コロナワクチンを1回接種したら【後編】
先日、夫婦で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種を受けました。『コロナワクチンを1回接種したら』前編では、ドイツおよびドルトムント市ではどのようにワクチンが優先される人たちの接種が進められているかや、実際に接種センターへ赴き接種を受けるまでの運びといったことについて書きました。後編では、会場でいよいよ接種を受けるところから、接種後の体の様子、様々な課題について触れました。
■思わず「おめでとう!」と飛び出しそうな雰囲気
モデルナ製ワクチンの接種ブースに入るとまず、クリスティアン(夫)とわたしは接種ブース内のカウンターで最終チェックを受けました。個人情報、接種の意思表示の署名、内容説明の既読署名、接種可否、医療書類(※)。すべてOKが出た後、わたしが最初に接種を受けることになりました。
※家庭医からのリスク保持者証明書がわたしたちにとっての医療書類でした。コロナワクチン接種優先度やドルトムントが打ち出している接種計画については【前編】をご覧ください。
Tシャツになって左腕を向けると、注射器を持った男性スタッフは始終にこやかで、思わず口から「おめでとう!」と飛び出してくるんじゃないかと錯覚するような雰囲気でした。なお事前に受け取っていた注意事項には、COVID-19対策としてドイツで基本の「AHAルール」(※)を徹底する旨のほかに、「Tシャツ&はおりもの着用を推奨」の記載がありました。日本での予防接種において当たり前の注書きのひとつですね。5月とはいえ、まだ10℃を切る気温のドルトムントでは厚手の服になりがちなので、接種前後の作業時間を減らすためにも納得の注意書きでした。
※AHAルール:対人距離(Abstand)、消毒などでの衛生管理(Hygienevorkehrungen)、常時マスク着用(Alltagsmaske)の頭文字。COVID-19対策として欠かせない3つの意識・行動を表しています。とても分かりやすいので、政府主導で「AHAルール」が登場した2020年には、子供向けTVニュースでもよく話題に上っていました。
わたしの出血がなく絆創膏なしで喜ぶ男性にお礼を告げブースを出ると、病院の待合いスペースのように椅子が並んでいました。ここで、接種後15��の待機。アナフィラキシー症状が出ないかどうかを観察します。待機場所も、ビオンテック製とモデルナ製では別々。それぞれにカップル席、単体の椅子が間を開けて設置され、接種を終えた人たちが手持ち無沙汰にぱらぱらと座っていました。
クリスティアンに並んで座ったわたしは、モデルナ製ワクチンの副反応、効果、注意書きに改めて目を通しました。主な副反応は、「接種箇所の痛み 90%以上」「倦怠感 70%」「頭痛・筋肉痛 60%以上」「関節痛・悪寒 40%」「吐き気・嘔吐 20%以上」か…。隣に記載されているビオンテック製ワクチンの副反応と比較すると、モデルナ製のほうが10%程度高い数値が出ていました。隣では、3日間はアルコール摂取を控える注意書きに気付きショックを受けるクリスティアン。
■会場には短期契約のスタッフ
15分の待機時間後、出口へ向かう経路上に並んだチェックアウト窓口へ向かいました。銀行窓口のようなパネル越しに女性スタッフへすべての書類を手渡し、2回目の接種の予約や、質問・疑問がないかを確認。チェックアウト窓口も、やはりビオンテック製とモデルナ製で分かれていました。
この日は日曜日だったので、ふと「(ドイツでは休業日の)日曜なのに丸一日仕事ですか?」と女性に声をかけると、勤務は日に2シフト制で、日曜を含む週に2〜3回のシフト入りなのだと教えてくれました。ドルトムントのコロナワクチン接種のセンター運営は地元の医療コンサルタント企業「KVWL(Kassenärztliche Vereinigung Westfalen-Lippe)」が担い、窓口の女性も運営会社が募集・雇用した短期契約の事務スタッフということでした。
そういえば、会場全体には各入口・壁際・ブースにヘルプ&監視スタッフがたくさん配置されていました。ここの多くの人たちが、女性と同じように短期で雇用されたスタッフなのかもしれません。そんなことを考えていると、思い出しました。自宅近くに本社を構えるKVWLが、離れた場所にある支店を統合・拡大するため新たに自社ビルを建設中だったな――なるほど、コロナ時代(あるいは、ポストコロナ時代)のビジネスを見た思いです。
コロナワクチン接種のセンターでの流れは、全部でおよそ1時間でした。わたしが経験したドルトムントのコロナワクチン接種センターの会場図を簡略化して描いてみました。入口エリアが少しタイトだった以外は、出口までスムーズな動線だったと思います。ご参照ください。
■接種完了者の規制緩和や接種証明の偽造も
ビジネスといえば、クリスティーネ・ランブレヒト(Christine Lambrecht)法務大臣がTV討論番組『Anne Will』で5月3日、「ワクチン接種を受けた人たちの対人接触制限の解除は不可欠である」と述べ大きな反響を呼びました。翌4日には、内閣に提出された制限緩和の方針が検討段階にあることを同氏が明らかにし、その後7日に可決されました。「ワクチン接種者および感染からの快復者に対する制限措置の緩和および例外にかかる政令」です。
実際に制限緩和となり状況が進展しないことには、小売や飲食、レクリエーションなどの対人ビジネスにどれだけの意味を持つのかわたしには見えませんが、これが、コロナワクチン接種を受ける市民の意識にはずみをつける役割を担ったのは確かです。その結果、対人ビジネスの規制緩和もそう遠くはないのではと夫婦で期待を寄せています。
