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#ジーザス・サン
onishihitsuji84 · 8 months
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こんにちは(爆撃機より)
 一月。僕はBig Dataの「Dangerous」を聞いている。
 ”危険”。激しい曲だ。牧歌的な幸せではなく、衝撃を聴衆に要求する音楽だ。  しかしそのリズムはテーマから離れている。始まりから、均一。決して決して焦らない。
 デ・デデデン。デデ――デデ。  デ・デデデン。デデ――デデ。
”How could you know, how could you know? That those were my eyes Peepin' through the floor, it's like they know”
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 まず、Bluetoothは耳栓だ。挿せば駅の雑踏さえもくぐもって聞こえる。 ――ボタンを押せば音楽が流れる。音量は最大で、皮膚・血液・脊椎に三原色でリズムが巡る。体が揺れる。
 交感神経に音楽が噴水のようにきらきらと溢れる。  足は人間でごった返す駅の階段を上る。
「駅構内で走るのはおやめください」
 薄汚れた階段を真っ白なスニーカーが踏みつけていく。靴底からのテクニカルな響きが、がつんがつんとリズムを作り、人ごみの中でも音楽中毒者を露にする。曲調に合わせ、力強く一段一段。
 全身の筋肉という筋肉に熱い血が駆け巡る。さあっと雲が割れるように、気持ちが明るい側へと開けていく。  あたらしい一日が始まるのがわかる。
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 洋楽を聞いていると、言葉が雨のように降り注ぐ。  アルファベット歌詞の断片がうかぶ。広告の文字がおどる。リズムを刻んで歩いてく肉体のダイナミズムが七色の熟語を産み落とす。
「レインボー」、「水は敵ではないからね」、「ソースと目玉焼き」。 「リーガルのスニーカー」、「語ることと、その言葉」。 「セックスがつむぐ運命の糸」、「試験会場」、「輪ゴム即売会」。 「全てがどんな場所でも一度に」、「鳩を撃つ」。 「もう一度ファインダー」。 「ピクチャー・イン・アメリカ」。
「アメリカの風景」。
 そう、「アメリカの風景」……
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 僕はアメリカの小説をうんとたくさん読んできた。  高校生の頃に『ロング・グッドバイ』と『ひまわりのお酒』を読んで以来ぞっこんだった。『偉大なるギャッツビー』もまた。
 そして僕は洗脳され、アメリカの小説に首ったけになった。ホーソーンからアンソニー・ドーアまで、アメリカの作家なら何でもよし。時代を問わず読み漁った。
『キリマンジャロの雪』、『ティファニーで朝食を』、『スローターハウス5』、『頼むから静かにしてくれ』。
『あしながおじさん』、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、『ディキンソン詩集』、『ウインドアイ』、『宇宙戦争』。
『ジーザス・サン』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『オン・ザ・ロード』、『心は孤独な狩人』、『あの夕陽』、『東オレゴンの郵便局』、『賢者の贈り物』、『吠える』、『ドイツ難民』。
 何度も何度もアメリカのごつごつとした人情ドラマにときめいた。そのふくよかにして安らかなる腹に、禿頭を照らす脂に、腐臭とファストフードをしてゆらめく体臭に、心をまるごと奪われた。
 僕は『白鯨』を脇に抱えて高校までの坂を駆け上がった。黒板に並んだ公式ではなく、バナナフィッシュの読解に挑んだ。昼休みにはクラスメイトにフォークナーのリアリズムを論じた。ポール・オースターのする幽霊をひとり紐解いた。
 気づけば放課後だった。時の過ぎるは手のひらから滑り落ちる水滴がごとく素早かった。  眼は窓を見た。クラスに残っているのは一人で、夕陽もすでに隠れんとしていた。いま、文学青年の眼にはアンダーソンの文学に似た漠たる闇だけが映り込んだ。闇は太った白人女のようにさえみえた……
 実際、当時は「アメリカの小説」というラベルさえあればなんでも読めた。読むと必ず手を叩き、跳ねてまで面白いと感じていた。そんな彼の心にあったのは青年期特有の曇り。正しくは、夏の夜の冷風のようにもたらされて形無き闇。
 ぶうん……
 響く、静寂で巨大な暗闇。甘く、性的でさえある美しい深紫。 そんな闇をギザギザに裂いてしまうアメリカの小説のけばけばしい光。光、光は当然24時間無料、無料で、青年の眼球は視神経まるごと剥き出しにされ、麻薬のようにガンガンと無料、無料で、思考は麻痺して、その心には『巨大なラジオ』。
 でも、それはけして悪いことではなかった。僕はアメリカの小説と一緒で、幸せだった。
 つまり、恋をしていたんだ。それも猛烈に、刺激的に、甘く。
 LA、スプリング・フィールド、タコマ……僕のイメージはアメリカを横断した。  僕はモーテルに飛び込み、アメリカの小説とでベッドに入った。シーツの下で僕らはえんえん悲鳴に似た喘ぎ声をあげ、朝陽がみえるまでのたうち回った。  朝陽は新鮮な希望を満載して町に襲来し、東の空を陶器のように白く磨き上げる。モーテルの一室にも朝陽はそっと忍び込む。情熱に果てて眠り込む若者をも白く輝かせる。あたたかく、やさしく抱きとめる。
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 爆撃機はずっと唸る。
 ぶうん……
 ぶうん……
「大西君はどうしてアメリカの小説が好きなんだい?」 「アメリカが好きだからですね」 「どうして大西君はアメリカが好きなの?」  僕はいつもみたいにときめいて言う。 「やっぱりアメリカにはアメリカン・ドリームがあるじゃないですか。おおきな夢が、僕をうきうきさせてくれるんです!」 「でもアメリカは戦争をしているよ。人を殺している。戦争を応援している。ベトナムを焼き払っている。戦争を計画している」 「大西君は戦争は好きかい?」
 その答えは当然ノン(否)。でも、言葉は詰まって動かない。
 大学二年生のあるとき、懇意にしていた教授から僕はそう問われる。  そのときのことは一から十まで覚えている。教授の授業が終わって、いつもみたく談笑をして、爆撃機みたいなエレベーターに乗っているときだった。パーマに水牛みたいなのんびりとした顔つきをした彼は僕にそう問いた。 「アメリカの文学は戦争だ。戦争と資本主義のメカニズム、その歪を何度も何度も解釈する文学だ。悪夢を、どうやって覗くかの文学だ」 「大西君は戦争が好きなのかい?」
 リアルとは厄介だ。文章と違い、書き直すことも、一度手を放して寝かせるということもできない。  瞬間は過ぎれば過去となり、過去は改変不可能で、爆撃機式エレベーターは五階から四階へと渡った。  そして四階から三階。誰かが乗り込んでくるということもなく、扉は完全に閉じたまま。  それで、仏文学の教授は大部のファイルを両腕で抱えており、ずんぐりとして柔和な表情をこちらを向けていて、均一。崩れない。エレベーターもぶうん――ぶうんと同じ。一つの形を崩さない。
 ぶうん……
 ぶうん……
「戦争は嫌いです」 「ふうん……」  そこでエレベーターの扉がゴトゴト開く。学生がなだれ込み、その日の僕たちの話は過去になり、終わった。高校二年生から続いていた僕の米文学への忠誠もまた同様に。
