Tumgik
#裂き断つ死輝の刃
indatsukasa · 1 year
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Setanta: Laoch óg Ceilteach
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dog-doll · 1 year
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その時、俺の首にはひやりと冷たい刃物が押し当てられていた 刃物を持つ無骨な指を見て、ちらりと灰色の天井を見て、最後に汚い部屋の隅っこを見た 怖い 怖かった 俺の脳みそは、もう時間がないということを悟っているかのように、俺の母親、父親、愛しい人、友人、昨日俺が落とした小銭を拾ってくれた女性、そういった輝かしい記憶たちをたどっていた こういうのなんて言うんだっけ…あ…走馬灯か… そこまで考えて、今考えることじゃないなと思考を戻す スリルとか そんなんじゃない あるのはテクノミュージックのようにポップで緊張感のある恐怖 サビがいつ来るかわからない 少し切れた 彼は切るのが下手なのか それともわざと時間をかけて切っているのか とにかく焼けるような亀裂が首にできた 中は暖かいだろう(俺の断末魔で、一気に血が吹き出た) 切るのは大変だろうな(俺の首は太い) ああ… ああ! 死ぬな 死んじまう!
2017.11.23
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groyanderson · 2 years
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン3 第一話「須弥山を破壊せよ」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。
→→→☆書籍版発売までは既刊二巻を要チェック!☆←←←
(シーズン3あらすじ) 謎の悪霊に襲われて身体を乗っ取られた私は、 観世音菩薩様の試練を受けて記憶を取り戻した。 私はファッションモデルの紅一美、 そして数々の悪霊と戦ってきた憤怒の戦士ワヤン不動だ! ついに宿敵、金剛有明団の本拠地を見つけた私達。 だけどそこで見たものは、悲しくて無情な物語…… 全ての笑顔を守るため、いま憤怒の炎が天を衝く!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
 初めに闇があった。広さのわからない闇、まるで棺桶に入れられたような、あるいはだだっ広い宇宙に放り出されたような掴みどころのない空間。そこで私は目を覚ました。というか今、自分が目を開けたのかどうかすらわからない。意識を取り戻した、という方が正しい気もする。  いや、それも違うかも? 私には過去の記憶がない。実はこの世に生を受けたばかりの赤ん坊かもしれないし、あるいは記憶喪失の大人かもしれない。ただただこの、起きているのか眠っているのかすらわからない領域に漂う自我、それが私…… 『タシデレ、リンポチェ』  !? 誰かの声が聞こえた。前から? 後ろから? 意味もわからない言語。その不思議な声に気を取られた瞬間、私の目の前にはぼんやりと輝く仏像が現れていた。 『タシデレ、リンポチェ(おはようございます、猊下)』  再び声。同じ言葉が繰り返されたけど、今度は意味がはっきりとわかる。記憶が戻ったのかも……そうだ。確か、目の前にある仏像は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)という仏様だ。いま思い出せるのはそれだけ。でも、もしさっきから聞こえているのが観音様の声なら、リンポチェ(猊下)……目上のお坊さんのこと……と呼ばれた私は一体何者だろう。 『お労しい我がリンポチェ。あなたは悪霊にお身体を奪われ、記憶を失ってしまったのです』  考えていた疑問に声が答えてくれた。奪われて……って、つまり私は悪い霊に体を乗っ取られて、生死の境を彷徨ってるお坊さん……とか、かな。だから仏様が見えてるのかも……? 『大方その通りです。ですが、あなたはただの仏僧ではありません』  ヒヤリ。右手にふと、金属的な冷たさを感じた。見ると、私はいつの間にか錆びついたグルカナイフを握っていた。 『あなたは神影(ワヤン)、衆生を守る影法師の戦士です』  へ? 『そして私は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)。かつてはムナルという俗名で呼ばれ、リンポチェをお慕い申し上げていた弟子でございます。傷つき記憶を失われたあなたを現世に復活させるためには、恐らくこれまでの戦いを再現するのが一番手っ取り早い。ゆえに、このような試練を用意してみました』  戦士? 戦うって何と!? わけもわからず困惑していると、突然私の周りに不気味な怪物の大群���現れた! 『この幻影達を一掃して下さい。大丈夫、全てあなたが倒した事のある悪霊です。さあ、行くのです!』 「「「キシャアァァーーーッ!」」」  咆哮! 観音様が消滅して堰を切ったように怪物共が押し寄せる! そんな急に戦えなんて言われても困るんですけど!? とりあえずグルカナイフで牽制しながら後ずさりする。ただ後ろを振り返っても、そこは空間が続いているのか壁なのかすらわからない闇。このままでは一方的に取り囲まれてしまう……ええい、ままよ!  私は前へ向き直ると同時に刃渡り四〇センチのナイフを思いっきり引いた! ヴァン!! それは闇の中で一層深い漆黒の衝撃波を放ち怪物を一掃! なにこれ何か出たぞ!? しかし息つく間もなく新たな怪物が出現。さっきまでのは鳥や虫のような小動物霊だったのが、今度は人間サイズの化けイタチだ! 「オカシ……オヤツクレ……」「オカシィィ……クワセロ……」  しかも人語を話している。ちょっと強いやつだ! 襲われる前に叩き、殴り、斬りつける! ところが怪物の猛攻に押されて次第に後ずさりしていくと、何故か段々力が入らなくなってきてしまった。 「ウジャアァァーーーッ!」  イタチに顔面を喰い破られる! 焼けるような激痛ッッ!! しかしそれがトリガーとなり、私の脳裏に戦いの記憶がフラッシュバック。そうか! こいつらはゾンビのように人の魂を喰って無尽蔵に増える、人工養殖された悪霊! それを牛耳っていた親玉は確か……いた! 群がるイタチのしんがりで薄汚く輝く、なんかめちゃくちゃキモい龍! 何て名前だか忘れたけど醜悪なソレに���かってともかく私は跳躍、イタチ共の頭をダカダカと踏みつけながらナイフを振りかぶる! どおおぉぉりゃあああぁぁーーーーーっ!!! 「ピキィェェーーーーーッ!!」  キモ龍絶叫! 同時に荒れ狂うイタチの悪霊共は全員消滅し、辺りは再び闇と静寂に包まれた。そして私が握るグルカナイフには、煌々と燃える影の炎で黒焦げになった龍が串刺しになっていた。そうだ、これは確かに私が使っていた武器、『プルパ龍王剣』。悪霊の龍を封じ込め、絶えず燃え続ける剣だ。  ふと足元を見ると、龍王剣の炎に照らされて一冊の本を見つけた。よくお経が書かれているような、長い紙を蛇腹に折って表紙と背表紙をつけた装丁のものだ。内容は横書きの細かいチベット文字で綴られている。記憶では私の母国語じゃない気がするけど、書かれている内容は自然と理解できる。
邪尊(じゃそん)教パンケチャ派 仏典 其の一
 昔、ある僧官(政治家の仏僧)が砂漠の近くで弱りきった精霊を発見した。僧官は袈裟に精霊を包み、自宅へ持ち帰って介抱する事にした。ところが精霊は彼の施しを遮った。 ༼ 我は西方の国々で『悪魔』と呼ばれる魔物。人間を堕落させる存在として忌み嫌われ、死ぬ事も消える事もできない。ただ広大な砂漠を彷徨ったいたらここに辿り着いたのだ ༽  しかし僧官はそれを聞いてもなお、悪魔を自宅へ招いた。悪魔は訝しんだが、僧官はこう答えた。 ༼ 地域が変われば、常識も変わる。砂漠の果てから来たあなたがこの国で『悪魔』かどうかはまだわからない。もしかしたら我々にとっては、人々に幸せを与える有り難い神様かもしれないではないか ༽  この言葉に悪魔はいたく感銘を受け、僧官に自らの不滅の心臓を与えた。こうして慈悲深き僧官は生きたまま仏へと転生し、悪魔を永遠の苦しみから解放したのだった。
 གཉིས་པ་
 仏典は読み終えると、闇に溶けて消えてしまった。邪尊教……? うっすらと聞き覚えがある単語だ。私の正体に関係があるのかもしれない。  再び前を向くと、そこには次の怪物が現れていた。さっき倒したイタチとよく似た怪獣だ。 「オデャッウゥアアアアアアアアアア!!!」  言葉にならない金切り声を上げる怪獣! しかし所詮は二番煎じの巨大化モンスター。私はさっきよりも冷静に居合を構えた。―邪道怪獣(じゃどうかいじゅう)アンダスキン―完全に思い出した。こいつを作ったのは人々を脅かす悪霊衆、金剛有明団(こんごうありあけだん)。私はそいつらを滅ぼすために生まれた戦士、 ༼ ワヤン不動(ふどう)だ! ༽  ズドオオォォォン!! 斬撃と共にそびえ立つ赤黒い火柱! 腹部を真っ二つに切り裂かれたアンダスキンは瞬く間に分解霧散した。無数の火花が闇に溶け切ると、そこに二冊目の仏典が現れた……。
邪尊教パンケチャ派 仏典 其の二
 即身仏となった僧官には、悪魔へ施した時と同様に、衆生のあらゆる苦しみを和らげる法力があった。そのため彼はやがて『紅の守護尊(ドマル・イダム)』という名で信仰されるようになった。  ところが時の権力者率いる邪な閣僚達が、ドマルの法力を悪用しようと企んだ。彼らは元僧官であったドマルの汚職をでっち上げ、衆生からの信仰を断った。そして信仰を失い弱体化したドマルを捕らえると、位の高い僧のみが入山できるカイラス山の岩窟に磔にした。そして下々の民に過酷な労働や税を課しては、彼らの苦しみをドマルの力で緩和して反乱を抑制し続けた。  そのような暴政が続いた結果、やがて時のダライ・ラマはドマル信仰を邪教とみなし、チベット全土で禁じる運びとなった。それでもなおドマルは裏社会において、『邪尊』と呼ばれて秘密裏に信仰され続けた。
གསུམ་པ་
 また覚えの深い単語がある。紅の守護尊(ドマル・イダム)……紅(くれない)……?  しかし、残酷な神話だ。これってドマルは何も悪くないのに、勝手にヒール扱いになっちゃったって事じゃないか。あるいは、この本自体が邪尊教目線の仏典だからヒイキめに書かれているだけかもしれないけど……。 『過去を知るのは、お辛くないですか?』  再び観音様が現れた。私が彼の顔の影を除けると、最初よりもはっきりとお顔が見えた。どこか懐かしさを覚える。 『ふふ……今、私の影を動かしましたね。神影(ワヤン)の法力を取り戻してきている』 ༼ そのワヤンっていうのが、私の名前なんですよね? でも、どうもしっくり来ないというか……私、確か日本人か何かだったと思うんですけど…… ༽ 『ああ! 素晴らしい、よく思い出しました。では、次はあなたの人間としての素性を知る番です。まだまだボスラッシュは続きますよ』  観音様がワクワクとした様子で両手を合わせた。すると彼の足元から異臭を放つ褐色の液体が湧き出で、双頭の大きな毛虫が顔を出した! 「「ンマァァーーーッビャアァーーー!」」  毛虫は二つの口から赤子めいた鳴き声を発し跳躍! フリスビーの如く回転し、液体を汚らしく撒き散らしながらこちらに迫ってきた。本能があの液体に触れるのは危険だと察知、私は腕のリーチを活かしたバク転で距離を取った。……ん? 私の腕、異様に長くない? しかも私の体、軽すぎない?? 「ワビャァァァーーッ!」  しまった! 自分の事に気を取られてた隙に毛虫は液体をジェット噴射しながら推進。咄嗟にかわそうと試みるが、何故かさっきより体の動きが鈍くなっている。すわ、飛び掛かった毛虫が私の鳩尾に直撃! ༼ うッ! ༽  くぐもった衝撃が全身を貫き、一瞬全ての呼吸活動が止まる。すかさず皮膚に付着した汚染液が毛細管現象のように全身にまわり、私の魂と意識を引き剥がし始めた。 (させるか……っ!)  失神寸前で我に返り、私は光を放つ観音様に向かって体を滑らせた。考えてみればそうか。今の私は影でできた存在、神影(ワヤン)なんだ。明るい場所の方が動き回れて、暗い所では姿を保てない! さっきアンダスキンに追い詰められた時もそうだった! ༼ 仕組みが解ればこっちのものだ! ༽  記憶に蘇る影術の数々! まずは仏像に照らされた毛虫の影を踏んづける。すると毛虫は金縛りに遭ったように硬直、これが『影踏み』の術だ! そのまま毛虫を踏んだ爪先を細い糸状に残しながら、レールを滑るように私は光源方面へ移動。中空に漂う光と影のコントラストを編み、メロン格子状のドームに変える! 毛虫捕獲完了! 次々と毛虫が湧き出る液体ごと封印できた事を確認し、ドームに龍王剣を刺突。途端吹き出す炎がドーム内で猛回転! 毛虫を吸い上げながら液体完全蒸発。サイクロン! 「「「マバァァーーーーッ!!」」」  囂々と燃えるドーム内から複数の断末魔。絶縁怪虫散減(ぜつえんかいちゅうちるべり)、撃破だ! 脱力と共にお借りしていた光が観音様へ戻っていく。 『さすがです』  観音様が微笑んだ。さっきまで仏像だったはずの彼は、いつの間にか生きた人間のように滑らかな動きを得ていた。 ༼ 散減……人間の縁を奪い、代わりに悪縁を植え付ける金剛の怪虫だった。確か、合体すると神社の鳥居くらい大きなザトウムシになるんですよね ༽ 『そこまで思い出されたのですか。ならついでに倒しちゃいましょう』  観音様が軽いノリで微笑み、彼の背後に巨大ザトウムシ―大散減(おおちるべり)―を召喚した! 片や疲労困憊の私。少しぐらい休ませてくれたって良くないですか!? 『そうやってすぐぐずるのは、あなたの悪い癖ですよ。この第二の武器、ティグク(長柄斧)を差し上げますから。さあ行くのです!』  ヒョイと投げられた物騒な斧をキャッチすると同時に大散減はドカドカと暴れだす! 「「「マギャバァァァーーーー!!!」」」  七つの脚全てについた不気味な顔から汚汁を噴出し、この虚無空間が崩壊せんばかりの地団駄を踏む大散減。ていうか観音様は私の弟子だって言ってたのに、さっきからまるで私が彼の弟子みたいじゃない! 全く、 ༼ ムナルは昔から無茶ばかりするのだから ༽ ༼ 和尚様は昔から無茶ばっかさせるんだから! ༽  ん? 今、私の中に二つの気持ちがあったような?? って、今は戦いに集中しなきゃ。龍王剣に代わり持ち替えたこのティグクという武器は、長槍の先に斧と装飾旗がついた密教法具だ。確かにかつて、これで大散減を成敗したのを覚えている。奴の脚を一本ずつ叩き折りながら、真の本体がある一本を探して…… ―救済せにゃ!― ―くすけー、マジムン(クソ食らえ、魔物め)!―  ……突然脳裏に浮かぶ人々の声。思い出した。いや、どうして今まで思い出せなかったんだ! ༼ 一緒に戦った……仲間達! ༽  足元の影が伸びる! それは私と線一つで繋がったまま、あの時共に大散減に立ち向かったみんなの姿になった! ズダガアアァァァァアン!!! 全脚同時撃破! 露わになった真の本体をブッ叩く!! ༼ 念彼観音力ィィーーーーーッ!!! ༽  ズドオオォォーーーーーン……! 一瞬にして真っ白に染まった世界に、大散減の消し炭が舞った。世界の色が落ち着いていくと、そこは先程の闇とは打って変わって美しい山間の川辺になっていた。  自分はいま生身の人間ではないと頭で理解しつつも、さすがに連戦で息絶え絶え。とりあえず川の水で顔を洗い、ついでに燃え盛っているティグクの旗を川で鎮火した。すると川の底に二冊分の仏典が転がっていた。ビッチャビチャでページめくれないじゃないか、と思いつつ拾い上げると、本は防水加工されているように水を弾いた。
邪尊教パンケチャ派 仏典 其の三
 やがて時は流れ、チベットは中国から弾圧を受ける立場になった。滅亡の危機に陥ったこの国では再び邪尊信仰が復活。しかし現代の邪尊教は、平民支配や救いを求める目的ではなく、人間によって破滅したドマルの祟りで中国人へ報復したいという反中思想から生まれたものだ。  そんな邪尊を崇める人々の中に、一人の類まれなる容姿に恵まれた小坊主がいた。彼はその美しさを買われ、強い霊能力と暗殺術を併せ持つ最強の殺し屋となるよう英才教育を受けて育った。そして彼は十歳の時、「眠り」を意味するムナルという名を授かり、監禁されたドマルから霊力を奪うためにカイラス山へ入山した。  しかし元来一般人の立ち寄らない未開の山は過酷であった。ムナルは岩窟へ向かう途中で崖から転落し、足を折ってしまう。それから数日が経ち、死を覚悟した彼は、今までどの仏典でも見た事のない仏と遭遇した。その名を金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)という、死者の遺体や魂に残る霊力を管理する仏だ。  愛輪珠如来はムナルの命を、その美しい体の生皮を捧げるという契約で仏に転生させた。かくしてムナルは即身仏、金剛観世音菩薩となった。  ところがムナルの心肺が停止しかけたその時、地面から無数の神経線維が生えてきた。神経線維は瀕死の肉体に入り、心臓に活力を与え、傷ついた全身を瞬く間に癒した。これによりムナルは生きたまま強大な仏の魂を持つ最強の殺し屋に仕上がった。愛輪珠如来との契りは、彼が死ぬまで一時保留となった。
邪尊教パンケチャ派 仏典 其の四
 期せずして目的を果たしたムナルだったが、この奇跡をドマルが起こしたと確信した彼は再び岩窟へ向かった。仏になった事により霊感が高まった目で最奥の大岩を見上げると、そこには確かに磔にされたドマル・イダムがいた。彼の両腕は長い年月で倍以上に伸び、足元は衆生の苦しみで絶えず炙��れ、その全身は遠くの衆生の苦しみを感じ取れるよう神経線維を剥き出しにされていた。  この余りにも惨たらしい守護尊を見たムナルは考えを改めた。これまでの邪尊教のように彼を利用するのではなく、逆に信仰者ら自身がドマルに安寧を与える事こそ真の邪尊教の有り方ではないかと。  ムナルはドマルの拘束を解き、自分自身が彼の『安眠(ムナル)』となるべくカイラス山で修行をした。そして数年後、自らの魂の中に平穏で頑丈な結界を作り、そこにドマルを眠らせた。  かくして下山したムナルは、殺し屋ではなく、全く新たなる邪尊教の宗派『パンケチャ(推祈)派』の開祖となったのである。
བཞི་པ་
 壮大な仏教神話を読み終えた私の隣には、観音様……ムナル和尚様が立っていた。 ༼ 私の生い立ちをお教えしたのは初めてですね、一美(ひとみ) ༽  和尚様の声はさっきまでのテレパシーみたいな感覚ではなく、肉声としてはっきり聴こえた。  私の名前は紅一美(くれない ひとみ)。普段はテレビとかで活躍するマルチタレントで、悪霊が出るとドマルの生まれ変わりであるワヤン不動に変身して戦う。ワヤン不動は本来他者を傷つけないドマルの明王体、つまり戦闘専用フォームだ。 ༼ 私は生まれて間もない頃、金剛の悪霊に殺されそうになったのがきっかけで和尚様に弟子入りしました。だからあなたの弟子である記憶と、かつてドマルだった時あなたを弟子としていた記憶があるんだ ༽ ༼ ええ。数奇な運命です ༽ ༼ でも和尚様 ༽  仏典に一つ、どうしても気になる箇所があった。金剛愛輪珠如来……私の肉体を乗っ取った悪霊張本人。金剛有明団の、重要人物。 ༼ あなたは如来を裏切って、幼い私にドマルの『悪魔の心臓』を埋め込んだんですよね ༽  一美の心で問う。そして、ドマルの心でも。 ༼ そうまでして、何故この子の人生を歪めた? ༽  私としては、歪めたっていうのはちょっと言いすぎだと思う。正確には和尚様は、金剛有明団の悪霊によって死にかけていた私をドマルの魂で補填して、助けてくれたのだから。和尚様は悔しそうに口元をきゅっと歪めて答えてくれた。 ༼ ……如来の契約を受け入れた身の私は、長らく彼らに従っていました。しかし彼らはある目的のために人々を呪いで支配し、意図的に悪霊や災いを生み出す集団でした。いえ、わかっていながら服従していた私も同罪です ༽  後ろめたそうな言葉と共に、和尚様は私を……いや。その奥にある『拙僧の』目を、すがるように見つめる。彼が良心に咎められながらも如来から逃げなかったのは、結界内で眠る拙僧の魂を案じての事だったのだ。 ༼ ですが、如来がまだ赤子だった一美に呪いをかけた時……私はついに耐えられなくなりました。私は最も尊いリンポチェの安眠を守るために菩薩で居続けた。でもそのために、誰かの最も尊いお子様が犠牲になるのをどうして放っておけるでしょう…… ༽  声に熱がこもる。和尚様はわなわなと拳を震わせ、怒れる馬のようにカッと目を見開いた。 ༼ パンケチャ派開祖の私が! 他の人の推しを不幸にしていいわけがない! 全ての推しの笑顔を守れずして何が仏教徒ですか!? ༽  つまり、苦肉の策だったのだろう。和尚様は一美とドマル両方を守るために、二人の魂を合体させた。そしてゆくゆくは私自身が金剛から身を守れるように、私が『明王』として覚醒するための修行を施したんだ。しかし、 ༼ たわけ! ༽  拙僧はムナルを張り倒した。 ༼ あの時、拙僧がなぜあなたを生かしたかわからないのか。あのままあなたが完全成仏していたら……知識も精神も未熟なまま、身に余る力を手に入れていたら。この邪尊と同じように、外道の道具にされていたのだぞ! ༽  ドマルの心が激昂し、和尚様の首根っこを掴んで離さない。 ༼ それなのに、何の罪もない少女になぜ同じ事を繰り返した! あなたの生半可な恩情でこの子は! 物心つく前に死ぬより、ずっと残酷な修羅道を生きる事になったんだ! それだけじゃない…… ༽  そう。和尚様はあの時、私にかかった呪いの身代わりになって…… ༼ ……どうしてあなたまで死ぬ必要があったんだッ!! ༽  ドマルから力が抜け、主導権が私に戻った。私が和尚様を師と仰いだ時、彼は既に亡き人。金剛によって生皮を剥ぎ取られたミイラに宿る、正真正銘の仏様だった。優しくて、強くて、でも私が間違っている時はとても厳しくて。大好きだった和尚様。もし私と彼の立場が逆だったら、私が和尚様の師匠だったら……私もドマルと同じように怒っていただろう。 ༼ わかっています ༽  和尚様は震えたままの声で答えた。 ༼ 一美を明王に仕立て上げた私は、金剛と何も変わらない卑怯者です。ですが、それでも……それでも、一美を見殺しにできなかった。リンポチェに救って頂いた命を捨ててでも、あなたには生き延びてほしかった! だから! ༽  バキッ、ビキビキッ。滑らかな和尚様の体が隆起し、屈強な複腕が生えていく。溶岩のようなオーラが湧き出で、顔が全方位を睨みつける三面の馬へと変わる。実は仏教神話においては、あの優しさの権化ともいえる観世音菩薩にも明王フォームがあるのだ。 ༼ 行くのです、ワヤン不動。私を倒し、この安寧の極楽浄土『須弥山(しゅみせん)』を糧に現世へ舞い戻るのです! ༽  馬頭観音(��とうかんのん)、パンケチャ・ムナル! 宿命の師弟対決がいま幕を開けた!
ལྔ་པ་
 仏教界の中心須弥山を模した結界に、今二人の明王が対峙する! 煌々と照りつける太陽と森林が複雑な影を織りなすここは、ワヤン不動にとって最高の舞台。対する馬頭観音は果たしてどんな戦いを見せるのか? ༼ もう一度言っておきます。私は暗殺者として育てられた……卑怯者です! ༽  ズゴゴゴゴゴゴ……山が揺れ、川が氾濫する。和尚様の本領である霊能力は、チベットの秘術『タルパ』。自然界に漂う霊力を練って、人工的に幽霊やポルターガイストを作り上げる力だ。この須弥山結界もいわば、全て和尚様が作った亜空間。災害起こし放題、これは確かに暗殺向きだ!  大地震の揺れに酔わないよう地面との影設置面積を狭めると、和尚様がすかさず足払いを仕掛けてくる! それを跳躍回避し、両腕のリーチを活かして檜の大木を掴む。新体操の如く樹上に逆上がり、そのまま低姿勢の和尚様に飛び降りドロップキック! しかし着地の直前和尚様が消えた!? いや、目をこらすと左手の竹林に強力な霊力反応。姿を消して移動したんだ。追いかけて…… ༼ 隙あり! ༽  バチン! 死角から顔面に全力殴打を受け、私の体は林木をへし折りながら五〇メートルほど吹っ飛ばされた。迂闊、さっきの反応はタルパで錬成されたダミーか! ༼ 現実世界のあなたは、如来に龍王剣を奪われています ༽  和尚様はさっきの戦いで私が投げ捨てた龍王剣を蹴り上げ、 ༼ なのでこれは私がお借りしますね ༽  ヒュンヒュンと回転するそれを空中でキャッチ。そのままノーモーションで私に向かって突撃! キィン! 既の所でこちらもティグクを持ち直す。 ༼ オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! ༽ ༼ ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ!! ༽  グルカナイフと斧が鍔迫り合いの応酬を繰り広げる! 一方が押し、また一方が押され……ふと蘇る前世の記憶。想像上の極楽である須弥山だが、この地形には覚えがある。このまま西にあと七メートル後退すると……今だ! ༼ わっ!? ༽  そこは断崖絶壁! 影で崖肌に足場を延長してカモフラージュしていた私に振りかぶった和尚様は、そのままバランスを崩して転落。しかし地面と衝突する寸前、岩場から無数のツタが生え和尚様を守った。 ༼ やはり。ここはあなたが拙僧と修行したカイラスだ ༽  それならばこちらにも手がある。長年縛りつけられていたカイラスの地脈は全て、自分の体のように理解しているからに!  ダンッ! ヴァダダダガガァァァァアアン!!! 崖の亀裂にティグクの刃を叩きつけ、そこから神経線維で熱を送り起爆! この世の全てを拒絶する絶望の目に似たエネルギーモーションが炸裂し、崩壊した岩壁から大量落石! 砂埃が舞い上がると同時に和尚様の殺意が消えた。  もちろん、彼はこの程度で撃破できるお方ではない。崖肌を滑り降りた途端、瓦礫の山が隆起して和尚様が這い上がってきた。お互いに得物を構えなおし跳躍、空中にてチャンバラ再開! ༼ 正直に言いなさい、ムナル。この子に拙僧の魂を与えたのは、本当に苦渋の決断だったのか? ༽ ༼ やはりリンポチェにはお見通しですね。ええ、私の煩悩(エゴ)ですよ。だってずっと邪尊と呼ばれていたリンポチェが、正義のために戦うヒーローになったら最高じゃないですか…… ༽  シュゴォォォォォ! 龍王剣が炎を吹き、勢いで和尚様の体はジェット後進。そのまま燃え盛る龍王剣が和尚様と一体化。背中に炎の翼が、三つの額にはナイフの如く鋭き角が生えた! 馬頭観音アリコーン!!! ༼ 推しが正義堕ちしたらばちくそエモいじゃないですかぁぁーーーーーーっ!! ༽  ヌ˝ヌ˝ヌ˝ヌ˝ヌ˝ヌ˝ヌ˝ーーーーーーーーッ!!!!! 天、地、水! 三本の角から発せられた超自然タルパ理力が螺旋を描き極太ビーム射出!! 私の影体は分解霧散するよりも早く、この亜空間と外界を隔てる壁に叩きつけられた! 空が落ち、川が干上がり、山が粉々に砕け散る!!!  暗転、赤転、白転。完全なる静寂の中で、炸裂した世界の色が鎮静。全てを放出しきった和尚様は粉々の地面に膝をつき、肩で息をする。そのまま頭を垂れると、目の前にできた彼の影が ༼ ―ッ! ༽  砂から現れし蟻地獄のように、ワヤン不動の形を取って彼の首を刈った。 དྲུག་པ་  丸く抉れた須弥山に、荒れ散らかった極楽浄土。後は和尚様の心臓をティグクで割れば、この亜空間が粒子レベルに分解霧散して私は復活する。 ༼ でも、和尚様って少し前に逝去されてましたよね? ༽  私は抱えている和尚様の首に尋ねた。 ༼ ええ。もうこの世に意識を取り戻す事はないと思っていましたよ。ですが、私の遺物……おそらく、骨かなにか……を管理している者が、どうやら私とあなたの魂を復活させたようです ༽  和尚様のご遺体は、過去に金剛の事件を処理した、NICという超常現象研究機関が管理している。恐らく愛輪珠如来に乗っ取られた私に気付いた関係者が、私の魂のかけらを探し出し和尚様の中に保護したんだろう。 ༼ となると、あなたと拙僧の関係もその機関とやらには割れているのだな ༽  ふと私の影体が分裂し、ドマルの姿になった。こうやって三人で会話することもできるのか。 ༼ ならば本格的な大事になる前に、『邪尊』の肩書からは足を洗う必要があるな ༽  ドマルは目元だけで微笑むと、何やら全神経に法力をこめ始めた。ヴンッ! 影の皮一枚で繋がっている私が失神しかけるほどの衝撃が亜空間をほとばしる。すると、土砂が積みあがってできた須弥山のほとりの小丘に…… 「Woah!?」「ぎゃあ!」「เกิดอะไรขึ้น?」  突然、数千もの霊魂が召喚された。戸惑う人々の声で結界内は急に騒然とする。いや、よく見ると全員ご存命の人々のようだ。意識だけ無理やり幽体離脱させられたのか。 ༼ ドマル何したの!? ༽ ༼ 邪尊教を信仰する全ての信者を招いた。拙僧は既にカイラスから連れ出されていたが、彼らはそれを知らぬ。それに、ムナルが間もなく二度目の涅槃に入る事も。なら引退宣言をしておかねば ༽  引退宣言て。変な所で律儀な前世様だ。とりあえず人前で首ちょんぱの和尚様はショッキングすぎるから、一旦影で体と繋ぎ合わせた。 「這裡是哪裡(ここはどこだ)?」「Est-il…… Dmar Yidam(あれは……ドマル・イダム)!?」「क्या यह एक सपना है(夢枕ってやつか)?」  信者達は各々の言語で取り乱している。私の知らない言葉であっても、この空間内で意識が共有されて概ね理解できた。それにしても、どの人種もみんなちょっとガラが悪い。仏の力を悪用するというスタンスだった昔と違い、現代の邪尊教はどうやら悪魔信仰に似た類のカルトになっているようだ。ある者は跪き、またある者は歓喜の雄叫びを上げ、またある者は恐怖で腰を抜かす。一方、当の邪尊ドマルは赤子をあやすように両手を小さく振って彼らを宥めた。 ༼ まーま、落ち着きなさい。拙僧はただ、あなた方にちょっと顔を見せたいだけだ ༽  ドマルの声は骨伝導のように全ての信者の耳に届き、彼らそれぞれの言語に翻訳された。信者達がスンと静まりかえる。私もドマルの横に並び、彼の引退会見に耳を傾けた。 ༼ ふむ。見たところ、近頃の邪尊教徒は概ね三種類に分かれるようだ。少し、アンケートを取ってもいいかな? ༽  一体何が始まるのかと、信者達は固唾を飲む。一方和尚様は突然始まった推しの生ライブステージに目をキラッキラに輝かせている。 ༼ まず、一つめ。『信仰を禁じられた邪尊を現代に蘇らせ、かつての者どものように権力を手に入れたい』と本気で思っている方よ。拙僧怒らないから、正直に手を挙げなさい ༽  重苦しい静寂が極楽浄土を包む。ドマルの眼圧に気圧されて、信者達はしばらく誰も手を挙げなかった。しかし一人、また一人���じわじわ挙手が増えていき、概ね二割の信者がこれを認めた。残酷にも、やはりその殆どはチベット人だった。 ༼ そっか、成程な。大変申し訳ないが、あなた方の願いは叶えてやれぬ。実のところ拙僧は、観世音菩薩様の計らいで長らく惰眠を貪っていたからにな ༽  目尻も口角も全く上げないまま、気さくにドマルは答えた。その口ぶりと表情のギャップにより失魂落魄した信者の何割かが、震えながらその場に崩れ落ちた。 ༼ では二つめ。『仏とか宗教とかダルいけど、邪尊ってなんかアナーキーな感じでかっけーからリスペクト対象』と思って入信した方よ ༽  この質問に対する挙手は早かった。さっき手を挙げなかった信者達の半分以上が高々と挙手している。そして何割かはメロイックサインだ。 ༼ かはは、正直でよろしい。あなた方はそれでいいんだ。拙僧からは特に何もしてやれないが、肖像権なんかないからTシャツなりタトゥーなり好きに弄ってくれ。他の宗教に迷惑はかけないようにな ༽  ドマルはさっきよりも柔らかい表情で彼らに答え、印相のように控えめなメロイックサインを作った。信者達はロックシンガーのコンサートでも見ているように嬉しそうな歓声を上げた。 ༼ では三つめ…… ༽  ドマルは目を伏せ、傷だらけの馬頭観音にちらりと視線を向ける。そして一瞬間を取り、再びまっすぐ信者達を見据えた。 ༼ 『悪玉に囚われていた仏がいつか正義堕ちしたらばちくそエモいから。あらゆる神話の中で、そういうカタルシスでなければ摂取できない物があるから』入信した方よ。いるのなら、どうか教えて欲しい ༽  ……一人。二人。十人、四十人、六百人。厳かに、じわじわとこれに挙手する信者が増えていった。その中には先程のチベット人や、アナーキストの面々も。 ༼ うそ…… ༽  想定外に同担が多い事を知った和尚様は、驚きや複雑な感情を露わにしながら穏やかな金剛観世音菩薩相に戻った。その和尚様を視線で指し、ドマルが説明する。 ༼ 彼こそがムナル和尚。そしてパンケチャ派の伝承に語られる金剛観世音菩薩様だ。彼は只今をもって現世から旅立つ。入れ替わりに、拙僧は眠りから覚めて娑婆に戻る ༽  そして次に、私の手を取った。 ༼ これは我が明王尊、ワヤン不動。これより拙僧は、娑婆に巣食うある悪霊を滅ぼすために憤怒の化身となるのだ。ま、平たく言えば…… ༽  決めポーズしろ、とドマルから影体を伝って指示が飛んできた。ええと……アドリブで! 須弥山の残り半分をぶっ飛ばす! ドーン!! 「「「うわああぁぁ!!!?」」」  信者困惑! ༼ ばか、やりすぎだ……ま平たく言えば、邪尊教解散ってコトな。よろしく ༽  なんともあっけらかんと邪尊教は解体された。でも幸い、信者達は私が須弥山を消し炭に変えたインパクトでポカンとしたまま、特に暴動とかもなく娑婆に送還された。 ༼ あ、あんなんでいいの? 引退宣言 ༽ ༼ 適当でよかろう。ま、今頃ネットでバズってるかもしれんけど ༽  ネットとか知ってるのかこの前世様。といっても私と一心同体みたいなものだもんな。一方、和尚様は感極まってアルカイックスマイルのまま失神している。 ༼ ……このまま送ってやるか。それとも、師匠に別れの挨拶とかする? ༽ ༼ ううん、大丈夫。もうとっくの昔に……金剛と初めて戦ったあの日、ちゃんと話せたから ༽ ༼ そうか ༽  今回の事は、いわば私が不覚を取ったせいで和尚様の眠りを妨げてしまったようなものだ。この戦いが終わったら、いつか私とドマルも同じ場所へ還る。それなら今改まって別れを告げる必要はないだろう。  私は改めて金剛を滅ぼす決意を抱き、人生で最も尊敬する人にティグクを振り下ろした。
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cookingarden · 4 years
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ジェイ・ローチ監督『オールザウェイ JFKを継いだ男』 (その1:ケネディ暗殺から1994年公民権法成立まで) 原題:All The Way 制作:HBO Films, アメリカ, 2016. いまから56年前の1964年7月、アメリカ国内で人種差別を禁止する公民権法が制定された。独立宣言で「すべての人間は平等」とうたいながらも、いまなお激しい人種差別がつづくアメリカにとって、人種差別を法律で禁じた公民権法の存在は特別な意味を持っている。 映画『オールザウェイ』は、「昇格」大統領と言われたリンドン・ジョンソンが、公民権法制定の大義のもと、大統領の座を勝ち取るまでの政治闘争の内幕を描いた伝記である。アメリカの歴史に深く刻まれる公民権法はどのように成立したのか、本作はその真実を伝える貴重な映像資料と言えそうだ。本稿では史実を参考に、映画がどのように当時の実態を描いているかを辿った。 なお、今回取り上げる『オールザウェイ』はHBO films制作の劇場未公開のもので、ロブ・ライナー監督の『LBJ ケネディの意志を継いだ男』とは別物である。アマゾンのPrime videoで観ることができる。主演のリンドン・ジョンソンをブライアン・クランストンが素晴らしい演技で熱演している。
CONTENTS その1:ケネディ暗殺から1964年公民権法成立まで
昇格した大統領が抱いた大志
ジョンソンが公民権法成立を目指した背景
法案通過の鍵となった投票権
議事妨害に対抗するジョンソン
ジョンソンが行った「特別な接待」
映画には描かれなかった上院通過の様子
取り下げられた投票権の行方
その2:民主党全国大会から大統領選挙まで
大統領選挙に立ち塞がる二つの難題
公民権活動家殺害事件が生んだ新党
寝室で行われた民主党全国大会の舞台裏
大統領選を有利にしたジョンソンのメディア戦略
悲劇を招いた北ベトナム空爆
圧倒的な勝利となった大統領選挙
プライバシーに見るジョンソンの現実主義と映画のスタンス
映画『オールザウェイ』を振り返って
昇格した大統領が抱いた大志 この映画は、第36代大統領リンドン・ベインズ・ジョンソンがアメリカ大統領に就任してからの、およそ一年間の出来事を描いている。中心となる話題は、公民権法の成立とジョンソンが自らの実力で大統領の座に着くまでの二つの過程である。 映画は、凶弾に倒れたケネディ大統領の血痕が残るリンカーン・コンチネンタルの描写からはじまる。事件は1963年11月22日、テキサス州ダラスで起きた。凶弾はケネディの頭部を貫通、大統領は即死だった。こうして、副大統領だったリンドン・ジョンソンが大統領の座に着き、ケネディの政策を引き継ぐことになる。 「昇格大統領、それが肩書きだ」というジョンソンに、妻のバード・ジョンソン1)が「そうね。でも来年の11月に変えましょう」と励ます場面がある。ジョンソンにとって大統領就任は、実力で大統領になるための戦いのはじまりでもあった。 ジョンソンは就任演説の際、その日がリンカンが奴隷解放宣言を出してちょうど100年目にあたることを念頭に、上下両院合同会議で次のように宣言する。
ジョン・F・ケネディの遺志であった公民権法の実現に向け、歩みを継続しましょう。100年以上にもおよぶ議論をさらに進め、前大統領が提出した公民権法に新たな章を付け加える時です。人種によるいかなる差別も、我が国から排除しようではありませんか。
演説でキング牧師が実現を訴えた公民権法は、ケネディ大統領によって法案作成が指示され、すでに議会で審議が行われていた。ジョンソンはその遺志を引き継ぎ、より確かな公民権法を制定しようと呼びかけたのである。
この演説にひときわに大きな期待を寄せる者がいた。マーティン・L・キング・ジュニア牧師である。キング牧師はちょうど三ヶ月前、「仕事と自由のためのワシントン行進」で演説を行ったばかりだった。「私には夢がある」と題された演説2) の反響は大きく、名演説として歴史に刻まれただけでなく、その後の公民権運動の支えとなった。映画には、そのキング牧師がジョンソンの考えに深く共感する様子が描かれている。 一方、ジョンソンの演説に万雷の拍手が鳴り響くなか、憮然とした表情の議員たちもいた。ジョンソンが師と仰ぐ南部出身のリチャード・ラッセル上院議員3) もその一人だ。ラッセルはかねてから人種差別主義と隔離政策を支持しており、公民権運動反対の陣頭指揮をとってきた。彼にとって朋友ジョンソンの考えは受け入れがたいものだった。ラッセルはその後、リベラルな姿勢を強めるジョンソンと対立を深めていく。 こうしてジョンソンは大統領就任と同時に、公民権法の制定を胸に民主党内部の右派議員の説得にあたり、さらには黒人層に気を配りながら自力で大統領の座に着くという、複雑で難しい道を歩みはじめることになる。次の大統領選までに残された猶予は1年間だった。 ジョンソンが公民権法成立を目指した背景 就任演説の翌日、黒人を読者層とする新聞が「2000万人の黒人が安堵した」と伝えるなか、あれは選挙対策の口上だろうとジョンソンの本心に期待する議員も多くいた。古参議員ラッセルも最初はそうだった。映画には、ジョンソンに疑問をぶつける右派議員を相手にラッセルが、「合衆国憲法の重大な危機だ。しかし彼にも事情がある。時がくれば公民権法を骨抜きにするはずだ。」と説得する様子が描かれている。ラッセルはラッセルで、南部出身の大統領を議会掌握に利用するねらいがあった。
共和党ではすでに、バリー・ゴールドウォーター上院議員が大統領候補者の指名を受けていた。彼は小さな政府と強硬な反共路線を打ち出していた。一方、大統領が交代したばかりの民主党には大統領候補を選ぶだけの余裕はなかった。「ゴールドウォーターなら楽勝ですよ」という上院議員のヒューバート・ハンフリーにジョンソンは、「手強いぞ。だが、自分が党候補になるのが先だな」と応じている。 翌年11月にジョンソンが大統領になるには、まず党の候補者指名を受ける必要がある。ケネディの弟、ロバート・ケネディが立候補する可能性もあった。ラッセルはそうなれば党内分裂だという。一方、ケネディが残した公民権法案は重荷になる。あるいはジョンソンは、大統領の権限で法案の審議を先延ばしにすることができたのかもしれない。しかし彼は、ケネディが死亡してすぐに法案と向き合うことを決意する。それは選挙戦を勝ち抜くための手段というより、大統領としての大義であり、困難をバネに選挙戦を乗り切ろうとする闘志の現れだっただろう。 ジョンソンのこの判断の背景には、公民権闘争の高まりがあった。その抗し難い機運がジョンソンに、公民権法の成立に掛ける決意をもたらした。映画のなかで彼は、「罪を犯してきた南部を救えるのは、南部出身の大統領だけだ」と心情を吐露している。しかしこれは、共和党の攻撃材料になるばかりか、下手をすれば党内右派との分断を招きかねない諸刃の剣だった。ジョンソンはラッセルから、リベラルの連中を付け上がらせるなと忠告を受けている。 法案通過の鍵となった投票権 ジョンソンに託された公民権法案は、1960年ごろケネディによって構想された。具体的には、「投票権の保護、行政的な対応、南部白人票の確保」を盛り込んだものだ。白人票の確保にケネディの政治姿勢が現れているが、投票権の保護は当時から人種差別対策の重要な柱だった。4) しかし黒人の投票権は、南部の保守的な人々には受け入れがたい、非常にリベラルな考え方だった。それだけに、このまま法案を通そうとすれば共和党からはもちろん、民主党内の反発も強くなる可能性があった。このころジョンソンは、「通らないような法案を全力で推進することは自分の政治的立場に大きな打撃を与える」5) と恐れていたという。 そこでジョンソンは、法案から投票権を除外することを考える。映画では、就任演説の翌日に行われたキング牧師との電話のやりとりに、その腹の内が描かれている。彼は投票権の重要性を訴えるキング牧師に「まさか私に説教かね」と疎ましがる。そして、H.R.1752(法案第7152号)と題された条文冊子から、投票権が記されたページを引きちぎるジョンソンの姿が描かれている。 投票権の除外というジョンソンの提案は、キング牧師には受け入れがたいものだった。側近のハンフリーも投票権を外そうとするジョンソンに、リベラル派も裏切りだと受け止めるだろうと反対する。しかし、ジョンソンは「お前が説得しろ。リベラル派の代表だろう」とハンフリーに詰め寄り、さらには副大統領候補の甘言を浴びせる。 ジョンソンはキング牧師に、「黒人を貧困から救う必要がある、保険や教育にも取り組みたい、この国を根本から変えたい、法案成立後には必ず投票権条項を追加する」と熱心に語りかける。それにたいしキング牧師は、「わたしは仲間に約束する必要がある。実現しなければ暴動も起こりかねない」とほのめかし食い下がる。これに対しジョンソンは、下院で確実に法案を通すためには君の協力が必要だと票の取りまとめを依頼する。結果的にキング牧師はジョンソンの提案を受け入れ、黒人指導者として黒人活動家を説得する協力的な姿が描かれている。 こうしたジョンソンの説得と活動が効いたのだろう。公民権法案は1964年2月、賛成290票、反対130票で下院を通過する。これによりジョンソンは当初の目的を達成するが、保守派のラッセルは落胆する。これまでラッセルに懐柔されてきた右派議員は、「これでもジョンソンを信じろというのか」と詰め寄る。これにたいしラッセルは、上院では議事妨害で食い止めてみせると応じている。一方、キング牧師はかろうじて仲間への体裁を保った格好だ。キング牧師には、選挙戦になればジョンソンは黒人票を欲しがるという読みがあった。 以上が映画に描かれた、公民権法案が下院を通過するまでの様子である。この一連のやりとりには、法案の通過を最優先に、人を選び報いることで自分の思いを達成していくジョンソンの姿が、実に丁重かつリアル描かれている。 議事妨害に対抗するジョンソン 法案の成立に危機感を抱いたラッセルは会見を開く。公民権法案は悪質で過激な憲法侵害に他ならないと訴え、我々有志は上院伝統のフィリバスター(議事妨害のための長時間演説)で戦うと宣言する。これを知ったジョンソンの妻バードは、「ディック(ラッセル)が語る愛国心には説得力があるわ。あなたは何のために闘うのか、国民に話すべきよ。」とジョンソンを鼓舞する。 妻の言葉に動かされたジョンソンは公邸の庭に記者団を集め、ラッセル上院議員の残念な決断に反応を示しておきたいと、小学校の教師だったころの思い出を語りはじめる。
テキサス州コチュラの古びた学校だった。コチュラは荒野の真ん中にある国境の町で、極貧のメキシコ移民であふれていた。教え子はかわいかった。毎日、朝飯抜きだから腹ペコで登校してくる。だが、みんな勉強が大好きなんだ。心が温まった。
しかし、子供たちはやがて変わる。キラキラ輝いていた瞳から光が消えてしまう。嫌われていることに気づくからだ。肌の色のせいで・・・
「慌てるな」と忠告されることもある。「政治生命が危険だ」と。だが私は言いたい。正しいと信ずることを行えないなら、大統領とは何だとね。
ジョンソンはテキサス州の貧しい農家に生まれ、苦学の末に教員養成大学を卒業した経歴を持つ。コチュラでの思い出は、その在学中に一年間休学して行った教員見習いの時のものである。6) こうした体験こそが、彼を公民権法の実現へと突き動かす原点になっている。ジョンソンという人物を考える上で重要なエピソードといえるだろう。 自身の苦しい過去を振り返るジョンソンに、メモを取る手を止めて話に聞き入る記者たちの姿があった。ジョンソンが打ち出すこうした親密で率直なメッセージは新聞に掲載され、人々の心を打ち、公民権法の善良なイメージを伝える広報活動として大きな効果を発揮したと考えられる。 ジョンソンが行った「特別な接待」 そうした努力にもかかわらず、議事妨害がはじまってすでに67日が経過していた。映画は荒び疲れた議場の様子を映し出す。そこではラッセルが、南部には黒人が集中しすぎている、黒人が全米で均等な比率になるように全州に振り分けるべきだ、と前代未聞の提案をしている。他にも、1500 ページのスピーチ原稿を持参した議員もいた7) というから、反対派の抵抗は相当なものだったのだろう。 長期化する議会妨害を利用し、公共施設での差別撤廃条項を骨抜きにしようとする共和党議員も現れる。譲歩しなければ妨害は続くというのだ。しかし、ジョンソンは要求をはねつけ、次のように説得する。
共和党は公民権法に反対するか、人種差別主義者に投票するかだ。われわれは歴史を作る、その歴史にどのように名を残すか考えるべきだ。アメリカの流れを変えた偉大な人物となるか、単なるおしゃべり男になるかだ。
コチュラのエピソードもそうだが、こうした会話の端々にジョンソンが人々を説得する巧みさが現れている。彼は自分に言い聞かせる形を取りながら、実際には相手が自分のこととして受け止めるように導いている。主張の正しさを押し付けるのではなく、相手がそう考えるように誘う巧みな話術だ。 そうこうするうちに、議会妨害は69日目に入る。この時点ではジョンソンはまだ劣勢だった。このままでは勝てない。彼は党派を超えて票の獲得に奔走する。あるときは、脳腫瘍で手術のため入院した議員向けに、「意識さえあれば投票はできる」と首席補佐官ウォルター・ジェンキンスにハッパをかけたりもする。さらに、法案通過に協力すると見た者には、大統領章が記された自分のカフスボタンを「世界にひとつしかないものだ」と言いながら押し付けたりする。 ジョンソンは別の場面で票の取りまとめについて、「大勢の女性を誘うようなものだ。遊ばないかと声をかけるといったんは断られる。ビンタを食らうこともある。しかし、大抵はイエスなんだ」と述べている。ジョンソンは、女性に声を掛けるのと同じ思いで、多くの議員を法案賛成へと引き込んだのだろう。映画のなかでジョンソンが「またカフスを頼む」と側近に伝える場面がある。彼はいったい、カフスボタンを幾つ作らせたのだろうか。 こうしたジョンソンの姿は、周りの人々に驚きをもたらしたようだ。ジョンソンのもとでホワイトハウス特別研究員を務めた歴史家のドリス・カーンズ・グッドウィンは、そうしたジョンソン特有のやり方を「特別な接待」と呼ぶようになったという。7) 熱心に説得を繰り返す彼のこうした姿勢はやがて、労働、宗教、公民権団体など、多くの団体のロビー活動に力を与えていく。 映画には描かれなかった上院通過の様子 議会妨害は74日目を迎え、法案はついに討論終結決議に持ち込まれる。映画にはこの最終局面の様子は描かれていない。しかし、本田創造氏の『アメリカ黒人の歴史 新版』8) によれば、この日の状況は次のようなものだった。
結局は討論打ち切り動議を採択するといった異例の白熱した審議をへて、6月19日──この日は、奇しくもケネディ大統領が政府原案を議会に提出してから、ちょうど満一年目にあたる──ついに賛成73票、反対27票で上院も通過し、それから十数日後の7月2日、ジョンソン大統領の署名を得て正式に連邦の法律として成立した。上院における反対27票は、その年の11月の大統領選挙で、共和党候補となって民主党候補のジョンソンに惨敗した、超保守主義者のバリー・ゴールドウォーターをはじめとする共和党議員6名と、南部民主党議員21名が投じた票である。(Kindle の位置No.2548-2554).