同時に、“悪のビジネス”の動向にも注意が必要なようです。例えばベルリン警察は4月末、コロナワクチン接種証明を偽造するための接種パスポート(「International Certificate of Vaccination or Prophylaxis」のこと、くわしくは【前編】末尾をご覧ください)とワクチンのステッカーを大量に押収しました。押収した拠点の違法・危険薬物を扱うグループメンバー数人も逮捕。Berliner Zeitung紙は、偽造接種パスポートが新たな課題になったとして記事に取り上げ、注意を促すと共に政府の対策に言及しています。
■未体験の痛さ 〜わたしの副反応
さて、誰もが関心があるであろう接種後の副反応ですが、わたしはこれには完全に参ってしまいました。最初に断っておきますが、副反応には個人差があります。ここに記載する内容は、あくまで わ た し 個 人 の 経験です。
接種後2時間が過ぎた頃、注射を打った場所にはっきりとした痛みを覚えました。水を注ぐためにボトルを持つと、筋肉を使いすぎた時のようにな痛みがあり、ちからが入らないのです。クリスティアンも同じ頃に痛みを感じ始めました。痛いながらも、その後ガーデニングなんかもこなしていたところ、段々と上着のジッパーを外すのも、パンツのホックを脱ぎ着するのもつらくなってきました。最後はもう、自分に腕がぶら下がっているだけで痛い!(接種後はノンアル指示ですが、飲みたい気持ちは1mmも湧きませんでした)
接種当日は、早く寝ることにしました。肩・腕が片方動かせないからか副反応だからなのか、頭痛も出始めました。そして、弱い悪寒は常に感じていました。服を着替える際は、クリスティアンにTシャツを脱ぐのをアシストしてもらい、ブラホックも外してもらいました。痛みで度々目を覚ましてしまい、疲れつつ迎えた翌日は更にひどい痛さ…。ベッドに横たわり、注射を打った左腕を、右腕で慎重に動かさないと身体の向きすら変えられない程です。クリスティアンは「弾丸で撃ち抜かれたよう…」と表現していました。
わたしは早々に降参し、痛み止め(イブプロフェン)を摂ることにしました。飲んだそばから「元気になった?」と顔をのぞき込む息子。くすりの効果が出てきて、ようやく息子の朝の支度とごはんに手を付けられましたが、3歳の息子がわたしの手伝いなしにトイレや身支度を自分でこなすことができたのはいい経験でした。
痛み止めを摂っても、例えば上の方の棚へ片付け物をする、インナートップスを脱ぐ、注射と反対側の腕の脇の下を洗う、顔に化粧水を浴びせ保湿クリームを塗る… といった日常の動作がかなり痛みました。結局この日は、夜寝るまでに摂取の限度量まで痛み止めを摂り続けました。
接種翌々日の朝、痛みは残っていたもののくすりが必要な程ではなく、わたしの腕は無事上げられるようにはなりました! ところが、クリスティアンの腕は、まだ45°止まり。わたしがくすり漬けだった接種翌日、逆に痛み止めを摂らず我慢し、腕を極力動かさずに過ごしたそうです。そのため腕に加え、背中や首も凝り固まってしまっていました。とても苦しそうだったので、入念なストレッチの手助けをしてあげました。けがをした時のリハビリと同じように、動かし続けて血流を促すことが痛みからの早期回復に役立つのかもしれません。
■“ワクチン格差”を生まないために
1回目のコロナワクチン接種をこなし、いくつか気づいたことがあります。
まず、屋外にできる行列。わたしたちが来訪した際は接種予約が少なめな週末かつ穏やかな天気だったためストレスを感じませんでしたが、悪天候時に長い列では待ち時間がこたえる人もいるでしょう。かといって、屋内に詰め込んで待たせるのは対人距離が確保できず閉鎖空間に多人数が集まってしまうという点で問題です。また行列整備のスタッフや整列目安の印は特に配されている様子はありませんでした。わたしたちも、到着時はその行列が入口に続くものなのかどうかはっきりせず、わたしが行列についている間にクリスティアンが入口方面に確認しに行きました。1カ所の接種センターをこれまでのようにフル稼働していく場合は対策が必要かもしれません。
次に、多様な来場者への配慮。全体的に段差なしのフラットな作り、各所に設置された椅子、着席姿勢が必要な人のためのチェア&デスクセット、トイレの設置など年配者や車椅子利用者向けの配慮が行き届いていた印象です。では、子連れの場合はどうでしょう。
今回わたしが来場した際に、子供や赤ちゃん連れは全く見られませんでしたが(職業や高齢者で選別している今の主な接種対象者層を考えれば、当たり前ですね)、預かり先を探した挙げ句幸運にも近所の友人に息子を1時間半預かってもらえた身としては、今後のことが心配です。つまり、接種範囲がファミリーや若年層になってくると、子供のことも考える必要があり、それが不便・不都合・大きな負担である程、接種率の低下に反映するはずだからです。
今後、もしかしたら子供の一時預かりスペースの設置や、連れ込む場合のレギュレーション、接種のための特別休暇といった就労規則、接種アポイントの優先予約など、新たに決めるべきことや改善されていくことが出てくるかもしれません。その際は政府や市、ドルトムントであれば「KVWL」といった接種センター運営企業が、より良い方向へ進めていってくれるものと思っています。
