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#ぴーまんずキッチン
saku-p-man · 1 year
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久々に、ご飯をup。
えっとねー…後輩くんたちがたくさん出てる番組で、炒飯王決定戦やってたんよ。
それを見てて佐久間さん、夕飯に炒飯食べたくなって作ったんよね(笑)
具材はベーコン、小松菜、玉子あとカブを少々。
味付けは軽く塩コショウのみ!
ベーコンの塩味があるからね(笑)
それじゃ、おっちー♪
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emeraldecheveria · 2 months
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月の光と海うさぎ【4】
新しい家
 新居がある隣町は、田園が広がるのどかな風景の町だった。
 父が運転する車の助手席に母、後部座席に私と美夜がいる。私は父の後ろで、美夜は母の後ろで、それぞれ窓に顔を貼りつけてその景色を見つめた。引っ越しトラックが私たちの車に後続している。
「あの家だぞ」と父が言って、私も美夜も急いでフロントガラスを向いた。ざあっと稲穂が続く中に、晴れた空と同じ水色の家があった。
 胸がどきどきしてくる。まるでルルが喜んで跳ねているみたいに。実際、心の中にあの陰気な雨は降っていなかった。出窓を見つけたように、私の胸にはさわやかな風が抜けて、爽快なほどだった。
 だって、やっとあの学校を解放されたのだ。みんなからのいじめ、先生たちの嫌味、静くんの視線からも逃げおおせた。このすがすがしい光景の町で、ようやく自由を手に入れた!
 どんどん近づくほど、新居がびっくりするほど大きな家だと気づいた。一階が車庫になって、その上に二階建ての家があって、実質三階建てだ。遠くから見えた通り壁は水色で、屋根は青、窓枠は白、コントラストがまるで大空と海原と白雲みたい。周りの稲穂の音も、本物の海みたいだった。
 ああ、そうか。海なら心配ない。私の中のルルが海うさぎなら、この家は帰ってきた場所になる。だからきっと、ルルにも友達ができる。私にも友達ができる。ここが私の居場所になるんだ。
 新居の前に到着して、大人たちが荷物を抱えていそがしく動きまわる中、私と美夜は家の中を駆けまわって探検した。
 いくつもある部屋。木目の階段。大きなベランダ。ぴかぴかのお風呂。トイレだって真っ白だ。
 何より嬉しいのは、三階に自分だけの部屋があることだった。今までは美夜と同じ部屋だったから、一気に自分が立派になったような感じがした。私も美夜も「すごい」「すごい」ばかり言うので、母の反対を押し切ってこの家を建てることにした父は、すっかり上機嫌だった。
「自分の荷物は自分でほどきなさいね」
 新築の匂いがする自分の部屋で、南向きの窓を開けていると、私の名前が書かれた段ボールが続々と運ばれてきた。私の荷物がすべて部屋につめこまれると、顔を出した母がそう言った。「うん」と私が段ボールに駆け寄り、さっそくガムテープを剥がそうとしたとき、「よかったね」と不意に母が言った。
「えっ?」
「これで、いじめられることもなくなったから」
 私は母を見た。母は目は合わせず、そそくさと隣の美夜の部屋に行ってしまった。私は手の中のガムテープを視線を落とし、気にしてくれてたんだ、と思った。
 ざざあっと潮騒のような音と共に、涼しい秋の風が舞いこんでくる。そのそよ風がするりと私の長い黒髪を揺らし、深く呼吸すると、白い天井を見上げて自分は救われたのだと思った。
 本当にそう思った。段ボールを荷ほどきしたり、住所変更の手続きをしたり、数日、学校に行かなかったあいだは。
 そのまま、学校なんて私の生活から消えてしまえばよかったのだ。でも、心が解放感で清らかになって、学校への警戒心さえ流れてしまっていた。というか、何の根拠もなく新しい学校ではうまくいくと思っていた。
 新しい中学校には、転入前に母と挨拶に行った。小さな中学校で、学年ごとにクラスはふたつしかないらしい。私は一年二組だと告げられた。田舎なので、特に高齢化で子供が町から減っている。そのため、学校の生徒数も少ないらしく、「でもそのぶんアットホームなんでね」と校長先生はにっこりした。私はその言葉を信じて、ここなら大丈夫そうだと改めて安心した。
 アットホーム。確かにそうだったかもしれない。物は言いようだ。
 私は分かっていなかった。町にひとつしかない幼稚園、小学校、そして中学校に、エスカレーター式でもないのに一緒に進学してきた子たち。それはひとつの家族であるように、とても密接な関係を作っていた。そのぶん、ホーム外のよそ者に対しては──その危険性を、私はまだ知らなかった。
 転校初日、私は黒板の前で丁寧に教室に向かって挨拶したし、できる限りの笑顔だって頑張れたと思う。転校生に奇妙なムードがあるのは、前の学校を去るとき、女の子たちが泣いたことで分かっている。きっとこちらの学校でも、あの空気に押されて誰か私に話しかけてくれるはずだ。
 そわそわしていると一時間目が終わり、休み時間になった。ちゃんと答えられるかな。言い間違えたりしませんように。そんな心配をしていると、十分間の休み時間はあっという間に過ぎた。
 あれ、と顔をあげて、ふと私は、教室でひとりだけ「違う」ことに気がついた。その違和感が、微妙な被膜を作っていることも。
 二時間目が終わっても、私に近づいてくる子はいなかった。無視されているわけではないようだ。みんなのほうも違和感を感じ取っている。そして、どうしたらいいのか分からないというふうに遠巻きに私を見る。
 目が合ったら慌ててそらされるので、私から話しかける勇気も持てなかった。だいたい、こちらからみんなに言えることなんて、朝の挨拶で言ってしまった。だから、今度はそれに対してみんなが好奇心を持って尋ねてくれないと、私は誰に何を言えばいいのか分からない。
「え、えーと……み、光谷さん?」
 味わうゆとりもなかった給食のあと、昼休みになって、ようやくそんな女の子の声がかかってきた。自分の席で、つくえに伏せって寝たふりすらできずに固まっていた私は、はたと振り返る。
 天然パーマっぽい長い髪なのに、どこかおどおどした雰囲気のせいで地味な女の子が、私のかたわらに立っていた。彼女が笑うと、乱杭歯が覗いて、私はぎこちない表情になって「はい」とだけ答えた。
「あ、あの、校内を、あ、案内……させてもらって、いい、かな?」
 私はまばたきをして、確かにそれはしてもらわないと困るな、と思った。「お願いします」とうなずくと、「う、うん。じゃ、���こう」と彼女は教室のドアをしめした。
 私は席を立ち、彼女についていく。くすくすという笑い声が聞こえた気がした。けれど、ちらと振り返っても、そんなふうに嗤っている人はいっけん見当たらなかった。
 彼女は金子さんというらしい。並んで廊下を歩いていると、「お前、ドーモが感染るぞ」と揶揄ってきた男の子がいた。
 どうも? 別にそんな挨拶はされなかったけど。そう思って私は首を傾げたものの、やたらと「ドーモじゃん」「うわ、ドーモ」と言われている金子さんが、どうやらこの学校で“生け贄”の立場にあることは察した。
 それでも、一生懸命に話しかけてくれるから、私も緊張しつつ金子さんの質問に答えた。前に通っていた学校のこと。おろしたばかりのここの制服のこと。質問されることにただ答えていた。頭が素早くまわっていなくても、おかしなことも悪いことも言わなかったと思う。
 なのに、広くない校内をまわって教室に戻ると、金子さんはすっと私を離れて、教室にいた女子グループに私の返答を報告しはじめた。ときどき笑い声が聞こえて、私は急に冷たい手に心臓をつかまれたように、ひやりと不安を覚えた。
 あとで分かってくることだけど、金子さんは吃音があって、「どもる」から「ドーモ」と呼ばれているらしい。察知の通り、やはりみんなにいじめられていた。そして、私の情報を流して、いじめっこのグループの仲間になろうとしていたみたいだった。
 ちなみに、こちらのほうが田舎町のせいか、勉強の進みが遅かった。前の学校でどこまで進んでいたか訊いてきた数学の先生は、「みんな分からないことは光谷に訊くといいぞ」とかとんでもないことを言った。
 学校の勉強は進んでいても、私はそれに追いつけていなかった生徒だ。その先生は何を調子に乗っているのか、授業中に問題を答える挙手がないと、集中的に私を当てて「光谷なら分かるよな?」と黒板に呼んだ。
 しかし、当然ながら私はまったく分からない。いくら当てられても、決まって答えられない。脳が張りつめて吐き気がして、「分かりません」の声さえ出なかった。
「あいつ、頭悪いんじゃねえの」
 そんなささやきは一気にクラスに伝染した。あっという間に、私は頭の悪い無口な子だとうわさを立てられた。
 ちなみに、金子さんは私の情報を使ってもいじめっこグループに昇格はできなかった。それでも、いちいち私に話しかけてきて、それを女の子たちに報告することはやめなかった。教室で失笑が聞こえてくると、私はびくりとすくみそうになった。
 教室になじめることがないまま、長く厳しい冬に入った。二学期が終わる直前、その日も私は心の中にもやもやしたものを抱えながら帰宅した。
 空は灰色で、すぐにでもあたりは暗くなりそうだ。収穫まで豊かだった田園は、今は耕耘されて土が剥き出しだった。周りに何もないぶん、吹き抜ける風音がすごい。
 家に入る前にポストを覗いた。新聞の下に藍色の封筒がある。手紙かな、と手に取ってみると、私宛てだった。誰だろう、と裏返して差出人を確認し、目を開く。
『山田静司』
 静……くん? え、何で。ここの住所は教えずに引っ越したのに。
 とっさに、私を見つめていた静くんの目がよみがえる。じわりと気分が悪くなった。何だろう、いまさら。何も言わずに引っ越したんだから、いい加減つきまとうなって意味だって察してよ。
 びゅうっと寒風が長い髪と紺のスカートを巻き上げ、刺すような冷えこみで我に返る。気味が悪いと思いつつ、一応、静くんの手紙はポケットに入れた。インクのにおいが濃い新聞も腕に抱え、暖房と石油ストーブで暖まった家に入る。
 今夜の夕食が決まらないのか、母はキッチンにまだ立たず、リビングのソファでレシピ本を見ていた。「ただいま」と声をかけると、こちらに顔を向けた母は「おかえり」と返す。
 私は新聞を座卓に置き、「美夜は?」とリビングだけでなく見渡せるダイニングにも目を向ける。
「友達の家に遊びに行ったわよ」
 友達。……そっか。そうだよね。できるよね、友達。
 母は私のそんな内心を読んだのかどうか、本を膝に置いた。
「希夜は友達できたの?」
「え……、あ、話す……人は、いるよ」
 その人は、私の発言を全部、クラスを牛耳るグループに報告しているけど。
「そうなの。いつでもここに連れてきなさいね」
 気まずくて黙ってうなずき、「宿題しなきゃ」とその場を離れた。冷たい爪先で階段をのぼり、自分の部屋に入ると、ほっとしたぶんだけ憂鬱が押し寄せる。
 何なの。母も分かっているくせに。どうせ私に友達なんかいない。なのに、何で美夜と較べるみたいに訊いてくるの。
 ため息をついて、板張りのドアにもたれる。寒いな、と思ってもストーブまでの数歩さえだるい。
 そういえば、とポケットに手を突っ込んで、くしゃっと触れた手紙を取り出した。ぼんやりした目つきで、不器用な文字による自分の名前を見つめる。
 捨てようかな。あるいは、ポストに返そうか。そうも思ったものの、小さく息をついて封を切った。淡い水色にグレーの罫線が引かれただけのシンプルな便箋に、あんまり綺麗じゃない字が並んでいる。
『希夜ちゃんへ
 いきなり手紙なんて書いてごめんなさい。
 住所は野中さんにききました。
 僕にも教えてほしかったけど、急な転校だったみたいなので、仕方ないですね。
 そっちでは元気に過ごしていますか?
 希夜ちゃんが、今までみたいな思いをしてないといいなと思います。
 僕は相変わらずですが、大丈夫です。
 希夜ちゃんに言われた通り、何をされても強くなりたい。
 でも、希夜ちゃんがそばにいないのは、我慢できないくらい寂しいです。
 もしこっちに来ることがあったら教えてください。
 会いたいです。
 静司』
 私は眉をゆがめると、便箋をたたんで封筒にしまった。
 何だろう。何でそう思うのか分からないけど、喉の奥に水疱ができたような不愉快がせりあげてきた。
 何というか、……気持ち悪い。野中さんも、ただで静くんに住所を教えたわけではないだろう。そこまでして、私の住所を調べて、手紙なんて──気持ち悪い。
 手紙は、ゴミ箱にこそやらなかったものの、本棚の使っていない引き出しに投げこんだ。返事を書く気はなかった。また手紙は来るかもしれない。だが私が無視していれば、いくら静くんでも、いつかあきらめて一方的な手紙なんてやめるはずだ。普通に考えて、気が引けてくるだろう。私が好きなら、迷惑はかけないでほしい。
 ようやくストーブをつけて、冷え切っている部屋を暖めた。制服のままでストーブの前に座り、熱で赤く灯る光を見つめる。冷たくこわばる頬が、その光に染まって溶けていく。
 私は教室で、みんな──金子さん以外には、遠くから眺められているだけだ。何をされているというわけではない。確かに友達はいない。しかしべつだんいじめもない。なのに、こんなにも胸がもやもやして、学校に行くことが息苦しい。
 同じ種類のものを感じるのだ。教室にいると、前の学校でけして溶けこめなかった自分ばかり思い出す。深い深い水中で、一滴の油になってしまったみたいだ。
 石を投げつけられないか、教科書を破られていないか、そんな心配ばかりしてしまう。誰も私に近づいたりしない。こんなの自意識過剰だ。はちきれそうな不安を、そう思って抑えようとしても、カマイタチのような鉤爪が腫瘍をつぶし、恐怖が膿のようにどろりとあふれる。
 まもなく、冬休みになった。雪が降り積もる中で年を越し、三学期が始まった。相変わらずだった。私は勉強ができなくて、そのことを男子はバカにして嗤い、金子さんは私にあれこれ訊いて、報告された女子グループはくすくすと嗤う。
 そんな毎日に、私はまた、朝起きてふとんから出るという習慣がつらくなっていった。母が再びいらいらしはじめているのは分かったけど、朝の通学路をとぼとぼ歩いていると、心が締めつけられてルルの軆が強直するのも感じるのだ。
 こんなのダメ。私の心に棲むこの子を怖がらせてはいけない。この子が「つらい」と感じたら、私の精神はまた暗く冷たく沈んでいく。
 二年生になったら、クラス替えがある。そうしたら、何か変わるのかな。でも、それって状況が好転するの? あるいは悪化するの? この学校の人はみんな家族だ。そして私はよそ者だ。それは揺るぎなく、変わることはない。
 この狭い中学校において、私は招かれざる客なのだ。きっと二年生になったって一緒だ。身内で和気あいあいとしていたい一家は、居座る私に白い目を向け、とっとと去って消えろと訴えてくるに違いない。
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【前話へ/次話へ】
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rosysnow · 4 months
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柔らかな熱
僕がこの世界に生きている証
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 体育祭なんて、誰ひとり楽しいと思っていないのだから、とっとと廃止すればいいのに。
 痩せた脚のせいで徒競走で転んで、ひとり手洗い場でハンカチで膝の血をぬぐっていた。ああ、またかっこ悪かった。しかもこの中学の全校生徒、先生たち、保護者たちの前で。
 冷たい水分が擦り傷に響く。思わず顔を顰めていると、「城木くん、だっせえ」という声がして振り返った。いつもの何人かのクラスメイトがいて、僕はぎゅっとハンカチを握る。
 その中のひとりの手が蛇口に伸びて、きしむような音を立てて水音が止まった。
「向こうつまんねえから、つきあえ」
 前髪の隙間から目だけ動かして、そう言ったクラスメイトを見る。
 こちらを見る目は、嗤ってすらいない。本当に、ただ怒っている。くそつまらない体育祭にいらついている。僕がうざいとか、そんな感情すらない。ゴミ箱や便器に向けるような、汚物を嫌悪する目──
 背中を押されて、囲まれて、静まり返った校舎に入った。「かったるいよなー」とか「親は来るなっつったのに」とか、うんざりした言葉と足音が廊下に響く。
 一年二組。僕たちの教室にたどりつくと、「また転べよ」と肩を突き飛ばされて、前のめりになった僕は転ばず立てそうだったけど、わざと床に膝について座りこんだ。
 擦り傷が痛覚に刺さる。笑い声がぐるぐる降ってくる。
「マジ城木だせえ」
