#マフラー詰まり解消
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メェメェが通ります🐏
このアプリ自体開くのが久しぶりすぎてそういえばこんなアプリ入れてた前のブログ読み返したら自分キショ!ってなりました。でも残しとこおもろいから。
なんたって新曲ですよ。良すぎるのが。毎回配信される前日の夜ドキドキしながら寝落ちしてる。0:00解禁の時間まで起きられへんから。
イントロから優しい声始まって、いろいろ感情出てくるねんけど表すのが難しいこれまた!はじめなんか分からんけどsecret base~君がくれたもの~をなんとなく思い浮かべた。なんの繋がりもないけど。
初めて聴いたのはクリスマスイブイブのワンマンで。なーにこれこんな曲も歌うの?!?!メロディライン?っていうんか分からんけどなんか気持ち良すぎて泣きそうになったと思いきや後からでたMVみたらほんまに切ない。出てくる女の子全身黒っぽいな〜思ってたら白っぽい子出てきてその子羊ー!!ってなった。切なすぎて見れない。悲しい。涙。
みなさんは🐏って聞いたらなにを思い浮かべますか?
この曲名にある羊ってなんやろ?って思ったけど白いから?それも冬を想像して曲名見ただけで冬を想像できるのすごい。ほんでみんなモコモコのコート着てるあったかいやつ。だんだん汚れて黒っぽくなっていくやつね。歌詞を聞いてたら冬になったら出てくる白い息も羊みたいやね。
羊の季節みたい恋愛してみたい!とか思ったけどしたらしばらく立ち直られへん。辛すぎて次の恋愛行かれへん。思い出すたびに辛くなるやつ。モノにいっぱい思い出詰まってまうやつ。
始まりのギターとかこの曲に合いすぎて溶けそうになるし、歌詞を一個一個見ていったらこれ解けるじゃなくて溶けるなん?!とかくれたじゃなくて昏れた?!?!ってなるしめちゃくちゃ聞けば聞くほど深い。リアルすぎるな。これ現実じゃないっていうのがまた凄すぎる妄想力。夏バージョンとかもでたらおもろい。
よすぎる歌詞を載せさせていただきます。↓
ほんの少しだけの些細なことが
私の心をゆらゆら揺さぶるのです
きっとそれは君の瞳に映る影の
秘密を見つけてしまったから
優しい嘘で甘やかさないで
間に受けて私バカみたいだ(ほら)
恋が枯れた羊の季節
白い息は夜空を彷徨って
行くあてもなく消えてゆくけれど
この魔法は溶けそうもない
行きずりの風が窓を震わせる
タイミングが違えば変わってたのかな
あとは沈んでくだけのベッドの中で
君の幸せなんてくだらないことを願ってしまうのです
カイロ代わりにくれた缶コーヒー(←ここめっちゃ好き❗️)
無邪気な顔で優しくしないで(いつか)
君に触れた羊の季節
眠たいふりで見つめてた横顔
白い雪が街を染めてゆく
幼い夢を解かして
なでてくれたボアのアウター
指のない手��� 重たいマフラー
羊みたいだってまた言って欲しいよ 私を���まえて
君が昏れた羊の季節 震える声寒さのせいにして
白い息が終わりを告げても
この魔法は溶けそうもない
この魔法は溶けそうもない
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とても古いバイクのマフラーのカーボン焼き依頼です。 2stエンジン おそらく50〜60年前のバイクです。 腐食もひどく抜けも最高に悪く焼きながらエアーガンで圧をかけて燃焼させました。 相当詰まっていましたがマフラーにあなをあけることなく問題なく開通。 スクーターはよく切開して内部加工して縫合し再出荷しています👌 スクーターのマフラー詰まりも修理できます。 お気軽にお問い合わせ下さい。 #有限会社川﨑製作所#三鷹市#マフラー詰まり#マフラー詰まり解消#マフラー焼き#マフラー修理#マフラー#旧車#2スト#2st#2ストローク#バイク#単車#ガスバーナー#カーボン#カーボン焼き#三鷹市#repair#修理#lpg (有限会社川﨑製作所 kawasaki works co.Ltd) https://www.instagram.com/p/B_PrpJig3tz/?igshid=7u9863ck28hw
#有限会社川﨑製作所#三鷹市#マフラー詰まり#マフラー詰まり解消#マフラー焼き#マフラー修理#マフラー#旧車#2スト#2st#2ストローク#バイク#単車#ガスバーナー#カーボン#カーボン焼き#repair#修理#lpg
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📛 164 「仮面ライダー」 #93。
今週も 「仮面ライダー」 のお時間がやって参りました。今回は 「8人の仮面ライダー (第93話)」 というお話です。空中でショッカーライダーなるにせライダーとライダーキックをぶつけ合った仮面ライダー第1号は ハエトリバチの前に絶体絶命のピンチだったりします。「しね!仮面ライダー!」 とハエトリバチ。そんなキモ怪人は 誤って第1号とともに海に落ちてしまいます。「アハハハハハハ、仮面ライダーは ハエトリバチとともにこの世から消えてしまった アハハハハハハ」 と にせライダー。という訳で この世から消えてしまった主役と 活躍をほとんど見せないまま退場してしまったハエトリ。「もうこんなものに用はない」 と前回奪った アンチコンピューターテープを海に向けて えいやって投げ捨てやうとする にせライダー。と、そんなところへ 「ショッカーライダー!捨てるのはまだ��いぞ!」 と、おかしなエイの化け物が投げたそれを上手にキャッチします。「殺人音波のテープが入っている!」 と、偽物のテープと本物をすり替える小癪なエイ。そんなところに 駆けつけた おやっさんと和也。「一芝居打つぞ、いいな!」 と、何処からどう見てもエイには見えないエイ怪人と小芝居を始める にせライダー。「滝!これを頼む!」 と、アンチテープの入ったアタッシュケースをブンっと投げた にせライダーは エイ怪人と戯れます。エイを蹴散らし 「怪人は片付けました」 と、おやっさんに報告をする にせライダー。と、そこへ数人の戦闘員が現れ、にせライダーに襲い掛かります。「それをアンチショッカー同盟に届けるんだ!」 と おやっさんらに小芝居を見せながら戦闘員と戯れ合う にせライダー。すり替わった "それ" を何も知らずにお持ち帰りするおやっさんたち。「危なかったな ショッカーライダー、もう少しでバレるところだった!」 と ヒヤヒヤしたエイ。「オレが仮面ライダーとして悪の限りを尽くしてやる!」 と、悪の限りとはどんな物なのかちょっと気になることをいう、ワルなにせライダー。そんなころ 「早速我々のコンピューターにかけてみませう」 と、受け取ったアンチなコンピューターのおかしな形をしたテープを再生する (互換性のある再生機器をモチのロンでお持ちな) ゲルダムのアジトで "先週のカプセル" を解析するブラック将軍。するとゲルダムよりも上手な人物がどうのこうのするとのことで厄介事が増えます。 「アンチショッカー同盟の全滅作戦は中止させろ!まず本物のテープを奪え!」 と、それを聞いていたのか 作戦を変更させる銭形警部声似な首領。そんなころ、正義のほうのアジト、アンチ同盟のアジトでは すり替えられた テープを再生しやうとしています。そんなところに 「スイッチを入れると爆発するぞ!」 と そこにいた面々をキャーッ!と避難させた ワルなにせライダーは、しめしめとテープをセットして巨大なコンピューターを爆破させます。「ライダー!」 と外に避難したおやっさんら。「わたしは無事だ!」 と にせライダー。「本物のテープはどこなんだ!」 とおやっさん。とそこへ 「本物のテープはここだ!南米のアンチショッカー同盟が俺を選んだ!」 と、南米にもアンチなショッカー同盟があるということをさらりと教えてくれる さすらいのカメラマンこと 一文字隼人が ウエスタン村のガンマンのやうな出立ちで どこからともなく現れます。「ライダー、いつからそのマフラーを?」 と、その場にいた にせなライダーを怪しむ鋭い隼人。「少しばかり気付くのが遅かったぜ!」 と素性がバレた途端 口もわるくなる にせライダーは その場から逃げ出します。さうはさせるか!と 「とぅっ!」 と 2階から飛び降りて にせライダーと にせサイクロンを追う隼人は 「変身 とうっ!」 と変身をキメ、偽物を追います。���く出来た にせのサイクロンを追う、本物のサイクロン。「逃げても無駄だ!ショッカーライダー!」 と にせサイクロンに飛び移った、元々はショッカーライダーだったショッカー産ライダーが ショッカーライダーを スクリーンプロセス (合成画面) を駆使しながら追い詰めます。「いまごろ少年仮面ライダー隊本部には ショッカーライダー2号が乗り込んでいるんだ!」 と にせライダーにも2号がいるということを仮面ライダー2号に教える にせライダーと、そんなにせライダーのサイクロンに飛び乗った本物のライダーは 1台のバイクに無茶な乗り方をしていたからなのか何なのか、崖から うわっ!と落ちます。そんな崖の下に サイクロン並みの速さで追いつくおやっさんと滝和也は、無傷で済んだ 本物2号とともに 3人で 駆け足をしながらお知らせに向かいます。お知らせが明け 「さあ、君たちにわたしからのお年玉だ」 と、この物語の放送時期がお正月だったことを教えてくれる、白いマフラーを巻いた にせライダーは ポチ袋ではなく、包装紙に包まれた小さめな箱を少年ライダー隊にプレゼントします。「開けてみればわかる」 と にせ2号。「わぁ何だらう!」 と 少年ライダー隊員は パカっと箱を開けて見ます。すると突然に ブファーッと白い煙が吹き出し、現るは 「ゲルショッカーの怪人エイドクガーだ!」 と、エイドクガーという名前らしいエイドクガー。「ショッカーライダーからのお年玉だからだ!」 と ロクデモナイお年玉をプレゼントする ロクデモナイにせライダー2号。「オレ様の毒粉を浴びれば 三日三晩眠り続ける!」 と こどもたちに毒粉を浴びせるエイドク。三日三晩眠り続けてしまうかもしれない毒粉を浴びてしまった 義務教育真っ只中の少年仮面ライダー隊員に危険が及びます。そんなところにフラっと現れて連れ去りを阻止する正義の男 本郷猛 (やっとこ登場)。ゲルダムのコンピューターの解析では 「貴様がいきている確率が90%!」 と にせライダー。いきているんだと分かっていたのにも関わらず探しもしないヌケサクなゲルダムに向けて 「ライダー 変身!」 と変身をキメた第1号は まだ身体が温まっていないやうで 「ナオキ!ミツル!」 と叫ぶも 、彼ら少年ライダー隊員は ゲルダムによって、ゲルダムのライトバンに乗せられてしまいます。にせものライダーの攻撃を受け、高いところから落ちる第1号。着地に失敗して少し痛さうです。「いつもの元気がないな!」 と、いつもの第1号の調子を知っているエイドク。「ハエトリバチと落ちた時に怪我をしたな」 と にせライダー。それでも 「仮面ライダーは不死身だ!」 と強がりを見せる第1号に 「仮面ライダー!俺たちには敵うまい!」 と、単独では負けるかもしれないけれど ふたりして痛めつければ大丈夫とエイドクは 第1号を崖から突き落とします。危し仮面ライダー!。そんなころ、おやっさん家兼少年ライダー隊本部に 一本の電話が入ります。目立つ格好のブラック将軍からです。「人質は5人そっくり頂いた!」 と わざわざ知らせてくれるブラック将軍。「アンチのコンピューターテープと人質���交換だ!」 と 取引してみたい���ラック将軍。「ショッカーに対する恨みが込められているテープを渡すわけにはいかない」 と 人質よりも恨みのほうに重きを置いている、ブラック将軍よりもブラックなアンチショッカー同盟。こんなことを続けていては 人質の命も危ないし 放送時間も押し迫ってしまうと 「人質はわたしたちの手で取り戻しませう」 と隼人。「何がアンチショッカー同盟だ!」 と少しキレ気味の おやっさん。「隼人、奴らのところへ乗り込もうぜ!」 と アクション和也。並べて停めていたバイクの先には、ぺちゃくちゃ喋っていないで さっさと行かうぜ!って感じの 本調子ではない本郷猛の姿がそこに有りっ!という訳で、3人のバイクメーンは ゲルダムの指定した場所にブイーンっと向かいます。「約束のテープは持って来たぞ!」 とアンチなテープを預かったのは隼人だけれども 代表してアタッシュケースをチラつかせる猛。「テープが本物かどうか確認してからだ」 と慎重派なブラック将軍。「ではテープの確認をする。滝隊長!前へ進め!」 と 滝和也隊長を指名するブラック将軍は 和也の頭上に飛来したヘリコプターに吊られたロープにアタッシュケースを括り付けろと指示します。ロープの先にアタッシュケースをつける和也。人質を解放せずに何処かへ飛び立たうとするヘリ。「騙したな!」 とロープにガッと飛びつく、無茶なアクションが大好物な滝和也。そんな様をぼんやり眺めていた ふたりの改造人間の前に立ちはだかる 6人のショッカーライダーたち。「ナンバーワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス」 と点呼を決め込みます。ふたりを取り囲む6人ライダー。そんなコピー版に 「本物の強さを見せてやらうぜ!」 と格好良すぎな台詞を飛ばす隼人。とりあえず ふたりして 「とぅっ」 と崖の上にジャンプ (未だ変身前) を決めて、見晴らしの良さげな高場から 「ライダー 変身っ!とぅっ!」 と仮面ライダーに変身をキメ込みます。高い場所は危ないので にせライダーのほうに移動するダブルライダー。そんな彼らを取り囲んだ 6人のにせライダーは、ぐるぐるぐるんと回りに回り、ダブルライダーをバターにでも変える気なのかどうなのか回り続けながら次週に続きます。ちなみに アクション和也は宙に浮いたままでヤバミです。
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青と金色
■サイレンス
この部屋のインターフォンも灰色のボタンも、だいぶ見慣れてきた。指で押し込めて戻すと、ピーンポーンと内側に引っ込んだような軽い電子音が鳴る。まだこの地に来た頃はこうやって部屋主を呼び出して待つのが不思議な気分だった。鍵は開かれていたし、裏口だって知っていたから。 「…さむっ」 ひゅうう、と冷たい風が横から吹き込んで、思わずそう呟いて肩を縮めた。今週十二月に入ったばかりなのに、日が落ちると驚くほど冷え込む。今日に限って天気予報を観ていなかったけれど、今夜はいつもと比べても一段と寒いらしい。 近いし、どうせすぐだからと、ろくに防寒のことを考えずに部屋を出てきたのは失敗だった。目についた適当なトレーナーとパンツに着替え、いつものモッズコートを羽織った。おかげで厚みは足りないし、むき出しの両手は指先が赤くなるほど冷えてしまっている。こんなに寒いのならもっとしっかりと重ね着してこれば良かった。口元が埋まるくらいマフラーをぐるぐるに巻いてきたのは正解だったけれど。 いつもどおりインターフォンが繋がる気配はないけれど、その代わりに扉の奥からかすかに足音が近付く。カシャリ、と内側から錠の回る音がして目の前の扉が開かれた。 「おつかれ、ハル」 部屋の主は片手で押すように扉を開いたまま、咎めることも大仰に出迎えることもなく、あたたかい灯りを背にして、ただ静かにそこに佇んでいた。 「やっと来たか」 「はは、レポートなかなか終わらなくって…。遅くなっちゃってごめんね」 マフラー越しに笑いかけると、遙は小さく息をついたみたいだった。一歩進んで内側に入り、重たく閉じかける扉を押さえてゆっくりと閉める。 「あ、ここで渡しちゃうからいいよ」 そのまま部屋の奥に進もうとする遙を呼び止めて、玄関のたたきでリュックサックを開けようと背から下ろした。 遙に借りていたのはスポーツ心理学に関する本とテキストだった。レポート課題を進めるのに内容がちょうど良かったものの自分の大学の図書館では既に貸し出し中で、書店で買うにも版元から取り寄せるのに時間がかかるとのことだった。週明けの午後の講義で遙が使うからそれまでには返す、お互いの都合がつく日曜日の夕方頃に部屋に渡しに行く、と約束していたのだ。行きつけのラーメン屋で並んで麺を啜っていた、週の頭のことだった。 「いいから上がれよ」遙は小さく振り返りながら促した。奥からほわんとあたたかい空気が流れてくる。そこには食べ物やひとの生活の匂いが確かに混じっていて、色に例えるなら、まろやかなクリーム色とか、ちょうど先日食べたラーメンのスープみたいなあたたかい黄金色をしている。それにひとたび触れてしまうと、またすぐに冷えた屋外を出て歩くために膨らませていた気力が、しるしるとしぼんでしまうのだ。 雪のたくさん降��場所に生まれ育ったくせに、寒いのは昔から得意じゃない。遙だってそのことはよく知っている。もちろん、帰ってやるべきことはまだ残っている。けれどここは少しだけ優しさに甘えようと決めた。 「…うん、そうだね。ありがと、ハル」 お邪魔しまーす。そう小さく呟いて、脱いだ靴を揃える。脇には見慣れたスニーカーと、濃い色の革のショートブーツが並んでいた。首に巻いたマフラーを緩めながら短い廊下を歩き進むうちに、程よくあたためられた空気に撫ぜられ、冷えきった指先や頬がぴりぴりと痺れて少しだけ痒くなる。 キッチンの前を通るときに、流しに置かれた洗いかけの食器や小鍋が目に入った。どうやら夕食はもう食べ終えたらしい。家を出てくる前までは課題に夢中だったけれど、意識すると、空っぽの胃袋が悲しげにきゅうと鳴った。昼は簡単な麺類で済ませてしまったから、帰りにがっつり肉の入ったお弁当でも買って帰ろう。しぼんだ胃袋をなぐさめるようにそう心に決めた。 「外、風出てきたから結構寒くってさ。ちょっと歩いてきただけなのに冷えちゃった」 「下旬並だってテレビで言ってた。わざわざ来させて悪かったな」 「ううん、これ貸してもらって助かったよ。レポートもあと少しで終わるから、今日はちゃんと寝られそう……」 遙に続いてリビングに足を踏み入れ、そこまで口にしたところで言葉が詰まってしまった。ぱちり、ぱちりと大きく瞬きをして眼下の光景を捉え直す。 部屋の真ん中に陣取って置かれているのは、彼の実家のものより一回り以上小さいサイズの炬燵だ。遙らしい大人しい色合いの炬燵布団と毛布が二重にして掛けられていて、丸みがかった正方形の天板が上に乗っている。その上にはカバーに入ったティッシュ箱だけがちょんとひとつ置かれていた。前回部屋に訪れたときにはなかったものだ。去年は持っていなくて、今年は買いたいと言っていたことを思い出す。けれど、それはさして驚くようなことでもない。 目を奪われたのは、その場所に半分身を埋めて横になり、座布団を枕にして寝息を立てている人物のことだった。 「…えっ、ええっ? 凛!?」 目の前で眠っているのは、紛れもなく、あの松岡凛だった。普段はオーストラリアにいるはずの、同郷の大切な仲間。凛とはこの夏、日本国内の大会に出ていた時期に会って以来、メールやメディア越しにしか会えていなかった。 「でかい声出すな、凛が起きる」 しいっと遙が小声で咎めてくる。あっ、と慌てたけれど、当の凛は起きるどころか身じろぐこともなく、ぐっすりと深く眠ってしまっているようだった。ほっと胸を撫で下ろす。 「ああ、ご、ごめんね…」 口をついて出たものの、誰に、何に対してのごめんなのか自分でもよく分からない。凛がここにいるとは予想だにしていなかったから、ひどく驚いてしまった。 凛は今までも、自分を含め東京に住んでいる友達の部屋に泊まっていくことがあった。凛は東京に住まいを持たない。合宿や招待されたものならば宿が用意されるらしいけれど、そうでない用事で東京に訪れることもしばしばあるのだそうだ。その際には、自費で安いビジネスホテルを使うことになる。一泊や二泊ならともかく、それ以上連泊になると財布への負担も大きいことは想像に難くない。 東京には少なくとも同級生だけで遙と貴澄と自分が住んでいる。貴澄は一人暮らしでないからきっと勝手も違うのだろうが、遙と自分はその点都合が良い。特に遙は同じ道を歩む選手同士だ。凛自身はよく遠慮もするけれど、彼の夢のために、できるだけの協力はしてやりたい。それはきっと、隣に並ぶ遙も同じ気持ちなのだと思う。 とはいえ、凛が来ているのだと知っていれば、もう少し訪問の日時も考えたのに。休日の夜の、一番くつろげる時間帯。遙ひとりだと思っていたから、あまり気も遣わず来てしまったのに。 「ハル、一言くらい言ってくれればいいのに」 強く非難する気はなかったけれど、つい口をついて本音が出てしまった。あえて黙っていた遙にじとりと視線を向ける。遙はぱちり、ぱちりと目を瞬かせると、きゅっと小さく眉根を寄せ、唇を引き結んだ。 「別に…それが断わる理由にはならないだろ」 そう答えて視線を外す遙の表情には少し苦い色が含まれていて、それでまた一歩、確信に近付いたような気がした。近くで、このごろはちょっと離れて、ずっと見てきたふたりのこと。けれど今はそっと閉じて黙っておく。決してふたりを責めたてたいわけではないのだ。 「…ん、そうだね」 漂う空気を曖昧にぼかして脇にやり、「でも、びっくりしたなぁ」と声のトーンを上げた。遙は少しばつが悪そうにしていたけれど、ちらりと視線を戻してくる。困らせたかな、ごめんね、と心の中で語りかけた。 「凛がこの時期に帰ってくるなんて珍しいよね。前に連絡取り合ったときには言ってなかったのに」 「ああ…俺も、数日前に聞いた。こっちで雑誌だかテレビだかの取材を受けるとかで呼ばれたらしい」 なんでも、その取材自体は週明けに予定されていて、主催側で宿も用意してくれているらしい。凛はその予定の数日前、週の終わり際に東京にやって来て、この週末は遙の部屋に泊まっているのだそうだ。今は確かオフシーズンだけれど、かといってあちこち遊びに行けるほど暇な立場ではないのだろうし、凛自身の性格からしても、基本的に空いた時間は練習に費やそうとするはずだ。メイ��は公的な用事とはいえ、今回の東京訪問は彼にとってちょっとした息抜きも兼ねているのだろう。 「次に帰ってくるとしたら年末だもんね。早めの休みでハルにも会えて、ちょうど良かったんじゃない」 「それは、そうだろうけど…」 遙は炬燵の傍にしゃがみこんで、凛に視線を向けた。 「ろくに連絡せずに急に押しかけてきて…本当に勝手なやつ」 すうすうと寝息を立てる凛を見やって、遙は小さく溜め息をついた。それでも、見つめるその眼差しはやわらかい。そっと細められた瞳が何もかもを物語っている気がする。凛は、見ている限り相変わらずみたいだけれど。ふたりのそんな姿を見ていると自然と笑みがこぼれた。 ハル、あのね。心の中でこっそり語りかけながら、胸の内側にほこほことあたたかい感情が沸き上がり広がっていくのが分かった。 凛って、どんなに急でもかならず前もって連絡を取って、ちゃんと予定を確認してくるんだよ。押しかけてくるなんて、きっとそんなのハルにだけじゃないかなぁ。 なんて考えながら、それを遙に伝えるのはやめておく。凛の名誉のためだった。 視線に気付いた遙が顔を上げて、お返しとばかりにじとりとした視線を向けた。 「真琴、なんかニヤニヤしてないか」 「そんなことないよ」 つい嬉しくなって口元がほころんでいたらしい。 凛と、遙。そっと順番に視線を移して、少しだけ目を伏せる。 「ふたりとも相変わらずで本当、良かったなぁと思って」 「…なんだそれ」 遙は怪訝そうに言って、また浅く息をついた。
しばらくしておもむろに立ち上がった遙はキッチンに移動して、何か飲むか、と視線を寄こした。 「ついでに夕飯も食っていくか? さっきの余りなら出せる」 夕飯、と聞いて胃が声を上げそうになる。けれど、ここは早めにお暇しなければ。軽く手を振って遠慮のポーズをとった。 「あ、いいよいいよ。まだレポート途中だし、すぐに帰るからさ。飲み物だけもらっていい?」 遙は少し不満そうに唇をへの字に曲げてみせたけれど、「分かった、ちょっと待ってろ」と冷蔵庫を開け始めた。 逆に気を遣わせただろうか。なんだか申し訳ない気持ちを抱きながら、炬燵のほうを見やる。凛はいまだによく眠ったままだった。半分に折り畳んだ座布団を枕にして横向きに背を縮めていて、呼吸に合わせて規則正しく肩が上下している。力の抜けた唇は薄く開いていて、その無防備な寝顔はいつもよりずっと幼く、あどけないとさえ感じられた。いつもあんなにしゃんとしていて、周りを惹きつけて格好いいのに。目の前にいるのはまるで小さな子供みたいで、眺めていると思わず顔がほころんでしまう。 「凛、よく寝てるね」 「一日連れ回したから疲れたんだろ。あんまりじっと見てやるな」 あ、また。遙は何げなく言ったつもりなのだろう。けれど、やっぱり見つけてしまった。「そうだね」と笑って、また触れずに黙っておくけれど。 仕切り直すように、努めて明るく、遙に投げかけた。 「でも、取材を受けに来日するなんて、なんか凛、すっか��芸能人みたいだね」 凄いなぁ。大仰にそう言って視線を送ると、遙は、うん、と喉だけで小さく返事をした。視線は手元に落とされていながら、その瞳はどこか遠くを見つめていた。コンロのツマミを捻り、カチチ、ボッと青い火のつく音がする。静かなその横顔は、きっと凛のことを考えている。岩鳶の家で居間からよく見つめた、少し懐かしい顔だった。 こんなとき、いまここに、目の前にいるのに、とそんな野暮なことはとても言えない。近くにいるのにずっと遠くに沈んでいた頃の遙は、まだ完全には色褪せない。簡単に遠い過去に押しやって忘れることはできなかった。 しばらく黙って待っていると遙はリビングに戻って来て、手に持ったマグカップをひとつ差し出した。淹れたてのコーヒーに牛乳を混ぜたもので、あたたかく優しい色合いをしていた。 「ありがとう」 「あとこれも、良かったら食え」 貰いものだ、と小さく個包装されたバウムクーヘンを二切れ分、炬燵の上に置いた。背の部分にホワイトチョコがコーティングしてあって、コーヒーによく合いそうだった。 「ハルは優しいね」 そう言って微笑むと、遙は「余らせてただけだ」と視線を逸らした。 冷えきった両の手のひらをあたためながらマグカップを傾ける。冷たい牛乳を入れたおかげで飲みやすい温度になっていて、すぐに口をつけることができた。遙は座布団を移動させて、眠っている凛の横に座った。そうして湯気を立てるブラックのコーヒーを少しずつ傾けていた。 「この休みはふたりでどこか行ってきたの?」 遙はこくんと頷いて、手元の黒い水面を見つめながらぽつぽつと語り始めた。 「公園に連れて行って…買い物と、あと、昨日は凛が何か観たいって言うから、映画に」 タイトルを訊いたけれど、遙の記憶が曖昧で何だかよく分からなかったから半券を見せてもらった。CM予告だけ見かけたことのある洋画で、話を聞くに、実在した人物の波乱万丈な人生を追ったサクセスストーリーのようだった。 「終盤ずっと隣で泣かれたから、どうしようかと思った」 遙はそう言って溜め息をついていたけれど、きっとそのときは気が気ではなかったはずだ。声を押し殺して感動の涙を流す凛と、その隣で映画の内容どころではなくハラハラと様子を見守る遙。その光景がありありと眼前に浮かんで思わず吹き出してしまった。 「散々泣いてたくせに、終わった後は強がっているし」 「あはは、凛らしいね」 俺が泣かせたみたいで困った、と呆れた顔をしてコーヒーを口に運ぶ遙に、あらためて笑みを向けた。 「よかったね、ハル」 「…何がだ」 ふいっと背けられた顔は、やっぱり少し赤らんでいた。
