#勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。
Explore tagged Tumblr posts
magazine-hitori · 27 days ago
Text
書物礼賛⑤
Tumblr media
朱野帰子/キーボードなんて何でもいいと思ってた/自主出版2024
もともとお年玉には手をつけない子供ではあったのですが、その傾向が新卒の頃にあった就職難でさらに強くなってしまいました。エクセルに1円単位で家計簿をつけて節約に励み、年間100万円を貯金する。そんな内部留保をためこむ傾向は、フリーランスになってからさらに強くなりました。数年前に勇気を出して分譲戸建てを買ったのですが、ローンの返済が心配でたまらず深夜に目が覚めることがしばしばあります。
大学も就職も、地方出身の若者にとって東京はイス取りゲーム。幼稚で利己的な考え方をとるよう追いやられる。どこへ行っても不可欠な職、たとえば建設現場で働いているような若者の方が心にゆとりがあって、学歴が低くても考え方がしっかりしている。情報化・都市化が進んで大卒ホワイトカラーが増殖するとその国は滅ぶんじゃないかと思わせる、そんな本です。広告業⇒メーカー⇒兼業作家⇒専業作家となった著者が、頚椎ヘルニアなど体の不調に悩み、長時間使用するパソコンのキーボードを高級品に買い替えるまでのいきさつ、そして同じように高級キーボードを愛用する同業者へのインタビューからなる。文章も装丁も粗悪、これでプロ作家?と疑問を抱かせる、何一つ参考になるところがないゴミ本。
Tumblr media
高野文子/ドミトリーともきんす/中央公論新社2014
高1のときふゅーじょんぷろだくと(漫画評論誌)発だったか「田辺のつる」が凄いと聞いて掲載されている漫金超を買ったものです。友人にも読ませた。高2の冬にそれらを収めた高野文子の初単行本『絶対安全剃刀』が出るということで、西武新宿ペペ内の漫画専門店で予約して買いました。今も漫画の最重要書架に。ところが彼女はそこで見せた実験性やバラエティーのほとんどを捨て去り、第2単行本『おともだち』は芝居がかった懐古的な作風の出発点となる。ここでいう「芝居がかった」とは、まるで宝塚歌劇のように漂白された、固定客向けの。あげく消費に浮かれるOLが読者層の雑誌Hanakoに連載された『るきさん』である。
子どもの頃読んだ野口英世の伝記本には、彼の借金や女遊び、科学的な業績の大半が否定されていることは触れられない。ひさしぶりに高野文子の作品を読んで、そういう女こども向け漂白を感じ、私の高校時に異常天才として現れた彼女が、短期間で作風を狭めるに至った世知辛さとその後の人生の長さを思わざるをえない。つまらない漫画ですが、絵の上手さは折り紙付き。ミニマルアートとして。お芝居は要らない。今の私にとって、渡航のための借金を一晩で使い果たしてしまう、似たことを繰り返す、そっち側にしか野口英世の存在意義はないのです。
マーシャル・マクルーハン+クエンティン・フィオーレ/メディアはマッ��ージである/河出文庫2015・原著1967
「あらゆるメディアは人間のなんらかの心的ないし身体的な能力の拡張である」
「投票や多数決で頭数を数えることは、18世紀的な断片化プロセスの大切な要素であったが、電気の即時的スピードがもたらした環境において、急速に、社会を評価するにあたって厄介で効力のない方法になった」
「現代とは、すべてが同時に生起するようなまったく新しい世界である。時間は止まり、空間は消え去った。われわれは聴覚的空間にもどってきた。原初的な情緒、すなわち、数世紀間の識字文化ゆえに疎遠になってしまった部族的な感情を、ふたたび構造化しはじめている」
「新たな電子的相互依存はグローバル・ヴィレッジの荷姿に世界を作りなおす」
印刷・鉄道・テレビといった発明がいかに人の意識や社会のあり方を変貌させたかを説くメディア論の名著。古代ギリシャの盲目であった詩人ホメロスに代表される話し言葉の文化と、活版印刷発明後の書き言葉の文化を対比させ、音声に頼り記憶や反復が重要であった古代に対し、視覚による情報の固定化・標準化が行われるようになり「大衆」が生まれた、そして20世紀テレビやラジオといった電気メディアが現れ、話し言葉の特性(流動性・即時性・共同体意識の強化)が復活することで、再び大きな変革が起っているとする。現状スマホ・ネット・AIは双方向的な「話し言葉の復権」と時間の支配による孤立化を促し、文明をカタストロフに導くのではないかというような、示唆に富んだ一冊。
谷頭和希/ニセコ化するニッポン/KADOKAWA2025
前々回いわゆるプロ倫を批判する前置きとして「ディズニーランドのハリー・ポッターのアトラクションでトシ(タカアンドトシ)の次男がグッズを買うのに抽選があって3回行列に並んでやっと買えた」と述べましたが、ユニバーサルスタジオジャパンの間違いでした。まあ似たようなものですが、世間的な娯楽に対する無知無関心がさらけ出されてしまった。
非国民の視点=日本人が行列するようなものごとは価値がない。本書によれば東京ディズニーランドは��初富士山麓と浦安が候補地であったが、ウォルト・ディズニーの創業理念を貫くため日本人が神聖視する富士山を避け、「何もない」浦安に造られた。食事の持ち込み禁止、外の風景が見えないようになっているなどカルト的な閉鎖空間であったが、後年になるほど借景を取り入れたディズニーシーもしくはDオタと呼ばれるリピーターを意識した催しなどマーケティング志向が強まりディズニーの創業理念は薄まっていく。これと類似する差別化・ブランディングを図ったヴィレッジヴァンガードは近年凋落し、スターバックスはリピーターにとって特別な場所であり続けているのだという。前者は行ったことない、後者は2~3回行ってみたが広告・新自由主義的な邪悪な空気。
そしてコロナ禍と円安を経て、日本人客や地元住民など眼中にないと思われるニセコのスキーリゾートをはじめ全国いたるところで「選択と集中」「テーマパーク化」に沿った再開発が進み、静かな排除が進んでいる…。著者自身も、このテーマで食っていく、俺のもんだ感を放つ。週刊東洋経済やダイヤモンドの、写真や図表の潤沢な特集記事で見せてくれるのならそっちがベターでしょう。
打越正行/ヤンキーと地元/ちくま文庫2024・原著2019
本土の建設業に従事する日雇い労働者の場合、単純作業がメインになるが、地元の後輩を雇い入れてきた沖組の場合、仕事の割り振り方がそれとは異なる。作業には楽なものからキツいものまである。新参者の後輩は、目の前のことで精一杯で、できる作業も限られているが、何年か働くうちに、できることが増えてくる。ところが、自分にとって楽な作業を優先して行い、全体の作業工程を乱す従業員がいる。女性従業員が言うように、一緒に働いていれば、他の従業員のことを考えて働く者と、自己中心的な働き方をする者とが、それぞれ見えてくる。作業をサボっているわけではないが、働いているようで実際には手を抜いてい ことが、経験者にはわかる。そういう働き方を繰り返す者は、周囲の従業員に負担をかけ続けることになる。このような従業員は、最終的には先輩から桟木で殴られるなどの暴行を受けることがあった。
(セクキャバの従業員の採用や警察対策において)重要なのは、地元の人間が得た(覚醒剤に関与している)京子と加奈の情報を、適切な範囲で、適切な方法で用いるという���とだ。そこには、持たざる者同士が、貴重な情報を共有しよう��する互酬性の論理が働いている。と同時に地元という場には、情報にせよ、人間関係にせよ、適切な範囲と方法でそれを用いることができない人間は見捨てざるを得ないという力学がつねに働いているのであった。
民主党政権当時に同い年のイトコが長男を連れて在特会・桜井の街宣を見物したとかで、以来「ネトウヨの従弟」として旧ブログにたまに登場してもらいましたが。毎年彼が主催する��年会、風邪やコロナが重なって延期になっていたのが2月1日に行われ、2年ぶりに参加。その「長男」、高卒で大手スーパーに勤め、今35歳。昨夏に入籍し、今夏には第一子が生まれるという、その嫁さんも初参加。ローンを組んで一軒家を買い、中野区の実家は妹2人が好きにすればいいともいう。誰もが利用する生活インフラに従事し、ありとあらゆるクレームに対処したり、パートの女たちを管理する側でもあり、職業意識の高さ、それによって磨かれた人間的な器量に感服する思いであった。少女漫画時代の弓月光さんのファンということで私とも少し話が合うのだが、血は争えないけれどもやはり自分には結婚・子育ては無理だったなと納得。従弟は従弟で表具・内装の仕事のかたわら消防団を30年続け、副団長に推されているという。体を使って働き、地元に根付いて生きる彼らの姿に学ぶところの多い一日であった。
本書は以上のような学びに満ちた、人文系学問の本当の役割を再認識させてくれる労作。解体屋、風俗経営者、ヤミ業者として生きる沖縄の20・30代と同じ目線に立つこと。ウシジマくんの描写が図式的で薄っぺらいと思わせるような、人生の臭いやぬくもりが直接伝わってくる濃密な一冊。
Tumblr media
0 notes
lienguistics · 1 year ago
Text
紺色
2023.10.12
序章
「全部お前が触れるのは青に染まってくるし、しょうがなく青色が気に入ったのか」
「なに、その馬鹿げたセリフ。同じ調子で癌の患者に他の患者を癌で感染させると言いがかりをつけるの?」
. .
「よくもこんなことがあたしに対してできたわね!」と泣き喚きながら跪いた母の姿を見たことが一生に一回しかない。父が離婚すると脅したり、母は許してほしいというように情けなく懇願したりしたことは一切ない。
さて、原因は?朝にもらったオレンジを全部食べ切ったという間抜けな嘘をついた僕のせいだった。
「どれほどお前をちゃんと育ててお世話をするように励むのがわかってたまるか!あたしはお前の栄養摂取をこんなにじっくりと考えたのに、なんてもったいない…」
世界一大切なママにこんな深刻な不幸をもたらした結果としての罪悪感をどうやって妥当に対処したらいいのか困り果てしまった十歳の僕は、密かに「ママにうそをつかない」と、手の指が攣っても何回も書こうと決心してきた。深く尊敬した存在のママを真似して、慌てている十歳の子なりに号泣する余裕があるなんて思ってもみなかった。むしろ、書き上げた文ごとに罪悪感が少しずつ和らぐようになるはずだと自分に思い込んだ。
紙の表と裏をよほど五枚に満たしたのに良心を完全にすっきりさせることができなかったのは、残念だった。
十年後、自分の人生を振り返して最高と最低の経験について父と話し合いながら、この記憶を持ち出した瞬間に、父が急に声をひそめ、打ち明けた。当時に起こったのは初めてであるどころか、まだ二歳だった僕はご飯を食べきれなかったときにも、母はブチギレたが、代わりに顔に平手打ちを食らわして、泣いたら、手の甲で逆に。
だからこそ現在の僕はみんなに言われた通りにどうしようもなく頭が悪いのか。どうせ僕のせいなんだが。
章1
母と違って父は、僕に対して手を上げたことがなく、むしろフォークとスプーンを手にしながら近ついてきた。僕の自尊心をぺろりと平らげる機会のかけらでもうずうずと待ち構えている。
十一歳ぐらいのとき、学校からの帰りしなに父が運転しながら、僕はしょっちゅう読み上げさせられ、文章ごとに通訳させられた。両方の言語を切り替えれば切り替えるほど、言葉が紛らわしくなってしまうのは当たり前だろうがしょうがないと最初に思った。正解の「怯えた」が直感的にわかったのに、実際に思わず言ってしまったのは「怯えてした」だった。
「ん?なんて言った?」
うっかりと「怯えした」とも口にしてしまった。
「は?」
「怯えった」
とっさに大声で得体の知らない名前と呼ばれた。ひとしきりにぼんやりとしてしまってから我に返ったら、本名を自分に確かめた。さっき、一体何だって聞いたのか。友達に呼ばれた「〇〇くん」や「〇〇ちゃんさん」をつける面白いあだ名を聞き慣れてきたが、まさか父は今度のも定番になるつもりなのか。
てっきり後味の悪い「クソビッチ」なんて。わざと罵ろうとしたら、どうせならよりオシャレな暴言を吐こうか。
成長するにつれて馬鹿だと徐々に暴露されていく子供を育てるのがこんな風に怖がっている両親に、三歳だったときから数学を、四歳だったときからバイリンガルに読み書きを教え始めてもらった。中学一年生になったときまでにヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」をすでに一回読み切り、再び読もうと思っていたほど没頭し、高校一年生としては微分積分学に踏み込んだところでフョードル・ドストエフスキの執筆も読み漁った。物理学に夢中になってきて授業で優れたのは理不尽ではないが、うちの疾患の家族歴と今更に病気を患っている母を考慮したら、結局大学に入って以来医学を狙うように促された。拒むに拒めなかったのは、学費を払うのが僕ではなかったから。
皮肉なことには、自分の生物学の授業のために勉強していた同時に、物理学を専攻していた友達は宿題の問題をまったく何も解くことができなかったせいで僕が手伝うどころか自分で手にかかってやるしかなかった。両親の望みや夢を叶ってあげるのと、友達の宿題や模擬試験を試してみることにより、僕の夢物語を真剣に追い求めるために自分の能力や見込みが足りるかどうか見積もるのを二つとも両立することができるだろうと思ったが、どのくらい耐えることができるのかさっぱりわからなかった。
最初の生物学の試験をギリギリと合格したのを聞いたての母から電話がかかってきた。
「もういいわよ。物理学って忘れなさい!」と言ったのに、その舌の���も乾かないうちに生物学に関しては「お前は思ってたほど頭が良くないね」とも吐き捨てた。
ということは、手術に向けたら、少なくとも手際良くなるまで訓練だけに焦点を当てることができると忠告したではないか。まあ、母にしょっちゅう称賛されている伯父さんと同じ道を辿るのをかまわないのは、母が幸せである限りにね。
それにしても、電気工学者の父が「プログラミングもちょっとでも身につけられたら将来に有益な知識になるよ。お前は言語とか文学が得意じゃないか?だとしたら、プログラミングも同じようにうまくいけそうで、単なる他の言語として考えよう」と口を挟んで、僕の夏休みは自分でパイソンに取り組む羽目になってきた。父は「問題があったら、俺に任せろ!」としょっちゅう自慢に宣言したが、Cで筋道を説明してばかりくれるのは役に立たなかった。違う言語には違う推理と違う書き方があるのは、一目瞭然だろうが、そう思ったのは僕だけだったようだ。
淡々ぼんやりとしていた僕の顔つきを瞬間に父は気づくごとに、拗ねて「もう、学びたくないなら、学ばなくてもいい。好きにして、こんな役に立つのを身につけなくて、ざまあみろ」とそっけなく吐き捨てた。そのときに、僕はくれぐれも謝罪して「楽しんでいるよ!画面を長い間見つめて、ただちょっと疲れてごめん」と父が落ち着くまで慰めた。
この訓練の目標は一体何なんだったっけ?父は自分がこれほど恵まれている知識と経験を発揮しながら、全部が僕の利益のためだと勝手に言えるように?最初は医学や生物学に集中してほしいと促すことで母と一致したが、このままで鞭打ち症にさせてしまった。
大学を卒業してからある夜に父と他愛のないお喋りを交わしながら、「代わりに物理学を専攻したとしたら、どうだろうなぁ」とのんびりと言い出したとたん、父に即座に却下された。目尻からちらっと見られた父の表情が陰ってきた。
「どうしたの?」
「知恵が足りないから、有意義な存在になれないんだ」と父がさりげなく答えた。
大学一年生だった僕は母に激しく嗜められたとき、背後から頷いていた父も口を揃えて同じことを言っていたんだ。ただ、母より静かで自惚れたかな。
「ずっと僕のことを見下してるの?」
「見下すなんてないよ。ただ、お前より俺の方にはもっと現実的に考える力量があるんだろう」と誇らしく言い切った。「何の物理学者でも考慮に入れたら、そんな天才にはお前が夢でも敵わないってこと」
「自分にはできそうだと思ったんだけど」
「そんなに優れていると自慢に思っているとしたら、なんで物理学の授業も受けたり俺が間違ってるのを証明したりしなかったのかい」と父は明らかに怒ってきて声を張り上げた。
声を震わせたのに勇気を奮い起こして「お父さんに自分の価値を���めてもらわなくてもいいよ」と僕は言い返したら、
面食らった父が僕を睨みながら「あんな図太いヤツを産んで育てたか」とぶつぶつ言った。
そう、僕は図太い。甘やかされて性格が歪んだのは母が言った通りに僕なんだ。拒否されてから就職活動に目を向けてみようと思うことにより、僕は両親の絶交の原因になった。僕にまた大学院に申し込むように言い聞かせてくれとすぐに父に促そうとしたが、拒否されるのを耐えることができなかった母は、拗ねてそれから無視することに決めた。父と僕だけの二人になってから父が相談を与えるように打って付けの機会だと思っていた。
「そんなろくでもない生物学の学士号でお前が就職活できないと何回も諭そうとしたのに、お母さんと違って、俺がはっきりとわかってきたのは、お前に何かをさせてくれるのが無駄骨を折るだけ。なんと言っても俺の警告に従わないから、この主観を理解できるようになるまで、お前が何目の面接にも落ち続けるのを傍観するしかない」と突き放すように吐き捨てた。
因果応報なのか。
「なんで本心では医者になりたくないの、お前。いつか結婚したり子供を育てたりしたいし、家族を養う必要があるんだろう?自分の将来についてもっとしっかり考えといて」
と言っても、僕がそもそもそんなことでさえ欲しかったと勝手に決め付けるのはいかにも図々しかった。
章2
両親の奨励に従って生物学に狙いをつけて学士号を得て済むだろうと思ってしまったため、単純に我慢しなければならないということではないか。なのに、なぜ夏休みや冬休みに実家に帰るごとに、僕が医者になれるという信念を裏つけるためにどんな証明を今まで溜めてきたか、と繰り返した母の尋問によほど毎朝に起こされたのか。何を答えようとしても、母の目つきで不満しかないと察して、言葉が変わるのにだいたい同じような愚かな質問の連発に耐えるしかなかった。
「先生がお前のことについてどう思うのかしら」
「順調だと思うよ。今のところ、一緒に話題や焦点を定めてから、独立で働かせてくれる上に、会議で他の人の前にうちの研究進展について発表してほしいと促してくれるし」
「ただ親切でそうしてただけじゃない。先生としてのお義理って言葉わかるの?お前ならおそらくわからないから、よく聞いてね」
「いや、もうわかったから、説明してくれる必要は別にないよ」
「黙れ」
この部分まで何回も経験したことがあるため、「言い争いになる前に、別々で五分間の休憩を取りましょうか?空気が澄んでから必ず再開しますよ…ね?」と言い聞かせようとしたが、母には納得できなかった。
かえってひっきりなしに説教をされ始めたら、ベッドから立ち上がって少しずつドアへ向かっていても、母に追いかけられた。トイレを使う必要がなくても、自分でいられる静かなところだと思ったため、廊下を隔てた浴室に入る羽目になった。��が、ドアを閉めようとして、取っ手をそっと押しながら、いきなりに抵抗の手応えを感じた瞬間、背筋がゾクゾクとした。ますますうるさくなる甲高い声を遮断するために、ドアに背中をつけてより強く押し付け返すしかなかった。カチッと閉まった音で一時的な息抜きを与えてもらったが、浴室に永遠に隠すのが無理だし、いつかドアをまた開けなければならないのをひどく意識した。しょうがなく気を張っておいた。
少なくとも、年を取るにつれて母も僕に対して手を上げるのが徐々にやんできた。今回こそ僕ではなくドアを押し付けていたんだ。このように鬱憤を晴らすのは僕の身の回り品に向けられ、趣味は交渉の対象として扱いされた。自分の意志で選んだのは当然にもっとも思い入れがあり、母もそれが良くわかっている。
楽器を練習する気がなかった日には、フルートを母に捕まえられた。母がどこかに持ち行くのを最初に目で追いたが、L型となるまでピアノの椅子を叩いていたのは僕にとって見かねたため、結局目を逸らしてしまった。修繕のために店に持っていったときにも、店員さんに「このガキが練習したくなかったから、あたしはピアノの椅子をフルートで叩いてしまったほどすごく腹立てしまったの。子供を育てるなんて大変だわ。十代の反抗期特にね〜」とニヤニヤと笑いながら呑気で説明するなんて図々しかった。なんで店員さんがそれに対してただ微笑を浮かべて、何も言わなかったんだろう。
ピアノを弾くのも大好きだが、高校での文学の授業や自分の創作に集中したくなればなるほどピアノの練習の時間も徐々少なくなってしまった。
突然に「今週ちゃんと練習したの?」と母に問いかけられた。
「練習した」
「嘘つくな、お前」
「じゃあ、練習が足りなかったと言ったらどう?」
「お前にはさすがだと言い返すよ」とニヤニヤと嘲笑った。「お前のレッスンのために高額の学費を払うのに、こんなふうに無駄になってしまうなんて残念だわ」
「前に言ったことがあるけど、そんなに残念であるならば、レッスンを止めさせてくれた方がいいかもしれないじゃない」
「間抜けなこと言うな。諦めたら、先生に落胆させるよ。おばさんやおじさんは、お前の才能を少しでももらったら、どれぐらい幸せになるのがさっぱりとわかってないじゃん。本当にもったいない…」
この会話をまるで毎週繰り返すように感じた。高校を卒業して大学のために引っ越さなければならないようになったら、ようやくレッスンを止めさせてもらったが、そのときまでにピアノにはもう嫌悪感を抱くようになってしまった。
矛盾だらけに囲まれる暗い世界での綱渡りだし、進むも地獄退くも地獄なんだ、という象徴になったからだ。
章3
また世界がぼろぼろ崩壊している感じがした。ベッドから立ち上がったら、圧力のこれっぽっちでも足元に床を陥落してしまう可能性を非合理的に怯えたため、朝に幕から染み込んで天井に反射された灰色��モノクロが、昼のギラギラで眩しすぎた日光にけばけばしい鬱金色に染まれ、最後にまた紺色から真っ黒に変身するのを傍観するしかなかった。好きな色は?光と闇の間に取り持つ紺色の濃さで、もっとも放心状態になってしまいやすいかな。ただ起床が困難になったというだけでいいって?
子供がベッドの下に待ち構える化け物を怯えるのと同じように、時間が経つにつれて結局卒業するんだろう。もう少し時間を… 疲れたから。
テレビで何も見なくても耳に響いていた雑音がますます酷くなってきた。とっくに誰かの声だというわけではなかったが、様々な声は誰なのかくっきりと認められるようになるたびに泣きたくなる。どうやってあなたたちもこんなところで道に迷ってしまったのか。また、僕には何用があるのか。やるべき事が手のつけられないように一山積み上げ、どれくらい藻搔いても窒息で殺されるまで圧倒的に僕を押し潰していくのは、ただ時間の問題だ。
雑音は、脳が寄生虫に食い荒らされているむず痒い感じがした。実際に責任の重さを背負わされ、みんなに落胆させてしまう恐怖に冒され、さっさと終わらせるために欠点を責められるのを待ち焦がれるかな。
気が紛れるために音楽を聴こうとしたのに、打ち消すどころか、乱雑を募らせてしまった。
本棚から一冊をやたら取ってページをパラパラめくりながら、アイスピックで耳から耳まで通り抜ける線を描こうと思い浮かんだが、おそらく長さが足りなくて無理だろう。髪の毛をかきむしりたい。ストレスに溜まりまくるときに自分の皮膚に爪を突き立てる癖があるが、普通に肌に残る紅色の月形の窪みが夜までに薄紅に褪せていくから、気がかりなんて別に必要がない。高校生だったときと同じように剃刀でいじろうか。肌にうっすらと見える血管をなぞったりするが、今回こそ決定的に圧力をかけたら、びびったせいでただ痒くなった前回と違って、無感覚以外の何かをやがて感じられるようになるのか。料理するのが好きな僕は調理道具を大切に扱ってきちんと手入れしていたが、最近、台所にしばらく居る気にもなれない。落ち込んでいるときに、食欲が減ってしまっただけではなく、好きなきのこと鶏肉のドリアを作ろうとすると、間違った太ももをうっかりと刺すのを怯えている。二年以上研修室に勤めてきて、治療法を開発している。今日はどんな麻酔を使おうか。ちゃんと眠らせるために。
. .
がたんと起き上がったとき、心臓がいつ胸から飛び出してもおかしくないほど動悸が激しくなり、枕がじっとりとしたのに気づいた。ぽたぽたと垂れた涙がやむ気配もなかった。
「悪夢だったけど、結局ただの夢だけだったね」と自分に慰めようとしたが、現実とそっくりと感じた。
「そもそもあたしのことを愛してるわけ?」と母に問いかけられた僕は、「もちろん」と言い切れずに「このくそばばあなんて誰も気にしないわぁ、みんなに迷惑ばかりかけてるし、って思ってるのね、お前」と言いがかりをつけられた。
「そんなことない!」と頑張って言い出そうとしたが、「よく嘘ついてるね。幼い頃からずっとそうだわ」と嘲笑われた。
「お前を育てることで、あたしはどこで油断してたの?あたしが能う限りに愛を注いで大切に育てても、お前はこんなことになってしまったのが、あたしに死にたくさせるの」
「そんなことしないで!お願い!」と僕は声がかれてしまうまで何回も叫び返したが、無駄だった。
朝には父に電話して母のことについて尋ねてみた。いつも通りに健康で元気だと聞くと、安堵感を感じた。成人の日を祝うために母と絶交した罪悪感にまだ冒されたようだ。
落ち着くために味噌汁をちびちび飲みながら、手にしたポカポカの温かさが全体的に身に染みてきた。水面に映し出した顔つきを見かけた瞬間、カウンセラーからの気遣いが頭の中で浮かび上がったが、耳に奥で響いていた母からの忠告ももつれ合い、歪んでしまった。味噌汁だけ飲んでは足りないのは当然だが、それ以上食べては誰にも愛されないブサイクのデブになるというのも、おもいがけずに筋の通ったことなんだ。母を喜ばせる限りに、僕はこんな愚かな規則や基準にさえひたすらに従おうとした。もう何年も経ったのに未だ同じような考え方が変わらず残っているのが、人は変わらないということをあっさりと証明するのではあるまいか。
変わらないどころか、受け継ぐ。目が母に、微笑みは父に似てる子もいるとしたら、僕の場合は癇癪が両親にそっくりなんだ。
傲慢と嫉妬を揃えたら憤怒が生み出される。年を取ったのに未だ自分の感情を整理することができないため、こんな重荷を子に背負わせる親がこんなに多くこの世に存在するのは本当に残念だ。伴侶が「衝動的、敏感、神経質、一徹短慮」などという愚痴を内緒で子にこぼすのはどんな教訓を与えてくれるのか?そう。自分が内部的にどう考えても、何よりも親の感情に同意して気の利いたことを言うことにより親を慰めて支援するのを最優先することができる。そうしたら、自分もとばっかりを食う確率が減るかもしれない。
だって、怒って鬱憤を晴らしても許されるのは親だけだった。「ねぇ、両親に八つ当たりをされたって知ってる?けど、なかなかなんとかなってきたよね、我々は」と言えるのは親限りに。子も「親にひどいことを言われたときもある」と言おうとすると「お前が恨みを抱いている権利も理由も必要もなんてないさ。世代間のトラウマをお前に引き継がないようにしてるから」と言われてしまう。
恨みを受け取ってばかりいるのは、吐き出せるところも与えてもらわず、背後に潜んでいる怒りに生じるとあっさりと納得させることができるが、正直なところで、恨みを別に抱いているわけではない。親が言った通りに、権利も理由も必要もない。絶え間なく恨みがましい言葉を受け取り続けない限りだという条件だが。
すでにちゃんと謝罪してたのにって?
一回だけ細かい何かを間違えた子を怒る親は、何回も駄々をこねて、物事を壊して、関係を絶って、勝手に中途半端に謝罪してから、何回も許される余裕があると思い込むなんて、もっとも可愛いよね。
. .
どう考えても、一人っ子として生まれたにかかわらず、末子のように注意され、まるで忘れられていた真ん中っ子かのように真剣に受け入れられず、長子のように期待を背負われた。
章4
千羽鶴と同じように、折り紙をしょっちゅうしていたが、折り鶴の代わりにちっちゃい蓮の花をいっぱい折って、揃えたら願いを叶えてもらえる代わりに死にたいと思ってしまった日を数えられるためだった。
その蓮の花が可愛いと、この上なく幸せに気づいていなかった親に言われるなんて皮肉なんだろう。
十九歳になってから、屋上まで登って、柵にもたれて立って、下を覗き込んだ。オレンジ色と紺色が混じる日没の空以外に何も見えなかった。束の間に目を瞑ってため息をついた。
もう悴んでしまったし、前向きに進んだら無痛で良いじゃないか、と思った。
自分の白い息が出ることに目を凝らして、このまま行き続けたら本当に逝ってしまうというのがわかった。だが、「今すぐ出かけないとバスを乗り遅れてしまう」と頭の中で声がぽつんと呟いた。
その日に学んだのは、死にたいわけではなかった。ただ、生きるとは、悶々とした日々を過ごすということだとしたら、生きたくはないのは当然だろう。
終章
僕は元々に、大切な両親に対して娘として不足していないと思い、幼い頃から仮面をかけさせられた。大人になるにつれ、引っ剥がしたくなったのは当然だろうが、強すぎた糊で貼り付けられた仮面を引っ剥がせば引っ剥がすほど、皮膚も剥いでいく。最後にはいかにもお化け物の顔しか残らない。
それでも、今までの大きな困難にかかわらず、現在の私はこのままで順調だろう。娘、女性、人間として。まだ生きているから。
ただ、その総称以外、私は心の奥底で本当に何者なのか。
〈次〉
0 notes
caliburnxe · 6 years ago
Photo
Tumblr media Tumblr media
191 notes · View notes
setteidreams · 4 years ago
Photo
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
Added settei for Yuusha ni Narenakatta Ore wa Shibushibu Shuushoku wo Ketsui Shimashita., scanned by Gamer101_123.
4 notes · View notes
sorairono-neko · 5 years ago
Text
I only have eyes for you.
