#猫で奇跡の一枚写真集
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ike2910 · 2 years ago
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気づくといつも三つ指❓ついてるアム🌸 疲れないの?って聞きたくなる😂 ようやく土曜日✨ 疲れ取りたい😅✨   #猫で奇跡の一枚写真集    @editorial_company.pad #にゃんこ編集部   #坂口アム   #キジシロ   #ねこのきもち   #ねこすたぐらむ   #ニャンスタグラム   #ねこくら   #サンデイ   #ねっこ   #catlover https://www.instagram.com/p/Cnp7Ml0hw51/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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subarutokiomi · 4 years ago
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ネコレストが気に入ったので、1段タイプも買ってみた。2段タイプと同じサイズかと勘違いしていたけど、お陰で猫鍋ヒーターが余裕で収納出来た(写真4枚目)。2段はほぼ使わなかった太陽さんだったけど、幅が広くなった1段&クッションがマッチしたらしい。 ーーーーー トイレはと言うと、今まで横向きで置いていた屋根付きトイレを縦にする事でもう一つ置けたので、トイレ場所を集約し、100均で買ってきたカフェカーテン(2枚重ね)を設置してみた(写真6枚目)。 若者組は問題なく使ってくれたので、あとはおじいちゃん太陽が使ってくれれば満点。 ーーーーー #cat #neko #猫 #ねこ #にゃんすたぐらむ #ハチワレ #茶トラ #黒猫 #三毛猫 #猫集合 #ネコレスト #ボンビアルコン #猫柄カーテンがあった奇跡 https://www.instagram.com/p/CJx1coGhZwu/?igshid=kl73p468ybys
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2ttf · 13 years ago
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Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎ��ƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉���紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素��造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯���刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
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angelpartner-blog · 5 years ago
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シンガプーラの子猫☆ <2019/6/30産まれ♂> ・ 奇跡の一枚✨ なかなか撮れなかったブレのない写真が撮れました😊❣️ ・ ペロっと👅が見えて可愛い🥰❤️ ・ 今日もベタベタの甘えん坊さんでケージの外ではコロコロしちゃうので、ガラス越しです🐈❣️ ・ 今日の体重は900グラム🐈 まだまだチビちゃんですが、気に入ってもらえるかドキドキ…😻🐾 ・ ・ ・ #奇跡の一枚 #肩のり #ゴロゴロにゃん #スリスリにゃんこ #甘えん坊 #チビちゃん #コロコロ #子猫 #猫 #ねこ #ネコ #こねこ #にゃんこ #ねこ部 #にゃんこ部 #可愛い #猫好き #ねこすたぐらむ #にゃんすたぐらむ #シンガプーラ #Singapura #cat #cats #catstagram #instacat #kitty #neko #AngelPartner #エンジェルパートナー #飼い主様募集中 https://www.instagram.com/p/B33X9-2pVZt/?igshid=kk8hbxvnts81
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yuppiii369 · 2 years ago
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ボイジャータロットランチ会2022ハロウィンver.
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魂とつながり
喜びで生きるあなたへ
ゆっぴーのブログに訪問
頂きありがとうございます💖
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先日は岐阜で行われた『空龍魂チャレ大運動会』という500人規模のソウルファミリーが集まるイベントに参加してきました🏯🇯🇵
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空龍(くうろん)とは、魂の地図をエクスペンシャルヌメロロジーという数秘をもとに読み解いていく、Instagramライブ配信で学びを深めていく今日本で1番HOTであろうコミュニティ📱❤️‍🔥🔥
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💎主宰でもあるrumiさんプロフィール↓
大運動会に参加してからというもの、エネルギーの渦が凄くて、興奮と余韻が冷めやらぬ中、日々を過ごしているのですが、言語化がしにくくて…
また少しずつ写真や動画とともにシェアしていく予定でいるので、今後のブログもどうぞお楽しみに〜!!
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今回のブログは振り返りになりますが、先月のハロウィンに久々の『ボイジャータロットランチ会』を開催したので、レポをお届けしようと思います♪
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今回は4席限定で募集しましたが、満席のご予約で開催できて、ご用命頂き本当に有り難いことです😭
私を含め5人が全員揃ったところで意識を1つにしていくために、まずはじめに軽く瞑想タイムをとり、音叉でクリアリングもしつつ、ボイジャータロットランチ会ハロウィン2022がスタート🎃✨✨
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呼吸を楽にしてもらい、リラックスできる状態になったところで次に、はじめましての自己紹介カードを1枚ずつ引いてもらいます。
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皆さんの現在地をボイジャータロットが教えてくれるので、不思議と引いたカード内容とシンクロする、はじめましての自己紹介内容は十人十色で聞いていて非常に興味深くて面白い!!
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ドレスコード決めてなくても、皆さまプチ仮装で集まってくれて主催者として、とっても嬉しい限りです❤️
※見た目と話す内容の深さのギャップがたまりません😆
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この会の中で話す内容はいつも持ち出し厳禁にしてるので、時にセンシティブなことも安心して打ち明けてもらえるような場に空間をエネルギー設定してます🔯
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ほんの少しの勇氣をもってカミングアウトをしてくれたオープンハートな行動そのものこそ拍手👏おめでとうと言いたくなる瞬間です㊗️
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黒猫しっぽつき仮装スタイルでノリノリな人😽笑
写真提供ありがとにゃん💕
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お昼前の開催だったので、自己紹介の後にはすぐにランチタイムに突入🍴🎶
プレートを準備している間にも皆さまが自然と交流を深めて仲良くなってくれるので、主催者が不在でも場がだんだんとあたたまってゆきます💓サイコー🙌
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この日のランチは、
🍲グルテンフリーのヴィーガン米粉ホワイトシチュー
🍅トマトライス
🥦ブロッコリーとアーモンドのサラダ
🥝フルーツ
をワンプレートでお出ししました🍽✨
※いつも写真を取り忘れちゃう💦
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作り方や入ってる調味料に興味津々の皆さま💖✨お料理に対しても質問が沢山とびかっていました😆
美味しく食べてもらって感謝でございます🙏お腹も満たされたところで
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後半もボイジャータロットは更に会全体を盛り上げてくれますよ🎉
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自己紹介で現在地を知り、さらにそこから自身が在りたい姿を繋げていくために必要なプ��セスを楽しむカードを2枚ほど引いてもらい、感じたままの想いを大切にシェアタイム続行♫
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今回の皆さまは有り難くもリピーターの方たちばかりだったのですが、おひとりだけタロットカードを引くのが初めてという方がいらっしゃってくれて、ランチ会参加を選んでもらい感激💓
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この広い世界の中で、選んでもらえることって奇跡みたいなことだし、ご縁を繋いで下さるリピーター様たちには、いっつも感謝の想いでいっぱいです🙏💗💞
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例えば子育てに追われて、自分の時間を取るのが後回しになってしまったり、自ら自発的に(I want〜)と発言していくことって、大人になるに連れ消極的になってしまうこともあると思うのです。。。
そのキモチが手に取るようによく分かるし、ボイジャータロットがDNAレベルで導いてくれることと私が経験して通ってきた道のお話も交えながら、カードを読み解き、その場で必要なメッセージをお届けしています😌
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これは時々、私じゃない何かに言わされてる感じがする時も実はあるので、言ったことを忘れてることもしばしば😅
熱心にスマホで録画してくれている方もいたりして😁自分を理解していくことに貪欲な姿勢が素敵👌💕
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何人かで集まってカードを引いたりすることのいいところは、フィードバックが色んな角度からもらえるところ❣️
カードからマイストーリーを築き(氣づき)あげていくこの一連の流れが尊くて、流れに乗る道筋を作り、背中を押したり押されたり、愛ある優しい言葉の掛け合いにココロがホカホカと温まる大好きな時間が心地よく流れていきます💖
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頃合いを見て、おやつタイムには米粉のミニミニカップケーキをNeoベジスイーツProのメニューからお出ししました❤️
ハロウィンなので、ココアを黒く出すために麻炭パウダーもinしてヴィーガンホイップしてドライラズベリーで可愛く仕上げたのに、写真をまた取り忘れるという😅
(お土産にはハロウィン型ぬきクッキーをプレゼントさせてもらいましたよ🎃👻💕)
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娘の幼稚園お迎え時間ギリギリまで、皆さまのシェアタイムは白熱して、ランチ会の最中はハロウィンエネルギーの後押しもあってなのか?!見えない方たちが、サポートに来てくれてるような鳥肌が立つ感覚が沢山あったので、氣づきの瞬間オンパレードの���にはなんとも言えない嬉しさが込み上げてきて、本当にこの場を必要としてくれている方たちがいることに有り難すぎて泣きそうになりました🥹🥹🥹
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ここで参加者さまたちの感想を一部公開📣✨
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最高に満たされてくれて、こちらとしてもめちゃくちゃ嬉しいです😭
ゆうちゃんの元に訪れる人みんなが声を聞くだけで癒やされるような、まるで心の保健室みたいな場を開設して提供していくのかな?!みたいな流れがでてきて、これからのゆうちゃんの活躍が益々楽しみです♪♪
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ボイジャータロットの恩恵をいつも最大限に活かしてくれて、特別な節目の際に参加して頂き、こちらも喜びのキモチでいっぱいです✨
常にグローバルな視野を持ち、子どもたちのサポートをされていく展開がボイジャータロットでも明らかになっていましたね😊
ご自身のパワフルさ全開で今後も益々発展されていくことと思います⤴感謝の波動が最強だったので、またお会いできると嬉しいです♫
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『初めて参加しましたが、〜中略
自分自身を知ることができ、泣きたくなる感じでした。いろいろな感情がありつつ、楽しい雰囲氣においしいランチと最高な1日でした』
初参加でここまでの感覚を取り戻して、自分の心の奥底をキャッチできた体験は今後に色濃く影響していくことと思います🥰
このメンバーだからこそ、導かれた想いや発見を大切にあたためて、少しずつみほさんのペースで育てていってくれれば幸いです🍀
もう一度会いたいと思ってくれてアリガトウ🥹激嬉♥️
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『氣づきのスピードがはやい』
そうなんです。お茶会やランチ会に参加された方はボイジャータロットの後押しもあるし、行動に移すスピードが皆さん早いので、変化変容のタイミングが加速するのです😁
(タロットカードの中で行動力を促す作用が1番強烈と言われているのがボイジャータロットの特徴の1つ)
キラリ☆ゆりさんもタロットとヒーリングマッサージを友部でされてるので、ご興味ある方は是非お問い合わせくださいね😊
そしてまたご自身のステップアップのタイミングでいらしてくださいませ✨✨
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自己対話も大事���し、心を許せる相手と心境を吐露しあって、共に考察してもらう時間って実は人生の中でとっても貴重で大切なワンシーン⌚✨
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私も含めて参加者さんに共通していたのが、過渡期にあるということ、11月を目前に(ハロウィンだったので)し、更に年末も控え、2023年の方向性もある程度は決めたいキモチもある…
未来を描くこともとっても素敵だけど、"常に今にこの瞬間にいる’ということを忘れずに、エネルギーのステージや自分のご機嫌度合いも観察しつつ、最善最高の未来を描いていけたらサイコーですよね🌈✨✨
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ワクワクするような楽しい予定を沢山詰め込むのもいいけど、例えばカラダの声を聴いて、何もしない休息日を設けることも立派な行動のひとつ🍵
カラダやココロを置き去りにしてまでやらなきゃならないことなんて、実は何1つない!!
※自分にも言い聞かせてる😂
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わたしたちがどんな状況であっても、それがベストコンディションだし、必要として起きてること😌
自分の現実は、内側で起きていることが外側に反映されてるだけだから、シリアスになりすぎず、スルーできる力も時には必要だと思うのです👌
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Everything’s gonnabe ok.
大丈夫すべてはきっとうまくいく
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私の屋号に掲げているサブタイトルとともに締めの言葉を✨✨✨
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改めてお茶会に参加して頂きました皆さま、本当に有意義な時間をありがとうございました❤️❤️❤️
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最大限のリスペクトとともに💗✨
みんなみーんな大好きです🫶💓💞
また逢いましょうね〜❣️
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存在してくれてありがとう✨
ご縁があることにありがとう✨
あなたの喜びは
私の喜び 🌈
深喜 ゆっぴー 💕
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amebreak-bootleg-archive · 3 years ago
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2010/02/23  ZZ PRODUCTION “ZZ” Interview
ワヤすぎる!と悶絶した(?)人も多いことでしょう。サ上とロ吉、STERUSSらを擁するZZ PRODUCTION待望の初クルー・アルバム「ZZ」は、HIP HOPが好きという点以外はスタイルも人間性もバラバラの男たちが集結した、ある意味相当奇跡的な一枚。知られざる(?)クルー誕生のエピソードから、カオス且つHIP HOP純度激高の今作の制作エピソードの数々まで一気に解禁!
「サグとかハスラーとか色んなスタイルがある中で、オレらは本当に普通の人間ばっかりだけど、それでもこれだけHIP HOPのつまったアルバムが出来るってこととは分かってほしいよね」——DJ KAZZ-K
 サイプレス上野とロベルト吉野、そしてSTERUSSの躍進によってその注目度も比例して高まっていたZZ PRODUCTION(以下ZZ)。その彼らが遂にその全貌を表わすクルー・アルバム「ZZ」をリリースした。その内容は“傑作”でありながら、同時に“怪作”でもある何とも複雑怪奇な作品であり、真面目に聴けばバカを見て、ナメて聴くと足下をすくわれる、なんとも厄介なアルバムであったが、その性質が何故生まれたかは以下のインタビューからも分かってもらえるだろう。このまま突っ走れ!ZZ! (インタビューはCRIME6/三木祐司/希が欠席)
インタビュー:高木晋一郎 ■まず作品の話に入る前に、ZZの成り立ちを教えて下さい。 DJ KAZZ-K(以下K)「横浜のクラブLOGOSで『浜おこし』っていうイヴェントが10年ぐらい前にあって、そこにSTERUSSとサ上とロ吉、DEEP SAWERも出てたんだよね。そこで知り合ったのが最初かな」 サイプレス上野(以下上)「その記事を当時、ライターの一ノ木さんがBLASTに書いてくれたんですよ。それだけでもB・ボーイ連中の中ではガッとプロップがアガるじゃないですか。しかもその中で俺のことを褒めてもくれてて。だけど載ってる写真はDEEP SAWERでガッカリ。で、そのイベントでSTERUSSは他のグループとマイク・バトルを越えた蹴り合いを始めて、それを俺が金八先生の台詞をフリースタイルしながら止めて、それを聴いてみんなシラケて終わるっていう」 BELAMA2(以下B)「でもそれがファースト・コンタクトだったけど、存在自体は知ってたんだよね。BAY HALLのコンテストとかも面識はなかったけど、STERUSSもサ上のやってた『ドリームラップス』も一緒に出ててから」 K「で、『浜おこし』の後に『横浜アンダーグラウンド』っていう自主のCD-Rを作ったときに、また同じような面子が集まって、そこで更に仲良くなった感じだよね」 B「一緒に遊びに行くようにもなったりして」 ロベルト吉野(以下吉)「そこでZZの前身として『地下八階』っていうクルーをまず組んだんですけど、その時のイヴェントのフライヤーとかホントにヒドくて。上野君がスカート履いてるのにナイフ持ってるみたいな」 上「結構気合い入ってたよね」
■気合い入れてスカート履いて。どんなクルーだか分かんないね。 上「まあ、そういうことをやっても許されるクルーってことで仲良くなった感じですね」
■その『地下八階』がZZに移行していったのは? K「STERUSSは自主制作精神が旺盛だったから、とりあえず自分たちで動いてCD出そうってことになったときに、何かレーベルを作らなきゃなってことでZZを立ち上げたんだよね。それでSTERUSSの『Q MUSIC PALARIZE』を出したら、サ上とロ吉も『CD出したいんですけど』ってことで、『ヨコハマジョーカー』もZZからリリースすることになって。でDEEP SAWERに声かけたり、STERUSSがやってた『SUBMISSION』ってイヴェントに出てたDJ KENTAが入ったりして徐々に今の形になってったって感じかな。今年からビート武士も加入して。新年会も来たもんな」
■新年会がメンバーか否かの基準なんだ。 K「新年会もマジでスゴいからね、毎年」 吉「ストリート・ファイトしてますからね」
■それはZZ内で? K「大将と上野がいつもじゃれ合ってんの。で、酔っぱらってるからそれがいつの間にか本気になって……」
■子供同士のじゃれ合いがテンション上がって喧嘩に発展するパターンだ。 K「で、夜中の3時ぐらいに酔っぱらって猫パンチで路上で殴り合って。吉野は吉野で何故か興奮して、横を通る車に『何見てんだテメー』とか喧嘩売り始めて」 上「フル・スモークの車止めて『殺すぞ!』とか。どう考えても殺されるのは吉野なんだけど」 K「で、10分後には仲直りしてるっていう」 B「でも新たな火種を産む事もあるよね。新年会後のカラオケでさ……」 上「“GET MONEY”の7インチを作ったときに新年会でそれを配ったんですよ。で、その後にカラオケ行って女の子ナンパして……って遊んでたら、CRIME6が泥酔して、なんかいきなり氷投げつけてきたりしたんですよ。で、うぜーなーと思って、CRIME6を放置して別の部屋で女の子とイイ感じになってたんだけど、途中でトイレに行ったら7インチが水浸しで放置されてて」
■ヒドいねー。 上「で、犯人捜ししたらCRIME6」 B「超喧嘩になってたもんね」 上「『お前は!最低だ!』って」 謎みっちゃん(以下謎)「で、俺と吉野はそれに面倒くさくなって表で酒呑んでたら、吉野が興奮してコンビニの看板けっ飛ばしちゃって、いつしか赤色灯が近づいてきて……ね」
■執筆上は「ね」で抑えときます。 上「その間に○○はマジでブスな人妻捕まえてホテルに直行と。そのときに、『ああ、このクルーはマジで信頼出来る』って」
■話がシッチャカメッチャカだね。 K「今年も今年で、KENTAが金曜にLOGOSでレギュラーやってるから、新年会の流れで行ったんだけど、朝方CRIME6と希が、遊びにきてたDJ PMXさんに向かってずっとフリースタイルしてるっていう」 上「そこでもまた『信頼出来るなー』って」
■とにかくほとんどどのメンバーが破天荒だってことは分かったけど、他にメンバーの共通点ってあるの? K「やっぱり、90年代のHIP HOPを聴いて、ギドラもペイジャーも、スチャダラも聴いてるみたいな。HIP HOPを始めるまでの流れが近かったから、そういう指向性が一緒だったし会った瞬間に話が通じるっていう部分だったのかな」
■ちなみにZZの由来は? K「KAZZ-Kの“ZZ”だね」 謎「あれ、俺が訊いたときは、『Zガンダムがマジでヤバいから』ってことだったんですけど?」 K「そうだっけ?確かにガンダム好きだけど」 謎「目キラキラさせながら言ってましたよ。『モビルスーツが動く未来はヤバい!』みたいな感じで」 K「あー、話したかも。で、そのときにみっちゃんは自衛隊のDVDを持ってきて一緒に見たんだよね」
■フフフ。それどっちも子供が喜ぶモンだよね。 K「しかも朝まで。でも名前自体に深い意味はなくて、便宜上だよね」
■このアルバムの制作はいつから? K「俺はずっとやりたいって思ってたんだけど、(STONE DAを指して)なかなか動かないのもいるし、サ上とロ吉はグループとしての動きも忙しくて、なかなか実現するのが難しかったんだけど、『WONDER WHEEL』を出してサ上とロ吉も一段落ついたし、じゃあZZの製作に入ろうかって。それでDEEP SAWERとMIC大将には『作んなきゃダメだから』ってケツ叩いて。で、全員参加のアルバムにしたかったから、KENTAにもBEAT武士にも、三木祐司にもトラックを作ってもらって。ただ、みっちゃんだけ残念ながら一曲も作れなかったんだよな」
■それは何故? K「『ひとり一曲は自分の力で作る』ってことを決めてたんだけど、レ��ーディングの最終日前日になっても何もしてる気配がなかったのね。で、最終日の夕方になって、『今日、国分さんとスタジオに入ります』ってメールが来たんだ。だけど、国分さんって人を俺は知らなくて、誰だと思ってたら、ギター持ってハンチング被ったイイ感じのオジサンとみっちゃんがいきなりスタジオに来たんだ」
■……さっぱり流れが分からない。 K「で、ブースに入ったら、みっちゃんがいきなりSHINGO2の劣化版みたいなポエトリー・リーディング始めて、音がなくなった瞬間に『ジャカジャン!』ってその国分さんがカッティングを入れて」
■アバンギャルドすぎる! K「それ聴いてもう完全に頭抱えてたんだけど」 STONE DA(以下ST)「国分さんもいるからその場ではみんな何も言えなくて」 上「で、横浜の情報網を駆使して調べたら、国分さんは長者町の『MOVE』ってバーのマスターで、みっちゃんとレコーディングの何日か前に夕方まで一緒に飲んでて、それで意気投合してぶっつけで挑んできたっていう」 K「まあ、次の日に『あれはないから』って確実にボツにしたんだけど」 謎「すいませんでした!ただ『メンバーをシャッフルして作ろう』ってのは当初から言ってましたよね」 K「いつも一緒にいるのに『組み合わせを変えてみて』みたいなことはやったことなかったし、それをやってみたいと思ってたから、「じゃあ、好きな人と組んでみて」って言ったら、上野は真っ先に『俺CRIME6と作ります!』って」
■遺恨のある二人が。 上「もう、その瞬間に“SEX ON THE BEACH”ってタイトルも決まってて」
■潰しにかかってるとしか思えないね。 (ここで会話を聞いてたかのようなタイミングでCRIME6からKAZZ-Kに着信) K「(CRIME6に)いまスピーカーホンにしてるから喋ってよ」 CRIME6(以下C)「今なんの話してんの?」 K「CRIME6のゴリラ顔について」
■“SEX ON THE BEACH”について聴かせてほしいんですけど、あの曲を完成させての手応えは? C「手応えすか……手応えかー……手応え……」
