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#関蝉丸神社
yasuhirockhow · 2 years
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関蝉丸神社下社に程近いお店の駐車場を案内してくれる看板坊や、道路と逆方向に飛び出してますね。ようやく逢いに行けました。自転車で!
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skf14 · 4 years
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08280005
.........だから、俺がもし大通りで通り魔殺人をするなら、きっと最初に狙うのは腹の大きな女だ。子供が狙い目だと思われがちだが、案外そうでもない。もう生まれてしまった子供は親が必死になって守るから、むしろ普通の人間よりも狙いにくい部類だろう。くだらないが、それを無理矢理狙って殺すのは至難の技だ。両親が揃っているなら尚更。
俺の目の前でベビーカーを押す女が楽しそうに旦那に話しかけて、旦那は嬉しそうに目を細め子供をあやしている。ああ、世界共通の幸せの絵だ。反吐が出る。
幸せ、ってなんだ?他人から見て、己が幸せな姿に映ることか?いや、違う。幸せは、自分の置かれている状況について何も不平不満を抱かず、我慢を強いられることなく、全て俺の意のままに遂行されることだ。そうに違いない。幸せ、幸せ。ああ、俺は幸せになりたい。ずっと子供の頃からの夢だった。幸せになることが。幸せになることこそが。
他人の幸せに対して恐ろしく心が狭くなったのは、きっと今俺の置かれている状況が著しく幸せから遠いから、だろう。社会の中での立ち位置も、持って生まれた時点で腐っていた神様からのギフトとやらも、白痴付近を反復横飛びする出来の悪い頭も、見てくれの悪さも、全てだ。
自ら遠ざかったつもりはない。人の幸せを妬んで、それで、手に入らないことには気付いていて、そして、そして、?
?ん、あぁ、覚める、ダメなやつだ、これ、と、思考が曖昧になって、見えていたものも、匂いも、温度も、何もかもが遠ざかって、そして、何も見えなくなった。
極めて自然に、目蓋が開いた。手探りで掴んだスマホの画面を見れば、時刻は朝の5時を少し回ったところだった。曜日表示は土曜。どちらにせよ早すぎる。
"彼"の中途半端に病んだ思考が俺の頭と同期して、混ざろうとしているのが分かって吐き気を覚えた。やめろ。混ざるな。のそり、重たい身体をベッドから引きずり起こして、ふらふらと冷蔵庫に縋り付き、冷えたミネラルウォーターを喉へ流し込んだ。水の通り道が冷えていって、そして胃の辺りがじんわり冷たくなる。物理的にはあり得ないが、その温度は首の後ろを通って、脳へと伝わり、思考が少し、冷めていく。
何が通り魔だ。情けない。俺の夢を支配して、外に出たがったくせにやりたいことがそんなバカの憂さ晴らしだなんて興醒めもいいところだろう。しかも、やる前のウジウジした感情から見せるなんて。はっ。しょうもない。どうせなら血溜まりの中の回想にでもしてくれていれば、今頃、小話くらいには昇華出来たものを。
奴の目線から見えていた短い指と、くたびれ皺の寄ったスーツとボロボロの革靴、己を嘲笑っているように見える周りの視線と話し声、やけに煩いメトロの到着メロディ、喧騒、咽せるようなアスファルトの油の匂い、脳天に刺さる日差し、それら全てを戦後の教科書の如く黒塗りで潰して、そして、深呼吸ののち頭の中のゴミ箱へと入れた。これで、俺は、俺に戻れる。もう一眠りしよう、と、布団に潜り込み、俺は柔らかい綿人形を抱き締めて、眠るための定位置へと着き直した。
物書きで飯を食える、などという夢を抱く間もなく、敷かれたレールに乗って模範囚の如く社会の、それも下の方の小さな歯車の一つに成り果てた俺。チャップリンのように笑えたらいいんだろうが、生憎笑えない現状の片手間で書いている小説、そんな大層なものではないが、もう200を超えただろうか。詳しく数を数えてはいない。数字を重ねることに、大して意味はない。ただ増えていくソレを見るよりも、彼ら、彼女らの過去、未来に想いを馳せる方がよっぽど大事だ。俺は、彼らの人生を文字に変え、束の間の虚無を忘れている。
俺は、自分の力では、小説を書けない。
一昔前に流行ったゴーストライターではなく、どこかの小説の盗用でもない。人から詳細を聞かれたら、「主人公達が動くのを見て書いてる」と答えて誤魔化しているが、俺は、自分の夢を小説にしていた。いや、自分の夢でしか、小説を書けない。
夢の中で、俺は俺じゃない誰かとなって、違う人生の一部を経験する。なった誰かの感情と共に。そしてその夢は、嫌に鮮明に、必ず完結して終わる。
そのおかげで、俺はまるで自らが体験したように、綿密な話が書ける。不思議と夢を忘れることはなく、内容によっては自ら夢を捨て、今朝のように半ば不快感を持って目覚める。そして、その夢の記憶はじきに消える。
そうして俺は眠り、夢を見て、出てくる彼らの物語を文字に認めて、満たされず空虚な、平々凡々な自分の人生を今日も狂気で彩る。
ある日偶然君の皮膚片を食べた時、世界にはこんなにも美味しいものがあったのかと感嘆し、感動のあまり失禁したことを思い出した。
目が覚めた瞬間、これよりいい書き出しは無い、と思った。思考は溶けた飴のように彼のものと入り混じっていて、はっきりと覚醒はしない。恐らく、俺の思考は殆ど死んでいるんだろう。今こうして無心で手を動かしているのは、確かに生きていた彼だ。口内には口にしたこともない見知らぬ女の皮膚片の味がこびりついて、舌の上がまだぬるぬると滑る感覚、しょっぱい味が残っていた。食べたことのない味。ああ、書かないと、無心で筆を走らせる。書く瞬間、俺は俺でなくなり、彼が俺を使って脳を動かしているような感覚に陥る。戻ってこられなくてもいい、そのまま彼に身体を明け渡しても後悔なぞしない。と、俺は諦め身体の主導権を彼らに手渡している。
ふと気が付いたときには、もう小説は書き上がっていた。軽く誤字を確認して、小説掲載サイトにそれを載せる。人からの反応はない。別に必要はない。
サイトを閉じ、ツイッターを開く。現れたアカウントでただ一人フォローする彼女のアイコンを見て、そしてDMを開いて、青い吹き出しが羅列される様をざっと見て、心が幸せに満たされていくのを感じる。じわり、と湧き出たのは、愛情と、快楽と、寂しさと、色々が入り混じったビー玉みたいな感情だった。
彼女は、ネットの中に存在する、美しく気高く、皆から好かれている人気者。そんなのは
建前だ。彼女は、まさしく、
「おれの、かみさま。」
そう呟いて画面をなぞる。ホワンと輪郭がぼやけたケーキをアイコンにしているあたり、ここ最近どこかへケーキを食べに行ったのかもしれない。俺が彼女について知ってることは、��を聞く限り恐らく女性で、恐らく俺よりも歳が下で、俺のことなど認知すらしていない、ということだ。
別に悲しくなんてない。彼女はただここにいて、俺に愛されていてくれれば、それでいい。拒絶されない限り、俺の幸せは続く。好きだ、好きだ、今日も彼女が好きだ。
彼女のツイートは食べたスイーツのこと、日常のほんの些細ないいこと、天気のこと、そんなささやかな幸せに溢れた温かいものばかり。遡る度、何度見ても心が溶かされていく。
どこで何をしているのか、どんな服を着て誰と笑うのか、そんなのは知らない。どうでもいい。得られないものを欲しがるほど俺は子供じゃない。そばで幸せを共有したいなど、贅沢が過ぎて口にした日には舌でも焼かれそうだ。
『今日も、好きだよ。』
また一つ増えた青い吹き出しをなぞり、俺は不快感に包まれる頭を振り、進めかけていたゲームの電源を入れた。時刻は午後の2時。窓の外では蝉がけたゝましく鳴いており、心の底から交尾を渇望しているらしかった。
触れ合えないことを、惜しいと思わない日はない。彼女の柔肌に触れて、身体を揺さぶって一つになることが、もし出来るのなら、俺は迷わず彼女を抱くだろう。幾度となくそんな妄想で、彼女を汚してきた。俺の狭い部屋のベッドの上で、服を雑に脱ぎ散らかし、クーラーでは追い払い切れない夏の湿気と熱気を纏った彼女が、俺の上で淫らに踊る様を、何度想像したか分からない。その度に俺は右手を汚し、彼女への罪悪感で希死念慮が頭を擡げ、そしてそんな現実から逃げるように夢を伴う惰眠を貪る。
彼女を幸せにしたいのか、彼女と共に幸せになりたいのか、彼女で幸せになりたいのか、まるで分からない。分からない、と、考えることを放棄する俺の脳には、休まる時はない。