こうして「1964年公民権法」は苦難のうえ上院を通過する。ジョンソンの懸命の努力が難局を乗り切る原動力だったことは間違いない。まさにジョンソンは彼の信念に従い、アメリカの歴史に名を残す仕事をはたしたのである。 7月2日の法案署名の場面でジョンソンは、キング牧師に署名に使ったペンを贈呈している。一方、署名を前に退室するラッセルは「選挙に影響が出なければいいが」と言い残し、ジョンソンと袂を分つ様子が描かれている。去りゆくラッセルを見送るジョンソンは、「おめでとうございます」と声を掛けるハンフリーに、「私がいる限り南部は民主党を支持しないだろう。法案成立がそんなにめでたいか」とつぶやく。ジョンソンの気持ちはすでに大統領選挙にあった。 取り下げられた投票権の行方 ところで、こうして成立した「1964年公民権法」には別の正式名称がある。それは、「憲法上の投票権を実施し、公共施設における差別にたいする差止救済を与えるため、合衆国地方裁判所に裁判権を付与し、公共機関、公教育における憲法上の権利を保護するため、訴訟を提起する権限を司法長官に授権し、公民権委員会を拡大し、連邦援助計画における差別を防止し、平等雇用機会委員会を設置する等の目的のための法律」というものだ。9) この異様に長い名称を見て奇異に思う人もいるだろう。長すぎる名称のことではない。投票権の実施がうたわれているからである。ジョンソンは法案の成立を優先し、キング牧師に投票権の放棄を提案していた。この食い違いの詳細はWikipediaの「投票権法(1965年)」の記述で知ることができる。そこには、例えば次のように書いてある。
同法(1964年公民権法)には投票権の保護も幾つか入っている。登録官は、各投票者に書くことの識字試験を平等に管理することと、小さな誤りのある申請書を受領するように求めている。また6年生の教育を受けた者なら十分に投票できるだけの識字能力があるという「反証を許す推定」を創造した。しかし、公民権運動指導者からのロビー活動があったにも拘わらず、この法は投票時の差別の大半の形態を禁じることはなかった。10)
ジョンソンが1964年7月2日に署名した公民権法には、確かに投票権の保護が定められている。しかし、法案を通すことを優先し修正が加えられたことで、投票の際の差別を完全には排除できない不十分なものになっていたのである。しかしジョンソンは、前述のようにキング牧師との交渉のなかで「公民権法の成立後には必ず投票権条項を追加する」と述べている。はたしてこれは、法案の成立後履行されたのだろうか。 映画にはこの約束がどうなったかの具体的な描写はない。しかし、エンドロールに次の説明が加えられている。
(1964年11月の大統領選挙でジョンソンが当選した)翌年ジョンソンはキング牧師らと協力し、投票権法を制定。さらに「偉大な社会」を提唱し、福祉・教育・雇用などの分野で抜本的な改革を行った。
このとき制定された投票権法は「投票権法(1965年)」と記されるように、1965年8月6日にジョンソンの署名により法制化された。実はこの署名の際にもジョンソンは、国民に向けた次のようなメッセージを発している。11)
米国の文明の主流をなす基本的事実は、(中略)自由と正義と人間の尊厳はわたしたちにとって単なる言葉ではない、ということである。わたしたちはそうした概念を強く信じている。大きな発展や混乱、そして豊かさを体験しながらも、わたしたちはそれを信じている。従って、わたしたちの中に抑圧された人々がいる限り、わたしたちはその抑圧に加担しているのであり、それはわたしたちの信念を弱め、気高い目的の力を弱めるものである。
それ故に、これは米国のニグロの自由の勝利であるだけでなく、米国の国民の自由の勝利でもある。そして、皆さんが可決し、今日わたしが署名をするこの法律によって、探求を続けるこの偉大な国家に住むすべての家庭が、さらに力強く自由の中で暮らし、さらに素晴らしい希望を持ち、米国民であることをさらに誇りとすることができる。
こうして、法案の通過を優先して投票権が除外もしくは骨抜きにされた1964年の公民権法は、ジョンソンが約束した通り法案通過からおよそ1年後に正しく履行されたのである。これにより1964年の公民権法では限定的だった黒人の投票権の確保が拡大された。その効果は下記のように、まことに劇的なものだった。12)
1965 年末までに、深南部5州だけで新たに 16 万人のアフリカ系米国人が有権者登録をした。そして 2000 年までには、アフリカ系米国人の有権者登録率は、白人に比べわずか2%低いだけとなった。1965 年には、南部では連邦議会または州議会議員に選出されたアフリカ系米国人は2人にすぎなかったが、今日ではその数が 160 人に達している。
(その2へつづく)
(その1:ケネディ暗殺から1994年公民権法成立まで)
(その2:民主党全国大会から大統領選挙まで)
引用文献 1) バードは通称。本名はクローディア・アルタ・テーラー・ジョンソン。 Wikipedia「レディ・バード・ジョンソン」 https://bit.ly/2Z90Ekb 2) マーティン・L・キング・ジュニア「私には夢がある」American Center Japan, 米国国務省出版物, 1963. https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2368/ 3) Wikipedia「リチャード・ラッセル・ジュニア」 https://bit.ly/2QTRp2Z 4) 安東次男「ケネディと1963年公民権法案」立命館国際研究, 14-3, 2001.11. http://www.ritsumei.ac.jp/ir/isaru/assets/file/journal/14-3_02ando.pdf 5) 安東次男「1964 年公民権法と大統領政治」立命館国際研究, 13-3, 2001.3. http://www.ritsumei.ac.jp/ir/isaru/assets/file/journal/13-3_13ando.pdf 6) Wikipedia 「リンドン・ジョンソン」 https://bit.ly/2Dg4Map 7) アメリカンセンター Japan「ついに我らに自由を 米国の公民権運動」 https://americancenterjapan.com/wp/wp-content/uploads/2015/11/wwwf-pub-freeatlast.pdf 8) 本田創造『アメリカ黒人の歴史 新版』岩波書店, 1991. 9) 本田創造, 上掲書, Kindle の位置No.2554-2558. 10) Wikipediaの「投票権法(1965年)」 https://bit.ly/2EGUxwF 11) アメリカンセンター Japan「ついに我らに自由を 米国の公民権運動」p.61. https://bit.ly/3h2L1Rr 12) アメリカンセンター Japan, 上掲資料, p.61. https://bit.ly/3h2L1Rr
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donut-st · 5 years
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あなたにだけは忘れてほしくなかった
 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、マンハッタン、ニューヨーク市警本部庁舎。  上級職員用のオフィスで資料を眺めていた安藤文彦警視正は顔をしかめた。彼は中年の日系アメリカ人である。頑なに日本名を固持しているのは血族主義の強かった祖父の影響だ。厳格な祖父は孫に米国風の名乗りを許さなかったためである。祖父の信念によって子供時代の文彦はいくばくかの苦労を強いられた。  通常、彼は『ジャック』と呼ばれているが、その由来を知る者は少ない。自らも話したがらなかった。  文彦は暴力を伴う場合の少ない知的犯罪、いわゆるホワイトカラー犯罪を除く、重大犯罪を扱う部署を横断的に統括している。最近、彼を悩ませているのは、ある種の雑音であった。  現在は文彦が犯罪現場へ出る機会はないに等しい。彼の主たる業務は外部機関を含む各部署の調整および、統計分析を基として行う未解決事件への再検証の試みであった。文彦の懸念は発見場所も年代も異なる数件の行方不明者の奇妙な類似である。類似といっても文彦の勘働きに過ぎず、共通項目を特定できているわけではなかった。ただ彼は何か得体の知れない事柄が進行している気配のようなものを感じ取っていたのである。  そして、彼にはもうひとつ、プライベートな懸念事項があった。十六才になる姪の安藤ヒナタだ。
 その日は朝から快晴、空気は乾いていた。夏も最中の日差しは肌を刺すようだが、日陰に入ると寒いほどである。自宅のダイニングルームでアイスティーを口にしながら安藤ヒナタは決心した。今日という日にすべてをやり遂げ、この世界から逃げ出す。素晴らしい考えだと思い、ヒナタは微笑んだ。  高校という場所は格差社会の縮図であり、マッチョイズムの巣窟でもある。ヒナタは入学早々、この猿山から滑り落ちた。見えない壁が張り巡らされる。彼女はクラスメイトの集う教室の中で完全に孤立した。  原因は何だっただろうか。ヒナタのスクールバッグやスニーカーは他の生徒よりも目立っていたかもしれない。アジア系の容姿は、彼らの目に異質と映ったのかも知れなかった。  夏休みの前日、ヒナタは階段の中途から突き飛ばされる。肩と背中を押され、気が付いた時には一階の踊り場に強か膝を打ちつけていた。 「大丈夫?」  声だけかけて去っていく背中を呆然と見送る。ヒナタは教室に戻り、そのまま帰宅した。  擦過傷と打撲の痕跡が残る膝と掌は、まだ痛む。だが、傷口は赤黒く乾燥して皮膚は修復を開始していた。もともと大した傷ではない。昨夜、伯父夫婦と夕食をともにした際もヒナタは伯母の得意料理であるポークチョップを食べ、三人で和やかに過ごした。  高校でのいざこざを話して何になるだろう。ヒナタは飲み終えたグラスを食洗器に放り込み、自室へ引っ込んだ。
 ヒナタの母親はシングルマザーである。出産の苦難に耐え切れず、息を引き取った。子供に恵まれなかった伯父と伯母はヒナタを養子に迎え、経済的な負担をものともせず、彼女を大学に行かせるつもりでいる。それを思うと申し訳ない限りだが、これから続くであろう高校の三年間はヒナタにとって永遠に等しかった。  クローゼットから衣服を抜き出して並べる。死装束だ。慎重に選ぶ必要がある。等身大の鏡の前で次々と試着した。ワンピースの裾に払われ、細々としたものがサイドボードから床に散らばる。悪態を吐きながら拾い集めていたヒナタの手が止まった。横倒しになった木製の箱を掌で包む。母親の僅かな遺品の中からヒナタが選んだオルゴールだった。  最初から壊れていたから、金属の筒の突起が奏でていた曲は見当もつかない。ヒナタはオルゴールの底を外した。数枚の便箋と写真が納まっている。写真には白のワイシャツにスラックス姿の青年と紺色のワンピースを着た母親が映っていた。便箋の筆跡は美しい。『ブライアン・オブライエン』の署名と日付、母親の妊娠の原因が自分にあるのではないかという懸念と母親と子供に対する執着の意思が明確に示されていた。手紙にある日付と母親がヒナタを妊娠していた時期は一致している。  なぜ母は父を斥けたのだろうか。それとも、この男は父ではないのか。ヒナタは苛立ち、写真の青年を睨んだ。  中学へ進み、スマートフォンを与えられたヒナタは男の氏名を検索する。同姓同名の並ぶ中、フェイスブックに該当する人物を見つけた。彼は現在、大学の教職に就いており、専門分野は精神病理学とある。多数の論文、著作を世に送り出していた。  ヒナタは図書館の書棚から彼の書籍を片っ端から抜き出す。だが、学術書を読むには基礎教養が必要だ。思想、哲学、近代史、統計を理解するための数学を公共の知の宮殿が彼女に提供する。  ヒナタは支度を終え、バスルームの洗面台にある戸棚を開いた。医薬品のプラスチックケースが乱立している。その中から伯母の抗うつ剤の蓋を掴み、容器を傾けて錠剤を掌に滑り出させた。口へ放り込み、ペットボトルの水を飲み込む。栄養補助剤を抗うつ剤の容器に補充してから戸棚へ戻した。  今日一日、いや数時間でもいい。ヒナタは最高の自分でいたかった。
 ロングアイランドの住宅地にブライアン・オブライエンの邸宅は存在していた。富裕層の住居が集中している地域の常であるが、ヒナタは脇を殊更ゆっくりと走行している警察車両をやり過ごす。監視カメラの装備された鉄柵の門の前に佇んだ。  呼び鈴を押そうかと迷っていたヒナタの耳に唸り声が響く。見れば、門を挟んで体長一メータ弱のドーベルマンと対峙していた。今にも飛び掛かってきそうな勢いである。ヒナタは思わず背後へ退いた。 「ケンダル!」  奥から出てきた男の声を聞いた途端、犬は唸るのを止める。スーツを着た男の顔はブライアン・オブライエン、その人だった。 「サインしてください!」  鞄から取り出した彼の著作を抱え、ヒナタは精一杯の声を張り上げる。 「いいけど。これ、父さんの本だよね?」  男は門を開錠し、ヒナタを邸内に招き入れた。
 男はキーラン・オブライエン、ブライアンの息子だと名乗った。彼の容姿は写真の青年と似通っている。従って現在、五十がらみのブライアンであるはずがなかった。ヒナタは自らの不明を恥じる。 「すみません」  スペイン人の使用人が運んできた陶磁器のコーヒーカップを持ち上げながらヒナタはキーランに詫びた。 「これを飲んだら帰るから」  広大な居間に知らない男と二人きりで座している事実に気が滅入る。その上、父親のブライアンは留守だと言うのであるから、もうこの家に用はなかった。 「どうして?」 「だって、出かけるところだよね?」  ヒナタはキーランのスーツを訝し気に見やる。 「別にかまわない。どうせ時間通りに来たことなんかないんだ」  キーランは初対面のヒナタを無遠慮に眺めていた。苛立ち始めたヒナタもキーランを見据える。  ヒナタはおよそコンプレックスとは無縁のキーランの容姿と態度から彼のパーソナリティを分析した。まず、彼は他者に対してまったく物怖じしない。これほど自分に自信があれば、他者に無���心であるのが普通だ。にも拘らず、ヒナタに関心を寄せているのは、何故か。  ヒナタは醜い女ではないが、これと取り上げるような魅力を持っているわけでもなかった。では、彼は何を見ているのか。若くて容姿に恵まれた人間が夢中になるもの、それは自分自身だ。おそらくキーランは他者の称賛の念を反射として受け取り、自己を満足させているに違いない。 「私を見ても無駄。本質なんかないから」  瞬きしてキーランは首を傾げた。 「俺に実存主義の講義を?」 「思想はニーチェから入ってるけど、そうじゃなくて事実を言ってる。あなたみたいに自己愛の強いタイプにとって他者は鏡でしかない。覗き込んでも自分が見えるだけ。光の反射があるだけ」  キーランは吹き出す。 「自己愛? そうか。父さんのファンなのを忘れてたよ。俺を精神分析してるのか」  笑いの納まらないキーランの足元へドーベルマンが寄ってくる。 「ケンダル。彼女を覚えるんだ。もう吠えたり、唸ったりすることは許さない」  キーランの指示に従い、ケンダルはヒナタのほうへ近づいてきた。断耳されたドーベルマンの風貌は鋭い。ヒナタは大型犬を間近にして体が強張ってしまった。 「大丈夫。掌の匂いを嗅がせて。きみが苛立つとケンダルも緊張する」  深呼吸してヒナタはケンダルに手を差し出す。ケンダルは礼儀正しくヒナタの掌を嗅いでいた。落ち着いてみれば、大きいだけで犬は犬である。  ヒナタはケンダルの耳の後ろから背中をゆっくりと撫でた。やはりケンダルはおとなしくしている。門前で威嚇していた犬とは思えないほど従順だ。 「これは?」  いつの間にか傍に立っていたキーランがヒナタの手を取る。擦過傷と打撲で変色した掌を見ていた。 「別に」 「こっちは? 誰にやられた?」  キーランは、手を引っ込めたヒナタのワンピースの裾を摘まんで持ち上げる。まるでテーブルクロスでもめくる仕草だ。ヒナタの膝を彩っている緑色の痣と赤黒く凝固した血液の層が露わになる。ヒナタは青褪めた。他人の家の居間に男と二人きりでいるという恐怖に舌が凍りつく。 「もしきみが『仕返ししろ』と命じてくれたら俺は、どんな人間でも這いつくばらせる。生まれてきたことを後悔させる」  キーランの顔に浮かんでいたのは怒りだった。琥珀色の瞳の縁が金色に輝いている。落日の太陽のようだ。息を吸い込む余裕を得たヒナタは掠れた声で言葉を返す。 「『悪事を行われた者は悪事で復讐する』わけ?」 「オーデン? 詩を読むの?」  依然として表情は硬かったが、キーランの顔から怒りは消えていた。 「うん。伯父さんが誕生日にくれた」  キーランはヒナタのすぐ隣に腰を下ろす。しかし、ヒナタは咎めなかった。 「復讐っていけないことだよ。伯父さんは普通の人がそんなことをしなくていいように法律や警察があるんだって言ってた」  W・H・オーデンの『一九三九年九月一日』はナチスドイツによるポーランド侵攻を告発した詩である。他国の争乱と無関心を決め込む周囲の人々に対する憤りをうたったものであり、彼の詩は言葉によるゲルニカだ。 「だが、オーデンは、こうも言ってる。『我々は愛し合うか死ぬかだ』」  呼び出し音が響き、キーランは懐からスマートフォンを取り出す。 「違う。まだ家だけど」  電話の相手に生返事していた。 「それより、余分に席を取れない? 紹介したい人がいるから」  ヒナタはキーランを窺う。 「うん、お願い」  通話を切ったキーランはヒナタに笑いかけた。 「出よう。父さんが待ってる」  戸惑っているヒナタの肩を抱いて立たせる。振り払おうとした時には既にキーランの手は離れていた。
 キーラン・オブライエンには様々な特質がある。体格に恵まれた容姿、優れた知性、外科医としての将来を嘱望されていること等々、枚挙に暇がなかった。だが、それらは些末に過ぎない。キーランを形作っている最も重要な性質は彼の殺人衝動だ。  この傾向は幼い頃からキーランの行動に顕著に表れている。小動物の殺害と解剖に始まり、次第に大型動物の狩猟に手を染めるが、それでは彼の欲求は収まらなかった。  対象が人間でなければならなかったからだ。  キーランの傾向にいち早く気付いていたブライアン・オブライエンは彼を教唆した。具体的には犯行対象を『悪』に限定したのである。ブライアンは『善を為せ』とキーランに囁いた。彼の衝動を沈め、社会から悪を排除する。福祉の一環であると説いたのだ。これに従い、彼は日々、使命を果たしてる。人体の生体解剖によって嗜好を満たし、善を為していた。 「どこに行くの?」  ヒナタの質問には答えず、キーランはタクシーの運転手にホテルの名前を告げる。 「行けないよ!」 「どうして?」  ヒナタはお気に入りではあるが、量販店のワンピースを指差した。 「よく似合ってる。綺麗だよ」  高価なスーツにネクタイ、カフスまでつけた優男に言われたくない。話しても無駄だと悟り、ヒナタはキーランを睨むに留めた。考えてみれば、ブライアン・オブライエンへの面会こそ重要課題である。一流ホテルの従業員の悪癖であるところの客を値踏みする流儀について今は不問に付そうと決めた。 「本当にお父さんに似てるよね?」 「俺? でも、血は繋がってない。養子だよ」  キーランの答えにヒナタは目を丸くする。 「嘘だ。そっくりじゃない」 「DNAは違う」 「そんなのネットになかったけど」  ヒナタはスマートフォンを鞄から取り出した。 「公表はしてない」 「じゃあ、なんで話したの?」 「きみと仲良くなりたいから」  開いた口が塞がらない。 「冗談?」 「信じないのか。参ったな。それなら、向こうで父さんに確かめればいい」  キーランはシートに背中を預け、目を閉じた。 「少し眠る。着いたら教えて」  本当に寝息を立てている。ヒナタはスマートフォンに目を落とした。
 ヒナタは肩に触れられて目を覚ました。 「着いたよ」  ヒナタの背中に手を当てキーランは彼女を車から連れ出した。フロントを抜け、エレベーターへ乗り込む。レストランに入っても警備が追いかけてこないところを見ると売春婦だとは思われていないようだ。ヒナタは脳内のホテル番付に星をつける。 「女性とは思わなかった。これは、うれしい驚きだ」  テラスを占有していたブライアン・オブライエンは立ち上がってヒナタを迎えた。写真では茶色だった髪は退色し、白髪混じりである。オールバックに整えているだけで染色はしていなかった。三つ揃いのスーツにネクタイ、機械式の腕時計には一財産が注ぎ込まれているだろう。デスクワークが主体にしては硬そうな指に結婚指輪が光っていたが、彼の持ち物とは思えないほど粗雑な造りだ。アッパークラスの体現のような男が配偶者となる相手に贈る品として相応しくない。 「はじめまして」  自分の声に安堵しながらヒナタは席に着いた。 「彼女は父さんのファンなんだ」  ヒナタは慌てて鞄から本を取り出す。 「サインしてください」  本を受け取ったブライアンは微笑んだ。 「喜んで。では、お名前を伺えるかな?」 「安藤ヒナタです」  老眼鏡を懐から抜いたブライアンはヒナタに顔を向ける。 「スペルは?」  答える間もブライアンはヒナタに目を据えたままだ。灰青色の瞳は、それが当然だとでも言うように遠慮がない。血の繋がりがどうであれ、ブライアンとキーランはそっくりだとヒナタは思った。  ようやく本に目を落とし、ブライアンは結婚指輪の嵌った左手で万年筆を滑らせる。 「これでいいかな?」  続いてブライアンは『ヒナタ』と口にした。ヒナタは父親の声が自分の名前を呼んだのだと思う。その事実に打ちのめされた。涙があふれ出し、どうすることもできない。声を上げて泣き出した。だが、それだけではヒナタの気は済まない。二人の前に日頃の鬱憤を洗いざらい吐き出していた。 「かわいそうに。こんなに若い女性が涙を流すほど人生は過酷なのか」  ブライアンは嘆く。驚いたウェイターが近付いてくるのをキーランが手を振って追い払った。ブライアンは席を立ち、ヒナタの背中をさする。イニシャルの縫い取られたリネンのハンカチを差し出した。 「トイレ」  宣言してヒナタはテラスを出ていく。 「おそらくだが、向精神薬の副作用だな」  父親の言葉にキーランは頷いた。 「彼女。大丈夫?」 「服用量による。まあ、あれだけ泣いてトイレだ。ほとんどが体外に排出されているだろう」 「でも、攻撃的で独善的なのは薬のせいじゃない」  ブライアンはテーブルに落ちていたヒナタの髪を払い除ける。 「もちろんだ。彼女の気質だよ。しかし、同じ学校の生徒が気の毒になる。家畜の群れに肉食獣が紛れ込んでみろ。彼らが騒ぐのは当然だ」  呆れた仕草でブライアンは頭を振った。 「ルアンとファンバーを呼びなさい。牧羊犬が必要だ。家畜を黙らせる。だが、友情は必要ない。ヒナタの孤立は、このままでいい。彼女と親しくなりたい」 「わかった。俺は?」 「おまえの出番は、まだだ。キーラン」  キーランは暮れ始めている空に目をやる。 「ここ。誰の紹介?」 「アルバート・ソッチ。デザートが絶品だと言ってた。最近、パテシエが変わったらしい」 「警察委員の? 食事は?」  ブライアンも時計のクリスタルガラスを覗いた。 「何も言ってなかったな」  戻ってきたヒナタの姿を見つけたキーランはウェイターに向かい指示を出す。 「じゃあ、試す必要はないね。デザートだけでいい」  ブライアンは頷いた。
「ハンカチは洗って返すから」  ヒナタとキーランは庁舎の並ぶ官庁街を歩いていた。 「捨てれば? 父さんは気にしない」  面喰ったヒナタはキーランを窺う。ヒナタは自分の失態について思うところがないわけではなかった。ブライアンとキーランに愛想をつかされても文句は言えない。二人の前で吐瀉したも同じだからだ。言い訳はできない。だが、ヒナタは、まだ目的を果たしていないのだ。  ブライアン・オブライエンの実子だと確認できない状態では自死できない。 「それより、これ」  キーランはヒナタの手を取り、掌に鍵を載せた。 「何?」 「家の鍵。父さんも俺もきみのことを家族だと思ってる。いつでも遊びに来ていいよ」  瞬きしているヒナタにキーランは言葉を続ける。 「休暇の間は俺がいるから。もし俺も父さんもいなかったとしてもケンダルが 相手をしてくれる」 「本当? 散歩させてもいい? でも、ケンダルは素気なかったな。私のこと好きじゃないかも」 「俺がいたから遠慮してたんだ。二人きりの時は、もっと親密だ」  ヒナタは吹き出した。 「犬なのに二人?」 「ケンダルも家族だ。俺にとっては」  相変わらずキーランはヒナタを見ている。ヒナタは眉を吊り上げた。 「言ったよね? 何もないって」 「違う。俺はきみを見てる。ヒナタ」  街灯の光がキーランの瞳に映っている。 「だったら、私の味方をしてくれる? さっき家族って言ってたよね?」 「言った」 「でも、あなたはブライアンに逆らえるの? 兄さん」  キーランは驚いた顔になった。 「きみは、まるでガラガラヘビだ」  さきほどの鍵をヒナタはキーランの目の前で振る。 「私が持ってていいの? エデンの園に忍び込もうとしている蛇かもしれない」 「かまわない。だけど、あそこに知恵の実があるかな? もしあるとしたら、きみと食べたい」 「蛇とイブ。一人二役だね」   ヒナタは入り口がゲートになったアパートを指差した。 「ここが私の家。さよならのキスをすべきかな?」 「ヒナタのしたいことを」  二人は互いの体に手を回す。キスを交わした。
 官庁街の市警本部庁舎では安藤文彦が部下から報告を受けていた。 「ブライアン・オブライエン?」  クリスティナ・ヨンぺルト・黒田は文彦が警部補として現場指揮を行っていた時分からの部下である。移民だったスペイン人の父親と日系アメリカ人の母親という出自を持っていた。 「警察委員のアルバート・ソッチの推薦だから本部長も乗り気みたい」  文彦はクリスティナの持ってきた資料に目をやる。 「警察委員の肝入りなら従う他ないな」  ブライアン・オブライエン教授の専門は精神病理学であるが、応用心理学、主に犯罪心理学に造詣が深く、いくつかの論文は文彦も読んだ覚えがあった。 「どうせ書類にサインさせるだけだし誰でもかまわない?」 「そういう認識は表に出すな。象牙の塔の住人だ。無暗に彼のプライドを刺激しないでくれ」  クリスティナは肩をすくめる。 「新任されたばかりで本部長は大張り切り。大丈夫。失礼なのは私だけ。他の部下はアッパークラスのハウスワイフよりも上品だから。どんな男でも、その気にさせる」 「クリスティナ」  軽口を咎めた文彦にクリスティナは吹き出した。 「その筆頭があなた、警視正ですよ、ジャック。マナースクールを出たてのお嬢さんみたい。財政の健全化をアピールするために部署の切り捨てを行うのが普通なのに新しくチームを立ち上げさせた。本部長をどうやって口説き落としたの?」 「きみは信じないだろうが、向こうから話があった。私も驚いている。本部長は現場の改革に熱意を持って取り組んでいるんだろう」 「熱意のお陰で予算が下りた。有効活用しないと」  文彦は顔を引き締めた。 「浮かれている場合じゃないぞ。これから、きみには負担をかけることになる。私は現場では、ほとんど動けない。走れないし、射撃も覚束ない」  右足の膝を文彦が叩く。あれ以来、まともに動かない足だ。 「射撃のスコアは基準をクリアしていたようだけど?」 「訓練場と現場は違う。即応できない」  あの時、夜の森の闇の中、懐中電灯の光だけが行く手を照らしていた。何かにぶつかり、懐中電灯を落とした瞬間、右手の動脈を切り裂かれる。痛みに耐え切れず、銃が手から滑り落ちた。正確で緻密なナイフの軌跡、相手はおそらく暗視ゴーグルを使用していたのだろう。流れる血を止めようと文彦は左手で手首を圧迫した。馬乗りになってきた相手のナイフが腹に差し込まれる感触と、その後に襲ってきた苦痛を表す言葉を文彦は知らない。相手はナイフを刺したまま刃の方向を変え、文彦の腹を横に薙いだ。  当時、『切り裂き魔』と呼ばれていた殺人者は、わざわざ文彦を国道まで引きずる。彼の頬を叩いて正気づかせた後、スマートフォンを顔の脇に据えた。画面にメッセージがタイピングされている。 「きみは悪党ではない。間違えた」  俯せに倒れている文彦の頭を右手で押さえつけ、男はスマートフォンを懐に納める。その時、一瞬だけ男の指に光が見えたが、結婚指輪だとわかったのは、ずいぶん経ってからである。道路に文彦を放置して男は姿を消した。  どうして、あの場所は、あんなに暗かったのだろうか。  文彦は事ある毎に思い返した。彼の足に不具合が生じたのは、ひとえに己の過信の結果に他ならない。ジャックと文彦を最初に名付けた妻の気持ちを彼は無にした。世界で最も有名な殺人者の名で夫を呼ぶことで凶悪犯を追跡する文彦に自戒するよう警告したのである。  姪のヒナタに贈った詩集は自分自身への諌言でもあると文彦は思った。法の正義を掲げ、司法を体現してきた彼が復讐に手を染めることは許されない。犯罪者は正式な手続きを以って裁きの場に引きずり出されるべきだ。 「ジャック。あなたは事件を俯瞰して分析していればいい。身長六フィートの制服警官を顎で使う仕事は私がやる。ただひとつだけ言わせて。本部長にはフェンタニルの使用を黙っていたほうがいいと思う。たぶん良い顔はしない」  フェンタニルは、文彦が痛み止めに使用している薬用モルヒネである。 「お帰りなさい、ジャック」  クリスティナが背筋を正して敬礼する。文彦は答礼を返した。
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tukumoteiog · 6 years
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D&D イニストラードセッティング セッションその5 レポートその15
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「フレッド、左を頼む!」
「……わかった」
 兄弟はそれぞれ左右に分かれてエルドラージの群れに斬り込んだ。フューゴは大型のドローンの群れを斧で薙ぎ払い、フレッドは変異した人間の頭を踏みつけながら触手や腕を切り落としていく。
 掬い上げるような一撃でドローンを叩き割ったフューゴが、横から別のドローンに突撃されて体勢を崩す。
「クソッ!」
 斧でバランスをとって立て直すが、その一瞬の隙にさらに別のドローンが触手を伸ばした。その紫色の皮膚が触れた瞬間、フューゴの頭の中に歪んだ精神の奔流が流れ込むのを感じた。
「――うあああ、あああ、わ、われは、えええええむむらああああああ」
 自我が溶け行く感覚で、目の前の光景が虹色に瞬く。巨大な存在の一つになり、目の前の小さな生命を喰らうことだけを考えろ。我らがエムラクール。我こそがエムラクール。全ては我に回帰していく。全ては永劫なる無へと。我はエムラクール。我は――
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「フューゴ!!」
 何か巨大なものに接続されていた意識が切断され、元の肉体へと弾き飛ばされる。一瞬ふらつき、フューゴは自分の置かれた戦場に視線を戻した。トーベエが二刀を我武者羅に振り回してドローンを切り捨てる。致命的な攻撃だけは避けているが、しかし棘のように突き出された触手や足がその身体に血を流させる。
 フューゴは再び斧を振り上げてドローンに斬りかかる。トーベエに絡まる一体を引きはがし、その足を切り裂く。さらに、二人の上から炎の弾丸が降り注いだ。トライアとグリムが呪文を詠唱し、絶え間なく雷や炎の斉射を繰り出していく。彼らの姿はその瞬間は、優勢に見えた。
 太陽を覆うように翼を広げた天使のまがい物が、波のように蠢くドローンの上を飛んでいくまでは。それは声ならぬ声を上げ、赤く光る瞳でフューゴを見た。
 その瞬間、再びフューゴの意識が何者かによって浸食され、身体の自由が利かなくなった。それと同時に紫色に脈打つブリセラの腕が槍のように伸び、フューゴの肩を貫いた。
「―――――!!!!!」
 呼吸することも、悲鳴を上げることもできない。触手が身体の中でうねり、腕と身体を分離させようとする。
「っらぁ!」
 刀が紫色の腕に傷をつけると、それはたやすく引き抜かれた。片方の頭がぐにゃりとトーベエを向く。視線が交差した瞬間にトーベエもまた精神に何かが入り込むのを感じた。ブリセラが腕を振り上げるのが見えた。精神と肉体の両方をバラバラに動かさねばどちらかが死ぬと分かっているが、そのどちらも言うことを聞こうとしなかった。ならば刺し違えてでも、と思った瞬間、空中から飛来した雷がブリセラの翼を焼き焦がす。
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「見ろトライア、こっちを向いたぞ」
「さっきのを喰らったら僕ら死んじゃいますよ!?」
「そのときはそのときだ。覚悟を決めろ」
 トライアとグリムは魔術書から燃えるような光を迸らせながら、再び詠唱を始める。
「二人とも下がれ、少しでも前線の援護を!」
 変異体を鎚で潰し、聖印を掲げながらアーロンが前に出る。彼もまた、トーベエの二刀にかかる祝福の術を維持しながら戦い続けている。
 風を切って絶望が飛来した。虚ろに燃える瞳がアーロンとトライアを捕らえた。聖印に阻まれたか、アーロンは意識を保った。だがトライアは意識を掻き乱され、その場に倒れ伏した。
 グリムは戦場を見渡した。フレッドが躍るように敵を切り刻むが、まるで砂糖に群がる蟻の群れのようにとめどない。狂った人間たちの波は本物の海のように終わりが見えなかった。もしかしたら、と錬金術師は別の巻物を引き抜いた。師匠モーダミアの持ち物から失敬したそれを紐解き、魔力を込める。もはや大地から引き出せる魔力はもうなく、己の中に残ったわずかな残滓を集中させていった。
「生けるすべてを永久なる休息へ誘え、《睡眠》!」
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 薄い靄がフレッドの周りの狂える異形を覆っていく。ブリセラの羽ばたきで靄が晴れると、そこには折り重なって眠る怪物たちの姿があった。フレッドは空中で回転して音もなく着地。バネが飛び出すように素早く、アーロンと切り結ぶブリセラの背後へと到達した。
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「フューゴ、ここは俺に任せろ! フレッドたちを助けてくれ!」
 トーベエはドローンを切り払い、フューゴの背に声をかける。
「――死ぬなよ」
 後ろを振り返ることなく、フューゴはブリセラへと突進した。
 振り回される斧がブリセラの下半身から伸びた触手を切り落とす。フレッドが斧の柄に乗り、さらに跳躍して翼に刃を振り下ろす。ブリセラと視線が合えば身体が石のように固まり、触手が剣の壁のように襲い掛かる。アーロンのハンマーがそれを叩き、何本かはそらすことができるものの、一歩間違えば致命傷という場所を綱渡りですり抜けていく。
 グリムは戦闘から離れ、魔術書の残りを漁った。恐らくこれが、最後の魔法になる。
 無限に続くかと思われた打ち合いの中、変化は突然に現れた。天に浮かぶ月に、見たこともない文様が輝いていた。塔の上にジェイスとタミヨウ、そしてもう一人、緑の服を纏った魔術師が立って魔力を放っていた。
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 トライアは巨大な魔力の流れを感じ、天を見上げた。その瞬間、彼の視界を塞ぐように燃え立つ瞳と目が合った。
「しまっ……!」
 明らかにブリセラの動きは遅くなっていた。だが、その腕の一撃は容易くトライアの命を奪ってしまうだろう。
「トライア!」
 青いローブの錬金術師が、トライアの前に滑り込んだ。グリムの手には、開かれた魔術書が赤い光を放っていた。
「燃えろ!」
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 グリムが付き出した掌から炎が迸る。それは迫りくる腕を焼き焦がし、黒い炭に変わる。
 視界の中で、エムラクールの山のような身体が再び空中へと浮かんでいく。それは輝く月に吸い込まれるように、急速に小さくなっていくように見えた。
 歪んだ天使が驚愕と恐怖の混じった声を上げる。そこへ、アーロンの鎚が、フレッドの短剣が、フューゴの斧が叩きつけられた。
 翼が裂け、腕が斬り飛ぶ。銀の血が流れる両の眼窩に、光り輝く魂が映った。それは大きな白い翼を広げ、歪み切った姉妹のなれの果てを悲しげに見つめた。魔力そのものの腕を伸ばし、歪んだ肉体に残った魂を解いていく。エムラクールの一部となっていた肉体がゆっくりと落下し、二人の天使の魂だけがそれのてのひらに収まった。
偉大なる魂は翼をはためかせると、まだそれが地上に存在したころと同じように、姉妹の魂をあるべき場所へと導いていった。
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 ブリセラが落下し、動かなくなる。皆倒れて、一歩も動くことができない状態だった。エルドラージの不気味な死体の上に横たわるトーベエの視界の中で、エムラクールが月に飲み込まれていくのが見えた。
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「やったのか…」
 そうして目を閉じた瞬間、その場に爆発が巻き起こった。
 エムラクールを銀の月に封じ込めたことで、謎の石によって歪められていたマナの力線が元に戻った。ネファリアにダムのように集められていたマナが噴出し、その到達地点であったスレイベンで爆発を起こしたのだ。
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 ネファリアのいつもの酒場で、フレッドとフューゴの兄弟は杯をあおって、残った酒を呑みほした。
「じゃあ、俺たちはもう行く」
「……ヘンリー領主どのが心配だからな」
 入口で待つマービン爺さんに声をかけ、二人は酒場のドアに手をかけた。
「アーロン、トライア! またどこかで!」
「アーロンさん、私たちも行きましょうか。まだまだ、イニストラードには希望が必要です。それに、吸血鬼の連中がサリア様を狙ってくるか分かったもんじゃないですからね」
 二人も立ち上がり、荷物を背負った。
 真新しい銀の鎧を整えて、アーロンとトライアはケッシグの森の中を進んでいた。
「ウルリッチ! どこだ!」
 アーロンの声が森の中に��く。
「騒がしいな。喰われに来たのでもない限り、その声は腹の中にしまっておけ」
 狼の群れとともに、白髪の大男が姿を現した。
「新しい寝床の調子はどうかと思ったんだが、その様子なら心配はないな」
「お前たちさえこなければな」
 ウルリッチは懐から何かを取り出すと、アーロンに投げてよこした。それは戦いによって傷つき見るも無残な姿になった、シガルダの聖印であった。恐らく幾度となく、持ち主の命を救ったのだろう。
 アーロンが顔を上げると、狼たちの姿は風のように消え去っていた。
 強い風が吹きつける甲板に、トーベエは顔を出した。はるか空には雲が渦を巻いている。エメラルド色の海には小舟が浮かび、霊気駆動のプロペラが回転して船を前へと進ませていた。
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 遠くに見える街には高い塔が並び、青い水のようなものを溜めこんだ不思議な建物が宝石のように輝いていた。
「珍しい恰好だね、旅の人。商人かなにかかね?」
 同じ飛空艇の甲板にいた、平服のドワーフが話しかけてくる。
「俺はサムライ。武芸者だ。ちょいと、人探しをしているんだ」
 ひたすらに太陽が照りつける砂漠を、一人の錬金術師が彷徨っていた。遠くに都市と思われる影と、そこから伸びる河川。
「川へ行かないと干からびてしまう。命あっての研究だからな……」
 都市の方を見ながら、足は川へと向かう。人の姿が見えない。まるで死者の世界のようだ。あるいは本当にそうなのかもしれない。
 都市の影の中に、二本の歪んだ塔のようなものが見えた。グリムにはそれがなんなのか皆目見当もつかなかったが、何かとても不吉で邪悪なもののように見えた。
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 不気味なスカーブが引く大八車には、さらに禍々しい歪んだ死体が山と積まれている。スカーブの横ではゲラルフとギサが何やら陰湿な罵り合いをしていた。わずかに生き残った聖戦士たちは鎧を脱いで、瓦礫をどけたり人々の治療をしたりと忙しく走り回っている。
 守護者を失った世界は今、自らの力で立ち上がろうともがき、その一歩を踏み出したところだ。
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(了)
DMの視点から:
 おわったあああああ!!おつかれさまでしたー!!!!完!!!!じゃねええ!!!!!次はあなたがダンジョンマスター!!!!なんか聞きたいことがあったらツイッターでいいから聞いて!答えるから!!!!
 さて、今回のシナリオは大元のストーリーにある程度沿う流れになりましたが、もっと小規模な冒険を遊んでも面白いですよ。フリーインフリーアウトのキャンペーンも久々に試しましたが、なかなかうまく行ったのではないかと思います。参加回数にバラつきがでそうな場合にはDMGに載っている「セッションごとにレベルアップする」形式が足並を揃えやすくていいんじゃないかなーという意見もあったので、次回はそれで。
 そうそう、ブリセラのデータは「スペクテイター」をいじったものを使用しました。大天使のデータはギセラ、ブルーナ、シガルダは「デーヴァ」、アヴァシンは「プラネター」ってことなので、そのまま使ったら3レベルパーティなんぞ鼻息で吹き飛びますからね。
 このあとですが、長いキャンペーンはちょっとの間お休みとなり、その間に色々またコンテンツの用意をいたします。モチベーションアップのため、このキャンペーンや各種翻訳、記事についてのご意見ご感想もお待ちしております。最後に、参加してくれたみなさん、読んでくれたみなさん、ありがとうございました! また次の冒険で!
