#天使の梯子 pixiv
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Not gonna look for the post, it was like two months ago, but the deep annoyance I felt reading a popular Majimako fic on ao3 that involved them kissing on the street has been healed by a fic that I'm working through slowly on Pixiv, in which Majima got embarrassed because Makoto rested her head on his shoulder at a ramen stall.
#in the end there's just this like. idk. some majimako fic writers go full weeb in terms of the set dressing#but the atmosphere still feels wrong#like the trend I mentioned earlier where they never eat anything but japanese food#as if every lawson's etc isn't full of ham sandwiches and spaghetti and salads alongside the onigiri#anyway! the fic i'm reading is good and sad and full of realistic miscommunication#the last chapter focused on a heartfelt and painful midnight confession of emotional and physical damage#and in the current one makoto just strong-arming majima into getting a deep conditioning treatment at a beauty salon#well balanced#天使の梯子 pixiv
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ひとみに映る影 第七話「紅一美に休みはない」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←←
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
ただただ真っ白な空と海があった。 天地を分かつ地平線すら見えないほど白いその空間に、私、ワヤン不動という影だけが漂っていた。
未だ点々と炎がちらつくその身体は、浅い水面に大の字に浮き、穏やかなさざ波に流されていく。 ここはどこだっけ、私はどうしていたんだっけ。 そういった疑問は水にさらされた炎と共に鎮静していった。
遠くに誰かがいる気配がした。軋む身体を起こすと、沖縄チックな紅型模様の恐竜が佇んでいる。 濡れて重たい両足を引きずり、そこに近づくにつれて、段々と海は深くなり、かつ水が温かくなっていく。 立ったまま胸まで浸かる程深くなると、まるで露天風呂に入っているように、頭がぼーっとしてくる。
恐竜の隣には小さな足場とベンチがあり、可愛らしい白装束を着た金髪ボブカットの女性が座っていた。 丸く神々しい後光がさしていて、顔は逆光でよく見えない。天女だろうか。 ベンチから足だけを温水に投げ出し、足湯を楽しんでいるようだ。私は水中からそれを見上げている。 (ああ…誰だっけこの人。どこかで会ったことがある気がするけど…) 挨拶するかどうか迷う。気まずい。いずれにせよ、何か声はかけよう。 ここはどこですか、とか、あなたは誰ですか、とか… 「…アガルダって、何なんですか」 いや、どうしてそうなるの。私。完全に変な人じゃん。 だめだ、頭が回らない。案の定天女は苦笑した。 「いきなり凄い事聞くよね」
「知らないんですか?金剛楽園アガルダ」 「あんただって知らないんじゃん。 まあでも…金剛有明団(こんごうありあけだん)っていう、なんかこう、黒魔術師達の秘密カルトがあるらしいよ。 世界中から霊能者の魂を収集してて、何かにつけて金剛、金剛ってウザい喋り方するんだって。それじゃない?多分」 「ああ。それですね」 「てか、そんなの聞いてどうするの」 「滅ぼす」 「ウケる」 天女はコロコロと笑った。
「ここは何なんですか」 「私の夢の中…それかあんたの夢かも? ま、どうでもいいんじゃない?」 「あなたも金剛の使者?」 「まさか。私だって昔、観音和尚様にはお世話になったんだよ?」 「え…」
逆光の影をエロプティックエネルギーでどかして、私は改めて天女の顔を見た。 ああ、そっか…金髪にしたんだ。中学の時はさすがに黒髪だったよね。 髪、そうだ、髪だよ。私はその天女…いや、その祝女に問うた。
「あのさ。どうでもいいけど…ゴムか何か持ってたりしない? さっきから髪がメチャクチャお湯に入ってるんだ」
◆◆◆
何の脈絡もなく目覚めると朝になっていた。 私は怪人屋敷エントランスのソファで眠っていたらしい。 サイレンや話し声が騒々しい。外光が射しこむ窓越しに、救急車や数台のセダンが見える。 「一二、三!」 救急隊員さん達が、担架からストレッチャーに何かを乗せた。白い布にくるまれた、岩のような何かの塊を… そうか。ああやって外に出せているという事は、全て終わったんだ。 私達は殺人鬼を見つけて、悪霊を成仏させて…たくさんの命を救ったんだ。
「あ…紅さん」 譲司さんがこちらに駆け寄る。 「紅さん起きましたーっ!」 <ヒトミちゃん!>「オモナ!ヒトミちゃーん!」 オリベちゃんとイナちゃんも…みんなボロボロだ。全身煤埃や擦り傷だらけの譲司さんに比べればマシだけど。 オリベちゃんに肩を借りて立ち上がると…バシン!私は超自然的な力に頬を打たれ、衝撃で尻餅をつく。 「リナ…」
「アナタ、ワヤン不動になって、何回死んだの?」 「…」 「何人分殺されたの」 殺人被害者達の死の追体験。あの時はハイになっていて恐怖を感じなかったけど、今思い出そうとすると、身の毛もよだつ感覚が鮮明に蘇る。 「うう…数えればわかるけどさ…」 「じゃあ、二度と数えないことね。 アナタは…ちゃんと生きて帰ってきたんだから」 「え?」 宇宙人体のリナは長い腕で私を影ごと抱きしめ、子供をあやすようにぐしゃぐしゃに頭を撫でた。 「良かった…。アナタの精神がアレと相打ちにでもなったら、アタシ観音和尚に顔向け出来ないもの…」 初めて見た、いつも気丈なリナの泣き顔。彼女は涙を流しながら、人間の姿に縮んだ。 それはとても綺麗だった。美人だった。
その後私達は警察やNICの職員さん達から聴取を受け、昼過ぎにようやく解放された。 水家曽良は表向き被疑者死亡で書類送検とされ、未だ脳細胞が活動し続けている遺体は研究対象としてドイツのNIC本部に収容されるらしい。 待ちに待ったお蕎麦屋さんに私達が到着��た時、既にテレビではニュース速報が流れていた。 皆神妙な顔で画面に見入っていたが…
ぐぎゅるるるる…
私の腹の虫が重い沈黙を破った。慌ててトートバッグを抱きこんでも、もう遅い。 「くくく…やるなぁ、あんた…」 ジャックさんやリナの表情にじわじわと含み笑いが浮かんでくる。 普段なら恥ずかしいとか、タレントとしてはオイシイだとか思うけど、なんかもうダメだ。 ぐぎゅぅぅぅるるる…空腹と疲労と寝不足で、私はリアクションの一つも取れない。 「笑うなや。ワヤン不動様昨日飲まず食わずで、あんだけ働いてくれとったんやから。なあポメ?」 「わぅん」 譲司さんとポメちゃんの優しみ。有難い。 でも、すいません。もう限界です。糸が切れたように私はテーブルに突っ伏した。 <や、やだ、ヒトミちゃん!? ていうか何その手、ダイイングメッセージ!?> 霞む意識の中、私はお品書きを指さしていた。 最後の力を振り絞ってオリベちゃんにテレパシーを送る。 <お願い、こ、これを…注文して下さい…!> <いや、私日本語読めないんだけど。 イナちゃん、これ(鴨南蛮)なんて書いてあるの?> 「アヒルナンバン大盛り」 「かもなんばん!!」 なんかノリツッコミしたら自力で復活できた。 代わりにリナ、萩姫様、ジャックさん、譲司さんが抱腹絶倒した。
ようやく腹ごなしを済まし、私達は民宿に戻った。 荷物を下ろすやいなや、全員示し合わせたように脱衣所へ直行。 昨日も入った露天風呂だけど、めちゃくちゃ気持ちいい! 「あーーーー!染み入るーーーーっ!」 「本当よぉ!アナタ達バカだわ、せっかく磐梯熱海に来たのに、ちっともお風呂入らなかったんだもの!ねえ萩ちゃん」 「同感同感!イナちゃんは日本の温泉初めて?韓国の方々も温泉好きなんですってね?」 「そです、私達オンセン大好きヨ!気が清められるですねー!」 <うちの風呂もこれぐらい広かったらなぁー。そっちはどう、ジョージ?> すると衝立一枚隔てた男湯からレスポンス。 「pH結構高いなー!」 <いやダウジングしてどうすんのよ!> 「冗談冗談。あのねー!そもそも空気がめっちゃええの! 湯気で保湿されとるし肺まで癒されるわ!なあポメ?」 「あぉーん!」 ポメちゃんも上機嫌のようだ。
私も男湯に声をかけてみる。 「ジャックさーん!うちのおんつぁどうしてますー?」 おんつぁは会津弁でバカの意。実は、プルパ型に戻った龍王剣をさっき男性陣に預け��んだ。 霊泉と名高い磐梯熱海温泉を引っ掛ければ、あれも少しはマシな性格になりそうだけど、女湯に入れるのはさすがに嫌だったから。 「おう、同じ湯船に入れたくねーからよ、言われた通り洗面器で漬けておいたぜ。 真っ黒なのは治んねえな!ハッハ…うおぉ!?」 「わぁ!」「きゃわん!」 男湯で異変!女子一同がそれぞれタオルや霊能力を身構える。 「ど…どうしたんですか?ジャックさん!」 「い、いや、その…龍王剣の中から…」 「中から…?」 「アー…剣じゃなくて、持ち手からなんだが��…あんたの和尚が馬頭観音になって出てきた」 「はぁ!?」
そんな馬鹿な。和尚様は成仏されたはず。 まあ、既に観音菩薩になられた和尚様が『成仏』というのもおかしな話だけど…。 「ま、まさか観音和尚、お風呂入ってるの?裸!?」 リナが衝立を覗こうと飛び上がった。私は咄嗟に影手を伸ばし、阻止する。 「こらっリナ!和尚様の前でそっ、そんな破廉恥をっ!!」 「うるさいわね!いいのよアタシはインターセクシャルだから、どっちに入っても! これは美的好奇心であって猥褻な気持ちは一切ないわよ!」 「ヒゲと声以外ぜんぶ女のクセに何言ってるんだっ!やーめーなーさーいってのーっ!」 「アイタタタ、暴力反対!アナタだって本当は見たいんじゃないの?」 「んなわけあるか!!そりゃもう一度会いたいけど…っていうか小さい頃は一緒にお風呂入ってたもん!!」 「ずるい!このスキモノ!!」
すると衝立越しにヒョコッとポメちゃんが掲げられた。 もみ合っていた私達は不意をつかれて膠着する。 ポメちゃんの口には、何の異変も起きていない龍王剣プルパが咥えられていた。 「ハーイ、ドッキリ大成功!したたびでーす!」 譲司さんが裏声で腹話術する。 私とリナも、いつもテレビでやっているリアクションを返した。 「「…ぎゃーっ!また騙されたーーっ!!」」