俺の中の彼女は最早、彼女本人からはかけ離れているのかもしれない。俺が見る夢の種類は大まかに分けて二つ、目を覆いたくなるような凄惨な感情の入り混じるものと、急に凪になった海をただ眺めているような穏やかなもの。後者に出会った時、俺は必ずと言っていいほど相手の人格を彼女に当てはめる。彼女は右利きで、俺の左に立つのが好きだ。彼女は甘党で、紅茶に詳しくダージリンが特に好み。彼女は子供が好きで、時折自身も無邪気に遊びまわる。彼女は、彼女は、彼女は。どれも、ツイートからじゃ何も読み取れない、俺が付与した彼女のあるべき姿だ。起きて、文章を仕上げて、そして心には虚しい以外の感情が浮かばない。
分かりやすく言うなら、花を育てる感覚に似ている。水を注ぎ、栄養をたっぷり与え、日の光と風を全身に浴びさせて、俺が花から得る物理的なものは何もない。花の子孫繁栄の手助けとしてコマとなり動いたに過ぎない。花側から見ても、ただ育った環境が良かったという認識にしかならないだろう。それでいい。俺はただ目の前で、花が咲くのを見られたらそれで良かった。植物と違って人間は枯れない。根腐れもしない。メリットがあれば、大切に大事に育てれば、半永久的に、花を咲かせ続けてくれる。これほど幸せなことはないだろう。自らの手で育つ様を、永遠に見られるなんて。
ああ、今日も彼女が好きだ。
恋は病気で愛は狂気。言い得て妙だ。病気、狂気、これはまさしく狂気だろう。まごうことなき、彼女への愛なのだから。世間で言う正しい愛じゃないことくらい、まだ正気を保ってる俺の脳は理解してる。が、正しさが必ずしも人を幸せにするわけではない。しかし、正しくない、道が外れている、本当の愛ではない、そう声高に叫ぶ内なる自分がいるのも確かで、結局俺は世間よりも何よりも、俺に足を引っ張られて前に進めないまま、深く深く沈んでいく。ただ一つ言えるのは、どんな形であれ、俺が彼女に向ける愛は狂気であり、すなわちそれが愛ということだ。
純粋な愛からなる狂気ならどれほど良かっただろう、と、目覚めた瞬間トイレに駆け込み僅かばかりの胃液を吐き出しながら考えていた。つい先日の思考を巻き戻して、何処かに齟齬があったかと必死に辿るが吐き気に消されて頭の中が黒に塗り潰される。
違和感を感じたのは夢が始まってすぐのことだった。視界が、進み方が、現実と大差ない。変だ。いつもなら若干の浮遊感から始まる夢が、地に足ついた感覚で、見える手や腕も自身のもので恐らく間違いない。なぜだ。初めてのパターンに内心は動揺しているが、夢の中の俺は平然としている。俺は黙々と愛車を運転し、車は山道を奥へ奥へと進んでいく。ガタゴトと揺れる車に酔いそうになりながらも、ナビを切りただ道なりに進んで、そして暫くしてから、脇道へと入った。脇道といっても草は生え放題、道未満のその木のないエリアを少し走ってから車を止めた俺は、車内のライトをつけ、行儀悪く身を乗り出して後方座席へ移動し、転がっていた黒い巨大なビニール袋を破いた。
キツく縛られまるで芋虫のような姿で袋から出てきたのは、紛れもない、何度夢想したかわからない、愛おしい彼女だった。俺は、彼女の着ている薄いワンピースの感触を楽しむように掌で撫で、身体のラインを触れて覚えていく。凹凸、滑らかな生肌を想像しながら身体を撫で回し、スカートの裾を少しずつたくし上げていく。彼女が噛んでいる猿轡には血が滲んでおり、嫌々、と首を振っては綺麗な涙をぱたぱた散らす。そのリスのような丸い目に映る俺はきっと、この世の誰よりも恐ろしい化け物に見えているだろう。身体を暴く手は止まらない。胸を、局部を、全てあらわにし、下着を一度抱きしめてから破り捨てる。そして、現れた汚れなき場所へ、手を、口を寄せ、そして、俺は、彼女と、一つになった。頭の中が気持ちいい、暖かい、柔らかい、という白痴のような感想で埋め尽くされる。彼女に埋まった俺の身体の一部が溶けてしまう、気持ち良さで脳が溶けてしまう、身体の境界も全て失ってただ善がる概念になってしまう。ああ、ああ、と、感嘆する声が漏れて、俺は目の前の柔い身体を撫で回し、噛み、舐めしゃぶり、全身で味わった。涎が溢れて止まらない。彼女の柔らかい腹にぼたぼたと泡混じりで落ち溜まっていく。鼓膜に己の荒い呼吸音だけが響いて、車外の虫の声も彼女の呻き声も、何も聞こえない。ただただ車はギシギシと揺れ、彼女の目尻から絶えることなく涙が溢れて、俺の心から絶えることなく多幸感が溢れて、彼女の中に彼女と俺が混ざり合った生き物の種が植え付けられた。
死んだと見間違う目をした彼女へ、俺は口を寄せて一言、囁く。
『今日も、好きだよ。』
そこで目が覚めた。
吐くものが無くなってもまだ喉がひくりひくりと痙攣していた。苦しい。買い溜めしておいた水の段ボールを引き寄せて、無造作に掴んだ一本を雑に開け胃へと流し込む。零れた水が首を伝ってTシャツを濡らした。ぜえぜえと喉が鳴る。頭を振り払って、絞り出した声は驚くほど情けないものだった。
「そんな、はずはない、あんなの、俺じゃ、俺じゃない、っ、ぅ...」
逆流する胃液に応戦するように水を飲む。喋ると逆効果なのは分かっているのに、誰に主張したいのか、言葉は止まらない。今話しているのは俺か、誰か、分からない。
「俺はそんなこと望んでない!!!!っ、くそ、ふざけんな...っ、クソ...」
込み上げた涙は悔しさ故。浅ましい己の脳がどうにも恥ずかしく、憎らしく、それに縋って自尊心を保っていた己が卑しく、そして何よりも己の夢の特性に殺意が湧いた。
一度、目を覆っても嫌になるような凄惨な夢を見た。それは、簡単に言えば理不尽な男がバールで一家をぐちゃぐちゃに叩き潰す話だった。書くべきなのか、と筆が止まり、彼の人格を放置したまま俺は1日過ごして眠り、そして、同じ夢を見た。次の日も、次の日も、むせ返るような血の匂いと足を動かすたびにびちゃりと鳴る足音と、頭部を殴った拍子に転がり落ちた眼球を踏んだ足裏の感触と、その後彼の同居人が作ったハンバーグの味が消えないまま1週間が経ち、俺は書かなければ夢に殺されると自覚して、筆を取った。
夢を使って自分を満たす以上、逃げることは許されない、ということか。忌々しい。まだ治らない吐き気に口元を押さえ、放り投げていたスマートフォンを手に取った。仕事を休んでも夢に囚われ続ける。ならば、書くしかない。時刻は朝の4時半過ぎを指し示していた。
そして、彼女を好き放題貪った話がスマートフォンの中に出来上がった。満員電車で誤字チェックをすると、周りの乗客の視線がこちらに向いている気がした。フラフラするが、仕事からは逃げられない。あの夢も、俺の偽物もこれで消えた。今日は眠れる。
楽観視、だったんだろう。巣食う闇の深さは思った以上だった。俺は翌日も吐き気で目覚めトイレに駆け込み、脳内をぐるぐると駆け回る、四肢に残る彼女の感触と、膣内の締め付けと湿り気、背中に走る絶頂感と共に噛みちぎった喉笛のコリコリとした食感、口に溢れる鉄臭い鮮血の味、そして、恍惚とした表情で俺に抱かれたまま絶命した彼女の顔を、振り解いて捨てようとしては目眩に襲われた。
「分かった、書くから、分かったから...俺じゃない、あれは俺じゃない、俺の皮を被った偽物だ、」
彼女の夢を見始めてから、ツイッターを覗かなくなった。
彼女は、毎日俺の夢に出てくるようになった。最悪の気分で夢に無理矢理起こされ、時折吐いて、震える手でなんとか夢を文字で起こして、溜まっていくそれらはメモを圧迫していく。救えない。先が見えない。
そして夢で彼女を殺し始めてから、今日で3日が経った。もう、うなされることも跳ね起きることもない。静かに目を開けて、見慣れた天井を認識して、重い胃を抑えて起きるだけだ。よくもまああんなに楽しんで殺せるもんだ。と、夢の内容を反芻する。
彼女の膨らんでいた乳房も腹も尻も太ももも、鋭利なサバイバルナイフでさっくりと切り取られていた。カケラはそこかしこに散らばって、手の中には乳房があった。俺は生暖かい開かれた彼女の腹に手を探り入れて、挿入していた愚息を膣と、そしてその先に付いた子宮の上から握りしめた。ないはずの脈動を掌で感じるのは、そこが、命を育む大切な部屋だから、だろうか。暖かい、俺の作られた場所。彼女の作られた場所。人間が、人間になる場所。ああ、気持ちいい。無心で腰を動かせばがくがく揺れる彼女の少ない肉が、小さく蠢いているように見えた。動きがてら肋骨あたりを弄れば、つまみ上げた指の間で蛆虫がのたうち回っている。気味が悪い、と挟み殺して、彼女の内臓に蛆虫の体液をなすりつけた。目線を彼女の顔までやって、いや、そういえば頭は初日に落としたんだった、と、ベッド脇の机に鎮座した彼女を見遣る。目線を腹に戻す。食いちぎったであろう子宮の傷口からは血と、白濁の体液が流れ出て腹膜を彩っていた。芸術には疎いが、美しいと感じる色彩。背筋に快楽が走る。何時間でもこうしていられる。ああ、ああ、嗚呼......
