#立共合作に隠された危うい路線
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2024.10.13
映画『HAPPYEND』を見る。父の時代の学生運動のような雰囲気と、街の風景のクールな切り取り、存在感があり重厚な音楽の使い方から愛しいものとしてのテクノの使い方まで大変気に入り、今度会う人に渡そうと映画のパンフレットを2冊買う。その人と行った歌舞伎町時代のLIQUIDROOM、どんどん登らされた階段。小中学生の時に自分がした差別、あの分かっていなさ、別れた友人、まだ近くにいる人たち。
2024.10.14
銀座エルメスで内藤礼『生まれておいで 生きておいで』、ガラスの建築に細いテグスや色のついた毛糸が映える。日が落ちて小さなビーズが空間に溶けていくような時間に見るのも素敵だと思う。檜の「座」で鏡の前にいる小さな人を眺める。「世界に秘密を送り返す」を見つけるのは楽しい。黒目と同じだけの鏡、私の秘密と世界の秘密。今年の展示は上野・銀座ともに少し賑やかな雰囲気、外にいる小さい人たちや色とりどりの光の色を網膜に写してきたような展示。でも相変わらず目が慣れるまで何も見えてこない。銀座にはBillie Eilishもあったので嬉しくなる。
GINZA SIXのヤノベケンジ・スペースキャットと、ポーラアネックスでマティスを見てから歩行者天国で夜になっていく空を眺めた。小さい頃は銀座の初売りに家族で来ていたので、郷愁がある。地元に帰るよりも少しあたたかい気持ち、昔の銀座は磯部焼きのお餅を売っていたりしました。東京の楽しいところ。
2024.10.18
荷造り、指のネイル塗り。足は昨日塗り済み。年始の青森旅行時、2泊3日の持ち物リストを作成し、機内持ち込み可サイズ��キャリーに入れ参照可能にしたところ、旅行のめんどくさい気持ちが軽減された。コンタクトや基礎化粧品・メイク用品のリスト、常備薬、安心できる着替えの量。持ち物が少ない人間にはなれそうにない。日常から多い。部屋に「読んでいない本」が多いと落ち着くような人間は持ち物少ない人になれない。
2024.10.19
早起きして羽田空港。8:30くらいに着いたらまだ眺めのいいカフェが開いておらず、とりあえず飛行機が見える屋上に行く。このあと雨が降るはずの曇り空からいきなり太陽が照り出して暑くなり、自販機でマカダミアのセブンティーンアイスを買い、食べる。突然の早朝外アイス。飛行機が整列し、飛び立つところをぼんやりと眺める。飛行機は綺麗。昨夜寝る前にKindleで『マイ・シスター、シリアルキラー』を買って「空港ではミステリー小説だろう」と浮かれて眠ったのに、100分de名著のサルトルを読み進める。実存主義を何も分かっていないことをこっそりとカバーしたい。すみませんでした。
10:15飛行機離陸。サンドイッチをぱくぱく食べたあとKindleを手に持ったまま眠ってしまい、11:55宇部空港着。
宇部空港、国内線のロビーは小さく、友人にすぐ会う。トンネルを抜ける時、窓が曇り、薄緑色の空間に虹色の天井のライトと車のライトがたくさん向かって来て流れる。動画を撮影しながら「綺麗くない?」と言うと「綺麗だけど本当は危ない」と言われる。かけるべきワイパーをしないで待っていてくれたんだと思う。
友人のソウルフードであるうどんの「どんどん」で天ぷら肉うどん、わかめのおにぎりを食べる。うどんは柔らかく、つゆが甘い。ネギが盛り放題。東京でパッと食べるうどんははなまる系になるので四国的であり、うどんのコシにもつゆにも違いがある。美味しい。
私は山口市のYCAMのことしか調べずに行ったので連れて行ってもらう。三宅唱監督の『ワイルドツアー』で見た場所だ。『ワイルドツアー』のポスターで見た正面玄関を見に芝生を横切ったが、芝生は雨でぐずぐずだった。でも全部楽しい。
広くて静かで素敵な図書館があり、心の底から羨ましい。小さな映画館もあり、途中入場できるか聞いたおじいちゃんが、「途中からだからタダにならない?」と言っていたがタダにはなっていなかった。一応言ってみた感が可愛らしい範囲。
YCAM内にあるのかと思っていたら違う倉庫にスペースのあった大友良英さんらの「without records」を見に行く。レコードの外された古いポータブルレコードプレーヤーのスピーカーから何がしかのノイズ音が鳴る。可愛い音のもの、大きく響く音のもの。木製や黄ばんだプラスチックの、もう存在しない電機メーカーの、それぞれのプレーヤーの回転を眺めて耳を澄ませてしばらくいると、たくさんのプレーヤーが大きな音で共鳴を始める。ずっと大きい音だと聞いていられないけれど、じっと待ってから大きな音が始まると嬉しくなる。プログラムの偶然でも、「盛り上がりだ」と思う。
山口県の道路はとても綺麗で(政治力)、道路の横は森がずっと続く。もとは農地だっただろう場所にも緑がどんどん増えている。私が映画で見るロードムービーはアメリカのものが多く、あちらで人の手が入っていない土地は平らな荒野で、日本の(少なくとも山口県の)土は放っておくとすぐに「森」になるのだ、ということを初めて実感する。本当の森の中にひらけた視界は無く、車でどんどん行けるような場所には絶対にならない。私がよく散歩をする所ですら、有料のグラウンドやイベント用の芝生でない場所には細い道を覆い隠す雑草がモコモコと飛び出して道がなくなってゆく。そして唐突に刈られて草の匂いだけを残す。私が「刈られたな」と思っているところも、誰かが何らかのスケジュールで刈ってくれているのだ。
山口県の日本海側の街では中原昌也と金子みすゞがそこかしこにドンとある。
災害から直っていないために路線が短くなっているローカルの汽車(電車じゃない、電車じゃないのか!)に乗って夜ご飯へ。終電が18:04。霧雨、暴風。一瞬傘をさすも無意味。
焼き鳥に挟まっているネギはタマネギで、つきだしは「けんちょう」という煮物だった。美味しい。砂肝、普段全然好きじゃないのに美味しかった。少し街の端っこへ行くとたまに道に鹿がいるらしく、夜見ると突然道路に木が生えているのかと思ったら鹿の角、ということになり怖いらしい。『悪は存在しない』のことを思う。
2024.10.20
雨は止んでいてよかった。海と山。暴風。人が入れるように少しだけ整えられた森に入り、キノコを眺める。
元乃隅神社、123基の鳥居をくぐり階段を降りて海の近くへ。暴風でiPhoneを構えてもぶれて、波は岩場を越え海の水を浴びる。鳥居の上にある賽銭���に小銭を投げたけれど届くわけもない。車に戻ると唇がしょっぱかった。
山と海を眺めてとても素敵なギャラリー&カフェに。古い建物の改装で残された立派な梁、屋根の上部から太陽光が取り込まれるようになっていて素晴らしい建築。葉っぱに乗せられたおにぎりと金木犀のゼリーを食べる。美味しい。
更に山と海を眺めて角島へ。長い長い橋を通って島。古い灯台、暴風の神社。曇天の荒れた海も美しいと思う、恐ろしい風や崖を体感としてしっかりと知らない。構えたカメラも風でぶれるし、油断すると足元もふらつく風、窓につく塩の結晶。
山と海を眺めて香月泰男美術館へ。友人が見て良い展示だったからもう一度来て見せてくれたのだ。
全然知らなかったけれど、本当に素晴らしい絵だった。油彩なのだけど、質感が岩絵具のようで、フレームの内側に茶色のあやふやな四角が残っているのがとても良い。
フレーミングする、バチッと切り取ってしまう乱暴さから離れて、両手の人差し指と親指で四角を作って取り出したようなまなざしになる。
山口県の日本海側の山と畑と空の景色、荒い波、夜の静けさや月と雲、霧の色を見てから美術館へ連れて来てもらえたから色と色の境目の奥行きを知る。柿はずっしりと重く、花は鮮やかだ。香月泰男やシベリア抑留から帰ってきた画家で、この前読んだ『夜と霧』の暗さと冷たさを思い返した。絵の具箱を枕にして日本へ帰る画家が抱えていた希望、そのあとの色彩。
夕飯は友人の知り合いのハンバーガー屋さんへ。衝撃のうまさ。高校生の時に初めて食べたバーガーキングの玉ねぎの旨さ以来の衝撃、20年ぶりだ。そんなことがあるのか。
2024.10.21
晴天。海は穏やかで、深い青、テート美術館展で見たあの大きな横長の絵みたい。初めて見た海の光。
海と山を眺めて秋吉台へ。洞窟は時間がかかるので丘を散策、最高。
風光明媚な場所にしっかりとした情熱が無かったけれど、「好きな場所だから」と連れていってもらえる美しい場所は、友人が何度も見るたびに「好きだなぁ」と思っただろう何かが分かり、それは私が毎日毎日夕陽を眺めて「まだ飽きない」と思っている気持ちととても近く、感激する。
今までの観光旅行で一番素敵だった。
道々で「このあと窓を見て」と教えてもらい、味わう。
ススキが風に揺れて、黄色い花がずっとある。山が光で色を変え、岩に質感がある。
山口市、常栄寺、坂本龍一さんのインスタレーション。お寺の庭園が見られる場所��天井にスピーカーが吊るされ、シンセサイザーの音を演奏しているのは色々な都市の木の生体信号だ。鳥の声や風の音と展示の音は区別されない。砂利を踏む音、遠くから聞こえる今日の予定。豊かなグラデーションの苔に赤い葉っぱが落ちる。
宇部空港はエヴァの激推しだった。庵野さん、私も劇場で見届けましたよ。
行きの飛行機は揺れたけれど、帰りは穏やかに到着、家までの交通路がギリギリだったため爆走、滑り込む。
東京の車の1時間と山口の1時間は違う。
何人かの山口出身の友人が通った空と道と海と山の色を知ることができてとても嬉しい。
「好きな場所」「好きな風景」ってどういうものなんだろう。
私が通う場所、好きな建築、好きな季節と夕陽。あの人が大切にしている場所に吹く風、日が落ちる時刻が少し違う、友人のいる場所。
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桜林美佐の「美佐日記」(253)
戦後史ミステリー「下山事件」の内幕話……
桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、253回目となりま
す。
前回の災害派遣が今も継続されていることに対して
も「ファストイン・ファストアウトが鉄則のはずの
自衛隊をここまで長期間にわたり使うというのは、
やはり問題があると思いますというご指摘について、
もっと多くの方に知っていただきたいと思います」
と感想を頂戴しました。ありがとうございました。
少し前に、NHKスペシャルで「下山事件」を取り上
げるというので、観てみました。これは昭和史最大
のミステリーと言われる事件で、初代国鉄総裁の下
山定則氏が、出勤途中に立ち寄った三越デパートで
突如、姿を消し、15時間後に東京・足立区の線路上
で遺体で発見されたという出来事です。
占領下の国鉄でGHQから1��万人の人員整理を命じ
られた下山総裁の謎の死ということで、苦悩の末の
自殺なのか、あるいは何らかの勢力による他殺なの
か、これまでも多くの関連本が出ています。
警視庁などは自殺であると言っていたようですが、
共産党による犯行であるとする説や、松本清張の
「日本の黒い霧」では米軍機関による犯行としてい
るようです。合理化に反対し闘う国労をつぶすこと
を目的としたGHQによる謀略だと。番組では米国
の反共工作部隊「キャノン機関」の関与も取り上げ
ていました。
実は、何を隠そう、私の母方の祖母は下山総裁が立
ち寄ったという足立区五反野にある旅館跡に住んで
いました。私自身も一時期そこに住んでいました。
私の実の祖父は警視庁の警察官でしたが、インパ
ールに出征し戦死し、私がおじいちゃまだと思って
いたのは再婚相手だったのです。
そのおじいちゃんと前妻の長島フクさんが営んで
いた「末広旅館」に下山総裁が亡くなる前に数時間
滞在したということで、その時の様子を証言するフ
クさんの映像を今回初めて観ました。
下山総裁が滞在した時のことをかなり詳細に語っ
ていたということでしたが、それがゆえに、その信
憑性が疑われているようです。
私はこの映像を観て、その事件の真相よりも、私
の祖母とは全く違うキャラクターになんだか驚いて
しまいました。祖母は祖父と死別した後に、親族か
ら籍を抜くように言われ、身寄りのない戦争未亡人
となったのですが、祖父の警視庁の先輩だった長島
の妻フクさんが亡くなったことで、そこに後妻に入
ったのです。戦後はこうした複雑な婚姻関係が多か
ったのだと思われます。
大変だったのは、元末広旅館という場所柄、マス
コミや数々のジャーナリストや祖母宅を訪れ、対応
しなければならなかったということでした。もちろ
ん、私の祖母は何も知らないのですが。
この私のおばあちゃんという人は本当に面白くて、
誰にでも好かれるタイプでした。何が面白いって、
例えば「今度、イモ洗いに行くようにお医者さんに
言われたの」というので、それはどこで言われたの
か問うと整形外科だという。もしかしてそれは「イ
モ洗い」ではなく「MRI」じゃないの!?と病院に問
い合わせると、案の定MRIではありませんか!すでに
近所中の人たちを誘ってしまったために、危うく近
隣の人たちと「イモ洗い」の計画を本当に進めると
ころでした(っていうか、イモ洗いって何なの?)。
そんなわけで、今回の下山事件の番組を観て、あ
あこの証言しているのが、私の実のおばちゃんじゃ
なくてよかったなあという感想が、実は第一でした
……。
今回は戦後史ミステリーの話か!と期待された読
者の方にはこんなオチでごめんなさい。
今日も最後まで読んで頂きありがとうございまし
た。どうぞ良い1週間をお過ごし下さい!
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29/07/23
会社の近くペルシャ料理屋があって、そこへいくと必ず幸���な気持ちになれる。店内にある大きなタンドールが放つ熱で店内がほかほか暖められていて(背中向かいの席では熱いくらい)、照明は薄暗くて、食事はおいしくて、なんだか居心地がよくて眠くなっちゃう感じ。ワンプレートメニューが大半だが、基本的な組み合わせとしては、バスマティライス、チキンorラムor両方の炭火串焼き、サラダ、焼きトマト、一欠片のバター、が盛り付けられている。若干酢にくぐらせたような風味のする、炭火で焼かれたチキンがお気に入りで毎回それを頼んでいたが、こないだはものすごくラムを食べたい気持ちになって、ラムはあまり好んで食べないけど美味しく食べられるのか心配半分、ラムが美味しいということになったならばそれはさぞかし美味しいだろうという楽しみ半分で店へ向かい、いつものチキンと、ラム(ミンチにしたラムを小さく成形した、ラム苦手な人にとって一番難易度低そうなやつ)が両方乗っているプレートをお願いして、食べたら、ラムが...とっても美味しかった..!
美容師の友だちに髪の毛を切ってもらうようになってから3ヶ月経つ。今回は彼女のお家にお邪魔して、髪を切ってもらって、ビールとおつまみをいただいた。ヘアカット中のBGMは千と千尋で、おつまみは彼女のシェアメイトが作った夕飯の残り物で、ああいう時間がもっと人生の中にあればいいなと思った。またすぐね。
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金曜日に有給を取って3連休を作り、マルタへ旅行した。イギリスは秋みたいに寒いけど、ヨーロッパには記録的な熱波がやってきており、マルタも例外ではなく、空港を出たら暑すぎて、いっぱい歩くのはやめよう..と危険を感じた。マルタには電車がなくて、移動手段はバスだから、3日間で15回くらいバスに乗った。前回のオスロ旅行で、自分の興味関心に基づいて行きたいところをいくつか選んでおくべきだという教訓を得たため、ワイナリーとかレストランとか色々ピックアップしておいたのに、バスが来なくて閉館時間に間に合わないみたいな理由で立てた予定はほとんど全て崩れ、行きたかったところの9割は行ってない。
立てた予定が全て崩れて向かったバスの終点には、イムディーナという静まり返った美しい城塞都市があった。後から調べてみたらマルタ最古の都市で、かつてはマルタの首都だったらしい。なんか普通のマルタの街に到着したなと思ってぷらぷら歩いていたら、お堀じゃないけどお堀みたいな高低差のある場所へ出て、中へ入��ととっても別世界だった。旅をしている時(文字通りの旅ではなく、その場に意識があってその場に集中してわくわくしながら歩いている時)は自分の足音が聞こえる、とポールオースターの友だちが言ってたが、わたしは匂いもする。暑すぎるのか、痩せた雀が何羽か道端に転がって死んでいた。馬車馬は装飾のついた口輪と目隠しをされ、頭頂部には長い鳥の羽飾りが付けられていた。御者がヒーハー!と言いながら馬を走らせた。とにかく暑かった。
ほとんど熱中症の状態で夕食を求め入ったレストランで、ちょっとだけ..と飲んだ、キンキンに冷えた小瓶のチスク(マルタのローカル大衆ビール)が美味しくて椅子からころげ落ちた。熱中症なりかけで飲む冷たいビール、どんな夏の瞬間のビールよりうまい。
安いホステルにはエアコン設備などもちろんついていない。さらに、風力強の扇風機が2台回っている4人部屋の、私が寝た2段ベッドの上段だけ空気の溜まり場になっていた。明け方に頭からシャワーを浴びてさらさらになって、そのまま二度寝する。隣のベッドのイタリアから来たかわいらしい女の子2人組が夜遊びから帰ってきて、わたしは出がけに、部屋で少し話す。8年前に来たコミノ島はプライベートビーチのようで素晴らしかったけど、昨日行ったらツーリズム化されていて悲しかった。耳の裏に日焼け止めを塗り忘れて痛くなっちゃったから、あなたは忘れないように。わたしたち今ちょっとおかしいのよ、と言いながらドレスも脱がずにそのままベッドの上で眠ってしまった彼女は天使か何かみたいだった。扇風機をつけたまま部屋を出て行く。
地面がつるつると滑る。
砂のような色をした街並みが広がるマルタにもイケてるコーヒー屋は存在する。これも近代化・画一化の一途かと思うと、微妙な気持ちにもなるが、こういう場所へ来ると息が深く吸えるので有り難くもある。
マルタは3つの主要な島から成る。そのうちのゴゾ島へ行く。首都のバレッタから港までバスで1時間強、フェリーで20分。
フェリーほどいい乗り物はない。売店でビールとクリスプスを買って、デッキへ出て、なるべく人がいない場所で海を眺める。乗船案内と音楽が止んで、フェリーが作る波と風の音しかしない中に佇むと、これでいいような気がしてくる。ビールはあってもなくてもいいけど、フェリーのデッキで飲むビールの味というのがあって、それはめちゃくちゃうまい。
ゴゾ島へ降り立つと、足音と匂いがした。適当に道路沿いを歩いていたら、また別世界に続きそうな脇道があって、進んだらやっぱり別世界だった。ディズニーランドのトムソーヤ島で遊んでる時みたいな気持ちで謎の小屋へ入��、人で満杯のhop on hop offバスを眺めやりながら、人懐こすぎる砂色の猫と涼む。港とは反対側の海辺へ行きたかったのでバスを待つものの、一生来ないため、バス停近くのローカルスーパーを覗く。これといった面白いものは置かれていなくて、見たことある商品ばかりが並んでいた。バスは一生来ない。
バスを降り、水と涼しさを求めて入った地中海レストランは目と鼻の先に浜があり、今回の旅は下調べなしの出会いが素敵だなあとしみじみする。カルパッチョと白身魚のライススープ、プロセッコと、プロセッコの10倍あるでっかい水(笑)。カルパッチョは、生ハムのような薄切りの鮪が敷かれた上に生牡蠣、茹で蛸、海老が盛られていた。鮪は日本で食べるのと同じ味がした。カルパッチョは旨く、プロセッコはぬるく、ライススープは想像と違った。パンに添えられたバターは外気温のせいで分離していた。水が一番おいしかった。
おいしいものとお酒が好きで楽しい。
ヨーロッパ人の色気の正体ってなんなんだろう?アジア人が同じ格好をしてもああはならない。胸元がはだけていてもスカートが風で捲れてもはしたないと全く感じない。むしろロメール作品のようにさえ見える。そもそも'はしたない'という概念がアジア(少なくとも日本)にしか存在しないのではないか?色気って品かと思ってたけどそれは日本だけかもしれない。
地元料理が食べられるワインレストランを夕食に予約してみたらコース一択だった。お昼食べ過ぎてあんまりお腹空いてなかったからちょっと小走りで向かってみる。ラザニア、ムール貝と魚のスープ、うさぎの煮込みなど。人ん家の料理みたいな美味しさだった。マルタのワインはほとんどが島内で消費されるらしい。ゴゾ島の白ワインの感想:暑い村、お絵描きアプリのペンの一番太い線(色はグレーがかった白で透過度50)。食後のグリーンティーは、TWININGSのティーバッグで、お砂糖をいれる選択肢が与えられて、洋風の装飾がたっぷりついた受け皿付きの薄いカップと共にポットで提供された。カップの底に描かれた静物画のような果物が綺麗でうっとりした。
どこにでもあるような早朝からやってるスタンドでドーナツとオレンジジュースとコーヒー。扇風機に当たり続けていたいが荷物をまとめて宿を出る。行きたい街へ向かうバスが一生来ないため、行きたい街に名前が似てる街が行き先に表示されているバスに適当に乗ったら、行きたい街より30度北へ行くバスだった。でもやっぱり行きたい街へ行きたかったので、30度北の街へほとんど到着してからバスを乗り換え行きたい街へ向かったが、Googleマップの示すバス停へは行かず、行きたい街を通過してしまったため、行きたい街から30度南の街に降り立つこととなった。海辺でチスクを飲みながらメカジキを食べた。暑すぎて肌着1枚だった。店先のガラスに映る自分に目をやると、いわゆるバックパッカーの様相をしていた。
空港行きのバスだけは遅延なくスムーズに来て着く。肌着状態からシャツを身につけ普段の姿(?)に戻ると、途端に具合が悪くなった。日に当たりすぎたみたい。お土産を買ってセキュリティを通過し、充電スポットの近くに座って搭乗を待っていたら、すぐそばにグランドピアノがあることに気がついた。誰か上手な人が演奏しないかしらと思っていたら、青年によるリサイタルが始まった。父親が彼を呼びにやってくるまで、クラシックからビートルズまで5-6曲。思わぬ良い時間だった。
都市に住むと、旅行から帰ってくる時安心する。
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会社の人たち語録 ・やりたいことたくさんあるけど、今はやりたくないです。 ・返事がないのはいい知らせではないので。 ・Are you alright? まあまあ、ぼちぼち。
夕方、商店街へ買い出しに行く時がすごく幸せ。食べたいと思うものしか買わなかった時は特に幸せ。ぱつっと瑞々しい野菜、ちょっといいパスタ、ジャケ買いしたクラフトビール、好きな板チョコ。そんでキッチン飲酒しながらご飯作る。ビールを開けて一口目を飲むまでの間だけは音楽を止めるというのにはまっていて、そういえばフェリーのデッキで乗船案内とBGMが止んだ時の感じに似ていなくもない。フラットメイトが、夜中3時まで友人とリビングで遊んでいたり、土曜の夜にパーティへ出かけたりしているのと比較して、わたしが幸せ感じてるポイントは内向的だ。
やりたいことが浮かぶ。それをやる前に、比較対象の選択肢や判断軸を不必要なほど増やしてしまいがちだが、最適な選択を選び取ることよりも、やりたいと思う気持ちを満たすことの方が幸せなんじゃないか?
