#天蓋ベッド
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秘密基地みたいな
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RH's bed (picrew)
picrew used:
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アラブのスルタン風のミロ♏🦂
アラブパロのミロを描いてみました🖋 ターバンは描くのが大変なので省略しましたが、天蓋付きベッドでスルタン風に寛ぐミロさんを描いてみました🖋 でも、ミロさんって清廉潔白なイメージで、ハーレムに沢山の妻がいるって感じが全くしないな~って自分で描きながら思っちゃいました🤭ミロさんが、仮にス��タンであっても、愛妻で第一王妃の氷河君だけしか妻を娶らず、生涯一途に愛してそうな気がします💞 ...っていうのが、私の願望というか、妄想です💖
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彼女が寝室に行ってみるようにというので、アウレリャノ・セグンドがその言葉に従ってそこをのぞくと、一頭の騾馬が目に映った。主人同様に骨と皮だったが、しかし主人に劣らぬぐらい元気できびきびとしていた。ペトラ・コテスは自分の怒りを餌として与えてきたのだ。そして、草も、玉蜀黍も、木の根も、何もかも尽きてしまうと、自分の寝室へ引き入れて、木綿のシーツやペルシアの壁掛け、フラシ天のベッドカバーやビロードの窓掛け、豪奢なベッドの金の縫い取りをした天蓋や絹の房飾りなどを食べさせてきたのだった。
ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』
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Slave Play
by Jeremy O Harris
dir. Robert O'Hara
2024年8月10日 Noël Coward
2018年初演、その後BWにトランスファーして賛否両論を巻き起こしたジェレミー・O・ハリスの作品。スタッフと多くのキャストがそのままWEに来ており、そこにキット・ハリントンとフィサヨ・アキナデを加えたカンパニーとなっている。
何もない舞台の後ろに格子上の鏡が張られており、下のいくつかは出入り用のドアになっている。背面の一番上には 「bodytouchmeyounuhrightneos」 の文字がある。最初のシーンではドアから天蓋付きベッドや大八車が出てくるが、あとは椅子程度の道具立て。リアーナの 『Work』 が折に触れて印象的に使われている。
ここでの 「Play」 が 「戯曲」 と 「ロールプレイ」 の両方にかけられていることは、冒頭の奴隷制下における白人と黒人(mixed raceを含む)の間の奇妙なBDSM的シーンが終わったあとに判明する。3組の人種が異なる組み合わせのカップル(一組はシス男性同士の同性カップル)が、これまた人種の異なるシス女性二人の研究のリサーチとして、泊まり込みでのセックスセラピーを行っていることが明かされる。USにおける歴史的な人種政策が個人の関係にもたらす悪影響について、8名での長いセッションが主軸に据えられており、その会話の中で特に白人側の無知や無視、アンフェアなフェティッシュの対象化(モノ化と言ってもいい)が明らかになっていき、それは主催者側の二人の女性の間にも居心地の悪さをもたらしていく。この長い長い会話のシーンが確かに冗長さを感じるのだが、キャラクターが自らの奥底にある違和感を自覚するための時間を観客も同時に体験するという意味では必然性があると言える。と同時に、USにおける感情の言語化、特に 「他者に自分の感情を言語化してもらう」 ことへの強迫観念に対するサタイアにも見える。同様の題材を扱った 『Underground Railway Game』 よりはるかに洗練された作品で、冗長さからテーマを捻り出すような手法はアニー・ベイカーにも通じるものがある。ただ、初演から時間が経って��まったこととUKにおける人種問題の(認識の)違いもあり、正直そこまでショッキングでもなんでもないのも事実である。人種問題とその背景としての帝国主義についての言語化は 『Elephant』 においてコンパクトかつスマートに行われていた。あと気まずさやawkwardnessということはUKにおいてはあまりにも普通であり、それ自体がギャグになるということが難しいということもあるかもしれない。そういう意味ではハリントンとアキナデの微妙な表情の動きはこの作品の面白さを別の意味で引き出していたかもしれない。
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ある画家の手記if.54 告白
途方もないことなんだ、きっと
僕が水を取りにいった僅かな間に香澄は自分の部屋に入っていってしまった。
扉の前まできて、ドアノブに手をかけようとしたら内側から鍵の回る音がした。 ドア越しに香澄の謝る声が嗚咽に塗れてくぐもって届く。 僕は昔から怒るときは怒るから、慣れてて頭が冷えるのも早かった。でも香澄は明らかに慣れてない、大声で叫んだり、あんなにひどく泣いたり。 一人になって落ち着きたい…? 今日はもう疲れたから休みたい…? 「……………」 …自分から、部屋にこもったってことは今は僕と話したくもないし、話さなくたってただ寄り添ってるだけも、許してもらえない 閉め出されてしまった ほんとうに 脳裏によぎる 声が出なくなったアトリエ 香澄は咄嗟に自分の顔を傷つけた …ドアの向こうで今またそんなことに…なっていたら 「……香澄…」 ……約束 守ってくれるって 信じてここで待てばいいのか でも 香澄を守るためなら 香澄を疑ってかからないといけない? 香澄の口から自発的に出てこないたくさんのものを僕がすべて想像するのは無理だ だからちゃんと話したいんだ でも話してるって言えるのか、今の僕たちは 僕は勝手に言いたいことをなんとか言葉にしたけど きっとそれもうまく伝わらなかった どうして いつも伝えたいものは 言葉にならない? 香澄はどうして話してくれない? 僕を 巻き込まないため………
