#象の鼻防波堤
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Nightscape of the Port of Yokohama
Location: Zou-no-Hana Breakwater, Port of Yokohama, Japan Timestamp: 19:06 March 15, 2023
Zou-no-Hana Breakwater is an offshore structure located in the Port of Yokohama, which is a major seaport in Japan.
In this shot, I have used a lifebuoy to frame one of the many beautiful and picturesque views from the breakwater, where visitors can see the illuminated Yokohama Marine Tower and the Hotel New Grand, both of which are located right across the street from the lovely Yamashita-Koen Park on Yokohama’s waterfront.
The Marine Tower is a landmark of Yokohama and stands at 106 meters tall (348 ft) with observation decks on the 29th and 30th floors. It is illuminated at night and adds to the beautiful scenery of the area.
The Hotel New Grand is a luxury hotel that was built in 1927. It has a rich history and has hosted many famous guests over the years. The hotel offers a stunning view of the bay and is known for its excellent service and hospitality.
Fujifilm X100V (23 mm) with 5% diffusion filter ISO 160 for 30.9 sec. at ƒ/10 Velvia/Vivid film simulation
Check out shooting locations and source references here: https://www.pix4japan.com/blog/20230315-yokohama-naka-ku
#ストリートスナップ#夜景写真#横浜#横浜湾#象の鼻防波堤#pix4japan#Fujifilm X100V#nightscape photography#street photography#Japan#Yokohama#Port of Yokohama#Zou-no-Hana Breakwater
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かえりたい
小さいころ、海で溺れたことがある。
あの日、私はお父さんとお母さんと海水浴に来ていた。真夏日で、凄く暑いからか海の水が凄く気持ちよくて、浮き輪でぷかぷか浮かびながら、足と手をぱちゃぱちゃ動かしながら波の揺れを楽しんでいたはずだ。
でも気付いたら私はお母さんとお父さんがいる浜辺から随分と遠い場所まで来ていて、両親がこっちにむかって声を掛けている姿に呑気に手を振っていたら、高波が来て私は海に吞まれてしまったんだ。
不思議と苦しくなかった。体を包み込んでくれる水が、体の中を満たしていく水がとっても気持ちよくて、どんどん遠ざかっていくキラキラした水面が綺麗で、ただ沈むまま頭上をぼうっと眺めていた。
そしたら急に下から何かに押されたような衝撃があって、波に逆らって移動していると思ったら、気が付いたら号泣しているお母さんと必死な表情のお父さんの顔が目の前にあったんだ。
「本日、C県K市の浅瀬に推定20mにもなる1頭の白い鯨が迷い込みました。専門家によりますと、このザトウクジラはアルビノ個体であり、8年前に別の地域の沖合で発見された白鯨と同じ個体ではないかという意見が出ています。アルビノの鯨��オーストラリアでも発見されており――……」
中学2���生の夏、リビングから流れてくるテレビの内容が気になって思わず目の前を陣取り画面を食いつくように見つめる。だから今日あんなに昼うじゃうじゃ浜辺やら防波堤に人がいたのか。昼間の混雑を思い出して少し眉間にしわが寄った。キッチンの方で「こら、せめて髪はきっちり乾かしてからテレビを見なさい!」とお母さんの叱る声が聞こえたので、乾かすには面倒な長い髪を肩にかけていたタオルでぽんぽんと叩くように拭く。
お父さんが私の後ろにあるソファに座り、同じくテレビを見ておっと声を出した。
「懐かしいな、8年前といえばあの日の海水浴を思い出すよ。あれからもうそんなに経ったのか」
「うん、そうだね。私はどうやって助かったのかはしっかり覚えてないんだけど……お父さんは覚えてるんでしょ?」
「そうだなぁ、大きい白鯨がお前を背にのっけて浅瀬まで届けてくれたんだよ。あれは圧巻だったなぁ。もしかしたら本当にこの鯨はあの時の鯨なのかもしれないな」
「ふぅん……」
「見に行かないのか?」
「気になるけど、昼に行くと人多くてそれがやだなぁ」
「海に入れないから?」
「そう!」
私だってこの鯨に興味が全くないわけではない。父親が言うにこの鯨は自分を小さいころ助けてくれたあの鯨かもしれないのだから、一目でも見て、そしてお礼をいうことが出来たらいいなとは思う。ただ昼間に行くとどうしても人が多いみたいだから……なら、
「夜中に行くなんて馬鹿なこと考えないでよ?」
洗い物が終わったのかお母さんもリビングにやってきて私の頭を手のひらで軽くたたいた。
「あんたは溺水したから海が滅法嫌いになるのかと思ったら小さいときの数十倍も海好きになっちゃって……昼間人目につくとこなら昔みたいに溺れた時だれか助けてくれるからいいかもしれないけど、夜中は本当にやめてよ? 昔みたいに鯨が助けてくれるわけでもないし」
「わかってるって」
「ほっといたらあんたは一日中海に居ようとするもんだから心配だわ」
「大丈夫だってばー、ちゃんとスイミングスクールも行ってるし、この前全国大会でも優勝したもん。昔よりは泳げるよ」
「馬鹿、そういう話じゃないんだよ」
お母さんとお父さん、2人にたしなめられて少し仏頂面になった。でも両親が私のことを心配する理由もなんとなくわかる。特にお母さんは心配性だから、2人の前でこれ以上この事に関して話を出すのはやめることにした。
その日の夜中。窓を開けて波の音を聞きながら月を見た。頭の中でぐるぐると回っている��は夕方のあのニュース。どんな鯨なんだろう。本当にあの時の鯨なのかな。今なら人は海辺になんていないだろうしこっそり行ってもいいかも。お母さんとお父さんは? 大丈夫、少し見に行って2人が寝てる間に帰ってくればいいんだから。
思い立ったが吉日。そろそろと家を出てサンダルを履き、静かに戸を開け閉めた。夏だからか夜もじんわり暑くて、むわっとしたぬるい空気が体を纏った。家から数メートル先までは忍び足で離れて、ある程度の距離から海の方へ小走りした。
両親が心配だからと一度も行かせてくれなった夜の海はとても静かで、ザザー、ザザ―とした波の音とサク、サクと砂を踏む私の足音しか聞こえない。私の鼻に家にいた時よりも強い潮の香りが抜けていく。心がどんどん落ち着いていく気がした。
そうだ、鯨を見に来たんだっけ。当初の目的を思い出して辺りを見回すと浅瀬で海に向かって座っている人を見つけた。……いや、あれは人なのだろうか。人にしては大きすぎるかもしれない。その人に向かって足を進めると、座っていた人は私の足音に気が付いたのかゆっくりとこちらに振り向いた。
凄く綺麗な顔をしている男性だ。体のラインにピッタリと沿った民族衣装のようなものを着ていて、髪は長い銀色。朝焼けみたいな優しいピンク色の瞳が印象的だった。
そして何よりこの人を見て、自分は懐かしいと思った。
「そんなに見られていると少し恥ずかしいかな」
「しゃ、しゃべっ」
「あぁ、ごめんね。驚かせてしまった。……君はあの時海で溺れていた子だね? 大きくなったね」
二コリと笑った彼の言葉にその言葉に口があんぐりと開いた。
「あの、私テレビのニュースを見て、白い鯨が浅瀬にいるって迷い込んでるって聞いて来たんですけど、えっと、そうじゃなくて、なんでその時のことをあなたが知ってるんですか?」
「そりゃあ僕がその白鯨で、君を助けたのが僕だからだよ」
更に口が開いたかもしれない。彼は私の反応が相当面白かったのか、声をあげて笑っていた。
「だって、人間の姿をしてるじゃないですか!」
「君には僕が人間の姿をしているように見えるんだ」
「あたりまえじゃないですか。というか、確かに今日は天気が良くて海が凪いでるかもしれないですけどずっと浅瀬に座ってたら体が冷えてしまいますよ」
「僕は砂浜までは行けないよ。打ちあがっちゃうもの。……そうだ、君さえよければ僕の近くまでおいでよ。僕みたいに海の中で座れなんて言わないからさ」
本当ならこんな状況、逃げる一択なのだろうけど、不思議と嫌な感覚はしなかったからサンダルを脱いで手招きされるまま海に踏み入る。
彼の近くまできて来てみると、やっぱりその人はかなりの大男らしくて、私の身長と彼の座高は��ど同じようなものだった。身長高いんですね、と呟いたら、そりゃあね、ザトウクジラだからおっきくなっちゃうよね、と彼は答えた。どういうことなんだ。
「凄いね」
「なにがですか?」
「海が喜んでる。君はよっぽと海に愛されているみたいだ」
「……そうなんですか?」
私の手を握ってもいいかと聞かれたので、大人しく手を差し出した。私の手を握る彼の大きな手はひんやりとしていて、海の中に入った時のような、不思議な包容力があった。初対面でこんなことを思うのもおかしいけど、私にとっては親の手よりも安心する気がした。
