ひとみに映る影 第一話「めんそーれ猪苗代湖」
☆プロトタイプ版☆
こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。
段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。
書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!!
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(あらすじ)
私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。
ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!?
暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。
このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう!
命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
(前作までの「NICシリーズ」につきましてはこちらをご覧下さい。)
◆◆◆
それは私がまだ会津(あいづ)の猪苗代町(いなわしろまち)に住んでいた、中学1年生の時の事だった。
玲蘭(れいら)ちゃんは、ある日沖縄から私の学校に転校してきた。
東北地方の田舎に県外から転校生が来るのは珍しく、彼女はクラスのちょっとしたアイドルだった。
しかも意外だったのは、彼女は祝女(ノロ)という沖縄の伝統的な巫女さんで、中学生なのに悪霊払いや地鎮祭の仕事をしていた事だ。
電車で石筵(いしむしろ)にある霊山に行って、かわいい巫女服で修行をしたりしていて、まるで本物の魔女っ子みたいと当時の私は憧れていた。
どうして私が、彼女のそんな特別な事情を知っていたかというと…私も昔石筵の観音寺に住んでい事があって、少しだけ他の人にはない力を持っていたからだ。
私の家は代々、影法師(かげぼうし)という霊能力を継承していた。
念力で光の屈折を歪めて色んな形の影絵を作ったり、自分やものの影に幽霊を取り憑かせて操らせたりする術だ。
霊能力の才能を認められた小さい頃の私は、家族の意向で、小学校に上がるまで石筵の観音寺で修行して過ごしたのだった。
加えてそこの和尚様は、昔チベットで修行をされていて、「タルパ」という人工の魂を作る術も持っていた。私はそれも少しだけ教えて頂いた事がある。
人間の子供の魂は、周りの幽霊や、幽霊未満の人の想いの名残りを吸収しながら成長していき、やがて自我が芽生える。
タルパはそういった身の回りに漂う魂のかけらを人為的にかき集めて、自分の想像力や念力で魂に成形する技術だ。
だからそれは、人を1人生み出すのと同じくらい重みのある行為だと、和尚様はよく説かれていた。
とはいえ、幼い頃の私が作る事を許されていた魂は、虫や小鳥とか、古道具に染み付いた気持ちを具現化した小さな神様の影絵だけだった。
それゆえタルパ作りは影法師の修行の一環ぐらいにしか思っていなかったし、山を降りてからはやり方も殆ど忘れていた。
でも中学で出会った玲蘭ちゃんは、かわいい猫の魂を作ってペットにしたり、
漫画のキャラクターにそっくりなイケメンの魂を作ったりしていて、当時の私にとってすごく衝撃的だった。
むやみに魂を作ることは良くないと和尚様から教わっていたにも関わらず、当時の私は遊び感覚で玲蘭ちゃんにリクエストをしてしまった事も度々あった。
だけど私達は、そういう「人工の命」達の重みを突然思い知らされることになった。
ある日、玲蘭ちゃんが私に相談を持ちかけてきた。
作った魂が暴走して、手のつけられない悪霊になってしまったらしい。
実は玲蘭ちゃんのお父さんは、福島に赴任してから職場の女性と浮気していた。
お母さんはそれを知っていたけど、玲蘭ちゃんの学費のために離婚できないという。
そこで玲蘭ちゃんは、お父さんがまた別の県に異動になれば浮気をやめてくれると考えた。
玲蘭ちゃんのお父さんは主に猪苗代をまわる観光バスの運転手だった。
だから玲蘭ちゃんは、猪苗代が観光地として人気がなくなれば、お父さんの福島での仕事が減って異動になると考えた。
そして猪苗代湖(いなわしろこ)に巨大な恐竜の未確認生物が出るという都市伝説を利用して、恐竜の姿の魂を作り出し、暴れさせた。
その作戦の効果は絶大だった。霊感のある観光客が湖に近寄るのを恐がり、猪苗代を守っていた仏様方は恐竜に怯えて逃げ出した。
すると湖に悪い物が集まってしまい、県内外から入水自殺者までもが引き寄せられるようになった。
当然猪苗代の評判はガタ落ち。ただ、本当の問題はその後に起きた。
集まった悪霊を吸収して力をつけたその恐竜が、湖を出て市街地で暴れだしたんだ。
DNAを持つ動物から生まれた命と違って、人工の魂の本能は、完全に作り手が創造した通りになる。
肉食の獣という設定の魂を作れば、その魂はたとえ触れられなくても草食動物に付きまとい続けるし、
薬物中毒者という設定にすれば、その魂は消滅するまで永遠に苦しいまま生きる事になる。
玲蘭ちゃんは猪苗代湖の恐竜を作る時、湖に誰かが来たらともかく暴れ回るように作ってしまったらしい。
◆◆◆
恐竜騒動が始まってから数週間後、猪苗代の中学に通っていた私は、石筵の和尚様に呼び出されてこの件について何か知っているか尋ねられた。
友達の引き起こした不始末を告げ口するようで気が引けたが、私は仕方なく恐竜の正体について打ち明けた。