そうやってしばらく話しているうちにコーヒーは底をつき、バウムクーヘンもあっという間に胃袋に消えてしまった。空になったマグカップを遙に預け、さて、と膝を立てる。 「おれ、そろそろ帰るね。コーヒーごちそうさま」 「ああ」 遙は玄関まで見送ってくれた。振り返って最後にもう一度奥を見���る。やはり、凛はまだ起きていないようだった。 「凛、ほんとにぐっすりだね。なんか珍しい」 「ああ。でも風呂がまだだから、そろそろ起こさないと」 遙はそう言って小さく息をついたけれど、あんまり困っているふうには見えなかった。 「あ、凛には来てたこと内緒にしておいてね」 念のため、そう言い添えておいた。隠すようなことではないけれど、きっと多分、凛は困るだろうから。遙は小さく首を傾げたけれど、「分かった」と一言だけ答えた。 「真琴、ちょっと待て」 錠を開けようとすると、思い出したみたいに遙はそう言って踵を返し、そうしてすぐに赤いパッケージを手にリビングから戻ってきた。 「貼るカイロ」 大きく書かれた商品名をそのまま口にする。その場で袋を開けて中身を取り出したので、貼っていけ、ということらしい。貼らずにポケットに入れるものよりも少し大きめのサイズだった。 「寒がりなんだから、もっと厚着しろよ」 確かに、今日のことに関しては反論のしようがない。完全に油断だったのだから。 「でも、ハルも結構薄着だし、人のこと言えないだろ」 着ぶくれするのが煩わしいのか、遙は昔からあまり着こまない。大して寒がる様子も見せないけれど、かつては年に一度くらい、盛大に風邪を引いていたのも知っている。 「年末に向けて風邪引かないように気を付けなよ」 「俺は大丈夫だ、こっちでもちゃんと鯖を食べてるから」 「どういう理屈だよ…って、わあっ」 「いいから。何枚着てるんだ」 言い合っているうちに遙が手荒く背中をめくってくる。「ここに貼っとくぞ」とインナーの上から腰の上あたりに、平手でぐっと押すように貼り付けられた。気が置けないといえばそうだし、扱いに変な遠慮がないというか何というか。すぐ傍で、それこそ兄弟みたいに一緒に育ってきたのだから。きっと凛には、こんな風にはしないんだろうなぁ。ふとそんな考えが頭をもたげた。 遙はなんだか満足げな顔をしていた。まぁ、きっとお互い様なんだな。そう考えながら、また少し笑ってしまった。 「じゃあまたね、おやすみ」 「ああ。気を付けて」
急にひとりになると、より強く冷たく風が吹きつける気がする。けれど、次々沸き上がるように笑みが浮かんで、足取りは来る前よりずっと軽かった。 空を仰ぐと、小さく星が見えた。深く吐いた息は霧のように白く広がった。 ほくほく、ほろほろ、それがじわじわと身体中に広がっていくみたいに。先ほど貼ってもらったカイロのせいだろうか。それもあるけれど、胸の内側、全体があたたかい。やわらかくて、ちょっと苦さもあるけれど、うんとあたたかい。ハルが、ハルちゃんが嬉しそうで、良かった。こちらまで笑みがこぼれてしまうくらいに。東京の冬の夜を、そうやってひとり歩き渡っていた。
■ハレーション
キンとどこかで音がするくらいに空気は冷えきっていた。昨日より一段と寒い、冬の早い朝のこと。 日陰になった裏道を通ると、浅く吐く息さえも白いことに気が付く。凛は相変わらず少し先を歩いて、ときどき振り返っては「はやく来いよ」と軽く急かすように先を促した。別に急ぐような用事ではないのに。ためらい��ない足取りでぐんぐんと歩き進んで、凛はいつもそう言う。こちらに来いと。心のどこかでは、勝手なやつだと溜め息をついているのに、それでも身体はするすると引き寄せられていく。自然と足が前へと歩を進めていく。 たとえばブラックホールや磁石みたいな、抗いようのないものなのだと思うのは容易いことだった。手繰り寄せられるのを振りほどかない、そもそもほどけないものなのだと。そんな風に考えていたこともあった気がする。けれど、あの頃から見える世界がぐんと広がって、凛とこうやって過ごすうちに、それだけではないのかもしれないと感じ始めた。 あの場所で、凛は行こうと言った。数年も前の夏のことだ。 深い色をした長いコートの裾を揺らして、小さく靴音を鳴らして、凛は眩い光の中を歩いていく。 格好が良いな、と思う。手放しに褒めるのはなんだか恥ずかしいし、悔しいから言わないけれど。それにあまり面と向かって言葉にするのも得意ではない。 それでもどうしても、たとえばこういうとき、波のように胸に押し寄せる。海辺みたいだ。ざっと寄せて引くと濡れた跡が残って、繰り返し繰り返し、どうしようもなくそこにあるものに気付かされる。そうやって確かに、この生きものに惚れているのだと気付かされる。
目的地の公園は、住んでいるアパートから歩いて十分ほどのところにある。出入りのできる開けた場所には等間隔で二本、石造りの太い車止めが植わるように並んでいて、それを凛はするりと避けて入っていった。しなやかな動きはまるで猫のようで、見えない尻尾や耳がそこにあるみたいだった。「なんか面白いもんでもあったか?」「いや、別に」口元がゆるみかけたのをごまかすためにとっさに顔ごと、視線を脇に逸らす。「なんだよ」凛は怪訝そうな、何か言いたげな表情をしたけれど、それ以上追及することはなくふたたび前を向いた。 道を歩き進むと広場に出た。ここは小さな公園やグラウンドのような一面砂色をした地面ではなく、芝生の広場になっている。遊具がない代わりにこの辺りでは一番広い敷地なので、思う存分ボール投げをしたり走り回ったりすることができる。子供たちやペットを連れた人たちが多く訪れる場所だった。 芝生といっても人工芝のように一面青々としたものではなく、薄い色をした芝生と土がまだらになっているつくりだった。見渡すと、地面がところどころ波打ったようにでこぼこしている。区によって管理され定期的に整備されているけれど、ここはずいぶん古くからある場所なのだそうだ。どこもかしこもよく使い込まれていて、人工物でさえも経年のせいでくすんで景観に馴染んでいる。 まだらで色褪せた地面も、長い時間をかけて踏み固められていると考えれば、落ち着いてもの静かな印象を受ける。手つかずの新品のものよりかは、自分にとって居心地が良くて好ましいと思えた。 広場を囲んで手前から奥に向かい、大きく輪になるようにイチョウの木々が連なって並んでい��。凛は傍近くの木の前に足を止め、見上げるなり、すげぇなと感嘆の声を漏らした。 「一面、金色だ」 立ち止まった凛の隣に並び、倣って顔を上げる。そこには確かに、すっかり金に色付いたイチョウの葉が広がっていた。冬の薄い青空の真下に、まだ真南に昇りきらない眩い光をたっぷりと受けてきらきらと、存在を主張している。 きんいろ、と凛の言葉を小さく繰り返した。心の中でもう一度唱えてみる。なんだか自分よりも凛が口にするほうが似つかわしいように思えた。 周囲に視線を巡らせると、少し離れた木々の元で、幼い子供ふたりが高い声を上げて追いかけっこをしていた。まだ幼稚園児くらいの年の頃だろうか、頭一個分くらい身の丈の異なる男の子ふたりだった。少し離れて、その父親と母親と思しき大人が並んでその様子を見守っている。だとすると、あのふたりは兄弟だろうか。大人たちの向ける眼差しはあたたかく優しげで、眩しいものを見るみたいに細められていた。 「な、あっち歩こうぜ」 凛が視線で合図して、広場を囲む遊歩道へと促した。舗装されて整備されているそこは木々に囲まれて日陰になっているところが多い。ここはいつも湿った匂いがして、鳥の鳴き声もすぐ近くから降りそそぐように聞こえてくる。よく晴れた今日はところどころ木漏れ日が差し込み、コンクリートの地面を点々と照らしていた。 休日の朝ということもあって、犬の散歩やジャージ姿でランニングに励む人も少なくなかった。向かいから来てすれ違ったり後ろから追い越されたり。そしてその度に凛に一瞥をくれる人が少なくないことにも気付かされる。 決して目立つ服を着ているわけでもなく、髪型や風貌が特に奇抜なわけでもないのに、凛はよく人目を惹く。それは地元にいたときにも薄っすらと浮かんでいた考えだけれど、一緒に人通りの多い街を歩いたときに確信した。凛はいつだって際立っていて、埋没しない。それは自分以外の誰にとってもきっとそうなのだろう。 いい場所だなぁ。凛は何でもないみたいにそう口にして、ゆったりとした足取りで隣を歩いている。木々の向こう側、走り回る子供たちを遠く見つめていたかと思えば、すぐ脇に設けられている木のベンチに視線を巡らせ、散歩中の犬を見て顔をほころばせては楽しそうに視線で追っている。公園までの道中は「はやく」と振り返って急かしたくせに、今の凛はのんびりとしていて、景色を眺めているうちに気が付けば足を止めている。こっそり振り返りながらも小さく先を歩いていると、ぽつぽつとついてきて、すうと寄せるようにしてまた隣に並ぶ。 その横顔をちらりと伺い見る。まるで何かを確かめるかのように視線をあちらこちらに向けてはいるものの、特にこれといって変わったところもなく、そこにいるのはいつも通りの凛そのものだった。 見られるという行為は、意識してしまえば、少なくとも自分にとってはあまり居心地が良いものではない。時にそれは煩わしさが伴う。凛にとってはどうなのだろう。改まって尋ねたことはないけれど、良くも悪くも凛はそれに慣れているような気がする��誰にとっても、誰に対しても。凛はいつだって中心にいるから。そう考えると苦い水を飲み下したような気持ちになって、なんだか少し面白くなかった。
遊歩道の脇につくられた水飲み場は、衛生のためだろう、周りのものよりずっと真新しかった。そこだけ浮き上がったみたいに、綺麗に背を伸ばしてそこに佇んでいた。 凛はそれを一瞥するなり近付いて、側面の蛇口を捻った。ゆるくふき出した水を見て、「お、出た」と呟いたけれど、すぐに絞って口にはしなかった。 「もっと寒くなったら、凍っちまうのかな」 「どうだろうな」 東京も、うんと冷えた朝には水溜まりが凍るし、年によっては積もるほど雪が降ることだってある。水道管だって凍る日もあるかもしれない。さすがに冬ごとに凍って壊れるようなつくりにはしていないと思うけれど。そう答えると凛は、「なるほどなぁ」と頷いて小さく笑った。 それからしばらくの間、言葉を交わすことなく歩いた。凛がまた少し先を歩いて、付かず離れずその後ろを追った。ときどき距離がひらいたことに気付くと、凛はコートの裾を揺らして振り返り、静かにそこに佇んで待っていた。 秋の頃までは天を覆うほど生い茂っていた木々の葉は、しなびた色をしてはらはらと散り始めていた。きっとあの金色のイチョウの葉も、程なくして散り落ちて枝木ばかりになってしまうのだろう。 「だいぶ日が高くなってきたな」 木々の間から大きく陽が差し込んで、少し離れたその横顔を明るく照らしている。 「あっちのほうまできらきらしてる」 中央の広場の方を指し示しながら、凛が楽しげに声を上げた。示す先に、冷えた空気が陽を受け、乱反射して光っている。 「すげぇ、綺麗」 そう言って目を細めた。 綺麗だった。息を呑んで見惚れてしまうほどに。いっぱいに注がれて満ちる光の中で、すらりと伸びる立ち姿が綺麗だった。 時折見せる熱っぽい顔とは縁遠い、冴えた空気の中で照らされた頬が白く光っていた。横顔を見ていると、なめらかで美しい線なのだとあらためて気付かされる。額から眉頭への曲線、薄く開いた唇のかたち。その鼻筋をなぞってみたい。光に溶け込むと輪郭が白くぼやけて曖昧になる。眩しそうに細めた目を瞬かせて、長い睫毛がしぱしぱ、と上下した。粒が散って、これも金色なのだと思った。 そうしているうちに、やがて凛のほうからおもむろに振り返って、近付いた。 「なぁ、ハル」少し咎めるような口調だった。「さっきからなんだよ」 ぴん、と少しだけ背筋が伸びる。身構えながらも努めて平静を装い、「なにって、何だ」と問い返した。心当たりは半分あるけれど、半分ない。 そんな態度に呆れたのか凛は小さく息をついて、言った。じっと瞳の奥を見つめながら、唇で軽く転がすみたいな声色で。 「おれのこと、ずっと見てんじゃん」 どきっと心臓が跳ねた。思わず息を呑んでしまう。目を盗んでこっそり伺い見ていたのに、気付かれていないと思っていたのに、気付かれていた。ずっと、という一言にすべてを暴かれてしまったみたいで、ひどく心を乱される。崩れかけた表情を必死で繕いながら、顔ごと大きく視線を逸らした。 「み、見てない」 「見てる」 「見てない」 「おい逃げんな。見てんだろ」 「見てないって、言ってる」 押し問答に焦れたらしく凛は、「ホントかぁ?」と疑り深く呟いて眉根を寄せてみせる。探るような眼差しが心地悪い。ずい、と覗き込むようにいっそう顔を近付けられて、身体の温度が上がったのを感じた。あからさまに視線を泳がせてしまったのが自分でも分かって、舌打ちしたくなる。 「別に何でもない。普段ここへは一人で来るから、今日は凛がいるって、思って」 だから気になって、それだけだ。言い訳にもならなかったけれど、無理矢理にそう結んでこれ以上の追及を免れようとした。 ふうん、と唇を尖らせて、凛はじとりとした視線を向け続ける。 しかしやがて諦めたのか、「ま、いいけどさ」と浅くため息をついて身を翻した。 顔が熱い。心臓がはやい。上がってしまった熱を冷まそうと、マフラーを緩めて首筋に冷気を送り込んだ。
それからしばらく歩いていくうちに遊歩道を一周して、最初の出入り口に戻ってきた。凛は足を止めると振り返り、ゆっくりと、ふたたび口を開いた。 「なぁ、ハル」今度は歩きながら歌を紡ぐみたいな、そんな調子で。 「さっきは良いっつったけどさ、おれ」 そう前置きするなり、凛はくすぐったそうに笑った。小さく喉を鳴らして、凛にしては珍しく、照れてはにかんだみたいに。 「ハルにじっと見つめられると、やっぱちょっと恥ずかしいんだよな」 なんかさ、ドキドキしちまう。 なんだよ、それ。心の中で悪態をつきながらも、瞬間、胸の内側が鷲摑みされたみたいにきゅうとしぼられた。そして少しだけ、ちくちくした。それは時にくるしいとさえ感じられるのに、その笑顔はずっと見ていたかった。目が離せずに、そのひとときだけ、時が止まったみたいだった。この生きものに、どうしようもなく惚れてしまっているのだった。 「あー…えっと、腹減ったなぁ。一旦家帰ろうぜ」 凛はわざとらしく声のトーンを上げ、くるりと背を向けた。 「…ああ」 少し早められた足取り、その後ろ姿に続いて歩いていく。 コンクリートの上でコートの裾が揺れている。陽がかかった部分の髪の色が明るい。視界の端にはイチョウの木々が並んできらめいていた。 「朝飯、やっぱ鯖?」 隣に並ぶなり凛がそっと訊ねてきた。 「ロースハム、ベーコン、粗挽きソーセージ」 冷蔵庫の中身を次々と列挙すると、凛はこぼれるように声を立てて笑ってみせた。整った顔をくしゃりとくずして、とても楽しそうに。つられて口元がほころんだ。 笑うと金色が弾けて眩しい。くすみのない、透明で、綺麗な色。まばたきの度に眼前に散って、瞼の裏にまで届いた。 やっぱり凛によく似ている。きっとそれは、凛そのものに似つかわしいのだった。
(2017/12/30)
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きわどく、ひとつのベッドで、意識して、雰囲気が、
呼び鈴が鳴った。ソファに長くなり、腹にマッカチンをのせて雑誌を眺めていたヴィクトルは、そろそろ寝ようと思っていたところだった。こんな時間にいったい誰だろう? ここに来客があることはなかった。何かの業者が来るような時刻でもない。妙だと考えながら、しかし確かめるだけは確かめてみようと、ヴィクトルは玄関に取り付けてあるカメラの映像が見られる場所へ行った。装置を操作して彼は目をまるくした。 「勇利」 玄関先でそわそわと困った顔を見せているのは勇利だった。彼とはなんの約束もしていなかったけれど──そもそも勇利がここへ来たことはない──緊急の用事があるのだろう。ヴィクトルは急いで彼を迎えた。 「勇利、どうしたんだい? こんな時間に」 何かあったのだろうかと心配しながら尋ねると、野暮ったいニットの帽子を深くかぶり、首のまわりにこれまた野暮ったいマフラーをぐるぐる巻いた勇利が、照れ笑いを浮かべながら両手を合わせた。 「ごめん、突然。今日、泊めて欲しいんだ」 「なぜ?」 「アパートの天井から水漏れしてきて……たぶん、上の階で何か問題があったんだと思う。確かめてないけど」 「…………」 「おねがい! ほかに頼れる人いないんだ」 確かに勇利には、家に泊めてくれるような知り合いはいないだろう。デトロイトや日本ならともかく、ロシアではそれは望めそうもない。ヴィクトル以外には。 「……いいよ。どうぞ入って。大変だっただろう」 「ベッドが濡れちゃって……場所を変えればなんとかなるかと思ってひっぱったんだけど、重くて動かせなかった」 「場所を変えて、水の漏れる部屋で寝ようと思ったのか」 「あれどうなるんだろう。今夜はしのげても明日から困るなあ」 「大家と相談するしかないね」 「ぼくのロシア語がどこまで通じるかの試練だよ」 勇利が入ってくると、マッカチンが大喜びで飛びついた。勇利は笑い声を上げ、身をかがめて、「元気?」と話しかけた。 「勇利、食事は?」 「ごはんは済んでる。落ちてくる水を眺めながら食べた」 「そういうときはね、すぐに行動を起こすんだ」 「食べてるあいだに止まるかと思ったんだよ」 「変なところで前向きだね。お風呂は?」 「えーっと」 「まだなんだね。入るといい」 ヴィクトルは勇利がマッカチンと戯れているあいだに浴槽に湯を溜めた。着替え、と思ったけれど、勇利はバックパックを背負っている。持ってきているだろう。 「勇利、入っておいで」 「ありがとう。ヴィクトルんちのお風呂って泳げる?」 「そこまでひろくない。勇利の家の温泉じゃないんだから」 「プールみたいな感じだと思った」 温泉屋の息子の感覚がわからない。ヴィクトルは首をかしげながら勇利を見送った。 「そんなにひろくなかっただろう?」 戻ってきた勇利は、頬を紅潮させ、いかにもほかほかとあたたかそうだった。 「ひろさよりも高級な感じが目について落ち着かなかった。ドレスコードのあるレストランみたいだった」 「何を言ってるんだ」 「あと、何をどんなふうに使ったらいいのかわからなくて、適当にやっちゃったんだけど」 「ああ」 そういえば、シャンプーやボディソープについて説明しなかった。 「べつにいいよ。好きに使ってくれれば」 「ぼくの使用方法が合ってたのかどうか、永遠の謎だね」 「一緒に入れば答え合わせができるけどね」 「あはは」 「ところで勇利、寝る場所だけど」 「あ、ぼくどこでもいいよ。すみっこで。そこにあるソファなんかよさそう。貸してもらえる? たぶんぼくのベッドより寝心地いいと思うんだよね」 「それはないだろうが、もしそうだとしても勇利にはベッドで寝てもらうよ」 「ヴィクトルは?」 「俺がソファで寝る。マッカチンは勇利のところがいいね」 「…………」 勇利は難しげな表情になり、口元に手を当てた。 「……ぼくがソファを使うって言っても、承知してもらえないんだろうね」 「よくわかってるじゃないか」 「だったらヴィクトルもベッドに来てよ……三人で寝ようよ。ヴィクトルのベッド、大きいんでしょ?」 「一緒に寝るのいやがるじゃないか」 「こんなときまでそんなこと言わないよ。寝相大丈夫かな……」 「俺は普通だと思う」 「ぼくがだよ」 「寝ながらクワドを跳ぶんじゃないだろうな」 なにそれ、と勇利は大笑いした。ヴィクトルは勇利をベッドへ連れていき、並んで横になった。マッカチンはふたりの足元でまるくなった。 「急にごめんね」 部屋の明かりを消すと、勇利が静かな声で謝った。彼はあおのき、両手をふとんの上に出しているようだった。 「断られたらホテルへ行くつもりだったんだけど」 「そんなことをする必要はない」 「ってヴィクトルなら言ってくれる気がしてたんだよね。ぼく甘えてるなあ。優しくしてもらえると思って来るなんてたちが悪いよなあ」 「と、しゃべってしまうところが勇利だと思うね」 「かわいげがない?」 勇利は明���く笑った。 「しおらしく、ごめんなさい、とだけ言ってれば、ヴィクトルもかわいいやつめって思ってくれたのかな」 ヴィクトルも一緒になって笑った。 「そういう勇利の変なとこ、俺は好きだけど」 「変って言わないでよ。そんなにおかしい?」 「いや……、勇利は根本的に理解できないことばかりだから、何がおかしくて何がおかしくないのか判断できないんだ。その状況がすでにおかしいとも言える」 「なんかよくわからないけど、感心されてるわけじゃないってことだけはわかるよ」 「感心してるよ。変わった子だなあ、という方向で……」 「絶対いい方向じゃないよね」 「大丈夫だ」 「何が大丈夫なんだよ」 「俺は想像通りとか見たままとか、そういうのは好きじゃないんだ」 「褒められてる気がしない……」 「まあまあ」 「何がまあまあだよ」 「勇利は勇利だから」 「ぜんぜん大丈夫じゃない」 ヴィクトルは黙った。勇利も沈黙した。このまま寝るかなと思っていたら、そのうちまたちいさく「ねえ」と話しかけられた。 「なんだい」 「こういうのってさ、映画とかドラマだとわりときわどいよね」 「……きわどいとは」 「いや、ぼくもくわしくは知らないけどさ。世間一般だと、こういうとき、変な雰囲気になっちゃって、お互い意識しちゃうんだよね。ひとつのベッドで寝るわけだからね」 「そうかもしれないね」 「まあ、ぼくらはそんなことないけど。ヴィクトル普段から一緒に寝よう寝ようってそればっかりだし」 「慣れてるわけだ」 「寝ること自体には慣れてないけど、誘われることには。一度だけ一緒に寝たことはあるけどね。ほら、あれ……ぼくが中国大会で眠れなかったとき……ヴィクトルが無理やり昼寝しろって言ってきて、上にのってきて……あれ重かったなあ。なぜか服脱がされたし」 「試合前に緊張して眠れないなんて理解できない」 「貴方はね」 「あのとき勇利は昼寝もできてなかったな」 「つまり、寝てたのはヴィクトルだけだから、結局『一緒に寝た』ことにはならないのか。まあこまかいことだけど。今日初めてだね」 勇利がくすっと笑った。 「どう? 意識する?」 彼は楽しそうに質問した。 「変な雰囲気になる? 気まずい感じの」 「笑いながらそういう��とを訊いてる時点で気まずくないだろう」 「どきどき。ヴィクトルと一緒に寝るだなんて」 「勇利、やけに陽気だね」 「ヴィクトル、自分のベッドが水浸しになっていくの眺めてたことある?」 「ないな」 「だんだん高揚してくるものだよ」 「もっと普通の楽しみを持ちなさい」 「たとえば?」 「美味しいものをおなかいっぱい食べる」 「それ……、嫌み?」 勇利が口をとがらせた。 「ダンスバトルをする」 「ぜんぜん楽しくない」 「楽しいよ」 「ヴィクトルはね」 「勇利も楽しそうだった」 「おぼえてないもん」 つんとして言ってから、勇利はふくみ笑いを漏らした。 「ぜんぜん変な雰囲気じゃないね」 「そうだね」 「気まずくもない」 「そうだね」 「おやすみ」 「おやすみ」 勇利はそれきり静かになった。ヴィクトルはまぶたをひらいて天井を眺めていた。しばらくすると、勇利はもう寝ただろうか、と気になった。寝息は聞こえない。緊張して眠れないということはないと思うけれど。 「…………」 ヴィクトルはそれからさらに天井を眺め続けた。きわどいこのとき。ぜんぜん変な雰囲気じゃない。意識してもいない……。勇利はそう言って笑った。 ヴィクトルはとうとう我慢しきれなくなって、勢いよく起き上がった。 「どうしたの?」 勇利が驚いてヴィクトルに顔を向け、大きな瞳で見上げた。ヴィクトルは彼のそばに両腕をつかえ、覆いかぶさった。 「無理なんだ」 「え?」 「無理だ」 「な、何が?」 「これで何もしないでいるなんて無理だ。