「やっぱり、あの時随分と海水を沢山飲んでしまったんだね」
「溺水した時ですか?」
「そう。……実はここに来るつもりはなかったんだよ。僕みたいなモノが人間の住む場所の近くまで来ると混乱させてしまうからね。だけどこの近くを通った時、海がはしゃいでいるような声がしてね。まさかとは思ったけど君だったとは」
「えっと、どういうことですか…?」
「君の中には海がある」
目が点になった。
「正しくは君の心と体がこの海と結びついてる、と言った方がいいかもしれない。君、海の中にいる方が心が落ち着くだろう」
なんで分かったんだろう。思わず何回も頷いた。
そう、あの日溺水した時から私は異常なほど海を求めていた。海の中にいると心が落ち着いて、ここが自分の居場所だと、そう思うほどだった。元々内陸に住んでいる祖父母の近くに家があったけど、私があまりにも海を求めるものだから、私たち家族は海辺のこの街に越してきたのだ。
あれ以来私はほぼ毎日この海に来ている。親が心配するだろうから朝か昼、夏場は入って泳ぐし、冬場は砂浜に座ってただ波の音を聞くことだってある。ほんとに自分でもどうかしてると思う。だけど、
「たまに、海にかえりたい、と思うことがあるんです。自分でもよく分からないんですけど、ここが酷く懐かしくて、まるで自分の居場所は陸じゃなくて海にあるみたいに」
「偶にいるんだよ、生まれる場所を間違えてしまった人間が。海で生まれるはずだった人間が陸に生まれると他の人間より海への憧れが強くなるだけなんだけど、海と密接に結ばれると今まで生きてきた陸を自分の居場所とは思えなくなってしまう。……君、両親は好きかな?」
「うん、大好き」
「そしたら、君が陸に居続ける理由はその人たちのためになるわけだ。君の両親は君を正しく深く愛したんだね。よい鎖になっている」
何故か気恥ずかしくなって、彼の顔から視線をはずした。
暫く無言になる。ザー、ザザー、と鳴る波の音と静かに呼吸する私たちの息の音だけが耳に届き、繋がった手と足元を撫でる波がほんの少し火照った体を癒してくれた。心地が良かった。
ふと、先程の話から両親のことを思い出した。そうだ、今何時だろう。流石に帰らないとまずいかもしれない。だけどこの心地よい状況から離れるのも惜しい気がした。
「あの、暫くこの近くにいますか?」
「うーん、君の顔を少し見るだけのためにここに来たようなものだからね。明日にはここを離れるつもり��よ」
「あの! 我儘で申し訳ないんですけど!」
「うん?」
「もっと話せたりしませんか……? 明日とか……親にバレちゃうといけないから今日はもう帰るんですけど、その、もっと海の話聞きたいし、あなたのことも知りたいし……ダメだったらいいですけど……」
彼はぽかーんとした表情で私を見たあと、ワハハと大きな声で笑った。そんなに笑うことないじゃない! 恥ずかしさで頬が熱くなったまま睨みつけると、ごめんごめんと彼は平謝りする
「そうだね、君がそう言うならあと3日程、この近くにいることにするよ。また明日この時間に会おう」
「約束ですからね!」
「うん、約束だ」
繋いだ手を離して、小指を差し出した。彼が不思議そうにその小指を見ていたので、人間は小指と小指を結んで約束するんだよ、と教えた。彼は成程、と呟くと、私よりも遥かに大きい小指を差し出した。
「小指おっきいですね」
「ザトウクジラだからね!」
「そればっかり!」
小指と小指を軽く結んで、指切りげんまんをした。少し名残惜しかったけど指を解いて、浅瀬から出る。
「したら、また明日この時間に」
「うん、また明日」
この不思議な夜の密会を約束して数日間。私はすこぶる浮かれていたと思う。昼間、いつも海に行く時間帯に「鯨のニュースで人が多くて混んでるから」という理由で家で夏休みの宿題をして、夜2人が寝静まった時にそっと家から出て彼に会いに行った。
話していて分かったことは、彼は本当にザトウクジラで、彼を人間の姿をしているのは私自身が彼自身と会話をしたいと望んだから目と脳がそう都合よく解釈してるだけらしい。浜に近すぎると打ち上がって身動きができなくなると言っていたのはどうやら真面目な話だったみたい。
それから、今後とも私の意志が陸にしっかり向く限り、海が私を連れていくことはないということを教えてもらった。じゃああの時溺れたのはなんでだろうと思って聞いたら、小さい子供、特に7つまでは自分の意志が弱いから、1人でいると簡単に連れ去られてしまうそうだ。
「所謂神隠しというものだよね」
「私、神隠しは神社でしか起こらないものだと思ってました」
「どこでも起こりうるよ。海だけでなく川でも、山でも、街中であってもね。人から外れたモノに好かれるというのはそういうことなんだ」
「でも海は概念じゃないですか」
「何にでも意思は宿るさ。だから陸でずっと暮らしたければ、しっかりと自分の意志を貫いて、そして今君を繋いでくれている親との鎖と、今後結びつくであろう縁を虚ろにしてはいけないよ」
「……どうしても私が海にかえりたくなったら?」
足首まで浸かった海水を蹴る。ぱしゃり、と水がはねた。視線を上げて彼の顔を見たら、少し言葉を探しているようだった。
「そうだな……海にかえりたい、とそう伝えればいいんじゃないかな」
「伝えていいんだ」
「出来れば人間としての生を全うして欲しいと思うけど、君は本当は海で生まれるはずだった命だから。きっ��その時は海は喜んで君を迎えると思う��」
私たちの足元を
「僕は今夜この浜辺から発つよ」
少し驚いて彼の顔を見た。私を慈しむような、そんな表情をしている彼が見えて、思わず目を伏せる。そうか、もうお別れなのか。唇がきゅっと閉まった。何とも言えない表情をしている私を見て、彼は柔らかい笑い声をあげた。
「この3日間、楽しかったよ。ありがとう」
「……もう会えなくなる?」
「いつかまた会えるかもしれない。海は何処へだって繋がってるから」
俯きながら小さく頷いた私の頭を、彼は優しく撫でた。沖に向かって歩みを進めた。彼の体が沖へ進みに連れどんどん海に沈んでいくところを私はずっと眺めた。
彼の長い白い髪が畝り、夜の海に消えていく。その姿を、私はずっと眺めていた。
帰り道を重い足取りで歩く。道路横の街灯が心許ないけれど道を照らしてくれているから、こんな夜中でも道に迷うことは無い。だけど時々チカチカと点滅した灯りがあって、それが何故か私の心を不安にさせる。
家の前に着いた。心臓がバクン、と大きく鳴いた。
家の電気が付いてる。家から出る時は親が寝たのを確認したし、電気も確かに消えてたはずなのに。
恐る恐る玄関を開けた。手から変な汗が出る。
靴を脱いで、リビングを覗いた。食卓の前の椅子に父と母が座っている。
「随分遅い帰りじゃないか」
父さんが私に振り向いてそう言った。
「海に行っていたんだろう?」
口の中がカラカラだ。
「……取り敢えずこっちに来て座りなさい」
今まで感じたことの無い異様な空気がリビングには漂っていて、怯えで食卓へ向かう自分の足が覚束無い。椅子に何とか座って、親の顔を見た。父さんはこんな空気の中、怖いくらいに穏やかな表情だったけど、母さんは顔を真っ赤にして震えていた。彼女の握り拳が白い。
「おかしいと思ったのよ、いつもはあんなに嬉々として宿題なんてやらずに海に行く子が鯨のニュースが出てから全く行かなくなったんだもの。朝は起きれないし昼間は眠そうにしてるし。……ねぇ、母さん夜には海に行かないでって言ったよね?」
視線が徐々に下がる。
「鯨に会ってきたのでしょう?」
口の中を噛んだ。信じてくれるはずない、あの鯨は話せるだなんて、そんな話。
暫く無言の時間が続いた。ふと、耳に嗚咽が聞こえた。そうっと視線を上げたら、顔を覆った母さんが居た。泣いてるみたいだった。
「どうして何も言わないの……っ」
心臓をキュッと握られた気がした。泣いてる母さんから目を離せなかった。
「……暫くはスイミングスクールにも、海にも行くんじゃない。夏休み中は家で過ごすんだ。いいね?」
父さんのその言葉に、私は頷くことしか出来なかった。
自分の部屋の窓から海を見た。近々台風が来るからだろうか、波が随分荒く見えた。潮の香りが嗅ぎたくて窓を開けようとしたけど、母さんのあの時の泣き顔が頭をよぎっ���伸ばした手を元に戻した。
控えめに言って、今の親との……特に母さんとの関係は最悪だった。見かけはあまりおかしくはないと思う。だけど向こうは私が少しでも外に、特に海に興味を示したらヒステリックに叫ぶし、私は私で母さんがそうならないように様子を見ながら日々を過ごすしかなかった。父さんが夜いる時は母さんを宥めてくれるし、それにこの関係性のクッションになってくれるからいいものの、昼間は精神的に辛い日の方が多い。
それでも私は母さんと父さんが好きだ。あの鯨と過ごした日々は確かに宝物でかけがえの無いものだったが、夜に海に行くという過ちをしたのは自分で、自分が悪いから今家族はぎこちない形をするようになってしまったんだ。
私は家族が好きだから、私が我慢すれば親も、私も望む家族の形になれるから。
私が我慢すればいいだけだから。
ベッドでうたた寝していたら、いつの間にか夜になっていたみたいだ。寝たあと特有の気だるさを押しのけて体を起こした。
そういや夕ご飯食べるの忘れていたことに気がついて、部屋から出て階段を降り、リビングに入ろうとした。灯りがついてる。まだ2人は起きてるんだろうか。ドアノブに手を掛けた。
「もう無理なの! 私たちは!」
母さんの叫び声だ。
「落ち着きなさい、無理なんかじゃないだろう」
「無理なのよ! も���昔の家族の形になんかなれやしない! あなたはいいわよね、昼間はずっとあの子を見ずにすむんだから。あの子が昼間どう過ごしてるかわかる?! ずーっと自分の部屋から海を見てるのよ! 声をかけても返事すらままならないし、返事ができたとしても私をまるで腫れ物みたいに扱って……!」
「あの子が最大限したいことを我慢して俺たちの願いを叶えてくれてるじゃないか! 俺たちがあの子の自由を縛っているんだぞ!」
「自由を縛る?! そもそもあの子が夜危険な事をしなければこうならなかったのよ?!」
「それは……っ」
「誰も私の味方なんてしてくれない! 私はただあの子がまた海なんかに殺されないように守りたいだけなのに! まるで私が間違ってるみたいじゃない! ……そうよ、そんなに海に行きたいならもう行ってしまえばいい!
