#HER2陽性の乳がん
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Vol.167 沢井製薬の品質試験”不正”はどこまでヤバい話なのか
秋が深まりつつあるとはいえ、11月最初の週の天気予報を見ると、東京はまだ夏日がありそうな気配ですね。季節の進みが例年から半月くらい遅れている感じがします。
先日、気分転換も兼ね、富山県黒部市に一泊出張してきたのですが、そろそろ紅葉が見頃かもと期待していたものの、山間でもまだようやく色づき始めたくらい。
とはいえ、初めての土地を歩き回ることで、脳がだいぶリフレッシュされました。脳も筋肉みたいなもので、時々意識的に休めてあげたり、異なる刺激を入れてあげるのが大事ですね。
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【記事1】 9週投与でも1年投与でもハーセプチンの効果は同じ!?
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服薬に伴う患者の負担を減らすことを目的に、抗がん剤の投与量や投与日数を減らしても既存の治療法に劣らないことを立証する試験を「デ・エスカレーション(De-escalastiion)試験」と���びます。
このメルマガでも、下記の記事をはじめ、何度か取り上げています。
■「超低用量免疫療法が世界を救う?インド発の画期的な試験結果」(イシュランメルマガVol.157)
今回紹介する研究は、まさにその「デ・エスカレーション試験」の典型的な事例です。
■”Nine-Week Versus One-Year Trastuzumab for Early Human Epidermal Growth Factor Receptor 2–Positive Breast Cancer: 10-Year Update of the ShortHER Phase III Randomized Trial”「早期HER2陽性乳癌に対するトラスツズマブの9週間投与と1年投与の比較:ShortHER第III相無作為化試験の10年アップデート」(Journal of Clinical Oncology)
トラスツズマブとはハーセプチンのことです。(このメルマガでは成分名での表現が基本ですが、今回は製品名がかなり馴染み深いものと思いますので、本記事では”ハーセプチン”で行きます)
ハーセプチンは、HER2陽性の乳がん、胃がん、大腸がん等に使われます。
早期乳がんで再発予防効果を期待して術後療法として使われる場合、通常、ハーセプチンの投与期間は1年です。
上記のShortHER試験は、通常の1年投与した群627名(1年投与群)と、9週間(約2ヶ月)に短縮投与した群627名(9週投与群)とを比較する試験で、今回その最終解析結果が出てきました。
結果を見ると、
・10年DFS(無病生存期間) 1年投与群:77% vs 9週投与群:78%
・10年OS(全生存期間) 1年投与群:89% vs 9週投与群:88%
と、再発や他の病気がなく患者さんが生存している期間(DFS)も、単に生存している期間(OS)も、一見して差が見られません。
しかしながら、統計解析ではサンプル数不足が響き、9週投与の1年投与に対する「非劣性(劣っていないこと)」の証明には至りませんでした。
「ええ、そんなバカな!?!?」って思いますよね。
統計解析を勉強していないとわかりにくいところなのですが、要はこの程度のサンプル数だと偶然同程度だった可能性がわずかながら残り、差がないことを証明するには不十分ということです。
例えば、両群で5人ずつの試験だったら、いくら同じ様な結果だったからといって、それは偶然そうなっただけでしょ、というのは直感的にわかるかと思います。
今回のサンプル数だと、9週投与群が1年投与群に劣っていない確率は93.2%と計算されています。これが、95%を超えればOKだったのですが… 惜しい!!
ということで、試験としては「失敗(劣らないということを証明しきれなかった)」なのです。
一方で、これだけいい線行っているのであれば、9週投与と1年投与では患者負担的にも大きく違うわけですから、短縮するオプションも患者さんに説明する意義が出てくるのではないでしょうか。
いずれにしても、現状に一石を投じる非常に意義深い試験と言えましょう。
いつも言及することですが、デ・エスカレーション試験は患者や保険者にとっては非常に有意義なのですが、製薬会社にとっては費用をかけて試験を行なうインセンティブはありません。
今回の試験も、「イタリア医薬品庁」という国の公的機関がスポンサーになっています。
日本でも、今後もっと盛んに行なわれることを期待したいですね。
※本項執筆時点(2023年10月31日)で、筆者はハーセプチンに関し、特筆すべき利益相反はありません。
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【お知らせ】イシュラン上で広告を希望される方へ
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【記事2】沢井製薬の品質試験”不正”はどこまでヤバい話なのか
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ジェネリック医薬品の大手、沢井製薬が品質試験の不正を行なっていたというニュースが10月23日に駆け巡りました。
■「別カプセルに詰め替え…胃炎薬の検査で“不正”沢井製薬 社長が謝罪」(テレ朝news)
同記事の報道ステーションでの一画面の抜き取りを見ると、「不正検査8年も… ”溶けない”カプセル」と何やら非常に「ヤバい」ことが起きているように見えます。
他社の大手メディアも似たような見出しで一斉に報じていましたので、特にご自身で沢井製薬のお薬を服薬されているような方は、かなり不安を覚えられたのではないでしょうか。
ただ今回の事件は、報道内容を詳細に見ると、「沢井製薬がやったことはよろしくないのは確かだが、そこまで騒ぐ話ではなさそう」というのが素直な感想です。
■「薬の安定供給への影響懸念も 沢井製薬の検査不正」(産経新聞)
薬の中で最も一般的な「飲み薬」では、薬本来の成分を顆粒でコーティングしてカプセルに詰め込む「カプセル剤」や、成分を圧縮したりコーティングしたりした「錠剤」が典型的です。
飲み薬で薬本来の成分が、胃の中でどのように溶け出すのかを、試験管の中で擬似的に確認する試験(検査)を「溶出試験」と呼びます。
今回は、薬が一定の保存期間を過ぎても品質を保てているかを確認する溶出試験での不正がありました。以下、上記の産経新聞の記事の抜粋です。
>>
平成22年に行った社内の試験で、有効期限の3年を1年超えている長期保存していたカプセルを使った場合、薬の成分の溶出が低下していることが分かった。その後、27年以降、保存3年目のカプセルから内容物を取り出して別の新しいカプセルに詰め替えて試験を行うという、承認を受けた手順と異なる方法で試験を進めた
>>
なんでこんなことをしたのかというと、ガイドラインの改定により、「それ以前は、成り行き室温(工場内温度の約22度)で保存した検体が用いられていたが、25±2度、60%の湿度で保管された検体が対象となり、劣化が早く進むようになった」(ミクスOnline)ことが背景にある様です。
爪水虫薬に睡眠導入剤を混入していたとか、品質試験不合格の錠剤を砕いて再び加工していたとかの、製造工程での問題が発覚した近年の他の不祥事と比べると、そこまでクリティカルではありません。
気をつけるとしたら、ご自宅で例えば2年を超えて保存している薬は使わない方が良いという話です。
マスメディアというものはセンセーショナルな報道をした方が商売になるので、冒頭に挙げたようないかにも不安を煽る伝え方をしますが、そこに踊らされる必要はありません。
とはいえ、沢井製薬の不正自体を擁護するわけではありませんし、そこは真摯に反省していただき、再発防止や社内風土の見直しはしっかりしていただければと思います。
※本項執筆時点(2023年8月31日)で、筆者は沢井製薬に関し、特筆すべき利益相反はありません。
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治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対するピロチニブ+ゼローダ、無増悪生存期間を統計学的有意に改善する - がん情報サイト「オンコロ」
治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者に対するピロチニブ+ゼローダ、無増悪生存期間を統計学的有意に改善する がん情報サイト「オンコロ」
この記事の3つのポイント ・治療歴のあるHER2陽性転移性乳がん患者が対象の第3相試験 ・ピロチニブ+ゼローダ併用療法の有効性・安全性をプラセボと比較検証 ...