 がつっと肩胛骨のあたりを蹴られて、脇腹も鋭く爪先でえぐられる。小さくうめいて、上履きの臭いが染みついた冷たい床に顔を伏せてうずくまった。頭、背中、腰にいくつも嘔吐のように足が飛んで、まだ治っていない軆じゅうの痣を踏み躙る。
 目をつぶって、唇を噛んで、こぶしを握って、頭蓋骨に直接響く攻撃に耐える。上履きの臭い硬いゴムの靴底が、全身を強く穿って、本当に軆に穴が開くんじゃないかと恐怖がこみあげる。
 虚ろになる頭に、校庭の次の競技の放送がぼんやり聞こえる。熱中症に厳重注意の日射しが、教室に白くあふれている。
 いつまで吐き捨てられていたのだろう。気づくと、教室に取り残されていた。
 ぐらぐらして取り留めのない声をつぶやいて、ゆっくり起き上がった。体操服をめくってみると、内出血がべったり広がっていた。少しカッターで切れ目を入れれば、血管から破裂しているその血がほとばしるのかもしれない。
 ため息をついて、自分の席にまで這いずっていくと、椅子によじのぼって座った。背もたれに寄りかかろうとすると、腫れた感触がずきっと脊髄を刺した。だからつくえに顔を伏せて、丸くなって、乾いていく瞳で日がかたむくのを見つめて教室で過ごした。
 緩やかに赤く焼けていく空の下で閉会式が行われたあと、生徒はいったん教室に集まって、参加賞のノートと鉛筆、そして紅白饅頭が配られる。
 勝ったのは紅組だった。得点に一番貢献したクラスには、賞品が贈られる。もちろんそれは僕のクラスではなかったし、それどころか僕は先生に不在を知られていたらしく、「城木くんにはこれはあげられません」と参加賞をもらえなかった。
 だって、みんなが、僕を。
 言いたくても、絶対いつも言えなくて、僕はうつむいて「はい」とだけ言った。先生は教壇で今度作文を書くこととかを話して、すぐ解散を言い渡した。すぐに日は落ちて、怪我した脚を引いてひとりでたどる帰り道は、もう暗かった。
 住んでいるマンションのそばにまで着いて、明日回収の生ゴミが積まれたゴミ捨て場の前を横切ろうとしたときだった。不意に泣き声が聞こえた。子供の泣き声に聞こえた。あたりを見まわし、その声はすぐ足元からだと気づいてびくっとする。
 でも、そこにいたのは子供ではなかった。口をきつく縛られたビニールぶくろを破って、頭だけ出している焦げ茶の猫だった。
 ほっとしてから、しゃがみこんでみた。飼われていた猫だろうか。ほとんど警戒しなくて、頭を撫でると嬉しそうに鳴いた。ふくろに入れて、口を縛って、生ゴミと一緒に置いておくなんて──
「ひどいね」と小さく言っても、緑色の瞳は無垢に開かれている。僕は猫をがさがさとふくろから出してあげた。そして立ち上がろうとして、振り返って、また身をかがめてしまう。
 猫が哀しそうに鳴いた。ペットは飼ったことがないから、猫のつらい鳴き声がこんなに泣いている子供の声に似ているのは、初めて知った。
 ふかふかした軆を抱きあげてみると、連れて帰りたくなったけど、マンションだからもちろんペットは禁止だ。どうしよう、と動くに動けず、ただその猫の頭を撫でていた。とりあえず生ゴミの臭いから離れて、マンションに隣接している公園に行った。
 街燈だけ灯って、誰もいない。ブランコで猫の顔を覗きこんだり、胸に抱きしめたりしてると、猫のほうも僕に慣れてきて鳴き声が落ち着いてきた。僕でも知っている、「にゃあ」という鳴き声だ。
 このまま、あのゴミ捨て場に置いておくわけにはいかない。心を決めると、猫を抱いたままマンションに入って家に帰った。
 鍵をまわしてドアを開けると、おかあさんの声がした。電話をしているみたいだ。「日曜日も私たちのところには帰ってこれないの⁉」──怒鳴っている相手は、おとうさんだとすぐ分かった。
 おとうさんは一度、僕を知らない女の人に会わせたことがある。いつも家にいないのは仕事だと思っていたのは、それで崩れた。
 おかあさんに気づかれないように、自分の部屋に駆けこんだ。猫はベッドの上に下ろして、部屋をあさって悩んで、口が大きく開くリュックを広げて服を詰めて、寝床みたいにした。ベッドの上を歩いていた猫を抱くと、そこに移させる。
 大きくない猫だったから、さいわい大きさが足りないこともなくて、そこに丸くなってくれた。牛乳なら飲むかな、と部屋を出て、キッチンに行くとリビングのおかあさんが僕をちらりとした。でも「おかえり」を言う前に、「切らないでよ!」とケータイ相手にヒステリックに怒鳴る。
 僕はコーンフレークの食べるときの皿と牛乳、魚肉ソーセージを素早く抱えて部屋に戻った。
 服を着替えると、その夜はずっとその猫を見つめていた。冷房でちょっと部屋を冷ました。猫は牛乳でお腹がいっぱいになったようで、魚肉ソーセージは残して眠りについてしまった。
 おかあさんは遅くまで叫んでいて、僕はその声が怖くて小さくなる。うつらうつらしてくると堅いフローリングに横たわって、すぐそばで猫の寝顔を見ていた。
 翌日は、代休で学校は休みだった。このままおかあさんに気づかれず猫を飼えたら一番だけど、そんなのうまくいかないのは分かっている。おかあさんが出かけて家が空っぽになった隙に、猫を抱いて外に出た。
 九月の白日は、まだまだ暑い。でも、猫の体温は優しいから心地いい。
 ひとまず向かったゴミ捨て場は、空っぽになっていた。この猫がゴミと思われて、収集車のあの回転する圧迫につぶされていたかもしれないと思うとぞっとした。
 この猫の飼い主は探さないほうがいいのだろう。あんまり僕も会いたくない。だとしたら、新しい飼い主か。どこに連れていけばいいのだろう。
 たたずんで猫と見合って悩んで、そういえば、駅までの道にある動物病院が迷い犬を預かっている張り紙をたまに出しているのを思い出した。よく分からないので、僕はそこに行ってみることにした。
 猫は僕の腕に抱かれて、おとなしくしている。いつも抱かれていたから、慣れているのだろうか。いつも抱いているような飼い主だったのに、あんなふうに捨てたのか。何で愛したはずのものにそんなことができるのか、どうしても分からなかった。
 動物病院の前に着いても、嫌な顔をされたらどうしようとドアを開けられずに躊躇っていた。そうしていると、後ろからビーグル犬を連れた女の人がやってきて、入口のドアを開けて犬を先に中に入らせ、「どうぞ」と僕のことも自然と招き入れた。
 僕は挙動不審になりそうになっても、動物のにおいがする病院の中にぎこちなく入った。
 その瞬間だった。
「せぴあ!」
 突然そんな声がして、おろおろする間もなく、高校生くらいの女の子が僕に駆け寄ってきた。猫はするりと僕の腕を抜け出して床に降り、その子の足元にすりよる。女の子は待合室の床に座りこんで、いきなり大声で泣き出して、ビーグル犬も、その飼い主の女の人も、顔を出した白衣の男の獣医さんも、もちろん僕もぽかんとした。
「ほたるちゃん」
 そう呼ばれた女の子は、獣医さんを振り返って「先生、せぴあ見つかったよお」と大粒の涙をぼろぼろこぼす。すると、獣医さんもほっとした表情を見せて、突っ立っている僕を見た。
「君が見つけてくれたのかい?」
「え、……あ、はい」
「どこにいたんですか⁉ 私、昨日の夜からず��と探してて、」
「夜……は、僕が部屋に連れていってました。すみません」
「どうやって連れていったんですか? この子、家猫で外には出ないのに──」
「えっ……と、……ご、ゴミ捨て場に、いたので。マンションの」
「……え」
「ふくろに入れられてて、そのままじゃ、ゴミと一緒連れていかれるかもしれないと思って」
 待合室が静かになって、奥から犬の鳴き声だけが響いた。女の子は猫を抱き上げて、「あのくそ親父」と苦々しくつぶやいた。
 それから立ち上がって僕を見て、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「たぶん、それをやったのは父です。ご迷惑かけてすみません」
「あ、いえ。連れて帰ります、か」
「はい。もちろん」
「大丈夫、ですか」
「……父は普段、家にいないので。ふらっと帰ってきて、この子がいたからそんなことしたんだと思います。昨日、私が留守にしてたのが悪いんです」
「ほたるちゃん、またそんなことがないとは限らないだろう。ここで一時的に預かってもいいんだよ」
 獣医さんはビーグル犬の前にかがんで、その喉を撫でてやりながら言う。
「でも」
「来年、高校を卒業したら家を出るって話してたじゃないか。それからまた、せぴあちゃんと暮らすほうが安全じゃないかな」
 女の子はうつむいて押し黙った。僕はその横顔を見つめて、ずうずうしいかとも思ったが、「そっちのほうが」と言った。
 女の子は僕を見て、「少し考えてから」とせぴあというらしいその猫を抱いてソファに座った。「ゆっくり考えなさい」と言った獣医さんは、ビーグル犬を抱き上げて女の人と診察室に入っていった。
 僕はどうしたらいいのか迷い、ここで去るのも冷たい気がして、何となく女の子の隣に隙間を作って座った。女の子は僕に顔を向けて、「この子がいないと」と泣きそうな顔で咲った。
「私、家でひとりぼっちなの」
「……ひとり」
「おとうさんはそんなだし、おかあさんとは血がつながってないし。妹はおとうさん同じだけど、おかあさんに懐いてるから」
「………、そっ、か」
「私なんか、存在してないみたいなの。この子だけ、私にあったかくて、話聞いてくれて、優しいの」
 僕はうなずいて、視線を下げた。ふと、彼女がこんな残暑に長袖に着ているのに気づいた。
 ちょっと考えたあと、「でも預けたほうがいいと思う」と僕はつぶやいた。何か言おうとした彼女に、勇気を出して先に言ってみた。
「僕が話を聞く」
「えっ」
「あったかい、とかはできなくても。僕が君の話を聞くよ。またその子と暮らせるまでのあいだ。僕でいいなら」
「………、」
「変な、意味とかはなくて。その猫がまた同じ目に遭うのは、僕も怖いし。次も僕が助けられるかなんて分からないし」
「……いいの?」
「うん。あっ、でもすごいこととか、意見とかは言えない。聞くだけしか、できないと思う。それでよければ」
 彼女は僕を見つめて、ふと柔らかに咲うと「優しいね」と言った。慣れない言葉に狼狽えて、僕は首をかしげた。彼女はせぴあを抱きしめて、涙の痕がある頬を焦げ茶の毛並みに当ててから、「分かった」と目を閉じてうなずいた。
 そうして、せぴあは動物病院でしばらく保護してもらうことになった。
 僕は学校が終わると、ほたるさんというその人と待ち合わせて、晴れの日は公園で、雨の日は図書館の軒下で、いろいろ話して過ごした。僕は僕のことをあんまり話さなくて、ほたるさんが空を眺めながら自分のことを話してくれた。
 ほたるさんの歳は十九歳。ほとんど記憶にない二歳のとき、本当のおかあさんは出ていった。おとうさんはまもなく再婚した。おとうさんはリストラ以降働かなくなった。義理のおかあさんと妹は結束しておとうさんを疎み、まとめてほたるさんの存在も疎んでいる。家族に嫌われているうち、いつのまにか人間関係に混乱するようになった。自然と作れていた友達との距離が測れなくなった。
 もしかして今のうざかったかな。ううん、逆に冷たかったかも。でもどうしよう、目を見て確かめられない。あれ? 人の目の見るのってこんなに怖かった……?
 眉を顰めてうつむきがちになって、やがて周りにはひとりも友達はいなくなっていた。明らかなイジメはない。強いて言えば仲間外れ、無視、孤立。
 笑い声が恐ろしい。その場にいて申し訳ない。消されていなくなりたい。中学を卒業し、ベッドでふとんをかぶって一年引きこもった。
 おとうさんは部屋に怒鳴りこんでくる。おかあさんと妹は蔑んだ目を向けてくる。
 ここにいても救われない。この家庭は居場所にならない。どこかへ逃げなきゃ!
 気づけば、手首がいっぱい泣きじゃくって、赤く染まっていた。このまま病んでしまわないために、自分ですべて調べて、通信制高校に通うようになった。友達は相変わらずできない。けれど、通信制高校ならそれでもわりと浮かない。
 淡々と単独行動で登校し、ついに今度の三月にほたるさんは高校を卒業する。
「ずっと明日が地獄だった」
 晴れた冬の日、薄く白くなるようになった吐息と、ほたるさんは公園のベンチに腰かけた。僕も隣に座った。
「でも、やっと春から自由なんだ」
「うん」
「楽になれるといいな。家さえ離れたら幸せになるってものでもないだろうけど」
「そうかな」
「分かんないけど。切ったりするのは治ってほしいな」
「今でも切るの?」
「いらいらするとね。吐きたくなるの。食べ物吐く人と一緒だよ。血を出してつらさも流す」
「……そっか」
 僕は自分の無傷の蒼い手首を見る。それに気づいたほたるさんは、「真似しちゃダメだよ」と微笑んだ。僕は小さくこくんとする。
「ずっと、切ることしか手段がなかったけど。せぴあ拾ってから、あの子が気持ちを癒してくれるの。抱っこしたらあったかいことで、すごくほっとする」
「せぴあ、あったかいよね」
「うん。あの子がそばにいるあいだに、人間として立ち直れたらいいな」
 冷えこむ指先を握りしめて、そうだな、と思った。せぴあがほたるさんに生涯寄り添ってくれたら安心だけど、そうはいかない。あるいは、せぴあのように思える人間とほたるさんが出逢えたらいいのに。
 それを言いたくてもうまく言葉にまとまるか悩んでいると、「ふふ」とほたるさんはおかしそうに咲った。
「何か、いつもだけど。私の話ばっかりだね」
「えっ。あ──いや、ほたるさんの話を聞くって約束したから」
「君のことは訊いちゃいけないの?」
「……僕、は」
 イジメられてるから。さくっと言ってしまうのは簡単なのだけど、そのひと言で終わらせるのが妙に苦しい。
「あんまり、おもしろくないよ」
「私の話もおもしろくないでしょ」
「そんなことないよ」
「私は、君の話も聞きたいけどなあ」
「僕の話……」
「無理は言わないけどね」
 僕は顔を伏せて考えた。学校や家庭での光景が、またたいて頭の中を走り抜ける。
 蹴る。怒鳴りあう。罵る。放り出す。貶める。
 僕は学校では生きている価値がない。僕は家庭では存在している価値がない。けれど、それを言葉にしたら、声が空中を引っかいて何かの痕痕になるのだろうか。そう思った僕は、ゆっくり口を開き、「嫌な話だけど」とぽつりぽつりと学校や家のことをほたるさんに話していた。
 ほたるさんの地獄は、春になれば終わる。僕の明日にはまだ地獄が来る。クラス替えまでだろうか。卒業までだろうか。死ぬまでだろうか。死ぬまで僕は「みんな」の中に溶け込めず、孤立して心を粉々にしていくのだろうか──
 ふと、ほたるさんが僕の頭に冬が染みこんだ冷たい手を置いた。僕はほたるさんを見た。
「泣かないんだね」
「……え」
「泣いてもいいんだよ」
 目を開いた。色づく息が震えた。
 何、で。何で、そんなこと。
 だって僕は、苦しくていいのに。みんな僕に怒りを捨てていくけど。哀しくていい。僕がいなければ離婚できるけど。痛くてもいい。心も軆もぼろぼろだけど。全部全部、慣れてしまったから。
 でも、優しくはしないで──
 僕の頭を撫でて、ほたるさんの袖の陰が見えた。
「かっこ悪いとか、気にしなくていいんだよ」
 優しい声に、視界が滲んだ。そのまま、熱い雫が頬を伝っていた。ついで、どんどんあふれてくる。ほたるさんは袖を引っ張って、その手を僕の手に重ねた。僕の手もほたるさんの手も冷えている。
「この手でせぴあを抱いて、助けてくれたでしょう? 君が拾いあげてくれたから、今、あの子は生きてるんだよ」
「………っ、」
「君がここにいるから、春になったら、せぴあはまた私と暮らせるんだよ」
「……そんな、の」
「君には、そんな温かさがここにあるんだよ」
 何も持たないほたるさんの手が、僕の何も持たない手を握った。すると、ゆっくりと微熱が生まれてくる。
 ここに、ある。僕も、ここにいる証拠を持っているのだろうか。
 ひとつでいい。小さくていい。ここにいる証明。
 せぴあを拾ったあの日、当たり前にもらえる参加賞ももらえなかった。でも僕も、生きている参加賞を持っているのだろうか。訊きたくても、もう嗚咽で声が出なくて、ただ手を握りしめていた。その手をほたるさんが包んで握ってくれていた。
 春になり、ほたるさんはせぴあと一緒に町を出ていった。僕は春風に桜が舞う中でそれを見送り、ほたるさんと最後に交わした握手で、手の中に残る柔らかな熱を握った。
 数日後、新しいクラスで学校がまた始まる。今度はクラスメイトにきちんと挨拶してみよう。死ぬ気になって。どうせ本当に死ぬわけじゃない。なのに何にビビるっていうんだよ。きっと、何も怖いことなんてないんだ。
 ほたるさんとせぴあみたいに、僕も新しい毎日をつかもう。伸ばせば誰かに届くこの手で、きっとつかむ。だって、この陽射しの下、僕も確かにこの世界を生きているひとりなのだから。
 FIN
【SPECIAL THANKS】 参加賞/それでも世界が続くなら 『彼女の歌はきっと死なない』収録
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jako-jako · 2 years
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「彼が会いに来ない理由」 
「彼が会いに来ない理由」
Why he doesn't come to see me.