あんなの、もう私の子じゃない!」
ドアノブから手を離した。音を立てないように扉から後ずさり、玄関を目指した。静かに鍵を開け、外に出る。家から数歩歩いて、そして思いっきりアスファルトを蹴った。
もう何が正しくて何が正しくないのか分からなくなってしまった。
母さんは私が嫌いみたいだ。
父さんは私がこんなんだから、母さんと仲が悪くなったみたいだ。
私のせいで、母さんも父さんも壊れてしまう。
違う、きっと私が生まれる場所を間違えてしまったから2人は壊れてしまったんだ。
私がちゃんと人間だったら、きっとこんな風にならなかった。
私がちゃんと海で生まれていたら、きっと2人は幸せでいられた。
私、わたし、
「なんで人間なんだろう」
砂浜でぽつりと出た言葉は強い風で掻き消されてどこにも届かない。
目の前に広がる海は、大きく波立っていて、全てを飲み込む凶暴性を孕んでいた。
あの時とは大違いだな。でも、その凶暴性さえ、今は心地よく感じた。
波に踏み入った。足に海水がまとわりついてくる。よく分からないけど、笑えてきた。
そのまま足を進めて、ついに腰まで来た。入る前はあんなに強い波だったのに、私の周りだけ不思議と凪いでいた。私の返事を待ってるみたいだ。
空を見上げた。綺麗な星空だ。零れて落ちてきそうだった。
目を瞑る。大きく深呼吸する。肺に潮風が満ちる。再び目を開けて、水面に問いかけた。
「ねぇ、わたしをうみにかえらせて」
うねる波が私を飲み込んだ。
私の体は波に任されるまま徐々に深いところに沈んでいく。心地がいい。体の中に海が入ってくる。私の口や鼻から抜けていく潮風が泡になって抜けていくのが綺麗で、ぼうっと眺めた。
一際大きな潮の流れが私を捉えた。仰向けだった体がくるりと半回転して、何かに乗った。白いゴツゴツとした、弾力のある皮膚のようだ。
「本当にこれでよかったの?」
頭に声が響いた。あの時のザトウクジラの声だ。もしかして迎えに来てくれたのかな。
「本当にこれでよかったの?」
もう一度そう問われた。答えようと口を開いたけど、私の肺はもう海で満たされていたから声が出なかった。
「大丈夫、君が僕に伝えたい言葉を思い浮かべるだけでいい」
そう優しく語りかける鯨。その背に頬を付けて、言葉を思い浮かべる。
「本当はね、分からないの。でもね、あのままだと母さんも父さんも壊れてしまうと思ったの。それにね」
「うん」
「やっぱり私は海を諦められないから。……私には、人間の体で、人として生きるのは厳しかったみたい」
「後悔はない?」
「分からない。でももういいの。……もう、海にみをまかせたいの」
「……海にかえったら、君は何がしたい?」
「そうだなぁ……あなたみたいにくじらになって、このうみをおよぎたいなぁ……」
冷たい潮の流れの中、頬から伝わるクジラの体温が愛おしかった。次第に眠くなってきて、目を閉じた。
意識が落ちる直前に、「おやすみ、また次の生まで」という彼の声が聞こえた気がした。
「午前のニュースです。あの白いザトウクジラの出現から早5年、再びその姿はO県にて目撃されました。ある界隈でこの鯨は幸せを呼ぶ白鯨と呼ばれていますが、今回一回りほど小さい子クジラに寄り添って泳いでいることが確認されており、珍しいことにその子も同じくアルビノ個体のようです。専門家によりますと親子でアルビノになるのは非常に稀で��り――…」
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#olympus #omdem5markii #ファインダー越しの私の世界 #みなとみらい #象の鼻防波堤 #横浜 #nightsky #nightview
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紅葉とみなとみらい🍁🎡✨✨ みなとみらいの夜景は横に広いので、 上や下が寂しくなる時がありますが ちょうど空を紅葉で埋めることができました😆 この日の大桟橋は津軽海峡冬景色が 大きく流れてました♪ 今はもうない青函連絡船。 みなさんさ乗ったことありますか? 私は乗ったことありますが、 本州と北海道を隔てる海峡をつなぐ船は なんとも旅情を掻き立てたものです。 でも、北海道民の悲願、青函トンネルが できてからは役目が終わりました。 この歌が連絡船の存在を後世まで伝えることでしょう👍 🗓撮影日: 2022年11月 📍ロケーション: 象の鼻防波堤付近 🔗photo by: @i_love_photos.jun 👈 ----------------------------------------------- #横浜夜景 #みなとみらい夜景 #紅葉 #赤レンガ倉庫 #写真好きな人と繋がりたい #みなとみらい線フォト散歩 #かがやきフォトかながわ (象の鼻パーク・大桟橋入口) https://www.instagram.com/p/Ck1-SQHvrRx/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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神奈川県横浜市 夜景😊 2021.5.15撮影 ILCE-7RM3 FE 24-70mm F2.8 GM #a7riii #2470gm #sony #alpha_newgeneration #otonatabi_japan #lovers_nippon #japan_of_insta #retrip_nippon #japantravelphoto #japan_great_view #yokohama #japan #photo_jpn #yokohamacameraclub #kanagawaphotoclub #横浜カメラ部 #カメラ好きな人と繋がりたい #写真好きな人と繋がりたい #写真撮ってる人と繋がりたい #写真を撮るのが好きな人と繋がりたい #ファインダー越しの私の世界 #横浜 #みなとみらい線沿線love #みなとみらい線フォト散歩 #myyokohama #myyokohama_2021 #sorakataphoto #夜景 (象の鼻防波堤) https://www.instagram.com/p/CQL2sMLA0Vf/?utm_medium=tumblr
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象の鼻の花 Flower's ZOU-NO-HANA /2019
象の鼻テラス開館10 周年記念展
「フューチャースケープ・プロジェクト 2019」 参加プログラム
横浜に「象の鼻防波堤」というカーブを描いた防波堤がある。
時間を経て形が変わり、今では「象の鼻パーク」という公園になっている。
動物の「象の鼻」は元々短かったが、
巨大な頭を支えながら水を飲むために長くなった。
象の鼻には骨がなく、無数の筋肉によってしなやかに動く。
2つの「象の鼻」��共通点は、時間をかけて変化したこと。
私たちが「象の鼻」の筋肉になり一体化することで、変わることがある��もしれない。
他者と関わる時、見た目などの情報で偏見を抱くことがある。
その人のことを知れば、そのイメージは変わることがある。
「象の鼻」の時間を共有することは、その偏見を変えることかもしれない。
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Page 112 : 変移
育て屋に小さな稲妻の如く起こったポッポの死からおよそ一週間が経ち、粟立った動揺も薄らいできた頃。 アランは今の生活に慣れつつあった。表情は相変わらず堅かったが、乏しかった体力は少しずつ戻り、静かに息をするように過ごしている。漠然とした焦燥は鳴りをひそめ、ザナトアやポケモン達との時間を穏やかに生きていた。 エーフィはザナトアの助手と称しても過言ではなく、彼女に付きっきりでのびのびと暮らし、ふとした隙間を縫ってはブラッキーに駆け寄り何やら話しかけている。対するブラッキーは眠っている時間こそ長いが、時折アランやエーフィに連れられるように外の空気を吸い込んでは、微笑みを浮かべていた。誰にでも懐くフカマルはどこへでも走り回るが、ブラッキーには幾度も威嚇されている。しかしここ最近はブラッキーの方も慣れてきたのか諦めたのか、フカマルに連れ回される様子を見かける。以前リコリスで幼い子供に付きまとわれた頃と姿が重なる。気難しい性格ではあるが、どうにも彼にはそういった、不思議と慕われる性質があるようだった。 一大行事の秋期祭が催される前日。朝は生憎の天気であり、雨が山々を怠く濡らしていた。ラジオから流れてくる天気予報では、昼過ぎには止みやがて晴れ間が見えてくるとのことだが、晴天の吉日と指定された祭日直前としては重い雲行きであった。 薄手のレースカーテンを開けて露わになった窓硝子を、薄い雨水が這っている。透明に描かれる雨の紋様を部屋の中から、フカマルの指がなぞっている。その背後で荷物の準備を一通り終えたアランは、リビングの奥の廊下へと向かう。 木を水で濡らしたような深い色を湛えた廊下の壁には部屋からはみ出た棚が並び、現役時代の資料や本が整然と詰め込まれている。そのおかげで廊下は丁度人ひとり分の幅しかなく、アランとザナトアがすれ違う時にはアランが壁に背中を張り付けてできるだけ道を作り、ザナトアが通り過ぎるのを待つのが通例であった。 