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【黒バス】TEN DANCER has NOTHING -1-
2014/10/13Pixiv投稿作再録
「私たち俳優は残酷な職業である。その仕事に一生を捧げた以上、残酷さもいよいよ鋭いものになる。 残酷さと生きること、それはまったく一つのものだ」 ジャン=ルイ・バロー
この熱を知らないで、どうやって生きていけるのだろう *** 観客のざわめきが、ブザーの音と共に引潮のように静まり返っていく。隣に座る家族や恋人と、小声で会話をしていただけの観客は、そこでようやくこの無数のざわめきがどれほど大きな存在だったのかに気がつくのだ。そうして、目の前にある舞台の発する、深い沈黙に身を任せる。静まり返った沈黙の底では、ホールの中をゆっくりと渦巻く、空気の音まで聞こえるようだ。 無意識の緊張は時間を引き伸ばす。たった���秒の間に、観客は形の無い期待を、人一人が抱え込むには大きすぎるほどに膨らませる。人の欲に際限が無いように、形の無い期待に上限は無い。その浅ましさを喜んでこそ一流のスターだと、かつて一世を風靡した役者は語った。 姿の無い期待を形にしろ。色も形も具体的なヴィジョンもない子供のように我侭な夢を、目の前で全て見せるのだ。 落とされた照明が作る暗闇の中で、オーケストラの指揮者が静かに腕を振り上げる。指揮者の燕尾服は、必ず暗闇の色をしている。ミッドナイトブルーと呼ばれるそれは、夜の礼服の中で最も格調高い。銀の指揮棒が、どこにも無い筈の光を反射して、一瞬ちかり、と光る。 そうして全てを断ち切るようにその光が振り下ろされる瞬間。臙脂色の緞帳が重く空気を震わせながら巻き上がり、ありったけの照明が舞台を照らす、その、瞬間。 その瞬間に瞳を閉じる。 世界が変わる瞬間に、ふっと取り残される感覚。緑間真太郎が舞台に立つ度に必ず行う、彼だけが知る、彼だけのジンクス。 瞳を開けた時には、世界はもう変わっている。色とりどりの眩しい光。大掛かりな舞台装置から飛び降りる人。鮮やかなドレス。一糸乱れぬ、コーラスライン。 * 「……ミュージカル?」 「ストレートプレイだけではいずれ限界が来ます。映像に行くというなら話は別ですけれど」 「断固断る。フィルムなんてものに魂を吸われるのは御免だ」 「緑間くんはいつもそう言いますね」 稽古場に着いた緑間に、支配人が渡したのはシンプルな楽譜サイズの手紙だった。並んだ文字はインクリボンの滲みもなく、文末にはサインと見慣れたホットスタンプ。見間違うこともない、正式な、次の舞台の契約書。記してある演目名に馴染みはなく、この劇場の新作であることは間違いがなかった。 緑間は劇場と契約を結ぶ訳でもなく、更に言えばどの劇団にも流派にも所属をしない、完璧に独立した珍しいタイプの役者である。何処にも所属しないということは、いつ仕事が無くなってもおかしくないということだ。自由の代償は責任ではなく飢え死にである。自由に好きなことを出来るのは、選ばれたひと握りの人間だけだ。緑間も、そんな人間の一人であった。 それでも長年この仕事を続けていれば��馴染みの劇場も、監督も出来てくる。自由であることは、人間関係からの開放を意味はしない。ここの支配人もその一人で、緑間が名前の売れる前、初めて名前の付いた役を与えられたのはここの舞台だった。パンフレットに自分の名前が書かれたのも、ここが初めてである。となれば自然、縁起を担ぐ緑間にとっては重要な場所になる。名優として引く手あまたとなった今でも、この劇場での誘いを断ることはあまりなかった。 「黒子、俺は舞台を極める前に他の地へ行くつもりはないのだよ」 「だとすると、やはりミュージカルを捨てる訳にはいきません。君の信念を否定するつもりはありませんが、時代は間違いなくショービジネスに流れています」 「判っているし、悪いことでもない」 「緑間くんは運動神経も良いし音楽素養もある。ある程度ならすぐに」 「ある程度?」 緑間は、この支配人からの誘いを断ることは、あまりない。あまりない、という言葉は、すなわち『それなりにある』という言葉の裏返しだ。そのことを、この劇場の支配人、黒子テツヤはよく知っていた。よく知っていたから、自分が言葉を間違えたことに気がついた。無表情の下で、誰にも判らない諦めを彼は浮かべる。これは駄目だ、引き受けはしないだろう。頭の中で、この役を引き受けてくれるであろう他の人物を探し始める。何事も見切りと諦めが肝心だということを彼はよく知っていた。 「ある程度、で妥協するつもりはない」 断るのだよ、と突き返された新しい舞台への招待状を、黒子は動揺することなく受け取った。そもそもが駄目元というのもおかしな話だが、適任は他にもいる。黒子がいの一番に緑間に声をかけたのは、実力は勿論だが、頑なにストレートプレイ以外を演じようとしない緑間を、他の舞台へと誘うためだったのだから。 時代は流れている。確実に、着実に、恐ろしい程のスピードで。 映像演劇が世界に広まってから、舞台へと足を運ぶ人間は目に見えて減った。更に言えば最近の世間のお気に入りは、���と踊りが咲き乱れる華やかなミュージカルだ。派手であればあるほど、華美であればあるほど好まれる。 悪いことではない、と緑間は言った。その通りだと黒子も思う。悪いことではない、むしろ喜ばしいほどだ。華やかな舞台は必要となる人員も多く、ただでさえ狭い役者の枠を少しでも広げてくれる。キャッチーさはそのまま知名度へと繋がり、次の舞台へも繋がりやすい。 それを理解しながらも、頑なにそれを拒絶する緑間を黒子は歯がゆく思う。黒子の元へ届く脚本も、殆どはもうミュージカルだ。このまま、時代の流れと共に消えるには、緑間真太郎という才能はとても惜しいものだった。それは、黒子には、どうしても許せないことだったのだ。 