そうこうしているうちに、また日が沈み始めた。 夕方五時。荷物やお土産をミニバンに詰めこみ、私達は民宿を後にする。 本当は猪苗代湖や会津方面の観光案内もしたかったけど、NIC職員のオリベちゃんや譲司さんが警察で事件の後処理をするため、私達はもう東京へ戻らなければならない。 そこでまず、萩姫様を大峯不動尊へ送りに行った。
「あんな事があったけど、また遊びに来てね」 萩姫様はまた正装である着物に戻っている。けど、帯飾りや例のロケットランチャー型ポシェットといった小物に、オルチャンファッションの影響が残った。 「もちろん、また来るですヨ。ハギちゃんがバリとか韓国来る時も私呼んで下さいね」 そう言うイナちゃんの耳にも、萩姫様を彷彿とさせる黒��紐飾りピアスが揺れる。 通りがかりに寄ったお土産屋さんで売っていたやつだ。 私達一同と固い握手を交わし、萩姫様はお社へ消えていった。
◆◆◆
車に戻ると、道路沿いに小さな原付屋台があった。 ポッ、ポポポポ…ガラスケース内で、ポップコーンが爆ぜている。バターの香りが漂う。 その傍らではエプロンを着たジャックさんが、フラスコ型喫煙具を吹かしていた。 彼は私達が戻ってきた事に気付くと、屋台についている顔とお揃いのマスクを被り、スイッチを入れる。 ブゥーン…屋台の顔に仕込まれたスピーカーから、電子的ノイズが漏れる。
「アー、アー。ポップコーン、ポップコーンダヨ…ヨォ、ガキンチョ共! ポップコーンダッツッテンダロオラ!ポップ・ガイノウェルシー・ポップコーンガオデマシダゼェ!」 ボイスチェンジャー声に合わせて、屋台の顔ポップ・ガイはガコガコと顎を上下する。 何でちょっと逆ギレ気味なのかはよくわからないけど、これが彼の定型口上文なのだろう。 「今日ハ閉店セールダ、トビッキリノポップコーンヲ食ワセテヤル。 マズハオ前ダ、紅一美!」 ガコンッポン!ポップ・ガイの顎が大きく開き、口から焼きたてのポップコーンが一粒飛び出した。 それは物理法則に反して浮遊し、私の手の中に落ちる…あっつ! 「ソラ食エ、騙サレ芸人!アッコラ、フーフースルナ!」 「だ、誰が騙され芸人ですか!…あつつ!」 ポップ・ガイにそそのかされて、私は熱々のポップコーンを口に運んだ。 …結構しょっぱい。そして胸焼けするほど油っこい。けど、麻薬的な美味しさ。 アメリカ人の肥満率が高い原因の片鱗に触れた気がする。
ポップコーンを嚥下すると、私の足元で、影が独りでに蛇の目模様を描いた。 「これは…」 見覚えがある。安徳森さん…ファティマンドラの種に見られる模様だ。 ジャックさんはマスクを被ったまま、スイッチを切った。 「そいつはファティマの目、トルコではナザール・ボンジュウと呼ばれるシンボルだ。 邪悪な呪いや視線を跳ね返し、目が合った悪しき魂を抜き取る力がある。 あのクソの脳内地獄で、安徳森が俺達タルパを保護するためにばら蒔いてたやつだ。 あんたが本気で金剛ナントカと戦うつもりなら、持っていけ」 蛇の目模様は影に沈んでいった。 つまりジャックさんのポップコーンは、彼の命を構成する欠片だったようだ。 「ありがとうございます」 私はファティマの目という霊能力を授かった。
ジャックさんが再びスイッチを入れる。 「次ハオ前ダゼ、ジョージ・アルマン!」 ガコンッポン!射出された新たなポップコーンは、譲司さん目がけて飛んでいった。 アルマンは、譲司さんがイスラエルに住んでいた時の��姓だ。 「あっつ、はふっ…ん? …ポップコーン種総量に対してバターが七〇%、レッドチェダーパウダーが五%、更に米油が…って、嘘やろ!?こんなに油使うん!?」 「バッカ、この野郎!読み上げるんじゃねえ!企業秘密だぞ! 養護教諭になるなら美味いポップコーンの一つも作れねえと、ガキ共にナメられるだろ」 「せ…せやな…?けどこれ、食べさせすぎたらあかんやつや! ほどほどに振る舞わせて貰うわ、ありがと」 譲司さんが授かった魂の欠片は、ポップコーンの秘伝レシピのようだ。 いずれバリ島に遊びに行って、ご馳走になりたいな。
お次はオリベちゃんだった。 <うわ、確かに凄くジャンクな味だわ。 これは…ああ、懐かしいなあ…!> オリベちゃんは目を煌々と輝かせて、ぼーっと中空を眺める。 「ちょっとアナタ、何が見えてるの?一人で浸ってないで教えてよ、ねーェ」 リナがオリベちゃんの眼前で手を振った。 <ごめんごめん。あまり懐かしいものだから… 私が貰ったのは、これ。テルアビブ・キッズルームの、たくさんの楽しかった思い出よ> オリベちゃんが淡い紫色に発光し、周囲がテレパシー幻影に包まれた。
オーナメントやおもちゃで彩られたカラフルな家で、様々な脳力を持つNICの子供達が遊んでいる。 人形ジャックさんは、幽霊の女の子とアドリブで物語を話し合い、それを器用そうな男の子が絵本に綴る。 幼いオリベちゃんは、人に感情を与えるエンパス脳力者の女の子と、脳波をぶつけ合いながら睨めっこをしている。 その勝敗を判定しているのは、弱冠八歳で医師免許を持つ天才少年だ。 部屋の奥では彼らの様子を、二人の優しそうな養護教諭さんが暖かい視線で見守る。 「まあ。アナタ、子供の頃から素敵なファッションセンスしてたのね」 <もちろん!なにせテレパシー使いはシックスセンスが命だもの!> 「うふふふ」 こうしてリナと会話するオリベちゃんを見ると、彼女のキラキラした笑顔は子供の頃から変わらないものだったんだとわかる。 『出てこいよ、ジョージ。みんないるぞ』 長い髪のサイコメトラーの少年が、クローゼットの扉をノックした。 すると、中から…分厚い眼鏡をかけた小柄な男の子が、前髪で顔を隠しながら、遠慮がちに現れた。 「オモナ!ヘラガモ先生、とてもちっちゃいなカワイイ男の子だったの!」 イナちゃんが両手を頬に当てた。確かに子供の譲司さんは、精悍な今の顔からは想像がつかないほど可愛い。 というより、先程のサイコメトラーの少年…例の殺された『アッシュ兄ちゃん』の方が、大人になった譲司さんによく似ている。 この二人の少年の魂が混ざりあって、今の彼があるという話を、まさに象徴しているようだ。
「ねぇジャック、アタシ達にはないの?」 「わう!わう!」 リナとポメちゃんがジャックさんの周りをくるくる回る。 「ア?ドーブツ共ニヤルポップコーンハネエヨ、帰ッタ帰ッタ」 「馬鹿野郎、ポップ・ガイ。宇宙人のお客様なんて上客じゃねえか。無下に扱うんじゃねえぞ」 「ショーガネー、コイツヲ食ライナ!」 器用にポップコーン機構を操作しながらマスクスイッチを切り替え、ジャックさんが腹話術を披露する。 ガコンッポポン!射出された二粒のポップコーンはそれぞれ異なる軌道を描き、リナとポメちゃん目がけて飛んだ。 「先に言っておくとな。リナ、あんたには、水家の中にいたタルパ共の情報だ。 あいつは記憶を失った後も、金剛の呪いの影響で、無意識にあらゆる霊魂を脳内地獄に吸収していた。 人間だけじゃなくて、土地神やら妖怪やら色んな奴を吸い取っていたから、見ていて退屈しなかったぜ。 タルパを作るのがあんたの本能なら、何かの役に立つかもな。だが物騒な怪物だけは作るんじゃねえぞ」 「わかってるわかってるゥ!ああっ凄いわ! ツチノコからゾンビまで…あーっ妖怪亀姫もいるじゃない!」 妖怪亀姫って…猪苗代湖を守る神様の一人じゃん。 まさか、ハゼコちゃんが暴れた時に逃げ出して、そのまま水家に魂を奪われたとか!? 私、昨晩とんでもない方を成仏させちゃったかも…リナが福島の神々を再建してくれる事を祈るばかりだ。 「ポメラー子のは夢の中で発現する。フロリダの農村の記憶だ。 何も無くてだだっ広いだけのクソ田舎だと思っていたが、犬にとっちゃ最高のドッグランになるだろうよ」 「ほんま最高やん!良かったなあ、ポメ。俺仕事さっさと済ますから、今夜は早く寝ような」 譲司さんがポメちゃんの頭を優しくなでた。ポメちゃんは黙々とポップコーンを食べている。 彼女と譲司さんが夢の中の大自然で駆け回る、微笑ましい光景が目に浮かんだ。
「じゃあ、最後はお前か」 ジャックさんがイナちゃんを見る。でも、イナちゃんは目を逸らした。 「私いらない」 「あ?」 マスクスイッチをオン。 「バカヤロー、オ前。俺ノポップコーンガ食エネエッテカ? 安心シロ、幽体デデキテルカラ、カロリーゼロダゾ」 「いらないもん」 「アァ!?」 スイッチオフ。 「何なんだよ?」 「だって…食べたらジャックさん消えちゃう」 「!」
ジャックさんとポップコーン屋台は、既に薄れかけていた。 自分の魂を削って私達に分け与える度に、彼は少しずつ摩耗していったんだ。 ジャックさんがマスクを脱いだ。 「あのな、俺は二十年以上前に殺されたんだ。もうとっくにいない筈の人間なんだよ。 だから、そんな事気にするな」 「ウソ。じゃあどうして、ジャックさんずっと成仏しなかった? 本当は、オリベちゃん達が見つけてくれるの待てたでしょ」 「…どうだかな」 「せかく会えたなのに、どうして消えなきゃいけない? これからオリベちゃんの子供育つを見ればいい、これからヘラガモ先生バリで頑張るを、傍で見守ればいい! どうしてあなた今消えなきゃいけない!?」 イナちゃんが握りしめた両手が、ジャックさんの胸を無情にすり抜ける。 ジャックさんは掠れた幽体でその手を優しく掴んだ。 「イナ」 「!」 そして、初めて彼女を名前で呼んだ。
「霊魂が分解霧散する事を、仏教徒共がどうして成仏だなんて呼ぶか知ってるか? 役目を終えて砕け散った魂は、エクトプラズム粒子になって、自然界に還る。そして、新たな生命に吸収される。 宇宙の営みってやつだ。宗教やってる連中にとっちゃ、それは宇宙や仏と一つになる、尊い事なんだそうだ。 俺は既にジャック・ラーセンじゃねえ。クソ野郎に霊魂を切り貼りされた、人工のクソ怪物だ。 それでも…お前みたいなガキの笑顔に弱い性格は、生前と変わらなかったんだよなあ…」
ジャックさんの目から涙が零れ始める。彼の霊魂が更に希薄になっていく。 「…オリベ。ジョージ。俺の事…諦めずに見つけてくれて、ありがとう。 おかげで、お前らと遊んだ記憶をまた思い出せた。 歪な関係だったけど…短い時間だったけど…クソ楽しかったよな。 …なあ、イナ。そんな顔するなよ。魂を清めるのが、お前の力なんだろ? だったら祈ってくれよ。俺が世界中に飛び散って、宇宙と一つになって、もっともっと沢山のガキ共を笑顔にできるように。 綺麗な花を咲かせる生命力になって。人間を動かすハッピーな感情になって。…最高に美味ぇポップコーンになって。 スリスリマスリ…って、祈ってくれよ。頼む…!」 ガコンッ!コロロロ…ぼろぼろに涙を零し、声をきらしながら、ジャックさんは最後のポップコーンを作った。 それはポップ・ガイの口から力無くこぼれ落ち、イナちゃんの足元を転がる。 「…頼むよ…」
イナちゃんはしゃがみこみ、そのポップコーンをそっと拾い上げた。 それはもはや喫煙具から立ち昇る煙のように、今にも消えてしまいそうな朧な塊だった。 「スリスリマスリ。スリスリマスリ」 ポップコーンはイナちゃんの両手に優しく包み込まれ、そのまま彼女の魂に溶けた。 「…それでいい。カナヅチは今日で卒業だ。もう溺れるんじゃねえぞ」 「ウン」
「イナ」 抱き合って、ぼろぼろに泣く二人。イナちゃんは顔を上げた。 ��れ行くジャックさんが、半魚人から人間の顔になる。 水家に似せられた髪型や背格好。ただ、彼はよりがっしりとした体格で、首が太く、彫りの深い黒い目を持つインド・ネパール系人種の男性だった。 「ジャックさん」 「…おっと、違う。これじゃねえ。これも作られた顔だったな」 魂がほぐれていくにつれ、より深層に眠っていた、彼の自意識があらわになる。 ジャックさんは、ジャック・ラーセンさんは、私達の前で初めて素顔を見せた。
