#瞳は魂を映し出す鏡
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lyrics365 · 5 months ago
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MIRROR
夜明け前 影絵の空に一つ空いた光の抜け穴潜れば ほら、風だってメロディ 今だけは涙も星になれる 足取り行くは何処へ? 目を閉じたら見えるよ 心曇らす真っ新すぎる明日も 歌にするの 好きなものが嫌いに 誓った人を憎んだり 歩けば歩くほど傷は増えゆくけれど 魂は声を持つ ひとりぼっちでもそう、歌があるわ あの子の不幸が救いになってしまう夜は 音に身を委ねましょう いつもどんな時も君のまま笑える 鏡のようになりたい 太陽も空も小さな嘘さえ見透かす この手伸ばすほど意味も夢も遠ざかる 愛を求めるほどに孤独を知ってゆく 瞳の奥映る過去 ひび割れた日々の隙間掬い出して そう、嫌いなままでいいの 答えはなくていいの 覗けば覗くほど隠れてしまうけれど 日陰にも花は咲く ひとりぼっちでもそう、歌があるわ あの子の笑顔が傷に染みる夜は 音に身を委ねましょう いつもどこにいても君を見つけ出せる 鏡のように歌おう
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kachoushi · 10 months ago
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各地句会報
花鳥誌 令和6年2月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年11月1日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
星の出るいつも見る山鳥渡る 世詩明 人の世や女に生まれて木の葉髪 同 九頭竜の風のひらめき秋桜 ただし 太陽をのせて冬木の眠りけり 同 生死また十一月の風の音 同 朝湯して菊の香に上ぐ正信偈 清女 懸崖の赤き菊花の流れ落つ 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
秋空の深き水色限りなし 喜代子 故里は豊作とやら草紅葉 由季子 菊花展我等夫婦は無口なり 同 しぐれ来る老舗ののれん擦り切れて 都 狛犬の阿吽語らず冬に入る 同 謎々のすつきり解けた小春の日 同 杣山の織火となりぬ紅葉山 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
綿虫と彼女が指せばそれらしく 瑠璃 梵鐘のはらわたに闇暮の秋 緋路 逝く秋をくづれゝば積み古書店主 順子 綿虫や浄土の風が抜けるとき はるか 太き棘許してをりぬ秋薔薇 和子 弥陀仏の慈顔半眼草の花 昌文 綿虫のうすむらさきや九品仏 小鳥 参道で拾ふ木の実を投げ捨てる 久 綿虫は仏の日溜りにいつも 順子 香煙はとほく菩提樹の実は土に 小鳥
岡田順子選 特選句
腰かける丸太と秋を惜しみけり 光子 九品の印契結ぶや冬近し 眞理子 古に大根洗ひし九品仏 風頭 綿虫や浄土の風が抜けるとき はるか 奪衣婆の知る猿酒の在り処 光子 神無月ならば阿弥陀も金ぴかに 俊樹 蚤の市に売る秋風と鳥籠と 和子 下品仏とて金秋の色溢れ 俊樹 綿虫と彼女が指せばそれらしく 瑠璃 梵鐘のはらわたに闇暮の秋 緋路
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
ありきたりの秋思の襞を畳みをり かおり 秋日入む落剝しるき四郎像 たかし 返り花ままよと棄つる文の束 美穂 凩や客のまばらな湖���線 久美子 凩のやうな漢とすれ違ふ 睦子 小鳥来る小さなことには目をつむり 光子 流れ星キトラの星は朽ちてゆき 修二 凩に雲や斜めにほどかれて かおり 人肌を知らぬ男のぬくめ酒 たかし 老人が老人負うて秋の暮 朝子 冬の日や吾が影長く汝に触れて 同 身に入むや妣の財布の一セント 久美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
秋思消ゆ「亀山蠟燭」点せば 悦子 この町へ一途に滾り冬夕焼 都 新蕎麦を打つ店主にも代替はり 佐代子 添ふ風に方位はあらず狂ひ花 悦子 HCU記号音満つ夜の長し 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
トランペット響く多摩川冬に入る 美枝子 竹林の風音乾き神の留守 秋尚 公園の隣りに棲みて落葉掃く 亜栄子 句碑の辺の風弄ぶ式部の実 同 新のりの茶漬に香る酒の締め 同 歩を伸ばす小春日和や夫の癒え 百合子 朔風や見下ろす街の鈍色に 秋尚 ぽつぽつと咲き茶の花の垣低き 同 リハビリの靴新調し落葉ふむ 多美女 濡れそぼつ桜落葉の華やぎぬ 文英 露凝りて句碑に雫の朝かな 幸風 大寺の庭きりもなや木の葉散る 美枝子 山寺の風の落葉を坐して聞き 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
風除の日だまりちよっと立ち話 和魚 風除の分厚き樹林影高き 秋尚 揚げと煮し切り干やさし里の味 あき子 薄日さす暗闇坂に帰り花 史空 渦状の切干甘き桜島 貴薫 切干や日の甘さ溜め縮みたる 三無 風除けをせねばと今日も一日過ぎ 怜 切干や少し甘めに味継がれ 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
確かむる一点一画秋灯下 昭子 幽玄な美女の小面紅葉映ゆ 時江 釣り糸の浮きは沈みし日向ぼこ 三四郎 六地蔵一体づつにある秋思 英美子 赤い靴なかに団栗二つ三つ 三四郎 着飾りて姉妹三人千歳飴 ただし 正装で背中に眠る七五三 みす枝 雪吊の神の恐れぬ高さまで 世詩明 七五三五人姉妹の薄化粧 ただし トランペット音を休めば息白し 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月14日 萩花鳥会
夜鴨鳴く門川住居六十年 祐子 捨て��れて案山子初めて天を知る 健雄 ゴルフ玉直ぐも曲るも秋日向 俊文 山茶花や現役もまた楽しかり ゆかり 舟一艘ただぼんやりと霧の中 恒雄 献茶式津和野城下や朝時雨 美惠子
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令和5年11月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
秋の暮百均で買ふ髪飾 令子 虫食ひの跡そのままに紅葉かな 紀子 背の丸き鏡の我やうそ寒し 同 小春日や杖つく母を見んとする 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
小春日や日々好日と思ひたり 世詩明 禅林を通り来る風秋深し 啓子 何事も無き一日や神の旅 同 炉開きの一花一輪定位置に 泰俊 一本の池に煌めく櫨紅葉 同 三猿を掲ぐ日光冬日濃し 同 立冬こそ自己を晒せと橋の上 数幸 小六月笏谷石は饒舌に 同 如何にせん蟷螂は枯れ僧恙 雪 猫じやらしもて驚かしてみたき人 同 一匹の枯蟷螂に法の庭 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月17日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
小鳥来る赤き実に又白き実に 雪 幽霊の出るトンネルを抜け花野 同 おばあちやん子で育ちしと生身魂 同 見に入みぬ八卦見くれし一瞥に やす香 時雨るるやのつぺらぼうの石仏 同 近松忌逝きし句友の幾人ぞ 同 季は移り美しき言葉白秋忌 一涓 菅公の一首の如く山紅葉 同 落葉踏み歩幅小さくなる二人 同 冬ざれや真紅の句帳持ちて立つ 昭子 今日の朝寒む寒む小僧来たりけり やすえ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月17日 さきたま花鳥句会
からつぽの空に熟柿は朱を灯し 月惑 白壁の色変へてゆく初時雨 八草 六切の白菜余すひとり鍋 裕章 一切の雲を掃き出し冬立ちぬ 紀花 小春日や草履寄せある躙口 孝江 柿を剥く母似の叔母のうしろ影 ふゆ子 い��し雲よせ来る波の鹿島灘 ふじ穂 鵙たける庵に細き煙たつ 康子 雲切れて稜線きりり冬日和 恵美子 水鳥の羽音に湖の明けにけり 良江
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令和5年11月18日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
紫のさしも衰へ実紫 雪 蟷螂の静かに枯るる法の庭 同 二人居て又一人言時雨の夜 清女 母と子の唄の聞こゆる柚子湯かな みす枝 還りゆく地をねんごろに冬耕す 真栄 帰省子を見送る兄は窓叩く 世詩明 人に無く芒にありし帰り花 同 香水の口よりとどめさす言葉 かづを 時雨をり故山の景を暗めつつ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
浮寝鳥日陰に夢の深からむ 久子 呪術にも使へさうなる冬木かな 久 無敵なる尻振り進む鴨の陣 軽象 冬日和弥生も今も児ら走る 同 冬蝶の古代植物へと消えぬ 慶月 谿の日を薄く集める花八手 斉 冬天へ白樫動かざる晴れ間 慶月 青空へ枝先細き大枯木 秋尚 旋回す鳶の瞳に冬の海 久 冬の蜂おのが影這ふばかりなり 千種 水かげろうふ木陰に遊ぶ小春かな 斉
栗林圭魚選 特選句
竹藪の一画伐られ烏瓜 千種 遠富士をくっきり嵌めて冬の晴 秋尚 白樫の落葉急かせる風のこゑ 幸風 切り株に鋸の香遺る冬日和 久子 四阿にそそぐ光りや枯れ芙蓉 幸風 白樫の木洩れ日吸ひて石蕗咲けり 三無 小春の日熊鈴つけしリュック負ひ 同 青空へ枝先細き大枯木 秋尚 寒禽の忙しく鳴ける雑木林 貴薫 草の葉を休み休みの冬の蝶 秋尚 逞しく子等のサッカー石蕗咲けり 亜栄子 甘やかな香放ち桂紅葉散る 貴薫 あづまやの天井揺らぐ池の秋 れい
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年11月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
薄き日を余さず纏ふ花八手 昌文 耳たぶに冬の真珠のあたたかく 和子 黒松の肌の亀甲冬ざるる 要 雪吊をおくるみとして老松は 緋路 冬空を縫ふジェットコースターの弧 月惑 ペチカ燃ゆフランス人形ほほそめる て津子 上手に嘘つかれてしまふ裘 政江 嘘つつむやうに小さく手に咳を 和子 手袋に言葉のかたち作りけり 順子
岡田順子選 特選句
池一枚裁ち切つてゆく鴨の水尾 緋路 黒松の肌の亀甲冬ざるる 要 自惚の冬の紅葉は水境へ 光子 玄冬の塒を巻きぬジェットコースター 同 光圀の松は過保護に菰巻きぬ 同 ペチカ燃ゆフランス人形ほほそめる て津子 雪吊を一の松より仕上げをり 佑天 不老水涸れをり茶屋に売る団子 要 遊園地もの食ふ匂ひある時雨 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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liliyaolenyeva666 · 3 years ago
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📛 1438 「空手バカ一代」 #19カラ21。
テレビの中で 「空手バカ一代」 が はじまりました。今回は 「はばたけ!世界一の強者へ (第19話)」 というお話です。戦後初めての “第一回空手選手権大会” で 優勝し、体重500kg超えの闘牛ライデンゴーを浜辺で倒し、鬼殺しの一本背負いのタケバヤシを非常階段で倒したアスカケンは、北海道まで追いかけてきた タケバヤシの親友の刀男をも倒し、ヒグマとの真剣勝負に挑んだものの 途中で警察らの邪魔が入り決闘は中断。ヒグマとの戦いに失敗した矢先に、愛弟子アリアケ・ショウゴを思わぬ事故で失ったアスカケンは 、アリアケ・ショウゴに似た青年アダチススムと出会うのですけれど、そんな中で勝負を挑まれた 人斬りニシナを 事故とはいえ、ころしてしまいます。「二度と空手は使わない」 と心に誓ったアスカケンですけれど、だいぶ前書きも長くなってきました。さてさて 雪降る夜。ニシナ親子が駅の待合室で暖をとっています。そこへ到着する汽車。金八先生スタイルのアスカケンがカバンひとつ (だけ) を持って帰って来ます。再び償いの生活を始めるアスカケン。切株を取り除き、鍬で土を耕しているアスカケンに 「おじさーん、お茶だよー!」 とニシナ息子。前回 「井の中の蛙、広い大海を知らなかったな」 とキモい顔色をした トッド・ワカマツに言われたことを思い返すアスカケン。掌を見つめ、思い返すアスカケン。そんな掌を見つめ��� ボーッと耕してるんじゃないよっと 「おじちゃん!何考えてるの!」 とニシナ息子。「おじちゃんを驚かしたな!あははははは」 とニシナ息子と大笑いするアスカケンは 考え込んでいて本気で驚いたみたいです。焼き芋を頬張るニシナ息子を見 「この子の小さな魂の為にいきる」 とアスカケン。そんなころ 「大晦日まであと何日もない」 とニシナの父 (爺ちゃん)。「ん?あゝっ!」 とアスカケン。「アメリカに殴り込みをかけたはずだ!」 とワカマツに言われたことをまた思い返しているアスカケン。実写稽古映像が飛び出します。思いを断ち切る為、空手着を池にボチャっと投げ捨てる、不法投棄の世界でも一流を目指すアスカケン。何故か ぷかりぷかぷかと浮いた空手着は 偶然か必然か 木の枝に引っ掛かります。そんな引っ掛かった空手着を 「あ!あれはアスカさんの空手着!」 と それがアスカケンの空手着と どうして分かったのでせうかシイナ父 (爺ちゃん)。場面は変わり、偉さうな村人が現れ、これ以上お地蔵さんの丘をどうのこうのするならあゝのこうのするぞ!と言いながら 何か悪いことを考えている様子です。その日の夜、そうっと忍び込む わるい村人たち。丘の上のお地蔵さんを えいやっと投げ捨てます。そんなお地蔵さんの真下にはアスカケンが!「とうりゃっ!」 と 降ってきた お地蔵さんを破壊するアスカケン。「チェストォォォッ!とお地蔵さんを破壊しつつ、崖をジャンプで上がる ベジータのやうな アスカケンは向かって来たわるい村人をこてんぱんに痛めつけます。「何を言うか!由緒正しいお地蔵さんをそんな目に遭わす!」 とアスカケン。「お地蔵さんを元通りにして貰いませうか!」 と そのいくつかを木っ端微塵に破壊してしまったアスカケン。「空手は捨てたはずなのに 勝手に身体が動き出してしまって」 と 動き出すにも程があるアスカケン。とりあえず ギャリック砲を撃つ前にお知らせに入って貰います。お知らせが明け、初日の出を拝むニシナファミリーとアスカケン。紋付袴姿なアスカケン。「邪念を捨て (未だ見ぬアメリカの猛者がどうのこうのな) 念頭の誓いは改めて」 と、空手を捨てることをファミリーに誓うアスカケン。けれど、それをうまく言えないアスカケンの嘘を見破った息子は 「嘘つき!空手をおやりよ!」 と空手は一流でも 嘘をつくのは三流なアスカケンを叱ります。嘘がバレた恥ずかしさと あふれ出す未練で はげしく動揺するアスカケン。両の瞳から涙をぼろぼろと流しながら 東京に行ったアスカケンはもう帰って来ないと思っていたニシナ息子。「でも おじさんは帰ってきてくれた」 と泣かせることを言うニシナ息子。「これ以上のことは遠慮させて頂きたいと思います」 とニシナ妻。「今は日本一のカラテカだね?僕はおじさんに世界一のカラテカになってほしい」 とニシナ息子の名前は ユーイ��くんというさうです。「ありがとう、ユーイチくん!」 と フリーダムガンダムよりも強く見えるアスカケン。そんな翼の生えたアスカケンに 「あゝこれは!」 と、洗濯して神棚に置いておいたらしい空手着が!「ありがとうユーイチくん、この空手バカ、新天地アメリカで」 と、アメリカ行きを告げてニシナファミリーとお別れをします。場面は変わり、大東ホテル501号室に再び訪れるアスカケン。部屋には “イガラシ6段 指折りの柔道家 (眼鏡男子)” がいらっしゃいます。イガラシさんもアスカケンとともに アメリカに旅立つさうです。「アメリカのレスラーを舐めてもらっては困る、出発まで みっちりトレーニングして欲しい」 とワカマツ。という訳で “北斗ボクシングジム” というジムで稽古をするアスカケン。「ふふふふ、思う存分トレーニング」 とトレーニングを楽しむアスカケンに 「そんなトレーニングでは ダメダメね」 と、レンガを片手に 「これを割って見せて プリーズ」 と無茶なことを言うワカマツ。「なるほど、ま、いいでせう」 とレンガを割り、そのついでに ビール瓶を素手で割るサービス精神旺盛なアスカケン。飛び込んできた実写映像も それらを割っています。「ワンダホー!」 と ワンダホーなワカマツ。そんなこんなで旅立ちの日が やって参りました。「わざわざのお見送り、ありがとうございます」 と ニシナファミリーにお礼を言うアスカケン。「おじさん、これ持ってって!」 と御守りをプレゼントしてくれた、大人を泣かせる シイナ息子ことユーイチくん。「超人追求の夢を求めて!」 と旅客機に乗り込む バロロームなアスカケン。そんなアスカケンを乗せた旅客機は アメリカに向けてギュイーンと飛び立ちました。
つづいて
テレビの中で 「空手バカ一代」 が はじまりました。今回は 「赤毛の殺し屋 (第20話)」 というお話です。「日本ともしばしお別れだな」 と旅客機に乗り込んだアスカケンは、離陸と同時に 険しい表情を浮かべながら だらりと汗を流し、何だか様子が少し 山口さんちのツトムくんよりも変な感じでどうしたのかな?って雰囲気です。「ええ、ちょっと。飛行機に酔ったやうです」 と、ハンケチを口に当てて、実は乗り物に弱かったということが分かった (彼も人の子) アスカケンを乗せた飛行機は、ロスアンゼルス国際空港に無事到着します。半病人状態のふらふらアスカケンは、そんな状態で 今夜からいきなり試合に出場させられるさうで 「正体を見せたなトッド・ワカマツ!契約を盾にこき使うつもりだ」 と調子が悪悪だけれどもこき使われるアスカケンは 移動中の車の中でも目を瞑り 汗だくツユダクです。車は停車し、観音開きのタクシーから がちゃっと降りたアスカケン。廊下を右に出た突き当たりの控室へ向かうイガラシとアスカケン。「ここらしいな、レスラーの控室というのは」 とアスカケン。「これがプロレスラーという人種か、まるで怪獣だ」 と プロレスラーが怪獣なら あなたは ウルトラマンレオかそれ以上です、アスカケン。「狂気のやうな筋肉だ」 と あなたも狂気一直線ですアスカケン。そんなアスカケンに「柔道、空手、こどものお遊びだ」 と赤毛のレスラー。「俺の弟は日本軍にパールハーバーでころされた、ジャップを見るところしたくなるんだ」 と とんでもないことを言う赤毛マン。「怪物レスラーどもとやりあって、空手の伝統を守れるか」 とアスカケン。そんなアスカケンは体調不良を理由に 前座の試し割りだけの出場と相成ります。ひどい野次を観客から飛ばされるアスカケン。反日感情丸出しなアメリカ人に驚かされる イガラシさんとアスカケン。「太平洋戦争から 7年経っているのに」 とアスカケン。そんな中 「イガラシさん、板をお願いします」 とアスカケン。五枚は重ねているであらう木の板を グッと構えるイガラシさん。「3枚くらいにしておこうか」 とのイガラシさんの声に 「そのままでいい」 とアスカケンは たらりと汗を流しながら ひとまずお知らせに入って貰います。お知らせが明け、ポカーンと口を開けて見守る観客の前で 「てゃあーーーーーっ!」 と飛び蹴りで5枚割りを成功させる、流石としか言いやうのないアスカケン。けれども 「うう、目眩がする」 とアスカケン。「こんな最悪の状態では割れないかもしれん」 と 数えられない高さの瓦割りに挑みます。「いやああああああああ!」 と 17枚以上もの瓦を叩き割る、きっと超人ロックよりも強いかもしれないアスカケン。どっと 汗を瓦に滴らせるアスカケン。そんなアスカケンを見 「みんなトリック、子供騙し」 と向こう側のプロレスラー。「元々割れてる奴を接着剤で止めた女の子でも割れるもの」 と そんな方法があったことを教えてくれるプロレスラー。そんな野次を飛ばすプロレスラーに 「予備の瓦を割ってみろ」 とアスカケン。「何枚でも叩き割って見せる」 と赤毛のレスラー。が、意気込みも虚しく、瓦を割らずに 拳を割る赤毛なレスラーは 右手の拳を赤く血で染めます。そんな赤毛が割れなかった瓦を 気合で叩き割る (瓦と木の板を叩き蹴り割る実写映像を交えながら) アスカケン。けれど 「ちょっと目眩が」 とアスカケン。そんなアスカケンに 「やる気か!」 と赤毛レスラー。「よせ、よすんだ!」 とアスカケン。3人のレスラーに襲われて 顔面から血を流すイガラシさん。目眩にくらくらしていて動くに動けないアスカケンですけれども 「マットに沈めなければオレの気が済まぬ」 と怒りに震える 半病人のアスカケンは 「いまの体力でやれることがひとつだけある、チャンスを狙うまで!」 とチャンスを狙います。「よーし、相手が疲れてくればこちらのチャンスだ」 とアスカケン。「あなたがダウンしたら わたしが大損害をこうむります」 と文句ばかりなワカマツ。そんな中 「いまだ!」 と赤毛の顔面に必殺の一撃を浴びせるアスカケン。両目が血で見えなくなるくらいの血を (たぶんきっと) 額から噴き出し��口からも血を吹き出させながらマットに沈む赤毛マン。「よおくやったぞアスカさん」 とイガラシさん。「アバラを 5、6本折ったはずなのに オレの首を折ろうとした」 とプロレスラーのヤバミさを知ったアスカケンは 「イガラシさん、ここから逃げ出すんだ!早くっ!」 とアメリカ人を倒した日本人に逆上し暴徒化した観客から逃れやうとするのですけれど 「だめだ!これでは逃げ出すことなんて出来ないっっ!」 と叫びながら次週につづきます。あやうし!アスカケン!目眩に負けるな!アスカケンっ!
つづけて
テレビの中で 「空手バカ一代」 が はじまりました。今回は 「ジャップを殺せ! (第21話)」 というヤバミなタイトルのお話です。赤毛の殺し屋との勝負を終え 「生死との戦いに勝った」 とアスカケン。「アバラが折れてる、目もやられてる」 と見るも無惨な姿の赤毛に近寄る仲間のレスラー。「脱出だ!」 とアスカケン。観衆までもが太平洋戦争の恐怖を呼び起こしてしまって ほんと大変なことになっています。「謝る、謝るんです」 と いつもそればかりなワカマツ。「あのリーダー気取りのレスラーは何物だ?」 とワカマツに尋ねるアスカケンの前に 偉さうな感じのレスラー、その名はジュリアンが目の前に立ちはだかります。仮面もうのるかそるかだ」 とアスカケンは いつかのキャプテン翼を思い起こさせる “三角飛び (まったく見当違いの方向へ飛び、その反動を利用する)” で、ジュリアンに飛び蹴りを喰らわすアスカケン。3年ごろしの三角飛びという技らしいそれについて 「その場のダメージは大したことはない、けれど1年後には病院に入り、二年後には身体が朽ち果て、三年後には狂いじにする」 と、とんでもない技を浴びせたことをジュリアンに話します。けれども 「特殊なマッサージで治癒させることができる」 と ハッタリなのかさうでないのか微妙なラインを踏み続けるアスカケン。「どうだイエスかノーか!」 と、怯え切ったジュリアンに アスカケンらと身の補償をジュリアンに約束させる ハッタリの世界をも極めてしまいさうな勢いのアスカケン。「命からがらとはまったくこのことね!」 と口ばっかりで何もしていないワカマツ。「不可能とは言えない 3年ごろし」 と 不可能を可能にしさうなアスカケン。「まあいずれにしても一か八かの大博打でした」 とアスカケン。「さうあんな策略が通用するわけじゃない、地獄旅だ」 なんてことを言いながらアスカケンと愉快な仲間たちは 次なる地サンフランシスコに到着します。「ロサンゼルスの時よりもっと厳しい」 とヤバミなことを軽々しく言うワカマツ。次なる対戦相手は “人間キジュウキ” の異名を持つ、フリーマンではないモーガン。怪力も怪力なフリーマンではないモーガンに 「話半分にしても容易ならぬ相手だ」 と身構えるアスカケン。試合前からして いきなり袋叩きに遭うイガラシさん。「日本人をころせ、真珠湾をわす��るな」 と吠えるアメちゃんたち。なんて中でのレンガ2枚割りに挑むアスカケン (実写映像も飛び出ます)。4枚ほどの厚い板割りに挑むアスカケン (実写映像も飛び出ます)。ビール瓶を手刀で割くアスカケン (実写映像も飛び出ます)。今度は 2本のビール瓶を手刀で割くアスカケン (実写映像はなし) と デモンストレーションどころでは無いデモンストレーションを披露します。が、文句をいう相手選手や観客たち。「またしてもインチキ呼ばわり!」 と唸るアスカケンを置いて いきなり試合ははじまります。モーガンに足を掴まれ、ロビンマスクのタワーブリッジのやうな技をギリギリリと受けるアスカケン。モーガンの左目がキラリと光り、人間技とは思えない回転からの投げでリング外に投げ捨てられるアスカケン。ワカマツに 「大失敗した、見損なったよ」 と小言を言われるアスカケン。が、投げられた瞬間に放った左足の蹴りがモーガンに炸裂し、そのアクションが地面に激突へのクッションになったらしく、大怪我を負わずに済んだ テクニカルなアスカケンは その一撃で重モビルスーツドムみたいな肩書きのモーガンを倒します。が!リング外で 左脇腹を眼鏡婦人に傘で刺されるショッキング場面の中のアスカケン。その拍子で 婦人を弾き飛ばしてしまったアスカケン。「レディファーストなアメリカで何てことを!」 とワカマツ。「どうにかしてくれ!」 と怒り狂った観客の中で 「もはやこれまでか!」 とアスカケン。とそこへ 「やめろ!」 と発砲した警官が 「人騒がせな」 と言いながら アスカケンらを会場の外に逃がします。痛む脇腹を押さえながらのアスカケンは 見るからに痛さうです。助けてくれた警官は 「勤務時間を過ぎたら うちらも一個人になるぜ」 とアスカケンらにとんでもないことを言い放ちます。「彼らは本気だ、戦争の傷はまだ深い」 とアスカケン。空手着の左脇腹が真っ赤に染まるアスカケン。とりあえずホテルに急行します。救急箱で傷を治療するイガラシさん。「もう手遅れだ完全に手遅れだ!」 と そんなことばかり言っているワカマツ。ホテルの下は怒りに満ちた群衆で溢れ返っています。「嫌だ嫌だリンチは嫌だ!」 と弱音を吐くワカマツ。「鉄砲という鉄砲を潜り抜けて来た俺だが、今度という今度はしを覚悟せねばなるまい!」 と覚悟せねばなるまいアスカケンは アメリカ合衆国を敵に回してしまったみたいです。
..