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ーChapter1
時刻は午前7時。
暗い部屋の中。一際青い光を放つPC画面の前、無精髭を生やした男が疲労感を露わに椅子にもたれかかっている。ホブ・ガドリングは窓の隙間から差し込んでくる冬の朝日に目を細めていた。重い体を引きずりキッチンに向かったホブは棚からマグカップを取り出しコーヒーを淹れるための湯を沸かす。大学で使用する資料の作成や担当する生徒たちの課題の採点、その他雑務を全て終わらせた彼は霞んだ目を擦りながらポットの湯をマグカップに注いだ。
(結局こんな時間になるまで作業してしまうとはな…)
苦味の強いコーヒーを胃に流し込みながらホブは心の中で呆れたようにそう呟く。今は、ゆっくり眠る気になれなかった。というよりベッドに横になり眠るまでの、あの時間が訪れるのが嫌だったのだ。ここ最近、その時間になるといつも同じことばかり考えて心が沈んでしまう。ホブを悩ませている原因は、彼のとある“友人”だった。
彼とは知り合ってから600年以上が経つ。不死身になってから数え切れないほどの人と出会い別れてきた、そして自分が存在し続ける限りこれからも同じことを繰り返すのだろう。だが彼だけは、100年という月日が経つ���びいつも変わらぬ様子で目の前に現れてくれた。最初は、その存在の奇妙さに戸惑いを隠せなかったが、そんな彼がいつしか自分にとって安心できる居場所となっていた。彼だけはこのホブ・ガドリングという人間を知ってくれているのだと、この自由で孤独な不死身の男がありのままで過ごせる相手なのだと、そんなことを心のどこかで感じていたのだ。だが、そんな彼との交流は1889年を最後に一度パタリと途切れてしまっていた。原因は実のところ自分にはとんと関係のない事柄だったことがつい最近判明した。しかしここ1世紀ほど自分のせいだと思っていた。それはひょんな一言、側から見れば喧嘩に発展するとは思えない一言だ。だが彼の性格を考えればそれは怒らせるのに十分なものだったと会えないショックを抱えたホブはずっと反省していた。そんな思いを抱えながら、いつ現れるのかわからない、もしかするともう現れないかもしれない彼を来る日も来る日も待ち続けていたのだ。
そして数ヶ月前、まだ夏の暑さが身に張り付く8月の頃。微かな希望を胸に日々を過ごしていたホブの前に彼はついに現れてくれた。やはり変わらぬ様子で、しかし以前よりどこか温かみのある表情と、そして彼の口から出る“友人”という言葉がホブの心を温かく包み込んでくれた。自分がどれほど幸せな気分だったか、この先忘れることはないだろう。
ビールを1杯注文して乾杯をしたあと、彼は落ち着いた声で600年来の友人に向けて初めての自己紹介をした。
彼の名前はモルフェウス。エンドレスのドリームという存在で、夢の王国「ドリーミング」の支配者。そこは眠りの先にあるもう1つの世界で、人間の心の奥底が具現化された夢の世界だそう。彼はドリーミングの王として、人々の夢やそれに関連する全てのものに関して支配力を持っている。目覚めると忘れてしまうが自分達人間は夢の中で彼に会っている者もおり、彼が初対面のホブの名を知っていたのはそういうことだった。そして100年ほど前に起きていた嗜眠性脳炎の騒動、あれは人間が彼を捕縛・監禁したことで彼が王としての責務を果たせなかった結果引き起こされていた。彼がホブとの約束に来られなかったのもこれが原因だったのだ。目の前の友人が概念の擬人化だという事実にはかなり驚いた。しかしそれ以上に、その友人が100年以上もの間、自由と尊厳を奪われ孤独な日々を送っていたというショックにホブはしばらくの間言葉が出なかった。
淡々と自分の素性について話した後、黙り込んでしまったホブを前にモルフェウスは不思議そうにその様子を伺っていた。それに気づいたホブは何か言わなくては、と回らぬ頭を必死に動かした。彼にかけたい言葉はたくさんあれど、今何を伝えたいか…わずか数秒の間、脳内でぴったりな言葉を探し回った結果ホブの口から出たのは
「…ハグしていいか?」
お前は本当に600年以上生きてきたのか?時々そう自分を疑いたくなる。これだけ生きているのだからもっとマシな言葉の引き出しがなかったのか、と呆れるが時すでに遅し。口から出てしまった言葉はもうどうしようもない。前にも同じような失敗をして痛い目にあったのにまたもや俺は…と嘆きたくなる気持ちを今は抑え、恐る恐る向かい側に視線を向けるとそこには意外な光景があった。困惑の表情を浮かべたモルフェウスが、少し戸惑いながらもこう言ったのだ。
「あぁ…別に、構わないが」
無言でスルーされるか、奇怪な視線を向けられると思っていたから、受け入れられたのは驚きだった。
少し安堵の表情を浮かべたホブは、ゆっくりと席を立って向かいに座るモルフェウスの側に向かった。
「待て、今ここでするのか?」
「えっ、あっ…ダメか?」
まだ俺の頭は回っていないらしい。ハグしていいと言われたからと言って、この内気で物静かな、目立つことが好きだとは到底思えない彼が昼間の酒場でハグなどハードルの高い話だろう。彼にそんなフランクさがないことはこれまでの経験からも明らかだった。ハグを受け入れられたことに心が弾んでつい思考より行動が先をいってしまった。
「そ、そうだよな。すまなかった、君にハグしていいって言われると思ってなかったから嬉しくてつい。じゃあまた別の機会にでも…」
「別にダメとは言ってない。少しその、確認しただけだ…」
「えっ?」
そそくさと席に戻ろうとしていたホブは驚いて振り返った。そう言ってそっぽを向く彼はいつもと同じ静かで冷たい雰囲気を纏っているが、その耳が少し赤みを帯びていることをホブは見逃さなかった。
「そんなところで突っ立っていては目立つぞ」
至って冷静なモルフェウスの声にハッとする。以前と変わらぬ、ミステリアスで孤高な雰囲気を纏う彼。だが、どこか…少し丸くなって戻ってきた彼にホブはすっかりペースを乱されていた。
「そう、だな。じゃあ…」
ホブは改めてモルフェウスと向かい合い、席に座る彼に合わせて少し身を屈めた後そっと腕を回した。雪のように白い肌から温かみを感じる。
捕らえられていた間、彼はどれほど苦しい思いをしたのだろうか。100年以上もの間監禁される苦痛は想像を絶するものだろう。自身も魔女と疑われ捕らえられた経験のあるホブにとってはなおさらそう感じられた。自由と尊厳を失い、自分の居場所にも戻れず、大切な存在を奪われ、悲しみと憎しみを抱えた続けた彼を思うだけで胸が張り裂けそうだった。無意識に抱きしめる力が強くなる。
「本当に、戻ってきてくれてよかった」
ふと口から出た言葉。きっとこれが自分が本当に伝えたい言葉なのだろう。
「本当に無事でよかった」
「身体は、大丈夫か?」
「今は、辛い思いをしてないか?」
「自分の国にはその後戻れた?」
「ちゃんと眠れてる?」
「ご飯も食べてるか?」
彼を抱きしめて、温もりを感じて、ホブの中からゆっくりと言葉が溢れ出てきた。
そんなホブの様子に、最初は緊張していたモルフェウスの表情も緩んでいた。1つ1つの問いかけにただ「あぁ」と頷く。どこか安心した表情で、柔らかな声色で。ただ最後の問いかけに関しては例外だが。
「食べれてないのかッ?」
突然身を起こし心配した顔でそう言うホブにモルフェウスはくすくすと笑った。
「私は人間のように食事をせずとも大丈夫だ。それに元々、そんな食事を好むタイプではないしな。全く食べない訳ではないが。」
「まぁ確かに、君と会い始めて以来1度たりとも食事をしているのを見た試しはないが…。でも、今日ぐらい好きなもんを好きなだけ食べよう、俺が全部奢る!あれだ、17世紀に君に奢ってもらっただろう、そのお返しに!」
「だがそう言われてもな、好きなものか…。ホブの好きなメニューは何だ?」
「えっ、俺の好きなメニューか?あるけど、自分のじゃなくていいのか…?」
「私は特に好きな食べ物というものが思いつかないし、それにこの店のメニューもよく知らない。君はここでずっと私のことを待ってくれていた、ならどんなメニューがあるか詳しいんじゃないのか?」
「そうだな、メニュー表を見なくてもなにがあるか分かるぞ。なんたってかなりの常連だからな。」
「なら決まりだ、君のおすすめのメニューを頼もう。久しぶりの食事だ、せっかくだし君の好きなものを私も食べてみたい。」
笑顔を浮かべながら話すモルフェウスにほっとしたホブは、席に戻るなりメニュー表を開いて「この店はこれが美味い」「この料理はこの酒と合う」「あれは昔に比べて少し味が変わった」と楽しげに話し続けた。ときどき、穏やかな顔でこちらを見つめるモルフェウスにドキッとしながら。
―――
午後7時、窓の外には夕焼け空が広がっている。テーブルの上は綺麗に平らげられた料理の皿と空になった何杯かのグラスで埋まっていた。100年以上の空白を埋めるように2人はいろんなことを語り合った。今までと変わらずホブが喋っていることが多いが、モルフェウスが自分のことについて教えてくれるようになり自ずと彼からも多くの話が聞けた���とは嬉しい変化だった。
でもまだまだ話し足りない、もっと一緒に酒を飲みながら他愛もない話を続けていたい。彼との楽しい時間はあっという間で、ホブはこの時間に終わりが来ることを考えたくなかった。今日が終わればまた100年後。その100年はなんだか今までよりも長く、途方もない時間に思えた。
「そろそろ出よう。」
モルフェウスの一言で我に帰ったホブは少し重たくなった心を隠すように明るく返事をし、会計を済ませて店を出た。
夕焼け空は一層色を濃くし、遠くの方には星がちらちらと見え隠れしている。ホブは名残惜しさを隠すように笑顔を作り、隣を歩く彼に話しかけた。
「今日はありがとう、君が会いに来てくれて本当に嬉しかった。もしかしたらもう会えないかもなんて少し思ってたから。」
「私こそ…本当に感謝している。君が私を待ってくれていたからこそ、こうして会うことができたのだから。」
「これで酒を飲み続ける日々もおしまいだ。まぁそれはそれで寂しいけど。」
「あれだけ飲んだのにまだ飲み足りないというのか、ホブ・ガドリング。」
そう微笑んでこちらを向くモルフェウスに、なんだかとても寂しい気持ちになった。たらふく飲んだ酒も全部抜けてシラフに戻りそうだ。あぁ、まだ飲み足りないよ。本当は酒を片手にもっと君の話を聞いていたい。そんなことを考えながら「そうかもな」と軽く返事をするホブは、隣にいたはずの友人が後ろで立ち止まっていることに気づいた。
「どうした?モルフェウス」
彼は黙って歩道の片隅に視線を落としている。酒で少し赤くなった顔が沈みかけの夕日に照らされる。握り拳を撫でるようにモゾモゾと親指を動かし、何か言いたげな様子だった。ホブが歩み寄ろうとした時、彼はこちらを向いてゆっくりと口を開いた。
「また、会えないか?その…100年後ではなくもっと近い日に」
一瞬2人の間に時間が止まったかのようにも思える静寂が訪れた。ホブは踏み出した片足をそのまま、大きな目をぱちくりさせて今起きたことに驚きを隠せない様子だった。彼からの突然の提案、これはつまりホブが彼にもっと会いたいと思うように、彼もホブに対してそう思ってくれているというなによりの証拠だった。今日の彼には驚かされてばかりである。だが、こんな嬉しい驚きならいくらでも大歓迎だった。
居た堪れなくなったモルフェウスが目を逸らす前にホブは彼の側まで駆け寄って、彼の手を優しく掴んだ。
「あぁ、会おう!俺ももっと君に会いたい、まだまだ話したいことや一緒に飲みたい酒がたくさんあるんだ。次はいつにしようか…!」
ホブは満面の笑みでそう答えた。さっきまで沈み込んでいた心は、いつしかふわふわと宙を舞っているように軽く感じた。
「そうか…」
夕日に照らされたホブの笑顔を見てモルフェウスはほっとしたように呟く。
「私はいつでも大丈夫だ、君が来れる時でいい。」
「んん〜ならどうしようか…平日の夜は空いてるけど、大学の仕事が長引いたりする日もあるからなぁ。やっぱり休日の方がゆっくり会えるかな。」
「ではそうしよう。」
「どのぐらい先にしようか、そこ大事だよな…」
「さっき酒場で今月一杯は仕事が忙しいと話していただろう。それならば来月はどうだ?」
「んん、そうだな…!そうしよう!じゃあ来月初めの日曜日に。」
「わかった。では、またその日に。」
そう言うと彼の真っ黒のコートが風になびき、本来の形が崩れて周囲に散っていく。彼にどんな能力があるのか詳しくは知らないが、きっと“ドリーミング”に帰ろうとしているのだろう。別れの寂しさは、ひと月後の約束の喜びにかき消されていた。
「今日は楽しかった、おやすみモルフェウス。」
砂のように舞う黒に彼がかき消される前、ホブは柔らかな声でそう呟いた。その声が彼に届いていたのかはっきりとは分からない。だが、消える直前に見えた少し照れくさそうな顔はきっと見間違えではないだろう。
「100年に1度が、ひと月に1度か…」
―あとがき
「彼が会いに来ない理由」Chapter1を読んで下さりありがとうございました!
Chapter1〜5で構成されているこのお話、今回は2人が1月後に会う約束をしたところまでになっています。ドラマ第6話ではTHE NEW INNで出会った場面で2人の話は一旦終了しましたが、その後を妄想して自由に書いてみました。今までは100年ごとの飲み会でしたが、本編でもこれを機にもっとたくさん会って欲しいですね。
初の文章での二次創作、初めてのことで色々と試行錯誤しながらのチャレンジでした。もし楽しんでいただけていたら、とても嬉しいです☺️🙏
さて、次回はどんな飲み会になるのでしょう、そしてその後2人にはどのような展開が待っているのでしょうか。お楽しみ!
Chapter2はこちら↓
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sakanafromhell · 2 years
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幻想キッチン(2555字)
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 世の中には2種類の人間がいる。などと俗悪なレトリックに頼るのは癪だけど、世の中には2種類の人間がいる。  ホームパーティが大好きな人間と、そうではない人間だ。  私は完全な後者。300歳まで生きたとしても、ホームパーティを主催するような錯乱状態に陥ることはないだろう。でも、お誘いを受ければほいほい参加してしまう。何も不思議じゃない。私だって皆さんと同じ、社会的動物に過ぎないのだ。
 知人の新居お披露目パーティに出席した私は、酒に酔う前に人に酔っていた。大豪邸で、50人近い参加者のほとんどが初対面だ。家主がサンフランシスコ帰りであるためか、パーティはアメリカ式で人口密度が高い。狭くるしい島国に住む日本人はひろびろとした場所でのパーティを好むけれど、管理しきれないほどの国土を持つアメリカ人はパーティではぎゅうぎゅうになりたがる。  私はどちらも好きじゃない。
 ホームパーティを嫌う人間がなぜホームパーティを嫌うのかというと、話は単純。傷つきたくないからだ。  傷つきやすい性質であることを日々さりげなくアピールしている面倒な人間(すなわち私みたいなタイプ)は、ホームパーティのような防御の効かない場所で���深く傷つけられてしまう。毎回違う場所を、毎回違う方法で。
 私は広大なリビングの喧噪を早々に逃れ、キッチンで一人、牛乳を飲んで過ごしていた。  誰もいない、他人の家のぴかぴかのキッチン。  楽しげなお喋りや音楽が漏れ聞こえるなか、普段は飲まない牛乳なんかをちびちびやるのはなかなか気持ちの良いことだ。  時折この部屋に迷い込んでくる者もいる。私はそれらの漂流者たちと短い会話を交わすのが好き。万能の占い師みたいな気分になれるから。
Q. 生ハムまだあります? A. あと少しありますよ
Q. あれー? ここトイレじゃないんだ? A. トイレは突き当たりを折れた先です
Q. うちの子見なかった? A. 2階に子供用のホビールームがあるみたいですよ
Q. アンジェリーナ・ジョリーってブラピの前、誰と結婚してたんだっけ? A. 最初がジョニー・リー・ミラーで、その次がビリー・ボブ・ソーントン
Q. 女の子3人でパンクバンドつくったんだけど、何かいいバンド名ありませんか? A. 地獄への3車線
Q. 人って何のために生きてるんだろう? A. 人ってもうみんな死んでるのかもよ?
Q. 私ってオオカミに育てられたんだけど、今もちょっと人と違って見えたりする? A. ぜんぜん。普通
Q. きれいな髪だね。少しさわっても良い? A. 絶対にだめ
Q. 大洪水で世界が終わるのって来月の4日でしたっけ? 14日? A. 明日ですよ。知らなかったの?
 たいていの人は少し酔っ払っているか、ひどく酔っ払っている。  私は何万年も前からこのキッチンに据え置かれているような気分。  高揚している、と言い換えても良い。
 ドアが開いて、また一人が流れ着く。  とても美しい女性だ。  体重がないみたいな軽やかな動作で部屋に入ってくる。
Q. コーヒーをいれてくださる? A. インスタントで良ければ
 よく見ると女性の体はうっすら透けていた。  幽霊だ。  私は幽霊のためにコーヒーをいれることにする。キッチンの棚を勝手に開け閉めし、必要な道具を集めてまわる。  幽霊は椅子に座って天井を見上げ、「酔ったなあ」とつぶやいた。  その姿は、私がずっと好きだった誰かに似ている。  でも、それが誰だったのかは思い出せない。 「少しだけ砂糖を入れてね」と幽霊は注文を付けた。
 私は二つのカップにコーヒーを注ぐと、砂糖の瓶と一緒にテーブルまで運んだ。  幽霊は茶色の砂糖を瓶の中でそっとかき混ぜてから、コーヒーの中にざらりと落とした。とても残酷な手つきだと思った。
 他人の家のぴかぴかのキッチンで、幽霊と向かい合ってコーヒーを飲む。ここだけ区切られた別世界のようだ。
 幽霊は、やはり私がかつて恋い焦がれた誰かに似ている。この恋のためなら命を落としても良い……。そんな強力で幼稚な思考の残滓が、私のどこかに今もまだ息づいているのを感じた。
 自分のものではないキッチンで、ドアの向こうの楽しげな喧噪を耳にしながら、死ぬほど好きだった人の幻を見ている。この部屋は私の人生を見事に表現したひとつの美術品だ。
「明日には大洪水で世界が滅ぶのに、どうしてホームパーティなんか開くのかな」とコーヒーを飲み終えた私が言う。 「大洪水で世界が滅んだのは先月の14日のことだよ」幽霊はコーヒーカップを口に当てたまま答えた。「4日だったかな」 「え?」 「人類は一人残らず滅んでしまった」幽霊は私をじっと見た。「ホームパーティなんかにうつつを抜かすからだ。ホームパーティを好むようなおめでたい人間は死んだ自覚すら持たない。死んだあとも平然とホームパーティを開いたりする。あつかましいことに。お前たちのせいで世界はいつまでも騒々しいままだ。いつまでも馬鹿馬鹿しいままだ。静かにしてください。静粛にしてください。黙って下を見ていてください。下ばかりを見ていてください」
 いつしかパーティの喧噪は止んでいた。  冷蔵庫の鈍い低音だけが響いている。  みんな、自分のことを亡霊だと気づいてしまったのかもしれない。  私たちはすでに滅んでいて、その意思だけが幻のパーティ会場をさまよっているのだと。  目の前の幽霊が急に私に微笑みかけた。
Q. きれいな髪ね。少しさわっても良いかしら? A. ええと
 幽霊の手が伸びてきて、そっと私の髪を撫ぜた。  つめたい指に髪を絡め取られると、私の中に眠っていた密やかな思い出が幾つも蘇った。髪を揺らされるたびに、無作為にひとつずつ掘りおこされていくみたいに。  それらの記憶はヘンゼルとグレーテルの小石みたいなもので、等間隔にばらまかれてはいるものの、本人以外には回収されることもないし、顧みられることもない。  すっかり静まりかえったキッチン。  いつしか幽霊の姿も消えている。  何もすることがないから、私は生まれてからのすべての記憶を、頭の中で正確に反芻することにした。  たぶんそれを、永遠に繰り返す。  私が死んでいるのだとしたら、そうするより他ない。  そういうものでしょう?