「アイゴー…!」 「な、諦めがついたか?俺みたいなチンピラにこだわってねえで、もっと良い男を見つけろよ、イナ」
最後にそう言って、ジャック・ラーセンさんは分解霧散した。 本来の彼は…殺人鬼の言う通り、確かにちょっと魚っぽかったかも。 全身を鱗��ような細かいタトゥーで覆い、オレンジ色に染めたモヒカンを側頭部に撫でつけ、ネジや釘が煩雑に飛び出した屋台やマスクと同じようにピアスまみれな… 言うなれば、ポップ・ガイのお父さんみたいな人だった。
こうして、私達は熱海町を後にした。 リナは千貫森に帰り、タルパ仲間と共に福島のパワースポットを復興する。 オリベちゃんは水家の遺体と共にドイツへ飛び、譲司さんはバリ行きを延期して警視庁公安部に向かう。 その間、イナちゃんは私の家に泊まって待機する事に。私の次のスケジュールは…連ドラ『非常勤刑事(デカ)』のロケで福井へ行くのが、明明後日。それまでは自由だ。 そして明日は私の誕生日!やっとイナちゃんと渋谷や原宿で遊べるぞ。 私はそう思っていた…渋谷スクランブル交差点にあのロリータ服の悪魔が現れるまでは。
◆◆◆
十一月六日、正午〇時。 ヴー、ヴー…トートバッグ内でスマホが震えた。画面には、『イナちゃん』。 「紅さん鳴ってるよ、ほら出てあげなさいよ」 ディレクター兼カメラマンのタナカDが、ファインダーを覗いたまま言う。 私は不貞腐れて電源を切った。 「二十歳になったのに、まだまだ大人げないなー。ま、ヘリコプターは機内モードってのも正解だけどね」 座席にふんぞり返ったアイドル、志多田佳奈さんが言う。 「私はヘリに乗せられるだなんて聞いてないです。 どうして誕生日にこんな所にいなきゃいけないんですか」
ここは東京上空千メートル、小型ヘリコプターの中。 だいたい私は非常勤刑事のロケで福井に行くんじゃ…多分、それすら事務所が用意した偽スケジュールなんだろうけど。 今度、ドラマ主演の伶(れい)先輩に言いつけてやるんだから! そもそも、どうしてこんな事になったのか。それは遡ること二時間前。
私はイナちゃんを連れて、竹下通り(たけしたどおり)でウインドウショッピングをしていた。 あそこはロリータファッションの聖地で、個人的にロリータにはあまり良い思い出がないから、普段足を踏み入れる事は無い。あくまで観光地だから連れて行くんだ。 そう思っていたけど、実際に行くと、普通に楽しかった。 猫の額ほど狭い路地に、各種ファストファッションの直営店から、煩雑なノーブランド品を売るセレクトショップまで所狭しと詰め込まれている。 更に中空には、死後ポップな姿を取るようになった霊魂や、人々の感情の結晶らしき可愛いモンスター、誰かが作ったマスコットタルパなどがひしめき合い、イナちゃんがそれを見て飛び跳ねながら歓喜する。 さながら多感で繁忙な思春期の女子高生の心を、そのまま結界にしたようなカオス空間だった。
服やアクセサリーなど、両手に戦利品入り紙袋を大量に持って、私達は電車で渋谷駅へ。 (この時、やたらめったら嵩張るロングブーツを二足も買って後悔したのは、言うまでもない。) そのまま観光を続行するのは難しいため、荷物は駅中にある宅配サービスカウンターに預ける事に。 ついでにイナちゃんが、コインロッカーからスーツケースを取り出し、それもバリへ配達して貰えるように手続きしたいと言う。
「テンピョウ書けました、お願いします」 「はい、少々お待ち下さい」 私はカウンター脇でイナちゃんが送り状を預けるのを眺めていた。 スーツケースの分と、原宿で買った荷物分。 「あと、これもお願いします」 「はい、かしこまりました」 ん、もう一枚?覗きこんでみると、そこにはこう書かれていた。
『お届け先 ゆめみ台 志多田佳奈様 品名 紅一美 ナマモノ/コワレモノ/天地無用 お届け希望日 今日 したたび通運』
『ヌーンヌーン、デデデデデン♪ヌーンヌーン、デデデデデン!』 天井スピーカーから阿呆丸出しなイントロが聞こえてくると同時に、私は条件反射でイナちゃんを置いて宅配カウンターから逃走していた。
『ヌーンヌーン、デデデデデン♪ヌーンヌーン、デデッデーン!』 階段を下り外に出る。こんなところで捕まってたまるものか。
『背後からっ絞ーめー殺す、鋼鉄入りのーリーボン♪』 出口付近にある待ち合わせスポット、モヤイ像が見えた。 …奇妙な歌を垂れ流すスピーカーと、苺の髪飾り付きツインテールが生えている。あのロリータ悪魔のシンボルが。私は血相を変えて更に走った。
『返り血をっさーえーぎーる、黒髪ロングのカーテン♪』 私を嘲笑うアイドルポップと、ただただスマホカメラを向ける無情な喧騒。 それらはまるで、昨日までの旅を締めくくるエンディングテーマのようだ。 但し、テレビ番組ではエンディング後に次回予告が入る。
『仕込みカミッソーリー入りの、フリフリフリルブラーウス♪』 そして次回が来たら、また過酷な旅に出なければならない。 嫌だあああぁぁ!行きたくないいぃぃ!! 私はイナちゃんと渋谷で遊んで、お誕生日ケーキを食べて、空港に見送りに行って、お家に帰ってゆっくり寝て、福井で女優をするんだああぁぁぁ!! ていうか考えてみたらイナちゃんもグルだったあああぁぁぁ!!!裏切り者おおおぉぉぉぉ!!!
『防刃防弾仕ー様の、コルセットーもー巻ーいてる♪』 スクランブル交差点に、爆音を撒き散らすアドトラックが現れた。…天井に、なんか生えてる。 『…ご通ぅぅぅ行ぉぉぉ中の皆様あああぁぁ!!』 渋谷駅に響き渡るロリータ声。諸行無常の響きあり。 ドゴッ!…体が乱暴にすくい上げられたような浮遊感。背後を振り向くと、宅配業者制服の男達が私を神輿みたいに担ぎあげている。 「オーエス!��ーエス!」 『こんにちはァー、したたび通運でーーーす!!』 私はあれよあれよとスクランブル交差点へ運ばれ…トラックに集荷された!
『あーあー♪なんて恐るべきー、チェリー!キラー!アサシンだ!』 「何!?何!?何なんですか!!?」 男達が私に何かを背負わせ、トートバッグごとベルトで固定していく。 目の前では、いつの間にか宅配業者制服に着替えたイナちゃんが敬礼している。 「ヒトミちゃん、したたび通運空輸便だヨ!」 「え?は?は!?」
『破壊されしーオタサーからー…』 トラック天井に運ばれる。棒とロープが生えたバルーンクッション。 ああ。空輸便って。察した。『…遺族ーのー声はー確かに届ーいたー♪』
…わたし 童貞を殺す服を着た女を殺す服を作るよ もっともっと可愛くて 殺傷力も女子力も高い服を…
サビに差し掛かったアイドルポップが遠ざかっていく。 私は…飛んだ。逆バンジージャンプで射出されて、渋谷のど真ん中で空を舞った。 あーあ、結局また騙された。ばーかばーか。テレビ湘南に水家曽良の腐乱死体送りつけてやる。ばーかばーか。
そして無限にも思える長い一瞬の後、私は再び渋谷の地へ…落ちず。 なんとそのまま、上空を旋回していた小型ヘリに空中で捕縛され、拉致されてしまったのだ…。
「はーい、ドッキリ大成功!毎度おなじみ、志多田佳奈のドッキリ旅バラエティ、したたびでーす!」 放心状態の私をよそに、悪魔的極悪ロリータアイドル、志多田佳奈さんが『ドッキリ』と書かれたプラカードを掲げた。 異常が、事の顛末だ。(これは誤字じゃない。異常なんだ。) 「ちなみに今回のドッキリは視聴者公募で、ペンネーム『ビニールプール部』さんのアイデアをやらせて頂きました!ありがとうございました~!」 「何が視聴者公募ですか。あんた達全員ビニールプールに沈めてやろうか!? だいたい、どうしてイナちゃんまでグルなんですか!」 「あの子はねぇ」 タナカDが画角外から、私と佳奈さんの会話に割って入る。 「昨夜SNSに紅さんと福島観光してる写真をアップしてたから、アポを取ってみたら、あっさり快諾してくれてですね。 今日あなたが渋谷に行く事も洗いざらい教えてくれたよぉ。『カナさん一番好き日本のアイドル!』とか言ってね」 げ、そうだった!忘れてたあああぁ!! 宅配サービスカウンターに行くのも予定調和だったのかあぁぁ!! 「目的地に着いたら電話かけ直してあげなさいよ」 「目的地じゃなくて渋谷に帰して下さい」 「そう言うなよ、一美ちゃん。 今日から記念すべき新企画が始まるんだから」 「新企画?」
佳奈さんが座席の下からフリップを取り出す。 おどろおどろしいフォントで『調査せよ!綺麗な地名の闇』と書かれたフリップを。 「じゃじゃーん!新企画、『綺麗な地名の闇』!」 「何ですか、物騒な…」 「一美ちゃんはさ、ゆめみ台って行ったことある?」 「ゆめみ台?電車の乗り換えで通っ���事ぐらいはありますけど」 「ゆめみ台の旧地名は知ってる?」 「知らないです」 「ジャジャン!これです」 佳奈さんがフリップ上の『ゆめみ台』と書かれたポップなシールをめくる。 するとネガポジ暗転カラーで『蛇流台』と書かれた文言が現れた。 「じ…じゃりゅうだい…」 「蛇流台a.k.a.(アスノウンアス)ゆめみ台は、元々土砂崩れが起きやすい場所だったんだって。 だから今は人が住めるように整備されて、ゆめみ台って綺麗な地名になった。 それって涙ぐましい努力の歴史だと思わない?」 「はぁ」 「そこでね!この企画では、そーいう一癖あるスポットのいい所も暗部も、体を張って紹介していけたらなーって思うの! というわけで一美ちゃん、今日はゆめみ台国立公園でロッククライミングね」 「ああはいはい…はい!?」 「大丈夫!もう蛇流台じゃなくてゆめみ台だから崩落しない!」 「それ以前の問題です!ロッククライミングなんてやった事ないですよ!? どーして突然拉致されて、挙句崖まで登らなきゃいけないんですか!? 私まだ一昨日までの疲れが抜けてないんです!!」 「え?一昨日まで何してたの?」 除霊…とはさすがに言えない。 「…徹夜で…別番組の、廃墟探索ロケ」 「あ、その企画いいね」 しまった!鬼に金棒を与えちゃった! 「い、いえ、私はクライミングがいいな!その方が健康的だし!」 「ひょっとして一美ちゃん、お化けが怖かったのかい?」 「うるさい!」 カメラ外からタナカDにチャチャを入れられた。 怖いも何も、実際は私が分解霧散させちゃったけど。 そんな事より…
私はフリップ下部に書かれた幾つかのご当地ゆるキャラ達を見ていた。 ゆめみ台の物と思しき台形のパジャマ姿の子や、他にも鳩みたいなもの、犬みたいなものもいる。 その中に一つだけ異質な…毛虫らしきキャラクターを見て、私は戦慄を禁じ得なかった。 灰色の毛、歯茎じみた肌、潰れた目、黄ばんだ舌… 似ている。金剛倶利伽羅龍王に、あまりにも似ている。 「佳奈さん。この下に描かれたゆるキャラ達…まさか、今後これ全部まわるんですか?」 「ん?知ってるキャラがいた?」 どうやら…私に休息の時はないみたいだ。 これもイナちゃんが導いた、『気』の巡り合わせなのかもしれない。
金剛有明団、きっとすぐ近い将来相見える事だろう。 私はトートバッグの中で、静かにプルパ龍王剣を燃やした。
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It updated, that's the next hour or two sorted. Life holds myriad kindnesses and this author's steady writing pace is enviable.