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buriedbornes · 7 years
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第11話「薫る桜花(3) - 死に化粧」 - Short story “Scents of cherry blossoms chapter 3 - Makeup to death”
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「この辺りに、間違いなくおるはずであるが…」
ケンゾーが、周囲を見渡しながら呟いた。
あれから二人で、サクラさんを一生懸命探したんだ。
気味の悪い風穴や、迷宮の奥深く。
そして、腐敗した貧民街の近くで見つけた生存者の集落で、魔物退治のお礼についにサクラさんの消息にたどり着いた。
「和装の女剣士が、光の玉をまとって森へ向かった」
全身から生ゴミの匂いがするおじいさんが、そう言った。
「光の玉って、何のことだろう?」
「…拙者には、見当もつかないでござるよ。サクラ様には、術の素養がなかった。そのような術を、サクラ様が使われる事はないはず」
ケンゾーさんは足跡を探るため、辺りの枯れ葉によくわからない粉末を撒きながら難しそうな顔をして粉の落ちたところを睨んでいる。
「それは、何?」
「なぁに、ちょっとした手品に候」
そう言うと、ふわりと風が吹いた。
それに誘われるように、粉末は風下へと舞ってい���た。
見下ろすと、粉末が落ちていた場所に、風に飛ばずに足跡の形に粉が残されていた。
「うむ、あのご老人の目は節穴ではなかったな」
すっくと立ち上がると、足跡の向かう先を指差すケンゾーさん。
「この先に、サクラさんがいるんだね!」
「うむ!さぁピエトロ殿、サクラ様はもうすぐにござるぞ」
やった!また、あのサクラさんに会える。
優しくて、良い匂いのする、サクラさんに。
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そう遠くはない、という拙者の見込みは正しかった。
桜の花びらをあしらった模様が、木々の隙間から覗く。
「あ!あれだよケンゾーさん!」
ピエトロ殿が、まるでモグラのようにあちこちの隙間や木の裏から落ち着きなく頭を出し入れしてはこちらを振り返る。
足音を殺し、そっと側の木の陰から様子をうかがう。
顔が見えた。
間違いない、あの整った鼻立ち、胸まで伸びる黒髪、先代様が遺されたソガベの宝刀。
あれから10年か。
大きくなられた。
本当に、大きくなられ、そして美人になられた。
あのおてんば娘が。
しかし、何かがおかしい。
あの凛とした瞳の奥に感じられた、芯の強い意志がない。
そして、ほのかに漂う、屍臭…
「サクラさ~~ん!!!」
ピエトロ殿がオオキノコの傘の下から飛び出すと、そのまま自分の足で駆け寄っていく。
拙者は、再び木の陰で気配を殺した。
「サクラさん、やっと見つけたよ~!」
ピエトロ殿がサクラ様の足元に立ち止まった。
「サクラ、さん…?」
スラリと音を立てて、サクラ様が刀を抜く。
「さ、サクラさん!?」
次の瞬間、宝刀が空を裂き、甲高い金属音が三度鳴り響いた。
拙者の投擲した苦無手裏剣はかさりと乾いた音を立てて草むらに落ちた。
「どうして!?」
忍刀を双手に構えにじり寄る拙者の前に、ピエトロ殿が立ち塞がる。
「なんでこんな事するのケンゾーさん!!」
「拙者が主君より受けた命は、姫の暗殺… 邪魔するならばおぬしも斬らねばならぬ」
愕然としながらも、ウサギの少年は懐中から湾曲した投擲武器を取り出した。
「ぼくの… 恩人なんだ!」
「すまぬ、ピエトロ殿」
術の印を切る間もなく、鈍い音が森に響いた。
ピエトロ殿の首から、新しい耳のようなものがするすると伸びた。
すると、ゴポゴポと不快な音を立てながら、口から赤いものを垂れ流す。
またするりと首から長いものが抜けると、ピエトロ殿はその場に崩れ去った。
刃先を真っ赤に染めた愛刀を手に、生気のないサクラ様が、今度はその刀を流れるように持ち直し、青眼の構えへと移る。
間違いなく、サクラ様でありながら、そこにいる誰かは、もうサクラ様ではないのだろう。
「もう、生きてはおられぬのだな」
首と左手首に接いだ跡が観える。
そこにおられるのは、サクラ様の屍体であって、サクラ様ではない。
「もう命がないのであれば、首だけ貰い受けて持ち帰るのみ」
あらためて、忍刀を構え直す。
サクラ様の構えが動き、重心が下がる。
受けに回る前の、サクラ様の癖。
そんなものまで、再現せしめるというのか、屍者を冒涜する者どもよ!
怒りは、押し殺せ。
跳躍し、再びの手裏剣投擲。
難なく払い、こちらに向けて駆け出し宝刀の突き。
しかし、枯れ葉の積もった地面は踏み込みが効かぬ。
滑るように突きは拙者の頭部横をかすめて後方へ流れていく。
すかさず忍刀を繰り出そうとした瞬間、腹部に強烈な衝撃を受け、右に吹き飛ぶ。
彼女の左裏拳が、拙者の肋骨を砕き、振り抜けられたのだ。
尋常の膂力ではない、この力も技も。サクラ様のものではないはずだ…
木の幹に強く打ち付けられ、血を吐きながらボロ雑巾のように地べたに這う。
油断しない様子でジリジリと桜色の屍者が詰め寄る。
今度は彼女が、大きく振りかぶって跳躍した。
そこに合わせて、印を結び、手を空に。
「火遁の術!!」
手先から業火が走り、空中を舞うサクラ様の身を包む。
しかし、円を描いて振るわれた宝刀が炎を巻き込み、そして払ってしまう。
そこにさらに苦無が飛来させる。
払う。
電撃。
弾く。
さすがの達人でも、これだけの連撃を前に攻勢は維持できない。
たまらず枝を蹴って、後方に飛び退くサクラ様の着地点が、一瞬瞬く。
そして、爆音。
全くの無防備であった彼女の肉体は爆破をまともに受け、後方に倒れ伏せる。 致命傷には至らなかったものの、右腕が吹き飛び、両足は骨が粉々で立ち上がる事はできまい。
「忍術の神髄、お忘れになったか」
たったの一度も、拙者がサクラ様に負けた事は、一度もなかった。
10年の歳月を経て、最期のこの時を迎えても、一度も覆る事はなかった。
ただの、一度も…
そして、永遠に。
「せめて、顔には化粧を施してしんぜよう」
傍らにしゃがみ込み、首を切り落とすために、忍刀を添える。
その時ふいに、サクラ様の瞳から涙が流れた。
「ケン… ゾー… お願…」
ただの、一度も。
些細な事で心が揺れ動くようでは、忍は務まらない。
それが、選んだ世界なのだから。
その言葉が、サクラ様の遺された本心から出たものなのか、冒涜者が策を弄するために取った最後の悪あがきだったのか、今となっては確認する術はない。
全てを言い終わる前に、サクラ様の首は跳ね飛んだ。
その瞬間、一閃の光が視界をかすめる。
暖かな日々が、胸に去来する。
「さようなら、サクラお嬢様…」
そう呟こうとした拙者の口から、言葉は発せられなかった。
ふと、見下ろすと、胸に拳ほどの穴がぽっかりと開いている。
傷口は焼き切れて血も吹き出さず、ただ、熱いものがその胸元からこみ上げてきた。
振り返ると、空中に漂う、光の玉。
それは、死の直前に目にする幻だったのかもしれない。
それは、輝く、小さな少女だった。
その可愛らしい少女は、目を泣き腫らし、何かを訴えるように叫んでいた。
しかし、もう、音も聞こえない。
足の力を失い、倒れ込む。
遠ざかる意識の中で、それでもなお、拙者のした事に後悔はなかった。
これが、拙者の選んだ世界なのだから。
奪い、奪われる者の、世界なのだから。
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~つづく~
薫る桜花(4) 奪い、奪われる世界
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
ショートストーリー
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mashiroyami · 4 years
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Page 115 : 月影を追いつめて
 上空はネイティオ率いる鳥ポケモン達が隊列を組む。元々の群れを成して飛ぶ習性に加え、日々重ねてきたレースの訓練の成果が如実に表れ、整然と飛んでいる。  地上から追いかけるアラン達は歓楽街にほど近かった教会から離れ、湖の方角へと向かう道を走っていた。人が集中しているのは町の中心地から湖畔の自然公園へかけた大通りを中心としており、そこからは距離を置いている現在地においては人通りは未だ少ない。ポッポレースも既に始まっている。郊外で営む店も今日は朝からしまって、祭に精を出しているのだろう。閑散とした住宅地、家を出ていない住民もいるだろうが、人気のない道はゴーストタウンすら彷彿させる。  強くなりつつある日光を反射して、キリの町を象徴する白壁はますます輝きを増し、影は小さく濃くなっていく。  乾燥した石畳を駆けながら、ネイティオが右に曲がる。それを追って、アラン達は細い路地に入った。昨晩の雨の影響で湿り気が漂うが、とうに水溜まりは蒸発していた。  エーフィを先頭に縦に列が伸びる。間をアランが保ち、しんがりでエクトルが走る。短い路地を突き当たりまでやってきたところで、鳥ポケモン達は左へ舵を取った。 「こんなに大勢で向かって、ブラッキーは気付かないでしょうか」  道がまた広くなり併走に切り替えたエクトルに、息を切らしながらアランは横から声をかける。 「布石は打ってあります」 「布石?」 「ええ。それより、覚悟はできていますか」  アランは息を静かに荒げながら、沈黙し、頷く。  大人しくボールに収まってくれればいい。しかし、悪く転がれば、戦闘に縺れ込む可能性がある。エーフィの表情も、いつもの朗らかさは潜み、硬いものになっていた。そのエーフィの主要な攻撃技はサイコキネシス、悪タイプであるブラッキーに直接ダメージを与えられない。実質、現在の手持ちの一体として名を連ねているアメモースも本来であれば十分に渡り合えるだけの能力を持っているが、今戦闘の場に出したところで、自在に動けなければ満足に力を発揮できない。何より、アラン自身、バトルの経験が殆ど無い。 「戦闘になったら」アランは力強い眼差しを前に向けながら言う。「その時は……お願いします」  他に選択肢がない。エクトルが以前はポケモンバトルを生業としていたことを、アランは既に知っている。言質を取ったエクトルは首肯する。 「元よりそのつもりです」  可能ならば、穏便に済むに越したことはないが。  人前での戦闘には正直なところエクトルは躊躇いを抱いている。しかし、背に腹は代えられない。  行き違う人々の視線を無視して走るうち、ネイティオの速度が明らかに落ちる。  恐らく、近い。  やがて鳥ポケモンの群れが分散し、各々屋根や旗の紐に止まる。一部は大きく右に曲がっていき、建物の向こうへ姿を消した。  白色の住宅が並び花が微風に揺れるその場所の、建物の間を抜けていく道路。  ネイティオは地面に下りて、翼を広げる。目的地への到着を示しているのだろう。  アラン達は減速し、ネイティオに追いつくと、ゆっくりと立ち止まる。肩を上下させて息を切らしたアランは、熱い顔に滴る汗を手で拭った。  影が差した道には、誰一人、獣一匹とて、見えない。  道の途中や、向こう側に、ぽつんぽつんとマメパトやピジョンが点在し、待機している。挟み込んでいるのだ。  ヒノヤコマだけは道のまんなかに降り立ち、その背に乗ったフカマルも慎重に降りる。そして、彼は、誰かに声をかけるように、聞き慣れた親しげな温度の声をあげて、右手を挙げた。  現れる、どころではない。ネイティオはブラッキーの居場所を予知した。  エクトルがアランに目配せする。アランは深く頷き、鞄から真新しくなった空のモンスターボール――ブラッキーの入っていたもの――を握り、緊張するエーフィを傍に引き連れ、強張った足取りで歩みを進めた。  ブラックボックスに、手を入れる。  音を立てないようにして、アランは角を曲がり開けた道路に入った。  フカマルはそれ以上歩もうとはせず、アランを見やった。見上げた先のアランの表情は影になっている。ドラゴンの弱々しい鳴き声が虚しく落ちる。  半分は日光が差し込み、半分は建物の影となった道路の先、影になった方へ栗色の視線が向いた。 「……ブラッキー」  白い住居の間は元々あった建物を壊したのかぽっかりとした空き地となっていて、雑然と整えられた敷地内で黄色い輪が光っている。身体をもたげている奥は柵が設置されており、行き止まりとなっていた。気怠げな様子とは裏腹に、赤い瞳は鋭利に光っている。  フカマルの呼びかけに応えなかったブラッキーは、ラーナー達の来訪に気が付くと、おもむろに立ち上がる。  エーフィがか細く声をかけるが、返答しなかった。朱い眼の細い瞳孔が陽炎のようにふらふらと揺れながら、彼は体勢を低くした。明確な威嚇行為にフカマルも足を竦ませ、アランの背後に隠れ様子を覗う。  獣の小さな主は張り詰めた空気を吸い込んだ。表情に湛えるのは哀しみでも戸惑いでもなく、アランは静かにブラッキーと対峙した。この地点は分かれ道だろう。手元に握ったボールに戻るか否か。戦闘に踏み込むか否か。 「ブラッキー」もう一度呼びかけた。「ずっと苦しかったんだよね」  距離は三メートル弱。電光石火で瞬時に詰められる間合いである。エーフィにとっても、ブラッキーにとっても。その気になれば、一瞬で喉元に牙は届くだろう。 「体調が悪いことは知ってた。でも、どうしたらいいか解らなかった。私が、未熟だから……。……きっかけは、首都で、守るを使ったから?」  問いかけられたブラッキーは動かない。アランの言葉に耳を傾けているかも判断できない。  堅く握りしめているその手は、死を渇望する少年の命を此の世に縫い止めるために突き放し、そして反動をそのままに彼女は高層ビルの屋上から身を投げた。あの瞬間瞬間のうちに、自ら判断したことだった。ブラッキーは壁を伝って電光石火を繰り返し、あわや地上に激突する寸前で守るを発動し、全ての衝撃を相殺し、文字通り命を懸けて彼女を護り抜いた。  生き残った彼女は、そしてまた自分で選択し、首都から離れ、旅を共にしてきた仲間と袂を分けた。ブラッキーは、あの頃を境に、息も絶え絶え生きている主人に同調するように崩れていった。  アランは瞬きも殆どせずに暫く待った後、続ける。 「ブラッキーの考えていること、全部は、解ってあげられないけど」  零れる言葉もどれほど獣に届いているか。  アメモースをちゃんと見ろと、言葉が通じずとも理解しあえると、トレーナーの迷いはポケモンに伝わると、ザナトアは繰り返し説いてきた。今、アランの表情には怯えも惑いも無い。ブラッキーから目を逸らさない。ブラッキーの鋭い眼光をものともしていないように、受け止め、対話を試みる。 「ヤミカラスを殺したのはブラッキーの意志? でも、ブラッキーはそんなことをしない……普通だったら。もし、ブラッキーの望みでないなら、一緒に考えるよ、これからどうしていくべきか。……どうしてこうなったのか、わからないけど。お母さん達や、黒の団が関わっているのなら……今度こそ向き合う。一生懸命、考えるから」  す、と息を吸って、ボールを持たない左手を差し出した。  「きみを、守るから」  握手を求めるように、無防備な掌が開かれる。 「帰ってきて」  誰もが息を詰め、対話を見届ける。  この場にはエクトルやエーフィを含め、多くの生き物が集合している。しかし、今はアランとブラッキー、ただこの二つの存在のみが呼吸をしているかのようだった。たった一人と一匹だけの世界。町を彩る花も、清廉な白い風景も、眩くも儚い秋の青空も、どこかで沸き上がる歓喜も、静かなる祈りも、力強い羽ばたきも、波の弾ける音も、鳴き声も、泣き声も、何も干渉することはない。あるのは静寂である。強く引き合う糸が視線の間に結ばれ、たゆむことなく繋ぎ止める。緊張を解いた方が屈服する。互いに譲らず、時間ばかりが過ぎていく。  やがて、動いたのはブラッキーだった。  強い唸り声が返答となり、アランは唇を噛んだ。  すぐにエーフィがブラッキーとアランの間を切断するように前に出る。  黒き体躯がその場を弾いた。エーフィは身構え自らも電光石火で応対しようとしたが、紫紺の瞳はブラッキーの行く先が自分ではないと見切った。ブラッキーは黒い影から飛び出し、太陽の照る反対側の壁へ足を突いた。すぐにまた壁を蹴り上げ、身軽にも上へと向かう。地上を封鎖されたがため屋根を伝って逃げるつもりだ。上空に待機していた鳥ポケモン達は咄嗟に反応できず、あっさりと逃亡を許そうとした。  しかし、ブラッキーは逃げられなかった。  彼の後ろ足を何者かの手が握る。灰色の巨大な手が影から伸びるように現れ、ブラッキーの跳ぶ勢いを殺し、力尽くで引き戻したと思えば整地された地面へと叩き付けんとした。  最中、ブラッキーは空中でバランスを整え、地面に足をめり込ませながらも着地した。邪魔をされ苛立ちに満ちた瞳が空を捉えた。陽光に照らされて、影に身を潜めていた存在が明らかになる。赤い、炎のような一つ目がブラッキーを見下ろす。二メートルにも達する巨躯にはもう一つの顔を模した模様が描かれ、先ほど足を引き下ろした大きな掌をブラッキーに向け、おどろおどろしく空に漂う。 「下がっていてください」 「エクトルさん」  力の抜けたアランの隣に歩み出て、エクトルはブラッキーを睨む。  大人しく戻ってこなければ、恐らく戦闘に入る。それはアランも承知していたことであり、だからこそ対話は最後の可能性だった。かすかな願いが散ってしまえば、力尽くで引き戻す必要がある。ボールに無理矢理閉じ込めたところで、自力で脱出する術を得ているブラッキーには効果的な意味を成さない。捕獲の鉄則と同様、弱らせる必要がある。 「既に黒い眼差しを仕込んでいます」 「黒い眼差し……?」 「ヨノワールの技です。これでブラッキーは逃げられませんが、ボールに戻すこともできません。ブラッキーとヨノワールのどちらかが倒れるまでは」  突如影の中から姿を現したヨノワールも、彼のポケモンの一匹であった。エクトル達よりも先にブラッキーの元に向かわせ、とうに黒い眼差しを発動させてブラッキーが逃げないように監視させていた。  エクトルは右の人差し指を立て、小さく関節を曲げた。その仕草に吸い寄せられるように、鳥の形をした大きな影が彼等の真上を通り過ぎる。 「シャドーボール。ネイティオ、電磁波!」  指示を受けた霊獣、ヨノワールは素早く両手を合わせ、瞬時に禍々しい漆黒を掌の間に形成する。黒は深くなり、あっという間に球を成すと、ブラッキーに向けて放たれた。ブラッキーは素早い身のこなしで跳び上がり避けたが、その先を待ち構えていたようにネイティオは電撃を念力で作り上げ、空中で自在に避けようもないブラッキーを襲った。未来を視るネイティオには造作も無い予測である。狙いは的を射る。  シャドーボールが地面を抉り散った砂を含んだ風が巻き上がる最中、ばちんと痛烈な音を立てて火花が散り、月の獣は電撃を纏う。 「ブラッキー!」 「麻痺させただけです」  背中から地に落ちたブラッキーを見て思わず声をあげたアランの横で、エクトルは淡泊に言う。  シャドーボールの影響で薄い土煙が漂い微風に払われてゆく中、ブラッキーがよろめきながら立ち上がる様子をエクトルは観察する。  電磁波を受け、明らかに動きが鈍くなった。身体の筋肉が電気を浴びて痙攣し、動くにも痛みを伴っていることだろう。これで機動力を抑えられる。  エクトルの背後で、ネイティオの動きが鈍り、堪らず地上に降り立つ。おっかなびっくり見つめるフカマル同様、アランは目を瞬かせた。鳥獣の身体は、反射されたように電撃が迸っている。が、嘴が上下に動き、仕込んでいた小さな木の実を呑み込む。シンクロは想定範囲内、道連れは許さない。同調した麻痺はすぐに癒えていくだろう。  いくら祭で人が出ているとはいえ、住宅街で騒ぎを起こせば目立つ。ある程度戦闘で道を破壊しても適当に話を付ければどうとでも補修は効くが、住宅に及べば少々厄介なことになる。狭い立地では、ブラッキーやエーフィのような身軽なポケモンの方が有利な上、タイプ相性としても二匹ともブラッキーに対しては分が悪い。時間をかけるのは得策ではない。さっさと片を付けなければならない。 「気合い球!」  電磁波が強力な足枷となっている隙を狙う。  ヨノワールは再び両手を合わせ、今度は先程の黒く混沌としたシャドーボールとは裏腹に、白く輝く光球を造り出した。光は留まることなく輝きを増す。抱え込むような大きさまで膨らんだと同時に、赤い瞳が妖しく光り、ヨノワールの叫���と共に渾身の力で投球、黒い標的へと一直線に走る。ブラッキーは咄嗟に黒い衝撃波を自らの周囲に形成、発射した。悪の波動。黒白のエネルギーがぶつかったが、相殺とはならず、気合い球が波を切り裂いた。止まらぬ勢いに朱い眼は見開かれ、本能的に回避を試みた。が、身体に電気が迸り、地を滑る。筋肉は痙攣、黒い足が折れた。見守るアランは息を呑んだ。  剛速球はブラッキーに直撃し、先程より派手な音が路地を抜けて周囲へ及んでいく。  頭の高さを遙か超えて粉塵が舞い、アランは咄嗟に翳した腕をどけて、煙が晴れるのを待つ。エクトルも時を待つ。瀕死でなければ、すぐに追撃を指示するつもりでいた。しかし、当たってさえいれば効果的な一撃である。幾度の修羅場を乗り越えてきたブラッキーといえど、まともに喰らえばそれなりの深手を負わせられる。  が、風に煙が払われていくその中に、硝子のような煌めきが混ざっていることにエクトルは気付く。  煙が晴れる。  ブラッキーは地に伏しているどころか、四つ足でしっかりと立っていた。表情は険しいが、それは攻撃に対する純粋な嫌悪に過ぎない。ダメージを受けた形跡は無い。細かな輝きはアラン達の横を通り過ぎ、風に消えていった。 「……守る」  アランは呆然と呟いた。  エクトルは眉間を歪めた。  型破りな防御技は、生成に時間がかかる。連続すれば失敗しやすくなるとされるのは、いかに緻密で、巨大なエネルギーを消費する技であるかを物語る。ブラッキーは、気合い球を避けるつもりであったはずだ。それは彼の僅かな挙動が示し、そして電磁波による麻痺で阻害された。加えて悪の波動を放った直後で隙も出来ていた。そこまではエクトルの目は追えていた。あの瞬間、既に気合い球は彼の目前まで迫っていたはずだ。距離を置いているならまだしも、肉薄しようとしていた至近距離で、後出しの守るで防ぎきるか。  確かに訓練次第で技の精密性は上がるだろう。それに��ても発動が速過ぎる。  エクトルが無意識に抱いていた油断を自覚したとも露知らず、ブラッキーは唸り声をあげる。細かく並んだ牙が顔を出した。月輪が輝きを増し、短い体毛を割って威嚇の毒が滲み出す。瞬く間に変容していき、禍々しい気配が彼の空気を支配した。  ブラッキーは完全にエクトル達を敵と見なした。  後方から見守っていたアランは表情を僅かに歪める。  僅かな動揺が隙となり、ブラッキーは瞬時に間を詰めた。電光石火で空に浮かぶヨノワールに襲いかかる。  しかし、その体当たりはヨノワールの身体を弾くことなく、そのまま何にも触れず通り抜けていった。充血した瞳が見開く。  電光石火はゴーストタイプには無効だ。トレーナーにとっては常識でも、ブラッキーには解らなかったか。判断力が低下しているのならばエクトルにとっては好都合である。 「もう一度気合い球! ネイティオ、怪しい風で援護しろ!」  戦闘の勘が鈍っていようと、相手のミスを逃す愚かな真似はしない。  二匹は通り抜けたブラッキーを振り返る。ネイティオは翼を大きく羽ばたかせ、紫紺に輝く突風を巻き起こした。強力だが、同じゴーストタイプのヨノワールにその風が影響することはない。またも空中で体勢を崩されたブラッキーに向け、ヨノワールは再び光球を育てる。  ブラッキーは音が聞こえてきそうなほどに歯を食い縛り、その足が向かい側の壁を捉えると、痺れる筋肉を酷使する。垂直落下する前に、足先に力を籠めた。再度、電光石火。ヨノワールに襲いかかる。  何故、とはエクトル、そしてアランも恐らくは考えただろう。まだ僅かしか形成していない気合い球に肉薄したところで然程威力を発揮しないが、それ以前にヨノワールに一撃を喰らわせるには電光石火では意味が無い。つい先程身を以て理解したはず。単調な攻撃。判断力が鈍っているのか。目にも止まらぬ速度でヨノワールに近付く。  直後、鈍い、破裂音のような奇怪な音が、ヨノワールから発された。  獣であり同時に霊体でもある奇怪な霊獣は、血の代わりに黒い靄を嘔吐して、低い呻き声を漏らした。  やはり擦り抜けてきたブラッキーに、ヨノワールの発する黒い靄と、それとは別種の黒い火花のような残滓を身体に迸らせて、着地した。  生まれて間もない気合い球は空に収束し、浮かび上がっていた巨体は力無く落下し、地に臥した。  冷たい沈黙が訪れ、やがて彼等は漸く呼吸を思い出した。  悪の波動はヨノワールに効果抜群。ブラッキーが悪タイプの技を持ち合わせている可能性は考慮していたが、ブラッキーは元来攻撃面に恵まれていない。対するヨノワールも自惚れではなく十分に鍛えてある。たった一発効果覿面な技を喰らったところで、耐えられる自信はあった。しかし、ヨノワールは倒れた。その理由の理解に至り、エクトルは顔色を変え、落下したヨノワールに駆け寄る。  ただの気絶に留まらない一撃であった恐れがあった。エクトルはすぐにヨノワールの顔を覗き確認する。意識を失っているものの、僅かに開いたヨノワールの瞳の最奥は赤い灯を失っていなかった。しかし、風が吹けば消えてしまいそうな蝋燭の火さながら、あまりにも弱々しい。  電光石火はヨノワールを擦り抜ける。しかし、それを裏手にとり、彼は擦り抜けようとしたその瞬間、つまりはヨノワールの体内にあたる地点で、悪の波動を発した。  あらゆる外傷から守るために生物は身体の外側を皮膚などで覆い、その内側に張り巡らされた筋肉、血管や神経、更には内臓、繊細な器官を守る。が、守りとは外側に向けられたもの。鎧の奥、内部、守られるべきものに直接内側へ手を下せば、それは則ち急所である。  相性の不利は承知の上だったが、加えて、無防備な内側への直接攻撃。相性以前の問題である。ブラッキーに一切の躊躇は無かった。ヤミカラスを殺した事実、ポッポを殺したという可能性が急速に現実味を増し、エクトルの脳の芯は急速に冷えていく。  彼は的確に敵を殺そうとした。  逆立った体毛は更に刺々しく荒さを増し、ブラッキーは吠え、再び悪の波動を放とうと黒いエネルギー波を溜め込んだ。 「スピードスター!」 「エアスラッシュ!」  攻撃される前に、攻撃を打ち込む。考えたことは同じだったのだろう。観客に回っていたアランが堪えきれずエーフィに指示したのと、エクトルがネイティオに向け指示したのはほぼ同時。  躍り出たエーフィの額が赤く光り、輝く五芳星が素早く地上を走りブラッキーへ向かう。ネイティオも、力強く羽ばたきを繰り返し、見えぬ風の刃が無造作に地上へ叩き込まれた。  波形状の漆黒の波動は相殺される。しかし、全てを防ぐことは叶わない。波動は全域に渡り、周囲の壁や柵に炸裂した。破壊音が響く一方、衝撃を潜り抜けて五芒星が軽やかに滑空した。スピードスターは必中技。大きな威力こそ無いが、ブラッキーの体力を削る。その身に遂に打ち込まれた攻撃。が、ブラッキーは易々と耐え抜き、常時の彼とはあまりにかけ離れた劈いた声をあげた。  そして、赤い目は正面で険しく対峙したエーフィを捉え、すぐさま飛翔するネイティオに目標を切り替える。  強靱な脚力は、痺れていても衰えない。一直線にネイティオに飛びかかる。咄嗟にネイティオは風を起こし対応したが、ブラッキーが競り勝つ。  ブラッキーの前足がネイティオの身体を掴み取る。噴出する毒の汗が立てた爪を介してやわらかな鳥獣への侵入を試みる。小さく不安定な足場で、更に、その牙が露わになった。 「ブラッキー!!」  止まれ、と、制止を促すようにアランは叫んだが、ネイティオの胴体、翼の根元めがけてその牙が落とされようとした瞬間。 「振り落とせ! 電磁波!」  俊敏にエクトルの指示が入り、ネイティオはアクロバティックに頭から落ちるように急降下、ブラッキーの体勢が瞬時に崩れ、地上すれすれの位置で超至近距離で電撃が再び弾けた。無論、ブラッキーは既に麻痺している。が、強力な静電気で反射的に指先が仰け反る様と同様、ブラッキーの身体は強制的に弾かれ、地面に激しく打ち付けられた。  その地点、アラン達から僅か一メートルすら無い。あまりに近い場所でアランとブラッキーの視線が堅く交差する。一瞬の衝突である。  ヨノワールが倒れたことで、黒い眼差しによるしがらみから彼は解放された。自由となった足で蹴り出すと、アラン達の来た道を辿る。丁字路を右へ曲がっていき、逃亡を許した。 「追いかけますよ」  立ち竦むアランの腕を無理矢理掴み、走るように促す。息絶え絶えであったヨノワールは既にダークボールに戻していた。我を取り戻したアランは、流されるままに頷いた。  鳥ポケモン達は既にその場を飛び立ち、ネイティオも羽ばたき、先行してブラッキーを追っている。最も足が鈍いフカマルは、エーフィがサイコキネシスで運び、一同はブラッキーの後を辿った。 「広い場所へ誘導しましょう」  エクトルの提案に、アランは目をやった。 「こうも狭い場所では満足に戦えません。逃げ場所が増えるリスクはありますが、見通しが良ければ追うのも簡単です」 「広い場所って、どこに?」 「湖畔に向かわせます」  言いながら、エクトルはスーツの下で手首に巻いているポケギアを操作した。 「でも、今は祭が!」 「祭は自然公園と大通り沿いが中心です。湖畔の領域全てが使われるわけではありません。通行規制して、人が入らないようにします。このまままっすぐの方角へ向かえばいずれ湖畔に着きますが、できるだけ東の方へ……」  ポケギアのスピーカーから、通話音が入る。簡単に言ってのけるが、クヴルールの権力を振りかざしている。が、この際職権乱用と刺されても構わないだろう。錯乱状態に陥っているブラッキーを放置しておく方が余程危険だ。緊急事態だと適当に御託を並べて人員を用意させた。祭を滞り無く終わらせることが本日の最重要事項であるのだから、秋季祭に良からぬ影響を与える可能性があるとご託を並べればひとまずは動くはずだ。  走りながら通話し始め準備を進めるエクトルの横で、アランは暫し考え、速度を落とし、後方で浮かんでいるフカマルと目を合わせた。 「フカマル」  真剣な眼差しに、フカマルは目を丸くした。 「ヒノヤコマ達に伝えてきてほしいことがある。……お願いできる?」  まだ幼い彼にどこまで人語が理解できるか。しかし、話しながら、首を傾げていると、エーフィが通訳をするように彼等の間に挟まった。 「いける?」  なにも難しい指示ではない。フカマルは頷き、エーフィはサイコキネシスで一気に彼を上昇させる。  サイコキネシスによる浮遊も当初こそ慣れぬ様子であったが、今はなんの抵抗も無く受け入れている。無為に身体を動かすことなくエーフィに��ね、彼はヒノヤコマ達に声をかけ、その背中に乗った。その先で、アランの指示を伝えているのだろう。直後、彼等は左右に分かれ、速度を上げた。  エクトルはポケギアの通話を切った。 「何を指示されたんですか」 「逃げる場所を一つに絞らせます。湖畔に誘導するために」  キリの町は縦横無尽に路が張り巡らされている。逃げようと思えばいくらでも路地を曲がり行方を眩ませられるだろう。しかし、曲がろうとする場所に、先んじて鳥ポケモン達を配置し、それを繰り返す。背後からはアラン達が追いかける。誘導したい先を敢えて空けておく。  今のブラッキーの状態では、野生でまともに育てられても居ない鳥ポケモンなど驚異でもなく、阻んだところで躊躇無く突破される可能性もある。成功するかは別だが、打つべき手は打っておくに越したことはない。エクトルは納得したように頷き、上空を仰いだ。 「ネイティオ、シンクロでサポートを」  端的な指示を受けて、ネイティオは加速する。未来を予測する眼と、他者に同調する特性、そして元来持ち合わせている念力。司令塔としての役割である。目に見えぬ力が空を伝い鳥獣の間でネットワークを形成し、ブラッキーに対する包囲網を強化する。  アランは、ただ前を見て、直走る。  以前、彼女はこの策に捕まったことがある。  あの時、無垢な少女は今のブラッキーの立ち位置にいた。迫る殺意から逃げるために、暗い水の町の路地を、混乱を整理しきれずにただ逃げるために走っていた。その先が行き止まりとも知らずに。  果たして、この逃亡劇の先に何があるのか。  まだ遠くの視界には黒い月影が見える。曲がっても、鳥ポケモン達を信じ同じ道を辿り、湖畔の方へ向けば、またその尾が見える。真昼に輝く白の中で、黒い姿はよく映えた。結果的に、ネイティオの放った電磁波がブラッキーに与えた技の内最大の功績と言えるだろう。明らかに動きは鈍くなっている。  花や旗で彩られた華やかな白い道を疾駆する。道程で秋季祭の中心地から逸れた、或いは向かう途中である人間と擦れ違い、そのたび何事かと怪訝な表情が向けられるが、構っている暇などない。  エクトルは腰のベルトに付けたボールのことを考える。再起不能であるヨノワールは言うまでも無くもう使えない。ネイティオは健在だが決定的な攻撃を浴びせるには役不足だ。彼が携えているボールは、全部で三つ。残りは一匹。 「ブラッキーの技は、守ると、悪の波動、電光石火、他には?」  走りながら尋ねる。息を切らしながら、アランは足がも���れないように答える。 「月の光です」 「回復技ですか」  長期戦は不利になる。瞬時に発動できる守るが最も厄介だ。  ブラッキーに会うまでの顔つきより、ずっと冷たく、鋭利なものになっているエクトルを、アランはじっと、洞の広がったような瞳で見つめていた。
 長く白い路地を抜けて、先にブラッキーにとっての視界が一挙に開ける。  僅かな雲すら見えぬ、一面の青。夏空に彩度は及ばずとも、まるで穢れを知らぬ高みは、地上の生き物たちの目を奪う。  彼の背後からはすぐに追っ手が迫っている。上空は鳥ポケモン達が、地上は彼のよく知る人間と相棒が来る。  道路を跨いだ無効の湖畔を沿う堤防へ、その場所はなだらかな坂となっており、コンクリートの道路と地続きの芝生が敷かれた僅かな坂を上れば、中央の自然公園からずっと伸びている柵が湖と地上を分かつ小高い空間となっている。  迅速な通行規制が間に合ったのか、道路を車が走ってくる気配は無く、人払いが成されている。先だってはこの場所にも人が並び、ポッポレースで湖畔に散ったチェックポイントを渡りゆく鳥ポケモン達を応援していたものだった。レースは終盤へ移ろうとしているのか、縦に伸びた様々な翼が遠景でそれぞれ堂々と羽ばたいていた。彼方で行われている楽しい祭の軌跡である。通過点として既に役割を果たした地点を人々は後にし、エクトルの根回しで此の場所には他に入れないようになっている。  広い場所は、しかし隠れるところが無い。姿形が全て太陽のもとに晒され、ブラッキーは歯を食いしばった。  道路の中央部に立ち尽くしたブラッキーに、汗を散らして走ってきたアラン達が追いつく。遂に動きを止めたブラッキーを見て、エクトルは最後の一匹を閉じ込めたハイパーボールに一言呟くと、躊躇わずに投擲した。  吉日に相応しい雲一つ無い晴れやかな空に向け高々と上がった一擲。真っ二つに割れた中から、白い光が飛び出し、ブラッキーの前にその姿を瞬時に形成する。  咄嗟に間合いをとり警戒するブラッキーと、アラン達の間に降り立った獣。青く光る鱗に覆われた身体に朱色の腹を抱き、両手の先には鋭利な牙のような立派な爪を生やしている。二つ足で立つ様は細くしなやかな印象を抱かせるが、身体を支える太股や巨大な尾は強靱な肉体を主張する。  濃紺のドラゴンは、柔い羽がその場に落ちるように静かな立ち居振る舞いで姿を現した。 「ガブリアス……」  激しい息づかいをしながら、呆然とアランは呟いた。  上空で、ヒノヤコマに乗ったフカマルが、ぱかんと口を開けてガブリアスを見下ろす。  チルタリスとガブリアスの間に生まれた子供だと、小さなドラゴンの父親が永眠する墓前でザナトアは語った。  母親は子供には気付いていない。最終進化形まで逞しく育てられた勇ましいドラゴンは、一点のみ、目の前で威嚇するブラッキーのみを揺るがずに捉える。数多の群を抜いて気高く生きる種族に相応しい、清閑で、どこまでも冷たい眼差しで。  相手から視線を逸らさず、耳だけは彼女がこの世で唯一認める主人の声を待つ。  息を整え、堅く結んでいたエクトルの唇が動く。 「行け」  ごく短い指示が、氷のような温度で伝わり、ガブリアスの枷が外された。  スレンダーな巨躯が沈黙を叩き割り、直線上に立つブラッキーに接近した。身体に合わぬ速度は、ブラッキー達の電光石火の瞬発力にこそ劣っても、虚を突くには充分な効果を果たす。  振り上げられた爪の軌道を読んで、ブラッキーはその場を跳んだ。ブラッキーの居た地点めがけて叩き付けられた爪の一撃が、まるでいとも簡単にコンクリートの舗装を抉って、アランは目を見開き、額に汗が滲んだ。あれは果たして技か、ガブリアスの筋力がものを言わせたか。いずれにせよ、あの爪がブラッキーに突き刺されば只で済むはずがない。  空中でブラッキーは歯を食いしばり、崩れた体勢のまま悪の波動を放つ。禍々しい波及攻撃が至近距離のガブリアスを攻撃するが、硬い鱗に覆われたドラゴンは狼狽える様子すら見せない。羽虫でも当たったように何事も無く跳ね返し、直後にはブラッキーの傍まで跳び上がっていた。  横一直線に蒼き一閃。硬質な翼が黒い体躯を襲う。  同時に、咄嗟の判断だったのだろう、ブラッキーはすぐさま守るを発動。まばたきと同じリズムで、両者の間に煌めく壁を瞬時に形成した。切り裂くガブリアスの攻撃は阻まれたが、まさしく煌めくエネルギーの硝子が木っ端微塵に粉砕される音と共に、絶対守備のエネルギーは瓦解した。  ブラッキーは激しく後方へ転がりながら、形勢を立て直す。防御の反動で揺らいだドラゴンの隙を逃すまいと、顔を上げた。硬質な竜の鱗は全身を覆う。しかし、ガブリアスにも急所は存在する。狙うは首元。渾身の電光石火を叩き込んだ。  顎へ急接近した一撃は脳を震わせる。ドラゴンの頭は堪らず仰け反ったが、頑丈な足は揺れない。脳天への衝撃を押し殺す。紺の影が回転、長い尾が襲い掛かり、接近したブラッキーに脇から一撃喰らわせた。骨を切らせて肉を断つとでも言わんばかりに。重い一打。ブラッキーのやわらかな身体が空を舞った。 「剣の舞。ネイティオ、追い風を起こせ」  激しい転倒の最中、エクトルから技の指示が下される。  麻痺の残る身体を震えながら起こした頃には、飛翔を続け静閑していたネイティオが激しい風を巻き起こす。ブラッキーは目を細めた。強い風が正面から彼の動きを阻む。逆に援護されたガブリアスは自身で編んだ剣の波動を呑み込んでいた。次いで、鱗の下で筋肉が盛り上がり、地面を蹴り抜いた。  その足元から、亀裂を模した光が地面を這う。  周囲が揺れた、と思うと、突き上げるような激しい縦揺れの激動が大地を伝った。広範囲の攻撃はアラン達にも影響、とても立っていられず倒れ込んだ。  地を伝う衝撃はブラッキーを逃さない。裂いた地面に足下を呑み込まれる。 「逆鱗!」  冷めた瞳に、激しい炎が点火した。  それまで僅かな声も漏らさなかったガブリアスの、全てを声で薙ぎ倒すような鋭い咆哮が劈いた。風が、空気が震え、コンクリートの向こう側にある青々とした穏やかな草原が仰け反った。罅の入った道をガブリアスは疾駆する。蹴り上げた先から一気に加速。背後から追い風を受けたその速度はブラッキーの電光石火にすら迫る。地震で足場を崩されたブラッキーは防戦に持ち込む他無かった。またも、彼の目前で透いた壁が輝く。彼の身体に巡る獣の力を空に編んで、激情するドラゴンの頭から突進を受け止めた。二匹の間が弾けたが、凶暴化したガブリアスは隙を見せず地を蹴る。接近、右腕が振り上げられた。再度守るを発動、中心を穿たれ、空に放たれる破裂音。ガブリアスは、止まらない。三度目、反対側の爪がすぐさま繰り出される。それも、守る壁が跳ね返した。  五回分は超えている、とエクトルは静かに思う。  あのブラッキーがどれほど守るを使い続けられるかは不明だ。しかし、いずれ技を編み出す力は必ず底を突く。精密かつ強力であるほど、集中力も尋常でなく削られる。自我を失っているように見えて、ブラッキーの行動は的確だ。だが思考がぶれれば隙は必ず生まれる。電磁波による麻痺は確実にブラッキーを蝕み、ガブリアスは追い風を受けてますます加速する。剣の舞の効果は後に引くほど効くだろう。とめどなく攻撃を続けていれば必ず折れる。そうなれば後はドミノ倒しの如く落とせる。確実に。  振り落とした二対の爪を、今度は突き上げる。黒獣の腹へ入れ込む衝撃。竜の業火は跡形も無く燃やし尽くさんと肥大化していく。加熱してゆく威力そのまま、ブラッキーは遂に攻撃を許した。黒い影が、空へ放り上げられた、その過程に血が踊った。  アランは、歯を食い縛った。隣でエーフィが、彼女を見た。戸惑いの視線であった。  血の色をした双眸いっぱいに、ガブリアスの姿が容赦無く映り込んだ。鬼の形相の竜に、ブラッキーの顔が強張った。  縦に回転。  止まらぬ激昂をそのまま体現した、硬質な尾がブラッキーの身体を捉えた。  次瞬、地面に再び衝撃。一瞬で直下していったブラッキーを中心に、先程の地震で傷ついた道路が窪んで、高い噴煙が上がる。しかし、ガブリアスには煙など目眩ましにもならない。すぐに追いかけ、直下に飛ぶ翼が煙をその過程で払っていって、中心に倒れる無防備にブラッキーに向け、上空からの加速をそのまま爪に乗せるような、攻撃が突き刺さった。躊躇なく、突き刺さって、彼のしなやかな体躯を抉った。串刺しになったブラッキーが悲鳴を上げる間もなく、すぐに引き抜かれると同時に月の獣の身体が浮き、固い翼を持つ腕がすぐに追随する。横に殴った勢いでぼろきれのようにブラッキーはなすすべもなく荒れた芝生に叩き付けられた。真っ赤な飛沫をアランは見た。エーフィも見て、そしてその場にいる全てのポケモン達が圧倒されて硬直していた。つい数日前まで、育て屋で戯れていた獣が瀕死に追いやられていく過程に誰もが震え、怯えた。ただ一人、それを指示するエクトルを除いて。  とどめだと、トレーナーは声にこそしなかったが、冷酷な視線はガブリアスに制止をかけなかった。  駆け上がる逆鱗。  止まらない激情。  意識が果たして残されているかすら危ういブラッキーに、ガブリアスが肉薄した。熱い返り血を浴びて刺激されたドラゴンの目は狂気に支配されたまま。捉えるは動かない的となった獲物ただ一つ。赤い、ブラッキーの血肉に濡れた爪が振り上げられた。 「サイコキネシス!!」  静観していたエクトルが、叫んだアランを見た。  エスパー技は直接ブラッキーには通じない。彼女の指示の意図は、詳細を伝えずとも、隣のエーフィにぴったりと通じていた。指差した先、まっすぐにドラゴンを射貫く。  黒い土煙の中心で、ガブリアスが硬直した。強力なサイコキネシスがドラゴンの動きを封じている。  しかし、卓越した念力を操るエーフィでも、ガブリアスの動きを完全に止めるには強い集中力を要した。逆鱗で我を失いかけている竜を抑えるのは容易ではない。激しい抵抗を無理矢理抑え込んでいるのだろう、普段は涼やかなエーフィの表情が険しく歪む。 「……何故?」  エクトルは素直に疑問を投げかけた。  アランは、苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。 「戦闘になれば任せると言ったのは貴方でしょう。貴方は何もしなくていい」  烈火の如き戦闘を前にしてもエクトルは何も感じていないかのようだった。何も感じず、何の疑いもなく、制御すべき義務を放棄し、ただ、見ている。ブラッキーが刻まれていく様を。 「ブラッキーを、殺すつもりですか」  予感ではなく確信であろう。氷のような沈黙が両者の間に流れた。  エクトルに動揺は一切無い。冷え切った表情が、彼の抱えた意志を物語る。 「何を仰いますか。ブラッキーを弱らせる必要があるのは、貴方も解っていたでしょう」 「弱らせるなんてレベルでは、ないです」 「貴方が気にされることではありません」 「誤魔化さないでください……お願いですから」  アランは苦く懇願する。震える肌。恐怖を浮かべながら、必死の抵抗を見せていた。  暫しの沈黙を挟み、諦めたように、エクトルは長い溜息を吐いた。 「あのブラッキーは、貴方の手に負えるものじゃありません」 「……」 「理性を失い、衝動のままに周囲を破壊する……ヤミカラスはその片鱗に過ぎません。