■なんかループしてますけど。 C「えーと……まあビックリすると思います。よく聴くとなにげに完成度高いと思いますし。あと、俺はあの曲ほとんどリリック書いてないんで」
■逃げたー!あの曲はブレイクがホントにくだらなさに拍車をかけてるんだよなー。 ビート武士(以下武)「飲みながら作ってますからね」 K「安易なんだよね。リフが」 上「一応ジャングル・ブラザーズの“VIP”とPITBULLの“I KNOW YOU WANT ME”を参考にしつつ。ま、この曲はドリーム・トラクターズから四つ打ちラップへの回答ですよね」
■まあ、その回答は0点だよね。 上「ま、メッセージ・ソングですよね」
■なんの? K「○○○ ○○○ ○○○の気持ちを代弁してるんでしょ?」 上「全ての森羅万象にビガップ!」
■気になった読者は直接上野君に尋ねてもらうとして。でも、ホントにSTERUSS像がぐらつく曲だよね。 K「しかもその後で“yamagoyadub”でさらに困惑させるという。せっかくKENTAが良いトラック作ったのにね」
■ホント、“yamagoyadub”は一曲だけ切り取るとすごく良い曲なんだよね。でも流れで聴くとその落差に頭痛くなる。 上「このクルー間の戦い! まあ、よく許してくれたと思いますよ」
■今回は“SEX ON THE BEACH”みたいな曲も、ストレートなポッセ・カットもありつつって、ヴァラエティに富んだ形だけど。 K「もう『こういうアルバムを!』って決めても絶対無理だと思ったから、だったらポッセ・カットもシャッフルも、STERUSSだったら“ガイドライツ”、DEEP SAWERだったら“三角の中”みたいなグループの曲も、MCのソロ曲もって何でもやろうって」 ST「そういう、いつもライヴでやってるような動きがアルバムとして、曲として出来たっていうのはデカいなって」 K「それに、録らない人もスタジオにマメに顔出してたっていうのが良かったよね。そうじゃないとホントにコンピになっちゃうし、そういう良い空気感が作品に反映出来たかなって」 上「且つ、『食ってやる』みたいなライヴァル心もちょっとあったり」 武「作ってて全部が面白かったですね。プロデューサーとしてもいろんな部分で成長できたと思うし」
■だたカラーがバラバラな分、「これがZZだ」っていうような明確な提示みたいなモノはそんなに強くないよね。逆にZZへの謎が深まる感じもあって。 B「やっぱり、元から『何となく集まった』って部分があるからね」 上「でも、みんなZZへの忠誠心は強いっすよね。メンバーのクルーへのこだわりは、他のクルーより強いんじゃないかなって。っていうのは、みんなこのクルーが最初に入ったクルーだし、自分たちで組み上げたクルーだからじゃないかなって。元々あったクルーに入ったらこんなに結束は強くなかったかも知れない」
■アルバムを聴いて思ったのは、中心がいないからじゃないかなって。大きな中心がいないで、並列にいろんなカラーが存在する分、いろんな色に変化できるのかなって。 上「それはスゲー思うな。例えば渋谷AXで俺らがライヴやるときに、“横浜×藤沢 酒呑みラップ”やりたいからDEEP SAWERを誘うわけですよ。なのに、『あ、その日無理だわ』って平気で断ったり。で、『2千人の前でやることなんて滅多にないから』って無理に呼んでも、STONE DAはライヴが始まっても来なくて、もう曲外すしかないかなって思ってたら、ステージ脇に汗だくになったSTONE DAがいて。2千人のライヴに遅���してリハもやらずにそのまま出てこれるDEEP SAWERのあの度胸はハンパない。最強ですよ」
■最狂とも言いたいけど。 ST「超走ったもん。会場広いから迷ったりして」 K「そんな状況で出てきたとは思わないよね、お客さんも。DEEP SAWERは客がひとりでも2千人でも同じラップが出来るっていう強心臓だから」 上「デカいステージではもう絶対呼べないなって。でも、その意味では、俺らのそういう機会に誰も乗ってこないっていうのも良いっすよね。スチャダラの前座やるって言ってもほとんど来ないし、そこら辺もちょうどいいのかも。そういう感覚がアルバムにも表れてるんじゃないでしょうか」
■曲のテーマ決めも組んだ人間同士で? K「ほとんどそうだけど、“逃亡者”はSTONE DAとMIC大将に『こういう曲やった方がいいんじゃないの?』ってちょっと振ったりして」
■“逃亡者”は頭からケツまで「どうかしてる」ってことばっかりで衝撃でした。 K「しかも長いんだよな、曲が。なんか無駄な台詞とかも入ってるし」 上「MIC大将との“徘徊ブルース PT.2”は11月に書いたんだけど、正月に曙町に行ったらリリックと同じことが起こって……自分で予言かと思った!」
■馬鹿すぎる! 上「ビックリしましたよ。(以下どヒドい話を嬉々として披露する上野)。いやあ〜最低でしたよ〜」 MIC大将(以下大将)「お前が最低だよ!」 上「だから、あの曲は今となっては超リアルな曲ですから」
■いまの発言は是非曲を聴きながら読んでもらうと味わいが出ますな。で、このアルバムで「ZZとは」みたいなアピールは、“ZZBBQ”と”184045”ぐらいだよね。そういう部分を前に強く押し出さなかったのは……。(筆者の質問中にジュースの奪い合いを始める上野とMIC大将)
■あの、大人なんだからちゃんと訊いてもらっていい? K「ここから本気の喧嘩になったりするから。話戻すと、アルバムの最初に吉野が“184045”って擦って、アルバムの最後に『We are ZZ ゼットゼットじゃなくてダブルゼータ』って言ってるじゃん。それがレペゼン」 Amebreak伊藤「名前言ってるだけじゃねぇか」 K「ZZのアルバム出したから読み方間違えんなよって。それぐらいでいいんじゃない?」
■ZZに加入希望者って来たことある? K「今まででひとりだけいたんだよ。YASURI(元NIGHT CAMP CLICK)なんだけど。その前にBALAMA2に相談してたんだよね」 B「30分ぐらい話訊いて『よく分かんないからKAZZ-Kに訊いて』って」 K「レコード持ちとかローディーみたいな文化がもうないから、『入りたい』ってのはないのかもね。みんな同世代が集まってクルーになってるから。」
■確かに縦社会のクルーは最近ないか。 上「だから、誰か入りたい���て奴が来たら、ZZは縦社会クルーにします!」
■それ「ジュース買って来い」って言える相手が欲しいってことじゃないの? 上「信じられないぐらいこき使いますよ」 Amebreak伊藤「ドリームハイツではそういうのないの?ANARCHYみたいに団地のヒーロー的な」 吉「団地でクリスマス・ライヴやったけど、その後は『あの裸になる奴だ!』みたいな人気ですからね、子供には」 謎「子供からのそういうプロップは異常に高い」 上「『気持ちわり〜』とか言われて。ヒーローとはほど遠いな」
■それから、ZZは次世代のLB NATIONみたいな捉え方もされたりするけど、そこら辺はどう?例えば“skit -ダイヤルQ2-は、ワードプレイの方向性としてはスチャダラの“プロローグ”や“ジゴロ7”に通じるモノがあるけど。 吉「曲の構成としてはそこはちょっと意識しましたね」 K「でも、LBを目指すとかそういう意識はまったくない。というか、あの人たちの方がやってることが綺麗」
■ハハハ。確かにそうだ。 K「俺らがホントにフォロアーだったらもっと綺麗なことやってるよね。万人が聴いて楽しい、面白い雰囲気の作品を作ると思うし、決して“逃亡者”は入れないよ。でもサグとかハスラーとか色んなスタイルがある中で、オレらは本当に普通の人間ばっかりだけど、それでもこれだけHIP HOPのつまったアルバムが出来るってこととは分かってほしいよね」 吉「それに、他のクルーに謎みっちゃんみたいな立ち位置の奴はいないじゃないですか。というか、全員どんなクルーにもいない存在だと思うんですよね」
■結論めいたところで、このアルバムで与えたい影響ってある? 吉「影響か……」 K「お前が言うのか!」 上「吉野の発言を総意と思ってほしくないけど」 吉「みんなZZ以外に趣味持ってると思うんすよ!」 一同「そりゃそうだよ!」 吉「みんな、KAZZ-Kや武士は別の仕事もやったり……」 上「お前がやれよ!」 吉「上野君はLEGENDオブ伝説やったり、KENTAはレギュラーでDJやってるし、俺はメタルやったり……」 上「同列で語ってるけど、お前のメタルは仕事じゃねーだろ!」 吉「そういう、別のことをやってるからこそ出る色もあると思うんですよね」 DJ KENTA「みんな『一番好きなラッパーは』って言ったら絶対バラバラだし、そういう差は大きいと思うんですよね。でもその別々の色がスゴく良い風に出てるかなって。DJ陣も俺はメインストリームをかけるけど、KAZZ-Kは日本語に強いし、祐司はアングラで、吉野はバトルって風に、みんな違うんですよ。MCもそういう違いがあるし、その意味では総合力が一番強いクルーだと思いますね。一番年下の僕がいうのもなんですけど」
■今まで出た発言で一番しっかりしてるよ。 上「ま、みんなしっかりしてますよね……してねーか」
■君の今までの発言からその言葉が出るとは! 上「でも、『クルーでは良いけど個別��と』って言われないように……(MIC大将に向かって)して下さい」 大将「言われると思った」
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toubi-zekkai · 4 years ago
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 夜間を通して降り続いた雨も朝には霧雨となり、昼を過ぎた頃には完全に止んでいたが空の上は未だに襞の陰影がふやけた牛の小腸のように見える灰白色の雲に覆われ、羽ばたいて横断する鳥たちの影を殊更黒く際立たせていた。
 鴉が虚空を頻繁に往復している。黒い翼を大きく広げて嘴に細長い枝を咥えた鴉の視線の先には鉄楓の巨木が聳えていた。  終日多くの車が行き交い排気ガスに淀んでいる幅広い十字路の一角で空の雲海にあとほんの僅かで届くかに見える鉄楓の巨木は夢と現実の狭間にぼんやりと仰ぎ見る白い石塔のように聳え、一枚の葉も付けずに剪定の鋸に随所両断されている太い枝の断面や剥き出しになっている白い骨のような形成層、更には根元を支えている鉄骨とその下を覆っている黒い布などがこの高い木を尚のこと硬く無機質な構造物のように見せていた。  あまりにも巨大な対象を目の前にしたとき、その対象を自分の手先の延長線上にある実存だとは感じられず、抽象的な観念としてしか捉えることが出来ないという傾向を男は持っていた。例えば、高層マンションの前に立つとき、それが現実に存在する物質、鉄や白い塗料で造り上げられた構造物だとは感じられず、言葉やイメージを組み合わせて作られた観念の構造物であり、時間と同じように在るといえば在るし無いと云えば無いというような曖昧な存在、観測者に存在の確実性を依存する想像の産物と見分けが付かないのだった。目を閉じてまた開いたとき、マンションが跡形もなく消えていてもさして驚かないだろうと男は予感するのが常だったが、それは男にとってマンションが消えることは頭の中に浮かんだ数字が瞬く間に消えるのと大差がないからであり、そのような想像的マンションの無数に穿たれた蜂の巣の穴のような窓の中に自分と同じ生身の生きた人間が存在しているとはどうしても思えず、マンションの玄関の入り口から突然人間が出て来たりすると男は眺めていた絵の中の人物が不意に画布から飛び出して来たかのように驚きまた奇妙な違和感を感じるのだった。  抽象的観念としてしか捉えることの出来ないのはしかし巨大な対象に限られたものではなく、太陽、空、街、人間、ありとあらゆるものが男にとっては観念的存在に映り、ときには鏡の前に映る自分の姿さえも想像の産物なのではないかという疑いを抱いた。巨大なものがひときわ観念的にみえるのはそれだけ自分の内的現実と遠い存在だからであり、多少の僅差はあれどありとあらゆるものは無限に遠い存在として男の目の前に置かれていた。現実からの乖離断絶を常に感じ、男が渇望��ているものは唯一つその現実に触れることだけであったが、しかしそれこそ紛れもない現実にほかならなかった。  街というものは人間作り出した観念の産物であり、発達し発展していくほどに純観念的に進化していく、いわば観念の結晶化現象だと男は考えていた。結晶の街は硬質な鉄やコンクリートで形作られ、白や灰白色の塗料で塗り込められ、動きはすべて機械の正確な計算によって或いは機械のように優秀な人間にとって制御されている。そこから排除されていくものは、肉のように柔らかいものであり、黒や黒に近い色のものであり、不規則な動きをみせるもの、つまりは自然発生的な暴力、その延長線上にある死の影であった。死は芽を出す前にその予兆から摘み取られていた。駅の前には必ず交番があり、腰に拳銃を差した警官が座って、単身赴任の夫の帰りを待ち続ける窓辺の人妻のように来たるべき暴力の影に備えていたが、彼らの待ち望む暴力がやって来ることは稀であり、時折やっと道を尋ねに異国人がとぼとぼ歩いて来るぐらいであった。待ちわび兼ねて黒を白で押し包んだ車で警官は街に飛び出していくが、波一つ立たない静謐な街はさながら不毛海域のようであり彼らの漁船が魚を見つけて頭の上に乗せた赤いランプを光らせることはついになく、虚しく肩を落としてまた交番へと帰っていくのが大概であった。それも至極当然なことで、暴力の影は彼らが探しに出かける遥か前から根こそぎ刈り取られているのであり、早朝から籠の台車を引いて何人もの掃除夫が夜の残骸を掻き集め、ビルの会議の机の上では古い建物を取り壊し新たな建物をつくる計画が毎朝練られ、鴉や椋鳥は駆逐され、野良犬や野良猫は見つけしだい保健所に連れていかれ、近年になって街中に張り巡らされた監視カメラの出番を待つまでもなく行き交う人々の鋭い視線が絶えず光り、浮浪者を見掛けることも皆無であった。僅かに掻き集められた暴力は救急車の白さに包まれて郊外に城のように構えた病院の中へ、鉄格子の嵌められたバスに揺られて見たこともない丘の上の堀の中へ、或いは青い象のように大きな車に街外れの集積所へと運ばれると悉く燃やされて、その白い煙はこの街で一番空に近い白い煙突塔の先端から終日流されていた。  それではこの街に住む人間は現実感を男のように失っているかといえば、そうではなくこの街の人間の多くは現実感を絶えず摂取し、飼い豚のように肥えていた。ドクダミの草のように街にはラーメン屋を始めとしてありとあらゆる飲食店がはびこり香ばし��匂いを終日遠くまで漂わせ、スーパーやコンビニに行けば観念に加工され調理された動物や魚の死体が清潔に煌びやかに陳列されていた。ゲームセンターやパチンコ屋は朝からネオンとともに派手な音響を響かせ、デパートの中で或いはカフェの中で愉快な或いは物悲しい音楽は常に鳴り響いていた。道端には手入れの届いた植草や植木が整然と並び、その横をもはや狼の面影などまるでない調教された玩具のような子犬を引き攣れて白いワンピースを着た女が幸せそうに歩き、女の頭上にはビル群の直線に切り取られた多角形の空が浮かんでいる。太陽が沈んで観念の力が高まる夜になると、夜通し開いている賑やかな居酒屋や御洒落なバーで男たちは唾を飛ばしながら酒で観念を溶かし込み、それでも物足りない場合はラブホテルや風俗店に駆け込んで女の柔肌を通して現実の熱い感触を肌に染み込ませる。いや、多くの人間はそこまでしない、大概は自分の部屋のなかに引き篭もり、呪われた想像力と情報器具を駆使して現実感を安全に摂取する。ポップコーンを片手に一家惨殺事件の顛末を追い、外国で飢えて死んでいく子供たちを憐れみ、不倫が発覚して崩壊していく人生を嘲笑う。二次元の世界では更に顕著に、瞳だけが異様に大きい無垢な少女たちが魔法を駆使して殺し合い、痩せ細った女のような男たちが盛んに淫らな愛を交わし、ゲームの世界ではライフルや機関銃を撃ちまくり、女や子供関係なく殺して街中を血に染めることも出来たし、ポルノを見れば強姦など当たり前で、その画面の中ではどんな過酷な拷問でも女に科すことができたし、その逆ももちろん出来た。  暗い穴倉のなかで想像力は厄災のようにどこまでも広がり、それに見合う現実感を得るだけの技術を人間は獲得していた。現実感の蜜は観念の安全な鉄の檻に守られた飼い豚の口に絶えることなく流し込まれ、その中で豚たちは満たされ幸福に眠り込み、この街は穏やかな平和に包まれていた。  しかし、現実と現実感というものの間に絶対に越えることの出来ない隔たりがあることを男は知っていた。偽物はどれほど精巧に本物に似せて作ろうと偽物であり、完全に見える贋作は稚拙な偽物の絵よりもかえって本物の絵に対する越えられない一線を際立たせて男の前に突き付けていた。この街は綺麗であり秩序もあり尚且つあらゆる欲望を満たす物質に満ち溢れていたが、唯一つ美しさだけが欠けていた。美しさとは死と向き合う人間の意識だけが感じ取ることの出来る世界の現実そのもの��った。  美しさとは単なる趣味の問題ではなく現実の世界そのものであったから、観念の檻から飛び出して現実に触れたい、つまりは本当の意味で生を生きたいと渇望する男にとっては切実を通り過ぎて人生で唯一の問題であった。美しくなければ現実ではないし、現実でなければ美しくはなく、現実とは想像が入り込む余地が一切ない美しさであり、美しさとは仮初の現実感を喪失させる現実そのものであった。  美意識を持たない飼い豚たちが造る街は当然のごとく美しくはなく、現実から遠くかけ離れた砂上の楼閣の中で安寧に暮らす飼い豚たちの醜い姿は街を彷徨う魂を持たないゾンビのように男の目には映っていた。  しかし男もまたゾンビの亜種であることには違いなかった。男は電車に乗る機会が多く、その日も開閉式ドアの前に立って空と蒼い山脈の彼方に憧憬の眼差しを注いでいたのだったが、空と蒼い山脈がビルの群れに掻き消されて不意に暗くなった硝子窓にうっすらと半透明な男の姿が映し出された。男はその朧げで亡霊のような自分の姿が鏡や写真に映り込んだ自分の姿よりもひどく自分の真実に似つかわしい姿に思え奇妙な納得と安心を覚えていたのだが同時にその亡霊の瞳の中には手摺に掴まってぼんやりと立っているゾンビ姿の自分が映り込んでいることにもまた気が付いたのだった。  ときおり電車が激しく揺れると、男は手摺から手を滑らして目の前の硝子窓に手を置いて身体を支えていたが、そのとき同時に亡霊も手を伸ばし男と亡霊の手はぴたりと綺麗に重なっていた。蒼白い亡霊の手の平は冷たく硬い観念の感触そのものであったが、一方亡霊の手の平は男の手の平に熱く柔らかな現実の感触を感じていたはずだった。  幾度となく訪れた鉄の揺り篭の激しい揺れは男のなかにひとつの思想を熟成させていった。それは亡霊へと至る道筋であり、自分の意識を身体から完全に切り離してあの硝子窓の内側に閉じ込める、つまりは自分を純粋に観念的存在にしなければならないということであった。なぜなら現実の完全な扉は純粋な観念的存在にのみ開かれているからであったが、それは過去に数多の宗教や哲学が説いてきた奥義であり、芸術家が懊悩の果てに一瞬垣間覗く彼岸の赤い花であり、赤い血を流して斃れゆく戦士の瞳に映る蒼い空であり、男が常に予感し惹かれつつも巧妙に卑怯に怠惰に避けてきた思想であるとともに、男が生まれる遥か前の大きな戦争で合理主義の前に敗れ去り廃れ切った神々の思想であって、透けた硝子窓越しに蟻塚のように広がる鉄とコンクリートに堅固された灰白色の街はそんな神々の累積した死体の上に築き上げられているのであった。
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abcboiler · 4 years ago
Text
【黒バス】TEN DANCER has NOTHING -3-
 2015/08/10Pixiv投稿作
「未知なるが故に恐ろしい」 『ハムレット』
知れば、わかる、なんて、嘘。 *** 「……何故お前がここにいるのだよ」 「それは俺の台詞かな……」 果たして高尾和成が緑間真太郎を発見したのは、何のことは無い、翌日の夜、緑間の住むアパルトマンのロビーだった。 時刻は丁度夜の八時。幼い子供は家に帰っているだろうが、ティーンエイジはまだまだ遊びまわっている、そんな、まっとうな時間に、緑間は大量の書籍を左手に抱え、右手にサンドイッチの小さな紙袋を掴んで現れた。いいや、緑間からすれば、現れたのは高尾の方だろう。何せここは、緑間のテリトリーだ。彼の生活する場所だ。 「やっぱ良い所住んでんだね。俺警備員にすげー変な目で見られたわ」 「何故そのまま追い出されなかったのだよ」 「おんなじ舞台に出る共演者です、珍しく彼が忘れ物をしたので届けに来たんですけど入れ違いになっちゃったみたいで、って、劇場の入館証見せたら納得してくれたわ。それにね、こう見えても俺、ダンサーとしては名が通ってる方なの。あの警備員さん、舞台好きなんだな。俺の出てるのも観に来たことあったみたいよ」 「…………何故俺の家を知っている」 「そんなの調べりゃわかるさ、人気スター」 実際でいえば、高尾は黒子から緑間の自宅を聞いていた。教えてくれるかどうか、ダメ元で訪ねに行った高尾に、黒子は驚く程あっけなく、メモ書きでそれを投げて寄越したのだった。 どうせ遅かれ早かれ判ることです。彼、恐ろしいほど情報に無頓着ですし、君だって多分半日かからず調べられますよ。その手間くらいは省いてあげます。僕が教えたって、言わないでくださいね。後から緑間くんに文句言われるの、僕なんですから。 表情の読めない瞳を一切揺らがせず、黒子はあっさりと緑間の情報を売った。売ったどころか、捨てたようなものだ。黒子は高尾に何の見返りも求めなかったのだから。ただ、面白がっているだけなのかもしれない、と高尾は考える。情報の対価は、エンターテインメント。観客を楽しませることで、高尾は金を取っている。 「今お前に構っている暇はない、帰れ」 「稽古にも出る暇もないって?」 「稽古のための準備をしている」 「準備のための稽古じゃねえのかよ」 「同じことだ」 高尾の姿を確認してから、緑間の顔は盛大に、不機嫌そうにしかめられている。美しく整った顔が歪む姿というのは、それだけで心を抉る。美しさは、普通の人間ならば存在するだけで怯んでしまう、暴力だ。高尾はそれを知っている。美しいということは、ただそれだけで、災害のようなものなのだ。 それでも高尾は動じなかった。高尾にとって美しいということは、畏怖すべきことであったし、そしてまた、圧倒的な憎悪の対象でもある。そうでなければ何故、高尾はここまで緑間に固執しただろう。 緑間は、高尾が探し求めていた、10点だった。その執着は、この程度の威嚇で怯むほど、底の浅いものではない。 ロビーの前に立ちふさがるように高尾は立っている。他の住民はまだ現れない。まだ人々が活発に行動している時間に、二人は暫く睨み合った。 「……どういうつもりだ」 「納得いくまで帰るつもりねえよ、俺」 「お前に納得してもらう必要��ない」 「いくら俺がダンサーとはいえど、今回の舞台に関しちゃ共演者だろ。お前が練習に出てこない、納得のいく説明を求めるね」 「明後日には行くと言っているだろう」 「それまでの間、俺たちは主役不在の練習をさせられるわけだ。立ち位置も距離感もわからないまま。踏み出すタイミングも声の大きさも知らないまま」 現在、緑間の役は監督が外から台詞を読み上げて進めている。誰もいない空間に向かって声を荒げる女優の空虚を、高尾はこの二日間見てきた。緑間にも考えがあるのだろうが、それに付き合わされる側からすれば、率直に言って、たまったものではない。高尾はそう考える。我が儘が、過ぎる、と。 「……わかった。相手をしない方が時間を食いそうだ、付いてこい。ただし、邪魔はするなよ」 「どこに?」 「俺の家だ」 お前、ここまで来ておいて、逆にどこに行くつもりだったのだよ。 怪訝そうな顔をしながら、緑間は高尾に銀色の鍵を投げつけた。最上階の角部屋が、きらめきながら高尾の手の中にすっぽりと落ちてくる。慌てる高尾の横を悠々と通りながら、緑間は告げた。おい、早くしろ、お前が行かないと鍵が開かないだろう。 「これ以上俺を待たせるな」 「いや、待ってたのは俺、っつーか、真ちゃん、やっぱ、おかしいって」 「限りなく初対面の人間の家まで押しかけてきた奴に言われたくはないな」 「家の中までお邪魔するつもりはなかったっつーの! どっか移動して話せればそれでいいやって思ってたの!」 「馬鹿かお前は。俺は今帰って来た所なのだよ。いい加減に荷物も重い」 「そういやなんなの、その大量の本は」 「役作りに決まっている」 言われるがまま、緑間の後ろをついて歩き、顎で示されたドアを開けながら、高尾は自らの置かれた脚本の早さに戸惑っている。現実は小説よりも奇なり、とはよく言うが、現実が舞台よりもめまぐるしいだなんてこと、あるのだろうか。 * 「あのー、しんちゃーん」 「…………」 「おーい、しんちゃーん」 「…………」 「真ちゃん! 別に茶を出せとは言わねえけど、突然連れてこられて放っとかれてもどうしようもねえんだけど?!」 「茶なら台所のどこかにある」 「そういう問題じゃねえ!」 「緑茶」 「俺に淹れろっつーのかよ!」 部屋の中は、高尾の想像する緑間という人物像にたがわず整理整頓されていた。明らかにオブジェとしてふさわしくないような玩具や、謎のポスター等も、その五月蝿い存在感とは裏腹に、きっちりと棚の中に並べられている。シノワズリの花瓶の横に、南米の原住民族の像が置かれているのを見て高尾は把握を諦めた。調和はないが、統制されている部屋だった。 いざ戦わんとする高尾の決意など素知らぬ顔で、緑間はリビングのガラステーブルに持っていた本を全て置くと、そのままそれを一心不乱に読み出した。よく見れば、���ーブルには他にもいくつかの文献や写真集、古びたカメラや広げられたフィルムなどが散らばっていて、そこだけがやけに賑やかだ。 しばらくは立ったまま、緑間の動向を伺っていた高尾だったが、自分の存在を忘れられているな、と気がついてついに声を上げた。邪魔をするなとは言われたが、存在するなとまでは言われていない。 「お前は茶も淹れられないのか?」 「それは俺の台詞の筈なんだけど」 「わかった、お前が準備してくれば、それを飲んでいる間だけは話を聞いてやる」 「それで淹れてきたら一気に飲み干して、また無視、とかはねえだろうな」 「うるさい男だな。俺は猫舌だ。安心しろ」 どういう理論だよそれ、と思いつつ、あまりの言いざまに毒気を抜けれて高尾はキッチンに向かう。思いっきり、地獄の煮え湯のように沸騰したお茶を淹れてやろうと決意する彼の前で、殆ど使われた形跡の無い皿だけが、きっちりと四組揃って鎮座していた。生活感があるものといえば、流しに置かれたグラスだけだ。それ以外は全て、うっすらと底の方に埃が見える。 腹をくくって、高尾は二つ分の茶器を洗い、そのまま戸棚を漁り出す。初めて来る家の初めて立つ炊事場だが、整頓されていることに加え、物が少ない。いうなれば、食器売り場にいるようなものだ。戸惑おうにも、戸惑うだけの生活感が無いのである。持ち主の痕跡が一切感じられない道具に、何の違和感があるだろう。調理器具は一通り揃っているものの使われた形跡が無く、冷蔵庫には飲み物とチーズくらいしか見るものが無かった。茶葉は包装が解かれないまま、頭上の棚の上に詰め込まれている。貰い物を、確認もせずにそのまま入れているのだろう。 ヤカンが破裂しそうなほど湯気を立てたのを確認して、高尾は茶器を温めてから、沸騰した緑茶を注いだ。日本茶は少しぬるくなってから淹れなければいけないと知ってはいるが、わざわざ猫舌だと自己申告してきた抜けている男に容赦をするつもりなど彼には毛頭ない。 「はいったけど」 「そうか」 「話、聞かせてもらうぜ」 「話すこともないんだがな」 「じゃあ、勝手に質問するわ。っつーか、まず、何やってんの?」 「本を読んでいる」 「見りゃわかる、何読んでんのってこと」 「タイトルくらい読めるだろう」 「そりゃわかるけどさ、そ-じゃなくって」 皮膚を掻き毟るような気持ちで頭をかく高尾を他所に、緑間は湯呑に口を付けて、熱い、と顔をしかめている。ざまあみろ、と高尾が思ったのは、口には出ていなかったかもしれないが、顔には出ていただろう。緑間は僅かに高尾を睨んで、ぱたぱたと左手で立ち上る湯気をあおいだ。その呑気な動作が、またあまりにも場にふさわしくないので、高尾は肩を落とす。どうも先程から、噛み合っていない。 『多分緑間くん、昨日家に帰ってから、『緑間真太郎』としての生活なんてしてないですよ』 『緑間くんの役は、映画監督になることを夢見て、才���が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男でしたっけね』 『君がもし、映画監督になることを夢見て、才能が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男だとしたら、どこに行って、何をします?』 