色々比べて悩んじゃったら「朝から決めてたことだから」って言うとスッと選び取れる!
食材の買い出しで1週間くらいはもつかなと感じるくらいたくさん買っても実際3日もすれば冷蔵庫空になるやつ、悲しさというかやるせなさを覚えるんだけど、こないだ500gパックの美味しそうなミニトマト買った時に、長く保ち続けること(終わりを迎えないようにする、終わりを想像しないようにすること)よりも、きちんと消費する(終わりを気持ちよく迎えること)を考えるようにしたら明るくなれてよかった。終わりって何事にもやってくるもんね。
食の話ばっかり回。
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ネオファウナ
白と黒。それがこの台地に登って抱いた最初の印象だった。起伏に富んだ白い氷原のあちこちから、黒い崖が顔を覗かせる。雪がちらついているせいか、それとも大地の白を映し出しているせいか、空もまた、灰色のはずが白んで見える。初めて訪れる北極圏は、太古の昔から日の沈むことのない、かといって日が高く昇り、大地の氷河を溶かすこともまたない、薄明の世界だった。 雪原専用の8脚車両で、傾斜の緩い台地の東側から登って早半日、狭い空間で疲れは溜まっていたが、私の体重が他の乗組員より重い分、贅沢は言えなかった。大丈夫、あと数時間もすれば、発掘のためのキャンプ基地に到着する。この辺りは雪の粘度が低く、おまけに雪の下の固まった氷河をうっかり踏んでしまうと、車両ごと転倒する危険がある。車体の脚部分に付いた音響センサーで、なるべく雪の厚い場所を探りつつ、進むしかないらしい。 私の隣では、ダンと名乗った白いクマの男性が車両に接続して操縦している。一見すると椅子にもたれかかっているようにしか見えないが、後頭部には電磁コントローラが付いている。彼自身によればちょっと前の型番だが、車両を動かすには使い慣れたものが一番しっくり来るらしい。後頭部樹状核増設手術を受けているらしく、扱いには手慣れているという。もう10年になるそうだ。他の2名が小柄で、荷物もかなり多い以上、体重の大きいゾウである私と、ダンの2名はそれぞれコクピットとサブピットに座ることになった。 「僕は地元の村の出なんですが」 思いのほか、荒々しげな見た目とは裏腹に、丁寧な口調でダンは喋り出した。運転中とはいえ、重苦しい静寂に耐えられなくなったらしい。 「どうもそっちでも、起きてるみたいなんですよ、失踪事件」 「本当なんですか」 それまで黙りっきりだったネズミの男、ジェイが、淡々と訊いた。別段驚くでもなく、寒い車内の温度に合わせたような冷やかさだった。仕事をし始めて半年間、ここに来て躓くまで彼と世界を巡ったが、未だに彼の感情の起伏は捉えられていない。 「えーと、報告では、確かに4件の失踪事件が、マクファーレンさんのご出身の村で確認されてます��、種はいずれもバラバラですが」 そそっかしいラエンの女性、ライラと名乗ったか、が手元の携帯モニタを叩いて読み上げた。ダン・マクファーレンと同じく、ここに着いた際に中央都市の空駅で出会ったばかりで、なおかつ、私とジェイの終盤を迎えた調査が躓くことになった原因だった。 いや、原因というのはよそう。別に彼女が引き起こした事態ではないのだから。 私たちはこの地に到着した瞬間に、すでに躓いていたのだ。
私とジェイ・マウゼリンクスが実地調査を始めたのは半年前、そのきっかけになった、彼の調査に同行したのが1年程前だったか。赤道地帯の高地で発見された膨大な壁画、そしてそれを覆い隠していた巨大な洞窟は、数万年前に明らかな、我々知的生物による文明が存在した最古の証拠となり得るものだった。当時一介の動物文化学者だった私に、その研究の最前線に入って欲しいと言うオファーが来たのは、ジェイの横やりあってこそだと聞く。途中から研究に無理やり入り込んだジェイを疎む者はいたものの、全知的動物の大系統を、分子を用いて提示し、世界的に注目されている彼には、表立って反意を示すことができなかったようだ。無理やり私を暑い洞窟へ連れ出した彼は、これまでの古代文化とも違う、独特な意匠の壁画と、その物語る意味を教えてくれた。 それはカタログ、と言ってもいいものだった。中央に描かれた、楕円形の物体の中から、様々な種の、知的生物が出てきて、一様に並ぶ光景。そこには何万もの「立った絵」があったが、1色で描かれていながら、それぞれの絵はディテールが異なり、明確に別種と認識できた。赤道付近と言っても、安定陸塊上、そう、オセアニア大陸に位置する以上、ゾウやウマといった旧大陸を出自とする種は、ここには載っていないはずだった。だけれど、私の種だけではない。たぶん、あらゆる現生の知的生物が、この「カタログ」に載せられているのだろう。 分子生物学者のジェイは、恐らく人類のルーツを明確にしようとしているに違いなかった。そこで私に、手伝ってくれるように要請した。 誰もが気づかないふりをする。 感情の起伏に乏しいジェイが、この話をする時は苦々しい顔を必ず浮かべる。我々知的生物、つまり動物は、単一の系統である微生物として誕生し、無脊椎動物、魚類を経て、爬虫類となり、そこからそれぞれ鳥類と哺乳類が分かれた。これが、どんなにプロセスに疑問を抱こうと、この地球の教育機関で、幼獣ですら習っている仮説だ。 しかしこの仮説には矛盾が生じている。我々は進化の過程で、知能が発達したが、知能が発達するのが先だったのか、それとも様々な種��分化するのが先だったのか、という問題だ。知能が発達するのが先なら、例えば知能を退化させた種や、相応の歴史を示す物が残っていてもおかしくないが、実際はそんな種や事物は残っていないし、現在昆虫や魚類で示されているような、進化に至る原理、突然変異や、特に自然選択が、知能を持つと生じにくくなるのではないか、という仮説もある。一方で、様々な種に分化するのが先で、その後知能が発達したという仮説なら、上記の問題はクリアするが、いくら収斂進化という、似た生態的地位の生物に似た形質が出るという仮説があるとはいえ、そのような斉一的な知的生物化が起こり得るだろうか、という疑問が浮かぶ。そもそも、様々な種に分化しているのなら、我々には様々な、枝の途中となり得る、祖先種が数多見つかるはずだ。しかし、現状そんなものは一切見つかっていない。化石記録は魚類まで、それも現生の無脊椎動物や魚類とはかけ離れた姿で、我々の現在の姿を支持しない。 このジェイの主張に私は魅せられたのだろう。彼に伴って様々な古い遺跡をフィールドワークした。そうして、場所を絞り込んでいくうちに、文明誕生の起源となる候補が、この、新大陸の北極圏内にある、大きな台地で見つかった遺跡だと突き止めた。 残すは実地調査、既にキャンプ地が作られ、行われるはずだった大規模な調査に参加させて貰えることになり、北極へ向かう途上は、一睡もできないほどだった。しかし、いつまで経っても迎えの車両が来ない。どうもおかしいと思って、上空から気象観測用の無人機で見て貰ったところ、キャンプ地に誰の気配もない、ということが判明した。地元の警官隊に待機を命じられた私たちは、警官隊所属でこの地域を管轄していると名乗るライラと、この辺の地理に詳しく、仕事柄車両の扱いにも慣れているらしいダンと共に、キャンプへ向かうことになったのだった。
洞窟の中は、明るかった。発電機が稼働したままになっていたせいか、洞窟の壁に設置されたライトが空間を照らし出し、携帯ライトを持たずとも奥深くまでの道は見えていた。ずっと昔読んだ恐怖小説と違って、静寂こそあれど、何十人ものスタッフが失踪したような、不気味な雰囲気は感じさせなかった。 先を行くジェイを呼んで、私より二回りは小さな彼の様子を聞く。 「キュクロプスさん、この先は若干狭いがあなたでも入れないわけではなさそうだ。ただ灯りがもう設置されていない。誰かライトを貸して欲しい」 そんな声が狭い道の前、ダンやライラの前から聞こえてくる。私は持っていた携帯ライト、ジェイには若干大きいかもしれないが、をダン、ライラに渡し、ジェイに渡すように促した。 「この奥は広い空間だ」 「慎重に進んでくださいね」 ライラが呼びかける。裂け目が出来て落ちていたりしたら大変だろう。 ライラに続いてダンが、そして私が狭い穴をくぐる。真っ暗であまり見えないが。空間が広いのは声の響き具合でわかる。 「これは、特に岩の裂け目とかはないみたいだ」 慎重に前進して、ジェイから渡された携帯ライトで周囲を見渡したダンが、何かに気づいた。 「なんだ、あれ」 真正面の、ライトで灯された場所を見る。明らかに場違いな物が、岩に貼りついていた。 「扉、ですね」 ライラが立ちすくんだまま不安げに言う。 鎮座している金属製の、明らかに現代的な円い扉は、私でも余裕で通れるぐらいには大きい。左側には、取手のような金属製の棒も繋がっている。 狼狽しているのか、先にこの空間に入ったジェイは、扉を見て何か考え込んでいるように見えた。そんな彼の横を通って、ダンがおもむろに取手に手をかける。 少しだけ、空気の吸い込まれる音がして、扉が開いた。 考え込むのをやめたらしいジェイが、吸い込まれるように扉の奥に入っていく。 「マウゼリンクスさん!」 ライラは止めに入ろうとしたのか、後を追った。私もそれに続く。 後ろから足音が聞こえる。ダンも来ているようだ。 扉の奥は、少し上向きの傾斜のある、通路だった。4名分の足音、金属音が響く。それ以外は、ジェイの今持っている携帯ライトが頼りだった。 こんなところに近代的な人工物があったなんて、何かの軍事基地とかだと、非常に私たちはまずいことをしているわけだが、なんでこんな洞窟の奥深くにあるのか、見当もつかない。 好奇心はとうに消え失せ、徐々に後悔と不安と恐怖が胸の奥を占めつつあった。そんな時、ジェイが立ち止まった。 「行き止まり?」 最後尾のダンが聞いた。ジェイは短く、いや、とだけ答え、目の前の壁、いや、長方形の扉だろうか、に設置された黒いパネルに、手をかざした。 扉が開くのと、視界が明るくなるのは同時だった。しばらく薄明りや闇の中で過ごしてきたせいか、目が痛い。なんとか視界を取り戻すと、通路と思しき、私たちが辿ってきた空間が明るく、ライトのようなもので照らされているのが見えた。扉の向こうは、少し落ち着いた明るさのようだ。ライラやジェイに続いて扉をくぐる。 そこは、一面緑色の森だった。
唖然としていた私たちに、ジェイが呼びかけた。 「立体映像だ、本物の森じゃない」 各々が、凄まじい密度で生えている草木を触ろうとするが、すり抜けてしまう。どうやら本当に、偽物らしい。 「こんな植物見たことない。地球上でこんなの発見されてたっけ、それに日差しも」 「青い空だな」 上を見上げてジェイが言った。空と言えば、エアロプランクトンが漂っているため、地上からは緑色に見える、日差しもこんなに明るくはないはずだった。 「これが故郷の景色か」 そうジェイが呟く。 「その通りです、ここが本来の地球の景色です」 今までの穏やかな口調のまま、ダンが言い出した。 「マクファーレンさん?」 何を言い出すのか、と思い、私は振り向く。ライラも遅れて振り向いた。怯えているのか、その顔は強張っている。 「ようこそ、汎用生態系生産プラント、���オファウナへ、私はこちらのオペレ��ションを行っているメインシステム、チャーリーと呼ばれています」 ダンは全員の方を向くと、恭しく礼をした。 「皆さんがご覧になっている映像は、本来の地球、東南アジアのカリマンタン島付近の熱帯雨林を再現したものです。本来の地球で最も多様性が保たれていた個所と言われています」 淡々と話すダンにはどこまでも表情が無かった。まるで愛想笑いを無理やり貼り付けたかのように、いや、人形や標本の魚のように、虚ろな笑みを浮かべたまま語り続けている。 「マクファーレンさん、どうしちゃったの?」 「私が現在操作しております個体は、身体の一部に改造を受け、なおかつ日ごろから電磁ネットワークに接続状態にありました。そこで、アバターを実体化させるよりも低電力で済むとみなし、デバイスとして使用するに至った次第です」 「俺をここに呼び寄せた理由はなんだ」 ジェイが、これまで聞いたことのない、敵意の籠った声で言った。赤い目が射止めるように、ダンを見つめている。しかしダンは答えなかった。 「ジェイをここに呼んだ理由は?」 今まで黙っていたライラが今度は言った。さっきまで怯えていたとは思えない、鋭い声だった。 「私は当該個体、あなたがジェイと呼ぶ個体を通して、ユーザーの設定した開始コードの発現タイミングを計算していました」 もはや私には何がなんだかわからなかった。洞窟の中の見知らぬ施設、見覚えのない緑、そして態度の一変した同好者たち。立っているのがやっとだった。 「一から説明してくれ、彼らがここに呼ばれた理由を」 ライラが続けた。ダンは薄笑いを浮かべ、苦虫を嚙み潰したような顔でジェイがそれをにらんでいる。 「始生暦時代に入って、人類の文明は大きく進歩し、大規模な星間文明を築くに当たりました。その過程で、本来の地球は大きく生態系を衰退させ、私が稼働を始めた段階では、乱開発防止のために所在不明とされていました。その代わり、多くの惑星が植民化され、人類は星間文明を自らの故郷とするに至りました。しかし、本来の故郷である地球への憧憬が無くなったわけではありません。数多の星々をテラフォーミングする過程で、人類はそのノウハウを蓄積させ、より高効率に、より速やかに他の惑星を地球化することを実現したのです」 「そして、故郷への憧憬は、私が制作されたネオファウナ計画に繋がりました。星間文明で用いられていた、地球由来の生物の遺伝情報を基に新たな労働力、知的生物を作り出す技術と、先に述べたテラフォーミング技術が結びつき、新たな地球を生み出すという計画へシフトしたのです」 「手順はまず、簡易な条件での地球化から始まります。条件に見合った惑星に、こちらのプラントで遺伝情報を改変し作製した大気性プランクトンなどを放ち、大気構成を地球により近いものとします。その後、水生��ランクトンやごく微小な生物、水生生物、陸生植物、小型陸生動物といった順に作製し、放流します。生態系がそれぞれ安定してきた段階で次フェーズに移行し、最終的に大型動物を除いた不完全な生態系ができます」 「その後、大型動物をヒト型知的生物として作製し、惑星上に解き放ちます。初期はある程度の調整が必要ですが、徐々に文明化が進むと、自然と個体数も増えていくことでしょう。 ユーザーであるホモサピエンスに形態的に近いグループが作製されたのは、文化基準をかつてのユーザーの文明に合わせ、個体数増加を促すためです」 「ラエンのことだよ」 静かにライラが呟いた。 「私が開始コードを発現しようとしているのは、更にその次のフェーズです。当該個体を作製した私は、接続可能な別個体を使って、当該個体を外に出し、その脳を通して現在の惑星の状態を観察していました。もちろん、当該個体には脳神経の加速化措置と、私に情報を送るためのリソースも設置済みです。24年6か月を観察したことで、私は開始コードの発現を行うのに十分な時間が経過したと認識しました」 「それが、俺が作られた理由か」 相変わらずダン、否、チャーリーを睨んだまま、ジェイが吐き捨てた。 「開始コードの発現後はどうなる、先住種族と同じように、彼らを消去するのか」 「いいえ、開始コードの発現後は、現在作製している神経加速化の遮断、脳内の感覚抑制の解放、ボトルネック防止に用いられていた多系統繁殖用遺伝領域の切除、そして次代における原種形態への移行、これらを促すウィルス群を散布します。現在、その準備段階として、複数個��にこれらの措置が可能かどうかを試験しています」 「どういうこと?何が起きるの?」 何を言っているのか、門外漢の私にはわからない。だけれど何か恐ろしいことを言っている気がして、口走る。 「俺たち知的生物は知能を失い、動物に戻る。感覚も戻り、少子化対策に用いられかけてた遺伝領域はもぎとられ、子孫は四つ足の獣に、ってことだ。失踪事件は、その準備として、試験的にウィルスをばらまいたってことだ」 ダンは何も言わなかったが、ジェイが代わりに答えた。 「私に記録されている地球生命の情報は膨大ですが、基礎さえ完成すればあとは難しくありません。残りは生態系が安定するに従って、徐々に作製し定着させていく予定です。早ければ数十年で、この星は第2の地球となります。私やユーザーの願った地球の復活が遂に為されるのです」 ダンは両手を広げてまるで演説でもするかのように宣言した。私にはこれが夢の中の出来事のようでならなかった。 「当該個体と、そうですね、こちらの個体は私の本体にフィードバックすることにしましょう。現状のサンプルでは効率的なウィルスの散布が行えないので」 そう言うとダンの体は何も映っていない瞳で私の方を見た。ここが北極であることを思い出したかのような寒気が走る。先んじて捕まえられたジェイがもがいている。私も腕を強い力で引っ張られて、森の奥まで連れていかれそうになる。 「AIの癖によく喋るなお前は。中に誰かいるだろ、飛びっきりのイカれた奴が」 突然、腕が離れた。同時にジェイの咳き込む声がする。 見ると、大柄なクマを取り押さえているラエンの女性の姿があった。非現実的な光景に何が起こったのかわからなくなる。 「チャーリーだったか、以前遺跡を回って、似たような壊れた施設を見た時にあんたの名前を確認したよ。設置予定の生体プラント兼液体コンピュータの素体になるって時点でやばいと思ったが、こちとら先住種族を駆逐されんのも、せっかく根付いた知性を踏み台に懐古主義に走られるのもごめんでね、悪いが稼働停止してもらう」 出会った時の態度はどこへ行ったのか、荒々しい口調で告げると、周囲に火花が散った。 途端に、立体映像の森が消え失せ、通路と同じ無機質な灰色の部屋に変わる。 「案の定、システムはニューロン式を使ってたか。悪いけれど私はラエンじゃないし、体はあんたの言うホモサピエンスでも、宿っている意識は年季の入った量子の寄生虫なんだ。量子脳に関してはこっちの方が上手なんだよ。3億年かけて辿り着いた、被食者と捕食者が共にいられる楽園、そう簡単に潰されてたまるか」 「私の活動が停止すれば、今後エアロプランクトンが作製されることもなくなりますよ」 苦しげでもない、さっきと同じ淡々とした口調でダンの体が言う。 「エアロプランクトンも継代を重ねて、あんたの供給なしに殖えるようになってるんだよ。この世界は変わっていくさ。でもそれは地球と違う、大型動物相の代わりに知的生物が優占し、交雑を重ね、多様化と均質化を入り混じらせる世界としてだ。本来の地球生命が今も変化を続け、この星だって変化の最中にあるのに、時を戻して止めようとした時点で、あんたは詰んでたのさ。わかったらとっとと凍りな、あんたの望んだ永遠の停滞だ」 轟音が響き渡った。床が震える。部屋のライトが点滅して、消える。真っ暗になった部屋が振動を続ける。盛大に転倒した私は、解放され糸が切れたように崩れ落ちたダンと、同じく転げまわるジェイをなんとか抱きしめる。 「私はこいつのやらかした後始末に行ってくるから、またどこかでね」 覚えているのは、そこまでだった。
台地で起こったことは、巨大な雪崩によってキャンプ地と、内部の空洞が崩壊した、というニュースで片付けられた。私は他の2人と共に病室に缶詰になり、あれこれと話し合った。ダンは荒っぽいが人懐こい性格で、私のことは全く知らないが、幼い頃に父親が連れてきて兄弟のように育ったらしいジェイのことはよく覚えていた。ジェイは遺跡巡りと、ダンがジェイを覚えていないことで���づいていたらしい。 キャンプ地で失踪したスタッフと、近隣の村から失踪した住民が保護されたのは、私たちが洞窟の入り口で倒れていたところを発見された翌日だった。ちょうど反対側の海岸で見つかったらしいが、不思議なことに皆が一様に「吹雪が酷くなったのでビバークした」という記憶しか覚えていなかった。1本だけ、空の注射器が置いてあったそうだ。 ライラの行方は分からない。そもそも、地元の警官隊にはそんなメンバーどころかラエン自体がいなかったのだ。 「これからどうするんですか」 ダンは寝ている。病室の窓から空を見ているジェイが、どうしても気になった。 生きる目的を失ったのではないかと、思ったからだ。 「枷が外れた気分だ、清々しましたよ」 いつもと同じ、だけれど少し晴れやかな声色で彼が返した。 「なに、資料は集まってますから、最後の仕上げだけできなかったってことで」 彼らしくない、楽観的な言葉だった。彼も、吹っ切れたのかもしれない。 「あの場にいた誰もが、あの場所に関係している者だった、あなたを除いて」 「そうですね、傍観者として、大事たと思われたのかもしれません」 「チャーリーが言ってましたね、星間文明がどうとか」 「言ってましたね、多種族からなる星間文明とか、地球由来の遺伝情報で人類の伴侶を作り出すとか、あれ」 「そんなこと、言ってましたっけ」 記憶と知識の食い違いに、戸惑う。すらすらと出てきた言葉は、私の理解を大幅に超えていたはずだった。 「磁気映像で撮影した、あなたの脳のカルテを見せてもらいました。先天的な改変の痕跡が見つかったようです」 「私には、そんな自覚は」 「無いんでしょうね。誰かが、どこか遠くからあなたの脳を介して、この星を見ている」 私と同じですね、と彼は言った。彼が言っている間に、まるで目の奥の濁りが取れるみたいに、目の前は鮮やかになっていった。 目の前に広がるのは、白い空。 でもその向こうに広がるのは、プランクトンに覆われた碧色の空。 脳裏に浮かぶのは、あの時見た青い空。 「モッティさん」 白い空をバックに、白い毛並みの彼が振り向く。その顔には、見たことのない表情が浮かんでいる。 「この世界って、綺麗ですね
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