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rosaliaolenyeva · 3 years ago
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📛 101 「空手バカ一代」 #19。
テレビの中で 「空手バカ一代」 が はじまりました。今回は 「はばたけ!世界一の強者へ (第19話)」 というお話です。("きょうじゃへ" と読むやうです)。戦後初めての "第一回空手選手権大会" で 優勝し、体重500kg超えの闘牛ライデンゴーを浜辺で倒し、鬼殺しの一本背負いのタケバヤシを非常階段で倒したアスカケンは、北海道まで追いかけてきた タケバヤシの親友の刀男をも倒し、ヒグマとの真剣勝負に挑んだものの 途中で警察らの邪魔が入り決闘は中断。ヒグマとの戦いに失敗した矢先に、愛弟子アリアケ・ショウゴを思わぬ事故で失ったアスカケンは 、アリアケ・ショウゴに似た青年アダチススムと出会うのですけれど、そんな中で勝負を挑まれた 人斬りニシナを 事故とはいえ、ころしてしまいます。「二度と空手は使わない」 と心に誓ったアスカケンですけれど、だいぶ前書きも長くなってきました。さてさて 雪降る夜。ニシナ親子が駅の待合室で暖をとっています。そこへ到着する汽車。金八先生スタイルのアスカケンがカバンひとつ (だけ) を持って帰って来ます。再び償いの生活を始めるアスカケン。切株を取り除き、鍬で土を耕しているアスカケンに 「おじさーん、お茶だよー!」 とニシナ息子。前回 「井の中の蛙、広い大海を知らなかったな」 とキモい顔色をした トッド・ワカマツに言われたことを思い返すアスカケン。掌を見つめ、思い返すアスカケン。そんな掌を見つめて ボーッと耕してるんじゃないよっと 「おじちゃん!何考えてるの!」 とニシナ息子。「おじちゃんを驚かしたな!あははははは」 とニシナ息子と大笑いするアスカケンは 考え込んでいて本気で驚いたみたいです。焼き芋を頬張るニシナ息子を見 「この子の小さな魂の為にいきる」 とアスカケン。そんなころ 「大晦日まであと何日もない」 とニシナの父 (爺ちゃん)。「ん?あゝっ!」 とアスカケン。「アメリカに殴り込みをかけたはずだ!」 とワカマツに言われたことをまた思い返しているアスカケン。実写稽古映像が飛び出します。思いを断ち切る為、空手着を池にボチャっと投げ捨てる、不法投棄の世界でも一流を目指すアスカケン。何故か ぷかりぷかぷかと浮いた空手着は 偶然か必然か 木の枝に引っ掛かります。そんな引っ掛かった空手着を 「あ!あれはアスカさんの空手着!」 と それがアスカケンの空手着と どうして分かったのでせうかシイナ父 (爺ちゃん)。場面は変わり、偉さうな村人が現れ、これ以上お地蔵さんの丘をどうのこうのするならあゝのこうのするぞ!と言いながら 何か悪いことを考えている様子です。その日の夜、そうっと忍び込む わるい村人たち。丘の上のお地蔵さんを えいやっと投げ捨てます。そんなお地蔵さんの真下にはアスカケンが!「とうりゃっ!」 と 降ってきた お地蔵さんを破壊するアスカケン。「チェストォォォッ!とお地蔵さんを破壊しつつ、崖をジャンプで上がる ベジータのやうな アスカケンは向かって来たわるい村人をこてんぱんに痛めつけます。「何を言うか!由緒正しいお地蔵さんをそんな目に遭わす!」 とアスカケン。「お地蔵さんを元通りにして貰いませうか!」 と そのいくつかを木っ端微塵に破壊してしまったアスカケン。「空手は捨てたはずなのに 勝手に身体が動き出してしまって」 と 動き出すにも程があるアスカケン。とりあえず ギャリック砲を撃つ前にお知らせに入って貰います。お知らせが明け、初日の出を拝むニシナファミリーとアスカケン。紋付袴姿なアスカケン。「邪念を捨て (未だ見ぬアメリカの猛者がどうのこうのな) 念頭の誓いは改めて」 と、空手を捨てることをファミリーに誓うアスカケン。けれど、それをうまく言えないアスカケンの嘘を見破った息子は 「嘘つき!空手をおやりよ!」 と空手は一流でも 嘘をつくのは三流なアスカケンを叱ります。嘘がバレた恥ずかしさと あふれ出す未練で はげしく動揺するアスカケン。両の瞳から涙をぼろぼろと流しながら 東京に行ったアスカケンはもう帰って来ないと思っていたニシナ息子。「でも おじさんは帰ってきてくれた」 と泣かせることを言うニシナ息子。「これ以上のことは遠慮させて頂きたいと思います」 とニシナ妻。「今は日本一のカラテカだね?僕はおじさんに世界一のカラテカになってほしい」 とニシナ息子の名前は ユーイチくんというさうです。「ありがとう、ユーイチくん!」 と フリーダムガンダムよりも強く見えるアスカケン。そんな翼の生えたアスカケンに 「あゝこれは!」 と、洗濯して神棚に置いておいたらしい空手着が!「ありがとうユーイチくん、この空手バカ、新天地アメリカで」 と、アメリカ行きを告げてニシナファミリーとお別れをします。場面は変わり、大東ホテル501号室に再び訪れるアスカケン。部屋には "イガラシ6段 指折りの柔道家 (眼鏡男子)" がいらっしゃいます。イガラシさんもアスカケンとともに アメリカに旅立つさうです。「アメリカのレスラーを舐めてもらっては困る、出発まで みっちりトレーニングして欲しい」 とワカマツ。という訳で "北斗ボクシングジム" というジムで稽古をするアスカケン。「ふふふふ、思う存分トレーニング」 とトレーニングを楽しむアスカケンに 「そんなトレーニングでは ダメダメね」 と、レンガを片手に 「これを割って見せて プリーズ」 と無茶なことを言うワカマツ。「なるほど、ま、いいでせう」 とレンガを割り、そのついでに ビール瓶を素手で割るサービス精神旺盛なアスカケン。飛び込んできた実写映像も それらを割っています。「ワンダホー!」 と ワンダホーなワカマツ。そんなこんなで旅立ちの日が やって参りました。「わざわざのお見送り、ありがとうございます」 と ニシナファミリーにお礼を言うアスカケン。「おじさん、これ持ってって!」 と御守りをプレゼントしてくれた、大人を泣かせる シイナ息子ことユーイチくん。「超人追求の夢を求めて!」 と旅客機に乗り込む バロロームなアスカケン。そんなアスカケンを乗せた旅客機は アメリカに向けてギュイーンと飛び立ちました。
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sorairono-neko · 5 years ago
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ぼくだけに聞かせる話を教えて
『勇利の魅力はね、そう……、音楽だよ。わかるだろう? 彼は音楽を奏でるんだ。スケートでね。途切れないのさ。じつにうつくしい。俺��うつくしいものが好きだ。勇利のあの音楽的な、人を魅するスケーティングのとりこになった。彼がすべり始めると、可憐な旋律が流れ出すんだ……』  ヴィクトルが話している。どこか遠くで──近くで。勇利は夢うつつに彼の甘い声を聞いていた。 『彼はね、いつも、言葉にできない何かで人を惹きつけるんだ。まさに芸術だよ。俺は採点員には絶対になりたくないね。だって、勇利のスケートに見蕩れて陶酔するということができなくなるじゃないか? 俺はね、よく勇利に言うんだ。練習終わりにね。勇利、なんでもいいからすべってくれ。ジャンプなんかしなくていい。きみの好きなように、思うように、踊って見せてくれ。昔のプログラムでもいいよ。ジュニアのころのものだって構わない。ただ、きみがすべるところを見たいんだ……』  勇利は幸福に包まれた。ああ、ヴィクトル。そんなふうに思ってくれていたの。ぼくこそ貴方のとりこだというのに、貴方はぼくのスケートを……。 『難しい子でね。でも最高にかわいいよ。どんな勇利でもかわいい。頑固なところも、言うことを聞���ないところも、無茶をするところも、泣き虫なところも……。俺は勇利を愛してるんだ……』  意識がふっと浮上した。勇利はまぶたを開け、目をこすった。どうやら眠ってしまっていたらしい。彼はソファから身を起こし、テレビの大きな画面を見た。ヴィクトルが豪華な椅子に座って脚を高く組み、両手の指を突き合わせて、微笑を浮かべながら話している。彼の深い声音、崇高な顔立ちに勇利は一瞬うっとりした。すぐにリモコンを手にし、映像を停止させる。ヴィクトルの姿が消え失せ、音声がふっと途切れた。 「はあ……」  髪をかき上げ、かるく頭を振る。もう十時か、と時刻を確かめた。寝なければ。明日も朝から練習がある。誰よりもさきにリンクへ行きたい。  ディスクを取り出そうか迷い、勇利は結局そのままにしておいた。どうせ毎夜見ているのだ。明日も見るにきまっている。着替えを取り、入浴するため浴室へ向かった。  いま、勇利はひとりで暮らしていた。でも、ひとり暮らしではない。本当はふたりだ。ヴィクトルとともに住んでいる。しかし彼は一週間ほど前から仕事で家を空けており、そのあいだ、勇利とマッカチンが留守を守っていた。帰りはいつになるかわからない。連絡すると言っていたけれど、ヴィクトルのことだからきっと忘れるだろう。  勇利は熱い湯に浸かり、まぶたを閉ざした。いつもなら、ヴィクトルと一緒に入るのだ。勇利は一度も許可したことなどないのだが、彼が当たり前のように入ってきて、「ほら、つめて」と湯船に割りこんでくるのである。勇利はぶつぶつ文句を言いながらヴィクトルの胸にもたれ、身をあずける。ヴィクトルは勇利の身体をかるく抱いて、髪にくちびるを寄せる。そこで静かに語りあうのだ。  勇利は自分の身を抱きしめた。どうかしている。腕がからみついてこないと落ち着かないなんて。 「マッカチン、寝るよ」  勇利は、彼の部屋でくつろいでいたマッカチンを呼び、寝室へ入った。大きな寝台に横たわり、息をつく。眠るときも、ヴィクトルがいつも勇利を抱きしめるのだ。当たり前のように……。  ヴィクトルはいつ帰ってくるのだろう? 勇利は目を閉じた。  翌日、すこし買い物があったので街へ出た。そのとき、あるレストランの前を通りかかった。由緒正しい、いかにも高級そうな店で、勇利は建物がうつくしいと思って眺めたことがある。そのときヴィクトルは言ったものだ。 『気に入った? 今度連れてきてあげるよ』 『え? ううん、見た感じが好きだなと思って……』 『味も最高だよ。俺はときどきひとりで食べに来てたんだ』 『正装しないとだめなところじゃないの?』 『まあね』 『ぼくやだよ。そんなとこに入りたくない』 『勇利もたまには洗練された作法をためさなくちゃいけない。それが普段のきみを際立たせる。演技のときにだってにじみ出るものだよ』  後ろから人にかるく突き当たられ、勇利ははっと我に返った。立ち止まって店をじっと見ていたのだ。慌てて謝ると、相手も申し訳なさそうに謝罪して歩き去った。勇利も足を動かした。  ヴィクトル……。  ヴィクトルがいないのは一週間ほど前からだけれど、仕事はそれだけではなかった。その前も、さらにその前も、ひんぱんに家を空けている。すこしだけ帰ってきては勇利と過ごし、そしてまた忙しく出ていくのだ。ヴィクトルはロシアの英雄だ。帰還した皇帝を人々は求めている。彼が愛されているのを見るのはうれしい。さすがヴィクトルだな、と誇りに思う。しかし──しかし。  なんだか、すごく変わっちゃったな……。  勇利は、ヴィクトルといつでも一緒に過ごし、離れることなく寄り添っていた長谷津時代を思い出した。あの時期が贅沢で、むしろ普通でないのだと頭ではわかっている。だが、そうして慣れきった身体は簡単にはもとに戻らない。コーチになってもらう前のことを考えてみればいいのに、と思いはするけれど、ヴィクトルの愛を知り、彼に甘やかされた勇利は、もうそんなことはすっかり忘れてしまっているのだ。わがままになったものである。  ヴィクトルに文句を言ったことは一度もない。いっさい態度には出さなかった。ヴィクトルに心配をかけたくないし、さびしいなんて言えるような立場ではない。ヴィクトルを困らせるのはだめだ。それに、ヴィクトルが仕事をするのをいやがっているわけではないのだ。彼の出ている番組は、言葉がわからなくても見ているだけで楽しい。 『勇利、意味わかるの?』 『わかんない。でもヴィクトルの表情がすてきだし、声を聞いてるだけでもどきどきする』 『訳してあげようか』 『え?』 『ヴィクトル・ニキフォロフの発言を、ヴィクトル・ニキフォロフの通訳で聞��るんだ。最高だろ?』  ヴィクトルは得意げに笑った。 『そんなこと、この世界で勝生勇利ただひとりのためにしかしないんだよ、俺は』  またヴィクトルのことを考えている。勇利は困ったように微笑した。このところ、ずっとだ……。 「ただいま、マッカチン」  帰宅すると、マッカチンがうれしそうに寄ってくる。ヴィクトルがいなくてさびしくないかな、と心配したら、マッカチンは勇利を気遣うように見、「勇利くん、さびしくはないですか?」と言いたげに顔を近づけてきた。勇利は笑った。 「マッカチンは優しいねえ」  勇利は食事を済ませると、ソファに横たわり、またあのディスクを再生した。最初からだ。ヴィクトルがホテルの一室に入ってくる。スタッフの問いかけに答え、ゆっくりと語る。優しい表情で。勇利のことを……。  これは日本の番組だった。コーチの目から見た勝生勇利の魅力、という題材のインタビューに応じたものだ。ヴィクトルはずっと勇利のことを話している。愛情をこめて、真剣に、熱心に……。勇利はさびしいとき、いつもこれを見ることにしている。 『見た感じはね、あの通り、ごく地味だね。人ごみにまぎれたらいるのかいないのかわからない。でもね、知ってるだろう? 彼はとてもうつくしいんだ。眼鏡を外し、衣装を身につけ、髪を上げる。それを俺はいつも見ている。俺しか見られない。世界じゅうでただひとり。あの瞬間はぞくぞくするよ。けれど、いちばんぞくっと来るのは、勇利が『入る』瞬間なんだ。彼にはスイッチがあるのさ。うつくしく凛々しく変貌した勇利が、最後の階段を上がる……その瞬間さえ俺のものなんだ……』  勇利は目をほそめた。 『性格は、かたくなでね……、俺にすごく似てるところがある。まったくちがうところもあるんだけどね。ちがうところのほうが多いか……。でも、俺と彼は、魂が同じだよ』  そっと胸元を押さえる。苦しかった。 『コーチになったなりゆき? それは教えられないな……大切な想い出なんだ。あのときの勇利はかわいかったな……』  勇利は両手でおもてを覆った。かぼそい息が漏れる。ヴィクトルに会いたかった。  寝るとき、いつも勇利はベッドの右側で眠る。ヴィクトルは左だ。しかしその夜は、ほとんど真ん中に寄り、ヴィクトルのぬくもりを求めるように手を差し伸べた。ヴィクトルの匂いがすこしだけ濃くなった。勇利は身体をまるめるようにした。  ──こんなことなら、いいよって言っておくんだった。  そんなことを考えた。ヴィクトルはいつも勇利を口説くのだ。勇利、きみを抱きたい。ほほえみながら、しかしこのうえもなくきまじめに、疑いようもなく真剣にささやく。きみを肌で感じて、きみをもっとわかりたい。勇利のすべてを知りたいんだ。俺のことも感じてもらいたい。俺がどれほど熱くなって、勇利をどんなふうに求めるのか。勇利を手に入れたらどんなに幸福そうにするのか。わかってもらいたいんだよ……。  ヴィクトルは、根気よく、倦むことなく誘ってくれた。それなのに勇利はこわがって、ごめんなさい、と謝り続けた……。  何がこわかったのか、よくわからない。変化か。それとも、もっと夢中になってしまうことか。いったい──何が……。  勇利は眠り���落ちた。夢を見た。毎夜見ている映像のひとはしだった。ヴィクトルは、とろけるような微笑を浮かべ、甘い声で言う。 『勇利に似合う花は青い花だ。青いばらだね。それは俺の花だろうって? だったらなおさら彼にあげたいな。想像してみるといい。青いばらの花冠を頭にのせた勇利を。ぞくぞくしないか? 最高にうつくしいだろう……』  ヴィクトルは鍵を開け、家の中へ入った。なつかしい匂いがしてほっとした。勇利はしばしば、この家の匂いを「ヴィクトルの匂い」と批評しているが、ヴィクトルからするとここは勇利の匂いでいっぱいなのだった。  廊下を歩き、居間へと向かう。何か話し声が聞こえた。勇利の声ではない。ヴィクトルは扉をひらいた。大きな画面の中で、ヴィクトルが、しあわせそうに熱心に語っていた。勇利の話だった。ヴィクトルはしばらく、そこに映っている自分を眺めた。もっと言えばよかった、こんなものでは勇利の魅力を伝えきれない、と後悔した。ソファをまわりこんで、そこにいる勇利を見下ろす。うずくまっていたマッカチンが顔を上げた。ヴィクトルはくちびるの前に指を一本立てた。勇利は子どもっぽい顔を見せ、おむすびのぬいぐるみを抱きしめて、すやすやと深く眠りこんでいた。ヴィクトルはほほえんだ。しかし、その笑みはすぐに驚きに変わった。勇利のまなじりに、花雫のような涙が浮かんでいたのだ。 「勇利……」  かわいい勇利。俺の勇利……。ヴィクトルはソファのすみに浅く腰掛けると、身をかがめ、勇利の目元に優しく接吻した。涙をくちびるでぬぐってやる。勇利がふっと息をつき、すこし身じろいだ。 「ヴィクトル……」  起きるかと思ったけれど、彼は寝息をたてて眠り続けている。ヴィクトルは勇利の髪をそっとかきわけた。その手つきはいかにもいとおしげで、ふんだんに愛情がこもっていた。勇利の楚々としたまつげが揺れた。  そのとき、テレビの中で、ヴィクトルがしあわせそうに言った。 『俺にとっての勇利? ──そうだな。すべての愛かな』  ヴィクトルはくちびるをほころばせた。画面から勇利に視線を移し、甘いまなざしでじっとみつめる。 「愛してるよ、勇利」  ヴィクトルは、誰も聞いたことがないほど優しい声でささやいた。 「ん……」  勇利はもぞもぞと身体を転がし、うっすらとまぶたを開けた。ああ、また寝ちゃった、と溜息をつく。静かに目を動かした。マッカチンがいない。寝室にいるのか。それとも勇利の部屋か。 「ごはん食べなきゃ……」  今日はすこし早い時間に帰ってきたのだった。夕食までのあいだ、と思っていつものディスクを再生してしまった。まだ何も食べていない。  起き上がろうとした彼は、何かを手に持っていることに気がついた。ふとうつむき、たずさえているものに驚いて瞬く。 「なんで……?」  勇利が持っているのは青いばらだった。一輪だけ。だが、いかにもうつくしく、高貴で、さっと目を惹いた。勇利はまつげを伏せ、そっと花びらに接吻した。──なぜこんなものを持っているのだろう?  首をかしげたところで、またびっくりした。勇利はいつもの部屋着を着ていなかった。なぜか、きちんと正装している。見たこともない上質なスーツだ。どうして? これは夢だろうか?  勇利はそろそろと起き上がった。そのとき、足音が近づいてき、扉がひらいてヴィクトルが入ってきた。 「ああ、起きたのかい?」 「ヴィクトル」  勇利は目をまるくした。ふらふらと立ち上がる。 「い……いつ帰ってきたの……?」 「さっきだよ。ただいま、勇利」  ヴィクトルは勇利に顔を寄せると、頬にかるくくちづけた。勇利は赤くなった。 「この花……」 「ああ、おみやげだよ。勇利にふさわしいだろう?」  ヴィクトルは笑って花にも接吻する。勇利はますます赤くなった。 「きみにあげよう。飾っておこうね……。さあ行こう」 「ど、どこへ?」  手を引かれ、勇利はうろたえた。ヴィクトルは陽気に言う。 「食事だよ。まだだろう?」 「え? あ……」 「あの店に行こう。いつか話したレストラン」  見ると、ヴィクトルもきちんとスーツを着こんでいる。シャワーを浴びて着替えたらしい。なんてすてきなんだろう……。勇利は胸のときめかしさに、わずかに呼吸をみだした。 「この服……、ヴィクトルが着せたの……?」 「そうだよ。見かけて、勇利に似合うから買った。帰ったら勇利をエスコートしようと思ってね。楽しみにしてたんだ」  ヴィクトルは明朗に言った。 「さあ、おいで」  腕につかまるよううながされ、その通りにしたけれど、勇利は彼の手を引いて足を止めた。ヴィクトルが不思議そうな顔をする。 「……勇利?」 「あ、あの……」  勇利は気恥ずかしげにうつむいた。 「ぼく……、それより……」 「うん?」  ヴィクトルがにっこりする。 「別に行きたいところがある? 俺はどこでもいいよ。オーケィ、勇利、きみの希望を聞こう」 「あの……、ぼく……、ぼく……」  勇利はしどろもどろになった。どんどん顔が熱くなる。心臓がどきどきと打った。どうしよう。やめておこうか。言わないほうがいい。恥ずかしい。もうその気じゃなかったらどうしよう? 帰ってくるなりなんだ、と笑われるかも。あきれられるのは絶対にいやだ。やっぱりこのまま食事に行こう。それがいい。 ���……でも……。  口ごもり、まっかになっている勇利を見て、ヴィクトルがふっとほほえんだ。彼は勇利の耳元にくちびるを寄せると、甘美な、愛撫するような声でささやいた。 「いま、きみを抱きたいと言ったら、きみはいつもとはちがう答えをくれるかい……?」  勇利ははっとした。答えようとした。たまらなく恥ずかしく、上手く言葉が出てこない。代わりに彼は目を上げ、ヴィクトルをみつめた。その瞳が雄弁に愛を語った。まるでキスするように勇利はヴィクトルを見たのである。 「ためしてみて、いいかい……」  ヴィクトルが優しく言った。勇利はこっくりとうなずいた。ヴィクトルはレストランではなく、寝室に勇利をエスコートした。上品に腰を抱かれ、ベッドに座る。上着を肩からすべり落とされる。ベストがひらかれ、ネクタイをほどかれ、シャツのボタンをひとつずつ外された。勇利は身をちぢめ、羞恥にふるえながらされるがままになっていた。  ヴィクトルは丁寧に、紳士的に勇利の服をすべて脱がせた。彼はゆっくりと勇利の裸身を横たえ、水際立った笑みを浮かべた。 「綺麗だよ」  あたたかな声で勇利を褒めて、自分も上着を脱ぎ捨てた。勇利はどうすればいいかわからず、白い手を下腹にのせ、もう一方の腕を身体に添わせてじっとしていた。ヴィクトルがのしかかってきた。ああ、と勇利は思った。ヴィクトルのはかりしれぬ瞳は深く澄んで、誠実であり、情熱的��った。 「後悔しないかい」  ヴィクトルが最後の逃げ道をつくるように尋ねた。勇利はせつなく彼をみつめた。 「後悔なら、もうしてる……」  勇利はささやいた。 「ヴィクトルがいないあいだ、ずっと考えてた……」  ヴィクトルの双眸はうつくしい。このひとになら、何もかも捧げたいと感じた。 「もっと早くにこうしておけばよかったって……」 「──勇利」  ヴィクトルの声が聞こえたと思った瞬間、彼の甘いくちづけが与えられ、そしてきつく抱きしめられた。 「あ……」 「勇利、かわいい」 「かわいくないよ……」  勇利はしょんぼりと目を伏せた。 「こんな意地っ張りで気難しくて頑固なぼく、かわいいわけない……」  ヴィクトルがまぶたをほそめた。彼はどういうわけか、たまらなくうれしいというふうにすてきに笑い、勇利の素肌にふれて熱っぽくつぶやいた。 「不埒なほどかわいいな、おまえは」  勇利は気恥ずかしく、ヴィクトルの顔が見られなかった。それでヴィクトルに背を向けたのだが、彼は背後から勇利を抱きしめ、力をこめた。ふたりの素肌がぴったりとくっついた。 「怒ってるのかい?」  ヴィクトルがやわらかな声で尋ねた。勇利は答えなかった。その代わり、胸元にあるヴィクトルの腕にそっとてのひらを当てた。 「あの映像、毎晩見ていたのかな?」  勇利はやはり答えられなかった。ヴィクトルが楽しそうに言う。 「あれでは足りないね。もっと勇利のことを話せばよかった。もっとも、万人に聞かせる話でもないか……」 「ぼくだけに聞かせる話を教えて……」 「いいよ」  ヴィクトルは勇利の耳たぶにくちづけた。勇利は目を閉じた。 「勇利、きみは俺のことを愛しているんだよ。知らなかっただろう? いや、自覚している愛のことじゃない。もっと奥深い、すぐれて甘い感情のことだ。いま、こうしていて何を感じる?」 「……ヴィクトルの愛を」 「そうだろう。それは俺を愛していなければ理解することのできないものなんだよ。わかるかな?」 「……わからない」 「そうか。それでもいいさ。頭でわからなくても、身体で、こころでわかることがある……」 「……ぼくはずっとヴィクトルを愛してたの?」 「ああ、とてもね。勇利は俺とこうなりたかったんだよ。俺に抱かれたかったんだ」 「本当?」 「うそなんかつかない。疑うかい?」  勇利はヴィクトルの手を握りしめた。ゆっくりと持ち上げ、指にくちびるを押し当てる。 「……ううん」 「信じる?」 「……信じる」 「いい子だ」  ヴィクトルが勇利の髪にくちづけた。勇利はほそく息を吐いた。 「じゃあ、ぼくはこれからどうなるの……」 「もちろん俺と愛しあうんだよ。わかってるだろう?」 「わからない。愛しあうってどうやって……?」 「きみはもう知ってるさ。いま愛しあったばかりじゃないか」 「そうじゃなくて……日々の暮らしの中で……ぼくは……」 「そんなのはささいな問題だ。俺がいてきみがいれば、愛というものは自然とはぐくまれる。そうしないようにしようと思ったってできないくらいだ。だってお互い強く惹かれ、求めあっている」 「本当に? ヴィクトルもぼくを求めてる?」 「なんだ、気づいてなかったのか? あんなに熱心に口説いてたのに?」 「だって……ヴィクトルが語ってくれたようなスケートをぼくが本当にできているのか、わからないよ……」 「言うと思ったよ。きみは本当に何もわかっていない。そういうところがかわいいんだ。ただ、盲目的に俺に愛を捧げている。褒めて欲しいな。そんなきみに無茶をせず、俺はずっと待っていたんだ。ご褒美が欲しい」 「ご褒美……」 「勇利は自分の気持ちもつかみきれていないようだから無���もないが、俺がどれだけおまえを愛しているか、おまえは正確にはわきまえていないだろう。一度抱いたくらいじゃだめだね……」  ヴィクトルは明るく言い、それから勇利の肩口にくちびるを寄せた。 「あ……」 「まあいいよ。扉はひらかれた。あとは……。言っておくけど、わざと長く留守にしたわけじゃないよ。そんなことはとてもできない。俺は勇利を傷つけたりはしない。それに、俺だって苦しいんだからね。こうなることがわかっていたわけでもない……」  ヴィクトルの手が勇利の身体をまさぐった。勇利はまぶたを閉ざし、呼吸を深くして、ヴィクトルのあたたかさを感じていた。ヴィクトルは勇利の耳に幾度もくちづけ、熱い吐息を漏らしてささやいた。 「愛してるよ……」  勇利のむきだしの肩がふるえた。ヴィクトルはいつくしむようにそれを撫で、とろけるような声で優しく頼んだ。 「そろそろこちらを向いてくれ……」 「…………」 「怒ってるのかい……?」  勇利は息を吸った。思いきってヴィクトルのほうを向き、ぎゅっと抱きついて甘えるように言った。 「喜んでるんだよ、ぼくは……!」  ヴィクトルの真っ青な瞳がすぐそこにあった。 「そこまでぼくのことわかってるなら、そのことだってわかるでしょ……」 「言わせたいんだよ。愛する子の声を聞きたい」  勇利はくちびるを押しつけた。不器用な、幼い、どうしようもないくちづけだ。しかしヴィクトルは目をほそめて笑い、子どものように喜んだ。 「勇利、こうなったことでおまえはまたいろいろと考えるだろうね。そうせずにはいられないたちだからね。でも勇利、その必要はないんだ。いいかい、きみ、もう何も考えなくていい。勇利はね……、俺を見ているだけでじゅうぶんなのさ。それだけで万事問題ないんだ。俺はいつだって、勇利にしか見せない目を、笑い方を、物言いをしているんだよ。わかるかい? 全部伝えて、教えて、愛するから……。もうあのディスクは必要ないね。捨ててしまおう。これからは俺が毎夜、きみへの愛を語り、きみのうつくしさを称えるよ。いいだろう? 聞いてるかい、勇利。おまえはくるおしいほどかわいいな。その慎ましやかな目つき……」
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2ttf · 13 years ago
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mishika-hanagatami · 6 years ago
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透明な恋には折り合いを~ピエロの夜はもういらない 2
 ここ数カ月、“失恋モード”な��である。
 少女漫画の金字塔『BANANA FISH』を読んでしまったため��。素晴らしかった。今まで、実生活に支障が出る自信しかないため手をつけないでいたのだけれど、その判断がいかに賢明だったのか。その事実に、横っ面を張られた感じ。
 一気に読んで、一気に魂が抜けた。今、アニメが放送されているが、視聴するたびにどれだけの覚悟が必要か。あの展開に色がついて、そしてキャラクターが話すわけで……考えただけでぎゅっと心臓を掴まれる。
 なぜ、これまで『BANANA FISH』を手に取らなかったか。それは、主人公のアッシュに理由がある。
 アッシュのモデルとなった人物を知っているだろうか。
 そう、リヴァー・フェニックスである。10歳の私が初めて好きになった映画スター、まさに初恋の人だ。
 リヴァーを思い出させてくれる出来事が、私の人生には数年おきに訪れる。
 10歳のときに初めて『スタンド・バイ・ミー』を観て、彼を忘れられなくなった。大学時代、課題のためにロードムービーを調べていた。そのときにふと彼の存在を思い出した。少しの財力にものをいわせて、『マイ・プライベート・アイダホ』を購入。今度こそ、本物の忘れられない人になった。
 そして、今年。24歳になった私は『BANANA FISH』と出会う。鮮明なリヴァーの姿が目の前に浮かんできた。漫画を読んで、アッシュの姿が彼と重なった。どんなシーンも泣けてきて、ふと気が付いた。私、リヴァーの年齢を越えている、と。
 リヴァーは25年前から立ち止まったままで、私は彼の現在を渇望していて。この、ままならない感じが私の頭にモヤをまとわせる。
 アッシュとリヴァー、2人の姿が重なって、私はこの上ないほどに悲しくて寂しい。
Tumblr media
 そんなふうに、重めの失恋モード真っただ中の私。
 古文の演習のためにテキストを開くと『大鏡』が出題されていた。『大鏡』は、言わずもがな藤原氏、主に道長の繁栄が描かれている歴史書的なやつである。
 高校時代、敬語表現やらを学ぶために1度は読んだことがある人も多いのではないだろうか。私が読んだのは「影をば踏まで、面をば踏まん」という、なんとも傲慢なエピソードだった。……道長、嫌いだったなぁ。
 そんな『大鏡』、取り上げられていたエピソードは藤原義孝さまが亡くなったときのものだった。
 藤原義孝さまは、信心深く、美しく、歌が��まく、一途……そして、薄命。まさに、物語の主人公のような方なのだ。
 一番有名なのは、百人一首50番のあの歌だろう。
50 君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな
【意訳】あなたに会うために捨ててもいいと思っていたこの命だけれど、あなたと出会った今となっては、ずっと続いてほしいと願ってしまう。
 歌人というものは、本当にロマンチストだ。現代ではちょっと重いのかもしれないけれど、ここまで命をかけられたら女としては喜びしかないと思う。
 ある意味、一番の娯楽が“恋”だった当時ならばなおさらだ。この歌を、後朝の文として贈られた姫が、私は心底うらやましい。
 私の憧れのひとりである、藤原義孝さま。
 23歳で亡くなったことはもちろん知っていたけれど、ここでこのエピソードに出会うとは。失恋モードでボロボロだった私の情緒を、『大鏡』は容赦なく揺すった。
 判明した瞬間に私のテンションは急降下し、そのテンションのままに、テキストを開いている高校生に向けて知識の確認を交えて現代語訳を話していった。
「……という、話。分かった?」
「わからん」
 キー!どういうこと!となったら、あのさーとため息交じりに切り出される。
「聞いてたけど、お経みたいに話していくから全く頭に入らなかった」
 ……なるほど。
 テンションと共に、具合が悪くなった私は声が出なくなっていた。それに、とても悲しかったのだ。好きな人が弱っていく様子を話すことが、これほどまでに苦しいことだとは思わなかった。
「私、最近失恋モードなのよ」
「失恋のモードってあるの?」
 呆れた眼差しを向けられたので、正面から目を見据えて失恋モ���ドについて話す。
「初恋の人の年齢、超えちゃったの。私の重ねてきた24年が、リヴァーにはないんだと思ったら、さ……」
 わかんねー!と高校生は首を掻いて、私の失恋モードの理解は放棄することにしたらしい。
 小学生のときの初恋がリヴァーで、高校時代の恋はきっと義孝さまだったんです。
 シンプルな言葉で、美しい世界を紡いだ義孝さまが大好きだった。私を和歌の世界に引き込んだ、1つのきっかけでもある。自分でも想定外の傷みに、私自身が戸惑っていた。
意志の強い目でカメラを真っ直ぐに見据えるリヴァーが大好きだ。細かく震える瞳に、美しい肢体……考え抜かれた演技は多くの人を魅了する。彼の繊細すぎる心と、彼のまとった環境は、きっとこの世界を生き抜くことを耐えられなかったのだろう。その証拠に、彼の存在は今でも色褪せることなく、儚く輝いている。
 これからもずっと、リヴァーのことはきっと忘れられない。忘れるつもりもない。義孝さまのことも同じ。絶対に忘れないし、どれだけ苦しく悲しくなっても忘れたくないと思う。
 こうして、大人になっていくのかなぁ。
 一度も顔を合わせたことのない人���好きになるなんて、という人もいるけれど、この傷みはやっぱり本物だと思うし、そう思わせてほしい。
 傷みと向き合いながら、彼らが残してくれた作品や言葉を深く長く愛したい。
 私には、彼らの残した美しい軌跡を想うことしかできないのだから。
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groyanderson · 3 years ago
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
☆プロトタイプ版☆ こちらは電子書籍「ひとみに映る影 シーズン2」の 無料プロトタイプ版と��ります。 誤字脱字等修正前のデータになりますので、あしからずご了承下さい。
☆ここから買おう☆
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
 ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」  この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」  禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」  さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」  あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ���ご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」  五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。  千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。  アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。  ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」  あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」  そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた���大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。  魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」  禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」  佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」  食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」  死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」  すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」  魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」  時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」  私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁��塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」  斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」  佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」  生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!)  道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です―  自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」  圧。 「ッ!?」  私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」  私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」  魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」  私はそこに拳を当て、無言で頷いた。  こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」  斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」  すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」  昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」  万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなく��人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」  万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」  その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」  総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