こんなはずじゃなかった。彼女と見る夢はもっと暖かくて、綺麗で、色とりどりで、こんな狭い部屋で血肉に塗れた夢じゃなかったはずだ。どこで何を、どう間違えたのか、もはや何も分からない。分からないまま、夢に囚われ、俺は今日も指を動かすんだろう。
スマートフォンを握った瞬間、部屋のチャイムが鳴った。なんだ、休日のこんな朝早くに。宅配か?時計を見て顔を顰め、無視の体勢に入ろうとした俺をチャイムの連打が邪魔してきて更に苛立ちが増す。仕方なく、身体を起こして彼女の眠るベッドから降りた。
床に降り立つ足裏に触れる無数の蠅の死骸の感触が気持ち悪い。窓は閉め切っているのに片付けても片付けても湧いてくるのはなぜなんだろう。追い討ちをかけるように電子音が鳴り響く。休日にも関わらずベッド脇の机に鎮座し勘違いでアラームを鳴らす電波時計にも腹が立つ。薙ぎ払えば一緒に首まで落ちて気分は最悪だ。クソ、クソクソクソ。ただでさえ変な夢を見て気分が悪いのに。鳴り止まないチャイム。煩いな、出るよ、出るっつってんだろ。俺は仕方なく、着の身着のままで玄関のドアを開けた。
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tekarin · 7 years
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関蝉丸神社参道の踏切にて。 #関蝉丸神社 #蝉丸神社 #京阪電車 #京津線 #京阪800系
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ggiizzmmoo · 7 years
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某国王室御用達ショコラティエの「救心」をオーバードーズ────────────────────────────────────────────────
ーーーーあなたの書き込みにコメントがありました「このクソ文章が」ーーーー
朝一番、スマホを見て目に飛び込んできた一文がこれだ。起き抜け、 袈裟懸けに斬られたような格好で、丸裸の心臓がどくっと脈を打った。どうも 先週投稿した不倫に関するポストに寄せられたコメントのようだった。
「クソ文章」か・・・ 確かに。ほぼ推敲もせずアップしていることが多いこのブログだ。 誤字脱字誤用も多い。ツッコミどころありまくりだ。また内容も 文章で何か表現しているというよりは、文章で何かを漏らしている、という 感覚に近い。気に入らない向きも多いと思うが「クソ文章」と���あんまりでは ないだろうか。ちょっと悪意がありすぎだろう。
自分はヘルプで対処方法を調べコメント主へのブロックを試みた。だが ただおめおめとブロックするだけでいいのだろうか。こんなに気分を害されて おめおめ逃げるだけのチキン野郎なのか自分は。胸に手を当てて自らに問う。
答えは否だ。
自分は相手への返信欄に「う」「ん」「こ」を入力、ニッコリと笑顔を浮かべた ヒトの排泄物をディフォルメした絵文字を送信、その後ブロックに至ったのだった。
ハァ、これで気が済んだ・・・わけもなく気は晴れないままだ。本来ならそのまま 寝床で一日を過ごし精神面の回復を図りたいが、今日は9時には出社せねばならない。
階下に降り台所で社弁当を詰めていると、店主(配偶者)が心配そうな面持ちで こちらに近づいてきた。「おはよう」といつも通り気丈に振る舞った自分だが 妻の瞳の奥に宿る暗い影に気付いたのかもしれない。しかし店主(配偶者)は 弁当箱を覗きながらこう言った。 「お前、会社にそんなにはしゃいだ弁当持って行って大丈夫なのか・・?」と。
・・・わかってない。さすが「クソ文章漏らし人間」の配偶者だけある。 この人全然わかってない。
失意のまま「はしゃいでないよ・・・」と言い残し、トボトボと家を出る。 そのまま寿司詰めの電車に乗り、問題なく出社したものの気が晴れない。 仕事の進みもいまひとつだ。悔しいので認めたくはなかったが、いま、自分の心は 一点の曇りもなく傷ついている。そう思った。
だがこちとら社会人。仕事に支障はきたしたくないので、何とか心を持ち上げ 業務効率を上げなければならない。そして脳内で自らを励ましにかかる。
「大人なのにこんなに些細なことで落ち込んでどうするの。生まれて40年と少し。 もっとつらい事があったじゃない、ほら、こんなことやあんなことがあったでしょう」 ・・・・と、今朝の出来事をはるかにしのぐハード目な思い出を掘り起こしていたら 益々落ち込んできた。危ない。このままの状態だとなんらかの精神的疾患になりかねない。
自分は社を飛びだし、一目散にとあるショコラティエに向かった。 いまだ、いまこそアレを買うときがきたのだ。
そのアレとは赤胡椒にチョコレートをコーティングしたスパイスチョコレートのことだ。 ずっと食べてみたかったが、いかんせん値段が高かった。畑のキャビアよりは高く、海の キャビアよりは少し安いといった価格帯で、自分には分不相応に思えた。
だが今、この傷ついた心を癒すのはこのスイーツしかない、と自分は思った。 適温に保たれたガラスケースの中に件のチョコレートがあった。相変わらず 小さな瓶に数十粒しか入っていないのに高いな・・・・と思う。だが心に傷持つ 自分にとってこれは薬のようなものだ。そうだ。形も粒状だしショコラティエが 処方する「救心」だと思えばいいのだ。心を救う薬だと思えばコスパがいいとさえ 思えてきた。自分は迷いなく札を出し社に戻り、その日の業務を遂行した。
あとは家に戻りコーヒーでも入れてゆっくりチョコレートを服用すればいい。
・・とそう思ったのが火曜のことなのだが、今朝になってそのチョコレートの存在を 思い出した。あれから昼食にタコスをたべたり、サーフィンに出かけたはずの店主(配偶者)が 釣ってきた鯛を塩焼きにしたり、蜂に刺されたり、死んだ蝉を踏みつぶしたり 紹興酒を盗み飲みしているうちにチョコレートはおろか「クソ文章」という パンチラインごとすっかり忘れていたのだ。
というわけで遅ればせながらさきほど、某国王室御用達のショコラティエによる ピンクペッパーをチョコレートでコーティングした丸薬「ピエメンタローサ」を コーヒーで服用する。ミントを思わせる芳香があり、なるほどこれはチョコレートと 合うはずだと思う。たまらずそのまま一瓶を食べきってしまった。
はばかりながらも、下品は承知の上で「クソ」美味しゅうございました、という感想を述べて 文章のしめくくりとしたい。
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jiyuunashinbtsu · 5 years
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2019.07.滋賀 大津・ 関蝉丸神社下社
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tantannonichijo · 5 years
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なろう系にはまった結果一年で大量に読みまくった件
去年の6月に「剣士を目指して入学したのに魔法適性9999なんですけど!? (年中麦茶太郎@ZZT231)」という作品をふらっと読んだことをきっかけに小説家になろうに掲載されている作品を暇さえあれば読みまくるという一年を過ごしてきました。 そのほとんどが異世界転生ものでネット上では展開が強引、理不尽等とあまり好まれていないような感想が多いのですが、それらがボクは大好き。「おれつえぇばっちこい!」「もっと読ませろ」てな勢いで読み、気がついたらブックマークが70を超えるという状況になってました。 ここまでブックマークが増えてしまうと連載途中の作品の更新があるたびに「あれ、この人って誰だっけ」「どんな展開?世界?」と大混乱に陥るのですがそれもまた楽し。まだまだなろうの世界からは抜け出すことは出来ないし抜ける気も無いのでいい趣味が出来たと喜んでいます。 70を超えたまぁ中途半端なタイミングですが、ここでボクが読んできたものをリストアップ、何か皆さんの参考になればいいなと思います。
ちなみにこれだけ読んできてこれは面白かった、オススメというものが何作かあります。気になった方は一番最後にあげておくので是非読んでみてください。
しかし、よくまぁこれだけ読んだなぁ・・・
2019/06/08現在ブックマーク(追加逆順)
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ukigawachihiro · 7 years