アイウエオカキクケコガギグゲゴサシスセソザジズゼゾタチツテトダ ヂ ヅ デ ドナニヌネノハヒフヘホバ ビ ブ ベ ボパ ピ プ ペ ポマミムメモヤユヨrラリルレロワヰヱヲあいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを日一国会人年大十二本中長出三同時政事自行社見月分議後前民生連五発間対上部東者党地合市業内相方四定今回新場金員九入選立開手米力学問高代明実円関決子動京全目表戦経通外最言氏現理調体化田当八六約主題下首意法不来作性的要用制治度務強気小七成期公持野協取都和統以機平総加山思家話世受区領多県続進正安設保改数記院女初北午指権心界支第産結百派点教報済書府活原先共得解名交資予川向際査勝面委告軍文反元重近千考判認画海参売利組知案道信策集在件団別物側任引使求所次水半品昨論計死官増係感特情投示変打男基私各始島直両朝革価式確村提運終挙果西勢減台広容必応演電歳住争談能無再位置企真流格有疑口過局少放税検藤町常校料沢裁状工建語球営空職証土与急止送援供可役構木割聞身費付施切由説転食比難防補車優夫研収断井何南石足違消境神番規術護展態導鮮備宅害配副算視条幹独警宮究育席輸訪楽起万着乗店述残想線率病農州武声質念待試族象銀域助労例衛然早張映限親額監環験追審商葉義伝働形景落欧担好退準賞訴辺造英被株頭技低毎医復仕去姿味負閣韓渡失移差衆個門写評課末守若脳極種美岡影命含福蔵量望松非撃佐核観察整段横融型白深字答夜製票況音申様財港識注呼渉達良響阪帰針専推谷古候史天階程満敗管値歌買突兵接請器士光討路悪科攻崎督授催細効図週積丸他及湾録処省旧室憲太橋歩離岸客風紙激否周師摘材登系批郎母易健黒火戸速存花春飛殺央券赤号単盟座青破編捜竹除完降超責並療従右修捕隊危採織森競拡故館振給屋介読弁根色友苦就迎走販園具左異歴辞将秋因献厳馬愛幅休維富浜父遺彼般未塁貿講邦舞���装諸夏素亡劇河遣航抗冷模雄適婦鉄��益込顔緊類児余禁印逆王返標換久短油妻暴輪占宣背昭廃植熱宿薬伊江清習険頼僚覚吉盛船倍均億途圧芸許皇臨踏駅署抜壊債便伸留罪停興爆陸玉源儀波創障継筋狙帯延羽努固闘精則葬乱避普散司康測豊洋静善逮婚厚喜齢囲卒迫略承浮惑崩順紀聴脱旅絶級幸岩練押軽倒了庁博城患締等救執層版老令角絡損房募曲撤裏払削密庭徒措仏績築貨志混載昇池陣我勤為血遅抑幕居染温雑招奈季困星傷永択秀著徴誌庫弾償刊像功拠香欠更秘拒刑坂刻底賛塚致抱繰服犯尾描布恐寺鈴盤息宇項喪伴遠養懸戻街巨震願絵希越契掲躍棄欲痛触邸依籍汚縮還枚属笑互複慮郵束仲栄札枠似夕恵板列露沖探逃借緩節需骨射傾届曜遊迷夢巻購揮君燃充雨閉緒跡包駐貢鹿弱却端賃折紹獲郡併草徹飲貴埼衝焦奪雇災浦暮替析預焼簡譲称肉納樹挑章臓律誘紛貸至宗促慎控贈智握照宙酒俊銭薄堂渋群銃悲秒操携奥診詰託晴撮誕侵括掛謝双孝刺到駆寝透津壁稲仮暗裂敏鳥純是飯排裕堅訳盗芝綱吸典賀扱顧弘看訟戒祉誉歓勉奏勧騒翌陽閥甲快縄片郷敬揺免既薦隣悩華泉御範隠冬徳皮哲漁杉里釈己荒貯硬妥威豪熊歯滞微隆埋症暫忠倉昼茶彦肝柱喚沿妙唱祭袋阿索誠忘襲雪筆吹訓懇浴俳童宝柄驚麻封胸娘砂李塩浩誤剤瀬趣陥斎貫仙慰賢序弟旬腕兼聖旨即洗柳舎偽較覇兆床畑慣詳毛緑尊抵脅祝礼窓柔茂犠旗距雅飾網竜詩昔繁殿濃翼牛茨潟敵魅嫌魚斉液貧敷擁衣肩圏零酸兄罰怒滅泳礎腐祖幼脚菱荷潮梅泊尽杯僕桜滑孤黄煕炎賠句寿鋼頑甘臣鎖彩摩浅励掃雲掘縦輝蓄軸巡疲稼瞬捨皆砲軟噴沈誇祥牲秩帝宏唆鳴阻泰賄撲凍堀腹菊絞乳煙縁唯膨矢耐恋塾漏紅���猛芳懲郊剣腰炭踊幌彰棋丁冊恒眠揚冒之勇曽械倫陳憶怖犬菜耳潜珍
“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 𓀯 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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【江田三郎・「開かれた政権こそ」 より抜粋】
〝ロッキードで揺れる自民党は、国会の終盤、与党として法案成立に全力投球しなければならぬ局面で、推名副総裁を仕掛人とする三木引きずりおろし工作を鳴物入りで繰りひろげ、国民を唖然とさせた。
連日マスコミをにぎわす長老や実力者と称せられる諸公の言動は、国民不在の密室での談合を、政治家の本領とでも考えているように見受けられ、これが保守本流政治家の体質だと、あらためて考えさせられた。
争いは目下のところ「三木のねばり勝ち」と言われているが、勝ったのは三木首相ではなく、「ロッキードかくし」を許さぬ国民世論であろう。日本の民主主義健在が強く感ぜられる。
「ロッキード」がおきなくとも、保守本流政権の命脈はつきんとしていた。
戦後三十年、政・財・官の三位一体に、右翼や政商までからんだこの政権は、ひたむきに走りつづけた高度成長路線が壁につきあたり、低成長必至となったにもかかわらず、状況の変化に対応した切りかえができない。
危機や転換を口にしても、からだがついていかないのだ。膨大な赤字国債による景気刺激政策は、相変��ず大企業中心の大型プロジェクトである。
昨年、衆議院を全会一致で通過した独禁法は、簡単に棚上げされた。
福祉は後退し、地方財政は矛盾のシワよせで身動きができない。
旧来の路線からの転換は、所詮自民党ではできないことである。
終幕の迫っているところへ、「ロッキード」の痛撃をくらい、まさにとどめを刺されようとしている。
議会制民主主義のよさは、この場合、野党が代って政権につくことにある。
だが、国民のなかから、その声が盛り上ってこない。
世論調査によれば、「支持政党なし」だけがふえつづけ、国民の三分の一以上に達してしまった。
議会制民主主義の形骸化であり、危機である。「椎名工作」に対する世論の反発は、わが国の民主主義が根なし草でないことを物語っている。
にもかかわらず、こうした危機症状があらわれる直接の責任は、まさに政党にある。
それも与党だけではなく、野党ともども、われわれ政治家の責任と言わなければならない。
野党は明日の日本のための整合性と現実性のある政策体系を明示しないでいるだけでなく、強力な共闘も組めない。
代って野党政権をという声がかからないのは、当然のことといわなければならない。
価値観の多様化したこの時代に、野党が複数になっていること自体は、間違いとは言えないと私は思う。
むしろ自民党が一つであることの方が正常でないといえるだろう。
自民党は、さまざまの考え方をもつ流れが、ただ政権という一点において寄りあった「政権株式会社」と言える。
野党の側の基本的問題点は、分れていること自体よりも、いずれの党派もが、時代おくれのイデオロギーにとらわれて有効な共闘をくめないでいることにある。
もちろん、政党はつねに、広い意味でのイデオロギーを持つ。
それが運動の統合を可能にし、大衆的な広がりと力を与えてくれる。
しかし、このイデオロギーが教条化されると、外に排他性と独善がどぎつくなり、内部は「民主集中制」と称する集権と統制の論理で貫かれ、少数意見の抹殺、幹部独裁になる。〟
全文はここから。
この人は、最終的にその〝少数意見の抹殺〟と〝幹部独裁〟のせいで党から除名される事になった。
今の状況を見ても、有効な共闘なんて望むべくもない。そもそも改善の兆しもない。
しかも今、党内で代表を待望されてる立憲の御仁は、現状でもっとも最悪の候補。結局、与野党問わず、国民の声を聞く気なんてこれっぽっちもないのだ。
国会の対立なんて、ただの茶番劇と批判されるのも無理もないしょうもなさ。
最近は、「重大な局面の時に、野党内にいる隠れ与党側の人間が、タイミングよく連携を妨害して台無しにしている」というような話はデマじゃなく、高い信憑性のある話としか思えなくなっている。
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能登半島地震では、原発防災の限界が鮮明になった。道路や建物の損壊が激しく、避難や屋内退避をしようにも無理があると突きつけられた。現実逃避するのが、原子力規制委員会。住民防護の基本方針を記す「原子力災害対策指針」を巡り、山中伸介委員長は「見直しを考えず」と述べた。これでは汚染が拡散した際、住民らが被ばくしかねない。思考停止を正す術(すべ)を探った。(西田直晃、安藤恭子) ◆「原発を動かすべきではない」要請書 北陸電力の志賀原発。右奥は志賀町=1月19日 「地震と原発事故が複合すれば、お手上げの状態になるのは明らか。どうして指針を見直さないのか」 「北陸電力と共に脱原発をすすめる株主の会」の中垣たか子さん(73)=金沢市=は憤りを隠さない。今回の惨状を考慮すれば原子力災害対策指針が定める屋内退避や避難は困難とし、1月末に原子力規制委員会宛てに「各地の原発を動かすべきではない」と求める要請書を提出した。 中垣さんが問題視する指針は、原子力規制委が原子力災害対策特別措置法に基づいて策定する。事故の際に住民を防護するため、各自治体がつくる防災計画のよりどころになる。 ◆陸海空の避難路は途絶、屋内避難も難しく 地震発生から1カ月近く経っても残る道路のひび割れ=1月29日、石川県穴水町で 指針によれば、原発に異変が生じた際には原則、原発5キロ圏の住民は避難となる一方、その外側は屋内退避でしのぎ、空間線量が一定水準に達したら避難に移行すると定める。 ただ今回の被災地では道路網が寸断され、地盤の隆起や地割れで海路や空路も断たれた。建物の被害も著しく、石川県によると、5日時点の判明分で5万2000棟余りの住宅が損壊した。 ◆「指針そのものの話ではない」と微修正どまり 避難や屋内退避をしようにも無理がある現実。中垣さんは「能登半島地震を自然の警告と受け止める契機にするべきだ」と訴える。 ところが、原子力規制委の山中伸介委員長は1月31日の会見で「原子力災害対策指針そのものを見直さない��いけないとは考えていない」と語り、微修正に���どめる考えを表明した。 一体、なぜなのか。 原子力災害対策指針の見直しについて説明する原子力規制委員会の山中伸介委員長=1月17日 山中氏は1月17日の会見で「能登半島地震の状況を踏まえると、現在の原災指針で対応が不十分であったかというと、それはそうではない」と持論を展開。同31日の会見では「自然災害に対する防災については見直さなければいけないところはあろうかと思いますが、原災指針そのものの話ではない」と述べた。 ◆見直せば原発を動かせなくなるからでは 「自然災害による被害は守備範囲外」と言わんばかりだが、指針が今のままだと何が起こりうるのか。 ジャーナリストの政野淳子氏は「原発事故が発生しても現地は対応しようがない。道路が寸断されれば逃げられないし、家屋が倒壊すればそのまま被ばくしてしまう」と危機感を募らせる。それでも国が指針を見直さない点について「本気で見直せば、各自治体は実現可能な防災計画をつくれず、原発を動かせなくなるからでは」とみる。 不可解さは他にもある。 山中委員長は微修正のポイントに「屋内退避の開始時期・期間」を挙げたが、この見直しを検討するのは、東北電力女川原発(宮城県)の周辺自治体から要望があったためだという。だが、山中氏は会見で「他の自治体など関係者の意見を聞くことはあるか」と質問されても「まずは規制委の中で議論して進め方を考える」との回答。自治体との意見交換を二の次にする姿勢が浮き彫りになった。 ◆現実的な対策を求める首長の声も 政野氏は「規制委は運用の改善レベルで体裁を繕おうとしている。被災地の現状があまりにも無視され、これほど、ばかばかしい話はない」と語気を強めた。 原発の再稼働に慎重姿勢を示す稲岡健太郎町長=2月2日 物議を醸す原子力災害対策指針。その軸となる住民避難や屋内退避を巡り、自治体からは今回の地震後、現実に即した見直しが必要とする声が出始めている。 北陸電力志賀原発が立地する石川県志賀町の稲岡健太郎町長は本紙の取材に、県などによる避難訓練に言及。「海にも空にも逃げられない」と述べた。 東京電力柏崎刈羽原発を抱える新潟県の花角英世知事も1月24日の会見で家屋の倒壊を踏まえ、「物理的に屋内退避できない」と発言。「現実的な避難」に向けた議論を求めた。 ◆国への追従姿勢が目立つ石川県 原発被災を研究テーマとする茨城大の蓮井誠一郎教授(国際政治学)は「道路は寸断し、待機する自宅も放射能を防げるだけの気密性はない。今回の地震で安全な避難が成り立たないことが明らかになる中で、立地自治体が地域で得た知見を基に声を上げることは大切だ」と受け止める。 指針の問題を可視化する自治体の声。国を動かす力にもなり得る。より重みを持つのが石川県の対応だ。志賀町同様、被災した原発立地自治体。注目度は高く、影響力も少なくない。 ただ、谷本正憲前知事時代に起きた2011年の東日本大震災以降、国への追従姿勢が目立ち、後手に回った印象が否めない。 「原発有事対応 鈍い石川『国検証待つ』」。11年6月、北陸中日新聞がそう報じた。他の立地府県が災害対応の見直しを始めたのに、県が「国が福島の事故の全容を把握していない」(谷本知事)などとして庁内の部会を開かない状況を問題視した。 ◆空港や港が使えなくなる想定は「極端」と否定 道路をふさいだ倒壊家屋の撤去作業 11年11月には国が防災対策の重点地域を原発の8〜10キロ圏から約30キロ圏に拡大することで合意した。広範な汚染に備えることになった一方、石川県内では能登半島北側にある奥能登の孤立化が懸念された。奥能登の大半は30キロ圏外だが、その内側が通行止めになった場合、陸路が遮断される恐れがあるとされた。 ところが谷本知事は12年2月の会見で、放射能汚染の範囲について「30キロ圏外は危なくない」と自前の解釈を表明。奥能登への物資が途絶えた際の対応は「飛行機、船舶を使い、生活用品を投入すればいい。それだけのインフラを政府が持っている」と唱えた。冬場で天候が荒れ、空港や港が使えなくなるという想定の質問には「極端」として、想定ごと否定していた。 「国任せの甘い見通しだった」。社民県連副代表で内灘町議の清水文雄氏はそう述べる。同町は志賀原発から南に約40キロ。今も余震が起きるたびに原発への不安がよぎる。「道路は寸断、自宅は倒壊、避難所は満杯。今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」 ◆馳知事も安全対策の働きかけは乏しく 馳知事(右から2人目)から要望書を受け取った岸田首相(同3人目)=1月14日、石川県庁で 22年の石川県知事選で初当選した馳浩氏も今のところ、原発の安全対策への言及は乏しい。県危機対策課の担当者は「災害対応を優先しており、知事が今後の原発災害や避難のあり方について、国に要請しようという動きにはなっていない」と説明する。 とはいえ先の蓮井氏は「自治体は住民の生命財産を守る窓口」と述べ、代弁者として耳を傾け、国に働きかける重責があると説く。 今は災害対応を優先しても、県が住民から情報を取りまとめ、国や原子力規制委に要望を上げる意思を発信するだけでも「原発への不安を和らげられる」。さらに「大きな犠牲を払って得られた地域の知見を今後の原発防災に生かせるよ��、国も自治体も最大限に努めるべきだ」と訴える。 ◆デスクメモ 前知事の楽観論は理解に苦しむ。石川県政の担当時もそう感じた。懸念された奥能登の孤立は今回顕在化した。前知事の言うように空路や海路は十分に使えたか。7期28年の長期政権。耳の痛い言葉が届いたか。思考停止の代償は住民に及ぶ。現知事の馳氏はそう捉えて行動すべきだ。(榊)
「今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」 それでも災害指針を見直さない、楽観論の背景にあるもの:東京新聞 TOKYO Web
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×××
「ごめん、そこ譲って!」
瑠真とアンドリューが角から転がり出てきた。それでそのとき、望夢とシオンの間にあった緊迫と予期された動きは破壊された。
シオンが距離を取り、英語でなにかアンドリューとやり取りする。アンドリューも言葉少なに返す。にやりと笑ったシオンが再び地形の影へと消えていった。瑠真は体勢を立て直すと同時、激しくアンドリューを狙撃するが、アンドリューは手に持っていたものを裏返した。
地形カードだ。突然周囲が飛び石の水辺になり、滑る。バタバタとパネルが音を立てた。
パネルを見て、目を疑う。いつの間にそれだけの点差がついていたのだ 地形変更はおよそ四度目だったが、ゴースト撃破数の桁が文字通り変わっていた。
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「望夢、あいつカード狙いで動いてタイミング見て切って、ずっとこっちの邪魔狙い」
すれ違いざまに瑠真が囁いた。
「ムカつくから本人トバそうとしてるんだけど、その間に雑魚ばっかり撃って稼いでる」
「……バトンタッチ」
「うん」
ペアと視線が交錯する。
「私じゃジリ貧になる。音楽の解除はもうできる」
「ああ」
一度目で解析は済んだ。曲が変わっても上辺が影響されるだけだ。根本の解除方法は変わらない。最初の分担に戻ったほうがいい。瑠真がいくら相手の音楽戦法の乗りこなしを覚えてもそれは相手のフィールドで踊っているだけだ。
フィールド││物理的なフィールドカードも同時に思い出す。キングという苗字が似合いだ。音楽と地形を支配する青年。
瑠真の言葉を改めて思う。
フィールドカードを使うのは、本当に「こっちの邪魔」││撹乱のためか 彼は周囲に音楽を聞かせたいのだとシオンは言っていた。音楽と重ねて、全く別個の攪乱を行う意味とは
望夢は離れていく瑠真の背中に、インカムを構えて語り掛けた。
「瑠真、できるだけ長引かせて」
「了解」
特にためらいのない返事。言葉を交わすのと同時、それぞれが、今来たのと反対側に飛び出した。瑠真はシオンへ、望夢はアンドリューへ。
アンドリューが狙うゴーストを、彼の発砲と同時に撃った。アンドリューが振り向く。こちらに注目が向く。
まずはアンドリューを継続的に狙った。青年は小刻みにこちらの照準を避けながら移動を始めるが、撃ち返してはこない。
望夢は気合を入れ直した。戦術解析なら得意分野。��ーザーガンもペタル式のため、望夢の干渉操作系能力の範囲内だ。
会場全体のペタル銃へ、そして周りのすべての状況に感覚を巡らす。自分自身の動きも感知のコントロール下に置くことで、照準を繊細に調整していく。
「……ああ、やっぱり狙ってるな。こいつでどうだ」
そして、少し遠くにいたゴーストを二体ほど、連続して撃ち抜いた。
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協会側のスコアパネルがパタパタ言う。アンドリューがまとめて点数を入れるときよりは、よほど控えめな数だ。
なのに、アンドリューは先ほどより露骨に嫌な顔をした。自分が狙われたときより反応が大きい。こちらが彼のゴースト狩りの邪魔をしていると気づいたのだろう。
「いい反応」
にやりとして銃を構え直す。
「もうちょっと、その顔見せてくれ」
仮説更新。奴はプレイヤーを狙わない代わりに、ゴースト狩りをできるだけ意味あるものにする方策を練っている。では、その方策とは ゴーストは地形に紐づいたものだ。望夢は今度は地形を形成するペタルを探る。
正直集中対象が多すぎて、地形のような広い範囲を対象にすると何がなんだか判断できない。だが、だからこそ浮かび上がってきたものがあった。
地形に影響されない地点が会場内にいくつかある。
その正体はすぐにわかる。カードの配置だ。
カード台の周りはペタル流が止まっているのだ。理由は単純。物理的な感触を『ペタルで形作っている』各地系とは異なって、カードとカード台は実際に物理だ。であれば、それが完全に見えなくなるような地形セットは発生しない。どんな地形の変動が起こっても、そこだけペタルの地形には覆われない形になる。
アンドリューは音楽とゴースト、そしてカードを使って、何をしたいのだ
彼が向かっている先を見極める。カード台はその先にあるか 向かうならこれだろうという方向の台には当たりがつくが、アンドリューは真っ直ぐそこに向かっているわけではない。周囲のゴーストを狩りながら、不規則に回り道している。
「……、」
不規則だろうか。──実は法則性があるのではないか。
移動しながら望夢は途中でアンドリューを追うのを辞め、横道に飛び込んだ。その先には別のカード台がある。それを取って切ろうとしたとき、「ヘイボーイ」シオンの声が響いた。
思わず首をすくめた望夢の頭の傍を通って、レーザー光が岩の形をした壁に当たる。
「うわっ」
思わず身を隠す。近くをシオンと瑠真がそれぞれ走り去っていった。巻き添えを食らうところだった。通りすがりに見つけてこちらの邪魔をしたのだろう。
その間にアンドリューが別のカード台に辿り着いたらしい。バタバタバタと、また点数パネルが捲れた。今度は火山口のような、殺風景な凹凸地形が開けた。
そろそろ気がついていた。
アンドリューが地形を組み替えるごとに、動く点数が大きくなっていく。
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地形自体には元々、フレーバー程度の要素し��ないはずだ。なのにこれだけ点数が変わるのは明らかに設計ミスではないか。あくまで地形による凹凸で、無理な位置になるエネミーの発生キャンセル分だけのはずだ。
エネミー発生キャンセル──望夢は横切っていくゴーストを睨みつけた。
「よう、お前、消えたら何秒後に再生するんだっけ」
撃つ。
しばらく何も起きなかった。
また瑠真とシオンが横切るのを危惧する空白のあとに、ぼこり、と同じ位置に煙霧の発生。それが人の形になり、ゴーストになって歩き去っていった。
「四秒……ってとこかな」
あるいは。アンドリューが鳴らす音楽で言うと、八拍程度。
望夢はインカムをつけた。直接の会話の邪魔になるからと仕舞っていたが、これは一応味方との通信に使える。
「瑠真」
『だぁ今集中してるとこなのぉーっ、何』
「俺たちが控室で見るより前から、地形バリエーションって公開されてた」
『はぁ』
瑠真が怪訝な声をあげた。
『当たり前でしょ。あの説明映像、選手には開会前からずっと渡されてるわよ。くじ引きでここになっただけなんだから、当たり前でしょ』
ビンゴ。
角から飛び出してきたアンドリューと目が合った。今はカードは持っていない。再びゴースト狩りのターンだろう。
アンドリューがあえて、撃てるゴーストを見逃すことがあることに、望夢は気がついていた。だから嫌がらせが効くのだ。
「仕掛け合戦なら俺も得意だぜ、バンドマン」
どうせ通じない日本語で煽る。
あとは、正しく盤面を読むだけだ。
×××
幼少期、自分のいた場所にこんな立派な音響設備はなかった。タイラー・ドレイクはしみじみと思う。
タイラーは、一九四八年生まれのありふれた男だった。
実家はスラム。ジョンは路地裏で物心ついた。家賃を払う金がなく、そこにたむろしているホームレスの一員だったのだ。
あるとき暮らしていた街は政府の掃討に遭い、「きれいに」された。当時の福祉施策で金を受け取った。路地裏を追い出され、代わりに立った公営住宅に押し込められたところでタイラーにも家族にも、お仕着せの生活は似合わなかった。
ただ、スラム時代の路上で聞いていた、カセットの音をよく思い出していた。
ある戦争で異能の存在を知った。
悪名高い戦争だった。母国は国際条約を破って侵略し、化学兵器を用い、そのうえで明確な勝利を収めず撤退したというもの。国内でも反対の声が噴出し、平和活動というものが目に見えて動き始めた。
