#耳を乞ふ者目を隠す
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Every week, we bring you a treasure trove of captivating music videos from lesser-known, new and intriguing Japanese artists who deserve your support! Join us on this extraordinary musical journey as we shed light on the artists who often go unnoticed but leave an unforgettable impact. We also maintain a YouTube Music playlist!
This week we highlighted music videos from: 🍙 おどるアナグマ (Odoru Anaguma) 🍙 Remnant 🍙 Mellows 🍙 雪国 (Yukiguni) 🍙 耳を乞ふ者目を隠す (Mimi Wo Kou Mono Mewo Kakusu) 🍙 Puff 🍙 月刊少年アイロニー (Monthly Shonen Irony)
Since 2020, AVO Magazine has been publishing a list of seven music videos by Japanese artists in various music genres (from pop to rock to metal) that we think you will find interesting!
Enjoy the music!
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くだんのために
どこへむかって 富んで征くのか? (じつに青い鳥とは悪意であろうよ) なにをおもって 演って来た? (みじめに 揺れたのですよ) つたえることもなく、みえやしないか (極限を おもいえがいたときに) さてね、あらわれるものだから この國國の一点に細い群れの白昼夢は不協和音の彫刻。てばなし。幽かな指の間をすり抜けて、ほらね。泥を塗る。ひとびとは巧妙な多幸感のまなざしも擦り付け「星のめぐりを試す」と云い――絹の付箋に示された腐肉の正解が耳目に触れる体積は、せわしく啜る昼顔の露におなじ モダンな葬列があらわなボロを広げては沁み入るようなランプと灯し続け、存在を握る手が「わたしたることを、ただぞんざいに土に飢える。」アカツキはますます強くなり、たぶん室内はざっと数えても底しれない它翅、垂れ流したアクビであろうが たしかに手招きを模倣し運ばれた瓶と巣を、 (受け止められものと結びついたものを 解くには容易でなくてね) または制帽と羽織を冠るように押し付ける。 貴重なる海の破水されたぬいぐるみのようで 蝋細工である蛆虫の196ピースが 無数のそれは無数の、残骸は 肌に触れるとおどげでないものの誹りとして 窓窓窓に囲まれる。片道切符、苦い快感と共に 2歩歩く。葉音に群れる大事な誓いだ どの歪ん��顔。全身でわらう花を 我らを なんと呼ぼうが。燐��に備わる露骨な妄想だ ダイヤルを回し/新しいラインにのせると ――ほらね 柳の下のような気がする予。 :滅びた後も存在すると考えられることも多い 未知とはただただ かぎりなくにせもの―― 言いかけた言葉が強引に仔羊を柘榴に戻し、塞がれた風穴などまっすぐにモーテルへ続き、迂闊にもがれたのだから仕方ない。癇癪を熾した、たましい 韜晦のランタンに近づくと黒く 変色していた蝴蝶もこちらは、複雑な爪痕をやどした塒に 薄化粧した数珠はしめり、袖に隠して置いた循環。あげつらうインクのしみに正午を打つもよおし、艶やかな鳩時計があればいい鴨。スマホの奥でよだれを垂らすおくゆきこそ神、不自然な鷺の種を蒔きどこか水に流す印象、故意は乞いを語彙に敷き詰める 焦げたてんびん。混ぜ込んだのは薬剤と大小の活字、それと灰と秘蜜だよ ものぐさでもわるびれないから〝だれはばからず たれまく〟発作のよう黄昏に染まり、彼はざわめく木立の。この狂いの原因は、道楽の議論、あゝ僻地の風通しも元気か 鮮陣を疾走っていた/ですが旅鳥はその過程で立ち上がった/私を照らすのは無影灯、どこかへいく。だがきみでありぼくであれ生命とある。システムは无ム悲観に肯定する/かなたの海もあたいの山も、知らないところで。宿主は装飾の施された見世物小屋に絶えず経ち自由に選ばれる、にぶい姿態はすべて響いていた。あおいかべに消せない嶌影(その犠牲のうえに。(その代償に架けて。 賭して惨めな格好が畫かれる常々は末路など啓かれず そんなものだとて石を拾っては、お花畑にみえるならそれでいい。用途も要点もない幼稚な色彩にありつづける 汝、しかいがふみしめると ――なにもかもわすれていく ステンドグラスの焦土ですかねぇ 信号も交差点も三途の川ばかしの 綿菓子が熔けて痙攣した ざわついた骨が黙劇の訪れ、 どうせ詩を唱えているばかりだ かくしてこの初���のことである。 不規則なある物のように、不条理にある者のように ――わたくしは死んだのですよ 過去の未来へ切断された鏡面に萎縮し、剥がれた夜気がヌメるように無常にも微笑った。綾がいくつかにわかれ のたり、あっというまのこと、古びた風に呑まれて 光沢の波に紛れて また、お静かに、白い海は。 「序曲でも失明でもない。まだ感じられない。時は聾唖であり、綻びかけたなにか。」だとして 追い詰められた闇の底に空想を交えた荒寥が犠牲にした、煌々と灯る、ケモノミチに。きりきざんだ潮の流れをも見つめながら、あわただしい人生の深淵に孕んでいた游び場は、水切りの塚とあしあと。わざとらしい感嘆の溜息が暮れのこり、念と透明に鉤爪の恒星はひとつかみ。とばりがまた映し出す、ことわり�� 恍惚と舟に浮かび――あゝ精神は風見鶏。不甲斐なさとでも硝子の笈に湛め。異なる数の手足を持ち 今あるヒカリが跋扈する、胎盤はめまいと共に瞑想的なもので。怒りの味がするほど感覚は低い低い瞼で。じつと上澄みを未饐えてゆく 旅立つこともなく 極端にのろい切り傷がズレた ミクロコスモス /ピンホールカメラからみどりごを覗く、凪 またうまれうまれ、そらへゆくゆく /コカインでもヘロインでもあるけど 鉛筆でセカイ《赤ン坊》と書いて掌に蠢いている /輪廻など持ち込めやしない 途切れた約束を。お忘れになられたからまた /ささやくように さざなみだしたという まだ聞こえない、入道雲が沸き立つまでの距離だ 重なる檻を形成した花のかおり 秘色はまだ窺うようで、瞬間の、不格好にうわずらせた合図も恨みのまた、ざわめく植え込みが 横目で彼らを見ながら、白線の たくしあげる裾を、浮き橋に はだけながら、途はぞんざいにへばりついて、白痴という死体をみなぎらすなにかが 口に放る、 できるだけあるべき姿を縋り付くように愛称を勃たせた、大きな縫い針で 私はSOSを発しているレコード 泥舟もまた自らの手。抑圧のどこかで外したも��では無いと、またスイレンは朝まだ浅い、みみずくのこらと。この心臓に暴かれた楽園。終わりなどまざまざとカニバリズム《愛》全裸に近づくように ��鏡のしずくとひかり、 ともに弾かれしゃがみこんだ時 すべてのものを見た。 (冷えた指はしらない。)くだんのために :また少女は《Eiserne Jungfrau》 ほんのすこし、 きれいだった、ことを おもい かえしては いたのでした 2024-08-24
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響宴~10th Anniversary LAST DAYS~
ハロー、僕は元気じゃないまま、まだ生きてます。
耳を乞ふ者目を隠す バンド名を知らなかった初めてのバンドだけどフロアライブで特別な角度からの景色だったので自動的に(?)特別な印象のバンドになったというか・・・もしまた次があったらどんな印象になる���楽しみな様で怖くもある。
クジリ 数年前から存在は知ってて、出演する公演にも行ってはいたが出番に間に合わなかったりソロ出演だったりとちゃんとバンドで観るのは3年ぶりの2回目で、しかも前の時がメンバー脱退直前だったからまあ初めてと言えば初めてというか、3年前の記憶が消し飛んでるからのようなこんな歌声だったっけ?ってなって戸惑いもあった。 でも公演中に正式メンバーとして加入が発表された新ベーシストとサポートドラムの人と良い感じの演奏だった。
それでも世界が続くなら 過ぎたとは言え季節柄あの一番好きな曲やるかなと期待しちゃってたけど相変わらずやらず。 なるべく期待しないようにしてるけどちょっとしちゃってたから残念感はあるけどフロアライブの特別な角度から眺める彼らはまたいつもと違って一層と良かったな・・・
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エドワード王 七巻
昔日の王の一代記、七巻
ドラゴン
「それじゃ、お前はデイドラを見たのか?それで、トゥースでネズミを殺したって?トゥースはいい黒檀の短剣だからな。あれは珍しいものだから、本当にちゃんと手入れをするんだぞ」ミスが言いました。「モラーリンの父親から受け継いだものだってこと以外は何も言えないがな。あれは俺たちが逃げ出す前に彼の兄さんが修理するように言ったやつだ。マッツが削り出した柄のドラゴンの歯をどうやって手に入れたか聞きたいか?」
内側に薔薇と棘のある蔓と葉が浅く彫り込まれた柄を、愛おしげに撫でながら エドワードが頷きました。それは夕食を終えてからそれなりに時間が経っていた頃で、エドワードとミスを除いて、皆それぞれの事情で火のそばを離れていた時のことでした。アリエラとモラーリンは手をつないで���歩に行きました。アリエラは治ったばかりのモラーリンの左手を、両手で支えていました。一緒に来ないかと言われた時、二人は笑って頭を揺らしていました。「今夜はやめとくよ」アリエラが言いました。「早くおやすみなさい。夜明け前には発ちますからね」ウィローはハイエルフの友人を訪ねに出かけました。ビーチとスサースとマッツ、そしてカジートの女性シルクは、一緒にどこかに行ってしまいました。ミスに一緒に行こうと誘いましたが、ミスは辞退しました。
「カジートだ!あいつらはみんな恥知らずのカジートになっちまった!」ミスが言いました。短気なダークエルフは燃える薪のそばに座って、膝を抱えました。彼の髪と目はほのかな光に輝いていました。「対戦相手を見つける時にはな、トーナメントにはせずに二人だけにするんだぞ。チケットは各々また買えるさ。カジートは俺たちがみんなで飯を食うのが変なことだと思ってる。シルクが言うには、みんなが口の中で噛む音を聞いて気分が悪くなって食うのをやめるんだってさ。まあ、俺も見物人がいると気分が悪くなるぜ―こんな話は、お前にはまだ早すぎるけどな」
エドワードは肩をすくめました。美しい夜で、きりっと冷えていて、月は出ていませんでしたが、星々はとても大きく輝いていました。
「とにかく、マッツが俺たちの仲間になったのは、そのたった何か月かあとだ。俺たちはスカイリムに向かっていて、町から町へ旅をしていた。世間知らずのガキ3人だけで、変な仕事でもあればやった。試合があるって聞けば、モラーリンが出たけど、言うほど勝てなくてな…そのあとの治療代を稼ぐのがやっとだった。スカイリム方式の戦闘なら、お前なんかボッコボコだぞ―シールドの呪文どころか何の呪文もないんだ。魔法は禁止だ―死ぬようなもんじゃなくてもだぜ。それに、彼はちびっこいダークエルフの血が砂に飛び散ることなんか気にしないいくつかのタイプの人間を引き寄せるんだ。いっぱいかな。最初は群衆が相手なんだ。闘技場では本当に淋しい気持ちになるもんだ。特にその町のお気に入りをぶっ倒してる時にはな。そいつにぶっ倒された時はもっと悪い。
「マッツと俺だけが彼の味方で、時々は大声で応援もできなかった。あの頃はダークエルフを応援するノルドの小僧が本当におかしなものに見えたんだ。もちろんマッツはでかかったから、誰も手出しはしなかったけど。ずっと昔のことさ。困難な今ならモラーリンはお気に入りだ。いい試合には当然歓声を上げるだろうが、彼が負けるのをみんなが本当に見たがってるわけじゃない。最高のものを見るのが好きなんだ。それがダークエルフの皮をかぶっててもな。彼が闘技場��中に入ってきたら、お前は最高のものを見てることがわかる。ノルドの方が優れてるのを見るのが好きなだけじゃないんだ。マッツももうすぐそうなる。あいつはモラーリンと全力で戦わないけどな。たぶん、そうしたくないのかもしれないし、モラーリンがあいつを知りすぎてるだけかもな。おっと、そうだ、ドラゴンの話が聞きたいんだったよな…
「それで、ある夜、モラーリンが手っとり早く稼ごうとして宿屋でノルドと博打をしたんだ。賭け金がかなりの額だったからその男は賭けられなくて、そいつはこの地図を賭けると言ってモラーリンの肩を叩いた。そいつは、それがこれまで作られた中で一番優れた剣の隠し場所の地図だって言うんだ。それには魔法がかかってて、敵に当たるとそいつが怪我した分自分の怪我が治るって。どこかのメイジが死ぬ前にふさわしい者だけが手に入れられるように隠したんだそうだ。
「『で、私がこの価値を認めるとでも?』モラーリンがにやにや笑って言った。俺たちは若くて間抜けだったが、底抜けに間抜けだったわけじゃない。
「ノルドがニヤッと笑い返して言ったんだ。『お前がファルクリースで戦ってるのを見たぞ、坊主。お前にはチャンスがあるように見える』
「『いいとも。その話だけでも金になる。あんたは吟遊詩人に向いてるぞ』そんなわけで、モラーリンは賭けに勝って、その男に一晩中飲むには充分な飲み代をくれてやった。笑ってやろうと思って俺たちは地図を見た。ハマーフェルのドラゴンズティーズ山脈が書いてあった。本当に荒れた土地だ。そこにはXの字と、『牙の巣』と書いてあった。マッツは興奮してその土地のことは聞いたことがあると言ったが、どこにあるかは全然知らなかった。
「『場所は知らないんだろ』俺は言った。『どんな馬鹿だって地図ぐらい書ける。見れるのと一緒さ。俺だってこれぐらいできるぜ』
「マッツは牙の巣は古いドワーフの鉱山だと言った。だけどそこにはドラゴンがいるらしいし、ドワーフはいなくなった。鉱山の話が出ると、モラーリンは本当に興味を持ったように見えた。それで何を採掘してたか聞いた。マッツはミスリルと金だと答えた。
「モラーリンは『うーん』って言ったよ。
「ミスリルに興味を持ったんだ。本当にいい武器を手に入れられなかったからな。それにミスリルは稀少だけど、値打ちのわりには軽くて持ち運びがしやすいし、掘り出すのも簡単で、やり方さえ知ってれば武器を作るのも楽だ。彼は知ってたし。魔法の剣もドラゴンも信じてなかったが、鉱山は本当だと考えたんだ。採掘は彼の血だ。エボンハートの王族、ラーシム家全員のな。
「そこに着くまでには2か月かかった。俺たちは馬は買えなかった。地図なしには見つけられなかっただろうな。ややこしい土地なんだ。渓谷と隠れ谷がいっぱいで。そこに着いた時に見たものは、俺たちが想像したこともないようなもんだった。渓谷の切れ目から塔がいっぱい見えた。採掘する時、ダークエルフは洞窟の中に住むが、ドワーフたちは鉱山の上にでっかいホールを建てたんだ。外側はきれい��ものだったよ。細い塔の間に弓型の橋が架かってた。優美だったな。お前はドワーフがこんな仕事をするなんて思わないだろうよ。岩にも入り込んでた。そして、門の上にはドラゴンが乗った大きな石があった。
「『お前のドラゴンがいるぞ、マッツ』俺は言った。中は大して見るものもなかった。ただの岩壁さ。廊下は本当に大きかったが、ドアはなくなってた。大きく口を開けた穴の周りにバルコニーがあった…多分、採掘の開始場所で、ホールになったんだろうな。その真ん中には想像できないほどの宝があった…平らにした干し草の山みたいに積み上げられてた。それを平らにしてるのは、その上に丸まってる金色のドラゴンだったんだ。初めは、俺たちは彼を見もしなかった。黄金の色と見分けがつかなかったんだ。それで、俺たちはただそこで固まってた。外でドラゴンが生きてる痕跡は見なかった。その場所は硫黄の匂いがしてたが、鉱山はそんなもんだ。そこにいたドラゴンは、ただ横になってるだけだった。隠れられそうな場所は、どこも2マイルは離れてたよ。
「『ドラゴンがいるって言ったろ』マッツが囁いた。
「『しーっ』モラーリンが言った。『鼻の先にあるものを見ろ』
「俺はその鼻を見るのに忙しかった、本当だぜ。だけど、確かにそこには裸で剣が置いてあった…そして、彼の短剣とそっくりの黒い金属でできた刃だった。『お前たち二人は後ろに下がれ』モラーリンが言った。『私はとにかく剣を取りに行ってみる。あれが黒檀じゃないなら、私はウッドエルフだろうな。ドラゴンは死んでるか、冬眠してるか…もともと生きてるものじゃないかもしれないし。ドワーフが宝を守るために作ったただの何かかも。ノルドの農夫が麦畑に置くかかしみたいなものだ。私はお前たちが逃げる時間稼ぎができる程度にやつの気を引くよ』
「俺は彼にそうしてもらおうと思った。だけど、マッツが首を横に振って、一人で戻るなんて恥ずかしいと思った。
「『全員逃げるんだ』俺は言った。そいつは震え上がるほど恐ろしそうに見えた。だけど、モラーリンが透明の呪文を唱えて階段の下に向かった。聞こえるような物音は全く立てなかったよ。マッツは一人で行かせるのを嫌がったけど、あいつは魚市場にいる目も耳も不自由な乞食の前だってこっそり通り抜けられないやつだ。だから、ドラゴンが目を覚ましてモラーリンに向かっていくようなことがあったら、運が良ければ目を潰せるように、俺たちは弓を引き絞って二発は撃てるようにしてたんだ。マッツと俺は必要になれば逃げ込める塔の階段の方に移動した。そこならドラゴンは入ってこられないと思ったからな。それから俺たちは身を屈めて手すりの間から覗いた。横たわってるドラゴン以外は何も見るものはなかった。実際見ものだったぜ。
「すると、ドラゴンの目がぱっちり開いて、心臓がどきーんとなって、止まっちまうかと思った。
「『ああ!今日の夕食がやってきたぞ』ドラゴンが言った。『我の宝物庫をよく見ろ、ダークエルフ。貴様は盗むどころかゆっくり見ることもできないが、貴様の骨が共に守るだろう…永遠にな』
「『お前の宝がほしいのではない、ドラゴンよ。お前が守っているその剣だけだ。私のと交換しよう。私のものの方が大きい』モラーリンは見えなかったが、その声は剣があった場所から聞こえてきた。ドラゴンの口のとこだぞ!
「『我は食事と剣、どちらも手に入れる。なぜ貴様の粗末な剣で我慢せねばならぬのか?』
「『私を通してくれたら、下からもっとたくさん金を取って来てやろう』
「『金は足りている』ドラゴンはあくびをして、その時俺はモラーリンを丸呑みする気だと思った。でも、やつは別の方を向いた―俺たちの方でもない。マッツは弓を撃とうとしてたが、ノルドの目には暗すぎて、モラーリンに当たるのを恐れた。音だけで彼の居場所を特定できなかったからな。モラーリンが俺たちとドラゴンの間から見るには細すぎたからだが、その時のマッツは遠すぎるって考えるには賢さが足りなかった。隷属は知恵を鈍らせるってマッツは言った。それに、本当に長い間自由じゃなかったって。俺は音だけでモラーリンがどこにいるか正確に言えたが、射程距離��らは明らかに外れてた。
「ドラゴンは話を続けた。『だが、我のためにできることはある。貴様の命を数分伸ばすことも』
「『この瞬間の数分はとてもいい響きだ、ドラゴン。私に頼みとは?』モラーリンの声は明日は雨が降りそうか尋ねる時みたいに、穏やかで落ち着いてた。彼は瀬戸際でも思考を保てる。それは認めるよ。
「『歯が痛むのだ。奥にありすぎて、我の爪には届かない。見えるかね、エルフよ?』ドラゴンは口を開けて歯が見えるようにした。その時モラーリンの透明化の呪文は切れていて、そこに立って口の洞窟を見上げてるのが見えた。『少し頭を下げてくれたら、もっと良く見えるのだが』彼は手を置くと上唇を横に引っ張って、大胆にも注意深く歯茎を調べたんだ。今まで見た中で一番最悪なもんだ。
「『化膿している。切開が必要だし、歯も抜けてしまうだろう。私を信用してくれるならこの剣で切開するぞ』
「『なぜ貴様を信用せねばならん、ダークエルフ?貴様の種族のいい話は聞かん』
「『それなら、お前はノルドと一緒にいすぎたんだな。私はお前に殺される前にお前を殺せはしないだろう。試してみなければ駄目か?いいか、上に私の友人がいる。彼らはお前のためによく肥えた鹿を獲って来るだろう。私がお前の歯茎を切開して、お前は鹿を食べる。または、お前はいま私を食べるだけで、歯痛はそのままだ。』
「『うむむむ。一度逃げ出した貴様の友が戻って来ると思うのはなぜだ』
「『彼らはあまりかしこくない。私が思うにね。私がいなければ彼らは迷ってしまう。仲間たち、良い狩りを!ああ、もし鹿を見つけられなければ、何がいい?豚かな?何匹かのうさぎ?木の実?ベリー?急いでいただけないかな?』でも、俺たちは手信号を決めていて、彼の両手がここから出て外にいろって言ってた!