#the author's note at top also says the next chapter will hopefully be 'for adults'#my cup runneth over#天使の梯子 pixiv
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Okay, instead of whining more about wanting to talk about something I can't share with anyone else, I translated about 70% of one of the chapters of the story I keep talking about. Badly. It's real bad. But, you know, better to have words on the page? I think?
#i will persevere#i *will* get someone else to read this#i *will* get to talk about how sometimes the best sex scenes are the ones where they fail to have sex#and end up in a position that's wildly more vulnerable#it will happen. i've got this. i *can* figure out how to make majima sound natural#i *will* figure out how to correctly word this euphemistic reference to impotence#i will *not* be defeated by endlessly long sentences so loaded with dependent clauses that i want to curl up and die#i do *not* have a headache#i will *not* be tired during my very important work meeting tomorrow morning#天使の梯子 pixiv
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Re: the tags on my last post, I really respect an author who just comes out and says "This story's gonna be sad all the way through and it won't end happily either." No false hope, no beating around the bush, everything clear right from the jump. Every sweet and carefree scene has an edge, every spat and altercation builds towards the inevitable heartbreak. I can't take refuge in pretending that there's a magic trick coming that'll make it all work out somehow. It's a bitch and a half, let me tell you.
#i am a tragedy dilettante at best#i want to suffer for awhile and then end with (complicated?) hope or joy or relief or whatever#so part of me is reading this going 'man what am i even doing'#but i really do respect it#i appreciate that it's building a deep emotional connection while underscoring that that isn't enough#which really fits the source material#damn i really want to talk about this story#i've backed myself into a hell of a corner here with the combo of decade-old game/unpopular ship/foreign language fic#天使の梯子 pixiv
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天使の梯子4
「──私達は色んなもの奪われちゃったね。目とか、お兄ちゃんとか、普通の人の心とか、自分の身体の機能とか。いつか戻ってくるかもしれないものもあるし、もう二度と戻らないものもある。だけど、貴方も私も生きてちゃだめってわけじゃない」 「そら……そうや。勿論、お前は生きなあかんよ…」 彼は怪訝そうに首を傾げながらも応じた。 「私は貴方の話もしてるんだよ。話逸らさないで」 ぴしゃりとそう言い放たれて、真島は黙り込む。 「一生分傷ついた。もう十分だよ」 淡い光を宿すマコトの瞳に吸い寄せられる。真島はまるで縋る様に、彼女の上に身を沈めた。 耳元にさざめく優しい声。 「吾朗さん」 息が、止まる。 「世界で一番、貴方が大事。もう誰にも、傷つけさせないで」 首を強く締め上げられた時にも似た苦し気な、軋むような呻き声が遠くから聞こえた。それが誰の声だか真島にはわからなかったが、ただ己の喉がひどく灼け爛れていることだけは知っていた。
Putting this excerpt here to remind me to come back and translate it, because it hurt me and I don't want to suffer alone.
#this whole story has been painful (the tagline is 'the slowly deteriorating relationship of two people who live for fleeting happiness')#but this is my favorite scene so far#tbh it's been nice to work through this at a snail's pace#as opposed to the breakneck speed I read at normally#every scene lingers#i haven't loved everything about it but the parts I do like feel like they've really saturated my brain or some shit#like a scene where majima says to makoto offhand that food tastes better since she's come along#changed my wiring a bit#天使の梯子 pixiv
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ひとみに映る影 第五話「金剛を斬れ!」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
ポーポーポポポーポポポー…
「こちらは、熱海町広報です。五時になりました。 よい子の皆さん、気をつけてお家に帰りましょう…」
冬は日が沈むのが早い。すっかり暗くなった石筵霊山では、 防災無線から地元の小学生の声と、童謡『ザトウムシ』の電子リコーダー音だけが空しく響いている。 一方、霊山中腹に建つ廃工場ガレージで、私は…
「ピキィェェェーーーーッ!!!」 「紅さん、落ち着いて下さい!」 「うっちゃあしぃゃあぁあーーー!!こいつがあ!鼻クソッ!殺人鬼のクソ!私の口、口にッ! お前も間接クソ舐めろゲスメド野郎おぉぉ!!こねぁごんばやろがあぁぁあああああああ!! キエェェーーーーッ!!」
その時私は言葉にならない奇声を上げながら、皮を剥かれた即身仏ミイラに向かって、半狂乱で錆びついたグルカナイフを振り回していた。 そこそこ大柄な譲司さんや、ガタイの良いアメリカ半魚人男性の霊を憑依したイナちゃんに取り押さえられていたにも関わらず、 どこから出ているかわからない力で、ミイラをジャーキーになるまで切り刻もうと試みていた。
そのまま体感二分ほど暴れ、多少ヒスが冷却してきた頃か。 突然ガレージ外からオリベちゃんがツカツカと近寄ってきて、
「!」
私の顎を強引に掴み上げた。 ラメ入りグロスを厚く塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
「んっむ…オ…オリベちゃん…!?」 <同じライスクッカーからゴハンを食べる、それが日本流の友情の証だそうね> 同じ釜の飯を食う?まさか、彼女も見てたのか。あの衝撃的なサイコメトリー回想を。 それでいてなお…私の汚い口に、キスを…? <それが何?子育てしてたら鼻吸いぐらいよくやる事よ。 だ���か(『逆に』を意味するヘブライ語のスラング)、これであなたも私のベイビー達の鼻水と間接キスしちゃったわね!> 嘘つき。今時医療機器エンジニアが、だぶか鼻吸い器も使わずに育児するわけがない! 私の思っている事を読み取った彼女が、テレパシーで優しい嘘をつきながら私を抱きしめてくれたんだ。 「お…お母さぁん…!」 これが人妻の魅力か。さりげなくナイフは没収されていた。
<ほらジャック、あんたもよ!> 「は!?」 次にオリベちゃんは、イナちゃんの肉体からジャックさんを引っ剥がして私に宛がった。 互いの唇が触れ合っている間、ジャックさんのコワモテ顔がみるみる紅潮していく。 「ぶはッ!」 唇が離れると、ジャックさんは実体を持たない霊魂にも関わらず、息を吸う音を立てた。 そして赤面したままそっぽを向いてしまった。 「や…やべえ、俺芸能人とキスしちまった…!」 たぶん彼は例のサイコメトリーを見ていないんだろう。ちょっと悪い事をした気分だ。
しかしオリベちゃんは既に譲司さんまでも羽交い絞めにしていた。 <コラ怖気づくんじゃないわよ!> 譲司さんは必死に抵抗している。 「そうやなくて!さすがに俺がやるとスキャンダルとかがあかんし…」 <男でしょおおおおおおぉぉぉ!!?> 「ハイイィィィィ!!!」 次の瞬間、譲司さんはとても申し訳なさそうに私と接吻を交わした。 そのまま何故か勢いでリナやポメちゃんともチューしちゃった。
全員が茫然としていると、いつの間にか意識を取り戻していたイナちゃんが私を背後から押し倒した。 「きゃっ!イナちゃん!?」 「みんなだけズルい!私もチューするヨ!」 そ、それはまずい!私はプロレスの手四つみたいな姿勢でイナちゃんを押し返そうとする。 「違うのイナちゃん!これにはわけが…うわーっ!!」 しかしなす術なく床ドンされ、グラデーションリップを精巧に塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
互いの唇が離れるのを感じて私は薄目を開けると、 目の前ではイナちゃんが『E』『十』の手相を持つ両手の平を広げていた。 「これ。ロックサビヒリュのシンボル」 肋楔の緋龍。さっきサイコメトリー内で、肉襦袢の不気味な如来が言っていた言葉だ。 どうして彼女がそれを? 「…見てたの?」 「意識飛んで、暗いトンネルでヒトミちゃんとヘラガモ先生追いかけた。 そしたらアイワズが、赤ちゃんのヒトミちゃんに悪さしてた」 アイワズ?もしかして、あの肉襦袢の事?イナちゃんは何か知っているのか…。
すると突然ポメラー子ちゃんが「わぅ!」と小さく鳴き、動物的霊感で床に散らばった半紙の一枚を選んで口に咥えた。 そのまま彼女はそれを私達の足元に置く。半紙には『愛輪珠』と書かれていた。 「これ、小さい頃私が書いたやつ…!」 「愛輪珠如来(あいわずにょらい)…」 譲司さんが呟いた。その語感は、忘れ去っていた私の記憶の断片とカチリと噛みあった気がした。