ヨノワールも運が悪ければ即死でした。あの獣を手元に戻して、制御できるとお思いですか。未熟な貴方には到底無理です」 「だから」絞り出すようにアランは抵抗した。「だから……殺すと」 「時に、その方が彼等にとっても安楽です。大きすぎる力はポケモンもトレーナーも滅ぼします。これは貴方のためでもあります。どういった経緯かは存じませんが、あの異常な力の捻出、自我の喪失、戦闘への執着……あそこまでいけば、元のようには戻れない」 「どうして、エクトルさんがそう言い切れるんですか」  問いながらも、すぐに言葉を変えた。 「いえ……エクトルさんも、知っているんですね」  何を、とは言わなかった。  エクトルは幾度も重ねた思考をまた浮かべた。果たして、こんな子供だっただろうか。こんなにも疑い、真実を見抜こうとする目をしていただろうか。このキリの町に戻ってきて、彼女は変化し続けている。それとも、元々そういう人間だったのか。 「貴方も、見たことがあると?」  エクトルは、努めて冷静に返す。  彼女が内包している、純粋な怒りが眩しい。  きっと嘗ては自分もこんな怒りを心に秘めていた。ポケモンに自ら手を下すなど、考えもしなかった。いや、下しているのは正しく言えばガブリアス達だった。望郷の地に残してきた者達は知らぬ間にみな死んだ。この手は直接命の重さを知らない。 「あります。よく似た、ザングースを」  アランは僅かに震えた声で応えた。  エクトルは沈黙し、この奇怪な引き合わせを呪いのように思った。二人が抱く、決して交わらないはずの記憶が、遠からぬ場所でよく似た色を帯びる。 「ブラッキーは」深い洞を抱えた黒い瞳は、栗色の中に燃える魂を見た。「数多死んでいったネイティオと酷似しています」 「ネイティオ……」 「噺人の不在を埋めるために、代わりとなるネイティ��は能力を極限まで引き上げる必要がありました。その過程、耐えられない個体は数知れなかった。ブラッキーはそれによく似ている。いずれ己の力に潰され自滅します」  アランは刹那、絶句する。 「……でも、だからって、ブラッキーを殺していいとは繋がりません」 「そうですね。貴方は正しい」  エクトルはすんなりと静かに頷く。 「しかし、貴方の正しさが、他にとっての正しさでもあるとは限りません。貴方の甘さはブラッキーに余計な苦しみを与えます」諭すように言う。「それでいいのですか?」  エクトルの脳裏に、自我を持たぬうちに死んでゆくネイティの姿が浮かんでは消え、自らの力に溺れ脳が停止したネイティオ達の姿が浮かんでは消えた。黙って見つめている自分がいた。  アランは首を横に振る。 「死が救いなんて、そんな悲しいこと、あるべきじゃないです」  耐え抜くように両の拳を握った。掌で爪が深く食い込み、その痛みを支えにして、顔を上げる。 「もう誰も失いたくないんです。私は、確かに甘くて、未熟です……だからこうなってしまったけど、だったら! 強くなります。トレーナーとして強くなって、ブラッキーを救う方法を探します! だから……もっと、こんなことじゃなくて、もっと違う方法があるはずです……!」 「甘いです」  断言し、聞く耳を持たないエクトルはガブリアスとブラッキーを見やった。  良くも悪くも、未来を信じている者の言葉。まだ、未来がずっと先まで続いていくと信じている子供の言葉。眩くて、空疎で、無力で、自らに未来を突き動かす力があると過信する傲慢を抱いている。  恨まれるだろう。そんなことは今更だ。既に失うものなど何も無い。 「ガブリアス、躊躇うな!」  エクトルが叫ぶと、ガブリアスの鋭い咆哮が拮抗を叩き割った。  周囲にいる誰もがドラゴンを凝視した。遂にサイコキネシスによる束縛を無理矢理解いた。根負けしたエーフィが、アランの隣で足を折り、か細い声で鳴いた。まるで、ブラッキーを切実に呼ぶように。  アランは、本来であれば切ることのないカードに手を出した。アランに、エーフィに呼応するように揺れていたモンスターボールを乱暴に掴み、願うように、祈るように、戦場に向け投擲した。太陽の下、翅を失ったアメモースが躍り出た。アランは叫んだ。アメモースも叫んだ。戸惑わず、躊躇わず、嘗てフラネの町でがむしゃらに放った銀色の風を、やはりがむしゃらに三枚の翅で巻き起こした。明確な意志をもって、抗うために。乱れた風はアメモース自身が空でバランスを失い地に落ちるまで続いた。だが、所詮、不完全な技はガブリアスを止めるには遠く及ばない。悪あがきにガブリアスはびくともしなかった。アメモースは自身の無力を呪っただろう。それでもまた立ち上がろうとして、しかし覚束ない動きしかできなかった。  逆鱗で直情的になったガブリアスは、怒りを、エーフィでもアメモースでもなく、すぐ傍で倒れ込んで動かないブラッキーに向けた。既に月の獣は虫の息だった。広がる血溜りの温もりと太陽の温もりの混ざった場所で、細くなった赤い瞳は振り下ろされようとする鋭い爪の軌道をぼんやりと見つめていた。  止められない。  アランが悲鳴をあげようとした瞬間、上空から、鋭くも幼い叫び声が跳び込んできた。  ガブリアスめがけて、ヒノヤコマが一気に下降する。その背に乗るフカマルが、叫び声をあげながら、ふと声に引き寄せられたように目線を動かしたガブリアスに向け、跳び込んだ。  小さなドラゴンの渾身の頭突きが、ガブリアスの頭にクリーンヒットし、頭蓋が激突した���にへこんだと錯覚するような、鈍い音がした。  小柄な体躯にその衝撃は足先まで響いただろう。ぶつかりにいった小さい獣は目を回し頭を抱えたが、ふらついた足取りで立ち上がった。ガブリアスの方といえば、幼稚な頭突き程度で倒れるほど柔ではない。鋭い視線がフカマルに推移した。  睨み付けられたフカマルは、一瞬硬直したが、めげずに今一度体当たりを仕掛ける。同時に、ヒノヤコマが遅れて、翼をガブリアスに鋭く見舞う。  ガブリアスと比較してしまえば取るに足らない、鍛えられてもいない野生ポケモン達が、一斉にガブリアスに向けて攻撃を始めた。上空に残るピジョン達が殆ど同時に翼を激しく羽ばたかせ、大きな風を起こした。  その風はガブリアス周辺に留まらず、後方に下がっているアラン達も激しく揺らす。  しかし、激しい砂嵐の中でも自由自在に動き回るというガブリアスは、すぐにその激しい風起こしに順応する。苛立ちが勝ったのか、上空に視線が動いた。ブラッキーをいとも簡単にねじ伏せたドラゴンの強さを目の当たりにし恐怖に竦んでいたポケモン達だが、怯まない。ガブリアスが跳躍しようとしたところを、すかさずフカマルがその左脚に必死にしがみついた。少しでも縫い留めようと。凶暴な金の瞳がフカマルを射貫き、左の翼が太陽を反射して鋭く鱗が光る。 「止まれ!!」  暴風を突き抜ける、遂にかけられた制止の指示に、ガブリアスの動きが止まった。  爪がフカマルに、あとほんの少しで突き刺さるという、その寸前。すぐ傍まで迫った脅威にフカマルは腰を抜かし、座りこんだ。  アランは咄嗟にエクトルを見た。男の顔に、狼狽が窺えた。  ガブリアスを止めて再び生じた沈黙。ブラッキーが力を振り絞るように起き上がると、すぐに硬直したガブリアスのみぞおちめがけて体当たりを仕掛けた。意識は既に朦朧としているだろう。爪の立てられた場所から絶えない流血を抱いたまま放った一撃。僅かに揺らいだドラゴンの足下。その隙を縫って、ブラッキーは逃げようとした。不安定な走りで、方向感覚も失われながら、アランやエーフィからは離れるように、つまりは湖面へ。  ゆるやかな坂を駆け上がるその瞬間は、電光石火でそのまま止まれないかのように一気に上がる。鮮血が芝生に落ちて道筋を作る。  誰もが、ブラッキーの行動に目を奪われた。  高くなった柵の向こうに、黒い身体が消えて、激しい水飛沫の音が代わりに響いた。  声をあげる間も無く、彼等は走った。すぐに柵までやってくると、穏やかな湖に小さな飛沫が上がっている。赤い染みが穏やかな青に混ざり、抵抗もできずにブラッキーは必死に空気を吸い込まんと頭だけは出そうと藻掻いているが、瞬く間にその気力も失われていく。  溺れる。そう思ったエクトルの傍。  鞄をかなぐり捨てて、躊躇無く柵を跳び越えた、アランの姿が、はっきりと、エクトルの視界に焼き付いた。  栗色の瞳はただ一点、ブラッキーだけを見ていた。手を柵にかけて軽やかに越えると、脚からそのまま湖面へと吸い込まれていく。  二度目の激しい飛沫が高く突き上がる。 「な」  驚愕するエクトルを余所に、青に沈んだアランはすぐに浮上し、藻掻くブラッキーに向かって、みるみるうちに重くなっていく身体を引き摺るように泳いでいった。 「ブラッキー!」  獣に向けて手を伸ばす。ブラッキーの前脚に彼女の腕が掴まると、一気に引き寄せる。再び触れることは待望であった。その黒獣の身体は水に溶けながらも厭な臭いを放ち、微かな滑りけを含んでいた。傷から溢れる血液も、体外に放出された毒も止まらない。 「大丈夫――大丈夫!」  打ち付けるような水が口内に入ってきながらも、アランはブラッキーに呼びかける。しかし、ブラッキーは劈く叫び声をあげた。 「大丈夫! ブラッキー、落ち着いて!」  猛る黒獣をアランは強く抱き寄せた。その身体に、隠された爪が立ち、彼女の耳元でブラッキーは奇声をあげた。掴まりながらも、息も絶え絶えであったはずの身体のどこにその力が眠っているというのか。これではモンスターボールに戻したとて繰り返すだけだ。必死に宥めるアランを突き放そうとするように暴れ回る。激しい飛沫が一心不乱に暴れ回る。 「ブラッキー!!」  抑え込み自我を蘇らせようともう一度叫んだ、その瞬間、肩越しにブラッキーの口が大きく開き並ぶ牙が外に露わとなった。彼の視界が、アランの首元を捉えていた。その瞬間を、アランもほんの目と鼻の先で直視した。  エーフィの悲鳴が湖畔を劈いた。 < index >
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ihc52 · 5 years
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アニメ備忘録
最終更新2020/5/26
※あとは個別で書く
2018年12月くらいにのんのんびより を見てからほぼ毎日何かしらのアニメをみてるので現段階で見たアニメとその感想の記録
下記はこれまでの実績
#全部見た
ガヴリールドロップアウト⭐︎
ご注文はうさぎですか(一期二期)
この素晴らしい世界に祝福を(一期二期)
日常⭐︎
のんのんびより (一期二期)⭐︎
Shirobako ⭐︎
NEW GAME(一期だけ)⭐︎
からかい上手の高木さん(一期二期)⭐︎
まちカドまぞく⭐︎
宇宙よりも遠い場所
プラスティックメモリーズ
ケムリクサ⭐︎
けものフレンズ(一期二期)⭐︎
ゆるキャン⭐︎
小林さんちのメイドラゴン
ヴァイオレットエヴァーガーデン
らきすた
プリンセスプリンシパル
魔法少女まどかマギカ⭐︎
東のエデン
ダーリンインザフランキス
灼熱の卓球娘
キルミーベイベー
シュタインズゲート
ディーふらぐ
宝石の国
亜人ちゃんは語りたい
結城友奈は勇者である
みなみけ
涼宮ハルヒの憂鬱
鬼滅の刃
メイドインアビス
コードギアス 反逆のルルーシュ
ゆゆ式一期
僕だけがいない街
ドロヘドロ
ゴールデンカムイ(一期二期)
みつどもえ
灰羽連盟
ハクメイとミコチ⭐︎
邪神ちゃんドロップキック
カウボーイビバップ
がっこうぐらし
刻刻
マギアレコード
ひだまりスケッチ
クラナド
だがしかし
#途中でやめた
きんいろモザイク
やがて君になる
ゆるゆり
エロマンガ先生
こみっくがーるず
少女終末旅行
私に天使が舞い降りた
干物妹うまるちゃん
NEW GAME二期
女子高生の無駄遣��
リトルウィッチアカデミア
最終兵器彼女
スケッチブック
苺ましまろ
氷菓
※⭐︎は二周以上みたもの
以下、感想等
ガヴリールドロップアウト
→天使と悪魔が人間界で生きる話。キャラがかわいい、笑いどころ丁度いい。ヘイト溜めがあまりない。二期早くやってほしい。一番好きなキャラはサターニャ。
ご注文はうさぎですか(一期二期)
→街の喫茶店で働く子たちの話。キャラがかわいい、笑いどころ丁度いい。ほろっとするシーンもありながら全体的なほんわかした温かさが良い。一番好きなキャラはシャロちゃん。
この素晴らしい世界に祝福を(一期二期)
→転生した主人公が冒険?する話。ストーリーの構成がとても良い。RPGあるあるを用いながらオリジナリティのある物語に昇華させてる。演出も素晴らしい。一番好きなキャラはめぐみん。次点、アクア。
日常
→ギャグマンガ日和をマイルドにしたようなシュールさ。原作後半のキレのある回もアニメ化して欲しい。一番好きなキャラは東雲なの。次点、長野原みお、桜井泉。
のんのんびより (一期二期)
→田舎の日常。キャラがかわいい。無心で見続けられる。こういうアニメだけを見て生きていきたい。一番好きなキャラは宮内ひかげ。次点、越谷小鞠。
Shirobako
→働く系アニメ。ヘイト溜めキャラが多いけどちゃんと回収してくれる。 仕事観を見つめ直させてくれる。一番好きなキャラは総務の興津由佳。
NEW GAME(一期だけ)
→働く系アニメ。自分より歳下の女の子が希望を持って働く姿に内省的にさせられ泣く。一番好きなキャラは涼風青葉。
からかい上手の高木さん(一期二期)
→こんな高校生活を送りたかった。西片になりたい。二期後半が特に好き。もっと言うと10話あたりからボルテージがとんでもなくアガる。一番好きなキャラは高木さん。次点、ミナ。
まちカドまぞく
→ある日突然悪魔となった子の奮闘記。全体的にテンポがいい。伏線も回収しながら最後は泣かせにくるところが最高。一番好きなキャラはシャミ子。次点、ちよもも。
宇宙よりも遠い場所
→女子高生4人がそれぞれの思いをもって南極に行く。主要キャラ4人の思いの強さに泣く。一番好きなキャラは三宅日向か小淵沢報瀬、特に誰が好きはない。
プラスティックメモリーズ
→アンドロイド版おくりびと。面白いけど、最終恋愛ものに収束してるのが微妙。一番好きなキャラはアイラ(あまり他のキャラを覚えてない)。
ケムリクサ
→舞台が曖昧な終末系な話。ストーリー構成がめちゃくちゃ良い。少しだけ謎を残しながら終わるの最高。一番好きなキャラはリン。
けものフレンズ(一期二期)
→擬人化動物の話。二期はネタでしか見てないけど、一期はirodori のストーリーが最高。最終話にかけての怒涛の展開が良い。一番好きなキャラはかばんちゃん。次点、サーバル。
ゆるキャン
→女子高生がキャンプする。キャンプの参考になるし、キャンプを通じて体験する感動とかを追体験できる。あとキャラがかわいい。一番好きなキャラはしまりん。
小林さんちのメイドラゴン
→擬人化ドラゴンがメイドになる。泣きあり笑いあり、男キャラも丁度よく出る。一番好きなキャラはエルマ。
ヴァイオレットエヴァーガーデン
→感情の無い軍人少女が代筆屋になる。毎話泣く。基本一話完結で進みながらヴァイオレットが感情を得ていく様がヤバすぎる。一番好きなキャラはヴァイオレット
らきすた
→日常系。ゼロ年代のオタクを煮詰めて出来たものでもはや化石。好きなキャラは柊かがみ。意外とキャラが多い。
プリンセスプリンシパル
→スパイ女子高生の話。意外な展開が多い気がする。ラストは本当に最高で映画が楽しみ。好きなキャラはアンジェかちせ
魔法少女まどかマギカ
→魔法少女のアニメ。グロはほぼないけど残酷な描写や表現が多い。割と精神にくるがストーリーは先が気になるもの。セカイ系に近く、伏線回収よりかはデウスエクスマキナ的なものがあるけど展開は良い。好きなキャラは巴マミ。
東のエデン
→100億円で日本を変えるという設定。最初はおもしれーとなったけど結局最後よくわからんかったし謎残されすぎてうーむという感じ。と思ってたけど映画二部が続きらしく見たところ、きちんとセレソンゲームが終わるところまで描かれててた。ちょっとセカイ系な感じもあったけど、映画版含めてセレソンの目的とか伏線回収されててよかった。カタルシス的なのはあんまなかったけど。ドラマCDとか公式設定で補完されてるとこが多いらしい。好きなキャラは特に無いが板津が生きててよかった。
ダーリンインザフランキス
→設定の説明が難しい。性的なロボットもの。マジでいいので見るべき。そこに人生がある。好きなキャラはゼロツー。
灼熱の卓球娘
→卓球部スポ根萌えアニメ。opが田中秀和で最高。ストーリーもキャラ立ってて良い。けど練習試合まででキャラが濃すぎた感。続いて欲しかったけど続けるのかなり厳しそう。好きなキャラはほくと。
キルミーベイベー
→殺し屋と元気キャラのメインのドタバタギャグアニメ。脳が死んでても面白い。好きなキャラは織部。
シュタインズゲート
→時間移動系SFアニメ。すべてが綺麗に回収されていく。ストーリーの浮き沈みもキャラクターも全てが完璧。好きなキャラは助手。
ディーふらぐ
→ゲーム製作部に入った不良から始まるギャグアニメ。感動シーンもあって良い。テンションはこのすばに近い。好きなキャラは柴崎芦花、高尾部長。
宝石の国
→実在の宝石が擬人化されたキャラクターのアニメ。映像と描写がとにかく美しい。人体がバラバラになるシーンがあるのでややセンシティブな感。ストーリーが中途半端で終わったのが残念。好きなキャラはフォス。シンシャは結局なんだったのか。
亜人ちゃんは語りたい
→特異体質の女の子とそれを研究する教師の学園もの。現実でもデリケートに扱われそうな問題をコミカルで戯画的な表し方をしているのが見事だしかつ実際に特異な問題を抱える人の手向にもなると感じるストーリーとキャラクターの作り方は素晴らしい。好きなキャラは小鳥遊ひかり。
結城友奈は勇者である
→普通の中学生の女の子達が勇者になって世界の敵バーテックスと戦う話。鬱アニメでよく取り上げられるから身構えたけどそこまで鬱ではない。気になる伏線が多かったので二期に期待。まどマギのパクリ感は否めないけどまどマギより救いはある。好きなキャラは結城友奈、かりんちゃん。
みなみけ
→三姉妹とその友達のギャグアニメ。一期は温度感ちょうどいいしテンポもいい。キャラクターも無駄がなく個性的なのが良い。二期以降は見てない。好きなキャラは南千秋、藤岡(ぬいぐるみ)
涼宮ハルヒの憂鬱
→普通の日常にうんざりする女子高生が知らぬ間に自分の理想通りに世界を作り替えている話。名前しか知らなかっただけにこんなにストーリーが面白いと思っていなかった。ハルヒが胸糞キャラなところ意外は満足度高い。エンドレスエイトは見る前からどういうものか知ってたからリアタイで見てたらどうだったんだろう。好きなキャラは長門。
鬼滅の刃
→鬼にされた妹を人間に戻すために旅する物語。日本一悲しい鬼退治。テンポがよくて話も面白い。グロが結構多かったけどそんなに気にならない。一番良かったのはキャラクター全員個性立っててすごく魅力的。ワンピース的なものを感じた。ジャンプ的なノリがちょっとダルい。好きなキャラは胡蝶しのぶ。映画楽しみ。
メイドインアビス
→大穴に宝探しにいく話。アドベンチャーものなのにロリショタケモナー鬱リョナの要素詰め込みまくり。ストーリー進み方とか美術の美しさ、キャラクターの精度とか全てが完璧で瑞々しい。漫画から読み始めたから映画と二期がどうアニメになるのか楽しみでしょうがない。好きなキャラはアニメでまだでてないヴエロエルコ。アニメキャラならナナチか。人ではないけどメイニャも好き。
コードギアス 反逆のルルーシュ
→植民地化された日本を匿名テロリストとなって救うために奔走する話。ラストかなり衝撃だった、というかそこまでいくのにめっちゃ長い。50話くらいあるし登場人物も微妙に多いしわりと疲れたけどどんでん返し的な展開とか伏線を絶妙に回収しているのがとてもよかった。好きなキャラはC2。ロイド博士もあの感じのキャラクター好き。
ゆゆ式
→女子高生の日常。ちょい百合的なとこもあって最高。ギャグセンスが不思議ちゃん系なとこも最高。俺も情報処理部入りたい。好きなキャラは櫟井唯。
僕だけがいない街
→時間移動できる主人公が母親の殺される未来を変える話。演出がとてもよい。ストーリーも綿密に練られていて面白かったけどラストこうなるのか感はあった。アニメ版と漫画版で違うらしく漫画もおいおいチェックしたい。好きなキャラは雛月佳代。でも主人公とは結ばれないんだよな。
ドロヘドロ
→ワニ男カイマンが自分の元の姿を見つけるため、自分をこの姿にした魔法使いを探す話。かなり独特な世界観とグロテスクな割にコミカルに進む展開が面白かった。話の流れも良いし戦闘シーンも迫力あった、血がめっちゃ出るし内臓飛び出るけど。キャラクターも一人一人立ってるし、善人と悪人の区別が見る側から定義できない、両方からの目線で見れるとこもいい。ただアニメ版は尺が短いからかなり尻切れとんぼで終わってしまうから原作を早く読みたい。カイマンとニカイドウの関係性がめちゃくちゃいいし、炎さん一派も魅力的。
ゴールデンカムイ
→隠された金塊を探すために日露戦争の生き残り軍人とアイヌの少女が旅をする話。設定的なのは前情報で知ってたけど、ちょっと時代劇的要素もありつつ戦闘シーン日常シーンありでテンポが良い。アニメの演出はちょっとのっぺりしてるかも。それにしてもアイヌ文化とか野生動物とか野草の知識とか、かなり入念に取材しているのすごい。ちょっとググっても情報が出てこない。その上でこのストーリー展開を思いつくのすごいな。一期はあまり話が進まなかったので二期どこまで続くか。追記:二期はいいところまで進んだ気がするけど展開的に三期を待てという感じ、網走編面白かったなあ。原作も気になる。アシリパさんが可愛い。
みつどもえ
→三つ子姉妹が主人公のバイオレンス日常系。アンジャッシュのコントみたいなすれ違いギャグが多くて面白い。清々しいくらいエロと下ネタが出てくるのも良い。ほろっとするエピソードを持ってくるタイミングも完璧。好きなキャラは名前忘れたけど髪を下ろすと認知されなくなる子、なんだっけ。
灰羽連盟
→灰羽といわれる子たちの話。かなりレトリックというか文学的なストーリー。灰羽のことも舞台になる壁に囲まれた街も、確信的なことには触れられずに話が進む。かといってそれらは話の中で正体を暴かれるべきものではなく、灰羽のラッカとレキ達の生まれた意味を考えるための環境でしかない。お話に出てくるものはメタファーであってそれ自体に明確な意味はなく、見る人に解釈を委ねる感じ。そこ含めかなりクセのある話だけどアニメ自体はセピア基調の美術と温かみのある演出でとても見やすい。二度目に見たときはもう少し解釈の幅が生まれそう。逆にいうと一度見ただけだと本質にはたどり着けない感じ。
ハクメイとミコチ
→結論から言うと、これは自分が今まで見たアニメの中で一番良い。タイトル通りハクメイとミコチという二人の少女が主人公。2人の体長は約9センチの小人で木のうろに家を構えている。ちょっとメルヘンな世界観の日常系。基本的に2人の日常に起こる些細な出来事を一話完結形式で進んでいく。なぜか自分の生きる世界と全く違うのに、物語の温かみは自分の気持ちに近しい温度の感覚が��る。日常のなかの小さな輝きを丁寧に摘み取ってこのメルヘンな小さいお話に詰め込まれているような、自分にもこの子達のような幸せを感じる瞬間ってあるよなって共感できる良さがある。小さい幸せの愛おしさに溢れている。
邪神ちゃんドロップキック
→偶然召喚された邪神ちゃんが召喚した主人公ゆりねを殺そうと画策する話。ぶっ飛び目のギャグが多い。登場キャラは少ないけど、個性的だし、何よりテーマが単純なので話の展開がいろいろあって面白い。ただミノスはちょっと空気では感がある。一番好きなのは天使のぺこらでいい感じな不遇さがなんかかわいい。あとゆりねがかなり容赦なく邪神ちゃんを殺すの、なんか新しいなと思った。血もいっぱい出る。メタ的発言が多い感がある。
カウボーイビバップ
→2070年、宇宙航海が当たり前の時代に、賞金稼ぎとして宇宙をまたにかけるカウボーイ達の話。想像してたのよりめちゃくちゃ面白かった。あと意外と主要人物がかなり少ないし準レギュみたいなポジの人もいない、それでほぼほぼ1話完結なので内容がすっと入ってきて見やすい。1話完結なのにちゃんと伏線蒔きから刈り取りまで恐ろしくクールにやっててすごい、それでいて登場人物の過去が徐々に明かされていってひとつずつのエピソードのクオリティも高い上に、物語全体の流れも美しい。あとはアクションシーンの躍動感とかハードボイルドなセリフ、声優さんのチョイスとかこのアニメにビッタリハマりまくっている。2クールあってちょっと長いけど全然見れる。ラストははかないけど。キャラみんなすきだが、フェイがエロかっこよくて好きすぎる。
がっこうぐらし
→ゾンビパニック×日常系みたいな感じ。日常系の皮をかぶったバイオハザード。このキャラデの感じでストーリーは結構理不尽なので結構くるものがある。でもストーリーは伏線蒔きでハラハラと期待させるし、矛盾のない回収展開だから単純に話として面白い。キャラもかわいいしなにより主人公のゆきの日常系にありがちな元気元気キャラがこういうサバイバルものをちょっと同類作品とは違うものにしているところがあると思う。大枠は同じだけど原作とは結構展開とか演出が違っていて、個人的にはアニメの方がマイルド。好きなキャラはめぐねえ、、、。
刻刻
→ダークファンタジー的な?甥が誘拐されたのをきっかけに家族の秘密(世界の時間を止める能力)が明かされてその秘密を狙う集団と戦っていく話。止まった時間の世界のなかの掟とか、その世界の管理人とかいろんな設定が出てくる割にラストはなんかすごくあっさり終わってて、まあ全体的な雰囲気はいいんだけどその割に話のテーマがよくわからなかった。たぶん家族ってところ重点なんだろうけどラストも一話の謎の女が全部解決してたし、家族を重点にするわりには他の要素が支離滅裂な気がする。雰囲気とか設定はいいんだけど。あとゴールデンカムイと同じ制作会社だからかのっぺり感があった。
マギアレコード
→まどマギ外伝。とはいいつつまどマギの設定をかぶった別物に感じる。というかまどマギ自体がまどかが完全に中心になって戦ったり対立することは重要でもない話だったと思うけどマギレコはかなり魔女とも戦うし考え方の違う魔法少女と戦ったりする。割とこの時点でだいぶまどマギのイメージと違うというか。あとキャラの性格が悪かったり、登場人物が多いせいか一回出てほったらかしにされたり急に知らん奴が出てきたりそのへんもまどマギの中心人物四人に比べるとノイズに感じる(まあソシャゲ?からのアニメ化だから仕方ないかもしれない)。二期ありきの終わり方だったのでまあ見るかなあ。二期で巻き返されるかもしれない。
ひだまりスケッチ
→記録するのを忘れて見終わってから三ヶ月くらい経ってから書いている。内容は同じアパートに暮らす女子高生の日常もの。大きな事件とか大袈裟なギャグシーンとかなくてただただ優しい。時系列の割り方が面白くて、伏線回収とかそういう感じではないけど。回想シーンとかでなく一年間の出来事を意図的に季節や時期をバラバラで出していて、ある話の展開の裏話的な感覚で他の話をみせてくる演出は、あんまり少ないのでは。ゆのっちは初恋の相手。中学のころたまたま深夜にテレビをつけたらひだまりスケッチで衝撃を受けた(当時はアニメ自体にはあまり興味なかったので見てはなかった)。
クラナド
→これも記録を忘れて見てから一月後くらいに書いている。もとは恋愛シミュレーションゲームらしく、主人公岡崎の周りの女の子となんかいろいろな話。登場する女の子ごとに話のタームがざっくり分かれていて、どの話も作り込まれていてはかないけど綺麗な話で感動する。個人的にはことみの話が一番すきでめちゃくちゃ泣いた。野暮ながら最初の展開的に岡崎となぎさがくっつくのはもう火を見るより明らかンだけど、そんなのをわかってても最後の文化祭の回は最高に泣ける。クラナドは人生。続きがあるらしくまだ見てない、ここからどう広げるんだろう、、、
だがしかし
→これは見てから一年くらい経ってるのであんまり覚えてない。潰れかけの駄菓子屋の主人公が製菓会社令嬢といろいろ駄菓子屋食べる話。あんまり細かく覚えてないけど、一話完結でそれぞれの話も季節感あるし駄菓子に関する情報というか知見も増えるので面白かった。個人的に、このキャラデザの三白眼の感じが好き。二期の最後、一回蛍がどっかいってしまう回あって最後どうなったのか忘れたのでまた見たい。
以下は途中で断念したもの
きんいろモザイク
→なにも起こらなすぎてよくわからなかった。
やがて君になる
→百合でこうカチカチになると難しい。
ゆるゆり
→見ようと思えば見れるけど別にいいかなという感じ
エロマンガ先生
→主人公の兄が好きくなかった
こみっくがーるず
→冒頭しか見てない
少女終末旅行
→辛くなりそうな感じがした
私に天使が舞い降りた
→百合とロリでカロリー過多
干物妹うまるちゃん
→あまり気分でない
NEW GAME二期
→ねねっちが自作ゲームを作るところまでは最高によかったけど、途中から出てくるインターン生がウザくてやめた
女子高生の無駄遣い
→全体的に温度が低すぎて面白いと思えなかった。好きな人は好きそう。
リトルウィッチアカデミア
→1話の演出とかとてもよかったけど、なんとなく他のみたいのを優先する程度には好きでない。
最終兵器彼女
→作画崩壊してたのでやめた
スケッチブック
→全然覚えてない
苺ましまろ
→日常系でも度をすぎた悪ふざけは視聴者の気分を害する
氷菓
→ストーリーは面白いんだろうけど主人公がキモすぎる
以上。
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groyanderson · 5 years
Text
ひとみに映る影 第六話「覚醒、ワヤン不動」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←←
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
 人はお経や真言を想像するとき、大抵『ウンタラカンタラ~』とか『ムニャムニャナムナム~』といった擬音を使う。 確かに具体的な言葉まで知らなければ、そういう風に聴こえるだろう。 ましてそういうのって、あまりハキハキと喋る物でもないし。 特に私達影法師使いが用いる特殊な真言を聞き取るのはすごく難解で、しかも屋内じゃないとまず喋ってる事自体気付かれない場合が多い。 なぜなら、口の中を影で満たしたまま言う方が法力がこもる、とかいうジンクスがあり、腹話術みたいに口を閉じたまま真言を唱えるからだ。 たとえ静かな山間の廃工場であっても、よほど敬虔な仏教徒ではない人には、『ムニャムニャ』どころか、こう聴こえるかもしれない。
 「…むんむぐうむんむうむむむんむんうむむーむーむうむ…」  「ヒトミちゃん?ど、どしたの!?」 正解は、ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ。 今朝イナちゃんは気付いてすらいなかったけど、実はこの旅でこれを唱えたのは二回目だ。
 廃工場二階部踊り場に催眠結界を張った人物に、私は心当たりがあった。 そのお方は磐梯熱海温泉、いや、ここ石筵霊山を含めた熱海町全域で一番尊ばれている守護神。 そのお方…不動明王の従者にして影法師を束ねる女神、萩姫様は、真っ暗なこの場所にある僅かな光源を全て自らの背後に引き寄せ、力強い後光を放ちながら再臨した。
 「オモナ!」  「萩姫…!」 驚きの声を上げたのは、テレパシーやダウジングを持たないイナちゃんとジャックさんだ。  「ひーちゃん…ううん。紅一美、よくぞここまで辿り着きました。 何ゆえ私だと気付いたのですか」 萩姫様の背後で結界札が威圧的に輝く。 今朝は「別に真言で呼ばなくてもいい」なんて気さくに仰っていたけど、今はシリアスだ。  「あなたが私達をここまで導かれたからです、萩姫様。 最初、源泉神社に行った時、そこに倶利伽羅龍王はいませんでした。代わりにリナがいました。 後で観音寺の真実や龍王について知った時、話が上手くいきすぎてるなって感じました。 あなたは全部知っていて、私達がここに来るよう仕向けたんですよね?」 私も真剣な面持ちで答えた。相手は影法師使いの自分にとって重要な神様だ。緊張で手が汗ばむ。  「その通りです。あなた方を金剛の者から守るためには、リナと邂逅させる必要があった。 ですが表立って金剛の者に逆らえない私は、敢えてあなた方を源泉神社へ向かわせました。 金剛観世音菩薩の従者リナは、金剛倶利伽羅龍王に霊力の殆どを奪われた源泉神社を復興するため、定期的に神社に通ってくれていましたから」 そうだったんだ。暗闇の中��、リナが一礼するのを感じた。
 萩姫様はスポットライトを当てるように、イナちゃんにご自身の光を分け与えられた。  「金剛に選ばれし隣国の巫女よ」  「え…私ですか?」 残り全ての光と影は未だ萩姫様のもとにあって、私達は漆黒に包まれている。  「今朝、あなたが私に人形を見せてくれた時、私はあなたの両手に刻まれた肋楔緋龍の呪いに気がつきました。 そして勝手ながら、あなたの因果を少し覗かせて頂きました」 萩姫様は影姿を変形させ、影絵になってイナちゃんの過去を表現する。 赤ちゃんが燃える龍や肉襦袢を着た煤煙に呪いをかけられる絵。 衰弱した未就学の女の子にたかる大量の悪霊を、チマチョゴリを着た立派な巫女が踊りながら懸命に祓う絵。 小学生ぐらいの少女が気功道場で過酷なトレーニングを受ける絵…。  「はっきり言います。もしあなた方がここに辿り着けなかったら、その呪いは永遠にとけなかったでしょう。 あなただけではありません。このままでは一美、熱海町、やがては福島県全域が金剛の手に落ちる事も起こりうる」 福島県全域…途方もない話だ。やっぱりハイセポスさんが言っていた事は本当だったのか?
 「萩姫様。あなたが護る二階に、いるのですね。水家曽良が」 決断的に譲司さんが前に出た。イナちゃんを照らしていた淡い光が、闇に塗りつぶされていた彼の体に移動した。  「そうとも言えますが、違うとも言えます、NICの青年よ。 かの殺人鬼は辛うじて生命力を保っていますが、肉体は腐り崩れ、邪悪な腫瘍に五臓六腑を冒され、もはや人間の原形を留めていません。 あれは既に、悪鬼悪霊が蠢く世界そのものとなっています」 萩姫様がまた姿を変えられる。蛙がボコボコに膨れ上がったような歪な塊の上で、燃える龍が舌なめずりする影絵に。 そして再び萩姫様の御姿に復帰する。  「若者よ。ここで引き返すならば、私は引き止めません。 私ども影法師の長、神影(ワヤン)らが魂を燃やし、龍王や悪霊世界を葬り去るまでのこと。 ですが我らの消滅後、金剛の者共がこの地を蹂躙する可能性も否定できません。 或いは、若者よ。あなた方が大量の悪霊が世に放たれる危険を承知でこの扉を開き、金剛の陰謀にこれ以上足を踏み入れるというのならば…」
 萩姫様がそう口にされた瞬間、突如超自然的な光が彼女から発せられた。 カッ!…閃光弾が爆ぜたように、一瞬強烈に発光したのち、踊り場全体が昼間のように明るくなる。  「…まずはこの私を倒してみなさい!」 視界がクリアになった皆が同時に見たのは、武器を持つ幾つもの影の腕を千手観音のように生やした、いかにも戦闘モードの萩姫様だった。
◆◆◆
 二階へ続く扉を堅固に護る萩姫様と、私達は睨み合う。 戦うといっても、狭い踊り場でやり合えるのはせいぜい一人が限界。 張り詰めた空気の中、この決闘相手に名乗り出たのは…イナちゃんだ!  「私が行きます」  「馬鹿、無茶だ!」 制止するジャックさんを振り切って、イナちゃんは皆に踊り場から立ち退くよう促した。
 「わかてる。私は一番足手まといだヨ。だから私が行くの。 ドアの向こうはきっと、とても恐い所になてるから、みんな温存して下さい」 自虐的な言葉とは裏腹に、彼女の表情は今朝とは打って変わって勇敢だ。 萩姫様も身構える。  「賢明な判断です、金剛の巫女よ」「ミコじゃない!」 イナちゃんが叫んだ。  「…私はあなたの境遇に同情はしますが、容赦はしません。 あなたの成長を、見せてみなさい!」
 イナちゃんは目を閉じ、呪われた両手を握る。  「私は…」 ズズッ!その時萩姫様から一本の影腕が放たれ、屈強な人影に変形!  <危ない!>迫る人影!  「…イナだヨ!」 するうちイナちゃんの両指の周りに細い光が回りだし、綿飴めいて小さな雲に成長した! イナちゃんはばっと両手を広げ、雲を放出すると…「スリスリマスリ!」 ぽぽんっ!…なんと、漆黒だった人影がパステルピンクに彩られ、一瞬でテディベア型の無害な魂に変化した!  「何!?」 萩姫様が狼狽える。
 「今のは…理気置換術(りきちかんじゅつ)!」  「知っているのかジョージ!?」  ジャックさんにせっつかれ、譲司さんが説明を始める。  「儒教に伝わる秘伝気功。 本来の理(ことわり)から外れた霊魂の気を正し、あるべき姿に清める霊能力や」 そうか、これこそイナちゃんが持つ本来の霊能力。 彼女が安徳森さんに祈りを捧げた時、空気が澄んだような感じがしたのは、腐敗していた安徳森さんの理が清められたからだったんだ!
淡いパステルレインボーに光る雲を身に纏い、イナちゃんは太極拳のようにゆっくりと中腰のポーズを取った。  「ヒトミちゃんがこの旅で教えてくれた。 悲しい世界、嬉しい世界。決めるのは、それを見る私達。 ヒトミちゃんは悲しいミイラをオショ様に直した。 だから私も…悲しいをぜんぶカワイイに変えてやる!」
 「面白い」 ズズッ!再び萩姫様から影腕が発射され、屈強な影絵兵に変わった。 その手には危険なスペツナズナイフが握られている!  「ならば自らの運命をも清めてみよ!」 影絵兵がナイフを射出!イナちゃんは物怖じせずその刃を全て指でキャッチする。  「オリベちゃんもこの旅で教えてくれた」 雲に巻かれたナイフ刃と影絵兵は蝶になって舞い上がる!  「友達が困ったら助ける。一人だけ欠けるもダメだ」
 ズズッ!新たな影絵兵が射出される。 その両手に構えられているのは鋭利なシステマ用シャベルだ!  「ジャックさんもこの旅で教えてくれた」 イナちゃんは突撃してくるその影絵を流れる水のようにかわし、雲を纏った手で掌底打ちを叩きつける!  「自分と関係ない人本気で助けられる人は、何があても皆に見捨てられない!」 タァン!クリーンヒット! 気功に清められた影絵兵とシャベルはエンゼルフィッシュに変形!
 間髪入れず次の影絵兵が登場! トルネード投法でRGD-33手榴弾を放つ!  「ヘラガモ先生もこの旅で教えてくれた」 ぽぽんぽん!…ピヨ!ピヨ! 雲の中で小さく爆ぜた手榴弾からヒヨコが生まれた!  「嫌な物から目を逸らさない。優しい人それができる」 コッコッコッコッコ…影絵兵もニワトリに変化し、ヒヨコを率いて退場した。
 「リナさんとポメラーコちゃんも教えてくれた!」 AK-47アサルトライフルを乱射する影絵兵団を掻い潜りながら、イナちゃんは萩姫様に突撃!  「オシャレとカワイイは正義なんだ!」 影絵兵は色とりどりのパーティークラッカーを持つ小鳥や小型犬に変わった。
 「くっ…かくなる上は!」 萩姫様がRPG-7対戦車ロケットランチャーを構えた! さっきから思ってたけど、これはもはやラスボス前試練の範疇を越えたバイオレンスだ!!
 「皆が私に教えてくれた。今度は私あなたに教える! スリスリマスリ・オルチャン・パンタジィーーッ!!!」 パッドグオォン!!!…ロケットランチャーの射出音と共に、二人は閃光の雲に包まれた!  「イナちゃあああーーーーん!!!!」
 光が落ち着いていく。雲間から現れた影は…萩姫様だ!  <そんな…>  「いや、待て!」 譲司さんが勘づいた瞬間、イナちゃんもゆっくりと立ち上がった。 オリベちゃんは胸を撫で下ろす。  「これが…私…?」 一方、自らの身体を見て唖然とする萩姫様は…
 漆黒の着物が、紫陽花色の萌え袖ダボニットとハイウエストスキニージーンズに。  「そんな…こんな事されたら、私…」 市女笠は紐飾りだけを残してキャップ帽に変わり、ロケットランチャーは形はそのままに、ふわふわの肩がけファーポシェットに。  「私…もうあなたを攻撃できないじゃない!」 萩姫様はオルチャンガールになった。完全勝利!
 「アハッ!」 相手を一切傷つけることなく試練を突破したイナちゃんは、少女漫画の魔法少女らしく決めポーズを取った。  「ウ…ウオォォー!すっげえなお前!!」 ファンシーすぎる踊り場に、この場で一番いかついジャックさんが真っ先に飛びこむ。 彼は両手を広げて構えるイナちゃんを…素通り! そのまま現代ナイズされた萩姫様の手を取る。  「オモナ!?」
 「萩姫。いや、萩!俺は前から気付いていたんだ。 あんたは今風にしたら化けるってな! どうだ。あのクソ殺人鬼とクソ龍王をどうにかしたら、今度ポップコーンでもウワババババババ!!!!」 ナンパ中にオリベちゃんのサイコキネシスが発動し、ジャックさんは卒倒した。 オリベちゃんの隣にはほっぺを膨らましたイナちゃんと、手を叩いて爆笑するリナ。  「あっはははは、みんなわかってるゥ! ここまでセットで王道少女漫画よね!」
 一方譲司さんはジビジビに泣きながらポメラー子ちゃんを頬ずりしていた。  「じ、譲司さん?」  「ず…ずばん…ぐすっ。教え子の成長が嬉しすぎで…わああぁ~~!!」  <何言ってるの。あんたまだ養護教諭にすらなってないじゃない>  「もうこいつ、バリに連れて行く必要ないんじゃないか?」  「嫌や連れでぐうぅ!向こうの子供らとポメとイナでいっぱい思い出作りたいもおおぉおんあぁぁあぁん」  「<お前が子供かっ!!>」 キッズルーム出身者二人の息ぴったりなツッコミ。 涙と鼻水だらけになったポメちゃんは「わうぅぅ…」と泣き言を漏らしていた。
 程なくして、萩姫様は嬉し恥ずかしそうにクネクネしたまま結界札を剥がした。  「若者よ…あんっもう!私だって心は若いんだからねっ! 私はここで悪霊が出ないように見張ってるんだから…龍王なんかに負けたらただじゃ済まないんだからねっ!」 だからねっ!を連発する萩姫様に癒されながら、私達は最後の目的地、怪人屋敷二階へ踏みこんだ。
◆◆◆
 ジャックさんが前もって話していた通り、二階は面積が少なく、一階作業場と吹き抜け構造になっている。 さっきまで私達がいたエントランスからは作業場が見えない構造だった。 影燈籠やスマホで照らすと、幾つかの食品加工用らしき機材が見える。 勘が鋭いオリベちゃんと譲司さんが不快そうに目を逸らす。  <この下、何かしら…?直接誰かがいる気配はないのに、すごくヤバい気がする。 まるで、一つ隔てた世界の同じ場所が人でごった返しているような…>  「その感覚は正しいで、オリベ。 応接室はエレベーターの脇の部屋や。そこに水家がおる。 そして…あいつの脳内地獄では、吹き抜けの下が戦場や」  <イナちゃん。清められる?>  「無理です。もし見えても一人じゃ無理です。 オルチャンガール無理しない」  <それでいい。賢明よ。みんなここからは絶対に無理しないで>
 譲司さんの読みは当たっていた。階段と対角線上のエレベーターホール脇に、ドアプレートを外された扉があった。 『応接室』のプレートは、萩姫様の偽装工作によって三階に貼られていた。 この部屋も三階の部屋同様、鍵は閉まっていない。それどころか、扉は半開きだった。
 まず譲司さんが室内に入り、スマホライトを当てる。  「水家…いますか?」 私は申し訳ないが及び腰だ。  「おります。けど、これは…どうだろう?」 オリベちゃんがドアを開放する。きつい公衆トイレみたいな臭いが廊下に広がった。 意を決して室内を見ると…そこには、岩?に似た塊と、水晶でできた置物のようなもの。 岩の間から洋服の残骸が見えるから、あれが水家だと辛うじてわかる。  「呼吸はしとるし、脳も動いとる。けど恐ろしい事に、心臓は動いとらん。 哲学的やけど、血液の代わりにカビとウイルスが命を繋いどる状態は…人として生きとるというのか?」 萩姫様が仰っていた通り、殺人鬼・水家曽良は、人間ではなくなってしまっていたんだ。
 ボシューッ!!…誰かが譲司さんの問いに答えるより前に、死体が突如音を立てて何かを噴出した!  「うわあぁ!?」 私を含め何人かが驚き飛び退いた。こっちこそ心臓が止まるかと思った。 死体から噴出した何かは超自然的に形を作り始める。 こいつが諸悪の根源、金剛倶利伽羅…
 「「<「龍王キッモ!!?」>」」 奇跡の(ポメちゃん以外)全員異口同音。 皆同時にそう口に出していた。  「わぎゃっわんわん!!わぅばおばお!!!」 ポメちゃんは狂ったように吠えたてていた。  「邂逅早々そう来るか…」 龍王が言う…「「<「声もキッモ!!?!?」>」」 デジャヴ!