キッチンに戻って、遅いけど夕飯を一人分作った。香澄は食べてきてないようなことを言ってたから、お腹が空いたら食べられるように。 炒めたご飯をふわふわの卵で包んで形を整えてオムライスでかいじゅうくんの顔を作った。野菜で背びれを添えてケチャップで目や笑ってる口を書いた。林檎をうさぎの形に切って並べた。 他にもいくつか食べやす��うなものを作って、テーブルから香澄の部屋の方向に向くように全部きれいに配置して上から蓋をかぶせた。 メモ用紙にかいじゅうくんの泣いてる顔を書いて、一言「ごめんね」ってだけ文字で書いた。書いてる途中でぽたぽた目からテーブルに涙が落ちて、急いで拭った。
財布とケータイだけ持って、薄手のコートを引っかけて、深夜を回った暗い外に踏み出す。 ドアを閉める前に一度だけ部屋の中を振り返って、香澄の部屋のほうを見つめる 「…約束 守ってくれるって信じてるよ」 小さな声で震えるように囁いた 香澄が無事に部屋から出てくるのを確認できるまでずっとドアの横に座って待っていたかった。 でも香澄が出てきてくれても僕がなにか変わっていないと堂々巡りなんじゃないか。 そう思って、ただ部屋の中で待っているだけじゃ僕は何も変わらないと思って、でもどこへいけば、どうすれば、今の僕たちに必要なことを知れるのか、見当もつかなかった
そのままマンションを離れて、あても目的地もないけど夜道をなるべく明るいほうへ歩いた。そっちに希望でもあるみたいに。
しばらく歩いたところで、駅の裏あたりまで来たら道の端のほうで華奢で小柄な人影が地面に倒れていて、数人の大人の男に囲まれてるのを目にした。面白半分に体を靴でつつかれたりしている。 駅の強い照明で全部シルエットでしか分からなかったけど咄嗟に男たちの間に割り込んだ。僕の背が高いからわざわざ喧嘩沙汰にしなくても割り込むだけで退いてくれたり逃げてくれる場合も結構ある。 今回も僕に自然と見下ろされる角度になった男はまわりの数人を引き連れてさっさとどこかへいってくれた。 息をついて倒れてる人を見て「ーーーは…?」…思わず低い声が喉から出た。 人影はよろめきながら起き上がってとなりに転がっていたギターを掴んで立ちあがった。 「ん? んん? …なんだ、めいろーじゃん」 暗い中で僕の顔を凝視したと思ったら失望したみたいな声で不平を言われる。たしかに小柄で華奢…だけどこれに助けなんて必要なかった。 家から出てきてまで、僕なにやってるんだろ… 「! なんだお前んちこっから近いのかよ!今日泊めろ、降りる駅まちが「嫌だ。」 拒否。どんな事情があったって知るか、カルカッタの路上で転がってても平気で生き延びるやつだ。 「ちっ、つまんねーやつ」 僕だって。お前は嫌いだ。 以前となにも変わらない態度や仕草。僕はギターを担いだ小さな体に背を向けて、さっさと家のほうへ歩き出す。 「…………。」 「…〜♪」 「……。」 「〜〜♪」 僕の五メート���後ろくらいを歌声がつけてくる。 「なんでついてくるんだ、強引にうちへ来たって僕が絶対入れない!」 「前のアトリエは出入り自由だったじゃん、なんで急にケチってんだ」 「家族がいるから勝手に入ってほしくない、…っ、お前こそ…」振り返って睨みつける「なんなんだ…っ、七ちゃんが…死んだのに…!」 「まーたそれか」僕以外にも言われてるのか…当然といえば当然か いつもヘビみたいにニタニタ笑ってるやつがちょっと真顔になって続けた。 「それ天地は万物の逆旅にして光陰は百代の過客なり、しかして浮生は夢の如し、歓びを為すこと幾ばくぞ」 「……李白?」 「へえー元ネタ知ってんの? ひいじいちゃんのザユーのメーとかいうやつでほんとはもっとなげーんだけどあんなん覚えきれねえ。最初のとこだけは音がきれいだから覚えた」 僕が知ってるのは兄が教えてくれたからだ。 「……古人燭を秉りて夜遊ぶ、良に以有る也。…僕たちが夜中まで遊ぶ仲なもんか、なにが言いたい」 忌々しく小さな丸い頭を見下ろして聞く。 「そのまんま。時間はそう長くねーから」 「…僕はもう画家じゃない」 「おまえのそんな線引き知らね。誰だっていつだってなんだって可能だ。しかして浮生は夢のごとし、俺たちに与えられた時間は俺たちが作れる無限の美に比べて短すぎる、だから疾く、人生より疾く、疾ぶように生きるんだよ」 「……それもひいおじいさんの言葉?」 「ふはは、まあだいたいそんなかんじ。」 踊るように跳ねながら僕の後ろから横にきて、目の前に回り込んできて、真正面から見据えられる。 この目が苦手だ、大きく見開かれて爛々として、いつまでも永遠に燃える篝火を振りかざしてるようで。柔らかな陽光じゃない、神の下から人間が欲して掠めとってきた炎。何もかもとっくに暴かれたあとみたいな気持ちになる 「ーーー伝えたいことがうまく伝えられない。伝わってたとしても僕になにも話してくれない。僕を守ろうとするから。一緒に守らせてくれない。僕はどう変わればいい」 勝手に口をついて考え続けてたことがそのまま出てきた。 するとあっけらかんと返された。 「なに焦ってんの?なんも知らねーけど手前が空回ってんのはビシビシ伝わる」 人生は短いなんて言った舌の根も乾かないうちにこうだ。焦るだって?僕が? 「伝わんねーときは聞く側の準備がまだ整ってねーから。なのにそこに伝えたい内容ばっか注ぎこんだら相手パニクるだろ。おまえが早く伝わってほしいだけなんじゃん?まずはちゃんと伝わるための足場が相手の中に組み上がるのを手伝いな」 「……………」 「ちゃんとキャンバスに地色塗ってマチエール作って次の���がより美しく映えるように地がしっかり乾くまで待つときは待つだろうが。絵を描いてたらおまえも自然にでき…てなかったかもなぁむちゃくちゃな速筆野郎だったの今思い出した、まんまかよ、やっぱ手前も変わったほうがいいな」 そこまで言ってひとしきり笑われたけど、ーーー香澄に僕の言葉がちゃんと伝わるためにはその前に香澄にも準備が……要る。僕は…とにかく話さないとってばかりで……香澄のことを…待ってないのか… 「チッ、ガラじゃねーこと言ったー」 「…自覚あるのか」 「守るの守りたいのなんて途方もねーこと言いだすからだぜ」 その目は珍しくどこか遠くを静かに見ていた。それだけで、失ってしまった人間なんだって痛いほど理解せざるを得なかった。戻らない、七ちゃん。 途方もないことなんだ、きっと 誰かを守りたいなんて それでも 僕はーーーー