 勇利がヴィクトルの存在になかなか慣れてくれず、話もかみ合わないうえ、ヴィクトルが余計なことを言ってしまったせいでしっくりいっていなかったふたりの仲は、海辺でゆっくりと語りあったあとから好転し、すこしずつではあるがなじんできた。勇利はヴィクトルの前でも自然に微笑を浮かべ���ようになり、さらに遠慮なく意見を述べるようになった。ヴィクトルはほっとし、それ以上にうれしかった。ヴィクトルは勇利を理解したかった。彼のことをもっと知って、もっと親しくなり、コーチとしてできるだけのことをしてあげたかった。ヤコフが自分にしてくれるみたいに。勇利とごく普通に話せるようになったことは、その第一歩だという気がしてヴィクトルは胸がはずんだ。 「フリーの曲、いいね。何回も聴いてるよ。でもまだ振付はかたちにならない。いろんな案が浮かんできて、ちょっと頭の中がとっちらかってるんだ。あふれすぎっていう感じさ。まとまるまでもうすこし待ってね。勇利も考えをふくらませてみて」 「うん。ぼくもあの曲は気に入ってるんだ。いままででいちばん好きかも。もちろんそのときそのときで、実際やってるプログラムに最高に情熱を傾けるから、本当はくらべられないんだけど。すごくいいものができるって、はっきりした予感があるんだ」 「音楽大学の女の子につくってもらったんだっけ?」 「そう。まだ音楽専門の職に就いてるわけじゃないんだけど、感性がよくて、何かひかるものがあるんだよね」  ヴィクトルは、一生懸命にブロッコリーやもやしを食べている勇利を眺めながらかすかにほほえんだ。 「……彼女?」 「えっ」  勇利は驚いて顔を上げ、それからそっぽを向いた。 「……ちがいます」 「本当にぃ?」  ふざけて言うと、きっとにらまれた。 「そういう話はいいから」  ヴィクトルは肩をすくめた。 「勇利はちょっと潔癖すぎるんじゃないかな。この手の話題になるとおおげさなほど照れたり怒ったりするけど」 「語るべきことが何もないからです。ヴィクトル、自分と同じように世界じゅうの男が女の人をはべらせてると思ってるんですか?」 「俺だってはべらせたことなんかない」 「したことがなくても、そうできる状況にある人とそれとは正反対の人間とじゃ、どうやったってこういう話は上手く進まないんです。以後、やめてください」  きっぱりと言われてしまった。「あぁ!?」とすごまれなかっただけましなのかもしれない。ヴィクトルは承服できかねた。勇利は自分をわかってないよ。そう言いたかったけれど、口にしたが最後、今度こそ「あぁ!?」と激怒されるかもしれないので控えておいた。さすがにもう無視はされないだろうけれど、あれはなかなかの威力と迫力があるのである。  勇利。きみは女性をはべらせたことはないかもしれない。でも、世界一もてる男は落としたことがあるんだよ。わかってるのかな。  勇利は機嫌を悪くしてしまったようで、以降、ヴィクトルがどれほど陽気に話しかけてもむっつりとした顔しかしてくれなかった。しかし翌日、悪かったと反省したのか、練習の前に赤い頬をして、「ゆうべはごめんなさい……」と謝った。そしてぴゅーっと氷の上に出ていってしまった。  そういうところがかわいいと思う。 「ジャンプの前、溜めすぎかな? もたついてる印象がある���もしれない。ヴィクトルどう思う?」 「そんなことはないよ。なめらかだし、いまのままでいい」 「そうかなあ。どうも遅いような気がするんだよね。あと、イーグルのところ、何回もヴィクトルに注意されてるけど……」  勇利は、リンクへ行くときも、その帰りも、スケートのことばかり話している。本当にスケートが好きなのだなと思う。ヴィクトルだってそういう性質だし、大切な話だし、楽しいのだけれど、もうちょっと個人的な会話もできないものだろうかとこのところずっと考えていた。そう、海辺で語りあったときのように、もっと勇利のことが知りたい。内面に踏みこみたい。勇利がゆるしたぶん以上に入りこむつもりはないが、それでも近頃、プログラムづくりに夢中になっているせいで、話すことが限られてしまっている。それ以外勇利の頭にないといった感じだ。悪いことではない。悪いことではないのだけれど、ヴィクトルとしてはもっと勇利のことを教えてもらいたいのだ。それがプログラムを創作する���えで役に立つこともある。なにより、単純に、勇利と仲よくなりたかった。勇利の私的な話や失敗談、スケート以外に感じていることなど、さまざまな感性を知りたい。ヴィクトルは、そのためにまず自分のことを話そうとするのだが、勇利はとにかくプログラムに熱中していて、矢継ぎ早にヴィクトルに質問をしたり意見を言ったりするので、そういうことを口に出す隙がみつからなかった。勇利がいかに美女やカツ丼になりきるかという問題を抱えているときに、紅茶を淹れたらものすごく苦いのができちゃって、なんていうたわいない話をして応じてもらえるとは思えない。ヴィクトルとしては、そういったちいさなことでも勇利について知りたいのだけれど。 「うーん……コレオのところさ……もうちょっと……、ヴィクトル、聞いてる?」 「聞いてるよ」  でもいま、勇利はスケートの話をしたいんだ。勇利が望むようにしよう。彼の希望を受け容れよう。ヴィクトルはこころぎめをして、勇利の言うことに耳を傾けることにした。 「ヴィクトル、あんたこれ読む?」  食事のあと、ひとりでテレビを眺めていると、真利に声をかけられてヴィクトルは首をもたげた。 「なんだい?」 「勇利の載ってる雑誌」 「勇利の!」  ヴィクトルは顔を輝かせた。 「あの子、わりとそういうの載るんだけど、それがいちばんページ数多いやつだから。特集されてるんだよね。勇利はあんたが載ってるやつは必死になって集めるけど、自分のにはまるで興味がないのよねえ。だから見向きもしないの」 「そんな、もったいない」 「日本語だから読めないだろうけど、あの子に訳してもらったら?」 「そうする。マリ、スパシーバ」  ヴィクトルはテレビを消すと二階へ駆け上がり、勇利の部屋へ飛びこんだ。 「勇利、これ、訳してくれ!」 「え? ……わっ、なにこれ」  勇利が赤くなったり青くなったりした。彼はしばらくじっくりと記事を読んでいたが、知られたくないことはなかったようで、「わかった」とこっくりうなずいた。恥ずかしい箇所があるならそこを飛ばして話せばよいと思うのだけれど、勇利はそういうことができない子なのだ。ヴィクトルにもすこしずつわかってきた。 「えっと、じゃあ座ってください」 「どこに?」 「その椅子にでも」  勇利はベッドに腰掛けている。椅子を引いてきて向かいあうのはおかしなことではない。しかしヴィクトルは勇利の隣に座った。 「あのさ……」  勇利はあきれた顔をしたが、すぐにくすっと笑った。彼がときおり見せる、ごく自然な微笑だ。ヴィクトルはこの笑顔が好きだった。 「じゃあ、訳すよ。言っておくけど何もおもしろいこと書いてないからね」  あらかじめ断り、勇利は記事の内容を話し始めた。最近はこういう練習をしているとか、あの試合のときはここがよくなかったのでこんなふうに考えたとか、悔しいと思ったときにはどういうことをしているかとか、一般的な、選手ならよく取材されることだった。ヴィクトルも似たような話を幾度も記者に語った。しかし、つまらないなどとはいっさい感じず、ヴィクトルは興味深く勇利の言うことに耳を傾けていた。 「……そんな感じ。ね、おもしろくないでしょ?」 「そんなことはないよ。勇利はそういう気持ちで試合をしてたんだね。これはいつごろ?」 「いつかなあ……」  本当に自分の記事には関心がないらしい。勇利はぱらぱらとページをめくり、衣装姿の彼の写真が出てきたところで手を止めた。 「ああ……、シニア二年目とかのあたりじゃないかな」 「ということは三年前?」 「それくらいだね」 「……いまとぜんぜん変わらないじゃないか」  ヴィクトルはまじまじと写真を見た。 「そりゃあ、大人になったら三年くらいじゃ変わらないんじゃない?」  勇利は気にしていないようである。 「ヴィクトルだって、二十四歳のときといま、変化ないでしょ?」 「でも、この前マーマに勇利のジュニア時代の映像を見せてもらったけど、それもいまと同じだったよ」 「そんなわけないだろ! なにわけわかんないこと言ってるんだよ」  ヴィクトルはちらと勇利を見た。勇利は怒った顔をしているけれど、口元がほころんでいる。ヴィクトルって変なひと、とでも思っているのだろう。ヴィクトルはうれしくなった。 「綺麗な衣装だね。でも俺ならもっと華やかにするな」 「そりゃあヴィクトルはきらびやかなのが似合うから」 「そうじゃない。俺がコーチならっていう意味。もっときらきらさせたい」 「きらきらってねえ……。じつは、最初はもうちょっとちがう色だったんだ。派手なね。コーチがそうしたほうがいいって。でも、連盟の人が似合ってないんじゃないかって言って変更になったんだ」 「無視すればよかったのに」 「ヴィクトルじゃないんだから」 「あれ? 俺が連盟の意見を採り入れたことが一度もないってなんで知ってる?」 「一度もないの? ほんとに?」  勇利が目をきらきらさせながら身を乗り出し、ヴィクトルに笑いかけた。無邪気でかわいらしい、すてきな勇利だった。ヴィクトルは急に胸がどきどきし、気持ちが高揚した。いま、すごく勇利と俺、いい雰囲気だ、と思った。 「だって彼ら、いつもダサいことしか言わないんだ。言う通りにしていたら俺のプログラムが台無しになる」 「それにしたって。怒られないの?」 「さあ、怒ってたかもね。知らないな」 「知らない?」  勇利はますます楽しそうに笑った。 「知らないんだ。ヴィクトル、すごい」 「何か言ってたかもしれないけどおぼえてないよ」 「ヴィクトルって本当に自由なんだね。インタビュー記事読んでてもなんとなく伝わってくるものはあったけど、想像以上だ」  勇利はヴィクトルに顔を近づけて言った。 「でもぼく、そういうヴィクトル好きだよ」  ヴィクトルはすっ��り興奮し、うれしくなった。 「ねえ勇利」  勢いこんで勇利をみつめ、提案する。 「今度一緒に食事に行かないか」 「え?」 「ふたりでさ。行ったことないだろう? もっといろいろ話そうよ。練習のときも、家でもおしゃべりしてるけど、私的な時間を持てば別の話もできると思うんだ。もちろん勇利がいやじゃなければだけど、どうかな? そうだ、明日、休みだよね? 昼でも夜でもいいけど、勇利の都合さえよければ──」 「あ、あの……」  勇利が顔からさっと笑みを消し、うつむいた。ヴィクトルは、しまった、踏みこみすぎただろうか、とうろたえた。どうしよう。 「ごめん勇利、先走ったかな。迷惑だったなら──」 「そうじゃないんだけど」  勇利は下を向いたまま口早に言った。 「明日は取材を受けることになってて……」 「そうなのかい?」  知らなかった。初耳だ。 「地元のちいさな情報誌だから、そんな大がかりなことじゃないんだけど。でも一日かかると思うから……」  そうだ。勇利は長谷津でとても慕われているスケーターなのだ。そういう仕事もあるだろう。もちろんだ。 「そうか。それなら仕方ないね」  ヴィクトルは明るく言った。 「取材に応じるのは大事だよ。ファンの人にいろいろなことを伝えられるからね」 「う、うん……」 「じゃあ、明日はやめておこう」 「ごめんなさい」  勇利はしゅんとしてしおらしく謝った。 「なんで謝る? 勇利は悪くないだろ? それより、その情報誌、俺も見られるのかな? 楽しみだね」 「あ、できたら送ってくれると思う……」 「そうか。そのときはまた勇利に訳してもらわなくちゃ」  ヴィクトルはずっとにこにこしていた。しかし、内心はちっともそんな気分ではなかった。断られたことが衝撃で、思った以上にがっかりしていた。ヴィクトルは、勇利と一緒に出掛けられるものときめてかかっていたのだ。 「あ、もう遅いね。寝る?」 「そうだね。そろそろ……」 「じゃあ俺は部屋へ戻るよ。おやすみ」 「おやすみなさい……」  勇利と話した時間はとても楽しかった。しかし、愉快だったぶん、誘いが上手くいかず、食事に行くことができないという結果が、ひどく重苦しく感じられた。  だったらその次の休みはと尋ねればよいのだけれど、ヴィクトルはそうすることができなかった。また断られるかもしれないという疑念がわいたからである。ならば、ではまたその次と陽気に言える性質のヴィクトルなのに、なぜだかためらいがあった。勇利は結局、ヴィクトルと食事になんて行きたくないのかもしれない。用事がなかったとしても断ったのかもしれない。ヴィクトルの提案を聞いて、仕事があるのを幸いに思い、喜んでかぶりを振ったのかもしれない。そんなはずはないとわかっているのだが、どうも勇利はよくわからないたちをしているので疑いは尽きなかった。  もしいまの勇利が、ソチでのバンケットのときの彼のようにほがらかで親しみ深かったら、ヴィクトルもこんな気持ちにはならなかっただろう。しかし、長谷津にいる勇利はあんなふうに甘えるようにヴィクトルに笑いかけたりはしないし、何かして欲しいと求めることもない。酔っていない正気の彼は、まったく正常で真摯なのだ。  だがヴィクトルは、いまの勇利をつまらないとは思わなかった。かえって神秘的で不可解な、おもしろみのある、魅力のある青年だと感じた。酔うと変身するというひ��つを隠し持っているのに、普段はまったくとりすましているのだ。ますます興味がわいて当たり前ではないか。いつかまた、あのにぎやかな面があらわれることがあるのだろうか?  そんな勇利をもっと知りたいと思うのに、「デート」の誘いは断られてしまった。もう一度気軽に誘えないのは、きっと、ひどく落胆したからだ。また同じように拒絶されたらさびしいとこころのうちで身構えているのかもしれない。自分の生徒を食事に誘うのに何を緊張する必要があるんだ、ヤコフなんか平気で俺を連れ歩いてくれた、と思いはするのだけど、なかなか決心がつかない。勇利は俺とはちがうからな、とヴィクトルは考えた。俺だって、俺みたいに取り扱いやすい教え子ならもっと……。しかし勇利はかわいらしい生徒だ。ヴィクトルは彼のことで頭がいっぱいである。  なんとなく気まずくて、家ではあまり話せなかった。練習中や行き帰りは、相変わらずスケートの話ばかりしている。そのときの勇利は熱心で、まじめで、ヴィクトルによく質問をする。貴方が苦手だから食事はお断りしました、という気配はいっさい感じられない。いまなら誘えば了承するのではないかとよくヴィクトルは思う。だが、やはり迷いがあり、ヴィクトルはしばらく食事の話はよしておいた。そのうちよい機会がみつかるだろう。そもそも、そういうことをしなくても、もうしばらくもすれば勇利はもっとヴィクトルになじみ、さらに仲よくなれるかもしれない。どんなことでも言いあえるふたりに……。  ヴィクトルは余裕があるときはひとり出歩き、あちこちのおいしい食べ物に舌鼓を打った。日本の食べ物はもとから好きで、遠征などでこちらへ来たときは楽しんでいた。もちろん試合のおりなので好き勝手に食べることはできなかったから、いつか私的なときに日本を訪れたら、思う存分食べたいものを食べようと思っていたのだ。  その日もヴィクトルは、翌日が休みだということで気をゆるめ、外で食事を済ませて遅くに戻った。そしてそのまま昼近くまで眠り、休日はのんびりと本を読んだりテレビを見たり散歩をしたりして過ごした。勇利はどこかへ行ったのか、それとも部屋に閉じこもっているのか、顔を合わせなかった。  夜になり、知り合いのSNSを巡回しようとして、ヴィクトルはふと気がついた。昨日から、ずっと携帯電話の電源を切っていた。  このところ、またヤコフの心配性が顔を出したようで、彼からの連絡が多いのだ。どうせ説教しかされないのでヴィクトルは適当に言い訳をして早々に電話を切っていた。おまけに、スケート連盟のほうも何かと小言を言ってくる。ヴィクトルが電話をいやがるものだから、どちらもメッセージまで送りつけてくる始末だ。昨日も溜まったメッセージに嫌気が差し、確認もしないまま電源を落としてしまったのだった。  ヤコフも連盟も怒り狂っているかもしれない。ヴィクトルはメッセージを確かめてみた。もちろん電話もかかってきている。しかしそんなことはどうでもいい。どうせ同じことしか言わないのだ。 「来てる来てる」  ヴィクトルはろくに読みもせず、ざっと視線を走らせるだけで無視した。何を言ってもいまさらだ。俺はここで勇利のコーチをするんだから……。 「あれ……?」  ふとヴィクトルの手が止まった。ヤコフと連盟以外から連絡が来ている。勇利からのメールだ。 「えっ」  ベッドに横たわっていたヴィクトルは勢いよく起き上がった。急に心配になる。何か緊急の用事があったのだろうか? 日付は昨日、時刻は夜である。ヴィクトルが飲み歩いているころだ。 『ヴィクトル、この前は誘ってくれてどうもありがとう。とてもうれしかったです。断ってしまってごめんなさい。せっかくヴィクトルが誘ってくれたのに、本当に申し訳なかったと思います。  それで、こんなことを言っていいか迷ったのですが……。よかったら、明日食事に行きませんか? 時間はいつでも構いません。昼でも夜でも。  でも、ヴィクトルはもうそんな気はないかもしれないし、もしかしたら��惑かもしれないので、その場合は返事をくださらなくてもけっこうです。ぼくのことは気にしないでください。ちゃんとわきまえて、もうこんなこと、言ったりしませんから。  それでは。ご了承いただけるときはいつでも声をかけてください』  ヴィクトルは携帯電話を取り落とした。誘ってくれていた。勇利が。食事に。あのときの埋め合わせをしようと努力してくれていた。なのにヴィクトルは……。  ヴィクトルは青ざめた。断る場合は返事をしなくていいと勇利は述べている。ヴィクトルはメールに気づかず、勇利に何も言わなかった。つまりいまの彼は、ヴィクトルはもう二度と勇利と食事に行きたくないという気持ちだ、と考えているのだ。冗談ではない。そんなこと……。 「勇利!」  ヴィクトルは大慌てで部屋を飛び出し、勇利の私室に飛びこんだ。 「ごめん、勇利!」 「なに? どうしたの?」  コンピュータに向かって何かしていた勇利は、不思議そうにヴィクトルを見た。 「ごめん、気がつかなかったんだ。いま見た」 「何を?」 「メール。メールだよ!」 「ああ……」  勇利がほほえんだ。 「いいんだよ。気にしないで」  ヴィクトルはさらにうろたえた。この「気にしないで」は「メールに気づかなかったことなんて気にしないで」ではなく、「食事を断ったことは気にしないで」という意味だ。おそらく。 「本当なんだ。本当なんだ」  ヴィクトルはくり返した。 「本当に気づかなかったんだ」 「いいんだよ。ぶしつけなことを言ってごめん。大丈夫」 「いや、ちがう、だから……」 「気が変わるなんてよくあることだよ。なんとも思ってないから」 「勇利、俺は、本当に……」 「うん」  だめだ。勇利は、「ヴィクトルは気を遣って気づかなかったことにしている」と断定している。日々の練習で彼の頑固さをのみこみつつあるヴィクトルは、この気持ちはくつがえせそうにないということがわかった。 「行こう。次の休みに行こう」  ヴィクトルは言った。必死だった。 「必ず行こう。絶対に行こう」 「やめとく」 「なんで!?」 「ぼく、外食ってあまり得意じゃないんだ。だから……。ヴィクトル、どうもありがとう」  口ぶりもほほえみも優しいけれど、勇利からは絶対的な拒絶が感じられた。 「勇利……」 「べつに、食事なんて家でいくらでも一緒にできるしね」  勇利はあっさり言って、この問題に決着をつけてしまった。  最悪だ……。ヴィクトルは深い溜息をついた。どうしてこういうことが起こるのだ。勇利と付き合うのは本当に難しい。もっとも、責任は自分にあるのだけれど。  ヴィクトルは、前よりも勇利とのあいだにへだたりが生じたような気がしてならなかった。勇利は、練習中はいつも通りの態度なのだが、それ以外では以前より話さなくなったし、笑顔もあまり見ていないように思える。気のせいだろうか? ヴィクトルは気持ちが重かった。どうしてこう上手くいかないのだ。勇利のことを知りたいだけなのに。 「マリ……」  ヴィクトルは縁側に座り、庭を眺めながらぼんやりと言った。 「勇利って難しいね……」 「いまごろ気づいたの?」  ヴィクトルに水菓子を運んできた彼女は、可笑しそうに口をひらいて笑った。 「あんたたちって、同じ試合に出ることもあったでしょ? 話したことなかったの? ──まあ、ないか。ないわよねえ」 「なんでわかる? 勇利がそう言ってた?」 「勇利はもともと連絡なんかほとんど寄越さないし、あんたの話もしなかったわよ。あの子の性格からいって無理だろうなと思っただけ。あんたのことは昔からめちゃくちゃ好きだったけどね。だからこそっていうのかな」 「めちゃくちゃ好き……」  本当にそうだろうか。いや、その気持ちにうそはないだろう。バンケットのときに抱きついてきた勇利はきらきらと輝く目を持っており、ヴィクトルを愛情いっぱいにみつめ、甘ったるくコーチになってとねだった。あのとき、勇利はまぎれもなくヴィクトルを愛していた。しかし……。  思ってたのとちがう。  いまごろはそう考えてがっかりしているかもしれない。だとしたら……。 「マリ、俺ね、自分がいつでもいちばんだと思ってるんだ……」 「でしょうね」 「自信満々で、不安になることなんてなかった」 「そういう感じ」 「でも……」  ヴィクトルはふっと息をついた。 「勇利といると、ときどき、妙な憂鬱を感じるんだよ。なんてままならないんだろうってね。ものすごく苦労するし、どうすればいいんだろうって悩む。勇利って不思議な子だね」 「私に言えることは、何があろうとあの子はあんたが大好きだってことよ」  仲よくなった書店の店長に頼まれて、ヴィクトルはサイン会をひらくことになった。商店街の書店だから町の者しか利用しないし、ヴィクトルは道で会えば気軽にサインでも握手でも応じるので、さほど混雑はしないだろうという見込みだった。だがそれでもかなりの人数が連なり、ヴィクトルは店の片隅で、朝から笑顔を振りまいていた。日本語で話す者もいるけれど、ヴィクトルに伝わるようにと言うべき英語をおぼえこんできたファンが多かった。がんばってください、応援しています、という言葉に交じり、勇利くんのことよろしくお願いします、と親身になっている女性もいて、ヴィクトルは、勇利はやっぱり愛されてるな、とうれしくなった。  色紙を持ってくる人もいるが、たいていヴィクトルの写真集を差し出してくる。家から持参してもいいし、書店で買ってもよいという規則である。ヴィクトルは指定された場所にサインを入れ、相手の名前を書き、望まれれば握手をする、ということを長いあいだくり返していた。そして──。 「どうぞ」  ヴィクトルがうながすと、緊張しきった顔をした男の子──いや、青年がおずおずと進み出た。ヴィクトルは目をまるくした。 「写真集でいいの?」  驚いたにもかかわらず、自然に、すべき対応をしてしまった。青年はこっくりうなずいた。彼は脇に書店の袋を挟んでいた。新しく買ったのだ。これは持っているはずなのに。 「名前は?」 「ゆ、ゆ、ゆゆ、ユーリ……か、かつ、カツキ」 「オーケィ。勇利ね」  ヴィクトルは笑いながらさらさらとサインを書き、勇利の名前を入れた。勇利は眼鏡をかけ、マスクをして、まっかな頬だった。 「はい、どうぞ」 「あ、ああ、あ、あり、あり、あり、ありが、と、とうござ、ござ……」  勇利��後ろの女の子たちが、「勇利くんがんばって!」と応援していた。日本語だが、「がんばって」くらいはヴィクトルにもわかる。 「握手は?」  ヴィクトルは優しく尋ねた。 「お、おおおおおおね、おねが……」 「はい」  ヴィクトルは立ち上がり、ぎゅっと勇利の手を握った。勇利の頬がさらに赤くなった。 「あ、あのっ、あの、び、びくとる……」 「なんだい?」 「ぼ、ぼく、ぼく、ぼくは、ぼくぼくぼくっ……」 「落ち着いて」 「勇利くんがんば!」 「あ、あなたの、あなた、あなたの、ふぁ、ふぁ、ふぁ……」 「うん」  ヴィクトルはじっと勇利をみつめた。勇利は一生懸命にヴィクトルを見上げ、泣きそうな、訴えかけるような目をしていた。 「ずっと前から大好きです!」  勇利が叫んだ。ヴィクトルは瞬いた。後ろの女の子たちが、「やった!」と歓声を上げた。 「ありがとうございました!」  勇利はぺこりと頭を下げると、ものすごい勢いで駆け去っていった。ヴィクトルはぼうぜんと見送った。残された女の子たちが、「よかったぁ」と感激していた。 「勇利くん、がんばったね……」  翌日のヴィクトルは、あんなことがあったのでは、今日は練習にならないのではないかと心配していた。久しぶりにヴィクトルのファンになりきった勇利はめろめろで、その気持ちがあふれ出てしまうのではないかと思ったのだ。しかしそれは悪いことではあるまい。練習は大切だが、そればかりに明け暮れていては疲れてしまう。もちろん休みはあるけれど、精神の休息も必要だ。勇利はまじめな選手で、いつだって頭の中はスケートでいっぱいで、ヴィクトルともその話しかせず、息抜きをすることはあるのだろうかと気にしてしまうほどだったので、もし昨日の気持ちがまだ続いているようなら、それにはおおらかに対応しよう、彼が望むならもっと喜ぶことだってしてあげようとヴィクトルは思っていた。 「おはようございます」  しかし、リンクで会った勇利はいつも通りすっきりとした顔をしており、ぴんと背筋が伸びていた。 「今日もよろしくおねがいします」 「……うん。じゃあまず基礎からね。一緒に」 「はい」  勇利は見事に気持ちを切り替えていた。ヴィクトルは感心した。昨日の勇利と同じ人物だとは思えない。勇利は自分に厳しく、ヴィクトルにもっともっととジャンプを求め、何か足りないところはないか、これでじゅうぶんなのかと貪欲に稽古に努め、相変わらずヴィクトルが注意したくなるほど練習に没頭した。ヴィクトルは、勇利は芯からのスケーターなのだなと思った。なんてしっかりした、立派な選手なのだろう。氷の上に立っているときの凛とした勇利の姿がヴィクトルは好きなのだ。しかし同時に、もう俺のことはどうでもいいのかな、ひどいなあ、と冗談のように考え、そんな自分に笑ってしまった。  その夜、一緒に温泉に入ろうと誘うため勇利の部屋をおとなったヴィクトルは、机に向かった勇利が、うれしそうにヴィクトルのサイン入り写真集を持ち、腕をいっぱいに伸ばしてそれをにこにこと眺めているのを目撃した。 「勇利」  勇利がヴィクトルのほうを向いた。机の上には、同じ写真集がのっていた。やはりもう一冊買ったのだとヴィクトルは思った。 「サインもらった」  勇利ははしゃいでヴィクトルに報告した。ヴィクトルはうなずいた。 「うれしい」 「そうか」  もしかしたらそれは、勇利が初めて自分からヴィクトルに話したスケート以外のことかもしれなかった。聞いてヴィクトル、ぼくこのひとのファンなんだ。サインもらった。すごくうれしい。勇利のこころの中がどうなっているのかヴィクトルにはうかがい知ることはできないけれど、いまの勇利は、ヴィクトルに対してファン心理を抱いているというより、自分の好きな相手を打ち明けるほどに親しみを感じているようだった。おそらく、ヴィクトルを選手ではなくコーチとして見て、信頼をおぼえているのだろう。朝からの態度はずっとそうだった。好きな選手だとはしゃぐ気持ちより、このひとはぼくのコーチ、なんでも教えてくれるひと、という心構えがあったにちがいない。だがそれは勇利のヴィクトルへの好意が増えたり減ったりするという意味ではないはずだ。いまのヴィクトルは、勇利が安心して話せる、大切な相手なのである。「ずっと前から大好きです」と勇利は言った。それは、この瞬間も感じている想いなのだろう。あらわし方がちがうだけだ。勇利の瞳を見ればわかる。彼の目はヴィクトルに向くとき、いつでもきらきらと輝いて、ヴィクトルを求めている。  ヴィクトルはほほえんだ。 「ほかにして欲しいことがあったらしてあげるよ」  ヴィクトルは、朝に思っていたことを口にしてみた。勇利はふるふるとかぶりを振った。 「いまの俺には興味がない?」  ヴィクトルがからかうと、勇利はもう一度首を振った。 「一気にいろいろしてもらうと、許容量を超えるから」 「確かに。昨日の勇利はおもしろかった」 「言わないでよ」 「勇利」  ヴィクトルはごく自然に切り出した。この子はずっと俺が好きなんだ、この瞬間も、感情の出方がちがうだけで、昨日見せてくれたのと同じだけの愛情を俺に向けてくれているんだ。そう思うとヴィクトルは気持ちがやすらいだ。 「この前はごめん。あれは断ったつもりじゃなくて、本当にメールに気がつかなかったんだ。ヤコフや連盟がうるさいから電源を切ってたいた。言い訳だけどね。気がつかなくて本当に悪かったと思ってるよ。それに、勇利が誘ってくれて、とてもうれしかったんだ」  ヴィクトルは勇利の顔をのぞきこみ、ゆっくりとささやいた。勇利が瞬いてヴィクトルを見た。 「なのにそれを自分が断ったふうになってしまって、とてもがっかりしたよ。落ちこんだ」  おおげさに溜息をつくと、勇利がふと笑った。 「落ちこんだ? ヴィクトルが?」 「俺だって落ちこむことくらいある。最初勇利に誘いを拒絶されたときもしょんぼりしてたんだぞ」 「あれは拒絶っていうか……」 「いいさ。わかってる。だからいま改めて誘いたいんだけど」  ヴィクトルは熱心に言った。 「次の休み、俺と食事に行かないか。勇利と行きたい」  勇利はまっすぐにヴィクトルを見、すこし考え、それからかすかに笑ってうなずいた。 「いいよ」  かるい、さらりとした返事だったが、ヴィクトルはひどくうれしくなった。この約束をとりつけるのに、相当な苦労をしたような気がした。 「楽しみにしてる」  おそらくは社交辞令で勇利はそう言ったのだろうに、そのひとことにさえヴィクトルは喜んだ。やっと勇利と食事に行けるぞ、と彼は浮かれはしゃいだ。  ヴィクトルは意気揚々と自室へ戻った。しかし、気持ちが鎮まると、いったいどこへ連れてゆけばよいのかと不安になってきた。正装するような高級な店では勇利は戸惑うにちがいない。だが、���ィクトルが近頃開拓したような、にぎやかな居酒屋やラーメン屋ではゆっくり話ができない。高級店と居酒屋のあいだくらいの落ち着いたレストラン……いや、それでも勇利は緊張するだろうか……ではファミリーレストラン……ジャンクフードの店はあまりよくないか……。  ヴィクトルはわからなくなってしまった。どうしよう。勇利はどういうところへ連れてゆけば喜んでくれるのか。もっと親密になるにはどんな店がよいか。場所など関係ないともいえるが、いや、環境が大事だ、という気持ちもある。勇利だって、舌を噛みそうな名前の料理が出てくる店では、安心して自分をさらけ出した会話���どできないだろう。勇利が勇利のままでいられる……彼が話しやすくなる……そんな……。 「ヴィクトル、あの、食事のことだけど」  もうすぐ約束の日だ、早くきめないと、と悩んでいると、練習のあと、勇利が思い出したように言い出した。 「行く店はきめてあるの?」  まさに心配ごとについて指摘され、ヴィクトルは動揺しながらも、「考えてるところなんだ」と正直に話した。 「もしよかったらぼくの行きたい場所があるんだけど……」 「そうなのかい?」  勇利に希望があるならそれがいちばんよい。ヴィクトルはうなずいた。 「どこ?」 「あの……」  勇利がためらった。ヴィクトルは笑いながらうながした。 「勇利の行きつけの店?」 「ぼくそういうところはないから……。ただ、前からおいでって言われてて」 「店の人と知り合いなの?」 「知り合いは知り合いだけど、店じゃないんだ」  ヴィクトルはきょとんとした。どういう意味だろう? 「あと、ヴィクトルもその人とは知り合いだよ」 「なに? だれ? ラーメン屋?」 「それ、店じゃん」  勇利が笑った。彼はいたずらっぽく言った。 「ミナコ先生のうち」 「えっ」 「前から、ヴィクトル連れて一度遊びに来なさいって言われてたんだよね。ごはん食べさせてくれるって」  なるほど、そういうことか。確かに「店」ではない。勇利に積極的に行きたい店があったらすこし意外だという気がしていたのだ。ヴィクトルは可笑しくなった。 「ミナコ先生はよくうちに来るけど、そこじゃそう話もできないし。といってもぼくはあんまり話すことないけど……ミナコ先生はいろいろ聞きたいんだと思う。