棚端による戯書(タワムレガキ)関連のもの置き場。 甚平を着た黒髪のキャラクターは、和芳さんのキャラクターです。また、その他の方のキャラクターもお借りしています。 Do not copy.
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終章とエピローグ
先にソロール『砂の上の星詠みたち 』 (リンク先のページの下のほう) を読むとわかりやすいと思います。
終章 1 「これは母上に返すよ。僕たちには、もう必要のないものだ」 ジュバは、弟のギルタブと共に、革表紙の本を差し出した。星明りの下、分厚い革の表紙がぬらりと光を反射する。そこには兄弟の署名が記してあり、インクの色が黒々とその存在を主張していた。 「母上のものでしょう」 母と呼ばれた女――シェダルは首を横に振った。 「いいえ。これは誰のものでもない、幻の本。『戯書』と呼ばれるものよ」 戯書、か。小さくギルタブが呟いた。シェダルは頷き、説明を続ける。 「この本は、常に世のどこかを漂っている。といっても、普段は実体を持たないわ。この世界とは違う……もう一つの世界といったらいいのかしら。その世界で、この本が私たちの傍に対応する場所を通ったとき、こちら側から魔力を用いて干渉することで、初めてこちらの世界に姿を現すもの。私はその機会を詠み、詠み通りの日に、触媒を通してあちらの世界に触れた」 懸命に話に耳を傾けていたギルタブだが、内容が頭に入ってこなかったのか、複雑そうに眉を顰めてみせた。 「ふん。複雑な話だな……」 ギルタブの兄であるジュバの方も、話をしっかりと理解できた様子はない。それでも、自分なりに内容を解釈し、語り出す。 「ええと……。要するに、『戯書』はいつもは別の世界にあるっていうことだよね。それで、その世界にもこの国と同じ場所が存在していて、たまたまそこを『戯書』が通り掛かったとき、こっちの世界から魔力という腕を伸ばして、こっちに引っ張り出すことができる……。そういうこと?」 シェダルが、ジュバの釈義に頷いた。 「そんなところでしょう。知っている? この世にはいくつもの世界が存在していると言われているわ……。『戯書』は、そんないくつもの世界を繋ぐことができる、特別なものなの。だから、必要がなくなれば、元の世界に返さなくてはならない。――本当にもう、いいのね」 本当に必要ないのかと、シェダルが問う。しかし実際には、二人の答えはとっくにわかっていた。
「うん」
「必要ない」
兄弟はしっかりと頷いた。すると、本の持ち主を表す文字が、夜に溶け込むようにじわりと滲み出す。次の瞬間には、本の署名は跡形もなく消散していた。 「あとは、私が処理しましょう」 「ありがとう、母上」 ジュバは礼を言ってから、なにか思いついたように再び口を開く。 「あの、『戯書』は常に移動しているんだよね。そんなに手に入れることが難しい本なのに、どうして母上の手の届くところに、たまたま現れたんだろう」 「それはね、ジュバ」 シェダルが軽く微笑んだ。 「星が廻った――ということよ」 「……そうか。“星が廻った”んだね」 「ええ」 ジュバとシェダルは、互いに目を合わせて意味深長に微笑み合った。星の詠めないギルタブだけは、会話の内容を理解できず、不服そうに口を窄めていたが。 しかし、シェダルの笑みはすぐに消えた。鋭い視線をジュバに向け、厳かな声色で問いかける。 「ジュバ。貴方の星は、貴方になんと言っていますか」 ――星? 何を聞かれているのかわからず、ジュバはぼんやりと相手を見つめ返す。 「うん? ええと、何の話?」 シェダルは表情を変えないまま、忠告するように声を落とす。 「星詠みを怠らないで。よく、見極めるのです。機会を誤ってはいけません。わかりましたか」 「その……」 ジュバが口籠ると、すかさずギルタブが口を出す。 「兄上。返事を」 ジュバは二人を見つめ返すと、暫し沈黙した。 ◆ 2 「牢などではなく、あの塔の小部屋とは……。よく配慮してくださり、感謝します。陛下」 広い廊下に、数人分の足音が響き渡る。いつものように雲のない、しかし、全くもってゆったりしているとは言えない空気の午後だった。シェダルは、自らの夫であり王であるザウラクに、恭しく感謝を述べたところだった。それに気を良くしたのかどうなのか、ザウラクは僅かに口元を緩めた。 「あの部屋ならば、まず逃れられまい。その上、宮殿一の景色が眺められる場所でもある。最後の数日間を過ごさせるには、おあつらえ向きだろう」 「お優しいのですね。あの子も景色に見惚れていたようで、何よりです」 「一言も話さなかった点は気になるが――しかし、確かに、喜んでいるように見えたな。あのまま、何も知らぬうちに眠らせて処刑するのが、せめてもの慈悲というものだ。――して、例の“魔法の書”のことだが」 「はい。確かに、書庫にあったものです。このように――」 数人の従者と共に、二人は書庫へ入る。シェダルはザウラクの目の前で、『戯書』を手放して見せた。すると、戯書はひとりでに漂い、書庫の内部を進んでいく。そして、ある書架の前で一度止まると、本と本の隙間にするりと収まった。まるで、元からそこにあったかのように、違和感なく。ほう、と息を漏らすザウラクに向き直り、シェダルは説明を始める。 「元あった場所へと、ひとりでに戻る魔法が仕掛けられておりました。この書に限らず、この��帯の本たちにも同じような魔法が仕掛けられていたようです。大切な本を無くしてしまうことがないよう、外国の図書館などでも用いられる魔法です。ただ、ここにあるものはどれもが古い故に、この一冊にしか魔力が残されていなかったようです」 ザウラクはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、従者の一人に軽蔑の視線を向けた。 「くだらん仕掛けだ。例の道化に、つまらん報告をした罰をせねばならないな。のう、道化よ?」 道化と呼ばれた従者は即座に飛び上がった。芝居掛かった甲高い悲鳴を上げて、慈悲を乞うた。 「ヒィ! ヒヒッ、お、お許しを、陛下ァ」 ◆ 3 黒い月の高くなる頃、煌々と輝く星々は、より一層明るさを増していた。夜闇と星影の降り注ぐ砂丘を、狐が一匹駆けて行く。その足跡はしかし、女の青白い瞳が見送る中、痕跡を掻き消す風とともに遠ざかっていった。ここに残っているのは、ただ風が吹くばかりのひとけのない静かな中庭と、一人の女、そして、僅かにあどけなさの残る次期王だった。昼間は白い壁を彩る色鮮やかな花々も、今は更けた夜に沈み込み、寂しそうに葉を揺らすだけでいる。長い沈黙を破ったのは、いつか王となる少年――ギルタブの方だった。 「自らの名に誓う盟約の術、だそうだな」 ギルタブの静かな声色には、どこか刺すような響きがあった。それは、高貴なるもの特有の、威厳や誇りを感じさせる声にも似ている。しかし、彼の声に込められたものは、それだけではない。偽っているものを尋問するような、鋭い確信を持って発せられた言葉だった。指摘されたシェダルは、たじろぐように僅かな間を開けた後、ひどく小さな声で返答する。 「よく、勉強したのですね、殿下」 「殿下」という言葉を聞いた瞬間、ギルタブは不快そうに片目を細める。 「その呼び方はするな。星詠みとはいえ、お前は僕を生んだ者だろう」 ギルタブの咎めるような視線と声に、シェダルはそっと目を伏せた。