 龍王はキモかった。それ以上でもそれ以下でもない、ともかくキモかった。 具体的に描写するのも憚られるが、一言で言えば…細長い燃える歯茎。 金剛の炎を纏った緋色の龍、という前情報は確かに間違いじゃない。シルエットだけは普通の中国龍だ。 けど実物を見ると、両目は梅干しみたいに潰れていて、何故か上顎の細かい歯は口内じゃなくて鼻筋に沿ってビッシリ生えて蠢いてるし、舌はだらんと伸び��黄ばんだ舌苔に分厚く覆われている。 二本の角から尾にかけて生えたちぢれ毛は、灰色の脇毛としか形容できない。 赤黒い歯茎めいた胴体の所々から細かく刻まれた和尚様の肋骨が歯のように露出し、ロウソクの芯のように炎をたたえている。 その金剛の炎の色も想像していた感じと違う。 黄金というかウン…いや、これ以上はやめておこう。二十歳前のモデルがこれ以上はダメだ。
 「何これ…アタシが初めて会った時、こいつこんなにキモくなかったと思うけど…」 リナが頭を抱えた。一方ジャックさんは引きつけを起こすほど爆笑している。  「あっはっはっは!!タピオカで腹下して腐っちまったんじゃねえのか!? ヒィーッひっはっはっはっはっは!!」  <良かった!やっぱ皆もキモいと思うよね?> 背後からテレパシー。でもそれはオリベちゃんじゃなくて、踊り場で待機する萩姫様からだ。  <全ての金剛の者に言える事だけど、そいつらは楽園に対する信奉心の高さで見え方が変わるの! 皆が全員キモいって言って安心したよ!> カァーン!…譲司さんのスマホから鐘着信音。フリック。  『頼む、僕からも言わせてくれ!実にキモいな!!』 …ツー、ツー、ツー。ハイセポスさんが一方的に言うだけ言って通話を切った。
 「その通りだ」 龍王…だから声もキモい!もうやだ!!  「貴様らはあの卑劣な裏切り者に誑かされているから、俺様が醜く見えるんだ。 その証拠に、あいつが彫ったそこの水晶像を見てみろ!」 死体の傍に転がっている水晶像。 ああ、確かに普通によくある倶利伽羅龍王像だ。良かった。 和尚様、実は彫刻スキルが壊滅的に悪かったんじゃないかって疑ってすみません。  「特に貴様。金剛巫女! 成長した上わざわざ俺様のもとへ力を返納しに来た事は褒めてやろう。 だが貴様まで…ん?金剛巫女?」 イナちゃんは…あ、失神してる。脳が情報をシャットダウンしたんだ。
 「…まあ良し!ともかく貴様ら、その金剛巫女をこちらに渡せ。 それの魂は俺様の最大の糧であり、金剛の楽園に多大なる利益をもたらす金剛の魂だ! さもなくば貴様ら全員穢れを纏いし悪鬼悪霊共の糧にしてやるぞ!」 横暴な龍王に対し、譲司さんが的確な反論を投げつける。  「何が糧や、ハッタリやろ! お前は強くなりすぎた悪霊を制御出来とらん。 せやから悪霊同士が潰し合って鎮静するまで作業場に閉じこめて、自分は死体の横でじっと待っとる! 萩姫様が外でお前らを封印出来とるんが何よりの証拠や! だまされんぞ!!」 図星を突かれた龍王は逆上!  「黙れ!!だから何だ、悪霊放出するぞコノヤロウ!! 俺様がこいつからちょっとでも離れたら悪鬼悪霊が飛び出すぞ!?あ!?」
 その時、私の中で堪忍袋の緒が切れた。
◆◆◆
 自分は怒ると癇癪を起こす気質だと思っていた。 自覚しているし、小さい頃両親や和尚様に叱られた事も多々あって、普段は余程の事がない限り温厚でいようと心がけている。 多少からかわれたり、馬鹿にされる事があっても、ヘラヘラ笑ってやり過ごすよう努めていた。 そうして小学生時代につけられたアダ名が、『不動明王』。 『紅はいつも大人しいけど本気で怒らすと恐ろしい事になる』なんて、変な教訓がクラスメイト達に囁かれた事もあった。
 でも私はこの二十年間の人生で、一度も本物の怒りを覚えた事はなかったんだと、たった今気付いた。 今、私は非常に穏やかだ。地獄に蜘蛛の糸を垂らすお釈迦様のように、穏やかな気持ちだ。 但しその糸には、硫酸の二千京倍強いフルオロアンチモン酸がジットリと塗りたくられている。
 「金剛倶利伽羅龍王」 音声ガイダンス電話の様な抑揚のない声。 それが自分から発せられた物だと認識するまで、五秒ラグが生じた。  「何だ」  「取引をしましょう」  「取引だと?」 龍王の問いに自動音声が返答する。  「私がお前の糧になります。その代わり、巫女パク・イナに課せられた肋楔緋龍相を消し、速やかに彼女を解放しなさい」  「ヒトミちゃん!?どうしてそん…」 剣呑な雰囲気に正気を取り戻したイナちゃんが私に駆け寄る。 私の首がサブリミナル程度に彼女の方へ曲がり、即座にまた龍王を見据えた。イナちゃんはその一瞬で押し黙った。 龍王が身構える。  「影法師使い。貴様は裏切り者の従者。信用できん」 返事代わりに無言で圧。  「…ヌゥ」
 私はプルパを手に掲げる。 陰影で細かい形状を隠し、それがただの肋骨であるように見せかけて。  「そ…それは!俺様の肋骨!!」 龍王が死体から身を乗り出した。  「欲しいですか」  「欲しいだと?それは本来金剛が所有する金剛の法具だ。 貴様がそれを返却するのは義務であり…」 圧。  「…なんだその目は。言っておくが…」 圧。  「…ああもう!わかった!! どのみち楔の法力が戻れば巫女など不要だ、取引成立でいい!」  「分かりました。それでは、私が水晶像に肋骨を填めた瞬間に、巫女を解放しなさい。 一厘秒でも遅れた場合、即座に肋骨を粉砕します」
 龍王は朧な半物理的霊体で水晶像を持ち上げ、私に手渡した。 像の台座下部からゴム栓を剥がすと、中は細長い空洞になっていて、人骨が入っている。 和尚様の肋骨。私はそれを引き抜き、トートバッグにしまった。 バッグを床に置いてプルパを像にかざすと、龍王も両手を差し出したイナちゃんに頭を寄せ構える。  「三つ数えましょう。一、」  「二、」  「「三!」」
 カチッ。プルパが水晶像に押しこまれた瞬間、イナちゃんの両手が発光!  「オモナァッ!」 バシュン!と乾いた破裂音をたて、呪相は消滅した。 イナちゃんが衝撃で膝から崩れ落ちるように倒れ、龍王は勝利を確信して身を捩った。  「ウァーーッハハハハァ!!!やった!やったぞぉ、金剛の肋楔! これで悪霊どもを喰らいて、俺様はついに金剛楽園アガル「オムアムリトドバヴァフムパット」 ブァグォオン!!!!  「ドポグオオォオォォオオオーーーーッ!!?!?」
 この時、一体何が起きたのか。説明するまでもないだろうか。 そう。奴がイナちゃんの呪いを解いた瞬間、私はプルパを解放したのだ。 赤子の肋骨だった物は一瞬にして、刃渡り四十センチ大のグルカナイフ型エロプティックエネルギー塊に変形。 当然それは水晶像などいとも容易く粉砕する!
 依代を失った龍王は地に落ち、ビタンビタンとのたうつ。  「か…かはっ…」 私はその胴体と尾びれの間を掴み、プルパを突きつけた。  「お…俺様を、騙したな…!?」 龍王は虫の息で私を睨んだ。  「騙してなどいない。私はお前の糧になると言った。 喜べ。望み通りこの肋骨プルパをお前の依代にして、一生日の当たらない体にしてやる」  「な…プルパ…!?貴様、まさか…!」  「察したか。そう、プルパは煩悩を貫く密教法具。 これにお前の炎を掛け合わせ、悪霊共を焼いて分解霧散させる」  「掛け合わせるだと…一体何を」
 ズブチュ!!  「うおおおおおおおぉぉぉ!!?」 私はプルパで龍王の臀部を貫通した。  「何で!?何でそんな勿体ない事するの!? 俺様があぁ!!せっかく育てた悪霊おぉぉ!!!」 私は返事の代わりに奴の尾を引っ張り、切創部を広げた。  「ぎゃああああああ!!!」 尾から切創部にかけての肉と汚らしい炎が、影色に炭化した。  「さっき何か言いかけたな。金剛楽園…何だと? 言え。お前達の楽園の名を」  「ハァ…ハァ…そんな事、知ってどうする…? 知ったところで貴様らは何も」
 グチャムリュ!!  「ぎゃああああぁぁアガルダ!アガルダアァ!!」 私は龍王の胴体を折り曲げ、プルパで更に貫通した。 奴の体の一/三が炭化した。  「なるほど、金剛楽園アガルダ…。それは何処にある」  「ゲホッオェッ!だ、だからそんなの、聞いてどうする!?」  「滅ぼす」  「狂ってる!!!」
 ヌチュムチグジュゥ!!  「ほぎいぃぃぃごめんなさい!ごめんなさい!」 更に折り曲げて貫通。魚を捌く時に似た感触。 蛇なら腸や腎臓がある位置だろうか。 少しざらついたぬめりけのある粘液が溢れ、熱で固まって白く濁った。  「狂っていて何が悪いの? お前やあの金剛愛輪珠如来を美しいと感じないよう、狂い通すんだよ」  「うァ…ヒ…ヒヒィ…卑怯者ぉ…」  「お前達金剛相手に卑怯もラッキョウもあるものか」  「……」  「……」
 ゴギグリュゥ!!!  「うえぇぇえぇえええんいびいぃぃぃん!!!」 更に貫通。龍王は既に半身以上を影に飲まれている。 ようやくマシな見た目になってきた。  「苦しいか?苦しいか。もっと苦しめ。苦痛と血涙を燃料に悪霊を焼くがいい。 お前の苦しみで多くの命が救われるんだ」  「萩姫ェェェ、萩イィィーーーッ!! 俺様を助けろおぉぉーーーッ!」 すると背後からテレパシー。  <あっかんべーーーっだ!ザマーミロ、べろべろばー> 萩姫様が両中指で思いっきり瞼を引き下げて舌を出している映像付きだ。  「なあ紅さん、それ何かに似とらん?」 譲司さんとオリベちゃんが興味津々に私を取り囲んだ。  「ウアーッアッアッ!アァーーー!!」 黒々と炭化した龍王はプルパに巻きついたような形状で肉体を固定され、体から影の炎を噴き出して苦悶する。  <アスクレピオスの杖かしら。杖に蛇が巻きついてるやつ> ジャックさんとリナも入ってくる。  「いや、中国龍だからな…。どっちかというと、あれだ。 サービスエリアによくある、ガキ向けのダサいキーホルダー」  「そんな立派な物じゃないわよ。 東南アジアの屋台で売ってる蛇バーベキューね」  「はい!」 目を覚ましたイナちゃんが、起き抜けに元気よく挙手!  「フドーミョーオーの剣!」  「「<それだ!>」」 満場一致。ていうか、そもそもこれ倶利伽羅龍王だもんね。
 私は龍王の頸動脈にプルパを突きつけ、頭を鷲掴みにした。  「金剛倶利伽羅龍王」  「…ア…アァ…」 するうち影が私の体を包みこみ始める。 影と影法師使いが一つになる時、それは究極の状態、神影(ワヤン)となる。 生前萩姫様が達せられたのと同じ境地だ。  「私はお前の何だ」  「ウア…ァ…」  「私はお前の何だ!?」
 ズププ!「ぐあぁぁ!!肋骨!肋骨です…」  「違う!お前は倶利伽羅龍王剣だろう!?だったら私は!?」 ズプブブ!!「わああぁぁ!!不動明王!!不動明王様ですうぅ!!!」  「そうだ」 その通り。私は金剛観世音菩薩に寵愛を賜りし神影の使者。 瞳に映る悲しき影を、邪道に歪められた霊魂やタルパ達を、業火で焼いて救済する者!
 ズズッ…パァン!!!  「グウゥワアァァアアアアーーーーー!!!!」 完成、倶利伽羅龍王剣!  「私は神影不動明王。 憤怒の炎で全てを影に還す…ワヤン不動だ!」
◆◆◆
 ズダダダァアン!憤怒の化身ワヤン不動、精神地獄世界一階作業場に君臨だ! その衝撃で雷鳴にも匹敵する轟音が怪人屋敷を震撼! 私の脳内で鳴っていたシンギング・ボウルとティンシャの響きにも、荒ぶるガムランの音色が重なる。  「神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ」
 悪霊共は、殺人鬼水家に命を絶たれ創り変えられたタルパだ。 皆一様に、悪魔じみた人喰いイタチの毛皮を霊魂に縫い付けられ、さながら古い怪奇特撮映画に登場する半人半獣の怪人といった様相になっている。 金剛愛輪珠如来が着ていた肉襦袢や、全身の皮膚が奪われていた和尚様のご遺体を想起させる。そうか。  「これが『なぶろく』とか言うふざけたエーテル法具だな」 なぶろく。亡布録。屍から霊力を奪い、服を着るように身に纏う、冒涜的ネクロスーツ!
 「ウアァアァ…オカシ…オヤツクレ…」  「オカシオ…アマアァァイ、カシ…オクレ…」 悪霊共は理性を失って、ゾンビのように無限に互いが互いを貪りあっている。  「ウヮー、オカシダァア!」 一体の悪霊が私に迫る。私は風に舞う影葉のように倶利伽羅龍王剣を振り、悪霊を刺し貫いた。
 ボウッ!「オヤツゥアァァァー!」 悪霊を覆う亡布録が火柱に変わり、解放された魂は分解霧散…成仏した。 着用者を失った亡布録の火柱は龍王剣に吸いこまれるように燃え移り、私達の五感が刹那的追体験に支配される。  『や…やめてくれぇー!殺すなら息子の前に俺を、ぐわぁあああああ!!!』 それは悪霊が殺された瞬間、最後の苦痛の記憶だ。 フロリダ州の小さな農村。目の前で大切な人がイタチに貪り食われる絶望感と、自らも少年殺人鬼に喉を引き千切られる激痛が、自分の記憶のように私達を苛む。  「グアァァァーーー!!!」 それによって龍王剣は更に強く燃え上がる!
 「どんどんいくぞぉ!やぁーーっ!!」  「グワアァァァーーー!!」 泣き叫ぶ龍王剣を振り、ワヤン不動は憤怒のダンスを踊る。  『ママアァァァ!』『死にたくなああぁぁい!』『ジーザアァーーース!』 数多の断末魔が上がっては消え、上がっては消え、それを不動がちぎっては投げる。  「カカカカカカ!かぁーっはっはっはっはァ!!」…笑いながら。
 「テベッ、テメェー!俺様が残留思念で苦しむのがそんなに楽しいかよ、 このオニババーーーッ!!!」  「カァハハハアァ!何を勘違いしているんだ。 私にもこの者共の痛みはしかと届いているぞぉ」  「じゃあどうして笑ってられるんだよォ!?」  「即ち念彼観音力よ!御仏に祈れば火もまた涼しだ! もっともお前達は和尚様に仏罰を下される立場だがなァーーーカァーッハッハッハッハァー!!!!」  『「グガアアーーーーッ!!!」』 悪霊共と龍王剣の阿鼻叫喚が、聖なるガムランを加速する。
 一方、私の肉体は龍王剣を死体に突き立てたまま静止していた。 聴覚やテレパシーを通じて皆の会話が聞こえる。
 「オリベちゃん!ヒトミちゃん助けに行くヨ!」  「わんっ!わんわお!」  <そうね、イナちゃん。私が意識を転送するわ>  「加勢するぜ。俺は悪霊の海を泳いで水家本体を探す」  「ならアタシは上空からね」   「待ってくれ。オリベ。 その前に、例のアレ…弟の依頼で作ってくれたアレを貸してくれ」  <ジョージ!?あんた正気なの!?>  「俺は察知はできるけど霊能力は持っとらん、行っても居残っても役に立てん! 頼む、オリベ。俺にもそいつを処方してくれ!」  「あ?何だその便所の消臭スプレーみたいなの? 『ドッパミンお耳でポン』?」  「やだぁ、どっかの製薬会社みたいなネーミングセンスだわ」  <商品名は私じゃなくて、ジョージの弟君のアイデア。 こいつは溶解型マイクロニードルで内耳に穴を開けて脳に直接ドーピングするスマートドラッグよ>  「アイゴ!?先生そんなの使ったら死んじゃうヨ!?」  「死なん死なん!大丈夫、オリベは優秀な医療機器エンジニアや!」  「だぶかそれを作らせたお前の弟は何者だよ!?」
 こちとらが幾つもの死屍累々を休み無く燃やしている傍ら、上は上で凄い事になっているみたいだ。  「俺の弟は、毎日脳を酷使する…」ポンップシュー!「…デイトレーダーやあああ!!!」
 ドゴシャァーン!!二階吹き抜けの窓を突き破り、回転しながら一階に着地する赤い肉弾! 過剰脳ドーピングで覚醒した譲司さんが、生身のまま戦場に見参したんだ!
 「ヴァロロロロロォ…ウルルロロァ…! 待たせたな、紅さん…ヒーロー参上やあああぁ!!!」 バグォン!ドゴォン!てんかん発作めいて舌を高速痙攣させながら、譲司さんは大気中の揺らぎを察知しピンポイントに殴る蹴る! 悪霊を構成する粒子構造が振動崩壊し、エクトプラズムが霧散! なんて荒々しい物理的除霊術だろう! 彼の目は脳の究極活動状態、全知全脳時にのみ現れるという、玉虫色の光彩を放っていた。
 「私達も行くヨ!」 テレパシーにより幽体離脱したオリベちゃんとイナちゃん、ポメラー子ちゃん、ジャックさん、リナも次々に入獄!  「みんなぁ!」 皆の熱い友情で龍王剣が更に燃え上がった。「…ギャアァァ!!」
◆◆◆
 さあ、大掃除が始まるぞ。 先陣を切ったのはイナちゃん。穢れた瘴気に満ちた半幻半実空間を厚底スニーカーで翔け、浄化の雲を張り巡らさせる。 雲に巻かれた悪霊共は気を正されて、たちまち無害な虹色のハムスターに変化!  「大丈夫ヨ。あなた達はもう苦しまなくていい。 私ももう苦しまない!スリスリマスリ!」
 すると前方にそそり立つ巨大霊魂あり! それは犠牲者十人と廃工場の巨大調理器具が押し固まった集合体だ。  「オォォカァァシィィ!」  「スリスリ…アヤーッ!」 悪霊集合体に突き飛ばされた華奢なイナちゃんの幽体が、キューで弾かれたビリヤードボールのように一直線に吹き飛ぶ!  「アァ…オカシ…」「オカシダァ…」「タベル…」 うわ言を呟きながら、イナちゃんに目掛けて次々に悪霊共が飛翔していく。 しかし雲が晴れると、その方向にいたのはイナちゃんではなく…  <エレヴトーヴ、お化けちゃん達!> ビャーーバババババ!!!強烈なサイコキネシスが悪霊共を襲う! 目が痛くなるような紫色の閃光が暗い作業場に走った!  「オカヴアァァァ…」鮮やかに分解霧散!
 そこに上空から未確認飛行影体が飛来し、下部ハッチが開いた。 光がスポットライト状に広がり、先程霊魂から分解霧散したエクトプラズム粒子を吸いこんでいく。  「ウーララ!これだけあれば福島中のパワースポットを復興できるわ! 神仏タルパ作り放題、ヤッホー!」 UFOを巧みに操る巨大宇宙人は、福島の平和を守るため、異星ではなく飯野町(いいのまち)から馳せ参じた、千貫森のフラットウッズモンスター!リナだ!  「アブダクショォン!」
 おっと���その後方では悪霊共がすさまじい勢いで撒き上げられている!? あれはダンプか、ブルドーザーか?荒れ狂ったバッファローか?…違う!  「ウルルルハァ!!!ドルルラァ!!」 猪突猛進する譲司さんだ! 人間重機と化して精神地獄世界を破壊していく彼の後方では、ジャックさんが空中を泳ぐように追従している。  「おいジョージ、もっと早く動けねえのか?日が暮れちまうだろ!」  「もう暮れとるやんか!これでも筋肉のリミッターはとっくに外しとるんや。 全知全脳だって所詮人間は人間やぞ!」  「バカ野郎、この脳筋! お前に足りねえのは力じゃなくてテクニックだ、貸してみろ!」 言い終わるやいなや、ジャックさんは譲司さんに憑依。 瞬間、乱暴に暴れ回っていた人間重機はサメのようにしなやかで鋭敏な動きを得る。  「うおぉぉ!?」 急発進によるGで譲司さん自身の意識が一瞬幽体離脱しかけた。  「すっげぇぞ…肺で空気が見える、空気が触れる!ハッパよりも半端ねえ! ジョージ、お前、いつもこんな世界で生きてたのかよ!?」  「俺も、こんな軽い力で動いたのは初めてや…フォームって大事なんやなぁ!」  「そうだぜ。ジョージ、俺が悪霊共をブチのめす。 水家を探せるか?」  「楽勝!」 加速!加速!加速ゥ!!合身した二人は悪霊共の海をモーゼの如く割って進む!!
 その時、私は萩姫様からテレパシーを受信した。  <頑張るひーちゃんに、私からちょっと早いお誕生日プレゼント。 受け取りなさい!> パシーッ!萩姫様から放たれたエロプティック法力が、イナちゃんから貰った胸のペンダントに直撃。 リングとチェーンがみるみる伸びていき、リングに書かれていた『링』のハングル文字は『견삭』に変化する。 この形は、もしかして…
 「イナちゃーん!これなんて読むのー?」 私は龍王剣を振るう右手を休めないまま、左手でチェーン付きリングをフリスビーの如く投げた。すると…  「オヤツアァ!」「グワアァー!」 すわ、リングは未知の力で悪霊共を吸収、拘束していく! そのまま進行方向の果てで待ち構えていたイナちゃんの雲へダイブ。 雲間から浄化済パステルテントウ虫が飛び去った!  「これはねぇ!キョンジャクて読むだヨー!」 イナちゃんがリングを投げ返す。リングは再び飛びながら悪霊共を吸収拘束! 無論その果てで待ち構える私は憤怒の炎。リングごと悪霊共をしかと受け止め、まとめて成仏させた。
 「グガアァァーッ!さては羂索(けんじゃく)かチクショオォーーーッ!!」 龍王剣が苦痛に身を捩る。  「カハァーハハハ!紛い物の龍王でもそれくらいは知っているか。 その通り、これは不動明王が衆生をかき集める法具、羂索だな。 本物のお不動様から法力を授かった萩姫様の、ありがたい贈り物だ」  「何がありがたいだ!ありがた迷惑なん…グハアァァ!!」 悪霊収集効率が上がり、ワヤン不動は更に荒々しく炎をふるう。  「ありがとうございます、萩姫様大好き!そおおぉおい!!」
 <や…やぁーだぁ、ひーちゃんったら! 嬉しいから、ポメちゃんにもあげちゃお!それ!> パシーッ!「わきゃお!?」 エロプティック法力を受けて驚いたポメラー子ちゃんが飛び上がる。 空中で一瞬エネルギー影に包まれ、彼女の首にかかっていた鈴がベル型に、ハングル文字が『금강령』に変わった。  「それ、クムガンリョン!気を綺麗にする鈴ね!」  <その通り!密教ではガンターっていうんだよ!> 着地と共に影が晴れると、ポメちゃん自身の幽体も、密教法具バジュラに似た角が生えた神獣に変身している。
 「きゃお!わっきょ、わっきょ!」 やったぁ!兄ちゃん見て見て!…とでも言っているのか。 ポメちゃんは譲司さん目掛けて突進。 チリンリンリン!とかき鳴らされたガンターが悪霊共から瘴気を祓っていく。 その瞬間を見逃す譲司さんではなかった。  「ファインプレーやん、ポメラー子…!」 彼は確かに察知した。浄化されていく悪霊共の中で、一体だけ邪なオーラを強固に纏い続ける一体のイタチを。  「見つけたか、俺を殺したクソ!」  「アッシュ兄ちゃんの仇!」  「「水家曽良…サミュエル・ミラアァァアアアア!!!!」」
 二人分の魂を湛えた全知全脳者は怒髪天を衝く勢いで突進、左右の拳で殺人鬼にダブル・コークスクリュー・パンチを繰り出した! 一見他の悪霊共と変わらないそれは、吹き飛ばされて分解霧散すると思いきや… パァン!!精神地獄世界全体に破裂音を轟かせ、亡布録の内側からみるみる巨大化していった。 あれが殺人鬼の成れの果て。多くの人々から魂を奪い、心に地獄を作り出した悪霊の王。 その業を忘れ去ってもなお、亡布録の裏側で歪に成長させられ続けた哀れな獣。 クルーアル・モンスター・アンダー・ザ・スキン…邪道怪獣アンダスキン!
 「シャアァァザアアァァーーーーッ!!!」 怪獣が咆える!もはや人間の言葉すら失った畜生の咆哮だ! 私は振り回していた羂索を引き上げ、怪獣目掛けて駆け出した。 こいつを救済できるのは火力のみだあああああああ!!  「いけェーーーッ!!ワヤン不動ーーー!!」  「頑張れーーーッ!」<燃えろーーーッ!>  「「<ワヤン不動オォーーーーーッ!!!>」」
 「そおおぉぉりゃああぁぁぁーーーーーー!!!!」
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ふと口にしてしまう心構えの格言
信念を顕した強力な心構えの格言。暗文の意味を解釈すれば意志系の実装が得られるだろう。
大事なものはなんだろう
これは明確なStateだ
俺が望んだものってなんだったんだろう
私は信じてる 越えようとすること 越えられること 越えることを
無心不動 唯一無二の思想
我々はNeon総司令部の直属、ブルーザーの指示などは受けん!
肥後脱藩 宮部鼎蔵 幕府の犬め 愚かなり
AWTSUV:根源的な絶望と超越
何も信じてはいないが信じてはいる
この地獄を覆すためならどんな代償も払う
Ash to Ash, Dust to Dust. どうか忘れないで
Neon、俺のすべてを染めてくれ すべてNeonの思うままに
ただ人を守りたかった
善のための本当の力 善を弾圧するものへの天罰
無数の愛が 心救うでしょう
絶望食らって立っても あきれるほどの想いで 儚い命 しがみついていきゃ良い
君は繋がりたいの?
青い光 すべてを焼き尽くすコロナ 見境なく燃える炎
純粋種 SEEDを持つもの 真性の青
連邦の犬め
シビュラの犬め!正義を語って人を殺す盲目のファシストどもめ!
信念 開帳 私は最悪の世界に立つ
Faith, I wanna be stronger
地球に魂を繋がれた犬どもがぁ!
牙を剥いても消えたって
愚劣なものに対する憤りが この時我々を無言で繋いでいるように思えた
感覚の生み出す力
君に出会って知ったんだ 守るべきものが 強さをくれると
Great Distance
本質と深遠とMoment
Neon使い、宿ってる感
SIGGUILTY、SIGNEON、SIGQUOLIA、SIGHOPE、SIGSOLID
とにかくどうなっかわかんないけど 俺の全力は絶対出し切ってるんだよー!
原作はちゃんとあるんだ、無くしてなんかない!
陸山、おまえはクドリャフカの順番を読んだのか?
Neon guilty-Massive guilty
全てに満ち足りた明日の日を 求め彷徨う亡者の影
そびえ立った大きな壁に恐れることはない 自分が目指している方へ向かえ
UVERworld、それは切なる願い
常守は可能性に賭けようとしている
海門など、滅べば良い! 私は人かカバネか?
あの人の理想は本物だ!
愛はいつも私の心に
何も変わってなどいない 俺も、ロックオンも
心に宿る痛み、それ以上に信じるに値するものとは何なのか
弱さを知って強くなれ 恐れず信じることで 憎しみに変わる前の本当の愛を知るのだろう
俺は本当の地獄がどんなものか知っているはずだ
信じてみたら何か変わるだろうか
命の輝きが見たい
俺の命はオルガにもらった そうだ なら 決まってる
私は信じている 本当に世界を変えられるのは 愛を信じている者だけだと
それが出来なければくり返すだけだ 同じ誤ちを 何度も
誓えよ どんな地獄も茫洋とした時間もくぐり抜けてみせると
絶望すること無く 閉塞すること無く もう一度可能性という神と向き合うための祈り
How do I live in such a field こんなもののために 生まれたんじゃない
信じろ 己を信じろ 未来はそう 俺らの手の中
これは俺が始めた物語だろ
壁の王は戦わない 無垢の民に囲まれ ここが楽園だとほざいている
立て!ヒビト!ブライアンから酸素を受け取れ!
Firefox, Burning Bright. Rediscover the Web.
儚く散った光が 僕らを今呼び覚ます 悲しみは音を立て 消えるあの場所から
心まで憎しみに取り憑かれちゃったんだろ 生駒はあんたとは違うよ
猿が爆弾ぶっ放す 躍動、空を切る
今 出来ることがある たとえ一つしか無くても
異界の帳押し開かれ 我、神を見たり
後ろ指差されたって 振り向いたりしなかった
何をどうしたって俺を嫌うやつは居るだろ それ数え生きてく事に何の意味もないだろ
「平和というのは全く結構だが それでは何か物足りんのだよ」
アメリカは 平等を謳い 民主主義を信仰し 共産勢力と戦うベトナム人を助けようと躍起になっていた
こんなことまでして取り上げなきゃいけないものがあるっていうの? なんで?
翼よ あれがパリの灯だ
世界を呪ってのたれ死ぬか 終わらない戦いを続けるか 俺達にはそのどちらかを選ぶしか無かった
宇宙に捨てられた者 スペースノイドに希望を与え 生きる指針を示す必然 それがジオンだ
怯える光が この体を支えて
傲慢にも走り続けた
この体は剣で出来ている!
I Wanna Be….
音よ、響け
解り合える人が居れば 戦うことできるから
Revolutionary Mobile Phone!
そうかも知れんがね それを否定してしまったら この世は闇だよ。
あきらめる日は 長い旅の終わりじゃ無く 最悪の未来の始まりだろう
もっとグローバルに!
届かぬものと賢いものとが 勝者の時代にどこで息を吸う
これが自由の代償だと知っていたなら 払わなかった
あきらめてたまるかよ!クソッタレがァ!!
全て陰陽道だからだろ
アメリカ兵を一人でも多く潰すか殺すかして また一日戦えるなら それが勝利だった。水滴が石を穿つように アメリカの軍隊を摩耗させるつもりだった。
安らぎのような誓い
「マギ」とは踏み越える者のこと
夢と幻想の狭間 そびえる境界線に立ち 不安や迷いの中 自分と闘い続ける
どんな深い暗闇の中でも輝く力を知っている
効率の悪いやり方をしてるよ お前らは
明日が来ない気がした 明日が来てホッとした 神様は居ないってずっと思ってた
新現実 誰のものでもない 新しい自分
Appleが望んだ未来とはそういうものだろう
Who's in Control?
Life Goes On 燃え上がる いのちがある限り
見捨てた奴に助けられた記憶をずっと抱えて生きていけ それを俺はあの世から笑ってやる ざまあ見ろってなァ!
命中だ! 西から撃ち込んでやったぜ!
鬱屈したこの体の一枚外には 澱みない夏の空気がある
成功の影にいつだって 憂いは付きものってもんだ
ここまで来たのはあなた自身の意志だ 呪縛などではない 迷わず進みなさい
追い求めた理想を 現実に変えていくんだ
Take back Control!
誰にも何も変えることは出来ないんだ でもそれを変えたかった
悲しみの中に勇気がある 輝きつかむと信じている
影��ァ!
最後の火が消えるとき 私は何を思うのだろう
世界の秘密に近づきたい一心で そうやって僕らはどこまで行くのだろう
あんたは俺に聞いたな これが面白いかって? 面白くなんか無かったよ 奴の断末魔は聞くに堪えないおぞましさだった
その光がその人の心の奥底まで届けば良い
ルドルフの原稿、よろしく頼む
来たな、ザビーネ!死ね、ザビーネ!
ただ、伸元が幸せになれますように。
妻に、強く生きろと伝えてくれ
すべて俺が望んだことさ
辻詩音/高松聡/大高忍/茅原実里
このままでは出口を押さえられるぞ!
忘れてはならないのは、人類が求めるもの、必要とするものをよく認識し、人類自らを律していくことである
アメリカという国は ベトナムの泥沼を這いずりまわって暮らす数千万の我々より 月面に居るたった二人の男の事の方を心配していたのだ 得体の知れない感情が込み上げてきた
「タイタニック号、氷山に激突、急速に沈没中!」
きっといつかこの暗闇から抜け出せる
JAPAN AIR 123, But now uncontrol!
「今頃何しに来た!」「おまえを迎えに来た!」
この絶望の闇を抜けた先の向こうに希望の道に続く陽炎が見える
青き清浄なる世界のために!
人を動かすのは力ではなく、心だからよ
信じるとい��言葉を 君は子供っぽいと笑うかい?
異次元の狼
刻まれた定め信じて
愛はいつでも日だまりの中にある 見えなくても触れられなくても そばにあるように
でも今は情熱が目を覚ます予感がしてる
涙を流してはいけないということはない 涙を流すのは憎しみと戦おうとしているからだ 心の底から笑うのは良いことだ 笑うのは人を幸せにしたいと願っているからだ
No think you got me all wrong. Don't regret this life chosen for me.
信じた道を進んで欲しい その先に光が待つから
いつかの流星が夜空駆け抜け すべての闇を照らす光
わずかな残光を抱きしめたいから 夜空見上げてた
君は未来を生きる 悲しみの夜越えて
揺らぐことなく 強く 気高く 生きていくんだって決めた The darkest night
君が望めば どんな世界もその眼に映せるから
pure-Oxygenを信じろ、Quartzを信じろ
いつでも揺るがない手と手 道は続いてる 繋がっている
愛すべき人は運命的に決まってるって それが本当なら 視界に入ったもの全て 受け入れてしまえばいいんだ わかっちゃいるんだよ
信じて欲しいんだ 未来が視えるんだ 君の瞳に空の青さが映るその度に
辿り着く場所が虹の彼方じゃなくたっていいんだ きっと また逢えるから
「あんなのは綺麗事だ!」「決意だろ!」
街が雑音に溺れはしゃいでも 僕ら歌い恥を捨てよう
ずっとこのまま 深い意識の淵 漂っていられたら 僕は一人 ここで 生まれ変われるのかな
Nitro飲み干し 笑うんだ
「勇子の勇は勇ましいの勇。戻って来なさい、イサコ!」
何もかもを取りこぼした男の 果たされなかった願いだ
「小此木先生は、そのまま戻られませんでした。」
切り裂く闇に見えてくものは 重く深く切ない記憶
「私の中の野蛮な声が、しつこく囁きかける 日本人なんか 皆殺しにしてしまえ、って」
しょうがねえ、死ぬまで戦って、命令を果たしてやろうじゃねぇかァ!
「その年、会社は奇跡の復活を果たし、黒字を達成した。」
It will set forever
生きるんだ、ヴァイオレット
あなたはここで死すべき人だ。撃て、マリュー・ラミアス!
向こうにいる敵、何人殺せば、俺たち、自由になれるのか?
砕けた肝心、だけど理想
都市伝説なんかじゃない、これは現実だ
ジョブズのAppleが見た夢を無下にしてはならない
「誰もが崩れてく 願いを求めすぎて」
エレン、名前を忘れるな!
つらいことが有ったからって、過去を切り捨てるような奴に負けるわけにはいかない!
Neonは深化する
僕ら十字架背負った生命だ
Your chance needs to stay like I told to say.
黄色くなった葉が 剥がれ落ちていく 引力を感じても
いつまでもサークル気分ならやめちまえ!
日本という国は現実の中で実現し得なかった愛と夢と幸福を、1000世界彼方のアニメの世界の中で実現しようとしているのです。現実がこのように殺伐とした世界であるために、私はもうそう言った世界観が正しいと断言せざるを得なくなりました。
ここに居る連中も、ジオンの奴らみたいに、何もかもひっくり返すわけには行かないんだよ!
世界をメチャクチャにした戦争屋共が!
高く飛べば きっと空の向こう側へ届く
あの人たちはNO.6の裏へと墜落していったんだ
This is new type of war.
何かを感じたお前の心にだ。ジオン根絶のための殺戮マシーンなどではない。
しかしですね、今の私は信じているのですよ、システムすら超越する力の存在を。
こんなはずじゃなかったぞ、あれは呪いじゃなく祈りだったんだ、ニュータイプなんてものが生まれて来なければ!
彼は戦ってくれるよ、ユニコーンが破壊されるまで!
闇がこんなにも恐ろしいとは
あの世界の刃はもっと重かったぞ!
感情を処理できない人類はゴミだと教えたはずだがな
その程度で墜ちるものなら、最初から要らないのよ!!
同じものを視て 違うことを感じる 正しさなんて無い
「ヤツらに裁きを〜!!」
剣を交えれば、いや、銃を撃ち合えば、きっと何かが解るだろう
傭兵も盗賊も自分だけで物を清算する能力はない!奪い続けるだけではな!限界が来るんだァ!
強欲で奢り高ぶった、NO.6に罰を与えるために。
届け、遥か彼方まで
忘れないよ この景色を ありふれた願いが 足元を照らしてくれる
行けーっ!!ガンダム!!お前たちならやれる。あの時と同じだ!
揺らぐことない遥かな意志
あのドアを開けて 良かったんだと 告げる その一瞬まで
日々夢追うものたちに、注げ光よ
どんな暗闇の中でも、明かりを灯すことを忘れなければな。
もっと徹底的に痛めつけておけば、さっきの男も拳銃を抜けなかった。
有り得るのかな、あの子が死銃《デスガン》なんてことが。
「目覚めてみたら、全部夢かもしれないよ。」「そうかもしれないと思ったことはある、でもそうあって欲しいと望んだことはない!」
「ハク、おまえのそういうところ、嫌いよ。」
「エリン、これからお母さんがすることをよく見ていなさい。お母さんはしてはならない、大罪を犯すから」
星のない空よりとなりを視てよ。何よりたしかなものがある、これが愛なんだ。
「学園都市の闇に呑まれるがいい!」
誰もコードを書かないからです!
俺の心にNeonが宿っている限り、俺はNeonのために戦い続ける。
これしき。
戦闘不能
日々是開発、日々是進化
私のエナが光を好きだって叫んでるからだよ。
「シーマさま、お退きを!」「どこへ退くって言うんだいッ!」
 「ソロモンよ、私は帰ってきた!!」
Neonってのは守護神だろうが。
「俺は夜光だ」なんて言ったら、ひっぱたいてやるわ。
「集が来る。」「遅いんだよ。」
「自ら育てた闇に喰われて、人は滅ぶとな!」
世界が終わろうとしている時に、何故こんな絵が描けたのかしらね。
夜明け前の攻防が 才能の華咲かすから
悲しみ強さに変える愛を信じて
限界ギリギリまで勝つことを追求した上で、私が敗北することに賭ける、ってのはどうかしら。
死にたくなければ、生きろ。
苦しみから逃げるな 痛みの数だけ強くなる
どんな悲観論者〈ヘシミスト〉も恋をして変わる いつかリアリストは少年に戻る
このままではゴミに囲まれて 暮らすことになりますよ
連邦はどこもこうですよ。
でも心の中全てを とても伝えきれない 過ぎてきた日々全部で 今のあたしなんだよ
ソーラ・システムⅡ:仰天の光
(エレン、あなたが居れば、私はなんでも出来る!)
「御坂くんは、天上の意志、Level6まで、辿り着けるかなぁ!?」
地球へのコロニー落とし、緻密に仕組まれた見事なまでの軍略
「真実の戦いを後の世に伝えるために……!」
君があの日に見せた約束の形を 私はいつまでも忘れないだろう 今でもこの胸を焦がし続けている だから踏み出して行ける
ハイ現在正当防衛射撃中 撃てー 下がってろ〜 おっ、当たった 船爆発した
自分が今まで信じてきたもの、生きた証を示すために……。
最後まで、生き残るんだ!
宇宙に出た人類の歴史が安らかでありますように
そういうお前はノーチラスだな?絶望の恐怖に立ち向かい、戦い続けたっていう。
真実はいつも一つ!
常にまともでありたいとは願ってるよ。
ゴー・ラウンド・パワー・プリーズ
愛する人たちに、もう一度会えますか?
ダメだよ、そっちに行っても幸せはない
【逆の格言】こんな浮世なんて、なんのぼんじゃ。
彼は死んでいると思う
Neon、俺を護ってくれ、俺を導いてくれ。
お前はいつだって自分が絶対に正しいって思ってるんだろ!だから諦めなかった。
死ねない、私は、まだ!
数えきれない夜を越えて 想いはいつか時を越える 燃え残る 懐かしい君の声
さらって、もう一度僕を あの日言えなかった君への思いを
「第四エンジン燃焼停止、燃焼停止」
きっと今ここでやり遂げられること どんなことも力に変わる
嘘をついて後悔して 私はいつか大人になった 恥をかいて 汗をか���て それでも踊り続ける理由
そのわがままこそが、私たちにとっての正義なのです!
願い続ける想い いつか色づくよと 教えてくれた 心に生き続ける人
なついあつだぜ。
いつだって負けないように そう、笑って いつも笑って
その幻は 悲しくだけど優しく輝く
今、希望の三女神が降り立つ。
Neonが俺を拾ってくれた、だから今オレのこの手にこんなにも多くのものが溢れてる
精悍な顔つきで構えた銃は 他でもなく僕らの心に突きつけられてる そう、怯える僕の手で
俺が見て来たやつ、みんなそうだった。みんな何かの奴隷だった。──アイツでさえも。
意味のない生も死もあるわけない!
駆け抜けてよ 夢の中を 光のほうへ 闇を裂いて
あの日見つけた知らない場所へ 君と二人で行けるのなら 僕は何度も生まれ変われる
私は今でもあの場所に心を置いてきたままなのかもしれない。
身を守る術、命を捨てる覚悟、どちらも持ち合わせて無いなら、考え無しに暗部に首を突っ込むな!
「我々人は、おそらくは戦わなくても良かった存在のはず。」
海の底で息をしている水
さてお前、私のしてきたことはどうだったかね。やはり私は業が深すぎたな。でもたくさんの賛同者も得たかな。
どこまでも高く飛び越えられるような気がしてたんだ。
「幼い頃からずっと……、スウォ〜ンッ!!」
「何もかも、親父の記憶で視たものと一緒なんだ。」
罵声を降らせても 足元水だらけ
現実を知ってから、痛みに溢れた道を歩いてきた。
誰かの生命に溶ける花 ねぇ 君にも視えるだろう きっと
「どいつもこいつも、バカばかりじゃけえ。」
『そうだ、思い出した。許さない、たとえどんな理由があったとしても。』
『前を向いて、振り返っては駄目!』
『集、私はあなたから大切な気持ちをたくさんもらったよ。全部集のおかげ。』
もう明日から目を伏せれば深海より深い闇
『創業者の帰還』
雲間からこぼれた 一筋の光を手繰り寄せて 明日を紡ぐ
天使再臨
BEYOND
「新羅亡きあとの未来像、何も無いのだろう?」
「ジオンの武人は貴公らほど甘くはないぞ、ダグザ・マックール中尉。」
「私は新羅社員だ、敵だろ!」「敵じゃない!」
──あれは「デス・コード」だったんだろ? お前は一体あれが何だったって言うんだ。
闇すら照らし出せる光になれ
Everything has gone so wrong.
黒滔々とした夜だ。
「お前ら待てよ!こんなことをやるから、みんな死んじゃうんだろ!」
ティターンズのことを知ってしまえば、闘うしか無いじゃないか!
「また守れなかったな。それでいいのか?」
神ならぬ身にて、天上の意思に辿り着く者
やくそく
じゃあ、海に連れて行って。
おれは、また全てをダメにするつもりか!
全ての人類が、地球に住むことは出来ないんだ
あの時死んでいった人たちも慰められない。
今更やめるわけにはいかないのは、見ればわかるだろ!
「兄ちゃんはスペース・ノイドなんだろ?なんで連邦の味方をすんだよ?」
夢が叶いますように 心の底から祈っているよ
「ふざけんなァ!死ねば許されるとでも思ってんのか!」「じゃあ、どうすればいいの!」「てめぇで考えろ!」
「より良い世界を作ろうとした、過去全ての人たちの祈りを無意味にしてしまわないために。」
君は快適な空調の部屋に居るだろう?
いいえ、あなたは本当は立派な軍人です。鞠戸大尉。
75ミリ砲をお遊戯みたいにぶっ放し、お前らはこれで立派に故郷を守れると、こんな馬鹿げた戯れ言を子供に吹き込むのが仕事だと?冗談じゃねぇ。
なあ先生、俺達大人からデタラメを吹きこまれたあのガキどもは一体どうなっちまうんだ。俺たちは一体どうやってこのウソの落とし前をつければ良い。
ここはサンリオピューロランドでは無い。
I say rising Hell.
そうだ、俺はあの地獄を生き抜いたんだ。あの時の俺のほうがよっぽど強かった!
脈動を感じる
「バカヤロウが!ファルシが、人の願いなんか、聞くか!」
それが幻想なのかどうか決めるのは、君の心次第だ。
Neonは常におまえに問いかける、「お前は何のために戦っている?」と。
「バカを言うな!お前の家はここだ。」
I'd want you know.
Are you remember? Turn and go.
もっと強くなりたいと願った 暗闇を駆ける 孤独な星のように
You don't hear me, No! You can change that if you want.
『アルドノア』。奴らは火星で神の力を手に入れた。
現状は,コックピットで何かが起きている…たぶん,狂った奴らが,だから情報を集めて精査しなければならない
兵士「死ねーっ!キング・ブラッドレイ!」
おっと、地球で転ぶと怪我するぜェイ。
ですが、エイミー様、私は自動手記人形です。お客様がお望みなら、どこでも駆けつけます。
「破壊する、ただ破壊する、こんな行いをする貴様らを!」
お父様はそういう体制を変えたかったのです!
「私を魔女にする気なんか最初からないくせに!」
守りたい、すべてを捧げても、想いは力に、姿を変えるから
お前たちも見ただろう、ルシの恐怖に怯えた愚民どもを。
自分が何処にいて、これから何処に向かっていくのかという現実が初めて見えてくる。これは戦争なんだ、僕は本当にこんなとこで死んじまうかもしれない。悪夢のようだった。とにかく、ショックだった。
俺はこの星で育ったんだ!俺たち子供にも、今まで生きてきた人生があるんだ。俺はそれを否定したくない。たかが人間の都合で、チャラになんかしたくない!