あと、ぼくほどじゃないけど、ヴィクトルのこと好きだし」  さらりと愛の告白などをする勇利は、そのことに気がついていないようだ。 「だからヴィクトルがよかったらだけど、ミナコ先生の家に一緒に行ってくれないかなって。どう?」  ヴィクトルはほほえんだ。それじゃ俺の計画は達成できないな、と思った。まったく勇利は困った子だよ。どうしても俺を手こずらせるんだから。本当におもしろい。 「もちろん構わないよ。ふたりで行こう」  ヴィクトルはうなずいた。  ミナコは料理じょうずだった。ヴィクトルは素直に褒め、ミナコは得意げに胸を張った。 「食事は身体づくりに大きく影響するからね。まあいまさらあんたに言うまでもないけど。勇利はときどきそれを忘れるわ。この子の場合、体質もあるからかわいそうだけれどね。ちいさなころは練習のあと、よくうちへ寄らせてごはんを食べさせたものよ。この子の食事には気を遣ったわ。なつかしい」  ミナコは勇利の昔話をたくさんしてくれた。にぎやかな勇利の家ではなかなかしないような話もあった。ヴィクトルは慎んでそれを聞き、勇利をからかっては笑った。勇利が赤くなって「ミナコ先生、ぼくの話はもういいから……」と注意を与えるほどだった。 「なに言ってんの。気難しいあんたをヴィクトルにもっと知ってもらうために呼んだのよ」 「気難しくないよ。普通だよ」 「いや、気難しいよ。勇利、わかってなかったの?」  ヴィクトルが口を挟むと、 「どこが? どこが?」  勇利は不満そうにした。 「言っていいの?」 「えっ、なんかこわいな……ぼくそんなにおかしい……?」  食後は勇利の母に持たされたプリンをデザートにし、三人はすこし遅くまで語りあった。もっぱらしゃべっているのはミナコで、勇利はとにかく黙って欲しそうにしていた。ヴィクトルはそれをほほえましく見守った。当初の予定とはちがったけれど、ヴィクトルは楽しい時間を過ごし、そのまま愉快な気持ちで帰途についた。 「楽しかったね」  帰り道でヴィクトルは笑いながら言った。 「うん」 「ミナコ、また来てねって言ってくれたね」 「うん」 「ミナコはちいさなころから勇利のことをよく見てきたんだね」 「うん」 「勇利のこといろいろ知ってたね」 「うん」  勇利はうつむいて足元ばかりみつめていた。ほろ酔いのヴィクトルは、そんな彼の後ろからのんびりついていった。ヴィクトルが話すのをやめると、勇利はしばらく黙りこみ、そのうち「ヴィクトル」と呼んだ。 「なんだい?」 「あのさ、フリーなんだけど」  唐突な発言だった。ヴィクトルはすこし驚いた。 「全体を通してるときにまだ違和感があるっていうか、上手くジャンプに入れないところがあって、そのことをちょっと気にしてて、慣れの問題なのかなって思ったり、あと、サルコウがはまるときとはまらないときとで、何がちがうのかいまだにわからなくて、それ……」  勇利はスケートの話をし続けた。ヴィクトルは星空を見上げながら耳を傾けていた。そうか、勇利。そんなことを気にしてたのか。大丈夫だよ。ちゃんと聞くから。俺も考えるから。……ただし、練習のときにね。  星が綺麗だと思った。ちょうど何かを望んだときの勇利の瞳に似ている。勇利の黒い大きな瞳は、神秘的で、魅惑的で、ヴィクトルを惹きつけてやまないのである。 「勇利」 「だからもうちょっとジャンプの練習時間を……なに?」 「また食事に行こうね」  ヴィクトルはほほえんで言った。 「う、うん」  勇利は不思議そうに、あるいは戸惑ったようにうなずいた。 「今度はふたりきりで」 「え?」 「俺と勇利だけで」 「…………」  勇利が困った顔をした。ヴィクトルはまた微笑した。 「言っておくけど、今日は楽しかったよ。いろいろ勇利のことを知ることができた。勇利はミナコのところでもいいかと訊いてくれたし、俺も了承した。楽しめると思ったからだ。またこうして三人で会いたい。俺自身、望んでいる。でもそれとは別に、勇利はなぜ俺が勇利を食事に誘ったか、わかってる?」 「…………」 「勇利のことが知りたいからだよ」  ヴィクトルはにっこりした。 「ミナコから聞くのもいい。ユーコやタケシもいろいろなことを教えてくれる。勇利の家族だって。でも俺は、勇利の口から直接語られる勇利の物語を知りたいんだ」 「…………」  勇利はうつむき、困ったように眉を下げた。 「勇利」  ヴィクトルは勇利の隣に並んだ。 「どうしてスケートの話しかしないんだ?」 「…………」 「俺もスケートは大好きだよ。楽しい。ずっとだって語っていられる。でも勇利とは、別の話もしたいんだ」 「…………」 「俺とはスケートの話以外したくない? コーチとはそういうことしか話しあいたくない?」 「……そんなことないよ」  勇利はぽつんとつぶやくように言った。 「ミナコといるときは、ごく普通の会話もしてたよね。普段、家でもそうだ。でも俺とふたりきりになると、勇利はスケートのことしか口にしない。俺は怒ってるんじゃない。ただ不思議なんだ。どうして? 俺の顔を見ると、スケートのことが思い浮かぶのかな?」  ヴィクトルがおどけて言うと、勇利はしばらく黙りこみ、ちいさく、「ごめん……」と謝った。 「怒ってるんじゃないと言っただろう? いいんだよ。俺だって、無理やり勇利をしゃべらせたいわけじゃない。でも、俺としては、勇利とはいろんな話をしたいなあと思うんだ。いやならこころの中は話さなくてもいいよ。もっとくだらない、どうでもいいような、必要じゃないようなことも言いあえたらなって考えてるんだよ。そういうの、困るかい? 迷惑だったら言ってくれ」 「……迷惑なんかじゃない」  勇利はうつむいたままぼそぼそと言った。 「ただ……」 「ただ?」  勇利はようやく顔を上げた。彼はせつなそうに、胸に手を当ててヴィクトルをみつめた。ヴィクトルはどきっとした。なんて目をするのだ……。 「ヴィクトルとふたりだと、何を話したらいいのかわからないんだ……」 「え?」 「どうしたらいいかわからないんだ。ぼく、いつも困って……だから……」 「…………」 「……スケートの話ならおかしくないから」  勇利はあえぐようにかすかに息をつき、目を伏せた。 「それなら言うことも思い浮かぶし。でも……それ以外となると……ぼく……何を言えばいいのか……」  ヴィクトルはさらに胸がどきどきした。うれしいのか興奮しているのかわからない。 「勇利、それは、俺が苦手だからとかそういうこと?」 「そうじゃなくて……」  勇利の声がどんどんちいさくなる。 「ただ……ぼくは……ヴィクトルといると……なんか……なんていうか……」  勇利はささやいた。 「……困るんだよ……」  ヴィクトルには勇利の言っていることがよくわからなかった。けれど、勇利がそんなふうに感じるのは、悪い感情があるからではなく、かえって正反対の、もっとよい何かがあるからだということはわかった。 「そうか。俺とふたりだと、何を言えばいいかわからないか」  ヴィクトルはうきうきしながらうなずいた。 「なんでもいいんだよ」 「なんでもいいって言われても……」 「勇利の思ってること、思ってないこと。腹が立ったこと、目に映った景色。何かをしていて、あるいは何かを眺めていて思い出したこと。なんでもいい。たとえばいまは何を考えてる?」 「何って……、なんでぼくはヴィクトルとこんなところでこんな会話をしてるんだろうって……困ったなって……早く家に帰りたいし、ヴィクトルに黙ってもらいたいって……」  ヴィクトルは噴き出した。「貴方といると何を話したらいいのかわからない」とかわいいことを言っているのに、「黙ってもらいたい」なんていうことも思っているのだ。しかし、勇利の中ではきちんとつながっているのだろう。勇利って本当に愉快な子だ。 「そういうことだよ」  ヴィクトルはそっと勇利の手を取った。勇利がびくっとふるえた。 「そういうこと、全部話してくれ」  ヴィクトルは勇利の目をのぞきこんだ。 「海辺で、勇利は大切な話をしてくれたね。あんなふうに重要なことばかりじゃなくていい。どうでもいいことも教えてくれ。俺は知りたいんだ」 「どうでもいいこと……」 「勇利にとってはどうでもよくても、俺にはちがうんだ。俺にとって、勇利のことでどうでもいいことなんてひとつもないからね」 「そうなの?」 「そうだよ。だから」  ヴィクトルははずんだ口ぶりで言った。 「次はふたりきりで食事に行って、たわいない話をたくさんしようね」  勇利がヴィクトルをじっと見た。ヴィクトルは優しく見返した。 「俺にしか聞かせない話を聞かせてくれ」 「ヴィクトルにしか聞かせない話……」 「できるだろ?」  ヴィクトルは得意げにおとがいを上げた。 「俺は勇利が大好きな相手だし、コーチだし、ヴィクトル・ニキフォロフだよ」  勇利は目をまるくした。彼は花がほころぶように笑い出し、片手を口元に当てて「そうだね」とうなずいた。勇利はかわいい顔で笑うのだ。 「そうだね、ヴィクトル……」 「そうとも」  ふたりはつないだ手をぶらぶらと揺らした。そのまま家まで、手をゆるくつなぎあったまま帰った。  勇利が隣の部屋で何か話していた。日本語なのでなんと言っているのかはわからない。なんだか困った様子で、電話相手に一生懸命に断っている、といった感じだった。ヴィクトルは勇利が電話を切ると、すぐに彼の部屋へ行った。 「どうしたんだい? 何の電話? 深刻そうだったけど……」  勇利はほほえんだ。 「深刻というわけじゃないよ。ちょっとどう言おうか迷っただけ。地元の知り合いなんだ。誘われてて……」 「何に? 遊ぼうって? もうすぐシーズンが始まるけど、息抜きは必要だよ。行ってくればいいのに」 「普通の遊びじゃないんだよ。なんていうか……」  合コン、と勇利はつぶやいた。 「ゴウコン?」  ヴィクトルは首をかしげた。 「それ、なに? 日本語かい?」 「そう……、英語で言えばシングルパーティとかグループのブラインドデートとか、そんな感じだね……この表現でわかるか��。ロシア語ではなんていうんだろう」  意味はわかった。ヴィクトルはちょっと驚き、勇利のことをみつめた。 「つまり……勇利に女の子を紹介するということ?」 「そんな畏まったものじゃないよ。男と女とでだいたい人数を合わせて食事して、気に入った相手とは連絡先を交換するっていう……」 「勇利、いままで行ったことあるのか?」  ヴィクトルは思わず真剣に尋ねてしまった。なぜそんなふうに発言してしまったのかよくわからない。勇利は恋愛経験はないという態度でいたから意外だったのだろうか。しかし、そういうことが過去にあったのならよいことではないか。なにごとも体験してみなければ……。 「ないよ」  勇利は苦笑を浮かべた。 「ぼくはずっとスケートひとすじだよ。デトロイトでも遊びになんて行かなかった���……」 「そうか」  ヴィクトルは息をついた。それから心配になった。 「……今回は行くのかい?」  勇利はヴィクトルを見上げた。 「なんで?」 「え?」 「なんでそんな心配そうな顔してるの?」 「え」  ヴィクトルはびっくりした。なぜか勇利が怒っているようだ。彼はヴィクトルをにらんでいる。 「行ったらぼくが失敗すると思ってる?」 「いや、そういう意味じゃ……」  ヴィクトルはうろたえた。まったく頭になかったことだった。 「そりゃぼくは経験もないし、ぜんぜんもてないし、ヴィクトルみたいな完璧なひととはちがうけど!」  勇利はベッドから立ち上がった。 「そんな、いかにもおまえじゃ無理みたいな顔しなくてもいいじゃん!」 「ちがう勇利、そういうことじゃない。ただ、俺は──」  ただ、なんだろう? ヴィクトルは言うべき言葉がみつからず、困惑した。するとその態度を悪く取った勇利が、「ほら」とまた腹を立てた。 「悪かったね、ヴィクトルみたいに洗練されてなくて!」 「そんなこと言ってないじゃないか。勇利はすてきだよ。誰だって知ってる──」 「いいよ、とってつけたように言わなくたって」  勇利は携帯電話を取り上げた。 「どうするんだ?」 「行くから」 「え?」 「断ったけどやっぱり行く」 「ゴウコンに!?」 「そうだよ。悪い!?」  勇利は電話を耳に当てながらヴィクトルをまたにらんだ。 「世界一もてる男からしたら笑っちゃうかもしれないけど、ぼくだってこれくらいできるんだから!」  何をまちがったのだろう……。ヴィクトルはベッドに横になり、マッカチンを抱きしめて溜息をついた。あれから勇利はつんとしているし、食事のときもあまり口を利いてくれないしで、ヴィクトルはずっとそわそわしていた。そんなふうに落ち着かないまま迎えた今日が例の「ゴウコン」の日で、勇利は夜になるとさっさと出掛けていってしまった。  ヴィクトルは部屋を出る勇利の姿を見ていなかった。どんなかっこうで行ったのだろう。いつもの地味な服装だろうか。それともいかにもきちんとした身なりで出掛けたのか。勇利はちゃんとしていると、凛とした、かなりすてきな青年になるのだ。ヴィクトルはよく知っている。それに、笑うとかわいらしく眉が下がり、とても愛らしい。勇利は勇利が思っているような「もてない男」ではない。ヴィクトルの見たところ、「本気になればすごい」という若者だ。おまけにスケートが抜群にじょうずなのだから、それをよく理解している地元の女の子なら、是が非でも交際したい相手だろう。 「勇利……」  ヴィクトルは、いいことじゃないか、と思おうとした。人生経験は豊かなほうがよい。何も知らないというのなら、そういう機会があれば接してみるに越したことはない。どんなことだって無駄にはならないのだ。  でも……。 「……マッカチン。俺は何を気にしてるんだ��うね?」  勇利が大事だ。かわいい生徒だと思っている。だから心配なのだろうか。悪い女の子に騙されないか。勇利は素直で純粋だから、女性の思惑までは読めないだろう。それで……。 「でも勇利のことだから、女の子を誘ったりはできないかもしれないね」  ヴィクトルは明るくマッカチンに話しかけた。しかしすぐに、女の子のほうで勇利と近づきになろうとするだろう、と気がついた。 「……そうだな」  勇利は可憐でうつくしく、澄んだ瞳の持ち主だ。ヴィクトルに向ける愛嬌のある笑顔は本当にみずみずしいのだ。誰だって彼のとりこになるだろう。 「……やっぱり悪い女の子に騙されるかもしれない」  ヴィクトルはふと起き上がった。 「心配だ。コーチとして心配だ。スケートに影響が出るかもしれない。そうじゃなかったとしても、俺は勇利を大切に思っているんだ。様子を見に行く必要がある。何もなければそれでいいんだ。そうだろ? それに、勇利は──」  ヴィクトルは上着を取って腕を通した。 「酔っ払うと大変なことになるじゃないか!」  勇利はきちんとした子で、行き先と、一緒に行く相手を母親に伝えていた。ヴィクトルは店用の車を借りて、勇利がいるはずの居酒屋に向かった。店に入り、聞いてきた名前を案内係に言うと、彼は笑顔でうなずいてその部屋に案内してくれた。 「こちらです」  ヴィクトルはためらいなく扉を開けた。十畳ほどの畳の部屋に、男女が五人ずつ並んで座っていた。全員が顔を上げ、ヴィクトルのことを見て目をまるくした。 「あー、びくとる!」  いちばんに勇利が声を上げた。 「みんな、見て。彼がびくとる。びくとるだよ!」  本物だ、とか、すごい、とかいう声が聞こえた。そのあたりはかろうじて理解できたけれど、続けて笑いながら話す勇利の言葉は、すべて日本語なので、何を言っているのかよくわからなかった。 「びくとる、来て!」  勇利が両手を差し伸べた。ヴィクトルは、呼ばれているのはなんとなくわかったので勇利に寄っていった。ハイ、とみんなに笑顔で挨拶したら、全員好奇心いっぱいの好意的な目でヴィクトルを見、挨拶を返した。 「びくとる」  ヴィクトルが膝をつくと、勇利はヴィクトルに抱きつき、頬をすり寄せた。ヴィクトルはびっくりした。こんなこと、普段の勇利はまずしない。  勇利は熱っぽく何かを語り続けた。さっぱりわからない。普段の日本語ともちがう気がする。ヴィクトルはふと、バンケットで「びーまいこーち」と言った勇利のことを思い出した。いまはそんな雰囲気だし、それに、そう口にする直前のせりふになんとなく抑揚が似ていた。 「勇利、なに言ってる? 英語で話して」  ヴィクトルは笑いながら要求した。しかし勇利は聞かなかった。ずっと彼は舌足らずに、甘えるように何か話している。困った。……かわいい。びくとる、という言葉だけは聞き取れた。 「どれだけ飲んだんだか……」 「あの、すみません」  ひとりの若者にたどたどしい英語で話しかけられた。 「勝生はそんなに飲んでないんです。ちょっとアルコールが入ってるやつを二杯くらい。でもやけに酔っちゃって。ずっとあなたのことばっかりしゃべってて、それで……」  ヴィクトルは驚いた。それでは「ゴウコン」にならないのではないだろうか。 「あなたに怒ってたみたいだけど、途中から、子どもだとしか思われてない、みたいに拗ね始めて……いまに至ります」  怒る。子どもだと思われている。拗ねる。ヴィクトルは笑ってしまった。なんだそれは……。 「勇利……」  胸があたたかくなった。勇利はヴィクトルにしがみつき、いい気持ちそうにまだ話している。ヴィクトルをじっとみつめる目はきらきらと輝いて、聞いて聞いて、ぼくヴィクトルのことが大好きなんだよーと言っているようだった。 「迷惑をかけたね、ごめんね」  ヴィクトルは一同を見渡して謝った。みんなぶるぶるとかぶりを振った。 「連れて帰るよ。せっかくの会なのに申し訳ない」 「いえ、これはこれでおもしろかったですから。……彼、長々と、あなたがどれだけすてきかっていう話をしてて」  さっきの若者が楽しそうに笑った。 「昔からヴィクトル・ニキフォロフのこと大好きだったけど、いまも本当に愛してるんだなって感じです」  車まで連れていくあいだも、勇利はヴィクトルの腕をぎゅうっと抱きしめるようにし、機嫌よくいろいろなことをのべつまくなしにしゃべり続けた。ヴィクトルは彼の手をしっかりと握って車まで案内した。しかし、助手席に乗せると急に勇利は静かになり、放心したような顔になった。家に着くころには寝ているだろうと思ったのだが、意外なことにぱっちりと目を開けていた。ヴィクトルは勇利を部屋まで送っていった。 「さあ、着替えて。もう寝なきゃ。水を飲む?」 「いらない」  さっきまでの陽気さはすでにうかがえない。だが、ここ数日のような不機嫌さはないようだ。 「迎えに来てくれて、ありがとう」  勇利はちゃんと英語で言った。 「迷惑かけて、ごめんなさい」 「迷惑なんかじゃないよ」  ヴィクトルはほほえんだ。 「でも、ひとつおねがいがあるんだけど、いいかな?」 「なに……?」  ヴィクトルは、すぐ前に立っている勇利の目をじっとみつめた。酔っているせいかすこしうるんで、可憐な様子だった。勇利はいつもの野暮ったいかっこうをしていた。ヴィクトルは世界一かわいいと思った。 「もう『ゴウコン』には行かないでくれ」 「なんで? ぼくが子どもだから? 似合わないから?」 「妬けるから」  ヴィクトルは笑いながら率直に打ち明けた。勇利が瞬いた。 「……どういうこと?」 「妬ける」  ヴィクトルはくり返した。 「勇利がそういうところへ行くと、胸が苦しい」 「……どういう意味?」 「約束して」  ヴィクトルは勇利の手を握った。勇利はどぎまぎしながら頬を赤くし、こくっと子どものようにうなずいた。ヴィクトルは「いいね!」と喜んだ。 「さあもうやすむんだ。明日の朝の練習はなしにしよう。ゆっくり寝て」 「うん……」 「おやすみ、勇利」  ヴィクトルは勇利の額にかるくくちびるを押し当て、明かりを消した。  翌朝、洗面所へ行くと、寝惚けまなこで歯をみがいている勇利がいた。ヴィクトルを見た彼は頬を赤くしておはようとつぶやいた。 「昨日は、本当にごめん……。来てくれてありがとう」 「勇利」  ヴィクトルは勇利の耳元にささやいた。 「ゆうべ俺が言ったこと、おぼえてる?」  勇利はさらに赤くなった。彼は目をそらし、歯ブラシを動かしながら、口元を真っ白にしてうなずいた。 「それならいいんだ。忘れないで」  ヴィクトルは機嫌よく洗面所を出た。  中国大会のバンケットで、ヴィクトルはこのうえなく陽気に酔っていた。こんなにはしゃいだのは──勇利が突然目の前に現れた、あのソチのバンケットが最初で、これが二度目だ。 「ヴィクトル、飲み過ぎ……」  赤い顔をしてふらつくヴィクトルのあとを勇利が追いまわし、すれちがう人にヴィクトルが勇利のことを自慢するたび、「すみません」と謝った。 「そんなに飲んでないさ」  ヴィクトルは明るく笑いながら言った。 「でも酔っ払いの態度じゃないか」 「気持ちが高揚してるからだよ。俺はウォッカを何杯飲んでもカードで負けたことがないんだ」 「なにそれ。本当? それとも冗談? ぼくをからかってるの?」  ヴィクトルは、久しぶりに顔を合わせたロシアスケート連盟の���員にいろいろつまらないことを言われた。しかしそんなことは意に介さず、「俺の勇利、見てくれたかい? 最高だろう? 好きになっちゃだめだよ。俺のだから」と自慢した。ロシア語だったので勇利にはわからなかっただろうが、もし英語だったら彼に叱られていたことだろう。 「ヴィクトル、大丈夫? 何も言われなかった?」  勇利はあとでヴィクトルを心配した。 「何が?」 「さっきの人たち、スケ連の人でしょ? ロシアの」 「なんでわかった?」 「この中で顔がいちばんこわかった」 「おもしろい見分け方だね」  ヴィクトルは、そんなに俺はにらまれていたのか、と可笑しかったけれど、すぐに別の可能性に思い当たって笑いを消した。 「勇利、いやな目で見られた?」 「え? ううん、大丈夫だよ。でもヴィクトルのことはすっごくにらんでたでしょ」 「なんだ」  やはり最初に考えた通りのことだったらしい。ヴィクトルはほっとした。べつに彼らににらまれるくらいどうということもない。だが、ヴィクトルはふと思い立ってしょんぼりした表情をつくった。 「うん、にらまれてた……勇利、つらかったよ」 「え?」 「彼らはいつも俺のやることに文句をつけるんだ……」 「ヴィクトルが好き勝手してるからじゃん」 「でも意地が悪いんだよ……顔を合わせれば嫌みばっかり……俺は傷心なんだ……」  ヴィクトルは言いながら勇利にもたれかかった。勇利はしばらく黙っていたが、ちょっと笑い、「それはかわいそうだね」と優しく言った。ヴィクトルはすかさず要求した。 「なぐさめてくれ」 「どうやって?」 「優しい勇利なら、大変だったね、って俺にキスしてくれるだろ?」 「ヴィクトルさ、なんでもかんでもキスで解決しようとするの、やめたほうがいいんじゃないかな……」 「誤解だ!」  あきれた目で勇利にみつめられ、ヴィクトルは地団駄を踏みたい気持ちだった。確かに「キスでもすればいいのかい」はまずかった。いかにも悪い手段だ。言い方もなげやりだったし、「とりあえず」というおおざっぱさがうかがえる。しかしいまのはいいではないか。愛があればつらいことも我慢できるということだ。勇利にはその微妙なちがいがわからないらしい。 「ちがうんだ勇利、これは……」 「キスはだめだけど」  勇利は笑いながら言った。 「なぐさめることはできるよ。部屋へ戻ろうか」 「本当に?」  ヴィクトルは顔を輝かせた。 「いいのかい?」 「いいよ」 「楽しみだな。勇利、初めてだろう? 優しくするからね!」 「……ヴィクトル。何か誤解してない?」 「何が?」  勇利はヴィクトルを自分の部屋へ呼び、トランクの中からプレイングカードを取り出した。 「なんでそんなものがある?」 「デトロイトでの忘れ物。ピチットくんが持ってきてくれたんだ」  勇利はヴィクトルとベッドに上がると、手早くカードを切り始めた。 「手際がいいね。オールドメイドでもする?」 「ぼく七並べ鬼強いよ」 「やり方を知らない」 「ほんと?」  勇利は笑いながら、重ねたカードを裏返し、すっと一枚のカードをヴィクトルに見せた。 「おぼえて」  スペードのクイーンだった。 「オーケィ」  勇利がカード束の上にそれを戻した。 「これからすごい手品を披露するよ。ヴィクトル、ぼくのこと好きになっちゃうかも」 「勇利、なんで手品なんかできる?」 「デトロイト時代、隣に住んでた学生が教えてくれたんだ。いい?」  勇利はいちばん上のカードを取り、それを束の真ん中あたりに入れた。 「いまからおまじないをかけます」 「俺に?」 「カードにだよ」  勇利はベッドの上にカードをまとめて置き、それにひとさし指を突きつけた。 「ヴィクトルはぼくのことを好きになる!」  ヴィクトルは笑った。 「めくってみて」  ヴィクトルはいちばん上をめくった。目をみはった。スペードのクイーンだった。 「どう?」  勇利が得意げに笑った。 「好きになった?」 「勇利、すごい!」  勇利は明るい目をした。 「どうやった? どうやってあのカードにした?」 「すごく簡単な種だよ。でも教えない」 「ほかにもできるかい?」 「できるよ」 「やって! やってくれ!」 「じゃあね……」  適当にカードで遊んでいた勇利は、それを敷布の上に扇状にひろげてじっとヴィクトルを見た。 「ヴィクトルはロシアの英雄。ぼくは日本の……?」  ヴィクトルはすこし考えた。 「……かわいこちゃん?」 「なんでそうなるんだよ」 「あ、わかった。貴公子! 貴公子!」 「ぜんぜんちがいます。諸岡アナがよく言ってるでしょ」 「ああ、エースだ。日本のエース」 「そう」  勇利がカードに視線を落とした。ヴィクトルも見た。半円に近いかたちでひろがっているカードは、スートと数字がわかる状態だ。勇利はそれをまとめ直して手に持った。 「じゃあ、とりあえず切っておこうか」  彼はカードを切り交ぜながら、ヴィクトルの目をまじめにみつめた。ヴィクトルはわくわくしていた。勇利が上から一枚ずつカードを取り、ベッドの上に裏返しに重ね始めた。 「好きなところでストップと言って」 「オーケィ」  ヴィクトルはしばらく待ち、適当なところで「ストップ」と言った。勇利は手を止め、重ねたカードだけを取り上げた。残りは脇へ置いておく。 「ヴィクトルが選んでくれたカードを使います」 「うれしいな」  勇利が順に四枚並べた。裏向きだ。それ以上は横には出さず、五枚目からはまた同じ順序で上に重ねていった。そしてすべてのカードが場にそろった。 「おまじないをかけます」 「また?」 「ヴィクトルはぼくのことを好きになる!」  勇利がカードを指さした。ヴィクトルは笑いをこらえた。 「じゃ、いくよ」 「うん」  何が起こるのだろう? 勇利はいちばん左のカードを表に返した。ハートのエースだった。彼はその次のカードもひっくり返した。ダイヤのエース。 「えっ」  その次はクラブのエース。最後はスペードのエースだった。すべてエースだ。 「いかがですか?」  勇利は笑ってヴィクトルを見た。ヴィクトルはカードを手に取った。ごく普通のカードだ。ほかのものも調べたけれど、エースではない。 「すごいぞ勇利!」 「好きになった?」 「すごい!」 「どう?」  勇利は四枚のエースを手で示した。 「そのプレイングカードが欲しい」 「カード自体は普通のなんだよ。日本のエースは欲しい?」 「えっ?」 「じゃあ最後」  勇利は笑いながらカードをまとめ、その中から三枚を選び出した。ハートのエース、ハートの2、ハートの3だった。 「ハートだね」 「ハートだよ」  勇利は三枚を裏返した。 「これはハートの3だったね」 「うん」 「じゃあ三枚、上に重ねちゃおうか」  勇利は手持ちの札から三枚のカードを取り、3の上に置いた。 「置いたね」 「そうです。で、これを上に重ねます」  合計四枚のカードが勇利の手持ちのいちばん上にのった。 「で、これを切ります」  勇利が一度手持ちの札を切る。 「どこに行ったかもうわからないよ」 「わからないね。じゃあ次。これは2だったね」 「うん、2だ」 「じゃあ、2なので二枚上に重ねます」  勇利がカードをまた重ねた。ヴィクトルは慎重に観察していた。その目は青く鋭く輝いている。 「で、これもまた戻します」  手持ちの束に三枚が戻る。勇利は再び、一度カードを切った。 「最後。エースだね。1だ」 「そうだ、1だ」 「じゃあ1なので一枚だけ重ねます」  カードが二枚になり、それも勇利は手に戻すと一度カードを切った。 「ハートはどこへ行った?」 「中のほうだよ。もうばら��らになってる」 「そうだよね。じゃあおまじないをかけるね」  勇利は一度束を置き、またカードに指を突きつけた。 「ヴィクトルはぼくを好きになる!」 「あのね」  ヴィクトルは可笑しかった。 「その結果……?」  勇利が上から一枚ずつカードを取り、三枚並べた。ヴィクトルはきょとんとした。ハートのエース、ハートの2、ハートの3だった。 「なんで!?」 「ぼくのハートは貴方のもの」  勇利は言って三枚のハートをひらひらと動かした。 「ぼくのほうが好きになっちゃったかも」 「見せて!」  ヴィクトルが手を伸べた。勇利はカードを遠ざけて渡さないようにした。ヴィクトルは身を乗り出した。すると勇利がふいに身体を寄せてきて、ヴィクトルの頬にかるくくちびるを当てた。ちゅっと音が鳴った。 「…………」  ヴィクトルは勇利をじっと見た。勇利が笑った。 「さあ、元気出た? 一応おまけでキスもしておいたよ。なぐさめになった?」  ヴィクトルは黙って勇利を抱きしめ、ベッドに押し倒した。勇利が「あ」と声を上げ、彼の手からはらりとハートのカードが散った。ヴィクトルはくすくす笑った。 「ねえ勇利」 「なに?」 「付き合っちゃおうか」 「付き合うって? 交際?」 「そうだよ」  勇利も笑った。 「もしぼくとヴィクトルが付き合ったら……」  彼は首をすこし傾け、ヴィクトルのことをなごやかな目つきでみつめた。 「何かあって泣いたら、ぼくはそのたびに『キスでもすればいいのか』って言われるの?」 「もう言わない。言わないから」  ヴィクトルは可笑しくてさらに笑った。 「ヴィクトルは泣きわめくぼくに、ちがうよって怒鳴られるわけだね」 「本当にもう言わないから。反省してる」 「ふふふ……」  ふたりはしばらく黙っていた。やがて勇利がぽつんと言った。 「ああ、手品ちゃんとおぼえてて、よかったあ。じつは自信なかったんだ」  ふたりは起き上がり、「疲れたね」「明日寝坊しそう」と言いあった。ヴィクトルは勇利をかるく抱擁して、「おやすみ」とささやくと自分の部屋へ戻った。  信号待ちでちらと横目でうかがったら、助手席の勇利は眠っていた。彼はヴィクトルのほうへ顔を向け、行儀よく膝をそろえて、くちびるをわずかにひらいていた。眼鏡のつるが座席に押されてゆがみそうだったので、ヴィクトルは眼鏡を外してやった。勇利の手はヴィクトルのほうへ伸び、コートの端っこをちょんとつまんでいた。いつの間にこんなことをしたのだろう? 気がつかなかった。ヴィクトルはほほえみ、勇利の頬を指の背で撫でた。勇利は目ざめない。眠りは深いようだ。飛行機の中で眠れなかったのだろうか。  ロシア大会ではなればなれになっているあいだ、ヴィクトルは、感じたことのない痛みを経験した。勇利と離れることがこれほど苦しいとは想像もしていなかった。勇利はかわいく、大切で、ヴィクトルにとってすでにいちばんの存在になっていたが、これほどヴィクトルに苦痛を感じさせる者なのだという自覚はなかった。ヴィクトルはずっと勇利と愉快に楽しく過ごし、笑っていられるのだと思っていた。だが、そうではないのだ。勇利はヴィクトルに、すべての感情を与える存在なのだと、ヴィクトルはようやく気がついた。  かわいそうに。ひとりでこんなにがんばって。  ヴィクトルは勇利の疲れた顔をみつめ、胸を痛めた。もうひとりにはしないと思った。何があっても……。  家に戻るまでのあいだ、勇利はずっと眠っていた。ヴィクトルに会えたことで安心したのかもしれない。ロシアのホテルではどうだったのだろうとヴィクトルは心配した。しかしもうそれはいい。勇利はいまここにおり、ヴィクトルは彼のためになんでもできるのだ。どんなことでも……。  家の前庭に車を入れても勇利は目ざめなかった。ヴィクトルは優しくコートから勇利の手を離させると、あたたかくその手を握り、彼の額と頬に接吻した。 「すこしだけ待っていてくれ」  勇利の荷物を部屋へ運びこんでいたら、彼の母親が、「勇利、帰ってきたと?」と尋ねた。ずいぶん遅い時刻だが、起きて待っていたらしい。 「勇利、ネテル」  ヴィクトルが言うと彼女はほほえみ、「ヴィっちゃん、あの子んこと、よろしくね」と頼んだ。