ザナトアの私室は廊下を左角に曲がった突き当たりにある。 扉を開けたままにした部屋を覗きこむと、赤紫の上品なスカーフを首に巻いて、灰色のゆったりとしたロングスカートにオフホワイトのシャツを合わせ――襟元を飾る小さなフリルが邪魔のない小洒落た雰囲気を醸し出している――シルク地のような軟らかな黒い生地の上着を羽織っていた。何度も洗って生地が薄くなり、いくつも糸がほつれても放っている普段着とは随分雰囲気が異なって、よそいきを意識している。その服で、小さなスーツケースに細かい荷物を詰めていた。 「服、良いですね」 「ん?」 声をかけられたザナトアは振り返り、顔を顰める。 「そんな世辞はいらないよ」 「お世辞じゃないですよ。スカーフ、似合ってます」 ザナトアは鼻を鳴らす。 「一応、ちゃんとした祭だからね」 「本番は、明日ですよ」 「解ってるさ。むしろ明日はこんなひらひらした服なんて着てられないよ」 「挨拶回りがあるんですっけ」 「そう。面倒臭いもんさね」 大きな溜息と共に、刺々しく呟く。ここ数日、ザナトアはその愚痴を繰り返しアランに零していた。野生ポケモンの保護に必要な経費を市税から貰っているため、定期的に現状や成果を報告する義務があり、役所へ向かい各資料を提出するだの議員に顔を見せるだの云々、そういったこまごまとした仕事が待っているのだという。���方の無いことではあると理解しているが、気の重さも隠そうとも��ず、アランはいつも引き攣り気味に苦笑していた。 まあまあ、とアランは軽く宥めながら、ザナトアの傍に歩み寄る。 「荷造り、手伝いましょうか」 「いいよ。もう終わったところだ。後は閉めるだけ」 「閉めますよ」 言いながら、辛うじて抱え込めるような大きさのスーツケースに手をかけ、ファスナーを閉じる。 「あと持つ物はありますか」 「いや、それだけ。あとはリビングにあるリュックに、ポケモン達の飯やらが入ってる」 「分かりました」 持ち手を右手に、アランは鞄を持ち上げる。悪いねえ、と言いつつ、ザナトアが先行してリビングルームに戻っていくと、アランのポケモン達はソファの傍に並んで休んでおり、窓硝子で遊んでいたフカマルはエーフィと話し込んでいた。 「野生のポケモン達は、どうやって連れていくんですか?」 ここにいるポケモン達はモンスターボールに戻せば簡単に町に連れて行ける。しかし、レースに出場する予定のポケモン達は全員が野生であり、ボールという家が無い。 「あの子達は飛んでいくよ、当たり前だろ。こら、上等な服なんだからね、触るな」 おめかしをしたザナトアの洋服に興味津々といったように寄ってきたフカマルがすぐに手を引っ込める。なんにでも手を出したがる彼だが、その細かな鮫肌は彼の意図無しに容易に傷つけることもある。しゅんと項垂れる頭をザナトアは軽く撫でる。 アランとザナトアは後に丘の麓へやってくる往来のバスを使ってキリの中心地へと向かい、選手達は別行動で空路を使う。雨模様であるが、豪雨ならまだしも、しとしとと秋雨らしい勢いであればなんの問題も無いそうで、ヒノヤコマをはじめとする兄貴分が群れを引っ張る。彼等とザナトアの間にはモンスターボールとは違う信頼の糸で繋がっている。湖の傍で落ち合い、簡単にコースの確認をして慣らしてから本番の日を迎える。 出かけるまでにやんだらいいと二人で話していた雨だったが、雨脚が強くなることこそ無いが、やむ気配も無かった。バスの時間も近付いてくる頃には諦めの空気が漂い、おもむろにそれぞれ立ち上がった。 「そうだ」いよいよ出発するという直前に、ザナトアは声をあげた。「あんたに渡したいものがある」 目を瞬かせるアランの前で、ザナトアはリビングの端に鎮座している棚の引き出しから、薄い封筒を取り出した。 差し出されたアランは、緊張した面持ちで封筒を受け取った。白字ではあるが、中身はぼやけていて見えない。真顔で見つめられながら中を覗き込むと、紙幣の端が覗いた。確認してすぐにアランは顔を上げる。 「労働に対価がつくのは当然さね」 「こんなに貰えません」 僅かに狼狽えると、ザナトアは笑う。 「あんたとエーフィの労働に対しては妥当だと思うがね」 「そんなつもりじゃ……」 「貰えるもんは貰っときな。あたしはいつ心変わりするかわかんないよ」 アランは目線を足下に流す。二叉の尾を揺らす獣はゆったりとくつろいでいる。 「嫌なら返しなよ。老人は貧乏なのさ」 ザナトアは右手を差し出す。返すべきかアランは迷いを見せると、すぐに手は下ろされる。 「冗談だよ。それともなんだ、嬉しくないのか?」 少しだけアランは黙って、首を振った。 「嬉しいです」 「正直でいい」 くくっと含み笑いを漏らす。 「あんたは解りづらいね。町に下るんだから、ポケモン達に褒美でもなんでも買ってやったらいいさ。祭は出店もよく並んで、なに、楽しいものだよ」 「……はい」 アランは元の通り封をして、指先で強く封筒を握りしめた。 やまない雨の中、各傘を差し、アランは自分のボストンバッグとポケモン達の世話に必要な道具や餌を詰めたリュックを背負う。ザナトアのスーツケースはエーフィがサイコキネシスで運ぶが、出来る限り濡れないように器用にアランの傘の下で位置を保つ。殆ど手持ち無沙汰のザナトアは、ゆっくりとではあるが、使い込んだ脚で長い丘の階段を下っていく。 水たまりがあちこちに広がり、足下は滑りやすくなっていた。降りていく景色はいつもより灰色がかっており、晴れた日は太陽を照り返して高らかに黄金を放つ小麦畑も、今ばかりはくすんだ色を広げていた。 傘を少しずらして雨雲を仰げば、小さな群れが羽ばたき、横切ろうとしていた。 古い車内はいつも他に客がいないほど閑散たるものだが、この日ばかりは他に数人先客がいた。顔見知りなのだろう、ザナトアがぎこちなく挨拶している隣で、アランは隠れるように目を逸らし、そそくさと座席についた。 見慣れつつあった車窓からの景色に、アランの清閑な横顔が映る。仄暗い瞳はしんと外を眺め、黙り込んでいるうちに見えてきた湖面は、僅かに波が立ち、どこか淀んでいた。 「本当に晴れるんでしょうか」 「晴れるよ」 アランが呟くと、隣からザナトアは即答した。疑いようがないという確信に満ち足りていたが、どこか諦観を含んだ口調だった。 「あたしはずうっとこの町にいるけど、気持ち悪いほどに毎年、晴れるんだよ」 祭の本番は明日だが、数週間前から準備を整えていたキリでは、既に湖畔の自然公園にカラフルなマーケットが並び、食べ物や雑貨が売られていた。伝書ポッポらしき、脚に筒を巻き付けたポッポが雨の中忙しなく空を往来し、地上では傘を指した人々が浮き足だった様子で訪れている。とはいえ、店じまいしているものが殆どであり、閑散とした雰囲気も同時に漂っていた。明日になれば揃って店を出し、楽しむ客で辺りは一層賑わうことだろう。 レースのスタート地点である湖畔からそう遠くない区画にあらかじめ宿をとっていた。毎年使っているとザナトアが話すその宿は、他に馴染んで白壁をしているが、色味や看板の雰囲気は古びており、歴史を外装から物語っていた。受付で簡単な挨拶をする様子も熟れている。いつもより上品な格好をして、お出かけをしている時の声音で話す。ザナトアもザナトアで、この祭を楽しみにしているのかもしれなかった。 チェックインを済ませ、通された部屋に入る。 いつもと違う、丁寧にシーツの張られたベッド。二つ並んだベッドでザナトアは入り口から見て奥を、アランは手前を使うこととなった。 「あんたは、休んでおくかい?」 挨拶回りを控えているのだろうザナトアは、休憩もほどほどにさっさと出かけようとしていた。連れ出してきた若者の方が顔に疲労が滲んでいる。彼女はあのポッポの事件以来、毎晩を卵屋で過ごしていた。元々眠りが浅い日々が続いていたが、満足な休息をとれていなかったところに、山道を下るバスの激しい振動が堪えたようである。 言葉に甘えるように、力無くアランは頷いた。スペアキーを部屋に残し、ザナトアは雨中へと戻っていった。 アランは背中からベッドに沈み込む。日に焼けたようにくすんだ雰囲気はあるものの、清潔案のある壁紙が貼られた天井をしんと眺めているところに、違う音が傍で沈む。エーフィがベッド上に乗って、アランの視界を遮った。蒼白のままかすかに笑み、細い指でライラックの体毛をなぞる。一仕事を済ませた獣は、雨水を吸い込んですっかり濡れていた。 「ちょっと待って」 重い身体を起こし、使い古した薄いタオルを鞄から取り出してしなやかな身体を拭いてくなり、アランの手の動きに委ねる。一通り全身を満遍なく拭き終えたら、自然な順序のように二つのモンスターボールを出した。 アランの引き連れる三匹が勢揃いし、色の悪かったアランの頬に僅かに血色が戻る。 すっかり定位置となった膝元にアメモースがちょこんと座る。 「やっぱり、私達も、外、出ようか」 口元に浮かべるだけの笑みで提案すると、エーフィはいの一番に嬉々として頷いた。 「フカマルに似たね」 からかうように言うと、とうのエーフィは首を傾げた。アメモースはふわりふわりと触角を揺らし、ブラッキーは静かに目を閉じて身震いした。 後ろで小さく結った髪を結び直し、アランはポケモン達を引き連れて外へと出る。祭の前日とはいえ、雨模様。人通りは少ない。左腕でアメモースを抱え、右手で傘を持つ。折角つい先程丁寧に拭いたのに、エーフィはむしろ喜んで秋雨の中に躍り出た。