黒子の言葉を信じて、一日目の夜、高尾は街中のバーを巡った。映画監督を夢見る男が夢破れたら、きっと酒に溺れるだろうと考えたからだった。太った男たちがビールの泡を撒き散らす中にも、姿の見えない男がジャズを歌うカウンターにも、緑髪の欠片は落ちていない。映画館を巡っても、カメラの専門店にも、古いフィルムを並べる骨董店にもいなかった。それもそのはず、実際のところ、この男は、家の中でただひたすら何だか判らない本を読んでいたのだ。 「……黒子からさ、お前のことちょっと聞いたんだけど」 「そうか」 「食事とかもしないで女漁ってるかもって」 「はあ?!」 初めて緑間は大きな声を上げて、唖然とした顔をした。その表情に、高尾は黒子に騙されたことを知る。確かに台所に使用された形跡は無かったが、緑間の手元には確かに近所で買ったのであろうサンドイッチがちょこんと置いてあるし、この部屋のどこにも女の影はおろか、香水の匂いのひとつもしない。そうでなければ、高尾をあげたりはしなかっただろうが。 「お前……それを信じたのか……」 「うっ、いや、だって、あまりにも真に迫ってたし」 「俺が、そういった女と一緒に、ふしだらな生活をしていると」 「いや……あの……」 「そうか、そうかそうか。俺は、ほぼ初対面の見知らぬ男に、仕事をサボって、女に耽るような人間だと、そう思われていたわけだ、そうかそうか」 「いや、あの、百%そうというわけじゃなくてですね、役作りの一環として、もしかしたらって、いう」 「役作りのためだけに女を抱くような男だと」 「すみませんでした!」 高尾の発言は、確かに当人からしてみれば謂れのない冤罪なのだろう。しかも、普通に、礼を失している。それを信じ込んだ自らの愚かさもだが、それ以上に高尾は黒子を呪った。間違いなく、ここまで見越して、黒子は高尾に緑間の住所を教えたに違いなかった。今頃、高尾のうめき声を想像して笑っているのかもしれない。傍から見ていれば、滑稽な喜劇だろう。 「あーっくっそー騙された!!」 「そんな台詞を信じるお前も悪い」 「いやいやいや、そりゃ俺だって普通だったらどうか知らんけど、相手お前だし」 「それもまた失礼な発言だな」 「しかも黒子の言うことだぜ? お前の馴染みだろ。信じるわ」 「舞台とミステリー小説以外は全て嘘をつくものなのだよ」 「何ソレ」 「ただの俺の考えだ。舞台も小説も、騙しはするが嘘はつかない。ルール違反だからな」 「それ以外は全部嘘つき?」 「その通り」 溜息をつきながら高尾は自らの分の茶を一口飲む。それを見て緑間も再び口をつけるが、あっつ、と呟いてまた元に戻した。どうやら猫舌だというのは嘘でも何でも無かったらしい。偏屈で気難しい男の癖に、何故かこんなところでは正直らしかった。人としてのバランスの取り���がおかしいのではないかと高尾は思う。 「黒子は別に、小説の登場人物でもなければ、舞台の一幕でもないのだよ。ただの影が薄い、人間観察が趣味だと言ってのける少し意地の悪い男というだけだ」 「真ちゃんって黒子のこと嫌いなの」 「別に、どうということもないな」 あちらは俺のことが苦手なようだが、と平気な顔で言ってのける緑間はまだ手元の湯呑に苦戦している。昔馴染みに苦手に思われていることを、彼は本気で気にも留めていないようだった。 高尾は考える。先程はああ言ったものの、黒子の発言の全てが嘘だったとは、高尾にはどうしても思えない。確かに緑間は女を連れ込んでこそはいなかった。酒に溺れてもいなければ、人を殺しもしていなかった。ただ、黒子の話を聞いた時、高尾が真に怯えたのは何だったか。それは、緑間の、役に対するディテールの、作り込みではなかったか。その役が生まれてから、死ぬまで、何を考えて生きて、どうやって行動してきたのか、それを全て突き詰めなければ気がすまないという、その妄執ともいえるこだわり。 今、緑間の読んでいる本が映画の評論であることも、積み上げられているタイトルがほぼ全て映像関係のものであることも、床に散らばるパンフレットが、往年の名作映画であることも、高尾は疾うに気がついている。 「……俺さ、黒子から、お前がもう家に帰ってから『緑間真太郎としての生活をしてない』って聞いたわけ」 「馬鹿馬鹿しい。俺は緑間真太郎以外の何者でもない」 「うん。まあ、『家に帰ってから』ってことは、家にはいるんだなって気がついてお前の家来たわけだけどさ」 「はた迷惑な話だ」 「真ちゃんは、三日間とじこもって、この部屋で文献漁って役の研究してるわけ」 「まあ、そういうことになるのか。図書館には行ったが」 「食事は? 全部外メシ?」 「元々俺は料理はできん。必要最低限の栄養はとってる。舞台の途中で倒れるわけにもいかないだろう」 「女の子連れ込んだり」 「女よりもうるさい男は図らずも連れ込むことになったがな」 「イヤミっぽい男はモテねえぜ」 黒子は嘘をついてなどいなかったのだ。緑間は、本気で、自らの役を突き詰めて考えようとしている。それは途方も無い、傲慢ともいえる作業だ。役の設定では、二十代後半となっていた。その人生の全てを、三日間で作り上げようというのだから。二十年の人生を得るには、二十年の時間が必要だ。時間というのは、そういうものだ。誰にも早送りなど出来ないし、スキップすることも、できはしない。 緑間が再三、邪魔をするな、時間の無駄だ、と吐き捨てているのは、理由のない言葉ではない。本当に時間がないのだろう。三日間というのは、緑間真太郎が定めたギリギリのリミットなのだ。 かといって、それは、舞台稽古に出ない理由にはならないと高尾は感ずる。与えられて一日で、役をマスターする人間などいないだろう。その為に、練習があり、ステージがあるはずだった。他の者と一緒に、演技の中で本質を見つけ出していけばいい。一人ではたどり着かない発想もあるだろう。 「わかった」 「へ? 何が? 正直言って、俺にはさっぱりわかんねえわ、お前のこと」 「このままだとお前には永遠にわからないだろうということがわかったのだよ。お前に理解されたくも無いが、理解��なければ納得しないなら仕方がない」 「仕方無いって」 「高尾、お前ならこの台詞をどう読む」 「へ?」 「別に試しているわけじゃあないから」 お前は、どう読む。そう言って高尾に渡されたのは今回の舞台の台本だった。そこには無数の書き込みと、高尾には判らないマークが散らばっている。これら全て、緑間がこの二日間でつけた印に違いなかった。書き込みが多すぎて、実際の台詞が埋もれてしまっている。 高尾は緑間の指差す台詞を目でなぞる。特にどう、ということもない。ただ音読すれば良いという訳では無いだろう。どう読む、と聞かれているのだから、それはつまり、どう表現する、と尋ねられているに等しかった。試しているわけではないと緑間は注釈をいれたが、それを信じられるほど高尾は能天気な頭をしていない。オーディション前に、心臓を一本の氷の針が通り抜けるような、ぴりっとした緊張感。それを悟られないように、極めて何でもないような顔で高尾は一瞬その役を演じる。 「『何千枚のフィルムを切ったって、君が撮った一枚の赤子に敵わないんだ』。……これがどうかした?」 「別にどうもしない」 「はあ?」 「どうもしない、が、わからない」 まだまだだな、とか、そんな言い方で恥ずかしくないのか、とか、何がしかの罵倒が飛んでくるだろう、と身構えていた高尾の予想は見事に外れた。緑間は、一切の評価を高尾に下さなかった。褒めもしなければ、けなしもしない。フラットだった。 じりじりと、焼け付くような違和感を高尾は覚えている。出会ってまだ数日しか経っていないが、緑間真太郎という男が、一切の虚飾無しでしか動かないことを高尾は知っている。初対面だとか、或いは上司だとか、部下だとか、神様だとか、そういったものに頓着しないで、緑間は辛辣な台詞を吐くだろう。だからお前は駄目なのだよ、そんなことしても無駄だ、興味が無い、消えろ、死ね。彼の信念に反するものは、ことごとく拒絶される。そんな男が、高尾の台詞に、ダメ出しの一つもしない。そんなことが、あるだろうか。 高尾はベテランの老優でもなければ、天才的な役者でもない、ダンサー上がりの、演技にかけては素人だというのに。 「お前、今、どういう気持ちでこの台詞を読んだ」 「どういうって……、悲しい、とか、悔しい、とか、でもちょっと憧れてる、とか、そういう感じ?」 「そうか」 「なんか間違ってた?」 「正解も不正解もないだろう。脚本に存在するのは解釈の違いだ」 正解が知りだければ脚本家に聞け、と緑間は飄々と受け流す。納得のいかない高尾を、緑間はレンズ越しに僅かに睨んだ。或いはその瞳は、哀れんでいたようにさえ見えた。 誰を? 「俺にはな、高尾、お前が言っていることがわからない」 「……は?」 「わからないから、話せない」 「なに、どういうこと」 「お前は何故、この台詞から、悲しみや、悔しさや、憧れを見出したんだ?」 「いや……それは、だって、そういうもんかな、って」 「わからん。わからないのだよ。お前の言っているこの役の気持ちも、そのの発言も、何もわからん。本当にこいつは、何千枚ものフィルムを使い果たしたのか? それともただの比喩か? こいつの絶望はどれくらいのものだ? 何故これをわざわざ口にした? どういう気持ちで? ��だ一枚の赤子の写真に、こいつは何を感じたんだ? 何故それに負けた? 俺には全くわからない」 ソファにもたれながら、緑間は吐き捨てる。舞台俳優として、ありとあらゆる栄光を手にしてきた男は、高尾がちらりと目をやっただけで読み取ったことが、何一つとしてわからないという。ありとあらゆる観客を熱狂させてきた男は、何故人がそこまで興奮するのかわからないという。人の気持ちが、わからないと、言うのだ。 緑間が、無言のまま茶をすする音で、高尾は我に返った。時間が経っている。そして、窓の外の星は刻刻と位置を変えている。夜が深まってきているのだ。流石に泊まるのは気が引けるし、そもそも緑間に泊めるつもりは無いだろう。残された時間は少ない。 「……考えすぎじゃねえの」 「よく言われる」 俺からしてみれば、何故、お前たちは考えないで理解できるのか、そのことが何よりも、理解しがたいのだよ。 緑間は哀れむように呟く。その哀れみの対象は、何も知らない高尾ではない。何も理解できない、緑間自身に向いているのだ。 「高尾、俺はな、お前が何も考えずに口にした、悲しみも悔しさも憧憬も、一つもわからない」 「わからないって」 「お前が何も考えずに理解したそれはな、俺にとってはどんなに複雑な数学の定理よりも難解で、複雑で、混迷を極めている」 誰が想像しただろう。天才だともてはやされ、俳優として得られるだけの全ての名声を得ている男が、たった一つの台詞すら理解できないなどと。 何を馬鹿なことを、と、笑い飛ばすことが高尾には出来なかった。この部屋には真実だけが鎮座していた。緑間真太郎は、その真ん中で、億劫そうに溜息をついている。 「だから言っているだろう。稽古に出るための準備をしている、と」 「出るための、準備」 「今の俺が稽古場へ行っても、初まりの言葉すら発せないだろうな。木偶の坊のように立ちすくむだけだ」 高尾が読んだ一文を、緑間は読めないのだという。どのような気持ちで読めばいいのか、わからないのだと言う。ホンの数秒の、薄っぺらな解釈さえ、理解できないと言う。どうやって感情を載せればいいのかが判らない。どうやって表現すればいいのかわからない。そもそも、表現すべき、個がわからないと言っているのだ。それは役者として、あまりにも致命的な欠点だった。 それでもなお、緑間は、役者として君臨する。 そのための努力が、そのための土台が、この膨大な資料と、三日間の時間だった。高尾ははっきりと理解する。緑間の天才性は、才能は、演技そのものではない。そこにたどり着くまでの、異様なまでの集中力と、執着。与えられた役と脚本に対する、一切の妥協を許さない姿勢。それを押し通すだけの精神。 怪物だ、と高尾は思う。同じ人間とは、とてもではないが思えない。どこにいるだろう、他人の気持ちが一つも理解できないからといって、そいつの人生をもう一度全て見直そうとする者なんて。 高尾の目の前で、怪物は淡々と夜の幕を引こうとする。 「台詞も言えない役者に価値など無い。稽古だろうが何だろうが、俺が舞台に立つ時は役者としてだ。それを邪魔してくれるな」 カツン、と空っぽの音を響かせて、湯呑はテーブルの上に戻された。高尾は空っぽのそれを覗き込む。そこには何も無い。ただ、何も無い。 「ただの緑間真太郎など、舞台の上に立つ価値もない。明後日には練習に出る。それまでには、お前の言っていた、悲しみも、悔しさも、学んでおこう。話は終わりだ。わかったか?」
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hananien · 5 years ago
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【キャプトニ】フィランソロピスト
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ピクシブに投稿済みのキャプトニ小説です。
MCU設定に夢と希望と自設定を上書きした慈善家トニー。WS前だけどキャップがタワーに住んでます。付き合ってます。
ピクシブからのコピペなので誤字脱字ご容赦ください。気づいたら直��ます。
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 チャリティーパーティーから帰ってきたトニーの機嫌は悪かった。スティーブは彼のために、知っている中で最も高価なスコッチウイスキーを、以前彼に見せられたyou tubeの動画通りのやり方で水割りにして手渡してやったが、受け取ってすぐに上品にあおられたグラスは大理石のバーカウンターに叩きつけられ、目玉の飛び出るくらい高価な琥珀色のアルコール飲料は、グラスの中で波打って無残にこぼれた。  「あのちんけな自称軍事評論家め!」 スティーブは、トニーが何に対して怒っているのか見極めるまで口を出さないでおこうと決めた。彼が摩天楼を見下ろす窓ガラスの前でイライラと足を踏み鳴らすのを、その後ろから黙って見つめる。  トニーは一通り怪し気なコラムニストの素性に文句を言い立て、同時に手元の情報端末で何かをハッキングしているようだった。「ほーらやっぱり。ベトナム従軍経験があるなんて嘘っぱちじゃないか。傭兵だと? 笑わせてくれる。それで僕の地雷除去システムを批判するなんて――」 左手で強化ガラスにホログラムのような画面を出現させ、右手ではものすごい勢いで親指をタップさせながら、おそらく人ひとりの人生を破滅させようとしているわりには楽しそうな笑みを浮かべてトニーは言った。「これで全世界に捏造コラムニストの正体が明かされたぞ! まあ、誰かがこいつに興味があったらニュースになるだろう」  「穏やかじゃないチャリティーだったようだな」 少しトニーの気が晴れたのを見計らって、スティーブはようやく彼の肩に触れた。  「キャプテン、穏やかなチャリティパーティーなんてないんだ。カメラの回ってないところじゃ慈善家たちは仮面を被ろうともしない。同類ばかりだからね」  トニーは振り返ってスティーブの頬にキスをすると、つくづくそういった人種と関わるのが嫌になったとため息をついた。「何が嫌だって、自分もそういう一人だと実感する��とがさ」  「それは違うだろう」  「そうか?」 トニーはスティーブの青い目を見上げてにやりと笑った。「僕が人格者として有名じゃないってことは君もご指摘のとおりだろ?」  「第一印象が最悪だったのは、僕のせいかい」 これくらいの当てこすりにはだいぶ慣れてきたので、スティーブは涼しい顔で返した。恋人がもっと悪びれると思っていたのか、トニーはつまらなそうに口をとがらせる。「そりゃそうさ。君が悪い。君は僕に興味なさそうだったし、趣味も好きな食べ物も年齢も聞かなかったじゃないか。友人の息子に会ったらまずは”いくつになった?”と聞くのがお決まりだろ。なのに君ときたらジェットに乗るなりむっつり黙り込んで」  「ごめん」 トニーの長ったらしい皮肉を止めるには、素直に謝るか、少々強引にキスしてしまうか、の二通りくらいしか選択肢がなかった。キスは時に仲直り以上の素晴らしい効果を与えてくれるが、誤魔化されたとトニーが怒る可能性もあったので、ここは素直に謝っておくことにした。  それに、”それは違う”と言ったのは本心だ。「君は自分が慈善家だと、まるで偽善者のようにいうけれど、僕はそうは思わない――君が人を助けたいと思うのは、君が優しいからだ」  「僕が優しい?」  「そうだ」  「うーん」 トニーは自分でもうまく表情を見つけられないようだった。スティーブにはそれが照れているのだとわかった。よく回る口で自分自身の美徳すら煙に巻いてしまう前に、今度こそスティーブは彼の唇をふさいでしまうことにした。
 結局、昨夜トニーが何に怒っていたのか、聞かずじまいだった。トニーには――彼の感情の表現には独特の癖があって、態度で示していることと、内心で葛藤していることがかけ離れていることさえある。彼が怒っているように見えても、その実、怒りの対象とは全く別の事がらについて心配していたり、計算高く謀略を巡らせていたりするのだ。  彼が何かを計画しているのなら、それを理解するのは自分には不可能だ。スティーブはとっくに、トニーが天才であって、自分はそうではないことを認めていた。もちろん軍事的なこと――宇宙からの敵に対する防備であるとか、敵地に奇襲するさいの作戦、武器や兵の配置、それらは自分の専門であるからトニーを相手に遅れをとることはない。それに、一夜にして熱核反応物理学者にはなれないだろうが、本腰を入れて学べばどんな分野だって”それなりに”モノにすることは出来る。超人血清によって強化されたのは肉体だけではない。しかし、そういうことがあってもなお、トニーの考えることは次元が違っていて、スティーブは早々に理解を諦めてしまうのだ。  べつにネガティブなことではないと思う。トニーが何をしようとも、結果は共に受け入れる。その覚悟があるだけだ。  とはいえ、昨夜のようにわざとらしく怒るトニーは珍しい。八つ当たりのように”自称軍事評論家”とやらの評判をめちゃめちゃにしたようだが、パーティーでちょっと嫌味を言われただけであそこまでの報復はしないだろう(断言はできないが)。彼への反感を隠れ蓑に複雑な計算式を脳内で展開していたのかもしれないし、酔っていたようだから、本当にただの”大げさな怒り”だったのかもしれない――スティーブは気になったが、翌日になってまで追及しようとは思わなかった。特に、隣にトニーが寝ていて、ジャービスによって完璧に計算された角度で開かれたブラインドカーテンから、清々しい秋の陽光が差し込み、その日差しがトニーの丸みを帯びた肩と長い睫毛の先を撫でるように照らしているのを何の遠慮も邪魔もなく見つめていられる、今日みたいな朝は。  こんな朝は、キスから始まるべきだ。甘ったるく、無駄に時間を消費する、意味だとか難しい理由なんかこれっぽっちもないただのキス。  果たしてスティーブの唇がやわらかな口ひげに触れたとき、トニーのはしばみ色の瞳が開かれた。  ……ああ、美しいな。  キスをしたときにはもうトニーの目は閉じられていたが、スティーブはもっとその瞳を見ていたかった。  トニー・スタークの瞳はブラウンだということになっている。強い日差しがあるとき、ごく近くにいるとわかる、彼の瞳はブラウンに緑かかった、透明水彩で描かれたグラスのように澄んだはしばみ色に見える。  彼のこの瞳を見たことのある人間は、スティーブ一人というわけではないだろう――ペッパー・ポッツ、有名無名のモデルや俳優たち、美貌の記者に才気ある同業者――きっと彼の過去に通り過ぎていった何人もの男女が見てきたことだろう。マリブにあった彼の自宅の寝室は、それはそれは大きな窓があり、気持ちの良い朝日が差し込んだときく。  けれど彼らのうち誰も、自分ほどこの瞳に魅入られ、囚われて、溺れた者はいないだろう。でなければどうして彼らは、今、トニーの側にいないのだ? どうして彼から離れて生きていられるのだ。  「……おはよう、キャップ」  「おはようトニー」 最後に鼻の先に口付けてからおたがいにぎこちない挨拶をする。この瞬間、トニーが少し緊張するように感じられるのは、スティーブの勘違いではないと思うのだが、その理由も未だ聞けずにいる。  スティーブは、こと仕事となれば作戦や戦略のささいな矛盾や装備の不備に気がつくし、気がついたものには偏執的なほど徹底して改善を要求するのだが、なぜか私生活ではそんな気になれないのだった。目の前に愛しい恋人がいる。ただそれだけで、心の空腹が満たされ、他はすべて有象無象に感じられる。”恋に浮わついた”典型的な症状といえるが、自覚していて治す気もない。むしろ、欠けていた部分が充実し、より完全な状態になったような気さえする。ならば他に何を案じることがある? 快楽主義者のようでいてじつは悲観的なほどリアリストであるトニーとは真逆の性質といえた。  トニーが先にシャワーを浴びているあいだ、スティーブはキッチンで湯を沸かし、コーヒーを淹れる。スティーブと付き合うようになってから、いくつかのトニーの不摂生については改善されたが、起床後にコーヒーをまるで燃料のようにがぶ飲みする癖は変わらなかった。彼の天災のような頭脳には必要不可欠のものと思って今では諦めている。甘党のくせに砂糖もミルクも入れないのが、好みなのか、ただものぐさなだけかもスティーブは知らない。いつからかスティーブがティースプーンに一杯ハチミツを垂らすようになっても、彼は何も言わずにそれを飲んでいるので、実はカフェインが入っていれば味はどうでもいいのかもしれない。  シャワーから上がってきたトニーがちゃんと服を着ているのを確認して(彼はたまにごく自然に裸でキッチンやタワーの共有スペースにご登場することがある、たいていは無人か、スティーブやバナーなど親しい同性の人間しか居ないときに限ってだが)、スティーブもバスルームに向かった。着替えを済ませてキッチンに戻ると、トニーは何杯目かわからないブラック・コーヒーを飲んでいたが、スティーブが用意したバナナマフィンにも手をつけた形跡があったのでほっとする。ほうっておくとまともな固形食をとらない癖もなかなか直らない。スティーブはエプロンをつけてカウンターの中に入り、改めて朝食の用意を始める。十二インチのフライパンに卵を六つ割り入れてふたをし、買い置きのバゲットとクロワッサンを電子オーブンに適当に放り込んでセットする。卵をひっくり返すのは危険だということを第二次世界大戦前から知っていたので、片面焼きのまま一枚はトニーの皿に、残りは自分の皿に乗せる。半分に割ったりんご(もちろんナイフを使う。手で割ってみせたときのトニーの表情が微妙だったため)を添えてトニーの前に差し出すと、彼は背筋を伸ばして素直にそれを食べ始めた。バゲットはただ皿に置いただけでは食べないので手渡してやる。朝食時のふるまいについては今までに散々口論してきたからか、諦めの境地に達したらしいトニーはもはや無抵抗だ。  特に料理が好きだとか得意だとかいうわけでもないのだが、スティーブはこの時間を愛していた。トニーが健康的な朝の生活を実行していると目の前で確認することが出来るし、おとなしく従順なトニーというのはこの時間にしかお目にかかれない(夜だって、彼はとても”従順”とはいえない)。秘匿情報ファイルであろうとマグカップだろうと他人からの手渡しを嫌う彼が、自分の手から受け取ったクロワッサンを黙って食べる姿は、人になつかない猫を慣れさせたような甘美な達成感をスティーブに与えた。  「今日の予定は?」  スティーブが自分の分の皿を持ってカウンターの内側に座る。斜め向かいのトニーは電脳執���に問い合わせることなく、カウンターに置いたスマートフォンを自分で操作してスケジュールを確認した。口にものが入っているから音声操作をしないようだった。ときどき妙にマナーに正しいから面食らうことがある。朝の短時間できれいに整えられたトニーの髭が、彼が咀嚼するたびにくにくに動くのを見て、スティーブは唐突にたまらない気分になった。  「僕は――S.H.I.E.L.D.の午前会議に呼ばれ��るんだ。食べ終わったら出発するよ。それから午後は空いてるけど、君がもし良かったら……」 トニーの口が開くのを待つあいだ、彼の口元を凝視していては”健全な朝の活動”に支障を来しそうだったので、スティーブは自分の予定を先に話し始めた。「……良かったら、美術館にでも行かないか。グッケンハイムで面白そうな写真展がやってるんだ。東アジアの市場のストリートチルドレンたちを主題にした企画で――」  トニーはスマートフォンの上に出現した青白いホログラムから、ちらっとスティーブに視線を寄越して”呆れた”顔をした。よっぽど硬いバゲットだったのか、ようやく口の中のものを飲み込んだ彼は、今度は行儀悪く手に持ったフォークをスティーブに向けて揺らしながら言った。「デートはいいが、そんな辛気臭い企画展なんかごめんだ」  「辛気臭いって、君、いつだったか、そういう子供たちの救済のためのチャリティーを主催したこともあったろ」  「ああ、僕は慈善家だからね。現地視察にも行ったし、NPOのボランティアどもとお茶もしたし、写真展だって行ったことがある、カメラが回ってるところでな」 フォークをくるりと回してバナナマフィンの残りに刺す。「何が悲しくて恋人と路上生活者の写真を見に行かなくちゃならない? ”世界の今”を考えるのか? わざわざ自分の無力さを痛感しに行くなんていやだね。君と腕を組んでスロープをぶらぶら下るのは、まあそそられるけど」  「まったく、君ってやつは……」 スティーブは苦笑いするしかなかった。「じゃあ、ただスロープをぶらぶら下るだけでいいよ。ピカソが入れ替えられたみたいだ。デ・キリコのコレクションも増えたっていうし、展示されてるなら見てみたい。噂じゃどこかの富豪が画家の恋人のために、イタリアのコレクターから買い付けて美術館に寄付したって」  「きみもすっかり情報機関の人間だな」  「まあね。絵が好きな富豪は君以外にもいるんだなって思った」  「君は間違ってる。僕は”超・大”富豪だし、べつに絵は好きで集めてるんじゃない。税金対策だよ。あと、火事になったとき、三億ドルを抱えるより、丸めた布を持って逃げるほうが効率いいだろ?」  「呆れた」  「絵なんて紙幣の代わりさ。高値がつくのは悪い連中が多い証拠だな」  ところで、とトニーはスマートフォンを操作し、ホログラムを解除した。「せっかくのお誘いはありがたいが、残念ながら僕は今日忙しいんだ。社の開発部のやつらが放り投げた……洋上風力発電の……あれやこれやを解析しなきゃならないんでね。美術館デートはまた今度にしてくれ。その辛気臭い企画展が終わった頃に」  「そうか、残念だよ」 もちろんスティーブは落胆なんてしなかった。トニーが忙しいのは分かっているし、それはスティーブが口を出せる範囲の事ではない。ふたりのスケジュールが完全に一致するのは、地球の危機が訪れた時くらいだ。それでもこうして一緒の屋根の下で暮らしているのだから、たかが一緒に美術館に行けないくらいで残念がったりはしない。ごくふつうの恋人たちのように、夕暮れのマンハッタンを、流行りのコーヒーショップのタンブラーを片手に、隣り合って歩けないからといって、大企業のオーナーにしてヒーローである恋人を前に落胆した顔を見せるなんてことはしない。  「スティーブ、すねるなよ」 しかしこの(肉体的年齢では)年上の恋人は、敏い上にデリカシーがない。多忙な恋人の負担になるまいと奮闘するスティーブの内心などお見通しとばかりに、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてからかうのだ。「君だってこの前、僕の誘いを断ったろ? しかも他の男と会うとかで」  「あれはフューリーに呼び出されて……」  「ニック・フューリーは男だ! S.H.I.E.L.D.の戦術訓練なんて急に予定に入るか? あいつは僕が気に入らないんだ、君に悪影響を与えるとかで」  「君に良い影響を与えてるとは思えないのかな」  スティーブはマフィンに刺さったフォークでそれを一口大に切り分け、トニーの口元に運んでやった。呆気にとられたような顔をするトニーに、首をかしげてにっこりと微笑む。  トニーはしてやられたとばかりに、さっと頬を赤くした。  「この、自信家め」  「黙って全部食べるんだ、元プレイボーイ」  朝のこの時間、トニーはとても従順な恋人だ。
