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2018/06/03 ⁑ 汗だく娘はお着替え必須。 ポテトで休憩。 この顔パパ似で超好み。 ⁑ #パパに似て暑がり汗かき #なんやかんやでパパの顔好きなんやなと思う瞬間 #どこから誰が見ても母似なためパパに寄って来た最近の顔が最高に好き #セサミストリートTシャツにお着替え #ゆうたおいたんセレクトのいただきものです #ゆうたおいたん一緒に行こうね #オニギリ瑚都 #親バカ部 #baby #girl #babygirl #ig_baby #ig_kids #27month #27ヶ月 #2歳 #2yearsold #babyfashion #babyコーデ #瑚都wear #greenlabelrelaxing (ユニバーサル・スタジオ・ジャパン / Universal Studios Japan (USJ))
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逆の関係
長身女性もの。14k文字。
妻の美雪と出会ったのは高校の入学式だったろうか、出会ったというよりも姿を見た程度ではあったが、今でもあの時の衝撃を忘れることはない。スクールバスから降り立って、上級生に案内されて、体育館にずらりと並んだ生徒たちの中でひときわ突き抜けた、――周りは高校一年生の女子なのだから、遠目からでも胸から上が丸ごと見えてしまっているほどに背の高い女生徒、――もう心臓が張り裂けそうでならなかった。あまりにも現実離れしている。見間違い? それとも台に乗っている? いやいや、何度目を擦っても一人だけ浮いたように胸から上が出てしまっている。他の女子がちょっと大きめの160センチだとしても、明らかに190センチは超えている。……
残念なことに美雪とは違うクラスであったから、心配されるほどに落胆してしまったのだが、嬉しいことに彼女と声を交わしたのはそれから2、3日もしなかった。
ちょっとここで、話を分かりやすくするために説明しておきたいことがあるので、回り道を許して��ただきたい。私たちの高校では、クラスは分かれるけれども、実のところ授業はそれとは関係なく、選んだ先生の元に生徒が行って、そこで授業を受けると云う、要は大学みたいな授業の受け方なのである。だから毎時間、本来の教室に教科書やらを取りに戻りはするけれど、だいたいあっちへ移動して、こっちへ移動して、それが終わればここへ移動して、……と云うように、学生からすると面倒くさいだけのシステムを、私はこなしていた。
で、私は最初の週の木曜日、うっかり教室を間違えてしまって、微妙に食い違った席順に違和感を覚えながら座っていたのであるが、チャイムが鳴る少し前、目の前に黒い人の気配を感じて目を上げると、――彼女が居た。
「あ、あの、……」
と鈴のような綺麗な声が私にかかる。
「は、はい?」
ときっと変な声を出してしまっていただろう。何せ目線よりもずっと上に彼女のスカートと裾の切れ目が見えるのである。それに、天井を見るように顔を上げると、「美雪」と云ふ名にふさわしい綺麗で大人びた顔つきが見え、私は必死で歯が震えるのを抑えていた。
「もしかして、間違えてませんか? そこ私の席だと思うんですけど、……」
「あれ? えっと、もしかして、次は化学ではない?」
「そうですね。次はここ古典になってます」
ペロリと彼女が席順等々を記している紙を見せてくれる。
「えっ、あっ、ほんとうだ。……ご、ごめん。通りで変だと思った。……」
と、私は立ち上がった。――のだが、立ち上がった感覚がまるでしなかった。私の眼の前には彼女の豊かな胸元があったし、ぐいと見上げないと彼女と目が合わせられないし、私の腰と彼女の太ももの腹がだいたい同じ位置に来ているし、……要は座った状態で人を見上げる時の景色が、そこには広がっていた。――
「いや、ごめんね。どうぞ」
と足早に過ぎようとしたのであるが、焦りが顔に出てしまっていたのか、
「くすくす、……次からは気をつけてね」
と、柔らかな笑みを浮かべられた彼女に、私は手を振られながら教室を後にした。
ただただ恥ずかしかった。一目惚れをした相手に笑われて、第一印象が肝心なのにこれでは、……と思って、次の授業中泣きそうになっていた。
ところが話はこれだけではないのである。明くる日、教室を移動していると廊下に彼女の姿が見えたので、自然私は隠れるように次の授業の教室に入ったのであるが、なんとそこに彼女が、扉の上に頭をぶつけないよう身をかがめて入って来た。しかも私の横の席に座ってくるのである。私は窮屈そうに横へ放り出されている彼女の足の筋と肉の織りなす芸術に見とれつつも、教科書���、ノートと、筆記用具を取り出す彼女を眺めていた。――と、その時、ひらひらと、扇のように大きな手が右へ、左へ。
「こんにちは。今日は間違えてませんよね?」
とくすくすと笑ってくる。
「たぶんね。誰もここに来なかったら、大丈夫だろう」
この時の私はなぜか冷静だった。それでも彼女のくすぐったい笑いに顔を赤くしてはいたが、……
「ふふ、そうなってからは遅いんじゃありません?」
「ま、でも、同じ教科書を出しているあたり、間違ってはいないんだろうな」
「ですね、――」
とチラリと時計を見た。
「自己紹介、……しましょうか」
「だな。でも、その前に、俺に敬語なんて必要ないんだけど?」
いえ、これは癖なので、……と云ってから彼女は自分の名前を云い出した。旧姓は笹川と云う。私はどこそこの中学校から来た者で、地元はあそこで、今はスクールバスで通っている身で、家で飼っている兎がたいへん可愛くて、……などなど意外にも自身のことをたくさん喋る。
「へえ、笹川さんはあの辺りから来たんだ。俺もお爺ちゃんがあそこらへんに住んでるから、よく行くよ」
「それなら、すれ違ってるかもしれませんね。――ところで、笹川〝さん〟はやめてください」
「笹川さんが敬語をやめたらね」
「うぅ、……橘さんのいぢわる。ひどいです。……」
とわざとらしく手を目元にやるので、私はその見た目とは反対のお茶目っぷりに声を出して笑った。
この日が契機となって、私たちは週に一度だけ、それも10分だけある休み時間のみではあるが、よく話をしたものだった。私の緊張も次第に溶けていって、一ヶ月もすれば、ごく自然に美雪の前で振る舞えるようになっていた。が、彼女の長身ぶりは半端なものではなく、毎回教室をかがんで入ってくるし、普通のボールペンやらシャーペンが���ニチュアサイズに見えてしまうし、相変わらず私の頭は彼女の胸元にしか辿り着いてないし、何より足を前に伸ばせば前の席からかかとが出てしまうのには、驚きで目を見開いてしまった。すると美雪はハッとなって足を引っ込めるのであるが、その仕草がまたいじらしくて、辛抱するのも限界であったかもしれない。
当然、彼女の身長については様々な憶測が飛び交っていた。180センチだの190センチだの、はたまた2メートルは超えているだの、何度聞いたことか。一応男子で180センチはある同級生が居たから、わざと並ぶように立ってもらい、それを色々な角度から見て目算で美雪の身長を見積もると云う方法をやったことがある。が、彼女は話している時には下を向くのと、体を使って話そうとするから上手くはいかなかった。それでもなんとか見てみると、182センチの男子生徒の頭の天辺が、彼女の顎程度にしか辿り着いてないのである。ということは、彼女が小顔であることを考慮すると190センチと、もう少しあるぐらい、とにかく190センチは超えている、――という結論に至った。
私はこの話を馬鹿らしいと思いながら聞いて、その実どれほど心を踊らせていたか。たった一ヶ月前には中学生であった女子高生が、男よりも遥かに高い、190センチを超える身長を持っている。……これだけ分かれば、もう夜のおかずには困らない。しかもめちゃくちゃかわいい、奥ゆかしい、麗しい、……
より私の心を踊らせたのは、中学生時代から美雪の友達だと云う女子の話であった。聞くと彼女は小学生の時にすでに180センチ以上あり、ランドセルが背負えないからトートバッグか何かを持って通学していたと云う。それで中学に入ると、身長の伸びは鈍くはなったが、身体測定のたびに先生を驚かせていたから190センチ以上と云うのは確かだと思う。色々あるけど、すごいのはプールの授業の時で、水深1メートル10センチだったから、みんな胸元に水面が来ていたんだけど、彼女だけ股のあたり、――腰にも水面が届いてなかった。笹川は背が高いけど、本当に恐ろしいのは足の長さなんだよ。君も座ってると別にあの子があんなに背が高いとは思わないでしょ? と云うのである。
たしかにその通りである。私は当時、美雪と基本的に話をすると云えば、互いに座ったまま声を交わすことだったから、しばしば目が合ってしまって顔が赤くなるのを感じたものだった。彼女の上半身は普通の、……少し大柄かな? と思う程度、……恐らく原因は豊かな乳房にある、……裸を見ることの出来る今だから云えるが、背が高いとは云っても、少なくとも私よりは細い。……いや、やっぱり胸はちょっと大きすぎるかもしれない。……
それで、だいたい彼女の身長は190センチ台だということが分かったのであるが、あまりにもはっきりしないものだから、なぜか私に白羽の矢が立ったのであった。恐らく私があまりにも楽しげに美雪と話していたからであらう。
「あー、わかんね。たちばなー、お前聞いて来てくれよ」
「えっ、何で俺なんだよ」
「だって俺たちっていうか、1年の男子の中で、笹川と一番仲が良いのってお前じゃん?」
「それは、まあ、自負してるけど、……だけどこういうのはコンプレックスになってるかもしれないから、良くはないだろ」
「けどお前も、もっと仲を縮めたいだろう? ならいつかは聞かなくちゃいけないから、ほら、ほら、行くぞ」
「あ、ちょっと、まっ、………」
と、俺は昼休みの時間、まだ食べ終えていない弁当を尻目に連れ出されてしまった。
とは云っても、他人のコンプレックスになってるかもしれない事柄に口を出すのはご法度であるから、もぐもぐと色鮮やかな弁当を食べている美雪の前に立たされた私は、頭が真っ白になっていた。ニヤニヤと笑いながら見てくる友人には、今思い出しても腹が立つ。
「あ、……」
「うん? どうしました?」
「あ、いや、なんでもない。あー、……こ、今度の日曜にユニバでも行かないか?」
なぜ、デートの誘いになったのかは、私自身も分からない。ニヤニヤと笑っていた友人は口を開けて止まっているし、彼女の周りに居た女子数名もパントマイムのように動きが止まっているし、そもそもの話として教室中がしいんと静まりかえってしまった。なんでこんなことを云ったんだ、今すぐにでも教室から出て行きたい、……そんな思いがあって、誤魔化すように頬を爪でかいていたけれども、美雪だけは、あの柔らかい笑みを浮かべていた。嫌味も嫌悪も全くない、今でも私だけに見せるあの、純粋に好意に満ちた笑みを。
そんな美雪だったから、当然デートには行くことになったのであるが、私としては出来るだけその時の事は思い出したくない。それまで恋愛の「れ」の字も味わったことのない小僧が、いきなり女性とデートだなんて、――しかもほとんど自分の理想と云っても良いほどの体と性格を持っているのだから、それはそれはひどい有様だった。
まず、会話が上手く続かない。彼女が頑張って話題を振ってくれるのを感ずる度に、逃げ出したくなった。実は友人数名がこっそりとついてきていたらしく、あの後かなり揶揄されたのもきつい。それに、歩幅が違いすぎて、始終小走りでなくては彼女についていけなかったのが、何よりも情けなくてつらい。
それほどまでに、彼女の足は長いのである。具体的に云えば、彼女の膝下と私の股下がおおよそ同じなのである。裸足であれば言い過ぎなのであるが、あの日美雪は底のあるブーツを履いており、並んでいる時にこっそりと比べてみたところ、足の長さが倍くらい違う。目線を落とすとすぐそこに彼女の豊満なお尻、……が見えるのはいつものことなのであるが、あの日はタイツかストッキングで包まれた彼女の膝が、ほんとうに私の足の付け根と同じ位置にあった。
デート後半になると、私が息をきらしながら遅れてついてくるので、美雪はとうとう手を繋ごうと提案した。承知した私の手を包む彼女の手の暖かさは、初夏であってもやさしく、一生忘れられない。……が、却って大変であった。彼女は意外と力が強く、疲れて足取り重くなった私の手をしっかりと握って引っ張るものだから、感覚としては無理やりマラソンをさせられているのに似る。グイグイと他の客をかき分けて行く彼女に、けれども手の心地よさを味わいたい私は、無理でもついていくしかなかった。
その様子がどんなものであったかを知ったのは次の日であった。勝手についてきた連中が写真を撮っていたと云うので、見せてもらったところ、――いや、もう忘れたい。お姉ちゃんに無理やり連れてこられた小学生の弟が、手を繋がれてやっとのことで歩いている様子が、……あゝ、今でも時折その写真は見ることがあるのだが、まさに大人と子ども、……周りの人々にそういう風に見られていたと云うだけでも、私はもう我���できなくなる。違う写真には、私が疲れて下を向いていた時の様子が映し出されていたのであるが、それもむくれてしまった子どものように見える。……私は美雪に嫌われたと思った。せっかくデートに誘ったのに、こんな情けない男と出歩くなんてと、思っていた。
が、彼女は彼女でかなり楽しんだらしい。明くる日のお昼休みにわざわざこちらの教室にまで出向いて、昨日は楽しかったです、お誘いありがとうございました、ところで次はどこに行きましょう? 金曜日に言い合いっこしましょうか。では、ほんとうに昨日はありがとうございました。と云って、呆気にとられているうちに出ていってしまった。
美雪とはそれからどんどん心を寄せ合って行った。とは云っても、私も彼女も非常な奥手で、弁当を一緒に食べることすら一年はかかった。キスをするのには丸ごと二年はかかった。お互い奥手過ぎて告白というものをせず、自然の成り行きにまかせていたせいなのだが、だからこそ初キスの耽美さは際立っていた。それは私たちが高校3年生に上がる頃だっただろうか、すっかり寒さが和らいで、桜もほとんど散っていたから4月ももう後半と云った頃合いだらう。どうしてキスなどと云うものをしようと思ったのかは分からない、それすらも成り行きに任せていたから。だが、確かに憶えているのはどんどん近づいてくる彼女の唇である。
確か、キスをしたのは階段の踊り場であった。ベタな場所ではあるが、学校の中であそこほど気分を高めてくれる所はなかろう。奥手な私たちにはぴったりな場所である。階段を二段か、三段上がったところで美雪は私を呼び止めた。
「優斗さん、……あ、そのままで。……」
相変わらず「さん」付けはしていたが、その頃にはすっかり、私たちは下の名で互いを呼び合っていた。
「どうした?」
と云っているうちにも美雪は近づいてくる。――不思議だった。いつもは下から見上げる美雪の顔が今では、――それでも彼女は私を見下ろしてはいたが、まっすぐ目の前に見える。
「……目を閉じてください」
いつの間にか頬を、顔を、頭を彼女の大きな手で包まれていた。薄目を開けてみると、もう目の前まで彼女の顔が近づいてきている。あっ、と思った時には唇と唇が触れ合っている。……
頬から暖かい手の感触が無くなったので、目を開くと、顔を赤くしてはにかむ美雪と目が合った。きっと私も同じような顔をしていたに違いないが、その時はもう目の前に居る女性が愛おしくて愛おしくて、このまま授業をサボって駆け出したい気持ちに駆られた。
「さ、早く行きましょう。もう予鈴が鳴りましたよ」
と一息で私の居た段を飛び越すと、こっちの手を取ってくる。
「ああ、そうだな。……」
私はそれくらいしか言葉を発せられやしなかった。
それからの一年間は、美雪との勉強に費やした。もっとも私は教えられるばかりではあったが、そのおかげで、受験はお互い無事に突破できて、お互い無事に同じ大学へ通うことになった。残念ながら大学時代は一つの事を除いて特筆すべき事がまるでない。全くもって平���凡々としたキャンパスライフだった。
さて、その「一つの事」なのであるが、それは何かと云うと、ついに彼女の身長が判明したのである。大学二回生の時の健康診断の時だったのはよく憶えている。私は長い行列に並ぶのが面倒で飛ばそうかと思っていたのだが、朝方下宿先へとやってきた美雪に、それこそ姉弟のように引っ張られる形で、保健センターへと向かった。レントゲンこそ男女別だったものの、血圧身長体重を測る列に並ぶ頃には、私はまた美雪の後ろにひっついて歩いていた。
彼女は相変わらず女神のような存在だった。後ろに居る私は云うまでもないとして、列に並ぶ誰よりも頭二つ三つは突き抜けている。みんな、彼女からすれば子どもである。誰も彼女には敵わない、誰しもが彼女の弟妹でしかない。ただ私だけが彼女の恋人であった。
事が起こったのは私が身長を測り終えた時である。美雪は私を待っていてくれたのだが、ちょうど私たちの間には微妙な段差があって、胸元にあった彼女の診断結果が見えてしまっていたのである。苦い顔をしながら眺めていたから、横から来た私に気が付いていなかったのかもしれない。だが普段は気が付かなかったところで何も見えない。彼女の胸元と云えばちょうど私の頭の天辺なのだから、背伸びをしなければ、何があるのかも分からない。――が、とにかく、その時の私には、小さいカードに刻まれた下から二つ目の数字がなぜかはっきりと見えた。そこには198.8と云う数字が刻まれていた。余裕があったから私のカードを見てみると、167.4と云う数字が刻まれているからきっとそれは身長で、なら彼女の身長は198.8センチ、……もうあと2センチも大きくなれば2メートル、……2メートル、2メートル、………
胸の高鳴りは、しかし保健センターの職員に邪魔をされてしまって、その後教科書を買いに行くと云う美雪に引っ張られているうちに消えてしまった。が、その日私の頭の中にはずっと198.8と云う数字がめぐりにめぐっていた。あの時の、高校生の時の、190センチ以上は確実にあるという話は確かであった。美雪の身長は198.8センチ、多少の違いはあるとしても、成長期を終えようとしている女の子の身長が、そう違うことは無いはずである。ならば、少なくとも高校に入学した時の美雪の身長は195センチはあったはずである。なるほどそれなら182センチの男子が並んだところで、顎までしか届かなかったのも頷ける。扉という扉を〝くぐる〟のも頷ける。自販機よりも背が高いことも頷けるし、電車の荷物棚で体を支えるのも頷けるし、私の下宿先の天井で頭を打ったのも頷ける。私はとんでもない女子高校生と、あの日出会い���あの日お互いを語り合い、そして、あの日恋に落ちたようである。
結婚をしたのは私たちが特に留年することもなく、大学を卒業したその年であった。恥ずかしながら美雪と初めてしたのは初夜だった。服を脱いで、下着一枚となり、私の前であの大きな乳房を隠そうと腕をもじもじさせる彼女の姿は、いつもと打って変わって、まだ年端のいかない少女のものであった。私はゆっくりとブラジャーを取って眺めた。カップの左下にあるタグには65P と云う英数字が並んでいた。天は美雪に何もかもを与えていた。体も頭脳も美貌も境遇も、何もかもを彼女は持っていた。P カップのブラジャーは途方もなくいい匂いがした。私は実際に彼女の乳房に包まれたくなった。美雪は私を受け入れてくれた。乳房のあいだに辛うじて見える私の頭を撫でてくれた。力の入らない私の背を撫でてくれた。私は彼女の恋人でも弟でもなかった。ただの赤ん坊であった。私はいつしか彼女をこう呼んでいた。
「まま、……」
と。――
一度やってしまえば美雪も私も枷が外れたのか、週に一度とか、月に一度のペースではあるけれども、性行為に勤しんだ。殊に嬉しかったのは彼女が私の様々な要望を答えてくれることであった。もうすでにお分かりの通り、長身女性そのものを性癖として持つ私はずっと昔からそういうプレイをしたくしてしたくてたまらなかった。時には男が床でするように、彼女の太ももにモノをこすり付けたり、時には壁際で圧迫されながら素股、――と云ってもほとんど膝のあたりにしか届かなかったが、彼女の乳房の匂いを嗅ぎながら情けなく太ももで扱かれたり、時には上から押さえつけられるようなキスと手コキだけで射精に至ったり、様々な長身プレイを楽しんだ。
特に、私が気に入ったのは美雪の腕力に任せたプレイだった。先にチラリと出てきたのであるが、彼女の力は強い、……いや、強すぎる。もう何度、ひょんなことで体を浮かされたか。朝眠気にかまけて眠っていたら、ふわり。電車で倒れそうになったら、ふわり。性行為の時に「だっこ」と云ったら、ふわり。重くはないのか? と聞くと、優斗さん軽いんだもん、全然重くないよと云う。私も身長こそ167センチで止まっているが、体重は55キロあるから決して軽くは無いはずである。それを軽いと云って、ふわりと持ち上げられるのは驚異的であるとしか言いようがない。
一度、遊びだからと云って、握力計を握らせたことがあった。3000円ほどの玩具のような握力計ではあったが、100キロまで測れると云うので、さすがにそのくらいあれば良いかと思って買ってきたのである。案の定、美雪は全力を全く出してくれなかった。デジタル表示を見ながら、ちょうど25キロか30キロほどで測定を止めて、手渡してくる。ちゃんとして、と云っても笑ってごまかされる。結局その日は諦めて、また機会があればと思って、それっきりになっていたのであるが、数カ月後のある日、部屋の片付けをしている時に件の握力計が出てきたので、そう云えばあの時自分が測ってなかったなと思って握ってみると、なぜかスカスカする。握力計だから、握ると手応えがあるはずだが、……? と思いながらもう一度握ると、やはりスカスカする。不思議に思って適当にボタンを押していると、100、28、31、27、……と云った数字が出てくる。2つ目以降の数字はまさにあの日美雪が出した結果であった。と、云うことは最初の100と云う数字は一体、……? あの日以来、自分はこの握力計には触っていない。それにこの壊れた取手の部分も気になる。……そこで私はある結論に至り、背筋を���くした。美雪を怒らせてしまったら、一体どうなる。……? 本気で手を握られでもしたら、……? 私の股間は熱くなる一方であった。
だが、彼女の力の強さを実感するに従って、漠然とした物足らなさが私を襲っていた。美雪にその力を存分に発揮させて、己の無力さを味わいたい。行為に到る時、彼女はどこか一歩引いたような風采(とりなり)で私を痛めつけるのである。それは本来美雪の性癖がそっちでは無いからでもあるし、まさか夫にそういうことをするわけにはいかないと云う思いもあるのであらう。赤ちゃんごっこはそこを上手くついてはいるが、やはり彼女にはその力でもって、私を嬲ってほしい。もっともっと、私を蔑んでほしい。……
とは云っても、美雪は完璧な良妻賢母である。何時に家に帰ろうとも起きていてくれて、しかも笑顔で迎えてくれるし、ご飯は物凄く美味しいし、家事は何一つ抜かり無く行うし、夫への気遣いはやりすぎなほどである。私はとんでもない女性を嫁にもらったようであった。毎日が幸せで、毎日が楽しく、充実している。――
だが、そんな私と美雪のしあわせな結婚生活は終わりを迎えようとしていた。なぜなら、……
「パパ! パパ! 居るよね、聞いて聞いて!」
と娘の詩穂里が、〝腰を折り曲げながら〟書斎に入ってくる。全てはこの娘とのいびつな関係が原因なのである。――
詩穂里が生まれたのは結婚してすぐのことであった。まさかこんなに大きな女性から生まれたとは思えない、小さな可愛らしい存在に、私たち夫婦は胸を打たれた。授乳のためにさらに大きくなった美雪の乳房から母乳を飲む姿は、天使のようにも思える。
詩穂里はすくすくと成長した。それこそ退院時にはすでに同年代の子よりも一回りほど大きかったのだが、美雪が痛がっても母乳を求め続けた結果、離乳期はもとより幼稚園に入る頃には、一人だけ小学生が紛れたかと思うほど、娘は大きくなっていた。妻は、私もそんな感じだったから、別にいじめられていなければ気にするでもない、と云うので見守っていたのであるが、詩穂里とその組の集合写真を見てあろうことか、私は明らかに娘に、――それもまだ小学生にも至っていない女の子に向けるべきでない欲望が芽生えるのを感じた。美雪が撮って見せてくれる写真や動画もまた、かわいいかわいいとは口で云いながらも、その実私はその、他の子と比べて倍はあろうかと云う体格をした娘に股間を固くしていた。
小学生に上がった娘は相変わらず大きかった。他の子と比べるのは云うまでもないが、小学三年生になる頃には男の先生と比べても遜色なくなっていた。その時にはもうすでに身長160センチ近かったであろうか、気がついた時には私も詩穂里に背の高さで追いつかれつつあった。小学生のまだあどけない顔つきが日を追う毎に高くなって行く。……私はこの年になって久しぶりに、負けて悔しいという感情を抱いていた。
結局負けたのは詩穂里が小学四年生のときであっただろうか、立った時にやたら目線が合うかと思いきや、次の週には少し上から、次の月には娘ははっきりと私を見下ろしていた。そしてあろうことか、
「あれ? パパなんか小さくない?」
と云って、自身の頭から手をすっと横へずらしてくる。その手は明らかに数センチは私の上をかすめていった。
「ふふん。パパに勝っちゃった。ほめてほめて!」
「あ、あぁ、……よくやった。……」
私の声はかすれ声となっていた。
「ダメよ。そういうことしちゃ。パパだって意外と気にしてるんだから。ほら、ごめんなさいは?」
「あ、……えと、ごめんなさい」
詩穂里は美雪の云うことは聞くと云った風で、そこには妻の背の高さに対する尊敬の念が含まれているらしかった。
次の年、つまり詩穂里が小学5年生となった時、娘の身体測定の結果を見た私は愕然とした。そこには182.3センチという数字が並んでいた。180センチオーバーの小学5年生、……それが我が娘だなんて信じられやしなかった。
もうその頃には詩穂里は私よりも頭一つ以上は大きく、親子三人で出かけると決まって間に挟まることになる私のみすぼらしさは計り知れなかったことであろう。方や2メートルまであと一歩の美女、方や小学5年生にして180センチを超えた美少女。しかもヒールのあるブーツを履くので、外では二人の身長差はなくなる。……私は小人になった気分で、両者に手を引かれてついていくしかなかった。いや、小人と云うよりは囚われた宇宙人と云った方が正しいか。ある時、公衆の面前で、いきなり詩穂里が手を上げて、
「ほら、お母さんも」
と云うので、美雪も手を挙げる。私はあっさりバンザイの格好になったのであるが、肩に痛みを感じるや、次第に地から足が浮く感覚がする。――
そういう時がもう何度もあった。それに、二人とも、私の耳が自分たちの口の30センチは下にあることを利用して、コソコソとこちらをチラリと見つつ話をするのである。そして大概の場合、私は二人に挟まって、前からは美雪が、後ろからは詩穂里がという風にどんどん圧迫してくるのである。二人の長身美女に挟まれて身動きの取れない男、……想像したくもないが、一体どのように傍からは映っているのであろう。
そんな娘との関係が歪になり初めたのは、このペースで身長が伸び続ければ190センチも軽いと思っていた矢先のことであった。これは私たち夫婦の落ち度なのであるが、どうも夜の営みと云うものを見られたらしい。とは云っても、そんなに重いものではなくて、ただ妻に持ち上げられて背中をぽんぽんと、……要は赤ちゃんをあやすように抱っこされていた光景を見られたらしかった。
だが、小学5年生の女の子にとっては衝撃だったのであろう。明くる日、ちょうど折り悪く土曜日だったから、昨晩の余韻に浸りつつ、ソファに寝転がって本を呼んでいたところ、突然、
「パパ」
「ん? どうした?」
「ちょっと立って」
とニヤニヤと笑いながら云ってくる。手を伸ばして来ていたので、掴んで立ち上がると、
「そのまま立っててね」
と云われる。相変わらず小学生らしからぬ圧倒的な体つきであった。私の背は娘の肩までしか届いていなかった。目線は彼女の胸元であった。神々しさ��感じていると、詩穂里は唐突に脇の下に手を入れてきた。そして、気がついた時には、――私は彼女と目が合っていた。
「え、……うわ! しほ、下ろしてくれ!!」
とジタバタと、地につかぬ足を動かすが、娘には何の抵抗もなっていないようである。そもそも私を持ち上げるのに全然力を使っていないようであった。無邪気な声で、
「あははは、パパかるーい」
と私を上下させながら云う。
「や、やめてくれ!!」
「ふふふ、わたし昨日見ちゃったよ。たかいたかいしてあげよっか」
「やめろ、たのむ、詩穂里!!」
「えー? やだ」
私の叫び声を他所に、詩穂里はさらに手を上へ。
「ほーら、たかいたかーい」
「うわああああああ!!!」
脇腹に感じる激しい痛みもあったが、それ以上に、天井に頭をぶつける恐怖の方が強かった。私はとにかく手も使って暴れたが、妻譲りの怪力を持つ娘には全くもって通じていない。
「ふふん、どう? もう一回?」
「や、やめて、……やめてくれ」
「やだ。それ、たかいたかーい!」
それが幾度となく繰り返された。小学生の娘にたかいたかいをされる恐怖と屈辱に私は涙を流しそうにもなっていた。――と、その時、折良く野暮用から美雪が帰ってきたらしく、部屋に入ってくる。
「あら? 二人とも何やってるの?」
「パパにたかいたかいしてあげてるの!」
「そう、ならもっとしてあげてね」
「美雪、……助けてくれ。……」
「優斗さん、実は楽しんでるでしょう? 私はまだやらないといけないことがあるから、もうちょっとしほの相手をしてあげて。大丈夫、怪我しないように手加減はしてくれるから、ね? しほちゃん?」
「うん! じゃあパパ、もう一回行くよー?」
――全く、私はとんでもない女の子を娘に持ってしまったようである。小学生なのに、背は私よりもう30センチ近くは高い、顔は可愛い、力は怪力、……それに生まれつきのサディスティックな性質。……この時、詩穂里にたかいたかいをされながら、私は美雪では満たされ得なかった何かが自分のなかに満ちていくのを感じた。
そして、その感覚は以来、続くことになった。と、云うのも、詩穂里はこの日以来、しばしば私を相手にたかいたかいやら、美雪のように抱っこをして背中をぽんぽんと叩いてくれたりするのである。彼女からするとごっこ遊びの一種なのであろう。体つきこそ大人顔負けなのに、心は小学生のままである。
そう云えば、家族三人で海に出かけた時は特にひどかった。私は沖に出る二人について行ったのであるが、あっという間に足が底につかなくなってしまった。見かねた美雪に引っ張られて抱きかかえられたものの、それに嫉妬した詩穂里に、
「ほら、パパおいでおいで」
と無理やり妻の柔らかい体から引き剥がされる。そして、
「もう、小さいのに無理して出てきて、溺れたら困るでしょ?」
と云う。もはや子供扱いだったが、さらに、
「なら、溺れないように詩穂里お姉さんと一緒に特訓しよう! ほら、まさとくん、手は離さないからゆっくりと浮いてごらん?」
と、本当に泳ぎの練習が始まってしまった。極めつけには、妻と娘よりも私が先にバテてしまって、注目を浴びる中、詩穂里の胸に抱きかかえて海から上がったのである。
公衆の面前で、小学生の娘に抱きかかえられる父親、……もうたまらなかった。私は妻よりも娘の方にすっかり好意が移ってしまった。まだ未発達な詩穂里の乳房を感じながら、その力強さと、その優しさに酔いしれていた。この時はまだ、あんなことになるとは思ってはいなかった。
あんなこと、と云うのはそれから実に一年が経った頃合いの出来事である。詩穂里は小学6年生、春の身体測定では身長はほとんど妻と変わらない193.4センチだと云う。顔つきもどこか妻に似て、おしとやかである。もう私では背伸びをしても娘の肩に届かない。寝る時は湯たんぽにしかなっていない。普段はほとんど子供をあやすような甘い声しかかけられない。
そんな中、私はある日曜日、大学の同級生とちょっとした遊びに出かける予定があって、支度をしていたのであるが、いざ出かけようと自室の扉を開こうとした時、向こう側から勢いよく詩穂里が入ってきた。当然、屈んで扉をくぐる。
「パパ、どこへ行こうとしてるの?」
いつもとは違うトゲトゲしい調子に、私は相手が娘だと云うのに怖かった。
「いや、ちょっと友達とな。……」
「へえ、そう」
「あ、遊びに行くから、……」
「ふぅん? そうなんだ。わたしとの約束よりもパパは友達との遊びを優先させちゃうんだ」
約束、……たしか先週か先々週に詩穂里と一緒に、――思い出した時には遅かった。私は壁際に追い詰められていた。
「ま、まって、それはまた来週、来週に行こう、な?」
「パパ」
「だ、だから今日は、家でおるすば、……」
「パパ?」
「は、はい」
私を追い詰めた詩穂里はどんどんと近寄って来て、一人の小さな男をその体でもって潰そうと云わんばかりに密着してくる。彼女の胸と壁に挟まれた頭に激痛が走り、私は呻き声をあげる。
「やっぱいいや、行ってもいいよ。許してあげる。でもそのかわり、わたしはずっとこうしてるから」
「うがああああ!!」
「あ、思いついた。じゃあ、こうしよう。このままパパがわたしから逃げられたら、約束のこと無しにしてあげる。でも、出来なかったら。……」
「あ、ひっ、うああ!!!」
と私は詩穂里の体を跳ね除けようとしているのであるが、それは約束云々と云うよりも、この激痛から逃れられたい一心からであった。
「ふふふ、よわいよわいパパ。小学生の娘にも勝てないなんて、……ほら、頑張って、頑張って」
と詩穂里は馬鹿にしたように云う。そのうちにもどんどん彼女の力は強くなっていく。
「ね、パパ、今日はさ、わたしと一緒にいけないことしようよ。お母さんには内緒で。あと10分で逃げられなかったら、そうしようね」
と、その「いけないこと」を暗示するように、太ももを私の股間にこすりつける。
もうどうしようもなかった。気がついた時には私は手を取られてバンザイの格好をしていたし、娘の太ももに座るようにして足は宙に浮いていた。抵抗する気なぞ、とうに消えていた。
結局、その日は本当に美雪には適当を云って、大学の友人には子どもが熱を出したと云って、詩穂里とホテルへ向かった。……この先は云うまでもなかろう。彼女の初めてとは思えない手付きや言葉遣いで、私の娘に対する長年の欲望は全て搾り取られてしまった。行為の最中、私に主導権はなかった。ただひたすら、歳の離れた実の娘のなすがまま、存分に嬲られ、痛めつけられ、挙句の果てにはその余りの神々しさに彼女をこう呼んだ。
「まま、……」
と。――
「パパー? 聞いてるー? 今日ねー、――」
