#断髪小説
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愛と遠視、傷と羽音
ここを開けるのは、久しぶりだ。
ここに載せてきたようなことは、特定の宛先なしにはもう、書かないかも知れない。そう思い、過ごしてきた。
けれども再び開けてみるのは、魂が「必ず終わりをもたらしてやる」と私にかけた言葉が、最後の投稿(二年前)に置かれたままになっていたからである。
そのことは、ずっと忘れていた。それからふと、私の目に留まった。魂は言った通りのことをやってのけ、そして新しい生を贈ってくれた。その遍歴を語ることはできなくとも、しるしづけることはできると思う。
*
私は人と一緒にやるようになってから、今の自分の言葉でいえば、こんなことを探求してきた。小説と幼年の境界。小説と死者の境界。小説と観者の境界。小説と神話の境界。小説と肉体の境界。小説と因果の境界*準備中。
さいごの「小説と因果の境界」は短いものだが、その時点の私にとっては極限だった。2023年3���に書き終えてから、文字通り彷徨った。多くのことに手をつけ消耗していったが、それらがいずれ小説に資すると、以前のようには思えなくなっても、自力では止まらなかった。だから、こころがブレーキをかけたのである。
もっとも状態がよくなかったときに、間一髪で(自分ではなく)世界を選んだ。
それまでは、自分というブラックボックスを通し、みるものに陰影を纏わせつづけていた。私の文について色々なひとが色々なことを言ったが、概ね共通していたのは、独特な結晶化作用があるということだった。確かに私も信じてきた。その陰影こそがやがて固有の輝きを露わにし、光を集めるのだと。それはしかし、かなり時間のかかる作用でもあった。誇張して言えば〈こちら側(この時)〉では、私はいつもほほえむだけだった。蜜蜂は、蜜を集めることが今を生きることであるのに、わたしはそういう成り立ちをしていなかった。
終わりをもたらすとは、このブラックボックスごと引き潮に渡すことを、決断できるということだった。そのとき圧倒的な苦しさの中で、光や風や、水を感じた。私は人に「生きているだけでいい」と何度も言ってきたけれど、自分自身にそう思うのは初めてだった。
*
それから、素晴らしいことが起こり始めた。
*
今日お話ししたいのは8月17日に、生まれ故郷がいつより美しい姿をみせてくれたことだ。冒頭に挙げたものたちと並行して、2021年秋から断続的に「小説ではない文」を書いてきた。その文はあれら境界のすべてと、そのほかの体験とを含んでいる。それがついに成り、人に託した翌日のこと。
私は文の主要な舞台のひとつである公園に行き、小さな川が池に流れ込む様子がよく見えるベンチに座った。文を送る際に添えたメッセージ――花が咲いていると、思わずきれいだねと話しかける身体について――を思い出しながら、樹々を眺めたり、サンダルのまま流水に入ったりした。
開いた本に、ある大小説で主人公が亡くなるのは、作者が次第に苛立ちをおぼえてのことだと言う人がいるが、小説家が主人公を愛さなくてあのようには書けぬ。と書かれていて、涙がこぼれた。
上空を涼しい風が吹きわたった。まるで巨大な湖をまえに、雨が降る先触れをきくようだ。30分はもつと思ったが、もっと早く降り始め、晴雨兼用傘をさしてベンチに陣取ると、叩きつけるようになった。それまで氷の入ったプラカップに麦茶を注いで体を冷やしていたが、飲み口の近くに雨雫が付けば楽しかった。化学繊維の軽いスカートは膝上まで濡れて、抱えた水草のバッグは暖かく守れていたから、真っ直ぐな大雨音は、そのまま安心と結び付いていた。
あめのひは、かさをさしてほんをぬらさず。地元の図書館が子供向けに貼りだしていたポスターは、なぜかブロントサウルスが直立歩行で傘をさしていたな…
後方の東屋を振り返ると、その向こうに誰もみていない空が出現した。
そんな空が、生まれ、住まいを変えつつ暮らしてきた人口の多いこの地に降るとは。山を登るときにだけみられる幻でなくなるとは。神代の、人の手付かずの自然であった頃にまで、生地は戻ることもできるのだ。その記憶の存在を私はしっかりと感じた。
動かぬままで雨が上がると、すっきりと遠くを見ていることに気が付いた。
*
ひとつ上の友人は、ゴルフを好きになってから視力が1.0に回復したといい、2.0ある同い年の友人は、私は本を読まないからだと結論するが、確かに読み書きを好む者の目は、遠くよりも近くを見ることに適応しやすい。
私の場合、いつも近くに対象物が入るよう、目が無意識に動いていた。一本道を歩くとき、街路樹や自転車や自販機を、たぶん本来は必要のない頻度で見る。身体は真っ直ぐに進みたいし、目も協調しているかのようにふるまうけれども、実は遠くを見据えると疲れるので、目は避けようとする。身体はそれを知っている。
このもどかしさが突然、消えた。目が遠くと和解していた。コンタクトレンズ装着時のような視力の上がり方ではない。あれは眼科医も友人たちも、生活に危険がないように、情報が沢山入るようにとすすめるし、私も長い間、そういうことだと思ってきた。近視は見えるべきものが見えずにつらいのだと。そうではなかった。
全力で書き切った文を贈り、生地が応えて記憶のかぎり遡ったから、私は見晴るかす、すべてがうつくしい、と話しかけていたのだ。それで遠くをみるのを畏れることがあろうか。自分の不調の解消や、情報の取得のためならば、ここに出ることはかなわなかっただろう。
*
歪みを、遅延を、細部をバネに跳躍するというやり方を手放さなければ、ここに来ることはかなわなかっただろう。だからこそ、話��るようになったのだし、それでも、書けるのだ。たぶん。
数日して、仰向けになった首の付け根で何かが羽ばたく夢を見た。蝉のように力強い振動に驚いた。整体師の方によれば、私の視力と幼い頃つくった首の傷には、なにか関係があるらしいのだが。
即時的にあらわれるものも、遅れを伴ってあらわれるものも、どちらも肯定しきるようなものを書きたい。それはパラレル・ワールドを時間的に翻訳したようなものになるのではないか。今はそのことだけを思っている。
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舞台挨拶で模擬法廷 “無辜(むこ)ゲーム”が開廷!完成披露試写会のイベントレポートが到着!
この度、10月3日(火)に『法廷遊戯』完成披露試写会を実施!永瀬廉さん、杉咲花さん、北村匠海さん、大森南朋さん、戸塚純貴さん、 深川栄洋 監督の6名が登壇しました。 まずは黒衣をまとった6人の謎の男女が観客席を通ってステージに登場。QUEENの名曲『We Will Rock You』と同じリズムを刻みながら観客を煽り、クラシック曲のBGMが爆音になった途端、ステージ上の赤い階段にキャスト & 監督が一斉にラインナップしました。
まるでライブのような爆音BGMに加えて法廷を模した豪華なデザインのステージ。法律家を目指しロースクールに通う主人公・久我清義役の永瀬さんは「今日はもはやフェス? CO²の煙が出て歓声を頂いて…。まるで男女のダンスボーカルユニットみたいで踊りかけました」と満面の笑みを浮かべると、ロースクールの同級生・結城馨役の北村さんは「踊る?」と永瀬さんを焚きつけたりして、豪華演出にビックリしていました。
法律家を目指す学生たちのロースクール、そしてその後実際の法廷までが舞台のミステリー小説が原作。永瀬さんは「完成した作品を皆さんにお届けできるのはありがたく、嬉しい気持ちでいっぱいです」とすがすがしい表情で「清義は優しくて真面目で大胆な部分もある。自分の中で大きな信念がありつつ、物語が進む中で色々と経験して清義自身が最後に下す選択が一貫している。信念と正義感の持ち主です」と役柄を分析しました。
ロースクールの同級生・織本美鈴役の杉咲さんは「美鈴が起こす行動自体は共感しづらいかもしれないけれど、清義をただ一途に思い続けているという点では理解ができる人」と乙女心に共感。永瀬さん、杉咲さん、そして深川監督とは旧知の仲という北村さんは「この作品をやるという要素が3つも揃っていたので、2つ返事でした。このメンバーならばやろうと思った」と絆を強調し、ロースクールの同級生・藤方賢二役の戸塚さんは「短距離走100メートルを、息を止めて走っているような感じの撮影だった。この疲労感を観客にも感じてほしい」と期待を語りました。
謎の男・沼田大吾役の大森さんは「謎の男ということで狂気的な世界でやってみようと思ったら、僕以上にこの4人(永瀬さん、杉咲さん、北村さん、戸塚さん)の方が狂気じみていた」と若手勢の奮闘に感激。そして深川監督は「この映画の答えは皆さんの中にあります。映画を観終わった後の皆さんの心にどのような変化があるのか。それを味わってほしい。原作小説と映画の違いを楽しんでもらえるはず」とPRしました。
撮影が行われたのは2022年の秋。学校のシーンはもとより、法廷、そして無辜(むこ)ゲームと言われる模擬裁判のシーンは、印象的な洞窟が登場。これに戸塚さんが「僕は撮影の翌日、体調を崩しました」と洞窟ロケのハードさを思い出すと、北村さんは「電波もないし、コウモリもいるし」と過酷な撮影状況を解説しました。永瀬さんは「洞窟は寒くてヒートテックを5、6枚着ていました。しかも洞窟には1日いたので時間感覚もなくなってサバイバルをしているみたいだった」と振り返りながら「でも僕はそこで戸塚君と仲良くなりました。戸塚君は僕がイジっても優しく返してくれるから僕も楽しくなった。そこから仲良くしています」と戸塚さんの人柄に感謝していました。
法廷を舞台にした本作にちなんで、個人的に疑問を持っていることを「有罪」なのか「無罪」なのか多数決でジャッジする企画を実施。歯磨き好きという永瀬さんは「歯磨きを始めたら長い。気づいたら移動時間ギリギリで、マネージャーから『時間に余裕を持って!』と言われる。でも余裕を持てば、またそれだけ歯磨きが長くなる。でも遅れるわけではなく、時間には間に合っています」と訴えました。これに北村さんは「時間に余裕を持ちなさい!」と友人として叱りながら、永瀬さんから「歯磨きの1日マックスは6回か7回」と聞くと、「歯が可哀想」と永瀬さんの歯に同情。しかし結局は無罪となりました。
杉咲さんは「一つの役が終わると、サヨナラしようと思って髪の毛を切りたくなる。でも切り続けてしまってどんどん短くなる。今はウッカリアゲです」と短髪理由を明かして、これも無罪。一方、度を越えたゲーム好きという北村さんは「気が付けば1日椅子から動かず、15時間くらいゲームをやっている。12時間を超えると視界がぼやけます」と告白。これに友人の永瀬さんは「断トツ勝手にしてほしい疑問!」と突き放し、結果は有罪となりました。
最後に永瀬さんは「それぞれが抱えているものがありつつ、各々の持っている信念や正義を貫き通すことの難しさや大切さ、その苦しさを色濃く描いている映画です。どの視点から見ても違った考えが生まれるだろうし、自分の正義感とは何かを見つめ直す映画になっています。たくさんの方に観ていただきたいです。楽しんでご覧ください」と力強くアピールしていました。
公式サイト
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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和六年(2024年)8月13日(火曜日)
通巻第8365号
バングラ政変の黒幕に米国が関与? 『南アジアの春』?
インドから見れば、周りのスリランカ、ミャンマー、モルジブに政変が起きた
*************************
筆者の印象ではバングラデシュの人々はたいそう親日的である。国旗をみても、日本の国旗そっくりのデザインで、白地がみどり、日の丸は赤。小学生でもまっさきの覚える国旗だ。
1971年の戦争でパキスタンから独立後、日本が最大の支援国だったこともある。
そのバングラ人が日本にあきれかえった事件は、ダッカ空港日本赤軍ハイジャック事件で、凶悪犯人の出鱈目な要求を当時の福田政権は「命は地球より重い」と言って身代金にも応じ、ハイジャッカーの言いなりになったことだった。
日本には武士道があったのでは?
2015年に筆者は関空からダッカへ向かった。飛行場で登場寸前に継体電話が鳴り、うっかり或る新聞コラムの原稿締め切りを忘れていたことを知った。原稿の督促、それも24時間以内。
機中で書き上げ、ダッカのホテルから、FAX送稿して間に合った。間一髪だった。原稿用紙を持っていないので、同行した家内に下書きの字数を数えてもらい、1200字にまとめた。強烈に思い出すのはダッカの三流ホテルからでもFAXが通じたからだ。
機内で隣に座ったのは若いバングラデシュの男性。日本ではタイル工務店で働き、一年ぶりの里帰り、親方がボーナスを呉れたからと嬉しそうな笑顔だった。「おみやげも沢山買えた」。
先般のバングラ政変はシェイク・ハシナ首相がインドへ逃亡し、欧米が保護していた銀行家のムハンマド・ユヌス(ノーベル平和賞。グラミー銀行創設)を暫定政権のトップの据えることで、混乱は一時的に収まった。超法規的措置だが、最大野党BNPと軍が納得したからで、軍は出来るだけ早い時期に民主手続きによる選挙を行うと宣言した。
バングラデシュの軍隊はエリートで陸軍13万2000人、海軍1・7万、空軍が1・4万の陣容である。
さてバングラ政変の「黒幕」は誰なのか?
ハシナ前首相は亡命先のインドでメディアの取材に応じ、「明らかに黒幕はアメリカよ」と言っている。
中国では? と切り返す暇を与えず、アメリカ黒幕説の理由を「セント・マーチン島をアメリカは軍事基地として租借し、ベンガル湾で睨みを利かそうとしていましたが、私が拒否し続けたからです」と説明した。ハシナは��中派である。
セント・マーチン島はチッタゴンから南へ、ミャンマー沿いのリゾート島で、バングラの国内観光では人気もあるが、インフラが整っていないばかりかアクセスが悪く、外国人はほとんど行かない。
そもそもバングラは日本の四割しかない面積に一億八千万の人口を抱えて、世界一の稠密度をほこり、そのうえ国土の半分が湿地帯、海岸線はマングローブ、人が住める土地は限られている。
▼軍事要衝の確保を急いでいるのは中国である。
米軍が、いくら地政学的要衝にあるとはいえ、この島を租借して空軍基地をつくるとは考えにくいのではないか。
とはいえ当該島の北にあるチッタゴンは中国がねらっているし、南のミャンマーのチャオピーはすでに中国の石油とガスのパイプラインの拠点化し、将来は港湾近代化を予定している。
筆者は、このチャオピーにも行ったことがあるが、ミャンマーの仏教原理主義過激派が70万人のロヒンギャをバングラに追いだした拠点でもある。中国が大工業団地を造ると言って土地の買い占めをしていた。
一方、インドの心配事は何かと言えば、バングラ国内に19000人のヒンズー教徒、その安全である。バングラではヒンズー教徒への謀略事件が目立ち、8000人のインドからの留学生は政変前後に帰国した。カナダのトロント等では、ヒンズー京都を守れという集会とデモが行われている。
バングラの政治はAI(アワミ連盟)とBNP(バングラ民族党)の対立構造で、最大野党BNPは過去二回の総選挙をボイコットした。
BNP総裁のジア元首相(殺害されたジア将軍未亡人)は自宅監禁を解かれたばかりで、これから政治力量を発揮できるか、どうか。
BNPには過激派JEI(ジャマート・エ・イスラミ)を抱えており、さらにこの分派の過激派が昨今のバングラ暴動を仕掛けたとされる。
ハシナが去って、ラーマンミュージアムは破壊された。ハシナの邸宅は民衆が押し入り、手当たり次第に家具、備品を持ち去った。
エアコン、応接セットから扇風機、絨毯、植木鉢から家畜まで。陽気に歌を唱いながらの略奪だが、新聞も余裕を持って写真グラビアを特集したが、罪を咎める風情はまったくなかった。
▼バングラの産業は繊維だが女工哀史、ユニクロも撤退
さきのグラミー銀行と組んでバングラに繊維工場、店舗を展開した��がユニクロだった。
そのグラミーユニクロは経営方式などで意見が合わず、撤退した。
また日本が援助し、JICAが中心となって、ダッカ市内を縦断する地下鉄は部分開通していた。ところが、さきの暴動で駅や改札などが破壊され、メトロかいつの目途は立っていない。日本企業も新たな難題を抱え込んだ。
日本に住む外国人は増えるばかりで、中国の82万人を筆頭に、二位ベトナムが57万人、三位韓国が41万人。犯罪件数もこの順番である。
四位以下はフィリピン人が32万、ブラジル22万、ネパール18万、インドネシア15万、ミャンマー8・7万、台湾、アメリカ、タイ人とつづき、ミャンマー、ペルー、インドスリランカのあと、第十五位がバングラデシュ人の27962人(23年度末統計)。
そういえば日本のコンビニ店員は十数年前までは中国福建省閥が多かった。
いまではスリランカ、バングラ、ミャンマー勢にカザフスタン、ウズベキスタンなどの新顔。つまり他の国からの出稼ぎ組はコンビニや居酒屋より給与の高いところへ移動したのである。
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CHAPTER 11
見えないの?
File 10
フリスクは間違いなく今、サンズのそばにいた。二人は何事もなかったかのように、暖かく話し、笑い声が過ごす時間の隅々に響いていた。本来ならば目を大きく見開いて見届けるべき過去は、サンズによって巧みにぼやかされていた。彼の疑念を巧みにかわすことで、アンダインの死を記憶から薄れさせていたのだ。
フリスクは無意識のうちにそれを受け入れ、サンズが時に威圧的な雰囲気すら醸し出すほど違って見える理由という重要な疑問を忘れてしまっていた。再びサンズを友達として見るようになっていた――それはまさにサンズの狙いだった。
サンズは意図的にアンダインを最も残酷な方法で殺した。フリスクの目の前で、彼が誰かが死ぬ場面を簡単に忘れられないようにするためだ。フリスクがどう反応し、どのように選択を下し、彼の道徳心がどう支配するのかを観察するのも、全てサンズの計画の一環だった。
フリスクは道徳心を保ちサンズを拒むのか、それとも罪を無視して同情を見誤り許してしまうのか。答えはここにあった。サンズは満足げに微笑み、フリスクがあまりにも簡単に彼を許したことに感情が膨らんでいった。これほど簡単なことはなかった。フリスクは誰かの隠された動機を深く探るほど賢くなかった。彼は純粋で、ナイーブで、簡単に正しい方向にも間違った方向にも導かれる。サンズはフリスクを地獄のど真ん中に引きずり込むことだってできた。フリスクは炎が目の前にくるまでそれに気づかなかっただろう。
「で、次の計画は何、サンズ?」フリスクが期待に満ちた好奇心で尋ねた。彼は既にサンズに頼り始めているのかもしれなかった。
「まだ考え中だ。」サンズはためらうふりをしながら答えた。「知ってるだろ、そんな簡単なことじゃないんだよ。レイズは俺たちの世界を支配する神みたいなもんだ。お前と俺はこっそり動かなきゃいけない。さ��ないと、あいつに見つかって何が起こるか分からない――お前も知りたくはないだろ、フリスク。」
フリスクはうなずいた。「その通りだね。僕は天才じゃないから、こういうの苦手なんだ。もっと巧妙にあいつを騙す方法とか考えられないの?」
サンズは考えるふりをしながら、頭を左右に動かしたり、目を転がしたりしてアイデアを探しているように見せた。時折、大きなため息をつき、椅子の上で指をトントンと叩いた。何をしていても、彼は説得力のある演技をすることに全力を注ぎ、フリスクを優れた演技力で欺こうとしていた。
「はぁ、詰まっちまった。天才的なアイデアなんて全然ないな、フリスク。」サンズは苦い失望を偽のシナリオに注ぎ込みながら言った。フリスクは相変わらず騙されやすく、すぐに彼のしかめっ面を真似た。
「じゃあ、次はどうするの?」
サンズは一瞬黙り込み、苛立ちで空を蹴るフリスクを観察した。彼の顔にはかすかな微笑みが浮かび、かつて「友達」だった頃の冗談や笑い合った記憶がよみがえった。サンズはその記憶を嫌ってはいなかった――全然。彼にとって、それらに何も問題はなかった。たとえ全てがゲームの一部だったとしても、少なくともフリスクと彼は喜びを共有した。複雑さに押しつぶされることのない瞬間だった。
でも、それは過去のことだろう?古い録音の遺物であり、しまわれて忘れ去られるべきもの。再現できない過去を振り返ることに何の利益もない。サンズは、すでに起こったことにこだわることで自分の弱さをさらけ出したくなかった。それはただの偽りの希望と鈍い痛みを心に与えるだけだろう。
過去は過去のままでいい。
「今は休もう、フリスク。エネルギーを節約して、頭を空っぽにしろ。お前、きっと疲れてるだろ。」サンズは優しくフリスクの髪をくしゃっとした。この時ばかりは演技ではなかった――少なくとも、そう願いたいところだ。どちらにせよ、彼の意図はフリスクに彼のそばで安心感を与えることだった。誰かの信頼は、彼らがどのように座るかで測れることもある――お前との距離、どのようにお前を見るか。小さなディテールが重要な情報を明かすこともあるが、大半の人はそれを完全に見逃してしまうものだ。
サンズはフリスクを注意深く観察し、少年の態度をさりげなく研究した。ここで短い観察の結果を述べると、フリスクはサンズのパーソナルスペースに侵入するほど近くに座っていて、彼を不快にさせることなど気にしていないようだった。彼の目はサンズに穏やかに注がれ、疑念の跡はまるでなかった。彼はためらいなく話し、自分の考えを自由に表現し、言葉を深読みすることはしなかった。呼吸は安定しており、リラックスした表情には緊張の影もなかった。たとえ彼のそばに、自分の友達を残酷に殺した相手が座っていたとしても。
サンズは顎に手を当て、小さな笑みを浮かべた。彼は確信を持って結論づけることができた。フリスクは完全に自分の手中にある――彼を信じ、彼に頼っている。フリスクの純粋さを利用し、抵抗なくレイズの領域に直接導くことができるだろう。
そう、抵抗はない――もしフリスクの体が彼だけのものであり、寄生する乗客や残留物がいなければ。
フリスクの信頼を確保したことで、サンズは次の問題に焦点を移した。すでに彼に対し深い疑念や憎しみを抱いているかもしれない誰かだ。交渉など考えもしない相手。まだ取り除くべき障害があった、とサンズは思い、視線を鋭くした。
キャラ。
そうだ、あの幽霊。彼女はまだそこにいる。フリスクの中に深く入り込み、鋭くシニカルな目でサンズを見つめているに違いない。そんな厄介な観察者がいる間に、フリスクと計画を共有するのは賢明ではなかった――彼女は間違いなく全てを妨害するだろう。
「引きずり出さないとな。」彼は腕を組み、大きく息を吐きながら考えた。
「散歩に行かないか?気分をリセットするのも悪くないだろう。」サンズは立ち上がり、フリスクに手を差し出した。その友好的で、助けになりそうな提案を聞いて、フリスクは断ることができなかった。
「あ、うん!スノーフルに行こう、サンズ。」
その場所の名前を聞いて、サンズは一瞬顔をしかめた――まさかフリスクがそこを選ぶとは思わなかった。しかし、彼はすぐに考えを切り替え、胸を締め付ける不快感を抑え込んだ。
「スノーフル、ね。いいさ。もしかしたらパピルスやみんなに会えるかもな。」イライラを隠しながら答えた。フリスクが彼の手を掴むと、サンズは背を向けたまま歩き出した。その顔には明るい笑顔を浮かべているフリスクの姿があった。
だが、フリスクがスノーフルに行きたいと言った時、サンズの内に隠された怒りがじわりと湧き上がった。何かが彼の心を引っ掻き、不吉な脅威をささやき、毒々しい言葉で彼を呪っているかのようだった。それはまるでかつての自分自身が遠くから彼を見つめているように感じられた――怒りに燃えた目で、今にもその場で倒れろと呪いをかけるかのように。
「終わらせなきゃならない。」彼は不安に駆られた心で考えた。「それが終わったら、自分も終わらせる。」
まるで喉に石が詰まり、胸に釘が打ち込まれたようだった。かつて知っていた誰かのかすかな怒り――自分自身だとわかる誰かの怒りを感じた。
サンズ。
そうだ、あのサンズだ。かつてただのNPCであり、「裁く者」としての役割を果たしていただけだった。
***
二人は並んで歩いていたが、時々サンズはフリスクを自分の前に行かせた。そのたびに、フリスクは少しパニックに陥ったように振り返り、心配そうな表情を浮かべてサンズを見た。「どうしたの、サンズ?」
その声には純粋な同情がにじみ出ていた。この時のフリスクは、サンズが犯した過ちそのものではなく、それがもたらした結果に心を向けていた。彼の心配は、本当��サンズを失いたくないという気持ちから来ていた。フリスクの感情的な脆さは、サンズの行動の倫理的な問題に目を向ける余裕を奪っていた。
「まだちょっと揺れてるけど、大丈夫さ。」サンズはさらに傷に塩を塗るように言った。彼はわざと弱々しく絶望的な姿を見せることで、フリスクを自分の精神的支えとしての役割に強く結びつけた。フリスクに、彼のそばにいなければならないという責任感を抱かせるためだった。
サンズはぎこちない笑みを浮かべ、それをわざと不自然に見せることで、フリスクを自分の巧妙な罠に引き込んでいった。「お前がいてくれて、安心したよ、フリスク。他の誰にも、こんな臆病な姿は見せられない。」彼は視線をそらし、顔を曇らせて悲しげな表情を浮かべた。「特にパピルスには、こんな姿を見せたくないんだ。」そして、フリスクに悲しげで憂鬱な表情を向け、完全に依存できる空間を作り上げた。「お前だけだよ、このみっともない姿を見てくれるのは。こんな情けない俺を許してくれるといいんだがな、フリスク。」
フリスクはすぐに首を横に振り、拳を握りしめ、決意に満ちた目でサンズを見つめた。「そんなことないよ!サンズが僕に心を開いてくれて嬉しいんだ。君のことをもっと知れる気がして。」
サンズの笑みが広がったが、それはフリスクの同情への感謝ではなかった。その純粋さが、サンズの中に残っていた疑念を完全に消し去ったからだ。フリスクの信頼は無条件で与えられるものであり、サンズにとってはそれがフリスクの無邪気さと無謀さを象徴していた。
「お前は本当に優しいな、フリスク。でも……俺がアンダインにやったことは――」サンズはちらりとフリスクの反応を伺うように目を向けた。フリスクの信頼が揺らがないと知っていたが、それでも彼の中にはわずかな好奇心があった。
あるいは、深く根ざした誘惑が。
また罪の話を持ち出したらどうなるんだ?その考えは彼を惹きつけ、小さな実験を試みたい衝動をかき立てた。それはリスクのある試みで、もしやりすぎれば破滅的な結果を招くかもしれない。しかし、フリスクを誘い、その反応を見る誘惑には抗えなかった。
「俺なんかただの殺人鬼だ。お前がここにいるべきじゃない――俺のそばにな。」彼は悲しみと後悔に満ちた声で言った。その演技を少し誇張し、フリスクが彼の振る舞いを不穏に感じ始めるかどうかを見極めようとした。サンズは再び餌を投げ込み、フリスクがその罠にかかるのを待った。彼の目は獲物を見つめる捕食者のようにフリスクをじっと見つめていた。
しかし、怒り、失望、燃え上がる憤怒の視線――あるいはサンズをその罪で裁く視線ではなく、フリスクは一歩近づいてきた。彼はそっとサンズの手を取り、その表情は穏やかで優しさに満ちていた。フリスクは微笑みながら頭を垂れ、目を閉じた。その茶色の髪の隙間から、サンズは不安と困惑の表情を一瞬だけ垣間見た。それは彼の心を締め付けた。フリスクは本当に彼の感情を理解しようとしているのだ。
「大丈夫だよ。」フリスクは穏やかだがしっかりとした声で言った。「一人じゃないよ、サンズ。僕も……僕だって――」フリスクの言葉は詰まり、その��は震えていた。それはまるで彼自身も、魂を刺すような罪の鋭い痛みを感じているようだった。「僕も殺人者だ――化け物なんだ。君と僕、同じ経験と罪を共有してるよ、サンズ。」
ビンゴ!