 トニーに借りたヘリでS.H.I.E.L.D.本部に到着すると(それはもはやキャプテン・アメリカ仕様にトニーによってカスタムされ、「なんなら塗装し直そうか? アイアンパトリオットとお揃いの柄に?」と提言されたが、スティーブは操縦システム以外の改装を丁重に断った)、屋内に入るやいなや盛大な警戒音がスティーブを迎えた。技術スタッフとおぼしき制服を来た人間が、地下に向かって駆けていく。どうやら物理的な攻撃を受けているわけではなさそうだったので、スティーブは足を速めながらも冷静に長官室へと向かった。  長官室の続きのモニタールームにフューリーはいた。スティーブには携帯電話よりもよほど”まとも”な通信機器に思える、設置型の受話器を耳に当て、モニター越しに会話をしている。というか、怒鳴っている。  「いつからS.H.I.E.L.D.のネットワークは穴の開いた網になったんだ? 通販サイトのほうがまだ上手にセキュリティ対策してるぞ!! あ!? 言い訳は聞きたくない、すべてのネットワーク機器をシャットダウンしろ、お前らの出身大学がどこだろうと関係ない。頼むから仕事をしてくれ、おい、聞いてるか? ああ、ん? 知るか、そんなの。あと二時間以内に復旧しなけりゃ、今後は機密情報はamazonのクラウドに保存するからな!!」  「ハッキングされたのか?」  長官の後ろに影のように控えていたナターシャ・ロマノフにスティーブは尋ねた。  「そのようね。今のところ、情報の漏洩はないみたいだけど、レベル6相当の機密ファイルに不正アクセスされたのは確定みたい」  「よくあるのか?」  「こんなことがよくあっては困るんだ」 受話器を置いたフューリーが言った。「午前会議は延期だ、午後になるか、夕方になるか、夜中になるかわからん」  「現在進行中の任務に影響は?」  「��立したオペシステムがあるから取りあえずは問題ない。だがもしかしたら君にも出動してもらうかもしれない。待機していてくれるか」  スティーブは頷いた。そのまま復旧までモニタリングするというフューリーを置いて、ナターシャと長官室を出る。  「S.H.I.E.L.D.のセキュリティはどうなってる? 僕は専門外だが、情報の漏洩は致命的だ。兵士の命に関わる」  「我々は諜報員よ、基本的には。だから情報の扱いは慎重だわ」 吹き抜けのロビーに出て、慌しく行きかう職員の様子を見下ろす。「でもクラッキングされるのは日常茶飯事なのよ、こういう機関である故にね。ペンタゴンなんてS.H.I.E.L.D.以上に世界中のクラッカーたちのパーティ会場化されてるわ。それでも機密は守ってる。長官があの調子なのはいつものことでしょ」  「じゃあ心配ない?」  「さあね。本当に緊急なら情報工学の専門家を呼ぶんじゃない。あなたのとこの」  すべてお見通しとばかりに鮮やかに微笑まれ、スティーブは口ごもった。  トニーとの関係は隠しているわけではないが、会う人間全てに言って回っているわけでもない。アベンジャーズのメンバーにも特に知らせているわけではなかった(知らせるって、一体どういえばいいっていうんだ? ”やあ、ナターシャ。僕とトニーは恋人になったんだ。よろしく”とでも? 高校生じゃあるまいし)。だからこの美しい女スパイは彼らの関係を自力で読み解いたのだ。そんなに難しいことではなかっただろうとは、スティーブ自身も認めるところだ。  ナターシャは自分がトニーを倦厭していた頃を知っている。そんな相手に今は夢中になっていることを知られるのは居た堪れなかった。断じてトニーとの関係を恥じているわけではないのだが……ナターシャは批判したりしないし、クリントのように差別すれすれの表現でからかったりもしない。ひょっとすると、彼女は自分たちを祝福しているのではないかとさえ思う時がある。だからこそ、こそばゆいのかもしれなかった。  「ところで……戦闘スタイルだな。出動予定があったのか」  身体にぴったりとフィットした黒い戦闘スーツを身にまとったナターシャは肩をすくめて否定した。「私も会議に呼ばれて来たの。武装は解除してる」  スティーブが見たところ、銃こそ携帯していないが、S.H.I.E.L.D.の技術が結集したリストバンドとベルトをしっかりと装着していて、四肢が健康なブラック・ウィドウは未武装といえない。だかこのスタイル以外の彼女を見ることが稀なので、そうかと聞き流した。  「僕は復旧の邪魔にならないようにトレーニングルームにいるよ。稽古に付き合ってくれる奇特な職員がいるかもしれない」  「私は長官の伝令だからこの辺にいるわ。復旧したらインカムで知らせるから、とりあえず長官室に来て」 踵を返して、歩きながらナターシャは振り向きざまに言った。「残念だけど電話は使えないわよ。ダーリンに”今夜は遅くなる”って伝えるのは、もうちょっと後にして」  「勘弁してくれ、ナターシャ」  聞いたこともない可愛らしい笑い声を響かせて、スーパースパイはぎょっとする職員たち��見向きもせず、長官室に戻っていった。
 トニーの様子がおかしいのは今更だが、ここのところちょっと度が過ぎていた。ラボに篭りきりなのも、食事を取らなかったり、眠らなかったり、シャワーを浴びなかったりして不摂生なのも、いつものことといえばいつものことで、それが同時に起こって、しかも自分を避けている様子がなければスティーブも一週間くらいは目をつぶっただろう。
 S.H.I.E.L.D.がハッキングされた件は、その日のうちに収拾がついた。犯人は捕まえられなかったが、システムの脆弱性が露見したので今後それを強化していくという。  スティーブがタワーに帰宅したのは深夜になろうかという頃だったが、トニーはラボにいて出てこなかった。これは珍しいことだが、研究に没頭した日には無いこともない。彼の研究が伊達ではないことはもうスティーブも知っているから、著しく不健康な状態でなければ邪魔はしない。結局、その日は別々に就寝についた。と、スティーブは思っていた。  次の日の朝、隣にトニーはいなかった。きっと自分の寝室で寝ているのだと思い、先に身支度と朝食の用意を済ませてから彼の居室を訪れると、空の部屋にジャービスの声が降ってきた。  『トニー様は外出されました。ロジャース様がお尋ねになれば、おおよその帰宅時間をお伝えするようにとのことですが』  「どこへ行ったんだ? 急な仕事が入ったのか?」  『訪問先は聞いておりません』  そんなわけがあるか、とスティーブは思ったが、ジャービスを相手に否定したり説得したりしても無駄なことだった。乱れのないベッドシーツを横目で見下ろす。「彼は寝なかったんだ。車なら君がアシストできるだろうけど、もし飛行機を使ったなら操縦が心配だ」  『私は飛行機の操縦も可能です』  「そうか、飛行機で出かけたんだな。なら市外に行ったのか」  電脳執事が沈黙する。スティーブの一勝。ため息をついて寝室を出た。  ジャービスはいい奴だが(このような表現が適切かどうか、スティーブには確信が持てないでいる)、たまにスティーブを試すようなことをする。今朝だって、”彼”はキッチンで二人分の食事を支度するスティーブを見ていたわけだから、その時にトニーが外出していることを教えてくれてよかったはずだ。トニーの作った人工知能が壊れているわけがないから、これは”彼”の、主人の恋人に対する”いじわる”なのだとスティーブは解釈している。トニーはよくジャービスを「僕の息子」と表現するが――さしずめ、父親の恋人に嫉妬する子供といったところか。そう思うと、自分に決して忠実でないこの電脳執事に強く出られないでいる。  「それで……彼は何時ごろに帰るって?」  『早くても明朝になるとのことです』  「えっ……本当に、どこに行ったんだ」  『通信は可能ですが、お繋ぎしますか』  「ああ、いや、自分の電話でかけるよ。ありがとう。彼のほうは、僕の予定は知ってるかな」  『はい』  「そう……」 スティーブはそれきり黙って、二人分の食事をさっさと片付けてしまうと、朝のランニングに出掛けた。  エレベータの中で電話をかけたが、トニーは出なかった。
 それが四日前のことだ。予告した日の真夜中に帰ってきたトニーは、パーティ帰りのような着崩したタキシードでなく、紺色にストライプの入ったしゃれたビジネススーツをかっちりと着込んでふら��とキッチンに現れた。スティーブの強化された嗅覚が確かなら、少なくとも前八時間のあいだ、一滴も酒を飲んでいないのは明らかだった。――これは大変珍しいことだ。今までにないことだと言ってもいい。  彼は相変わらず饒舌で、出来の悪い社員のぐちや、言い訳ばかりの役員とお小言口調の政府高官への皮肉たっぷりの批判を、舞台でスピーチするみたいに大仰にスティーブに話して聞かせ、その間にも何かとボディタッチをしてきた。どれもいつものトニー、平常運転だ。しかしスティーブは、そんな彼の様子に違和感を覚えた。  彼が饒舌なのはよくあるが、生産性のないぐちを延々と口上するときはたいてい酔っている。しらふでここまで滔々としゃべり続けることはないと、スティーブには思われた。べたべたと身体に触ってくるのに、後から思えば意図されていたと思わずにはいられないくらい、不自然に目を合わせなかった。スティーブが秘密工作員と関係のない職種についていたとしても、自分の恋人が何かを隠していると気付いただろう。  極め付けはこれだ。スティーブはトニーの話を遮って、「君の風力発電は順調?」とたずねた。記憶が確かなら、この二日間、彼が忙しかったのはそのためであるはずだ。  「石器時代のテクノロジーがどうしたって?」  スティーブはぐっと拳を握りたいのを我慢して続けた。「だって、君――その話をしてただろ?」  「ああ……」 トニーは一瞬だけ、せわしなく何くれと動かしていた手足を止めた。「おもい出した。言ったっけ? ロングアイランド沖に発電所を建設するんだ。もう何年も構想してるんだけど、思ったよりうちの営業は優秀で――何しろほら、うちにはもっと”すごいやつ”があるんだし――そう簡単に量産は出来ないけど――それで僕は気が進まないんだが、州知事がGOサインを出してしまってね、ところが開発の連中が怖気づいてしまったんだ、というか、一人失踪してしまって……すぐに見つけ出して再洗脳完了したけど――冗談だよ、キャップ――でも無理はない事だとも思うんだ、だって考えてみろ……今時、いつなんどき宇宙から未知の敵対エネルギーが降ってくるかもしれないのに、無防備に海の上に風車なんて建ててる場合か? 奴らも責任あるエンジニアとして、ブレードの強度を高めようと努力してくれてるんだが、エイリアンの武器にどうやったら対抗出来るってんだ? 塩害や紫外線から守って次元じゃないんだろ? いっそバリアでも張るか? いっそそのほうが……うーん、バリアか。バリアってのはなかなか面白そうなアイデアだ、しかしそうすると僕は……いやコストがかかりすぎると、今度は失踪者じゃすまなくなるかも……」  スティーブは確信した。  トニーは自分に何か隠している。忙しいとウソまでついて。しかもそれは――彼がしらふでこんなに饒舌になるくらい、”後ろめたい”ことだ。
 翌朝から今度はラボに閉じこもったトニーは、通信にも顔を出さなかった。忙しいといってキッチンにもリビングにも降りてこないので、サンドイッチやら果物をラボに届けてやると、その時に限ってトニーは別の階に移動していたり、”瞑想のために羊水カプセルに入った”とジャービスに知らされたり(冗談だろうが、指摘してもさらなる馬鹿らしい言い訳で煙に巻かれるので否定しない。羊水カプセル? 冗談だよな?)して本人に会えない。つまりトニーはジャービスにタワー内のカメラを監視させて、スティーブがラボに近付くと逃げているのだ。  恋人に避けられる理由がわからない。しかし嫌な予感だけはじゅうぶんにする。トニーが子供っぽい行動に走るときは、後ろめたいことがあるとき――つまり、”彼自身に”問題があると自覚しているときだ。  トニーの抱える問題? トニー・スターク、世紀の天才。現代のダ・ヴィンチと称された機械工学の神。アフガニスタンの洞窟に幽閉されてもなお、がらくたからアーク・リアクターを作り上げた優れた発明家にしてアイアンマン――億万長者という言葉では言い表せないほどの富と権力を持ち、さらには眉目秀麗で頭脳明晰、世間は彼には何の悩みも問題もないと思いがちだが――そのじつ、いや、彼のことを三日もよく見ていればわかることだ。彼は問題ばかりだ。問題の塊だといってもいい。  一番の問題は、彼が自分自身の問題を自覚していて、直そうとするどことか、わざとそれを誇張しているということだ。スティーブにはそれが歪んだ自傷行為にしか見えない。酒に強いわけでもないのに人前で浴びるように飲んでみたり、愛してもいない人間と婚約寸前までいったり(ポッツ嬢のことではない)、パーソナルスペースが広いわりに見知らぬファンの肩を親し気に抱いてみたり、それに――平和を求めているのに、兵器の開発をしたり――していたのは、すべて彼の”弱さ”であるはずだが、トニーはもうずいぶんと長いあいだ、世間に向けてそれが”強さ”だと信じさせてきた。大酒のみのパーティクラッシャー、破天荒なプレイボーイ、気取らないスーパーヒーロー、そして真の愛国者。アルコール依存症、堕落したセックスマニア、八方美人のヒーロー、死の商人というよりもよっぽど印象がいい。メディアを使った印象操作は彼の得意分野だ。トニーは自分がどう見られているか、常に把握している。  そういう男だから、性格の矯正はきかないし、付き合うのには苦労する。だからといって離れられるわけがないのだから、これはもう生まれ持ってのトラブル・メーカーだと割り切るしかない。  考えるべきことはひとつ。彼の抱える問題のうち、今回はどれが表面化したのか?
 トニーに避けられて四日目の朝、スティーブは再びD.C.のS.H.I.E.L.D.本部に出発しようとしていた。先日詰められなかった会議の再開と、クラッキング事件の詳細報告を受けるためだ。ジャービスによるとトニーはスティーブの予定を知っているようだが、ヘリの準備を終えても彼がラボ(あるいは羊水カプセルか、タワー内のいずれかの場所)から出てくることはなかった。見送りなんて大げさなことを期待しているわけではないが、今までは顔くらい見せていたはずだ。  (これじゃ、避けられてるどころか、無視���れているみたいだ)  そう思った瞬間、スティーブの中でトニーの抱える問題の一つに焦点が合った。
 ナターシャはいつもの戦闘用スーツに、儀礼的な黒いジャケットを着てS.H.I.E.L.D.の小さな応接室のひとつにいた。彼女が忙しい諜報活動の他に、S.H.I.E.L.D.本部で何の役についているのか、スティーブは知らされていなかった――だから彼女が応接室のチェストを執拗に漁っているのが何のためなのかわからなかったし、聞くこともしなかった。ナターシャも特に自分の任務に対して説明したりしない。スティーブはチェストの一番下の引き出しから順々に中を改めていくナターシャの後ろで、戦中のトロフィーなどを飾った保管棚のガラス戸に背をもたれ、組んだ腕を入れ替えたりした。  非常に言いにくいし、情けない質問だし、聞かされた彼女が良い気分になるはずがない。だがスティーブには相談できる相手が彼女しかいなかった。  「ナターシャ、その――邪魔してすまない」  「あら構わないのよ、キャップ。そこで私のお尻を見ていたいのなら、好きなだけどうぞ」  からかわれているとわかっていても赤面してしまうのは、スティーブの純潔さを表すチャームポイントだ、と、彼の恋人などはそう言うのだが――いい年をした男がみっともないと彼自身は思っていた。貧しい家庭で育ち、戦争を経験して、むしろ現代の一般人よりそういった表現には慣れているのに――おそらくこれが同年代の男からのからかいなら、いくら性的なニュアンスが含まれていようが、スティーブは眉ひとつ動かさないに違いない。ナターシャのそれはまるで姉が弟に仕掛けるいたずらのように温かみがあり、スティーブを無力な少年のような気持ちにさせた。  「違う、君は……今、任務中か? 僕がここにいても大丈夫?」  「構わないって言ったでしょ。用があるなら言って」  確かにナターシャの尻は魅力的だが、トニーの尻ほどではない――と自分の考えに、スティーブは目を閉じて首を振った。「聞きたいことがあるんだけど」 スティーブは出来るだけ、何でもないふうに装った。「僕はその、少し前からスタークのタワーに住んでいて――……」  「付き合ってるんでしょ。なあに、トニーに浮気でもされたの?」  スティーブはガラス戸から背中を離して、がくんと顎を落とした。「オー・マイ……ナット、なんでわかったんだ」  「それは、こっちの……台詞だけど」 いささか呆気にとられた表情をして、ナターシャは目的のものを見つけたのか、手のひらに収まるくらいの何かをジャケットの内ポケットに入れると、優雅に背筋を伸ばした。「トニーが浮気? ほんとに?」  「ああ、いや……多分そうなんじゃないかと……」  「この前会ったときは、あなたにでろでろのどろどろに惚れてるようにしか見えなかったけど、ああいう男は体の浮気は浮気だと思ってない節があるから、あとはキャップ、あなたの度量しだいね」  数日分の悩みを一刀両断されてしまい、スティーブは一瞬、自分の耳を疑った。音もなくソファセットの前を通り過ぎ、部屋を出て行こうとしたナターシャを慌てて呼び止める。「そ、そうじゃないんだ。浮気したと決まったわけじゃない。ただトニーの様子がこのところおかしいから、もしかしたらと思って――それで君に相談ができればと……僕はそういうのに疎いから」  「おかしいって? トニー・スタークが?」  まるでスティーブが、空を飛んでいる鳥を見て”飛べるなんておかしい”と言ったかのように、ナターシャは彼の正気を疑うような目をした。「そうだよな」 スティーブは認めた。「トニーはいつもおかしいよ。おかしいのが彼だ。何でも好きなものを食べられるのに、有機豆腐ミートなんて代物しか食べなかったり――それでいて狂ったようにチーズバーガーしか食べなかったり――それでも、何か変なんだ。僕を避けてるんだよ。通信でも顔を見せない。まる一日、どこかに行ったきりだと思ったら、今度はラボにずっとこもってる。ジャービスに彼の様子を聞こうにも、彼はトニー以外のいうことなんてきかないし、もうお手上げだ」  ナターシャはすがめたまぶたの間からスティーブを見上げると、一人掛けのソファに座った。スティーブも正面のソファに座る。彼女が長い足を組んで顎に手を当て考え込むのを、占い師の診断を仰ぐ信者のように待つ。  「ふーん……それって、いつから?」  「六日前だ。ハッキング事件の当日はまだ普通だったけど、その翌日はやたらと饒舌で……きみも付き合いが長いから、トニーが隠し事をしているときにしゃべりまくる癖、知ってるだろ」  「それを聞いたら、キャプテン、私には別の仮説が立てられるわ」  「え?」  「来て。会議の前に長官に報告しなきゃ」  ナターシャの後を追いながら、スティーブは彼女が何を考えているか、じわじわと確信した。「君はもしかして、S.H.I.E.L.D.をハッキングしたのが彼だと――」  「最初から疑ってたのよ。S.H.I.E.L.D.のネットワークに侵入できるハッカーはそう多くない。世界でも数千人ってとこ。しかもトニーには前歴がある。でもだからこそ、長官も私も今回は彼じゃないと思ってた」  「どういうことだ」  「ハッカーにはそれぞれの癖みたいなのがあるのよ。自己顕示欲の強いやつは特に。登頂成功のしるしに旗を立てるみたいに、コードにサインを入れるやつもいる。トニーのは最高に派手なサインが入ってた。今回のはまるで足跡がないの。S.H.I.E.L.D.のセキュリティでも追いきれなかった」  「トニーじゃないってことだろう?」  「前回、彼は自分でハッキングしたわけじゃなかった。あの何か、変な小さい装置を使って人工知能にやらせてたんでしょ。今回は自分でやったとしたら? 彼がMIT在学中に正体不明のハッカーがありとあらゆる国の情報機関をハッキングした事件があった。今も誰がやったかわかってないけど――」  そこまで言われてしまえば、スティーブもむやみに否定することはできなかった。  「……ハッキングされたのは一瞬なんだろう。トニーがやったのなら、どうしてずっとラボにこもってる」  「データを盗めたとしても暗号化されてるからすぐに読めるわけじゃない。じつのところ、まだ攻撃され続けてる。これはレベル5以上の職員にしか知らされていないことだけど、現在進行形でサイバー攻撃されてるわ。たぶん、復号キーを解析されてるんだと思う。非常に高度なことよ、通信に多少のラグがあるだけで、���のシステムには全く影響していない。悪意あるクラッカーやサイバーテロ集団がS.H.I.E.L.D.の運営に配慮しながらサイバー攻撃するなんて、考えられなかったけど――もしやってるのがアイアンマンなら、うなずける。理由は全く分からないけど」  ナターシャはすでに確信しているようだった。長官室の扉を叩く前に、スティーブを振り返り、にやりと笑った。  「ねえ、よかったじゃない――浮気じゃなさそう」  「それより悪いかもしれない」 スティーブはほっとしたのとうんざりし��のと、どっちの気持ちを面に出したらいいか迷いながら返した。恋人が浮気したなら、まあ結局は許すか許さないかの話で、なんやかんやでスティーブは許してしまったことだろう(ああ、簡単じゃないか、本当に)。しかし、恋人が内緒で国際平和維持組織をハッキングしていたのなら、まるで話の規模が変わってくる。  ああ、トニー、君はいったい、何をやってるんだ。  説明されても理解できないかもしれないが、僕から隠そうとするのはなぜだなんだ。  「失礼します、長官。報告しておきたいことが――」 四回目のノックと同時に扉を開け、ナターシャは緊急時にそうするように話しながら室内に入った。「現行のサイバー攻撃についてですが、スタークが関わっている可能性が――」  「報告が遅いぞ」 むっつりと不機嫌なニック・フューリーの声が響く。部屋には二人の人物が居た――長官室の物々しいデスクに座るフューリーと、その向かいに立つトニー・スタークが。  「ところで、コーヒーはまだかな?」 チャコールグレイの三つ揃えのスーツを着たトニーは、居ずまいを正すように乱れてもいないタイに触れながら言った。ちらりと一瞬だけスティーブに目をくれ、あとはわざとらしく自分の手元を注視する。「囚人にはコーヒーも出ないのか? おい、まさか、ロキにも出してやらなかった?」  「トニー、君……」  スティーブが一歩踏み出すと、ナターシャが腕を伸ばして止めた。険の強い声音でフューリーを問いただす。「どういうことです? 我々はサイバーセキュリティの訓練を受けさせられていたとでも?」  「いや、彼は今朝、自首しにきたんだ、愚かにも、自分がハッキング犯だと。目的は果たしたから理由を説明するとふざけたことを言っている。ここで君たちが来るまで拘束していた」  ナターシャの冷たい視線を、トニーは肩をすくめて受け流した。  「本当か? トニー、どうしてそんなことをしたんだ」  「ここだけの話にしてくれ」 トニーはスティーブというより、フューリーに向かって言った。「僕がこれから言うことはここにいる人間だけの耳に留めてくれ」 全く頷かない長官に向かって、トニーはため息をついて両手を落とした。「あとは、そうだな。当然、僕は無罪放免だ。だってそうだろ? わざわざバグを指摘してやったんだ。表彰されてもいいくらいだろう! タダでやってやったんだぞ!」  「タダかどうかは、私が決める」 地を這うように低い声でフューリーは言った。「放免してやるかどうかも、その話とやらを聞いてから決める。さっさと犯罪行為の理由を釈明しないなら、この場で”本当”に拘束するぞ。ウィドウ、手錠は持ってるか」  「電撃つきのやつを」  「ああ、わかった、わかった。電撃はいやだ。ナターシャ、それをしまえ。話すとも、もちろん。そのためにD.C.まで来たんだ。座っていい?」 誰も頷かなかったので、トニーは再びため息をついて、革張りのソファの背を両手でつかんだ。  「それで、ええと――僕が慈善家だってことは、皆さんご承知のことだとは思うんだが――」  「トニー」 自分でもぎょっとするくらい冷たい声で名前を呼んで、スティーブは即座に後悔したが――この場に至っても自分を無視しようとするトニーに、怒りが抑えられなかった。  トニーは大きな目を見開いて、やっとまともにスティーブを視界に入れた。こんな距離で会うのも数日ぶりだ。スティーブは早く彼の背中に両手を回したくて仕方なかったが、その後に一本背負いしない自信がなかったので、ナターシャよりも一歩後ろの位置を保った。  「……べつに話を誤魔化そうってわけじゃない。僕が慈善家だってことは、この一連の僕の”活動”に関係のあることなんだ。というより、それが理由だ」 ゆらゆら揺れるブラウンの瞳をスティーブからそらせて、トニーは話し始めた。
 七日前にもトニーはS.H.I.E.L.D.に滞在していた。フューリーに頼まれていた技術提供の現状視察のためもあったが、出席予定のチャリティー・オークションのパーティがD.C.で行われるため、長官には言わないが、時間調整のために本部内をぶらぶらしていたのだ。たまに声をかけてくる職員たちに愛想よく返事をしてやったりしながら、迎えの車が来るのを待っていた。  予定が狂ったのは、たまたま見学に入ったモニタールームEに鳴り響いた警報のせいだった――アムステルダムで任務中の諜報員からのSOSだったのだが、担当の職員が遅いランチ休憩に出ていて(まったくたるんでいる!)オペレーション席に座っていたのはアカデミーを卒業したばかりの新人だった。ヘルプの職員まで警報を聞いたのは訓練以外で初めてという状態だったので、トニーは仕方なく、本当に仕方なく、子ウサギみたいに震える新人職員からヘッドマイクを譲り受け(もぎ取ったわけじゃないぞ! 絶対!)、モニターを見ながらエージェントの逃走経路を指示するという、”ジャービスごっこ”を――訂正――”人命と世界平和に関する極めて責任重大な任務”を成り代わって行ったのだ。もちろんそれは成功し、潜入先で正体がばれたまぬけなエージェントたちは無事にセーフハウスにたどり着き、新人職員たちと、ランチから戻って状況の飲み込めないまぬけな椅子の男に対し、長官への口止めをするのにも成功した。ちょっとしたシステムの変更(ほら、僕がモニターの前に座って契約外の仕事をしているところが監視カメラに映っていたら、S.H.I.E.L.D.は僕に時間給を払わなくちゃいけなくなるだろ? その手間を省いてやるために、録画映像をいじったんだ――もしかしたら。怖い顔するな。そんなような気がしてたんだ、今まで)もスムーズに成立した。問題は、そのすべてが完了するのに長編映画一本分の時間がかかったということだ。トニーの忠実な運転手は居眠りもしないで待っていたが、チャリティーに到着したのは予定時刻から一時間以上は経ったころだった。パーティが始まってからだと二時間は経過していた。それ自体は大して珍しいことではない。トニーはとにかく、パーティには遅れて到着するタイプだった(だって早く着くほうが失礼だろ?)。  しかし、その日に限って問題が発生する。セキュリティ上の都合とやらで(最近はこんなのばっかりだな)、予定開始時刻よりも大幅にチャリティー・オークションが早まったのだ。トニーが到着したのは、もうあらかたの出品が終わったあとだった。  トニーにはオークションに参加したい理由があった。今回のオークションに限ったことではない。トニーの能力のもと把握することが出来る、すべてのオークションについて、彼は常に目を光らせていた。もちろん優秀な人工知能の手も借りてだが――つまり、この世のすべてのオークションというオークションについて、トニーはある理由から気にかけていた。好事家たちの間でだけもてはやされる、貴重な珍品を集めるためではない――彼が、略奪された美術品を持ち主に返還するためのグループ、「エルピス」を支援しているからだ。  第二次世界大戦前や戦中、ヨーロッパでは多くの美術品がナチスによって略奪され、焼失を逃れたものも、いまだ多くは、ナチスと親交のあった収集家や子孫、その由来を知らないコレクターのもとで所有されている。トニーが二十代の頃に美術商から買い付けた一枚の絵画が、とあるユダヤ人女性からナチ党員が二束三文で買い取った物だと「エルピス」から連絡があったのが、彼らを支援するきっかけとなった。それ以来、トニーが独自に編み上げた捜索ネットワークを使って、「エルピス」は美術品を正当な持ち主に戻すための活動を続けている(文化財の保護は強者の義務だろ。知らなかった? いや、驚かないよ)。数年前にドイツの古アパートから千点を超す美術品が発見されたのも、「エルピス」が地元警察と協力して捜査を続けていた”おかげ”だ。時間も、根気もいる事業だが、順調だった。そして最近、「エルピス」が特に網を張っている絵画があった。東欧にナチスの古い基地が発見され、そこには宝物庫があったというのだ――トニーが調べた記録によれば、基地が建設されたと思わしき時期、運び込まれた数百点の美術品は、戦後も運び出された形跡がなかった――つまり宝物庫が無事なら、そこにあった美術品も無事だったということだ。  数百点の美術品のうち、持ち主が明確な絵画が一点あった。ユダヤ人投資家の男で、彼の祖父が所有していたが、略奪の目にあい彼自身は収容所で殺された。トニーは彼と個人的な親交もあり、特に気にかけていた。  その投資家の男がD.C.の会場にも来ていて、遅れてやってきたトニーに青い顔で詰め寄った。「”あれ”が出品されたんだ――」 興奮しすぎて呼吸困難になり、トニー美しいベルベッドのショール・カラーを掴む手にも、ろくな力が入っていなかった。「スターク、”あれ”だ――本当だ。祖父の絵画だ。ナチの秘宝だと紹介されていた。匿名の人物が競り落とした――あっという間だった――頼む、あれを取り戻してくれ――」  (なんて間の悪いことだ!) 正直なところ、トニーは今回のオークションにそれほど期待していたわけではなかった。長年隠されていた品物が出品されるとなれば、出品リストが極秘であろうと噂になる。会場に来てみてサプライズがあることなど滅多にない。それがまさかの大当たりだったとは! こんなことなら、時間つぶしにS.H.I.E.L.D.なんかを使うんじゃなかった。トニーは投資家に「落札者を探し出し、説得する」と約束し、その後の立食パーティで無礼なコラムニストを相手にさんざん子供っぽい言い合いをして、帰宅の途についた――そして、ジャービスに操縦を任せた自家用機の中で、匿名の落札者について調べたが、思うように捗らなかった。もちろん、トニーが本気になればすぐにわかることだ――しかし、ちょっとばかり酔っていたし、別に調べることもあった。そちらのほうは、タイプミスをしてジャービスに嫌味を言われるまでもなく、調べがついた。  網を張っていた絵画と同じ基地にあった美術品のうち、数点がすでに別の地域のオークションや美術商のもとに売り出されていた。