「嬉し��ったよ。つまり、俺はモラーリンが好きだが、道連れになって死ぬことで彼がいい気持ちになるとは思わなかった。もし俺だったら、彼が無事に逃げてくれるのがわかれば嬉しいだろうし、彼も同じ事を考えてると思った。だけど、あの石頭のノルドは聞きやしねえ!もし彼の隣で死ぬ以外方法がなければ、俺たちはそうするんだってよ。ノルドの馬鹿げたとこだ。歌にすりゃいいだろうけどな。
「それで、俺たちは二時間ほどかかって鹿を獲って戻った。俺はモラーリンは今頃ドラゴンの腹に収まって、その日の食事に鹿とダークエルフとノルドのおまけがついて幸せだろうって思ってたよ。だけどモラーリンはまだそこに座って、ドラゴンとおしゃべりしてた。俺たちを見ていい顔はしなかったな。鹿を置いて出て行け、俺たちがいなくなったら歯茎を切開すると彼は言った。だけどマッツがずっと考えてたんだけどって言うんだよ。ああ、兄弟、俺も考えてたさ。マッツはめったに考えないし、実際いいことだ。やつは歯の周りに鎖を巻いてその端を地面に縛り付けたら、ドラゴンが自分で引っ張れるんじゃないかってさ。
「ドラゴンはそのアイデアが気に入った。それでモラーリンが化膿したところを切開してドラゴンが痛がらずに鹿を飲み込めるまで腫れを引かせた。それから、鎖を巻き付けて歯を引っこ抜かせた。そりゃもう大変な修羅場だったぜ。そこら中血と膿まみれだった。そして、血を止めて傷口を塞ぐのにモラーリンが俺たちにヒールの魔法をかけさせた。
「『ああ、うむ。いい、とてもいい。よかろう、モラーリン、貴様は自分自身を示した。剣を取り、行くがいい』
「モラーリンは彼を見た。『これは何かの試練だったということか?』彼は言った。『この歯痛はどのくらい前からあったんだ?』
「『実に長い。貴様たちの時間の尺度は、人間よ、ドラゴンの種族にはあまり長くはない。それなら、我の話を聞いて行け。ボロボロの若いメイジが、我の黄金を盗もうとやってきた。我はそやつを捕まえ、激しい口論になった。そして、やつは我に魔法を唱えようとした。やつの哀れな呪文は我にはほとんど功を奏さず、我は彼を殺した。だが、うむむ…』ドラゴンはごく短い間顔をそむけて、それから話を再開した。『そのちびは明らかに彼自身に自作の呪いをかけていた。そして、我が彼を噛み砕いた時…』思い出しながら、ドラゴンは激しいしかめっ面をした。そして続けた。『とにかく、その痛みは何者かが剣を手に入れるためにやってきた時だけ酷くなった。我が侵入者を食えばもっとも鋭い痛みは消えるが…通常そんなことはしないのだ。自衛のために時々歌いはするがね。ふん、ちょっと火を漂わせるだけで、大抵のものは逃げ出してしまう。鹿はたくさんいる。話をしたことがある何者かを食うのは、あー、ええと、どこか気分の悪いものがあるのだ。あの脂っこいメイジのせいで数日間消化不良になった。痙攣はする、下痢にはなる、さらに大量のガスだ、ドラゴンにしてはな。そんなわけで、歯痛は完全にはなくならなかった。しかも、��こに来る人間は、皆愉快ではなかった…我の生涯で最も不愉快な時を過ごしてきた。無論、この剣からも長い間離れられなくなった。呪いの一部だ。』
「『我々はしばらくここに留まることができる、お前さえよければ。我々はいい話し相手になるよ。私はモラーリン、赤毛の友人がミス、この大きいのがマッツだ。私はまだ下でミスリルを探したいし、ドラゴンの友人を持ったことがないんだ』
「『それも良いかもしれん。お前はいい友人を持っている。彼らの代わりに考えてやらねばならんとお前は言ったが、この者たちは自分で考えることができると我は考えるし、おまえが価値ある仲間であると判断したように見える』ドラゴンは一瞬ためらって、ほんとに照れてるように見せたんだ!『アカトシュと呼んでよい』
「それで、俺たちは2週間ほどそこに留まった。ドラゴンと一緒に狩りをして―大した経験だぜ!鉱山を探して…下ではあんまり見つからなかったけどな。だが、ドラゴンが宝物庫から宝石をくれた。金属しかいらないんだそうだ。その上に横たわるとうろこの中に吸収するんだと。最終的には、素晴らしくうまく行ったってわけさ。モラーリンはマッツに剣をやろうとした。もし自分たちが戻ってこなかったら、間違いなくドラゴンを殺そうとしただろうし、こんがり焼かれてたからって言ってな。だけど、マッツは受け取らなかった。ドラゴンがモラーリンにやったんだから誰が持ち主かははっきりしてるって。マッツは歯をもらって、今お前が持ってる柄を作って、モラーリンに贈った。これまで贈る価値のあるものを持ったことがなかったから、とても気分がいいって言ってたよ。モラーリンがそれをお前にやることにしたと聞いて、あいつ���本当に喜んでた」
「マッツが剣をもらうべきだったと思うな」エドワードが言いました。「彼は何かを盗もうとしなかったもの。それで何かいいことがあるなんて考えもしないのに戻ったのは、本当に勇敢だよ。モラーリンは盗もうとして見つかって捕まって、話術で逃げ出そうとした。彼のせいでみんな殺されたかもしれないんだ」
「モラーリンがまったく同じことを言ってたよ。ああ、それに、マッツはとにかく剣よりうまく扱えるでっかい斧が好きなんだ。」
エドワードはため息をつきました。「僕もマッツみたいに勇敢になれたらな。僕は君に似てると思う」
「そうだな」モラーリンの声が後ろから聞こえ、少年をびくっとさせました。「ミスみたいに口が減らないね。それでも構わんよ、お前がミスと同じぐらい勇敢ならとても嬉しいだろうからね。私がいなくなると『彼は必要なことをした』以上のことを言わないでいてくれれば、私の精神は穏やかでいられるのだが」
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ウィンドヘルムの少女、エルフと出会う
ウィンドヘルムの風は冷たく、石畳は凍っていた。 少女が一人花籠を持って立っている。髪の毛は風に荒々しく吹かれ、両手は赤くかじかんでいた。花売りの少女は人影まばらな冬の街で見向きもしない通行人に花を買ってくれと声をあげている。客はいない。最初は同情心から買ってくれた者たちもいたが、そのうち絶えた。 少女は温かな宿で寝る夢を見た。宿でなくてもよい。���さをしのげる壁があればいい。そんなのがなくてもよい。温かなスープがあればよい。一枚のセプティム貨があればよい。 消えそうな炎のようにどんどんと少なくなっていく欲求に思いをはせていると、ふと、背の高い人影が目に入った。肌の色は色濃く、肩から掛けた帯や腰の帯にはポーションの瓶がいくつも連なっている。旅人だろうか。拵えのいい鎧を身に着けており、短剣を身に着けていた。 その人は目の前でダークエルフに難癖をつけていた男を殴り倒し、文句があるかというようにあたりをねめつけていた。表情は硬く、善意で助けたというより殴れる相手がいたから殴ったという様子にも見えた。少女は身をすくめる。その人の耳は見事にとがっており、この辺りでは少ないエルフ族であると堂々と主張していたからだ。ウィンドヘルムではエルフ族は嫌われている。灰肌のダンマーは数こそいるが彼らの社会を作っており、得体が知れなくて怖い異邦人だ。だが、目の前のエルフの肌は灰色ではなく褐色、そして極めて背が高かった。 ――アルトマーだ。 南の地から来たアルトマーは首長の敵であり、高慢で恐ろしい生き物だと聞いている。市場にもアルトマーの婦人がいるが、裏では何をやって金を稼いでいるか分かったものではない……というのは物乞いの男からの話だが、言われてみれば確かにそのような気がした。魔術に長け、子をさらい、人族を拷問しながら飾り付けるとも、死んだ父は言っていた。父はストームクロークの兵士であり、帝国と帝国を裏から操るエルフ達は敵であった。 少女はこの場から立ち去ろうとした。だが、目の前のエルフが旅人らしい、というのを思い出し、迷う。旅人たちは大体憐れんで花を買ってくれる。1セプティムの可能性とエルフへの恐怖、二つがせめぎあい、最終的には前者が勝った。少女は大型の獣に近づくかのようにそろそろと足を進め、 「あっ。あの、旅人さん。お花を買ってはくれませんか」 話しかけた。 旅人は明らかにエルフとわかる人離れした目で見下ろしてきた。表情浮かばぬ目は独特の形状をしており枯れかけた草のような緑混じりの金色だった。思わず身をすくめる。エルフは無遠慮に少女が持っている花籠に視線をやり、 「使える花か」 と短く言ってきた。おそらくは女性の声だが低く、ぞっとするほど乾いた、感情の無い響きの声だった。 少女が答えに戸惑っていると、察しの悪い奴だと言いたげな様子で、 「錬金術に使える花か」 と再び聞いて来た。 「わ、わかりません」 おびえながら答える。答えを間違えたら最後、取って食われるのではないかという恐れとともに。 エルフ女はため息をついた。息は白く凍ってしばらく残り、消えた。 「籠を見せろ、籠の中身だ」 エルフ女の言うとおりに籠を見せる。女は器用な手��きで花達を選んでいく。 「凍った地では所詮こんなものか」 「お、お薬に使えるんですか」 無遠慮な視線を少女に向ける。 「毒か薬になる。デスベル……モーサルにはよく生えているが良い毒が取れる。山の花は見つけやすいが集めるのは面倒だ」 エルフ女はそこまで言って面倒そうに息を吐いた。色とりどりの山の花から赤い物を選んでじろじろ見ていた。 「あの、買ってくれますか」 エルフ女は何をばかなことを言っているのだと言いたげに少女を見た。少女はこのままエルフ独特の高慢さで花を持ち去られるのではと怯えた。数拍が経ち、エルフ女が口を開く。 「私はここにしばらく滞在する」 それと買うのがどう繋がるかかわからない少女に言い聞かせるように、さらに続けた。 「これで、摘んできた花を朝に運んでくることはできるか」 そうして、宝石を幾つか無造作に取り出してきた。燃える炎を閉じ込めたようなルビーにガーネット、氷よりも澄んだダイアモンドにサファイア。昔話で聞いたことのある宝石達の名前を思い出す。それが正しいかどうかはわからないが小麦の粒程度の大きさの石達は傷や濁りこそあれ、松明の光を浴びてきらきらと輝いていた。 「あの、買ってくれるならばやりますけど。宝石は困ります、大人に取られるんで、だから、あの、お金で」 エルフ女は億劫だとありありと表情に浮かべながら、改めて金貨を小袋に移し、つっけんどんに差し出した。 「今回の分も含めている。……金貨のほうがかさばるぞ」 「隠しておけるから、いいの。誰も怪しまないし」 幸い人影はなかった。誰かが幸運を知ってたかりに来る様子はない。 「そうか」 それ以上は深く聞かない、興味ないといった様子でエルフ女は話を打ち切り、無遠慮に花籠を漁って自分の鞄へとしまっていく。 「ずっとやっているのか」 「うん。多分、これからもそうです」 「そうか」 エルフ女は空を見上げる。つられて少女も空を見上げる。灰色の空はすぐにも雪が降ってきそうであった。いつものように。 「早く、宿に入ったほうがいいですよ。また雪です」 「そうか。どこだ」 あっち、と指をさす。礼も言わずにエルフ女は去っていった。 少女は空に近くなった花籠を持って、いつものねぐらへと歩き出していった。少なくともしばらくは温かいスープが飲めるのだ、もしかしたらチーズも食べられるかもしれないと思いながら。
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頻子さん(@_hnkhnk)からのお題でジンジェレルでした。錬金素材を買う、以外の気持ちはない彼女でした。
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
☆プロトタイプ版☆ こちらは電子書籍「ひとみに映る影 シーズン2」の 無料プロトタイプ版となります。 誤字脱字等修正前のデータになりますので、あしからずご了承下さい。
☆ここから買おう☆
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感��るけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」 この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」 禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」 さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」 あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」 五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。 千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。 アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。 ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」 あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」 そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。 魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」 禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠���持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」 佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」 食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」 死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」 すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」 魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」 時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」 私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神��器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」 斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」 佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」 生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!) 道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です― 自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」 圧。 「ッ!?」 私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」 私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」 魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しない���よ」 私はそこに拳を当て、無言で頷いた。 こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」 斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」 すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」 昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」 万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」 万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」 その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げる���ァンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」 総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。 薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。 幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」 私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」 青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」 指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」 青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」 夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」 青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」 デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びて��く。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」 私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」 カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」 私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」 夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」 空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」 私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」 すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」 咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」 毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」 この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」 ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! ��はあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」 苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」 押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」 人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」 犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!) 日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」 私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」 ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」 小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』 徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽ 徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』 すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」 ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」 青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」 その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」 私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」 しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」 一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」 民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽ ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」 ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」 ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」 両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽ そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。 そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」 バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」 河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」 ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」 見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」 ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この��は……あああっ!」 頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」 カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」 御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」 ドルルン! 輩���苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」 ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」 八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」 シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る! 大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」 しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」 ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」 呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」 ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収し��うとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」 ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」 こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」 斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」 そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」 御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」 会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」 石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」 ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」 その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」 ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」 私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」 神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」 スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」 身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」 微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」 大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」 私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」 シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心���不空過能滅諸有苦!」 仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」 たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」 お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」 獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」 どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」 雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」 ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。 時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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悪巧み知らせる六つの兆候 家来が 悪巧み ( わるだくみ ) していないか見ぬく方法
⦅亡国五害[韓非]から続く⦆