一週間後に黒子が持ってきたのは新作には違いないもののストレートプレイの脚本で、緑間はそれを承諾した。夢を追い求める老若男女の群像劇。黒子がわざとその脚本を緑間に寄越したことは間違いがなかった。何せ、最来月から上演予定のハムレットは緑間の好む古典舞台で、緑間にその声はかからなかったのだから。そうして渡された脚本の中、役の中にダンサーがあることに緑間は気がついたが、それは断る理由にはならなかった。 * 顔合わせの日に集まったメンバーの殆どは緑間の知る人物だった。ストレートに特化した人間は少ないが、そうでなければ緑間とバランスが取れない。必然、メンバーは限られてくる。香盤表を眺めた時、知らない名前はひとつしか無く、見知らぬ顔も一人きりとなれば、それが今回の『ダンサー』であることは容易に推測できた。 「……緑間真太郎だ。よろしく」 自ら挨拶に行くのは緑間のやり方だった。自分の無愛想を理解しているからこそ、始めの挨拶を自ら行うだけでその後がずっとスムーズになることを彼は知っていた。端役だろうが主役だろうが、年次が上だろうが下だろうが、必ず緑間は自分から挨拶に行く。その反応を見れば、それなりに相手の人となりも判るから、というのも理由の一つだった。 大抵の人間は、笑顔で挨拶を返すか、緊張した面持ちで背筋を伸ばす。稀に、あからさまな敵意をぶつけてくる相手もいるが、腐っても役者だ、取り繕うのはうまい。緑間の想定はせいぜいその程度だった。 「……すげえ、10点」 だから、自分の顔を見られた瞬間に、ぽかんと呆けられるというのは、彼にとって全くの、想像の範疇外だったのだ。 緑間が差し出した手は握り返されることなく行き場を失っている。緑間自身ですら手を差し出したことを忘れて固まった。奇妙な空白が二人を取り巻いて、先に我に返ったのは相手の男だった。差し出されっぱなしの手に気がついたのか、慌てて握り返した手は握手にしては力が強すぎた。節くれだっている指は肉刺でぼこぼこと掠れた感触がする。体温が高い男だ、と緑間は思った。それもまた、後から思えは酷く間の抜けた感想だった。しかし確かに緑間は動揺していたのだ。目の前の男の、鋭い目つきの奥に揺らめく執念じみた炎に。 「なあ、なあ、緑間サン、緑間サン、今日この後予定とかあったりすんのかな」 「……なんだと?」 「あー、ああ、この仕事引き受けて良かった。マジで。俺無神論じゃだけどこれは本当に、神様に感謝って感じだ」 「何の話をしている」 「感動してんだよ。色んな奴と仕事してきたけど、はじめて見た。10点」 「だから、その点数は何の話だ」 「顔の話」 体温の高い男だ、と緑間は思った。何せ握られた左手が燃えるように熱い。いいや、それほどまでに強い力で握られているということなのだろう。緑間の顔を見た瞬間から、その瞳はグサリと音を��てて突き刺さりそうな程に鋭く、離れない。初対面からして、失礼な男だった。人の挨拶を無視して顔を凝視し、あまつさえ点数さえ付ける。誰に聞いても失礼な男だと答えるだろう。ただ何故かこの時の緑間はその考えに至らなかった。ただ、熱い、とそれだけを思った。 「俺は高尾和成、お会い出来て本当に嬉しいぜ」 * 一種異様な出会い方となった二人だったが、その直後に入ってきた監督によってその空気は壊された。失礼な態度を取られたとようやく気がついた緑間も、今更怒りを露わにするには遅すぎた。そうして高尾と名乗る男の方も、先程までの鋭さをどこへ消したのか、笑顔で他の役者との会話を楽しんでいる。漏れる笑い声は高らかで、随分と軽薄な男だと緑間は認識を新たにした。何せあちらと話していたかと思えば次はそちら、かと思えば大ベテランの老優とまで会話をしている。 「あれ、帰んの緑間サン?」 「……だったらどうした」 「や、さっき聞いたじゃん、予定ありますかって」 「何故お前にそんなことをいちいち言わなくてはならないのだよ」 「夕飯ご一緒しませんかって誘いたいから」 「断る」 「てことは暇なのね」 緑間が顔をしかめている間に、高尾は魔法のように会話を切り上げ、素早く荷物をまとめ、他の役者への挨拶を終えて緑間の横に並んだ。そのあまりの手際の良さに反論する気も無くして緑間は溜息をつく。予定が無いのも確かならば、自炊が出来ない緑間はどうせどこかで夕飯を食べなくてはいけないのも確かだった。どうせこれから二ヶ月間は、嫌でもほぼ毎日顔を合わせる相手である。瞬間の面倒くささと長期的な面倒くささを天秤にかけて、緑間は渋々頷いた。艶やかな黒髪が機嫌良さそうに揺れているのを見て、「お前の奢りだぞ」と告げれば途端に慌て出す。くるくると大げさなほどによく変わる表情は、酒の肴にはうるさすぎる。 「店は俺が決めていい?」 「構わんが、何故」 「いや、緑間サンに連れてかれたら高級レストランとかになりそ」 「そんなことも無いが」 「少なくとも俺が奢れなさそうだわ」 「なんだ、気にしたのか」 「え? 冗談だったの?」 「いいや、全く」 何ソレ、と笑う高尾と並んで、裏口から外に出る。劇場の裏は細い路地裏で、巨大なダストボックスが無造作に並んでいる。劇場の裏は、まるでそうでなくてはいけないと決まりきっているかのように、必ず薄汚れて寂しい小道だ。様々な劇場を渡ってきた緑間だが、それだけはどの舞台でも共通していた。どれだけ華やかに入口が飾られていても、どれだけ美しい照明に照らされていても、その裏側は必ず少し腐ったような匂いがする。 それは緑間にとって当たり前のことで、恐らく高尾にとってもそうだったのだろう。ちょっと寒いな、と身を縮めて笑う姿は、暗い煉瓦道によく映えた。 「安くても美味いとこ知ってるから、今日はそこで良いっしょ?」 「美味くなかったら帰るからな」 「だいじょーぶ、残されても俺が食べるから」 「おい、俺が帰ることを前提にするな」 「冗談だって」 * 連れて行かれたのは劇場からほど近い、けれど少し入り組んだ路地に面したバールだった。