それから、ドイツ語が母国語でない人が来場した場合は、どうなるのでしょう。会場で受け取った重要書類は全てドイツ語で、案内や張り紙にも多言語表記は見当たりませんでした。一方で、接種センターでのオンラインアポイント予約は英語に対応し、刻々と更新されるドルトムントの接種計画表はドイツ語の他、英語・トルコ語・アラビア語・ペルシア(ファルシ)語・ポーランド語・ルーマニア語・ブルガリア語・スペイン語・クロアチア語・フランス語・ロシア語が用意されているのです。会場でのドイツ語は簡潔でわかりやすかったとはいえ、これだけの多言語話者を想定しているのであれば、多言語サポートに関してもはっきりとした掲示やアナウンスがあると良いのではと感じました。
大都市では特に、低所得者や移民層へのリーチに苦労しているとTVニュースでも報じられていました。それは、予防接種やワクチンに関する理解度の問題でもあれば、職業や家庭の事情で接種場所へ行くことができないとか、言語にハードルがあるとかの問題でもあります。同ニュースで紹介されていたケースでは、そういった地域へ複数・多言語の通訳者らと共に赴いてコロナワクチン接種を現地で実施していました。
◇
最後に、わたしから些細なヒントを。ひとつは、副反応に備えておくこと。副反応はワクチンメーカーによる違い、個人差があります。けれど、備えあれば憂いなし。痛みの点では、痛み止めを用意しておくと良いと思います。接種後、耐えられないような痛みに耐えると、後に響きます。不安な場合は自己判断せず、必ず担当医に相談してください。
もうひとつは、副反応が存在しているとしてもこの社会で予防接種は必要であるということ。社会全体の混乱や不利益を生むような言動を貫く人たちは、はたして孤島で暮らしているのでしょうか。この世界の誰とも交わることのない、魔法か何かを知っているのでしょうか。
◇
■追記(2021年5月8日):ドイツの感染症対策を率いるロベルト・コッホ研究所(Robert Koch-Institut)によれば、イブプロフェンやパラセタモールといった鎮痛剤について、コロナワクチンとの組み合わせを判断するにはデータ不足としながらも、「ワクチン接種後に望ましくない副反応が発生した場合、これらの薬剤の投与がワクチン接種の成功に大きな影響を与える可能性があるという証拠はない」(2021年4月15日)としています。ただし、一般的な予防接種と同じく、予防的な服用(接種前)や接種後6〜8時間以内の痛み止め服用は避けられるべきとされてます。
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正しく働かない脳
2019年2月 号
2019年(平成31年)2月9日
第154回アミュゼ柏相談会資料
正しく働かない脳
統合失調症(schizophrenia)
1.陽性症状
妄想(被害関係妄想、注察妄想、追跡妄想、被毒妄想)や、幻覚(幻聴、幻視)などです。
たとえば、第三者同士が本人を観察し詮索しあっているという対話形式の幻聴、患者の挙動にいちいち口をはさむ幻聴、患者に話しかける幻聴。話しかけに対する患者の応答反応は、独語、空笑いのように観察されます。
させられ体験(操られるままに考え行動してしまい、これに抵抗することが出来ない)、思考察知(自分の考えが相手に知られている)、思考伝搬(自分の考えが世間に知れ渡っている)、思考吹入(思考を吹き込まれる)、思考奪取(考えを抜き取られる)などがあります。また、思考のまとまりが悪くなり、極端な場合は、支離滅裂な思考、非論理的呪術的な思考となります。
感情の面では、「打てば響く」ような共感が無くなり、これは疎通性障害と呼ばれます。そこから生ずる独特の冷淡なよそよそしさ、いわゆる統合失調症らしさが、患者の印象全体を覆っていきます。感情の鈍麻や浅薄化、状況にそぐわない不自然な感情の動きなどです。
緊張病症状というものもあります。緊張病性の興奮と昏迷の両極端が時間的に劇的に交代して現れるものです。意志発動の亢進、及び低下の現れと考えられる。
このように、統合失調症では、精神機能の様々な面で、現実世界や他者との生きた接触が損なわれていきます。ミンコフスキーE.Minkowskiは、これを「現実との生ける接触の喪失」と表現しました。ウジューヌ・ミンコフスキー(Eugene Minkowski):1885年、ロシア、サンクトペテルブルグ生まれ、ポーランド系ユダヤ人の両親を持つ。20世紀にフランスで活躍した精神科医。著書、”精神分裂病”で著名。
2.陰性症状
陰性症状は正常な精神機能が減弱欠如してしまうもので、感情の鈍麻、平板化、意欲と自発性の欠如、会話の貧困、寡動、社会的ひきこもりなどです。
うつ病(depression)
うつ病は、次のような症状が特徴的です。
必須①抑うつ気分。毎日一日中、気分の落ち込みが2週間以上続く。
必須②興味・喜びの喪失。毎日一日中、何事にも興味が持てず、楽しいはずのことが楽しめない。このような状態が2週間以上続く。
③2週間以上、よく眠れていない。
④食欲が落ちて体重が減少する。(逆に、食欲が亢進して体重が増加する。)
⑤疲れやすい。ほんの少し働いただけで、2日間ぐらい寝込む。
⑥自責感。自分は駄目な人間だ、皆なに迷惑をかけているなど自分を責める。
⑦思考力、集中力の低下。いつもは普通に決められる事が決められない。
⑧生きていてもしかたがないと思う。
⑨動作が緩慢。動きや反応が遅くなる。
精神科医 加藤忠史さんはうつ病診断基準を次のように述べています(参考文献(1))。
1.『必須①、必須②のうち、どちらかが必ずある』
2.『必須①から⑨迄のうち、5項目以上該当する』
3.『これら症状が毎日一日中、2週間以上にわたって続く』
これら三条件が当てはまる場合、うつ病と診断されます。あなたは如何ですか?