しかしその頃ずっと現地にいたタイラーにとって、それらは実感のない話だ。代わりに覚えているのは、むせかえるような雨の匂い、土の感触、怒号、血の味。
ゲリラ戦が行われていた時期だったのだ。そして民間の力を投入していた当時の敵対国には、まだ存在が表に出ること自体貴重だった、自然開花異能者がいた。
少女だった。
ピンク色のスカーフを腕に巻いて、静かな瞳で彼女はアメリカ兵を殺した。
念動力使いだった。宙に固定された仲間の腕や足がおもちゃのように折られるのを確かにタイラーは見た。彼女の存在は恐慌を生んだ。初期作戦にはいなかった戦力として彼女は投入され、その正体を理解できる者はあまりに少なかったのだ。
ある日、彼女を集中的に排除する作戦行動が取られた。
他のゲリラ兵に何人撃たれても彼女に到達するという目標の下、たくさんの仲間が犠牲になった。少女は三方向からの追撃を受け、ついに念動力での対応をし切れずに斃れた。
「たすけて」
その時、彼女を撃てるのはタイラーと隣の同僚だけだった。
タイラーは彼女を撃てなかった。
代わりに同僚が彼女を撃って終わらせた。
✕✕✕
「ニューヨーク一帯の防音設備がある建物」では広すぎる。翔成は調べ始めてすぐに、考えるまでもなくそのことに思い至った。
『ホムラグループの足の数でもダメなのか』
「正直言いますね おれ、下っ端なのでホムラグループに情報共有したとこで、全体を動かす力はありません」
宝木隼二の純粋な疑問に、翔成は電話越しに白状した。他人事の高校生はそれを聞いて少し笑った。
『でも君のお嬢様のことだろ 動かせる人がいるでしょ』
「いー……そう言われたら一人、おれが頼んだら繋いでくれそうな人が思いつく……」
ホムラグループで莉梨のお目付け役をしている青年を思い浮かべ、翔成はこっそりと溜息をついた。個人的に苦手なのだ。
と、ふいに翔成のSMSの通知が響いた。
「お」
『情報更新』
電話の向こうの宝木の声が弾む。その通り。現場で聞き込みを行っている帆村式の妖術師たちから、思念調査情報が送られてきていたのだ。誘拐時間と場所がわかったらしい。
脅迫状が来るまでの時間を鑑みて、ほぼ間違いなくNYから出てはいない、という推論が述べられていた。目撃情報からして、NY中心を北上していった可能性が高いということだ。
宝木のために読み上げかけて、覚えのある文字列に目が止まる。
「誘拐場所は││あ」
『何だ』
「協会のホテルの、リネン室だ。宝木さん、泊まってますよね」
宝木が通話の向こうで唖然とした。
『なんでホムラグループのお嬢様がうちのホテルで攫われてるんだ 現地に先に来てたって言わなかったっけ うち、何か巻き込まれてる』
「い、いやぁそれが事情が複雑でして」
リネン室、である理由も翔成は薄々察していた。半ばお忍び、半ば以上お遊びでメイド��を来ていた帆村莉梨の姿が思い浮かぶ。何を思ってか今朝もまたメイド服で協会補欠メンバーと合流しようとし、そこで不意を打たれたというわけだ。
ホムラグループの既定の滞在場所であれば彼女の護衛はごまんといたはずだ。知っていた自分もホムラグループ内で怒られるような気がしてきて翔成は天を仰いだ。
「て、力抜けてる場合じゃない」
慌てて連絡を読み返す。莉梨はおそらく意識を奪われた状態で、車で三〇分ほどの距離を北上させられ、どこかに監禁されてから脅迫状に接触した可能性が高いとのことだ。その監禁場所が、先ほど宝木が予測した通りに防音設備のある施設であるなら、探索範囲はホテルから十数km圏内に絞れる。
『まだ足で探すには広いな』
「うん。でも、だいぶマシにはなる。話してみる」
正直聞いてもらえる気はしないながら、翔成は一度、宝木に断って電話を切る。
代わりに繋ぐ対象は、ホムラグループ社員にして妖術師・児子操也。莉梨のことであれば、翔成が個人的に連絡をつけられる範囲で最も力を持っている。
彼もまた莉梨に続いてアメリカにいるはずで、発信番号は国内宛てになった。
『なんだい、小姓くん』
二コールですぐに電話に出た青年の声は、さすがに荒んでいた。彼が傍目にも入れ込んでいるお嬢様に無法者の手出しを許してしまったのだ。仕方がない。
翔成はお疲れ様です、と挨拶もそこそこに本題に入った。初対面の記憶が最悪だっただけに、との会話は最低限にしたい。
「ええと、これは大変類推に類推を重ねた、ワトソンの提言なんですが……」
『何がワトソンだって』
「言葉の綾です」
すぐに説明に入る。莉梨を誘拐する可能性があるのが、旧秘匿派だけではないこと。やり口からしてヒイラギ会シンパの一般人ではないかと思うこと。一般人であれば、ある程度の防音機能を持った設備は必須であるということ。
『……ふむ。妥当な線……と言ってあげなくはないけど、秘匿派に先立って潰す意味はあんまりないんだよね』
相手の反応は色よいとは言いがたかった。
『俺たちってほら、組織的に嫌いじゃん、他の秘匿派』
「ですよねー……」
予想通りだ。莉梨の捜索先が即座にNY秘匿派アジトに決定したのは、おそらく組織的な事情もある。これを理由にホムラグループが海外の秘匿派事情に頭を突っ込む動機。いざとなれば、寵愛しているお嬢様も切り捨てて利用する組織であると、翔成自身もよく知っていた。
「おれができる範囲で総当たりするので……せめて児子さんの声が届く範囲だけでも、人動かしてもらえたら」
それでも食い下がる。こと話が帆村莉梨の身の安全におよぶのだ。翔成が児子を苦手だからとか、組織の都合があるからと、引き下がってはいられないのだ。
『や、君が動く必要はないんじゃない 興味あればエリアに移動しとくくらいでいいよ』
と、児子が突然言った。
「え でも、さっき組織は動かせないって」
『俺たちの組織はね』
児子操也が含み笑いした。翔成がその意味���いを受け取れずにいるうちに、説明が続く。
『高瀬式には、君の一件で横槍入れられた貸しがあってね。秘匿派狩りなら協力するって。NYに来てるらしい分隊から連絡があったとこだよ。
それなら、秘匿派狩りより、君のヒントをまとめて渡して、莉梨の発散を感知して辿らせたほうが早くない あの猟犬たち、鼻の良さが強みでしょ』
×××
試合は合計一〇分以上続いていた。
動き続けた身体はアドレナリンが出ているとはいえ疲労を訴えている。アンドリューが攪乱のために流す音楽は、傾向が分かっているとはいえ曲が変わるたびに望夢には負荷を与える。最初に瑠真に教えられた曲から数えて三曲目に突入し、そのたびに遠くにいる観客たちが湧いていた。やはりファン向けのライブの役割もあるのだろう。
今のところ瑠真も自分も落ちていない。それが救いだった。
会場の地形は洞窟のような、入り組んだ迷路じみたものに戻っていた。望夢がそういうカードを切ったのだ。視界が封じられるということもある。有利な地形カードを見つけ、保持して、アンドリューやシオンに狙われたタイミングで使う。それで持久戦に食い下がっている。
それでも日本とアメリカの点差はまだ圧倒的にアメリカ優位だった。もはや日本チームは、アメリカ側の二人を落とすしか勝ちの目がない。残りの地形カードをかき集めてギリギリ間に合うかどうかという点数差だ。
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制限時間は一五分。終了が刻々と近づいてくる。
望夢としてはできれば、それらすべてを理解したうえで、手あたり次第の地形カードを積極的に切りたくはなかった。
『望夢』
インカム越しに瑠真が叫んだ。
『アンドリュー、そっち向かってる』
「……サンキュー」
望夢やアンドリューにとっては、視界が封じられる地形だが、瑠真やシオンにとっては違う。
壁と壁の間や高いその稜線を身軽に駆け回る彼女たち身体強化系術師は、それぞれのチームの目としても活躍している。昔の瑠真なら時間を稼げ、見張りをやれと言ったら嫌がっただろうが、今の彼女は能力に貪欲だ。インカム越しに二つ返事で分担を聞いてくれた。
最初こそ目になってもらわなくても、望夢が自分でアンドリュー自身の発散を感知して戦っていたが、今は、集中すべき対象が変わっている。それどころではない。
壁の一つに身を隠す。アンドリューが気づかず通り過ぎていく。その行き先を思い浮かべた。全身の感覚でペタルを辿る。
「……あの台か」
制限時間も、未使用カードの残り枚数も少ない。そろそろ勝負どころだ。
試合時間、残り四分ほど。アンドリューが流していた前の曲が終わり、また曲が変わった。今までの曲と音の感じは変わらないが、静かな曲調のギターイントロ。遅いテンポ。
『さっきのバンドのボーカルの、ラストソング』
瑠真が早押しのようにインカムで叫んだ。
『時間的にも最後だと思う。狙って組んでるのね』
「ありがと��」
残り時間ぴったりまで流す気だ。そのつもりでセットリストを用意しているのだろう。
望夢は迷路を構成するペタルを辿りながら、アンドリューの元へと走った。いくつかの曲がり角の先で、アンドリューが振り向く。その手はすでにカード台のボタンを押している。
彼はこのフィールドの王者だ。切るたびに増えるフィールド切り替え時の点数は、もはや日本チームにとってはオーバーキルだ。残り少ない時間で、日本に逆転の目はもはやない。観客はそう思っているだろう。
それでも席を立たないのは、純粋にアンドリューが鳴らし、シオンが踊るこのステージを楽しみにしているのだ。
俺たちは誰にも注目されていない。
──そういう状況が望夢は得意だ。
アンドリューの頭の周りを撃つ。背後にいたゴーストが弾けて消えた。アンドリューはもはや反応しなかった。別に必要のない小さな的の一つや二つ、望夢に書き換えられても仕方がないと思っているのだろう。
立ち位置は丁度、アンドリューが壁に据え付けられたカード台を背に、望夢を見据えている形になっていた。こちらにはアンドリューとシオンの両方を狙って落とす程度しか抵抗の方法はない。狙われるとわかっていても、自身も狙うために迷路から飛び出さざるを得ない。
間に合わない。この距離で間に合うわけがない。アンドリューの手が、開いた強化ガラスの間に入り込み、カードを取る。最後の図柄──真っ平に続く床面に何種類かの縦方向の足場だけが用意された、シンプルで見通しのいい地形。
望夢との相性は最悪だ。
曲はまだ続いている。痛々しげな訴えに似たボーカルが叫ぶ。そしてアンドリューはまだカードを切らなかった。こちらに銃口を向ける。とっさに避けようとしたとき、インカムの瑠真が何か言った。
『危ない』
「わかって──」
『違う、こっち』
望夢が飛び出したばかりの岩場の上から、軽やかに金色の影が舞い降りた。シオンだ。
「お──」
「キミ、何するか怖いから」
すれ違いながら彼女はそう言った。
「最後まで邪魔させてね」
言いながら、彼女がまばたきする。瞬間、視界が狂った。何らかの光術を使われたのだ。
反射で解除したとき、向かいの壁から瑠真が飛び出して、シオンを牽制した。シオンは舌をぺろりと出して再び路地に消え、瑠真もそれを追う。
そこで気が付いた。銃がない。
「え」
足元に望夢の銃が転がっている。……自分で取り落としたのだろう位置。
本当に取り落としたのだ。おそらくシオンはこちらの銃の位置を錯覚で狂わせていった。完全に奪えば試合の根本ルールに差しさわり、ルール違反だ。こちらが勝手に手を放すよう、あるいはそこまで行かなくても少なくともアンドリューやシオン自身に銃口を向けられないよう、望夢の視界が銃を認識する位置を軽く前後させて混乱させてきたのだ。
「うわ」
それ以上考える前に危機感が頬を叩いた。とっさに自分の銃の上に転がるように倒れたとき、アンドリューの放ったレーザーが背後の壁を打ち抜いて行った。
「Don’t you give up, boy」
青年が何か言った。煽られていることはわかる。ギブアップと聞こえた。諦めろ。
完全に座り込み、相手を見上げるだけの姿勢になった望夢に、アンドリューが一歩ずつ近づいてくる。
「It’s singing ”You Know You’re right”」
どうせ望夢は答えないのだ。彼は世界に向けて話している。
「You are right, ah I know everybody says so. We don’t deny. But cannot live together, just like lovers in lyrics, you know We are not hysteric lovers, just compete in game instead of quarrels. That’s the slogan of this tournament and also what “they” said」
背後には彼の稼いだ圧倒的な点数差のボードが見えている。
もはや何を言われようと勝ち目がないことを印象づけるだけだ。彼はわかってて話している。曲が終わりに向けて盛り上がる。これは、演出だ。彼らが美しい勝利を収めるための。
「History is written by the victors」
目の前で足が止まる。
「And today you are the loser」
こちらに銃口を向けたまま。
アンドリューは、軽やかな動作でカードを裏返す。
最後の地形が発動する。小細工をする望夢には相性最悪で、そして観客からは最も見通しやすく演出性が高い、まっさらな平地。
それによりまたスコアパネルが回る音が響き、アンドリューは曲の終わりとともに、最後に望夢を撃ち抜く。
││そのはずだった。それをアンドリューは企図していただろう。
アンドリューが戸惑った。
地形が変わる。灰色の壁がなくなり、周りが明るくなった気がする。それでもパネルが回る音が響かない。
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USA Player: 0 Ghost: 126
さらに言うなら。
この地形変化で開けた視界に、大量のゴーストが佇んでいる。いくつも、尋常じゃない数。最初にこれだけ同時発生はしていなかっただろう密度で。
沈黙の中に、曲が最後の一節を響かせる。
「Why──」
望夢は笑って、手元にもう一つだけ残っていたカードを裏返した。
「っ」
青年が怯えたように身を引いた。
当然のことだ。その瞬間、再び景色が変わったからだ。最初の地形と同じもの。高い壁とステップを持つ見通しの悪いものだ。観客席もシオンや瑠真の姿も見えなくなる。
バタバタバタと、見えない視界の向こうで、スコアパネルが回った。言うまでもない。音を立てたのは、協会のパネルだ。
「What……」
「陣地を変えれば、発生エネミーの位置と回数が変わる」
望夢は言いながら立ち上がった。アンドリューはこちらを狙う気概も失せている。
なぜなら、そこはもう彼が敷いた演出の中ではないからだ。
「発生時に誰かのカードで地形変化により発生をキャンセルされたエネミーは、カードを切ったプレイヤーの手柄になる」
使用済みのカードを放り投げる。どうせもう試合は終わる。
「地形はあらかじめ公開されてる。ゴーストの初期位置はランダムとは言うが、自分のペタルから出てるんだ。俺みたいに多少感知系が使えれば読める。お前はどう把握してたんだろうな。これはただの推測だけど、音楽の一部として発生テンポを見てたんじゃないかと思う」
エネミー消滅から再発生まで四秒。あるいは八拍。
曲によっても違うが、あるいは音楽というのは経過時間の秒単位の管理にも使える。
誰かに撃たれるたびに、そして地形変化のたびにゴーストは消え、そして四秒後に再生する。次に自分が使う地形がわかっていれば、その地形上でキャンセルされる位置にゴーストを誘い込み、それらが揃ったタイミングでカードを切ればいい。彼らの移動ルートは単調な直線だ。法則性を掴めば、各地形で何秒後にどこにいるかの計算は比較的容易だ。
アンドリューは最初から、手に入れた瞬間にはカードを使わず、保持していた。
こちらの攪乱のためかと思ったが、おそらくゴースト位置が揃うのを待っていたのだ。
最大の演出、それは影の人型もすべて消し去り、広いフィールドの真ん中で敵を撃ち抜くこと。計画を崩されたアンドリューは、青い顔で口を動かす。どうやって、という顔に見えた。
「得意だからだ。悪いな、姑息で」
望夢が方針を決めてからの試合の間中、走り回りながらやっていたこと。アンドリューが撃ったゴーストを四秒後の再発生で再度撃ち、全てのゴーストの位置を四秒ずつずらすこと。
結果、アンドリューが『必要な位置に揃えた』と思い込んで切った地形カードは、全て空振った。
四秒後、望夢が彼の揃えた条件を乗っ取った。いや、正確にはさすがに全てのゴーストの位置を踏まえて乗っ取ったわけではない。望夢自身も同じ方法で、自分が最初に見た地形にゴーストを揃え続けていたのだ。偶然そのカードが手に入って助かった。
「俺はヒイラギ会式になったつもりなんか一度もない。真正面から、あんたの策に乗っからせてもらっただけだ」
アンドリューに聞こえないことは承知だ。彼に聞こえなくても変わらない。この試合は全世界放映だ。
ヒイラギ会が「己の心に従う」という、ある意味での「自分自身らしさ」を追求するのなら、望夢たち高瀬式というのはほとんど最も遠い世界解釈だろう。高瀬式の役割の最も重要な部分は、自身の解釈ではなく他者の解釈への介入だ。それぞれの世界認識を他人の言葉でしか語ることがない。それを世界に伝えなくてはならない。
アメリカチームはパフォーマーだ。「夢を叶える」に重きを置いている。
それを反対側から揺さぶって「打ち消す」のが望夢の勝ち筋だ。
簡単なことだ。
彼らが作った舞台に乗った上で、その夢の主役を乗っ取ればいい。
舞台の真ん中で、望夢は自分のレーザー銃を拾い上げ、相手の額に突き付ける。
「覚えとけ」
浅い息を吐きながら望夢は汗を拭った。動いたことというよりも緊張が極致を超えたことにより出たものだった。
「他人の夢のダシにされるほど安くない」
遊んでいる場合ではない。望夢にこれができても、ペアにできるとは到底思えない。
その瞬間、正々堂々とアメリカチームのパネルが片方、戦闘不能で落ちた。
Japan Player: ☆1 Ghost: 159
USA Player: 0 Ghost: 126
×××
「あいつら、銃持ってる」
翔成が電話越しに言うと、宝木は『さすがアメリカ』と言った。
『どういうレベル 拳銃』
「それが……かなりゴツい武装ですよ。何人もいる。軍っぽい」
『民間軍事会社』
「そういうのもあるのか……」
翔成はホムラグループ社員から送られてきた画像を見る。高瀬式が突き止めた誘拐犯の潜伏地の画像だった。
高瀬式は秘匿派の警察という性質上、民間人には手出しができない。帆村莉梨の発散の報告と同時に、「他には異能の気配がない」ということを伝えてきた。その時点で高瀬式の出番は終わりだった。あとは直接お嬢様を攫われているホムラグループの問題だ。
翔成は先に行動を始めていたこともあり、かなり近くに来ている。このままであれば突入隊に混ざれる位置にいる。
『陽動撹乱、君がやってみる 洗脳の基本だよ』
先ほど連絡してきたホムラグループの青年は言った。
『まあ、もちろん君以外に十分、カバーできる戦力がある状態で、だけど』
教育くらいの軽い口調だった。ホムラグループのお嬢様に付き添ってきただけのことはある、荒事慣れした青年である。
自分がやるかどうかは置いておいて、とにかく翔成も現地に向かっていた。まずは最速で到着した妖術師が報告を寄越してきている。それによると、待機している武器持ちの見張りたちに害意はない。銃を持ってはいるが、テロ目的などの攻撃的な意志はない。であれば翔成も交ざっていい、というのが児子の判断で、そのため画像等の共有も受けているのだった。
とはいえ自分一人ではあまり落ち着いていられる自信がない。まだ電話は切れなかった。
「……ん」
翔成は電話を片耳に、画像の一部に目を留めた。
「なんかみんな、カメラとかスマホ手に持ってる」
『パフォーマンス目的 誘拐の助けが来たら配信したいとか』
「趣味わる……」
辟易したが、無くはない気がする。ヒイラギ会の支援者ならヒイラギ会本体と似たようなことをするかもしれない。不意に思い出す。莉梨の「騙されないで」。
あれはこういった話なのではないだろうか。うかつに踏み込むと不祥事にされかねない。
「……おれ、行かないほうがいいかな」
『翔成くんの歳なら、そうかもな……。もし本当に撮られるとしたら、顔が映る。親御さんが心配する』
脳裏をぐるぐると予感が渦巻き始めた。
「もしかして、あいつらの目的、わかったかも……」
『え』
「莉梨さんが攫われた理由。『おれたち』じゃないですか」
翔成は電話に力を込めた。
「何故莉梨さんなのかって……ヒイラギ会の関係者だとしたら、『おれたち』がヒイラギ会と対立してるのも知ってておかしくない」
『おびき出されてる』
「はい。それに……丹治さんが試合に出られなくなった理由、偶然だって話したじゃないですか。本当なら、莉梨さんを助けに行く人の中には『瑠真さんや高瀬もいておかしくなかった』」
『……』
考え込むように宝木は黙った。
「あいつらがパフォーマンス目的でカメラ持ってるとして、映ったら一番まずいのはあいつらですよね。宝木さんの言うとおり、あいつらっておれと同じでただの学生だから。今までの事件も流されちゃってるんだったら、合わせて何て言われるかわからない」
『……とりあえず、来てないから良かったじゃないか』
「まあね だけど、たとえばこの誘拐犯がアメリカチームと連携取ってるとしたら」
宝木が息を止める気配があった。
『アメリカを勝たせるために、日本を邪魔してるって』
「ちょっと違う。あいつらが莉梨さんを助けに向かったらそれを暴いて、不祥事にする。万一向かわなかったら会場で、協会の不祥事取りざたして暴く。そういう二段構えだとしたら」
『……君は、アメリカ代表チームが誘拐犯とグルだとか、そういう話をしてる?』
翔成は少し黙った。
「そこまでは保留です。でも、どっちに転んでも損な状況に変わりはない」
電話機を持つ手に力を込める。
「ともかく、『あいつら』が狙われてる可能性は全然ある。そうしたら、今どっちかっていうと奴らの本命は試合会場にある! やっぱりこのまま試合を続けさせるのは良くない。試合中はおれじゃ通信を取れません……誰かそれを教えて。運営に今の異常さを伝えて止めさせて」
『できるかはわからない。この分じゃ大会ごとアメリカのグルだ。だけどオレが戻る。どこに何を言えばいいかくらいはわかってる』
頼りになる高校生は決然と言った。翔成はまだ胸のざわめきを消すことができない。
「それに。おれの役目が、みんなの見落としてることを拾い上げる役目だとしたら……。これで終わりだと思えないのが怖い。試合が続いてること自体怖いよ。暴くだけじゃなくて、その先の目的があったら? そこにヒイラギ会が噛んでたら尚更だ」