抱いていい?」 「へ? え? うん? ちょっと」 「無理だ。無理だよ。勇利も、俺の部屋へ来るときめたところで覚悟を済ませていて欲しい」 「なに言ってんの!? あっ、何して」 ヴィクトルは勇利のシャツをたくし上げた。勇利が慌ててもぞもぞしながらその手を押さえた。 「変な雰囲気になってなかったじゃん!」 「葛藤はしてた」 「気まずくもなってなかったし!」 「べつにセックス前に気まずくならなければいけないという規則はない」 「そうなの!?」 ヴィクトルは勇利のハーフパンツに手をかけた。すると勇利が「わー!」と声を上げた。 「脱がせないの!」 「脱がせないとできないだろ。着たままが好きなの?」 「いや、好きとか知らないけど!」 「あとでためそう」 「脱いでまた着てやってみるわけ!?」 「さきに着たままする?」 「いやちょっと、なんかこの会話おかしくない?」 ヴィクトルはハーフパンツを引き下ろした。勇利がまた「わああ!」と叫んだ。ヴィクトルは暗い中でも視界に不自由しなかった。彼は目をみひらいた。 「……はいてない」 「……うそでしょ……」 ぴったりと脚をそろえた勇利は、両手でおもてを覆い隠した。 「いや、うそじゃない。はいてないぞ。わかるだろう?」 「はいてないのがうそだと言ってるんじゃないんだよ。ヴィクトルに知られるなんて信じられないと言ってるの」 「なぜはいてない? 俺に何か共感して……」 「そんなわけないだろ!」 「ちなみに俺は今夜ははいてるよ。下着一枚だけどね」 「洗濯物、まとめてベッドの上に置いてたんだよ。そうしたら一緒に水浸しになっちゃって……」 「言ってくれればよかったのに」 「言えるわけないじゃん。ヴィクトル、パンツがない、パンツ貸して、なんて」 「いいと思うけどね。あとで貸してあげる。でもいまは必要ないな……」 「あ、あ、待って」 「大丈夫だよ。優しくするから」 「そういう問題じゃなくて……」 「覚悟は済ませたよね」 「こんなことになるなんて思ってなかったんだよ!」 「こんなことになってから、話してるあいだにしただろう」 「できてるわけない!」 「してくれ。俺のために」 ヴィクトルはくちびるを重ねた。勇利が吐息を漏らした。 「も、もーっ……」 勇利は頬を紅潮させながら目を閉じ、くちびるをひらくと、ヴィクトルのほっぺたにてのひらを添え、そのまま、後頭部にすべらせた。 「ん……」 勇利は目ざめた。彼はしばらく天井を眺め、それから自分を抱いている力強い腕に目をやり、最後にその腕の持ち主に顔を向けた。ヴィクトルはいつもどおり端麗な顔立ちをしており、窓のほうから漏れ入ってくるひかりに浮かぶ彼は最高にかっこうよかった。勇利は彼に抱きしめられている意味を考えた。そして両手をおもてに押し当てて吐息をこぼした。 夢じゃなかった……。 勇利はわずかにふとんを持ち上げ、そろそろと自分の身体を見た。下着……はいてる……。ヴィクトルが着せてくれたのだろう、ごく普通のボクサーパンツと、それからうすいシャツを勇利は身につけていた。彼は考えた。これからどうすべきか? さっさと帰るべきか? それともヴィクトルを起こすべきか? ……帰ろう。 なんとなく、ヴィクトルと顔を合わせづらかった。まったく、寝る前は妙な雰囲気にも気まずくもならなかったのに、朝にはなってしまうとはどういう了見だろう。 「……勇利?」 勇利が部屋のすみで音もなく服を着ていたら、静かに声をかけられた。ぎくっとして振り返ると、ヴィクトルがうすく目を開けて額に手を当て、勇利を眺めていた。 「帰るのかい?」 「あ、う、うん……昨日はどうもありがとう……」 口にしてから、まるで抱いてくれてありがとうって言ったみたいじゃないか! と勇利は慌てた。そうじゃなくて、泊めてくれたことにぼくは感謝しているんであって……。 「待ってくれ」 勇利がぶつぶつと言い訳しているあいだにヴィクトルは起き出し、手早く身支度を整えた。 「食事をしていったほうがいい。すぐに用意するよ」 「え、あ、いいよぼく、もう……」 「顔を洗うなら洗面台を使って。タオルも好きに出してくれ」 「あ……」 勇利は寝室に取り残された。彼はぼんやりとベッドをみつめ、そのみだれたさまを見てかーっと赤くなった。 「な、なんなんだ。なんなんだ。なんなんだ」 扉の音がしたので、どきっとしてそちらに視線を向けたら、マッカチンが顔をのぞかせて勇利をみつめていた。 「あっ、マッカチン」 そういえば、マッカチンはどこで寝たのだろう。眠るときはそばにいたはずだけれど、いま外から入ってきたということは、ヴィクトルと勇利がいろいろし始めたあとに出ていったということなのだろう。あのときは完全に混乱してしまっていたのでまったく記憶にないけれど。 「ごめんマッカチン! ほんとごめん! だってヴィクトルが突然あんなこと……いや、止めなかったぼくもぼくだけど……」 マッカチンを抱きしめ、どうしよう、困ったなあ、と相談していると、ヴィクトルが「勇利、できたよ」と呼んだ。勇利は慌てて洗顔を済ませ、台所へと足を運んだ。気まずいけれど、びくびくしているほうがやりづらい。堂々としていよう。何も悪いことをしたわけではないのだ。 「簡単なものしかできなかったけど」 「いいよ。ありがとう。美味しそう」 勇利は食卓につき、あたたかい低脂肪ミルクを飲みながら、チーズを挟んだ黒パンを食べた。美味しい、と思った。単純にパンにチーズが入っているだけなのだけれど、かなり美味しく思えた。 「水漏れはどうなってるかな」 ヴィクトルが言った。 「あー、そうだ、そのことがあったんだ……」 勇利は頭痛を感じて溜息をつい��。 「大家さんに相談に行かなきゃ……。部屋替えてもらえるかなあ」 「空いてるのかい?」 「同じ階の端が空いてる。そっちのほうがよかったんだよね。でもちょっと家賃が上がるから断念したんだ。家賃を変えずにそっちに移りたいって言ったら了承してくれるかなあ」 「交渉次第だけど、まあ大丈夫だろう。大家の人柄にもよるけどね」 「難しいなあ」 「何か手伝えることがあったら言ってくれ」 「うーん……、いい。がんばってみる。ヴィクトル、このチーズとパン美味しい。どこで買ったの? ヴィクトルが使う店だから、上流階級の人しか行かない店?」 「そんなんじゃない」 ヴィクトルが笑いだした。 「ほら、前に一緒に歩いただろう、勇利が迷子になりそうになった通り……」 「どこのことかはわかったけど、その説明は余計だよ」 「あそこからふたつ筋を奥へ入って……」 勇利は、ごく普通にヴィクトルと話せていることに気がついてほっとした。なんだ、えっちしたっていってもそんなに慌てることじゃないんだな、と安心した。ヴィクトルもなんとも思ってないようだし……。 勇利は食事を済ませると、バックパックを背負って靴を履いた。 「どうもありがとう。泊めてもらったうえ、朝ごはんまでいただいちゃって」 「いや、たいしたこともできなくてごめんね。気をつけて帰るんだよ。送ろうか?」 「ううん、大丈夫。じゃあまた」 「また、リンクで」 勇利はヴィクトルとマッカチンに手を振り、足音もかろやかに通りを駆けていった。珍しく晴れた日で、雲はかかっているものの、薄雲であり、ひかりが差してきてうつくしかった。勇利は機嫌よく自分の部屋へ帰り、それから、その惨状を見て溜息をついた。部屋じゅう水たまりだらけとまではいかないけれど、ベッドはひどい有様だ。天井にもしみがひろがっている。いまはしずくは落ちてきていなかった。 「ああもう、どうしようかな……」 今日じゅうに解決しなければ、またどこか寝場所を探さなければならない。ヴィクトルならもうひと晩と頼んでもこころよく応じてくれそうだけれど、あまり迷惑はかけたくない。 「うーん……」 とりあえず着替えようと、勇利は着ていたジャージを脱いで新しい衣服を取り出した。そのとき、身につけている下着が目に入った。自分のものではない。ヴィクトルの下着だ。これを返さなければならない。──いや、借りた下着を返すというのはどうなのだろう? そんなことをされてもヴィクトルは困るのではないか? だからといってこのままもらってしまうわけにもいかないし、代金を支払えばよいのだろうか。それもおかしいのか。 「……ていうか……」 下着──下着の前に……、……それよりも考えなければいけないことが……。 ──ヴィクトルとえっちしちゃった! いまごろになって、その実感が湧いてきた。起きてすぐのときにもはっとしたのだけれど、あまりの衝撃と、ヴィクトルが目の前にいるという気恥ずかしさのため、どうやら逃避してしまっていたようだ。ひとりになって、ようやく感情が正常に働き始めたらしい。 ど、どうしよう……。勇利は、水浸しのベッドを前にしたときよりも悩んだ。もし──もしヴィクトルに今夜も泊めてくれと言ったとして、彼が了承してくれたなら、また同じことが起こるのだろうか? それとも、あれはただのヴィクトルの気まぐれだったのだろうか? あるいは、勇利が隣にいることで何かその気になってしまったの��もしれない。──いや、勇利を相手にそんな気になんてなるだろうか。自分はそういう魅力にあふれているわけではないので、ないとは思うけれど、ヴィクトルは変わっているのでどうかわからない。とにかく、責任を取ってと詰め寄るよう��まねだけはしたくない。そもそも、責任というなら、勇利のほうにだってあるのだ。拒まなかったのは自分の意思だ。 ヴィクトルは食事のときはごく普通の調子だったし、もしかしたら特別なことだとは思っていないのかもしれない。普段によくしている愛情表現とか、ふれあいによる感情の交流だとか、そういうものの延長だとしたら、大騒ぎするのは変だ。だが、それなら、今後も当たり前にゆうべのようなことが起こるのではないか? だとしたらどうしたらよいのだろう。いや、どうしたらといっても──べつにヴィクトルと寝ること自体は困らないのだけれど──。 ヴィクトル、優しかったな……。勇利は窓辺の華奢な椅子に座り、頬杖をついておもてをぼんやりと眺めた。なんていうか、しあわせだったし……あたたかかったし……は、入ってきたときもそんな……ちょっと違和感はあったけど、すぐに消えたし、よ、よかったし……。それにヴィクトル、いくとき、ちゅーしてくれたな……。 勇利は、つけなければいけない部屋の始末もほうり出して、いつまでもゆうべのヴィクトルとの時間に思いをめぐらせていた。 どうしよう……勇利を抱いてしまった……つい……いや、ついといっても勢いではないんだが……。 ヴィクトルはソファにあおのき、夢のような気分を味わっていた。勇利はどう思っただろう、いまごろ何を考えているだろう、ということが彼の目下の悩みだった。勝手なやつだとあきれてるかな……いやらしいやつだとか……でも我慢できなかったんだ……好きな子が隣で寝ていたら……。ヴィクトルは深い溜息をついた。俺はなんて意思の弱い最低な男なんだ、と自分がいやになった。 今朝だって、動揺と、ゆうべの勇利のかわいさがあまりに激烈で、かえって平然とふるまってしまった。すこしでも何か言ったら、気持ちがあふれて狂ったようになってしまうので、完璧な冷静さを演じるしかなかった。それに、勇利が落ち着き払っているものだから、浮かれ返って「愛してるよ!」なんて言ったらばかだと思われそうだった。勇利と結ばれて喜んでいるのはヴィクトルだけで、勇利のほうはなんとも思っておらず、愛情過多な態度を示したりしたら、「一回寝たくらいで恋人気取り」などとうんざりされるのかもしれない。勇利はまじめなのでそんなはずはないと思うのだけれど、彼は変わっているのでどうかわからない。そもそも勇利は、性的なことに興味がないのだ。とくに何も考えておらず、「ヴィクトルだからいい」くらいの気持ちなのかもしれない。勇利はヴィクトル・ニキフォロフが大好きなのである。 どうしよう……俺だけがこんなにセックスにこだわってるんだとしたら……好きだよとささやいて同じことをしようとしたら、なに調子に乗ってるんだとか思われるのか……? それとも、二度目も「ヴィクトルならいいか」みたいにかるく受け容れられるのか? うれしいけれどそれはいやだ……俺はもっと勇利に……もっと……。 「あー……」 ヴィクトルは目元をてのひらで覆い、なげくように息を漏らした。勇利、かわいかったな……とまた思い出してしまった。まずい。変な気持ちになってしまいそうだ。しかし本当にかわいかったのだ。声も、表情も、涙も、ヴィクトルにしがみついて��る腕も──何もかも。 「たいてい変な雰囲気になる」「気まずくなる」なんて言ったのも、彼の無邪気なんだろうな、とヴィクトルはさらに溜息をついた。すでに「変な雰囲気」や「気まずさ」を感じさせないように必死になっていたヴィクトルは、あのときどきっとしたものだ。勇利は何もわかっていない。その無垢なところが悪魔的だし、たまらなく魅力的だと思う。勇利が好きだ。愛している。 「…………」 ヴィクトルはむくっと起き上がった。勇利がどう思っていようとも、我慢できなくなって手を出してしまったのはヴィクトルだ。謝らなければならない。第一はそれだ。それ以外にない。いまは朝よりも落ち着いたし、明日にはもっと落ち着いているはずだ。なんとか話せるだろう。 とりあえず今日は平静を取り戻すため、こころが穏やかになることをしよう……。そう思い立ったヴィクトルは、荷物を支度し、マッカチンを撫でてからリンクへ向かった。 「なんだヴィーチャ、今日は休みだろうが」 リンクサイドから生徒たちに目をひからせていたヤコフがヴィクトルに気がついて顔を向けた。 「かるく流すだけだよ。ちょっとすべりたくなって」 「急に勤勉になったな」 「俺はいつだってまじめさ」 「おまえのまじめにはむらがある。あまり本気でやるなよ」 「わかってる、本当にすべるだけ」 ヴィクトルは氷の上に出て、しばらく好きに過ごしていた。リンクにいると自然なこころになってゆく。気持ちがよい。やはり自分は氷の上の生き物なのだ。 勇利もそうだな……。 そう思ったところで、「なんだ、カツキ」というヤコフの声が聞こえ、ヴィクトルはどきっとした。 「あ、こんにちは……ちょっとすべりたくなって……」 「妙な偶然だな。おまえもか」 「おまえもって?」 勇利がこちらを見た。ヴィクトルも彼を見ていたので、しっかりと目が合った。 「あ……」 勇利が赤くなった。彼はしばらくためらったあと、つかつかと歩み出てリンクに入った。ヴィクトルはどきどきしながら彼に近づいた。 「やあ」 「やあ」 「すべりたくなったの?」 「うん……コンパルソリーしたいなと思って……」 「勇利のコンパルソリーは綺麗だからな。俺より上手い」 「そんなことないよ。でも混んでるからちょっと無理だね」 「そうだね、難しそうだ。俺は見たいけど。向こうのリンクも空いてないのかな」 「どうかな、見てないや」 「…………」 「…………」 ふたりは一緒にすべり続けた。本当にゆっくりとめぐっているだけなので、リンクメイトたちが追い抜きながら、このふたりは何をしに来たんだというような視線をよこした。ヴィクトルはちらと横目で勇利を見た。勇利はそれに気がついて、頬を赤くし「えへ」と笑った。……かわいい……。ヴィクトルは興奮して叫びそうになった。この子とセックスしたのか。信じられない。でも確かにしたし、最高だった。思い出すだけで鼻血が出そうだ。 「どうしたの?」 急に方向を変えたヴィクトルに、勇利がふしぎそうに尋ねた。 「もう上がろうかと思って」 「そっか。ぼくどうしようかな……」 勇利は迷うようにリンク全体を見渡し、それから首を傾け、ヴィクトルを斜めに見た。 「……一緒に上がろうかな?」 「そ、そうしなよ」 ヴィクトルは勇利の手を取った。勇利はほほえんだ。かわいい。もうたまらなくかわいい。 「食堂で何か飲もうか」 「うん」 勇利は頬を上気させ、うれしそうについてくる。なんだこれ、とヴィクトルは思った。かわいい……。 「どうかした? 頭痛い?」 ヴィクトルが目元から額を押さえてばかりいるので、勇利が気遣った。 「いや、そうじゃないんだ。気にしないでくれ」 「そう?」 誰もいない食堂に入り、手近なテーブルの椅子���引くと、勇利が「ちょっと待ってて」と言い、自動販売機で何か購入した。戻ってきた彼が「はい、おごり」と差し出したのは、バナナのパックジュースだった。かわいい……勇利が何をしてもかわいく思えてしまう……バナナのジュースで興奮する俺は頭がおかしいのか……? ヴィクトルはまた額を押さえてしまった。見ると勇利は野菜のジュースだったので、またかわいいと思ってしまった。 「払うよ」 向かい合って座ると、ヴィクトルはすぐに申し出た。 「いいよ。ゆうべ泊めてくれたお礼」 「ああ、なるほど」 「ヴィクトル、そこは『安いだろ』って言うところだよ」 勇利がからかうように言ったので、ヴィクトルはこのほどは、「かわいい……」と声に出してしまった。 「え?」 「いや……ありがとう」 ヴィクトルはバナナジュースにストローをさして飲んだ。美味いな……もう一生バナナジュースしか飲まないことにしよう……。 「……勇利」 ヴィクトルがジュースをテーブルに置き、意を決して顔を上げると、勇利は野菜ジュースのストローをくわえたまま目を上げた。ヴィクトルはくらっとした。ヴィクトルが必死で自分を立て直そうとしているあいだに、彼は飲むのをやめて静かに答えた。 「なに?」 「その……」 ヴィクトルは勇利を見た。勇利もまた、まっすぐにヴィクトルをみつめていた。彼の黒蜜をふくんだような澄んだ瞳は、ヴィクトルの胸をめちゃくちゃにかきみだした。ヴィクトルは話をしようと思っていた。あの夜のことを謝り、勇利の思いを聞き取り、なじられるならなじられてもよいと覚悟をしていた。どんなふうに切り出そうかと言葉もきめた。しかし、口をひらいた途端、飛び出してきたのはこんな告白だった。 「勇利、好きだ」 勇利がゆっくりと瞬いた。ヴィクトルは身を乗り出し、勇利の手を取って熱心に、せっぱつまって言った。 「好きだ。大好きだ。おまえが好きだ」 「…………」 「すまない。ごめん。あの夜、あんなふうに始めるべきじゃなかった。でも我慢できなかったんだ。好きな子が──勇利が隣にいたらそうなってしまうんだ。もちろん俺の意思がよわいからだ。俺が欲望を制御できなかっただけなんだ。俺の責任だ。俺はどうしようもないやつだ。勇利が怒るのは当たり前だ。でもこれだけは信じてくれ。勇利のことを愛してるんだ」 勇利は黙っていた。彼はヴィクトルを責めもなじりもせず、ただ静かに黒い目でみつめていた。ヴィクトルは苦しくて叫びそうだった。勇利、おねがいだ、何か言ってくれ! 勇利はなおも話さなかった。彼はテーブル越しにゆっくりと身を寄せてき、ヴィクトルの顔をのぞきこんだ。勇利が情熱を秘めたまなざしをヴィクトルにそそぎ、それからまぶたを閉ざしたので、ヴィクトルは思わずキスしてしまった。しまった。また勝手なこと……。慌てるヴィクトルの前で勇利は目をひらき、ちいさく笑ってささやいた。 「……ぼくも」 「え?」 「なんだ。そうだったんだ。ヴィクトルって変わったひとだからよくわからなかった」 ヴィクトルこそよくわからなかった。変わったひとなのは勇利のほうだ。ヴィクトルは完全に混乱していた。勇利が何を考えているのかわからない。ぼくもと言われたけれど──、それは「ぼくも愛してる」と解釈してよいのだろうか? 勇利との話しあいは大変なのだ。彼にはなかなか真意が伝わらない。彼の気持ちもとらえがたい。 「ヴィクトル、あのさ」 勇利が笑いながら口をひらいた。ヴィクトルはひとことも聞き漏らすまいと耳を澄ませた。 「ぼく、考えることがいっぱいあったし、めんどうで、部屋の始末をいっさいつけてないんだよね」 ヴィクトルは慎重に、真剣な顔でうなずいた。勇利はますます笑った。 「だから���今夜、寝るところがなくて……」 彼は上目遣いでヴィクトルを見た。 「つまり……泊めてもらいたいってことなんだけど……」 ヴィクトルの頬がさっと紅潮した。あまりにうれしくて、どうしたらいいのかわからなかった。勇利が来る。今夜も来る。ヴィクトルは言葉もなかった。 「ねえ、何か言ってよ……」 勇利が困ったように小声で頼んだ。ヴィクトルは力をこめて言った。 「下着を用意するよ」 「あの、もうちょっと普通の返事ない?」 ヴィクトルは目ざめるなり勇利を抱きしめて顔じゅうにキスし、熱烈に、たまらないというようにささやいた。 「最高だった。最初のときも最高だったけど、二度目も最高だった。最高すぎて何がなんだかわからない。とにかく最高だった。つまり勇利は最高ということで、俺は有頂天ってわけなんだ。最高だった」 勇利はくすくすと笑い続けた。なんなのだ、その感想は。返事に困る。 「勇利、笑ってるね。俺をばかだと思ってるんだろう? そうなんだよ。完全なるばかなんだ。でも俺をばかにしたのは勇利だからね。こんなのぼくのかっこいいヴィクトルじゃないなんて言わないでくれよ。わかったかい、俺のかわいい勇利」 「ヴィクトル」 勇利は首を持ち上げ、ヴィクトルのほうへ顔を寄せながら、彼の頬にてのひらを添えた。そしてすてきな額にちゅっとくちづけた。ヴィクトルがぽかんとした。 「もうちょっと寝る。いい?」 「…………」 ヴィクトルはこくこくとうなずいた。勇利はにっこりした。なにしろゆうべは、ヴィクトルにすみずみまでたっぷり情熱的に愛されたのだ。こころよい疲労に浸りながら、大好きなヴィクトルの腕の中でなまけて眠るのは最高だ。 「おやすみ勇利。用事は俺が全部済ませておくからね……」 勇利が目ざめたのはそれから二時間後で、今日は下着をつけていなかった。ヴィクトルのぬくもりがかたわらにあり、彼は勇利と目が合うなりうれしそうに口元をほころばせた。 「下着を持ってくるよ」 「下着の話はいいの」 「俺が着せた下着を俺がまた自分の手で脱がせるっていうのは最高に興奮する経験だった……」 こころからうっとりしたように言うので、勇利はあきれるよりさきに笑ってしまった。 「ほんとにばかで仕方のないひとだね……」 勇利は、今日こそ部屋の始末をつけなければならないと思い、しかしすぐに帰るのはいやだなとぼんやりした。するとヴィクトルが「部屋のことは片づけておいたからね」と��ったのでびっくりした。 「片づけたって?」 「俺が大家に電話して全部済ませたよ」 「え、本当? 端の部屋に替えてくれるって?」 「え?」 ヴィクトルがふしぎそうに勇利を見た。勇利はきょとんとした。 「そんな要求はしなかったよ」 「なんで?」 ぼくそうしたいって話したのに……。するとヴィクトルが笑って言った。 「ここへ住めば問題ないだろ。上の階から水が漏れてくる心配はないから安心するといい」 「…………」 勇利はあぜんとした。ここに住むだって? ヴィクトルの家に? そんな提案も約束も、一度もなかったのに……。勝手に何をしてくれてるんだ、と勇利は腹を立て、同時に可笑しくなってしまった。本当にヴィクトルはどうしようもない。 「なんてことしてくれたんだよ」 勇利は笑いをこらえ、しかつめらしい顔つきでヴィクトルをにらみつけた。ヴィクトルが困ったような表情になった。 「お気に召さない処置だったかい?」 「一緒に住むだなんて……」 「いや?」 「毎日寝る時間になるたびに緊張して、意識して、変な雰囲気になってどきどきするじゃん!」 勇利はヴィクトルの首に腕を��わして抱きつき、くちびるを押しつけた。ヴィクトルはぼうぜんとし、それから熱烈なキスを返して、勇利をあおのかせ、ぐっとのしかかった。 「あ、あははっ、ちょっとちょっと、ヴィクトル、ねえ……」 「最初も二度目も最高だった。三度目も最高にきまってる」 「するの? ぼく荷物引き上げてこなきゃ……」 「あとで俺が全部やるよ……」 勇利はまぶたを閉ざし、もーっ、ヴィクトルは自由で勝手なひと……と喉をそっとのけぞらせた。 「三度目のあとは、ぼく、指一本も動かせないかも……」 「俺がお風呂に連れていって入れてあげる。勇利のシャンプーやボディソープの使用法が合ってたか答え合わせをしよう」 「それ本気だったんだ!」 「もちろんだよ」
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40TH ANIV 車検整備 リヤ編2
リヤ廻りの続きです。
これから組み付けるリヤサブフレームは予めネジ山クリーニング。
ボディ側も同様に。タップは切り屑を外に排出するスパイラルタップを使ってます。
防錆塗装したサブフレームには更にサビ防止の為、パネルの合わせ部を中心に・・・
特にサビやすい箇所を狙って・・・
キャビティワックスを塗布しておきます。
準備が整ったので各パーツ組み付け開始。リヤサブフレームを留めているマウントブッシュ交換して・・・
取付け。
O/Hしたラジアスアーム
両端のグリスシールは現状で一番耐久性の見込めるパーツを選んで使います。
ラジアスアーム左右取付けて・・・
車両へ組み戻し。
最後に変えたのは何時なのか・・・。懐かしい純正フューエルフィルターは
交換しました。
新車装着時からそのままであろうブレーキホースは、アフター品ですがカシメがちゃんとしている良品を使って交換します。
これも新車装着時からのラバーコーン・ストラット・ショックアブソーバーはこれを機に全て交換します。ラバーコーンは材質・取付け各部の寸法がキチンと考えられている安定のMOULTON-AVON-DO SPECです。交換時のミニらしい乗り心地が長く続く逸品です。
組み合わせるハイローキットは、ラバーコーンとの接合部分の切削角度に優れたロードアジャスターGRを。今回O/Hしたラジアスアームとハイローの接続部となるナックルジョイントはこれも拘りのGSV1118HGを。新品ラバーコーンの減衰をしっかりと抑え込むようにショックアブソーバーはVALTAIN/KYBのスタンダードタイプを選択しました。