〖王様が見抜くべき亡国の 兆候 ( まえぶれ ) 〗 聖王 堯 ( ぎょう ) にしても、かりに同時代にもう一人の堯がいたとしたら、どちらが王になったかわからない。また稀代の暴王 桀 ( けつ ) にしても、もう一人の桀が存在していたら、どちらが滅ぼされていたかはわからない。 誰が王となり誰が滅ぼされるか、これはそれぞれの治乱、強弱の度合いによって決まる相対的な問題。 虫に食い荒らされた樹は倒れ、隙間だらけになった塀はくずれるが、それだけでは、あくまで可能性が生じたにすぎない。実際に倒れたり、くずれたりするには、強風が吹くとか大雨が降るとかいう、きっかけが必要。 [法・術]を身につけた大国の王様が、亡国の 兆候 ( まえぶれ ) が顕れた国々に強風を吹きつけ、大雨を降らせたならば、 容易 ( たやす ) く攻めとることができる。 自分の国で亡国の 兆候 ( まえぶれ ) が見当たらないか、不断に注意を 怠 ( おこた ) らないことが重要。 01_王様の権勢を家来が自分のために使っている。 佞臣 ( ねいしん ) が力を持てば、多くの人々を 操 ( あやつ ) れる。 国外の王様は、佞臣を通さないと交渉がうまくいかないので、これを誉めたたえる。 国内の諸官は、佞臣に頼らなければ出世できないから、その手先となる。 王様の側近の侍従たちは、佞臣に 睨 ( にら ) まれたら王様のそばにいられないから、その悪事をかばう。 学者は、佞臣のひきたてがなければ、俸禄も少なく待遇もわるくなるから、佞臣の宣伝係をつとめる。 佞臣は、四重の防壁のかげに正体を隠しているので、佞臣の正体を見破ることができない。仲間や手下が多いから、国全体が佞臣を 誉 ( ほ ) めたたえる。 南の 果 ( は ) ての越は、国も豊かだし兵も強いが、 中原 ( ちゅうげん ) の覇者を目指す王様たちは、「越のような遠い国は支配できない」と考えている。 [法・術]が不足すれば、自国も、[越]と同じように支配できない国になってしまう。 佞臣に、耳目をふさがれ、実権を奪われないよう、不断の努力をしなけれなならない。 「 斉 ( せい ) が滅んだ。」というとき、滅んだという意味は、国土や首都がなくなったということではない。 呂 ( りょ ) 氏が支配権を失い、家来であった 田 ( でん ) 氏がそれを握ったということ。 同様に、 晋 ( しん ) が滅んだというのも、晋の国土や首都がなくなったというのではなく、 姫 ( き ) 氏から 六卿 ( りくけい ) の手に支配権が移ったということ。 斉や晋の 轍 ( てつ ) を踏みながら、国の安全を望んでも、それは不可能。 ・大臣の家の規模が王様の家より大きくなり、家来の権威が王様の権威をしのぐ。 ・家来の進言が気に入ればすぐ 爵禄 ( しゃくろく ) をあたえ、仕事の成果とつき合わせることをしない。取次役を特定の家来にやらせ、外部との接触をまかせてしまう。 ・佞臣にとり入れば官職に 就 ( つ ) くことができ、賄賂をつかえば爵禄が手に入る。 ・王様が 凡庸 ( ぼんよう ) で無能、何事につけ優柔不断で、人まかせにして自分の考えというものがない。 ・王様の人物が薄っぺらで簡単に本心を見すかされ、またおしゃべりで秘密が守れず、家来の進言内容を外にもらす。 ・民心が王様を離れ宰相に集まっているのに、王様は宰相を信頼して辞めさせようとしない。 ・後継者たる太子の名声が高まり、強力な派閥ができて、大国と結びつく。このように、早いうちから太子の勢力が強大になる。 ・軍の指揮官や辺境の守備隊長に、大きな権限を与え、彼らが王様に相談なしに、勝手に命令を出し行動を起こす。 ・大臣があまりにも尊ばれ、強力な派閥を形成して、採決を王様に仰がず、思いのままに国政を動かす。 ・大臣をはじめ有力な後ろ盾のある家来ばかりが登用され、功臣の子弟が冷や飯を食わされる。市井の小さな善行だけが表彰され、官職についている者の労苦は評価されない。総じて「私」が貴ばれ、「公」がないがしろにされる。 ・国家の財政が底をついているのに、大臣の家には金がうなっている。戸籍のある正規の国民、農民や兵士が恵まれず、利益を追って流れ歩く商人や末梢的な仕事にたずさわるものが、利益を得ている。 ・王様の兄弟親族、あるいは大臣が、功績を上回る俸禄・爵位を受け、生活ぶりが分を過ぎて派手であるのに、王様はそれを放置しておく。この結果、家来の欲望に際限がなくなる。 ・王様の婿や孫が民間に住む場合、彼らが威光をかさにきて、隣近所の住民に対し、わがもの顔にふるまう。 斉は 呂尚 ( りょしょう ) を開祖とする名門であったが、 田常 ( でんじょう ) が呂氏の簡公を殺した。その後、田氏は斉の実権を握り、田常から三代目のとき、斉の王様になった。 晋の王様であった 姫 ( き ) 氏が、六卿( 韓 ( かん ) ・ 魏 ( ぎ ) ・ 趙 ( ちょう ) ・ 范 ( はん ) ・ 中行 ( ちゅうこう ) ・ 知 ( ち ) の六氏で、卿とは有力な氏族の長で大臣の職についた)に実権を奪われたのは、前六世紀中頃のこと。 その後、六卿のうち、韓・魏・趙の三国が勢力を得て、前403年、晋を三分割してそれぞれの国をたてた。 呉起 ( ごき ) は、 楚 ( そ ) の 悼 ( とう ) 王に国の現状を説いた、「大臣が幅をきかしすぎる。領地を持つ家来が多すぎる。このままでは彼らは上では国王の権力をおかし、下では国民を苦しめるでしょう。国は貧しく兵は弱まるばかりです。領地を持つ家来には、子孫三代限りで位と 禄 ( ろく ) を返還させたらいいでしょう。諸官の俸給は削減して、不要不急の官職は廃止し、その分を選ばれた優秀な者にまわすことです」と。 州侯が 楚 ( そ ) の宰相になると、すべてを意のままに切り回すようになった。 楚 ( そ ) 王は彼のやることに疑念を抱き、まわりの家来に尋ねた、「宰相の行動に非はないか」と。 家来たちは、「ありません」と判で押したように答えるだけだった。 権勢は家来に勝手に使わせてはならない。王様が一を失えば、家来はそれを百にして利用する。家来が権勢を借り受ければ、家来の勢力は増大する。そうなると国の内外の者が、家来のために働くようになって、王様は隔離された状態におかれてしまう。 02_王様と利益の異なる家来が、外部の勢力を利用している。 ・他国者が、家族も連れずに財産もたずさえずに、単身で売り込んできたあげく、国家の秘密計画から国民対策に至るまで、国政全体に関与する。 ・国内の人材を無視して他国の人間を登用し、その際、実際の功績を吟味せず、名声の有無によって採否を決める。この結果、はえぬきの家来をさしおいて、他国者が高位につく。 ・有力な大臣が二人、勢力を競いあって譲らない。双方とも有力な親類縁者の数が多く、たがいに徒党を組み外国の援助を受けて、自勢力を伸ばそうとする。 ・王様が法による政治を軽視して策略にたより、その結果、内政の混乱を招いて、外国の援助にすがろうとする。 ・遠くの友好国をあてにして、近隣諸国との外交をおろそかにする。 ・強大国の援助にたよって、隣国からの脅威を軽視する。 ・王様の家系が代々短命で、即位してもすぐ死んでしまい、ついには 年端 ( としは ) もゆかない幼君が立��ざるをえず、かくて実権は佞臣の握るところとなる。こうなると彼らは自分が使いやすいように、他国者を登用して派閥をつくる。その結果特定国との関係が深まって、ついには領土を 割 ( さ ) いて援助を乞うにいたる。 趙 ( ちょう ) の宰相 大成午 ( たいせいご ) が、 韓 ( かん ) の宰相 申不害 ( しんふがい ) に送った手紙の一節。 「韓の力で趙におけるわたしの地位が重くなるよう、ご協力ねがえます。こちらは、あなたが韓で重きをなすよう、趙の力で協力しましょう。こうすれば、あなたには韓が二つ、わたしには趙が二つあるのと同じ」。 衛 ( えい ) のある夫婦が、お祈りをした。 妻がこう祈った、「どうか平穏無事でありますよう、そして百束の布をお恵みください」と。 「ばかに少ないな」と、夫が言うと、「それより多いと、あなたが 妾 ( めかけ ) を持つようになるからです」。 03_家来がトリックを用いている。 ・王様が、女たちの頼みを 唯々諾々 ( いいだくだく ) と聞き入れ、おべんちゃらの進言ばかりを採用し、それに対し世論の非難が高まっても、あくまで横車を押しとおす。 ・王様が、腹を立てた気配を示しながら、その後何の処置もとらない。家来の罪がはっきりしているのに、誅罰を加えようとしない。このため、家来の方は、いったいどうなるのかわからず、びくびくしながら密かに王様を恨むようになり、そのまま宙ぶらりんの状態に置かれる。 燕 ( えん ) の国のある夫が、予定より早く外出先から帰ってきた。 困りはてた妻に、小間使いが知恵を貸した、「あの方を裸にし、髪の毛をふり乱させて、表の門から出しなさい。わたしたちは何も見えなかったことにしますから」と。 間男は、計略通り門から駆け出し、夫とすれちがった。 夫は妻に尋ねた「どういう客だ」。妻は「お客様などいらっしゃいませんよ」と言う。回りの者に聞いても、口裏を合わせたかのように居なかったと言う。 妻は「貴方、物の怪に取り付かれておかしくなったのではありませんか」と言い、当時の迷信に従って、犬の糞を使って夫に行水させた。 晋国の大臣の中行文子が亡命しようとして、或る代官の領地を通った。 従者が言う、「ここの代官はご主人様の昔からのお知り合いではございませんか。どうしてここでしばらくお休みになって、後から来る車をお待ちにならないのですか」と。 中行文子は、「以前私は音楽を好んだ。すると、彼は私に琴を献上した。私が 珮 ( はい ) (腰にさげる玉おびだま)に興味をもつと、彼は玉環(腰にさげる飾り)を献上した。彼は、私に取り入って過ちを助長させる人物だ。彼が、私を捕らえて別の人にとりいるのを恐れる」と言って、立ち去った。 代官は遅れてきた二台の車を捕らえて王様に差し出した。 子圉 ( しぎょ ) が 宋 ( そう ) の大臣に孔子を紹介した。 孔子が帰ったあと、子圉は大臣のところへ行き、孔子に会った印象を尋ねた。 すると大臣はこう言った。 「孔子に会ってから貴公を見ると、まるで貴公がノミかシラミのように見える。ひとつあの人物(孔子)を主君に紹介しよう」。 子圉は孔子が自分より重く見られることを恐れ、大臣にこう言った。 「主君が孔子にお会いになれば、今度はあなたがノミかシラミのように見えるでしょう」。 大臣は紹介をやめることにした。 曾従子 ( そうじゅうし ) は剣の鑑定に定評があった。 彼は 衛 ( えい ) 王が 呉 ( ご ) 王を恨んでいると知って、衛王にこう申し出た。 「呉王は剣には眼がありません。剣を見るのはわたしが得意とするところです。どうか呉王の所に剣の鑑定に行かせてください。剣を抜いて見せておき、わが君のために刺し殺してごらんにいれます」。 「しかし、お前がその気になるのは、忠義のためではなく、おのれの利益のためだろう。呉は豊かで強い国、わが衛は貧しく弱い国だ。お前が呉に行けば、きっと寝返ってその手でわたしを殺そうとするに違いない」。 衛王はそう言って、曾従子を追放した。 04_利害の対立に家来がつけこんでいる。 妻と世継ぎの一派が王様の死を願うのは、憎いからではなく、自分たちの勢力を伸ばしたいから。 王様にとって、自分の死で利益を得る人々への 警戒 ( けいかい ) は 必須 ( ひっす ) 。 ・ 嫡出 ( ちゃくしゅつ ) の公子をしかるべく待遇せず、そのため他の公子たちが同等の勢力を持っている。こんな状態で、正式に太子を決めないまま王様が死んでしまう。 ・すでに太子立てておきながら、王様が強国から新しい 后 ( きさき ) を迎え、これを正夫人にした場合、太子の地位が危うくなり、太子派と夫人派のどちらにつくべきか、家来の間に動揺が起きる。 ・王様が亡命し、その間に反王様勢力が新王を擁立する。 ・あるいは太子が他国に人質となっている間に、王様が太子を代えてしまう。こうして、国内に二勢力の対立が生じる。 ・夫人と太后、ともに淫乱で乱行を重ね、これがもとで男女の別が失われて大奥が政治に関与するようになり、ついには夫人派と太后派の並立、いわゆる両主の状態が出現する。 05_上下の秩序が混乱し、内紛が起こっている。 ・大臣高官が羽振りをきかせ、互いに反目しあって、ついには他国の力を借り、領民を動員して、私的な戦を始める。ところが王様はこれに誅罰を加えず、手をこまねいている。 ・王様よりも傍系のおじや兄弟の方が、人物が上。太子に権威がなく、他の公子が対抗して勢力を張る。役人よりも国民が強い。いずれの場合も、国の秩序は混乱に 陥 ( おちい ) る。 ・正夫人よりも側室の権威が重い。太子よりも 庶子 ( しょし ) の方が重んじられる。大臣がないがしろにされ、取次役が実権を握る。かくて、大奥と宮廷との間に対立が生じる。 ・王様が王様としての孝を顧みず、一般人なみの孝にひきずられる。すなわち国家の利益を優先させず、母親たる太后の言いなりになり、その結果、女が国政を動かし、 宦官 ( かんがん ) が重用される。 ・古参が格下げされ、新顔が昇進する。優秀な人材が押しのけられ、無能者が実権を握る。実際に苦労している人間の地位が低く、功績のない人間が高位につく。こうして下積みにされた者の怨みが積み重なる。 ・家来が学問に熱中し、その子弟は空理空論をもてあそぶ。商人は脱税のため財産を国外に持ち出し、一般庶民が私的武力にたよる。 晋 ( しん ) の 孤突 ( ことつ ) が言った。 「王様が女色を好めば、相手の女が自分の子を後継ぎにしたがり、太子の地位が不安定となる。一方、王様が男色を好めば、相手の男が実権を奪い、宰相の地位が不安定となる」。 06_家来を 陥 ( おとしい ) れようと敵が 謀略 ( ぼうりゃく ) をしかけてきている。 晋 ( しん ) の 叔向 ( しゅくきょう ) は、 周 ( しゅう ) の 萇弘 ( ちょうこう ) を殺すためにニセ手紙を書いた。 それは萇弘から自分にあてた手紙になっている。文面は、「晋王にお伝え願いたい。かねてのお約束の時期がまいりたから、すぐ軍をさしむけていただきたい、と」。 叔向は、その手紙をわざと周王の宮廷の庭に落とすと、急いでその場を去った。 はたして、その手紙を見つけた周王は、萇弘を売国奴として処刑した。 春秋時代、晋の 士会 ( しかい ) が秦に亡命した。晋は士会が有能な人物なのを惜しんで計略によって彼を呼び戻そうとした。秦の 繞朝 ( じょうちょう ) はそれを見抜き、士会を返さぬよう進言したがとりあげられず、秦は士会を返してしまった。自国の計略を繞朝が見抜いたことを知って、晋は繞朝の才知を恐れ、スパイを送りこんで工作した。その結果、秦は繞朝と晋の関係をあやしんで、彼を殺した。 斉 ( せい ) の 中大夫 ( ちゅうたいふ ) に 夷射 ( いえき ) という者がいた。 あるとき、王に招かれて酒を飲んだが、すっかり酔ってしまったので、外に出て門によりかかり風に吹かれていた。 門番は、前に足切りの刑を受けた男だったが、「お酒が残っていたら、お恵みのほどを」と、彼に懇願した。 「しっ、あっちへ行け。囚人あがりのくせに、この俺様に酒をねだるつもりか」。 門番は引き下がったが、夷���がいなくなると、門の雨落としのあたりに、小便をした形に水をまいておいた。 翌日、王が門に出てきて、怒鳴りつけた。 「こんなところでやったのは、誰だ」。 「それは見ませんでしたが、昨夜、中大夫の夷射さまがそこに立っておられた」。 そこで王は、夷射を死刑に処した。 斉 ( せい ) の 中大夫 ( ちゅうたいふ ) に 夷射 ( いえき ) という者がいた。 あるとき、王に招かれて酒を飲んだが、すっかり酔ってしまったので、外に出て門によりかかり風に吹かれていた。 門番は、前に足切りの刑を受けた男だったが、「お酒が残っていたら、お恵みのほどを」と、彼に懇願した。 「しっ、あっちへ行け。囚人あがりのくせに、この俺様に酒をねだるつもりか」。 門番は引き下がったが、夷射がいなくなると、門の雨落としのあたりに、小便をした形に水をまいておいた。 翌日、王が門に出てきて、怒鳴りつけた。 「こんなところでやったのは、誰だ」。 「それは見ませんでしたが、昨夜、中大夫の夷射さまがそこに立っておられた」。 そこで王は、夷射を死刑に処した。 呉子胥 ( ごししょ ) が 楚 ( そ ) から亡命するとき、国境で警備の兵に捕まってしまった。 子胥はとっさに、「政府がわたしを追っているのは、わたしが宝玉を持っているからだ。 しかし、途中でそれを失くしてしまった。もし、わたしを捕まえたら、お前が奪って呑んでしまったと言うぞ」。 警備兵はあわてて子胥を釈放した。 ⦅操縦七術[韓非]に続く⦆
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「対話」?ふざけるな!IOC会長バッハとの直接対決について、私たちが憤っていること
2020年11月15~18日、IOC会長バッハが来日した。当初、この来日で東京五輪中止の発表があるのではないかとも噂されたが、バッハは延期した東京五輪について「中止の議論はしない」と断言。実際には、菅との初会談、さらに退場した安倍に「五輪オーダー」なる功労賞を授与するなど、日本政府との強い連携と開催への意思を示し、離れ行くスポンサーや人心を繋ぎとめるための大掛かりな政治パフォーマンスであった。
私たち反五輪の会は、オリンピック災害おことわり連絡会「おことわりんく」とともに連日、様々な取り組みを行い抗議の声をあげた. https://twitter.com/hangorinnokai/status/1325290856262246400?s=20 https://twitter.com/Link_NoTokyoOly/status/1327181917750390784?s=20 https://tmblr.co/ZVXF2tZLW3Is0m00 https://tmblr.co/ZVXF2tZFrfscWy00 https://tmblr.co/ZVXF2tZGo_gY4u00
16日には、バッハが都庁を訪問すると知り、緊急で抗議行動に取り組んだ。その際、バッハが反五輪の会メンバーに詰め寄り話しかけるという一幕があり、このことが複数のメディアで取り上げられ注目を集めた。しかし、バッハは記者会見で「私は対話を申し出たが、抗議者はマイクで叫ぶだけだった」と語り、ほぼすべてのメディアがその言い分のみを垂れ流した。
私たちは、このことについていくつかの点で強い憤りを覚えている。
まず、私たちに取材も事実確認も一切することもなく、バッハの言のみを一方的に垂れ流し、事実を歪曲したメディアに強く抗議する。 例えばロイター通信は「小池氏に会った後、バッハ氏は、横断幕を持ち拡声器を使ってオリンピック中止の要求を押し付ける少数の抗議者に近づいた。『あなたは話をしたいのか、叫びたいのか』警備員を挟んで尋ねた。しかし、抗議者たちはバッハ氏の対話の申し出を拒否したと、バッハ氏は記者会見で語った」とし、配信された動画ではバッハが「You want to speak, or shout?」と尋ねたあと抗議者の発言を一切カットしている。そして、多くのメディアがこれに倣う形で報道した。いずれも記者会見でバッハが語った言葉を伝えるのみで、私たちの言い分を直接尋ねにくるメディアはごくわずかであった。 あたかも、反対派にも耳を傾け紳士的にふるまう寛大なバッハと、叫ぶだけでお話にならない野蛮な反対派という印象操作に利用されたように感じている。 実際には何が起こっていたのか、16日の都庁前、17日の新国立競技場での直接行動の一部始終は既にブログで報告している。 https://tmblr.co/ZVXF2tZFrfscWy00 https://tmblr.co/ZVXF2tZGo_gY4u00 要するに、バッハは都庁前で遭遇した抗議行動に対し、「歩み寄った」とはおよそ形容しがたい、非常に感情的で苛立った様子で「マイクで叫びたいのか、話したいのかどっちだ」と詰め寄ったのだ。そして、英語で「オリンピックは私たちの都市を、私たちの暮らしを破壊した。オリンピックはもう要らない!」と訴える抗議者に何ら応答することなく、「マイクで叫びたいのか、話したいのかどっちだ」と再度言い捨てて立ち去った。マイクを手にしていた抗議者は、その間、駆け寄ってくるおびただしい数のSPにあっという間に包囲され、身動きすらままならない状態だった。そして、バッハは追従者らに幾重にも守られながら、「マイクで叫びたいのか、話したいのかどっちだ」と吐き捨てるのが精一杯だったのだ。 さらに、その夜の記者会見で「対話」をしたかったなどと言いながら、翌17日に新国立競技場を視察した際には、少数の抗議者を約100名もの警察官らによって暴力的に押さえつけ、その隙に逃げ出すという醜態をさらした。これが、バッハの、オリンピックの真の姿である。
しかし、そもそも私たちは「対話」を求めていたのか?「対話」をするべきだったのか?答えはNOだ。 勘違いしないでほしい。私たちは、「より良い」五輪を求めて交渉したり、何かを乞うためにバッハに会いに行ったのではない。オリンピックに対する拒絶の意思を、これまでオリンピックのために虐げられ奪われてきた者の怒りをたたきつけるために立ち現れたのだ。
オリンピック招致が決まってからの7年間、���金は湯水のように使われ、街は猛烈な勢いで再開発された。オリンピックや開発業者に占拠されていく公共空間。潰された都営住宅。居場所を追われ��野宿者。使い捨てられる労働者。取り締まられ虐げられる外国人。原発被害は隠蔽され、全国で相次いだ災害の被災地は置き去りにされた。私たちの生活は既にボロボロだったのに、さらに新型コロナウイルスの世界的流行という事態を迎えてもなお、命や暮しを守るために必要な社会資源はオリンピックに奪われ続けている。
圧倒的な力関係の下、破壊と略奪を行う者が、抵抗する者に「対話」 を持ち掛けるとはどういうことか。自らの立場は1ミリも譲るつもりがないままに、相手の批判を受け止めたように見せかけ、フェアプレーを装い、自らの意にそぐわなければ相手を貶める。それは、欺瞞と暴力性に満ちていると私たちは考える。そもそも、バッハのふるまいは「マイクで叫ぶばかり」と私たちの態様をあげつらうことで訴えを貶め封じようとするトーンポリシングに他ならない。権力関係がまるでそこには無いかのように装うために持ち掛けられる「対話」において、決定権を持つのは結局のところ権力側なのだ。「対話をしたい」の本意は「力でねじ伏せたい」だと私たちは受け止めている。私たちは「寛容で多様性が尊重されるオリンピック」のダシにされることを拒否する。私たちはオリンピックそのものを拒絶する。
17日の新国立競技場でバッハは、「バッハ出てこい」「オリンピック今すぐやめろ」のシュプレヒコールがこだまする中、取材陣に対して「人はものを知らないと疑い深くなる」とも語ったという。これは、オリンピックによって命の危機がもたらされることに不安や疑問を覚えるすべての人々に対する侮辱だ。「スポーツは植民地化に知的かつ効果的な役割を果たしうる」と述べた近代オリンピックの創始者クーベルタンを持ち出すまでもなく、このような植民地主義的で特権意識にまみれたまなざしこそが、オリンピック貴族たちの本心である。
そんな略奪者に対し「やめろ」「出て行け」以外にかける言葉があるだろうか。 私たちの怒りや苦しみを、「対話」などという美辞麗句で無化し黙らせようとするバッハの傲慢さを許さない。私たちは黙らない。 私たちが求めるものは、IOCとの対話ではない。「より良い」オリンピックでもない。オリンピック・パラリンピックの永久的な廃止であることを改めて訴える。
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創作、ブラッディサニー組
【She that stays in tha valley shall never get over the hill.】
ふらふら、ゆらゆら
酔っ払いや病人のごとき動きの布の塊がほぼ灯りのない路地裏をゆっくりと移動している、勿論それは幽霊でもゴーストでもなく長いフード付きのマントを羽織る生きた人間だ。もしこの光景を眺めている者がいたならば灯りの乏しい暗闇に包まれた路地裏でうっすら浮かび上がるその人物を静かに着けていく数人の姿を確認できるだろう、ごろつきや一通りの武装を整えた者比較的身なりの整った者ほぼ浮浪者に近い者――集まりの真ん中にはこの場に不釣り合いな装いの女がいた。きらびやかなドレスや装飾品は見るからに上等な品であり艶のある髪や肌から香るもの他全てがその日暮らしの住人達には想像もつかない程の金と時間をかけられていると解る彼女は表通りや余所の大きな街の貴族や実業家の居住区と勘違いしてるんじゃないか?有り体に言えば良いカモ、集って下さいと言わんばかりの無防備でゆっくりとした歩みで決して広くはない路地裏を進んでいる。
日頃なら呼ばれずとも出てくる路地裏のごろつきや乞食達も顔すら出さない、彼女と彼女の取り巻きに関わるのがとても面倒で厄介だと知っているからだ。路地裏街の住人なら殆どが知っているし表街でも彼女の事は一部界隈に知れ渡っている、有体に言えば有名人。
路地裏と表、街全体に顔の利く女の名はヴァレリー。謎と噂の多い女だがその名声と権力のおこぼれに預かろうとする者も数多く、彼女の取り巻きはちょっとした集団と言っても差し支えない程に膨れており小さないざこざを起こし騒動になる事もしばしばで――それを従えるヴァレリーもまた知名度と権力に見合う野心を持っていた。
ヴァレリーはアスの勧誘を諦めていなかった。
以前ふざけた風なやり取りでも本気でアスことアル・シャインを手駒として欲しがっていたのだ、彼女のみならずこの街のある程度の権力や裏事情に通じてる人間の殆どはアル・シャインを抱えこみたいと考えるだろう。それ程に優秀な暗殺者だしかし、アル・シャインは物ではないし本人は組織や誰かと与する等真っ平ごめんだと単独行動をよしとしている暗殺者だ。一度きりならば限定的に複数の人間と仕事にあたる事はあれど相方、相棒、誰かの手駒、なんて言葉はアル・シャインには全く似合わないものだ。
そんな姿勢を貫いていたアスが例外的に一緒に行動している子供がおり更には執着心のようなものを垣間見せるらしいと言う情報を漸く掴んだのはつい最近の事だ、その子供は他所から来た異邦人だと言う。それ以外の事は名前はおろか素性も掴めず情報屋はアスの相棒の情報をと頼めば軒並み断り逃げ出した。訳も口にせず唯、勘弁してくれあんたも命が惜しいなら止めときなと迄言う始末――そもそも情報屋はアル・シャインはおろか裏家業と言った所謂顧客の情報には全員の口が重いものだと言うのをヴァレリーは失念していたのだ。ある程度の事が思う通りに行く期間が続いている為融通が利かない物事の存在を忘れていたしそれと同じ理由で酒場のマスター達も皆揃って口をつぐむ、手下が脅しても口を開こうとはせず徒労に終わった。情報屋もだったが酒場のマスターと言う人種そのものが客の情報を口外しない生き物だったのもすっかり抜け落ちていたし、殊にあの二人に関しては口が固かった。しまいにはヴァレリーの一派がアル・シャインと相方の情報を欲しがってる噂が立ち始め、噂好きな街娼や子供達までヴァレリー達の姿を見るとその場からあからさまに立ち去る様になった。彼女達がアスに目をつけられた際巻き込まれるのを恐れての行動だがこれは拙い傾向だとヴァレリーは内心焦りを覚えた。
畏怖されるのはいい、だが侮られ疎外されるのはよくないそれは避けなければならない。焦れた彼女は手下を使って情報を集め始めたが素人の情報収集などたかが知れてる、その異邦人の子供は頻繁に宿を変えるのか居場所すら特定出来なかった。焦れに焦れたヴァレリーは到頭虱潰しに捜索を始めやっと昨日、目的の人物が比較的使うだろう道の存在を掴んだ。何人かの手下が戻ってこなかったのは気にかかるがこの子供を手懐ける事が出来たらはっきりするだろう、子供の扱いは得意な方だと自負してるしこちらは数で勝っている。あのアスが傍においている子供なのだそんなに頭は弱くないだろう……ヴァレリーはどんな手段を用いてもアスが欲しかった、街の権力者がどうやっても手に入れられない腕のいい暗殺者を自分こそは所有するのだと胸に秘めた野心が煌々と燃え上がっていたのだ、その野心に手をかけ弾みをつけ更なる権力の高みへと登るるつもりだった。その思想が己に過ぎたものだと言う事と知らずに……
「あんた、アスの相棒なんだって?ちょっと顔を貸しておくれよ」
悪いようにはしないからさ。ヴァレリーの言葉が聞こえていたのかいないのか、布の塊は立ち止まる事もなくふらふらと路地裏に消えていこうとする。よくある色味の草臥れたそれから生える足はほっそりとした棒のようで今にも折れそうな枯れ木か黒い履物も相俟って焼け焦げた木にも見える、アスも大概痩せて見えるがこの子供はそれに輪をかけて痩せた風体だ。こんな子供が本当に相棒として役に立つのだろうか?他の用途でアスが傍に置いてると考えた方が自然なのだろうか?ヴァレリーの思考はくるくると様々な角度へ動き回るがその間も目的の人物は立ち去っていこうとする、大層マイペースか肝が据わっているのか耳が聞えていないのか他なのか……
「おい、聞こえなかったのか?」
「ヴァレリーさんが呼んでるんだぞ!」
およし、みっともない。がなる手下を遮りつつ先程よりもやや大きな声で呼びかけると路地裏に彼女の声は良く響いた、数え切れない程の人間を虜にした美声は薄汚れた路地裏には不釣合いな程美しい――だからこそと言えばいいのか、次の瞬間まで彼女はあまりにも傲慢で愚かだった。
「別に捕って食おうって訳じゃないんだよ坊や、あんたの事を知りたいだけだよ。ただで聞こうとは言わないさ、いい取引があるんだよ?それとも言葉が解らないのかい」
この後の行動は一体何が切っ掛けだったのか、未だに解らないがこの時の事をヴァレリーは夢にすら見る。夢とは──悪夢の事だ。
ヴァレリーの言葉には一切反応を見せない子供は一言も発せずに、しかし何を思ったのかゆっくりと踵を返すとふらふらと変わりない足取りで道を戻ってきた。そして取り巻きの一人の横を通り過ぎたと思った時にはその取り巻きの首から勢いよく血が噴出しているではないか!皆が目を疑い悲鳴を上げる前にもう一人倒れ更に一人が武器を構える間もなく地面に倒れた時、見据えた子供の手元が弱い街灯の光りに淡く輝く。その輝きが何か、なんて勿体つけた問答はしていられないしまるで歩きながら野辺に咲く花に触れ手折る様に頬を撫でる風の様に目の前で連れてきた取り巻きや手下の命が摘まれていく、それはかそけき音を立てて茎から花がもがれる風にとても容易く一瞬であまりにも簡単に人が死んでいく様に流石の彼女もパニックを起こす。こんな危険に晒された事等今まで一度も無かった、どうしたらいいか頭が思考が追いつかない。
鋭く周囲に視線をやると残りの護衛は逃げているし腰を抜かし命乞いを唱えている護衛の一人にも容赦なく、まるで枕元に迫る死神の如く子供は迫っている。そんな部下達を無視しヴァレリーは脇目も降らず路地裏を縫い走った、昨日下ろしたての靴も初めて纏ったドレスも数える程の人間しか持っていない様な装身具もお構いなしにヴァレリーは一人で夜の街を駆け抜け続け――彼女は生き残った。
家に飛び込み、自室に鍵をかけ閉じこもったヴァレリーは震える体を抱きしめながら何日も何日も過ごし酒に逃げ煙草に逃げ見えない幻影に怯え……平静を取り戻すのにかなりの時間を要した、こんな時でも彼女の回転の速い頭は様々な可能性を導き出しては自身に問いかけ投げかけ続け頭を芯から休ませようとしないがそれのお陰で彼女は狂気に陥らず持ち直したのかもしれない。
あれは、一体なんだったんだろう。屹度話が通じる相手ではなかった、あれは人なのか?人ではないのか?それすらも解らないし確かめたくても出来ない、使用人に人払いをさせ金に物を言わせた護衛に警備を任せているが安心感は一向に訪れない。当たり前だ、なんたってあのアスが目をかけてる輩だしそもそもアス自身が動かないとも限らない。確証が持てるまでヴァレリーの首には縄がかけられ続け心臓には刃物が突きつけられ続けるような日々が続き――あの路地裏���出来事からどれくらい経っただろうか……
ヴァレリーは再び夜の街に顔を出すようになっていた。相変わらず取り巻きの中心ではあるが一人カウンターで酒を煙草を嗜む姿も増え取り巻きの中にそうとは解らない様な出で立ちの護衛を紛れ込ませるようにし用心を重ねる彼女から一つ間隔を空けて腰を下ろした人物がいた、護衛がさり気無く間の席に腰掛けようとしたが相手の顔を見るや否やそそくさと取り巻きの輪の中に戻っていってしまった。どう言う事だとヴァレリーがグラスに落としていた視線をちらりと横に向けると悪夢の元凶に一番近い男、アスがいた。
静かに視線をグラスの中で揺れる氷と明かりに反射する光りに戻し動揺を隠すように煙草を吸い直す、視線を向けなくてもマスターがアスにグラスを差し出しているのが解った。店内に流れ始める演奏に耳を傾ける者が増えたのか喧騒は落ち着き誰彼ともなくヴァレリーに視線をやり始めたが、歌う気になれない彼女は視線を無視し手挟む煙草の煙を見上げているだけに留め暗い天井に溶けていく紫煙のようにふんわりとした酩酊感がヴァレリーの目蓋にベールをかけようとしている。外でこの感覚は久しい、どうやら随分とこの煙草は酒と合わせるとキくようだと新たな商売の品物の検品をかねていた行いに現実逃避していた彼女の耳に届いた声に、気怠さと心地良さの狭間に揺られる心地だった思考は一気に覚醒する。
「その様子では、噂は本当なようだな」
「…………」
空席を挟んだ向こうからの、掠れ気味の低く小さな声の問いかけに対し沈黙は肯定を意味しているが反論出来る事は無い、何時もなら自分にマイナスイメージのつく噂や情報は早いうちにもみ消し無かった事にしていたのだが目の前で起こったのはあまりにもショッキングでそれどころではなく全てを消す事が出来なかった、日が経つにつれあれは夢だったのではないか?思いの外アルコールが回っていたり妄想の一種だったのでは?と事実を湾曲、曲解していこうと努めたにも拘らずあの日の出来事は悪夢のようにヴァレリーの脳の片隅にへばりつきふいに思い出し想像してしまう、この道の角にいたら?背後に潜んでいたら?瞬きの内にあの子供が通り過ぎて私の首を掻き切っていたら?これは本当に現実なのか?なにが真実なの?