すると和尚様は私を、山の麓の熱海町(あたみまち)にある、大峯不動尊(おおみねふどうそん)という小さなお寺へ連れて行かれた。
そこで二人で影法師を呼び寄せる真言を唱えると、萩姫(はぎひめ)様が現れた。
不動明王様のお告げで福島に来られた平安時代のお姫様で、死後は影法師にとっての神様のような存在になられたお方だ。
和尚様が萩姫様に事の顛末を説明すると、萩姫様は私にタルパを作って恐竜を止めるように命じられた。
私は不動尊の近くにある滝のほとりに座って、揺れ続ける水面にタールのような黒々とした影を広げながら、どんなタルパを作ればいいのか考えた。
自分が作れる薄べったい影絵の体で悪霊と戦えるほど強い魂を作るのは相当難しい。
けどそれ以上に、ずっと遊び半分だった1人の命を産むという行為の責任の重さを、私はこの時ようやく理解した。
もしも私がタルパに無責任な本能を与えてしまったら、その子は玲蘭ちゃんの恐竜のように、苦しみながら他の災いを生み出してしまうかもしれない。
恐竜をやっつけるその場しのぎの設定だけじゃ、ぜんぜん済まないんだ…。
結局その日は何もできないまま帰宅した。
夜、風呂場でぼーっと今まで作ってきた影法師達について考える。
虫みたいな小さな生き物の魂は、近くに卵や赤ちゃんがいれば自然と吸い寄せられて吸収される。
それを転生と呼ぶか消滅と呼ぶかは人それぞれだけど、少なくとも彼らは新しい命の一部になる。
九十九神(つくもがみ)、物に宿る小さな神様は、物が壊れるかゴミとして処理されるまではその物に宿り続ける。
たまに職人さんの子供に宿って、その子の才能の一部になる事もあるらしいけど、基本的に彼らは自分では動かない。
でも、これから私が作ろうとしているのはもっとずっと大きな魂だ。
きっとこの騒動が終わった後も、私と同じくらいか、私以上に長く存在し続けるかもしれない…。
長風呂でのぼせ始めた頃、浴室に1羽の小鳥の幽霊が飛んできた。
よく見るとそれは、オカメのお面を被っている。というより、人面鳥だ。
「…オカメインコ?」
私はその子を見た瞬間、真っ先にそんなオヤジギャグを口走っていた。
するとオカメインコが私をじろりと見上げて言った。
「ちょっとやめて頂戴、アナタまでサ。
アタシの事忘れたの?アタシよ、アタシ…。」
そう言うとオカメインコは、黒い影の姿になり、浴室のタイルにビタッと貼り付いてみせた。
壁面にまるで影絵のように浮かび上がる小鳥のシルエットを見て、私は思い出した。
この子は私が修行中に作った小鳥の影法師タルパだ。
「すごい!どうやって3Dの体になったの?」
彼女いわく、ある日熱海町の辺りを飛んでいると、源泉神社(げんせんじんじゃ)で深沢(ふかざわ)の名水を守る龍神様に捕まったらしい。
そしてイタズラに知能を与えられ、自分が人間によって作られた偽物の小鳥だと知る。
すると彼女は自分も人間に近付いて人工の魂を作ってみたくなり、龍神様に頼んで人間の顔を付けて貰ったのだという。
「せっかくだから美人にして頂戴って頼んだの。だから最初はアタシ、自分がゼッセーの美女だと思ってた。
でもいざ人前に出てみたら、酷いのよ!みーんなアタシをオカメインコだって笑うの!
あのふざけたドラゴン野郎、わざとやったんだわ!!」
石筵は和尚様や玲蘭ちゃんのように、式神や生霊、タルパといった人工の魂を作る修行者が多い。
そしてそういう人の中には、文化の継承や土地を守るために、妖怪や神様の魂を作って管理する生業の方々がいる。
不思議な神通力を使う龍神様だなんて一見ファンタジーめいているけど、
石筵の麓にある熱海町の神社でなら、神様の役割を担う魂が祀られていてもおかしくない。私はオカメの話に納得した。
プリプリと怒っているオカメをあやしながら、私は自分の部屋に戻った。
(廊下ですれ違ったお父さんが「オカチメンコ」と呟いて、メチャクチャにつつかれてた。)
その後はお互いに近況を語り合い、恐竜の件の話になった。
「勝てるかな?影のタルパでも。
だけど…もし戦いが終わったら、その後その魂はどうなるんだろ?」
するとオカメは、私を小馬鹿にするようにため息を吐いて言った。
「アナタ、バカね。どうして痛めつけるのを前提に考えてるのよ。
人工だろうが天然だろうが、誰だって生まれつきの本能ぐらい持っているわよ。
でも生き物って、自分の本能を満たすために知恵を絞るから繁栄できるんでしょう?
鳥が巣を作るのも、蟻が食べ物を運ぶのも、生存本能や食欲を満たすため。
人間��あれこれややこしい事をするのも、安全で幸せに暮らしたいからじゃないの??
だったらその恐竜ちゃんにも、やっつける前に正しい本能の満たし方を教えてあげるべきよ。」
彼女の言葉は目から鱗だった。まだ幼くて何も知らなかった私が作ったただの小鳥の影絵がいつの間にか成長して、
まるで私よりも大人のように立派な事をスラスラ言ってのけた事実が何よりも説得力を帯びていた。
私は思った。一人で無い知恵を絞ろうとするより、この子と協力して玲蘭ちゃんの恐竜を止める事は出来ないかと。
今まで自分にとって「動く影絵」でしかなかったタルパが本物の命だと教えてくれた彼女なら、きっと…。
「お願い。猪苗代湖の恐竜を止めて欲しいの。
そのために必要な事は何でもするから。」
オカメは私に二言だけ願いを告げた。
「この不格好な姿だけでも作り直して頂戴。あと、ちゃんとした名前をつけてよね。」
◆◆◆
翌日の放課後、私は自分の影に1人のタルパを宿して猪苗代湖に向かった。
その魂の名前は「リナ」。空を飛べて、恐竜とお話できるぐらい大きな宇宙人。
彼女の本能は、人工の魂を作る研究をすること。
本人の意向を汲んで、人間に変身できるようにした。