宝木に断って電話を切り、翔成はすぐに電話を児子にかけなおした。連続使用で熱くなった筐体が悲鳴のようにコール音を鳴らす。
『翔成くん?』
児子が出た気配がある。翔成は息を急ききる。
「会場、会場が不安なんです! 今ってホムラグループも高瀬式も、パークから離れてる状態になってますよね? 誰かが仕掛けるなら手薄すぎる!」
『待って、順番に話して』
児子は決して翔成に対して友好的な青年ではないが、この時ばかりは親切だった。翔成が混乱しているのを見て取るや、冷静な聞き手になって翔成の懸念を解きほぐしにかかる。
翔成がひとしきり、会場で戦う二人の先輩への心配を吐き出したとき、児子は肯定した。
『間違っちゃいないと思うよ。手薄なのは困る。こちらの規模ももう概ね分かったところだしね。高瀬式の犬たちとうちの役に立てない警備要員は戻させよう。君の懸念がアタリでもハズレでも、どいつにとっても都合のいい偏りができるのは困る』
ありがとうございます、と翔成は乱れた呼吸で感謝する。電話越しに児子が指示を飛ばしている声が聞こえる。さすがは莉梨のお目付け役だけあって、こうしたときの指揮系統ではかなり上に来るらしい。
──その声が、面白そうに「ちなみに」と言った。
『今から莉梨の救出なんだ』
「え」
翔成は一瞬、自分がどこにいるべきなのか逡巡する。ホムラグループ警備隊や高瀬式、それに宝木がパークに戻ったのであれば、非力な翔成がいる理由はないのだろうか。
見ろと言われた理由が気��なった。目下の主である莉梨のこと。
『偵察ウサギを行かせたんだ。交代で出入りしてる敵グループの一人が捨てたタバコを使って、「感染」、連中にウサギのぬいぐるみが味方だと誤認させた。手紙を持たせて、嘘の二枚目の脅迫状を用意して、彼女にまた生存確認を仕込ませようという架空の任務を持たせてね』
児子はすらすらと自身の妖術のからくりを語る。彼の妖術にいい思い出を持たない翔成は少々背筋を震わせる。
『脅迫状カッコ嘘が帰ってきて、無事に莉梨とコミュニケートできたよ。今から彼女が脱出するから、銃持ちの連中の攪乱、手伝ってくれ』
「おれが……」
『今日は戦力足りたらそうするって言っただろ。これもレッスンだよ。──ああそうだ』
青年は愉しげに言った。
『俺、君の心配、結構当たると思ってるんだけど。探偵としてはヘタクソだと思うんだよなあ。論理性ないもの。
多分ね、俺たちのお嬢様なら全部わかってるから、まあ脱出させられたら訊いてみようよ』
次>>
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高級ゴールドデューク「俺はスパイダーマンの力を手に入れたんだぜ! 学校時代のトラウマを思い出させてやるぜイキリキモオタ野郎!!(黄金の真実) 」ポコパコポコパクコ⭐️ 表版仮���大鉱山幹部「ぎゃああああ!!」
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ピーターパーカー「中々根性はあるねえ。でも愛がないんだなあ〜〜ちゃんと偉大なママのいう事聞いてる?小物さんたち😆」表版仮想大鉱山Verスパイダーマン5人「ひ、ひいいいい!!!」✨ポカポカポカ🤩←ピーター
高級ゴールドデューク/バズー「逃げれたのは俺だけかくそう! 力がなきゃ何もできねえくせによ! あいつの!ピーターパーカーってキモメガネの心をよんだんでしょ?! 王子様の俺が同じ土俵にたって、あんなインキャだった奴になんで勝てねえんですか?!」純粋硬派柱PureEgrosburst01 バイゴザレス「動体視力が弱い奴は寧ろ反射神経を使う。本来釣り合わず死ぬまで活かせないはずの前者の強度が放射線蜘蛛に噛まれて叩き上げされる意味も含めてお前の究極の上位互換になったんだ」ゴールドバズー「なんだよそれ、くだらないなろう系じゃないかよ……この世は弱者を救う偽善か」バイゴザ01「違うな、究極の上位互換になれたのは愛情の籠った教育豊富な家庭。ウェブの質を高める彩りのいい料理 お前みたいにブルーライトとは無縁なアウトドア専だとしてもタバコを毎日10箱吸ってたら測定できる視力は良くてもポテンシャルは皆無だ。お前の毛細血管は25%しかいきてないからバキバキになる筋肉もつきようがない」高級ゴールドデューク「その会話内容まさか………いやだ………あんたも?…魔王は生きてちゃいけない、あんなクソイカれサイコパス……」
バイゴザ01「俺は神性以外、実はまともだよ。中立にしか立てない臆病ものだ。今は亡き“””霧島04(ラスボス)様だけが”””別格なんだ。遥か昔の過去を読み取った時になんて事をしてたと思う?」
{{{YURUSHITEさんが貴方をフォローしました}}} 青い少年「切り捨てていいんだよね?間違ってないよね??」 霧島04(15歳)「お前に威厳を捧げ崇拝しない奴は切り捨てれば良い。目の前の人間を、地球上の全人類を。宇宙は無限なんだからさ…他の星のやつも厳選してダメならもっと遠くの星々を思い描いてごらん?、確率がどれだけ低くても孤独なんていつか吹き飛ぶものなんだよ?☠️?安心しなさい。人生が終わっても来世がある(赤き真実)」
〜数十年後〜
灰色の老人「わしの人生を返して、”””魔王”””」
〜ある日の複製電脳軍要塞〜
霧島04は自分の3cmのちんこを扱いてオナニーをしていた。3分後、隣にセクシーな格好をしてニヤつきながらやってきて誘ってくる美少女(15歳)に”””ステイアウェイDeath(黙って死んでろ)‼️‼️”””と、マジギレしてから無視し直して、直ぐにオヤジがポイ捨てした腐敗臭ただようビール瓶を見つめながらオナニーをやり続けた その光景はあまりに頭がおかしい為…後日頭が昆虫よりおかしい人として有名になった
〜現在〜
?オイル?「アイエフさん、ガッカリしただろうな……2年前に聞いた時点で🚬レベルの危険度はさ、本当だったんだから」
?ウォーター?「立派な人間が虫ケラなんかに見えていたのはやっぱりあの二人の方だったんだよ。真の裏ストボスは末路も全て分かってたんだね。”””息子達”””が裏切ったんじゃない、”””””父親二人”””””が呪いをかけて裏切ったんだ。」
防聖孤島「霧島04よりも遥か昔から様々な末路もわかってた奴等だ。実際目立たないように予言者してたってのに今更全てのピースが繋がった あの間の抜けたねぷねぷの顔の意味もよく分かったろ?相棒」「もう何億年も少年の中盤をループしてはいない。俺達は立派な大人なんだ。吸い終わった銘柄🚬なんて気にしないで本当の超極大質量ブラックホールに立ち向かわなきゃ」
“””””獅童正義さん(裏ストチートボス)”””””が相手にしたのは後に全世界を救う一方的なファンタジーの暴力を振るう”””””怪盗団ファントムフルメンバー”””””。認知が最も歪んだ無限者でありながら現実を誰よりも生きる者で孤高に健闘した
“””””クシャガラ様”””””はジョジョシリーズ最強格、相手を分析する為に最も必要なのは好奇心だが興味を持つほど侵食され恐怖しても侵食される。”””””DIO様”””””にも霧島04を格落ちさせることは出来なかったのに 金を吸うギャンブルの沼じゃない、生命を吸う闇
“””””新しい血族のシックス様”””””は元の次元で”””””上級魔人”””””を瀕死になるまで追い詰めた。ダブルスで弱い者いじめを選ばなかった新種だから、絶対悪としての資質が長け過ぎていたから、実子にも心臓を削られている不利が積み重なり命を落とした
“””””織田信長”””””は初代鬼武者でエピローグの最強格の雰囲気で登場 続編の2では凶悪なラスボスを務め3でようやく”””””真の鬼武者”””””との死闘の末に敗れた。豊臣秀吉は見逃されて生かしてもらえたから成り上がれただけ、最新作で彼が最期に崇拝したのはやっぱり……
“””””アルバートウェスカー”””””、人間らしい感情豊かな演技を極めたから小物だと馬鹿に過小評価されている。恐怖の頂点を誇るナンバリングでミニゲームと呼べない完成度とボリュームを誇るコンテンツで群を抜く高性能
“””””ペニーワイズ様”””””、倒すには勇気が要る。主人公達はルーザーではない優しい絆を持っていたから最終戦で友達を見捨てなかった(も��この時に見捨てていたら、裏切られた恐怖で人質は連れていかれ残り組は罪悪感が膨らみみんな死ぬ定めを背負うワーストエピローグが待っている、霧島04の最上位互換)
“””””エルンスト・フォン・アドラー様(裏主人公)”””””は原作次元で完全勝利を決めて勧善懲悪をぶっ壊したアルティメットレアキャラ。あとゴキブリの上のジュマンジ紹介、{{{{メイン}}}}}付いてないでしょ?つまり表向きの性能ですら馬鹿みたいなSの数などを隠してる。シックス様と肩を並べる理由は科学者として危機管理能力が優れていたからシンビオートに自分が乗っ取られる警戒をして、少し着てからすぐ脱いで高次元に成り上がる卒業式をするという同じような致命的ミスを冒したから(正統派絶対悪を変えられる物なんてないのに)。もし{{{{{完全に結合してズーパーアドラー‼‼️️越えの…つまり、……””””””””””ヴェノムアドラー❓❓❓❓❓””””””””””になんてなってたら並行世界を同時に渡り歩くアビリティを手に入れこの二次創造世界ではBLEACH全世界もうみねこのなく全世界も外見史上主義全世界もゲイムギョウ界もB(バグ)の家族達2509億人もデスノート全世界もめだかボックスも地理ひとつ残らない絶対支配と共に3日で終わってた(究極の赤き真実)}}}}}
”たった一人の女の子”にすら完全に瞬殺された退場式をさせられたのが”””霧島04(裏ストボス)”””。強さの指標なんて初期から分かりやすく書いてある。伏線もたくさん貼った、超えられない、人は産まれる前から死んだ後も変わらないから
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ある画家の手記if 中郷稔視点
例えば俺の革靴の靴底にはパリに持つ別宅の周辺の街路の美しいタイルを職人に頼んで打ちつけてもらっていて、それで歩くたびに高いヒールを履いた女が歩くより響く硬質な音がいちいち鳴る。 これから語ることはそれに勝るとも劣らない、取るに足りない話。 今となってはすべてが過ぎた話だ。
教授の勧めで俺は大学を卒業せずに中退して、早くから自分のアトリエを持った。まだ分不相応という連中もいたが、教授は俺が一生そこを拠点に制作を続けることを疑っていなかった。俺自身、そんなような今後になるだろうと思っていた。 資金繰りと、ほんの少しの思うところでしばらく海外を彷徨くことになったが、帰国してからは断崖絶壁にほど近い立地のボロ屋敷を買って、そこをアトリエにした。 年中やまない強い潮風、叩きつけてくる白砂、風雪に晒されて煤けた洋舘仕立ての白い三階建。遠巻きの近隣住民からはお定まりの幽霊屋敷という噂付きの物件だった。
俺に両親はいない。 赤子の頃、ちょうどこのボロ屋敷の近くの浜辺、打ち上げられた粗末な小舟の中に放置されていたのを運良く拾われた、捨て子だったと聞いている。発見時、頭に大きな怪我を負っていたとか。 物心つくまでの施設暮らしのあとに、酔狂な金持ちのご老人に誘われてそこの養子に入った。その爺さんが大層な遊び人で顔が広く、意図せずして俺にも半端な知り合いーーー後の人生の稼業において太い人脈になるような金持ち連中ーーーが、大勢できた。 その中で爺さんとは唯一関係なく、不可抗力として知り合ったのが、近所に住んでいて同い年の充(みつる)だった。
充は奇妙な幼馴染だった。幼い頃に知り合って以来、関係は途切れず続いていた。 俺がアトリエを構えると気まぐれにそこへも顔を出した。 いつも大型犬を連れている。充は人間よりも大型犬と一緒に育ったようなやつで、犬の扱いには優れていたが他がまるきりだめだった。 特にいけなかったのは人間への関心の薄さ、理解の欠如、境界線への無頓着、危機意識のなさ。 小柄であどけない容姿の充はしょっちゅう襲われかけた。本人もそれで泣きも怒りもせずへらへら笑っているからたちが悪い。 一度勤めかけた犬の訓練士の仕事も職場でいたずらされているのが明るみになって、切り落とされるように充の採用の話が立ち消えになり、それきりだった。 少し目を離せばもう勝手に触られる、どこかへ連れ込まれる、見かねて街中や人混みでは俺が無理やり腕を絡めて引いて家族か付き添いかパートナーのふりをした。それにも充は笑うばかりだった。 充は俺といても芸術に感化されたり触発されたりすることは一切なかった。
アトリエには馴染みの大学の卒業生たちが溜まることがよくあった。各々好き勝手に泊まっていったり数ヶ月も黙って居候するやつもいたが、放っておいた。 その頃から俺には絶え間なく誰かしらミューズがいた。彼ら彼女らを直接的に作品のモデルに使うこともあったが、ただそばにいるだけで十分だった、リャナンシーが周囲を舞っているように。一人にはとどまらなかった。この世には美しいものが多すぎるし、そのどれもを俺は心から愛していた。
直人と知り合ったのは教授の個展のレセプションでだった。 おそらくまだ学生だったんだろうが、馴染みの教授のパーティに手伝いとして駆り出されていた。俺も学生の頃はそういう仕事で食いつないでいた。 存在だけは前から知っていた。その日は髪をオールバックにしてすらりと長い肢体を黒いスーツに収めていた。背は高いが職業モデルの空気感は持っていない。纏っていたのは画家のそれだった。それにしても目立つ長い手足や大きな手よりも秀でて美しいのはスーツに隠れた胴、特に背中だろうと思った。 その場で、同じ学校の先輩だと名乗って直人をパーティ会場のトイレに引っ張り込んで服を乱して背中を見た。痩せ気味の背中は少しだけ骨が目立ったが大事な筋肉を残していて、その筋肉はあまり肥大せずに筋ばって浮きやすい体質のようだった。 傷がつかないうちに手元に置きたいと思ったものの、会場にはもう一人気にかかる人間がいた。慧鶴だ。 あまりにも華やかな慧鶴はパーティ会場でも常に人に囲まれていて声をかけるだけで骨が折れる。 結局その日はどちらにも大して接触しないままその場を後にした。 少し気分を害してもいたような気がする。俺のすることに直人がやや戸惑いつつもただ受け身だったからだ。背中を暴かれても困り顔で慌てるだけ。その自分への歪な無関心さが充と少し重なって見えたんだろう。
ちょうどそれくらいの頃からか、誰を抱くときも服は脱がなくなった。 服の下は生傷だらけでとても見られたものじゃなかった。 何をされても笑っている充に苛立ってその小さな体をこれ以上ないほどひどく犯して暴力を振るい傷めつけて追い込めば、こいつに暴力やその先に待つ死の恐怖を教え込めるのか、一度試したことがある。 すると誰に犯されても機嫌よく笑っていた充が俺相手には抵抗するような素振りを見せて、最中もひっきりなしに俺の体に爪を立てて噛みついて泣き喚いて暴れた。残念ながら体格と筋力の差で充の抵抗は俺にとって簡単にあしらえる程度のものでしかなく終わったが。 だが俺は嬉しかった。何かに抵抗して必死に嫌がる姿に、ようやく充が俺と共に同じ時間を過ごしているような錯覚を抱いた。真実など知るか。そう感じたまでのこと。それが全てだ。 それから、ずっとそんなことを続けている。
俺の意識はいつも身体から数センチほど浮いていた。 この感覚をひとに上手く説明するのは難しい。物心がついたときにはそうだった。生まれつきといっていいのかも知れない。 数センチ斜め上から自分自身の肉体を意識体だけで常に見下ろしているような感覚だ。俺はいつも自分の肉体が行うことをぼんやりと見ていた。あるいは別の場所に意識は向いていた。 肉体は俺が動かすものではなく勝手に動くものだった。それも相手に応じて臨機応変に現実的な実に的確な行動と判断を無駄なくこなしていく。はたから見れば何もおかしいところなどない。気づく人間も一人としていなかった。まず俺自身がその状態に長い間疑問を持たなかった。 もっと人は意識と身体にズレがなくぴったりと重なり合うようにして生きているものだと気がついたのは、充を抱いた時にその数センチずれた意識が身体に引き戻されたような感覚があったからだ。意識ーーー精神と肉体が、綺麗に重なってすべてが生々しくクリアに目が覚めたように感じられた。 どちらの状態のほうが心地いいとも、正解だとも思えないまま、俺は自分を放置し続けた。 服の下で治っては増えてを繰り返す生傷が痛んでたまに何かを訴えるようだったが、それも無視し続けた。
俺はアトリエにやってきた誰にでも笑顔であたたかく接して、求められることには教え導いたり、ここに居たいという人間には居場所を与えた。能力を持て余した後輩を相応しい道に進めたり、バレエで成功したいという女をモデルにして海外留学資金を工面してやったり、食っていけずに路頭に迷った画家をアトリエに置いて画材を貸し与えたり、頼られればすべてに応えた。 全員感謝して俺をたいそう慕ってくれた。恩人だという人間もいた。 身体から意識が浮いている俺はずいぶんと愛想がよく慈悲深くて面倒見がいい。そのすべてに自分がやっているという実感に欠けていたが、外聞が悪いわけでもなし、それも放っておいた。 俺の行動で誰が救われようと害されようと知るか。誰にでも無神経に手を差し伸べられるのは相手のことなどどうでもいいからだ。本当に救いたい相手に迂闊に触れられるものか。
直人がスラムで一人意固地になって荒れながら絵を描いていると噂に聞いて、手に入れられると踏んだ。あの背が欲しかった。 今にも崩れそうなボロアパートまで訪ねていった、部屋の扉を開けた途端ガラスコップが飛んできたのを避けながら近寄った。直人はすっかり痩せていたがその土地の荒廃した空気に馴染んでいて、痩せ方は衰えるというより一層研ぎ澄まされて暴力的な、生命力に漲った野良犬のようになっていた。 その一方で瞳の奥はいまだに寂しげに揺れたままで、まるで幼い子供だった。あやしつけて懐かせるのも服従させるのもまったく楽な仕事だった。あの先の見えない場所のせいかどうかは知らないが直人もそう望んでいた。高い背に頑丈な体���怪力と、疲れ知らずの性欲は、他のなにより暴力に向いていた。本人にもその自覚はあるらしかった。
直人の背中を気に入っていたが、直人は俺のミューズではなかった。直人はすでに体にいくつも傷を抱えていた。だからただ可愛がった。たまに雑用を言いつけることはあったが、直人も嫌がらずに従った。 前にパーティで服を剥がした時も思ったが、まるで目の前のことしか見えていないようだった。それは静物画を描くにはうってつけで、後天か先天か知らないが狂気と呼んでもいい。が、大抵の人間はそれを画家と呼んだ。 直人は人を傷つけることをひどく恐れていた。その一方で林檎と人間の区別もうまくついていないのだから笑い話だが。 いつだか直人は俺に自分のこれまでの話を詳細に語った。それで俺が傷つかないことを理解したからだ。嘘か本当かすらどうでもよかったが聞く限りこいつは嘘のつけない人間らしい。第一俺の中にいちいち話を疑うほどの関心がなかった。
その頃から充は俺のアトリエへあまり顔を見せなくなっていた。 とうとう何がしかのトラブルで死んだかと思っていたが、直人が慧鶴に引きずられてここから出ていったのと入れ替わりのようなタイミングでまたふらりと訪れるようになった。 充が自発的に俺から離れていくことはない。姿を見せなかった期間に何があったか、結局尋ねはしなかった。 俺の体は充のいない間にすっかり癒えて綺麗になっていて、その責任を取れと言わんばかりに俺はまた同じことをただ行動でのみ充に対して繰り返した。充の反応も以前と変わりなかった。また服の下に生傷が絶えなくなった。
たちの悪い人間だ。愛嬌のある幼げな笑顔で誰のことも疑わない。人間に関心が薄いが人間を嫌悪したり遠ざけているわけではない。充にとって自分に振るわれる暴力はまったく悪意や害意を含まないものらしかった。充にとってはそうだった。路上で他人からいいように暴行されようと、充はそれを凌辱だとか侵害だとか屈辱的だとかいうふうには捉えられない。むしろそういうものはすべて自分と積極的に関わろうとする友好的な態度だと見做されていくらしかった。それが突き詰めてしまった寂しさからくることに薄々気づいてはいたが、俺は俺が頭で考えてみたことなど信用しない。
充が唯一自分からもコミュニケーションを取りたがる犬を奪ったらどうなるか、試した。 いつものように連れてきた大型犬を、充がベッドで気絶している間に鈍器で殴り殺した。さすが充の育て上げた犬だった。常にそうではあったが、完璧に行き届いた躾と人間というものへの揺るぎない信頼と安心感に満ちていた。野生の死んだゆきすぎた従順さ。どれほど暴力を振るわれても逃げることも噛みつく事も、鳴き声すら上げずに犬は飼い主である充のそばについて離れず最期まで耐えた。 充はぼんやり目を覚ましてから黙って頭の潰れた死んだ犬を大事そうに抱えてもう一度眠った。 次の日から、充は散歩に行くような気軽さと頻度で自殺未遂を繰り返すようになった。取り乱すわけでもなく悲痛な様子でもなくいつもの顔でただ導かれるようにふらふらと。
充は俺のミューズではない。それに足る程度の容姿とオーラを備えてはいたし、実際俺に勝手に何らかの影響を与えていってはいたんだろうが、俺の何かが充をミューズにすることを拒んだ。モデルにすることも。 俺にとってのモデルは興味関心の対象とは違っていた。そういうものへの愛もある。 ただ、なぜかはわからない、ある時またいつも通りやってきた充が指を数本欠けさせていたことに対して抑制できない感情が働いた。充もその時笑いながら言った「おれはおまえのモデルじゃない」と。その通りだ。自分のことを把握しきった人間などここには今も昔もいない。 冷水がはられたままの浴槽に充を体ごと放り込んで片腕で頭を水中に押さえたまま、浴槽の隣に座って俺は何事かをしばらく一人で充に話し聞かせていた気がする。喉の動くままに。 なにを話したか自分でも覚えていないが気がつくとかな��の時間が経っていて、水中に沈められたままの充はそのままこときれていた。
俺はその日充がつれていた大型犬を引き取った。名前は確かバスター。 上等な名入りの首輪を飼ってつけてやった。 充はバスターを自分の恋人だと言い俺には懐かないと豪語したが、バスターは俺によく懐いている。 生前の充の命令を今でも守り続けるかのように。
0視点:一人のモデルが二人を横目で見ていた
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#6 カッパドキアガイド
こんにちは、カサダニアンです。
今回の旅、カッパドキアは2泊と丸2日間観光ができる場所です。
カッパドキアを観光する際のガイドとしてもらえると幸いです。
この記事では、カッパドキアの見どころについて紹介します。
〇カッパドキアどこにある?