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『虹と木漏れ日』  虹と木漏れ日。朝露のついた葉っぱ。死んでしまったアゲハチョウ。地を這うアリが集まってくる。今朝の冷え込みは森全体を湿らせて、寒さに耐えきれなかったアゲハチョウの翅をアリたちが運んでいく。木漏れ日の中を生きたアゲハチョウが飛んでいく。空には大きな虹がかかっていた。胸に抱えたスケッチブック。描きたい場所を探して見つけた景色は、中学生の日常からかけ離れていて、私自身もその景色の一部であることに全く実感が湧かなかった。  ○  新しいクラスの親睦会を兼ねた林間学校で近くの自然公園に来た。中学三年生にもなると森の中で遊ぶ機会も少なくなるので、飯盒炊飯を行うキャンプ場までの山道すら、ロールプレイングゲームの中盤のダンジョンのような険しさに思えた。道中襲ってきたスズメバチは紛れもなく凶悪なモンスターだったし、日本最強の猛獣であるエゾヒグマに出喰わす可能性だってゼロじゃない。こんな危険な場所に、ジャージ一枚という装備で強制連行する先生方のリスク管理能力は問題視するべきだろう。そんな不満を心の底でふつふつと煮込んでいた私を他所に、クラスメイトたちはこの林間学校を割と楽しんでいるようだった。  はしゃぐ友人たちの中でも、同じ班の中村君の飯盒炊飯に掛ける意気込みは凄かった。班員で分担して持ってきたカレーの食材の内、私はジャガイモを、中村君はカレールーを持ってくることになっていた。私もカレーは好きなので、煮込んでも型崩れしにくい品種であるメークインをきちんと選んできたのだが、中村君は市販のルーではなく小麦粉と数種類のスパイスを持ってきたのだ。クミン、コリアンダー、ターメリック、チリペッパー。他にも聞いたことがないスパイスが数種類。コンソメ顆粒にニンニク、生姜。塩と胡椒。そんなものがやけに大きなリュックから続々と出てきた時には、班員全員が唖然とした。二年生の時から中村君と同じクラスだった班長の大竹さんは「またやってる」と慣れた様子だった。 「中村君って料理好きなの?」  三年生からの転校生である坂本さんが器用にジャガイモの皮を剥きながら聞いた。中村君はスパイスを調合しつつ、声だけで返事をした。 「好きっていうか、どうせ作るなら美味しいものを作りたいし」  班長の大竹さんが呆れて言った。 「ルーで十分美味しいじゃん。バーモンドの中辛と辛口を混ぜれば、それでもう最高のカレーでしょ」  春の川の冷たい水のような声が印象的だった。臙脂のジャージとは似合わない青白い肌がそういうイメージを与えているのかもしれない。大竹さんも中村君も、勉強も運動もできる優等生という共通点はあったけれど、性格というか、二人の持つ性質は真逆だった。色で言えば青と赤。安っぽく言えば氷と炎。「冷静と情熱」なんて言葉もあるけれど、それは少し違う気がした。大竹さんの方が氷を直接手で持った時のような鋭さや常識を破壊していく激しさみたいなものが感じられる。一方の中村君はというと、強さも弱さも優しさも厳しさも美しさも気持ち悪さもごちゃまぜにして煮込んだような、それこそカレーのような人に見えた。  他の班が協力して各々の料理を作っているのに対して、私の班は中村君に料理を任せ切っている感じで、野球部の斎藤君なんかは元々同じクラスだった長谷川君と連れ立って、キャッチボールに行ってしまった。野球素人の文化系である長谷川君に対し、斎藤君は変化球を全力で投げ込んでいるため、キャッチボールは続かない。斎藤君の一方的な投球練習のようだったし、実際、そのつもりだったのかもしれない。カレー作りは中村君の独壇場となっていたので、大竹さんも遊びに出た二人を止めなかった。大竹さんと私は大きな鍋で玉ねぎを炒め始めた。「体で止めろよー」と大きな声がした。「無茶言うなって」と情けない返答があった。長谷川君が止められなかったボールがキャンプ場の近くに流れている川に落ちたらしく、二人はジャージをふくらはぎの上まで捲り上げ、川の中へと入っていった。川辺にはアゲハチョウがたくさん飛んでいた。  調理場に残った唯一の男子はまだ解凍しきれていない豚肉を一生懸命剥がしている三浦君だった。暇な時間があると、三浦君はよく変な話をした。 「この冷凍肉を狙って熊が出たら、皆は僕を置いて逃げるといいよ。サバンナで襲われたガゼルは、時間の無駄になるのに大きく跳ねるんだって。それは群れに危険を知らせる意味もあるのかもしれないけど、生存競争においては不利にしかならない。でも、ガゼルは本能として跳んでしまう。そんなガゼルに親近感を感じるんだよね、最近」  私は「へぇ」と曖昧な相槌を打った。大竹さんが大きく溜め息をついた。漏れた溜め息はぬるま湯のような確かな感触を持って、辺りを包み込んだ。  ○  中村君が最低三十分はカレーを煮込むというので、鉛筆とスケッチブックを持って、散歩に出た。  絵を描くことは私の数少ない趣味の一つだ。描くものはあまり決まっていない。どちらかというと風景というより具体的なものを描く方が多かった。具体的なものといっても、通常の物体とは限らない。さっき「見えた」ぬるま湯のような溜め息。小さい頃から、ああいう確かに在るのに語られることのないものをよく描いていた。  ○  普通の人が見えないものが見えていると気付いたのは、小学校中学年ぐらいだったと思う。保健室のベットの閉じられたカーテンの向こうから、声にならない泣き声が嵐のように私を包んだときだ。一番強烈に覚えているのは、修学旅行で行った自殺スポットとして有名な滝だった。それはもう、魑魅魍魎や百鬼夜行といった具合でそういうものが溢れかえっていた。霊感の強い友達が「何かいる。嫌な感じがする」なんて言っていたけれど、私の目には、赤黒い怨念がぐるぐるとその子の首を締め付けている姿が映っていた。嫌な感じ、といってお茶を濁して片付けていいレベルではなく、その怨念は確かに「その子を殺したい」という強い意志を持っていた。滝は真っ逆さまに五十メートル程落ちていたけれど、滝壺には霧と様々な感情がひしめき合っていて、美しいはずの水面は全く見えなかった。  私の世界に溢れている、確かにあるのに誰にも語られないものや音や色や感触や温度を誰かに伝えるために、気付けば私はそれらをひたすら描くようになっていた。  最初、母は私のことを天才だと褒めちぎっていた。しかし、母に見えている世界ではない意味不明な絵ばかりを描く私が気持ち悪くなってきたのか、その内、絵以外の習い事ばかりさせるようになった。それでも、私は時間を見つけてはノートに落書きを描いていた。父がそのノートを見たときは、お祓いをしてもらおうと有名な神社に連れて行った。神主さんはさすがで、ふさふさの大幣を振るう度に光の粒が広がって、とても綺麗だったのをよく覚えている。  ○  この森にはたくさんのそういう輩がいて、とても賑やかに見えた。見えると言っても、よくある「黄色��オーラをまとったあなたは・・・」みたいな占いみたいな感じじゃなくて、もっとはっきりした感覚だ。例えば、林道にたくさんの鬼火が飛んでいる。見上げた先、枝の隙間には仄暗い地縛霊の影がふわふわ漂っていた。風が吹けば、葉が擦れる森の音がして、オレンジ色のお腹をした小鳥が地縛霊や鬼火を避けるようにして飛んでいった。普段、街中では色んな人の色んな感情に押し流されそうになってしまうけれど、森はもっと賑やかで、もっと優しかった。  森の中を描くものを探して彷徨っていると、どこまで行っても続く緑に迷い込んでいくような気がしてくる。まるで自分が小さな虫になって、ぐるぐると虫かごの中を回っているように感じてくる。目の前にある大きなカツラの樹が、さっき見たものなのか、それとも初めて見たものなのかも分からなくなる。この道はさっき通った道なのか、それとも皆から離れていく道なのか。普段、家や学校の周りで生活をしているときには感じたことのない気持ちが心の中に積み重なっていく。ぐるぐるぐるぐる。森の中を彷徨っている私と鬼火と地縛霊のどこに違いがあるのだろうか。  じめじめした落ち葉に隠れていた虫の私が、少年に掴まれて光の中に出されてしまったように、急に森が明るくなる。  尾根に出ると緑のトンネルを抜けて、突き抜けるような青空が見えた。ものすごい高いところをカラスが飛んでいる。枝は大空に向かって上に上にと伸びている。崖のような藪に向かって、食事をしていたシマリスが走っていった。陽光が細い葉の上に残っていた幾つものの朝露を輝かせていた。朝露を覗き込むとその一つ一つに虹が入っている。空色のガラスの中に虹が閉じ込められているようで、とても不思議な光��だった。  後ろを振り返って虹を探す。深い青空に大きな虹がかかっていた。空。虹。森。とても綺麗だけれど、抱えたスケッチブックに描くには少し大きいかな。  座ってお茶を飲むことにした。ずっと林道を歩いていたので、気付けば息が上がっている。平たい石に腰を下ろすとジャージから石の冷たさがお尻に伝わってくる。目の前に、山吹の花が咲き誇っていた。鬼火でも地縛霊でもない、とても普通な、美しい花だった。  ○  そういえば昔、占いに依存していた時期があった。毎朝登校前に、ニュース番組の星座占いコーナーをチェックして、順位、注意点、ラッキーアイテムをノートに書き留めていた。学校から帰ってくると家族共用のパソコンの電源を入れ、誕生日占い、動物占い、手相、姓名診断と順に占っていく。最終的には何人かいた好きな人候補の中から本当に好きな人を相性占いで選んだ。「山吹彩夏」「〇〇〇〇(好きな男の子)」といった具合に二人の名前を入れて、「占う」ボタンをクリックするだけで簡単に結果が出てくる。何を決めるのにも占いが必要だったのだ。  結局のところ、占いが当たることも当たらないことも経験した私は、自然と占いへの依存から脱し、「そんなことよくあるよね」といった程度にしか信じなくなってしまった。ちょうどその頃、占いよりももっと確かに感じているこの世界が、占いよりももっと不可思議な世界なのだと疑い始めたのかもしれない。  星で溢れているはずの夜空に暗闇が残されているように、きっと、この世界には目で見ることができない、耳で聞くことも、舌で味わうことも、指で感じることも、機械で観測することもできない物質やエネルギーがある。