顔は家にあった芸能雑誌の、「今年の美男美女芸能人ベスト10」で1位になった男女両方を贅沢に足して2で割った顔。
(結果ヒゲの生えたオネエさんみたいになったけど、リナは「両方のトップの顔を兼ね備えたアタシこそ最強の美人」だと言い張っていた。)
それ以外はぜんぶ自由。私は他に一切手を加えていない。
猪苗代湖の玄関口、長浜(ながはま)に到着すると、辺りは静まりかえっていた。
この時期はいつもなら白鳥が飛来して、観光客や大きな遊覧船で賑わっているけど、その日は閑古鳥すら鳴かないもぬけの殻だった。
穏やかな湖面にそっと手を入れてみると、海の水とは違う生ぬるい淡水の感触が伝わってくる。
その時、地鳴りとも汽笛ともいえない「ズーン」と重い唸り声が上がり、湖の中腹から高い波が湖畔に迫ってきた。
私達はコンクリート打ちの道路に駆け上がった。それでも沖に到達した高波は、せり上がって私の膝から下を強く打ちつけた。
湖の水がスニーカーの中に入りこんでいた砂浜の砂と混ざりあって、私はまるで金縛りに遭ったように足が重たくなるのを感じた。
体勢を立て直して湖面を見ると、遊覧船よりも大きな恐竜の霊が、私達を鋭い眼差しでねめつけていた。
有名なUMAのネッシーにそっくりな、首長竜だ。
親の世代が若かった頃は、ネッシーブームにあやかって世界中の湖でこういう恐竜の目撃情報が多発したらしいけど、
まさか現代の猪苗代湖で恐竜の怨霊が暴れ回る事になるなんて、誰も予想できなかったと思う。
「へえ。これが沖縄の巫女が作った魂なの。」
リナは私の影から湖面にするすると伸びていき、巨大化しながらカラフルで立体的な姿に変身した。
宇宙人としての彼女の姿は、「でかくて強そうだから」という単純な理由で、アメリカで目撃されたフラットウッズモンスターという宇宙人の姿をモチーフにした。
栗型の頭部にハロゲン電球のように光る2つの目、枯れ枝みたいに硬くとがった腕や鉤爪に、昭和のスケバンのロングスカートめいた円錐状の下半身。
モンスターと名がつくだけあって、恐竜と並んでもなかなかの大迫力だ。
リナが恐竜の近くへ飛んでいくと、恐竜は玲蘭ちゃんが作った本能に従いリナを攻撃しようとする。
でも、リナは小鳥だった時と同じようにひらひらと宙を飛んで攻撃をかわしていた。
2つの魂の演武に見とれているうち、気がついたら私の周りにも悪霊が集まっていた。
成仏できない動物から、俗世に恨みを持つ人間、それに、これまた誰かが人為的に作ったらしい、呪いの擬人化みたいな怪物まで。
私はむかし和尚様から教わっていた護身術で、それらの悪霊達を1つずつ処理していった。
淀んだ気配が薄くなってきた頃に再び湖面を見ると、恐竜はすでに目を回しているようだった。
ずっとくるくる飛び回るリナに翻弄されていたみたいだ。
リナは龍神様から学んだらしい方法で、私達と会話ができるように、恐竜の魂を昇華させた。
「恐竜さーん!どうして暴れるんですかぁー!?」
私は大声で恐竜に問いかけてみた。
恐竜はまだ自分が喋れるようになったと気付いていないで、混乱しているようだった。
しばらくまごついて、やがてしどろもどろに口を開く。
「わからない…さー…。私は…波…。
湖に風が吹けば…私も暴れるさー…。」
リナの術で辛うじて理性を得ているけど、恐竜はまだ目の焦点も定まっていなかった。
波…。きっと、今までは感情も意識もなくて、自然現象のように暴れていたんだろう。
「特に理由がないならもうやめてー!あなたが暴れたら、みんな困るんですー!」
私は恐竜に声をかけ続けた。恐竜は困った顔をして応える。
「それは…難しいさー。誰かが来ると、私…なんだか体がうずいちゃうのさー。」
恐竜は今度ははっきりと、暴れたい欲求があると自認しているようだった。
私に言葉を伝えようとするごとに、恐竜の自意識がだんだんと出来上がっていくのを感じた。
今度はリナが恐竜に問いかける。「ねえあんた、暴れるのは楽しい?」
恐竜は更にはっきりと答えた。「そうさー…楽しいのさー!」
するとリナは、急に恐竜の頭の真横で大きく宙返りをした。
スカート状に広がった下半身が恐竜の頭をパーン!と音を立てて打ちつける。
恐竜は豆鉄砲を食った鳩のような顔をして、少しうなだれた。
「い、痛いさー!何するのさー!?」
リナは意地悪げに目をまたたかせ、恐竜の鼻先を指さして言った。
「あら、ごめんあそばせ。目の前であんたが動いたから、思わず暴れちゃったわ。」
「恐竜さん、わかった?人前で暴れるのは危ないんだよ。
今みたいにぶつかって怪我をしたり、虫とか小さい子は死んじゃうかもしれないんだよ!」
恐竜は悲しそうな顔をして、大きく2回頷いた。
私達の言いたかった事が伝わったみたいだ。
「でも、どうしたらいいさー?私、湖に人間さんがいっぱい来たり、お船さんが泳いでるの見ると、どうしても我慢できなくなっちゃうさー…。」恐竜が自信なさげに言った。
確かに、暴れるという本能から生まれて来た子にとって、それを我慢し続けるのは、人間が絶食や徹夜をするのと同じくらい過酷なんだと思う。
私はどう答えればいいかわからなくて、ただ「そうだよね…」と呟いた。
するとリナが、私の方を向いて尋ねてきた。
「…ねえ。恐竜の出る湖って、そこまでマイナスイメージかしら?」
「え?」
「UMAブームってやつ?結局この子の元ネタって、人間がいたらいいな!って思って探していた生き物なんでしょ?
それなら…人間やここいらの神様方にとって危なくなければ、この子は別に暴れていてもいいんじゃない?」
なるほど、一理あると思った。危なくない暴れ方…。
映画とか遊園地のアトラクションみたいな…。
「そうだ。ねえ!暴れるとき、人間とか船から少し離れることってできる?