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研究グループによると、メリチンは長期的には治療に対して耐性をもってしまう「HER2陽性」の乳がんや、特に予後が悪いとされる「トリプルネガティブ」の乳がんに対して強力な治療効果があるという。
ミツバチが女性を救う。毒に含まれる物質が乳がん細胞を破壊することが判明(オーストラリア研究) : カラパイア
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April 05, 2018 at 05:52PM
プレスリリース・タイトルリスト 2018/04/05 https://ift.tt/2GzcooT -【アストラゼネカ】アストラゼネカのリムパーザ、BRCA遺伝子変異陽性HER2陰性転移乳がん治療として欧州医薬品庁が薬事申請を受理 【小野薬品】取締役および執行役員人事に関するお知らせ 【第一三共】DarwinHealthとの新規がん標的獲得に向けた共同研究提携について from Gmail via IFTTT
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中外製薬 HER2陽性の乳がん治療薬パージェタに「補助化学療法」の適応追加申請ミクスOnline中外製薬はこのほど、HER2陽性乳がん治療薬パージェタ点滴静注(ペルツズマブ(遺伝子組換え))の効能・効果にHER2陽性乳がんにおける補助化学療法を追加する承認申請を行ったと発表した。手術が適応となる乳がん患者に対し、術前と術後のいずれにおいても使えるよう ...
http://news.google.com/news/url?sa=t&fd=R&ct2=us&usg=AFQjCNENqfxqhJpcAHEUdUXq-iVqF9KcJg&clid=c3a7d30bb8a4878e06b80cf16b898331&ei=-2b5WdDQFIXHqgKN-K7QCw&url=http://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/59124/Default.aspx
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アストラゼネカのolaparib、BRCA遺伝子変異陽性転移性乳がんの第III相試験で主要評価項目を達成
[アストラゼネカ株式会社] アストラゼネカ (本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)は2017年2月17日、生殖細胞系BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有するHER2陰性転移性乳が… Source: PR TIMES
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Vol.163 遺伝子パネル検査はこれからのがん治療のパスポートになる
7月に入って、関東地方は身体に堪える暑さが続いています。もしかしたら、もう梅雨明けしてしまっているのかもしれません。
一方、九州北部は大変な豪雨とのことで、お住まいの方にはお見舞い申し上げます。
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【記事1】 遺伝子パネル検査はこれからのがん治療のパスポートになる
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遺伝子パネル検査についてはこれまでも何度かメルマガで取り上げてきました。
背景と現状のおさらいですが、、、
・がんを引き起こす様々な遺伝子異常がわかってきた中で、一つ一つの遺伝子異常の有無を調べていく既存のやり方ではキリがないので、まとめて一気に調べる「遺伝子パネル検査」が出てきた
・遺伝子の異常がわかっても、対応する治療薬が存在しない場合が多い。とはいえ、存在する場合はその治療薬を使わなかった場合と比べ、圧倒的に優れた治療効果が期待できる
・現状、日本だと、当該検査の医療費は56万円で、保険が適用されると患者負担はその1-3割
・日本で保険が適用されるのは、「標準治療がない、又は終了する見込みである固形がん」などごく限られたケースで、それも一人一回のみとなっている
さて、この遺伝子パネル検査に関連する論考が出てきました。
■”Universal Germline and Tumor Genomic Testing Needed to Win the War Against Cancer: Genomics Is the Diagnosis”「がんとの闘い��勝つために必要な、生殖細胞系列と腫瘍の普遍的な遺伝子検査:遺伝子は診断である」(Journal of Clinical Oncology)
この論考の中で、首がもげるほど頷けたのが、
「がんとの戦いに本気で勝とうとするならば、がんを治療するためにも、がんを早期に発見するためにも、がんに関するあらゆる情報を得る必要がある。」
という一文です。
今のところ、遺伝子パネル検査が普及していないのはコストの問題が一番大きいわけですが、技術の発展と共に、今後さらにコストは下がっていく可能性が大きいですし、普及すれば患者さんが無駄な検査や治療をするリスクとコストを下げ、治療成績が上がることも期待できます。
折しも、日本では、患者会から遺伝子パネル検査に関する要望書が政府に対して上げられました。
■「『適切なタイミングでのがん遺伝子パネル検査の実施に関する要望書』厚生労働省への提出と財務副大臣への手交のお知らせ」(一般社団法人 全国がん患者団体連合会)
”米国でのがん遺伝子パネル検査については、「全てのStageⅢ、StageⅣの進行再発がん、あるいは再発、再燃、転移がん」の患者さんが対象となっており、初回治療の患者さんを対象にがん遺伝子パネル検査を実施し、その検査結果に基づいて「従来の標準治療の実施」「コンパニオン診断の結果に基づく分子標的薬の投与」「がん遺伝子パネル検査の結果に基づく新たな治療候補薬の選定(治験やコンパッショネートユースなど)」いずれかの治療選択を可能とする「プレシジョン・メディシン(精密医療)」が初回治療から可能となっています”
とあるように、米国の方が一歩進んでいるのが現状です。
日本でも、もう一段遺伝子パネル検査のコストが下がって、誰もが治療の中で何度か使うような「がん治療のパスポート」的な存在になる時代が、早くやってくることを期待したいですね。
※本項執筆時点(2023年7月13日)で、筆者は複数の遺伝子パネル検査機器メーカーの株式を保有しています。
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【記事2】すったもんだの保険適用:オンコタイプ DX 乳がん再発スコアプログラム
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ホルモン陽性・HER2陰性の早期乳がんの患者さんで、「術後化学療法」を行なうかどうかというのは、これまで医療者にとっても患者にとっても悩みどころでした。
再発リスクは下げたいけれど、術後化学療法での副作用を経験したくないという患者心理がある中で、どのような人であれば術後化学療法をやる必要なしという明確な”線引き”がなかったのです。
そこに出てきたのが「オンコタイプDX」という検査です。腫瘍に関連する21個の遺伝子を解析し、再発リスクを「RS(Recurrent Score)」という形でスコア化します。
現在、乳がん診療ガイドラインでは、Oncotype DXを用いたTAILORx試験の結果に基づき、
「Oncotype DXのRSが25以下の場合には,リ��パ節転移陰性であれば術後化学療法を省略することを強く推奨する」
としています。
■「CQ11 ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌に対して,多遺伝子アッセイの結果によって,術後化学療法を省略することは推奨されるか?」(乳癌診療ガイドライン2022年版)
TAILORx試験では、リンパ節転移陰性でRSが25以下の集団は、化学療法をやった場合(化学療法+ホルモン療法)とやらなかった場合(ホルモン療法のみ)で
5年IDFS(再発しないで元気に過ごした患者の比率):93.1% vs 92.8%
で、有意差はなく、化学療法を加えるメリットはないという結果になりました。
ということで、オンコタイプDXを使用する意義も示され、日本でも2021年8月に承認されたわけですが、ここからすったもんだがありました。
■「オンコタイプDXに関するこれまでの経緯と今後の対応について」(厚生労働省)
いやあ、当該企業(エグザクトサイエンス株式会社)に対して完全に怒ってますね、厚生労働省(苦笑)
2021年12月1日までにプログラムの修正を約束していたのに、企業側が守らなかったということで、
「当企業に対しては、厚生労働省に対して、正当な理由なく安定供給が困難な事態を遅滞なく 報告しなかったことから、企業からの再発防止策等の改善策が示されない限り、経済課において今後の保険適用の手続きを留保する。」
とまで書かれてしまってます。
これがようやくのこと、本年9月に保険収載されることになりました。
■「乳がん遺伝子検査、9月から公的医療保険の対象に…3割負担で13万500円」(読売新聞オンライン)
問題が起きてから解決するまでなぜ2年もの時間がかかったのか等、モヤモヤは残りますが、ともかくも正常な環境下でこの検査が普及する体制が整ったことを、まずは歓迎したいと思います。
※本項執筆時点(2023年7月13日)で、筆者はオンコタイプDXに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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Vol.165 遺伝子変異は早く知るに限る〜進行非小細胞肺がんでの興味深い研究結果
���盆が過ぎ、少しは涼しさを感じられるようになるかと思いきや、変わらずの猛暑&熱帯夜続きで、流石に身体に堪えますね。
東京で猛暑日がこんなにもあった年はあったかなと記録を調べてみたら、今まで一番多かったのが、昨年の16日間。2010年に記録した13日間を12年ぶりに更新しての数字です。
そして、今年は… なんと8月29日時点で既に22日間!!
世界陸上での日本記録の大幅更新はWelcomeですが、こんな大幅な記録更新は勘弁して欲しいです。
私自身も、夏バテなのか先日来体調を崩してしまい、久しぶりに高熱にうなされる日を過ごしています。検査の結果、コロナでもインフルでもなさそうなのはまだ良かったのですが…
読者の皆さまにおかれましても、どうぞお身体ご自愛くださいませ。
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【記事1】 BMIと副作用:太るべきか、太らざるべきか?
