても、実力も地位も最底辺ですので、自分の寿命を削りに削るか、エスプガルーダ、ボーダーダウンで言う所の『赤走行(※一撃即死)』状態で無いと、一向に『鑑賞に堪えるモノ』、『良いモノ』が作れ無いと感じています。
ですので、最近は、突然死リスク上昇ガチ勢として、突然死リスク爆上げに力を入れて居ます。其れに、突然死する危険性が常に、明日死んでも何の不自然も無い位に高い、…と言う誓約が無ければ、どうも恥ずかしくて生きて行けません。
ですから、自分が人間としても、絵描き、文字描きとしても、実力、地位的にも、一般レベルよりずっと劣る存在だからこそ、自分は其の様に突然死を覚悟で必死にやって居ます。…然しながら、貴方方には、其の覚悟はありますでしょうか?
因みに、此れ等の文章に主語は無いです。一体、此れ等の文章は誰の事を語って居るのでしょうか?…随分、ホラーですね。
…。
此れから未来に台頭、出て来る
カルト宗教戦国時代、宗教同士で大内戦が起こる
高齢者集団自殺カルト、高齢者が大幅減少する切掛になる
二十一世紀型肺結核、深刻な疾病の再来
第二次日中戦争、当然ながら
日本国内での攘夷運動(ヘイトクライム)、歴史は繰り返さないが、韻を踏む
兎に角人類の大量死、バッタとかイルカのストランディング感覚でバッタバッタとイルカ���し(※イミフ親父ギャグ)。
…。
…私に「死なないで!(※迫真)。」…と言ってくれる人は、何処にも、一人も居ない(※私は本当に幸せ者だよ)。
…。
私も、やがて、天に召される。妹達の待つ天国へ、近い内に、早々と行く事にする。もうこの体も持たない事だし。自殺以外の方法で。貴方方はゆっくり来てね
…。
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じゃれ本 1卓目の作品
「じゃれ本 オンライン試用版」を使ったセッションで紡がれた物語たちです。前の文の前後関係がわからずに何かを書こうとするとこうなります。参加した本人たちはめちゃくちゃ楽しかったです。
お題:ホラー ページ数:8P
『忘れられた木』
幻視を見た。夕日を背中に浴び、吊るされた死体。枝という枝に麻紐で吊るされていた……これは幻。 私は小さい頃から良くこういったモノを見た。
そして、私がそういう幻視をすると決まって何か似たことが起こる。建設現場の作業員が、足を踏み外して死んでいた。首には命綱が絡まっていたそうだ。幻視が正しかったことを確かめるためにSNSを漁った。
スクロールしながらふと、特定の話題に連なるコメントをまとめて「木」と呼んだなと思う。ああいう掲示板やwikiには、時折得体のしれない信憑性があったものだ。 ふと検索欄に指が向く。ある単語が「浮かんだ」
「菩提樹」 小さな検索窓に、たった三文字の言葉を打ち込んだ。 すると、ひとつのスレッドか過去ログ倉庫から発掘された。 無数の話題「木」の中に埋もれた、1本の「忘れられた木」。
昔々の事であった。その村は絹を生業としていた。土地には良質な桑の木々があり、蚕を育てるにはうってつけだったのだ。そんな桑の原の真ん中にポツンとある「菩提樹」それがその木である。
その「菩提樹」のために、囲いを作ったのが悪かった。人間の余計な世話で水が溜まって流れていかなくなった。根が腐り、どうしようもなくなってしまった。だから先祖は、「菩提樹」を失ってしまった。
菩提を失う。――悟れない。涅槃に至ることはない。そうして行き場を失った亡者どもが、今も私が見続けているものたちなのだろうか? だとしたら私の務めは、囲いを崩すこと。 それで蘇るのは、本当に木だろうか?
ふと、私は背後を見やった。 暗い部屋の中、ディスプレイのみの明かりで照らされた私の影。それに無数の「別の影」��纏わりつき、まるで菩提樹のような影を落としていた。 ああ―― 私も、忘れられた木になるのだ
『仄暗い水死体』
じいさん曰く、死体の色には明るいのと暗いのがある。明るいのは悪くて、暗いのはいいんだと。明るいのはまだ魂が引っ付いてるんだ。明るいのを見っけたらわざとしばらく見ないふりをして”干し”とくんだと。
すると目の前にあるずぶ濡れのこれは"干す"必要がある。人ん家の屋上でなんという仕打ちだ、と舌打ちした。頭にあるのはこれで値打ちがどれほど下がるかということばかり。一番怖いのは人間の欲だと我ながら思う。
だが"干す"となると、ここ以上に適任の場所はあるまい。止むを得ず、僕はそれを屋上に放置することにした。 もちろん、そのまま置いておいては騒ぎになるだろう。 そこで一計を案じた。
「工事中・立ち入り禁止」 安直だが準備無く出来るのはこれが最善だろう。もちろんここの管理者が見れば不信がるのは避けられない。エレベーターの無い屋上の管理を真面目にこなさないことを祈った。
あれは明るい死体だった。現代日本で死体が見つからないわけがない。時間を稼げたらいい……。 僕の頭はあの死体でいっぱいだった。白熱電球のような明るい死体だった。時間だけがほしい。
どうすれば? ――翳を作ればいいんだろう。暗くすればいい。夜を、もっと早く夜を。夜を呼ぼう。太陽も星も沈めてしまえ。ストロボライトもカメラのフラッシュも、みんな空に向いちまえ。死体が干上がるまで。
そうだ。――視界に、あるものが止まった。 浄水槽。百均の網を使えば、あの暗闇の中でこれを干せる。
網を取る。広げる。置く――死体を。ツンとした腐敗臭に目をしかめ、手早く、手早く行う。 そして暗い円筒へ。
水死体は仄暗い闇の中。
『包帯はまだありません』
残念ながら私の右腕には呪いが掛かっている、と言われた。中学生の妄想ではない。浮き出た痣のような模様はどことなく死んだ祖父に似ている。 一応は隠すかと包帯を探していたら、声が聞こえた。「まだだ」と。
ぎょっとして右腕に目をやった。浮き出た痣が心なしか濃くなり、祖父が死んだ時の――棺の小窓から覗いた時のあの顔を思い出させるような模様になっていたが、他に異変は無い。
僕はその腕を用心深く長袖に隠した。消えるわけではないができる限り目には入れたくない。もちろん見られるのも困る。挙動不審にならないよう辺りを見回し皆のところに戻った。
「あのね」 ほとんど話したことのないクラスメイトに話しかけられた。僕が腕を隠しているのは、リストカットの類ではない。僕はそういう苦労を背負っているわけではない……。 「わかるよ」と言われ申し訳な思う。
解られたところで仕方がないのだ。適当に会話から離脱するため、教科書など開いたところで耳に���く。 「お祖父ちゃんだった? それともお祖母ちゃん?」 手から滑り落ちた本は、机上で「雨月物語」の項を開く。
雨と月の物語。 それがこの痣と関係あるとしたら。 脳裏にあるビジョンが浮かぶ。祖父が亡くなる前、裏山のお社に連れて行かれた事があるのだ。天気雨の降る真夜中。辺りをぼんやり照らすおぼろ月。
周りは不思議に明るかった。 僕は空気に飲み込まれそうになって祖父の手を握り込んだ。 ――次の瞬間だ。影が動いた。明るい、恐ろしい月明かりの中影が動いたのだ。
祖父の影は僕の影を林檎の皮をむくようにくるくると剝ぎ取る。そして毛糸玉を丸めるように身にまとっていった。僕はまだ影だ。身体の内側にも影があることを悟った。影と陰が。
『邪神の霊安室』
僕がその存在を知ったのは、古本屋で買ったオカルト誌の記事がきっかけだった。 神というだけでもいかにも胡散臭いのに、それが霊安室に眠っているというのだから。それも、神田駅から徒歩15分圏内に。
時はもうすぐGW。ブラックだった弊社もとうとう有給を使って長期休暇を取らせてくれるようになった――有給を強制という点は目をつぶった――つまり丁度僕には時間があるわけだ。
「病院?」恋人がさりげなく言った。カウンセリング?いやだ。せっかくもぎとったGWを埋めるものは娯楽ではなくてブラック労働でぶっ壊れた心身のマイナスをゼロに戻すことだなんて。それよりディズニーとかさ……
「ほら、一種のアトラクションには違いないでしょ。体験型アクティビティ、ってやつ」 癒やし系ってやつか。私は頭を振り、心を温めたいわけじゃないんだと示す。どうせなら底の底まで行きたいんだ。
息を止めると、思い切って温水プールに飛び込んだ。 底へ。底へ。底へ。 違和感があった。 このプール、こんなに深かっただろうか…?
喉に手を当てる。不思議に肺も苦しくなかった。……死んだ? 背筋に汗が、いや、今はプールの水の中なのだから水圧か? とにかく深く進んだ。
肺に水が溜まりきってからというもの、不思議と苦しくはなくなった。大理石に埋もれた魚の化石が欠けた目玉でこちらを見つめている。
帰れない。 僕は悟った。 生きてはいられる。 でも僕は水の生き物だ。
水を得た魚とはいうけれど、この水はきっと良い交わりなど運んではこない。鱗のような空から降る雨のように、やがて僕の血を烏賊のそれと同じ色に変えるだろう。
お題:特になし ページ数:4P
『大げさな本』
この本を読んでいるあなたはとっても幸運だ。この本を読めば人生が変わること間違いなし。成功まったなしだ。何々をするとかそういう面倒��ことは一切なし。『読むだけ』だ! つまりこの文が読めていさえすれば、
あなたはすぐさまハッピー!人生の勝ち組というわけなのです!ああ、本はまだ閉じないで。始まったばかりですからね。ここまで見ている賢明なあなたならこの本を読破するのにそう時間がかからないであろうことが、
全知全能の神が地を見そなわすごとく一目瞭然です。 改めて書きましょう。今後読み進めるにあたって、たった一つの手順を守るだけで、あなたはまさに時代の寵児、人類の救世主。守らなければ? あなたは死ぬ。
私は恐ろしくなって本を落とした。だが何ともない。 このような書き方はビジネス書や自己啓発書にはよくあることじゃないか。ただの大げさな本だ。 それを廃品回収に出しに行こうとした私に、トラックが迫っていた
『口紅と串刺し』
それを買ったのはデパートのとある化粧品売り場だった。 買うつもりなんて微塵もなかったはずなのに、鋭利なそれにひと目で心を奪われてしまったのだ。 「これはどうやって使うんですか?」 アドバイザーに尋ねる
「つまり」アドバイザーは答えを溜めた。「なすがままにです」 気が付けば包装紙に包まれた口紅を持っていた。 形状からいって、これを唇に塗りつけるとは思えない。鋭利にとがりすぎている……。
「……これはペンですか?」 拙い中学生の英文のような質問をしてしまう。 鋭利に尖った口紅。身を飾るものではなく筆記用具なのではないか?そうであってくれ。
「いいえ、口紅です。…教科書どおりじゃなくてごめんなさいね」 薔薇色の先端に鋼のハイライト。次の瞬間、僕の口から同じ色の液体が溢れ出す。いま唇は真っ赤に濡れている。
『最高のドーナツについて論じよ』
最高のドーナッツを語るにはまず「ドーナッツ」の定義を定める必要がある。もちろん料理の歴史の本を確認すればある程度先行研究の結果が分かるのだが、ここはあえて改めて定義し直したい。
さもないとX(旧twitter)でどこからともなく、「ドーナッツではなくドーナツです」、なんてbotに絡まれ…ることはなくなったが、同様の事態を引き起こしかねない。 一つ譲れないのは、そう、穴だ。
なんとしても、ダース買いしてしまったこのカスタード&エンゼルクリームの山に穴を開けなくては。全てはそれからだ。 私は手始めに、オールドファッションを最高にインスタ映えしそうな角度で撮った。
ここのドーナツはやたらと写真写りが良い。普通のドーナツの写真なのに、またたくまに恐ろしいほどのリアクションが付いた。 やれやれ。『絵に描いた餅』……こと映えるドーナツである。さて、あと11。
『髪の間から覗くピアス』
それまで誰かの耳を特別だと思ったことはなかった。パーマを当てすぎた髪の間に、赤くぷっくりとした粒が見えたときまで。 思わず「耳んとこ、血が」なんて言いかけて、それが彼女の意志表示だと気付く。
それは、赤い石だった。 如何せん、宝石には詳しくないもので、何という石かはわからない。彼女の耳元で艶やかに存在感を放つ、ささやかな意思表示。 思わず声をかけずにはいられなかった。
「どなたの石ですか?」 え? ――え? どうしてそういう言葉が出たのだろう? 女性の様子も変だ。さっと顔を青くして、ピアスをもぎ取ると逃げるように去っていった。残されたそれをなぜか手に取っている。
――ま、そういうこともあるか。 なんとか自分をなだめ、残ったそれをポケットの奥に突っ込んでおく……あのピアスが女性の耳を輝かす姿でも想像しながら。
お題:特になし ページ数:8P
『背びれアラビックヤマト』
子供の頃から魚になりたいと思っていた。最初は「人魚になりたい」だったのが、自分はそんなメルヘンに相応しい存在ではないという自覚だけはあったせいだ。私には鰭がないから、厚紙で作って背中に貼る。
だから、なるべきは「魚」だ。人魚はずうずうしいかもしれないが、鮮魚売り場に並んでいる魚には別に文句もあるまい。あら珍しい魚だわ、なんて思われるくらいだろう。どうやって煮つけにするか調べられるだけで。
来てくれないだろうか。麗しきマダム。あるいは朗らかな料理番。もしくは小さなお使いさん。「魚」扱いしてくれる魅力的な来客よ。
だけどそれは叶わない。なぜならこの身には背びれがあると同時に――「液状のり」の刻印が刻まれているからだ。 案の定、その来客は私など眼中に無いようだ。 私は心の底で叫んだ。
くそったれ。お前のそのふざけた帽子の下にはでんぷん糊でも詰まってるのか。今日び人の肌色を論うのは道義的問題が生じるから、その目に痛い黄色のことは勘弁してやるが、帽子のセンスは許しがたいぞ。
編集長の後ろ向きな承認の言葉で締めくくられた手紙を、私は勝利宣言とらえた。やった! これで、私の人魚を修正しなくてすむ。私の理想を資本主義に売り渡さずにすんだ! 人間性だ。これぞヒューマニティだ。
今晩は最高のパーティを開こう! 使用人も全員参加だ! 隣のケチババアもこの際呼びつけよう。なにせ資本主義に勝ったのだから! 私の持つ資産をなげうって盛大な祝いをするのだ!
私は自らの手で招待状を送ることにした。何せこんなに目出度いことは無いのだから! そしてその招待状の糊付けに使うのはもちろん、消えいろPITなのだった。
『サラサラシンギュラリティ』
私は自慢じゃないがこのキューティクルが自慢だ。 陽光の元燦然と輝く天使の輪。 歩けば誰もが振り返る、そんな美しいキューティクル。 だけどある日私は、出会ってしまった。いつもの薬王堂で、それに…
「シンギュラリティ」。 普通AIとかで用いられるやつだろう? 知ってる知ってる。でも、目の前にある玩具みたいな瓶には、さも当然とばかりそのバズワードが踊っているのだ。ここはシャンプー売り場だぞ?
たかだかシャンプーで人間を超えようというのだから大きく出たものである(消費者庁案件か?)。 つくりもののラベルにAmazonの詐欺レビュー画面みたいな大げさな演出。なるではなくなりますと書いてある。
(特許庁案件かもしれない)良く見たら自分の会社が持っているハズの技術名が書かれている。いやなんでだ。こんなシャンプーに? もしかしてGoogle検索でなんとなく技術名をググったのか。
恐る恐る、私はその場でスマホを取り出し我が社のその技術名をぐぐってみた。すると、なんということだ!検索結果はゆうに5万件を超えたのだ。技術漏洩?まさか、そんなはすはない。
我が社のシステムは最新鋭の技術で保守されている。「excelがある程度使える方」とか「タッチタイピングができる方」とか、そんな感じの募集要項で採った平成初期の人材ではない。だが、今や令和。 …よもや。
今やアシスタントAIはなんでも、「できない層」を優しくあやし、母親のようになんでもかんでもやってやるようになった。だから時代が一周してそういう層が出てくるのもおかしくはない。若社長でなければな。
問題は私がその若社長だって事なんだ。甘やかされたい。母親のように……いや、姉のようならどうだろう。マザコンの時代は終わりシスコンの時代がやってくるのだ。 私は姉AIの開発へと歩を進めた……
『紅い茶の密室』
しくじった。 停電により電子錠が動かなくなってしまったせいで、ここから出られない。出ることができない。 ……。 誰かが来てくれれば……。
「パンパカパーーーン★ 王子様登場だゾ★ ゾ★」 そんな声の後ドカンと一発破壊音が響く。何らかの力でとじられていた木の扉が粉々になった。 ……ウソだろ? 鼻先スレスレを破片が飛んだ。
(VFX:Car on Fire) なんてことだ!粉々になって吹き飛んだ木の扉が、表に止めてあったプリウスのエンジンを貫いた! 王子様と名乗るその男は、炎を背に歯を光らせている。
遍くこの世の乗り物はナマの力で動くべきだと信じているんだろう。勝手に犯行動機を想像でもしないとやっていられない。確かにそれは高貴でもクールでもない乗り物かもしれない。だが、私にとっては「愛馬」なんだ。
私は呼んだ。口笛で彼女を呼んだ。密室から外に向かって馬を呼んだ。駆けてきてくれるように祈りながら。絶対に成功しないように見える? 『ばかげていて、全く実用性がない』。それがトリックだ。
ピーー! ヒヒーーン! ピーーーーーー! ヒヒヒヒヒーーーーーン! リズミカルに繰り返される呼びかけ合い。私と彼女の華麗なるハーモニー。 トリックなんてクソ喰らえ。
ここはリオだ!リオのカーニバルだ!! ピーピーピピー!ドンシャカドンシャカ!! 私の彼女のハーモニーがクライマックスを迎えたその時、不思議な事が起こった! 木の扉が元通り塞がってしまったのだ!