 大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。  薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。  幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」  私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」  青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」  指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」  青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」  夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」  青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」  デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」  私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」  カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」  私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」  夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」  空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」  私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」  すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」  咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」  毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」  この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着��! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」   ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」  苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」  押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」  人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」  犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!)  日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」  私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」  ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」  小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』  徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽  徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』  すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後���度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
 時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」  ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」  青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」  その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」  私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」  しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」  一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」  民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽  ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」  ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」  ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」  両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽  そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
 所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。  そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」  バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」  河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」  ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」  見上げると空���を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」  ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」  頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」  カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」  御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」  ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」  ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」  八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」  シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る!  大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」  しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」  ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」  呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」  ぽこぽん、シャララン! 佳奈さん��万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」  ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」  こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」  斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」  そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」  御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
 御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」  会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」  石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」  ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」  その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」  ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」  私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」  神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」  スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」  身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」  微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」  大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」  私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわああああああ��!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」  シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不��過能滅諸有苦!」  仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」  たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」  お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」  獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」  どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」  雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」  ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。  時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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kurihara-yumeko · 4 years ago
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【小説】The day I say good-bye(4/4) 【再録】
 (3/4)はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/648720756262502400/)
 今思えば、ひーちゃんが僕のついた嘘の数々を、本気で信じていたとは思えない。
 何度も何度も嘘を重ねた僕を、見抜いていたに違いない。
「きゃああああああああああああーっ!」
 絶叫、された。
 耳がぶっ飛ぶかと思った。
 長い髪はくるくると幾重にもカーブしていた。レースと玩具の宝石であしらわれたカチューシャがまるでティアラのように僕の頭の上に鎮座している。桃色の膨らんだスカートの下には白いフリルが四段。半袖から剥き出しの腕が少し寒い。スカートの中もすーすーしてなんだか落ち着かない。初めて穿いた黒いタイツの感触も気持ちが悪い。よく見れば靴にまでリボンが付いている。
 鏡に映った僕は、どう見てもただの女の子だった。
「やっだー、やだやだやだやだ、どうしよー。――くんめっちゃ女装似合うね!」
 クラス委員長の長篠めいこさん(彼女がそういう名前であることはついさっき知った)は、女装させられた僕を明らかに尋常じゃない目で見つめている。彼女が僕にウィッグを被らせ、お手製のメイド服を着せた本人だというのに、僕の女装姿に瞳を爛々と輝かせている。
「準備の時に一度も来てくれないから、衣装合わせができなくてどうなるかと思っていたけど、サイズぴったりだね、良かった。――くんは華奢だし細いし顔小さいしむさくるしくないし、女装したところでノープロブレムだと思っていたけれど、これは予想以上だったよっ」
 準備の際に僕が一度も教室を訪れなかったのは、連日、保健室で帆高の課題を手伝わされていたからだ。だけれどそれは口実で、本当はクラスの準備に参加したくなかったというのが本音。こんなふざけた企画、携わりたくもない。
 僕が何を考えているかを知る由もない長篠さんは、両手を胸の前で合わせ、真ん丸な眼鏡のレンズ越しに僕を見つめている。レーザー光線のような視線だ。見つめられ続けていると焼け��げてしまいそうになる。助けを求めて周囲をすばやく見渡したが、クラスメイトのほぼ全員がコスチュームに着替え終わっている僕の教室には、むさくるしい男のメイドか、ただのスーツといっても過言ではない燕尾服を着た女の執事しか見当たらない。
「すね毛を剃ってもらう時間はなかったので、急遽、脚を隠すために黒タイツを用意したのも正解だったね。このほっそい脚がさらに際立つというか。うんうん、いい感じだねっ!」
 長篠さん自身、黒いスーツを身に纏っている。彼女こそが、今年の文化祭でのうちのクラスの出し物、「男女逆転メイド・執事喫茶」の発案者であり、責任者だ。こんなふざけた企画をよくも通してくれたな、と怨念を込めてにらみつけてみたけれど、彼女は僕の表情に気付いていないのかにこにこと笑顔だ。
「ねぇねぇ、――くん、せっかくだし、お化粧もしちゃう? ネイルもする? 髪の毛もっと巻いてあげようか? あたし、――くんだったらもっと可愛くなれるんじゃないかなって思うんだけど」
 僕の全身を舐め回すように見つめる長篠さんはもはや正気とは思えない。だんだんこの人が恐ろしくなってきた。
「めいこ、その辺にしておきな」
 僕が何も言わないでいると、思わぬ方向から声がかかった。
 振り向くと僕の後ろには、長身の女子が立っていた。男子に負けないほど背の高い彼女は、教室の中でもよく目立つ。クラスメイトの顔と名前をろくに記憶していない僕でも、彼女の姿は覚えていた。それは背が高いという理由だけではなく、言葉では上手く説明できない、長短がはっきりしている複雑で奇抜な彼女の髪型のせいでもある。
 背が決して高いとは言えない僕よりも十五センチほど長身の彼女は、紫色を基調としたスーツを身に纏っている。すらっとしていて恰好いい。
「――くん、嫌がってるだろう」
「えー、あたしがせっかく可愛くしてあげようとしてるのにー」
「だったら向こうの野球部の連中を可愛くしてやってくれ。あんなの、気味悪がられて客を逃がすだけだよ」
「えー」
「えー、とか言わない。ほらさっさと行きな。クラス委員長」
 彼女��言われたので仕方なく、という表情で長篠さんが僕の側から離れた。と、思い出したかのように振り向いて僕に言う。
「あ、そうだ、――くん、その腕時計、外してねっ。メイド服には合わないからっ」
 この腕時計の下には、傷跡がある。
 誰にも見せたことがない、傷が。
 それを晒す訳にはいかなかった。僕がそれを無視して長篠さんに背を向けようとした時、側にいた長身の彼女が僕に向かって口を開いた。
「これを使うといいよ」
 そう言って彼女が差し出したのは、布製のリストバンドだった。僕のメイド服の素材と同じ、ピンク色の布で作られ、白いレースと赤いリボンがあしらわれている。
「気を悪くしないでくれ。めいこは悪気がある訳じゃないんだけど……」
 僕の頭の中は真っ白になっていた。突然手渡されたリストバンドに反応ができない。どうして彼女は、僕の手首の傷を隠すための物を用意してくれているんだ? 視界の隅では長篠さんがこちらに背を向けて去って行く。周りにいる珍妙な恰好のクラスメイトたちも、誰もこちらに注意を向けている様子はない。
「一体、どういう……」
 そう言う僕はきっと間抜けな顔をしていたんだろう、彼女はどこか困ったような表情で頭を掻いた。
「なんて言えばいいのかな、その、きみはその傷を負った日のことを、覚えてる?」
 この傷を負った日。
 雨の日の屋上。あーちゃんが死んだ場所。灰色の空。緑色のフェンス。あと一歩踏み出せばあーちゃんと同じところに行ける。その一歩の距離。僕はこの傷を負って、その場所に立ち尽くしていた。
 同じところに傷を負った、ミナモと初めて出会った日だ。
「その日、きみ、保健室に来たでしょ」
 そうだ。僕はその後、保健室へ向かった。ミナモは保健室を抜け出して屋上へ来ていた。そのミナモを探しに来た教師に僕とミナモは発見され、ふたり揃って保健室で傷の手当を受けた。
「その時私は、保健室で熱を測っていたんだ」
 ���の時に保健室に他に誰かいたかなんて覚えていない。僕はただ精いっぱいだった。死のうとして死ねなかった。それだけで精いっぱいだったのだ。
 長身の彼女はそう言って、ほんの少しだけ笑った。それは馬鹿にしている訳でもなく、面白がっている訳でもなく、微笑みかけてくれていた。
「だから、きみの手首に傷があることは知ってる。深い傷だったから、痕も残ってるんだろうと思って、用意しておいたんだ」
 私は裁縫があまり得意ではないから、めいこの作ったものに比べるとあまり良い出来ではないけどね。彼女はそう付け足すように言う。
「使うか使わないかは、きみの自由だけど。そのまま腕時計していてもいいと思うしね。めいこは少し、完璧主義すぎるよ。こんな中学生の女装やら男装やらに、完璧さなんて求めてる人なんかいないのにね」
 僕はいつも、自分のことばかりだ。今だって、僕の傷のことを考慮してくれている人間がいるなんて、思わなかった。
 それじゃあ、とこちらに背を向けて去って行こうとする彼女の後ろ姿を、僕は呼び止める。
「うん?」
 彼女は不思議そうな顔をして振り向いた。
「きみの、名前は?」
 僕がそう尋ねると、彼女はまた笑った。
「峠茶屋桜子」
 僕は生まれて初めて、クラスメイトの顔と名前を全員覚えておかなかった自分を恥じた。
    峠茶屋さんが作ってくれたリストバンドは、せっかくなので使わせてもらうことにした。
 それを両手首に装着して保健室へ向かってみると、そこには河野ミナモと河野帆高の姿が既にあった。
「おー、やっと来たか……って、え、ええええええええええええ!?」
 椅子に腰掛け、行儀の悪いことに両足をテーブルに乗せていた帆高は、僕の来訪を視認して片手を挙げかけたところで絶叫しながら椅子から落下した。頭と床がぶつかり合う鈍い音が響く。ベッドのカーテンの隙間から様子を窺うようにこちらを見ていたミナモは、僕の姿を見てから興味なさそうに目線を逸らす。相変わらず無愛想なやつだ。
「な、何、お前のその恰好……」
 床に転がったまま帆高が言う。
「何って……メイド服だけど」
 帆高には、僕のクラスが男女逆転メイド・執事喫茶を文化祭の出し物でやると言っておいたはずだ。僕のメイド服姿が見物だなんだと馬鹿にされたような記憶もある。
「めっちゃ似合ってるじゃん、お前!」
「……」
 不本意だけれど否定できない僕がいる。
「びびる! まじでびびる! お前って実は女の子だった訳!?」
「そんな訳ないだろ」
「ちょっと、スカートの中身、見せ……」
 床に座ったまま僕のメイド服に手を伸ばす帆高の頭に鉄拳をひとつお見舞いした。
 そんな帆高も頭に耳、顔に鼻、尻に尻尾を付けており、どうやら狼男に変装しているようだ。テーブルの上には両手両足に嵌めるのであろう、爪の生えた肉球付きの手袋が置いてある。これぐらいのコスプレだったらどれだけ心穏やかでいられるだろうか。僕は女装するのは人生これで最後にしようと固く誓った。
「そんな恰好で恥ずかしくないの? 親とか友達とか、今日の文化祭に来ない訳?」
「さぁ……来ないと思うけど」
 僕の両親は今日も朝から仕事に行った。そもそも、今日が文化祭だという事実も知っているとは思えない。
 別の中学校に通っている小学校の頃の友人たちとはもう連絡も取り合っていないし、顔も合わせていないので、来るのか来ないのかは知らない。僕以外の誰かと親交があれば来るのかもしれないが、僕には関係のない話だ。
 そう、そのはずだった。だが僕の予想は覆されることになる。
 午前十時に文化祭は開始された。クラス委員長である長篠めいこさんが僕に命じた役割は、クラスの出し物である男女逆転メイド・執事喫茶の宣伝をすることだった。段ボール製のプラカードを掲げて校舎内を循環し、客を呼び込もうという魂胆だ。
 結局、ミナモとは一言も言葉を交わさずに出て来てしまった、と思う。うちの学校の文化祭は一般公開もしている。今日の校内にはいつも以上に人が溢れている。保健室登校のミナモにとっては、つらい一日になるかもしれない。
 お化け屋敷を出し物にしているクラスばかりが並んでいる、我が校の文化祭名物「お化け屋敷ロード」をすれ違う人々に異様な目で見られていることをひしひしと感じながら、プラカードを掲げ、チラシを配りながら歩いていくと、途中で厄介な人物に遭遇した。
「おー、少年じゃん」
 日褄先生だ。
 目の周りを黒く塗った化粧や黒尽くめのその服装はいつも通りだったが、しばらく会わなかった間に、曇り空より白かった頭髪は、あろうことか緑色になっていた。これでスクールカウンセラーの仕事が務まるのだろうか。あまりにも奇抜すぎる。だが咄嗟のことすぎて、驚きのあまり声が出ない。
「ふーん、めいこのやつ、裁縫上手いんじゃん。よくできてる」
 先生は僕の着用しているメイド服のスカートをめくろうとするので、僕はすばやく身をかわして後退した。「変態か!」と叫びたかったが、やはり声にならない。
 助けを求めて周囲に視線を巡らせて、僕は人混みからずば抜けて背の高い男性がこちらに近付いてくるのがわかった。
 前回、図書館の前で出会った時はオールバックであったその髪は、今日はまとめられていない。モスグリーンのワイシャツは第一ボタンが開いていて、おまけにネクタイもしていない。ズボンは腰の位置で派手なベルトで留められている。銀縁眼鏡ではなく、色の薄いサングラスをかけていた。シャツの袖をまくれば恐らくそこには、葵の御紋の刺青があるはずだ。左手の中指に日褄先生とお揃いの指輪をしている彼は、日褄先生の婚約者だ。
「葵さん……」
 僕が名前を呼ぶと、彼は僕のことを睨みつけた。しばらくして、やっと僕のことが誰なのかわかったらしい。少し驚いたように片眉を上げて、口を半分開いたところで、
「…………」
 だが、葵さんは何も言わなかった。
 僕の脇を通り抜けて、日褄先生のところに歩いて行った。すれ違いざまに、葵さんが何か妙なものを小脇に抱えているなぁと思って振り返ってみると、それは大きなピンク色のウサギのぬいぐるみだった。
「お、葵、お帰りー」
 日褄先生がそう声をかけると、葵さんは無言のままぬいぐるみを差し出した。
「なにこのうさちゃん、どうしたの?」
 先生はそれを受け取り、ウサギの頭に顎を置きながらそう訊くと、葵さんは黙って歩いてきた方向を指差した。
「ああ、お化け屋敷の景品?」
 葵さんはそれには答えなかった。そもそも僕は、彼が口を利いたところを見たことがない。それだけ寡黙な人なのだ。彼は再び僕を見ると、それから日褄先生へ目線を送った。ウサギの耳で遊ぶのに夢中になっていた先生はそれに気付いているのかいないのか、
「男女逆転メイド・執事喫茶、やってるんだって」
 と僕の服装の理由を説明した。だが葵さんは眉間の皺を深めただけだった。そしてそのまま、彼は歩き出してしまう。日褄先生はぬいぐるみの耳をぱたぱた手で動かしていて、それを追おうともしない。
「……いいんですか? 葵さん、行っちゃいましたけど……」
「あいつ、文化祭ってものを見たことがないんだよ。ろくに学校行ってなかったから。だから連れて来てみたんだけど、なんだか予想以上にはしゃいじゃってさー」
 葵さんの態度のどこがはしゃいでいるように見えるのか、僕にはわからないが、先生にはわかるのかもしれない。
「あ、そうだ、忘れるところだった、少年のこと、探しててさ」
「何か用ですか?」
「はい、チーズ」
 突然、眩しい光が瞬いた。一体いつ、どこから取り出したのか、先生の手にはインスタントカメラが握られていた。写真を撮られてしまったようだ。メイド服を着て、付け毛を付けている、僕の、女装している写真が……。
「な、ななななななな……」
 何をしているんですか! と声を荒げる��もりが、何も言えなかった。日褄先生は颯爽と踵を返し、「あっはっはっはっはー!」と笑いながら階段を駆け下りて行った。その勢いに、追いかける気も起きない。
 僕はがっくりと肩を落とし、それでもプラカードを掲げながら校内の循環を再開することにした。僕の予想に反して、賑やかな文化祭になりそうな予感がした。
 お化け屋敷ロードの一番端は、河野帆高のクラスだったが、廊下に帆高の姿はなかった。あいつはお化け役だから、教室の中にいるのだろう。
 あれから、帆高はあーちゃんが僕に残したノートについて一言も口にしていない。僕の方から語ることを待っているのだろうか。協力してもらったのだから、いずれきちんと話をするべきなんじゃないかと考えてはいるけれど、今はまだ上手く、僕も言葉にできる自信がない。
 廊下の端の階段を降りると、そこは射的ゲームをやっているクラスの前だった。何やら歓声が上がっているので中の様子を窺うと、葵さんが次々と景品を落としているところだった。大人の本気ってこわい。
 中央階段の前の教室では、自主製作映画の上映が行われているようだった。「戦え!パイナップルマン」というタイトルの、なんとも言えないシュールな映画ポスターが廊下には貼られている。地球侵略にやってきたタコ星人ヲクトパスから地球を救うために、八百屋の片隅で売れ残っていた廃棄寸前のパイナップルが立ち上がる……ポスターに記されていた映画のあらすじをそこまで読んでやめた。
 ちょうど映画の上映が終わったところらしい、教室からはわらわらと人が出てくる。僕は歩き出そうとして、そこに見知った顔を見つけてしまった。
 色素の薄い髪。切れ長の瞳と、ひょろりとした体躯。物静かな印象を与える彼は、
「あっくん……」
「うー兄じゃないですか」
 妙に大人びた声音。口元の端だけを僅かに上げた、作り笑いに限りなく似た笑顔。
 鈴木篤人くんは、僕よりひとつ年下の、あーちゃんの弟だ。
「一瞬、誰だかわかりませんでしたよ。まるで女の子だ」
「……来てたんだ、うちの文化祭」
 私立の中学校に通うあっくんが、うちの中学の文化祭に来たという話は聞いたことがない。それもそのはずだ。この学校で、彼の兄は飛び降り自殺したのだから。
「たまたま今日は部活がなかったので。ちょっと遊びに来ただけですよ」
 柔和な笑みを浮かべてそう言う。だけれどその笑みは、どこか嘘っぽく見えてしまう。
「うー兄は、どうして女装を?」
「えっと、男女逆転メイド・執事喫茶っていうの、クラスでやってて……」
 僕は掲げていたプラカードを指してそう説明すると、ふうん、とあっくんは頷いた。
「それじゃあ、最後にうー兄のクラスを見てから帰ろうかな」
「あ、もう帰るの?」
「本当は、もう少しゆっくり見て行くつもりだったんですが……」
 彼はどこか困ったような表情をして、頭を掻いた。
「どうも、そういう訳にはいかないんです」
「何か、急用?」
「まぁ、そんなもんですかね。会いたくない人が――」
 あっくんはそう言った時、その双眸を僅かに細めたのだった。
「――会いたくない人が、ここに来ているみたいなので」
「そう……なんだ」
「だからすみません、今日はそろそろ失礼します」
「ああ、うん」
「うー兄、頑張って下さい」
「ありがとう」
 浅くもなく深くもない角度で頭を下げてから、あっくんは人混みの中に消えるように歩き出して行った。
 友人も知人も少ない僕は、誰にも会わないだろうと思っていたけれど、やっぱり文化祭となるとそうは言っていられないみたいだ。こうもいろんな人に自分の女装姿を見られると、恥ずかしくて死にたくなる。穴があったら入りたいとはまさにこのことなんじゃないだろうか。
 教室で来客の応対をしたりお菓子やお茶の用意をすることに比べたらずっと楽だが、こうやって校舎を循環しているのもなかなかに飽きてきた。保健室でずる休みでもしようか。あそこには恐らく、ミナモもいるはずだから。
 そうやって僕も歩き出し、保健室へ続く廊下を歩いていると、僕は突然、頭をかち割われたような衝撃に襲われた。そう、それは突然だった。彼女は唐突に、僕の前に現れたのだ。
 嘘だろ。
 目が、耳が、口が、心臓が、身体が、脳が、精神が、凍りつく。
 耳鳴り、頭痛、動悸、震え。
 揺らぐ。視界も、思考も。
 僕はやっと気付いた。あっくんが言う、「会いたくない人」の意味を。
 あっくんは彼女がここに来ていることを知っていた。だから会いたくなかったのだ。
 でもそんなはずはない。世界が僕を置いて行ったように、きみもそこに置いて行かれたはずだ。僕のついた不器用な嘘のせいで、あの春の日に閉じ込められたはずだ。きみの時間は、止まったはずだ。
 言ったじゃないか、待つって。ずっと待つんだって。
 もう二度と帰って来ない人を。
 僕らの最愛の、あーちゃんを。
「あれー、うーくんだー」
 へらへらと、彼女は笑った。
「なにその恰好、女の子みたいだよ」
 楽しそうに、愉快そうに、面白そうに。
 あーちゃんが生きていた頃は、一度だってそんな風に笑わなかったくせに。
 色白の肌。華奢で小柄な体躯。相手を拒絶するかのように吊り上がった猫目。伸びた髪。身に着けている服は、制服ではなかった。
 でもそうだ。
 僕はわかっていたはずだ。日褄先生は僕に告げた。ひーちゃんが、学校に来るようになると。いつかこんな日が来ると。彼女が、世界に追いつく日がやって来ると。
 僕だけが、置いて行かれる日が来ることを。
「久しぶりだね、うーくん」
「……久しぶり、ひーちゃん」
 僕は、ちっとも笑えなかった。あーちゃんが生きていた頃は、ちゃんと笑えていたのに。
 市野谷比比子はそんな僕を見て、満面の笑みをその顔に浮かべた。
   「……だんじょぎゃくてん、めいど……しつじきっさ…………?」
 たどたどしい口調で、ひーちゃんは僕が持っていたプラカードの文字を読み上げる。
「えっとー、男女が逆だから、うーくんが女の子の恰好で、女の子が男の子の恰好をしてるんだね」
 そう言いながら、ひーちゃんはプラスチック製のフォークで福神漬けをぶすぶすと刺すと、はい、と僕に向かって差し出してくる。
「これ嫌い、うーくんにあげる」
「どうも」
 僕はいつから彼女の嫌いな物処理係になったのだろう、と思いながら渡されたフォークを受け取り、素直に福神漬けを咀嚼する。
「でもうーくん、女装似合うね」
「それ、あんまり嬉しくないから」
 僕とひーちゃんは向き合って座っていた。ひーちゃんに会ったのは、僕が彼女の家を訪ねた夏休み以来だ。彼女はあれから特に変わっていないように見える。着ている服は今日も黒一色だ。彼女は、最愛の弟、ろーくんが死んだあの日から、ずっと黒い服を着ている。
 僕らがいるのは新校舎二階の一年二組の教室だ。PTAの皆さまが営んでいるカレー屋である。この文化祭で調理が認められているのは、大人か、調理部の連中だけだ。午後になり、生徒も父兄も体育館で行われている軽音部やら合唱部やらのコンサートを観に行ってしまっているので、校舎に残る人は少ない。店じまいしかけているカレー屋コーナーで、僕たちは遅めの昼食を摂っていた。僕は未だに、メイド服を着たままだ。
 ひーちゃんとカレーライスを食べている。なんだか不思議な感覚だ。ひーちゃんがこの学校にいるということ自体が、不思議なのかもしれない。彼女は入学してからただの一度も、この学校の門をくぐったことがなかった���だ。
 どうしてひーちゃんは、ここにいるんだろう。ひーちゃんにとって、ここは、もう終わってしまった場所のはずなのに。ここだけじゃない。世界じゅうが、彼女の世界ではなくなってしまったはずなのに。あーちゃんのいない世界なんて、無に等しいはずなのに。なのにひーちゃんは、僕の目の前にいて、美味しそうにカレーを食べている。
 ときどき、僕の方を見て、話す。笑う。おかしい。だってひーちゃんの両目は、いつもどこか遠くを見ていたはずなのに。ここじゃないどこかを夢見ていたのに。
 いつかこうなることは、わかっていた。永遠なんて存在しない。不変なんてありえない。世界が僕を置いて行ったように、いずれはひーちゃんも動き出す。僕はずっとそうわかっていたはずだ。僕が今までについた嘘を全部否定して、ひーちゃんが再び、この世界で生きようとする日が来ることを。
 思い知らされる。
 あの日から僕がひーちゃんにつき続けた嘘は、あーちゃんは本当は生きていて、今はどこか遠くにいるだけだと言ったあの嘘は、何ひとつ価値なんてなかったということを。僕という存在がひーちゃんにとって、何ひとつ価値がなかったということを。わかっていたはずだ。ひーちゃんにとっては僕ではなくて、あーちゃんが必要なんだということを。あーちゃんとひーちゃんと僕で、三角形だったなんて大嘘だ。僕は最初から、そんな立ち位置に立てていなかった。全てはそう思いたかった僕のエゴだ。三角形であってほしいと願っていただけだ。
 そうだ。
 本当はずっと、僕はあーちゃんが妬ましかったのだ。
「カレー食べ終わったら、どうする? 少し、校内を見て行く?」
 僕がそう尋ねると、ひーちゃんは首を左右に振った。
「今日は先生たちには内緒で来ちゃったから、面倒なことになる前に帰るよ」
「あ、そうなんだ……」
「来年は『僕』も、そっち側で参加できるかなぁ」
「そっち側?」
「文化祭、やれるかなぁっていうこと」
 ひーちゃんは、楽しそうな笑顔だ。
 楽しそうな未来を、思い描いている表情。
「……そのうち、学校に来るようになるんだって?」
「なんだー、あいつ、ばらしちゃったの? せっかく驚かせようと思ったのに」
 あいつ、とは日褄先生のことだろう。ひーちゃんは日褄先生のことを語る時、いつも少し不機嫌になる。
「……大丈夫なの?」
「うん? 何が?」
 僕の問いに、ひーちゃんはきょとんとした表情をした。僕はなんでもない、と言って、カレーを食べ続ける。
 ねぇ、ひーちゃん。
 ひーちゃんは、あーちゃんがいなくても、もう大丈夫なの?