とにかく乗り心地に関するサスペンション関係はトータルバランスが重要です。外装はどうでもいいからw 強度のしっかりあるボディとサブフレーム、それをマウントするブッシュ類、そういうしっかりした基礎があって、こういった機能的な耐久性のあるパーツをキチンと組み込む事により、ミニは本来のミニらしいしなやかでキビキビとした走りが生まれるのではないかと常々思っております。
まぁ組み手の愛情も多少なりとも影響しますんでそこはしっかりと。
やらせて頂きましたm(_ _)m
ガタの出ていた右リヤのハブベアリングは交換の予定でしたが、外す時に締め付けトルク不足が確認出来まして・・・。これもたまに出会うあるあるネタなのですが、ミニショップさん以外で整備するとハブベアリングがテーパーローラーなのでガタが消える程度の緩い締め付けでロックしてしまうんですよね。今回もそのパターンでした。
一度分解して清掃・点検。ベアリングレースや・・・
ベアリング本体に異常は無いので
グリス詰め直してオイルシールのみ交換しました。リヤハブベアリングは高いんで助かりました。
リヤブレーキ関係を組んでいきます。バックプレートはそのままですが、サイドブレーキレバーゲイターとブラインドプラグというゴム類は交換します。
ホイールシリンダーはO/Hして国産カップにて入れ替え
ブレーキ組んでリヤハブを規定トルクで締め付け。ガタ消えました(^ ^)
サイドブレーキワイヤー外すのにイケるかな〜と思いながら遮熱板外したのですが・・・2本折れ
穴位置ズラして・・・
リベット留め。
マフラー組み付けて・・・
ラジアスアームO/Hを含めたリヤサブフレーム交換完了です。
グリスアップすると外側及び・・・
内側のグリスシールからグリスが排出されます。これが正常な状態です。グリスガンを何回ポンピングしても古いグリスが出てこない場合はアーム内部のグリスチューブが破損してます。その場合は本来届いて欲しい両端のベアリングやブッシュにグリスが行く前に破損部からアーム本体へグリスが逃げていきます。ご自身でグリスアップしている方の参考になればと思います。
車検整備は細かい部分がまだ少々残ってますので引き続き頑張ります。もう少々お待ちくださいm(_ _)m
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【tradimento】
運命の出会いから月日が流れ
6年後 魔理は25歳 大手企業の整備会社に勤めていた。一級整備士と車検検査員の資格をこの年で取り、【あの車】をいつでも迎えられるように
相変わらず白髪のショートヘアーだ まあ仕事上致し方ない
ただ彼女の見る周りの目は良くはない
エンジン、ミッションはもちろん 一人で降ろせる、持てる。男顔負けのその働きは幹部からも信頼を買っていたのは間違いなかったが…上司は変な目で見てくる
「あんなチビが、不正でもしたのか?」
「知るかよ、化け物だアイツは」
ひそひそと聞こえる悪口 もちろん魔理は聞こえないフリ 口より手を動かせよと車検の車両をどんどん終わら��ていく
「検査いいですか?」
全部一人で出来ると検査場を借りようとした
「お前まだ飯食ってないだろ?検査は俺やっとくから、行ってこい」
「ありがとうございます」
一人の先輩が2階から降りてきてそのまま休憩へ催促してくれた
お言葉に甘えさせてもらおうと2階の事務所へ
いつも通りの職場。悪くはないけど良くもない 派閥だの考え方だの本当ならそんなものぶっ飛ばしたかったところだけど。社会の縮図でもあるから どうしようもないと諦めてはいた
そう 二週間後までは
「何故不正改造された車の車検を通した?」
その日は2階の事務所で幹部二人に問い詰められていた
「ですから私はその後休憩に」
「俺の質問に答えろ!」
はぁ、何を吹き込まれたのか やられた
あのクソ野郎だ間違いなく
検査員の名前も私になっていたし
勝手にやられてる しかも周りの先輩や、後輩に聞き込みをしても「わからない」か「確かにアイツがやっていた」かの二択
明白に私が悪いと言うことになる
「…どうすればいいですか?」
「客は不正改造で警察に止められ、うちの整備工場の名前を言っている。そこで誰がやったのか突き止めようとするだろう。お前のせいでな」
車検を通した後にどうやらマフラーとフィルム、そしてタイヤ すべてが引っ掛かり 大黒パーキングで検問され 減点を食らったとクレームが来たそうだ。バカな 私が見たときはちょっとカスタムされた軽自動車だったんだ。車検に通らない理由が見当たらなかった。
魔理はある予想をしたが…それは心にしまっておこう
もう何も出来ない 私には
「高梨 お前を懲戒解雇、資格はここに置いてってもらう」
「これは私の資金で取った資格ですよ!?それを奪うんですか!?」
「不正をやったお前に持つ権利などない!」
やばい ダメだ ここにいたら絶対に
「わかりました…」
ロッカーに向かい自分の荷物を入れていく
そこで声が聞こえてきた あのクソ野郎だ 私の後輩と何か喋ってる
「まさか高梨さんが不正なんて…」
「起きちまったことはしょうがない。火消しもやらないとな、ニュースになりそうで怖いな(笑)」
「先輩…あの車って…途中先輩がやってましたよね?」
「検査はやったぞ?」
「高梨さんが整備してたんですよね、何がダメだったんでしょう?」
「さあな」
おい、今言ったな 検査はやったと
我慢できるか
バキィ!!!
2階のロッカールームから轟音が
「な、何だ!?」
女性用ロッカールームから魔理が出てくる
クソ野郎は目を合わせない
「やってくれたなクソ野郎が」
「な、何がだ」
「言わなくてもわかってんだろ?」
ブチギレた魔理は男勝りな口調で先輩を睨む
体格では魔理は絶対に勝てないが…男は震えていた
魔理はそのまま問い詰めようとしたが そんなことするような奴を追いやってもしょうがないと思い
「私はもうここの会社の人間じゃないからな。それじゃお疲れ様でした」
「・・・」黙り混む男はそそくさと作業へ戻っていった
後輩と二人きりになると
「高梨さん…やっぱりこんなのって…もう一回話を」
「ダメなの…もう…」
「そんな…」
「あなただけだよ、ちゃんとついてきてくれたの」後輩の背中をポンポンと叩いて
「絶対にここで上に上がってね正人。私の為にも」
「…はい!」
正人と呼ぶ後輩 実は魔理の唯一信頼できる後輩だった。真っ直ぐで、絶対に自分の信念を曲げないいい子だ。彼ならきっと建て直せる。いつかそうなって欲しいと願った。
「じゃあね」
ロッカールームを後にする魔理
魔理が去ったあと正人がロッカールームを覗きたくて仕方がなかった あの音の正体は… そう思って顔だけロッカールームへ
そこには拳一個分の穴のあいたロッカーがあった
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📛 1465 「仮面ライダー」 #92, 93。
いつかの今週も 「仮面ライダー」 のお時間がやって参りました。今回は 「兇悪!にせ仮面ライダー (第92話)」 というお話です。「飛び降りろ!飛び降りるんだ!」 と先週のつづきから始めたムカデなタイガーと崖の上から 真っ逆さまに落ちてDesireした仮面ライダー第1号。"はたして仮面ライダーは無事なのであらうか!" と 中江真司さんが熱くナレーションを語る中 「貴様らゲルショッカー改造人間のテスト用なのだ!」 と、先週に引き続き キモい怪人が ゲルダムの元一味なのか さうでないのかは よく分かりませんけれど、怯えたふたりに何か言ってキモい液体を浴びせかけます。「おれの性能は完全だ!」 と 見た目は不完全なキモハチ怪人。とそこへ 黄色いマフラーを巻いた怪しげな仮面ライダーの姿が背後から現れ、突然に ライダーキックをキモ怪人に浴びせます。揉み合うふたりの怪人。なんてところに 「これまでだ!ふたりとも!実験を終了する!」 と、どこで見ていたのでせうか ブラック将軍がふたりに けんかをやめて〜 ふたりをとめて〜 します。争うのを止め、がっちりと握手をするふたりの怪人たち。「首領!ショッカーライダーはいつでも出撃できます!」 と その不自然な “ショッカーライダー” なる 仮面ライダーのポンコツ版 (マフラーの色が異なるのが特徴) を納谷悟朗さん似の首領に紹介するブラック将軍。「グループを破壊するのだ!」 と、世界的には マイナーなワルの団体 ショッカーを捻り潰さうと頑張っている マイナーな団体 “アンチショッカー同盟” をやっちまいなと命ずる首領。そんなところに ショッカー大型コンピューターが 「緊急事態発生!アンチショッカー同盟が首領の正体を見つけちゃいました!」 なんて感じの報告を入れて来ます。「ショッカーライダーを出動させます!」 と、アンチショッカー同盟の居場所に 何か心当たりがあるのでせうか、ブラック将軍。そんなころ、前回の終わりに乗り捨てられたままのサイクロンは おやっさんが無事に持ち帰り、少年仮面ライダー隊本部の下で修理をしています。暗い表情のおやっさん。「仮面ライダーは必ず帰って来る!」 と言いつつ 一週間帰って来ていない仮面ライダーの代わりに 次週から "仮面ライダー藤兵衛" を始める気かもしれない おやっさんは 修理を終えたのか、タケヤマ埠頭という場で サングラスをかけながら誰かを待っています。とそこへ 「立花藤兵衛さんですね?」 と全身黒い格好をした女性がいきなり現れてナイフを岩に投げつけます。苦しみ倒れるゲルダムの戦闘員。見張られていたグラサン姿な おやっさんは ゲルダムの手下では無ささうな その女性から自己紹介を受けます。「アンチショッカー同盟?」 とおやっさん。世界中に支部があるらしいアンチショッカー同盟は 脳をいじられる前まで改造手術を施されたり、パイセンを庇って 改造人間に改造させられたりといった そんな危険な真似はせず、密かにレジスタンスな活動をされているさうで、そんな中で アンチショッカー同盟が持つ アンチショッカーコンピューターが ゲルダムの銭形こと ゲルショッカー首領の正体を掴んだとのことで、その掴んだデータを 仮面ライダーに運んで貰いたいとおやっさんに頼みます。「仮面ライダーに?」 と おやっさん。とあるホテルの406号室で待つと黒い女性。とりあえず仮面ライダーが出払っています (行方不明) から、とりあえず 滝和也に仮面ライダーのお面でも被せて運ばせるかと、少年仮面ライダー隊本部に戻った おやっさんに 「おやっさん!そんなこと言ったって仮面ライダーは生死が不明なんですよ」 と こんなときに限って真面なことを言う滝和也。けれども 「よし、オレが行く!当たって砕けろだ!」 と当たって砕けさうな和也。なんてところへ いきなり怪しげなライダーが現れます。「詳しいことは後で聞く」 と怪しげな仮面ライダーに、ツメキザキの灯台の下で アンチと待ち合わせと口が滑る、怪しげなライダーを怪しいと思わない、やっぱりポンコツ隊長な滝和也。そんなポンコ和也は 瞬時に ツメキザキ灯台に到着し、アンチコンピューターのテープなる物を受け取ります。「この中にゲルショッカーの首領の正体が!」 と震える和也は、テープの入ったアタッシュケースを片手に、どこからともなく襲いかかって来た戦闘員と揉み合いながらお知らせに入ります。お知らせが明け “ホテルまさき” の入口で待つ女性の姿が。「遅いわ」 と その女性は ポン太郎和也のテープを今か今かと待ち侘びています。と、そこへ頼んでもいないのに 緑の煙とともに現るるは キモ怪人。「ゲルショッカーを敵に回す愚か者めが!」 とキモ怪人ハエトリバチ。とりあえず、ポン吉和也が現れさうにもないので 逃げ出す女性。それを追うキモ怪人。と、そこへ いきなり現るるは この番組の主役本郷猛!「本郷猛!そうか いきていたのか貴様!」 とキモ怪人。「ゲルショッカーがいる限り、俺はしなん!」 と猛。海をバックに 「ライダー 変身!とぅっ!」 と早速変身をキメる猛に ショッカーライダーがどうのこうのと教えてくれるキモトリバチ。「ショッカーライダー?そいつはどこにいるんだ!貴様との勝負は預ける!」 と言い、先程の女性を救出に行く第1号は そのアンチ女性からテープのありかを尋ねられます。「送られたデータ?」 と、話について行けていない第1号。「そうか、受け取りに行ったのは わたしにそっくりのショッカーライダー!」 と 少し話が飲み込めた第1号は テープを取り戻して見せる!と女性に誓います。と、そのころ、噂のショッカーライダーは 「これさえ処理すれば」 と、まんまと奪ったアンチコンピューターなテープを破壊しやうとします。慌てて止めに入った和也をチョップで倒し、逃げるおやっさんをぶん投げる にせライダー。アンチな機密を えいやっと海に向けて投げ捨てて 作戦成功!と思ったのも束の間、それを空中で ガシッとキャッチする タイミングと運動神経の良さが抜群な第1号は、にせ第1号と浜辺で互角な殴り合いをしたあと、浜辺や舗装されていない道路でサイクロン同士で走りを競ったり、飛び跳ねたりと 何の勝負をし合っているのかわからなかったりしますけれど、公道で速さを競い合います。改造車で危険運転ですから それなりに罪深いです。そんなこんなで 海沿いに舞い戻ったふたりはサイクロンを降りて またまた浜辺で殴り合います。ブーツの爪先から凶器を飛び出させたり、突然に細く尖った武器を持ち出したりと卑怯極まりない にせライダーに 苦戦する本物。と、さらに 「正義の味方仮面ライダーは我々が消す!」 とキモ怪人まで登場して、本物の仮面ライダーを苦しめます。「一対二だ!勝負はオレたちのものだ!」 と 少し強気なふたりのショッカー。緑のキモい液体をビュッと吹き出すキモ。ゴツゴツとした岩場に追い詰められる第1号。土壇場のライダーキックも、にせのライダーキックをぶつけられ、かなりヤバミな状況です。岩に荒波が ザザーンとぶつかる中、絶体絶命のピンチな第1号!時間の都合で 次回につづく。
つづいて
今週も 「仮面ライダー」 のお時間がやって参りました。今回は 「8人の仮面ライダー (第93話)」 というお話です。空中でショッカーライダーなるにせライダーとライダーキックをぶつけ合った仮面ライダー第1号は ハエトリバチの前に絶体絶命のピンチだったりします。「しね!仮面ライダー!」 とハエトリバチ。そんなキモ怪人は 誤って第1号とともに海に落ちてしまいます。「アハハハハハハ、仮面ライダーは ハエトリバチとともにこの��から消えてしまった アハハハハハハ」 と にせライダー。という訳で この世から消えてしまった主役と 活躍をほとんど見せないまま退場してしまったハエトリ。「もうこんなものに用はない」 と前回奪った アンチコンピューターテープを海に向けて えいやって投げ捨てやうとする にせライダー。と、そんなところへ 「ショッカーライダー!捨てるのはまだ早いぞ!」 と、おかしなエイの化け物が投げたそれを上手にキャッチします。「殺人音波のテープが入っている!」 と、偽物のテープと本物をすり替える小癪なエイ。そんなところに 駆けつけた おやっさんと和也。「一芝居打つぞ、いいな!」 と、何処からどう見てもエイには見えないエイ怪人と小芝居を始める にせライダー。「滝!これを頼む!」 と、アンチテープの入ったアタッシュケースをブンっと投げた にせライダーは エイ怪人と戯れます。エイを蹴散らし 「怪人は片付けました」 と、おやっさんに報告をする にせライダー。と、そこへ数人の戦闘員が現れ、にせライダーに襲い掛かります。「それをアンチショッカー同盟に届けるんだ!」 と おやっさんらに小芝居を見せながら戦闘員と戯れ合う にせライダー。すり替わった “それ” を何も知らずにお持ち帰りするおやっさんたち。「危なかったな ショッカーライダー、もう少しでバレるところだった!」 と ヒヤヒヤしたエイ。「オレが仮面ライダーとして悪の限りを尽くしてやる!」 と、悪の限りとはどんな物なのかちょっと気になることをいう、ワルなにせライダー。そんなころ 「早速我々のコンピューターにかけてみませう」 と、受け取ったアンチなコンピューターのおかしな形をしたテープを再生する (互換性のある再生機器をモチのロンでお持ちな) ゲルダムのアジトで “先週のカプセル” を解析するブラック将軍。するとゲルダムよりも上手な人物がどうのこうのするとのことで厄介事が増えます。 「アンチショッカー同盟の全滅作戦は中止させろ!まず本物のテープを奪え!」 と、それを聞いていたのか 作戦を変更させる銭形警部声似な首領。そんなころ、正義のほうのアジト、アンチ同盟のアジトでは すり替えられた テープを再生しやうとしています。そんなところに 「スイッチを入れると爆発するぞ!」 と そこにいた面々をキャーッ!と避難させた ワルなにせライダーは、しめしめとテープをセットして巨大なコンピューターを爆破させます。「ライダー!」 と外に避難したおやっさんら。「わたしは無事だ!」 と にせライダー。「本物のテープはどこなんだ!」 とおやっさん。とそこへ 「本物のテープはここだ!南米のアンチショッカー同盟が俺を選んだ!」 と、南米にもアンチなショッカー同盟があるということをさらりと教えてくれる さすらいのカメラマンこと 一文字隼人が ウエスタン村のガンマンのやうな出立ちで どこからともなく現れます。「ライダー、いつからそのマフラーを?」 と、その場にいた にせなライダーを怪しむ鋭い隼人。「少しばかり気付くのが遅かったぜ!」 と素性がバレた途端 口もわるくなる にせライダーは その場から逃げ出します。さうはさせるか!と 「とぅっ!」 と 2階から飛び降りて にせライダーと にせサイクロンを追う隼人は 「変身 とうっ!」 と変身をキメ、偽物を追います。よく出来た にせのサイクロンを追う、本物のサイクロン。「逃げても無駄だ!ショッカーライダー!」 と にせサイクロンに飛び移った、元々はショッカーライダーだったショッカー産ライダーが ショッカーライダーを スクリーンプロセス (合成画面) を駆使しながら追い詰めます。「いまごろ少年仮面ライダー隊本部には ショッカーライダー2号が乗り込んでいるんだ!」 と にせライダーにも2号がいるということを仮面ライダー2号に教える にせライダーと、そんなにせライダーのサイクロンに飛び乗った本物のライダーは 1台のバイクに無茶な乗り方をしていたからなのか何なのか、崖から うわっ!と落ちます。そんな崖の下に サイクロン並みの速さで追いつくおやっさんと滝和也は、無傷で済んだ 本物2号とともに 3人で 駆け足をしながらお知らせに向かいます。お知らせが明け 「さあ、君たちにわたしからのお年玉だ」 と、この物語の放送時期がお正月だったことを教えてくれる、白いマフラーを巻いた にせライダーは ポチ袋ではなく、包装紙に包まれた小さめな箱を少年ライダー隊にプレゼントします。「開けてみればわかる」 と にせ2号。「わぁ何だらう!」 と 少年ライダー隊員は パカっと箱を開けて見ます。すると突然に ブファーッと白い煙が吹き出し、現るは 「ゲルショッカーの怪人エイドクガーだ!」 と、エイドクガーという名前らしいエイドクガー。「ショッカーライダーからのお年玉だからだ!」 と ロクデモナイお年玉をプレゼントする ロクデモナイにせライダー2号。「オレ様の毒粉を浴びれば 三日三晩眠り続ける!」 と こどもたちに毒粉を浴びせるエイドク。三日三晩眠り続けてしまうかもしれない毒粉を浴びてしまった 義務教育真っ只中の少年仮面ライダー隊員に危険が及びます。そんなところにフラっと現れて連れ去りを阻止する正義の男 本郷猛 (やっとこ登場)。ゲルダムのコンピューターの解析では 「貴様がいきている確率が90%!」 と にせライダー。いきているんだと分かっていたのにも関わらず探しもしないヌケサクなゲルダムに向けて 「ライダー 変身!」 と変身をキメた第1号は まだ身体が温まっていないやうで 「ナオキ!ミツル!」 と叫ぶも 、彼ら少年ライダー隊員は ゲルダムによって、ゲルダムのライトバンに乗せられてしまいます。にせものライダーの攻撃を受け、高いところから落ちる第1号。着地に失敗して少し痛さうです。「いつもの元気がないな!」 と、いつもの第1号の調子を知っているエイドク。「ハエトリバチと落ちた時に怪我をしたな」 と にせライダー。それでも 「仮面ライダーは不死身だ!」 と強がりを見せる第1号に 「仮面ライダー!俺たちには敵うまい!」 と、単独では負けるかもしれないけれど ふたりして痛めつければ大丈夫とエイドクは 第1号を崖から突き落とします。危し仮面ライダー!。そんなころ、おやっさん家兼少年ライダー隊本部に 一本の電話が入ります。目立つ格好のブラック将軍からです。「人質は5人そっくり頂いた!」 と わざわざ知らせてくれるブラック将軍。「アンチのコンピューターテープと人質を交換だ!」 と 取引してみたいブラック将軍。「ショッカーに対する恨みが込められているテープを渡すわけにはいかない」 と 人質よりも恨みのほうに重きを置いている、ブラック将軍よりもブラックなアンチショッカー同盟。こんなことを続けていては 人質の命も危ないし 放送時間も押し迫ってしまうと 「人質はわたしたちの手で取り戻しませう」 と隼人。「何がアンチショッカー同盟だ!」 と少しキレ気味の おやっさん。「隼人、奴らのところへ乗り込もうぜ!」 と アクション和也。並べて停めていたバイクの先には、ぺちゃくちゃ喋っていないで さっさと行かうぜ!って感じの 本調子ではない本郷猛の姿がそこに有りっ!という訳で、3人のバイクメーンは ゲルダムの指定した場所にブイーンっと向かいます。「約束のテープは持って来たぞ!」 とアンチなテープを預かったのは隼人だけれども 代表してアタッシュケースをチラつかせる猛。「テープが本物かどうか確認してからだ」 と慎重派なブラック将軍。「ではテープの確認をする。滝隊長!前へ進め!」 と 滝和也隊長を指名するブラック将軍は 和也の頭上に飛来したヘリコプターに吊られたロープにアタッシュケースを括り付けろと指示します。ロープの先にアタッシュケースをつける和也。人質を解放せずに何処かへ飛び立たうとするヘリ。「騙したな!」 とロープにガッと飛びつく、無茶なアクションが大好物な滝和也。そんな様をぼんやり眺めていた ふたりの改造人間の前に立ちはだかる 6人のショッカーライダーたち。「ナンバーワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス」 と点呼を決め込みます。ふたりを取り囲む6人ライダー。そんなコピー版に 「本物の強さを見せてやらうぜ!」 と格好良すぎな台詞を飛ばす隼人。とりあえず ふたりして 「とぅっ」 と崖の上にジャンプ (未だ変身前) を決めて、見晴らしの良さげな高場から 「ライダー 変身っ!とぅっ!」 と仮面ライダーに変身をキメ込みます。高い場所は危ないので にせライダーのほうに移動するダブルライダー。そんな彼らを取り囲んだ 6人のにせライダーは、ぐるぐるぐるんと回りに回り、ダブルライダーをバターにでも変える気なのかどうなのか回り続けながら次週に続きます。ちなみに アクション和也は宙に浮いたままでヤバミです。
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2020年11月の夢
- 2020年11月30日 月曜日 7:13 夢 フィギュアスケート 暗い墓場でひとり写真を撮るのを怖がっていなかった自分が信じられない 何かの売り場でふざけて試したものが炭酸水を水鉄砲みたいに吹き出すための器具ではるか遠くの家電製品屋の液晶テレビに当たってるのが見えて血の気引いた 色々みたけど忘れた
- 2020年11月29日 日曜日 6:25 夢 北海道。開拓時代。 男二人、女一人。鵜飼の鵜みたいな鳥。 女は男一人を虐げて一人を頼り、いい関係を築こうとしている。 しかし最後の最後に男が自分だけ助かろうとするので女は男を撃ち殺す。
古い家。誰かの家らしい。長屋。 スナック勤務の女性が住んでいる。 スーツのおじさんを送り出している。 サマースーツ(?)にするために服の四隅をあげる。 古い形式の家、おばあちゃんちみたいな感じ。階段��2階に上がると2室あり、ストーブやエアコンが各室ついている。消して回る。 赤くなるストーブ。内部で餅を焼いており、半面かなり焦げている、自分のおばあちゃんのようなそうでないようなおばあちゃんがそれを取り出して食べようとしている
- 2020年11月28日 土曜日 7:40 夢 引っ越したらしい。妹と住んでいる。ディティール覚えてないけど良い部屋だ。帰りはお互い17時半らしく、一緒に料理を作って祝おうみたいなことを言っている。
きめつ。木の根元で嘔吐するように苦しんでいる主人公をお屋敷のところまで運ぶ男。体育館みたいに広い空間にオカッパの日本人形をたくさん並べて寝かせている描写。
だれかの結婚式。 高層階にある広めの部屋。いくつも。 DJブースなどがたくさんある。正方形の鏡がたくさん掛けられていて向こうを見なくても人の顔がわかる。クラブ好きそうな人がたくさんいる。一眼レフで写真を撮る。撮り方のクセのせいで自分の腕も映り込む。黄色い服を着た肩。 全体的にうすオレンジにかげっていてネオンカラーに光る感じ。 新婦に声をかける。女の子が通り過ぎる。なぜか会釈のみで通り過ぎる感じ。 いとこ、叔父、昔交流のあったoさんの娘たちがいたりする。 ハンバーガーを渡され、それは限定の辛いやつで、お礼を言う。
食料棚をあらためている。パンや柑橘などがカビている。カビないことに賭けて買い込んでいたらしいがカビている。ゴミ箱によけながら罪悪感に襲われている。丸々したバナナと豆乳でバナナジュースを作ろうとする。