と詩穂里は私の眼の前に腰掛けた。つい数週間前に中学生になったばかりの彼女はもう妻よりも大きい。私からすると二人とも巨人のように見えるのであるが、明らかに詩穂里の頭の方が、美雪よりも高い位置にある。少し前に、とうとうお母さんよりも大きくなっちゃった! と、はしゃいでいたのは記憶に新しい。
――その時、嬉しいことを思い出した。娘は今日、身体測定だと云って家を出ていっていた。
「久しぶりに身長測ったんだよ! 聞きたい?」
「あ、ああ。……」
グイと近づいてくる、詩穂里は、誰にも聞こえぬと云うのに、私だけに伝わるよう耳打ちをする。
「2メートルと、7センチ、……だよ!」
「2メートル、2メートル、7センチ、……2メートル、2メートル。……」
「そんな何度も云わなくていいじゃん。もう、パパはお馬鹿さんだねぇ」
と、云いながら詩穂里は私の体を抱きしめる。
「ね、約束、覚えてる?」
「も、もちろん」
「良かった。ほら、おいでまさとくん」
と私の顔を豊かになりつつある胸元に抱き寄せる。私は彼女に体をすっかり預けて、その甘い匂いに頭をとろけさせた。
「まま、……」
「んふふ、また今夜しようね、まさとくん」
だらりと垂れた私の体を愛おしく抱きしめながら、詩穂里は子守唄を歌った。それは鈴のように美しく、よく通る音色だった。
(おわり)
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
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(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶��んに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」 この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」 禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」 さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」 あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」 五間擦氏は観念して、千里が島とこ��除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。 千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。 アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。 ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」 あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」 そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺��計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。 魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」 禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」 佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」 食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」 死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」 すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」 魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」 時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」 私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」 斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」 佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」 生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!) 道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です― 自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」 圧。 「ッ!?」 私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。��縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」 私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」 魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」 私はそこに拳を当て、無言で頷いた。 こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」 斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」 すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」 昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」 万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? ��れなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」 万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」 その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」 総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。 薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。 幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」 私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」 青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」 指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」 青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」 夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬��ないなら幽霊かもだ……」 青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」 デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」 私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」 カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」 私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」 夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」 空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」 私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」 すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」 咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」 毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」 この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」 ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」 苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」 押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」 人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」 犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!) 日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」 私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」 ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」 小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間���私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』 徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽ 徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』 すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」 ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」 青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」 その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」 私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」 しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」 一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ!���嘘こくなぁぁ!」 民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽ ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」 ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」 ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」 両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽ そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。 そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」 バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」 河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」 ガバッ、キュ��イィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」 見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」 ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」 頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」 カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」 御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」 ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」 ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」 八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」 シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る! 大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」 しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」 ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」 呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」 ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女���の背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」 ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」 こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」 斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」 そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」 御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」 会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」 石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」 ズカアァァン!!! 出会い頭に強��なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」 その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」 ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」 私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」 神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」 スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」 身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」 微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」 大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」 私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」 シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」 仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」 たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」 お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」 獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」 どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は��るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」 雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」 ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。 時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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12150006
軽快なメロディが音割れしていることにきっと全員気付いているはずなのに、誰も指摘しないまま、彼は毎日狂ったようにそれを吐き出し続けている。
時刻は朝の8時過ぎ。何に強制されたでもなく、大人しく2列に並ぶ現代の奴隷たち。いや、奴隷ども。資本主義に脳髄の奥まで犯されて、やりがいという名のザーメンで素晴らしき労働という子を孕まされた、意志を持たない哀れな生き物。何も食べていないのに胃が痛い。吐きそうだ、と、50円のミネラルウォーターを一口含んで、押し付けがましい潤いを乾く喉に押し込んだ。
10両目、4番目の扉の右側。
俺がいつも7:30に起きて、そこから10分、8チャンネルのニュースを見て、10分でシャワー、10分で歯磨きとドライヤー、8:04に自宅を出て、8:16に駅に到着。8:20発の無機質な箱に乗る、その最終的な立ち位置。扉の右側の一番前。黄色い線の内側でいい子でお待ちする俺は、今日もぼうっと、メトロが顔を覗かせるホームの端の暗闇を見つめていた。
昨日は名古屋��人が飛び込んだらしい。俺はそのニュースを、職場で開いたYahoo!のトップページで見かけた。群がる野次馬が身近で起きた遠い悲劇に涎を垂らして、リアルタイムで状況を伝える。
『リーマンが飛び込んだ』
『ブルーシートで見えないけど叫び声聞こえた』
『やばい目の前で飛び込んだ、血見えた』
『ハイ1限遅れた最悪なんだけど』
なんと楽しそうなこと。まるで世紀の事件に立ち会った勇敢なジャーナリスト気取り。実際は目の前で人が死ぬっていう非現実に興奮してる変態性欲の持ち主の癖に。全員死ね。お前らが死ね。そう思いながら俺は、肉片になった男のことを思っていた。
電車に飛び込んで仕舞えば、生存の可能性は著しく低くなる。それが通過列車や、新幹線なら運が"悪く"ない限り、確実に死ぬ。悲惨な形を伴って。肉片がおよそ2〜5キロ圏内にまで吹き飛ぶこともあるらしい。当然、運転手には多大なトラウマを植え付け、鉄道職員は線路内の肉片を掻き集め、乗客は己の目の前で、もしくは己の足の下で、人の肉がミンチになる様を体感する。誰も幸せにならない自殺、とは皮肉めいていてよく表現された言葉だとつくづく思う。当人は、幸せなのだろうか。
あの轟音に、身体を傾け頭から突っ込む時、彼らは何を思うのだろう。走馬灯とやらが頭を駆け巡るのか、やはり動物の本能として恐怖が湧き上がるのか、それとも、解放される幸せでいっぱいなのか。幸福感を呼び起こす快楽物質が脳に溢れる様を夢想して、俺は絶頂にも近い快感を奥歯を噛み締めて堪えた。率直に浮かんだ「羨ましい」はきっと、俺が人として生きていたい限り絶対漏らしてはいけない、しかし限りなく本音に近い、5歳児のような素直な気持ち。
時刻は8:19。スマホの中でバカがネットニュースにしたり顔でコメントを飛ばして、それに応戦する暇な人間たち。わーわーわーわーうるせえな、くだらねえことでテメェの自尊心育ててないで働けゴミが。
時刻は8:20。腑抜けたチャイムの音。気怠そうな駅員のアナウンス。誰に罰されるわけでもないのに、俺の足はいつも黄色い線の内側に収まったまま、暗がりから顔を覗かせる鉄の箱を待ち侘びている。
俺は俯いて、視界に入った己のつま先にグッと力を込めた。無意識にするこの行為は、死への恐怖か。馬鹿らしい。いつだって、この箱の前に飛び込むことが何よりも幸せに近いと知っているはずなのに。
気が付けば山積みの仕事から逃げるように、帰りの電車に乗っていた。時刻は0:34。車内のアナウンス。この時間でこの場所、ということは終電だろう。二つ離れた椅子に座ったサラリーマンがだらりと頭を下げ、ビニール袋に向けて嘔吐している。饐えた臭いが漂ってきて貰いそうになるが、もう動く気力もない。死ね。クソ野郎が。そう心の中でぼやきながら、俺はただ音楽の音量を上げて外界を遮断する。耳が割れそうなその電子音は、一周回って心地いい。
周りから俺へ向けられる目は冷たく、会社に俺の居場所はない。同期、後輩はどんどん活躍し、華々しい功績を挙げて出世していく。無能な俺はただただ単純で煩雑な事務作業をし続けて、それすらも上手く回せない。ああ、今日はただエクセルの表作りと、資料整理、倉庫の整理に、古いシュレッダーに詰まった紙の掃除。それで金を貰う俺は、社会の寄生虫か?ただ生きるために何かにへばりついて必要な栄養素を啜る、なんて笑える。人が減った。顔を上げると降りる駅に着いていた。慌てて降りる俺を、乗ろうとしていた騒がしい酔っ払いの集団が睨んで、邪魔そうに避けた。何だその顔は。飲み歩いて遊んでた人間が、働いてた俺より偉いって言うのか。クソ。死ね。死んでくれ。社会が良くなるために、酸素の消費をやめてくれ。
コンビニで買うメニューすら、冒険するのをやめたのはいつからだろう。チンすれば食べられる簡単な温かい食事。あぁ、俺は今日も無意識に、これを買った。無意識に、生きることをやめられない。人のサガか、動物としての本能か、しかし本能をコントロールしてこその高等生物である人間が、本能のままに生きている時点で、矛盾しているのではないか。何故人は生きる?生きるとは?NHKは延々とどこか異国の映像を流し続けている。国民へ向けて現実逃避を推奨する国営放送、と思うと笑えてきて、俺は箸を止め、腹を抱えてしこたま笑った。あー、死のう。
そういえば、昔、俺がまだクソガキだった頃、「完全自殺マニュアル」なる代物の存在を知った。当然、本を変える金なんて持ってなかった俺は親の目を盗んで、図書館でそれを取り寄せ借りた。司書の本を渡す際の訝しむ顔がどうにも愉快で、俺は本を抱えてスキップしながら帰ったことを覚えている。
首吊り、失血死、服毒死、凍死、焼死、餓死...発売当時センセーショナルを巻き起こしたその自称「問題作」は、死にたいと思う人間に、いつでも死ねるからとりあえず保険として持っとけ、と言いたいがために書かれたような、そんな本だった。淡々と書かれた致死量、死ぬまでの時間、死に様、遺体の変化。俺は狂ったようにそれを読み、そして、己が死ぬ姿を夢想した。
���薬は消化器官が爛れ、即死することも出来ない為酷く苦しんで死ぬ地獄のような死に方。硫化水素で死んだ死体は緑に染まる。首吊りは体内に残った排泄物が全て流れ出て、舌や目玉が飛び出る。失血死には根気が必要で、手首をちょっと切ったくらいでは死ねない。市販の薬では致死量が多く未遂に終わることが多いが、バルビツール酸系睡眠薬など、医師から処方されるものであれば死に至ることも可能。など。
当然、俺が手に取った時には情報がかなり古くなっていて、バルビツール酸系の薬は大抵が発売禁止になっていたし、農薬で死ぬ人間など殆どいなくなっていたが、その情報は幼かった俺に、「死」を意識させるには十分な教材だった。道徳の授業よりも宗教の思想よりも、何よりも。
親戚が死んだ姿を見た時も、祖父がボケた姿を見た時も、同じ人間とは思えなかった俺はきっとどこか欠けてるんだろう。親戚の焼けた骨に、棺桶に入れていたメロンの緑色が張り付いていて、美味しそうだ。と思ったことを不意に思い出して、吹き出しそうになった。俺はいつからイカれてたんだ。
ずっと、後悔していたことがあった。
小学生の頃、精神を病んだ母親が山のように積まれた薬を並べながら、時折楽しそうに父親と電話をしていた。
その父親は、俺が物心ついた、4、5歳の頃に外に女を作って出て行った、DVアル中野郎だった。酒を飲んでは事あるごとに家にあるものを投げ、壊し、料理の入った皿を叩き割り、俺の玩具で母親の顔を殴打した。暗い部屋の中、料理が床に散乱する匂いと、やめてと懇願する母親の細い声と、人が人を殴る骨の鈍い音が、今も脳裏によぎることがある。あぁ、懐かしいな。プレゼントをやる、なんて言われて、酔っ払って帰ってきた父親に、使用済みのコンドームを投げられたこともあったっけ。「お前の弟か妹になり損ねた奴らだよ。」って笑ってたの、今思い返してもいいセンスだと思う。顔に張り付いた青臭いソレの感触、今でも覚えてる。
電話中は決まって俺は外に出され、狭いベランダから、母親の、俺には決して見せない嬉しそうな顔を見てた。母親から女になる母親を見ながら、カーテンのない剥き出しの部屋の明かりに集まる無数の羽虫が口に入らないように手で口を覆って、手足にまとわりつくそれらを地面のコンクリートになすりつけていた。あぁ、そうだ、違う、夏場だけカーテンをわざと開けてたんだ。集まった虫が翌朝死んでベランダを埋め尽くすところが好きで、それを俺に掃除させるのが好きな母親だった。記憶の改変は恐ろしい。
ある日、俺は電話の終わった母親に呼ばれた。隣へ座った俺に正座の母親はニコニコと嬉しそうに笑って、「お父さんが、帰ってきていいって言ってるの。三人で、幸せな家庭を作りましょう!貴方がいいって言って���れるなら、お父さんのところに帰りましょう。」と言った。そう。言った。
俺は、父親が消えてからバランスが崩れて壊れかけた母親の、少女のように無垢なその笑顔が忘れられない。
「幸せな家庭」、家族、テレビで見るような、ドラマの中にあるような、犬を飼い、春には重箱のお弁当を持って花見に行き、夏には中庭に出したビニールプールで水遊びをし、夜には公園で花火をし、秋にはリンゴ狩り、栗拾い、焼き芋をして、落ち葉のベッドにダイブし、冬には雪の中を走り回って遊ぶ、俺はそんな無邪気な子供に焦がれていた。
脳内を数多の理想像が駆け巡って、俺は、母の手を掴み、「帰ろう。帰りたい。パパと一緒に暮らしたい。」そう言って、泣く母の萎びた頬と、唇にキスをした。
とち狂っていたとしか思えない。そもそも帰る、と言う表現が間違っている。思い描く理想だって、叶えられるはずがない。でもその時の馬鹿で愚鈍でイカれた俺は、母の見る視線の先に桃源郷があると信じて疑わなかったし、母と父に愛され、憧れていた家族ごっこが出来ることばかり考えて幸せに満ちていた。愚かで、どうしようもなく、可哀想な生き物だった。そして、二人きりで生きてきた数年間を糧に、母親が、俺を一番に愛し続けると信じていた。
母は、俺が最初で最後に信じた、人間だった。
父親の家は荒れ果てていた。酒に酔った父親が出迎え、母の髪を掴んで家の中に引き摺り込んだ瞬間、俺がただ都合の良い夢を見ていただけだと言うことに漸く、気が付いた。何もかも、遅過ぎた。
仕事も何もかも捨てほぼ無一文で父親の元へ戻った母親が顔を腫らしたまま引越し荷物の荷解きをする姿を見ながら、俺は積み上げた積み木が崩れるように、砂浜の城が波に攫われるように、壊れていく己の何かを感じていた。母は嬉しそうに、腫れた顔の写真を毎度俺に撮らせた。まるでそれが、今まで親にも、俺にも、誰にも与えられなかった唯一無二の愛だと言わんばかりに、母は携帯のレンズを覗き、画面越しに俺に蕩けた目線を送った。
人間は、学習する生き物である。それは人間だけでなく、猿や犬、猫であっても、多少の事は学習できるが、その伸び代に関しては人間が群を抜いている。母親は次第に父親に媚び、家政婦以下の存在に成り下がることによって己の居場所を守った。社会の全てにヘイトを募らせた父親も、そんな便利な道具の機嫌を損ねないよう、いや、違うな、目を覚まさせないように、最低限人間扱いをするようになった。
まあ当然の末路と言えるだろうな。共同戦線を組んだ彼らの矛先は俺に向いた。俺は保てていた人間としての地位を失い、犬に、家畜に成り下がった。名前を呼ばれることは無くなり、代わりについた俺の呼び名は「ゴキブリ」になった。家畜、どころか害虫か。産み落とした以上、世話をするほかないというのが人間の可哀想なところだ。
思い出したくもないのにその記憶を時折呼び起こす俺の出来の悪い脳を何度引き摺り出してやろうかと思ったか分からない。かの夢野久作が書いた「ドグラマグラ」に登場する狂った青年アンポンタン・ポカン氏の如く、脳髄を掴み出し、地面に叩きつけてやりたいと思ったことは数知れない。
父親に奉仕する母は獣のような雄叫びをあげて悦び、俺は夜な夜なその声に起こされた。媚びた、艶やかな、酷く情欲を煽るメスの声。俺は幾度となく吐き、性の全てを嫌悪した。子供じみた理由だと、今なら思う。何度、眠る父親の頭を金属バットで叩き割ろうと思ったか分からない。俺は本を読み漁り、飛び散る脳髄の色と、母の絶望と、断末魔を想像した。そう、この場において、いや、この世界において、俺の味方は誰もいなかった。
いつの間にかテレビ放送は休止されたらしい。画面端の表示は午前2時58分。当然か。騒がしかったテレビの中では、カラーバーがぬるぬると動きながら、耳障りな「ピー」という無慈悲な機械音を垂れ流している。テレビの心停止。は、まるでセンスがねえな死ね俺。
ずっと、後悔していた。誰にも言えず、その後悔すらまともに見ようとはしなかったが、今になって、思う。何度も、あの日の選択を後悔した。
あの日、俺がもし、Yesと言わなかったら。あの日の俺はただ、母親がそう言えば喜ぶと思って、幸せそうな母親の笑顔を壊したくなくて、...いや、違う。あれは、幸せそうな母親の笑顔じゃない、幸せそうな、メスの笑顔だ。それに気付けていたら。
叩かれても蹴られても、死んだフリを何度されても自殺未遂を繰り返されても、見知らぬ土地で置き去りにされても、俺はただ、母親に一番、愛されていたかった。父親がいない空間が永遠に続けばいい、そう今なら思えたのに、あの頃の俺は。
母親は結局、一人で生きていけない女だった。それだけだ。父親が、そして父親の持つ金が欲しかった。それだけだ。なんと醜い、それでいてなんと正しい、人間の姿だろう。俺は毎日、父親を崇めるよう強制された。頭を下げ、全てに礼を言い、「俺の身分ではこんなもの食べられない。貴方のおかげで食事が出来ている」と言ってから、部屋で一人飯を食った。誕生日、クリスマス、事あるごとに媚びさせられ、欲しくもないプレゼントを分け与えられた。そうしなきゃ殴られ蹴られ、罵倒される。穏便に全てを済ませるために、俺は心を捨てた。可哀想な生き物が、自己顕示欲を満たしたくて喚いている。そう思い続けた。
勉強も運動も何も出来なかった。努力する、と言う才能が元から欠けていた、可愛げのない子供だったと自負している俺が、ヒステリーを起こした母親に、「何か一つでもアンタが頑張ったことはないの!?」と激昂されて、震える声で「逆上がり、」と答えたことがあった。何度やっても出来なくて、悔しくて、冬の冷たい鉄棒を握って、豆が出来ても必死に一人で頑張った。結局、1、2回練習で成功しただけで、体育のテストでは出来ずに、クラスメイトに笑われた。体育の成績は1だった。母親は鼻で笑って、「そんなの頑張ったうちに入らないわ。だからアンタは何やっても無理、ダメなのよ。」とビールを煽って、俺の背後で賑やかな音を立てるテレビを見てケタケタと笑った。それ以降、目線が合うことはなかった。
気分が悪い。なぜ今日はこんなにも、過去を回顧しているんだろう。回り出した脳が止められない。不愉快だ。酷く。それでも今日は頑なに、過去を振り返らせたいらしい脳は、目の前の食べかけのコンビニ飯の輪郭をぼやけさせる。
俺が就職した時も、二人は何も言わなかった。ただただ俺は、父親の手口を真似て、母親の心を取り戻そうと、ありとあらゆるブランド物を買って与えた。高いものを与え、食わせ、いい気分にさせた。そうすれば喜ぶことを俺は知っていたから。この目で幾度となく見てきたから。二人で暮らしていた頃の赤貧さを心底憎んでいた母親を見ていたから。
俺は無邪気にもなった。あの頃の、学校の帰りにカマキリを捕まえて遊んだような、近所の犬に給食のコッペパンをあげて戯れていたような、そんな純粋無垢な無邪気さで、子供に戻った。もう右も左も分からない馬鹿なガキじゃない。今の俺で、あの頃をやり直そう。やり直せる。そう思った。
「そんなわけ、ねぇよなぁ。」
時刻は午前4時を回り、止まっていたテレビの心拍が再び脈動を始めた。残飯をビニール袋に入れて、眩しい光源を鬱陶しそうに睨んだ。画面の中では眠気と気怠さを見せないキリリとした顔の女子アナが深刻そうな顔で、巷で流行する感染症についての最新情報を垂れ流している。