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適切な体重管理は、がん治療においては一般的にプラスに働くと考えられています。
特に、乳がんについてはかなりエビデンスが揃っており、ガイドラインの中でも肥満の影響について論じられています。
■「CQ6 肥満は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?」(乳癌診療ガイドライン2022年版)
「乳癌診断時に肥満である患者の乳癌再発リスク,乳癌死亡リスク,全死亡リスクが高いことは確実である」
「乳癌診断時より肥満度が上昇した患者において乳癌再発リスク,乳癌死亡リスク,全死亡リスクが高いことはほぼ確実である」
と記載されており、治療医が患者の体重管理について助言をする根拠となっています。
一方で、抗がん剤治療の際に、体重(BMI)がどのような意味を持ち得るのかについて、一本興味深い論文が出てきました。
■"Impact of BMI in Patients With Early Hormone Receptor–Positive Breast Cancer Receiving Endocrine Therapy With or Without Palbociclib in the PALLAS Trial”「PALLAS試験でパルボシクリブ併用または非併用の内分泌療法を受ける早期ホルモン受容体陽性乳癌患者におけるBMIの影響」(Journal of Clinical Oncology)
抗がん剤は注射剤の場合、一般的に「体表面積」あたりで投与量が決まっています。「体表面積」は身長と体重で決まります。
一方で、パルボシクリブ(イブランス)のように「経口剤」の抗がん剤もありますが、この場合、身長とか体重には関係なく、投与量は基本誰でも同じです。
PALLAS試験は、ホルモン陽性の早期乳がんの患者さんに、術後療法として標準的なホルモン剤にCDK4/6阻害薬パルボシクリブ(イブランス)を上乗せした場合の再発予防効果を検証した試験です。
この試験を実施した際に、BMIによる副作用の出方の違いも同時に検証しており、その結果について論じられているのが、上記の文献になります。
解析��組み入れられた5,698例のうち、ベースライン時の体重は、68例(1.2%)が低体重、2,082例(36.5%)が標準体重、1,818例(31.9%)が過体重、1,730例(30.4%)が肥満でした。
そして、パルボシクリブ群では、BMIが高いほど好中球減少症が有意に減少(7%)し、これがBMIが高いほど治療中止率が有意に低下(25%)したことに繋がったと考えられました。
ちなみに、BMIに関係なく、本試験ではパルボシクリブの上乗せ効果は認められませんでした。
ここから推察されることは、パリボシクリブだけでなく経口剤の抗がん剤の治療においては、体重がある方が副作用の出方やそれに伴う中止のリスクは下がるかもしれないということです。
有効であることがわかっている治療方法であれば、副作用による中止リスクは下げた方が良いでしょうから、その意味では体重は増えている方がむしろ良いのではと考える向きもありそうですが…
とはいえ、全体としては再発リスクがBMIの増加により上がることはほぼ確実なわけで、この試験結果をもって「太るべき」とは、言えないでしょうね。
いずれにしても、パルボシクリブ以外の薬剤での追加的な研究結果が期待されるところです。
※本項執筆時点(2023年8月31日)で、筆者はパルボシクリブに関し、特筆すべき利益相反はありません。
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【記事2】遺伝子変異は早く知るに限る~進行非小細胞肺がんでの興味深い研究結果
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非小細胞肺がんは、がんを引き起こす「ドライバー遺伝子」の解析と臨床への応用、すなわち「個別化医療」がもっとも進んでいるがんです。
現在、日本で対応する分子標的薬が存在する遺伝子変異は、EGFR, ALK, ROS1, MET, RET, NTRK, BRAF, KRAS遺伝子G12C変異、と数多くあり、今後も増えていくことが予想されます。
従って、このメルマガでも何度も取り上げている「遺伝子パネル検査」を行なう意義がもっともあるがんと言えます。
ところが、ここで大きな問題が一つ。
現状では、遺伝子パネル検査が保険で認められるのは、「標準治療がない、または局所進行または転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者さん(終了が見込まれる方を含む)」のみです。
本来であれば、再発/進行が判明した時点で、「遺伝子パネル検査」を行ない、適合した治療にすぐ進んでいったら良さそうなものなのに、そうなっていないわけですね…
遺伝子パネル検査をなるべく早期に行なった方が良さそう、ということを示唆する研究結果を、一本ご紹介します。
■”Compromised Outcomes in Stage IV Non–Small-Cell Lung Cancer With Actionable Mutations Initially Treated Without Tyrosine Kinase Inhibitors: A Retrospective Analysis of Real-World Data"「チロシンキナーゼ阻害剤なしで初期治療された、治療可能な変異を有するステージIV非小細胞肺癌における予後の悪化:リアルワールドデータのレトロスペクティブ解析」(Journal of Clinical Oncology)
「チロシンキナーゼ阻害剤」とは、遺伝子変異に適合した分子標的薬とお考えください。
研究時点で治療アクションが可能ながん遺伝子変異「EGFR, ALK, ROS1, BRAF, MET, RET, ERBB2, or NTRK」を持っていたとわかっていた患者さんの転帰を以下の3群に分けて調べました。
・A群:遺伝子変異が判明するまで治療開始を待ち、適合する分子標的薬で治療した群(379名)
・B群:当初化学療法or免疫チェックポイント阻害剤で治療開始し、分子標的薬に35日以内にスイッチした群(47名)
・C群:当初化学療法or免疫チェックポイント阻害剤で治療開始し、分子標的薬に35日以内にはスイッチしなかった群(84名)
ちなみに、遺伝子変異の内訳は下記の通りです。
EGFR (n = 451), BRAF (n = 113), HER2 (n = 60), MET (n = 59), ALK (n = 58), ROS-1 (n = 21), NTRK1/2/3 (n = 15), RET (n = 14)
結果、全生存期間(OS)の中央値は、
・A群:28.8ヶ月
・B群:21.7ヶ月
・C群:15.3ヶ月
となり、A群とC群の間では有意差ありという形でした。
ということで、遺伝子変異がある場合、なるべく早いタイミングで適合した分子標的薬での治療に入ることが大事になるということが示唆されるデータでした。
ちなみに日本での臨床実態は、いきなりの遺伝子パネル検査は保険診療の中ではできませんが、EGFRやALKなど、比較的昔から知られている遺伝子変異については事前に調べ、そうでない遺伝子変異についてはスキップしたり後日実施したりする形で対応されている施設が多いと考えられます。
遺伝子変異は「早く知っておくに越したことはない」ということで、今後、より早いタイミングでの遺伝子パネル検査の保険適応を期待したいと思います。
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Vol.164 外来化学療法はiPod&イヤホン持参が吉!? 音楽療法の新エビデンス
大谷翔平選手(野球)のMLBでの大活躍、井上尚弥選手(ボクシング)の4階級制覇、とスポーツ界で大きなニュースが続いてますが、女子サッカーW杯も見逃せません。
娘のおかげで、私も女子サッカーに注目するようになってきたのですが、日本ではプロリーグができたものの、なかなか「マイナー」な競技のイメージから抜けきれていないのが現状です。
これを打破するためにも、やはりW杯での活躍は不可欠。まずは予選リーグを無事通過しましたので���決勝リーグで、2011年・15年当時のような躍進を再び期待したいですね。
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【記事1】 私のがんにも関係ある?「HER2陽性」は乳がん/胃がんのみにあらず
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「HER2陽性」のタイプがあるがんというと、乳がんや胃がんを思い浮かべる方が多いかと思います。
以前のメルマガで、実は大腸がんにもHER2陽性タイプがわずかながらあって、代表的な抗HER2抗体薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)が効果を発揮した、というお話を紹介しました。
■「Vol.140 すごいぞSCRUM-Japan! 肺がんと大腸がんで立て続けに新治療に繋がる成果」(イシュランメルマガ)
本研究の成果もあり、大腸がんでは、「トラスツズマブ(ハーセプチン)+ペルツズマブ(パージェタ)」という抗HER2抗体薬での治療が日本で昨年承認されました。
また、HER2は肺がんにも発現しているケースがあって、HER2陽性非小細胞肺がんの二次治療として、新世代の抗HER2抗体薬「T-DXd(エンハーツ)」が承認申請を昨年末しています。
更にHER2は、他の様々ながんでも、それぞれ確率は低いものの発現しているケースがあることがわかってきています。
そこで、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆道がん、膵臓がん、膀胱がん、およびその他のがん種で「HER2陽性」と判明した患者さんで、「T-DXd(エンハーツ)」の有用性を検証しようという「DESTINY-PanTumor02試験」が進んでいます。