 でも、それは悪いことではなかった。結果僕は仏文学や英文学、カナダ文学、ボルヘス。そしてシェイクスピア、カフカ、ドストエフスキー。新しい文学をノックすることになる。だから悪いなんてことはなかった。
 そもそも、善悪なんてものは実際には存在しない。正しさなんてものはまやかしだ。比較でしか示せないものに大した価値なんてものはあるわけがない……
 でも、僕は戦争は嫌だった。心からそう思った。  文学も、恋もそこまではごまかせなかった。
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ignitiongallery · 5 years
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翻訳家・柴田元幸のRead by body in 東京
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翻訳家・柴田元幸のRead by body。東京で開催する今回は、
6月1日、三軒茶屋にあるnicolasを会場に、小松陽子、勝井祐二をセッション相手に迎えて開催します。
トークあり、質疑応答あり。空気の振動を一緒に感じられる親密な空間で、
ぜひ“身体で読む”ことを体感してもらえたら。
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気づくとのめり込んでいる小説があります。
それはきっと、頭ではなく身体で、小説を読んでいるから。
小説が身体を響かせ、自我という輪郭がなくなっていく。
そういう小説を読んでいる時はきっと、
人は音楽のように小説を体験している。
翻訳家・柴田元幸のRead by bodyは、
朗読と音楽のセッションによって、小説を身体で読むという感覚を体験してもらうイベントです。
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柴田さんは原文を音楽として捉え、その響きやリズムを日本語で書き取っています。だから柴田さんの訳文は音楽のように、頭を使わなくても自然と身体に入ってくる。
いわば、翻訳家・柴田元幸は小説を聴くスペシャリスト。
柴田さんが原文から聴いている声を、読者にも聴いてもらうには、朗読をするのが自然でした。
朗読に音楽がくわわって、小説をより響きとして、身体で感じる。
一度、身体で読むと、きっと文章の身体、文体の捉え方が変わって、
また新たな読書体験に繋がっていく。
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Session 1:柴田元幸&小松陽子『路地裏の子供たち』(*キャンセル待ち)
日程:2019年6月1日(土)
会場:nicolas(世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル2F)
開場:13時 開演:13時30分
料金:2600円(nicolasのお菓子と1ドリンク付き)
出演:柴田元幸(朗読)、小松陽子(ピアノ)
定員:22名さま
4月22日に発売したスチュアート・ダイベック/柴田元幸訳『路地裏の子供たち』(白水社)。
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本書の刊行を記念して、柴田元幸の朗読と、ピアニスト・小松陽子のピアノのセッションを行います。
『路地裏の子供たち』は、ダイベックが生まれ育ったシカゴ南側の工業地帯での原体験を元に書かれており、記憶を甦らせる装置として、路地裏の猥雑な音と、食べ物にまつわる描写が数多く登場します。
会場であるカフェ・nicolasの壁や天井、通気孔などには、さまざまな匂いや切れ切れの会話、言い争い、笑い声、ぱちぱちとはねる油の音などがしみ込んでいます。
この空間の残響と、小松陽子さんのピアノが共鳴することで、
小説の中の出来事がもう一度いまの出来事として生き直されているという実感を、体験してもらえたら。
そして、ダイベックには本作のほかに『シカゴ育ち』(白水社)という短篇集があり、そのなかに「冬のショパン」という作品が収録されています。
登場人物のひとりであるマーシーと、ピアニスト・小松陽子さんが重なったので、今まで柴田さんが一度も朗読してこなかった「冬のショパン」も、今回セッションします。ご期待ください。
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Session 2:柴田元幸&勝井祐二『ジーザス・サン』(*キャンセル待ち)
日程:2019年6月1日(土)
会場:nicolas(世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル2F)
開場:17時45分 開演:18時30分
料金:3900円(nicolasの前菜&メイン&デザート&1ドリンク付き)
出演:柴田元幸(朗読)、勝井祐二(ヴァイオリン)
トークゲスト:藤井光
定員:18名さま
長らく版元品切れとなっていたデニス・ジョンソン/柴田元幸訳『ジーザス・サン』(白水社)が、4月に重版されました。
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これを記念して、柴田元幸の朗読と、音楽家・勝井祐二のヴァイオリンのセッションをおこないます。
“『ジーザス・サン』で何より目立つのは、そこらじゅうに地雷が仕掛けられているかのような、その文章にみなぎる電位の高さである。突如出てくる、書き違いではないかと思えるような一見場違いなフレーズは何度読んでもインパクトを失わない。”(訳者あとがきより)
この柴田さんのあとがきは、勝井さんのヴァイオリンとも共鳴していると思います。
文章、音楽にみなぎる強烈なイメージは、僕らをここにいながらどこまでも遠くへ連れていきます。デニス・ジョンソンも、勝井さんも、世界に対して開かれている。
 “世界の表面が剥がれ、ぎりぎりの渕でしか見えないものが、強烈な密度で現れる。どうしようもない人間たちの、不穏でまぬけで殺伐として輝く風景の先で、それでも自分を助けることはできるのだと、その瞬間がここに書かれている。”
(柴崎友香さんの『ジーザス・サン』重版帯コメント)
どん底から救済を夢見る人々の姿を、日常に夢見るひと時をもたらすnicolasで、体感してもらえたら。
 そして、2017年に他界したデニス・ジョンソンが死の直前に脱稿した、『ジーザス・サン』に続く二十六年ぶりの第二短篇集『海の乙女の惜しみなさ』(白水社)が、藤井光さんの翻訳で4月30日に発売されました。
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そこで今回はセッションの間のトーク&質疑応答の時間に、ゲストとして翻訳家・藤井光さんをお迎えし、柴田元幸さんとデニス・ジョンソンについてお話いただきます。
こちらもご期待ください。
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Read by body in 東京・Session 1 & Session 2 共通チケット:6000円(nicolasのお菓子&1ドリンク、nicolasの前菜&メイン&デザート&1ドリンク付き)(*キャンセル待ち)
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お申し込み:ignition gallery
*定員に達したため、キャンセル待ちの受付となります。