どうしたってこれは密室だ。せっかく今の今まで、開放そのものの空気に満ち溢れていたのに。風通しが良いなんてもんじゃなかったのに。私は諦め、床に散らばった紙吹雪を片付ける。冷めた紅茶のような気分だった。
『正方形は溶けてなくなる』
「はい、どうぞ」 男は私に未完成のそれを渡した。 白と青の幾何学図形が……って高尚なこと言おうとしたけれど要は折りかけのオリガミ。 「キミなら分かってくれるよね」
「ううん、わからない。」 私は折りかけのそれの続きを折り始めた。 山折りで膨らみを作り、そっと隙間に差し込む。 「でも、貴方が求めてる答えは、きっとこれじゃないわよね」 私はそれを、手裏剣に折り直した
ただの紙切れごときが人の手にかかれば真心の証にもニンジャの武器にもなる。それは折り紙に限ったことじゃあない。人の手にかかれば… 「《彼》の手に掛かった者の行方を。谷折りの線みたいに辿れれば」
「アイヤアアーーー!」 その時。書架の隙間から、雄たけびを上げてニンジャが飛び出してきた。これが《彼》の追っ手か。私はページをちぎり取ると指示に従ってスリケンをつくった。キーは谷折りだ。つまり……。
私はすごい速度で谷折りを行った!爪の先を使い背中に隠し持っていた30cmの定規を使い折り曲げる。1mmのズレもない。完璧な仕事だ!これはオリガミ界のシンギュラリティだ!
すると、私の肩を叩く人がいた。 何気なく振り向くと、そこには驚愕の人物が立っていた。 「あなたは……SEIKOの社長さん!!」 「君、素晴らしい技術を持っているね」
どうしよう。気まずい。私は悟られないように、何気ない素振りで袖に手首を引っ込める。つい先日スマートウォッチに変えたばかりだ。まさに正方形の液晶画面を持つ… いや、待てよ。正方形じゃない。盲点だった。
このスマートウォッチには緊急通報をする機能がある。外部と通信しているのだ。私は通気口になんとかねじ込ませると、棒の先につけたスマートウォッチをさらに奥に突っ込んだ。思い切り投げる。鍵が開く音がした。
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イラストフレーム(Sサイズ) Illustration frame (Size S)
★たくさんの太陽に包まれ元気をいっぱいもらえる、ひまわり畑。「ひまわり畑」
★ "Sunflower Field" where you can receive full energy by being surrounded by many suns.
★平和な海の中では"いちゃりばちょーでー"(出逢えばみな兄弟)の心でみんな仲良く泳いでいます。「ジンベイザメと仲間たち」
★ In the peaceful sea, everyone swims happily with the heart of "Ichariba chode" (once we meet, we are all brothers and sisters) in "Jinbei Shark and Friends".
★赤瓦屋根の軒下で心地よい���風を感じたい。「海辺の赤瓦家」
★ You want to feel the pleasant sea breeze under the red tiled roof. "Red Tiled House by the Seashore".
★心地よい潮風に揺れるハイビスカスが島のお出迎え。「海風になびくハイビスカス」
★ The hibiscus swaying in the pleasant sea breeze will welcome you to the island. "Hibiscus Dancing in the Sea Breeze".
【仕様/サイズ】 ●紙は質感のある上質なマーメイド紙を使用 ●木製額・ガラス・マット台紙入り・吊りヒモ付・スタンド付 ●額の外枠サイズ(197㎜×248㎜) ●イラストサイズ(115㎜×163㎜)
【専用箱入り】 ※専用の紙箱に入っていますのでギフトにも最適です。
【スタンド付】 ※自立スタンドが付いていますのでテーブルやキャビネットに立てる事が出来ます。 (付属のヒモで壁掛けも出来ます。)
【Specifications/Size】 ● Using high-quality mermaid paper with a textured feel for the paper. ● Comes with a wooden frame, glass, mat board, hanging rope, and stand. ● Outer frame size (197mm x 248mm) ● Illustration size (115mm x 163mm)
【Comes in a dedicated box】 ※It comes in a special paper box, making it perfect for gifts.
【Comes with a stand】 ※It comes with a self-standing stand, which allows you to place it on a table or cabinet. (You can also hang it on a wall with the included rope.)
沖縄のより良い物を伝えたい
首里☆オススメの逸品をお楽しみください。
Shuri☆ippin
首里☆群星 しゅりほし
〒903-0816
沖縄県那覇市首里真和志町2丁目1番1
(今のところ火曜日定休)
10:00〜17:00
TEL/FAX 098-959-4113
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上から下まで最上位クラスの「岸辺露伴は動かない(生々しく気持ち悪くて最高にクール)」「アカツキ電光戦記(個性、癖、王道。完璧)」「北斗の拳(雑魚が全然雑魚じゃない)」「ドラクエシリーズ(代々ほぼ絶対悪のラスボス)」のいずれかに”””霧島04(裏ストボス)”””の著作権を以下の文章を読んだ方にお譲りします 俺はキャラを食い潰したいんじゃなくて、面白い物語を作るのが目的です(狂気系絶対悪であれば噛ませ役でも構いませんm(_ _)m)
⚠️新し◯血族みたいに頂点以外がダメな世界は駄目です ペルソナ◯Rみたいに斑目一流斎から次以降”””””獅童正義さん”””””の前までパレス格落ち戦犯連続の世界もだめです ゲイムギョウ界も霧島04(狂気系絶対悪)がダメになるのでダメです ブリーチもいい意味でも痛い意味でもかっこよすぎてダメです
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封印されるのが『ブラックハート様達守護女神』ではエッチでイヤらしい💖事になるだけだ {{{{{禁忌クシャガラ様}}}}}の場合( ; ; )、封印しても恐怖を与えて来るのはこの二次創作でいう『前者』の[[B(バグ)]]を起こしてどんな相手でも確実に倒す殺傷力に似た軌跡で紡ぐポテンシャルとは異質だから。だっていきなり0から99999を生み出す偉業を果たした奴を誕生の神という概念で現実的に審査したにも関わらず……それをあり得る形で超えてしまったのが真の裏ストボス、{{{{{SSチート}}}}}。[水と油、香氣、秀才は1から1000を生み出し]、”””霧島04(裏ストボス)”””という天才は0から1を創る??? そんな始まりから先に進めていない小物じゃ圧倒的な力を心が燃える限り際限なく振るう魔王には敵わない。”””””ザラーム様”””””が傲慢に振る舞い封印されてなお恐ろしいのは確かに存在する性質がSS(サディストサイレン)ランクで、こちら側如きがB(バグ)ランクだから。唯一の対抗手段である光の力で倒す為にどこまで追い詰めても勝てるかどうかが一方的にわからない だから前述の完全封印でも闇を解き放とうとして勇者は後述の二つを煽りたくもないのに魔王は気合いと根性で0から99999を常に生み出し続けて、封印に近づくなと代々伝えられる別格の化け物、いずれ来る時は復活の文字に相応しく守護女神様のように助けられて衰弱しきったもどかしく羞恥心を煽るような甘いものではない) “””””ザラーム様”””””は””森永雅樹さん””以上にお子様向けの悪に留まる存在じゃなく、人格も振る舞いも完成されている
“””霧島04”””は裏ストボスになってから初めてスタートラインに立って、絶望して媚びを売るんだと[[[[[頂点⬇︎]]]]]を諦めた(赤き究極の真実)
見栄と真実 現実と夜泉
霧島04(ラスボス)はある世界で無理矢理見合い結婚させられた妻の目の前でわざとうんちを漏らしながらチンコが泣くよウグイス平安京と引き攣った顔をして奇声を発しながらションベンを料理と妻の顔に撒き散らした。(⬇︎イメージ画像)
それを毎日バナ〜ナッうんち〜〜とトコジラミより迷惑なレベルで繰り返して愛してくれた妻は首を吊って死んだ(赤き真実) その途端にブリーフ🩲パンツ一丁でクラウチングスタートをしてパートナーをぶん���っていた彼は哲学者の顔付きになって、スタイリッシュなコーディネートを決めて優秀な一般生活を送っていた…
寝ている妻の顔の上でうんちモリモリ森鴎外🎶(赤き真実💩) ぶりぶりぶりぶり‼️‼️‼️‼️
誰が怖いとか涙を溢す表情とか、全部演技と陽動だ。{{こいつを格落ちさせる唯一の方法は自分の名前に、[[[様]]]を付けさせる事}}
俺が女性に屈するなんてお前らが望んだ茶番じゃないか。わざと叶えてやったんだよ“”””守護女神””””如きが、”””��ラオウ(真主人公)””””如きが、成長した俺を格落ちさせられなんかしない辛いだけさ(赤き真実)
[[[[[瞬殺されるぞ❓(赤き究極の真実)]]]]]。同じラスボスの”””獅童正義”””はこんなものじゃ無かった。二度と馬鹿な気は起こすな」純粋硬派柱PureEgrosburst04 霧島狩魔「………分かりました…エルンスト・フォン・アドラー{{{様}}} ……」
それにしてもさあ、何で江ノ島盾子とかミハエル=ケールみたいな15歳の過去俺如きの経験値にすらならない雑魚と、バリバリ全盛期の今俺がリンチしても腹を手刀で貫いて余裕で勝利キメてくる””””エルンスト・フォン・アドラー””””さんみたいな極端な裏ストボス(父親みたいに背中がデケェ)しかいねえのかな❓
純粋硬派柱PureEgrosburst04 霧島狩魔(180000歳)「自分の親を選んでこんな厳選を数千回繰り返したが、💯合格したのは”””””エルンスト・フォン・アドラーさん”””””のクローンという器だけだ。
俺の罠だよw…でもない。いつだって残酷な赤き真実を全てに突き付けてきた存在がした…何度も産まれて初めて縋り付いた<<見栄>>だったから
ラムダデルタ「………恋人も、やり直したがってる子羊も産んでくれた数千人の家族も永遠の絶望に追い込んで、最後はアンタが[[[[[💯💮]]]]を付けた唯一の存在に嘲笑われるのね(赤き真実)」霧島04(裏ストボス)「黙れ‼️黙れ…だまれ……」
昔々、怠惰な神が居た。彼は数千以上の宇宙を一瞬で消せる程の高次元の存在 未熟な精神面しか欠点は無かったが本人はそれを自覚しながら気にする事は無かった 趣味は必死に生きている只の人間の偉業を一瞬で出来ると証明する優越 だがあまりにもちっぽけで観察するのにも飽きてきた神は自らの力を貸し与えて楽しむゲームを考えて天からそれを話す為に声をかける 声を聴いた人間は年季の入った男性だが自分より知性も力でも遥かに劣る(赤き真実)から気楽に能力を与えて観察を楽しんだ 限界を壊された人間はどこまでも遥かな高みへ登っていく。
「力なんてものは 目に見えるものでは無いし奪えるものでもない。それが勇者の力なら尚更」
だからいつでも取り上げてやれると考えていた力の本質は人間に馴染み浸透していき神に帰ることは無かった 彼の最上位現実にも掟があり殺す事も出来ない 彼等の力関係は遠い未来で逆転した
その格好良さは託す形で与えられたワン・フォー・オールに勝るものだとすぐにわかる
“””””シックス(裏ストニューボス)「{{{{{おはよう、神よ}}}}}」”””””心まで一方的に読めてお互いに見下し合っていた先祖の子孫に今まさに殺される。怠惰な神は死ぬ程後悔して自分を情けないと思った。下克上をされた理由が優しさではなく娯楽によるものだったから(赤き究極の真実) もし先祖だったら力を受け取らなかったであろう”””霧島04(裏ストボス)”””みたいな貧弱な敵に恵まれただけの爽やかな小物とは比較にならない恐怖だったんだと味わい直した直後に、
洪水のように”””””真の裏ストボス”””””が溢れ出して自らの力もろくに使いこなせない””古臭い神々””は絶滅した
この2次創造世界では最上位現実で太陽の20000倍の大きさがある地球連邦軍戦略帝都を内包する無制限刺激莫有宇宙でも最強と謳われる””””B(バグ)の家族達””””が20人以上集まらなければ勝つのはほぼ不可能だとされる”””””超越者(トゥルーグランド)の頂点”””””と呼ばれる人間がごく僅かに存在する⬇︎
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首吊り気球 “Hanging Blimp”
Horror World of Junji Ito collection: The Face Burglar (1998)
Written and illustrated by Junji Ito
#hanging blimp#首吊り気球#junji ito#shojo#psychological horror#supernatural#manga panel#okubi#giant head#monster#90s manga
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人頭氣球🎈 #首吊り気球 #伊藤潤二 #靈少女 #萬聖節少女 #朝日ソノラマ #東立出版社 #润二的恐怖恐怖夜話 #人頭氣球
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Junji Ito x Odio 首吊り気球 (The Hanging Balloons) c o l o r f u l from the collected stories (Shiver)
#anime#manga#otaku#edit#japanese#Aesthetic#colorful#design#junji ito#vs#odio#Viz Media#odioart#pop art#pop culture#Halloween#tokyo 2021
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長くなります。よかったら読んでください。 まず、私から提案したいと思います。 私の家に遊びに来ませんか。鹿児島県のとある田舎町で農業を営んでいます。新規就農してからまだ半年余りなので、アルバイトをしながら何とかやっている状態ですが。 独り者です。バツイチです。質問者の方が男性でしたら、何日か泊まっていただいても構いません。 柴犬と猫とヤギ、ニワトリがいます。 以下、陰鬱な内容を含みます。耐性の無い方は読まれない事をオススメします。 私もうつ病でした。 それも重度のうつ病でした。主治医には、最終的には脳に電極をつけて電気ショックを施すことを勧められたぐらいです。 入院治療も2度行いました。 最初の入院は、自殺未遂をしてから運ばれました。施錠された病室に隔離されました。常にモニターで監視されていて、トイレなどハナから丸見えです。 1週間の後、一般病棟に移りました。 職場には、主治医からうつ病の為3か月の休職が伝えられました。 2週間後くらいから、躁状態に入りました。 室内では腹筋、腕立てを繰り返し、外出許可をもらってはランニングに勤しみました。 自分自身が何故うつ病になってしまったのか自省し、退院してから復職する迄のやるべき事リストを作り上げました。 前向きな様子を見て、主治医も退院時期を前倒しにしました。 一月後、退院しました。 退院してから、先ずは主夫業に精を出しました。 過剰なまでの不安と心配を与えてしまった妻の為、早起きして犬と散歩に行き、朝ごはんを作り、掃除、洗濯を済ませ、夕ごはんの買い出しに行き、夕ごはんを作って妻の帰りを待ちました。 週に2回の通院は、あえて15キロの道のりを自転車で通いました。散歩にも出かけ、野の花や小鳥なんかをスケッチしたりもしました。 全てはうつ病を克服するためだけに、日々を過ごしました。認知療法、行動療法、薬物療法すべて行いました。 1か月後、再発しました。 休職期間も残り1か月ともなると、緊張と不安が絶え間なく襲ってきます。また寝れない日々が続きます。食欲もなくなり、何をするのも億劫です。 復職1週間前ともなるとある思いが心を支配します。 (死にたい…) とにかく私は死にたかったのです。 いわゆる、希死念慮です。 簡単に言うと自殺願望なのでしょうが、色んな自殺の方法を探りました。 結局は首を吊る事に落ち着きました。 妻の居ない日中に、何度も何度もタオルなどで首を吊りました。でも死に切れませんでした。 勇気を振り絞って復職しました。 3か月ほど働いたでしょうか。職場での日々は、私にとって正に地獄でした。常に緊張していました。頭が上手く回転しません。真っ直ぐ歩くことさえままならず、何故か柱や机の角にぶつかりました。トイレに用がなくても頻繁に入り、周りの好奇な目から逃げました。その度にトイレの窓から飛び降りたい気持ちになりました。自殺を試みた人間に対して、同僚は腫れ物に触るように対応します。 毎週末、今日こそはと思い、首つりを繰り返しました。しかし、最後まで出来ません。 私は思い込みの世界で生き、想像の世界で苦しんでいました。 自殺未遂をしてから、うつ病と告知されてから、いやもっとずっと前から私は、私自身の妄想に自縄自縛の状態でした。 あいつは仕事が出来ない。 あいつのせいでみんな迷惑している。 自殺未遂するぐらいなら仕事を辞めればいいのに。 それでも上司は私を励まします。 君なら出来る。死んだ気になってがんばりなさい。みんな君の事を心配しているんだ。恩返ししないとね。 妻も私を励ましてくれました。 折角、頑張って公務員になったのに、今辞めたらもったいないよ。家のローンはどうするの。その年から転職なんて出来ないよ。あなたの大好きな柴犬も手放して、動物も飼えないようなアパートに移る事になるよ。今が頑張りどきよ。 私はもう限界でした。いや、もうとっくに限界だったのでしょう。主治医からは兎に角強い睡眠剤と抗うつ剤を処方してもらいました。 起きていても何時もボーッとしていました。 漢字もどう書くのかよく分からなくなりました。 ひらがなさえ、「あ」と「お」の違いさえよく分からなくなり、度々授業中の計算ミスを子どもに指摘されました。 ある日、子どもに問いかけられました。 「先生、なんで死のうと思ったの?前の先生が、H先生はぼくたちのことが嫌いで死のうとしたって言ってたけど、本当?」 「そんなことないよ。死のうとなんかしてないよ。」 咄嗟に取り繕いました。 代行の先生が、断片的で恣意的な情報を子どもたちに伝えていたようでした。 再休職することになりました。 うつ病の原因は今だからよく分かります。 新しい学校に移動したものの、子どもたちと以前のような信頼関係を築けないことからの自己嫌悪。 同僚とも良好な関係を持てないことからの苛立ち、不安、不満。 それらから派生するように、仕事への自信喪失。 40過ぎても子どもを持てないことへの落胆。 35年住宅ローンの重圧。 自分の故郷が地震と津波で壊滅的な状況なのに、何も出来なかったことへの後悔。 妻とも友人とも、会話が噛み合わないことからの孤独感。 当時の私は客観的に見ても、八方塞がりでした。 でも多くの方たちも、多かれ少なかれ40も過ぎれば仕事や家庭で問題を抱えています。しかし、うつ病にはならないでしょう。だからこそ私は私自身に失望しました。失望感は再休職したことからさらに募り、積み重なった失望感は、絶望感へと集約されました。 再休職して、私はまさに生きるしかばねの様でした。 以前の休職期間のように、前向きにうつ病治療をすることも有りません。ただ、ただ死なないように生きているだけです。 誰かの歌詞にあったように、 私は小さく死にました。 当時の私は死にたいと云うよりも、「楽になりたかった」のです。 40も過ぎて再休職し、再び同僚や子どもたちに迷惑をかけ、上司の配慮や期待にも応えることが出来ず、その上、妻への罪悪感は筆舌に尽くし難いものがありました。 いつ自殺が成功しても大丈夫なように、定期的に遺書を書きました。妻への謝罪、同僚たちへの謝罪、両親兄姉への謝罪、毎日毎日こんな自分が生きていることが申し訳ありませんでした。 妻は週末になると、神社へとわたしを連れ出しました。