蛇足ですが、このような、がん種横断の臨床試験を「バスケット試験」と呼びます。
一つ一つのがん種だけだと対象となる患者数が少なく、相応の規模の試験ができないので、”まとめてドン”でやるわけですね。
この「DESTINY-PanTumor02試験」の中間解析結果の続きが出てきました。
■"ENHERTU® Demonstrated Clinically Meaningful Progression-Free Survival and Overall Survival Across Multiple HER2 Expressing Advanced Solid Tumors in DESTINY-PanTumor02 Phase 2 Trial"「DESTINY-PanTumor02フェーズ2試験において、エンハーツが複数のHER2発現進行性固形がんにおいて臨床的に意義のある無増悪生存期間および全生存期間を実証」(第一三共株式会社プレスリリース)
執筆時点で何故か、日本語のサイトにはなく、英語サイトにだけプレスリリースが掲載されてるのですが…
元々、今年のASCOで本試験の主要評価項目である客観的奏効率(腫瘍が縮小した症例の割合と考えてください)は37.1%で、安全性で特に新しい懸念点はなし、というデータは出てきており、今回の発表で有用性がさらにしっかりと示されたという感じです。
・フェーズ3まで待たずに承認申請がされるかどうか
・その場合、フェーズ2で客観的奏功率が低かった胆道がんや膵臓がんの扱いはどうなるのか
あたりが今後の焦点となってくると思いますが、今後の動向を見守りたいと思います。
※本項執筆時点(2023年7月31日)で、筆者はT-DXd(エンハーツ)やトラスツズマブ(ハーセプチン)に関し、特筆すべき利益相反はありません。
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【書籍紹介】「言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から」
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友人でもあり、��少ない”腕利き”の医療専門記者である岩永直子さんが、独立されたと共に、初めての書籍を書き下ろされたので、ご紹介。
■「言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から」(岩永直子 晶文社)
重たいテーマ設定ですが、当事者の肉声を丹念に紡いだ渾身の著です。ご興味ある方はぜひ手に取られてみてください。
岩永さんは読売新聞とバズフィードで長年活躍され、バズフィード時代にまだ乳がんしかカバーしていなかったイシュランを取材していただいたことがあります。
それが、会社の突然の経営体制の変更に伴い、医療記事を書けない状況に追い込まれ、ちょうど独立されたところです。
今、ご自身で「医療記者、岩永直子のニュースレター」という媒体でオリジナルの取材記事を連載されていますので、こちらもよろしければチェックしてみてください。
一部の記事は無料で閲覧可能で、別途有料のサポートメンバー限定記事もあります。記事を読まれて、岩永さんを応援されたいと思われた方は、ぜひサポートして頂けたらと思います。
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【記事2】外来化学療法はiPod&イヤホン持参が吉!? 音楽療法の新エビデンス
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以前のメルマガで、運動ががん治療にもたらすベネフィットについて研究する「運動腫瘍学」を取り上げたことがあります。
■「Vol.153 【記事2】運動とがんの関係を科学する「運動腫瘍学」の登場」(イシュランメルマガ)
では、「体育(運動)」に相応のベネフィットがあるとして、「音楽」はどうなんでしょう?
ちょっと古いですが、緩和医療学会がガイドラインの中でエビデンスのレビューをまとめていますので、まずはご紹介。
■「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版) Ⅲ章 各論:クリニカル・エビデンス 音楽療法」(日本緩和医療学会)
この中で、音楽療法は、
・がんの身体症状に関しては、「痛みを軽減し得るが、有用性が確立されているとは結論づけられない」「倦怠感の軽減については有用であるとは結論づけられない」とされ、それ以外の症状についてはエビデンス不足。
・精神症状の軽減については、「不安を軽減し得るが、うつの軽減には必ずしも有用であるとは限らない」とされ、それ以外についてはエビデンス不足
であることが示されています。”音楽療法”は、エビデンスそのものがかなり乏しい状況と言えそうです。そんな中、興味を惹く試験結果が出てきました。
■"Using Music as a Tool for Distress Reduction During Cancer Chemotherapy Treatment”「がん化学療法中の苦痛軽減ツールとしての音楽の活用」(Journal of Clinical Oncology)
化学療法のために来院した成人患者750名を、音楽活用群と非活用群にランダムに振り分け、前者は好きなジャンルの音楽を選択して点滴中にiPodで最大60分間聴いてもらい、後者は何もなし、とします。
介入前には、音楽活用群と非活用群の間で���「疼痛」「ポジティブな気分」「ネガティブな気分」「苦痛のレベル」で差はなかったのが、介入後はどうなったかというと…
「ポジティブな気分」「ネガティブな気分」「苦痛のレベル」について、音楽活用群で有意な改善が認められ、「疼痛」については有意差は見られませんでした。
改善の度合いがどの程度の意義かが分かりかねるところですし、点滴終了直後の気分の改善がどれくらい継続するものかなど、ツッコミどころはあるのですが、それでもエビデンス不足の中でこうした研究結果が出てきたことは素晴らしいと思います。
なにせ、追加コストも副作用��ほぼ心配ないので、現場でどんどん試してみる価値はありそうです。
化学療法中の患者さんで良いなと思われた方は、次回の通院の際にはiPod&イヤホン持参で行かれてみるのも良いかもしれませんね。
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Vol.162 【ASCO特集】カペシタビン(ゼローダ)の手足症候群に救いの手
梅雨真っ只中、ムシッとした空気に覆われていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
私は先日、北海道(札幌)に出張で行き、一瞬だけですが爽やかな青空を楽しむことができました。
今月は皮膚科関連の学会に17年ぶり(!)に立て続けに参加してきたのですが、流石にこれだけ年数が経つと、座長や演者で見知っている先生はごく僅かで、時の流れを感じます。
今号は、月初に開催されたASCO(米国臨床腫瘍学会)からの最新情報を2本お届けします。
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【記事1】CDK4/6阻害剤の使い方に一石を投じた「SONIAスタディ」
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「ホルモン陽性・HER2陰性」は、乳がんで最も多いサブタイプです。
このタイプの乳がんの場合、がんは女性ホルモンを糧に増殖するため、術後療法にしても進行/再発時の治療にしても、ベースになるのは女性ホルモンを抑制する「ホルモン療法」になります。
ここに加わったのが、CDK4/6阻害剤というタイプの抗がん剤で、日本ではパルボシクリブ(イブランス)とアベマシクリブ(ベージニオ)の2剤が、2017年から18年にかけて、進行/再発のホルモン陽性・HER2陰性乳がんの治療薬として登場しました。
当初は二次治療以後で使われていたのですが、一次治療での有用性を示すエビデンスが出たことにより、現在では一次治療でもCDK4/6阻害剤+ホルモン剤(アロマターゼ阻害剤)がホルモン剤単剤の治療よりも推奨度の高い標準治療となっています。
ところが、そこに一石を投じるような試験結果が出てきました。
■”Primary outcome analysis of the phase 3 SONIA trial (BOOG 2017-03) on selecting the optimal position of cyclin-dependent kinases 4 and 6 (CDK4/6) inhibitors for patients with hormone receptor-positive (HR+), HER2-negative (HER2-) advanced breast cancer (ABC)”「ホルモン陽性HER2陰性進行乳がん患者に対するCDK4/6阻害剤の最適な投与タイミングの選択に関する第3相SONIA試験(BOOG 2017-03)の主要アウトカム解析」(Journal of Clinical Oncology)
一次治療でホルモン剤単独療法、二次治療でCDK4/6阻害薬の併用療法を行う場合と、一次治療からCDK4/6阻害薬の併用療法を行う場合を、”ガチンコ”で比較した試験は今までなく、SONIA試験はそこを明らかにしようとした試験です。
1050名のホルモン陽性・HER2陰性の進行/再発乳がんの患者さんを、以下の2群に分けてその後の治療経過を比較しました。
・一次治療でCDK4/6阻害剤+アロマターゼ阻害剤、進行後の二次治療でフルベストラント<A群>
・一次治療でアロマターゼ阻害剤、進行後の二次治療でCDK4/6阻害剤+フルベストラント<B群>
結果、2つの治療を合わせた無増悪生存期間(PFS2)は、A群は31.0ヶ月、B群は27.8ヶ月で、両者の間に有意差はなし。