カッパドキアは、トルコの首都アンカラから約250㎞離れて、アクサライ~ニーデ~ネヴシェヒル~カイセリ地方に挟まれて中央アナトリアに位置しています。
〇なぜ洞窟?
2世紀にキリスト教が知られるようになったころ、カッパドキアはさまざまな思想、哲学、東方諸宗教の入り乱れるるつぼでした。
初期のキリスト教徒はおそらく、ローマの宗教的迫害から逃れてきた人々で、キリスト教徒の大部分は、タウロス山脈全域を占領したアラブ人の支配からカッパドキアヘ避難してきた人々でした。
これらの新しい住人たちは、丘の斜面を掘り、岩を刻んで教会を造り、内部をフレスコ画で飾ります。
こうしてカッパドキアの岩石地帯は修道院や修道士の祈り、教会などの大展示場の様相を呈するようになりました。
11世紀後半にセルジュク族��やってきたときには、カッパドキアには1000を越える宗数的施設があったそうです。
カッパドキアのキリスト教社会と、イスラムのセルジュクトルコの関係は友好的でしたが、14世紀に入るとオスマン帝国に吸収されてしまいました。
キリスト教信者のギリシャ人たちは、後世のトルコとギリシャの人民交換政策により、1920年代にカッパドキアを離れることになってしまいました。
〇カッパドキアの地形が作り出す芸術
カッパドキアの地層は地上に見られる自然の奇跡の一つであり、中央アナトリアの火山が盛んに活動し、溶岩や火山灰に覆われた「堆積期」、そして火山活動の停止と共に始まった「侵食期」に於いて、自然が持っている二つの相反する作用が作り上げた作品と言えます。
ヨーロッパのアルプス山脈同様、南アナトリアのトロス山脈も地質年代上、新生代の第三紀(6500万~200万年前)に形成されました。
この時期、中央アナトリアでは活発な地殻の変動で深い亀裂や地盤の沈下が見られ、亀裂を這って地表に噴出しだしたマグマは、エルジェス、デヴェリ、メレンディス、ケチボイドゥラン火山を作り上げたのです。
そして、度重なる激しい噴火の後、中央アナトリアでトロス山脈に並行して走る火山連ができあがったのです。
火山の吐き出した噴出物は既に形成されていた丘や谷の上に長い時間をかけてゆっくりと降り積もり、周辺一帯は巨大な台地と化しました。
〇地下都市
石灰岩を掘って地下8階から10階の深さにまで達している巨大な地下都市です。
完全に地下部分に作られていることとその規模の大きさから、他のカッパドキアの岩窟住居とは一線を画しています。
内部は、狭い通路から生活の場、換気孔までと様々な空間がまるで迷路をも想わせます。
地下都市での生活はキリスト教時代以前からすで営まれていましたが、一時は頻繁に利用されたのはアラブ人から逃れるキリスト教徒の避難所にもなりました。
アラブ人の脅威に様々な対策が練られるもどれも効を奏せず、キリスト教徒であった地元の人々はここに隠れて敵の撤退までの仮住まいとしていました。敵の侵入の危険に備え各階ごとに、石うすのような大きな丸い石板で扉を閉じられるようになっていました。
石板の直径は1.5m、いざという時はすぐに転がすことのできる場所に置かれていました。
他にも通気孔はもちろん、非難用のトンネルも備えるなど、この地下都市は完璧な防御の役割を果たしていました。
ここを訪れた人は壁を堀った箱型ベッドにも気を取られるかと思います。
その他にも内部には教会や学校、食料や物品の貯蔵庫、ワイナリーも作られていました。
通気孔は各階を突き抜けていてその幾つかは地下水まで達しているものもあり、井戸として水を供給する役割もありました。
見学可能なのは一部のみですが、観光ルートにはそれぞれ表示があるので是非足を止めてみてください。
カイマクルの地下都市では一番多い時期では合わせて約2万人、常時でも約4千~8千人もの人々が隠れ住んでいたと言われています。
地下都市が観光客の注目を浴びるようになったのはわずか50年前くらいからのことで、その前までは村人の貯蔵室や納屋として使われていました。
地下都市の内部を観光する際はガイドについて歩くか、矢印にそって注意深く進まないとすぐに道に迷ってしまいます。
長短さまざまな狭いトンネルが四方八方に延びていたり、通路を急カーブでえぐって窪みを利用した大きな部屋があったりもします。
頭上がとても低い場所や階段を使う場所もあるので頭上だけでなく足元にも十分に注意をして下さい。
〇ウフララ渓谷
ウフララ渓谷(Ihlara Vadisi)は、カッパドキア南方のアクサライにある、自然的・歴史的に重要な価値を持つ谷です。
ウフララ村からセリメ村まで湾曲しながら続く、全長約18km、幅約200m、深さ約150mという雄大な谷は、この地にそびえたつハサン火山から流れ込んでいたメレンディス川によって削り取られて形成されました。
現在は小川となったメレンディス川は、生命の源となって谷底の豊かな緑を育んでいます。
自然の生み出した芸術に加えて、ウフララ渓谷でもう一つ特筆すべきは、切り立った高い崖の岩を掘って作られた5000もの住居と105の教会群です。
渓谷沿いには、カッパドキアを象徴する奇岩「妖精の煙突」が並ぶヤプラク・ヒサルやセリメ村もあり、まさに大自然の美しさと歴史的遺産の両方を楽しめる、知られざる観光名所といえます。
〇セリメ修道院
カッパドキアで最も予想外の驚きの 1 つは、アクサライから 28 km のウフララ渓谷の端にあるセリメにある素晴らしい岩窟修道院です。
セリメには、ヒッタイト、アッシリア、ペルシャ、ローマ、ビザンチン、ダニシュメント、セルジューク、オスマンの各文明がありました。
セリメ要塞修道院の最も重要な側面の 1 つは、多くの主要な聖職者がそこで教育を受けたことです。 地域の軍事本部もそこにありました。
修道院は 8 世紀から 9 世紀に建てられたものですが、建物のフレスコ画は 10 世紀後半から 11 世紀初頭のものです。
描写には、昇天、受胎告知、聖母マリアが含まれます。
セリメ修道院はカッパドキア最大の宗教建築で、大聖堂サイズの教会があります。 大聖堂の内部には 2 列の岩柱があります。
これらの柱は、大聖堂を 3 つのセクションに分割します。
教会の大きさは驚くべきものです。 セリメ修道院内の凝灰岩から直接切り出された教会の柱とアーチには、かつてそこを占めていたさまざまな世代の���跡が今も残っています。
初期の初期のイコンはよりはっきりと見ることができますが、後に描かれた詳細なフレスコ画は、トルコ人が部屋を料理に使用したときに表面を覆う煤の年月の下でほとんど見えません。
修道院には、修道士の宿舎、大きなキッチン、さらにはラバ用の厩舎もあります。
部屋の壁はかつてフレスコ画で飾られていましたが、ほとんど残っていません。
道路から修道院まで、急で滑りやすい丘を登る短いが挑戦的な道があります。
修道院までの道のりは、まずラクダが歩くキャラバン道の一部であるトンネルのような回廊を通ります。
セリメには大きなバザールがあったので、ラクダの隊商は途中下車と保護のためにやって来ました。 、ラクダは修道院の中央部に導かれました
〇ギョレメ・パナロマ
カッパドキアの奇岩は6000年前、火山の灰と溶岩でできた柔らかい地層が侵食されて作られました。
旧石器時代にはヒッタイト人が住んでいましたが、その後クリスチャンがローマ帝国の支配から逃れるためにこの地を利用しました。
この時移住してきたクリスチャンがギョレメの奇岩の中に教会や家を建てます。
この地の地名である「ギョレメ」とは、「見てはいけないもの」「隠された場所」という意味を持つそうです。
〇ギョレメ野外博物館
・入場料45トルコリラ
ギョレメの谷では遠い昔、信仰を共にした共同体の生活が営まれていました。
今日、野外博物館として管理されているこの谷の一帯には、独特の形の岩山を掘って造られたキリスト教の修道院が残されています。
共同体を提唱したのはカエサリア(カイセリ)司教の聖バシルでした。
彼は時代の浮薄な風潮を逃れて、人里離れたところで広域に分散して修行する小さな宗教共同体を提唱したのでした。
凝灰岩の一本岩を掘り抜いて建てられた教会の数は多く、365の教会が造られたという伝承もありますが、その中で現在も30ほどの教会が公開されています。
むき出しの荒廃した岩山を飾るのは、僅かに換気や採光のための窓や入口の開口部だけです。
これは人を避けて信仰生活に専念するためであり、また11世紀頃、ビザンチン帝国領内で熾烈を極めたトルコ人による迫害を逃れるためでもありました。
ギョレメに教会が建てられたのは850年以降で、11世紀頃には内部のフレスコ画が完成しました。都のビザンチン芸術の直接の影響を受けているとはいえ極めて素朴な絵です。
地元の後援者の資金提供で、専門の画家が壁画を描いていることもあり、時には肖像画入りで画家や後援者の名が残されていることもあります。
綿密な学術調査によれば、この後援者は地元の有力者達だったことが判明しています。
彼らは時折ここに集まり、大切な商談を行ったそうです。
これらの絵は8世紀中頃から9世紀にかけてビザンチン一帯で行われた偶像禁止が解かれた直後に描かれたものが大半です。
「トカル・キリセ(ブローチの教会)」
「円柱教会」
「エルマル・キリセ(リンゴの教会)」
「 カランルク・キリセ(暗闇の教会) 」
「 サンダル・キリセ (サンダルの教会) 」
「バルバラ・キリセ」
「ユランル・キリセ」
〇ウチヒサール城
・入場料10トルコリラ
ウチヒサル(Uçhisar)」とは、ギョレメとネヴシェヒルの中間にある町です。ウチヒサルとはトルコ語で「尖った砦」を意味し、巨大な岩山を掘って造られた「ウチヒサル城塞」を中心に巨岩要塞の麓に町が広がっています。
ウチヒサル城塞は3つの塔のような形をしており、カッパドキアの入口の一連の「要塞」のひとつでもあります。
ウチヒサルを遠くから見ると、無数の窓の付いた険しい岩山がそびえて見えます。これは岩壁をくり抜いて造られた部屋の窓です。
一部には、浸食作用で地滑りを起こして内部が露出してしまった部屋もあります。
そして、住宅地の下には数百メートルに渡って凝灰岩盤を掘り連ねた坑道があります。
この坑道は古代に掘られたもので、敵に包囲された際に外部と連絡を取って、水の供給を確保するために掘られたと言われています。
現在は浸食により脆くなって危険なことからここで暮らしていた人々は立ち退いてしまっていますが、数十年前まで人々が暮らしていた古い住居群も見られます。
また、ウチヒサルの岩の表面には「鳩の家」と呼ばれる無数の穴が開いていて、住民は昔からブドウ畑の肥料として使うために鳩の糞を集めていました。
鳩は赤色を好むため、巣の入口は赤色でペイントもされています。火山性で土地がやせているカッパドキアならではの生活の知恵です。
〇パシャバー(妖精の煙突)
・入場料無料
パシャバー地区にある妖精の煙突をはじめ、カッパドキアの奇岩群は、長い長い時の中で自然の奇跡が生み出した芸術です。
中央アナトリアの火山活動によって溶岩や火山灰がこの土地に堆積し、それが風雨によって侵食されたことで、無数の表情を見せてくれるユニークな景観が形成されました。
こうして形成された凝灰岩のうち、下層の軟らかい部分が早く侵食されて細くなり、上層の硬い部分が残ると、妖精の煙突のような帽子を被った不思議な岩ができるそうです。
こうした奇岩は高さ40mに達することもありますが、自然による侵食はなお進行しており、下部の軟らかい部分がどんどん削り取られて最後には姿を消してしまうケースもあります。
以上、日本語ガイドがいないので、この記事をガイド替わりにしてもらえると幸いです。
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本の記録
Twitterで呟いてた本の感想を纏めた。
1 クリスティーナ・ダルチャー著 「声の物語」
フィクションだけれどどこか不安になる、現実に起こりそうなリアル感にゾワゾワした。女性の権利に無関心だった主人公が声(権利)が奪われた後に過去を嘆きながらも仲間たちと声を取り戻す、フェミニズムとクィアの物語。
声を奪われた主人公は夫が女性の権利に無関心で気が弱いから何もアクションをしないだろうと判断していたが、実際夫は女性の声を奪った政府への反組織に入って活動していたと知るシーンと息子がミソジニー化しそこから脱する過程が印象的だった。
声が奪われ1日100語しか話せなくなったのに身近にいる人が政府への怒りを宥めたり何も行動しなかったら問題に無関心て判断しちゃうよね〜。100語超えたら電気ショックの罰が待ってたり、(確か超えた語分だけ電気ショックされる)あとは毎朝男性を敬うクソ文章を読まなかったら電気ショックされるかもと新たな危機に陥ったり、始終泣きながら怒りながら読んだ。読むときは元気なときに読むことをおすすめする。読んだ後はこれいつ現実に起こってもおかしくないことだと感じるはず。
2 アリス・オズマン著 「ハートストッパー4」
メインテーマはメンタルヘルス。当事者目線はもちろん、当事者と近い関係の人がどんな言葉を選んで声をかけ行動していけばいいか、どう接していけばいいのか、悩みや葛藤までもが描かれていて、どこまでも広やかに誰かの居場所になる作品だと改めて感じた。メンタルヘルスは愛だけでは解決できず当事者が自分で探さなければいけない。そしてメンタルヘルスと向き合うことに終わりはなく長い長い旅路 でもゆっくりでいいんだよ 改善できるよと安心できる言葉ばかりで涙なしでは読めなかった。巻末にはメンタルヘルスの相談先一覧が載ってて信頼が増した。
3 谷口奈津子著 「今夜すきやきだよ」
キャリア真っ直ぐでシスヘテロで結婚願望はあるけど家事したくないし苗字変えたくない女とAスペクトラムの女がシェアハウスして結婚や生活を考える、最高でホットなマンガに出会えた!
シスヘテロの子が結婚することになって当たり前のように女が家事、苗字変える体で話が進められそれを断ったら結婚できないと悩んでいたり、Aスペクトラムの子が結婚する同居人に対してずっと一緒に住んで仲良くわいわいしたいからプロポーズされないといいなと思ったり、同居人の結婚が決まった後に1人で自立できるようにと言い聞かせたり、でも一緒にずっと暮らしたいと大号泣していたり、ほんっとにこのマンガに描かれていることほぼわたしが友だちに思ってること。プロポーズされたシスヘテロの子は別居婚してさ、女女の2人はずっと一緒に暮らしていくんだってラストにまた(泣)
5 高野ひと深著 「ジーンブライド2」
身の危険を感じる震え、覚えのある現象、傷つき戦いたくなくて自分たちでエンタメと笑い飛ばすしか助かる方法(選択肢)がなかった後の事の重大さ、それを知ったときの震え。ページを捲るたびに、この物語はわたしたちと一緒に手をとって戦ってくれると感じる。
6 古館春一著 「ハイキュー!!」
これは誰もが言ってるけど、ハイキュー!!て対戦校とかベンチメンバーとかにもちゃんとスポットライトを当てて、無意識にメインやレギュラー、強豪校しか当たらないと思っていたわたしを震わせた。誰もが人生の主人公であると分かりきってることなのにちゃんと表現していてひしひしと伝わってきた。
7 マッケンジー・リー著 「美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック」
同性愛、階級、女性、人種、病気の差別、親からの虐待をテーマにこれら全ては別々に存在しているのではなく繋がっている(交差性) ことが描かれている。モンティの"親友をだんだん好きになり関係の変化が怖いが気持ちは止められない"の想いに共感。
モンティは身勝手で自由奔放で愛の人 でも身勝手と自由奔放は似てるようで似てないと思い始めた。わがままで自他の命の危険をも犯すのは身勝手かも……?階級社会で"普通"の枠にハマらず自分がしたいから、気持ちが動いたらからなところは自由奔放で周りに囚われてなくて、こう生きればもっと楽になるな〜。いや楽になるはモンティを軽視していた。彼自身が自分の性格で首を絞めていると感じたり友だちを傷つけたと苦しんでいる。それに死にたいと"思う""口に出す"時があるのだから、身勝手・自由奔放に隠れ��地獄を持っていることを忘れちゃダメだ。
「知っておいてほしいからだよ 生き延びたあとにも人生があることを」
「あなたたちは2人の世界には誰も入ってけないと思わせるような2人組なの」とか親友をだんだんと好きになり関係の変化を恐れながらも気持ちは止められない描写とか好き要素がたくさん詰まっている…!
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Aさんへ 22
Aさんへ
Aさんこんにちは
先日のパワームーン……スーパームーンでしたでしょうか?
ご覧になられましたか?