近所の神社、箱根神社、鶴岡八幡宮、春日大社にも行きました。 2時間で2万円もするカウンセリングも受けました。 主治医から処方される薬は、5種類まで増えました。病院でのカウンセリング担当医は、大学を卒業したばかりのような若い女性です。彼女なりに真摯に私と向き合ってくれましたが、私は彼女から助けてもらえるとはとても思えませんでした。主治医で院長でもあった先生は、薬を処方するだけです。もしうつ病が治らず、教員を退職する事になったら精神障害者として生活保護を受けるしかないと言われました。 一向に良くならない私の状況に、妻は失望し、疲弊しました。あとで知った事ですが、リストカットなどの自傷行為をしていたようです。 毎晩、妻から叱責をされるようになりました。 このままだとどうなるか分かる?あなたがうつ病を治さないとどうなるか分かる?いい加減、治してよ!どれだけあなたが沢山の人たちに迷惑を掛けているのか分かる?だから早く治して! 時には包丁を持ち出され、一緒に死のうと懇願されました。 一度、人は道を踏み外すととことんまで堕ちるのだと思いました。しかも、底がありません。どこまでも堕ちるのです。 生き地獄でした。 翌年の4月、私は別の学校に移動し復職することになりました。 私は私を偽りました。うつ病は治っていません。しかし、治った事にしないと妻がもちません。 治ったと偽り、主治医にも復職を許されました。 復職して、3週間後の朝、自宅の梁に電気コードを括り付け、椅子を倒し首吊り自殺しました。 死んでいませんでした。 気づくと愛犬の柴犬が必死に私を舐めていました。 何も見えません。呼吸が止まっていたのでしょうか。私は必死に呼吸をしました。呼吸を繰り返し繰り返し行うと暗闇に光が差し込んできました。 何故かコードは解けていました。今際の際で、コードを解いていたようです。しかし自分が何をしたのか暫く理解できませんでした。失禁していることに気づきました。脱糞までしていました。眼球は出血し、白目部分は真っ赤に染まっていました。左半身が上手く動きませんでした。 その日、再入院することになりました。 主治医から、電気ショック治療を勧められました。一定の効果は期待できるが、全身に激しい電気ショックが流れるので多少の骨折や記憶の欠落などのリスクは覚悟してくれと言われました。妻の反対で行いませんでした。 もはや、自分が何をしたいのか、生きたいのか死にたいのか全く分かりません。ただただ矮小で卑屈で社会のゴミのような存在だと思いました。 生きている意味などあろうはずもありません。 でも私は生きていました。あの日以来首を吊るのも止めました。何も考えず何もせず、出されたものを食し排泄し、夜になれば睡眠剤でぐっすり寝て朝になれば看護師に起こされ、何もない1日が始まります。 2か月後退院しました。暫くして、教員を辞めました。無職になりました。新築の家も売りに出しました。妻には当然ですが、見放され東北の実家に帰ることになりました。実家にはまだ思春期の姪たちがいたので、兄がアパートを探してくれそこに1人で暮らす事になりました。 私は何も考えなくていいように、中古のゲーム機を買って一日中ゲームをしていました。たまにスーパーに食料を買いに行きますが、誰かに見られるのが恥ずかしくて、短時間で目につくものをそそくさと買ってアパートに戻ります。何も考えません。感情も有りません。風呂にも入りません。歯も磨きません。ある時、履けるパンツが無く、Tシャツを逆さにして履きました。チンチンが寒かったです。 以前の主治医から実家近くの病院を紹介され、紹介状も持たされていましたが、そこの病院に行く事は有りませんでした。もう精神科医も抗うつ剤も睡眠薬も私には必要ありませんでした。 なぜなら私は人の形をした、ただの醜いぬけがらでしたから��� 時間も季節も、世間も仕事も、私には何の意味も有りません。物欲、金欲、食欲とい��た欲求もありません。ただ日々死なないように生き、金を食いつぶし、秋が来て、冬が来て、春が来ました。 定期的に父から電話がありました。その日は今までにない雰囲気で、もうアパートを引き払えと言ってきました。 実家で両親と兄家族と暮らす事になりました。 父は頻繁に私を外に連れ出しました。80も近い父の運転で、被災地の風景を見たり、故郷の野山を見たり、桜を見たりしました。 5月過ぎ、父が帯状疱疹になりました。 6月になると、胃腸に何らかの不調を訴えるようになりました。 7月、近隣の中核病院に入院することになりました。 最初は泌尿器系の病気が疑われ、手術を受けましたがあまり体調が改善されません。その後、ガンが疑われましたが、その部位が分からないと言われました。原発不明ガンと診断されましたが、本人には告知していませんでした。 父が体調を崩してから、病院の送り迎え、入院の準備や手続き、お医者さんの対応など、私が行いました。初めは嫌々でしたが、結局手が空いているのは私しかおりませんから、仕方なく対処していました。 原発不明のガンなので、具体的な治療方針が決まりません。何故か、一時退院が許されました。 退院してから、定期的に通院する事になりました。その日は泌尿器科の受診の日でした。泌尿器の主治医がお休みで代理の先生に診てもらいましたが、受診後父の様子が変で、帰り道に尋ねるとガンだと告知されたと言います。 何年ぶりでしょうか。私の中に忘れていた感情が芽生えました。 怒りです。 その日告知してきた先生は、あくまで泌尿器科の主治医の代理で、しかもガンの部位はおそらく消化器系だろうと言うことで告知する時期は消化器科の主治医と治療方針と共にこれから考えていきましょうという段取りになっていたのです。 父の落胆は見るからに明らかでした。父はタバコも吸いません。深酒もしません。健康番組が大好きで、健康に人一倍気を使っていました。 食事の世話も私が行っていましたが、食欲もめっきり無くなりました。歩くのも酷く疲れるようになりました。 私は消化器科の主治医とアポを取り、抗議の為病院に赴きました。何の相談もなく、科も違う代替先生が告知をしてしまった事に、平謝りでした。 それから私は、ガンについてできうる限り勉強しました。通院の際は、ノートを持ち込んで先生の所見を事細かくメモしました。 PET検査なるものでガンの所在が分かるかもしれないと聞き、検査機のある病院まで連れて行きました。 しかしながら、ガンの所在、及び部位は特定できませんでした。 8月になり、いつも以上に辛そうな父を見て再入院させる事にしました。病院に着くともう自力では歩くことが出来ず、車椅子に乗せて診察室まで連れて行きました。 父は気丈で弱音を吐くことを聞いた事がありません。 私が小学生の頃、車のドアで親指を挟み、骨が見えていても自分で運転し整形外科に行き、夕方には仕事をしていました。 私が中学生の時には、母が粉砕機で薬指を切り落としてしまいました。側にいた父は、すぐさま薬指を拾い、氷袋に入れて母を病院まで連れて行きました。指はくっつきませんでしたが。 そんな父が、自ら車椅子に乗っている姿に愕然としました。 主治医からは、胸水が溜まっているのでお辛いのでしょうと言われました。とりあえず、入院治療することになりました。 胸水を抜いてもらい、多少楽になったのか父に少しだけ笑顔が戻ってきました。後から来た母とも談笑していました。 数日後、父は永眠しました。 死因は、原発不明ガンとのことですが直接的な死因は、窒息死です。深夜になって吐いたものが気管に詰まり、自力では解消されず看護師が気づいた時には亡くなっていたのです。 解剖はしませんでした。 母の取り乱しようは筆舌に尽くし難く、身内一同呆然としました。 それでも、お通夜や葬儀は粛々と進められます。 葬儀が終わり、明日早朝に火葬を残すのみという晩の頃、私は葬儀会場で棺の中にいる父と2人きりになりました。 止め処無く涙が溢れてきました。あんなに泣く事はもはやないだろうと思います。 おそらく1時間ほど泣き続けたでしょうか。その間、私は心の中で同じ言葉を繰り返していました。 (ごめんなさい。ごめんなさい。) (もう大丈夫だから。) ほぼ平均寿命とは言え、父は80手前で亡くなるような人ではありません。ましてや、ヘビースモーカーで高血圧の祖父より早死にするような人ではないのです。 では何故、こうも早逝してしまったのか。 原因は、私です。 私の存在がストレスとなり、私のうつ病が治らないこともストレスとなり、40過ぎの息子が無職になって帰ってきて引きこもりになっている現実がこの上なく父に負担を掛けたのは間違いありません。帯状疱疹になったのも、胃腸に不調をきたしたのも、がんと診断されて1か月余りで亡くなったのも、私のせいです。身内は誰も口には出しませんが、みんなそう思っている事でしょう。 それなのに私は、父の棺の前で1時間ほど泣いて泣いて泣き疲れた後、気づいたのです。 うつ病が治ったと…。 皮肉なものです。父の病と死が、私のうつ病を寛解に導いたのです。 半年前まで、私は私の抜け殻でした。 何もせず、何も考えず、ただ無意味に時間とお金を浪費する肉の塊に過ぎませんでした。他人と会話する事は勿論のこと、身内ですら顔を見て話すことも出来ませんでした。 それが3か月前から止むを得ず、父の世話をするようになってお医者さんと交渉したり、看護師と話したり、父の様子を親戚に伝えたりするうちに何となく、うつ病は回復の兆しを見せ始め、最終的にに父の死によって寛解に至ったのです。 父は全く意図していなかったでしょうが、結果的に父の病と死が、私を深い深い谷底から救ってくれたのです。 結局のところ、私のうつ病を治したものは医者でも無く、カウンセリングでもなく、ましてや薬でもありません。タイミングときっかけ、そして行動です。 以下は私の経験則からの私見です。異論がある方もいらっしゃると思いますが、ご容赦ください。 うつ病は、薬で治る病気ではありません。 一般的な解釈としては、うつ病は過剰なストレスなどにより、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が上手く働かなくなり、シナプス間における電気信号が不調となる為、活動性が低下し、感情が失われていくとされています。 抗うつ剤などの薬は、上記の神経伝達物質を良好に分泌させる為のものですが、あくまで一時的なものです。言わば、身体が疲れた時のユンケルみたいなものです。ユンケルのような滋養強壮剤の効果は、有って小一時間ぐらいらしいです。医者に聞きました。寧ろ(俺はりぽDを飲んだから元気だ!)といった暗示の副作用の方が大きいといいます。抗うつ剤も同じです。気休め程度にしかなりません。しかも抗うつ剤を服用し続ける事は何の根本的な解決にはなりません。また様々な種類があり、強いものを飲み続けると廃人になるようなものも有ります。ハイリスクローリターンです。 私が知っている精神科医で、うつ病を本気で治せると思っている人はおりません。彼らは、薬を処方し点数を稼ぎ、報酬を得ているに過ぎません。私が暫く通院していた病院は、正にそうでした。2年ほど通いましたが、沢山の精神病患者で寛解に至った方を私は知りません。私の主治医だった精神科医は、患者を1時間待たせ5分の問診で処方箋を書き、効率よく病院に富を蓄積させます。おそらくそれが出世の処方箋なのでしょう。 先日、NHKドラマで阪神淡路大地震を体験した精神科医の話がありました。患者の話を30分でも1時間でも真摯に聞く先生でした。私もそういう精神科医に出会ったら違っていたのでしょうが。 現実は違います。それでも精神科医に診てもらいたければ、開業医をお勧めします。少なくとも組織の中にいる精神科医はダメです。 カウンセリングもお金と時間がかかるばかりで、効果のほどは期待できないと思います。 中には、行動療法や認知療法で寛解する方もいらっしゃるとは思いますが、私は懐疑的です。 そもそもうつ病の根幹的な治療は何か? まず、うつ病に至ったストレスを無くすことです。私は公務員という立場や家のローン、世間体などから仕事を辞めるという選択肢を選ぶのか遅すぎました。 そして、死なないように生き、どこかのタイミングで行動を起こすことです。具体性に欠けますが、深い深い闇の中にいて、抗うつ剤や他人の空虚な言葉が一筋の光になる…なんて事は現実的ではありません。 最初はどんな行動でも構いません。ポイントは、うつ病を患ってからした事がない行動です。 よくうつ病を患った人に、「神様から休みなさいって言われているんだよ。」という方がいますが、うつ病患者は休んでいる��けではありません。深く傷つき、深い闇の中でいつ終わるとも分からない嵐が過ぎ去るのを息を殺し、感情を捨て、ただただ耐えているのです。 話が逸れました。 質問者の方は、生きている意味があるかと問いかけられていますね。 私の答えは、「ない」です。 そもそもが、生きているだけで意味がある人間なんてどれほどいるのでしょうか?人間は人間を特別視し過ぎです。過去には、人間ひとりの命は地球よりも重いと言った政治家が居ました。馬鹿げています。 この地球には、既知の部分だけでも175万種の生命体がいるそうです。未知を含めたら500万とも800万とも言われています。その多種多様な生き物が懸命に命を繋いでいます。その中で、何故人間の命だけが尊いと言えるのでしょうか。 周りを見渡せば、ニュースを見れば犬、猫より価値の無い生き方をしている人が沢山います。蜂や蟻よりも生産性の無い生き方をしている人間がありふれています。 人間の命、そのものには意味がないのです。 あるとすれば、意味ではなく「時間」だと思います。 そして時間があるからこそ、「行動」ができるのです。 重度のうつ病患者は、行動が出来ません。 行動が出来ないということは、時間が止まっているのです。 故に今のあなたが、生きている事の意味を問いかけるのははっきりいって無意味です。 それはあなた自身が本当は理解されているはずです。 けれども今あなたがその漆黒の闇を抜け出せるその日が来た時、あなたの(生)に価値が生まれます。あなたが自分の足で、自分の意思で前に進み始めた時、時間が再び動き出します。 生きている限り、意味はなくてもあなたには「時間」がある。時間があるという事は、あなたの人生は何度でもやり直せるのです。 更にあなたが価値ある、より良い行動をとることで、あなたの(人生)に意味が生まれると思うのです。 人の(生)に意味があるとすれば、価値ある行動を実践した時、初めて生まれると思うのです。 人の人生の評価は何で決まるのでしょうか? 財産、出世、肩書き…人それぞれでしょうが、私は行動だと思います。どれだけ価値ある行動を人生で出来たか、だと思うのです。 だからまずあなたがするべき事は、死なないように生きることです。そして、私のようにきっかけを待つか、自らきっかけを作り行動することです。 正直言って、私のようなきっかけを待つことはお勧めできません。 だからこそ、私のところに遊びに来ませんか? もしかしたら、何かのきっかけになるかも知れません。仮にならなくても、きっかけのきっかけぐらいにはなるかも知れません。 私は今、農業に従事しています。何故、東北から南九州に来て、農業をしているかの経緯は割愛しますが、私はうつ病が寛解してから2年ほどの、50手前のおじさんです。 うつ病が治り、取り敢えず3つの事を目標に掲げました。 ①飼っている柴犬を、日本一幸せな柴犬にする事。 ②最低限、父の年齢まで生きる事。 ③世界の真理を一つでも多く学ぶ事。 です。 農業では、無農薬、無化学肥料での、循環農法を実践しています。なるべく、F1の種に頼らず固定種の種から作付けして、この土地に合った野菜を育て、種取りをして、安全、安心な、究極的には硝酸態窒素を過剰に含まない、ガンにならない野菜作りを目指しています。 知らない土地に来てからの挑戦なので、苦労もありますがやり甲斐も有りますし、生き甲斐も感じています。 何よりも、何度となく死んでしまってもおかしくない我が身がこうしてお天道様の光を浴びて働けることが、嬉しくて嬉しくて仕方が有りません。 昔、ドイツの哲学者が言っていました。 (自らを否定して否定し尽くした時、あなたは超人となるだろう。) 私のうつ病期は、自己否定の繰り返しでした。 もちろん、私は超人には成れておりません。 ただ、周りの人達よりちょっとだけ物事の本質を理解出来るようになったかなと思います。 一昨日、東日本大震災から9年経ちました。 2万人以上の方が亡くなられました。 彼らにはもう時間が有りません。行動を起こすことも出来ません。 だからこそ我々生きている人間は、然るべき行動により、震災を語り継ぎ、亡くなった方たちを忘れずに生きねばなりません。 あなたは生きている。 あなたには時間がある。 あなたは行動を起こせる。 大丈夫。時は必ず訪れます。 最後にアメリカの詩人の言葉をご紹介します。 (寒さに震えた者ほど 太陽の暖かさを感じる 人生の悩みをくぐった者ほど 生命の尊さを知る これから私は幸福を求めない 私自身が幸福だ) 長文につき、乱筆、乱文ご容赦ください。
私はうつ病です。昔の事も思い出せず、感動せず、感情もわからず、物を覚えられず、体を動かすのもつらく、毎日ただひたすら苦しく、生きているだけでお金がかかるのに生きてる意味ってありますか? - Quora
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走馬灯
Disc1
01.あなたへわたしより feat.重音テト
02.紫陽花とアマゾナイト feat.雪歌ユフ,重音テト
03.懐かしい夏の日 feat.ちかしくん
04.アイスクリーム feat.重音テト
05.BackSpace feat.重音テト
06.マシュマロファクトリー feat.唄音ウタ
07.魔女とマシーン feat.唄音ウタ,重音テト
08.赤い子 feat.桃音モモ
09.Falling apple feat.重音テト
10.あの人 feat.唄音ウタ
11.ゴースト feat.唄音ウタ
12.Mosquitone Remix feat.桃音モモ
13.竜の落とし子 feat.櫻歌アリス
14.シーズンオフ feat.重音テト
15.雨雨雨 feat.重音テト
16.散る散る満ちる feat.櫻歌アリス
Disc2
17.シンデレラコンプレックス
18.ソメイヨシノ feat.桃音モモ
19.サクラナク feat.唄音ウタ
20.改札バイバイ feat.桃音モモ
21.show you feat.唄音ウタ
22.運命は? feat.重音テト
23.自我は何ゴミ? feat.桃音モモ
24.永遠の16歳
25.ババアが抱えるシークレット
26.玉なしの銃 feat.重音テト
27.旬を決めたのは誰だ feat.重音テト
28.永遠は? feat.雪歌ユフ
29.美しい嘘 feat.重音テト
30.初夢 feat.唄音ウタ
31.タール feat.雪歌ユフ
------------------
01.あなたへわたしより feat.重音テト
思い出ばっか重たくなって
どこへも行けなくなりました
集めたどんぐりに虫涌いて
写真はセピア色に焼けて
どれもこれも壊れた過去
思い出と名の付いた鎖
ここは一つ全て捨てて
それから考えてみます
不思議だな
今のほうが懐かしいよ
昔はさ
晴れていればそれでよかった
ああ知らない窓外の景色で
わたしは元気でいます
あなたも大丈夫、きっと
いつかまた会えるでしょう必要ならば
だから大丈夫、きっと
------------------
02.紫陽花とアマゾナイト feat.雪歌ユフ,重音テト
わからない
なにも
秋の夕暮れ沙迷うごとく
わからない
ぜんぶ
水の溢れるコップみたいに
わからない
すべて
きみの読んでる占いもそう
わからない
いつも
紫陽花が首を傾げては揺れる
わからない
���なたが偶然性を放棄して
生命力を軽視して
あたしは感情的に頬を撫ぜる
人間性を教えて
地球を巡る水のこと
身体を回る血液も
どうして知れると言うだろう
愛していると言えるだろう
タートルネックにネックレス忍ばせる
アマゾナイトの淡い青
紫陽花と同じ青
蛹が完全体へ���化して
当然として羽ばたくように
突然ぜんぶ認知して
血流に耳を澄ませれば
わかるわ、今なら
あなたの傘へ、雨となって行くよ
------------------
03.懐かしい夏の日 feat.ちかしくん
波間で跳ねるあなたが光る
7日で死ぬとは知らぬ蝉のよう
狭間で迷うあたしは若く
まさか死ぬとは知らぬ蝉のよう
叫べど遠くあなたは素面
すでに死んだとは知らぬ蝉のよう
懐かしい服着て
夏の日に飛び入れば
生きるも死ぬも
同じようなことだろう
車で駆ける夜は短く
いつか終わると知らぬ夏の夜
------------------
04.アイスクリーム feat.重音テト
パンパンに膨らんだ眼球が見てた強姦犯
青春が輝いた
かんかんだらになりたいな
カンニングがバレた少年がソングライター
「そう、俺は空っぽさ。もう音楽しかないんだ。」
芸術に逃げたんだ 他にはなにもないからな
勉強が現実だ 知りたくないことだらけさ
ああ、愛ってなんだろな
生命保険か?バージンか?