- 2020年11月27日 金曜日 6:45 夢 なんか見た。
- 2020年11月26日 木曜日 7:27 夢 古くて四角い車に並行して走る 刑事ものドラマ、追跡の感じ 祖父の声。 ペーパーテスト やくざ��名前 適当に書いたら五問くらい正解する 知らない部屋。重厚な感じ。モニタ2台、茶色と青、鏡 泳ぎ イルカ型の浮き 教えてくれる人 プール内でぐるっと回転する お腹が空いて入ったファミマに学生がたくさんいる、タマゴサラダ?ポテトサラダ?にコロッケを二つ購入してサンドイッチにするといい、みたいなツイート
- 2020年11月25日 水曜日 7:12 夢 テロリストになっている 車数台で乗り付け、USB数本、データ抹消しなきゃ。今は時間がない。あまり準備しなかった旅行直前のようにとにかく焦りまくっている リックがいる。いつのまにかリクモになっている
- 2020年11月24日 火曜日 3:54 夢 ピータン食べる 母 あまりおいしくない
乗り換え 赤い線 何かの展示を見に行く 順番待ち。カフェ。前の人。時間ギリギリらしく閉店が何時か聞く うしろにいた人が先に行く 若い男性が説明してくれる マフラーのことを考える
伊東ドア 一階に手帳が落ちている 深緑の革の手帳、名前はないが後ろの方の日毎のメモ欄にうちのマンション名に三件訪問したメモ書きだけ薄い字で残っている、あと二棟ほかのマンション名も 筆圧弱いおじいさんみたいな文字 ここのセキュリティ管理私になっている 上の方の空いている部屋、室内にカットが変わる 「〇〇(私の苗字)ー!ギャーーッ!!」と怒りのままに叫んだ人、たぶん警察関係?、その怒りの発露が怖すぎて背中の全面がトリハダになり起きてしまった
夢2 病院で歯に何かしらの処置を施してもらう。 女性だけ口内の雑菌を殺すための液体を1リットルくらいすすがされる。 病院なのにめちゃくちゃゴキブリいて避けながら歩く感じ。 というのも入院患者の出て行った後掃除してないとこがあったから。
見たことない顔カプの本読ませてもらう。 読んでいいのかなと半分思いながら。 会う予定だった人に会える夢。
彫師のおじいさんに話を聞く。 途中から海物語の筐体と話してることになってしまった。
ユニクロの地下が閉店する予定らしくガラガラだった。 奥に緞帳のかかった舞台があり、もともとは公民館なのかとわかる。 上階に上がると中学生たちがいて何かの会が始まるようだ。座席への行き方を見失い何往復もする。 指導員らしきおじいさんが椅子の上で正座しろ、男子はこういう座り方をするな・など時代錯誤な檄を飛ばしている。
- 2020年11月23日 月曜日 7:23 夢 s先生 何かの病気が蔓延している閉鎖された施設 白っぽい 一度外に出てみたらもう今までいた部屋に入れてもらえなくなった 外国人のspみたいな人がしめだしてくる 小高いところに布団を置いて寝るがへりから落ちそうなことに気づく 別室に母 何かの委員として 焦り
夢2 とても混んでいる店 かつての同級生 間取りを考えようとしている コーラ味の泡立つラムネ 入店制限
- 2020年11月22日 日曜日 7:32 夢 これ弾にしていいね稼いでたんだ
- 2020年11月21日 土曜日 4:15 夢 夜も更けてきた。そろそろ大浴場行くか 妹と落ち合う予定 ちゅら海に入るためにゾンビのテストをクリアする 目を水につけて先に進む ゾンビは左右の脳をむしり取った後齧り付かないと倒せない。 二問目でまたゾンビかと思いきや筆記なので助かる。
ツリーハウス 殺虫剤をまぶしたカップケーキ的な毒餌 カラスが狂う
夢2 離れに祭り用の行灯がある 賃貸。もとの持ち主のところへ運ぶ 外に父がいる雰囲気 粉雪が降っている
- 2020年11月20日 金曜日 7:06 夢 ジョイマン なんらかの施設 海外 ヤードム売ってる 薬物乱用患者 木製のジェットコースター ジョジョ三部味のゼリー詰め合わせ
- 2020年11月19日 木曜日 8:24 夢 ジャンヌダルクって政治家?
- 2020年11月18日 水曜日 8:29 夢 左のポケットにスルメを入れている。 スルメがはみ出す。 給食食べなくてもいいか〜、と思ったけどやっぱり食べたくなって食堂へ行く。時間がギリギリになる。すごい急いで食べないと。 ミートソースのようなもの、ごはん、茹でたスパゲティ、リッツのチーズサンドクラッカー。 とにかくおなかいっぱいになる。起きてもお腹いっぱい
- 2020年11月16日 月曜日 7:20 夢 あさみちゃん 順番待ちで公家の人を飛ばして下請け 戦隊モノのカバン 性格の悪さをまだ三割しか曝け出していない人
- 2020年11月13日 金曜日 7:23 夢 カジノにいる バックで走る車
- 2020年11月12日 木曜日 7:15 夢 ハートチップル 下階に両親がいて上の階に妹がいる タルタルソースと塩 これどこで買ったの?
- 2020年11月11日 水曜日 8:27 夢 金玉バンジー みなみ
- 2020年11月10日 火曜日 7:16 夢 前歯黒くなる 惑星 金属の外殻
- 2020年11月9日 月曜日 6:58 夢 くうちゃんが家までくる 生肉を差し出してくる はっとりさん一家 赤いサワー 赤玉パンチ おじいちゃんがくる
- 2020年11月8日 日曜日 7:55 夢 カービィのラブホ テラゾーの手作り仏像 妹が病気のことを母と話す かこさとしの絵本の出版社から二千部出す
はぐれる おば、いとこ兄、妹に合流
エレベーターに乗り込む 狭い ブザーが鳴る
- 2020年11月6日 金曜日 6:57 夢 武田航平 父 もうすぐ出発する時間 袋に入った漬物 かぼちゃなど 部屋?で食べる 母と友人 映画を見ている感じ 最後まで見ると私の出発時刻には間に合わない 広いところ 雪のないゲレンデ リフトに乗る 大浴場 金庫と籐のカゴ よそのおばあさん
- 2020年11月5日 木曜日 7:09 夢 手相みたいなのを見るおばあさん 修学旅行的な 古民家の二階
- 2020年11月2日 月曜日 7:15 夢 赤ん坊がいて抱いてはいるのだが乳をやるという発想がなく抱いたまま3日くらい放置して死なせてしまう。 ほっぺがやわらかい。 半割にした魚の頭を茹でたものが売ってある。
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ある作家のインタビュー記事(april roof magazineより抜粋)
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# マティーニとギブソン
「ヴォネガットは自著でこう述べています。
“私が言いたかったのは、シェイクスピアは物語作りの下手さ加減に関しては、アラパホ族とたいして変わらないということだ。それでもわれわれが『ハムレット』を傑作と考えるのにはひとつの理由がある。それは、シェイクスピアが真実を語っているということだ”と。
この言葉は私を勇気づけました。“然るべきタイミングに、然るべき心持ちで書く”これが私にとって最も大切なことです。そうすれば、小説は自ずと進んでいく。ゼンマイを巻いたロボットが手を離れて進んでいくみたいにね。だから、誰が・どこで・何をするか、私にはひとつもコントロールすることはできません。コントロールされた悲劇より、私は現実の悲しい喜劇を愛している。小説を書く時、私は赴くままにペンを走らせる作家ではない、何重にも色を重ねる画家でもなければ、厳格なオーケストラの指揮者でもない、ただ人より少しだけメモを取ることが上手な傍観者になり下がるんです」
作家へのインタビューは、三軒茶屋にある彼の行きつけのバーで行われた。 橙色のライトがぼんやりと灯す、まるで洞穴の中みたいな店内。 作家は目を閉じ、次の言葉を探す。 無言の隙間から、バーテンダーがグラスをステアする音が聞こえてくる。
「そのために必要なのは、ストーリーでも表現でもない、たったひとつの感情です。それを捉えるために、私は胸の中に潜って、呆れるほど考え、然るべき時を待ち続けます。誰にも気付かれないように息を潜めて、静かに波の音を聞くんです」
— 例えば?
「例えば、この世界には朝と夜があります」
— というと?
「つまり、朝、カーテンを開け、誰もいない街を走る塵芥車を見送り、次第に大きくなっていく街の音や光を想いながら書くべき小説があります。そして夜、明滅するネオンサインの下、マティーニで喉を濡らし、消えていく暗闇を想いながら書くべき小説があるということです」
— 昼は?
「昼は、みんなご飯を食べているか、テレビを見ているか、銀行でお金をおろしているか、そんな、つまらない時間でしょう?」
— 今は?
今は午前二時です、とバーテンダーが静かに告げる。 ひと粒のオリーブがグラスに添えられる。 作家はその透明な淀みをほんの少し傾け、何かを確かめるように口に運ぶと、遠くを見つめ、そっと語り出した。
「昔、ミエという女性と過ごした時間がありました。彼女とのことの多くは時代に拐われていってしまいましたが、それでも断片的に彼女のことを思い出す瞬間があります。私たちは三度会い、一度だけ夜を共にしました。でも、ふたりで過ごした時間は二十四時間にも満たないでしょう。あまりにも短い、人生の一瞬の風のような時間です。だけど今、こうしてまた思い出すのは、その時間が確かにそこにあったからなのでしょう…」
☆
ミエは漢字では“美瑛”と書きます。
美瑛と出会ったのは出版業界の関係者が集まるとあるパーティーの場でした。その頃、私はまだ二十代で、ようやく自分の書いたものが文芸誌の片隅に載り始めた頃でした。
季節は冬でパーティーは品川のホテルで行われました。 煌々と灯るシャンデリア、華やかに彩られた会場でシャンパンを片手に語り合う文士たち。 周りには、ベストセラーを何作も出しているIさんや、政界でも活躍していたYさん、映画も手がけているAさんなど誰もが知っている顔ぶれが並んでいます。 そこは、私のような若造には到底縁のない場所でした。
「君はどんなものを書いているんだい?」 「僕はこんなものを…」 「そうか、ところで洋酒は好きかい?」 「いえ、あまり飲んだことがないんです」 「ここのマティーニは絶品だよ、私の本にも登場するんだ。君もぜひ飲んでみてくれ。じゃあ、ごきげんよう」
そんな調子でパーティーは進んでいきました。 彼らは慣れた手つきで高級な酒を呷ります。 それはまるで崩れる事を知らない巨大な城の主のように。 一方、見窄らしい格好でふらふらとしていた私には、どうにもその雰囲気が居心地悪く感じられました。
当時、無名の作家でお金��地位もない私でしたが、若さ故、野心と反骨心だけは旺盛に持っていました。そこにいる文士たちの本もひと通り読んではいましたが、彼らの書く浮世の世界の薄く張り巡らされた膜のようなセンチメンタリズムにはどうにも浸れませんでした。 彼らはたしかに素晴らしい美文を書きます。 でも、そこには人の温度がない。 彼らの書くものはすっと胸に入って来て、次へ、次へと頁を捲らせます。 でも、それは培養された感情で、胸に刺さる楔のような余韻を残すことはありませんでした。 私は日頃から、“私の方がずっと本当のことが書ける”と、胸の内でひどく対抗心を燃やしていたのです。
そんなわけで、せめて格好だけでも文壇の一員らしく振舞わないといかんと思い、慣れない高級な酒を煽ったのがよくありませんでした。気が付けば、私は随分と酔ってしまい、会場の隅っこに座り込んでいました。しまったと思いましたが、華やかなパーティーの片隅で萎れている惨めな男になど誰も気づきません。とにかく水を飲んで頭を冷やさなくては、と立ち上がろうとした私に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのが美瑛でした。
☆
それから、ひと月と経たないうちに美瑛と私は再び出会いました。
ある夜、赤提灯が揺れる新宿の酒場で偶然、彼女と居合わせたのです。 少し酒が入っていたものの、私はひと目で彼女に気づきました。 彼女はモデルのような煌びやかな容姿をしているわけではないのですが、どこか他人とは違う、一度見たら忘れない、人を惹きつける不思議な雰囲気を纏っていたのです。 それは、とても静かで、どこか神秘的で、勢いのままに触れたら壊れてしまいそうな繊細なものでした。
私は彼女のそばに行き、先日の礼を言いました。 彼女は少し驚いた後、私を思い出してくれて、にこっと笑いました。 とても素敵な笑顔でした。 酒が入って気が大きくなっていたのでしょう、私は「もしお一人でしたら、こちらで少し話しませんか?」と彼女を誘いました。 すると彼女はまたにこっと笑い、「ええ喜んで」と言って私の隣の席にやって来ました。 とても静かな香りがしました。 それは香水の匂いでも、整髪料の匂いでもない、冬の早朝に誰もいないホームに降りたった���のような、どこか懐かしい日常に潜む小さな異国の香り。
私はたくさんのことを話しました。 文章を書いてなんとか暮らしていること、先日のパーティーでは居心地の悪さについ酒を飲み過ぎてしまったこと、いつか書きあげたい感情がたくさんあること…
そして、彼女もたくさんのことを話してくれました。 自分は二十二歳で都内の大学に通う女学生だということ。 品川のホテルでは給仕係のアルバイトをしていること。 名だたる文士たちの中で酩酊している私を見て、急いで水を取りに走ったこと。 中野に住んでいて、仕事帰りによくここで、ひとりお酒を飲むこと。 大学では英文学を専攻していて、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』を研究していること。 語学が堪能で、日本語、英語の他にも中国語と韓国語が話せること。 四月から、日本人なら誰でも名前を聞いたことがある大きな会社で働きはじめること。 いつか独立して海外で活躍したいと思っていること。
未来という純白なキャンパスを前に、彼女の目は淀みなく、静かな野心で燃えていました。 ものを書くこと以外ろくに頭にない私はその姿を見て感心しました。 その頃は、まだ若い女性が多くの夢を語れる時代ではなかったのです。 それでも、彼女の明るく謙虚で直向きな姿を見ていると、“この夢が報われない世界などおかしい、あってはならないのだ”とさえ思いました。
本が好きで怜悧な彼女との話を尽きることなく、あっという間に夜は更けていきました。 そして、日付が変わる前にようやく私たちは新宿駅で別れました。 別れ際、改札前で何かを言おうとして逡巡する彼女に、私は「また会えるかな?」と尋ねました。 彼女は言葉を飲み込んだ後、笑顔で「あなたが良ければ」と言いました。 その笑顔はとても愛らしく、私の心を暖めました。
手を振り離れていく彼女。 改札の向こう、雑踏の中に消えていく襟足と赤いマフラー。 その光景は小さなボートを見送るようで、どこか遠い世界のことのようでした。 そして、すっかり彼女を見送ると、私は自分の胸の中に芽生えた小さな違和感を認めました。 小さな違和感。 それは決してネガティブなものではなく、かといって良いものでもなく、どちらかというと何かを正しく捉えそこねているような悪い予感でした。
うまく言葉にできないのですが、彼女からは他の若い女性(或いは男性も)が持つ、ある一つの世代に共通する匂いや手触りが一切感じられなかったのです。 それは偏に容姿が良いとか悪いとか、性格が活発であるとか控えめであるといったことではなく、なんといいますか、例えば、彼女が他の誰かと過ごしている姿が(それは、友人だったり、恋人だったり…)全く想像できなかったのです。 彼女が友人とランチをしている姿、母親と電話をしている姿、恋人と手を繋いで歩く姿、下着を脱ぎ、ベッドで抱き合う姿… そのどれもに手触りがなく、掴もうとすると、するりと指の間を抜けていくようでした。
ただ、正直なところ私もそれをうまく計れずにいたのです。 私も人生経験の未熟な若者でしたし、なにせ出会って間もない女性のことです。 多少の神秘性はあってもおかしくはない。 むしろそれが彼女の魅力なのかもしれなかった。
いずれにせよ、私にとってそれは初めての感覚でした。
☆
年が明け、春が終わる頃、示し合わせたかのようにいくつかの連載の話が舞い込んできました。 私は胸にいつまでも残る余韻のような感情をなんとか作品にできないかと、文章を書いては推敲し、自分の表現を模索していました。
当時、私の書くものへの評価は大きく二分されていました。 自由な文体に漂う叙情的な感情の流れを新しいものだと評価してくれる人たちと、非構成的で散漫な文章からは何も見出せないと厳しく批評する人たち。 簡単に説明するとそのような感じです。 そして、文壇で力を握っていたのは圧倒的に後者の人たちでした。 彼らは私の文章をどうにかして自分たちの作った既存の枠に押し込もうとします。 彼らの手にかかると、言葉はひとつひとつ分解され、検品され、気がつくと皮を剥かれた玉ねぎのようにすっからかんにされてしまいました。 それはある範囲では正しさであったのかもしれませんが、私のような若者にとっては吐き気がするくらい悍ましく、不自由なものでした。 そのため、この世界での私への評価はあまり良いものではありませんでした。
ただ、私は当時から一貫して決めていることがあります。 それは、文章に余韻を持たせるということです。 文体やストーリーは、その隠れ蓑でしかありません。自由に配色され、時に焦点をぼかしながら、然るべき場所へと進んでいきます。それは装飾であり、ひとつの個性であり、意思の有無に関わらず、花が咲き、やがて枯れていってしまうものです。 しかし、感情は違います。 感情は、物語の通奏低音としていつまでも流れ続けます。 それは個性というよりも血であり、生臭い匂いであり、拭うことのできないものなのです。 作家はそれを捕まえなくてはいけない。 そのために気がおかしくなるほど、ひとつのことをじっと考え待ち続けます。 その横顔と出会える日を夢見て、毎朝、毎晩、瞼の奥をただ眺め続けるのです。 花を咲かすのではなく、根や茎や葉や散った花弁にまで血が通うようにひたすら水を遣り続けます。 そうしてようやく書き始めたとき、物語に植え付けられた、どこまでも余韻を残す感情だけが、誰かの人生の頁になれるのです。
もちろん、若い私にはそんな強い思いを抱き続けることは難しく、お酒を飲んでは自分の無力さを嘆いていました。 電話が鳴ったのはそんな時です。
電話口から聞こえたのは女性が涙を堪える音でした。 東京の夜の深い闇の向こうから聞こえるその音は、途切れ途切れで、集中しないとほとんど静けさにかき消されてしいます。 向こうの夜もこちらの夜も、そこにあることを忘れてしまうくらい静かな夜で、私たち以外の何もかもが止まってしまったかのようでした。 私はじっと受話器の向こうの胸の音を聴きました。 巨大な静寂の中に潜む消え入りそうな小さな声、巨大な東京の騒音の中にかき消されたそれ。 目を閉じると鼓動の音が聞こえて来て、まるで深い異邦の海の底へと潜っているかのようでした。 何度も水を掻いて顔を出した水面、靄の向こうでぼんやりと光る灯台の明かり。 或いは私がその光だったのかもしれません。 そんな時間がどれくらい続いたのか、しばらくして、小さなため息の後に一言。 「今から会えますか?」 と、美瑛の声が夜を渡りました。
☆
ネオンと喧騒の渦巻く新宿。 美瑛は以前と同じ店の同じ席に座っていました。 声をかけると、先ほどの電話の声とは対照的な明るい声で私に礼を言い、またあの素敵な笑みを見せました。 その頬は薄く赤らんでいて、少し酔っているようでした。 「いつもこんなに飲むの?」と尋ねると、「私にもそういう日があるのよ」と言って、またグラスを口へ運びました。
その後も彼女の様子は変わらず、終電の時刻が近づいた頃、私は「そろそろ帰ったほうがいいよ」と彼女に告げました。彼女は時計を一瞥し、目をぎゅっと閉じた後、私を見て「ねぇ、少し歩かない?夜風に当たりたいの」と小さく、でも確かな声でそう言いました。
新宿の人混みを抜け、青梅街道沿いに彼女の住んでいる中野の方角に向かって、私たちは夜を歩きました。 手を広げたり、髪をかきあげたり、階段を駆け下りたり、上ったり…まるで漂流するみたいに、赤いバッグを揺らしながら、少し前をふらふらと踊るように進んでいく彼女。 私たちを包み込む巨大なビル群は、どれも眠ったように息を潜め、人も見当たりません。 生活の匂いも、労働の匂いもない不思議な時間の新宿。 未だ頼りないままの手触りの彼女、ポケットに手を突っ込んで歩く私。 蝋燭の火のように静かに揺れるステップ。 それは帰るべき場所を探して彷徨う悲しいステップでした。
「東京は本当に大きいところね。たくさん人がいて、たくさんお店があって、たくさん電車が走っていて、悲しいことも楽しいこともたくさん、たくさんあるの」 突然、振り向いた彼女はそう言いました。
ビル街を抜けると、頭上には再び東京の夜が降ってきて、山手通りを何台もの車が走っていくのが見えました。長い赤信号を前にいつしかステップは止まり、街は息を取り戻し、間も無く、私たちのくだらない生活の匂いが帰って来るのがわかりました。 そして、彼女の目には涙が溢れていました。
「ひとつ隠していたことがあってね。私は日本人じゃないの、国籍は中国。でも、日本の学校に行って、日本のものを食べて、日本で育った。日本語だってこんなに上手に話せるし、難しい言葉もその辺の学生なんかよりよっぽど知っているつもりよ。桜を見て春を感じるし、お米を研いで、ご飯を炊いて、お味噌汁を飲む、着物だって自分で着たことがあるのよ。それなのに、ねぇ、それなのに…どうして?」
救われることのない答えを求める寂しい眼差しで、彼女は立ち尽くす私の目を見た後、溢れ出すその涙を隠すように両手で顔を覆いました。 行き交う車のヘッドライトがそれを照らしては隠し、照らしては隠し、やがて少しづつ速度を落としながら止まりました。 そして、信号が青に変わるとともに、彼女は「ごめんなさい…」と一言残し、去っていきました。
悲しみを飲み込むように消えていくその背中。 それはどんな言葉や物語よりも本当の��のでした。
私たちと彼女を隔てて、明滅する青信号。 そこに散らばったいくつかの風景。 水の入ったグラス、赤提灯、絵に描いたような笑み、知らない国の香り、夢を語る姿、小さな違和感、文壇、電話の声、ネオン、ステップ、溢れる涙、消えていく背中… それらはどれも失くしたことすら忘れてしまうようなとりとめのないものでした。 でもそれは確かにそこにあったんです。 そして、今ここでひとつの物語が終わろうとしている。 終わる。 終わらせてしまう…
気がつくと、私は急いで交差点を渡り、彼女のもとへ駆け寄って、その手を掴んでいました。 春の夜の東京の空気より少しだけ冷たい手のひら。 それが初めて触れた、彼女の確かな温度でした。
それから、彼女はここ数ヶ月のことを思い出すように話しました。 入社後に配属された部署は彼女の語学力を十分にいかせない場所だったこと。 その力を使って仕事を進めようとすると多くの邪魔が入ったこと。 そんな��を案じて、親身に相談に乗ってくれた上司がいたこと。 その上司から身体を求められたこと。 一度だけそれに応じたこと。 その人には奥さんと子どもがいたこと。 ひどい罪悪感に襲われたこと。 関係を拒むと、自分が日本人でないことをひどく罵られたこと。 どこからか悪い噂が流れ始めたこと。 仲の良かった同期や親しかった同僚たちとの距離が少しづつ離れていったこと。 会社は彼女の話を全く聞いてくれなかったこと。
いつしか自分の居場所がなくなっていたこと…
その会社はとても大きくて、ひどく日本的な会社でした。 或いは、日本全体がそういう時代だったのかもしれません。 力のない者たちにとって、暗い話はいくらでもありました。
「何もかも嫌いだわ!あなたも、この世界も、全部!」 一頻り話し終えると彼女はそう言い放ち、大声で泣きだしました。 静かな住宅街の路上、彼女の言葉をさらっていく乾いた東京の夜風。 悔しさに、悲しさに涙する、小さくて頼りないその姿は、どこにでもいるひとりの女の子のものでした。 私はそっと彼女を抱きしめました。 「ねぇ、どうして…」 彼女のくぐもった声が、胸の中で何度も何度も木霊しました。
☆
明け方、目を覚ますと隣に彼女はいませんでした。 少しだけカーテンが開いていて、そこから夜明け前の薄く伸ばした光が入り込んでいます。 アパートの二階、彼女の残り香がするクリーム色のタオルケット。薄明かりに晒された部屋は六畳くらいの大きさで、壁がところどころ剥がれていて、彼女の持つ雰囲気とはかけ離れた質素なものでした。
立ち上がると、「起こしちゃった?」とカーテンの向こうから声がしました。目を向けると、薄暗いベランダで美瑛は煙草を吸っていました。 「眠れないの?」と聞くと、「眠りたくないの」と彼女。 橙色の火が燻らせる煙の先、明けていく空には重たい雲が敷き詰められていて、僅かなその隙間から白い光が覗いていて、煙はその光に吸い込まれるように真っ直ぐに伸びていきました。 横に並ぶと、「あなたも一本どう?」と言って彼女は私に煙草を差し出しました。 火を点け、ふぅと吐き出すと、そこには私と彼女、二つの煙の靄が出来上がりました。 東京の空に吐き出された二つの白い煙。 初めはしっかりと輪郭を持っていたそれは、いつしか薄く伸ばされ、混ざり合うようにひとつになって、ふたたび空に還っていきました。 私たちは無言のままその行方をじっと見守っていました。