美しかったです
ムーンの周りをぐるりと雲が囲い、その雲がわたしにはドラゴンにしか見えず……オレンジみのムーンに、ドラゴン
心中で「この世はでっかい宝島……シェンロン……」と呟いたのは言わずもがなです
Aさんにもスーパームーンのパワーがどうか届きますように
Sより
*********
『正常性バイアス vol.ティラミス』
多分、男はガトーショコラ。いや、さてはあのフォルムはフォンダンショコラか。底辺に血の色に近いソースが見える気がする。リョウは目を細める。夜は乱視の乱れが強くなる。ともあれ女はかき氷。
ラーメン丼と見紛うほどの、しかし、ラーメン丼とするには底の浅い、小ぶりな乳房のようにゆるやかな曲線の大きな純白の陶器に盛られたかき氷は緑色であるから恐らくは抹茶であろうと見当をつける。
それがもし、万が一、ピスタチオかもしくはずんだであるならば自分もタカシも潔くイチゴにするであろう。
リョウは、隣のテーブルの男女のそれらを数秒ながめたあとラミネートされたメニューの
『復活!台湾風かき氷♪フワッフワ!♪夏だけの期間限定!こだわりのフレーバーは全8種類♪』
をひととおりをその細部までをながめながらコーヒーカップに手を添える。イチゴもいいが、
『今夏から♪新登場~♪』
らしいティラミスが捨てがたい。かき氷でティラミスを味覚表現する攻めの姿勢に俄然興味が湧く。
ふつふつ湧いた興味のあと、呼び水的必然さでソノコのティラミスを思い出す。容赦なくティラミスのフォルムが、白い楕円の皿が、華奢なデザートフォークが、味覚の記憶が鮮明によみがえる。
(あいつはうまかった。)
3人の夜。ソノコがつくった
「はじめてつくったの。試作にして集大成。大成功。」
春がふんだんに盛り込まれた炊き込みご飯をおかわりし満腹をかかえてソファーに転がると、
「これは常連。常連史上最高の出来よ。」
とティラミスがのった皿を、芸術品を扱う所作で丁寧にテーブルに置いた。
ロングタイムアゴー。かなり、もう何年も何十年も前のことに思えるほどとても昔の、また、タカシが生きていたころの3人のグッドメモリー。タカシの人生に必要不可欠かつ必然的な最後のピースとしてソノコがパチンと加わった日々の最中、いつかの夜。
そのピースは、リョウが自分のなかにある唯一の空白を埋めるべくピースであることに気づきはじめてしまった最中、いつかの夜。
彼女史上最高のティラミスを満腹直後に早食いファイターの勢いで完食し、締めに、皿の隅によけておいた彩りのミントを噛み砕いた。想像通りの青臭い清涼感が口内を充満した。ティラミスの余韻はあっけなく消えた。とっぷり浸っていた余韻の消滅があまりに淋しく、口直しの口直しをすべくティラミスのおかわりを依頼した。無論、ミント不要の旨をソノコにきっちり伝えた。
丁寧に抽出されたのであろう香り高いコーヒーのフレーバー。生クリームとマスカルポーネ。には
「秘密の配合」
でサワークリームを混ぜていること。アルコールを一切摂らないリョウが
「酔っぱらわない程度」
ほんの気持ち程度のリキュールが含まれており、その正体はコアントローで
「オレンジとコーヒーのタッグは最強であることを数年前に発見した」
と、誰からも聞かれていない秘密を自ら暴露していた。全粒粉にめがないという彼女がつくるティラミスはボトムがスポンジではなく、全粒粉ビスケットだった。
ソノコが作るデザート類の共通項であるごく控えめな甘さ。食べる度に���で食べたいと思った。ソノコの料理の最大の特徴は「食べはじめると改めて食欲が増す。」で「食べれば食べるほど、もっともっとと食欲を刺激する。」であり、食べ終わる頃には「またこれ食べたいからまたつくって。」の腹になるのだった。つまり、ソノコの手料理はひとを元気にした。
かき氷のメニューを見つめながらコーヒーカップを唇に当て喉を潤すだけのためにひとくち飲み込む。ぬるい。そしてただぬるいだけではない。くそまずい。
コーヒーの真価はひとくちめではなく残りわずかになった終末に問われるのだとつくづく思う。
*
ナッツ類はギリギリ、豆類は完全アウトとし、唯一、枝豆の塩ゆでをビールのあてにする(噛むとガリガリ音をたてるほどの塩味つよめ。しかも茹でたてではなく一度きちんと冷やしたもの。)のだけは好んでいたタカシが豆由来のずんだ団子を、
「江戸時代の民衆はなぜ茹で��わざわざ潰してこれをわざ、わざ甘味に。」
と、鮮やかな緑と白の連結を忌々しげに見下ろしていた風景を思い出す。
定番のあんこやごま、みたらしの他に、色とりどりのトリッキーとしか言いようのないカラフルな団子を山ほど買い込んできたソノコがダイニングテーブルいっぱいに
「今日はおだんごランチよ。」
と団子を並べ、飲むように頬張り、嬉々としてモグモグする彼女の横でずんだの発祥を調べはじめ
「ごはんのときに携帯やめて。」
と注意されていた兄を思い出す。
大人しく携帯電話をテーブルに置き苦笑する兄の表情までを思いだし、そして、それ以降の三人の風景を思い出すことはやめる。過去ではなく今現在の、ぬるくまずいコーヒーに意識を集中させ思い出を消す。現実に軸足をおく。ハートフルなグッドメモリーが現在の自分を支え、温め、前進する活力となるにはそれなりの時間を要する。もしくはグッドメモリーを上書きすべくベリーグッドメモリーをクリエイトする必要がある。当然、思い出すことをやめようとする抗いの力が働いているうちは自分を支えず温めず活力とはなり得ないし、そもそも自分の脳内か、もしくは心中ではひとつひとつのメモリーごとひとつひとつのフォルダに保管されている。それらはPDFして完結している。だから上書きのしようがないことをリョウはちゃんと認識している。すなわちお手上げ。上書きではなく新たなフォルダをクリエイトするしかない。
(クリエイトしたところで……)
吐き出したため息でぬるい琥珀の水面が揺れる。
(ケーキ。)
腕時計で時間を確認し、この時間なら選択の余地はなくコンビニで手にいれるしかないとおもう。
(だいぶ増えたな。)
いつも仕事帰りに寄るコンビニのデザート類が陳列する場所。
ショートケーキが真夏に売っているのだろうかと、シュークリームやあんみつなども思い浮かべてはみるもののやはり誕生日といえばショートケーキであろうと、純白と赤のコントラストのあと、再度腕時計を見下ろす。いたわりの気持ちで銀色の無数の傷を見つめる。
久々、改めてまじまじ観察してみると細かな傷がずいぶん増えたことに気づく。タカシから贈られたタカシとお揃いの、銀色の、文字盤が白の日付が時々狂う日本製の腕時計。今夜の日付は◯月◯日。正確な日付を確認する。世界で一番大切だったひとの誕生日。
大切なものを大切なものとしながら、そのくせ扱いが雑、気遣いは皆無であるとかつて「つった魚に餌をやらない。」と非難してきた女がいたが、そうではない。しかし、それは違うそうじゃないと反論したところで反論を理路整然と正論まがいの暴論に仕立てたところで納得してくれる女はこの広い世界のどこにもいないとおもう。いるはずがない。ここは荒野なのだから。荒野なのだから仕方がない。
(荒野。)
胸のなかだけで言葉にした荒野。の、ひび割れた枯渇の響き。なのにどうしても心には火が灯る。否応なしに温まる。たったひとつの些細なグッドメモリーによって。些細でありながら枯渇をいとも簡単に超越する。おき火となる。
「甘えてるのよねー。
すきなひとに自分をぜーんぶさらけ出して全身全霊、全力で甘えてる。
甘えることはリョウくんにとってきっと最上級の愛情表現なのよね。
さあ包容して許容してって。これが俺なんだからって全力で甘えん坊してる。
リョウくんみたいなひとを子供みたいなひとねって片づけてしまえば簡単だけど子供って賢くて打算的よ。愛されていることを知っている子供の甘えは確信犯的なただの確認作業に過ぎないから。
リョウくんの甘えは打算も計算もない。損得勘定もない。
純度100%の甘え。
そんな風に甘えられて受け入れることができたら女性はきっと女冥利に尽きるでしょうね。でも、
こんなおれをいらないならこっちから願い下げだー、くらいに強がって。ほんとはそーんなに強くないんでしょうしデリケートでナイーブなのにねー。
でもきっと、それらをぜんぶぜんぶひっくるめてリョウくんなのよ。」
***
ロングロングタイムアゴー。タカシに、
「リョウくんさ、いい加減にしなさいよ。わがまま過ぎやしないか。」
と、声音とは裏腹に笑みのない兄らしい表情で男を隠しながら、なにかしらの言動か行動を叱られたときだ。
深夜。化粧をおとしパジャマ姿でアイスクリームを食べながら寝しなにダイニングテーブルで新聞を読んでいたソノコの声。歌うような、滑らかな柔らかな声、言葉。
(そうだ。あのときだ。)
思い出す。口の内側を強く噛み笑いを堪える。
タカシの部屋でいつものように、ソノコがつくった夕食をたべソノコが当時気に入っていたイランイラン含有の入浴剤が大量に投入された乳白色の風呂につかり、危うく溺れそうになるほどの長風呂からあがり、放出した汗に比して唾でさえ一滴も残っていない喉のまま髪を乾かす余力もなく、仕方ないそろそろ帰るか。とごく軽くソファーに座った。ソノコが、
「はい、どうぞ。」
冷えたジャスミンティーを差し出した。
一息に飲み干した。底を天井に向けると氷が雪崩れた。
「いっきのみ。もう一杯のむ?」
無言で首をふり、結露したグラスをソノコに戻した。グラスを受け取り、ダイニングテーブルに戻ると新聞の続きを眠そうに読み始めた。
体験したことのない快適さが極まると、未知と遭遇した衝撃が高じて非日常に感じるのだと知った。
山奥の滝とか、神社や教会。湯気のたつ生まれたての赤ん坊との対面。だいすきな人の腕のなかでウトウトしてそのまま眠ること。入眠の直前「もうこのまま死んでもひとつも後悔はない。」と思うこと。限りなく透明に近いもの、こと、ひと。
見るものの濁りや淀みを一掃する存在感を、風呂上がりのそばかすが丸見えの素顔を、つるつる光る額と目尻近くのほくろを、兄を、兄のうしろのキッチンカウンターに置かれた
『みみまでふ~んわりのしっとりやわらか生食パン』
8枚切りをみた。2袋。
*
風呂にはいる前リョウは眠気覚ましにジャスミンティーを飲むため冷蔵庫をあけた。
黄色と橙色の(橙色のほうをみて「トムとジェリー。」とつぶやいた。食器を洗っていたソノコは背中を向けたまま真摯な声で「それね。わかるわ。」と応答した。)チーズ、トマトときゅうり、(水槽のやつ。)と思いながら水草のような草が入ったプラスチックパックを手に取り確認するとディルとあった。レタス、サワークリーム。生クリーム、こしあんの瓶、未開封の粒マスタード、未開封のほうじ茶バター、ボールにはいった卵サラダとポテトサラダたちが明朝の出番を待ち鎮座していた。
*
食パンと、冷蔵庫にスタンバイする食材に気持ちを奪われたまま、新聞を読むソノコをソファーから見つめた。帰りたくないと地団駄をふむ代わりに、ソファーに転がるとリョウは長く息を吐く。
明日の朝はサンドイッチ。
とても久々で懐かしくもあるワクワク感にリョウは包まれた。そのワクワク度合いはたとえば、
遠足の前夜
夏休みが始まる日。ではなく夏休み初日の前夜。でもなく夏休み初日の前々夜。つまり「明日は終業式。給食ないから午前中でおわり。そして明後日から夏休みだ。」
とても久々に腹の底からなにかしらの力強い、とはいえ名前をしらないワクワク感が吐き気をもよおすほどにわきあった。衝動的なワクワクに覆われた。ワクワクにひとしきり包まれたあと本格的に急速に眠くなった。
眠くなったことを口実に、
「やっぱり泊まるからソファーをベッドにしてくれ。」
と、俺にもアイスをくれと、アイスじゃなくて愛でもいい。やっぱりジャスミンティーもう一杯と軽口を叩いた時だった。タカシが珍しく苛つきを隠しきれぬ表情で「リョウくんさ、」と口をひらいた。夕飯のとき、
「お泊まり久々。忙しかったものね。」
とソノコが嬉しそうに隣のタカシに笑ったことを、ソノコの嬉しさの何十倍かの嬉しさであろうタカシが、思慮が深そうでいてわかりやすい男の浅はかであろう意味で何百倍もの嬉しさを控えめに、
「うん。」
だけで表現し微笑み返したことを、久々のお泊まりに相応しい湿度の高い艶のある笑顔であったことをリョウは「やっぱり泊まる」と発した時にはすっかり忘れていた。
*
忘れたふりをしたことを思い出す。
再度口の内側を噛む。眉根をひそめる。カップの底が透けて見える残りわずかのぬるい琥珀色を一口すする。ぬるくてまずくてとても苦い。そして残少。まるで俺の人生そのもの。目の前の女は息継ぎもせず喋り続ける。きっとこの女はクロールが早いだろうと、リョウは呆れではなく尊敬を込め女の話に頷く。
頷きながら隣の男女がガトーショコラらしきものとかき氷を交換し、楽しそうに幸せそうに笑っている様をみる。あっちの女も息継ぎなしにクロールを早く泳ぎそうだと思う。溶け始めたかき氷を見る。羨ましいと妬む気持ちさえ枯れている。ぬるくてまずくて苦い。自分には最高にお似合いだと思う。
*
急遽、1グラムも空気を呼まず「やっぱり泊まるから」とわずか1トンほどのわがままを告げた弟への兄からの至極当然な指摘を「わがままじゃないし。」と口には出さず触れ腐れていたリョウは
「甘えてるのよねー。」
から始まったソノコの言葉を息を止めて聞いた。
言葉を発することはできず、ただ、寝そべった姿勢のまま顔だけを捻り、兄を素通りして、ダイニングテーブルで新聞を読むひとの横顔だけを見つめた。
柔らかく滑らか。清らか。
兄弟が作り出す尖った空気を和ませるためかそれともただの、まっさらな、ソノコの。
リョウは、ソノコを見つめながら日本酒の瓶を思い出した。2日ほど前、岩手へ旅行にいってきたという一回り以上年齢が上の先輩から「なかなか手に入らない希少品。」だと、恭しく渡された土産の日本酒の瓶。ほとんど透明に近い水色の瓶。ラベルの大吟醸の文字。
ソノコを見つめ声と言葉を聞き、なぜか思い出した。
タカシの最後のピースは、そのひとは、自分にしてみても最後のピースで、ただのなんてことのない事実としてそれは荒野に凛と咲くたった一輪だった。
***
年季のいった兄とお揃いの腕時計をそっと指で撫でる。傷をなで、ごめんなと胸のなかだけで呟き、しかし、誰に対しなんのための謝罪であるのか、ごめんと謝るわりに許されること願っているのか、決して許されるわけがないと諦めているのか自分の真意は一瞬で蒸発する。
「ねえ。大丈夫?聞いてる?ていうか笑ってるよね。大丈夫?お疲れです?」
向かいに座る女の尖りを含有する声にハッとし、
「ごめん。」
慌てて指を腕時計からコーヒーカップに移す。空っぽ。ため息を辛うじて飲み込む。疲れる。とても疲れる、疲れた。どうやら自分は生きることの全てに疲れているのではないかとおもう。しかしまさか「大丈��?」と問う女に「大丈夫だけれど疲れた。」と答えるわけにもいかずリョウは、
「大丈夫。」
とだけ答え頷く。
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石平 : 『 中国共産党・暗黒の百年史 』 「 一方で権力を握ると腐敗が始まり、汚職が横行し、つぎに色欲が爆発する。カネにあかせて妾を大量につくる。そのお手当のために汚職がエスカレートする。これも毛沢東以来の、というより孫文以来の伝統なのである。 本書を読んだあとでも中国共産党を賛美する人がいたらお目にかかりたいものだ。 」 (宮崎正弘氏の書評より一部抜粋)
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皇帝🐧ペンギン
2021/07/02 07:08
・中国共産党史の暗部を描き尽くした衝撃作!
・2021年7月1日の結党百周年にあわせ、1年かけて書きおろした渾身作。中国共産党による数々の大虐殺と民族浄化、驚異の裏工作と周恩来の恐ろしい正体など、日本ではよく知られていない衝撃事実を多数掘り起こして読みやすくまとめた、中国共産党史の決定版!
「本書の構成は、一般の歴史教科書のように、歴史的出来事を時系列で羅列(られつ)したものではない。むしろ、今まで日本で刊行された「中国近代史・現代史」関連の書籍で、意図的に隠蔽(いんぺい)され、無視されてきた事実を一つ一つ拾いあげ、それを「中共の暗黒百年史」として再構成したものである」(本書「はじめに」より)
<目次より> 一章 浸透・乗っ取り・裏切りの中共裏工作史 二章 繰り返される血まみれの大量虐殺史 三章 侵略と虐殺と浄化の少数民族弾圧史 四章 紅軍内大虐殺、陰謀と殺し合いの内ゲバ史 五章 周恩来、美化された「悪魔の化身」の正体 六章 女性と人民を食い物にした党幹部の貪欲・淫乱史 七章 日本人をカモにした対日外交史と反日の系譜 最終章 危険すぎる習近平ファシズム政権の正体と末路
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🔴🔴🔴 周恩来は、スパイマスターで【卑劣漢】。 虚像と実像は違う。 毛沢東の【酒池肉林】は並外れていたが、同時に多くの同志を裏切っていた。 🔴🔴🔴
♪ 石平 『中国共産党 暗黒の百年史』 (飛鳥新社) @@@@@@@@@@@@@@@@@@
中国共産党は悪魔である、と開口一番、ただしい歴史認識に基づいた叙述がある。日中友好の幻想にまだ酔っている人には目から鱗がおちることになればよいが。。。
毛沢東がいかなる陰謀と殺人と破壊工作で党の主導権を確立していったかは、これまでにも多くが語られた。その意味で、本書はおさらいである。
ようするに「百周年の誕生日をむかえた中国共産党がどれほど罪深く、それほど外道なふるまいをする危険な勢力か」を徹底的に、達筆に、しかも簡潔に要点だけを抉った。
「世界最大のならず者国家中国の軍事的脅威と浸透工作によって、我が日本が���かされている今こそ、中共の悪を歴史的に明らかにし、マフィア同然の反日反社勢力の罪悪と危険性にあたいする日本人の認識を深める」使命があると著者は執筆動機を語る。
なぜか。 日本の一流(?)とかの学者、ジャーナリスト、学究らは中国共産党の革命史観にそって賛美するものしか書いていないし、天安門事件前までの中国史たるや、共産党代理人が書いた書籍しか市場に流通していなかった。
そのでっち上げ史観に日本のインテリが影響を受けている実態はじつに情けないではないか。
ウィグル族の弾圧を欧米はジェノサイドと��定し非難している。ところが、日本は与党内の親中議員と公明党によって反論が渦巻き、決議さえ出来ずにいる。
なにしろ与党幹事長を基軸に与野党を問わず親中派議員がぞろぞろと国会にいるからであり、新聞テレビで、まともに中国共産党の暗黒面を伝えるのは産経新聞しかないではないか。
経済制裁にさえ、日本の財界は加わらないで、むしろ対中投資を増やしている。この愚劣な幻想行為は、なにからおきているのか。
中国共産党のマインドコントールに嵌って贖罪意識を植え付けられ、日本が悪かった、日本が中国様に謝罪し、そのためには経済援助を惜しんではならないという善意の発想を基礎にしている。
この善意は、中国が展開した高等戦術、その洗脳工作から産まれた日本人の意識の破壊、つまり考える前提を破壊し、中国寄りに思考を組み変えることからおきているのである。
中国的共産主義のおぞましさと残忍さの第一の例証は、かれらが権力を握る遙か以前から凄惨な内ゲバに明け暮れていたことである。
その実態は匪賊と代わらず村を襲撃して地主や有力者の財産を取り上げ、公開処刑して、村を暴力で支配し、それが解放区などと美化した。実態は大量虐殺でしかなかった。
大量虐殺は権力を握った後の国内で更に大規模に繰り返され、つまりは皇帝毛沢東の独裁にさからう者は、たとえ「革命の同志」であっても、残忍な拷問の末に殺された。
周恩来は、毛沢東の上司であったのに、いつのまにか家来となって生きのびた。 狡猾な卑劣漢である、と著者は言う。
ついで少数民族の虐殺と民族浄化であり、南モンゴルからチベット、そして現在はウィグル自治区でジェノサイドが続行している。
一方で権力を握ると腐敗が始まり、汚職が横行し、つぎに色欲が爆発する。 カネにあかせて妾を大量につくる。 そのお手当のために汚職がエスカレートする。 これも毛沢東以来の、というより孫文以来の伝統なのである。
本書を読んだあとでも中国共産党を賛美する人がいたらお目にかかりたいものだ。
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( 下記は、Amazon の レビューよりの転載です。)
日本人必読の書! 昨日届き、一気に読み終えました。 夜寝る前に読むには、「精神的に良くない本」でしたけど。
予想していたとは言え、それを遥かに超える「残酷な歴史」がまとめられています。 未だに中国に「幻想」を持っていたり、「暗黒面」に目を背け、ずぶずぶの関係にある政治家や官僚、財界人、マスコミ人、学者やコメンテーター、そして活動家たちは、こういった事実をどう考えるんでしょうか?