金色の鐘が頭の中で鳴り響くような瞬間だった。それはまるで名誉あるトーナメントの勝利の鐘が、彼の心に響き渡ったかのよう��った。その興奮は震えとなり、彼の全身を駆け巡った。
サンズはフリスクを見た。彼の頭はまだ下がっていて、その手は静かな必死さでサンズの手を握っていた。その満足感は燃え盛る火のようであり、その致命的な炎は黒い煙を放っていた。サンズの魂は制御不能な情熱で脈打ち、彼は完全な支配を得たことを確信した。フリスクは今や、サンズが慎重に用意した牢獄に閉じ込められた。そして彼の心の中で、サンズは背後で比喩的な鍵をくるくると回しながら、捕らえた友に対する同情を装っていた。
フリスクには見えないところで、サンズは心の中で勝利の曲を奏でた。
「ありがとう、フリスク。本当に、お前は素晴らしい友達――」
「なんて嘘つきなんだ~」
「えっ。」
「なんて狡猾なんだ、サンズ。友達を欺き、同情を誘って偽りの哀れみを演じるなんて。」
それはフリスクではない。
声色は遊び心がありながらも嘲笑的で、不吉なリズムがサンズの胸を締め付けた。
ゆっくりと頭を上げた彼らは、サンズの腕をさらに強く掴み、その力でジャケットの袖がくしゃくしゃに押しつぶされた。口元の筋肉を一瞬で引き締めると、彼らは残酷で広がった笑みを見せた。やがて、サンズの目の前にその正体が明らかになった。プレイヤーをただの操り人形に変え、意のままに操る存在。
キャラ。
未知の同乗者が姿を現した。その嘲笑に満ちた笑みは、燃えるような赤い目に縁取られていた。それはまるで海に映る夕焼けのようで、波を血のような赤に染めていた。その目は見る者を飲み込むような魅力があり、それに目を合わせた者には破滅の静かな約束が宿っていた。
彼女の言葉はすべて呪いであり、命令だった。それは道徳の境界を越え、血の道を選んだプレイヤーたちにとって悪夢そのものだった。
罪人を罰する悪魔――それがキャラだった。
そして、サンズ。
サンズはキャラの威圧的な笑みを、自身の暖かく無害に見える笑みで迎えた。それは対照的に、目には鋭く揺るぎない集中が宿っていた。彼は彼女の圧倒的な雰囲気に飲み込まれることはなかった。彼はそんなに弱くはない。結局のところ、キャラを自らの家に招いたのはサンズ自身だった。ドアを開け、彼女を歓迎したのだ。そして今、彼は彼女を名誉ある客として扱うつもりだった。
「やあ、キャラ。初めまして。」サンズは冷静な声で言ったが、その視線は捕食者が獲物をじっと見つめるようにキャラを捉えていた。それは挑発的な興味を含んだ視線だった。
これこそが彼が待ち望んでいたものだった。
再び彼は広く笑い、満足感で頭を持ち上げた。サンズの計画は再び完璧に成功した。その絶対的な支配感は、彼自身を震わせるほどのものだった。
フリスクに甘く、罠に満ちた言葉を浴びせることで、キャラを追い詰めた。彼女がフリスクへの操作を目撃し、その演技がどれだけ不愉快だったかを彼は知っていた。巧みに、彼は一つの餌で二匹の獲物を捕まえたのだ。糸を巻き上げれば、見事に新鮮な二匹の魚がかかっていた。それは非凡な忍耐と鋭い戦略、そして甘美な成功の報酬によるものだった。
次の計画に進む時が来た。
キャラをフリスクの体から排除する。あるいは……彼女を完全に抹消し、このゲームのシステムから消し去ることだ。
そうすれば、彼を妨げるものは何もなくなり、フリスクを完全に支配する自由が得られる。
「馴れ馴れしくするなよ。俺があんたを嫌ってるの、わかってるだろ?」彼女の声は鋭く、その表情は揺るがなかった。その姿勢からは敵意が滲み出ており、今にもサンズに飛びかかり、無数の鋭く致命的な刃で彼を貫きそうだった。
サンズは笑い声を漏らした。それはまるでキャラが最も面白い冗談を言ったかのようだった。その反応は彼女の顔をさらに険しくし、目がぴくりと動いた。彼の嘲笑は明らかに彼女を苛立たせていた。
「まあまあ、リラックスしろよ、お嬢さん。ただ挨拶したかっただけだ。なんで殺し屋みたいに構えてんだ?」
「挑発するんじゃない。」
「で、どうする気だ?」サンズは首を傾げ、笑みをさらに挑発的に広げた。
「フリスクに全部バラすのもアリだろ?あんたの卑劣な計画、嘘、それに感情の偽りについても全部さ。」
「ふーん、ありがちな脅しかよ。」 サンズの笑みは悪戯っぽく変わり、挑発的な口調で言った。「やってみろよ。むしろ見てみたいもんだな。」 その笑顔は徐々に消え、代わりに目にはぞっとするような鋭い光が宿った。何かが明らかにおかしかった。気づいたときにはもう遅い。チャラは感じた。サンズは脅しにひるむどころか、むしろ楽しんでいるようだった。その態度は彼女を行動に駆り立てるように仕向けているようにさえ思えた。
彼の口から出る言葉は、全て嘘と冷酷な操作に満ちていた。振る舞いは不気味で、チャラは気づいた——サンズの心は自分以上に壊れているかもしれない。 その目は全てを物語っていた。目的のためなら何でもする人間。犠牲なんて気にしない、手がどれだけ汚れようと構わない。
「おやおや、冗談好きなサンズはどこ行っちゃった?」
「たぶん、どっかで死んだんだろ。」
「その墓、見せてくれない?」
サンズは目を細めた——怒りではなく、静かな喜びを秘めた目だ。その言葉に傷つくどころか、むしろ面白がっているようだった。「その墓、ダサくて退屈だぞ。お前なんか、暇死にするに決まってる。」
「お願いしてるんだけど?」
「俺は断る。」
「ずいぶん失礼じゃない?私は客なんだよ。」
「なら帰れよ。失礼な客は好きじゃないし、お前だって倫理に反する訪問者は嫌いだろ、チャラ。」
チャラは突然笑い出し、髪をかき上げた。頬に広がる皮肉な笑みとともに、彼女の視線は前方に流れる滝へと移った。轟音を立てて岩にぶつかり、空気中で砕ける水の音が耳を包み込む中で、この言葉の応酬を楽しんでいるようだった。 「面白いわね。どうしてこんな風になっちゃったの、サンズ?たぶん、レイズは部屋でワインでも飲みながら、自分の傑作が立派な子に育っていくのを見てるんでしょうね。」
彼女の視線は皮肉に満ちており、その態度も挑発的だった。サンズは彼女が既にレイズとの対立の多くを察していると感じた。まるで少ない情報から多くの結論を導き出したようだった。チャラは既にサンズがなぜこんなことをしているのかを理解しているように見えた。彼が追い詰められ、レイズの狡猾な掌から逃れるために、卑劣な行動に出る必要があったのだと。
「お前と奴って、ほんと似てるよな。レイズは残酷な実験を繰り返して、お前はくだらない嘘で他人を操ってる。どっちもしょうもないショーの舞台作りに夢中って感じか。そういえば、最後にレイズと会ったとき、あいつに椅子に縛られて拷問されたんだよね。」
「落ち着いて言うよね。」
チャラは誇らしげな笑みを浮かべ、さっきの変な発言を軽く流した。「私はずっと前に死んでるのよ。ゾンビに何を期待してるの?」
「さあな、生きる欲望とか?死者の復活みたいな。」
「はあ?また何?はは?」彼女の目は大きく見開かれ、その後止まらない笑い声に包まれた。腹を抱えながら笑い転げる彼女を見て、サンズは少し困惑した表情を浮かべるだけだった。「これって生存ドラマか何か?白雪姫の童話?おいおい、冗談でしょ。あんたの答え、哀れでダサいわ、サンズ。」
「死んでる人間にしては、すごく生き生きしてるけどな。」
「おいおい、からかうなよ、それバカのセリフじゃん。」
「ハッピーニューイヤー。」
「…それもっとバカっぽい。」
「メリークリスマス?」
「違うって!」
サンズは小さく笑い、体を伸ばした。「そうだな、俺とレイズは似たようなもんだ。ただ目標と方法が違うだけだ。時間は人を変える、痛みも、喜びも——そういうのが人を全然違う存在にするんだよ。チャラ、お前もその変化を感じてるだろう?死とか復讐とか、その辺はお前が一番よくわかってるはずだ。」
チャラはサンズを一瞥し、口元をわずかに引きつらせて笑った。「あー、さすが天才様。で、結局あんた何が欲しいの?」
肩をすくめながら、サンズは一歩近づき、左肩をしっかりと掴んだ。その表情は不気味で威圧的。大きな笑みから見える歯はぎゅっと噛みしめられ、捕食者のような凄みがあった。
目の穴はチャラの動じない瞳をロックオンする。サンズはその緊張感を楽しんでいるようだった。
目を見開くと、骨の白さを赤い炎が包み、不気味な光を放った。
「死。一言だ。」
青い炎が突然炸裂し、激しくぶつかり合った。サンズとチャラは武器を抜き、心はすでに戦闘態勢に入っていた。もう安っぽい侮辱も、偽りの丁寧さもない。二匹の捕食者が相まみえた。血と生々しい殺戮を予感させる対決。まるで互いに向かい合い、鋭い刃を握り、いつでも斬りかかれる準備が整っているかのようだった。
「楽しい言葉ね、サンズ。私もあんたに死んでほしい。」
「同じ気持ちで嬉しいよ。」
***
突然、ぎこちない静寂が二人の間に落ちた。
水の勢いよく流れる音や、岩に滴り落ちる水滴の音が、やけに鮮明に響く。二人は動かず立ち尽くし、まるであまりにも重すぎる何かを考え込むようだった。それぞれの思考は別の方向へと彷徨い、残る後悔に心が縛られていた。
サンズは立ち去りたくなった。この重苦しい空気から逃げ出したかった。でも無理だった——チャラがまだこの世界にいる限り。終わっていない問題があった。まだ彼女を置いて行くわけにはいかない。
「自分のやり方とか、行動とか、全部のリスク、分かってるんでしょ?」
沈黙を破り、チャラが口を開く。その声は冷静ながらも鋭かった。「フリスクを騙して、殺人者になって、生きるためのゲームシステムを壊して。これの代償がどれだけ大きいか、分かってるよね?安くは済まないわ——あんたの命、他人の苦しみ、それがその代価。」
チャラはサンズを見向きもしない。手をポケットに突っ込み、速い流れに流される氷塊を目で追っていた。
「分かってるさ、自分が何をやってるか。」
サンズが答える。その目は遠くを見つめ、空中に漂う薄い青い光を眺めていた。彼の息遣いは重く、かすかな笑みも次第に消えていく。「俺みたいな奴は大抵悲惨な終わりを迎えるもんだ。俺は最高の兄弟なんかじゃない。いつもパプスに隠し事して、秘密を抱えてる。間違った道を選んだ奴の運命くらい分かってるさ——悪を受け入れて、理性を捨てた人間のなれの果てだよ。忠告ありがとな。でも…」
サンズはチャラの方に向き直り、その目は揺るぎない決意で満ちていた。その強さはまるで鋼鉄で鍛えられた意思のようで、どんな障害にも折れることはなかった。その声には、魂の重みと決意が乗っていた。それは堕落しながらも、不屈の精神で守られていた。「…俺は引き下がらない、チャラ。何も後悔しないし、許しを乞うつもりもない。時間を戻したいとも思わない。自分で決めた道だ。罪の代償は全部払うさ。」
チャラは、サンズから放たれるその揺るぎない決意を感じ取った。このスケルトンはどんな壊滅的な災厄が降りかかろうとも、絶対に折れないだろう。後ろを振り返らず、自分の悲劇的な話で涙を流すこともない。
本当に覚悟ができていた。
「残念だったね。」
チャラが sly に言う。その声には皮肉が込められていた。「私はフリスクとは違うの——あんな純粋で心優しい奴じゃない。私を操れるなんて思わないで、サンズ。」
「分かってるよ。」サンズはニヤリと笑い、まるでその挑戦をすでに見越していたかのようだった。
「驚かせてみなよ、天才さん。どうやって私を消すつもり?」
「それは秘密だ、ミス。」
チャラは指を伸ばし、ポキポキと音を鳴らした。その顔には明るくいたずらっぽい笑みが浮かび、目を細めると風が彼女の髪を遊ばせた。涼しく優しい風が彼女を包み、その鋭いエネルギーを際立たせた。「もし私が、あんたの計画なんか興味ないとか、一緒にいたいだけだとか言っても、どうせ殺すんでしょ?」彼女は挑発的な視線をサンズに向けて尋ねた。
「ビンゴ!」彼は乾いた、でも確信に満ちた声で笑った。「俺はお前を信じられない、チャラ。絶対に。」
二人の視線はまるで見えない衝突のようだった。二人は互いに向かい合い、それぞれの武器を構えた。その場にただよう不穏なオーラは冷たい風を呼び、空は暗く覆われていった。チャラは目を細め、その唇の端を自信に満ちた笑みで吊り上げた。その笑みには致命的な力が宿っていた。一方でサンズは冷静で落ち着いた態度を崩さず、その鋭い視線で隙を伺っていた。
それはまるで、アントニオ・サリエリとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが壮大な劇場で競い合うような輝きを放っていた。
二人は無言で戦争の旗を掲げた。それは恐怖と死を予感させるものだった。なぜ彼らが今、互いに対峙しているのか、そこに小さな理由すら見当たらない。ただ一つの死の手紙が互いに宛てられていた。
憎しみと復讐。
二つの毒であり、忌まわしい物質だった。
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dinlukeの小説
season3の後のディンさんとルークです。
「Adelphi」
時々無性に人肌が恋しくなる時がある。そういう時は理解ある友人のところまで出向くか、そこそこ規模の大きな繁華街を持つ惑星に足を運び一晩の相手を探す。でもそう言うことをしている余裕がない時もある。むしろそう言う瞬間の方が多い。
燃料補給のために訪れたアデルファイ基地で、ふと人肌が恋しくなった。
この衝動は何か月も音沙汰がなく静かにしているかと思えば、猛烈な勢いで僕を突き動かす時もある。今回の衝動はいつも以上に強烈だった。基地には沢山のパイロットや戦闘員や基地スタッフがいる。彼らの多くが僕が何者かを知っているから、もし人肌を求めて声を掛ければ、そのほとんどが断りはしないだろうが、でもどうにも気が乗らなかった。僕はもう現役のパイロットではないが、幸か不幸かそこそこ名の知れた元軍人で彼らとは力関係が不均衡だ。話しかけるだけで相手を断れない状況に追い込む可能性があったし、何より新共和国軍の軍人に手を出せばあっという間に噂が広まりかねない。それは僕だけでなく、身内、特に元老院で議員として活躍する妹に悪い影響を与えてしまうかもしれない。
挨拶をしてくる軍人たちを横目に、僕はXウィングまで足早に基地を横切っていた。この星系に人の出入りが多い大型都市のある惑星はないか頭の中でぐるぐる考えていると、不意に呼びかけられた。
「スカイウォーカー」
振り返ればマンダロリアンのディン・ジャリンがこちらへ歩いてくるのが見えた。彼は一人だった。
「やあ、マンダロリアン、久しぶり」正直そわそわと落ち着かなかったが、彼の前ではどうにか衝動を抑えていつものようにジェダイらしく振舞った。「こんなところで再会するなんて思いもしなかった。ここで何を?」
「仕事だ。もう終わったが」
「へえ、新共和国の仕事をしているのか。いつから軍に?」
「……あー、軍には所属していない。ただ協力してる」
もし僕がここの責任者なら聞き捨てならない言葉だ。ここは民間人がうろつき回っていい場所じゃないし、新共和国の防衛軍が民間人に協力を要請するのはかなり珍しいことだ。モン・モスマ政権のもと軍縮が進む中、軍における規則や権限はかなり厳粛なものとなったはずだ。だが僕はもう軍人ではないし、何よりも急いでいた。
「そうか。お勤め御苦労」
「あんたはどうしてここに?」
「燃料補給のために寄ったんだ。元軍人だから、燃料代を割引してもらえる」ちょっとケチ臭いだろうか。でも事実だ。それに組織の後ろ盾なく一人で生きていくには節約が必要だ。ああ、どうでもいいことを考えるのを止められない。「ところで、グローグーは元気にやってるかい?」
「ああ、有り余るほど元気だ。仕事の間だけ友人に預けてるが、定期的に友人から彼の��子が報告されてくる。ホロ写真を見るか?」
マンダロリアンはリストバンドを操作して青白いホロ動画を再生させた。きっと見せたかったのだろう。それはグローグーがキッチンかどこかの高いところに置いているお菓子の缶をフォースで引き寄せようとする動画だった。周囲のものまで薙ぎ倒しつつ、彼は目当ての缶を掴んで嬉しそうに笑っている。
「彼は時々言う事を聞かなくて、おまけにフォースで動き回れる範囲が広まったし、ものを引き寄せたり壊したりして、家と俺の感情を滅茶苦茶にするが、それでも可愛いし日々成長しているのを感じる」
「……大丈夫?」
表情は見えないが、疲れた声音からこのマンダロリアンがかなり子育てに参っているように感じた。もしかすると今回の仕事は稼ぐためと言うだけでなく、気分転換のために受けたという面もあるのかもしれない。
「俺は大丈夫だ。でももう少し彼が落ち着いてくれたら、もっと大丈夫になれる」
「あの子は瞑想とかは……」
彼はいささか食い気味に首を横に振った。
「フォースの制御は……」
「気の赴くままに使ってる。遣り過ぎてる時もあるように思う。でも他人を傷付けたりはしていない」
「もちろん分かってるよ。彼はそんな子じゃない。でも、我慢する術を教えないと。心を平静に保つ方法も。瞑想は気持ちの整理に繋がるし、定期的にするといいよ。やり方は知ってるかい?」
マンダロリアンは僅かに肩を落とした。
なんだか無性に哀れに思えた。「……良かったら、教えようか?」
「本当に?そうしてくれたら助かる」彼の手が僕の肩にポンと触れた。
たったそれだけのことだが、何かのスイッチが入るような音を耳の奥で聞いた気がした。
ディンの出現で大人しくしていた衝動が唐突に舞い戻ってくる。この目の前の男。このマンダロリアンならいいんじゃないか。いや、何を��えてる。彼の子どもを教え導く立場を相手は求めているんだぞ。もちろん良くない。
「それでいつからにする?今から一緒に来てくれるか?」
「……すまないが。今は都合が悪いかな」
「何か差し迫ったジェダイに関する用事か?」
「あー、差し迫ってはいるけど……その……」
「俺でよければ手を貸す。あんたの力になりたい」
「手を貸してくれるのは嬉しいけど、君には少し難しいかも……」
「そんなことない。なんでも言ってくれ」
真正面から驚くほど近い距離で相手が自分を見つめている。顔は見えない。でもその距離のせいで、初めてこのマンダロリアンの匂いを感じた。オイルと鉄、衣類用の洗剤、それから微かに汗の匂い。
「じゃあ、私とセックスしてくれる?」
彼はまるでホロの静止ボタンを押したように固まった。
こちらも微動だに出来なくなった。口に出すつもりはなかった。何日も前からずっとシたいという単純な欲求が僕の中で渦巻いていて、それをどうにか無視してきた。しかしとうとう、今日こそは誰か��繋がらないと気が収まらなくなっていた。優しく、あるいは激しく抱かれたくて仕方がなかった。ベッドの上では英雄だとかジェダイだとか、重要人物として扱われることはなく、ただ一人の男として誰かと欲を育み、高め合い、そして吐き出したかった。でもそれを求めるのはこの彼じゃない。