確かに緑間一人で入ろうとは思わない類の店だったが、立ち食いのカウンター席はそれなりに賑わっており、漂う油と香辛料の匂いも胃を刺激こそすれど不快ではない。マスターに挨拶をする高尾は慣れた調子で奥の方、狭い座席へと向かう。オークで出来た木の机は長年磨かれたために歪んで光っていた。 「何か食べたい物ある?」 「特には」 「あー、じゃあピンチョスとサルモレッホ、アヒージョは……マッシュルーム平気?」 「問題ない」 「じゃ、それにしよ。メインはアロスアバンダでいいかな」 飲み物はワイン?と尋ねられて緑間は首を横に振る。翌日に仕事がある状態で酒を入れる趣味は無かった。そもそも、酔うこと自体に興味が無い、どちらかといえば嫌悪感を抱くタイプですらある。数度瞬きした高尾は、そっか、と頷いた後にペリエを二つ注文した。付き合う必要は無いという意味で緑間は顔をしかめたが、高尾はへらりと笑い返すだけだった。程なくして運ばれてきた瓶の炭酸水は何の味もない。それを楽しそうにグラスに注ぎなおすと、乾杯、と高尾は掲げた。 「ど? うまいっしょ?」 「悪くはない」 「段々緑間サンのこと判ってきたわ、それ褒め言葉ね」 「会って初日で判るも何も無いだろう」 ピンチョスに刺さった串を抜きながら、自分で自分の発言に我に返ったのか緑間はじとりと目の前の男を睨みつけた。楽しそうに目を細めて食事をする男はわざとらしく首をかしげる。 「お前、初日から馴れ馴れしすぎやしないか」 「え、今更?」 「歳はいくつなんだ」 緑間のその発言は間違いなく相手が歳下だろうと思ってのそれだったが、高尾の口から飛び出た数字は紛れもなく緑間と同じだった。そもそも緑間は年齢で人の実力を判断することに対して馬鹿馬鹿しいと感じているし、年次だけを嵩に威張り倒す者をうんざりと思う人間である。しかし少なくとも礼儀を促そうと思っての質問が予想もしない返答を受けて彼は驚いた。まさか同い年とは思ってもいなかったのだ。 「や、それに関しちゃ緑間サンが老けてるんじゃねえの」 「黙れ」 「ちなみに芸歴っつーのかな、それもほぼ一緒だと思うぜ。役者とダンサーだからそんな比べられるようなモンでもないと思うけど」 「お前、やっぱり、役者ではないのか」 「ダンサーだね」 判りきっていたことではあったが、かと言って断言することも出来なかった。台本に高尾の演じるダンサーの台詞はほぼ無く���ほとんどがダンスシーンで占められている。けれど、あくまでもこれは『役』なのだ。役を演じるからには、普通役者が配置されるのが常である。ダンサーはダンサー、役者は役者。その線引きは思いのほか深い。 「ストレートで俺の知らない役者はほぼいないから、まあ、そうだろうとは思ったが」 「うーん、ダンサーの方じゃ結構名前知られてんだけどね、俺も」 「ダンスは全くわからん」 「だろうよ」 緑間の言葉に傷ついた様子もなく高尾は運ばれてきたサルモレッホを掬う。トマトとニンニク、フランスパン、それにオリーブオイルを全て一緒くたにミキサーにかけて作られる冷静スープは豪快でシンプルだ。付け合せの生ハムも一緒にスプーンに乗せて高尾は行儀悪く笑った。お前が知らないことくらい俺はとっくに知ってたよ。そんな底意地の悪いにやつきに緑間は自分でも判らない苛立ちを覚える。 「何が専門なんだ?」 「へ?」 それが緑間に、普段はしないような質問をさせたのかもしれなかった。彼は基本的に他人に一切の興味が無い男である。排他的で、独尊的だ。他人に干渉をしないし干渉されることを厭う。接触したくないしされたくない。もしもここに黒子がいたら、「君が他人に興味を持つなんて、今日は照明が落下するかもしれませんね」と笑っただろう。そう揶揄されるほど、緑間は自ら他人に働きかけることをしない男だった。余程気に入った相手でもない限り。 「ダンスといっても種類があるのだろう。バレエだとか、舞踊だとか、俺はよく判らんが」 「専門って言われてもなあ。色々だよ。色々」 「そんな姿勢で人事を尽くせるのか?」 届いたアヒージョは鉄板の上でまだ存分に油を跳ねさせていた。食べれば?とでも言うようにフォークでそれを指す高尾を無視して緑間は言葉を続ける。 「一つの物を極めるためには、他の物を捨てねばならないだろう。極めるというのは、そういうことだ。全てをそれに捧げるということだ。あれもこれもと手を出して目的を達成できないのでは本末転倒にも程があるのだよ」 「……だからお前はストレートプレイにしか出ない訳?」 「自分の糧になると思えば他のこともする。水泳の選手だって体力をつけるためにランニングをするだろう。だがそれでマラソン選手になろうとは思わないはずだ」 「なるほど?」 「お前もその道でそれなりに知られていると自ら言うのならば、専門としている物があるのだと思ったのだが、違ったか」 「うーん、そーねぇ」 目を閉じ、眉をしかめて唸る高尾の顔に潜む感情を緑間は読み取れなかった。困惑にも見えたし、悲しみにも見えたし、怒りにも見えた。ただその全てを、まるで無かったかのように消化して、高尾が最後に口元に浮かべたのは軽薄な微笑みだった。 「ま、色々、かな」 「……適当な男だな」 あまりにも軽く返された答えに毒気を抜かれて、緑間は少し冷めかけたアヒージョにフォークを刺す。彼からしてみればかなり真剣に話をしていたのだが、どうも躱された感が否めない。緑間への返答に迷った高尾の中には、確かに何らかの信念があった。信念という言葉でおかしければ、反発と言い換えてもいい。あの時、高尾は緑間の言葉に対して反発していた。緑間の何かが、高尾の琴線に触れた。そうしてそれを飲み込んだのだ。何故飲み込んだのかは、彼には全く判らない。 もしも高尾の目を見れていたら、と緑間は思う。高尾和成という男はどうやらかなり感情をコントロールして、口八丁でその場その場を流す術に長けているようだが、その分その目は一切の誤魔化しが無い。