あふれる疑問、疑心はこぼれ取り乱しそうな恐怖を胸の奥に押し込みながらそれ等を振り払う様に一回り程蕩けた氷の浮かぶグラスを口許に運ぶ。薄まった琥珀色はそれでも喉を焼き胃に火を灯す、新たに注がれたそれにくるりくるりと氷は踊るが眺めるのもそこそこに再びグラスを傾ける。口から吐いて出る言葉全てが自身を品下げるような気がして──口を開きたくなかった。
沈黙の流れるカウンターに薄く微かな溜息が漏れ、響く演奏に消えてしまいそうな程の声がふわっとカウンターの灯りの下に影を落とす。
「柄ではないが、忠告してやろう」
一度しか言わない
「命が惜しければ金輪際、私達に関わるな」
簡潔な忠告が耳に吸い込まれ頭の中を廻る。勿論関わらずに済むなら遠慮なくそうするつもりだしそうしたい、今すぐにでもお開きねとこの場を立ち去りたい気すらあるだがしかし……聞かずにはいられない事が一つだけ彼女には残っている。
「……アレはなんなの?」
人なのか、化け物なのか、悪魔なのかはたま��他の何かか──考えすぎて堂々巡りを続けるヴァレリーにはもう答えを定める余裕が無いのだ。努めて表面には出さぬが言葉の端々に漏れ出でる焦燥の儘背を押され訳も無く外へ飛び出したい衝動を胸に残っている一掬いの意地と矜持だけが阻止しているのだ、答えを気かなければ納得しなければそれすらも失ってしまいそうで……それに対し彼女の気を図りも慮りもする必要の無いアルは最低限の事だけをこぼす。
「腕の良い同業だ、部下ではない手下でもない、私の言う事は今のところ比較的聞く。それだけだ」
「何も知らないなんて可笑しいわ……何で知ろうとしないのよ」
「この仕事をしていれば誰でも詮索を嫌う、なんでもお前の思う通りになる訳ではないそれに…………知らずとも支障はない」
詮索を嫌う、もしかしたらそれが原因だったのかもしれない。自分が口にした一言一句全てを覚えてはいないが触れられたくない事に関した言葉がどこかにあったのやもしれない、それこそ本当に些細なたった一つの言葉で……私の悪夢は始まり終わらなくなってしまったのだろう。
なんて不運だろう、切っ掛けは路傍の石の様にあまりに身近であまりに単純であまりにも些細でささやかだったなんてそんな事で躓き転げ落ちてしまうなんて……悔しいと言うより最早やり切れない。
「あんたに声をかけ続けるべきだったわね」
あんな猛獣を飼ってるだなんて、気付かなかった。口惜しさからこぼれた言葉は険を帯びまるで負け犬の捨て台詞に聞えるがもう飛び出してしまった言葉は取り戻せない、マスターはカウンターを離れ取り巻きや護衛は背後の席で盛り上がってる為二つ隣の席のアス以外に聞えていなかったのだけが不幸中の幸いだがこんな言葉を、歌を口にする惨めさをこの歳になって味わうとは思いもせず眉間に力がこもり乱暴に傾けたグラスは氷が跳ねる程だ。
「生憎私もあれも、首輪が落ち着かぬ性分だ。誰の誘いも興味はない、時間の無駄だ。私やあれの動向をお前が気にする事は最早ない」
淡々とした言葉の後グラスの残りを呷り代金を置いたアルは音もなく立ち上がる、どういう意味だと言外に含めた視線で追うヴァレリーに扉に手をかけた状態でアルはいつぞやの歌を諳んじてみせた。
「あれは街に居着かないタイプらしいからな」
じきにお前の街からは姿を消すだろう。
アスが残していった言葉通りなのかどうか、暫くしてヴァレリーはアスが別の場所へと塒を移した事を風の噂に聞いた。屹度あの子供も傍にいるだろう、そんな気がする。しかし私には関係のない事だ、ここにいる限り彼等には金輪際関わる事は無いだろう。そう、私の街と、城と呼べるこの場所にいる限りは二度と──
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終章とエピローグ
先にソロール『砂の上の星詠みたち 』 (リンク先のページの下のほう) を読むとわかりやすいと思います。
終章 1 「これは母上に返すよ。僕たちには、もう必要のないものだ」 ジュバは、弟のギルタブと共に、革表紙の本を差し出した。星明りの下、分厚い革の表紙がぬらりと光を反射する。そこには兄弟の署名が記してあり、インクの色が黒々とその存在を主張していた。 「母上のものでしょう」 母と呼ばれた女――シェダルは首を横に振った。 「いいえ。これは誰のものでもない、幻の本。『戯書』と呼ばれるものよ」 戯書、か。小さくギルタブが呟いた。シェダルは頷き、説明を続ける。 「この本は、常に世のどこかを漂っている。といっても、普段は実体を持たないわ。この世界とは違う……もう一つの世界といったらいいのかしら。その世界で、この本が私たちの傍に対応する場所を通ったとき、こちら側から魔力を用いて干渉することで、初めてこちらの世界に姿を現すもの。私はその機会を詠み、詠み通りの日に、触媒を通してあちらの世界に触れた」 懸命に話に耳を傾けていたギルタブだが、内容が頭に入ってこなかったのか、複雑そうに眉を顰めてみせた。 「ふん。複雑な話だな……」 ギルタブの兄であるジュバの方も、話をしっかりと理解できた様子はない。それでも、自分なりに内容を解釈し、語り出す。 「ええと……。要するに、『戯書』はいつもは別の世界にあるっていうことだよね。それで、その世界にもこの国と同じ場所が存在していて、たまたまそこを『戯書』が通り掛かったとき、こっちの世界から魔力という腕を伸ばして、こっちに引っ張り出すことができる……。そういうこと?」 シェダルが、ジュバの釈義に頷いた。 「そんなところでしょう。知っている? この世にはいくつもの世界が存在していると言われているわ……。『戯書』は、そんないくつもの世界を繋ぐことができる、特別なものなの。だから、必要がなくなれば、元の世界に返さなくてはならない。――本当にもう、いいのね」 本当に必要ないのかと、シェダルが問う。しかし実際には、二人の答えはとっくにわかっていた。
「うん」
「必要ない」
兄弟はしっかりと頷いた。すると、本の持ち主を表す文字が、夜に溶け込むようにじわりと滲み出す。次の瞬間には、本の署名は跡形もなく消散していた。 「あとは、私が処理しましょう」 「ありがとう、母上」 ジュバは礼を言ってから、なにか思いついたように再び口を開く。 「あの、『戯書』は常に移動しているんだよね。そんなに手に入れることが難しい本なのに、どうして母上の手の届くところに、たまたま現れたんだろう」 「それはね、ジュバ」 シェダルが軽く微笑んだ。 「星が廻った――ということよ」 「……そうか。“星が廻った”んだね」 「ええ」 ジュバとシェダルは、互いに目を合わせて意味深長に微笑み合った。星の詠めないギルタブだけは、会話の内容を理解できず、不服そうに口を窄めていたが。 しかし、シェダルの笑みはすぐに消えた。鋭い視線をジュバに向け、厳かな声色で問いかける。 「ジュバ。貴方の星は、貴方になんと言っていますか」 ――星? 何を聞かれているのかわからず、ジュバはぼんやりと相手を見つめ返す。 「うん? ええと、何の話?」 シェダルは表情を変えないまま、忠告するように声を落とす。 「星詠みを怠らないで。よく、見極めるのです。機会を誤ってはいけません。わかりましたか」 「その……」 ジュバが口籠ると、すかさずギルタブが口を出す。 「兄上。返事を」 ジュバは二人を見つめ返すと、暫し沈黙した。 ◆ 2 「牢などではなく、あの塔の小部屋とは……。よく配慮してくださり、感謝します。陛下」 広い廊下に、数人分の足音が響き渡る。いつものように雲のない、しかし、全くもってゆったりしているとは言えない空気の午後だった。シェダルは、自らの夫であり王であるザウラクに、恭しく感謝を述べたところだった。それに気を良くしたのかどうなのか、ザウラクは僅かに口��を緩めた。 「あの部屋ならば、まず逃れられまい。その上、宮殿一の景色が眺められる場所でもある。最後の数日間を過ごさせるには、おあつらえ向きだろう」 「お優しいのですね。あの子も景色に見惚れていたようで、何よりです」 「一言も話さなかった点は気になるが――しかし、確かに、喜んでいるように見えたな。あのまま、何も知らぬうちに眠らせて処刑するのが、せめてもの慈悲というものだ。――して、例の“魔��の書”のことだが」 「はい。確かに、書庫にあったものです。このように――」 数人の従者と共に、二人は書庫へ入る。シェダルはザウラクの目の前で、『戯書』を手放して見せた。すると、戯書はひとりでに漂い、書庫の内部を進んでいく。そして、ある書架の前で一度止まると、本と本の隙間にするりと収まった。まるで、元からそこにあったかのように、違和感なく。ほう、と息を漏らすザウラクに向き直り、シェダルは説明を始める。 「元あった場所へと、ひとりでに戻る魔法が仕掛けられておりました。この書に限らず、この一帯の本たちにも同じような魔法が仕掛けられていたようです。大切な本を無くしてしまうことがないよう、外国の図書館などでも用いられる魔法です。ただ、ここにあるものはどれもが古い故に、この一冊にしか魔力が残されていなかったようです」 ザウラクはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、従者の一人に軽蔑の視線を向けた。 「くだらん仕掛けだ。例の道化に、つまらん報告をした罰をせねばならないな。のう、道化よ?」 道化と呼ばれた従者は即座に飛び上がった。芝居掛かった甲高い悲鳴を上げて、慈悲を乞うた。 「ヒィ! ヒヒッ、お、お許しを、陛下ァ」 ◆ 3 黒い月の高くなる頃、煌々と輝く星々は、より一層明るさを増していた。夜闇と星影の降り注ぐ砂丘を、狐が一匹駆けて行く。その足跡はしかし、女の青白い瞳が見送る中、痕跡を掻き消す風とともに遠ざかっていった。ここに残っているのは、ただ風が吹くばかりのひとけのない静かな中庭と、一人の女、そして、僅かにあどけなさの残る次期王だった。昼間は白い壁を彩る色鮮やかな花々も、今は更けた夜に沈み込み、寂しそうに葉を揺らすだけでいる。長い沈黙を破ったのは、いつか王となる少年――ギルタブの方だった。 「自らの名に誓う盟約の術、だそうだな」 ギルタブの静かな声色には、どこか刺すような響きがあった。それは、高貴なるもの特有の、威厳や誇りを感じさせる声にも似ている。しかし、彼の声に込められたものは、それだけではない。偽っているものを尋問するような、鋭い確信を持って発せられた言葉だった。指摘されたシェダルは、たじろぐように僅かな間を開けた後、ひどく小さな声で返答する。 「よく、勉強したのですね、殿下」 「殿下」という言葉を聞いた瞬間、ギルタブは不快そうに片目を細める。 「その呼び方はするな。星詠みとはいえ、お前は僕を生んだ者だろう」 ギルタブの咎めるような視線と声に、シェダルはそっと目を伏せた。長い睫毛が、その目元を隠す。それでも、ギルタブは語調を改めはしない。 「なぜ、あいつを生かしたんだ? あいつが生まれたとき……」 もう十何年も前のこと。あってはならない印をもって、その男は生まれ落ちたのだ。ギルタブにとっては、自分が生まれるよりも前のこと。当時の母親の心境など、知る由はない。 「そのときの私は、愚かで浅はかな、ほんの娘だった。後先のことなど、ろくに考えてはいなかったのよ」 「だが、そのせいでお前は――」 「ええ。月を裏切った星詠みは、月によって裁かれる」 月の様に白い髪が揺れる。女は、見えぬ月を見上げていた。それでも、ギルタブは月を見ない。黒い月の位置など、わからなかったからだ。 「あなたに、謝らなければなりません。私は二人の子供を産みながらも、二人を同じように愛することが出来なかった。私は、あなたに触れることさえ……」 「勘違いするなよ」 シェダルの言葉を遮って、ギルタブは低く言い放った。強がるような瞳で、自分の母親を睨め付ける。 「僕はお前に謝ってほしいんじゃない。触れられたいなどと子供じみた事、一度だって思わなかった。僕は、そう思うこと自体、許されない立場にいるんだ。愛される必要など、なかった」 「……いいえ」 それまで弱々しかったシェダルの声に、僅かに凛とした、小さな炎のような意志が宿った。彼女は月を見るのをやめると、振り返ってギルタブに向き直る。 「私は、きっと母親ではなかったでしょう。あなたに何もしてあげられなかった。それでも……」 シェダルは自分の二人目の息子を見つめた。彼女の青白い瞳の光が、少年の紫色の瞳と交差する。 「ギルタブ、私は……」 ギルタブは、目を見開いた。彼女の眼光に捉えられたように、その光から目が離せなかった。かつてないほど鮮明に、母親の顔が見えるのだ。彼女は―― 「あなたを、愛しているわ……」 ――泣いていた。彼女のそんな顔を見るのは、初めてだった。それに、いつもの香の匂いに混じって、初めて感じる匂いがあった。それは、紛れもなく人間の、彼女自身の匂いだった。自分の身体のすぐ傍に、母親の存在があった。 「……母上」 ギルタブは戸惑った。これほどまで近い距離に、母親の接近を許したことはなかった。当然、甘えたことも、無い。どうすればいいのかわからなかった。この場でようやくできたことは、ただ俯いて、母親の胸に額を預けることだけ。顔をあげられるはずもなかった。今の自分はきっと、次期王に相応しくないだろう、情けない顔をしているに違いないから――。
二人の抱擁は、恐らくほんの短い間だったろう。それでもなお、二人にとっては、まるで時が止まったのかと感じられるほどに長く、そして、何千年も待ち焦がれた瞬間のように感じられた。シェダルは、自分と同じ銀の髪を持つギルタブに、そっと指先で触れようとした。しかし、髪に触れる寸前のところで、ひどく臆病な指先は止まってしまう。生じたのは、僅かな間の躊躇だった。「さよならだ」 シェダルの温かな胸に、くぐもった声と共に、冷たい風が吹き込んだ。母親の温もりから、ギルタブが自ら身を剥がしたのだ。次期の王となることを決定づけられたギルタブは、これ以上温もりを求めることもできなかった。そして、ほんの刹那、母親の瞳を見つめた。これで最後なのだと、交差する二人の視線が互いに別れを告げていた。ギルタブは、豪奢な紫色の外套を翻す。
キン、シャン――。重い金の装飾を揺らしながら、硬い靴音が廊下に響く。大きすぎる装束を纏った未完成の少年は、一人、暗い廊下を駆け抜けた。その手に、明かりは持たれていない。ただひたすらに、夜の闇へと溶け込んでいく。彼が振り返ることは無かった。ただの一度も。
月のない星影の下、残された細い指先が宙を彷徨った。 ◆ 4 ああ白きその面 主が世は千の星詠み捧ぐまで 使徒とともに輝かんことを 忠実なる我らを導きたまえ その御許にいつか還らん ――アマン ひょろろろと鳥の声が響く、広い晴天の下。ジュバは、朝日にきらきらと輝く川面を、眩しそうに見つめていた。傍には、いつの間にか黒い髪の童子――マァが寄り添っている。ジュバの微かな歌声を、零すことなく聞きつけたのだ。 「手前の国の歌かい」 「うん」 ジュバは、これは月を称える賛歌なのだと、マァに教える。 「国の皆が歌っていたんだ。それで、何となく、覚えていたから」 「へぇ」 船頭が出向いてくるまで、まだ余裕がある。興味深そうにしているマァに、しばらく国の話をすることにした。月のことや、儀式のこと、人が死んだらどこへ行くのか、など。そんなことを、ひたすら話し続けた。マァは、そんなジュバの話にじっと耳を傾けながら、時折心地よく相槌を打った。ジュバにはそれが、ただ、ありがたいと思った。彼が傍にいてくれるだけで、救われるような気がするのだ。 ぴちゃり、と。ジュバの視線の先で、魚が跳ねた。 「あ」 川の下には、いくつもの魚影が見える。ふいに、その群れに白い翼の鳥が降り立った。よく見れば、乱反射する水面に、ひとつだけ浮いている銀色の体が見える。魚だ。一匹、浮いている。 「ん、どしたよ」 「いや……」 鳥は、死んだ魚を一匹見つけると、大切そうに嘴に咥えて飛び去った。 「……そろそろ、行こうか」 「ん、��う」 その鳥は、白い光の中へと飛んでいった。 高く、高く。 ◆ 5 いつものようによく晴れた、慌ただしい王宮の朝。 その日は、ある人物の処刑が行われるはずだった。 しかし、実際には処刑が実行されることは無かった。 処刑されるはずだった人物が、当日になって忽然と姿を消してしまったのだ。 その日、彼が発見されることは無かった。 代わりに見つかったのは、別の人物の遺体――。 星詠みの女が、変死していたのだ。 王の命により、その後も王宮の者たちは必死になって青年を探し回る大騒動となった。 捜索範囲は国全体にまで及んだが、魔道具の力をもってしても、結局、彼が見つかることはなかった。 それと、もうひとつ。王宮で見つからなかったものがあったらしい。 ある男の話によると、書庫にあるはずの“魔法の書”が、いくら探しても見つからないという。尤も、そのことを話しても、誰も信じてくれなかったそうだが―― エピローグ ◆ 東���南北どこを見ても、海、海、海。星空のようにきらきらと輝く雄大な青い水の中で、その船はひと際眩しく、太陽の光を反射させていた。いたずら好きな海風が、乗客たちをからかうように外套や髪を撫でていく。でっぷりとした腹の小柄な男が、広大な海を満足げに眺めながら、黄金色の液体の入ったグラスを傾けた。男は昼間であるにも関わらず、船の上で酒を頂くという、実に優雅なひとときを楽しんでいる。つい先日、その男は商売で成功を収めたばかりだったのだ。少しうまくいったからといって休むつもりもないが、移動中くらいは贅沢をしてもいいだろうと、船上での昼酒に踏み切ったというわけだ。
こんな日の酒は旨い。気分は上々だった。船に寄り添うように飛ぶ海鳥に、ひとつ餌でもやりたくなった。今日の私は機嫌がいいのだ――。どれ、とつまみの燻製に手を伸ばしたとき、視界の端に、海や空よりもなお鮮やかに輝くものが見えた気がした。私がそちらに首を向けると、たった今扉から出てきたらしい、褐色の外套を羽織った男が目についた。すぐ傍には、色の白い子供を引き連れている。親子かと思ったが、外套の男は、よく見ればまだ青年といっていいほど若そうに見えるし、連れている子供とは対照的な、土のように黒い肌をしていた。変わった組み合わせの旅人だと、好奇心から二人を眺めていると、色の白い子供がこちらをちらりと一瞥した。しかし、子供はすぐに視線を戻すと、青年と共に手すりの方へと歩いていった。そんな私に遠慮することなく、一羽の海鳥が私のテーブル降り立った。せがむようににゃあと鳴くので、私は燻製を投げてやる。 心地よい陽気と風を感じながら、私は暫くの間海鳥と戯れた。気が付けば、周囲の鳥の気配がずいぶんと増えている。そして、その中に混じって、先ほどの二人組が私の方を見ていた。特に、色黒の青年のほうは、まるで子供の様に瞳を輝かせて、私と海鳥たちとを好奇心いっぱいに眺めていた。 「鳥が好きなのかい?」 私は指先で海鳥の首を撫でながら、さりげなく砂漠地方の言葉を使い、旅人に話し掛けた。外套の隙間から覗く足元からして、青年の出身は砂漠地方のどこかに違いないだろう。青年に目を向けると、彼は驚いたのか一瞬戸惑ったようだが、やがて、はにかむように笑って見せた。 「うん。あなたも好きなの?」 「ああ、まあな。俺は商売人なんだが、仕入れ先なんかで、よくこいつらと遊んでやるのさ」 「へえ、そうなんだ」 話すことで緊張を緩めたらしく、青年は私のいるテーブルに近寄ってくる。その際、青年の外套が風に揺れ、外套の下の髪が垣間見えた。この辺りでは珍しい、銀髪だった。私がそれに見とれる間、私には聞き取れない声で、色白の子供が二言三言喋った。青年は子供のほうを振り返ると、何やら小魚のようなものを受け取っている。海鳥たちにやるつもりなのだろう。楽しそうに笑い合って小魚を掲げる二人の周りに、にわかに海鳥たちが集まってくる。私はその様子を眺めながらふと、とある事件を思い出した。「そういやあ――」 褐色の肌に銀の髪を持つ人々の暮らす、砂漠の国家で起こった珍事件のことだ。その情報は、酒場で働く友人から仕入れたものだ。内容が少し物騒なこともあり、印象に残っていた。もしかすると、この青年の故郷が、渦中の国なのかもしれない。事件の話を始めると、二人は私に注目した。 「――この間、星詠みの国だかどっかで、恐ろしい犯罪者が逃げ出したっていうじゃないか。もしかして、お前さんたちの国じゃあないかい?」 言い終わらないうちに、二人は顔を見合わせた。子供の方は何か考え込むような仕草をし、青年は首を振ってから口を開いた。 「犯罪者って、どんな人? 僕たちは、最近あまり新聞を読めていなかったから、そういう話には詳しくないんだ」 「そうか、知らなかったか……」 二人は確かに「星詠みの国」という言葉に反応していたように見えたが、事件のことは知らなかったらしい。旅をしていれば、案外、故郷のいざこざの話など、耳に入ってこないものなのかもしれない。私は良心から、例の事件の犯人について、この二人に忠告することにした。 「なんでも、他人の魔力を奪い取る、恐ろしい魔術師なんだとさ。そいつがどうも、国の要人を殺して、魔力を奪って逃げ出したらしい。それで、国中探しても捕まらないってんで、外国に逃げ出したんじゃないかって噂されててな。――ああ、けど、大丈夫だ。その魔術師には特徴があるんだ。そいつは、黒い肌と白い髪をしていて、目が青白く光るんだそうな。しかも、奪った相手の魔力の色を、そのまま自分の髪に宿すんだとさ。今は髪の一部が青色になっているって話だ。髪を見りゃあ、一発でそいつかどうかがわかるだろうさ」 私は一口酒をあおると、こう付け足そうとした。「お前さんたちも気を付けな」――しかし、口を開こうとする矢先、二人が既にこの場を離れていることに気が付いた。 「ごめん、商人さん。もうすぐ船が停まるみたいだ。降りる準備をしに行くよ」 少し離れた位置から声が掛かる。そちらへと首を回すと、船内へと繋がる扉の前で、背中を向けた青年と子供が、顔だけをこちらに向けていた。爽やかな潮風が、青年の外套を大きくはためかせた。 「おや?」 はたと思い至る。青年の顔をよく見れば、健康的な褐色肌に銀色のくせ毛髪、そして、射貫くような青白い瞳に目が留まる。それは、件の魔術師の特徴によく当てはまっていた。そして何よりも――銀のくせ毛に混じり、外套の中から冴え切った青い髪が僅かに覗いたように思えた。 「お前さん、まさか……」 私の言葉を遮るように、太い汽笛が響き渡った。