「すまない」僕は慌てて彼に謝った。
しかし相手はまだ固まっている。不審に思って、バイザーの前で指をパチパチと鳴らすと、ようやくディンは反応して軽く首を振った。
「さっきは血迷った。忘れてくれると助かるよ」
なんとか肩を竦めて誤魔化した。だが彼は誤魔化しなど一切無視して僕に頷いてみせた。
「わかった」
「え?」
「セックスしよう」
爽やかな風が窓から吹き込み、僕の髪を撫でる感触で目が覚めた。淡い光が窓から差し込み、緩やかな風が薄い色のカーテンを揺らしている。ぼんやりとした視界が、瞬きすることで少しずつ輪郭を得ていく。眠りの世界から現実に引き戻されていく、時に耐えがたい瞬間だというのに、柔らかなクッションやマット、温かい毛布があまりにも心地よくて、しかもまるでフォースが祝福を与えてくれているような優しい感覚が体中を取り囲んでいて、滅多とない最高の目覚めを経験した。
僕は寝返りを打ち、自然と満足気な溜息が漏れるのを止められなかった。手足や口や尻や股がほんの少し怠いけれど、それはこの清々しい気持ちを邪魔するほどではなかった。
「目が覚めたか」
「うぉ!」
まさか誰かがいるとは思っておらず、つい驚いて変な声が出た。飛び起きて声がする方へ振り返れば、全身ベスカーアーマーを身に纏った男がベッドサイドの椅子に腰掛けているのが視界に入った。
「……おはよう」
つい「なんでいるんだ?」なんて最低な疑問が口から飛び出しそうになったが、どうにか気持ちを切り替えて、無難な朝の挨拶をすることが出来た。
ディンは「おはよう」と聞いたこともないほど優しい声で返事をした。
「あー、私は寝過ごしたかな?」
「いや。そうでもない。ただ俺がずっと起きてただけだ」
「どうして?」
「あんたを見張る必要があった」
一瞬肝が冷えかけた。なんせ僕はジェダイだ。疲れていたとはいえ、他人の気配を感じながら呑気にも寝扱けていたなんて修業が足りない。そもそも危険だ。
「あんたに何かするつもりはないし、何もしていない」ディンは慌てて説明した。「ただ、俺は顔を晒せない。だからもしあんたが先に起きて俺の顔を見てしまうと困るから、ずっと起きている必要があった」
「そんなことしないよ。昨夜も顔は見なかっただろ?」
「ああ……あんたは俺のために目隠しをしてくれた」
ディンはそっと僕からの視線を避け俯いた。顔は見えないが、彼が恥ずかしがっているのがわかる。意外にこのマンダロリアンは表情が豊かだ。彼は僕が彼に配慮したことを喜んでいるようだった。もっとも、ディンには悪いが、目隠しがあろうがなかろうが僕には大きな違いはなかった。確かに直接的に顔を見ることは出来ないかもしれないが、フォースを通せば相手の存在や動きや時には考えさえも読むことが出来る。昨夜も目隠し越しでさえ、ディンの感情がよく分かった。
「昨夜は……最高だった」
熱に浮かされたような相手の口調に、少しばかり居心地の悪さを感じる。
「俺たちはまるで一つの生き物みたいで、肉体という隔たりが存在していないみたいに混ざり合っていた。あんなに息の合った行為は初めてだ。何度も絶頂したのも初めてだ」
「それは良かった」ディン・ジャリンは案外明け透けな性格のようだ。あまりに素直に昨夜のセックスを喜ぶ姿に、こっちが気恥ずかしくなってしまう。
「全くの裸になって誰かと抱き合うのはあんなに気持ちが良いなんて知らなかった」
「そうか」
「何もかもが初めての体験だった」
「君のいい思い出になれたようでよかった」なんだか落ち着かない。
僕は周囲をざっと一瞥した。ベッドはぐちゃぐちゃだし、水差しが倒れているし、部屋中に服が散らばって妙に雑然としている。床に落ちていた自分の下着や服をフォースで引き寄せる。それだけでディンはどこか尊敬のまなざしで僕を見る。やめてくれ。ただのセックスだ。
「俺たちが最後の絶頂を迎えた時のこと覚えているか?周りの物が浮いたんだ。椅子も小物も、ベッドまで浮いていた。超自然的な空間で、俺たちは浮かびながら、深く繋がっていた。あの浮遊感は、なんと言ったらいいか……とにかく、本当に、凄まじかった」
「わかった」最悪だ。あまり良く覚えていないが、フォースをコントロールできずに浮かんでしまったようだ。「わかったからもういいよ」
「ジェダイは皆そうなのか?それともあんたが特別なのか?」
僕はもう答えなかった。熱心に昨夜の感想を語る彼の姿から、今さらながらこのマンダロリアンにセックスを申し出るんじゃなかったと後悔した。どこかの街で適当な男を引っ掛ければよかった。例えリスクがあろうとも、僕はそうすべきだった。
ブーツを履き、ベルトを締め、ライトセーバーを腰に下げて、それからローブを掴む。少し皺が出来ている。
「出るか?」
いつの間にかディンが僕の傍まで来ていた。僕は頷くことも返事をすることもなく、部屋のドアを開けた。背後のマンダロリアンに出るよう促すと、彼は大人しく従った。
僕らは昨夜アデルファイ基地から三〇分ほどスピーダーで移動した先にある寂れた宿で部屋を借りた。既に夜遅かったが、幸いに殆どの部屋が空き室になっていて、パーキングスペースにも二、三台スピーダーバイクが停まっているぐらいで、人影はほぼなかった。それは僕にとって非常に都合が良かった。アデルファイは軍関係者が多いから、僕は時々人目を引いてしまいがちだ。しかし昨夜は誰にも邪魔されず夜を過ごせたおかげで、いささか羽目を外しすぎたようだ。
部屋の管理は全てオートになっており、ドアを閉めると直ぐに利用時間から割り出した���泊料を請求された。ディンが払おうとしたので、彼を押しとどめて先に会計を済ませた。部屋を離れると直ぐに清掃ドロイドが飛んでくる。「ご利用ありがとうございます、またのお越しお待ちしております」なんて言われてまた居た堪れない気持ちになった。
直ぐにでもXウィングに飛び乗ってこの場を離れたかったが、生憎と船は基地の中に置いてきた。ファイターは目立つし、何よりも詮索好きの相棒に邪魔されたくなかった。R2-D2は最後まで渋っていたから、戻ればきっと小言をぶつけられるだろう。
来た時と同じように配車サービスを頼むしかない。ふとディンに振り返ると、彼もそれがいいと思っているようで、頷いて見せた。
「今度は俺が払う」
断るのも妙だったから、大人しくその申し出を受けた。
基地の前では直ぐに有人タクシーを拾えたが、ここは辺鄙な場所だからか、なかなか頼んだスピーダーがやってこなかった。ドロイドによる配車なら数も多く昼夜問わず活動しているので到着が早いのに、ディンはどうしてかそれを良しとしなかった。彼曰く見知らぬドロイドは信頼できないらしい。人間の方が頼りにならないし、信用もできないとは思うのだが、金を出すのは彼だ。彼のしたいようにすればいい。
スピーダーを待つ間、段々お腹が減ってきた。ディンはどう思っているのか、何も言わずただ道端に立ち、どこまでも続く道路の先を見つめている。僕はパーキングエリアの端にある自動販売機でショートブレッド型の栄養食やゼラチン・チューブ、水などを購入した。割高だがないよりましだ。
「マンダロリアン」
話しかけると彼が振りかえる。栄養チューブを投げてやると、彼は難なく掴んだ。
「お腹空いてるだろ。何か食べたほうがいい」
彼はジッと僕を見つめている。おそらく人に見られていると食べられないのだろう。
「このタイプならヘルメットを取らずに食べられるかと思ったけど、やっぱり私は君に背を向けた方がいいかな?」
「……ディン・ジャリン」
「なに?」
「俺の名前だ」
彼のバイザーにこの星系の黄色い太陽が当たってキラキラ輝いている。中身は見えない。でも彼が僕を見つめているのは、やはり手に取るように良く分かる。
「昨日は何度も呼んでくれた」
「……そうだったね」
僕は真顔になるのを止められなかった。代わりに、手の内の栄養食に気が向いてるふりをして、彼の視線を避けた。包装を剥がしオレンジ色の固形物をほんの少し口に含む。甘いような塩っ辛いような、微妙な味付けだ。
「俺と寝たことを後悔しているのか?」
一瞬ドキッとした。「まさか。後悔なんてしてないよ」
「でもさっきから、あんたは緊張してる」
「そんなことないさ」
「俺の視線を避けているし、昨夜のことを話題にすると気まずそうにしてる」
「……」
僕はマスター・ヨーダやオビ=ワン・ベン・ケノービに散々指摘されて以��、ここ数年は努力して平静を装ってきたが、昔から感情を隠すのは下手だ。特にこのマンダロリアンには時々うまく対処できなくなる。自ら禁じたはずが彼の熱意に負けて結局アカデミーの場所を教えてしまったり、昨夜のようにプライベートな部分をついつい晒したり、何故か自分を制御できなくなる。これは良くない兆候だ。
「昨日あんたにヘルメットを取るように提案された時、俺は少し警戒した」
ディンはぼそぼそと続けた。
「でも、あんたは無防備になるかもしれないのに進んで目隠しをしてくれた。こんな風に気を遣われたことは今までなかった」
「そうなのか?」
「セックスなんてお互いの局部さえ晒していればこと足りる。入れたり出したり、擦ったり、握ったり。そう言うことをするだけなら態々ヘルメットを取る必要はないだろ」
「確かに」
「今まで俺に顔を晒せと言ってきた連中は俺を辱めるために強引にヘルメットを取ろうとした。そうなるとセックスどころじゃなくなる。相手を倒すか、場合によっては殺さなきゃいけない」
物騒だなとは思ったが、言わずにおいた。アソーカから彼は厳格な宗派のマンダロリアンだと聞いていた。今の時代マンダロリアンはただでさえ数が少ないが、彼の派閥はその中でも少数派らしい。それにマンダロリアンはジェダイと同じように、無理解で攻撃的な態度を向けられがちだ。彼の苦労が僕にも少しは分かる。
「正直に言うが、あんたが最後まで目隠しを取らなかったことも、俺が見ている傍で安心して寝ていたことも、とても嬉しかった」
彼は僕の顔を覗き込んだ。銀色のベスカーに眉を寄せた自分の顔が写っていて、そのせいか妙に落ち着かない気分になった。
「あんたを一族に紹介したい」
「……は?」
「俺たちのアーマラーに会ってほしい」
「〝甲冑師〟?」
「彼女は俺のこのアーマーやグローグーの鎖帷子を作った鍛冶職人だ。そして俺の指導者であり相談役でもある。俺たちの一族にとって欠かせない存在だ」
「なぜ私がその人に会う必要が?」
「彼女にあんたとの関係を見極めてもらいたい」ディンはスッと背筋を伸ばし、姿勢を正した。
僕はそんな彼を見つめ、彼が手に持っている栄養チューブのけばけばしい包装が彼の重々しい雰囲気と全くそぐわないなんて、どうでもいいことを考えていた。
「一晩中、椅子に座って考えていた。俺たちが昨日アデルファイ基地で再会し、そして体を重ねたことには意味があるんじゃないかと」
「あー……それはどうかなぁ……」
「あんたは俺を選んだ。そして俺もあんたを選んだ。俺たちの間には絆があり、今後もその繋がりがどう発展していくか見守っていくべきだと思う。その為にはアーマラーから、ジェダイとマンダロリアンの性的関係は掟に反しないのか確認してもらう必要がある」
色々と理解しがたいことが次から次へと出てくる。
「そこまでする必要あるかな?私達がこれからも関係を続けるかはわからないだろ?」
「なぜ?」
「昨日のは成り行き上そうなっただけのように私は思う」
「……」
「もちろん最高だった。それに久しぶりに泥のように眠れたことには感謝している」
ここ数日忙しくて色んなものが溜まってい���。だからこのマンダロリアンに無防備な姿を晒してしまったのかもしれない。それ以外に寝扱けてしまった理由が思いつかない。
「でも、今後はどうかな。はっきり言って一度寝ただけの相手を一族に紹介するのは時期尚早だと思うよ」
ディンは僅かに斜め上を見上げて、首を傾げ、それから僕へ視線を戻した。
「じゃあ、後何度かセックスすれば、一緒にマンダロアに来てくれるか?」
一瞬思考が止まった。ディンは変なことは言っていない。ただ僕の遠回しの辞退に気付いていないだけだ。今のは僕の言い方が悪かった。
どうしたものかと考えを巡らせていると、丁度その時、道路の向こうにスピーダーの影が見えた。それは遠くからクラクションを鳴らしている。ディンはもう既に僕に顔を向けていない。道の端に立って、運転手に向かい軽く手を振っている。旧式の車体はガタガタと騒がしい音を立てて僕らの前に停まった。
「ルーク、行こう」ディンはさっさと後部座席に乗った。律義に僕が座りやすいよう、場所を空けている。
僕に振り返り待っている彼を見て、不覚にも動揺してしまった。
彼は〝何度かセックスをすれば〟と言った。そしておそらく僕らは今日を境に、今後も何度か体を繋げることになるだろう。どういう結果が待っているかは別として、少なくとも彼はその気だ。いや、彼だけじゃない、断るべきとは分かっていても僕は悪くないかもしれないと悩んでいる。
ディンが僕を最高と評したように、僕も昨日の彼を最高だと思っていた。悔しいが、僕らの体の相性は抜群だ。
止めたほうが良い。彼は元教え子の保護者で、僕らはまだお互いをよく知らないし、僕はジェダイで彼はマンダロリアンだ。生き方が全く違う。おまけに彼は直ぐにでも一族を紹介しようとする男なんだぞ。面倒なことになるのは目に見えているだろ。
「はぁ……ダンクファリック」小声で悪態を吐き、僕は殆どやけくそな気持ちで彼の隣に飛び乗った。
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Persona 3 Club Book Pawlonia Mall people pages scan and transcription.
ポロニアンモールの人々
People of Pauloownian mogol
月光館学園に隣接する巨大ショッピングエリアのポロニアンモールは、買い物と娯楽の一大スポット。タルタロス探索の準備のためだけでなく東の間の息抜きにもふさわしい。
黒沢巡查 辰巳東交番
港区の辰巳東交番を守る地域課の巡査。かつては敏腕のエリート巡査として知られていたが、正義感のあまりに10年前の桐条研究所事故の真相に深入りし、出世の道を外れた。
だがそのときの捜査によって真相に警察機構の手に負えない、人外のモノの存在を感じ、以降は独断で関係者と接触し、事件解決のサポートを行なうようになる。
なお巌戸台地区に配属されたときの最初の担当案件は、真田兄妹の入寮していた孤児院火災事故の再捜査だった。結局この事故もとくに人為的な点は見当たらずに決着しているが、そのときに現在の真田との関 係がつくられた。
基本的に非番はなく、昼は交番での勤務と武器の横流し販売、夜は担当地区一帯のパトロールと、とにかく黙々と働く男。毎週月曜日にご機嫌で値引きしてくれるのは、勤務明けに彼女とのデートが待ってい るから······かもしれない。
話しかけるのを躊躇させる強面の巡査。見かけによらず港区の平和を心から願い、特別課外活動部員への武器提供を請け負っている。
寡黙な平和
の守り手
眞宵堂店主 眞宵堂
隠棲の美人
科学者
断片的ではあるが港区で起こる事件のカラクりを知る数少ない人物。黒沢巡査とは桐条がらみで知り合い、頻繁に情報交換をする仲。
趣味で集めた骨董品を売る、凄みのきいた笑みが魅力的な女性。
学生時代から考古学を専攻していたのが縁で、桐条鴻悦が存���のころ、非公式計画の中核であった「エルゴノミクス研究所」の研究所員として、岳羽詠一朗の下で研究の一端に関わっていた。おもな研究は、過去のシャドウ関連の記述や痕跡を考古学的見地から分析・解析するもの。中心研究から一歩引いたところにいたことが、早期に研究 の問題を知ることとなり、事故の起こる数年前には研究所を去っている。しかし研究の真相を知りながら、その事実から身を引いたことに呵責を感じていて、桐条の膝元の土地を去れずにいる。そんな自分の迷いを自嘲し、店の名前を「眞宵」堂と名づけた。
上司であり師弟関係にもあった詠一朗には、妻子ある相手と知りながら道ならぬ感情を抱いていた時期があり、彼がすべての罪を負わされる形で世間的な決着がついていることも、彼女の桐条への複雑な感情をを助長しているようだ。
青ひげ店主 青ひげ薬局
欧米型ドラッグストアがこの国に根を下ろして十数年、今やすっかり市民権を獲得した中、昔ながらの対面販売式「薬局」としてがんばる、青ひげ薬局の店主。洗練された雰囲気を全面に押し出す新興のショッピングエリア・ポロニアンモールの一等地にて、このスタイルを貫く心意気はさすが。顧客は若者はもちろん、仕事帰りのサラリーマンや、いろいろ不具合に悩むお年寄りまで、幅広い年代をカバーしている。
仕事柄幅広い医薬品を扱ってはいるが、なにを置いても養生がいちばんという、東洋医学に基づいた主張をもっている。その証拠に料理の相談を持ちかけると、医食同源の秘蔵のハブの干物を熱心に勧められたという、部員からの報告あり。
店主渾身の青汁スムージーは販売1年目には罰ゲームのネタにされるという不幸な歴史を持つが、本人はその味わいと健康的な価値とに自身を持っている様子。
家庭の医学の体現煮
立派なひげをたくわえた恰幅のいい店主。豪快な人柄と取扱商品の怪しさにただの薬屋ではない気配がただよう。
ヤリ手の女性記者 ポロニアンモールほか
ペンを武器に三流ゴシップ誌で戦う女性記者。全国的に広がりつつある謎の社会現象の真相に、たったひとりで挑んでいる。その行動力と洞察力で、無気力症患者の発生のメカニズムにいち早く着目したほか、月の満ち欠けと無気力症患者の増減や、無気力症拡大と桐条グループ関係者たちの動向��の関係をかぎつけるなど、本来桐条の関係者にしか知り得ない真相に徐々に迫���つつある。そのため上司や「さるところ」から圧力をかけられることも多数あり。それが彼女の自由報道への情熱に一層拍車をかけているようだ。年末に向かって無気力症が猛威を振るうようになっても、さらにそこに謎を解く鍵を見出す、恐るべきバイタリティの持ち主。
無気力症におちいったタクシー運転手の間近でも冷静に状況を分析。報道に携わる者の鑑。
記者eyes
事件の気配をいち早く見分ける千里眼!!
記者brain
巧妙に隠された真相を見抜く冴えた頭脳!!
記者heart
おばさんと呼ぶと無反応になる乙女心!!
記者suit
体を張った取材に耐える丈夫な素材!!
記者hand
記事を書きなぐる武器!ペンだこは勲章!!
記者pumps
走っても足を痛めない低めのヒール!!
●図解!デキる雑誌記者!!