長い睫毛が、その目元を隠す。それでも、ギルタブは語調を改めはしない。 「なぜ、あいつを生かしたんだ? あいつが生まれたとき……」 もう十何年も前のこと。あってはならない印をもって、その男は生まれ落ちたのだ。ギルタブにとっては、自分が生まれるよりも前のこと。当時の母親の心境など、知る由はない。 「そのときの私は、愚かで浅はかな、ほんの娘だった。後先のことなど、ろくに考えてはいなかったのよ」 「だが、そのせいでお前は――」 「ええ。月を裏切った星詠みは、月によって裁かれる」 月の様に白い髪が揺れる。女は、見えぬ月を見上げていた。それでも、ギルタブは月を見ない。黒い月の位置など、わからなかったからだ。 「あなたに、謝らなければなりま��ん。私は二人の子供を産みながらも、二人を同じように愛することが出来なかった。私は、あなたに触れることさえ……」 「勘違いするなよ」 シェダルの言葉を遮って、ギルタブは低く言い放った。強がるような瞳で、自分の母親を睨め付ける。 「僕はお前に謝ってほしいんじゃない。触れられたいなどと子供じみた事、一度だって思わなかった。僕は、そう思うこと自体、許されない立場にいるんだ。愛される必要など、なかった」 「……いいえ」 それまで弱々しかったシェダルの声に、僅かに凛とした、小さな炎のような意志が宿った。彼女は月を見るのをやめると、振り返ってギルタブに向き直る。 「私は、きっと母親ではなかったでしょう。あなたに何もしてあげられなかった。それでも……」 シェダルは自分の二人目の息子を見つめた。彼女の青白い瞳の光が、少年の紫色の瞳と交差する。 「ギルタブ、私は……」 ギルタブは、目を見開いた。彼女の眼光に捉えられたように、その光から目が離せなかった。かつてないほど鮮明に、母親の顔が見えるのだ。彼女は―― 「あなたを、愛しているわ……」 ――泣いていた。彼女のそんな顔を見るのは、初めてだった。それに、いつもの香の匂いに混じって、初めて感じる匂いがあった。それは、紛れもなく人間の、彼女自身の匂いだった。自分の身体のすぐ傍に、母親の存在があった。 「……母上」 ギルタブは戸惑った。これほどまで近い距離に、母親の接近を許したことはなかった。当然、甘えたことも、無い。どうすればいいのかわからなかった。この場でようやくできたことは、ただ俯いて、母親の胸に額を預けることだけ。顔をあげられるはずもなかった。今の自分はきっと、次期王に相応しくないだろう、情けない顔をしているに違いないから――。
二人の抱擁は、恐らくほんの短い間だったろう。それでもなお、二人にとっては、まるで時が止まったのかと感じられるほどに長く、そして、何千年も待ち焦がれた瞬間のように感じられた。シェダルは、自分と同じ銀の髪を持つギルタブに、そっと指先で触れようとした。しかし、髪に触れる寸前のところで、ひどく臆病な指先は止まってしまう。生じたのは、僅かな間の躊躇だった。「さよならだ」 シェダルの温かな胸に、くぐもった声と共に、冷たい風が吹き込んだ。母親の温もりから、ギルタブが自ら身を剥がしたのだ。次期の王となることを決定づけられたギルタブは、これ以上温もりを求めることもできなかった。そして、ほんの刹那、母親の瞳を見つめた。これで最後なのだと、交差する二人の視線が互いに別れを告げていた。ギルタブは、豪奢な紫色の外套を翻す。
キン、シャン――。重い金の装飾を揺らしながら、硬い靴音が廊下に響く。大きすぎる装束を纏った未完成の少年は、一人、暗い廊下を駆け抜けた。その手に、明かりは持たれていない。ただひたすらに、夜の闇へと溶け込んでいく。彼が振り返ることは無かった。ただの一度も。
月のない星影の下、残された細い指先が宙を彷徨った。 ◆ 4 ああ白きその面 主が世は千の星詠み捧ぐまで 使徒とともに輝かんことを 忠実なる我らを導きたまえ その御許にいつか還らん ――アマン ひょろろろと鳥の声が響く、広い晴天の下。ジュバは、朝日にきらきらと輝く川面を、眩しそうに見つめていた。傍には、いつの間にか黒い髪の童子――マァが寄り添っている。ジュバの微かな歌声を、零すことなく聞きつけたのだ。 「手前の国の歌かい」 「うん」 ジュバは、これは月を称える賛歌なのだと、マァに教える。 「国の皆が歌っていたんだ。それで、何となく、覚えていたから」 「へぇ」 船頭が出向いてくるまで、まだ余裕がある。興味深そうにしているマァに、しばらく国の話をすることにした。月のことや、儀式のこと、人が死んだらどこへ行くのか、など。そんなことを、ひたすら話し続けた。マァは、そんなジュバの話にじっと耳を傾けながら、時折心地よく相槌を打った。ジュバにはそれが、ただ、ありがたいと思った。彼が傍にいてくれるだけで、救われるような気がするのだ。 ぴちゃり、と。ジュバの視線の先で、魚が跳ねた。 「あ」 川の下には、いくつもの魚影が見える。ふいに、その群れに白い翼の鳥が降り立った。よく見れば、乱反射する水面に、ひとつだけ浮いている銀色の体が見える。魚だ。一匹、浮いている。 「ん、どしたよ」 「いや……」 鳥は、死んだ魚を一匹見つけると、大切そうに嘴に咥えて飛び去った。 「……そろそろ、行こうか」 「ん、おう」 その鳥は、白い光の中へと飛んでいった。 高く、高く。 ◆ 5 いつものようによく晴れた、慌ただしい王宮の朝。 その日は、ある人物の処刑が行われるはずだった。 しかし、実際には処刑が実行されることは無かった。 処刑されるはずだった人物が、当日になって忽然と姿を消してしまったのだ。 その日、彼が発見されることは無かった。 代わりに見つかったのは、別の人物の遺体――。 星詠みの女が、変死していたのだ。 王の命により、その後も王宮の者たちは必死になって青年を探し回る大騒動となった。 捜索範囲は国全体にまで及んだが、魔道具の力をもってしても、結局、彼が見つかることはなかった。 それと、もうひとつ。王宮で見つからなかったものがあったらしい。 ある男の話によると、書庫にあるはずの“魔法の書”が、いくら探しても見つからないという。尤も、そのことを話しても、誰も信じてくれなかったそうだが―― エピローグ ◆ 東西南北どこを見ても、海、海、海。星空のようにきらきらと輝く雄大な青い水の中で、その船はひと際眩しく、太陽の光を反射させていた。いたずら好きな海風が、乗客たちをからかうように外套や髪を撫でていく。でっぷりとした腹の小柄な男が、広大な海を満足げに眺めながら、黄金色の液体の入ったグラスを傾けた。男は昼間であるにも関わらず、船の上で酒を頂くという、実に優雅なひとときを楽しんでいる。つい先日、その男は商売で成功を収めたばかりだったのだ。少しうまくいったからといって休むつもりもないが、移動中くらいは贅沢をしてもいいだろうと、船上での昼酒に踏み切ったというわけだ。