第1図 不安障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、境界性パーソナリティ障害、発達障害の概念図
数あるパーソナリティ障害を代表して、境界性パーソナリティ障害を示しています。
双極性障害(bipolar disorder)
双極性障害は、以前は躁うつ病と言われていました。躁状態(ないし軽躁状態)と、うつ状態の組み合わせを1サイクルとし、生涯これを何回も繰り返す病気です。
躁状態:気分が病的に高揚して、ハイテンションになった状態。しばしば睡眠さえ取らず活発に活動して、楽しいことに熱中します。爽快な気分で新しい発想が次々と湧いてくる。意欲が亢進する。また反面、注意散漫で仕事の完成が困難となる。高圧的で落ち着きが無く、不機嫌で怒りっぽい、一度起こりだすと手がつけられないほど激昂します。
また、冷静な判断力が失われ、過度の浪費をしてしまう。他人への攻撃性が増して、時に職場や家庭での人間関係に破滅的トラブルを来します。
重症になると興奮して反社会的行為に至る事もあります。
こうした状態が1週間以上続く場合、躁状態の疑いが強くあります。
軽躁状態:躁状態と同様の症状が現れますが、症状が比較的軽く、職場や家庭での人間関係を破滅させるほどではない状態。時には仕事の能率が上がり、周囲の人を感心させる事もあります。周囲の人が本人の軽躁状態に気づかない場合もあります。こうした状態が4日以上続くと軽躁状態と言えます。
双極性障害には、Ⅰ型とⅡ型があります。
双極性障害Ⅰ型:強度の強いはっきりとした躁状態とうつ状態を1サイクルとして、周期2年間程度で繰り返すタイプ。
双極性障害Ⅱ型:軽躁状態とうつ状態を1サイクルとして、周期1年間以下で繰り返すタイプ。特定の季節になると、軽躁とうつの転換が起こりやすい。Ⅱ型の場合、本人も周囲も軽躁状態に気づかずに、うつ状態のみが目立って、うつ病と誤診されるおそれがあります。双極性障害の薬とうつ病の薬は異なるので、誤診されてうつ病の薬を飲み続けると、双極性障害が遷延化しますから気をつけなければいけません。
自殺の危険性:双極性障害のうつ状態では、患者の自殺のリスクが高まると言われています。躁状態から回復した後に、躁状態の時の行動を後悔し、うつ状態の時にそれを苦にして自殺念慮が高まるからです。周囲の人の配慮が大切です。
神経症(neurosis)
神経症(近年は不安障害という)は、過度の不安、ヒステリー症状、恐怖症、強迫症状、抑うつ状態などを示す障害であり、そこには明らかな身体の病気は見られず、また、統合失調症のような妄想・幻覚なども無い精神疾患です。神経症には、以下に述べるように様々の病態があります。
1.パニック障害(急性不安障害)
パニック障害は、激しい動悸、胸痛、窒息感などの症状が予期できない形で突然発生します。発作は数分~数10分で治まりますが、このような発作が何回も繰り返して起こります。発作が起こる背景には、疲労の蓄積、睡眠不足、不規則な生活などがあります。発作を抑えるのに、抗不安薬や抗うつ薬(三環系、SSRI)が有効とされています。
2.全般性不安障害(慢性不安障害)
周囲の状況とは関係なく、主観的不安感が毎日のように持続する症状を言います。例:自分や家族が病気や事故に遭うのではないか、失業するのではないか等。同時に、発汗、動悸、振戦、緊張性頭痛等を伴います。女性に多いとされます。
3.恐怖症
恐怖症は、現実には何の危険も無い対象・状況に対して、強い恐怖感を抱く精神疾患です。恐怖に伴う身体症状として、心悸亢進、発汗、吐きけ、振戦、失神があります。恐怖症では、恐怖の元となる対象や状況を避けようとする回避行動が起こり、社会生活を円滑に営む事が出来なくなります。又、しばしば強迫行為を伴います(例:不潔恐怖による洗浄強迫)。恐怖症には、次の三つがあります。
(1)広場恐怖(agoraphobia)
広場恐怖は、文字通りの広場ではなく、何かあった場合に助けを求められない場所や状況に対する恐怖です(例:乗り物の中、閉所空間、人混みの雑踏等)
(2)社会恐怖(social phobia)
社会的・社交的状況、特に比較的少人数の集団内で、注目される事に対する怖れが中核をなし、そのような状況を回避する結果、学業や職業の機能が低下してしまいます。その要因として、自己評価の低さ、周りの人の自分に対する批判に対する怖れが関連しています。赤面、尿意頻回、視線恐怖、対人恐怖等が起こります。
(3)特定の対象・状況に対する恐怖
特定の生きもの(蛇、蜘蛛、昆虫、鳥、蛙等)、特定の状況(雷、飛行、暗闇、高所、公衆便所での排便排尿、特定の食物、血・傷害の目撃、エイズなどの罹患、自然災害のニュースに接すること)、によって生ずる恐怖。特定の対象・状況に対する恐怖は、恐怖症の中で一番多いです。
4.強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)
強迫とは、ある観念や衝動が、自分の意志に反して執拗に意識に上り、それをばかばかしいと思いながらも止める事が出来ない、そして、これらを敢えて抑えようとすると、かえって強い不安が起こる、という一連の流れを指します。強迫行為は、強迫観念を打ち消し無害化するために行われます。
(1)不潔・汚染の強迫観念、これを打ち消す為の洗浄が強迫行為。たとえばドアのノブに触ったら手を洗われずにいられない。
(2)安全確認行為。ガス栓を閉め忘れたのではないか。玄関の鍵を染め忘れたのではないか、と何度も何度も確認する強迫行為。
(3)行為の儀式化
生活上の行為を自分が決めた手順の通りに行わないと不安になる。例:手順通りに食事をする、外出する際、洋服を着る、靴を履く、手順通りにしないと最初からやり直すなど。
(4)性的に卑猥な言葉、相手に対する攻撃的な言葉などが反復して頭に浮かぶ。
強迫性障害には薬が有効です。抗うつ薬(三環系のクロミプラミン、SSRI)が効きます。
5.ストレス障害
(1)適応障害(adjustment disorder)
適応障害は、ストレス因子に反応して3ヶ月以内に、情緒、行動の面に症状が現れ、社会的機能が失われるものを言います。ストレス因子は、若年者では学校の問題、親の不和・離婚、成人では結婚、離婚、引っ越し、経済問題、職場の問題等。国際的問題としては、迫害、移住、亡命、難民化等。主たる症状は、抑うつ、不安、行動の障害が、生活に伴います。ストレス因子が除去されると、6ヶ月以内に症状は消えていきます。
(2)外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder,PTSD)
日常生活の範囲を超えた異常な事態、戦争、自然災害、火災、交通事故、暴力、強姦など、生命の安全が脅かされた場合、人は誰でも非常に強い感情を伴うストレスを受けて精神的に病的な状態に陥ります。これを外傷後ストレス障害(PTSD)と言います。従軍兵士が戦場から帰国後、重篤な精神症状を示すことは、戦争神経症としてよく知られていました。