 「これがどういうことか、わかるだろう」 トニーは許可をとることをやめて、二人掛けのソファの真ん中にどさりと腰かけた。デスクに両肘をついて、組んだ手の中からトニーを見下ろすS.H.I.E.L.D.の長官に、皮肉っぽく言い立てる。「公表していないが、ナチスの基地を発見、発掘したのはS.H.I.E.L.D.だろ。ナチスというより、ヒドラの元基地だったらしいな。そこにあった美術品が横流しされてるんだ。すぐに足がつくような有名なものは避けて、小品ばかり全国にばらけて売っている。素人のやり方じゃないし、僕はこれと似たようなことをやる人種を知っている。スパイだよ。スパイが物を隠すときにやる方法だ」  「自分が何を言ってるかわかってるのか」 いよいよ地獄の底から悪魔が這い出てきそうな不機嫌さで、フューリーの声はしゃがれていた。「S.H.I.E.L.D.の職員が汚職に手を染めていると、S.H.I.E.L.D.の長官に告発しているんだぞ」  「それどころの話じゃない」 トニーは鋭く言い放った。「頂いたデータを復号して、全職員の来歴を洗い直した。非常に臭い。ものすごい臭いがするぞ、ニック。二度洗いして天日干しにしても取れない臭いだ――」 懐から取り出したスマートフォンを操作する。「今、横流しに直接関わった職員の名簿をあんたのサーバーに送った。安心しろ、暗号化してある。解読はできるだろ?」 それからゆっくり立ち上がって、デスクの正面に立ち、微動だにしないフューリーを見下ろす。「……あんた自身でもう一度確認したほうがいい。今送った連中だけの話じゃないぞ。……S.H.I.E.L.D.は多くの命を救う。僕ほど有能じゃなくても、ないよりあったほうが地球にとっては良い」  「言われるまでもない」  「そうか」  勢いよく両手を合わせて乾いた音を響かせると、トニーは振り返ってスティーブを見つめた。ぐっと顎に力の入ったスティーブに、詫びるようにわずかに微笑んで、歩きながらまたフューリーを見る。「で、僕は無罪放免かな? それとも感謝状くれる?」  「帰っていいぞ。スターク。ひとりでな」  「そりゃ、寂しいね。キャプテンを借りるよ、長官。五分くらいいいだろう」  言うやいなや、トニーはナターシャの前を素通りすると、スティーブの二の腕を掴んで部屋を出ようとした。  「おい――トニー――……」  「キャップ」 ナターシャに視線で促され、スティーブはトニーの動きに逆らうのをやめた。うろんな顔つきで二人を見ているフューリーに目礼して、スティーブは長官室を後にした。
 「トニー……おい、トニー!」  トニーの指紋認証で開くサーバールームがS.H.I.E.L.D.にあったとは驚きだった。もしかしたらこれも”システム変更”された一つかもしれない――トニーは内部からタッチパネルでキーを操作して、ガラス壁を不透明化させた。そのまま壁に背をもたれると、上を向いてふーっと長い息を吐く。  スティーブは壁と同様にスモークされた扉に肩で寄りかかり、無言でトニーを見つめた。  「……えっと、怒ってるよな?」 スティーブが答えないでいると、手のひらを上げたり下ろしたりしながらトニーはその��をぐるぐると歩き出した。  「きっと君は怒ってると思ってた。暗号の解析なんか一日もかからないと思ってたんだが、絵画の落札者探しも難航して――まあ見つかる��はすぐに見つかったんだが、西ヨーロッパの貴族で、これがまた、筋金入りの”スターク嫌い”でね、文字通り門前払いをくらった。最初からエルピスの奴らに接触してもらえばもうちょっと話はスムーズについたな。それでも最終的には僕の説得に応じて、返還してくれることになった――焼きたてのパンもごちそうになったしね。タワーに帰るころには解析も済んでるはずだったのに、それから数日も時間がかかって――」  「何に時間がかかっていようが、僕にはどうだっていい」 狭い池で周遊する魚のように落ち着きのない彼の肩を掴んで止める。身長差のぶんだけ見上げる瞳の大きさが恋しかった。「僕が怒ってるのは、君が何をしていたかとは関係ない。それを僕に隠していたからだ。どうして、僕に何も言わない。S.H.I.E.L.D.に関わりのあることなのに――」  「だからだよ! スティーブ……君には言えなかった。確証を掴むまで、何も」  「何をそんなに……」  「わからないのか? フューリーも気付いたかどうか」 不透明化された壁をにらみ、トニーはスティーブの太い首筋をぐっと引き寄せて顔を近づけた。「わからないのか――ヒドラの元基地から押収した品が、S.H.I.E.L.D.職員によって不正に取引された――一人の犯行じゃない。よく計画されている。それに、関わった職員の口座を調べたが、どの口座にも大金が入金された痕跡がない。……クイズ、美術品の売り上げは、誰がどこに流してるんでしょう」  「……組織としての口座があるはずだ」  「そうだ。じゃあもう一つ、クイズだ。その組織の正体は? キャップ……腐臭がしないか」  「……ヒドラがよみがえったと言いたいのか」  「いいや、そのセリフを言いたいと思ったことは、一度もない」 トニーは疲れたように額を落とし、スティーブの肩にもたれかかった。「だから黙ってたんだ」  やわらかなトニーの髪と、力なくすがってくる彼の手の感触が、スティーブの怒りといら立ちを急速に沈めていった。つまるところ、トニーはここ数日間、極めて難しい任務に単独で挑んでいた状況で――しかもそれは、本来ならばS.H.I.E.L.D.の自浄作用でもって対処しなければならない事案だった。  体調も万全とはいえないトニーが、自分を追い込んでいたのは、彼の博愛主義的な義務感と、優しさゆえだった――その事実はスティーブを切なくさせた。そしてそれを自分に隠していたのは、彼の数多く抱える問題のひとつ、彼が”リアリスト”であるせいだった。彼は常に最悪を考えてしまう。優れた頭脳が、悲観的な未来から目を逸らさせてくれないのだ。  「もしヒドラがまだこの世界に息づいているとしても」 トニーの髪に手を差し入れると、そのなめらかな冷たさに心が満たされていく。「何度でも戦って倒す。僕はただ、それだけだ」  「頼もしいな、キャプテン。前回戦ったとき、どうなったか忘れた?」  「忘れるものか。そのおかげで、今こうして、君と”こうなってる”んだ」  彼が悲観的なリアリストなら、自分は常に楽観的なリアリストでいよう。共に現実を生きればいい。たとえ一緒の未来を見ることは出来なくとも、平和を目指す心は同じなのだから。  「はは……」 かすれた吐息が頬をかすめる。これ以上のタイミングはなかった。スティーブはトニーの腰を抱き寄せてキスをした。トニーはとっくに目を閉じていた。スティーブは長い睫毛が震えているのを肌で感じながら、トニーを抱きつぶさないように自分が壁に背をつけて力を抑えた――抱き上げると怒られるので(トニーは自分の足が宙をかく感覚が好きじゃないようだ、アーマーを未装着のときは)、感情の高ぶりを表せるのは唇と、あまり器用とはいい難い舌しかなかった。  幸いにして、彼の恋人の舌は非常に器用だった。スティーブはやわらかく、温かで、自分を歓迎してくれる舌に夢中になり、恋人が夢中になると、トニーはその状態にうっとりする。うっとりして力の抜けたトニーが腕の中にいると、スティーブはまるで自分が、世界を包めるくらいに大きく、完全な存在になったように感じる。なんという幸福。なんという奇跡。  「きみが他に――見つけたのかと思った」  「何を?」 上気した頬と涙できらめく瞳がスティーブをとらえる。  「新しい恋人。それで、僕を避けているのかと……」  トニーはぴったりと抱き着いていた上体をはがして、まじまじとスティーブを見つめた。 「ファーック!? それ本気か? 僕が何だって? 新しい……」  「恋人だ。僕が間違ってた。でも口が悪いぞ、トニー」  「君が変なこと言うから――それに、それも僕の愛嬌だ」  「君の……そういうところが、心配で、憎らしくて、とても好きだ」  もう一度キスをしながら、トニーの上着を脱がそうとしているうちに、扉の外からナターシャの声が聞こえた。  「あのね、お二人さん。いくら不透明化してるからって、そんな壁にべったりくっついてちゃ、丸見えよ」  スティーブの首に腕を回し、ますます体を密着させて、トニーは言った。「キャプテン・アメリカをあと五分借りるのに、いくらかかる?」  唐突にガラスが透明になり、帯電させたリストバンドを胸の前にかかげたナターシャが、扉の前に立っているのが見えた。  「あなた、最低よ、スターク」  「なんで? 五分じゃ短すぎたか? 心配しなくても最後までしないよ、キスと軽いペッティングだけだ、五分しかもたないなんてキャップを侮辱したわけじゃな……」  「あなた、最低よ、スターク!」  「キーをショートさせるな! 僕にそれ���向けるな! 頼む!」  スティーブはトニーを自分の後ろに逃がしてやって、ナターシャの白い頬にキスをした。「なんだか、いろいろとすまない。ナターシャ……」  「いいわ、彼には後で何か役に立ってもらう」  トニーがぶつぶつと文句をつぶやきながらサーバーの間を歩き、上着のシワを伸ばすさまを横目で見て、ナターシャに視線を戻すと、彼女もまた同じ視線の動きをしていたことがわかった。  「……トニーを巻き込みたくない。元気にみえるけど、リアクターの除去手術がすんだばかりで――」  「わかってるわ。S.H.I.E.L.D.の問題は、S.H.I.E.L.D.の人間が片をつける」  ナターシャの静かな湖面のような緑の目を見て、自分も同じくらい冷静に見えたらいいと思った。トニーにもナターシャにも見えないところで、握った拳の爪が掌に食い込む。怖いのは、戦いではなく、それによって失われるかもしれない現在のすべてだ。  「……もし、ヒドラが壊滅せずにいたとしたら――」  「何度だって戦って、倒せばいい」 くっと片方の唇を上げた笑い方をして、ナターシャはマニッシュに肩をすくめた。「そうなんでしょ」  「まったく、君……敵わないな。いつから聞いてたんだ」  「私は凄腕のスパイよ。重要なことは聞き逃さない」  「いちゃつくのは終わったか?」 二人のあいだにトニーが割り入った。「よし。ではこれで失礼する。不本意なタイミングではあるが――ところでナターシャ、クリントはどこにいるんだ?」  「全職員の動向をさらったばかりでしょ?」  「クリントの情報だけは奇妙に少なかったのが、不思議に思ってね。まあいい。休暇中は地球を離れて、アスガルドに招待でもされてるんだろう。キャップ……無理はするなよ。家で待ってる」  「トニー、君も」 スティーブが肩に触れると、トニーは目を細めて自分の手を重ねた。  「僕はいつでも大丈夫だ。アイアンマンだからな」  ウインクをして手を振りながら去っていくトニーに、ナターシャがうんざりした表情を向けた。「ねえ、もしかしてこの先ずっと、目の前で惚気を聞かされなきゃいけないの?」 そう言って、今度はスティーブをにらみつける。「次の恋愛相談はクリントに頼んでよ!」
 ◇終◇
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ike2910 · 2 years ago
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さっきまでバトルごっこをしていた2人が毛布の上でベッタリ❤️ 寒い夜はこうして寝るのが1番🌸  #にゃんこ編集部  #猫で奇跡の一枚写真集  @editorial_company.pad #坂口マロン  #茶トラ男子部  #坂口アム  #キジシロ  #仲良し猫  #いつも一緒  #男同士  #血の繋がりは無いけれど  #ねこすたぐらむ  #ニャンスタグラム  #ねっこ https://www.instagram.com/p/Cnm2-UEBnrh/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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carpaccione · 5 years ago
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BIRDY: THE MAKING OF THE FILM, EGG BY EGG.
私は1978年にウィリアム・ウォートンの小説のギャリー校正刷りをエージェントから送られてきたのですが、そのときはいつものようにこう言っていました。「急いで行動しないと、本は選択されません。」すぐに私たちからではなく、そうなってしまいました。
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次にこのプロジェクトに出会ったのは1983年のことで、私はまだサバティカルと呼ばれる派手な催しを楽しんでいた。基本的には、『フェイム』、『ピンク・フロイド・ザ・ウォール』、『シュート・ザ・ムーン』を連続して撮影するのをやめて、一年間休むことにした。1978年の話題を集めた小説『バーディー』は、1983年にやや冷め、A&Mレコードの映画部門がこのオプションを選んだ。彼らはレコード会社なので、彼らの好みはちょっと変わっているのではないかといつも思っていたし、メインストリームの映画会社は、CMのストレートジャケットにずっとボタンを留めていたが、その中にはなかったことを見ていたのかもしれない。この脚本の執筆は、ロサンゼルス在住の2人の脚本家、サンディ・クルップ氏とジャック・ベア氏に依頼されていた。彼らの脚本は1983年の初めに私に送られ、私は彼らのやったことがすぐに気に入った。彼らはバーディーの頭の中の内面化を最小限に抑え、過去と現在を巧みに織り交ぜた。この本の「一人」統合失調症は映画のような物語を容易にするために明確に定義されていたのでこの物語は明らかに少年同士の友情であった。彼らはまた、この物語が私たちの時代により適したものになるように話を進め、今では第二次世界大戦よりもベトナムの恐怖に心を寄せている。
偶然にも、私は新しく作られた 「メジャー」 スタジオであるTri-Star Picturesと、彼らの設立間もない会社と映画制作の可能性について話をし、彼らがそのプロジェクトに参加することに同意したので、私はサンディとジャックと脚本の仕事をするために、ロサンゼルスに正式に出かけた。脚本家たちは、脚本も書いている監督をいつも疑っているが、脚本を作りたい映画の近くに引っ張ったり、伸ばしたり、ジャグしたりすると、このコラボレーションは友好的で実り多いものだった。
論理的には、映画はさまざまな方向に進んだ。この本を読んでいると、フィラデルフィア市庁舎の屋上にあるビリー・ペンの銅像から3000マイル離れた、私の育ったノース・ロンドンの労働者階級の階段を連想した。当初、私はオークランドの荒れた地域で撮影することを考えていたが、その本のフィラデルフィアを一度訪れたことで、それが独特であること、それがワートンの物語により真実をもたらすであろうことを確信した。荒れ果てた家の列や、かつては美しい都市に散らばった1エーカーの荒廃した都市の列は、私たちにはひねくれた誘惑であった。誰もが空高く舞い上がることを切望する絶望の背景である。
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最近のほとんどの米国の都市と同様に、市長室にはハリウッドのセルロイド資金を巻き込むために、表向きは撮影を容易にするための 「映画部門」 があった。市庁舎の人たちは皆、非常に協力的でしたが、実際のところ、フィラデルフィアの通りの現実と戦う手助けをすることには、ほとんど効果がありませんでした。私たちの脚本では24の異なる場所を指定しましたが、私たちの優先順位はBirdyの家とすぐ近くの環境を見つけることでした。最初の訪問で完璧に見えた何千もの空家や壊れた通りの中で、私たちの物語が必要としたバーディーの家、通り、裏庭、野球場の完璧な幾何学を私たちに与えてくれたものはなかった。
制作デザイナーのジェフリー・カークランドは街の地図をブロック単位で徐々に描き、私がキャスティングしていたニューヨークから週末に訪れる際の提案をしてくれました。数週間が過ぎたが、彼らがどんなに懸命に探しても、それは私たちが考えていた以上に難しいことだった。ほとんどの場合、下宿された家は不法占拠者に占拠されていた。誰も認めないようなホームレスの目に見えない軍隊であったが、それでも私たちが波型の鉄を越えて突撃すると、彼らの家を守る準備ができていた。「警察の方ですか。映画会社ですか。-自分たちで。」
幸運なことに、映画の半分は北カリフォルニアで撮影され、地元の人々が家と呼んだ瓦礫の中からフィルムセットを探してフィリーのぬかるみを歩き回っていた惨めな12月の日に、わずかな日差しを加えた。サンノゼのアグニュー精神病院が私たちの撮影の重要な部分を占め、 「シュートザムーン」 以来、この地域での撮影が快適になったので、この映画はサンフランシスコをベースにすることにしました。私は地元の技術者が好きで、ベイエリアが私たちの 「家から離れた家」 になっていた―そしてもっと実際的に言えば、地元の組合は私の英国の撮影監督、マイケル・セレジン、オペレーターのマイク・ロバーツ、編集者のジェリー・ハムブリングの輸入に応じてくれた。
Agnew's Hospitalでは、Midnight ExpressのSagmalVilar刑務所で行ったのとほぼ同じ方法で、既存の建築物を利用して適合させ、実際の建物の中にセットを構築しました。映画の大部分はバーディーの独房の中で撮影されたもので、カメラはこの部屋のすべての亀裂とタイルを探さなければならず、それはそれ自身の個性を持たなければならなかった:奇妙なバットレスとコーナーは、バーディーの静かな記憶のために集中するようになった。
カリフォルニア州北部では、ゴミ捨て場とガスタンクがある 「フィラデルフィア」 の場所も見つけた。また、カリフォルニアの中央渓谷にあるモデストのベトナム拠点も撮影する予定です。地域全体が浸水し、私が行った5回の訪問では地下水位が下がり、地点を特定することが困難になりました。撮影までには十分な時間があったが、これから数ヶ月は熱帯草を植えて栽培しなければならなかった。
フィラデルフィアに戻って、私たちはバーディーの家と裏庭を見つけ、通りの間のオープンエリアを即席の野球用ダイヤモンドと荒地に変える計画を立てた。狭い間仕切りのある家は、60年代初期のアイルランドとイタリアの共同体を私たちに与え、一方、もちろん30年前に設定されたウォートンの本で記述されていた地元の色の多くを保持するだろう。
40年間 「バーディハウス」 に住んでいた老婦人は、映画クルーが自分の家に降り立つという考えに同意しているようだったが、親族が弁護士を呼び、突然必要な二カ月分の家���を提示したので、三度家を購入したことになる。彼らが要求していたものを支払う余裕がなかったので、代わりのものを探したが、取引が成立し、休暇中の高齢者をグルジアの姉に送り、彼女の家を借りた。
Birdyのバックロットは、当初計画されていたものよりもはるかに大きなアート・ディレクション・タスクだった。それは 「スカイカム」 と呼ばれた。
優れたカメラ技術者であるギャレット・ブラウンが考案した 「スチーディカム」 は、ほとんどの映画に標準装備��れている。バランスとジャイロのシステムによって、操作者の腰に固定され、面倒な車輪の台車を必要とせずに完全に滑らかなトラッキングショットを達成することができる。Garrettはニューヨークの地下鉄で連続撮影をしていたことで有名だ。「スカイカム」 と呼ばれる彼の最新の発明品は、彼の最近のほとんどの年月と彼の現金のほとんどを消費しました。映画の中で、バーディーの想像力が飛び交う中で、私は彼の視点を示す必要があったので、このシステムはすぐに私にとって魅力的になった。これまで誰もこれを成し遂げたことがなく、私たちが最初になるはずだった。「私たちはモルモットです。」と私はアラン・マーシャルに言った。「モルモットは飛べない。」と予言的に答えた。
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革命的なシステムは四つの巨大な柱(100フィート以上)から成り、そこから吊り下げられたワイヤーがコンピューター制御のモーターによって動く。4本のワイヤーの中央の接合部には、特別に作られた軽量のパナビジョンのカメラがかかっていた。映画『バーディーA』に登場するスカイカムは、ジャイロの複雑なシステムがすべてを均等なキールの上に置いていた。バーディーのファンタジーのフライトに参加する可能性は非常に刺激的だった。私はバーディーの地元の教会の尖塔を越え、廃品が散乱した荒れ地を越え、裏庭を越え、野球場を越え、バーディーの通りを抜け、最後に空の大きな自由の中に入っていくショットを打った。
“飛行機です。上から持ち上げられたようにそびえ立つ。白さを通して。真っ青な空気の中に。”
これは、半平方マイルの面積を、60年代に合わせて正確に建設し、身なりを整えなければならなかったことを意味している―これは難しい注文だが、Birdyの「飛行」が作品の中心であり、Birdyの想像力の中に入り込むチャンスだったので、価値はある。
“高い空に向かって。どこにも触れていない。”
詩に必要なのは鉛筆だけだ。映画は別のものだ。
私は場所とキャスティングを求めて東海岸と西海岸の間を飛んだ。われわれが検索したのは、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコ、サンノゼ、フィラデルフィアだった。バーディーとアルを探すことは、明らかに私たちの優先事項であり、私は役を演じることができるすべての可能な若い俳優と会った。私たちはまた、いくつかの 「オープンコール」 をした。「フィラデルフィアでは、一日に2000以上の人が脚本の数行を読み、ポラロイドにほほ笑み、裏口を見せられていました。私たちは、サンフランシスコとニューヨークで同じプロセスを経験しました。
フィラデルフィアでは、地元のレストランのウェイトレスが演じるロザンヌと、愛でていた夫の鳩が飼われていたバーディーのママ(Doloresページ)がいました。サジェサさん、マリオさん、コーラーさん、クレアさん、そしてバーディーのお父さんが、私たちの電話に出ました。
私たちのテープを選りすぐって、やっとMatthew ModineをBirdyに選んだ。最初はアルの部分を一緒に読んでいましたが、彼の穏やかで内向的で正直な性格は 「バーディー」 と言っているようでした。彼は素晴らしい自然の俳優であり、内蔵された音声検出器を持っているため、不正な行動をとることは難しい。動機付けのために鳩のぬいぐるみや亡くなった親戚の写真を持ち込もうとする、いかがわしい方法俳優の変わり者にうんざりしていた。
ニコラス・ケージは、とても早い時期に、外向的なアルのために私のお気に入りになりました。彼が初めて私のために本を読んでくれたとき、彼はとても強く、とても自信に満ちていたので、彼が彼の人格の傷つきやすい側面を明らかにできるかどうか、私には確信が持てなかった。中に入れば入るほど、弱ったバーディーが寄りかかるのに十分な肩を持って人生を乗り切ったアルのように見えたが、心の底では、バーディーが必要とする以上にバーディーが必要だった。ニコラスは、有名な叔父の名前���もたらした職業上の禁止を避けるために、名前をコッポラからケージに変えた。不思議なことに、私は彼を投げてから、彼がフランシスの甥だということを初めて知った。
開始日は5月15日(’84年)と決められていたのですが、マシューがソフェル夫人を終えるために、製造が六週間遅れました。これによって、私たちは理解できない「フィルチデルフィア」(それは芸術部によって愛情を込めて名付けられた)を整理し、小説から最後の宝石を選び出して、私の最終的な撮影スクリプトを書くことができました。
アラン・マーシャルは、扱いにくいことで有名な地元のフィリー労働組合と交渉するという、みじめな仕事をしていた。もちろん、動いているものすべてにチームスターが必要で、動かないものもあった。私たちを訪ねてきた現地の副大統領は、過去の意見の相違から、まだ2、3発の銃弾を持っていました。映画に登場するチームスターの 「キャプテン」 は、チームスターローカルプレジデントの兄弟だと言われた。
“私はその車を姉の妹の友達に売った。その男といちゃつくと、コンクリートのシャツがシュイルキル川の底に落ちてくる。” ーーアルの父親
私たちの動物トレーナーであるGary Geroは、今年の1月からこの鳥たちと仕事をしていて、「訓練」の様々なステージで80の異なるカナリアを飼っていた。;良いチラシ;ベル・リンガーと良いホバー。カナリアはいつも神経質で神経質なので、普通のスピードで撮影するのはイライラするほど難しかった。脚本「ペルタ」のメインのカナリアは、最終的には、ロマンチックではないがと呼ばれるカナリアによって演奏されることになるが、彼女の 「スタント」 の多くは、あまり魅力的ではないが、より完成度の高い「クエーパーズ」と呼ばれる鳥によって行われた。多くの鳥が卵の上に座っていました。
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カナリアだけでなく、Garyはハト、トロピカルスズラン、ネコ、18匹の犬、カモメも訓練していた。
5月8日までに、私たちは主要な写真撮影の開始から一週間たった。リハーサルの時間がもう少しあればよかったのだが、Nic、Matthewと私は地元の教会ホールで1週間一緒に過ごすことができた。Birdyの家から少し歩いたところにあるBirdyの家で、床にBirdyの病院の部屋をテープで叩き出した。時間は十分ではないので、映画のリハーサル期間は探究的なものに過ぎない。完成した演技を磨き上げたり発展させたりするのではなく、各部分を理解する始まりに過ぎない。最も重要な仕事は、これからの数か月間、私たち3人の仕事上の関係を決めることだったと思います。
撮影初日、私たちはウェストフィリーの中心にあるバーディー街にいました。初日はいつも大変です。残りの100枚の写真は脳の後ろにある記憶ディスクに保存されていますそして旅の最初の一歩を踏み出すと彼らは時間も場所も関係なく駆け出します。最初の映画で、ある賢明なスタッフに言われたように、 「最初の日から一日遅れることも珍しくない。」
今週の残りの時間、私たちはBirdyの庭や隣接する球場を撮影した。『バーディーのママ』を演じるドロレス・セージは、これまで一度も演じたことがなかったので、私の時間の大半は、彼女に必要な自信を与え、脚本が求めていることを彼女にさせることに費やされたが、彼女自身にさせることに費やされた。彼女の素晴らしいフィリー訛りは、彼女の神経をすり抜けた。