その目の前ではこちらが誤魔化せないのと同様に、高尾の感情も全て現れる。それほどまでに鋭利で一直線に鋭い目。 「安心してよ。引き受けたからには手抜きするつもりもないし」 「当たり前だ」 「だから色々教えてね、しーんちゃん」 「は?」 一体全体この高尾という男は何を考えているのだろう。そう訝しむ緑間のその疑念は、聞きなれない愛称に全て吹き飛んだ。この店に、他に高尾の知り合いがいる���かと一瞬現実逃避をするも、高尾の視界に映っているのは緑間ただ一人である。鋭い視線はにやにやと楽しそうに弧を描いて、自分の発言が緑間にもたらした効果を楽しんでいるようだった。ざわざわと、周囲の酔っぱらいたちの喧騒が急に緑間の耳につく。注文を取る声と、大声で酒をねだる客と、陽気なマンドリンのレコード。目の前の男の楽しそうな声。 「ほら、俺、役者としては新米みたいなモンだし?真ちゃんに色々教えてもらいたいなーって」 「教えることなど何もない。それよりもその変な呼び名はなんだ」 「同い年だし」 「何歳だろうが呼ばれるのは御免だ!」 「いいじゃんいいじゃん。これもご縁だって、仲良くしようぜ」 ふざけるな、と机を叩こうとした瞬間に、運ばれてきたアロスアバンダの大皿が机を揺らした。二人前とは思えないライスの量に緑間は怯む。そもそもが食の細い彼は、その恵まれた体格とは裏腹にあまり食事をしない。鼻歌を歌いながら均等に二等分しようとする高尾に、三分の一でいい、と告げた緑間の頭は様々な混乱でずきずきと傷んでいた。酒は一口も飲んでいないはずなのに。 * 結局三分の一も食べきることが出来なかった緑間は、「真ちゃん全然食わねえのな!」「真ちゃんそんな食べないで大丈夫?」「真ちゃんよくそんなんでその身長まで伸びたよな、羨ましい」「真ちゃんでも身長の割に薄くねえ?体が資本だろ?」と高尾に延々と話しかけられた。最初はその一つに一つに「そのふざけた呼び名をやめろ」と返していた彼も、途中で遂に折れる位には、高尾の真ちゃん攻撃は凄まじかったのだ。 それぞれのアパルトマンへ帰る二人の足取りは、満たされた胃袋のせいかゆっくりと靴音を立てる。 「あー、本当に、引き受けて良かった、マジで」 しみじみと高尾が告げたのは、帰り道も半ばを過ぎた頃だった。 「オーディ��ョンではなく、オファーできたのか」 「言ったっしょ?ダンサーとしてはそれなりに名前通ってんだよ。まあ、俺は役者じゃなくてダンサーだから、『ダンサー役』は引き受けねえんだけどな。基本的には」 表現するものが全然ちげえんだよなあ。そう笑う高尾は根っからのダンサーなのだろう。そうしてその高尾の意見は緑間と同じだ。役者には役者の、ダンサーにはダンサーの領分がある。それぞれの、専門がある。一流と呼ばれる人間は、なおさら。 「ならば、何故引き受けたのだよ」 「ん? そりゃ、お前がいたから」 「……初対面の筈だが」 「そーね。しかも全然映像に出ようとしないし。マジで舞台以外の仕事一切引き受けないってどんだけ我が儘よ。びっくりだわ。取材とかもほぼ断ってるっしょ」 何故そこまで知っている、と尋ねようとして、緑間は思い出した。緑間が何を話すでもなく、高尾は知っていたのだ。緑間がストレートプレイしか出ようとしないことを。 「いやあ、ポスターで見たっきり、どんだけ頑張ってもチケットは取れない、取れてもようやくスタンディングで、真ちゃんの顔見れなくてもー欲求不満だったわ」 「何故お前にそんなことを言われなくてはいけない」 「10点かどうかは、やっぱ直接見なきゃわかんねえから」 緑間は思い出した。ようやく、ことここに至り、帰り道も今や別れの小路にまできて、ようやく。緑間が出会い頭に高尾に告げられた「10点」の言葉、そもそもはそれが始まりだったのだということ。思い出すにはあまりにも遅すぎたが、緑間は元来他人に興味が無い人間だ。そしてそれ以上に、自分がどう思われるのかに興味が無い人間だった。それでも、にこやかに告げられた次の言葉に彼は言葉を失った。 「俺の顔が10点とはどういう意味だ」 「ん? そのまんま」 「何がそのままなのだよ」 「顔の点数」 「10点満点、俺の人生で最高点だよ、真ちゃん」
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麻央は、配達された封筒は、父からだった。中には一冊のよれた大学ノートと、便せんが一枚床へ落ちた。色あせた表紙には「創作ノート」と黒マジックで走り書きされていて、開くと、 きもちはいく重にもち切れるとおく張りつめた空から時雨が流れるのは見えて と記されている。麻央はページをめくった。 俺の知らない人が死ぬ。 俺に無断で死ぬ。 俺に無関心なまま死ぬ。 俺の方も見ずに死ぬ。 俺にあの親しい視線を投げかけてくれない。 君は死ぬのに、 君は死ぬのに俺がれんびんをはねつける。 君は死ぬのに俺からは何も受け取らない。 君は死ぬのに俺に助けを求めず命乞いをしないのはなぜだ。 知らない人が知らない所で死ぬ。 知らない人人の間で死ぬ。 俺はそれを知っているのに。 君は知らないふりをする。 君は肉片になったって構わないというような表情で俺を見る。 と書かれていた。麻央はページをめくった。めくってもめくっても白紙で、おしまいのページまで何も書かれてい��かった。麻央は便せんを拾った。大ぶりな角ばった字が書かれていた。 必要なものと思われたため、送ります。 祝裡 麻央は便せんをノートのはじめのページに挟むと、机に置いた。湯をわかして、インスタントコーヒーをいれた。椅子に座って、カップを机に置いた。コーヒーが一口、口の中を通って食道から胃へと流れ込むのを、体の、麻央は少し温まったらしくて、彼女は気にしていないがコーヒーに映る蛍光灯が流動とその波紋とでやや歪んで、すこし時間がかかる。