強力な念力を操る才能に恵まれているが故に頼られるばかりだが、責務から解放され、謳歌するようにエーフィは笑った。対するブラッキーは夜に浮かぶ月のように平静な面持ちで、黙ってアランの傍に立つ。角張ったようなぎこちない動きで歩き始め、アランはじっと観察する視線をさりげなく寄越していたが、すぐになんでもなかったように滑らかに隆々と歩く。 宿は少し路地に入ったところを入り口としており、ゆるやかな坂を下り、白い壁の並ぶ石畳の道をまっすぐ進んで���い道に出れば、車の往来も目立つ。左に進めば駅を中心として賑やかな町並みとなり、右に進めば湖に面する。 少しだけ立ち止まったが、導かれるように揃って湖の方へと足先を向けた。 道すがら、祭に向けた最後の準備で玄関先に立つ人々とすれ違った。 建物の入り口にそれぞれかけられたランプから、きらきらと光を反射し雨風にゆれる長い金色の飾りが垂れている。金に限らず、白や赤、青に黄、透いた色まで、様々な顔ぶれである。よく見ればランプもそれぞれで意匠が異なり、角張ったカンテラ型のものもあるが、花をモチーフにした丸く柔らかなデザインも多い。花の種類もそれぞれであり、道を彩る花壇と合わせ、湿った雨中でも華やかであったが、ランプに各自ぶら下がる羽の装飾は雨に濡れて乱れたり縮こまったりしていた。豊作と とはいえ、生憎の天候では外に出ている人もそう多くはない。白壁が並ぶ町を飾る様はさながらキャンバスに鮮やかな絵を描いているかのようだが、華やかな様相も、雨に包まれれば幾分褪せる。 不揃いな足並みで道を辿る先でのことだった。 雨音に満ちた町には少々不釣り合いに浮く、明るい子供の声がして、俯いていたアランの顔が上向き、立ち止まる。 浮き上がるような真っ赤なレインコートを着た、幼い男児が勢い良く深い水溜まりを踏みつけて、彼の背丈ほどまで飛沫があがった。驚くどころか一際大きな歓声があがって、楽しそうに何度も踏みつけている。拙いダンスをしているかのようだ。 アランが注目しているのは、はしゃぐ少年ではない。その後ろから彼を追いかけてきた、男性の方だ。少年に見覚えは無いが、男には既視感を抱いているだろう。数日前、町に下りてエクトルと密かに会った際に訪れた、喫茶店の店番をしていたアシザワだった。 たっぷりとした水溜まりで遊ぶ少年に、危ないだろ、と笑いながら近付いた。激しく跳びはねる飛沫など気にも留めない様子だ。少年はアシザワがやってくるとようやく興奮がやんだように動きを止めて破顔した。丁寧にコーヒーを淹れていた大きな手が少年に差し伸べられ、それより一回りも二回りも小さな幼い手と繋がった。アシザワの背後から、またアランにとっては初対面の女性がやってくる。優しく微笑む、ほっそりとした女性だった。赤毛のショートカットは、こざっぱりな印象を与える。雨が滴りてらてらと光るエナメル地の赤いフードの下で笑う少年も、同色のふんわりとした巻き毛をしている。 アランのいる場所からは少し距離が離れていて、彼等はアランに気付く気配が無かった。まるで気配を消すようにアランは静かに息をして、小さな家族が横切って角に消えるまでまじまじと見つめる。彼女から声をかけようとはしなかった。 束の間訪れた偶然が本当に消え���いっただろう頃合いを見計らって、アランは再び歩き出した。疑問符を顔に浮かべて主を見上げていた獣達もすぐさま追いかける。 吸い込まれていった横道にアランはさりげなく視線を遣ったが、またどこかの道を曲がっていったのか、でこぼことした三人の背中も、あの甲高い声も、小さな幸福を慈しむ春のような空気も、まるごと消えていた。 薄い睫毛が下を向く。少年が踊っていた深い水溜まりに静かに踏み込んだ。目も眩むような小さな波紋が無限に瞬く水面で、いつのまにか既に薄汚れた靴に沿って水玉が跳んだ。躊躇無く踏み抜いていく。一切の雨水も沁みてはいかなかった。 道なりを進み、道路沿いに固められた堤防で止まり、濡れて汚れた白色のコンクリートに構わず、アランは手を乗せた。 波紋が幾重にも湖一面で弾け、風は弱いけれど僅かに波を作っていた。水は黒ずみ、雨で起こされた汚濁が水面までやってきている。 霧雨のような連続的な音。すぐ傍で傘の布地を叩く水音。 全てが水の中に埋もれていくような気配がする。 「……昔ね」 ぽつり、とアランは言う。たもとに並ぶ従者、そして抱きかかえる仲間に向けてか、或いは独り言のように、話し始める。 「ウォルタにいた時、それも、まだずっと小さかった頃、強い土砂降りが降ったの。ウォルタは、海に面していて川がいくつも通った町だから、少し強い雨がしばらく降っただけでも増水して、洪水も起こって、道があっという間に浸水してしまうような町だった。水害と隣り合わせの町だったんだ。その日も、強い雨がずっと降っていた。あの夏はよく夕立が降ったし、ちょうど雨が続いていた頃だった。外がうるさくて、ちょっと怖かったけど、同時になんだかわくわくしてた。いつもと違う雨音に」 故郷を語るのは彼女にしては珍しい。 此度、キリに来てからは勿論、旅を振り返ってもそう多くは語ってこなかった。特に、彼女自身の思い出については。彼女は故郷を愛してはいるが、血生臭い衝撃が過去をまるごと上塗りするだけの暴力性を伴っており、ひとたびその悪夢に呑み込まれると、我慢ならずに身体は拒否反応を起こしていた。 エーフィは堤防に上がり、間近から主人の顔を見やる。表情は至って冷静で、濁る湖面から目を離そうとしない。 「たくさんの川がウォルタには流れているけど、その一つ一つに名前がつけられていて、その中にレト川って川があったんだ。小さくもないけど、大きいわけでもない。幅は、どのくらいだったかな。十メートルくらいになるのかな。深さもそんなになくて、夏になると、橋から跳び込んで遊ぶ子供もいたな。私とセルドもよくそうして遊んだ。勿論、山の川に比べれば町の川は澄んではいないんだけど、泳いで遊べる程度にはきれいだったんだ。跳び込むの、最初は怖いんだけどね、慣れるとそんなこともなくなって。子供って、楽しいこと何度も繰り返すでしょ。ずっと水遊びしてたな。懐かしい」 懐古に浸りながらも、笑むことも、寂しげに憂うこともなく、淡々とアランは話す。 「それで、さっきのね、夏の土砂降りの日、レト川が氾濫したの。私の住んでた、おばさん達の家は遠かったし高台になっていたから大丈夫だったけど、低い場所の周囲の建物はけっこう浸かっちゃって。そんな大変な日に、セルドが、こっそり外に出て行ったの。気になったんだって。いつのまにかいなくなってることに気付いて、なんだか直感したんだよね。きっと、外に行ってるって。川がどうなっているかを見に行ったんだって。そう思ったらいてもたってもいられなくて、急いで探しにいったんだ」 あれはちょっと怖かったな、と続ける。 「川の近くがどうなってるかなんて想像がつかなかったけど、すごい雨だったから、子供心でもある程度察しは付いてたんだと思う。近付きすぎたら大変なことになるかもしれないって。けっこう、必死で探したなあ。長靴の中まで水が入ってきて身体は重たかったけど、見つけるまでは帰れないって。結局、すごい勢いになったレト川の近くで、突っ立ってるセルドを見つけて、ようやく見つけて私も、怒るより安心して、急いで駆け寄ったら、あっちも気付いて、こうやって、二人とも近付いていって」アランは傘を肩と顎で挟み込むように引っかけ、アメモースを抱いたまま両手の人差し指を近付ける。「で、そこにあった大きな水溜まりに、二���して足をとられて、転んじゃったの」すてん、と指先が曲がる。 そこでふと、アランの口許が僅かに緩んだ。 「もともと随分濡れちゃったけど、いよいよ頭からどぶにでも突っ込んだみたいに、びしょびしょで、二人とも涙目になりながら、手を繋いで帰ったっていう、そういう話。おばさんたち、怒ったり笑ったり、忙しい日だった。……よく覚えてる。間近で見た、いつもと違う川。とても澄んでいたのに、土色に濁って、水嵩は何倍にもなって。土砂降りの音と、水流の音が混ざって、あれは怖かったけど、それでもどこかどきどきしてた。……この湖を見てると、色々思い出す。濁っているからかな。雨の勢いは違うのに。それとも、さっきの、あの子を見たせいかな」 偶然見かけた姿。水溜まりにはしゃいで、てらてらと光る小さな赤いレインコート。無邪気な男児を挟んで繋がれた手。曇りの無い家族という形。和やかな空気。灰色に包まれた町が彩られる中、とりわけ彩色豊かにアランの目の前に現れた。 彼女の足は暫く止まり、一つの家族をじっと見つめていた。 「……あの日も」 目を細め、呟く。 「酷い雨だった」 町を閉じ込める霧雨は絶えない。 傘を握り直し、返事を求めぬ話は途切れる。 雨に打たれる湖を見るのは、アランにとって初めてだった。よく晴れていれば遠い向こう岸の町並みや山の稜線まではっきり見えるのだが、今は白い靄に隠されてぼやけてしまっている。 青く、白く、そして黒々とした光景に、アランは身を乗り出し、波発つ水面を目に焼き付けた。 「あ」 アランは声をあげる。 見覚えのある姿が、湖上を��翔している。一匹ではない。十数匹の群衆である。あの朱い体毛と金色の翼は、ほんの小さくとも鮮烈なまでに湖上に軌跡を描く。引き連れる翼はまたそれぞれの動きをしているが、雨に負けることなく、整然とした隊列を組んでいた。 ザナトアがもう現地での訓練を開始したのだろうか。