私たちは2週目にもう一度家にいた。バーディーは猫と格闘し、あごをこじ開けてペルタを救わなければならなかった。この方法はうまくいきましたが、何度か試してみると、猫は自然と少しふらふらしていました。残念なことに、この日の撮影(猫によってなされない)では、まれにネガティブな傷がありました。映画がどれだけ技術的に間違ったものになり得るのか、そしてどれだけ技術的に間違ったものになるのかということに、私はいつも驚かされる。したがって、私は映画を撮っている間にばかげた迷信を信じているが、これは次の四日間の予兆であり、スカイカムがデビューしようとしていたからだ。
私たちは、子供たちがストリートホッケーをしていたり、野球をしていたり、子供と母親がいたり、老人が犬を散歩していたり、裏庭でおしゃべりしていたり、何十台もの車を走らせていたり、60年当時の状況はすべて正しかった。
スカイカムは4台のクレーンに張られたワイヤーにぶらさがり、両腕を空中に向けた。私たちは正確に射撃を行うために縮尺模型を作り、地元の木や電柱から6フィート離れていた。私たちの信仰は絶対的で、開拓者として���熱意には限界がありませんでした。まず、雨が降ってガイドワイヤーを制御するモーターが汚れた。列車のセットで科学者たちが遊んでいるのを見て、私たちは1日損をした。このキティホークのカメラには多くのマスコミが興味を示しました。雨の中でコーヒーを飲みながら映画が飛ぶのを待っていたとき、 「映画の全体的な力学が変わる」 などのフレーズを口にした。あるジャーナリストは、「20個のアイモス(安いカメラ)を買って、空中に放り投げるショットパターを買う方が簡単ではないだろうか?」と皮肉った。私たちは皆、彼の言葉にあるであろう英知に触れないように、神経質に笑った。
スカイカムのコントロールコンソールには従来のホイールハンドルがあり、小さなモニターを見ながらレンズの方向を変えることができます。もう一人のスカイカム「チラシ」は、模型飛行機を操縦するのと同じように、ジョイスティックでコンピューターを操作した。2日目の終わりには、ついにボフィンたちはそれを飛ばすことができた。私が試してみたかったのは、燃え尽きた車の近くで、上から石のように落下し、ジャンクヤードに沿って、地面から3フィートのところで跳ね、フェンスの上に上がり、野球の試合を見て空に向かって上昇する子どもたちを観察することだった。最初のテイクでは、奇跡的にうまくいきましたが、もっと速くしたかったのです。2回目の撮影は、下に向かって急にモニターが真っ白になった以外は、すばらしく見えた。スカイカムはコンピューターに乗っ取られ、地面に激突した。
“白さを通して。真っ青な空気の中に。それ以上です。空に向かって。どこにも触れていない。”
そうですね、どこかに触ってみます。主に地面です。われわれのカメラアシスタントが要約すると、廃墟を飛び越えてマシンが跳ね返るとき、彼は「そうですね、シャベルとしては絶対に使えません。」と言った。スカイカムのオペレーターは泣き崩れた。
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そのような状況では、大声を上げたり叫んだりすることはできません。これまでのところ、缶に入っていたスクリーンタイムはわずか40秒だった。鳥は飛ばなければならなかったし、私たちは彼と一緒に飛ばなければならなかった。その結果、私たちは信頼できるSteadicamを出て、路地を走り、瓦礫を渡り、通りを下って、ゴルフカートに乗って、自転車に乗った私と一緒に自転車の台車の上を走り始めた。私たちは高さ20フィート、長さ30フィートのスロープを素早く作り、カナリアの視点を窓に衝突させました。必要は発明の母であり、その結果はスクリーン上で見ることができる-それは私たちの事業に関しては、ジェリー・ハムブリングの編集とピーター・ガブリエルの音楽のおかげでもある。
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いつも俳優の演技の外で変数を巧みに操っていたので、映画には簡単なシーンがないように思えた。ー鳥を撮影する際の神経を切断するような困難さであれ、狭い梁の上に立ち、頭上から4フィートのところを生きた電車が通過する高架鉄道の下で、高く打ち上げる危険性であれ、何であれ。
正直言って、私がこれまで働いてきたハンディキャップの一つは、鳥があまり好きではなかったことです。一度に一つずつでも良いのですが、ミセス・プロヴォストの飼鳥園のシーンには150個ものものがありました。雨の中はしごに乗ってベランダの外でメガホンを使ってガラス越しに聞こえるようにしました。どうしようもなかったし、鳥小屋に勇気を奮い立たせなければならなかったし、テイト氏がショー鳩をまるでパーティー風船のように口元で吹き飛ばしているのを見るのは悲しげだった。
私はまた、別の鳥の飼い主とのシーンもしたが、そのシーンは(『リーサル・ウェポン』で有名なダニー・グローバー氏)という本に出てくる愛らしい人物だった。
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次の週は、犬たちの番であり、カナリアの歓迎すべき休憩だった。屠殺場のシーンのために、私たちは地元の食肉処理場から死んだ馬を借りましたが、匂いとハエはあまり快適ではありませんでした。私は、一日中幸せな気持ちで切り刻んできた本物の肉屋を、牛肉のかたまりやヤギの死骸の中に投げ込んでいたのですが、私たちの不機嫌さには全く動じませんでした。その日の終わりまでに、乗組員にはさらに20人の菜食主義者がいた。
警察は私たちに、ノース・フィリーのより困難な地域での撮影を控えるように警告した。しかし、私たちが必要としていた通りはそこにありました。地元テレビのインタビューで、私はフィラデルフィアで働いた経験が楽しくなかったと述べていたので、市役所の広報担当者がすぐさまフィラデルフィア初の黒人市長ウィルソン・グードを説得し、「トリビュートプラーク」を見せてくれた。私たちは、市長がぼろぼろの椅子やバルコニーに沿って歩きながら、巧みに肉体を圧迫している間に、発砲を止めました。彼は私たちのメガホンを借りて短いスピーチをして地元の人々に語りかけました。彼は優秀なセカンドディレクターになれただろう。
新しいカジノと近代的な超高層ビルのおかげで、アトランティック・シティ・ボードウォークでの撮影は不可能になりました。そこで私はワイルドウッドに落ち着きましたが、その粘着性のある魅力は40年変わりませんでした。ここでの課題は「ジミー・ザ・ヒューマン・フィッシュ」でした。それを弾いていた紳士、職業は宝石商で、地元のプールで募集されていたのですが、かわいそうな男が息を止めて、タンクいっぱいの魚に噛まれてしまい、ひどく惨めでした。
私たちの撮影の後半のために、サンフランシスコに飛ぶ時間でした。
“飛びたい?彼はあなたを飛ばせる。彼は、ずっと精神病院の籠の中に航空貨物を送ります。” ーーアル
サンタクララにあるアグニューのメンタルホスピタルでは、バーディーのフィリーの寝室のレプリカをアグニューのメンタルホスピタルの一角にある仮設スタジオに建てました。間に合わせであろうとなかろうと、街の物流と狂気があなたのすべての動きを支配していない、正気の撮影場所に戻ることは楽しいことでした。
バーディーがガスタンクの頂上から飛び立ったとき、ベイの北岸にあるヘラクレスの使用されていないガス工場で撃たれた。100フィートの高さにある波形の傾斜した屋根での撮影は、私たちのような高所恐怖症の人にとっては特に不安でした。鳥や高所恐怖症の監督が飛ぶ映画を作るんですか?スタントマンが砂の山に落ちる音をリハーサルして、骨を砕くような音を何度も聞いた。私はいつもこういうものを何度も撃つのは気が進まないのですが、スタントマンは喜んで撃ってくれます、自分の椎骨に打撃を与えるたびに報酬が「調整」されるからです。いつものように、マシューは恐れを知らなかったが、ニコラスは恐れていなかった。「私は登場人物です。」と聞くと、彼はかすかに答えたものだった。
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バーディーが自分の羽ばたき機を飛ばすゴミ捨て場は、サンノゼの郊外にあり、かなりロマンチックに「ニュービー島」と呼ばれていた。われわれはヘリコプターから100フィートのワイヤーを吊り下げて実験し、ごみの山の底に作った池にBirdyを「飛ぶ」させた。当初はさらに30ヤード先の貯水池に着水する予定でしたが、テストの結果、水が俳優の健康に有害であることがわかりました。ワイヤマンはパインウッド出身の専門家で、スーパーマン映画の制作から「飛行」における奇妙な専門知識を培ってきた。目の届く範囲までゴミが散乱していてもよかったのですが、健康上の理由から数時間後にはゴミを出すべきなので、法的な問題がいくつかありました。私たちが立っていたごみの山から、メタンガスの優しい匂いがして、その後何週間も咳が出ました。
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アグニューの病院に話を戻すと、私たちが描いた細胞、病棟、廊下の複合体の中で、老化し、湿り気があり、パッチを当て、欠け、すり減って、できるだけ生活しているように見える―私たちは多くの角度から撮影できるセットを必要としていた。これは特にBirdyの細胞の場合で、やや風変わりな構造のおかげで、ステージングの幅を広げることができた(部屋での2つの手回しのシーンは、最も撮影が難しく、視覚的に興味深く、映画的である−連続して話す頭を避ける)。私たちは、NicolasとMatthewのキャラクターの発達(崩壊や)を助けるために、連続して撮影することにした。ニコライは、彼の性格を変えるために最も大きな一歩を踏み出した。まず、顎の両側に2本の歯を引っ張らせ、顔の破片によるダメージをシミュレートした。第二に、彼はこの4週間、セットの上にも下にも、包帯を連続して巻き続けることに決めた。これは、食事の妨げになるだけでなく、社会生活の妨げにもなるという彼の勇気ある決断だった。しかし、包帯の裏に閉じ込められたアル��抱いていたかもしれない感情を感じ取るのに役立った。毎朝、新鮮な包帯を巻くたびに、ニックは目を閉じていた。
“俺はフォートディクスで、ミディアムレアのチーズバーガーのような顔をした男を見た。(鏡の中で)朝にひげを剃っているのが誰なのかわからなくて、ちょっと怖いんだ。” ーーアル
これらの病院のシーンを撮影することは、おそらく劇的に、撮影全体の中で最も強烈で満足のいくものだった。ニコラスは独白のために周到に準備し、不気味なほどに本文に忠実にすることで、物事を簡単にした。アメリカの若い俳優たちは、せりふを知らないために、とりとめのない即興を煙幕として使うことがあまりにも多い。マシューは、アルの感情的な爆発を静める役を演じなければならなかった。一日が終わると、しわくちゃになった体はしびれるだろう。根気よく、何度も何度も反応した。ニコラスは、人としても俳優としても、ほんの数週間前にウエスト・フィラデルフィアの通りをうろうろしていた生意気な若者とは似ても似つかなかった。私たちが独房の中のシーンに取り組んでいると、バーディーにほとんど吸い込まれて移送されたNic/Alの活力が彼から失われていくのが見えた。他の取締役がどのように指示しているかを把握している取締役はいません。私たちはそれぞれ自分のやり方で成功したり失敗したりする。ニコラスとマルトゥと一緒に、私は無弁派、教訓派、悪魔派の間を揺れ動いた。
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私たちの最後の撮影は、ベトナムのシーケンスのためにモデストで行われた。私たちはヘリコプターを持っていて、実際の戦争のための完全な装備を持っていたが、食事休憩のために立ち止まって、爆発を再現することができた。3ヶ月の間、私たちは熱帯の灌木を植え、自分たちのナパームの森を作っていた。私たちはBirdyの墜落したヘリコプターの周りの焦げた体のおぞましいテーブルを丹念に再現し、特撮クルーはナパーム弾を思わせる20ガロンのガソリンのドラム缶15個の料金を請求した。私たちは四台のカメラで爆発を撮影したが、爆発の熱は非常に高く、ステージの血が私たちの「死んだ」エキストラにたっぷりかかって沸騰し始めた。これは私たちの最後のシーケンスで、いつもの安堵と満足のデモを伴った。煙の中から白いタキシードと黒い蝶ネクタイを身につけた男がやってきて、トレイにカプチーノを運んでいた。(1984年はスターバックスの前だった!)Birdyを作るのがとても楽しかったです。
これまでの3本の映画、特に最後の1本の映画を見て、映画監督は正気の人間が追求すべきものなのだろうかと思い始めた。バーディをきっかけに、映画への興味が湧いてきました。
“Dr.Weiss: あなたの症状を聞いて、良い治療法ではないかと思いました。”
“アル: バーディーですか、私ですか?”
MUSIC
ピーター・ガブリエルは最初���A&Mレコードのトップ、ギル・フリーセンによって提案されました。(ピーターは他のレーベルと契約していたので、とても寛大でした。)初めてピーターに会ったとき、私は撮影を終えて、60分ほどフィルムをカットし終えていました。私はすでにピーターのソロ・アルバムから選りすぐりの曲を載せて彼の音楽を実験していた―特に当時の現代音楽では見られなかったパーカッシブなリズム。独特のリズムは編集者の夢であり、同時に彼の音楽は音楽が終わった後も長く残る神秘的な存在であった。
私はデイビッド・ゲッフェンに電話をして「借用する」ピーターにサウンドトラックの曲を(ゲフィン・レコーズの)してもらえないかと頼んだ。当時のピーターは、ニューアルバム(幸いにも、それが「だから」であることがわかったので、待つだけの価値はあった。)のリリースが少し遅れていた。Geffenは 「幸運を祈る」 と言ったが、Peterが自分のペースで動く中、映画の締め切りに間に合うようにサウンドトラックを手に入れることはできなかった。
しかし、この映画でうまくいく曲をピーターに示していたので、私たちは彼の元の24人のトラック・マスターのところに戻り、彼はバースの近くの彼の自宅のスタジオでボーカルなしで個々にトラックごとに演奏しました。曲は信じられないほど豊富で―何十層もの完全にオリジナルなサウンド―その多くは以前のアルバムにはミックスされていなかった―私にとっては、ピーターとダニエル・ラノワが映画の個々のシーンのためにリミックスしたユニークなサウンドの宝庫だった。ピーターがバーディーのサウンドトラックアルバム「警告:このレコードには再生材料が含まれています。」の表紙を飾ったように
AFTERWARDS
ニコラスとマシューは二人とも俳優として大成功を収めた。バーディーはカンヌ国際映画祭で審査員グランプリを受賞しました。聴衆の中で私の隣に座っていたのはパリから南フランスに飛びセーヌ川の屋形船で暮らしていたウィリアム・ウォートンでした。長年、彼が実際にJDサリンガーであるという不合理な噂があった。私はこの映画を見て、私たちが彼の本から作った映画を彼がどう思うか、少し心配になった。
Whartonの本名はAlbert Duaime。子どもの頃、彼は友人たちからアルと呼ばれていましたが、彼の家族は彼をバーティと呼んでいました、つまり発音では「バーディ」と。映画の最後に明かりがともり、非常に長く寛大なスタンディングオベーションを楽しんだ後、私は彼の方を向いた。「どう思いますか?」、「ああ、とても気に入りました。でも、どうして2人で作ったの?」
Text From: http://alanparker.com/film/birdy/
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nuthmique · 7 years ago
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Saturday Balloon・スタッフインタビュー(構成・文 徳永)
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01 松本永(照明)
02 PUGMENT(衣装)
03 三ッ間菖子(宣伝美術)
04 タカラマハヤ(美術)
05 河野当当(原案)
06 中村理奈(原作)
07 額田大志(脚本・演出)
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01 2月18日(公演期間中) 松本永(照明)インタビュー@kawamata Hall
——今回の照明プランについてお聞かせください。
松本 最初は、6人それぞれの関係が見えやすい形で考えていました。2人の会話の時は2人を照らす!みたいな。きっちりはいかないにしても、会話の質が変わったらシルエットにしてみたり、結構、今思うと演劇的に「うざい」やり方を提案したんです。額田さんの発想からすると、ちょっと「やりすぎ」な。まあやれるだけやった上で削って貰えばいいやとは思っていたので、最初は四楽章あるうちの、各楽章に、何十個ずつもきっかけがありました。わしわし変わっていくようなプラン立てちゃったんです。それが、もっと微妙で繊細だったらば受け入れられたかもしれないけど……結局時間もないので、そうしっくりはいかなかったでしょうね。2、300あったきっかけは、結局全部いりませんと額田さんにきっちりと言われました。はっきり言うところが彼のいいところですよね。演出家だから当然のことなのかもしれないけど。
——冒頭では、「おはよう」「おはようございます」という応酬の中で、次々に照明が変わっていたのが印象的でしたが。
松本 はじめの部分っていうのは、例えば5分しかないけど5年に感じるような、なんか時間の変化が欲しいねって、それはもう出会ってすぐ言われていたことで。それはもう前提だった。でも、一度プランの中からなくしてた時もありましたね。なくしてたけど、やっぱりちょっとやろうってなって今の形になっています。
(以降、たまたま通りかかった額田がインタビューに参加)
松本 今回、僕が稽古場にたくさん行けていれば、さっき言ったたくさんのきっかけも馴染んじゃったかもしれないね。
額田 そうですね。でもこれはかなり僕のミスでしたね。大きいところの会場で初めて公演をやったんですよ。今までは本当に小さいところか、もしくは大学の体育館だったので。非-劇場空間というか。ここ(kawamata Hall)も劇場というかわからないですけど。
松本 シアター「的」ではあるよね。
額田 シアター的なところで初めてやったので、こんなにも違うんだって思いましたね。チューニングが本当に初めてで。小屋入り後の時間が少ないことに初めて問題意識も感じましたね。小屋入りの時間って、大事なんだ……!
松本 マームとジプシーなんかは、稽古場でできることしかやらないって昔は言っていましたね。今はどうしているのか知らないけど。(劇場で)再現できないことはやらない、という感じで。それはある意味正しくて。質のためには正しいけど、それを広げるときにどういう手法をとるかっていうのはそれぞれですよね。僕、昔はよく稽古場に灯りを持ち込んでいたんですよ。だから、きっかけも一緒につくっていた。色合いやなんかも調節しながらやってるから、息遣いも分かる。肉体訓練も一緒にやるわ、太極拳やったりもするわで、その中で照明もやっていて。ほぼ全部の稽古に付き合うっていうのは、それはそれでめちゃくちゃ楽しかったです。そんなことはもうできないですよ! ただ、照明さんがもしそこまでできると、小屋に入ってからの調整はなくなるんですよ。そこについては問題ないから。
 テクニカルの人間が、どれだけ付き合えるかっていうのはでかい。日本舞踊とかだと、5分間の申し合わせのみであとは本番という流れの時もあるんです。日頃稽古してるんだから、必要ないっていう。ただ演劇は、そっちの発想になかなかならなくて。方法論的にいろいろ考えられそうな気はするけど……なんとかしたかったりするよね。
額田 そうですよね。今回初めて衣装と照明というのをいれたいなと思ったんですが、そしたらやっぱりなかなか、クオリティの高さではないところの難しさがあるなと。
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02 2月18日(公演期間中) PUGMENT(衣装)インタビュー @kawamata Hall
——ヌトミックの舞台衣装は、そのような依頼のもと制作されたのでしょうか。
PUGMENT 制作の杉浦さんから、役や物語を記号的に表象しない衣装をつくって欲しいと依頼を受けました。あとはPUGMENTの好きなようにと、お話を頂いて。
 今回でいうと、100円ショップの店員役の役者さんに100円ショップの店員のような制服を着せたら、見た人は、100円ショップの店員だと認識する。それが「記号的」ということだと思います。それは、役者さんの身体の上に衣装が乗っている状態というか、衣装と役者さんがあまり関係していない状態ですよね。そういうことを考えた時に、役者さんと服が関係している状態をつくることを、まず念頭におきました。
——そう考えた上で、どのような制作プロセスを辿っていったのでしょうか。
PUGMENT まず、額田さんがどうやって演出しているか、どうやって舞台ができるのかを見ることにしました。その後に、役者さんがヌトミックの演劇において、どう舞台上に存在しようとしているのかを知る必要があって、役者ひとりひとりに話を聞くことにしました。それまでは、役者さんが日常の自分と乖離した状態で「役になっている」と想定しながらプランを考えていたのですが、話を聞いて違うと分かりました。日常の流れと地続きの状態で舞台に立っている意識が強い、という話を聞いた時、面白いと思いました。それと同時に、私服を着ているように見える演劇、もしくは実際に私服を着ている演劇作品をいくつか観た時、良い意味でも悪い意味でも変だな、面白いなと思っていたことがありました。普段日常で着ている服を、非日常のステージ上でも着る時、どのような身体性になるのか気になっていきました。それで、私服を使うことを考えました。
——舞台上での存在の仕方について役者に尋ねたようですが、以前からそのことについて考えていた部分はあったのでしょうか?
PUGMENT 舞台衣装を実際にやるのは今回が3回目ですが、関わっていく中で、自分たちが捉えているファッションのあり方と、演劇のあり方がリンクするのではないかと感じ始めていて、いわゆるファッション、特に、パリコレなどは、パーティーウェアというか、一回しか着ないものとして発表しているものも沢山あります。そういう、日常の自分とは切り離されている、ある意味、美しい状態を「演じる」という部分がある。自分以外の何かになる、通常の自分とは違う状態にというのが、ファッションの本質としてある気がしていて。自分たちの感覚でも、今日は(服装が)何っぽいとかあるじゃないですか。その時に、本当の自分よりはちょっと理想的なイメージを演じるという状態になっていて。……そういう意味で、ファッションと演劇の構造を考えた時に、役者さん自身の、作品とは関係ない状態と、役者として存在している状態、両方を扱いたい、関わっていきたいというのがあります。
——作中では、透明な見た目や脱ぎ着される様子が印象的でした。作品全体に影響を及ぼしていたと感じます。
PUGMENT あ、脱ぎ着するっていうアイディアは、杉浦さんとか額田さんからきました。そういうところがすごく面白かったです。作品の演出に関わってくる感じがあって。関わってくることで、服の���え方も変わるので面白いと思います。
 額田さんは、服を楽器として扱いたいと言っていました。演奏会で言うと、演奏がはじまる前に楽器がステージ上に置いてあり、演奏者が歩いていき、自分のポジションにつき、楽器を持って準備する……そのようなことを意識的に見せたいという話があり、服をそれに使えないかと。
 額田さんとは今回初めてお会いしたので、まずヌトミックの身体性とは何かということを額田さんに投げかけたところ「ライブ中に演者が水を飲む時の身体」と言っていて。それから稽古場で、転換のシーンを観て、なるほどこういうことか、面白いなと思いました。そして、最終的には脱いだ時の私服をデザインする気持ちで衣装をつくるという風になって。そこから、透明にするような形になっていきました。衣装を脱いだ時のリアリティーによって、私服が一番強く見えて欲しい。そこに希望がある。
——以前に制作された衣服でも、iPhoneで撮影した写真を利用するものがあったと思いますが、この手法はPUGMENTのやり方として定着しているものなのでしょうか。
PUGMENT 画像を使うことは多いです。もともとどうして服をつくりたいのかという話になるのですが……。自分とは何か、自分の身体のリアリティーとは何かを考えた時に、頭の中でイメージする自分自身と、実際に物質として存在している自分自身がまずあって。それが等価にあるけど、微妙にズレてる。その感じが、今の身体のリアリティーなのではないかと考えていて。
 例えば、ネットで服を買おうと、服を見るじゃないですか。これ似合いそうだなと思って、これを着てイケてる自分をイメージするけど、家に届いて着てみたら全然違った、みたいな。その、実際の自分と、イメージする自分のどちらが自分というわけでもない。ネットショップの服の画像が、いわゆるイメージとしての自分だとして、それと実際の自分をヒエラルキー無く扱う。でも、画像の方は操作しやすいんですよ。フォトショップとかでいじれる。なので画像を服として扱うが、実際に着てみるとズレる。等価ではない状態の何かが立ち上がるということをやりたい。
 演劇自体のコンセプトである、価値観の枠の外、内、ということについて服で考えた時に、ショップコートという形に無理やり合わせることで出てくる歪みが、藤井さんの(役の)とまどい感のようなものに近い感じがします。その歪みがある舞台上に、実際に私服を着た役者さんが立っている。
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03 2月23日(本番4日後) 三ッ間菖子(宣伝美術)インタビュー
——今作のフライヤー、「レシート型」と言われていますが、なぜあの形にしたのでしょうか。
三ッ間 前回の『シュガドノ』の時は、額田くんが演劇でやろうとしている方法論に寄り添ったんです。「ズレ」に着目して、それをグラフィックでやったらどうなるのかなあっていうところを考えてつくっていました。今回は、最初にお話をいただいた時にプロットがあって、価値をテーマにした話であるとか、百円ショップが舞台だっていうのがわかっていたので、方法論ではなく、内容に寄り添う形で。……ありがちな手法ですよね。例えば喫茶店がテーマだったら、その喫茶店の絵を描こう、とか、直結する形のつくりかたができるなと思いました。でもめちゃくちゃ悩みましたね。最初は絵を描こうと思ったんです。百円ショップにある商品をシルエットで。それがシルエットであることで、それは実際なんなんだっていうことを問うようなものが一個思いついて。それと同時に、もう少し何かないかなあと考えましたね。今回は紙のフライヤーをつくることが決まっていたので、紙の形で何かできないかなと。そこで気になってくるのが、演劇の折り込み文化の問題なんですよ。私にはすごく違和感があって。ライブハウスとかで紙のチラシを持つ文化って、未だに続いてますよね。ライブってクロークとかがある世界なのに、なんでまだあんな現象が起きてるんだっていう!……演劇もその形が根強いのかな、と関わるうちに思いました。劇場入るとばーっと平置きで並んでたりするじゃないですか。大体A4とかB5で。もちろん折り込み機械の問題とかもあるのかもしれないですけど、誰の意志でもないサイズ感覚だなって思います。その、消費されていく紙のフライヤーのことに疑問があるし、ヌトミックでは面白いことをやらせてもらえる、というところがあったので、ちょうど考える機会になりました。
 ヌトミックがいいのは、言ったら応えてくれるところですよね。レシート型を思いついた時、私はすごく自信がなかったんですけど、とりあえず見せてみました。パロディだったり、奇抜なことがやりたいわけではないし、ウケを狙いたくもない……とりあえず、思いついた2つの案を持って行って、クリアファイルから、「あの〜」ってもそもそ出したんです。そしたら、シルエットの方は、はあ、みたいな感じで。レシートの方は、いいじゃんこれ!って反応してもらえて、そのまま決まりました(笑)。
——今振り返ると、レシート型に決まってよかったとご自身では思いますか?