下記アドレスまで必要事項を明記のうえ、メールをお送りください。
件名「路地裏の子供たち」、もしくは「ジーザス・サン」、もしくは「Read by body in 東京・共通チケット」
1.お名前(ふりがな) 2.当日のご連絡先  3.ご予約人数
*ご予約申し込みメール受信後、数日以内に受付確認のメールをお送りします。 *メール受信設定などでドメイン指定をされている方は、ご確認をお願いします。 *当日無断キャンセルの方にはキャンセル料を頂戴しています。定員に達し次第、受付終了します。
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プロフィール:
柴田元幸
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©島袋里美
翻訳家。米文学者・東京大学名誉教授。1954年、東京都生れ。
『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。翻訳の業績により早稲田大学坪内逍遙大賞受賞。 アメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、著書も多数。
最近の翻訳に、ポール・オースター『インヴィジブル』、スチュアート・ダイベック『路地裏の子供たち』など。 文芸誌「MONKEY」の責任編集を務める。
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小松陽子
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福島県生まれ、ピアニスト/作曲家。
5歳よりピアノを始め、武蔵野音楽大学、同大学院にてクラシックピアノを学ぶ。卒業後、作曲活動を開始��� 
2016年にpiano atelier Flussをオープン、Yoko Komatsu Piano Schoolを開く。同年にピアノアルバム「neumond」を発表。 
楽曲提供や、朗読をはじめ様々なコラボレーションを行うなど活動は多岐にわたる。 
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勝井祐二
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ROVO . KOMA . TWIN TAIL . DRAMATICS . 勝井祐二 × U-zhaan . などのバンドやユニットと、ソロや様々な音楽家との即興演奏で、エレクトリック・ヴァイオリンの表現の可能性を追求し続ける第一人者。 1996年、山本精一と「ROVO」結成。バンド編成のダンスミュージックで、90~00年代以降のオルタナティブ~野外フェスティバルのシーンを牽引した。ここ数年は毎年タイを訪れ、現地のバンドに加わってタイ国内をツアーするなどの交流をしている。 2018年第92回キネマ旬報ベストテン文化映画部門第一位受賞の映画「沖縄スパイ戦史」の音楽を担当。サウンドトラックアルバム「勝井祐二フィルムワークス」を発表。 http://katsuiyuji.exblog.jp/ 
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nicolas
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三軒茶屋にあるカフェ。茶沢通り沿いのパン屋さんの二階にあります。
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宣伝美術:横山雄
企画:熊谷充紘(ignition gallery)
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yumitsue · 4 years
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事故
私は車に一度轢かれ、自転車に一度轢かれたことがある。普段車には乗らない。交通事故といえば、デニス・ジョンソンの短編集『ジーザス・サン』の掌編「ヒッチハイク中の事故」が思い浮かぶ。ヤク中の主人公の男がヒッチハイクをするが、その車が事故に会うというもの。語り手の男はヤク中だから、語りがバグって、事故は過去だが事後が混同されているような話し方をする。バグといえば、ゲームボーイの初代ポケモン赤・緑がなにより印象深い。あれはバグが多かったが、多いだけでなく、積極的に「バグらす」ことを楽しんだ。いろいろなバグのプレイ、バグのバリエーションがあって、だから現在のプレイもまたひとつのバグみたいで、かつ通信ができたから他のプレイヤーとの共通点もしっかりとあった。そもそもバグってるんちゃうか、ちょっとのバグでがらって変わってしまうんちゃうかっていう直感。他の交通事故の読み物といえば武田百合子『富士日記』で、あれは東京と山梨を自動車で行き来する場面が延々と続く。それでいつも武田百合子は交通事故を見るし、聞くし、意識している。その時間が積み重なって、実際それが起きたとき、まるで自分が事故を起こしたようだった。運転なんてしたことないし、できればせずにすませたい。
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shisuno · 3 years
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雨が降っていた。巨大なシダが頭上に垂れていた。森が漂うように丘を下っていた。急流が岩のあいだを流れ落ちるのが俺には聞こえた。なのにあんたらは、あんたら馬鹿らしい人間どもは、俺に助けてもらえると思ってるんだ。/「ヒッチハイク中の事故」 奴の心には優しさがあったのだと言ったら、信じてもらえるだろうか?奴の左手は右手が何をしているか知らなかった。ただ単に、何か重要なつながりが焼き切れてしまっていたのだ。もし俺があんたの頭をぱっくり開けて脳味噌のあちこちにハンダゴテを当てることができたら、あんたのこともそういう人間に変えられるかもしれない。/「ダンダン」 「ジーザス・サン」デニス・ジョンソン
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abraxas174 · 5 years
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『海の乙女の惜しみなさ』デニス・ジョンソン
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表題作「海の乙女の惜しみなさ」を筆頭に「アイダホのスターライト」、「首絞めボブ」、「墓に対する勝利」、「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」の五篇からなる短篇集。「私、俺、僕」と作品によって異なる人称に訳されてはいるが、英語ならすべて<I>。一人称視点による語りで全篇統一されている。もっとも、内一篇はアイダホにあるアルコール依存症更正センターに入所中の「俺」が外部にいる家族、知人にあてた手紙という形だ。
「私」の語りで語られる「海の乙女の惜しみなさ」は、掌編と言っていい短いスケッチのような章も含め、十の断章で構成されている。現代アメリカで広告代理店に勤める六十代の男が、自分の見てきたいろいろな人生の瞬間を思い出すままに語り出す。若い友人二人が結婚するきっかけになった夜のこと、自尊心が高価な絵を灰にしてしまう話、夫を亡くしたばかりの妻と出会った知人二人の話、美術館で知り合った絵描きとの交流と彼の自殺に纏わる話、等々。