日が昇ってあたりはすっかり明るくなった。 次の角の道で行屋は別の友人を道の向こうに見つけて、そっちに泊まると言って走り去った。 僕も家に戻る。マンションはすぐそこに見えてたから早く帰りたい…けど…ここで迂闊に走って怪我を悪くするのが僕の悪癖か…と思ってゆっくり体を労って歩く。 僕はまだ失ってない。まだ守れる。一生守る。 香澄と一緒に守っていきたい これまで二人で作ってきた、僕たちがこの先も一緒に居るための道を
「ーーーーー……」 帰り着いても部屋はしんとしていて、出てきたときのままみたいだった。 テーブルの食事も蓋を取ってみたけど手付かずだった。 香澄の部屋の前にいってドアノブを回したら、回った、鍵がかかってない… 「………」 ーーー僕はもうそばにいってもいい…? 寄り添うことを、許してくれる? 静かにノブを回して部屋に入る。ベッドに近寄ってみると香澄はおとなしく眠ってた。香澄の顔の隣、ベッドの横の床に座り込んで、香澄の顔にかかった前髪をはらう。 綺麗になった傷のない顔。閉じられた瞼の上あたりに少し名残があるくらい。ほんとうに別人みたいになったね。 実はまだ少し見慣れてなかったりする、今でも僕の頭に最初に浮かぶ香澄の像はあの傷痕を抱えた顔で。それでもこうやって髪の毛を撫でながら、ああ 愛しいなって気持ちでいっぱいになる。 腕を回して香澄の頭を横から大事に抱き込むみたいにして、体をベッドに寄りかからせて脱力して、夜通し歩いて疲れたのか、その姿勢のまま僕も一緒に緩やかに眠りに落ちていった。
香澄視点 続き
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*現代au
*月が綺麗だったので一緒に住むことにした二人
Japanese language only novel
仰向けになると、空がよく見える。今日はストロベリームーンなのだと、父が言っていたのを思い出す。そんな日に大雨警報が出ている地域へ出張が入るとは、つくづく運がないひとだと思う。
満月はいつも通りの色合いだった。名称の由来となった地域ではこの時期が苺の収穫期らしく、実際に月が赤くなるわけではない。それでも綺麗な月だと、額の汗ばみを感じながら見上げた。
喉を舐められた。反射的に潰れた声が出る。
無視して満月に視線を固定していると、体内に侵入している熱にくすぐられて身をよじる。腹のほうに注意を戻し、すぐそばにあった耳を軽くつねった。形の良い眉が寄っていた。
「何を見ている」
「……つき」
再び視線を窓向こうの空に戻す。途切れ途切れの雲を周囲に侍らせながら、満月は冴え冴えとそこにあった。
自分の部屋からでも月は見えるのだが、この部屋から見える月はもっと色濃く感じる。月が見える方面に、同じくらいの背丈の建物が少ないからだろうか。向かいに、互いの部屋が見えてしまうような建物がないのはいいと思う。おかげで夜もこうしてカーテンを開け放していられる。さすがに窓は閉めている。隣人への騒音になりかねないから。
耳をつねっていた手を掴まれ、互いの指が絡まる。そのまま枕元に縫いとめられ、今度は顎を舐められた。犬猫みたいなことをする、と月を見ながら思った。満月はドロップキャンディのようで、舐めたら桃の味がしそうだ。
そう言うと、「蜂蜜じゃなくて桃か」と返ってきた。確かに蜂蜜色とも言えそうな色合いだったが、一番に浮かんだのが桃だから、あれは桃の味でいい。
今度は口に食いついてきた。厚みのある舌を吸うと、遠慮なく口内を荒らされて少しばかり仰け反った。月を見る余裕もなくなって灰色の眼をぼんやりと見る。溜まった涙が目尻から滲んだ。
「急に機嫌が悪いな」
からかい、惰性で腰に絡めたままの足に力を入れる。踵で軽く腰を蹴ると、仕返しに腹の弱いところを刺激されて唸った。再燃したのでそのままもう一回迎えて、今度は解放された手足を伸ばす。
またぼんやりと月を見る。この部屋から眺める月は綺麗だと思った。月が見える方面にベッドを置いたのは褒めてやりたい。
だらりと手足を伸ばして��調の風を味わっていると、バスタオルを被せられた。胸元にも冷えたスポドリが置かれる。ご丁寧にも倒れないよう蓋部分を支えてくれていた。気だるい上半身を起こして、これまたご親切にも開封済のそれを半分ほど飲み干す。
渡されたバスタオルで全身を軽く拭う。「あと10分ほどで風呂に入れる」と、ハーフパンツだけ履いた男が言う。あと10分。それならと再び寝転がるが、汗で湿ったシーツが空調で冷えて、肌心地が悪い。
月はまだ見える。「また見ているのか」と、隣に腰掛けた男も同じように月を見ていた。
「なんだ、おまえ。月に嫉妬していたのか」
冗談のつもりで言うと、背中がかすかに震える。思いがけない反応にその背を見つめる。引き締まっている背に浮かぶ筋肉の影は見事なもので、月の下だとより綺麗なものだった。
月からも顔をそらして壁を向いたままの背を見ながら、「この部屋は月がよく見えて良い」と呟く。
10分経ったようで、ドアの先からアラームが聞こえる。風呂の用意ができた知らせだ。
転がったスポドリを掴んで身を起こす。バスタオルを引きずって立つと、ずっと横になっていたからかふらついた。肩を支えられ、その手の熱に一息こぼれる。
「一緒に住むか」
唐突な言葉に足が止まる。身長差が1センチしかないほぼ真横の顔を見ると、月に負けないくらいに見飽きない顔があった。
「ここにいればいつだって月を見られる」
明日の天気のことでも言うような口ぶりだったが、灰色の眼はしっかりとこちらを見ていた。これは緊張しているな、と気づいて少しからかいたくなる。
「ずっと二人でいるには狭いだろう」
「なら住めるところに引っ越せばいい」
「ここから見る月がいいのに?」
「……探せばいい」
食いつく姿に笑って、ドアを開ける。沈清秋、とすがるような声に今度こそ声をあげて笑った。
窓の大きな家でなければいけない。柳清歌と月、両方をしっかりと見られるように。
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各地句会報
花鳥誌 令和5年8月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年5月1日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