こんな日の酒は旨い。気分は上々だった。船に寄り添うように飛ぶ海鳥に、ひとつ餌でもやりたくなった。今日の私は機嫌がいいのだ――。どれ、とつまみの燻製に手を伸ばしたとき、視界の端に、海や空よりもなお鮮やかに輝くものが見えた気がした。私がそちらに首を向けると、たった今扉から出てきたらしい、褐色の外套を羽織った男が目についた。すぐ傍には、色の白い子供を引き連れている。親子かと思ったが、外套の男は、よく見ればまだ青年といっていいほど若そうに見えるし、連れている子供とは対照的な、土のように黒い肌をしていた。変わった組み合わせの旅人だと、好奇心から二人を眺めていると、色の白い子供がこちらをちらりと一瞥した。しかし、子供はすぐに視線を戻すと、青年と共に手すりの方へと歩いていった。そんな私に遠慮することなく、一羽の海鳥が私のテーブル降り立った。せがむようににゃあと鳴くので、私は燻製を投げてやる。 心地よい陽気と風を感じながら、私は暫くの間海鳥と戯れた。気が付けば、周囲の鳥の気配がずいぶんと増えている。そして、その中に混じって、先ほどの二人組が私の方を見ていた。特に、色黒の青年のほうは、まるで子供の様に瞳を輝かせて、私と海鳥たちとを好奇心いっぱいに眺めていた。 「鳥が好きなのかい?」 私は指先で海鳥の首を撫でながら、さりげなく砂漠地方の言葉を使い、旅人に話し掛けた。外套の隙間から覗く足元からして、青年の出身は砂漠地方のどこかに違いないだろう。青年に目を向けると、彼は驚いたのか一瞬戸惑ったようだが、やがて、はにかむように笑って見せた。 「うん。あなたも好きなの?」 「ああ、まあな。俺は商売人なんだが、仕入れ先なんかで、よくこいつらと遊んでやるのさ」 「へえ、そうなんだ」 話すことで緊張を緩めたらしく、青年は私のいるテーブルに近寄ってくる。その際、青年の外套が風に揺れ、外套の下の髪が垣間見えた。この辺りでは珍しい、銀髪だった。私がそれに見とれる間、私には聞き取れない声で、色白の子供が二言三言喋った。青年は子供のほうを振り返ると、何やら小魚のようなものを受け取っている。海鳥たちにやるつもりなのだろう。楽しそうに笑い合って小魚を掲げる二人の周りに、にわかに海鳥たちが集まってくる。私はその様子を眺めながらふと、とある事件を思い出した。「そういやあ――」 褐色の肌に銀の髪を持つ人々の暮らす、砂漠の国家で起こった珍事件のことだ。その情報は、酒場で働く友人から���入れたものだ。内容が少し���騒なこともあり、印象に残っていた。もしかすると、この青年の故郷が、渦中の国なのかもしれない。事件の話を始めると、二人は私に注目した。 「――この間、星詠みの国だかどっかで、恐ろしい犯罪者が逃げ出したっていうじゃないか。もしかして、お前さんたちの国じゃあないかい?」 言い終わらないうちに、二人は顔を見合わせた。子供の方は何か考え込むような仕草をし、青年は首を振ってから口を開いた。 「犯罪者って、どんな人? 僕たちは、最近あまり新聞を読めていなかったから、そういう話には詳しくないんだ」 「そうか、知らなかったか……」 二人は確かに「星詠みの国」という言葉に反応していたように見えたが、事件のことは知らなかったらしい。旅をしていれば、案外、故郷のいざこざの話など、耳に入ってこないものなのかもしれない。私は良心から、例の事件の犯人について、この二人に忠告することにした。 「なんでも、他人の魔力を奪い取る、恐ろしい魔術師なんだとさ。そいつがどうも、国の要人を殺して、魔力を奪って逃げ出したらしい。それで、国中探しても捕まらないってんで、外国に逃げ出したんじゃないかって噂されててな。――ああ、けど、大丈夫だ。その魔術師には特徴があるんだ。そいつは、黒い肌と白い髪をしていて、目が青白く光るんだそうな。しかも、奪った相手の魔力の色を、そのまま自分の髪に宿すんだとさ。今は髪の一部が青色になっているって話だ。髪を見りゃあ、一発でそいつかどうかがわかるだろうさ」 私は一口酒をあおると、こう付け足そうとした。「お前さんたちも気を付けな」――しかし、口を開こうとする矢先、二人が既にこの場を離れていることに気が付いた。 「ごめん、商人さん。もうすぐ船が停まるみたいだ。降りる準備をしに行くよ」 少し離れた位置から声が掛かる。そちらへと首を回すと、船内へと繋がる扉の前で、背中を向けた青年と子供が、顔だけをこちらに向けていた。爽やかな潮風が、青年の外套を大きくはためかせた。 「おや?」 はたと思い至る。青年の顔をよく見れば、健康的な褐色肌に銀色のくせ毛髪、そして、射貫くような青白い瞳に目が留まる。それは、件の魔術師の特徴によく当てはまっていた。そして何よりも――銀のくせ毛に混じり、外套の中から冴え切った青い髪が僅かに覗いたように思えた。 「お前さん、まさか……」 私の言葉を遮るように、太い汽笛が響き渡った。
「まさか」
二度目の汽笛が鳴る前に、青年が口を開いた。 「――人違いだよ」 そう続けると、青年はからりと微笑んで、子供を連れだって船内へと消えていった。
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ルサグとの繋がり
とある天を貫く塔にて冒険していたルサグと、ジュバたちとの繋がりについて
おはなしは青き���【月獅子共和国】と赤き民【アケの血族→のちのアケ帝国】の戦いから始まりました。
塔から戻ったルサグは、赤き民に捕まった父親や国の人たちを救うために、周りを説得しながら少しずつ仲間を増やし、赤き民に抵抗していきます。ルサグはその先頭に立って皆を引っ張りましたが、最終的には、赤き民に完全に国を支配されてしまいます。結局、青き民は敗北しました。
青き民たちは皆殺しにされたわけではありません。恐らくルサグとその仲間もある程度生き残ったことでしょう。しかし、赤き民の統治下に置かれた月獅子共和国は、制度が大きく変化ました。青い衣は着用禁止になり、芸術や文化は廃棄され、女性を卑下する男系社会に一変し、魔法は失われました
この際に、歴史を記した書物なども廃棄されてしまい、過去のことが残らなくなりました。便利だと判断された星詠みの技術は、一部の女性のみが行い、それ以外の者は全て戦闘要員とされました。しかし、その立地のために戦う機会は少なく、結局、戦力を持て余して衰退していきました
時がたつとともに、女性の差別化や混血が進み、青き民の持っていた魔力は徐々に失われていきました。混血により、青き民の特徴であった獣の耳も、人間に近い耳へと変化を遂げていきます。そんな流れにあったので、いつの間にやら、この国に魔力を持った男性は生まれなくなりました
さて、そんなときに、この国にひとつの知らせが入りました。赤き民の本国であるアケ帝国が、何らかの原因によって滅びてしまったそうなのです。その混乱に乗じて、一部の者たちによって革命が起こされました。そして、それはあっさり成功し、ついに『星詠みの国』として独立したのです
しかし、独立しても圧政は変わりませんでした。ただ、星詠みの階級が引き上げられたことにより、時の流れと共に、徐々にではありますが、魔力を持った男性が再び生まれ始めたのです。その初めの人物が、ジュバという名でした。
と、いうのがジュバやギルタブと、ルサグの繋がりでした。時代は違うけれど、ジュバたちの民の先祖がルサグたち青き民、そしてその敵の赤き民でしたというお話。ジュバの国に古い書物が少ないのが、赤き民が青き民の文化や書物を焼いてしまったせいでした。ソロール『砂の上の星詠みたち』でギルタブが言及する「魔女」について、異本『赤い帝国の記憶』にも書かれています。ギルタブはこの本を読んだのかもしれません。
���場する、寝返った青き民は、とくにルサグの血縁者というわけではないです。同じ国の人間ではあるけれど。魔女も、べつにジュバたちのお母さんと同一人物とかそういうことはありません。
あと、あの『馬』は一応『鱗蹄馬』といいます