一方で、CDK4/6阻害剤での治療期間は、A群は24.7ヶ月・B群は8.3ヶ月と、圧倒的にB群が短く、Grade3以上の重篤な有害事象の発生件数も2778件vs1620件と、B群が少ない結果となりました。
色んな意味で負担の大きい治療はなるべく後回しにしたい患者ニーズは一般的ですので、アロマターゼ阻害剤単剤治療が一次治療でも効果面で明確な不利がなさそうという今回の試験結果は、患者さんにとって選択肢の幅が広がったという意味で朗報だと思います。
最後に、こんな試験を製薬会社がやるわけないよなと思って資金提供者をチェックしたら、「オランダ医療研究開発機構とオランダの医療保険会社」と出てました。
今後もこうした患者さんの負担面に配慮する「デ・エスカレーション」的な試験は、保険者が率先して行なう流れが続きそうですね。
※本項執筆時点(2023年6月30日)で、筆者はパルボシクリブ、アベマシクリブに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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【記事2】カペシタビン(ゼローダ)の手足症候群に救いの手
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「手足症候群」という言葉、抗がん剤治療を経験されてきた方は、耳にしたり実際に経験されたことがあるかもしれません。
抗がん剤を投与することで、
・手や足がしびれる、痛むなどの感覚異常が出る
・手や足の皮膚が赤くなる、むくむ、しみが出来る、皮膚が硬くなる(角質化)、水ぶくれが出来る
・爪が変形する、色がつくことがある
(出所:国立がん研究センター東病院)
などの症状が副作用として出てくることがあり、これら一連の症状が「手足症候群」と呼ばれています。
酷くなると、ものを持てなくなったりキーボードを打てなくなったりなど、著しくQOLが阻害されます。
「手足症候群」を引き起こしやすい抗がん剤の中でも代表的なものが「カペシタビン(ゼローダ)」。経口剤という簡便性もあって、胃がん、大腸がん、乳がんで、広く使われています。
このゼローダの手足症候群を予防するのに、「ジクロフェナク」という消炎鎮痛剤の外用剤を試してみた試験結果が出てきました。
■”Randomized double-blind, placebo-controlled study of topical diclofenac in prevention of hand-foot syndrome in patients receiving capecitabine”「カペシタビン投与患者における手足症候群予防を目的としたジクロフェナク外用薬の無作為二重盲検プラセボ対照試験」(Journal of Clinical Oncology)
ジクロフェナクは昔からよく使われている消炎鎮痛剤で、ブランドとしてはボルタレンが一番有名です。
カペシタビン投与予定の乳がん/胃がんの患者さんに、ジクロフェナク外用剤を予防的に4サイクル投与する群(130名)とプラセボ群(133名)とで、手足症候群の出方に違いがあるか調べたところ…
グレード2以上の手足症候群の発症率:3.8% vs 15.0%
全てのグレードの手足症候群の発症率:6.1% vs 18.1%
と、有意差ありで、ジクロフェナク投与群が低い結果になりました。
手足症候群が酷くなるとカペシタビンを減量せざるを得ないので、抗がん剤の本来の効果を期待するという意味でも、ジクロフェナク外用剤の予防投与は意義があると考えられます。
さらに、ジクロフェナクは古い薬剤なので、コストが極めて低いのも喜ばしいですね。
今回の試験はカペシタビン投与に限定されたものですが、手足症候群は、カペシタビン以外の抗がん剤でも比較的よくある副作用のため、更に応用が進むことを期待したいと思います。
※本項執筆時点(2023年6月30日)で、筆者はジクロフェナク外用剤、カペシタビンに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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Vol.161 「HER2(ハーツー)」の気まぐれにご用心
日差しの強さに”夏”を感じるようになってきました。
例年、ここから2ヶ月くらいが私にとっては「学会シーズン」なのですが、今年は乳癌学会を含め、最大5つほど参加を検討しています。
学会というと、一般の患者さんにとってはあまり身近な存在に感じられないかもしれないですが、実は無料で参加できるプログラムがあったりします。
今号では、乳癌学会期間中に開催される、患者・市民参画プログラムのご案内も出しておりますので、ご興味のある方、ご一読ください。
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【記事1】「HER2(ハーツー)」の気まぐれにご用心
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「HER2(ハーツー)陽性」タイプは、乳がんに多く、その他に胃がん、そして更には大腸がんや肺がんなどでもわずかですが存在します。
そして、この「HER2陽性」の考え方が変わってくるという話を、以前のメルマガの中で書きました。
■「 Vol.150 <ASCO速報>T-DXd(エンハーツ)の治験結果にスタンディング・オベーション!」(イシュランメルマガ Vol.150)
記事内にもありますが、IHCという検査方法で「3+」のスコアが出た場合、もしくはIHCで「2+」(偽陽性)となりFISHという別の検査方法で陽性となった場合、「HER2陽性」判定となります。
これに対し、IHCで「1+」もしくは、IHCで「2+」かつFISHで陰性、の状況を「HER2”低発現”」と呼びます。
トラスツズマブ(ハーセプチン)に代表される既存の抗HER2抗体は、「HER2”低発現”」では効果が出ませんが、T-DXd(エンハーツ)は進行乳がんの標準治療として入ってきています。
「ホルモン陽性・HER2陰性」と判定されていた方は、実は「HER2低発現」であるケースが半々くらいの確率でありますので、今一度お手元の検査結果を確かめておかれた方がよろしいかと思います。
HER2に関してはもう一つ、気になる話があります。
それは、HER2���判定はかなり「揺らぐ」可能性があるという点です。
■"Intra-patient and inter-metastasis heterogeneity of HER2-low status in metastatic breast cancer”「転移性乳がんにおけるHER2低発現の患者内および転移先間の不均一性」(European Journal of Cancer)
献体された「HER2陰性」の10人の再発乳がん患者さんの転移巣257個と乳腺腫瘍8個の生検サンプルと、生前に採取された41の生検サンプルを染色して、HER2の状況について調べたところ。。。
・10人中8人の患者さんについて、HER2低発現とHER2陰性の組織が転移巣に混在
・HER2低発現病変の割合は、5%から89%
・ホルモン陽性原発の患者では、陰性原発と比較して、HER2低発現の転移の割合が比較的高かった
ということで、原発の判定で「HER2陰性」であっても、転移組織での判定は「HER2低発現」の可能性がかなりあるし、同じ患者さんであっても組織の採取部位によってHER2の判定が変わり得ることが示唆されています。
こうなってくると、腫瘍組織そのものを採取する検査より、血液等を用いたリキッドバイオプシーの方がむしろ精度高く判定できる、みたいな世界が将来やってきそうな気もしますね。
いずれにしても、HER2は現時点では”気まぐれ”な指標とも言え、「HER2陰性」は真に「陰性」と早合点しない方が良さそうです。
※本項執筆時点(2023年5月31日)で、筆者はハーセプチン、エンハーツに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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【ご案内】2023年日本乳癌学会 患者・市民参画プログラム「BC-PAP」
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今年の乳癌学会学術総会の会期中に患者・市民参画プログラム、通称「BC-PAP(ビーシー・パップ:Breast Cancer Patients and Advocates Program)」が開催されます。
編集長の鈴木も参加経験のあるプログラムですが、各専門の医師を講師に招き、乳がん治療・ケアの最新情報を、患者さんやご家族、一般の方も分かり易く学ぶことができるセッションです。
無料で乳がんの最新情報について学べますので、この機会にご参加されてみてはいかがでしょうか。
・開催日 2023年6月30日(金)、7月1日(土)(学術総会 第2日目、3日目)
・場所 パシフィコ横浜ノース (神奈川県 横浜市西区みなとみらい1-1-2)
・参加形態 現地、オンラインのいずれかを選べます。参加タイプにより学術総会の医療者向けセッションの聴講が可能です。
※学術総会終了後のオンデマンド配信は7月上旬~8月末を予定。
お申込みや詳細はこちらから ↓↓↓↓↓↓
https://www.congre.co.jp/jbcs2023/patient/index.html
締め切りは5月31日(水)15時です。お早目にお申し込みください。
※申し込みの途中に、参加区分の選択項目があります。患者支援者、一般市民の方も含めBC-PAPに参加される方すべて、「非会員(患者・家族)」を選んでください。
不明点などは、HP掲載のメールアドレスにお問い合わせください。
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【記事2】営業赤字の製薬企業増加で気になる、医薬品の安定供給