葉桜に声まで染まるかと思ふ 雪 葉桜の懐深く観世音 同 葉桜を大天蓋に観世音 同 ふと思ふ椿に匂ひ有りとせば 同 葉桜の濃きに始まる暮色かな 泰俊 葉桜の蔭をゆらして風の音 同 老鶯を聞きつつ巡りゐる故山 かづを 四脚門潜ればそこは花浄土 和子 緑陰を句帳手にして一佳人 清女 卯波寄すランプの宿にかもめ飛ぶ 啓子 蝶二つもつれもつれて若葉風 笑 雪解川見え隠れして沈下橋 天
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
五月闇喫茶「乱歩」は準備中 要 だんだんに行こか戻ろか日傘 和子 錻力屋のゆがむ硝子戸白日傘 昌文 空になる途中の空の鯉幟 和子 ラムネ玉胸にこもれる昭和の音 悠紀子 だんだんは夏へ昭和へ下る坂 慶月 だんだん坂麦藁帽子買ひ迷ふ 瑠璃 白シャツのブリキ光らせ道具売る 小鳥 蟻も入れず築地塀の木戸なれば 順子 夕焼はあのアコーディオンで歌ふのか きみよ 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ 同
岡田順子選 特選句
築地塀崩れながらに若葉光 光子 日傘まづは畳んで谷中路地 和子 ざわめく葉夏の赤子の泣き声を 瑠璃 築地塀さざ波のごと夏めきて 風頭 カフェーの窓私の日傘動くかな 和子 二階より声かけらるる薄暑かな 光子 下闇に下男無言の飯を食ふ 和子 覚えある街角閑かなる立夏 秋尚 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ きみよ 誰がために頰を染めしや蛇苺 昌文 青嵐売らるる鸚鵡叫びたり きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
カルデラに世帯一万春ともし たかし 大いなる大地を画布に聖五月 朝子 渚恋ひ騒ぐ厨の浅蜊かな たかし しやぼん玉母の笑顔を包みけり 朝子 乙姫の使者の亀ならきつと鳴く たかし 風に鳴るふらここ風の嗚咽とも 睦子 桜貝拾ひ乙女となりし人 久美子 風船の子の手離れて父の空 朝子 夕牡丹ゆつくりと息ととのふる 美穂 はつなつへ父の書棚を開きけり かおり 鷹鳩と化して能古行き渡航路 修二 風光るクレーンは未来建設中 睦子 人去りて月が客なる花筏 孝子 束ね髪茅花流しの端につづく 愛 悔恨深し鞦韆を漕ぎ出せず 睦子 ひとすぢの道に薔薇の香あることも 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
戦争は遠くて近しチューリップ 信子 霾や廃屋多き街となり 三四郎 長長と系図ひろげて柏餅 昭子 鞦韆を揺らし母待つ子等の夕 三四郎 代掻くや越の富士山崩しつつ みす枝 氷菓子あれが青春かもしれぬ 昭子 モナリザの如く微妙に山笑ふ 信子 風なくば立ちて眠るや鯉幟 三四郎 観音の瓔珞めいて若葉雨 時江 春といふ名をもつ妻の春日傘 三四郎 もつれては蝶の行く先定まらず 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
金環の眼や神々し鯉幟 実加 テンガロンハットの老夫麦の秋 登美子 筍を運ぶ人夫の太き腕 あけみ 緩やかに青芝を踏み引退馬 登美子 赤き薔薇今咲き誇り絵画展 紀子 自らの影追ひ歩く初夏の昼 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 萩花鳥会
マンションの窓辺で泳ぐ鯉幟 祐子 兜より多産な鯉を子供の日 健雄 山頂に吹き上がるかな春の息 俊文 新緑やバッキンガムの戴冠式 ゆかり 仰向けのベッドに届く風五月 陽子 この日から五類に移行コロナあけ 恒雄 武者人形剣振り回すミニ剣士 美惠子
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令和5年5月10日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
囀や高鳴く木々の夜明けかな 世詩明 すがりたき女心や花薔薇 同 仏舞面の内側春の闇 ただし 菖蒲湯に老の身沈め合ひにけり 同 うららかや親子三代仏舞 同 花筏寄りつ放れつ沈みけり 輝一 花冷や母手造りのちやんちやんこ 同 機音を聞きつ筍育つなり 洋子 客を呼ぶ鹿みな仏風薫る 同 渓若葉上へ上へと釣師かな 誠 子供の日硬貨握りて駄菓子屋へ 同 白無垢はそよ風薫る境内へ 幸只 春雨は水琴窟に託す朝 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月11日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
里山を大きく見せる若葉かな 喜代子 父母座す永代寺も夏に入る 由季子 三国町祭提灯掛かる頃 同 難解やピカソ、ゲルニカ五月闇 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
ホーエンヤ口上述べて祭舟 史子 暮の春どちの館の椅子机 すみ子 声潜めメーデーの歌通り過ぎ 益恵 手擦れ繰る季寄卯の花腐しかな 美智子 鳥帰る曇天を突き斜張橋 宇太郎 海光も包まん枇杷の袋掛 栄子 葉桜や仏の夫の笑みくれし 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
菖蒲湯の香を纏ひつつ床に就く 多美女 風低く吹きたる社の陰祭 ゆう子 やはらかき色にほぐるる萩若葉 秋尚 すと立てし漢の小指祭笛 三無 深みゆく葉桜の下人憩ふ 和代 朴若葉明るき影を高く積み 秋尚 メモになき穴子丼提げ夫帰る 美枝子 祭笛天を招いて始まれり 幸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月14日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
植物園脇に馴染みの姫女苑 聰 近づきて見失ひたる山法師 秋尚 母の日の記憶を遠く置き去りに 同 崩れかけたる芍薬の雨細き 同 若葉して柔らかくなる樹々の声 三無 葉桜となりし川辺へ風連れて 秋尚 白映えて幼稚園児の更衣 迪子 くれよんを初めて持つた子供の日 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