誰にもぶつからない湖のド真ん中なら、暴れても大丈夫だから!」
「え、本当さー?ぶつからなければ、みんなを困らせないで済むのさー?」
「うん!むしろ、どんどん暴れちゃって!その方がみんなも喜ぶと思う!」
恐竜は子供のように無垢な笑顔になった。
「私が暴れて…みんなが喜ぶ…!」
その表情にはもう、心を知らない悪霊の時の面影は完全に消えていた。
◆◆◆
それから数日後、私はある晩、玲蘭ちゃんの家を尋ねた。
玲蘭ちゃんのお母さんに手土産を渡してから、私達娘2人はリビングのテレビをつける。
その日は、心霊特番で猪苗代湖が取り上げられる日だった。
恐竜の悪霊を見たという人のインタビューや、入水自殺者の事が放送されて、玲蘭ちゃんは気まずそうにリモコンを手にした。
でも私は、いいから見てみて、とその手を抑えた。
番組の取材班と有名な霊能者が猪苗代湖に行って霊視をする。
霊能者はしばらく湖面を見つめてから、カメラに向かって説明を始めた。
「確かに恐竜の霊…いえ、精霊のようなものがいます。
ですがそれは、誰かの想いが作り出した生霊のようなものだと思います。」
玲蘭ちゃんは驚いて、「当たってる、あの人インチキじゃないんだ」と意外そうにつぶやいていた。
「この恐竜は、人に危害を加えようとしているのではありません。
湖にお客さんが来ると、嬉しそうに踊っているんです。
きっと、猪苗代湖を観光地として盛り上げていきたいという、地元の方々の想いから生まれたのでしょう。
ですが、その想いが強すぎて、この辺り一帯の気が乱れて悪い物まで吸い寄せてしまったようですね。」
その後は霊能者がお祓いをして神様を呼び戻し、そこで猪苗代湖の特集は終了した。
玲蘭ちゃんはしばらく呆然として、ふっと我に返ったように家を飛び出した。
後を追って玄関を出ると、玲蘭ちゃんは自転車にまたがっていた。
私も急いで自分の自転車のキーを外し、彼女を追いかける。
田んぼや畑ばかりの一本道を突き進み、彼女が自転車を止めたのは、猪苗代湖畔のサイクリングロードだった。
「ハゼコー!!」
玲蘭ちゃんが湖に向かって叫ぶ。するうち湖面がせり上がって、恐竜があらわれた。
この子の名前はハゼコちゃんというようだ。
「アンマー」沖縄の言葉で、ハゼコちゃんが玲蘭ちゃんをママと呼んだ。
玲蘭ちゃんはハゼコちゃんに手を伸ばして、長い首を抱き寄せた。
「ごめんね、ハゼコ…。
私…ただ、お父さんに元に戻って欲しかっただけだったの。
私のお父さん、バスの運転手で…でも、猪苗代に来てから、コソコソよくない事をしてたの。
だから、もうここから出ていかなきゃならなくなればいいんだって思って。
それだけの理由でハゼコを作って、猪苗代湖をめちゃくちゃにして…
大変な事しちゃった。ハゼコにも、すごく苦しい思いをさせちゃったの…。」
ハゼコちゃんは涙のつたう玲蘭ちゃんの頬を、舌で不器用に拭った。
「そうだったんさー…。アンマーは、オトウサン…アンマーのスー(父親)に悪いことをやめてほしかっただけなのさー。
だったら、もっともっと猪苗代湖を盛り上げていけばいいのさー!」
「え?」
「猪苗代湖が元気になれば、アンマーのスーも忙しくなって悪い事ができなくなるのさ~。猪っ苗っ代っ湖さ~!」
ハゼコちゃんが朗らかに歌いながらくるくる回ってみせる。
玲蘭ちゃんも、目尻の赤くなった顔を上げて笑顔を見せた。
「猪っ苗っ代っ湖さ~、あいでみ!めんそーれ!」
二人は会津弁と沖縄弁のめちゃくちゃに混ざった言葉で歌った。
猪苗代湖を騒がせた事件はもう大丈夫だと思って、私は楽しそうにはしゃぐ二人を背にそっと自転車にまたがる。
そのまま湖から立ち去ろうとすると、ハゼコちゃんが私を呼び止めた。
「待ってさー!お姉さんの名前を教えてさー!」
残念、漫画みたいにクールに退場しようという青臭い試みは潰えてしまった。
私の影の中に潜んでいたリナが、それをくすくすと笑う。
私は照れ隠しにはにかみながら振り向いて、ハゼコちゃんに改めて自己紹介をした。
「私はひとみ。紅一美(くれないひとみ)です。」
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シナリオの大まかな設定
世界観
街並みは中世ヨーロッパ寄り、科学と魔法の融合した世界、人間以外の種族も当たり前のように存在する。(魔族・獣人族・有角族・妖精族・神々etc.)
神々は基本不干渉、魔族と括られている種族は主に"外見が著しく人間と掛け離れている、または人類に対し有害"という括りなので、獣人族にも関わらず魔族刈りの対象になることもある。
人類は神々を信仰し、悪しき"魔族"との戦いを数千年単位で繰り広げてきた。奪い取った領土も一部あれば、魔族に侵攻され奪い取られた領土もあり、一進一退の攻防に疲弊しきっている。
人類側
大地を創造した後、単細胞生物の一部に神々が介入、知恵を身に付けた一部の猿が進化した一族。
古来より神を崇め、聖なる恩恵を受けた教団が王政の背後で実権を握り、聖騎士団という軍事力を唯一保持している。
数千年の間に本来の教義とは掛け離れ、"神こそ正義、神の姿を模した我々人類こそが地上を統べるべき"と声高に主張、他種族への差別意識を民衆に植え付けている。
教えに反する者、異教徒、異種族に対する弾圧を躊躇せず、絶対の教えを胸に突き進む。
魔法を使える者はおらず、基本的には神から与えられた"神器"、若しくは科学技術によって創られた武器を手に魔族に立ち向かう。
ただし、神と接触する権利や神器を所有する権利を保有するのは教団であり、聖騎士として貢献した一部の人間しか授かることができない。
一般人でも銃程度の武器所有は許可されているが、火薬類は高価なためなかなか入手できないのが実態である。
学校等の教育機関や医療機関はあるが、貧困の差が激しいため通えない子供も多数存在する。
神々側
遥か昔に地上を創造したものの、その後何をせずとも発展するようになった文明に"我々の介入は不要"と判断、以降は飢餓が起きようと戦乱が訪れようと静観を保っている。
時折、気紛れに地上への介入を試みる神もいるが、大抵は途中で地上生物の矮小さに失望して天界に戻る。