それらが、互いに共通する要素を接点として、まるでしりとりのようにたいした脈絡もなく語り継がれてゆく。どうやら「君」に語り聞かせているようで、八十年代のゴールデンタイムのテレビ番組を見ていたなら、という問いかけがなされていることから考えると、自分より若いが、さほど歳の離れていない人間を想定しているようだが。
CMが受賞するのだから、それなりに成功を収めている。住んでいる地区もバスローブに房飾りのついたローファー履きで夜出歩けるというから高級住宅地だろう。若い頃に二度の離婚を経験し、今の妻とは二十五年続いている。すでに自立した、美しくも賢くもない娘が二人いる。人生に特に不満はないが、記憶が薄れつつある過去に未練もない。ときおり、静まりかえった近所を歩きに出る。民話に出てくる魔法の糸や剣、馬を求めて。あの『煙の樹』のデニス・ジョンソンも、枯れた境地にたどり着いたものだ、と思わされる。
「アイダホのスターライト」は、破格の一家に育ったキャスという男が、リハビリ施設で行われるカウンセリングの様子や、家族の集いに出てくれた婆ちゃんの武勇伝、それに抗アル中薬の副作用のせいで襲われる幻覚を手紙形式で訴える話。はたから見たらとんでもなく悲惨な境遇なはずだが、ジョンソン独特の乾いたユーモアのせいで、面白く読ませる。が、それでいてやはり、地獄の底を覗いたような暗澹たる気分にさせられる。
「俺」が十八歳のとき、盗んだ車で電柱にぶつかって逮捕され、四十一日間、郡刑務所に入れられた。そのときの同房者が「首絞めボブ」だ。周りにいた囚人とのトランプや喧嘩沙汰が語られる。そこで出会った囚人仲間の何人かは、刑務所を出た後も何度も「俺」の人生に気まぐれな天使のように立ち現れては「俺」をヘロイン中毒にし、使い回した注射針で病気に感染させた。血を売って飲み歩く路上生活者になってしまった「俺」の凄惨な思い出話。どん底の人生に落ち込みながら、悔悛のかけらもないのがすごい。
「墓に対する勝利」もまた「君」に語り聞かせる物語。「僕」は作家。LSDによる幻覚作用の中で受けた右膝の診察をまるで他人事のように語るところからはじまり、一人の作家の死を看取る話に横滑りしてゆく。今回の短篇集には友人の死が多く登場するが、なかでも本作が最も凄絶。ひとつ家に死者と同居する幻覚というのが妙にリアルだ。しかもそれでいて、不思議な安らぎに満ちてもいる。ある年を越えると、過去を振り返ることが多くなり、先のことを考えるとすれば、それは「死」のことになる。近頃、私もそうなりつつある。誰もが病気になり、世を去る。「大したことではない。世界は回り続ける」。そうなのだろう。早くそんな境地に達したいものだ。
掉尾を飾る「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」は、それまでのプロットに頼らない気ままな語り口とは大いに異なる、小説らしい小説。よく知られていることだが、あのエルヴィス・プレスリーには双子の兄弟がいた。死産とされているが実は生きていて、悪名高いパーカー大佐によって陸軍入隊時にすり替えられたのではないか、という大胆過ぎる仮説が話の骨子になっている。もみあげを剃り、GIカットにしたエルヴィスは双子の兄弟の方で、本物は殺されていた、というのだ。
コロンビア大学で詩のワークショップを教えていた「私」は、学生のマーカスの詩の才能を高く評価していた。授業でエルヴィスのことをしゃべったのがきっかけになり、「私」は、マーカスにエルヴィスの墓を荒らして捕まった話を聞かされる。マーカスはエルヴィスが双子の兄弟にすり替えられたという仮説に執着していた。マーカスはその後、アメリカを代表する詩人に登りつめるが、あるとき以来本を出さなくなる。長年にわたる二人の友情と、エルヴィスの謎の解明が、双子(ツィンズ)という主題によって、アメリカを揺るがしたあの事件と重ねられる。墓荒らしに執着し、ドッペルゲンガーに振り回される、マーカス・エイハーンという呪われた詩人がエドガー・アラン・ポーを彷彿させ、鬼気迫る。
『ジーザス・サン』に次ぐ第二短編集。再読、三読するたびに、一つ一つの文章が忘れ難い味わいを持って心に響いてくる。「これを書いているのだから、僕がまだ死んでいないことは明らかだろう。だが、君がこれを読むころにはもう死んでいるかもしれない」というところを読んで、巻頭から話者に「君」と呼びかけられていたのが、自分であることに思い至った。長年、本を読んできたが、こんなにも心に沁みた話者の言葉は初めてだ。
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nancy-sy · 5 years
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『ジーザス・サン』重版でリニューアルした柴崎友香さんコメント帯! https://www.instagram.com/p/BxWoj76BSKs/?igshid=hzlddtaud5kk
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9g9glalala · 7 years
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「世界中に降りそそいだ雨が降りそそぐ」
 どれだけ歳を重ねても眠ろうとするとき死を感じて怖くなって眠れなくなる。まだなにもなし得ていないまま死んでしまうのだろうか? いやいや、そもそもなにかをなし得ることこそ生きることだと思っていることのほうがおかしいのではないか。大局的にみれば世界は終わりに向かっているのであって、だれかがなにかをなし得るということはない。じゃあだからといってなにもせず、ただ己の欲望にしたがって、ひとが殺したければ殺し、女を犯したければ犯し、うまいもんが食べたけりゃ好きなだけ食べて、さ、じゅうぶん現世は満足したから死ぬかっつって死ねるもんでもない。  なにが邪魔してるかっていうとそれは倫理感なんかではなくて、幸せでない人間作らずにだれかを幸せをしてやりたいということだけなのだ。俺はまだだれひとり幸せにできていない。それは確信を持って言える。だから死ぬに死にきれない。  といってさ、これはエゴだ。だから自分が満足するかどうかであって、こんなことで右往左往しているのをだれかに言ったところでどうにもならん。この思いは俺が俺の作品を書くために必要なことだから、後生大事に抱えておくだけのことだ。  ところで、デニス・ジョンソンが死んだ。いくつかのすばらしい作品を書いた作家だ。いや、書いた、ではない。���にはわかる。彼はいま、書いている最中だ。  これこそは想像でしかないが、いくらかのひとは、彼はいったいどういう思いを抱きながら死んだのだろうか、きっと満足していなかったのだろう、くそったれ、って言いながら死んだに違いない。そんなことを、どっかのバーでそろそろ愛想を尽かされそうになっている彼女に向かって語るだろう。そんなだからお前は彼女にフラれる。  俺たちは毎日眠り、そして目覚める。目覚めなかったらそれは死だ。死そのものはただそれだけだ。その死のまわりにいくつもの乾燥したゲロがくっついている。そのゲロが嫌いなんだよ、俺は。  文学は人生を想像するためにあるとだれかが言った。でも人生を想像したからといってなんになるというのだろう? 居酒屋で隣り合ったおしゃべりに愛想よく頷いてやるためだろうか? 赤信号を無視して暴走する車に怒鳴らないようにするためだろうか? それとも、自分の人生をゆるやかに肯定するためだろうか。  もしそうなのだとしたら、それは共感なんていう馬鹿げたごっこ遊びなんかではなくて、世界を覆いつくしている悲しみの共有なんじゃないだろうか。  あんたの人生よりも俺の人生は悪くねえ、けどあんただってあいつの人生よりも俺の人生は悪くねえって思うはずだ。それだけでしか俺たちは自分の人生を肯定できない。悪くねえよ、絶対的な悪くなさが存在しないからよお、比べるしかねえんだよお。  それはもうとんでもない悲しみだ。笑けちまうくらいの悲しみだ。  お前も読んでみろ。デニス・ジョンソンの『ジーザス・サン』のいちばん最初の短篇「ヒッチハイク中の事故」だ。  俺はこの小説のこの終わりをくり返し読んだ。血となり肉となるようにくり返し読んだ。しかしこの言葉は血にも肉にもならなかった。そいつは俺の目から侵入して脳をかき乱し、それから身体中をかけめぐったあと、皮膚から外にでて蒸発し雲になって漂ったあと、雨が世界中に降りそそいでいる。わかるか? お前が打たれた雨だよ。