一人逝き村軽くなる麦の秋 世詩明 水琴窟蔵す町屋の軒菖蒲 千代子 三国沖藍深めつつ卯波来る 笑子 母の日や母の草履の小さくて 同 カー���ーション戦火の子らに百万本 同 遠ざかる思ひ出ばかり花は葉に 啓子 麦秋の響き合ふごと揺れてをり 千加江 あの世へもカーネーションを届けたし 同 紫陽花やコンペイトウと言ふ可憐 同 人ひとり見えぬ麦秋熟れにうれ 昭子 永き日の噂に尾鰭背鰭つき 清女 更衣命の先があるものと 希子 春愁や逢ひたくなしと云ふは嘘 雪 風知草風の心を風に聞く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 さきたま花鳥句会
鯉幟あえかな風も見逃さず 月惑 土間で輪に岩魚の骨酒郷の友 八草 背に茜萌黄の茶摘む白き指 裕章 薫風や鐘楼の梵字踊りたる 紀花 潦消えたるあとや夏の蝶 孝江 初夏の日差しじわじわ背中這ふ ふゆ子 水音のして河骨の沼明り ふじ穂 なづな咲く太古の塚の低きこと 康子 竹の子の十二単衣を脱ぎ始め みのり 薔薇園に入ればたちまち香立つ 彩香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
野阜に薫風そよぐ母の塔 幸風 突つ伏せる蝶昂然と翅を立て 圭魚 夏めきて観音膝をゆるく曲げ 三無 谷戸深き路傍の石の苔の花 久子 捩花の気まま右巻き左巻き 炳子 人の世を鎮めて森を滴れる 幸子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 夏蝶のたはむれ城主墓に罅 慶月 薫風やボールを投げてほしき犬 久
栗林圭魚選 特選句
要害の渓やえご散るばかりなり 千種 恙少し残り見上ぐる桐の花 炳子 十薬の八重に迷へる蟻小さき 秋尚 野いばらの花伸ぶ先に年尾句碑 慶月 忍冬の花の香りの岐れ道 炳子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 谷戸闇し帽子にとまる夏の蝶 久子 日曜の子は父を呼び草いきれ 久 ぽとぽとと音立てて落つ柿の花 秋尚 黒南風や甲冑光る団子虫 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月28日 月例会 坊城俊樹選 特選句
二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚 夏めきぬ膝に一筋擦過傷 炳子 茶席へと鳥獣戯画の帯涼し 要 万緑を黒靴下の鎮魂す 順子 美しき黴を持ちたる石畳 みもざ 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 薄き汗白き��の思案中 昌文 黒服の女日傘を弄ぶ 緋路
岡田順子選 特選句
夏草や禁裏を抜ける風の色 月惑 白きもの真つ白にして夏来る 緋路 女こぐ音のきしみや貸しボート 眞理子 蛇もまた神慮なる青まとひけり 光子 風見鶏椎の花の香強すぎる 要 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 白扇を開き茶室を出る女 佑天 緑陰に点るテーブルクロスかな 緋路 黒服の女日傘を弄ぶ 同 二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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ペルセウスの旅人
アンドロメダの遥かな庭
旅人は、小さな美しい庭を見つけた。 それは果てしない砂漠に、誰かの落とし物のように取り残されていた。 旅人がその庭に辿り着いたのは、よく晴れた夜のことだった。砂漠は昼間の灼熱を忘れ、すっかり冷え切っていた。時折、砂混じりの風が吹いた。夜空には雲ひとつなく、星が彼を導いた。地上の風景は、永遠に変わらないかのように、見渡す限り青白い砂の世界だった。その庭を見つけるまでは。 「この庭は、道に迷ってしまったのよ」 だから枯れることがないの、と。 庭の主は、そう言った。 ノウゼンカズラ、トケイソウ、ヒマワリ、ゼラニウム、ハイビスカス。むせ返るような花の香り。その真ん中に置かれた大きなベッドの上で、白い寝間着姿で、彼女は旅人を迎えた。ベッドは頑丈そうな木製で、天蓋があり、そこから白いレースのカーテンが垂れていた。支柱には蔦が這い、長いこと彼女がここで臥せっていることを示していた。ベッドの周りには、古い本が何十冊も積んで置かれていた。多くは背表紙が綻び、題字は剥がれていた。 「どうぞ、こちらへ」 彼女は手元の本から目を上げ、旅人をベッドのそばへ呼んだ。消え入りそうな、微かな声だった。彼女の枕元に置かれた小さなランプだけが、この庭を照らしていた。その橙色の光の中で、彼女は微笑んでいた。長い髪も、瞳も、夜に融けるような深い黒色だった。病のせいか皮膚は白く、頬も首も痩せて骨が目立った。そして、これも病のせいか、あるいは彼女の心の在り様がそう見せるのか、纏う空気には涼やかな透明感があった。 旅人は、ひどく場違いなところに迷い込んでしまったような気がした。彼の衣服には、汗と埃が混じった黒い染みがいくつもあった。糸がほつれ、裾や襟元はぼろぼろになっていた。焦げ茶色の髪には、細かい砂が絡みついていた。彼は、突然の訪問を詫びた。庭の主は気にしていない風だった。 「ごめんなさいね、何もご用意できないの。お客様が来るなんて、思っていなかったから」 そんなことを言う。 「外は、どうなっているの? すっかり砂漠になってしまったかしら」 「どこまでも、砂漠でした」 旅人は、そう答えた。 「すっかり砂漠でした。誰にも、何にも、出会いませんでした」 「そう。……お疲れでしょう。どうぞ、休んでいって」 庭の隅には井戸があった。彼はまず口を漱ぎ、思い切り水を飲んだ。手を洗い、顔を洗った。それから、改めて庭の主に挨拶をした。 「ここに、ひとりで?」 「そうよ。誰もいないわ。皆いなくなってしまった。私は、この��でひとりぼっちになってしまったのね」 言いながら、彼女は広げていた本を閉じ、旅人に向き直った。 傍らには、あらゆる分野の本が、無造作に積まれている。文学や天文学、生物学や哲学の本もある。共通するのは、古い本だということだけだった。 「明るいうちは、本を読んで過ごすの。涼しくなったら、花に水をやるの。そうやって、少しずつ、終わりに近づいていくのね」 そう言って彼女が見上げた先に、ひときわ明るい星がある。名前は知らない。 