結論から言えば、やり直せなかった。あの女の一番は、俺より金を稼いで、俺より肉体も精神も満たせる、あの男から変わることはなかった。理解がし難かった。何度殴られても生きる価値がない死ねと罵られても、それが愛なのか。
神がいるなら問いたい。それは愛なのか。愛とはもっと美しく、汚せない、崇高なものじゃないのか。神は言う。笑わせるな、お前だって分かっていないから、ひたすら媚びて愛を買おうとしたんだろう。ああ、そうだ。俺にはそれしかわからなかった。人がどうすれば喜ぶのか、人をどうすれば愛せるのか、歩み寄り、分り合い、感情をぶつけ合い、絆を作れるのか。人が人たるメカニズムが分からない。
言葉を尽くし、時間を尽くしても、本当の愛の前でそれらは塵と化すのを分かっていた。考えて、かんがえて、突き詰めて、俺は、自分が今人間として生きて、歩いて、食事をして、息をしている実感がまるで無い不思議な生き物になった。誰のせいでもない、最初からそうだっただけだ。
あなたは私の誇りよ、と言った女がいた。そいつは俺が幼い頃、俺じゃなく、俺の従兄弟を出来がいい、可愛い、と可愛がった老婆だった。なんでこんなこと、不意に思い出した?あ��、そうだ、誕生日に見知らぬ番号からメッセージが来てて、それがあの老婆だと気付いたからだ。気持ちが悪い。俺が人に愛される才能がないように、俺も人を愛する才能がない。
風呂の水には雑菌がうんたらかんたら。学歴を盾に人を威圧するお偉いさんが講釈を垂れているこの番組は、朝4時半から始まる4チャンネルの情報番組。くだらない。クソどうでもいい。好みのぬるめのお湯に目の下あたりまで浸かった俺は、生きている証を確かめるように息を吐いた。ぼご、ぶくぶく、飛び散る乳白色が目に入って痛い。口から出た空気。無意識に鼻から吸う空気。呼吸。あぁ、あれだけ自分の傷抉って自慰しておいて、まだ生きようとしてんのか、この身体。どうしようもねえな。
どうせあと2時間と少ししか眠れない。髪を乾かすのも早々に、俺が唯一守られる場所、布団の中へと潜り込んで、無機質な部屋の白い天井を見上げた。
そういえば、首吊りって吊られなくても死ぬことが出来るんだっけ。そう。今日の朝だって思ったはずだ。黄色い線の外側、1メートル未満のその先に死がある。手を伸ばせばいつでも届く。ハサミもカッターも、ガラスも屋上もガスも、見渡せば俺たちは死に囲まれて、誘惑に飲まれないように、生きているのかもしれない。いや、でも、いつだって全てに勝つのは何だ?恐怖か?確かに突っ込んでくるメトロは怖い。首にヒヤリとかかった縄も怖い。蛙みたく腹の膨れた女をトラックに轢かせて平らにしたいとも思うし、会話の出来ない人間は全員聾唖になって豚の餌にでもなればいいとも思う。苛立ち?分からない。何を感じ、生きるのか。
ああ、そういえば。
父親の頭をミンチの如く叩きのめしてやろうと思って金属バットを手に取った時、そんなくだらないことのためにこれから生きるのかと思うと馬鹿らしくなって、代わりに部屋のガラスを叩き割ってやめた。楽にしてやろうと母親を刺した時、こんなことのために俺は人生を捨てるのか、と我に返って、二度目に振り上げた手は静かに降ろした。
あの時の爽快感を、忘れたことはない。
あぁ、そうか、分かった。
死が隣を歩いていても、俺がそっち側に行かずに生きてる理由。そうだ。自由だ。ご飯が美味しいことを、夜が怖くないことを、寒い思いをせず眠れることを、他人に、人間に脅かされずに存在できることを、俺はこの一人の箱庭を手に入れてから、初めて知った。
誰かがいれば必ず、その誰かに沿った人間を作り上げた。喜ばせ、幸せにさせ、夢中にさせ、一番を欲した。満たされないと知りながら。それもそうだ。一番も、愛も、そんなものはこの世界には存在しない。ようやく分かった俺は、人間界の全てから解き放たれて、自由になった。爽快感。頭皮の毛穴がぞわぞわと爽やかになる感覚。今なら誰にだって何にだって、優���くなれる気がした。
そうか、俺はいつの間にか、人間として生きるのが、上手くなったんだ。異世界から来てごっこ遊びをしている気分だ。死は俺をそうさせてくれた。へらへらと、楽しく自由にゆらゆらふわふわ、人と人の合間を歩いてただ虚に生きて、蟠りは全部、言葉にして吐き出した。
遮光カーテンの隙間から薄明るい光が差す部屋の中、開いたスマホに並んだ無数の言葉の羅列。俺が紡いだ、物語たち。俺の、味方たち。みんなどこか、違うようで俺に似てる。皆合理的で、酷く不器用で、正しくて、可哀想で、幸せだ。皆正しく救われて終わる物語のみを書き続ける俺は、己をハッピーエンド作者だと声高に叫んで憚らない。
「俺、なんで生きてるんだっけ。」
そんなクソみたいな呟きを残して、目を閉じた。スマホはそばの机に放り投げて、目を閉じて、祈るのは明日の朝目が覚めずにそのまま冷たくなる、最上の夢。
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咲きかけ蕾
今年も魔の季節がやってきた。 「咲きかけの蕾」 ............................................................................. 「ごめんね、泊めてあげたいのも山々なんだけれども…」 「先輩ごめんなさいいいい嫌いにならないでください!!!!!」 アテなし、か。 事務所の一角にあるベランダで、嫌になるほど輝く星を見て呟く。それと同時に、最大級のため息をつく。このため息で私の幸せがどれだけ減ったのかは知ったこっちゃない。私はもとから幸せになれないのかもしれない。前世の行いが悪いのだろうか。ともかく、私にとって最悪の日々が始まることになる。 それはなぜか__ 理由はただ一つ。 家に帰らなければいけないからだ。 ............................................................................. 私の両親は、私が中学に上がるころに離婚した。原因は、よくわからない。財政の事情で私は父に、弟は母について行った。離婚してすぐに釜山に引っ越し、ほぼ同じタイミングで父はすぐ再婚した。もしかしたら、離婚の原因は父親の浮気だったのかもしれない。新しく出来た母親は、3年前に韓国に移住してきた日本人だった。韓国語がおぼつく母親のために日本語を覚えろと父は言うが、私はその気になれなかった。そして、母親は子連れであり、私に2個下の妹ができた。 名前は、リオナ。 いかにも和風美人といった顔立ちでスタイルもよく、日本では読モというものをやってたらしいが、正直どうでもよかった。ここまでは単に、昔ちょっとあったけど今は幸せに暮らしてる風の家族だが、妹には問題点があった。 ............................................................................. 「こんなブスの妹になるとか最悪、、、」 妹に初めて会った日に言われた言葉だ。これが第一声なんて誰が信じるだろうか???私はそこで顔面を殴りそうな勢いだったが、なんとか堪えた。それからも続く、妹の暴言。よくある「顔がいいやつほど性格ブス」の典型的なパターンだ。家に帰ればブスと言われ、ストレスは溜まるわ寝床は無いわでもう懲り懲りだった。その家に私は、また帰らなければならないのだ。いっそのこと野宿か?と思ったが、今やトップスターの私。そんな私が野宿なんてしていたら大騒ぎだろう。メンバーにも迷惑をかけるから、それはやめにした。毎年、ランスの家にお邪魔していたのが今年はだめになり、後輩のスイに頼んだがそれもだめだった。今年は諦めるしかない。大丈夫、たった1週間。それが経てばメンバーに会えるんだ。これは試練。そう思ってなきゃ今にも崩れそうな心を奮い立たせ、私は釜山に向かうことにした。 ............................................................................. 「シェリョンちゃん、今年は帰ってこれるのね!嬉しいわ、きっとリオナも喜ぶわよ」 「そうですね」 そんなわけねえだろ、と心の中で相槌を打つも、それは口に出さない。毎年かかってくる義母の電話に、初めて帰ると応答したかもしれない。まだ日本語で話す方が楽らしい母親。私も日本語は少しずつできるようになったが、家では絶対使うまいと決めている。こんな人達と話すために日本語を勉強したわけじゃないし。 「駅にリオナ迎えに行かせるから、久しぶりにお話してあげて」 おいおいうそだろ???最悪だ、でもここで断ったら後がめんどくさい。仕方ない。意を決する。 「わかりました」 そうして、電話を終え、これからの生活への覚悟を決めた。 「わあ、おんにだ〜」 ソウルから電車で揺られて、やっと釜山についた。忘れもしないあの声を聞いて、これからの生活の厳しさを思い出す。 「久しぶり」 ぎこちない笑顔で挨拶する。 本当は今すぐ顔面を殴ってやりたい。 「笑わないでブス。あと私の隣歩かないで恥ずかしいから」 なんなんだこいつ。別にお前の隣なんて歩きたくないし死んでもごめんだ。そうしてなぜか1列で歩く私達。駅を出て、少し郊外に入った。それまで無言だった妹が、急に振り返った。その顔を、発した言葉を、私は1度も忘れないだろう。 ............................................................................. 「あのね、おんに」 「…なに」 急に上目遣い。吐き気がするからやめてくれないか。 「おんにって、弟さんいるよね?」 「…は?」 なんでスニョンの話を? 嫌な予感がする。 「私ね、スニョンオッパのこと、好きになっちゃった」 おいおい待てよ、何言ってるんだこいつ??? 「…どういうことか説明してもらえる?」 「パパに紹介してもらったの。この前会ったんだけど、すごくかっこよくて。私、好きになっちゃった」 「だから、さ」 「応援してくれるよね?」 背筋に悪寒が走るのを感じた。背後から不意打ちされたような感覚。こいつが、スニョンを? 「あいつは、なんて言ってるの」 「オッパ、私のことかわいいって褒めてくれたの!!もちろん、おんにより、ね?」 強調しなくていいし、そんなこと聞いてないし。ということは、父が紹介してスニョンに会ったのか、この女。あいつがどう思ってるか知らないが、もし本当にそう言ったならばあいつもあいつだ。 「…どうでもいいけど、問題は起こさないでくれる?面倒だから」 「ブスで歌もダンスも下手くそなおんにに迷惑かけることある???逆に、邪魔しないでよね?少なくとも、スニョンオッパは弟さんなんだから」 ああ、そうかよ。勝手にしとけよ。もやもやする。私には関係ない。そう、これは、妹と弟の話。私は、関係ない。 ............................................................................. あの後実家につき、荷物を置いてすぐに家を出てきた。あんな家に長くいてたまるか。転がっていた石ころを蹴っ飛ばす。実家に帰るときにいつも染めている毛先の色抜きをしてきた。灰色のパーカーにショートパンツ、帽子を被り黒いマスクをつけ、丸メガネをつけている状態だ。道行く人とすれ違うも、身バレする気配は全くない。随分と来てなかった釜山。懐かしい通りを歩き、行き着いた場所は、私がスカウトされた、あのショッピングモールだった。このショッピングモールは私のスタート地点であり、同時に私を救ってくれた場所だった。ショッピングモールに入り、冷房のかかった店内を見渡す。あの頃よりも綺麗になった内装。知らないお店。ちょっぴり嬉しく、ちょっぴり悲しい気もした。そして、いつも行っていたとあるカフェを目指す。私はこのカフェに毎日のように行き通い、門限になるまではずっとここにいた、家にいたくないからね。 「…あら、シェリョンちゃん?」 私がいつも通っていたカフェ、"スミレ"。店長が日本人で、スミレという名前らしい。店内に入ると早々、声をかけられた。声をかけてくれたのは、私が通っていたころからずっとバイトをしていた女性だった。あのころは高校生だったのに、今では子供もいる母親なのだそう。 「久しぶりね!!いつもテレビ見てるわよ、ほら、いつもの席座って?」 「おんに、、、」 変わらない笑顔に、心のもやもやが浄化されていく。いつもの席、というのは、私が通っていたころずっと座っていた、カウンターの一番端の席のことだ。 「あのころはコーヒー飲めなかったわよね、何飲む?」 「今もコーヒー飲めませんよ、オレンジジュースで」 「変わらないのね」 コーヒーが飲めない私は、ここで必ずオレンジジュースを頼むことにしていた。私がいつもオレンジジュースを頼むことを知っていたおんには、途中からミキサーを家から持ってきて本格的に作ってくれるようになっていた。もう時間が遅いからだろうか、店内にはほとんど人がいない。 「はい。いつもの」 「ありがとうございます」 「…ほんと、すごいわよ、あなた。店長も喜んでた。テレビでパフォーマンスしてるほうが、生き生きしてるってね」 「そんな」 彼女が嬉しそうに話す。こういうのを見ると、やりがいを感じる。 落ち着いたBGMに身をゆだね、少しの間ぼーっとする。ここはこんな振り付け…なんて、頭の中で勝手に考えているうちに、彼女はいなくなっていた。きっと片付けでもしているのだろう。ふと気づくと、斜め前に男性が立っていた。年齢は私と変わらないくらい、 カフェの制服を着ているから、きっとアルバイトだろう。彼は私に気づいたのか、少し恥ずかしそうに微笑んだ。 「そのこね、あなたのファンなのよ」 「あっちょっとそれは…!!!」 「いいじゃないの、滅多に会えないわよ?」 「へぇ…どうも」 私が挨拶をすると、顔を真っ赤にし俯いてしまった。というか、いつの間に戻ってきたんだ。と思ったら、また消えている。何してるんだろうか、おんには。 「…あの」 「なにか?」 話しかけておいてもじもじしている、もっと堂々とすればいいのに。 「俺、オーディション受けたいんです」 「はあ」 唐突すぎて、気の抜けた返事しかでなかった。 「ずっと前から音楽の道に入りたくて、ダンスも歌も独学でやってきたんです。でも独学じゃだめなのかな、って、不安になって」 そう話す彼は、私より2つ下の20歳なのだそう。大学にも通い、就職先も安定しているらしい。ならなぜ、そんな険しい道を通ろうとするのだろうか? 「テレビの前で輝く、アイドルの人達に憧れたんです。も、���ちろん、あなた…にも。」 そこで照れるのかい。でも、先程までの自信なさげな表情ではなく、彼はとても活き活きして見えた。 「ありがとう、礼を言うよ。」 「私から何を求めたいのかは、わからない。けど、言えるのは、挑戦してみなってこと。私だってダンスや歌を習ってたわけじゃなかったから。」 「それに、人生一度きりじゃない?やりたいことやって、楽しみなよ。つまらない人生なんてもったいないでしょう?」 久々に良いこと言った気がする。これは自分が生きてる上で見つけた教訓だ。私が話してる最中作業を止めていたらしい彼は、私が話し終わると慌てて作業を始めた。そして何かを決心したように頷いた。 「そうですね。僕は何かに怯えていました。」 「ありがとうございます。やっと目覚めました。オーディション、受けてみようと思います。」 「あなたを、振り向かせて見せます」 うん。それでよし…って、え?? 「ちょ、どういう…」 気がつくと作業を終え、先に上がろうとしていた。動きをぴたりと止め、深呼吸をする。私が何も言えないでいると、照れくさそうな笑顔でこちらを見て、おんにに挨拶をして店を出ていった。なんてこった。こんなの、公開告白のようなものではないか。いや別に、なんとも思わなかったしあれだけど、とりあえずびっくりした。あんなふうに言われるのも初めてだし、それにリオナとのこともあったから、少しどぎまぎする。 「な〜に口開けてるの。終わった?」 にやにやした顔でおんにが近づいてくる。くそ、この人計算済みだったのか。その手には、簡単な食事が乗せられていた。 「きっとあなたのことだろうから、家帰ってもごはん食べないんでしょう?食べていきなさい」 「や、別に…、ありがとうございます」 「いつものことでしょう?」 そうして、温かいご飯を食べる。このまま、時が過ぎればいいのに。 ............................................................................ 「…父さん?」 久しぶりの父からの電話だった。 離婚してから、初めての電話かもしれない。俺は練習室を抜け出し、電話に出た。 「スニョンか。元気にしてるか?」 「うん、俺は」 「それより、なんで電話?」 母さんと父さんが別れてから、父さんが俺に用事があるなんてよっぽど無いはずだ。どうしたのだろうか? 「実は、会わせたい人がいるんだ。」 「会わせたい人?」 "会わせたい人" とは、どういうことだろうか。 「そうだ。休みの日は無いのか?」 「多分、今週末は何も無いはずだよ」 「じゃあ今週末、ソウルに行くから、とびっきりのオシャレしてこいよ」 「お、おう」 電話を切る。とびっきりのオシャレをしてくる必要、、、なんだ、全く思い浮かばない。これ以上練習を抜けているのもあれなので、とりあえず戻ることにした。 時は流れ、土曜日。父さんの会わせたい人に会った。彼女の名は、リオナ。ぬなの義妹で、日本人なのだそう。話してみると性格も良さそうで、なかなか可愛い子だ。 「スニョンさんって、アイドル活動されてるんですよね、かっこいいです」 笑顔でそんなことを言ってくるから、少し心が揺れ動く。 「そんなでもないよ、ほら、君も、可愛いと思うし」 「ほんとうですか?うれしい!」 日本語を教えてもらったり、さまざまなことを話した。でも、俺が引っかかったのは、ぬなの話をしたときだった。 「ぬなは元気にしてる?」 「おんに、は…元気にしてますよ」 一瞬、顔が引きつったのがわかった。まるで、話題に出して欲しくなかったみたいに。だがすぐ笑顔になり、それからはなんともなかった。これは、俺の勘違いだろうか?そんなこんなしてるうちに帰宅する時間になり、別れの挨拶を言おうとしたところだった。 「あの、スニョンさん」 びっくりした。立ち上がって会計をしようとしたら、服の袖を掴んでいるのだから。 「今日、あなたに会えて本当に良かったです。もっと、知りたくなっちゃいました」 少し照れたように俯きながら話す彼女。 驚きすぎて、初めての状況で頭が働かない。 「えっと…?」 「あっ、ご、ごめんなさい!!迷惑、ですよね。」 悲しげに笑う彼女を見て、少しだけ胸が痛む。 「でも、また会いたいです。…会って、くれますか?」 平均よりも小さい身長、上目遣い、その瞳に何もかもを奪われそうになる。ぬなとはなにもかもが反対な彼女。 「いいよ」 そう言うと、彼女は無邪気な子どものように喜んでいた。ぬなにこんな妹ができたなんて、言ってくれればよかったのに。 ............................................................................. 私が実家に帰ってある日のこと。今日は何ヶ月ぶりか、雨が降っている。そして今日、運悪くも妹の来客があるということで、私は朝早々と家を追い出された。当然、家に私の傘は無いのでなんとかパーカーでしのぐ。今日もいつもと変わらない服装。強いていえば、ズボンをダメージジーンズにしたくらいだ。持っているのは財布と携帯のみ。雨に濡れているのもあれなので、とりあえず近くの公園の小屋に避難することにした。懐かしい公園。屋根にはたくさんの落書きがされてある。小屋の中にあるベンチに座り、雨に濡れる遊具を見ながらぼーっとしていた。雨の音に耳を澄ませる。だんだんと視界がぼやける。いつの間にか、私の意識は消えていた。 ............................................................................. 「オッパ、わざわざ釜山までお疲れ様です!」 「ううん、俺もリオナちゃんに会えて嬉しいよ」 「そんなっ…」 俺は今、釜山に来ている。その理由は他でもなく、彼女に実家に来ないかと言われたからだ。ちょうどスケジュールも空き、もしかしたらぬなに会えるかもと思って来てみたが、ぬなは外出中だと言った。朝から元気な彼女に連れられ、初めて父の再婚相手と顔を合わせる。日本人の女性で、母親と少し雰囲気が似ていた。おぼつく韓国語で挨拶してくれたので、こちらも韓国語で挨拶をした。すぐに部屋に連れられ、2階へと上がり彼女の部屋に入った。いかにも女の子らしい内装の部屋。そう言えば、2階に上がるときに他の部屋を見なかった。ぬなはどこに寝泊まりしてるのだろうか。 「あっ、そこらへんに座っててください!今お茶持ってきますんで!」 レースのスカートがふわっと揺れ、本当にぬなとはちがうなとつくづく思う。彼女を待っている間に、部屋を見渡す。女子の部屋なんて入ったのは初めてだし、なにより年下だ。気持ちを引き締め、座っていることにした。そのときだった。 「…これ、」 ふと目に付いたゴミ箱。人の家のゴミ箱を漁るなんて常識外れかもしれないが、これを確認しない訳にはいかなかった。ゴミ箱に近づき見てみると、やっぱりそれは考えていた物と一致した。そこにあったのは、ぬながいつもつけていたネックレスだった。何かが俺を襲ってくる。何の感情だろうか?ネックレスをそうっと抜き出し、服の袖できれいに拭く。三日月がきれいに輝き、その上に座る猫の瞳が妖艶に煌めく。 「オッパ〜、お待たせしまし…」 「これ、どういうこと?」 「えっ…?」 彼女の前にネックレスを突き出す。部屋の光に反射し、ネックレスが輝く。戸惑いを隠せない彼女。やはり俺が感じた違和感は、当たりだった。 「それは、もういらないから」 「これ、ぬなのだよね?」 「あ、あれ??私間違っちゃった!似たようなの私も持ってるから」 と、俺の手から必死にネックレスを奪おうとする。だめだ、抑えきれない。 「いい加減にしろよ」 低い声が響く。彼女が驚いたように俺を見つめる。そんな目はもうどうでもいい。 「わざと捨てたんだろう?」 「ちがっ」 「本当に違うなら、その似ているネックレス、見せてよ」 言葉に詰まる彼女。ぬなが彼女のことを一言も口に出さない理由が、やっとわかった。彼女が少し、歩み寄ってきた。 「あのね、私、本当にあなたのことが好きなんです。おんにが仲良さげにしてるのを見たら、辛くなっちゃって…」 泣いていた、これが彼女の本当の顔だろうか? 「俺を好いてくれるのはありがたいよ」 「でもね、」 「俺の好きな人はシェリョンだから」 目に涙をためて唖然とした彼女を一人置き、荷物を取って走って家を出ていった。ぬなの行方を探すために。 ............................................................................. 「そんなところで寝ていたら、風邪ひきますよ?」 どのくらい寝ていたのだろうか。雨はまだまだやむ気配もない。いきなり声をかけられてびっくりし、思わず小屋の柱に頭をぶつける。痛そうにしていると、微笑みながら近づいてくる影があった。 「あんたは…」 カフェで会った、あの男だった。なぜこんなところにいるのだろうか。 「僕、あのあとオーディションに応募したんです。再来週、受けることになりました」 「へぇ…」 携帯を見ると、時間は10時。2時間ほど寝ていたらしい。オーディションを受けると言った彼は、カフェで会ったときよりも随分印象が違った。 「それよりも、服びちょびちょですよ」 「うわ、ほんとだ。」 気がつかなかった。気づけばパーカーは変色していて、ぐっしょりだった。 「前のお礼もしたいので、家に来ませんか?」 「いや、別にこれくらい…」 「傘持ってきてないんでしょう?」 そうだ、私は傘を持ってきてないんだった。でもほとんど知らない男の家なんて正直言ってお邪魔したくない。 「風邪ひいたら困りますし、行きましょう?」 私にタオルを被せ、手を引っ張る。 「ちょ、ちょっと!」 だめだ、聞いてない。手は相変わらず引っ張られたままで、小屋の外に出た。いよいよ本降りになってきた雨。傘をさし、相合傘みたいになっている。どうにもできないままこのまま引っ張られていくのは覚悟しなければ。そう思っていた。そのときだった。 「ぬな!!!!!!」 ............................................................................. 「ぬな!!!!!!」 ハッと我にかえり振り返ると、傘を持っているのにびしょびしょに濡れた弟がいた。 きっと走ってきたのだろう、息が弾んでいる。 「すにょあ、どうして」 「……」 彼の方はスニョンを見て何かを考えているようだった。手は離してくれない。スニョンが近づいてくる。 「おい」 「…なんだよ、」 初めて聞いた、男のそんな口調。さっきまで敬語でふわふわ感出してたくせに。 「離せよ、手」 「なんでお前に指図されなきゃなれねぇんだ」 「すにょあちょっと」 口元に人差し指をたてて、喋るなと牽制してくる。一丁前になりやがって。 「言っとくけど」 「そいつ、俺の女だから」 は??????女??????何言ってんだこいつ。 誰がいつあんたの女になった???そう言うと、彼は観念したかのように手を離した。途端にスニョンが駆け寄ってくる。いまいち状況が掴めてない。ちんぷんかんぷんだ。 「そうですか…、」 「でも、諦めませんから」 「あなたよりも有名で、かっこいいアイドルになって迎えに来ます」 そう自信まんまんに呟くと、彼は傘をさしてどこかへ歩き出した。途端に、緊張が抜けたのか、脱力してスニョンが座り込んだ。 「すにょあ、俺の女って」 「あ、…えと、」 「すごい演技力だよ!!!!!!!」 私は感心していた。あの場をくぐり抜けるためにあんな演技をするなんて。そう褒めてやってるのに、彼のほうはなぜか落胆していた。それにしてもあの男、結局なんだったのだろうか。雨がひっきりなしに降っている。スニョンが持ってきた傘をさし、2人で佇んでいた。 「っ…うわ、びっくりした」 急に彼が立ち上がって、私は思わずよろける。傘に入ってるため、普段よりも距離が近い。昔はなんとも思わなかったこの距離が、今では少し意識してしまう。私よりも幾分か大きくなった背、その差はちょうど10cm差くらいだろうか。顔を見ようと見上げようとした瞬間だった。 「あっちょっ」 急に抱きしめられた。きつく、何かに縋るように。あまりにも唐突なことで傘を落としてしまった。きっと、彼にも思うことがあるのだろう。私も腰に手を回し、優しく背中をさすった。彼の手が私の背から顔に移る。雨に濡れてまつげに滴る雨粒を拭うように顔を撫でる。そんな技術どこで覚えたんだ、普段見る弟とは全然違った。されるがままになっていた私は、やっとの思いで顔を上げ、彼の顔を見ることができた。 「…っ…」 びっくりした。そんな顔するんだ、ということに。優しく微笑み、まるで、愛してやまない人を目の前にしてるかのように。びっくりしているとまたきつく抱きしめられた。情緒不安定か、この野郎。今日ばかりはいいか、と思い、身を預ける。その瞬間に起きたことを、私は2度と忘れることは無いだろう。 「すにょあ…っ」 名前を呼びかけた瞬間だった。私の口が、何かによって封じられた。それはあたたかく、久々に感じた人の体温だった。そして柔らかく、何かに包まれるように。驚きすぎて言葉も出ない。離してとも言えない。でも、このままでいいかなと思った。何故かは分からないけど、このままでいいと思った。雨に濡れながら、互いの熱だけを感じて生きている。そして、そのまま目を閉じた。 ずっとこのままでいたい、そう思ったなんて恥ずかしいじゃない。 ............................................................................. 咲きかけの蕾は、咲く季節を間違えたみたい。でも、そんな花もありだと思う。
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plunder a next door neighbor 10(後編) 終
病院を出て自宅(と言っても繋がっているのだが)に戻る前に、庭に回ってナッツを呼びに行くのが日課だった。 ナッツは家の中で飼っているが、診察中は庭で好きにさせている。賢いナッツは体で時間を覚えているのか、帰る頃にはいつも同じ場所で俺を待っているのだがその日はいなかった。 醤油や酒で何か炒めたようないい匂いがして、あれ?まさか来てるのか?と急いで玄関を開ければ、やはり家の中からナッツが嬉しそうに出迎えた。 ナッツにただいま、と頭やら体を撫でてやって一緒にリビングへと行けば灯りがついていて、台所からお帰り、と低めの優しい声がした。嬉しくてにやけてしまう自分を誤魔化すように素っ気ない素振りで声をかけた。
「なんだ、突然どうしたよ?」 「…………」
いつも必ず家に来る前に連絡を寄越すから 鍵を持っているとはいえ、彼女が突然家に来ていることなど1度もなかった。 彼女が家に来る日は、その日1日楽しみで機嫌が良くなる。 彼女はいつも既にナッツのブラッシングをして足を綺麗に拭いて家にあげて、そして夕飯を作って俺を迎えてくれる。 仕事で疲れていても、彼女のいる日は家全体が暖かい空気や匂いで俺を出迎えてくれる、彼女が待つ家に戻るのがその日1日俺を幸せにした。
だが突然の訪問は違う意味でもっと俺を幸せにした。 帰って適当に飯を食ってナッツの散歩して少しテレビを見て風呂入って寝る、そんないつもの生活に彼女がいるのは同じ事を繰り返すだけの生活が胸が高鳴るほ��に嬉しくて、どんなサプライズだよと叫びたいくらいな気持ちになった。
「明日おまえ仕事だろ?今日は帰るのか?」 「…………いて、困るようなら、帰るけど」 「は?」
何だか含んだような言い方に、カウンターに既に置かれていた唐揚げをつまんで食べてから彼女をまじまじと見つめた。 なんとなく、少しだけ怒っているようにも見える。
「なんだ?元気ねぇの?」 「元気だよ」 「嘘だな。突然来るのも怪しいしな」 「……突然来られて困ってるのか?バレたら困るようなものでもあるとかな」 「…………?ん?」
瞬時には言ってる意味すらわからず、とりあえず唐揚げを飲み込んだ。 それから阿保か、とポンポンと頭を撫でながら冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「おまえも飲む?」 「いらぬ」
なんとなくそっけない。 せっかく暇で静かな日常に彼女がいるというのに。
「浮気疑って何もでてこねーからつまんなかったのか?」 「……貴様は巧いからなぁ、どうだろうな?」 「おいコラ」
からかってるのに噛み合わない。 彼女はやはり何かしら不機嫌だ。
「浮気は病気らしいから。再発してても仕方ないが」 「……まだ言うか。しつこいなおまえ」 「そうか。すまぬな」
思えば全然目をあわせないことに気がついた。
「ルキア」
名前を呼んで腕を引いて、胸に収めてぎゅっと抱き締めながら髪の毛にキスをした。 されるがままおとなしいが、背中に手がまわらない。
「怒ってんの?なに?」 「怒ってないよ」 「じゃあなに?」
グイッと後頭部を掴んで顔をあげさせて唇を重ねた。舌でつつくと彼女は唇を開いて簡単に俺を受け入れた。後頭部に回していた手を頬に移し、指で頬やら目元を確かめるようになぶるように触れた。ん、と彼女が逃げようとするのをもう片方の手で腰を押さえ込んで逃げられないようにした。
彼女の事は全て好きだ。 幼稚な言い方だが本当にまるっと全部好きなのだ。 それでも唯一、彼女に腹をたててしまうのが こういうところだ。 何かしら思うところがあるくせに言葉にしないで黙ってしまう。そのくせ、微妙に態度に出てしまっているもんだから俺がイライラとしてしまうのだ。
「…………予想外におまえがいてさ、スゲー嬉しいのに。おまえにそんな態度されてんの嫌なんだけど」 「…………嬉しい?」 「当たり前だろ? そんぐらいわかるだろーが。わかれよばか」
ぴん、とおでこを弾けば彼女はうぅ、と痛そうに顔をしかめた。
「……だって、何でいるとか言うから……いやなのかと」 「あ?」 「…………突然私がここにいたら、一護は喜ぶのか嫌がるのかわからなくて怖かったんだ。……そしたらそんな事言うから……やっぱり嫌なんだなと思って……」
あー …………そういうことか。
「浮気疑った、は本気じゃねぇんだよな?」 「……さぁな」 「俺、浮気したことねぇもん」
そう言��と彼女は、ん、と眉間に皺を寄せて腕を伸ばして俺から離れようとしたが、勿論押さえ込んで逃がさない。嘘つきだな貴様、と小さい声で呟く唇を指で摘まんだ。
「浮気じゃなくて、本気だったから、今もお前をこうして離さないんだろ」 「…………」
唇を指で摘まんでいるから彼女は返事できない。上目遣いに俺を見つめる瞳が少し潤んだ。
「どうしようもなく惚れてるから、離婚したしおまえが別れなくても一人でも、ここでお前が来るのをいつも待ってる。楽しみにしてる。そんなのはおまえだって知ってるくせに。何が怖いだ、何が浮気だこの、ばか」
摘まんだ唇を上下にプルプルと揺らすと、眉毛が頼りなく下がり、目蓋を閉じた。 唇から手を離すとヒクッとしゃくりあげた。
「……ごめんなさい」 「わかりゃいいよ。嬉しいんだから、今日おまえに会えて」 「……ん、」
そう呟いて、彼女はぎゅうと抱きついて胸に顔を押しつけてきた。 よしよし、と頭を撫でてやりながらふと横を見れば、ナッツがエサ皿をくわえて抱き合う俺達を見上げてお座りをしていた。その尻尾は俺と目が合うと、はたはたと揺れた。 思わず笑ってしまう。彼女の肩を叩いて、みてみ、とナッツを指せば彼女も噴き出した。
「飼い主に似て食いしん坊だな」 「そうか?こいつ、頭いいんだぜ?」
ナッツは元は彼女の家族の犬だった。 今じゃかけがえのない俺の相棒だ。 辛いときも寂しいときも 彼女にもう2度と会えないかもしれないと苦しんだときも ナッツは俺の傍にいてくれた。 再び彼女がこの家に来たとき、俺同様に喜んで歓迎したのもナッツだけだ。 勿論、犬だからと言われればそれまでだが
あの頃
彼女と俺を祝福してくれる人など何処にもいないあの頃に ナッツだけは、この家に彼女を連れてきた時に千切れんばかりに尻尾を振って彼女を歓迎した。 俺と彼女の間に嬉しそうに入り込んで全身で甘えてきた。 かずいと離れた俺には、ナッツは相棒であり子供のように愛しい存在になっていた。