介入の仕方は様々で、中には地上の生物に憑依する神もいた。当然ながら高位思念体が宿るということは、元の生物にとって著しい負担となり、依代とされた地点で生存は不可能。
堕天という考えはなく、天災を与えるのもまた神の意志として罰されることはなく、神々にとって地上は気紛れに育てられただけの箱庭に過ぎない。
神と定義付けられているが、その実態は宇宙に誕生した高位思念体であり、基本的な精神構造からして地上の生き物とは全くの別物。
魔族側
神々によって人類が創られた後、人類を堕落させる試練として創られた存在。
元は"試練を乗り越えることで、人類の種族的な成長を促す"のが目的だったため、魔族もまた神々の教えに従い、神々が命じたままに人類を害してきた。
しかし、とっくに神々の興味が薄れたことで役割を失い、ここ数百年急拵えの魔王を据えての統治を図っている。
基本的な寿命は人類より長く、中には不老不死の種族も少数存在する。
人類のことは"無知蒙昧な愚かな民"と認識しており、搾取し、略奪し、屠殺するための家畜として大多数が見下している。
魔法が使える以外にも、種族的な身体能力値が高いため、人類との戦いで拮抗している理由は数の不利と統制のなさに尽きる。
神々と直接言葉を交わした上級魔族たちの中には恨みを抱く者もいるが、手出し出来る存在ではないため諦めている者が大半である。
その他の種族
魔法と自然が混合した結果、人類でも魔族でもない種族が各地で生まれ、それぞれが独自の文化を築き存続してきた。
人類が生まれる以前から存在していた種族もおり、戦乱が訪れる前は人類の善き隣人、ないし知覚外の隣人として共存関係にあった。
しかし、世界が混沌として秩序が乱れ始めたとき、人類は真っ先に他種族を敵として迫害を始めたため、人里以外の山奥でこっそりと隠れ住む他に生き延びる術がなくなった。
魔族からは攻撃されないものの、同族ではないため関与もされることがない。そのため、魔族に下って配下となる種族も少数存在する。
魔法を使える者、使えない者と多岐に渡るが、生物であることに変わりないため寿命が存在する。
短くて数年、長ければ数百年、種の存続を最も重要な価値基準としている種族が多い。
妖精族・精霊
地上を創造する際、高位思念体が環境整備のため創り出したインターフェースであり、妖精族には他種族を監視するシステムとしての役割が残されている。
精霊はそれぞれ担当する自然要素を持っており、魔法を発動させるためのプログラムそのもの。
つまり、魔法とは超常的な力のことではなく、精霊に思念レベルで働き掛け、使役する力のことである。
魔力に当て嵌めて考えるなら、当然のように低位思念体<中位思念体<高位思念体の順に力を持つという構図が出来上がる。
魔法を使える者には、当然のように精霊や世界を構成する式が見えており、見えない者にはその存在すら知覚することは不可能である。
また、神器と呼ばれる品々は、神々が適当な武器や防具にプログラムを組み込み、一定の条件下でのみ発動するよう設定されているだけの代物。
寿命という概念はなく、個であり全、全であり個の中位思念体が妖精、低位思念体が精霊と分類されている。
人物紹介
(敬称略、登録名表記)
朽木
混沌を極める地上に、とある神が生み出した悪意の産物。
妖精だった中位思念体の精神体と、少数民族だった有角族の真新しい肉体を組み合わせた生き物。
実験のため生み出される際、全ての同族は神の手により殺され、魔族の管理下に置かれるよう仕組まれていた。
管理下にあったもののまともな教育はされておらず、善悪の区別もなく、生き物としての本能と地上一の魔力を持つ。
言うならば無垢な子供そのものであり、一部の魔族によって魔王に仕立てられようとしている真っ最中である。
齢200年を越えた近年反抗期に突入しており、居城から抜け出した森の奥で偶然主人公と出会うこととなった。
ネオン
魔王を仕立て上げようと企む魔族側の皇族、真っ先に祭り上げられた本来の魔王。
本人は権力に興味がなく、矢面に立たされる不便さを全て新魔王に被せようとしている。
享楽・刹那主義の問題児で、軽薄で残忍な本性を笑みの上に貼り付けているような男。
派閥としては穏健派に属しており、魔族を統治した後に人類を家畜として隷属させる魂胆がある。
現在、脱走した新魔王の居所を探しているが、各派閥が足を引っ張り合い難航していることが目下の悩み。
沼田
魔族に降った獣人族の若者、たぬきの姿に变化することが出来る。
主な仕事は魔王城での下働きだが、もっぱら新魔王に悪戯されたり、その被害の後始末のために扱き使われている。
仕事に対し不満はあるものの、魔族としての暮らしに不満はなく、人間を殺すことに一抹の躊躇もない。
雇い主は魔王だが、新魔王とつるんでくだらない嫌がらせをせっせと繰り返すのが趣味。
現在の主な役割は新魔王の監視��あり、魔王からの命令を忠実に守る、という口実で一緒に城を出てきた。
神夢
魔族の中でも位の高い貴族、派閥は穏健派の皮を被った混沌派。
神���支配を逃れ、地上の生き物が覇権を争う今の状況こそが最も活気に溢れ、美しい世界であると過信している。
そのため、魔族統治についても反対しているが、表立って争わずに裏から手を回して魔王側の失脚を目論む。
優雅な物腰と柔らかい物言いで新魔王に近付くも目的は暗殺、既に数百回失敗しているが諦めない、そして目論見もバレていない。
花菱 正樹
魔族領地にある山奥で隠れ住む、下半身が馬の姿をしている獣人族の青年、属する一派は古来より戦闘部族としてその名を馳せてきた。
嘗ては人類と共に魔族と戦ってきたが、他種族排他の時流によって衰退の一途を辿っていた。
近年になって何度も魔族側からの打診があったものの、遥か昔に人類と交わした約束を今でも一途に守り続けている。
族長の一人息子にして、一族で最も優れた槍の名手、次期族長としての信頼も非常に厚い。
人類について思うところはあるが、道を違えた"古き友人"を害する気はなく、しかし同時に裏切った人類に手を貸す必要があるとも思っていない。
カルマユウジ
一般家庭で育った人間の青年、王都の宮廷技術局に若くして配属されたエリートながら、本人の気質は至って不真面目。
言われた仕事は熟すが、言われなかった余計なことをしたりしなかったりするトラブルメーカー。