この雨の中で。 エーフィも、ブラッキーも、アメモースも、アランも、場所を変えても尚美しく逞しく飛び続ける群衆から目を離せなかった。 エーフィが甲高い声をあげた。彼女は群衆を呼んでいた。あるいは応援するように。アランはちらと牽制するような目線を送ったが、しかしすぐに戻した。 気付いたのか。 それまで直線に走っていたヒノヤコマが途中できったゆるやかなカーブを、誰もが慌てることなくなぞるように追いかける。雨水を吸い込んでいるであろう翼はその重みを感じさせず軽やかに羽ばたき、灰色の景色を横切る。そして、少しずつだが、その姿が大きくなってくる。アラン達のいる湖畔へ向かっているのだ。 誰もが固唾を呑んで彼等を見つめる。 正しく述べれば、彼等はアラン達のいる地点より離れた地点の岸までやってきて、留まることなく堤防沿いを飛翔した。やや高度を下げ、翼の動きは最小限に。それぞれで体格も羽ばたきも異なるし、縦に伸びる様は速度の違いを表した。先頭は当然のようにリーダー格であるヒノヤコマ、やや後方にピジョンが並び、スバメやマメパト、ポッポ等小さなポケモンが並び、間にハトーボーが挟まり中継、しんがりを務めるのはもう一匹の雄のピジョンである。全く異なる種族の成す群れの統率は簡単ではないだろうが、彼等は整然としたバランスで隊列を乱さず、まるで一匹の生き物のように飛ぶ。 彼等は明らかにアラン達に気付いているようだ。炎タイプを併せ持ち、天候条件としては弱ってもおかしくはないであろうヒノヤコマが、気合いの一声を上げ、つられて他のポケモン達も一斉に鳴いた。それはアラン達の頭上を飛んでいこうとする瞬きの出来事であった。それぞれの羽ばたきがアラン達の上空で強かにはためいた。アランは首を動かす。声が出てこなかった。彼等はただ見守る他無く、傘を下ろし、飛翔する生命の力強さに惹かれるように身体ごと姿を追った。声は近づき、そして、頭上の空を掠めていって、息を呑む間もなく、瞬く間に通り過ぎていった。共にぐるりと首を動かして、遠のいていく羽音がいつまでも鼓膜を震わせているように、じっと後ろ姿を目で追い続けた。 呆然としていたアランが、いつの間にか傘を離して開いていた掌を、空に向けてかざした。 「やんでる」 ぽつん、ぽつりと、余韻のような雨粒が時折肌を、町を、湖上をほんのかすかに叩いたけれど、そればかりで、空気が弛緩していき、湿った濃厚な雨の匂いのみが充満する。 僅かに騒いだ湖は、変わらず深く藍と墨色を広げているばかりだ。 栗色の瞳は、アメモースを一瞥する。彼の瞳は湖よりもずっと深く純粋な黒���持つが、輝きは秘めることを忘れ、じっと、鳥ポケモンたちの群衆を、その目にも解らなくなる最後まで凝視していた。 アランは、語りかけることなく、抱く腕に頭に埋めるように、彼を背中から包むように抱きしめた。アメモースは、覚束ない声をあげ、影になったアランを振り返ろうとする。長くなった前髪に顔は隠れているけれど、ただ、彼女はそうすることしかできないように、窺い知れない秘めたる心ごとまとめて、アメモースを抱く腕に力を込めた。
夕陽の沈む頃には完全に雨は止み、厚い雨雲は通り過ぎてちぎれていき、燃え上がるような壮大な黄昏が湖上を彩り、町民や観光客の境無く、多くの人間を感嘆させた。 綿雲の黒い影と、太陽の朱が強烈なコントラストを作り、その背後は鮮烈な黄金から夜の闇へ色を重ねる。夜が近付き生き生きと羽ばたくヤミカラス達が湖を横断する。 光が町を焼き尽くす、まさに夕焼けと称するに相応しい情景である。 雨がやんで、祭の前夜に賑わいを見せ始めた自然公園でアランは湖畔のベンチに腰掛けている。ちょうど座りながら夕陽の沈む一部始終を眺めていられる特等席だが、夕方になるよりずっと前から陣取っていたおかげで独占している。贅沢を噛みしめているようには見えない無感動な表情ではあったが、栗色の双眸もまた強烈な光をじっと反射させ、輝かせ、燃え上がっていた。奥にあるのは光が届かぬほどの深みだったとしても、それを隠すだけの輝かしい瞳であった。 数刻前、ザナトアと合流したが、老婆は今は離れた場所でヒノヤコマ達に囲まれ、なにやら話し込んでいるようだった。一匹一匹撫でながら、身体の具合を直接触って確認している。スカーフはとうにしまっていて、皮を剥いだ分だけ普段の姿に戻っていた。 アランの背後で東の空は薄い群青に染まりかけて、小さな一等星が瞬いている。それを見つけたフカマルはベンチの背もたれから後方へ身を乗り出し、ぎゃ、と指さし、隣に立つエーフィが声を上げ、アランの足下でずぶ濡れの芝生に横になるブラッキーは、無関心のように顔を埋めたまま動かなかった。 膝に乗せたアメモースの背中に、アランは話しかけた。 「祭が終わったら、ザナトアさんに飛行練習の相談をしてみようか」 なんでもないことのように呟くアランの肩は少し硬かったけれど、いつか訪れる瞬間であることは解っていただろう。 言葉を交わすことができずとも、生き物は時に雄弁なまでに意志を語る。目線で、声音で、身体で。 「……あのね」柔らかな声で語りかける。「私、好きだったんだ。アメモースの飛んでいく姿」 多くの言葉は不要だというように、静かに息をつく。 「きっと、また飛べるようになる」 アメモースは逡巡してから、そっと頷いた。 アランは、納得するように同じ動きをして、また前を向いた。 ザナトアはオボンと呼ばれる木の実をみじん切りにしたものを選手達に与えている。林の一角に生っている木の実で、特別手をかけているわけではないが、秋が深く���ってくるとたわわに実る。濃密なみずみずしさ故に過剰に食べると下痢を起こすこともありザナトアはたまにしか与えないが、疲労や体力の回復を促すのには最適なのだという。天然に実る薬の味は好評で、忙しなく啄む様子が微笑ましい。 アランは静寂に耳を澄ませるように瞼を閉じる。 何かが上手くいっている。 消失した存在が大きくて、噛み合わなかった歯車がゆっくりとだが修正されて、新しい歯車とも合わさって、世界は安らかに過ぎている。 そんな日々を彼女は夢見ていたはずだ。どこかのびのびと生きていける、傷を癒やせる場所を求めていたはずだった。アメモースは飛べないまま、失われたものはどうしても戻ってこないままで、ポッポの死は謎に埋もれているままだけれど、時間と新たな出会いと、深めていく関係性が喪失を着実に埋めていく。 次に瞳が顔を出した時には、夕陽は湖面に沈んでいた。 アランはザナトアに一声かけて、アメモースを抱いたまま、散歩に出かけることにした。 エーフィとブラッキーの、少なくともいずれかがアランの傍につくことが通例となっていて、今回はエーフィのみ立ち上がった。 静かな夜になろうとしていた。 広い自然公園の一部は明日の祭のため準備が進められている出店や人々の声で賑わっているが、離れていくと、ザナトアと同様明日のレースに向けて調整をしているトレーナーや、家族連れ、若いカップルなど、点々とその姿は見えるものの、雨上がりとあってさほど賑わいも無く、やがて誰も居ない場所まで歩を進めていた。遠い喧噪とはまるで無縁の世界だ。草原の騒ぐ音や、ざわめく湖面の水音、濡れた芝生を踏みしめる音だけが鳴る沈黙を全身で浴びる。 夏を過ぎてしまうと、黄昏時から夜へ転じるのは随分と早くなってしまう。ゆっくりと歩いている間に、足下すら満足に見られないほど辺りは暗闇に満ちていた。 おもむろに立ち止まり、アランは湖を前に、目を見開く。 「すごい」 湖に星が映って、ささやかなきらめきで埋め尽くされる。 あまりにも広々とした湖なので、視界を遮るものが殆ど無い。晴天だった。秋の星が、ちりばめられているというよりも敷き詰められている。夜空に煌めく一つ一つが、目を凝らせば息づいているように僅かに瞬いている。視界を全て埋め尽くす。流星の一つが過ったとしても何一つおかしくはない。宇宙に放り込まれたように浸り、ほんの少し言葉零すことすら躊躇われる時間が暫く続いた。 夜空に決して手は届かない。思い出と同じだ。過去には戻れない。決して届かない。誰の手も一切届かない絶対的な空間だからこそ、時に美しい。 ――エーフィの、声が、した。 まるで尋ねるような、小さな囁きに呼ばれたようにアランはエーフィに視線を移した、その瞬間、ひとつの水滴が、シルクのように短く滑らかな体毛を湿らせた。 ほろほろと、アランの瞳から涙が溢れてくる。 夜の闇に遮られているけれど、感情の機微を読み取るエーフィには、その涙はお見通しだろう。 闇に隠れたまま、アランは涙を流し続けた。凍りついた表情で。 それはまるで、氷が瞳から溶けていくように。 「……」 その涙に漸く気が付いたとでも言うように、アランは頬を伝う熱を指先でなぞった。白い指の腹で、雫が滲む。 彼女の口から温かな息が吐かれて、指が光る。 「私、今、考えてた、」 澄み渡った世界に浸る凍り付いたような静寂を、一つの悲鳴が叩き割った。それが彼女らの耳に届いてしまったのは、やはり静寂によるものだろう。 冷えた背筋で振り返る。 星光に僅かに照らされた草原をずっとまっすぐ歩いていた。聞き違いと流してもおかしくないだろうが、アランの耳はその僅かな違和を掴んでしまった。ただごとではないと直感する短い絶叫を。 涙を忘れ、彼女は走っていた。 緊迫した心臓は時間が経つほどに烈しく脈を刻む。内なる衝動をとても抑えきれない。 