「まさか」
二度目の汽笛が鳴る前に、青年が口を開いた。 「――人違いだよ」 そう続けると、青年はからりと微笑んで、子供を連れだって船内へと消えていった。
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黄昏の月13日 ファルクリース、ハルディールの石塚
起床後、身支度をしてから宿屋で食事をしていると、ルニルが宿屋に入ってきた。彼も朝食をとりに来たようだった。こちらから墓地に赴こうと思っていたところだったので、探していた本人が目の前に現れたのは好都合だった。
昨晩預かってしまった遺灰をルニルに渡すと、彼は感慨深そうに受け取り、手間賃として金貨を支払ってくれた。遠距離を配達したわけでもないので、何だか申し訳ない。
ルニルはアーケイの司祭で、ファルクリースの大きな墓地で葬儀を執り行っているのだという。執政のネンヤも彼もアルトマーだ。スカイリムの中でも南方にあるホールドだから、帝国側からやって来たアルトマーとしては暮らしやすいのかもしれないな。
食事を終えてから外に出ると、生憎外は雨模様だった。体が濡れないようにアークメイジのローブに着替えて行くことにする(軽くて上等な革のフードがついているので、悪天候の日でも快適に行動できるんだ)
昨晩の葬儀の時に話を聞いた殺人犯がファルクリースの牢にいるという話を思い出し、少し恐ろしい気もしたが兵舎地下にある牢へ行ってみることにした。
シンディングと名乗る彼は、少女を引き裂いた殺人犯にしては手足も細く、どこにでもいる労働者のような雰囲気の男だった。彼は自分はウェアウルフだと語った。ウェアウルフの力をコントロールするためにハーシーンの指輪を持ち出したが、ハーシーンの呪いにかかり、自分の力を制御できなくなったのだとか。少女を前にして狩猟本能がはたらいたと話していたが、どんな理由があれ無抵抗の少女を殺害するなどとんでもないことだ。彼はハーシーンに許しを乞うため指輪を返してきてほしいと私に頼んできた。
ハーシーンに許してほしいと願う一方で、亡くなった少女やその両親に詫びる気持ちはないのだろうか?
ハーシーンの指輪をそのままにしておいては、彼がさらなる凶行を重ねてしまうかもしれないし、他のウェアウルフが手に入れても同じような危険があるだろう。指輪をハーシーンに返すことを了承して、鉄格子越しに指輪を受け取る。
シンディングは私の見ている前でウェアウルフに変身すると、牢の壁を登って軽々と脱獄してしまった。彼はファルクリースで裁きを受ける気も無いようだ……。少女の両親が知ったら、どんな顔をするだろう。
狩猟を司るデイドラ・ロードのハーシーンに会うためには、ファルクリース周辺にいるという大きな獣を狩る必要があるとの事だった。私は狩人ではないし、デイドラ信者でもない。今回のことはウェアウルフの凶行による被害を防ぐためだ。そういう訳でなるべく早く終わらせてしまいたかった。
小雨が降る中ファルクリース周辺の山を探索していると、見たこともないような大きな鹿が水辺に佇んでいるのを発見した。そっと近寄り、破壊魔法で追い立てる。
鹿が倒れると、目の前に半透明の鹿が現れた。(カイネの試練で戦ったガーディアン・ビースト達に似ている……なんて言ったらフローキに怒られるだろう)
鹿は私に話しかけてきた……ハーシーンだった。ハーシーンは、シンディングを狩るようにと私に命じてきた。そうすれば指輪の呪いも解くと……シンディングから預かった指輪は、嵌めた覚えもないのに私の右手人差し指にいつの間にか嵌められていた。このままでは他の指輪もつけられないし、何かと不自由だ。
いや、指輪の呪いや“ハーシーンの栄光”よりももっと考えるべきことがある。シンディングが少女を殺した罪を償うことなく、両親への謝罪もなしに逃げていることだ。彼がファルクリースで裁きを受けるつもりが無いのだとすると――私はどうするべきだろうか。
ハーシーンは、これは“狩り”であり、報復ではないと言う。狩りとは獲物を追い、仕留めた獲物の皮を剥ぎ、肉を取り、日々の糧とすることだろう。報復や正義を成すことと違うということは理解できる。
では今回のことは?シンディングが少女を殺したことは“狩り”なのか。少女の両親が嘆き悲しむのを見た私が、おそらく義憤に駆られてシンディングを追おうとしていることは?
ハーシーンは狩りを司るデイドラだが、自然の循環の一つとしての狩りではなく(こちらはキナレスが司っているという)、獲物を追いつめ殺すことを競技のように楽しむ存在だと、何かの本で読んだ覚えがある。ハーシーンはシンディングを追う私を楽しんで眺めるのだろう。意図が異なっているとしても、結果的にハーシーンの望み通りになることには変わらない。
ハーシーンに指定された“狩り”の場所はファルクリースの北の方にあった。すぐに向かうには遠い場所だったので、どうするかは今日のうちに考えることにして、ひとまずファルクリースに戻る。
鍛冶屋のロッドが外の鍛冶場で仕事をしていた。買い物をするついでに少し話をしたが、彼はやはりデンジェールに忠誠を誓っているそうだ。デンジェールは彼を疑っていたが、そんな訳はないと思う。
デンジェールのロッドへの疑いを晴らすためには、ロッドが書いていたという手紙の現物が必要だと考え、気は進まなかったが留守中の家にこっそり入り、ベッドの脇に置いてあった手紙を持ち出すことにした。手紙の内容はごく一般的なもので、材料となる鉱石を買いたいとか、そんな感じの文面だった。やはりデンジェールの勘違いだったのだろう。
昼食のため宿屋に入ると、デンジェールが食事をしていた。ロッドが書いていた手紙を渡すと、私の予想に反して彼は手紙の内容を「暗号だ」と決めつけてしまった。ロッドはこんな彼に対しても忠誠を貫いているのだ……こんなに疑心暗鬼に陥る前は、信頼を集める立派な人物だったのかもしれない。何にせよ、彼が首長に返り咲くことは難しそうだ。
デンジェールは私にもうひとつ頼みたいことがあるという。彼の先祖は吸血鬼で、最近その吸血鬼が墓地から逃げ出した――という何とも疑わしい話をしてくれた。どうせまた何かの間違いじゃないかと思うけれど、本当に何か脅威があって、それが人々に危険をもたらす可能性があるのだとしたら用心するに越したことはない。半信半疑だが、彼の言う事を聞いて指定された場所に行ってみようと思う。
昼食に鶏肉のローストとパンを食べて、再び出かけるために宿屋を出ると、幸運なことに雨が上がっていた。
吟遊詩人の大学で取ってくるように頼まれた楽器の一つ、リョーンの太鼓があるという「ハルディールの石塚」に向かい道を歩いていくと、向こう側から犬が駆け寄ってきた。
犬は私の顔をじっと見つめ、そして人の言葉で話しかけてきた。最初は空耳かと思ったが、確かに犬が喋っている。
きっと鍛冶屋のロッドが欲しがっていた犬だろう。言葉を話す犬は「バルバス」と名乗った。バルバスの主人はデイドラ・ロードのクラヴィカス・ヴァイルだという。信じ難い話だけれど、デイドラの力が及んでいるのなら犬が話しても不思議はないかも知れない。
バルバスは主人であるクラヴィカスと喧嘩をしてしまい、仲を取り持ってくれる者を探していたのだという。それが私だということらしいんだが――どうして私なんだ?一応吟遊詩人の大学に所属させてもらっているが、そこまで��舌巧みなわけじゃない。他の誰かに頼んだって良いだろうに。
今日はもう予定が決まっていると話すと、バルバスは後日の待ち合わせでも構わないと言い、私達が向かう方角とは反対方向へ歩いて行ってしまった。クラヴィカスがいる「ハエマールの不名誉」という場所へ行く必要があるようだ。……犬は嫌いじゃないけれど、デイドラ・ロード絡みとなると面倒ごとなのではと勘繰ってしまうな。
ハルディールの石塚では、入ってすぐの場所に奇妙な光景が広がっていた。積まれた石から青い光が伸びていて、いくつも死体が転がっている。(不気味なので光には近づかないように気をつけることにした)入り口を見て洞窟なのかと思ったが、奥はノルドの遺跡につながっていた。
この入り口部分はとても不気味だったが、様々な種類のキノコがたくさん生えていたのは嬉しかった。奥へ進む前にキノコ狩りをしていたらジェナッサに少し呆れられてしまった。
ノルドの遺跡だからドラウグルがいるのだろうと予想して中に入ると、人の声が聞こえてくる。振り返ると半透明の亡霊が襲ってきた!理屈は分からない��、あの青い光と亡霊とは関係があるのだろうか。
亡霊やドラウグルを倒しながら進むと、最奥部の部屋にたどり着いた。奥に置かれた棺桶の蓋が開く。ドラウグル・オーバーロードでも出てくるのかと思ったが、出てきたのは強力な魔法や分身の技を使うドラウグルだった。(後で分かったが、このドラウグルの正体は、この場所の名前にもなっているハルディールその人らしい。)
すぐに私の攻撃魔法と撃ち合いになった。ドラウグル相手に効果があるか分からなかったが、相手のマジカを削る雷魔法を2連で唱えて対抗する。ふと、ジェナッサがいない事に気がついた――戦いで倒れた様子もなかったのでどこかではぐれてしまったかと焦り、石柱に隠れて魔法攻撃を防ぎながら急いで辺りを見回すと、私が入ってきた入り口に鉄格子が下りている事に気付いた。駆け寄ると彼女は鉄格子越しに果敢に矢を射っている。彼女が一瞬私に目配せした。
ハルディールは強力で、彼女と言葉を交わす余裕はなかったが、弓で援護するから気にせず戦いに集中しろと言われたようだった。
ハルディールは分身して襲ってくるため、倒しても倒してもきりがないような錯覚に陥る。何体目かを倒すと、ハルディールは音もなく灰になり、そして鉄格子が開いた。
戦いの最中にマジカが尽きかけ、薬を飲んでも間に合わなくなった時に、ふと思い出してアルトマーの力を使った。ハルディールとの戦いは激しい破壊魔法の応酬になったが、私が勝てたのは、種族の能力があったからだろう。アルトマーに生まれたことを誇りに思う。両親に感謝しなくてはならない。
ハルディールは魔術師なので、珍しい魔術の本でも置いてないかと部屋を物色したが、あまり良い物は入手できなかった。ハルディールが持っていた杖は珍しい物のようだけれど、あまり使い途はなさそうかな。
ファルクリースに戻り、宿で休むことにする。従業員のナーリという女性が、私を「ハンサムさん」と呼んでからかってくる…何だか目のやり場に困る服装をしているが、寒くないのかと心配になってしまうな。
あと、ファルクリースは親帝国のホールドだが、宿屋の寝室にストームクロークの蜂起に賛同する『ノルドの反逆!』の本が置いてあるのが少し気になる。デンジェールのようなストームクローク派の住民が置いていったのだろうか?それとも前の泊まり客の忘れ物か?この宿屋の主人は帝国から来たインペリアルらしいけれど、彼女は敢えて放置しているのかな。
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見えないものと見えるもの ー黒沢清『ダゲレオタイプの女』論ー
命題1。Esse est percipi./To be is to be perceived. 存在するとは知覚されることである。
命題2。Seeing is believing(To see is to believe.) 見ることは信じること。
命題3。映画は、事物が「見えること」と「存在している」こととのぎりぎりのせめぎ合いから成り立っていると私は思う。ーー黒沢清
『ダゲレオタイプの女』は、黒沢清監督にとって初めての「フランス映画」である。ここでいう「フランス映画」とは、主にフランスの資本(「主に」というのは今日のヨーロッパ映画の多くは多国籍の合作で製作されており、この作品もフランスーベルギー日本の共同出資であるからだ)によって、主にフランスの俳優(メインキャストではベルギー国籍のオリヴィエ・グルメ以外は全員がフランス人)とフランス映画のスタッフを使って、全編フランスでロケーションされた、フランス語の映画ということだ。黒沢監督は、ほとんど身ひとつで(もちろん実際には通訳や製作陣として日本人も参加していただろうが)彼の国に渡って、一本の映画を撮り上げた。 この企画が如何なる経緯で可能となったかについては本稿では触れない。というか私はその事情を知らない。また、そのことが如何なる意味を持っているか、如何なる影響を今後の黒沢監督自身と、彼がこれまで属してきた「日本映画」に及ぼすことになるのか、という点にかんしても述べるつもりはない。ただ言えることは、この作品が、単に黒沢監督にとって初の「フランス=外国映画」であるばかりでなく、多くの意味で、彼の映画の集大成と言える作品になっているということだ。集大成というのは、必ずしも最高傑作ということを意味しない(だが個人的にはそう呼んでしまいたい衝動をいま私は感じている)。しかし「日本映画」であるがゆえの様々な拘束や制約が軒並み取り外されたことによって、黒沢清という映画作家がほんとうは何をしたいのか、いや、彼はほんとうのところ何をしてきた/いるのか、ということが、これまでにない鮮明さで露わにされたことは確かだと思う。そしてその鮮明さは、われわれに納得と驚きと感動を同時にもたらす。 『ダゲレオタイプの女』は、多くのこれまでの黒沢映画と同じく、一種の心霊映画、怪奇映画、恐怖映画としての結構を持っている。まずはストーリーを述べてゆこう(尚、本稿では最終的に結末まで記すので映画を未見の方はご注意願いたい)。非正規雇用の低賃金労働者として暮らしてきたらしい青年ジャン(タハール・ラヒム)が、かつては国際的に有名だったが、モデルでもあった妻の死後、商業的な仕事から半ば引退して郊外の屋敷に一人娘のマリー(コンスタン・ルソー)と引きこもっている写真家ステファン(オリヴィエ・グルメ)にアシスタントとして雇われる。ステファンは世界最古の写真技術とされる「ダゲレオタイプ」に取り憑かれており、妻に代わって娘のマリーをモデルとして屋敷の地下のアトリエで撮影を続けている。 ダゲレオタイプとは、一八三九年にルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによって発明されたもので、ネガが存在せず、写真像を直截銀板に焼き付ける技術である。極めてクリアで細密な、リアルなイメージを得ることが出来るかわりに、長時間の露光が必要で、その間、被写体は不動でいることを強いられた。実際のダゲレオタイプは、最初期でも十〜二十分程度の露光時間であり、それも程なく短縮されたが、この映画の設定では、ステファンは原寸大の写真像を得るための超大型の撮影機を所有しており、露光時間が長ければ長いほど実物に近いリアルさが達成されるということで、彼はモデルに数十分、遂には二時間もの不動状態を求めるようになる。アトリエには人体を固定するための拘束具が置かれている。それはおそろしくグロテスクな形状をしている。 写真に興味はあったが助手の経験は皆無のジャンは、最初は割の良いバイトのつもりだったが、ダゲレオタイプの異様さとステファンの暴君ぶりに気圧されつつも、次第にこの仕事に入れ込んでいく。マリーは母親の青いドレスを着て、粛々と父親のモデルを務めているが、彼女の夢は植物園で働くことであり、屋敷の横にある温室の世話もしている。ある日、彼女は遠く離れたトゥールーズの植物園から内定通知を貰う。ステファンの承諾を得られるかどうか心配するマリーに理解と共感を示したジャンに、彼女は思わずキスをする。この映画の時間経過は明確ではないが、二人は急速に惹かれ合っていく。 ところで街は再開発計画の真っ只中であり、あちこちで工事が行なわれている。ジャンは土地開発業者のトマ(マチュー・アマルリック)から、ステファンの屋敷が指定区域の中にあり、今なら500万ユーロ以上の大金で売却出来ると聞かされる。だが、追って交渉にやってきたトマをステファンは怒りに燃えて追い返してしまう。トマは帰りしなにジャンに再開発事業の書類を預ける。ジャンから書類を見せられたマリー��、高値が付いているうちにこの屋敷を売り払い、父娘でトゥールーズへと引っ越すことが望ましい選択だと言う。それに、ステファンも本心ではここから出て行きたいのだと。 ステファンは以前から、亡き妻ドゥニーズの幻に苦しめられていた。実はドゥニーズは精神を病み、温室で首を吊ったのだった。ある夜、ステファンは妻の影に誘われるように地下室に降りていき、青いドレス姿のドゥニーズの亡霊と対峙する。彼は妻に許しを乞うが、返事はない。ドゥニーズは無言のまま階段を昇っていき、ステファンはその後を追う。そこにマリーがやってくる。父親を探して彼女は階段を昇り、姿が見えなくなった次の瞬間、何事が起こったのか、階段を転げ落ちてくる。続いてステファンが駆け降りてくるが、マリーは倒れたまま微動だにしない。どうやって撮影したのかは不明だが、マリーの階段落ちからステファンが彼女を抱き上げるまでは切れ目無しのワンショットで撮られており、『回路』(二〇〇一年)の名高いワンショットの飛び降りシーンを彷彿とさせる。 そこにジャンが撮影道具を片付けにやってくる。慌てふためいた彼は、茫然自失のステファンを置いてマリーを車で病院に連れていこうとする。ところが、夜道で突然タイヤがパンクしてしまい、河沿いで車は急停車する。その拍子に後部ドアが開き、外に放り出されたのか、頭から血を流していたマリーの姿が消えている。ジャンは暗い場所で彼女を探すが見つからない。諦めかけた時、ふと見ると闇の奥にマリーが浮かび上がるように立っている。彼女は意識を取り戻し、もう大丈夫だから家に帰りたいと言う。不思議なことに頭の怪我も治っている。屋敷に戻ると、ステファンは泥酔している。ジャンはマリーは無事だったと伝えるが、ステファンは信じようとしない。彼は娘は死んでしまったと思い込んでいる。そこでジャンは妙案を思いつく。このままマリーが死んだことにしたら、ステファンは屋敷を売る気になるのではないか。ジャンはマリーを自分の部屋に匿う。こうして二人の奇妙でささやかな愛の生活が始まる。 屋敷売却の書類を揃えたら多額の手数料をトマから得る約束をしたジャンは、ステファンを説得しようとするのだが、妻ばかりか娘も失ったと信じているステファンは酒浸りとなり、全てに投げ遣りになって登記簿の在処も忘れてしまっている。いまや屋敷には濃厚な死の気配が漂っている。やがて温室でドゥニーズの亡霊と決定的な遭遇をしたステファンは、鍵を掛けた部屋の扉の外でジャンが真実ーーマリーは死んでいないことーーを告白したのにもかかわらず、拳銃自殺を遂げる。狼狽したジャンはトマを電話で呼び出すが、やってきたトマに彼がステファンを殺したのではないかと疑われ、我を失ってトマを撃ち殺してしまう。かくして完全に追い詰められたジャンは、マリーを連れて車で逃亡の旅に出るのだが……。 ラストシーンの手前まで来たが、ここまでの粗筋では敢えて触れていなかったことがある。それは物語の後半、マリーが実はとっくに死んでいるのではないかと、ジャンがずっと疑っているということだ。自分の部屋で寝起きして、料理を作ったり会話を交わしたりしているのは、生きているマリーではないのではないかという疑念を、彼は拭い去ることが出来ない。