三ッ間 今考えればよかったなと思います。人はサイズ感で物の認識をしているんだなというのがあるんですよね。あのフライヤーは、もっとパロディみたいにレシートに寄せることはできたんですよ。値段書くとか。でもそれはあえてしていないです。でも、あのサイズだけでみんながレシートって認識してる。そこがすごいなって思います。あれがペラッて落ちていたら、レシート?って思う、その0.0何秒の感覚のすごさ。なので、あれはレシートであってもなくてもいいんですけど、サイズを見た時にレシートかな?って思う感覚を狙うというか。そういうことはちょっと考えましたね。
 もちろん、普通のフライヤーによくある形ではないから、わかりやすいという情報の提示の仕方ではない。だからあれで集客ができるとはあまり思いませんね。でも、ヌトミックのスタンスとしても、こういうことをしていますっていうのがわかりやすくもないし、余白があるというという部分でつながるかなとは思っています。
——先ほどフライヤー文化への疑問について話してもらいましたが、今後三ッ間さんがつくってみたいフライヤーなどありますか?
三ッ間 結構考えてはいるんですけど……うーん。私は、全部に決着をつけていきたいんですよ。A4でフライヤーをつくるなら、何でそういう風につくるのか、自分の中で言えるようにしたいです。その時々で形とかは違っていきますけど。ぼんやりとした、「それっぽい」ものは本当につくらないようにしないなあと、思っては、いますね。
 紙のフライヤー問題って絶対あって。何万枚刷っても、全部配りきれるわけはないんですよ。何千枚……下手したら一万枚ぐらい捨てられてるんじゃないかな、という。送ったり何かしらする仕事が間にあるのはわかりますし、私の仕事は納品したら終わりなんですけど、せっかくやるなら、そうならない違う道を考えていかないと。仕事の規模によっても距離感によってもつくり方は違ってくるけど、ヌトミックみたいな同世代のひとたちがいる現場だと、一緒に考えてつくっていける。
 でも例えば、おもて面には情報を入れずに裏面だけにして、飾れるおしゃれなポスターみたいなやつにしようよ、みたいなものもまったく違うと思っていて。それはそれでいいんですけど、グラフィックデザイナーが画だけをつくっている場合ではないというか。
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04 2月24日(公演5日後) タカラマハヤ(美術)インタビュー
——役者の立ち位置がほぼ固定されているのが今作の特徴ですが、その範囲を「輪」で定めるというのはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
タカラ 前作をふまえて身体が気になった時に、じゃあ制限をかけて動けなくしてやろうってなったんですよね。稽古の時はみんなを、ゴム紐みたいな輪っかで囲ってみてた。まんなかにいる平吹さんががドラムに見えるみたいな話を額田がして、俺もそうだなと思いました。位置を分けることによってバンドっぽく見えるというか、そういう意味で音楽観がそこに入っている。
 額田の説明だと、あの、役者の動ける範囲というのは価値観の大きさを示しているっていう話もあったんだけど……そういうことでは無いのかなとは思いました。ひとりひとりのキャラクターが際立っていた方が、平等とか言ってる時の違和感というか言葉の力が増すような感じがあって。だから「輪」は全部違う形にしてみました。
——確かに砂鉄で描かれた輪っかは、細かい模様なども違っていましたね。
タカラ あれは、役者それぞれの……イメージ(笑)。結構バリエーションもあって、日によっても変えていました。日によって変えた方が、役者のモチベーションも上がるかなあって。今日はこんな形になってしまったんだ、みたいな。例えば藤倉さんだと、スペースが一番ちっちゃくて。しゃがむことのできなそうなサイズにしてたこともあったし、最終日につれてだんだん大きくしてあげたり……(笑)。それで少しずつ身体が動かせるようになったり。
——砂を素材として選んだ理由は何でしょうか。
タカラ それは、残るなと思ったんです。ぶつかった時に、その痕跡が残る。物理的な反応が欲しいっていうのがありますね。美術は置いたら終わりだから、レスポンスというか役者と影響し合うっていうのが重要な気がしています。それと、単純に緊張感が出るだろうなとは考えていました。崩したくないじゃないですかあれ。ヌトミックの舞台美術に関してはいつも緊張感っていうのを意識してます。
 あと、戯曲が日常会話をモチーフにしてるから、景色は逆に日常から離れていた方がいいとも思ってました。最初は100円ショップの商品を使って舞台美術をつくるっていう案があったんだけど、それだと緊張感がなくなるなと思って。他の意味があるにもかかわらず、100均の商品をつかってるんだね、で終わっちゃうかもしれないから。いろんなものから逃げるようにつくっています。ひとことで捉えられないものの方がいいです。
——宣伝美術の三ツ間さんも、フライヤーをレシートの形でつくってはいるけど、完全にレシートには寄せないという話をしていましたね。
タカラ あれはすごいスレスレだけど(笑)。だってレシート感もちゃんと使っていたので。唯一レシート感出してないところって、文字くらい。ただイラレで打ったみたいな文字を使っていて。でもこれじゃわかる人にし��わからないじゃんか!って俺は思ってたけど……どうなんだろう。
——字幕のプログラミングもやられていましたが、あの表示形式に決定したのにはどのような経緯があるのでしょうか。
タカラ 演じる方も美術もかなりストイックだったから、字幕は見てて楽しいものにしたかったんです。最初に案を出した時はDTM、って言ってたけど、MIDIの打ち込み画面みたいになりましたね。太鼓の達人みたいな。字幕をつけたことに関しては、TPAMだったというのも契機ではあるんだけど、快快の『アントン、猫、クリ』(2009年初演)をDVDで観て、字幕面白���ぎじゃね?ってなって。
 あと、クリスさんの翻訳がよくできててすごい。面白かったのが、「プアーリッチガール」を「poor shopping girl」にしていて。あと「リッチ」は「posh」。あれ、「poor shopping」のp、o、s、hを組み合わせると、「posh」になる、っていう超かっこいい訳なんですよね。クリスさんがTwitterに書いてたけど、パズルを解くように訳したって。字幕の出方も気にしていて、ひとつの文を読めば意味とか流れが大体通じるように訳していたみたいです。
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05 2月23日(本番4日後) 河野当当(原案)インタビュー
——作品をご覧になっていかがでしたか?
河野 『それからの街』を(映像で)初めてみた時とすごく似ているという印象を持ちました。今回はストーリーというか、内容を箇条書きにしただけのプロットを額田さんに見てもらっていたので、それを結び付けてもらえれば、シュガドノよりはもう少しストーリーの見える話になるのかなって思っていたんですけど。もちろんまったくそのまま上演されるとは思っていませんし、そのまま上演されても面白味がないので、どう変わってるんだろう、という他の観客の方とは違う楽しみ方を個人的には持ってました。観終わった正直な感想として、面白かったかはよくわかりません、それも『それからの街』を観た時の感覚に似てます。現場のことを少し知った分、制作陣や役者陣の方はすごいなと思うんです、ですけど、その技術的なすごさと作品の面白さは関係ないというか、内容的なものが繋がるかは今の所わからないです。演劇は全部ひっくるめて観るものだというのは分かるのですが、それは「総合的に観られますよ」という意味ではなく、「選択的に観られますよ」という意味だと思うんです。なので自分の場合は、テキストを選択的に観てしまうし、テキストにしか興味がないので、そのテキストが面白かったどうかに関してはまだたくさんのクェッションマークが残っているという感じです。
——今作は原案・原作・脚本という様に立場が分かれていていますが、どう役割分担がなされているのか分かりづらい部分があると思います。
河野 『シュガドノッカペラテ』の後に額田さんと、テキスト責任の区分けが難しいという話をしました。『シュガドノッカペラテ』の時、制作側の論理というかクレジット云々というのは、観る人にとっては何にも関係がない��ら役割はそこまで気にすることは無い、ということで額田さんと一致していたんです。でも終わってみてやはり、そういう内側の論理というのは、実は外側にもちゃんと反映されてしまうというか、作る側がギクシャクしたら観る側もギクシャクするのではないか、と思ったんです。それでギクシャクするのはお互いの棲み分けが出来ていないのが原因だと思ったので、今回は、ちゃんと棲みわけませんかっていう提案をしたんです。自分は今回は、プロットのテキストをあげたら、それ以降はお任せします、そういった感じで関係しようと思っていました。
——プロットの段階のものを河野さんがつくり、それを文章化したのは今回初参加の中村さんですよね。河野さんが中村さんをお呼びした理由について今一度お話してください。
河野 中村さんとはTwitterで知り合ったんですけど、大学院でモダンガールの研究をしているという話を聞いていたんです。もともと『SB』にモダンガール、というか、女性性について語る部分を入れたくて。実はその要素ありきの作品だったんですよね。
 中村さんの第1稿が上がってきた時には、かなりディスカッションをしました。もともと最初は、(原案と役割を分けないで)自分と中村さんで、共同で原作をやろうって話になっていたんです。しかしそのディスカッションをしていく上で、中村さんに原作を全て任せようということになりました。なんていうんでしょう……書かない美学ってあるじゃないですか、中村さんはどちらかというとそちらのタイプなんです。自分は逆で、書いて書いての余白を埋めたいタイプなんです。こういうスタイルの問題って、話し合って解決する問題じゃないというか。多様性という言葉があるくらいだし、むしろ解決しない方が良いこともあるからと開き直ろうともしましたが、正直、気持ちにきちんと折り合いがついたわけではなかったですね。書いてしまう部分、そうでない部分の折り合いがつかなかったですね。でも、役割分担もあるし、他の方に対して不満を抱えてしまうというのもダメなのではと思ってしまったり……難しかったです。今回の「女性性」というのも、役割性と同じことで、つまり役割の棲み分けに通じてくる訳ですが、作品の外側にいるはずの自分の身近に起こっている問題はまさにそういう役割の棲み分けに関する問題だったので、作品の中でも外でも同じ問題が起こっていて、不思議な感じでした。
——2回目となる額田さんとのやりとりは、前回とはまた違ったものになったのでしょうか。
河野 今は違うのかもしれませんが、最初に会った時は、「テキストに関心がない」と額田さんは言っていて。それは衝撃というか、その発言を信じられませんでした。自分はテキストを中心に考えていたので。なので、『シュガドノッカペラテ』は30分という枠なのに、2時間ぐらいの戯曲を渡して……そしたら選ばざるを得ないじゃないですか。テキストについて関心を持たざるを得ない、考えざるを得ないというか。
——あの長さは意図的だったんですか……。
河野 意図的にやってました……。
 音楽やってる人でも彫刻やってる人でも、絵を描いている人も、言語とそれ以外のものを持つために、つまり記述言語以外の言語を持つために音楽や彫刻をやって、最終的にもう一回言語に回帰というか、フィードバックさせるみたいな感覚が自分にはあって。なので音楽家であるにしても、テキストに関心が無いってことが本当にありえるんだろうか、という風に単純に不思議に思ってしまって、単純に知りたかったんです、あの発言の真意を……。だから『シュガドノッカペラテ』はどっちが原作、脚本をやっているのかわからなくなってしまうくらいに、のめり込んで、テキストに執着しようと思いました。でも今回は元となる原案テキストを渡すという方法に変えて、外から額田さんのテキストの扱い方が見れたので、学ぶところも多かったです。
——身近な場所がテーマになっていることもあり、原案の段階で出演者たちは面白く受け入れている印象でした。河野さんご自身が実際に100均で働いているというのは公演中に知りましたが。
河野 自分は2日目の本番に観に行ったんですけど、初日と3日目は100均で働いていました。「女性性」をテーマにしたSBだったのですが、その中には「労働」もテーマとして含んでいるので、働きながら、みんなと動きをシンクロさせていました。……気持ち悪いですかね……。
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06 2月25日(公演6日後) 中村理奈(原作)インタビュー
——率直に、作品の感想をお聞きしてよろしいでしょうか。
中村 すごく、混乱しました!いろんなことが起こりすぎて、びっくりというか、何が何だかわからないという感じになったんですけど……。でも、すごく面白かったです。すごく無機質なのに、役者さんの味というか持ってる人格みたいなのが、すごい出てるんですよね。
——原作のテーマ設定は、軽いものではなかったと思います。どのように解釈されましたか?
中村 難しかったですね。プロットには、価値ということに関する詳細な事柄が書かれていて。河野さんと何回も電話でやりとりしたり、読んで考えこんだりしました。
 私としては、100円ショップの、単価が統一された空間で問われているものの価値とは何なのかという部分を考えていて。そこで働く人の価値……うまく働ける従業員と、うまくできない従業員がいて、それによってその人の価値が変わってしまうのか……あとは、買う人側の価値観というか。100円ショップでは108円で大体全部の商品が同じように変えるけど、そこに価値を見出す自分というのは……という部分とか。本当に欲しいものを同じ値段から選び取る自分の、価値観こそが大事なんだって思って書いていました。
——脚本の段階でも扱いはほぼないと言っていいと思いますが、原案では芸術の価値について問うセリフがあったと思います。それについてはどう思われましたか?
中村 そこまで至れないなと感じました。私の中で、考えられる範囲のもの、という風になったんだと思います。芸術とは、ってなると、よくわからないという感想を持つ時があって。本当に人それぞれ見解を持っている、そういう意味でも明らかな物語を避けて、観た人に委ねるという形になったのかもしれません。
——河野さんとは重ねて話し合いをしたと聞いています。どのようなものだったのでしょうか。
中村 話し合いはかなりしましたね!河野さんが原案を考えている段階からやりとりはしていました。河野さんの生煮えの考えみたいなものを私が聞いて、それに対してなんて思うか言い合うというのを何回かやったように思います。私が書いたものに対して河野さんが指摘することもよくありました。河野さんは物語性がほしいということだったんですけど、私はどうしても物語性を入れられないというか、入れたくないというところがあって……。物語を、観てる人に委ねたかったんです。
——原案、原作、脚本という棲み分けに関してはどのように感じましたか?
中村 原案と原作という立場は、書いていたらだんだん区別がつかなくなっていきましたね。ただ、原案にあるけど、原作にはなくて、でも脚本では取り扱われている描写や言葉があるんですよね。それは面白かったです。「プリチーガール特集にするべきだと思わない?」っていうセリフを、私は書いていなかったんですけど、「プリチーガール」という可愛さと、「するべきだと思わない?」っていう断定的な強さみたいなのが、シュールでよかったと感じました。そのあたり、書いた人の個性が如実��出ていて、(原案原作脚本の)違いが面白かったです。
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08 3月10日(公演19日後) 額田大志インタビュー
——『シュガドノッカペラテ』を経て、今回の公演で挑戦したこととは何でしょうか。
額田 一番考えたことは、手法と物語を連動させるということです。稽古のやり方としては、精神論のようですけど、役者を信頼してみようというところからはじまりました。演技とか、身体の扱い方に関して、今までは全部自分で指示していたんですけど、今回は役者ができることを引き出した上で考えていくっていうやり方をしてみようと。パスカル・ランベール(演出家・劇作家)さんのWSに行った時に、演出の役割について彼は、「まとめあげること」であると言っていたんです。少しニュアンスは違ったかもしれませんが……。僕はそれはそうだなと思ったので、自分の中のスタンダードを一度疑って、演出法を変えてみました。
 そのWS自体もとても良くて、一番良かったのが、(パスカルが)時間を自由に使っているというところでした。(参加者全員の)自己紹介だけで、一日半かかったんですよ。僕だけで25分。その場で即興で演劇をつくったりとか、演奏したりとかっていうのをめちゃくちゃやらされたんです、ずっと……(笑)。でもそれが良いなと思いました。どうしても稽古だと、締め切りとか、日数とかを考えて物事を決めてしまうんですけど、まずはやりたいことをとことんやってみて、最後の2週間くらいでえいっ!とまとめあげるのもいいかなと。
——『SB』の公演を経て、何か発見はありましたか?
額田 たくさんありましたね。演劇を続けるのは結構大変だな、とか……(笑)。
 これ、昔あるお笑い芸人が言っていたんですけど、その芸人さんがテレビの企画で歌をつくって、ライブをやったんですよ。で、終わったら、お笑いライブのときの拍手も気持ちが良いけど、ライブではそれより多くの観客の拍手を浴びて、ミュージシャンが羨ましいと思ったらしいんです(笑)。どうしてもお笑いも演劇も、動きが見えないと成立しないことが多いから、(音楽ライブの最大キャパに比べて)限られた客席であることが多くて。ライブの方が、演劇に比べて単純な快楽によるところが多いと感じます。ただ一方で、音楽はCDなどの音源をある程度聞いてからライブに行く場合が多い。だからある程度の良さが保証されていて、本当につまらないライブって中々ないんですよね(笑)。逆にそれはそ��で面白くないな、とも思います。何が起こるかわからないお客さんの前で、これが面白いんだ、というのを提示して1から共有していく、その過程が今は演劇を続ける魅力です。
 他に発見というと、役者に動いてもらうことで、「演技」の良さがようやくわかるというか……良い役者が何なのか、少しだけ理解できた気がします。ヌトミックにおいて、今後どのような俳優に参加してもらいたいかということは、この作品を通じて一つの基準ができました。
——『SB』には原案、原作が存在しますが、テーマや物語の扱い方はどのようにしようと思いましたか?
額田 頂いたものを、どうやって自分の表現にできるかということには尽力しましたね。自分が説得力のある言葉で語れるように多少、改案はしたり。当たり前だけど、テーマがあると難しい。何を語るか、何を語っているように見えるか、語る内容を、どうやったら今の世界にひきつけられるか。如何にしてお客さんにイメージを立ち上げることができるか。まだまだ分からないことばかりです。
 あと、物語にはあまり興味がないなと今回も感じました。『SB』のセリフにある日常会話とかも、そんなに筆が進まなくて(笑)。ただ、演劇だとどうしても逃れられない「物語」に対して、これから何ができるのか、引き続きヌトミックでは取り組んでいきたい気持ちです。
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yukaihandsgallery · 8 years ago
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【24】2017.2.25-26 | 青山裕企 写真展「ネコとフトモモ 2」
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2014年から撮影をスタート。<ネコのモフモフ>と<フトモモのフニフニ>が、奇跡のコラボレーション。写真家・青山裕企が、猫と奏でる優しいフェティシズムの世界へ。 2017年4月、写真集『ネコとフトモモ』リリースに向けて撮りためた写真たちを一挙公開します!
特別企画としまして、非売品の「ネコとフトモモ」ポストカード(なんと16枚セット!)を、(本展のみ)無料配布いたします!