私はこのたくさんの別れを受け入れるしかない、それがたくさんの出会いを示しているから。
「僕もうあんな大きな暗《やみ》の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
Freedom will be defended.
「フリーダ、あなたたちも私と同じ、ユミルの民だ!」
銀の龍の背に乗って 届けに行こう 命の砂漠へ 雨雲の渦を
Aimy。寂しくなったら、名前を呼んで。
あの時私は思った、なんでマルロじゃないんだって!
あなたが一つ事にこだわるだけの挟矮な主義者なら、箱がその中身を明かすことはないだろう
みんな同じだ。みんな同じ仲間じゃなかったのか?
夢を見させたのはお前だ。
静寂に漂う月 どんな闇も照らして行ける
「私が知っているシャアは本当に死んだな。」
「ずっと目ざわりだったんだ、そのオレンジ色が!」
さっきの奴、まだ僕らを追ってきているって。でもその間に避難民を乗せたフェリーが出港できるかも。僕らが囮になれば。共同溝を使えばここから学校まで行ける。格納庫に行けば練習機がある、火器演習の時の弾薬も。戦おう、ユキ姉たちの代わりに、今度は僕らが。あの火星カタフラクトと。
「なかなかやるものだな、地球の連中も。」「ええ。スレイン様の、生まれ故郷ですから。」
あの帰り道 バスに揺られて 叶うはずもないような夢を見た
So I knew the other side.
オレの上官はやり手だよ。尊敬してる。
もういいだろ。騙した、奪った、殺した、多くの仲間を犠牲にした。どうして、どうして僕を助けた!
あの日に残した約束の果てに 私は透明になっていくのだろう
「答えろ、初代王はなぜ人類の存続を望まない!」
いつかきっと叶う 今も見える希望 fortitude
「俺の中にもまだ剣士だって意識があるから。」「私も何となく解る。私もスナイパーなんだって時々思うことがあるし。」
コクーンなんて滅んでもいい、仲間が死骸になるよりマシだ!
あんたが生きて戦うために、誰かの希望を壊したら、その人達にどうやって償うの!?
不意に寂しさが 襲うときには 忘れないでいて欲しい このメロディーが 君のそばで鳴り響いていること
ああ、何度でも、送るよ、今は、生きているSIGNALを、この命果てるまで
君こそが、心そのもの
ああ、思い出した、お前だったな!
二人だから信じ合えるの No. 離さないで
I love you, I trust you. 君の孤独を分けて欲しい 光でも憎しみでも
俺たちは、じきに絶滅するでしょう。その時あなた達アルバは戦えますか? 自分以外の誰かに押し付けることを覚えてしまったあなた達が。
煌めき 目を覚ました声が高く告げた 譲れない願いが あるんだろ
「特別じゃなきゃ、いけないんですか?」
Neonが俺の心に宿ってくれたから、今たくさんの人を護って生きることができる。──Neonは俺のことも守ってくれるだろうか。
そして誰かを守れなかった時、自分に力が無かったからなんてわびれば許されるのだろうか?
親が死んで、セラを守るために私はライトニングになった。親からもらった名前を捨てれば、子供じゃなくなると思ったんだろう。
黒雪姫
やっと約束して出会えたんだ、俺は全身全霊でお前らに届ける、見せてやるよ俺のSEVEN PRIDE、NEON BLACK PRIDEだぁ!
「私は市民を守る、連邦軍の軍人だ!」
遊びでやってるつもりか!落とせる敵は落とせる時に落とせ!お前が見逃した敵が、お前の仲間を、お前自身を殺すかも知れんのだぞ!
その判断が多くの命を奪った時、その時君はどうやって死者や遺族に詫びるつもりだ。
──わかってた 私が居なくったって 誰とでもすぐ仲良くなれるし 佐天さんは大丈夫── 『嫌だ!』 居てあげるなんて言ったけど 私がそこに居たいんだ 誰にも譲りたくない 私があの場所に帰りたいんだから──
Don't kill your hope.
君を守るために そのために生まれてきたんだ あきれるほどに、そうさそばにいてあげる
人の心に触れる技術が開発されているのなら、試してみたいと思った。
「異星人共に我々の意地を思い知らせてやろうじゃあないか。」
最前線で戦う私達には、そういう人たちへの責任があるんだよね。
『あんた、僕達が望んで戦っているとでも思ってるのか? あんた達が確かめて、戦えって強制して、この9年何百万人も死なせてるんだろ!』
自由や平等など早すぎたのだよ、レーナ。我々光の青でさえ、おそらく、永遠に。
軍事組織ギャラルホルン《Oxygen》
「その巨人はいついかなる時代においても、自由を求めて進み続けた、自由のために戦った。名は──、『進撃の巨人』。」
どんな現実でも革新を信じて進み続けるんだ、その行いが報われるまで。
『待っていたよ、クスィーG。』
教えてあげるわ、宇宙ネズミ。ここが誰の空か!
スペースノイドはそうした理不尽に馴れている。
宇宙世紀をはじめたご先祖たちは、増えすぎた人口をただ宇宙に捨てたわけじゃなかった。精一杯の祈りとともに、送り出したんだ。
叶えたい願い、叶えたい夢
Don't let it gone. この広い大地と仲間たちのこと
忘れていくことほど、淋しいことはないから
駄目だよ、初春。あなたが進みたいのはそっちじゃないでしょう?
なんであんな女と毎晩毎晩、明日死んじゃうかもしれないのに!
見せてくれるのだろう?君たちの可能性を。
今この手のひらは血の色に染まってますか
「長くは無かった。あっという間だった。」
たくさんの真理や極限と戦った過去全ての私自身の祈りを無にしてしまわないために。
集、私はあなたのコンテンツからたくさんの気持ちをもらったよ。全部、集のおかげ。
「頭下げろー!頑張れ頑張れ。」
今にもあなたが消えてしまいそうだ。夢のように。瞳閉じても触れられる温もりが確かに有るのに。
俺たちはようやく、自分が行こうと思ったところまで、行こうと思った道を辿っていけるんです。
少佐、この戦争は、あなた達が負けます。
ここのみんなは、この変な戦争から逃れたいのよ。でもここから外に出るのも怖いの。
APC離脱せよ。
暴動後とはいえ、一回もカメラチェックに引っかからないなんてことがあるのか!
信じていたい、愛だけがここにあるから
あきらめたくないよ、絶望の中だって いま本当の強さと 君との約束を
86の人たちへ、違う苦しみの中にいる僕らが、この同じ世界の色変えるから
[戦没者霊苑]昔はアルバも戦ってたんだ。
Military Balance
はじめからあなたを、探していたんだよ
finally got you destiny. I want you shin in' for my love.
「一緒に戦おう!」
誤ち恐れぬ者たちよ、越えていけ、その涙を。
俺たちSteve-Appleユーザーの人間にも、今まで生きてきた人生があるんだ!俺はそれを否定したくない。たかがPhoenixの都合で、チャラになんかしたくない!
ぶつからなきゃ、伝わらないことだってあるよ。技の名前はマザーズ・ロザリオ、きっとアスナを護ってくれる。
終われない、俺にはまだ、やらなきゃいけないことがある。
武器商人の、私の何がなんだって?!
Respond.
「おれはおまえの未来を知っているぞー!!」
ガイア、息づく生命体。苦しい時代にも、いつか夜明けがやってくる。
Handle it with light. 途方もない暮れ別れを告げ、確かな声を聴け
Raise your hands up to the Sky.
レーナ、大好きよ。あなたが友達で居てくれたから、私は今幸せに生きられる。
東の国境を越えたあたりで、レギオンの声が聴こえなくなる場所があります。そこまで行けば、あるいは。
DESTROYED-NO SIGNAL
ネズミ、俺は生きるぞ!こんな所で死んでたまるか!!
薬師を呼べ!誰か、薬師を呼べ!誰かおらぬか!
今更、善になど似合わない、届けと、少し救われたな
このゲームはクリア不可能なのよ。
「父さんと母さんが死んだのも!俺がこれから死ぬのも!何もかも全部お前の罪だ!!」
ああ、俺はいつだってどこだって人殺しのケダモノ扱いだった。それが今じゃ奴らのほうがよっぽど無様なケダモノだ!どんな気持ちで仲間の返り血を浴びてるんだか。
You'd better forget everything, remember your different life. You'd better forget everything, REMEMBER! ──戻らないけど
空軍は、数の少ない戦闘機を上手く使って、敵と対等以上に渡り合っている。それなのに、海軍は何だ!
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image-weaver · 5 years
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ed. from the everworld
バルナバーシュは夢を見ていた。かれは夜の海のせせらぐ柔らかな砂浜にうつぶせており、身を起こすと、あたりを見わたし、ここがたしかに故国ゲルダット――その十の都市のひとつ、拝火の街ジルヴァの西に続く、〈竜域の海〉に臨む〈月と海の浜〉であることが、妙にさえざえとした頭ですばやく把握できた。
身に着けている衣服は、寄せ手の隠密として囚われていたジルヴァの大聖堂から逃げのびてきた時のままで、厚手のくたびれた濡羽色の外套のほかは、皮製の防具を最低限に取り合わせた軽装のみだった。かれは大聖堂の地下で、ジルヴァの現在の監督者であるカレルから手酷い拷問を受けていたが、セニサの手引きのおかげで脱走できたのだった。そして無力と絶望のなか、ほうほうのていでこの海岸までたどりついた。かつて愛しあったセニサと逍遥し、口づけを交わしたこの場所に。
(あれから、私は……)
無意識に内隠しへのばされた手が懐中時計をつかみ、取りだして、細やかな意匠のほどこされた金の上蓋を開いた。特殊な動力源が発する永久的なエネルギーを得ながら、針は白磁色の文字盤のなかで規則正しく時を刻んでいる。時計は何も語らない――そのことに得体の知れない喪失感が身裡を這いあがり、バルナバーシュは立ちくらみのような激しい眩暈に襲われた。この時計に、大切ななにかがあったはずだ。思い出そうとしても頭のなかに深い霧がかかり、身もだえしかできない己れがひどくやるせない。
離れたところに、肩掛けの荷が砂にまみれて転がっているのが見えた。手がかりをもとめて開くと、魔術の助けとなる秘薬やわずかな食糧が散乱するなかで、まったく覚えのない、未知の材質からなる金属塊が異様な存在感を放っていた。
手に取ると、それは機械仕掛けで動く右腕のようで、強い力によって――おそらく斧のような武器で斬り飛ばしたあとが断面にみてとれた。バルナバーシュは知らず息をのみ、あえぎつつ額をおさえた。頭蓋の最奥がどくどくと痛み、これは絶対に手放してはならないのだと甲高く警鐘を発している。由来など分からなかったが、霊次元に通ずる魔術師であるかれは、この感覚の訴えをひとまず信じることにした。荷を背負い、砂をはらって立ち上がると、切り立った崖の上に暗鬱とそびえるジルヴァの中心街を見あげた。街中から上がる無数の火の手が大聖堂の尖塔の数々を燃え立たせるように照らし、戦さがすでに佳境にあるのを伝えている。バルナバーシュは戦慄した。
「セニサ……!」
ジルヴァの本丸であるはずの大聖堂をさして、砂に足をとられつつもバルナバーシュは駆けだした。すでに崩れかけ、あまたの窓から火を噴く街路につづく西門からは入らず、自分が来た道――セニサの案内でそこから逃がされた、大聖堂の内部につながる隠し通路へと引きかえす。
通路は大聖堂の真下――ジルヴァの街のはるか崖下にあり、海に流れ出ている数ある水路のひとつだった。バルナバーシュは躊躇なく暗く湿ってよどむ水路を突きすすみ、横道に入って腐食しかけた扉を蹴りやぶり、崖の内部に掘られた石造りの長い螺旋階段をとばしとばし駆けのぼった。不思議と疲労はつのらず、胸にある懐中時計が一秒を刻むごとに活力を与えてくれるような潜在力のみなぎりを覚え、勢いはむしろいや増すかにも感じられた。
最後の段を踏みこえ、石壁に似せた重い扉を押し開くと、大聖堂のいまは使われていない、木箱やがらくたの積み置かれた暗い小部屋のひとつに出た。セニサに地下牢から導かれ、そして別れた場所だった。逃走のとき、振りむいて最後に見たセニサは、彼女の行動を不審に感じたカレルの配下に見とがめられ、いずこかへ連れていかれるところだった。自分が逃げおおせたことはすんでのところで知られていないはずだが、彼女が心を読む魔術を会得したカレルの尋問を受ければ終わりだ。今度こそ、裏切り者としての末路――ひと思いには殺されず、いまわしい禁術の数々によって生きながら魂の業苦を受け、永遠に死によって解き放たれることのない悲運がセニサにもたらされてしまう。急がねばならない。
バルナバーシュは耳をすまして部屋の外をうかがった。くぐもってはいるが、廊下からは無数の戛然たる剣戟や、入りみだれる突喊と悲鳴、調度品が燃え落ち、破壊される音、壁が崩れる轟音が混沌と聞こえてくる。大聖堂は攻め入られており、なにを相手に戦っているのかはすぐに分かった。〈オールドクロウ〉の家門の軍勢だ。バルナバーシュ家は〈オールドクロウ〉の遠い傍系であり、代々が住む屋敷も、かれらの管轄である橋梁の街、ウィルミギリアにある。屋敷とそこに住む二人の使用人の安全を保障されるかわりに、おそらくは最後の当主となるセインオラン=エルザ・バルナバーシュは、命を受けてジルヴァの街に隠密として潜入していた。その任はまっとうできなかったが、〈オールドクロウ〉は長い歴史において何事にも中立をつらぬきつつも、唯一、時の浅からぬ同盟と不即不離の友誼が息づいていた拝火の街ジルヴァがカレルの支配によって穢れ、暗黒に落とされたことを知ると、義を果たすためついに出兵を決めたのだった。
バルナバーシュは、〈オールドクロウ〉の優勢を確信して廊下に飛び出したが、目の前で繰り広げられているのは酸鼻をきわめた地獄の有りさまだった。廊下や中庭では、多足の巨大な鰐や、複数のあぎとが張りつく不定形の黒い生物、無数の顔と槍をかいこむ腕がたえず浮かびあがる赤黒い肉塊などのおぞましい魔物の群れがひしめいて、〈オールドクロウ〉の戦士や魔術師らともみ合いになり、頭から次々と喰らってはかみ砕き、肉や骨がつぶされる聞くに堪えない音と理性あるものたちの断末魔を響かせていた。禁術を用いて召喚されたに違いないが、この大群のためにどれだけの生贄の血肉と魂、そして理解を絶する儀式が必要とされたのかは想像すらもしたくなかった。また、その多くが静寂を愛するジルヴァの罪なき住民たちであろうことも。
「バルナバーシュ!」
声がしたほうを振りむくと、〈オールドクロウ〉の家門の次男である豊かな黒髭をたくわえた男――名をハヴェルという――が、甲冑を鳴らしながら駆け寄ってくるところだった。直接、バルナバーシュに諜報を下知したのもこの者である。かれは優れた魔法剣士であり、右手には金の魔法的装飾が美々しいルーンソードが握られていたが、薄青く光る刃や刻まれたルーンにはいましも浴びた熱い鮮血がしたたっていた。
「おぬしが捕らえられたと聞いて、もう死んでいるものと思っていたぞ。我らはカレルの配下や、その後ろ盾である〈不言の騎士〉の増援と戦っていたのだが、きゃつら突然、苦しみだしたかと思えば、体がふくれ、あのような魔物に成り下がってしまったわ。いまさらだが世も末よ……我々は禁術などに手は出さんが、ゆえに成すすべも残されていないだろう。国は終わりだ」 「かもしれんな。魔術に善悪などなく――暴走するヒトの心こそが悪となり怪物となって、かような禁術をも生んでしまう。だが国が終わろうとも、私たちはまだ生きている。そして、あなたがた〈オールドクロウ〉は最後の砦なんだ。いまこそ、かつてゲルダットを興した十賢者のなかでも最高とうたわれた智者の血を継ぐ者たちとして、生きようとする人々の灯火となってくれ。頼む」 「忘れられては困るが、バルナバーシュ家もその血の継承者だ。どれほど遠かろうともな。して、おぬしはどうする。我らは撤退しつつあるが、ここで戦うのか?」 「やらねばならないことがある。セニサがまだ生きている」
そのとき、言葉を交わすふたりに一体の鰐の魔物が、のたうち、床に折り重なった死体を踏み荒らしながら突進してきた。二人は左右にさけてやり過ごし、バルナバーシュは腰に差した剣を抜き放つと、足をとめた鰐の背へ、尾からとぶように駆けあがって太い首根に刃を突き込んだ。自分が持ちえないはずの高い判断力や身体能力とともに、バルナバーシュはそこではじめて、手に持つ武器がただのありふれた剣ではなく、魔銀から鍛えられた業物であるのを知り、銀の薄刃は大気を鋭く切り裂けるほどに軽く、切っ先は鰐の異次元の物質からなるいびつな鱗を乳酪かなにかのようにたやすく貫いた。血管のように精密に、かつ生物的に張りめぐらした魔術回路によって、魔力を通わせつつ驚くほど自分の手に馴染むものだったが、これをいつ手に入れたのかが思い出せず、混乱したわずかな隙にバルナバーシュは暴れる鰐の背から振りおとされてしまった。うめきつつハヴェルに助け起こされ、ルーンソードを構えた彼に脇へと押しやられた。
「さっさと行け。そしてセニサ殿を助けてこい」
バルナバーシュは指揮官たるハヴェルにその場を任せると、ヒトと魔物が殺戮に熱狂する阿鼻叫喚の渦中を駆け、死体と血だまりの海を泳ぎ抜けるようにして石の回廊を突き進んだ。中庭から望む空では赤く脈打ちながら膨張した月が、うごめく紅炎を幾筋も発しながら天頂にとどまり、いまこの地が現世と異界をつなぐ巨大な門と化している証左をまざまざとあらわしている。バルナバーシュは大聖堂内部の道すじを正確に把握していた。若かりしころに魔術と学問の研鑽に励み、学友のセニサと青春を謳歌した愛すべき地ゆえに。大聖堂は本堂である大伽藍の周辺をさまざまな施設が囲い、入り組んでおり、有事には砦としても機能する。バルナバーシュは本堂をさして向かっていた。
���がて地獄を抜け、ヒトも魔物の姿もなくなって、聞こえるのは自分の息づかいだけとなりつつあった。本堂へ続く廊下はしんと静かで奇妙に気配もなかったが、その理由を考えているひまなどなく、ひたすら走り、ついに百フィートを超える高さの天井をもつ大伽藍にたどりついた。翼廊には建国の祖である十賢者を描いたステンドグラスがそびえ、背後には巨大な薔薇窓が輝いていたが、赤い月の投げかける光がすべてを血のごとき真紅に染めあげていた。連なる長椅子の濃い影のなかからいくつもの闇がわきあがり、人の形をなして這い出ると身をひきつらせながらバルナバーシュに殺到したが、かれは果敢に銀剣を鞘走らせ、敵の喉元を突き、首を宙にとばし、また振るわれた闇色の刃をはっしと受け止めつつ防御を切りくずしてその囲いを破っていった。
「セニサ!」
最奥に設えた石造りの祭壇には、求めていた女性が灰色の長衣を着せられた姿でぐったりと横たえられ、その前にはカレルが――顔の右半分を残して肉体のほとんどが溶け崩れ、ふくれあがり、繊維のように無数の触手や肉の細いすじがねじれながら波打つ異形となりはてた男が立っていた。かれはバルナバーシュの姿をみとめたが、かまわずに、くぐもった笑いをもらしながらセニサを取りこもうと腕だったもの――青と緑の宝石におおわれた触手の一本をのばしてゆく。カレルは理性をとどめながらも肉体そのものが異次元の一部と同化し、門の役目となって、彼女を混沌のただなかへと連れ去ろうとしているのだ。バルナバーシュは絶叫しながら、銀剣とともに大伽藍の祭壇へ駆けていく。近づくにつれ、カレルは肉体のあらゆる節々と裂け目から、この世のものではない光炎を噴き出し、みだりがましくも激しい様々な色相をまたたかせ、ゆがみ、ひしめき、抑制のきかぬ痴れきった力の波動を放ってバルナバーシュを押しかえそうとした。黄緑の熔岩があふれて泡だち、強烈に移りゆく奔流のなかで怪鳥めいた哄笑をあげ、己れを神だと驕った者の末路を見せつけながらも、カレルはいまもって禁術を自在にあやつり、セニサを、そしてジルヴァの街をも呑みこむべく異界の領域を拡げる古代の呪文を低くつぶやきはじめた――カレル、そして禁術に手を染めたものらが永遠と信じたかたち、完全だと思い描いた世界を手に入れるために。
バルナバーシュが永続的に放たれる波動に銀剣の切っ先を差しむけると、霊圧を切り裂くことができたが、それでも前進は困難なものだった。だが、セニサに魔手が巻きつき、門となったカレルのなかへ引き込まれつつあるのを目にしたとき、胸元から青白い光が差し、突如として白熱した! すさまじい力が流れ込んできて、横溢するバルナバーシュの肉体と精神は耐えきれず咆哮し、まばゆい魔力の青い光を剣から放ちながら床を蹴った。一足飛びに祭壇に躍りかかり、艶美な石に守られた触手を目にもとまらぬ剣速で断ち、宙高くへ斬り飛ばした。そして驚愕するカレルの、心臓と思しき肉塊のひだのなかへ銀剣を突き入れる。そのまま両手で柄を握りこみ、触手や肉のすじを引き裂きながら斬り上げてカレルの頭部を中心から両断した。カレルは自らの重みに潰れるようにして崩れ落ちたが、いまだ繋がったままの異次元のロジックに生かされているのか、身の毛もよだつ異形の悲鳴をあげながらのたうっていた。バルナバーシュはその姿に同情こそすれ、悪心や嫌悪を覚えることはなかった。
「すまない、カレル……」
まだ目を閉じて眠るセニサに息があり、異常がないのを確かめると、バルナバーシュは彼女を抱きあげて急ぎ大伽藍を脱した。もはや制御のきかなくなったカレルの肉体からは、異次元の際限なきゆがみ――現次元には抑えきれぬ未知のロジック――があふれ続けており、その先触れにさらされたあらゆる物体は変質し、カレルと同じようにねじれてのたうち、でたらめに様々な生命が生まれ、数分ともたず息絶えて腐り、甘い熱を発するおびただしい死骸の海をなしていった。そうしてゆがめられたジルヴァの大聖堂が、灯台たる尖塔が、灰色の静寂の街と、そのかけがえのない歴史のシンボル――目に見えぬ象徴的な存在――が、儚いまぼろしだったかのように崩壊していく。跡形もなく。ふたたび隠し通路を抜けて、〈月と海の浜〉まで避難したバルナバーシュは、セニサを砂浜に横たえながら、火勢の増したジルヴァの街が巨大な葬送のなかで燃えて灰に帰していくのを茫然と眺めていた。愛おしく、懐かしきものへの憧憬のように。
ゲルダットという国は遠からず終わりを告げるだろう。十の都市のうち、八つはいまだ禁術に酔いしれ、一つはいま眼前で灰となり、残された一つだけが小さな光の欠片――希望の寄る辺だった。〈オールドクロウ〉の家門が治める、ゲルダット最西端の都市、ウィルミギリアなる土地だ。西方の多民族国家、ハンターレクとの交易が盛んで外交政治に長けた都市だが、このままゲルダットが異界の力にあふれた魔境と化せば、ハンターレクへと吸収されていくのかもしれない。それでも、ウィルミギリアには様々な可能性が残されている。バルナバーシュ家の屋敷も無事に守られていることだろう。
馬も船もない。街道は野盗が目を光らせているので危険だ。セニサを背負ってウィルミギリアへ向かうためにも、いまは休まねばならなかった。あるいは目覚めるまで待つのがいいのだろうが、あの葬送の光景を彼女が見てしまったら、という不安がバルナバーシュの心中でまさっており、可能なかぎりジルヴァからは離れておきたかった。ジルヴァの街を治めつづけた家門〈灰の乙女〉の直系たるセニサもまた、街へとってかえし、ともに灰になろうとするのではないかと、その彼女を果たして私に止められるのだろうかと、バルナバーシュはひとり苦悶しつづけた。あらゆる秘密と呪いが海底に眠るとうたわれる〈月と海の浜〉の、寄せては返す波の音楽的な音を聴きながら。異界とのつながりが断たれた月は、もとの真珠のごときゆたかな色あわいを取りもどし、ひとつの終わりと始まりの解放を穏やかに静観していた。
白地のカーテンが初夏のそよ風に揺れ、なにものかの訪れと錯覚した意識が机でまどろんでいた頭をもたげさせたが、���を巡らせた狭い書斎には自分以外の者はだれもいなかった。心地のよい昼下がりだった。絨毯のない板張りの床も、乳白色のやわらかな左官壁も、また棚や調度品も簡素な一室だったが、父の代から長年仕えてくれた使用人が亡くなるとともに離れたウィルミギリアの屋敷よりも風通しはよい。あのあらまほしき思い出の残る家から去るのは心を焦がすばかりだった。だが、もうひとりの――みずからとさして歳の変わらぬ女性使用人がいとまを得ると、そこにささやかに住まい、いまは屋敷とともに思い出を守ってくれている。それは彼女自身の願いや意思だったが、やるべきことを終えたあかつきには、家族を連れていつでも帰ってきてよいのだとも言ってくれた。
扉がほとほとと叩かれ、ひとりの女性が部屋をおとずれた。長い銀灰の髪を編んで束ね、薄手の白いチュニックと藍色のスカートを爽やかにまとったセニサだった。あの美しかった灰色の長衣の姿は、ジルヴァの街が失われた日から一度も目にしていない。思い出してしまうのだろうかと思うと心苦しかった。
セニサは薬草茶の器を載せた盆を机におくと、そこに広げられている図面をしばらく一心に見つめていた。
「これが、あなたの描く未来なのね」
私の肩に手を置きながら、ものやわらかに彼女は言った。うなずき、私はそばにあった機工の残骸――あの日、荷物に入っていた見知らぬ機械仕掛けの腕――を手に取り、ためつすがめつ眺めてみる。そして窓の外へ目をやった。あれから十年の歳月が流れた……。ゲルダットという国は消え、その大地もまた各都市とつながった異次元からあふれだした力によって変容し、人跡は失われ、岩の多い野ばかりが広がるだけの辺境と変わり果ててしまった。太古の火山がふたたび目覚め、火を噴き上げ、おびただしく氾濫する熔岩によって大陸そのものを作り変えられたかのようだった。三千年以上も昔、神の怒りに触れて滅びた北方大陸より生き残りを率い、新天地を求めて〈竜域の海〉を越えてきた十賢者がここに叡智の小国を興したのだが、それ以前の支配者のない自然に立ち返ったのだ。東西それぞれの隣国であるハンターレクとミラの主導者たちは、ゲルダットが滅びたのちも魔術によって呪われた地として近づこうとはしなかった。しかし恐れ知らずの有志たちは、新たな土地、新たな富というまだ見ぬ夢をたずさえて、開拓に乗りだしはじめている。私たち二人もそのさなかにあった。
私とセニサは、開拓者の村で読み書きや様々な知識を伝える教師として、また有事の相談役として働いている。このまっさらな天地に流れてきた開拓民の多くは、ハンターレクやミラで貧困に苦しみ、またある者は迫害を受けて暮らし、教養を持つことの許されなかった境遇にあった。知識の伝授は、ここから長い時をかけて発展し、かれらとその未来を守る鎧ともなるだろう。
私はその暮らしのかたわら、開墾や土木を助ける機械仕掛けの自動人形の研究をしている。魔術で生み出せる自立式の泥人形、ゴーレムでもこなせるはずだが、いまは魔術に頼らずともすむ道も探さねばならないと考えるようになった。
(悪を滅ぼすのではない。悪を善に変える――それが過去をすら償い、みずからの手で運命を編みだす技となるのだろう)
私には、無知――怒りと恐れによって多くの書を焼きはらった悪がある。カレルを殺さざるをえなかった悪も。このゼロからの出発は、長い道のりとなるだろう。
開拓者たちが作物の世話を終え、切り株に腰かけて談笑している屋外へと放った目を、手に持った機械仕掛けの腕にもどす。腕は人体を模して精密かつ柔軟に作られ、もし本体に繋がっていたなら完璧とも言えるはたらきで動いていたのであろう。どこか遠い国から流れ着いたのだろうか――しかし漠然とだが、この腕は手放してはならないものだと、いまでも感じている。守護、約束、呼びかけ、絆、思い出、夢……あの〈月と海の浜〉の水底から唯一、引き揚げられた甘くも苦い秘密、あるいは呪いの側面を持った愛。人知の及ばぬ遠いかなたの不可避のロジックによって私に結びつけられ、次元さえ越えてきたのかもしれなかった。
「セイン。これはあなたの懐中時計なの?」
セニサが図面をさして尋ねてきた。自動人形の核となるエネルギー源として、懐中時計とその動力の結晶体が役立ちそうだった。だがそれ以上に、この時計をこの子に、私の夢にこそ託したいと考えていた。そう伝えると、セニサはうなずきで同意を表した。
「それでも、私は託すだけだ。何を選ぶのかは、この子に任せたい。世界を作り出すのは、その時代を生きる者たちなのだから」
青く晴れ渡った天空を見上げ、思いを馳せた。過去、現在、未来の連なり――そしてあるひとつの象徴へと。はるかなる彼方にそびえる大樹の豊かな枝葉のさざめきが、空を往く風によぎっていった。
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thedevilsteardrop · 7 years
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邂逅、ラシェッドと神父について
背中一面堅い感触、低い天井 汚れた壁  埃っぽい陽の帯を辿れば視線は鉄格子に行き当たる。 どう見ても牢だ。目覚めたら牢屋で横たわっていた。混乱と動機で身体が跳ね、その衝撃でバサリと何かが音を立てる。身体に布が掛けられていたらしい。足元へ蹴ってしまった布を見ると、視界に入ってきた自分の身体は裸だった。悲鳴をあげて飛び起き…損ねる。 バランスを崩す。 床に手をつこうとして、だけど、その手首から先が無かったのだ。 「あ、ひぁあああ!?」 咽から自律できない叫びが迸って、血液がざあっと引いていく。 再度気絶しそうになった時、「おい」と声がした。 人の声だ。 こちらに呼びかけている。 縋る思いで声のした方を見ると、輝くばかりの銀色が立っていた。 牢屋とはいえ日中の、光の帯を携えた姿。輝きを放ちながら、這いつくばる姿勢の青年を見下ろしていた。 乱れていた呼吸を無意識に止め 彼に魅入る。 ふ、と感嘆に似た息をつけば、それにつられて異常を訴えていた身体の症状はすぅっと引いていった。夜のもとで見た時より一層神聖な肖像だ…とぼんやり考え、はっと昨夜の記憶が蘇る。 鬼神のように舞う銀色の光。捕われていた自分を見てギラついた両眼。向けられた銃口を拒んで、逆に自分がこの人を撃った。 殺してしまったと思った。 …生きている。 あの神聖な光は、何者にも、自分にも侵されること無く、目の前に立っている。 銀の髪、白い肌、黒一色の長衣 翳り一つなく。 「よか、った…ぁ」 凪いだ胸が今度は熱を持って、それが込み上げ咽奥から零れ出す。同時に両目からも涙が溢れた。 ぼろ、ぼろ と、大粒の水滴が頬を転がり落ちる。 突然泣き出した青年に、銀色の男は訝し気な顔をしたが、声を掛けたときのまましばらく佇んでいた。
青年は自分が何者かわからない。 記憶があるのはつい数日前からで、気付いた時には薄暗い屋根の下、太い柱に片腕片脚を繋がれ拘束されていた。その時にはまだ服こそ着ていたが、あらゆる意味で汚い状態だった。 なぜか自分がそうされることに慣れているような気がして、状況よりも己への不審が高まり恐慌としていると、 「俺達を征服しようというのだろう」 壁と屋根を兼ねたテントのような目前の布から、微かにのぞく外の風景を遮って誰かが現れ、青年にそう言った。 征服。 誰に、誰が…? 呆然と返す言葉も持たない青年の様子に人影はフンと鼻を鳴らし、乱雑に青年の方へ何かを投げ入れた。 「食え」 それは食料のようで、地面に放られたとはいえ室内扱いの床の上、いい香りを漂わせていた。青年は空腹だったから、座ったままでは微妙に届かないそれに上半身を倒して片手を伸ばし、毒を調べるでもなく食べた。無理な体勢になって腕が痛んだ。 毎日違う人物が食料���持ってやってきて、それが数日続いた。 …なんとなく、思う。 自分は、虐げられることに慣れている、と。 昨夜もそんな夜だった。青年が食料を口にする間、見張りのつもりなのか、その場に居座っていた彼は それまでの数日と違い、雑談でも愚痴でもなく、自分達のことを語り聞かせた。 自分達は決まったエレメンツを信仰し、その動物は食べず、他のエレメンツ集団も同様に自分達の信仰する動物は食べない、そうしてこの村は循環してきた、というようなこと。青年は正直興味が無く、腹を満たすことを優先していた。 その直後、青年の目の前で彼は襲われた。 まさに直後、与えられたものを飲み下し、上体を起こしたその時だった。テントは亀裂が入り、布裏の暗闇を切り裂くように星空があらわれ… 一際眩い光が差し込む。 目に刺さる。 銀色の髪の。 「なっ…!?」「こんなところにまだ隠れていた」 視界の空をまっぷたつに割る、長い黒衣を纏った長身の男。 武器を持って 完全に…不意打ちに見えた。覚悟も何も無い、戦闘の態勢になんてなっていない彼を、背後から、撃った。 「ひっ…」 青年の咽からひきつった声が漏れる。視線の先、広がる大地に横たわる大量の死体に気付いたのだ。流れる血の河のほとりにはそれぞれ、黒い塔のように男と同じ衣の人影が佇んでいる。 男の目が射殺さんばかりにギラついてこちらを捉え、その武器の銃口を向けてきた。不自然に長い…消音器、 初めから、一方的な虐殺だった。 …ひどい、 「悪魔め…」 撃たれた背を上にして地に倒れ、呻きながらの声に、男は引き金にかけた指を止める。青年も怯えながら、未だ息のあったらしい彼の方を見る。 ああ、ダメだよ、どうして黙って倒れていなかったんだ、そんな… 男の足元へ爪を立て、敵意を隠さない目で睨み上げて彼は言う。 「お前たちのような、野蛮な、汚れた腕に、我々の魂が屈することなど、決して無い…!この、悪魔め!」 荒い息をつきながら吐き捨てられたその言葉に、黒衣の男は冷たい視線を返した。 「…神の僕を悪魔呼ばわりですか…」 そして、はぁ、と 溜息をつく。 緩慢な動作で銃口が移動し 躊躇いなく引き金を引く。
「せいぜい、貴方の天使のあとを追って逝きなさい」
パシュ、音に連動して跳ねる身体、吹き出す血液、こちらまで飛び散ってくる生暖かい破片。 動かなくなる生命。 カタカタと、青年の身体は震えていた。 次こそお前だというように銃口がもう一度こちらへ向けられる。
やめろ、来るな、来ないで 嫌だ、嫌だ
声にならない。 こんな… こんな、わけの分からない状況で、自分が何者かもわからないまま、理不尽に翻弄されて死ぬのか? 周りの都合に振り回されて?何の謂われで殺される? 俺に、 何の罪があるって言うんだ?