彼女がカップを置くとわずかにふるえて、やがて凪いだ湖のようになるまで。麻央はカップを机に置いた。コーヒーの表面に、細かいちりのようなほこりが二つ浮かんでいるのが見えて、焦点がぼやけて、ノートを見た。さっきから吹いていた風が部屋の、麻央のアパートの周囲を取り囲んでいて、そのときようやく麻央は、雨が降っていることを知った。雨上がりのカエルの鳴き声かと思ったら祖母だった。祖母は肝臓が悪いので眠れない夜などは時々こうして身体を掻きむしることがあった。啓蟄を過ぎて春の低気圧は本州一帯にどしゃ降りの雨を降らせて、朝から降り始めた雨は真夜中の今になっても止む気配が無く朝方まで降り続く見込みだった。 薄く淹れたインスタントコーヒーを飲みながら私は机に向かいノートを見つめていた。祖母は自分ではトイレに起きられないので少なくとも三時間に一度はこちらでオムツを換えてあげなければならない。彼女の身体はどこでも痒いようで私がオムツを換えようと手を伸ばすと振り払うように至る所を掻く。ついには私の腕すらも掻きむしり始めて私はなんだか、そうしているときは虫が這いまわっているような気持ちがいつもするのだった。加減することを知らない祖母は目いっぱいの力で掻くので私は週一度は爪を切ってあげる。皮膚を傷つけないように、深爪になるギリギリまで爪を切りつめてあげる。別にそんな事で感謝する祖母ではないが私が甘いコーヒーを淹れて差し出すと夕方の良く目が覚めている時なんかは「ほうほう」とニコニコしながらそれを受け取っては少しずつ飲んでくれるのがかわいいんだよね。 アッアッアッ アッアッアッ 替えの尿取りパットを広げて、布団を剥ぐ。猫のように丸まっているのが私の祖母だ。ズボンを下ろして、オムツを開く。よしよし、三回分くらいかな。入れてあった尿取りパットは温かく湿って膨らんでいて鼻を突く臭気が湿っぽい部屋の中に少し漂う。換えている最中でもオシッコは出て来るから手早く新しいパットを差し込んで、オムツを閉じた。ズボンを上げた。祖母は「あんあんあん」と手で私の腕を彼女の腹やふとももを掻きむしろうとしてくる。やんわりとそれを払いのけて布団を掛けなおしてあげると祖母は静かになった。部屋を出て、トイレの��に設置してあるダストボックスへビニール袋に包んだ古いパットを捨てた。手を洗って、歯を磨いて。階段を上がると私は私の部屋のドアを開けて無造作にカーディガンを脱いでベッドに横になった。文字がもやもやと頭の中をめぐっていてしばらく眠れそうにない。額に腕を当てて、布団の中で身体を伸ばす。ばしゃばしゃとした音にのみこまれてしまえればきっとよく眠れる。 麻央は、なぜ祝裡(ほうり)がノートを、こんな送りつけてきたのかわからない。ほとんど何も書いていないノートだ。彼は中を読んだのだろうか、麻央は、頭の奥が熱くなるような、苛立っていることに気づいて、布を強く握った。「必要なもの」とはどういう意味だろうか。麻央は、彼に何がわかるというのか。嗚咽をあげた。カッターを探るがあたしは見つからない。電気を点ければいいだろう。お前は本当にグズだな。 麻央は目を開いた。部屋の中は薄暗くなっていた。カップの中には黒い影が溜まっていて、雨は降り続いていることがわかった。周囲は、なんだか落ち着かないもので満たされたように、かべも天井も流しもトイレの中も、ひっきりなしにざわざわとしていて、細かなところまでが目を配り、きき耳を立てていた。それ切りだった。麻央は体を起こした。机に向かって、ノートを三ページ分めくった。手探りでボールペンを探した。 チン、と音がしてカップが机から落ちたらしい。暗がりの中でいっそう黒い液はフローリングの上にひろがった。 アッアッアッ アッアッアッ 祖母が鳴いているのが聞こえる。母のうんざりした表情が浮かぶ。父が「早く見て来い」と大きな声で呼ぶ。麻央は脱ぎ捨ててあったカーディガンか、なにか布の塊ををつかんで黒い染みに押しつけた。擦りつけた。 スイッチを入れると目がつぶれた。引き出しのカッターを取り出した机の上で切る。ノートの上に血が落ちた。少し腕を揺らすとさらに血がこぼれた。気づいたらにやにやとしてカッターの刃先に力を入れると血痕同士が重なって徐々に広がった。 「なにもたもたしているの」という母の声が窓の外から聞こえた。ガラスに向かってノートを投げつけると潰された蛾みたいにしばらくへばり付いていた。ノートの跡は赤黒い血の染みになっていた。腕を見るとたくさんのリストカット痕が見えたので、その染みに思い切り擦りつけた。ガラスが割れて、腕が血まみれになる。ねじ切れるように痛い。 「何やってんだ」 「何やってるの」 父も母も怒鳴る。目の前を右往左往している。血まみれになった左腕を介抱しようとするがガラス片が複雑に刺さっていて触れることができない。激痛が走る。父も母もよく見えない。 「これだからお前は」 「お父さんはだまってて」 部屋の奥の方へ去っていきながら二人で口論を始める。だんだんとエスカレートしていくようだ。耳をふさいで縮こまりたかったが、腕をかばっているために身動きができない。怒りと恐怖で顔が真っ赤になる。歯を使って、しんちょうにガラス���一本一本引きぬいていく。 目を開ける。蛍光灯がこうこうと高速の明滅を繰り返していた。麻央は、痛みが走る、左腕は乾いた血で汚れていて、痛みのあまり腕を抱えた。 麻央は、夜の中にこの部屋だけ取り残されたようだった。ガラスが周りに散らばっている気がした。自分の腕が自分の腕でないような、身体が身体でないような気がしてこわい。どんどんと遠く離れていってここだけがいやに明るい。麻央の身体の心臓がどきどきとしているのをあたしは感じた。こわくて死にそうだ。四方八方から気配がせり出してきてあたしを圧迫されて死ぬ。この左腕から腐ってあたしはきちがいになって死ぬんだ。 麻央はさめざめと涙を流しました。