PTSDの典型的な症状として、以下のものがあります。
(イ)夢の中、あるいは覚醒時に外傷体験を再体験する。
(ロ)外傷体験を想起させる事柄を何時も避ける。
(ハ)睡眠障害、怒りやすい、驚愕反応。
6.転換性障害(conversion disorder)
転換性障害は以前、ヒステリーと言われていました。随意運動機能の異常を起こすもので、失立(立つことが出来ない)、失歩(歩くことが出来ない)、失声(声が出ない)、チック(突発的、無目的、不随意(ふずいい)に急速な運動や発声が起きるもの。子どもに多く、まばたき、首振り、顔しかめ等)等が起こります。
また、感覚機能の異常(知覚脱失、疼痛など)がありながら、原因となる身体疾患が見あたらない場合があります。発症の原因として、心理的葛藤、ストレス因が関与しています。
解決不能の事態に対する葛藤から生じる不快な感情が、身体症状化したものと考えられています。身体の麻痺、視覚障害、無言状態などが、転換症状として良く見られます。
7.解離性障害(dissociative disorder)
解離性障害は、身体に器質的な異常が無いのに、意識や同一性の障害が起こります。
解離性健忘:心的外傷となる様な出来事に遭遇して、その後、その出来事を想起できなくなること。
解離性同一障害:いわゆる多重人格のこと。複数の人格の状態を行き来する事が長期にわたり継続します。解離性障害のうち、もっとも重症で慢性的症状です。
8.摂食障害
(1)神経性無食欲症
思春期やせ症と言われています。発症年齢は13歳~20歳の未婚女性に多い。主な症状は、摂食拒否と高度のやせです。患者は「食欲がない」と言って食事を拒否し、急速に体重が減少します。やせていても本人は「まだ太っている」と主張し、食べないで活動します。性格は、自己中心的、強情、頑固、負けず嫌い、他人に厳しい、ところがあります。
(2)神経性大食症
神経性大食症も若年女性に多く、神経性無食欲症よりやや遅れて、10代後半~20代前半に発症します。症状の特徴は、
(イ)はっきりした”無茶食い”を繰り返して行っている。
(ロ)摂食行動を自己コントロール出来ない。
(ハ)体重増加や体型に過度の関心をもっていること。
”無茶食い”の後は、自己嫌悪、罪悪感、抑うつ気分を生じます。神経性大食症の背景には、思春期の人生課題を遂行する事に困難を抱えて、悩んでいる事情があります。
パーソナリティ障害(Personality Disorder)
1. 妄想性パーソナリティ障害(Paranoid Personality Disorder)
他人の動機を悪意のあるものと解釈するといった,広範な不信と疑い深さが、成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。 以下のうち4つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)十分な根拠もないのに,他人が自分を利用する,危害を加える,または騙すという疑いをもつ。
(2)友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い,それに心を奪われている。
(3)情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために,他人に秘密を打ち明けたがらない。
(4)悪意のない言葉や出来事の中に,自分をけなす,または脅す意味が隠されていると読む。
(5)恨みをいだき続ける。つまり,侮辱されたこと,傷つけられたこと,または軽蔑されたことを許さない。
(6)自分の性格または評判に対して他人にはわからないような攻撃を感じ取り,すぐに怒って反応する,または逆襲する。
(7)配偶者、または性的伴侶の貞節に対して,繰り返し道理に合わない疑念をもつ。
【妄想性パーソナリティ障害の事例】
訴訟好きの人。配偶者の貞節を何の根拠もなく常に疑う人。持続する強い猜疑心を持つ人。
2. シゾイドパーソナリティ障害(Schizoid Personality Disorder)
社会的関係からの遊離,対人関係状況での感情表現の範囲の限定などの広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち4つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)家族の一員であることを含めて,親密な関係をもちたいと思わない,またはそれを楽しく感じない。
(2)ほとんどいつも孤立した行動を選択する。
(3)他人と性体験をもつことに対する興味が,もしあったとしても,少ししかない。
(4)喜びを感じられるような活動が,もしあったとしても,少ししかない。
(5)第一度親族以外には,親しい友人または信頼できる友人がいない。
(6)他人の賞賛や批判に対して無関心に見える。
(7)情緒的な冷たさ,よそよそしさ,または平板な感情。
【シゾイドパーソナリティ障害の解説】
シゾイドパーソナリティ障害の人は、生涯にわたる社会的ひきこもりと極端な内向性を特徴とします。親密な人間関係に対する欲求を欠き,常に孤立して行動することを選びます。他人の賞賛や批判に関心を示さず,親兄弟以外には親密な関係を持ちません。職業も対人接触の乏しいものを選びます。冷たくよそよそしい印象を与え,しばしば家族に対してすら冷淡であるが,意図された攻撃性としての冷たさではなく,そもそも対人関係に喜びを感じないのです。怒りを現すことは滅多になく性体験に対する興味は極めて乏しい。
3. 失調型パーソナリティ障害(Schizotypal Personality Disorder)
親密な関係では急に気楽でいられなくなること,そうした関係を形成する能力が足りないこと,および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った,社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち5つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)関係念慮(関係妄想は含まない)、関係念慮:例として、教室の後ろで同級生3~4人が話し合っていると、自分の噂をしていると感じる。
(2)行動に影響し,下位文化的規範に合わない奇異な信念,または魔術的思考(例:迷信深いこと,千里眼,テレパシー,または“第六感”を信じること;小児および青年では,奇異な空想または思い込み)
(3)普通でない知覚体験,身体的錯覚も含む。
(4)奇異な考え方と話し方(例:あいまい,まわりくどい,抽象的,細部にこだわりすぎ,紋切り型)
(5)疑い深さ,または妄想様観念
(6)不適切な,または限定された感情
(7)奇異な,奇妙な,または特異な行勤または外見
(8)第一度親族以外には,親しい友人または信頼できる人がいない。
(9)過剰な社会不安があり,それは慣れによって軽減せず,また自己卑下的な判断よりも妄想的恐怖を伴う傾向がある。