鱗蹄馬…全身が鱗状の皮膚に覆われた生き物。後ろ足のみ蹄のような形状をしている。体色は明るい砂色から褐色。稀に緑がかった個体や赤色の個体、真っ白の個体も見られる。気性が荒く臆病。耐久性に富んでおり、水も飲まずに何日も走り続けることができる
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ギルタブ
ギルタブ=カマッルン ジュバに代わって頁を読み進める少年。 齢14、身長は150~160ほど 人の名前がなかなか覚えられない。
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4期カットインまとめ
(他の方とのリンク絵も含みます)
以下、他の方のキャラとのリンク絵
▲アーティさんとジュバ
▲アルスさんとギルタブ
▲マァさんと
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赤い帝国の記憶-4
砂塵の中を彷徨っていると、君たちはふいに、血の海にいるような感覚にはっとする。 四方八方どこを見ても、 そこには鮮やかな赤色以外の、何色をも見えなかった。
群衆「……」
赤い衣を着た男たち、女たち、子供たち。 赤い布の敷かれた床、赤い壁、赤い天井、そして、奥にあるのは細長い赤い箱。 その手前に、生肉らしきものと、なんだかよくわからない食べ物が置いてある。 全てが下を向き、喪に服しているようだった。
それは葬式だった。 多くの人に囲まれた豪奢な様子から、その主役は恐らく族長か、それに準ずる人物だと推測できる。
君たちは葬儀を終えて、拠点の外へ出た。 雲のない空から、朝の眩い太陽が容赦なく照り付ける。
馬「ゲェア」
主の顔を覚えたのだろう、君たちの馬が傍へ顔を寄せてくる。
馬「ゲェッゲェッ」
君たちが馬と戯れていると、戦士長のひと際大きな声が、周り中に響き渡った。
戦士長「聞けい、お前たち!」
戦士長「族長が遠方に出ており、副族長亡き今、どうするべきか! ここで悲しみに暮れ、奴らの好きにさせたまま��も���いのか! 我々は今、敵を討つべきではないのか!」
周囲からどよめきが起こる。 しかし、それは次第に大きくなり、やがて大きな雄叫びとなった。
戦士長「このままここにいては、奴らの追撃に合いかねん! そうなる前に、戦士長である私が指揮を執り、調子に乗っている魔女と手下どもを叩き潰せばよいのだ!」
戦士たちのさらなる雄叫びが響く。
戦士長「お前たちにはすぐにでも次の作戦に出てもらう! 敵は今、我々を追い払ったと思い込んでいる。その上、奴らは真昼が苦手だ。その隙を突くのだ!」 戦士長「刃向かってくるやつは皆殺しにし、仲間になりたがるものは受け入れよ!」
戦士長「ではいざ、進め――――!」
戦士長の演説により、赤い衣の戦士たちは次々と自分の馬に跨った。 君たちもまた、彼らに押されるようにして、自らの武器を取る。
魔女「――!」
魔女を追い詰めた! 戦闘に勝利しました!! 列Name HP / MHP SP / MSP 1 砂漠の兄弟733707 / 733707 7976 / 7976 1 ラン1120161 / 1120161 955 / 955 1 レント147403 / 147403 3247 / 3247 1 アズ426870 / 426870 2265 / 2733 1 かのん399147 / 399147 2100 / 2100 1 戦士長637490 / 637490 494 / 494 1 群衆A 55756 / 55756 67 / 147 1 群衆B 55756 / 55756 67 / 147 1 群衆C 55756 / 55756 67 / 147 1 群衆D 55756 / 55756 67 / 147 砂漠の兄弟は 1CPを獲得!
追い詰められた魔女にとどめを刺そうというとき、誰よりも早くそれを実行したのは、君たちではなかった。
小男「倒して……やったぞ……魔女め!」
その男は背が低く、大きな獣の耳を持つ――青き民のものだった。 しかし、その身に纏う赤い衣は、既にこちら側についている証だ。
群衆「オオォォォオオ!!」
猛り狂った背の低い戦士たちが、魔女にさらなる攻撃を浴びせかける。 魔女は、同族からも嫌悪されていたらしい。
戦士長「油断するな! このまま国全体を潰しにかかる!」
戦士長「続け――――!」
群衆「ウオオオォ――――!」
―― それからしばらくの間、君たちは赤い衣の民の歴史を垣間見ることができただろう。 これは誰かが記した、赤き民の歴史を語る本なのだ。 所々焼け焦げ、読めなくなってはいるが――。
あの後、彼らの沸き立つ血は治まることなく、とうとう青き国全体を���配するに至ったそうだ。 女系社会から男系社会に変わり、平等であった国に階級制度が設けられ―― 青き国の書物はことごとく廃棄され、徐々にその技術や魔術、文化は失われていったこと―― やがて混血が進み、全く新しい人種と国が生まれたこと―― それからずっと後、別大陸で猛威を振るっていた族長が破れ、元祖の赤き民は滅びたこと、等――。
歴史は青から赤に、赤から紫と、途切れることなく塗り替えられた。
この本を読了すれば、背中に感じた痛みも焼印も、綺麗さっぱりと消えているはずだ。 勿論、君たちに懐いた蜥蜴の馬も同様だ。 ――ただし、何らかの方法で本から引きずり出さなければ、の話だが――。
馬「ゲェ?」
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赤い帝国の記憶-3
三度現れた君たちは、いつも通り赤い衣の群れ、そして、珍しく砂丘に囲まれていた。 どうやらここは、砂漠であるらしい。
戦士長「聞けい、戦士たちよ!」
副族長「いいか、今回はこの先にある都市の制圧が目的だ」 副族長「人手も資源も無駄にするな。農民はできるだけ生かしておけ。特に女は殺すな」
戦士長「なに、馬と共に突撃すればいいだけだ。とにかく素早く駆け抜けろ。基本的に、奴らは 臆病な民族だ。奥にいる大将のみを狙え」 戦士長が君たちに向かって声を掛ける。 戦士長「ああ、お前か。前回はよく戦ってくれた。お前たちにも馬を与える。上手く使えよ」
馬「ゲェア」 君たちは馬?を手に入れた。
青年「よっ」 いつかの青年が君たちに声を掛けてきた。彼も馬を従えている。 青年「ちょいと小耳に挟んだんだが、どうもこの辺りじゃ魔女が出るらしい。君たちに伝えてお こうと思って」 青年「それじゃ、健闘を祈る!」
青年を見送った君たちが試しに馬に乗ってみると、それは見事な速度で砂地を駆けて見せた。 逞しい筋肉、馬のような蹄から、力強い蹴りが左右交互に繰り出される。 砂の混じった風が、激しく顔に吹き付けた。
馬「ゲェゲェア!」
吹き荒れる砂塵が襲う―― 吹き荒れる砂塵が襲う―― 吹き荒れる砂煙が襲う―― 吹き荒れる砂煙が襲う―― 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」
灰色の軍勢Dは崩れた��� 戦闘に勝利しました!! 列Name HP / MHP SP / MSP 1 砂漠の兄弟178254 / 178254 7976 / 7976 1 青年46334 / 48126 68 / 296 1 馬93011 / 96340 284 / 539 砂漠の兄弟は 1CPを獲得!