イナちゃんも、別の半紙を一枚拾い上げる。あの『E』『十』が書かれた半紙を。 「私、悪いものヒキヨセするから、 子供の頃から、韓国で色んな人見てもらってた。 お寺、シャーマン、だめ。気功行った、教会で洗礼もした。だめだった。 でも幾つかの霊能者先生、みんな同じ事言うの…コンゴウの呪いは誰にも治せないて」 私と譲司さんが同時にはっとする。 金剛…愛輪珠如来に続いて、またイナちゃんの口からサイコメトリーと合致するキーワードが飛び出した。
「まえ、気功の先生こっそり教えてくれた。地面の下はコンゴウの楽園あって、強い霊能者死ぬとそこ連れて行く。 アジアでは偉い仏様なアイワズが仕事してて、才能ある人間見つけると、 その人死ぬまでにいっぱい強くなるように、呪いかけていっぱい霊能力使わせる。 私のロックサビヒリュもそれで付けられた。 それ以上は私あまり知らない。たぶん誰もよく知らないこと思う」 地底に金剛の楽園?まるで都市伝説みたいだ。 でも、その説明を当てはめれば、愛輪珠如来と赤僧衣がしていた会話の意味が、なんとなく理解できる。
「なんだそりゃ。じゃあお前の引き寄せ体質は、呪いとやらのせいだったのか?」 ジャックさんの眉間に微かな怒りのこもった皺が寄った。 「うん。私、本当は悪い気をよける力使いヨ。でも心が弱ると、ヒリュが悪さするんだ!」 イナちゃんは悪霊を引き寄せた時と同じように、両手をぎゅっと固く握り合った。 今の私達はもう、この動作の意味を理解できる。 これはキリスト教的なお祈りのポーズじゃなくて、両掌に刻まれた呪いを霊力で抑えこんでいたんだ。
「…ねえアナタ」 突然リナがイナちゃんに問いかける。 「高校生ぐらいよね?年はいくつ?」 「オモ?十六歳だヨ」 「1994年生まれ?」 「そだヨ」
リナは暫く神妙な顔つきで何か考え、やがて口を開いた。 「どうやら、アナタにも…いいえ。 もうこの際、この場に集まった全員に知る権利があるわね」 そして顔を上げ、私達全員に対して表明した。 「紅一美と即身仏、そして倶利伽羅龍王について。アタシが知ってる事洗いざらい話すから、よく聞きなさい」
◆◆◆
1994年、時期は今と同じく十一月頃。アタシは紅一美という少女によって生み出された。 いや、正確には、アタシは石筵霊山に漂う動物霊の残骸をアップサイクルした人工妖精だ。 当時はまだ、リナという名前も人間じみた知性も持っていなかった。
アタシは与えられた本能に従って、自分を本物の鳥だと信じて過ごしていた。 そんなある日、金色の炎を纏った大きな赤い蛇に襲われて、食べられそうになった。 アタシはソイツを天敵だと見なして、無我夢中で抵抗した。
結論を言うと、ソイツはこっちが情けなくなるぐらい弱っちかった。 というより、戦う前から手負いだったみたい��� 返り討ちされたソイツは、アタシを説得するために知能を与えて、こう語りだした。
「俺様は金剛の魂を金剛の楽園へ導く緋龍、その名も金剛倶利伽羅龍王だ。 本来ならお前如き軽くヒネってやれるが、今の俺様は裏切り者に大事な法具を盗まれ、満身創痍なのだ。 お前を生み出した者の家から金剛の赤子の肋骨を持ってきてくれるなら、お前の望みを一つ叶えてやるぞ」 そこでアタシは、そのクリカラナントカと名乗ってきたソイツに、人間になりたいと祈った。 知能を授かって、自分が人工の魂だと知ったとき、自分も霊魂を創って生み出してみたいと思ったからだ。 でもクリカラは、「今の俺にそこまでする力はない」と言って、アタシの顔だけを人間に変えた。
アタシは肋骨を取り返しに行く前に、まず人里に降りる事にした。 一刻も早く人間の世界を知りたかったから。それに、人間の顔をみんなに自慢したかったからだ。 ところが霊感のある人間達は、みんなアタシを見ると笑った。クリカラはアタシに適当な顔を着けたのだと、その時初めて知った。 だからアタシは腹いせに、クリカラの目論見を全て『裏切り者』にチ���ってやろうと考えた。
改めて自分が生み出されたガレージに戻ると、アタシは初めて内部に仕組まれたトリックアートに気付いた。 そのガレージ内は、なまじ霊感の強い人間が見ると、まるでチベットの立派な寺院みたいに見える幻影結界が張られていたの。 緑のトタン壁や積み上がった段ボールは、極楽絵図で彩られた赤壁とマニ車に。 黄ばんだ新聞紙の上に砂だらけの毛布が敷かれただけの床は、虎と麒麟があしらわれた絨毯に。 中央に置かれた不気味なミイラは、木彫りの立派な観音菩薩像に。 人間の霊能者並の知性と霊感を得たアタシにも、それは見えるようになっていた。
すると、漆塗りのローテーブル、もとい、ベニヤ板を乗せたビールケースの上で物書きをしていた小さい子が、元気よく立ち上がった。頭は丸坊主だけど女の子だ。 その子に…一美によって生み出されたアタシには、女の子だとわかった。 「書けた!和尚様、書けましたぁ!」 幼い一美は墨がついた手で半紙を掲げる。そこに書かれているのは少なくとも日本語じゃない、未知の模様だ。 すると観音像から白い気体が浮かび上がり、とたんに人間形の霊魂になった。
「あぁ…!」 思わず感嘆の息が漏れた。その霊魂は、結界内の何よりも美しかったのだ。 赤い僧衣に包まれた、陶器のような滑らかで白い肌。 まるで生まれつき毛根すらなかったかのような、凹凸や皺一つない卵型の頭部。 どの角度から見ても左右対称の整った顔。 細くしなやかで、かつ力強さをも感じ取れる四肢…。 これこそ真の『美しい人』だと、アタシはその時思い知った。 和尚、と呼ばれたその美しい人は、天女が奏でる二胡のような優��な声で一美と会話したのち、アタシに気付いて会釈をした。
一美が昼寝を始めた後、その美しい人はアタシに色々な事を語った。 その人の名前は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)、生前は違う名を持つチベット人の僧侶だったらしい。 金剛観世音…(ああ、面倒ったらしいわ!次から観音和尚でいいわね!)は生前、 瞑想中に金剛愛輪珠如来と名乗る高次霊体と邂逅した。 その時、如来に自分の没後全身の皮膚を献上するという契約を交わし、悟りを開いて菩薩になった。 皮膚を献上するのは、死体に残留した霊力を外道者に奪われなくするためだと聞かされて。 だけど、実際はその如来や、如来を送りこんできた金剛の楽園こそ、とんでもない外道だったの。
イナちゃんが話していた通り、愛輪珠如来はアジア各地の霊能者に、苦行という名の呪いや霊能力、特殊脳力を植えつけていた。 しかも金剛の者達は、素質のある人間は善人か悪人かなんてお構い無しに楽園へ迎え入れる方針だった。 それこそ、あの殺人鬼サミュエル・ミラーだって対象者だった。 そして、サミュエル・ミラーが水家曽良となって日本に送られてくると、 金剛の楽園で水家の担当者は愛輪珠如来になった。
だけど、愛輪珠如来と幽体離脱した観音和尚が水家の様子を検めた時、水家はNICの医師達によって、既に脳力や霊能力を物理的に剥奪されていた。 そこで如来は、水家と同じ病院で生まれた一美に、水家の霊能力を無理やり引き継がせたの。 それだけじゃ飽き足らず、一美の肋骨を一本奪って、それを媒介に、呪いの管理者である肋楔の緋龍を生み出すよう観音和尚に指示した。 観音和尚はここで遂に、偽りの仏や楽園に反逆する決意をしたのよ。
彼は如来の指示に従い、石英を彫って、緋龍の器となる倶利伽羅龍王像を作った。 但し、一美の代わりに自分の肋骨を自ら抜き取って、それを媒介に埋め込んだ。 この工作が死後金剛の者達に気付かれないように、彼はわざわざ脇腹の低い所を切って、そこから自分の体内に腕を潜らせて肋骨を折ったの。 そして一美の肋骨は、入れ替わりに自分の体内に隠した。
観音和尚は脇腹から血を流したまま七日七晩観音経を唱え続けた後、事切れて即身仏となった。 すると即座に生死者入り混じった金剛の者達が現れ、契約通り彼の遺体から生皮を剥いでいった。 霊力を失い、金剛の楽園にとって価値がなくなった遺体は、心霊スポットとして名高い怪人屋敷のガレージに遺棄されたわ。
一方何も知らないクリカラは、一美のもとへ向かっていた。 そして一美に重篤な呪いをかけようとしたその瞬間…突然力を失った! クリカラが自分の肋骨は一美のものではないと気付いた時にはもう遅かったわ。 仕方なくクリカラは、一美を呪う事を一時断念して、金剛の楽園へ退散した。
観音和尚はアタシに以上の事を打ち明けると、穏やかな顔で眠る一美の頬をそっと撫でて、続きを語った。
没後、裏切り者として金剛の楽園から見放された観音和尚は、怪人屋敷に集う霊魂や人工精霊達に仏の教えを説いて過ごしていた。 そして���年の歳月が流れた1994年、彼のもとに、不動明王に導かれし影法師の女神、萩姫が現れた。
「どういうわけか、金剛倶利伽羅龍王が復活しました。 龍王は県内各地のパワースポットを占拠して力を得ています。 一美は私達影法師にとって大切な継承者ですが、磐梯熱海温泉を守る立場の私は龍王に逆らえません。 どうか彼女を救うのを手伝って下さい」
これはアタシの想像だけど…クリカラは同時期韓国で、新たな金剛のターゲット、イナちゃんから力を奪ったんじゃないかしら。 萩姫に導かれ、観音和尚が猪苗代の紅家に向かうと、一美の胸元には確かに緋龍のシンボルが浮かび上がっていた。
観音和尚と一美の家族は協力してクリカラを退けたが、少ない霊力を酷使し続けた彼の魂はもう風前の灯火だった。 クリカラが完全に滅びていない以上、一美がいつまた危険に晒されるかわからない。 だからアナタの両親は、アナタを一人前の霊能者にするために、観音和尚に預けたのよ…。
◆◆◆
「以上、これがアタシの知っている事全て」 リナは事の顛末を語り終えると、改めて全員と一人ずつ目を合わせた。 私をさっきまで苦しめていた色んな感情…不安や悲しみ、怒りは、潮が引くように治まってきていた。 「この話、本当なら、アナタが二十歳になった時にご両親が話す予定だったの。…ていうか、明後日じゃないの。アナタの誕生日。 はっきり言って、観音和尚はアナタの友達が猪苗代湖で騒ぎを起こした頃には既に限界だったわ。 だから彼は最後に、アタシを猪苗代へ遣わせたの。 それっきりよ。以来、二度と彼を見ていないわ…」
数秒の沈黙があった後、私は口を開いた。 「リナにとって…観音寺や和尚様は、美しかったんだよね?」 物理脳を持つ人間と違い、霊魂は殆ど記憶を保てない。 だから彼らは自分にちなんだ場所や友人、お墓、依代といった物の残留思念を常に読み取り、 そこから自分の自我目線の思念だけを抽出して、記憶として認識する。 リナがこの観音寺を美しいと表現したのは、単に私の記憶を鏡のように反射しただけなのか、それとも…。 「少なくとも、この場から思い出せる景色を見て、今アタシは美しいと感じたわよ」 「…そうなんだね」
お蕎麦屋さんの予約時間はもうとっくに過ぎているだろう。 けど、私は皆に一つお願いをした。 「すいません。十分…ううん、五分でいいんです。 ちゃんと心を落ち着かせたいので、少しだけ瞑想をしてもいいですか?」 皆は黙ったまま、視線で許してくれた。 「わぅ」 構へんよ。と、ポメラー子ちゃんが代表して答えた。
影法師使いの瞑想は、一般的な仏教や密教のやり方とは少し異なる。 まず姿勢よく座禅を組み、頭にシンギングボウルという真鍮の器を乗せる。 次に両手の親指と人差し指の間に、ティンシャという、紐の両端に小さなシンバルのような楽器がついた法具をぶら下げる。 その両手を向かい合わせて親指と小指だけを重ね、観音様の印相、つまりハンドサイ��を作れば準備完了だ。
瞑想を始める。目を瞑り、心に自分を取り囲む十三仏を思い描く。 仏様を一名ずつ数えるように精神世界でゆっくりと自転しながら、じっくり十三拍かけて息を吸う。 「スーーーーーー…………ッフーーーー…………」 吐く時も十三拍で、反対回りに仏様と対面していく。 ちなみに一拍は約一.五秒。久しぶりにやったけど、相当きつい。肺活量の衰えを感じる。 でも暫くすると…。
…ウヮンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン…
<何?何の音!?> 「この1/f揺らぎは…ああっ!紅さんや!」 私の頭上のシンギングボウルが一人でに揺らぎ音を奏ではじめ、皆がどよめいた。 実はこれは、影法師を操るエロプティックエネルギーという特殊な念力によるものだ。
…ワンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン… テャァーーーーーン…!
息苦しさと過度の集中力が私の体に痙攣を引き起こし、時折自然とティンシャが鳴る。 波のように揺らぎ、重なり合った響きが、辺り一帯を荘厳な雰囲気で包み込む。 その揺らぎを感じて、私も精神世界で変化自在な影になり、万華鏡のように休みなく各仏様の姿に変形し続けている。 私は影、私は影法師そのものだ。完全黒体になれ。 そして心まで無我の境地に達した時、この身に当たる全ての光を吸収し…放出する!