夜の散歩は彼女の想像よりも長い距離を稼いでいたようだが、その黒い視界にはあまりにも目立つ蹲る黄色い輪の輝きを捉えて、それが何かを察するまでには、時間を要しなかっただろう。 足を止め、凄まじい勢いで吹き出す汗が、急な走行によるものか緊張による冷や汗によるものか判別がつかない。恐らくはどちらもだった。絶句し、音を立てぬように近付いた。相手は元来慎重な性格であった。物音には誰よりも敏感だった。近付いてくる足音に気付かぬほど鈍い生き物ではない。だが、ここ最近様子が異なっていることは、彼女も知るところであった。 闇に同化する足がヤミカラスを地面に抑え付けている。野生なのか、周囲にトレーナーの姿は無い。僅かな光に照らされた先で、羽が必死に藻掻こうとしているが、完全に上を取られており、既に喉は裂かれており声は出ない。 鋭い歯はその身体に噛み付き、情など一切見せない様子で的確に抉っている。 光る輪が揺れる。 静かだが、激しい動きを的確に夜に印す。 途方に暮れる栗色の瞳はしかし揺るがない。焼き付けようとしているように光の動きを見つめた。夜に照るあの光。暗闇を暗闇としない、月の分身は、炎の代わりになって彼女の暗闇に寄り添い続けた。その光が、獣の動きで弱者を貪る。 硬直している主とは裏腹に、懐から電光石火で彼に跳び込む存在があった。彼と双璧を成す獣は鈍い音を立て相手を突き飛ばした。 息絶え絶えのヤミカラスは地に伏し、その傍にエーフィが駆け寄る。遅れて、向こう側から慌てた様子のフカマルが短い足で必死に走ってきた。 しかし、突き放されたブラッキーに電光石火一つでは多少のダメージを与える��とは叶っても、気絶させるほどの威力には到底及ばない。ゆっくりと身体をもたげ、低い唸り声を鳴らし、エーフィを睨み付ける。対するエーフィもヤミカラスから離れ、ブラッキーに相対する。厳しい睨み合いは、彼等に訪れたことのない緊迫を生んだ。二匹とも瞬時に距離を詰める技を会得している。間合いなどあってないようなものである。 二対の獣の間に走る緊張した罅が、明らかとなる�� 「やめて!」 懇願する叫びには、悲痛が込められていた。 ブラッキーの耳がぴくりと動く。真っ赤な視線が主に向いた時、怨念ともとれるような禍々しい眼光にアランは息を詰める。それは始まりの記憶とも、二度目の記憶とも重なるだろう。我を忘れ血走った獣の赤い眼。決して忘れるはずのない、彼女を縫い付ける殺戮の眼差し。 歯を食いしばり、ブラッキーは足先をアランに向ける。思わず彼女の足が後方へ下がったところを、すかさずエーフィが飛びかかった。 二度目の電光石火。が、同じ技を持ち素早さを高め、何より夜の化身であるブラッキーは、その動きを見切れぬほど鈍い生き物ではなかった。 闇夜にもそれとわかる漆黒の波動が彼を中心に波状に放射される。悪の波動。エーフィには効果的であり、いとも簡単に彼女を宙へ跳ね返し、高い悲鳴があがる。ブラッキーの放つ禍々しい様子に立ち尽くしたフカマルも、為す術無く攻撃を受け、地面を勢いよく転がっていった。間もなくその余波はアラン達にも襲いかかる。生身の人間であるアランがその技を見切り避けられるはずもなく、躊躇無くアメモースごと吹き飛ばした。その瞬間に弾けた、深くどす黒い衝撃。悲鳴をあげる間も無く、低い呻き声が零れた。 腕からアメモースは転がり落ち、地面に倒れ込む。アランは暫く起き上がることすら満足にできず、歪んだ顔で草原からブラッキーを見た。黒い草叢の隙間から窺える、一匹、無数に散らばる星空を背に孤高に立つ獣が、アランを見ている。 直後、彼は空に向かって吠えた。 ひりひりと風は絶叫に震撼する。 困惑に歪んだ彼等を置き去りにして、ブラッキーは走り出した。踵を返したと思えば、脱兎の如く湖から離れていく。 「ブラッキー! 待って!!」 アランが呼ぼうとも全く立ち止まる素振りを見せず、光の輪はやがて黒に塗りつぶされてしまった。 呆然と彼等は残された。 沈黙が永遠に続くかのように、誰もが絶句し状況を飲み込めずにいた。 騒ぎを感じ取ったのか、遅れてやってきたザナトアは、ばらばらに散らばって各々倒れ込んでいる光景に言葉を失う。 「何があったんだい!」 怒りとも混乱ともとれる勢いでザナトアは強い足取りで、まずは一番近くにいたフカマルのもとへ向かう。独特の鱗で覆われたフカマルだが、戦闘訓練を行っておらず非常に打たれ弱い。たった一度の悪の波動を受け、その場で気を失っていた。その短い手の先にある、光に照らされ既に息絶えた存在を認めた瞬間、息を詰めた。 「アラン!」 今度はアランの傍へやってくる。近くでアメモースは蠢き、アランは強力な一撃による痛みを堪えるように、ゆっくりと起き上がる。 「ブラッキーが」 攻撃が直接当たった腹部を抑えながら、辛うじて声が出る。勢いよく咳き込み、呼吸を落ち着かせると、もう一度口を開く。 「ブラッキー、��、ヤミカラスを……!」 「あんたのブラッキーが?」 アランは頷く。 「何故、そんなことが」 「私にも、それは」 アランは震える声を零しながら、首を振る。 勿論、野生な���ば弱肉強食は自然の掟だ。ブラッキーという種族とて例外ではない。しかし、彼は野生とは対極に、人に育てられ続けてきたポケモンである。無闇に周囲を攻撃するほど好戦的な性格でもない。あの時、彼は明らかに自我を失っているように見えた。 動揺しきったアランを前に、ザナトアはこれ以上の詮索は無意味だと悟った。それより重要なことがある。ブラッキーを連れ戻さなければならない。 「それで、ブラッキーはどこに行ったんだ」 「分かりません……さっき、向こう側へ走って行ってそのままどこかへ」 ザナトアは一度その場を離れ老眼をこらすが、ブラッキーの気配は全く無い。深い暗闇であるほどあの光の輪は引き立つ。しかしその片鱗すら見当たらない。 背後で、柵にぶつかる音がしてザナトアが振り向く。よろめくアランが息を切らし、柵に寄りかかる。 「追いかけなきゃ……!」 「落ち着きな。夜はブラッキーの独壇場だよ。これほど澄んだ夜で血が騒いだのかもしれない。そうなれば、簡単にはいかない」 「でも、止めないと! もっと被害が出るかもしれない!」 「アラン」 「ザナトアさん」 いつになく動揺したアランは、俯いてザナトアを見られないようだった。 「ポッポを殺したのも、多分」 続けようとしたが、その先を断言するのには躊躇いを見せた。 抉られた首には、誰もが既視感を抱くだろう。あの日の夜、部屋にはいつもより風が吹き込んでいた。万が一にもと黒の団である可能性も彼女は考慮していたが、より近しい、信頼している存在まで疑念が至らなかった。誰も状況を理解できていないだろう。時に激情が垣間見えるが、基は冷静なブラッキーのことである。今までこのような暴走は一度として無かった。しかし、ブラッキーは、明らかに様子が異なっていた。アランはずっと気付いていた。気付いていたが、解らなかった。 闇夜に塗り潰されて判別がつかないが、彼女の顔は蒼白になっていることだろう。一刻も早く、と急く言葉とは裏腹に、足は僅かに震え、竦んでいるようだった。 「今はそんなことを言ってる場合じゃない。しゃんとしな!」 アランははっと顔を上げ、険しい老婆の視線に射止められる。 「動揺するなという方が無理だろうが、トレーナーの揺らぎはポケモンに伝わる」 いいかい、ザナトアは顔を近付ける。 「いくら素早いといえど、そう遠くは行けないだろう。悔しいがあたしはそう身軽には動けない。この付近でフカマルとアメモースと待っていよう。もしかしたら戻ってくるかもしれない。それに人がいるところなら、噂が流れてくるかもしれないからね。ここらを聞いて回ろう。あんたは市内をエーフィと探しな。……場所が悪いね。あっちだったら、ヨルノズク達がいるんだが……仕方が無いさね」 大丈夫、とザナトアはアランの両腕を握る。 「必ず見つけられる。見つけて、ボールに戻すことだけを考えるんだ。何故こうなったかは、一度置け」 老いを感じさせない強力な眼力を、アランは真正面から受け止めた。 「行けるね?」 問われ、アランはまだ隠せない困惑を振り払うように唇を引き締め、黙って頷いた。 ザナトアは力強くアランの身体を叩き、激励する。 捜索は夜通し続いた。 しかしブラッキーは一向に姿を見せず、光の影を誰も見つけることはできなかった。喉が嗄れても尚ブラッキーを呼び続けたアランだったが、努力は虚しく空を切る。エーフィも懸命に鋭敏な感覚を研ぎ澄ませ縦横無尽に町を駆け回り、ザナトアも出来る限り情報収集に励んだが、足取りを掴むには困難を極めた。 殆ど眠れぬ夜を過ごし、朝日が一帯を照らす。穏やかな水面が小さなきらめきを放つ。晴天の吉日と水神が指定したこの日は、まるで誰かに仕組まれていたように雲一つ無い朝から始まる。 キリが沸き立つ、秋を彩る祭の一日が幕を開けた。 < index >
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秋の雲 はてなき瑠璃の 天をゆく ( #山口誓子の句 ) #横浜 #yokohama (象の鼻防波堤) https://www.instagram.com/p/B2k4iRJn3P3/?igshid=b1mryoe2whvp
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Harbor Waterfront & Wharf