君たちは見事、風のように駆け抜けた。 甲高い笛のような音が響く。
副族長「青き衣の民たちよ! ここは我々が制圧した。我々に従い、我が一族の仲間となるのだ!」
群衆「ウオオオォ――――!」
赤い衣の戦士たちが吼える。一方で、青い衣の人々は捕縛され、完全に戦意を無くしているようだった。 そのとき、君たちの目に、青く鋭い閃光が映った。
青年「危なッ――!」
副族長「ぬぅ――!?」
爆音とともに、青い光が弾けた。
戦士長「何事だ!」
君たちが見た閃光は、強力な魔術の類によるものらしい。 辺りには、先ほどまでなかったはずの魔力が充満しており、巨大な稲妻が落ちたかのような焼け跡が、そこかしこに見られた。 そして、その焼けただれた戦士たちの中に、君たちの見知った人物も、顔以外を真黒にして転がっていることに気が付いた。
群衆「魔女だ……例の魔女だァ!」 群衆「一瞬にして壊滅状態だ……。退きましょう戦士長!」 群衆「くそ、初めから皆殺しにしていればこんなことには……!」
戦士長「くっ……」
それは、いつか君たちに木の実をくれた、あの青年だった。
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赤い帝国の記憶-2
砂嵐を超えると、君たちは再び、赤い衣の群れにいた。 その場はどこか緊迫した空気が漂っており、号令があればすぐにでも突撃しそうな雰囲気だった。 傍にいた若い男が、君たちに声を掛けてきた。
顔立ちはまだどこかあどけなく、つい最近まで少年であった名残が見られる。
青年「なあ、君たちは、先の戦いで仲間になった人たちだよな」 青年「俺も、少し前にここに入らされたんだ。 だけど、君たちはすぐに戦いに投入されて、さぞかし大変だったろう」 そう言うと青年は君たちにさらに近寄り、小声で耳打ちする。 青年「本当は俺だって、こんなところで戦いたくはない。けど、今はこうするしかないんだ」 青年「大丈夫、そのうち慣れる。いつか、もっと自由になろうぜ」
青年がにやりと笑ったその時、笛のような音が響き渡った。 攻撃の合図だ。
灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」
灰色の軍勢Dは崩れた! 灰色の軍勢「――」 灰色の軍勢Eは崩れた! 灰色の軍勢「――」 灰色の軍勢Fは崩れた! 灰色の軍勢「――」 灰色の軍勢Gは崩れた! 灰色の軍勢「――」 灰色の軍勢Hは崩れた! 戦闘に勝利しました!! 列Name HP / MHP SP / MSP 1 砂漠の兄弟176669 / 179009 7976 / 7976 1 青年39624 / 48330 114 / 296 砂漠の兄弟は 1CPを獲得!
戦士長「我々の勝利だ!」
群衆「ウオオオォ――――!」
戦士たちが吼える。 ―― その夜、昼間話しかけてきた青年に再び声を掛けられた。
青年「やあ、昼間の。怪我は大丈夫かい?」 青年「しっかし、君たちって強いんだな。驚いたよ」 青年「もしも君たちがいなかったら本当に危なかった、助かったよ。ああ、そうだ――」 青年が持っていた袋を開けて見せる。中には大量の木の実が入っていた。
青年「疲れただろ? よかったら食べてくれよ」 青年「俺の名前は“ ”。これから先、よろしくな」
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赤い帝国の記憶-1
君たちの傍に、赤い背表紙の本がそっと置かれている。ぼろぼろの表紙には『赤い帝国の記憶』と書かれている。どうやら歴史書らしい。特に興味を惹かれるものでもない。が、君たちは戯れに、その本を手に取ってみてもいいだろう。君たちは“読み手”なのだから――
StoryNo.108-1 [2/8]= 赤い帝国の記憶 =
赤い本を手に取った君たちは、いつの間にか見知らぬ土地にいることに気が付く。確か、本の表題は『赤い帝国の記憶』だ。君たちは、歴史書であるその本の背表紙をなぞったはずだ。ふと、背中や肩にひりひりと焼けつくような痛みを感じる。首を回せば、それは焼印のようだった。辺りを見渡せば、同じく焼印を押された人々が数多くいる。
そこは、乾いた土と、血生臭いにおいで満ちていた。 彼らはみな、同じ赤い衣を身に着けている。そして、それは君たちもまた同じだった。 蹄の音を響かせながら、大きな蜥蜴のような生き物たちが近寄ってくる。 よく見れば、それぞれの蜥蜴の背中には、赤い衣を着た男が乗っている。
戦士長「よく聞けい、捕虜どもよ!」 真っ赤な衣に身を包んだ男が、大蜥蜴の背から君たちを見下ろして声を掛ける。
副族長「お前たちは今日から我らの仲間となった。赤を纏い、我らと共に剣を手に取れ!」 副族長「存分に戦い、奪うがいい! それが我らの、そしてお前たちの喜びなのだ」 副族長「戦果を上げたものには、名誉と自由が与えられるだろう」
そのとき、遠くの土壁の向こうから、怒号と共に大勢の兵士が傾れ込んできた。
灰色の軍勢「オオオオ――――ッ!」
既に赤い衣に袖を通している君たちは、彼らからは敵と見なさていることだろう。
戦士長「もう読まれていたか。お前たち、我らに続けい!」
群衆「ウオオオォ――――!」
蹄の音と共に、大蜥蜴に乗った戦士が戦場へと駆けだしていった。 それと同時、周囲の歩兵たちも激しい雄たけびを上げながら、大蜥蜴の戦士に続いていこうとする。 人の波に押し流されるようにして、君たちも前へ進むしかなくなった。 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」 灰色の軍勢「オオ――――!」
灰色の軍勢「――」 灰色の軍勢Fは崩れた! 戦闘に勝利しました!! 列Name HP / MHP SP / MSP 1 砂漠の兄弟177463 / 180520 7487 / 7976 砂漠の兄弟は 1CPを獲得!