テャァーーーーーン…!
「オモナ…すごい!」 そっと目を開ける。眼前に広がる光景は、もはやガレージ内ではない。 「そうか。ここが…あんたが信じ続けた故郷なんだな」 今ならイナちゃんやジャックさんにも見えるようだ。 懐かしい赤と真鍮のお御堂。窓辺から吹き抜ける爽やかな風。 そのお御堂の中心で、とりわけ澄んだ空気を纏って立つのは、仙姿玉質な金剛観世音菩薩像…和尚様。 そして、頭と両手に法具を置き、和尚様とお揃いの赤い僧衣を纏った私。 ここは、石筵観音寺。私が小さい頃住んでいたお寺だ。
『よく帰ってきましたね』 和尚様の意思が聞こえた。声でもテレパシーでもない、もっと純粋な波動で。 彼はまだ滅びていなかったんだ。 「あの…私達、申し訳ありません。和尚様の記憶、見ちゃって…それで…」 『一美』
和尚様は私の両手を取り、彼の胸の中に沈めた。ティンシャが「チリリリ」とくぐもった音をたてた。 心なしか暖かい胸の中で、私の手に棒のようなものがそっと落ちてきた。 両手を引き出してみると、それは細長い小さな骨…赤ん坊の頃に失われた、私の肋骨だった。 顔を上げると、和尚様の優しくも決意に満ちた微笑みが私の網膜に焼きつき、瞑想による幻影はそこで分解霧散した。
『行くのです』 彼は成仏したんだ。
次の瞬間、私達を取り巻く光景は薄暗いガレージに戻っていた。 でも、今のはただの幻影じゃない。和尚様のお胸には穿ったような跡が残っている。 私が握っていた肋骨はいつの間にか、何らかの念力によって形を変えていた。 「これは…プルパ」 <プルパ?> オリベちゃんが���味津々に顔を寄せる。 「私知てるヨ。チベットの法具ね。 煩悩、悪い気、甘え、貫く剣だヨ」 イナちゃんが私の代わりに答えてくれた。
そう、プルパは別名金剛杭とも呼ばれる、観世音菩薩様の怒りの力がこもった密教法具だ。 忍者のクナイに似た形で、柄に馬頭明王(ばとうみょうおう)という怒った容相の観音様が彫刻されている。
「オム・アムリトドバヴァ・フム・パット…ぐっ!!」 馬頭明王の真言を唱えてみると、プルパは電気を帯びたように私の影を吸いこみ…
ヴァンッ!…短いレーザービームみたいな音を立てて、刃渡り四十センチ程の漆黒のグルカナイフに変形した。 「フゥ!あんた、最強武器を手に入れたな」 影を引っ張られてプルパを持つ手さえ覚束無い私を、ジャックさんが茶化す。 「武器って、私にこれで何と戦えって言うんですか!?…うわあぁ!」 途端、プルパは一人でに動き、床に落ちていた『金剛愛輪珠』の半紙にドスッと突き立った。 「ウップス…」 ジャックさんも思わず神妙な顔になる。 どうやら、和尚様は…本気で怒っているらしい。 憤怒の観音力で、私に偽りの金剛を叩き斬れと言っているんだ!
◆◆◆
私達はガレージのシャッターをそっと閉じ、改めて公安警察内のNIC直属部署に通報した。 自分達はひとまず怪人屋敷内で待機。 譲司さんがお蕎麦屋さんにキャンセルの連絡を入れようとした、その時だった。
カァーン!…カァーン! スピーカーを通した鐘の音。電話だ。譲司さんはスマホをフリックする。 案の定、画面に再びハイセポスさんがあらわれた。 『やあ、ミス・クレナイ。さっきはすまなかったね。 石筵にあんな素晴らしい観音寺があるなんて、僕は知らなかったのさ』 「いえ、こちらこそ取り乱してすみませんでした。 …あの光景、ハイセポスさんも見られてた���ですね」 『おっと、幻影への不正アクセスも謝罪しなければいけないかね』 彼はいたずらっぽく笑った。
『また電話を繋いだのは他でもない。ミス・リナの一連の話を聞き、一つ合点がいった事があってだな… ああ、その前に、アンリウェッサ。蕎麦屋の予約は僕が勝手にキャンセルしちゃったけど、構わないね?』 「え?あ、どーもスイマセン!」 譲司さんはスマホを長財布に立てかけようと四苦八苦しながら、画面に向かってビジネスライクな会釈をした。
『実は僕には兄がいて、中東支部で彼も殺されたんだ。 だが彼はある時突然、「俺はこいつの脳内で神になってやる」とかなんとか言って、水家の精神世界で失踪してしまった。 それから暫く経ち、僕達NIC職員のタルパが兄を捕獲すると、彼はこう言ったのさ…「俺は龍王の手下に選ばれた、神として生きていく資格があるんだ」とね』 「龍王!?」 「どうして水家の脳内に!?」 私達全員が驚きにどよめいた。
『そう、お察しの通り。君達の宿���、金剛倶利伽羅龍王の事だろうさ。 龍王はなんでも、水家の脳内に蠢く『穢れ』を喰らっていたらしい。 そして僕の兄は、穢れを成長させるには沢山の感情が必要だから、あまりタルパを奪い尽くさないでくれとのたまったんだ』 「穢れ?」 『ジョージとオリベは知っているだろう』 「穢れ」譲司さんの額から汗が流れ落ちた。「…自我浸食性悪性脳腫瘍(じがしんしょくせいあくせいのうしゅよう)」 彼の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
自我浸食性悪性脳腫瘍。私も知っている病名だ。 通称タピオカ病とも呼ばれるそれは、脳に黒い粒々の腫瘍ができて、精神がおかしくなってしまう病気だ。 発病者は狂暴になって、自分が一番大切な人を殺したり、物を壊したりするという。 ただでさえ殺人鬼の水家がそれに感染していたとなると…恐ろしいの一言に尽きる。 『その通り、穢れとはタピオカ腫瘍だ。 本来は生きた人間を狂わす脳腫瘍だが、霊魂にそれを感染させれば、そいつは強力な悪霊と化す。 だから龍王は、水家の脳内に閉じ込められたタルパ達を、穢れた腫瘍粒に当てがっていたんだ。 悪霊をたらふく喰って強くなるためにね。兄はその計画にまんまと利用されていたのさ』
ジャックさんが画面を覗きこむ。 「水家は、安徳森に俺達が救出された時には失踪していたんだよな? まさか、奴は今もどこかで、龍王のエサ牧場としてこっそり生かされ続けてやがるのか!?」 『そこまではわからない。だがこうは考えられないだろうか? 観音和尚の計らいで一たび力を失った龍王は、ミス・パクから霊力を吸収し、更に福島中のパワースポットを乗っ取って復活した。 すると金剛の楽園にとって因縁深い男、水家曽良を見つけ、更に水家の精神世界でタピオカ病という副産物を発見する。 彼は、水家の精神を乗っ取ってタルパを生ませ続ければ、ほぼ無限に悪霊を生み出し喰らえる半永久機関に気づいた。 そして自分が楽園で高い地位を獲得できるほど強大化するその日まで、フリードリンクのタピオカミルクティーを浴びるように飲み続けているのさ!』 「は、半永久にタピオカミルクティーを…アイゴー!」 イナちゃんが身震いする。いや、さ、さすがにそれは飛躍しすぎでは…。 とはいえ、この仮説が正しければえらい事だ。
「けど…」 譲司さんがおずおずと手を挙げる。 「もし水家の脳内でそんな強い悪霊が育っとったら、霊感を持つ誰かが既に発見しとるのでは? 水家はNICの強力な脳力者捜査官がおる公安部だけやなくて、マル暴にも指名手配されとります。 俺の友人にも、マル暴で殉職した霊がいますが…そんな話聞いたことありません」 <そうね。悪霊説は無理があるわ。 それでもあの殺人鬼は一刻も早く見つけ出さないとだけど> オリベちゃんが同調した。
私はその時、ふと閃いた。オリベちゃんといえば… 「そういえばオリベちゃん、ここに来た時、怪人屋敷の二階に気配がするって言ってましたよね?」 <え?…ええ。でも、一瞬だけよ。 ファティマンドラのアンダーソンさんを見つけた時には消えていたから、てっきりアンダーソンさんの霊だったんだとばかり…> 『二階?…ああ、でかしたぞオリベ!これは灯台もと暗しだ!』 突然、ハイセポスさんがはっとした顔を画面いっぱいに近寄らせた。 『誰か、そこの階段を上ってごらん。そうすれば大変な事実に気がつくだろう! ああ、僕達は今までどうしてこれを見落としていたんだ!!』
画面内で心底嬉しそうにくるくる踊るハイセポスさんとは裏腹に、私達の頭上にはハテナマークが浮かんでいる。 とりあえず、私とオリベちゃん、ジャックさんで階段へ向かった。
◆◆◆
階段脇には館内図ボードがあった。影燈籠で照らしてみると、この工場は三階建てのようだ。 ジャックさんがボードを指さしながら、水家と共通の記憶を辿る。 「そういや、水家が潜伏していたのも二階だったな。 二階はほぼ一階の作業所と吹き抜け構造で、あまり大きな部屋はないんだ。 ええと、更衣室、事務所、細菌検査室…ああ、そうだそうだ!あいつが占拠していたのは応接室だ。」 「じゃあ、二階の応接室に向かいましょう! 影燈籠は光源がない場所では使えないから…」 私とオリベちゃんはそれぞれスマホを懐中電灯モードにした。
一つ上のフロアに出て、真っ暗な廊下を進む。 幾つかのドアをドアプレートを読みながら素通りしていくと、確かに『応接室』と書かれた部屋があった。 鍵は開いていたから、私達は速やかに入室する。
室内を見渡すと、端に畳まれたパイプ椅子と長机、それに昔小学校などによく置いてあった、オーバーヘッドプロジェクターが一台見える。 <応接室というより、まるで工場見学に来た子供達向けの教室みたいね> 「水家の私物はもう警察が回収したんでしょうか?それより…」 それより気になる事がある。オリベちゃん、ジャックさんも同じ事を考えていたように頷いた。 「…この部屋、あいつの残留思念や霊がいた気配を全く感じねえ。 あいつが潜伏していたのはここじゃねえみてえだな」 「本当にここが応接室なんでしょうか?ドアプレートは誰でも簡単に付け替えられますよね」 <ええ。それに、さっきの廊下、広かったわよね? 左右どちらにも沢山ドアがあって。どこが吹き抜けだっていうの?>
私達は改めて階段へ戻った。ここは…三階だ。 「二階が、ない!?」 私はまた階段を下ってみる。一階。上る。三階。 だからといって、一つ分フロアを隔てるほど長い階段じゃない。明らかに次元が歪んでいる!
イナちゃんや譲司さんも含めて、一階の階段前に全員集合する。 私は外灯が当たる場所に移動し、影の中のリナに呼びかけた。 「あんたはどうだった?私絶対二階がなくなってたと思うんだけど…」 「そうね。アタシ、途中で外に出て壁から入ろうとしたけど、それもダメだった」 <でも、次元が歪むなんて事、本当に��るの? NICは心霊やエスパーの研究でも最先端だけど、人間がテレポーテーションする現象は見た事ないわ> オリベちゃんは欧米的にわざとらしく肩をすくめた。 「現代解明されとる量子テレポーテーションは、SFみたいな瞬間移動とは別物やしな。 だったら、逆の発想や…イナ」 「オモ?」 譲司さんはイナちゃんに、スマホで音楽をかけながら一緒に階段を上るよう指示する。
『背後からっ絞ーめー殺す、鋼鉄入りのーリーボン♪』 ビクッ!…音楽が鳴り始めるやいなや、私は思わず身構えて、キョロキョロと周囲を伺った。 イナちゃん、よりにもよって、どうしてその曲を選んだんだ。 「あははは!ヒトミあんた、ビビりすぎよ!」 「う…うるさい、リナ!」 休みの日には聴きたくなかった声。 この曲は、私を度々ドッキリで連れ回す極悪アイドル、志多田佳奈さんのヒットソング『童貞を殺す服を着た女を殺す服』だ。タイトル長すぎ!