そして、この疑いは観客のものでもある。実際、マリーが夜道の事故で車から投げ出され、そのまま河に落ちてしまったことを露骨に仄めかすシーンも存在する。あの後、ジャンがその場所を通りがかると、警察官とダイバーが集まっている。釣りに来た子供が河の底に何かが沈んでいるのを見たというのだ。死体が発見されたという事実が描かれることはないが、これだけでも十分だろう。そして、この映画を最後まで観れば、残念ながら、ジャン(と観客)の疑念は正しかったことがわかる。しかしジャンは疑いを抱きながらも、ほんとうは実在していないのかもしれないマリーを、より一層愛するようになっていく。後でも触れるが、非現実感に襲われたジャンがマリーを問いただそうとする場面もある。だがジャンが決定的な問いを口にすることはない。彼には真実を確かめる勇気がないのだ。 黒沢清の映画を観てきた者なら、誰もがここで一本の作品を思い出すことだろう。『叫』(二〇〇七年)である。主人公の刑事吉岡(役所広司)の妻である春江(小西真奈美)は、怪事件に翻弄される吉岡を二人が暮らすマンションで優しくいたわってくれるのだが、実は他ならぬ吉岡自身の手によってずっと前に殺されていたことが映画の終わりに明らかにされる。春江の姿は、われわれ観客にも、他の登場人物たちと何ら変わらぬものとして、確かに見えていたのだが、しかし彼女は実在してはいなかったのだ。幽霊らしさ、死者らしさというものがあるとして、そうした徴をほとんどまったく有していないのに、実はこの世のものではない(のかもしれない)存在という意味で、マリーと春江はよく似ている。だが違いもある。もちろん注意深い観客には疑いが生じる余地が設けられているものの、春江の非実在は基本的にラストまで伏せられており、真実が露わにされた時、観客は少なからず驚かされる。しかしマリーの場合は、先にも触れたように事故のシーンの後、かなり早い時点から(そもそも額の血が忽然と消えているという露骨な描写もあるのだし)、彼女の実在は繰り返し疑問視されており、むしろ観客は次第に、マリーがほんとうに幽霊ではなかった、彼女がほんとうに生きていた、という可能性の方に、意外性の軸を置くことになるとすら言える。絶えず疑いを抱いてはそれを打ち消そうとし続けるジャンとともに、われわれもそんな「意外な結末」を希う。それゆえ、まだ記していないラストシーンを経て、エンド・クレジットが静かに上がってきた時、われわれは、やはりそうだったか、どうしてもこの結末を迎えるしかなかったのかと、やりきれない想いに駆られることになるのだ。 もう一作、『岸辺の旅』(二〇一五年)についても触れておこう。あの映画では、長らく行方不明になっていた優介(浅野忠信)が、ある夜突然、妻(深津絵里)の許に帰ってくるのだが、彼は自分がすでに死んでいることを告白する。だが、優介は生きていた時とまったく変わらず、死者=幽霊であることを匂わせるような様子もほとんどない。もちろん触れることだって出来る。それどころか、ここが『叫』の春江、そしてマリーとの違いだが、彼は妻と一緒に旅に出て(そもそも彼は旅をしながら帰ってきたのだが)、彼女以外の人々ともごく普通に接するのだ。つまり優介は生者と一切見分けのつかない死者なのである。だがそれでも、彼は生きてはいないのだ。幽霊の属性を持たない幽霊。その事もなげな死にぶりは、全然怖くはない幽霊映画としての『岸辺の旅』の魅力の核となっている。 さて、しかし実のところ、ここで考えるべきなのは、生者と死者の区別ではない。幽霊と幻影の区別である。どういうことか。まるで死者=幽霊らしくはないものの、死んでいることを前提として物語に召喚される『岸辺の旅』の優介とは異なり、マリーと春江は、彼女たちが客観的な(という言い方も変だが)意味での霊なのか、それとも、ジャンや吉岡の妄想の産物、すなわち幻でしかないのかが、どうにも判別し難いという意味において、同質の存在だと言っていい。そして黒沢監督は明らかに、巧妙かつ狡猾に、その線引きを曖昧にしている。いや、先回りして言ってしまうなら、そもそも幽霊と幻影のあいだにはっきりとした区別などつけられるのか、そんなことは誰にも出来はしないと、黒沢清は言いたいかのように思われる。そしてそれは確かにそうなのだ。裏返すならばこれは、誰であれ、何ものであれ、しかと疑いなく確実に実在しているなどと、どうして断言出来るだろう、という問いでもある。だが、この問いに向かうのはまだ早い。いま暫く足踏みをしなくてはならない。 恐怖映画にはーー��わゆるジャンル論とは別にーー二つの方向性がある。仮に実在論的恐怖映画と反実在論的(観念論的)恐怖映画と名付けよう。前者は、おそろしい出来事が現実的具体的に起こっている映画。後者は、実際には超常的なことは何も起きていないのに、登場人物の誰某の精神の内部におそろしさが宿っている映画である。大方の恐怖映画はもちろん前者だが、当然のことながら、あらゆる実在論的恐怖映画には観念の次元が潜在している。妄想の次元、想像力の次元と呼んでもいいだろう。それに、全てではないにせよ、多くの実在論的恐怖映画は、その正体が反実在論的恐怖映画であるという疑いを完全には排除出来ない。恐怖映画が恐怖をもたらす真の理由は、むしろここにある。つまり怪異が、この世ならざる出来事が、「世界」の側に在るのか、「心」の中に在るのかが、判定出来なくなる場合があるのだ。そして、この決定不能性こそが、もっともおそろしいのである。 ジャンが陥っていくのは、この決定不能性である。マリーが生きているのか死んでいるのかは、本質的な問題ではない。たとえ生きていないのだとしても、彼女はここにいるのだから。問題は、ここにいるマリーが超常的(超自然的)存在=幽霊なのか、それとも妄想的存在=幻影なのか、なのである。『ダゲレオタイプの女』には「ステファン×ドゥニーズ」と「ジャン×マリー」の二組の男女による二重のストーリーラインがある。この二つの系列は、青いドレスという形象によって掛け合わされている(この点においても「赤いドレスの女」が登場する『叫』との関連は明らかだ)。ステファンは死んでいるドゥニーズに責められ、襲われる。ジャンは死んでいるマリーと暮らし、愛し合う。ドゥニーズの死は事実と考えてよいが、マリーの生死はラストまで宙吊りにされている。しかし繰り返すが問題はそこにはない。見るべきは、ステファンの前に現れるドゥニーズ、ジャンが接するマリーが、彼ら以外にとっても実在しているのかどうかなのだ。 幽霊と幻影の違いは、言うまでもないことだが、前者はしばしば複数の人物にその姿を示すが、後者は結局のところ特定の人物の意識の内に現れるものだということである。常に青いドレスを着て出現するドゥニーズは、ステファンの歪んだ悔悟が生み出した、彼にしか見えていない幻なのか、それとも自らを死に追いやった夫への恨みーーここで重要な事実を述べておくと、ステファンは長時間の不動状態を要するダゲレオタイプのために、ドゥニーズに筋弛緩剤を投与しており、彼女の自殺はその薬物とかかわっていたらしいことが示唆される。そしてステファンは娘にも同じ薬を与えていたーーによって下界に繋がれた霊なのか。そしてマリーは、ジャンの狂気の愛が彼だけに見せている幻なのか、それとも彼のためにこの世に留まってくれている霊なのか。ジャンはマリーに「お父さんは君が死んだと思い込んでいる」と話すが、現実は逆で、ジャンがマリーを生きていると思い込んでいるだけなのかもしれない。ステファンはジャンに「この頭が狂えば、気が楽になるのに」と言う。程なくステファンの望みは叶えられるが、それ以前からジャンの頭の方が狂っていたのかもしれないのだ。そして何よりも重要なことは、そのことにジャン自身が気づいているということである。彼はマリーの生死を疑っているのではない、自分の頭を疑っているのだ。では、実際のところはどうなのか。ジャンの頭は狂っているのだろうか? では、ここで、ドゥニーズとマリーが、幽霊なのか幻影なのか、私なりの考えを記してみようと思う。愚昧さはもちろん承知の上である。先にも述べたように、黒沢清自身が、意図的にこの判別を宙吊りにしているのだから。しかしそれゆえにこそ、考えるためのヒントはそこかしこに散らばっている。まずはドゥニーズから。彼女はステファンがひとりでいる時にしか現れない。写真家が自室で書物を捲っていると、耳元で「あなた」と呼ぶ声がする。彼は驚いて後ろを振り向くが、誰もいない。だが再び「ステファン」という声がする。窓の外を見ると、緑の中に青いドレスの女が立っている。遠くて顔はわからないが、服装は見紛いようがない。この時点では声と姿だけだが、後には、椅子に座ったステファンの両肩をドゥニーズが背後から抱きしめるショットが出てくる。ドゥニーズがステファンに接触するのはこの一度きりだが、この映像は重要である。ごく短いショットにこの世ならぬものがいきなり映っており、すぐに切り替わった次のショットではあっけなく消えているというのは、『降霊』(二〇〇〇年)など、黒沢恐怖映画ではしばしば見られる趣向だが、ここでも、どんな高度な特殊撮影技術よりも効果を上げている。マリーの転落に至る地下室のシーン、ステファンが恐怖の閾値を超えてしまう温室のシーンでは、ドゥニーズは姿形だけの存在であり、その場にはステファンしかいない。この映画の中では、他の誰もドゥニーズを見ていない。従って、彼女はステファンの妄想である可能性が高いと考えることが出来る。だが、ここには幾つか留保も付けられる。 映画が始まってまもなく、ステファンの屋敷に初めてやってきたジャンは、二階に上がる階段に青いドレスの女の後ろ姿を目にする。その女性は踊り場に黙って立っており、ジャンが見ていると��っくりと上に昇っていく。この後、ステファンと会ってそのまま助手に採用されたジャンは、ダゲレオタイプに定着されたマリーの写真像を見せられる。だから階段に居た女性はモデル姿のマリーだったと考えられるし、ジャンもそう思っただろうと推測出来る。しかし、そうではなかった可能性も残る。それはマリーではなくドゥニーズの霊だったのかもしれない。また後半、ジャンが地下室で登記簿を探していると、とつぜん照明が消えたり点いたりする。いわゆるポルターガイスト現象である。ドゥニーズが出現することはないが、彼女の仕業であるかに思わせる場面ではある。もっとも、このシーンはマリーの事故よりも後なので、ポルターガイストの正体がドゥニーズであるという保証はない。このように、ドゥニーズがステファンの妄想に過ぎないと完全に証明することは難しい。だが私は以下の理由で、彼女は幽霊ではなく幻影なのだと考えている。 ドゥニーズはマリーの前にステファンのモデルを務めていた。彼女はダゲレオタイプ撮影のために長時間の拘束を何度となく強いられ、筋弛緩剤まで使われた結果、遂には自殺したものと思われる。ステファンはダゲレオタイプこそ「本来の写真」なのであり、それは「存在そのものが銀板に固定される」のだと宣う。しかし、ならばどうして、ドゥニーズのダゲレオタイプ像が、この映画には一度も出てこないのか。青いドレスを身に纏った原寸大の写真は、常にマリーのものである。ステファンが、地下室の壁に立てかけられたマリーのダゲレオタイプ像とドゥニーズの写真を対面させようとする場面があるが、彼が手に持っているのは、ごく普通の肖像写真であり(彼は「こんなに小さくなって」と写真に語りかけ、次いで「復讐は順調かな」と言う)、ダゲレオタイプではない。これはどういうことなのか。 もちろん、その理由はわからない。だが、こう考えることが出来るのではないか。ステファンはドゥニーズの死後、彼女のダゲレオタイプを全て処分したか、どこかに隠してしまった。彼女を見ないように、そしてそれ以上に、彼女に見られないように。ステファンがドゥニーズからの視線を怖れていることは、先の肖像写真が横向きであることにも示されている。そしてむしろ、そのことによって、彼は妄執に蝕まれていったのだ。マリーはジャンに、父親は「写真と現実を混同して生者と死者を区別できない」と言っていた。つまりステファンの前に現れるのは、ドゥニーズの霊ではない、ドゥニーズのダゲレオタイプなのである。 ダゲレオタイプという技術は、あるあからさまなパラドックスを有している。写真は静止像であり、決定的瞬間という言葉にも明らかなように、間断なく連綿と流れゆく時間を切断し、一瞬を固定する。それはいわば時間的な連続のどこにも存在していない断面としての写像である。ところがダゲレオタイプのような長時間露光の場合、その方法からして、瞬間の内に、時間の持続を閉じ込める。ダゲレオタイプも他の写真と同様、平面の上に固着された静止像であることに変わりはないのだが、そこには同時に時間の流跡が刻まれているのだ。だが、そこに封じられた時間の中に動くものがあると、像は乱れてしまう。従ってダゲレオタイプの撮影においては、現実の時間を止めることが要請される。その結果、リアルな静止像が得られる。しかし翻って言えば、その像には無理矢理に止められた、いわば無時間的な時間が刻印されているのだ。 実際、青いドレス姿のドゥニーズは、顔も体も、ほぼ不動である。温室でステファンがドゥニーズに迫られるシーンでも、刻々と近づいてくる彼女の表情は凍りついたままだ。それは自分を死に追いやった夫への復讐のためにこの世に舞い戻った亡霊ではない。そうではなく、ステファンを狂気へ、自死へと誘うのは、何よりも彼自身がそう信じている、銀板に固定された存在そのもの、すなわちドゥニーズのダゲレオタイプ、もっと精確に言えば、その本物そっくりの写真像の記憶なのである。彼は亡き妻のダゲレオタイプを見えないようにしたからこそ、その幻を見るようになったのだ。そして温室の場面で、遂に彼は彼女と目が合ってしまう。 では、マリーについてはどうだろうか。ジャンは(冒頭の場面の可能性を除けば)ドゥニーズの姿を見ることはないが、事故後、ステファンは娘を一度も見ることはない。死んだことにして隠れているのだから当然とも言えるが、一箇所だけ例外がある。居間でステファンとジャンが話していると、突然「パパ」という声が聞こえ、思わず二人とも身構える、というシーンである。続いてステファンは向こうの部屋にマリーが居ると言って脅えるが、そこには誰もいない。ジャンは少なくとも、そこにマリーが居るわけがないことを知っている。彼は「こんな家にいたら誰でもおかしくなる」と言う。だが、二人とも(そしてわれわれ観客も)確かにマリーらしき声を聞いたのだ。 もうひとつ、より重要な意味を持つ場面がある。屋敷内の美術作品を査定に来た業者が、帰りしなにジャンに「階段で若い娘さんを見かけた」と言う。失礼を詫びたが無言だった、と。ジャンが「そんな人はいない」と答えると、業者は曖昧な顔で誤摩化す。不審に思ったジャンが急いで自分の部屋に戻ってみると、マリーはそこにいて、外出などしていないという。業者の言葉からして、それは無論ドゥーニーズではない。このシーンは、この映画の中で唯一、ジャン以外の人物が事故後のマリーを見た可能性を示すものである。 そして決定的と言っていいのは、正気を喪ったステファンが薬剤を撒き散らし、植物たちが枯れ果ててしまった温室に、ジャン���部屋を抜け出したマリーがひとりでやってくる場面である。このシーンにはジャンは出てこない。ということは、マリーは自らの独立した意志を持った霊なのであって、ジャンの妄想内存在ではないのだろうか。この場面をそのまま受け入れるなら、そう考えるのが妥当なのだと思われる。だがもちろん、幾らだって疑うことは可能だ。マリーはこの時、誰とも出会わないので、他者の認識によって彼女の存在を証立てることは出来ない。このシーンが現実であるという確たる証拠はどこにもない。この出来事自体がジャンの妄想の一部なのかもしれない。真実はどこまでも宙吊りにされている。だが私は以下の理由で、マリーは幻影ではなく幽霊なのだと考えている。 ここで、これまで述べていなかったラストシーンを語ることにしよう。田舎に向かって車を走らせたジャンとマリーは、モーテルで一夜を過ごす(おそらくこの時はじめて二人は結ばれる)。翌朝、近くの教会で結婚式を挙げようとジャンはマリーに言う。彼女は嬉しそうに同意する。誰も居ない教会に入り、道に落ちていた針金で拵えた指輪をマリーの指に嵌めて、ジャンは神父と新郎を兼ねて婚姻の誓いを述べる。マリーもそれに応じる。二人は接吻を交わす。そこに神父らしき男が訝しげに入ってきて、祭壇に立ってはいけないと注意する。すると、マリーの姿が消えている。神父の目には最初からジャンしか映っていなかったようだ。戸惑いながらも、ジャンは教会を出て行く。映画の終わり、ジャンは畦道の真ん中に車を止めて泣いている。マリーの姿はどこにもない。やがて彼は何とも苦しげな笑顔を浮かべ、助手席の虚空を見据えて、マリーに語り掛け始める。この先どうしよう? 君の好きでいい。家に帰りたい? 僕は構わない。君といられるなら……彼の最後の台詞は「楽しい旅だった」。なんて哀しい幕切れだろうか。黒沢映画において、これほどストレートに心を揺さぶられる場面は過去に観たことがない。タハール・ラヒムの素晴らしい演技も相俟って、深い深い余韻の残るラストになっている。およそ物語上の情緒的な要素に対しては、常に一定の距離感をーーおそらく本能的にーー導入してきた黒沢監督が、ここまでエモーショナルな演出をしてみせたことに、私は不意打ちにも似た感銘を受けた(それゆえにこの結末を嫌う黒沢ファンも居そうだが)。 マリーは、どうして消えたのだろうか? それは私にはわからない。だが、こう考えることは出来る。教会でジャンは、婚姻の誓いの言葉として「死が分かつまで」と言う。マリーも同じ言葉を返すのだが、その直後、彼女は不意に消滅する。キリスト教の結婚において誰もが口にする、ごく平凡な台詞だが、しかしマリーがほんとうはもう死んでいるのだとしたら? 二人を分かつ「死」は、すでに訪れていたことになる。ただ、その事実を直視しないことによって、マリーはジャンと同じ世界に存在し得ていたのだ。しかし「死が分かつまで」という言葉が、そのことを露わにしてしまった。その結果、マリーは自分が死者であることを、幽霊であることを、とうの昔に二人が分かたれていたことを、認めざるを得なくなった。受け入れざるを得なくなってしまったのだ。 マリーがジャンの妄想的存在だった場合も、結果は同じになる。ジャンはずっとマリーが生きているのかどうか不安だった。いや、彼はマリーがほんとうは死んでいることを最初から知っていたと言ってもいい。そして彼は、夜の闇の奥から現れたマリーが、自分の狂った頭が生み出した幻であるということにも気づいている。だが、妄想もいつまでも続くなら現実と変わらない。もはや彼にとっては、マリーが生者であるか死者であるか、幽霊であるか幻影であるかは問題ではない。彼女といられるなら、何だっていいのだ。だからある意味で、ジャンが発する「死が分かつまで」という言葉の意味はーー結婚の儀の真似事ゆえの不用意な慣用句だけではなかったのならーーこうして今、二人は分かたれていないのだからマリーは死んでなどいないのだと、自分に対して、彼女に対して、世界に対して、やみくもに宣言するため、言い募るための、どこまでもそう思い込むための、思い込み続けるための、魔法の言葉だったと考えられるのではないか。しかし、その言葉を口にしたがゆえに、魔法は消えてしまったのだ。 つまり、こういうことなのだ。ステファンもジャンも、幽霊と幻影を、現実と妄想を取り違えた。だが二人の錯誤は真逆である。ステファンは、実際には妄想=幻影であるものを現実=幽霊だと勘違いした。それが彼の悲劇だった。しかしジャンは、現実=幽霊を妄想=幻影だと思い込んだのだ。彼はずっと、マリーを彼の心が生み出したイメージではないかと疑っていた。最後の最後までそうだった。だが、ほんとうはそうではなかったのだ。マリーは、死者として、確かにそこに存在していたのである。ジャンがマリーに思わず真実を問いただそうとする場面で、「君とここにいることが信じられない。すべてが本物じゃない、現実じゃない気がする」と彼が言うと、彼女は穏やかに微笑んで「悪くない生活でしょ」と応える。そして彼女はひとつの質問を口にする。「これが現実なら、どこが境目?」。そう、彼はこれは現実じゃないと思うべきではなかった。これは紛れもない現実で、そしてマリーという、いま目の前で微笑む女性こそ、奇跡の別名である境目なのだと認識するべきだったのだ。だが、彼はそう思わなかった。それが彼の悲劇であり、そうして彼は何もかもを失ったのだ。自分に見えているものを信じ切ることが出来なかったがゆえに。 だがしかし、最後に言っておかなくてはならない。ジャンの悲劇は、けっして彼が愚かだったからではない。彼の立場になったとして、いったい誰が霊と幻の区別をつけられるだろう。そればかりか、いったい誰に、見えないはずのものと見えているものを、見えているものと存在しているものを分けられるだろうか。それが不可能であることこそ、人間が人間であるゆえんではないか。なぜならそれは、人間が想像力というものを、或いは希望と呼ばれる能力を持っていることの証左であるからだ。黒沢清という映画作家は、このことを問うている。問おうとしている。問い続けている。そしてこれは、すこぶる映画的な問題であると同時に、無論のこと、映画だけの問題ではない。