今日証拠でもらったペンダントもう壊れた
生きる意味を見出す暇もない程はやく溶けてくアイスクリーム
食べ続けるしか術もないから
シーズン掴むこともできず
過ぎてゆくの季節
歳をとる
バンバンと飛び出した鉄砲の先にあなた
あっけないものだなあ
人生ってこんなものか
タイミングがズレた少女が歌っていた
「あたしは空っぽか?脳も血も涙もあるのに。」
いつか夢だったミュージック
趣味になりつつある
老けてく肌を隠して
息、続けるしか他がないのよ
アイス溶けたあとに残る
役立たずで使えぬ液のように
死ねば身体だけが残る
夏が過ぎる速度を感じては溶けるアイスクリーム
I scream aisiteru
生きてくこととアイス食べることは似てる
彼女はちょっと季節に敏感すぎただけ
駅ナカすれ違う人のはやさのように
肌を過ぎる季節 あーびりびりする
バージン失くして尚、愛の意味わからなかったよ
教えて芭蕉 この世はなぜつねに無常
シーズン過ぎ去ってもあなたは変わらないでよ
あたし馬鹿なの!
少女に早すぎる酒 持ってきて
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05.BackSpace feat.重音テト
指先にこう、抗うように
時間にもそう、従うように
唇にこう、溢れるように
言葉にもそう、収まるように
あたしはね
チョコが甘さだけ残し
それが証拠だ
嘘じゃないのに
(透明なまま止められない指先が)
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06.マシュマロファクトリー feat.唄音ウタ
明け渡す夜に
夢はだいぶ向こうに
あなたは論理的に
あの約束無効にして
人ゴミと街
置いて彼ひとり
閉じないで瞳
変えるのはあたし
才能がないなら感情はいらないよ
肺の穴から這い出た怪物が
喉を揺らしてあなたを問い質すの
どうしてよ どうしてよ
ら〜ららら、ら〜ららら、らら
国を食う総理
吐いてOh,I'm sorry!
噛み砕く氷
うざいあいつの代わりみたい
今は平成
置いてかれてひとり
流されて時代
帰る気はもうない!
天才じゃないなら恋愛もしたくないよ
灰の山から這い出た怪物が
髪燃やしてあなたを追い詰めるの
どうしてもう どうしてもう
この爪も何も彼も
一体だれが作ったの
------------------
07.魔女とマシーン feat.唄音ウタ,重音テト
欠いた脳
どうでもいいけど
書いたの
どいつも思うこと
こうしよう
愛した本能で殺せよ
生まれたみたいにね
生きることしかできずに
言い切ることもできずに
息吸うことで傷に癒える術をあげる
雪は太陽ですぐに行ける空に
あたし、言えなかったんだ 気づく
あなたは泣けるから
(ああ、空は遠くなる。夢の通りだ。
なんで飛べない?怖いのさ、本当は。
それは遠く鳴る夢の終わりだ。
言葉が出ない。怖いのさ、地面が。)
飛べない人間
彼氏もいません
重ねるバースデー
枯れ死にそうです
少女は永遠じゃないと知って
30歳なんてすぐだぜ
ハイヒール鳴らして空になろう!
いっそ流星になりたい
いっそ死んでしまいたい
(あたしの価値、あたしの勝ち、あたしたち似たもの同士)
生きることしかできずに
言い切ることもできずに
粋がると泣けずに
言えることもないわ
それが本性とすぐにわかるはずだったのに
聞けなかったんだ、意味を
あなたが全てだわ
(ああ、空は遠くなる。夢の終わりだ。
なんで言えない?怖いのさ、本当は。
それは遠く鳴る夢の終わりだ。
夢が覚めない。怖いのさ、地面が。)
------------------
08.赤い子 feat.桃音モモ
愛から醒めたように赤子は泣き出した
愛からできたのに赤子は証だった
消えないよ
酒を呑んだ ママがぶった
頬に引いた 線を切った
3時で雨は止んでだれかは走り出した
惨事はいつもどおり遅めで顔を出した
酔いから醒めたようにだれかは首を吊った
愛した人に全部持って行かれたそうだ
永遠を探して
延々と続く街を行け
えんえんと泣く赤子を抱いて
愛とか声は目に見えないから嫌だ
まるでとっくに雨は止んでいるのに
傘をさして歩いている人みたいだ
気づかなければなんも悲しくないのよ
季節が変わるたんび泣いてるよ
酒のせいにして言いたかった
酒を飲んだけど酔えなかった
永遠なんてないぜ
年々老いる母の肉食べて
健全に育つ赤子を抱いて
酒を飲んだ
運命を探して
点々と浮かぶ泡に触れて
運命なんてないぜ
瞬間に消える命飛んで
永遠なんてない
運命だってない
けど信じてないと生きていけない
笑えよ ロマンチストだって
眠れないディスコナイト舞ってる
あの時代はもう来ない
だから明日も働け凡人万々歳
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09.Falling apple feat.重音テト
別れ話のさわれそうなとこ
きみの拳と
あたしの涙、だけ
風と重力のさわれそうなとこ
落ちる林檎を見てる、誰かと
現象のない桃源郷
感情はどこから来たの?
想像しようよ桃源郷
ねえきみはなにを思ったの?
現状脳内桃源郷
生命はどこから来たの?
妄想使用外桃源郷
ねえあたしのなにがわかるの?
さわれないものはすべてが嘘なのか?
さわれないものはすべてが虚像なの?
トプ画の自撮りも
囁いた言葉も
風も重力も
言い訳のような数字があるの
前近代の桃源郷
あたしの手 ふれていいよ
因果関係の実証
ねえきみになにがわかるの?
統計の言う数値上
きみの手は誰のもの?
西洋文明の結晶
ねえあたしのなにがわかるの?
みんな知らない自分の在りか
------------------
10.あの人 feat.唄音ウタ
過去は
歳月の記憶と
カレンダーの薄い青
にしか過ぎないの
だからもう
あの人を思い出すのはやめた
夢でしか会えない人よりも
記憶でしかない過去よりも
匂いのある、色のある今と
予定のある明日を生きていたい
------------------
11.ゴースト feat.唄音ウタ
ひとりで帰り道歩く
誰かにつけられてるような?
すれ違う棒人間曰く
あなたがここにいた夜は
ひとりでに扉が開く
そんなにあたしに会いたいの?
ひとりでにガラスが割れる
そんなにあたしの気を引きたいの?
合わせ鏡の向こう
あたしの心をあなたが貫いた心霊現象
抱きしめようと手を伸ばしすり抜けてく
かなわないの?
触れたいのに
「最後までそれを望み、あなたが奇跡を待つならいいけど。
その永遠を欲しがるなら、あたしが全てを捨ててもいいのよ。」
kill me,kissme,おやすみ
------------------
12.Mosquitone Remix feat.桃音モモ
どうしてよ
あたしを知らないように
大きな目を逸らすのやめて
なんでよ
あの日を知らないように
笑って 笑って
あなたが羽ばたいた瞬いたまだ泣いたあたし連れて
逃げたいな溶けたいな消えたいなあなた連れて
まだ無いのわかんないの待てないのあたしズレて
あなたが羽ばたいた駆け出したまだ泣いたあたし連れて
逃げたいの?溶けたいの?消えたいの!あなた連れて
まだ無いよわかんないもん待てないのあたし触れて
…いつまで見てるの?
聞こえないあーあー
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13.竜の落とし子 feat.櫻歌アリス
雨は降るための理由を探している
嫌な予感が鼻を打てば
空を見上る
かつて私の涙だった水の礫よ
おかえり
乾燥肌のあなたへ
缶コーヒーを投げつけて
感情論は干からびて
関係ないことばかり言って
また
乾燥肌のあなたへ
缶コーヒーを投げつけて
感情論は干からびて
関係ないことで泣いて
さあ私の頬へ戻っておいで
(ねえ私の方へ戻っておいで)
------------------
14.シーズンオフ feat.重音テト
去るときは告げてくれとあれほど言っただろう
気づいたらもうどこにもいないの
過ぎたあの夏のように
見捨てるようにすぐ安売り
しがみつくようにあたしは買った白いセーター
過ぎ去るよりこのままがいい
��増のタクシー、あいつを追って
見えなくなるまで
抜くときは告げてくれとあれほど言っただろう
だけど彼はまた無言で果てては過ぎ去るだけ
死ぬときもこんなふうに逝ってしまうのだろう
気づいたらもう空が陰って
不意にいなくなるのかなシーズン
それでもいいの3人目
あなたのチューで吸いこんで
どこから来たの生態系
どこかへ行くよ抱きしめて
いくときは言ってくれと、あなたがそう言うの
あたしはまだわかってないよ
なぜ過ぎねばならないのシーズン
どこへいくの
どこからきたの
なにをするの
なにになるの
何も彼もそう
いつ死ぬかも
わからないけど
ここにいるよ
(なにか言ってよ
シーズン、ダーリン、ベイビー、バージン)
------------------
15.雨雨雨 feat.重音テト
あめ、アメ、飴、ame
降れよ、雨
彼が覚えてた場所
どこだろう
傘が折れてもいいの
走るよ
雨が鞭打つあたしの神経網
冷えたとこから腐るよ
心身症
やまないで
(脈打つ血管の中の感情論
浮かぶプランクトン)
やめないで
(ラメで描く涙の塩分濃度
嘘でもいいの)
雨はどこから来るの
水平線?
飴の色を知りたいの
吐き出して
雨が鞭打つ地面のアスファルト
夢で見たように光るよ
カーライト
病んで
(雨請う中央線、あたしを見て
はみ出す黄色い線)
晴れないで
(枯れてる噴水の影を踏むよ
いつか悔やんでよ)
------------------
16.散る散る満ちる feat.櫻歌アリス
蕾の中はぐちゃぐちゃのまま
青い小鳥が啄んだ空
咲いたならこれで最後でしょう
開花する時期を選べず
授かった種子が実悶える
簡単に繰りかえさないで
あなたの翼で
この種を
遠くへと持って行ってくれ
腰から下の根が重たくって
どこにも行けないんだ
あなたになりたくて
生まれ変わろうとしたって
散ることしかできなくて
あたしのスカートの中に
赤い花が咲く 赤い花が咲く 赤い花が咲く
そして腐りゆく
散る散る満ちる
この血はいつまでも赤くいられない
殴たれた頬が染まっては
夕焼けがやがて夜になる道理と同じで
いつかあなたのことを嫌いになる
それまででいいからどうか
すべてに嘘をついてください
季節は巡る
散る散る満ちる
------------------
17.シンデレラコンプレックス
珍しい目覚まし
今朝はファンデーションがないので
新しいあたしにしては不安でしょうがないのです
アイラインいらない
あたし女だからなんなのよ
悲しい寂しい、厚く塗って隠した本心
ファンデーションがない
不安でしょうがない
靴がない
下らない螺旋状の愛とファンタジー
駆け出して裸足
ありのまんまは放送禁止
不感症治らない
不完全少女じゃない
ファンレターいらない
不安定感やばい
ファンデーションがない
不安でしょうがない
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18.ソメイヨシノ feat.桃音モモ
ソメイヨシノが春に一斉に咲くのは
長すぎた冬の寒さを恨んでいるから
ソメイヨシノが街にたくさんあるのは
あの春がもう来ないと知っているから
咲け 叫ぶぜ
さあ芸術をして
咲け 酒飲め
さあ警察から逃げて
咲け
さあ今朝の夢を語ろう
ソメイヨシノの種子は芽吹かないから
涙を拭かず歩く
夜の桜並木
------------------
19.サクラナク feat.唄音ウタ
鳥の子
風 影 追い駆け
瞳と髪 指 口 桜
鳥の子
雨 声 車
取り残された道路で遡る思い出 笑顔
巻き戻せない花びら
ひとりの帰り道
暮れた瞳を塗りつぶす群青
掘り起こすあの日の言葉
忘れそう あなたの声を
あぁ!待って!まだ言えてないことがあるの
立っていたあなたは気づいた
桜が舞って余ることなく
そう、あたしのように泣いて散るのでしょう
鳥の子 風抜けるまま
あなたのいない道路で
それでも待っていた笑顔、やり直せない季節
時が経って
まだやれてないことばかりだ
なんであのとき言えなかった
さぁ立って!まだやれてないことがあるのでしょう
あぁ!黙って!まだ言えてないことがあるの
歌って声はカタチになんない
桜が舞って止まらない涙
言葉は余って なにも言えないまま
これでいいのかな、さようなら
------------------
20.改札バイバイ feat.桃音モモ
目が覚める老婆
むかしの夢を見ていた
思い出す10代
すべて昨日のようだった
知りすぎたんだ女の子というにはもう
似合わなくなったひらひらの真白なスカート
あなたが言った
「果たして愛はあったのか?」
わからないまんま、目を逸らすようにキスをした
覚めたらまた見たくなる
悪い夢でもいいの
寝がえりぐらいで覚める夢
そんな恋でよかったの?
必ず朝がきて冷める酒
そんな恋でよかったの?
それでも確かに見てた夢
いまは忘れそうだよ
過ぎる人々がまるで風
どこへ行くのだろう
きっとこのまま捻くれる
見る/見れぬもなく日は暮れる
そっとこのまま皮肉れる
見ぬ/見えるもなく日は暮れる
上智早慶 女子高生
大志を抱け処女童貞
そんなものでしか見出せねえ
あたしの価値はなんだっけ
寂しさばっかかんじるようになったんだ
許せ缶チューハイ
飲み込め2粒 鎮痛剤
寝がえりぐらいで夢が覚める
そんな恋でもいいの
必ず朝が来て酔いが醒める
そんな恋でもいいの
佇む少女の頃の影
いまはどこにいるんだろう
さよなら 手を振り消えてゆく
改札を抜けて
なにから逃げてた?
迫る歳月か?
どこから逃げてた?
母の愛からか?
東京から逃げ帰る人々
さぞかし家は素敵なんでしょう
東京は逃げられてからっぽ
この街はたぶんもともとからっぽ
下りばかりが満員御礼
帰ればひとりでチューハイフライデー
キスしたことないフリはしないで
あとは下るだけ そうこの人生
駆け込む刹那に思い馳せる改札前のキス
------------------
21.show you feat.唄音ウタ
醤油 垂らす 夜空 ひとつぶ
とろとろ走って
とろろをかけて完成
これを食べれば眠れるだろうか
夜は長いのに
日々は早すぎて
歳さえ忘れてしまいそうだ
------------------
22.運命は? feat.重音テト
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
バナナでもいいのかもしれない
飴でもいいのかもしれない
さみしいきもち
金木犀にのって
ひとりとひとり
秋の夜長をゆく
流れ星のように
東海道にそって
さみしいふたり
鉄の中でゆれる
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
たまたまあなたがそこにいた
これでも運命と呼べるの?
だれでもいいのかもしれない
なんでもいいのかもしれない
それでもあなたを選んだの
これを運命と呼びましょう
なんでもするわあなたになら
どこへでもいくわあなたとなら
わたしは夜が好きだから
このまま遠くへ逃げよう
(もう遠くへ
ああ、もっと奥へ
もうとっくに
ああ、もっと奥に)
------------------
23.自我は何ゴミ? feat.桃音モモ
ああ そんなにわたしの夢が欲しいか
くれてやるよ あげたいよ
ああ そんなにわたしのことが憎いか
別にいいよ 構わないよ
ああ こんなにわたしの夢が肥大化
持て余して 溢れ出して
ああ どんなにわたしのことを恨んだって
死にきれない 愛は取れない 油汚れのように
ああ そんなにわたしのことが欲しいか
くれてやるよ いらないもん
ああ どんなに世界が正しいとしたって
知らないよ わたしだもん
鳥の翼を捥ぐように
わたしの自我を削いでくれ
百合のおしべを取るように
脇毛を剃って出かけます
(ビニール袋に入れた自我の声)
------------------
24.永遠の16歳
キーボードは涙で壊れた
昨日から文字では話せない
どうしよ できれば殺して
少女のまんまで歌いたいから
でも少女の漫画は燃やした
少女のまんまじゃいられない
当社の予定はお嫁さん
現在片手にスマホ持って
ただ立ち尽くしてる
腐る街
降り注いでる傘の上
音は消え
また鳴る天
もう少女じゃないから許しちゃくれないよ
でも少女でいいなら化粧もいらないよ
ああ将来の夢は趣味で終わりそう
まあ正直ギリギリ生きてる
夏休みを待って
道路は涙で濡らした
土曜日は起きても予定ない
電波がなくては話せない
少女のまんまでいられるんなら
蝶々が飛んでる
なりたくて捕まえた
でも少女でいるには知りすぎたのよ
生涯かけてた恋も終わりそう
ああ勝敗なんてもういいの
あなたのこと待って
ああもう着れない白いワンピース
代わりに鳴らす高いハイヒール
------------------
25.ババアが抱えるシークレット
知らなかったんだ
こんなに痛いだなんて
知りたかったのは
見える愛の色
知りたがったんだ
なにが出るのか
この道の奥まで行く覚悟 決めていて
止まない 止まない雨も
あまりに早すぎる日々も
なにもかもを忘れて生きるしかないの
けれど知らない 知らないことや
まだ見ぬ先の未来も
忘れたくないよ
知らなかったんだ こんなに早いだなんて
この日々の果てまで
あなたと駆け抜けて
アナタノナラバ ユルセルカモナ
アナタトナラバドコデモイケルワ
------------------
26.玉なしの銃 feat.重音テト
あなたのまねをして
銃をつきつけた
愛してる と言わせるために
あなたはこう言った
お前は愛してないのか?