「あなたも、あの星を目印に歩いてきたの?」 「僕も? ほかにも、誰か?」 「ここを訪れた人は、皆そう言っていたわ。あの星に導かれて、ここに辿り着いたんですって。でも、その人たちも、どこかへ行ってしまった。ずっと前のことよ」 どれくらい前のことかさえ思い出せないというように、彼女は小さく首を横に振った。 「ねえ、あなたにはあれが、星に見える?」 「違いますか」 彼女は、かすかに笑った。 「あれは一つの星ではなく、沢山の星が集まった銀河なんですって。何億もの星が集まって、けれどずっと遠くだから、とても明るい一つの星のように見えるのね。本で読んだことがあるの。あの銀河は旅をしていて、遠い未来には、この星の近くまで来るんですって」 「星は、旅をするものといいます。ひとところにとどまるものはない、と」 彼の言葉に、庭の主は満足そうに頷いた。 「愚かな考えだと思うかもしれないけれど、あの沢山の星の中にもきっと、私たちのような生き物がいるのよ。きっとね」 そう話す彼女の目は、眩しそうに空を見上げていた。 彼女はここに、ひとりでいるのだ。長い間、ひとりで。 旅人は、ゆっくりと頷いた。 「沢山の星があれば、一つくらい、そういう星があるかもしれません」 「でも、彼らがここまで来る頃には、私はいない。この花も枯れてしまう。何もない、砂の星なんだわ」 「それは、どこかにいるかもしれない彼らだって、同じでしょう。出会うときには、もう、互いはいない」 「ええ。今は生きているのに。ちゃんと、生きているのにね」 別れ際、彼女は旅人に名前を尋ねた。 「ローレン」 旅人はそう名乗り、そっと手を差し出した。 彼女は両手でそれを握った。 「来てくれてありがとう、ローレン。私の名前は聞かないでね。私は、この星の最後のひとりよ。名前はいらないわ」 「色々とお世話になりました。ありがとう」 「さようなら、ローレン。あの星のどこかにいる彼らに、よろしくね」 「ええ。さようなら」
(了)
(他19の物語と、それを繋ぐ掌編たちを収録)
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2017年8月発行 文庫/176P/600円 購入:BOOTH
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おやすみに向かう
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「私だって百行書きたい」
会う口実を作りたい
ロマンスに気づかれたい
全部言ってしまいたい
失言したい
打ち明けたい
寝台列車で向かいたい
到着駅で目覚めたい
モーニングではじめたい
分厚いトースト頬張りたい
サンルームでうとうとしたい
大きくて白い犬を抱きしめたい
木漏れ日に酔いたい
光の巣に絡���りたい
水色の目眩でよろめきたい
朝露に濡れたい
温室で迷子になりたい
噴水にうっとりしたい
睡蓮を浮かべたい
パラソルで待ちたい
視線が泳ぐ音を聴きたい
苦しくなるまで息止めたい
ペパーミントサンデー取り分けたい
アイスクリームならむしゃむしゃしたい
ブルーハワイに染まりたい
熱い砂の上歩きたい
サーカスの匂い思い出したい
金色の靄を見たい
観客席で悪態つきたい
風船ガムが割れる音で落ちたい
ひやひやしたい
青いストッキング履きたい
まじないをかけたい
すれ違い様に手紙を交換したい
合言葉を決めたい
はぐれたい
大きなモールで退屈したい
家具屋に忍び込んで寝泊りしたい
そしたらクッションに埋もれたい
天鵞絨のカーテンにくるまりたい
暖炉ちかくの絨毯でしびれたい
逃げ出したい
はぐらかしたい
鱗粉を壜に閉じ込めたい
月と詩を鍋で煮詰めたい
星を飲み干したい
草木や花を調べに行きたい
トロピカルな音ききたい
観覧車で気まずくなりたい
コクトーツインズでぼうっとしたい
百貨店で下着買いたい
急に黙り込みたい
香水瓶を割りたい
合図したい
行き当たりばったりで生きたい
あらゆる危険を冒したい
補導されたい
ピアノの先生に叱られたい
手を焼かせたい
道端で泣き出したい
精神科医に分析されたい
異国の言語で考えたい
概念の標本を作りたい
新しい解釈与えたい
講義を中断させたい
神学部を中退したい
シンバル奏者になりたい
五線譜に音符落としたい
第九でのぼせたい
銀の矯正器具はやくはずしたい
真冬の寒さ想像したい
燐寸を擦りたい
牛乳風呂沸かしたい
石鹸を手から滑らせたい
天蓋付きベッドで眠りたい
花びらを指でなぞりたい
蔦が絡まった家に住みたい
粉砂糖まぶしたい
光を数滴たらしたい
ジャズで失神したい
バター焦がしたい
寝そべりながら果物を食べたい
行儀悪く平らげたい
ヨーデルで頭痛なりたい
香り付きリップ嗅ぎたい
草の上に寝転びたい
味覚をいっぱい試したい
スノードーム振りたい
虹をいっぺんに見たい
サインに星マーク付��たい
あなたの火を食べたい
薔薇のサラダも食べたい
適当な名を名乗りたい
賛美歌を浴びたい
透かしたい
小さなデートをしたい
ラメ入りの方を選びたい
別れたあと振り向きたい
宝石を溶かしたい
水びたしにしたい
ホワイトアウトで終わりたい
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ノクチルと、絶対に割れるガラスキュー
「これは、絶対に割れるガラス球なんだ」 彼はそう言って、ガラスでできたらしい透明な球体を突き出した。その腕まくりに日焼けのあとが目立つのは、いかにも盛りの夏を感じさせるようだった。 一方で、ガラス球を突き出された彼女たちは困惑した。意図を探るようでも、呆れるようでもあった。溜息をつく者もあった。彼女たちは、大切な用事があるからと四人揃って、このために集められたのだった。それからしばらくの間をおいて、返事があった。 「そ、それってふつうのことじゃ……」 彼はその当然といえる疑問に、笑顔を投げ返す。絶対正義のその笑顔は、ガラス球を反射してなおまっすぐに彼女たちを見つめる。 「そうかもしれない」 彼は含みを隠そうともせず答えて、ガラス球を差し出した。相手は福丸小糸だった。小糸はほとんど怖がるくらいの調子でガラス球を受け取ると、慎重にそれをたしかめた。ガラス球は、小糸の片方の手のひらにおさまらないくらいの大きさで、両手にずっしり重かった。しばらくして、何もわからなかったらしい曖昧な表情のまま、小糸はガラス球を差し出した。