●女性記者の真実への軌跡
老いてますます盛んな老人 噴水広場
日がな一日、噴水のそばに腰を下ろして遠くを見つめるお爺ちゃん。多少弱々しく見える現在からは想像もつかないが、若いころは結構な女泣かせだったらしく、会うたびに盛んに「若いころにはギャルと遊べ」と力説される。このところ、かつての友だちがひとり、 またひとりと冥土に旅立ち、寂しさを隠し切れない様子。ポロニアンモールを訪れて無事な姿を確認するたび、「元気でよかった」を胸をなで下ろさずにはいられない、噴水広場のシンボル的存在になっている。
影人間が増え出す時期以外は一年を通してこのベンチで過ぎ去った時間を思い返している。
聞かせて!おじいちゃんの武勇伝
ビー・ブルー・ヴィーの店員 ビー・ブルー・ヴィー
感度の高いアイテムで、月高生をはじめとした地域の女子高生に人気のアクセサリーショップの、カリスマ店員。彼女の提案する小物使いは、必ずといっていいほど10代女子のハートをがっちりつかむ。見た目の派手さに反して、気さくな人柄と丁寧な応対で、相手の目線で接客する態度が好感度高し。自然と恋愛相談を受けることも多くなり、客同士の人間関係や恋の成り行きにはちょっと詳しいようだ。信条は「おサイフに優しい値段でセレブ感のあるオシャレ」。
クレーンゲームの月高生 ゲームパニック前
齢17にして初めてクレーンゲームを知り、世間から10年以上遅れてやってきた、景品釣りのスリルと興奮に盛り上がり中の男子生徒。友だちの誘いもむげにして、熱心に攻略方法を研究しており、影人間が徘徊を始める時期以外は、青春の貴重な時間と多くない小遣いを、その娯楽に費やしてポロニアンモールで過ごしている。かつて一世を風靡したこのゲーム、最盛期には亀や伊勢海老まで景品になっていたのは本当の話。
買い物途中の主婦 噴水広場
夕方の買い物の途中で油を売っている主婦ふたり組。日々成長する子どものしつけと教育問題に頭を悩ませている。家事と買い物で疲れたと言ってはたびたびお茶に繰り出しているらしく、ポロニアンモールや巌戸台商店街の飲食店には、月高生以上に詳しい。
●髪を結った主婦
高校2年生の年頃の娘を抱える母親。勉強そっちのけでオシャレに凝り始めた娘にあきれ顔。
●髪の短い主婦
中学3年生の息子を持つ母親。月高を目指しているが不穏な事件続きで躊躇気味。
Syuhu's COMMU
高2の娘 ← シャガールばっかり行って!← 髪を結った主婦 買い物友だち
髪の短い主婦
ご近所さん? 購買のおばちゃん
→ 目指せ月高!→ 中3の息子
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9月21日午前6時に父が亡くなった。 老健からの退所が決まり、週末のみ自宅で過ごすことが決定してからの 我が家はまさに上を下への大騒ぎだった。 家の中までの導線を確保した上で車椅子が通るよう道を整備し、 父が使っていた寝室に入るサイズの介護ベッドを調達して 高齢の母の負担が極力減るようにヘルパーの力を頼りながらの受け入れ生活だったが あれほどの労力をかけて準備したにも関わらず、わずか2ヶ月ほどでピリオドを打った。 コロナ感染からの重症化で一時は命も危ぶまれた父は、奇跡的に回復するも 肺炎により嚥下機能が著しく低下していたため誤嚥性肺炎を繰り返しては再入院し、 「急変した際の延命治療はどうしますか」とその都度医師に聞かれた。 そして3度目の再発で入院し、同じように「どうしますか」と問われた時、 半ば慣れっこになっていた私たちは「回復の希望があるならできるだけのことはやってほしいが 機械の力を借りて心臓を動かすだけの措置なら不要」と回答した。 そしてその翌日、まるで私たちの会話を盗み聞きしていたかのように父は逝った。 今年もケムコ様より東京ゲームショウにお誘いいただいていたのだが 父の容体が安定していないことからギリギリまで返事を待っていただいていた。 (快く待ってくださったケムコ様には本当に感謝しかない。ありがとうございます。) 最初から断ることも考えたが、遠出すれば気分転換になるかもという現実逃避的な思考もあり 引き延ばすだけ引き延ばした挙句に父が選んだ旅立ちの日は9月21日、東京ゲームショウの開幕初日だった。 父についてのエピソードで一番古い記憶を辿ると、幼稚園のクリスマス会になるだろうか。 園児のところにサンタがやってきて菓子を配る恒例の会で私も楽しみにしていたのだが 当日やってきたのはサンタのコスプレをした父で、特に素性を隠すでもなく 大声で私の名前を呼びながら「おおしのびん、今年はワシがサンタじゃ」と菓子を手渡した。 私は幼稚園の年少組にして「サンタは親が演っている」ことを知ってしまったのである。 生粋の目立ちたがりで役職のつくポジションが大好きだった父を見て育ったせいか 私は人一倍自分を表に出すことを避けるようになり、今もこうしてハンドルネームでブログを書いている。 母から「お父さんのようになってはダメよ」と言われて育った私は、 言ってみれば父を反面教師にして出来上がった集合体のようなもので、何から何まで合わない。 合わないのに、成長するにつれて父に似た部分が体のあちこちに、思考の節々に現れては嫌悪した。 今にして思えば、父のようになりたくない、は、父のように何事にもオープンで大らかには生きられない 内向的な自分の劣等感が生んだ、羨望からくる逆恨みだったのかもしれない。 そのことを受け入れ、父の中に幾らかの可愛らしさを見出してからの親子関係は 世間で言うところの仲の良い親子には届いていなかったかもしれないが、そう悪くもなかったと思う。 3度目の入院の知らせは突然だった。 デイサービスから「微熱があり酸素量も少ないため念のため病院に連れていきます」と連絡があり またかと思いながら病院に駆けつけた。 前々回、前回と同じようにしばらく入院して、回復すればまた退院するのだろうとぼんやり考えていたので 入院手続きのために膨大な枚数の用紙に記入しなければならないことの方が気が重かった。 翌朝面会に行くと、父は痰を吸入してもらって楽になったのか静かに眠っていた。 夜中も1、2時間おきに吸入をしていたと聞き、頭の下がる思いがする。 とてもではないが、このケアを自宅ではできなかったろう。 父は私のことはわかっていたようで「会いにきたよ、わかる?」と聞けば小さく頷いていた。 「元気になって、また家に帰ろうな」と声をかけるとまた小さく頷いていて 「この様子なら大丈夫だろう」と少し安堵した。 しかし、翌朝の医師の説明では、心臓の機能が大分弱っているので 肺炎が治るよりも先に心臓が持たないかもしれないと告げられた。 そして、冒頭に書いたように「無理な延命治療は本人も辛かろうし不要。 楽になるための治療なら全力でお願いします」と回答して帰宅した。 その日の深夜、病院から容体がおかしいと電話があり、孫たちも連れて慌てて深夜の病院に 大勢で押しかけると、別室に移動した室内で父はスヤスヤと眠っていた。 「みなさんが到着される直前に急に安定し始めて」とナースは申し訳なさそうに笑ったが 「人騒がせなじいじだ」と悪態をつきながらも皆笑顔だった。 その翌日、またしても深夜に病院から電話があり、同じように大勢で深夜の病院に向かった。 酸素がなかなか上がってこないと昨夜より病室内の空気に緊張感があったが 当の本人は傍目には穏やかに眠っているように見えた。 「こんなことがこれから毎晩続くのかしら」と母が疲労困憊の様子で口にするのを聞きながら 昨日医師に「まぁ、こんな感じで心臓がゆっくり止まってしまうほうが本人は楽だと思いますよ。 本当に眠るように、何も苦しまずに済むので。」と言われたことを思い出していた。 ほどなくして心電図を表示している機械から危険を知らせるアラーム音が鳴り、慌ただしくナースが入ってきた。 「まだいったらだめだよ」「起きてじいじ」「起きないと怒るよ」と孫たちがそれぞれ父に声をかけ 「家に帰ろうよ」と姉が語りかけた後に、それまで黙って見守っていた母が父の手を取って話し始めた。 「じいじ、ねえじいじ、本当に好き放題に生きたわね。 突然商売をすると言い始めて、30年間も私にその店を手伝わせている間に 他所で女を作ったり、こっそり家のお金に手をつけたり。 その人を連れてゴルフに旅行にと遊びまわり、飲み歩いてね。 子育てなんて全部私に任せ��きりで、ほとんどしなかったでしょ。 でもねじいじ、私はそれでも、あなたにまだ居て欲しい」 父の左手を両手で包み込み、まるで駄々っ子を宥めるように話しかける母の言葉を聞きながら 「おいおい、こんな男にだけはなるなと刷り込み続けて今更それはないだろう」と思ったりもしたが その言葉を聞いて、つくづく夫婦のことは夫婦にしかわからないのだと思い知らされた。 そして母が話し終えるのを待っていたかのように、9月21日午前6時に父の心臓は動きを止めた。 息を引き取る直前まで、話しかければ反応していたし、ゆっくりと腕を持ち上げたりピースサインも出せていて 「ぎゅっと握ってごらん」と言えば握り返していた父の時間は、本当に呆気なく止まったのだった。 けたたましい機械音さえなければ寝落ちを疑うほど穏やかな最期だった。 入退院を繰り返したとはいえ、何週間も昏睡状態が続いたわけでもなく、 在宅介護開始から2ヶ月、再入院から僅か2日で逝った父は ピンピンコロリとまではいかなくとも、ほどほどコロリぐらいの称号は与えても良い気がする。 面倒を見ていた親族の誰も介護疲れに陥らせず 別れを惜しむ気持ちを十分に残した上で旅立ったことは、家庭を振り返らず仕事に恋に奔放に生きた父が 珍しく見せた父親らしい気遣いと言っていいかもしれない。 週末は自宅で皆に介護されながら、コロナ感染の入院直前に食べるはずだった念願の鰻もちゃんと食し 早朝にも関わらず親族8人が見守る中で逝けたのだから、幸せだったろう。 亡くなる前日の朝、家族がいる手前では気恥ずかしさが勝ってしまい、正直な気持ちを話せないと思った私は ひとりで病院に面会に行き、眠っている父に向かって幼い頃から反抗的な態度を取ってきたことを詫びた。 「できの悪い息子でごめんな」と耳元で話していると、父が一瞬、私の手を握り返してきた、気がした。 あの時間がなければ、私の後悔はもっとずっと大きかったと思う。 テレビで何度も見かけた「9月21日午前6時21分、お亡くなりになりました」という医師の言葉を聞き終えて外に出ると もう空は明るくなり始めており、電話1本で飛んできた葬儀屋と話をしているうちにすっかり陽は昇った。 秋晴れの爽やかな朝だった。 悲しみに浸る暇もなく、数々の段取りが始まった。 実を言うと、2年ぐらい前から「親が亡くなった時にするべきこと」という ハウツーのページをブックマークしていて、折に触れて読み返すのを癖づけていた。 10年以上前の別れでは狼狽してしまい、何もかも人任せにしてしまった反省から いざという時にあたふたせず、冷静に適切な行動とれるための予習をしていたのだ。 親族と親しい方々への連絡、役所への届け出、葬儀の手配など まるで流れ作業のように進んでいって、翌日には通夜、翌々日の葬儀がすんなり決まった。 通夜の翌日、親族の集まった部屋に入ると、皆が見守る中で父が風呂に入れられていた。 旅立ちの前に全身を綺麗にするオプションサービスで、母が頼んでいたらしい。 髪も丁寧に洗い、顔もパック&化粧までしてほとんど韓流スターのようなフルコース。 一部始終を近くで見ていた姉が「私がやって欲しいぐらいのサービスだったわ」と感心していた通り 仕上がった父はこざっぱりして生気を取り戻したように見えた。 昼時になり孫たちが腹が減ったと言うのでGoogleMapで調べてみると 田舎のため近くにはコンビニぐらいしか引き当たらない。 「仕方ないから適当におにぎりでも買ってこようか」と義兄は言ったのだが 騒がしく葬るのが我が家のスタイルだからと、私の提案でデリバリーを頼むことにした。 幸い、配達圏内にカレー屋とピザ屋が引き当たったため Uberと出前館に一軒ずつ注文を出し、数十分後には親族控室はカレーとピザの匂いで充満した。 父の想い出話を肴にワイワイと盛り上がり、「こんなに騒がしい親族の控室はないんじゃないか」と 誰かが口にするほど賑やかな昼食になった。 年を取ってもジャンクフードが大好きだった父は、すぐ横で羨ましく見ていたに違いない。 皆で盛り上がっているところに葬儀屋が入っ��きて、一枚の紙を置いていった。 折り鶴の形をした形状記憶用紙で、皆で一言ずつ別れの言葉を書いてお棺に入れるのだという。 「お疲れ様でした」「あちらでは偉そうな振る舞いをしないように」(←私)など各自が書き込み、 最後に全員のメッセージを読んでいると、看護学生をしている姪が書いたと思しき一文が目に留まった。 「きちんと面倒をみてあげられなくてごめんなさい。立派な看護師になってみせます。」 淡々と皆の様子を俯瞰で眺めてきた私は、その一文を読んで初めて涙腺が緩んだ。 父親としては赤点だったが、祖父としては孫達に慕われる良きじいじだったのだ。 父の顔の広さもあって、葬儀場には置き場所に困るほどの花が届き、弔問客で溢れ返った。 コロナ禍ではとても実現できなかったであろうし、やはり父はツイている。 「いよいよお別れの時です。 生前お付き合いのあった方は、どうか前に出てきてお顔を見て差し上げてください。 仏様は亡くなっても私達に多くのことを教えてくださいます。 命の儚さ、尊さ、多くの教えを私達の心に遺して旅立たれるのです。」 お棺を閉じる前のお坊さんの言葉に誘われるように棺の前に立ち、眠っている父の顔を覗き込んでみた。 次々と収められる花に囲まれた父は、加工アプリで装飾し過ぎた写真のようなビジュアルで少しだけ滑稽だった。 そしてその姿を見てフフッと少し笑った後に、訳もわからず涙が流れた。 時間にしてほんの1分ぐらいだったと思うが、どこかの栓が抜けたようにドバドバと流れて自分でも驚いた。 「最後ぐらい泣いてくれ」と、父が私の涙腺(栓)を抜きにきたのかも知れない。 こんな機会でもなければ会うことの無かったであろう、数十年振りの知人や親戚と再会し 様々な思い出話をしていると、この時間も父の置き土産なのだと感じる。 簡略化の進む現代風の葬り方にも良い点はあるが、昔ながらの葬式も、その煩わしさも込みでなかなか良い。 親族用にチャーターした火葬場までの送迎バスに乗り込む際、 片手で骨壷を持ち、片手でスマホを持って自撮りをした。父とのツーショットである。 山の中腹にある火葬場は薄曇りで少し肌寒かったが、待ち時間中はやはり四方山話で盛り上がった。 火葬を終え、小さな骨壷に収まった父と帰宅してから 四十九日までの予定を親族で確認し、それぞれが日常に戻っていった。 数日して何気なくiPhoneの写真フォルダを見ていると、入院時に父と撮った写真が出てきた。 亡くなった9月21日は金曜日、その写真は2日前の19日だったので 写真の上にはまだ『水曜日』と表示されている。 iPhoneの写真は1週間以内なら曜日で表記され、1週間以上が経つと○月○日の表記に変わる。 水曜日という表示に、まだ数日前まで父はこの世にいたのだと気づかされた。 老健に長く入っていたし、それほど頻繁に会っていたわけでもないのに 「もういない」ことが日毎に実感となって、音もなく雪が降り積もるように静かに寂しさが募っていく。 あっという間に四十九日を迎え、近しい親族だけで法要を済ませた。 葬儀の時と同じお坊さんがやってきて、最後にまたひとつ話をしていった。 「四十九日が経ちましたね。 毎日元気にお過ごしでしょうか。 今日はひとつ、時間と命について皆さんに考えていただきたいと思います。 私たちは皆、等しく流れる時間の中で生きています。 亡くなった方の時間はそこで止まり、しかし私達の時間は動き続けます。 時間の止まった方との距離は日々遠くなり、日常で思い出す機会が減ってきたり 悲しみが薄れたりしますが、そんな時こそ、生きていることを自覚していただいたいのです。 今日この場で皆さんと過ごした時間が二度と戻らないのと同じように 時間は先にしか流れないと自覚しながら、1日1日を大切に過ごして下さい。」 私にとって父が良い父でなかったように、父にとって私も良い息子ではなかったろう。 生きているうちにもう少し何とか出来たかもと思わないでもないが、全ては後の祭り。 是枝裕和監督の映画「歩いても歩いても」に出てくる 『人生はいつも、ちょっとだけ間に合わない。』を、まんまと私も体験してしまった。 先人からの教訓を受け取っていたのに、実践を怠って同じ後悔をして その気持ちをこうして文章に残し、誰かが悔いを残さないようにと祈る。 そうやって、人は生きていくのだ。
四十九日 - 忍之閻魔帳
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【小説】コーヒーとふたり (上)
休日に喫茶店へ行くことは、加治木零果にとって唯一、趣味と呼べる行動である。
喫茶店へ行き、コーヒーを飲む。時刻はだいたい午後二時から三時。誰かと連れ立って行くことはない。常にひとりだ。行き先も、決まった店という訳ではない。その時の気分、もしくはその日の予定によって変える。
頼むのは、コーヒーを一杯。豆の銘柄やどのブレンドにするかは店によってだが、基本的にブラック。砂糖もミルクも好まない。軽食やスイーツを注文するということも滅多にない。ただ一杯のコーヒーを飲む、それだけ。
彼女は喫茶店では本を読まないし、パソコンも開かない。スマートフォンにさえ触れないこともある。コーヒーを飲み終えたら、すぐに店を出て行く。たとえその一杯がどんなに美味でも、二杯目を頼むことはない。時間にすればほんの数十分間。一時間もいない。それでも彼女は休日になると、喫茶店へ行き、コーヒーを飲む。
零果がその店を訪れたのは二回目だった。最初に訪れたのは、かれこれ半年近く前のことだ。
たまたま通りかかった時にその店を見つけた。「こんなところに喫茶店があったのか」と思った。喫茶店があるのは二階で、一階は不動産屋。賃貸マンションの間取り図がびっしりと貼り付けられているガラス窓の隣に、申し訳なさ程度に喫茶店の看板が出ていた。
細く狭い階段を上った先にその店はあり、店内は狭いながらも落ち着きのある雰囲気だった。歴史のある店なのか、年老いたマスター同様に古びた趣があるのが気に入った。コーヒーも決して不味くはなかった。出されたカップもアンティーク調で素敵だと思った。
しかしその後、零果の喫茶店リストの中で、その店はなかなか選ばれなかった。その店の立地が、彼女のアパートの最寄り駅から微妙に離れた駅の近くだったからだ。「わざわざあの駅で降りるのはちょっとな……」と思っていた。けれど、最近同じ店に行ってばかりだ。今週末は、普段あまり行かない店に行こう。それでその日、その店を選んだ。
けれど、その選択は失敗だった。
「あれ? 加治木さん?」
そう声をかけられた時、零果は運ばれて来たばかりのコーヒーをひと口飲もうとしているところだった。カップの縁に唇を付けたまま、彼女はそちらへと目を向ける。
その人物はちょうど、この店に入って来たところだった。そして偶然にも、零果は店の入り口に最も近い席に案内されていた。入店して真っ先に目につく席に知人が座っているのだから、彼が声をかけてきたのは当然と言えば当然だった。しかし、零果は彼――営業部二課の戸瀬健吾に声をかけられたことが衝撃だった。
「こんなところで会うなんて、奇遇だね」
戸瀬はいつもの人当たりの良い笑みを浮かべてそう言ったが、零果は反応できなかった。驚きのあまり、何も言葉が出て来ない。しかし彼女の無言に気を悪くした様子はなかった。
「俺はよくこの店にコーヒーを飲みに来るんだけど、加治木さんもよく来るの?」
笑顔で尋ねてくる戸瀬に、零果はカップを口元から離してソーサーの上へと戻しながら、「いえ、その……たまに……」と、かろうじて答える。この店に来たのは二度目だったが、そう答えるのはなんとなく抵抗があった。あまり自分のことを他人に明かしたくない、という彼女の無意識が、曖昧な表現を選んでいた。
「そうなんだ。ここのコーヒー、美味いよね。あ、じゃあ、また」
やっと店の奥から店員が現れ、戸瀬は空いている席へと案内されて行った。幸いなことに、彼の席は零果から離れているようだ。大きな古めかしい本棚の向こう側である。
戸瀬の姿が見えなくなってから、零果はほっと息をついた。休日に同僚と顔を合わせることになるとは、なんて不運なのだろう。その上、場所が喫茶店だというところがツイていない。
改めてコーヒーを口元へ運んだが、未だ動揺が収まらない。半年前に来店した時は悪くなかったはずのブルーマウンテンブレンドだが、戸瀬の顔を見た後の今となっては、味の良し悪しなどわからなかった。香りも風味も台無しだ。コーヒーカップのブルーストライプ柄でさえ、「さっき彼が似たような柄のシャツを着ていなかったか?」と思うと途端にダサく思えてくる。
それに加えて、戸瀬は先程、こう言った、「俺はよくこの店にコーヒーを飲みに来るんだけど、加治木さんもよく来るの?」。
その言葉で、彼女の喫茶店リストから、この店が二重線を引かれ消されていく。
同僚が常連客となっている喫茶店に足を運ぶなんて御免だ。二度目の来店でその事実を確認できたことは、不幸中の幸いだったと思うしかない。数回通い、この店で嗜むコーヒーの魅力に気付いてしまってからでは、店をリストから削除することが心苦しかったはずだ。ある意味、今日は幸運だった。この店は最初からハズレだったのだ。
零果は自分にそう言い聞かせながらコーヒーを飲む。味わうのではなく、ただ飲む。液体を口に含み、喉奥へと流す。せっかく、いい店を見つけたと思ったのに。うちの最寄りから、五駅離れているのに。飲み込んだ端から、落胆とも悔しさとも区別できない感情がふつふつと沸き上がってくる。その感情ごと、コーヒーを流し込む。
早くこの店を出よう。零果は、一刻も早くコーヒーを飲み干してこの店を出ること、そのことに意識を集中させていた。
コーヒーを残して店を出ればいいのだが、出されたコーヒーを残すという選択肢はなかった。彼女は今まで、たとえどんなに不味い店に当たってしまっても、必ずコーヒーを飲み干してきた。零果にとってそれはルールであり、そのルールを順守しようとするのが彼女の性格の表れだった。
先程入店したばかりの客が熱々のコーヒーを急いで飲み干してカウンターの前に現れても、店の主人は特に驚いた様子を見せなかった。慣れた手つきで零果にお釣りを渡す。
「ごちそうさまでした」
財布をショルダーバッグに仕舞いながら、零果は店を出て行く。「またのお越しを」という声を背中で受け止め、もう二度とこの店に足を運ぶことはないだろうな、と思い、そのことを残念に���った。深い溜め息をついて階段を降り、駅までの道を歩き出す。
店の雰囲気は悪くなかった。コーヒーだって悪くない。ただ、戸瀬の行きつけの店だった。
否、それは戸瀬個人に問題があるという意味ではない。彼の物腰柔らかで人当たりの良い態度や、その温厚な性格は職場内でも定評があるし、営業職としての優秀さについても、零果はよくわかっている。
そうではなく、零果はただ、同僚に会いたくないだけなのだ。休日に喫茶店でコーヒーを飲んでいる時だけは。唯一、彼女にとって趣味と呼べるであろう、その時間だけは。知り合いには誰とも会うことなく、ひとりでいたい。平日の書類とメールの山に抹殺されそうな多忙さを忘れ、心も身体も落ち着かせたい。そのためには極力、同僚の顔は見ないで過ごしたい。