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昨年、ジェネリック医薬品メーカーの相次ぐ不祥事に端を発し、新型コロナのオミクロン型の流行なども相まって、多くの種類の医薬品で供給不足が話題となりました。
供給が怪しくなっても同種同効の他剤があればまだ良いのですが、”替えの利かない"抗がん剤で供給不足になると、問題は大きくなります。
そんな問題が今年起きてしまったのが、再発・進行卵巣���んの標準治療薬である「ドキシル」です。
元々は、私の古巣であるヤンセンファーマが製造・販売していた薬剤なのですが、いつの間にか製造元はバクスター、販売は富士製薬に代わっています。
■「『ドキシル®注 20mg』の供給に関するお知らせとお詫び」(富士製薬/Baxter)
3月から限定出荷ということで、医療現場でもかなり混乱があったと思われます。
そこに今月新しいお知らせが入ってきました。
■「ドキシル注® 20mg 供給に関するお詫び」(Baxter)
またもや「お詫び」で悪い知らせかと思いきや、「日本においては、製造・出荷検定・輸入期間を鑑み、2023年9月に供給が改善される見通し」とのことで、とりあえず一安心ですね。
その一方で、ちょっと気になるニュースも。
■「国内製薬23年3月期、営業赤字の企業が増加…中堅企業、事業環境の悪化が収益直撃」(AnswersNews)
製薬会社といえば、かつてはどんなに業界下位の企業であっても、黒字経営というのが相場でした。
ところが、ここ10-20年で
・特許切れの古い薬剤は、ジェネリック医薬品への置き換えが進む
・日本国内での基礎研究への投資が細る
・新薬の開発コストは嵩む一方
という大きな流れが起きており、画期的な新薬の開発が(ほとんど)できず、古い薬剤群に売上の大半を頼らざるを得なくなっている製薬会社は、段々と経営が厳しくなってきています。
製薬会社も営利企業である以上、経営が傾いてくると費用削減のため、製造拠点の集約・在庫の縮小・従業員の削減、といったことをせざるを得なくなったりして、供給能力が脆弱になりかねません。
本記事の中でヤクルトは特に気になりますね。
ヤクルトと言えば、乳酸菌飲料やプロ野球の球団を思い起こす方がほとんどかと思いますが、実は「オキサリプラチン」や「イリノテカン」という、基幹的な抗がん剤を製造・販売していますので。
いずれにしても、今後、中堅製薬企業にとって経営環境はますます厳しくなると考えられますので、安定供給が保たれるか、注視が必要になってくる薬剤も出てきそうです。
※本項執筆時点(2023年5月31日)で、筆者はドキソルビシン塩酸塩(ドキシル)、オキサリプラチン、イリノテカンに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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Vol.156 あるの?ないの?妊娠目的での乳がんホルモン療法中断の再発リスクへの影響
「クリスマス寒波」、厳しい寒さとなりましたね。日本海側・北日本・西日本の皆さまは、例年より早い時期での大雪で大変な思いをされているかと思います。
年末年始は更なる寒波来襲の予報となってますので、皆さまどうぞ御安全にお過ごしください。
本メルマガの会員数は、おかげさまで年初の4万人から現在6万2千人を超えるまで増えました。
また、開封率も常に30%以上を維持しております。
来る2023年も、最新のがん治療情報を中心に、読者の皆さまに役立つ情報を届けて参りますので、引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。
一点お知らせがございます。
システムのメンテナンス作業のため、イシュランの問い合わせアドレス「[email protected]」が、12/27,28の2日間使用できなくなります。
これに伴い、本メルマガへの直接のご返信が上記2日間できなくなりますので、ご承知おきください。
皆さまにとりまして、2023年が佳き年となりますよう。
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【記事1】術後療法の価値を何で判断すべきか?肺がん領域の現在最もホットな議論とは
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12月初めに肺癌学会の学術集会に参加してきました。
その中で、一番熱い議論が交わされていたセッションが、”緊急企画”「術後補助療法EGFR-TKI」です。
この企画の背景あるのが、オシメルチニブ(製品名タグリッソ)という抗がん剤の、EGFR変異陽性非小細胞肺がんの術後療法としての適応の取得です。
■「アストラゼネカのタグリッソ、早期EGFR変異陽性肺がんの術後補助療法として適応拡大」(アストラゼネカ株式会社)
EGFR遺伝子変異陽性は、非小細胞肺がんの40%程度を占めると言われており、このタイプの肺がんに特異的に効果のある抗がん剤が、EGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)と呼ばれるものです。
EGFR-TKIの第一世代としてゲフィチニブ(製品名:イレッサ)という薬がありまして、がん細胞の遺伝子変異に応じた治療(=個別化医療)の先駆けとなった薬剤です。
(発売当初は薬害騒ぎで大きなニュースになってしまったので、そちらで記憶されている方も多いかもしれませんが…)
イレッサ等のEGFR-TKIの第一世代や後続の第二世代は、再発・進行症例に対する効果は抜群なのですが、早期EGFR陽性肺がんの術後療法として決定的な再発予防効果を示せたものはありません。
オシメルチニブ(タグリッソ)はEGFR-TKI第三世代で、再発・進行症例では第一世代より優れた効果を示して標準治療となっていますが、術後療法でどう��を検証したのが、ADAURA試験です。
この試験の第2回解析がESMO2022(欧州臨床腫瘍学会)で発表され、主要評価項目であるStage II/IIIAのDFS(無病生存期間)中央値で、オシメルチニブ群65.8ヵ月vsプラセボ群21.9ヵ月(ハザード比0.23)と、圧倒的な差で有効性の優位性を示しています。
ADAURA試験に基づき、欧米のガイドラインでは既に明確に推奨されているのですが、この度、日本では承認はされたものの最新のガイドライン上で「推奨不能」という扱いとなりました。
これが、どのような議論の末そのような判断になったのか、レビュー&討論の機会が学術集会の中で緊急に設けられた、というのが冒頭の緊急企画です。
色々な論点が示されていましたが、きっちり推奨されなかった一番の要因は、OS(全生存期間)上でのベネフィットがまだ明確ではない、という点です。
OS(全生存期間)は、ADAURA試験でも副次評価項目になっているので、今後フォローアップの結果は出てきますが、当然ながら数年単位の時間はかかります。
では、本当にDFS(無病生存期間)ではなく、OS(全生存期間)を術後療法の効果指標のゴールデンスタンダードと考えるべきなのか?、というのが私が議論を通じて感じていた疑問です。
ここに対して良い示唆となる論考がちょうど出てきたので、要旨を長文ですが紹介したいと思います。
■"You're Cured Till You're Not: Should Disease-Free Survival Be Used as a Regulatory or Clinical End Point for Adjuvant Therapy of Cancer?”「完治していないとされるまでは完治:癌の術後療法の承認上/臨床上のエンドポイントとして、無病生存率が使用されるべきか?」(Journal of Clinical Oncology)
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術後療法が治癒をもたらす可能性があるということが、この議論の本質です。治癒目的で手術を行った後、その後のフォローアップ期間中、その患者は治癒とみなされ続けるか、再発を経験するかになります。従って、患者の観点からは、再発するまでは治癒している可能性がある。進行がんの場合、患者の関心はいつまで生きられるかにありますが、術後療法の場合、患者の関心はむしろ治癒の可能性、すなわち再発/再燃のない生活を続けられるかどうかにあります。このような観点から、患者の立場からは、術後療法におけるエンドポイントは、治癒が最も重要で、次にDFS、そしてOSが続くと考えるべきです。臨床医としては、患者さんにとってDFSとは、無病息災(つまり、治癒した状態)で、長期的に治癒への期待を意味することを理解する必要があります。ある意味、DFSは治癒のサブカテゴリーで、身体的、心理的、社会的な生存やQOLの基本的な側面と密接に関係しています。このような理由から、術後療法や術前療法の研究において、DFSはOSよりも重要ながんアウトカムであると我々は考えています。
>>
私もこの論旨に全面的に賛成で、なるべく早期に日本の肺がんガイドラインも見直しが入ることを希望します。
最後に3点ほど。
まず、学術集会の中でこうしたセッションを設けられたこと自体、大変素晴らしいことと感じ��した。議論が密室のみで行なわれるのではなく、堂々と戦わされるのは学会としての健全性を示しています。
2点目は、ガイドラインの改訂タイミングが2年に1回とか3年に1回という「今までのやり方」は、現代のがん治療の進展速度を考えると、変えていく必要があるというものです。
確かに、ガイドライン作成には多大な労力がかかるでしょうが、書籍の発行ペースを基準にしているから上記のようなやり方になっているのであって、Web上でもっとタイムリーな対応をしていかないと、「ガイドライン」の存在意義自体が問われかねません。
最後に、本セッションに患者さんの立場の方が不在だったのは勿体無かった、ということは声を大にしたいです。そもそも、ガイドライン作成の場に患者さんも入っているべきではないのかなと。
DFSやOSが患者さんの人生にとってどのような価値や意味があるのか、という観点は、患者さんが一番の当事者な訳ですから。