ヴィクトルは真剣にうなずいた。急いで車に戻り、勇利を抱き上げて助手席から下ろした。そのまま、家の中へ連れていく。 「んー……」  勇利がヴィクトルのほうへ頬を寄せ、また服をつかんだ。ヴィクトルは勇利を起こさぬよう自室のベッドへ運び、そうっと横たえた。マスクを外してコートを脱がせる。そうして甲斐甲斐しく世話を焼いていると、マッカチンが寄ってきて勇利に鼻先をくっつけた。 「このまま寝かせてあげようね」  マッカチンが鼻を鳴らした。 「今日は三人で一緒に寝よう……」  ヴィクトルが寝る支度を済ませて横になると、勇利がもぞもぞと寝返りを打った。彼がすがるように抱きついてきたので、ヴィクトルは愛情をこめて抱擁した。マッカチンが勇利の背中に寄り添う。 「勇利、大丈夫だよ。ずっといるからぐっすりやすんで」  ヴィクトルは勇利の髪にくちづけ、指でそっと梳いてやった。勇利が微笑を浮かべ、口の端を引きこむような寝顔になった。安心しきったその表情にヴィクトルは息をついた。  ヴィクトルは眠らなかった。苦しいほどいとおしい勇利の寝顔を眺め、じっとしていた。いくら見ていても飽きなかった。勇利がここにいる。すこし前までは、ふれることもできなかった勇利が。  勇利のあどけない目元、子どもっぽい口つき、かわいらしい眉毛、全体的に整っているおとなしやかな顔を見ているうち、夜が明けてきた。ヴィクトルはまだほんの三十分ほどしか経っていないと思っていたので驚いた。もう朝なのか。 「んん……」  勇利が口を動かして何か言い、ふと目を開けた。彼は幾度か瞬いて自分を抱きしめているヴィクトルに気がつくと、「あれ……?」とつぶやいた。 「帰ってきたんだよ、勇利」 「ああ……」  勇利は納得したようにうなずいた。それから変な顔をして自分の身体を見、すぐにヴィクトルに視線を戻した。 「ぼく服着てないみたいなんだけど……」 「寝るときは着ないだろう?」 「それヴィクトルだけ」  勇利が笑った。彼は「まあいいけど」と言った。 「おはよう」 「おはよう」 「朝かあ……」 「あとで一緒に温泉に入ろう」 「そうだね……」  勇利はまぶたを閉じてヴィクトルの胸に顔を寄せた。 「……ずっと一緒にいてくれたの?」 「一緒にいたかったから。よかった?」 「うん。大正解」  勇利はくすっと笑った。 「自分の部屋でひとりで目ざめてたら……」 「かなしかった?」 「なんで!? ってヴィクトルを叩き起こしてたかも」  ふたりは目を合わせて笑いあった。勇利は物穏やかに言った。 「……帰ってきたんだね」 「そうだよ」 「ヴィクトルのところに……」 「……そうだよ」 「…………」  勇利がゆっくりと両手を伸ばし、ヴィクトルの背中にそっと添わせた。彼はあえかな息をつき、「ヴィクトルのハグだ……」とつぶやいた。ヴィクトルはせつなくなり、勇利を強くかき抱いた。 「苦しい、ヴィクトル」  勇利が笑う。 「我慢して」 「もっと苦しくてもいいかも」 「…………」 「何か言ってよ」 「言葉が出てこない」  こんなことは初めてだった。ただヴィクトルは、ずっと勇利を抱きしめていたかった。この瞬間、望みはそれだけだった。ヴィクトルの希望をかなえてくれるのはこの世界で勇利しかいなかった。 「勇利……」  何か言おうとしたけれど、やはりだめだ。ヴィクトルは、気持ちが言葉を凌駕することがあると、このとき初めて知った。  勇利が指輪をくれたことは脅威的で、すばらしく、なんとも胸のときめく出来事だった。勇利と親密になってから、彼は幾度となくヴィクトルを驚かせてきた。コーチになってと言い、カツ丼を一緒に食べたいと言い、自分はカツ丼になると言い、ヴィクトルの言いつけを破り、はなれずにそばにいてと泣き、四回転フリップを跳んだ。今日それに、指輪をくれた、という項目が加わった。勇利はどこまでヴィクトルを驚かせれば気が済むのだろう? ヴィクトルは勇利と出会ってからやられっぱなしで、それがとても気持ちよかった。  この指輪に、みんなが冷やかすような意味はきっとないのだろう。けれど「おまじない」や「お礼」でそろいの指輪を贈る者なんていない。勇利は本当に突拍子もない、とても……すてきな子だ。指輪をもらってこんなにうれしくなるなんて思ってもみなかった。彼のことがい���おしい。彼のこと以外考えられない。結婚指輪だとか婚約指輪だとかそういう指輪ではないとか、そんなことはどうでもよかった。勇利とのあいだには愛があり、きずながある。それがヴィクトルには大切だった。  みんなとの食事を終えて部屋へ戻ったふたりは、順番に入浴した。ヴィクトルがバスローブ姿で風呂から出ると、勇利は窓のほうを向いて、華やかな夜景を眺めていた。このうつくしい景色を勇利とふたりで見られてよかったとヴィクトルは思った。 「勇利」  ヴィクトルは背後から勇利を抱いた。勇利は身体にまわったヴィクトルの手にそっとふれ、ヴィクトルにもたれかかった。 「そろそろやすまないと」 「うん、わかってるよ……」  ヴィクトルは指先で勇利の指輪をなぞった。なにげなくしたしぐさだったけれど、自分でなんともいえずぞくぞくした。こころよい喜びで気持ちがしびれ、ヴィクトルはこのうえもなく勇利に優しくほほえみかけた。 「緊張してる?」 「してる。今夜は眠れないかも」 「俺が眠れるようにしてあげよう」  ふたりはそれぞれベッドに入った。勇利が手を差し伸べ、「ヴィクトル」とすがるように呼んだ。 「右手を……」  彼がなぜだかさびしそうな顔をしているので、ヴィクトルは驚いて右手を伸ばし、彼の手を握った。 「大丈夫だよ」 「うん……」  勇利はせつない目でヴィクトルをじっと見ていた。まるでこれでお別れだとでもいうような一生懸命さにヴィクトルは戸惑い、つないだ手の指輪と指輪をかすかにふれあわせて、「大丈夫」ともう一度ささやいた。 「勇利が勝つと信じているよ」 「……うん。ありがとう」  勇利が泣き出しそうな顔で笑った。そのおさなげを失わない純粋な笑みに、ヴィクトルの胸はひどく痛んだ。今日はこのうえなく楽しいデートをしたのだ。なのにどうしていま、こんなふうに苦しくなるのだろう。明日のことを考えて、お互い感傷的になっているのかもしれない。自分がこんなことではいけない。勇利の支えになり、勇利のためになんでもするのだ。 「目を閉じて。明日、自分がすてきなプログラムを演じているところを想像してみるんだ。くり返しね」 「ヴィクトル、何か話して」 「どんなこと?」 「なんでもいい。いいから……」  ヴィクトルは話し始めた。自分がスケートを始めたころのこと、ヤコフとどんな話をしたか、失敗したことも成功したことも。途中から話の方向を見失い、ロシアのおとぎ話に変わった。しかし勇利は文句も言わず聞き入っていた。気がつくと、彼は深く眠りこんでいた。 「勇利……」  右手と右手はまだつながっていた。ヴィクトルは左手で勇利の髪を撫で、これほど緊張したことはないと思った。自分の試合では、前夜に眠れないなんて、そんなこと、いままで一度もなかった。  浅い眠りと目ざめをくり返し、やがて夜が明けた。勇利の前途を祝福するかのようなすがすがしくまぶしいひかりの中、ヴィクトルは起き上がり、ひと晩じゅうつないでいた勇利の手を静かに持ち上げた。彼の指輪にうやうやしく接吻し、手を離すと、着替えを終えてひとり街へ出た。  通りから、優しく語りかけてくるような、なつかしい感じのする海を眺めた。右手を上げると、朝日に勇利がくれた指輪がおごそかにきらめいた。  自分の人生は変わったとヴィクトルは思った。楽しくスケートをし、絶頂だという気持ちですべり続けていたあのころに考えていたのとはずいぶんちがう、想像もしていなかったようななりゆきだけれど、ヴィクトルはいまの日々がいとおしくて仕方なかった。こんな幸福な毎日があるのだと彼は知った。教えてくれたのは勇利だった。  これからさき、どうなるかはわからない。自分が王座に君臨し続けるのだと得意になっていたあのころにいまのこの気持ちが予測できなかったように、こののち自分がどんなふうに変わってゆくのか、ヴィクトルには想像できなかった。しかしどうなるにせよ、何を選択するにせよ、かたわらには必ず勇利がおり、彼とともに歩むことは変わらないのだとヴィクトルは信じた。  そのねがいと祈り、そして約束がこの指輪にはこめられている。  勇利が入浴しているあいだに、改めてメダルを観察した。銀色に光るそれは、ヴィクトルが手にしてきた金メダルのような華やかさはないけれど、誠実で、清楚で、純真で、輝きはすこしも劣っていなかった。勇利がヴィクトルと一緒に、愛で胸をいっぱいにして獲ってくれたメダルだ。 「また見てたの?」  扉を閉めた勇利があきれたように言った。 「うん」  ヴィクトルは笑った。 「銀メダルだなあ……と思って」 「悪かったよ」  勇利がおおげさに拗ねた顔をした。 「ヴィクトルには珍しいだろうね。もしかして初めて見る?」  ヴィクトルはくすくす笑った。もちろん、リビングレジェンドなんて呼ばれる前には、銀メダルだって銅メダルだって獲ったことがある。 「冗談だ。俺は勇利の銀メダル、好きだよ。かわいくて」 「かわいい?」 「かわいいからいいでしょって、今後何回も獲られたら困るけどね」 「ワールドでは金獲るから心配しなくていいよ」 「へえ、そうなんだ」 「そうだよ。ぼくのコーチは優秀だからね。そうなるよ」  ふたりは顔を見合わせて笑った。明かりを消し、ベッドに横たわる。ヴィクトルは勇利とデュエットしたエキシビションを思い出していた。すべての感情が勇利に流れこみ、また、勇利の想いもヴィクトルの胸に直接伝わってきた、すてきなプログラムだった。ヴィクトルはあの時間が永遠に続けばいいと思った。ふたりがつむいだ愛が「離れずにそばにいて」だったのだ。 「勇利、右手を」  ヴィクトルと勇利の右手が重なった。ヴィクトルは強く握り、息をついたが、勇利は痛いともなんとも言わなかった。ヴィクトルは手を顔のそばに寄せ、まずはみずからの指輪に、次に勇利の指輪にキスした。 「勇利……かなしかったよ……」  ヴィクトルは低くつぶやいた。 「あんなことを言われて、かなしかった……」 「……ごめん」  勇利のまつげがふるえた。彼がヴィクトルを愛していることは疑いようがない。 「二度と言わないでくれ」 「うん……」 「俺はもうきめてたんだよ。勇利と一緒だってね」 「……うん」  勇利の黒い瞳がきらりと輝いた。彼は射るようにヴィクトルを��つめた。 「ぼくも、もうきめたよ」 「…………」  ヴィクトルはささやいた。 「勇利をひとりにはしない」 「ぼくもヴィクトルをひとりにはしない」  ふたりの視線が合った。勇利のまなざしは強く、むこうみずなほどむき出しで、ヴィクトルは彼のまごころにふれた気がした。慎ましやかだったり控えめだったりする勇利が、いまは傲慢なほど気持ちをあらわにして、ヴィクトルと同じ誓いを捧げている。勇利のくちびるから、熱愛のこもった甘美な吐息が漏れた。ヴィクトルも湿った息を吐いた。勇利の濡れたような瞳ははかりしれぬ愛できらきらと輝いており、それは、勇利の凛とした表情をいろどった。  あのときと同じだった。「離れずにそばにいて」をふたりで踊ったときと。ヴィクトルには、勇利の気持ちがすべてわかった。ヴィクトルのこころのうちも、勇利には伝わっているようだった。ヴィクトルはいま、互いに裸身となり、抱きあって深く交わりたかった。とけあうほどからまりあい、勇利のすべてを知り、自分のことも知ってもらいたかった。勇利を腕の中に閉じこめ、彼の至高の愛を胸に刻みつけ、みずからの熱愛を勇利に捧げたかった。  そうすることにためらいはなかった。ふたりが愛情を抑えなければならない理由も、彼らをとがめる事情も、いま、ここにはひとつもなかった。ふたりは目の奥をみつめあった。互いが互いを欲しているのがよくわかった。それぞれの指と指輪にくちづけあった。ヴィクトルのくちびるが勇利のしなやかな指をかすかに愛撫すると、勇利が押し殺した声を漏らした。  このまま……。  だが、ふたりは動かなかった。どちらも、すべてを痛いほど理解していながら、最後のこころぎめにまでは至らず、この夜、それ以上ヴィクトルたちの仲は熟さなかった。  迷ったのではない。自信がなかったのでも、気弱になったのでもない。ただ──、いとおしかったのだ。いまこの瞬間がいとおしかった。こんなふうに相手を求め、最後の瞬間を迎えるほんのわずか手前にとどまることが、苦しくもうれしかった。この初々しい、永遠に閉じこめたいような時間に、もうすこしだけ立ち止まっていたかった。おぼれてしまえば、もっと早くに抱きあえばよかったのだと自分にあきれることだろう。それはわかっている。だが──この一瞬のきらめき、この気持ちは、いましか感じられないものなのだ。  ふたりはそれぞれの瞳に、そんな子どものような未熟な愛を読み取り、ちいさく笑いあった。ヴィクトルは勇利の指をそっと舐め、勇利はヴィクトルの爪の先に接吻し、慎ましやかに眠った。 「身体に気をつけて」  ヴィクトルが言うと、「ヴィクトルもね」と勇利は笑った。ヴィクトルはロシア選手権のためにロシアへ、勇利は全日本選手権のために日本へ帰るのだ。 「四回転フリップの練習はちゃんと本数制限を守って。ほかの四回転なら跳びまくってもいいということじゃないぞ。練習時間も長ければいいというものじゃない。俺がいないからって好き勝手にやっちゃだめだ。ユーコに見張っててもらうからね。それなら走りたいとか言って深夜まで走らないこと。勇利は身体をやすめることを知らなすぎる。俺の動画や写真集ばかり見てないでちゃんと寝る。さびしくなったら俺のベッドを使っていいから。不安があったらいつでも連絡してくれ。なくても連絡してくれ。何時でも構わない。遠慮なんかするな。それから──」 「もうわかったよ、ヴィクトル」  くどくどと注意事項を並べ立てるヴィクトルに、勇利は笑いながらかぶりを振った。 「これまでヴィクトルがだめと言ったことはやらないようにするよ。長さじゃなく密度の濃い練習をする。ぼくも一応一人前のスケーターだから、自己管理はちゃんとするよ。次に会ったとき叱られたくないしね」 「本当かな?」 「ほんとほんと」  ヴィクトルは勇利をじっと見た。空港の喧噪はふたりを押し包んでいたが、彼らの耳には入らなかった。すぐ近くでヤコフたちロシアチームが「早くしろ」というように自分をにらんでいることをヴィクトルは知っていたけれど、そんなことはどうでもよかった。 「勇利はない?」 「なに?」 「勇利から俺に言っておくことは、何もない?」 「…………」  勇利はかすかにほほえんだ。 「じゃあ、ひとつだけ……」 「なんだい?」  ヴィクトルは勢いこんだ。 「なんでも言ってくれ。どんなことでも」 「…………」 「ささいなことでも。もちろん大きなことでもね。勇利、俺は──」 「ヴィクトル」  勇利が静かに呼んだ。彼の物穏やかな瞳がいとおしそうにうるみ、水際立った輝きを帯びてヴィクトルをみつめた。 「ぼくのこと、忘れないで」 「…………」 「それだけだよ」  ヴィクトルは無言で勇利を抱きしめた。忘れるものかと思った。どうやって忘れるというのだ。もうこんなに、こころの奥に息づいてしまっているというのに。まるでひとつになったかのように……。  ヴィクトルはこぶしを握りしめた。 「……勇利」 「なに?」 「いつか俺におまじないをかけてくれたよね」 「指輪のこと? それはぼくがかけてもらったんだけど……」 「そうじゃない」  ヴィクトルは顔を上げた。彼は情熱的に勇利をみつめ、どうにかほほえんで慕わしくささやいた。 「あれ、もう、とっくにかかってたよ」 「え?」 「とっくに好きになってたよ」  勇利が目をみひらいた。 「おまえを」  ヴィクトルは勇利の腰を引き寄せ、くちびるを重ねた。 「ヴィクトル」 「これは、俺のことを勇利が考えてくれるおまじない」  勇利がまっかになった。ヴィクトルはきびすを返した。  ロシア大会で勇利と離れたとき、ヴィクトルは、半身を引き裂かれるような痛みを味わった。しかし今度は大丈夫だ。いまもつらいことには変わりがない。けれど、あのときのようなのっぴきならない焦燥と苦しみは、もうない。ふたりのあいだには、信頼と、きずなと、約束と、そして深い愛がある。  ヴィクトルはネヴァ川にかかる橋の上で勇利を待っていた。ユーリは欄干にもたれかかり、「おっせーな」とぶつぶつ言っている。しかしヴィクトルの耳には入らなかった。  勇利が来る。もうすぐ。すぐに。さっき「いまから向かうよ!」とメッセージが来た。勇利に会えるのだ。いとしいあの子に。  春にはなったけれど、ところどころに雪がとけ残っており、大気はつめたい。そのせいで耳もまっかだ。それでも頬を上気させ目を輝かせているヴィクトルに、ユーリはあきれたような顔をしていた。 「あ」  ユーリが遠くへ視線を向けた。ヴィクトルははっとして振り返った。すこし髪が伸び、一段と綺麗になった勇利が、マッカチンと一緒に走ってきた。ヴィクトルは口元をほころばせて手を上げた。 「勇利!」  勇利が活発な足取りでまっすぐに駆けてき、勢いよくヴィクトルに抱きついた。 「ヴィクトル!」  彼の瞳がきらきらと輝き、ヴィクトルを見上げた。ヴィクトルは「コーチになってくれるとやろ?」と��った勇利の目のきよらかさ、純粋さを思い出した。 「ヴィクトル、好きだよ!」  勇利が叫んだ。ヴィクトルはびっくりした。勇利は背伸びをし、まぶたを閉じて、ヴィクトルにくちびるを押しつけた。ヴィクトルはよろめき、背中を欄干にぶつけ、そのままもたれかかった。勇利は言った。 「今夜抱いてね!」  ──勇利。きみはやっぱり俺を驚かせるね。
1 note · View note
2ttf · 13 years ago
Text
iFontMaker - Supported Glyphs
Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖרÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧���江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
see also How to Edit a Glyph that is not listed on iFontMaker
8 notes · View notes
technocat1026 · 6 years ago
Text
押尾学冤罪事件のコピペ乙
森喜郎は悪魔崇拝フリーメイソントップだからな
Tumblr media
オリンピック委員長森喜朗長男と押尾学冤罪事件
酒気帯びコンビニ突入容疑、森元首相の長男逮捕
2010年8月7日(土)
引用元
http://voicevoice.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-3036.html
酒気帯びで乗用車を運転し、コンビニ店に突っ込んだとして、石川県警小松署は7日、森喜朗元首相の長男で、自民党県議の森祐喜容疑者(45)(石川県能美市下ノ江町)を道交法違反(酒気帯び運転)の疑いで逮捕した。
調べに「飲酒運転をして事故を起こした」と供述しているという。
森容疑者は同日、秘書を通じて県議会議長に辞職願を提出し、受理された。
発表によると、森容疑者は同日午前10時10分頃、石川県小松市大島町の県道を、酒気帯び状態で乗用車を運転した疑い。
森喜朗 VS 押尾学の「最終決戦」が近づいている! 暴露本出版で“ドス黒い闇”に言及、東京五輪にも影響必至か!?
tocana / 2017年4月28日 9時0分
引用元
https://news.infoseek.co.jp/article/tocana_51887/?p=2
元内閣総理大臣の森喜朗氏が、著書『遺書 東京五輪への覚悟』(幻冬舎)を今月21日に発売した。これに続いて、とある人物も本の出版計画を進めているという情報が浮上している。そこでは、闇に葬られた“あの事件”の真相にも触れられているというから穏やかではない。
 森氏といえば、文部大臣や建設大臣などを歴任後、2000年に内閣総理大臣に就任した政界における重鎮中の重鎮。首相在任期間は約1年と短かったが、今でも隠然とした影響力を放ち続けている。現在は2020年に控えた東京五輪組織委員会の会長として、辣腕を振るう毎日だ。
「今でも、安倍晋三首相とは懇意です。東京五輪組織委員会の会長に就任したのも、安倍さんの後押しがあったから。それに、森さんは今でもロシアのプーチン大統領と親交があり、北方領土返還交渉の際は、安倍さんにアドバイスを送ることも少なくありませんでした。さらに、長年にわたり日本ラグビー協会の会長も務めました。その人脈は政界からスポーツ界、芸能界と幅広いですね」(永田町関係者)
 そんな森氏が、残りの人生のすべてを賭けて取り組んでいるのが東京五輪だ。ガンと闘病しながら、最後の力を振り絞りながらのエピソードが、今回の著書にも記されている。
「日本オリンピック委員会や東京都の小池百合子知事との確執は思った以上に赤裸々に語られています。そして、自身のガンについてもあけすけに明かしていますね。もともと文芸春秋社で出版する予定だったそうですが、森氏が五輪をめぐる記事で名誉を傷つけられたとして週刊文春を訴えたため、幻冬舎から出版することになったそうですよ」(出版関係者)
 だが、この森氏の活動が頓挫する可能性が高まっているとしたら、関係者は青ざめるに違いない。実は、もう1人、赤裸々な内容の本を出版しようとしている人物がいるとささやかれているからだ。それが、元俳優の押尾学だという。
 押尾は、2009年にホステスの女性に合成麻薬を渡した疑いで逮捕された。その後、一緒にいた女性の容態が急変。そのまま放置して死なせたとして、保護責任者遺棄罪や麻薬取締法違反などで懲役2年6カ月の実刑判決となったのが世間の耳目を集めた。
「実は、当時からささやかれていたのは、『あれは押尾だけに罪をなすりつけたのではないか』とするものでした。というのも、事件にかかわっているとして、有名芸能人やIT企業社長、スポーツ選手などの名前も取り沙汰されていたのです。そして、そのうちの1人として、森氏の息子・森祐喜氏(故人)の名前まで挙がりましたが、結局、真相は藪の中。証拠もなく、ただの噂なのかもしれないのですが……」(事情を知る関係者)
石川県議会議員だった祐喜氏は、父親と同じく幅広い交友関係で知られていた。特に夜の世界ではつとに有名だった。そして、2010年8月に飲酒運転での交通事故が問題視され、その2カ月後に多臓器不全のため急逝。押尾事件後、あまりにもショッキングな出来事の連続に、噂が一人歩きする事態にまでなった。前出の関係者が続ける。「2014年に出所した押尾には、多数の出版社がオファーしたそうです。押尾は、その中の1社を決定し、執筆を開始。トークイベントやSNSなどを開始したのも、出版への地ならしが理由だと聞きます。そして現在、すでに本は書き終えていて、あとは発売のタイミングを待つだけらしいのですが、もちろんあの事件にも触れている。万が一、そこに祐喜氏の名前があるとすれば、父親、ひいては東京五輪への影響は避けられません」押尾は1年前の「週刊新潮」のインタビューに「事件にはいろいろな人が関わっていました」「僕は何もしゃべっていない。仲間を売ることはできないと思ったからです。でも、フタを開けたら、皆が“押尾がやったこと”と僕を売っていた」「これは一生、忘れることができない」などと証言していた
押尾学
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14193901724
より重要部のみ引用
そんな彼は獄中で、冤罪に関する本を読み漁り、出所後は謎の豪遊生活を送り、インスタグラムにはスリランカの経済大臣との会食の写真をアップしたり、名前は言えませんが森喜朗という国会議員から資金援助を受けているなどの噂があったりします。
https://www.instagram.com/p/BOR3PtshBEV/?utm_source=ig_embed
引用元
http://www.asyura2.com/10/senkyo92/msg/142.html
写真は押尾薬物事件で死亡した田中香織さんと一緒に写る森元総理と息子の森祐喜
http://ameblo.jp/spellbound1227/image-10406905801-10334745309.html
https://ameblo.jp/spellbound1227/entry-10406905801.html
押尾 学に合成麻薬を渡した泉田勇介が中国残留孤児を主体とする暴走族「怒羅権=ドラゴン」の構成員であったという噂。
泉田は中国マフィアか?
押尾学の親友と言われているネット販売業の泉田勇介が海外組織の中国マフィアと関係しているのではないかと噂されている。
中国残留孤児の2世や3世と、手下の日本人で組織されていて一時は「ヤクザも恐れる?暴走族」という触れ込みで悪さをしてミカジメ料まがいの集金活動もしていた。
その「怒羅権」=以下ドラゴンの何代目かの元リーダが逮捕された泉田勇介であるとの噂。
ドラゴンは引退したが現在は本物の中国マフィアと緊密だといわれている。
一方関係者の話によると、日本国内に拠点を置く中国系犯罪組織に対して在日中国大使館は強い懸念を示しているという。
新総理の長男・裕喜の愛人の告発テープ
(平成12年4月14日)
http://www.rondan.co.jp/html/news/mori/index.html
原文サイトは既に閉鎖されている。
森喜朗 新総理の長男・祐喜 に愛人関係清算の慰謝料 3000万円を���求した女は、六本木の高級クラブ 「セリーネ」 の元ホステス 「I」。 源氏名は 「M」。
 「I」 が告発した独白テープ <注・テープ起こしをしたもの>、A4版6枚流出。 アンチ森派、コピーをとって、議員会館周辺にバラ撒く。
 以下、その全文。 なお、文中アルファベットは編集部の判断でイニシャルにしました。
--------------------------------------------------------------------------------
桜井澪の談話
 森さんと知り合ったのは今年の2月13日(日)でした。 以前から店のお客さんとして知っていたブティック 「O」 の息子さん (社長の息子の意味か?) から家に電話があって、「皆で代官山に集まっているから出てこないか」 と誘われたんです。 その時に、「森幹事長の息子も来ているから」 と話していました。
 セリーネの女の子を一人連れて、代官山ヒルズにある 「K」 さんの家に行きました。 
「K」 さんは外資系証券会社の人みたいです。 その日、来ていたのは 「O」 さん、小渕さん、 「F」 さんと 森祐喜 さん。 小渕さんは、小渕恵三の兄の息子だったかな。 「F」 さんも、小渕さんの親戚だったと思います。 バレンタインの前だったので、チョコレートをあげたことを覚えています。 
 その後、森さんとは暫く会いませんでした。森さんはセリーネにも全然来てくれなかったんです。 次に森さんにあったのは6月14日(火) でした。  「O」 さんの友達の 「A」 さんと森さんが突然、セリーネに来たんです。 「A」 さんは城山ヒルズにある 「B」 証券に勤めている人で、前から知っている人です。
 私はその日、店を休んでいたんですが、接客についた女の子から電話を貰い、夜中の12時すぎに店に出ていきました。 私と葵 (伊藤の親友、現在、六本木のクラブ、プロポーションに勤めている。源氏名ミカ) が担当していたので、葵から家に電話を貰ったんです。 
 葵は 「 「A」 さんと森さんが来ているよ。 あんたは会ったことがあるらしいじゃん」 と教えてくれました。 それで、12時すぎに行って、「森さんが来てるから来ちゃった」 みたいな事を行って、店が終わった後、ジョルジオに遊びに行きました。 ジョルジオは1階から2階がカジノで3階がカラオケボックスみたいになっているんです。 
 その次の日に森さんから電話があって、6月17日(金) に店が終わった後、待ち合わせをしました。 そしてその直後、土曜日か日曜日から付き合いだしたって感じですよ。なんとなくかな。 その時、森さんに 「 「O」 くんと付き合いたいの」 と聞かれ、「 「O」 さんとは男女の関係じゃないし、そんなんじゃない」 って言ったんです。 「じゃあ、僕とつきあおう」 って感じになったんです。
 2月に会ったときは、森さんは私のことを 「O」 さんとつきあっているというか、 「O」 の連れている女って感じだったと思うんです。 それで、そうじゃないということが分かったから、付き合いを始めたわけです。
2月に会ったときはふてぶてしいひとだと思ってたのね。 森さんは 「クラブなんてすぐにやらせる女がいなかったら行かない」 とか喋っていたので、「そういうのがいるよ」 と言うと、「じゃあ行く」 って感じで・・。 なんて奴だろうと思ってました。
 でも、14日にあって、カラオケボックスに行ったときに 「あれは、男同志が集まっている時の会話だったから、そう言ったんであって、本当は違うんだよ。 女の人と付き合うんだったらチャンと恋愛したいし、真面目につきあいたい」 と言うので、印象が随分違ったんです。 私も、「ああ、本当はこう言う人なんだ」 と思ったわけです。
 それからは、お店が終わるのを待っててくれたりしてたから、毎日じゃない��ど、結構会っていました。 もちろん、私の方が都合が悪いときはあったけど、付き合いはじめころは、毎日くらい会っていました。 
森さんの仕事?。 森さんはカラオケが仕事みたいでした。 一応、人と会わなきゃいけないとか、出張で石川県に行かなきゃいけないとか言っているけど、私、一緒に行ったことあるんだけど、何をしているわけじゃないんですよ。 たまに石川県のJCの人と会ったりとかしても、ご飯を食べたりしてるだけで、なにをしているというわけじゃない。 
 カラオケは結構うまいです。そのとき、そのときで新しい曲を歌うから、何を歌うというのはないんだけど、ジョルジオに行ったときは郷ひろみの 「言えないよ」 とか歌っていた。演歌は歌わないけど、何でも歌う。 毎日カラオケ行っているんだから上手いのよ。
 ジョルジオに 「森さんいますか?」 と電話すると 「今日はまだ来てません」 とか言うもん。 今はジョルジオに 75万円も売掛が溜まってしまって、「Y」 さんも怒っていたから、行ってるかどうかはわかりません。 私は森さんと会うと必ず、ジョルジオか西麻布の店に行っていました。
 付き合っていたのは、7月の末くらいまででした。彼の言っていることがあまりに違うんで、別れたんです。 例えば、「7月中に沖縄に行こう」 って言ってたのに、行かなかったりとか、私の引っ越しも、「俺が部屋を探してあげるし、俺の名義で借りてあげる」 って言ってたのにしてくれなかった。
 これは、あった当時に言っていた。 6月の14~16くらいに言ってたのに、全然やってくれなかった。 せっついても、「ウーン」 とか言うだけで・・。 「早く、家とか広い所に住みたいな」 とか言うでしょ。 「恵比寿のガーデンプレイスでもいいじゃない」 とか言う。 私が 「神宮とか表参道でもいいな」 と私が言うと、「赤坂でもいいんじゃない」 とドンドン話をすり替えてくる。 そして、実際には動かないんですよ。
 大体、高いマンションというのは、借りるのが大変じゃないですか。 仕事も固くなきゃいけないし、だから、自分の名義で借りてあげると言ってたんですよ。 その時は一緒に住むということではなかったです。 森さんは 「近くに俺も部屋を借りるよ。 俺も引っ越ししたいんだよね」 と言ってました。 彼は、その時、赤坂のマンションに住んでいました。
 マンションというか、1~2階建てくらいの家みたいなマンションみたいなのを借りてた。 私は行ったことはなかったんですが、用賀の家と赤坂と半分、半分くらいで住んでいたみたいです。 森さんの言ってることが段々辻褄が合わなくなってきて、おかしいなと思い出したのが、別れた原因の一つでもあるけど、その他にもあるんです。