戦士長「我々の勝利だ!」
副族長「よくやった、戦士たちよ。次の戦いに備え、存分に食い、存分に休め」
群衆「ウオオオォ――――!」
戦士たちが吼える。
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4期ソロールまとめ
ソロール等のまとめ。
(ソロールだけでは完結しないので、物語の一部に過ぎません)
【母親とバケモノ】(途中まで)
戯書界の外から(108) 「(とある世界のとある国。そこには狭い部屋に佇む大きな本と、その傍でため息をつく青年の姿があった。青年は仰向けに寝転んで、ぼんやりと天上を見つめていた。やがて起き上がると、自らの影を振り返って語り掛けた。行こう、と)」(2014-07-19 23:31:06 No.16478) [RE]|[DEL]
(108) 「(ある部屋の前で、青年は立ち止まった。それが合図とでも言うように、中から女性の声が答える)……入りなさい」(2014-07-19 23:32:03 No.16522) [RE]|[DEL]
(108) 「お話があります。――母上」(2014-07-19 23:32:33 No.16564) [RE]|[DEL]
女性@異界(108) 「……ジュバ」(2014-07-19 23:32:56 No.16584) [RE]|[DEL]
ジュバ@異界(108) 「この本を――(青年が手にしているのは、彼にとっての『戯書』に違いないだろう。分厚い装丁は重々しく、静かな存在感を放っている)これを僕が読むようにしたのは、きっと貴方だ」 (2014-07-19 23:33:38 No.16620) [RE]|[DEL]
女性@異界(108) 「……(彼女は沈黙した。その間も青年は自らの母親を見つけ続ける。先に口を開いたのは青年の方だった)」 (2014-07-19 23:34:21 No.16664) [RE]|[DEL]
ジュバ@異界(108) 「ありがとう」 (2014-07-19 23:34:47 No.16684) [RE]|[DEL]
女性@異界(108) 「……そう。貴方にとって、悪いものではなかったようね?」 (2014-07-19 23:35:12 No.16712) [RE]|[DEL]
ジュバ@異界(108) 「うん、とても。だけど、母上にとっては違うかもしれない。僕は……」 (2014-07-19 23:35:50 No.16761) [RE]|[DEL]
女性@異界(108) 「ジュバ、もうお眠りなさい。顔色が悪いわ。きっと疲れたのでしょう」 (2014-07-19 23:37:00 No.16824) [RE]|[DEL]
ジュバ@異界(108) 「いいえ、話さなくちゃいけない事が、たくさん――(青年は一瞬苦悶の表情を浮かべ、垂れる頭を片手で支えた)」 (2014-07-19 23:37:31 No.16857) [RE]|[DEL]
女性@異界(108) 「今日は此処で眠って……(彼女は立ち上がって青年の髪を撫でた)」 (2014-07-19 23:38:13 No.16901) [RE]|[DEL]
ジュバ@異界(108) 「疲れた、みたい。そう、する……」 (2014-07-19 23:38:43 No.16932) [RE]|[DEL]
(108) 「(青年はまだ整っている寝台に横になった。窓から漏れる月明かりが、彼と、枕元に置かれた本とを照らす。女は暫く窓際にいたが、やがて眠りに付いた青年に向き直ると、触れるでも近付くでもなく、ただ、彼を見つめた。その青い目を細めて、まるで何かを待つかのように)」 (2014-07-19 23:39:32 No.16975) [RE]|[DEL]
【愛されていないと感じているのは、どっちかな】
ジュバ(108) 「(あいつと少し話してくる事にするよ。うるさくするかもしれないから、気になる人は離れていてくれ。逆もまあ、構わないけれど。……ああ、見つけた)」(2014-07-30 02:35:38 No.347912) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「ギルタブ。いつまでここにいるつもりかい?」 (2014-07-30 02:39:28 No.347968) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「これはこれは。なりそこないじゃないか。お前こそいいのか、こんな世界でバケモノと戯れて。なりそこない��ら死に損ないにでも昇格するつもりか? 無理だと思うがね」 (2014-07-30 02:40:39 No.347985) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「……。角、あるんだってね。見せてくれないか」 (2014-07-30 02:42:49 No.348022) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「……お前に心配されたくないね。僕の兄にでもなったつもりか? なりそこないが」 (2014-07-30 02:45:27 No.348050) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「貴方の心配なんてしたくないけれど、貴方が魔物にでもなったら国全体が困る。魔物が支配する国なんて嫌だろう」 (2014-07-30 02:46:21 No.348065) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「……今は見えない。いつの間にか角が生えて、気が付くとまた小さくなってる。きっと、こんな世界にいるせいだ。だが角くらいが何だ。隠せば問題ない。それに、最近はこいつのお陰なのか、怪我が直りやすくなったように感じる。悪いものじゃあ、ないだろう」 (2014-07-30 02:47:07 No.348072) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「……貴方は、早く戻った方がいい。父上や母上が知ったら心配するぞ。母上なら、きっと何とかしてくれる」 (2014-07-30 02:48:00 No.348081) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「お前に何がわかるっていうんだよ。はじめは、こんなに長くいるつもりはなかったさ。だが、戻れないんだ。あの本もあれから現れていない。父上が心配する? そりゃあそうだろうなァ将来自分を脅かす奴を心配するのは当然だ。母上が何とかしてくれるって? どうだか。あの女とて万能じゃあないぞ。相変わらずお前は母上に頼ってばかりだ、赤ん坊か?」 (2014-07-30 02:48:38 No.348092) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「僕も、戻り方は知らない。だけど、本当に戻りたいのなら本気でそう願うべきだ。今の貴方は、どこかでまだここにいたいと思っているんじゃないか」 (2014-07-30 02:49:36 No.348104) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「……はっ、そうかもしれないなあ。僕はここが気に入った。いくらでも壊せる、いくらでも力が手に入る。(そう言って右手で魔力を練り上げていく。何処までも黒い、穴のような球) 物語に介入するというのも案外面白い。これからも僕が進めさせてもらうぞ」 (2014-07-30 02:50:55 No.348117) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「物語を進めるのは構わない。僕もまだ本調子じゃない。その代わり、僕にも見せてもらおう、貴方がこの世界でどうするのか」 (2014-07-30 02:51:29 No.348123) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「随分と生意気な口を聞くようになったな。僕に指図するどころか、見張るだと? 笑わせる。なりそこないの家来なんか要らない。誰から認められも愛されもしない、哀れなクズが」 (2014-07-30 02:52:29 No.348144) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「本当にそう思うのかい? 本当に誰からも認められていない、愛されていないと感じているのは、どっちかな」 (2014-07-30 02:53:00 No.348152) [RE]|[DEL]