 訊けなかった言葉は、ジャガイモと一緒に飲み込んだ。
「ねぇ、うーくん、」
 ひーちゃんは僕のことを呼んだ。
 うーくん。
 それは、あーちゃんとひーちゃんだけが呼ぶ、僕のあだ名。
 黒い瞳が僕を見上げている。
 彼女の唇から、いとも簡単に嘘のような言葉が零れ落ちた。
「あーちゃんは、もういないんだよ」
「…………え?」
 僕は耳を疑って、訊き返した。
「今、ひーちゃん、なんて……」
「だから早く、帰ってきてくれるといいね、あーちゃん」
 そう言ってひーちゃんは、にっこり笑った。まるで何事もなかったみたいに。
 あーちゃんの死なんて、あーちゃんの存在なんて、最初から何もなかったみたいに。
 僕はそんなひーちゃんが怖くて、何も言わずにカレーを食べた。
「あーちゃん」こと鈴木直正が死んだ後、「ひーちゃん」こと市野谷比比子は生きる気力を失くしていた。だから「うーくん」こと僕、――――は、ひーちゃんにひとつ嘘をついた。
 あーちゃんは生きている。今はどこか遠くにいるけれど、必ず彼は帰ってくる、と。
 カレーを食べ終えたひーちゃんは、帰ると言うので僕は彼女を昇降口まで見送ることにした。
 二人で廊下を歩いていると、ふと、ひーちゃんの目線は窓の外へと向けられる。目線の先を追えば、そこには旧校舎の屋上が見える。そう、あーちゃんが飛び降りた、屋上が見える。
「ねぇ、どうしてあーちゃんは、空を飛んだの?」
 ひーちゃんは虚ろな瞳で窓から空を見上げてそう言った。
「なんであーちゃんはいなくなったの? ずっと待ってたのに、どうして帰って来ないの? ずっと待ってるって約束したのに、どうして? 違うね、約束したんじゃない、『僕』が勝手に決めたんだ。あーちゃんがいなくなってから、そう決めた。あーちゃんが帰って来るのを、ずっと待つって。待っていたら、必ず帰って来てくれるって。あーちゃんは昔からそうだったもんね。『僕』がひとりで泣いていたら、必ずどこからかやって来て、『僕』のこと慰めてくれた。だから今度も待つって決めた。だってあーちゃんが、帰って来ない訳ないもん。『僕』のことひとりぼっちにするはずないもん。そんなの、許せないよ」
 僕には答える術がない。
 幼稚な嘘はもう使えない。手持ちのカードは全て使い切られた。
 ひーちゃんは、もうずっと前から気付いていたはずだ。あーちゃんはもう、この世界にいないなんだって。僕のついた嘘が、とても稚拙で下らないものだったんだって。
「嘘つきだよ、皆、嘘つきだよ。ろーくんも、あーちゃんも、嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき。うーくんだって、嘘つき」
 ひーちゃんの言葉が、僕の心を突き刺していく。
 でも僕は逃げられない。だってこれは、僕が招いた結果なのだから。
「皆大嫌い」
 ひーちゃんが正面から僕に向かい合った。それがまるで決別の印であるとでも言うかのように。
 ちきちきちきちきちきちきちきちき。
 耳慣れた音が聞こえる。
 僕の左手首の内側、その傷を作った原因の音がする。
 ひーちゃんの右手はポケットの中。物騒なものを持ち歩いているんだな、ひーちゃん。
「嘘つき」
 ひーちゃんの瞳。ひーちゃんの唇。ひーちゃんの眉間に刻まれた皺。
 僕は思い出す。小学校の裏にあった畑。夏休みの水やり当番。あの時話しかけてきた担任にひーちゃんが向けた、殺意に満ちたあの顔。今目の前にいる彼女の表情は、その時によく似ている。
「うーくんの嘘つき」
 殺意。
「帰って来るって言ったくせに」
 殺意。
「あーちゃんは、帰って来るって言ったくせに!」
 嘘つきなのは、どっちだよ。
「ひーちゃんだって、気付いていたくせに」
 僕の嘘に気付いていたくせに。
 あーちゃんは死んだってわかっていたくせに。
 僕の嘘を信じたようなふりをして、部屋に引きこもって、それなのにこうやって、学校へ来ようとしているくせに。世界に馴染もうとしているくせに。あーちゃんが死んだ世界がもう終わってしまった代物だとわかっているのに、それでも生きようとしているくせに。
 ひーちゃんは、もう僕の言葉にたじろいだりしなかった。
「あんたなんか、死んじゃえ」
 彼女はポケットからカッターナイフを取り出すと、それを、
      鈍い衝撃が身体じゅうに走った。
 右肩と頭に痛みが走って、無意識に呻いた。僕は昇降口の床に叩きつけられていた。思い切り横から突き飛ばされたのだ。揺れる視界のまま僕は上半��を起こし、そして事態はもう間に合わないのだと知る。
 僕はよかった。
 怪我を負ってもよかった。刺されてもよかった。切りつけられてもよかった。殺されたって構わない。
 だってそれが、僕がひーちゃんにできる最後の救いだと、本気で思っていたからだ。
 僕はひーちゃんに嘘をついた。あーちゃんは生きていると嘘をついた。ついてはいけない嘘だった。その嘘を、彼女がどれくらい本気で信じていたのか、もしくはどれくらい本気で信じたふりを演じていてくれていたのかはわからない。でも僕は、彼女を傷つけた。だからその報いを受けたってよかった。どうなってもよかったんだ。だってもう、どうなったところで、あーちゃんは生き返ったりしないのだから。
 だけど、きみはだめだ。
 どうして僕を救おうとする。どうして、僕に構おうとする。放っておいてくれとあれだけ示したのに、どうして。僕はきみをあんなに傷つけたのに。どうしてきみはここにいるんだ。どうして僕を、かばったんだ。
 ひーちゃんの握るカッターナイフの切っ先が、ためらうことなく彼女を切り裂いた。
 ピンク色の髪留めが、宙に放られるその軌跡を僕の目は追っていた。
「佐渡さん!」
 僕の叫びが、まるで僕のものじゃないみたいに響く。周りには不気味なくらい誰もいない。
 市野谷比比子に切りつけられた佐渡梓は、床に倒れ込んでいく。それがスローモーションのように僕の目にはまざまざと映る。飛び散る赤い飛沫が床に舞う。
 僕は起き上がり走った。ひーちゃんの虚ろな目。再度振り上げられた右手。それが再び佐渡梓を傷つける前に、僕は両手を広げ彼女をかばった。
「    」
 一瞬の空白。ひーちゃんの唇が僅かに動いたのを僕は見た。その小さな声が僕の耳に届くよりも速く、刃は僕の右肩に突き刺さる。
 痛み。
 背後で佐渡梓の悲鳴。けれどひーちゃんは止まらない。僕の肩に突き刺さったカッターを抜くと彼女はそれをまた振り上げて、
  そうだよな。
 痛かったよな。
 あーちゃんは、ひーちゃんの全部だったのに。
 あーちゃんが生きているなんて嘘ついて、ごめん。
 そして振り下ろされた。
  だん、と。
 地面が割れるような音がした。
  一瞬、地震が起こったのかと思った。
 不意に目の前が真っ暗になり、何かが宙を舞った。少し離れたところで、からんと金属のものが床に落ちたような高い音が聞こえる。
 僕とひーちゃんの間に割り込んできたのは、黒衣の人物だった。ひーちゃんと同じ、全身真っ黒で整えられた服装。ただしその頭髪だけが、毒々しいまでの緑色に揺れている。
「…………日褄先生」
 僕がやっとの思いで絞り出すようにそれだけ言うと、彼女は僕に背中を向けてひーちゃんと向き合ったまま、
「せんせーって呼ぶなっつってんだろ」
 といつも通りの返事をした。
「ひとりで学校に来れたなんて、たいしたもんじゃねぇか」
 日褄先生はひーちゃんに向けてそう言ったが、彼女は相変わらず無表情だった。
 がらんどうの瞳。がらんどうの表情。がらんどうの心。がらんどうのひーちゃんは、いつもは嫌がる大嫌いな日褄先生を目の前にしても微動だにしない。
「なんで人を傷つけるようなことをしたんだよ」
 先生の声は、いつになく静かだった。僕は先生が今どんな表情をしているのかはわからないけれど、それは淡々とした声音だ。
「もう誰かを失いたくないはずだろ」
 廊下の向こうから誰かがやって来る。背の高いその男性は、葵さんだった。彼はひーちゃんの少し後ろに落ちているカッターナイフを無言で拾い上げている。それはさっきまで、ひーちゃんの手の中にあったはずのものだ。どうしてそんなところに落ちているのだろう。
 少し前の記憶を巻き戻してみて、僕はようやく、日褄先生が僕とひーちゃんの間に割り込んだ時、それを鮮やかに蹴り上げてひーちゃんの手から吹っ飛ばしたことに気が付いた。日褄先生、一体何者なんだ。
 葵さんはカッターナイフの刃を仕舞うと、それをズボンのポケットの中へと仕舞い、それからひーちゃんに後ろから歩み寄ると、その両肩を掴んで、もう彼女が暴れることができないようにした。そうされてもひーちゃんは、もう何も言葉を発さず、表情も変えなかった。先程見せたあの強い殺意も、今は嘘みたいに消えている。
 それから日褄先生は僕を���り返り、その表情が僕の思っていた以上に怒りに満ちたものであることを僕の目が視認したその瞬間、頬に鉄拳が飛んできた。
 ごっ、という音が自分の顔から聞こえた。骨でも折れたんじゃないかと思った。今まで受けたどんな痛みより、それが一番痛かった。
「てめーは何ぼんやり突っ立ってんだよ」
 日褄先生は僕のメイド服の胸倉を乱暴に掴むと怒鳴るように言った。
「お前は何をしてんだよ、市野谷に殺されたがってんじゃねーよ。やべぇと思ったらさっさと逃げろ、なんでそれぐらいのこともできねーんだよ」
 先生は僕をまっすぐに見ていた。それは恐ろしいくらい、まっすぐな瞳だった。
「なんでどいつもこいつも、自分の命が大事にできねーんだよ。お前わかってんのかよ、お前が死んだら市野谷はどうなる? 自分の弟を目の前で亡くして、大事な直正が自殺して、それでお前が市野谷に殺されたら、こいつはどうなるんだよ」
「……ひーちゃんには、僕じゃ駄目なんですよ。あーちゃんじゃないと、駄目なんです」
 僕がやっとの思いでそれだけ言うと、今度は平手が反対の頬に飛んできた。
 熱い。痛いというよりも、熱い。
「直正が死んでも世界は変わらなかった。世界にとっちゃ人ひとりの死なんてたいしたことねぇ、だから自分なんて世界にとってちっぽけで取るに足らない、お前はそう思ってるのかもしれないが、でもな、それでもお前が世界の一部であることには変わりないんだよ」
 怒鳴る、怒鳴る、怒鳴る。
 先生は僕のことを怒鳴った。
 こんな風に叱られるのは初めてだ。
 こんな風に、叱ってくれる人は初めてだった。
「なんでお前は市野谷に、直正は生きてるって嘘をついた? 市野谷がわかりきっているはずの嘘をどうしてつき続けた? それはなんのためだよ? どうして最後まで、市野谷がちゃんと笑えるようになるまで、側で支えてやろうって思わないんだよ」
 そうだ。
 そうだった。日褄先生は最初からそうだった。
 優しくて、恐ろしいくらい乱暴なのだ。
「市野谷に殺されてもいい、自分なんて死んでもいいなんて思ってるんじゃねぇよ。『お前だから駄目』なんじゃねぇよ、『直正の代わりをしようとしているお前だから』駄目なんだろ?」
 日褄先生は最後に怒鳴った。
「もういい加減、鈴木直正の代わりになろうとするのはやめろよ。お前は―――だろ」
  お前は、潤崎颯だろ。
  やっと。
 やっと僕は、自分の名前が、聞き取れた。
 あーちゃんが死んで、ひーちゃんに嘘をついた。
 それ以来僕はずっと、自分の名前を認めることができなかった。
 自分の名前を口にするのも、耳にするのも嫌だった。
 僕は代わりになりたかったから。あーちゃんの代わりになりたかったから。
 あーちゃんが死んだら、ひーちゃんは僕を見てくれると、そう思っていたから。
 でも駄目だった。僕じゃ駄目だった。ひーちゃんはあーちゃんが死んでも、あーちゃんのことばかり見ていた。僕はあーちゃんになれなかった。だから僕なんかいらなかった。死んだってよかった。どうだってよかったんだ。
 嘘まみれでずたずたで、もうどうしようもないけれど、それでもそれが、「僕」だった。
 あーちゃんになれなくても、ひーちゃんを上手に救えなくても、それでも僕は、それでもそれが、潤崎颯、僕だった。
 日褄先生の手が、僕の服から離れていく。床に倒れている佐渡梓は、どこか呆然と僕たちを見つめている。ひーちゃんの表情はうつろなままで、彼女の肩を後ろから掴んでいる葵さんは、まるでひーちゃんのことを支えているように見えた。
 先生はひーちゃんの元へ行き、葵さんはひーちゃんからゆっくりと手を離す。そうして、先生はひーちゃんのことを抱き締めた。先生は何も言わなかった。ひーちゃんも、何も言わなかった。葵さんは無言で昇降口から出て行って、しばらくしてから帰ってきた。その時も、先生はひーちゃんを抱き締めたままで、僕はそこに突っ立っていたままだった。
 やがて日褄先生はひーちゃんの肩を抱くようにして、昇降口の方へと歩き出す。葵さんは昇降口前まで車を回していたようだ。いつか見た、黒い車が停まっていた。
 待って下さい、と僕は言った。
 日褄先生は立ち止まった。ひーちゃんも、立ち止まる。
 僕はひーちゃんに駆け寄った。
 ひーちゃんは無表情だった。
 僕は、ひーちゃんに謝るつもりだった。だけど言葉は出て来なかった。喉元まで込み上げた言葉は声にならず、口から嗚咽となって溢れた。僕の目からは涙がいくつも零れて、そしてその時、ひーちゃんが小さく、ごめんね、とつぶやくように言った。僕は声にならない声をいくつもあげながら、ただただ、泣いた。
 ひーちゃんの空っぽな瞳からも、一粒の滴が転がり落ちて、あーちゃんの死から一年以上経ってやっと、僕とひーちゃんは一緒に泣くことができたのだった。
    ひーちゃんに刺された傷は、軽傷で済んだ。
 けれど僕は、二週間ほど学校を休んだ。
「災難でしたね」
 あっくん、あーちゃんの弟である鈴木篤人くんは、僕の部屋を見舞いに訪れて、そう言った。
「聞きましたよ、文化祭で、ひー姉に切りつけられたんでしょう?」
 あーちゃんそっくりの表情で、あっくんはそう言った。
「とうとうばれたんですか、うー兄のついていた嘘は」
「……最初から、ばれていたようなものだよ」
 あーちゃんとよく似ている彼は、その日、制服姿だった。部活の帰りなのだろう、大きなエナメルバッグを肩から提げていて、手にはコンビニの袋を握っている。
「それで良かったんですよ。うー兄にとっても、ひー姉にとっても」
 あっくんは僕の部屋、椅子に腰かけている。その両足をぷらぷらと揺らしていた。
「兄貴のことなんか、もう忘れていいんです。あんなやつのことなんて」
 あっくんの両目が、すっと細められる。端正な顔立ちが、僅かに歪む。
 思い出すのは、あーちゃんの葬式の時のこと。
 式の最中、あっくんは外へ斎場の外へ出て行った。外のベンチにひとりで座っていた。どこかいらいらした様子で、追いかけて行った僕のことを見た。
「あいつ、不器用なんだ」
 あっくんは不満そうな声音でそう言った。あいつとは誰だろうかと一瞬思ったけれど、すぐにそれが死んだあーちゃんのことだと思い至った。
「自殺の原因も、昔のいじめなんだって。ココロノキズがいけないんだって。せーしんかのセンセー、そう言ってた。あいつもイショに、そう書いてた」
 あーちゃんが死んだ時、あっくんは小学五年生だった。今のような話し方ではなかった。彼はごく普通の男の子だった。あっくんが変わったのは、あっくんがあーちゃんのように振る舞い始めたのは、あーちゃんが死んでからだ。
「あいつ、全然悪くないのに、傷つくから駄目なんだ。だから弱くて、いじめられるんだ。おれはあいつより強くなるよ。あいつの分まで生きる。人のこといじめたりとか、絶対にしない」
 あっくんは、一度も僕と目を合わさ��にそう言った。僕はあーちゃんの弱さと、あっくんの強さを思った。不機嫌そうに、「あーちゃんの分まで生きる」と言った、彼の強さを思った。あっくんのような強さがあればいいのに、と思った。ひーちゃんにも、強く生きてほしかった。僕も、そう生きるべきだった。
 あーちゃんが死んだ後、あーちゃんの家族はいつも騒がしそうだった。たくさんの人が入れ替わり立ち替わりやって来ては帰って行った。ときどき見かけるあっくんは、いつも機嫌が悪そうだった。あっくんはいつも怒っていた。あっくんただひとりが、あーちゃんの死を、怒っていた。
「――あんなやつのことを覚えているのは、僕だけで十分です」
 あっくんはそう言って、どうしようもなさそうに、笑った。
 あっくんも、僕と同じだった。
 あーちゃんの代わりになろうとしていた。
 ただそれは、ひーちゃんのためではなく、彼の両親のためだった。
 あーちゃんが死んだ中学校には通わせられないという両親の期待に応えるために、あっくんは猛勉強をして私立の中学に合格した。
 けれど悲しいことに両親は、それを心から喜びはしなかった。今のあっくんを見ていると、死んだあーちゃんを思い出すからだ。
 あっくんはあーちゃんの分まで生きようとして、そしてそれが、不可能であると知った。自分は自分としてしか、生きていけないのだ。
「僕は忘れないよ、あーちゃんのこと」
 僕がそうぽつりと言うと、あっくんの顔はこちらへと向いた。あっくんのかけている眼鏡のレンズが蛍光灯の光を反射して、彼の表情を隠している。そうしていると、本当に、そこにあーちゃんがいるみたいだった。
「……僕は忘れない。あーちゃんのことを、ずっと」
 自分に言い聞かせるように、僕はそう続けて言った。
「僕も、あーちゃんの分まで生きるよ」
 あーちゃんが欠けた、この世界で。
「…………」
 あっくんは黙ったまま、少し顔の向きを変えた。レンズは光を反射しなくなり、眼鏡の下の彼の顔が見えた。それは、あーちゃんに似ているようで、だけど確かに、あっくんの表情だった。
「そうですか」
 それだけつぶやくように言うと、彼は少しだけ笑った。
「兄貴もきっと、その方が喜ぶでしょう」
 あっくんはそう言って、持っていたコンビニの袋に入っていたプリンを「見舞いの品です」と言って僕の机の上に置くと、帰って行った。
 その後ろ姿はもう、あーちゃんのようには見えなかった。
 その二日後、僕は部屋でひとり寝ていると玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、そこには河野帆高が立っていた。
「よー、潤崎くん。元気?」
「……なんで、僕の家を知ってるの?」
「とりあえずお邪魔しまーす」
「…………なんで?」
 呆然としている僕の横を、帆高はすり抜けるようにして靴を脱いで上がって行く。こいつが僕の家の住所を知っているはずがない。訊かれたところで担任が教えるとも思えない。となると、住所を教えたのは、やはり、日褄先生だろうか。僕は溜め息をついた。どうしてあのカウンセラーは、生徒の個人情報を守る気がないのだろう。困ったものだ。
 勝手に僕の部屋のベッドに寝転んでくつろいでいる帆高に缶ジュースを持って行くと、やつは笑いながら、
「なんか、美少女に切りつけられたり、美女に殴られたりしたんだって?」
 と言った。
「間違っているような、いないような…………」
「すげー修羅場だなー」
 けらけらと軽薄に、帆高が笑う。あっくんが見舞いに訪れた時と同様に、帆高も制服姿だった。学校帰りに寄ってくれたのだろう。ごくごくと喉を鳴らしてジュースを飲んでいる。
「はい、これ」
 帆高は鞄の中から、紙の束を取り出して僕に差し出した。受け取って確認するまでもなかった。それは、僕が休んでいる間に学級で配布されたのであろう、プリントや手紙だった。ただ、それを他クラスに所属している帆高から受け取るというのが、いささか奇妙な気はしたけれど。
「どうも……」
「授業のノートは、学校へ行くようになってから本人にもらって。俺のノートをコピーしてもいいんだけど、やっぱクラス違うと微妙に授業の進度とか感じも違うだろうし」
「…………本人?」
 僕が首をかしげると、帆高は、ああ、と思い出したように言った。
「これ、ミナモからの預かり物なんだよ。自分で届けに行けばって言ったんだけど、やっぱりそれは恥ずかしかったのかねー」
 ミナモが、僕のプリントを届けることを帆高に依頼した……?
 一体、どういうことだろう。だってミナモは、一��じゅう保健室にいて、教室内のことには関与していないはずだ。なんだか、嫌な予感がした。
「帆高、まさか、なんだけど…………」
「そのまさかだよ、潤崎くん」
 帆高は飄々とした顔で言った。
「ミナモは、文化祭の振り替え休日が明けてからのこの二週間、ちゃんと教室に登校して、休んでるあんたの代わりに授業のノートを取ってる」
「…………は?」
「でもさー、ミナモ、ノート取る・取らない以前に、黒板に書いてある文字の内容を理解できてるのかねー? まぁノート取らないよりはマシだと思うけどさー」
「ちょ、ちょっと待って……」
 ミナモが、教室で授業を受けている?
 僕の代わりに、ノートを取っている?
 一体、何があったんだ……?
 僕は呆然とした。
「ほんと、潤崎くんはミナモに愛されてるよねー」
「…………」
 ミナモが聞いたらそうしそうな気がしたから、代わりに僕が帆高の頭に鉄拳を制裁した。それでも帆高はにやにやと笑いながら、言った。
「だからさ、怪我してんのも知ってるし、学校休みたくなる気持ちもわからなくはないけど、なるべく早く、学校出て来てくれねーかな」
 表情と��釣り合いに、その声音は真剣だったので、僕は面食らう。ミナモのことを気遣っていることが窺える声だった。入学して以来、一度も足を向けたことのない教室で、授業に出てノートを取っているのだから、無理をしていないはずがない。いきなりそんなことをするなんて、ミナモも無茶をするものだ。いや、無茶をさせているのは、僕なのだろうか。
 あ、そうだ、と帆高は何かを思い出したかのようにつぶやき、鞄の中から丸められた画用紙を取り出した。
「……それは?」
「ミナモから、預かってきた。お見舞いの品」
 ミナモから、お見舞いの品?
 首を傾げかけた僕は、画用紙を広げ、そこに描かれたものを見て、納得した。
 河野ミナモと、僕。
 死にたがり屋と死に損ない。
 自らの死を願って雨の降る屋上へ向かい、そこで出会った僕と彼女は、ずるずると、死んでいくように生き延びたのだ。
「……これから、授業に出るつもり、なのかな」
「ん? ああ、ミナモのことか? どうだろうなぁ」
 僕は思い出していた。文化祭の朝、リストバンドをくれた、峠茶屋桜子さんのこと。僕とミナモが出会った日に、保健室で僕たちに偶然出会ったことを彼女は覚えていてくれていた。彼女のような人もクラスにはいる。僕だってミナモだって、クラスの人たちと全く関わり合いがない訳ではないのだ。僕たちもまだ、世界と繋がっている。
「河野も、変わろうとしてるのかな……」
 死んだ方がいい人間だっている。
 初めて出会ったあの日、河野ミナモはそう言った。
 僕もそう思っていた。死んだ方がいい人間だっている。僕だって、きっとそうだと。
 だけど僕たちは生きている。
 ミナモが贈ってくれた絵は、やっぱり、あの屋上から見た景色だった。夏休みの宿題を頼んだ時に描いてもらった絵の構図とほとんど同じだった。屋上は無人で、僕の姿もミナモの姿もそこには描かれていない。だけど空は、澄んだ青色で塗られていた。
 僕は帆高に、なるべく早く学校へ行くよ、と約束して、それから、どうかミナモの変化が明るい未来へ繋がるように祈った。
 河野帆高が言っていた通り、僕が学校を休んでいた約二週間の間、ミナモは朝教室に登校してきて、授業を受け、ノートを取ってくれていた。けれど、僕が学校へ行くようになると、保健室登校に逆戻りだった。
 昼休みの保健室で、僕はミナモからルーズリーフの束を受け取った。筆圧の薄い字がびっしりと書いてある。
 僕は彼女が贈ってくれた絵のことを思い出した。かつてあーちゃんが飛び降りて、死のうとしていた僕と、死にたがりのミナモが出会ったあの屋上。そこから見た景色を、ミナモはのびのびとした筆使いで描いていた。綺麗な青い色の絵具を使って。
 授業ノートの字は、その絵とは正反対な、神経質そうに尖っているものだった。中学入学以来、一度も登校していなかった教室に足を運び、授業を受けたのだ。ルーズリーフのところどころは皺寄っている。緊張したのだろう。
「せっかく来るようになったのに、もう教室に行かなくていいの?」
「……潤崎くんが来るなら、もう行かない」
 ミナモは長い前髪の下から睨みつけるように僕を一瞥して、そう言った。
 それもそうだ。ミナモは人間がこわいのだ。彼女にとっては、教室の中で他人の視線に晒されるだけでも恐ろしかったに違いないのに。
 ルーズリーフを何枚かめくり、ノートの文字をよく見れば、ときどき震えていた。恐怖を抑えようとしていたのか、ルーズリーフの余白には小さな絵が描いてあることもあった。
「ありがとう、河野」
「別に」
 ミナモは保健室のベッドの上、膝に乗せたスケッチブックを開き、目線をそこへと向けていた。
「行くところがあるんじゃないの?」
 もう僕に興味がなくなってしまったかのような声で彼女はそう言って、ただ鉛筆を動かすだけの音が保健室には響き始めた。
 僕はもう一度ミナモに礼を言ってから、保健室を後にした。
    ずっと謝らなくてはいけないと思っている人がいた。
 彼女はなんだか気まずそうに僕の前でうつむいている。
 昼休みの廊下の片隅。僕と彼女の他には誰もいない。呼び出したのは僕の方だった。文化祭でのあの事件から、初めて登校した僕は、その日のうちに彼女の教室へ行き、彼女のクラスメイトに呼び出してもらった。
「あの…………」
「なに?」
「その、怪我の、具合は……?」
「僕はたいしたことないよ。もう治ったし。きみは?」
「私も、その、大丈夫です」
「そう……」
 よかった、と言おうとした言葉を、僕は言わずに飲み込んだ。これでよいはずがない。彼女は無関係だったのだ。彼女は、僕やひーちゃん、あーちゃんたちとは、なんの関係もなかったはずなのに。
「ごめん、巻き込んでしまって」
「いえ、そんな……勝手に先輩のことをかばったのは、私ですから……」
 文化祭の日。僕がひーちゃんに襲われた時、たまたま廊下を通りかかった彼女、佐渡梓は僕のことをかばい、そして傷を負った。
 怪我は幸いにも、僕と同様に軽傷で済んだようだが、でもそれだけで済む話ではない。彼女は今、カウンセリングに通い、「心の傷」を癒している。それもそうだ。同じ中学校に在籍している先輩女子生徒に、カッターナイフで切りつけられたのだから。
「きみが傷を負う、必要はなかったのに……」
 どうして僕のことを、かばったりしたのだろう。
 僕は佐渡梓の好意を、いつも踏みつけてきた。ひどい言葉もたくさんぶつけた。渡された���紙は読まずに捨てたし、彼女にとって、僕の態度は冷徹そのものだったはずだ。なのにどうして、彼女は僕を助けようとしたのだろう。
「……潤崎先輩に、一体何があって、あんなことになったのか、私にはわかりません」
 佐渡梓はそう言った。
「思えば、私、先輩のこと何も知らないんだなって、思ったんです。何が好きなのか、とか、どんな経験をしてきたのか、とか……。先輩のクラスに、不登校の人が二人いるってことは知っていました。ひとりは河野先輩で、潤崎先輩と親しいみたいだってことも。でも、もうひとりの、市野谷先輩のことは知らなくて……潤崎先輩と、幼馴染みだってことも……」
 僕とひーちゃんのことを知っているのは、同じ小学校からこの中学に進学してきた連中くらいだ。と言っても、僕もひーちゃんも小学校時代の同級生とそこまで交流がある訳じゃなかったから、そこまでは知られていないのではないだろうか。僕とひーちゃん、そして、あーちゃんのことも知っているという人間は、この学校にどれくらいいるのだろう。
 さらに言えば、僕とひーちゃんとあーちゃん、そして、ひーちゃんの最愛の弟ろーくんの事故のことまで知っている人間は、果たしているのだろうか。日褄先生くらいじゃないだろうか。
 僕たちは、あの事故から始まった。
 ひーちゃんはろーくんを目の前で失い、そして僕とあーちゃんに出会った。ひーちゃんは心にぽっかり空いた穴を、まるであーちゃんで埋めるようにして、あーちゃんを世界の全てだとでも言うようにして、生きるようになった。そんなあーちゃんは、ある日屋上から飛んで、この世界からいなくなってしまった。そうして役立たずの僕と、再び空っぽになったひーちゃんだけが残された。
 そうして僕は嘘をつき、ひーちゃんは僕を裏切った。
 僕を切りつけた刃の痛みは、きっとひーちゃんが今まで苦しんできた痛みだ。
 あーちゃんがもういないという事実を、きっとひーちゃんは知っていた。ひーちゃんは僕の嘘に騙されたふりをした。そうすればあーちゃんの死から逃れられるとでも思っていたのかもしれない。壊れたふりをしているうちに、ひーちゃんは本当に壊れていった。僕はどうしても、彼女を正しく導くことができなかった。嘘をつき続けることもできなかった。だからひーちゃんは、騙されることをやめたのだ。自分を騙すことを、やめた。
 僕はそのことを、佐渡梓に話そうとは思わなかった。彼女が理解してくれる訳がないと決めつけていた訳ではないが、わかってもらわなくてもいいと思っていた。でも僕が彼女を巻き込んでしまったことは、もはや変えようのない事実だった。
「今回のことの原因は、僕にあるんだ。詳しくは言えないけれど。だから、ひーちゃん……市野谷さんのことを責めないであげてほしい。本当は、いちばん苦しいのは市野谷さんなんだ」
 僕の言葉に、佐渡梓は決して納得したような表情をしなかった。それでも僕は、黙っていた。しばらくして、彼女は口を開いた。
「私は、市野谷先輩のことを責めようとか、訴えようとか、そんな風には思いません。どうしてこんなことになったのか、理由を知りたいとは思うけれど、潤崎先輩に無理に語ってもらおうとも思いません……でも、」
 彼女はそこまで言うと、うつむいていた顔を上げ、僕のことを見た。
 ただ真正面から、僕を見据えていた。
「私は、潤崎先輩も、苦しかったんじゃないかって思うんです。もしかしたら、今だって、先輩は苦しいんじゃないか、って……」
 僕は。
 佐渡梓にそう言われて、笑って誤魔化そうとして、泣いた。
 僕は苦しかったんだろうか。
 僕は今も、苦しんでいるのだろうか。
 ひーちゃんは、あの文化祭での事件の後、日褄先生に連れられて精神科へ行ったまま、学校には来ていない。家にも帰っていない。面会謝絶の状態で、会いに行くこともできないのだという。
 僕はどうかひーちゃんが、苦しんでいないことを願った。
 もう彼女は、十分はくらい苦しんできたと思ったから。
    ひーちゃんから電話がかかってきたのは、三月十三日のことだった。
 僕の中学校生活は何事もなかったかのように再開された。
 二週間の欠席を経て登校を始めた当初は、変なうわさと奇妙な視線が僕に向けられていたけれど、もともとクラスメイトと関わり合いのなかった僕からしてみれば、どうってことはなかった。
 文化祭で僕が着用したメイド服を作ってくれたクラス委員の長篠めいこさんと、リストバンドをくれた峠茶屋桜子さんとは、教室の中でときどき言葉を交わすようになった。それが一番大きな変化かもしれない。
 ミナモの席もひーちゃんの席も空席のままで、それもいつも通りだ。
 ミナモのはとこである帆高の方はというと、やつの方も相変わらずで、宿題の提出率は最悪みたいだ。しょっちゅう廊下で先生たちと鬼ごっこをしている。昼休みの保健室で僕とミナモがくつろいでいると、ときどき顔を出しにくる。いつもへらへら笑っていて、楽しそうだ。なんだかんだ、僕はこいつに心を開いているんだろうと思う。
 佐渡梓とは、あれからあまり会わなくなってしまった。彼女は一年後輩で、校舎の中ではもともと出会わない。委員会や部活動での共通点もない。彼女が僕のことを好きになったこと自体が、ある意味奇跡のようなものだ。僕をかばって怪我をした彼女には、感謝しなくてはいけないし謝罪しなくてはいけないと思ってはいるけれど、どうしたらいいのかわからない。最近になって少しだけ、彼女に言ったたくさんの言葉を後悔するようになった。
 日褄先生は、そう、日褄先生は、あれからスクールカウンセラーの仕事を辞めてしまった。婚約者の葵さんと結婚することになったらしい。僕の頬を殴ってまで叱咤してくれた彼女は、あっさりと僕の前からいなくなってしまった。そんなこと、許されるのだろうか。僕はまだ先生に、なんのお礼もしていないのに。