あるはずなのに、ただ見えないから「ない」としてしまう人が、嫌いだ。そういう人はきっと私のことも見えないものとして扱っている。一生関わり合うことのない異物として。  尾根を吹き抜ける風が吹いた。  どこからか飛んできたポプラの綿毛。今年、初めて見た気がする。  森の季節が移ろいゆくように、私も変わっていくのだろうか。いつか、こういう目で見えないはずのものも感じられなくなってしまうのだろうか。みんなが大人になって、今よりずっと大人になって、そうすると、今の友人たちは影も形も無くなってしまうのだろうか。いつの間にか消えている虹みたいに。  ○ 「何してんの」  目の前に中村君が立っていた。さすが男の子。ここまで登ってきても全然息が切れていない。それでも、少し顔が赤くなっていた。私は仕方なくスケッチの手を止める。中村君が非常に邪魔なのだ。美しい花が中村君の情念のような赤黒いものでほとんど隠れてしまっている。わずかに見える綺麗な花の山吹色も、臙脂色のジャージが写って、カレーのような風味になってしまっている。 「カレーできたから、呼びにきたんだよ」  見上げると、照りつける日差しに丸い葉が透けて、わずかに重なりながら、鮮やかな薄緑色の点描画のようだ。確かにそろそろお昼時だ。  スケッチをやめて、鉛筆をしまった。立ち上がり、振り返ると、そこにはまだ虹が薄くかかっていた。私と中村君はみんながカレーを待っていることを知りながら、しばらくその場に立ち尽くした。  ○  「虹と木漏れ日」  中村君がそう言った。  私はびっくりして、中村君を見ることができない。どうして彼は私の見ている世界が分かるのだろうか。中村君はそれきり何も言わなかった。ただ、そこにいて、私が振り返るのを待っているのだ。見えなくても、聞こえなくても、沈黙と風の中に、その気持ちが伝わってきた。  確かに感じることができるものだけが、世界ではないのだ。見なくても、聞かなくても、触れなくても、伝わる気持ちがあるということを、私は初めて知った。気付いてしまえば当たり前の事だった。誰かに見られる前から、花は美しい。誰に教えられなくても、その優しい少年は小さな虫を外の世界に出してあげるのだ。  私を虫かごから出した少年は、中村君だったのかもしれない。その仕草は荒々しくて、とても好きになれないけれど。その気持ちは真っ直ぐすぎて、遠くに逃げたくなってしまうけれど。私は少年に感謝しなければならないのかもしれない  ○  虹と木漏れ日は占いのラッキーアイテムにはなりえない。滅多にないものと日常にありふれているものだから。でも、それらは間違いなく私の心を解きほぐしてくれた今日限りのラッキーアイテムだった。  葉についた水滴から、虹が逃げていく。私たちの心からも、いずれ消えてしまうのかもしれない。例えば十年後、また中村君にあったとして、私は今日のことを思い出せるだろうか。森の空気、カレーの匂い、山吹の花の良い香り。よくある霊感や虹よりも、もっと不確かで、確かなもの。そんなものを描くことができないだろうか。暑くなってきた森の中では、小さく蝉の声が響きだした。  木漏れ日の中で、消えゆく虹を見ていた。      (終わり) 【作成中の長編『タイムカプセル』より『虹と木漏れ日』】
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Iggy Pop Stoogesの時ピーナッツバターを全身に塗りたくって客席にダイブ。 ビール瓶をたたき割って自分の体にこすりつけて血塗れ。
Doorsのジム・モリソン ステージで「どうせお前らが見たいのはこれだろ」っつってちんぼ出して しごいたためタイーホ
Faust 「解散コンサートではステージ上で卓球をしただけだった」 実際は「シンセに接続されたピンボール・マシンが曲に合わせてピコピコ・ピヨーンと 演奏された」というのが事実。『テープス』CDライナーに書いてある。
John Duncan Mazeというパフォーマンスでは観客を全員全裸で地下室に入場させ、 そこで閉じこめて本人はニタニタ笑ってるだけ。寒さと暗さで観客は おかしくなって暴れ出してドアを蹴破って脱出、それ自体がパフォーマンスだって。
Duke Reid ジャマイカのTreasure Isleの首謀者。元警官。一聴のどかな音楽をやっているが 演奏が気にくわないと拳銃を出してきて脅したり、殴ったり滅茶苦茶だった。
GG Allin ステージですぐ異様に小さいポコチン出したり 血みどろになったりしてたNYのアフォ帝王。 公開自殺ライブを予定していたがその前に死亡。
Costes/Lisa Suckdog フランスの真性キチガイと結構きれいな女のパフォーマー。ぎゃーぎゃー わめきながらステージでウンコやSexする。ビデオ見たけど萎えた。
Rolling Stones 最近でこそいいおっさん化してるがロケンローバビロンそのもの。 グルーピーが乱交後にぐったりしてたり、キースが窓からテレビ投げたり する某映画はさすがにまずいということで未公開。でも裏ビデオが 出回っていたりする。
72年の全米ツアーに同行したカメラマン、ロパート・フランクは回想する。 「実際のストーンズはシャイで大人しくてカメラの前では決して暴れてくれない。 だから悪名高いグルーピーを金で雇ってメンバーにヤラセをした。 それまで注射を怖がっていたキースに無理やり打ってやったら気絶した。 ミック・テイラーに尺八したら5秒で逝った。ホテルからTVを投げさせた 時はヘルズ・エンジェルズのソニーに銃で脅かしてもらった。キースは すんません、すんませんと言いながら仕方なくTV落とした。 メンバーは出来上がったフィルム見て泣きながら抗議してきた。 こんなんじゃ俺達のイメージが悪くなっちゃうって。今から思えば可哀想な気がする。 ダーティー・ワークの世界なんだよロック・バンドは」
Euphoria 1969年にcapitolからサイケ・カントリーの名盤出しとる男二人組。 メンバーの片方はその後性転換手術を受けたらしい。
ジェネシスPオリッジ スロッビンググリッスルのちサイキックTV 初期のライブではCoseyと一緒に小便飲んだり、皮膚を切って自分で 縫ったり、金玉から採血して肛門に入れたり、吐きながらセクースしたり もーやりすぎ。
Faxed Head 全員自殺失敗者の結成したバンド。ボーカルは車椅子で客席に ダイブする。他のメンバーも顔がボロボロなので変なマスクを被って 演奏。来日もした。 しかしこれはどうもギミックらしい。ボーカルはZip Code Rapistsのあいつ。 変名でやったら評判が良くてやめれなくなったらしい。
Don Drummond Skatalitesのトロンボーン奏者、その恋人のMarguerita。 Margueritaが歌ったwoman a comeという曲のレコーディングでは 恋人をぼこぼこに殴った後で平然と演奏したそうな。 後にMargueritaを殺して発狂、精神病院で死亡。 シドビシャスの先を行っとったな。
Hermann Nitsch 果実・牛の内臓を3-40人で踏みつけそこに全裸男性を投げ込む。 逆さ吊りに貼り付けられた真っ二つの牛の内臓を血で洗いながら揉みまくる。 十字架に貼り付けた全裸男女に性器を臓物と血で洗わせ牛の小便を飲ませる。 全裸で重なり合った男女の上から牛の血と内臓を浴びせかける。 十字架の全裸男性の前に全裸女性が横たわる、その股間に子牛の 死体の頭を突っ込み内臓と血でどろどろにする。 磔目隠し全裸女性に牛の血を飲ませる。 スクラムを組んだ男女2-30人の真ん中に牛の死骸を置きそこの内臓と血を 体に塗りたくらせる。外から血と臓物と果実の入り交じったものを滅茶苦茶に 投げつけられる。スクラムの男女は見る見るうちに汚れていく。
園田遊 関西の初期ノイズシーンで数回ライブ、複数の人がバケツに吐いた ゲロを飲むという良くわからんパフォーマンスをしてた。 後にラフィンノーズを結成、初期の事を聞かれると激怒するらしい。
Crazy SKB 神社放火したり漁船を爆破したり。よく流血してます。
山塚アイ ハナタラシでの悪行は数知れず。ライブハウス丸ごと破壊したり、 ユンボで客席に突っ込んだり、死んだ猫をオブジェにしたり、 客席に火炎瓶を投げ込もうとして羽交い締めにされたり。
遠藤ミチロウ 全裸は当然、ステージでウンコして逮捕、ブタの頭を客席に投げる。
アケミ(じゃがたら) この人もよく裸になってた。発狂して一時退院中にライブした時の記録が 「君と踊りあかそう日の出を見るまで」 風呂場で溺水。死因は当然あれです。
泯比沙子 蝉を食べる、マーガリンを一口で食べる(なんじゃそりゃ) ライブ中に生理が始まり、股間を真っ赤に染めながら絶叫。バンドの メンバーによって、客席の中にブン投げられる等のステージで、博多の 狂乱パフォーマーと呼ばれる。後に上京、ミン&クリナメンなるバンドで 宝島=キャプテンレーベルが第二の戸川純に仕立て上げようとするも、大失敗。 「大人達に騙された・・・」の言葉を残し解散、帰郷。東京は怖いところ��。 ちなみに博多時代のバンド名は天皇。その前は特殊学級。
非常階段 女性メンバーの放尿パフォーマンス等で有名な“キング・オブ・ノイズ” 非常階段は、だが、事前にステージに敷くビニールシートを用意したりして、 何気に気配り屋さん。
内田裕也 初孫が生まれた時。友人が「笑っていいとも」に出演した時。 映画の完成披露パーティ。結婚式。そして御葬式。 どんな時でも花輪に添えるメッセージはひとつ。 ファッキン ロックンロール!