ギルタブ(108) 「……失せろ。昔からお前はヒトに愛されず、星やバケモノばかりに愛されるな。酷く哀れで、不愉快だ。(魔力の球を青年に向けて飛ばす。が、それは大きく反れていき、離れた地に落ちる)」 (2014-07-30 02:53:19 No.348154) [RE]|[DEL]
(108) 「(わかった、と無表情で答えて、青年はその場を立ち去った) 」 (2014-07-30 02:55:41 No.348183) [RE]|[DEL]
ジュバ(108) 「(駄目でした。……弟がうるさくてごめんね。これからはちゃんと見張るよ)」
【一層忌々しい、朝だ】
少年は目を開いた。相変わらず、目覚めて最初に目に入るのは、あちらこちらに劣化の目立つ低い天井。まだ薄暗い部屋の中に、容赦なく横日が侵入している。一層忌々しい、朝だ。ここへ来てどのくらい経つだろうか。この酷く自由で不自由な、馬鹿馬鹿しい世界で。
本を開いたのは自分だった。ほんの好奇心で、ほんの悪戯で、ほんの憎悪で。今思えば、愚かな行動だった。こんなことに、なろうとは。
「……畜生が」
少年は頭を押さえて顔をしかめると、吐き捨てるように呟いた。ここしばらくでどうにか覚えた魔よけの化粧を施し、身支度をする。冠は見ないようにした。と、ある違和感に気が付いた。物語に、干渉できない――? まず感じたのは安堵、しかし次には焦燥が勝った。本は奪われたのだろう。それでは何故――自分はまだこの古宿にいる? 何故――
少年はもう一度頭を触って、寝���に蹲った。
【だから、君も相変わらず僕を利用するつもりでいればいい】
とある晩、部屋の窓から月を眺める少年の姿があった。以前ならばとうに寝ているはずの時間だ。しかし、今日はそんな気分にはなれなかった。しばしの葛藤の末に結局、部屋を抜けて月明かりの元へ出る。と突然、「月でも、見ないか?」と。横から見知った声が掛かった。少年が振り返ると、そこに立っていたのは少年と同じ色の髪をした、少年がよく知る青年だった。
ギルタブ(108) 「……お前か、なりそこない。どういうつもりかな。僕は星詠みじゃあないぞ。お前一人で見ればいいじゃないか 」(2014-09-01 00:55:36 No.1134051) RE DEL
ジュバ(108) 「それじゃあ、中で話をするかい?」(2014-09-01 00:57:09 No.1134103) RE DEL
ギルタブ(108) 「……何の話だ。(数歩踏み出して月の下に歩み出た。目は合わさない)」(2014-09-01 00:57:46 No.1134127) RE DEL
ジュバ(108) 「最近あまり会わないけれど、どうしてるかと思ってね。友達はできたかい?(少年に背を向けて月を見て、今日も月が綺麗だと呟いた)」(2014-09-01 01:00:04 No.1134196) RE DEL
ギルタブ(108) 「お前に会いたくないだけだ。いつからお前は偉くなった? 友達だと? ……お前には、関係ない(見上げはしなくとも、そこは既に月の光の下)」(2014-09-01 01:00:35 No.1134214) RE DEL
ジュバ(108) 「そうか。(視線だけを少年へ向ける。その角、格好良いね、似合っているよと世辞。沈黙する少年をよそに、くるりと振り向き)……そろそろ本題に入ろうか。まず、本は返させて貰った」(2014-09-01 01:01:03 No.1134231) RE DEL
ギルタブ(108) 「…お前の手に渡った事は知っている。僕には必要が無いものだ。……丁度よかった。勝手に使って、悪かったな」(2014-09-01 01:01:30 No.1134247) RE DEL
ジュバ(108) 「……。貴方が謝るなんて……」(2014-09-01 01:02:38 No.1134279) RE DEL
ギルタブ(108) 「黙れ、なりそこない。用はまだ済んでいないんだろう。それをさっさと話せ」(2014-09-01 01:03:00 No.1134289) RE DEL
ジュバ(108) 「黙ったらいいのか話したらいいのか……。(ふうと一つため息をついて、切り出す)ねえ、貴方は今、困っているんじゃないか。その角があっちゃあ、例え戻り方が分かったとしても王宮には戻れない。そして、この世界は案外自由だ。ならばいっそ、この世界に永遠に留まろうか。……そう、考えてはいないかい?」(2014-09-01 01:03:36 No.1134307) RE DEL
ギルタブ(108) 「……。確かに、少し分かってくれば、この世界は中々面白い、玩具だ。だがそれが何だ、悪いというのか?」(2014-09-01 01:04:27 No.1134332) RE DEL
ジュバ(108) 「悪くないさ。僕もそう思った事があるから。……提案があるんだ。僕と一緒に、もう少し物語を追ってみないか。僕はこの世界のことを、恐らく貴方よりは知っている。助けられる事もあると思うよ。貴方の――君の気が済むまで、一緒にこの世界にいていい。だから、(一歩踏み込み、距離を縮めてしっかりと向かい合った)どうかな――ギルタブ?」(2014-09-01 01:06:31 No.1134399) RE DEL
ギルタブ(108) 「お前は何が目的でそんな事を言う? 良い子ぶって母上やあのバケモノにでも褒められるつもりか? 言っておくが僕は信用などしないぞ」(2014-09-01 01:07:05 No.1134417) RE DEL
ジュバ(108) 「そうだね。僕を信じろとは言わない。僕にも目的がある。それと、いつも一緒という訳じゃなくてもいい。君には恨みがあるしね……。“あれ”も、君の仕業だろう? (向かい合った少年はぎくりと肩を揺らして目を逸らした)……まあ、最近は調子が良くなってきたし、僕はもう平気だけれど、ね。だから、君も相変わらず僕を利用するつもりでいればいい」(2014-09-01 01:07:36 No.1134430) RE DEL
ギルタブ(108) 「……お前、変わったな。なりそこないと呼べば、僕のほうが惨めになりそうだ」(2014-09-01 01:08:05 No.1134446) RE DEL
(108) 「君も相当変わったように見えるよ、姿の事じゃなくてね(そんな青年の言葉を受けて、少年は少し意外そうに正面の顔を見つめた。それから視線を外し、お前の提案に賛成すると小さく答えて息を吐いた。すると、青年の方からまたひとつ、思い出したように口を開く)」(2014-09-01 01:09:36 No.1134498) RE DEL
ジュバ(108) 「ああ、それと、とある人から、君に伝言がある」(2014-09-01 01:09:54 No.1134510) RE DEL
ギルタブ(108) 「伝言だと? 誰から……。国の奴らか」(2014-09-01 01:10:29 No.1134532) RE DEL
ジュバ(108) 「いや、その人達じゃない。こっちで出会ったとある人からだ。『どうか、良い王様になってください』とね。悪いけれど、名前は伏せて欲しいと言われているから、誰なのかは教えられない」(2014-09-01 01:11:31 No.1134571) RE DEL
ギルタブ(108) 「……。(しばらく思案していたようだが、やや不機嫌そうなまま顔を上げるとそうか、と頷いた。伝言をしてきたのが誰なのか未だ検討はついていないようだが)伝言、ご苦労さまだったな。これで、全て用は済んだのか?」(2014-09-01 01:12:20 No.1134595) RE DEL
(108) 「済んだよ、それじゃあまた会おう。(そう答えて青年は静かにその場を去っていった。少年はまだ月の下にいるだろうか。それでも、きっとここまで離れればこの声を聞き取りはしないだろうと青年は考えて、呟く)」(2014-09-01 01:13:03 No.1134613) RE DEL
ジュバ(108) 「……はあ。毎度、緊張するな。だけど、何とかなりそうだ。(ため息をつくと、星空を見上げて僅かに口元を緩めた)」(2014-09-01 01:13:32 No.1134630) RE DEL
【なりそこないの兄弟】
「――――!」
[どこかで、おぞましいバケモノのような鳴き声が響いた。――項目名『なりそこないの兄弟』より]
巨大な影が、森の木々をざわめかせていた。
黒光りする硬い皮膚と、その隙間から膿のように漏れ出る禍々しい気。苦しげにのたうつ���悪な姿は、まるで絵本に出てくるバケモノそのものだ。が、よく見ればそれは――
「蠍……」
居合わせたこの青年が唯一苦手とするもの、蠍でもあった。青年の存在に気付いたらしいバケモノが、醜い咆哮を上げて彼の方を向く。その刹那、青年は振りかぶった。
「ッグ――お前――は」
「……」