「ねぇ、悲しい話をしてもいい?」 煙が消え去ると彼女はそう尋ねました。 そっと頷くと、彼女は新しい煙草に火をつけ、まるで喜劇を語るように話しはじめました。
「わたしはね、朝鮮に近い少数民族の自治州で生まれたの。だから中国籍だけど、中国人でもないのよ。幼い頃のほとんどは韓国で過ごしたわ。韓国はわたしたち家族にとって外国だったけど、三人の暮らしはとても幸せだった。でも心中は複雑だったわ。わたしたちの幸せは寂れていく故郷の上に築かれているようだったから。わたしの故郷は一時間もあれば回れてしまう小さな町だったけれど、昔はみんなが家族みたいに温かく暮らしていたの。なだらかな黄緑色の丘があって、丘の上には水車があって、牧場があって、その起伏を縫うように一本道がどこまでも続いていた。家族も友達もみんな同じ病院で生まれて、同じ学校に行って、同じ美容院で髪を切って、同じように歳をとっていくと思っていた。でも、そんな小さな町にもいつしか本州の経済の波が押し寄せてきた。それは一部の人をとても裕福にしたわ、でも町は幸せにならなかった。いつしかお金のある人は中国の都会や韓国や日本に出たきり戻ってこなくなって、貧しい人だけが残された町はどんどん疲弊していった。酷いものよ。でもいずれは消えていく運命の血だったのかもしれない。わたしたち家族の小さな幸せもそうやって出来上がっていたの。でも、それは仕方がないことだった。そして、わたしが十歳の時に母が死んだ。交通事故だったわ。父も母もわたしも故郷に後ろめたさを感じながら、それでも慎ましく小さな幸せを噛み締めて生きていたのに、この世界はある日突然私たちから母を奪ったの。それも交通事故よ。なんてこともないただの交通事故。この気持ちわかる?びっくりして何も感じなかったわ。母を轢いた人を恨んだり、悲しくて涙を流したり、そういうところまで全然辿り着けなかった。そして、あっという間に色々なことが過ぎていって、“はい、こうなりました”って母が死んだことだけがまるで前からそうだったみたいに残された。わたしはどうすればいいかわからなかったわ。父はとても優秀な人で、母が死んでからも直向きに仕事に打ち込んでいた。悲しみに立ち向かいながら頑張る姿に周りも感心していた。でも、人間はそんなに強くなれないのよ。父はわたしと二人きりになると母のことを思い出してしまうみたいでよく泣いていた。心が空っぽになるまで飲んで、母の話を何度も何度もして、故郷を捨てた自分を責めて、涙が枯れるまで泣いてようやく眠るの。そして翌朝にはスーツを着てまた仕事に出かけていく。このままだといつか駄目になってしまうと思った。だからわたしはひとりで日本に行くことを決めた。十二歳の四月だったわ。父は反対したけど、こうすることが最良の策なんだって自分でも薄々感じていたみたい。最後まで賛成はしてくれなかったけど、大学を出るまでずっと支援してくれたわ。そして、その時からわたしは美瑛という名前になった。美瑛っていう名前はね、わたしがつけたのよ。まだ母が生きていた頃、三人で旅行した北海道の美瑛があまりにも綺麗だったから。そこには何もかもがあったわ。黄金色の丘がずっと続いていて、お母さんがいて、お父さんとわたしが笑っていて、空も湖もどこまでも青く澄んでいて、そこにいる人もみんな幸せそうで、日本はなんて素敵なところなんだろうと心の底からそう思ったの。そこにはわたしにとってのすべてがあった。それから、しばらくして父には新しい家族ができたわ。心の穴を埋めるにはきっと必要なものだったと思う。もちろんわたしには何度も相談してくれたし、帰ってこないかとも言われた。でもそこに戻って生活する気にはなれなかった。わたしは今でもちゃんと父を愛しているし、父もわたしのことを本当に愛してくれている。けど、彼は彼の家族にも愛情を注がないといけないのよ。そういう時期なの。だから連絡は取っていない。故郷には随分と帰っていないわ。どうなったのかもわからない。もしかしたら、もう無くなってしまっているかもしれないわね。その方が幸せな場所なのかもしれない。でも、時々すごく不安になるの。今のわたしには関係のないことだって思っているのに。すごく、すごく不安になるの。あなた、故郷が消えていく気持ちって想像したことある?自分が生まれた町が消えていくことを考えてみたことがある?愛していた人たちも疎ましかった人たちも丸ごとみんな、みんな消えて、家がなくなって、お店がなくなって、どんどん空き地が増えて、それが当たり前になっていくの。小さい頃、見た風景や遊んだ景色を思い出すことがあるでしょう?あなたはきっといつでもそこに戻れると思っているはずよ、ただ自分が戻らないだけで、いつでも。でも、わたしにはもう戻れないの。どんなに強く戻りたいと願っても戻ることができる場所がないの。わたしのことを待ってくれている場所はもう何処にもないの。こんなことをわたしが思うのはおかしいのかしら?わたしは今、東京にいて、煙草を吸って、こんな格好でベランダに立っているのに、心は消えた故郷の冷たい風に吹かれている。母も父もいない故郷の風に。でもどうしようもないわ、どこに行ったってわたしはわたしとして進んでいかないといけない。強く、もっと強くならないといけないの。でもね、わたしはね、こんなところで、また泣いて、あなたにこんな、こんなつまらない話をしてしまうの」
彼女は目を閉じ、何かを確かめるように空を見て、ゆっくりと煙草を吸い、またひとつ煙を吐き出しました。 そして、無理矢理ににっこりと笑いました。 それはとても、とても悲しい笑顔でした。 たまらなくなって、私はその煙草を取り上げ、火を消すと、そのまま彼女を抱き寄せ、そっと口づけをしました。 私にできることはそれくらいしかなかったのです。 震える彼女の髪の向こう、次第に色をつけていく東京の朝を厨芥車が駆けて行くのが見えました。 涙の生温い舌ざわりと彼女の煙草の残り香が、いつまでも、いつまでも口元に残っていました。
☆
彼女の物語の残した余韻は、作家である私を試すかのようにずっと宙を漂っていました。
ですが、その後、彼女と会うことはありませんでした。 私は何度か中野のアパートへ行こうと思いましたが、その度に何か理由をつけては足を遠ざけました。 安易な言葉や簡単な優しさを与えるのが怖かったのです。 或いは私には彼女の悲しみを背負っていく覚悟がなかったのかもしれません。 彼女からも電話はありませんでした。
そして、気付かないうちに時代は変わっていきました。 忙しない日々が続き、私はいつしか文壇のメインストリームと言われるようになっていました。 かつてあれほど私のことを批判した者たちも手のひらを返したように私の時代を迎合し、ある時期には、私の文章を模倣したような作品がいくつ��生まれました。 中には著名な賞を獲ったり、世間の話題を攫う作品もありましたが、そういったもののほとんどが、私には感情の濃度を薄めただけの肉も骨もないようなものに思えました。私はそういった作品を忌み嫌い、自分の次元はもっと高いのだと証明するかのように作品を書き続けました。 そしていつしか、貪るようにストーリーを作り、とってつけたような悲しみを添えた、ハリボテのような作品が増えていったのです。 私は、もう書くことなどなくなってしまったのだと胸の内では途方に暮れていました。
そんな日々が二十年余り続いたある時、突然、出版社に私宛ての手紙が来たのです。 手紙はエアメールで北京の郵便局の消印がありました。 封筒を開くと、そこには一枚の写真が入っていました。 そこは、どこまでも続く黄緑色の丘で、小さな家と牧場と水車があって、手前には幸せそうに笑う女性とそれに寄り添う男性が写っていました。 私は一目でその女性が美瑛だとわかりました。 美瑛と彼女の家族。 幸せそうな笑顔はどこまでも���実的で、それ故にとても美しく輝いていました。 それはきっと、初めてみた彼女の本当に幸せそうな笑みでした。 彼女はようやく自分の帰るべき場所を見つけたのです。 写真を裏返すと、サインペンでひと言「好きな人ができたの」と書かれていました。
その時です、なぜか頬を濡らすものがありました。 それはとどまる事を知らず、いつしかその文字を滲ませていました。 そして気が付くと私は声を出して泣いていました。 私は、私の中のどこかでずっと彼女が生きていたことを思い出したのです。 彼女があの日からどうやって生きて、どれだけ涙を堪え、無理矢理に笑ってきたのか。 異邦の地で踊りながら、どれだけ煙草を吸って、眠れない夜を越えてきたのか。 私は偉そうに筆をとっていながら、そんな大切なことも考えることができなかった。 あの日、中野からひとり帰る朝、私は色々なことを確かめながら歩きました。 故郷にいる父や母や妹のこと。 幼い頃に遊んだ公園の遊具のこと。 初めて買ってもらった自転車のこと。 父とキャッチボールをした日のこと。 母に不恰好なエプロンをプレゼントした日のこと。 妹を助手席に乗せて買い物に行った日のこと。 私が東京に行く日、みんなで車に乗って駅まで行ったこと。 いっぱいの鞄に母が無理矢理入れた梨。 ガランとした部屋に寝転がって見た自分だけの東京の空。 カーテンのない夜。 きつい肉体労働の帰り道に買った缶コーヒー。 夢中で書いていたペンの先に射し込んできた朝日。 アパートに届いた米と缶詰と野菜ジュースが入った段ボール。 その隅っこに添えられていた手紙と一万円札が入った封筒。 今歩いているコンクリートの道。 上空を覆う高速道路。 東京に生きる人たち。 たくさんの感情…
それは皆、私を作り上げる大切な欠片でした。 しかし、そうやって胸の奥からすくい上げて、決して離さないようにしようと決めた想いも、忙しなくすぎる日常という波に攫われ、いつしか沈んでしまっていたのです。 それでも時折姿を見せるそれを、なんとか形にしようと私は筆を取りました。 でも、それはいつだって少し違う形をしていた。 そして無理矢理に捻じ曲げコントロールしようとすればするほど、あっけなく手から離れていき、後味の悪い喪失感だけが残りました。そして、いつしか自尊心に駆られ、自分自身の余韻に酔いながら書いていた私は、かつて憎んでいたものになってしまっていた。 私は自分の傲慢さ心の弱さを恥じました。 そして気付いたのです。 私には書きたい感情がまだたくさんあると。 それは決して特別なものではない。 華美に装飾されたものでも、ドラマティックなものでもない。 吹いたら消えてしまいそうな小さな記憶の断片たち。 その断片たちが薪となって、私の作品に灯をともしてくれます。 私は特別でない私のことをもっと考えたい。 もう戻れない場所もたくさんあるかもしれない、でも今だから行ける場所もきっとたくさんあると思います。 私は今書くことがとても楽しいんです。
気がつくとグラスは空になっていた。 作家はグラスに残されたオリーブを口にし、その余韻に暫し目を閉じると、バーテンダーにそっと告げた。
「次はギブソンを貰おうか、思い切りドライなやつを」
カタカタとシェーカーの揺れる東京の街は、ゆっくりと夜が明けていく時間だった。
-end
【マティーニ(Martini)】 ジンベースの著名なカクテル。通称カクテルの王様。『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
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ゲムマ作戦記 2017年秋の陣 2日目
さる12月2、3日、東京ビッグサイトでゲームマーケット2017秋が開催された。そこへ行ってきたので早い話、レポートです。ほんとはすぐに書きたかったんだけどいろいろ忙しくてなかなか時間がとれなかった。ちなみに今回が初めて。
時系列日記
前日譚
事前にAmazon経由で買ってあったゲームマーケット地図とTwitterとにらめっこ。というのも、お作法というか状況が初めてゆえに全然読めない。大手が出すものでさえ売り切り再販なしとかざらなので、後悔のないようにしたいという思いが強かった。
Twitterで見かけた初参加者向けのお作法として小銭と千円札を十分に用意してお釣りが出ないように配慮するといい、とあった。ATMで9000円を何回かに分けておろしてきた。(最寄りのATMは10千円で1万円札が出てくる仕様だった)これは実際かなり有用で、ぴったりだすと、本人も受けとる側も、まだかまだかと後ろで並ぶ人もみんなハッピーになれる。
今回の目的、ゲムマに行くと決めたきっかけだったのはCygnusさんが作ってるボドゲ用の道具いろいろ。それ以外にも事前情報を見てみると面白そうなものいっぱいある。せっかくなので楽しみたい、そう思ってゲムマの公式サイトで日曜出展ブースの置いてあるものをかたっぱしからチェック。事前情報はもちろん、土日両日出展ブースはTwitterでも情報をチェック。特に気になったのは「売り切れるのか?いつまでに買えば間に合うのか?」。
そんなこんなで、絶対買う、優先的に買う、試遊してみて面白かったら買う、試遊だけして後日買う候補、などに分けてからお目当てのブースの位置を地図に書きこむ。絶対買う、優先的に買うのに効率的な周りルートを決める。どこで何をいくら分買うか計算しておく(どうせここまでやるならブースごとに分けてお金を用意しておけばもっとスムースだった)。
とめちゃめちゃ準備して気合いれたけど、終わってみて考えるとここまでは必要なかった気がする。
当日オープン前
朝10時にオープンで、待機列の開始は8時とのこと。。8時に最寄り駅の国際展示場に到着。そこからテクテク歩いて会場まで。実は今回の会場はビッグサイトの中でも一番奥��上に、オープン前用の待機列はさらに遠い駐車場になる。結局列に並んだのは8時20分ぐらい。後続で並ぶ人いないなー、おかしいなーと思ってたら実は1列目の最後尾だった。ちなみにここで約200人強。
完全な屋外だったけど寒いといえど日射しが暖く、風も強くなかったので助かった。けっこうみんな地べたに座ってた。100均のミニパイプイス持ってきたらよかったなぁ。そして座れるならmac持ってくれば作業もいろいろできたなぁ。なんて思った。僕は一人だったのだけど、周りは友人どおしゲームで遊ぶひと、地図を見ていろいろ考えるひと、など。でもこれ雨だったらけっこうキツかっただろうね。
ちなみに水分の摂取は抑えめで並ぶ前に行っておいたのでトイレに行くことはなかった。とはいえ列が動くまでは1人でもトイレに行っても大丈夫そうな感じ。
オープン直前
開場まで30分といったところで列が動く。開場前までみんなで移動するようだ。ふと見回すと1列目よりも遥かに長い2列目、3列目が。合計で1000人ぐらいはいそうな感じ。ちなみに待機列からの入場は本ゲートではなく別の入口からになる。時間になってオープン、みんなでチケット代わりの地図をかかげて入場!
オープン後、前半
あたり前だけど開幕ダッシュなんて絶対ダメ。とはいえみんなこころなしか早足になってる。僕もまずは最大のお目当てCygnusブースへ。おそらく5人目くらいかな。地図に書きこんでたリストを読み上げて購入品を伝える。前もって金額も計算してたので素晴しくスムーズ!が、受けとったら予想以上に板が大きくて鞄にしまえない、というアクシデント。ただゆっくりもしていられないし、後ろに並んでるお客さんもどんどん増えていくのでさっさとどいて次のブースへ。
もうこの時点で僕がゲムマに来た目的の7割は完了したに等しいけど、お次は優先的に買うリスト入りしてるブースへ行って買う、の繰り返し。Cygnus板が大きすぎて手持ちがいろいろと不便だったので公式エコバッグを買って入れたらすっきりした。
ひとまず絶対買う、優先的に買うものはやっつけたので試遊して面白かったら買う、もしくは話を聞いて欲しくなったら買うものブースへ。全部のブースが試遊卓があるわけじゃないのでしかたない。試遊してる間に売り切れとか嫌なのでここもなるべく優先準位つけたものから。
中盤
一段落ついたので、ブースを隅々まで回ってみることにした。特に企業系協賛ブースは入口あたりにあるので待機列組で入場場所が違った僕は中盤になって始めて入口まで。いろいろ見たり、話を聞いたり、時に試遊したりして楽しむ。あっという間に2時。
昼食を摂ることに。開場出てすぐのところに軽食系とか焼きそばやロコモコ丼とか売ってたけどイマイチ魅かかれなかったのでパス。ビッグサイトの内部にもいろいろレストランがあって、このころだと待つこともなく普通に入れたのでカレーを食べた。ここで買ったものを整理して大きすぎてエコトートに入れてたものもギリギリバックパックに詰めれた。これで多少身軽に。
終盤
さて、開場に戻ってまたブースを回ったり、話を聞いたり試遊したり。特に開発者の人の話が直接聞けるのが楽しかった。何が楽しいってみんな凄い良い笑顔。ざっくり言えば「ぼくのつくったさいきょうのボドゲ(もしくはお道具)」展覧会なわけで、みんなそれぞれに思い入れとか「このゲームのここが面白いんだぜ」っていうのが伝わってきて、そのパッションがものづくりの一端を担う僕にも良い刺激になったのが一番の収穫。
気になってたゲームのほか、最初に優先的に購入したボドゲも試遊できれば試遊することにした。というのも友人達とやるとき、僕がインストしなきゃいけない。なので説明書を熟読するより、一番詳しい人についてもらいながら1プレイしたほうが理解が早いと思って。
そういえばゲムマ大賞の発表はどこがステージかわからなくて見なかったなぁ。
そんなこんなであれよあれよと言う間に終了。終わってみるとどっと疲れた一日であった。帰ってから買ったゲームのスリーブ入れ作業が待っている。僕はかどまる派なので、どれだけの角をカットしなければならないのか…… そんなことはいったん忘れて、会場のお祭ムードの余韻にひたっておこうと思った。
教訓
ゲムマに参加しての教訓。
前日までの準備
お釣りの出ないように小銭と千円札の準備は本当に良かった。絶対買うものはいくらなのかメモっておくともっとGOOD。販売側はスーパーのように専用レジがあるわけではないし、専門の接客でもないので支払いの手際の良さを求めてはいけない。といっても殺気立つような急ぐ場面もなかったけど。
個人的には逆に開幕並ぶような人がガっと買って「いくらですか?」って万札出した時にはちょっと引いた。自分のためにも相手のためにも紳士のマナーを。
気になるゲームは予習とどこにあるかチェックしておくと良い。会場ではパっと見での情報はそんなに多くない。むしろ事前にルールや紹介動画みたり事前にできることはやっておいたほうが良い。ここはワーカープレイスコーナー、ここはトリテ、などと分かれてるわけでもなく、ブースの場所は完全にバラバラなので好みのゲームぐらいはチェックしておくと吉。
待機準備
外で待つのはやっぱり寒い。ちゃんと防寒具、荷物の容量とトレードオフだけど簡易イスがあってもいいかも。暇潰し用具も忘れずに。
ちなみに地図確認と経路のチェックはここでやっても良いかもしれない。ただ、どんな頒布品がいくらなのか、という情報は地図にはないので事前に見てなければ、ネットで見ることになる。僕は事前にチケット代わりのマップを買ってたけど、当日、待機列でも買うことができた。カタログも売ってた。前日までにマップを買ってなくても安心。
参加中
まず冬ということもあって、乾燥してる。そしてボドゲと接客という喋る要素満載。これは風邪の心配がやばい。飲みもののみ可なので、持ちこんで意識的に摂取しよう。
温度は暑いことはなかった、うっすら寒いかもなぐらい。コートを着て脱ぐには寒いが着てるのは少し暑いかも、ぐらい。マフラーしてたら暑いぐらい。そんな温度。(体感には個人差があります)
運送会社があって、買ったものを預けたり配送できたりしたが僕はしなかった。後から思えば利用しても良かった。もしくは会場外のコインロッカーに預けるなり。とにかくボドゲはかさばるし、重量はそんなにないとはいえやはり一日歩きまわって持ってるのはそれなりに大変。荷物は早めに切り離すべきだったな、と思う。終わった後の疲労度に大きく影響するはずだ。
開始早々売り切れることは滅多にない感じ。思ったのは、焦って開幕に買うより、話聞いたり可能であれば試遊してから買うべきだったなぁと思う。予算にも我が家の収納スペースにも限りがある。当日の限定効果+売り切れるかもという不安は危ない。財布がどんどん軽くなる。危ない。
名作と言われるボドゲでも、面白そうだと思ってプレイしてみて、あ、これ僕の好みじゃないな、ってことは往々にしてあると思う。言わんや出た���かりの同人ゲーだ。限りがないブルジョワジーならともかく。僕のような一般ピープルは吟味して買わなきゃいけない。そう簡単に売り切れないのでどうしても欲しいもの以外は焦らなくていいと思う。
例外的には土日両日で、土曜のぶん、日曜のぶんで分けないで頒布してるところ。今回の僕のように日曜だけ参加の場合、人気によっては日曜開幕の時点ですでに在庫僅少の可能性があるので。そういうところはあんまりなさそうだったけど。
最近ではネット販売もしてたり、ゲームショップやボドゲカフェに置いて委託販売してたりする例も多々あるので本当に焦らなくていいと思う。今回僕は確実にネットで手に入りそうなものは絶対買おうと思ってたものもスルーした。後日買えるので。だけど、当日の熱気が過ぎさって、限定効果も消えれば、試遊してもなお、買うのを様子見しておこうと思うものもあった。
こんなこと言っては作り手側には迷惑かもしれないけど、できれば試遊、最低でも実際に見たりブースの人と話したり、そしてその場でしか手に入らなそうなら、一旦落ちついてから考えてみてそれでも欲しかったら買う、ぐらいのスタンスで良かったかもしれない。買ったけどプレイされないゲームを所有してしまうよりかはよっぽど、自分にもスペースにも財布にもゲームにも優しい気がする。
可能であれば友人と何人かで来れたら良かったなーと思う。試遊するとき、一人だよ4人ゲームをするのに人が来るのを待たなきゃいけない、となるとちょっと尻込みする。4人で来れたら、みんなでやればいいし、2人はプレイしてもう2人は他の人達、仲間のプレイしない2人は他ブースみたりプレイを見てたりと幅広い行動が効率的にとれる。時間は有限だからね。
それに買うものも分散できる。コレクターじゃない限り、ボドゲは仲間で1つあれば事足りるので。今回残念ながら我が友人達はこぞって忙しく不参加だったのはけっこう悔やまれる。
ちなみにリアルカタンという資源を渡されて交換で全種類集めるイベントは、僕の持ってる麦がなんか不人気で木材の人と交換できずに終了。でも知らない人と話す良いきっ��けになって楽しかった。
頒布側がこんな感じならうれしい
これは完全に傲慢な意見かもしれないけど、参考になれば。
ブースの場所番号をわかりやすく書いておいてくれるとうれしい。有名なサークルじゃない限り開発者ではなくゲームの名前で覚えてるもので。かといってマップにはゲームの名前ではなくサークル名で出てるわけで。あとは今どのへんに居るのかがわかりやすくなるので。
大まかでも在庫数が分かるとうれしいなー。今即決しなきゃいけないのか、悠長に試遊したり他のブースを見てきても間に合うのか、僅少じゃなくてもどれぐらい決断を後にまわしても良いのかがわかると嬉しいな。一般ピープルなので吟味する時間が欲しいんです。
マーケティング的には当日前に出せる情報はどんどん出してくれたほうが良いように思う。ルールブックが公開されている、されてないで判断材料としては全然違ってくるし、目星もつけやすい。ルール説明動画はもちろん、プレイ動画なんかもガンガンあったほうがいいんじゃないかな、人が楽しそうにプレイしてるだけで注目してしまうよ。
感想
本当にどの出展ブースも同人ゲーと思えないぐらいのクオリティですごいと思った。やっぱりビジュアルで突出してるところは目を引くなぁ、と思った反面、元々DTP畑出身の僕としてはここをこうしたらもっといいのに、と思うこともそれなりにあった。カード効果のフォントサイズが小さかったり、フォントと雰囲気がちょっとあってなかったり、ルールブックのレイアウトがまだまだ追い込みようがあったり。
とはいえ、本当、どれも同人ゲーのクオリティを遥かに越えている気がした。ゲームの作りこみはゲーム作者である以上とことんやるだろうけどそれ以外のできない部分、ビジュアルだったり、装丁だったり。しかも得てして初見ではその部分の作り込みが注目度を分けることも少なくないと思う。
今回、道具は大満足だけどゲームの購入に関しては予算や環境を加味すると様子見できたなぁと思う。正直に言えばちょっと勢いで買いすぎたな。とはいえ沢山のゲームを試遊できるお祭りだし、来年も行きたいなぁと思った。
今回の収穫(順不同 敬称略)
買ったもの(レビューはそのうちできたらいいな)
Cygnus
ダイスタワー
カードスタンド(2セット) x 2
カードフィーダー x 3
カタンカードトレイ
トークントレイ
ハコノソト
ダレカラダイス 2種
するめデイズ
サキヨミ対戦!アニマランブル
OKAZU brand
かうんとり
ねずみ海賊ラッタニア
コムタナ712
トライノミコン
植民地戦争+α
神倭のくに
試遊したりしてめちゃめちゃ欲しかったけど諦めたもの(順不同 敬称略)
RAMCLEAR
ヘルトウクン
めちゃめちゃ面白かったけど、2人プレイ限定なのと2人プレイのメイン相手の妻さんには合わなそうだった
グランドアゲームズ
キャプテンダイス 第2版
予算切れ+ネットで買えそうだったので。たぶん将来的に買ってしまうぽい。
梟老堂
イアルへの道
予算切れ+ネットで買えそうだったので。これもたぶん将来的には欲しい。
そのほかのもたくさんたくさん。お金と置くスペースはいくらあっても足りません!