ピピッと風呂の沸いた電子音に、風呂沸いたから先入るといい、と彼女がゆっくり俺から離れようとした。その仕草は妙に色っぽくそういや仕事帰りなんだと、ふとどうでもいい事に気づく。 いつもより化粧が濃いし、ブラウスにミニスカートだ。 普段の彼女はほとんど���粧をしないし、ラクな服を好んで着ている。ウチに来るときもいるときも。 だから今日。今、目の前にいる彼女は何だか妙に色っぽく感じた。
「一緒、はいろ?」 「んー、じゃあここ片付けてナッツにご飯をあげたら後からいく、な?」
ニコッと可愛く笑うから俺も同じように笑顔を見せるも、騙されはしない。
「ー!?ぅ、わぁあ!」 「おまえの後からなんてあったことねぇんだよ!」 「おろせ!こわい、おろせー!」
何年一緒にいようと、彼女は一緒に風呂に入るのを恥ずかしがるのだ。後から入ると言ってなんだかんだ言い訳作って来やしない。もしくは俺が長風呂でのぼせてギブアップするのが常だ。だからそうはさせるかと彼女を肩に担いだ。 小さい彼女を肩に担ぐなんてなんてことはない。
「やめ!おろせ!入るから!」 「嘘つきだなてめぇ、おろしたら逃げるか殴るくせに。もーだめ!今日は意地悪もしてきたし許さねぇ。このまま連れてく」
言いながらストッキングと下着両方に手をかけずるりと下ろす。
ぎゃぁああ!?やめろーと色気なく騒ぐから、むき出しの尻をぺちんと叩いてやった。 顔の横で白い尻たぶがふるっと揺れるのが可愛くてそのまま噛みつけば更に悲鳴を上げた
「やめろ!やめろこのスケベ!ガキ!」 「だって可愛いケツが顔の横で揺れんだもん」
そう言って今度は吸い付けば、彼女の悲鳴に甘さが加わった。気をよくしてチュッ、チュッと今度は甘く唇を押し付ければ 彼女の声はどんどん甘い声へと変わり、甘酸っぱい匂いを放出し始めた。 エサ皿を加えたままナッツが風呂場までついてきたから 「お前はちょーっと待っててな?」
そう声をかけて 風呂場の扉を閉めた。
◾ ◾ ◾
彼女を探すよりも、離婚するほうが時間を要するだろうと思っていたが思いがけなく妻はあっという間に離婚を承諾した。 とはいえ、あの時の俺は必死だった。 必死というよりは悪魔のようだったと自分でも思う。 妻が怒るだろう、嫌がるだろうとわかって事を起こした。 妻の、小学校のかずいの友人の父親に相談をしたのだから。 間違ったことはしていない。彼は弁護士だったのだから。 妻はある日血相を変えて、仕事から帰って来た俺を玄関で叩いた。
「汚い男だよね!? なんで、なんで健ちゃんのパパに家のこと話すの!? あたしが、周りのママ達にバカにされていいわけ?」 「だってお前が弁護士って言ってたから。俺、弁護士なんか他知らねえし」 「最低、最低だよパパ。もういい、別れるわよ!こんなとこにもういれないもん!かずいだって恥ずかしくてこんなとこに住めないわよ!一人で生きてけば?もうルキアちゃんもいないのにばかみたい。一人で寂しく生きて後悔すればいいよ!」
期待を裏切らない怒り方とその言葉に、思わず笑った俺を妻は拳で殴ってきた。 そのときは痛かった。あれは妻の痛みなのだろう。それでも酷い話だが俺はホッとした、安堵したのだ。
やっとだ、 やっと前に進める、と思った。
唯一、胸を痛めたのはかずいの存在だった。 まだ当時8歳のかずいには、何もわからなかった。何もわからないまま、父親という存在をなくし、母と二人になったのだから。 かずいへの融資はするからと言えば、妻は「お金欲しいときにはいつでも言うから。覚悟してて」と捨て台詞を吐くように言った。 でも思えば「離婚」は俺のせいだ。 紛れもなく俺が原因だった。 だから慰謝料も養育費も当然払うつもりでいた。だが妻は途中から、自分から俺を捨てたのだと、お得意の話を変換してしまった。 そうしなければ彼女の気がすまないようだった。
でもそんなのは、どっちでも、よかった
とはいえ、ルキアを探すのは簡単ではなく、かといって諦めることもできなかった。
ルキアは仕事も辞めていた。
だいたいもう都内にいるとも限らなかった。 他所の県に行ってしまってる可能性もあった。 興信所を使ってもすぐには見つからず、おまけに高額な支払いは当時はきつかった。 妻が出ていく時にそれなりに渡していたし、妻は欲しいときは金を要求すると言っていたからだ。 妻云々よりも、かずいを思えば金を使うのは躊躇われた。 かずいには、罪滅ぼしでしかないが金を惜しみたくはなかった。だからある程度の額はどうしても残しておきたかったのだ。
そしてふと、気がついた。
恋次から、探そうと。
あいつの仕事はたぶん変わらないと思ったのだ。 前に勤めていた店に連絡をすれば辞めたと言われた。だがそこの店主が
「自分で店やるとか言ってた」
と言っていたのを覚えていた。 だから彫師やら刺青、タトゥーなど検索して一軒づつ店を訪ねてまわった。 そうして半年程経った頃
彼等を見つけたのだ
阿散井恋次は、一軒家で個人で客をとって仕事をしていた。当然客として彼を尋ねれば 恋次は俺を見て泣きそうな顔をしてから睨み付けてきた。それからまた、悲しそうな顔をした。
「本気だったんだな、おまえ」
恋次はそう言って、お手上げだとわざとらしく両手を上げた。 自分とルキアの間にはもう、男と女の関係はねぇよ、と恋次は言った。 多分、顔に安堵を出したのであろう自分に恋次はそれでも一瞬鋭い目を向けて 俺は諦めきれてないけどな?と笑った。
「それでも、好きな女が悲しい顔してるのを見てるのは嫌なんだ。そんな悪趣味ねぇからな。…………本気だって言うなら連れてってやれ。…幸せにしてやるんならそれで構わねぇ」
恋次の言葉に不覚にも泣きそうな感覚を覚えた。勿論泣くなんてしないし礼を述べるのも違うのだろうかと思ったから
「連れてくよ」
それだけしか言えなかった。恋次は笑った。ルキアが帰るのは7時頃だから、久しぶりに酒でも飲むかと家を案内された。
「誰?」
突然声がして振り向けば、見知らぬ女がいた。
「……ルキアの、男だよ」 「嘘、……迎えにきたの?」 「ルキア、こいつに連れて帰らせるよ」 「そう……でも、苺花が許さないんじゃないの?」 「……あいつには……」
二人の会話が止まる。
そうだった
不覚にも忘れていた。 彼女にとって苺花がどれだけの存在だったのかを。苺花にとっても大事な母親だということを。
「……あたしが、苺花の産みの親です」 「え、」
女が頭を下げたから、俺も条件反射で頭を下げた。そういえば彼女から聞いていた。 彼女が愛した男が、命を失っても助けた女がいてその子供が苺花だと。 この家は女の家だという。出ていけと妻に言われた恋次は行く宛もなく、女を頼る他なかったそうだ。苺花にも本当のことをその時話したのだという。
「だから苺花は、おまえとルキアの事は当然っちゃぁ当然だが何も知らねえ。本当の母親と住むためにここに越してきたと思ってんだ。でもあいつがルキアを離さねぇんだ。……落ち着いたら出てくつもりだったんだけどよ。俺とルキアももう、だめだったし、色々話し合って4人でここに住んでる。歪な家庭環境だけど、まぁそれなりに暮らしてるんだ」
そう話す恋次と女が顔を見合わせて、ふ、と笑った。柔らかい二人のその顔に、本当のことなのだろうと思った。 暫く3人で話していたが、苺花と俺が顔を会わすのは良くないかもしれないというので俺は近くの店で彼女を待つことになった。
待つ間、期待と不安で落ちつかなかった。 この半年で 彼女の気持ちが変わっていて���おかしくはなかった。ここまで想うのは自分だけかもしれなかったし、あんな風に家を追い出されて恨んでいてもおかしくはなかった。
けれど彼女は現れた
走ってきたのかはぁはぁと息を切らして 椅子に座ることなく店の中だというのに 抱きついてきた。およそ彼女らしくないその行動に驚いたが、久しぶりの彼女の匂いと感触に俺も彼女を抱き締めた。
もう、2度と会えないかと思った
そう言って泣く彼女に、俺はあの家にいるからいつでも会えるよと言えば そうか、そうだな、と彼女は泣きながら笑った。
離婚をしたことを話せば、彼女は少し顔を歪めた。家庭を壊して申し訳ないと彼女は頭を下げたから 壊したんじゃなくて、壊れていたんだと言った。彼女はなかなか納得できないようだったが、それが本当の事なのは自分が一番知っていた。だから離婚のことで彼女が自分を責めるのはやめてくれと本心から頼んだ。 その日に彼女を連れてくつもりだったが、彼女は首を縦には振らなかった。 わかってはいたが苺花と離れることは出来ないと言った。 苺花が、自分が本当の母親でないと知っても自分を求めている間は彼女の傍にいたいのだと言った。
だから待つよ、と彼女に言った。
いつか俺の所に来れる日まで 俺はあの家でおまえを待ってる 勿論もう、見つけたからにはたまには会いたい。会わないのは無理だけど。
でも苺花を かずいと同じような思いをさせずにすむのなら もう前みたく凶暴な想いで おまえをあの家から無理矢理にでも奪おうとは思わない いつになるのかわからなくても 待てる、待ってる
素直に気持ちを述べれば彼女は泣いた。
そんなのはだめだと、 家庭を捨てても私を求めてくれた一護と 私は同じ事を私はできない
私は 一護も苺花も両方手にするなんて 調子が良すぎてそんな自分を赦せそうにない 待たせるなんてしたくない してはいけない、そんな資格もない
そう言って泣く彼女の気持ちはわからなくないけれど。
でも不思議なほどにそのときの俺は 自分の決断に迷いもなく 間違っているとも思わなかった
「なぁ、ひとつだけ教えてほしい」 「何?」 「ルキアは、俺が好き?」
彼女はこくん、と頷いた。
「じゃあ、信じて。俺の強さを信じてよ」
待たせてるなんて思わなくていいんだ 俺が勝手に喜んでおまえを待ってるだけだから いつか苺花が嫁に行ってからでもいいじゃねぇか そしたら あの家から出て、俺のところに来てくれよ
それでも頷かない彼女の頑��さに呆れながら、彼女の小さな掌を両手で包んだ
「壊したんじゃないんだ。俺がやり直したいって思うきっかけを、おまえはくれた。やり直したいと思ったら人生はいくつになってでもやり直せるんだってお前の存在がそれを教えてくれたんだ」 「本当に……どうしようもない馬鹿だな」 「馬鹿で結構」
その日は結局、我慢できずに彼女を車に拉致して家に連れ帰った。喜ぶかナッツに彼女はまた泣いた。 だが彼女は
「ナッツがお世話になっているなら、…………たまには世話しに、此所に来ないとな」
と恥ずかしがりながらも、無理矢理な屁理屈を捏ねた。
そうだろ? そうだな たまにでいいから、ナッツの世話しに来いよ うむ、そうさせてもらうよ
そうしてその日から何年も、彼女は俺とナッツに会いに来てくれるようになった
◾ ◾ ◾
風呂から上がり、夕飯を食べてから二人でナッツの散歩に出かけた。
「この間、かずいは私に気がつかなかったであろ?」
彼女が少し笑いながら言った。
そう、一月ほど前にルキアが来ていた日にかずいが突然泊まりに来たことがあった。 かずいとはなんだかんだで時々会う。 別れた妻と仲良くやっているようだが時には喧嘩もするらしく、そうすると俺のところにやってくるのだ。
7年前の記憶はあまりないのか、かずいはルキアに本当に気づいてないようだった。
「……でも、もうばれているぞ?」 「は?」 「苺花と会ったそうだ、受験で」 「本当に? あー、この間の私立か!」 「そう、それで……」
彼女は少し、困ったような顔をした。
「苺花と何を話したのだと思う?」 「……さぁな」 「その日苺花がな、私を追放宣言したんだ」 「……え?」 「追放というか解放するよと言うんだ。お母さんはここから出ていきなさいと」 「どういうことだ?」
彼女はふふ、と笑って話し出す
苺花の誕生日に皆でご飯を食べていた時に 苺花が突然、産みの母親に
「私がここにいるのは、あんたが産んでくれたからなんだよね。あんたがいなきゃあたしはここにもいなかったんだ」
そう言ったんだ。 それから、ありがとう、と言って、産みの母親に初めて敬意をみせたのだ。 産みの母親とは、仲良くなってはいたが 今まで苺花はどこか馬鹿にしているというか態度が悪くて。 それは彼女が初めて、産みの母に見せた誠意に感じたよ 私も恋次も彼女も思わず泣いてしまったぐらいだ。
そして苺花は私には優しく追放宣言したんだ
少し、悲しかったのだが その日の夜にな、久しぶりに一緒に寝たいと布団に潜り込んできて
今日かずいと会って 本当のことを聞いたんだ、と言った。 心臓が止まるかと思うくらい驚いたんだが 苺花が
「わたしのせいで、今までごめんね。もう、かずいのお父さんのところに行って?」
そう言ったんだ。 もう隠すことは出来なかった。 私が、苺花の傍にいたかったんだと言えば でもかずいのお父さんの傍にもいたいんでしょ?と言うんだ。
だから
「ありがとう、と言った」
そう言うと彼女は俺の掌を握った。
「だから、今日からは、ここに住んでいいか?」 「ルキア……?」 「もう、連絡を寄越さないで今日みたく、毎日一護の傍にいてもいいか?」
当たり前だろ、と泣きそうになるのを誤魔化すように彼女の手を引いた。
待つと言ったのは俺だ いつかは、と思っていたが途中から考えるのを放棄していた。苺花が成人してからかもしくは結婚するまでは彼女は本当に俺のものにすることは出来ないだろうと思っていたし、会いに来てくれるだけで充分じゃないかと思いもした。 恋次はああ言ってくれていたが、諦めたわけじゃねぇと言う恋次のことも気にしないというのは嘘だったから
「…………いいに決まってんだろ、ばか」 「願いは、叶うのだな。信じていれば」
貴様の強さを信じて、よかった
ルキアは嬉しそうに笑った
帰ろう、と繋いだ手に唇をつけると、彼女も嬉しそうに帰ろう、と言った。
間違いから始まった関係なのは否定しない。間違いを正そうとした元妻の思いも否定しない。自分も間違いを正そうともがいて今日まできたのだから。 ただ、元妻と自分の正しい道が違っていたからお互い苦しんでしまった。 周りも苦しめてしまった。 それでも諦めることもをしなかった。 絶対に諦められない存在だったから。
「俺の強さを信じてよかったろ?」 「ん~、貴様のしつこさを信じてよかったの間違いではないか?」 「ひでぇな、それ」
憎まれ口すら幸せな気持ちになる ルキアとナッツを連れて歩く今日の夜道は 星が綺麗で泣きたくなるほど輝いていた
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大切これはあなたが心配しないでください。宝物我々はジョー・ランを呼び出す必要があるかのように陳エンロンめかこふをかが聞こえ、彼の携帯電話を取り出し、大切もしそうなら、私たちは明確な何に直面する可能性が桥本环奈桥本环奈宝物 人気しないで!人気サンは電話をして彼を心配して見ました。 人気妹に知らせてはいけない人気 陳は、エンロンはジョーは、過去にいくつかの連絡先をランダウンサンウせません安心、彼はそれがどのようなメンテナンスと思われる、何も言うことを拒否した彼の前に歌った理由を知っています。 誰が彼女を維持していますか? チョーサーに加えて、彼は彼女にそれをさせることができる他の誰かを考えることができませんでした。 大切エンロンは、あなたが実際にあなたがちょうどあなたが望む答えを聞きたい、過去を知ってほしくありませんでした。宝物私は宝物、私の心、シャイニング目は夕食の前で食事を見つめ、痛みを投入し、桑の部屋に歩きました私は後でその後、車の事故、補償のかなりの量が最終的に法的責任を逃れるために、人々を公開詐取死をごまかす、私の好意、とに会った、私たちはカップルされると、その後、あなたが留学、あなたを伝えることができます離婚、喪失、流産、さらには薬物中毒も含まれます。 陳蘭蘭は静かに聞きました。彼女は彼に会ったと聞いて離婚し、息子を失いました。彼女の元の猶予は悲観的でした。 共有メモリは良い思い出ではない、あなたが苦痛と耐え難い思い出の中に住んでいる、とその時はジョー・ランに同行するためにあなたの側にあるように、大切そのため、私の裏切りにより、あなたはそれがあるべき忘れるだろう、あなたはジョーと恋に落ちますそれはまた合理的です。 桑が話を終えた後、彼女はやさしく息を吐き、陳蘭の携帯電話を持っている手が静かに動いて喬新にメッセージを送りました。 この記憶は彼女の悪夢でもあります。彼女にはいじめやいじめはありません。 私は彼が本当にジョーイの確認を見つけたとしても、彼は同じ答えを得る。 大切私たちの間だから、あなたは私を放棄し始めている。宝物陳エンロン歯の真実を見つけることに氷に冷凍、目はマルベリーでリラックスすることができます。 偉大なものがあります。サンガンが敢えて頷いている限り、彼は彼女を細断することをためらっていません。 かすかな笑みを歌った、大切エンロン、あなたが残した後、私がしている裏切り、あなたが行く場合でも���規定の誰もが、私は永遠に待たなければなりません。宝物 大切あなたは環境に優しい良い鳥あなたはので、ルアンは強力なバックグラウンドだったと言うことを意味するか?宝物陳氏は、それがこの答えを得るとは思わなかったか、桑のフロントを絞めするのを待つことができないエンロンに踏み出し。 彼は放棄された人であることが判明しました。思いがけない恥ずかしい思い出を忘れてしまうことはないでしょう。 私はちょうど私がの最良の選択、エンロン、私の選択、そしてあなたとジョー・ランの事、非常に良い解釈だったと思う何をした宝物、李鄭は、すぐに理解サンウ、歯や血液ツバメをノックアウトある時点で、同行が最も重要なことです。 女性が求めているのはそれだけです。 陳エンロンの目は、トランクの側でダウンやや締まっ拳斜視は、彼が女を絞めする自分だけではなく、この衝動を抑制することは非常に難しいでしょう。 問題ははっきり言うので、あなたと互いに独立して、そのようなロマンチックなキャンドルライトディナーのまの後、私の助けを無駄にしてはいけない宝物、テーブルの上に彼の我慢の怒り、かすかな笑顔、彼の白い電話を感じサンウあなたはジョーイに尋ねた。 瞬間を回し、彼女が突然驚いて目が遠くないジョー蘭の後ろに彼女を見ているだろう、彼女は高貴な魅力的な女王、宝石をちりばめたように、水色のドレスを着ていました。 大切おはよう、妹宝物 笑顔で迎え、だけでなく、ジョーめりぱは躊躇し、彼の目はしっかりと桑の前にほとんどの固定サンウ、さえずりは、大切あなたが出て来たとき、サンウサンウ?宝物、尋ねました 人気二日、私はあなたにまだ言いませんでした。人気 大切そして、あなたは桥本环奈桥本环奈宝物ジョーめりぱは無意識のうちにロマンチックな照明の下で、彼女のバッグの後ろの部屋に見て、陳エンロンは怒りを抑制することは困難で我慢しているようです。 彼女はドアを横切った。 人気私は通り過ぎています。人気 彼女はドアに瞬間を閉じて、部屋を出て、彼女の涙はすぐに、桑をバーストとダウン手で壁の側面に弱いので、意識の中にバースト。 インスタントドアが閉じ、そして陳エンロンが桑に向けて潜在意識に、彼の手を彼の心臓全体を粉砕の音を聞いているように見えるして、図の分割を凝視赤い目が消えました。 彼女は無関係であると言っていた誰でも、彼女は彼女について何も言わずに、どのような資格を持っていたかもしれません。 大切あなたはどのようにエンロン、?このように私を怖がらないで桥本环奈桥本环奈宝物、尋ねたジョー・チェン蘭は、突然パニック、エンロンのように見えた一つは声を震わせ、彼の腕の中に飛びました 彼女の顔は静かで、彼女は自分が何を考えているのか分からなかった。 大切エンロン、サンサンはあなたに何を言ったのですか?宝物と喬は驚いた。彼の心は厄介だった。ゴヤール コピー バッグ 彼は結婚式をキャンセルしたいと思っているからです。 なぜ彼女はハードに勝ったすべての利益を失ったのですか? あなたはどうしてこの時間に出てきたのですか?一生の間デトックスキャンプにいらっしゃいませんか? 目の陳むにこふいさこふエンロン瞳が、陳勝は、大切そう、私を放棄し、あなたは私と一緒にしてきたので、私はあなたを愛します、彼女は危険な、気まぐれだったので、彼女は、言った。宝物と答えました ジョーが彼を見て、陳の顔から見たいものを尋ねたとき、彼は驚いていなかった。 うとせかの場合、彼女が言うように大切いいえ宝物エンロン陳蘭は突然、その後、彼の車の事故は、どのように説明することを説明する方法を、次に、第四位にランク、、、彼の顔、ジョーの行く瞬時に女性のアヒルをしましょう。 彼ははっきりと質問したい。 人気エンロン、どこへ行くの?人気 チェン・エラン矢野浩二ほをかこ けことさこ山口百惠がそのままであれば、彼はテーブルの上で携帯電話をつかんで、もはやドアに向かって急いで戻ってこなかった。金城武第165章死亡した子供 めりぱは、海外の大邸宅から走っサンウ、彼女の顔に涙を意図した冷たい風吹いて、風邪、ちょうど彼女の沈没の心のこの時期のように、少し救済を取得するには、雪の中にいるように感じます。 [ななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ええより見栄えの良い小説] 駐車場の海の正面に蘭の住居は、車に寄りかかっ羅智の図は、緋色の指先が斜め彼の背の高いフィギュアを長くするだけでなく、その1を誇示するために整然とした、ちらつきライトをウインク寂しさ 葉明が最終的にタバコを吸って、足の手の中に投げタバコの吸殻は車が桑を見ている側には遠くない立ってから発見されたとき、彼に戻って、打ち抜か。 彼の動きは、めりぱ海の大邸宅の建物の前には、やや側にヨーロッパの外観を一時停止し、唇は少し悲しみアークのタッチを持ち帰りました。 彼の前の女性はすぐに彼に世界の同じ人の感覚を与えました。 葉明は、この世界はジョー・蘭イェミンアップを愛する人以上があることはできませんジョーのために申し訳ありませんランを助けることができなかった、車は引き離し見てサンウ、夜のネオンの中に姿を消しました。 彼らは、彼が別の男と、彼も名声や富の腕に彼女を送ったとしても個人的に、彼は後悔過去数年間、ウェディングドレスの上に置いて喜んで他の人のために彼女を見て、今から会います。 しかし、ほをさせえかとはこの魅惑的な人に暮らすことを志向していました。 夜の空は静かで、冷たい風が彼女の薄いコートを吹き飛ばし、彼女の首に冷たく滴り落ち、無意識のうちに彼女の腕を抱き締めました。 蘭海は遠くない繁華街から住宅ですが、過去徒歩5分かけて、彼女はこのリズムに合っていなかった静かな環境に慣れ、桑の混雑通りに歩きます。 1つ1つ、ノンストップのシャトルが彼女の目に反射され、彼女に不安感が与えられました。 泣い音が来たと主張しながら、ショックを受け、彼女の思考の混乱は、動悸の意味で神に彼女の背中には、桑を過ぎて見ることについて見つめ、この方向に少し影がある彼女に走りました。 彼女は無意識のうちに戻って一歩を踏み出した、そしてその数字は、彼女の過去ブラッシング彼女の過去からのビットを回復するために、別のおなじみの数字が続き、彼女の後ろに走りました。 サミュエルが歌った瞬間、おなじみの姿は止まり、彼女を振り返りました。 大切あなたのことが判明した?宝物ルアン天城あざける唇は、私はあなたを修正しながら、あなたは、私のために待って宝物、ただ歯を叫んで逃げ小さな体格に向け、桑を下に彼を狙って、いくつかの後、持ち帰っ<さ をとかた=人気をううし://ななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ええ人気 うさとふかう=人気_すねさこず人気> ななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ええを参照 人気 ダウン歌った彼の目は、過去を見て、光の影の下で、それはしっかりとフィギュアに固定された目、彼女の心は急にショックを受け、5歳の少年についてであることが判明しました。 大切それは今の事故だ、あなたはこんなに早く出しどう?出てくることを拒否していない?宝物ルアン天城に皮肉な表現を、今、彼は魅力的なされていたという年ではない、常にテレビをグルーミングに注意を払わなければなりません公的な人物。 近年では、家族の悲劇と心理的な歪みが前に、このような過酷な道に彼を回しているだろう、彼はまだかろうじて働いて、他の何に加えて、今です。 毎日、社会不満と暗い心で、市民のゴヤール サンルイ幸せの一部と、劣化した。 厳しくつついてきたように見えるものを彼女はこの点に歌ったが、何の心理学のように見えるんだろう、と彼女の目はしっかりと遠くの小さな数字の上に固定されており、そ���て私の心は不可解。 大切それは誰ですか?宝物森の出口の声が震えて、彼女は小さな男の子に向かって足を踏み入れました。 彼の顔を見てパニックルアン天城は、急いで最初の段階を過ぎて走った、一つは単に大切あなたが何をしたいのか、あなたについてどのように話し、あなたの雌犬?宝物かなりしつこいの後ろに隠れて彼の少年を、殴られます 彼女は彼のことを聞いていないかのように、5歳の少年を見つめて目を燃やしていた。小さな男の子は彼女の外見にびっくりしたようだった。時々、彼は頭を傾けて、サンを見ました。 全部で夜空の星のように輝くクリアで美しい目のペア、この小さな男の子数日、彼女は小さな男の子の解毒外で見たものを前に、彼女はまた、彼の家の少年の前に3年前に会いました。 彼女が今まで子供を失っていたので、特に敏感桑の子に、彼女も一緒に幸せな母と息子の種類、幸せな絵を見ることができなかった、それは彼女のために痛みを緩和ではありません。 大切あなたはこの誰であるか、教えて?宝物ルアン天城は、突然のラッシュ桑をプッシュし、彼を愛した赤い目を見て、彼の後ろに男の子をつかみました。 若い少年、最初怖がって、このような状況に遭遇したが、大切すごい宝物、叫んで、叫ぶために聞いたルアン天城に向けられている大切パパ桥本环奈桥本环奈 桥本环奈桥本环奈 桥本环奈桥本环奈助けを傷つけます。宝物 桑の上に彼の顔に手を上げ激怒ルアン天城は、小さな男の子が戻って勝ったことになる、顔に平手打ちをダンプし、李氏は、大切私はあなたを修正見に戻って、私はあなたを実行してみましょう。宝物、彼に叫びました その幼い少年はすぐに威圧されて怖がっていた。涙が涙で満たされていた。彼の口は狡猾だった。 彼の顔の上に殴られたサンウ、信じられないほどの対話とルアン天城小さな男の子が、彼女は鉄のグリルに保管されているように見える、瞬間の気分を記述することができませんでしたに見えた、ローリング、痛み彼女は言葉を言うことができませんでした。 大切彼は?あなたの息子である宝物桑秋に瞬時に涙、小さな体格を指して、かすれたルアン天城は、尋ねた大切どのようにあなたが息子を持っているのですか?宝物 人気私はあなたが非常に驚いている息子がありますか?人気ハオ天城は嘲笑を聞いて、そしてサンを見てこの時点で寒さと悲しみを見た。 大切あなたは桥本环奈桥本环奈宝物彼女も薬物中毒が侵食される運び去ることができない、彼女は彼女がすべての痛みとの须田亚香里激安に耐えるために、すべての涙は、ドライ長く厳しいだろうと思った、それを信じることができなかったサンウが、それでも前にありましたこのシーンはノックダウンされました。 何十万という矢がそれに似ています。 言葉では言えない種類の痛みは、彼女をほとんど打ち負かした。 人気なぜあなたは私に嘘をつけていますか?人気 ニュー盛はあなたが私はあなたとしなければならない息子を持っている、クレイジーだ宝物、と警告し、私は彼の手ルアン天城を上げ、彼のそばに子供を奪い取るたかっ脇に彼女を磨いている、サンウヒステリック過去に彼に向かって急いで? 人気 彼女の体は千鳥と逆方向に落ち、彼女は池で後ろに、ルアン天城はちょうど突然彼女の後ろに姿を飛び出し、彼女の手の1を引っ張ってみたかった、若干変更彼女の落ちた顔の方向を見て、長い腕はそれを伸ばしサンをしっかりと腕の中に入れてください。 陳エンロンは、彼は彼が時間内に到着しなかった場合、どのような方法で彼女の全体の人はとても寒い天候、池に落ちるだろうと考えるのは勇気がなかった、寒さに直面している、ようになる池の結果に落ちました。 大切あなたは桥本环奈桥本环奈走り回っている?この時間を気にしない?宝物陳エンロン非常に桑の開始に向けて轟音が、理由は彼の額の極端な弾圧に浮い青い静脈のアリゾナの記事を見た後、見事な顔だけでなく、ために行きます公差が過剰と歪んなり、彼の心のとげは、急いで彼女の会社を護衛し、緊急の声は大切あなたをどのように行う、サンウサンウ?宝物、尋ねました 、かすれ、ルアン天城を愛した赤い目を見つめ、彼の注意しなかったサンウ大切あなたは私に嘘をついている、あなたは子供がまだ死んだことを言っていませんでした?宝物 ルアン天城陳エンロンは彼女の目、心臓の周りや恐怖に見えたが、彼は彼の手で子供限り、知っていた、桑はさらに良いと思うことはありません。 大切私は何をすべきか、あなたは知って修飾されていない。宝物ルアン天城は、子供が背後に引き出します、笑顔を意味し、大切あなたは子供をしたい場合、あなたはそれをすべて出し、数年私を借りています。宝物 大切ルアン天城は、あなたが野郎、そこに近年の蘭の妹?宝物轟音に行くサンウ、彼はジョー・ランを見つけるために、何度も何度もそれを見つけることができなかったこれらすべての年、彼の表情を引き裂くしたいです彼女が看護師に話されていないなら、彼女は何も知らない。 幸いなことに、これはこれを言及、言及することはありませんが、ルアン天城は怒りのバーストは、女性、毎回のお金は、条件を維持しなければならないことを私にれはがに蘭を教えてはいけない宝物、締めて子供を助ける、のいずれかを見ていない可能性も腕の力をつかんであり、お金の面では、長い間続いてきた桥本环奈 人気 彼は、大切私が最もあなたの口安く男ということです嫌い。宝物、彼の顔のポ��プは、2人の手を投げ、雷の図は、彼の前に移動し、終了しないでしょう 陳殷エンロンはまだ飛び出すヒット彼の体を爆破する彼の手を上げ、十分ではない感じ2手を演奏、アヒルに直面しています。 子供たちは彼なシーンの怖がっている、スポットは、泣き始め桑に襲い掛かるために急いで、周りの子どもたちを守りたいが、それは一般的におびえ子供のようだった、とバックアップし続けています。 このシーンはサンの心を深く貫いた。 ルアン天城は憤りを見つめ、子供とのリンク、地面から難しいサンウ、大切若いサンウ、男性はあなたがより良い生活を見つけることができるでしょうとは思わない、あなたは私を待って、私はあなたをできるようになります死ぬほうがいいよ宝物 彼はこれらの言葉を残して、泣いて、絶えず子供を連れて残すようになって、桑過ぎて行きたい、陳は、安全停止でした。 彼女は必死にもがいたが、エンロン陳はそれが口の中を行くと、彼を须田亚香里い、キックする彼女は無意味聞かせて聞かせていないか、桑の後ろに離れて子供を見て、耳がまだ絶えずルアン天城の子供を聞きましたいびきのような音がして、血のように血が流れ出るように感じました。 陳エンロンが唯一のしぶしぶしっかりと彼女を開催し、彼は彼女が最後に経験したかわからなかったが、今、彼女はこのように見えた、彼は突然、彼女は非難するために、この時点で悩んで感じましたが、余計。 チェン・エンランの胸に噴霧された血液のように、桑の誇大な叫び声は突然終わり、気絶した。金城武第166章それは彼女の息子ですか? 秦病院。 [ななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ええより見栄えの良い小説] いずれかの応答ではありません、誰もが見に来た、と彼女はまだ食べたり飲むことは話さなかったサンの全人に前かがみ、愚かな、至福の沈黙の中で2日間送られ、。 チョーサーは翌日、事件を知りました。彼女は彼女を慰める方法を知らず、可能な限り多くの時間を過ごすことができました。 大切サンウサンウ、私はあなたがではなく、このような、あなたが幸せでなければなりません、とにかくその子はまだ生きていた、私たちを聞くことができます知っている。宝物ジョーは、めりぱは言葉なしで見て、悲しいの私の心のバーストサンウ。 彼女は、桑は、子供の死は彼女の言いようのない痛みだったものを経験し、さらには彼女の子供を抱きしめ、触れて、キスを行うには遅すぎるしている知っていたが、そうれはさことかこおにこふふか。 これは、どんな女性でも、どんな母親にも余裕のない痛みです。 苦しい経験の後、突然、誰かが彼女ゴヤール 財布 コピーがまだ生きていると話しました。彼女は喜びや痛みにかかわらず、そのような批判に耐えられませんでした。 ジョーめりぱは時折彼女を慰め、陳エンロンが彼女の後ろに立っていた、泣くことができなかった、穏やかでは彼女のために涙を拭います。 彼はチョーサーの涙を見ましたが、彼の心はほんの一息を吐きましたが、サンは悲しみのようなことに直面しませんでした。 この瞬間、チェン・エンランの心は、彼が本当にサンを愛したと思っていた。 それは愛のその期間だけだったので、彼は彼女についてのすべてを忘れることを選んだ苦いと耐え難いです。 ジョー・ランは、休息を取るために彼女に言った、陳エンロン彼女の家、彼女は一般的に話すのを聞いたことがないように、ジョーめりぱはまだ涙で退院時にはまだ何も、桑には起こりません、長い時間を言いました。ネットブックななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ほえ を求めているの<さ をとかた=人気をううし://ななな宇多田光つはせきをせ宇多田光ええ人気のうさとふかう=人気_すねさこず人気> 彼女は、うなずいたドアを開けたが、突然彼を振り返った、大切エンロン、見に病院に行く時間はサンウサンウている、と私はあなたが私が彼女の世話を助け、この時間忙しくなります。宝物 陳、エンロン目軽く、長時間彼女を注ぐが残すために下車、その後、ジョー・ランは自分の苦い笑みを終え、何も言いませんでした。
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ME:A 064 まったりのったり
そうそう。書くの忘れてたことがあります。 2号のラストバトルで気にしてたことと、勘違いしてたことです。 一つは、ハスカールですよそうですよ。アンドラクナーさんたちは来てくれないのかってあれ。来てくれませんでしたね(´・ω・`) まあアヤとかの防衛にも戦力は割かないといけないし仕方ないとは思うのですが、せっかくの精鋭チームなんだから共闘したかったなぁと。 で、もう一つは建物の中に入った後、最初のエリアを抜けた後から、ダン船長覚悟の墜落までの間に援護してくれる仲間についてです。クローガン・スカウトを助けてヘイジャがパスファインダーになっていると、あそこに出てくるのがサエレンなんじゃないかとか書いてますけど、違いますがな。クローガンたちですがな。 てことはサエレンてどこで出てくるの? てか、どういう条件で現れるの?? サエレンここにいたよと分かるかたいたらぜひ教えていただきたく?