肺癌学会は、患者さんとの協働という意味で先進的な取り組みをしている学会と認識していますので、こうしたセッションに患者さんが参加できるよう、今後の善処を期待したいです。
※本項執筆時点(2022年12月26日)で、筆者はオシメルチニブに関して、特筆すべき利益相反はありません。
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【記事2】あるの?ないの?妊娠目的での乳がんホルモン療法中断の影響
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乳がんは比較的若年で罹患する可能性が高いがんであり、その約7割は「ルミナール」と呼ばれるホルモン陽性(HER2陰性)と呼ばれる、女性ホルモンによって増殖するタイプです。
このタイプの乳がんは、術後5年や10年といった長期間に渡って、女性ホルモンを抑制する「ホルモン療法」を行なうのが標準治療となっているのですが、治療中は薬による催奇形性(胎児への悪影響)があるため、避妊が必要とされています。
従って、妊娠出産を希望される方は、治療を中断する必要があるのですが、その場合再発リスクが増えるかもしれないという恐れと向き合わなければならず、難しい判断を迫られる状況が続いていました。
そこで、一定期間治療を中断し、妊娠出産をトライした場合の治療効果への影響を検証する国際共同臨床試験「POSITIVE試験」が企画され、その初の結果発表が、先日SABCS(サンアントニオ乳癌シンポジウム)でありました。
■「妊娠を希望するHR陽性乳癌女性に内分泌療法を中断しても3年再発リスクは高くならない可能性【SABCS 2022】」(がんナビ)
「対象は、術後内分泌療法を18-30カ月受けたI-III期HR陽性乳癌で、再発したことのない、妊娠を希望する閉経前の42歳以下の女性。登録前1カ月以内に術後内分泌療法を中断しており、3カ月間のウォッシュアウトを含め、内分泌療法を最長2年まで中断した。妊娠、出産、授乳後は、5-10年間の術後内分泌療法を完了するため、内分泌療法を再開することが強く推奨され、その後、長期経過観察が行われた」
わけですが、結果、3年時点のBCFIイベント発生率(再発と同義と考えてください)は8.9%で、これは他試験で同様の患者背景でホルモン療法を中断しなかった場合の発生率と同等、となりました。
3年時点のBCFIイベント発生率ということで、比較的短期間ではありますが、妊娠を試みるための内���泌療法の中断は再発リスク上昇には繋がらないことが示されたわけです。
妊娠を希望する患者さんにとって「再発リスクが増えるかもしれないという恐れ」が軽減されるという意味で、目に見えない価値が非常に高い、素晴らしい試験結果だと思います。
本試験は前述したように「国際共同」臨床試験で、世界各国から517人が参加していますが、日本からも62人参加しており、日本での臨床上でも十分応用可能な試験結果と言えそうです。
本試験参加者の詳細内容を知りたい方は、↓をご参照ください。
■"Who are the women who enrolled in the POSITIVE trial: A global study to support young hormone receptor positive breast cancer survivors desiring pregnancy”「POSITIVE試験に登録された女性とは:妊娠を希望するホルモン受容体陽性の若年乳がんサバイバーを支援するための国際共同研究」(ScienceDirect)
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Vol.123【ASCO2020特集】新世代分子標的薬の新データに注目
今年もASCO(米国臨床腫瘍学会)特集の季節がやってきました。
COVID-19の影響で、国内外のほとんどの学会が延期やオンライン開催となる中、ASCO2020もご多分に漏れずオンラインでの開催となりました。
ライブの熱気は感じられないものの、航空券代もホテル代もかからないのはありがたいですね。
今年のASCOは、ここ2−3年の「免疫チェックポイント阻害剤”祭り”」で少し影が薄くなった感じがあった分子標的薬で、注目すべき演題が目立ちました。
本稿では、特に重要な2つの新世代分子標的薬のデータをご紹介します。
━ イシュランメルマガ Vol.123 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ASCO特集記事1】HER2陽性の様々ながん種に使える可能性のある新薬登場
【応募のお礼】がん患者さん向けアプリのモニター利用者
【ASCO特集記事2】 EGFR陽性の非小細胞肺がん治療が一気に進化
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【記事1】HER2陽性の様々ながん種に使える可能性のある新薬登場
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「HER2陽性」タイプのがんは、乳がんや胃がん等の一部に存在します。
HER2陽性タイプは、元々は予後が悪いことで知られていたのですが、ハーセプチンの登場により、状況は大きく好転しました。
(余談ですが、ハーセプチン開発の経緯を描いた映画『希望のちから』は、もしまだ観られていないようでしたら、是非ご覧いただきたい素晴らしい作品です)
乳がんでは2001年、胃がんでは2011年の承認以来、ハーセプチンはHER2陽性タイプのがん治療のゴールデンスタンダードでした。
そのハーセプチンを将来的に取って代わる可能性のあるエンハーツ(一般名「トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)」)が、日本でも5月末に発売されました。
■「抗悪性腫瘍剤「エンハーツ®」新発売のお知らせ」(第一三共株式会社HP)
https://www.daiichisankyo.co.jp/news/detail/007136.html
現在、HER2陽性の再発・進行乳がんで、他剤による標準治療が奏功しなくなった段階で使われる形での承認となっています。
そのエンハーツ、今回のASCOで胃がんでも有望なデータが出てきました。
■「トラスツズマブ デルクステカンがHER2陽性の既治療進行胃癌の奏効率と全生存期間を有意に改善」(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/202005/565753.html
標準的な2次治療まで実施済みのHER2陽性進行胃がん患者187名を、トラスツズマブデルクステカン(T-DXd)投与群と医師選択治療群(イリノテカンかパクリタキセル)に振り分け、評価したところ…
・未確定奏功率 T-DXd群:51.3% vs 医師選択治療群:14.3%
・全生存期間 T-DXd群:12.5カ月 vs 医師選択治療群:8.4カ月
と、しっかりとした有意差をもって、T-DXd群に軍配が上がりました。
そして、患者数は少ないですが、HER2陽性の大腸がんや肺がんでも期待が持てそうです。
■「標準治療抵抗性のHER2高発現進行大腸癌にトラスツズマブ デルクステカンが高い奏効率を示す」(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/202005/565765.html
■「HER2遺伝子変異を持つ進行NSCLCにトラスツズマブ デルクステカンが高い奏効率、効果の持続性も確認」(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/202005/565811.html
将来的に、より早期のラインで使われるようになるかは、今後の臨床試験の結果次第ではありますが、久しぶりに日本の製薬会社がグローバルで存在感のある抗がん剤を生み出した、という意味でも明るいニュースだと思います。
※胃がん・大腸がんに関しては、未承認の治療法です
※本稿執筆時点で、ハーセプチン・TーDM1・エンハーツ に関し、筆者は特筆すべき利益相反はありません
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【応募のお礼】がん患者さん向けアプリのモニター利用者
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先月号で、がん患者さん向けアプリのモニター利用者の方を募集いたしましたが、200名近くという、想像以上に多くの方からご応募いただきました。
モニターということで、今回は60名に限らせていただきましたため、ご応募いただいたにもかかわらず、ご利用いただけない方が多数出てしまいましたこと、大変心苦しく思っております。
いずれにしましても、ご応募いただいた皆様方には、厚くお礼申し上げます。
イシュランを事業として継続させていくために、今後も、アンケートやモニターの募集などをメルマガ上でさせていただくことがありますので、その際にはまたご協力いただけましたら幸いです。
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【記事2】 EGFR陽性の非小細胞肺がん治療が一気に進化
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肺がん治療にあまり馴染みがなくても、「イレッサ」という薬の名前は、2000年代初めに「薬害」のニュースで聞いたことがある方は多いことでしょう。
発売当初、治療に習熟していない医師の不適切な使用により、間質性肺炎での死亡例が続出し、イレッサには当初ネガティブなイメージがついてしまいました。
しかし、非小細胞肺がんの中でも、EGFR遺伝子変異陽性タイプの患者さんに特異的に効果が出ることが発売後の臨床試験を通じて見えてきて、特定の遺伝子変異の陽性の有無を調べてから投与する「プレシジョン・メディシン」の代表的な薬剤の一つとなりました。