 僕のところには携帯電話の電話番号が記されたはがきが一枚届いて、僕は一度だけそこに電話をかけた。彼女はいつもと変わらない明るい声で、とんでもないことを平気でしゃべっていた。ひーちゃんのことも、僕のことも、彼女はたった一言、「もう大丈夫だよ」とだけ言った。
 そうこうしているうちに年が明け、冬休みが終わり、そうして三学期も終わった。
 三月十三日、電話が鳴った。
 あーちゃんが死んだ日だった。
 二年前のこの日、あーちゃんは死んだのだ。
「あーちゃんに会いたい」
 電話越しだけれども、久しぶりに聞くひーちゃんの声は、やけに乾いて聞こえた。
 あーちゃんにはもう会えないんだよ、そう言おうとした僕の声を遮って、彼女は言う。
「知ってる」
 乾燥しきったような、淡々とした声。鼓膜の奥にこびりついて取れない、そんな声。
「あーちゃん、死んだんでしょ。二年前の今日に」
 思えば。
 それが僕がひーちゃんの口から初めて聞いた、あーちゃんの死だった。
「『僕』ね、ごめんね、ずっとずっと知ってた、ずっとわかってた。あーちゃんは、もういないって。だけど、ずっと認めたくなくて。そんなのずるいじゃん。そんなの、卑怯で、許せなくて、許したくなくて、ずっと信じたくなくて、ごめん、でも……」
 うん、とだけ僕は答えた。
 きっとそれは、僕のせいだ。
 ひーちゃんを許した、僕のせいだ。
 あーちゃんの死から、ずっと目を背け続けたひーちゃんを許した、僕のせいだ。
 ひーちゃんにそうさせた、僕のせい。
 僕の罪。
 一度でもいい、僕が、あーちゃんの死を見ないようにするひーちゃんに、無理矢理にでも現実を打ち明けていたら、ひーちゃんはきっと、こんなに苦しまなくてよかったのだろう。ひーちゃんの強さを信じてあげられなかった、僕のせい。
 あーちゃんが死んで、自分も死のうとしていたひーちゃんを、支えてあげられるだけの力が僕にはなかった。ひーちゃんと一緒に生きるだけの強さが僕にはなかった。だから僕は黙っていた。ひーちゃんがこれ以上壊れてしまわぬように。ひーちゃんがもっと、壊れてしまうように。
 僕とひーちゃんは、二年前の今日に置き去りになった。
 僕の弱さがひーちゃんの心を殺した。壊した。狂わせた。痛めつけた。苦しめた。
「でも……もう、『僕』、あーちゃんの声、何度も何度も何度も、何度考えても、もう、思い出せないんだよ……」
 電話越しの声に、初めて感情というものを感じた。ひーちゃんの今にも泣き出しそうな声に、僕は心が潰れていくのを感じた。
「お願い、うーくん。『僕』を、あーちゃんのお墓に、連れてって」
 本当は、二年前にこうするべきだった。
「……わかった」
 僕はただ、そう言った。
 僕は弱いままだったから。
 彼女の言葉に、ただ頷いた。
『僕が死んだことで、きっとひーちゃんは傷ついただろうね』
 そう書いてあったのは、あーちゃんが僕に残したもうひとつの遺書だ。
『僕は裏切ってしまったから。あの子との約束を、破ってしまったから』
 あーちゃんとひーちゃんの間に交わされていたその約束がなんなのか、僕にはわからないけれど、ひーちゃんにはきっと、それがわかっているのだろう。
  ひーちゃんがあーちゃんのことを語る度、僕はひーちゃんがどこかへ行ってしまうような気がした。
 だってあんまりにも嬉しそうに、「あーちゃん、あーちゃん」って言うから。ひーちゃんの大好きなあーちゃんは、もういないのに。
 ひーちゃんの両目はいつも誰かを探していて、隣にいる僕なんか見てくれないから。
  ひーちゃんはバス停で待っていた。交わす言葉はなかった。すぐにバスは来て、僕たちは一番後ろの席に並んで座った。バスに乗客の姿は少なく、窓の外は雨が降っている。ひーちゃんは無表情のまま、僕の隣でただ黙って、濡れた靴の先を見つめていた。
  ひーちゃんにとって、世界とはなんだろう。
 ひーちゃんには昨日も今日も明日もない。
 楽しいことがあっても、悲しいことがあっても、彼女は笑っていた。
 あーちゃんが死んだ時、あーちゃんはひーちゃんの心を道連れにした。僕はずっと心の奥底であーちゃんのことを恨んでいた。どうして死んだんだって。ひーちゃんに心を返してくれって。僕らに世界を、返してって。
  二十分もバスに揺られていると、「船頭町三丁目」のバス停に着いた。
 ひーちゃんを促してバスを降りる。
 雨は霧雨になっていた。持っていた傘を差すかどうか、一瞬悩んでから、やめた。
 こっちだよ、とひーちゃんに声をかけて歩き始める。ひーちゃんは黙ってついてくる。
 樫岸川の大きな橋の上を歩き始める。柳の並木道、古本屋のある四つ角、細い足場の悪い道、長い坂、苔の生えた石段、郵便ポストの角を左。
 僕はもう何度、この道を通ったのだろう。でもきっと、ひーちゃんは初めてだ。
 生け垣のある家の前を左。寺の大きな屋根が、突然目の前に現れる。
 僕は、あそこだよ、と言う。ひーちゃんは少し目線を上の方に動かして、うん、と小さな声で言う。その瞳も、口元も、吐息も、横顔も、手も、足も。ひーちゃんは小さく震えていた。僕はそれに気付かないふりをして、歩き続ける。ひーちゃんもちゃんとついてくる。
  ひーちゃんはきっと、ずっとずっと気付いていたのだろう。本当のことを。あーちゃんがこの世にいないことを。あーちゃんが自ら命を絶ったことも。誰もあーちゃんの苦しみに、寂しさに、気付いてあげられなかったことを。ひーちゃんでさえも。
 ひーちゃんは、あーちゃんが死んでからよく笑うようになった。今までは、能面のように無表情な少女だったのに。ひーちゃんは笑っていたのだ。あーちゃんがもういない世界を。そんな世界でのうのうと生きていく自分を。ばればれの嘘をつく、僕を。
  あーちゃんの墓前に立ったひーちゃんの横顔は、どこにも焦点があっていないかのように、瞳が虚ろで、だが泣いてはいなかった。そっと手を伸ばし、あーちゃんの墓石に恐る恐る触れると、霧雨に濡れて冷たくなっているその石を何度も何度も指先で撫でていた。
 墓前には真っ白な百合と、やきそばパンが供えてあった。あーちゃんの両親が毎年お供えしているものだ。
 線香のにおいに混じって、妙に甘ったるい、ココナッツに似たにおいがするのを僕は感じた。それが一体なんのにおいなのか、僕にはわかった。日褄先生がここに来て、煙草を吸ったのだ。彼女がいつも吸っていた、あの黒い煙草。そのにおいだった。ついさっきまで、ここに彼女も来ていたのだろうか。
「つめたい……」
 ひーちゃんがぽつりと、指先の感触の感想を述べる。そりゃ石だもんな、と僕は思ったが、言葉にはしなかった。
「あーちゃんは、本当に死んでいるんだね」
 墓石に触れたことで、あーちゃんの死を実感したかのように、ひーちゃんは手を引っ込めて、恐れているように一歩後ろへと下がった。
「あーちゃんは、どうして死んだの?」
「……ひとりぼっちみたいな、感覚になるんだって」
 あーちゃんが僕に宛てて書いた、彼のもうひとつの遺書の内容を思い出す。
「ひとりぼっち? どうして? ……私がいたのに」
 ひーちゃんはもう、自分のことを「僕」とは呼ばなかった。
「私じゃだめだった?」
「……そんなことはないと思う」
「じゃあ、どうして……」
 ひーちゃんはそう言いかけて、口をつぐんだ。ゆっくりと首を横に振って、ひーちゃんは、そうか、とだけつぶやいた。
「もう考えてもしょうがないことなんだ……。あーちゃんは、もういない。私が今さら何かを思ったって、あーちゃんは帰ってこないんだ……」
 ひーちゃんはまっすぐに僕を見上げて、続けるように言った。
「これが、死ぬってことなんだね」
 彼女の表情は凍りついているように見えた。
「そうか……ずっと忘れていた、ろーくんも死んだんだ……」
 ひーちゃんの最愛の弟、ろーくんこと市野谷品太くんは、僕たちが小学二年生の時に交通事故で亡くなった。ひーちゃんの目の前で、ろーくんの細くて小さい身体は、巨大なダンプに軽々と轢き飛ばされた。
 ひーちゃんは当時、過剰なくらいろーくんを溺愛していて、そうして彼を失って以来、他人との間に頑丈な壁を築くようになった。そんな彼女の前に現れたのが、僕であり、そして、あーちゃんだった。
「すっかり忘れてた。ろーくん……そうか、ずっと、あーちゃんが……」
 まるで独り言のように、ひーちゃんは言葉をぽつぽつと口にする。瞳が落ち着きなく動いている。
「そうか、そうなんだ、あーちゃんが……あーちゃんが…………」
 ひーちゃんの両手が、ひーちゃんの両耳を覆う。
 息を殺したような声で、彼女は言った。
「あーちゃんは、ずっと、ろーくんの代わりを……」
 それからひーちゃんは、僕を見上げた。
「うーくんも、そうだったの?」
「え?」
「うーくんも、代わりになろうとしてくれていたの?」
 ひーちゃんにとって、ろーくんの代わりがあーちゃんであったように。
 あーちゃんが、ろーくんの代用品になろうとしていたように。
 あっくんが、あーちゃんの分まで生きようとしていたように。
 僕は。
 僕は、あーちゃんの代わりに、なろうとしていた。
 あーちゃんの代わりに、なりたかった。
 けれどそれは叶わなかった。
 ひーちゃんが求めていたものは、僕ではなく、代用品ではなく、正真正銘、ほんものの、あーちゃんただひとりだったから。
 僕は稚拙な嘘を重ねて、ひーちゃんを現実から背けさせることしかできなかった。
 ひーちゃんの手を引いて歩くことも、ひーちゃんが泣いている間待つことも、あーちゃんにはできても、僕にはできなかった。
 あーちゃんという存在がいなくなって、ひーちゃんの隣に空いた空白に僕が座ることは許されなかった。代用品であることすら、認められなかった。ひーちゃんは、代用品を必要としなかった。
 ひーちゃんの世界には、僕は存在していなかった。
 初めから、ずっと。
 ずっとずっとずっと。
 ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、僕はここにいたのに。
 僕はずっと寂しかった。
 ひーちゃんの世界に僕がいないということが。
 だからあーちゃんを、心の奥底では恨んでいた。妬ましく思っていた。
 全部、あーちゃんが死んだせいにした。僕が嘘をついたのも、ひーちゃんが壊れたのも、あーちゃんが悪いと思うことにした。いっそのこと、死んだのが僕の方であれば、誰もこんな思いをしなかったのにと、自分が生きていることを呪った。
 自分の命を呪った。
 自分の存在を呪った。
 あーちゃんのいない世界を、あーちゃんが死んだ世界を、あーちゃんが欠けたまま、それでもぐるぐると廻り続けるこの不��理で不可思議で不甲斐ない世界を、全部、ひーちゃんもあーちゃんもあっくんもろーくんも全部全部全部全部、まるっときちっとぐるっと全部、呪った。
「ごめんね、うーくん」
 ひーちゃんの細い腕が、僕の服の袖を掴んでいた。握りしめているその小さな手を、僕は見下ろす。
「うーくんは、ずっと私の側にいてくれていたのにね。気付かなくて、ごめんね。うーくんは、ずっとあーちゃんの代わりをしてくれていたんだね……」
 ひーちゃんはそう言って、ぽろぽろと涙を零した。綺麗な涙だった。綺麗��と、僕は思った。
 僕は、ひーちゃんの手を握った。
 ひーちゃんは何も言わなかった。僕も、何も言わなかった。
 結局、僕らは。
 誰も、誰かの代わりになんてなれなかった。あーちゃんもろーくんになることはできず、あっくんもあーちゃんになることはできず、僕も、あーちゃんにはなれなかった。あーちゃんがいなくなった後も、世界は変わらず、人々は生き続け、笑い続けたというのに。僕の身長も、ひーちゃんの髪の毛も伸びていったというのに。日褄先生やミナモや帆高や佐渡梓に、出会うことができたというのに。それでも僕らは、誰の代わりにもなれなかった。
 ただ、それだけ。
 それだけの、当たり前の事実が僕らには常にまとわりついてきて、その事実を否定し続けることだけが、僕らの唯一の絆だった。
 僕はひーちゃんに、謝罪の言葉を口にした。いくつもいくつも、「ごめん」と謝った。今までついてきた嘘の数を同じだけ、そう言葉にした。
 ひーちゃんは僕を抱き締めて、「もういいよ」と言った。もう苦しむのはいいよ、と言った。
 帰り道のバスの中で、四月からちゃんと中学校に通うと、ひーちゃんが口にした。
「受験、あるし……。今から学校へ行って、間に合うかはわからないけれど……」
 四月から、僕たちは中学三年生で高校受験が控えている。教室の中は、迫りくる受験という現実に少しずつ息苦しくなってきているような気がしていた。
 僕は、「大丈夫」なんて言わなかった。口にすることはいくらでもできる。その方が、もしかしたらひーちゃんの心を慰めることができるかもしれない。でももう僕は、ひーちゃんに嘘をつきたくなかった。だから代わりに、「一緒に頑張ろう」と言った。
「頭のいいやつが僕の友達にいるから、一緒に勉強を教えてもらおう」
 僕がそう言うと、ひーちゃんは小さく頷いた。
 きっと帆高なら、ひーちゃんとも仲良くしてくれるだろう。ミナモはどうかな。時間はかかるかもしれないけれど、打ち解けてくれるような気がする。ひーちゃんはクラスに馴染めるだろうか。でも、峠茶屋さんが僕のことを気にかけてくれたように、きっと誰かが気にかけてくれるはずだ。他人なんてくそくらえだって、ずっと思っていたけれど、案外そうでもないみたいだ。僕はそのことを、あーちゃんを失ってから気付いた。
 僕は必要とされたかっただけなのかもしれない。
 ひーちゃんに必要とされたかったのかもしれないし、もしかしたら誰か他人だってよかったのかもしれない。誰か他人に、求めてほしかったのかもしれない。そうしたら僕が生きる理由も、見つけられるような気がして。ただそれだけだ。それは、あーちゃんも、ひーちゃんも同じだった。だから僕らは不器用に、お互いを傷つけ合う方法しか知らなかった。自分を必要としてほしかったから。
 いつだったか、日褄先生に尋ねたことがあったっけ。
「嘘って、何回つけばホントになるんですか」って。先生は、「嘘は何回ついたって、嘘だろ」と答えたんだった。僕のついた嘘はいくら重ねても嘘でしかなかった。あーちゃんは、帰って来なかった。やっぱり今日は雨で、墓石は冷たく濡れていた。
 けれど僕たちは、やっと、現実を生きていくことができる。
「もう大丈夫だよ」
 日褄先生が僕に言ったその声が、耳元で蘇った。
 もう大丈夫だ。
 僕は生きていく。
 あーちゃんがいないこの世界で、今度こそ、ひーちゃんの手を引いて。
 
 ふたりで初めて手を繋いで帰った日。
 僕らはやっと、あーちゃんにサヨナラができた。
  あーちゃん。
 世界は透明なんかじゃない。
 君も透明なんかじゃない。
 僕は覚えている。あーちゃんのことも、一緒に見た景色も、過ごした日々のことも。
 今でも鮮明に、その色を思い出すことができる。
 たとえ記憶が薄れる日がきたって、また何度でも思い出せばいい。
 だからサヨナラは、言わないんだ。
 了
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toubi-zekkai · 4 years ago
Text
 江戸期から明治期へと、日本が西洋に倣って近代化していくその過程で喪われたもの、それは暗い夜だったのではないだろうか。暗い夜とは小さな灯火の一つさえ垣間見られない貧しい村を包み込む闇の深淵であり、日本画に於いて描かれることのなかった陰影と対蹠的に重んじられた余白のことであり、歌舞伎役者のセリフとセリフの間に空いている隙間であって、紅色艶やかな金魚の丸い瞳に浮かぶ膨大な虚無の面影、文明開化の名の下に切り捨てられた不合理なもの全てのことである。後世に遺された光の欠片、つまりは記録文献や芸術作品によって暗い夜に対する人々の見解や態度は朧気に想像することが出来る。しかしそれが如何なる夜であったかの実相は完全な暗闇に閉ざされている。なぜなら、言うに言われぬもの、つまり表現や解釈が絶対に不可能な不合理ものこそ暗い夜と呼ぶからである。
 では、暗い夜を選択的に破棄喪失した近代更には現代の日本人がその代替として明るい昼を獲得したのかと言えばそうではない。暗い夜の代わりに我々の世界を覆っているのは明るい夜である。  精神分析学を例に考察すれば解り易いだろう。精神分析学はそれまで我々の自意識の周辺を広漠と覆っていた暗い夜の海の領域を無意識と命名した。そこから少しずつ分析の光を拡大させて、無意識の内にも種々の法則と秩序があることを突き止めた。心の状態を客観的に分類することも可能になり、以前は憑りついた悪霊の仕業だと考えられていた人間精神の状態に種々の病名が名付けられることとなった。鬱病、躁鬱病、強迫性障害、統合失調症、無意識の暗海を悠々航海するフロイト提督とその艦隊はそうして次々と新しい島々を発見したが、それは単なる発見に留まることなく、鉄鋼の艦船に装備していた幾重もの巨砲はその圧倒的な炎の光で未開の島々を次々に征服、其の支配下に置いていった。精神的な病気とそれに対する治療法が発見されたのである。  我々の身体内部には心臓や肺腑、胃腸に腎臓、静脈動脈、更には骨や神経と様々な器官が内臓されているのだが、各器官が正常に働いている限りに於いて身体の内部を感知することは出来ない、その不可知である身体内の領域もまた暗い夜の海なのである。しかしながら或る器官、例えば胃という器官の機能に異常が発生すると苦痛を通して今まで意識していなかった胃という器官が突如として意識に浮上してくる。今まで全く見えなかった対象が朧気にだが見えてくるのだ。そのような意味で苦痛は夜の闇を照ら��熱を伴った光だと言えるだろう。  生まれた瞬間の赤ん坊が盛大に産声をあげるのは彼が非常な苦痛を感じているからである。母親の胎内という温かで完全に平穏で充溢したしかし完全に暗く閉ざされた空間から不意に切り離され、一個の独立した存在として胎外へと放り出された彼の全身に宇宙全体の圧力が衝撃的に圧し掛かる。さむく、まぶしく、いたい。しかし彼が生まれて初めて知るその苦痛そのものによって彼は初めて世界というものの姿を認識するのであり、それは永久に続くかに思われた暗い夜の地平線に原初の太陽が輝き始める瞬間なのだ。  苦痛とは認識である。こんな一つの真理に達した経緯には一つの経験があった。それは特別な経験などではなくてごく有り触れた何でもない経験である。  仕事の作業が終わり、私は仄か暗い流し場で汚れた雑巾を洗っていた。季節が二月の初旬である為に蛇口から流れ落ちる水は非常に冷たく、暫くの間その水に触れているとその冷たさは火に触れているかのような熱さへと変わった。と間もなく鋭く強烈な衝撃が胸の辺りに走った。私は思わず小さな呻き声を上げて雑巾を下に落とす。それは心臓が止まってしまうような危険を予感させる痛みだった。  軽い溜め息を何度か吐いて、私は再度雑巾を洗い始める。冷たさを感じる段階は省かれ、今度は熱さを感じる段階から始まる。その熱さに私は違和感を覚える。なぜこれ程冷たい水に触れていながら熱いと感じるのか。この熱さとは一体何の熱さなのか。  それは私の肉体の熱さだった。手の表面の感覚は水に冷やされて著しく低温となっているが、手の内部にあるその血や肉は未だに恒常の体温を保っている。冷水の低温と一体化した手の表面が身体内部の体温を感知するから熱いと感じるのだ。  もし仮に冷水自体が感覚を持っていたとしたならばこの熱さは冷水が感じている私の肉体の熱さだと言えるだろう。しかし冷水は意志を持たず認識もしない。だからそれは鏡のように私の冷えた両手に私の肉体の熱を映し出すのだ。  手と併せて冷え切った血液は腕や肩の内側にある血管を流れて心臓に達する。脈打つ温かい心臓は流入してきた血液の冷たさを感知し、意識の中に心臓の形が浮かび上がる。しかしその姿形はまだ外廓だけでその中身は未だ朧気だ。やがて心臓の表面が冷たくなる。すると冷たくなった心臓の表面が心臓の内部の熱さを感知し始める。意識の中に心臓の内部が浮かび上がり、それは同時に鋭い衝撃、苦痛を齎し、私は雑巾を下に落としてしまう。  しかしながらこのまま怯まずに冷水に手を晒し続けたら、延々と心臓を冷やし続けたらどうなるだろうか。確実に心臓は凍り付き壊死していくだろう。しかしそうして心臓が冷たく凍り付いていく過程でその心臓はもっと深奥で未だに燃えている炎の熱さを感知する。それは生命の炎の本源だ。その炎に触れる感覚は想像を絶する熱さであり死の苦痛であるのに違いない。極限状態に到達した認識は飽和して喪われるであろう。しかしその過程で私は私を焼き滅ぼす私自身の生命の炎を完全に認識するのに違いない。  冷たさは心臓の表面を明らかにする。しかしそれは認識として不完全だ。心臓そのものの内実を認識するには熱さ、つまり苦痛が必要となる。知性の怜悧な光は存在の表面を解き明かすが、存在そのものを認識することは出来ない。存在を認識する為には自らを焼き滅ぼす苦痛の炎の中へ飛び込んでいかなくてはならない。  記憶に刻まれる、という言葉は認識という行為の本質を的確に表現している。記憶というものが脳の中にあるのであれ精神の中にあるのであれ、どちらにせよ自分の中にあるものならば記憶が刻まれるときは当然自分自身が刻まれるのであって、苦痛はその証拠の傷跡である。私自身の記憶を過去に遡ってみても、強く鮮明に残っている記憶の裏には必ず強い苦痛や苦悩が存在していることに気が付かされる。楽しかった嬉しかったという思い出といえども忘れているだけでその前後にはそれ相応の苦しみが存在していたはずである。でなければ記憶には残らないだろう。  少年時代の思い出というものは誰しも鮮明に覚えている。黄金時代とも比喩されるその時代の記憶は長い時を経ても尚色褪せることがない。それは少年という受容体が精神的にも肉体的にも薄弱で未発達で免疫力も抵抗力もなく、外部からの圧力や刺激に対して深い傷を負いやすい存在だからである。大人から見れば何でもない些細な出来事にも少年は深く傷付く。深く傷付いた少年はそれだけ深い苦痛を感じ、同時にそれは認識として魂の深い所に刻まれる。
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catdoll007 · 5 years ago
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🛀 🎻💐 melody🎼 You’re Only Lonely / J.D.Souther 🎧 . 誰かのhappyはみんなのhappy 😝🌹🌿 自己欺瞞は保障を求めて運命をコントロールしようとし過ぎた結果だそうです...🦹🔱 . . 今日の #媚薬フレーズ #心を日記に綴る 🖌️ #人生の核は人間であってはいけない🧸🎈 . . . 🌷🧸 🇫🇷 🥖 今回のアレンジは、60年代のフランスを代表するスタイルアイコンで『セックスキトン(セクシーな仔猫ちゃん🐈)』と呼ばれた元祖小悪魔女優 《ブリジット バルドー 》のボリューミーで盛り盛りな #BeBeアップスタイル💋 のチュートリアルです👸💕 . 彼女の無造作ヘアスタイルは “ #ベッドルームヘア ” と呼ばれ、セクシーなヘアスタイルの定番なの🛀💓 . . 🦄まずはイヤーツーイヤーでフロント部分を残しておく . 🦄後ろの髪をトップでポニーテールする . 🦄ヘアカスタ7️⃣FUNWARIを全体に馴染ませる . 🦄少しずつ毛束を分けながら掴みカールアイロンで毛先から根元へ向け巻き込む . 🦄結び目辺りにボリュームパウダーをふりかけて逆毛を立てる . 🦄毛先の方からクルクルと指に巻き付けながらトップへ巻き込んでピニング . 🦄丸めた毛を縦に引っ張り出しながら軽く崩す . 🦄フロント部分はセンターでジグザグに分けてから何段階かに分けてリバース巻き . 🦄後れ毛を残しながら下からトップの方向へ巻き込んでピニング . 🦄バングは軽く逆立ててユルくカーブさせながら毛先をサイドで留める(両側同じように) . 🦄ベタつきのないツヤ感の出るキラキラシューで艶を出す . 🦄後ろ気味にヘッドアクセを飾っておしまい🎵 . . #セックスシンボル #無造作へア #ブリジットバルドー #BrigitteBardot BB #FemmeFatal #レトロマネキン #グラデーションカラー #AFBlueJeanBaby #BlueJeans👖 #コルセット #片割れ星⭐ #ホロスコープ 🌞 #射手座月 ♐ #山羊座木星 ♑ #犠牲を伴う献身からの解放 🤲 #境界を超える時世界は反転する🤸 #臨界点に達して世界が反転するポイントが突破口 #ゴールなんて無いから走り続ける🏃‍♀️ #直球で投げた言葉も相手には変化球で届くこともある #世の中は全て自分の認知と解釈で成り立っている👄 #道険笑歩 👣 #覚悟を決めてる者は強い #意志は瞳に表れる👀 #瞳は魂を映し出す鏡 #catdoll🧜‍♀️ . . https://www.instagram.com/p/B5nE7cnJKDf/?igshid=m3sxtzv23exj
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uradouri-log · 5 years ago
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好きなシナリオ_過去ログ
2013~2016年頃にサイト移転前にメモしてたのを格納。 年代はうろ覚えです。 プライベッターに格納してしまってもいいかもしれない。
■ 好きなシナリオ シナリオ感想というより、好きなシナリオをただただ上げているだけのページ。 ユーティリティシナリオと店シナリオ以外は、ネタバレを避けるためコメントは少なめに。 通常、VIP、兄貴わりとごちゃまぜですのでご注意ください。(狂い、地雷はたぶんあまりあげてない、はず) ※各サイト管理人様へ。勝手にご紹介してすみません。ご迷惑でしたらご連絡ください。削除等の対応をいたします。随時更新。
◆好みな傾向(特に一番上。それ以外はあったら嬉しいな程度) ・PCメインで進行 ・口調設定有、口調対応有り ・PC同士の会話が多い ・PC同士の関係反映
◆少し苦手… ・NPCとの恋愛 ・PT内が非常に険悪になる
【はじめての方向け 】 ■チュートリアル ※一通りの遊び方を確認できます。 ■カードの世界 ※カードの使い方を実際に遊びながら確認できます。 ■ASKシナリオ ※公式サイト様のシナリオ。様々なシナリオでクロスオーバーされています。 ■さくっと寝る前カードワース ※良作の短編シナリオ詰め合わせ。
■制作者向け ※ありがたくも便利なテンプレートシナリオ(遊ぶのではなく、)WirthBuilderでこれをもとにシナリオを作ったりするのを目的に配布してくださっています。NEXT用と明記がないものは、当方はver1.50で動作確認しています。
■一人称・二人称自動設定リソース 一人称と二人称、そして口調自動設定処理まで実装されている寺雨さんのテンプレートシナリオです。口調設定の処理を組むときにすごく参考にさせていただいてます。 ■二人用テンプレートシナリ(NEXT用) 二人用シナリオを制作する上で、キャラクターの役割分担、口調分け設定、3人以上で入っても問題なく開始可能な処理まで実装されているサンガツさんのテンプレートシナリオです。
【ユーティリティ】 ※口調、性格、種族、嗜好とか自分のキャラに細かい設定ができます。 シナリオによって対応してたりしてなかったりしますが、自己満足できていいかも。 これ以外にも沢山公開されてます。 ただ、個人サイトに控えめにあげられてるのが多い。
■VC2 ※年齢、性別、特徴、口調、種族、職業、役割、恋愛関係設定可能。 これ以前に上げられているユーティリティシナリオのクーポン配布がまとめて出来るので、 このユーティリティシナリオである程度クーポンをPCに配布しておけば、にやっとできるかも。 (口調、種族、職業、役割、恋愛関係は特に。) ■初期クーポン編集 ※年齢、性別、特徴設定可能。 ■称号登録所 ※口調・職業・役割などに加え、酒豪・方向音痴といったフレーバー的なクーポンを配布するシナリオ。 ■VIP Wirthクーポン配布 ※口調、性格、嗜好とか。現在入手不可ですが↓のシナリオで一部のクーポンは入手可能。 ■宿の自室 ※一人称、二人称、口調、性格(例:知識人、ツンデレ/素直、大人/子供など) それとこの方の「一人称二人称自動設定リソース」がとても参考になるしありがたいです。 ■風聞の暗躍者 ※口調、性格、味覚、生い立ち、性癖、職業、役割等色々設定可能。かなり他種類のクーポンが配布できます。 ■夢クーポン配布所 ※冒険者達が抱く夢をクーポンで配布。PCの個性付けに。 ■アスカロン教会跡 ※冒険者の心の闇を付与するクーポン。PCの個性付けに。 ■冒険者の心得 ※これで配布されている「料理上手、料理下手、デスコック」 は他のシナリオで見かけたりします。デスコックいいよね!! ■非公式種族登録所 ※いろんな種族クーポンを設定できます。鑑定を使うと・・・?作者様のシナリオはこれら種族に対応してることが多いので、より楽しめますよ! ■Adventurer’s Spice ※特徴付けクーポン配布シナリオ。食事傾向と関係設定が色々あって素敵! ■英知の書 ※異言語クーポン。 このPCはこの言語に精通している・・・とかとてもいいなっておもいます。 ■クーポンマガジン CW号 ※ユーティリティシナリオの称号はかなりの数網羅されている。もう手に入らないシナリオのものもあるので有り難いですね! ■星の距離を超えて ※人外PCの人間に対する思想や態度を決定するクーポンを配布されています。種族に寄って複数パターンにわかれているので突入するだけでも楽しいです。 ■その鏡に写るのは ※髪色、瞳色クーポンを配布されています。さりげに吸血鬼クーポン反応して嬉しかった…。
【 街・店 】  ※街中でイベントをこなしていったり、スキルを購入がメインのシナリオ。 好みが分かれるので色々探してみるといいかも。
■交易都市リューン #C2 ※画像差し替え、口調設定可能なリューン ■轗軻の人 ※美麗で心くすぐられる魔術 ■碧海の都アレトゥーザ ※港町で買い物とクエスト。舞踏家スキルときめく ■メレンダ街 ※買い物と数え歌を巡る謎。多種多様お洒落なお店とスキル達 ■隠者の庵 ※他のシナリオで対応されているスキルが沢山 ■水は流れず ※吸血技能販売シナリオ。PT内で吸血契約可能。 ■思い出は緑 ※植物系スキル。グラフィックが綺麗。温室とかいいなあ ■死霊術師の館 ※死霊術師、吸血鬼技能の販売+α。職業、種族クーポン配布有り ■4色の魔方陣 ※幽閉された魔術師からスキルを教わる。格好いい系魔術 ■城館の街セレネフィア ※多種多様スキル。銃スキル好きだなあ ■明けの森の花屋 ※精神適正、花スキル ■魔女のビブリオテカ ※セイレーンやエルフ専用スキル。種族クーポン配布有り。綺麗! ■きつねのパン屋さん ※妖狐技能とアイテム(パン)販売。妖孤クーポン配布有り。可愛い! ■WELCOME TO ADROAD! ※種族クーポン配布有り。グラスホッパーとライカンスロープいいぞ・・・いいぞ・・・ ■万魔の街シュカー ※人外向けクーポン盛りだくさん!!人外好きさんにおすすめです。 ■闘者の杯 ※アイテムとスキル。アンティーク調で高性能。リューンスキルのアレンジがすごいかっこいいです。渋いぞ!! ■時計塔と霧の街 ※吸血鬼や歌劇、機甲技師、医療系、童話モチーフ。見て回るだけでも楽しい作りこまれたスキルカードがたくさん。 ■夜渡る鬼 ※短剣技能に加えて、吸血鬼PCがいると…。【器用】適正の吸血鬼技能が嬉しい!局外者経由PCでぜひ! ■忘れ水の都 ※時空魔法(隠し)とか舟歌技能が好きです!斧とオカリナ技能も好きだ。 ■魔光都市ルーンディア ※血液パックが売ってるのがすごい。吸血鬼PCもにっこり! ■リューン互換+α ※リューン互換の美麗スキルカードにうっとりします。宝石モチーフになってたり、エジプト風になってたりとても素敵。 ■湖水都市カスケード ※ここの教会区の技能が好きで…。神官戦士達の槌、斧、槍、鎌、剣が特に好きです! ■万色の魔術師、その遺産 ※火・土・光・風・水・氷・雷・闇・無・星の全部で10種類の属性の美麗な技能が。魔術師PCの得意属性を考えながら買い物したらとても楽しいと思います! ■うさぎ小屋 ※器用適性の超能力・双銃・香水・家政婦・舞踏スキル。双銃かっこいいー!!