雇われているのは給金がいいことの他に、最新技術の粋が集まる技術局で一人黙々と研究をするため。
秘密裏に行っている研究は魔法と、知覚外に在るという神々について。
もちろん教団により禁忌とされているため、見付かればお咎め程度では済まない。
動機は"気になったから"、最終目的は機械を通じてコンタクトを取ること。
泰
人間によって滅ぼされた有翼族の生き残り、偶然通りがかった魔族の騎士に助けられた。
一族は物珍しさから元々愛玩用の奴隷として狩られていた歴史があり、細々と生き延びていた一族を殺されたことで人間への恨みが烈火の如く燃え上がった。
助けてくれた魔族の騎士に恋をしており、彼の手足として働けることを何よりの喜びとしている。
歌声によって精神の精霊を操ることが得意で、魅了するも錯乱させるも思いのまま。
目下のところ、脱走した新魔王の探索を任されているが、可能ならば自分の手で誅殺したいと考えているようだ。
波多野玉香
スラム街に隠れ住む人間の少女、嘗て、自然信仰を続けてきた部族の一人。
他種族の根絶を唱える教団と真っ向から対立し、宗教弾圧を受け散り散りになったものの、独自の情報網を持って王都周辺に潜伏している。
対立当初から数えて、既に世代が幾代も代わってしまった結果、戦友だった部族との繋がりをなくしてしまっていた。
"古き友人"の存在は親から子に語り継がれ、一族の悲願を達成するために尽力している。
その悲願とは、教団の歪んだ思想を根絶し、いつの日か再び人と自然が手を取り合う世界を創ること。
度々教団員たちから金品を巻き上げては、貧しい暮らしをしている人々に分け与えている。
久原敦
恵まれない家庭で育った人間の青年、教団の一員として街外れの協会を任されている。
実は神の存在をあまり快く思っておらず、信仰心というものを欠片も持ち合わせていない。
子供の頃から食べるものにも一苦労する家で育った結果、どうにかして貧乏暮らしから脱却したいと教団に入ることを決意する。
学力や身体能力の他に、人望や学校からの推薦がなくてはならないため、いつでも本心を隠し猫を被って生きている。
最近、スラムに布教に出かけた際、出会った少女の苛烈な眼差しと言葉が忘れられずにいる。
まこと
スラム近辺に住む人間の青年、物心付いた時から両親はおらず、日頃は靴磨き等の雑用をしながら生計を立てている。
他人に対して必要以上の興味が持てないため、名前と顔を覚えるのが絶望的に苦手だが、仕事ぶりや人当たりが良いので友人はそれなりに多い。
しかし、本性は他人の目玉を集めるのが好きなシリアルキラー。
子供の頃、街で見掛けた青い瞳の少女に惹かれてからというもの、目玉を瓶に入れて収集するのが楽しくて楽しくて仕方がなくなってしまった。
魔族やその他の種族について興味はないが、出会う機会があれば是非隙を見て目玉を抉りたいと考えている。
しろー
裕福な貴族の家に生まれた人間の若者、善良な両親と共に熱心な教団員でもある。
根っからの善人で神の存在はもちろんのこと、教団が行っている迫害や糾弾に対しても盲目的に必要なことなのだと信じ切っている。
異教徒はもちろんのこと、教団の行いに異を唱えるものですら認められず、学生時代は絶対的な正義感から悪意なく虐めを先導していた。
現在、聖騎士団に入るべく鍛錬に励んでおり、悪しき魔族の侵攻から市民を守ることを信条としている。
烏丸 凛太郎
普通の家庭に生まれた人間の若者、通っていた学校で最も優秀な成績を取ったため、教団側からのオファーが来て入会を決意。
教団の教えに背こうとは思っていないが、心優しい性根から迫害される他種族に対し同情的な視点を持つ。
ただし、過去にそのことが同級生にばれてしまい、一時期クラスの人気者から虐められていた経験がある。
現在、神父として役職につけるよう修行中だが、最近庭に迷い込んできた魔族の子供をこっそりと匿っている。
両親とは進学の際に別居しており、王都の外れにある祖父が遺した一軒家で一人暮らし中、家族仲は良好。
甲斐
全身をフルメイルで包んだ魔族の青年、常に炎を纏った愛馬に跨り、銀槍を手に数多の戦場を蹴散らしてゆく。
元は位も何もないただの傭兵だったが、当時即位していた魔王によって引き立てられ騎士となった。
派閥は強硬派で、魔族を統治し人類を滅ぼすべきだと考えており、新魔王ではなく魔王自身が王位に就くよう何度も進言している。
身寄りもなく一人で生きていた幼少期に、親代わりとも言える魔族の青年に拾われて大切にされていたが、魔族狩りに来た人間から逃すために犠牲となってしまった。
以来自分の無力さを嘆き、懸命に鍛錬を積みながら恨みを深め、必ずや仇を討つべく、そして二度と悲劇が起こらぬよう愚かな人類を滅ぼすべきだと考えている。
鷹野
ふらりと繁華街に現れては消える遊び人風の青年、正体は魔族だが人間に紛れて暮らしている。
若く見えるが種族的に歳を取らない種族らしく、既に千年単位で遊び呆けており、外見で判別できる人間との差異は地毛の色くらいしかない。
当然一つの場所に長居はできず、日銭を稼ぐついでにスリや盗みを働いている。
人間や他種族に対して友好的だが、それは単に見ていて面白く、自分が生きる上で便利に利用したいがため。
魔界の派閥争いに興味はないが、現状を維持したい保守派、混沌派に近い考えを持つ。
蒼龍翔
体の彼方此方に青い鱗を持つ魔族の青年、原形に戻れば家よりも大きな龍に変身する。
魔族の中でも龍は血族の繋がりを何より重んじ、その習性から卵の段階での刷り込みが可能で、闇市場で高値で取引されてきた。
そして、例に漏れず奴隷商によって巣から連れ攫われ、従順な奴隷として数百年に渡りとある貴族の家に仕えていた。
しかし、年々取締が厳しくなるにつれ、処遇に困った現代の主人が薬で眠っている間に野山に捨てたため、行く宛もなく家族に会いたい一心で街へと戻ってきた。
奴隷として働く間、ずっと家畜以下の扱いを受けてきたにも関わらず、恨みや怒りといった感情とは無縁の穏やかな気性を持つ。
ただし、餌として常に"生きた人間の雌"を与えられていたため、とある市民に保護されるまでは空腹の度に一人殺していた。
雨咲
薄く透けた蝶のような羽根を持つ妖精の青年、精霊と違い妖精には個体差があり、自由な自我の形成が許されている。