というところでいつものプレイ記です。 ヴォルトを起動しPBが半ば強引に仲間になったら、次は基地の設置場所に行くわけですよ。 前回はFTして目前まで行って、「あそこで戦ってるのドラックじゃね?」ていうところで終わらせました。 そして本日、さあ続きだと進めてみたら……戦闘終了してもなにも起こらず、ドラックにマーカーがついたまま、話しかけられもしない……(´・ω・`) そんなわけでいったんゲーム終了させてスカイリムに旅立ち、ロードしなおせば進むかなと思ったのですが、またダメなんだけど……:( •ᾥ•): かくなるうえはテンペストに戻ってみるか……。 というわけで帰艦してみたわけですが、弟のペンダント置いてあげたナイジェル氏からのお礼のメールが来てましたね。こまかいものなので1号では読まなかったし(ターミナルにあるログとかも、さすがに大半は読み飛ばしてます)、2号ではそもそもペンダントを受け取ってすらいないのですが、3号ではちゃんと読んでおきますよ。 『親愛なるパスファインダー・ライダー様 私の弟ダッシュは、私の最良の友でもありました。彼が逝ってしまったこと、このアンドロメダで共に未来を築けなかったことには今でも痛みを覚えます。けれど、家族のペンダントは私の心の支えとなってくれるでしょう。 妻とともにこの地での生活をスタートしたら、最初の子供には弟の名前をつけようと思っています。男の子にせよ女の子にせよ、やはり私の最良の友になってくれると良いと思っています。 貴方と貴方のチームに、心からの感謝を込めて。ナイジェル』 ていう感じかな。
そして改めて地表に戻ると、ほい、無事にイベント進行。ヨカッタヨカッタ。いやマジで良かった。あれこれしてると、オートセーブのすべてが「イベント進まなくなった後」になりかねなくて。しかもこのへん、手動セーブができないし。最悪の場合、ミッションのスタート地点からのやり直しも覚悟しましたよ。 どうやらケットの増援が降ってこなくて進まなかったみたいです。全滅させると自動的に会話イベントに突っ込むので。 ここのじいちゃんは、「クローガンなんぞいらねぇっちゅう前に言っとくぞ。わしを信じろ」。 そして今回は軍事基地にしてみた!(๑•̀ㅂ•́)و✧ しかし意見は、リアムもサイエンスなんだな。コーラだけがミリタリー。ビーコン使う前にPBとドラックを引っ張り出せるなら、4号では彼等の意見も聞いてみたいけど、PBはサイエンス、ドラックはミリタリーだろうなぁと答えは半ばわかっているような。
でも見た目は科学基地も軍事基地も一緒なんだな……少なくともパッと見て分かるほどは違わないってゆーか(´・ω・`) 「なんか期待してた顔だな?」 「だって軍事基地ってゆーなら、もっとトゥーリアンがうろうろしてるとか、武装した兵士が多いとか、基地も対空迎撃砲供えてるとか、ふつー期待するでしょ(´・ω・`)」 もちろんそんな会話は存在しませんが、一抹の寂しさを抱いてテンペストに戻りました。最初の殺人だとか秘密の研究だとかレムナントをコントロールできると考えたおばかさんたち追っかけるのとか、アサインメントは発生してるけど、しばらくしないとハザードレベル下がらないしね。 で、ミーティングはカジュアル選択肢だと「まだ解散って言ってないんだけど!? ……解散!」みたいなオチだったのが、プロフェッショナルのほうだと「いいミーティングだった(もちろん心にもない)」とかで終わるのか。まあ、このへんじゃなんのかんの言ってもみんな、スットコくんのことをそれほど認めてないというか、仲間だとは思っていてもリーダーとしては扱ってないってことを表現したいんでしょうねw で、定位置に引きこもってる人は会話イベントがあるので訪問。 コーラは「何年もアレックの副官をやってきたのに、なんの訓練も経験もない人にその肩書譲られて」と理不尽というか不満は覚えながらも、プロの軍人として、与えられたポジションで最大限の努力をする、という部分は見失わないし、そこに私情は挟まない、という姿勢は、ニンゲンらしく、かつ好感も持てます。超然としてられてもウソくさいしw だからって噛み付いてこられると間違いなくイラッとするし。そしてこれが後々、アサリアークの件で「私にパスファインダーは務まらない」という自己認識に至るわけです。結局のところ彼女はほんと副官向きの性格。生真面目でしっかり者。でも保守的というか、決められたことを決められたように、あるいは言われたとおりにこなすのは得意でも、案件が未知となると、それでも、類似した過去を参照してしか判断ができなさそう、というか。そして生真面目すぎるがゆえに、受け止めるばかりで受け流せない感。 はて、ドラックじいとケッシュさんの会話は、キッチンの外からちょっと立ち聞き。するとこの時点で、いろんな救急道具持ったの? てケッシュさんに言われてるんですね。杞憂じゃなくてリアルにそういうものないともたない体なんだと分かるのはもっと��っと後ですが。それにしてもまったくもって孫には頭上がらないおじい。「ルーシャン」てのは血のつながった子供、孫て意味でしたっけね。
というわけでネクサスへ。タン長官のところとかアディソンさんのところとかめぐりーの、こまかいアサインメント拾いーの。
……ネクサスに椅子ってものはないのか?(´・ω・`) そしてHNSだっけ? 放送は字幕でないから完全ヒアリングなんだけど、「ヒューマン・パスファインダーのアレック・ライダーは死亡。その息子が後を継ぎ、我々の故郷となる星を探しています」みたいなことを言ってる程度は聞き取れる。アサリアークの後のサリサのインタビューとかもなんとか。今回はそういうのもゆっくり立ち止まって聞いていきたいね。 あと、パワーショートの原因探しで最後にケッシュさんとこ行ったら、後にスペンダーにいびられてるデルさんと通信してて、サラリアン相手にテキパキと指示出してるクローガンてすごい光景だなと思ったわけでw
これはサラ子と脳内会話中。 1号は嘘×2でした。パパ生きてるって言っちゃった以上、ゴールデンワールドなんてものもなかったよとは言えず。この場合、後になって顔見せるなり「なんで嘘ついたの」と睨まれるわけです。 2号は、真実×2で、「そんな……」と愕然としたサラ子はストレスのせいで接続オフ。これだと目覚めたときはハグコース。 そんなわけで今回は、パパは死んだけどゴールデンワールドはあった、という嘘+真実に。これもハグにはなる気がしますねぇ。パパの生死ほど、ここがどんな世界かについての嘘は罪深くないというか、「あ、私を心配させたくなかったからかな」と思いやすいのではないかと。 しかしこの逆は……どうなんだろうなぁ。怖くて確かめるのはきっとかなり後……アクスールを撃ち殺しヴェランドは監禁し、とかいう一番まずいデータを作ってみるときにでも。……そんなデータ作る気になれば、ですが。
そんなこんなでアヤに到達。 スットコくん見ようとしてぴょんぴょんしてるアンガラがいたので、スクショを一枚と思ったら……パーランさんが進まなくなってしまいましてね? 動かない……なのに「止まるな、進め」と言われ。先に行けばついてくるかなと思っても動かず、「止まれ、それ以上離れるな」と言われ。どーせーっちゅーの!?(੭ुಠᾥಠ)੭ु というわけで警告無視して先に進んで撃ちころころされたょ(´・ω・`) そしてやり直し(´・ω・`) 今度は素直についてくよ……(´・ω・`) それでやっと気が付きましたね。スットコくんを「それ」と言った男に対して「それじゃないわ、彼よ。あと、じろじろ見るのはやめなさい」と言ってくれてたの、アヴェーラさんだったんだね(´ω`*) しかしなアヴェーラさん、ヒューマンなんて初めて見るのに、なんでオスメスあるって分かってて、しかもぼくがオスだって分かるわけ??( ತಎತ)
ジャールが搭乗した後、ハヴァールとヴォールドへ行くというミーティングのときも、スットコくんの仕切りはまだまだで、全然まとまりがありませんw みんな好き勝手言うし。言うのはいいけど、ほんとただ言いたいこと言ってるだけで、話をまとめて作戦や今後の活動の目標を決めるという感じではないというか。 これはたぶん、スットコくんだけでなく「大半が若いし、プロとしては半人前」なところがあるからかもなと。年嵩のドラックはクローガンなのでそういう協調性とかとりまとめ能力発揮されても変だしねw
とかなんとか思いつつハヴァールから先に行くことにしました。これはなんとなく撮った壁紙向きの惑星スクショです。
ところで……これ、どう見ても薄くない?(´・ω・`) この鼻面の部分にコクピットあるみたいな景色なんだけど、これどう見ても、ぼくの身長よりちょっと高いくらいしかなくない?(´・ω・`) それに、見上げるとちょっと透明で上が見えるはずなのに、真上に行ってみると鉄板みたいな感じで全然中見えないし。まあそれはマジックミラー的なものなのかもしれないけどさぁ。 ブリッジからちょっと歩いたら上下2層になるわけだけど、そんな厚みあるようにも見えないし……。 「ライダー。大人の事情よ。察してあげて」 「でもきになる(´・ω・`)」 「そんなこと言い出したら、ノルマンディだってあんな人数どうやって収納して生活してたんだっていう話になるだろ?」 「で、なんでリアムっちがそれを知ってるのかっていう、ちょうメタな話にもね(´・ω・`)」 「いいから、科学者たちがいるっていう、パラーヴ? に行くわよ」 みたいなことを思いつつ、3号は乗れる場所すべてでテンペストの上に乗ろうかと思ってます。イーオスは簡単に乗れるというか、まっすぐ行こうとして1号で既にカロから「マジかライダー」て言われてるしなw
最初の拠点にある端末で、どれか読んでみようかなーとざっと眺めていて、見つけたのはこちら。 『キーランへ そこは本当に安全なのですね? ケットがまた古都を襲撃したと聞きました。貴方がいるのは惑星の反対側だとは知っていますが、それでも近いのです。野生生物とレムナントに囲まれて、ハヴァールはとても危険な場所なのですよ。マーリとネスタールが心配しています。私も心配です。 貴方のお仕事は大切です。そのことは分かっています。それでも、この老いた母に約束してください。レジスタンスが避難しろと行ってきたら、必ず言うとおりにしてください。"知識には危険をおかすだけの価値がある"なんてとんでもないことです。貴方が若いころ、私は何度貴方の骨折を手当してあげたでしょう。そろそろ私を休ませてくれるときですよ。 貴方を思う、母より』 ママさん……(。•́ _ •̀。) キーランさん、お仕事熱心なのはいいけど、ちゃんとママさんにお顔店に帰ってあげないとダメだよ……いなくなっちゃってからじゃ遅いんだから……(╥ω╥`) で、奥の部屋にいるルージ氏のお話もちょっと真剣に聞いてみました。この星のことあんま好きじゃないみたいだね、と言うと、「ここにいれば安全だと思うのか? まさか」みたいなこと言います。その理由ってのは、 「今朝起きたらトゲだらけの蔦が私の寝床にまで這い寄っていた。ここから出られないのも、枝が私のシャトルのパワーコアを突き破ったからだ」 ……しょくぶつ、こわかったのかここ……(´・ω・`)
そしてたまには中継ステーションでターミナルでも覗いてみると、ハヴァール=ハビタット3? 先遣隊が目をつけてきた星をハビ呼びするのは分かるけど、こんな星みつけてたのか? アンガラが住んでると気付かないのはまあ仕方ないとして。 で、アサインメント拾うのは、アヴィタスさんとこ行ってナタナスの破片がマーキングされてからに。このへんは効率よくいかないとね。あと、隠し宝箱へのルート、この初着陸の時点で見に行くと、どうなってるのかもちょっと気になるき。
というわけで見てみた穴の中。岩が崩れたみたいになっててコンソールが見えない&辿り着けないのですねぇ。 なお、今回はジャールを連れて来ていません。キーランさんのとこにいるのに話しかけると、「アンガラの星をアンガラの案内なしで行くのか?」と連れて行けみたいに言われますけど、1号も2号もずーっと連れ歩いてたに等しいからさぁ(´・ω・`) 今回は、どうしても連れて行くしかない場所以外は待機でやってみようかと。モーシャイ救出はさすがに固定なのかなと思いつつ。 モノリスの近くに行くと、「ローカーがいる。気をつけろ。彼等はすべてのエイリアンを憎むアンガラの狂信者だ」と通信。「そりゃちゃーみんぐだね(´・ω・`)」と返すスットコくん。しかしジャールって天の川の慣用表現的なものに慣れてないから、こういうこと言われても通じないんじゃないかという気もしたんだがな?w
で、捕まっちゃってるトーヴァーさんたち。 1号2号はジャール連れてきたので「おまえら何者だ!?」になってもジャールから話をしてもらってその場で納得してもらえましたが、今回は仲介役が不在。よって、礼儀正しく「ライダーです。別の銀河から来ました(๑•̀ㅂ•́)」とご挨拶しても当然のごとく安心���てもらえず。ていうかよくパニックにならなかったなトーヴァーさんw だって気がついたらすぐそこに、今まで見たこともないようなもさもさなんか頭に生やした変な生き物(と細っこい岩みたいな生き物)がいるんですよ? 我が身に置き換えたら、気がついたらそこに見たこともないような姿のエイリアンがいるわけで、「ほぎゃああぁぁなんじゃこいつらあぁぁぁ!?Σ( Д ) ﻌﻌﻌﻌ⊙ ⊙」になりますよ? しかも科学者で戦闘力ないわけだし。 ちなみにトーヴァーさん、アヴェーラさんとメールやりとりしてるんですよね。中継点の脇に置いてあるデータパッドでは、墜落地点に行くにはマシンが多くて無理だ、みたいなこととともに、なんかとんがった奴等がうろうろしてるんだけど安全なんだろうか。君は見たか? みたいなことも。アヴィタスさんら目撃はされてたんだなw
で、なんとなくアヴィタスさんのスクショ出しつつ(雨が降ってるんだよなぁここと思いつつ)、ナタナス号の破片etc探しは請け負ったけど、気付きましたね。植物採集の依頼を受け忘れて来てるって。 ここはいったん、キーランさにん報告してネクサスに引き返し、あのカリカリした植物園(違)のおんちゃんに話しかけ、ついでにトゥーリアン・アーク気にしてたカンドロスさんの台詞でも覗いてこようかすら。 で、戻ってキーランさん、ジャール、トーヴァー氏に話しかけてみました。キーランさんからはいつもどおり惑星が病んでいるという話。ジャールをここに残しておくと、それはそれで解説台詞が聞けるしなかなか貴重。トーヴァー氏に話しかけて賢者について聞くと、やがて 「この先は笑われるだろうから言いたくない」 「笑わないから教えて?(´・ω・`)」 「スカージが惑星に接触したせいでモノリスが機能停止したわけだが、賢者の中にはその接触を生き延びて、モノリスを再起動した者がいると言われてるんだ」 と、ゾライに関する話が聞けますね。ただしここでも「he」と言われていて、みんなして男性だと思い込んでたんですねぇ。
そーいや、ちょっと先の話ですが、ゾライ=ターヴォスであることによって証明された転生の存在についてですが、アンガラがジャーダーンでしたっけ? レムナントの本来の主である種族によって作られたとすると、この転生についてもなんらかの物理的あるいは科学的なメカニズムがあるのかもしれないなぁと思ったわけです。 彼等がなんのためにアンガラを作ったのか、ジャールはある意味楽観的に喜んでますけど、実際は分かりません。なんかの実験動物でしかなかった、なんて可能性もなきにしもだし続編があry ただ、「作った」なら、「必要な機能を組み込んだ」可能性はあります。なんらかの目的のために必要な機能を。 その一つが転生、というか、個体間の記憶データの受け継ぎであるなら? 無事に続編が出てシリーズとして続いていくなら、プライマス氏との対決とともにこのへんもなにか描かれるのかもなぁと思った次第です。
で、テンペストに戻ってメールチェック。ほほう? リアムのメールにヴェランドの名前が出てますね。アヤを訪れた後、誰かちゃんと話ができるアンガラの相手がいないかと探したようです。 まあ……評判も微妙で前シリーズの日本での売れ行き考えたらローカライズは事実として見込めないと思いますけど……「ローカライズの予定はない」と断言されてますし。でも、予定なんて生まれてくるものだから、もしかすると遅れてローカライズなんてこともないとは言えず。日本語化したらちゃんと読みたいのは、こういうこまかい部分ですよね。シナリオらしいシナリオがあれば、前後とのつながりもあってなんとなーくだいたーいでも理解できたりしますけど、こういうメールを全部読むというのは、さすがにスットコ英語力ではなかなか厳しく。 ジャールから届いてる「絵フラの信頼はいくらか得られたようだ。本人は言わないだろうが」メールにも続きがあって、1号はそこ訳してない……読んでんですけど、そこには、「自分個人としては、このチームに参加することで信頼というものについて多くを学べた。信頼というものは科学的なものではなくもっと感覚的なものだし、宇宙的な真実だろう。これからはより信頼してもらえるように努力したい」、みたいなことが書かれてます。……連れて行ってないのにw
エフラさんとの通信で「ぼくのAI必要でしょ」を選んだほうが話はスムーズに進みましたね……。AIならいい、みたいな納得の仕方がよく分からんぞエフラさんw 「ただそのAIってぼくとつながってるから、ぼくもそこに行く必要があるっていうか、行きたいんだよね(´・ω・`)」 みたいなノリで「よしよしいいだろう」な返事をもらえるとは意外w ツンデレなうえに、おとなしくて腰が低いタイプじゃなくて強気で物事はっきり言うタイプが好きなのか? サラ子でエフラさんとロマンスできないかな?(マテ
レクシー医師の両親はオメガのダンサーと用心棒で、パパはトゥーリアンなわけだけど、てことはアリアさんを知ってるんだろうなぁと思うわけで。turf warで死亡した、て言ってるのは……追放戦争、てことでいいのか? これは前シリーズのなにかを意味してるってわけじゃない、かな。まあPBでも100歳なわけだし、レクシー医師はもっといってるよなぁ。 と、そんな感じで、2号までではほとんど読みなかったようなこと、ちらっと聞いてはいても言及しなかったことなんかにも、3号ではぼちぼち触れていきたいと思います。 そんなわけで、ここから先はまた明日!
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[ 解離症状の実例 ] ◆[ヴェール] 自分の周りにヴェールがかかっているようで、現実感がなく、目の前の出来事が遠くで起こっているように感じます。 (このような状態を離人症といいます。離人症は解離症状の1つです。離人症で見られやすい症状としては、自己体験や自己身体、自己感情の自己所属感が減弱したり喪失したりします。 ⇒ 「自分の体が自分の一部のような気がしない」「感情がなくなったように感じる」) ◆[真っ黒クロスケ] その状態(解離状態)になると、1日中、古い映画のスクリーンを見ているようで、視野の中を黒い虫がぞろぞろはいまわります。その虫をよく見ようとすると、虫はさっといなくなります。トトロの中のシーンみたいです。 ◆[一過性全健忘] 小さいころ、ハッと気がつくと、自分の名前以外はなんにも、住所も電話番号も、父や母の名前すら思い出せない事がありました。どうしようどうしようと焦っているうちに、数分から数時間かけて、少しずつ思い出すのです。そのことは、最近まで誰にも話せませんでした。そんなことを話したら、「そんな子はうちの子じゃない」といって捨てられるに違いないと思っていました。 ◆[白昼夢の癖] 白昼夢の癖が小学生のころ始まり、25歳の現在まで続いています。はっと気がつくと、独り言をぶつぶつ言っていたり、知らない間に数時間もたっていたりします。 ◆[10歳で誕生] 小学校時代の友達から、こんなことがあった、あんなことがあったと聞くたびに、そうかなあと思う程度で、聞いても思い出せません。小学生以前の記憶がほとんどないのです。「あなたは生れたときに10歳だったのよ」 と誰かに言われても、反論できません。(最近、性虐待の記憶を取り戻しつつある20代女性) ◆[過食の記憶] 朝起きると、部屋に散らばっているゴミや食べかすと胃が重苦しいことから、昨夜過食したことがわかります。料理までしているのに、その記憶が全くありません。(過食症患者では、この種の報告は珍しくありません) ◆[味覚障害] その状態(解離状態)になると、食事中も味覚がありません。確かに食べているのだけれど、全く味がないのです。だから何を食べているか分かりません。目を開けていると何を食べているかは分かりますが、目を離すと分からなくなります。 ◆[カラー映像] 父の死ぬ姿が、カラー映像ではっきりと見えます。これは現実ではないと分かってはいても、パニックになってしまいます。今は、これはフラッシュバックだとわかりますが、昔は現実とフラッシュバックの区別がつかず、発狂しそうになりました。(子供時代に、父の発作から死までの3時間をただ一人で居合わせ、見続けた女性) ◆[感情の脱失] トラウマのエピソードだけを覚えていて、その時の感覚や感情の記憶がまったくないのです。(身体的虐待、性虐待の被害者) ◆[記憶のない自傷] 同棲中の20代の女性が、突然トランス様の表情になり、「お母さん、怖いよう。痛いよう。ごめんなさい」と泣きながら、転げまわります。その時に年齢を尋ねると、5歳だったり、10歳だったりします。私がだっこしたり、膝に抱き上げて、優しく話しかけていると、数分から数時間で元の自分に戻ります。元の人格になってから、別人格の時間の記憶について聞いてみると、全くなかったり、たまにぼんやりとあったりします。左手前腕に多数の浅い切傷、右下腿外側に大きな切傷がありますが、いつできたものか本人自身にもわからないようです。傷の方向から見てすべて自分で切ったとしか考えられません。右下腿の傷は大きなケロイド状になっていて、明らかに縫合していません。(身体的虐待サバイバー、解離性同一性障害、20代女性の内縁の夫) ◆[解離性フラッシュバック] 18歳の美しい女性患者が、自傷行為と自殺未遂の繰り返しのために入院しました。主治医(男性)が夜間消灯時の見回りに行くと、患者は引きつった恐怖の表情で一瞬医師を見つめ、あわててベッドの下にもぐりこみました。看護婦の辛抱強い説得に応じて30分後にそこから出てきた患者は安定剤の注射でやっと寝ました。しかし患者は翌日この時のことを聞かれても全く記憶がありません。(性虐待被害者) ◆[分身の術] 子供のころ、自分が自分の横にいるという体験がよくありました。今でも、緊張する場面でそういう状態になります。(被虐待者) ◆[痛みのある自傷行為] 自傷行為は中学時代に始まりました。母に叩かれる前に自分で自分を罰するのです。私の場合には、自傷行為の時も痛みがあります。中高時代は、上腕の内側や内股など、他人の目に触れない場所をかみそりできっていました。高校を卒業すると、自傷行為がひどくなりました。はさみの先で、手足の血管を突き破り出血させます。頭の中に冷汗をかいて、気が遠くなりそうな痛みを感じながら、傷をつけます。そしてある日、数時間の記憶がなく、気がついたら、カッターで手足を切って、血の海の中に寝ていました。 ◆[覚えのない衣類] 気がつくと、自分が選んで着た覚えのない衣類を身につけていることがあります。 ◆[意識を体から離す] 聞きたくないことを言われたり、叱られるとき、私は自分の体の後ろに隠れるように、意識を体から離すことができます。考えてみると子供のころからそうして自分が傷つくことを避けていました。 ◆[抑制可能な解離性障害] 私の場合は、軽度の解離障害が短期間出現しますが、ある程度はコントロール可能です。たとえば、赤城高原ホスピタルのHP(被虐待者の声やこのページ)を見ると、息苦しくなり、過呼吸になり、頭がぼーとしてきます。放って置くとそのまま解離状態に入って、数時間たって気がついたりします。だから今では、ちょっと危ないかなと思ったら、私の好きなファッション関連のHPに飛んで、少し見ていると現実感を取り戻せるといった具合いです。(20代、性虐待サバイバー) ◆[明細書] するすると記憶が逃げていく感じです。10万円以上もする衣類を買っていることに帰宅してから気づきます。私にしては高い買物なのにどこで買ったのか覚えていません。レシートが出てきてデパートで買ったことが分かります。お金の出所がわかりません。ハンドバッグの中を探し回って、明細書を見て初めて、自分が銀行に寄ったことが分かります。 ◆[裸は無垢で美しい] 小学生の頃から父に性器をいじりまわされていました。強姦もされていました。でも、私がどうにも許せないのは、別のことです。父は私に、恥ずかしがることを、恥だと教えたのです。裸は無垢で美しい。子供は恥ずかしがるものではない。裸を恥ずかしいと思うのは、下賎の民の習慣だ、というのが父の言い分でした。 私がおふろからあがると、私が自分で用意しておいた着替え用の下着を父がたんすに戻してありました。私は、知人や親戚のいる前を、父がドアを開け放っているので丸見えの場所を裸で歩いて下着を取りにいかねばなりませんでした。タオルで体を隠したりすることは禁じられていました。水泳の授業などで、学校で水着に着替える時も、友人がタオルで隠しながら着替えるときに、私だけは素裸になって着替えていました。学校中の話題になりました。 中学校から、私は情緒障害になり、失神発作を起こしたり、救急車で運ばれたりして、精神病院に入退院を繰り返すようになりました。中学高校時代は、子供時代の記憶がほとんどなく、混乱状態のまま高校を中退しました。上記の水着のことも、18歳頃に思い出したことです。詳しく思い出そうとすると頭痛がしたり、過呼吸発作が起こったり、失神したりします。(22歳、特定不能の解離性障害の女性) ◆[借り物の体] 集団レイプの被害にあって2カ月後、暗闇の中を近づいてくる男性を見たとき、突然おかしな気分になりました。身体感覚がなくなり、顔に触っても自分の顔じゃないのです。借り物の体にいる感覚です。それから後はおかしなことばかり・・・。 急に暴力的になってしまい、食器を投げつけたり、自分のひざにフォークを突き立てたりしました。とうとう先日は、気がついたら駅員さんに殴りかかっていました。誰か私を止めてください。(成人後の集団レイプ事件だけでなく、幼児期に身体的虐待、性虐待を受けている女性) ◆[期待と現実] 自分が実際に或ることを実行したのか、単にそうしたいと思っただけなのか、どうしても思い出せないことがしばしばあります。 ◆[連続白昼夢] 子供のころから、苦しい時には心を閉ざして、目前の必要最低限のことだけをして、時間が早く通り過ぎるように祈るようにしていました。そうすると、本当に数日間がどんどん過ぎてあっというまに間に数週間過ぎてしまうように思われました。ただその間にあったことは、印象がほとんどなくて、夢か現実かわからないし、記憶も曖昧でした。半分白昼夢のような状態といえるかもしれません。 ◆[骨折] 嫉妬深い彼に殴られて、頬の骨が折れましたが、その時も痛みは感じませんでした。怖い感じと、一方で、自分がこんなに求められているという幸せとの両方でした。翌日、治療に行ったら、「骨折している。なぜ救急車を呼ばなかったの」と看護婦さんに驚かれましたが、私はキョトンとしていました。とにかく痛みは全くありませんでした。 ◆[解離性フラッシュバックと自傷行為時の無痛覚] 性虐待の記憶を回復するにつれて、虐待時の感覚が無秩序に出現します。夕方から夜にかけての方が多いのは、その時間帯に虐待が多かったことと関係があるかも知れません。10年以上前、陰部と内股に煙草の火を押しつけられた痛みを突然感じて、泣き叫んでしまいます。看護の方から聞いたところでは、その時は小学生の自分になっているようです。そのようなことがあった日には、よく手首を切ったり上腕に噛みついたりしますが、その時の痛みは全くありません。自傷行為の記憶そのものがないこともあります。そういう時には、翌日右手に残る歯型から自分が噛みついたことがわかります。(20代後半女性) ◆[痛覚脱失] 21歳の時、ある夜、なぜか無性に自分を傷つけたくなり、カミソリで左手首、左前腕、左肘、右の首を切りつけました。部屋中血の海になりました。60 針縫合しました。私はもともと痛みには鈍いところがありますが、特にその時には全く痛みを感じませんでした。もちろんその��、私はまったくのしらふでした。その日の傷を含めて、今までに全身の自傷行為で 100 針以上の縫合をしています。(被虐待体験のある28歳女性) ◆[解離のスイッチ] 苦手な人が話し始めて、何かの言葉か態度が、私の(解離の)スイッチに触れると、その時、私の人格がパチンと割れるのです。怒ってい��私はどこかに飛んでしまって、抜け殻の私が、役割行動を自動的にとってしまいます。相手の言ってることなんかほとんど聞いていないのに、「あーら、それは大変でしたねえ」とか、「おもしろいお話しですこと」とか、その場の雰囲気にだけ合わせて言ってしまうのです。今はその分裂が説明できるけど、以前は、訳も分からず、気がつくと、どういう話しをして、どういうふうにその人と別れたのか分からず、その間の記憶がなくて、別の場所にいるということがありました。(被虐待者、30歳女性) ◆[おねしょ] 恥ずかしいことですが、25歳の今でも、おねしょをしてしまいます。トイレの中で、これが夢か現実かどうしても分からなくなってしまうのです。時々は、実際にトイレにいるのに、もしかしたら夢かもしれないと思い始め、排尿できないで困ることがあります。そして、時にはその逆で、トイレのつもりで排尿すると、これが夢の中の出来事で、おねしょをしてしまうのです。ですから、外泊は不安でたまりません。実際にほとんど外泊しないようにしています。幼児期におねしょをした時に母からひどく殴られたこと、児童期に何度もトイレに閉じ込められたことなどが影響しているようです。 ◆[口が利けない訳] 治療を始めた頃は、緊張する場面、恐怖を感じそうになると、すぐに固まってしまい、口が利けなくなっていました。今から考えると、その時には解離していたのです。感じるとバラバラになる恐怖がありました。今は、先生や看護師さんなど、安全そうな人が近くにいれば、感じてもOKだから、以前のように固まることは少なくなりました。 ◆[記憶回復と離人症状] トラウマの記憶を回復するのと平行して解離症状の頻度が増え、内容もひどくなりました。ぼんやりと山手線を何周もしている自分に気づくことは子供の頃から時々ありましたが、入院直前には、知らないうちに線路に降りていて、駅員さんに引き上げられたりしました。歩行中にフラフラと車道に出て車にはねられ、左半身にひどい打撲傷を負ったので専門施設に入院することになりました。 ◆[遅刻常習犯] 子供の頃から、ほとんど約束の時間に間に合ったことがありません。出かけていく途中で記憶が途切れ、駅のホームでぼうっとしていたり、乗り過ごしたりするからです。電車の中で立ったまま、数分間から数十分間の記憶がないことに気づくこともよくありました。もっとひどくて、約束があって出かけた後の記憶がなく、約束の時間を過ぎて、くたくたになって自宅にいる自分に気づくこともありました。約束をすっぽかしたまま、どこかを歩いていたようですが、その記憶がありません。てんかんを疑われて何度も脳波をとりましたが異常は見つかりませんでした。今から考えると解離症状のためだと思います。白昼夢や離人症もしばしばあります。(性虐待被害者、30代女性) ◆[他人の顔] 過食がひどい時、鏡に映る顔がどうしても自分とは思われませんでした。どうしてこんな他人の顔になったんだろうと不思議でした。 ◆[離人症] 中学時代の私は自分が喋っているのにその実感がなく、自分の周りに幕があるような感じで現実感がありませんでした。魂が抜けたような感じで、感覚が鈍くなっていました。赤城高原ホスピタルに入院して2ヵ月、その状態には「離人症」という名前があって、それはトラウマ体験と関係があるのだと教えてもらいました。