【クエスト】
■新月の塔 ※塔に囚われた五人の仲間を助け出せ!仲間を助けていく課程がたまらない。 ■アゼリナを翔る者達 ※船旅と港町、観光したり、謎を解いたり。壮大。キャラの人格設定が合致するととても燃える。 ■深き淵から ※PTに関係設定してプレイをおすすめ。PT会話豊富。最初の選択肢は是非大事な相手がいるキャラで。 ■桃源郷の恋人 ※PTに関係設定してプレイおすすめ。PT会話豊富。所持クーポン分岐、イベント分岐が作り込まれていて何周やっても楽しいです。
■廃墟のひとり子 ※姿を消した仲間を残りの5人が捜す。姿を消した側の仲間の場面もみれてときめく。 ■悪夢の地※PC達のかっこよさ。壮大で燃える展開。マルチエンド。一番長い展開のエンドは本当に熱くなります。 ■見知らぬ仲間 ※リーダーを気遣う参謀と盗賊が一癖あってたまらない。 ■帰らずの遺跡 ※参謀かっこいい。自キャラの参謀がリアリストというか冷血タイプなら是非。 ■碧眼の瞳 ※幾度も試行錯誤しながら頑張るPC。シリアス。徐々に広がる展開。 ■冒険者の宿で ※ある程度散策進めていくと、釣り、散策、ダンジョンなんか色々出来る。時々墓地の教会で…? ■砂を駆る風となれ ※PCの魔術師役メイン。カンタペルメのネタで雑談可愛かった。砂漠はロマン。 ■敵意の雨※シリアス。数々の強敵を倒してきたPTで是非。 ■協奏曲<FATE> ※6話完結。作り込みが凄い。リーダーメイン。2話目は是非リーダと仲の良いPCで。吟遊詩人反応有り。 ■キカイジカケ ※口調対応はそれなり。演出が凄く好き。リーダーと相棒がとても仲良しなので、そういう二人を選択するといいかと。 ■紫紺に染まる真紅都市 ※ファッションショー開催までに事件解決するシナリオ。多数のクーポン対応によるPCとNPCの反応の多さに脱帽と感動。調査楽しいいい ■凍える湖城 ※冒険者たちがわいわいしながら街を助けるのがとても好きです!サブイベントあったりする!かわいい!! ■幻牢の王国 ※見知らぬ土地で散り散りになった仲間を探しにいく…冒頭からときめきますね。仲の良いPTの軽いやりとりがすごく楽しいです! ■ 銀の小袋亭※暗殺者タイプの盗賊キャラで是非 ■ジェーンシリーズ ※コミカル。PCとNPCのやりとりが楽しい ■相棒捜しの依頼 ※親友、片思い、恋人設定で楽しめる ■ 汝は王様なりや?※さくっと笑いたい方。テンション高いパーティが好きなら。パイルドライバー!!!! ■屍の恋人※お互い大事に思っている相手がいる2人をパーティに入れて是非 ■よいこの雑貨※保護者とマスコットのある日。可愛い。ほんとかわいい!! ■幸福な関係 ※大事な相手を看病する話。親友、片思い、恋人で楽しめる ■盗賊物語 ※盗賊、盗賊スキル大活躍。潜入捜査とか好きな方向け ■B.U.Gallery ※ちょっと背筋が寒くなる話。PT内の会話多くて楽しい ■記憶は洞窟の中に…… ※仲間の1人がうっかり記憶喪失に。コミカル ■紅し夜に踊りて※紅い夜に戦う冒険者達。最後の敵は…! 人外PCいたら本当滾りますよ。 ■劇団カンタペルメ※演劇しようぜ!! 大好き!!! ■にわか雨の英雄 ※コミカルな立ち位置のPCがいれば是非。娘さんとの攻防! ■局外者 ※じんわりと雰囲気が大好きなんです……。PC1人が吸血鬼になってしまうのでご注意ください ■木の葉通りの醜聞 ※知識人、参謀系PCがとても格好いい。ちょっとした推理。 ■虹色の魚 ※海に潜って魚探し…だったんだけれども! ■がたごと。 ※おだやかにべた甘ですね…。お互い素直で甘い関係のPCがいるなら ■喧嘩にかぶる笠はなし ※ツンデレ口調が、なんかもう…好きです(真顔)くだらないことで喧嘩するけど仲良し冒険者達で是非 ■交易都市の一夜※追っ手をまいて書類を届けろなシナリオ。PCが帰らぬ人にならないようルート選択は慎重に… ■寸劇剣戟バレンタイン※しゃべりまくるPC達が楽しい!寸劇しながらチョコを依頼人にあげるシナ。クールなPCだとイメージに注意かもしれない。 ■月下美人 ※仲良しな二人組で。親友、恋人設定と口調設定可能。ツンデレも付与できます。ときめきます。 ■相棒捜しの依頼※2人用。恋人、片思い、親友関係設定+喧嘩仲間、普通、主従、暴走選択可能。口調設定もできるので、PCに関係設定考えてれば是非。可愛い。 ■ゴブリンの洞窟coolREMIX ※お前等…クールすぎるぜ ■アンタレス ※この世界観、雰囲気が凄く好きです…。静かな夜の街を一人で歩く。 ■盲目の道筋 ※すごい緊張感。低レベル向けとのことですが、高レベルでも楽しめる���じゃないかな。背筋が寒くなる演出が凄い。 ■美酒は魅惑の味わい ※兄貴系シナリオです。しかし、お酒の材料集め楽しい。 ■ザベリヤ村の攻防戦 ※緊張感ある村探索とギミックや建物を利用した篭城戦にときめきました…。 ■施錠された小屋 ※みんなで小屋掃除。丁寧な作りです。どうしようもなくなったばあいもちゃんと脱出できますが、色々とアイテム利用していく課程楽しい。 ■雨宿りの夜 ※この静かにぞくりとする雰囲気が大好きです…。探索ほんのりホラー好きにお勧めしたい…! ■ガラス瓶の向こう ※深い絆で結ばれた二人の冒険者でどうぞ。たのしみすぎてDLからしばらくプレイできなかった。ときめきますね。 ■賢者の果実 ※受難の主人公(戦士タイプ、あまり頭良くないの推奨)と仲間の掛け合いが凄く楽しいです。 ■My Own World ※恋人、仲が良すぎな親友とかの二人でプレイを是非。片方が依存気味なのがすごくたまらんです ■祝日のネットワヤージュ ※パーティがわいわいしながら、年末大掃除。保護者とマスコットの間柄設定できるノ嬉しいな。クロスオーバーの会話もいい。 ■ネムリヒメ ※仲の良い2人でぜひ。 ■わっしょい! ※わっしょい!!わっしょい!!そいや!!そいや!!(かなりルート分岐があるので狂い系大丈夫ならぜひ) ■アッチャラペッサー ※アッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサー ■聖北屋敷(仮) ※吸血鬼が主人公ですよ!!吸血鬼PCをコミカルに大変な目に会わせたい人あつまれー!! ■魔導書解読の依頼 ※次第に様子がおかしくなるPCの1人。PT同士の会話がいろいろ考えられていて楽しいです! ■赤い花は三度咲く ※戦士がかっこいいーー!!戦士と参謀の互いを考えてこその喧嘩から始まり、救出、その後の展開が素敵。 ■毒を食らわば ※2人シナリオ。皮肉屋参謀とちょっとお人好しの戦士がかなり危険な目に。シリアスでややグロ。なんだかんだ信頼しあってる感じがすごく良いです。あと全体の雰囲気が好き。 ■In the mirror ※とあるNPCはわかるひとにはわかるあの方。巻き込まれたPCを助けるために仲間ががんばる展開大好きです。 ■Through the hole ※↑の続き。切り替えながらダンジョンの謎を解いていくのが楽しいです。バッドエンドはなかなかぐろいので注意。 ■アケロンの渡し ※最後の台詞がかっこいいです。幽霊船探索は楽しいぞ! ■老婦人と絵画 ※老婦人と1人のPCの短いふれあい。長命種でやるとまた感慨深いかもしれない。私はひねくれ系のやつ突っ込ませました。 ■ウニ退治 ※狂い系なのかな・・・?な、なんかすきです・・・。 ■まどろみは竜の夢 ※依頼先で病に倒れた主人公を救うべく、仲間たちが探索へ。PTの会話が主体。雰囲気が素敵です。 ■船出の歌を歌うという事 ※1人用。目が冷めたら見知らぬ船にいた。魂を救ってあげる話。静かで切ないですが、美しい雰囲気です。 ■碧落飛翔 ※竜と共にレースに挑む話。主人公だけじゃなく他の仲間との連携や支え合いが描写されていてたまらない。後半の流れは鳥肌ものです・・・! ■Mimic ※参謀かっこいいーー!!後半の台詞ははまるかたにはがっつりはまるとおもいます。あと全体のつくりがとても丁寧だなあと感じます。 ■ごく普通のゴブ洞 ※これだけ大量のフレーバークーポンに対応しているシナリオを今まで見たことがない。すべてのPCでいきましょう!!ぜひ!! ■ハロウィンカーニバル!!(仮)企画サイト ※限られた素材を生かして各々がシナリオを作り、一箇所のアップローダーにまとめあげる企画。楽しいハロウィンシナリオいっぱい。 ■Wolf’s Night ※狼男の足取りを追うシティアドベンチャー。PTのキャラ付けがしっかりされているので合致すればかなり盛り上がるかと! ■ワナ罠 ※カードワースならではの楽しさ。まずはぜひやってみてほしいです。楽しい! ■まどろみは竜の夢 ※主人公と相棒の掛け合いを中心としたシナリオ。とある竜との邂逅。展開によっては…? うおお好きだ。 ■ねことぼうけんしゃと ※猫に触りたい冒険者とそれを見守る冒険者かわいい!!保護者とマスコットみたいな間柄で遊ぶと暖かい気持ちになります ■日記 ※同じ組み合わせで周回プレイでなるほどとなる感じ。PC同士のやりとりが、お互い信頼しあってるんだなあと感じて嬉しいです。 ■夜と私と吸血鬼と ※メンタル弱い吸血鬼ってかわいいとおもいます…。いつもは不遜な子がよわるとこうなるでも、もともとちょっと打たれ弱いタイプでも私は美味しいなと!! ■パーティ名会議(新) ※素養クーポンたくさんあればあるほど会話の幅が広がってすごくたのしい!!です!! ■夜闇を駆ける ※親友な間柄でやりました。視点切り替えと時間制限の緊迫感がすごい。頭脳担当の方のリドルは右の部屋に苦戦しつつなんとかなったのでよかった! ■金の鍵の部屋の恋人 ※内側にこもらせる系PCが好きだとときめきます。表面は落ち着いた水面みたいというか、感情を爆発させず、淡々とした態度をとってる相方が愛しい ■黄昏の恋人 ※仲間の逢引(?)現場に遭遇した主人公の胸中がみていてにやにやしてしました。相方が主人公を少し子供扱いしてるのが好きです。あとさりげに素養とか吸血鬼クーポン反応してるっぽくてウワアア! ■隣りにいるのは ※無音と効果音で構成された場面と、要所要所でかわされる会話で、じわじわと這いよってくるような恐怖とか狂気とか執着が垣間見えて、心臓を鷲掴みにされます。 ■より道 ※子供PC2人をつっこんだら大変かわいいリリカル空気になってこっちがにやにやしました…。好意をオープンにしてるほうのPCの可愛さ。と内省的な方のむずむずした感じがすごくいいです。 ■鋏 ※戦闘狂と飼い主の組み合わせがまず大好きです!!まさにそういうPCが自PTにいたので嬉しい…。戦闘狂の方を表現する文章一つ一つが、目を通す度に染みこんでくるような感覚になりました。 ■たなごころ ※長命種と短命種の組み合わせがまず大好きだし、この短命種の包容力と長命種の普段はそうでもないかもしれないけれど、ふと未来に不安を感じている臆病さが大好きだなあと思いました。 ■木漏れ日の雫 ※さりげない会話に気心知れた2人という印象を受けて穏やかな気持ちになりました。無礼講!という事でで酒癖暴露されてると楽しいです…ww ■6月末の簡易ブライド ※かーーーわーいかっっっったーーー!!冒頭のやり取りが大好きです。ドア「(解せぬ)」 ■なんかヤバイ洞窟 ※なんかヤバイので、いかないとまずい的な(たとえ脳筋戦士でも落ち着いたリーダーでもクールな参謀でも語彙って大事なのがわかる)
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sorairono-neko · 5 years ago
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パーフェクト・キス
「餃子が食べたい」  ヴィクトルが主張すると、勇利が「突然、なに?」と��きれたように言った。 「食べたい」 「中国大会で中華料理をこころゆくまで楽しんでたじゃない」 「あれはあれだ。それに、餃子は食べなかった」  ヴィクトルは粘り強く言った。 「日本の餃子はまたちがうし」 「そう。じゃあ食べに行ってくれば」  勇利はそっけなかった。ヴィクトルは声を大きくして抗議した。 「勇利はつめたい! 俺は勇利と行きたいと言ってるんだ!」 「ちょっと、そんな剣幕で……。いつもぼくを置いてどこへでも行くじゃない」 「いつもじゃない! そんなことは百ぺんのうち一回くらいしかない! それに、勇利が一緒じゃないときは、勇利を連れてくればよかったと後悔していた」 「おおげさなんだよ」  勇利はさらにあきれ顔をしたけれど、ヴィクトルの物言いがあまりに子どもっぽかったからか、困ったように笑い出し、「わかったよ」と仕方なさそうにうなずいた。 「餃子。餃子ね」  勇利は考えこむようにつぶやいた。 「この近くだとラーメン屋さんしかない……」 「それでいい」  ヴィクトルは勇利と一緒に近所のラーメン店を訪れ、そこでビールと餃子と大盛りラーメンを注文した。 「勇利は飲まないの?」 「けっこうです」  勇利は慎ましやかにおむすびを食べていた。美味しそうに、大切そうに口に運んでいる。彼がおむすびを食しているところをファンが見たことがあるのかどうか知らないが、リンクに投げ入れられるぬいぐるみにおむすびが多いことに、ヴィクトルはなんとなく納得した。 「ほら、勇利も餃子食べて」 「ぼくはいいよ」 「いいから。美味しいよ!」  ヴィクトルは勇利のほうへ餃子の皿を押しやった。勇利は溜息をついてからそれを冷まし、ぱっくりと口に入れた。 「ほら、もっと。俺ひとりじゃ食べきれない」 「ヴィクトルがたくさん注文するからだろ」 「食べて食べて。俺はラーメンおかわりしようかな……」 「替え玉する余裕があるなら餃子食べたら!?」  まんぷくになったし、勇利が熱い餃子をふうふう吹きながら美味しそうに食べるところも見られたし、ヴィクトルはたいへん満足だった。ふたりは外に出、のんびりと家路についた。 「美味しかったね」 「ヴィクトルは食べすぎ」 「勇利ももっといっぱい食べればいいのに」 「なんでそんな意地悪言うの」  勇利がちらとヴィクトルをにらんだ。ヴィクトルはかわいいなと思った。ごく目立たない勇利は、普段の顔もかわいいし、笑ってもかわいいし、怒っているときもやっぱりかわいい。 「ちょっと寒いね。店の中が暑いくらいだったから余計そう感じるのかな」  勇利が息を吐いて空を見上げた。頬が赤いのは、身体があたたまっているせいか、冷えた空気にあてられたせいか。 「俺はぜんぜん寒くない」 「ロシアの人って日本にいて寒いと思うことあるの?」 「どうだろう。冬のあいだじゅういたことはないからね。今年はためすことができそうだ」 「ヴィクトルが来た日、雪が降ってたでしょ。あのとき寒かった?」 「いや」 「もうそれが答えじゃない?」  勇利が楽しそうに笑った。あのときは、勇利に会える、あのかわいい子に、コーチになってと言って目をきらきらさせながら抱きついてきたすてきな子に、自分のプログラムまですべって催促してきた凛々しい子に、という思いで胸がいっぱいだったのだ。寒いとか暑いとか感じているゆとりなんてなかった。勇利に会いたかった。 「夏はあっという間だったね……」  勇利が星空をみつめながら、両手を口元に当ててはーっと息を吹きかけた。指の隙間からくちびるが見えて、ヴィクトルはさっき餃子を吹いていた勇利を思い出した。つんとした口は愛らしかった。キスしたくなるようなかわいいくちびるだ。  キス……。  そう思った瞬間、ヴィクトルはとくにためらうことも深く考えることもなく、勇利の手首をつかんで引き寄せ、自然に身をかがめて顔を近づけていた。首を傾けてキスしようとしたとき、勇利の驚いた黒い瞳が目に入った。夜なので、いつもはチョコレートのようなそれが、いまは黒飴みたいに甘そうだった。 「やっ……」  ふいに勇利が、ヴィクトルの胸に片方の手を当て、押し戻すようにして抵抗した。ヴィクトルはびっくりした。 「……勇利」 「えっ、いや、なんで、何しようとしてるの」 「わかるだろ?」 「うそでしょ。ここ外だよ!? や、中でもあれだけど!」 「あれって?」 「ちょっと、ヴィクトルどうかしてるんじゃない? 意味わかんない」 「いや?」  ヴィクトルは真剣に尋ねた。まだ顔は近くて、手は勇利の手首をつかんでいて、瞳は勇利だけを映していた。勇利が赤くなった。 「え、えっと……本気なの?」 「冗談だと思ってる?」 「あの……その……ぼくは……」  黒くて可憐なまつげを伏せ、頬をまっかにしてためらっている勇利はおさなげで、たまらなくかわいく、ヴィクトルの胸をめちゃめちゃにしつつあった。あと数秒もすれば、ヴィクトルのこころはもう嵐のまっただなかみたいになるだろう。 「勇利」  ヴィクトルはもう一度キスしようとした。すると、もう一度勇利が拒んだ。 「あーっ、待って。待って待って待って」 「なんだい。手をどけてくれ」 「やだよ!」 「いや? 俺のこと嫌い?」 「や、そうじゃないけど! だからってこういうこと……」  勇利はどこか拗ねたように眉根を寄せている。やっぱりかわいかった。 「じゃあ好き? 好きならいいだろ?」 「意味わかんないってば! なんで?」 「勇利はどうして?」 「な、何が」 「なぜ俺とキスしたくない? 理由は?」 「そんなの、理由なんか言うまでもなく……」  勇利は顔を上げて反論しさし、それから思い直したようにまたうつむいた。 「だって……」 「うん」 「……は、初めてだし」 「…………」 「初めて……ヴィクトルと……そういうことするのに、あ、ほかの人ともしたことはないけど……、ヴィクトルとするのに、さっき……」 「ああ」 「……餃子食べたから」  勇利はたどたどしくつぶやいた。ヴィクトルは目をまるくした。 「ぼく、にんにくっぽいだろうし」  にんにくっぽいってなんだ。勇利は相変わらず変わったことを言う。ヴィクトルは笑いをこらえた。 「だからこういうのはちょっと……」 「俺も食べたよ」 「そうだけど」 「気にならない」 「自分がにんにくっぽいのわかるよ。だからヴィクトルもぼくのにんにくっぽいのわかると思う」 「気にしない」  ヴィクトルはもう一度言った。 「ぼくは気にする」 「俺がにんにくっぽいのいや?」 「ヴィクトルはいい。でも、ヴィクトルと初ちゅーしたときにぼくにんにくっぽかったってあとで思いたくない……」  勇利はかたくなな様子で、ちいさく、真剣につぶやいた。ヴィクトルはものが言えなかった。  なんてかわいいことを言うんだ!  ヴィクトルは感激しきっていた。ヴィクトルとキスをするときは完璧でいたいと勇利は言っているのだ。大切な思い出にしたいと。そんなことを言われたら、どうしてもキスしたくなってくる。でも勇利は怒るだろう。ヴィクトルだって勇利にすてきな思い出をつくりたい。 「……初めてじゃないだろ?」  勇利がなんと答えるのかヴィクトルにはわかっていたけれど、ついそんなふうに言ってしまった。 「あれはちがうじゃん!」  思った通り、勇利は子どもっぽく抗議した。 「あれは、そういうのじゃ……、確かにあれが本当の初めてだけど……でも……」  ヴィクトルはにっこり笑ってうなずいた。するとその笑顔を勘違いしたのか、勇利がさらに怒った。 「わかってるよ! ぼくだって、幼稚なことを言ってるってことくらいわかってる……。だけどぼくの正直な、真剣な気持ちなんだ! どれだけ幼いと言われようと、これだから未経験はって笑われようと、絶対譲れないからね!」  ヴィクトルは我慢ならなくなって勇利を抱きしめた。勇利はもがいたが、ヴィクトルが「しないよ」と優しくささやくと、抵抗をやめておとなしくなった。 「わかった。今日はやめておこう。勇利の意向に従うことにするよ。嫌われたくないからね。それに、確かに完璧な環境でキスすることはすてきだ」 「ぼくは何もそういうことを言ってるわけじゃないんだけど」  勇利が不機嫌そうに反論したけれど、それはあきらかにはにかみを隠すための手段だった。 「ちゃんとしたいから今日はだめって言ってるわけじゃない」  それでは近い未来に改めてしようと約束することになると気づいたらしい。彼はそんなことをぶつぶつ述べた。 「ちがうのかい?」 「ぼくは、にんにくキスはだめだっていうだけで……」 「にんにくキスじゃなければいいんだろう?」 「そうだけど、誘ってるわけじゃなくて……」 「俺が誘えばいいんだね?」 「そんなこと知らない!」  勇利はとうとう身をひるがえし、さきに立って歩き出した。 「なんでそんなにこだわるの? しなくてもいいじゃん! しなかったらにんにくキスにならないよ! しないっていう選択肢はないわけ!?」  照れにまぎらわせた癇癪に、ヴィクトルは一生懸命笑いをこらえた。そしてきまじめに答えた。 「ないね」  ふたたびヴィクトルがキスしたくなったのは、それからずいぶんと経った、年も明けたころだった。ヴィクトルは正月の休���を過ごすために長谷津へ戻っており、隣には勇利がいて、ふたりはこたつでみかんを食べながら、のんびりと正月番組を眺めていた。家族はいなかった。両親は年始の挨拶に出ていたし、真利は友人と初詣に出掛けていた。 「これ、つまんないね」  勇利がテレビをみつめながら口をとがらせた。 「ヴィクトルの動画見ない?」  ヴィクトルは噴き出した。何があってもヴィクトルの過去の演技を見たがるのが勇利だ。 「好きだよね、勇利は」 「ぼくのヴィクトルへの愛は年中無休だよ」 「すてきな言葉だ」 「動画がだめなら、生で見せてくれてもいいんだけど……」 「リンクは閉まってるよ」 「言ったな。開いてたらいいんだね? ぼくが頼めば開けてもらえるんだよ。ヴィクトル知ってた?」 「知らなかった」  ヴィクトルは笑いをかみ殺した。勇利は得意げに口元を上げ、「でもお正月くらいコーチをやすませてあげよう。優しい生徒でしょ?」ととりすまして言った。 「ああ、優しい」  ヴィクトルはうなずきながら、なんてかわいいんだと考えた。勇利は今年もかわいい。来年も、再来年も、その次も、永遠にかわいいことだろう。勇利は、ヴィクトルの美的感覚ではゆるせない着古したスウェットに、はんてんを着て背中をまるめていたが、どうしようもなくかわいかった。 「勇利」  ヴィクトルは衝動的な思いに従い、彼を引き寄せて顔を近づけた。勇利は目をみひらき、慌てたように瞳を揺らしたあと、���いでヴィクトルの胸をやんわり突いてくちづけを拒んだ。 「……勇利」 「だ、だめ」  勇利が緊張した表情でかぶりを振った。断られたのに、その緊張顔すらかわいくて、ヴィクトルはにこにこしてしまった。 「なぜ?」 「だって……」 「にんにくっぽくないよ」  勇利は秋の出来事を思い出したらしく、頬をほんのりと赤くした。 「だめだよ。いまはみかんっぽい」  ヴィクトルは噴き出した。 「みかんもだめなのかい? にんにくはわかるけど、みかんならいいじゃないか」 「いや……だめだよ。たぶんみかん食べるたび思い出すし……」 「俺とのキスを? すてきなことじゃないか」  勇利は口をつぐんだ。ヴィクトルは誠実に彼の目をみつめた。 「だめかい?」 「…………」 「いや?」  勇利は神妙な顔つきで沈思黙考し、こころぎめをしたようにおもてを上げた。 「ちょっと待ってて」 「なんだい?」 「歯みがきしてくる」  ヴィクトルは笑い出さないようにするのに必死だった。笑ったりしたら、勇利は拗ねて絶対キスに応じてくれないだろう。 「歯みがきしたら、いいのかい?」 「……うん」  どうやら勇利の思う「完璧な状態」は歯をみがいて綺麗にしたあとらしい。わからないでもないし、悪くない。ミントのさわやかな香りの中で勇利とするキスだ。 「俺もしたほうがいい?」 「ヴィクトルはいい。行ってくる」  勇利は覚悟をきめたような決死の面持ちで居間から出ていった。どんなふうにされると思っているのだろうと、ヴィクトルは可笑しくて仕方なかった。勇利はかわいい。  しかし、にぎやかな笑いがあふれてくるテレビを見ていると、すぐに彼は戻ってきた。 「どうしたんだい?」  勇利の歯みがきはしっかり���間を取るのだ。こんなふうにさっさと済ませるようなものではない。さらに、ヴィクトルとキスするための歯みがきだから、いつもの三倍はかかると思ったのだが。 「ねえヴィクトル……」  勇利は座りこみ、訴えるような目つきでヴィクトルを見た。 「思ったんだけど、歯みがきしてキスしたら、今後、歯みがきするたびにヴィクトルとのキスを思い出すんじゃないかな」 「…………」 「歯みがきなんか、一日三回じゃないか。一年だと九百……千……とにかく千回くらいだよ。ヴィクトルとキスしたこと一年に千回も思い出すの、ぼく無理なんだけど」 「…………」 「どうしたらいいと思う?」  勇利ってどうしてこんなふうなんだ? ヴィクトルは、なんて可愛い生きものなんだと、このうえなく興奮した。だからそれを示すために、勇利を抱きしめ、強引に押し倒した。 「ちょっと……」  勇利の目がまんまるになった。くちびるを重ねると、もっとまるくなった。かわいい、まるい目、とヴィクトルはくらくらした。くちびるはやわらかかった。すこしかさついている。ヴィクトルのリップバームを塗っていないようだ。ヴィクトルはとがめるように、優しくあまがみした。とがめるつもりがなくてもしただろう。  驚かせるという目的ではない、勇利との初めてのキスは、ほのかなみかんの香りが漂う、あまずっぱい接吻だった。 「……ヴィクトル」  静かにくちびるを離すと、勇利が目をみひらいたままぽつんと言った。ヴィクトルは怒られるかと思った。しかしそうはならなかった。 「ヴィクトルって、どうしてキスするときいつも押し倒すの?」  勇利の澄んだ瞳がゆっくりと瞬いた。 「えっちすぎない……?」  ヴィクトルは黙って勇利を抱きしめ、彼に頬を寄せた。可笑しくて肩がふるえていた。 「どうだった?」  ヴィクトルの質問に、勇利は率直に、純粋そうに答えた。 「みかんっぽかった」 「ヴィクトル、支度はできたの?」  勇利はホテルのふたりの部屋へ戻ってくるなりそう言った。 「すぐに遊びに行っちゃうんだから、さきに着替えてなきゃだめだよ」  そう言う彼こそまだナショナルジャージ姿で、バンケットのためのスーツは壁際にかかったままだった。ヴィクトルは笑いながらそれを指摘した。 「ぼくは呼ばれて出てたんだよ。ヴィクトルみたいに自由奔放なわけじゃないんだ」 「連盟のお偉いさんたちはなんて?」 「べつに」 「勇利はひみつ主義だな」 「本当にたいしたことじゃないんだよ。この大会に関するねぎらいなんだから」  勇利はバンケットは苦手のはずだが、必要なことだと割りきっているのか、あるいはあきらめきっているのか、いやだとか行きたくないとかは言わず、スーツひとそろいをベッドに並べて、ふっと溜息をついた。 「ヴィクトル、あのさ……」  これはヴィクトルがぜひにと言って勇利に買ったものだった。すでに着替えを終えているヴィクトルは、笑って彼の背後に立った。 「うつくしい勇利を見せびらかしたいのさ。早く着て見せてくれ」 「あのスーツでいいのに」 「あのスーツって、まさか俺と初めてダンスしたときのスーツじゃないだろうね。冗談だろう。あれはあれで思い出の一着だけどね、もう、ダサくてびっくりしたんだぞ。かわいい子だな、ただスーツがダサいな、って思ったあのときの自分をおぼえてるよ」 「ほっといて」  勇利は着ていたジャージをベッドの上に投げやりながらヴィクトルをにらんだ。ヴィクトルは笑った。 「冗談だ。本当は勇利のかわいさに魂を奪われて、スーツなんか目に入らなかった」  勇利は怒っているのかあきれているのか、返事もせずにどんどん着替えを進めていった。ヴィクトルは窓際の椅子に腰掛け、勇利のすらっとした姿を眺めた。勇利は姿勢がよく、しっかりと一本筋が通っているような立ち方をしており、腰元は驚くほどほそい。しかし、頼りない感じではなく、しなやかで、腕を巻きつけて抱きしめたくなる身体つきなのだった。 「これでいい?」 「上出来だね。髪は上げよう。やってあげる」 「自分でやるよ。眼鏡はどうするの」 「そうだな……」  着飾った勇利は、普段のごく目立たない様子とはちがって、はっとするような輝きがあり、ひどく清楚で、このうえなく上品だった。彼は百合のような純潔のきよらかさにみちていた。 「綺麗だ」  ヴィクトルは立ち上がって彼に近づき、耳元に詩的な賛辞をささやいた。勇利は聞いているのかいないのか、時間を気にして上の空だった。 「そろそろ行かないと」 「そうだね。待って、勇利、またくちびるが荒れてる。俺が何度言ってもそうなんだね。あれ、つけてないだろう」 「つけてるよ」 「つけてるところを見たことがないぞ」 「ヴィクトルの見てないところで塗ってるんだよ」 「なぜ俺の目から逃れてそういうことをするんだ」 「だって、あんなの指でつけてるところ見られるの、恥ずかしいから」  勇利が怒ったように言った。ヴィクトルはきょとんとした。何が恥ずかしいというのだろう。わからない。勇利は変わったことを言う。もう慣れっこだが。 「そんなに恥ずかしいなら、ほら、おいで。俺が塗ってあげよう」 「いいよ」 「本当につけてるのか? そのわりには荒れてる」  勇利のくちびるは、実際、かなりつやつやしているのだが、端のほうがほんのすこしだけかさついていて、ヴィクトルはそれが気になるのだった。みんなといるときなど、離れたところで友人と話す勇利を見ながら、「くちびるが荒れてる」とヴィクトルがつぶやくと、隣にいるクリストフはたいてい「どこが?」とあきれたような顔をする。 「俺にだけわかる感覚なんだ」 「おやおや、きわどいことを言うね。そんな話したって聞いたら勇利はなんて言うかな」 「怒る」 「すっかりめろめろにまいっちゃってまあ」 「うらやましいだろ」 「しあわせそうでなにより」  バンケットで会ったとき、きっとクリストフは、「今日の勇利のくちびるはヴィクトルがあれこれやったの?」と尋ねるだろう。ヴィクトルは堂々と認めるつもりだ。 「つけても気になって舐めちゃうんだよ」  勇利が口をとがらせた。 「慣れなきゃ」  ヴィクトルは薬指にリップバームを取り、反対の手で勇利のおとがいをそっと持ち上げた。勇利がまぶたを閉ざす。こういうときに目を閉じる勇利がセクシーだなとヴィクトルは思った。わずかにくちびるをひらいて、ちいさな顔を上向け、じっと目を閉じて無防備なところを見せるなんて、別のことをしたくなるではないか。ヴィクトルはほほえみ、しかし別のことはせず、薬指をあてがって、紅を引くようにうるおいをにじませた。 「さあ、これでいい」  勇利がまぶたをひらいてまっすぐにヴィクトルをみつめた。