ただし、神々が作ったシステムとしての役割は残されており、自由意志よりも神の意思が何より優先されるべきだと強くインプットされている。
生物的な欲求や感情が欠如しているため、高位思念体である神への反乱や人間への無意味な介入をする気はなく、次元の違う"妖精界"と呼ばれる住処から人類の進歩を観察している。
新魔王として取り立てられている新たな生命体について、自分たちと同じ存在ながら生物的欲求を元に進化する姿を興味深く思っているようだ。
最も重要な使命として、地上を星ごと処分するという最終プログラムが組み込まれており、教団の教えにもある"ラグナロク"を静かに待っている。
新田
国王の甥として生まれた人間の青年、本来なら王位継承権は国王の弟である父が第一位だったはずが、魔族との戦闘に巻き込まれ死去したため第二子として引き取られた。
国政だけでなく剣技の腕前でも名を広め、皇太子を差し置き次期国王へとの呼び声も高い。
人柄が良く人望はあるものの、政治の裏や策略を練れない兄を蹴落としてでも自分が王になるべきだと考えており、教団との癒着に一役買っている人物でもある。
教団の活動を全面的にサポートする裏で、王族が名実共に実権を握れる社会を創るため画策している。
魔族との相互理解は難しいと考えており、必要ならば種族問わず全ての他種族を殲滅できるよう、技術局に更なる兵器開発を促している。
築
絶滅したとされていた有翼族の娘、偶然一族の村が襲われた日に森に出掛けていたため難を免れた。
焼け落ちた村の残骸を見て泣き崩れるも、自分のように生き延びた仲間がいると信じて旅に出たが、奴隷商の度重なる襲撃により傷付き消耗していった。
遂に羽根の傷が原因で命を落としかけたとき、たまたま通り掛かった薬草売りの青年に保護され治療を受けたが、化膿し腐敗し始めた羽根は切り落とす他なかった。
だがそのことを気にしてはおらず、人里に紛れ込みやすくなったと楽観しており、恩返しがてら仕事の手伝いをしながら各地を回っている。
輝羅 瑠衣斗
珍しい左右非対称の目を持って生まれた人間の青年、その姿から他種族との混血ではないかと疑われ、差別されてきた。
極平凡な家庭で生まれたにも関わらず、親に捨てられ、友人もできず、居場所もないままずっと孤独を味わった結果、"自分は魔族なのだ"と思い込むに至る。
その一環として欲望のままに盗み、奪い、殺すことに一切の躊躇はなく、自分の悪い行いはすべて魔族が悪であるとした社会のせいだと信じ切っている。
住処を点々とする内、偶然主人公と行動を共にする新魔王と出会い、その秘密を知ることで何とか利用できまいかと一人画策する。
目的は、自分を救ってくれなかった人類、魔族、その他の全ての生きとし生ける者を滅ぼすこと。
偶然街中で見掛けた、自分と同じ左右非対称の目を持つ猫に懐かれ、餌や寝床の世話をしながら連れ回している。
花市
普通の猫に憑依した高位思念体、新魔王を創り出した神とは別。
地上が出来上がって進化の終点が見えてきた頃、量子力学における波動係数を操作するプログラムを地上に施した。
これにより物事が何故起こり、どういう結果に結びつくという因果律に左右されず、一つの結果に行き着く未来を設定することが出来る。
新たな生命体である新魔王が自ら選択し、導き出した"答え"に興味を示しており、試練のせいでどれだけの犠牲が出ようと憂いはない。
現在は自分の目で成り行きを観察すべく、新魔王と接触した一人の青年に飼われているふりをしながら同行している。
水町 奈月
山奥の内陸湖に住む人魚族の青年、数百年前に群れを離れて一人で暮らしている。湖の水は海水であり、飲水に適さないため他の生き物が寄り付かない。
とても繊細な性格をしており、人間への敵視が強まる同族たちの姿を見ているのが辛く、誰にも行方を告げずに旅立ったのが切っ掛け。
種族的な特徴として、他のどんな種族であろうと異性ならば虜に出来る魅了の力を持ち、水の精霊を使役する魔法が得意である。
ある日一人の少年とうっかり出会してしまい、咄嗟に「自分は神さまである」と言い張った結果、一人で足繁く通ってくる彼と少しずつ交流を持つようになる。
しかし彼には何一つ本当のことは教えず、あるときからぱったり姿を見せなくなった彼を心配し、嘘ばかりついてしまったことを深く悔やんでいる。
ちま
山間部の遊牧民として生まれた人間の青年、自然と調和を愛する一族であり、古来より男子は独り立ちして商いをするのが習わし。
教団の教えに従うでもなく、逆らうでもなく、時流を読みながらその時々でもっとも中立的な立場を守ってきた。
選択した商いは薬売りだが、請われれば薬であれ毒であれ構わず商品として扱う。医師と関わる機会が多かったため、多少医術の心得がある。
救いのない世界で苦しんで生き永らえるより、死にたいと願う者には安らかな死が与えられるべきだと考え、安楽死用の薬を勝手に処方する事もある。
数年前に偶然見掛けた有翼種の少女を助けたが、本人曰く「薬を必要としていたから売っただけ」としており、現在は彼女の労働力を賃金として受け取っている。
鴻 透
とある魔族によって肉体に定着させられた精霊、年齢や性別という概念は存在しなかったが、作り主の好みが外観として与えられている。
体自体は若くして死んだ女性の物を使用しており、多数の術式で魔法を常に発動しながら辛うじて留まっているだけの人形のような存在。
感情や自我というものはなく、基本的に命じられたことを実行することしかできないが、逆を言えば命じられればどんなことでも実行する。
元々は冷気を担当する精霊だが、肉体を得たことで神々との接続が断たれており、魔法も使えない普通の人間として魔族に仕えている。
シンヤ
中流貴族の位にある魔族の青年、同族の中でもまだ若いが、類稀な魔法の才能に恵まれ伸し上がってきた実力者である。
しかし、人類に興味はなく、単に自分の才能である魔法の研究を続ける内に今の地位に就いただけの男。
道徳、倫理観というものを持ち合わせておらず、自分の知的好奇心や探究心、知識欲を満たすためならどんな研究でも喜んで行う。
特に魔族や他種族で魔法を使える者、使えない者の違いについて大変興味があり、時々攫っては生体実験を繰り返している。