『返り血をっさーえーぎーる、黒髪ロングのカーテン♪』 「歌うで、イナ…仕込みカミッソーリー入りの♪」 「「フリフリフリルブラーウス♪」」 二人は階段を上がりながら、暗い廃工場の階段というホラー感満載の場に似つかわしくないアイドルポップを歌う。 しかし、 「「あーあー♪なんて恐るべき、チェ…」」 『…リー!キラー!アサシンだ!』 二人は突然、示し合わせたようなタイミングで歌うのを止めた。 イナちゃんのスマホから、佳奈さんの間抜けな声だけが階下に響く。 「なんだあいつら。歌詞を忘れたのか?」 肩でリズムを取りながら、ジャックさんが見上げた。 <…待って。あの二人、意識がないわ!> オリベちゃんが異変を感知。慌てて彼らを追いかけようとすると、その時!
「「…リー!キラー!アサシ…ん?」」 『わ・た・し・童貞を殺す服を着た女を…』 「オモナ?もうサビなの?」 彼らはまるで時を止められていたかのように、また突然歌いだした。 スマホから流れる音楽との音ズレに、イナちゃんが困惑する。 「やっぱりそうか。オリベ! 今から…ええと、ひーふーみー…八秒後きっかりに、俺に強めのサイコキネシスをうってくれ!」 何かに気付いている譲司さんは、そう言うと階段を下りはじめた。
五、六、七…八! <アクシャーヴ!>ビヤーーーッバババババ!!! 「わぎゃぁばばばばばば!!!死ぬ!死ぬーっ!!」 オリベちゃんの頭が紫色に光るのが傍目から見えるほど強烈なサイコキネシスを受け、譲司さんは時間きっかりに叫び声を上げた。 「げほっ、げほ…あーっ!ほら!行けたで、二階!皆来てみ!!」 少し焼けた声で譲司さんが叫ぶ。 「わ、わきゃんわきゃん!?」 飼い主の危機を察してポメちゃんが階段を駆け上がる。 私達もそれに続くと、途中で全員譲司さんに器用に抱きとめられ、我に返った。 「わきゅ?」 「あれ?」 「俺達、今…」
「どうやらこの階段には、二階周辺を無意識に飛ばしてまう、催眠結界が張られとるみたいやな。 それならテレポートより幾分か現実的や。 ただ、問題は…これ作ったん誰で、どうやったら開けられるかって事やな…」 譲司さんが目線で、二階入口��鉄扉を指し示した。 そこには、白墨で複雑極まりないシンボルが幾つも丁重にレイアウトされて書かれた、黒い護符が貼ってあった。
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ひとみに映る影 第三話「安徳森の怪人屋敷」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する!
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
1989年十月、フロリダ州の小さな農村で営業していた時の事だ。 あの村で唯一と言っても過言ではない近代的施設、タイタンマート。 グロサリーを買いこむ巨人の看板でお馴染みのその大型ショッピングセンター前で、俺はポップコーン屋台付き三輪バギーを駐車した。 エプロンを巻き、屋台の顔ポップ・ガイのスイッチを入れ、同じツラのマスクを被り、 「エー、エー、アーアー。ポップコーン、ポップコーンダヨ」 …スピーカーから間の抜けたボイスチェンジャー声が出ることを確認したら、俺の今日の仕事が始まる。
積載電源でトウモロコシを爆ぜていると、いつもならその音や匂いに誘われて買い物客が集まってくる。 だがその日は駐車場の車が少なく、やけに閑散としていた。 ひょっとして午後から臨時閉店か?俺は背後のマート出入口に張り紙でも貼っていないか、様子を見に行った。 一歩、二歩、三歩。屋台から目を離したのは、たった三歩の間だけだった。
ガコッ!ガコガコガシャン!突然背後から乱暴な金属音がして俺は振り返った。 そこには、一体どこから湧いて出たのか、五~六人の村人が俺の屋台バギーを取り囲んでいた。 奴らはポップ・ガイの顎を強引にこじ開けた。 ガラスケース内のポップコーンが紙箱受けになだれ込む。それを男も女も、思い思いにポリ袋やキャップ帽などを使って奪い合う。
「あぁー!!?何しやがるクソッタレ!!!」 俺はマスクを脱ぎ捨て、クソ村人共を押しのけようとした。その時。 サクッ。…背後で地面にスコップを突き立てたような音がした。 振り返るとそこには、タイタンマートのエプロンを着た店員と…空中に浮く、木の棒? いや、違う。それは…俺の背中に刺さった、鉈か鎌か何かの柄だ。 俺は自分の置かれた状況が理解出来なかった。背中を刺されたという事実以外は。 ただ、脳が痛覚を遮断していたのか、痛みはなかった。異物感と恐怖心だけがあった。 目の前では相棒が、俺のポップ・ガイが、農村の狂った土人共にぶちのめされている。 奴らはガラスケースを割り、焼けた調理器に手を突っ込んでガラスの破片とポップコーンを頬張り、爆裂前のトウモロコシ粒まで奪い合いながら、「オヤツクレ」「オカシ」「カシヲクレ」などとわけのわからない事を叫んでいやがる。
そのうち俺を刺しやがったあのクソ店員が、俺のジーンズからバギーのキーを引ったくり、屋台を奪って急発進させた。 ゾンビめいた土人共がそれにしがみつく。何人かは既に血まみれだ。 すると駐車場の方からライフルを抱えたクソが増えた。 ターン、ターン、ターン。タイヤを撃たれたバギーが横転する。ノーブラで部屋着みてぇなブタババアが射殺される。俺の足に流れ弾が当たる…痛ぇな、畜生!
ともかく逃げないとヤバい。こいつらきっとハッパでもキメてやがるんだ。 それにしても、俺の脳のポンコツめ。背中の痛みはないのに、なんで足はこんなに痛いんだクソッタレ! 「コヒュッ…コヒュッ…」息ができない。傷口が熱い。体が寒い。全身の血が偏ってきていやがる。 もはや立ち上がれない俺は匍匐前進でマートの死角まで這って逃げた。 そこには大量のイタチと、中心に中坊ぐらいのニヤついたガキが立っていた。 そいつは口元が左右非対称に歪んでいて、ギンギンに目の充血した、見るからに性根の腐っていそうな奴だった。 作業ツナギの中にエド・ゲインみてえな悪趣味なツギハギのTシャツを着て、右手にニッパーを、左手にカラフルな砂か何かの入った汚ねえビニール袋を持っていた。
「おっさん、魚みてえだな」…あ? 「背中にヒレ生えてるぜ。それに口パクパクさせながら地面をクネクネ這いずり回ってさ。 ここは山ばっかだから見た事ねえが、沖に打ち上げられたイルカってこんな感じなのかな」 何言ってやがる…このガキもキチガイかよ。それにイルカは哺乳類だ。どうでもいいがな。
「気に入ったぜ。おっさん、俺が解剖してやるよ」…は?? 「心配するな。川でナマズを捌いた事がある。おいお前ら、オヤツタイムだぜ!」
おいジーザス、いい加減にしろ!あのクソガキは俺にキチガイじみた虹色の砂をブチまけてきやがった! 鼻にツンとくるクソ甘ったるい匂い。そうか、こいつはパフェによくかかっているカラースプレーだ。しかもよく見ると、細けえキャンディやチョコレートやクッキーまで混じっていやがる。 ファック!このガキ、俺をデコレーションケーキか何かと勘違いしてんじゃねえのか!?
「あんたのポップコーン、いつも親が買ってたぜ。油っこくて美味かった。 だからあんたの魂は俺達の仲間に入れてやるよ…」 なんでなんでなんで。なんで俺の生皮がいかれたガキのニッパーで引き裂かれてやがる。なんで俺の身体が汚ねえイタチ共に食い荒らされてやがる! カラースプレーが目に入った。痛え。だからなんで背中以外は痛えんだってえの。 俺が何をしたっていうんだジーザス。みんなの人気者のポップ・ガイがなんの罪を犯したっていうんだ。
やだよ。こんな所で死にたくねぇよ。 こんなシケた田舎のタイタンマートなんかで…おいクソ巨人、お前の事だ!クソタイタンマートのクソ時代遅れなクソ看板野郎!なに見てやがる! 「Get everything you want(何でも揃う)」じゃねえよとっととこのクソガキを踏み殺せ!! こんなに苦しんで死ななきゃならねぇならせめてハッパでもキメときゃ良かった!死にたくねぇよ!ア!ア!ア!アー!