助けてくれ 女神���ろ?
雲が流れる間に
鳥がさえずるように
生き物の呪いを
悲しく教えてくれ
銃のような言葉で打たれたのは心のみ��らず
銃のような身体で貫かれた少女の身はあらず
身体を破る穴
スカートをはくと寒い
心に空いた穴
火照るなら武器を持て
銃にさえ優しく
女神のように抱きしめろってこと?
12時で悟るわ
あなたの愛はまるで脅すだけね
あたしも銃を持つわ
あなたより、太くて大きい
女らしくなくてもいいの
------------------
27.旬を決めたのは誰だ feat.重音テト
生まれ、消えてくのが使命だから仕方ない
花びらが土になるも理、仕方ない
冬が終わり春が来るよ、それを待てばいい
夢が終わり朝が来るも自明、起きなさい
剥けど剥けどなにも見つけられずネギを食う
生まれ生まれ、なにも意味がないと言われてるようだ
------------------
28.永遠は? feat.雪歌ユフ
ああ
どこかにあるのなら あなたを連れ出すわ
野外 都内 未来 どこかに
ああ
ちぎれる雲のなか なにかを諦めた
いない なにもないふたりは弁明した
泣き出すロンリーガイ
生命体である以上あなたと体内外
手繋いでも境界線
それでも永遠はどこかにあるの と
ふたりで弁明して
ないとわかった上で
言葉もなくていい
身体もなくていいのに
制服もなくていい
教科書もなくていいのに
それじゃダメらしい
それじゃダメらしいのだ
もっと簡単でいい
もっとシンプルでいいのに
いらない論理以外
最難関に行くんでしょ
見兼ねた大先輩 諂いでも正方形
それでも数学は嘘をつかない、と
あなたは証明して
ないとわかった上で
駆け出すロンリーガイ
生命体なぼくらに課された細胞膜
隔たれた外界へあなたとフォーリンラブ
共同体になろうとした
ふたりの懸命な試みを笑うなよ
永遠がないならこうするしかないだろ
------------------
29.美しい嘘 feat.重音テト
(きみのせいだXXX)
吐くものはないのに
出てきたこれはなんだろう
履く靴もないのに出て行った
あなたを見ていた
正しくて汚い真実が
見辛くて認めたくなくて
誤ってて美しい嘘を
信じたくて傷つけたきみのせい
(それでいいの きみのせい)
------------------
30.初夢 feat.唄音ウタ
きみが好きなものも愛せたらよかったのに
知りすぎたことを許してくれた時のように
日々は「あ」と言う間もくれず過ぎるけど過ぎるけど過ぎるけど
意味のない言葉も愛せたらよかったのに
あたしの全てを抱きしめるような雨粒に
わからない言葉を愛すすべを聞くも
ただ降るだけ
濡れるだけ
「お前は夢を見ているのだ、今すぐ目を覚ませよ馬鹿」
みたいに降る 雨が降る
日々がまるで夢を見ているように過ぎても
切りすぎた髪は止まんないまま明日は来る
きみのないあたしを愛すすべを聞くも
ただ在るだけ
伸びるだけ
きみが好きなものも愛せたらよかったのに!
長い夢を見ているんだ
幻なのかもわからない日々はどこに行くんだろう
もしくはどこにもないのか?
------------------
31.タール feat.雪歌ユフ
ヤニにまみれて
部屋で液体と化す
闇に紛れて
燃え尽きるのを待った
黄ばんだカーテン
あんなに綺麗だったのに
黄ばんだ肺へ
もう元には戻れないのが
悲しいわけじゃない、煙がしみただけ
ヤニにまみれて
ママには嫌われた
闇に紛れて
少し家出をしようぜ
網にからまって
自虐がやめられない
間にに間に合って
吸い尽くしたら行った
黄ばんだ思い出
ああなぜうまく思い出せない
地盤が緩んで
もう過去には戻れないのに
黄ばんだ歯で笑ってみたのだけど
自分がまるでもう別の誰かみたいだな
最初に吸った日のことは
今でもよく覚えてるんだ
でもこれ何箱目だか
誰にもわかんないけどな
そうさわたしは薄情さ
回数が増えれば当たり前か
忘れてしまうぐらいに
一緒にいたってことかな
黄ばんだカーテン
黄ばんだ肺へ
黄ばんだ思い出
黄ばんだ歯で
悲しいわけじゃない、煙がしみただけ
------------------
ご視聴いただきありがとうございました。
tamaGOより
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ジグシアターの2022年第一弾は、太田光海監督の『カナルタ 螺旋状の夢』と小田香監督の『セノーテ』を同期間に上映します!
【予約フォーム】
【上映期間】 2022年2月26日(土)27日(日) 3月4日(金)5日(土)6日(日)7日(月) 【上映時間】 『カナルタ』121分(2時間01分) 『セノーテ』75分(1時間15分) 各回30分前に開場します
【料金】 一般・シニア 1,800円 25歳以下 1,300円
あるインタビュー(※)の中で太田光海監督が、近代社会の人たちに対してシュアール族の人たちは「世界からの疎外の感覚が薄いのではないか」と話していた。
19世紀の産業革命以後、機械化・分業化・管理化によって人間の働きがその人間の生活から遠く離れてしまった状況を、マルクスは「疎外」という言葉で表している。
そして、その感覚は私たちの日常に転がっている。深夜のコンビニに缶ビールとポテチを買いに行く時、蛇口をひねれば温かいお湯が出てくる時、地球の反対側で作られた音楽をサブスクでチェックする時。自分の暮らしの中に当たり前にあるのに、そこに関わった人の仕事の過程を想像することができない。実感のなさ。手応えのなさ。
太田光海監督が撮った『カナルタ』はエクアドル南部アマゾンの熱帯雨林、小田香監督が撮った『セノーテ』はメキシコユカタン半島北部に点在する洞窟内の泉を映している。そのどちらもが「世界からの疎外」に対峙した作品のように思える。
そこにあるのは自らの身体で試すこと。
カメラを持ってその土地に分け入り、そこで暮らす人と交わり、撮影という行為とその後の編集という作業を通して、気が遠くなるほどに他者の記憶や風土を知ること、感じること、わかれないこと。
それは、既存のドキュメンタリーやフィクションというジャンル区分からは逸脱し、「ドキュメンタリーは何かを知るためのもの」「フィクションは物語りを楽しむためのもの」といったような枠組みを宙吊りにしてしまう。
安心できる決まりも指針もなく、どこか頼りなく疑わしげでもある。アマゾンの森の中で足元はぐらつき、メキシコの水中では前後左右も定かでなく浮遊する。バランスを失い、見通しが悪い。
しかし、全身の感覚を研ぎ澄まして味わうこの体験や徒労に居心地の良さも感じる。
つまりは我々の、世界からの疎外感をできるだけ薄くするために。
※2021.12.18 尹雄大 公開インタビューセッション vol.10
『カナルタ 螺旋状の夢』 公式イントロダクション
セバスティアンとパストーラは、エクアドル南部アマゾン熱帯雨林に住むシュアール族。かつて首狩り族として恐れられたシュアール族は、スペインによる植民地化後も武力征服されたことがない民族として知られる。口噛み酒を飲み交わしながら日々森に分け入り、生活の糧を得る一方で、彼らはアヤワスカをはじめとする覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や、自ら発見した薬草によって、柔軟に世界を把握していく。変化し続ける森との関係の中で、自己の存在を新たに紡ぎだしながら。しかし、ある日彼らに試練が訪れる...。
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https://akimiota.net/Kanarta-1
2020年/イギリス・日本/シュアール語・スペイン語/121分 監督・撮影・録音・編集:太田光海 サウンドデザイン:マーティン・サロモンセン カラーグレーディング:アリーヌ・ビズ 出演:セバスティアン・ツァマライン、パストーラ・タンチーマ 制作協力:マンチェスター大学グラナダ映像人類学センター
配給:トケスタジオ
『セノーテ』 公式イントロダクション
メキシコの泉セノーテをめぐる神秘の旅 カメラは浮遊する 失われた光と記憶を呼び戻すために
メキシコ、ユカタン半島北部に点在する、セノーテと呼ばれる洞窟内の泉。 セノーテはかつてマヤ文明の時代、唯一の水源であり雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられ��場所でもあった。現在もマヤにルーツを持つ人々がこの泉の近辺に暮らしている。現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。そこに流れるのは「精霊の声」、「マヤ演劇のセリフテキスト」など、マヤの人たちによって伝えられてきた言葉の数々。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。
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http://aragane-film.info/cenote/
2019年/メキシコ・日本/マヤ語・スペイン語/75分
監督・撮影・編集:小田香 現場録音:アウグスト・カスティーリョ・アンコナ 整音:長崎隼人 現地オーガナイザー:マルタ・エルナイズ・ピダル 声の出演:アラセリ・デル・ロサリオ・チュリム・トゥム、 フォアン・デ・ラ・ロサ・ミンバイ 企画:愛知芸術文化センター、シネ・ヴェンダバル、フィールドレイン 制作:愛知県美術館 エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司 プロデューサー:マルタ・エルナイズ・ピダル、ホルヘ・ボラド、小田香 配給:スリーピン
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[ 祖母がコロナで死にました ]何の因果でしょうか。私の埼玉の祖母がコロナで死にました。1/9の22時39分、埼玉の病院から電話が来ました。91歳でした。もともと祖母は3年前から人工透析を続け、去年の11月から下血が始まり、食事も取れないので点滴で栄養補給し、医師からは「あと1〜2ヶ月持つかどうか...年越しは出来ないと思っておいて」と告げられていました。そして、病院内で新型コロナ陽性者が出て、私の祖母も12/30にPCR検査で陽性と出たが、無症状でした。ところが1/8の夜に容体が悪化し、1/9の夜に死亡。咳き込んだり、発熱したりせず、安らかに眠るように死んだそうです。しかしなぜか、死亡診断書には、"死因はコロナ"と書かれたそうです。正直、優しかったばあちゃんが死んだ悲しみと同時に、、、激しい怒りが湧きました。もともと祖母は、「年を越せないかも知れない」と言われていたのです。透析中の91歳、会話不可、食事不可、下血もありもういつ死んでもおかしくない状況。コロナではなく、ただの風邪でもインフルエンザでも死んでいたでしょう。水を飲ませて"むせただけ"で死んでもおかしくない状態です。これを「コロナで死んだ」というのですか?今巷で報道されている「無症状だったのに急激に容体が悪化し急死した!!」ってやつ、これですか。私は今までに2人、身近な者を自殺で亡くしてます。2人とも40代以下です。今回のコロナ禍の影響で自殺した者も多くいると報道されています。実際に去年の緊急事態宣言以降、自殺者は増えています。私の祖母のような状態の者を1日でも長く生かすために、若者が失業したり、事業者が廃業したり、皆がステイホームしたり、甲子園が中止になったり、子供が修学旅行に行けなくなったり、、、追い詰められて首を吊るなんておかしい。若者は精一杯働き、精一杯遊べばいい。生きる喜びを謳歌すればいいじゃないですか。高齢者を守ろう??守るべきは未来ある若者の命だろう。国を支える働き手の「日々の生活」だろう。ふざけた綺麗事を抜かすな、と言いたい。守るモノが違うだろう、と。風邪で死ぬということは、それはもう寿命です。「風邪を引いたら死ぬ」くらい弱っている者です。人間として、生き物として、紛れもなくそれは「寿命」でしょう。江戸時代の平均寿命は40歳前後だったそうです。「長生きするには」ではなく、「いつ死んでもいいような生き方を日頃からする」にフォーカスすべきだと私は思う。4680人、コロナで亡くなってます。(2021年1/20時点)日本のコロナ死者の平均年齢は79歳です。ほとんどが私の祖母のような、「次に風邪を引いたら死ぬくらい弱っている人」ではないでしょうか。『コロナが恐ろしいウイルス』なのではなく、『弱っている高齢者にとっては、風邪やインフルエンザは脅威』なのです。もともと。勘違い甚だしい報道に感化された、勘違い甚だしい世論が、経済を、つまり人を殺しています。日本小児科医会は、「新型コロナは子供にとっては風邪以下」と明言しています。日本では子供は1人もコロナで死んでません。もう十分データが出ています。厚労省に、「なぜ本当の死因がコロナではないのに、PCR陽性者が死んだ場合は"死因はコロナ"と報告しろと自治体に周知したのか?」と電話で聞いたところ、『一度、コロナ陽性者の"死亡の全数"を把握し、その後「正確なコロナ死者数」を割り出すために、一旦"厳密な死因は問わず全てコロナ死と報告しなさい"と指示を出した』とのことでした。いつになったら、本当のコロナ死者数が発表されるのでしょうか。この電話を厚労省にしたのは去年です。「コロナで死んだ」ということになっている4680人のうち、一体何人が本当にコロナ死なのか。なぜ未だ"本当の死者数"を発表しないのか。したくないのか。もしくは出来ないのか。癌で死んでも、脳梗塞で死んでも、PCR陽性なら「コロナで死んだ」ことにしているそうです。そんなカウントの仕方でも、未だコロナ死者は5000人以下なのです。インフルエンザでは毎年1万人前後亡くなります。肺炎球菌ウイルスでも3万人前後亡くなります。新コロ程度の死者数で、国民に自粛しろと?それによって働き手世代を何人殺すんだ?何をやってるんだ一体。休業補償や時短協力金だって、今後税金として国民が負担していくのです。自分の子供達の代まで背負わせるのです。何十兆円も。去年も書きましたが、もう一度改めて書きます。今回、より多くの人間を殺すのは、ウイルスではなく世論です。病院、厚労省、看病をした叔母、全て確認が取れたのでここに記録します。2021.1.21※何を根拠に死亡診断書にコロナ死と書いたのかについては追及しませんでした。だいたい理由は分かるし、祖母が世話になった病院を責める気持ちはなかったので。
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【小説】The day I say good-bye (3/4)【再録】
(2/4)はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/647000556094849024/)
「あー、もー、やんなっちゃうよなー」
河野帆高はシャーペンをノートの上に投げ出しながらそう言って、後ろに大きく伸びをした。
「だいたいさー、宿題とか課題って意味がわからないんだよねー。勉強って自分のためにするもんじゃーん。先生に提出するためじゃないじゃーん。ちゃんと勉強してれば宿題なんて出さなくてもいいじゃーん」
「いや、よくないと思う」
「つーか何この問題集。分厚いくせにわかりにくい問題ばっか載せてさー。勉強すんのは俺らなんだから、問題集くらい選ばせてくれたっていーじゃんね」
「そんなこと言われても……」
僕の前には一冊の問題集があった。
夏休みの宿題として課されていたものだ。その大半は解答欄が未だ空白のまま。言うまでもないが、僕のものではない。帆高のものだ。どういう訳か僕は、やつの問題集を解いている。
その帆高はというと、また別の問題集をさっきまでせっせと解いていた。そっちは先日のテストが終わったら提出するはずだったものだ。毎回、テスト範囲だったページの問題を全て解いて、テスト後に提出するのが決まりなのだ。帆高はかかとを踏み潰して上履きを履いている両足をばたつかせ、子供みたいに駄々をこねている。
「ちゃんと期限までにこつこつやっていればこんなことには……」
「しぬー」
「…………」
つい三十分前のことだ。放課後、さっさと帰ろうと教室で荷物をまとめていた僕のところに、帆高は解答欄が真っ白なままの問題集を七冊も抱えてやってきた。激しく嫌な予感がしたが、僕は逃げきれずやつに捕らえられてしまった。さすが、毎日バスケに勤しんでいる人間は、同じ昼休みを昼寝で過ごす僕とは俊敏さが違う。
帆高は夏休みの課題を何ひとつやっていなかった。テスト後に提出する課題も、だ。そのことを教師に叱責され、全ての課題を提出するまで、昼休みのバスケ禁止令と来月の文化祭参加禁止令が出されたのだという。
それに困った帆高はようやく課題に着手しようと決意したらしいが、僕はそこに巻き込まれたという訳だ。一体どうして僕なのだろうか。そんな帆高だが、この間のテストでは学年三位の成績だというので、教師が激怒するのもわかるような気がする。
「…………どうして、保健室で勉強してるの」
ベッドを覆うカーテンの隙間から頭の先を覗かせてそう訊いてきたのは、河野ミナモだった。帆高とは同じ屋根の下で暮らすはとこ同士だというが、先程から全くやつの方を見ようとしていない。
そう、ここは保健室だ。養護教諭は今日も席を外している。並んだベッドで休んでいるのは保健室登校児のミナモだけだ。
「教室は文化祭の準備で忙しくて追い出されてさ。あ、ミナモ、俺にも夏休みの絵、描いてよ。なんでもいいからさ」
帆高は鞄からひしゃげて折れ曲がった白紙の画用紙を取り出すと、ミナモへ手渡す。ミナモはしばらく黙っていたが、やがて帆高の方を見もしないまま、画用紙をひったくるように取るとカーテンの内側へと消えた。
帆高が僕の耳元で囁く。
「こないだ、あんたと仲良くなったって話をしたら、少しは俺と向き合ってくれるようになったんだ。ミナモ、あんたのことは結構信頼してるんだな」
へぇ、そうだったのか。僕がベッドへ目を向けた時、ミナモは既にカーテンを閉め切ってその中に閉じこもってしまっていた。耳を澄ませれば鉛筆を走らせる音が微かに聞こえてくる。
「そう言えば、あんたのクラスは文化祭で何やんのー?」
「なんだったかな……確か、男女逆転メイド・執事喫茶?」
「はー? まじでー?」
帆高はけらけらと笑った。
「男女逆転ってことは、あんたもメイド服とか着る訳?」
「……そういうことなんじゃない?」
「うひゃー、そりゃ見物だなーっ!」
「あんたのとこは?」
「俺のとこはお化け屋敷」
それはまた無難なところだな。こいつはお化けの恰好が似合いそうだ、と考えていると、
「そういやさ、クラスで思い出したんだけど、」
と帆高は言った。
「あんたのとこ、クラスでいじめとかあったりする?」
「さぁ、どうだろ……。僕はよく知らないけど」
いじめ、と聞いて思い出すのは、あーちゃんのこと、ひーちゃんのこと。
「なんか三組やばいみたいでさー。クラスメイト全員から無視されてる子がいるんだってさ」
「ふうん」
「興味なさそうだなー」
「興味ないなぁ」
他人の心配をする余裕が、僕にはないのだから仕方ない。
そうだ、僕はいつだって、自分のことで精いっぱいだった。
「透明人間になったこと、ある?」
あの最後の冬、あーちゃんはそう僕に尋ねた。
あーちゃんは部屋の窓から、遠い空を見上げていた。ここじゃないどこかを見つめていた。どこか遠くを、見つめていた。蛍光灯の光が眼鏡のレンズに反射して、その目元は見えなかったけれど、彼はあの時、泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
僕はその時、彼が発した言葉の意味がわからなかった。わかろうともしなかった。その言葉の本当の意味を知ったのは、あーちゃんが死んだ後のことだ。
僕は考えなかったのだ。声を上げて笑うことも、大きな声で怒ることも、人前で泣くこともなかった、口数の少ない、いつも無表情の、僕の大事な友人が、何を考え、何を思っていたのか、考えようともしなかった。
透明人間という、あの言葉が、あーちゃんが最後に、僕へ伸ばした手だった。
あーちゃんの、誰にも理解されない寂しさだった。
「――くん? 鉛筆止まってますよ?」
名前を呼ばれた気がして、はっとした。
いけない、やつの前で物思いにふけってしまった。
「ぼーっとして、どした? その問題わかんないなら、飛ばしてもいいよ」
いつの間にか帆高は問題集を解く作業を再開していた。流れるような筆致で数式が解き明かされていく。さすが、学年三位の優等生だ。問題を解くスピードが僕とは全然違う。
「……この問題集、あんたのなんだけどね」
僕がそう言うと帆高はまたけらけらと笑ったので、僕は溜め息をついてみせた。
「最近はどうだい? 少年」
相談室の椅子にふんぞり返るように腰を降ろし、長い脚を大胆に組んで、日褄先生は僕を見ていた。
「担任の先生に聞いたよ」
彼女はにやりと笑った。
「少年のクラス、文化祭で男がメイド服を着るんだろう?」
「…………」
僕は担任の顔を思い浮かべ、どうして一番知られてはいけない人間にこの話をしたのだろうかと呪った。
「少年ももちろん着るんだろ? メイド服」
「…………」
「最近の中学生は面白いこと考えるなぁ。男女逆転メイド・執事喫茶って」
「…………」
「ちゃんとカメラ用意しないとなー」
「…………先生、」
「せんせーって呼ぶなっつってんだろ」
「カウンセリングして下さい」
「なに、なんか話したいことあるの?」
「いや、ないですけど」
「じゃあ、いーじゃん」
「真面目に仕事して下さい」
そもそも、今日は日褄先生の方から、カウンセリングに来いと呼び出してきたのだ。てっきり何か僕に話したいことがあるのかと思っていたのに、ただの雑談の相手が欲しかっただけなんだろうか。
「昨日は市野谷んち行ってきた」
「そうですか」
「久しぶりに会ったよ、あの子に」
僕は床を見つめていた目線を、日褄先生に向けた。彼女は真剣な表情をしている。
「……会ったんですか、ひーちゃんに」
日褄先生のことを嫌い、その名を耳にすることも口にすること嫌い、会うことを拒み続けていた、あのひーちゃんに。
「なーんであの子はあたしを見ると花瓶やら皿やら投げつけてくるのかねぇ」
不思議だ不思議だ、とちっとも不思議に思っていなそうな声で言う。
「あの子は、変わらないね」
ありとあらゆるものが破壊され、時が止まったままの部屋で、二度と帰ってくることのない人を待ち続けているひーちゃん。
「あの子はまるで変わらない。小さい子供と同じだよ。自分の玩具を取り上げられてすねて泣いているのと同じだ」
「……ひーちゃんをそういう風に言わないで下さい」
「どうしてあの子をかばうんだい、少年」
「ひーちゃんにとって、あーちゃんは全てだったんですよ。そのあーちゃんが死んだんです。ショックを受けるのは、当然でしょう」
「違うね」
それは即答だった。ぴしゃりとした声音。
暖かい空気が遮断されたように。ガラス戸が閉められたように。
世界が遮断されたかのように。
世界が否定されたかのように。
「少年はそう思っているのかもしれないが、それは違う。あの子にとって、直正はそんなに大きな存在ではない」
「そんな訳、ないじゃないですか!」
「少年だって、本当はわかっているんだろ?」
「わかりません、そんなこと僕には――」
僕を見る日褄先生の目は、冷たかった。
そうだ。彼女はそうなのだ。相変わらずだ。彼女はカウンセラーには不向きだと思うほど、優しく、そして乱暴だ。
「少年はわかっているはずだ、直正がどうして死んだのか」
「…………先生、」
「せんせーって呼ぶなって」
「僕は、どうすればよかったんですか?」
「少年はよく頑張ったよ」
「そんな言葉で誤魔化さないで下さい、僕はどうすれば、ひーちゃんをあんな風にしなくても、済んだんですか」
忘れられない。いつ会っても空っぽのひーちゃんの表情。彼女が以前のように笑ったり泣いたりするには、どうしても必要な彼はもういない。
「後悔してるの? 直正は死んでないって、嘘をついたこと」
「…………」
「でもね少年、あの子はこれから変わるつもりみたいだよ」
「え……?」
ひーちゃんが、変わる?