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wineninja · 5 years
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ビール イーヴル・ツイン・ブリュワリー/アゥン・マス・トゥドゥ・ジーザス インペリアルスタウト
ミッケラーのミッケル氏の双子の弟イェッペ氏が創業したブルワリーで、世界中の色々な醸造所でビールを作っているイーヴル・ツイン。 2018年秋にNYのクィーンズに、常設の醸造所がオープン。 それにしてもかなり高価なビールです。
[24缶限定][154087]イーヴルツイン アゥン・マス・トゥドゥ・ジーザス インペリアルスタウトAun Mas Todo Jesus 12/330【要冷蔵】
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  BREW SHEET
国:スペイン カタルーニャ州バルセロナ サン・ミケル・デ・バレーニャ アルコール:12% 初期比重: IBU(苦さ 平均15~20): モルト: ホップ: タイプ:インペリアル・スタウト 価格:1,230円(330mL) インポーター:ビア・キャッツ
ブリュワリー
2010年にイェッペ・ヤルニ・ビヨルスによって設立されたイーヴル・ツイ…
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6wound-blog · 7 years
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4.cântec
 服やブランド品にウトいおれにも一目で超高級品と判る毛皮のコート。
 それをカレイにひるがえしながら、その人はやってきた。雪みたいに白い肌と空みたいに青い瞳。それからキラキラ光る金髪がめちゃくちゃまぶしい。オイオイちょっと、こんな美人サンだなんて聞いてねーよユダ。あ、あと、大事なこと忘れてた。姐さんじゃなくて兄さんなのかよ、姐さんは。でもいちおー会長のコレなわけだから、姐さんてことになんのかな。まあいいや。考えてもわかねえし面倒くせえ。とりあえず姐さん、ってことでいいでしょ。
「あ、あのォ……」 「ユダの代わりか」 「あ、ハイ。おれ、レイです」
 おれは搭乗ゲートをくぐったばかりの姐さんに、おそるおそる声をかける。  すると見た目とはウラハラに、低い声が返ってきた。それを聞いたおれはビクリと身体をコーチョクさせる。なんかこの人、すごい眼力だ。えーっとなんだっけ、ギリシャ神話に出てくる怖い女。なんとかデューサ。アレみたい。なるべく地味な格好で、ユダにこう命じられていたおれが今日着てるのはグレーのスリーピース。ユダが赤いネクタイを締めてくれたから、そこそこキマってると思う。ただ、ユダには売れないホストみたいだって笑われた。あのさあ、ホストはともかく売れないは余計でしょ。  さっきから姐さんはそんなホストみたいなおれを見定めるみたいにして、ジーッとおれを見つめてる。初めて見たときは空みたい、なんて思った青い瞳だけど、これは空っていうのとちょっと違うな。氷みたいだな。あ、思い出した、メデューサだ。さっきの女。
「レイ」 「え、は、ハイ?」 『Poftă bună...』 「ポ、フタ? え?」 「……フ。なんでもない。行くぞ」 「ちょ、ちょっと! 姐さん、待って」 「ネエサン?」 「あ……す、スミマセン。アンタが会長の大事な人だって聞いたんで、つい」 「ネエサン、か。気に入った。今日からオレは、ネエサンだ」 「は?」 「早くしろ。オレは腹が減った」
 こうして姐さんを乗せた白いプリウスは成田空港を出発した。  おれは姐さんが車の種類に文句を言わずにいてくれたことに感謝した。いくら目立たないため、っつったってさあ、仁友会会長の姐さんともあろ���ヒトが白いプリ公なんかに乗ってるとはね。やってらんないよね。そんなおれの心配をよそに姐さんはどうやらご機嫌ウルワシイらしくプリウスの後部座席に寝転んで、ときどき外国語の歌を歌ったりなんかしてた。
『Te am în gînd, în suflet și în inimă...』
 それにしてもさっきのポフなんとかといいこの歌といい、いったいどこの国の言葉よコレ。  さすがに英語や中国語、それからロシア語じゃないってことくらいはわかるけど、中学すらまともに通ってないおれにはまったくチンプンカンプンだ。でも、キレイな言葉だな。なじみはないけど、なんだか流れるような発音で。聞いてて嫌な感じはいっさいない。そこでおれは、さりげなくラジオを消した。
『Anume tu ești cel care apare în mintea mea cînd deschid ochii dimineața, anume tu ești cel cu care adorm...』
 バックミラー越しに、チラリと姐さんの様子をうかがう。  天気はこの時期にしては珍しく快晴で、最高のドライブ日和だ。窓から射しこむ光に照らされた姐さんの金髪が、白く透き通って見える。やっぱ、日本人とは違うなって思った。なんつーか、その、髪も肌も、おれたちとは比べものになんないくらい透明だ。  ユダが見たらうらやましがるだろーな。おれは無意識にこんなことを考えてた。だってアイツが持ってる化粧品には、美白とかホワイトとか、そんなことばっかり書いてあるからさ。この人みたいな白い肌と透き通った感じがほしいのかなって、そう思ったんだよね。ま、ヨケイなお世話、か。
『Tu ești persoana care mă face să respir liniștită în zilele zbuciumate, tu ești persoana care mă face să simt intensitatea momentelor înzecit în timpurile senine...』
 もう一度じっくり耳をすましてみるけど、ウーンやっぱりわかんねえ。  ここが交通量の少ない千葉県の道路だからって、いつまでもバックミラーを、いや正しくは姐さんを見てるわけにはいかない。解読不能な外国の歌に聞きホレてるわけにはいかない。だからおれはハンドルを握り直して、ついでに座席にも深く座り直した。
『Te iubesc...si o spun involuntar, așa simt eu acum si aș fi cea mai fericită dacă am putea păstra aceste sentimente pîna la sfîrșitul vieții...レイ』