【失調型パーソナリティ障害の解説】
「魔術的」などと形容される奇異な思考や独特の信念,関係念慮(例:教室の後ろで同級生3~4人が話し合っていると、自分の噂をしていると感じる),妄想様観念などを持ち,疎通性(話が通じること)が障害されがちです。このため安定した社会関係や親密な人間関係を持つことが難しいです。社交場面で強い不安を持ちますが,それは自己卑下よりも妄想的恐怖に結びつきやすいからです。魔術的思考には,迷信深さ,テレパシー・予知能力を信じること,現実にありえないそのほかの思い込みなどが含まれ,いずれもその人が属する下位文化の常識から逸脱したものです。
4. 反社会性パーソナリティ障害(Antisocial Personality Disorder)
他人の権利を無視し侵害する広範な様式で,15歳以降起こっており,以下のうち3つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)法にかなう行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。
(2)人をだます傾向。これは繰り返し嘘をつくこと,偽名を使うこと,または自分の利益や快楽のために人をだますことによって示される。
(3)衝動性、または将来の計画を立てられないこと。
(4)いらだたしさおよび攻撃性。これは身体的な喧嘩または暴力を繰り返すことによって示される。
(5)自分または他人の安全を考えない向こう見ずさ。
(6)一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない,または経済的な義務を果たさない,ということを繰り返すことによって示される。
(7)良心の呵責の欠如。これは他人を傷つけたり,いじめたり,または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり,それを正当化したりすることによって示される。
5. 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)
対人関係,自己像,感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち5つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)現実に,または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
(2)理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる,不安定で激しい対人関係様式。
(3)同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感。
(4)自己を傷つける可能性のある衝動性で,少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費,性行為,物質乱用,無謀な運転,むちゃ食い)
(5)自殺の行動,そぶり,脅し,または自傷行為の繰り返し。
(6)顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2~3時間持続し,2~3日以上持続することはまれな,エピソード的に起こる強い不快気分,いらだたしさ,または不安)。
(7)慢性的な空虚感。
(8)不適切で激しい怒り,または怒りの制御の困難(例:しばしば、かんしゃくを起こす,いつも怒っている,取っ組み合いの喧嘩 を繰り返す)。
(9)一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状。
【解説】
まず特徴的なのは,人とのかかわりが非常に不安定で,人の評価が,すばらしくいい人からすばらしく悪い人へと簡単に逆転するような,非常に不安定な対人関係をもっています。
それから,衝動行為が多い。衝動行為として薬物噂癖,摂食障害,つまり過食や拒食や,買物依存とか,万引きもあります。
それから,自殺企図か,見せかけの自殺が多い。「手首を切ってしまった」と人に見せに来るとか,「これから死にますから」と連絡しておいてから薬を飲むとか,いろいろ人騒がせな自殺未遂がみられます。
また,感情の浮き沈みが激しい,落ち込んだときというのはうつ状態に似ているけれども,うつよりも期間が短い。多くて2,3日,短ければ2,3時間ぐらいでまた立ち直る。そういうスパンの短いうつ状態が起こる。
それから,自我同一性の混乱がある。それは自己表象が逆転したり,不安定だからです。また,空虚感,独特のむなしさを抱えています。
【事例】原始的投影性同一視とストーカー行為
境界性パーソナリティ障害の人は、原始的投影性同一視という防衛機制を使います(注1)。原始的投影性同一視というのが恋愛のほうで起こると,ストーカーになります。投影だけなら一人で思っているだけですが,投影性同一視になると,「どうもあの人は私のことを好きらしい。じゃあ私もあの人を好きになって,花束を届けましょう。カードを届けましょう」ということになる。相手は身に覚えがないのに付け回されて,「いらない」と言うのにいろいろなことをしてくれる。そういうストーカー現象になるわけです。引っ掛かりやすいのは恋愛です。原始的防衛の作用で熱烈に愛してくれる人だったりしますから,恋愛の相手も,最初はたいへんうれしいのですが,だんだん変だなと思うようになります。また,二者関係(注2)ですからすごくしつこく「絶対に自分のほうだけを向いてくれなければいやだ」みたいなことを言いはじめるとか,四六時中携帯電話で追い回すということになってくると,だんだん相手がうるさがったり,嫌そうな態度をとると,今度は悪い表象を相手にかぶせて見ますから,待ち伏せして恨み言を言うとか,執拗な攻撃が始まってきてしまいます。そういう目にあうことになりますから、特に女性は交際相手の男性が境界性パーソナリティ障害の持ち主でないかどうか、十分に気をつけないといけません。
注1:①投影とは、自分の中にあると認めるわけにはいかない欲動や感情を、自分の中にあるのではなく、他の人のほうにあると思うこと。EX.1 自分はAさんを本当は嫌っている。しかし、それを認めたくないので、Aさんが自分を嫌っていると感じる事、すなわち向け換えです。EX.2 自分はBさんに本当は異性感情をもっている。それを認めたくないので、向け換えしてBさんの方が自分に異性感情をもっているとすること。②投影性同一視とは、EX.1のように、本当は自分がAさんを嫌っているのに、Aさんのほうが自分を嫌っていると感じる。その嫌われているという感情に同一化して、自分のほうから働きかけ、関わりをしてしまうこと(たとえばAさんが会社の同僚なら、Aさんの足を引っ張る様な言動を取る)。③原始的投影性同一視:「原始的」というのは、分裂の機制が働くことです。すなわち、人や物事を見るとき、”100%良い”、あるいは”100%悪い”とう表象をかぶせて見ることです。欲動や怒りの程度が激しい性質を帯びます。