相手は浅倉透だった。透は手のひらで受け取り損ねて、無言でガラス球を下に落とした。 「ぴゃっ」 と言うのは小糸だった。 「あぶなっ」 ガラス球の割れるのを望んでいたわけではないけれど、割れたならば割れたで別に構わない。そういう鷹揚な身振りで透はしゃがみこみ、カーペットの球体を拾い上げる。手で転がすと、 「終わるとこだった」 とガラス球を差し出した。 相手は市川雛菜だった。雛菜はガラス球を光に透かした。それから、ガラス球越しに隣り合う少女たちを眺めて、いかにも愉快らしく笑うと、ガラス球を差し出した。相手は樋口円香だった。円香はそれを受け取るのさえ拒む様子だったが、手に取ると、工場機械じみてなめらかに彼へ返却した。 「用がなければ帰りますが」 円香が言うと、彼はほほえんだ。 「これを、みんなで管理してほしいんだ」 彼が言うのは、こういうことだった。 ガラス球を、全員で持ち回りする。それぞれ手もとに置く日数は任せるけれど、なるべく持ち歩く。そうして、全員のところを回ったら返却して、そのときに感想を聞かせてほしい。 「なにもなければなにもないでいいよ」 彼は続けた。 「話したくないと思ったら、話さなくてもいい」 彼の授けるほほえみを分かち合うように、彼女たちは顔を見合わせた。誰もその意図を、把握しかねるようだった。 「断ってもいいんですか」 円香がたずねると、予想していたふうに彼はこたえた。 「問題ないよ。仕事じゃなくて、俺個人からのお願いだからな」 それはどうにも、円香を苛立たせるのだった。 ガラス球は、彼の手のひらのうえ返事を待って佇んだ。やがて沈黙が、それを砕こうかというほど押し迫った頃、声をあげるのは透だった。 「いいよ」 透はガラス球を彼からくすねるように持ち去って、両方の手で遊ばせた。それは自由だった。ガラス球��それ自身まるで生きているかのように跳び回るのは、透の天稟の賜なのかもしれないし、ガラス球の必ず割れるという性質のもたらすはかない閃きなのかもしれなかった。 「よろしく。ガラスキュー」 透は言った。そうしてまた、ガラス球を取り落とした。
呼び出されてプロダクションを離れるまでに数十分かからなかったから、日はまだ天頂近くにいた。乾いたばかりの汗がまたどっと出て気分はすぐれなかったが、ガラス球が青っぽく涼しげな様子で光るので、往来をわざわざ手に持って歩いていた。 「樋口は?」 「知らない」 「なんとか」 「……どうせ割ったら日々もこんなに脆いんだとか言う」 「あはは。似てる似てる」 「ほんとはすごい高級品だったりして~」 「な、なにか伝えたいことがあるんだと思うよ……!」 「浅倉は」 「わからん」 彼女たちはそういうふうに話した。ガラス球を持つのは透が最初になり、あとは会うときに渡すと決めた。そのときガラス球は、ただの透明な球にも無意味の球にも、きらきらした球にも、なんらか秘密の命を帯びた大切な球にも見えた。
真夏の太陽にガラス球はきらめいた。プールサイドに、無造作に放り置かれたそれは、揺れる水面を吸い込んでその光の波の四方八方から押し寄せるのにさんざめくようだった。 ガラスキュー。元気してるか。 透はたずねた。ガラス球はこたえなかった。あるいはその光の反射でこたえるのかもしれなかったが、透はそれを無視してガラス球を拾い上げると、手でもてあそんだ。ガラス球は回転した。右手と左手を行き来して、バスタオルのなだらかな坂を下った。時おり声をかける者もいたが、誰ひとりとしてわからないのは、それがふたりのダンスなのだということだった。 やがて撮影の再開が告げられ、透は立ち上がる。バスタオルを剥がすと、明るい色の水着や、あるいはガラス球より澄んだその体をかがやかせる。ガラス球の光るのを省みる者はいなくなり、するとそれは適当に置かれていたせいかプールサイドを転がりはじめると、誰も気の付かないうちにプールへ落ちる。撮影は続く。 ガラス球は、水底より見る。時間というものはガラス球にないのだが、長い間じっとしずかに揺らめく水面を見ている。すると突然、降りそそぐ光が隠されるのは、透が飛び込んだからだった。透は探した。ガラス球は透明で、水の中でいっこう見えないので泳ぎながら手さぐり手さぐりそれを求めた。ガラス球はそのとき、水底から、透を見上げた。透は美しかった。泳ぎはいっこううまくないのに、水の中にいるのが本当という印象を与えた。億千の星々のよう千々に分割された日の降るのを一身に集わせ、波と光を衣装にするのが透なのだった。 ところでガラス球は美しいという観念を持ち合わせていないから、それはもしかして、真実であるのかもしれなかった。 危ないぞ、ガラスキュー。 透はそれを拾って言った。プールを上がると、今度は転がらないようにとタオルで上等な柵をつくった。それだから、ガラス球はもう水へ行かなかった。
雛菜は悩む様子だった。四畳間くらいの手狭な控え室で、照明のぴかぴか散るメイク台に置いたガラス球を見つめて今にも呻らんばかりなのは、できたての占い師だとか、いっとう見込みのない手習いの職人みたいなふうだった。 雛菜はガラス球にさわった。爪の先で輪郭をなぞり、手のひらを押し当てた。子どもをあやすみたいにその面を覗き込むと、突然バッグをがさごそやって、ぱっと笑った。その手に誇らしげに、メイクポーチを持った。 まず入れるのはつやだった。絵画に光沢を加えるように、はじかれる光を描き入れた。頂点に葉っぱや、茎を描き加えて、なにかつまらなそうにリムーバーできれいに洗った。そうしてふたたび、ん~っと首を傾けて、赤茶けて波打つ線をひきはじめた。それがぴんときたらしく、雛菜は俄然あかるい表情になって、そこからは早かった。ガラス球は、やわらかくウェーブする髪を得て、まるい目と、にっこりほほえむ口もとを授かると、できあがりの合図にヘアピンをぱちんっと留めた。雛菜は喜んだ。ガラス球はその喜びを反射することができなかったが、口もとはどうにも楽しげだった。 それから、雛菜はガラス球と自撮りをした。それは納得できず何度もくり返されるが、ついには完璧な一枚がおさめられたらしく、すぐにツイスタにあげられた折にはこういうコメントがつけられた。 「円香先輩と」 そうしてすぐ、メイクは落とされた。すっぴんのガラス球は、しかし次には小糸のかたちになってふたたびツーショがツイスタにあげられた。みたびメイクを落とされてくたびれたガラス球に朗報だったのは、雛菜の待ち時間が終わったことだった。呼ばれてひとり、雛菜は控え室をあとにした。ガラス球は置き去りにされた。持ち歩くのはできるだけという約束だったから、それはガラス球になんらおかしな振る舞いではなかった。 しばらくして雛菜は戻って、続きをするでもなくガラス球をかばんにしまい込んだ。スタジオを離れて帰り道の途中には、予定の近かった円香へガラス球を渡した。それだから、雛菜とガラス球の時間はちょうどまる一日くらいだった。