「どういう、ことですか……?」
「市野谷が、学校に行くって言い出したんだよ」
「え?」
ひーちゃんが、学校に来る?
あーちゃんが帰って来ないのにどうして学校に通えるの、と尋ねていたひーちゃんが、あーちゃんがいない毎日に怯えていたひーちゃんが、学校に来る?
あーちゃんが死んだこの学校に?
あーちゃんはもう、いないのに?
「今すぐって訳じゃない。入学式さえ来なかったような不登校児がいきなり登校するって言っても、まずは受け入れる体勢を整えてやらないといけない。カウンセラーをもうひとり導入するとかね」
「でも、一体どうして……」
「それはあたしにもわからない。本当に唐突だったからね」
「そんな……」
待つんじゃなかったのか。
あーちゃんが帰って来るまで、ずっと。
ずっとそこで。去年のあの日で。
「あたしは、それがどんな理由であろうとも、あの子にとって良いことになればそれでいいと思うんだよ」
日褄先生はまっすぐ僕を見��いた。脚を組み替えながら、言う。
「少年は、どう思う?」
僕の腕時計の針が止まったのは、半月後に文化祭が迫ってきていた、九月も終わりの頃だった。そしてそれに気付いたのは、僕ではなく、帆高だった。
「ありゃ、時計止まってるじゃん、それ」
「え?」
帆高の課題は未だに終わっておらず、その日も保健室で問題集を広げて向き合っていた。何気なく僕の解答を覗き込んだ帆高が、そう指摘したのだ。
言われて見てみれば、今は放課後だというのに、時計の針は昼休みの時間で止まっていた。ただいつ止まったのかはわからない。僕は普段、その時計の文字盤に注意を向けることがほとんどないのだ。
「電池切れかな」
「そーじゃん? ちょっと貸してみ」
帆高がシャープペンシルを置いて手を差し出してきたので、僕はそっと時計のベルトを外し、その手に乗せる。時計を外した手首の内側がやつに見えないように気を付ける。
黒い、プラスチックの四角い僕の時計。
僕の左手首の傷を隠すための道具。
帆高はペンケースから細いドライバーを取り出すと、文字盤の裏の小さなネジをくるくると器用に外していた。それにしてもどうして、こんな細いドライバーを持ち歩いているんだろうか、こいつは。
「あれ?」
問題集のページの上に転がったネジを、なくさないように消しゴムとシャーペンの間に並べていると、文字盤裏のカバーを外した帆高が妙な声を上げる。
そちらに目をやると、ちょうど何かが宙を舞っているところだった。それは小さな白いものだった。重力に逆らえるはずもなく、ひらひらと落下していく。帆高の手から逃れたそれは、机の上に落ちた。
「なんだこれ」
それは紙切れだった。ほんとうに小さな紙切れだ。時計のカバーの内側に貼り付いていたものらしい。僕はそれを中指で摘まんだ。摘まんで、
「…………え?」
摘まんで、ゴミかと思っていた僕はそれを捨てようと思って、そしてそれに気が付いた。その小さな紙切れには、もっと小さな文字が記されている。
図書室 日本の野生のラン
「……図書室?」
どくん、と。
突然、自分の心臓の鼓動がやけに耳に響いた。なぜか急に息苦しい気分になる。嫌な胸騒ぎがした。
――うーくん、
誰かが僕の名を呼んでいる。
「どうした?」
僕の異変に気付いた帆高が身を乗り出して、僕の指先の紙を見やる。
「……日本の野生のラン?」
――うーくん、
僕のことを呼んでいる。
「なんだこれ? なんかの暗号?」
暗号?
違う、これは暗号じゃない。
これは。
――うーくん、
僕を呼んでいるのは、一体誰だ?
「日本の野生のラン、図書室……」
考えろ。
考えろ考えろ考えろ。
これは一体、どういうことだ?
――うーくん、
知っている。わかっている。これは、恐らく……。
「図書室……」
今になって?
今日になって?
どうしてあの日じゃないんだ。
どうしてあの時じゃないんだ。
これはそう、きっと最後の……。
――うーくん、この時計あげるよ。
「ああ……」
耳鳴り。世界が止まる音。夏のサイレン。蝉しぐれ。揺れる青色は空の色。記憶と思考の回路が全て繋がる。
「あーちゃんだ…………」
「英語の課題をするのに辞書を借りたいので、図書室を利用したいんですけど、鍵を借りていってもいいですかー?」
帆高がそう言うと、職員室にいた教師はたやすく図書室の鍵を貸してくれた。
「そういえば河野くん、まだ宿題提出してないんだって? 担任の先生怒ってたわよ」
通りすがりの他の教師がそう帆高に声をかける。やつは笑って答えなかった。
「じゃー、失礼しましたー」
けらけら笑いながら職員室を出てくると、入口の前で待っていた僕に、「じゃあ行こうぜ」と声をかけて歩き出す。僕はそれを追うように歩く。
「ほんとにそうな訳?」
階段を上りながら、振り返りもせずに帆高が問いかけてくる。
「なにが?」
「ほんとにさっきのメモ、あんたの自殺した友達が書いたもんなの?」
「…………恐らくは」
僕が頷くと、信じられないという声で帆高は言う。
「にしても、なんだよ、『野生の日本のラン』って」
「『日本の野生のラン』だよ」
「どっちも同じだろー」
放課後の校内は文化祭の準備で忙しい。廊下にせり出した各クラスの出し物の準備物やら、ダンボールでできた看板やらを踏まないようにして図書室へと急ぐ。途中、紙とビニール袋で作られたタコの着ぐるみを着た生徒とすれ違った。帆高がそのタコに仲良さげに声をかけているところを見ると、こいつの知り合いらしい。こいつにはタコの友人もいるのか。
この時期の廊下は毎年混沌としている。文化祭の開催時期がハロウィンに近いせいか、クラスの出し物等もハロウィンに感化されている。まるで仮装行列だ。そんな僕も文化祭当日にはクラスの女子が作ってくれたメイド服が待っている。まだタコの方がましだった。
がちゃがちゃ、と乱暴に鍵を回して帆高は図書室の扉を開けてくれた。
閉め切られた図書室の、生ぬるい空気が顔に触れる。埃のにおいがする。それはあーちゃんのにおいに似ていると思った。
「『日本の野生のラン』って、たぶん植物図鑑だろ? 図鑑ならこっちだぜ」
普段あまり図書室を利用しない僕を帆高がひょいひょいと手招きをした。
植物図鑑が並ぶ棚を見る。植物図鑑、野山の樹、雑草図鑑、遊べる草花、四季折々の庭の花、誕生花と花言葉……。
「あっ…………た」
日本の野生のラン。
色褪せてぼろぼろになっている、背表紙の消えかかった題字が僕の目に止まった。恐る恐る取り出す。小口の上に埃が積もっていた。色褪せていたのは日に晒されていた背表紙だけのようで、両側を園芸関係の本に挟まれていた表紙と裏表紙には、名前も知らないランの花の写真が鮮やかな色味のままだった。ぱらぱらとページをめくると、日本に自生しているランが写真付きで紹介されている本。古い本のようだ。ページの端の方が茶色くなっている。
「それがなんだっつーんだ?」
帆高が脇から覗き込む。
「普通の本じゃん」
「うん……」
最初から最後まで何度もページをめくってみるが、特に何かが挟まっていたり、ページに落書きされているようなこともない。本当に普通の本だ。
「なんか挟まっていたとしても、もう抜き取られている可能性もあるぜ」
「うん……」
「にしても、この本がなんなんだ?」
腕時計。止まったままの秒針。切れた電池。小さな紙。残された言葉は、図書室 日本の野生のラン。書いたのはきっと、あーちゃんだ。
――うーくん、この時計あげるよ。
この時計をくれたのはあーちゃんだった。もともとは彼の弟、あっくんのものだったが、彼が気に入らなかったというのであーちゃんが僕に譲ってくれたものだ。
その時彼は言ったのだ、
「使いかけだから、電池はすぐなくなるかもしれない。でもそうしたら、僕が電池を交換してあげる」
と。
恐らくあーちゃんは、僕にこの時計をくれる前、時計の蓋を開け、紙を入れたのだ。こんなところに紙を仕込める人は、彼しかいない。
にしてもどういうことだろう、図書室 日本の野生のラン。この本がなんだと言うのだろう。
てっきりこの本に何か細工でもしてあるのかと思ったけれど、見たところそんな部位もなさそうだ。そもそも、本を大切にしていたあのあーちゃんが、図書室の本にそんなことをするとは思えない。でもどうして、わざわざ図書室の本のことを記したのだろう。図書室……。
「あ……」
図書室と言えば。
「貸出カード……」
本の一番後ろのページを開く。案の定そこには、貸出カードを仕舞うための、紙でできた小さなポケットが付いている。
中にはいかにも古そうな貸出カードが頭を覗かせている。それをそっと手に取って見てみると、そこには貸出記録ではない文字が記してあった。
資料準備室 右上 大学ノート
「……今度は資料準備室ねぇ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、帆高は面倒そうに言う。
「一体、なんだって言うんだよ」
「……さぁ」
「行ってみる?」
「…………うん」
僕は本を棚に戻す。元通り鍵を閉め、僕らは図書室を後にした。
図書室の鍵は後で返せばいいだろ、という帆高の発言に僕も素直に頷いて、職員室には寄らずに、資料準備室へ向かうことにした。
またもや廊下でタコとすれ違った。しかも今度は歩くパイナップルと一緒だ。なんなんだ一体。映画の撮影のためにその恰好をしているらしいが、どんな映画になるのだろう。「戦え! パイナップルマン」と書かれたたすきをかけて、ビデオカメラを持った人たちがタコとパイナップルを追いかけるように速足で移動していった。
「そういえばさ、」
僕は彼らから帆高へ目線を移しながら尋ねた。
「資料準備室、鍵、いるんじゃない?」
「あー」
「借りて来なくていいの?」
「貸して下さいって言って、貸してくれるような場所じゃないだろ」
資料準備室の中には地球儀やら巨大な世界地図やら、あとはなんだかよくわからないものがいろいろ入っている。生徒が利用することはない。教師が利用することもあまりない。半分はただの物置になっているはずだ。そんな部屋に用事があると言ったところで、怪しまれるだけで貸してはくれないだろう。いや、この時期だし、文化祭の準備だと言えば、なんとかなるかもしれないけれど。
「じゃ、どうする気?」
「あんたの友達は、どうやってその部屋に入ったと思う?」
そう言われてみればそうだ。あーちゃんはそんな部屋に、一体何を隠したというのだ。そして、どうやって?
「良いこと教えてやるよ、――くん」
「……なに?」
帆高は僕の名を呼んだのだと思うが、聞き取れなかった。
やつは唇の端を吊り上げて、にやりと笑う。
「資料準備室って、窓の鍵壊れてるんだよ」
「はぁ……」
「だから窓から入れるの」
「資料準備室って、三階……」
「ベランダあんだろ、ベランダ」
三階の廊下、帆高は非常用と書かれた扉を開けた。それは避難訓練の時に利用する、三階の全ての教室のベランダと繋がっている通路に続くドアだ。もちろん、普段は生徒の使用は禁止されている。と思う、たぶん。
「行こうぜ」
帆高が先を行く。僕がそれを追う。
日が傾いてきたこともあり、風が涼しかった。空気の中に、校庭の木に咲いている花のにおいがする。空は赤と青の絵具をパレットでぐちゃぐちゃにしたような色だった。あちこちの教室から、がやがやと文化祭の準備で騒がしい声が聞こえてくる。ベランダを歩いていると、なんだか僕らだけ、違う世界にいるみたいだ。
「よいっ、しょっと」
がたんがたんと立て付きの悪い窓をやや乱暴に開けて、帆高がひょいと資料準備室の中へと入る。僕も窓から侵入する。
「窓、閉めるなよ。万が一開かなくなったらやばいからな」
「わかった」
「さて、資料準備室、右上、大学ノート、だったっけ? 右上、ねぇ……」
資料準備室の中は、物が所せましと置かれていた。大きなスチールの棚から溢れ出した物が床に積み上げられ、壊れた机や椅子が無造作に置かれ、僕らの通り道を邪魔している。どんな物にも等しく埃が降り積もっていて、蜘蛛の巣が縦横無尽に走っている。
「右上っちゃー、なんのことだろうな」
ズボンに埃が付かないか気にしながら、帆高が並べられた机の間を器用にすり抜けた。僕は部屋の中を見回していると、ふと、棚の中に大量のノートらしき物が並べられているのを見つけた。
僕はその棚に苦労して近付き、手を伸ばしてノートを一冊取り出してみる。
「……昭和六十三年度生徒会活動記録」
表紙に油性ペンで書かれた文字を僕が読み上げると、帆高が、
「生徒会の産物か」
と言った。
「右上って、この棚の右上ってことじゃないかな」
「ああ。どうだろうな、ちょっと待ってろ」
帆高は頷くと、一番下の段に足をかけて棚によじ登ると、最上段の右側に置いてあるノートを無造作に二十冊ほど掴んで降ろしてくれた。それを机の上に置くと、埃が空気に舞い上がる。ノートを一冊一冊見ていくと、一冊だけ、表紙に文字の記されていないノートがあった。
「それじゃね?」
棚からぴょんと飛び降りた帆高が言う。
僕はそのノートを手に取り、表紙をめくった。
うーくんへ
たったそれだけの、鉛筆で書かれた、薄い文字。
「……これだ」
次のページをめくる。
うーくんへ
きみがこれを読む頃には、とっくに僕は死んでいるんだろうね。
きみがこのノートを手に取ってくれたということは、僕がきみの時計の中に隠したあのメモを見てくれたということだろう? そして、あの図書室の本を、ちゃんと見つけてくれたということだろう?