その一環で魔法が使えるようになるかと精霊を人間の体に移してみたが、結果は失敗、しかし消すのは惜しいのでそのまま助手として使役している。
現在は保守派として魔族の統治と、人類や他種族との折り合いを求めているが、統治する王が誰であるかは争点になく、争いのない社会で研究対象を存分に物色したいと考えている。
ケイゴ
地上に干渉する高位思念体、創世記に関わった神の中の一人。
時間の概念をプログラムした神であり、地上が消滅する際に発生する莫大なエネルギーの消費を防ぐため、現在の地上を存続させたいと考えている。
とある二人に時間を遡る魔法を授けて成り行きを見守っているが、味方と呼べる存在ではない。
因みに魔法によるタイムトラベルによる被害はなく、使用者以外に巻き戻ったことを自覚する事のできる生命体は地上にいない。
いくらでも過去を改変する事が可能であり、変えられた未来は観測されなかった世界として時空間に生じるのみとなる。
萩原 怜
先祖代々王家に仕えてきた人間の青年、幼少の頃から城で皇太子たちと一緒に育てられ、彼らのために死ぬ事が義務付けられている。
嘗て城の女中に恋心を抱いていたが、想いを伝える前に第二皇太子の"お手付き"となり、着の身着のまま叩き出されるような形で彼女は解雇されてしまった。
以降血の滲むような努力で第二皇太子の傍付きとなり、最も信頼できる部下の地位を獲得したが、本心では当時の出来事を微塵も許してはいない。
第二皇太子が王位に付けるよう尽力するも、真の目的は戴冠式の最中、最も達成感に包まれる瞬間の彼を誅殺することにある。
あまみやかなえ
現国王と王妃の間に生まれた人間の青年、生まれつき体の弱かった王妃は一子を産み落とした直後に死没、国王は後妻を娶ることなく国政に尽くしている。
そのため、皇太子として過大な期待を寄せられていたが、当の本人は母親譲りの美貌と病弱な体で生まれついてしまった。
一方、幼少期に引き取られた従兄弟は非常に優秀であり、自分よりも遥かに国王の座に相応しいと考えている。
高い身分を持ちながらも自尊心が低く、他人への思いやりを忘れない気立ての良い人物、と周囲の人間に認識されている。
敬愛する兄のような従兄弟の企みも、幼馴染である家臣の恨みも、気の合う友人である研究員の秘密も。
すべてを見抜いた上で何もせず、また気付いていることも悟らせずに、無知で無力なふりをしながら全ての責務や重圧から逃げている。
主人公
魔族と人間の間に生まれた混血の少年、肉体の成長が遅く見た目は子供のよう、精霊の存在を知覚出来るが魔法は使役できない。
生みの親はおらず、道端で啼いていた赤ん坊を拾った獣人族の夫婦が育ててくれたが、現在では既に老衰でこの世を去っている。
黒目と白目が反転した瞳を持っており、顔を隠すために前髪を鼻先近くまで伸ばし、俯きがちに背を丸めながら世間を渡ってきた。
陰気そうな外見とは反対に、育ててくれた夫婦の気概を受け継ぎのびのびとした生き様を好み、乱世であってもどこ吹く風と気儘な暮らしを謳歌している。
湖で出会った青年を異種族と見抜くも指摘せず、時の流れに気付かない彼が自分を人間の子供として接するのを面白がっていた。
ある日、人里離れた森の奥で出会った傍若無人な青年と、彼に文字通り振り回されていた喋るたぬきに同情し、仲裁に割って入ったのが事の発端。
以降、彼らが旅をするための手助けをしていたが、とある神により波動係数を操作され 何 度 回 避 し て も 死 亡 す る 未来が決定している。
死因例
新魔王逃亡の手助けをしたとして、魔族の追手を差し向けられ死亡(ネオン)
逃げずに魔王を説得するよう新魔王に進言、出向いた魔王城で暗殺され死亡(神夢)
新魔王の逃亡を手助けした罪を、魔王に許してもらうため殺害され死亡(沼田)
過去に新魔王の手で仲間を殺された部族と衝突、折れた穂先が偶然突き刺さって死亡(花菱 正樹)
神との通信を試みるべく技術局に向かうも、機材が爆発し研究員諸共死亡(カルマユウジ)
立ち寄った酒場で偶然出会い、油断した隙に殺害され死亡(泰)
偶然教団員との戦闘に巻き込まれ、放たれた銃弾により死亡(波多野玉香)
協会での礼拝を勧められ参加するも、老朽化した協会の天井が崩れ落ち死亡(久原敦)
街中でばったり出会し意気投合、仲良く接する内に異常性に気付くも殺害され死亡(まこと)
新魔王と魔族を匿い、人外の目を持つ異教徒として断罪され死亡(しろー)
青年が匿っている魔族の存在を知り、教団に告げ口されることを恐れた彼に口封じのため殺害され死亡(烏丸 凛太郎)
新魔王を討伐すべく一騎打ちを仕掛けてきた騎士に、近くにいた他の人間共々焼き殺されて死亡(甲斐)
買い出しに出かけた際スリの犯人から身代わりとして悪役に仕立て上げられ、魔族としてその場で暴行を受け死亡(鷹野)
たまたま入った路地裏で、空腹に苦しむ青年を助けようとしたが食い殺され死亡(蒼龍翔)
新魔王誕生後も地上はろくな動きを見せず、管理に飽きた神々の審判が下され死亡(雨咲)
新魔王を亡き者にしようと企む王族の青年に嵌められ、誰より罪深い咎人として処刑され死亡(新田)
異種族であることがばれた少女を逃す手伝いをするも、暴徒たちの手によって敢えなく死亡(築)
新魔王と最も親しい友として、友人だと思っていた青年に殺害され死亡(輝羅 瑠衣斗)
久しぶりに会った友人が苦しんでいるのを知り救おうとするも、水中に引き摺り込まれそのまま死亡(水町 奈月)
旅先で落ち込んでいた際、「死にたい」と愚痴を溢したことにより毒殺され死亡(ちま)
主人に命じられた少女に攫われかけるも、必死に抵抗した結果力加減を間違えた彼女の手により殺害され死亡(鴻 透)
魔族と人間の混血という大変珍しい血筋を狙われ、研究材料として数多の残虐行為を受け死亡(シンヤ)
王都で国を挙げての戴冠式の真っ最中、復讐を目論む逆徒が仕掛けた時限爆弾に巻き込まれ死亡(萩原 怜)
魔族と人間の王族によるの和平交渉にまで漕ぎ着けるも、発狂寸前だった皇太子の自爆により巻き込まれて死亡(あまみやかなえ)
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