駅に着くと、ちょうど零果のアパートの最寄り駅方面へ向かう電車が、ホームに入って来たところだった。このまま家に帰るだけというのも味気ない、と思いかけていた零果であったが、目の前に停車した電車を目にし、「これはもう、家に帰れということかもしれない」と思い直した。もうこの後は、家で大人しく過ごすとしよう。
そう思って、電車に乗り込む。���両の中にはすでに数人の乗客が座っており、発車までの数分を待っている様子であった。零果は空いていた座席に腰を降ろそうとし、そこで、自分の腰の辺りで振動を感じた。バッグに入れてあるスマートフォンだ、と気付いた。その一瞬、彼女はスマホを手に取ることを躊躇った。
バイブレーションの長さから、それがメールやアプリの通知ではなく着信を知らせるものだということはわかっていた。休日の零果に電話をかけてくる相手というのは限られている。候補になりそうな数人の顔を思い浮かべてみたが、誰からの着信であっても嬉しいニュースであるとは思えない。
座席に腰を降ろし、スマートフォンを取り出す。そこで、バイブレーションは止まった。零果が呼び出しに応じなかったので、相手が電話を切ったのだ。不在着信を示すアイコンをタップすると、発信者の名前が表示された。
有武朋洋という、その名前を見た途端、めまいを覚えた。ちょうど、午後四時になろうとしているところだった。判断に迷う時間帯ではあったが、この電話は恐らく、今夜食事に誘おうとしている内容ではないだろうと、零果は確信していた。
膝の上でショルダーバッグを抱き締めたまま、メッセージアプリを開き、有武に「すみません、今、電車なんです」とだけ入力して恐る恐る送信する。瞬時に、零果が見ている目の前で、画面に「既読」の文字が現れた。恐らくは今、彼もどこかでこのアプリを開いて同じ文面を見つめているに違いなかった。案の定、間髪入れずに返信が表示される。
「突然悪いんだけどさ、ちょっと会社来れる?」
零果が思った通りだった。有武の、「悪いんだけどさ」と言いながら、ちっとも悪びれている様子がない、いつものあの口調を思い出す。
「今からですか?」
今からなんだろうな、と思いながら、零果はそう返信する。
「そう、今から」
「今日って休日ですよね?」
休日でも構わず職場に来いってことなんだろうな、と思いながら、それでもそう返信をせずにはいられない。
「そう、休日」
何を当たり前のこと言ってんだよ、って顔してるんだろうな、有武さん。少しの間も空けることなく送られて来る返信を見ながら、零果は休日の人気がないオフィスでひとり舌打ちをしている彼の様子を思い浮かべる。
「それって、私が行かないと駄目ですか?」
駄目なんだろうな、と思いながらそう返信して、座席から立ち上がる。
駅のホームには発車のベルが鳴り響いている。零果が車両からホームに戻ったのは、ドアが閉まりますご注意下さい、というアナウンスが流れ始めた時だった。背後で車両のドアが閉まり、彼女を乗せなかった電車は走り出していく。
家に帰るつもりだったのにな。零果は諦めと絶望が入り混じった瞳でその電車を見送った。握ったままのスマートフォンの画面には、「加治木さんじゃなきゃ駄目だから言ってるんでしょーよ」という、有武からの返信が表示されている。
「…………ですよね」
思わずひとり言が漏れた。ホームの階段を上りながら、「今から向かいます」と入力し、文末にドクロマークの絵文字を付けて送信してみたものの、有武からは「了解」という簡素な返信が来ただけだ。あの男には絵文字に込められた零果の感情なんて届くはずもない。
再び溜め息を盛大についてから、重くなった足取りで反対側のホームに向かう。なんて言うか、今日は最大級にツイてない。休日に、一度ではなく二度までも、同僚と顔を合わせることになるとは。しかも突然の呼び出しの上、休日出勤。
ただひとりで、好きなコーヒーを飲んで時間を過ごしたいだけなのに。たったそれだけのことなのに。
心穏やかな休日には程遠い現状に、零果はただ、肩を落とした。
「加治木さん、お疲れ様」
そう声をかけられた時、思わず椅子から飛び上がりそうになった。咄嗟にデスクに置いてあるデジタル時計を見る。金曜日、午前十一時十五分。まだ約束した時間まで四十五分あるぞ、と思いながら零果は自分のデスクの横に立つ「彼」を見上げ、そこでようやく、声をかけてきたのが「彼」ではなく、営業部の戸瀬だったと気が付いた。
「あ……お疲れ様です」
作成中の資料のことで頭がいっぱいで、零果は戸瀬に穏やかな笑顔を見つめられても、上手い言葉が出て来ない。五四二六三、五万四千二百六十三、と、零果の頭の中は次に入力するはずだった数値がぐるぐると回転している。キーボードに置かれたままになっている右手の人差し指が、五のキーの辺りを右往左往する。
当然、戸瀬には彼女の脳内など見える訳もなく、いつもの優しげな口調で話しかけてきた。
「この間の土曜日は、びっくりしたね。まさかあんなところで加治木さんに会うなんて」
土曜日、と言われても、零果はなんのことか一瞬わからなかった。それから、「ああ、そう言えば、喫茶店で戸瀬さんに会ったんだった」と思い出す。
「でも、聞いたよ。あの後、有武さんに呼び出されて休日出勤になっちゃったんだって? 加治木さん、いつの間にかお店から消えてるから、おかしいなって思ってたんだけど、呼び出されて急いで出てったんでしょ?」
零果は思わず、返事に困った。急いで店を出たのは戸瀬に会って気まずかったからだが、まさか目の前にいる本人にそう伝える訳にもいかない。有武の呼び出しのせいにするというのも、なんだか違うような気もするが、しかし、戸瀬がそう思い込んでいるのだから、そういうことにしておいた方が得策かもしれない。
「えっと、まぁ、あの、そうですね」などと、よくわからない返事をしながら、零果の右手は五のキーをそっと押した。正直、今は戸瀬と会話している場合ではない。
「有武さんもひどいよね、休日に会社に呼び出すなんて。そもそも、加治木さんは有武さんのアシスタントじゃないんだから、仕事を手伝う必要なんてないんだよ?」
戸瀬の表情が珍しく曇った。いつも穏やかな彼の眉間に、小さく皺が寄っている。本気で心配している、というのが伝わる表情だった。けれど今の零果は、「はぁ、まぁ、そうですよね」と曖昧に頷くことしかできない。四のキーを指先で押しつつ、彼女の視線は戸瀬とパソコンの画面との間を行ったり来たりしている。休日出勤させられたことを心配してくれるのはありがたいが、正午までにこの資料を完成させなければいけない現状を憂いてほしい。零果にはもう猶予がない。
「なんかごめんね、加治木さん、忙しいタイミングだったみたいだね」
戸瀬は彼女の切羽詰まった様子に勘付いたようだ。
こつん、と小さな音を立てて、机に何かが置かれた。それはカフェラテの缶だった。見覚えのあるパッケージから、社内の自動販売機に並んでいる缶飲料だとわかる。零果が見やると、彼は同じカフェラテをもうひとつ、右手に握っていた。
「仕事がひと段落したら、それ飲んで休憩して。俺、このカフェラテが好きなんだ」
そう言って微笑む戸瀬の、口元から覗く歯の白さがまぶしい。「あ、あの、ありがとうございます」と零果は慌ててお礼を言ったが、彼は「全然いいよー」とはにかむように左手を振って、「それじゃ、また」と離れて行った。
気を遣われてしまった。なんだか申し訳ない気持ちになる。恐らく戸瀬は、休日に呼び出され仕事に駆り出された零果のことを心から労わってくれているに違いなかった。そんな彼に対して、自身の態度は不適切ではなかったか。いくら切羽詰まっているとはいえ、もう少し仕事の手を止めて向き合うべきだったのではないか。
そこで零果は、周りの女子社員たちの妙に冷たい目線に気が付いた。「営業部の戸瀬さんが心配して話しかけてくれているのに、その態度はなんなのよ」という、彼女たちの心の声が聞こえてきそうなその目に、身がすくむような気持ちになる。
しょうがないではないか。自分は今、それどころではないのだから……。
パソコンに向き直る。目の前の画面の数字に意識を集中する。しかし、視界の隅に見える、カフェラテの缶。それがどこか、零果の心にちくちくと、後悔の棘を刺してくる。あとで、戸瀬にはお詫びをしよう。零果はカフェラテを見つめながら、心に黄色い付箋を貼り付ける。それにしても、カフェラテというのが、また……。
「資料できたー?」
唐突にそう声をかけられ、彼女は今度こそ椅子から飛び上がった。気付けば、側には「彼」が――日焼けした浅黒い肌。伸びすぎて後ろで結わえられている髪は艶もなくパサついていて、社内でも不評な無精髭は今日も整えられている様子がない。スーツを着用する営業職の中では珍しく、背広でもジャケットでもなく、作業服をワイシャツの上に羽織っているが、その上着がいつ見ても薄汚れているのがまた、彼が不潔だと言われる理由である。ただ、零果がいつも思うのは、彼は瞳が異様に澄んでいて、まるで少年のようであり、それでいて目線は鋭く、獲物を探す猛禽類のようでもある、ということだ――、有武朋洋が立っていて、零果の肩越しにパソコンのディスプレイを覗き込んでいた。
「あれ? 何、まだ出来てないの?」
咄嗟に時刻を確認する。戸瀬に声をかけられてから、もう十分近くも経過している。なんてことだ。しかし、約束の時間まではあと三十五分残されている。今の時点で資料が完成していないことを責められる理由はない。それでも零果が「すみません」と口にした途端、有武は「あー、いいよいいよ」と片手を横に振った。
「謝らなくていいよ。謝ったところで、仕事が早く進む訳じゃないから」
斬って捨てるような口調であったが、これが彼の平常だ。嫌味のように聞こえる言葉も、彼にとっては気遣って口にしたに過ぎない。
「時間には間に合いそう?」
「それは、必ず」
「そう、必ずね」
零果は画面に向き直り、資料作りを再開する。ふと、煙草の臭いがした。有武はヘビースモーカーだ。羽織っている作業着の胸ポケットには、必ず煙草とライターが入っている。煙草臭いのも、社内外問わず不評だ。しかし有武本人は、それを変える気はないようである。
「うん……大丈夫そうだ。本当に、正午までには出来上がりそうだね。��すがだなぁ、加治木さんは」
零果が返事もせずにキーボードを叩いていると、彼の右手が横からすっと伸びてきて、机の上のカフェラテの缶を取った。零果が「あ、それは……」と言った時、缶のプルタブが開けられた音が響く。
「これ、飲んでもいい?」
「…………はぁ」
どうして、缶を開けてから訊くのか。順序がおかしいとは思わないのだろうか。
「飲んでいいの?」
「……どうぞ」
「ありがと」
有武は遠慮する様子をまったく見せず、戸瀬が置いて行ったカフェラテをごくごくと飲んだ。本当に、喉がごくごくと鳴っていた。それから、「うわ、何これ、ゲロ甘い」と文句を言い、缶に記載されている原材料名をしげしげと眺めている。人がもらった飲み物を勝手に飲んで文句を言うな。零果はそう思いながらも、目の前の資料作成に集中しようとする。どうしてこんな人のために、せっせと資料を作らねばならないのだろうか。
「じゃ、加治木さん。それ出来たらメールで送って。よろしくね」
そう言い残し、カフェラテの缶を片手に有武は去って行く。鼻歌でも歌い出しそうなほど軽い彼の足取りに、思わず怒りが込み上げる。階段で足を踏み外してしまえばいい。呪詛の言葉を心の中で吐いておく。
有武がいなくなったのを見計らったように、後輩の岡本沙希が気まずそうに無言のまま、書類の束を抱えて近付いて来た。零果がチェックしなければならない書類だ。
「ごめんね、後でよく見るから、とりあえずそこに置いてもらえるかな」
後輩の顔を見上げ、微笑んでみたつもりではあったが、上手く笑顔が作れたかどうかは疑問だった。岡本は何か悪いことをした訳でもないだろうに、「すみません、すみません」と書類を置いて逃げるように立ち去る。そんなに怖い顔をしているのだろうか。零果は右のこめかみ辺りを親指で揉む。忙しくなると必ず痛み出すのだ。
時計を見つめる。約束の時間まで、あと三十分。どうやら、ここが今日の正念場のようだ。
「メールを送信しました」という表示が出た時、時計は確かに、午前十一時五十九分だった。受信する側は何時何分にメールが届いたことになるのだろう、という考えが一瞬過ぎったが、そんなことを考えてももう手遅れである。
なんとか終わった。間に合った。厳密には一分くらい超過していたかもしれないが、有武がそこまで時刻に厳密な人間ではないことも、この資料の完成が一分遅れたところで、今日の午後三時から始まる会議になんの影響もないこともわかっていた。
零果はパソコンの前、椅子に腰かけたまま、天を仰いでいた。彼女が所属する事務部は五階建ての社屋の二階にあるため、見上げたところで青空が見える訳はない。ただ天井を見上げる形になるだけだ。
正午を告げるチャイムが館内放送で流れていた。周りの女子社員たちがそれを合図にぞろぞろと席を立って行く。呆然と天井を見つめるだけの零果を、彼女たちが気に留める様子はない。それはある意味、日常茶飯事の、毎日のように見る光景だからである。魂が抜けたように動かないでいた零果であったが、パソコンからメールの着信を知らせる電子音が鳴り、目線を画面へと戻した。
メールの送信者は有武だった。本文には、零果の苦労を労う言葉も感謝の言葉もなく、ただ、「確認オッケー。午後二時半までに五十部印刷しておいて」とだけ書かれていた。やっぱりなぁ。そうくると思ったんだよなぁ。当たらないでほしい予想というのは、なぜかつくづく当たるものだ。嫌な予感だけは的中する。
十四時半までには、まだ時間がある。とりあえず今は、休憩に入ろう。
零果は立ち上がり、同じフロア内にある女子トイレへと向かった。四つ並んだうちの一番奥の個室に入る。用を足していると、扉が閉まっていたはずの手前の個室から人が出て行く気配がした。その後すぐ、水を流す音と、扉がもうひとつ開かれた音が続く。
「ねぇ、さっきのあれさぁ……」
「あー、さっきの、加治木さんでしょ?」
手洗い場の前から会話が聞こえてくる。
零果は思わず動きを止めた。声のする方へと目線を向ける。扉の向こうが透視できる訳ではないが、声から人物を特定することはできる。ふたりとも、同じフロアに席を置いている事務員だ。正直、零果と親しい間柄ではない。
「戸瀬さんがせっかく話しかけてくれてるのに、あの態度はないよね」
「そう、なんなの、あの態度。見てて腹立っちゃったよ」
蛇口が捻られ、手を洗う音。零果は音を立てずにじっとしていた。戸瀬ファンクラブ所属のふたりか。恐らく、ここに零果本人がいるということを、ふたりは知らないに違いない。
「戸瀬さんもさ、なんで加治木さんなんか気にかけるんだろうね?」
「仕事が大変そうな女子社員を放っておけないんじゃない? 戸瀬さんって、誰にでも優しいから」
「加治木さんが大変な目に遭ってるのは、有武のせいでしょ?」
きゅっ、と蛇口が閉められた音が、妙に大きく響いた。その時、零果は自分の胸元も締め付けられたような気がした。
「そうそう、有武が仕事を頼むから」
「加治木さんも断ればいいのにね。なんで受けちゃうんだろう。もう有武のアシスタントじゃないのにさ」
「さぁ……。営業アシスタントだった過去にプライドでもあるんじゃない?」
ふたりのうちのどちらかが、笑ったのが聞こえた。
「うつ病になってアシスタント辞めたくせに、事務員になってもプライド高いとか、ちょっとねぇ……。自分で仕事引き受けて、それで忙しくって大変なんですって顔で働かれてもさぁ……」
足音と共に、ふたりの会話も遠ざかっていく。どうやら、女子トイレから出て行ったようだ。
ふたりの声が完全に聞こえなくなるのを待ってから、零果は大きく息を吐いた。「……有武さんのことだけは、呼び捨てなんだ」と、思わずひとり言が漏れた。そんなことはどうでもいい。どうでもいいけれど、言葉にできる感想はそれくらいしか思い付かなかった。
他の事務員から陰で言われているであろうことは、薄々わかってはいた。同じ内容を、言葉を選んで、もっともらしい言い方で、面と向かって言う上司もいる。同僚たちに特別好かれているとは思っていなかった。しかし、本人には届かないだろうと思って発せられる言葉というのは、こんなものなのか。
水を流し、個室から出た。鏡に映る自分の顔の疲弊具合に気分はますます陰鬱になる。腹の底まで冷え切っているように感じる。
同じ階にある休憩室へ向かおうと思っていたが、先程のふたりもそこにいるのだろうと思うと、足を向ける気にはならなかった。さっきの会話の続きを、今もしているかもしれない。
自分の席に戻って仕事を再開するというのも考えたが、こんな疲れた顔で休憩も取らず仕事をしているところを、誰かに見られるのも嫌だった。
結局、零果は四階に向かうことにした。階段で四階まで上ると、営業部が机を並べているフロアと、会議室が両側に並ぶ廊下を足早に通り過ぎる。外出していることが多い営業部だが、昼の休憩時間に突入しているこの時間は、いつにも増して人の姿がない。零果は何も躊躇することなく、通路の突き当り、外階段へと続く重い鉄の扉を開けた。
非常時の利用を目的に作られた外階段を、普段利用する社員はほぼいない。喫煙室以外の場所で煙草を吸おうとする不届き者ぐらいだ。外階段だけあって、雨風が吹き荒れ、もしくは日射しが照り付け、夏は暑く冬は寒いその場所に、わざわざ足を運ぶ理由。それは「彼」に会いたいからだ。
「おー、お疲れ」
鉄製の手すりにもたれるようにして、「彼」――有武朋洋がそこにいた。いつも通り、その右手には煙草がある。有武は、この外階段でよく煙草を吸っている。社内に喫煙室が設けられてはいるが、外がよほどの嵐でない限り、彼はここで煙草をふかしている。
「……お疲れ様です」
挨拶を返しながら、鉄の扉を閉め、有武の吐く煙を避けるため風上に移動する。向かい合うように立ちながらも、零果の目線は決して彼の顔を見ようとはしない。それもいつものことだ。有武も、そのこと自体を問うことはしない。ましてや、喫煙者でもない彼女が何をしにここまで来たのかなんて、尋ねたりもしない。
「何、どうしたの。元気ないじゃん。なんか嫌なことでもあった?」
口から大量の煙を吐きながら、有武はそう尋ねた。零果は「まぁ……」と言葉を濁しただけだったが、彼は妙に納得したような顔で頷く。
「まー、嫌なこともあるよな」
「……そうです、嫌なこともあります」
「だよな」
「せっかくの休日に呼び出されて仕事させられたり」
「…………」
「今日だって、あと二時間で会議の資料を作ってくれって言われたり」
「…………」
「その資料がやっとできたと思ったら、それを五十部印刷しろって言われたり」
「何、こないだの土曜日のこと、まだ怒ってんの?」
有武が小さく鼻で笑った。これは、この男の癖だ。この男は、上司でも取引先でも、誰の前でも平気で鼻で笑うのだ。
「土曜日は呼び出して悪かったって。でもあの時にテンプレート作って用意しておいたから、今日の資料作りがたった二時間でできたってことだろ?」
「……なんとかギリギリ、二時間でできたんです」
「でも、ちゃんと時間までに完成しただろ」
有武は、今度は鼻だけでなく、声に出して笑った。
「加治木さんはできるんだよ。俺は、できると思ったことしか頼まない。で、本当にちゃんとできるんだ、俺が見込んだ通りに」
「…………」
零果は下を向いたままだ。そんな彼女を見つめる有武の瞳は、からかうように笑っている。
「別に気にすることないだろ。周りからなんて言われたのかは知らないが、加治木さんは他の人ではできないことを――」
「私はもう、あなたの営業アシスタントじゃありません」
遮るように言った彼女の言葉に、有武が吐く煙の流れも一度途切れた。
「もう、私に……」
仕事を頼まないでください。そう言えばいい。零果が苦労ばかりしているのは、この男の仕事を引き受けるからだ。それを断ってしまえばいい。幸いなことに今の彼女は、それを咎められることのない職に���いている。もうアシスタントではない。ただの事務員だ。同僚たちが言う通りだ。
わかっている。頭ではわかっているのに、零果はどうしても、その続きを口にすることができない。うつむいたまま、口をつぐむ。
ふたりの間には沈黙が流れる。有武は煙草を咥えたまま、零果が言葉を発するのを待っているようだった。しかし、いつまでも話そうとしない彼女を見かねてか、短くなった煙草を携帯灰皿へと捨ててから、一歩、歩み寄って来た。
「加治木さんは、俺のアシスタントだよ。今も昔も、ずっと」
彼の身体に染み付いた煙草の臭いが、零果の鼻にまで届く。もう何年になるのだろう、この臭いをずっと、側で嗅いできた。いくつもの案件を、汗だくになったり、走り回ったりしながらこなしてきた。無理難題ばかりに直面し、関係部署に頭を下げ、時には上司に激昂され、取引先に土下座までして、それでも零果は、この男と仕事をしてきた。いくつもの記憶が一瞬で脳裏によみがえる。
「仕事を頼まないでください」なんて、言えるはずがなかった。どうして彼が自分に仕事を依頼するのか、本当は誰よりもわかっていた。
大きく息を吐く。肩に入っていた力を抜いた。
「有武さん」
「何」
「……コーヒー、奢ってください」
「は?」
「それで許してあげます」
零果の言葉に、ぷっ、と彼は吹き出した。
「コーヒーでいいの? どうせなら、焼き肉とか寿司とか言いなって」
まぁ言われたところで奢らないけどね。そう言いながら、有武はげらげらと笑う。零果は下を向いたまま、むっとした顔をしていたが、内心、少しほっとしていた。零果が多少、感情的な言い方をしてもこの男は動じないのだ。
「あ、ちょっと待ってて」
有武は唐突にそう言うと、外階段から廊下へと繋がる扉を開け、四階のフロアへと戻って行った。ひとり残された零果が呆然としていると、有武はあっという間に戻って来た。
「ほい、これ」
差し出されたその手には、缶コーヒーが握られている。社内の自動販売機に並んでいるものだ。どうやら、有武はこれを買いに行っていたらしい。零果は受け取ってから、その黒一色のパッケージの缶が、好きな無糖のブラックコーヒーだと気が付いた。
「それはコーヒーを奢ったって訳じゃないよ。さっき、デスクにあったカフェオレもらったから、そのお礼ね」
「もらったって言うか、有武さんが勝手に飲んだんじゃないですか……。あと、カフェオレではなく、カフェラテです」
「オレでもラテでも、どっちでもいいよ。飲んでやったんだろー。加治木さんがコーヒーはブラックの無糖しか飲まないの、知ってるんだから」
その言葉に、ずっと下を向いたままだった零果が一瞬、顔を上げて有武を見た。戸瀬から缶飲料をもらった時、「よりにもよってカフェラテか……」と思ったことが、バレているのではないかとさえ思う。そのくらい、目が合った途端、得意げに笑う有武の顔。憎たらしいことこの上ない。零果はすぐに目を逸らした。
「……やっぱ、許さないかも」
「は?」
「なんでもないです」
有武は肩をすくめた。作業服の胸ポケットから煙草の箱を取り出し、一本咥えて火を点ける。吐き出された煙は吹く風に流され、あっと言う間に目では追えなくなった。
いただきます、と小さく声に出してから、零果は缶コーヒーのプルタブを開けた。冷たいコーヒーをひと口流し込んでから、喉が渇いていたことに気が付いた。
疲れたな。改めてそう思う。百円で買える缶コーヒーの味わいにさえ、癒されていくように感じる。
今日は良い天気だ。この外階段に吹く風も、日射しも心地良い。ここから見下ろせる、なんてことのない街並みも。この男との何気ない会話も。ここにあるものすべてが、冷え切っていた零果の心を解きほぐしていくような気がする。
「加治木さん、昼飯はもう食ったの?」
煙を吐きながら、有武がそう訊いた。
「いえ……」
「何、また食ってないの? ちゃんと食わないと、身体に良くないよ」