 アレ、もしかしておれ、呼ばれました?  呼ばれたような気もするし歌詞の続きのような気もするし。そんなことをグズグズと考えてたら、背中にものすごい衝撃を受けた。完全に油断してたおれは前のめりになって、シートベルトがガコンと反応する。あっぶね、もう少しでハンドルに頭ぶつけるとこだった。そしたらアレだ、エアバックが出てきて前が見えなくなって、そこの寺に突っこんで死んでたかも。お墓までまっしぐら。
「ちょっと姐さん、シート蹴んないで! 危ないからッ」
 こう叫び振り返ると、姐さんはニッコリ、とにかく嬉しそうに笑った。  え、待って。ここって笑うとこですか? おれは慌てて車を路肩に寄せて、セッキョーでもしてやるつもりでシートベルトを外した。それなのにこの人ときたら、座席にふんぞり返って腕組んで、高そうな革靴はモチロン履いたまま、今度は助手席の背もたれを蹴っていた。ったく、いったいなんなんだ、この人。
「腹が減ったと言ってるだろう。どこか連れてけ」 「だ、だから、わかってるけど、こんなクソ田舎に姐さんが飯食うような店、ないってば。だから東京まで戻ったら、どっかで……」 「オレはべつになんでもいい。ただアレ、スシはだめだ。生の魚は食えない」 「いや、心配しなくても東京の寿司屋になんか連れてけねーし」 「あ、アレ」
 おれが自分の財布の中身を確認しようと腰を浮かせた、そのとき。  急に身体を起こした姐さんが、グイッとおれの肩をつかんだ。そして、勢いよく窓の外を指さす。
「アレがいい」 「アレって……え、アレ? 緑のカンバンのアレ?」 「Da. Hai, să mergem! 早くしろ。ゴーだ」 「エーッ……ま、まじかよォ」
 ジーザス。  まじすか姐さん。アレはアレっすよ。おれとシンくん行きつけの高級イタリアン、サイゼリア。
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r100939 · 8 years
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アロー フラワー サン ターコイズ ムーン クロス 人気のパーツ各種 ジーザス ネイル パーツ nail parts
価格:¥108
店舗名:Beach
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nancy-sy · 5 years
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帯を換えると雰囲気も変わる?
帯を換えると雰囲気も変わる? #ジーザス・サン #デニス・ジョンソン #エクス・リブリス #古川日出男 #柴崎友香 #藤井光
重版したと思ったら、あれよあれよという間に再びの重版となった『ジーザス・サン』が10年前に刊行されたときは、こんな帯が掛かっていました。
古川日出男さんにコメントをいただいていたのですね。懐かしいです。本書が、今年創刊10周年を迎えた海外文学のシリーズ《エクス・リブリス》の最初の一冊でした。
あれから、あっという間に10年、というのが正直な感想です。売れない売れないと言われる海外文学の中、なんとか10年続けてきて、それなりに読者も獲得でき、なによりも書店の方や海外文学ファンの中に確固たる地位を築けたのではないかと、ささやかに自負しております。
ただ、何度か書きましたが、この『ジーザス・サン』はこの数年品切れになっていまして、二年前に著者のデニス・ジョンソンが亡くなったこともあり、ジワジワと需要が高まっていたのも感じていました。
しかし、なかなか重版に踏み切るタイミングをつ邦訳刊行、そして…
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nancy-sy · 5 years
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重版の重版
重版の重版 #エクス・リブリス #デニス・ジョンソン #ジーザス・サン #海の乙女の惜しみなさ #煙の樹 #柴崎友香
今年創刊10周年を迎えた海外文学のシリーズ《エクス・リブリス》、その最初に刊行された作品がデニス・ジョンソンの『ジーザス・サン』です。
残念ながら、この数年品切れになっていたのですが、アニバーサリーの今年、久々に復刊をしました。そして復刊とほぼ同じタイミングで、日本経済新聞に柴崎友香さんの紹介文が掲載され、ゴールデンウィークが明けた途端注文が殺到することになりました。
急遽、再び重版となりましたので、改めてのご案内です。
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nancy-sy · 5 years
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短篇集を三つ続けて
短篇集を三つ続けて #路地裏の子供たち #スチュアート・ダイベック #海の乙女の惜しみなさ #デニス・ジョンソン #ジーザス・サン #煙の樹 #エクス・リブリス #残雪 #カッコウが鳴くあの一瞬 #黄泥街 #白水Uブックス
ゴールデンウィークだからって出かけるなんて思わないでください。そんな政府や経済界の策略に乗ったりはしません。自宅に籠もっています。近所のコンビニやスーパーに時々出かけることが数回、これがあたしのゴールデンウィークです。
では何をしていたのかと言いますと、読書です。
いや、読書三昧と呼ぶにはPCの前に座っている時間もあれば、テレビを視ている時間もそこそこありましたので、読書もしていた、と言う方が正確だと思います。
で、読んでいたのは、まずは『路地裏の子供たち』です。ゴールデンウィークに入る前から読み始めていたので、この連休の前半で読み終わりました。
スチュアート・ダイベックの短篇集で、シカゴの街で何となく不満があるようなないような、思うように生きているような生きていないような、そんなわけもなくむしゃくしゃしているような若者が描かれています。タイトルは「子供たち」ですが、登場するのはもう少し…
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nancy-sy · 5 years
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今日の配本(19/04/30)
今日の配本(19/04/30) #海の乙女の惜しみなさ #デニス・ジョンソン #藤井光 #エクス・リブリス
海の乙女の惜しみなさ
デニス・ジョンソン 著/藤井光 訳
2017年に没した鬼才が死の直前に脱稿した、『ジーザス・サン』に続く26年ぶりの第二短篇集。「老い」と「死」の匂いが漂う遺作。
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nancy-sy · 7 years
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本家本元のツイートも
紀伊國屋書店のTwitter。
【2階 文学】お知らせが遅くなりました。『ジーザス・サン』からスタートし、最新刊『至福の烙印』で記念すべき50タイトルを迎えた白水社エクス・リブリスのフェアを先週末よりE08の棚にてゆるっと開催中。追加はないかもしれない在庫僅少タイトルもいくつか。気になるものはお早めに!ms pic.twitter.com/FjwDEBbw0z
— 紀伊國屋書店新宿本店 (@KinoShinjuku) 2017年7月31日
正直に告白しますと、一昨日の時点では、《ボラーニョ・コレクション》に収録された『通話』以外の全点が並んでいました。現時点ではどうでしょう?