石野卓球 小室哲哉のフェラーリに玉金乗っけた。
山下達郎 彼の音楽を「趣味」で片づけた音楽評論家に激怒、自宅に電話、 相手がしどろもどろになると「今からお前の家に行って刺し殺すぞ」 と言ったらしいが、、、今季のロック画報にも載ってるがこれ本当?
” -
伝説の奇人・奇行ミュージシャン
(via aspirinsnow)
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yasuhirockhow · 3 years
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子供の頃、一番最初に覚えた百人一首は蝉丸でした。まさか大人になって飛び出し坊やきっかけで関蝉丸神社に参拝する機会が訪れようとは。感慨深いです。琵琶と腕の隙間の切り込み、支柱のところの弦描き込みのまぁ見事なこと。そしてやはりジャズフェスのギター坊や同様、B面はレフティー!
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skf14 · 4 years
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ざわざわ、と、耳の外で空気が蠢く。次第に音が脳に届いて、シナプスが活動を始め、僕に覚醒を促す。到底こんな騒がしい場所は天国でも地獄でもない、背中に感じる微妙に硬い慣れ親しんだ硬さは、まごうことなき病院のベッドだった。
「○○さん、○○さん!!」
そばにいた女の声が、水中で聞くように濁ってよく聞こえない。モザイクがかった不快な声に耳を顰めて塞ごうとした手は、ベッドに縫い付けられたまま動かせない。人間の動物的本能とも呼ぶべきか、拘束されていると分かれば、途端に動いて暴れて逃れようとする身体を複数人に抑えられる。脚だけが自由で、身体も腕も、自由を奪われた状態から察するに、僕はまた死に切れず病院に運ばれたらしい。段々と視界が鮮やかに、目が潰れそうな白い天井と、清潔感を前面に押し出した、看護師たち。
「落ち着いてください!暴れないで!先生を呼んで!」
あぁ、予想通りだ。まるでルーティン。つまらない。途端に力を抜いた僕に拍子抜けしたのか、一瞬キョトンと呆気にとられた表情を浮かべたそばの看護師は、はっと我に帰りPHSでどこかへ連絡している。バタバタ、喧しい足音に頭が痛くなるが、おそらくこの頭痛は騒音によるものではなく、死に切れなかった原因のせいだろう。
暫くして来た医者は、何度か見たことのある顔だった。またか、と言う顔を隠さずに現れた老年の紳士は僕の状態を繋がった機械やら話やらで確認したあと人払いをして、看護師たちを部屋の外へ出した。二人きりになった部屋で、そばの椅子に座った医者は僕の身体にぽん、と手を置いて、何も言わずじっと顔を見つめた。そして、呆れた顔でふっと肩の力を抜き、笑う。
「...すみません。また、ご迷惑を。」
「おかえり、は、きっと君にとっては酷な言葉だろうが、僕は医者だから、君が生きてここにいることを、嬉しく思っているよ。」
「...すみません。」
「不要だと思うけど、説明しておくと君は睡眠薬の大量摂取で運ばれたんだ。通報は、君の上司だよ。」
「また、上手くいかなかったんですね、僕は。」
「君はなかなか、意識のある時に来てはくれないね。」
「すみません。」
「眠れるように鎮静剤を入れさせてもらうね。申し訳ないが、手の拘束は暫くこのままにさせてもらうよ。」
「はい。すみません。」
医者が傍の点滴のパックをいじったあと、腕に取られていた静脈注射のラインから、鎮静剤を入れる。液体が体内に注がれる光景を見ながらふつり、曖昧だった意識が途切れた。
退院費を払う瞬間ほど、虚しいものはない。もう見ないと思っていたこの病院の待合室と、受付。死ねなかった事実より、失敗した事実の方が、背中に重くのしかかっていた。ふらり、見送りに来た医者は、必ず定期的に通院すること、今回のような来院の仕方はもう二度としないこと、僕を心配する人間が少なくともこの病院にはいること、を言い含めて、僕の手を握った。
残念ながら七割方回復してしまった身体を引きずり外に出れば、八月の日差しが脳天に刺さって痛い。太陽は何の使命感であんなにギラギラと星々を焼いて回っているのか、理解し難い。勿論、焼くといっても太陽は燃えているわけじゃなく、ただの核融合で熱を出している事は理解しているが。
「暑い、な。」
病院の表に突っ立っている欅の木に止まったアブラゼミが、1週間後に死ねる喜びで歓喜の声を上げていた。根元には既に力尽きた一匹が転がり落ちて、死体目掛けて列を成す蟻が嬉しそうに屍肉を貪っている。
「美味しいか。蝉は。」
熱を引きずりのろのろと現れたタクシーを尻目に、一歩、病院の敷地から踏み出した途端、地面が無くなるような感覚がして、悔し紛れに足趾に力を入れた。タクシーに乗る金はない。気力で何とかこの足で自宅へ帰り、各方面へ謝り、溜まった所用を全て片付け、明日から仕事に戻らなければいけない。照り返しと太陽で身体が溶けていきそうだが、吐き気がするのはきっと夏のせいじゃない。口内に溜まった粘る唾を飲み込めば、水分不足で張り付く喉をぬたりと降りていく嫌な感触がした。
脳裏に浮かんだ両親の変わり果てた姿が何年経っても消えない。丁度、住んでいた市で一年で一番の暑さを記録した日だった。臨海学校から帰った僕は、アパートの周り、玄関の前に集まる人々に哀れみと期待の目を向けられて出迎えられた。「あなたの家から変な臭いがする。」と嫌そうな顔で言う大家が僕に鍵を出せと催促して、手渡せば鍵を差し込む前にヒィッと叫んでダンダンと足元を何度も踏み締めていた。這い回る蛆虫と飛び回る蠅が潰れて、コンクリートに浅黒い跡を残していた。
扉が開かれる瞬間、僕のことを気にしていた人間はいなかった。日頃当たり前のように繰り広げられる暴力と喧嘩の騒ぎに、周囲の住人は辟易していた。当然��ろう。皆、パパラッチ気分。リアルタイムで起こった凄まじい出来事への期待で一杯だったんだろう。まさか、その凄まじさが想像以上の惨さだとは思わずに。
大の大人が倒れ、嘔吐する声を聞きながら僕は、帰る場所へ帰った。ただいま、と開く口には蠅が飛び込んできて、ざりざりと嫌な食感、味を残していく。
ぶら下がっていたであろう父親は、体重のかかっていた首の部分が腐り落ちたのだろう、無様に膨れた身体を畳に横たえ、そして少し離れた場所へ転がった首は濁った目を蕩けさせ、此方を向いて舌を出していた。当時はまだ十数年の人生だったけど、父親の死体はその中でも一番鮮やかな色を持つモノ、だった。蟾蜍のように膨れ上がりヘソが飛び出て、所々表皮がずり落ちる腹部はまだらに淡青藍色で、いつか図書室で見た貴重な翡翠の色を連想させた。手足は薄肉色で、浮腫んだ手指は燻んだ魚肉ソーセージにも見えた。無数の蠅が所々で黒い塊となり、もぞもぞと父親を貪っていた。
風呂に沈んだ母親は半分ほど溶け、浴槽に付けられた切ったであろう腕は水の中で青白く、嫌に綺麗に形が保たれたまま、他の部位との違いがはっきりしていて不気味さを感じさせた。母親の柔らかそうな腹が破れたんだろう、洗い場に溶け出した内臓は蘇芳色とも呼ぶべきか、所々から生えたカビと、群がる蛆虫が一周回ってポップな色合いを醸し出していた。
でもこれは全て当時の記憶をのちに言語化したもので、当時の僕はただ、この世に起こりうる最悪の地獄を、ただただ見て、見て、目に焼き付けていた。駆けつけた救急隊員と警察官が僕を抱えて部屋から連れ出すまで、野次馬も大家も中には誰も入らなかった。
大して必要とは思っていなかった思い出は、二つの腐り果てた死体の色に全て塗り潰され、丸めてゴミ箱に捨てられた。母親と父親、普通の子供、幸せになる要素は揃っていたはずなのに、結末は幸せにならなかった。結局要素があっても、人が努力をしても、どうにもならないことがある、と、そういうわけだ。
僕の向かう先は腐乱死体なのだろうか。夏になるにつれ、死ななければ、というよりも、なぜ生きているんだろう、の気持ちが強くなる。最も忌み嫌う夏に、僕は囚われ続けていた。いつかあの医者が言った、夏の風物詩、とは言い得て妙だ。
山道は荒れ果てていて、足元が覚束ないのは日頃日が昇る頃から沈んで暫く経つまで、延々とクーラーの効いた部屋でPCと睨めっこしているから、だろうか。手に持ったなけなしの金で買った菊花が暑さで萎びそうだ。水のペットボトルを入れた袋が、奴隷の足かせの如く手に食い込んで地面を呼ぶ。止めろ重力、呟く声はミンミン蝉にかき消された。
山奥の���よく遊んだ場所に、二つ並べて置かれたただの石。これが二人の墓標だった。墓を建てる金はない。燃やされた二人の骨を、僕は壺の中で混ぜて、この場所ですり潰した。拾った棒を突き立てれば、脆い焼けた骨なんてすぐに粉になった。2ミリ、2ミリ、骨を撒く上でのルールを事務的に話した行政職員の言葉を反芻して、欠片が粒になり、粒が粉になり、汗が流れ顎からぽたり、滴り落ちて骨の粉に丸い模様を作った。