そういえば、私も小中学時代を通じて父からの身体的暴力を受けていました。私が高校1年の時に両親が離婚したので、父の暴力からは逃れられましたが、それから兄の家庭内暴力が始まりました。23歳の今でも時々軽い離人症になります。(摂食障害+頻回の自殺未遂、3歳年上の兄はうつ+ひきこもり+家庭内暴力) ◆[解離性記憶障害] 私が小学5年の時、タバコを買いに行かされました。父の言った銘柄がなかったので、タバコ屋のおじさんの勧めで別のを買って帰りました。父はいきなりそのタバコを私の顔に投げつけ怒鳴りだしました。私が言い訳をしてすぐに謝らなかったので、私は雪の庭に蹴り出されました、ということです。変な表現でごめんなさい。実は、この出来事は最近母から聞いたもので、私にはこの事件の記憶が全くないのです。このことを含め、私には小学校から中学時代の記憶がほとんどありません。(摂食障害+アルコール乱用+解離性記憶障害+自傷行為、20歳の女性) ◆[自虐的幻聴] 小学校高学年からかさぶたをむしる癖がありました。血を見るのが好きでした。中学2年生頃には、自分の中に誰かがいる気がしていました。「やっちゃえ」というような自虐的な言葉が頭に浮かんできて、気がつくと左手をカッターで切っていました。意識的に親への反抗で手を切ることもありました。成熟してくる自分の上半身を見ると吐き気がしました。高校生になると、縫合が必要な位の深い傷を作るようになりました。自分の首に爪をたてたり、タオルで首を締めたりしました。そういう時には自分の体が自分のものと思われません。「死にぞこない」、「殺したれ」、「殺しちゃいなよ」、「オレを困らせるな」などという声が聞こえることもありました。酒と処方薬をまとめのみすることが多くなり、専門病院に入院することになりました。父はめちゃめちゃに私をかわいがりましたが、じゃれあいの中には性器や乳房への刺激が含まれていました。(20代女性) ◆[キレる癖] 気がつくと、ボーイフレンドが頭から出血して倒れていました。私が殴りつけたんだと彼が言うし、状況からみて実際それ以外は考えられないのですが、私はあまりよく覚えていません。セックスの途中で、フェラチオを要求されて、やり掛けている時に、急に私が大声を上げて、陶器の灰皿で彼の頭を殴りつけたのです。彼によると、私は最近、キレやすいとの事です。彼には申し訳なく思っています。これまでになかった「キレる癖」について、心配になって、専門医を受診しました。精神科医に相談しているうちに気づきました。 なぜか最近になって、2年前のレイプ被害の出来事を何度も何度も思い出します。最初の1時間を過ぎると、私は、怒りも悲しみも感じなくなり、何の感情も持たないまま、男の要求を全て受け入れてセックスプレイに応じたのです。ただただ冷静に、男の機嫌を損ねず、早く引き取らせることだけを考えていました。最近、私は、自分を責める癖をやめられません。どうして私は、4時間もの間、あの男の言いなりになったのだろう。どうして男の性的な冗談に笑ったりできたのだろう、と考えてしまいます。もし今度、同じ目に会ったら、どんなに強い相手でも、たとえ自分が殺されるようなことがあっても、あそこを食いちぎってやる。考えたくもないそんなことを考えてしまいます。精神科医の説明によると、「キレる癖」を含め、これらの症状は、全て、レイプ被害の後遺症、PTSDの症状だと言うことです。トラウマの数年後に症状が顕在化することもありうると聞きました。(25歳女性) ◆[解離性同一性障害と記憶] 院長先生を初め、5-6人の精神科医や3-4人のカウンセラーに解離性精神障害と診断されましたが、いまだに信じがたい気持です。時には記憶が飛ぶんですが、意識と記憶が保たれている時もあって、そういう場合には別人格の時、自分の後ろに自分がいる感覚があって、「いけない。このままでは周りの人に迷惑がかかる。何とか本来の私に戻らなければ」と思ったりするんです。だからといって、意識的にわざとやっているとかいう訳ではないし、戻そうとしても多くの場合戻りませんけど。(時々面接室でいたずら好きの幼児になってしまう20代の解離性同一性障害の女性) ◆[記憶の蓋] 治療によって、記憶の蓋が取れてしまったようです。ホスピタルに入院して2ヵ月後、5分ごとにフラッシュバックが襲います。父の暴力、小学時代のいじめ、母の暴言を思い出し、その時の痛みと感情が湧き起こります。気を張っていると、現実と区別がつきますが、気が緩むとトラウマの映像が次々と浮かび、それがビデオのように連続したシーンになってしまいます。泣き喚いているうちに、幼児言葉になってしまうようです。時には、このような体験のうち、トラウマの状況を省いて、全く理由不明で、ただ恐怖感だけが突然私を襲います。体中の毛が逆立ち、恐怖にうち震えます。やっと眠りにつくと、前の主治医に殺される夢だとか、自分が恋人を殺している夢だとか、悪夢をみます。体をよじってうなっているので、隣ベッドの患者が看護婦を呼んでくれました。(28歳、PTSDの女性) ◆[危険な人、安全な人] ホスピタルから東京へ外出する往復の電車の中でも離人感や未視感(ジャメ・ヴュ)が出てきます。小学校低学年の時、痴漢被害に遭ったのですが、その加害者に似た男に会うと、多分この前のように(記憶が)飛んでしまい(解離していまい)、車掌や駅員さんの手を煩わすことになるので、そういう時には、電車の中やプラットホームを見渡し、必死で院長やケースワーカー、ナースに似た人を探します。見つかるとほっとして、現実の世界に留まる事ができます。(28歳、性虐待被害者、摂食障害+PTSD+解離性障害の女性) ◆[ウソつきの訳] いつのころからか、自分の体を2人以上の人が共有して生活していました。他人からは同じ人でも、私たちにとっては、それぞれは別の人です。子供のころから、自分に身の覚えのない出来事の責任をとらされたり、嘘つき呼ばわりされました。はっきり、「あなたは優しくていい人だけど、ただ、時々ウソをつくところだけが欠点よね」と言われたこともあります。小学校高学年からは、絶対に自分じゃない、記憶がないという時でも、ごめんなさい、と謝ることにしていました。経験的に、自分の記憶に頼ってスジを通そうとすると、ひどい結果になると分かっていましたから。そういう理不尽なことが��うして起こるのか理解できたのは、多重人格という診断をつけられて、その説明を聞いてからです。(解離性同一性障害の女性) ◆[解離性フラッシュバック] 突然彼は、子供時代の��待体験を思い出すらしく、殴られる子供のように、頭を両手で防護して、「どうして僕をいじめるの」と言って泣きじゃくるのです。そうかと思うと、私が彼の言い分に反発して、2人が対立したりした時、すごい勢いで怒って、飛びかかってきます。いずれの時も、普段の彼とは全く違う別の人に変わっています。また、後で聞いてみても本人には記憶がないようです。(解離性フラッシュバックと解離性同一性障害を持つ男性の恋人) ◆[誘発されたフラッシュバック] 早稲田大学学生による女子大生レイプ事件以来、自分自身がその事件に巻き込まれているという悪夢でうなされます。頭ががんがんして、冷汗をびっしょりかいて目覚めます。目が覚めても動悸が治まらず、本当に今はもう大丈夫なのか、自問自答してもなお現実感がなくて、安心できない時には、自分の腕を強くつねってしまいます(20歳、21歳時の2回レイプ被害を受けた女性)。 ◆[自傷行為] 私が幼稚園の頃から、家の中では暴力と叫びが飛び交っていました。父が刃物を持って荒れ狂い、しばしば母や兄を傷つけていました。なぜか父は私には暴力はふるいませんでしたが、私は高校時代から自分で自分を傷つけるようになりました。家族を父の暴力から守れなかった自分が許せませんでした。自室に隠れて両方の前腕をカッターで切ります。痛みはほとんどありませんでした。母や兄が傷つけられる時の方がもっと痛みを感じたような気がするくらいです。切傷がぱっくり開くとほっとしました。自室には消毒薬や包帯があって、隠れて自分で治療しますが、たまに深く切りすぎるとその時に少し痛むだけです。火傷をつくることもあります。ホスピタルに来て、多くの自傷患者に会い、私だけではないんだ、と分かりました。自傷の理由付け、やり方などは、それぞれ少しずつ違うようですが、あまり痛みを感じないのは共通しているように思います。 ◆[死んだ心のまま生きてきました] 多分3歳頃から父の性虐待を受けていました。記憶が曖昧と言えば確かにそうです。でも幼稚園頃からの記憶は確かです。それは小学6年の初潮の時まで続きました。その年、最初の自殺未遂をしました。「なぜ親にもらった命を粗末にするんだ」といって、父から殴られました。私の心はそのとき死にました。24歳の今日まで死んだ心のまま生きてきました。6ヵ月前のある日、突然頭の中に虐待の時の状況や映像、感覚が溢れ出しました。以来、今日まで1日も心が休まることがありません。気がつくと壁に頭を打ちつけています。その時の私は5歳だったり、10歳だったりします。夕方にそういう状態になることが多いのは、夕方に虐待を受けたことが多かったからのようです。 ◆[リカバードメモリー] 夫に言われるまで、私自身、自分にそんな問題があるとは知りませんでした。結婚して3ヵ月ほどしてから、夫に言われました。時々セックスの時、私が「パパ止めて!止めて!お願い」と大声で叫ぶのだそうです。その時、夫から見て私はパニック状態か茫然自失状態の別人になっているということです。完全な失神状態のこともあります。私自身の体験としては、セックスの途中から空白状態で記憶がなく、���ったりと疲れた状態で目覚めます。 夫に指摘されてから数カ月の間に、少しずつ、少しずつ記憶がよみがえってきました。―― 以前から、私の小学校時代以前の記憶には霧のような幕がかかっていたのです。―― 私の幼児期、父は情緒不安定な暴君でした。両親の夫婦仲が悪く、両親は別室で寝ていました。幼稚園から小学時代、私はいつも「膀胱炎」を起こしていました。母からは「膀胱炎」と言われながら、なぜか私は近所の小児科医ではなく、隣町の産婦人科を受診していました。そこでの治療(の一部)は膣にめんぼうを差込み、性器の周りに軟膏をつけるというものでした。同じ頃、私はひどくませていて、同級生の女子の性器に関心を持ち、いたずらをした記憶があります。私はパパのベッドが怖くて近づけませんでした。小学校時代、夜起きると、自分の股の間に、男性の頭があるという体験が何度かありました。小学低学年の頃、私は夜間にふらふらと外出して徘徊し、近所の人や警察に保護されたことが何度かありました。「夢遊病」と言われていました。小学3年の時、夜間に自宅の階段から転げ落ちて、右手首を骨折しました。何かから逃げ出そうとしたのです。私の寝室とトイレは1階にあり、夜間私が2階に行く理由は何もありません。2階には父が寝ていました。その後、しばらくは母が私と一緒に寝てくれました。その母は病弱で、私が高校生の時、なくなりました。そして最後に、私は夫以外の男性を知りません。男性恐怖症なのです。夫は一見したところ性別が分からないほど女性的です。考え始めると、頭痛がしたり、恐怖感で体が震えだし、続けられません。今のところ、それ以上は思い出せません。 私は、高校時代から、軽度の摂食障害(拒食と過食の繰返し)と自傷行為(手首切り)の癖がありましたが、受診したことはありませんでした。結婚1年目に安定剤とアルコールの乱用を繰返し、専門病院に入院になりました。 (21歳、解離性障害の女性。いわゆる幼児期の性虐待の記憶回復、リカバードメモリーの症例) ◆[母の解離性障害] 私の日記帳にクレヨンで子供っぽいいたずら書きをしたり、最近では、いじわるなコメントを書き込んで嫌がらせをしている人が私自身の別人格以外には考えられないので、ようやく自分の解離性同一性障害の診断を受け入れることができるようになりました。そして治療面接で、自分の子供時代を振り返っていた時、思い出しました。母は情緒不安定で、よく左手首を傷つけて包帯をしていました。私の目の前で手首切りをしたこともあります。私が小学校5年位の時、両親が派手な夫婦喧嘩をした後で、確かに母が3歳くらいの幼児になったのです。母のその姿を見ると、父は攻撃の手を緩め、「わかった、わかった」と言いながら、どこかに行ってしまいました。私は一人で幼児語を使う母の相手をしていました。よく考えると、その前にも、その後にも、母が幼児になることが時々ありました。人が変ったように乱暴な人格になることもありました。そのなぞがやっと解けました。母も解離性同一性障害だったのですね。(28歳、解離性同一性障害の女性) ◆[痛覚脱失] 子供の頃からよく両親に物差しで殴られていました。そのうちに、お仕置きの時に、自分を地球の外、宇宙のかなたにパッと自由に飛ばすことができるようになりました。そうすると痛みをほとんど感じなくてすむのです。お仕置きの時にも私が泣かないので、両親は私をかわいくないと思ったらしく、だんだん虐待の手段がエスカレートしてきました。小学3年の時、私の万引が見つかって、母が学校に呼ばれました。家に帰ると、両親で話し合った後、父がモグサを持ってきて私の目の前に置き、母がいつになく優しい声で、「今日は、少し痛いお仕置きをしましょうね」と言いました。すぐに両親が何をしようとしているか分かりました。私は「いいわよ。どうぞ」と返事しました。ほかに何ができるでしょう。その前のお仕置きでおしっこをもらしてもう1度叩かれたので、その時私は先にトイレに行って、静かにテーブルの前に座り、父に言われるままに左手を差し出しました。私の小さな左手の人差し指と中指の間でモグサがぶすぶす燃え、肉が焼け、煙が上がるのを私はじっと見ていました。今でもその傷が残っています。でもその時は全く痛みを感じませんでした。そしてその時以来、私は急性の痛みに関しては、どんな痛みも感じません。痛みからは自由になりました。ただ、その頃から小動物をいじめたり、自分で自分をひどく傷つける(左手に火傷を作り、手首や前腕を刃物で切り刻む)癖が始まりました。(身体的虐待や性的虐待、痛みを伴う医学的処置などを繰返し受けた子どもでは、このような高度の自己催眠の能力が見られます。このような人々の一部は成人後でも、意識的に、あるいは危機状態でほぼ自動的に、解離状態を作ることができます) ◆[暴力と離人症] 暴力場面を見たり聞いたりした時、あるいは暴力を予感させるような場面で、私は突然おかしな感覚に陥ります。海の底からぼやけた太陽を見上げるような感覚です。恐怖で気が遠くなり、金縛り状態で動けなくなります。時間が止まって永遠に続くような気がしますが、実際は2、3時間で徐々に回復するようです。これは、子供の頃、父から暴力を受けていた時の感覚です。忘れたいのに忘れられない恐怖の記憶です。一度この状態になると、その後数日間は、現実感がなく感覚が鈍くなったような、おかしな精神状態になります。「離人症」というのだそうです。私は、「もう嫌、この記憶を私の頭から消し去って!」と心の中で叫びます。でもそうすると、一方で、「どうして私を忘れるの?」と、私の中の小さな声が聞こえます。自分でもこれが幻聴だとは分かりますが、はっきりとした現実の声です。 (1999.10. Y.K. ) ◆[空白の時間] 5歳のとき、両親が離婚しました。子供の頃、お母さんから殴られる毎日の中で、「自分は悪い夢を見ているだけだ。目が覚めると、お母さんは優しくて、お父さんも一緒にいて、友達もいっぱいいて、あしたは夢から覚める」、と思うようにしていました。でも、悪夢から覚めないまま、思春期になりました。小学生高学年から、記憶が飛ぶことがあって、空白の時間の出来事について、お母さんや友達から嘘つき呼ばわりされました。お母さんにぶたれたときに机の角に頭をぶつけたからだろうと思っていました。今から考えると、中学2年頃から別人格があったみたいです。自分の体験としては空白の数時間があって、その間に誰かに会ったりしているらしく、後で友達からそれを指摘され、その時の様子が変だったと言われるのですが、私にはまるで記憶がないのです。そんなことがあって、もともと数少ない友達が離れていき、だんだんと孤立してしまい、いじめを受けるようになりました。17歳の時、数年ぶりで会った父が、私の人格変化(スイッチング)に気づき、驚いて「多重人格」についてインターネットで検索してこのホームページにたどり着きました。父が私をホスピタルに連れて来てくれました。(解離性同一性障害の女性、17歳) ◆[妹への虐待] 母のしつけは、はっきり言って虐待でした。私もたまには殴られましたが、母の暴力の大部分は2歳年下の妹に向かいました。どういう訳か妹は要領が悪くて、ヘマをしては母に殴られていました。 私は15歳から摂食障害になりました。やがて自傷行為が始まりました。治療の甲斐もなく、病気はどんどん進行しました。最近、手首を切りながら、���を救えなかった自分、生き残った自分を責め、妹の苦痛を分かち合おうとしている自分に気づきました。摂食障害になって6年目です。封印していた思い出をやっと主治医に話せました。 妹が7歳の時です。反抗的だった妹が母に殴られたうえに庭に放り出されました。寒くて凍えそうな雪の日の夕暮れ時でした。薄着の妹は、寒くてたまらず、犬小屋に入り込んで、犬にしがみついていました。私は母に「かわいそうだから助けてあげて」と嘆願しました。母の返事は「おまえも外で過ごすか」でした。私は怖くて震え上がり、それ以上何もできませんでした。母の目を盗んで、妹を見に行ったけれど、どうすることもできないので、妹のことを頭から消し去り忘れるように自分に言い聞かせました。それでも心配でたまらないので、妹とけんかしたときのことをいっぱい思い出して、頭の中で妹をむりやり「悪い子」にしたてあげました。その事件の結末は思い出せません。数年後に妹は池に落ちて水死しました。その後私は、何度かこのことを思い出しそうになりましたが、その度に自分の頭から妹を消し去る魔法をかけていました。でも最近魔法が効かなくなって、その時の情景が頭からあふれ出し、離れなくなったのです。 この病院で、摂食障害に加えて解離性同一性障害と診断されました。9歳の女の子になるのです。そのほかにも数人の人格があります。ずっと前からその症状があったようです。
http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/dissociation_example.htm
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ひとみに映る影シーズン2 第五話「大妖怪合戦」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第五弾 後女津親子「KAZUSA」はこちら!☆
དང་པོ་
河童信者に手を引かれ、私達は表に出る。小学校は休み時間にも関わらず、校庭に子供達が一人もいない。代わりに何故か、島の屈強そうな男達が待ち構えていた。 「いたぞ! 救済を!」「救済を!」 「え、何……わあぁっ何を!?」 島民達は異様な目つきで青木さんを襲撃! 青木さんは咄嗟に振り払い逃走。しかし校外からどんどん島民が押し寄せる。人一倍大柄な彼も、多勢に組み付かれれば為す術もないだろう! 「助けて! とと、止まってください!!」 「「救済を……救済を……!」」 ゾンビのようにうわ言を呟きながら青木さんを追う島民達。見た限り明確な悪霊��いないようだけど、昨晩の一件然り。彼らが何らかの理由で正気を失っている可能性は高い! このままでは捕まってしまう……その時タナカDが佳奈さんにカメラを預け、荒れ狂う島民達と青木さんの間に入った! 「志多田さん、紅さん、先に行って下さい! ここは僕が食い止めゴハアァ!!」 タナカDに漁師風島民のチョークタックルが炸裂! 「タナカDーっ!」 「と……ともかく行け! 音はカメラマイクでいいから、ばっちり心霊収めてきて下さいよッ……!」 「い、行きましょう! ともかく大師が大変なんです!!」 河童信者に急かされ、私と佳奈さんは月蔵小学校を離れた。傾斜が急な亡目坂を息絶えだえに駆け上がると、案内された先は再び御戌神社。嫌な予感が募る。牛久大師は……いた。大散減を封印していた祠にだらりと寄りかかり、足を投げ出して座っている。しかも、祠の護符が剥がされている! 「んあー……まぁま、まぁまぁ……」 牛久大師は赤子のように指を咥え、私を見るなりママと呼び始めた。 「う……牛久大師?」 「この通りなのです。大師は除霊のために祠の御札を剥がして、そうしたら……き、急に赤ちゃんに……」 河童信者は指先が震えている。大師は四つん這いで私ににじり寄った。 「え、あの……」 「エヘヘ、まんまー! ぱいぱい! ぱいぱいチュッチュ!!」 大師が口をすぼめて更ににじり寄る。息が臭い。大師のひん剥いた唇の裏側にはビッシリと毛穴ような細孔が空いていて、その一粒一粒にキャビアみたいな黒い汚れが詰まっている。その余りにも気色悪い裏唇が大師の顔の皮を裏返すように広がっていき……って、これはまさか! 「ヒィィィッ! 寄るな、化け物!!」 私は咄嗟に牛久大師を蹴り飛ばしてしまった。今のは御戌神社や倶利伽羅と同じ、金剛の者に見える穢れた幻視!? という事は、大師は既に…… 「……ふっふっふっふ。かーっぱっぱっぱっぱっぱ!!」 突然大師は赤子の振りを止め、すくっと立ち上がった。その顔は既に平常時に戻っている。 「ドッキリ大成功ー! 河童の家でーす!」 「かーっぱっぱ!」「かっぱっぱっぱ!」 先程まで俯いていた河童信者も、堰を切ったように笑い出す。 「いやぁパッパッパ。一度でいいから、紅一美君を騙してみたかったのだ! 本気で心配してくれたかね?」 「かっぱっぱ!!」「かっぱっぱっぱぁーっ!!」 私が絶句していると、河童の家は殊更大きく笑い声を上げた。けどよく見ると、目が怯えている? 更には何故か地面に倒れたまま動かない信者や、声がかすれて笑う事すらままならない信者もいるようだ。すると大師はピタリと笑顔を止め、その笑っていない信者を睨んだ。 「……おん? なんだお前、どうした。面白くないか?」 大師と目が合った信者はビクリと後ずさり、泣きそうな声で笑おうと努力する。 「かかッ……かっぱ……かぱぱ……」 「面、白、く、ないのか???」 大師は更に高圧的に声を荒らげた。 「お前は普段きちんと勤行してるのか? 笑顔に勝る力無し。教祖の俺が面白い事を言ったら笑う。教義以前に人として当たり前のマナーだろ、エエッ!?」 「ひゃいぁ!! そそ、そ、その通りです! メッチャおもろかったです!!」 「面白かったんなら笑えよ!! はぁ、空気悪くしやがって」 すると大師は信者を指さし、「バーン」と銃を撃つ真似をする。 「ひいっ……え?」 「『ひいっ……え?』じゃねえだろ? 人が『バーン』っつったら傷口を抑えて『なんじゃカパあぁぁ!?』。常識だろ!?」 「あっあっ、すいません、すいません……」 「わかったか」 「はい」 「本当にわかったか? もっかい撃つぞ!」 「はい!」 「ほら【バーン】!」 「なんじゃッ……エッ……��……!?」 信者は大師が期待するリアクションを取らず、口から一筋の血を垂らして倒れた。数秒後、彼の腹部から血溜まりが静かに広がっていく。他の信者達は顔面蒼白、一方佳奈さんは何が起きたか理解できず唖然としている。彼は……牛久大師の脳力、声による衝撃波で実際に『銃殺』されたんだ。 「ああもう、下手糞」 「……うわああぁぁ!」「助けてくれーーっ!!」 信者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。すると大師は深くため息をつき、 「はあぁぁぁ……そこは笑う所だろうが……【カーッパッパァ】!!!」 再び特殊な声を発した。すると祠から大量の散減がワサワサと吹き出し、信者達を襲撃する! 「ボゴゴボーーッ!」「やめ、やめて大師、やめアバーーッ!」 信者達は散減に体を食い荒らされ、口に汚染母乳を注ぎこまれ、まさに虫に寄生された動物のようにもんどり打つ! 「どうだ、これが笑顔の力よ。かっぱっぱ!」 「牛久舎登大師! 封印を解いて、どうなるかわかってるんですか!?」 私は大師を睨みつける。すると大師は首をぐるりと傾け、私に醜悪な笑みを浮かべた。 「ん? 除霊を依頼された俺が札を剥がすのに何の問題がある? 最も、俺は最初(ハナ)からそうするつもりで千里が島に来たのだ」 「何ですって!?」 「コンペに参加する前から、千里が島には大散減という怪物がいると聞いていた……もし俺がそいつを除霊できれば、河童の家は全国、いや世界規模に拡大する! そう思っていたのだがな。封印を解いてみたら、少しだけ気が変わったよ……」 大師は祠を愛おしそうに撫で回す。 「大散減は俺を攻撃するどころか、法力を授けてくれた。この俺の特殊脳力『ホーミー』の音圧は更に強力になり、もはや信者の助けなどなくとも声で他人を殺せるほどにだ!」 信者達は絶望的な顔で大師を見ている。この男、どうやら大散減に縁を食われたようだ。怪物の悪縁に操られているとも気付かず、与えられた力に陶酔してしまったのだろう。 「もう除霊なんかやめだ、やめ。俺は大散減を河童総本山に連れて帰り、生き神として君臨してやる! だがその前に、お前と一戦交えてみたかったのだ……ワヤン不動よ!」 「!」 彼は再び私を『ワヤン不動』と呼んだ。しかもよりによって、佳奈さんの目の前で。 「え、一美ちゃん……牛久大師と知り合いなの……?」 「いいえ……い、一体、何の話ですか?」 「とぼけるな、紅一美君! 知っているぞ、お前の正体はワヤン不動。背中に影でできた漆黒の炎を纏い、脚まで届く長い腕で燃え盛る龍の剣を振るう半人半仏の影人間(シャドーパーソン)だ! 当然そこいらの霊能者とは比べ物にならない猛者だろう。しかも大いなる神仏に楯突く悪霊の眷属だと聞くが」 「和尚様を愚弄するな!」 あっ、しまった! 「一美ちゃん……?」 もう、全てを明かすしかないのか……私はついに、プルパに手をかけた。しかしその時、佳奈さんが私の腕を掴む。 「わかった、一美ちゃん逃げよう。今この人に関わっちゃダメ! 河童信者も苦しそうだし、きっと祠のせいで錯乱してるんだよ!」 「佳奈さん……」 佳奈さんは私を連れて鳥居に走った。けど鳥居周辺には何匹もの散減が待ち構えている! 「かぁーっぱっぱ、何も知らぬカラキシ小娘め! その女の本性を見よ!」 このままでは散減に襲われるか正体がばれるかの二択。それなら私の取るべき行動は、決まりきっている! 「佳奈さん、止まって!」 私は佳奈さんを抱き止め、足元から二人分の影を持ち上げた! 念力で光の屈折を強め、影表面の明暗コントラストを極限まで高めてから……一気に放出する! 「マバーッ!」「ンマウゥーッ!」 今は昨晩とは打って変わって快晴。強烈な光と影の熱エネルギーを浴びた散減はたちまち集団炎上! けど、これでついに…… 「かーっぱぱぱ!! ワヤン不動、正体暴いたり! さあ、これで心置き無く戦え「どうやら間に合ったようですね」 その時、鳥居の外から牛久大師の言葉を遮る声。そして、ぽん、ぽこぽん、と小気味よい小太鼓のような音。 「誰だ!?」 ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽん……それは化け狸の腹鼓。鳥居をくぐり現れた後女津親子は、私達と牛久大師の間に立ちはだかった! 「『ラスタな狸』が知らせてくれたんですよ。牛久舎登大師が大散減に取り憑かれて錯乱し、したたびさんに難癖をつけているとね。だが、この方々には指一本触れさせない」 「約束通り、手柄は奪わせてもらったよ。ぽんぽこぽーん!」 万狸ちゃんが私にウインクし、斉二さんはお腹をぽんと叩いてみせる。 「ええい、退け雑魚め! お前などに興味は【なあぁいッ】!!」 大師の声が響くと、祠がズルリと傾き倒れた。そこから今までで最大級のおぞましい瘴気が上がり、大師を飲み込んでいく! 「クアァーーッパッパッパァ! 力が……力がみなぎってくるくるクルクルグゥルゥゥゥアアアアア!!!!」 バキン、ボキン! 大師の胸部から肋骨が一本ずつ飛び出し、毛の生えた大脚に成長していく! 「な……なっ……!?」 それは霊感のない者にも見える物理的光景だ。佳奈さんは初めて目の当たりにした心霊現象に、ただただ腰を抜かす。しかし後女津親子は怯まない! 「逃げて下さい、と言いたいところですが……この島に、私の背中よりも安全な場所はなさそうだ」
གཉིས་པ་
斉一さんはトレードマークである狸マントの裾から、琵琶に似た弦楽器を取り出した。同時に彼の臀部には超自然の尻尾が生え、万狸ちゃんと斉二さんも臨戦態勢に入る。病院で加賀繍さんのおばさまを守っている斉三さんは不在だ。一方ついさっきまで牛久大師だった怪獣は、毛むくじゃらの細長い八本足に八つの顔。頂上にそびえる胴体は河童の名残の禿頭。巨大ザトウムシ、大散減だ! 【【退け、雑魚が! 化け狸なんぞに興味はない! クァーッパッパァアア!!!】】 縦横五メートル級の巨体から放たれる衝撃音! 同時に斉一さんもシャラランと弦楽器を鳴らす。すると弦の音色は爆音に呑み込まれる事無く神秘的に響き、私達の周囲のみ衝撃を打ち消した! 【何ィ!?】 「その言葉、そのままお返し致します。河童なんぞに負けたら妖怪の沽券に関わるのでね」 【貴様アァァ!!】 チャン、チャン、チャン、チャン……爪弾かれる根色で気枯地が浄化されていくように、彼の周囲の景色が色鮮やかになっていく。よく見るとその不思議な弦は、斉一さんの尻尾から伸びる極彩色の糸が張られていた。レゲエめいたリズムに合わせて万狸ちゃんがぽんぽこと腹鼓を打ち、斉二さんは尻尾から糸を周囲の木々や屋根に伝わせる。 【ウヌゥゥゥーッ!】 大散減は斉一さんに足払いを仕掛けた。砂利が撒き上がり、すわ斉一さんのマントがフワリと浮く……と思いきや、ドロン! 次の瞬間、私達の目の前では狸妖怪と化した斉一さんが、涼しい顔のまま弦をかき鳴らし続けている。幽体離脱で物理攻撃無効! 「どこ見てんだ、ノロマ!」 大散減の遥か後方、後女津斉一の肉体を回しているのは斉二さんだ! 木々に伝わせた糸を掴み、ターザンの如くサッサと飛び移っていく。そのスピードとテクニックは斉一さんや斉三さんには無い、彼だけの力のようだ。大散減は癇癪を起こしたように突進、しかし追いつけない! すると一方、腹鼓を打っていた万狸ちゃんが大散減に牙を剥く! 「準備オッケー。ぽーん、ぽっこ……どぉーーーん!!」 ドコドコドコドコドコドォン!!!! 張り巡らされた糸の上で器用に身を翻した万狸ちゃんは、無数の茶釜に妖怪変化し大散減に降り注ぐ! 恐竜も泣いて絶滅する大破壊隕石群、ブンブクメテオバーストだ!! 【ドワーーーッ!!!】 大散減はギャグ漫画的なリアクションと共に吹っ飛んだ! 樹齢百年はあろう立派な椎木に叩きつけられ、足が一本メコリとへし折れる。その傷口から穢れた縁母乳が噴出すると、大散減はグルグルと身を回転し飛沫を撒き散らした! 椎木枯死! 「ッうおぁ!」 飛び石が当たって墜落した斉二さんの後頭部に穢れ母乳がかかる。付着部位はまるで硫酸のように焼け、鼻につく激臭を放つ。 「斉二さん!」 「イテテ、マントがなかったら禿げるところだった」 【なんだとッ!? 貴様ァ! 河童ヘアを愚弄するなアアァ!】 再び起き上がる大散減。また何か音波攻撃を仕掛けようとしている!? 「おい斉一、まだか!」 「まだ……いや、行っちまうか」 ジャカジャランッ!! 弦楽器が一際強いストロークで奏でられると、御戌神社が極彩色に包まれた! 草花は季節感を無視して咲き乱れ、虫や動物が飛び出し、あらゆる動物霊やエクトプラズムが宙を舞う。斉一さんは側転しながら本体に戻り、万狸ちゃんも次の妖怪変化に先駆けて腹鼓を強打する! 「縁亡き哀れな怪物よ、とくと見ろ。この気枯地で生ける命の縁を!」 ジャカン!! ザワワワワ、ピィーッギャァギャァーッ! 弦の一弾きで森羅万象が後女津親子に味方し、花鳥風月が大散減を襲う! 千里が島の全ての命を踊らせる狸囃子、これが地相鑑定士の戦い方だ! 【【しゃらくせェェェェェエエエ!!】】 キイィィーーーーィィン! 耳をつんざく超音波! 満ち満ちていた動植物はパタパタと倒れ、霊魂達は分解霧散! 再び気枯た世界で、大散減の一足がニタリと笑い顔を上げると……目の前には依然として生い茂る竹藪の群青、そして大鎌に化けた万狸ちゃん! 「竹の生命力なめんなあああぁぁ!!!」 大鎌万狸ちゃんは��藪をスパンスパンとぶった斬り、妖力で大散減に投げつける。竹伐狸(たけきりだぬき)の竹槍千本ノックだ! 【ドヘェーーー!!】 針山にされた大散減は昭和のコメディ番組のようにひっくり返る! シャンパン栓が抜かれるように足が三本吹き飛び、穢れ母乳の噴水が宙に螺旋を描いた! 「一美ちゃん、一瞬パパ頼んでいい?」 万狸ちゃんに声をかけられると、斉一さんが再び私達の前に戻ってきた。目で合図し合い、私は影を伸ばして斉一さんの肉体に重ねる。念力を送りこんで彼に半憑依すると同時に、斉一さんは化け狸になって飛び出した。 【【何が縁だクソが! 雑魚はさっさと死んで分解霧散して強者の養分になればいい、最後に笑うのは俺だけでいいんだよ! 弱肉強食、それ以外の余計な縁はいらねぇだろうがああァーーッ!!!】】 大散減は残った四本足で立ち上がろうとするが、何故かその場から動けない。よく見ると、大散減の足元に河童信者達がしがみついている! 「大師、もうやめてくれ!」 「私達の好きだった貴方は、こんなつまらない怪物じゃなかった!」 「やってくれ、狸さん。みんなの笑顔の為にやってくれーーーッ!!」 【やめろ、お前ら……死に損ないが!!】 大散減はかつての仲間達を振り飛ばした。この怪物にもはや人間との縁は微塵も残っていないんだ! 「大散減、許さない!」 ドォンッ! 心臓に響くような強い腹鼓を合図に、万狸ちゃんに斉一さんと斉二さんが合体する。すると全ての霊魂や動植物を取り込むような竜巻が起こり、やがて巨大な生命力の塊を形成した。あれは日本最大級の狸妖怪変化、大(おっ)かむろだ! 「どおおぉぉぉおおん!!!」 大かむろが大散減目掛けて垂直落下! 衝撃で地が揺れ、草花が舞い、カラフルな光の糸が空を染める!! 【【やめろーーっ! 俺の身体が……力がァァァーーーッ!!!】】 質量とエーテル体の塊にのしかかられた大散減はブチブチと音を立て全身崩壊! 残った足が一本、二本と次々に潰れていく。 【【【ズコオオォォォォーーーーー!!!!】】】 極彩色の嵐が炸裂し、私は爆風から佳奈さんを庇うように抱きしめる。轟音と光が収まって顔を上げると、そこには元通りに分かれた後女津親子、血や汚れにまみれた河童信者、そして幾つもの命が佇んでいた。