同店で同時開催中の《Uブックス》フェアも、かなりレアなものが並んでいるはずだったのですが、お店の方曰く「初日に狙ったように在庫僅少本ばかりまとめて買って行かれた方がいた」とのこと。
で、「東京はいいなあ~」と指…
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6wound-blog · 7 years
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3.vrăjitoare
「えー? 運転手ゥ?」
 シャトー・ペトリュスの二〇〇五年とチンジャオロース。  まあなんともミスマッチに思えるこの夕食を、ユダはそれなりに楽しんでるみたいだ。ピーマンとタケノコ、それから牛肉を銀色の箸でつまむユダは、ご機嫌なように見える。出張帰りで疲れてるに決まってるのに、珍しい。そりゃモチロン、ユダがご機嫌なのは嬉しい。でもなんとなく、違和感があった。いつもユダは出張から帰ってくるとまず部屋着に着替えて、自分の寝室でひとやすみする。日によってマッサージを呼んだり、ハイテクなマッサージ機をセットしたりして念入りに身体をメンテする。それからやっと、おれたちと一緒に飯を食うんだ。なのに今日は帰ってくるなりテーブルに座って、ニコニコ笑いながらワインの入った紙袋をアイリに渡してた。  にしてもこのシャトー・ペトリュス、お値段一本三十四万円だそうです。うーん、ジーザス。
「そうだ。なんだ、不服そうだな。嫌なのか」 「べつに嫌じゃねーけど。つまんないなって」 「仕事につまるもつまらないもあるか。文句言うんじゃない」 「わかったよ。で、いつ? どこ? だーれ?」 「明日、十時に成田。会長のコレ」 「コレって……え、姐さん?」 「姐……まあ、そんなとこだ」 「ねえ、そんな大役おれでいいの? アンタじゃなくて?」 「おれはその時間どうしても外せない会合がある。会長には許可をもらってるから、オマエが代わりに行ってこい」
 ユダは口の周りについたチンジャオロースのソースをペロリと舐める。  ああやっぱ機嫌いいんだ。頬杖ついて、髪かき上げて。さっき『コレ』と立てた小指はそのまんま。バカみたいに持ち手が細いグラスに注がれたシャトー・ペトリュス。それを飲むユダの指をおれは追う。ちなみにこれって、ほとんど無意識ね。どーしても追っちゃうんだわ、あの魔法の指。十五のときにかかった魔法は、二十二になった今でも解けていないらしい。
「オマエは運転は巧いがそそっかしい。注意しろよ」 「ハイハイ」 「それから今回は目立たないようにやれ。なるべく地味な格好で、車はあれだ、プリウス」 「えー、まじかよお。おれ、あの車嫌い。ダセエもん」 「つべこべ言うな。会長が一緒ならいつものLSを出すが、あれじゃヤクザですよと言って街中を走り回るようなもんだ。姐さんに危険が及ばんとも限らない」 「だからってプリウスかよ……せめてクラウンとか、ねーの?」 「ない。とにかく明日はプリウスだ。白のプリウス。仁友会自慢のハイブリットカー、白のプリウス。ヒヨッコのオマエにはお似合いのブーブーだ」
 あ、コイツ、面白がってやがる。  シャトー・ペトリュスのせいでほんのり赤くなった顔を楽しそうに歪めて、全力でおれをからかってやがる。相変わらずヤな奴よね、この三十九歳独身AB型。  ユダがクスクス、肩を揺らしながら髪を耳にかける。するとダイヤモンドのピアスが顔を出した。やれやれいったい何カラットあるんだかね。磨き方にもこだわってて、ブリブリカットだったか、たしかそんなふうな呼び方をするらしい。アクセサリーが好きなユダがいつだったか教えてくれたけど、ちっとも興味のないおれは聞いたそばから忘れちゃったのよね。  でもおれはそんなギラギラ輝く石ころよりも、ユダの口唇の下にちょこんとあるホクロのほうがずっと好きだ。まさにアレは黒いダイヤモンド。おれだけに光って見える、大事な大事な宝石。風呂に入ると化粧は落ちるけど、アレだけは絶対に落ちない。それにアレはスッピンのユダがユダだって証拠。眉毛なくても口紅塗ってなくても、アレがあるってだけでユダだってわかるもん。あ、こんなこと言ったら殺されるかな。ユダのヤツ、スッピンをネタにされると超キレるから。なんであんなに気にしてんのか、おれにはわかんないんだけどさ。
「なんだ、なんかついてるか?」
 食事したせいで口紅がはげた口唇をずっと見つめてたら、やっぱりユダに怪しまれた。  おれは黙って首を振る。まさか見とれてました、とは言えないでしょ。するとユダは笑いながら肩をすくめて、ストライプのシャツのポケットからキャスターマイルドを取り出した。  テーブルに頬杖ついて、百円ライターでキャスターマイルドに火を点けるユダの指を、また見る。いまさっき、ユダに怪しまれたばっかりだってゆーのにね。一人で苦笑いしてるおれにユダは気づいたみたいだけど、呆れたみたいに鼻で笑っただけでなにも言わなかった。
「あれ……ユダ」 「なんだ」 「ジッポどーしたの。ほら、あのチョウチョの柄のやつ」 「梅田の喫茶店に忘れてきた」 「エーッ! まじかよ……おれ、あれ好きだったのに。キレイで」 「おれも気に入ってたんだが、忘れたんだから仕方ない。特別珍しいものじゃないから、また買えばいい」 「うーん、まあ、そっか」 「そうだ。オマエもいるか? 同じの」 「え……いいの?」 「欲しいなら買ってやる」 「あ、う、うん。でも……おれには似合わないよーな気もするけど」 「べつにそんなことないだろ。それよりもオマエ、なくすなよ」 「なくしたばっかりのアンタにだけは言われたくねーよ……」 「ハハハ。そりゃそうだな。それじゃあ、二つ買おう」 「……あ、りがと」
 ユダとおそろいか、そう思うとみるみるうちに顔が赤くなるのがわかった。  おれはそれをユダに見られたくなくて、急いでテレビのほうを向いてごまかそうとした。でもきっと、ユダにはバレてただろう。ユダはキャスターマイルドの甘い香りがする息を、フッとおれに吹きかけてくる。思わず振り返ったおれは赤い顔のまんま、ユダとウッカリ目を合わせてしまった。  おれを見たユダは満足そうに目を細めて、またキャスターマイルドの煙を吐いた。
「さてと。おれは寝るぞ」
 キャスターマイルドを続けて二本吸い終わったところで、ユダが立ち上がった。