一緒にいるときに、よく森さんの携帯電話に電話が掛かってきたんですが、森さんが 「あー後で掛けなおす」 って切ることが多かったんです。 絶対、女の人からの電話ってわかる電話があってね。 しばらくは変だなと思いながらも、怒っていなかったんですけどね。
7月10日に 「F」 パーティーがあって 「I」 さんの所に森さんと一緒に行ったんです。 そこで、 「I」 さんがパーティーに来ていた知り合いの女性を森さんに紹介したんですね。 ボブカットの 28歳くらいの下着屋のババアだったんだけど、その女が森さんを気に入って、結構プッシュしてたんですよ。
 私が森さんの横にいるのに、「アッチに行って踊ろう」 とかね。 で、パーティーの途中で森さんが私に 「帰ろう」 と言ってきた。 「ほっといて悪かった」 みたいな感じでね。それで、私は森さんに送ってもらって帰ったんですが、別れ際に森さんは 「俺は今日は風邪気味でだるいから真っ直ぐ家に帰るわ」 って言ってたんです。
でも、後から、 「I」 さんに聞いたら、森さんは私を家に送ったあともう一度、そのパーティーにもどったんだって。 それを、聞いて、「何でそういう事をするわけ」 と思っちゃった。 それで、後から 「I」 さんにしつこく 「森さんていつもそうなの?」 って聞いたら、そしたら 「いや、なんかジョルジオの女ともやったみたいよ」って言うしね。 それなのに森さんは 「 「I」 さんは俺には女の子を紹介してくれないんだ」 ってぼやく訳よ。
 「そうなの?。 さっきみたいなのも紹介にはいるんじゃないの?。」 って言っても 「あれは違うよ」 って言うの。 7月19日に、 「I」 さんに私が友達 (六本木 クラブセリーネ在籍ナオコ) を紹介したことがあったんだけど、そしたら、「なんで、「I」 に女を紹介したりするの」 ってブツブツ言ってきたわけ。 「本当は 「I」 の事が好きなんじゃない」 ってね。
別に、私が 「I」 さんの事を好きだなんてそんなことはないのよ。自分だって、 「I」 さんに女を紹介して貰っているくせにね。 そしたら、自分は 「I」 に女の子を紹介してもらったことはないってね。 それで 「I」 さんにもう一度 「森さんに女を紹介してるでしょ」 って聞いたら、「うん、二人ぐらいは紹介した。俺の知っている女もエッチしちゃってどうのこうの」 って言ってたのよ。
 結局は、余りにもやっていることがだらしない。 不信感は前から感じていたんだけど、パーティーの事ですごく腹がたったのね。 で、決定的なのは、「7月中に絶対、沖縄に行こう」 って森さんは言っていたのね。 私は森さんが忙しいんだと思っていたから、あまり強くは言えなかったのね。私には、忙しいって言っているしね。 でも、だんだんわかってくるじゃない。 忙しくもないし、大した用事もないってことが分かってくる。
それなのに、なんで連れていかないんだろうとか思って、余計、腹がたった。
 森さんと結婚を考えたこともあったんです。 始めはね、私の周りの人が政治家の息子とかというのは、結局、政略結婚だからって言ってたし、そう思っていた。 それで、森さんと��ういう関係になる前に、「女の人は男の人と付き合っていて、結婚したいなって思ったときには結婚をしたいわけじゃない。 でも、そういう家のしがらみとかあるよね」 って言ったのね。
 そしたら「いや、俺は政治家の息子でも、政略結婚なんて思わないし、仕事なんてどうでもいい」 って言っていた。 私のことが一番優先で、仕事なんてどうでもいいって訳よ。歯を治してくれると言ってたこともあった。 「私、歯を治したいんです」 って言ったの。私の女の子の友達の友達の彼氏の歯医者さんが私の友達の歯を治してあげているのね。
すごく遠い関係だけど、その歯医者さんは、彼女の友達の歯を治してあげている。
 「いいよね、そういうの」 って私が言ったら、森さんが 「歯くらい俺が治してやるよ。ちょっと遠いけど、大阪の歯医者だけど、矯正なら3回もいけば治っちゃうよ。 一緒に行ってあげるよ」と言ったの。 「大阪じゃなくてもいいのに」 って言ったのに聞いていないのね。 
 森さんから現金をもらったことは一度もない。 セリーネにきた���は一度だけだった。 それでね、来るって言っておいて来ないのよ。 例えば、「俺の友達の 「N」 さんが土曜日やっている店を知らないから、セリーネを紹介してあげたい。 俺ももしかして、行くかもしれないから。 女の子を集めておいてね、絶対、アフター皆でカラオケに行くからとか」 と言っておいて、私が土曜日は普通休むのに、わざわざ出ていったのね。 それなのに、来ないの。 
  「N」 さんもこない。 それで、「どうしたの?。」 って電話を入れると「いや、俺さっき 「N」 と別れちゃったからわかんない」とか言うわけよ。 私は女の子をすでに集めてるでしょ。迷惑を掛けられた。 その前とかも、金沢に旅行に行ったときに森さんが後援会の人とかに、「東京に行ったら、絶対にセリーネに行きましょうね」 とか言ってたのよ。
それなのに、来ない。 で、「後援会の人が来たんでしょ。どこに行ってたの?。」 と聞くと、全然関係のない店に言っているの。 初めは、店の売上にも協力してくれるといってたのに全然協力してくれないわけ。 忙しいとかいってね。それで、私が「店に行こうかな」 と言うと 「今日はどうすんの。休んじゃえば」 とかいうしね。
 土曜日に友達と用事が入っていても、「エーッ」 とか言って、電話が掛かってきて、「今から迎えに行く」 とか言うわけ。 でも、友達と用事があると言うと今度は 「俺ってかわいそうだよね」 みたいな事を言う。 で、友達の約束をキャンセルしなきゃならないことになる。 私は森さんを優先してたし、森さんに振り回されてたわけよ。 でも、向こうもそうだと思っていたのよ。
 でも、私は元々、小渕さんの友達を知っていたりして、それで、森さん絡みの話を色々きくのよ。 すると 「森さんって本当はこんな人だよ」 ってことが入ってくる。 例えば「P」では森さんは飲んでいるときにホステスに向って 「パスポート持っている奴、手をあげろ。香港行きたいやつは、手をあげろ。 ゴールデンウィーク暇なやつは?。 ああ、お前でいいや。 一緒に行こう」 みたいなね、そういう話を聞いたりね。 
 たまたま、セリーネに元「P」に居たユウミちゃんという女の子がいたのね。 あんまり森さんが来ないから、ユウミちゃんに 「森さんって、あんまりクラブとか来ないのかな」と聞いたら「いやー、「P」の時は毎日でしたよ」 って言うの。 私が森さんに同伴してくれって頼んだときには「俺は同伴なんて全然したことがないから。 でも、君が本当に困ったときには俺が同伴してあげる。 同伴はそれ以外は絶対にしない」 って言ってたのに 「P」 の時は 「毎日来てて、毎日ママと同伴してた。 終わってから、アフターも毎日行っていた」 って言うのよ。
 そういうのでも、腹が立ったわけ。 段々、森さんのことを周りに聞けばドンドン情報が入ってくるし、私だけで判断していたことと全然違っていたのね。 それで 「なんで「P」には毎日行っていたのに来ないの?」 ってことで揉めたこともあったしね。 そしたら「忙しい」。 それで、こんど 「I」 さんとか森さんの周りの男の人に聞くと 「全然、忙しくない」 ってことなのよ。 だから、知り合いが増えれば増えるほど森さんが嘘を付いていたことがハッキリしてくるのよ。 
 アメリカに行っていたときの話も聞いているの。  「N」 さん (国会議員NEの息子) と一緒で、コカインをやっていて、 「N」 さんが絵の裏にコカインを隠していて見つかりそうになってトイレに全部、棄てたとかね。  「N」 が暗証番号つきの金庫にかくしていたんだけど、あいつは暗証番号を忘れてしまって、しょっちゅう開けに来てもらっていた。それで、開けてもらったあとに “ちょっと中は見ないでください” とか言って部屋から出てもらうんだよ」 とか言ってたから、一緒にやっていたんじゃないの。
どこの大学だか覚えていないけど、ボストン、ワシントンとか何処かで聞いたことのある大学だった。 ホテルに泊まったのは2回だけ。 
2回ともキャピトル東急だった。 キャピトル東急に泊まってコカインを使ったのは7月11日(月)。 その日は私は12時でセリーネを早退したんです。
 前の日がさっき言ったように 「F」 のパーティーで、私は森さんに送ってもらったと言ったでしょ。 その時に 「森さんが明日もう一回会おうよ。 その時は泊まろうよ。」 という話をした。 それで、翌日店にでている時に電話があって 「もう、俺はホテルに入っちまったし、着替えちゃった」 というので私は 「じゃあ、可哀相だから、わたしも12時早退するよ」 って言ったのね。 それで、12時に早退したの。 でもモタモタしてて、結局店を出たのが12時30分くらいで、ホテルに着いたのが1時前くらいだった。
 電話で話をしていたから、部屋の番号を知っていたので、そのまま部屋にあがったんです。 部屋はツインでした。森さんは 「今日はダブルが取れなかったんだ」 と言ってました。 部屋に着いたとき森さんはスーツを着てました。私に 「お腹すかない」 ときいたので 「食べたいのか、たべたくないのか良くわからない状態」 と応えました。
 そしたら 「じゃあ、飲み物でも取ろうか」 って話になって、コーヒーとミルクセーキみたいなやつとアイスクリームみたいなシャーベットみたいなものを頼んだんです。 で、私はルームサービスが来る前に顔を洗ったり、シャワーを浴びたりとかしてと思っていたら、その間にルームサービスが来てた。 
 で、シャワーを出たら、森さんがルームサービスの銀のトレイの上に紙を広げて、六本木の 「K」 というゲイバーというかショーパブみたい���店のメンバーズカードで白い粉を切るというか細かくしていた。 紙はもしかすると、ルームサービスのトレイの下に引いてある紙かもしれない。 でも、ハッキリは覚えていない。
 私が見たときには粉はすでに粉末になっていたから、元の形が錠剤だったかどうかもわからないな。 すでに粉になっていたけど、それでも、それを切っていた。 この粉末は直径2センチくらいの緑色のピルケースの中から出してきた物だったみたい。 多分、いつももっているビトンのセカンドポーチの中にいれていたんだと思う。
 その緑色のケースはペットの近くのサイドテーブルの上においてあって、最後に森さんが 「こういうものは全部キレイに片付けないとダメなんだ。 こんなの持っているのが発覚したら大変だ」 と言ってたから。 「これなあに」 と聞いたら森さんは 「茶路 (金沢のクラブ 「D」 のママ) のお土産」 って。 コカインとはハッキリ聞いていないと思う。
 茶路は西麻布のレストランのオープン記念パーティーのために、7月7日に上京してたのね。 その時のお土産だと思う。 だから、使う前はなんだか知らなかった。 その後、森さんが 「いいんだよ、こういうのを使うと」 という話になったわけ。 「ヘェー」 と思っていると、もう、森さんは鼻から吸っていたの。
 ミルクセーキに付いてきたストローを部屋についているソーイングセットの鋏かなんかを使って、3センチくらいに切って、片方の鼻に差し込んで、もう片方の鼻を塞いで、粉を吸い込んでいたわけ。 初め黙ってみてたら、私の歯茎にそのコナを塗ってくれた。 「チョットだけすってごらん」 と言われて、「でも、私はそういうのは使ったことが一度もないから」 って断ったんだけど、でも、そういうものだとハッキリわからなかったから、よく睡眠薬じゃないけど、ハルシオンとか害のないものもあるじゃない。 別にそんなに害のないものだと思って。 彼は 「最初はチョットだけのほうがいいよ」 って言っていた。
 森さんは何度もそれを吸ったことがあるように見えた。 でも、あまり効かないというか変化がないので「これ、なあに?。全然効かないよ」と言ったら 「量が少ないのかな」 と言って、また歯茎に塗ってくれた。 鼻から吸うのも教えてくれた。 それで、エッチをしてる途中も吸ったりとかして、最後は全部使い切っちゃった。 寝たのは朝方だったと思う。
 
 薬を使いおわったときに 「これってなんなの?。 覚醒剤っていうやつ?鼻から吸ったりするのはエスっていうやつ?。 LSD?。」 ってまた聞いたのよ。 そしたら「混じっているのがエスで、不純物のない奴がいわゆるコカインだ」 と言っていた。 「要するに、打つのは覚醒剤で、エスというのはどうのこうの」 と一般的なことを言っていて、その時に 「これがコカインだよ。 鼻から吸う奴は」 と言ってた。 
 その薬の影響があったのかはわからない。 森さんには特に変化はなかった。 でも、朝、8時とか9時とかに目覚ましをセットしておいたけど、結局、起きられなかった。 で、12時頃に目を覚した時にあの人が 「凄く眠い」 って言ってまた寝たの。 それで、私が帰る準備をしてる時に 「なんでこんなに眠いんだって思ったら、昨日、クスリをやったから凄く眠いんだ」 って言っていた。
 最後にはプラスチックの 「K」 のカードも折って棄てた。紙は棄てたかどうかわからない。丸めてすてたかどうかはわからない。 森さん 「何度もコカインをやったの?」 ときいたことはないけど、前から、 「N」 さんがやっていた話とかを聞いていたし、 「N」 さんは会えばすぐ 「クスリをやっている人」 とわかる人でしょ。 だから、森さんは何度もやってたと思った。 
 それに、前に金沢に旅行をした事があったのね。 7月2日(土)~4日(月)の間に金沢に行ったのね。 一泊目は全日空か日航ホテルに泊まった。 2泊目は小松のホウシという温泉宿に泊まった。 このホウシは森さんの知り合いのJCの人だった。 その時に、クラブDで茶路って人ともずっとクスリの話をしていたから。 茶路は森さんに 「健ちゃんの持ってきた薬が良かった」 と言っていた。
 それで、7月2日にクラブDに行ったの。 そこは茶路の店で、カウンターバーみたい。 その時はなんの薬かわからなかったのよ。 どこか痛くて薬飲んだのかもしれなかったしね。 でも、たまたま、その後にカラオケに行ったら、健ちゃんという人がいたのよ。 その健ちゃんに森さんが 「あまり、茶路に変な薬をあげないで」 とか言ってた訳よ。なんか、健ちゃんがいつもそういう物をてはいしている様な感じだったし、森さんもそれを良く知っているという感じだった。
 で、わかったのは、健ちゃんと言うのは、森さんの後援会長の息子だったってこと。
3 notes · View notes
yuupsychedelic · 3 years ago
Text
詩集「言語天体 -The Kotobatic Love Orchestration-」
Tumblr media
詩集『言語天体 -The Kotobatic Love Orchestration』
1.「銀色惑星」 2.「星彩悲恋」 3.「せつなくてDarling」 4.「僕らの信じた夢」 5.「生きる」 6.「Long Time No See…」 7.「青春ピエロ」 8.「#すする」 9.「ことば叙事詩」 10.「喫茶GS -SINCE 1979-」 11.「46度目の正直」 12.「一途な恋心」
1.銀色惑星
あんなに泣き虫だった友も いつしか泣かなくなり こんなに立派な科学者になった
僕らは夢を追いかける探求者 人類の希望を背負っている
銀河越えへの Count Down いま始まる Space Journey 準備はいいかい? 覚悟決めて舵を取れ
太陽系の先に 何があるのか見つけよう 地球の誰もが見たことのない世界へ
銀河系の先に 僕らを変える明日がある たとえ現実に打ちひしがれようとも
超音速へ 僕のロケットを信じて
生物学では説明できない Creature 気象予報士が頭を抱える Abnormal Weather
たどり着いた先には何がある? 僕らに星を越える勇気はあるか?
青春を懸けて 追いかけてきた夢 ここでやめない 止まれはしない 漲る愛のために
突然 炸裂する閃光弾 砂漠に白い光が咲く 僕らは思わず目を背けそうになった
目の前に広がる 宇宙船の群れ 地球外生命体の 交響曲が響く
超音速へ まだ終わらぬ旅よ
超光速へ 希望を守り抜け
降り止まない風と雨 燃え尽きない太陽 人類の未熟さ そして幾多の過ちの果てに
太陽系の先に 何があるのか見つけよう 地球の誰もが見たことのない世界へ!
波動砲の群れが 行方を遮ろうとも ここで死ぬわけにはいかない 必ず生き残る
超音速へ 俺のロケットを信じろ
超光速へ 希望を守り抜く
言語天体 文明のフロンティア 地球人としてのPride 守り抜く為に Big Jump!!
2.星彩悲恋
星の館で出逢い 瞬く間に恋をして いくつもの季節を越えた 僕らの愛は何処へ向かうんだろう?
星座に願うばかり 君のことがこんなに好きなのに 想いすらも伝えられないなんて あまりに残酷な運命
哀愁を星に飛ばして いつまでも返事を待つ 健気な男のフリに疲れて 恋を諦めようとした
夏の雨の日 窓に気配がして 目を向けたら 君の姿
掟を破ってまで 恋の炎を燃やしたのか 答えられない 今の僕を許せ
一夜限りの恋愛で もし終わらせられたなら こんなに想いは募らずに 終わらせられたのかもしれない
星空は透き通っていて 僕の憂いを抱きしめはしない 終わった恋と理解っていたって 疼く切なさが悲しい
名もなき民のフリをして 道なき道を征こう 今更もう戻れはしない とっくに捨てた王子の称号
夏の晴れた夜 目の前に広がる 言葉にできない 惑星艦隊
君の気配は どこにも無くて 崩れ���しかなかった 青春の大失敗
果実を追うがあまり 忘れていた 訴追の嵐 鋼鉄の手錠は事実を語らない 僕は追放された
夏の曇りの日 遠く離れた 惑星Rで 君を想い出す
命と引き換えに 打ち棄てられたままの恋よ 君に出逢わなければ こうはならなかったのかもしれない
君に出逢ったから 本心に気付けたのかもしれない あの日走り出した 僕に後悔はない
3.せつなくてDarling
大好きと言ってよ Darling 大嫌いと言ってよ My Girl
優しいだけじゃ 恋はつまらない 恋人同士の不思議なワガママ
気になるって言ってよ Darling 俺に近づくなよ My Friends
一途な想いは 夜空に流れて いつか小さな星になる
誰かになりきるメディシン サイバー・ピクニック SFの箱庭がキミを待ってるよ
大好きと言ってよ Darling 大嫌いと言ってよ My Girl 付かず離れずの恋愛喜劇 I Love You! I Want You!! 未来のキミにセイ・ウチューン!
激しいだけじゃ 恋は醒めやすい 恋人同士の微妙な距離感
もっと好きになってよ Darling そっとしてほしいのさ My Girl
ココロヨメルアプリケーション 現実逃避のラブマシーン SFの箱庭がキミを待ってるよ
大好きと言ってよ Darling 大嫌いと言ってよ My Girl
付かず離れずの恋愛悲劇 I Love You! I Want You!! 未来のキミ君にセイ・ウチューン! 優しいキミにビバ・ウチューン!
モールス信号 告白 あなたが好きです 変身願望 キミの夢を叶える
大好きと言ってよ Darling 大嫌いと言ってよ My Girl 付かず離れずの恋愛喜劇 I Love You! I Want You!! 未来のキミにセイ・ウチューン!
せつなすぎるよ Darling もっと私を好きになって 未来のキミにセイ・ウチューン!
Loving You,  Loving Me, Loving Us. 未来の僕らにセイ・ウチューン!
4.僕らの信じた夢
ギターと歌に すべてを託せた時代は 未来など 考えたことなかった 社会を変えたら 世界も変わると 本気で 信じていた
抗争と暴力の果てに 僕たちの時代は 終わってしまったよ 世界を変えるため 走り回った ’69 深い青に 打ち消される
親戚のツテで なんとか就職できた もうすぐ20も後半になるが あの日 胸に抱いた 虚無感 未だ癒えず
僕らの信じた夢よ 愛だけ信じた日々よ
若さに惑わされすぎて 何にも見えはしなかった 君の声が聞こえない
白いヘルメット 担がれた美少女 未来は そこにあると騙され 大人の欲望に 動かされていただけと 薄々 わかっていたよ
結末を知っていても やらねばならぬと 何者でもない使命感 世界を変えるため 力に訴えた ’69 蒼い血は 世論を変えた
言葉には力があると 思い込んで 半径5メートルの世界も顧みず 無謀な 青春を生きた 代償は 永久の空虚さ
僕らの信じた夢よ 愛だけ信じた日々よ
若さに惑わされすぎて 何にも見えはしなかった 君の声が聞こえない
キャンパスに 悲しみの雨が降る まるで過去を洗い流すかのように 僕らの闘いの歴史さえも すべて無かったことにするのか
僕らの信じた夢よ 愛だけ信じた日々よ
若さに惑わされすぎて 何にも見えはしなかった 君の声が聞こえない
君の涙も見えない 若かった日々の過ち
5.生きる
すぐ傍を流れる川を ぼうっと眺めた日は 何にもなかったはずなのに 未だ憶えている
友達との馬鹿話や 好きだった人に振られたこと しょうもない話なのに 未だ憶えている
青春って素晴らしい 無邪気に思えてた頃は 何気ない週末も華やかに 君やあなたがいるだけで色づいたよ
それでも生きている 僕らは生きることに夢中さ 生きて 生き抜いて 生きることを諦めない あの頃みたいに 風に流されぬよう My Life, My Love, My Universe!!
切ないほどに寂しい夜は 夢中で君と電話をした 会話の内容も憶えてないのに 時めきは忘れない
誰かに嫌われることが怖くて 時々作り笑いもしたけど 最後はいつも素直に笑ってた 忘れられない日々
新たな場所に身を置き ふと振り返ってみた 自分の人生は自分で機嫌を取れ 物足りなさの正体はこれだったのか
それでも生きている 愛おしい日々を乗り越えた先に 生きて 生き抜いて 生きることを諦めない あの頃みたいに 風に流されぬよう My Life, My Love, My Universe!!
誰かに愛されるよりも 今は僕自身を愛したい 愛とは 一方通行ではなく 互いを想い合うこと
それでも生きている 僕らは生きることに夢中さ 生きて 生き抜いて 生きることを諦めない あの頃みたいに 風に流されぬよう My Life, My Love, My Universe!!
どんなに辛くても 好きなことに正直であれ My Life, My Love, My Universe!!
6.Long Time No See…
あの高架下のレストランで 旧友たちと語り合った夜 成人した喜びも束の間 すぐそこに迫った 未来に想いを馳せる
ずいぶん会わないうちに イメージが変わった人もいた そんな人だって彼らなりに 未来を自分なりに考えている
真面目なフリして 不真面目に生きてきた 僕の意地悪さが見えた気がした
お前が失恋した夕方 珈琲片手に語り合ったベンチ あの場所は今も変わらず 恋や青春の憂いを抱きしめている
懐かしさに浸ってる そんな場合じゃないさ 言葉じゃわかっていたって 行動には表せないさ
善人のフリして 綺麗な言葉を並べ立てる 僕らの意地悪さが見えた気がした
Long Time No See… 次に逢える日はいつだろう?
夜明けが来るまで ひたすら飲み明かした夜 太陽の微笑みは 華やかな青春の裏側
今日くらいは真面目なフリをしたかった 明日くらいは善人のフリがしたかった
僕らは大人になるたび 忘れてく 素直さや真面目さの意味 風に溶かしてく
Long Time No See… 次に逢える日はいつだろう?
7.青春ピエロ
あの角で すれ違わなければ 私はこんなに 悩まなくても良かったのかな?
雨が降ってた 先を急いでた チャイムが鳴る前に 辿り着こうと必死だった
ぶつかった後 気絶したまま 運命を告げる鐘が鳴り響く
あなたとの出逢いは 文字通り最悪だった でも一緒に話をするうちに いつの間にか虜になっていた
友達以上恋人未満 なんて古いかな? いつまでもどっち付かずじゃ お互いに悪いから
駅の近くのカフェに呼び出して 話をしようと決めた
あなたの名前が 何故だか思い出せなくて どうしてあんなに夢中だったんだろう?
ひとりでコーヒーを飲む きっとあなたはもうここに居る 私はコーヒーを夢中で飲むしかなかった
LINEの通知に見知らぬ男の名前 やけに満たされたトーク欄は 思い当たりのない言葉の嵐
ありえない 考えられない 思わず絶叫した
さよなら親友よ 恋人になるかもしれなかった あなたにさよなら
キーホルダーだけでも せめて大切にして もう私を忘れてください
不安感が襲う 情報の波に囚われたまま 私たちは抜け出せない 通知が怖くて 手放さぬスマートフォン
返事をしなきゃ 嫌われないように まるでロボみたいだ
嗚呼 あなたと 恋がしてみたかった
嫌いが怖くて あなたが怖くて 出逢うことすら拒絶した あの日の私
もう戻れない 還れない 変わらない 青春のピリオド
ルージュを涙で染め上げ 夜の街をひとり歩く ぬくもりなんてもう要らない 私は私だ
醒めたコーヒーに藍色を捜す 堕落した人生を許せ 後悔の十代よ
青春ピエロに何の用? 用がないなら帰ってよね
8.#すする
す す す すする す す すする するする す す すする すするする すする すする すす すする すす すすす すする すすすす すする すすす す す すする すする すする
すすすす すすすすす すする する すする すすすす すすすすす すす する する すする する
すする すす するする すす すする すする する すす すす すする すす す する すする すす すする する
す す す すするする すする するする す す す するする すする す すする する する すする する する す す する
する する すする す す す す すする すする するする
す する すする すすする すするする すすすすする するするすする
すすするすする するするする するすする すすする すする すす す
す す す す すするする すする
すする す する すするする すす す するする するすす する する す すす する する す すす すするする するする
9.ことば叙事詩
(地球誕生)戦禍の中に 言葉はいらない 理想を掲げ 使命を果たせばいい
悪魔の声が この胸に轟く 理想の先に 何を攫めるというのか
過ちの果てに 掴み取った未来を 壊す奴を許すな 悪魔に悪魔が笑う
単語(恋) 文節(してる) 文章(恋してる)
恋してるの訳し方を 76億の民は知らない I Love Youじゃ訳せない 言葉の隙間にある真意よ
曖昧さを愛するがゆえに 一元的な正義に恐怖する そのくせ一つになると 揺るぎない連帯
流されることに気づかぬフリして 考えるのを諦めた
君の声に怯えて 僕らは顔を覆ったまま やりたいことをやるために 悪事に手を染める
君と目を合わせず 僕らは安らぎを探して やりたいことをやるために 自分を妥協する
僕らはいつ歌うことを覚えたんだろう? 僕らはいつ踊ることを覚えたんだろう?
忘れはしないよ 君がそこにいたこと 青春と後悔の果て 涙は止まらない
全部捨てちまえ! 言葉も愛も捨てちまえ! 炎で燃やしてしまえ! 日常を投げつけてしまえ!
激情のままに踊ろう 退屈な言語天体で 踊り明かすことしかできない 自分の無力さを嘆く
あいうえお かきくけこ さしすせそ たちつてと なにぬねの はひふへほ まみむめも やゆよ らりるれろ わをん 憎み合うために 生まれてきたわけじゃない 恨み合うために 生きてきたわけじゃない
未だ終わらぬ戦争よ 人を嘲笑う差別や格差よ 最後に誰が笑うのか
言葉は生まれ もうすぐ死んでゆく 協調という名の欺瞞が見えた
それでも生きてゆく 強く分かちあう 言葉にまだ出来ることはあるさ まだ死ぬ時は先さ
サイバー空間の中で 僕らが生きる意味を探そう 言葉の価値を決めるのは 他でもない君自身さ
今生きている君こそ ことば叙事詩の主人公
10.喫茶GS -SINCE 1979-
あなたを好きになり 初めてライブを見て 蒼いギターと赤いミリタリー 思わず恋に落ちた
甘酸っぱい愛の歌 明日を見つめるメッセージソング そして情熱的なギターソロ 夢中になってしまったよ
数年の時が流れ いつも通っていたライブバー バンドの姿はなく 閉店を告げる張り紙
忘れたくない あなたがそこにいたこと 忘れさせない あなたのくれたトキメキ
ああ いとしきGSよ このまま時の彼方へ消えるのか?
やがて歳を重��� 地元で店を開けた 青春に捧げる歌 ここだけはあの日のように
かつては若すぎて 幻想に呑まれたまま 蒼さを言い訳にして 何もしなかった
忘れかけた そんな時に 忘れ去られた あなたが現れた
ああ いとしきGSよ 愛の歌はあの日と変わらず
ああ いとしきGSよ かつての情熱をもう一度
あきらめる前に 何かやってみることだ 生き生きとギターを奏でる あなたの姿に 忘れていたこと 思い出した
忘れかけた 青春の味 忘れる前に 思い出せた
いつしか私はあの日のように 拳を振り上げてた
ああ いとしきGSよ 他の誰よりも あなたの歌が好きだ
ああ いとしきGSよ 二度と歴史にはさせない
11.46度目の正直
カーテンの裏で あなたと語り合った 誰にも言えない 私だけの夢
人の群れに飲まれ 忘れていたこと 誰もやらないからって ���めたくはない
キュンとするような その可憐さに恋をした スポットライトを浴びる あなたの姿を見て 夢が生まれたんだ
やりたいことをやるって決めた 卒業式の終わりに 友達と誓いあったこと
あなたに叱られて やっとわかったんだ 夢を見ることの素晴らしさ
ひとりが好きで 塞ぎ込んでた そんな私にも 今は話したい人がいる
青春の季節 時に不協和音 まだ風は止まずに 確かに吹き続けている
あなたの奏でる旋律 いつも私なんかと思う みんなの前に立つなんて でも「ソンナコトナイヨ」って 微笑んでくれる存在がいる
やりたいことをやるって決めた 坂道の先に 私の夢がある
あなたのおかげで 明日が見えたんだ 46度目の正直よ 私に微笑んで
誰のせいでもない 私の人生だ あなたに出逢った瞬間 心がときめいた
やりたいことをやるって決めた 卒業式の終わりに 友達と誓いあったこと
やっと私は ここに立てたんだ 夢の始まり 一歩目を踏み出そう 46度目の先へ 未来は私のためにある!
ありがちな言葉 集まれば未来になる 諦めるなよ 私へ……贈ろう 人生とは幸せを探すもの
自転車を漕いで あの街へ旅立とう
12.一途な恋心
潮風が吹く Winding Road 自転車を飛ばしてく
青空は笑ってる 僕を見透かすように
なんでもない一言が 君を惑わせた 恋する気持ちも初めてだから 上手く伝えられなくて
今から逢えないかな もし僕に勇気があれば 紙飛行機に飛ばして 湿っぽくならなくていいのに 一途な恋心
モノクロームな鋪道も 君がいれば色づくね 片想いはいつだって 天然色を捜してる
なんでもない一日も 君は色づける 世界のすべてが君色なのさ Summertime Blues 泣いてる場合じゃないぜ
世界でいちばん好きだ どれだけ歳を重ねても 想いは変わらないと 僕はここに約束するよ
告白を受けた君は ぎゅっと微笑みを浮かべ 「友達から始めましょう」と オーロラの答え 一途な恋心 燃え上がる
さよならを捜して 恋仲になるわけじゃない いつかの夜明けは必ず 青空と信じて付き合うもの 初めは誰もそうさ
何度も恋愛して 僕らは大人になってく 恋人の季節はいつだって夏さ たとえ雪が降ろうとも
今から逢えないかな もし僕に勇気があれば 紙飛行機に飛ばして 湿っぽくならなくていいのに
不器用でもいい 一途な恋心 伝えよう 君があいつの恋人になる前に
詩集『言語天体 -The Kotobatic Love Orchestration』クレジット
Produced / Written / Designed by Yuu Respect to Yasushi Akimoto & Sakamichi Group(#11), All GS Musicians(#10)
Very Very Thanks to My family, my friends and all my fans!!