いったい誰が、この子を地味で目立たないなんて言うのだろう。 「ヴィクトルだって」  勇利がつぶやいた。 「うん?」 「ヴィクトルだってちょっと荒れてる」 「そうかな」  ヴィクトルは首をかしげた。それほどではないと思うが、ホテルの部屋は乾燥しているので、いつもよりは調子が悪いかもしれない。  勇利が言うなら自分も塗ろうかと考えたとき、ふいに勇利が両手を伸べ、ヴィクトルの首筋に投げかけて抱きついてきた。ヴィクトルは彼を受け止めて抱きしめたが、勇利が何をするかまでは予測できなかった。  ヴィクトルは目をみひらいた。勇利はヴィクトルにキスし、こするようにしてくちびるを押しつけた。それはつたない接吻だったが、ヴィクトルの気持ちをかきみだし、ぞくぞくさせるにはじゅうぶんだった。 「これでいいんじゃない」  勇利は言って離れた。口元にかすかな微笑をたたえた彼は、色っぽく、清楚で、大人っぽかった。 「早く行こうよ。遅れたらまた怒られる」 「……そうだね」  まったく……。ヴィクトルは溜息をついた。バンケットになど行かず、部屋に閉じこもってふたりきりで過ごしたい気分だ。にんにくがいやだとか、みかんっぽくなるとか、歯みがきのたびに���い出すとか、そんな初々しいことを言っていた勇利が、こんなことをするのだ。どうしても信じられないな、とヴィクトルは上機嫌で思った。 「勇利……」  廊下を歩きながら話しかけようとして、ヴィクトルは声を途切れさせた。勇利は深くうつむいてつまさきばかり見ており、彼の頬は、いつの間にかまっかに染まっていた。ヴィクトルはびっくりした。それからすべてを心得て、つい笑ってしまった。何かのスイッチが入ってあんなことをしたのだろうが、そのスイッチが唐突に切れて、急に気恥ずかしくなったらしい。おそらくいまの勇利は、にんにくっぽいのはいやだと言うし、みかんと歯みがきのあいだで迷うし、ヴィクトルがキスをしたいと言ったら「意味わかんない」と言って照れくさそうにそっぽを向くだろう。  ヴィクトルが声を殺して笑っていると、勇利が横目でじろりとにらんだ。 「なに!?」 「いや……」 「何か言いたいことがあるなら言ったら!?」 「なんでもないよ」 「にやにやしないで」 「そんな勇利を見たらにやにやしたくもなるだろう」 「やっぱり言いたいことがあるんじゃないか」  勇利はふくれてしまった。ヴィクトルは勇利がかわいくてたまらなかった。手を取って部屋へ後戻りし、いろいろと仲よくしたかった。いますぐに。 「勇利のスイッチってどこにあって、どういうときに入ったり切れたりするんだい?」 「スイッチなんかないよ」 「押し倒してキスすればよかったなあ」 「あのね、あれはキスじゃないから。さっきのは。そういうのじゃないから」 「そうかな」 「ヴィクトルが塗ってくれたからお返しをしただけだよ」 「セクシーなお返しだね。これから���日塗ってあげよう」 「ばか!」  そんなふうに言いあいながら、エレベータホールでエレベータを待っていたら、背後から「おふたりさん、何をいちゃいちゃしてるんだい」と声をかけられた。クリストフがひやかすように笑っていた。 「なんでもないよ」  勇利がすばやく言った。 「なんでもないらしいよ」  ヴィクトルは大きくうなずいた。勇利がまたヴィクトルをにらんだ。余計なこと言わないで、と念を押している目つきだ。クリストフが明るく言った。 「勇利、似合ってるね。ヴィクトルが選んだスーツでしょ? おや? くちびるに何かつけてる? リップバーム? わかった、それもヴィクトルだな」 「うん」  勇利は言葉少なに答えた。彼はそれ以上話したくなさそうだった。しかし、不機嫌なのではなく、とにかくはにかんでいるのだ。 「うつくしいだろ?」  ヴィクトルは誇らしげに言った。クリストフがヴィクトルを見た。ヴィクトルは得意になった。 「俺もくちびるにつけてるだろ?」 「ああ、そういえばそうだね。それが?」 「誰がやったのか訊いてくれ」 「訊いたら後悔しそうだな」  クリストフが芝居がかった様子でためらうと、勇利がヴィクトルの上着の裾を鋭く引いた。 「余計なこと言わないで!」 「なんで?」  ヴィクトルは陽気に言い放った。 「俺がくちびるをうるおしてあげたら、勇利がお返しにキスして俺のもそうしてくれたって、俺は自慢したいんだ」 「ばか!」  勇利は顔をまっかにすると、自分だけエレベータに乗りこんでさきに行ってしまった。クリストフが盛大に噴き出した。 「君さ……浮かれすぎじゃない?」 「クリス、いいことを教えてあげようか」  ヴィクトルはにっこり笑った。 「勇利はね、餃子と歯ブラシとみかんを見たら、いまみたいにまっかになるんだよ。理由を知りたい?」
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lion7line · 5 years ago
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030:参加シナリオ備忘録
*参加者敬称略
✾「楽園パラノイア」KP:ぽ PL:東嶺、わをん、るた(PC:海藤彗星、全国優勝、不死川雪華) 僕自身がなんであれ、自分のことを知れてよかった。 またどこかでね。 2018.12.23~2019.1.1
✾「相席居酒屋ナイア」KP: 東嶺 (NPC:海藤彗星) 随分酔いが回るのも早かったし、誰かに甘えたかったのかな。 …僕も結構酔ってたし人の事いえないなあ… (海藤さんにつけられたキスマーク:首筋残り1卓、鎖骨残り3卓痕が残る) 2019.1.6
✾「カクレンボ」PL:とっと、あらた(PC:八月一日枢、辻偲) ただの悪夢かと思ったけど、そうでもなかったみたい。 しばらくあの匂いは忘れられそうにないなあ 2019.1.6
✾「惑いの欠片」KP:わをん(NPC:全国優勝) 普段何気なくできていることが不自由になると結構大変だなあ。 …あんまり、無茶しないでくれるといいな 2019.1.8
✾「喫茶WIND」PL:わをん(PC:全国優勝) まさくにさんが楽しそうでよかった。少しでも役に立ってたらいいんだけどね 誰かのためにすぐ動けるのは才能だよ 2019.1.10
✾「質量21g」KP:cirno(NPC:羊ヶ丘萌絵歌) ただ巻き込んだだけかと思っていた。おもっていたけど、違ったみたいだ。 夜を、星を、夢を愛せる彼女だからこそ。揺り起こしてしまったのかもね 2019.1.15
✾「共有情」KP:わをん(NPC:全国優勝) 少し、僕も弱ってたみたいだ。きっとまさくにさん相手だったから零せた。 踏み出してみるのもいいのかもしれない。それが前か後ろかはわからないけれど 2019.1.17
✾「夜道の屋台」KP:かぷち(NPC:新戸ユーリ) 僕が、声をかけたから、…手を、引いたから。 2019.1.18 POW+1(新戸ユーリさんロスト)
✾「救いに非ず」*改変有 KP:わをん(NPC:全国優勝) またね、まさくにさん 2019.1.19
✾「Share the…」KP:わをん(NPC:全国優勝) 救いが何なのかわからないけれど。 僕が、この人と居たいんだ 2019.1.21
✾「水中密室」PL:わをん(PC:全国優勝) 水は嫌だ、溺れていくのももう嫌だ。 まさくにさんが助けてくれた、…ん、だよね。助けられてばかりだ 2019.1.25
✾「ふたりとも」KP:わをん(NPC:全国優勝) 不思議な出会いだったなあ。 …なんだか僕もまさくにさんに会いたくなったや 2019.1.25
✾「夜華」KP:たべすぃ(NPC:生形唯) 僕にどこか近いものを生形さんには感じた。 この縁の巡り合わせも大事にしたいな 2019.2.3
✾「イヤーカフ」PL:わをん(PC:全国優勝) 伝えたことをまっすぐ受け取ってくれるまさくにさんだから、知っていてほしかったんだ。 嬉しい、はまだこそばゆいけれど 2019.2.3
✾「思考実験室」KP: cirno (NPC:我部リアス) 罪悪感の上書きか単純に放っておけなかったからか。らしくないのかもね もしかしたら彼のいう所のおすそ分け、の気分なのかもしれないね (AF:紫のバングルを我部さんに預けました) 2019.2.4
✾「ティンダロスのわんこ」KP:けしかす(NPC:雨晴虹春) 子どもだなあ、と思えなかったのは彼女自身が悩んでいたから、かな 虹春さんが何かの答えを掴めるよう願ってるよ 2019.2.10
✾「ワンルーム殺人事件」KP:るた(NPC:不死川雪華) 本物か偽物か、なんてなかなか酷なことを強いてくる。 違う話の罪悪感の埋め合わせをしようとするなんて 2019.2.15
✾「うつくしい怪物」KPレス 欲しいと思ってはいけないんだ、そう願うほど苦しめるから。 ………それって、どんなものだっけ。 (後遺症:『愛情』を感じる『心』を失う/残り5卓) 2019.2.20
✾「幸福なコモリ」KPレス 誰かのふしあわせの上に成り立つしあわせなら、僕は手を伸ばせない。 どこか心が苦しくなったのは何故だろう。 (後遺症:『愛情』を感じる『心』を失う/残り4卓) (不定:味覚障害・味が分からなくなる。味覚に関する技能が使用不可。機能障害による恐怖で全技能に-10%/残り3卓) 2019.2.22
✾「何までなら殺せる?」KP:わをん ひとだから、 ひとでいたいから。 身体は満たされてもどこかぼんやりするような、そんな夢を見た。 (後遺症:『愛情』を感じる『心』を失う/残り3卓) (不定:味覚障害・味が分からなくなる。味覚に関する技能が使用不可。機能障害による恐怖で全技能に-10%/残り2卓) 2019.3.1 POW+1
✾「お地蔵さん」KP:わをん(NPC:全国優勝) あんなに穏やかな眠りにつけたのは、生まれて初めてだった。 まさくにさんの夢を見せてくれてありがとう。 (後遺症:『愛情』を感じる『心』を失う/残り2卓) (不定:味覚障害・味が分からなくなる。味覚に関する技能が使用不可。機能障害による恐怖で全技能に-10%/残り1卓) 2019.3.2
✾「R.I.P」KP:わをん(NPC:全国優勝) しばらくはちょっとした同居生活になるのかな。 誰かと、じゃなくてゆうしょうさんと食べるご飯だからあんなにおいしく思えたんだろうね (後遺症:『愛情』を感じる『心』を失う/残り1卓) (7週間のあいだ全国優勝さんと同居) 2019.3.4
 Θ同居中のルール  ・お互いのことは名前で呼ぶこと  ・挨拶をされたら挨拶を返すこと  ・1日1食は対面して食事をすること  ・家事は分担すること  ・週1回はハグすること  ・週1回は一緒に風呂に入ること  ・週1回は本音で語り合うこと  ・週1回はキスすること(どこでもいいよ!) →毎週木曜日にします。忘れないように
✾「君曜日の、あい」PL:わをん(PC:全国優勝) ようやくわかった。これは、喜びであり、愛であり、幸せだ。 教えてくれたのも与えてくれたのも彼なら、僕は何かを返せるんだろうか。 2019.3.5
✾「氷鏡の城」KP:わをん(NPC:全国優勝) 贖罪が独り善がりなら、今までと同じようにするべきなんだろう。 躊躇いを覚えるくらいには近づきすぎてしまったなあ 2019.3.6
✾「White dish」PL:わをん(PC:全国優勝) 夢だよ。 夢だから、忘れていて 2019.3.13
✾「あなたは神を信じますか」KPレス 僕は神を拠り所にはできないよ 2019.3.18
✾「人狼」KPレス 夢だけじゃなく、異世界、という可能性もあったのか。 なにがどれで、どう線引きをして生きて行こうか。 2019.3.18
✾「ゆいいつのひと」KPレス 特別ではなく、唯一を。 誰かに委ねられる日は僕には来��いだろうなあ 2019.3.19
✾「果てにて」PL: cirno (PC:我部リアス) ほんとうじゃなくて、よかった。 全てが嘘なわけでもなくて、よかった。 (AF:紫のバングルを我部さんから返されました) 2019.3.26
✾「この雨が止む前に」PL:わをん(PC:全国優勝) 彼を化け物にさせたくなかった。これは僕のエゴだ。 …約束した日が来なければいいのになあ 2019.4.7
✾「ニュイコシュマールに君の手を引いて」PL:わをん(PC:全国優勝) どれほどの幸せでも夢は夢でしかないから。 手を引いて、迎えに来てくれてありがとう。 2019.4.8
✾「無垢鳥」KPレス いつ終わりがきてもいいように。少しずつ、準備をしよう (後遺症:“白い羽根の幻覚”/視界に白い羽根が降り続ける。目星、図書館、芸術の視覚を使う技能に-5) (後遺症:“無垢の世界への憧憬”/残り3卓 あの純白の世界へ想いを馳せる。発狂時、内容を自殺癖に固定。以前に比べ、何事にも無感動、無関心になる。SAN値は通常通り減少) 2019.4.10
✾「しょうらいのゆめ」KP:わをん(NPC:全国優勝) (誰にも知られずに終われたのなら、それで) (後遺症:“無垢の世界への憧憬”/残り2卓 あの純白の世界へ想いを馳せる。発狂時、内容を自殺癖に固定。以前に比べ、何事にも無感動、無関心になる。SAN値は通常通り減少) 2019.4.12
✾「終わりなき病の処方箋」KP:わをん(NPC:全国優勝) いなくならないでほしいなあ。ゆうしょうさんの傍は心地がいいから 本当は、 終わらせたくなんてないよ (後遺症:“無垢の世界への憧憬”/残り1卓 あの純白の世界へ想いを馳せる。発狂時、内容を自殺癖に固定。以前に比べ、何事にも無感動、無関心になる。SAN値は通常通り減少) 2019.4.13
✾「まばゆいあさ」KP:わをん(NPC:全国優勝) 世界が終わって、ゆうしょうさんと引き換えに世界を救って。 あなたをヒーローにすることができたのかな 2019.4.19
✾「君が世界で生きる意味」KP:わをん(NPC:全国優勝) 見守るより傍に居てほしい。 あなたのいない世界は、どうしたって寂しく思うよ 2019.4.22(全国さんとの同居生活終了)
✾「貴方と共に映す瞳」KP:わをん(NPC:全国優勝) やっぱり、両方が揃っているのがいちばん好きだなあ。 朝の色を持つより見ていたいから。 2019.4.23
✾「2人ぼっちの即興劇」KP:わをん(NPC:全国優勝) お芝居なんてしたことがなかったけれど、僕も熱に当てられていたのかな。 彼と即興劇を演じるのは楽しかった 2019.4.24 SAN1ポイント永久喪失
✾「晩冬の最終列車」PL:わをん(PC:全国優勝) 珍しく街中で会ったと思ったら、どうやら僕の記憶だけが抜け落ちてしまったらしい。 …一時的なものならいいんだけれど。手伝えることがないのがもどかしい。 2019.4.25~2019.5.27
✾「マロウブルーに揺蕩って。」PL:わをん(PC:全国優勝) いつも通りの木曜がなんだか久しぶりみたいだ。 話をきかせてくれてありがとう、ゆうしょうさん。 2019.6.6
✾「わたしのかわいいハーメルン」KP:わをん(NPC:全国優勝) 明確に、自分の意志で他人の命を奪った。それでいいとすら思った。 …すこし息がつけてしまった自分が恐ろしい 2019.6.6~2019.6.11 POW+1
✾「オパールを分割したならば」PL:わをん(PC:全国優勝) 記憶のなかだけのゆうしょうさんがいる。きっとまた助けてもらったんだろう。 約束が、少しだけくすぐったく感じた 2019.6.27
✾「冴ゆ風のどこかで」PL:わをん(PC:全国優勝) 本当は、離れるのも忘れられるのも苦しくて、嫌だった。  迎えに来てくれて ありがとう。 2019.6.30
✾「胡蝶は誰が為に夢を見る」KP:わをん(NPC:全国優勝) 優しくて、穏やかで。もう遠くなってしまった『日常』の夢。 きっともう過ごすことがないからこそ、苦しくなってしまうのかな 2019.7.5
✾「ひとつの心臓」PL:とっと(PC:呉曙日) 弟の世代とあまり関わりがないから少し新鮮だったなあ。 どこかで呉くんが歌っているのを見れたらいいな 2019.7.10
✾「君を好きであるために」PL:わをん(PC:全国優勝) ゆうしょうさんであることに、かわりはないから。 僕にとっての幸は、彼が生きていること。…彼と生きていけること。 2019.7.19
✾「君よ影に候え」KPレス 思ったより随分と、………… 僕が死ぬときになら、渡しても「いつかの誰か」に許してもらえるかな 2019.7.23
✾「白の咲く面会室」PL:cirno(PC:我部リアス) 友人でいたいと思った。距離を測ることの難しさを知った。 また、どこかで。 2019.7.25  ✾「敗者の食卓」KP:わをん(NPC:神野明彦) PL:じゃてむ、106(PC:迷世迷、橘賢明) 彼は、あのあと選び直せたんだろうか。 自分自身から救われていたらいい 2019.8.11
✾「澱み紡ぎ夜」 PL:わをん(PC:全国優勝) 命を分け与えられた、んだろう。きっと。どこか自分ではないような感覚がある。 まだ 僕は、ゆうしょうさんと生きていたいと思った。  ★ステータスの特殊な処理   ラムの処置によって命を分け合った探索者とKPCは、ステータスに一時的な変動が生じる。   それぞれのPOWを合計し、2で割った数を新たなPOWとする。   CONに関しても同様の処理を行う。   これによってSAN値や耐久値の上限が現在値を下回る場合、その分だけ現在値を減少させる。   この変動は一時的なものであり、1ヵ月で元に戻る。   元に戻る際は、SAN値や耐久値は上昇した分だけ回復するものとする。   ラムが片方の命を救うために、片方の命の一部を移植したような状態。   元に戻るまでの間はお互いの波長が似通うようになる。   このため妙に気が合ったり、関係が親密になりやすくなったりするかもしれない。   ただしあくまで一時的なものであるため、それが続くかどうかは探索者とKPC次第である。  【後遺症:命の分け合い】   全国優勝と命を分け合った。   1か月の間CON13・POW15にステータス変動(合計して割った数値)   2019.8.12~2019.9.12 ※元の数値:CON7・POW21
2019.8.12 POW+1 ✾「ある夏の日」KP:かぷち(NPC:新戸ユーリ) 彼を見送れてよかった。誰かを知ることに、遅いなんてことはないと知った。 また、いつか会えるよう。それまでど��か穏やかに。 2019.8.29 ✾「コトワリ」 KP:わをん(NPC:全国優勝) いつかの未来の話。訪れるかもしれない可能性の話。彼にとっては今の話。 人生を縛ってしまいたくない。どうか、いつか、幸せで在って欲しい と心から、思うよ 2019.9.3~2019.9.12 ✾「不可逆的存在の証明」 PL:わをん(PC:全国優勝) 忘れられたいと思ったから、その報いだと思った。それでも、僕は忘れたくなかった。 人の欲の浅ましさを いつかあなたにぶつけてしまうことがありませんように 2019.9.12~2019.9.13 【後遺症:命の分け合い】解除/全国さんと1か月(仮)同居スタート ✾「君だけのハーバリウム」 KP:わをん(NPC:全国優勝)  ごめんね (さよならは、 ) 2019.9.19~2019.9.27 由宗研叶ロスト ✾「箱庭に眠る花冠」 PL:わをん(PC:全国優勝) あなたにおはようと言われると、朝を迎えられたと思えるから。 …迎えにきてくれて、ありがとう  【後遺症:左手首の切傷痕】   横一線に走る傷。時々、何かの拍子に痛みが走ることだろう。   助けるために得た、生きるために負った治ることのない傷痕だ。  【後遺症:欠けた魂】   魂の質量は17g。再構成した際に拾いきれなかった欠片が存在する。   それらはイオドに取り込まれているため、青に手引かれやすくなる。 2019.9.28~2019.10.4 由宗研叶復活 ✾「花に心臓」 KP:わをん 彼と僕との性質に違いなんてなかったのかもしれない。 それでも、僕は、終わりあるこの命で彼と生きていきたいと思う  【後遺症:花に心臓】   心臓(胸)の上の皮膚に、花の形をしたタトゥーのような小さな刻印が残る。   刻印はだんだんと大きくなっていき、4セッション後に心臓の上に刻印の花が咲く。   花が咲いたらCONがマイナス1される。 2019.10.6~2019.10.7 ✾「君の椅子に祝福を」 KP:わをん 本質が同一だからこそ、違えた道の先の想像がついてしまう。 さよなら、どこかの世界の僕。 2019.10.7 ✾「パラノイドたちの密会」 PL:3(PC:橿原円了) 不思議な人だった。少ない言葉で伝わるような、どこか似ているようで遠い人 忘れずにいたいと思った。いつかまた、巡り合わせで会いたいと思った 2019.10.8~2019.10.10
✾「黄金の微睡」 KP:わをん(NPC:全国優勝) 子守歌で眠れたのはいつぶりだろう。どうかあなたも穏やかでありますように (不定:幸せな幻聴・あのとき聞いた子守歌が毎夜聞こえる/残り6卓) 2019.10.13~2019.10.18 ✾「ギフテッド・アイロニー」KP:ありあ PL:わをん、ルナ、四片 (PC:安藤千尋、真柄ここね、紫上昧病) 答えを、聞きたいと思った気がしたんだけれど (事件に関する記憶は残っているが、黒幕・NPCについての記憶は全て失っている) (不定:疑心暗鬼・他人というものがわからなくなり、人と関わりたがらなくなる。全交渉技能と心理学に-10/残り1卓) 2019.11.4~2019.11.7 INT+1 ✾「ラストリゾート」 PL:わをん(PC:全国優勝) (後遺症:喉仏に11日噛み痕が残る) 2019.10.29~2019.11.24 ✾「一夜の夢」PL:四片(PC:紫上昧病) 2019.12.10 ✾「骨ならべ」 KP:わをん(NPC:全国優勝) 2019.11.29~2019.12.13 ✾「夜半の口寄せ」KP:わをん(NPC:全国優勝) 2019.12.27~2020.2.6 ✾「水底の夢」 KP:わをん PL:けしかす(PC:花笠くらげ) 2020.2.18 ✾「Midnight pool」PL:わをん(PC:全国優勝) 2020.2.6~2020.3.13 ✾「朝日を待つ」KP:わをん 2020.4.7 ✾「宵待ち幻想」PL:わをん(PC:全国優勝) 2020.4.10~2020.7.30 ✾「空箱の見た夢」KP:わをん(NPC:全国優勝) 2020.7.30~2020.9.23 ✾「麗しく死にたい」KPレス/霞の夢1か月前時間軸    2020.10.12 (POW-1) ✾「Good Night,My Love」KP:ぽ 2020.10.31 ✾「見ずの端」PL:わをん(PC:全国優勝) 2020.11.6
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103 Promise
空は青く澄み渡り、アストラは静かで穏やかだった。絹のように地に薄く張った水面はまぎれもなく天を映しながら、その鏡面にはさらにひとりの、現実にはすでに存在しない人影が、大いなる戦いを終えたフェレスの主らを見守りつつたたずんでいた。ストラーラだった。淡い青みがかった銀髪と左右の均整のとれた美しい姿を持ち、だが今ならば、その身裡にはまったくの未知の力、無秩序の根源である混沌の資質を宿している者なのだとバルナバーシュには分かった。虚無と対をなして七つの資質を少しずつ持ち、そのカオスの不合理をはたらかせて変則と放縦のパターンを織りあげながらも、我々とともにロジックを生みだし、同じ結果にも到達しうる者……。予知を拒み、冷笑的でたわやすく心を開くことのないあやうい背理のなかで、彼女はなにを願い、なぜ円環の終わりに抗いながらフェレスのかけらに力と希望を与えようとしたのか。
バルナバーシュは、おそらく彼女のようなものの力こそが虚無と同様に、私たちヒトにとって最大の宿敵となり、またなくてはならぬ存在にもなるのだろうと漠然と感じとった。
ディオレが混沌の少女の幻影に歩み寄って、数歩離れたところにひざまずき、唇にあてた指を口づけを介した儀式のように水面に触れさせる。すると規則的な波紋が音もなく広がって、うっすらと輝き、水面に映っていたストラーラは反転しながら彼らのいる次元へ実体をともなって顕現した。その場にいる全ての者の視線が向けられたが、彼女は意に介さず、人も無げに口を開いた。
「……私はあなたたちの誰よりも、世界は夜に満ち、いつかはかならず終わるものと思っていた。私はひどく退嬰的な世界に生まれた、血も薄い不具の子だった。まるで滅びゆく時代を模した申し子のように。ゆるやかな絶望が落とす影を感じながら、ただひとりであることや、自然の営みだけに心を安らかにして、ヒトの可能性というものは露ほども信じていなかったし、願いや欲望などは冷笑すべきものだった。ときに不全のからだに苦しみ、ときに御しがたい衝動に振りまわされながら、それでも自分がなぜ世界に生きようとするのかさえ判然とはしない……。そんな私のもとにも、フェレスが目覚め、けれど自分の願いなどなにも分からなかった。〈可能性〉ではなく、〈運命〉のまにまにただ任せてイススィールへと来た。何よりフェレスの力が、私の短かった命を永らえさせてくれたから」
思いに沈んだ目で、長い溜息のように少女は淡々と、己れの来歴を語った。憂鬱に満ち、病的な気風のただようこの振る舞いが、心を取りもどした本来の彼女のありようなのだろうか。差し出した両手のなかがにわかに青白い光であふれると、小さなゼンマイ式のオルゴールがそこに現れる。ストラーラのフェレス――可愛らしい草花の彫りが入った木箱からは、悪夢めいて迷えるものがなしい歌が奏でられ、同じ旋律が切れ目なく続くさまは、彼女にとっての永遠を象徴しているようでもあった。
「私はあるひとりの魔族の男と、島の波止場で出会い、なかば連れられるようにしてリギノの神殿を訪ね、そうして七つのパワースポットをも巡っていった。あなたたちのように、さまざまな人々、さまざまな思い、さまざまな記憶に触れて、一歩一歩、少しずつ、世界の中心へと進みながら……。どうしてかは分からないけど、そんな旅や冒険は楽しかったし、景色は美しく、パートナーは得がたい友だちで、こんな私に命をかけて良くしてくれて、私もやがて、彼を守るためなら危険を冒してもよい思いを強めていった。彼は私と違って楽観的だったけれど、魔族らしく混沌的なところは似ていて、お互いがお互い以外の者には飽いていたから、長く続いたのかもしれない。そしてミュウにもグッドマンにも味方せず、まるで親に楯つく子供みたいに、無邪気に私たちははざまの道を進んでいった。………」
どこか悔いるように、ストラーラはかたく目を閉じる。
「あんなことになるなんて思わなかったの。人間になったアンドロイド、ユキルタスの導きでアストラで戦ったはてに、ミュウとグッドマンはさしちがえ、クレスオールは無念のなかで消滅し、要石であるユテァリーテは砕かれた。ユキルタスは物語は終わると言っていたけれど……それでもヒトに希望がある限り、いつか新しいイススィールは生まれるはずだった。そう、イススィールとエターナルデザイアーの伝説は多くの次元と結びつきながら、女神の意思さえも超越した永遠の円環〝だった〟から。でも私たちは、より大きな、もっとも上位にある絶対的な運命をその時に感じたわ……。『もう二度と、伝説はよみがえらない』のだと。島を形成��るイメージはただ薄れて消えるのではなく、みずから燃えあがり、過去から未来へ、時そのものがはてるまで……すべての次元、あらゆる世界と存在のなかへ駆け抜けるようにして、全てが灰と化していった。喪さえ拒む仮借なき滅びによって、この神秘の島を知るわずかな人々に、鮮烈な記憶の痕を、秘密として残しながら。本当の、本当の終わりだったの。火をまえにして、私は――ひどく悲しかった。流したことのない涙さえ流した。でも、何も言えなかった……あまりに突然のことで、信じられなかったから。自分のその嘆きの正体は、今でも分からない。世界はいつか終わるのだと、あんなにも強く思っていたのに……。パートナーも、私とまったく同じ気持ちだった。そして私と彼は、イススィールでの思い出をレリックとしてフェレスに刻みながら、燃えさかる世界のなかであることを願い、また約束を誓った」
バルナバーシュのとなりで、かすかにディオレが息を呑む気配があった。幸星の民を束ねるこの戦士すらも知りえぬ事実が言い連ねられているのだろうか。
「もう一度だけ、かりそめでもかまわない……私のフェレスを要石にしてイススィールのイメージをつなぎとめて、この地を残し、エターナルデザイアーをまだ必要とする者たちを受け入れつづけること。それが、この島で生まれてはじめて生きる希望を抱いた、私の願いだった」 「私たち幸星の民の父祖が約束したというのは、ストラーラ、あなたとだという。パートナーとする魔族の男が、私たちの父祖なのか」 「そうよ、ディオレ。彼はもともと、黒魔次元からのはぐれ者で、次元から次元を海のように間切ってわたる旅人でもあった。名はエイデオン。いつか心を失うはずの私――偽りながらも、繰り返されるストーリーや志半ばで果てたフェレスのかけらを受け入れつづける私に、終わりをもたらす約束を交わした。そうして永い時が流れ、彼と私の物語も忘れられて、あなたたちのなかで掟に変わって残るだけになったけれど」 「父祖はあら���る次元で落伍者や居場所のないものたちを集めながら、最後にオルトフの次元を見いだし、そこを彼らのためのささやかな住処と定めた。そしてフェレスを持つものが人々のなかから現れはじめると、彼らを鍛え、オルトフの次元からデスァ闇沙漠へつながる隧道を開き、あの場所のイメージをとらえながら進む案内人になることを掟にしたという。だが、父祖も長寿だったが定命の者であり……最期に自身の古い約束を、後世の者たちの手で果たしてほしいと言い残して現世を去っていった。約束��はざまの道の先にあるのだと」
ディオレが継いだその話に、ストラーラはいくらか満足したらしい顔をみせ、「昔話はもうおしまい」と首を小さく振る。
「それにしても彼、私と冒険した思い出や、約束にこめた想いなんかは、きっと誰にも話さなかったのね。おかげでディオレや後世の人達は、私をただの倒すべき敵かなにかのように思っていたようだけれど」