注2:二者関係:人間関係において、「私とあなた」と言う関係しか認識できないことです。この対となる概念が三者関係で、「私とあなたとあなたの友」と言うように、第三者の存在を認めることです。幼児は二者関係しか認識できません。お母さんは私とだけ関係している、と思っています。
6. 演技性パーソナリティ障害(Histrionic Personality Disorder)
過度な情緒性と人の注意を引こうとする広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち5つ、またはそれ以上によって示されます。
(l)自分が注目の的(まと)になっていない状況では楽しくない。
(2)他者との交流は,しばしば不適切なほど性的に誘惑的な,または挑発的な行動によって特徴づけられる。
(3)浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。
(4)自分への関心を引くために絶えず身体的外見を用いる。
(5)過度に印象的だが内容がない話し方をする。
(6)自己演劇化,芝居ががった態度,誇張した感情表出を示す。
(7)被暗示的,つまり他人、または環境の影響を受けやすい。
(8)対人関係を実際以上に親密なものとみなす。
7. 自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)
誇大性(空想または行動における),賞賛されたいという欲求,共感の欠如の広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち5つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する,十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
(2)限りない成功,権力,才気,美しさ,あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
(3)自分が“特別”であり,独特であり,他の特別な、または地位の高い人達や団体にしか理解されない,または関係があるべきだ,と信じている。
(4)過剰な賞賛を求める。
(5)特権意識,つまり,特別有利な取り計らい,または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
(6)対人関係で相手を不当に利用する,つまり,自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
(7)共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない,またはそれに気づこうとしない。
(8)しばしば他人に嫉妬する,または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
(9)尊大で倣慢な行動,または態度。
【解説】自己愛性パーソナリティの各項目とも、誇大な自己感覚、賞賛されたいという欲求、共感力の低さ、と言った心理的特性を指標としている。
【事例:他者からの是認がとりわけ気になる】
Aさんは,人の視線が気になると訴えて外来を受診した。問題は中学生時代から始まっており,教室の中で教師や同級生と視線を合わせることが困難である。自分の視線が相手を傷つけて,その結果,攻撃的な人間だと思われて,相手から嫌われるのではないかと恐れて,視線をそらしてしまう。彼にとっては,他者を攻撃することがないがゆえに誰からも愛される,そうした自己が理想であった。やがて,視線だけが問題なのではなく,根底にある他者からの是認を失う不安が心理療法のテーマとなった。米国の精神分析家コフート(H.Kohut)は、1970年代に、”自己愛”イコール”自己評価”として捉え、臨床的にも理論的にも徹底させた。Aさんの場合、自己愛は隠されていて表には出てこないが、自己評価を高く保ちたい、他者からの是認を失いたくないと言う思いは、まさに自己愛的である。
8. 回避性パーソナリティ障害(Avoidant Personality Disorder)
社会的制止,不全感,および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち4つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)批判,否認,または拒絶に対する恐怖のために,重要な対人接触のある職業的活動を避ける。
(2)好かれていると確信できなければ,人と関係をもちたいと思わない。
(3)恥をかかされること,または馬鹿にされることを恐れるために,親密な関係の中でも遠慮を示す。
(4)社会的な状況では,批判されること,または拒絶されることに心が囚われている。
(5)不全感のために,新しい対人関係状況で制止が起こる。
(6)自分は社会的に不適切である,人間として長所がない,または他の人より劣っていると思っている。
(7)恥ずかしいことになるかもしれないという理由で,個人的な危険をおかすこと,または何か新しい活動にとりかかることに,異常なほど引っ込み思案である。
9. 依存性パーソナリティ障害(Dependent Personality Disorder)
面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり,そのために従属的でしがみつく行動をとり,分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち5つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)日常のことを決めるにも,他の人たちからのありあまるほどの助言と保証がなければできない。
(2)自分の生活のほとんどの主要な領域で,他人に責任をとってもらうことを必要とする。
(3)支持または是認を失うことを恐れるために,他人の意見に反対を表明することが困難である。
(4)自分自身の考えで計画を始めたり,または物事を行うことが困難である(動機または気力が欠如しているというより,むしろ判断または能力に自信がないためである)。
(5)他人からの愛育および支持を得るために,不快なことまで自分から進んでするほど、やりすぎてしまう。
(6)自分の面倒をみることができないという誇張された恐怖のために,1人になると不安,または無力感を感じる。
(7)1つの親密な関係が終わったときに,自分を世話し支えてくれる基になる別の関係を必死で求める。
(8)自分が1人残されて,自分で自分の面倒をみることになるという恐怖に,非現実的なまでにとらわれている。
10. 強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive Personality Disorder)