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予備校のキヒョン先輩のお話2
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11月5日
月替わりのクラス入れ替えの日。私は運良くAクラスに上がることができた。先月の勉強が捗ったのもたぶん、キヒョン先輩のおかげ。でも今日はなんとなく体が重かった。
今日もキヒョン先輩はギリギリまで自習室にいるから会えないんだろうな、ここ最近というもの生きがいといっても過言ではなかった先輩タイムもどんどんと減ってしまった。「6位」という文字を見つめながら順位表の前でぼーっとしてるキヒョン先輩を見かけることはあったけど、何だか話しかけてはいけない気がして。
「あの、シャー芯一本くれませんか」
「あ、はい」
声をかけられてふと見ると、声をかけてきた男の子の鞄の中に有名大学の過去問が入っているのが見えた。さすがAクラスの人たちは違うな。
「上京するんですか?」
「は?」
シャーペンの芯を出しながら自分でもおかしな質問をしていることに気づく。ましてや初対面の秀才くん相手に。
「あ、いやすみません」
「たぶんしますけど」
「あ~やっぱり。しそうな顔してる」
「なにそれ」
自分でも何を言っているんだろうと呆れてしまう。でも今日は考えて物を喋る気力がない。案の定秀才くんのめがねの奥には困惑の表情が見えた。
「チャンギュナ~!」
「!?」
「あとでラーメン食いいこ~!おれ、今日教室下だから!授業終わったら下で待ってるわ~!」
「わかったから叫ぶのやめて!」
さっきまでクールだった秀才めがねくんが突然耳を赤くして下を向いた。友達なのだろうか。友達にしてはタイプが違う気がするけど。
「元気な友達ですね」
「…まあ」
「はい、シャー芯」
「ありがとう」
チャンギュナ、と呼ばれていた秀才くんの彼は芯を受け取ると何事もなかったかのようにまたクールな表情に戻り、静かに小説を取り出して読み始めた。さすがAクラスは休み時間の使い方が違うな。
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「じゃあ、ここから106頁まで次小テストするからな~!今日の授業終了!」
糸が切れたように静かだった教室が一気に騒がしくなる。時計を見ると22時5分。ちょっと延長したみたいだな、キヒョン先輩はもう帰ってるかも。
「チャンギュナ~~~!」
ドアの方に目をやるとさっきの男の子がぶんぶん手を振っているのが見えた。秀才くんはまた困った顔でそそくさと帰る準備をしている。
「じゃあ」と低い声で言い、教室を出ていく秀才くんに続いてわたしも帰る準備をする。隣の机を見ると消しカスが適当に集められていて、頭がよくても意外と大雑把なんだなとほっとした。
結局最後の一人になってしまったわたしが教室を消灯して外に出ると、順位表の前にたたずむ見慣れたカーディガンが目に入った。
どうしよう、話しかけていいかな、いつも急に心臓が早くなってうまく��せなくなる。でも、
「おつかれ!」
「あ、おつかれさまです!」
先に声をかけてくれたのはキヒョン先輩の方だった。いや、いつもそうか…
「先輩、これすみません、ずっともってて…」
「あ~!忘れてた!だいじょぶ」
うそだなあ、この季節にあれだけの寒さの中自転車に乗って手袋がないことを忘れるはずがない。
「寒かったですよね、ほんとにすみません」
「大丈夫だって!��にしすぎだよ」
「…先輩だって気にしすぎですよ」
「え?」
しまった、自分は何を言っているんだろう。大好きな先輩を目の前にして、もっと優しい言葉をかけたいのに、
「毎日順位表眺めてるじゃないですか」
気付いたころには二言目まで言い終わっていた。
「…?」
「毎日同じ順位表見ても変わらないですよ」
「ああ、そうだね〜…」
「無理しないでください」
最初からこれが言いたかった。これだけが言いたかったのに。口から出た突拍子もない言葉に自分でもびっくりしている。
「うん、ありがと」
先輩は相変わらず困った顔で笑ってそう言うだけだった。
「その通りだね」
「え?」
柔らかかった先輩の表情に陰が入った気がした。私は焦って次の言葉を探す。
「あの…わたし…」
「どうしたの〜、その通りだなって思っただけだって」
「でも…」
謝らなくちゃ…謝ればいいのかな… でもさっきの言葉は本音じゃない、と言ったら嘘になる。毎日遅くまで自習室にこもって、休憩室でも難しい顔で模試の結果を開いて、順位表を眺めてため息をついてるキヒョン先輩を見るのが苦しくてたまらない。そう伝えなきゃ。
「キヒョン先輩が笑ってると…安心するから…」
「え?」
「笑っていてほしいです…」
「…」
絞り出せた言葉はそれだけだった。うまく伝わるとは到底思えない。先輩の顔を見るのが恐かった。
「あはは!そっか!ありがと」
「…いえ」
「俺が笑ってると安心するの?俺すげー(笑)」
目をぎゅーっとして口を開けて笑うキヒョン先輩、いつものキヒョン先輩が急に現れるとやっぱりわたしは安心してしまった。でも、そうじゃない
「じゃあね〜」
「あっ、キヒョン先輩!」
「ん?」
「ほんとに手袋ありがとうございます!」
「うん!いいよ〜」
自動ドアが開いて肩をすくめながら駐輪場に向かうキヒョン先輩の後ろ姿はやっぱり少し寂しそうだった。
いつも笑っていてほしい、それは本心だけど、そうじゃなくて… 泣いてても怒っててもどんなキヒョン先輩でもいいけど いつもありのままでいてほしい、自分を追い詰めないでほしい、誰かと比べて「俺なんか」って思わないでほしい、でもそれを全部伝える正解の言葉は見つからなかった。
こうやってなにもうまく言えないまま、結局「好き」も言えないまま、キヒョン先輩は本当に届かない存在になるんだな。顔を上げて振り返ると駐輪場に続く裏道は真っ暗で、自販機の切れかけた蛍光灯だけが寂しく点滅していた。
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11月7日
少し早く塾についた木曜日。いつもなら二階の教室前で3年生の授業が終わるのを待つけど、なんとなく気が乗らない。
休憩室にいるほどの時間もなくてなんとなく順位表を眺める。廊下に学年ごとにびっしり張り出された各教科の順位と総合順位。なんて無慈悲なんだろう。勉強が全てじゃないのに。そんなことを塾の中で考えても仕方ないんだろうけど。
毎月トップ30までしか貼られない順位表にわたしの名前は当然ない。国語と英語のところには3ヶ月に1回くらい顔を出すけど。
1年半通っていても決まって仲のいい塾生がいるわけでもなく、同学年の順位表を見ても大して面白くはない。先生たちからすればいつも3年の順位表を眺めている変わった塾生だろう。なんとなく同学年の順位表を眺めていると聞き覚えのある名前が書いてあった。
「1位 イムチャンギュン…」
チャンギュナ、ああ、あのメガネのシャー芯の人だ…そんなすごい人に向かって変な質問をした先日の自分の行いを回顧して小っ恥ずかしくなる。
「なに」
「うえ?!」
振り向くとメガネのシャー芯男、もといチャンギュナという彼が座った目で立っていた。相変わらず感情が顔に出ない人だな…
「あ、いや、1位すごいなあって」
「そう?」
チャンギュンは顔色ひとつ変えずに続けた。
「だってテストって教わったことしかでないし」
これが1位の次元か…わたしなんて教わったことがどこからどこまでだったか把握するのにも時間を要するのに
「いいね頭がいい人は〜」
「…」
「チャンギュナ〜〜!」
聞き覚えのある声に振り向くと自動ドアの向こうからチャンギュンのお友達(仮)が手を振って入ってきた。
「よう」
「さっき自転車乗ってたら前にお前がいる気がして、めーっちゃ急いで追いつこうとして漕いだんだけど近づいてきたら仮設トイレみたいなやつだった」
「は?なんだよそれ」
お友達(仮)くんの話を楽しそうにケラケラ聞くチャンギュン。あんなふうに笑うんだな。初めて見た表情に不覚にもかわいいと思ってしまう。
「だれ?先輩?」
「あ、いや、…知り合い?」
「こんちはー!」
「こんにちは…」
「今日めっちゃ寒いっすよねー」
「あ、あのたぶん同学年だからタメ口で大丈夫…だよ」
「えっそうなの?!大人っぽいから先輩だと思った!」
「なに口説いてんだよジュホナ…」
「えー?あー(笑)今日もラーメン食べ行く?」
ジュホンくん、という彼は容姿も内面もエネルギュシュでチャンギュンとは相反するタイプのようだった。なんか猫と犬みたいな楽しい2人だな。
「一緒にどう?ラーメン!」
「えっ?」
突然のことに固まっていると、ジュホンが空気を変えるように続けて話しだした。
「あー!ごめん、いきなりだった」
「いや…」
「塾の駐輪場あるじゃん?あの裏道抜けたとこにあるラーメン屋すっごい美味しいんだよ〜毎日食えちゃうからマジで」
楽しそうにケラケラ話すジュホン。楽しそうだから行ってもいいけど、チャンギュンはわたしがいたら嫌なんじゃないかな、と迷っていると
「食べよ」
低い声でボソッと意外な言葉が聞こえた。大丈夫なんだな。
「うん、行ってみたい!」
「じゃあ終わったらロビーいるから!」
「おーいお前ら〜、授業始まってから教室入った奴にはペナルティだぞ〜」
「うわ!やばい!」
バタバタと教室に入っていくジュホンを見送って私たちも2階の教室に向かった。
・
・
「おーい、早く帰りなよ〜」
22時になって授業が終了すると一斉に各教室から塾生がゾロゾロと出てくる。親の迎えもあってロビーは大混雑。特に今日みたいな雨の日なんかはうんざりするほど人が溜まる。そのほとんどは別クラスの友達を待ってる人で、今までは外で待てばいいのに…と思っていたけど今日は人のことは言えない。
人で溢れかえるロビーを階段から確認してジュホンの大体の位置を確かめようとするけど見当たらない。
「あれ、いつもあの辺で待ってるんだけど…俺が出てくると絶対手振るし…」
「うん〜」
チャンギュンが後ろでボソボソと小言を呟いているが、騒がしい声に埋もれてよく聞こえない。
「あ、ウォノヒョン!」
「お〜、チャンギュナ〜!」
突然のチャンギュンの大きな声にびっくりしてロビーを見ると、玄関口で塾生を誘導しているスーツの男性がこちらに笑いかけた。
「久しぶりですね、何してたんですか?」
「ちょっとゼミが忙しくてね〜」
「夏まではAクラス担当だったのに…」
「アハハ、ごめんごめん、それは俺が決められることじゃないから〜」
ウォノ先生。大学生のアルバイター。基本は週1回しか来ないけど、カッコよくて優しいと評判で周りにはいつも生徒がたくさんいた。それにしてもチャンギュン、やたら親密だなと不思議そうに見ているとウォノ先生がこちらに顔を向けた。
「お〜、元気だった?」
「はい、先生秋からCクラス担当になったんですね」
「そうなんだよ〜、A入ったんだって?やるじゃん!」
「ヒョン、俺もAですよ!」
「チャンギュニはいつもAだろ(笑)」
スーツのボタンを外して、帰っていく生徒に時折ばいばいと手を振りながら会話を続けるウォノ先生。体格がいいのもあるけどやはり男子高生の中に入ると一層輝いて見える。
「そういえばジュホニが今日弟が習い事で怪我したから家にお袋さんがいなくて、晩飯買ってかなきゃいけないからごめん!って言ってたよ」
「「え〜?!」」
「アハハハ、なになに、2人してどうした!」
「今日3人でラーメン食べようって言ってたのに…」
「そうだったのか〜、仲良しでいいね!今日は2人で食べに行きな〜」
ウォノ先生の言葉に固まって顔を見合わせるわたしたち。案の定チャンギュンは「2人はちょっと…」という表情で目を逸らしたので察しておくことにした。
「2人はちょっと…」
「アハハハハ、フラれてるチャンギュナ」
「なっ、俺はなにも…!」
「もう玄関閉めちゃうから早く行きな〜」
ニコニコしながらバイバーイと手を振るウォノ先生。私たちが離れた後も女子生徒のおしゃべりの輪に捕まって玄関口の人だかりは相変わらずだった。
「ラーメン、ごめんね」
「えっ、俺が誘ったんじゃないし…」
「なにその言い方」
「あ、ごめん」
むしゃくしゃして少し尖った言い方をしてしまった自分に情けなさを感じながらトボトボと駐輪場に向かう。
「あ」
「お〜、おつかれ」
そして、今日一番、今一番、会いたくなかった人との遭遇。
「お、お疲れ様です」
「お〜今日は友達と帰るの?」
「えっ?」
紺色のチェックマフラーをぐるぐるに巻いたキヒョン先輩が私の後ろに目をやると、それに気づいたチャンギュンがペコっと頭を下げた。相変わらずメガネの奥は無表情なまま。
「ああ…えっと…」
「いつも1人で帰ってるから〜、危ないもんね」
いつも1人で帰ってるのはキヒョン先輩の「一緒に帰ろう」を待ってるからなんだけどな…
「もしかして、彼氏とか?!」
「えっ?!」
私がブンブン頭を横に振ると「そんなに否定しなくても(笑)」とキヒョン先輩はいつものように笑った。
「じゃあ、気をつけて帰ってね〜」
「ありがとうございます…」
いつものように、キヒョン先輩の後ろ姿を見送るけど、いつものように先輩タイムだ!と心の中で唱えるわたしはいなくて、むしろ空っぽの体が手だけを振っている、そんな状態だった。先輩のハンドルを握る手を見ると珍しく手袋はなかった。
呆然と立ち尽くす私に、初めて困ったような口調でチャンギュンが話しかけた。
「…帰んないの?」
「帰るけど…」
「どうした」
「…別に」
「なんで怒ってんの?」
���にもわからなかった。これが怒りなのか悲しみなのか、誰に対する気持ちなのか。誰も悪くないのに。ただぐちゃぐちゃの何かが心臓に絡み付いて気持ちの整理がつかなかった。
「帰る」
「遅いから、送ろうか」
「いい、送らないでほしい」
「ごめん」
チャンギュンはそう言うとマフラーをギュッと巻いて自転車の鍵に手をかけた。カシャン。自転車のヘッドライトが点灯してギシギシと音を立てる。一瞬その音が止まってこっちを振り向いた気がしたけど、結局何も言わずに彼は帰ってしまった。
塾の玄関口にもう人はいなくて、人のいなくなった空っぽの教室の机には誰かの忘れたプリントだけが散らばっていた。
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OPT・MR2最終仕様で谷田部最高速に再びトライ! そのとき何が?・その1【OPTION 1985年1月号より】
4A-G搭載の初代MR2(AW11)にて最高速に挑戦した、我がOPTスーパーMR2。シグマオートモーティブの作るエンジンと、奇才マッド杉山のボディ(エアロ)により252.19km/hを記録し、更なる記録更新を!というところ(2018.5.1公開)で小休止していましたが、ラストへ向かって再開しましょう! 最終仕様にて再び谷田部の高速試験路へ姿を現したOPT・MR2。準備は万端!と思われたのですが…(驚) ・・・・・・・・・・・・ <OPTスーパーMR2への挑戦>押し寄せてきたトラブルの波 ドラマチック谷田部5:00~7:00 5000rpmから7000rpmまでが勝負だ! まったくゼロスタートで開発された大容量K27タービン付きのエンジンは、時実担当の寝食を忘れた突貫作業で進められながら短時間で細部まで煮詰められ、テストベンチで300psをマークするに至った。マフラーも特注でGCレースと同構造の高効率、低排気音の高性能タイプだ。 「ウン、これならどう控えめにみても280km/hはカタイ!」。ボクと時実さんはテスト前日、MR2をトランスポーターに積み込みながら、お互いに目を見合わせてうなづき合ったのだが…。 マフラー無しのオープンエキゾーストではないけれど、さすがに排気音は小さくはない。ボディ軽量化の影響で室内音はレーシングカー的であり、谷田部の騒音規制に気を使いながらラッピングを開始した。 1周めでブースト圧を1.2kg/cm2にセット。さらに補助インジェクターの1本を5000rpm、2本めを7000rpmに設定しながら4速5000rpmで周回を重ねる。水温は70度、油温80度、油圧5.0kg/cm2とすべて正常値だが、排気温度計作動不良で0から1000度までを目まぐるしく動いている。 この件を無線でピットの時実さんに連絡してピットイン。排気温度計はリークしていたらしく、すぐに正常に戻る。ガソリンを10L入れて再度スタート。時間も6時を過ぎたので1速から3速までは7000rpmまで回してみる。5000rpmまではガスが濃いので死んだような加速しかしないエンジンも、5000rpmを超えた瞬間にフルブーストがかかり、一気に設定回転の7000rpmまで回ってしまう。タービンを大型化していることがはっきりとアクセルレスポンスに伝わってくるのだ。 直進性は問題ないが、裏のストレートは横風が強く多少、左に流れるようだが、走行に支障はなさそうだ。60度で安定していた水温が80度近くに上昇しているので、ピットインしてフロントのラジエター1/3に貼ったガムテープを剥がして、さらに3周ほどタイヤ温度を上げるために走り、メインドライバーのDaiとバトンタッチ。 インタークーラーの氷タンクに氷を入れ、プラグを新品に交換、さらに、マッドハウス製のアクリル製ファーストバックを装着して本番トライにスタート。 室内で聞くよりもはるかに気持ちのいいエキゾーストノートを残して、マシンは第1バンクに消える。裏のストレート音を聞いていると5000~5500rpmで流しているようだ。 第2バンクから安定した姿勢で計測ストレートに向かうMR2のフロントエアダムが異常に路面に近づいている。ダウンフォースが強烈なためだろうが、外から見ていると気になる。 1周めは239km/hで計測ストレートを通過。音からしてまだまだ余裕がある走りだ。2周目の裏ストレートの音が明らかに変わった。「回しているゾ!」第2バンクの音も気持ち良く吹け上がっている。が、その瞬間にバン!という音が響き、エンジン音が消えた。 クラッシュではないことは音から分かる。エンジンがバラバラにでもなってしまったのだろうか…と考えていると、ヒタヒタヒタというひ弱な音をたてながら惰性でピットに戻ってきた。まず異常を探してて大声を出したのは、マッドハウスの杉山さんだ。「左ドアの外板が無いゾ!」 ・・・・・・・・・・・・ はぁ~? ドアの外板が無いってどーいうこと~?? というところで、次回その2へ続く! しかし、トラブルはこれだけでは終わらなかったようです…よ! [OPTION 1985年1月号より] (Play Back The OPTION by 永光やすの) 【関連記事】 日本初スポーティ・ミッドシップの極限記録に挑戦! まずは250km/h・その1【OPTION 1984年11月号より】 https://clicccar.com/2018/04/29/583256/ 目標の250km/hをクリアしたMR2、その中身とは?・その2【OPTION 1984年11月号より】 https://clicccar.com/2018/04/30/583779/ OPTスーパーMR2に搭載され、250km/hオーバーした4A-Gを完全分解してみた!・その3【OPTION 1984年12月号より】 https://clicccar.com/2018/05/01/583882/ あわせて読みたい * NEW・RX-7(FC3S)は街中で飛ばすと免許が無くなります(汗)・その3【OPTION 1985年12月号より】 * 新RX-7(FC3S)、SAペリ仕様とイザ勝負!! が、嵐は去らず・その2【OPTION 1985年12月号より】 * 土屋圭市さん登場にタイのホンダユーザー大歓喜!OPTIONキャラバンTHAILAND2018 with Moduloは今年も大盛況 * 発売直後のFC3S・RX-7で九州バトルへGO!! が、そのとき九州は・その1【OPTION 1985年12月号より】 * 1985年に新登場のFC3S・RX-7、ノーマルインプレッションはどうだった?・後編【OPTION 1985年11月号より】 http://dlvr.it/QbVVD4
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緘口の選択
「銀弾の射手」後日談の後日談、後編。とある刑事ととある記者の会話。 前編より更に長々会話してるだけ。
―――