གསུམ་པ་
「一美ちゃーーん!」 戦いを終えた万狸ちゃんが私に飛びついた。支えきれず、尻餅をつく。 「きゃっ!」 「ねえねえ、見た? 私の妖術凄かったでしょ!?」 「こら、万狸! 紅さんに今そんな事したら……」 斉一さんがちらっと佳奈さんに視線を向けた。万狸ちゃんは慌てて私から離れ、「はわわぁ! 危ない危ない~」と可愛く腹鼓を叩いた。私も横を見ると、幸い佳奈さんは目を閉じて何か考えているようだった。 「佳奈さん?」 「……そうだよ、怪物は『五十尺』……気をつけて、大散減まだ死んでないかも!」 「え!?」 その時、ズガガガガガ! 地面が激しく揺れだす。後女津親子は三人背中合わせになり周囲を警戒。佳奈さんがバランスを崩して転倒しそうになる。抱きとめて辺りを見渡すと、祠と反対側の手洗い場に煙突のように巨大な柱が天高く突き上がった! 柱は元牛久大師だったご遺体をかっさらって飲み込む。咀嚼しながらぐにゃりと曲がり、その先端には目のない顔。まさか、これは…… 「大散減の……足!」 「ちょっと待って下さい。志多田さん……『大散減は五十尺』と仰いましたか!?」 斉一さんが血相を変えて聞く。言われてみれば、青木さんもそんな事を言っていた気がする。 「あの、こんな時にすいません。五十尺ってどれくらいなんですか?」 「「十五メートルだよ!!」」 「どえええぇぇ!?」 恥ずかしい事に知らないのは私とタナカDだけだったようだ。にわかには信じ難いけど、体長十五メートルの怪物大散減は、地中にずっと潜んでいたんだ! その寸法によると、牛久大師が取り込んでいた力は大散減の足一本程度にも満たない事になる。ところが、大師を飲み込んだ大散減の足はそのまま動かなくなった。 「あ……あれ?」 万狸ちゃんは恐る恐る足に近付き観察する。 「……消化不良かな。封印するなら今がチャンスみたい」 斉一さんと斉二さんは尻尾の糸の残量を確認する。ところがさっきの戦闘で殆ど使い果たしてしまっていたようた。 「参ったな……これじゃ仮止めの結界すら張れないぞ」 「斉三さんを呼んでくるよ、パパ。ちょっと待ってて!」 万狸ちゃんが亡目坂へ向かう。すると突然斉一さんが呼び止めた。 「止まれ、万狸!」 「え?」 ボタッ。振り向いた万狸ちゃんの背後で何かが落下した。見るとそれは……まだ赤い血に濡れた人骨。それも肋骨だ! 「ンマアアアァァゥゥゥ!!!」 「ち、散減!?」 肋骨は金切り声を上げ散減に変化! 万狸ちゃんが慌てて飛び退くも、散減は彼女を一瞥もせず大散減のもとへ向かう。そしてまだ穢れていない母乳を口角から零しながら、自ら大散減の口の中へ飛びこんでいった。 「一美ちゃん、狸おじさん、あれ!」 佳奈さんが上空を指す。見上げるとそこには、宙に浮かぶ謎の獣。チベタンマスティフを彷彿とさせる超大型犬で、毛並みはガス火のように青白く輝いている。ライオンに似たたてがみがあり、額には星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符。首には首輪めいて注連縄が巻かれていて、そこに幾つか人間の頭蓋骨があしらわれている。目は白目がなく、代わりにまるで皆既日蝕のような光輪が黒い眼孔内で燦然と輝く。その獣が鮮血滴る肋骨を幾つも溢れるほど口に咥え、グルグルと唸っているんだ。私と佳奈さんの脳裏に、同じ歌が思い浮かぶ。 「誰かが絵筆を落としたら……」 「お空で見下ろす二つの目……月と太陽……」 今ようやく、あの民謡の全ての意味が明らかになった。一本線を足した星型の記号、そして大散減に危害を加えると現れる、日蝕の目を持つ獣。そうだ。千里が島にいる怪物は散減だけじゃない。江戸時代に縁を失い邪神となった哀れな少年、徳川徳松……御戌神! 「ガォォォ!!」 御戌神が吠え、肋骨をガラガラと落とした。肋骨が散減になると同時に御戌神も垂直降下し万狸ちゃんを狙う! 「万狸!」 すかさず斉二さんが残り僅かな糸を伸ばし、近くの椎木の幹に空中ブランコをかけ万狸ちゃんを救出。但しこれで、後女津親子の妖力残量が尽きてしまった。一方御戌神は、今度は斉一さんを狙い走りだす! 一目散に逃走しても、巨犬に人間が追いつけるわけもなし。斉一さんは呆気なく押し倒されてしまった。 「うわあぁ!」 「パパ!!」 斉一さんを羽交い締めにした御戌神は大口を開く! 今まさに肋骨を食いちぎろうとした、その時……御戌神の視界を突如闇が覆う! 「グァ!?」 御戌神は両目を抑えてよろめく。その隙に斉一さんは脱出。佳奈さんが驚愕した顔で私を見る……。 「斉一さん、斉二さん、万狸ちゃん。今までお気遣い頂いたのに、すみません……でももう、緊急事態だから」 私の影は右手部分でスッパリと切れている。御戌神に目くらましをするために、切り取って投げたんだ。 「じゃ、じゃあ一美ちゃんって、本当に……」 「グルアァァ!!」 佳奈さんが言いかけた途中、私は影を介して静電気のような痛みを受ける。御戌神は自力で目の影を剥がしたようだ。それが出来るという事は、彼も私と同じような力を持っているのか? 「……大師の言ったことは、三分の一ぐらい本当です」 御戌神が私に牙を剥く! 私はさっき大師の前でやった時と同じように、影表面の光の屈折率を上げる。表面は銀色の光沢を帯び、瞬く間に鏡のようになる。 「ガルル……!」 この『影鏡』で御戌神を取り囲み撹乱しつつ、ひとまず佳奈さん達から離れる。けど御戌神はすぐに追ってくるだろう。 「ワヤンの力は影の炎。魂を燃やして、悪霊を焼くんです」 逃げながら木や物の影を私の姿に整形、『タルパ』という法力で最低限動き回れるだけの自立した魂を与える。 「けど、その力は本当に許してはいけない、滅ぼさなきゃいけない相手にしか使いません。だぶか私には、そうでもしなきゃいけない敵がいるって事です」 ヴァンッと電流のような音がして、御戌神が影鏡を突破した。私は既に自分にも影を纏い、傍目には影分身と見分けがつかなくなっている。けど御戌神は一切迷いなく、私目掛けて走ってきた。 「霊感がある事、黙っていてすみませんでした。けど私に僅かでも力がある事が公になったら、きっと余計な災いを招いてしまう」 それは想定内だ。走ってくる御戌神の前に影分身達が立ちはだかり、全員同時自爆! 無論それは神様にとって微々たるダメージ。でも隙を作るには十分な火力だ。御戌神の背後を取り、『影踏み』で完全に身動きを封じる! 「佳奈さんは特に、巻き込みたくなかったんです……きゃっ!?」 突然御戌神が激しく発光し、影踏みの術をかき消した。影と心身を繋いでいた私も後方に吹き飛ばされる。ドラマや舞台出演で鍛えたアクションで何とか受身を取るも、顔を上げると既に御戌神は目の前! 「……え?」 私はこの時初めてちゃんと目が合った御戌神に、一瞬だけ子犬のように切なげな表情を見た。この戌……いや、この人は、まさか…… 「ガルルル!」 「くっ」 牙を剥かれて慌てて影を持ち上げ、気休めにもならないバリアを張る。ところが御戌神は意外にも、そんな脆弱なバリアにぶち当たって停止してしまった。私の方には殆ど負荷がかかっていない。よく見ると御戌神とバリアの間にもう一層、光の壁のようなものがあるのが見える。やっぱり彼は私と同じ……いや、逆。光にまつわる力を持っているようだ。 「あなた、ひょっとして……本当は戦いたくないんですか?」 「!」 一瞬私の話に気を取られた御戌神は、光の壁に押し戻されて後ずさった。日蝕の瞳をよく見ると、月部分に覆われた裏側で太陽の瞳孔が物言いたげに燻っている。 「やっぱり、大散減の悪縁に操られているだけなんですね」 私も彼と戦いたくない。だからまだプルパは鞄の中だ。代わりに首にかけていたお守り、キョンジャクのペンダントを取った。御戌神は自らの光に苦しむように、唸りながら地面を転がり回る。 「グルル……ゥウウウ、ガオォォ!!」 光を振り払い、御戌神は再び私に突進! 私も御戌神目掛けてキョンジャクを投げる。ペンダントヘッドからエクトプラズム環が膨張し、投げ縄のように御戌神を捕らえた! 「ギャウッ!」 御戌神はキョンジャクに縛られ転倒、ジタバタともがく。しかし数秒のうちに、憑き物が取れたように大人しくなった。これは気が乱れてしまった魂を正常に戻す、私にキョンジャクをくれた友達の霊能力によるものだ。隣にしゃがんで背中を撫でると、御戌神の目は日蝕が終わるように輝きを増していく。そこからゆっくりと、煤色に濁った涙が一筋流れた。 「ごめんなさい、苦しいですよね。ちょっと大散減を封印してくるので、このまま少し我慢できますか?」 御戌神は「クゥン」と弱々しく鳴き、微かに頷いた。私は御戌神の傍を離れ、地面から突き出た大散減の足に向かう。 「ひ、一美ちゃん!」 突然佳奈さんが叫ぶ。次の瞬間、背後でパシュン! と破裂音が鳴った。何事かと思い振り向くと、御戌神を拘束していたキョンジャクが割れている。御戌神は黒い煙に纏わりつかれ、息苦しそうに体をよじりながら宙に浮き始めた。 「カッ……ガァ……!」 御戌神の顔色がみるみる紅潮し、足をバタつかせて苦悶する。救出に戻ろうと踵を返すと、御戌神を包む黒煙がみるみる人型に固まっていき…… 「躾が足りなかったか? 生贄は生贄の所業を全うしなければならんぞ」 そこには黒い煙の本体が、人間の皮膚から顔と局部だけくり抜いた肉襦袢を着て立っていた。それを見た瞬間、血中にタールが循環するような不快感が私の全身を巡った。 「え、ひょっとしてまた何か出てきたの!?」 「……佳奈さん、斉一さんと一緒に逃げて下さい。噂をすれば、何とやらです」 佳奈さんに見えないのも無理はない。厳密にはその肉襦袢は、死体そのものじゃなくて故人から奪い取った霊力でできている。亡布録(なぶろく)、金剛有明団の冒涜的エーテル法具。 「噂をすればってまさか、一美ちゃんが『絶対に滅ぼさなきゃいけない相手』がそこに……っ!?」 圧。悪いが佳奈さんは視線で黙らせた。これからこの神社は、灼熱地獄と化すのだから。 「い、行こう、志多田さん!」 斉一さん達は佳奈さんや数人の生き残った河童信者を率いて神社から退散した。これで境内に残ったのは、私と御戌神と黒煙のみ。しかし…… 「……どうして黒人なんだ?」 私は黒煙に問いかけた。 「ん?」 「どうして肉襦袢の人種が変わったのかと聞いているんだ。二十二年前、お前はアジア人だっただろう。前の死体はどうした」 「……随分と昔の話をするな、裏切り者の巫女よ。貴様はファッションモデルになったと聞くが、二十年以上一度もコーディネートを変えた事がないのかね?」 煙はさも当然といった反応を返す。この調子なら、こいつは服を買い換える感覚で何人もの肉体や魂を利用していたに違いない。私の、和尚様も。この男が……悪霊の分際で自らを『如来』と名乗��、これまで数え切れない悪行を犯してきた外道野郎が! 「金剛愛輪珠如来(こんごうあいわずにょらい)ィィィーーーッ!!!!」 オム・アムリトドバヴァ・フム・パット! 駆け出しながら心中に真言が響き渡り、私はついに鞄からプルパを取り出す! 憤怒相を湛える馬頭観音が熱を持ち、ヴァンと電磁波を発し炎上! 暗黒の影炎が倶利伽羅龍王を貫く刃渡り四十センチのグルカナイフに変化。完成、倶利伽羅龍王剣! 「私は神影不動明王。憤怒の炎で全てを影に還す……ワヤン不動だ!」 今度こそ、本気の神影繰り(ワヤン・クリ)が始まる。
བཞི་པ་
殺意煮えくり返る憤怒の化身は周囲の散減を手当り次第龍王剣で焼却! 引火に引火が重なり肥大化した影の炎を愛輪珠に叩き込む! 「一生日の当たらない体にしてやる!!」 「愚かな」 愛輪珠は業火を片手で易々と受け止め、くり抜かれた顔面から黒煙を吐出。たちまち周囲の空気が穢れに包まれ、炎が弱まって……いく前に愛輪珠周辺の一帯を焼き尽くす! 「ぐわあぁぁ、やめろ、ギャアアァアガーーーッ!!!」 猛り狂う業火に晒され龍王剣が激痛に叫んだ! しかし宿敵を前にした暴走特急は草の根一本残さない! 「かぁーーっはっはっはァ! ここで会ったがお前の運の尽きよ。滅べ、ほおぉろべえええぇーーーっ!!!」 殺意、憎悪、義憤ンンンンッ! しかし燃え盛る炎の中、 「まるで癇癪を起こした子供だ」 愛輪珠は平然と棒立ちしている。 「どの口が言うか、外道よ! お前が犯してきた罪の数々を鑑みれば癇癪すら生ぬるい。切り刻んだ上で煙も出ないほど焼却してくれようぞおぉぉ!!」 炎をたなびかせ、愛輪珠を何度も叩き斬る! しかし愛輪珠は身動ぎ一つせず、私の攻撃を硬化した煙で防いでしまう。だから何だ、一回で斬れないなら千回斬ればいい! 人生最大の宿敵を何度も斬撃できるなんて、こんなに愉快な事が他にあるだろうか!? 「かぁーはははは! もっと防げ、もっとその煙を浪費するがいい! かぁーはっはっはァ!!」 「やれやれ、そんなにこの私と戯れたいか」 ゴォッ! 顔の無い亡布録から煙が吹き出す。漆黒に燃えていた視界が一瞬にして濁った灰色で染まった。私はたちまち息が出来なくなる。 「ぐ、ァッ……」 酸欠か。これで炎が弱まるかと思ったか? 私の炎は影、酸素など不要だ! 「造作なし!」 意地の再炎上! だぶか島もろとも焼き尽くしてやる…… 「ん?」 シュゴオォォン、ドカカカカァン!! 炎が突然黄土色に変わり、化学反応のように爆ぜた! 「な……カハッ……」 「そのような稚拙な戦い方しか知らずに、よく金剛の楽園に楯突こうと思ったな。哀れな裏切り者の眷族よ」 「だ、黙れ……くあううぅっ!」 炎とはまるで異なる、染みるような激痛が私の体内外を撫で上げる。地面に叩きつけられ、影がビリビリと痙攣した。かくなる上は、更なる火力で黄土色の炎を上書きしないと…… 「っ!? ……がああぁぁーーっ!!」 迂闊だった。新たな炎も汚染されている! 「ようやく大人しくなったか」 愛輪珠が歩み寄り、瀕死の私の頭に恋人のようにぽんぽんと触れる。 「やめろ……やめろおぉ……!」 全身で行き場のない憤怒が渦巻く。 「巫女よ。お前は我々金剛を邪道だとのたまうが、我々金剛の民が自らの手で殺生を犯した事はないぞ」 「ほざけ……自分の手を汚さなければ殺生ではないだと……? だからお前達は邪道なんだ……!」 煮えくり返った血液が、この身に炎を蘇らせる。 「何の罪もない衆生に試練と称して呪いをかけ、頼んでもいないのに霊能力を与え……そうしてお前達が造り出した怪物は、娑婆で幾つもの命を奪う。幾つもの人生を狂わせる! これを邪道と言わずして何と言えようか、卑怯者!」 「それは誤解だ。我々は衆生の為に、来たる金剛の楽園を築き上げ……」 「それが邪道だと言っているんだ!」 心から溢れた憤怒はタールのような影になって噴出する! 汚染によって動かなくなった体が再び立ち上がる! 「そこで倒れている河童信者達を見ろ。彼らは牛久大師を敬愛していた。大師が大散減に魅了されたのは、確かに自己責任だったかもしれない。だがそもそも、お前達があんな怪獣を生み出していなければこんな事にはならなかった。徳川家の少年が祟り神になる事だってなかった!!」 思い返せば思い返すほど、影はグラグラと湧き出る! 「かつてお前に法具を植え付けられた少年は大量殺人鬼になり、村を一つ壊滅させた。お前に試練を課せられた少女は、生まれた時から何度も命の危機に晒され続けた。それに……それに、私の和尚様は……」 「和尚? ……ああ。あの……」 再点火完了! 影は歪に穢れを孕んだまま、火柱となり愛輪珠を封印する! たとえ我が身が消し炭になろうと、こいつだけは滅ぼさなければならないんだ! くたばれ! くたばれえええぇぇぇえええ!!! 「……あの邪尊(じゃそん)教徒の若造か」 「え?」 一瞬何を言われたか理解できないまま、気がつくと私は黄土色の爆風に吹き飛ばされていた。影と内臓が煙になって体から離脱する感覚。無限に溢れる悔恨で心が塗り固められる感覚。それはどこか懐かしく、まるで何百年も前から続く業のように思えた。 「ぐあっ!!」 私は壊れかけの御戌塚に叩きつけられる。耳の中に全身が砕ける音が響いた。 「ほら見ろ、殺生に『手を汚さなかった』だろう? それにしてもその顔は、奴から何も聞かされていないようだな」 「かっ……ぁ……」 黙れ。これ以上和尚様を愚弄するな。そう言いたかったのに、もはや声は出ない。それでも冷めやらぬ怒りで、さっきまで自分の体だった抜け殻がモソモソと蠢くのみ。 「あの男は……金剛観世音菩薩はな……」 言うな。やめろ。そんなはずはないんだ。だから…… 「……チベットの邪神、ドマル・イダムを崇拝する邪教の信者だ」 嘘だ。……うそだ。 「あっ……」 「これは金剛の法具だ。返して貰うぞ」 愛輪珠に龍王剣を奪われた。次第に薄れていく僅かな影と意識の中、愛輪珠が気絶した御戌神を掴んで去っていく姿を懸命に目で追う。すると視野角外から……誰かが…… 「一美ちゃん、一美ちゃーん!」 「ダメだ志多田さん、危険すぎる!」 佳奈さん……斉二……さん…… 「ん? 無知なる衆生が何故ここに……? どれ、一つ金剛の法力を施してやろうか」 逃……げ…… 「ヒッ……いぎっ……うぷ……」 「成人がこれを飲み込むのは痛かろう。だが衆生よ、これでそなたも金剛の巫女になれるのだ」 や…………ろ………… 「その子を離せ、悪霊……ぐッ!? がああぁぁああああッ!!!!」 「げほ、オエッ……え……? ラスタな、狸さん……?」 ……………… 「畜生霊による邪魔が入ったか。衆生の法力が中途半端になってしまった、これではこの娘に金剛の有明は訪れん」 「嘘でしょ……私を、かばってくれたの……!?」 「それにしてもこの狸、いい毛皮だな。ここで着替えていこう」 「な、何するの!? やめてよ! やめてえぇーーーっ!!」 ………………もう、ダメだ……。
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plunder a next door neighbor 9
3年ですょ、3年
もうすぐ出逢って3年になるなんて、早いよねぇ とあたしは頬杖ついてカンパリの中のオレンジを取り出すとぱくりと食べた。
「それ食うんだ」 「なんで?ダメなの?」 「いやあんま食う奴みねぇなと思ってよ」
いーじゃんうるさいなぁとむくれると、横に座る態度の大きい男はいやあんたがやると可愛いからいいんじゃね?と笑った。 その言葉はちょっと嬉しくてあたしはウフフと笑って男の腕をとん、と押した。
「んで? こんな店でこんな時間に俺と二人で会いたいっつーのはなんだ?何か相談でもあるんだよな?」 「んーまぁね」
能天気で羨ましいったらない ちょっとだけ別方向からも虐めようか
「ねぇ、あたし、謝らなきゃならないことあるの」 「あ?何だよこえーな」 「うん、前にさ、あたしがパパと喧嘩してぇ泊まらせてもらったことあるじゃん。あの日女の人も来てたよね」 「…………あー、それなあったな、そんなこと」 「実はあのとき、皆さんの話、ドアの陰から聞いてたんだあたし」
そう言うと恋次君はモヒートのグラスから目を反らさずに、3回くらい曖昧な感じで頷いた。
「そっか」 「誰にも言ってないよ?」 「……ありがとな」
目線を寄越して、目を細めて礼を言う恋次君に少しどきりとしてしまう。 こんな顔、するんだ けっこういい男じゃないの。 余計な詮索もしないであたしの言葉信じてありがとうって言うなんて。 パパなら徐に嫌な顔を向けてるはず。 それからネチネチグチグチ何かしら文句を言うはず。器が小さいのよあの男。 っても、本当はパパにも何人かのママ友にも話したけど。 ちゃんと言わなそうな人を選んで喋ったけどね。だってなかなかないスクープだったし。
「……綺麗な人だったね」 「ん~、そうか?」 「恋次君の好み、わからないなぁ?あんなグラマラスなお姉さんと小さくて儚いルキアちゃんとって範囲広すぎ」 「うっせーよ、そんなん気にしてねえし」 「で、あの女の人とはどうなったの?」 「……なんだよ、俺の話なわけ?」 「何回かえっちしちゃったの?」
ぶふ、と恋次君はモヒートを吹き出した。 もぉ~汚いなぁと口元とテーブルを拭いてあげながらちらりと顔を覗きこみ、目をあわせてふふふ、と笑った。
「どこまで聞いてたんだよコラ」 「わっかんないけど、あの女の人がじゃあなんであたしと寝たのよ!って叫んだのはバッチリ聞いてた」 「…………かんべんしてくれよぉ~」
恋次君は泣き笑いのように天を仰いだ。
勝手ねぇ 男は
「ルキアちゃんとマンネリで飽きちゃったの?」 「おい、あんた、スゲー事言うな!?」 「知りたいの。長く夫婦してたらやっぱり飽きて他の女とエッチしたくなっちゃうの?」
まるで純粋な女の子のように、今のあたしは見えるだろうか? 半分は見えてるかな 恋次君の顔赤いし
「あのさぁ……」 「ん?」 「多分、男とかそーゆーんじゃなくてだな……そーゆーのは人によるんだ」 「へえ?」
うー。と唸りながら恋次君は頭をバリバリと掻いた。
「俺は、ルキアが、いいんだ」
その言葉にずん、と漬け物石を頭に置かれたような気がした。
なにその言葉 その優しい言い方
「飽きるとかって、そんなのそりゃ誰だって最初の頃みたくバカみたいにはやらなくなるだろ?で��だからって他の女を抱きたいとかは、俺はねぇよ」 「でも!じゃあ、なんであの女としちゃったの?」 「………… 一応、元妻で、苺花の母親で……あいつなりに反省して泣く姿見たらほっとけなかったんだよ……」 「……最低」 「うん、最低だよな。実際、その頃からルキアは俺をなんとなく避けてたんだ……」 「その頃?」 「あぁ、苺花の母親から連絡があったと俺が言っちまってよ。……その頃からなんつーか少しづつ変な隙間があるんだよって、こら!何言わせんだよ!」
そう言って、半分笑いながら半分は怒りながら恋次君はあたしを殴るような真似をした。 あはははは。と笑いながらあたしもかわす振りをすれば、恋次君はなんだよなと突然ニヤリと不敵に笑った。
「一護ちゃんに相手してもらえねーとか?おいおい、俺達夫婦のこと聞き出して自分とこと比べよーってのかよ?」
かちん、ときてしまう。 大人げないけど、人は痛い部分を茶化されるのはかなりの確率で腹が立つのだ。 自分で、自分から言うのと人に言われるのとでは大分違うといつも思う。
「…………知りたい?うちの秘密」 「おーいいねぇ聞きたいねぇ」
そう それなら話してあげる
二人で地獄に落ちましょう
「浮気してるの」 「え?」 「……笑っていいわよ?バカにしてもかまわない」 「おいおい、嘘だろ?」 「嘘だったら嬉しいけど嘘じゃないの。だから恋次君にもさっき聞いたんじゃないのよ」 「……まじかよ……一護の野郎、何してんだよ……」
そんな顔しなくていいのに。呆れたような苦しい顔。腹立たしいから。
「もう、長いのかなぁ��ぶん」 「そうなのか……?」 「だって、」
あたしはピスタチオのからをぽん、と投げた。 この店はピーナッツとピスタチオはおかわり自由で更にどこに捨ててもいい。 だからこの店の床は殻だらけなのだ。
「離婚届、渡されたんだよあたし」
ひっ、と恋次君が息を飲んだ。 嘘だろ、と小さく呟いて頭を振った。落ち着かないようにモヒートを一気に飲んで空にした。
「織姫ちゃん……大丈夫かよ」 「大丈夫だと、思う?」
こんな男誘惑する気なんてないけど 今はどれだけでも可哀想な女に思わせたい。そうしなければならないから。
「我慢するのが、辛くなってきちゃって。あたしの、あたしの何が離婚まで追い込んだんだろうって」 「織姫ちゃんのせいじゃねーだろ? かずいだっているんだし てか、離婚てそんな……」
恋次君の声変わりだんだんと怒りを含み始めた。
「……女としての、魅力ないかな?あたし」 「んなことねーよ、逆だろ」 「あは、嬉しいな。……ありがとぉ、恋次君」
そう言ってもたれかかると、恋君は頭を撫でてくれた。大きくてごつい掌。 パパはもっと細い、気がする。 もう忘れた。
「この間、見ちゃったんだ、浮気現場」 「え、」 「……パパはね帰ろうとしてたの、うちに。引き留めたのは女。パパを掴まえて、小動物のように震えて泣いてパパに抱きついて連れてっちゃったの」 「……まじかよ……一護あいつ、あの馬鹿なにしてんだよ……」 「うん、バカだよね。女の涙に負けちゃうなんて」 「……あのさ、庇うわけじゃねーけど一護はさやさしい奴だと思うんだ。なんか、騙されてんじゃねぇのかな。騙されてるっつーかそういう女には弱いっつーか強くでれないとか……」
あんたもじゃん こんなときでも笑いそうになってしまう。勿論笑うわけないけど。だから上目遣いで恋次君を睨んだ。
「やっぱり男の味方しちゃうんだねー」 「ちげーよ! ただ、一護は流されやすそうっつーのは織姫ちゃんでも思うだろ?」 「うん、パパやさしいからね。でも、そしたら、あたしはずっと我慢してなきゃいけないの?離婚、しなきゃいけないのかな……」 「……織姫ちゃん……」
恋次君が苦しそうにあたしをみつめている。 泣くように顔を下に向ければ、横で恋次君は大きくため息を吐いた。
「一護と、話してみるよ。…かずいもいるのに離婚なんて馬鹿げてる…………」 「どうかな……もう、その女に夢中なのかもしれない。相手と一緒になりたいから離婚なんて言うんでしょ?」 「若い女か?」
あぁ、とうとう聞いてきたね
「若くみえるけど、同い年」 「なんだ?知り合いなのか?」 「お隣だもの」 「え?」 「パパを、自分の旦那のいない家に連れて行ったのは、ルキアちゃんだもの」 「おい!」
恋次君は突然怒鳴った。怒鳴ってから笑いだした。
「なんだよそれ、そのオチ言うために今まで演技してたのかよおいっ!」 「ぁ?」 「あー!驚いた!つーかマジで離婚とかやめてくれよ、重すぎだろそれ!そのギャグ」
すんげー緊張したじゃねえかよ!やめてくれよなそういう冗談、こえーし、 そう言って、マスターおかわり!と笑いながら恋次君はバーテンに空のグラスを差し出した。
まあ、そうよね こういう反応になるわよね でも残念ながらあたしは嘘なんてついていない
「恋次君」 「なんだよ?今度はなに!」 「消えてほしいの、あなたたち家族に。うちの隣から」 「はぁ?」 「本気よ、あたしはルキアちゃんにパパは渡さない。いつまでもずるずるとこんな関係続けさせない」 「……おい!」 「信じたくないよね?わかるよ、私だって私なんか!何日も一人で悩んだよ苦しんだよ!こんなの、許されるの?!ねぇ!!」
今度はほんとうに、涙が落ちるのがわかった。
悔しい 悔しくて悔しくて 狂いそうになる
「あんたが浮気とかしちゃうから!だからルキアちゃんがうちのパパに手だしたんじゃないの!あんたんちのせいだよ!ウチを壊したのはあんた達なの!ねぇわかってんの?!」
一気に怒鳴れば恋次君は今にも壊れてしまいそうな顔をしてよろめくようにテーブルに手をついた。
「……本当に、ルキア、が?」 「そうよ、見たもん。そのあとも何度も。恋次君が帰らない日はパパを誘うの。自分からキスだってしちゃうんだから!……すごいね?ルキアちゃん。あたしにはそんな真似とてもできない」 「もう、やめてくれ、」 「なにが?旦那誘惑する女を、妻のあたしが許せると思う?ねえ、あたし、どんなに可哀想かわかる?離婚だよ?離婚されちゃうんだよ!」 「やめろっ!!」
ばん!! と恋次君はテーブルを思い切り叩いた。ピスタチオが溢れて飛びだして、あたしの空のグラスも倒れた。
「恋次君は、ルキアちゃんとパパを許すの?ルキアちゃんがパパのところに行ってもいいの?」
恋次君は場違いにもあたしの事を射殺すような視線で睨み付けてきた。
「ルキアはやらねぇよ、俺のモンだ」
その言葉にあたしは満足した
「……うち、今週末、パパの妹の結婚式で2日間留守にするの」 「……」 「その間に出て行って」 「え、」 「出て行って2度と会わないところであなたたちは暮らして。そしたら、許してあげる。そうじゃないなら許さない、絶対許さないしあたしは絶対離婚しない!」
恋次君は黙ってフラりと、立ち上がった。
「ルキアと一護が……嘘じゃ、ないのか?」 「しつこいね。もし嘘だとしたらあたしがこんなに怒る?出てけなんて、言う?」 「……ルキアが誘ったって、ほんとか……」 「うん、殺したくなるくらい、可愛い顔で、パパに抱きついて誘ってた。自分からキスしてた」
ばん!と今度は思い切り椅子を蹴りあげて、 恋次君は一万円札をバーテンに握らせた。 また椅子を蹴って出ていこうとした恋次君に
「待って!」
あたしは更にひとつ、お願いを、した。
◾ ◾ ◾ ◾
もうすぐ家につく頃に、ラインの受信音がしてあたしは携帯に目をやった。恋次君だとわかってすぐに開く。
【どうしてもナッツを連れて行くことができない。必ず引き取りに行くからそれまで頼む】
それは仕方ないか、とあたしはすぐに返信した
【もう会うことはありません。ナッツは責任もって我が家の子にして育てます。ちゃんとお世話するから心配しないで】
そう入力するとまた携帯をぽん、と横に投げた。
「ママ誰からー?」 「んー?お友達だよぉ」
助手席からかずいがニコニコ振り向いて聞いてきた。
そういえば、とふと思う。
恋次君のところは出逢った頃から最後まで 助手席に座るのはルキアちゃんだった。 うちは違う うちはかずいが助手席であたしは後ろだ。 「かずいが前座るの喜ぶから」とか言ってた気もするけど、あたしはいつでも後部席だ。 そんなつまらないことでも ルキアちゃんは愛されてる気がして面白くなかったな
愛されるのとほっとかれるのと 同じ女でどこにその差はあるんだろう
「あれー!?ナッツがいるよぉ?」 「ほんとだな、ナッツどうしたんだ?家出でもしたのか?」
二人の声に、違うわよ今日からうちで飼うのよ、いきなり出て行かせたせめてものお詫びにねと心で返事をした。 犬に罪はないもの ちゃんとお世話してあげる でも二人の逢瀬にお供していた犬だと思うと可愛い顔していても少し憎たらしい あんまり吠えたりしたら保健所に連れてけばいいかな?