2022.4.13 Yuu
0 notes
skf14 · 4 years ago
Text
12150006
軽快なメロディが音割れしていることにきっと全員気付いているはずなのに、誰も指摘しないまま、彼は毎日狂ったようにそれを吐き出し続けている。
時刻は朝の8時過ぎ。何に強制されたでもなく、大人しく2列に並ぶ現代の奴隷たち。いや、奴隷ども。資本主義に脳髄の奥まで犯されて、やりがいという名のザーメンで素晴らしき労働という子を孕まされた、意志を持たない哀れな生き物。何も食べていないのに胃が痛い。吐きそうだ、と、50円のミネラルウォーターを一口含んで、押し付けがましい潤いを乾く喉に押し込んだ。
10両目、4番目の扉の右側。
俺がいつも7:30に起きて、そこから10分、8チャンネルのニュースを見て、10分でシャワー、10分で歯磨きとドライヤー、8:04に自宅を出て、8:16に駅に到着。8:20発の無機質な箱に乗る、その最終的な立ち位置。扉の右側の一番前。黄色い線の内側でいい子でお待ちする俺は、今日もぼうっと、メトロが顔を覗かせるホームの端の暗闇を見つめていた。
昨日は名古屋で人が飛び込んだらしい。俺はそのニュースを、職場で開いたYahoo!のトップページで見かけた。群がる野次馬が身近で起きた遠い悲劇に涎を垂らして、リアルタイムで状況を伝える。
『リーマンが飛び込んだ』
『ブルーシートで見えないけど叫び声聞こえた』
『やばい目の前で飛び込んだ、血見えた』
『ハイ1限遅れた最悪なんだけど』
なんと楽しそうなこと。まるで世紀の事件に立ち会った勇敢なジャーナリスト気取り。実際は目の前で人が死ぬっていう非現実に興奮してる変態性欲の持ち主の癖に。全員死ね。お前らが死ね。そう思いながら俺は、肉片になった男のことを思っていた。
電車に飛び込んで仕舞えば、生存の可能性は著しく低くなる。それが通過列車や、新幹線なら運が"悪く"ない限り、確実に死ぬ。悲惨な形を伴って。肉片がおよそ2〜5キロ圏内にまで吹き飛ぶこともあるらしい。当然、運転手には多大なトラウマを植え付け、鉄道職員は線路内の肉片を掻き集め、乗客は己の目の前で、もしくは己の足の下で、人の肉がミンチになる様を体感する。誰も幸せにならない自殺、とは皮肉めいていてよく表現された言葉だとつくづく思う。当人は、幸せなのだろうか。
あの轟音に、身体を傾け頭から突っ込む時、彼らは何を思うのだろう。走馬灯とやらが頭を駆け巡るのか、やはり動物の本能として恐怖が湧き上がるのか、それとも、解放される幸せでいっぱいなのか。幸福感を呼び起こす快楽物質が脳に溢れる様を夢想して、俺は絶頂にも近い快感を奥歯を噛み締めて堪えた。率直に浮かんだ「羨ましい」はきっと、俺が人として生きていたい限り絶対漏らしてはいけない、しかし限りなく本音に近い、5歳児のような素直な気持ち。
時刻は8:19。スマホの中でバカがネットニュースにしたり顔でコメントを飛ばして、それに応戦する暇な人間たち。わーわーわーわーうるせえな、くだらねえことでテメェの自尊心育ててないで働けゴミが。
時刻は8:20。腑抜けたチャイムの音。気怠そうな駅員のアナウンス。誰に罰されるわけでもないのに、俺の足はいつも黄色い線の内側に収まったまま、暗がりから顔を覗かせる鉄の箱を待ち侘びている。
俺は俯いて、視界に入った己のつま先にグッと力を込めた。無意識にするこの行為は、死への恐怖か。馬鹿らしい。いつだって、この箱の前に飛び込むことが何よりも幸せに近いと知っているはずなのに。
気が付けば山積みの仕事から逃げるように、帰りの電車に乗っていた。時刻は0:34。車内のアナウンス。この時間でこの場所、ということは終電だろう。二つ離れた椅子に座ったサラリーマンがだらりと頭を下げ、ビニール袋に向けて嘔吐している。饐えた臭いが漂ってきて貰いそうになるが、もう動く気力もない。死ね。クソ野郎が。そう心の中でぼやきながら、俺はただ音楽の音量を上げて外界を遮断する。耳が割れそうなその電子音は、一周回って心地いい。
周りから俺へ向けられる目は冷たく、会社に俺の居場所はない。同期、後輩はどんどん活躍し、華々しい功績を挙げて出世していく。無能な俺はただただ単純で煩雑な事務作業をし続けて、それすらも上手く回せない。ああ、今日はただエクセルの表作りと、資料整理、倉庫の整理に、古いシュレッダーに詰まった紙の掃除。それで金を貰う俺は、社会の寄生虫か?ただ生きるために何かにへばりついて必要な栄養素を啜る、なんて笑える。人が減った。顔を上げると降りる駅に着いていた。慌てて降りる俺を、乗ろうとしていた騒がしい酔っ払いの集団が睨んで、邪魔そうに避けた。何だその顔は。飲み歩いて遊んでた人間が、働いてた俺より偉いって言うのか。クソ。死ね。死んでくれ。社会が良くなるために、酸素の消費をやめてくれ。
コンビニで買うメニューすら、冒険するのをやめたのはいつからだろう。チンすれば食べられる簡単な温かい食事。あぁ、俺は今日も無意識に、これを買った。無意識に、生きることをやめられない。人のサガか、動物としての本能か、しかし本能をコントロールしてこその高等生物である人間が、本能のままに生きている時点で、矛盾しているのではないか。何故人は生きる?生きるとは?NHKは延々とどこか異国の映像を流し続けている。国民へ向けて現実逃避を推奨する国営放送、と思うと笑えてきて、俺は箸を止め、腹を抱えてしこたま笑った。あー、死のう。
そういえば、昔、俺がまだクソガキだった頃、「完全自殺マニュアル」なる代物の存在を知った。当然、本を変える金なんて持ってなかった俺は親の目を盗んで、図書館でそれを取り寄せ借りた。司書の本を渡す際の訝しむ顔がどうにも愉快で、俺は本を抱えてスキップしながら帰ったことを覚えている。
首吊り、失血死、服毒死、凍死、焼死、餓死...発売当時センセーショナルを巻き起こしたその自称「問題作」は、死にたいと思う人間に、いつでも死ねるからとりあえず保険として持っとけ、と言いたいがために書かれたような、そんな本だった。淡々と書かれた致死量、死ぬまでの時間、死に様、遺体の変化。俺は狂ったようにそれを読み、そして、己が死ぬ姿を夢想した。
農薬は消化器官が爛れ、即死することも出来ない為酷く苦しんで死ぬ地獄のような死に方。硫化水素で死んだ死体は緑に染まる。首吊りは体内に残った排泄物が全て流れ出て、舌や目玉が飛び出る。失血死には根気が必要で、手首をちょっと切ったくらいでは死ねない。市販の薬では致死量が多く未遂に終わることが多いが、バルビツール酸系睡眠薬など、医師から処方されるものであれば死に至ることも可能。など。
当然、俺が手に取った時には情報がかなり古くなっていて、バルビツール酸系の薬は大抵が発売禁止になっていたし、農薬で死ぬ人間など殆どいなくなっていたが、その情報は幼かった俺に、「死」を意識させるには十分な教材だった。道徳の授業よりも宗教の思想よりも、何よりも。
親戚が死んだ姿を見た時も、祖父がボケた姿を見た時も、同じ人間とは思えなかった俺はきっとどこか欠けてるんだろう。親戚の焼けた骨に、棺桶に入れていたメロンの緑色が張り付いていて、美味しそうだ。と思ったことを不意に思い出して、吹き出しそうになった。俺はいつからイカれてたんだ。
ずっと、後悔していたことがあった。
小学生の頃、精神を病んだ母親が山のように積まれた薬を並べながら、時折楽しそうに父親と電話をしていた。
その父親は、俺が物心ついた、4、5歳の頃に外に女を作って出て行った、DVアル中野郎だった。酒を飲んでは事あるごとに家にあるものを投げ、壊し、料理の入った皿を叩き割り、俺の玩具で母親の顔を殴打した。暗い部屋の中、料理が床に散乱する匂いと、やめてと懇願する母親の細い声と、人が人を殴る骨の鈍い音が、今も脳裏によぎることがある。あぁ、懐かしいな。プレゼントをやる、なんて言われて、酔っ払って帰ってきた父親に、使用済みのコンドームを投げられたこともあったっけ。「お前の弟か妹になり損ねた奴らだよ。」って笑ってたの、今思い返してもいいセンスだと思う。顔に張り付いた青臭いソレの感触、今でも覚えてる。
電話中は決まって俺は外に出され、狭いベランダから、母親の、俺には決して見せない嬉しそうな顔を見てた。母親から女になる母親を見ながら、カーテンのない剥き出しの部屋の明かりに集まる無数の羽虫が口に入らないように手で口を覆って、手足にまとわりつくそれらを地面のコンクリートになすりつけていた。あぁ、そうだ、違う、夏場だけカーテンをわざと開けてたんだ。集まった虫が翌朝死んでベランダを埋め尽くすところが好きで、それを俺に掃除させるのが好きな母親だった。記憶の改変は恐ろしい。
ある日、俺は電話の終わった母親に呼ばれた。隣へ座った俺に正座の母親はニコニコと嬉しそうに笑って、「お父さんが、帰ってきていいって言ってるの。三人で、幸せな家庭を作りましょう!貴方がいいって言ってくれるなら、お父さんのところに帰りましょう。」と言った。そう。言った。
俺は、父親が消えてからバランスが崩れて壊れかけた母親の、少女のように無垢なその笑顔が忘れられない。
「幸せな家庭」、家族、テレビで見るような、ドラマの中にあるような、犬を飼い、春には重箱のお弁当を持って花見に行き、夏には中庭に出したビニールプールで水遊びをし、夜には公園で花火をし、秋にはリンゴ狩り、栗拾い、焼き芋をして、落ち葉のベッドにダイブし、冬には雪の中を走り回って遊ぶ、俺はそんな無邪気な子供に焦がれていた。
脳内を数多の理想像が駆け巡って、俺は、母の手を掴み、「帰ろう。帰りたい。パパと一緒に暮らしたい。」そう言って、泣く母の萎びた頬と、唇にキスをした。
とち狂っていたとしか思えない。そもそも帰る、と言う表現が間違っている。思い描く理想だって、叶えられるはずがない。でもその時の馬鹿で愚鈍でイカれた俺は、母の見る視線の先に桃源郷があると信じて疑わなかったし、母と父に愛され、憧れていた家族ごっこが出来ることばかり考えて幸せに満ちていた。愚かで、どうしようもなく、可哀想な生き物だった。そして、二人きりで生きてきた数年間を糧に、母親が、俺を一番に愛し続けると信じていた。
母は、俺が最初で最後に信じた、人間だった。
父親の家は荒れ果てていた。酒に酔った父親が出迎え、母の髪を掴んで家の中に引き摺り込んだ瞬間、俺がただ都合の良い夢を見ていただけだと言うことに漸く、気が付いた。何もかも、遅過ぎた。
仕事も何もかも捨てほぼ無一文で父親の元へ戻った母親が顔を腫らしたまま引越し荷物の荷解きをする姿を見ながら、俺は積み上げた積み木が崩れるように、砂浜の城が波に攫われるように、壊れていく己の何かを感じていた。母は嬉しそうに、腫れた顔の写真を毎度俺に撮らせた。まるでそれが、今まで親にも、俺にも、誰にも与えられなかった唯一無二の愛だと言わんばかりに、母は携帯のレンズを覗き、画面越しに俺に蕩けた目線を送った。
人間は、学習する生き物である。それは人間だけでなく、猿や犬、猫であっても、多少の事は学習できるが、その伸び代に関しては人間が群を抜いている。母親は次第に父親に媚び、家政婦以下の存在に成り下がることによって己の居場所を守った。社会の全てにヘイトを募らせた父親も、そんな便利な道具の機嫌を損ねないよう、いや、違うな、目を覚まさせないように、最低限人間扱いをするようになった。
まあ当然の末路と言えるだろうな。共同戦線を組んだ彼らの矛先は俺に向いた。俺は保てていた人間としての地���を失い、犬に、家畜に成り下がった。名前を呼ばれることは無くなり、代わりについた俺の呼び名は「ゴキブリ」になった。家畜、どころか害虫か。産み落とした以上、世話をするほかないというのが人間の可哀想なところだ。
思い出したくもないのにその記憶を時折呼び起こす俺の出来の悪い脳を何度引き摺り出してやろうかと思ったか分からない。かの夢野久作が書いた「ドグラマグラ」に登場する狂った青年アンポンタン・ポカン氏の如く、脳髄を掴み出し、地面に叩きつけてやりたいと思ったことは数知れない。
父親に奉仕する母は獣のような雄叫びをあげて悦び、俺は夜な夜なその声に起こされた。媚びた、艶やかな、酷く情欲を煽るメスの声。俺は幾度となく吐き、性の全てを嫌悪した。子供じみた理由だと、今なら思う。何度、眠る父親の頭を金属バットで叩き割ろうと思ったか分からない。俺は本を読み漁り、飛び散る脳髄の色と、母の絶望と、断末魔を想像した。そう、この場において、いや、この世界において、俺の味方は誰もいなかった。
いつの間にかテレビ放送は休止されたらしい。画面端の表示は午前2時58分。当然か。騒がしかったテレビの中では、カラーバーがぬるぬると動きながら、耳障りな「ピー」という無慈悲な機械音を垂れ流している。テレビの心停止。は、まるでセンスがねえな死ね俺。
ずっと、後悔していた。誰にも言えず、その後悔すらまともに見ようとはしなかったが、今になって、思う。何度も、あの日の選択を後悔した。
あの日、俺がもし、Yesと言わなかったら。あの日の俺はただ、母親がそう言えば喜ぶと思って、幸せそうな母親の笑顔を壊したくなくて、...いや、違う。あれは、幸せそうな母親の笑顔じゃない、幸せそうな、メスの笑顔だ。それに気付けていたら。
叩かれても蹴られても、死んだフリを何度されても自殺未遂を繰り返されても、見知らぬ土地で置き去りにされても、俺はただ、母親に一番、愛されていたかった。父親がいない空間が永遠に続けばいい、そう今なら思えたのに、あの頃の俺は。
母親は結局、一人で生きていけない女だった。それだけだ。父親が、そして父親の持つ金が欲しかった。それだけだ。なんと醜い、それでいてなんと正しい、人間の姿だろう。俺は毎日、父親を崇めるよう強制された。頭を下げ、全てに礼を言い、「俺の身分ではこんなもの食べられない。貴方のおかげで食事が出来ている」と言ってから、部屋で一人飯を食った。誕生日、クリスマス、事あるごとに媚びさせられ、欲しくもないプレゼントを分け与えられた。そうしなきゃ殴られ蹴られ、罵倒される。穏便に全てを済ませるために、俺は心を捨てた。可哀想な生き物が、自己顕示欲を満たしたくて喚いている。そう思い続けた。
勉強も運動も何も出来なかった。努力する、と言う才能が元から欠けていた、可愛げのない子供だったと自負している俺が、ヒステリーを起こした母親に、「何か一つでもアンタが頑張ったことはないの!?」と激昂されて、震える声で「逆上がり、」と答えたことがあった。何度やっても出来なくて、悔しくて、冬の冷たい鉄棒を握って、豆が出来ても必死に一人で頑張った。結局、1、2回練習で成功しただけで、体育のテストでは出来ずに、クラスメイトに笑われた。体育の成績は1だった。母親は鼻で笑って、「そんなの頑張ったうちに入らないわ。だからアンタは何やっても無理、ダメなのよ。」とビールを煽って、俺の背後で賑やかな音を立てるテレビを見てケタケタと笑った。それ以降、目線が合うことはなかった。
気分が悪い。なぜ今日はこんなにも、過去を回顧しているんだろう。回り出した脳が止められない。不愉快だ。酷く。それでも今日は頑なに、過去を振り返らせたいらしい脳は、目の前の食べかけのコンビニ飯の輪郭をぼやけさせる。
俺が就職した時も、二人は何も言わなかった。ただただ俺は、父親の手口を真似て、母親の心を取り戻そうと、ありとあらゆるブランド物を買って与えた。高いものを与え、食わせ、いい気分にさせた。そうすれば喜ぶことを俺は知っていたから。この目で幾度となく見てきたから。二人で暮らしていた頃の赤貧さを心底憎んでいた母親を見ていたから。
俺は無邪気にもなった。あの頃の、学校の帰りにカマキリを捕まえて遊んだような、近所の犬に給食のコッペパンをあげて戯れていたような、そんな純粋無垢な無邪気さで、子供に戻った。もう右も左も分からない馬鹿なガキじゃない。今の俺で、あの頃をやり直そう。やり直せる。そう思った。
「そんなわけ、ねぇよなぁ。」
時刻は午前4時を回り、止まっていたテレビの心拍が再び脈動を始めた。残飯をビニール袋に入れて、眩しい光源を鬱陶しそうに睨んだ。画面の中では眠気と気怠さを見せないキリリとした顔の女子アナが深刻そうな顔で、巷で流行する感染症についての最新情報を垂れ流している。
結論から言えば、やり直せなかった。あの女の一番は、俺より金を稼いで、俺より肉体も精神も満たせる、あの男から変わることはなかった。理解がし難かった。何度殴られても生きる価値がない死ねと罵られても、それが愛なのか。
神がいるなら問いたい。それは愛なのか。愛とはもっと美しく、汚せない、崇高なものじゃないのか。神は言う。笑わせるな、お前だって分かっていないから、ひたすら媚びて愛を買おうとしたんだろう。ああ、そうだ。俺にはそれしかわからなかった。人がどうすれば喜ぶのか、人をどうすれば愛せるのか、歩み寄り、分り合い、感情をぶつけ合い、絆を作れるのか。人が人たるメカニズムが分からない。
言葉を尽くし、時間を尽くしても、本当の愛の前でそれらは塵と化すのを分かっていた。考えて、かんがえて、突き詰めて、俺は、自分が今人間として生きて、歩いて、食事をして、息をしている実感がまるで無い不思議な生き物になった。誰のせいでもない、最初からそうだっただけだ。
あなたは私の誇りよ、と言った女がいた。そいつは俺が幼い頃、俺じゃなく、俺の従兄弟を出来がいい、可愛い、と可愛がった老婆だった。なんでこんなこと、不意に思い出した?あぁ、そうだ、誕生日に見知らぬ番号からメッセー���が来てて、それがあの老婆だと気付いたからだ。気持ちが悪い。俺が人に愛される才能がないように、俺も人を愛する才能がない。
風呂の水には雑菌がうんたらかんたら。学歴を盾に人を威圧するお偉いさんが講釈を垂れているこの番組は、朝4時半から始まる4チャンネルの情報番組。くだらない。クソどうでもいい。好みのぬるめのお湯に目の下あたりまで浸かった俺は、生きている証を確かめるように息を吐いた。ぼご、ぶくぶく、飛び散る乳白色が目に入って痛い。口から出た空気。無意識に鼻から吸う空気。呼吸。あぁ、あれだけ自分の傷抉って自慰しておいて、まだ生きようとしてんのか、この身体。どうしようもねえな。
どうせあと2時間と少ししか眠れない。髪を乾かすのも早々に、俺が唯一守られる場所、布団の中へと潜り込んで、無機質な部屋の白い天井を見上げた。
そういえば、首吊りって吊られなくても死ぬことが出来るんだっけ。そう。今日の朝だって思ったはずだ。黄色い線の外側、1メートル未満のその先に死がある。手を伸ばせばいつでも届く。ハサミもカッターも、ガラスも屋上もガスも、見渡せば俺たちは死に囲まれて、誘惑に飲まれないように、生きているのかもしれない。いや、でも、いつだって全てに勝つのは何だ?恐怖か?確かに突っ込んでくるメトロは怖い。首にヒヤリとかかった縄も怖い。蛙みたく腹の膨れた女をトラックに轢かせて平らにしたいとも思うし、会話の出来ない人間は全員聾唖になって豚の餌にでもなればいいとも思う。苛立ち?分からない。何を感じ、生きるのか。
ああ、そういえば。
父親の頭をミンチの如く叩きのめしてやろうと思って金属バットを手に取った時、そんなくだらないことのためにこれから生きるのかと思うと馬鹿らしくなって、代わりに部屋のガラスを叩き割ってやめた。楽にしてやろうと母親を刺した時、こんなことのために俺は人生を捨てるのか、と我に返って、二度目に振り上げた手は静かに降ろした。
あの時の爽快感を、忘れたことはない。
あぁ、そうか、分かった。
死が隣を歩いていても、俺がそっち側に行かずに生きてる理由。そうだ。自由だ。ご飯が美味しいことを、夜が怖くないことを、寒い思いをせず眠れることを、他人に、人間に脅かされずに存在できることを、俺はこの一人の箱庭を手に入れてから、初めて知った。
誰かがいれば必ず、その誰かに沿った人間を作り上げた。喜ばせ、幸せにさせ、夢中にさせ、一番を欲した。満たされないと知りながら。それもそうだ。一番も、愛も、そんなものはこの世界には存在しない。ようやく分かった俺は、人間界の全てから解き放たれて、自由になった。爽快感。頭皮の毛穴がぞわぞわと爽やかになる感覚。今なら誰にだって何にだって、優しくなれる気がした。
そうか、俺はいつの間にか、人間として生きるのが、上手くなったんだ。異世界から来てごっこ遊びをしている気分だ。死は俺をそうさせてくれた。へらへらと、楽しく自由にゆらゆらふわふわ、人と人の合間を歩いてただ虚に生きて、蟠りは全部、言葉にして吐き出した。
遮光カーテンの隙間から薄明るい光が差す部屋の中、開いたスマホに並んだ無数の言葉の羅列。俺が紡いだ、物語たち。俺の、味方たち。みんなどこか、違うようで俺に似てる。皆合理的で、酷く不器用で、正しくて、可哀想で、幸せだ。皆正しく救われて終わる物語のみを書き続ける俺は、己をハッピーエンド作者だと声高に叫んで憚らない。
「俺、なんで生きてるんだっけ。」
そんなクソみたいな呟きを残して、目を閉じた。スマホはそばの机に放り投げて、目を閉じて、祈るのは明日の朝目が覚めずにそのまま冷たくなる、最上の夢。
0 notes
chaukachawan · 4 years ago
Text
口内炎治ったけん飯が旨いんや
明日の世界の過ごし方見に来てください!お疲れ様です。エデンです
ちゃうかに指ハート輸入したの俺ってほんまなん?恥ず
駄文書きおじさんは字数削減プロジェクトをがんばりぼんしたよ
橋本悠樹
たぶん何を面白いと思うかが各々違うので、たまに居合わせた時、小笑いしてくれるとすごく嬉しい。こないだ後輩のバ先に押しかけた時多めに笑ってくれたから嬉しかった!えへへ  俺ができない役作りというか向き合い方というかをしているから見ててすごいなと思う。成人しても酒カスにならんで欲しいけど、実際のところどうなんでしょう
渡辺快平
こんなになんでもないことで笑ってくれるような先輩だったかな?勝手にイメージ造り上げちゃってたかも。先週の稽古で役作り(というか口調?)に苦しむ様が見てていじらしかった。ワカさんみたいな"お前の足枝やん!"ってなるようなスキニーをアチキは買いたい
堀文乃
Simejiのクラウド超変換に"堀文乃"って一発で出てきたんだけど、すごくない?世間にだんだん気づかれはじめちゃってるんじゃないですかね(知らんけど)
こないだ客演の演劇を見に行ったときに、なんだか本気を見たような感じがして、すごい人と友達なんやなーと思いました。気安く友達なんて言っていいんかな。それでも、誰かがしょーもないこととかノリとかふっかけたときにつぼってる様が見てて好きです。日本酒がしゅきぴ
西田幸輝
こないだ久々に天麻が食べたくて、ちょうどお昼休みに箱に西田がいたので二人して館下行って、二人して天麻ってこんな多かったっけって言って、二人してお腹いっぱいだねって笑ってました。西田と同じ位わてにもかわいいところあるんだぞって話です🥰 髪切る前も切った後もどっちも良きや思うやで
島﨑愛乃
授業の被りが多いかな、支えられて私は落単を避けたいのです。最近もし将来結婚するならヨモツとかとまとめて式に呼びたいって言ってたらしいっす。ウケる。涙を零しながらのスピーチの第一声は「この御祝儀ドロボー末永く幸せになりやがれバーカ」に決まりです。
山内一輝
サークル内にニヤニヤしながら見守るファンが輪をかけて増えたことない?気持ちはわかる。チーフに限らず、立場が人を育てるってのがよく当てはまるなーと思う。俺が出てる場面を稽古の代読コンプリートしたらしいので、欠員が出たらこの人が出ます。
中津川つくも
中津川って岐阜の中央道の恵那山トンネルがあるところの地名しか思いつかんのですけど、この人富山出身やったよね?それはまあかまへんのやけど。
放送部でアナウンスをちゃんとやってた人なんですよね!僕は適当にアナウンスやってた人なので、北信越の女王には足元にも及ばないんですが。マジでもっと活かせる役に立ててあげないと勿体無いっす。アナウンスの発声ができてる人ってマイクに乗る音からしてまず違って、開口一番で上手いって分かるんですよ。感覚的には鼻先から声が出てるような感じなの。マジでもっと活かせる役に立ててあげないと勿体無いっす。稽古の最初のほうはアナウンスっぽい喋り方になってるのを耳にしてたけれど、今はそんなことないですね。何のムードもない薄白い蛍光灯だけの大集会室でいきなりあのセリフの雰囲気出せるのすごいなと思います。恋あたコラボシュークリーム買えてよかったね!
僕は先輩をするのが得意じゃないので、力加減が分からなくてお人形さんを握りつぶしてしまうフランケンシュタインみたいな感じなんですけど、僕みたいな、仲良くしてても演劇サークルのなかで役立つ見返りが別に無いような人間にも喋ってくれててシンプルにうれしいのです。地元いじりばっかしてごめんね
ちゃうかの次期ドン?元締め?と小耳に挟んだので、今のうちに胡麻すっておきます!
lulu
こんなくだらない人(褒め言葉)だったっけ。演技中よりも稽古場とか休憩中の軽快な小粋なトークが僕は好き。近接した同郷の放送部トークをすると共感のしあいっこになってたのしい。他劇団のお仕事おつかれさまです
なしもとはな
なんか波長が合う。たまにいつものテンションと口調となんら変わらぬままスッて褒めてこられるから、ちょっとドキッとする。でもたまにイライラの矛先として八つ当たりされる。ぱおん
不器用なだけなの、こわい人じゃないんだよ、仲良くしてあげてね
西岡克起
以前にも増してそこにいるだけで民を笑わせるよね
こないだ稽古場でくうやかつくもちゃんかどっちかと喋ってるの見て、西岡が先輩やってる、ウケる、って、笑った
俺はもーちょい西岡ノリに乗りたいと思ってるのだーできないけど
久保勇貴
相変わらず人名ユウキの漢字ってバリエーション多すぎて一発で変換できた試しないっすよね。
うまく先輩をするにもうまく後輩をするにも、そのためのスキルってのが要るけれど、彼はとても上手に後輩をできる子だと思います。その素質を持っている。先輩後輩って関わり方なら嫌う人はいないんじゃないかしら。むしろ僕が先輩やるの下手なので、下手くそな関わり方しちゃってごめん��さいと常思っています。
稽古場でずーっとずーっと反復練習してる。一にも二にも自分の職務をパーペキにするってのがプロ意識だと思うので、彼にとってはなにも特別な心がけなんかじゃなく、正しくプロ意識持ってるってことだと思うねんけど。すごいと思う、僕にはできないから。
会話のキャッチボールのなかで、こう打ったからこう返してくるだろうと思ったら違うところに返ってくる、もしくは返ってすらこないことがあったり、そういう肩透かしを食らうことがなんとなくあるというか。危うさがありますよね、ディスコミュニケーションではないんやけど。いじられキャラ回避の自己防衛なんかなと思ったりしつつも、僕としては、返してほしくて構えていた位置に球が返ってくることを楽しみにして、雑に会話をふっかけようと思ってます。お前はもっと垢抜けられるぞ!活かせよ!バーカ
木下梨実
去年の新歓できりみさんがうどんおでんゲームに苦戦してて、それに皆が笑ってたのがいま思えばちゃうかに入った決定打だったんかも。もう言うタイミング無いかもしれないから言っちゃった。なにげ初出し情報かも。はずかし
トニ--板倉
いつの間にか同期たちのケアマネに就いてたからなのか、僕に対しても前までこんなにだったっけってくらい優しく喋ってくれることが増えたように思います。うれしい。仲良くなれたんかなーと思うとちょっとこしょばいんですけど、反面ぬか喜びかもしれないからもう黙ります😤バーカ
岸田月穂
役者でどころか下手すれば関わるの初めてかもしれない。同じシーン頑張りましょうね🤗  変えますかでイヤアアアアアアアって演技をされてたのがやけに脳裏に残ってます。勝手な偽記憶じゃないよね?間違ってたらごめんなさい
楽園うさぎ
いままで二十年間運動音痴をやってきたので、キャスパ褒められると、嬉しいもあるんだけど戸惑いも半分あるねん
津島ヨモツ
大抵の会話がノーガード殴り合いだけれど、ごくごくたまに顔も見たくなくなるけれど、多分あなづらはしってこういうことなんでしょうね。洲崎西みたいな。ちょっと身支度頑張ってきた日に軽率に褒めてくれるのと、僕がディスコミュニケーションしちゃってたら指摘してくれるから、うれしい。
オペ
須田颯人
最近僕の絡み方が須田やんって言われることが増えたので、須田ってこんな気持ちなんかなって思っている。僕はつまるところどうコミュニケーションしたらいいかわからないから須田になっちゃってるのでマジ共感の嵐。色んな他劇団?客演?の映像のスタッフで抜擢されてるの見てすげーなー!って思ってるよ。普段のおもんない須田がすきだからこんなこといわないけどね
渡邉あみ
最近僕の絡み方がダル絡みやんって言われることが増えたので、あみさんってこんな気持ちなんかなって思っている。僕はつまるところどうコミュニケーションしたらいいかわからないからダル絡みになっちゃってるのでマジ共感の嵐。銀河ってギャラクシーの役柄すごく好きです!
藤丸翔
今日もそうだったけど、帰る方向が一緒だからたまに帰り一緒になる。でも彼は俺の最寄りを最高速度で通過する特急に乗ってお帰りになるのです。おこ
後輩をするのが上手なんですよね多分。でも年齢差が噛んでるのかなんなのか勝手にいまいちそう思いきれていないところが僕にはあるというか。学生証の写真見て目ん玉飛び出ました
時節柄マスクつけた様で見慣れちゃったせいで、ご飯行ったときに見かけたマスク外した顔が若干解釈違いを起こしている……大きな声ではいえないけど!
意識して32期はいっぱい書こうとがんばりました。あとは出涸らし😉!えでんでした
明日の世界の過ごし方見に来てください!