からんからん、耳に馴染んだベルの音を頭上に聞きながらドアをくぐる。 程よく暖められた空気に迎えられ、イヴァンはマフラーに顎を埋めるように竦めていた肩を伸ばしながら息を吐く。正面のカウンターに立っている店主が、笑みを浮かべて声をかけてきた。 「いらっしゃい。寒かったみたいね」 「こんばんは、フランシスくん。もう外真っ暗だよ」 日は落ちたとはいえ時間自体はまだ早いせいか、店内に他の客はいないようだった。それを差し引いても、こちらに背を向けてカウンターに座っている男の特徴的な銀色の髪は、間接照明で演出されている薄暗い店内で目を惹く。イヴァンは迷いなくカウンターまで歩を進めると、男の隣の椅子を引いた。 ウィスキーボトルを傍らにグラスを傾けていたギルベルトがちらりとイヴァンを見やり、口元に笑みを作った。 「やっと来たな。おせーじゃねーか」 「僕は君ほど暇じゃないの。ちゃんと来てあげたんだから感謝して欲しいな?」 「は、言うじゃねえか。どうせ手は空いてんだろ?丁度事件解決したことだしよ」 イヴァンは無言で壁際の棚からハンガーを取ろうとしているフランシスに軽く指先を立てて見せると、そのまま椅子に腰を落ち着けた。 フランシスは肩を竦めてカウンターに戻ると、氷の入ったグラスをイヴァンの前に置く。ギルベルトが摘んでいたナッツの小皿を山盛りの新しいものと交換して、奥のキッチンスペースへと姿を消した。 「ったくよー、あからさまに帰りたいオーラ出してんじゃねえよ」 「うん、早く帰りたいの」 マフラーすら緩めない姿に苦笑するギルベルトに、にこやかな顔をしながらにべもなくイヴァンは返す。 イヴァンにしては珍しく思えるような素っ気無い態度だが、これくらいが二人の間では普通なだけ。当然この程度でギルベルトが堪えることなどない。 「…まあ、奢りだし一杯だけ付き合ってあげる」 「お、そう来ねーとな」 ぱっと表情を解り易く輝かせたギルベルトがウィスキーの瓶を取り上げ、イヴァンの前に置かれたグラスに中身を注いだ。琥珀色の液体を浴びて、綺麗な球体に削ってある氷が小気味良い音を奏でる。 「で、だ。まあ久々なわけだけどよ―」 「…だから、僕暇じゃないんだよギルベルトくん」 イヴァンはグラスを持ち上げながらもう一度繰り返し、遮った。にっこりと微笑んで見せると、暫し言葉を探すように視線を彷徨わせたギルベルトは、すぐに短く息だけを吐き出した。 「ほんっと、連れねぇな」 「うん?可愛げが欲しい?」 「や、いらねえわ」 即答するとイヴァンがちぇと唇を尖らせる。その様はまあ控えめに言って破���力が半端ないのだが、流石にいい加減見慣れてしまったギルベルトは綺麗に無視して、ジャケットの内ポケットから取り出した小さなICレコーダーを二人の間に置く。イヴァンはグラスを揺らしながらその行動を眼で追っていた。 「相変わらず、律儀だねえ」 「隠したってどーせバレんだろ」 「当然。でも君のそういうところ、好きだよ?」 イヴァンはメディア関係者が好きではない。刑事になった当初からかなりの数に追い回されたが、その殆どは自分の顔の話題性とゴシップ目当て。 早々にうんざりして寄られることのないよう手を回したが、それでも最後まで残り現在に至るまでの付き合いとなったギルベルトは、ある意味特別な相手といえる。 手段を選ばないやり方には問題が無いとは言い難いがきちんと時間をかけて裏を取り、そして何にも媚びることのない公正な彼の記事のためなら、ごくたまにだが協力する気になれる。 「へいへい、暇じゃねーんだろが」 再びばっさり切り捨てながらも口元に笑みを浮かべてギルベルトはレコーダーのスイッチを入れた。 ギルベルトもまた、警察関係者は嫌いだ。事件は尽きない、記者としてネタに困ることは無いが、調べれば調べるだけそれを正すはずの彼らがどれだけ―書くなという圧力も度々かけられた。当然屈する気などないが、別に読者に疑問や不安を与えたいわけでもない。よってどうぼかして書くべきか悩んだことは数知れず。 そんな警察の中でイヴァンと彼の友人たちは最早異質の類だ。立場や権力に頓着しない姿勢は自分に近いと好感を持てたし、何よりちゃんと事件を解決してくれるからとても記事が書きやすい。 今回世間を散々騒がせたマフィア構成員連続殺傷事件にも、彼らが絡んでいたと聞く。 「訊きたいことだって察してんだろ?話が早いぜ」 「そうだね。…じゃあ答えるけど、君に話せることは何も無い」 「はぁ!?」 基本的に取材に協力的かといえば否であるイヴァンだが、今回訊けと促してきたのは彼の方。そういうときの彼はちゃんと話をしてくれるはずだ。 「おいどういうことだ?圧力…じゃねえな」 解決に際してメディア対応をしたのは当然、警察上層部だ。断片だらけで、普通の人間なら満足できるはずもない情報の少なさは、意図的に伏せられたもの。 だからこそギルベルトはイヴァンに話を聞こうと呼び出した。メディアに興味は無いが警察権力に義理立てする気もない彼なら、自身の正義で判断した真実を教えてくれる。それが。 上層部の布く緘口令など右から左である彼が口を噤む理由が解らず、ギルベルトは一瞬混乱した。そんな様をイヴァンは薄く笑みを浮かべたまま見つめていた。楽しげ?いや違う―全く読めない。 「…なら、バーラエナの方か?」 世間としては、「事件が終わった」事への安堵の方が大きかったのか不満の声は少なかった。しかしメディア関係者は流石に、そこそこの人間がその情報量に不満を持った―が、結局誰一人独自に突き詰めようとしなかった。 事件の原因、関係者が「マフィア」だったせいだ。 街の中でも一番有力な組織。歓楽街を仕切り、その振る舞いは治外法権(まあここの原因は警察の能力の問題なのだろうが)。その構成員が何人も殺されるなどという、彼らにとっては大きすぎる失態をつつく勇気のある者が、いなかった―ギルベルトを除いて。 事件捜査の段階で、ギルベルトはイヴァンたちが一家の事務所へ出入りしていることは知っていた。しかしだからといって、怖いもの無しの彼らがマフィアに何か言われて口を閉ざすなど考えにくい。 理由がさっぱり解らない。訊けば良いのだろうが、看破してみせない限りイヴァンは絶対に答えやしないことも知っている。 イヴァンはグラスの残りを一息であおると、レコーダーの隣に空になったグラスを置いた。
「違う」
テーブルに硝子の触れる硬い音と共に、はっきりと短く言葉が落ちる。 「僕の判断で、話さない」 真っ直ぐに視線を向けられて、ギルベルトは暖かい室内にいるはずなのに寒気を覚えた。 笑みを消した口元、目にも一切の感情が―いや違う。見たことのないくらいに、真摯な光。 「君にも忠告をあげる。…まあ、止めはしないけど」 それは一瞬のことで、すぐにイヴァンはふっと微笑を浮かべた。見慣れたはずの綺麗すぎる笑みに、また別の寒気を感じる。随分久々に、見た気がする。 「それにもうどうせ何も見つからないしね」 立ち上がる椅子の音に紛れた言葉は、今度はギルベルトには聞こえなかった。 「…珍しいな」 やっとのことで言葉を返すと、イヴァンも軽く肩を竦めて眉を下げて見せた。 「そう、だね…色々と大変だった気がする」 すっかりいつも通りの顔に戻って笑うと、イヴァンは腕時計に視線を走らせてキッチンの奥へ声を投げた。 「またね、フランシスくん」 「ん?あーお疲れさん。また皆連れて来な」 「うん、お休みなさい。…ギルベルトくんも、期待に沿えなかったお詫びに今度は僕が奢ってあげるね」 ギルベルトは我に返った。無意識に体が硬直していたことにやっと気がつく。 顔をしかめ、ぶんぶんと手を振ってみせる。 「うえ、やめろやめろ気味が悪い。いつものことだろうが」 「そう?」 「次の事件に期待させて貰うからいいってこった」 「…事件なんて、起きない方が良いんだよ」 ぽつりと零して、イヴァンはマフラーを翻す。ドアが閉まり、ベルの余韻がやんで漸くギルベルトは深々と息を吐き出した。カウンターへフランシスが戻ってくる。 「もっと長引くかと思ってたけど?」 「の、つもりだったんだがよ。…何か、調子狂うぜ」 しかめっ面のまま短い銀髪を掻き毟るギルベルトの前からボトルとグラスを下げながら、フランシスはイヴァンの消えたドアの方を見やった。 「ま、あいつがあれだけ言うんだ。たまには、聞いてあげても良いんじゃない?」 「えー、ああいう態度取られちゃ余計気にならねぇ?…って言いたいとこだけどよ、あいつが駄目となると実際お手上げなんだよなぁーくっそ」 読み違えてはいない、はず。だからこそ余計に解らない。 他の客がいないのをいいことに遠慮なくもやもやした気持ちを吐き出す。 「だぁーっもーわっかりにくいんだよ、あいつはよー!」 「お前、ほんとあいつに敵わないよね」 テーブルに両手を投げ出しばたばたしているギルベルトを楽しげに眺めながらフランシスはシェイカーを振り始めた。 「ほれ、口直し作ってやるからもう諦めな。まだ客が入るには時間ありそうだから、付き合ってあげるよ」
* * *
沈黙の意図。彼なりに護りたい意志。
言外のやりとりその弐。ギルベルトはアーサーほどは察せない(それでもある程度読めるだけ凄いと周りは言うが) 互いに情報を出す出さないで駆け引きするけど、いつもイヴァンの圧勝で終わってるらしい。
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登山あれこれに改タイトル
登山ブログ第1弾 - マレーシア、キナバル山;4095m
11/25/2017-11/27/2017
大人になってはじめての本格的な登山を体験してみた。どうして新しいことにチャレンジしたんだろ。トライアスロンを始めた当初(25の時)、アイアンマンレースを完走するか、エベレストを踏破するかで二者択一したのを覚えてる。今年ふとしたきときに気づいたのは、どうせ人生長いんだから両方やればいいじゃん、ということだった。まあ、もちろんゆっくりでいい。急ぐことはないから一歩ずつ目標達成のために努力していけばいいんじゃないかと思ってる。もう一点理由を加えるとすれば、トライアスロンも登山も両方好きになれるのは、急いではだめ、ということが前提にあるスポーツだからだと思う。普段の仕事・生活だと効率とかスピードを重視しすぎる傾向にあって、いろいろと辛い時が多い。そこまで急いでどうすんの?っていうぐらい。まあ、そういう習慣は小学生のときからずっとだから慣れてはいるんだけど、そればっかりじゃ人生楽しくないからね。
まあ、そんなこんなで30過ぎてから二つ目の趣味に手を出したわけです。目指すは東南アジア最高峰のキナバル山。4095m。21歳の時に富士山登って以来だから、完全にどうなるか未知数だった。不安ではあったけど、トライアスロンできる体力があれば大丈夫かなって思った。
結果的にはものすごく楽しかった!熱帯のジャングルを抜けて、森林限界上の頂上に立った時はやっぱりうれしかったね。体力的には特に問題なく、単純に足の筋肉疲労が最後の方は溜まったかなっていうぐらいで済んだのはよかった。一緒に行った連中がスローペースをずっと守ってくれたのはすごく助かったと思う。ついつい普段のくせで早く行けよ、って心中思ったりもしてた。だけど、結果的にはあのペース配分でよかったんじゃないかな。さもないと頭痛くなったり、足もっと痛んだりしたんだろうなって思う。あと、仲間たちに教えてもらったのは山をなめるな、ということかな。ただ僕的に解釈しなおすと、本質として大事なことは、自分の体調・体についてよく知っておくこと、そしてそれに見合った準備を自分でしろ、ということだと思う。経験値の高い彼らからいろいろと装備とかテクニック的なことは参考になったけれども、大事なことは自分にしかわからない気がした。そんなこともあって以下は自分の参考として、経験を記しておきたい。
準備:
今回もっていかなくて後悔したものは、厚手の靴下、手袋(軍手がいい)、ヘッドライト(現地で25リンギットで借りた)、雨具(結果として降らなかったけど、1.5ドルより高いものがいいと思う)。持って行ってよかったものは、ボトルホルダー(ペットボトルをカバンに吊るせたのはよかった。持ってるチャリ用バッグは案外小さいらしいーアタック用としては最適らしいけど)、ポカリの粉(もっと持っていっていい)、手軽系キャンディー(もっと持ってていい。今回はハイチュー2つとウィダーインゼリー2つ)、タオル(マフラーとしても使えた)、ウェットティッシュ(万能)。特に今回は必要なかったのは虫よけスプレー、トイレットペーパー、ニット帽(ジャケットのフードで済んだけど、本来はあったほうがいいと思う)。ゴープロはもっとよく使い方がわかれば重宝したと思う。今回はそこまで活躍しなかった。カメラはミラーレス一眼を持っていかず、うーん、まあ携帯で事足りた感じかな。
山登り前日夜にチャリ用カバンにいろいろ詰めてて気づいたのは、全然入らないーということだった。だからか、なるべく着る、あるいはカバンに括り付けるということをし始めてた。でもその甲斐あって、うまく収まった気がする。
登山開始ごろ悩まされたのは、トイレに散々行く羽目になったこと。たぶん水分補給をコマメにしてたからだと思うんだけど、それにしても尿意が止まらなくてたぶん山小屋に着くまでに10回以上はした気がする。水洗トイレが各休憩スポットごとにあったからよかったけど、ちょっと水分接種多すぎだったのかな。まあ、でも高山病になるよりかはましだと思う。
1日目
ホテルを6時に出て、車のなかで簡単な朝食をとる。2時間弱経って、ビジターセンターに着く。登録手続きを澄まして、出発地点は標高1800m地点で、山小屋までの6キロをたらたらと登り歩く。岩場の上り坂が多いかな。たぶん山小屋まで息が切れるということはなかったから、やっぱりシンガポールのMRTの階段をひたすら登って足を鍛えたことが功を奏したんじゃないかな。こまめにポカリと舐める系お菓子を口に含んでた。曇り・霧だったから、ゆっくり植物とか周りの景色を楽しみながら登ることができた。何も動物には出くわさなかったけど、いい感じの熱帯植物はいっぱい生えてた。シダとコケの茂り具合がいいね。どうしても目に入るからね。3時ぐらい(歩き始めて6時間後)に山小屋に着いたね。時速500m、というのは驚異的だなって思う。途中支給されたサンドウィッチと果物を食べる。クッキーとかもこまめに分け合いっこしてた。山小屋で4時半ぐらいから夕食。ココアで体を温めるも、外気もそこまで寒くはないね。セーター着てたけど。日の入りを眺めたり、少しストレッチをしてから18時半ぐらいに消灯。
2日目
朝は結局2時には起きたね。あんまり寝れなくてたぶん2時間ぐらいはのどの痛みと布団の心地悪さで夢うつつだったと思う。それでも眠気とか疲れはほとんどなかったね。ちょっとした着替え、必要なものの整理して、朝飯ちょっと食べて、ヘッドライトを借りて出発。たぶん、なんとなくだいぶ不機嫌だったと思う。朝だし。出発は2時50分ぐらい。最初の1キロ近くはひたすら登り階段で、列をなして進む感じ。やっぱり上る人多い。まあ、早くいく人もいれば遅くいく人も。僕らはゆっくりマイペースかな。ただ、同じパーティーの連中でも体力的につらいって人もいて、休んだり水を飲んだり。それでも写真撮ったり、星空を満喫する余裕はあったね。きれいだわ、やっぱり。最後の休息地点からはロープを伝わないと登れない感じのところもあって、すごいなって思った。ただ、めちゃめちゃ危険かっていうとそうでもなく、日の高い帰り道の時見るとまあ、大したことないかなって思えるぐらいの傾斜度。怖く感じたのは真っ暗だったからかな。あとは若干風が強かったから。森林限界を超えたあたりからはずっと岩肌を歩いていく感じ。風は強くて足元しか基本見ないから怖いっちゃ怖いかも。でも晴天。暗闇から徐々に周りが明るくなってくると山の輪郭がぼんやりと浮かんで���る。異様な山体が怪しげ。頂上が近づいて見えてくるころにはだいぶ明るくなってた。むしろ頂上着いた頃にはタイミングよく日の出、という感じで待つことがなかったのが最高だった。いいね、やっぱり頂上に立つと。だいぶ狭いスペースだったけど、初めての高度だし、旅の目的地点だし。頑張った。この時点でも特に体には何も支障はなく、寒くもなかった。しいて言えばトイレに行きたかったぐらいかな。下り道は単調で長い道のり。ただひたすら降下していくだけ。足への負担はこの時溜まったのかな。工夫してもよかったかも。若干小雨がちらついた後に滑りやすくなったときがあって、やや注意力が落ちてた時があったね。たぶん山小屋には9時前に着いて、1時間ちょいゆっくり食事をしてから、10時には下山してた。帰りの6㎞は5時間弱で歩ききったと思う。長い長い岩場の下り坂。けっこう無口だったかな。もっと話してもよかったけど。3時45分にはビジターセンターでの食事も済ませてバスに乗り込む。チップもわたす。50リンギットぐらい。2時間弱のバスの中では足をいたわりつつ、やや睡眠。ホテルに着いてシャワー。これで山登り完了したって感じ。また登りたい!せっかく装備品整えたわけだし。キリマンジャロ登りたいね、近いうちに。
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『アロマキャンドル』
お買い上げあらーとございやしたー、と適当な店員の声。外に打ち出でてみれば、晩秋の中之島、つるべ落としの夕暮れはビジネスマンの波とビルの騒めきにさらわれてあっという間に夜になる。そんな夕暮れと夜の間にあるマジックアワーからブルーアワーへのトランジションは、心のどこかで諦められないことを諦めたときの消失感に似ていた。 袋に入っているアロマキャンドルは、好きだった人の匂いを消すために梅田の百貨店で買った。彼と散々交わした言葉がすれ違っていたってことはきっと他のこともすれ違っていたのだろうけれど、彼の甘く爽やかに私を殺す匂いだけは、いつまでも私を捉えて離さなかった。 カップに入ったラベンダー色のそれは、火をつければ、香りもゆらめきも長く続くのがウリだった。しかし日常生活の中で使われるものにしては凄く丁寧に包装されていて、ご丁寧に箱に入っている。 ──カサリ。 おっとっと、と、私が小さな段差につまづきそうになったときに、その拍子で小さな紙の擦れる音が聞こえた。袋の中を覗くと、薄い桃色をした正方形のメッセージカードのようなものが見えた。 ……店員さん、こんなの入れてたっけ? 私は疑問を抱きつつも、袋に貼られているテープを剥がして、そのカードを見る。少し暗くてよく見えないけれど、美麗な字でもって簡単なことを書き連ねているようだった。商品の説明だろうか。とりあえず怪文書や連絡先の類ではないことに一安心していると、奥からもう一枚のカードがズレて見えた。 そこにあったのは色あせた写真で、それがここにあること自体、とても非現実的、奇怪だった。 私たちが行った十年前の京都旅行の写真なんて、何でさっき買ったアロマキャンドルの袋の中にあるわけ? その不可解さが深い不快になった。誰が何のためにこういうことをするのか分からないけど、そういうのは辞めてほしい。何の悪戯だったとしても。 でも、くだらないことばかりだから、余計に過去のことが輝かしく見えている。昔を良く思ってしまうから、今はこんな写真、見たくなかったんだって思ってるのに。ふわりと店と商品の香りが詰められた袋を抱きしめるのも辛いのにやめられない。 私は行くあてもないままに、ふらふらと時代を感じる街を歩いてみた。誰も彼も足を早めて我が家へ帰るのだろうか、それを横目に私は昔日を捨てようとしてる。でも、捨てられようとしてる思い出と記憶がとても虚しく助けを求めるので、心はその残酷な残響で満たされていた。 何気なく過ぎる毎日の中で出会った彼なら、すぐに彼のことを過去に出来ただろう。逆にいえば、大切な思い出の中で出会った彼だから、一度も捨てようと思えないでいる。 いつでもいいから、このアロマキャンドルが捨てられるようになるまで、今はこの安心する香りを嗅いで眠っていたいと思った。そうすれば、追憶から出られなくなることなんてなくなると信じている。 長い追想を終えたあと、いつのまにかアパートの四階にある自室に戻っていた。 私は電源が切れたように眠り込もうとしたが、やらなければいけないことはたくさんある。人間として生き長らえるためにはご飯も作らなきゃいけないし、最低限掃除も洗濯もしなくてはいけないし、何より買ってきた香りを楽しまねばならないと思った。 そんなわけで、買ってきたキャベツを千切りにした横に、豚肉の野菜炒めと味噌汁、ごはんを盛った簡単な食事と、身の回りの諸事をこなしたあとに、袋からアロマキャンドルを取り出して、少しまだ彼の香りの染みついた部屋を綺麗さっぱり消すつもりで火を灯した。 ゆらゆら、ゆらゆら、火が揺れているのを見るのはとても気持ちがよくて、その揺らぎに合わせて、うとうと、うとうと、としてしまう。最近は夜更けまで誰かと飲んでいたから、目にクマが出来てしまっているのに手元の鏡で気が付いてしまったりなどしたが、もう気にしない。何もないのだ。 私はそんなわけで意識を霧中に蹴飛ばした。
◆◆◆
頭が痛かった。 正直、二日酔いするまで飲ませる上司のことは嫌いだし、話が合わない同期と飯に行くのなんか金と時間の浪費に過ぎない。かといって、最近彼女と別れたから、浪費だと言っていたそのふたつは生憎持て余している。 今日は前々から有給を使って身体を休ませることにしていた。生憎の雨でどこにも行けないが、一人で長風呂したりテレビを見たり、あるいは寝たりするくらいでちょうどいい。 そんなことを思っていると、部屋のなかに奇妙なものがあるのを見つけた。 「俺、こんなの買ってたかな……」 それは小さな薄紫の容器に入っていて、固形の蝋のようなものが流し込まれていた。香りは思っていたよりも強く、点けた覚えのない火がゆらゆらと揺れていた。 傍には二枚の写真が袋の中に乱雑に入っていて、そのうちの一枚は、いつだったかの京都への卒業旅行だった。八坂神社でスイカ売りのおっさんに絡まれたり、とにかくひたすら歩かされて翌日俺まで筋肉痛……なんか、懐かしくなってしまっていけない。 彼女とは、その卒業旅行のときに告白されたのがきっかけで付きあった。元々、仲は特別良かったんだろうけど、『男女の友情』とやらを馬鹿正直に信じていたから一切手は出していなかったんだけど、そのときに一つ、二つとリミッターが外れていった。 それから十年も腐れ縁みたいな形で続いてたのに「急に別れる」なんて言い出したのは、たぶんアイツもそれなりに驚いたり悲しんだりするだろうけど、当然のことだと俺は思っている。 ところで、気味の悪いアロマキャンドルが放つ香りは、俺には正直合わなかった。袋の横に置かれていた説明書きに��『返品不可』の四文字が書かれているので、店に突っ返すことは出来ない。だからといって、どこかに捨てるなんてのは気が引ける。 何気なく生きている中で使うには、ちょいとばかし格式高すぎるそれを、俺は火を消して元々入っていたであろう箱の中にしまった。そしてそれから窓を開けようとしたが、雨だから開けちゃダメだってことを思い出して、少しばかり憂鬱になるなどした。 そうだ、何か本��も借りて、気分を紛らわそう。ついでに、知り合いか誰かに会ったなら、少し忌々しいこれを押し付けてしまうのもいいな……。 思い立ってすぐに身支度をし、四○三号室を出て、近くの駅から京阪に乗って中之島駅で降りた。この駅は学生時代に良く通った町並みが広がっていて、とても好きだ。とくに夜景がいいんだけど、もちろん朝の清かなる通勤風景もまた素晴らしい。大阪の中で、こんなに人の流れが実感できる町は他にないんじゃないだろうか、と思う。 俺は駅から少し歩いて、レトロ感が全面に主張してくる大きくて古い図書館で素晴らしい本ばかり借りた。恐ろしく高尚だとか崇高だってわけじゃないけど、低俗ってほど大変な本じゃない。当たり前のことを当たり前にしてくれるような本だけを選んで、借りた。 問題はその帰り道、件のアロマキャンドルを売っている店のある百貨店の横を通り過ぎたときに起こった。俺の記憶の中で一番強烈なかたちで残っている香りを漂わせる女が、俺の横を通りかかったのだ。 忘れかけた記憶がそれをトリガーにふっと蘇る音がする。 振り返ってはいけない。もう、俺はすっぱり忘れていただろうに、そしてその香りを捨てようとしていたのに。 もうシルエットになっていた女は、俺があげたのと同じ柄のマフラー、俺と会うときによく着ていたベージュのコートを着ていたようだった。何より、彼女の金木犀の香りをどうやったら忘れられるだろうか、そう思ったときにはそのアロマキャンドルを手放すどころか、自分からその店のそれを買い求めていた。 「いらっしゃーせー」 適当な店員の声が俺を苛立たせるが、なんとなく聞き覚えがあるような気がした。どこで会ったかなんて覚えていやしない、いや、会ったことはたぶんないはずなのに……。 正方形のメッセージカードがズボンのポケットから落ちたとき、二度とこの奇妙な既視感を味わいたくないと思った。 あんないい女と別れてからちょうど一か月後の、晩秋のことだった。
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