Q. そんな私にホームパーティの参加資格はあるのでしょうか? A. ありません。ホームパーティは、正しく生きている人たちを象徴する催しです。まずは正しく生きてみては? 話はそれからです
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oharash · 1 year
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余花に吉兆
1.  友人あるいは恋人のようなことを始めたら、もっと分かり合えて親密な空気だとか柔らかな信頼みたいなものが生まれるかと予想していたが、俺らの空間は特段何かが変化することもなく、近すぎず遠すぎずの関係が果てなく伸びていくのみだった。  大切なものを手のひらに閉じ込めるような日々だった。彼の大きな体は存在感だけでもどこか騒々しかったが、無音より心地よかったのだ。
 うずたかく積もった瓦礫がようやく街から消える頃、俺は人生初の無職デビューを飾った。事務所は畳んだし復興支援委員会の任期も終わった。警察や公安、行政から相変わらず着信や不定期な依頼はあれど、様々な方面からの誘いを断り所属する場所がなくなった俺はぼんやりと初夏を迎えることとなった。  無職になりまして。とセントラルの定期通院の帰り、待ち合わせた居酒屋で焼き鳥をかじりながら言うと彼は呆けた顔で俺を見た。エアコンの効きが悪いのか、妙に蒸し暑くてふたりとも首筋にじんわり汗が滲んでいる。 「お前が?」 「はい。しばらくゆっくりしてから次のこと考えようと思って」 「お前にそんな発想があったとは」 「どういう意味ですか」 「休もうという発想が。いつも忙しく働いとったろーが。そもそも趣味や休みの過ごし方をお前の口から聞いたことがない」 「それ元SKたちにも言われましたわーー。人を仕事人間みたく言わんでくださいよまあその通りですけど。今までやれなかったこと全部やったろ、と思ってたんですけど10日で飽きました。福岡いるとどうしても街の様子気になっちゃうしホークスだ〜〜♡ て言われるし、どっか旅行でも行けばって言われるんすけど全然そんな気になんないんすよ。来月には引きこもりになってるかもしれねっす」  そしたら会いに来てくださいね♡ と言ったら、彼は釈然としないような、そして何かに耐えるような、そんな顔をした。  店を出ると強い風が頬を打った。まだほんのわずか残っていた春の気配が吹き飛んでいく。じゃあ、と手をあげかけたところでデカい手が伸びてきて顎を掴まれた。「飲み直すぞ、うちで」「ひゃい?」かくて俺はそのままタクシーに突っ込まれ(この人と乗る後部座席は超狭い)、轟邸へお持ち帰りされることとなった。
 暗闇の中でうずくまる恐竜みたいな日本家屋。数奇屋門と玄関の間だけで俺の1LDKがすっぽり入りそう。靴を揃えて上り框に足をかけると今度は首根っこを掴まれた。連行されるヴィランそのままの格好で俺は廊下を引き摺られ居間の隣室へ放り込まれる。今夜は何もかも展開が早い。「なになに? 俺には心に決めた人がいるんですけど⁉︎」「使え」「は?」 「この部屋を好きなように使え。しばらく置いてやる」 「もしかしてあなた相当酔ってますね⁉︎」 「あれくらいで酔わん。お前が、ヒーロー・ホークスが行くところがないなんて、そんなことがあってたまるか」  畳に手をついて振り仰ぐ。廊下から部屋に差し込む灯りは畳の目まではっきりと映し出しているけれど、彼の表情は逆光でわからない。 「俺、宵っぱりの朝寝坊ですよ」 「生活習慣までとやかく言わん。風呂を沸かしたら呼びに来てやるからそれまで好きにしてろ」  けれど俺が呼ばれることはなく、様子を見に行くと彼は居間で寝落ちていたのでやっぱり酔っていたのだと思う。デカい体を引きずって寝室に突っ込んだ。風呂は勝手に借りた。
 酔ってはいたものの彼の意思はしっかり昨晩にあったようで、そして俺も福岡に帰る気が全くおきなかったので、出会い頭の事故のように俺の下宿生活は始まった。  「うちにあるものは何でも好きに使え」なるありがたいお言葉に甘えて俺は巣作りを開始した。足りないものはAmazonで買った。徹夜でゲームしたりママチャリで街をぶらついたり(帽子をかぶってれば誰も俺に気づかなかった)ワンピース一気読みしたり豚肉ばかり使う彼からキッチンの主権を奪いそのまま自炊にハマったりもした。誰を守る必要もなく、誰かを気にかける必要もない。誰を満足させる必要もなかった。彼が出かける時間に俺は寝ていたし夕飯も好きな時間に食べていたので下宿より居候の方が正確だったかも知れない。誰かとひとつ屋根の下で暮らすことへの不安はすぐ消えた。早起きの彼がたてる足音や湯を使うボイラー音、帰宅時の開錠の音。そんな他人の気配が俺の輪郭を確かにしていったからだ。  ヒーローを引退した彼は事務所を売却したのち警備会社の相談役に収まっていたがしょっちゅう現場に呼ばれるらしく、出勤はともかく帰り時間はまちまちだった。まあわかる。治安維持に携わっていて彼に一目置いていない人間はまずない(治安を乱す側はなおさらだ)。「防犯ブザーのように使われる」とぼやいていたが、その横顔にはおのれの前線を持つものの矜持があった。どうしてか俺は嬉しい気持ちでそれを見ていた。
2.  ある夜、俺は玄関で彼のサンダルを履き外へ出た。引き戸を開けると明るい星空が広がっていて、それが妙に親しかった。縁側に腰掛けてぼんやり彼方を眺めると星の中に人工衛星が瞬いている。ほとんどの民家の明かりは消えていて、夜は少し湿りそして深かった。紫陽花だけが夜露に濡れて光っていた。  知らない街なのに、他人の家なのに、帰らんと、とは微塵も思わなかった。俺はここにいる。知らない場所に身ひとつで放り出されてもここに帰ってくる。呼吸をするたびに心と体がぴったりと張り付いていった。  気配を感じて振り返ると、あの人がスウェットのまま革靴を引っ掛けて玄関から出てくるところだった。 「風邪をひくぞ」と言われ何も答えずにいると犬か猫みたいにみたいに抱えられ、家の中に連れ戻された。  それからほとんど毎夜、雨でも降らない限り俺は外に出て彼方を眺めた。そうすると彼は必ずやってきて俺を連れ戻した。ある夜「一緒に寝てください」と言ったら彼は呆れたように俺を見下ろして「お前の部屋でか」と言った。そうかあそこは俺の部屋なのか。「あなたの部屋がいいです」と言ったら視線がかちあい、耳の奥で殺虫器に触れた虫が弾け飛ぶみたいな音がして、目が眩んだ。 「そんで、同じ布団で」 「正気に戻ってからセクハラだとか騒ぐなよ」  彼の布団にすっぽりおさまると目が冴えた。やっぱこの人なんか変。そんで今日の俺はもっと変。分厚い背中に額をあてて深く息を吸った。おっさんの匂いがして、めちゃくちゃ温かくて、甘くて甘くて甘くて足指の先まで痺れる一方で自分で言い出したことなのに緊張で腹の奥が捻じ切れそうだった。  彼の寝息と一緒に家全体が呼吸をしている。眠れないまま昨夜のことを思い出す。俺が風呂に入ろうとして廊下を行くと、居間で本を読んでいた彼が弾かれたように顔を上げた。その視線に斥力のようなものを感じた俺は「お風呂行ってきまぁす」となるべく軽薄な声で答えた。一秒前まであんな強い目をしていたくせに、今はもう血の気の失せた無表情で俺を見上げている。妙に腹が立って彼の前にしゃがみ込んだ。「一緒に入ります?」「バカか」「ねえエン��ヴァーさん。嫌なこととか調子悪くなることあったら話してください。ひとりで抱え込むとろくなことないですよ。俺がそれなりに役立つこと、あなた知ってるでしょ?」 「知ったような顔をするな」 「俺はド他人ですが、孤独や後悔についてはほんの少し知っていますよ」  真正面から言い切ると、そうだな、と素っ気なく呟き、それきり黙り込んだ。俺ももう何も言わなかった。  ここは過ごすほどに大きさを実感する家だ。そこかしこに家族の不在が沈澱している。それはあまりに濃密で、他人の俺でさえ時々足をとられそうになる。昨日は家族で食事をしてきたという彼は、あの時俺の足音に何を望んだのだろう。  いつぞやは地獄の家族会議に乱入したが、俺だって常なら他人の柔らかな場所に踏み入るのは遠慮したいたちだ。けれどあの無表情な彼をまた見るくらいなら軽薄に笑うほうがずっとマシだった。これから先もそう振る舞う。  きんとした寂しさと、額の先の背中を抱いて困らせてやりたい怒り。そんなものが夜の中に混ざり合わないまま流れ出していく。
3.  涼しい夜にビールを飲みながら居間で野球を眺めていたら、風呂上がりの彼に「ホークス」と呼ばれた。 「その呼び方そろそろやめません? 俺もう引退してるんすよ。俺はニートを満喫している自分のことも嫌いじゃないですが、この状態で呼ばれるとホークスの名前がかわいそうになります、さすがに」「お前も俺のことをヒーロー名で呼ぶだろうが」「じゃあ、え……んじさんて呼びますから」「なぜ照れるんだそこで」「うっさいですよ。俺、けーご。啓吾って呼んでくださいよほら」「……ご」「ハイ聞こえないもう一回」「け、けいご」「あんただって言えないじゃないですかあ!」  ビールを掲げて笑ったら意趣返しとばかりに缶を奪われ飲み干された。勇ましく上下する喉仏。「それラスト一本なんすけどお」「みりんでも飲んでろ。それでお前、明日付き合え」「はあ」「どうせ暇だろ」「ニート舐めんでくださいよ」  翌日、俺らは炎司さんの運転で出かけた。彼の運転は意外に流れに乗るタイプで、俺はゆっくり流れていく景色を眺めるふりをしてその横顔を盗み見ていた。「見過ぎだ。そんなに心配しなくてもこの車は衝突回避がついている」秒でバレた。 「そろそろどこいくか教えてくださいよ」 「そば屋」  はあ、と困惑して聞き返したら、炎司さんはそんなに遠くないから大丈夫だ、とまたしてもピンぼけなフォローで答えた。やがて商業施設が消え、国道沿いには田園風景が広がり出した。山が視界から消え始めた頃ようやく海に向かっているのだと気づく。  車は結局小一時間走ったところで、ひなびたそば屋の駐車場で止まった。周りには民家がまばらに立ち並ぶのみで道路脇には雑草が生い茂っている。  テレビで旅番組を眺めているじいさん以外に客はいなかった。俺はざるそばをすすりながら、炎司さんが細かな箸使いで月見そばの玉子を崩すのを眺めていた。 「左手で箸持つの随分上手ですね、もともと右利きでしょ?」 「左右均等に体を使うために昔からトレーニングしていたから、ある程度は使える」 「すげえ。あなたのストイックさ、そこまでいくとバカか変態ですね」 「お前だって同じだろう」  俺は箸を右から左に持ち替えて、行儀悪く鳴らした。 「んふふ。俺、トップランカーになるやつってバカか天才しかいねえ、って思うんすよ。俺はバカ、あなたもバカ、ジーニストさんも俺的にはバカの類です」 「あの頃のトップ3全員バカか。日本が地図から消えなくてよかったな」  そばを食べて店を出ると潮の匂いが鼻を掠めた。「海が近いですね?」「海といっても漁港だ。少し歩いた先にある」漁港まで歩くことにした。砂利道を進んでいると背後から車がやってきたので、俺は道路側を歩いていた炎司さんの反対側へ移動した。  潮の香りが一層強くなって小さな漁港が現れた。護岸には数隻の船が揺れるのみで無人だった。フードや帽子で顔を隠さなくて済むのは楽でいい。俺が護岸に登って腰掛けると彼も隣にやってきてコンクリートにあぐらをかいた。 「なんで連れてきてくれたんですか。そば食いたかったからってわけじゃないでしょ」  海水の表面がかすかに波立って揺れている。潮騒を聞きながら、俺の心も騒がしくなっていた。こんな風に人と海を眺めるのは初めてだったのだ。 「俺を家に連れてきたのも、なんでまた」 「……お前が何かしらの岐路に立たされているように見えたからだ」 「俺の剛翼がなくなったから気ィ使ってくれました?」  甘い潮風にシャツの裾が膨らむ。もう有翼個性用の服を探す必要も服に鋏を入れる必要も無くなった俺の背中。会う人会う人、俺の目より斜め45度上あたりを見てぐしゃりと顔を歪める。あの家で怠惰な日々を過ごす中で、それがじわじわ自分を削っていたことに気づいた。  剛翼なる俺の身体の延長線。俺の宇宙には剛翼分の空白がぽっかり空いていて、けれどその空白にどんな色がついているかは未だわからない。知れぬまま外からそれは悲しい寂しい哀れとラベリングされるものだから、時々もうそれでいいわと思ってしまう。借り物の悲しさでしかないというのに。 「俺より先に仲間が悲しんでくれて。ツクヨミなんか自分のせいだって泣くんですよかわいいでしょ。みんながみんな悲壮な顔してくれるもんだから、正直自分ではまだわかんなくて。感情が戻ってこない。明日悲しくなるかもしれないし、一生このままかも。  あなたも、俺がかわいそうだと思います?」 「いいや」  なんのためらいもなかった。 「ないんかい」 「そんなことを思う暇があったら一本でも多く電話をして瓦礫の受け入れ先を探す。福岡と違ってこの辺はまだ残っとるんだ。それから今日のそばはおれが食いたかっただけだ」 「つめたい!」 「というかお前そんなこと考えとったのか。そして随分甘やかされとるな、以前のお前ならAFOと戦って死ななかっただけ褒めてほしいとか、ヒーローが暇を持て余す世の中と引き換えなら安いもんだと、そう言うだろう。随分腑抜けたな。周囲が優しいなんて今のうちだけだ、世の中甘くないぞ、きちんと将来のことを考えろ」 「ここで説教かます⁉︎ さっきまでの優しい空気は!」 「そんなもの俺に期待するな」  潮風で乱れる前髪をそのままにして、うっとり海に目を細めながらポエムった10秒前の自分を絞め殺したい。  彼は笑っているのか怒っているのか、それともただ眩しいだけなのかよく分からない複雑な顔をする。なお現在の俺は真剣に入水を検討している。 「ただ、自分だけではどうしようもないときはあるのは俺にもわかる。そんな時に手を……  手を添えてくれる誰かがいるだけで前に進める時がある。お前が俺に教えてくれたことだ」 「ちょ〜〜勝手。あなたに助けてもらわなくても、俺にはもっと頼りたい人がいるかもしれないじゃないですか」 「そんな者がいるならもうとっくにうちを出ていってるだろう。ド他人だが、俺も孤独や後悔をほんの少しは知っている」  波音が高くなり、背後で低木の群れが強い海風に葉擦れの音を響かせた。  勝手だ、勝手すぎる。家に連れてきてニートさせてあまつさえ同衾まで許しといて、いいとこで落として最後はそんなことを言うのか。俺が牛乳嫌いなのいつまでたっても覚えんくせにそんな言葉は一語一句覚えているなんて悪魔かよ。  俺にも考えがある、寝落ちたあんたを運んだ部屋で見た、読みかけのハードカバーに挟まれた赤い羽根。懐かしい俺のゴミ。そんなものを後生大事にとっとくなんてセンチメンタルにもほどがある。エンデヴァーがずいぶん可愛いことするじゃないですか。あんた結構俺のこと好きですよね気づかれてないとでも思ってんすか。そう言ってやりたいが、さっき勝手に演目を始めて爆死したことで俺の繊細な心は瀕死である。ささいなことで誘爆して焼け野原になる。そんなときにこんな危ういこと言える勇気、ちょっとない。 「……さっきのそば、炎司さんの奢りなら天ぷらつけとけばよかったっす」 「その減らず口がきけなくなったら多少は憐れんでやる」  骨髄に徹した恨みを込めて肩パンをした。土嚢みたいな体は少しも揺らがなかった。  
 車に向かって、ふたりで歩き出す。影は昨日より濃く短い。彼が歩くたびに揺れる右袖の影が時々、剛翼の分だけ小さくなった俺の影に混じりまた離れていく。 「ん」  炎司さんが手でひさしを作り空を見上げ、声をあげる。その視線を追うと太陽の周りに虹がかかっていた。日傘。 「吉兆だ」
4.  何もなくとも俺の日々は続く。南中角度は高くなる一方だし天気予報も真夏日予報を告げ始める。  SNSをほとんど見なくなった。ひとりの時はテレビもつけず漫画も読まず、映画だけを時々観た。炎司さんと夜に食卓を囲む日が増えた。今日の出来事を話せと騒ぎ聞けば聞いたで質問攻めをする俺に、今思えば彼は根気よく付き合ってくれたように思う。  
 気温もほどよい夕方。庭に七輪を置き、組んだ木炭に着火剤を絞り出して火をつける。静かに熱を増していく炭を眺めながら、熾火になるまで雑誌を縛ったり遊び道具を整理した。これは明日の資源ごみ、これは保留、これは2、3日中にメルカリで売れんかな。今や俺の私物は衣類にゲーム、唐突にハマった釣り道具はては原付に及んでいた。牡丹に唐獅子、猿に絵馬、ニートに郊外庭付き一戸建てだ。福岡では10日で暇を持て余したというのに今じゃ芋ジャージ着て庭で七輪BBQを満喫している。  炭がほの赤く輝き出すころに引き戸の音が聞こえ、俺は網に枝豆をのせた。 「今日は早いですね〜〜おかえりなさい」 「お前、無職が板につきすぎじゃないか?」 「まだビール開けてないんで大目に見てください」  家に上がった彼はジャージ姿でビールを携えて帰ってきた。右の太ももには「3-B 轟」の文字。夏雄くんの高校ジャージだ、炎司さんは洗濯物を溜めた時や庭仕事の時なんかにこれを着る。そのパツパツオモシロ絵面がツボに入り「最先端すぎる」と笑ったら「お前も着たいのか?」とショートくんと夏雄くんの中学ジャージを渡され、以来俺はこの衣類に堕落している。遊びにきたジーニストさんが芋ジャージで迎えた俺たちを見てくずおれていた。翌々日ストレッチデニムのセットアップが届いた(死ぬほど着心地がよかった)。  焼き色のついた枝豆を噛み潰す。甘やかな青さが口の中に広がっていく。 「福岡帰りますわ、ぼちぼち」  彼の手からぽとりとイカの干物が落っこちた。砂利の上に不時着したそれにビールをかけて砂を流し、網の上に戻してやる。ついでにねぎまを並べていく。 「……暇にも飽きたか」 「いや全然、あと1年はニートできます余裕で」  ぬるい風と草いきれが首筋をくすぐり、生垣の向こうを犬の声が通り過ぎていく。いつも通りのなんでもない夕方だ。そんななんでもなさの中、現役の頃は晩酌なんてしなかっただろう炎司さんが俺とビールを開けている。俺らはずいぶん遠くまで来た。 「福岡県警のトップが今年変わったんですけど、首脳部も一新されて方針も変わったらしくて、ヒーローとの連携が上手くいってないらしいんすよね。警察にもヒーローにも顔がきいて暇な奴がいると便利っぽいんで、ちょっと働いてくるっす。そんで、俺のオモチャなんですけど」整理した道具たちに目をやる。「手間かけて悪いんですが処分してくれませんか?」 「……どれも、まだ使えるだろう」 「はあ。リサイクルショップに集荷予約入れていいです?」 「そうじゃない。処分する必要はないと言ってるんだ」  的外れと知っていてなお、真っ当なことを言おうとする融通のきかなさ。その真顔を見て俺この人のこと好きだな、と思う。子どものまま老成したような始末の悪さまで。 「それは荷物置きっぱにしてていいからまたいつでも来いよってことでしょーーか」 「……好きにしろ」  唸るような声はかすかに怒気をはらんでいる。さっきまで進んでたビールは全然減ってないしイカはそろそろ炭になるけどいいんだろうか。ビール缶の汗が彼の指をつたい、玉砂利の上にいびつな模様をつくっていく。 「じゃあお言葉に甘えて。それとツクヨミが独立するってんで、事務所の立ち上げ手伝ってほしいって言われてるんすよ、なんでちょくちょくこっちに滞在するので引き続きよろしくお願いします具体的には来月また来ます♡」 「それを先に言え‼︎」  今度こそ本物の怒りが俺の頬を焦がした。具体的には炎司さんの首から上が燃え上がった。七輪みたいに慎ましくない、エンデヴァーのヘルフレイム。詫びながら彼の目元の皺を数えた。青い瞳にはいつも通りに疲労や苛立ち、自己嫌悪が薄い膜を張っている。今日も現場に呼ばれたんかな。ヒーロースーツを着なくなっても、誰かのために走り回る姿は俺の知ったエンデヴァーだった。腕がなくなろうが個性を使わなかろうが、エンデヴァーを許さぬ市民に罵倒されようが。だから俺も個性なくてもできることをやってみっかな、と思えたのだ。ここを離れ衆目に晒されることに、不安がないわけではないけれど。  疲れたらここに帰ってまたあの部屋で布団かぶって寝ればいい。家全体から、やんわり同意の気配が響くのを感じる。同意が言いすぎだとしたら俺を許容する何か。俺のねぐら、呼吸する恐竜の懐の。 「その……なんだ、頑張れ」 「アザーース」  帰属していた場所だとか、背にあった剛翼だとか。そんなものがごっそりなくなった体は薄弱で心もとない。だから何だ、と思う。俺はまだ変わる。  空があわあわと頼りない色合いで暮れていく。隣にしゃがんだ炎司さんの手が俺の背に添えられた。翼の付根があったあたりにじわりと熱が広がり、そのまま軽く背を押されて心臓が跳ねる。 「来月はそば打ちでもしましょうね」  短い肯定が手のひらの振動から伝わる。新たな命を吹き込まれる俺の隣で、炭がぱちりと爆ぜた。
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amrgamata · 5 months
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けもののいる生活 misskeyまとめ
すんすん、と鳴がカメラのにおいを嗅ぐ。気になるのだろう。鳴は新しい物を見るといつもこういう行動をとる。
「たもつ、これなあに?」 「見守りカメラ」 「みまもり……?」
こて、と鳴が首を傾げる。最近俺が仕事から帰ってくるといつも部屋が荒れているから、証拠か何か掴めるだろうかと思って購入した物だった。
「お前が悪さとかしてないか見る���だよ」 「……たもつ、へんたいみたい」 「あぁ?」
俺が軽く凄むと、鳴はイカ耳になってカメラから離れる。鳴は怒られるのが嫌いなのだ。
「とにかく。今日からこれ置くからな」 「ん-……分かったあ」
どこか納得していない様子だが、鳴には我慢してもらうしかない。 鳴の性格のことだから、他の猫のようにカメラを倒したりするかもしれないが、それも仕方ないだろう。鳴は悪戯をする時必ず鼻歌を歌う。動画が撮れずともその音声さえ取れれば、証拠になる。
「へんな動画、とったりしない?」 「お前がそういう行動とらなければいいだけだろ」 「むー……」
膨れ顔になって、鳴はとたとたと歩いて自室まで歩く。その背中を見ながら、「杞憂に終わればいいが」と俺は思った。
ーーーーーー
かたりかたりと、机が揺れる。 その音を立てる正体は、鳴だった。
「……鳴」 「ん、にゅ……」 「鳴、起きろって」
夢の世界に半ば旅立っている鳴は、俺の言葉に反応が悪い。 はあ、と息を吐いて、俺は鳴の頭をひっぱたいた。
「ういっ!?」 「いい加減起きろ」 「いいかげんもなにもないよ……」
むー、と言いながら、鳴は不服そうに頬を膨らませる。 「学校は寝る時間を過ごすところではない」と何度も言っているのだが、『猫』という性質上どうしても鳴は眠くなってしまうのだろう。それでも成績はいいのだから、その点保さんの教え方がうまいのだろうか。
ん、ん、と鳴が伸びをして、欠伸をする。ぼんやりと俺を見た鳴は、にへ、と笑みを浮かべた。
「おはよ、祥くん」 「おはようも何ももう昼だが」 「んえ?そうなの?」
細い手首に巻かれた腕時計に目をやり、鳴は言う。 一時限目から鳴は眠っていた。単純に計算して四時間ほど眠っていた計算になるのだろうか。
「ほんとだ」 「先生あきれてたぞ」 「それはごめんなさいだね」
教壇には、今は誰も居ない。それは今の時間が自習だからだった。担任の先生は、今は教室の隅に置いてある教員用の机で書類を読んでいた。
「……でも先生、いまは何もしてないよ?」 「今は、な。折角前の時限は鳴の好きな歴史だったのに」 「え!歴史だったの?」
頷けば、鳴は再び不服気に頬を膨らませた。
「起こしてくれればよかったのに」 「起こしても起きなかったのはお前だ」 「うー……」 「今後はこんなことが無いように起きてるんだな」
そう言って、俺は鳴に笑いかけた。鳴の眼には恐らく、意地悪く映ったことだろう。
ーーーーーー
ごろごろ、と鳴が喉を鳴らす。 撫でるのをやめようとすれば、不機嫌そうに鳴は俺の手を握って自らの顎に当てる。「まだ撫でろ」といっているのだ。
「……器用なんだな、けものって」 「ん-?なにがー?」 「人化してるのに喉鳴らせるんだなって言ってんだよ」
猫が喉を鳴らす仕組みは、実はよく分かっていないのだという。 人間の喉仏に当たる部分の筋肉を非常に細かく伸縮させることで声帯が振動し音が鳴ると考えていられたり、ゴロゴロと音が鳴る仮声帯がある説や、喉を通る大静脈の血流が渦巻いた振動で鳴る説などがあるらしい。 どうして猫の喉は鳴るのか。それを鳴に訊いたって、恐らくは何も答えなど出ないのだろう。
「化け猫、なぁ……」 「妖怪あつかいしないで」
むすっとした声で、鳴が言う。鳴はお姫様というか、女王様気質だから、機嫌がコロコロ変わるのだ。
「でも今でいう『けもの』が妖怪だった可能性だってあるんだろ?」 「むー……そうだけど……」 「認めた方が楽だぞ、鳴」 「らくもなにも……わたしの知ったことじゃないもん」 「はいはいそうですかー」 「……たもつ、めんどくさくなってない?」
じ、と鳴の翠色の眼が俺を見上げる。 確かに、面倒になってきているのは事実だが。
「まあ、お前は俺より年下だしなぁ」 「……」
ぽかり、と口を開け、鳴は呆れたようにその口から短く息を吐く。
「……たもつ、猫の10歳って人間でいう56歳なんだよ」 「へえ?そうなのか?」 「うん。だから私は人間でかんがえればたもつより年上なの」 「でも現実で過ごした時間で考えれば俺には勝てない。一生な」
俺の言葉に、う、と鳴は詰まって、閉口する。 そして、鳴は不機嫌そうに、唸り声を一つ短く上げた。
ーーーーーー
「雛里?」
リビングにいるはずの雛里に声を掛ける。けれど、答えはない。 キッチンから顔を覗かせれば、ソファーに座っている雛里の小さな背中が見えた。
「……」
無視しているわけではないのだろう。息遣いに耳をすませば、眠っているらしい。
ぱっぱっ、と手についた水を払い、俺はキッチンを出る。 そうっとソファーに近づき雛里の顔を覗いてみれば、予想通りというか推察通りというか、雛里は眠っていた。
雛里は白色変種だ。昔雛里は自分の姉に裏切られて死にかけたところで俺が助けた経緯があり、俺と雛里はそこから一緒に暮らすようになった。
眠っている雛里の顔をじ、と見つめる。計算が合っているなら、雛里は今年で12歳になるはずだ。12歳という割には身体つきが幼い気もするが、その辺は個人差もあるうえ俺は医者ではないからよく分からない。
「……ん……」 「!」
雛里が短く声を上げて、反射的に俺は雛里から一歩後ずさる。 ゆるゆると瞼を開けた雛里はその紅い眼できょろきょろと辺りを見回し、軈て俺を視界に認める。
「私……寝てた……?」 「うん、まあまあぐっすり。起こしちゃったか?」 「ううん、大丈夫……転寝だから」
こしこしと雛里は瞼を擦って、頭の中から眠気を追い出そうとする。欠伸を一つして、そこで眠気はなくなったのだろう、雛里はしっかりと俺を見た。
「今日、なんか依頼あったっけ……?」 「いや、ないな。今日はオフ」 「……それならまだ寝てても良かったかも」
ぼそりと雛里は呟いて、ぴょん、とソファーから降りた。
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zutsunokotodake · 6 months
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3/8金
朝、うっすらと雪。3月って雪降るんだっけ? 夕方、片頭痛薬服薬。抗不安薬飲まず。e-U-n、再度MC部分確認して、1箇所だけ直して再度書き出ししてアップ。
3/9土
朝起きて、まずは抗不安薬を。先週みたいにならないように。e-U-n、マルタさんへ連絡する前に再度確認してたら、アンコールの1曲目、2daysの1日目を採用のところを2日目を採用してた。がーん。断りを入れつついったんこのままでマルタさんへメール送信。そしたら! エラーメール返ってきた。え? クラブルナチカのドメインを確認したら落ちてるもよう。Twitterで連絡とろうかFacebookにしようかと迷いつつ、以前のメールアドレスという手もあるなーと思ってアドレス帳を開いたら「メールはicloudの方へ!」ってメモしてあった。忘れてた。というか覚えてなかった。誕生日なので何か素敵なものを!っていうイベントが先週頭痛とうつ的な症状でだめだったのでリベンジ。そして素敵なものというより、学生の定食みたいなの食べたい!と思って池袋のABCキッチンへ。そしたら行列してんの! 昼ど真ん中の時間過ぎてるのに。行列してんのかー。知らんかった。仕方ないのでじげもんちゃんぽんって店で皿うどん食べた。そしてタカノフルーツパーラーでチョコレートパフェ。誕生日っぽく。そして実際の誕生日は過ぎたので、Facebookの誕生日を再び非公開から公開設定へ戻す。ちゃんぽん食べてたらマツさん松井さんから次々に連絡来て、パスカルズページに載せてるとあるイベントの問い合わせ先電話番号が間違っていることが発覚したとのことで、iPhoneから公式サイトを更新。あとFacebookのパスカルズページも同じように間違っていたのでこちらも。どきどき。夜、R-1グランプリ。吉住氏、デモ=アカ=過激みたいにしていぢってて痛い。なぜかやたらとアマチュアであることを強調されていた(アマチュアかどうかって関係ある?)どくさいスイッチ企画氏が飛び抜けて素晴らしかったのだけど点数伸びず。そうなのかー。そして我らが街裏ぴんく氏が優勝。びつくり。北村早樹子さんが日記で「面白くてハマってる」と書いていたのは結構前で、その後死神さんのライブで顔を合わせてる写真家のこいそさんが街裏さんの写真撮ってることで親近感わいてて、そして佐伯さんの間借りカフェに行った際に街裏さんのライブを開催してて「どうもー」ってご挨拶したり(でも用事があってライブは見れず)という、なんというニアピンのようなすれ違いのような距離感だったのだけど、なんと優勝。すごーい!