「……有武さんは?」
「俺は今日、三時から会議で、終わったらその後に会食だから。昼飯は食わなくてもいいかなーって」
「会食までに、お腹空いちゃうんじゃないですか?」
「何か軽くは食べるけどね。会議中に腹が鳴っても締まらないし。ただ、四十歳過ぎるとね、やっぱ食った分は太るんだわ」
そう言う有武は、今年で四十一歳のはずだが、まったく太っていない。零果は七年前から彼を知っているが、出会った頃から体型が変化したとは思えない。ただ、それは本人が体型を維持する努力をしているからだろう。
そして、そういう努力ができるのであれば、もう少しこまめに髪を切ったり髭を整えたりしてもいいのではないか、とも思う。特に最近の有武は、髪にも髭にも白髪が混じるようになった。もう少し身なりを整えれば、印象もまた変わると思うのだが。
「あ、そういえば、もらったアンパンがあるんだった。アンパン、半分食う?」
「いえ……あの、今本当に、食欲がなくて……」
零果はそう言いながら、無意識のうちにみぞおちの辺りをさすっていた。トイレで聞いてしまった、同僚たちの会話。無遠慮に吐き出された彼女たちの言葉、その声音の棘が、零果の胃の辺りに突き刺さっている。とてもじゃないが今は、何か固形物を口にしようという気にはならなかった。
「ふうん、あ、そう」
と、有武は煙草をふかしながら返事をした。零果の様子を特に気に留めている様子も、提案を断られて落ち込むような様子もない。そうやって、無関心を装う節がこの男にはある。
「じゃ、今度は喫茶店にでも行こうか」
有武が煙草を吸い終わった頃、零果も缶コーヒーを飲み終えたところだった。
「コーヒー奢るよ。どこか行きたい店ある? 俺の好きな店でもいい?」
「どこでもいいですよ」
「了解。また連絡するわ」
有武が外階段とフロアを繋ぐ、重たい扉を開ける。開けたまま待ってくれている彼に、小さく会釈をしながら零果が先に通る。触れそうなほどすぐ近くに寄ると、煙草の臭いをはっきりと感じる。今は吸った直後なので、臭いはなおさら強烈だ。
「くっさ……」
「あ?」
零果の口から思わず零れた言葉に、彼は即座に睨んでくる。
「すみません、つい、本音が……」
「悪かったな、煙草臭くて」
有武は舌打ちをしながら零果に続いてフロアへ戻り、外階段への扉を閉めた。
「有武さんは禁煙しようとは思わないですか?」
「思わないねー。だから俺が臭いのはこれからも我慢してねー」
「…………」
臭いと口走ってしまったことを根に持っているのか、有武は不機嫌そうな顔だ。
「あ、有武くん!」
並んで廊下を歩いていると、突然、背後から声をかけられた。振り向くと、通り過ぎた会議室から、ひとりの女性が廊下へ顔を覗かせている。
肩につかない長さで切り揃えられた黒髪。前髪がセンターで分けられているので、その丸さがはっきりとわかる額。染みも皺もない白い肌には弾力がある。彼女が今年で四十歳になるのだと聞いても、信じる人はまずいないだろう。零果より頭ひとつ分、小柄なことも相まって、彼女――桃山美澄は、二十代に間違えられることも少なくない。
実年齢よりも若く見られる桃山は、実際は経験豊富な中堅社員である。そして何より、ずば抜けて優秀な社員として、社内外で有名だ。営業アシスタントとして三人の営業マンの補佐についているが、「桃山本人が営業職になったら、売上額が過去最高になるのではないか」という憶測は、かれこれ十五年前から上層部で囁かれている、らしい。有武の営業アシスタントを務めているのも彼女である。零果は仕事を手伝わされているに過ぎず、本業は事務職であり、有武の本来のアシスタントは桃山なのだ。
桃山の顔を一目見るなり、有武は露骨に嫌そうな顔をした。しかし、それを気にする様子もなく、彼女は近付いて来る。
「有武くん、探したんだよ。午後の会議の資料の進捗はどう? 間に合いそう?」
「あー、それなら大丈夫。加治木さんに頼んでるから」
桃山は有武の隣に並ぶ零果を見やり、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね加治木さん、また面倒な仕事、有武くんに頼まれちゃったね」
「いえ、あの、大丈夫です」
零果はいつも、桃山を前にすると困惑してしまう。謝る彼女に対して、なんて言葉を返せばいいのか、わからない。
「資料は? どのくらい出来てるの? 続きは私が代わろうか」
「あの、もう、完成はしていて、あとは印刷するだけなんですが……」
「本当に? もう出来てるの? すごいね加治木さん、やっぱり優秀だね」
「いえ、そんなことは……」
桃山はにこにこと、朗らかな笑顔だ。嫌味なところは感じさせない。実際、嫌味など微塵も込めていないということは、零果もわかっている。返す言葉に悩んでしまうのは、そうやって本心から褒めてくれる存在がそれだけ稀少だからだ。
「じゃあ、資料の印刷はこっちでやるよ。月末も近いし、加治木さん、自分の仕事も忙しいでしょう?」
「そんなことは……」
そんなことはありません、と言おうとして、後輩の女子社員から書類の束を受け取っていたことを思い出す。そうだ、あの書類をチェックしなくてはいけないのだ。思わず言葉に詰まってしまう。桃山はそれを見逃さなかった。
「うん、資料の印刷は私がするね。もう有武くんにメールで送ってくれてるんだよね? 有武くん、私のアドレスに転送してもらっていいかな?」
「はいはい、わかりましたよ」
有武は窓の外に目線を向けたまま、そう返事をした。彼のそんな態度にも、桃山は顔色ひとつ変えることはない。柔和な笑みのまま、零果に向き直った。
「加治木さん、忙しいのにいつもありがとうね。本当は私がやらなくちゃいけないことだから、こんな風に言うのはおかしいんだけど、有武くんは加治木さんと仕事をするのが本当に楽しいみたいで」
「い、いえ、あの……」
桃山は続けて言う。
「でも、加治木さんには事務職としての仕事もあるんだから、しんどかったり、難しかったりする時は、いつでも私に言ってね。有武くんだって、それで加治木さんのことを悪く思ったりはしないからね。私も、有武くんも、いつだって加治木さんの味方だから。無理はしないでね」
その言葉に、零果は頷くことしかできない。気を抜くと、泣いてしまうかもしれない、とさえ思った。桃山が自分の上司だったら良かったのに。零果は今の上司である、事務長の顔を思い出しながらそんなことを思う。桃山が上司だったら、毎日、もっと楽しく働けるかもしれないのに。
けれど、と思い直す。
桃山はかつて、零果の先輩だった。同じ営業アシスタントだった。三年前までそうだった。零果は彼女の下に就き、多くのことを学んだ。彼女の元から離れたのは、自分なのだ。そのことを、零果は今も悔やんでいる。
「それとね、」
桃山は一歩、零果に近付くと、声を潜めて言った。
「加治木さんが有武くんから直接仕事を任されていることは、事務長も、営業アシスタント長も、営業部長も合意している事柄だよ。それなのに、加治木さんのことを悪く言う人が事務員の中にいるみたいだね?」
脳裏を過ぎったのは、女子トイレで聞いた会話の内容だった。同僚の言葉が、耳元でよみがえる。
零果は思わず、桃山の顔を見た。先程まで朗らかに笑っていたはずの彼女は、もう笑ってはいない。口元は笑みを浮かべたままだったが、その瞳には鋭い光があった。それはぞっとするほど、冷たい目だった。
「うちの営業アシスタント長は、そっちの事務長と仲が良いからね。私が事務長に言っておいてあげようか? 『部下をよく指導しておいてもらえませんか』って。加治木さんは有武くんの仕事をサポートしてくれているのに、それを邪魔されたら困っちゃうんだよ」
桃山には、こういうところがある。普段は温厚なのに、時折、何かの弾みでとてつもなく冷酷な表情を見せる。
零果は慌てて、首を横に振った。
「そんな、大丈夫です」
「そうかな? 私はそうは思わないけどな。加治木さんのことを悪く言う社員が同じ事務の中にいるなんて、とてもじゃないけど――」
「桃山、もういいって」
ずっと上の空でいるように見えた有武が、突然、会話に割って入った。
「加治木さんが大丈夫って言ってるんだから、とりあえずは大丈夫なんだろ。もし何かあったら、桃山に相談するよ」
「…………」
桃山はしばらく無言で有武を見上げていたが、やがて再びにっこりと笑った。それから、零果へと向き直る。
「うん、加治木さん、何かあったら遠慮なく相談してね。いつでも聞くからね」
「いえ、あの、お気遣い、ありがとうございます」
何度も頭を下げる零果に、桃山はにこにこと微笑む。
「ううん。逆に、気を悪くしていたらごめんね」
「いいえ、気を悪くするなんて、そんな……」
「私はこれでも、営業アシスタントだから。有武くんが気持ち良く仕事をするために、私にできることは全部したいんだ」
そう、桃山の目的は、あくまでも「それ」だ。営業アシスタントとしての職務を全うしたいだけなのだ。零果のことを気遣っているかのように聞こえる言葉も、すべては有武の仕事を円滑に進ませるため。反対に、彼の仕事ぶりを邪魔するものを、すべて排除したいだけ。
有武から仕事を頼まれた零果がその意欲を削がれることがないように、彼女のことを悪く言う同僚を排除しようと考えているのだ。その点、桃山は零果のことを「有武の仕事にとって有益にはたらくもの」と認識しているようだ。そうでなければ、零果に仕事を依頼していることを許したりはしないだろう。
「何かあったら言ってね」と言い、「それじゃあ」と手を振って、桃山は営業部のフロアへと向かって行った。
桃山の姿が見えなくなると、その途端、有武は大きく息を吐く。
「はーあ、おっかない女……」
「桃山さんのことを、そんな風に言わなくても……」
普段は飄々としている有武も、桃山を前にするとどこか緊張しているように見えるから不思議だ。そう思いながら、零果は有武の顔を見上げ、
「あ……」
「あ?」
「いえ、なんでもありません……」
反射的に目を逸らした零果を、彼が気にする様子はなかった。ただ、「加治木さん、俺の正式な営業アシスタントに早く戻ってくれよ」と、どこか冗談めかした口調で言った。
その言葉に、零果は何も答えなかった。うつむいたままの彼女の左肩をぽんぽんと、軽く二回叩いて、「じゃ、また」と、有武も営業フロアへと消えて行った。
「…………無理ですよ」
有武の背中も見えなくなってから、ひとり残された零果はそうつぶやく。
事務部に異動して二年。今となっては、営業アシスタントとして働いていた過去が、すべて夢だったのではないかとすら思える。あの頃は、毎日必死だった。ただがむしゃらに仕事をこなしていた。どうしてあんなに夢中だったのだろう。零果はもう、当時の感情を思い出すことができない。 二階の事務部フロアに向かって歩き出す。所属も業務内容も変わったが、今も零果には戦場が与えられている。運動不足解消のためにエレベーターを使うのではなく階段を降りながら、頭の中では午後の仕事について、すでに思考が回り始めていた。今の自分には、やるべき業務がたくさんある。戦うべき雑務がある。そのことが、何よりも救いだった。
※『コーヒーとふたり』(下) (https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/746474804830519296/)へと続く
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464 名前:名無しさん@おーぷん[] 投稿日:24/03/18(月) 04:42:55 ID:D4.cj.L1 オカルトなのかもしれないけど。いまだに私も信じられない。 当時私は高2で、どこにでもいるアホなギャルだった。 携帯(当時はスマホじゃなかった)で友達とメールしながら化粧してて、あ、彼氏と待ち合わせの時間だと思って慌てて準備して、 玄関から母に今日帰らないからご飯いらないと叫んで、父がいい加減にしろバカ娘みたいなことを怒鳴り返してきたのが 最後の記憶。 当時流行ってた20センチくらいのヒールの靴がひっかかってコケて、爪のデコレーションが欠けたのを あーネイル行ったばっかなのにーこんな重いのとれやすいって言ってたネイリストの言うこと正しかったわーと思ったのも覚えてる。 次にふと気がついたら、知らない家にいて、めちゃくちゃ頭が痛いのと、変なゲームボーイみたいなやつが光って 電話マークが出てた。 画面になんちゃら幼稚園みたいなの書いてあって、え?でもボタンないのにどうやって出るの??みたいに思ってたら切れた。 とりあえず知らない人の家だけど、おもちゃとかがあったから、誘拐とかじゃなさそう →昨日彼氏と飲みすぎて記憶を失って、これは彼氏の先輩の家とかなのかな?と思って少し待ってたけど、 彼氏も家主らしき人も誰も来ない。 とりあえず外に出ようと思ったけど鍵もないし携帯もない…と思いながらぼーっとしてたら、知らないおっさんが小さい子つれてきた。 「お前何やってんの?」「お迎えは?早退して行ったんだけど」「いるなら電話でろよ、心配したわ」とか言うから、 は?みたいなこと言ったら、小さい子がママとか言ってまとわりついてきた。 訳が分かんなかったけど、よく見たら魔女みたいな長いネイルも全部とれてるし、金髪とピンクメッシュのロングだった髪も 暗い茶髪のボブだった。 は?変身サプライズ?とか思ってたけど、彼氏も友達もこないし、説明してもおっさんは訳わかんないこというし、 私もパニックになった。 電話貸してもらって彼氏と親に電話してみたけど、この番号は使われておりませんになるし。 とりあえず警察にいこうと思ったら止められて、おっさんが大きな病院に連れて行ってくれた。 ここからは割愛するけど、検査したら要はくも膜下出血的なやつだった。 本当の私は37歳で、記憶を司る期間がやられてしまって、高2以降の記憶がなくなったらしい。 で、ここも不思議なんだけど、高2のギャルだった時の記憶��真実とは違ってて、 私はギャルだったことはなく、彼氏と外泊したりすることもなく、何より記憶だと外泊に怒って怒鳴ってた父はおらず 母子家庭だったこと。 今でも鮮明にギャルだった自分の記憶があるんだけど、高校生の時の写真とか見ても全然ギャルでもないし系統が違う。 子供のことも全く思い出せなくて、可愛がれないし、 見た目はママなのに中身がママじゃないという状況は子どもに悪いだろうと思って半ば無理やり
466 名前:名無しさん@おーぷん[sage] 投稿日:24/03/18(月) 10:27:59 ID:Sd.qx.L1 >>464 無理やり…の続き気になる!
469 名前:名無しさん@おーぷん[] 投稿日:24/03/22(金) 03:28:05 ID:qb.ft.L1 464です。 ごめんなさい、書き込めてると思ってた
そう。半ば無理やり離婚して、子供はその旦那らしき人に引き取ってもらった。 見た目がママなのに中身がママじゃないのはさすがに残酷すぎると思って。 今も昔のことはほとんど思い出せないけど、30代の私は美容師とかそういう技術の仕事だったみたいで、 やってみたら普通にできたから、離婚後はそれで働いて養育費は払ってる。 旦那らしき人は、「お母さんは病気で全部忘れてしまって思い出せなくなった」と説明してくれたみたいだけど、 納得はいかないよね。 子供も必死にママこれ覚えてる?これは?とかずっと何度も思い出を言ってくれたんだけど、その健気さが辛いのと 思い出せる気もしなくて、もう離れることにした。 今はもうそこから10年くらいたってて、子供も大きくなってて、元旦那も再婚してるし、離婚後は会ってない。 本当はこっちを修羅場として書きたかったんだけど、実は少しだけ結婚生活の記憶が戻ってる気がする。 何度も聞かされたから記憶と勘違いしてるだけかもしれないけど、子供が小さかったときに近所の公園に行ったことや パンケーキの上にジュースをこぼしたことや、子どもが塩昆布が好きだったから試しにパンに乗せて朝に出したら チョコレートパンと勘違いして食べて、子供が怒ったことなどを思い出した。 今更どうこうするつもりはまた全くないけど、申し訳ない気持ちと幸せに暮らしてほしいからこそ連絡はしないと決めてる。
470 名前:名無しさん@おーぷん[] 投稿日:24/03/22(金) 03:38:02 ID:qb.ft.L1 ちなみに私は今でも独身で、この10年では彼氏がいたこともあったけど、結婚はしてない。 母とはたまに連絡を取り合うけど、記憶は薄いからどこか他人行儀になってしまう。 父とはし別らしいけど、母が言った「しんだらあきらめがつく、でも生きてて見た目も声も同じなのに、記憶が全部ないっていうのは 中身だけが他人になったみたいで辛い」というのがすべてを表していると思う。 この言葉を思い出すと離婚の判断は間違ってなかったと思うし、これからもせめて金銭面だけはしっかり償いたいから 養育費は送り続ける。
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2022年(一部さらに過去絵)単品絵まとめ
▲新 ▼古 2022/6月〜TwitterでDQアカ作ってから描いた単品絵たち。 多少描画時系列カオスです、DQアカ開設前の絵や 未公開だった絵もあります。 枚数多い絵は、ポイピクにリンク張ります。
ーーーーー
デジモノクロ練習、賢エルマーさん。 これが2022年末の最後の単品絵だったようです。 メルヘンな背景はわざと遊びました😂
2022/11/11 ポッキー&プリッツの日 英語版MYPT、メンバーにあちこちからポッキー食わされる 勇ロゼアちゃん。
pixivのお題『オッドアイ』に乗って描いた うちの半魔、(自称)賢フリードさん。ちょうどオッドアイなもので…
2022/11/8 いいおっぱいの日の盗勇の勇者ちゃん。 勇ロゼアちゃんよりけっこう大きいです🤭 そのうち紹介したいです。ロキシーと言います。
海外では11/2までハロウィン🎃というので描きました。 (自称)賢フリさんに半魔ならではの自前の羽根生やして頂き 飛んで頂いています。男賢者さんとアピりたかったもので 賢者さんの杖を持たせ、普段結っている青髪ロン毛もバサッと。 因みにドラキーちゃんはDQ3に居ませんが散らばって頂きました😂
TwitterのDQ3魔法使いさんハロウィン🎃企画?に 参加させて頂いた絵です。ハロウィンらしい、いかにも魔女な 衣装を描くのが楽しかったです🎃
Twitterのお題の◯◯の絵柄で◯◯描こうだったかな? サザ◯さんの絵で賢者…と出たので資料見ながら描きました😂 ◯ザエさん風、公式賢者さんズです。
1日遅れましたが盗勇の日(10/3)に乗っかって描いた うちの盗勇です。 盗レヴィン:のんきもの 勇ロキシー:しあわせもの というお花畑CP😂
また別の賢勇です…こうなるのは小説版では神龍戦出征時 (とEDン年後予定)漫画版では???です笑 とりあえずフリ祖父さんはかなりの肉食マンで なおかつ亡妻のロゼリア祖母さんにそっくりで自身のタイプで フリ祖父さんにはどストライクな勇ロゼアさんだそうです。 フリ祖父さんは色んな者と恋愛経験豊富らしいので (※PT漫画参照)愛人でも良いそうです。
魔▶賢エルマーさんが何となく公式僧侶ちゃんと 髪型似てるなー(左分けで青髪ロン毛が)と思って 僧侶コスして頂きました。
(載せ忘れてた💧) 暑くて夜勤も暇だった時にスマホで描いていた賢フリさん。 私の大好きなチョコミント食べさせました😂 服の色もチョコミント意識しましたが、そういや元絵が チョコミントカラーやんけ!と後で気付かされました…
供養絵な賢エルマーさん。 キャラ紹介絵に使おうと思ったんですけど止めました… せっかく凛々しく?描けたので供養。
公式風おるる絵な賢勇。 推しの絵6キャラ描く海外のフリーテンプレよりトリミング。
TwitterのDQアカ作ってからの初アイコン。 ロト装備な勇ロゼアちゃん。
TwitterのDQアカ作る頃に描いた男賢者さんと、賢者とかげちゃん。 祖父フリさんの方です、XLぬいを抱いているようにしか見えません笑 この頃髪を下ろしていますが、あまりにもう一人の賢者で 孫のエルマーさんと見分け付きにくくて 現在は軽く髪を結ったスタイルにしております。
若かりし頃の祖父母さん(エルマーさんの)の おしどり夫婦ぶりをどうぞ…。これ2023年絵ですけど 下記祖父母さん関連絵ということで💦 フリ祖父さんはロゼリア祖母さんと婚姻中~亡くなるまでは 祖母さん一筋でした。アイビスに和筆という新しいブラシを 入れたので試し描きした絵。(輪郭線と髪の毛)
誰おまなんですけど、エルフリード祖父さん(24~5歳頃)と ロゼリア祖母さん(19~20歳頃)の肖像画風絵です。 祖母さんはただの人間の町娘です… 【祖父母の馴れ初め】※どーでもいい情報すみません😂 祖母さんがどっかで見かけたフリ祖父さんに一目ぼれ →追いかけまわしていたら祖母さんの『おっちょこちょい』発揮 →祖父さんの目前ですっころぶ →驚き戸惑う祖父さんだが祖母さんがどストライクで一目ぼれ →祖父さんはこの頃から(自称)賢者語れるためベホマで治療 この頃に彼らの娘であり、賢エルマーさんの母エルヴィーラさんを 授かりお生まれになる頃です。尚、この10年後位に二人目の子を やっと授かるのですが、(祖母さんが子が出来にくい体質だったよう) ロゼリア祖母さんは子供もろとも亡くなってしまいます😭 この二人目の子が少し出てくる漫画は頭の中とメモ帳で構想中。
まだエルフリード祖父さん編み出したばかりの頃の絵。 (TwitterにDQアカ作る前ですね、22年5月ごろ) アアア頭のてっぺんシャギーがおとなしいわあ💦 髪下したままだとあまりにも孫のエルマーさんと見分け付きにくく 見分け付ける為にフリ祖父さんは髪を結った状態にしました。 彼ら血族は顔おんなじなんですけど、性格が全然違います笑
小説版「魔法使いの家族たち」のイメージで描いてみたもの。 アリアハンで後に戦士になるバーバラさんはこの当時私服です。 小説にその内挿絵入れたく思っています。 突然入れるかもしれません。入れたらお知らせします笑 ※初め魔法使いの英訳をWizardとしていましたが 英語版DQ3アプリではMageでしたのでそっと修正😂
これ小説版カプになるかな?盗バルダーと武▶僧リアンダです。 漫画版��ゆぶけけPTでも登場させたいんですけど、 漫画のリアンダは武闘家のままなので、 盗武な珍しいカプになるであろう(と思います)
小説版にて決戦前夜で一度だけ禁断愛を貫く賢勇。 これまでの出征時~ン年はこういった関係になれなかったのです。 賢エルマーさんなりに理由があっての事です…
ヒャド系飛ばすまだ魔のエルマーさん。目つききっついですね… 一応彼の性格設定は『やさしいひと』なんですが笑 もっとなんか呪文唱えてる系絵増やしたいです、修行します。
タブレットアプリ(日本語版)で組んだゆぶけそPTな DQ絵をン年ぶりに描いたリハビリ絵です。 当時数年すみっコばっか描いてたの���、人の描き方を思い出すのに 大変でした😂勇ロゼアさんがスマホのような機器?で PT自撮り風に描きました。
DQすみっコラボ、ダブル版権絵(ポイピク) 他シリーズDQも混じっています。
2015年頃のDQ3水着女子絵・未完(ポイピク) リク頂きましたが色々あって未完。
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Picrew part 1
I put the Creator's Homepage too so the Picrew's link work, and not go to 404 page.