何年経っても撒いた箇所にだけは草木が生えないのは、両親の抵抗だろうか。土に馴染んだ骨達は、未来を夢見る種子に何を与えたのだろうか。水を石にかけ、花をたむけ、手を合わせる。僕の脳裏にあの記憶を刻んだ両親を、僕は責めたり、怒ったりしなかった。運命、そういえば諦めがついた。運命だったのだ。彼らが幸せになれなかったのも、僕がただ冷静に事実を受け止めたのも、夏が来るたびに死にたくなるのも。
「運命だ。全て。」
ここは涼しい。部屋には帰りたくない。この石を抱いて、そのまま眠ってしまいたかった。母親と父親の眠る土の上に寝転がれば、生肌で触れた箇所が冷たく気持ちいい。濃くなる土の匂い。
「君がいなくなったのも、運命だったんだろう。」
「君の記憶が沢山あるあの部屋に、僕は帰りたくない。ここだけがいつも、僕を許してくれた。」
蝉、羽虫、照り付ける太陽と青臭い雑草と、生臭い土と夏の匂い。思い出す嫌な臭い。二人が心中した理由は、母親に末期の癌が見つかったのが原因だった。あんな二人にも、愛という概念があったらしい。僕には何も伝わらなかったが、僕に対しては無かったが、その愛により老い先短い命を共に終わらせようとしたのが事の顛末だった。簡潔に書かれた遺書に、僕はいなかった。
「謂わばルーティンだ。これは。」
「最後に二人に会えてよかった。」
立ち上がり払ったズボンから落とされた蟻が、所在なさげに地面をうろうろと歩き回っている。帰ろう。今夜は、君の命日だ。
夏祭りに浴衣で来る、というのはどうしようもなく俗世的で気恥ずかしいが、まあいいだろう。延々と登っている廃神社の石階段は所々が欠けていて、何度も神社を潰して建物を建てる話が上がっては立ち消えているらしい。それもそうだろう。この石階段でもう3人も、落ちて死んでいるんだから。僕なら神社を綺麗にして神様を祀り直すが、役人にはそんな発想も金もないらしい。ただ立ち入り禁止の張り紙と通知文をおっかなびっくり貼るだけだ。本当に死人が出たからか、何処かの心霊スポットよろしく若者の肝試しに使われることもなく、ただ朽ちていくだけの建物が鎮座していた。からん、ころん、と鳴る下駄の音が心地良いのは日本人だからだろうか。
街の喧騒が遠い。今夜は酷く蒸し暑く、祭りでも熱中症が多発しているだろう。じわりと額から滲む汗を拭う。
辿り着いた神社の、正面辺りに腰を下ろせば目の前には小さな街と、薄汚れた夜空が広がっていた。星は数個、肩身が狭そうにひっそりと存在を主張していた。
「デネブ、ベガ、アルタイル。夏の大三角。少し離れたところに、アンタレス。」
僕の目に映る星は、昔と変わらない輝きなのだろうか。歳を取るごとに色覚が衰えていくらしいから、きっと、星座を覚えた頃とは違う様相で、脳は捉えているんだろう。
刹那、空へ一筋の白い光がひゅるる、と空気を割いて登り、そして、弾けた。
空を我が物顔で彩った白色光の大輪の花火。確かあれは、過塩素酸カリウムによる、炎色反応だったか。
また一つ、点火された花火が空に咲く。ひゅるるる、どん。花火玉に付けられた笛の鳴る音を最初に聞いた時、夏が終わる音だと、そう思った。終わるわけがないのに、僕は漠然と、これを聞き終えた時夏が終わり、夏が死ぬんだと、怖くなった。当時は形容し難かったその価値観を、今は大切なものだと思える。
どん、どん、どん。青や紫、ファンシーな形を模した花火から、王道の丸い花火まで、色とりどりなそれらが夏を終わらせようと矢継ぎ早に急く。こうして空に咲く花火は、自殺と似ているような気がする。そういえばあの青い花火、どこかであの青を、見たような気がする。どこだろうか。
懐に忍ばせていた、君の写真。僕が、君と此岸で幸せになれなかったのも、きっと運命だったのだろう。人が思考し、願いを込め、行えば、それはいつか形になることを僕は信じていた。信仰も惧れも、全ては人が生み出す物だ。
せめて彼岸では幸せになろう、と、手に持った写真を丸めて、口に含み、花火の音に合わせて咀嚼した。きゅっ、歯が紙と擦れて鳴る。暫くして飲み込んだ写真が胃で落ち着き、心がじわり、暖かくなった。
空は昼間のように明るい。フィナーレなのだろう。余命宣告。夏が、嗚呼、夏が終わる、夏が死ぬ、夏が、夏が。
朽ちかけていても日本の技術、柱はしっかりしていて、成人男性一人くらいがぶら下がっても問題はなかった。選ぶなら首吊りを、それもまた、運命だったんだろう。そばに書き置きを置いて、空を見つめた。最後の大輪が空を飾り、そして、全ての光が消えた。
『冥婚:生者と死者に分かれた異性同士が行う結婚のこと。一般的に死者を埋葬する際などに、架空の相手を記した絵馬、札等を共に埋葬すること。または、同時期に亡くなった未婚女性と結婚させて共に葬る場合もあれば、人間の女性に見立てた花嫁人形と共に棺に納める場合もある。但し、実在の人物の名前や肖像画は禁忌とされ、特に、写真を用いた冥婚は最大のタブーとされる。理由は様々だが、大きいものとして死者が生者を冥土へ連れていってしまう、という理由が挙げられる。従って、死者と生者の写真を共に燃やすことは禁じられている。』
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naotoaoyama · 4 years
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大津逢坂山 芸能の神様 関蝉丸神社
地元大津の神社紹介。
かつて日本三大関所の一つとされた逢坂山の関。
そこに鎮座している関蝉丸神社を紹介させていただきます。
関蝉丸神社上社、関蝉丸神社下社と蝉丸神社と三社あり、相関連しているのだそうです。
早速ご紹介しましょう。
(more…)
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hal-photo · 7 years
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関蝉丸神社下社
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 関蝉丸神社下社(せきせみまるじんじゃしもしゃ) 大津市逢坂1丁目15-5 拝殿  内幣殿 本殿  祭神:豊玉姫命  中臣稲荷神社 関の清水    関清水神社 貴船神社  天満宮 大神宮神社
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theatrum-wl · 7 years
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【劇評】若者たちの戦い方
東京学生演劇祭2017
友田 健太郎
東京学生演劇祭を見た。昨年は審査員だった。今回は一観客として見たが、やはり面白かった。 若い人はいつの時代も大変なものだが、最近では特に日本社会の劣化がひどく、政府の政策も企業の扱いも、若い人を敵視し人口を減らし、究極においてこの社会を滅ぼそうとしているのではないかと思わなければその意図が理解しがたいようなひどいものになっている。そんな自滅的な政策を、意図的でなく、あれやこれやの部分的・短期的な利益や非合理的な感情の積分の結果として実施してしまうというのがこの国の計り知れない愚かさだが、その結果当然のように人口は激減し、「最後のお祭り騒ぎ」東京オリンピックの後、しんどい未来がこの国を待っているのはほとんど確定している。
そんなこととこの演劇祭にどんな関係があるのかと言われそうだが、会場の王子小劇場で一日学生たちの作った作品を見ていると、この社会にある様々な不合理なもの、悪いもの、ダメなもの、余計な憎しみだったり、偏見だったり、に、若い人たちは、正面から立ち向かうというのではないけれども(それはこの世代の人たちのスタイルではない)、やはりその存在を敏感に察し、その存在を徐々に溶解し、無化していこうとしている、そういう風に、私には見えたのである。日本社会の再生がいつ果たされるのか、三十年後なのか、五十年後なのか、百年後なのか、分からないが、それは結局、その場その場の、少しずつの模索の積み重ねの結果でしかありえない。そうした、遠い未来に向けた祈りを込めた一つの供物としてこの演劇祭を見た。 以下に各演目の短評を掲載する。
【Aブロック】 喜劇のヒロイン『べっぴんさん、1億飛ばして』 カオリは実家で弟・大五郎が別人に入れ替わっていることに気づくが、母や妹はそれを認めない。そうするうち、カオリが連れて行った探偵が父親に入れ替わり、飼い犬も猫に入れ替わってしまう。カオリは元の家族を取り戻せるのか。 テンポのいい喜劇。見やすく面白い。他愛のない話のようで、わずかに仲良し家族の深い亀裂を覗かせるところがミソだ。最後は「全部夢でした」というオチなのだが、探偵の「父親」は相変わらずその場におり、不整合になっている。おそらくわざと違和感を残したのだろうが、それが突き詰め不足にも感じる。ラストの直前に、カオリが偽家族らと写真を撮り「ま、いっか」とつぶやく場面があるが、これが作品の精神を象徴している。あえて突き詰めない精神。だが、この作品の作り手には「ま、いっか」では済まないものが色々ありそうで、それをこそ見たいという気がした。
