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「品番 81R45505C PIERO DIMITRIのスーツ」
2月も半ば過ぎて、この冬は雪を見ることはないと思っていたが、やはり「一度も」ということは無かったようで、強い風の中「綿毛」のような白い粒が舞った。
先日、70代半ばになるご夫婦が来られた。目的はサイズが合わなくなったスーツをお直しするためだ。 すでに「現役」を退かれて10年以上のご主人。今は日常スーツを着ることはほとんどなく、カジュアルな服を着て日々の生活を送られている。来店された際も、コートにハットを共にされ、本人はとても気になるという���杖」を合わせた出で立ちだった。
「杖」に対する失礼は承知の上で、そんな「いい雰囲気」を持つご主人が今回持ち込まれたのは、自分が一番気に入っているというグレイのダブルスーツだった。「足腰が立つうちに、もう一度スーツを着て街に出たい」と思い立ち、それなら「お気に入りを」との考えに至られたようだ。
すでに20年以上前にライセンス生産も無くなり、ブランド自体も消滅したであろうそのスーツは、とてもいい状態で残されていた。「いつかそのうちに」と大切に保管されていたと想像するが、細くなっていく自分の身体と、バブル期の匂いを残すスーツサイズの間には、時間とともに大きな差異が生れてしまっていたようである。 本人は、補正品を持ち込むだけで新調しないことを申し訳ないと言われるが、私はそんなことは一向に気にしない。むしろその「前向きな気持ち」に「少しでも役に立てれば」と強く思う。さらに言えば、20代で担当していたブランドに再会できた懐かしさ、そしてこの機会が、アパレルの仕事を変えることなく続けているから得られた事であるならば、顧客の皆さんからのご支持の有難さを実感しないではいられない。
私はこのスーツを預かった後、内ポケットにある品番から、この商品が22年前に製造された事を確認した。そしてご主人の年齢、自分の年齢、22年という数字を基に、様々な事を考えた。 22年前、私は34歳だった。当時想像していた50代の私と、今の私とでは全く違った生き方をしている。さらに22年後といえば78歳。これから次第ではあるが、元気でいるならば、このご主人のように「前を向いて」スーツを着続けられるようにありたいと思っている。勿論年齢や職業により個人差はあるが、男性とスーツにおいて、その関係性が完全に切れてしまうことはない。それは、スーツが男性服の中で「最も男性たる服装」であり続けること、それゆえ「男」として存在意義を感じた時、人は必ずスーツを着たいとの思いを抱くからだ。女性がずっと綺麗でありたいように、「いつまでもカッコつけたい」のが「男」なのだな。
冬に雪が降らなければそれを見たいと思うように、男とスーツお互いの存在は、どこかで繋がり続けている。
注文服ヤマキ 木下 達也
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