Masterlist
1. Charasu's きゃらすの
儚げ少年たち / ephemeral boys
2. ✦Ayase ✦絢瀬 (3 Picrew)
キラキラ鱈メーカー3 / Glitter cod maker 3
3. 엘² L² (5 Picrew)
또엘쿠르2 / Toelkur 2
4. meeco
女の子メーカー / girl maker
5. こんぺいとう** Konpeito** (2 Picrew)
こんぺいとう**メーカー / Konpeito**Manufacturer
6. ガールズイラストレーターやよい / Girls illustrator Yayoi(2 Picrew)
7. aco_pbw (2 Picrew)
街の男メーカーβ / City man maker β
8. あかぐちみむ Akaguchi Mimu
ガーリーフェイスメーカー / girly face maker
below this are 15 recomended sns icon, I dont have time to put one by one, maybe later.
#picrew#picreations#picrew me#girls maker#boys maker#oc#oc art#ocs#original character#profile#avatars#picrew part 1#picrew oc
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三輪秀次の小説(二次創作)
A級フルーツバスケット
二月十六日昼、ボーダー本部において緊急対策防衛会議が待たれる。アフトクラトルの捕虜からもたらされた情報では、同国に付属する国家からの襲撃が予想されることによる。
会議室Cと聞いて、三輪秀次はいやな予感がしていた。A級部隊隊長が全員(任務中は除く)が集められるにしては狭い部屋だ。おそらく派手に召集したくはない内容なのだろう。
早めに行きたかったが、防衛任務のあとだ。引き継ぎの加古望と少し話しただけのつもりだったが、思いのほか遅れた。
ドアを開けて一礼して会議室を見渡す。既に出席者はほぼ揃っていた。城戸司令、今回の議長を務める���田本部長と補佐の沢村響子、ほかA級部隊隊長、B級部隊隊長である東春秋の姿もあるが、彼は幹部と言っていい。
(やっぱり部屋が狭い…)
長い前髪の下で眉間がぎゅっとよる。しかも、人数と椅子の数があっていない。根付や唐沢がいたらこんなことにはならない。
しかし、今回は防衛会議だ。椅子の数など気にしない者ばかりなのだ。
空いている席は入り口に近い下座ふたつと城戸司令の隣ひとつだ。あとは、迅悠一と風間蒼也が参加予定である。三輪としては迅の隣は断固拒否したい。
ちらりと壁際に立っている東と冬島を見る。
座ってほしい。そして席を埋めてほしい。しかし、こういう会議のときに彼らが座ることは滅多にない。
席次から言えば、司令の横は風間だ。というか、本当はA級一位なんだから太刀川さんだろう? 誕生日席のほうがボードがよく見えるし、議長である忍田に正面を向けていられるから座ったに違いない。
入り口に近い席に嵐山が座っている。目が合う。にっこりと輝くような笑顔が返ってくる。三輪は黙殺した。彼の横にA級七位で一番年下の三輪が座るのが道理だ。わかっている。すると、多分、風間が城戸の横に座り、つまるところ迅と嵐山が三輪の両隣となる。
(………)
三輪は無表情のまま、太刀川を通り越し、すとんと城戸の横に座った。最初からここに座るつもりでしたよという態度だ。
この間、わずか数秒のことだったが、部屋にいた全員が三輪の行動の意図が読めた。
唐突に沢村がテーブルの下をのぞき込み、端末との接続機器を確かめるそぶりをし始めた。おそらく笑っている。
終わり
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2023/07/11
ベイブレード33話、最新話まで見ました。ユーロ編はタカオ君とカイ様のどっちがメインになるのかまだわからないので楽しみです。
↓別所で書いていた各話感想まとめです
15話
冒頭でまさかのバンダナを外しているレイ君が!でも後ろ髪は解いてない。
頑なにカイ様が試合に出てこないのか謎、ベイサーの姫👸
次回予告見てもなにもわからない。めちゃめちゃピンクなことしか伝わらない。
ガオウさん、デカくてパワーのあるモブって感じのテンプレデザインで、ほんと爆転くんって中身と見た目が一致するわかりやすいデザインを出すの上手いな〜になってる。
11:41あたりのレイ君、頭にコンセント差し込まれてるみたいな髪の描かれ方しててとてもかわいい。
マックスは今日も人間力が高い。
16話
「レイ様結婚してー!」ってなんですか!????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????
この回、全体的に演出過多じゃないですか?!?!?ブレーダーの人格が駒に入りすぎているし、ベイが建物にめりこむし。
決勝戦にもなって手加減してるなんて、イナズマイレブンだったら腹にサッカーボールぶちこまれてるぞ。カイ様にまた怒られますよ。
18話
ホビーを大切にしない主人公描写苦手だから一瞬ヒュッ…になったけど、ホビアニの箸休め回らしさ全開の回でしたね!タカオ君とキョウジュはいつも仲良し。
ついにEDの曲が挿入歌として使われた。OPもいつか挿入歌として使われる日が来るのかな。
レイ君日本にゆかりの場所がないってのもありそうだけど、また現地先回りしてるじゃないの 前回は母国の中国だったからまだわかるけど、アメリカまで先回りする必要ある?ベイ筋鍛えすぎ。
久しぶりに隣町のチャンプのアキラが出てきた。
19話
ママーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!マンマ!!!!!!!!!!!!マ゛ン゛マ゛ーーーーーーーーーーッッッッッッッ゛ッ゛゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(ジャック・オ・蘭たん)
レイ君に続きマックスママもバンダナに眉毛貫通させていた。ベイブレードに携わるもの、眉毛を貫通させることなど容易。
まあまあの齢の子どもが周りにともだちがいるのもかまわず「ママ!」って縋り付きにいくの、よっぽどママに会えて嬉しかったんだと思うんですけど、なんか話の展開的にマックスの顔が曇る展開が続きそうでオォォ〜ン…… 。ホビアニだからたぶん円満になるんだろうけども。
エミリー、勝ち気で上から発言で好きなタイプの子ですね。ママを奪った女の子、みたいな属性も相まってニコニコしながら見ている。
ところでこの19話、放送時期的に考えて、2001年5月?くらいなんですよね。ベイブレード19話でマックスママの取り合い、2001年7月に地上波初登場の劇場版エンテイでサトシのママの取り合いの話と、この頃ホビアニ空前のママ争奪戦ラッシュだったんだな…。
マックスやタカオ君、カイ様にはファミリーの話が大なり小なりあったのにも関わらず、レイ君のパパやママの話が今の所一切無���て本当にコイツなに?になっている。生い立ちやら日本チームに所属する経緯やらに空白部分がありすぎるし、回によってキャラの振り幅がデカいし、レイのこと全然わかんない。お前のことを知るためにアニメ見てるんだぞ。
マックスママを見てふぇ〜みたいな顔してるレイ君かわいい。おまえのママ、いまどこにいるんだよ…。
20話
マ゛ン゛マ゛〜〜〜!!!!!!マックス可哀想😢なんでこんなに痛いげキッズに寂しい想いさせるの…なんだこの煽り劇弱チャイナ!!!!?!?(驚愕)真っ先にバトルしにいく狂犬!よっBBAの鉄砲玉!
なんだこの腕ムキムキ⭐︎オッパイモリモリ⭐︎スケベマフラー!!!!!!!!!!!マックスのピンチに現れるタキシード仮面ポジション?!?!?!?どこからともなく現れて助けてくれる…かっこよすぎる……。
レイ君はこの回は負けてしまうのですが、ドライガーが減速して朽ちる所の作画があまりにもスケベすぎて何回でも見られる。
さっきまで吠えて噛みつきまくってたレイ君がくっ…しか言わなくな��のもスケベでいい(?)。
21話
カイ様が薪割りやってるんですけど。
22話
マックスがかわいい。レイ君はアホ。
23話
メキシコ戦は演出過多で激アツ面白かった。カイ様がマックスにママの位置を教えてくれるの、なんで?
マックスママがマックスのことを嫌いになったわけではないみたいで一安心。マックスに愛想を尽かして冷たくしているわけではないとハッキリわかって良かった…。マックスを心配する親心を助手のエミリーに見透かされてるのもいい。
25話
これまでずっと言おうか悩んでたんですけど、そろそろ確信になってきたので言います。カイ様マックスに甘くないですか????
タカオ君が腹痛でダウン!BBAには4人しかいないからタカオ君が外れたら残りはカイ様しかメンバーはいないのに、レイ君はカイ様のことを把握していなかったのか「しかし、(メンバーは足りないから)試合はどうする?」とか寝言みたいなこと言ってて草。もしかしてレイ君、カイ様のことをベンチの妖精かなんかと勘違いしているのでは??
「35点」ってなに?私はレイ君のことをなにも把握していない。
よベイブレードがサーキットを従順に航行しているのも謎。ベイブレードってなんなの?
次回予告のキョウジュ「どうしたのですか?いつもあんなに良い子なのに?」←マックスは誰が見てもいい子なんだ〜
キョウジュ「やはり、母とのもつれが原因ですか?」←それしかないだろ!!!!今までの流れちゃんと見てた??!?
26話
マックスがかわいすぎる。カイ様はマックスに甘い。
摩天楼スタジアムを見るとス、スカイスクレイパー…!!!!!!になってしまう。ニコ動だったら真っ先にコメントで書かれていると思う。
27話
・伝説のトライピオさんの試合があった
・じっちゃんが大人やってる
・マックスがかわいい
・カイ様はマックスに甘い
28話
カイ様が毎週マックスのパトロン化してるんだけど、なんで???
おそらく中国大会編のカイ様がまったく喋らなかったため台詞の割り当て量のテコ入れが入ったのだろうけど、あまりにもマックス周辺の話の時だけ喋りまくるので、マックス激甘デレ男みたいになっている。一応タカオ君達とも会話はしてるシーンもあるのだけど、マックスに助言するシーンがダントツで多い。今の所。
マックスに対してニコ…してることも多い気がする…火渡カイ、なんなんだおまえは。
家の軒下に作られたツバメの巣の雛を毎日見上げて成長を喜ぶタイプの男と見ました。ちっちゃくてけなげな子が好きだろ私は知ってるぞ。
マックスが好きという贔屓目もあるけど今の所この回が一番好きかもしれません。アメリカ編に入ってからみんなの結束力上がってるよね?BBAが尊い。
29話
総集編回。最後カイ様が声張っててワロタ。あの距離から声を届けるの相当の声量が必要でしょ…。
30話
かなり不思議な作画をしている回だった。
ラルフさんが顔も髪色もインパクトがありすぎて私の中で第二の隣町のチャンプのアキラポジションになりそう。思ってたより凶悪な性格というわけでもないただの強いベイブレーダーなだけっぽいし、いい人なのでは?
これまでは聖獣達はベイから出てくることはあれど守護霊程度の活躍しか無かった印象なんですけど、30話は劇場版イナズマイレブンGO究極の絆グリフォンか?ってくらい聖獣たちが殴り合っていてかなり既視感があった。展開もちょっと劇場版イナズマイレブンGO究極の絆グリフォン味あるし…。
31話
決勝はロシアなのになぜ『ユーロ編』なのか不思議だったのだけどここでわかる。ヨーロッパ横断って見ると明日のナージャを思い出しますね。
BBAは海外にも支部があるらしいんだけど、BBAって結局なんなんですか?日本チームではないんですか??説明あったっけ…?
EDのキャスト欄で タカオ君たちに嘘の時間を教えた老人役として『老人(大転寺会長)』とクレジットされていたんだけど、このGGIまさか黒幕じゃないですよね?大丈夫か?ポケモンスタジアムのワルダックみたいになっちゃわない??
タカオパパは出てきたしミイラ男も出てくるし、急に毛色変わりすぎてません??これ少年達の楽しいベイブレード遊びのアニメじゃなかったんですか??
カイ様がいないと詰んでいた回だった。カイ様しか頼りになる人間はいない。カイ様、お慕いしております……。
32話
なにもかも「これこれイナズマイレブンとダンボール戦機で見た!!!!!!」になっている。教会のシーン、聖獣バトル、フードの男たちと勝負、イギリス、列車で事件…。頭では違う作品だとわかっているのに三国さんやトリトーンや神谷コウスケやワイルドバッヂが脳裏をちらついて集中できん!!!!!!
33話
15話?ぶりにベッド一個に三人押し込むシーンがきた。
寝る時までベイブレード握るな。
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SDG: ジェンダー平等 (JPN/日本語)
ミネソタと山陽小野田市立大学の学生です。私達は一緒にジェンダー平等のプロジェクトをしています。アメリカと日本で21人にジェンダー平等の問題に関してアンケートをシェアしました。色々な意見に関して、アメリカと日本の見方はもっと分かるのため、それぞれのキャンパスから二つの答えを選んで、いくつかを調べました。
plan-international.jpによると、(人々は)「あらゆる場所でジェンダー・ステレオタイプに直面 特に学校での経験は7割多くの高校生が、学校や家庭、地域、メディアなどあらゆる場所で、ジェンダー・ステレオタイプ的な表現や発言をされた、または見聞きした経験をしていました」「plan-international.jp」.
Source: https://www.plan-international.jp/news/info/20220415_32630/
私達の大学のキャンパスの中で、様々な人にアンケートをシェアした理由は、このサイトで、「多くのジェンダー平等がある場所は学校」と言っている。
1:
アンケートの答えによると、52.4%は 「女性」を選択して、42.9%は 「男性」を選択して、4.8%は 「他の」を選択しました。この答えを通して、様々な人の意見をもらえます。
2:
アンケートによると、17人は20歳から29歳で、2人は30歳から39歳で、2人は40歳以上からです。様々な年齢層がいることは大切だから、この質問はいいと思います。
3:
アンケートによると、18人は学生で、2人は先生で、一人は答えを書きません。この割合に通して、大学のキャンパスでアンケートをシェアしたこと証明できます。
4:
質問:「男性だから」「女性だから」というように、ジェンダーのせいで、外見に関して何か不快な思いをしたことがありますか? 例)髪型、服装、メイク
アンケートによると、多くの人は「ジェンダーだから、特別の服を着てください」という感じをあまり持っていません。でも、9人はこの感じを持っています。
答えを書いた人は「高校の後まで、化粧の仕方を覚えません。それから、高校生の時、いつも人々は「髪を整えて覚えてしなきゃ」や「メイクをしなきゃ」や「もっと女らしいワンピースを着なきゃ」っ��」と言っています。
他の答えを書いた人は 「すでに固定化されたジェンダーのイメージ、ステレオタイプをもっている」と言っています。
「女の子」「男の子」という言葉から思い浮かぶ言葉を尋ねた設問では、「女の子」に対しては、「かわいい」、「化粧・メイク」、「美しい」など、より外見に関するイメージが多く挙げられました。一方、「男の子」では、「かっこいい」に続き、「筋肉」、「スポーツ・運動」、「強い」、「元気」など、強さや活発さを表す言葉が目立ちました」「plan-international.jp」.
Source: https://www.plan-international.jp/news/info/20220415_32630/
社会で、「メイク」や「スカート」などはジェンダーされたの言葉や物です。子供を育てる時、そういうことは規範になってしまいました。このイメージは社会の色々なジェンダーに関する言葉です。社会はジェンダーされたの物や言葉や行動がありますから、規範を作ってしまいました。
答えを書いた人は 「ジェンダーフルイドだから、ショートカットがあるし、あまりメイクをしないし、男性の服を着るのが好きだが、同時に「女らしい」感じが欲しい。いつも、女のジェンダーと私の心配しないことを選ばなければ行けなくて、悲しい。」と言っています。
他の答えを書いた人は「長髪イコール女性みたい 短髪イコール男性みたいと思われる。 男性が化粧をすると、女っぽいとされる」と言っています。
他の答えを書いた人は「女性らしく、きちんとメイクをしなさいと言われたとき、女性だからの表見は適切でないと思った。①短い髪が好きで、短い髪にしていたらよく男子に間違われます。ただ戸惑いました。 ②女性はメイクをするのが当たり前だという風潮は本当に嫌いです��と言っています。
5:
質問:「男性だから」「女性だから」というようにジェンダーのせいで、外見以外で何か不快な思いをしたことがありますか? 例)働き方、性格、態度
アンケートの答えによると、多くの参加者はジェンダーの行動について、ストレスがあります。ミネソタと山陽小野田市立大学の12の参加者に例と答え��説明をもらいました。
plan-international.jpによると、おもな表現や発言の例として、女の子だから「家事をしなさい」、「おしとやかにしなさい」、男の子だから「泣いてはだめ」、「運動ができないとだめ」などが挙げられました。また、男女ともに「理系は男子、文系は女子」など、学習面においてもジェンダー・ステレオタイプを押しつけられていることが分かりました。女の子や、自認する性別を男女以外と回答した人の方が、そうした経験を多くしていました。「plan-international.jp」。
偏見な文は良くないです。例えば、「女らしい」や「男らしい」など偏見なコメントです。偏見みたいなコメントは人に悲しくできます。
他の答えを書いた人は「女性だから、社会の規範や思惑があります。私もアジア人だから、従順な行動の規範があって、ジェンダーの規範と人種主義もあるから、ストレスがあります」と言っています。
他の人は「 男性だから男らしくしなければならないと期待される。そう期待されることを負担に感じる」と言っています。
他の人は「過去にある大学の医学部入試において男性が合格に有利になるように点数の調整を行い、実際は合格点に達していた女性が不合格になっていたというニュースがあった。その大学を受験したわけではなかったが、当時は医学部を目指していたため非常に憤りを感じた」と言っています。
6:
質問:日常において、あなたの周りでジェンダー不平等があると感じることがありますか?
アンケートによると、14人は「はい」を選びました。その14人から答えをもらいました。
答えを書いた人は「どこでも、女性差別があります。特に職場や学校などで女性差別があります。女の人だから、私の意見は人々には聞こえない」と言っています。
他の人は「男の人はあまり批判をもらえないが、女の人は同じものをする時、批判をもらえてしまいます。例えば、社会の中で、男性達は女性達にナンパすることは、かっこいいというイメージがありますが、女性達は男性達に逆ナンすることは、よくないイメージがあります」と言っています。
他の人は「女性だと、容姿端麗なら就職に有利とされ、男女問わず、年齢過多なら、人生のやり直しがきかない」と言っています。
他の人は「日本の研究者、日本の大学で、女性研究者が少なく、ライフイベントで、研究の中断を余儀なくされる場合、仕方ないことだが、不平等に感じることがある」と言っています。
7:
質問:日常において、あなたがジェンダー不平等を感じることがありますか?
アンケートによると、11人は「いいえ」を選びました。
アンケートをした人は「時々男性は私に「スイートハート」を呼んでいて、偏見なコメントを話して、例えば「きれいな微笑みがある」と言っています。男になれば、この偏見なコメントはもらえないと思います」と言っています。
他の人は「いつも、人々は「ちゃんと女らしいにならなきゃ!誰もあなたと結婚をしない!」というコメントを心配しているから、私の話し方や仕方を心配しなければ行けない、結婚や出産の時期と仕事のキャリアアップの時期が同じくらいで、どちらに重点を置くか決定をしないといけない状況の時、つらいなと感じる」と言っています。
他の人は「女性の方が、男性よりレポート点を高くする先生方も見受けられる」と言っています。
8:
質問:あなたの国ではジェンダー不平等を重大な問題として捉えていますか?
アンケートによると、13人は「はい」を選びました。
答えを書いた人は「アメリカは「ランド・オブ・ザ・フリー」ですが、いつも、人の権利を奪ってしまった。これは平等じゃないと思います」と言っています。
他の人は「ジェンダー間の不平等さは、特に日本では未だ解決されていないシチュエーションが多いと思います。また、それについて問題視し活動している人も多いと思いますが、それをフェミニストだと揶揄したり深刻な問題だと捉えていない人も多い印象があるため、深刻になっていないこの現状こそが、重大な問題だと考えます」と言っています。
他の人は「テレビやSNSなどを見ていても、ジェンダー不平等を解消するべきであるという声が大きななっていると感じるため。ただ、重大な問題として捉えつつも大きく改善されているわけではないと思う」と言っています。
9:
質問:あなたの知り合いがジェンダー不平等を感じているかどうかを見分けることが出来ますか?
アンケートによると、71.4%は「いいえ」を選びました。
10:
質問:ジェンダー不平等を感じている人を助けることが出来ますか?