(初出:新潮2016年11月号)
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Skyrim不動産案内番外編:Vagrant's Highrise
それは私がソリチュードの宿、ウィンキング・スキーヴァーで飲んでいたときのことだ。 部屋をとった後、まだ寝るには早いとカウンターでコップ一杯のハチミツ酒を味わっていると、一つあけた隣の席に司祭とおぼしき老人が腰掛けた。司祭が食事に来るのは珍しくないが、酒を頼むのはめったにないことらしく、マスターのコルプルスも驚いたようだ。 わけを聞けば、愚かで身勝手で迷惑極まりない、けれど憐れな酒飲みを一人、一日かけて葬ったという。 マスターとのやりとりを耳にしているうちにだいたいの事情は分かった。
死者の間の近く、地下墓所の入り口の上に勝手に住み着いた酒飲みの男が、今朝、墓地で死んでいた。男の頭は砕け、すぐ傍の墓石は血まみれで、転落死したのだろうと思えた。飲み過ぎて前後不覚になり、それでおかしな場所の寝床か���転がり落ちたに違いないという、司祭の推測を否定する者は誰もいるまい。 その男はあまり酒癖もよくなく、金がなくても酒場に来て酒をねだるので、マスターもかなり迷惑していたらしい。何度か追い出したこともあるのだが、それでも、死んでしまえばただの憐れな男だ。 司祭はその男の遺体の始末と弔い、そして巻き添えになった墓石の掃除に丸一日を費やし、それでも墓石の清掃は終わらず疲れきっていた。馬鹿な男が死んでまでかけた迷惑にうんざりする気持ちもあるが、こんな末路しかなかった男が憐れでもあり、一杯やりたくなったのだ。 私は、自分もまた酒飲みであることで少し気が咎めて(死んだ男のように前後不覚になるまでは決して飲まないが。……サムとのあれは例外だ)、良かったら明日、掃除を手伝おうかと申し出た。 突然の申し出にスティル司祭は戸惑ったが、さすがは客商売、コルプルスは私のことをたまに見る客だと覚えていて、ぜひ手伝ってもらうといいと橋渡しをしてくれた。 そして私たちはその後、コップ半分の薄いりんご酒を死んだ男のために傾け、明日の約束をして別れた。
翌朝死者の間に行くと、スティル司祭は既に起床し、小さな寺院の前を掃き清めていた。 あれがその場所だと教えられたのは、まさに墓地、地下墓所への入り口の真上だ。鐘楼のような部分に、その男は勝手にはしごをかけ、生活道具を集め、住み着いていたらしい。 真下の墓石には確かに、落としきれない汚れがこびりついていた。(注:実際のmodには転落死したなどという背景はないので、そんな物騒なオマケはありませんw) 私は清掃道具を借りてまず墓石を清めることにした。この墓の主、そしてその家族にとれば、とんでもないとばっちりである。老いた司祭の力では落としきれなかった汚れも、私が繰り返しこすっていると間もなくきれいさっぱりなくなった。これで家族や友人知人が来ても気まずい思いをすることはあるまい。 道具を返すついでに、遺留品を処分するなら、その運び出しも手伝おうかと言うと、スティル司祭は少し考えて、 「そのことについて昨夜も考えたのだがね、やはりあの場所は、そのままにしておこうかと思うのだよ」 と答えた。男は確かに迷惑だったが、あんな場所でも寝床にはなり、体を横たえ休むことはできた。深酒していなければ、手すりもあるのだし、落ちることはまずなかっただろう。それなら、宿無しの誰かが雨露をしのげる場所として残しておいてもいい。 ただ、私物があればそれを始末する必要はあるので、足腰の丈夫な私に見てきてほしいと頼まれた。
アドヴァル氏の家の横手にかけたはしごで出入りしていたらしい。ジャンプ力に自信があれば、ハシゴを使わなくても出入りできそうな高さだ。(注:ジャンプ力4倍で、ちょうど飛び込めますw)
どうやって運び上げたのか、テーブルに椅子、宝箱、そして、……そこら中に酒瓶が転がっている。 テーブルの上の汚れた紙に、思いつきのような独り言が書かれていた。
―――なるほど。既に一度落ちそうにはなっていて、縁に手すり(バー)をつけなければと思い、それは実行したらしい。 「バーと言えば、今夜はスキーヴァーに入れてもらえるだろうか。マーケットの近くで金を見つけた。袋ごと隅っこに置いてあった」……「それにしても誰が金の袋を置いていくんだろうな?」か。確かにそれは時々不思議に思うが、タムリエルにいくつもある不思議のうちでは かなりささやかなものだ。 まともに稼ぐこともなく、そういう金で酒を飲み、無為に日々を送っていたのだろう。そんな男が酒のせいで転落死しても自業自得でしかないが、そういう暮らしに落ちてしまったのが、すべて当人のせいだとは限らない。……少なくとも今の私には、いくらかこの男に同情するような思いがある。昔の私なら、おそらくだが、ただの愚か者だと一顧だにしなかったのではないか。 ところで、この日記を目にしたとき、なんとなく妙な感覚があったのだが……深くは考えないでおこう。(注:スリが上がります)
ベッドロールの枕元には『物乞い王子』だ。 病を患い、誰からも哀れまれ、しかし誰からも関心を持たれなくなる力。路傍の薄汚い物乞い。しかし彼等は、いてもいなくても同じように他者に無視されればこそ、様々な噂や秘密を手に入れ、はした金も集まれば大金になり、財産や力を手に入れることもありうる。そう、物乞いに油断してはならない。彼等は―――、……彼等は……? くそっ。なにか思い浮かんだはずなのだが、出てこない。おそらくはまた、私の生前の記憶だろう。 しかし、そんなふうにうまくいくには運も必要だ。ただ怠惰に座っていても叶うことはない。もし叶うなら、世界中の物乞いがもっと立派な隠れ家を持っていそうなものではないか。だが実際のところ彼等は日々の食事に事欠き、���度品もろくにないあばら屋に帰り、藁屑の上で眠る。この男も物語のようにはいかず、今はもう死者の一員だ。
そにしても、墓地の上を寝床にするというのは、あまり褒められたものではないと思うのだが……、スティル司祭が構わないと言い、使う者が気にしないならば、私がどう思おうと関係のないことか。 こう見下ろしていると、なんとなく引きこまれそうな気配がして、私は慌てて背中を起こした。死んだ酒飲みが仲間をほしがっている、などというホラーは勘弁だ。私はとっくに一度死に、他人には生前の姿で見えるようだが、今は立派な(?)スケルトンである。 ともあれスティル司祭には、入念に弔い、未練のないようにしてくれるよう頼んでおいたほうが良さそうだ。ここに泊まった者は必ず翌朝墓石で頭を割られている、などというホラーがスカイリムの七不思議に加えられるのは、決して嬉しくないのだから。
【管理人の余談】
リリースは2016年12月で、かなり前のものです。それが今、ベセスダネットのオススメに上がってきています。何故今、しかも何故これw なにせこのmodderさん、ウィザードラボラトリー、ルーターズコーヴなどクォリティの高い、コンパクトな家をいくつも作ってくださっていて、よりにもよってこの寝床でなくてもという感じ。
左上から、家の中に小さなきのこハウスの模型があり、そこにアクセスすると鍛冶場に行ける、ドゥーマー家具が置かれたウィズラボ。 リフテンのタロス像脇から入り、ギルドの酒場に通じているため通路としても便利なルタコヴ。 家族を顧みない「ハンター」の父親が残した家を、息子が放棄したレスパイト。(ちなみに父親は吸血鬼ハンターで、家族を巻き込まないために疎遠にしていたというオチ) この記事の語り手であるガイコツさんが住んでる老狩人の残した小屋。 以前ねこすけが住んでいた内装の凝ったワンアド。 レイヴンロックにあるコンパクトなワンルーム帝都社員の家。 そしてこの浮浪者の寝床に、ソリチュードの2F(宿泊部屋)を商人の部屋として自室にしてしまうmod。(これはUniさんの宿屋改修とかぶるのもあって私は入れられないのですが) 8つ中6つは案内しているからには、この機にやるしかあるまいと! 酒飲みのキャラもいてネタも出たので、わがままいっぱいで追加しましたw
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◆●神代文字●偽書●これが本物
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◆●神代文字●偽書 神代文字とか偽書と言われるものはマダマダ有る。 大体こんな項目の中に 大体は入っている。 別項目として カタカムナとか ウエツフミ 九鬼文書 津軽外三郡誌 とか 富士古文書 などか数限りなくある。 名前少し違うかも。 この日本列島は アイヌ 琉球人 サンカ その他の民族が渡って来て 坩堝の様に 拠り集まり同和させでっかい文化を作り出した。 カタカナ語として定住して使用されるにはじかんがかかる。 無理にやりすぎて日本全体がユサユサと揺すられている。 まっ それもよしかな。 ●坩堝(るつぼ)の意味 - goo国語辞書 1 《「鋳?(い)?る壺」あるいは「炉壺」の意からか》中に物質を入れて加熱し、溶解・焙焼?(ばいしょう)?・高温処理などを行う耐熱製の容器。金属製・黒鉛製・粘土製などがある。 2 熱狂的な興奮に沸いている状態。「会場が興奮の坩堝と化す」 3 種々のものが混じり合っている状態や場所。「人種の坩堝」 ● ばい‐しょう〔‐セウ〕【×焙焼】 の解説 [名](スル) 1 あぶり焼くこと。 2 金属の硫化物・砒化物?(ひかぶつ)?・アンチモン化物の形の鉱物を、融解しない程度の温度で焼き、硫黄・砒素などを酸化させたり気化させたりすること。金属精錬の予備処理として行われる。 ●日本のピラミッドを見に行く :: デイリーポータルZ https://dailyportalz.jp/kiji/pyramid-in-japan 2019/10/08 - 日本のピラミッドとは広島県庄原市にある葦嶽山(あしだけやま)のことである。 元々、神武天皇のお墓ではないかと地元の人たちの間では言われていたが、古代史を研究していた酒井勝軍(さかいかつとき)によって、大変なことがわかった。 ●日本ピラミッド空撮映像 https://youtu.be/0Oq2EKssOkk 2016/01/17 広島県庄原市の日本ピラミッド葦嶽山を登山し、登山口よりマルチコプターで空撮しました。 ●葦嶽山は世界最古のピラミッド 2019/12/07 * Seosarong チャンネル登録者数 57人 どうも同胞せおさろんです・:*+ プロフィールはこちら→ https://seosarong.amebaownd.com 広島県庄原市(しょうばらし)には ピラミッド研究家:酒井勝軍氏によって認定された世界最古のピラミッドがあります。 不思議なエネルギーは今も静かに人々を惹きつけるのです。 小さな頃から両親や親戚と登ってきた葦嶽山(あしたけやま)。 わたしにとっては特に思い入れのある山なのです。 登っているとわかりますが、平和の波長のエネルギーを今も目一杯放出しているのです。 耳が澄み、癒される波長が少しでも届きますように ●【古代ピラミッド】米神山 超古代文明!世界最古のピラミッドは日本にある!2万3千年前の巨石の謎 2019/06/13 https://youtu.be/GDksvkv9rAY 大分県宇佐市安心院町熊 にある米神山に登ってきました。 ここは、麓に佐田京石という巨石のストーンサークルがあり、その山頂には環状列石が設置されています。 途中にも巨石が人工的に南西に向けられ、何かの受信基地のように感じました。 日本には、はるか太古に巨石の文明がありました。その痕跡から古代の超文明の高度なテクノロジーを登山しながら考察していきます。 世の中の見識や技術が発展しあらゆることが解明されようとしています。しかしこの日本の本当の歴史を知る人は少なく、未だ手付かずな秘境が点在しています。全世界の中でもこの日本には最古の歴史が眠っています。そしてその痕跡を追い求め秘境を探検していきます。 ☆ちょっとでも面白いなと思ったらチャンネル登録よろしくuお願いします☆ https://www.youtube.com/channel/UCxkJoOGwabvxGzKYBBh_7hA?sub_confirmation=1 ●【大石神ピラミッド】青森県新郷村 日本最古のピラミッド(巨石群)【パワースポット】4K60P https://youtu.be/62vchQ6XqGs 2018/06/12 青森県三戸郡新郷村にある日本最古のピラミッド、大石神ピラミッドを見て来ました。 方位石、太陽石、星座石、鏡石などといった巨石群があり、5万年前のものと言われています。 訪れた時期:2018年6月 ゆきと支配人です(・∀・) 当チャンネルは週に1、2回ほど動画をアップしています! ブログには撮影の裏話や詳細情報も書いています! ☆ゆきと支配人のBlog http://yukitomanager.blog.jp/ ●青森にあったキリストの墓 https://youtu.be/UrLcj7TJP8Y 2014/09/18 ●日本にあるキリストの墓伝説 https://youtu.be/fkaBdO8sYZs 2012/05/19 ●【驚愕】モーゼは、日本に住んでいた!!~竹内文書~ 2018/05/04 https://youtu.be/SxBUyNMvOW0
●謎とされる古史古伝 正統「竹内文書」 - 気になる情報 https://life.jah.tokyo/謎とされる古史古伝-正統「竹内文書」/ 目次 1 この記事の概要 2 古史古伝 正統「竹内文書」 3 武内宿禰 4 キリストが世界中に現れた 5 南極にまで現れた? 6 卑弥呼の本名 7 まとめ 8 Amazonの紹介欄(商品リンク) 竹内文書は、古事記、日本書紀に書かれなかった書またはそれ以前の書として知られています。 時には神代文字で書かれ、神々の世界から超古代天皇、天変地異以前の世界を語っていたりします。 ●皆神山の謎 http://www.good-weather-studio.com/minakami.html 日本のピラミッド皆神山。この山の存在を通して遥かな縄文の時代に現代を凌ぐ文明があったことが窺える。一万年もの間戦争のない暮らしを続けた縄文古代文明の中で、人々はどのような生き方をしていたのだろうか。 また、UFO問題、宇宙人と人類の関わり、そして神様とはなんなのか。それらすべてを俯瞰することで見えてくる未来がある。 ●テレビ放映された新郷村「キリストの墓」の謎(出演:久保有政 他) https://youtu.be/aQCBAkV1_kA 2019/09/22 テレビ番組でも、日本にある「キリストの墓」の謎が取り上げられていた(テレビ朝日「スーパーモーニング」より)。 青森県にある「キリストの墓」は、本当にイエス・キリストの墓か? それはキリストの墓というより、むしろ古代キリスト教徒の墓なのか? それはじつは多くの古代キリスト教徒たちが、その地域にいたことの証しだった。 ●【古代ピラミッド】米神山 超古代文明!世界最古のピラミッドは日本にある!2万3千年前の巨石の謎 https://youtu.be/GDksvkv9rAY 2019/06/13 大分県宇佐市安心院町熊 にある米神山に登ってきました。 ここは、麓に佐田京石という巨石のストーンサークルがあり、その山頂には環状列石が設置されています。 途中にも巨石が人工的に南西に向けられ、何かの受信基地のように感じました。 日本には、はるか太古に巨石の文明がありました。その痕跡から古代の超文明の高度なテクノロジーを登山しながら考察していきます。 世の中の見識や技術が発展しあらゆることが解明されようとしています。しかしこの日本の本当の歴史を知る人は少なく、未だ手付かずな秘境が点在しています。全世界の中でもこの日本には最古の歴史が眠っています。そしてその痕跡を追い求め秘境を探検していきます。 ☆ちょっとでも面白いなと思ったらチャンネル登録よろしくuお願いします☆ https://www.youtube.com/channel/UCxkJoOGwabvxGzKYBBh_7hA?sub_confirmation=1 ●日本のピラミッド|hitoshi kawamura|note https://note.com/hitkawa/n/n5a2a6f817df7 2014/10/14 - 日本にも、ピラミッドがある。「古事記」や「日本書紀」の時代よりも先行する超古代、日本には非常に発達した文明があり、世界各地の古代文明に影響を与えた。あのキリストもモーゼも釈迦も、日本に教えを乞いに来て、その墓が今でも日本にあるくらいだ。そうした日本超古代文明の遺跡として、現在はただの山に見えるが、日本各地に超巨大ピラミッドが残っているのである。 ●【衝撃】宇宙創世138億年の歴史を覆す日本の古文書に隠された共通点とは?日本にはとんでもない秘密が隠されている! 779,757 回視聴 2019/01/19 https://youtu.be/FtkrD0RY0o0 Unknown World チャンネル登録者数 5.79万人 ~Unknown World~運営 MIKA&AOI&Hi●●です。ぶっ飛んだ話をします。宇宙の歴史は138億年と言われています。これを覆す世界最古の古文書、竹内文書。それと似た九鬼文書、そして上記。この3つの古文書には共通点がいくつも…。これが真実なの?? 今回はアオイワールドです ●【古代日本とシュメール】日本の神社や神域で発見される古代文字ペトログリフの謎 1,233,437 回視聴 ?2018/04/30 高評価 低評価 共有 保存 CH世界不思議・謎 チャンネル登録者数 2.2万人 【古代日本とシュメール】 日本の神社や神域で発見される古代文字ペトログリフの謎
【日本三奇】いつ、誰が、何のために? 未だ謎の「3つの奇跡」 https://youtu.be/Om0VgYXBd1Q
定説を覆す考古学的発見 出雲神話は史実だった!? https://youtu.be/j8b4HQDAhvA
未だ謎が多い 新・日本の七不思議 https://youtu.be/ZDDM1ScXTbg
【古代日本】謎の縄文巨石文化とピラミッド https://youtu.be/Zo7J1pbcbvc
日本の海に眠る 古代の海底遺跡 4選 https://youtu.be/caZHRD1NWEg ●ペトログラフの謎??日本で発見された古代文字【衝撃】超古代文明 2018/12/30 https://youtu.be/-oxZEqsp1Pg ●「神」のすべての熟語 https://kanji.sljfaq.org/k/u795E-jukugo.html 「神」ではじまる熟語 「神」のすべての熟語 ●【衝撃】日本の隠された歴史!葬られた真実なのか?古文書に記された驚愕の世界! https://youtu.be/9FWVaAYqpE0 2019/02/11 ■ 引用元 https://www.sankei.com/life/news/180926/lif1809260017-n1.html https://www.nikkei.com/article/DGXMZO19265380W7A720C1000000/ https://ameblo.jp/stuffy2012/entry-11189379321.html ●人類の隠された歴史 | 天無神人(アマミカムイ)公式ブログ http://blog.yoshiokamanabu.com/?eid=950 2011/03/04 - 人類の隠された歴史. 2010年7月9日に、YOUTUBEで公開された研究資料です。 https://youtu.be/FjtBfhJV7c8