こわくて、かなしくて涙がとまりませんでした。誰も助けに来てくれないのはよくわかっていますが、誰か助けに来てくれたとしてもあたしをたすけることはできない、あたしの死を助けることは無理だと麻央は泣いた。 「こわいよこわいよ」と言った。 どんなに身体にしがみついてもそれは彼女のものではなくて、麻央は、あたしはなにからもどこからもひきはがされていくんだっておもう。枕に顔をうずめた。何も変化しなかった。蛍光灯の光が焼いてはまた新しくつくり上げて、がんじがらめにして息もできなくなるまで。指先が冷えている。麻央は彼女の腕をベッドの上の身体の先から伸ばして、スイッチを切った。 母はうつむいていた。小さな声で喋っていた。泣いているのだろうかと麻央は思った。 弱さも犯罪だと麻央は思った。弱さにより、逃げたこと、傍観しかしていなかったこと。言い訳めいた言葉によるごまかし。そういったものは、麻央はすべて、加担だった。こうした弱さの表明自体が、彼の強さと凶悪とを助長してきたのだと、麻央は思った。 「お母さんもつらかった」 自分も、あるいは自分こそが被害者であることを主張するのは免罪符になると思っている。被害者は加害者に対して絶対的な立場にあると思っている。加害者が絶対的な悪で、被害者が善で。加害者と被害者は全く異なる、異質な存在であると信じて疑わない。 虫ケラめ。と彼女は思ったと麻央は思った。 毎日毎日、お父さんが帰ってくると機嫌悪くてね。お酒なんか飲んでいるととくにひどかった。お母さんなんかいつもぶたれたし、あんたはとなりで泣くしでね、おばあちゃんは文句を言うし。つらかったし何度も死んじゃおうかとおもったよ。でもね、あんたがいたから。あんたがいたからね。あたしがここにいて守っていなくちゃいけない、あんたをひとりにしちゃうのが一番つらいって、でもごめんね。お母さんが弱かったから。もっとあんたに母親らしいことしてあげたかったんだけど。 わかってくれる? 「わかってくれるって?」 ごめんね。わからないよね。お母さんが馬鹿だった。彼女は顔を覆った。泣いている振りをしているのだと麻央は思った。そしてそのうちほんとうに涙が出てくるのを知っていた。泣くフリをするのは悲しいからとかつらいからとかではなくて悲しくなりたいから、つらくなりたいからだった。 なんで。 「なんで?」 なんで話したの。私(たち)のこと。 「なんでって」 秘密にしておくって(約束してたよね)。 「別に。言わないようにしてただけ」 口答えするな。 「口答えって?」 黙れ。口先だけで、ちっとも動かない。うるさい(うるさい)。なあ? 約束を破って平気でいる奴はクズだ。まともな人間のする事じゃない。 「まともな人間って何」 まともはまともだ(当たり前だ)。屁理屈ばかり言う。お前さ、どうしてこんなに駄目なの? 「それはあんたの子だからだろ」 親に向かってその口の利き方は何だ。もう一度言ってみろ(ほら、どうしたんだ。もう一度言ってみろよ)。 「脅迫するな」 俺はもう一度言ってみろと言ったんだ。何だ脅迫とは、意味を分かっているのか。お前は馬鹿だ。いいか。ゼロだ。価値のないクズだ。俺はお前を今すぐここから追い出したっていいんだ。 「それはこっちの科白だ」 どういう意味だ。親を何だと思ってるんだ。お前を養ったのは誰だと思ってる。 「私はお前のものじゃない」 騒々しい、麻央は、声に合わせて不快な音が響いた。それが笑い声だと気づくまでに少し時間がかかったが、それでも耳元で虫がぶんぶんとうなるような不快な罵声をそれはずっと続けていたけど、もう何を言っているのかは(大体予想はつくけど)聞き取れなかったし、というよりもむしろ、聞き取るだけの気力なんか残っていない。麻央は目を開いた。目の前にはのっぺりとした暗闇があった。もしかしたら、麻央は目を開いていなかったのかもしれない。ずっと目を閉じていたのかも。耳の奥に余韻が残ってびりびりとして、身体は宙に浮いている気がした。もしかしたら死んだのだろうかと嘯く。死んだらいいのに。
https://note.mu/yoshiwoemon/n/nd06a3d2f26b5?magazine_key=m8863f2a4fbc5
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夏のある日のマクドナルド、隣の中学生の女の人たちは二人とも話すことがなくなってしまって、テーブルに突っ伏して捧げるように両手で持った携帯をいじってはハイヒールで歩くみたいな音を立て始めている。そんな姿を見ていたら、この先に横たわる毎日を退屈に思うのは当たり前だ。 その奥で、OBドラゴンがいらなくなったトレイを片付け終えてこちらを振り向いた。両方の壁際にまばらに並んだ、誰もが自分のために丸めている色とりどりの背中。その間を抜けて、やってくる。OBドラゴンがやってくる。 「保くん、これで拭くんだ」 気づけば、だいぶ軽くなった僕のコーラは汗をかいてはしたなくテーブルを濡らしていた。まして僕の肘はそれを吸ってだらしなく湿って冷たい。 「うん、ありがとう……」 渡された紙ナプキンで散らばった水滴を拭くと、すぐに指先がしめって不愉快だ。OBドラゴンのホットコーヒーは買った時と変わらず、おかわり自由なのにそれほど減っていないようだ。 「それでさっきの話の続きだけど……告白するんだろ?」 OBドラゴンはベンチシートに音も立てずに着席して、大きく固いしっぽを組んだごつごつした足の下にすべりこませた。そして姿勢を変えるや、すらりと組んだ長い足を現した。こんな場所で埃一つつかないスーツだ。いい生地を使っているんだ。 「いや、わからないよ……だからこうしてOBドラゴンに相談してるんじゃないか。OBドラゴンが決めてよ……」 「そんなの僕が決めることじゃない。僕が付き合うわけじゃないんだから。保くん、君は12歳、若い若い男。