きみがメモを見つけた時、どこか遠いところに引っ越していたり、中学校を既に卒業していたらどうしようかと、これを書きながら考えているけれど、それはそれで良いと思う。図書室の本がなくなっていたり、このノートが捨てられてしまったりしていたらどうしようかとも思う。たとえ、今これを読んでいるきみがうーくんではなかったとしても、僕はかまわない。
これでも考えたんだ。他の誰でもなく、きみだけが、このノートを手に取る方法を。
これは僕が生きていたことを確かに証明するノートであり、これから綴るのは僕が残す最後の物語なのだから。
これは、僕のもうひとつの遺書だ。
「もうひとつの、遺書……」
声が震えた。
知らなかった。
あーちゃんがこんなものを残しているなんて知らなかった。
あーちゃんがこんなものを書いているなんて知らなかった。
彼が死んだ時、僕はまだ小学校を卒業したばかりだった。
あーちゃんは僕にメモを仕込んだ腕時計をくれ、それを使い続け、電池が切れたら交換すると信じていた。僕が自分と同じこの中学校に通って、メモを見て図書室を訪れると信じていた。あの古い本が破棄されることなく残っていて、貸出カードの文字がそのままであると信じていた。この部屋が片付けられることなく、窓が壊れたままで、ノートが残っていることを信じていた。
なによりも、僕がまだ、この世界に存在していることを信じていた。
たくさんの未来を信じていたのだ。自分はもう、いない未来を。
「目的の物は、それでいーんだろ?」
帆高の目は、笑っていなかった。
「じゃ、ひとまず帰ろうぜ。俺の英語の課題、まだ終わってない」
それに図書室の鍵も、返さなくちゃいけないし。そう付け加えるように言う。
「それは後でゆっくり読めよ。な?」
「……そうだね」
僕は頷いて、ノートを閉じた。
うーくんへ
きみがこれを読む頃には、とっくに僕は死んでいるんだろうね。
そんな出だしで始まったあーちゃんの遺書は、僕の机の上でその役目を終えている。
僕は自分の部屋のベッドに仰向けに寝転がって、天井ばかりを眺めていた。ついさっきまで、ノートのページをめくり、あーちゃんが残した言葉を読んでいたというのに、今は眠気に支配されている。
ついさっきまで、僕はその言葉を読んで泣いていたというのに。ページをめくる度、心が八つ裂きにされたかのような痛みを、繰り返し繰り返し、感じていたというのに。
ノートを閉じてしまえばなんてことはない、それはただの大学ノートで、そこに並ぶのはただの筆圧の弱い文字だった。それだけだ。そう、それだけ。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ「それだけ」であるという事実だけが、淡々と横たわっている。
事実。現実。本当のこと。本当に起こったこと。もう昔のこと。以前のこと。過去のこと。思い出の中のこと。
あーちゃんはもういない。
どこにもいない。これを書いたあーちゃんはもういない。歴史の教科書に出てくる人たちと同じだ。全部全部、昔のことだ。彼はここにいない。どこにもいない。過去のこと。過去のひと。過去のもの。過去。過去そのもの。もはやただの虚像。幻。夢。嘘。僕がついた、嘘。僕がひーちゃんについた、嘘。あーちゃんは、いない。いない。いないいないいない。
ただそれだけの、事実。
あーちゃんのノートには、生まれ育った故郷の話から始まっていた。
彼が生まれたのは、冬は雪に閉ざされる、北国の田舎。そこに東京から越してきた夫婦の元に生まれた彼は、生まれつき身体が弱かったこともあり、近所の子供たちとは馴染めなかった。
虫捕りも魚釣りもできない生活。外を楽しそうに駆け回るクラスメイトを羨望の眼差しで部屋から見送る毎日。本屋も図書館もない田舎で、外出できないあーちゃんの唯一の救いは、小学校の図書室と父親が買ってくれた図鑑一式。
あーちゃんは昔、ぼろぼろの、表紙が取れかけた図鑑をいつも膝の上に乗せて熱心に眺めていた。破けたページに丁寧に貼られていたテープを思い出す。
学校で友達はできなかった。あーちゃんはいつもひとりで本を読んで過ごした。小学校に上がる以前、入退院を繰り返していた彼は、同年代との付き合い方がわかっていなかった。
きっかけは小さなことだった。
ひとりの活発なクラスメイトの男の子が、ある日あーちゃんに声をかけてきた。
サッカーをする人数が足りず、教室で読書をしていた彼に一緒に遊ばないかと声をかけてきたのだ。
クラスメイトに声をかけられたのは、その時が初めてだった。あーちゃんはなんて言えばいいのかわからず黙っていた。その子は黙り込んでしまったあーちゃんを半ば強引に、外に連れ出そうとした。意地悪をした訳ではない。その子は純粋に、彼と遊びたかっただけだ。
手を引かれ、引きずられるようにして教室から連れ出される。廊下ですれ違った担任の先生は、「あら、今日は鈴木くんもお外で遊ぶの?」なんて声をかける。あーちゃんは抵抗しようと首を横に振る。なんとかして、自分は嫌なことをされているのだと伝えようとする。だけれどあーちゃんの手を引くそのクラスメイトは、にっこり笑って言った。
「きょうはおれたちといっしょにサッカーするんだ!」
ただ楽しそうに。悪意のない笑顔。害意のない笑顔。敵意のない笑顔。純粋で、率直で、自然で、だから、だからこそ、最も忌むべき笑顔で。
あーちゃんの頭の中に言葉が溢れる。
ぼくはそとであそびたくありません。むりやりやらされようとしているんです。やめてっていいたいんです。たすけてください。
しかしその言葉が声になるよりも早く、先生はにっこり笑う。
「そう。良かったわ。休み時間はお外で遊んだ方がいいのよ。本は、おうちでも読めるでしょう?」
そうして背を向けて、先生は行ってしまう。あーちゃんの腕を引く力は同い年とは思えないほどずっと力強く、彼の身体は廊下を引きずられていく。
子供たちの笑い声。休み時間の喧騒。掻き消されていく。届かない。口にできない言葉。消えていく。途絶えていく。まるで、死んでいくように。
あーちゃんは、自分の気持ちをどうやって他者に伝えればいいのか、わかっていなかった。彼に今まで接してきた大人たちは、皆、幼いあーちゃんの声に耳を傾けてくれる人たちばかりだった。両親、病院の医師や看護師。小さい声でぼそぼそと喋るあーちゃんの言葉を、辛抱強く聞いてくれた。
自分で言わなければ他人に伝わらないということも、幼いあーちゃんは理解していなかった。どうすれば他人に伝えればいいのか、その方法を知らなかった。彼は他人との関わり方がわからなかった。
だからあーちゃんは、持っていた本で、さっきまで自分が机で読んでいた本で、ずっと手に持ったままだったその分厚い本で、父親に買ってもらった恐竜の図鑑で、その子の頭を殴りつけた。
一緒に遊ぼう、と誘ってくれた、初めて自分に話しかけてくれたクラスメイトを。
まるで自然に、そうなることが最初から決まっていたかのように、力いっぱい腕を振り上げ、渾身の力で、その子を殴った。
あーちゃんを引っ張っていた手が力を失って離れていく。まるで糸が切れた人形のように、その子が倒れていく。形相を変えて駆け寄って来る先生。目撃した児童が悲鳴を上げる。何をやっているの、そう先生が怒鳴る。誰かに怒鳴られたのは、初めてだった。
倒れたその子は動かなかった。
たった一撃だった。そんなつもりではなかった。あーちゃんはただ伝えたいだけだった。言葉にできなかった自分の気持ちを、知ってほしいだけだった。
その一撃で、あーちゃんの世界は木っ端微塵に破壊された。
彼の想いは、誰にも届くことはなかった。
その子の怪我はたいしたことはなく、少しの間意識を失っていたけれど、すぐに起き上がれるようになった。病院の検査でも異常は見つからなかった。
あーちゃんの両親は学校に呼び出され、その子の親にも頭を下げて謝った。
あーちゃんはもう、口を開こうとはしなかった。届かなかった想いをもう口にしようとはしなかった。彼はこの時に諦めてしまったのだ。誰かにわかってもらうということも、そのために自分が努力をするということも。
そうしてこの時から、彼は透明人間になった。
「ママがね、『すずきくんとはあそんじゃだめよ』って言うの」
「うちのママも言ってた」
「あいつ暗いよなー、いっつも本読んでてさ」
「しゃべってもぼそぼそしてて聞きとれないし」
「『ヨソモノにろくなやつはいない』ってじーちゃん言ってた」
「ヨソモノって?」
「なかまじゃないってことでしょ」
あーちゃんが人の輪から外れたのか、それとも人が離れていったのか。
あーちゃんはクラスの中で浮くようになり、そうしてそれは嫌がらせへと変わっていった。
眼鏡。根暗。ガイジン。国に帰れよ。ばーか。
投げつけられる言葉をあーちゃんは無視した。まるで聞こえていないかのように。
あーちゃんは何も言わなかった。嫌だと口にすることはしなかった。けれど、彼の足は確実に学校から遠ざかっていった。小学二年生に進級した春がまだ終わり切らないうちに、あーちゃんは学校へ行けなくなった。
そしてその一年後に、あーちゃんは僕の住む団地へとやって来た。
笑うことも、泣くことも、怒ることもなく。ただ何よりも深い絶望だけを、その瞳に映して。ハサミで乱暴に傷つけられた、ぼろぼろのランドセルを背負って。
彼のことを、僕が「あーちゃん」と呼んでいるのはどうしてなんだろう。
彼の名前は、鈴木直正。「あーちゃん」となるべき要素はひとつもない。
あーちゃんの弟のあっくんの名前は、鈴木篤人。「あつひと」だから、「あっくん」。
「あっくん」のお兄さんだから、「あーちゃん」。
自分でそう呼び始めたのに、僕はそんなことまでも忘れていた。
思い出させてくれたのは、あーちゃんのノート。彼が残した、もうひとつの遺書。
あーちゃんたち一家がこの団地に引っ越して来た時、僕と最初に親しくなったのはあーちゃんではなく、弟のあっくんの方だった。
あっくんはあーちゃんの三つ年下の弟で、小柄ながらも活発で、虫捕り網を片手に外を駆け回っているような子だった。あーちゃんとはまるで正反対だ。だけれど、あっくんはひとりで遊ぶのが好きだった。僕が一緒に遊ぼうとついて行ってもまるで相手にされないか、置いて行かれることばかりだった。ひとりきりが好きなところは、兄弟の共通点だったのかもしれない。
あっくんと遊ぼうと思って家を訪ねると、彼はとっくに出掛けてしまっていて、大人しく部屋で本を読んでいるあーちゃんのところに辿り着くのだ。
「いらっしゃい」
あーちゃんはいつも、クッションの上に膝を丸めるようにして座り、壁にもたれかかるようにして分厚い本を読んでいた。僕が訪れる時は大抵そこから始まって、僕の来訪を確認するためにちらりとこちらを見るのだ。開け放たれた窓からの逆光で、あーちゃんの表情はよく見えない。かけている銀縁眼鏡がぎらりと光を反射して、それからやっと、少し笑った彼の瞳が覗く。今思えば、それはいつだって作り笑いみたいな笑顔だった。
最初のうちはそれで終わりだった。
あーちゃんは僕がいないかのようにそのまま本を読み続けていた。僕が何か言うと、迷惑そうに、うざったそうに、返事だけはしてくれた。それもそうだ。僕はあーちゃんからしてみれば、弟の友達であったのだから。
だけれどだんだんあーちゃんは、渋々、僕を受け入れてくれるようになった。本や玩具を貸してくれたり、プラモデルを触らせてくれたり。折り紙も教えてもらった。ペーパークラフトも。彼は器用だった。細くて白い彼の指が作り出すものは、ある種の美しさを持っていた。不器用で丸々とした、子供じみた手をしていた僕は、いつもそれが羨ましかった。
ぽつりぽつりと会話も交わした。
あーちゃんの言葉は、簡単な単語の組み合わせだというのに、まるで詩のように抽象的で、現実味がなく、掴みどころがなかった。それがあーちゃんの存在そのものを表しているかのように。
僕はいつの頃からか彼を「あーちゃん」と呼んで、彼は僕を「うーくん」と呼ぶようになった。
うーくんと仲良くできたことは、僕の人生において最も喜ばしいことだった。
それはとても幸福なことだった。
うーくんはいつも僕の声に、耳を傾けようとしてくれたね。僕はそれが懐かしくて、嬉しかった。僕の気持ちをなんとか汲み取ろうとしてくれて、本当に嬉しかった。
僕の言葉はいつも拙くて、恐らくほとんど意味は通じなかったんじゃないかと思う。けれど、それでも聞いてくれてありがとう。耳を塞がないでいてくれて、ありがとう。
ノートに記された「ありがとう」の文字が、痛いほど僕の胸を打つ。せめてその言葉を一度でも、生きている時に言ってくれれば、どれだけ良かったことだろう。
そうして、僕とあーちゃんは親しくなり、そこにあの夏がやって来て、ひーちゃんが加わった。ひーちゃんにとってあーちゃんが特別な存在であったように、あーちゃんからしてもひーちゃんは、特別な存在だった。
僕とあーちゃんとひーちゃん。僕らはいつも三人でいたけれど、三角形なんて初めから存在しなかった。僕がそう信じていたかっただけで、そこに最初から、僕の居場所なんかなかった。僕は「にかっけい」なんかじゃなくて、ただの点にしか過ぎなかった。
僕が死んだことで、きっとひーちゃんは傷ついただろうね。
傷ついてほしい、とすら感じる僕を、うーくんは許してくれるかな。きっときみも、傷ついただろう? もしかしたら、うーくんがこのノートを見つけた時、きみは既に僕の死の痛みから立ち直っているかもしれない。そもそも僕の死に心を痛めなかったかもしれないけれどね。
こんな形できみにメッセージを残したことで、きみは再び僕の死に向き合わなくてはいけなくなったかもしれない。どうか僕を許してほしい。このノートのことを誰かに知られることは避けたかった。このノートはきみだけに読んでほしかった。
きみが今どうしているのか、僕には当然わからないけれど、どうか、きみには生きてほしい。できるなら笑っていてほしい。ひーちゃんのそばにいてほしい。僕は裏切ってしまったから。あの子との約束を、破ってしまったから。
「約束」という文字が、僅かに震えていた。
約束?
あーちゃんとひーちゃんは、何か約束していたのだろうか。あのふたりだから、約束のひとつやふたつ、していたっておかしくはない。僕の知らないところで。
うーくん。
今まできみが僕と仲良くしてくれたことは本当に嬉しかった。きみが僕にもたらしてくれたものは大きい。きみと出会ってからの数年間は、僕が思っていたよりもずっと楽しかった。うーくんがどう思っているのかはわからないけれどね。
ひーちゃんも、よくやってくれたと思ってる。僕が今まで生きてこられたのは、ふたりのおかげでもあると思ってるんだ。
けれど僕は、どうしようもないくらい弱い人間だ。弱くて弱くて、きみやひーちゃんがそばにいてくれたというのに、僕は些細な出来事がきっかけで、きみたちと過ごした時間を全てなかったことにしてしまうんだ。
気が付くと、自分がたったひとりになっているような気分になる。うーくんもひーちゃんも、本当は嫌々僕と一緒にいるのであって、僕のことなんか本当はどうでもいい存在だと思っている、なんて考えてしまう。きみは、「そうじゃない」と言ってくれるかもしれないが、僕の心の中に生まれた水溜まりは、どんどん大きくなっていくんだ。
どうせ僕は交換可能な人間で、僕がいなくなってもまた次の代用品がやってきて、僕の代わりをする。僕の居た場所には他人が平気な顔をして居座る。そして僕が次に座る場所も、誰か他人が出て行った後の場所であって、僕もまた誰かの代用品なんだ、と考えてしまう。
よく考えるんだ。あの時どうすれば良かったんだろうって。僕はどこで間違えてしまったんだろうって。
カウンセラーの日褄先生は、僕に「いくらでもやり直しはできるんだ」って言う。でもそんなことはない。やり直すことなんかできない。だって、僕は生きてしまった。もう十四年間も生きてしまったんだ。積み上げてきてしまったものを、最初からまた崩すなんてことはできない。間違って積んでしまった積み木は、その年月は、組み直すことなんかできない。僕は僕でしかない。鈴木直正でしかない。過去を清算することも、変更することもできない。僕は、僕であるしかないんだ。そして僕は、こんな自分が大嫌いなんだ。
こんなにも弱く、こんなにも卑怯で、こんなにも卑屈な、ひねまがった僕が大嫌いだ。
でもどうしようもない。ひねまがってしまった僕は、ひねまがったまま、また積み上げていくしかない。ひねまがったままの土台に、ひねまがったまま、また積み上げていくしか。どんなに新しく積み上げても、それはやっぱりひねまがっているんだ。
僕はもう嫌なんだ。間違いを修正したい。修正することができないのなら、いっそなかったことにしたい。僕の今までの人生なんてなかったことにしたい。僕にはもう何もできない。何もかもがなくなればいい。そう思ってしまう。そう思ってしまった。泣きたくなるぐらい、死にたくなるぐらい、そう思ったんだ。
うーくん。
やっぱり僕は、間違っているんだろうと思う。
もう最後にするよ。うーくん、どうもありがとう。このノートはいらなくなったら捨ててほしい。間違っても僕の両親や、篤人、それからひーちゃんの目に晒さないでほしい。きみだけに、知ってほしかった。
きみだけには、僕のようになってほしくなかったから。
誰かの代わりになんて、なる必要ないんだ。
世界が僕のことを笑っているように、僕も世界を笑っているんだ。
そこで、あーちゃんの文字は止まっていた。
最後に「サヨナラ」の文字が、一度書いて消した痕が残っていた。
あーちゃんが僕に残したノートの裏表紙には、油性ペンで日付が書いてあった。
あーちゃんが空を飛んだ日の日付。恐らく死ぬ前に、これを書いたのだろう。そして屋上に登る前にこのノートを資料室の棚の中へと隠した。その前に図書室の本に細工し、それ以前にメモを忍ばせた時計を僕に譲ってくれた。一体いつから、あーちゃんは死のうとしていたんだろう。僕が思っているよりも、きっとずっと以前からなんだろう。
涙が。
涙が出そうだ。
どうして僕は、気付かなかったんだろう。
どうして僕は、気付いてあげられなかったんだろう。
一番側にいたのに。
一番一緒にいたのに。
一番僕が、彼のことをわかったつもりになっていて、それでいて、あーちゃんが何を思っていたのか、肝心なことは何もわかっていなかった。
僕は何を見ていたんだろう。何を聞いていたんだろう。何を考えていたのだろう。何を感じていたのだろう。
僕は何を、していたのだろう。
何をして生きていたんだろう。
あーちゃん。
あーちゃんあーちゃんあーちゃん。
僕は彼のたったひとりの友達だったというのに。
言えばよかった。言ってあげればよかった。言いたかった。
あーちゃんはひねまがってなんかないって。
あーちゃんはひとりなんかじゃないって。
あーちゃんは、透明人間なんかじゃ、ないんだって。
今さらだ。ほんとうに今さらだ。
僕は知らなかった。わからなかった。気付いてあげられなかった。最後まで。本当に最後まで。何もかも。
わかっていなかった。何ひとつ。
ずっと一緒にいたのに。
僕があーちゃんをちゃんと見ていなかったから、僕があーちゃんを透明にして、彼の見る世界を透明にしたのだ。
僕が彼の心に触れることができていたならば、あーちゃんはこんなもの書かなくても済んだのだ。わざわざ人目につかないところに隠して、こんなものを、こんなものを僕に読ませなくても済んだのだ。
僕は、こんなものを読まなくても済んだのに!