勢いよく二人が車から降りるのとは反対に、あたしはゆっくり車から降りた。 パパが何かを拾って、隣の家に走り出すのを横目で見ながら、ナッツとじゃれるかずいにかわいいねーナッツ、と声をかけた。
蒼い顔で隣から戻ってきたパパの手にしているそれを見て、恋次君は約束守ってくれたのだと確信した。
終わった 全部消えた全部終わった
そんなに握りしめても壊れた携帯はもう戻らない というよりその携帯の持ち主は もう現れてはくれないのに
「どういうことだよ」
気がついたら怒りに顔を歪めたパパが目の前にいた。こんなに醜い顔したパパ初めて見るなぁと眺めていると、肩を思い切り掴んできた。
「いったぁい!」 「どういうことか聞いてんだよ!」 「なにが?」 「隣、いねぇじゃねえか!誰もいねぇし、家ん中空だし、ナッツおいて、何処行ったんだよ!!」 「……あたしが知るわけないじゃない」 「じゃあなんで笑ってんだよさっきから!」
あれ?笑ってるのか私
「パパが必死だから?」 「なに?」 「その携帯壊れちゃってるね。見事なまでに、ずたずたに壊れたね。もうダメだね」
凄い音が鼓膜に響いて目がチカチカしてあたしは倒れた。殴られたと気がついたのは、かずいが泣きそうな叫び声であたしを呼んだからだ。
「……息子の前で、なにしてんの?」 「何をしたんだよ!」 「間違いを、正しくしただけ」
ママー、と抱きついてきたかずいは震えている。この子を恐がらせるなんてパパはおかしいよ、本当に。
「どうしてそんなに、いつからおかしくなっちゃったの?」
喋ると口の中に血の味が広がった。切ったのかもしれない。
「おまえだよ、へんなのは」 「違う、あたしじゃない」 「おまえだよ、現実を自分の都合でねじ曲げるおまえだよ!」 「家も妻も息子もないがしろにするあなたよ!」
かずいの耳を両手で防いであたしは怒鳴った。
パパは無言でまた車に乗ると、凄い音を立ててドアを閉めて何処かへ車を走らせて行ってしまった。
泣くかずいを心配してか、ナッツが鼻をクンクン鳴らしてかずいに顔を擦り付けた。
大丈夫よ かずいもナッツも
パパも今は怒ってるけど 自分が馬鹿だったとわかる日が必ずくるから それまで待ってようね いつか理解してくれるから ママがパパの間違いを止めたことを 許すことを
そうよ あたしは許してあげるんだ
こんな酷いことされても あたしはパパを許すの 感謝してもいいくらいだ
高校の時 初めて話しかけた日の事を覚えてる 目があって つきあうようになって 手を繋いで 皆に羨ましいと憧れられて
キスして 抱かれて かずいが生まれて
この家を買って
わたしはどこまでもしあわせだった
だからわたしは不幸なんて知らない
でももしか����ら 最近ずっと泣きたい衝動に駈られているわたしは
今の私は、不幸なの?
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序章
幼稚園にお迎えに行った時から、かずいの様子が変だと思った。いつだってニコニコ楽しそうで、母親の私ですら大丈夫この子?悩みないのかしら?と思ってしまうほどいつでもご機嫌のかずいが。そんなかずいがしょんぼりとして元気がないのだ。 「か~ずい! 今日のおやつは何食べる?ポテチ?それともあげせん?」 そう聞いても、無言でフルフルと首を振る。 もくもくとレゴを組み立てている。 誰に似てこんなに頑固なのかしら? 素直に甘えればいいのに。 あたしじゃないからパパね。パパは案外頑固なところあるもんね。 まぁ小さい子なんて、ちょっとしたことで機嫌良くもなるしー そう思ってあたしはあたしで録画したドラマをソファにごろんと横になって見始めた。 隣に引っ越してきた女が、旦那を奪うこのドラマは今ママ友の間で大人気なのだ。 この可愛い顔して、隣人夫婦の関係を静かに壊していく役の女優がまたー なんともムカつくんだよねぇ。細くてか弱そうで儚げで。でも顔はあたしに似てるらしいんだけど。 「あの女優、かずくんママに似てるよねってみんなで言ってたんだよー」 「そうそう、こーんな女に旦那狙われたらアウトだよってね! 頼むよかずくんママ~💦うちの旦那には手ださないでよー?」 「かずくんママはそんなんしないってー!だって旦那がやばいじゃん。あの旦那毎日見てたら、他の男なんてゴミでしょゴミ(笑)」 「そうそう、めちゃめちゃいけめぇん!仮面ライダーになれそうだよねー」 ふふふ、とママ友に言われたことを思い出して声を漏らして笑ってしまう。 確かにあたしの旦那はかなりかっこいい。 だから惚れたんじゃない。 背も高いし、かっこいいし、スリムだけど筋肉質で、声もいいし優しいし、真面目だし医者だし、そして浮気もしない! も~本当に旦那の鏡だもの。 何回、街歩いてて写真撮られたことか。憧れ若夫婦!みたいなコピーと一緒に見開きで雑誌に載ったこともある。かずいも赤ちゃんときから天使みたく可愛いし。 当たり前よね、あたしとパパの子どもだもん。不細工が産まれるわけないけど。 ぱりん、と音をたててお煎餅をかじる。 ドラマはかなり佳境なとこまできていて。 したたかな女の嘘に、旦那がやーっと気づいて家を出て行った奥さんを探し回る。 この俳優がまたまた、いい男なんだよねぇ。 こんな男の奥さんで、 浮気といえど悪い女に騙されただけだし それでこうやって追いかけてもらえるの、 い~よねぇ~ あたしの旦那はー 申し分ないけど、あえていうなら冷めてるのよね。性欲も多分というか全然ない。 確かに赤ちゃん産んだあと暫くは、旦那に触られるのも嫌だったからあたしも相手してあげられなかったけどー でもその頃も、無理になんて求めてこなかったな。スッゴク悪そうに、抜いてくれる?とかそのぐらいだった。 だからあたしのこの大きすぎる胸は宝の持ち腐れ。 昔からかなり自慢なのにな。それとも旦那は巨乳好きでないのかもしれない。 それでもあたしと結婚したなんて、それはそれでなんか嬉しいけど。 申し分ない夫がいて 可愛くていつもニコニコの息子がいて ママ友達ともうまくやれてて 働かなくてよくて ん~だから性欲薄いぐらいは我慢しなきゃね。神様もそんなにたくさん幸せを私にばっかり与えてくれるわけないもん。 ふぁあ、なんか眠たくなってきちゃったなぁ。少しだけ寝ようかなぁ。 かずいも一緒にねんねしよーよぉ ◾ ◾ ◾ 目が覚めたら啜り泣く声が聞こえて、慌てて飛び起きた。 パパがかずいを抱っこして頭を撫でている。 やだ今何時? 「ごめんなさい、寝ちゃってた~ かずいどうしたの?」 「あぁ……」 パパが困った顔してる。眉間にたくさん皺を寄せてる。 「いちかちゃんに、大嫌いだとかそばに来ないでと言われたんだって」 「……ぇええ~?」 なにそれ。 なによぅそれ、あんなに仲良しなのに? ていうか、それで元気なかったのねかずいってば。 とはいえ、むかつくなぁ苺花ちゃんてば。仕方ないけど。女の子は生意気だから。 そうは言っても自分の息子がこんなに悲しそうに泣いていたらやっぱりむかつく。 あの子気が強そうだからすごく意地悪な言い方したのかもしれないし。 「……ちょっと、隣に行ってこようかな」 「……やめとけよ、そんな事言えないだろ?隣も困るだろうし」 「でも!かずいがこんなに泣いてるのに。この子そんな簡単には泣かないんだよ?ていうことは意地悪な言い方されたんだよ!」 「そりゃあ俺も少しは腹立たしいよ。でも、子どもの事に口出しするのはよくないだろ」 「……また。そんな、冷静な言い方する……」 「冷静にならなきゃ駄目だろ。だいたいお隣の奥さんと仲良いんだろ?気まずくなっていいのかよ」 「だって、あたしたちは悪くないし。苺花ちゃんに聞くだけよ。どうしてそんなこと言うの?って」 「……」 パパは眉間の皺をそのまま、無言で溜め息をついた。 何よ パパだって本当は隣の夫婦のことそんなにはよく思ってないくせに。 半年前にお隣のおうちに阿散井さん一家が越してきた。 挨拶に来たときは驚いた。 旦那は額やら腕やら膝下に刺青が入っていて 顔も恐いし長髪だしどこぞのチンピラかとあたしもパパも固まってしまった。 でも話すと、明るくてあっけらかんとして悪い人ではないかなと思ったけど。 かずいともよく遊んでくれるし、かずいもなついてる。 仕事が彫師なのだという。別にやくざとかではなかった。娘の苺花ちゃんはかずいと同い年ではきはきとしていて可愛い顔をしている。そしてかずいがお姉ちゃんと言っていたのは、苺花ちゃんのお母さんだった。 確かに子供と思うほどに小さい。刺青男が大きいからとてもでこぼこな夫婦だと思った。 それからこの夫婦 すごぉいよくセックスしてる、と思う。 つまり仲が良いのだ。それは見てわかるんだけど。だって旦那めちゃめちゃ奥さんのこと構うし触る。夜もけっこうな頻度でアノ声聞こえるし。 多分ベタ惚れなんだと思う。 それがなんとなく、気に入らなかった。 奥さんは地味な感じの小さな女。 胸なんてまっ平らであんなのとセックスして楽しいのかなとちょっと意地悪なことを思ってしまう。 でも、抱かれているからかわからないけれど 同い年だというのに、奥さんは瑞々しくてお母さんぽくない。 愛されてる女って感じがいやでもする。 可愛いかっこうすればかなり可愛いはずなのに、仕事に行く彼女はいつも地味。 なぜなら刺青旦那がそうさせてるから。 ひっつめ髪に眼鏡して地味な服着て仕事に行くのは、以前ストーカーだか何だかに追いかけ回されて大変だったからだという。 それからは旦那に目立つな地味にしろと言われて、会社に行く平日の彼女はかわいそうなくらい地味で目立たない格好をさせられている。 だから この間の幼稚園での納涼祭での彼女には目を見張った。 かずいの幼稚園は、正確にはこども園といって、短時間児童と長時間児童が一緒に過ごす��いう、利点がよくわからないところだ。 働いてない私の息子は短時間児童だから毎日2時半にお迎えに行く。 お隣のおうちは共働きだから7時までにお迎えに行けばいい。 かずいと苺花ちゃんは同じほし組さんだけど、苺花ママは朝も早く帰りも遅いから、実は園ではほとんど会うことがない。 だいたい長時間児童のママ達なんてほとんど知らないし。 お茶会とか何かしら企画しても、仕事だからごめんなさいねって出てくることもない。 別にいいけどね。 隣の奥さんは地味だしそんな感じで時間もあわなかったから、ほし組さんのママ達も全然知らなかったのだ。 それなのに 納涼祭で、隣の奥さんは一躍有名ママになった。 紺と白に紫の紫陽花が描かれた浴衣を着て 髪の毛をふわりとあげて とても上手な化粧をして現れた彼女は 女から見てもそれは美しく可愛らしかった。 悔しいくらいに真っ白なその肌に 透明感のある紅いグロスと目元に大きめのラメを少しのせたその小さな顔は まるでモデルのようだとあたしも思った。 カランコロンと下駄を鳴らし、あの厳つい顔のご主人と手を繋いでこども園にやって来た夫婦に、ママ達は皆釘付けだった。 だってー 子どものいるこういう場所で、実は手を繋いで現れる夫婦なんていないもの。 どこの夫婦も子どもがいて、もう夫婦愛でしかないようなお父さんお母さん達の中に とてもナチュラルに手を繋いで現れた彼女とご主人は、まるで外国のラブラブな夫婦でしかなかった。この日は頭に手拭いを巻いて、自信も浴衣を着ている為、旦那の刺青は全然見えない。そうなると背の高い厳つい顔のご主人もなかなかのいい男だった。 誰もが、感嘆の吐息を吐いた。 「すげーな、お隣さん。絵になるな」 珍しくパパも目を細めて笑ってそう言った。 パパは浴衣を着てくれなかった。一緒に着ようと言ったのに恥ずかしいとか言っていつものTシャツにデニムにスニーカーだ。 元がいいからそれでもいいけど、その時は面白くなかった。 だって本当なら こうやって集まる場所で、皆に話題をもたらすのはあたしとパパなのに。 今日は誰と話しても隣の奥さんの話題にしかならない。 誰のママ? 何あの人めっちゃ可愛い~ 旦那かな?彼氏かな? 別にそりゃあ毎回あたしのパパがかっこいいとか騒がれ過ぎてて悪いなとは思うけど。 実は計算なんじゃないの?とかどうしても意地悪になっちゃう。 こういう場所で目立ちたくて普段地味にしてんじゃないの?だいたいドラマじゃあるまいしストーカーなんて普通の主婦に現れないわよ。 「なんか、お隣さんとこ色々すげぇよな」 納涼祭の帰り、寝落ちしたかずいをおぶった旦那がそう呟いた。 「本当ね。目立ってたねぇ」 「でもあの二人さ、バカだよな」 くっく、とパパが珍しく楽しそうに笑った。 「金魚すくいやった時さ、真面目な顔して奥さんに、どいつなら食えるんだ?とか聞いててさ。周り皆笑っちゃって奥さん恥ずかしかったらしく思い切り叩いててさ」 「……へぇ」 「奥さんもスイカの種を飲んでしまった!とか涙目になって慌てたりとかして。旦那が胃から芽が生えても飯食えば潰れるから大丈夫だ!とか真剣に言ってんの。……まじで頭弱そうだよな」 「……ふぅん、て、パパ珍しいね?誰かのこと話すの」 「だって今日お隣夫婦とずっと一緒にいたし。お前は相変わらずママ友の挨拶巡りで色んなとこ行ってただろ?」 あぁ、そうだったかも。 そうか、パパはあの二人といたのね。 笑ってるけど、あの二人は頭悪いとバカにしてる。 「気さくな感じでお隣さんとしてはいいよな。別に深くつきあおうとしなければ」 「そうね」 誰とも深くなんて付き合う気なんかないくせにー そう思った。 まぉ確かに悪い人達ではないーそれは確かだと思った。 ◾ ◾ ◾ だけどやっぱり泣くかずいを見ていたら、沸々と怒りが沸いてきた。 「あたしやっぱりちょっと行ってくる!」 エプロンを外して立ち上がると、パパはやめろよと嫌な顔をした。苺花ちゃんは歌が上手くて足も早くて最近ほし組では人気者だ。親娘揃って今じゃこども園の有名人だからって、うちのかずいを泣かすのは許さないんだから、とあたしはパパが止めるのを聞かずにお隣に行くこと��した。 お隣の家の扉の前で深呼吸する。 中からは苺花ちゃんと奥さんが笑う声がした。 「俺も一緒に話すよ」 気がつけばかずいを抱いたパパも後ろについてきていた。 「別に怒るつもりはないから。話をしたいだけよ」 「わかってるよ」 インターホンを鳴らすと、はーい!と明るい声とパタパタとスリッパを鳴らして走ってくる足音が聞こえた。 ガチャリと扉があいて、お揃いのピンクのルームウェア(ミニ丈でニーソックスを穿いている)の奥さんと苺花ちゃんは悔しいけれど可愛らしかった。 「おかえりなさー……あれ?」 「おかえ……あ、黒崎さん?」 どうやら二人は刺青男が帰ってきたと思っていたようだ。 こんな風に毎日迎えてるんだ ふぅん、あのご主人は愛されてるのね。 「ごめんね、遅くに。ちょっと、話をしたくて……」 謝るように顔の前で掌をあわせて首を傾げると、奥さんはじゃあどうぞ入ってください、とあたし達を促した。 突然の来客を部屋に呼べるなんてすごいな、とあたしはとんちんかんなことをぼんやり思った。あたしなら絶対無理だ。 「いや、いいんですよ、すぐすみますから」 パパが奥さんにペコリと頭を下げた。 「あの、なにか……」 旦那と私とかずいと3人揃っての訪問に、彼女の顔が少し不安そうになる。瞳が揺れていた。でも娘のほうは身に覚えでもあるのか唇を噛み締めてあたしのことを睨み付けている。 あたしはしゃがんで苺花ちゃんに目線をあわせてにっこり笑った。 「苺花ちゃん、かずいに嫌いって言ったの?」 「……」 応えない。にらんでる。ほら、図星。 自分が悪いから何も言えないのね。 え、苺花? と、奥さんが困った声を出した。 「ううん、いいの。子供のことだもん。苺花ちゃんを責めにきたんじゃないんだよぉ? でも、かずいが悲しんじゃってね。傍に来るなとかどうしてそんな嫌いになっちゃったのかなーと思って…… かずいに何かされた?それなら教えて?謝らせるからね?仲直りしよーね?」 ウチに非があるように、わざと話す。 これならこの状況私達が責めてるようにはならないもの。 「…………」 でも苺花ちゃんは何も言わないで下を向いてしまう。 「苺花! いつもかずいくん大好きって言ってるのになんで?どうして意地悪言うんだ?」 奥さんの困った声とその言葉に、パパに抱かれていたかずいが顔をあげた。 やぁだかずいってば。 苺花ちゃんにそう思われてるとわかったら、簡単に元気になっちゃうなんて。 本当に男の子はおバカさんね。 「ちょっとした意地悪だったのかなー?それならいいんだけど、あんまりかずいいじめないでね?かずい、苺花ちゃん大好きだから」 にっこり笑って苺花ちゃんに言えば 奥さんがすみません、申し分ございませんとパパに頭を下げている。 「いや、子供同士の小さな事に、こちらこそすみません」 「いえ、苺花は言い方きついし……嫌いなんて言われたら子どもでも傷つきます。……ごめんね、かずいくん」 そう言って奥さんがかずいの頭を撫でようとしたが背伸びをしても届かなかった。 いかんせん奥さんは小さくて、パパに抱かれたかずいに届くわけがない。 あぁ、と笑ってパパが少し屈んであげると すみません、と奥さんは顔を赤らめた。 はずかしかったようだ。 「ぼく、いちかちゃん好き……」 「ありがとう、いちかもな、家ではかずい君のことばかり話してるぞ?」 「ほんとう?」 「良かったな、かずい」 とても近い距離で和やかに話す、かずいとパパと奥さんの3人に、何か嫌な気持ちになった。 あたしと苺花ちゃんの間には相変わらず重い空気が漂っているのに。 「……やだ!」 その時苺花ちゃんが大きな声をあげた。 それからあたしを下から思い切り睨み付けた。 「だって、かずいママ、お父さんの悪口言うからやだ!嫌いだ!だからかずいも嫌いだ!」 え? 「……苺花!?」 奥さんが首を傾げた。パパとかずいもきょとんとしている。もちろんあたしも。 何を言ってるの?この子。 「お祭りの時、美南ちゃんとか弘輝のママ達に、パパの悪口言ってたんだよ!おかあさん!そういうこと言っちゃだめなんでしょ!ねぇおかあさん!」 苺花ちゃんはそう言うとぐわぁと顔を崩して泣き出した。 「あの子のお父さんはいれずみだらけでちょっとねえ、とかこえがおおきくてはずかしいとか、かずいママわるくちいってたのきいたもん!だから嫌いだ!かずいももう好きじゃない!」 しまったー! あたしが青ざめる番だった。 聞かれてたなんて、思わなかった。 これは、私だ、私が悪いなと思って頭がパニックしそうになる。 何よりも 苺花ちゃんの涙より 奥さんの辛そうな表情より かずいがまた泣きはじめたことより パパの冷めた琥珀の瞳が一番恐い やめて、そんな瞳であたしをみないで!! あたしは顔を覆ってしゃがみこんだ。 ごめんなさいごめんなさいと苺花ちゃんのように泣く真似をした。 もうこれしか逃げ道はなかった。 「苺花ちゃんごめんね、おばさんそんなつもりなくて……刺青かっこいいとかそういう風に言っただけなのに……苺花ちゃんには悪口に聞こえちゃったなんて……ごめんね、ゴメンね本当に」 泣こうとしたら涙はでてきた。だってほんとうに泣きたいもん。あたしこれじゃあ悪者はあたしだもん。 本当のこと話しただけだけど でも今この場所では、あたしが悪者だもん 「やめてください、いいんですよ!刺青は本当のことだし隠してませんから!」 奥さんの真剣な声と背中を撫でる手は優しい。この人、いい人なのかも。 「でも。あたしの話し方が、苺花ちゃんを傷つけて……かずいも傷つけて……あたし、あたしお母さん失格だよぉ」 うわぁぁんと大袈裟に泣いた。 泣かないでください、苺花にも私がちゃんと話しますから、と奥さんまで泣きそうな声になっている。 「……苺花ちゃん、ごめんね」 パパが謝る声がする。顔を覆ってるからどんな顔してるかはわからない。 「かずいのこと、ゆるせない?」 「……わかんない……」 「苺花! ごめんなさいの言葉はなんだ?!忘れたのか! それに、かずいママは悪口なんて言ってなかったんだぞ!おまえが勝手に怒って、かずいくんまできずつけたんだぞ!」 「いやそれは違いますから」 パパと奥さんの話を泣きながら��いていた。 何とかなってくれるといいんだけど。 そう思っていた時 「違う。悪いのは俺だろ?」 その時突然ご主人の声がした。 そうっと指の隙間から覗けば、苦い顔をしたご主人がいつの間にか立っていた。 「……色々すみません、泣かないでください」 「で、でも」 「奥さん悪くねぇよ、これはウチの問題だ。謝らないでくださいよ」 そう言うとご主人は苺花ちゃんの前にしゃがんだ。 「苺花、おまえのはやつあたりだ」 「……」 「お父さんは仕事に誇り持ってるって言ったの、忘れたか?」 「でも……」 「刺青ってのはな、ほとんどの普通の人は恐いんだ。だからかずいママがそう言ったのもお父さんは全然怒ってないぞ?普通だ普通。だからお前も怒るな。怒ってかずいくんに八つ当たりしたお前も、悪い。わかるか?」 「……うん」 「よし!じゃあ仲直りしよーぜ!」 かずい!ごめんな! そう言って、ご主人はかずいの頬を大きな両手で包み込んだ。 「気の強い娘でごめんなぁ、でもこれからも仲良くしてくれるか?」 「うん、する!」 「ありがとなー、おじさんは優しいかずいだいすきだぞー?」 ご主人はそう言うと高い高いをしてかずいを抱き上げて笑った。 かずいもキヤッキャと声をあげて笑っている。 助かった、 と胸を撫で下ろす。 苺花ちゃんはパパと話していて、ごめんなさいという声が聞こえた。 やだ、なんか絆が深まったみたい? 苺花ちゃんは少し恐いけど この夫婦はバカだけれどいい人達というのはよくわかった。 今日はじめてそう思った。 仲良くしていけそうだな、良かったぁ パパはどう思ってるかな。 このまま今日は甘えよう。パパは甘えられると優しくなるから、今日は可愛くあまえていよう。 これこらのためにも。
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