Location: Zou-no-Hana Breakwater, Port of Yokohama, Japan Timestamp: 18:59 March 15, 2023
Zou-no-Hana Breakwater marks the original location of Japan's first modern international trading port, the Port of Yokohama, established in 1859. The breakwater extends about 160 meters into the bay and provides visitors with a picturesque view of illuminated artwork in the Zou-no-Hana wharf (center).
Additionally, two historically significant buildings are also lit up, namely the Yokohama Customs building (right), also known as Queen's Tower, built in 1934, and the Kanagawa Prefectural Government's Office (left), also known as King's Tower, constructed in 1928. The third tower, Yokohama Port Opening Memorial Hall, named Jack's Tower, erected in 1917, is presently undergoing renovations and is not visible.
Once serving as lighthouses, these three towers hold a special place in the hearts of sailors, who considered them as guardians of their safe voyage to Japan. According to urban legend, sailors felt relieved upon sighting these towers, and over time, they started to regard them as symbols of protection during their journey to Japan.
Fujifilm X100V (23 mm) with 5% diffusion filter ISO 160 for 18.0 sec. at ƒ/10 Classic Negative film simulation
#夜景写真#ストリートスナップ#横浜#象の鼻防波堤#横浜三塔#pix4japan#Fujifilm X100V#street photography#Japan#Yokohama#Zou-no-Hana Breakwater#King Tower#Queen Tower#Yokohama Three Towers
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. . 象の鼻パークからの🎄 . . 海風がなかなか冷たい😷 . . OLYMPUS OM-D E-M1m2 M.ZUIKO ED 12-40mm F2.8 PRO . 🌐Location.Kanagawa,Japan . . . . #japan_night_view #world_bestnight #ADDICTED_TO_NIGHTS #ptk_night #noitenoinstagram #gf_afterdark #IG_PHOS #IGersJP #東京カメラ部 #lovers_Nippon #loves_nippon #bestjapanpics #globalfotografia #ig_today #pixnpieces #ig_world_colors #Colors_of_day #ig_photostars #igscglobal #MoodyGrams #kf_gallery #team_jp_ #daily_photo_jpn #photo_travelers #jp_gallery #kanagawaphotoclub #myyokohama #みなとみらい線フォト散歩 #クリスマスツリー #赤レンガ倉庫 (象の鼻防波堤) https://www.instagram.com/p/BrkMA3MlZq3/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=bvzdrg6cwr2x
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横浜象の鼻の波止場です。 #象の鼻パーク #波止場 (象の鼻防波堤) https://www.instagram.com/p/Bq5B9cInwpn/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=p23r32w5gvnz
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光のローズガーデン✨✨🌹 光のローズのディテールを崩さないように、 つまり白飛びさせないように撮影するの難しい🤣 バラを良い配置で入れつつ、みなとみらいの夜景の配置も良い場所を探すのも難しい🤣 みなとみらいの解像感など納得できてないけど、 そろそろヨルノヨも始まるから一旦投稿しよう。 🗓撮影日: 2022年11月 📍ロケーション: 象の鼻防波堤付近 🔗photo by: @i_love_photos.jun 👈 ----------------------------------------------- #横浜夜景 #みなとみらい夜景 #紅葉 #赤レンガ倉庫 #写真好きな #みなとみらい線フォト散歩 #かがやきフォトかながわ #ほふく撮影隊 #myyokohama #kanagawaphotoclub #baywalk_osanbashi #tokyocameraclub #nightscape_tokyo #j_world_jp #total_nightjapan #addicted_to_nights #shotfederal #raw_nightshots #nightscape_tokyo #great_nightshotz #great_colorshotz #great_myshotz #fever_photonight #best_moments_night (横浜港大さん橋国際客船ターミナル) https://www.instagram.com/p/Ck4utorvlIx/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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ヨコハマ 象の鼻防波堤 ILCE-7RM3 FE 24-70mm F2.8 GM #a7riii #2470gm #sony #alpha #otonatabi_japan #lovers_nippon #japan_of_insta #retrip_nippon #japantravelphoto #japan_great_view #minatomirai #yokohama #japan #art_of_japan_ #yokohamacameraclub #kanagawaphotoclub #横浜カメラ部 #カメラ好きな人と繋がりたい #写真好きな人と繋がりたい #写真撮ってる人と繋がりたい #写真を撮るのが好きな人と繋がりたい #ファインダー越しの私の世界 #横浜 #みなとみらい #みなとみらい線沿線love #みなとみらい線フォト散歩 #myyokohama #象の鼻パーク #sorakataphoto (横浜水上警察署) https://www.instagram.com/p/B92SNvkpDkW/?igshid=18c3x1aldwvmv
#a7riii#2470gm#sony#alpha#otonatabi_japan#lovers_nippon#japan_of_insta#retrip_nippon#japantravelphoto#japan_great_view#minatomirai#yokohama#japan#art_of_japan_#yokohamacameraclub#kanagawaphotoclub#横浜カメラ部#カメラ好きな人と繋がりたい#写真好きな人と繋がりたい#写真撮ってる人と繋がりたい#写真を撮るのが好きな人と繋がりたい#ファインダー越しの私の世界#横浜#みなとみらい#みなとみらい線沿線love#みなとみらい線フォト散歩#myyokohama#象の鼻パーク#sorakataphoto
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