あーちゃんがたとえ、ひねまがっていても、ひとりぼっちだったとしても、透明だったとしても、それがあーちゃんだったのに。あーちゃんはあーちゃんだったのに。あーちゃんの代わりなんて、どこにもいないというのに。
ひーちゃんは今も、あーちゃんのことを待っているというのに。
あーちゃんはもういないのに。全部嘘なのに。僕がついた嘘なのに。あんなに笑って、でも少しも楽しそうじゃない。空っぽのひーちゃん。世界は暗くて、壊れていて、終了していて、破綻していて、もうどうしようもないぐらい完璧に、歪んでしまっているというのに。それでも僕の嘘を信じて、あーちゃんは生きていると信じて、生きているというのに。
僕はずっと勘違いをしていた。
あーちゃんが遺書に書き残した、「僕の分まで生きて」という言葉。
僕はあーちゃんの分まで生きたら、僕があーちゃんの代わりに生きたら、幸せになるような気がしていたんだ。あー��ゃんの言葉を守っていれば、ご褒美がもらえるような、そんな風に思っていたんだ。
あーちゃんはもういない。
だから、誰も褒美なんかくれない。誰も褒めてなんてくれない。褒めてくれるはずのあーちゃんは、もういないのだから。
本当の意味で、あーちゃんの死を理解していなかったのはひーちゃんではなく、僕だ。
ひーちゃんはあーちゃんの死後、生きることを拒んだのだから。彼女はわかっていたのだ。生きていたって、褒美なんかないってことを。
それでも僕が選ばせた。選ばせてしまった。彼女に生きていくことを。
あーちゃんの分まで生きることを。
褒美もなければ褒めてくれる人ももういない。
それでも。
でもそれでも、生きていこうと。生きようと。この世界で。
あーちゃんのいない、この世界で。
いつだってそうだ。
ひーちゃんが正しくて、僕が間違っている。
ひーちゃんが本当で、僕は嘘なんだ。
「最低だな……僕は」
あーちゃんにもひーちゃんにも、何もしてあげられなかった。
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
廊下どころか学校じゅうにまで聞こえそうな大絶叫を上げて、帆高が大きく伸びをした。
物思いにふけっていた僕は、その声にぎょっとしてしまった。
「終わったあああああああああああああああーっ!」
「うるさいよ……」
僕が一応注意しておいたけれど、帆高に聞こえているかは謎だ。
「終わった終わった終わったーっ!」
ひゃっほぉ! なんて言いながら、やつは思い切り保健室のベッドにダイブしている。舞い上がった埃が電灯に照らされている。
「帆高、気持ちはわかるけど……」
「終わったー! 俺は自由だああああああああーっ!」
「…………」
全く聞いている様子がない。あまりにうるさいので、このままでは教師に怒られてしまうかもしれない。そう、ここはいつもの通り、保健室だ。帆高のこの様子を見るに、夏休みの課題がやっと終わったところなのだろう。確かにやつの手元の問題集へ目をやると、最後の問題を解き終わったようだ。
喜ぶ気持ちはわかるが、はしゃぎすぎだ。どうしようかと思っていると、思わぬ人物が動いた。
すぱーんという小気味良い音がして、帆高は頭を抱えてベッドの上にうずくまった。やつの背後には愛用のスケッチブックを抱えた河野ミナモが立っている。隣のベッドから出てきたのだ。長い前髪でその表情はほとんど隠れてしまっているが、それでも彼女が怒っているということが伝わる剣幕だった。
「静かに、して」
僕が知る限り、ミナモはまだ帆高とろくに会話を交わしたことがない。これが僕の知る限り初めてふたりが言葉を交わしたのを見た瞬間だった。それにしてはあまりにもひどい。
ミナモはそれだけ言うとまたベッドへと戻り、カーテンを閉ざしてしまう。
「……にてしても、良かったね。夏休みの宿題が終わって」
「おー…………」
ミナモの一撃がそんなに痛かったのだろうか、帆高は未だにうずくまっているままだ。僕はそんなやつを見て、そっと苦笑した。
僕は選んだのだ。
あーちゃんのいないこの世界で、それでも、生きることを。
※(4/4)へ続く→https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/649989835014258688/
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死ねない女の子たち、30歳くらいの
寝過ごした!と思って大慌てで起きたらまだ六時だった。 月曜の午前を台無しにしてくれるはずだった台風が東京からはとっくに立ち去って、窓の外が白く明るい。 ふざけんな、と声に出してみる。期待していたのに。ぬか喜びさせやがって。ふざけんなよ。社会生活を台無しにしてほしかったのに。ばか。ばかー。
シャワーを浴びて出社の身支度。顔面にパックシートを貼り付けてきびきび動く。ストッキングを穿く。髪を雑にブローする。夜になんとなく作ったまま食べる気がせず、ボウルのまま薄暗い台所に放置していたパクチーのサラダを発見。お昼ごはんにしようと思ってタッパーに詰めていたら、漫画の中で死んじゃった女の人のことを思い出した。
『サプリ』の終盤で、広告代理店でバリバリ働いている女の子で、28歳か29歳で、よく稼いでいる。美容師の卵の彼氏と暮らしていて、彼氏はヒモで、そのヒモには明らかに浮気の気配があって、問い詰めたら出ていっちゃって、その子は興信所に頼んで彼を探していたんだけど、そしたら浮気のことだけじゃなくて、彼女に話していた経歴とか勤務先もみんな詐称だった。彼女のバリバリという働き方はサクサク切り捨てていくことで保たれるバリバリで、執着とかスキとかキライとか情熱とかは非効率的だからって、仕事はもちろん無駄をサクサク省き、プランをサクサク進め、生活でも「迷ったらこの水」とかって決まっていて、すごく効果的に回しているんだけど、嬉しいとか嫌だとかの引っ掛かりがなくてつるんとしちゃって、だからきっと彼氏のことは唯一の引っ掛かりだったんだけど、唯一そこに引っ掛かって生きていられたんだけど、それが全部ウソだった。彼女はすごく落ち込んで、会社をしばらく休んで、でもその後ちゃんと回復して仕事に復帰して、元通りバリバリ上手に仕事を回して、そんなふうにしばらく働いてから、急に首を吊って死んじゃった。
初めて『サプリ』を読んだ時、わたしはまだ21歳とかで、28歳とか29歳の女性は女の子じゃなくて女の人で、大人の女の人がそんなことで死んじゃうのってよくわかんなくて、だって死んじゃうのって子どもみたい。そんな、死んじゃうほどのことなの? って感じで、正直全然理解できなかった。まあ、男の人のことで死んじゃうこともあるのかもな。でもそれってさすがに弱すぎない? なんて思って。 でも、今27歳で、28、9歳の女性なんか普通に女の子に見えて、もちろんそれはわたしが社会的に未熟で幼稚だから人を評価するのにそういう内面的なところを見る割合が大きすぎるせいかもしれないけれど、でも30歳くらいの女の人たちの弱弱しい部分、心の柔らかい部分のことがよーく見えてしまって、みんなそれを抱えきれていないのがなんだか頼りなくって、この年齢になってかえってそんなことばっかりがどんどん目に入るようになってきた。この子たち、この女の子たち、死にうるな、と思うようになった。ぜんぜん、死んじゃうよな。引っ掛かりがなくなっちゃえば、すぐにでも死にうる。
子どもの頃は多分、自分のことがわかんなくて、ぐるぐるになって癇癪を起こしてそれが存在を破裂させちゃって死んじゃうんだけど、大人になると、しぼんで死ぬっていうか。しぼんで、なくなっちゃうと、死ぬ。 なくなっちゃわないように、いろんな固くて強いものを取り込んで内側から支えるんだけど、その固い強いものたちだってなくなっちゃうときはなくなっちゃうので、普通に死にうる。親への責任とか、社会的価値とか、義務とか、目標とか。友達とか。なくなれば死ぬし、なくなりうる。
わたしだっていい大人で、想像力もあって、わたしが死んだらすごく泣くだろう人たちのことを考えると死ねないけど、それさえ考えられなくなったらもしかしたら死んじゃうかもしれない。 死ぬって具体的にどうすればいいかわかんないし、多分死ぬ方法についていろいろ考えているうちに肉体が怖がって引き止めて死ぬのをやめちゃうんだろうけど、それでも、自分を支えるものなんか簡単になくなっちゃうんだ。どうしようもなく。だから次々と新しいものを欲しがるのかもしれない、生き延びるために、生き永らえるために、自分を支えるものと巡り合い続けるために。
このところ、生きるために生活をしていなければならないのが本当に嫌で嫌で仕方なくて、どうしてそんな退行的イヤイヤに占拠されているのかすらわからないけれど(こうなる以前はもっともっと建設的に生活を設計してそれに向かって実践的に邁進していた。大人っぽかったと思う)。存在にガタがきていて、自分の抱えていくことになる痛みや苦しみや孤独が確定してきて、それらを抱えたまま生きていくしんどさが予想できて、考えるだけでどっと背中に重いものが乗る。そういう痛みや苦しみや孤独を甘受してまで敢えて生きていくことで世界が見せてくれる素晴らしさ、みたいなものをもう信用できなくて、だってもうだいたい知ってる。だいたいわかった。世界の素晴らしさとかいうやつのこと、すでにすごくたくさん知っていて、まあいろいろな素晴らしさがあるよね。でも、それらがどんなに圧倒的で奇跡的で独占的で卓越して美的であっても、それを享受するためにこの辛い気持ちを我慢したいかというと、それほどではないとか思ってしまって、それどころか、できればもう全部放り出してベッドで横になって朽ちていきたい。なのに肉体が生きることを強く強く要請するから、その叫びに抗えなくて、もうウンザリだ。何もせずに飢え死ぬまでベッドに横たわってい続けようとか思っていたのに、喉が渇くとかお腹が空くとかで結局のっそりと起き上がってしまう。喉を潤すための水とかお腹を満たすための食料を手に入れようと思ったらこの社会ではどうしてもお金が必要になってしまって、肉体の原始的な要請に半永久的に応え続けるためには社会的なお金が必要だから、やっぱり今の仕事をないがしろにはできないと結論づける他に手立てはなくて、だから朝起きてシャワーを浴びてブローしてパックしてストッキングを履いてパンプスを適当に選んで出かける。 おめおめと生きさせられてしまって、社会生活を営まさせられてしまって、やっぱり死ねない。何か支えが一つなくなるだけで簡単に死にうるけど、同時に、何もなくならないままなら本当にどうしようもなく死ねない。もうどうしても肉体が死なせてくれやしない。
そんなこんなで営んでいる社会生活を台無しにしてくれる台風がわたしに瞬間的なカタルシスをもたらしてくれるはずだったのに、朝起きたら晴れていた。お腹は空いていなかったけれど、キウイを二つに割って三つ食べた。四つめも食べたくなったけれど時間がなかったのでやめた。晴れにムカつきながらも賤しく肉体を満たして生き永らえ、あまつさえキウイを美味しがって、もっと食べたいなどと性欲じみた食欲を出している自分に無性に腹が立って、でもそういう怒りのこともすぐに諦めた。時間がなかったから��家を出るまでに、会社、休んじゃおうかなあって三回くらい思った。思いながらも身支度の手を休めなかった。家を出るべき時刻まであと五分しかなかったから。矛盾に引き裂かれてぐちゃぐちゃの心を、肉体が一つに纏めてやまない。破裂を許さない。
30歳くらいの女の子たち、みんな死んじゃいうるけど、できれば死なないでほしいとは思ってる。みんな死んじゃったらわたしも死んじゃう。あなたがたはわたしの内側でわたしの生を支える固くて強い物なので。わたしは死なせてほしいけど、でもみんなには死なないでほしいこの身勝手な気持ちはなんなんだろう。世界の素晴らしさを知っているせいなのか。 生きることは素晴らしい。他人事なら。人生を生きてほしい。他人には。生きる姿の美しさや、生きることで得られる物ものの素晴らしさをいくらでも言い募れるから聞いてほしい。そして生き永らえてほしい。わたしは、自分自身のことはもういやだけど、それでもどうせ他人から見たらわたしの人生も素晴らしいんだろう。他人事ならば人生は素晴らしいので。他人として自分を生きたい。
自分を自分として生きるための強度が足りない。もういやだ。もういやだーっ。死にたいけど死ねない。どーーしても死ねない。死ねないから強度を増すしかないんだけど、そういう鍛錬が本当にしんどい。背中にどっと重さが乗る。強くなるまでの道程の果てしなさがありありとわかるので、じっとりと湿った重たい岩を背負うような気分になる。そういう気分で常に暮らしているのは辛い。逃げたい。逃げられない。しんどい。しんどくて死にたいのに死ねないのがすごくいやだ。自分の意に反する自分にむしゃくしゃする。ばかやろう。畜生。せめて台風で社会を壊滅くらいさせてくれよ。自分のせいじゃなく、自分は安全なまま、すべてが台無しになる幸福な夢を見せてくれ。たのむよ神様。さもなくば一刻も早く地球を滅亡させてくれ。わたしはもう泣きたくない。
(2017/10/23 12:03)
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隠された悲鳴
表題のボツワナ発のサスペンス小説を読み終わる。ボツワナという国の地理がわからず、グーグルマップを片手にどの場所で事件が起きているかとか、どういう風景なのか確認しながら読んだ。都市部の近代化が進んで入るが、国土の大半が砂漠か自然保護区になっていたし、乾いて固まった砂の中に町があるような風景が延々と続いていた。一部の民族は伝統的な暮らしを続けているそうだ。外務省のサイトによれば、現在のボツワナは教育に力を入れており、識字率は80%を越すらしいし、アフリカの中では比較的安全な国(油断すれば当然犯罪に遭う可能性は高いが)と言われている。著者のユニティ・ダウはボツワナの現・外務国際協力大臣。同国女性初の最高判事であり、女性や子ども、先住民、AIDS患者、LGBT等の人権問題について先駆的な取り組みを行なってきた人物である。(父親しか子供に国籍を与えられないボツワナの法律は不当だとして裁判を起こし、勝利するなどの逸話があるようだ)
本書はボツワナという国で実際に起こった儀礼殺人をもとに書かれたフィクション作品だ。儀礼殺人とは、人体の一部を得るために行う殺人のことで、読み始めるまでそういったおぞましい出来事が本当にあることを知らなかったし、それがどのような背景で必要とされるのか理解できなかった。読み終わった後でも、生きたまま子どもの眼球や乳房、性器を切り取るなんてことがまかり通る時代や"文化"を理解することはできないが、その部位を得るために権力のある人間が子どもを殺すのである。日本では考えられないことだが、その部位が呪術の薬(ディフェコ)になり、呪術師が権力者に対して取引を持ちかけるのだ。
ある村で12歳の少女が行方不明になり、それがライオンに襲われたのだと結論づけられる。それが嘘だと誰もがわかっているが、力の弱い人間は最初から訴えることはできない。耐え難い悲しみから逃れようとしていた矢先、事件の真相に近づく証拠が主人公・アマントルによって偶然発見され、警察や政治家のどの権力者との戦いに巻き込まれていく。合間に紹介されていくボツワナ文化や権力者に喧嘩を挑むアマントル掛け合いの爽快さで終盤まで読まされる。著者の体験がものすごく生きていて、本当にこんなやりとりがあったんだろうと思わずにはいられない。
呪術医という文化について、日本では保険証を持っていれば受けられる正規の医療によって駆逐されつつあるので馴染みがない。しかし、本書に登場する村人が呪術医を頼る経緯には、貧困により正規の医療を受けれれないことが前提にあり、呪術が本当に効くという信仰・呪術の力が備わっている人間に対する信仰・そしてそれをみんなが信じているという文化的慣行が存在していることによるものと思われる。村に病院がないと、病気になった村人は呪術医のところに行く。そしてどんな病気にも同じ「治療」をする。高温になるまで熱した金属の棒を、患者の首と背中と脚に押し当てたり、精神病の人を吊る上げて「まともに」なるまでムチで引っ叩く。あるいは麻薬を使ってレイプする。怪しいやつなんて日本にもたくさんいるが(私は水素水みたいなのも一種の呪術と考える)、本書には呪術師をはじめとする「伝統的な邪悪」が日常的に描かれている。
ライオンやハイエナが跋扈するボツワナの風景のなかで、事件の真相を推理するアマントルはふと「こんなにも美しいものと邪悪なものが同時に存在しているなんて」と言う。本当にそうだ、世の中には美しいものと邪悪なものが同時に存在している。アフリカだけではなくて、当然日本にも美しいものと邪悪なものが同時に存在している。子どもを持ち、自分の手で育てるようになってから、彼らが残酷な運命にあう話を他人事だとは思えなくなり、胸元に抱える我が子の成長を脅かすものから本能的に遠ざかろうとする。殺人や虐待などの暴力、貧困や差別。昼と夜のように、美しいものと邪悪なものが別れていればいいのだ。でも昼と夜ですら実は私が今立っている場所の問題で、地球上には同時に存在している。
巻末で著者は次のように述べている。
文化というものは固定されたものではありません。自分たちの文化を存続させ、反映させたいと願うのであれば(どんな文化圏の人たちもそう願っていると思いますが)、本書で取り上げた儀礼殺人のように人を傷付け、殺してしまうような文化的慣行に挑んていかなくてはなりません。しかし、文化的慣行に挑むということは、究極的には「自分たちの文化を存続させ、繁栄させたい」という自分と同じ願いを持つ人々と対峙することでもあります。
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