「え、もう?」 「言っただろう、明日早いって。悪いなアイリ、いつも片づけさせて」 「ううん、いいの。だって面倒みてもらってるんだもん。これくらい、しなくっちゃ」 「……アイリはガキのころからずーっとおんなじこと、言ってんなァ」 「ふふ。そう? とにかく気にしないで。私は洗うだけで、拭いてしまうのはお兄ちゃんにやらせるから」 「アイツにやらせたら皿が粉々になるんじゃないのか」 「あはは! そうね、じゃあ気をつけて“見て”おくね」 「よーく“見て”おいてくれ。特にそのワイングラスは気に入ってるから、割らせないようにしてくれよ」
 ユダとアイリは冗談を言い合ってて、なんだかミョーに楽しそうだ。  クスクス、二人の笑い声がキッチンから聞こえてくる。おれだけテーブルに取り残されて、ひとりぼっち。まったくなんであんなに仲がいいのかね。昨日もユダがアイリの爪にマニキュアを塗ってやってた。アイリは恥ずかしいからいいってエンリョしてたんだけど、どうせ見えないんだから恥ずかしいもなにもないだろって、ユダが。ポールアンドジョーの新色だから試させろ、とも言ってたかな。この間はシャネルの新作の口紅をアイリにプレゼントしてくれてた。自分で使うつもりで買ったけど色が好みじゃなかったっていうユダの言葉、アレは間違いなく嘘だ。ユダはわざわざアイリに合う色の口紅を買って、それをプレゼントしてくれたんだ。アイリもそれをわかってたと思う。でもアイリは喜んで、それを大切に大切に引き出しのなかにしまってる。  昨日のアイリはたしかに恥ずかしそうだったけど、その何百倍も嬉しそうだった。目が見えないことをイジってくるユダの肩を叩きながら、まったくもうヒドいことばっかり言って! って、楽しそうだった。おれはアイリが笑ってくれてるだけで嬉しいんだけど、アイリはユダ、ユダはアイリにばっかり構ってて、ぜんぜんおれと遊んでくれないのは淋しい。
「ユダ、まだワイン残ってるよ」
 だからおれは二人の背中に向かって呼びかける。  ユダが飲みに戻ってきてくれたらいいなって。ちょっと期待してた。それかもう一本だけ、吸わねーかな? キャスターマイルド。
「もう十分だ。残りはおまえとアイリで飲め」
 でもやっぱり、そうはならなかった。  おれを振り返ったユダは、アイリの髪についた洗剤をタオルで拭いてやってる。その爪の色はアイリと同じ、いやもしかしたら違うのかもしれないけど、少なくともおれには同じ色に見えた。
「レイ、オマエも早く寝ろよ。明日は十時に成田だぞ。いいな」 「……わかってるって。これ飲んだら寝るよ」 「それじゃ、アイリ。頼んだぞ」
 もう一度アイリに声をかけると、ユダはバスルームへと消えた。  あのそっけなさからするとどうやら今日は、一緒に風呂に入ってはくれないらしい。明日も早いみたいだし、なんとなくそんな予感はしてたけどさ。いざ背中を向けられると悲しいもんだ。なんとなくヤケクソな気分になって、三分の一くらい残ってたシャトー・ペトリュスの瓶をつかむと、そのままイッキに飲んた。これまたずいぶんとゼータクすぎるラッパ飲み。  それからたまたまタバコを切らしてたおれは、ユダがテーブルに置いてったシガレットケースに手を伸ばして、そこから一本、ハイシャクした。ユダが使ってるワニだかヘビだかの革製のシガレットケースからは、なんとなくだけどケモノの臭いがする。それとキャスターマイルドのお菓子みたいな香りが混ざって、おれの鼻をムズムズさせた。
「あ、ねえお兄ちゃん? お風呂は?」
 煙を吐きながらキッチンに視線をやると、アイリはしっかりおれがいるほうを向いている。  しかもおれは空になったシャトー・ペトリュスの瓶をベランダのゴミ箱に捨てようと立ち上がって、ロールカーテンのヒモに手を伸ばしたところだったのに。この子はどうして目が見えないのに、いつもおれの位置が正確にハアクできるんだろ。不思議だね。
「うーん、今日はいいや。明日の朝入るよ」 「そう? じゃあ私、ユダのあと入っちゃうけどいい?」 「うん。まだ時間が早いし、たまにはゆっくり入ったらどう?」 「そうするね。ありがとう」 「ただ」 「ん?」 「お風呂場で転ばないようにしてくださいね」 「まったくもう……やめてよ、小さい子じゃないんだから」
 エプロンのポケットに入れたタオルで手を拭きながら、アイリが近づいてくる。  お��はそんなアイリの腕をそっとつかんで、片腕で抱き寄せた。アイリはちょっとビックリしたみたいだけど、嫌がったりはしなかった。おれの好きなようにさせてくれた。
「明日はがんばってね。運転手サン」 「ハァイ。がんばりますよう。ブーブーの運転」
 こーやってつまらないことでも、アイリと話してるだけで元気になってくる。  おれにはこの子がいないとダメなんだなァ、しみじみ思う。それに、アイリにだっておれがいなきゃダメなはず。だからおれたちはずっとこうして、支え合って生きてかなきゃいけない。それをわかってるからこそ、こうして寄り添っていられんのよね、おれとアイリちゃんは。
「おやすみ。お兄ちゃん」 「おやすみ。アイリちゃん」
 アイリの髪に軽くキスしたおれは、照れくささを隠すために、速足で寝室に駆けこんだ。
「フウ」
 酒の魔法もユダの魔法もなしに、ぐっすりスヤスヤ眠るなんてできるのかなあ。  でも明日は仁友会自慢のハイブリットカー、白のプリウスで会長の姐さんのお迎えだ。寝坊なんてした日にはマジで殺されちゃう。耳をそぎ落とされて顔をバーナーであぶられて目玉をえぐり出されて歯を全部折られてコンクリ詰めにされて東京湾に沈められちゃう。なんでそうなるってわかるのかって? だってこれは全部、おれがやってきたことだもん。名前もスジョーも知らない人間たちに、おれがやった悪魔のような仕打ちだもん。叫び声が耳にこびりついて眠れないこともあった。血の臭いが消えなくて皮がむけるほど手を洗ったこともあった。自分の指がペンチで切られる夢をみて飛び起きたこともあった。  それでもおれは、会長がやれと言えばやる。ユダがやれと言ってもやる。だって今のおれはヤクザだからね。歌舞伎町を仕切る仁友会の下っ端構成員、二十二のレイさんだからね。畑だらけの西多摩郡でケツから血を流してた十五のレイくんはもう、いないんだからね。この世界のどこにもね。そういえばあのヘンタイウンコ野郎、元気かなあ。生きてんのかなあ。頭の鎌、抜けたかなあ。  ヒッデェ記憶が蘇りぶるりと身震いした三秒後、おれは意識を失った。まったく寝つきが悪くて嫌んなるね。ムニャムニャ。
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