3/10日
昨晩寝る前に頭痛薬飲むか迷って飲まずに寝たのだけど、そんな時は翌朝100%頭痛になる。だったら寝る時に飲んだ方がいい。もう40年以上頭痛と付き合ってて、そもそも同じことをもうこの日記にも何度か書いてるのに、そして今も「100%」って書いてるのに、また失敗。いやでも、今回こそは飲まずにやり過ごせるかも、って思うじゃんね。クスリ飲んで寝て、起きて、食べて、治って、確定申告作業。去年はマイナンバーを使って申告したかどうか思い出せない。まあいいやと思ってマイナンバーでe-taxなやり方にしてみた。その後分かったけど去年もそうやってた。2時間くらい格闘してネット申請完了。先日「LISTEN」っていう「すべては傾聴から!」みたいな、こういうのも自己啓発本っていうのですかね、そういうのを読んで、響くところがなくまったく意味がなかったのだけど、今度は「プロフェッショナルはストーリーで伝える」ってのを読み始めた。しかも電子書籍化されてないので紙で。そしたらこっちは面白い。なるほどー。もひとつ。紙の本は風呂で読めなくて、風呂入った際に「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK」も読み始めてみたいのだけど、なぜかこの本が読み進めやすい。なんで?と思ったら、これ、横書きなのか! そうかー、横書き慣れしてるんだ自分。やーびつくり。縦書きより横書きの方が読みやすい。発見。夜、e-U-n、間違えてたアンコール1曲目を修正して編集し直しして書き出し。ちなみに今ver.18。入院中のマルタさんへ連携。確定申告もe-U-nもいったん終わって、次はテューバ高岡さんから来ているbloc不具合の対応と思ったら、blocのサーバが落ちた。ちょっと待ってよ。落ちないでよサーバ。復活後に確認したらロードアベレージが200とかになってた。いやもうでも時間遅いので対応も調査もできない。また明日。明日は出社予定。
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seaofmarble · 11 months
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https://listen.style/p/ppicnic/ajczvgzv
サマリー
寝る前に喋ろうとすると喉が痛くなり、ツイッターでのマーケティング戦略やホテルでのリラックス感について考えたエピソードです。彼は自分の俳優好きがない感じを感じることがあります。また、彼は自分の思い出もたくさんありますね。
目次
喋ることと喉の痛み、ツイッターとマーケティング戦略
00:47
ホテルとリラックス感
21:18
メジャーな音楽と感情
32:58
メジャーパックと私の俳優好き
42:15
図書館と集中する空間
47:28
喋ることと喉の痛み、ツイッターとマーケティング戦略
眠る前に思ったんだけど、喋ろうとすると喉が痛い。喋らなくても喋ろうとするだけで喉の痛さを意識しながら感じる。
今頃の薬とか買ってきて、前のドアメ大量に舐めてたの。痛くて一生起きずに。
ずっとウイルスなの。探せばまた薬の残りを探したい。
起きたら、なんかまず、結局Twitter入れちゃって。入れたけど、まあ、ハッピーワンだけど。
メスペディの人が聞いて、BGMとかないのが好きですって言ったり、その話めっちゃしようとする人いるんだけど。
まあ、わかるなーって言わないけど、すごい良いものを共有している人がいたら。
その話したいっていうのは、嫌いじゃないし幸せでいてほしいけど、話として興味ないから、BGMない方がいいけど、話す分には安心する。
嫌いな自分のコンプレックスが感じの上でごまかれるから、私は依存するか。
聞いてる分には絶対ない方が聞きやすい。
つべぴたさんのツイート見て、桜井あさひさんが亡くなったのを知って、
さゆかさんの前触れたフェイリストで私があれだよね、有名人の偽善がちゃんと才能を磨き上げてるみたいなのを許しかったなっていうのを思い出して、
20、30に苦しくなったね。
なんか悲しいっていう、亡くなって悲しいのと、
さゆかさん思い出して心苦しいのとあるパターンだと思い、
どう考えると人生のことを考えちゃって苦しいの。
30、苦しいの。
綺麗だったね、20代の動画見た。
自分に直接あんま関係ないとは反応しないように意識的にしてるんだけど、
エネルギー少ないから、いちいち立ち行かなくなってられないから、
本当に自分が気持ちが動きそうになるのをグッと堪えるのが自分なりの痛みっていうことに似てる、そういう人に対しては。
向こうにとっては私も知らない人だから別にそれで誰か悲しいわけでもない。
あの映画の人のプロゴルフィーになってて嫌だった。
あの日のホント帰りたくなくなっちゃって。
町内もやばかったけど、出てるから怖い。
ハーブネット食べたい。
食べたい物を検索したら、シー・オブ・マーブルっていうらしい。
学生時代、朝起きるのがいつも辛かったんだけど、
これから一生朝起きないとかって言うのがいつもホントに辛い気持ちになってた。
早く寝ればいいじゃんって思うかもしれないけど、
夜の活動できないって気づいたってようやくそうなって、
やっと神経が落ち着いて自分を取り戻して活動できるっていう時間に。
なんかそういうのが辛かったのかな。
夜活動できないっていうよりは実行機能の問題で寝ちたくできなかった。
いろんなすごい自分で好きな話なんだけど、
4年生の時意味わかんない留年して、授業2個しか入れなかったのね確か。
2個ずつだったか1個ずつだったか忘れたけど全部起きて。
週末もいなかったから。
ずっと授業にカウンターにいっぱい寝てたのね。
そしたら生まれて初めて授業中寝なくなったんだよね。
果たして毎日10分10時間とか寝ててにも追い立てられないで、
ゆっくり準備していけば授業中寝ないことができるんだって。
不可能かと思ってたから授業中寝ないことが。
それ以外のメッタルは最悪だったけど。
当時自分がどうやって過ごしたか全然覚えてなくて、
本当に日記とか書けばよかったなって思って。
その時々どんなに苦しくても、後から振り返ると愛おしい時間だったりするっていうのが本当にあるからね。
時間10年以上人気学成人状態になれないから言うだけしかできないけど。
このラジオをやりたい気持ちはもうずっとあったけど、
いろいろ人に聞いてもらえるクオリティとかを諦めることでやっとできるという流れなんだけど、
私は声を意識することで、何とか言葉にするモチベーションを保つためだけに公開して、
一応スポティファイに出してるけど、実際問題聞かれるようにはできないししてもないじゃん。
いつか見つけられたら超嬉しいみたいなのはあるけどね。
心ある人に。心ない人には絶対見つかりたくない。
こういう名刺出して悪口っぽいこと言ってるし。
見つけないでください。あったらヤバって言う。見つけないでください。
ラジオの話がなんでそんなにどっちが分かるんだって思ったけど、
あれでもすごいお仕事として頑張ってたんだなっていうのが分かるくらいどちらからないの難しい。
なんかADHDだからさ、私は一番目の前に来てる環境に注目しちゃうから、
連想系、ズレて戻ってこないな。ズレてもいいから戻ってきてほしいって思う。
自分に対しても他人に対しても。
なんか、くせつの一番最後の勢いになったのは、
後島美穂のラジオにお便りじゃ足りないくらいさ、
私はこうって言いたいことがいっぱい出てきて苦しくなった。
反論とかじゃなくてね。
悪い、ニガティブな偏知欲が刺激されるからなんだけど、
最新回、今にとっての最新回。
天国みたいな場所だったっけ。好きな場所どこですかみたいな。
私もともと好きな場所ってホテル。綺麗なホテルとかしか思いつかないんだけど、
ホテルがなんですかっていうと、
自分を取り戻せる。自分の形を取り戻せるって思う。
自分の人間としてのなくす悩みじゃないんだけど。
だってホテルにいるとき以外ずっと避難所とか仮設住宅で、
なんとか手を繋いでるだけの状況みたいな感じだから。
ホテルにいるときだけ自分に。
自分が人間の形に戻っていく歴度を感じる。
歴度はないけどね。
自分は、自分が自分に戻っていく感覚。
なんかでも、もう居続けるとかはない。
夜苦しい思い出だ。
学生時代、朝起きなきゃいけない。
これから先も一生っていう事実が辛かったっていう話なんだけど、
なんか本当にどのくらい辛かったか気付いたのって、
無職がいた。
辛いことだらけなんだけど、
ホテルとリラックス感
大安心して、感動して、幸せを感じたんだよね。
ていうか、そういう気持ちになった。
私こんなに辛かったんだ。
冬にお風呂に入ると、
何百倍って言うより寒さが出ていく。
屈折されていく。
摩擦、寒さと。
小さい時からあれに出る苦しみの最中にいる時には、
逆にどのくらい苦しかったかを感じる余裕はないっていうか。
もっと的確な表現は普通ある。
今の睡眠自体は。
いいんだけど、睡眠。
周りが辛い。
人生の辛さとどうやって生きていけばいいかは分からない。
無意識に私が恨んじやすいのは私だよね。
私って何年も、10年近く言ってるのに、
喋りだと込めてだったんだって思った。
他人の自分が自分。
無意識レベルの自分を無意識に生きてると。
私の方が発音、エネルギーいる。
輪の方が輪より。
当たり前か。
年並みは、自然があるところが気になったし、
でも何回も無理を入れられなくなっても出ようとしてた記憶がある気がする。
鍵持ってる人とかがいた気がする。
でも自分が寝られた記憶はない。
屋上入れたんだ。屋上車上。
毛の結びは神経が人工浴びるとやられちゃって。
昼間はその時点でマジで嫌なんだろうね。
あんまりマジで人が切り離されんかったみたいな。
切り安全した気持ちをずっと半端に味わいたいみたいな気持ち。
うかねする能力がないんで。
部屋って自分の抜け殻でできた自分の拡張みたいな工夫が低いから、
それに酔っちゃうんだよね。
キッチンがほいほい。
パッキングメモリーもあるよね。
生活とマルチプラス以上の文脈があるところに耐えられない。
特に行くと帰り道の耐力の心配しなきゃいけない。
マンションの1階にあったり。
それで帰り道の心配とかしなくてもいい。
ただホテルは余計好きなの。
帰らなくていいから。
メジャーな音楽と感情
ホテルは本当に好きで。
フリフリのブルーレイジーの歌詞。
中島みゆきの思い出だけでは辛すぎるのかし。
中にどっちもやっぱある内容だけど。
似た内容があって。
なんかわかるよね。
この人の夢を見て。
起きた時の感情って感じの歌詞で。
いいね。
夢を見て起きた時の感情。
他には歌詞的には、
ジュディ・マリーの色とりどりの世界と、
なんかミスチルのあった気がする。
手のひらだった。
あとD43。
無料体験中のプレミアム会員って、
やっぱりミュージックプラストークできないの?