0 notes
micoshi-kd · 5 years ago
Text
Mytreasure is your sounds
高校時代書いてたやつ。
 高校二年生の秋。  私よりも先に音楽室に来ている人がいた。私が必死に五階まで上がり、音楽室の前に立つともうピアノの音が聞こえている。話し声はない。ただ黙々とピアノを弾いているようだ。邪魔をするわけにもいかないので、中を覗く勇気もなく、私は自分の教室へと帰っていくのだ。  それから一ヶ月。十一月の中旬になっていた。お弁当を食べてからだといつもその先客がいる。一ヶ月の間、教室から音楽室に行くが骨折り損になるということを繰り返していた。そのままピアノの音に浸って帰る、それを繰り返していた。  ある日、今日こそはとお弁当を食べずに走って五階の音楽室まで向かった。  もしかしたら、その奏者は音楽の授業の後でそのままピアノの椅子に座っているかもしれない。ただの教師なのかもしれない。嫌いなやつがスラスラと難曲を弾きこなしているかもしれない。軽音楽部が音楽室でお弁当を食べていて、ピアノで遊んでいるだけかもしれない。どこぞのバカップルが音楽室でイチャイチャしてるかもしれない。たとえそうであっても。願わくば、私にピアノを弾かせて。  走りながらいろいろなことを考えていたが、一番最後にくるのは“ピアノを弾かせて”の一言だけがぐるぐると頭を回るのだった。  ゼェゼェと息を切らしながら音楽室の扉を開こうとする。  よかった。まだ音はしない。誰もいないはずだ。  そう思っていると、私が来た階段とは別の階段で足音がした。落ち着いた教師のような足音だ。息を切らした破裂しそうな心臓が更に激しく運動する。  あの奏者かもしれない。  その期待を抱えて、私はまっすぐと、できる限り落ち着いて、階段の方向を見た。上履きが見えた。すぐに色を確認した。緑だ。私と同じ学年のようである。その上履きから視線を上げると、灰色のズボンの裾が続いていた。見覚えのあるズボンだ。どうやらこの学校の男子生徒らしい。そのまま視線を上げ続ける。カーディガンにネクタイ、輪郭、髪型、と全てを見終わったとき、その男子は不思議そうに私を見ていた。  もう一度、全身を確認した。同じ二年生の男子生徒。ものすごく普通だ。決してかっこいいと言えるタイプの男子ではない。けれど、ピアノを弾いていたのは彼に違いない。このパッとしない地味な彼に違いない。 「あの、先客?」  無難な声。  音楽室にやってくる者の暗黙の了解がある。先客の邪魔はしないこと。先客を無理矢理にどかしてまでピアノを弾こうとしないこと。  どちらにしろ、当たり前のマナーではある。なぜだか、この学校のピアノの奏者はそういう控えめな者が多いらしい。 「ほぼ、同時だよね」と、私は声を出す。  どうしてもあのピアノの奏者の正体を確認したかった。どうにかしてこの目の前の男子と話していたかった。その意思だけが私の口を動かしている。 「ねぇ。ここ最近ずっとピアノ弾いてたのは」 「俺だよ」  その返答に安心する。私の直感は間違っていなかった。 「邪魔しないから、弾いてくれない?」 「え…でも、先に来たのは」 「いいの」頑張って満面の笑みを作る。  彼は困惑した様子で私を見た。渋々頷いて、音楽室の扉に手をかける。  中は誰もいなかった。こんな五階まで上がって��る人なんて物好きぐらいしかいない。もちろん私達はその物好きの一員に入っている。彼にもそういう自覚はあると思う。  彼がピアノの蓋を開き、椅子の高さを合わせ始める。その様子を少し離れた所から見つめる。とても手慣れた手つきだった。 「そういえば、君、名前は」 「B組の松田理恵奈」 「俺、D組。飯田雅彦。これも何かの縁だろうから、よろしく」  彼の右手が鍵盤にそっと乗る。人差し指がファの鍵盤を押す。ピアノの中のハンマーが弦を叩き、壁にぶつかり響いていく。そのままファの音から始まるヘ長調の音階を軽々しく弾く。憎たらしいくらい軽々と弾きこなす。 「飯田君って、ドビュッシー弾いてたよね」 「うん。でもなんで知ってんの」  質問を質問で返された。言い返せない。“ずっと音楽室の廊下の前で聞いていました”なんて言えるわけない。まるでストーカーだ。 「この前隣の教室で授業あったときに聞いた気がしたから」  飯田君は“そう”と素っ気なく答えるとピアノに顔を合わせる。さっきまでとは違う雰囲気に私も身体を緊張させる。  クラシックではない、独特のメロディーが流れる。J-popでも聞いたことがない。彼のオリジナルの曲かもしれない。私はその音に耳を傾けた。落ちてほしいところでストン…とメロディーの節が終わってくれる。劇的な変化はない曲だが、落ち着いていて聡明で、聞き心地がいい。 「オリジナル?」 「うん」 「タイトルは?」 「決まってない。うまいのがいつも浮かばないんだ、タイトルって」  他愛のない会話をする。彼がピアノを弾き、ひとつの曲が終わっては私が話しかける。今まで何を弾いてきたのか。どこで習っていたのか。何年間習ってきたのか。いつもどんな練習をしているのか。私達は短い時間で濃密な時間を過ごした。  昼休み終了の時間が近づくと、飯田君はピアノの蓋を閉じた。とても大事なものをしまうように丁寧にそれを閉じる。その彼の行動にピアノへの愛を感じた。  きっと、私は、飯田君の音を聞いてから彼に惚れている。一目惚れなんかじゃない。一耳惚れというんだろう。彼の見た目なんてどうでもいい。彼の奏でる美しい音に私は惚れた。大体一ヶ月前に聞いた、あの音に。  私達は無言で音楽室を出る。もう会話をしきってしまって話題がなくなってしまったのだ。 「ねぇ飯田君。曲のタイトル」 「え?」 「“My treasure is your”でどうかな」  いきなりで馴れ馴れしいかもしれない。でもこうするしかなかった。飯田雅彦君を引き止めるにはこうするしか。  彼は目を丸くしてから、はにかむように笑った。 「“your”の後はなんもないの?」 「なんか、そこら辺は曖昧にしときたかったの」  飯田君のはにかんだ笑顔に釣られて、私もはにかむように笑ってしまった。少しだけ笑い合ったあと、私達は音楽室の前で別れようとした。 「――あの、松田…理恵奈さんだっけ?」  声をかけられた。名前を呼んでくれた。 「明日も音楽室来る?」 「うん」  本当に他愛のない会話。  その会話をして、私達は自分達の教室へと帰っていった。
 翌日の昼休み。  既に音楽室からはピアノの音が聞こえていた。昨日と同じ旋律が流れている。  飯田君だ。  私はそっと音楽室の扉を開けた。そこにはちゃんと飯田君がいた。ピアノの椅子に座り、緊張した雰囲気で向かい合っている。彼はすぐに私の存在に気づき、困ったようなはにかみ笑顔をして手招きをした。私は扉を閉めて、音楽室の生徒側の椅子に座る。彼とピアノを横から見るような形だ。  飯田君の小さなコンサートだ。きっと私が一番最初のお客さんだ。 「早いね」 「松田さんより早く来ようと思って昼飯食べずに来たんだよ。まっすぐ」  ピアノの椅子に寄っかかりながら飯田君は伸びをする。さっきの授業がだるかったのかな、と思う。 「飯田君はピアノ上手だけどさ、音楽系に進むの?」 「いや、普通に文学科の大学に行こうと思ってるんだ」  後から、音楽で飯食うなんて無理に等しいからね、と付け加えられる。  それは確かな正論だ。音楽でご飯を食べられる人なんてほんの一握りしかいない。その一握り以外はただの会社勤めかフリーターで終わってしまう。多くの生徒は学校のためにお金を捨てるだけになってしまう。音楽は趣味で留まらせる。それが一番効率がよく頭のいい選択なのかもしれない。  それから進路の話になった。二年の秋となると、教師達も進路選択にうるさくなってくる。毎月のように進路選択のアンケートの用紙が配られ、記入していく。  ひとつ驚きだったのが、飯田君はとても真面目に進路を考えていたということだ。��れも少し変な意味で。親に気を遣ってか、電車賃のあまりかからない、中でも学費のあまりかからない大学を志望しているようだった。飯田君は大学に行きつつもピアノの腕を上げようとしている。その中にバイトをするという項目も上がっている。なかなか忙しい人になるつもりのようだ。  私に至っては、まだ何も決めていなかった。強いて言うなら、嫌いなことはしたくない。下手に大学や専門学校に行ってお金を無駄にはしたくない。でもそうしないためにはどうしたらいいのか、全くわからなかった。大学にしても勉強したいことがない。よくある夢のない高校生になってしまっていた。 「すごいね。ちゃんと決めてるんだ」 「ううん。全然決まってないよ。結局大学なんて逃げ道だし。どうせ就職するまでの時間を稼いでるだけだからね」  昨日みたいにはにかんだ笑顔を見せられる。 「そうだ」  飯田君がそのままの笑顔で私を見る。 「今日の放課後暇?よかったら近くの楽器店、見に行かない?」  すごくドキッとした。誘われるとは思っていなかった。飯田君を完全に受け身な草食系男子だと思い込んでいた。  私はすぐさまに返事をした。“行ける”と。そして“楽器店に行きたい”と。その返事に彼は満足したようにピアノを弾き始めた。私はその音に身を委ねるように目を閉じた。  この音、すごく好き。
 放課後。  私達は学校の最寄り駅から三駅先の楽器店に向かった。私もよく行く馴染みの店だ。どうやら飯田君にとっても馴染みに店だったらしい。  もしかしたら、どこかで既に会っていたかもしれない。ただすれ違ってて、気づかなかっただけで。  そんな妄想すらしていた。それくらい今の私は舞い上がっていたのだと思う。  だが、いざ楽器店に入ると、私達は何かに真剣になっていた。目の前の音楽という存在に、楽譜という存在に、正面から付き合おうとする。そのせいか、お互いのことをすっかり忘れていて、気づいた頃には日がとっくに沈んでいた。そのことに気づいてくれたのは私ではなく、飯田君だった。 「どっかでご飯、食べる?」  そう提案してくれたのも飯田君だった。どこかぎこちなかったけれど。  駅前のファーストフード店に入り、適当なものを頼み、席に座る。  何を話せばいいのかわからなくて、私達はずっと黙っていた。初々しいのにも程がある。私だって男子とつきあったことがないわけじゃない。でも今回は特別にどこか緊張していた。  それからと言うも、私達は昼休みに音楽室に入り浸っては、放課後は電車で移動して楽器店に入り浸る。そういう日々を繰り返していた。お互いにメールアドレスも交換して、メールも電話もしていた。  まるで恋人のようだけど恋人じゃない。友達以上恋人未満。そういうのはこういうことを言うのだろうと私は悟った。まだ私は三ヶ月前の緊張を煩ったままで、飯田君の傍にいるだけでやっぱりどこか、緊張してしまっていた。告白するにも告白できない。もどかしさと緊張に包まれていた。
 ある日。  飯田君からメールが来た。 “放課後、吹奏楽部ないんだって^^。音楽室行かない?”  とても嬉しくなる。  私はすぐに返信を打った。 “行く!SHR終わったらすぐ行くよ(・u・)”  携帯電話の画面に“送信しました”というメッセージが出る。そして見慣れた待ち受け画面へと戻る。  今、飯田君はメールを開いているだろう。そして返信を打ち込んでいるだろう。  すぐに携帯電話のバイブが震え、ライトが点滅した。 “OK。待ってる”  ほぼ毎日のように飯田君とは会っている。私にも飯田君にも同性の友達がいないわけじゃない。会話の中にその友達達の武勇伝が語られたりもする。誰かと誰かがつきあってるという噂の話をおもしろおかしく喋っていたりもする。適度にその友達ともつきあいながら、私達は会っていた。
 放課後。  夕日が音楽室に差し込んでいた。黒光りするグランドピアノを幻想的に仕上げさせる。電気はついていなく、灯りはその夕日だけだ。  飯田君は珍しく生徒側の椅子に座っていた。いつもならピアノの椅子に座って、ピアノを弾きながら私を待っている。唯一変わらないのは、その座り方とはにかんだ笑顔だ。 「ゆっくりと松田さんのピアノ聞いたことないからさ。弾いてくれない?」  私が、このうまい人の前で弾くの? 「え…でも、私、飯田君より下手だよ、すごく」 「それは“下手”じゃなくて“個性”だよ」  飯田君はそれをハッキリと言う。それもピアノを前にしたときのあの真面目で緊張感のある表情で。  私はその表情に押されて、ピアノの椅子に座った。  ここにはいつも飯田君がいる。私はいつもは、今、飯田君の座っている椅子に座っている。それは世界のお約束を破ってしまっているように感じてしまった。タブーを犯しているような気がしてしまった。私は、弾いてしまって、いいのだろうか。弾くことで飯田君に嫌われたり、しないだろうか。 「たぶん、聞いたこと、あると思うから」  決心する。 「うん。どうぞ」と、彼は私にピアノを促す。  プライベートで人に自分の音を聞かせるのは初めてだ。とても緊張する。発表会やコンクールとかはお客さんはだいぶ遠くにいる。けれど、今はとても近い。今、音楽教師の目線に立って、ピアノに座っている。  私はとある曲の最初をぽろぽろと弾き始めた。その曲はアルペッジョで始まる。流れるような旋律。盛り上がっては、またおとなしく治まっていく。そのおとなしく治まった音からまた溢れ出すように何かが溢れていく。それはまるで感情のようで、また水のようで。おとなしく聡明な曲ではあるけれど、弱いとは感じない。その曲は絶対的な美しさを持っている、と私は感じている。  クロード・ドビュッシーの「二つのアラベスク」の第一番。  最後も高音から流れるように奏でていっては、また高音に帰り、優しく鍵盤を叩き、それは幕を閉じる。  いつの間にか、緊張のことをすっかりと忘れていた。私は私の世界に完全に浸っていたようだった。私は一度弾くと終わるまで現実世界に帰ってこれない。それは悪い癖でもあり良い癖でもある。集中してしまえばこっちのものであるからだ。だが、聞いている側の人間のことを考える余裕がなくなり、聞き苦しい演奏をすることがしばしばある。その癖故に、人前で弾くことを避けていた。  飯田君の顔が見れない。もしかしたら、また聞き苦しい演奏をしてしまったかもしれない。独りよがりな演奏を聞かれてしまったかもしれない。嫌われてしまったら、私、立ち直れない。 「おつかれさま」  声だけじゃ相手がどう思ったのかを感じ取れない。 「ごめん。聞き苦しかったでしょ」 「ううん。松田さんがどういう人なのかよくわかったドビュッシーだったよ」  彼の声は明るい。今まで会話した中で一番生き生きしている。それでも、私は顔を上げる勇気が出なかった。 「松田さんってドビュッシー好きだったんだね。だから、ドビュッシーにだけ食いついたのか」 「え?」  私は思わず顔を上げた。そこにははにかんだ困ったような笑顔ではなく、満面の笑顔があった。私はそれで嫌われてないんだとわかった。それに安堵を感じる。 「結構前だけど、松田さん言ったじゃん。“ドビュッシー弾いてたよね”って」 「うん」  飯田君が“ドビュッシー好きだったんだぁ”と呟く。その後に私とばっちりと目が合う。正しく言うなら、彼が私の目を見て言ったのだ。 「すっごくまっすぐで、あざとくなくて、素直で。俺は好きだったよ」  目があったままこう言われると、とても照れる。今まで自分の演奏を褒められたことは一度もなかった。  飯田君自身、とても興奮している。そして、それは私も。 「俺みたいに小手先だけの演奏じゃないから、すごく羨ましかった。だから、誰も下手じゃないんだよ。個性なんだ。その個性がその人の好みかどうかってことなんだ。俺は運良く松田さんのピアノが好きだった。それだけのことでしょ」  珍しく饒舌だ。  飯田君の説得力のある言葉に圧倒されてしまう。私も長い間、ピアノと接してきたけれど、ここまで真面目にピアノと向き合っている人は初めてだ。 「聞けてよかった。宝物見つけたみたいだ」  その“宝物”という言葉が心に引っかかった。前に何か、捜していた言葉な気がする。必死に前に記憶を探る。 「ねぇ」 「何」 「yourの後に“sounds”て入れたら、どうかな」 「え」  飯田君はなんのことを話しているのかわからない様子だ。 「飯田君が弾いてくれたオリジナルのタイトル。“My treasure is your”の後」  彼の顔がみるみると輝いていく。そして笑顔になっていく。また彼の興奮が返ってきたみたいだ。今までに見たことのない彼を見ているようでとても新鮮だった。そして、ここで初めて、飯田君という人間に惚れてしまった。 「松田さん、ほんっとにナイスだよ!」  “決~めた”と飯田君は声をあげて笑う。それに釣られて私も笑ってしまった。  いつの間にか日は沈んでいた。暗くなったからと私達は音楽室の鍵を閉めて、職員室に返し、下校することに決めた。  昇降口を出て校門を出る。私達は帰る方向が同じで途中まで一緒に帰っていた。  今日は少しだけ寄り道をしようと、途中にある公園に留まり、ブランコに乗ってみた。私は制服のスカートをはいているため、思いっきりはこげなかった。その代わりに飯田君が思いっきりこいでみせてくれる。ブランコの振動が私の所まで届いてくる。 「“My treasure is your sounds”かぁ」  ブランコが落ち着いた頃に飯田君が呟いた。 「やっぱり別のにしたいな」  その言葉に私はびくっとした。何が気に食わなかったのかと私は飯田君を見る。その彼は少し俯いている。 「松田さんのために曲作るから、その曲のタイトルにしない?」  言われた意味が理解できなかった。理解できなかったというより、信じられなかった。あまりにも突然で、私は予想をしていなくて、頭の中が真っ白になった。  改めて、私のために曲を作るから、その曲のタイトルを“My treasure is your sounds”にしないか。そういう意味だ。それに理解するのに五秒ほどかかった。 「じゃああの曲は」 「“無名”っていうタイトルにする」  今はそんな気分なんだ、と飯田君が付け足す。 「飯田君、あのね」 「ん」
「私、飯田君に惚れたかもしんない」 「俺は、もっと前から惚れてたよ」
「いつから?」 「一年のときに松田さんが弾いてたピアノを聞いてから」
0 notes
touden-tztt · 8 years ago
Text
STORYSHIFT日本語訳 part33
リンク 前へ 次へ 目次 注意事項
リゾート巡り
ようこそ、アルティメットリゾートへ!
ホットランドで一番大きな建物のホテルです!
昼夜問わず最高の宿泊を約束します!
通るだけ…?素晴らしい!
ULTリゾートは最高の通過も提供します!
アンダインにクビにされた… ついさっき。
帰るようなところもないし… 海底魚に戻るしかねえ。
そうです。現在、都市へのエレベーターが動いていなくて。
このような事態ですので、お部屋の料金をスペシャルプライスにさせて頂いております!
二人部屋で200G です。 素敵でしょう? ♥泊まる
素晴らしい! では お二名様を部屋に案内いたします。
ランプだ。 電球はブラックライトのようだ。
本当にありがとうな、ちびっこ。 おかげでだいぶ元気になれたぜ。
アンダインの件についてはすまなかった。 マジで。
何とか気を反らそうとしたんだが、あっちも頑固でな。
なあ…俺達会ったことないか?ウォーターフォールで。
そうだそうだ!あのとき俺は別の子と組んでたんだよ。内気な魚の子とな。
思い出せないか? …変わった姿の姉もいた、と言ったら?
相方だったオレの兄貴もああなっちまった。
これでいいって頭で分かってるんだけどさ…
…俺、シャイレンと話してないんだ。アイツのお姉さんと皆が帰ってきてから。
それを誰も不気味がってないんだ。
俺だけおかしいのかな。
…もう少しここにいるよ。
考える時間が欲しいから。
頑張れよ、ちびっこ。視聴者はお前に釘付けだぜ。 本当だって。視聴率見たからな。
NapstablookとMttacrit の記念碑の噴水だ。 201X 年に建てられたものだ。
リマインダーには人間はモンスターを傷つけるだろうと書いてある。
最後の節は金属で押し付けて書いたようだ。
やっほー! 見ていってね! ♥話す
それで、何の用? ♥アンダインについて
あらまあ、 アンダイン。
彼女はその…私のサイボーグの嫁みたいな? / 実は彼女は…アタシのサイボーグ嫁っていうか?
私と結婚する予定なの~。 / っていうか、もうアタシと結婚しちゃっているんだ~。
まあ彼女はそのこと知らないけどね。
♥サイボーグの起源
えーと、昔はウォーターフォールにいた子供だったんだけどさ。 / でも地元の子達と口ゲンカになってね、ホットランドに来たんだって。わざわざ水をかぶって。
そんでガキんちょの一人がさ、彼女にコアを登るように言ったのよ。 / で、アンダインったらホンットーーにやろうとしたの。
それで。 / うん。
彼女、やり遂げたのよ!
でも降りようとしたときに、マグマがかかっちゃってね。
♥アズゴアについて
ああ、あのモフモフおまぬけさんね。 / ああ、あのおっきなフワフワオタクさんね!
あの人のことは大好きよ。 / 彼、とってもいい人だもの。
アンダインに何が起きたか聞いたとたんに… / 何も聞かずにそこで手当てしたの!
アンダインはその前から、彼のカガクノーリョクを聞いてたんですって。 / それに彼女はカイゾーシュジュツしなきゃ危なかったんだって。
それで彼女は彼を…何て呼んでたっけ? / センセイ(SEN-SAY)!あれから彼は彼女のセンセイなのよ!
結局二人ともオタクよねえ。 / でも、だからアタシたちみたいに親友なのよ、ブラッティ!
♥王宮化学者について
アズゴアとその奥さんはこの辺りにいたのよ。 / そんで王様もホントに二人と仲良しだったの。
まあだから、雇われるのもトーゼンっていうか? / ハツメーヒンもすごかったし、そうなったんだよねー。
あと、ボスモンスター?のソウルが普通とちがうらしくて? / なんか色々あってソウルがめちゃんこ強いんだって。
噂だとそのせいで彼が家族の中で一番強いとか、王様と仲が悪くなったとか。 / うわー、あとで教えてよブラッティ!アタシ ゴシップが大好きなの!
あんたそれ、テミーの鳴き声の話でも言ってなかった? / だってチョーカワイーじゃん!
で、アズゴアはモンスターのソウルについて研究してたんだけど。
すっかり間違っちゃったみたいで。
その、何ていうか…モンスターたち?は大体家に帰っていったのよね。 / いろんなところにいるけど…これって良いことでしょ?
そうね、もう死んだり辛い思いをすることもないから私はそう思うわ。 / ステキ!アタシもそんなの嫌だもん!
♥王について
ああ、王様? / そう言えば一回も見たことないなあ。
アルフィスに見たことあるか聞いてみましょ。 / ついでにごみ捨て場にも行かなくちゃ!
アルフィスはまだアンダインに電話してないのかしら。 / 忘れてたけど…たぶん?
…ゼッタイ近いうちに会わなくちゃね。 / そうね。
♥買う
ガラクタ全部買ってちゃって! ♥クローケー  手作りの素敵なデザイン。
400G で買う? ♥はい
アタシたちお金持ちよ!ブラッティ! ♥曲がったバンド  ブランドものらしい。
400G で買う? ♥はい
♥出る
♥出る
また来てね! / そんで何か買ってってね!
♥持ち物
♥クローケー
♥詳細
クローケー 武器 ATK 14 側面に鳥が彫られている。
タイミングに関係なく、いつも同じダメージを与える。注意不足でも大丈夫。
♥曲がったバンド
♥詳細
曲がったバンド 防具DEF 14 ヘアピースと登頂部のリボンが同じ黒い色だ。
着けるとスピードが上がる。海茶と合わせても蜘蛛の巣で遊べない。
♥電話
♥次元ボックスB
♥C.C.クッキー
ああ、ええと。アルティメットファストフードへようこそ。 お好きなものをご注文ください。 オラ オラ? / ♥買う
何かご希望ですか? / スティック刺しのヤリ / 15HP 回復 すごい人気です。たぶん。
60G で買う?
♥はい
なんてこった本当に買いやがった! / ポカタナ / 26HP 回復 とても人気な食べ物。
140G で買う? ♥買う
煤けた緑茶 / 35HP 回復 戦闘時に使うと防御が上がるが、素早さが下がる。
250G で買う? ♥買う
エビのテンプラ / 70HP 回復 1つだけしか扱っておりません。
550G で買う? ♥買う
天ぷら / 45HP 回復 在庫はたくさんあります。
300G で買う? ♥買う
♥出る
♥話す
なんだ? コイツは俺と話そうってか?目を合わせてこないんだけど?
聞きたいことならなんでも聞きな、チビっこ!
怖がらないでくれてサンキュー
♥あなたの仕事
信じてくれよ? 世の中には無職よりずっと悪いものがあるんだぜ。
他の手伝う従業員がいないのに、レストランの責任をまるっと押し付けられたりとかな。
俺からのアドバイスは、契約書の注意書はよく読めってことだ。 いつもな。
♥路地裏の女の子たち知ってる?
ああっと、あの二人か。 いつもここに来てよ。
何も買いはしないが、ただ…俺が働いたり、話したりする様子をじっと見てくるんだよ。
すっげえ不思議なんだけどさ…
話しかけるタイミングを狙ってんだろうな。
ポジティブに、ポジティブに…
♥いつもそうやっているの?
いいや、まさか。 アンダインの、その、エクササイズ計画の効果が出る前に企画側が食べ物に興味持ち出したらしくてよ。
売上貢献のためにスティック刺しのヤリをいくつか買ってやってさ。 ついでにどうなっているのか見ようとしたんだ。
うっかり服の上に全部落として、拾おうとしたら。 着てた服がズタズタになってた。
そんときあの女の子たちがうまそうなステーキ見つけたような目で見てきてよ。
それから俺はBulgy Pecs って呼ばれるようになった。
♥アンダインのこと
この職に就く前まで、俺はアンダインを尊敬してたんだ。 なんったって皆が見上げるようなスターだからな。
でも。
あの人、自分の仕事に全然興味ないんだぜ !? 本人はただの戦闘狂だぞ!
どうか自分にこの仕事を公表する勇気をください。
♥どうしてアンダインは悪くなったの?
まさか。アンダインもさすがに意味なく店内を走り回ったりしないぜ。 ガイドラインを渡して、俺をここの店長にもしてくれたしな。
そして山程の仕事に、このゴミみたいな服もくれたよ。マスコットとしてだと。
ああ、みじけータンクトップで揚げ物が雰囲気あるってよ。 やけどするに決まってるじゃねーか。
なんで営業で腕に筋肉が必要なのか、いちいち変な語尾を着けなきゃいけないのかさっぱりだ。
♥もっとアンダインについて知りたい
あの人が来るときってのは、いつもこっちのモチベーションを上げるためなんだ。
ただ内容は。 腕立て伏せだけどな。 しかも俺の背中に立って。 アニメのセリフを叫びながら。
まあそうしたら給料を上げてくれるしな。
♥あなたの将来
…王とニンゲンが話し合ってうまくいったら、もっと俺は店を出せると思うんだ。
…そして最終的に社長になる。 なかなかいいんじゃないか?
調子はどうだ、ちびっこ? ♥出る
また来いよ。待ってるぜ。
♥スティック刺しのヤリ
♥詳細
スティック刺しのヤリ 15HP回復 先端部分を最初に食べるのはお止めください。
♥ポカタナ
♥詳細
♥ポカタナ 26HP回復 褐色の部分が尖っているが、誰も傷付けることはない。
♥煤けた緑茶
♥詳細
♥煤けた緑茶 35HP回復 父親を落ち着けるのに最良なもの。
使用したターンの間、速度が落ちるが防御が6上がる。
♥エビのテンプラ
♥詳細
♥エビのテンプラ 70HP回復 野菜と少量のエビをまぜこんだ揚げ物。
エビについてはごみ捨て場からのものだろう。一品ものなのも無理はない。
♥テンプラ
♥詳細
♥テンプラ 45HP回復 大量にあった揚げ物の野菜。健康的…?
前へ     目次     次へ
2 notes · View notes
quotedbychiwiki · 6 years ago
Quote
鴻上尚史の人生相談。定年退職、嘱託を経て、今年から本格的に隠居生活に入ったという66歳の男性。兄弟からも妻からもつれなくされ、途方にくれる相談者に、鴻上尚史がおくった第二の人生を生きるヒントは「無意識に自分の価値観をおしつけない」こと。 【相談27】隠居後、孤独で、寂しくてたまりません(66歳 男性 有閑人)  定年退職、嘱託を経て、今年から本格的に隠居生活に入った66歳です。隠居したら、今まであまり会っていなかった弟たち(弟が2人と妹が1人います)とも食事をしたり、妻とも旅行をしたり、のんびりしようと考えていました。 しかし、いざ弟たちに連絡しても忙しいからと何度も断られました。ちょっとおかしいと思い、妹に連絡したら「お兄さん、気づいてないの? みんなお兄さんが煙たくて、距離とっているんだよ」と。寝耳に水でした。妹によれば、私が長男で母から優遇されすぎたし、弟たちの学歴や会社をバカにしてたのが態度に出すぎてた、というのです。たしかに私は兄弟のなかでも学歴も会社も一番上で、母の自慢でした。弟たちをみて、不甲斐ないと思ったこともありましたが、それは私が努力したからです。弟たちにとって私は自慢の兄だろうと思ってきました。弟たちの不甲斐なさをちょっとからかったこともありましたが、兄弟のことです。  思い切って弟に直接電話してたしかめると「姉ちゃんに聞いたんならわかるだろう。兄貴と呑んでもえばった上司と話しているみたいで酔えんから」とつれない返事でした。結局、妻も「旅行は友達と行ったほうが楽しいから」と私と行こうとはしてくれません。  弟たちの僻みも、家族のためにと頑張って出世して養ってきた私に薄情な妻にも、許せないという気持ちでいっときは怒りでいっぱいになりました。妻が外出しようとしたとき、「食事ぐらい作ってからいけ」と怒鳴ってしまったこともあります。後悔して自己嫌悪になりましたが、後の始末です。妻とはさらに距離ができてしまいました。 誰にも言えませんが、最近、風呂に入っていると涙が出てきます。弟たちのことだけでなく、振り返ればとくに心を割って話せる友人もいないことに今さら気づきました。  どうやってこの後の人生を過ごしていいか、お恥ずかしいですが、孤独で、寂しくてたまりません。  いまさら、私はこれからのありあまる時間を、どうしたらいいのでしょうか。どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか。楽しい人づきあいのコツはなんなのか全くわかりません。解決法が浮かばず、途方に暮れています。 【鴻上さんの答え】  有閑人さん。よく、相談してくれました。立派な学歴と優良な会社に勤めた有閑人さんにとって、自分が弟・妹・妻にうとんじられている、ということを認め、お風呂で泣いていることを告白するのは、とても勇気がいったでしょう。  先月、親身に相談に乗っているつもりだった友人から、「いつも上から目線だった」と言われて、絶交されて落ち込んでいる女性の相談に答えました。  自分では世話好きだと思っている女性には、じつはありがちなことだと思っています。相手のことを思っているつもりで、自分の考えを無意識に押しつけている場合です。  そして、男性は、有閑人さんのケースが多いと思っています。  女性のようにあれこれと世話をするのではなく、「もっとガンバレ」と説教・激励・指導するパターンです。  勝ち組とまで言わなくても、自分がちゃんとやってきたとそれなりの自信を持っている男性に、この傾向が強いです(女性の場合は、じつは、自分に自信のない人の方が自分の意見を押しつける傾向が強くなると、僕は思っています)。  もちろん、自分はよかれと思ってアドバイスします。女性の場合は、あれこれと相談に乗ったり、色々と世話をしますが、男性の場合は、ただ教訓を語ったり、アドバイスしたり、説教するだけの場合が多いです。だいたいは、ふがいないと怒ったり、強く注意するのです。 根拠は、「自分はちゃんとやってきた」ということですね。自分がちゃんとできたんだから、あなたもしなさい。自分はがんばって努力したから、あなたも努力しなさい。きっとできるはずだ、それができないのは、あなたの努力が足らないからだ、という思考の流れです。  でもね、有閑人さん。がんばってもできないことはたくさんあるのです。  僕は小学校から、跳び箱とマット運動、鉄棒が苦手でした。「蹴上がり」という鉄棒の技が、体育の課題に出て、三週間ほど放課後、毎日練習しました。奇跡的に何回か成功しましたが、体育のテストの時はできませんでした。  体育の先生は「努力が足らない」と怒りましたが、僕は毎日、1時間は鉄棒にしがみついていました。 「蹴上がり」を楽々と成功させたクラスメイトは、まったく練習なんてしていませんでした。ただ、生来の運動能力の高さとクラブ活動で鍛えた筋肉が、なんの努力もしないで「蹴上がり」を成功させたのです。  人間には向き、不向きがあって、僕はいまだに数字の計算が苦手で、でも本を読んだり文章を書いたりするのは大好きです。  有閑人さんは、「努力していい大学に行くこと」「立派な会社に勤めること」「仕事で結果を出すこと」という価値観で生きてきたのでしょう。そして、その価値観から見て、「努力してない人」「ふがいない人」「能力の足らない人」にアドバイスをしたくてたまらなくなるのだと思います。  でも、それはその価値観だけの基準です。  有閑人さんは、例えば、釣りをしますか? 有閑人さんに、兄がいて、釣りの名人で、毎週末、一緒に釣りに行ったとします。そして、有閑人さんの餌のつけ方、竿の振り方、リールの巻き上げ方などに対して、いちいち、注意し続けたとしたらどうですか? 楽しいですか?  間違いなく、「自分はなんのために、兄と一緒に釣りをしてるんだろう」と疑問に思うんじゃないでしょうか?  そこで、兄が有閑人さんの釣りの腕をバカにした後、有閑人さんのように「弟たちの不甲斐なさをちょっとからかったこともありましたが、兄弟のことです」と言ったとしたら、納得しますか? 兄弟だから、ということで許されるとは思わないと感じませんか? 「釣りと仕事は違う」と思いましたか? でも、価値観は人それぞれです。仕事より釣りが大切な人は、『釣りバカ日誌』のハマちゃんをはじめ、たくさんいます。  もちろん、釣り以外で、仕事や出世より大切なものがある人はたくさんいます。家族だったり、趣味だったり、食べ物だったり。価値観はひとつではないのです。  そして、もうひとつ。仕事が一番大切だと思っているのに、その結果がうまく出ない人も普通にいます。人間には、向き、不向きがあるのです。  毎年、高校野球ではユニフォームを着たまま、ベンチではなく、応援席で叫び続ける野球部員がたくさんいます。彼らは、努力をしなかったのか。練習に手を抜いたのか。そんなことはないはずです。彼らも死に物狂いの努力をしたはずです。でも、力が及ばないことは普通にあるのです。彼らに向かって「ふがいない」とか「もっと努力しろ」「ベンチ入りできないお前は恥ずかしい」とは口が裂けても言えないと僕は思っています。本人が自分自身を責めることはあっても、他人が口にする言葉ではないのです。  世間的な評価が低い会社に就職したことが嫌だとしても、それを責める資格があるのは、勤めている弟さん本人であって、兄ではないのです。  さて、有閑人さん。有閑人さんは、自分の価値観を強く信じ、それを周りに対して、意識的にも無意識的にも押しつけてきた、それが、弟・妹・妻があなたを避ける原因になっている、ということは、なんとなく分かってもらえたでしょうか。  でね、有閑人さん。「どうしたら、弟たちと仲良くできるのでしょうか」と書かれていますが、有閑人さんは66歳ですから、弟・妹さんがいくつであれ、たぶん、最長50年以上、そういう関係だった可能性があります。奥さんとも、最長で40年前後ですか。  この長い時間で、彼ら、彼女らには、有閑人さんのイメージがしっかりと出来上がっていますから、関係を変えるのは、かなり困難だと思います。 何度か会って「今まで、偉そうにして本当にすまなかった」とか「お前たち���見下したような言い方をして反省している」と言っても、相手はちゃんと受け止めてくれないと思います。  僕のアドバイスは、「まずは、対等な人間関係を学習しませんか?」ということです。  弟・妹さんと仲良くすることは、いったん、あきらめて、他に人間関係を作るのです。見下すことも、���下されることもない関係の先に、有閑人さんが求める「心を割って話せる友人」が生まれる可能性があるのです。  友人探しには、インターネットに感謝しましょう。趣味のサークルや地域のボランティアサークルが簡単に見つかるはずです。  思い切って、そこに飛び込むのです。  僕に「お風呂の中で泣いている」という勇気ある告白をした有閑人さんですから、できるはずです。  何でもいいのです。興味はあとからついて来るはずです。釣りでも絵画でも社交ダンスでも山登りでもボランティアでも演劇でも読書クラブでも。  ただし、そこで有閑人さんは、「だらしない人」「努力しない人」「ふがいない人」と間違いなく出会います。  有閑人さんは、アドバイスしたくてムズムズするはずです。「どうして周りの人は言わないんだろう」「ちょっと努力するだけで、ずいぶん変わるのに」と。  でも、決して自分からは、相手にアドバイスしないこと。 「それがこの人の生き方なんだ」と思って、言葉をぐっとのみ込むこと。そこで、「あなたはこういう点がダメで~」と言い始めたら、間違いなく弟・妹さんと同じ関係になります。 「だらしない人」「努力しない人」というのは、有閑人さんからの見方でしかない、自分の価値観でしかない、それを他人に押しつけてはいけないと、肝に銘じましょう。 「業界の最大ではなく最高を目指す」が目標という会社があります。最大は数字ですから基準は明確ですが、最高は、人によって違うでしょう。本人が何を最高と思うかは、まったく違うと魂にまで刻み込んで下さい。そうすれば、簡単に「もっと努力しなさい」と言えないと思います。  奥さんとは、慎重に会話しながら、「無意識に自分の価値観を押しつけてないか」とチェックしてみて下さい。 「家族のためにと頑張って出世して養ってきた」という意識が、奥さんに対しての上から目線になります。これは、有閑人さんからの見方ですからね。  奥さんは、必死で有閑人さんを支えてきたのかもしれません。でも、有閑人さんが、それを当然のこととし、自分が「養ってきた」と思っていると感じたら、やはり、弟・妹さんと同じように、一緒にいたくないと思うでしょう。  ちょうど、釣りがものすごくうまくなっても、兄が「俺が教えた」「俺が指導した」と言い続けていたら、絶対に一緒に釣りには行きたくないのと同じです。  でも、奥さんは、有閑人さんの変化を一番、敏感に感じます。なにせ、一緒に暮らしていますからね。  有閑人さんが何かのサークルか集団に入り、そこで「対等な人間関係」を学び、人間の弱さやずるさ、バカさを含めて、「それが人間なんだ」と肯定的に接するようになったら、奥さんは何かを感じるはずです。  大丈夫。奥さんに怒鳴った後、ちゃんと自己嫌悪を感じる有閑人さんなら変われるはずです。  えっ? もう66歳だから、変わるには遅すぎると思う? 先月、僕が書いた「前向きになる」方法は読んでないですか? 「自分は、10年先から戻ってきたと思う」  というものです。  有閑人さんは、本当は76歳なのに、奇跡が起こったか、タイムマシンの魔法か、とにかく10年、時間が戻って今、66歳になった、と考えるのです。  どうですか? 66歳を嘆く気持ちから、可能性を感じる気持ちになりませんか?  66歳は決して、遅くありません。会社という価値観を外れたことで、有閑人さんは新しい人生をスタートさせたのです。新しい価値観と出会うことは、とてもワクワクすることです。今までの価値観にしがみつかず、新しい出会いに飛び込んで下さい。対等な人間関係はものすごく楽しいですよ!