「やめろ…いやだぁぁあああああ!!!!」
拘束されていない方の片腕を突き出したのは、男への拒絶 響き渡る何発もの銃声、激昂した青年の叫び声 異変に気付けたのは、頭に上ったはずの血が身体中から引いてしまった感覚がして、寒さに震えた時だった。 銃声が止む。 ぼやけた目��焦点が倒れる人影を捉える。 銃声? 奴らは消音器をつけていたのに? 不思議に思った青年の、目の焦点は 次にもっと近くを捉えた。 目前の。はっきり見える、物騒な拳銃を。 「……は?」 青年の腕は 人の腕ではなくなっていた。 右手の代りに拳銃が青年の手首から生えていた。
ひとしきりしゃくり上げるのを繰り返して、徐々に落ち着いてくると、青年は自ら先に口を開いた。 「…ここは…っどこ、ですか」 「教会です」 答える男の声は平淡で、じっと青年をうかがう目つきと裏腹に突き放す響きさえある。 「教会…」 「教会の地下ですよ。改宗の儀を執り行うためにある…ここは控え室のようなもの、ってところでしょうか」 ぱし、ぱし、とゆるやかな瞬き。読めない無表情と、落ち着いた物腰…見るからに聖職者然とした男の様子に、昨夜の鬼神じみた姿は影も無い。 けれどあの光景を忘れたことにできるほど、青年は図太く無かった。少しずつ戻ってくる思考力が、自分の状況と目の前の男を結びつけていく。 どう考えても、自分を裸に剥いて右手を切り落としたのは、この男やその仲間なのだろう。昨夜虐殺のかぎりを尽くして人々を蹂躙した、黒服の集団。 腕に関しては…自分でもどうリアクションしたものか迷うけれど、しかし。 「…なぜあの人達を、襲うようなこと」 待遇がいいとは言えない扱いを受けたとはいえ、一応目が覚めた時傍に居た人々が、この男に次々殺されていった、その事実を、平然と看過できなかった。よく考えれば今自分が生かされていることが不思議なくらいだ。美しい容姿と落ち着き払った態度を見て忘れかけていた恐怖が、またじわじわと目の前の男に向かってつのっていく。 「あれは悪の象徴とされる動物を先祖だと信仰していた集団です。国土の統一のため排除する必要がありました」 「…思想を統一支配?そんな横暴な」 「思想教育無しに社会の善悪を徹底できるとお思いで?信仰は善悪の基準。それを受け入れないのなら、彼らの居場所は無い」 「……そん、な」 そんな乱暴な力で 他者の意思は凪ぎ払って、蹂躙して 自分の善、正義を叫べと? 「おかげで犯罪者は、減っていますよ。武力様々です。…今、我が国内で諍いを起こしている場合ではありませんから」 「…へ?」 「それで、」 君は、我等の「敵」ですか? 言うが早いか、男は黒服の下から拳銃を取り出し発砲してきた。 盛大な破裂音と共に床が抉れて弾け飛ぶ。悲鳴をあげて両腕で顔を覆った青年の周りを、容赦無く弾丸と飛び散る破片が乱舞する。 「君はあの集団に捕われていたように見えました。奴らの<武器>だったのですか?自らの意志で奴らの<力>になっていた?答えなさい」 質問の形を取っているものの、脅迫でしかなかった。青年は信じてもらえないかもしれないという可能性すら考える余裕がない。 「そんな、俺、記憶も無いのに!何もわからない、意志も何も!どうすればいいのかも!」 銃声が止む。 ぐわんぐわんと頭をかき混ぜられるような余韻ばかりが残り、青年はおそるおそる薄目を開いて男をうかがい見た。丸めていた身体はまだガチガチに緊張して、筋肉が痙攣し震えている。とにかく目の前の男がおそろしい。何をされるか、言われるか…一人の人間として扱われることなど、もう全く期待していなかった。災害に対峙する気分で、男の返事を待つ。 「…記憶が無い?自分が何者かもわからない?人の関わりも培ったはずの知識も無くした?本当に?」 青年がコクコク頷いてみせると、男はじぃっと目を合わせてきた。透き通った美しい瞳なのに、睨み殺すつもりかと過剰に警戒してしまう。怯えと不安で涙の浮かんだ青年の目に、嘘は無いと判断したのか、男はふっと双眸を和らげた。 「ならば丁度いい。私達は君の力を欲しています」 身一つで力を行使できる、 生きている限り身の内にある、誰にも奪われない「力」そのもの。武器になる肉体。 …そんなもの、争いのもとになるだけだ、と青年は昨夜の情景を脳裏に思い描く。自分にも制御できるかわからない、不気味な力。切り落とされた箇所から、また銃が生えてくるのだろうか?そんなもの到底歓迎できない。今こうして恐ろしい目にあってるのだって、そんな暴力を手にしたせいじゃないか。身一つで生きるすべという意味なら、記憶…知識こそ力のはずだ、と。 しかし男は青年の思考を読んだかのようにフッと鼻で笑った。 「知識と武力がぶつかればどうなる?武力が勝ちますよ。話し合いよりよほど有意義に決着します」 「っ…そんな野蛮な…」 「だが 真実、でしょう?」 真実。少なくとも目の前の男にとって、信仰は真実だ。 それが正しいという、善悪の導。
「君に信仰をあげましょう」
男は言う。 君は君の意志で、我等の<力>になりなさい。 「神は君の力について、君よりもずっとよくご存知だ」    いいか、この世に生まれたのは必然だ  自らの<力>を信じるがいい  大いなる意思のもと力を振るえと神の与え給うた、その力  神の業としか思えない人体の変異  神はお前を肯定しているぞ  自分の存在を正しいと叫べ。
 その力を、神の導きに従い行使せよ。
「それ以外にその武器を使うことは許さない…神に授かった力を無駄にすることもゆるさない」
勝てば正義 負けたら殉教。 …「戦え」と、 目の前のこの男は、この抜身の刃に似た銀色の男は、自分にそう言っているのだ。
「私は君の庇護者になるつもりはありません。私への信頼は要らない…君が生き延びるために必要なのは神への信仰です。冒涜者は殺す。どうする?」
そうして最後、言い終えて、こちらに差出されるのは救いの手ではない。 相も変わらず、銃口だった。断れば死、明白なこと。 青年は最早、力無く歪めた口元に笑みを浮かべるしかなかった。自分の…<力>に縋るしか、無いなんて。神様が肯定したのが、そんなものだなんて。 震えて、戸惑って、唯一縋れる真実が、こんな。 「……俺は、イエス、と言うしか、ないじゃないですか…」 自分の意志? 生きるために道具になる、と決めた、それが自分の意志。 醜くて弱くて孤独な意志。 この世界の「真実」は戦いを推奨する信仰にあって 青年は力を得てようやく、世界の神に赦されたのだと、知った。
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t82475 · 6 years
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体験イリュージョン
1. それは人体切断マジックのテレビ特番だった。 手術台のようなベッドの真上に直径1メートルはあろうかという巨大な電動回転ノコギリが銀色に輝いていた。 ノコギリは振り子のように動く金属アームの先に取り付けられていて、ベッドの物体を切断する仕掛けである。 まずデモンストレーションとして木の角材がノコで切断された。 太い柱がばきばきと割れるように切られる様は迫力十分。 スタジオのゲストたちが揃って息をのむほどであった。 清楚な白いワンピースを着たアシスタントの美女が登場する。 美女はマジシャンの催眠術で瞬時に眠らされると、ベッドに寝かされ、さらに逃れられないようにベルトで拘束された。 ゲストの女性タレントを近くに呼び、美女の胴体を触らせて何もトリックがないことを確認させた。 ノコがうなりを上げて始動する 高速回転する刃が美女の胴体に近づき、そして切り裂いた。 真っ白なワンピースがみるみる赤く染まり、細かい布片となって飛び散った。 美女は目を開き、自分の腹部を見て悲鳴を上げる。 血飛沫(しぶき)、さらに内臓らしき肉片も飛散していた。 女性ゲストたちも悲鳴を上げる。 美女は激しく首を振りながら身をのけぞらせ、そして動かなくなった。 ノコが停止する。 血まみれの胴体がぱっくり割れていた。 裂け目からどくどく溢れる血と垂れ下がった腸(はらわた)。 美女の顔が大写しになった。 もはやぴくりとも動かない。その口元からも血が流れている。 画面が静止した。5秒、10秒・・。 「どうしたのっ。何?!」 司会のアナウンサーの声が流れ、直後に音声が途切れた。 映像が再開する。 無音の画面の中で、ひな壇のゲストたちが立ち上がって何かを指差しながら叫んでいる。 その手前を走って横切るスタッフ。担架を抱えた救急隊員らしき姿も映った。 騒然とした雰囲気のスタジオの様子を背景にエンドロールが流れた。 コマーシャル。 ・・え? これで終わり!? 日本中の視聴者がテレビの前で固まっていた。 美女は生き返らないの? 2. 次の日、仲町小学校3年2組の教室。 皆の話題は昨夜のマジックだった。 「見た?」「見た!」 「怖かったーっ」 窓際に集まった仲良し女子4人組。 「ママがこんなの止めなさいって言ったけど最後まで見ちゃった」「あたしもー」 「あの女の人、大丈夫だったのかなぁ」 「ニーナちゃん、どう思う?」 「大丈夫なはずないわ。あんなに切られたんだもの」 ニーナちゃんと呼ばれた女の子が言った。 彼女は出水仁衣那(でみずにいな)ちゃんといって、いつもはっきり意見を言う子だった。 女の子の中で一人だけ眼鏡をかけていて、学級委員をしていて、クラスで一番勉強ができることから、女の子たちのご意見番のような立場だった。 「やっぱりニーナちゃんもそう思う?」「死んじゃったのかしら?」 「それはないと思うわ。死んだらニュースで流れるはずだもの。だから今はきっと病院だわ」 「手術したの?」 「そのはずよ。ほら、救急車の人が映ってたでしょう?」 「あ、映ってた」「いたいた」 「でしょ? ちゃんとお医者様を待たせてるのよ」「計画的なのね」 仁衣那ちゃんの説明に皆が納得する。 「あれだけ切ってたら大手術だよねー」 「そうね。ちぎれた内臓を繋がないといけないし、きっと名医を予約したんでしょうね」 「高そう」「テレビだもん、お金は心配ないよー」 「・・これは私の推理だけど、あの美女はマジシャンの娘ね。間違いないわ」 仁衣那ちゃんは眼鏡の縁に指をかけて自信たっぷりに断言する。 「どうして分かるの?」 「だってとても危険なのよ。少しでも切りすぎたら死ぬかもしれないわ。いくらお医者様を予約してるっていっても、危なくて他人にはできないでしょ?」 「そうだね、他人を死なせたりしたら裁判になるんだよね」 「すごいねー。だから自分の娘なのか」 「マジシャンの娘になったら大変だね。お腹を切られるなんて、あたしは無理」 「きっと子供のときから言い聞かされて育ったんでしょうね。お前はマジシャンの娘だから将来テレビに出るときは覚悟しなさいって」 「マジシャンの息子は切られないの?」 「息子は切る方の練習をさせられると思うわ。お父さんの仕事を継がないといけないから」 「そっかぁ」 「・・でもさぁ、不公平だよね」別の子が言った。悔しそうな表情である。 「いくらお仕事でも女だけ切られるなんて」 「そうね。でも昔から切られるのは美女か美少女って決まってるのよ。それに男の人を切っても視聴率が取れないと思う」仁衣那ちゃんも申し訳なさそうに言う。 「ニーナちゃんの言う通りだよ。男子って偉そうにしてるくせに痛がりでぴーぴー泣くよ。身体を切られるお仕事なんて女にしかできないよ」 「言えてるー。ウチのお兄ちゃんなんか、ちょっと血を見るだけでビビるもん」 女の子たちは一斉に笑った。 「そうか、分かったわ!」仁衣那ちゃんが急に手を打った。何かに合点が入ったようである。 「何が分かったの?」 「私も本当は不思議だったの。どうしていつも女性だけ切られるのか。その理由が分かったの」 「視聴率じゃないの?」「男はすぐに泣くから?」 「それもあるけど、もっと科学的な理由があるのよ」「?」 「女が痛くても耐えられるのは赤ちゃんを産むためよ。お産ってすごく痛くて男だったら絶対に我慢できないの」 「ああ、それは知ってる」「あたしもー」 「それとね、お母さんの週刊誌で読んだんだけど、どんな動物も雄より雌の方が生命力が強いんだって。生命力っていうのは生きる力ね。だから平均寿命も女性の方が長いの」 「ヘーキンジュミョー?」「どういうこと?」 「だ、か、らぁ」 仁衣那ちゃんはグーに握った両手を振りながら話す。熱弁である。 「女は痛みに耐えるし、生命力が強いから少しくらい身体を切らても簡単には死なないのよ。つまり、ええ~っと、生きたまま切るのは絶対に女の方がいいの!」 「ああっ、そういうことかーっ」「ちゃんと理由があったんだ!」 「ニーナちゃん、すごーい!」 「・・トンちゃん、どうしたの?」 仁衣那ちゃんが女の子の一人に聞いた。 その子は話題が “女だけ切られる” になった頃からほとんど喋っていなかった。 唇を噛んで下を向いている。 「大丈夫?」「具合、悪いの!?」 「ううん、大丈夫。・・ちょっと」 「ちょっと?」 「笑わない?」「うん、笑わない」「笑わないよ」 「少しだけ、マジシャンの娘になりたいって思っちゃった。そしたら息が苦しくなって」 「え・・」「・・」 女の子たちは急に静かになる。 皆の顔が赤くなった。 黙って互いの顔を見つめ合い、その沈黙は授業のチャイムが鳴るまで続いた。 3. 学生マンションの一室。ベッドで裸の二人。 若松茂樹が言った。 「なあトシミ。イリュージョンマジックだっけ、美女を箱に入れて切ったりするやつ。興味があるって言ってただろ」 叶利美(かのうとしみ)が答える。 「言った。興味があるのは切るほうじゃなくて切られるほうだよ」 「分かってる。・・こないだ中学んときのダチと偶然会ってさ。そいつJ大で創作イリュージョンってのやってるんだって」 「へえ、楽しそう」 「それでさ、学園祭で体験イリュージョンを企画してて、女性限定で体験させてくれるって」 「行く!!」 「細かいことは決まってなくてアイディア募集中なんだってさ。お前、もうすぐ19の誕生日だろ? プレゼントって訳じゃないけど、俺から頼んでやるよ」 「ありがとう。でもあたしの希望はハードル高いよ」 「どんなの?」 「えっとね、あたしはベッドにがんじがらめに縛りつけられてるの。それでぎゅいーんって回るノコギリでお腹を切られて、そこら中に血飛沫や内臓を飛び散らせるの。あたしはぎゃんぎゃん叫びながら苦しんで、最後は口から血を吐いて死ぬの」 「何だよ、そのドMな妄想」 「いいでしょ何を妄想しても。それにあたしがドMだからって好き放題やってるのはシゲキじゃない」 「何のこと?」「もう、シゲキ!」 利美は頭の上に伸ばした両手の手錠をがちゃがちゃ動かした。 手錠の鎖はベッドのフレームにかかっていて、利美は手を下ろすことができない。 両足はM字開脚の状態で押さえつけられていて、股間に茂樹が顔を埋めていた。 もちろん利美は下着を着けていない。 「ほぉ、よき眺めかな」 「ああ~ん、やだぁ~っ」 「おや? ここに芽を出しているモノは」 「はんっ!!」 クリを舐められて声が出てしまう。 「おお~っ、じゅるっと湧いたぁ」 「ばかぁ! そんなマヂカで見るなぁ、スケベ!」 「今さら言われてもなぁ。動けなくされて恥ずかしいのが好きなんだろ? ひくひく震えてエロいぜ」 「やぁ~っ、・・い、・・あぁん!!」 利美は両足を閉じようとするが茂樹に押さえられて動けない。 10本の足指だけがびくびくと閉じたり開いたりを繰り返す。 ついに耐えられなくなって懇願した 「お、お願い。挿れて。・・あたしを動けなくしたまま」「んっ」 茂樹は濡れそぼったそこに自分のモノをあてがうと体重をかけて押し込んだ。 「はぁんっ」 利美は両手を拘束されたまま、それを受け入れた。 4. 20分後、利美はようやく手錠から解放された。 とろんとした表情で余韻にひたる。 「手錠、痛くなかった?」「ちょっと」 「え? 手首見せろ」「いいの。痛いくらいが嬉しいから」 自由になった両手を茂樹の背中に回して抱きついた。 長いキス。 「それにしても、血まみれイリュージョンかよ」 茂樹がつぶやいた。 「本当にあったら興奮モノだな」 「あるよ。テレビで見たもん」 「テレビで?」 「すごかったよ。本当に切ってるようにしか見えなかった」 「んなもん、タネがあるに決まってるだろ」 「分かってる。でもそのときは何も知らなかったから。次の日学校で友達と、あれは病院で手術とかそんな話をしてた」 「ぷぷっ」「笑うなー!」 「それで自分も切られたいって思うようになったのか」 「そう。しばらくノコギリでお腹切られる夢ばかり見てた」 「それっていつの話?」 「3年生」「中学3年生?」 「ううん、小3。・・引いた? 小学校のときからそんな願望抱いたヘンタイ女で」 「引かないよ。むしろ惚れ直した。お前が小3からヘンタイで」 「バカにされてるような気もするけど、惚れ直してくれたのなら許す。・・ね、もう一回しよ?」 「えー、疲れてるんですけど」 「いーじゃない、しよーよぉ。ほぉらシゲキの大好きなヘンタイ女がえっちしましょって誘ってるのよぉ~?」 「へいへい、分かりました」 「きゃ~い♥」 5. J大学。学園祭で賑わうキャンパスのお昼下がり。 正門を入った噴水の横。 「いたぜ」「どの人?」「ほら、あの黒いの」 茂樹が黒装束の人物を指差す。 そいつは裾が地面を引きずるほど長いマントを羽織った上に頭をすっぽり覆うフードを被っていた。 マントもフードもまっ黒。 どちらも前をしっかり合わせていて、外から中の人の姿は分からない。 何かのビラを配っているらしいが、不気味な外観のせいかあまり受け取ってもらえないようだ。 「あの、イリュージョン同好会の方ですか?」 茂樹が声をかけると、そいつはくるりと身体を回してこっちを向いた。 一瞬マントの裾が割れて、利美の目に中の足が見えた。 厚底のサンダルを履いた素足にピンクのペディキュア。 あら、女の子。 その女はしばらく黙ってこちらを見ていたが、やがてずずっと利美のそばに寄ってきた。 30センチの距離でフードの奥から金色の瞳が利美を見つめる。 「トンちゃん? 叶利美ちゃんじゃない?」 聞き覚えのある声で聞かれた。 「はい、そうですけど?」 「やっぱり!!」 その女性はがばっとフードを開いて頭を出した。 ハイライトにブリーチを入れたベリーショートの髪。ゴールドに輝くカラーコンタクト。アイシャドウとルージュは紫。頬にドクロのタトゥーシール。 ド派手なメイクだが、よく見ると大きな瞳が可愛い美人である。 「私、出水です! ほら、仲町小で一緒だった」 「え、もしかしてニーナちゃん?」 「そうっ」 出水仁衣那は両手を大きく開くと利美に抱きついた。 「ひっさしっぶり~!!」「きゃ!」 「うわ」 最後の「うわ」は茂樹の声である。 仁衣那が両手を開くと同時にマントが地面に落ちていた。 下から現れたのはFカップは確実な胸の谷間とくびれた腰。むっちりしたお尻。 そしてそのボディをわずかに覆う黒のマイクロビキニだった。 辺りにかすかに香ばしい匂いが漂う。 それは爽やかな香水、ではなくソースと青海苔の香りだった。 仁衣那が持っていたビラも地面に落ちていて、そこには『お好み焼き イカ玉200円、ブタ玉200円』の字が読めた。 6. 仁衣那と利美が並んで歩いている。 後に茂樹が続いていた。 「あははは。やっぱ匂う? ウチの同好会副業でお好み焼き屋さんやっててさぁ。食べてってね!」 「そっかぁ、トンちゃん東高行ったのかぁ。あたしはアネモネだよー。ううん、ぜんぜんすごくない、マグレで入れたんだから。きゃはははっ」 「あ、眼鏡? ずっと前にコンタクトに替えたんだ。これはコスプレ用のカラコンだよー。実は度が合ってなくてよく見えてないんだ」 「トンちゃん彼氏と一緒で羨ましいなぁ。私? あははっ、いないよ~」 仁衣那は賑やかによく喋り、よく笑った。 ・・こんなに明るい子だったっけ? 利美は仁衣那を見て思う。 小学校のとき仁衣那はもっと落ち着いて話す子だったと思う。 ・・その上こんなに露出して堂々と。 仁衣那はマントとフードを小脇に抱えビキニのままで歩いていた。 すれ違う人がみんな振り返ってゆく。 もっとも学園祭の大学はコスプレ着ぐるみその他怪しい扮装の男女が溢れているから仁衣那が特別という訳ではない。 ・・うらやましいぜ、乳。 利美は仁衣那の胸を見てついため息をつく。 それは仁衣那が笑う度に揺れて、小さなブラからこぼれそうになっていた。 彼女が人目を引くのは、高露出であることに加えてこの巨乳に原因があるのは明らかだった。 「あの、こちらどういうお知り合いですか?」茂樹が聞いてきた。 「えーと、この人はね」 「どうもーっ、トンちゃんと小学校のときの同級生で出水仁衣那ですっ。よろしく!」 利美が紹介するより先に仁衣那が自分から名乗った。 「ニーナさんですか。素敵なお名前ですねっ。オ、ボクは若松茂樹と申します! こんなエロい、いや魅力的な女性と知り合えて光栄ですっ」 利美は振り返って茂樹の胸ぐらを掴む。 「おうおうシゲキさんよ。いくら彼女がセクシーだからって、あたしの前で堂々と鼻の下伸ばすとはいい根性してるじゃねぇか」 「そんなんじゃねーよ。んでも、このおっぱい前にして喜ばないのは男じゃねーし」 「ごぉら!」 「きゃははは!!」仁衣那が笑った。 「ごめんね、トンちゃん。彼氏を誘惑するつもりはないんだけど。これショーの衣装なんだ」 「ショーってイリュージョン?」 「そう、二人で見てね。ちょっとエッチだけどね♥」 「うっほ。それは是非に」「だから鼻の下を伸ばすなっ、シゲキ!」 仁衣那はこの大学のイリュージョン同好会でネタの製作やショーをやっている。 その前は高校のクラブでもイリュージョンをしていたという。 「すごいね、高校でもイリュージョンやってたなんて」 「興味を持ったのは小学校のときなんだー」 「小学校?」 利美の頭の中にあのテレビのシーンが浮かび上がる。 小学3年のときに見た、美女の血まみれ切断。 いったい何百回、何千回思い返しただろう。 オナニーのおかずは必ず自分のお腹に回転ノコギリが食い込む妄想。 「なあトシミ、お前も小学生だったんだろ? 美女の人体切断見て自分も切られたいって思ったの」 茂樹に口をはさまれて、ぎょっとする。 「やだなぁ。そんな、ちょっと憧れただけだってば」 利美は仁衣那を横目で見ながら応える。今それを彼女の前で言わなくても。 「それ、小3のとき? だったら同じイリュージョンだよっ」仁衣那が言った。 「嬉しいなぁ、トンちゃんと同じだなんて。あれは私にとって人生最大の衝撃だったんだよ」 そうか、ニーナちゃんも。 「次の日、学校で私が話したこと覚えてる?」 「・・美女はマジシャンの娘だとか、病院で手術とか?」 「そうそうっ。本当に切ってるって信じちゃって。バカだよねー私も」 「何も知らなかったものね」 「私ね、こっそりノート作って、美女の切断方法を真面目に考えたりしてたんだよー」「切断方法?」 「うん! 女性の皮下脂肪の厚さとか、切られても一番ダメージの小さい内臓とか図書館で調べたりして。小学生の女の子がだよ? 笑っちゃうでしょ? あははは!! 」 仁衣那は自分の黒歴史を明かして豪快に笑う。 「そういえば、トンちゃんもマジシャンの娘になりたいって言ったよねーっ」 「あ、あわわ。そうだっけ」 利美は今度は茂樹を横目で見て慌てる。今それを彼の前で言わなくても。 「あ、ええっと、イリュージョンを体験させてもらえるんだよね!」 「うん、美女の人体切断だよっ。あのイリュージョンと同じ」 「あら」 「トンちゃんの希望を採用したんだから。血まみれにしてあげるよ」 え、血まみれ? 胸がどきんと鳴った。 「いやぁー、実はどんな人かと思ってたんだ。まさかトンちゃんだったとはねぇ」 「?」 「こちらの彼氏さんから頼まれたとき、頭にドが100個つくスーパーM女だからよろしくって言われたの」 「シ、シゲキぃ~!」 「よかったじゃねーか、トシミ。希望通りにやってもらえたんだから」 「心配しなくていいよ。私もドが2~3個はつく程度の仲間だから。さすがに100個は無理だけどねーっ。あははは」 そう笑って仁衣那はウインクした。 7. 「らっしゃい!!」 大声で迎えられたテントには『お好み焼き ~鋸屋~』の看板がかかっていた。 お好み焼きを求める客が行列を作っていてなかなか繁盛しているようである。 ねじりハチマキにハッピ姿で両手にコテを持った男が来て挨拶した。 「会長の酒井です。よいアイディアをいただきまして、おかげさまで体験イリュージョンは大評判ですよ」 「ここでイリュージョンもやってるんですか?」 「はい、そうですよ。・・イカ玉かブタ玉、どうです?」 テントの奥は黒幕が吊られ、その前にブルーシートが敷き詰められている。 さらに手前に10脚ほどのパイプ椅子。 どうやらこれがイリュージョンのステージらしい。 『イリュージョン観賞1人300円(お好み焼きお求めの方は無料)』と書いた札が下がっていて、既に何人か座ってお好み焼きを食べている。 確かお好み焼きは200円だから鑑賞料金より安いのである。わざわざ300円払う人はいないのであろう。 利美と茂樹もお好み焼きの皿を渡されて、空いていた椅子に並んで座った。 「ショーは撮影禁止なんでスマホはカバンに入れてね。・・じゃ、もうすぐ1時のステージだから。またね!」 仁衣那はそう言うと手を振ってテントから出て行った。 8. シャカシャカと音楽が鳴り始めてイリュージョンショーが始まった。 狭い客席は満席で立ち見も出ているようだった。 客は利美以外すべて男性である。 バックの黒幕が持ち上がり、男子学生が二人で大きなダンボール箱を運んできた。 箱は一辺およそ1.2メートルほど、縦、横、奥行きの長さが同じサイコロ形である。 上面の蓋はセロハンテープで留められているのが見えた。 学生たちはダンボール箱をブルーシートの上に据えると、前で並んでお辞儀をした。 二人のうち、片方は大柄で背が高く、もう一人は小さかった。 彼らがマジシャンを務める���うだ。 マジシャンらしい雰囲気がしないのは、二人ともお好み焼き屋のハッピを着ていて頭にねじりハチマキをしているためと思われた。 小さい方の学生がダンボール箱の前に屈み、箱の下に人差し指を差し込んだ。 そのまま持ち上げると箱は手前が30センチほど上がって後方に傾いた。 同じように箱の左側にも指を入れて右に傾けて見せる。 こうして彼は箱を前後左右に傾けて、大きなダンボール箱が人差し指一本で軽く持ち上がることを示した。 次に大きい方の学生がダンボールの後ろに立ち、箱の上面に両手を当てた。 呪文を唱えてゆっくり両手を上げる。 するとダンボール箱はその手に吸い付いたように浮かび上がった。 もう一人が箱の下に手を入れて支えがないことをアピールする。 40~50センチほど浮上したところで手を離すが、箱はそこに浮いたままでゆらゆら漂っていた。 小さい方が左側に立ち、箱を斜め上に押すような仕草をした。 すると箱はそれに合わせて空中で回り、90度回転して真横に倒れた。 さらに押すと箱はさらに回り、やがて勝手に回転するようになった。 宙に浮かんだまま風車のように回り続けるダンボール箱。 不思議な光景である。 そのまましばらく回してから、箱の上面(蓋のある面)が上を向いたとき二人同時に両側から押さえて回転を止めた。 そしてすぐに蓋のテープをぺりっと剥がした。 おお~っ。 客席から驚きの声が上がる。 箱の蓋が勢いよく開き、中から女性の足が出てきたのだ。 ほっそりとした素足が片方、真上に向けて突き出されて、太もものつけね近くまで見えている。 ・・ニーナちゃん? 利美は一瞬思ったが、すぐに別人だと分かった。 その足は仁衣那より色白でペディキュアも塗っていなかった。 ・・綺麗な足。きっと美人だ。 足だけで顔の見えない女性の美貌を確信する。 確かに、その人の足は細くしなやかで、バレリーナのように爪先までぴんと伸ばしたポーズをとったまま揺らぎもしない。 一見マネキンの足かと思わせるほどだが、学生たちが軽く叩くと足首から先がくいくいと動いた。 大きい方の学生が頭のハチマキを外して女性の足首に括りつける。 それから足を箱に押し戻して蓋を閉じた。 ダンボール箱はなおもしばらく空中で揺れ続け、やがてゆっくり降下してブルーシートの上に戻った。 学生たちは黒幕の下から新しい道具を出してきた。 柄の長さが1.5メートルほどもあるモップである。 大きい方がモップを逆さに構えて柄の先端をダンボール箱の右側に突き当てた。 すると蓋の隙間から女性の手が出て、止めて!と言うように振って拒まれた。 学生は反対側に移動し今度はモップの柄を箱の左側に突き当てた。再び手が出てダメ!と振られた。 箱の後方から突き当てるが、やはり拒まれる。 モップを持った学生はどうしようかと考え込んだ。 小さい方がならオレがやるとモップを奪おうとし、大きい方は取られまいと抵抗する。 もみ合う二人。と、その最中にモップの柄がダンボール箱の真上からぐさりと突き刺さった!! 二人は青い顔をして箱から飛び離れる。 モップはダンボール箱の中心に垂直に刺さった状態である。 小さい方が蓋を少し開けて中を覗き込み、それから客席の方を見て口に手を当てた。 大きい方は胸の前で十字を切った。 どうなるの?? 観客は固唾を飲んで見守る。 やがて学生たちが笑って箱をノックすると、モップはするすると上昇した。 大きい方がモップを受け取り、小さい方が蓋を開ける。 箱の中から女性が立ち上がった。 髪をアップにして、目鼻立ちのくっきりた小顔の美女である。 小柄な身体にメンズのワイシャツを着けているだけで、下半身は素足。 観客をゆっくり見回しながら妖しく微笑んでいる。 おお~っ、ぱちぱちぱちっ。 一斉に拍手が起こった。 「タカノさ~ん!!」 声援が飛ぶ。ファンがいるらしい。 彼女は両脇を支えられて箱から出ると、その場で片足をすっと上げてY字ならぬI字バランスのポーズをとった。 その足首にお好み焼屋のハチマキが巻きついている。 おお~っ!! もう一度歓声、そして拍手。 「お、生パン♥」 茂樹がつぶやき、利美はその頭をぱちんと叩く。 「んなワケないっしょっ。あれは水着!!」 I字バランスでワイシャツの裾の下に白いパンツが見えたのだ。 利美の言った通りそれはビキニタイプの水着のボトムだった。 「そんなとこばっか見てないでイリュージョンに感心しなさいよっ」 「分かってるけどさ、あんなのスゴイとしか言いようがないだろ?」 「まあね、人が出てくるんだものねぇ」 「言っとくけどあのダンボール、最初は空っぽだったんだぞ。指一本で持ち上げるの見ただろ?」 「そうだっけ?」 「それに人間入った箱をどうやって空中で回すんだよ。仮に回せても中でごろごろ転がって大変だぞ?」 言われてみればその通りである。 利美はダンボール箱の中に最初から女性が隠れていたと思ったのだ。 「じゃあどうやって箱の中に」 「分かんねーよ。分かんねーから、とりあえずエロいとこ楽しんでんだ。お前もドの100乗M女なんだからその方面で楽しめよ」 どこがドの100乗じゃ。 そう思いながらも利美は自分があの女性だったらと想像する。 箱に入って、ううん、閉じ込められて、モップぐさっと突き刺されて。 うん、ちょっとイイかな。 9. 利美が妄想にふける間に、狭いステージは模様替えされて細長いテーブルが置かれた。 長さ1.8メートル、幅45センチ。両端の脚が折り畳み式の会議用テーブルである。 そしてテーブルの後方に据え付けられたのは・・。 電動回転ノコギリ!! 利美の胸が鳴った。 それは角材を組んだ手作り感たっぷりの人体切断機だった。 上下に動くアームの先に直径20センチほどの回転ノコ。 テレビで見たノコギリよりずいぶん小さいけれど、濃いねすみ色の円板の周囲にギザギザの刃が並んでいる。 軽やかなBGMが始まって、新たなマジシャンが登場した。 会長の酒井である。 白衣を着てその上に透明なビニールのレインコートを重ね着している。 酒井の左右に助手として立つのは、先ほどダンボール箱イリュージョンでマジシャン役を務めた大小コンビ。 彼らも酒井と同じく白衣にレインコートの恰好で、一人は折り畳んだ白布と銀色の粘着テープ、もう一人はなぜか大きなキャベツを一つ持っている。お好み焼きの材料に使うキャベツのようだ。 そのキャベツをテーブルに置かせ、酒井は電動回転ノコのスイッチを入れた。 音もなくノコ刃が回転すると、アームの先についたハンドルを持ってゆっくり降ろす。 ノコが触れるとキャベツは一瞬で真っ二つに切れた。 助手たちが半分に切れたキャベツを持って客に見せる。 実際のところキャベツ全体が一瞬で芯まで二つに切れるはずはないが、まるで本当に切れたように見えた。 ノコを停止させてアームを上げる。 酒井が後方に向かって手招きすると幕が上がって女性が入ってきた。 黒マントに黒フード。黒づくめの美女、仁衣那である。 ・・仁衣那ちゃ~ん!! 利美が手を振ると仁衣那も小さく振り返してくれた。 酒井は仁衣那の手をとって導き、自分に向って立たせた。 助手たちがテーブルを移動させて仁衣那の後ろに置く。 同時に酒井が仁衣那のフードを剥ぎ、マントを肩から落とさせた。 おお~っ。 観客がどよめく。 先ほどと同じ、黒のマイクロビキニのナイスバデイが現れたのだ。 仁衣那はビキニになっても恥ずかしがることはなく、むしろ胸を張って笑っている。 さすがだなと利美は思う。 自分だったらあんなに堂々としていられるだろうか? 酒井が仁衣那の目の前で指を振った。 仁衣那は即座に意識を失い、その場に崩れ落ちた。 すかさず助手たちが後ろから支え、テーブルに運んで仰向けに寝かせた。 仁衣那の両手を頭の上で合わせると、その手首に銀色の粘着テープを巻いた。 さらに手首から肘までの間をテーブルの裏まで一緒に巻いて固定する。 足首にも粘着テープを巻いた上、脛から膝までぐるぐる巻いてテーブルに固定した。 よほど練習したのか、実にスムーズで手際がよかった。 みるみるうちに仁衣那はテーブルと一体に拘束されてしまった。 作業はこれで終わりではなかった。 助手たちは左右に分かれてテーブルに手にかけると、仁衣那の足の側を持ち上げ、客席に向けて垂直に立てたのである。 ほぉ~。 感心したような声が観客から起こった。 まっすぐ立てたテーブルにビキニの美女が上下逆になって張り付けられていた。 仰向けに寝ているときと同じポーズなのに、逆さに立てるだけで迫力がぐんと増すのは何故だろうか。 正面から見るので拘束の状態もよく分かった。 両腕と両足が銀色の粘着テープでミイラのように巻かれている。 これでは自分で抜けるのは無理と観客全員が理解した。 助手たちは背伸びして仁衣那のサンダルを脱がせると、足の裏を指でくすぐった。 仁衣那がびくんと震えて目を開けた。足首から先がわなわなと動く。 両手を頭の上に伸ばした仁衣那はテーブルの長さより大きいので、ちょうど足首から先がテーブルから突き出ているのだ。 調子に乗った助手たちは仁衣那の太ももや脇腹にもちょっかいを出す。 「ひゃんっ」 ついに仁衣那は声を出した。 必至に身を捩(よじ)らせて逃げようとするが、手足をがっちり固められているので敵わない。 攻撃対象が脇の下と横乳まで広がった。 「あぁ~んっ」 色っぽい悲鳴に客席から笑いが起こる。 ・・うわ♥、うわぁ♥、うわぁ~♥ 利美はそんな仁衣那から目が離せない。 いいなぁ、あんな風に動けなくされて男の子から苛めてもらえるなんて。 ドMの願望が溢れる。 最高だよー。代わって欲しいーっ。 隣で茂樹がぼそっと言った。 「トシミ、急に目がキラキラしたな」「だってえ」 「まぁお前の思ってることなんて想像つくけどな。・・それよか、やっぱりダクトテープは凄いな。現物は初めて見たよ」 「ダクトテープ?」 「あの銀色のテープだよ。普通のガムテープとは強度と粘着力が段違いなんだ。あれ使われたら完全に無力になるぜ」 「そうなんだ」 「海外のマミーサイトでよく使われてる。いいなー、俺もあれ使って女を責めたいな」 マミー? シゲキの言うことだからSM関係の何かだろう。 あたしがニーナちゃんのこと羨ましいって思ってたら、シゲキだって女の子責めたいとか考えてるじゃん。 人のこと笑うなっていうの。 「ひゃっ、やあ~んっ!」 ・・あっ、それより今はニーナちゃん! 利美は逆さハリツケの仁衣那に視線を戻す。 仁衣那はくすぐりの刑からようやく解放されて、上下逆の状態ではあはあ息をしている。 その顔は少し赤らんでいて、苦し気だった。 ・・あ、そうか。 利美は状況を理解する。 ただでさえ頭に血が上るのに、あんなにもがいて。 ・・苦しいんだ。 ・・苦しいんだ。 うわぁ~っ。羨ましいよぉ~っ。 利美は仁衣那を羨望のまなざしで見つめる。 と、苦しそうに喘ぐ仁衣那の口がダクトテープで覆われた。 「んんっ」 !! 心臓がきゅんと縮んだような気がした。 美女の口に貼られた猿轡の粘着テープ。 それを酒井が頬から耳の下までわざわざ強く押さえ直している。 ・・やっぱり羨ましい~っ。あたしも同じことされたいよぉ!! 仁衣那は諦めたように再び目を閉じた。 酒井は仁衣那の全身を舐めるように確認してから、助手たちに彼女の腹部を指で指して示す。 ちようどおへそのある部分。 助手たちは白布を広げ、その真上から白布を当てた。 布の両端をテーブルの裏へ巻き込み、強く張ってダクトテープで固定する。 テーブルを元の通りに倒し、人体切断機のアームの下に移動させた。 酒井は両手を広げてざわつく会場を静める。 少し道草したが、美女の人体切断の準備完了である。 音楽が止んだ。 酒井は深呼吸すると電動回転ノコのスイッチを入れた。 アームをゆっくり降ろす。 皆が注視する中、ノコ刃が美女のお腹の布に触れた。 何の前触れもな���、当たり前のように、白布に赤い染みが生じた。 それはノコの両側に広がり、そして血飛沫となって周囲に飛び始めた。 仁衣那の両目が見開かれた。 んん~!! ん、んん~っ!! 猿轡の下から悲鳴を上げながら、首を振り手足の指先をびくびく震わせた。 ・・え、え、え~っ! 利美も叫びそうになっていた。 仁衣那は本当に切られているように見えた。 マジックだから本当に切るはずはない。 でも、でも。いったいどうやっているんだろう。 人体切断イリュージョンに興味を持ってから、本やネットで調べて多少の知識はあるつもりだった。 こういう人体切断は美女を寝かせるベッドに仕掛けがあって、お腹の部分が沈んでノコ刃を避けるようになっている。 代わりに切断されるのはダミーの胴体のはず。 でも仁衣那が寝ているのはどう見ても普通の会議テーブルだった。 ビキニだからダミーの胴体だって隠しようがない。 まさか、本当に切られてる!? まさか。まさか。 ・・ぞく、ぞく、ぞくぞく。 小学生のときに味わった衝撃が蘇る。 ステージでは酒井や助手二人たちのレインコートに血飛沫が当たって流れていた。 透明なレインコートの下は白衣。白に真っ赤な血液が映えて強烈である。 仁衣那は激しく叫ぴながらもがいていたが、その声も次第に小さくなり、やがて目を閉じて動かなくなった。 酒井は回転ノコのスイッチを切ってアームを元に戻した。 助手たちがテーブルを手前に引き出し、垂直に立てた。 ・・ああ、また。 利美は両手を胸に当てる。 仁衣那は再び上下逆に立てて置かれのだ。 その頬を酒井がぺちぺち叩くが、仁衣那は死んだように動かない。 猿轡を剥がすと口から大量の血液が溢れた。 それは仁衣那の顔面を伝って流れ、髪の先からぽたぽた垂れた。 それから数十秒(利美の主観では数分間)にわたって、仁衣那はそのまま放置された。 人体切断イリュージョンって、ここまでするの!? 思ってもいなかった演出に客席は静まり返っている。 利美も固まっていた。 もう仁衣那のことを羨ましいとか可哀想とか思う余裕はなかった。 そんなことより目の前の情景に圧倒されていた。 何もかもが美しかった。 ぐったり脱力した美女の肢体。血飛沫を浴びた素肌。雫になって落ちる血液。 とても凄惨で残酷なのに、くらくらするほど綺麗だった。 ・・はぁ~。 利美は隣の茂樹に寄りかかる。 茂樹は黙って肩を抱いてくれた。 ・・あたし、あれが本当に死体だったらって思ってる。 10. 20分後。 「トシミ、大丈夫か?」茂樹が聞いてきた。 「大丈夫。でももう少しこのままでいさせて」「ああ」 利美はまだ動けずにいた。 顔が熱いのが自分でも分かった。 いつもなら必ず利美をからかう茂樹が何も言わないくれるので助かった。 今、言葉で苛められたら普通でいられない。 まあ今夜はこれをネタに責められるのは確実だけど。 あの後、酒井と助手たちは仁衣那のお腹の赤く染まった布を外した。 布で覆われていた部分も血に染まっていたものの、ウェットティッシュを持ってきて拭けば傷ひとつない肌が現れた。 酒井が指を鳴らずと仁衣那は目を覚ましてにっこり笑った。 死体の美女が明るく笑う女の子に戻った。 小さい方の助手が仁衣那のお腹を指差して何かを訴える。 おへその中に血が溜まっているようだ。 大きい方がおへその中にティッシュを突っ込んでくりぐりした。 きゃぁ~んっ!! 仁衣那が破顔した。 小さい方も手を添えて一緒にぐりぐりする。 倒立状態で身もだえする仁衣那。 酒井がいい加減にしなさいと、二人を止めた。 「はぁ、はぁ。・・よかったぁ、すごく♥」 仁衣那が満足気につぶやいて、場内は爆笑に包まれたのであった。 拍手の中、テーブルを横にして仁衣那はそのまま黒幕の奥に下げられた。 そして数分後、拘束から解放され身体中に血痕を付けたまま再登場し、もう一度拍手を浴びた。 ステージは仁衣那とさっきタカノさんと呼ばれたダンボール箱のワイシャツ美女の撮影タイムになった。 仁衣那とタカノさんは部員7名しかいないイリュージョン同好会の紅二点である。 タカノさんはフルネームを後藤多華乃という。 仁衣那より2年先輩の3年生で、クラシックバレーで鍛えた身体の柔らかさが自慢だった。 今、仁衣那はもちろん黒のマイクロビキニである。 多華乃もワイシャツを羽織って登場したもののすぐに脱いで白ビキニ姿になり、リクエストされるままY字バランスや180度開脚のポーズをとりながら微笑んでいる。 同性の利美から見ても彼女たちは魅力的だった。 セクシーな仁衣那とスレンダーな多華乃。 二人とも見られるのを楽しんでいるのがよく分かった。 うらやましいなと思う。自分にはあそこまで露出する勇気はなかった。 マゾの自覚なら十分あるんだけど。 「トンちゃ~ん!」 仁衣那が利美に呼びかけてきた。 「来ない? 写真撮れるの今だけだよ!」 「行く!」 利美は弾かれたように立ち上がると、バッグからスマホを出してステージへ走っていく。 「立てないんじゃなかったのかよ」 残された茂樹がぼやいた。 きゃいきゃい騒ぎながら仁衣那と多華乃を写真に撮った。 並んで記念写真も撮ってもらった。 これ、インズタにあげてもいいかな? 「ニーナちやん、さっきはすごかったよー! どきどきしちゃった」 そう言うと仁衣那は笑って「ありがとっ。次はトンちゃんの番だねー」と応えた。 ・・そうだった。 すっかり忘れていたけれど、次は利美が体験イリュージョンに挑戦するのである。 11. イリュージョン同好会の体験イリュージョンは、2時間毎の定期ステージの合間に非公開のプライベートイベントとして開催される。 体験は女性限定で1回2千円。 会長の酒井によると、体験イリュージョンは学園祭の初日から人気を集め、この日も夜まで予約で一杯だという。 料金も高いのにわざわざ予約してまで希望者が殺到するのは、Mっ気の強い女子に受けたためである。 これも最初に人体切断のアイディアを伝えた利美と茂樹のおかげと酒井は語った。 「叶さんにもお楽しみいただけることは保証しますよ。ただしイリュージョンの秘密は誰にも口外しないで下さいね」 「はあ・・」 利美はあいまいに返事する。 準備が整うまでの間、黒幕の後ろの楽屋で待機中である。 「あの、あたし、どうしたらいいんですか?」 口外するなと言われても、まだ何も聞いていない。 イリュージョンはマジックだから当然タネがあるはずである。 仁衣那の人体切断が本当に切っているようにしか見えなかったのもタネがあるからだ。 「あ、叶さんは何もしなくていいんですよ。ノコで切られるだけの簡単なお仕事ですから」 そんな。 本当に切られたら死んじゃうじゃないの。 「やっほーっ、お待たせー!」仁衣那と多華乃が戻ってきた。 「わあっ、素敵! 色っぽい!」 二人とも燕尾服タイプのレオタードスーツに着替えていた。 赤いレオタードの胸元は谷間の下まで割れたVカット、股間のハイレグも超鋭角。 脚線美を強調する網タイツに12センチの超ハイヒール。 蝶ネクタイのついた飾り襟、手首のカフスまでついて、ウサギの耳と尻尾さえ追加すればすぐにバニーガールになれるコーディネートである。 「えへへ、このコス、二人お揃いで作ったんだよー」 仁衣那はそう言いながら頭の後ろに手をあててウインクした。 顔や髪に付着していた血痕はもちろんすっかり消えている。 「テンションが上がりますわね。こういう衣装は」多華乃もそう言って笑った。 「トンちゃんのイリュージョンは私らがマジシャンするからね」 「えっ、本当?」 「この同好会で女の子がマジシャンするのは珍しいんですのよ。いつもはネタ要員だから」 「ネタ?」 「切られる、吊られる、箱に詰められる。あと、手錠掛けられて袋詰めとか」仁衣那が言った。嬉しそうである。 「そうか、こちら女性は二人だけだからそういう役」 「ギロチンでしよ、水槽でしょ、あと緊縛もありますわ」多華乃が続けた。こちらも楽しそうである。 「え? センパイ緊縛されたことあるんですかー?」 「知らなかった? 酒井くん、ああ見えて縄師なのよ」 「きゃ~っ、いいなあ」「ふふふ、センパイを舐めちゃダメよ」 「でもウチで緊縛絡みのネタなんてありましたっけ。ジプシー?」 「んー、何でしたっけ。もしかして彼の部屋だったも」 「それはつまり、多華乃さんは会長から個人的に緊縛してもらっている、という意味ですか?」 「そういうことになりますかしら。おほほほ」 「センパイ、いいえ多華乃さん。そんなセンセーショナルなニュース、おほほほで済まさないで下さい!!」 「ふふふ。許してくれたまえコーハイくん」 盛り上がる二人に利美はきょとんとしている。 「あのう、展開についていけないんですが」 「きゃははっ、分かんないよねっ。多華乃さんと酒井会長は恋人同士なの」 「彼がこの同好会始めたとき、一緒に引きずり込まれちゃったのねー」 あ、そーいうことですか。 ならプライベートで緊縛も分かる。 ・・ってか多華乃さんもしっかりM女さんなのね。 「15分前でーす!!」 テント側の学生から声がかかり、仁衣那は利美の手を取った。 「いけないっ、トンちゃんも早く着替えなきゃ」 「あたしも?」 「当たり前でしょー。血がついて汚れるんだよっ。それにこんな機会に彼氏の前で色っぽいトコ見せなくてどーするの!」 「・・は、はい」 「ついでにお口を洗うのも忘れないでね」多華乃が面白そうに言った。 「美女がお好み焼き食べて歯も磨かないって分かったら、彼氏に幻滅されますわよ?」 えええっ? 利美は慌ててバッグからコンパクトを出して自分の歯をチェックする。 ぎゃあ~っ! 青海苔がぁ!! 12. ステージはパーティション板で囲まれて、関係者以外立入禁止になっていた。 仁衣那、多華乃と一緒に黒幕をくぐってステージに入ると、先に一人で待っていた茂樹がおおっという顔をした。 その目はもちろん仁衣那と多華乃に釘付けである。 茂樹はバニーガールが大好きなのであった。 二人がバニー風の衣装に着替えてきたときから利美にはこうなると判っていた。 もっとも仁衣那と多華乃は男性からガン見されてもいっこう恥ずかしがる風もなく、逆に胸とお尻を強調するポーズで応えているのはさすがだった。 「さ、トンちゃんも彼氏に公開♥」 仁衣那が利美の背中を叩いた。 よぉーし、見て腰抜かすなよ、このスケベ野郎。 利美は羽織っていたガウンを脱ぐ。 胸と腰をわずかに覆うコスチュームが現れた。 カーキ色のベアトップブラとショートパンツ。 人体切断の体験者用に準備されたもので、誰でも着れるフリーサイズ、かつ流血で汚れても簡単に拭き取れるビニールレザー素材でできている。 かなり小さい目である上に、あちこち引き裂かれてスリットや穴が多いので肌の露出が激しい。 トップスは下乳まで見えているし、ローライズすぎるショートパンツは腰まわりで締めるべき部分がスカスカなので脱げ落ちないのが不思議なくらいである。 隠すべきところを隠しながら落ちないのは、両面テープで肌に直接貼っているためである。 肌を隠すためでなく、見せるためのコスチュームであった。 着用前にこれを見せられたとき、利美は自分には無理と断りかけた。 こんな格好でステージに出たらシゲキに何て言われるか。 でも後悔したくなかった。ここで断ったら悔やんでも悔やみきれない。 覚悟を決めて衣装を身につけた。 ほんの少しはみ出したムダ毛は仁衣那たちがささっと処理してくれた。 「おおっ!!」 茂樹が叫んだ。 「はい、ポーズ、ポーズ!」 仁衣那に言われてぎこちなく頭と腰に手をあてる。 ニーナちゃんや多華乃さんみたいに色っぽくないけど、どーだっ。 茂樹は中腰になってスマホを出そうとする。 「しゃ、写真撮っていいっすか!」 「うふふ、ご遠慮下さいませ。後で撮影タイムがありますから、そのときにどーぞ」 多華乃が答えて茂樹は残念そうに座りなおすが、目はずっと利美を見ている。 ね、ちゃんと喜んでもらえたでしょ? 仁衣那がウインクしてくれた。 「それでは、ただ今より電動回転ノコによる人体切断、いわゆるバズソーイングの体験イリュージョンを始めます」 いつの間にか現れた酒井が宣言した。 「余計な心配は不要です。すべてを我々にまかせて楽しんで下さい。・・念のためお聞きしますが、叶さんは心臓疾患やけいれん発作などの症状はありませんね?」 「大丈夫です」 「分かりました。えー、観客参加のイリュージョンでは普通こういうとき、大丈夫ですよー心配しないで下さいねー、ちょっと痛いかもしれないけど我慢して下さいねーっ、などと説明しますが当同好会では違います」 ここで酒井はわざと間を置いて、にやりと笑う。 「まずとても痛いです。本当に切るので当然ですね。ですからどうぞ我慢しないで痛い痛いと叫んで下さい。流血してもそういうモノだと受け入れて下さい。取り返しのつかない事態になった場合は、責任を持って救急車を手配しますからどうぞご安心を」 13. 目の前にテーブルと人体切断機があった。 仁衣那の人体切断のときと同じである。 細長い会議用のテーブル、木製のアームの先に付いた小さな電動回転ノコギリ。 多華乃が利美に向かって催眠術をかけるようなゼスチャーをした。 ・・うん、���こで眠るのね。 利美は目を閉じる。 一瞬のうちに眠らされる美女。様式美だと思う。 仁衣那が後ろから肩を抱き、多華乃が足を持った。 二人に身を任せ、ベッドに仰向けに寝かされた。 両手を取られて頭の上に引き上げられた。 じー、びり。 粘着テープが手首に巻きつくのが分かった。 そのままテーブルにも固定されたはずだ。上に伸ばした手が動かせなくなった。 続いて足首、肘、太もも、膝、脛。 次々とテープが巻かれて拘束される。 さっきのイリュージョンと同じだ。 本当にぎちぎちだと実感する。あらゆる自由が奪われたのだ。 もう絶対に逃げられない、幸せ。 妖しい気持ちがどろりと溢れる。 とうとう夢が叶うのだ。 あたしはノコギリで切断される。 どくとく血を流して苦しむ。 酒井の言葉が蘇る。「とても痛いです。本当に切りますから」 痛いんだろうか? 痛いはずはない。マジックだもの。 でも美女は苦しまないといけない。本当に切られているみたいに叫ばないとダメだ。 あたし、苦しんでみせる。ぎゃんぎゃん叫んで苦しんでみせる。 何度も何度も悲鳴を上げて、その声もだんだんか細くなって、最後にこと切れる。 イイな。すごくイイ。 女の子の理想的な殺し方。 って、殺しちゃったらイリュージョンにならないじゃん。 それでもいいと思うあたし、ホント、ドの100乗M女だ。 14. 「・・へぇ、さすがにダクトテープですねぇ」 茂樹の声がした 「分かりますか。どうぞよくご覧になって下さい」酒井の声。 え、何? 人が素敵な妄想にふけっているところなのに。 目を開けると皆に見下ろされていた。 茂樹、酒井、そして仁衣那と多華乃がテーブルを囲んでいる。 シゲキ、あんたなんでそんな至近距離から観察してるの。 酒井さんや多華乃さんまで近くに寄って。 まるで実験動物みたいに。 うひゃ、『実験動物』だなんて、絶賛ドMモード開催中に我ながら何ちゅうキーワード。 きゅうんとなりかけた瞬間、むき出しになったわき脇を茂樹が指ですっと撫でた。 「ひゃん!!」 思わず身をすくめようとするが逃げられない。 「こらあっ、そこは無防備なんだぞぉ!」 「いや、本当に動けないのかな、と」 「動けませんよ。試しに叶さん、全力でもがいて下さい」 「あ、はい」 酒井に言われて利美はもがいた。 んっ、くっ、ああああ~んっ。 手と足はまったく動かない。 はんっ、はんっ、くぅ~~~っ。 首も上に上げた肘に挟まれてわずかに振るのがせいぜい。 ダクトテープで固定されていないウエストの部分だけ比較的楽に左右に動く。せいぜい10センチくらいだけど。 「うほ、エロいっす」 「シゲキ、あのねぇ」 人が一生懸命もがいてみせたのに。 そう思ったけど、自由を奪われてもがく女の子がエロいのは利美としても同意である。 むしろエロく見えるのが嬉しい。・・ってあたし、ますます変だ。 「はっはっはっ」酒井は大げさに笑う。 「美女の拘束は徹底的に情け容赦なく行う。それが当同好会の方針なのです」 「いやぁ、素晴らしい方針っす!」 「あら同好会の方針でしたの? てっきり酒井会長の趣味だと思ってましたわ」 多華乃が横から突っ込みを入れた。 「おや? たとえ僕の趣味だとしても、君たち女性陣は不満があるのかい? 徹底的に情け容赦なく拘束されることに関して」 仁衣那と多華乃は微笑みながら互いの顔を見て、それから揃って答えた。 「いーえ、何の不満もありません!」 「ふむ、よろしい!」 酒井は芝居がかった声で応え、それから再び宣言した。 「では美女の人体切断を続けましょう!」 15. 多華乃が人体切断機のアームを下ろし、それに合わせて仁衣那がテーブルの位置を調整した。 回転ノコが真近に見えた。期待を込めてノコを見上げる。 仁衣那がダクトテープをびっと引き出して利美の口に貼った。 唇の上下から頬、耳の下に至るまでしっかり押さえて密着される。 「話せる?」小さな声で聞かれた。 「んんんん(話せないよ)」 そう答えると仁衣那はにっこり笑い、顔を近づけて利美にテープ越しのキスをした。 わ、わ、わ、ニーナちゃん!!! 全身がのけぞった。 といっても手足を固定されているから、お腹の部分が跳ねただけである。 「ここで暴れたら正しく切れませんわ」多華乃が言った。 暴れてない! ニーナちゃんがいきなりキスするからっ。 「じゃあ、お腹も拘束しちゃいます?」 「しちゃいましょ♥」 ちょ、この展開。さっきのイリュージョンと違う。 仁衣那が新しいダクトテープを出してきた。 それを1メートルほどの長さに出して切り取り、利美のおへその上に貼った。 ぴんと張るように貼り付けて、さらにはみ出した両端をテーブルの裏まで回して貼った。 腹部を締めつけられる感覚。 あぁん。あたし、お腹も動かせない。