バケモノの皮が見る見る剥がれ落ち、かと思えば、紫煙のように消えていく。やがて、小さくなっていく塊の中から現れたのは、青年によく似た容姿をした少年だった。少年は喉元を押さえ、へたりと座り込んだ。何かを飲み込んだようだ。荒い呼吸は、少しずつ落ち着いていく。
「こんなところにいた。調子はどう――って、聞くまでもないね」
「何をしにきた」
「……君に。伝えにきたんだよ。僕は一度、あの場所へ戻る。君はここから出られないんだろう」
「僕をここへ閉じ込めて、王にでもなる気か?」
「王に? まさか。王になるのは君だと決まっているだろう。それとも、国をまとめて大勢から慕われるのは、気が重いかい」
「……り」
「え?」
――独りだ。
小さく小さく呟かれたその一言は、その身に纏った豪奢な装束にも似合わず、酷く弱々しいものだった。
「そうやって、お前も僕を見捨てるんだ」
「違うよ」
青年は否定する。
「僕は君を助ける方法を、探し出すつもりだ。少し時間が掛かるかもしれないけれど、諦めはしないよ。幸いにも、こことあっちじゃ時間の流れも違うみたいだし、そう長く待たせるつもりもない」
「僕は……。お前を散々虐げてきた。殺そうとしたことさえある。そのときのお前は、毒に苦しんでいたじゃないか。それを忘れたというのか?」
「君がした仕打ちを、許すわけじゃない。忘れられるわけがない。だけど、君を独りにしたのは、僕でもあったんだよ。……友達になれたかもしれないのに」
青年は搾り出すように告白した。項垂れた褐色の面は、その口を結んで暫し眉を寄せる。
「皆から尊敬される君が羨ましかった。君のことが誰よりも嫌いで、怖くて、憎くて仕方なかった。君を呪って、母上には告げ口して擦り寄ってさ。ギルタブ、君を独りにしたのは僕だったんだ。……本当に、すまなかった」
「……っ。頼む。助けてくれ、なりそこないいや――兄上」
兄上と呼ばれた青年は、目を見開いた。実の弟にそう呼ばれたのは、これが初めてだったからだ。そして、弟のまだ少し小さい手に、自らの手を差し伸べ――
「約束しよう。お月様と、君に誓って」
「約束……。ああ、約束だ」
初めて、兄弟は手を取り合った。
【 砂の上の星詠みたち 】
砂漠の兄弟(108) ( 砂の上の星詠みたち | 2016-09-17 15:41:07 | DEL)
ギルタブ「ジュバ。お前のその青い髪だが、僕は綺麗だと思うぞ」
ジュバ「(カルカデ茶を盛大に噴き零した)」
ギルタブ「零すなよ汚らしい」
ジュバ「……。な、何。今日何かあるの?(零したものを布で拭き取りながら)」
ギルタブ「はあ? 少し褒めてやっただけだろう。何もない」
ジュバ「そ、そうなんだ……」
ギルタブ「ただ……。あくまで僕の見解だが――」
ジュバ「?」
ギルタブ「お前のその髪は、呪いや出来損ないなんかじゃない、もっと崇高なものじゃないかと思ってな」
ジュバ「崇高な? 一応訊いておくけれど、僕をからかっている訳じゃないよね?」
ギルタブ「……国の女たちが一部は星詠みとして持て囃されながらも、所詮は低い地位にある訳を考えたことがあるか?」
ジュバ「うん? それは、女の人は弱いからじゃ? 王の器は男にしかないし、体の大きさや力の強さが違うよ」
ギルタブ「常識としてはそうだ。だがな、その裏の意味を考えてみろ。いいか――星詠みの力は、お前が思っている以上に特別なものだ。国に起こる災いや変革が予測できるなら、個人単位の出来事だけじゃなく、世界単位の出来事、そしてもしかすると、未来だけではなく過去のことさえ、予測できてもおかしくはないだろう。未来や過去がわかれば、次に何をするべきなのかを知ることができる。そしてどうやら、他国ではこの国ほど当たり前に見られる能力ではないらしい。星詠みの力は、特別なんだ」
ジュバ「あ、そうか。能力の高い星詠みが王宮に引き抜かれたり、女の人の地位が全体的に低いのは、その力を他の国に悪用されないように守るため」
ギルタブ「ああ。あるいは――星詠みの力を恐れたか、だ」
ジュバ「恐れた? 誰が?」
ギルタブ「男たちだ。特に、国王――」
ジュバ「父上――いや、もっと前の国王か。だけど、恐れるほどの力かな。女の人はやっぱり、力じゃ男には勝てないし」
ギルタブ「先のことを予測できれば、相手に勝つのは容易いことだ。それに――ここだけの話だが、この国ができるより以前、強力な星詠みの力を持った“魔女”がいたらしい。文献にもほとんど残されていないが、ほんの数冊、そのことについて語られている古い文献がある。共通して同じことが書かれていることを考えても、ほぼ真実とみていいだろう。その魔女は強い魔力を持って、民たちを蹂躙し、その頂点に立った。後に民たちに滅ぼされたのだが――。いいか、ここで重要なのは、かつて強大な魔力を持った星詠みの女がいた、ということだ」
ジュバ「そうか……。それじゃあ、今いる星詠みの人たちも、もしかしたら魔力を持っているかもしれない、っていうことかい?」
ギルタブ「その通りだ。もうひとつ言っておくと、その魔女の髪の一部は、紫色をしていたということだ」
ジュバ「紫色? それって――」
ギルタブ「僕たちの母上も、その魔女と同じ紫色だったな。まあ、だからといって、その魔女と母上の間にに直接的な関係があるとは限らない。文献によっては、赤色だったという表現も見られるしな。話を戻そう。ジュバ、お前のその青い髪は、お前にも特別な力が宿っている、その証とは考えられないか?」
ジュバ「僕に? だけど、僕にそんな強い力があるとは思えないよ」
ギルタブ「その可能性がある、ということだ。ごく僅かとはいえ、お前も星詠みの女どもと同じことができるんだろう? 国一番の星詠みと、国王である自分との間に生まれた第一子が、男であるにも関わらず、女たちと同じ星詠みの証を持って生まれた���――恐れるのも無理はない。民たちに肯定的に受け入れられれば、奇跡の子だと持て囃され、絶大な支持を持つだろう。そして、自分にはない魔力を以てして、いつか自分を殺め、王として君臨するかもしれない――父上の考えそうなことだ。ジュバ、父上はお前を恐れたんだ。お前を殺そうと考えたのも、民たちに隠蔽したのも、王宮内ですら人扱いしなかったのも、全てはお前の力を恐れたがため――そうとは考えられないか」
ジュバ「……」
ギルタブ「お前が18の誕生日で消されるという話は、以前にもしたな」
ジュバ「……覚えているよ。そのときの君は、それをとても楽しそうに僕に話したよね」
ギルタブ「……それは、わ、悪かっ、た……」
ジュバ「教えてくれたことには感謝してるよ。それで、誕生日がどうかしたの」
ギルタブ「お前はどうするつもりなのかと思ってな。まさか、消されるという運命をそのまま受け入れるつもりじゃあないだろう。消されたくなければ、お前は、逃げるべきだ」
ジュバ「わかってる。……ギルタブも、助けてくれるのかい?」
ギルタブ「交換条件だ。僕が帰るのに協力してくれるんだろう?」
ジュバ「……ああ、それでさっき褒めたのか」
ギルタブ「何か?」
ジュバ「いいえ何でも」
--
同時期、星詠みの国、王宮――
「いよいよだな。我が妻――シェダルよ」
シェダル「……承知しております」
「何をだシェダル? じきにあやつが殺されることか? それとも、殺される前にあやつを逃がす計画をか?」
シェダル「陛下! 私はそのようなことは考えておりません。この名において、確かに貴方にお約束した筈です。彼を逃がすようなことは決してしないと。もし破れば――」
「お前が、死ぬ」
シェダル「……その通りにございます。自らの名に誓う盟約は、破れば術者の命が失われる――あれは、そのようなまじないです。私は、みすみす命を投げ出すようなことは致しません。国を代表する星詠みであると同時に、貴方の――尊き陛下の、妻でもありますから」
「嬉しいことを言ってくれる。ならば、あやつ――あのなりそこないを、執行まで閉じ込めておくことにも、文句はあるまい」
シェダル「……っ、勿論です陛下。しかし――」
「おおそうだ、もうひとつお前に訊きたいことがあったのだ。お前が外国から密に、魔法の書を取り寄せたという情報が入っているのだが――」
シェダル「……」
「お前はそのような身勝手な女だったか? 違うと言ってくれるだろうな、シェダル」
シェダル「その情報は、間違いです。陛下もご存じのとおり、私には、内密に物を取り寄せるすべはありません。どなたかが、書庫で見知らぬ本でも見つけたのでありましょう」
「では、私にそのことを知らせた者が間違っているということか。しかし、やつは私のお気に入りでな。処分するのも気が引ける。シェダル、お前がその本を見つけ出し、書庫にあったものか確かめてはくれないか」
シェダル「……私を疑っておられるのですね、ザウラク王」
ザウラク「悲しいことだが、疑い深い性格でな」
【 本を読み終えた旅人たちは】
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