ガラス球は棚に置かれた。蓋のない、お菓子の空き缶におさめられ、ほとんど身動きの取れないようにされて、文句も言えずその身を縮こめおさまっていた。ガラス球の肩上あたりから、円香は見えた。円香は机に向かい、ノートに向き合っていた。その姿には明けの静寂の泉のたたえる威厳があり、円香が時にペンをじっととどまらせては時にわずかに走らせるのを、ガラス球はおし黙ってじっと見つめるのだった。 円香はガラス球を省みなかった。ノートに向かい、ベッドに寝ころぶとうとうとするのに首を振って、またノートに向かった。そのうちに昼食をとって、ノートに向かい、気分転換にベランダへ出たり音楽を聞いたりして、ノートに向かった。そのうちに、日の色が変わってくると、円香は母親の言いつけで買い物へ出かけて、そのまま部屋へ戻ることなく夕食の時間となった。ガラス球は何も思わなかったが、円香の戻らない部屋はしんと静かだった。 しばらくして、地震が起きる。東京都西部を震源とするマグニチュード5.1の地震に家��すこし慌てる。けれど震度4くらいの、ささいな揺れのもたらす動揺はさほど続かず、平静を取り戻した家族を離れると円香は部屋を覗く。ほんの数秒。部屋を離れる。 次に部屋へ戻ってきたとき、円香は眠る支度をすっかり済ませていた。そうしてまた、ノートに向かって、今度ペンは昼間よりなめらかに進む。一ページの半分くらいを書いて、円香はノートを閉じた。満足するのも満ち足りないのもガラス球には少しもわからないが、閉じたノートを見つめる横顔を反射するのはできた。 やがて円香は電気を消した。そのとき円香が、ガラス球を一瞬でも見たのかはわからない。
それほどガラス球を丁重に扱ったのは、人類史上にないだろう。ガラス球は手持ちのクッション素材の保冷バッグに入れられ、さらにタオルでぎゅうぎゅうにまるめられ、それはかえって宝物とか爆発物とかに見えて危なく感じられるようだった。小糸はいつものリュックサックと保冷バッグを抱えて、いってきますと家をあとにした。偶然に会った透からは、家出するみたいだと言われた。 久しぶり、ガラスキュー。 透はおつかいに出ているところだったので、道ばたで別れた。小糸は暑さに立ち向かうみたいに早足で歩いて、図書館へ入ると、ガラス球を机に置いた。見れば祈る���うな光景だっただろう。けれども小糸は別段ガラス球を拝むでもなく、リュックからあれこれ取り出して勉強を始めた。勉強は長く、厳しく続いた。急ぎの電話であったり、席を離れる折に小糸はガラス球を連れ添った。ひとが怪訝に見つめるのも、小糸には大切な約束だったし、ガラス球はそれらの視線をはじくので、問題ではなかった。 勉強は、図書館の閉まるまで続いた。 小糸は夕ご飯の少しだけ前に家へ帰った。食洗機をまわして、つかの間の休息をしているところに、雛菜から連絡が入った。返事をすると雛菜はすぐにやってきて、ガラス球に、透のメイクを施して小糸とのツーショをおさめると満足して帰った。小糸はそれからしばらく迷って、雛菜へ連絡をすると、メイクを落として平気というのでガラス球を拭いた。磨いてきれいにぴかぴかにされて、ガラス球はふたたび小糸の部屋で勉強するのを見守った。そのとき、それから部屋が暗くなっても、どこかから音階の高く低く波うつ心地のよい音楽の聞こえるのは、小糸の歌ではなかったし、ガラス球は歌わないのだからもちろんガラス球の歌でもない。 音楽はやがて消えた。
彼女たちの手もとをまわり終えてガラス球が返される日になった。ガラス球は道すがら小糸から雛菜、円香から透の手をたどって、プロダクションへ入った。夏の盛りだった。油蝉の道に落ちているのを、円香は心底嫌がるような日だった。 「お疲れさま。ちゃんと返してくれてありがとう」 透からガラス球を受け取ると、彼は言った。よければ感想を聞かせてくれないかというので、彼女たちはこたえた。 「え。なんだろ、べつに」 「なにもありません」 「たのしかった~」 「みんなのぶん重たくて……緊張しました……!」 彼は納得する様子でうなずき、ガラス球をデスクの台座に置いた。それで今日の用事は終了、というわけではなく彼女たちには打ち合わせがあった。とはいえそれも一時間ほどで終わり、いよいよプロダクションをあとにする、というところだった。 「じゃあね、ガラスキュー」 透が言った。声に感応するように、突然ガラス球に一本のいかずちみたいなひびが入った。「あっ」とこぼしたのは、彼女たちの誰かかもしれないし彼かもしれない。彼女たちはそれで揃ってガラス球を見て、ひびの次々刻まれていくのを見つめた。それはまたたく間だった。ガラス球はほとんどまっ白になり、球形を保っているのが不思議なくらいだった。 静かだった。 あたりはまったく無音だった。 誰ともなく彼女たちは踏み出した。ガラス球のそばに寄ると、それぞれ顔を見合わせた。差し出すのは透だった。透はひとさし指の、爪の先をゆっくりと近づけていく。指とガラス球の、近づくほどに時間は引き延ばされ、しかしそれらは悲劇を知って避け得ない愛のように、結局は結びついてしまうのだった。 ガラス球は、絶対に割れる。 透の指が、ガラス球にふれる……。
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いい感じ🐠 #リヴリーレイアウト #リヴフォト pic.twitter.com/Uqb5s9tV1L
— 🏖 (@gekko_island) 2018年6月21日
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天蓋付きベッド素敵よね〜バラ十字架ヘッドドレスも
最近寝てる時部屋に誰かが入って来て目の前に立つ。
恐怖を感じ、目を開けないようにし、呪文を唱えたりしたり、消えて〜と願う…
フッとした瞬間解き放たれるんだけど、夢なのか現実なのか…
一体何なんだろう?
Mana
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