肺がんの約8割が「非小細胞肺がん」で、イレッサをはじめとした「EGFR阻害剤」は、非小細胞肺がんの中でもEGFR遺伝子変異陽性の症例のみに効果出ます。
そのEGFR阻害剤、再発・進行症例では標準治療薬となりましたが、乳がんのハーセプチンのように「術後補助療法」にまで使われることはありませんでした。
臨床試験は行われていたのですが、玉虫色の結果しか出ず、標準治療にならなかったんですね。
それが、オシメルチニブ(製品名:タグリッソ)という新世代のEGFR阻害剤の登場により、状況が一気に変わってきたのです。
オシメルチニブ は再発・進行症例では既に承認済みなのですが、術後補助療法に関して��データはなく、今回のASCOで結果が出てきました。
■「早期のEGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)の術後補助療法でオシメルチニブはDFSを有意かつ大きく改善【ASCO2020】」(日経メディカルOncology) https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/202006/565836.html
2期もしくは3b期の非小細胞肺がんの患者さんを、術後にオシメルチニブ投与群とプラセボ群に分けて、再発や他の病気がなく患者さんが生存している期間(DFS)を比較しました。
その結果、
・12ヶ月DFS率:97% vs 69%
・24ヶ月DFS率:90% vs 44%
・36カ月DFS率:80% vs 28%
と、圧倒的な差でオシメルチニブ群の勝ち。ハザード比0.17という数字は(83%のリスク減を意味するのですが)、滅多にお目にかかれないレベルです。
今回の結果をもって、EGFR遺伝子変異陽性症例の術後補助療法としてオシメルチニブの投与が標準治療となることは確実です。
分子標的薬もまだまだ進化していますね。今後の更なる新薬の登場にも期待したいと思います。
※オシメルチニブ (タグリッソ)の術後補助療法は、現時点では本邦では未承認の用法です
※本稿執筆時点で、筆者はオシメルチニブ に関し、特筆すべき利益相反はありません
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#ASCO#米国臨床腫瘍学会#新世代分子標的薬#乳がん#胃がん#ハーセプチン#エンハーツ#トラスツズマブ デルクステカン#抗悪性腫瘍剤#大腸がん#肺がん#非小細胞肺がん#EGFR阻害剤#イレッサ#術後補助療法#オシメルチニブ#タグリッソ
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Vol.111「女もすなる子宮頸がん予防ワクチンといふものを、男もしてみむ」
梅雨空が長いこと続きますね。
7月は、学会ラッシュの月。先々週は乳癌学会、先週は臨床腫瘍学会と立て続けに参加してきました。
色々面白い発見があったのですが、今号は前回の特集でカバーしきれなかったASCOの続報も交えた内容にさせていただき、上記2学会での学びについては、次号以降でまたお伝えして参ります。
━ イシュランメルマガ Vol.111 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【記事1】女もすなる子宮頸がん予防ワクチンといふものを、男もしてみむ
【記事2】HR陽性・HER2陰性再発乳がんで大きな研究結果が出たものの。。。
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【記事1】女もすなる子宮頸がんワクチンといふものを、男もしてみむ
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通称「子宮頸がんワクチン」に関して、大きなニュースが2つほど入りました。
まず一つ目はこちら。
■「子宮頸がんワクチン、14カ国の調査で効果明らかに 撲滅の可能性も」(BBC) https://www.bbc.com/japanese/48795883
「国際研究チームがこのほど、計6000万人を対象とした65件の研究を評価した」結果が出ました。
このようにレベルの高い複数の研究結果をまとめて解析する研究手法は「メタアナリシス」と呼ばれ、科学的根拠(エビデンス)の中でも”決定的”と言えるレベルのものです。
ワクチン接種が始まる前と8年後を比べた際の結果は、
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・16型と18型のHPV感染件数は、15~19歳の女性で83%、20~24歳の女性で66%減少
・CINの発症件数は、15~19歳の女性で51%、20~24歳の女性で31%減少
>>
と、子宮頸がんの発症原因となるHPV(ヒトパピローマウィルス)感染件数も、前がん病変であるCIN(子宮頸部上皮内腫瘍)の件数も、共に大きく下がっていることが確認されました。
子宮頸がんそのものの発症件数が調べられていないのは、前がん病変が実際にがん化するまでは更に数年単位の時間がかかり、まだこの時点ではそこまでの差が出ないと考えられたからと推��します。
そして、二つ目が、こちら。
■「子宮頸がんワクチン 男子にも」(TBSニュース) https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3721443.htm?1562996435137
”イギリスでは、2008年から12歳と13歳の女子を対象に「HPVワクチン」いわゆる子宮頸がんワクチンの接種を行っていますが、イギリス政府は9月から新たに同じ年齢の男子も接種の対象とすると発表”されました。
子宮頸がんの原因となるHPVは、当然、男性にも感染します。
男性に感染した場合、咽頭がんや肛門がんなどの発症原因になりえますし、性行為等を介して”感染源”にもなりえるので、男性もワクチン接種する方が良いという考え方が背景にあります。
おそらく、今後もこれが世界の潮流となっていくことでしょう。
ちなみに、ASCOの子宮頸がんワクチンのセッションの中で、各国の(女子の)子宮頸がんワクチンの接種率は、ざっくり米国が50%、豪州が80%、南米各国が60-70%と発表されていました。
低い米国の数字をどうやって上げていったら良いのか、という議論がされていたのですが、日本に関しては、接種率1%未満とあまりの惨状に、完全に蚊帳の外に置かれています。
このままいくと、10年後に日本だけが毎年数千人単位で子宮頸がんで亡くなられる方を出し続ける唯一の国になることは、ほぼ確実でしょう。
※子宮頸がん予防ワクチンに関し、本稿執筆時点で筆者は特段のCOI(利益相反)はありません
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【記事2】HR陽性・HER2陰性再発乳がんで大きな研究結果が出たものの。。。
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ASCOの続報です。
閉経前のHR陽性・HER2陰性再発乳がんで、大変有望な試験結果が出てきました。
■”Endocrine Therapy Plus Ribociclib Yields OS Advantage in HR+/HER2-Negative Breast Cancer”「ホルモン療法へのリボシクリブの上乗せがホルモン陽性・HER2陰性乳がんの生存期間を延長」(The ASCO POST) https://dailynews.ascopubs.org/do/10.1200/ADN.19.190347/full/?cid=DM2353&bid=18275404
再発・進行したホルモン陽性・HER2陰性乳がんに対し、近年、CDK4/6阻害剤と呼ばれるクラスの薬剤が出てきています。
日本ですでに発売されている、パルボシクリブ(イブランス)とアベマシクリブ(ベージニオ)に加え、もう一剤あるのが、このリボシクリブです。
「モナリザ7試験」と呼ばれる本試験では、閉経前のホルモン陽性・HER2陰性進行乳がん患者672名を、「リボシクリブ+ゴセレリン(ゾラデックス)」群(以下、リボシクリブ群)と「プラセボ+ゴセレリン」群(以下、プラセボ群)の2群に分けて経過を観察しました。
結果、全生存期間(OS)がプラセボ群が40.9ヶ月だったのに対し、リボシクリブ群は”未到達”、つまり参加者の半数以上がまだ生存しており、死亡リスクはプラセボ群比で29%低下となりました。
また、主な重篤な有害事象は、「好中球減少」(プラセボ群4.5%に対しリボシクリブ群63.5%)と「肝胆毒性」(プラセボ群6.8%に対し、リボシクリブ群11.0%)の2つでした。
今回の試験の意義は、対象を閉経前の女性に絞り、そこでOSの差がきっちり出たところにあります。CDK4/6阻害剤の他の2剤ではそこまで検証できていません。
で、ここまでは良いのですが、問題なのが、このリボシクリブ、日本では他の2剤���り市場参入が遅れたということで開発を断念してしまっているのですよね…
今後、ドラッグラグ(海外の標準治療に日本ではアクセスできない状態)の問題が再燃しかねないと懸念しており、こうした事例には患者さん側からも声を上げていく必要ありと感じています。
※リボシクリブは記事内にも記載したように日本では未承認ですので、ご注意ください。また、CDK4/6阻害剤に関し、本稿執筆時点で筆者は特段のCOI(利益相反)はありません
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「この話についてどう思うか教えて欲しい」というようなご要望、内容についてのご質問やご意見、解約のご希望などにつきましては、お気軽にメールください。配信した内容とは無関係の質問でも結構です。必ずお返事いたします。 【お問い合わせ先:[email protected] 】 また、内容の引用、紹介、転送も、どんどんやっていただいて構いません。引き続きのご愛読を、よろしくお願いいたします。
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