できると思うけど。
ほんとだ。
ミュージックプラストークやりたかったんだよね。
すごいけど。
私としたら、
何の曲入れたかなって考えるのも楽しい。
私的には、
私的にはね、
いつかどちらか、
親指の使い方が入れたい。
今は、
でも、
ブルーレイジーもいいし、
愛の愛の星もいい。
こういうのが好きなんだよっていう。
したいよね。
初っ端に。
いくつかの空は、
ごめん。
さよならさよならあなたに会いたいっていう部分の、
サビのところだけが好きなんだよね。
そこ以外は、
って感じ。
あとはね、
長いため息のように、
真実が闇の中なら、
いっそ消していってよっていうところも、
大好き。
恋は眠らないもいいし、
月の光り方もいいし、
雷が鳴る前にもいいな。
雷が鳴る前に、
情景、
すごいよね。
なんか、がび上がってきて。
5周年は、
でも屋根あるよねって思ったけど、
なんか、情景、情景、情景で、
の中で突然、
なんか、
例えばみたいな、
霊から始まる心情説明みたいな、
あるやつさ、
流行ったよね。
かつて、ある時代に。
で、擦られすぎて、
誰も逆に、
なんだろう、ダサいやつが定着してから、
使わなくなった感じがあるけど、やっぱ。
いや、使われすぎたっていうことすら、
置いておけるなら、かなりいいよね。
グッとくる、やっぱり。
でも、新戦争が大事なやつでもあるから、
最初の時期に、
例年期にやった人だけ、
いいね、みたいな気持ちもある。
RSCさんの、
ミスも好き。
なんかね、
メジャーなのが嫌なわけじゃないけど、
メジャーなのは、
なんか、
メジャーパックと私の俳優好き
まあ、メジャーなのパックあげてるけど、
メジャーなのはなんかね、
自分の思い出も膨大にあるじゃん。
なんかそれで、
私の俳優好きがない感じを感じてしまう時がある。
好き。
好きね。
色がいいっていうのは、
変成分出してくれると、
結構色が合ってくれてる感じはいいんですけど、
あれにしとけた。
だって、
触れてるのが。
でもなんかさ、
天窓って、
私、やっぱ肌強いから気にならないのかな。
私は、
やっぱりね、
未来にはね、
もうちょっと近くにコンビニがあった方がいい気がするんだよね。
あと飲食スペースもね、
足りなくて、
狭くて、
テーブルとか、
何なら屋上にもうちょっとテラスっぽい、
やっぱ清潔感って、
外方感って好きって気持ちはわかるけど、
実際年取るとニッコツイ。
よね。
文化センターの黒の図書館、
空気汚そうって思っちゃうよね。
あそこ。
いやー寂しいけど。
でも、
いやなんか、
もうなんかコメント難しいよね。
なんかやっぱ、
愛着と、
でもなんか汚らしさも勘ってた気持ちの間で、
難しい気持ちになっても、
前の文化センターの株主一の方が集中できた人がいただろうなって思う。
でも遠かったね。
駅から。
あの辺の学区に住んでた人以外にとっては、
不勉強は盛りなかったよね。
でも私あそこで、
13の時、
塾の帰りに、
あそこで宿題とか勉強とかしてたのは、
ちょっとエモい思いなんだよね。
図書館と集中する空間
本も借りたなー。
高校生の時も、
行ったけど、
高校からあんな遠い図書館って聞いてたって。
新学校って思った。
全国語とか県で見た時点でなんちゃって新学校っぽいけど、
でもさ、
一番マシな、
学区の中では一番マシな新学校だったけどさ、
そこが、
図書館から一番遠いって何?って感じだったよね。
一番、
一番必要としてる人が行けないような地理だったよね。
まあね、高校生のためじゃないのは、
その通りが一番だけど、
一番誰からもアクセスいいとこに着くとほうがいい。
光からは守られつつ、
空気は綺麗で清潔みたいなのが、
一番、
強い気がする。
難しいのかな、やっぱり。
図書館がね、光を目指すと、
本焼けないのって感じではあるよね。
でも未来に行って、
地元というよりは、
観客目線の建物だよね。
あんまりお金のない地元民がさ、
手が出ないようなさ、
綺麗なホテルを併設してるってさ、
どういう精神状態にさせるかとか、
考えないのかなって思う。
昔から思ってた。
スペースって大きめに作れないのかな。
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って、
大きめに作って。
隣に
人がね
時は、空き教室で勝手に電気つけて勉強してんの大好きだ
高校生の時も空き教室好きだった
同じ聴覚室とか
内容忘れたけどな
なんとか準備室
そのあるスペースっていう、部屋とか空間って区切られてないと
人の存在がダメなんだよね
焦るっていうのもあるしさ
煽られて
そう
自分以外に人がいない空間っていうのは集中の大前提で
全然自分に関係ない
全く他の部屋についてるなり
まあ見つけた
特にタリーズは見つけた時嬉しかった
重点もできるし
買い物とか
どの世代で勉強してるっていう
人は近くにいて欲しくなる
でも大学生だから
大学の図書館とか
使えればよかった
意識して見るタイプの
見るじゃなくても
主会に入るのが
なんか精霊的に
広いし机も広めだったけど
空気が薄いような気がして
気がするだけで苦しかったんだよね
私みたいなやつってどうやったらよかったんだろうね
今でもホテルしか無理なんだよね
ホテル以外で集中する術ないんだよね
経済的に
ことに気づいてたから
超きつかった
本当どうしたらいいかわかった
もちろん甘えてしかないっていう
ような自分の中の
声もあってそれも
うってなって
誰に相談すればいいかも
私相談するところで
経済的に問題は変わんないから
キーワードは安心と
守られている安心
一目からの
隔離されてるっていう
安心
体力なかったから朝疲れた時に
見守っていいんだけどね
最近
最近
最近3年ぐらいだけど
ユニットパスみたいな
長い図あるじゃん
角に
自分を挟めるように座るんだ
大事に気づいた
ホテルとかでも
壁の角に自分をはめる感じで
座って
手枕とか
さぁどうしたらよかったんだろうね
わかんなすぎ
朝飲めば全部飲まなくなったのかな
夜ならよかったのか
夜型に
夜型の生活で
頑張るしかない
会議読む元気
マジでなくなった
マーちゃん覚えられない
覚えたくない
毎日言ってるけど
会議読み
言いたかったな
背が強いとか
台風の日とか雪降ってる日こそ
登りたいんだけど
そういう時ってしみられちゃうんだよね
朝寝るのも早いから夕焼けも見れないし
夜空も見れないんだよね
安全優先ののはしょうがないけど
1年前にこのラジオ聞いて
そういうパジュマティフで
一番心に残ってるっていう意味で
思い出したの
時計坂の家って小学生の時
めっちゃ好きだったな
やっぱ植物園とか庭
霊園って
人間の手の合いと
自然のバランスが絶妙なの
西の魔女化神とのラルトシーンも
あれだよね
なんか
こんな感じの家なのかな
ショップの部屋
っていう
らしき顔
って好きだったよな
街のある森を抜けては
時代、価値観に
時代を買ってしまったけど
基本的に世界観好きだったな
小学年の時
もっと意識的に特殊頑張ればよかった
頑張れっていうか
楽しめばよかったな
同じのばっかなんかは
最寄りでばっかみたいだったな
図書館がさ
自転車とか
保険内にある人ってズルくない?
って言った山だけど
ズルすぎだよね
私の家から自転車で
街の図書館とか
最寄り駅に行こうとしたら
異常者だからね
たぶんお年寄りではいるけど
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shukiiflog · 1 year
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ある画家の手記if.63 告白 名廊絢人視点
落ち着かないし 慣れないけど …嫌じゃない
流れで香澄の友達の部屋に泊まることになって なんか慣れなくて、どうしてたらいいのかよくわかんないから壁に背をつけて突っ立ったまま二人の様子を見てたりした。
俺にも友達はいるけど、こういう、泊まるとかはしたことない。名廊の家にそんなに他人を呼べないのもあるけど、みんなそうしたいと思うようなタイプの友達じゃないっていうか、ゼミ室や喫茶店で授業内容とか今の課題図書の話とかしてお互いの知的欲求を高め合うのが一番楽しい。それで俺も相手も十分満足だから友達といてそれ以上の付き合いとかは、考えたこともなかった。 彼女ならわりと途切れずいたけど、俺は家から許可が出ないから同棲とかはできないし。彼女の家に泊まっても、仲良く過ごしてやることやったあとは俺はまたきっちり服着て、夜通し一人で持ち歩いてる本読んでたり。他人の家っていまいち慣れない。
静かに自分の体の感覚を確認する。今日ちょっと無茶したほうだけど、呼吸は落ち着いてるし、咳も出そうにない。まことくんが加湿器つけてくれたおかげかも。少しだけ熱あるかな。37.7度くらいか。
まことくんにはさっき少し直にぃのこと聞いてみた。口の軽いやつなら喋りたがるし、喋らない相手ならとぼけられるような聞き方で。まことくんは外聞以上のことは初対面の俺相手にペラペラ話さなかった。知らないって可能性もなくはないけど、信頼できる人かも。だから香澄とも仲良いのかな。
シャワー浴びるとき、少しだけ注意しつつ髪を洗った。頭の怪我がちょうど治りかけで、下手なことしたら血が出てきちゃう。よその家でひとの枕汚せないし。真っ黒な髪の毛のおかげで人からは気づかれない。 シャワーのあとに渡された着替えを着てみた。Tシャツもズボンも、どっちもなんか…信じられないくらい生地が伸びる…そういう素材? サイズはまあまあ合ってるのに俺があと二人くらい入りそう…。引っ張ってみたけど皺にならないし…軽くて着ごこち何も着てないみたい…でもこれ楽でいいな、俺もこういうパジャマほしい。
シャワー浴びて出てきたときにはさっき香澄の首にあった怪我にガーゼが当てられてた。まことくんが手当てしたのかな。
そのまま今夜は寝ることになった。布団に入って考える。朝起きたら一度帰って着替えて午前中には生良のとこ寄ら���きゃいけないな。俺が早起きだから時間的には余裕あるか…。今夜もこのまま眠れるとは思えないし、眠れなかったら二人が寝た頃に鞄の中の本出してきて小さい灯りつけて読むかな。
二人が寝るまでじっと天井を見てたら、ふと香澄の腕が動いた。眠ったまま手だけ動いて首のガーゼに触れそうになるのを、まことくんが防いだ。 横になったまま隣を伺ってるとそのまましばらくまことくんが香澄の両手をおさえてたみたいだけど、彼も眠そうに欠伸してる。そのまま寝落ちそうだと思ったところで、起き上がって、おさえてるまことくんの手を上から握って微笑みかけた。 「まことくん、俺とチェンジ。俺寝なくて平気な体質。俺に任せて眠って」 そう言ったらほとんど眠りかけてたまことくんが「んー」て、もう夢うつつみたいな返事をして手を放して、そのまますぐに目を閉じて眠った。
香澄の首の痕、爪で引っ掻いた傷だ。 香澄が今も自傷っぽい行動してるから、今ある痕も香澄が自分でやった? …ねえ直にぃ。…直にぃがやったんじゃないよね 体がまことくんのほうを向いてたのを、両手を香澄の体の横におさえつけてまっすぐ寝かせる。そのあとそっと一度おさえていた手を放してみた。すぐに香澄の腕が動いた、やっぱり首筋を狙ってる。ほかの場所を傷つけようとする気配はない。 もう一度香澄の両手をおさえて下げさせると、首筋を守るために香澄の体を寝かせたまま上から覆いかぶさるようにして体をぴったり合わせて寝た。俺は香澄より少し背も低いし痩せてて体格も香澄ほどしっかりしてなくて体重軽いから、重くて息苦しくなったりそれで魘されるほどじゃないはず。彼女の体に体重かけて乗っかっても「軽い」ってよく言われてたし。今も俺はちゃんと起きてて意識もあるし。 香澄の手が動いて俺の肩あたりに触れた。手袋のおかげで痛みは感じなかった、これくらいなら強めに撫でられてる程度だ。 「香澄…大丈夫、……大丈夫…」 囁くように繰り返す。 香澄の唇が薄く開いてる、瞼がたまに痙攣してる。…夢を見てる。 体で覆って守ってるから両手は空いてる。片手は香澄の片手の手首あたりをおさえて、もう片手で香澄の頭を優しく撫でて、髪の毛を梳いたりして宥め続ける。眠ってる相手でも、声をかけ続けたほうが案外落ち着いてくれる。現実でかけた声は、何かの拍子で夢の中にも届く。こうして体くっつけて温めてると、体温も届いてくれることがある。 もっとひどく暴れるとか、悲鳴や呻き声をあげたり、脚使って蹴ってくるとか、そういうのがないぶん全然楽。香澄がおとなしいほうでよかった。 少し体から力を抜いて香澄の顔の横の枕に額をつけた。眠らないけどそのまま俺も目を閉じた 片手でずっと香澄の頭を髪の毛の流れに沿って撫でつづける 「…大丈夫…。俺がついてるよ……」 理人さん。あの人も夜中に体が勝手に暴れてた。周りのものを壊すとかよりやっぱり自傷になりやすかった。ずっと強い睡眠薬で眠ってそれを避けるようにしてたけど、ほかの薬との相性の問題で睡眠薬が飲めない日は俺がずっとついてた。必要なときはこんなふうに。 香澄も、理人さんみたいに何か悲しいことがあるの? 直にぃと居ても、どうにもならないようなこと? …それとも、直にぃといて、何か苦しいことがあるの? 理人さんが片目を失明したとき、雅人さんの過激な暴力が家の中で悪い噂になったって聞いた。直にぃも高校生くらいのときに暴力沙汰を起こして、やっぱり血は争えないってまた噂になって、今でも本家での直にぃの評判はほとんどそういうのだ。小さな俺と直接話してくれた時の直にぃの印象からは遠い。…俺は直に接したときの自分の感覚を信じる。俺の勘は当たるし。人を傷つけて楽しむような人じゃない。もういないけど、きっと雅人さんも。 …でも、直にぃが人に言えないものを抱えてる以上、それがどういう形で人生にあらわれるかは分からない。悲しいことも、起きるかもしれない。 「俺がいるよ…。…俺はずっと味方だよ…」 昔かけ続けたのと同じ言葉を、香澄の顔の横で、一晩中優しく囁き続けた。
朝になって、まことくんが香澄より先に目を覚まして、隣でこの状況を見てちょっとびっくりしてた。 俺はまことくんのほうに顔だけ向けるとゆっくり指先を唇に当てて「静かに。…大丈夫だよ。」て小さな声で告げた。本当だ。香澄はどこも怪我してない、ガーゼだってちゃんとつけたまま無事だ。 まことくんは一瞬考えるようにしたあとで俺に一度軽く頷いて、音を立てないように静かに寝床から起き出していった。ジェスチャーだけだけど俺のこと信用してくれたみたいだ。うるさくないように控えめに動く静かな音がキッチンのむこうから聞こえてくる、顔洗ったりお湯を沸かしたりしてるのかな。 ケトルのお湯が沸く音で香澄がぼんやり目を覚ました。 香澄の目が開いたのを確認して俺も香澄の上から体を起こす。ちょっと体が凝ったな。熱も少し上がったかも。でもこの程度ならまだ普通に振る舞える。 おさえてた片手に遅れて気付いて、香澄の手首から手を放した。 ぽかんとしてまだ寝た姿勢のまま俺の顔を見つめる香澄に、なにも心配ないよって言い聞かせるみたいな表情で柔らかく微笑んで、声をかけた。 「おはよう、香澄」
香澄視点 続き
張磨寿峯視点 続き
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silent19nights · 1 year
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2023.08.17
夏期講習ラスト期の1日目。朝早くから出勤。恋人と会う予定が会ったので早起きもなんともない。それなりに仕事をこなし、これから恋人と会うことを自慢したのち待ち合わせ場所へ。彼はホームの待合室がよく似合う。本を読んで待っていてくれた。目の前に座っていたおじいさんの眉毛が真っ黒で、フェルトを貼り付けているのかそれともマッキーで塗りつぶしているのかといったようなくらい。
恋人は5時まで起きていたようでとても眠たそう。毎度のことだけれど会ってすぐはなんだかもどかしいような雰囲気が漂い、いまいち会話が弾まない。それもまたよいけれど。わたしは先日のことがあったからかその状態が不安で仕方なかったけれど、帰りはまったくその面影もないくらいになった心配はいらないかな?
下北沢に到着し、ぶらぶらと歩く。かわいい雑貨屋さんでトートバッグを見たり、サングラスを見たり、なんだかいかにもなデートらしいことをする。麦わら帽子、意外と似合うみたい。アンティーク調のお店でこけしを発見。わたしに似ているらしいですよ、なかなか失礼なのでは?と思うと同時に、人の手で創っているものであるから美しいってことにしておく!という気持ち。恋人はサングラスがお気に入りのよう。髪型と相まってより雰囲気が出ていた。なかなか近寄りがたいけれど。しばらくふらふらと歩き、二人とも空腹の限界を迎え、カレー屋さんに入る。カレー専門店、というとどれも癖の強いスパイスのイメージがあったけれど、今回入ったところは見た目に反してシンプルな味わい。辛かったけれどおいしかったなあ。その後、TSUTAYAを見つけてふと入ってみるとパンどろぼうのPOP UPがあることを発見。とってもかわいいステッカーに再び出会ってしまい、購入を決意。スマホケースに挟むことにした。さらに歩き回り、ヴィレヴァンを見つけて入る。おぱんちゅうさぎやモルカーを見つけてはしゃぐ姿を見られて、意外とこういうのが好きなんだ、と言われる。自然と手をつないでたくさん見て回る。絵本コーナーでパンどろぼうの作品を見つけて立ち読みをする。想定外の展開に二人で笑いが止まらなくなる。最近の絵本は奥が深い。ケチャップマンという絵本の絵に惹かれて読んでみると、アルバイトのお話で恋人に刺さったようですこし面白かった。これもなかなかダークな内容でびっくり。絵本の立ち読み聞かせ、はまる。恋人はすっかりラテアートにはまっているようで、ミルクピッチャーがあるかもしれない、と無印良品へむかう。二人でキッチン用品や日用品を見てまわるのはまた一歩距離が近づいたような気がしてうれしかった。お目当てのものは見つからなかったけれど、好みのアロマディフューザーを嗅ぎ合ったり、スキンケア用品をすすめたりといろいろ。京都のときにわたしのメイク時間の短さに驚いたよう。たしかにメイクはささっとしかしていないなあ、と伝える。そのままいいよと言ってくれてお世辞にも助かるなぁという気持ち。その後、古着屋を何店舗か回る。ワンピースが似合うねと言ってもらえた。秋服としてひとつ新しいものがほしいなぁ。今までで一番手をつないでいる時間が長かった気がする。手繋ぎたい、と恥ずかしそうに言ってくれるので、いちいち言わずに手を取ってくれていいのよ、と伝える。どきどきするんだって。京都ではあんなことしてたのにね。わたしが行きたいと伝えていたラテアートができるカフェに入る。あまりの暑さにホットを頼むのはさすがに、、となりアイスラテをたのむ。彼は抹茶、わたしはショコラ。ひとくちいただいたけれど苦すぎる。抹茶が好きな人ってすごいなあ。後輩に推しだと伝えられたことを話してみた。やっぱり後輩を引き寄せる力があるんだよ、僕も引き寄せられたし、と言われる。恥ずかしい。僕も推されたいなあ、と言っていたので、わたしが推そうか?というと、うちわを持ってきゃーってやる?という話になり、さすがに恋人同士のやつらがそれをしていたらきつすぎるか、となる。たわいもない話を交わし、店を出る。
下北沢にそれなりに満足したもののまだ夕方だったので、海に行こう!と小田急に乗る。想像以上の満員電車で、腰に手を回してくれた。守られている感じがしてうれしい。いちばん好きかも。わたしが連日朝から労働をしていたので、眠気に襲われてうとうととするたびに支えてくれた。座れてからは完全に肩に寄りかかってしまっていたけれど、それも喜んでくれていたみたいで、こちらとしては寝てしまってすまない、という感じだけどまあよかったのかな?