ディオレは言葉を詰まらせたが、ストラーラはそこではじめて、ヒトとしての笑みを浮かべ、すこし嬉しそうに含み笑いをもらした。そうして視線を、今度はルドへ、さらにバルナバーシュとフェリクスにも向ける。その瞳はいま、あらゆる人々の面影が去り、本来の赤みがかった黒玉の色に艶めいていた。
「最後のパワースポットを開放するわ。私のフェレスの力を、あなたたちに託します」
ストラーラがオルゴールをかざすと、その場に青白い光の泉水が生じ、イススィールの最後の力が滔々とあふれだして輝いた。オルゴールは見る間に朽ち、木箱がほろほろと崩れると、中にあったシリンダーは茶色く錆びてしまっていた。
「きみのフェレスが……!」
ルドは嘆いたが、ストラーラはそれに首を振った。
「私にはもう必要のないものよ。目的はすべて果たされたから。かつて、ユキルタスのフェレス――かなめのビスも同じようになったけれど、そのわけがやっと分かった気がする。彼もきっと、かなめからの決別を最後には望んでいたのかもしれない」
パワースポットの前に、ルド、バルナバーシュ、ディオレ、フェリクスが集い、目と目をかわしあったが、たがいに何も言わなかった。彼らの後ろでは、獣人の娘ナナヤと猟犬のマックスが固唾を呑んで背を見つめている。
ルド以外の者がフェレスをかざすと、光は柱のように広がって立ちのぼり、彼らの意識と五感を包みこみながら新たな力を伝えてきた。それはいにしえより脈々たる、〈運命〉を帯びながら世界の定常を守ってきた数多くの英雄たりし者の極めた力と生涯の技、そして記憶――決戦の地アストラに到達しうる戦士だけに継承を許された、偉大なる頂きの光だった。そして四人もまた、継承を経てその伝説にいつか連なっていくのだろう。光の向こうに、かつてまことのイススィールで神秘の旅を経験した冒険者の何千という影が往還している。ある者は夢の化身を晴らし、ある者は魔王の破壊を乗り越え、ある者は女神の支配を砕いた……。鋭く冴えたリズムが鳴りわたり、続いてもうひとつ、またひとつと加わってゆき、イススィールの天と地に複雑で精妙なこだまを響かせた。意志に鍛えられた心身と霊的に研ぎ澄まされたセンス、内外を問わぬあらゆる攻撃をはねかえし、世界を切り分ける言説といかなる脅威にもひるまず目的を完遂しうるモラルの集中、そして調和への約束の歌が過去から未来へ、無限のかなたへと広がっていく。冒険者たち、いにしえの英雄たちの影をも越えて、世界の中心に立つある一人の、甲冑を鎧った者が力強いまなざしを四人に送っていた。その鎧はサークによく似ていたが――空櫃ではない。
「リギナロ!」
ルドが何かをさとって、その名を呼ばわった。リギナロは神殿で決意を示された時と変わらぬ気高さで、ヒトの心の深奥より、この世のすべての冒険者たちを祝福しているように思えた……。光が薄れていく。宇宙と個人がひとつとしてたがいを映し、ふくみあう深遠より浮かび上がり、秘密の回廊を抜け、四人の意識は現次元へ、アストラの地へと戻ってきた。
彼らの帰還を見届けて、ストラーラはもろく微笑んだ。
「約束を果たしてくれてありがとう……そして、さようなら。開眼人、極致にいたり、真理を悟ったひとたち。あなたたちが世界に流れる一筋の希望となることを祈っているわ」
ストラーラが大気に溶け入るように消えると、途端に天はふるえ、大地は荒ぶる巨人の肉体のごとく震撼した。要石の少女がつなぎとめていたイメージが崩れ去り、偽りのイススィールもまた消え行こうとしているのだ。不穏な喧騒に揺らぐ世界で、太陽は脈打ちながら色あせ、空は混沌と暗く濁り、地平は赤と黒の狂おしくうずまく煙と化して、大波をなしながらこちらに押しよせてくるかに思える。一行は地響きにひざをついておののいたが、恐怖を踏みしめどうにか立ち上がった。
「偽りの所産ゆえか、伝説に聞くよりも崩壊の速度が早い。ありあわせのイメージで持ちこたえているだけの脆さだったか……みなで旅の終わりを讃えあう時間も与えてはくれないようだ」
焦った様子のディオレが、目配りしながらみなに脱出をうながす。悲鳴と破壊がふりそそごうとするなか、バルナバーシュははっと思い出して、急いではいたが用心深い足取りで、咆哮する地平に向けてその場から駆け去った。ルドが追おうとしたが、魔術師は目的のものを見つけると立ち止まり、掴みあげる。それはフェリクスとの戦いで斬り飛ばされた、ルドの機械の右腕だった。
「バルナバーシュさん、それは……」
戻ってきたバルナバーシュの持つ己れの腕に、ルドは不安げな声をもらした。
「約束する。この島を出たら、私がかならず君の腕を治してみせる。たとえ長い時がかかったとしても――」
バルナバーシュは使命感から言い切ったが、それはかつてリギノの神殿で交わした「ルドに希望のありかを示す」という約束と同じく、ひどく不確かな未来で、なんの保証も持てぬ思いでもあった。ただ何も考えず、自分自身のするべきことへの直感を、もう知っているものとして今は信じるしかなかった。実現への困難を表したけわしい表情がバルナバーシュをかすめすぎたのをルドは見たが、何も言わなかった。
「フェリクス! あなたも私と一緒にくるんだ」
ディオレの警告が聞こえ、ルドたちもフェリクスのほうを見た。古代人は、いまはもう鉄塊に過ぎぬイブの亡がらに膝をつき、安息の膜のかかった瞳で彼女を見つめながらその場を離れようとしない。その背は頑なであり、見かねて腕を無理やりつかんで立たせようとしたディオレの手は乱暴に、にべもなく振り払われた。バルナバーシュとルドもまた、生存を望んで説得を試みたが、ときに彼の身勝手なまでの意志の強さは二人も知るところであり、そのほとんどが聞き流されているようだった。
「フェリクス。イブはお前がここで終わるのを望むはずがない。お前にはまだ島の外でなすべきことがあるんじゃないのか」 「バルナバーシュ殿、頼むから放っておいてくれないか。私は貴殿らとは逆しまに、これですべてを失ったのだ。夢も現実も、過去も未来も、生きる希望さえも……。鉱山でともに過ごしたあの日、イブは私のすべてだと語ったろう。それは今も変わらぬ。一心同体の者として私がこの時に願うのは、彼女と同じ墓の穴へ葬られることだ」
埃に汚れた眼鏡の奥からバルナバーシュに向けられたルベライトの瞳は、光を失ってはいない。絶望も自棄もなく、心の底から強く望んでいるのだと、宿敵だった相手に打ち明けていた。もはや打つ手なしと嘆息するルドたちのもとに、ひとり近づく者があった。赤毛と尾と肩を剣幕とともにすさまじく怒らせ、憤懣やるかたなく目を吊り上げたナナヤが、ずかずかと、消滅に瀕した大地を大股で横切り――とめだてさせる隙もなくフェリクスの胸倉をつかむや、精魂を握りしめた拳で思いっきりその頬に一発食らわした。唖然とするルドたちの前でフェリクスは口を切って突っ伏し、眼鏡は数歩離れたところに吹っ飛んで片側のレンズに罅が入った。
「この頓馬が、いい加減に目を覚ましやがれ。この機械はあんたの命を守って死んで、そしてあんたはこの機械を愛していたんだろう。だったら、生きるんだよ。それがあんたにふりかかっちまった、どうしようもない運命なんだ――どうしてそれが分からない?」 「ぐうっ……この小娘……ッ」
最後になって運命と戦うのではなく尾を巻いて逃げだそうとした己れの図星をこうもはっきりと指され、怒りをあらわに食いしばった歯の間からフェリクスは罵倒を押し出そうとしたが、荒い呼気とうなりにしかならず、結局なにも言えずによろよろと眼鏡を拾ってかけなおし、ふたたびイブの前にひざまずいた。彼女の頬に手をやり、側頭部から親指ほどの銀色のチップを抜き、それから銀空剣に突き通された胸の中へ、心臓を掴みとらん勢いで腕をねじ込んだ。絡みつく電線や器官から引きちぎるようにして拳大の青い正八面体のコア――永久にエネルギーを生みだすという遺失文明の結晶を取り出すと、チップとともにベルトに下げた鞄に仕舞いこむ。フェリクスと機械種族のルドだけが、そのチップが、イブのこれまでの経験や記憶を、稼働する頭脳とは別にバックアップとして写しておく記録媒体であるのを知っていた。ルドは、自分が銀空剣で致命傷を与えたあとの記憶――〈イムド・エガト〉で戦うフェリクスを地上から見届け、彼の言葉によってイブの願いが叶った瞬間のこと――は、破損し、完全にはその中に残されていないかもしれないと考えた。
「ふたたびお前に会いにいく。かならず」
フェリクスはイブの亡がらにそう言い残し、立ち上がった。ディオレの先導のもと、ルド、バルナバーシュ、ナナヤ、フェリクス���猟犬のマックスは、次元の瓦礫と無をたたえた黒い穴ばかりの――それさえも塵に帰して消えていこうとするアストラの地を急ぎ駆け去っていく。一度だけ振りかえったフェリクスの視線の先では、イブの機体はまだ眠れるように捨ておかれていたが、それも巨大な結晶となって降りそそぐ空の破片の向こうに埋もれ、見えなくなった。
アストラから幅広い階段を下りていくうちに、あたりは発光する色のない濃霧につつまれ、肌や喉に刺すようにまつわり、彼らの向かうべき方角や意志力をも狂わせようとした。たがいの顔を探すのもままならぬなか、「立ち止まれ」とディオレが言い、続くものらはぞっとしながらも従った。霧にまったく覆われた世界では、空を渡る火も大気も、地を流れる水も土も、形をうしない、すべての元素が曖昧になってひとつに溶け合っていくようで、それに巻き込まれかねない危機感、そして異様な悪寒が身裡に走るのを一行は感じていた。ディオレは幻妖として霊的に発達した感覚をめぐらしたが、尋常ならぬ霧はあらゆる観測をしりぞけて、イススィールとこの地にまだ残る者たちを〝どこにも実在せぬもの〟として呑みこみつつあった。このままでは肉体と精神は切れ切れの紐のようにほどかれて分解し、宇宙に遍満するエネルギーのなかに取り込まれて、諸共に自我も跡形もなくなるだろう。いずれ死の果てにそうなるのだとしても、今ここで己れを手放すわけにはいかない。
「ディオレ、進むべき場所のイメージをとらえられないか」
バルナバーシュがディオレの肩と思われるところをつかんで言った。蒼惶と声を張ったが、霧の絶縁力にはばまれて、ディオレにはほとんどささやくようにしか届かなかった。
「やってみてはいる。だがこの霧はあまりに強力だ」
そのとき、近くからナナヤの短い悲鳴――はっきりと聞こえる――があがり、青白い光があたりに差して、見れば彼女の手にはハインから贈られた〈沙漠の星〉が握りこめられているのが分かった。ただただ驚く彼女のまえで、宝石はやわらかな光を輝かせながら球状に、周囲の濃霧を晴らし、またひとすじの細い光線が、ある方向を真っ直ぐにさしながらのびていく。霧のなかに溶け入っていた足元はいつのまにか階段ではなく、新緑色の草地からなる野原に変わっていた。
「その石が足場のイメージをとらえているのか」
精巧な羅針盤の針のようにぴたりと途切れぬ光の先をみとめながら、フェリクスが言った。彼らは思いを同じくしながら、光のさすほうへ進んでいった。ルドとバルナバーシュは、暖かな草土の感触を踏みしめ、灌木の梢が風でこすれあう音を聞き、獣のにおいがかすかに混じる大気をかぎながら、ハインが多く時を過ごしたであろうエイミリーフ広原を思い起こし、またナナヤの持つ〈沙漠の星〉が、新たに生まれし希望――フェレスとしての産声を上げたのかもしれないと考えた。
(お願いだ、ハ���ン。あたしたちを導いて)
ナナヤがそう祈った直後、光のさきから獣の吠え声がした。
「アセナ?」
聞き覚えのある鳴き声にナナヤが呼びかけると、思ったとおり、応えるように白い雌狼が霧のなかから現れ出た。家族のしるしにマックスと顔を近づけあい、その後を追って、大柄な人物も飛び出てくる。正体にディオレが驚きで声を上げた。
「ああ、グレイスカル!」 「ディオレか!」
節々を覆う灰色の鱗と側頭部からねじ曲がる二本の角、二メートル近い体格を持つ竜族の男だった。瞳は白目の少ない血紅色で、まさに竜のごとく筋骨隆々とし、見るからに屈強な戦士であったが、まとう装甲は血と土埃に汚れ、外套は焦げ落ち、武器であるナックルは籠手ともどもぼこぼこにへこんでしまっている。むき出しになった頬や黒髪の頭部、鱗がはがれた隙間からは流血のあとが見てとれた。ディオレは彼の腕をひしとつかみ、引き寄せて抱きしめ、幸星の民だけにしか分からぬあらんかぎりの言葉で喜びをあらわした。察するに、はざまの道を進んでいた時には彼に会えなかったようだ。
「エソルテル砦を守る騎士――クァダスたちにやられそうになったところを、間一髪、アセナが助けてくれたんだ。ハインが仕向けてくれたに違いないが、して、あいつはどこに?」
グレイスカルは同行者だったナナヤをみとめ、顔ぶれのなかにハインを探したが、彼の顛末を伝えると快活な面立ちははや深い悲しみに沈んだ。誇り高い友を襲った死への罵倒、そして生前の彼をほめそやす呟きがこぼれる。
「あのような好漢が先に逝ってしまったのはまこと残念でならん。そして我らの友、イラーシャも。だがこの周囲の有りさま、ついに偽りのイススィールに終わりをもたらしたのだな。俺は砦で負った怪我がひどく、階段を登るのはあきらめていた。ディオレ、それにフェレスの戦士たちよ……よくぞ果たしてくれた。死んでいった者たちの無念も、お前たちの戦いで弔われたならばそれに如くはない……」
グレイスカルとアセナを連れて、彼らはさらに道なき道を進んでいった。〈沙漠の星〉はあらゆる辺境でヒトを導く不動の星であり、現次元と星幽が交錯するただなかにある冒険者たちのため、行くべき道を絶え間なく照らしつづけている。いまこの時の、唯一の希望と変わって。やがて重々しいとどろきが遠くから聞こえ、より耳を澄ますと、それは大海にどよもす海鳴りだと分かった。一行は島の涯、神秘の冒険のはじまりの場所だった海岸に近づきつつあるようだった。
靴底が細かな砂を踏むと、そこで〈沙漠の星〉の光は役目を終えて消えていった。霧は完全に晴れ、砂浜に立つ一行の前には、暗く怒号して荒れる海が果てしなく広がっており、暗灰色の重く垂れこめる雲から打ちつけるのはささやかな糠雨だったが、騒擾としてやみがたい大波と風の群れがこれから臨む航海を厳しいものにするだろう。
「蟷螂の斧だな」
バルナバーシュが浜辺に残されていた一艘の頑丈そうな木製の小舟を見つけると、うねりやまぬ海を横目に船底や櫂をあらため、まだ使えそうなことを確かめた。これに乗るのは四人が限度といったところか。
「諸君、我らはここで別れとしよう」
灰色の竜族、グレイスカルが高らかに告げ、ディオレも肩を並べると感慨深く仲間の顔を見渡した。「君たちはどうするんだ」バルナバーシュが幸星の民らを案じて問い、ディオレがそれに答えた。
「私たちはもどって闇沙漠のイメージを探し、そこからオルトフの次元へ帰ろう。大丈夫だ、あとは自分たちのフェレスが道を拓いてくれる。闇沙漠でも伝えたが、君たちをなかばだますような結果となってしまったこと、まことにすまなく思っている……だが君たちが辿り、乗り越えてきた冒険――思索、探求、そして神秘の数々――は、偽りとはならない。決して。なぜならイススィールは、つねにあらゆる時代、あらゆる人々の心のなかに存在しつづけ、世界が滅びに迷えるとき、天末にあらわれ、はるかなる果てへといたる門を開くのだから。その永遠の営みのなかで、私たちは君たちとの冒険譚とともに、後世に役目を継いでいくとしよう。いつかまた、終わらせるものが必要とされる時のために」 「君たちは何ものなんだ。オルトフ、あの地は現次元ではあるまい」 「時空の流れつく浜、魂の森、あるいは闇沙漠に集う夢のひとつ――そこに住まう者たちとでも言っておこうか。では、さらば! 縁があれば別の次元で会おう」
幻妖と竜族のふたりの戦士は、故郷をさして早足に駆け去っていった。その背を見届け、彼らが砂浜に繁る森のなかへ消えると、ルド、バルナバーシュ、フェリクス、ナナヤの四人は協力して小舟を波打ち際まで運び、そのあとを猟犬のマックスと白狼のアセナが忠実な足取りで付き従った。嵐の海は調和の象徴たる海流が正体を失ってないまざり、遠洋では硫黄めいた未知のガスが蒸気のようにあちこちで噴き出して、寄る辺となる次元や生命のしるしさえも見いだせぬ。いくつもの黒い波の壁がうめきつつ落ちてはまたそそりたち、水飛沫を散らして強く吹きつける潮風にルド以外の目や肌はひりついて痛んだ。水はわずかにねばっこく、塩ではない、いまわしいものの枯れた死骸を思わせるような、悪心をもよおすにおいがした。ルドは身をふるわせ、ナナヤの顔には恐怖が張りついている。
「この海を渡りきれるだろうか」
バルナバーシュがおぼつかなげに海をみやった。フェリクスだけが頓着せず、つねよりも鹿爪らしい面差しで出帆への備えを進めており、バルナバーシュもその片言のほかは何も言わなかった。この砂浜も近く虚無のなかへ消滅し、それまでにイススィール周辺の乱れた自然律や概念の撹拌された海が都合よく鎮まってくれるとは到底思えなかったからだ。小舟を波間に浮かべると、四人は悲壮感をもって乗り込み、二匹の獣もまた船べりを踊りこえて飛び乗った。
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samejimachich · 8 years ago
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Cyrodiiiil・∀・
(https://www.youtube.com/watch?v=5mDyC9HubrMから)
1か月以上かかってしまいましたがようやく出来ました!
正直あの2分ないくらいの動画に見えないくらいのネタを仕込んでしまったので、折角なので画像も交えて小ネタ晒ししたいと思います。
画像も交えてかなり長いので、「さらに読む」に一旦たたみます。
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スヴェット(右の奴)の背景カラーは元々原作通り青だったんですが、ウラジミィール(左のトカゲ)の背景が彼の体色である緑だったので、彼には所属陣営であるパクトカラーの赤を使いました。
一番不安定な陣営?そんなことはない、本気出したらパクトの力は世界一イィイイ!!!
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レニィはニルンルートをみつけてから(呪われた)錬金術師への道を歩み始めたので、囚人服時とローブ時では顔が変わります(走ってる時は同じ顔にしちゃったけど…)
ちなみにこの背景の帝国マークとESOマークは自作です。
自作というか、テクスチャデータやネットにあった丁度いい画像を抽出してトレス・シェイプ化したものなので全くの自作ではないですが…
オブリビオン文字はフォントです。とても便利!
次からはNPCパートの小ネタ紹介になります。
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「皇帝・インペリアル」ファクション
開幕出死にのユリエル。
プロフェットのジジイは二度光る。
ミード帝?知らんな。
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「メインクエストキャラ」ファクション
いちゃつくノルドとレッドガード。
マーティンはアミュレット(実はユリエルの胸から移ってます)の力で竜に――
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ならずに玉ねぎになりました。
ロキールは膝に矢を食らいスクリプト死不可避。
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次いで玉ねぎも無事死亡。
ちなみにここは「死に役」ファクションです。
兜も(敢えて)オブリ仕様の激ダサハサミムシ兜にしちゃってキングダイナーさん本当ごめんなさい。
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「(やたら高性能な)魔術師」ファクション
シンデリオンのニルンルートは一瞬だけクリムゾンになります。
ところでどうしてガレリオンの見た目はアートブックとあんなに違うのかしら?あっちの方が好みなんですが
ネロスは終始しゃがみジャンプでしたが膝だけであんな跳躍を…!?
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マゾーガ卿はセーラームーンよろしく光り輝きダル=マちゃんへ。
ちなみにここは「アイドル」ファクションですが異論は認めない。
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「盗賊ギルド」ファクション
グレイフォックスは静かに暮らしたい。
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「同胞団・戦士ギルド」ファクション
コドラクはウェアウルフの呪いがまだ断ち切れてないようですね。
画伯の絵はオブリの画伯イラストテクスチャをそのまま使用してます。
本物の画伯の絵だぜ!!
(※動画��ラストに本物の画伯ことライサンダス氏も出す予定でしたが作者の気力が間に合わず断念してしまいました、お許しください!)
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「ウィンターホールド大学・メイジギルド」ファクション
ESOのシェオ爺はシャリドールにお熱すぎやしませんか?チーズへの愛が足らないんじゃないですか?(そんなことはない)
トレイブンを黒魂石にいれる案もあったのですが、面倒くさいので悲しい思いは二度としたくないので止めました。
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ちなみにサボスはちゃんと埋まります、ご安心ください。
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「闇の一党」ファクション
まずルシエン第1形態
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第2形態
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第3形態
シセロがマジ顔になってるのもミソ(?)です。
ちなみに、自分で描いてていつもひやひやするのがルシエンとレニィの描き分け。
個人的にルシエンの目の方が生き生きしてて、レニィの目は人を馬鹿にしたような半開き、という意識でやってます。意識はね。
そして今だから(今じゃなくても)言いますがテレヌスさん装備ごつすぎ!描けないよ!!(泣)
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「吸血鬼」ファクション
ESOで吸血鬼といったらレイヴンウォッチ伯爵だろうと(妹に)言われたのですが、ラマエ・バルの方が美人だったのでこっちにしました。始祖だし。
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ドメスティック・バイオレンス親父は反抗期娘に無事飛び膝をくらい退場。
我等のハシルドア伯爵がすべての吸血鬼を嫌い、という訳ではないかもしれませんが吸血鬼なのでラマエにご自慢の鉄拳を奮って頂きました。
セラーナ「横が何やらうるさいようですわね」
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「嫌われエルフ」ファクション
アンカノを嫌われ者等というと一部のファンから苦情が来そうですが、ゲーム内では嫌われ者だから仕方ない。
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嫌だぁああああ!!!
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巻き添えでやられるウロンディル氏
パラノイアに理屈は不要!
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そして誰もいなくなった。
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「死霊術師」ファクション
スカイリムの死霊術師で有名なのって誰だろうと考えた結果、妹からは幽霊とイイコトしてた変態アロンディル氏を推されましたが実力的にピンとこないのでポテマにしました。
でもポテマはビジュアルが殆どなくて「これ誰?」感が凄くなってしまいました。(ドラゴンプリーストも頭をよぎったんですが彼らは死霊術師じゃないので断念。)
ちなみにオブリのゾンビは名有りのムシアヌス、ESOはゾンビ馬とトレイラーで女子をキュンキュンさせたイケメンブレトンゾンビが登場してます。
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「ラスボス」ファクション
アンカー作るの大変でした…(白目)
ボス、特にアルドゥインのデザインはこれでも頑張った方なのですが、何せいいSSが(ネットにも自分のフォルダにも)見つからず、結構大変でした。
デイゴンもテクスチャデータとか見たりしたんですがねぇ…この様です。
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ハルメアスはデイゴンとモラグの間にいたのですが、チーズが来た段階で引っ込んでます。
麻呂はキチガイには触りたくないでおじゃる。
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「シェオゴラス」ファクション
スカイリムとESOのシェオ爺の服は同じかと思ってたら微妙に違うんですね。
スカイリムのシェオ爺は自分でティーカップを放り投げて「ない!」と激怒、
オブリのシェオ爺はジャガラクから元(?)に戻りました。実際は逆ですけどね。
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「ムアイク」ファクション
シェオ爺と違ってこちらは世代ごとに服が違います。ESOが一番おしゃれかな。
(余談ですが私はつい先日初めてオブリムアイクを見ました。たまには道もあるかないといけませんね)
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自キャラに戻ってきました。
ウラジミィールの投げキッスは早すぎて視認できませんでした(´・ω・`)
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オブリジャンプ。
軽業100の飛び具合は重力をも凌駕する。
モーションもちゃんとオブリジャンプ(不動モーション)です。
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ここ、本来は同じ動きを延々するだけのシーンなのですが、敢えて自由行動にしてみました。
おかげで作業量が偉いことになりましたが(自業自得)
スヴェットはテンペラーなのでスキルモーションを出来る限り反映してみました。
このヒールのエフェクトはaftereffectsで作ったんだけど…正直これの調整にすごく時間かかったんだ、ほめてください←
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左側、シャービィーにデレデレのウラジミィールをニヤニヤ眺めていたのはツイッターのフォロワーさんのキャラクター「ベイリン兄貴(左)」と「シャール君(右)」です。
「出してくれ」と言われたので、折角だからウラジミィールと仲良くしてもらいました。おかげでウラジミィールらしさが出ました、有難うございます!
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オダハヴィーング・グアー騎乗
オダハは羽も動かしたかったんですがもう色々きつかったので動きだけにしました。手抜き、ダメ、ゼッタイ!
グアーの走りは一回作ってから足の動きがおかしかったので全部作り直しました(それでもまだ違和感はありますが…)
グアーが走ってる動画とかなかったので家にあった資料をかき集めた結果がこれです、お許しください!
全く余談ですがスヴェットがグアーから降りる時のモーションは全シーン中一番うまく出来たと思ってます←
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「時間減速」のシャウト
ちょっと分かりずらいですが、次のゆっくり走ってるシーン、ウラジミィールだけ少し早く動いてるんです。
これはドラゴン語のフォントを使いました。
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スヴェット退場のこのシーンはターミネーター2のパロディです。
ほら、スヴェットって顔の片側ボロボロだし…
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宙返りからのオブリのレニィに若返り。
毒の垂れるモーションは我ながら上手くできたと思います。
お風呂で鏡にお湯をぶっかけて観察した甲斐がありました。
今更の余談ですが、レニィはどんなにアップになっても黒目(瞳が見えない)のままで、スヴェットは虹彩と瞳が分かれているのはささやかな自己満ネタです。
人相の悪いグラッド一族の中でも性格までアレなのはレニィの方なんですな。
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毒がかかったと同時に背景を切り替えまして、最後はフィンフィンで〆。
ちゃんと明滅してるのでよかったら目を凝らしてみて下さい。
ESOのフィンフィンの周りに飛んでるのはあれ何?聖蚕?
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ご清聴有難うございますm(__)m
最後の小ネタですが、オブリのレニィの黒ローブ、実はまだ持ってないので灰色のローブのSSをフォトショで加工しました。
Photoshopって凄いね!!
(スヴェットの服があまりにも似てないのはもうお察しなんだ。)
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