劇団リトルスクエア『愛は失敗をしない』 七人で構成するアイドルグループのエース・サツキが卒業するコンサート。その後の楽屋を舞台に、メンバーどうしの愛憎が噴出し、グループは崩壊状態に陥る。カラフルなセーラー服(のようなもの)を着たメンバーたちと、裏方の男性三人の合計十人で展開される息詰まる会話劇。 年齢が高い初期メンバーと元々彼女らのファンだった二期メンバー、売れているメンバーとそうでないメンバー、裏方男性を巡るさや当てなどてんこ盛りの要素をうまく組み合わせて展開させ、最後のクライマックスまで持っていく手際がよく、完成度は高かった。制服を身にまとい、「卒業」を通じてメンバーを更新していく女性アイドルグループというのは、冷静に考えればかなり特異なシステムなのだが、この作品を作った人たちは物心ついた時からこのシステムに馴染んでいるわけで、だからこそ暴露的な内容でありながらアイドルという存在への揺るぎない愛情も感じさせる作品となっている
しあわせ学級崩壊『禁煙/ドリル/オワリの国』 転換中、つなぎを着た男女が一辺約三メートルの鋼材を立方体状に組み立てる。そこから既に作品の世界が始まっているようだ。舞台は工場のような仕事場の喫煙所で、そこにつなぎを着た女性シロタと男性ハタナカが現れ、とりとめない世間話と思いきや「どうやって死にたいか」や麻薬の話など、何やら物騒。更に女性サエヅキも加わり、たばこを吸いながら会話を続けるが、来るはずの「主任」がバイクで事故死したことが明らかになると、そこからもう一つの現実が現れてくる。 赤い照明と爆音の音楽の中でつぶやかれるもう一つの現実では、三人は虐待を受ける幼いきょうだいであり、暴力をふるう父親の帰宅を恐れながら待っている。姉であるシロタは他の二人を必死で勇気づけているのである。もう一つの現実の突然の出現は深層心理に手を突っ込まれたような怖さがあり、見る人の感情を激しく揺さぶる。来るはずなのに来ない主任=父=神を待つドラマは『ゴドーを待ちながら』を下敷きにした節もある。作り手の才能を生々しく感じさせる作品。ただ、感情に訴える才能は強靭な知性を伴わないとうまく開花しない傾向がある。作り手は粘り強く学んでほしい。
【Bブロック】 ハラカラ『夏の夜とエロ本』 ロールプレイングゲームをモチーフにした作品。出演者は全員、詰襟の学生服を着た男性。主人公シュンは列車に乗って旅に出るが、その列車を爆破するという使命をあたえられる。それを防ごうとする敵と、シュンを助ける仲間がおり、くじけそうになるシュンを助けるアイテムはエロ本。途中で手に入れたほしのあきの抱き枕をある箱にはめ込むと列車が爆破するという設定で戦いが展開される。 意図的に馬鹿らしさを前面に出して笑いを取ることを狙った作品だが、自分たちを取り囲むものを爆破して抜け出したいという思いを下敷きにしているところが、共感性の高さを生んでいる。爆破に成功して「外部」へと抜け出した結果が、エロ本に素直に感動できた小学生時代への復帰だったりするのも、まあいいかとは思う。そういえばこの作品にも『べっぴんさん、1億飛ばして』と同じ「ま、いっか」というセリフが最後にあった。
フライハイトプロジェクト『今夜、あなたが、眠れるように』 一辺一メートル八〇センチぐらいの立方体の枠を組み、その周りに白く透けるカーテンを下げて、中に白いベッドを置いた。この舞台でヤエ、ユリコ、ワカバの母娘三代のドラマが展開される。透明感ある静謐なたたずまいの中で、愛情をもって娘を育て、娘の結婚と出産を見守り、やがて老いて病み、死んでいくヤエの思いがユリコ、そしてワカバへと手渡されていくようすが丁寧に描かれる。 繊細な美しさと日常の輝きに満ちた世界である。時の流れへの着目とセットの周囲を駆け回る表現などは柴幸男の影響が露わだが、完成度は高い。『夏の夜とエロ本』と「男性の世界」と「女性の世界」として対比してみるのも面白いかもしれない。
かまどキッチン『光をまとう一点のそれも光』 一人の若い男性の住む四畳半の部屋を宇宙に、その中を舞うチリを人間に見立て、宇宙と人間の本源的なつながり、大きな世界への憧れをうたったダンス劇。『今夜、あなたが、眠れるように』と同様、柴幸男の影響が明らかである。 きれいではあるが、想像力の働きがやや類型的だったようにも感じられた。
【Cブロック】 天ノ川最前線『アイと死を見つめて』 母を虐待していた父を殺す若い男性、夜の街で男性が出会う旧友たち、死んだ両親の生まれ変わりらしい赤い鳥と青い鳥の精、日本を守ろうとしている兵士とその上官。これらがそれぞれのモードに乗って舞台上に現れる。 旧友たちは耳に快いリズムを刻むラップ合戦。赤い鳥と青い鳥の身のこなしとセリフは野田秀樹調。上官は哲学めいた箴言を口にする。そうした色とりどりの言葉で紡がれる劇は、芝居を「聞く」楽しさに満ちている。作り手の洗練されたセンスを感じることは確かである。ただ、その割に、ラストで唱和される「生きろ、アイと死を見つめて」のメッセージは真っすぐすぎるかも。
劇団歩くハロゲン『蝉か、糞か、』 犬に生まれ変わった中年男性と少女に生まれ変わった犬の友情劇。発達障害を思わせる少女に犬は優しく寄り添い、勉強を教え、成長を助ける。やがて犬に寿命が来て、死ぬ。その後少女は中学生時代からの恋を実らせ、結婚しようとするが……。 ほのぼのとした「いい話」のように見えて、突然暗転し、少女は継母に射殺される。その際、死んだ犬が弾丸に生まれ変わっていて、少女と再会するという趣向は面白いが、全体にご都合主義のそしりは免れないだろう。
創像工房 in front of.『HYPER MAN』 仮面ライダーのようなヒーローもののフォーマットに則った作品。悪役である「迷獣」たちのおどろおどろしいコスチューム、高さを生かしたセットなど、手作りの工夫が楽しい。上手と下手に張られた黒い幕から顔を出す役者がコロスのように観客の気持ちを代弁するのも面白かった。 ヒーローものへの愛とリスペクトが感じられるが、それゆえに、このジャンルのいびつさ、特異性が浮き上がって見えて、とても興味深かった。主人公ハイパーマンに寄り添うヒロイン・アイコのエゴのない自己犠牲は、どこか痴呆めいたものを感じさせるまでになっているし、最大の敵が「もう一人の自分」であるというありがちな設定は、苦悩と愛の力を強調し大声で叫び続ける演技も相まって自閉的な空回りの印象を強めていた。主人公は最後にアイコとの絆さえ断ち切り「自分は最強で最高だから最強で最高である」というトートロジーに陥っていくのだが、おそらくは作者の意図を超えて、現在の日本社会に対する鋭い批評になっていると感じた。
なお、審査結果は以下の通り。 ​審査員部門大賞 ​フライハイトプロジェクト 第二位 喜劇のヒロイン ​第三位 しあわせ学級崩壊 実行委員部門大賞 喜劇のヒロイン 観客賞 ​創像工房 in front of. ​カンフェティ特別賞 ​天ノ川最前線 ​大会MVP ​沼野匠哉(ハラカラ) フライハイトプロジェクトと喜劇のヒロインを第3回全国学生演劇祭に推薦。
●友田 健太郎(ともだ・けんたろう) 文芸・演劇評論家。WLスタッフ。旧筆名・水牛健太郎。
上演記録 東京学生演劇祭2017 8月31日(木)-9月4日(月) 花まる学習会 王子小劇場
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pikasute · 7 years
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関蝉丸神社、社殿荒れ屋根に穴 大津、修理費募る 京都新聞 大津市逢坂1丁目の関蝉丸(せみまる)神社は、檜皮(ひわだ)ぶきの屋根が抜け落ちる寸前になっている下社本殿や建物など傷みの激しい境内の修復に乗り出す。年内にも氏子らと賛助組織を立ち上げて修復費を募る。 同神社は、平安時代前期に活躍した盲目の琵琶の名手蝉 ...
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jiyuunashinbtsu · 5 years
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2019.07.滋賀 大津・ 関蝉丸神社下社
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nohgakunews · 7 years
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太夫あでやか 境内お練り 大津・関蝉丸神社で芸能祭
#能楽 [京都新聞]今年は能楽や楽器演奏、大津絵踊り、落語、漫才、雅楽など公募した18組が出演。中でも、菊川太夫はきらびやかな着物姿で琴や舞を披露し、境内を練り歩き来場者から大きな拍手を受けた。ちんどん屋の「こうあん一座」も大津のまちに繰り出し、神社 ...
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