もし日本をはじめ世界が中国共産党の支配下に置かれたら(「自治区」や「世界統一政府」などを含む)、ここに書かれたことが間違いなく起こるでしょう。それこそ、世も末です。
私は人類は、これまで様々な「経験」や「歴史的出来事」等を通して学び、少しでも素晴らしい世の中になってきていたんだと信じていますが(もちろん「マルクス主義」や「階層史観」のことではない。私はそういった世代ではない)、中国共産党の侵略の手がさらに伸びれば、時代は大きく逆行するでしょう。
中国共産党や国民党により無残にも殺害されまくった数千万(数億人?)の人たちの尊い犠牲を繰り返さないためにも、何とかしないと大変なことになります。
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石平氏渾身のライフワーク 「はじめに」で、石平氏は、2021年7月1日の中国共産党結党百周年を「記念」して、1年以上の時間をかけ、渾身の力を振り絞って、「中共百周年の暗黒史」をテーマとする本書を書き上げたと述べている。 石平氏は1989年、日本の大学院に入り、中国近代史が日本でどのように書かれているか、日本の権威ある大手出版社から刊行された書籍を色々読んでみて、唖然としたという。日本の知識人たちが書いた中国近代史のほとんどは、中国共産党の「革命史観」に沿って書かれた、中共への賛美そのものだったからである。 中国共産党の外道ぶりと悪辣さを自分の目で見てきた石平氏は、日本の「中国近代史」の本を読んで、唖然としたり、憤ることがよくあるという。中共シンパの日本の知識人が書いた「中共史観の中国近代史」が広く読まれた結果、日本では中国共産党に親近感や甘い幻想を持つ財界人や政治家が数多くいるように思われる。
石平氏は嘘と偽りで成り立つ「中国共産党革命史観」を日本から一掃するため、そして中共の歩んだ極悪の百年史を日本の読者に示すため、この書を書いたのである。
33万人の長春市民を餓死させた「兵糧攻め作戦」、数千万人の人々を餓死させた「大躍進政策」、1千万人以上が虐殺された「文化大革命」については、これまでに石平氏の著書等で読んできたが、それ以外にも数十万人単位の大量虐殺が絶えず繰り返されてきた。 中共が好む殺人法はいつも「公開処刑」であり、必ず大衆を集めてきて、大衆の目の前で殺戮を行った。民衆に恐怖心を徹底的に植えつけて、彼らが政権に反抗できないように仕向けたのである。 「党���守るために虐殺も辞さない」という態度は、毛沢東時代に限ったものではない。鄧小平の時代においても、このような虐殺が実行された。 1989年の天安門事件では、石平氏と面識のある数名の同志たちが虐殺された。この天安門事件で殺された若者や市民の数は、今でも「最高国家機密」として封印されたままである。数千人はいると思われる。 そして他民族へのジェノサイドである。総人口の約5分の1の120万人が殺されたと推定されるチベット人虐殺は、今なお続いている。次に規模が大きいのが内モンゴルに住むモンゴル人の虐殺である。 現在、習近平政権によるチベット人、ウイグル人などの民族浄化政策は、世紀の蛮行と言っていい。習近平政権は間違いなく21世紀のナチスと化していると、石氏は述べている。
人民を奴隷として支配し、苦しい生活を強いながら、中共政権の幹部たちは贅沢と淫乱を貪る生活を送ってきた。その一方で彼らは、結党当時から残酷な党内闘争を繰り返し、殺し合いの内ゲバを展開した。時には、自分たちの仲間に対してもお家芸の大量虐殺を辞さなかった。 この極悪な中国共産党が百年に渡って存続してきたこと、そして70数年間にわたって中国を支配してきたことは、中国人民および周辺民族の最大の不幸であり、悪夢でしかなかったが、これが終わる気配は残念ながら全くない。むしろ習近平政権の下、中共のもたらす災禍はますます激しくなり、中国大陸周辺の我々近隣国にも及んできている。 幸い、この数年間、自由世界の多くの国々では中共政権の邪悪さへの認識を深め、中共政権を封じ込める中国包囲網の構築に乗り出した。 ウイグル人・チベット人に対する民族浄化の人権侵害に対し、そして彼らが香港で行っている人権侵害に対して、自由世界は一斉に立ち上がり、習近平政権への「NO」を突き付け始めた。更に安全保障の領域においても、自由世界主要国は連携して、中国共産党政権に対する総力的な闘いを挑み始めた。 中国共産党という悪魔のような政党の歴史は、習近平政権の破滅によって終止符を打たれなければならないと、石氏は主張している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 浸透工作による百年の原動力――、まさしく中共のDNAである
本書は、中共百年の「悪のDNA」を受け継いで、世界の巨漢と化した今の習近平政権こそ、中共最後の政権となるべきである。中共という悪魔のような政党の邪悪な歴史は、習近平政権の破滅によって終止符を打たなければならない、として締め括られているが、石氏にしては歯切れが悪い。むしろ、「今後も百年は安泰」とも思える絶望的な嘆きの声と捉えるのが素直ではないか。
やはり、その辛辣さは、上塗りの中共誕生の歴史を振り返る他ない―――、袁世凱の死後の無政府状態が続き軍閥の群雄割拠の中で抜きん出てきた蔣介石率いる国民革命軍と毛沢東率いる中共の対立構造をみても、中華民国の国軍とされる国民革命軍に楯突いた中共とは何者か。
無論、国民革命軍の中核は、蔣介石と国民党の独裁体制にこそある。国民革命軍を率いて「北伐」と呼ばれる戦争で統一政府となった。その裏で実力をつけた中共は国民革命軍に殲滅されそうにもなった。しかし、二度の国共合作で生き残り、終には、武力をもって国民革命軍を中華民国の大陸から追い出し、現在の中華人民共和国を樹立に至る経緯がある。
その成功――、闇の力の原動力は、「浸透工作」にある。権謀術数を弄し、自己の打算にのみ腐心し、自分や一族のためにいつも私計を謀ろうとする「支那流為政者」は、「軍閥のDNA」と言ってよい。「腐敗の普遍化」は中共内部にも起こるのだが、「粛清によるクリーニング」(選別的な摘発)に「浸透工作」が一役買っている。それによって、「権力構造をむしろ安泰」に導くスキームが内蔵されている。これが、百年の原動力なのだ。
共産党総書記に就任して早々、習近平は唯一の政治的盟友である王岐山(おうきざん)という中共幹部を、腐敗摘発専門機関の中央規律検査委員会の書紀に就任させた。以降の5年間、習近平と王岐山コンビは二人三脚で、中共内における凄まじい「腐敗撲滅運動」を展開し、累計25万人以上の中共「幹部」が摘発され失脚し、あるいは刑務所入りとなった。この規模から言って「浸透工作」がないと実現はできやしないだろう。
さらに、「浸透工作」の凄みが本書で指摘されている――、鄧小平(とうしょうへい)が改革開放路線をスタートさせて外国資本を中国に誘い入れようとした時、中共のスパイ工作の長老格である能向暉は、新設された国策会社「中国国際信託投資公司」の副董事長兼党書紀に任命された。つまり、中共からすれば、「国民党の内部に潜り込むのも外国の資本を中国に誘い込むのも、全く同じ性格の浸透工作でしかない」と述べている。 このことからしても、普通の主権国家であれば、「外資に乗っ取られる」危険を感じるのだが、「外資を誘いこんで浸透工作を行う」という発想――、この辛辣さの凄みに驚愕するところでもあった。さらに、その一枚上を行く「コミンテルン」の視点で書かれていて、しかも随所にリアルを追求したエピソードが散りばめており、迫真に迫るものがあった。本書はお勧めできる。
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中国共産党は癌細胞! 「このやり方は、癌細胞とよく似ている。人の身体の中で健康な細胞を呑み込み、それを栄養に癌細胞はどこまでも繁殖していく。そしていずれ、寄生する母体を完全に食いつぶす。ここが、中国共産党の御家芸の浸透・乗っ取り工作の極意であり、最も恐ろしい側面である。」と石平氏は書いている。
日本国内を見ても、いろいろな部位?で癌細胞が侵食している。とくに、国会の中に寄生した中国共産党という癌細胞は最大の問題である。我々日本人はいつまでこの癌細胞と戦わなければならないのか!はやく、世界が協力してこの癌細胞に対する抗癌剤を開発しなければならない、と思う。
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[翻訳] ナガランド州の犬肉禁止問題: 動物の権利、部族民差別
ナガランドにおける犬肉禁止をめぐるポリティクス
ドリー・キコン(メルボルン大学社会政治科学学術院)
2020年8月14日
先日、ナガランド州政府が犬肉の販売を禁止したことは、何が食べ物で何が食べ物でないかについての議論を二極化させただけでなく、私たちがいかに動物の体を私たちの政治や偏見のための戦場にしてきたかを示している。
7月3日、ナガランド州のテムジェン・トイ官房長は、犬の商業的な輸入および取引を禁止し、犬市場と犬肉の販売を禁ずるという州政府の決定をツイッター上で発表した。当該ツイートの最後に、彼はネイフィウ・リオ同州首相と、国会議員でありピープル・フォー・アニマルズ(PFA)創設者であるメーンカー・ガーンディーをタグ付けした。7月4日付ナガランド州政府告示によれば、この禁止事項に違反した者は、1860年インド刑法典第428条および第429条、ならびに1960年動物虐待防止法第11条に基づいて処罰される。これらの2つの法律に加えて、政府はまた、2011年インド食品安全基準委員会(FSSAI)規則、特に、人間が安全に消費できる動物を定義している2.5.1(a)節も援用している。今や犬肉はインドの食品安全基準外の食品に分類されているのだ。〔※同規則で食用動物とされているのはヒツジ・ヤギ・ブタ・ウシ・家禽・魚類〕
州政府の決定後の議論は、禁止を非難する犬肉支持消費者とそれを祝福する反犬肉の声の二項対立にエスカレートしている。論争についてはっきりしているのは、犬肉を消費する文化的権利について話す者と、動物の権利についての倫理的問題を提起する者が持ち出す極端な話法である。牛論争とは異なり、犬肉に関する論争は宗教を中心としたものではなく、文明の論理に基づいている。すべての動物の中で、現代インドにおける野犬は倫理、ケア、権利の代表である。また、路上の犬の経験と存在こそが家庭内空間と屋外の境界線を曖昧にしてもいる。
日常の食べ物の選択は、私たちにインドにおけるカースト暴力やウルトラ・ナショナリズムというより大きな問題に対処することを強いる。例えば、牛は最も崇拝されている動物であり、牛を保護せよと叫ぶ人々は牛を武器として用いるまでになっている。牛保護活動家たちは軍国主義的ヒンドゥトヴァ・ナショナリズムを推進してきた。犬はこのリストに加わり、インドにおける文明、純粋性、愛についての既に山ほどある論争を一つ増やすことになる。犬は道具化された存在となり、その擁護者は禁止令に違反した者を追い詰め���かもしれないが、犬肉を珍味として宣伝するグループは反撃するかもしれない。悲劇は、権利についての政治が応報的正義についての政治になってしまったことだ。
論争の中心にあるのは、犬の肉を消費する、あるいはそれに近づかないための「権利」の問題である。動物愛護活動家、ナショナリスト、雑食主義者、反カースト活動家、伝統文化継承者と、さまざまに自認する人々が声を上げている。犬肉禁止は、何が食べ物で何が食べ物でないかについての価値観、虐待、嫌悪感、禁忌、人種差別等々をめぐる議論を二極化させた。
COVID時代における食肉
とりわけCOVID-19パンデミックの時期にあって、インドにおけるウイルス拡散のもっともらしい要因として食肉への注目が高まっている。ナガランド州を含むインド北東部では、豚の輸入を禁止する告示が出されている。犬肉禁止の場合、動物福祉(犬を苦痛から救う)の主張と、犬は不潔で、病気にかかる可能性があり、したがって消費には適さないという記述が同時になされていた。COVID以前の時代でさえ、FSSAIの勧告の下、犬肉を含むさまざまな食品は、消費しても安全とされる食品の定義の外に置かれていた。目下は清潔で安全な動物という論理が、禁止を正当化するために用いられている。しかし、犬肉の禁止はインドのアニマルライツ活動家が始めたキャンペーンの���果として祝われようとしている。
州政府はまだ禁止措置の詳細を示していないが、犬肉は禁止リストに入った2番目の食品である。1989年、ナガランド州酒類全面禁止(NLTP)法により、州内での酒類の販売と消費が禁止された。今日では、ブラックマーケットが活況を呈しており、アルコールは州内で広く入手��能である。皮肉なことに、ナガランド州の犬肉取引についても同様の未来を目にすることになるかもしれない。
とはいえ、アニマルライツ活動家にとってこれはまさに法的勝利の瞬間である。ナガランドで犬肉を禁止しようとするキャンペーンは継続的なプロジェクトだった。ローカル市場からの数多くの文書や動画は、犬がいかに悲惨な目に遭い、恐ろしい残虐行為の犠牲になっているかを見せつけた。禁止直後の期間、犬肉消費賛成派・反対派双方の口調は非難がましいものであった。道徳的に唯一正しい選択としての菜食主義と雑食主義についての発言は声高になっている。
人種差別の道具
そもそも犬肉はナガ人の食生活の中心ではない。犬肉は珍しく、多くのナガ人世帯では消費されていない。しかし、犬肉の語りは、インド北東部の部族民コミュニティに対する暴力、憎悪、人種差別を扇動するための道具となっている。ナガ人コミュニティ全体を、野蛮と未開についての本質主義的な人種差別的イメージである犬肉食いとして描写する例がインドでは横行している。それほどまでに、ナガ人の集団的アイデンティティと犬肉は、半人半獣的な住民像、ナガ人臣民は道徳的に劣っており、教化されなければならないという〔英領期の〕語りを構築するうえで著しく影響を与えてきた。この説明は、犬を消費する文化的権利や犬を保護する道徳的権利といった権利の主張が、肉や植物に実際に齧りつくことによってなされるというナショナリスト的なアジェンダを生み出してきた。この二項対立は、権利についてと、どのような行為が非正統化されるべきかについての私たちの理解が、いかに禁止という観念によって動かされているかを示している。このような倫理観の形成とモラル・ポリティクスは、動物と人間の区別をさらに先鋭化し、アニマルライツ団体と人権擁護活動家の間に深い溝をもたらしている。
ナガランドでは、何十年にもわたる武力紛争と人権侵害が、深刻な不安と恐怖をもたらしてきた。犬肉の禁止が国軍特別権限法(AFSPA)の延長直後になされたという事実は「我々は犬を守るがナガ人は守らない」というメッセージを送っているように思える。犬肉禁止への抵抗の中で、食品選択の問題が伝統と文化の一部として用いられている。
ナガランド州における犬肉取引が禁止されたことで、アニマルライツ団体は州内での犬の悲惨な扱いに終止符が打たれると感じているかもしれない。それが実現しないことを私は危惧している。禁止がもたらした怒りや憤慨は、別の現実が展開される可能性を警告している。すなわち、自分の文化を証明するため、無理強いされた道徳的勝利を打ち破るため、覇権的秩序に抵抗し、粉砕するために犬を食べたいという衝動である。道徳的勝利と反撃の政治が、犬の身体の上に組み上げられている。
州政府の降伏
庶民の間には怒りが渦巻いている。ある特定の種類の活動家が、24時間にも満たないような目覚ましい速さで州政府に犬肉を合法的に禁止させることができるのはどうしてなのだろう。保健や教育のような基本的な権利を得ることができないナガランドの普通の市民にとって、犬肉の禁止は、ナガランドから遠く離れていながらナガの人々の文化実践を支配することができるアニマルライツ団体の要求に州政府が屈するという屈辱的な動きの集大成である。この禁止令は、いかに犬とナガの人々の生命がこのナショナリスト的な文明化プロジェクトの中心的主題であるかを浮き彫りにしている。ここにおいて右翼ヒンドゥー・ナショナリズムをめぐる政治は特に重要である。牛の屠畜禁止が宗教的少数派の迫害を正統化する動きになったとすれば、犬肉禁止が表しているのは野蛮人を文明化する運動であり、その中で動物的人間/部族民は清潔で安全な食べ物について教えられることになるだろう。
私たちは、アニマルライツ運動と他の形態のアクティヴィズムを互いに対立するものとして設定すべきなのだろうか。それとも、包摂的政治について考え、二項対立をなくすことに重点を置くべきなのだろうか。動物の世界、人間の世界、霊の世界(祖先の価値観)が、ケア、責任、答責性についての観念を共有できるような環境を考えるべきなのだろうか。犯罪性を強調する法的手段に完全に頼ることなく、地球のための共通目標をもつことができるだろうか。
新たな議論の必要性
犬肉に関する論争が曖昧にしているのは、右翼ヒンドゥー・ナショナリズムの意見とアニマルライツ運動の意見との間の線引きである。これは熟考に値する。なぜなら、いやしくも私たちが連帯を求め、価値観や倫理観についての新たな対話を始めるとしたら、それは後者のグループとのものになるだろうからだ。カースト、社会階層、ヒンドゥトヴァ・プロジェクトが絡み合っているように見えるアニマルライツについての政治の中で、私たちはどのような方法で自身の道を切り開くことができるだろうか。アニマルライツを支持する人々と、食習慣についての民族的・人種的価値観を擁護する人々のカーストや社会階層のヒエラルキーは、殺生、屠畜、肉食についての対話を結ぶ方法を見つけることができるだろうか。私たちの皿は、ある政治的主張を証明するために、すべて植物か、すべて肉かのどちらかでなければならないのだろうか。
犬肉の禁止から学べることがあるとすれば、それはオープンマーケットで売られている動物たちがどこでも経験している苦しみと残酷さである。動物の肉を食べるということは厄介なことであり、殺す行為がこのプロセスの中心にある。私はノンヴェジタリアンである。ナガランドで育つあいだに、私は動物を殺す方法を学び、食べようとする肉をきれいにする方法を学んだ。このような瞬間はめったになかったが、私は自分の存在が責任と犠牲という形で絡み合っていることを学んだ。これらは私が実践しようとしている価値観、つまり、自分が食べられるぶんだけをいただき、無駄にしないということだ。私が示唆したいのは、殺して肉を食べるという行為が可視化され、野蛮で非人間的なものとして隠されたり、排除されたりしない世界である。同じ精神で、植物や作物を栽培するプランテーション(オーガニックブランドを含む)で貧困や構造的暴力に苦しんでいる労働者の状況も解明する。このことは、私たちが日々の食事をめぐる社会的・政治的な現実と向き合うのに役立つだろう。
ナガランドの市場ができなかったのは、犬を隠し、消費のために処理されようとする他の動物から引き離すことだった。犬は鶏やアヒル、鳩の隣で縛られていた。また、彼らの肉は派手な袋に詰められていたり、「オーガニック」や「放し飼い」製品としてブランド化されたりしていたわけでもなかった。しかし、全国の市民の憤慨は、インド全土のオープンマーケットで販売されているすべての生きた動物が同様の状況に苦しんでいるという事実とは無関係に、犬だけに向けられていた。ナガランドの市場から犬を救出することは比較的容易であった。しかし、これは犬にとっては脱出したことにならない。これは利益と苦痛の論理が支配しつづける闇市場の活況の始まりとなるだろう。それは、人間が〔動物の〕権利を確立し、思いやりを示し、秩序を創出しようとする一方で、市場、屠畜場、動物保護施設、リハビリテーションセンターにおいて動物がどのように深く道具化され、動員されつづけるかについての現実に私たちを連れて行くだけだ。犬肉禁止に発する論争は、私たちがいかに動物の身体を自分たちの政治と偏見のための戦場に変えてしまったのかの内省を迫るべきである。インドにおいてこの論争は権利をめぐる政治の二極化を推し進めたにすぎない。
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映画『COP CAR/コップ・カー』 〜これぞテン年代のスタンド・バイ・ミー〜
2015年 アメリカ 原題:Cop Car 監督:ジョン・ワッツ 脚本:ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード 音楽:フィリップ・モスマン 撮影 マシュー・J・ロイド、ラーキン・サイプル 出演:ケヴィン・ベーコン、ジェームズ・フリードソン=ジャクソン、ヘイズ・ウェルフォード、カムリン・マンハイム、シェー・ウィガム
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映画「COP CAR/コップ・カー」は、テン年代の「スタンド・バイ・ミー」だ!
映画「スタンド・バイ・ミー」を観たことがあるでしょうか。1950年代のアメリカを舞台に、田舎町の少年たち4人が、郊外にある未発見の死体を探しに行くというひと夏の冒険を描いた作品です。今となってはかなり古い映画ですが、ズッコケ4人組的な少年たちの友情や線路を伝って歩くシーンの印象、さらには有名な主題歌も相まって、少年期の爽やかで切ない夏の映画という印象が強いかもしれません。僕も中学の頃初めて観たときはそんな印象でした・・・・というか実はそんなに印象に残らなくて、ゲロのシーンだけやたらインパクトがあったのは覚えています。
・映画「スタンド・バイ・ミー」予告 ・有名なゲロシーン
しかし大人になってこの映画を見返してみると、この映画の印象は変わりました。この映画の背後に漂うのは、死と暴力なのです。 よく考えればこの4人が探しに行くのは死体(しかも数日前に死亡して腐敗しているであろう死体・・・)。彼らはまだ人の死の重さを十分受け止められない年齢だと思いますが、興味本位や有名になれるという承認欲求で死体を探しに行くわけです。宝物や重要人物を探しにいくのではなく、死を目の当たりにしたことがない子供たちが死体を探しにいくという話なのです。 そして彼らの家庭環境を振り返ってみると、ゴーディは兄を無くした上に両親との関係に悩んでいる、クリスは優しくて賢いが、父親はアル中で兄は不良、テディは戦争の英雄だと父親をたたえているが、その父は精神病で虐待を受けた、などなど。どいつもこいつも、背後には暴力や死と隣合わせの世界があって、それに目を背けながら生きている。だからキャラが違うガタガタな4人組でもなんとなく仲良くなってるのかな思います。 最後には死体を目の当たりにし、そして大人たちの本気の暴力や悪意に対峙することになり、なんとも言えないビターな味わいを残して終わる。 この映画の真のテーマは、こうした死や暴力を知らない、もしくは向き合ってこなかった子供が、それらに初めて全面的に向き合うこと、そして大人の怖さを思い知らされることを通して、子供が少し大人の世界に近づく瞬間を描くことなのです。
今回紹介する映画「COP CAR/コップ・カー」は、あまり認知されていない映画ですが、実はこの映画、“テン年代の「スタンド・バイ・ミー」”と言っても過言ではない傑作なのです。
あらすじ
ちょっとした冒険心で家出した少年トラヴィスとハリソンの2人。当てもなく田舎町の原っぱを歩いていると、偶然パトカーを見つけるが、鍵置きっぱなしであることに気づき、度胸試しにパトカーを乗り回して遊びはじめる。しかし実はこのパトカーは、犯罪に手を染めた悪徳保安官であるミッチ(ケヴィン・ベーコン)のパトカーだった。少年たちは悪戯のつもりが、次第に大変な事態に巻き込まれていくことになる・・・というお話。
馴染みやすくて憎めない登場人物たち
この映画、静かな田舎町の様子が映し出された後に、第一声はこのフレーズで始まります。
「チ○コ!」
こんな映画は他に類を見ないと思います笑。汚い言葉や何のひねりもない下ネタでケラケラ笑えるというのは、世界中どこのキッズも共通なのでしょう。そしてこのシーンはそんな無垢で世の中のことも分かっていない子供たちが主人公だということを強調しています。
トラヴィスとハリソンは少しキャラクターが異なっていて、トラヴィスは威勢が良いが少し無鉄砲、ハリソンはちょっと臆病で慎重派。トラヴィスはハリソンを少しからかうようなところがあり、ハリソン自身も臆病な自分に対するコンプレックスがあるように見受けられます。このように対比的な2人であり、また実際に存在しそうな子供のキャラクター像となっています。
そんな2人の悪戯によって計画が狂ってしまうのが、ケヴィン・ベーコン演じるミッチ保安官。どんな計画の過程でパトカーを少年たちに盗まれたのかはネタバレを避けるため伏せますが、とにかく彼のキャラクターは人間臭くてとても魅力的です。悪役的な立ち位置ですが、パトカーが無くなったと気づいたときのテンパってる様子とか、家に帰るために他人の車を盗むときの様子とか、全然かっこよくない。人としての器が小さくて、必死さとドジっぽさに溢れ、それをコミカルに、そしてちょっと可愛げに描いていて、何だか憎めない。
このように登場するキャラクターが人間的で馴染みやすい設定になっていて、何ならちょっと親近感が湧くぐらいです。みんないわばそこらに居るような凡人で���最初から基礎能力の高い連中は誰も登場しません。
映画.comより
本気の悪意と暴力を目の当たりにする少年たち
前半は少年たちの無軌道な行動と、犯罪がバレないか焦りながらもどうやって収集をつけるべきかともがくミッチ保安官の様子��中心に描かれています。それぞれが全く別の行動をしている上に、ミッチ保安官のバレるバレないサスペンスも相まって、一体この映画はどこへ向かっていくのだろうかという気持ちにさせる、妙な不安定感が生まれて映画に惹きつけられました(結構淡々としたテンポで進んでいくので人によっては単調に感じてしまうかもしれませんが・・・)。
後半は少年2人が、実は無自覚のうちに危険な大人の世界に巻き込まれてしまったことが分かり、それに振り回されたり抗おうとする様と、ヤバい大人たちの争いが中心に描かれます。この後半も、結構面白く作られていて、ミッチ保安官のピンチに次ぐピンチを引き続きコミカルに描いていますし、途中から参戦するある人物が隠れて狙撃しようとする様子の間抜けさとか、おばちゃんのキャラクターとか、やはりオフビートな笑いをちょいちょい挟んでくるあたりが良かったです。起きてることは結構凄惨な出来事なんですけどね。またパトカーを巡って群像劇的にいろんな人が集まり、予測不能な展開が次々と起こるのも大変おもしろいと思いました。サスペンス演出は見事。
今まで何も知らず守られた世界で遊ぶ子供だった少年たちは、ここで初めて悪い大人たちの“本気”と向き合うことになり、暴力を目の当たりにし、死と隣り合わせの状況を強いられることになります。そして彼らは子供なりにそれを乗り越える。この点、映画「スタンド・バイ・ミー」と同様のテーマ性を含有する映画なのです。ただ「スタンド・バイ・ミー」と比べて本作はバイオレンスのレベルがだいぶ高いですが・・・。
ラスト、今までスピードを出せなかったハリソンがぐんぐんスピードを出して暗闇の道路を突き進んでいく。それを通して彼が自分の中の壁を突破したことが分かります。そして真っ暗闇の中、彼らの勇気と希望を反映して、遠くに街の灯りが見え始める映像を観ると、胸にグッと来るものがありました。
本作の監督であるジョン・ワッツは、この後、マーベル・シネマティック・ユニバースの人気作「スパイダーマン:ホームカミング」の監督に抜擢されましたが、「スパイダーマン:ホームカミング」においても、守られてきた子供が"大人の本気”を思い知らされ成長するという話で、全然毛色は違う映画ですが、本作と共通したテーマを持っていると思いました。
・映画「スパイダーマン:ホームカミング」予告
あとパトカーは防弾ガラス、後部座席に乗車したら中から開けられないなど、アメリカのパトカー事情もよく分かります。案外みんな意識していないことですが、銃の跳弾はメチャクチャ危ないってことがよく分かる映画でしたね笑。
最後に
予測のつかない意外な展開が続き、サスペンス映画としてレベルの高い映画だと思いました!映画「スタンド・バイ・ミー」が好きな人は是非鑑賞して比較してみると良いかもしれません。またMCUの「スパイダーマン:ホームカミング」を観た人も、参考作品として是非オススメの映画です。
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