江ノ島はやっぱり海水浴シーズンということもあり、人が多い。何回目だろう、といいつつもやっぱり海辺は落ち着くね���と言いながら浜辺へ向かう。はじめて一緒に来た日から3ヶ月とすこししか経っていないことにも驚く。いつものように浜辺に並んで座り、海を眺める。花火をしている人たちがたくさんいて、ずいぶんと賑わっていた。辺りが暗くなってくると星空が見渡せるようになり、この前のプラネタリウムでみた夏の大三角をすぐに見つけられた。意外とここからでも見えるんだねえと話す。同窓会どうしようかな〜と言っていたので、新たな恋が芽生えるかもね、と言うと、どうしちゃったの!と言われる。普段あまりこういうことを言わないからか、だいぶ驚いていたみたい。他の人に目移りするわけないよと言ってくれた。その流れで過去のお互いの恋愛についても話した。(とは言ってもわたしはほぼゼロ)過去にお付き合いしていた人も、同級生か年上で、男性らしくエスコートしてくれないことが不満で振られたり、その不満を伝えられて嫌になって振ったりした話を聞く。前の方との関係を持っているときの、距離が近すぎて疲れる、というのがわたしのなかで少し引っかかっていたので聞いてみると、自分には大きな壁があって、その中に入った人との距離が近いのはうれしいことだけれど、その中に入る前から距離が近いのがむりだと言われる。わたしはもうその中にいるようで、だからどんどん甘えてほしい、と言われる。寝てしまっていたのも普段見られない弱い一面だね、と言われるけれど、弱いところばっかりじゃない?やっぱり眠たくなってしまって、そっぽをむいていると、こっち向いてよ、と言われ振り向くとそのままキスをしてくれた。うまくなったね、この前はめっちゃ歯が当たってたと言われて、恥ずかしくなる。あたりまえにできるようになったのはうれしいなあ。その後も何度か。しあわせ。
家族の話になり、高校のときの出来事から母親と妹とあまりうまくいっておらず、父親がどうにか生きるための手綱になってくれている気がする、という話を聞く。お仕事の関係からしばらくの間は一緒に暮らすのは難しいようで、少し心が痛む。家族の存在は良い意味でも悪い意味でも大きすぎるから、彼にとって負担でもあり支えでもあるよう。こういう話をすこしでも聞いてあげられる存在になれたのはうれしい。
ずっと同じ体勢も疲れるね、と前後になり後ろから抱きしめてくれるように座る。首元に顔を埋め、いい匂いと何度も伝えてくれる。彼も成人男性なのにもかかわらず相変わらずシャンプーの良い香りがしてくる。心地よい。後ろから抱きしめてもらうとぜんぶ大丈夫な気がする。もっと甘えてほしい、と行ってくれるけど、甘え方がわからない、わがままとの区別がつかないなあ。難しい。わがままでもいいよ、と言ってくれるけどそれはプライドが邪魔をする。
なんだかんだしていると斜め上に見えていた星たちが頭のてっぺんに。彼が星座のアプリをダウンロードして、星をみようとしているのがロマンチックに感じた。ずっと二人でくっついては少し話してを繰り返す。幸せなひととき。
花火をし始める人たちが増え、21時半をまわったころ、わたしの眠さが再びピークを迎えて眠ってしまう。体を撫でてくれるのがほんとうにうれしい。その後、駅前公園に行こうか、と駅へ向かう。そのときも眠たくて仕方がなくて、ふらふらと歩いてしまったが、ずっと腰を支えてくれて、むしろずっとうとうとしていたいかもとさえ思った。電車のなかでは完全に肩に寄りかかって、首に顔を埋めて寝ていた。そのときもずっと頭を撫でてくれていて、一生このままが良いとさえ思った。
駅前公園に着くともう22時半近くなっていたが、人の姿が。まあ気にせず、この前来たときと同じベンチへ。変わらずぴったりとくっつき合う。帰りたくないね〜と話す。そしてわたしはまたうるうる。つい会う頻度についての本音や一人暮らしへの羨ましさをもらしてしまった。たくさん会いたいけれど、会うのが当たり前になってしまうのは違うとも思うし、日々感謝は伝えたいし、など。寂しくてたまらないんだと伝えると、暇なときはいつでも連絡してほしいと言ってもらえた。します!!と伝えた。こんなこと書くのもばかばかしいけれどうれしかったから残すが、やっぱり大きくない?と言われる。よかったです。何度かキスをして、ハグもして公園を出る。正面でしたいけれど人がいるね、と言っていたを思い出し、路地裏に入った瞬間思いっきりハグをした。しあわせだったなぁ。駅に着き、改札で見送る。いつでも連絡してね、という言葉をお世辞ではなくまともに受け取ったので、明々後日くらいに連絡する!と伝え、わかれる。見えなくなるまで見送れてよかった。
旅行明けにたくさん悩んで苦しんだ結果、思っていることはまっすぐ伝えようと決めて会ったことから、いつも以上に感謝を伝えられたし、素直になれたと思う。今まで以上に距離も近かったしたくさん愛を確かめられる振る舞いが感じられて、いつもみたいに意味不明なメンヘラに陥ることもなく、たのしかったし幸せだったなあという気持ちだけを残すことができたと思う。
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rosysnow · 6 months
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月を重ねて
君とまろやかな時間をいつまでも
Tumblr media
「いちご! このいちごの奴がいい」
 カウンターの椅子によじのぼって、メニューを開くなり、真心は季節限定のスペシャルストロベリーサンデーを指さした。「全部食べれるかなあ」と僕が苦笑すると、「食べれるからこれがいい」と真心は譲らない。
「ミニサイズで作ろうか?」
 カウンター内のマスターが気遣ってくれたけど、「おっきいからおいしいのっ」と真心は脚をじたばたさせる。
「じゃあ、がっつりの奴でいこうか」
「がっつり!」
「真斗くんは?」
「僕はいつも通りブレンドで」
「ブラックだね」
「はい。お願いします」
 マスターは、ストロベリーサンデーの注文をキッチンに伝えると、僕のブレンドコーヒーはカウンター内のサイフォンで淹れはじめる。
 あちこちの席で、客が歓談したり、読書したりしている。カウンターがあって、テーブルは五席ほど。店内を照らす大きな窓が、通りに面してふたつある。よく晴れた今日は、窓の白いカーテンが、光に柔らかく透けていた。
 先週、カレンダーは四月に入った。冬が緩やかに溶け、春が暖かく芽吹きはじめている。このあいだ保育園を卒業した真心は、もうじき小学生だ。
 マンションからこの喫茶店への道のりを歩き、咲きほこった桜を見て、心海がいない春は二度目だなと思った。
 黄色になった信号に、その車はブレーキでなくアクセルを踏んだ。いけると思ったのだろう。横断歩道に突っ込んだ車は、僕の妻で、真心の母親である心海に、容赦なく体当たりした。
 アスファルトに頭を打ちつけ、心海は昏睡状態を彷徨ったあとに亡くなった。急いでいる自分の車に気づかなかった心海のほうが悪い、とか言った加害者は、もちろん逮捕されたけど、それで心はおさまらなかった。幼い真心の手前、逆上するような言動はこらえたものの、深夜になるとひとりで泣いた。
 心海の死を理解していなかった真心も、「もうママはおうちに帰ってこない」ということは分かったようだ。
「ママ、ごはん食べてる? おふとんで寝てる?」
 そんな心配をする真心に、「ママは天国で幸せにしてるよ」と僕は言った。すると、真心は表情を陰らせ、「ママには、おうちで幸せにしててほしかった」とつぶやいた。僕は言葉に詰まったものの、「そうだね、パパもママと一緒にいたかったよ」と涙声で真心を抱きしめた。
 去年、僕たちは親子揃って、桜が咲いていくのを虚ろに見ていた。心海の不在は、変わらず僕にも真心にも心の空洞になっている。でも、一年がめぐってまた咲いている桜を見たとき、息ができなくなるほどの痛みは少しだけやわらいでいる気もした。
「どうぞ」
 銀のトレイにカップを載せ、カウンターを出たマスターは、ブレンドコーヒーを僕のかたわらに置いてくれた。「ありがとうございます」と僕は手元にソーサーを引き寄せる。マスターのコーヒーで、僕はブラックが飲めるよう���なった。
「ますたー、あたし、こないだランドセル買ったの!」
「ランドセル? そうか、真心ちゃんは小学生だね」
「それが、テレビで見たキャラメル色がいいって聞かなくて。気に入ってくれる色合いまで、ずいぶん探しましたよ」
 僕が苦笑いすると、マスターは微笑んでうなずく。
「心海ちゃんのパンケーキの決め手は、キャラメルソースだったからね」
「そうなんです。僕が同じもの作ってあげられないから、さすがに言うこと聞くしかなくて」
「パパもランドセルの色、かわいいって言ってくれたじゃん」
「そうだけどね。まあ、六年間、大事に使ってやってください」
「うん!」と真心が元気に請け合ったとき、「お待たせしました、スペシャルストロベリーサンデーです」とウェイトレスがサンデーを運んできた。
 大きなストロベリーアイスとバニラアイスが溶けあい、ミルクプリンにチョコブラウニー、生クリームとチョコソース、もちろん丸ごとのいちごも器用に飾られている。「わあっ」と真心は瞳を輝かせ、一気にそちらに夢中になった。
 マスターはそんな真心ににっこりしてから、カウンター内に戻る。僕は「桜が満開ですね」とコーヒーをすすり、飲みやすい苦みを味わう。
「もう一年なんですね……」
 マスターは僕を見つめてから、「こないだ一周忌だったもんね」とぽつりと答える。
「はい。まだ、つらいですね。二十歳から十年くらい一緒だったのに。たった一年では受け入れられないです」
「私もつらいよ。心海ちゃんのことは、子供の頃から知ってたから」
「……もう帰ってこないんですよね。あんな……昏睡状態で、チューブがたくさんつながって、せめて楽になってほしいとか少し思って。でも、やっぱり、いなくなるときついです。真心が心の支えです」
 僕の心海へのやりきれない想いを、マスターはいつも穏やかに聞いてくれる。
 この喫茶店を教えてくれたのも、もともと心海だった。真心が生まれて頻度が減っていたけれど、結婚前はデートでよく来ていたものだ。
「──ねえパパ、あたし、ママのパンケーキが食べたい」
 去年の夏のことだ。心海を喪ったショックも強い中、食事代わりのカップアイスを食べていたら、突然真心が言い出した。真心はバニラアイス、僕はチョコアイスを食べていたと思う。
「ママのパンケーキって……あのふわふわの奴か?」
「うん。アイス乗っけて、キャラメルかけて、お砂糖もいっぱいかけるの」
「僕、作れるかなあ……」
「パパもいつも食べてたから作れるよ」
「うーん、あれってホットケーキミックスで作れるのかな? 調べてみるか……」
 一応スマホでチェックして、材料やレシピを揃えて、心海が遺した道具も使い、僕なりにパンケーキを作ってみた。
 でも、なかなか心海のようにはうまく作れなかった。焦げてしまったり、生焼けだったり、そもそも、ふくらまなかったり。キャラメルも、とろりとした具合に溶かすのがむずかしい。極めつけに、もたもたしているうちにアイスがでろっと崩れる。
 真心は心底がっかりしてしまい、冬になる前には、もう「ママのパンケーキを食べたい」とは言わなくなった。それが僕は情けなくて、今も秘かに深夜特訓をしているのだけど、いくら作ってみても「あの味」にならない。
 どうにか作ってやれないだろうか。キャラメル色のぴかぴかしたランドセルをえらんだ真心だから、きっとまだ心海のパンケーキを食べたいとは思っているのだ。
「心海って、料理が得意ってわけではなかったんですけど、あのパンケーキだけは神がかってたなあ」
「昔、よく作ってやってたんじゃないかな」
「えっ……いや、やめてくださいよ。僕たち、お互いに昔の話はしなかったんですから」
「おや、それは失礼」
「僕の子供の頃は、大したことないですけど。心海は話したがらなかったなあ」
 そうつぶやきながらコーヒーに口をつけ、マスターは心海の過去を知ってるんだな、と思った。少し興味はあるけれど、もしかして、心海自身の口から聞かなかったらショックなことかもしれないから、やはり訊いてみようとは思わない。
 不意に、涼しげなドアベルが響いた。「いらっしゃいませ」とそちらに目を向けたマスターが、すぐに「愛海ちゃんじゃないか」と普段は淡々としているわりに嬉しそうにした。
 僕は、何となくドアをちらっとして──喉をつかまれたみたいに、息がすくんで身が硬直した。
 店に踏みこんできたのが、心海だったからだ。心海と──男も���緒にいる。
「え、あの人……」
 サンデーを半分ぐらい食べ、僕の混乱した面持ちを見上げた真心も、その人を見て声を上げた。
「ママ!」
 真心は椅子を飛び降り、その人に駆け寄った。その人は、びっくりしながらも真心を受け止める。席を立ち上がりかけた僕にも目を向けた彼女は、気がついた顔になって頭を下げた。
「おねえちゃんの旦那様、でしょうか」
「えっ」
「初めまして。私、工藤愛海と申します。心海の妹です。この彼は、私の婚約者で──」
「中森悠大っす。初めまして」
 まばたき以外、僕はかたまっている。
 妹? 心海の妹? そんな人、聞いたこともないけれど──
 いや、先ほどもマスターに言った通り、僕は心海の過去を──家庭のことを、何も知らない。ただ、心海は結婚式に家族を呼ばなかったし、葬儀に家族は現れなかった。だから、家庭内で何かあったことだけは察している。
「真斗くん。愛海ちゃんは、確かに心海ちゃんの妹さんだよ」
 マスターも言い添えて、僕はぎこちなく「そうなんですか」と言う。そして、愛海さんの足元で半泣きになっている真心に歩み寄った。
「真心。この人はママじゃないよ」
「ママだよ。だって……」
「ママはもっと髪が長いだろ」
「でも」
 ごねる真心に、「この子、おねえちゃんの娘さんですか?」と愛海さんは首をかたむける。
「あ、はい。そうなります、ね」
「かわいい姪っ子じゃん」
 愛海さんの隣から、悠大さんがにかっとして言った。愛海さんは嬉しそうにうなずく。
「婚約者くんを連れてきてくれて嬉しいよ」
 そう言ったマスターは、僕たちをカウンターにうながし、真心は名残惜しそうでも、僕の脚にくっついた。
 心海は家庭について何も語らなかった。だから僕は、この妹さんに心を許していいのか、正直分からなかった。
「──私から、少し話そうか」
 僕の警戒を感じ取ったのか、マスターがゆったり切り出すと、愛海さんはこくりとした。僕は椅子を座り直す。
「心海ちゃんは、愛海ちゃんの面倒をいつもよく見ているおねえさんでね。昔から、とても仲のいい姉妹だったんだよ」
「そう……なんですか」
「愛海ちゃんも、心海ちゃんのパンケーキはよく食べただろう?」
 マスターの言葉に、「懐かしい」と愛海さんは表情をほころばせる。
「あのふわっふわの奴ですよね」
「キャラメルがけでね」
「そう。おねえちゃん、料理はそんなにできないのに、何であれだけはあんなにおいしく作れたんだろう」
「愛海ちゃんが喜んでくれるからだったんじゃないかな」
「てか、俺は愛海のパンケーキも好きだけどなー」
「おねえちゃんのは、レベル違ったんだから」
 そのやりとりを聞いていて、ようやく、僕は少しだけ咲うことができた。どうやらこの人は、心海のパンケーキに親しんできた人のようだ。
 僕の笑みを見て、愛海さんは改めて頭を下げた。
「ごめんなさい、お葬式とか何も行けなくて。おねえちゃんのことを知ったのも、実は最近なんです」
「いえ。こちらも、連絡先とか見つけられなくて。実家のご住所が、昔のケータイに残ってたのがやっとだったんです」
「……そうですよね。私たち──何というか……幼い頃、育児放棄されてたんです」
「えっ」
「父も母もろくに家に帰ってこなくて、ときどき、おねえちゃんがホットケーキミックスで作ってくれるパンケーキがご馳走でした。ソースなんて買えないから、駄菓子のキャラメルを溶かしてそれをかけて」
 心海は市販のソースを使わなかった。こだわって本物のキャラメルを溶かしていると思っていたが、そんな切実な背景があったのか。
「父は今どうしているのか分からないんですが、母は先日亡くなって。やっと、私はこの町に帰ってこれたんです。おねえちゃんも亡くなってて、喪主がいないってことで」
「今は遠方にお住まいなんですか」
「はい。私は……家の中に、うんざりしちゃって。おねえちゃんも見捨てて、ひとりで」
 うつむいた愛海さんの背中を、悠大さんが優しく撫でる。僕の膝に座る真心は、あまり話の内容が分からないようだけど、「この人はママのパンケーキ知ってるんだね」と言った。そのひと言に、はたと僕は愛海さんに顔を向ける。
「愛海さんも、パンケーキ作るんですよね。さっき、悠大さんが」
「え、まあ。それっぽいものなら。想い出の味ですから」
「じゃあ、よければ娘にも作ってやってくれませんか? 僕はどうしても真似できなくて」
「えっ、でも、私のなんか」
「いいじゃん! 作ってやれよ。俺はお前のパンケーキ、すっげえ好きだぜ」
「悠大……」
「お願いします。この子にも、心海のパンケーキは忘れられない味なんです」
 愛海さんに見つめられ、「ママのパンケーキ食べれるの?」と真心は首をかしげた。それで愛海さんもようやく首肯して、「今度、悠大とお邪魔して作らせてください」と僕にも微笑んだ。
 ──そのあと、しばらく僕たちは雑談を交わした。愛海さんは、実家に放置されているものなどの処分で、しばらくこちらにいるそうだ。悠大さんも、手伝うために有休を取ってきたらしい。
 愛海さんは、きっと心海のパンケーキを一番よく知っている人だ。だからきっと、真心が満足するパンケーキも作ってくれるだろう。
 真心がグラスを空っぽにして、僕もコーヒーを飲みほしたところで、僕ら親子は立ち上がった。愛海さんと悠大さんは、もう少しマスターと語らっていくそうだ。別れる前に、連絡先は交換してもらった。
 淡いオレンジの夕暮れの中を、春風に任せて、桜の花びらが舞っている。せっかく駅前に出たのだから、スーパーに立ち寄って、買い出しもしていこう。僕がそう提案すると、あんなに大きなデザートを食べたのに、真心はもう夕飯の話を始めて、思わず笑ってしまう。
 育児放棄。僕は真心にそんなことしようなんて思えないし、心海ももちろんそんな人ではなかった。しかし、少なくとも心海が真心に愛情をいっぱいそそいでくれていたのは、さまざまなつらさを乗り越えたからのものだったのだろう。
 僕はそれを受け継ぎたい。心海の遺した想いで、絶えることなく真心を満たしていてあげたい。
 いつまでもそばにいて、年月を重ねて。
 キャラメルのかかった、満月を重ねて。
 まろやかな香ばしさで包むように、僕はこの愛おしい娘を見守っていきたい。
 はらはらと桜がひるがえっていく。アスファルトに降り積もるそれには、僕と真心の手をつないだ影が、長く伸びて映っていた。
 FIN
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ansaibye-bye · 1 year
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3月の頭ぐらいから、ずっと上の階からの騒音に悩まされてきたが、この度めでたく引越した。やったぜ!って思いで高揚感パねえってなんのかなって思ってたけど、案外、とても寂しく哀しい。それからちょっぴり悔しい。ほら、あれだ、騒音問題にはさ、立ち向かう、我慢する、逃げるの3択があるわけだ。オレは逃げるを選択したが、逃げるってのは、やっぱ寂しさと哀しさと悔しさが付きものなんだな。篠原涼子も昔歌ってたしな。恋しさと せつなさと 心強さとってね。新居に来てから3日ぐらい経ったわけだか、やっぱ静かだよ。単身向けの鉄筋コンクリートマンションの最上階角部屋にしたからね。隣人が薬物中毒者でもない限り、まず間違いないわけだ。オレは薬物中毒者は嫌いじゃないけどね、というかこれはディスったわけじゃないんだ。寧ろオレは薬物中毒者が好きともいえる。現在進行系で、いや、しかし、問題は統合失調症までいってしまってる薬物中毒者で、もう幻聴と妄想が止まらないって状態の薬物中毒者が隣人だったら流石に勘弁だなって、つーか、そもそも薬物中毒者って呼べるのは、幻聴と妄想にやられてちゃってる状態のことを指すわけだから、勘弁!っておれが感じるなら、オレは薬物中毒者のことを嫌いじゃないんだ。勘弁と嫌いは全然違うんだ。まあ、それはいい。君が元気でいてくれて健康であってハッピーにしてるならそれでいい。オレは1人も友達がいないし、引越し業者を頼む金もケチりたい男だから、全部1人でやった。冷蔵庫の持ち方も今回勉強して出来た。いいかい?オレは惨めで変態で頭のおかしいビッグモーターなんだ。しかし人を騙すことなんてもう絶対にしたくない、誰かの為に力を発揮したい、君がアンハッピーであることをどこかで望んでいる、新居のキッチンは狭い、スパイスカレーをつくるのもしんどい、ほんとうは引越したくなんてなかった、この世にはどうにもならないこともある、自分のせいでなく、突然不幸がにやられることもある、オレは1人だ、どっからどーみても詰んでる人生だ、だがな、いいんだそれは。何度も言わせんな。オレは喜んでこの絶望を生きてる。
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someday-story · 1 year