オーストリア人の遺物調査人クラウス・ドナによる、45分のスライド・ショーです。これは豊富なデータ、詳細で、徹底的な、非常に引き込まれる内容です。アトランティスから、レプティリアン・ヒューマノイド、アヌンナキ人、古代シンボリズム、超古代の科学技術、超古代地球共通言語など、さらに多くの情報をカバーしています。この��ンタビューは驚くべき内容のものです。どうぞお楽しみください。 クラウス・ドナ : 人類の隠された歴史 翻訳: http://projectavalon.net//lang/ja/klaus_dona_2_interview_transcript_ja.html ●安閑神社 神代文字の石 | 日本伝承大鑑 http://projectavalon.net//lang/ja/klaus_dona_2_interview_transcript_ja.html あんかんじんじゃ・じんだいもじのいし】旧・安曇川町は、第26代継体天皇の生誕地であり、古代史において非常に特異な地位を占めている。言うならば、大和政権の長である天皇家と密接に関わりを持つ大豪族が近江近在に勢力を伸ばしていたことになる。 ●与那国海底遺跡 クラウス・ドナ :人類の隠された歴史 2010年 3月 http://projectavalon.net//lang/ja/klaus_dona_2_interview_transcript_ja.html これは、プロジェクト・キャメロットにお馴染みの皆さ��はご存知の事かと思います が、1984年に発見された一枚板、岩で出来ている琉球諸島の与那国島の遺跡の写真です。島の東南で、海面下約25mほどの所です。 国際的に有名な考古学者の中には、自然現象で、たまたまこのようになったと思っている人もいますが、わたしの友人の木村政昭教授(琉球大学)は、何年に も渡って現地で調査して、この遺跡の他にも、側にいくつも同じような物を発見しています。 これがそのモデルですね。 明らかに、この遺跡の上部2層は、自然現象で出来た物ではありません。 岩でできた大きなカメと大きなワシ、自然現象で偶然に出来たと考えるには、一寸よく出来過ぎています。 ●平 将門(~940年) http://www.kamiyo.org/kamiyo/rekishi/masakado.html タネコ文字 「かむほきほき くるほし とこほきほき もくほし まつりこしみきそ あさすおせささ」 (神 寿き寿き 狂るほし とこ寿き寿き もくほし 奉りこし御酒ぞ あさず飯せ ささ) 「平滝口将門」 「これを捧げれば神もよろこび給い、もろもろの邪気をはらう故に 長寿にも通じる霊薬である。 さあ、繰りかへし繰りかへし、飽くほどゆっくりこのめでたい御神酒を 召し上りなさい。さあさあ、充分に間をおかずお飲みなさい」 というふうに解される。 滝口というのは、彼が若い頃武士として名誉な清涼殿の東北の滝口を 警備していたことからであろう。 なお、平将門といえば戦いしか知らない荒武者のように見られがちだが このような和歌やタネコ文字を心得ていた点など ひとかどの教養人であったことが察せられる。 ● 皇紀 (こうき) https://www.benricho.org/nenrei/kouki/ https://www.benricho.org/nenrei/kouki/ 西暦 ⇒ 皇紀 変換 西暦を皇紀に変換します。 きょう: 2020年03月21日 (土) 皇紀 (こうき) 「皇紀」は、神武天皇即位の年を元年と定めた日本の紀元で、 皇紀元年は、西暦を660年遡る西暦紀元前660年(660 BC)にあたります。 1872年(明治5年)に、「太政官布告第342号」により制定され、 「神武天皇即位紀元」といい、 通称は皇紀、皇暦、神武暦、神武紀元などともいわれます。 「皇紀」は、第二次世界大戦敗戦後の昭和23年・1948年に廃止されました。 リンク:太政官布告第342号(国立国会図書館・近代デジタルライブラリー) ●略称は皇紀(こうき)という。 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787952/198
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偽善者の涙[九]
[九]
「ふん、ふん、……それでな、沙霧をな、あー、……たぶん一時か二時頃、……ふん、行くで。……ふん、佳奈枝も来るで。でも、たぶん俺らすぐ帰ると思ふから、……あ、さうなん? ぢやあ、沙霧に、一時半ぴつたりに下の和室の方に来といて、て伝へて欲しいんやけど、……ふん、ありがたう。お土産的なものはテーブルの上に置いとくから、……あ、さう〳〵、ちやんと佳奈枝も来るつて、あいつに伝へといてな。……ふん、一時半で。ぢや、――」
「お母様は何と?」
「いや、いつもと変はり無い。今回は云ふだけだから、ちやんとしてくれると思ふ」
「なら良かつた。はい、いつものヨーグルト」
「ありがたう、いたゞきます」
夫婦が決起した翌週の火曜日、――ちやうどゴールデンウィークに入つたばかりの四月三十日、元号が平成から変はる前に家庭内のごた〳〵を片付けたかつた里也は少々無理して暇を取り、沙霧と佳奈枝のあひだにある不和を解消すべく、実家を訪れようとしてゐたのであるが、電話口で母親に頼み事をしたのは、妻から強く、もう夫婦ごつごはするな、そも〳〵もう沙霧ちやんの部屋には入るなと、云はれてゐたからであつた。食後のヨーグルトをスプーン一杯口に入れては思案し、口に入れてはぼんやりと空を見つめる今日の彼は、妙に臆病になつてゐるのか昨晩寝る前から無口である。いつもはお喋りな母親の世間話に付き合はされて、電話であらうとも二三十分は話すと云ふのに、さつきは要件だけを伝へてさつさと切つてしまつた。かう云ふ臆病な性格が、結局のところ沙霧を不幸にするのだとは理解してゐるけれども、やはり土壇場に来ると身の縮む思ひがする。里也は先週、妻の涙に誘はれて沙霧を見放すことを選んでしまつたのだが、出来ることならばやりたくはなく、もし話がこじれるやうなら、沙霧に寝返らうとも考へてゐた。だがそんな胸くその悪いことなぞ彼には出来るはずもなく、もう後は楽観的な未来を頭に描きながら、二人の女の成り行きに身を任せるしかなかつた。
「ごちそうさま(ごちさうさま、ではない)」
朝食を終へた後、里也は佳奈枝と一緒に休日の日課となつてゐる軽い体操をして、部屋の掃除をして、妻の入れてくれたコーヒーを飲みつゝ、ソファに座つてのんびりとアウトヾア系の雑誌を読んでゐた。音楽から徐々に熱が無くなるにつれて、急に他の趣味が気になりだしたので、こゝ一年間で色々と手をつけてゐたのであるが、一番興味を���ゝられたのはこの、普段の出不精な自分からは想像も出来ないアウトヾア関係の趣味であつた。キャンプはもとより、自分の手で火を拵えてダッチオーブンで料理を作つたり、ナイフで木を削つてその場で遊び道具を作つたり、特にチタンで出来たマグを片手に燃え盛る炎を眺めるのなぞは最高の体験であらう。さう云へば山の中にある佳奈枝の祖父の家にお邪魔をする時、妙に心が躍るのはこのせいであつたか。近い将来出来るであらう子供が大きくなつた暁には必ずや、道具やら何やらを車に積み込んで、佳奈枝にやれ〳〵とため息をつかれながら遊び尽くしたい。もうその頃には沙霧の一件も落ち着いて、彼女も新たな人生を歩み始めてゐるだらうから、何も心配はない、一途な愛を我が妻と我が子に向けて、幸せな家庭を築いていかう。里也はさう思ひながら、楽しげな表情をした父子が丸太を前に立つてゐるペーヂを眺めてゐたのであるが、急に奇妙な感覚に囚はれてしまひ、勢ひよく本を閉じてしまつた。それは例の恨めしい感覚であつたけれども、今感じたのはまた別種の、もうどうしやうもないほどに強い感情であつた。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。……」
里也はそれから、気持ちを紛らはせるために佳奈枝と二言三言喋つて、話題が尽きるとまた静かに雑誌を開いた。
自宅となつてゐるマンションを発つたのは午前十一時を過ぎた頃であつたのだが、さすがにゴールデンウィーク中日とあつて十三の駅は人でごつた返してゐるやうであつた。里也らはそれを横目で見つゝ、阪急の神戸線へ乗り換へて、彼の実家の最寄り駅へ降り立ち、軽い昼食をしたゝめてから、やることもなくぶら〳〵と周辺をそゞろ歩きして時間を潰し、やうやく沙霧の待つ家へと向かつた。もう気温じたいは夏とそれほど変はり無いと思つてゐるのか、時々見かける外国人はもう半袖姿で、大きなリュックサックを背負いながら歩いてゐる。以前見かけた桜の木はすつかり花を散らせて、今度は色も感触も柔らかい実に綺麗な緑色の葉を伸ばしつゝある。さう云へば今年はたうとうこの木の花を見ずに終はつてしまつた。結局京都へは嫌々ながら二日もかけて、東の平安神宮、西の嵐山、と云つた風に訪れ、どん〳〵歩いて行く佳奈枝を時おり見失ひながらカメラを片手に練り歩いたのであるが、行けばやつぱり気分はすこぶる高まつてしまふもので、それなりに楽しんだものであつた。沙霧はその時の写真を見てくれたゞらうか。来年は一緒に来てくれるだらうか。いつか遠い昔のやうに、二人で手を繋いで家族の誰かに、――今なら佳奈枝にカメラマンとなつてもらひ、ちら〳〵と降る桜の花びらの中、微笑ましい表情で一緒に写真に写つてくれるだらうか。もう今年は時期を逃してしまつた。寒い地域ならば咲いてゐる可能性もなくはないが、そこまで遠くへは出かけたくないだらうから、また一年と云ふ長い期間を待たなくてはならない。今年は特に長くなるかもしれないと思ふと、一転して里也は自然に憂鬱な気分になつたが、出来るだけ彼女にも楽観的な気持ちを抱かせるためにも平常心で、実家の玄関に手をかけた。
話によると、今日は両親は二人共どこかへ遊びに行つてしまつたらしく、家の中は耳鳴りがするほどしいん(点々)としてゐたのであるが、さう云へば沙霧はちやんと伝言を受け取つたのであらうか。母親に電話をしたのは午前中であつたから、伝へられた時にはまだ寝てゐたかもしれず、もしかすると自分たちが来ると云ふことすら知らないかもしれない。そんな心配事をしつゝ、里也は一階にある和室の引き戸に手をかけた。そつと引いて中に入ると、彼女はだゝつ広い机の前できちんと正座をしてぼうつと俯いてゐた。そして、開口一番に、
「ごめんなさい!」
と土下座をしながら謝つてくる。
――呆気に取られてしまつた。それは佳奈枝も同じなやうで、口をぱく〳〵と開けながら目を見開いてゐる。こちらからはまだ何も云つてゐない。たゞ和室の中へ入つたゞけである。里也には今の沙霧が自分の妹のやうには見えなかつた。小さな背中を丸め、長い髪の毛を彼方此方(あちらこちら)に散らばらせ、病的に白い肌を季節外れでボロボロの衣装で隠す、――それはまるでやせ細つた乞食のやうで、見てゐて居た堪れなかつた。
「さつちやん!(点々) ど、どうしちやつたの?」
と最初に駆け寄つたのは佳奈枝であつた。
「佳奈枝お姉さん、すみません、すみません、……」
「あゝ、ほら、顔上げて、……もう、せつかく綺麗な顔なのに、そんなにして、……ほら、さつちやん、笑顔、笑顔」
「すみません、ごめ、ごめんなさい、……」
里也は先程から佳奈枝が沙霧の事をさつちやん(点々)と呼ぶことに得体の知れない気色悪さを感じながら、黙つて二人の様子を見守つてゐたのであるが、いつたいどうしてしまつたと云ふのだ。今妻の胸に抱かれてゐる沙霧の顔には涙こそ無いものゝ、もう何日も寝てない日々が続いた時のやうにひどい隈が出来てゐるではないか。いつもはどんなに見窄らしく見えてゐても、可愛い〳〵と云ふ里也であつたが、そんな彼でもさすがに今の彼女には不気味なものを感じずにはゐられなかつた。
「沙霧、……」
「里也さん、里也さん、コヽアとか蜂蜜の入つたホットミルクとか、さう云ふ優しい飲み物を作つて来てくださる? ちやつとこれはあかんわ��
「分かつた。すぐ持つてくるから、――」
それから里也は、冬のあひだに使ひ切れなかつたのであらう粉を牛乳に溶き、火にかけて一杯のコヽアを作ると、すぐに沙霧のもとへと持つて行つた。かなり急いだつもりであつたが、再び和室の中に入ると、沙霧は佳奈枝のなすがまゝ背中をぽん〳〵と叩かれてゐた。
「ほら沙霧、久しぶりのお兄ちやんのコヽアだぞ。砂糖が足りなかつたら云つてくれ」
と、努めて朗らかに云つた。
「兄さん、……すみません、すみません、……」
「まあ、なんだ、取り敢へずそれを飲んでくれ」
しばらく沙霧はコヽアの入つたマグカップを見つめたまゝであつたが、佳奈枝が両親にもと作つてきたクッキーを渡して、ついでに俺も食べたいと云つた里也がポリポリと音を立て始めると、ゆつくりではあるが飲んでいつた。
それにしても久しぶりの取り乱しやうである。彼は一旦は動揺したものゝ、実のところこれまでにも何回かあり、最も記憶に古いもので、両親にいぢめのことを隠すように頼まれた時であつたゞらうか、沙霧が落ち着いてくるにつれてむしろ懐かしさがこみ上げて来たのであるが、恐らく自分以外にかう云つた姿を見せるのは初めてゞあらう。彼女の隣には佳奈枝がをり、もう絶対に手を離さないだらうと思つて少し遠くに座つた彼は、二人に座布団を渡しつゝ、彼女が変はらうとしてゐるのは確かなのだと思つた。沙霧はもはや自分の姿を見られることすら恥ずかしいと感じてをり、況してやこんな取り乱した場面を里也以外に見られるなど、自分を殺してゞもその屈辱から逃れたいと思つてゐるに違ひなく、それをこれまでもこれからも付き合つて行くことになる佳奈枝に見せると云ふことは、相当の覚悟があると云ふことである。その覚悟が何かと云へば、やはり前に歩みたいと云ふこと以外何があらう。里也はまさか突然見せつけられるとは思つてゐなかつたけれども、何にも増して自分の考への至らなさに深く恥じ入ると共に、彼女がそこまでの覚悟を見せてくれたことに、悲しくも嬉しくも感じるのであつた。
たゞ、なぜこんなことになつたのかは、彼にも分からなかつた。彼女の目に濃く刻まれた隈はまさか自分から塗つてゐる訳ではないだらう。色白な肌をしてゐるものだから隈が出来たらすぐ分かるのであるが、今までそんな目の黒ずみなんて憶えてゐる限りでは一度も出来たことは無く、あのコンサートの時以来、彼女が如何に自分を責めに責めゐたのか、なんとなくではあるが分かつてしまふ。さつと見たところ、腕に新たな傷は出来てゐないやうなので、悪く捉へるのも程々にして良い方向に捉へてみると、どういふ形であれ、一度素の自分を曝け出しておくことで、話が円滑に進むかもしれない。かう云ふ時は兎に角本人の思ひを聞かなくてはならないと知つてゐる里也は、まず優しく声をかけた。これまでなら二人きりでなければ話し初めなかつたけれども、彼女の決意がほんたうならば、自分よりもむしろ佳奈枝に聞いて欲しいはず。さう思つて、佳奈枝に目配りをして事前の打ち合はせ通り妻の方から話を促した。
「ごめんね、さつちやん。もうぼんやりとしか憶えてゐないけれども、確かに私の記憶の中にはさつちやんを見放した光景があるわ。ごめんなさい」
と佳奈枝は未だに手をつないだまゝ、素直に頭を下げた。
「いえ、いえ、お姉さんが謝ることは無いんです。全部〳〵、私の勘違ひだつたんです。お姉さんは悪くないんです。頭を、……頭を上げて、私を叱つてください。……」
と、沙霧は沙霧で佳奈枝よりも深く頭を下げる。
「そんな、勘違ひだなんて、……」
「いえ、勘違ひなんです。兄さんに云つたことは私の記憶違ひで、お姉さんは何にも悪くないんです。……えと、悪くなかつたんです。一度盗まれた教科書を探しに行つた時に、あんなに丁寧に応対してくださつた方はお姉さんたゞ一人で、……あゝ、とにかく途方も無く失礼なことをしでかしてしまひました。ごめんなさい!」
とまた土下座のやうな格好になつたので、佳奈枝はその顔を上げさせて、
「いゝえ、私の記憶違ひでも、あなたの記憶違ひでも、私はさつちやんがいぢめ��れてゐるのに、見て見ぬふりしてしまつたわ。それだけは確実だから、謝らせてちやうだい。ごめんなさい」
と深々と頭を下げた。傍から見てゐると、互ひに向き合ひながらどちらが頭をより深く下げられるか競ひあつてゐるやうに見えて、ひどく滑稽に思へてしまふのだが、里也はなぜかその様子に心を打たれてゐた。そして知らず識らず涙を流してゐたらしく、
「どうして里也さんが泣いてるのよ」
と、そんな彼を見つけた佳奈枝が云つた。さう云ふ彼女もまた、目を赤くして今にも泣きさうになつてゐる。
「さうですよ、兄さん。どうして兄さんが泣いてゐるんですか」
さう云つた沙霧は、涙こそ流してゐないものゝ、軽口を叩く程度には笑顔が戻りつゝあつた。その笑顔を見て、佳奈枝もまた、ふゝ、……と笑つた。そしてもう一度、ごめんなさいと謝ると、沙霧もまた、ごめんなさいと云ひ、つひには再び謝罪合戦が始まつてしまつた。
さうやつて互ひ謝り続けた二人はその後、専ら里也を弄るといふ共通の目的の元、家に来たときとは打つて変はつて朗らかな声で話をしてゐた。基本的に里也は聞くのみで、見る限りでは音楽の話題で無かつたせいか、沙霧は相変はらずかなり言葉に詰まつてゐたけれども、少なくとも彼には、沙霧の見えない壁が、完全にとは云へないけれども薄くなつたやうに思へる。そも〳〵昔は佳奈枝と話すとなると急に黙りこくつてしまひ、言葉も発せないやうであつたから、話せるやうになつたゞけでも充分な進歩と云へやう。たゞ、話せば話すだけ疲れてしまふ性質だけはどうしやうもないはずであるから、二三十分が経過しやうとした頃合ひに、一度席を立つて沙霧の使つたマグカップを片付けて、佳奈枝を促した。
「ほんなら沙霧、……あれ、いつだつたか」
と、三人とも玄関口に立つて、里也が云つた。
「十二日よ。ゴールデンウィークが明けた次の週の日曜日」
「さう〳〵、十二日。……の、何時頃?」
「たぶん十時頃」
「らしい。そのくらゐに佳奈枝が迎へに来るから、そのつもりで。大丈夫、心配しなくても、これを機会にいくつか文句を云つてみるといゝ。あと佳奈枝〝お姉さん〟と云ふのもやめてみるといゝ。それとロシア音楽についても語つてみるといゝ。嫌かもしれんけど、沙霧はそのまゝが一番可愛くて魅力的なんやから、さう身構へずに自然にな。ま、今日はゆつくりと寝てくれ」
「うわ、私の見てる前で口説かないでくださる? 嫉妬しちやうから」
「くつ〳〵〳〵、悔しかつたら沙霧くらゐ可愛くなることだな。――ま、さう云ふ訳でぢやあな、沙霧。また会はう」
「バイ〳〵、さつちやん。また明々後日に会ひませう」
と、二人は沙霧に別れを告げて玄関をくゞつた。
一人戸口に立たされた沙霧は、少しのあひだぼうつとしてゐたのであるが、ハツとなつて動き出すと、開け放されたまゝになつてゐた和室の引き戸を締めて、自室に向かはうと階段を登つて行つた。一段〳〵踏みしめる毎に鳴るトントン、……と云ふ音は、今も昔も変はらず軽やかである。階段を登り終へるとすぐ左手にかつて兄が使つてゐた自室があるのであるが、こちらはもはや昔の面影など残つてをらず、今ではすつかり物置と化してしまつてゐる。沙霧はふとその扉の前に佇んだ。昔、――もう十年以上も昔、何気なしにかうやつて兄の部屋の前で佇んでゐたら、美しくも物悲しいヴァイオリンの音色と、力強くも虚しいトランペットの音が代はる〴〵聞こえて来て、以来、深夜の両親が寝静まつた頃合ひを見計らつて、その漏れ聞こえてくる音楽に耳を澄ましたものであつた。彼の曲の聞き方と云へば、同じフレーズを繰り返し〳〵飽きるまで聞いて、飽きたか満足したかするとやうやく先へ進み、再びたつた五秒にも満たないフレーズを繰り返し〳〵聞く。そんなものだから曲名こそ分からないものゝ、体が勝手にその一フレーズを憶えてしまつた。
「ふゝ、……」
沙霧は何だか可笑しくなつてきて、昔と同じく笑みを溢してゐた。が、昔と違つて、今は自分の声以外、しいん(点々)と物音一つすら聞こえない。唯一変はらないのは、廊下の行き止まりにある窓から差し込む光で、キラキラと照らされた埃たちであるのだが、いつたいそれに何の意味があるのか。
沙霧はギユウつと手首を握りしめると、やう〳〵自室へと入つて行つた。外からはまだ何か楽しげなことを話してゐるらしく、ほんたうの夫婦の声が、時おり笑ひ声を交へながら聞こえてくる。期待をしてゐなかつたと云へば嘘になるが、やつぱり悔しかつた。彼女は今日は絶対に涙を流さない決意を密かにしてゐたのであるが、外から漏れ聞こえて来る声を聞くうちに、たうとう堪えきれなくなつて、膝を付き、手をつき、自分でも笑つてしまふほど惨めな格好で泣いてゐた。少しでも上を向かうと、顔を上げたけれども、今に限つて愛する兄と最後に二人で撮つた写真が目についてしまつた。真暗な部屋の中を一度たりとも輝かずに落ちた雫は、音も立てずに闇に飲み込まれ、誰にもその存在を悟られることのないまゝ消えて行つた。
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