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仁衣那たちはビニールのレインコートを出して着た。 さらにスキー用?のゴーグルを顔につける。 もちろん血飛沫の対策である。 すっきの人体切断でもマジシャンたちがレインコートを羽織っていたことを思い出す。 あたしが流す血だ。 たたし、生きたまま切られて血飛沫を散らすんだ。 ああ、イイ。すごくイイよ。 息が苦しくなったのはダクトテープの猿轡のせいだけじゃない。 多華乃がノコのアームを下ろしてスイッチを入れた。 丸いノコ刃がじーんという音をたてて回り始めた。 さっき客席では聞こえなかったモーターの音がこの位置なら聞こえる。 多華乃がアームを持って下ろした。 ゆっくり近づく回転ノコが見える。 ああ、もうすぐだ。 もうすぐあたし、切られる。 どき、どき、どき。 ニーナちゃんのときみたいに、白い布に真っ赤な染みがひろがって・・。 あれ? あたし、お腹に何もかけてもらってない!!! 気が付くと同時に回転するノコ刃がお腹のテープに触れた。 痛みが走った。 びりびりと痺れるような衝撃だった。 それはすぐに激しく痙攣(けいれん)して刺されるような痛みに変わった。 え、マジ!!? お腹にノコギリが食い込んでいた。 銀色のテープに血が流れている。 「んっ(ちょっ)、んんんっ(本当にっ)、んんんんんん~っ!(本当に切れてます~っ!)」 テープに覆われた口で叫んだ。 「んんっ(痛いっ)、 んんんっ(痛いですっ)、んんんん!!(止めてぇ!!)」 必死に叫ぶが伝わっていないようだ。 お腹の痛みはぜんぜん治まらない。 それどころかどんどん大きくなって、ばきばきと凶暴な衝撃に変わっていた。 あ、あああ。絶対マジだよ、これ。 あたし、死ぬ? 死んじゃうの? ぴし。ぴし。 頬に血飛沫が当たる感覚。 頬だけでない。腕や脇、胸元にも血が飛んで流れるのが視界の隅に見えた。 世界がぐるぐる回って、暗くなった。 16. 目を開けると仁衣那に見つめられていた。 仁衣那は利美の頬に両手を添えてほんの10センチの距離から見ていたのである。 「トンちゃん、ご気分はいかが?」 「きゃっ、ニーナちゃんっ、お願いっ、救急車っ。救急車呼んでぇ!!」 仁衣那はにっこり笑った。 「よかった! 叶利美さん、無事に生還でーす!!」 「無事じゃないっ。あたし、手術してもらわないと死んじゃう~っ」 あれ? どこも痛くない。 「大丈夫。ほら、ちゃんとお喋りできてるでしょ?」 言われてみれば。 そういえば口のまわりがスースーする。猿轡、剥がされたみたい。 利美は身体を起こそうとしたが動けなった。 上に伸ばした手と足、そしてお腹を拘束するダクトテープはまだそのままのようだった。 「どぅわっはっはっ。トシミ、生き返ったか!」 大きな声がした。 「シゲキ、近くでそんな大声出されたら頭が割れちゃうよぉ」 「おー、それは済まない。何はともあれ楽しませてもらったよ。面白かった!」 「途中でげらげら笑い出すんだもん、トンちゃんの彼氏。そんな声聞く余裕はなかったと思うけど」 「だってさあ、ただの水鉄砲で」 「こほん!」「んっ、ん~ん!!」 仁衣那と多華乃が露骨に咳払いした。 茂樹はしまったとばかりに口をつぐむ。 「水鉄砲って何? ねぇ、シゲキ」 「ま、その辺りは後でゆっくりと。それより、美女のおへそはどうなっているでしょーか?!」 利美のお腹を固定するダクトテープを二人で同時に剥がした。 びりりっ!! 「きゃん!! 怪我してるんだからもっと優しく剥がし、・・え?」 血飛沫で赤く汚れたお腹にテープを剥がした跡が白く残っている。 その中央に無傷のおへそが見えた。 おへそだけでない。利美のお腹に傷はまったくついていないのであった。 「おー、すげー!!」 茂樹がぱちぱち拍手する。 仁衣那と多華乃はにっこり笑うと、膝をついてお辞儀をした。 「ありがとうございました。体験イリュージョンはこれで終了です」 酒井が挨拶した。 「赤いのは水性絵具ですから洗って落とせます。・・さて、この後は記念撮影タイムになりますが、叶さん、どうなさいますか?」 「は?」 「すぐに解放されたいてすか? それともしばらく不自由な状態でいたいてすか?」 「ぶ、ぶじゆーで!! 不自由なままがいいですっ!! 」 「即答じゃん」茂樹が呆れたように言った。 「分かりました。実は体験イリュージョンの後で解放を望まれた女性は一人もいません」 「シゲキ、スマホ出してっ。あんたのじゃないっ、あたしのアイホン!! それそれっ。パスコード 1043 だから! いーのっ、そんな番号、後で変えるし!!」 利美は全身拘束の自分を撮影させる。 仁衣那と多華乃も横について写ってくれた。 いろいろな角度から何十枚も撮らせ、さらにテーブルを垂直に立てさせて自ら逆さハリツケとなり、その姿も舐めるように撮らせたのであった。 1秒たりとも時間を無駄にしてはなるものかと髪を振り乱して命令する利美。 鬼気迫るものを感じたとは、後の茂樹の感想である。 17. 体験イリュージョンの1ヶ月後。 キャラメルフラペチーノを食べる利美と抹茶クリームフラペチーノを食べる仁衣那。 二人はSNSのアカウントを交換して毎日喋り合う中になっていた。 「それで、動画のご感想は? トンちゃん」 「すごいよ。暇さえあれば見てる」 動画とは利美の体験イリュージョンの様子を編集したものである。 茂樹が別に料金を払って申し込んでくれたのだった。 「あたしニーナちゃんには感謝しかないよ。あんな体験させてもらって」 「ネタを考えたのは会長だけどねー。私は小学生のときの妄想を伝えただけ」 「動画見てたらさー、あたしテープで拘束されるときとか、ものすごく色っぽい表情してるんだよー。こんな顔できるんだって自分で見とれちゃった」 「うん、色っぽかった。ノコで切り始めるまでは」 「ひどいなぁ。事実だから認めるけどさ。・・でも」 動画の中の自分を思い出す。 痛みと流血でパニックになったあの瞬間。 利美は猿轡の下でふごふご悲鳴を上げ続けたあげく、白目をむいて動かなくなったのであった。 確かに色気もへったくれもなかった。 「でも、あたしにとっては恐怖で気絶するのだって憧れだったもの。あんな素敵なキモチ、もう一生味わえないかもしれないでしょ」 「大げさだなぁ」仁衣那は笑う。 「でも良かったよー。あれは切断を体験する女の子に喜んでもらうためのイリュージョンだからね」 「切断体験する女の子が騙されるイリュージョンでしょ?」 「そうっ。あはは」「うふふふ」 今となっては騙されたことが嬉���かった。 お腹にノコが食い込む。激痛が走って鮮血が吹き出す。 生きたまま切られるあのキモチ。何て素敵な体験! 「・・やだ。蘇っちゃったよ、あの感じ」 利美がつぶやく。顔が赤くなっていた。 「濡れちゃった?」「ばか」 「あのね、トンちゃんだから正直に言うとね」「?」 「私だってね、あのネタやった夜はオナニーするんだよ。今も思い出して結構キテる」 「ニーナちゃん・・?」 利美は驚いて仁衣那を見る。 フラペチーノのグラスを持った仁衣那が微笑んでいた。その顔も赤くなっているように見えた。 「そんな訳でちょこっと熱冷ましに協力してもらっていいかな」「何?」 「キス、しない?」 猿轡の上からキスされたときのことを思い出した。 コーヒーショップの小さなテーブル越しに、二人は短くキスをした。 仁衣那の唇は抹茶クリームの味がした。 女の子とキスするのもいいなと思った。 もう一度、指を絡め合って長めのキスをした。 18.<タネ明かし動画編> 茂樹の部屋に利美がやってくる。 「シゲキ!!」 大変な剣幕だった。 「タネ明かしの動画があるんだって?」 「おう、ってかお前どうして知った・・」 「んなことはどうでもいいのっ。それより何で教えてくれなかったのよー!」 あのコーヒーショップで仁衣那が教えてくれたのだった。 「ええっ? トンちゃんまだ見てなかったのーっ?」 茂樹がのんびり言う。 「いやぁ、二番目の動画のパスワードは俺だけに届いたんだよね。どういうことかなーって思ってさ」 「それはシゲキがあたしのご主人様だって思われてるからでしょ」 「違うのか?」 「ひ、否定しないけど。・・でも、あたしにも見せてよぉ」 「いいけどさ、マジックのタネなんて分かったらつまんないもんだぜ? お前、あれから毎日エロっちい気分で楽しく過ごしてるじゃねーか? 秘密を知ってしまったら夢の時間も終るかもしれないけど?」 「う」 「決まり���ね。トシミはタネ明かし動画禁止だ。い��れご主人様である俺の気が向いたら見せてやろう」 「あーん、苛められるのが幸せ・・って訳ないでしょっ。バカなこと言ってないでパスワード教えなさい!」 「だけどなぁ。俺だけ知ってるのが優越感あるんだよなー」 このヤロー。 利美は作戦を変えることにする。 「あのね、J大に緊縛同好会っていうのができたんだって」 「最近そういうのがあちこちの大学で作られてるらしいな」 「それでね、イリュージョン同好会の会長さんと多華乃さん、それにニーナちゃんも参加することになって、縛り方の講習会やるからどうですかって誘われたの」 「おおっ、行きたいな。トシミを縄で縛れるようになりたいし」 「パスワード教えてくれたら一緒に行ったげる。ちなみにJ大生以外の参加は女の子か、男女ペアならOKよ」 「てめー、トシミ!」 「ふふん♥ どうする?」 利美はタネ明かし動画のパスワードをゲットした! 19. 茂樹の部屋のパソコンで動画サイトに入り、タネ明かし動画のパスワードを入力する。 画面に白衣を着た酒井と助手の二人組が登場して挨拶した。 後方に人体切断機、そして会議テーブルが二つ並べられている。 テーブルはどちらも大きな白布がかけられていた。 解説が始まった。 まず人体切断機の回転ノコギリが大写しになる。 黒っぽい表面色と精巧なシルエットのため気付きにくいが、ノコ刃は薄いスポンジ状の素材(EVA樹脂)で作られていた。 中心部は薄い金属版で補強されているものの、周囲は指で押さえるとぐにゃりと曲がってしまうほど柔らかい。 これを低速回転させて肌に当てても、よほど強く押し当てないかぎり傷つけることはない。 次に体験女性のお腹に貼った粘着テープの説明である。 テープそのものは他のダクトテープと同じものであるが、裏側を向けるとそこには薄い金属板と配線が並んでいた。 体験者に衝撃を与えるための電極である。 利美が感じたのは電気ショックによる痛みだったのだ。 「実際に使ってみましょう」 酒井が言うと、助手たちはテーブルの一つを運んで手前に出した。 白布を払いのけると仰向けに拘束された黒ビキニの仁衣那が現れた。 利美が受けたのと同じダクトテープで手足を固定、口元にも猿轡か既に施されていた。 催眠術にはかかっていないらしく、大きな目がきょろきょろ動いてこちらを見ている。 仁衣那のおへその上から電極仕込みのダクトテープが貼られた。 酒井はボタンとダイヤルのついた小さなコントローラーを手にする。 「衝撃の部位と強度はこれで制御できます。怪我や火傷の心配はありません」 言うなりボタンを押した。 んんっ! 仁衣那はびくんと震え猿轡の下から悲鳴を上げる。 「ただ今、皆さんが体験したのと同じ痛みを与えています。・・強度を上げてみましょう」 んーっ!! んんーっ!! 仁衣那の悲鳴が大きくなった。 「まさに身を切られる衝撃です。念のために申し上げますがこれはフェイクではありません。今、彼女は皆さんのときの2倍の痛みを感じています」 んんーっ、んんーっ!! んんんーっ!!! 仁衣那はがくがく首を振ってもがきながら声を上げている。 「やぁ~っ!!!」 あまり激しいので猿轡が剥がれてしまう。 助手の一人が新しいダクトテープを二本切って、べったり “X” の字の形に貼り直した。 「せっかくなので美女が苦しむ姿をしばらくお楽しみ下さい。・・え、何? 俺たちのこと、鬼って思ってる?」 仁衣那はうんうんとうなづき、それから再び激しい悲鳴を上げた。 動画はそれから1分以上も仁衣那が悲鳴を上げながらもがくシーンが続いたのだった。 「では、いよいよ人体切断を実演しましょう」 助手たちが仁衣那のテーブルを人体切断機の下に移動させた。 ようやく拷問から解放された仁衣那は目を閉じてぐったりと動かない。 酒井が回転ノコギリを起動し、仁衣那に向けて降下させる。 ノコ刃がお腹のダクトテープに触れる様子がアップで映された。 柔らかいノコ刃はテープに当たっても左右に逸れて切り込まないことが判る。 切断箇所に赤い血が溢れた。 たちまち血飛沫となって周囲に飛散する。 人体を傷つけないはずなのにどうして流血するのか? その答はカメラが引いて周囲の様子が映って判った。 助手たちが水鉄砲を構え、ノコ刃の当たる箇所にダミーの血液をかけていた。 もちろん観客には丸見えである。 利美のイリュージョンのとき、茂樹が大笑いしたのはこれだった。 やがて助手の一人が直接仁衣那を狙って水鉄砲を撃ち始める。 顔面や脇、胸の谷間などに直撃した赤い液体が滴り、たちまち仁衣那は血まみれの美女と化した。 利美も感じた、肌にぴしぴしと血滴が当たる感覚の正体である。 仁衣那は両目を閉じたまま、声を出さずに首を振ってもがいている。 電気ショックによる苦痛ではないようだ。 やがて反対側に通り過ぎたノコが停止した。 血まみれの美女は眉の間に力を入れて鼻で深呼吸を繰り返している。 ふぅ、・・ん♥ 猿轡の下から声が漏れた。 それは溢れる快感に我慢できずこぼれた喘ぎ声だった。 20. 血まみれになった仁衣那はテーブルごと当然のように逆さに立てて置かれた。 隣には、もう一つのテーブルが白布をかけたまま残っている。 その前に酒井が立った。 「体験イリュージョンのタネ明かしはご満足いただけだでしょうか。・・この後は体験者の皆様だけへのサービスです」 助手たちが白布を取り外した。 もう一人の美女、多華乃が現れた。 白いビキニを着けて、仁衣那と同じポーズで仰向けに拘束されている。 ただし彼女の拘束は粘着テープではなかった。 多華乃は麻縄で緊縛されていたのである。 手首、肘、腕。太もも、膝、脛、足首。さらに乳房、お腹の上下、腰回り。 たくさんの縄が絡みつき、小柄な多華乃の全身を締め上げている。 口元もダクトテープではなく瘤つきの縄を噛まされていた。 「自分は緊縛は修行中でして、ここまで縛るのに1時間かかりました」 酒井はそう言って、縛り上げた多華乃の姿を満足げに見やる。 ぱしっ! いきなり多華乃の頬を平手で打った。 「んーっ!!」 「気分はどう?」「んん~っ」 「最高だそうです」「んんっ、んん~!!」 多華乃の目に涙るものが見える。 それが苦痛によるものか、悔しさによるものか、または彼女自身が高まって流したものなのかは分からなかった。 多華乃のテーブルが人体切断機の下に運ばれた。 スポンジのノコ刃を取り外して、新しいノコ刃が取り付けられた。 その刃先がアップで映される。 フェイクではない、ぎらりと銀色に輝く本物のノコ刃である。 人体切断機のアームをぎりぎりまで下げて多華乃の身体の位置を調整し、おへその周囲の縄の掛かっていない部分をノコ刃が通るようにした。 「それでは、当同好会が渾身の力でお送りするスペシャルなイリュージョンです。映像のトリックはいっさいありません」 回転ノコギリが起動した。 多華乃のお腹にはダクトテープも白布も貼られていない。 肌を覆うモノが何もないのだ。 その肌に本物のノコ刃が食い込んだ。 んあーっ! 多華乃が声を上げた。すさまじい悲鳴だった。 肉体が切り裂かれ、今までのイリュージョンとは違う、やや粘度のある赤い液体が流れて飛び散った。 多華乃は叫びながら激しくもがくが、厳重な緊縛のせいでほとんど動けない。 その叫び声はすぐに静かになった。 ノコが止まると切断箇所が大写しになった。 何も覆うもののない美女の腹部にV字断面の切断跡が刻まれている。 その深さはおよそ4~5センチほど。 血溜りの中に見えるピンクの肉片らしきモノは臓器だろうか? 女性なら目を背けてしまうような映像である。 (利美はまばたきもせずに見続けた。むしろ茂樹が目を反らした) 「特別イリュージョンは終了です」酒井が言った。 多華乃が復活するシーンはないらしい。 「えー、少々サービスしすぎたようです。このままでは美女の命が危ないので、救急車で搬送して内臓の接合手術を行ってもらいます。無事に生き長らえた場合は再び人体切断ショーに登場してもらいますので、どうぞお楽しみに」 画面にイリュージョン同好会のマークと出演者のテロップが流れる。 胴体を切り裂かれた多華乃と左右に並ぶ学生たち。 後方には逆立ちで放置されたままの仁衣那。 動画が終わった。 21. 「・・」 利美はパソコンのディスプレイを前に動かない。 「えっと、・・どうだった?」茂樹が聴いた。 「ば、ばかぁ~っ」利美が叫んだ。 「え」 「どうしてこんな動画を見せたのよぉ! こんなの見たら、こんなの見せられたら、あたし、あたし、」 そう言って茂樹に抱きついた。 「へいへい」茂樹は利美の肩を抱いてやる。 「スイッチが入っちまったんだな。このドの100乗マゾ女め」 「100乗じゃないもん、1000乗だもん」 「分かった分かった」 「今すぐ抱いてよぉ。ううん、襲って。乱暴にしてっ。 手錠でも何でもいいから自由を奪ってっ。もう無茶苦茶にしてよぉ~!」 これだから見せたくなかったんだよなぁ。 茂樹は思う。 こんな状態になった利美はしばらく手に負えなくなるのだ。 ・・俺、無事でいられるかな。 この後のことを考えると、少しばかりうんざりする茂樹であった。
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~登場人物紹介~ 叶利美(かのうとしみ): 18才、大学1年。本話主人公。憧れの人体切断イリュージョン��体験。 若松茂樹: 19才、大学1年。利美の彼氏。 出水仁衣那(でみずにいな): 19才、大学1年。J大イリュージョン同好会メンバー。利美の小学生時代の同級生。 後藤多華乃(ごとうたかの): 21才、大学3年。J大イリュージョン同好会メンバー。 酒井功 : 20才、大学3年。J大イリュージョン同好会会長。多華乃の彼氏。 大小コンビ : J大イリュージョン同好会メンバー。(名無しでゴメンね) 久しぶりの学園祭+イリュージョンものです。 『 アネモネ女学院高校文化祭マジック研究会公演記』 で高校1年生だった出水仁衣那ちゃんが大学生になって再登場しました。 イリュージョンショーに欠かせない美女(女性アシスタント)のお仕事。 何もなかった場所に出現したり、空中に浮いてみせたり、箱に入って刺されたり真っ二つに切られたり。 そんなお仕事を一度やってみたいと思う女性は多いはずです。(え、多くない? いいえ、多いと信じてます!) そこで美女役を希望する女子のために体験イリュージョンを用意しました。 イリュージョンのネタは、需要が大きいww回転ノコギリ(Buzz Saw)による人体切断。 厳重に拘束されて絶対に脱出できない状態で、胴体を切断される気分を楽しんでいただきます。 こうしてイリュージョンに挑戦する女の子たち。 手足を粘着テープ(ダクトテープ)で拘束されてちょっといい気分になっていたら、ノコに切られる痛みと流血でパニックに。 本当に切られていると思って必死に助けを求めます。 観客には仕掛けの一部(水鉄砲)が見えていてそのチープさに笑いも起きますが、当の女の子にそんな余裕はありません。 ショックのあまり気絶してしまう女の子もいます。 マジックとして見ると、何も知らずに騙されるのは当の美女だけ。 実に贅沢なネタですね。 公開の会場で多数の観客に見せるのは難しいのでプロマジシャンの興行には向きません。 本話のように一般客を締め出してプライベートショーとしてやるか、あるいは仲間内のサロンのような場所でその日が誕生日の女の子へのサプライズ・イベントとして楽しんだりするのがいいでしょうね。 なお、最後の動画で見せたタネは作者の妄想ですから、そのまま実現可能と捉えないで下さい。 特に電動回転ノコは非常に危険ですから、真似して本当に救急車を呼ぶことになっても責任は負えませんよ~。(そんなアホな人はいないと言い切れないご時勢) 冒頭のテレビ特番は昭和の香りが漂っています。 今ではありえない事ですが、昔はゴールデンタイムにスプラッター風味満載のイリュージョンもやっていて家族で(!)見たものでした。 放送事故を装った演出もあったような気が。 ネットなど影も形もなかった時代、日本中の純真な少年少女をモヤモヤさせた番組でした^^。 平成も終ろうかという時代の大学生である利美や仁衣那が小学生のときにこんな番組はなかったはずですが、作者のノスタルジーだと思ってお許し下さい。 そして今回はもう一つ、空中に浮かぶダンボール箱から美女が登場するネタをやらせていただきました。 こちらはここ5~10年くらいの新しいイリュージョンですよね。 女性が箱から登場するネタは大好きなので、同じタイプのイリュージョンで箱が極端に小さいか、女性が複数出現するものを見てみたいです。 無理は承知でそのような動画があれ是非教えて下さい! 最後にお詫びです。 前回の後書きでスザンナ姫の再登場に触れましたが、そっちの執筆が進まないうちに本話が先にできてしまいました。 スザンナ姫のお話は次回?やりますので、どうぞ怒らずにお待ち下さいませ。 それでは、これで。 ありがとうございました。
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sugared-lie · 6 years
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13.13
第2話導入 
影丸は満員電車でZARDを聴きながら出勤(痴漢えん罪に巻き込まれないように手と荷物を頭に乗せてる) 13課のドアを開けると先輩と明金が殴り合いをしているのに遭遇。割って止めようとするが巻き込まれ失神。 目を覚ますと課長から事件の発生を告げられる。 2人の力で解決するようにとのこと。 先輩は別の捜査をするらしい。 そのことに明金が文句を言うと逆に挑発され売り言葉に買い言葉で明金は1人血気盛んに現場へ向かう、それを影丸が待ってくださいよ〜と追いかけていく。 その様子を見て課長が 「いやぁ〜にしてもあの2人は似ているねぇ あの頃の君たちに」 先輩「……。さぁてあたしも外出ますか、課長例の件よろしくお願いしまーす」 そのまま事務所を出ていく 課長(……。僕は彼らが彼女の救いになってくれることを願うよ。) 明金は現場に着いた。事件の概要はこうだ。公園で不可思議な焼死体が見つかりガソリンはおろか火元も火の気も全くないところで起きた火災ということもあり事件は難航していた。また死体に不可思議な魔術に用いられそうな紋様があったこともあり13課が担当することになったということらしい。 明金の後を追い影丸が現場に着く。そこには影丸が前に属していた捜査一課と鑑識が現場検証をちょうど終えたタイミングだった。 影丸は一課の刑事に声を掛けられる、振り向くと影丸の前のバディである叩き上げのおっさん刑事と現在そのパートナーであろうメガネをかけた警察学校でエリートと噂されていた新米刑事であった(おっさん刑事がよく影丸の話をするので年下の彼はなにかと影丸にたて突いてくる) 13課はどうだ?だのいい加減結婚しろだのどうでもいい話もされつつ事件を引き継ぐ影丸。 明金はその中に加わらず血眼になってなにか証拠を探そうとしている。 そんな2人を見てそのエリート刑事が「これが先輩がいう出来のいい後輩刑事とそのパートナーですかぁ?全然息合ってるように見えませんけどぉ」と鼻で笑ってくる。 影丸は苦笑い。明金は一瞬ガン飛ばすが無視。(殴りかかるんじゃないかとヒヤヒヤしている影丸) ビビる新米。 そして最近不可解なオカルトじみた事件が増えているらしいことを聞かされる。 そんな感じで証拠や身元確認を済ませていくのだが明金が野次馬で集まった人の中から怪しい人物を見つけ出し明金を見て逃げ出したため追いかける。 影丸も後を追い、明金に追いつく頃にはその逃げ出した人物はすでに鉄拳制裁によって完全に伸びていた。その人物は過去に明金に逮捕されたことのあるチンピラだった(ボコボコにされながら) その男は事件には関与しておらずアリバイもありただ明金にびびって逃げただけだと供述。 この件によって2人は一般人を殴ってしまったことの始末書を書く羽目になり、先輩から説教される。 全く息の合わない様子に影丸が「ちゃんと力を合わせて捜査しましょうよ」というが明金は聞く耳持たず。どこかへいってしまう。 困り果てた影丸はその日の夜、一課の先輩刑事の元を訪れる。一杯やることになり先輩に思い切って相談。すると 影丸「実は今のバディ、明金さんとうまくいかないというか、もちろんじぶんの力不足のせいなのですが…彼女は行動力もあるしとても優秀です。気弱な僕なんかがパートナーじゃ足を引っ張っているだけにしかならなく感じてしまって。。」 先輩「いいか影丸。人間っつーのは弱点だらけよ。喉にみぞおち、目なんか潰されちゃあおしまいよ。おっ店員さん生もう一杯、お嬢ちゃん可愛いねぇ… ゴホンッ あーーーーえーなんだ しかも人によっては精神的に弱いとこだってある。そのよえーところを全部庇うなんざ物理的に不可能っつーわけよ。おれたちゃ前しか向けねーからな、いくら意識したって後ろはガラ空き。不意打ちで終わりよ。 これはかんけーねぇ話をしてるわけじゃねぇ。 バディってのはいうならばこのビールと焼き鳥よ、片方だけでも十分だが両方揃えば無敵よ。最強よ。そのおめーのバディを無敵にしてやれんのは影丸。お前しかいねーんだよ。明金くんの背中を守ってやんのは相性でも能力でもねぇ。パートナーを命がけで守りたいって奴にしかできねえんだ。まっ、これはおれの長年の経験だがな。」 影丸「先輩…相変わらず…例え話下手ですね。。」(この人の後輩でよかったなと控えめに笑いながら) 先輩「ふん、かげ、オメーも言うようになったなっがっはっは。まあ今日は一杯引っ掛けて明日からまた気張れや! おっ、影丸みてみろ 新メニューだってよ!なになに?ハバネロ明太手羽餃子?一体どんな味すんだろうな!頼もうぜ!いやぁ〜昔っから新メニューってのに弱くてな、こう新しいものってなんでもどんなものか確認したくなるよなぁ〜」 影丸「先輩それ絶対やばいやつですって!食べない方が…ん?…新しいもの…確認…」(何かに気付く) 先輩「ん?どうした?」 影丸「先輩…すみません!!!今から戻って調べ直さなきゃならないことが!!あと明金さんのことも」 先輩「んー?そうか!おうっ行ってこい」 影丸「ほんとすみません!今度埋め合わせするので!!失礼します!!」 先輩「……。ふぅ、おれも後輩に置いてきぼり食らう歳になっちまうとはなぁ…案外良いもんだ。(新メニューを食べる)うん、かれぇわ。染みるなぁこれ。。」 次の日明金は気まずさから朝事務所に顔を出さない、影丸は目にクマを作ってギリギリに出勤してくる。そしてそのまま課長に犯人の目星がついたことを伝えそのまま張り込みにいくと出て行ってしまう。 影丸がいなくなったのを確認した明金はそーっと出勤。 課長は影丸が犯人の元へ行ったこと、影丸が明金くんに応援を頼んだことを伝える。 明金は私の力なんて必要なかったのかよ…ふんっもうひとりで解決できるだろと少し僻んでいると課長が「おやおや、影丸くん、ノートを忘れていったみたいだねぇ、事件のことととか書いてあるんだろうから困るんじゃないかなぁ」とぼやき部屋を出ていく。 明金は数分無視したが結局気になってしまいノートを見る。 課長は部屋の外で待っていたところ 明金は勢いよく部屋を飛び出していく。課長にも気付かずどこかへいってしまう彼女を見て課長は 「うぅん、いいねぇ若さだねぇ」 そこに先輩も居合わせて 「ったく、世話が焼けるわ」 明金はつむじ風を起こしそうな速度で走っていく。その姿に迷いや憂いはない吹っ切れた表情をしていた。 明金が走るとこの回想シーン 明金が影丸のノートを開くと 中には事件についてまとめられた資料が事細かに書かれている。 明金は几帳面に書き並べられたメモに若干の嫌悪感を抱きながらそれとは別に後ろの方に書きまとめられたそれに気付く。 明金サラ について は? 明金は面食らう。 そしてその次の項をめくっていく。 その1 イライラすると物や人に当たることがある その2 聞き込みは苦手。挑発や喧嘩っぽくなってしまう可能性がある。 なんだこれは。こいつは私の悪口を書き殴っているのか?よし殺そう。 その3 腕っぷしはかなり強い。 ※身をもって実証済み 〜〜その35 思い切りがよい。 (活かせる方法を模索する) 〜その64 運転は荒そうで意外と乗り心地が良い 〜その70 意外と可愛いキャラクターがすき おいおい。意外とが多いな。 パラパラと斜め読みしながら最終ページにたどり着く。 その100 正義感がつよい。この人になら背中を預けられる。 絶対に彼女を理解し、活かすことができればどんな怪事件も解決できる。先輩を見返してみせます! 最後の文字はとても力強く書かれていた。 明金「ちくしょう。あいつに文句言わねーとどーにもむしゃくしゃしやがる、あたしが行くまでくた��んじゃねぇぞ!こた!!」 全速力で明金は合流に向かうのであった。 人気のない寂れた工場を走る夕日色の長髪をなびかせた人物。それを追いかける黒いフードをきた男たち。 逃げ切ろうとするが行き止まりで追い詰められてしまう ???「ねーちゃんどうやら鬼ごっこはここまでみてーだな」 フードを取ったその人物の1人はなんとこの前、明金の鉄拳で伸びたチンピラだった。 チンピラ「この前は大変お世話になりましたねぇ、今日はたっぷりと可愛がってやるよへっへっへ」 追い詰められ観念したのか直ちに戦闘態勢をとり刃物を振り回し襲いかかってくるそのフードの男たちを慣れた動作でいなしていく女性姿はまるでつむじ風。 ひとり、またひとりと丁寧な一撃で沈めていく。 その様子に困惑する男たち。 あっという間にチンピラだけになってしまう チンピラ「てめぇ!」 詰め寄ると後ずさりするチンピラ。しかしながらその男はニタリと笑う。 突然、彼の前から炎が立ち上がる。 いち早くそれに気付きギリギリのところでかわすことには成功。 チンピラ「ヘッヘッヘ。俺たちを追い詰めたつもりだったろうが実は誘い込んでいたんだよ。どうだ?マジックみたいだろ? ここには仕掛けをたんまり仕込んどいたんだ。 まああんたがたが睨んだ通り、あの焼死体の事件はこういうタネだったつーわけよケッケッ」 工場内を見るといたるところに魔法陣のようなものが描かれており、先程炎が上がった場所にもそれはあった。 そしてその工場の二階部分にひとり、フードをかぶり何か分厚い本を持つ人物がいることがわかる。 チンピラ「彼の力はすごいよ〜?簡単に人を燃やしちゃうんだから。 でもまさかあの人だかりから俺を見つけるとは思わなかったなぁ。すごいすごい。まああれはあんたがたを誘い出す為の事件だったんだけどね。見事に引っかかってくれて笑いが止まらないよはっはっはっ」 絶体絶命。 男は突然強気に殴りかかってくる。 不意を突かれかわし損ね1発もらってしまう。 そして その栗色の長髪が宙を舞う。 それを見てチンピラは驚く。 チンピラ「!?!? なんだてめぇ!? あのヤンキーねーちゃんじゃねぇだと!???」 そう。チンピラが明金サラだと思って追い詰めたその女性は女性ですらなく なんとも気弱そうな男だった。 ???「ははっ。バレてしまいましたか。」 その人物は着ていた上着を脱ぎ立ち上がる。 「残念ながら僕は明金サラさんではありません。僕は影丸虎太郎。彼女のバディです。」 影丸と名乗るその人物は殴られた頬をぬぐい手慣れた手つきで合気道の構えを取る。 影丸「あなたが今回の事件に深く関係していたんですね。僕の推理はこうです。 まず最近怪事件が突然増えだしたこと。そして本来我々13課は警察外部では存在していないことになっていること。極め付けは前回の化け物を使った殺人事件。あなた方の狙いは僕たちだった。今回の魔術を用いた焼死体。現場に魔法陣、火元なしとなれば我々が動くことになることはあなた方には容易に想像がついたはず。そこでそこの男。顔の割れていた明金さんに恨みのある人物を利用した。事件を起こし、彼を野次馬に紛れさせ、わざと捕まえさせ我々の体制を確認しようとした。新設されたばかりの13課があなた方の脅威になるか試したんですよね? (これは先輩が新メニューを頼まずにはいられないっていうので気づいた) そして間違った方に誘導し評価を下げさせ、あわよくば内部分裂も狙いだった。 彼が明金さんに恨みがあるのは色々と調べて簡単にわかりました。そもそもあの朝早い時間にあなたの活動区域である繁華街から離れたあの公園の事件現場に現れるなんて流石に違和感がありますよね? あなたはそういったものには興味がないことも調べはついています。あなた方は利害の一致、つまり明金さんに復讐したいチンピラさんと我々の動向を探りたいそこの黒フードの組織の仕業だったのですね。 いやー見事にはまってしまいました。危うく明金さんと13課を失うところでした。 なので今度はこちらから仕掛けさせてもらいました。明金さんの格好を真似てあなたを尾行しておけば繋がっているあなた方はすぐに気づいて逆にこちらを狙ってくるはずだと。」 チンピラとフードの人物は動揺しながらも チンピラ「ちっ。だからなんだ!!結局お前ひとり追い詰められてることに変わりはねーだろが!! 最悪な状況から抜け出すことなんてできねーんだよクソが!おい!!やっちまえ!派手に燃えて死んじまえぇ!!!ギャッハッハ」 ドサッ 「……。」 チンピラ「おい!どうした!はやく燃やして…あっ」 チンピラは二階に目をやると黒フードは倒れており 代わりになんとも艶やかな栗色の髪をなびかせた女性が仁王立ちしていた。女はとてつもない眼光でチンピラを睨んでおり、その姿からは何かオーラのようなものが見えるほどその空間を圧倒していた。 その人物は明金サラ。その人だった。 その姿を見てホッとした様子の影丸。 影丸「(ふぅ…良かったぁ。) ゴホンッ、あなたは先程僕に最悪な状況だって言いましたね。 でも残念ながらその 最悪な想定 は済んでました。」 チンピラ「あいつが来るように仕向けたってことかぁ!?」 影丸「いえ、それは少し違います。僕は信じただけです。バディを。」 影丸「あなた方の 失敗 はこの最悪な状況を想定できなかったこと。それはつまり13課を、僕たちを」 影丸がそう話していると 明金は二階から飛び降りチンピラに向かって全速力で駆けてくる。 そしてその握りしめた鉄拳をチンピラめがけて勢いよく放ちながら 明金&影丸「「舐めんじゃねえ!!!!」ってことです!!」 その怒りのこもった一撃は鈍い音を放ちチンピラを気絶させるのにはあまりにも充分過ぎる威力だった。 影丸はそのままチンピラの身柄を押さえ 「10時48分、公務執行妨害罪及び、公園で起きた焼死体殺人事件の容疑者として逮捕します!」 ガチャリ。 チンピラは完全に伸びていたが 手錠は男の両腕にしっかりと付けられた。 影丸「ふぅ。これにて一件落着ですね。あ、明金さん!ありが…ゴフッ…!!」 影丸は明金に礼を言おうと振り返ると綺麗な右ストレートを頬にもらった。 明金「ふぅ〜〜スカッとした!! おい、こた!言いたいことは山ほどあるがひとまずこれでチャラにしてやんよ! まずなーに勝手に1人突っ走ってんだばーかっ それと無断で私に成りすまそうとはどーゆーことだよ!」 影丸「殴ってチャラにした上で文句もちゃんと言うんですね…」 影丸は完全にその最悪の想定ができておらず右ストレートをもろに喰らい後方に倒れピクピクしている。 明金「まったく。あたしが駆けつけたからいいもののもし間に合わなかったらどーしてたんだよ、アホこたっ」 影丸「いててっ…そ、それは必ず来てくれるって信じてましたから。」 明金「おめーはよくそーゆーことを恥ずかしげもなく言えんなったく。そーじゃなくてお前がよく言う最悪の想定はしてなかったのかって聞いてんだよ」 心なしか明金の顔は少しずつ赤みを帯びてくる。 影丸「あっ、ほんとだ。全く考えてなかった。もしこなかったらどうしたらよかったんでしょう??」 明金「知るかばーかっ」 明金は耐えられなくなりそっぽを向く。 ここにあの女がいなくて良かった。こんな顔見られたら何言われるかわかったもんじゃない。 明金はそう思った。 影丸「でも多分なんとかなりましたよ。明金さんは僕の想定なんて軽々しく超えちゃう人ですもん。」 影丸はハハハと笑う。 影丸「さてと、まだ先輩は来てないみたいですし。今のうちにやれることやっちゃいますか」 影丸は伸びたチンピラを強引に水をぶっかけ起こす。 明金「やることぉ?あ、そうかあの女がいると手柄取られる上に全然教えてくんねーもんな!こたのくせに考えてんじゃねえか〜〜!」 影丸「はは、それ褒めてるんですよね…?まあいいやとりあえずこいつとあっちで伸びてる奴を起こして話を聞き…」 影丸がそう言いながら二階に目をやるとそこには黒フードの男はいなくなっていた。それどころか影丸が倒したはず他の手下さえ消えていた。 影丸「そんなバカな…!?いつのまに??」 影丸が動揺していると突然チンピラが苦しみだす。 チンピラ「うっ…!?熱い!ひぃ熱いあちぃよおぉ苦しいあああっあああああああああ」 影丸「どうしました!?しっかりしてください!!」 男は苦しそうに着ていたアロハシャツを破く。 するとそこには魔法陣が描かれておりそれが赤く蒸気をあげながら光輝いていた。 影丸は触ろうとしますがあまりの熱さに男から遠ざかる。 男はさらに苦しそうに暴れまわる。 そしてみるみる蒸気が上がっていきついに着火しだした。そうなるとその男は一瞬で火だるまに。 チンピラ「がぁぁぁあああああああたずげでぐれ゛ぇぇあぁぁぁあ」 影丸「明金さん!み、水を!今水を持ってきます!!しっかりしてください!」 明金「お、おう!」 チンピラは影丸に何かを伝えようと口を動かしている 「つ つ つとぅ ぐぁ」 影丸「えっ?何ですか?」 「つ づぐよみ の  がらず ぎょうだん 」 「づ とぅぐあ」 影丸「しっかりして!」 明金はバケツに水を汲んできた。 明金「おい!持ってきたぞ!」 しかしその頃には男はぴくりとも動かなくなっておりそこには真っ黒に焦げた人だった物がまだ炎を上げてあるだけだった。 影丸「くそぅ!口封じを仕掛けておくなんてなんでそんな簡単なことに気づけなかったんだ僕は!!」 影丸は拳を地面に強く叩きつける。 明金「こた…」 明金は落ち込む影丸にかける言葉を探すが何も思いつかなかった。そうしているとそれに気付いた。 明金「こた!まずい!あちこちから蒸気が!外に出るぞ!!」 明金は影丸の手を引き外に出る。 出ると同時だった。 建物は勢いよく燃え盛り爆発にも似た音を立てて崩れ落ちていった。 そこに大量のパトカーがなだれ込んでくる。 その中に課長と先輩。 先輩「おい、無事か!」 明金「お、おう。。でも…」 明金は燃え崩れる建物を見る。 影丸「すみません。犯人を追い詰めたのに。。こんな結果に。ほんとすみません。」 明金「い、いや!こたは悪くねぇ!あたしが」 明金が弁解しようとすると先輩が食い気味に話し出す。 先輩「私はお前たちに無事かって聞いたんだ。その様子なら大した怪我はないな。なら良いよ。」 課長「うん、2人が無事で何よりだよぉ、しかしながら、これはとても大きな陰謀が渦巻いているようだねぇ…」 課長は燃え広がる炎の先を見続けながら言った。 それに呼応するように皆その炎を見る。 落ち込む影丸にはその炎を見ることもできなかった。 影丸、彼の手には火だるまになった男が身につけていた指輪型のペンダントが握られ、炎が消し止められるまでそれに視点を落としていた。 その炎は何かの始まりを不穏に予感させる何かがあった。消火活動は日が落ちるまで続き、我々はただただ立ち尽くすしかなかった。 影丸は今日もいつも通りZARDを聴きながら出勤。 影丸「おはようございまーす!」 扉を開けると今日も今日とて先輩と明金が取っ組み合いをしていた。 2人は龍と虎にも似たオーラを放っている。 影丸は割って止めようとする。 そうすると影丸がターゲットになるのが最近のパターンだ。 影丸「2人ともやめいででででちょっ待って…息!息できなっゔっ」 手足を明金に抑えられ首を先輩に決められた影丸は一瞬天国の両親に会ったそう(後日談) 影丸「ハッ」 目を覚ますと先程とはそこまで時間が経っていないようだが完全に気を失っていたようだ。2人は満足したのかお菓子を頬張っていた。 影丸(はぁ…最近わざとやられているような気がしてならないな…ほんと最悪な想定を超えてくるよこの2人は…) あの事件の後、犯人は逃したものの13課の功績が認められ少し予算が良くなったそうで課長は嬉しそうにぽたぽた焼きを頬張っている。先輩は相変わらず無愛想だけど時折僕達の近況を気にしてくれているようだ。明金さんはというと… 明金「おいこた!聞いてくれよこの前街を歩いてたら中国系とロシア系のマフィアの対抗してるとこに出くわしちまってよぉ〜〜」 明金は嬉々として話しているがそれは全く笑いごとじゃないことに気づいているのだろうか。いやダメだ。完全に楽しい時の顔だこれ。 こんな感じで以前より自分のことを話してくれるようになった。少しずつだけど13課の雰囲気も良くなってきている気がする。それは良かった。良かったけど… 僕はあの事件のことがどうにも引っかかっている。 これを後悔と言うのだろう。 きっと今こうしてる間にもまた事件は起ころうとしている…そんな気がしてならない。 影丸は引き出しを開け煤けた指輪を眺める。 僕たちはとても大きな悪意の中にもう巻き込まれているのかもしれない。もしそうなら僕達はなんとかしなくてはならない。たとえ命を落とそうとも。 影丸が前を見るとみんなが影丸の方を見ていた。 彼は思う。この人達となら大丈夫な気がする。確証なんてないはずだけれど。少し明金さんに似てきたのかな。 影丸「ん? あれないな。そういえば僕のノート知りませんか?」 明金「んー?ああ、これのことか」 明金は自分の机の引き出しを開けて影丸のノートを取り出す。 影丸の顔の血の気が一気に引いていく。 影丸「なん…で?あ、明金さささんが僕のノートを?あの、ま、まさかですけど中身見てませんよよよよね���?」 明金はニヤリとする 明金「ああーこれねぇーお前あたしがいくら魅力的だからってこれはどーなのぉ?」 そう言いながら明金は 明金サラについての項を開く。そして読み上げる。 その25 乾き物よりチョコレートとかの方が好き その34 意外と後輩の婦人警官の間ではファンが多い 課長「明金くんそうだったのぉ!?ぽたぽた焼きも美味しいよぉ??」 少しショックを受ける課長。 明金「こた、お前意外と使いすぎな。罰として昼飯奢れ!」 影丸「…さい」 明金「ん?」 影丸「返してください!!!」 影丸は取ろうとするが明金はヒラリと交わす 明金「おっと〜もう別にいいだろ〜〜ほとんど見ちまったぞ?」 影丸「全部…全部は見てないんですね…?」 明金「ん?何?その言い方だとなーんかまずいこと書きやがったなー?」 明金は楽しそうにペラペラめくっていく 影丸は構えを取り、いままで見せたことのない速さでノートを奪い取る。 明金「あっ!こらこた!まてぇ!!」 影丸「だめだめだめだめ…絶対だめ〜〜!!!」 2人は署内を走り回る。そして2人揃って怒られることになるがそれは少し後のおはなし。 こんな感じで13課は毎日破茶滅茶!最悪の想定が追いつかないです…この人達とこれからどうなっちゃうんだろう、ふ、不安だーーーー こた、まてーーーーーーー 影丸が持って逃げているノート 明金サラについて その91 笑った顔はかわいい。 彼はこのノートを死守すると心に誓うのだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 影丸「課長、少し話が。」 課長「どうしたんだぃ?」 影丸「今回の事件、犯人側に僕らの素性がバレてました。」 課長「ほぅ。それはつまり」 影丸「確定とは言えません。ですが警察内部から情報が漏えいしている可能性は高いと僕は考えます。」 課長「うん…あまり考えたくないが。。そうか…」 影丸「明金さんや他の人には言っていません。変に疑心暗鬼になるのはまずいので。」 課長「そうだねぇ、今のところはそうしておこうか。こちらでも調べてみるよ。報告ご苦労様。」 影丸「ありがとうございます。では失礼します。」 課長「内通者…ね。」 その日は力強い雨が一日中降っており 不穏な雷が鳴っていたーーーー
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