アンケートによると、60%は「はい」を選びました。
人は「小さいと大きなレベルで、ジェンダー不平等な人を手伝うの仕方が多いです。世界中で、平等を擁護するだけじゃなくて、エクイティも養護しています」と言っています。
他の人は「平等のために擁護しています。でも、SNSで文句を言うことは便利なふりをしています」と言っています。
他の人は「まず始めに話を聞き、その内容に応じて解決策を一緒に考える」と言っています。
最後の人は「その人の考えに寄り添い、場合によってはその人の不平等解消のために共に闘いたいと思う」と言っています。
まとめると:
私達のアンケートを通して、様々な人が問題を認めました。アンケートをした人から一人一人の経験があるから、ジェンダー平等という問題が認められます。色々な答えをもらえたから、ちょっとびっくりしましたが、嬉しくなりました。多くの答えはジェンダー平等の問題の経験がなくて、ジェンダー平等の問題時、認められません。
明るい未来へのため、ジェンダー平等の問題を養護することが必要だと思います。
green-note.lifeによると、
「私達一人一人は、ジェンダー平等のために何ができるでしょうか。
身近なところで言うなら、男女の役割が決めつけられている部分を少しでも改善してくことが必要です。
例えば
家庭内での家事育児を分担する
男女の違いなく、その子の好きなものを尊重し、周りが「男の子だから」「女の子だから」と押し付けない
政治や社会活動のあらゆる分野での女性の活躍を応援する
発展途上国の女性の教育支援団体に寄付をする
このように気づいたところから、身近に取り組めることは、たくさんあります。
まずは自分に何ができるのかを考えるだけでも、社会は間違いなく変わっていくでしょう」 「green-note.life」。
Source: https://green-note.life/282/
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2023年6月11日 配役(role)から逸脱する瞬間
市川沙央の『ハンチバック』を読みたくて大学図書館と市の図書館を調べてみたけれど、文學界5月号はともに誰かに借りられているので、読めそうになかった。その話をドゥルーズ/ガタリ『千のプラトー』読書会のときにしてみたら、そのときのメンバー四人とも『ハンチバック』を読みたいらしかったので、四人で割って一人300円ずつくらい負担して文學界5月号を買うことになり、おかげで明日には読めるかもしれない。
***
小説で言えばヴァージニア・ウルフの『波』も読みたい。ここ数ヶ月くらいは脳が壊れていてほとんど小説を読めない状態だったので、『ハンチバック』と『波』をきっかけにしてまた読めるようになったらいいな。
***
ふと思い出したけれど、数日前の日記に書いたメンタルクリニックの待合室での待ち時間の間、何をすればよいのかよく分からなくて、ずっとwikipediaで「あさま山荘事件」のページを見ていた。
その中にはよく覚えている箇所が一つあって、それは2月20日。当初は人質を縛り付けて口にはハンカチを押し込んで声が出ないようにしていたものの、その姿が山岳ベース事件で縛られてリンチされた同志と重なったから坂口が独断で縄を解き、人質を交えて夕食を取ることになる。
そしてそのとき、電気ジャーでご飯が炊きあがってすぐに食べようとしたのを見て、人質が「ご飯は少しそのままにしておいた方がおいしいよ」と言う。それを聞いて犯人たちの側がしばからくご飯が蒸れるのを待ち、人質の「もういいでしょう」の言葉を聞いてから食べる、という犯人と人質の間での雑談がここにはあり、事件そのものの緊張感との不釣り合いさ。
人は何らかの役割を演じる訳だけど、その役割(role、配役)から逸脱する瞬間のようなものが、確かにある。匿名ラジオの353回で、ARuFaが「放課後過ぎて先生の性格が違うとき好き(ただの人としての先生が出ちゃっているとき)」ということを言っていたけれど、それもroleからの逸脱の瞬間で、そこには特有の美しさがあるかもしれない。与えられたもの、与えられた形式からの逸脱。
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今日の音楽。シャフル再生で流れてきた溶けない名前の「幽霊少女は八月を殺す」は突き刺されるような音で、Pixiesの「Monkey Gone to heaven」と、いよわの「パジャミィ」と「地球の裏」も聴いた。the cabsの「花のように」。
大森靖子。脱方ハーブ、握手会、風営法、放射能。
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マーク・フィッシャーの『資本主義リアリズム』を読み返している。
特に精神疾患と資本主義の間の関係、そして精神疾患の物質化の功罪について。
〈それゆえ、もし注意欠陥多動性障害(ADHD)のようなものが病理であるのなら、それは後期資本主義に特有の病理なのである。――それはハイパーメディア化された消費文化の娯楽=管理回路に接続されていることの結果なのだ〉(マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』、p70)
〈個人の内面に渦巻く精神的葛藤は犠牲者を出さずにはいられない。マラッツィは双極性障害者の増加とポスト・フォーディズムの関連性について研究しているが、ドゥルーズ=ガタリが述べるように、もし分裂症が資本主義の外縁を特徴づける症状だとすれば、双極性障害とは、資本主義の「内部」に固有の精神病だといっていいだろう〉(p93)
〈現在において支配的な存在論では、精神障害に社会的な原因を見出すあらゆる可能性が否定される。この精神障害〔にまつわる認識〕を化学・生物学化(chemico-biologization)していく潮流はもちろん、精神障害の脱政治化と厳密に相関している〉(p98)
特に3つ目の引用について考えることが多くて、まず素朴に考えれば、精神障害が科学・生物学化されること(たとえば鬱病はセロトニン濃度の低下によって、ADHDはノルアドレナリンおよびドーパミンの機能の偏りによって説明される)は悪いことではなくて、むしろ私たちにとって利益があることだったと思う。
なぜなら、精神障害を物質的に考えることによって、「心の問題」とか「甘えている」とか「努力が足りない」といった形で本人の「心」の問題にしてしまうような考え方を解体できるから(それに、問題が自分の脳の神経伝達物質にあるのだと考えられることで安心する、ということはある)。
でも、ここでマーク・フィッシャーが指摘するのは、そのような精神障害の科学・生物学化(chemico-biologization)によって資本主義が利益を得るという点。
〈全ての精神障害が神経学的な仕組みによって「発生」することは論を俟たないが、だからといってこのことはその「原因」について解明するものではない〉(p99)
〈例えば、鬱病のセロトニン濃度の低下によって引き起こされるという主張が正しいとすれば、なぜ、特定の個人においてセロトニン濃度が低下するのかが説明されなければならない。そのためには社会的・政治的な説明が求められるのである。〉(p99)
すべての精神障害が神経学的な仕組みによって「発生」することは間違いないし、(もちろん、まずはそのことについての正しい理解がないといけない)のだけど、しかし、だからといって、精神障害の原因がすべて個人の神経伝達物質のみに還元されてはいけないし、社会的・政治的な領域にその原因を求めなくてはいけない(実際、間違いなくそこにも原因は存在する)、というのがここでのマーク・フィッシャーの主張なのかな、と思う。
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バイトに行くために夕方の梅田をうろうろしていたら、何らかのコスプレイベントがあったらしくて、ピンクと水色の二重らせんみたいな超てんちゃんの長��髪の毛と後ろ姿だけが見えて、すぐに消えてしまった。
日曜日の梅田、人が多すぎて、どのカフェを見ても埋まっているし、何だか疲れてしまう。バイト前の時間、どこかで本を読んだり文章を書いたりしようと思って安上がりにするためにマクドナルドで冷たいローストコーヒーとツイストのソフトクリームを頼んだ。260円。二階のスペースはほとんど人で埋まっていて何かの巣みたいで、マクドナルドという空間は好きだけど、ハンバーガーとポテトの匂いは資本、という感じがしてときどき嫌になる。
資本、資本、と言えば、最近、いま「オタク」と呼ばれる(もしくは呼ばれていた)人たちに対して一種の嫌悪感を持ってしまうのは、彼ら/彼女らが資本(あるいは資本主義)に対してあまりにも迎合的に見えてしまうからだと思う。
何かを推すこと、何かのファンである、ということは元々資本からは一定の独立性を持っていたはずだけど、いまではもう資本に飲み込まれてしまっている。
資本はあらゆるフロンティアを侵食し、資本の増殖の手段へと変えていく。でも、もちろん自分自身もオタク(と呼ばれるような人種/だった)わけで、その意味では同族嫌悪でもあるのかも。更に言えば、「お前は一体どうやって資本に対して抵抗しているのか」と聞かれたのなら、どんな抵抗だってできてはいないわけで、ただ泥になって眠っているだけ。夢を見ているだけ。いつも思うのは、どうして現実世界よりも、夢の中の感情の方がリアルなのだろう。
ふと、手元にある処方箋の「◆きょうのおくすり◆」と書かれた紙を読む。
〈効能効果:脳内の神経細胞の間で情報を伝える神経伝達物質を調節し、症状を改善する作用があります〉
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いつの間にか、ずいぶんと長くなってしまった。
(何人がこの日記を読んでいるのか分からないですが、もし読んでいる人がいるのなら、二枚貝は現在ドゥルーズ+ガタリ『カフカ マイナー文学のために』およびドゥルーズ『批評と臨床』を読んでいるので、もし一緒に読みたい人がいた場合、Twitter等でDMを送ってくだされば、読書会という形式でともに読みます)
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P3 Club Book Mitsuru Kirijo short story scan and transcription.
桐条美鶴の暴走
桐条美鶴は悩んでいた。
どうやら、自分は普通の同年代の女子とは、少し違っているらしいのだ。
思えば、いままではシャドウとの戦いと、勉学に明け暮れる毎日だった。愛する父親のため役立つことなら、どんな苦労も厭わなかった。そしてそれは、ごく普通のことだと思っていた。ごく最近までは。
きっかけは、やはり修学旅行だろう。日ごろの学校での勉強と違い、たとえ数日のことであっても、学友たちと朝から晩まで寝食をともにすることで、ほんのちょっと、自覚せざるを得なかった。何というか、一般常識的に、自分は少しズレているのではないか、と。そういえば特別課外活動部の仲間も、生徒会のメンバーも、自分から距離を置いているのではと思えることが、しばしばあるような気がする。
つい先日も、真田明彦に「なあ、私は······普通とは違うのだろうか?」と率直に相談してみた。美鶴の質問を聞いた明彦は、いつもの爽やかな笑顔のままピクリとも動かなくなり、たっぷり1分ほど時間を置いた後に、個性というものがいかに大切か、ひとりひとり違う人間とはなんと素晴らしいことかといった内容で熱弁をふるい、歌を歌いながら立ち去った。曲目は『世界にひとつだけの花』。最後まで、美鶴と目を合わせようとしなかったのが、印象的だった。
これはやはり、遠回しに「問題あり」と言っているのだと、さすがに理解できた。
生徒たちの上に立つ生徒会長として、そして特別課外活動部を率いる責任者として、これではいけない!いまさら、一朝一夕で一般常識とやらを身につけることは不可能だろうが、せめて、せめて周囲の人々に慕われるような、そんな人間になろう!そう美鶴が発奮したのも、無理のないことだろう。そして、彼女の性格上、行動は迅速だった。---はた迷惑にも。
「か······会長っ?いま、何と言······」
「ど、どうかしたのか?い、いや······違うな······どうかしたの?ち、千尋ちゃん?」
「か、かいちょおぉぉぉつ!?」
生徒会室に、生徒会会計である伏見千尋の絶叫が響き渡った。美鶴の“慕われる人柄になろう作戦”が発動した翌日の放課後。彼女はさっそく、それを実行し、戦果を上げていた。
やっていることは大したことではない。まずは形からだけでもと、美鶴が知る限りでもっとも人当たりがいい少女---山岸風花の喋りと動きを真似しようと思った。それだけだ。
それが、予想以上の破壊力だったことは、誰にとっても不幸なことだった。美鶴はただ、千尋の「会長、この件はどう処理しましょう?」との質問に、こう返答した���けだったのだ。
「ち、千尋ちゃんは、どうしたらいいと思う?」
そして、にっこり。
柔らかい笑顔、のつもりだが、日ごろ使っていない表情筋を酷使したため、頬の端がピクピクしていることに本人は気づいていない。おかげで、それは笑顔というよりも、どう見ても何かを企んでいる顔にしか見えない。
それでも、悲鳴を上げて真っ白になった千尋を心から心配して、美鶴が優しく声をかける。
「大丈夫?千尋ちゃんっ?」
これがトドメとなった。
ぴきっ。千尋の中で何かが壊れる音がした。
「いやあああぁぁぁあ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私が悪かったなら謝ります!お願い!許して!言いたいことがあったら死ぬほど責めてくださって構いませんからぁ!丸呑みにして生きたままじわじわ胃の中で溶かしていくみたいな生殺しはしないでぇ!ごーめーんーなーさーいー!!」
ありうべからざる異常な現象を目撃し、千尋の脆弱な精神は、簡単に灼き切れていた。恐怖に翻弄され、被害妄想で心は満たされ、ついには胎児のような丸い姿勢でうずくまって、ごめんなさい会長を差し置いて彼には手を出しません、とか訳のわからぬことを呟いている。
「え······お、おい、伏見?みんな?ど、どうしたんだ?何が起こった?」
千尋の狂態に、ようやく状況に気づいた美鶴が周囲を見回したときには、すでに生徒会室の中には、まともに口がきけるものはいなかった。
「そ、それは······申し訳ありませんでした······って言うのも変ですね。うふふ」
「いや。私が半端に山岸の真似などしたのが悪かったのだ。やはり、本物には敵わない」
生徒会室の惨事が、数台の救急車のサイレンをもって幕を引かれたあと、美鶴は廊下でたまたま出会った風花を連れ高等部校舎の屋上へとやってきていた。作戦失敗に少々へこみつつ、美鶴は無断で手本としたことへの侘びを風花に告げ、自分のミスの原因を率直に訊いてみる。
「やっぱり······口調や立ち居振る舞いって、その人だけのものですから······。無理をしてもどこかでボロが出るのは仕方ないです」
「しかし、それでは······皆に一歩引かれてしまうのだ。私の態度は、どうも硬すぎるらしい」
「だったら、話す内容かなあ······」
「内容?」
「少ししか······一緒にはいられませんでしたけど、荒垣先輩って話してみると面白い人だったんですよ。最初はちょっと怖くて近づきにくかったですけど、けっこう冗談とか言うし」
「冗談か。なるほど······」
美鶴の脳裏に、高等部に上がったばかりの頃の荒垣の面影が浮かぶ。確かにあの事件が起きるまでの荒垣は、どちらかというと陽気なタイプで、いまで言えば順平のようなパーソナリティの持ち主だった。
「そうか······納得いった!山岸、恩にきる!」
「え?あ······桐条先輩?どちらへ?」
「さっそく寮に帰って、草稿を練ってみる!明日は幸い、全校集会がある日だからな!」
そう言って、風花を取り残したまま、猛スピードで美鶴は立ち去った。それは、入浴中に「わかった!」と叫んで裸のまま往来へ飛び出したアルキメデスのような勢い。もちろん、美鶴は何にもわかっちゃいなかった。
翌日の朝、講堂には集会のため全校生徒が集まっていた。恒例の眠気を誘う校長訓示、学年主任教師からの諸注意のあと、「続いて、生徒会からのお知らせがあります。会長、どうぞ」とのアナウンスが、エコーを伴い講堂に響く。そして、いつものように堂々と背筋を伸ばした。桐条美鶴が壇上に姿を現わした。
カツカツと靴音を響かせ舞台中央に立った美鶴は、演台上のマイクの角度を軽く直し、視線を前に向けて講堂を隅々まで脾説する。それは正しく、王者の貫禄。昨日のようなイカレた様子は微塵も感じさせない、常と同じく凛々しい姿に、舞台袖に控える生徒会役員たちが胸をなでおろした、その瞬間。
「······おっはー☆」
······ざわつ。
軽く短いざわめきが広がる。一瞬、その場にいた全員が、自分が幻聴を聞いたと思ったに違いない。ただひとり、山岸風花だけが、昨日の不用意なアドバイスのことを思い出し、顔面蒼白にして固まっている。
ざわざわざわざわ。
徐々に増えるざわめきに、美鶴は焦っていた。おかしい。こんなはずではなかった。最初に軽いツカミで聴衆の緊張をほぐし、その後、小粋なジョークの連打で笑いの渦を我が物とするはずが······。そのために、わざわざ古書店で『アメリカンジョー 100選』やら『大人のフランス小話』やらを買い漁って研究したのに。やはり、美鶴が幼いころに 一世を風靡した朝の子供向け番組の名セリフとはいえ、ネタが古すぎたのだろうか?しかし、最近では滅多にテレビも見ない自分に思いつくネタは······あった!確か伊織が言っていた最近流行りの······。
「······お手上げ侍」
しーん。
今度こそ静寂が周囲を包み込む。生徒ひとりあたり、平均して5本ずつ白髪が増えていた。もはや働く者はいない。そして、しばしの言葉の真空状態を経て、「いやあぁぁぁぁぁ!!」と響き渡る千尋の絶叫。昨日のトラウマが、このタイミングで蘇ったようだ。ここが学校でなく職場だったら、PTSDで労災がおりるに違いない。
その日、月光館学園に緊急出動した救急車は、10台を越えたという······。
放課後、今度こそ真剣に、美鶴は落ち込みまくっていた。ほぼ徹夜で考えたスピーチが目も当てられない失敗に終わったことも原因だが、何より、アドバイスを活かせなかったことを風花に告げに行った際。
「別に構いませんけど、今度からは一般人の目の前でマハブフダイン (氷結ハイブースタにより威力1.5倍) は止めてくださいね、うふふ」
とか、ぐっさり言われたことが、相当に堪えていた。あれで、風花は意外と毒がある。ちなみに風花の目は、微塵も笑っていなかった。
そんなわけで、美鶴は意気消沈して寮への帰路をとぼとぼと歩いていた。と、そこに。
「あれ?やっほー、美鶴センパイ」
と、声がかけられる。それは、美鶴も良く知った、岳羽ゆかりの声であった。いつもならここで、「ああ、ゆかりも今帰りか?」などと、自然と会話が始まるのだが、連日の失敗で美鶴はすっかり調子を狂わせていた。思わず、美鶴の口を突いて出たのは。
「や、やっほぉー、ゆかり······」
言葉が美鶴らしくないなら、態度も美鶴らしくなく、ゆかりの反応を下から窺うような、おどおどした表情になっている。
「······」
「······」
「······きもっ」
ぐっさり。
容赦のないゆかりの言葉が、美鶴の胸に深く突き刺さる。そして---。
「う······ううっ」
「あ、あれ?美鶴センパイ?」
「······うえっ」
「え?ウソ?ちょ、ちょっと泣かないでくださいよ!ご、ごめんなさい、ごめんなさい。ちょっとした冗談ですから。あー、よしよし」
子供のように、美鶴は泣きじゃくっていた。
---夕刻。なかなか涙が止まらない美鶴を、ゆかりは長嶋神社の境内へと連れてきていた。小さジャングルジムや、その向こうの境内が、照り映える夕陽で橙色に染まってゆく。
「すまない······ゆかりにまで、愛想をつかされたかと思って、つい······」
「だーかーら!違いますって!だいたい、仲良くなかったら上級生相手に『きもっ』なんて言えるわけないじゃないですか?」
やや目の端は赤いものの、美鶴は何とか泣き止んで、今は少し落ち着いた様子だった。
「で、いったいどうしたんですか?今日のセンパイ、はっきり言ってヘンでしたよ?」
親しさゆえとはいえ遠慮のないゆかりの物言いに、美鶴はうぐっと言葉を詰まらせるが、それでも淡々と先日からのことを説明した。すべてを聞き終えたゆかりは、大きく溜め息をつくと、ばっさりと切り捨てるように言う。
「バッカじゃないですか?」
「ば、馬鹿とは何だ! これでも真剣に······」
「バカですよっ!」
そう言って美鶴の目を見つめるゆかりの表情は、なぜだか少し怒っているようだった。
「ゆ、ゆかり?」
「センパイ、ぜんぜんわかってない!」
怒っているようで、それでいて、少しだけ寂しさを含んだ顔。
「いいですか、一度しか言いませんよ?少なくとも寮の連中や生徒会の人たちは、誰も美鶴先輩を敬遠なんて、まして嫌ったりなんてしてません!見ててわからないんですか?」
「ゆかり······」
「風花が美鶴先輩に親身にアドバイスしたのはどうしてです?いつもと違う先輩にみんなが驚いたのは、いつもの先輩がいいと思ってるからでしょ?まったく、いつも自分ひとりで納得して突っ走るの、悪い癖ですよ?」
「私は······このままでいいのかな?」
「そのままの先輩で、いいんです!」
「······一般常識がなくても?」
「はなから期待してません!」
「······嫌われて、ないか?」
「みんな、先輩が好きなんです!」
どくん。
ゆかりの言葉に含まれた、ひとつのキーワードが、美鶴の胸を打つ。それは、自分でも気づいていなかった、もっとも欲しかった言葉。
「も、もう一度!」
「へ?」
しょんぼりと気力を失っていたはず��美鶴が、一転してすごい剣幕でゆかりに詰め寄る。
「いまのセリフ······」
「え?みんな······先輩が······好き?」
じ~ん。
そんな描き文字がバックに見えるように、美鶴は全身を震わせて感動していた。そして、 さらに顔を紅潮させつつ、ゆかりを問い詰める。
「ゆ、ゆかり······は······どうなんだ!?」
「わ、私っ!?私は······きですよ」
「聞こえない!」
「あー、もう!そんなことわざわざ口に出して言わなくても······。あ······」
言わなくてもわかるだろう、と言いかけて、ゆかりは美鶴の目を見てしまい、そして悟る。美鶴はもちろん言わずとも理解していた。だが、いま必要なのは、はっきりとしたゆかりの言葉なのだ。それを訴えかける、美鶴の必死な視線を受けて、ゆかりは苦笑しつつ言った。
「私も、美鶴先輩が好きですよ。······ほ、ほかの人と同じようにですけどね」
心からの言葉を美鶴に贈り、それでも妙な感じに誤解されないよう釘を刺すことも忘れない。
「さ、さて!そろそろ暗くなりますから、さっさと寮に帰りましょう!」
ゆかりが、軽く染まった頬の色を隠すように、ベンチから腰を上げて美鶴に背を向けた。そしてそれを追うように、美鶴も慌てて立ち上がる。
「お、おいゆかり!ちょっと待て、できればもう一度······その······」
ゆかり以上に頬を染めて、美鶴が先ほどの言葉を重ねてねだる。しかし、ゆかりは構わず先をずんずんと歩いてゆく。
「知りません。もう十分でしょ?」
「······ゆかりは、意外とケチなのだな······」
「ケチって何ですか!ケチって!」
「ケチじゃないか。先日だって······」
「あ、それ蒸し返します?先輩こそ······」
ぎゃあぎゃあと喚きつつ、薄明のなかを歩くふたり。その姿は、10年来の親友同士のもののよう。美鶴の小さい悩みは、いつの間にか春の雪のように融け去っていた。
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