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『目黒さーん、ちょっと良いですか?』
オフィスの中でさほど席も遠くないのに馬鹿でかい声で俺の名前を呼ぶアイツ。「んー?どうしました?というかもうちょい静かに呼んでください。」『へへ、すみません。気をつけます。あの、ここなんですけど』 ヘラヘラしながら全くもって聞く気の無い様子で俺の机の近くに寄ってくる。『見積もりのチェックして欲しくて。差し出された見積書を受け取ればピンクの付箋に〝チェックお願いします!〟の文字とその下に〝今日一緒に帰りたいです。〟の文字。「了解です。チェックしときますね。」『お願いします。』と斜め前の自分の席に戻っていった。見積書に一通り目を通し添削をする。黄緑の付箋に〝駐車場で。〟と書いて貼り付ければ斜め前の席に持っていく。「はい、こことここ直したら大丈夫です。」『ありがとうございます。直します!』俺からの付箋に目を通し微笑めばまた仕事に戻る。
午後18時、いつも通りに一日を終え帰宅の挨拶をし駐車場へ向かう。一足先に退勤したアイツ、要するに俺の恋人が俺の車の前で待っていた。「ごめん、お待たせ。寒くなかった?」『んーん、大丈夫。お疲れ様でした。』「ありがとう、そっちもお疲れ様。とりあえず乗ろうか。」車に乗り込みエンジンをかける。「何か食ってから帰る?そっち方面だと〇〇とか?」『んー、今日は蓮くんの家に帰りたい。ダメ?』「んは、良いよ。じゃあなんか買って帰ろっか。何が良い?」『グラタン?』「良いね。グラタンにしよう。」
手っ取り早くコンビニでグラタンとお酒とデザートを2つずつ買えば自分の家まで車を走らせる。ガチャリと鍵を開ければ「おいしょ、ただいま〜。」『お邪魔します。ただいま。』「おかえり。」なんてやり取りをして家の中に入る。荷物を置けば「手、洗うよ。」と横並びになって一緒に手を洗う。「座ってて良いよ、あっためて持ってく。」と言えば『蓮くんが座ってて。俺がやる。』なんて俺より先にグラタンを取りに行く。「んは、じゃあお願い。」とグラタンは任せてデザートを冷蔵庫にしまいグラスを2つ手に取り風呂のお湯をはる為のボタンを押せば大人しくソファに腰掛ける。キッチンの方に目を向ければ温め終わるのを待つ恋人と目が合う。『もうちょっと!』なんてニコニコする恋人がかわいくて「わかった、待ってるね。」と返す。温めが終わる音がすれば『あつーい!』なんて言いながら一生懸命テーブルまで持ってくる。「有難う、ヤケドしてない?大丈夫?」『大丈夫!早く食べよう。』「良かった、食べようか。」「『いただきます。』」とふたりで手を合わせ食べ始める。「あ、お酒あけるの忘れてた。」ぷしゅっとお酒をあければグラスに注いで手渡す。「はい、今日もお疲れ様。」『有難うございます、蓮くんもお疲れ様。』ふたりでごくごくと疲れた身体にお酒を流し込みながらグラタンを食べ進める。「美味しい?」『美味しい。』「んは、良かった。」大の大人の男ふたりのコンビニグラタンなんて食べ終わるのは一瞬ですぐ容器が空っぽになる。「足りた?」『んー、まあまあ?』「んは、足りなかった?デザート食べちゃう?」『食べる!』取ってくるね、なんて言いながら冷蔵庫に入れてたデザートを持ってきてくれる。『はい、蓮くんのはガトーショコラ。俺はチーズケーキ。』「ん、有難う。美味しい。」『こっちも美味しい。』一口切り分け「はい、」と口元まで運んでやるとあーんと大きい口をあけてガトーショコラを頬張る。『ん!美味しい。はい、蓮くんあーん。』同じようにチーズケーキを俺に食べさせる。「ん、こっちも美味いね。」『ね、美味しい。』と残りはあっという間に平らげた。『あー!満足!おなかいっぱい!』「んは、それは何より。風呂溜めといたから先入っといで。」『はーい、入ってきます。』と立ち上がればいつ泊まっても良いようにといつの間にか持ち込まれていた恋人の着替えセットをしまっている場所から下着とスウェットを引っ張り出して風呂に入りに行った。風呂に向かうのを見届ければ食べ終えたゴミをまとめて捨てソファに座り直してテレビを付ける。バラエティ番組にチャンネルを合わせお酒を片手に眺めながら風呂から戻ってくるのを待つ。ふと周りを見渡せばちょっとずつ増えたアイツの物が目に入る。テレビラックに置かれたアイツの中では俺とアイツらしい小さい動物の置物に化粧水に服。充電器に枕に歯ブラシ。お揃いのコップ。一人暮らしで殺風景だった部屋がアイツのおかげで色を取り戻しつつあってきっとこれからもちょっとずつ増えていくんだろうななんてことを考える。
暫くすれば『ただいま〜。』とタオルで髪の毛を拭きながら戻ってくる。「おかえり、俺も入ってくるわ。」『ん、行ってらっしゃい。』「あ、テレビ好きなの変えて良いからね。」『はーい、ドライヤー借ります。』「どーぞ。」と伝えれば俺も風呂に入りに行く。シャワーを浴びて隅々まで洗えばチャプンと湯船に浸かる。浸かりながらあー、今日も疲れたなあなんて身体を温める。ある程度身体が温まれば俺を待っているであろうアイツの元へ戻る。
「ただいま。」『あ、おかえりなさい。』髪の毛も乾かし終えてソファでバラエティ番組を見ていた恋人がこっちを振り返る。『こっち座ってください。俺が乾かします。』「んは、良いの?」『早く早く。』「ん、はいはい。お願いします。」ソファの下に座れば後ろからドライヤーをあてて俺の髪の毛を乾かしてくれる。『はい、乾いた。』とドライヤーを止めコードを巻いて片付ける。「ん、有難う。」と立ち上がろうとすれば後ろからぎゅうっと抱きついてくる。「ん?どした?」と少し首を回せばぎゅうっと抱きついたまま俺の肩に顔を埋めている。テレビを消してよしよし、と頭を撫でればそのままの体勢で『...蓮くんは会社だとよそよそしい。』なんてポツリポツリと話し始める。最後の方は◯◯さんは蓮くんの事が好きだから嫌だ、なんてよく分からないことを言い始めた。総じると隠されているのが嫌だってことと俺に恋人が居ないと思われているのが不服らしい。確かに隠しているのは事実で一緒に帰る日も泊まった次の日もわざと時間をずらしているし仕事中も出来るだけ他の同僚と同じ様に扱うようにしている。後ろから抱きついている恋人を離して隣に座れば俺が隠している理由について話した。
・付き合ってるのが恥ずかしいから隠している訳ではないということ。
・バレたところで転勤や部署異動がある訳ではないが過去に電撃的に���内結婚したカップルが上の立場だったのもあって居ないところで今までの評価は正当な物じゃないだとか贔屓してただとか社内で散々言われていたのを見ていたからそういう環境に晒したくない、君を守るためだよということ。
・仕事とプライベートは分けて考えていたいということ。
「....理由はあったとしてももっとちゃんと伝えておけば良かったね。不安にさせてごめん。ちゃんと好きだから。」『ううん、俺が勝手に不安になってただけだからごめんなさい。ちゃんと理由があるって、好きでいてくれてるって分かってても本当はそうじゃなかったらって考えちゃって。..蓮くん会社の中でも人気だから余計。』「ちゃんと教えてくれて有難う。人気かどうかはわかんないけど俺は君の恋人だし俺が好きなのは君だから。これからも同じ様に隠すと思う。けどそれは大事にしたいからだから許して欲しい。」『うん、もちろんです。大事にされてるんだなって実感しました。だから俺もバレないように気をつけます。』「ん、有難う。おいで?」手を広げればぎゅうっと抱きついてくる。抱きとめてぎゅうっと抱きしめる。『蓮くん、好きです。』「うん、俺も好きだよ。」ちゅうっと軽く口付け「ベッド、行く?」と問い掛ければ『ん、行く。』と恥ずかしそうに微笑まれる。
寝る準備を済ませて寝室に戻り後ろからぎゅうっと抱き締めればくるっと振り返れば俺の首に腕を回し自分から口付けをしてくる。片手を腰に回しもう片方で後頭部を支えながらゆっくりと唇を啄む。じりじりとベッドまで追い込めばそのままベッドに押し倒す。ちゅう、ちゅっ、っと口付けをしながらスウェットに手をかける。『ぁ、待って、電気、』「電気?」『消して?』「消さないけど。」『..意地悪。』「んは、うそうそ。」と改めて口付けを落としながら手探りでベッドサイドのリモコンで電気を消す。唇をゆっくり啄めば息継ぎの合間に少しだけ口が開く。そこに舌を捩じ込みゆっくり時間を掛けて口の中を犯し舌を絡めながらスウェットを脱がせる。唇を離し首筋を甘噛みすれば、『んぁ..、』なんて可愛い声をあげながらぴくりと反応する。耳元に唇を寄せ形に沿って舌を這わせる。舌でなぞる度に目をぎゅっと瞑りながらぴくりと身体を反応させる。耳朶を軽く甘噛みすれば耳元で「ね、まだ触ってないのに脚、擦り合わせてるの?」と囁くとビクビクしながら『..ぁ、ちが、』なんて涙目になる。「違うの?じゃあ確認してみよっか。」と下に手を伸ばし下着の上から手で触れれば熱を帯びて膨張したソレと先っぽから溢れ出た液で湿った下着の感触が感じられる。「んは、すご。脱ごっか。」 腰を上げさせ下着を脱がせればゆっくりとソレを上下に扱く。『..ぁ、蓮く、ちゅう、』と啼きながら口付けをせがんでくる。扱きながら頭を撫で口付けを落とし舌を絡める。唇を離し「そろそろ、後ろも解そっか。」とくるっと後ろを向かせて溢れ出ている液を纏わせながらゆっくりと指を沈める。背中に舌を這わせたり空いている手でソレを触りながらナカを解していく。そろそろかな、とゆっくりと指を引き抜き俺もスウェットと下着を脱ぎ準備をする。『..蓮くん、』 「ん?」『..蓮くんのシて良い?』と潤んだ瞳で恥ずかしそうに聞いてくる。「ん、シて?」とベッドに寝転べばゆっくりと俺の熱を帯びて膨張したソレを口に含む。「...っ、」根元を扱きながら俺の気持ち良いところを探るように舌を這わせる。奥まで咥え込んで涙目になりながら必死に舌を動かす。「..ぁ、それやば、」上目遣いで俺を見ながらちろちろと覗く舌がえろくて気を緩めたらすぐ出してしまいそうで必死に耐える。「..っそろそろ限界、挿れて良い?」 口の中から引き抜いてくるりと後ろを向かせ四つん這いにすれば指で確かめながら俺のソレをあてがう。焦らすように擦り付ければ『..んぁ、はやく、れんくん、』なんてかわいく求められる。ぐりぐりと腰を押し進めればぎゅうぎゅうにキツいナカに締めつけられる。『..んぅ、ぁ、』「..っ、痛くない?」『..はやく、うごいて、ぁ..』とシーツをぎゅうっと掴みながら煽ってくる。「..ぁ、あんま煽んなよ、」腰を掴めば奥に当たるように腰を動かす。締め付けと可愛く啼く声が相まってすぐに絶頂に達しそうになる。『..れんくん、かお、みたい、』ゆっくりと引き抜き体勢を変え脚を開かせればまた奥まで腰を進める。ぎゅうっと抱き締めながら舌を絡め気持ち良いところに確実に当たるように腰を振る。『..ぁ、も、だめ、イく、』気持ち良いところに当て続ければ白濁した欲が俺と恋人のお腹の間に広がる。ティッシュで軽く拭いてやり「俺まだだからもうちょい頑張って、」と再度腰を振り始めれば悲鳴に近い声をあげながらナカをぎゅうぎゅうと締め付ける。「..ぁ、やば、ごめん、出す、」ギリギリでナカから引き抜きお腹の上に欲を吐き出す。
後処理をし横に寝転べばピタッと寄り添ってくる。頭の下に腕を通し抱き寄せ軽い口付けをする。眠そうな顔をしながら『蓮くん、すき。』と堪らなく愛おしいことを言ってくる。頭を撫でながら「俺もだよ。」と伝える。
「あのさ、」『ん?』「一緒に住もっか。」
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leajjack · 1 year
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大咲真白まとめ話
「三月うさぎと不思議なテーブル」の自PC「大咲真白」設定メモを全部載せした総まとめブログです。
・大咲真白 好きなもの:可愛いもの。美味しいと言って食べてくれる人。誠実な人。いちご。 嫌いなもの:否定や放置をされること。冷めたご飯。体調などの理由なく料理を残されること。
・名前の由来 →「よく笑う」→わらうは咲うとも書けるので「大きく咲う」の意味で大咲。真白は何も知らないまっしろな子、という意味でPLが背景を取り込んでつけたけど、PCとしては冬生まれなので「雪が積もって一面真っ白な日に生まれたから」というバックがあります。 本編墓下の「雪が解けたら春になる」はそこをちょっとサルベージしてました。
・幼少期~高校卒業まで これもう村では書かない(真白個人が過去を昇華しているので)からここに置いておく気持ち。 父親は多分生まれてすぐ母親に愛想つかして離婚した。養育費払って特に新しい家族も作らず一人で生きてそう。真白も父親は「いないのが普通」なのでマジ気にしてない。 幼少期はどう育てられたのかなーと考えた時、まあ多分ベビーシッターを養育費とかで雇って育てられてる気がする。遠足のお弁当とかは無いからお金の代わりにコンビニのおにぎりとか置かれてそう。 小学校入ってからは時々「みすみ」でご飯食べたり(ここが手料理の一番最初の記憶)、コンビニとかスーパーのお惣菜。料理に手を出すまではそんな感じで、遠足の時に多分お弁当じゃないのを変に気遣われたりからかわれたりして、でも顔が可愛いからいじめられはしないみたいな生活。小学校入る直前くらいが一番母親と会ってた時期だと思う(母親は明るめの茶髪に化粧バチバチ勢) 料理は最初の方は失敗続きだったけど、初めて「自分にもなにか出来る」ことが楽しくて続けて才能があったパターン。最初に失敗したのは卵焼き(殻が入って焦げて崩れた)、最初に成功したのも卵焼き。堅実に積み重ねていくタイプ。 で、「一緒にご飯食べたい」とは言えないまま何年も料理を作って置いては翌朝そのまま残されてる冷めた料理を温め直して……の繰り返し生活ですね。 中学は普通に小学校の子たちがそのまま進学する地元の中学。得意科目は家庭科(調理実習)、国語。苦手科目は数学、理科。 そのまま問題なく、母親に負担をかけない高校へ行きって感じ。
契機はやっぱ「母の日に作ったケーキゴミ箱行き事件」。これが高校一年生の母の日。 そこから荒れて、留年したりしない程度に授業サボったり、同じような家庭環境に難ありの子たちとつるんで大人に迷惑かけない夜遊び(補導される前に帰るし男遊びはしない)してた。ぷらいべったーのSSの感じですね。口数少ないギャル系。 顔は一軍・でも所属グループはどこにも属さない独特のところ。誰にでも分け隔てはないし話すと愛想は悪くないので密かに人気。 ここで苦手科目に英語も加わる。頭は悪くないけど出席率がね…。 でも普通の青春にすごい憧れはあって、皆で明るくわいわいしたい気持ちがあったので、これがゲイザータメ口の理由になるんだなぁ。 卒アルはまだ黒寄りの暗髪(地毛こっち)だし今よりやや幼い顔。寄せ書きには女子の名前しかない。日常風景の写真だったり、修学旅行の写真も独特の雰囲気あると思う(笑ってるけどつまんなさそう) ランキング系にも全然名前出てこないけど、「実は好きだった女子ランキング」とかで突如一位に名前が出てくる。あと料理が上手い人ランキングにもいる。 球技は得意じゃないけど体力系は得意。持久走で悠々と友達置いていくタイプ。
・卒業後~就職まで 卒業後は髪を染めて「可愛い」により妄念を抱くことになる。 マロンブラウンは母親と同じ色だから。同じ茶髪になったら娘だと思ってくれないかなとか、可愛いからあの色にしてたんだよね?なら同じ色にすれば可愛いと思われて今からでもやり直せないかな?とか。 調理の専門学校へ行きたいと言えず高卒でバイトしながらぼんやり生きてた。バイト先は飲食オンリーだったと思う。キッチン。 でも「このまま腐るのは嫌だ、こんな自分が一番可愛くない」ということも分かっていて、変わるきっかけをずっと探してた。そこからうさぎの穴にたまたま来店し、後は本編ロル通り……って感じ。
・けいちゃんタメ口なんで?の零れ話 ところで真白、勤続歴での後輩だったりにはタメ口だし、先輩sには敬語なんだけど、ゲイザーには「けいちゃん」だしタメなんですよ。 これゲイザー本人の雰囲気も勿論あるんだけど、「ゲイジーパイ伝説」があまりにも真白にとって理想の「調理部エピソード」というか料理が関わる青春の話で、勝手に親近感というか、「こんな人が同級生にいたらなぁ」という願望の結果なんですよね。 けいちゃん呼びもタメ口も「していい?」って許可取ってからやってるし、「マシロん」呼びも前述のことがあるから余計嬉しかったと思います。PLは。
本編中の真白が「ずっとなりたかった自分の姿」だし、根が善性で健気というか、「気持ちを受け取ってもらえないこと」で傷付いた過去があるので「相手からの気持ちは絶対否定したりしない」性質があります。褒められて「そんなことないです」は言わないし、けいちゃんに一回目のクッキーを商品には向かないと言われても「そうだよね、真っ向から言えるけいちゃんは正しいよ」って言ったのもそう。真白には正論だったし。あといちごの国の嫉妬の仕方も真白のこれが表れてると思う。
恋した相手が夜綿さんじゃなかったら「母親の愛を受け取らない」という唯一の「気持ちの拒否」は出来なかったし、あそこは真白個人のメインテーマとしてめっちゃくちゃ重いので、失恋ルートだったらこっそりケーキを食べて貰って美味しいよって言って貰って、それだけで幸せだよね、こんな未来を得られただけ奇跡だよって言い聞かせて前向きに生きるエンドだったと思う。 でも奇跡的に想って貰えてたのでこれからは色んなデザートを作るしお祝い事にケーキを焼ける。はっぴー。カメラも影響されて買うことから始まり、普通に新しい趣味としてハマりそう。 実家にご挨拶行く時は物凄く緊張しながら可愛い系じゃなく綺麗系で伺うし、髪も下ろして巻いてハーフアップにしたり、前日は緊張でトチ狂って「スーツのほうがいいですか!!??」って面接じゃねえんだぞ的な焦り方もする。夜綿さんは実家に泊まって色々語り合うだろうから邪魔しないでおこう、と思ったら一緒にホテル泊まる流れになって「あぇ???」てなる。
(すごい余談)
真白、まほいくなら「ペチカ」とか「プリズムチェリー」の立ち位置にいそうな成長物語を「村の出来事とお相手さまの存在を経て」成すことが出来たなーと思ってます。重い過去のわりに本人が本編開始時点でそれを気負わず「生まれ変わったつもりで」明るい大咲、に終始していたからか、The・光属性な感じ…。闇属性ではないなー。 サンリオならシナモン好きだろうし、ディズニーならダッフィーフレンズシリーズだし、ユニバならティムが好き。そんな雰囲気。 肩が出る服は本人の好みですね。1stイエベ春、2ndブルベ夏の骨格ウェ��ブ。 服はSNIDEL、MERCURY DUO、riendaイメージです。 好きなポケモンというか似合うのはマホミル、マホイップ、ペロッパフ、ペロリーム。
そんなまとめでした。
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amrgamata · 1 year
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けもののいる生活 かのえと琴海 「いつものはなし」
くうくうと少女が寝息を立てる。その少女の肌は白く、髪は茶色だ。そして、何よりもの特徴は、人の耳の位置からは兎の耳が生えている事。
その耳は時折ぴょこぴょこと動く。血の通っているものなのだ。触れてみれば、確かな体温を感じる。
「ん、ん……?」
少女の赤い眼が開けられて、ぼんやりと僕を見た。
「おはよ、かのえちゃん」
「うん……」
こしこしと頼りなさげな手で少女ーーかのえちゃんは瞼を擦る。
寝起きはいつもこうして、かのえちゃんは僕を見てから自分の眼を覚ましている。
うりうりとかのえちゃんの頭を撫でれば、それが合図にでもなったかのようにかのえちゃんの眼がはっきりと開けられた。
「いい夢、見れた?」
「うー……ん、どうだろ、わかんない」
眼ははっきり開けられたけれど、未だ意識は覚醒していないのかかのえちゃんは数回首を横に振る。
ぽてぽて、とかのえちゃんが歩きキッチンへと向かう。そして普通の人より低い故に使っている踏み台を引きずって、流し台に立った。
蛇口から水を出してそれをコップで受け止めて、かのえちゃんはこうりこくりと水を飲む。
部屋の中は涼しいけれど、蛇口から出る水は恐らく生温いだろう。
「……ぬるい」
「だ、ろうね」
くすくすと僕が笑うと、かのえちゃんはむすっとした目と顔で僕を見る。
「ウォーターサーバー買おうよ、お兄ちゃん」
「高いからダメ」
「えー……」
サーバーを買ったって、部屋の中が暑ければ意味はない。それなら冷蔵庫の中で水を冷やした方が安上がりというものだった。
「今日お休みの日だっけ……?」
「うん、連休」
僕の答えを聞いて、かのえちゃんが安心したように息を吐いた。
前に訊いたことがあるけれど、かのえちゃんは学校に行くのが嫌なのだという。「ウルサイし、行く意味が分からない」なのだそうで。
かのえちゃんは兎のけもの故に、耳がいい。だから喧しいところは苦手なのだ。
「お休みなら、何しよかな」
「なんでもしていいよ。僕は何も口出ししないから」
「ん-……本でも読もうかな」
静かで大人しいかのえちゃんらしい。そう思いながら、僕はもう一度かのえちゃんの頭を撫でた。
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