秩序,完全主義,精神および対人関係の統一性にとらわれ,柔軟性,開放性,効率性が犠牲にされる広範な様式で,成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになります。以下のうち4つ、またはそれ以上によって示されます。
(1)活動の主要点が見失われるまでに,細目,規則,一覧表,順序,構成,または予定表にとらわれる。
(2)課題の達成を妨げるような完全主義を示す(例:自分自身の過度に厳密な基準が満たされないという理由で,1つの計画を完成させることができない)。
(3)娯楽や友人関係を犠牲にしてまで、仕事と生産性に過剰にのめり込む(明白な経済的必要性では説明されない)。
(4)道徳,倫理,または価値観についての事柄に,過度に誠実で良心的かつ融通がきかない(文化的または宗教的同一化では説明されない)。
(5)感傷的な意味のない物の場合でも,使い古した,または価値のない物を捨てることができない。
(6)他人が自分のやるやり方どおりに従わない限り,仕事を任せることができない,または一緒に仕事をすることができない。
(7)自分のためにも他人のためにも,けちなお金の使い方をする。お金は将来の破局に備えて貯えておくべきものと思っている。
(8)堅苦しさと頑固さを示す。
発達障害
1.精神遅滞(知的障害)・・・第1表参照
知能が平均より有意に低く(知能指数IQが70以下)、かつ、社会的不適応をきたし、その状態が18歳までに出現するものを精神遅滞と呼んでいる。重度精神遅滞20<IQ<35、中度精神遅滞35<IQ<50、軽度精神遅滞 50<IQ<70、に分けられる。IQが70以上は定義により精神遅滞でないとされる。
遅れが中度よりも重い場合は,言語理解に乏しく,身辺自立困難,自傷,他傷,こだわり,破衣などの行動上の問題が出現することが多い。軽度の遅滞では,身辺自立は成立していることが多いが,本人の能力と要求水準の間に乗離があり,思春期以降になって,情緒障害、非行,性的問題などの社会不適応をきたすことがある。
全人口の約2%に精神遅滞が認められるが、その大部分は軽度精神遅滞である。
また、医学的には”精神遅滞”であるが,福祉や教育では”知的障害”と呼よばれる。
2.自閉症スペクトラムとその他の発達障害・・・第2表参照
(1)自閉症スペクトラム
(ア)古典的自閉症(カナーtype自閉症)
第2表で、古典的自閉症、別名、カナーtype自閉症は、米国の精神科医、レオ・カナーが1943年に”自閉症”という名称を提唱したことによる。つい最近まで、自閉症といえばカナーの提唱した自閉症をさした。その診断基準は、以下のとおりです。
①他者との情緒的接触の重篤な欠如、
②物事をいつまでも同じにしておこうとする強い欲求、
③物に対する強い関心と、物を器用に扱うこと、
④言葉が無いか、あったとしても、オーム返しや他者には通じない独特の言葉を使ってしまうなど、コミュニケーションに役立たない言葉の使い方、
⑤知的な顔立ち、カレンダーの計算など、特殊な領域での優秀な能力、の5点である。
(イ)アスペルガー症候群
古典的自閉症と比べ、言語の発達が比較的良好で、IQの比較的に高い人をアスペルガー症候群という。高機能自閉症と同等の意味である。
(ウ)高機能自閉症
高機能自閉症スペクトラムの基本症状は、
①社会性の障害、
②コミュニケーションの障害、
③想像力の障害、こだわり
この3つを三組の障害という。これらの症状が出揃うのは3歳を過ぎてからが多い。精神遅滞のない子どもの場合は、健診などで自閉症を見逃される恐れがある。三組の障害について詳しくは、”発達障害、ー高機能自閉症ー”(相談会案内2018年11月)を参照してください。
高機能自閉症の”高機能”の意味は、IQが70以上という基準である。高機能と一口に言っても、IQが70ぐらいの境界域から、IQが140台の知的能力が非常に高い人までを一括して言っている。高機能は「能力が平均より高い」という意味ではなく、「明らかな知的遅れがない」、という意味で専門家の間で使われている。IQが70台の自閉症の子どもは、定義上、高機能自閉症と呼ばれるが、かれらは小学校の普通学級の学習課程をこなすことが難しいです。
自閉症(Autism)のうち70~80%が精神遅滞を伴うが、大半は軽度の遅滞です。
自閉症の子どもも大半が状況によって、不注意、多動、衝動性を示しますが、それらのほとんどは自閉症の特徴である三ツ組の障害から説明がつきます。 自閉症の子どもの不注意、多動、衝動性の多くは、周囲の人の、自閉症児への配慮が不十分であることから来ている場合が多い。自閉症の子どもは、提示される情報が理解でき、見通しが持て、余計な情報が排除される環境では、不注意、多動、衝動性が顕著に改善されるからです。
しかし、中には、三ツ組の障害からでは説明がつかない、ADHDの子どもも存在します。
(2)注意欠陥多動性障害(ADHD;Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)
ADHDは、①不注意、②多動、③衝動性、の3つの症状で診断される。これらの症状が、知能の発達水準に見合わないほど強く、日常生活における困難の原因となっている場合を言う。ADHDの人は、ほとんどが精神遅滞を伴わないか、あっても軽度遅滞である。
(3)学習障害(LD;Learning Disorder)
最も狭義のLDは、米国精神医学会の定義、”読む、書く、計算する、の3つの能力の障害”を指す。自閉症の子どもには、認知の発達による得手、不得手があり、子どもによっては、LDが併存していると考えて対応したほうが良いときもある。
LDの人は、ほとんどが精神遅滞を伴わないか、あっても軽度遅滞である。
4.その他・・・チック障害、レット障害、小児期崩壊性障害等
参考文献:
(1)仙波純一、石丸昌彦:新訂 精神医学、放送大学教育振興会
(2)今日の治療薬2015 44抗精神病薬・抗鬱薬・気分安定薬・精神刺激薬 南江堂
(3)フロイド.E.ブルーム他著、中村��樹、久保田競監訳:新脳の探検(上) 講談社
(4)NHKテレビテキスト「きょうの健康2015年11月号」うつ病 P50
(5)ストレスや疲労とつきあうためのセルフケアガイド、疲労解消・イキイキ生活、 BTUストレスマネジメント研究所
(6)米国精神医学会編、高橋三郎、大野 裕、染矢俊幸訳;DSM-Ⅳ-TR、精神疾患の分類と診断の手引き、新訂版
(7)馬場謙一;心の健康と病理、放送大学教材、2006年第3刷
(8)馬場禮子;精神分析的人格理論の基礎、岩崎学術出版社2013年第5刷
(9)太田昌孝;���達障害児の心と行動、放送大学教材、2006年3月 改訂版第1刷
(10)内山登紀夫、水野 薫、吉田友子:高機能自閉症 アスペルガー症候群入門、中央法規出版(株)、2002年
以上
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