僕はドラゴンだ。いいかい。あくまで僕は、僕という一つのつぶてを君の心の池に投げ込もう。その波紋に何を見るかは君次第だよ」 僕は同じクラスの本田さんが好きだ。いつも他の人より見てしまうし、話すと他の人より嬉しいから、きっと他の人より好きだと思う。だから一番好きだと思う。 この間、近藤くんが伊藤さんに告白した。2人は付き合い始めた。2人はこの夏休み、他の男子を連れて行かず、他の女子とプールに行ったらしい。その話はク ラスのみんな知っているのに、夏休みが終わっても誰も話してくれない。でも女子同士は話しているかも……。僕にはその女子の中に本田さんはいたのだろうかなんてこともわからない。 「ドラゴンというか、OBとして言わせてもらっていいかな。保くん、今、君の胸の奥に何かいるね。そいつがいる限り、君は何もできないぞ」 OBドラゴンがサングラスに満たした闇の奥から僕を見ている。僕の心の表面を赤い光の点がはいまわり、一点で止まって微動する。熱をもって溶かさんと。たまらず僕の口から言葉が飛び出す。 「本田さんの仕草で、僕が好きなのが一つある」 僕自身もびっくりした僕の存外男らしい言葉遣いで、OBドラゴンはもはやサングラスもなく、あらぬ方にクールな目配せを飛ばした。気づいたら、隣にいた中学生の女の人2人組がこっちの話を聞いていたらしい。顔を上げてOBドラゴンと楽しげな熱視線を交わし、僕に好奇の目をやった。 「それでそれで」 OBドラゴンがわかりやすく声を出して、中学生が笑う。中学生を笑わせるなんてすごい……。僕のコーラのカップについた新しい水滴がつながってポロリと落ちて、拭いたばかりのカップの底をあっという間に一周する。 「どんな仕草だい」 僕は唾を飲み込み、きれぎれに言った。 「本田さんは、シャープペンを、こう、胸でノックする……」 本田さんは勉強に熱中してくると、いつも乱暴に、ドンドン音がするぐらい、順手に握ったシャープペンシルを胸に押しつけた。僕はそれを、斜めから見ていた。 「でも、最近しなくなった……夏休みが終わった頃から」 もしかしたら僕は聞いて欲しかったのかも知れない。 「きっとプールの頃から……」 「プールの頃って?」 頬杖ついた中学生が口を挟んだ。髪の毛がまっすぐ落ちて、眉毛の上で突然消えてなくなったような髪型。僕はすぐに説明した。僕は家でそればかり考えていたから説明するのは簡単だった。 OBドラゴンは話の間ずっと口の前に掲げていたコーヒーを、終わる頃に一口飲んだ。 「……ていう」 僕が黙ると、中学生は少しだけむつかしそうな顔で天を仰いで、でも、と人差し指にくるりと一回髪の毛をからめた。こちらを向いてわかったけれど、二人のうちの一人は、あまり綺麗な顔立ちではない。きっと鼻のまわりにできた吹き出物に苦しんでいる。鼻と顔の境目が崩れ落ちてしまい、腐敗の広がりの中で輝きを 失った眼は笑いながら死んでいる。人間の苦しみを、特に彼女が朝起きて鏡を見て考えることを、目に見えるように表現するのはとても不可能だ。 「保くんは、本田さんが変わっちゃったら嫌いになるの?」 お前が僕を保くんと言うな。本田さんとも言うな。そう思って強く強く目を合わせる。 「そんなことない……」だって、そんなことは言ってない。 「でもそういうのってつらいよね。なんか自分が関係ないところで好きな子が変わっちゃうのって」 「せつないねぇ」 もう一人の中学生は肩まである綺麗な黒髪のおかげでなかなか顔がはっきり見えなかったけれど、形のいい鼻が時折のぞいてドキドキした。 「そうですかね……」 答えあぐねる僕と中学生を交互に見て、OBドラゴンは言った。 「捨ててくる」 立ち上がって��ポケットに突っ込みながら歩いて行くその後ろ姿。ダストボックスの間にサングラスを滑り込ませたかと思うと、振り返れば新しいサングラスをかけている。まっすぐ歩いてくるOBドラゴンの目を、僕は一度だって見たことがない。 「まどろっこしい話は止めよう」OBドラゴンは乱暴に腰を下ろした。「本田さんは、君の関係ないところで、女になったんだ。意味なんか考えるなよ」 「君の言うことはいつもわからない」 「保くん。ほとんど全ての女の子が、君の知らないところで女になっていくんだ。さびしいかい。さびしいだろう。しかも、それをさせた男が一人、この世で息をしているんだからな。その息づかいを、女の子は聞いたのだ。そして女という、男の子とも、女の子とも、男とも違う別の生き物になったんだ。でも、そんなこと は誰にだって訪れることじゃない。蝶の羽化が見られないぐらいで気に病むことはない」 僕は上の空で聞いていた。その態度に呆れてしまったのか、 OBドラゴンは中学生と何やら話しこんでいた。気を取り直した時に聞こえたのは小話だった。「男は女が自分の意見を聞かない、と言った。女はそうじゃない、男が自分の意見を聞かないのだ、と言った。問題は網戸のことだった。ハエが入ってくるから閉めておくべきだというのが女の意見だった。男の意見は、朝一番はまだテラスにハエがいないので開けておいてもいい、というものだった。だいいち、と男は言った、ハエはほとんどが家の中から出てくるのだ。自分は、ハエを中に入れているというより、どちらかといえば外に出してやっているのだ」 意味はわからなかった。でもまるで、人間の価値はその場の話題に応じたどれだけ気の利いた小話を披露できるかで決まるとでも言うように、力を入れることなく、落ち着き払ってその話はされていた。 「終わり?」 「ああ、いつも、すれ違うだけで終わるのが男と女の話なんだよ」 「その女がバカなんじゃないの? 男も細かいけど。二人とも嫌い」 「あ、ねえねえ、私も、英語で習った詩があるの。聞いて」 「そういうとこがダメなんじゃない?」 「は?」 「勝手に、自分の話ばっかりすんの」 「しょうがなくない? 保くん、どう? 私、いや?」 