 展覧会概要
青山裕企 写真展「ネコとフトモモ 2」
会期:2017年2月25日(土)・2月26日(日)
開廊時間:13:00~19:00
会場:YUKAI HANDS Gallery(ユカイハンズ・ギャラリー)
住所:〒112-0014 東京都文京区関口1-30-9
電話:03-5761-6760
入場料:無料 
* 「ネコとフトモモ」ポストカードは、1日100セット限定の配布とさせていただきます。
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nikukyuv-blog · 5 years ago
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ネコの決定的瞬間を捉えた写真が大集合!写真展「ねこにすと」のWEB版が第2弾をスタート
普段はボーッとしているけれど、時折、予測不能な行動をするのが猫という生き物。
長いこと一緒にいる飼い主さんですら、その決定的な瞬間を撮影するのは容易ではありませんが、そんな奇跡の一枚を集めたネコ写真展がWEBサイトで公開されています。
これは全国の百貨店などを巡り、毎回独自のテーマに沿った猫の写真パネルを展示しているイベント「ねこにすと(NEKO-NIST)」のオンライン版。
新型コロナウイルスの影響によりリアルイベントが開催できない中、自宅からでも観賞できるようにと企画されたもので、初回は「寝ている猫」ばかりを集めた写真展でしたが、第2弾となる今回は「ニャンと素敵な奇跡の一枚〜猫自慢篇〜」がテーマです。
インスタグラムのユーザーに向けてスマホやカメラ、パソコンなどに保存されている愛猫写真の中から「これぞ奇跡!」というベストショットを大募集し、寄せられた数千枚の中から600枚を厳選し��
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ryuzutatsu · 5 years ago
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ヘソ天で可愛い〜アピール🤩 投稿者: うりちゃんママ うりちゃん / ♀ / #ブリティッシュショートヘア #奇跡の一枚 & #ドアップ 写真 の#投稿大募集中💕 #猫好きさんとつながりたい #猫 #ねこ #子猫 #ねこ部 #にゃんすたぐらむ #にゃんこ #にゃんだふるライフ #ふわもこ部 #ネコ #ねこのいる生活 #kitty #catstagram #catstagram_japan #petstagram #instacat #meow #catoftheday #ilovemycat
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kkagtate2 · 5 years ago
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azsklhjebf/awhjkilebf
先年、とある二つの一軒家にて二人の男女の遺体が見つかつたと云ふ。一方は県中央部の騒々しい住宅街にて、他方は県境近傍ののどやかな湖畔沿いにて、前者は男の家、後者は女の家、二人は夫婦でありながら既に別居状態、こゝ数年間は交流すら途絶えてゐ、知人の少ない女はもとより、男の方も仕事場の同僚に拠れば、めつきり夫人の噂を聞くことは無く、前々から変はつた人だとは思はれてゐたが、矢張りこゝ数年間は殊におかしく、気狂いのやうに意味の分からぬ戯言(たはごと)を云つて、突然息を荒げ出すことが珍しくは無かつたのださうである。司法解剖の結果から両者共に服毒自殺との判断が為され、静粛な葬儀の後、早々に、夫の方は夫の親族の眠る墓地へ、妻の方は其の母親の傍に埋葬され、今となりては地下にて眠る。死んで尚離れ〴〵になりしまゝ、如何があらむとは思へるが、残されし遺書の何方にも、さう願ふ旨が記述されてゐるとの事。幸ひ男の御両親に話を伺ふ機会に拝見した所、我々夫婦にとつて最も良い埋葬法とは、互ひを切り離し、声の聞こえ無いやうに、目の届か無いやうに、何処にゐるのかさへ分から無いやうに、存在���悟られ無いやうに地下へ埋めることのやうに思へる。願はくば此の身を其の地へ、妻の身を彼の地へ葬り給へ。心安く還りなむと柔らかな筆跡で綴られてをり、その後に、されども我妻が安らかに眠れるやう、無いとは思ふが意見の相違がある場合は譲る事にすとあり、凡そ埋葬先までは示し合はせられてゐなかつたと考へらる。交流こそ無けれども、夫婦揃つて同じ考へに至るは愛の為せる偶然か。伺つた先々に於いても、互ひの凹凸の見事に嵌つた、付け込む隙の無い夫婦でありはしたけれども死に際まで共にするとはと偲び〳〵此の事件を語る。蓋し読者の中には妻の愛など疾うに無くなつてゐると考ふる者が居ようが、当時の日記から、夫の気が狂うてからも思ひ続けてゐた事は事実にてある。けふもまた好みのけしやうをし、いつものやうにほこり一つないよう家ぢうをそうじゝ、いつものやうにふたり分のれうりを朝晩つくり、いつ連絡があつてもいゝやうに受話口の前にたゝずみ、いつたずねられてもいゝやうにゑ顔をたやさず、いつ求められてもいゝやうに体を清め、写真をながめてはため息をつく日々にたえきれなくなつてゐるやうな気さへする、向かうにあるなくなることのないみそ汁にすら思ふことおほしと記してある事から、生木を裂く心地にあつたゞらうと思はる、浅はかな推測は差し控へるべし。事実、十五もの歳の差のある夫婦なり。其れ程の歳の差なれば、例には行き違ふ日も出来るべき、理解し合へぬ事もあるべきなめれど、先達て友人の伝を辿り、男の上司に当たる大学教授の端本幸希氏に話を伺ふに、寧ろ、話してゐる内に何方と喋つてゐるのか分から無くなるまで、似通つた夫婦であつたと、又、余り似過ぎてゐるのでおつかない感じがしたとも仰る。彼の変はり者として名高い端本氏だに此のやうな印象を持たるゝのであるから、両者の差異は単に生殖器の違ひでしか無い。何故其処まで似通うてゐたか、思ふに、女側が擦り寄うてゐたからでは無いか、其れすら勝手な想像ではあれども、見初められた時分、未だ少女とも云ふべき年齢であつた事実を考慮するに、憧れにも似た心地を抱きて、知らず識らず男の考へに染まりつゝあつたのでは無いか。而して己に残つた己が別居後に開花する事も無く、正確には開花する前に、終には果敢無くなつてしまはれたのでは無いか。其の可能性があつたからこそ、男は遺書に、無いとは思ふが意見の相違があつた場合はと書いたのでは無いか。死人に口無しと云ふには少々違ひはあれど、今となりては聞くことも出来ず、矢張り想像するしかあらず。斯と云つて安易に推測するべきで無い特殊な夫婦事情に、件の事件に纏ひ付く不思議な香りの原因があるとの事、本物語は事件の解明を目的とした文章では無い事と共に此処に記す。
  とばかり陽を見るのも難(むつか)しき夏の頃、同好の士が云ふに、新聞記事の隅に興味を惹くべき内容が載つてゐるとあり、大学図書館を訪れたのが、深入りをする端緒となつたのであるが、凡そ一年(ひとゝせ)の月日を経て男の家を尋ぬれば、青紅葉の美しく生え渡る季節にて、庭には大きな木陰が出来、家の壁、隣家との境には何とも知らぬ蔓草が蔓延り、入る前より耐えられぬ心地となる。周囲の家々、地域柄を思ふと、尚更哀れに感じらる。三階建ての、黒緋(くろあけ)に似る濃い色の洋なる邸宅に加えて、日本家屋めく小さな離れあり、蔓、草、共に避けるが如く其処には生えぬ事から、此の離れが男の部屋だと察す。思ひきや其の佇まいは未だに人が住んでゐるやうで、母屋も蔓に覆はれてゐるのみで、見える壁、窓、屋根、塀、柱、どれも雨の跡すら無く、察するに単に手入れを怠つた結果か。子を失くした親は廃人のやうにて早々に発つ。扠、女の家に赴いてみれば、湖畔のほゞ湿地帯に位置するために、虫の飛び交ひが酷く、加えて木の生い茂りも酷ければ、道と云ふ道、家と云ふ家、店と云ふ店から断絶され、地平面となる湖のみ目の前に見える、侘しい日本家屋なり。蔓は伸びぬものゝ此方には竹が、皮を足元に散らしながら息苦しいまでに生ゆ。春先まで親縁の者が住み込みで遺品の整理に当たつてゐたと云ひ〳〵、筍を処理せず、其れ切り来客すら途絶えて久しいと見える、あらはに毀ち散らされ、破れ〳〵に成つた障子の隙間から中の気色を覗くに、粛として乱雑、未(いま)だ二十歳代の娘とは思へぬ程、古代の家財道具が立ち並び、褥一つ取りても平らか且つ不揃いの布に縫はれ、落つる書籍は並(な)べて茶色に染み付き、唯一の電子機器である電子風琴(オルガン)に至りては、骨董品とも云へる型にあり、女の暮らしの非情だつた事が察せらる。彼女はね、生まれる前からものすごく貧乏だつたのだよと同好の士が云ふ。事に凡そ三十年前、未(ま)だ産声すら上げられぬ頃、母親の胎内に其の種を撒きし男が絶えてしまはれた事から始まつた一家の凋落に、気づけば自身は見窄らしく、幼年期より耐へ忍ぶ事多く、汚げな身形をはひ隠しがちに、常に孤独、後年の口癖に、捨てゝも見放してはくれるなとあるは、幼き心の傷の名残だと解釈するが良からう、特徴の一つである卑屈な性格も此の時点で早くも醸成される事になる。尚、父没前の生活は定かで無い。ある者に問へば豊かな生活を送つてゐたと、別の者に聞けば買ふ物も買へぬ日々を送つてゐたと云ひ、全くの不明瞭であるが、後の母親の言動から状況は良からじ。甲斐無き人にありはしたけれど、家を譲らばこの身も、と。対照に、男の家は今よりも一層富み栄え、地元紙に拠れば、時を同じくして頂点に達すとあり、話題に上げるには未(ま)だ早いにしも、何故男が此の卑しいばかりの女に惚れたのか、抑々見る事はおろか、知る事さへ叶はぬ身の丈の違ひのみならず、既に行末も定つてゐるやうな女童の後見をするには見目悪く、事実、残された写真を見るに、美麗とも可憐とも決して形容出来ぬ其の姿は、田舎者特有の晴れぼつた顔立ちに、汚げにねぢくる髪、痩せて甚く細うなりし肢体を持ち合はせ、褒める所無く見ゆるものから、同時に、眉の甚く優しげに垂るゝ様、手付き口付きのいとつゝましやかなる様から、儚い愛嬌を感ぜられもし、世の中に良くあるやうに、斯くある少女こそ美しげに育つと見抜いてゐたのか、其れとも何者にも染まらぬ無垢な少女に変態的な欲望を抱いたのか、其れとも己とは全く趣を異にする少女に不思議な魅力を感じたのか、本人以外の口をして語るべきにあらず。湖の先に綺羅びやかに消えて行く太陽まことに美し。頑な親に捨てられ、恨みも無く独り小石を用いて遊ぶ様を、引き込まれるがまゝ湖畔沿いに佇みながらたゞ思ふ。
  出会ひは唐突であつたと云ふ。時、女十二、男二十七の秋。家の様子は今と然程変はりは無かつたと云ふ。理由は定かで無けれども、酷く気を病む事があり、紅葉の名所として名にし負ふ彼の地に静養中、湖の周りを歩(あり)いてゐる内、一軒の寂れた家の屋根が見えて来、此のやうな家は今の今まであつたかと驚いて赴いてみれば、無人の如く静まり返りてゐたと云ふ。無常な心地に包まれて立ち止まつてゐると、後ろから呼ぶ声す。どちらさまでいらつしやりますかと思ひの外稚い女の声なれば、再び驚いて、振り返つて其の姿を見ゆ。残念ながら誰も其の時の様子を見た者は居らぬし、結局推測するしか無いが、女の日記帳に、なぜ、どうして、などの言葉が立ち並ぶ事から、実際に口に出した言葉もさうであつたかと思はれる。互ひに見つめ合ひながら、湖のさゞめくを聞くとは我が想像に過ぎず。後に、運命とは斯くある事を云ふのだよ、君のは全くもつて平凡で詰まら無いと惚気ける程の出会ひ、両者共に親煩ければ、静養中は密かに立ち寄りて見つゝ、種々の施しを与え、契を結び、時には遥か遠くにまで連れ出し愛づ。都会に帰りて後、暫し間を開けて逢ふ。以降、半月に一度程度の頻度で逢つてゐたとは友人の証言だが、男がありつる家に訪れる事は最早無く、一方的に女を呼び寄せては前段の離れに閉ぢ込めてしまひ、況して独り暮らし得る住処であれば、家の者すら気づきもせず。やう〳〵訝しんでみれば、酷く口上手な男に、唯一秘密を覗きける猫をして丸め込まるゝに、あの日本家屋めいた離れの中で何が起きてゐたのかは全く不明である。防音処置された一室に、幼少期より慣れ親しむ電子風琴(オルガン)あり。習はせてゐたとは男の証言にて、取り繕うた言葉には違ひはあらねども、而して女の母に嗅ぎ付けられる契機となつた事実を顧みるに、事実、事実にてありけるべし。二つの風琴(オルガン)とは二人の母の物である。読者は此の共通点、如何が思へるか。並べて世の例に漏れず、姦通の有無を疑はるゝにあたりて共に首を振らざりしを、行為に及んでゐたと解するは尤もであり、結果、其の後(ご)数年の時を隔てる宿命となるが、否定するも肯定するも、如何ともし難いやうに思へてならず、虚実をもつて引き裂かれし思ひの程、如何があらむ。男の体には火傷の痕がある。まだ幼き時、過ぎたる悪戯の一貫として火の燃え盛る焼却炉に体を押し付けらるゝに、左半身は臀部から腰、右半身に至りては肩甲骨近く且つ右腕の根を焼き焦がし、溶けた衣服が皮と肉と一体となりて泣き叫ぶが、多くは醜い瘢痕として残り、心をすら蝕みてある様にてあれば決して人に見せず、たゞ女のみ甚く心を痛めて、なぜまだこれが私にもない。なぜ彼ばかりなのか。おかしい。この世は壊れている。と思ふ事から、男の生肌を彼の離れの一室で見たは事実、然れども性交を行つてゐた事実には関係あらず、先にも云ふやう常識の通じぬ夫婦にて、例へ互ひに息を切らしながら抱き合うてゐたとしても、安易に決めつける事無かれ、事実はより捻くれるに、我々夫婦には夜の営みなど必要ない、たゞそこに居てくれさへしたらよい。抑々考へて見給へ、僅か十二歳の少女と体を混じらはせるなど強姦に相当するではないか、そんなこと、貞操観念の堅い我と彼女がするとでも思ふのかね、と語るのすら意味を持つ。後の段にて詳しく述べる。火傷の傷跡、���の心に強く残りて夜離(よが)れの日々を送るうちにも、辛きことを嘆く。此の時男の飼ひし猫が死ぬに合はせて、唯一の友人である佐伯苗香氏を事故で失ひて、予てより燻つてゐた過ぎたる悪戯を受けるが、如何に除け者にしやうとも、如何に暴力を振るはうとも笑つて済ます、又は、親より受け継がれし強情な気質を以て反逆をす、結果、心の傷となりて残るを、当時の人物の云ふ、感謝すると云ひ微笑む仕草、再び薄汚く成り行く身形なれば、時を待たずして収まる。一方の男、再び気を病みて療養との事だが、静養地に湖の沿岸を指定するは、爽やかに移ろひて行く景色のみならず、密かに女の様子をはひ隠れ見るためであるとは、夜な〳〵彷徨ひ歩(あり)いて日の上ると共に帰る行動からも、彼はそんなに辛さうにしてゐなかつたといふ端本氏の証言からも容易に理解出来る。昔人に擬へて忍び〳〵に会ひ、遣戸を引き開けて同じ月を見、時には静かな声にて歌をすら詠んでゐたと知る者は云ふ〳〵。然と思はせて実際には堂々と会うてゐたやうだが、一体誰が知つてゐやう。
  端本氏の評価に拠れば物事を整理、整頓し、尚且つ其れを公の場で伝ふ能力に長けてゐたとあるを、狡猾に用いて女の教育を承りて、会ふ事を許されて後、例の屋敷に日々引き入れて教へるを、矢張り人の聞こえが程々に悪うて、家の者は当時の彼らには嫌と云ふ程困らされました。お二人ともご主人様のお言葉をお聞きになりませんから、間に立つ私がいつも被害を被つてをりました。中でも特に頭を悩ませたのは、女様の通ふ学校の先生が御出でになつた時でせうか、注意喚起をしたいとおつしやりましたが、男様は帰つてもらへと一言。もちろん引き下がりなどしませんので、しばし往来してゐると、不機嫌におなりなされた男様に、お前は云ふ事が聞けんのかと云はれ〳〵、恥を知れとも云はれ〳〵、泣く〳〵ご主人様に訴へますと、今度はあの子も色々あるからとおつしゃつて相手にしてくれません。困り果てゝかの離れに三度伺ひますと、蛻の殻のやうになつてゐまして、言訳を致しますのにどれほどの時間がかゝつた事やら、あの時ほどこの家を離れやうとしたことはありません、と語るを聞くついでに、仕事を取られし恨みも聞く。時に女、十四歳となりて既に真似事でもなく男の妻として身の回りの世話を行ひしに、部屋の清掃をすら行ふ。でなければ彼の部屋は紙くずで埋め尽くされてしまふ、私がやらなければ誰がやると云ふのか、特に雨の日は朝に行つたとしても床が見えぬ程騒然とするから、かさの増えた湖に足を取られつゝも、あの屋敷へと向かはねばならない、と義務感に駆られてゐたと云ふが、此の紙屑なるものは男の用いた計算用紙であつたことが察せられる。端本氏の云ふには、世の成り立ちを希求する学問の中でも殊更に計算量の多き分野に属し、等号の次、等号を書くまでに紙一枚、二枚を隔てるは大抵の事、時には作用の構成に半年を掛く、気力集中力を持たねば力尽く、床を紙で埋めども自然な事、男は深夜にかけても計算を行ふ、臥す間に女が片付ける。まことや女に学問を教ふに、いよ〳〵交際を公言するやうになりなば、嘗ての同僚福井大貴氏曰く、あいつは俺と同じくらゐ理解力がいゝ、なまじ完璧な馬鹿よりはあのくらゐあつてくれた方が助かる、と誇りを持つて云ふものを、されど伝へ聞くに、女は然こそ賢くは無し。当然の事、此れまで本を読むことも出来なければ、学ばうともせず、耳につく事其のまゝに過ごしければ、感覚が育たぬ。机に向うのさへ厭ふやうであれば、救ひやうもなし。世に良く云ふ、一年の勉学のみをして大学の地を踏む物語は夢物語にもならず。そも人のやり方を真似して、己の体質に合はぬ方法をし続けて何になる、全ては世の人の言葉を全て忘れる事から始まるとは男の言葉であるが、全く持つて其の通り、思慮も無く著名の人を信頼するは白痴のする業なり。女幸運にして幸ひに、傍に仕へて感覚を養ふと共に教へを受け、甚く努力をして次なる段階へと駒を進め、男は其れをも大なる声を以て福井氏などに云ひ放ちて暫し疎遠となるが、此の無学な女を才(かど)ありと言い張りしが災ひとなりて、教師と生徒の淫らな関係を訝しめらるゝに、女の傍ら痛きを強いして春の時分、桜の咲き乱るゝ丘陵地帯にて花見を行ふに引き連れて、姿を公に晒して、見目形など前評判と少々違ひければ、幾許か物足りなく感じるものゝ、元はあの地の生まれにしては華奢で愛らしく、話し掛けば押しも引きもせず至極上品に笑ひ、男の傍から離れぬを、時が経ちて場に慣るゝにやあらむ、話してゐる傍(はた)から口を挟み、思ひ浮かんだ疑問質問意見を率直に述べる、果たして誰と似通ふかなと思へば男であり、彼の端本氏の云ふ、話してゐる内に何方と喋つてゐるのか分から無くなるとは此の事、福井氏も又同様の事を思うて、この界隈はその方が都合がいゝことが多いのだけど、あの歳にして物怖ぢをしないのは逆にこちらの方が恐ろしくも感じると云ひ〳〵、あんなに言動が逸脱してゐる彼と対等に渡り会へるのは彼女だけだつただらうと思ふ、似た者夫婦だつたよとも云ふ、華奢で愛らしい女の様子、如何に見たいと思うてももうをらぬ。花見は春の凪にて穏やかに進み、紛れ込んだ一輪の花に、男も女も皆挙つて湧き上がつたとぞ。
  扠、花見の際、福井氏は女の姿を一目見て大層驚いたと云ふ。此の方、男の良き古き友なれば種々の内証事を教へるに、断じて漏らしてはいけないと云ひて変はつた趣味を持つ事も語り、写真文章其の他を我に見せる、皆女に似る女性の写真なり。此れは彼かと同好の士が尋ぬるに驚いて今一度見れば、顎の形、肩の盛り方、手首の尺骨、指の関節、出ぬ尻など、どれも男性の特色を滲ませてありはするものから、目元口元頬鼻のみ見えれば矢張り女其の物の顔とのみ見ゆ。同好の士のさらに云ふ。彼は女装癖を持つてゐたのだよ、と。福井氏に拠れば元々女装癖自体は凡そ少年時代から行つてゐ、其の筋の催物にも屡々足を運んでゐたやうであるが、二十台後半、詰り女と会ひし時より隠れた趣味とは最早云へぬ程打ち込み、日常に於いさへ何処か色気を発するやうになつてゐたと云ふ。召し物も然る事ながら、髪の毛も鬘を被らぬやう長くし、手入れを怠らず。振り向けば匂ひ満つ。体を痩せに痩せさせ、骨の太きを取��繕ひ、逆に胸に至りては、何をしけるにか、詰め物をせでやはらかに丘を為す。書く文字をすらたをやかなるを、目付き口調から其の姿は強く美しき女性にて、男は元より女にも云ひ寄らるゝ事多し、或る時暴漢に襲はれ声も届かぬ室内にて衣服をひん剥かれしに、男と思はず両性具有と思はれ、暴漢の股座萎える事無く突き抜けさうになりて以来、少々隠るやうなるけれども艶やかな魅力消えること無し。たゞ何故己の女に姿を寄せてゐたのか。福井氏の写真に映る男は何れも将来妻となる者とほゞ合致、二人で写るもあれば、同じ顔をして笑ふ。昔、例の離れ屋に入らせてもらつたことがあるんだが、あの中ではあの子の服を着ていたみたいだと福井氏の云ひしが、同好の士、女もまた男物を着て、外を練り歩く。見給へ、背丈さへ揃へば男と同じだらうと、或る写真を指差すを、よう考へれば、性交の有無の一件も自ずと理解されやう。男も変態であれば、女も変態である。惟ふに変態とは体を重ねて欲を満たさず、遥かに尊い悟りの中で性の喜びを感ず。理解出来ぬならば、己に眠る真(まこと)の性癖を目醒してゐざるに過ぎず。奇しくも互ひに似通ふ変態なれば、服を取り替へ化粧をし、並々ならぬ衝動を抱ふるがまゝに、女は女となりし男の姿を、男は男となりし女の姿を、互ひに眺めるのみ、性交は無し、あらば男は女の物を、女は男の物を取りて手淫するまで、接吻だになかりけるべし。時を経て、俄に愛する者に近づきつゝある自身の姿も又、格別なるべし。福井氏は男の秘密を知る者にて、入れ代はり立ち代はり、日毎に互ひの姿を真似して恰も振り子の如く性別を入れ替へる二人と共に永平寺へ訪ねるに当たりて、ぱら〳〵と海苔の懸つた、五目飯(ちらし)の下等にはあらぬが、鮨を食ふとて暖簾を潜りて腰を下ろすに、色違ひの着物だつものを着なし、髪の長さは同じにて、同じ化粧、同じ装飾、同じ仕草、同じ気色、夕闇の小暗き店内、声すらも真似て話をするは真に恐ろしき有様、されど其れこそが彼の夫婦の性癖なれば、時折目を血走らせて熱き息を苦しげにつぐ。柿葉鮨のほのかな匂ひに、鯖の脂の旨味、酢飯の滑らかな口当たりなど、何も感じず。店の者に如何為されたと憂へらるれど、茶を飲みて取り繕ひ、共に席を立ちて厠へ向いて、返つてくれば同じ笑顔にて、此の俺の耳元の艶めかしいのが美しいと女の耳を舐りながら、此の私の鎖骨の隆々としたのが美しいと男の首を舐る、魚籠の中に鮮魚(あざらけき)は採れてゐたか。採れず、代はりに蚰蜒(げじ)の大なるが入る。ならば刺身にして食はせよ、俺も食へ。其れは天照大御(おほん)神の悪み給ふ事、斯く口賢しき書は神風にて沈む。古も斯くやは人の惑ひけむ、などゝ語り合ひしが耐へられず、先に店から出たものゝ宿にても斯くあるを、次の日になれば睦まじい男女となつて、精進料理を細やかに食す。流石に仏様の御前では煩悩を直隠(ひたかく)しにして跪く事にしたか。けふは男の姿にて、同じ器の同じ料理を同じ分量だけ箸に取りて、同じ時に口へ運ぶ。互ひに美男ではあるが、却りて無気味な心地に包まるれば、其れ切り二人を置いて逸早(いちはや)く大阪へ帰り、後の事は想像もしたく無いと嘆く。尚、当然の如く、二人の間に子供は居ない。要らぬ。此の俺に子供など、邪魔になるだけである。少しはまともな思考をしたらどうかねと子をなす事を勧めた者を邪険に扱うたが、過去に孕ませた女の子と屡々人目を偲んで会ひ、養育費教育費其の他諸々を生涯に渡つて援助し続けたとあるは、自分の妻以上の高待遇故、未だ以て理解出来ぬ事である。
  純潔を守り通す事がどれ程の意味を持つかは二人にしか分からぬが、結婚すらも厭ひて、女が学業を収めるが変はらぬ生活をし続け、約二年の時を経て叔母をして云ふ、神に仕う奉る巫女となれと、首を振りて肯定するに、先の叔母の仕る神社なれば疾く巫女となり、疾くしろたへの小袖に色鮮やかな緋袴を着なして生業と為す。時に女、二十歳となりてあざやかに育つ。髪を結ひ、朝靄の幽かに広がる中を悠々と歩く様、口寄せの時代を彷彿と、恰も神との戯れをなし得るが如し、由々しき思ひさへす、背筋が冷えに冷え入りて、汗が止まらぬ、あの有様では物の怪をも飼ひ慣らせるめり、物恐ろしとは叔母なる者の云ふ事、甥が初めてあの者を連れて来た時分、大して可愛くも無いと率直に思ひはしたが、あのやうな艶めかしい美女の様相を呈するやうになつてゐたとは。仕事ぶりも悪くは無ければ愛想も程々に良く、度々近所の子どもたちに神社での作法を教へてゐたと云ふを聞くに、其の微笑ましき様子を絵にでも書きたいと思ふものを、更に聞けば、此の時神社に移り住んでゐたと云ひて、男との交流も途絶えがちに雑務、神主の補佐に打ち込み、夫はどうしたと聞けども、彼は忙しい身ですのでと答えるのみで要領を得ず。寧ろ同じく神に仕う奉る同僚の巫女と共に、未婚女性としての悩み愚痴を云ひ合ひ笑ひ合ふ日々を過ぐす。或る時、或る者云ふ、其れ程愛しき女に男居らぬは奇し。居るべきなりと。女大いに恥じらいて云ふ、凡そ十年前より思い染める者ありと。嘸(さぞ)かし酷く妬まれ、酷く羨ましがられたであらう。巫女の仕事は力を伴ふ仕事にて、辛くも苦しくもあらめ。されど神社に仕る人々、皆良き人なれば、此の時ばかりは女も頭を悩ませず充実してゐたと、叔母なる者は云ふ。此れらは恐らく男の計らひであつたゞらう。男も又女の自慢をせざりければ、一体どうした、到頭(たうとう)逃げられたかと云はれども否と答ふのみにて、上司同僚には口を閉ざすが、酒の席にて酔の廻りし時、直属の生徒に対して、俺は俺に世の中といふものを知つて欲しかつた、俺は俺以外の人間を何も知らぬ。それでは対応にならぬと珍らかに落ち着け払ふ声にて云ひ、其れから女がありし湖畔の家に帰るまで、身を案じ続けてゐたと云ふ。巫女装束を艶やかに着なす女の姿いとたをやかに、噂を聞きつければ己も買うて髪を結ひ、眉を剃うた其の姿、姿は見ねども瓜二つであつたとは、云ふべきにもあらず。夫婦の離別は斯く始まるが、男の祖父亡くなりし時、女の母、予てより病を患ひければ、雪のはら〳〵と降り積もる師走十五日、愈々(いよ〳〵)面は黄に、肌黒く痩せ、古き衾(ふすま)のうへに悶え臥すやうなる。粥を作りて与へるが口の先にて舌を以(も)て吐く。水を飲めども息苦しきに噎(む)す。女の身にて子を一人成人にまで養はゞ、斯くの如くなりけるか、痩せ衰へたる指にて箪笥の元、衣類に高く埋もれたる山を指す。親族は無し。女が近寄りて山を掻き分ければ、鴛鴦、鶴、鶴亀の描かれし三枚の風呂敷なり。共に白髪の生ゆるまで、叶はぬ願ひを娘に託して戌の中刻に、遂に絶え果てぬ。身は冷え〴〵と、相貌も疎ましく変はり行く程、たゞ其の胸に抱きて、暗う物怖ぢせざるを得ぬ家の中、男も来て共に悲嘆に暮れる。明朝、湯を沸かすとて厨に立つ。此の程、誤つて薬缶を足の甲に落と��、流れ出た熱湯に女は重大な火傷を負ひて、家の中を這ひずり回り、凍てつく湖の水にて足を冷やすを、醜い痕となりて其の後数ヶ月間、靴すらも履けず。以前読みし小説に、狼狽の餘りの所爲でもないその夜春琴は全く氣を失ひ、翌朝に至つて正氣付いたが燒け爛れた皮膚が乾き着るまでに二箇月以上を要した中々の重傷だつたのである。などゝいふ一節があつたが、此の女の場合は治癒までに一ヶ月も要せず、何を以て数ヶ月も生足で土を踏みしめてゐたのか、佐助のやうに師と同じ傷痕をして同じ世界に住む悦びを感じたのか、もう語れる者は居ないが、あゝ、待ち遠であつた、時間が問題だつたのだ、私にも漸くあの醜い瘢痕が出来上がる喜び、最早云ひ様もないと歓喜に湧き上がれば、跪きて、否、時間とは無意味である、我は毎日、時間を空間にし、時間を空間と共に回転させ、尺度をも変へる者である、かうなるのは当然の事、と、ほの白い脚、其処にへばり付く瘡蓋に愛ほしく口付けす。己も背中の瘢痕を曝け出し、足首の肉を食み出せば、云はれずとも口を大きく開け、ぬら〳〵と濡れし舌で舐む。此の一件を以て巫女の職を辞し、二人は契りを交はす。されど男は例の離れ屋敷にて、女は例の湖畔���望む家にて住む。男の女装癖は此の時が頂点だつたと見える、性転換こそせざるものゝ生きる全ての時に於いて女物の服を着、毎朝化粧に時間をかけ、厠へ行けば鏡の前にて小一時間佇み、遠出をすれば男を誑かす、如何に変人の多い界隈と云へども其の佇まいは限りなく異質、時には講義中、股間を膨らませ、俺が、俺が、俺が、俺が居る、俺が居ると声を荒げて、棟から飛び降りるが如く階段を駆け下りて居なくなる事すら少なくなく、言動の著しさが原因となりて謹慎を受けるに、女から譲り受けし巫女装束にて舞を踊る。女も又、男物の衣服を着、嘗ての職場へと足を運んでゐたさうだが誰も気づかず、其の事実を以て夜な〳〵淫猥な声を発しゝが原因となつて捕まへらる。然れども男は女への愛を忘れず、女は男への愛を忘れず。如何なる時も女の身を案ず。如何なる時も二人分の酒飯の設けをす。けれども見ることは最早あらず。死の決意は婚約から三年後の事なり。男の手記には、限界だの一言。女の日記には、限界だの一言。最後の最後、毒を貰ひ受けるに当りて偶然の再開を果たすが、言葉も交はさず。冒頭部に戻る。両者の遺言に沿うて男は三親等乃至四親等の親族のみ、女は嘗ての同僚の内数人のみを招いて同人数とし、厳かな葬送を行いて骸を遠く離れた地へと葬り、弔ふ人はまばらにてあるが、向い合ふ二人の墓の気色、恰も空の上にては一つの雲となるが如し。尚、毒を譲つた者が何者であるか、其れは我が興味の範疇外にて関係者各位の尽力に期待する事にす。
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