https://dot.asahi.com/dot/2019042600016.html?page=1
いつもいつもこういう視点、価値観って感心するのだけれど、ビジネスフィールドにいると混乱して見失いそうになるときがある。岡田斗司夫さんの新書を読んだ時の慧眼(けいがん)を得たような素晴らしく優しい価値観の提示。ぜひ、彼の他のお悩み相談も読んでみたい。
Tumblr media
0 notes
otaku-blstory · 7 years ago
Text
當不成勇者的我,只好認真找工作了
Tumblr media
職場生活日常 / 觀看時不需使用大腦 日本首播:2013-10-04 輕小說(10集):左京潤 原著 亦有漫畫、動畫(13集完結) 賣肉,有發展成後宮的可能–>果斷放棄。 為什麼日本的動畫可以這麼胸+短裙+內褲+被阿伯掀裙子的,無法理解。
製作人員 原作、作品監修:左京潤 原作插畫、角色原案:戌角柾 監督:吉本欣司 系列構成、劇本:鈴木雅詞 美術監督:青山直樹 編輯:伊藤潤一 動畫製作:Asread 聲優:勞爾·崔瑟-河本啟佑           菲諾·布拉德史東-田所梓
0 notes
numa-chi · 5 years ago
Quote
私はうつ病です。昔の事も思い出せず、感動せず、感情もわからず、物を覚えられず、体を動かすのもつらく、毎日ただひたすら苦しく、生きているだけでお金がかかるのに生きてる意味ってありますか? 長谷部 和彦, 元公立小学校 教諭 回答日時: March 13, 2020 長くなります。よかったら読んでください。 まず、私から提案したいと思います。 私の家に遊びに来ませんか。鹿児島県のとある田舎町で農業を営んでいます。新規就農してからまだ半年余りなので、アルバイトをしながら何とかやっている状態ですが。 独り者です。バツイチです。質問者の方が男性でしたら、何日か泊まっていただいても構いません。 柴犬と猫とヤギ、ニワトリがいます。 以下、陰鬱な内容を含みます。耐性の無い方は読まれない事をオススメします。 私もうつ病でした。 それも重度のうつ病でした。主治医には、最終的には脳に電極をつけて電気ショックを施すことを勧められたぐらいです。 入院治療も2度行いました。 最初の入院は、自殺未遂をしてから運ばれました。施錠された病室に隔離されました。常にモニターで監視されていて、トイレなどハナから丸見えです。 1週間の後、一般病棟に移りました。 職場には、主治医からうつ病の為3か月の休職が伝えられました。 2週間後くらいから、躁状態に入りました。 室内では腹筋、腕立てを繰り返し、外出許可をもらってはランニングに勤しみました。 自分自身が何故うつ病になってしまったのか自省し、退院してから復職する迄のやるべき事リストを作り上げました。 前向きな様子を見て、主治医も退院時期を前倒しにしました。 一月後、退院しました。 退院してから、先ずは主夫業に精を出しました。 過剰なまでの不安と心配を与えてしまった妻の為、早起きして犬と散歩に行き、朝ごはんを作り、掃除、洗濯を済ませ、夕ごはんの買い出しに行き、夕ごはんを作って妻の帰りを待ちました。 週に2回の通院は、あえて15キロの道のりを自転車で通いました。散歩にも出かけ、野の花や小鳥なんかをスケッチしたりもしました。 全てはうつ病を克服するためだけに、日々を過ごしました。認知療法、行動療法、薬物療法すべて行いました。 1か月後、再発しました。 休職期間も残り1か月ともなると、緊張と不安が絶え間なく襲ってきます。また寝れない日々が続きます。食欲もなくなり、何をするのも億劫です。 復職1週間前ともなるとある思いが心を支配します。 (死にたい…) とにかく私は死にたかったのです。 いわゆる、希死念慮です。 簡単に言うと自殺願望なのでしょうが、色んな自殺の方法を探りました。 結局は首を吊る事に落ち着きました。 妻の居ない日中に、何度も何度もタオルなどで首を吊りました。でも死に切れませんでした。 勇気を振り絞って復職しました。 3か月ほど働いたでしょうか。職場での日々は、私にとって正に地獄でした。常に緊張していました。頭が上手く回転しません。真っ直ぐ歩くことさえままならず、何故か柱や机の角にぶつかりました。トイレに用がなくても頻繁に入り、周りの好奇な目から逃げました。その度にトイレの窓から飛び降りたい気持ちになりました。自殺を試みた人間に対して、同僚は腫れ物に触るように対応します。 毎週末、今日こそはと思い、首つりを繰り返しました。しかし、最後まで出来ません。 私は思い込みの世界で生き、想像の世界で苦しんでいました。 自殺未遂をしてから、うつ病と告知されてから、いやもっとずっと前から私は、私自身の妄想に自縄自縛の状態でした。 あいつは仕事が出来ない。 あいつのせいでみんな迷惑している。 自殺未遂するぐらいなら仕事を辞めればいいのに。 それでも上司は私を励まします。 君なら出来る。死んだ気になってがんばりなさい。みんな君の事を心配しているんだ。恩返ししないとね。 妻も私を励ましてくれました。 折角、頑張って公務員になったのに、今辞めたらもったいないよ。家のローンはどうするの。その年から転職なんて出来ないよ。あなたの大好きな柴犬も手放して、動物も飼えないようなアパートに移る事になるよ。今が頑張りどきよ。 私はもう限界でした。いや、もうとっくに限界だったのでしょう。主治医からは兎に角強い睡眠剤と抗うつ剤を処方してもらいました。 起きていても何時もボーッとしていました。 漢字もどう書くのかよく分からなくなりました。 ひらがなさえ、「あ」と「お」の違いさえよく分からなくなり、度々授業中の計算ミスを子どもに指摘されました。 ある日、子どもに問いかけられました。 「先生、なんで死のうと思ったの?前の先生が、H先生はぼくたちのことが嫌いで死のうとしたって言ってたけど、本当?」 「そんなことないよ。死のうとなんかしてないよ。」 咄嗟に取り繕いました。 代行の先生が、断片的で恣意的な情報を子どもたちに伝えていたようでした。 再休職することになりました。 うつ病の原因は今だからよく分かります。 新しい学校に移動したものの、子どもたちと以前のような信頼関係を築けないことからの自己嫌悪。 同僚とも良好な関係を持てないことからの苛立ち、不安、不満。 それらから派生するように、仕事への自信喪失。 40過ぎても子どもを持てないことへの落胆。 35年住宅ローンの重圧。 自分の故郷が地震と津波で壊滅的な状況なのに、何も出来なかったことへの後悔。 妻とも友人とも、会話が噛み合わないことからの孤独感。 当時の私は客観的に見ても、八方塞がりでした。 でも多くの方たちも、多かれ少なかれ40も過ぎれば仕事や家庭で問題を抱えています。しかし、うつ病にはならないでしょう。だからこそ私は私自身に失望しました。失望感は再休職したことからさらに募り、積み重なった失望感は、絶望感へと集約されました。 再休職して、私はまさに生きるしかばねの様でした。 以前の休職期間のように、前向きにうつ病治療をすることも有りません。ただ、ただ死なないように生きているだけです。 誰かの歌詞にあったように、 私は小さく死にました。 当時の私は死にたいと云うよりも、「楽になりたかった」のです。 40も過ぎて再休職し、再び同僚や子どもたちに迷惑をかけ、上司の配慮や期待にも応えることが出来ず、その上、妻への罪悪感は筆舌に尽くし難いものがありました。 いつ自殺が成功しても大丈夫なように、定期的に遺書を書きました。妻への謝罪、同僚たちへの謝罪、両親兄姉への謝罪、毎日毎日こんな自分が生きていることが申し訳ありませんでした。 妻は週末になると、神社へとわたしを連れ出しました。近所の神社、箱根神社、鶴岡八幡宮、春日大社にも行きました。 2時間で2万円もするカウンセリングも受けました。 主治医から処方される薬は、5種類まで増えました。病院でのカウンセリング担当医は、大学を卒業したばかりのような若い女性です。彼女なりに真摯に私と向き合ってくれましたが、私は彼女から助けてもらえるとはとても思えませんでした。主治医で院長でもあった先生は、薬を処方するだけです。もしうつ病が治らず、教員を退職する事になったら精神障害者として生活保護を受けるしかないと言われました。 一向に良くならない私の状況に、妻は失望し、疲弊しました。あとで知った事ですが、リストカットなどの自傷行為をしていたようです。 毎晩、妻から叱責をされるようになりました。 このままだとどうなるか分かる?あなたがうつ病を治さないとどうなるか分かる?いい加減、治してよ!どれだけあなたが沢山の人たちに迷惑を掛けているのか分かる?だから早く治して! 時には包丁を持ち出され、一緒に死のうと懇願されました。 一度、人は道を踏み外すととことんまで堕ちるのだと思いました。しかも、底がありません。どこまでも堕ちるのです。 生き地獄でした。 翌年の4月、私は別の学校に移動し復職することになりました。 私は私を偽りました。うつ病は治っていません。しかし、治った事にしないと妻がもちません。 治ったと偽り、主治医にも復職を許されました。 復職して、3週間後の朝、自宅の梁に電気コードを括り付け、椅子を倒し首吊り自殺しました。 死んでいませんでした。 気づくと愛犬の柴犬が必死に私を舐めていました。 何も見えません。呼吸が止まっていたのでしょうか。私は必死に呼吸をしました。呼吸を繰り返し繰り返し行うと暗闇に光が差し込んできました。 何故かコードは解けていました。今際の際で、コードを解いていたようです。しかし自分が何をしたのか暫く理解できませんでした。失禁していることに気づきました。脱糞までしていました。眼球は出血し、白目部分は真っ赤に染まっていました。左半身が上手く動きませんでした。 その日、再入院することになりました。 主治医から、電気ショック治療を勧められました。一定の効果は期待できるが、全身に激しい電気ショックが流れるので多少の骨折や記憶の欠落などのリスクは覚悟してくれと言われました。妻の反対で行いませんでした。 もはや、自分が何をしたいのか、生きたいのか死にたいのか全く分かりません。ただただ矮小で卑屈で社会のゴミのような存在だと思いました。 生きている意味などあろうはずもありません。 でも私は生きていました。あの日以来首を吊るのも止めました。何も考えず何もせず、出されたものを食し排泄し、夜になれば睡眠剤でぐっすり寝て朝になれば看護師に起こされ、何もない1日が始まります。 2か月後退院しました。暫くして、教員を辞めました。無職になりました。新築の家も売りに出しました。妻には当然ですが、見放され東北の実家に帰ることになりました。実家にはまだ思春期の姪たちがいたので、兄がアパートを探してくれそこに1人で暮らす事になりました。 私は何も考えなくていいように、中古のゲーム機を買って一日中ゲームをしていました。たまにスーパーに食料を買いに行きますが、誰かに見られるのが恥ずかしくて、短時間で目につくものをそそくさと買ってアパートに戻ります。何も考えません。感情も有りません。風呂にも入りません。歯も磨きません。ある時、履けるパンツが無く、Tシャツを逆さにして履きました。チンチンが寒かったです。 以前の主治医から実家近くの病院を紹介され、紹介状も持たされていましたが、そこの病院に行く事は有りませんでした。もう精神科医も抗うつ剤も睡眠薬も私には必要ありませんでした。 なぜなら私は人の形をした、ただの醜いぬけがらでしたから。 時間も季節も、世間も仕事も、私には何の意味も有りません。物欲、金欲、食欲といった欲求もありません。ただ日々死なないように生き、金を食いつぶし、秋が来て、冬が来て、春が来ました。 定期的に父から電話がありました。その日は今までにない雰囲気で、もうアパートを引き払えと言ってきました。 実家で両親と兄家族と暮らす事になりました。 父は頻繁に私を外に連れ出しました。80も近い父の運転で、被災地の風景を見たり、故郷の野山を見たり、桜を見たりしました。 5月過ぎ、父が帯状疱疹になりました。 6月になると、胃腸に何らかの不調を訴えるようになりました。 7月、近隣の中核病院に入院することになりました。 最初は泌尿器系の病気が疑われ、手術を受けましたがあまり体調が改善されません。その後、ガンが疑われましたが、その部位が分からないと言われました。原発不明ガンと診断されましたが、本人には告知していませんでした。 父が体調を崩してから、病院の送り迎え、入院の準備や手続き、お医者さんの対応など、私が行いました。初めは嫌々でしたが、結局手が空いているのは私しかおりませんから、仕方なく対処していました。 原発不明のガンなので、具体的な治療方針が決まりません。何故か、一時退院が許されました。 退院してから、定期的に通院する事になりました。その日は泌尿器科の受診の日でした。泌尿器の主治医がお休みで代理の先生に診てもらいましたが、受診後父の様子が変で、帰り道に尋ねるとガンだと告知されたと言います。 何年ぶりでしょうか。私の中に忘れていた感情が芽生えました。 怒りです。 その日告知してきた先生は、あくまで泌尿器科の主治医の代理で、しかもガンの部位はおそらく消化器系だろうと言うことで告知する時期は消化器科の主治医と治療方針と共にこれから考えていきましょうという段取りになっていたのです。 父の落胆は見るからに明らかでした。父はタバコも吸いません。深酒もしません。健康番組が大好きで、健康に人一倍気を使っていました。 食事の世話も私が行っていましたが、食欲もめっきり無くなりました。歩くのも酷く疲れるようになりました。 私は消化器科の主治医とアポを取り、抗議の為病院に赴きました。何の相談もなく、科も違う代替先生が告知をしてしまった事に、平謝りでした。 それから私は、ガンについてできうる限り勉強しました。通院の際は、ノートを持ち込んで先生の所見を事細かくメモしました。 PET検査なるものでガンの所在が分かるかもしれないと聞き、検査機のある病院まで連れて行きました。 しかしながら、ガンの所在、及び部位は特定できませんでした。 8月になり、いつも以上に辛そうな父を見て再入院させる事にしました。病院に着くともう自力では歩くことが出来ず、車椅子に乗せて診察室まで連れて行きました。 父は気丈で弱音を吐くことを聞いた事がありません。 私が小学生の頃、車のドアで親指を挟み、骨が見えていても自分で運転し整形外科に行き、夕方には仕事をしていました。 私が中学生の時には、母が粉砕機で薬指を切り落としてしまいました。側にいた父は、すぐさま薬指を拾い、氷袋に入れて母を病院まで連れて行きました。指はくっつきませんでしたが。 そんな父が、自ら車椅子に乗っている姿に愕然としました。 主治医からは、胸水が溜まっているのでお辛いのでしょうと言われました。とりあえず、入院治療することになりました。 胸水を抜いてもらい、多少楽になったのか父に少しだけ笑顔が戻ってきました。後から来た母とも談笑していました。 数日後、父は永眠しました。 死因は、原発不明ガンとのことですが直接的な死因は、窒息死です。深夜になって吐いたものが気管に詰まり、自力では解消されず看護師が気づいた時には亡くなっていたのです。 解剖はしませんでした。 母の取り乱しようは筆舌に尽くし難く、身内一同呆然としました。 それでも、お通夜や葬儀は粛々と進められます。 葬儀が終わり、明日早朝に火葬を残すのみという晩の頃、私は葬儀会場で棺の中にいる父と2人きりになりました。 止め処無く涙が溢れてきました。あんなに泣く事はもはやないだろうと思います。 おそらく1時間ほど泣き続けたでしょうか。その間、私は心の中で同じ言葉を繰り返していました。 (ごめんなさい。ごめんなさい。) (もう大丈夫だから。) ほぼ平均寿命とは言え、父は80手前で亡くなるような人ではありません。ましてや、ヘビースモーカーで高血圧の祖父より早死にするような人ではないのです。 では何故、こうも早逝してしまったのか。 原因は、私です。 私の存在がストレスとなり、私のうつ病が治らないこともストレスとなり、40過ぎの息子が無職になって帰ってきて引きこもりになっている現実がこの上なく父に負担を掛けたのは間違いありません。帯状疱疹になったのも、胃腸に不調をきたしたのも、がんと診断されて1か月余りで亡くなったのも、私のせいです。身内は誰も口には出しませんが、みんなそう思っている事でしょう。 それなのに私は、父の棺の前で1時間ほど泣いて泣いて泣き疲れた後、気づいたのです。 うつ病が治ったと…。 皮肉なものです。父の病と死が、私のうつ病を寛解に導いたのです。 半年前まで、私は私の抜け殻でした。 何もせず、何も考えず、ただ無意味に時間とお金を浪費する肉の塊に過ぎませんでした。他人と会話する事は勿論のこと、身内ですら顔を見て話すことも出来ませんでした。 それが3か月前から止むを得ず、父の世話をするようになってお医者さんと交渉したり、看護師と話したり、父の様子を親戚に伝えたりするうちに何となく、うつ病は回復の兆しを見せ始め、最終的にに父の死によって寛解に至ったのです。 父は全く意図していなかったでしょうが、結果的に父の病と死が、私を深い深い谷底から救ってくれたのです。 結局のところ、私のうつ病を治したものは医者でも無く、カウンセリングでもなく、ましてや薬でもありません。タイミングときっかけ、そして行動です。 以下は私の経験則からの私見です。異論がある方もいらっしゃると思いますが、ご容赦ください。 うつ病は、薬で治る病気ではありません。 一般的な解釈としては、うつ病は過剰なストレスなどにより、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が上手く働かなくなり、シナプス間における電気信号が不調となる為、活動性が低下し、感情が失われていくとされています。 抗うつ剤などの薬は、��記の神経伝達物質を良好に分泌させる為のものですが、あくまで一時的なものです。言わば、身体が疲れた時のユンケルみたいなものです。ユンケルのような滋養強壮剤の効果は、有って小一時間ぐらいらしいです。医者に聞きました。寧ろ(俺はりぽDを飲んだから元気だ!)といった暗示の副作用の方が大きいといいます。抗うつ剤も同じです。気休め程度にしかなりません。しかも抗うつ剤を服用し続ける事は何の根本的な解決にはなりません。また様々な種類があり、強いものを飲み続けると廃人になるようなものも有ります。ハイリスクローリターンです。 私が知っている精神科医で、うつ病を本気で治せると思っている人はおりません。彼らは、薬を処方し点数を稼ぎ、報酬を得ているに過ぎません。私が暫く通院していた病院は、正にそうでした。2年ほど通いましたが、沢山の精神病患者で寛解に至った方を私は知りません。私の主治医だった精神科医は、患者を1時間待たせ5分の問診で処方箋を書き、効率よく病院に富を蓄積させます。おそらくそれが出世の処方箋なのでしょう。 先日、NHKドラマで阪神淡路大地震を体験した精神科医の話がありました。患者の話を30分でも1時間でも真摯に聞く先生でした。私もそういう精神科医に出会ったら違っていたのでしょうが。 現実は違います。それでも精神科医に診てもらいたければ、開業医をお勧めします。少なくとも組織の中にいる精神科医はダメです。 カウンセリングもお金と時間がかかるばかりで、効果のほどは期待できないと思います。 中には、行動療法や認知療法で寛解する方もいらっしゃるとは思いますが、私は懐疑的です。 そもそもうつ病の根幹的な治療は何か? まず、うつ病に至ったストレスを無くすことです。私は公務員という立場や家のローン、世間体などから仕事を辞めるという選択肢を選ぶのか遅すぎました。 そして、死なないように生き、どこかのタイミングで行動を起こすことです。具体性に欠けますが、深い深い闇の中にいて、抗うつ剤や他人の空虚な言葉が一筋の光になる…なんて事は現実的ではありません。 最初はどんな行動でも構いません。ポイントは、うつ病を患ってからした事がない行動です。 よくうつ病を患った人に、「神様から休みなさいって言われているんだよ。」という方がいますが、うつ病患者は休んでいるわけではありません。深く傷つき、深い闇の中でいつ終わるとも分からない嵐が過ぎ去るのを息を殺し、感情を捨て、ただただ耐えているのです。 話が逸れました。 質問者の方は、生きている意味があるかと問いかけられていますね。 私の答えは、「ない」です。 そもそもが、生きているだけで意味がある人間なんてどれほどいるのでしょうか?人間は人間を特別視し過ぎです。過去には、人間ひとりの命は地球よりも重いと言った政治家が居ました。馬鹿げています。 この地球には、既知の部分だけでも175万種の生命体がいるそうです。未知を含めたら500万とも800万とも言われています。その多種多様な生き物が懸命に命を繋いでいます。その中で、何故人間の命だけが尊いと言えるのでしょうか。 周りを見渡せば、ニュースを見れば犬、猫より価値の無い生き方をしている人が沢山います。蜂や蟻よりも生産性の無い生き方をしている人間がありふれています。 人間の命、そのものには意味がないのです。 あるとすれば、意味ではなく「時間」だと思います。 そして時間があるからこそ、「行動」ができるのです。 重度のうつ病患者は、行動が出来ません。 行動が出来ないということは、時間が止まっているのです。 故に今のあなたが、生きている事の意味を問いかけるのははっきりいって無意味です。 それはあなた自身が本当は理解されているはずです。 けれども今あなたがその漆黒の闇を抜け出せるその日が来た時、あなたの(生)に価値が生まれます。あなたが自分の足で、自分の意思で前に進み始めた時、時間が再び動き出します。 生きている限り、意味はなくてもあなたには「時間」がある���時間があるという事は、あなたの人生は何度でもやり直せるのです。 更にあなたが価値ある、より良い行動をとることで、あなたの(人生)に意味が生まれると思うのです。 人の(生)に意味があるとすれば、価値ある行動を実践した時、初めて生まれると思うのです。 人の人生の評価は何で決まるのでしょうか? 財産、出世、肩書き…人それぞれでしょうが、私は行動だと思います。どれだけ価値ある行動を人生で出来たか、だと思うのです。 だからまずあなたがするべき事は、死なないように生きることです。そして、私のようにきっかけを待つか、自らきっかけを作り行動することです。 正直言って、私のようなきっかけを待つことはお勧めできません。 だからこそ、私のところに遊びに来ませんか? もしかしたら、何かのきっかけになるかも知れません。仮にならなくても、きっかけのきっかけぐらいにはなるかも知れません。 私は今、農業に従事しています。何故、東北から南九州に来て、農業をしているかの経緯は割愛しますが、私はうつ病が寛解してから2年ほどの、50手前のおじさんです。 うつ病が治り、取り敢えず3つの事を目標に掲げました。 ①飼っている柴犬を、日本一幸せな柴犬にする事。 ②最低限、父の年齢まで生きる事。 ③世界の真理を一つでも多く学ぶ事。 です。 農業では、無農薬、無化学肥料での、循環農法を実践しています。なるべく、F1の種に頼らず固定種の種から作付けして、この土地に合った野菜を育て、種取りをして、安全、安心な、究極的には硝酸態窒素を過剰に含まない、ガンにならない野菜作りを目指しています。 知らない土地に来てからの挑戦なので、苦労もありますがやり甲斐も有りますし、生き甲斐も感じています。 何よりも、何度となく死んでしまってもおかしくない我が身がこうしてお天道様の光を浴びて働けることが、嬉しくて嬉しくて仕方が有りません。 昔、ドイツの哲学者が言っていました。 (自らを否定して否定し尽くした時、あなたは超人となるだろう。) 私のうつ病期は、自己否定の繰り返しでした。 もちろん、私は超人には成れておりません。 ただ、周りの人達よりちょっとだけ物事の本質を理解出来るようになったかなと思います。 一昨日、東日本大震災から9年経ちました。 2万人以上の方が亡くなられました。 彼らにはもう時間が有りません。行動を起こすことも出来ません。 だからこそ我々生きている人間は、然るべき行動により、震災を語り継ぎ、亡くなった方たちを忘れずに生きねばなりません。 あなたは生きている。 あなたには時間がある。 あなたは行動を起こせる。 大丈夫。時は必ず訪れます。 最後にアメリカの詩人の言葉をご紹介します。 (寒さに震えた者ほど 太陽の暖かさを感じる 人生の悩みをくぐった者ほど 生命の尊さを知る これから私は幸福を求めない 私自身が幸福だ) 長文につき、乱筆、乱文ご容赦ください。
https://jp.quora.com/%E7%A7%81%E3%81%AF%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E3%81%A7%E3%81%99-%E6%98%94%E3%81%AE%E4%BA%8B%E3%82%82%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA%E3%81%9B%E3%81%9A-%E6%84%9F%E5%8B%95%E3%81%9B%E3%81%9A-%E6%84%9F%E6%83%85%E3%82%82/answers/202981897?ch=2
0 notes
hero1222 · 6 years ago
Text
ヤクザと韓国 殺しの柳川や猛牛・町井らが日韓関係裏で暗躍 「猛牛(ファンソ)」こと町井久之氏(共同通信社)  混迷を極める日韓関係だが、遡れば戦後の両国は、禍根を残しながらも複雑な国際情勢の中で関係修復に動いた。その背後で、カネと暴力、闇社会人脈を駆使してヤクザが暗躍していたことは、“公然の秘密”であった。近著『殺しの柳川』で、戦後日韓関係と裏社会の蜜月を描いたジャーナリスト・竹中明洋氏が、「ヤクザと韓国」の秘史をレポートする。  韓国側による慰安婦合意の反故や、海上自衛隊の哨戒機へ��レーダー照射、徴用工判決が重なり、日本政府が半導体材料の輸出規制措置を取ると、韓国側は猛反発。日本製品の不買運動が行なわれ、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定。果ては東京五輪へのボイコットを求める声すら飛び出している。  この事態に元公安調査庁調査第二部長で、朝鮮半島情勢の専門家の菅沼光弘が嘆息する。 「よくも悪くも、日韓を裏側で結びつけた人々がいなくなった」  菅沼がいう「結びつけた人々」とは、政治家や外交官、財界人ではない。  町井久之や柳川次郎、高山登久太郎を筆頭とするヤクザだ。かつては彼らが日韓で軋轢が生じるたびに両国の間で暗躍した。その動きの一端を紹介する。  まずは“猛牛(ファンソ)”こと町井久之。1965年の日韓国交正常化で大きな役割を果たした一人である。町井は1923年に東京に生まれたが、両親はともに朝鮮半島出身。韓国名を鄭建永(チョン・ゴニョン)という。身長180センチ超、体重100キロの巨躯の持ち主で、その腕力を武器に銀座を縄張りとして頭角を現し、1500人の構成員を従える東声会の会長として東京の裏社会に君臨した。1963年には山口組三代目の田岡一雄と兄弟盃を交わしている。  その町井が韓国国内で人脈を広げていくのは、1962年のことだった。韓国で開かれた国民体育大会に町井が在日同胞チームの団長として訪韓した際、ソウルで町井らが宿泊したホテルの警備を担当したのが、のちに大統領警護室長となり、朴正煕(パク・チョンヒ)政権のナンバー2と言われた朴鍾圭(パク・ジョンギュ)だった。豪胆な性格の2人はすぐに意気投合したという(城内康伸著『猛牛と呼ばれた男「東声会」町井久之の戦後史』参照)。  射撃の名手で、気にくわない相手にはすぐにピストルを抜くことから、「ピストル朴」と怖れられた朴鍾圭は、京都生まれで、日本語も堪能。 「俺は韓国の坂本龍馬になる」が口癖で、「かっこよくて銀座のママにとにかくもてた」とは、朴と幾度も東京で酒席をともにしたことがある在日韓国人から聞いた話だ。  朴鍾圭を介して韓国の政財界に食い込んだ町井は、兄弟分だった力道山の紹介で、「政財界の黒幕」と呼ばれた右翼の児玉誉士夫とも親しくなり、その児玉の伝手で自民党大物政治家の大野伴睦や河野一郎らと知己を得る。  当時、日韓の間では長年にわたり続いていた国交正常化に向けた交渉が暗礁に乗り上げていた。 「韓国嫌いで知られた大野をはじめ、自民党内に早期の交渉妥結に反対する声が多かった」(元政治部記者)  こうしたなか、町井は韓国の朴正煕政権の意向を受けて、韓国側の要人と大野らをたびたび引き合わせ、1965年の日韓国交正常化実現の環境整備に一役買った。  その前年、1964年の東京五輪では、韓国選手の渡航費用や宿泊費、機材費などを支援。1966年には韓国オリンピック委員会の委員にもなっている。 ◆大統領の警護を依頼  町井と同じ1923年に生まれ、大阪を拠点としたことから、「東の町井、西の柳川」と並び称されたのが、柳川次郎こと梁元錫(ヤン・ウォンソク)である。  日本の植民地時代の釜山に生まれ、7歳の時に母に手を引かれ、海峡を渡った。終戦直後の大阪を暴力でのし上がり、1958年に柳川組を旗揚げ。翌年には山口組の傘下に入った。  その凶暴さから「殺しの軍団」との異名を取った柳川組は、山口組の全国進出の尖兵として関西から北陸や山陰、東海、そして北海道へと勢力を拡大し、1969年に解散するまでに1700人の構成員を数えた。  柳川が、韓国の政財界に食い込むようになったきっかけも、やはり「ピストル朴」だった。朴正煕政権とも関わりの深い韓国人老学者が経緯を明かす。  「1972年に朴正煕大統領が国賓として日本を公式訪問することになり、朴鍾圭が警視庁と警備計画を協議したのですが、天皇の警備でもやらないほどの厳重さを要求したそうです。朴鍾圭にすれば、それが大統領への忠誠を示すものだったのでしょう。日程には大阪も含まれていたので、大阪府警とも同じようにやったのですが、それでも足りないと思ったのか、朴鍾圭は警察以外の者にも警備への協力を求めた。それが町井であり、柳川だったのです」  結局、公式訪問は取り止めとなったため、町井や柳川の出番はなかったが、これ以降、柳川は朴正煕政権との関わりを深めていく。1974年に朴正煕政権の招きで1944年ぶりに韓国を訪れると、翌年には大のプロレス好きで知られた大統領の直々の依頼を受け、アントニオ猪木ら新日本プロレス一行を引き連れ韓国興行を打つ。  猪木と韓国人レスラーの大木金太郎こと金一(キム・イル)の対決をメインとした興行は、韓国の5都市を回り、いずれもテレビ中継され空前の人気となった。ソウル興行後に猪木や金一を伴って青瓦台を表敬訪問した柳川は、大統領から感謝の抱擁をされたという。  1979年に朴正煕大統領は側近のKCIA部長に暗殺される。混乱のなかでクーデターにより政権を奪取したのが、韓国軍の情報機関・保安司令部(ポアンサ)の司令官だった全斗煥(チョン・ドファン)だ。それまでのKCIAに代わって対日工作を担うことになるが、日本国内で活動する手駒がいない。目をつけたのが柳川だった。 「会長を我々の機関で運用して問題ないか審査したのが私だった」  ソウルで私が会ったのは、柳川を「会長」と呼ぶポアンサの元幹部だ。 「もともと会長とはKCIAが深い関係を持っていたが、我々には詳しい情報がない。そこで生い立ちから彼について調べ直したのです。ヤクザだったことは問題ない。むしろ(韓国への)愛国心を持っているかどうか。そこに力点を置いた審査の結果、十分に愛国者であると判断したのです」 お墨つきを得た柳川は日本でのポアンサの工作活動を担い、その様は公安調査庁OBの菅沼をして「事実上のポアンサ駐日代表」と言わしめるほどだった。  大統領に就任した全斗煥の周辺とも太いパイプをつくり、1983年に当時の中曽根康弘首相が日本の首相としては初の公式訪韓をした際には、その地ならしに柳川が暗躍したとも言われる。 ◆柳川の後任に指名  在日韓国人が多く、また在日ヤクザも多かった大阪では、柳川の他にも触れておくべき人物がいる。山口組三代目の田岡一雄と盃を交わし、舎弟となった田中禄春こと韓禄春(ハン・ロクチュン)である。  田中は1921年に朝鮮半島の江原道に生まれ、14歳で単身大阪に渡ると、バーのボーイなどの下積み時代を経て戦後のミナミで巨大キャバレーをいくつも経営し、巨万の富を築いた。田岡の舎弟となったのは、愚連隊やヤクザからのみかじめ料の請求に耐えかねてのことだったとされる。  1966年に堅気となるが、それまでに築いた莫大な財産を民団の活動に寄付して民団本部の常任顧問を務めたほか、大阪の御堂筋に韓国総領事館が建設された際には、建設期成会の会長となって巨額の私費を寄付した。田中は韓国最高級の勲章にあたる無窮花(ムグンファ)章を授与されている。  そして、もう一人、韓国政府と深い関わりを持った在日ヤクザがいる。前出の菅沼はこの人物と初めて会った時のことをこう振り返る。 「1991年末に柳川次郎が亡くなって間もない頃のこと。東京の韓国大使館の武官室から連絡があった���です」  用件は、ポアンサのナンバー2の将軍が訪米の帰りに日本に寄るから会ってほしいというものだった。指定された場所は、熱海の高級旅館。 「行ってみると、そこには私以外にもう一人客がいた。京都からベンツを連ねて熱海の旅館に着くなり、出迎えたスタッフに気前よくチップをはずみ、たちどころに手なずけていました」  その夜、ポアンサの将軍は菅沼にその男を紹介し、こう伝えたという。 「柳川の次は彼にやってもらう」  ポアンサの“駐日代表”を引き継いだこの男は、京都の会津小鉄会の会長・高山登久太郎である。  会津小鉄会といえば、幕末に京都守護職となった会津藩主の松平容保に従った侠客の会津小鉄こと上坂仙吉を初代とする老舗ヤクザ。その四代目の高山は、1928年に大阪市東成区に生まれた在日で、韓国名を姜外秀(カン・ウエス)という。  朝鮮戦争が勃発した際に在日韓国人による義勇軍に応募したこともある。韓国への渡航の集合場所だった東京の民団本部に到着したところで休戦となったため、実際に戦地に赴くことはなかったが、民団中央本部の中央委員を務め、1987年の韓国大統領選挙では、全斗煥の後継である盧泰愚を資金面で支援した。 ◆民主化でヤクザが不要に  韓国の政権と深い結びつきを築いた在日ヤクザたちだったが、高山を最後に目立った動きはなくなる。その理由を菅沼は「民主化が進んだからだ」と指摘する。  朴正煕をはじめ軍人による独裁が続いた韓国の歴代政権は、日本における情報収集や工作活動のために暴力という武器を持つヤクザたちを重宝した。だが、民主化の進展は、そのような不透明な関係を許さなくなったのだ。KCIAやポアンサといった情報機関が改編や解体の憂き目に遭ったことも影響している。  稲川会会長の清田次郎(韓国名・辛炳圭〈シン・ピョンギュ〉)、六代目山口組で統括委員長を務める極真連合会会長の橋本弘文(同・姜弘文〈カン・ホンムン〉)、六代目から分裂した任侠山口組代表の織田絆誠(同・金禎紀〈キム・ジョンギ〉)を始め、いまなお組織のトップに在日は多く、その下にはさらに多数の在日がいる。だが、日韓関係を水面下で動かすことはなく、またそれを許す社会でもなくなった。  民主化にともなう時代の必然とはいえ、在日ヤクザの退場で、両国は混迷の度合いを深めることになった。  
0 notes