話を聞き始めたのを見て取ったか、綺麗な方の中学生に呼ばれた。 「いやじゃないよ……」 「ほら」 僕の意見をぞんざいに受け止めて、彼女はすらすら暗唱を始めた。僕の気持ちは彼女の気持ちの一部になって、僕である必要がなくなった。 「こよない方に恋慕した、���だひとたびの我が恋は、心のうちに残るとも、戸のたつままに去りました、皆な、皆な消えました、昔なじみのどの顔も」 「英語じゃないのかよ」 「黙って。私の友は親切な、心やさしい友なのに、恩義を知らぬ人のよう、私は突然去りました、昔なじみの顔と顔、思いめぐらすためのよう」 「それリーディングの延岡が趣味でやったやつでしょ。なんでそんなん覚えてるの」 「なんか覚えてんの。いい感じでしょ。保くん、どう?」 「中学生は頭がいいですね……どういう意味なんですか」 「要は、みんな変わっちゃうのよ。そのとき、せいぜいかっこつけるのよ」 僕のお池はみんなの投げた石でうずまりそうだ。そんなこと誰が頼んだろうか。僕の池に来て、釣りをしたり、石を投げるな。それを僕のためだなんて、絶対に言うな。 僕のせいで時間が鈍く重たく流れる。この時間にかかずらったら負けだと開き直ることのできる順番で、中学生から降りていった。二人は芸能人の話を始めた。時折もれる笑い声は微妙に音質を変えていて、もう僕に聞かせるためのものではなくなっていた。 「僕は一人で帰る。OBドラゴンは先に帰っててよ……」 OBドラゴンはテーブルの隅を人差し指で小さく二度、叩いた。 「保くん、君は来る時、僕の背中でゲームをしていたから知らないだろうが、このマクドナルドは君の家から直線距離で20kmの位置にある。僕の背中に乗れば2分、公共の交通機関を使えば乗り換え含めて40分、言わせてもらえばこども料金で300円かかる。わかるかい保くん。君は、君一人の力では来ることのでき ない、日曜でもすいている穴場のマクドナルドまで来ているんだぞ」 そんなことわかっている。ゲームをしてたけどわかっていた。 「言わせなきゃわからないのか。保くん、またあのセリフを言うか」 僕は首を振った。口を開けたら弾みで涙もこぼれそう。中学生も見ていないけど、見ている。僕はうつむいた。 「……言いたくない」 やっと言う。下を向いた目の中で涙が揺れた。 「いや、言うんだ」 どうしてこんなに怖いんだろう。OBドラゴンっていったいなんなんだろう。なぜこんなに怖くするんだろう。それでも涙をとっておく方が大事に思えたから、僕は言った。 「OBドラゴンは、僕の大事な友達だ」 「OKドラゴン」 中学生たちがこちらに向けて笑い声を上げた。下を向いている僕から、白くて短い靴下と黒い革靴がテーブルの脚の間でばたばた動くのが見える。こっちは体を動かす気にもならないというのに。 「保くん、僕を恨んでもいいんだよ」 こんな時どうすればいいのか僕は知らない。でも、OBドラゴンは僕がどうするか知っている。それでわざとこんなことを言うのだ。僕は下を向いたまま、ゆっくり首を振った。 「行こうか」 「おしっこ」 僕は中学生の前を通ってトイレに駆け込んだ。重たい扉を寄りかかるようにして開けなくてはいけないのは、僕が子どもだから。だから涙がこぼれてしまった。 おしっこをしていて考えたくないことを考える。本田さん、どうして君は胸でシャープペンをノックしなくなってしまったのか……。トイレの照明は暗いくせにひどくまぶしい。 水色の造花を生けた角張った青いガラスの花瓶が流しの台に置いてあった。僕には、花一輪だってほどよく愛することができないように思えてしょうがない。こんな作り物ならまだしも、生きている一輪をどうして上手く満たしてあげるだろうか。ほのかな匂いを愛でるだけではとてもがまんができない。荒々しく手折って、掌にのせて、息を吹きかけ、花びらむしって、それから、もみくちゃにして、たまらなくなって涙を流して、唇の間に押し込んで、ぐしゃぐしゃに嚙んで、吐き出して、靴底でもって踏みにじって、塵のように細く切れた断片を眺め下ろして、それから自分で自分を殺したく思うんだ。 トイレを出ると、レジのところにOBドラゴンがいた。 「保くん、新しい味のマック・フルーリーだよ。夏らしくっていいだろう」 父さんと同じシャツを着たOBドラゴンが渡すのを僕は黙って受け取る。 駐車場でゆっくりと羽を広げたOBドラゴンの背中に乗り込む。慣れた動作はさびしい気分。旅行の帰りに寄ったサービスエリアみたいに力が入らない。マクドナルドの窓から顔をのぞかせている中学生を見ながらぐんぐん上昇していく僕はきっと無表情だ。やがて中学生は見えなくなった。 僕は何もしていないのに無限に視線が上がっていく。田舎道を照らすには十分だった光がまばらに広がっていくと同時に湿っぽい夜風が頬にまとわりついた。 僕の家はどこかわからない。OBドラゴンは黙っている。いつものことだ。ゲームを出す気にもなれない。 マック・フルーリーには何色かラムネが入っていて、一口食べてから、残りは全部、OBドラゴンの足の付け根にあいた痛々しい、大きな穴に流し込んだ。 そこは最初ただのくぼみだった。OBドラゴンがどんなに体をひねっても見えない場所にあって、フライドチキンの骨やら、噛み終えたガム、OBドラゴンのく れるものを入れていくうちに、膿んで腐れ落ちた大きな穴となり、クリーム色したウジが音もなく蠢いていた。奥にはいつか僕が入れたのだろう、スナック菓子の袋の切れっ端が見える。こんなにひどい状態なのにOBドラゴンは何も感じないらしい。 見渡せば、町の光は多すぎて好きな子の家もわからない。僕は十二歳。今よりずっと不機嫌だった。
OBD - ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ
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