そうだ。こんな物はただの夢だ。クソッタレ悪夢だ。もうハッパキメてたっけ? まあいい。こんな時は首筋をつね���んだ。俺は首筋をつねれば大概のバッドトリップからは目覚める事ができるんだ。 そう、こんな風に―
◆◆◆
「あいててててて痛え!!!」 ジャックさんは首筋をつねる動作をした瞬間、オリベちゃんのサイコキネシスを受けて悶絶した。
磐梯熱海温泉の民宿に集った私達一同は、二台繋げたローテーブルを囲い、タルパの半魚人ジャック・ラーセンさんが殺害された経緯を聴取していた。 「そんなに細かく話すな!イジワル!!」 涙目のイナちゃんが、私のモヘアニットのチュニックを固く握りしめたまま怒鳴った。 彼の話に「ライフルを持ったクソ」が出てきたあたりから、彼女はずっと私にしがみついてチワワのように震え続けている。 おかげで買ってまだSNSにも投稿していないチュニックが、ヨレヨレに伸びきってしまっていた。
<あんたあのね、女子高生の前でクソとかハッパとか、言葉を選びなさいよ!> ローテーブルの対面で、オリベちゃんがジャックさんを叱責する。 「まあまあ。そんで死んだ後はどうなったん…なるべく綺麗な言葉で説明してくれよ」 一方譲司さんは既に、ポメラニアンのポメラー子ちゃんのブラッシングを終え、何故か次はオリベちゃんのブラッシングをさせられている。
「まあ、その後はだな。要するに、お前達のお友達人形にされてたってわけさ」 ジャックさん、オリベちゃん、譲司さん。三人のNICキッズルーム出身者の過去が繋がった。 イナちゃんがこれから行くキッズルームは、バリ島院以外にも世界各支部に存在する。 アジア支部のバリ島院、EU支部のマルセイユ院…オリベちゃんと譲司さんが子供時代を過ごした中東支部キッズルームは、テルアビブ院だった。 (アラブ人ハーフの譲司さんは、十歳まで中東で暮らしていたんだ。)
その当時テルアビブ院には、魂を持つ不思議な人形と、それを操って動かす黒子の少年がいた。 少年は人形と同じ顔のマスクを被っていて、少年自身の意思を持っていなかった。 でもある日突然、少年は人形を捨て、冷酷な本性を剥き出しにしてNIC職員や子供達を惨殺して回ったという。 つまり、少年…生き物の魂を奪って怪物を作る殺人鬼、サミュエル・ミラーは、人形のジャックさんという仮面を被ってNICに近づき、油断した脳力者の魂を収穫したんだ。
「その辺の話は、俺よりお前ら自身の方が嫌でも覚えてるだろ。 あいつがわざわざ変装用の魂をこしらえたのは、オリベ…お前みたいに人の心を覗ける奴が、NICにはわんさかいるからだろうな。 俺は自分が自分の黒子に殺された事なんざ忘れちまってたし、 用済みになった後も奴の脳内に格納されて、長い眠りについていたようだ。 友達や先生方の死に面を拝まずに済んだ事だけは、あのクソサイコ野郎に感謝だな」 ジャックさんがニヒルに笑う。殺人鬼の隠れ蓑にされていたとはいえ、彼とオリベちゃん達の間の友情は本物だったんだろう。 仮面役に彼が選ばれたのは、生前の彼が子供達に愛されるポップコーン売りだったからだと私は推測した。
サミュエルは殺人に、怪物タルパを取り憑かせたイタチを使うらしい。 人間のお菓子や人肉を食べるように調教されたイタチは人間を襲い、イタチに噛まれた人間は怪物タルパに取り憑かれる。 取り憑かれた人間は別の人間を襲う。その人間も怪物に心を支配され、別の人間を襲う。 そうしてゾンビパニック映画のように、怪物に操られた人間がねずみ算式に増えていく。 サミュエルはこのようにして、自ら手を下さずに集団殺し合いパニックを引き起こすんだ。 1990年。二十年前のNIC中東支部を襲った惨劇も、この方式で引き起こされた。 幼い頃のオリベちゃんはその時、怪物タルパとイタチを一掃するために無茶なサイコキネシスを放った後遺症で構音障害になった。そして…
「なあジャック」譲司さんが口を開く。 「アッシュ兄ちゃんって、覚えとるか? 弱虫でチビやった俺を、一番気にかけてくれとった」 「ん、ああ。勿論覚えてるさ。 ファティマンドラの種をペンダントにしていた、サイコメトリーの脳力児。あいつがどうかしたのか」 ジャックさんがファティマンドラという単語を口にした瞬間、譲司さんは無意識に頭に手を当て、 「ハァー、…フーッ」肺の空気を入れ替えるダウザー特有の呼吸をした。そして、 「…アッシュ兄ちゃんは。俺の目の前で、サミュエルに殺された。 その時…兄ちゃんの魂は胸の種に宿って、ファティマンドラになったんや」胸元に手を当てて言った。 「なんてこった…!」 ジャックさんは目元を強ばらせる。
話を理解できなかったイナちゃんが、私のチュニックをクイクイと引っ張った。 「ええとね…ファティマンドラっていうのは、簡単に言えば動物の霊魂を宿して心を持つ事ができる霊草の事なの。 譲司さんの幼馴染のアッシュさんは、殺された時、その種を持っていたおかげで怪物に魂を取られずに済んだけど、代わりに植物の精霊になっちゃったんだ」 「そなんだ…。ヘラガモ先生、今も幼馴染さんいるですか?」 「ああ。種はもう花を咲かせてなくなっとるけど、兄ちゃんは俺と完全に溶け合って、二人合わさった。 せやから、アッシュ兄ちゃんは今俺の中におる」 「すまねえ…あいつの事を思い出せなくて、お前らみたいなガキ共を巻き込んじまって。本当にすまねえ」 ジャックさんがオ��ベちゃんと譲司さん、そして譲司さんと一つになったというアッシュさんをまっすぐに見つめる。 一方、当のオリベちゃん達は、ジャックさんが謝罪する謂れはないとでも言いたげに、彼に優しい微笑みを向けていた。
「ヒトミちゃん」 しんみりとしたムードの中、イナちゃんが芝居がかった仕草で私のチュニックを掴んだ。 「ごめんなさい、チュニック、伸ばしちゃたヨ。 お詫びにあげたい物あります。お着替え行こ」 「え?」 「ポメラーコちゃんにも!」 「わぅ?」 私はポメちゃんを抱えたイナちゃんに誘導され、別室に移動した。
◆◆◆
「へえ、韓国娘。あんた粋なことするじゃないの」 高天井の二階大部屋。剥き出しの梁の上では人間体のリナが、うつ伏せで頬杖をついたまま私達を見下ろしていた。 その時イナちゃんが着ていたのが水色のパフスリーブワンピースだった事も相まって、まるで不思議の国のアリスとチェシャ猫みたいな構図だ。 二階に上がったのは私とイナちゃん、ポメラー子ちゃんにリナ。階下に残ったのは中東キッズルーム出身の三人のみ。 そういう事か。 「『後は若い人達に任せましょう』。私が好きな日本のことわざだモン」 胸を張ってイナちゃんが得意気に言う。それ、ことわざだったっけ…?
イナちゃんは中身を詰めすぎて膨らんだスーツケースの天板を押さえながら、布を噛んだファスナーを力任せに引いて開けた。 ミチミチの服と服の間から、哀れにも角がひしゃげたユニコーン型化粧ポーチを引き抜くと、何かを探すように中身を床に取り出していく。 「ボタニカル・ボタニカル」のオールインワン下地、「リトルマインド」のリップと化粧筆一式、「安徳森(アンダーソン)」の特大アイシャドウパレット… うーん、錚々たるラインナップ!中華系プチプラブランドの安徳森以外、どのコスメも道具も、高校生のお小遣いでは手を出し難い高級品だ。 蝶よ花よと育てられた、いい家のお嬢様なのかもしれない。
「あったヨ!」 ユニコーンポーチの底からイナちゃんが引き抜いたのは、二重丸の形をした金色のペンダント。 「ここをこうしてネ…ペンダントと、チャームなるの」 二重丸の中心をイナちゃんが押し上げると、チリチリとくぐもった金属音を立てて内側の円形が外れた。それは留め具付きの丸い鈴だった。 『링』 『종』 中央が空洞化してリング型になったペンダントと鈴の双方に、それぞれ異なる小さなハングル文字が一文字ずつ刻印されている。 それを持ったイナちゃんの両手も、珍しく左右で手相が全然違う模様なのが印象的だった。 左は生命線からアルファベットのE字状に三本線が伸びていて、右は中央に大きな十文字。手相には詳しくないから占いはできないけど。
イナちゃんはE字手相の左手でペンダントを私の首にかけ、右手の鈴はポメちゃんの首輪に括りつけた。 金属のずっしりとした重量感。これも高価な物なんだろうと察せる。 「イナちゃん、これ貰っちゃっていいの?まさか金じゃないよね?」私は恐る恐る聞いた。 「『キム』じゃないヨ。それは、『링(リン)』と読みます。リングだからネ。 キーホルダーは『종(チョン)』、ベルを意味ですヨ」 「い、いやいや、ハングルの読み方を聞いたんじゃなくて」チャリンチャリンチャリン!「ワンワンっ!」 私のツッコミは鈴の音を気に入って飛び跳ねるポメちゃんに遮られた。 「ウフッ、ジョークジョーク。わかてますヨ、ただのメッキだヨ」 「な…なんだ、良かった。それでもありがとうね」
貰ったペンダントを改めて見ていると、伸びたチュニックが一層貧相に見えてきた。 この後私達はお蕎麦屋さんに夕食を予約している。さすがにモデルとして、こんな格好で外を出歩くわけにはいかない。 折角貰ったいいペンダントに合わせて、私は手持ちで一番フォーマルな服に着替える事にした。 切り絵風赤黒グラデーションカラーのオフショルワンピースだ。
「アハ!まるで不思議の国のアリスとトランプの女王だわ」 梁から降りたイナが、私とイナちゃんが並んだ様子を比喩する。 「そういうリナはさっきまで樹上のチェシャ猫だったじゃない」 「じゃあその真っ白いワンコが時計ウサギね」 私達は冗談を重ね合ってくすくす笑う。こんな会話も久しぶりだな。 そこにイナちゃんも加わる。 「ヒトミちゃん、ジョオ様はアイシャドウもっと濃いヨ」 さっき床に散らかしたコスメの中から、チップと安徳森のアイシャドウパレットを持って、イナちゃんはいたずらに笑った。 安徳森、アンダーソンか…。そういえば…
「私…磐梯熱海で、アンダーソンって名前のファティマンドラの精霊と会ったことがあるな」 私はたった今思い出した事を独り言のように呟いていた。 イナちゃんの目が好奇心に光る。 「さっき話しした霊草の魂ですか?ここにいるですか!」 「うーん、もう3年前の事だけどね…」
それは私が上京する直前のこと。 ヒーローショーの悪役という、一年間の長期スパンの仕事を受ける事になった私は、地元猪苗代を発つ前にここ磐梯熱海温泉に立ち寄った。 和尚様と萩姫様にご挨拶をするためだ。 するとその日は、駅を出るとそこらじゅうに紫色の花が咲いていた。 私は合流した萩姫様に伺い、それがファティマンドラの花だと教わった。 そしてケヤキの森で、それらの親花である魂を持つファティマンドラ、アンダーソン氏を紹介して頂いた。 アンダーソン氏は腐りかけの人脳から発芽したせいで、ほとんど盲目で、生前の記憶もかなり欠落していた。 ただ一つ、自分の名前がアンダーソンだという事だけ辛うじて覚えていたという。
とはいえ、元警察官の友達から聞いた話では、ファティマンドラは麻薬の原料にもなり日本では栽培を許可されていないらしい。 ファティマンドラには類似種の『マンドラゴラ・オータムナリス』というよく似た花があるから、駅に咲いていたものに関しては、オータムナリスだったのかもしれない。
「改めて今熱海町に来たら、もう駅前の花はなくなってるし、さっきケヤキの森を通った時もアンダーソンさんはいなかったの。 もう枯れちゃったかな…魂はどこかにいるかも」 「だといいネ。私も見てみたいです。 そのお花さんに因みな物あれば、私スリスリマスリして呼び出せるですけど」 「え、すごいね!イナちゃん降霊術もできるんだ…」
スタタタタ!…私達が話している途中から、誰かがものすごい勢いで階段を駆け上がる音がした。 二階部屋の襖がターン!と豪快に開き、現れたのはオリベちゃん。 <そのファティマンドラよ!今すぐ案内して頂戴!!> 「オモナっ!」驚いたイナちゃんが顔の前で手を合わす。
「え!?ど、どういう事ですか?」 <サミュエルは最後に逃亡する直前、ジャパニーズマフィアの薬物ブローカーだったの。そして麻薬の原料としてファティマンドラの種子を入手していた。 だからそれを発芽させるために、ブローカー仲間の女子大生を殺害して、その人の肉や脳を肥料に与えていたというのよ> 「ああ…女子大生バラバラ殺人の事ですね。指名手配のポスターで有名な」 物騒な話題にイナちゃんは顔を引きつらせる。またストレスで悪霊を呼び寄せないように、すかさずリナは彼女の体を抱き寄せて頭を撫でた。
イナちゃんは知らないだろうけど、実はサミュエルの通名、水家曽良という名は日本では有名だ。 彼は広域指定暴力団の薬物ブローカーで、ブローカー仲間だった女子大生を殺害した罪で指名手配されている。 だから駅や交番のポスターには、彼の名前と似顔絵がよく貼ってあるんだ。
<その女子大生から生まれたと思しきファティマンドラがね…なんと、眠っていたジャックを呼び覚まして助けた張本人らしいのよ!> 「そうなんですか!」 オリベちゃんに続き、そろそろとジャックさんと譲司さんも二階に上がってきた。 ただ譲司さんは、興奮気味のオリベちゃんとは裏腹に煮え切らない顔をしている。 「いや、せやけどなオリベ。殺された女子大生は『トクモリ・アン』って名前やろ。 ジャックが言っとったファティマンドラは『アンダーソン』って名乗っとったらしいし…『アン』しか合っとらんやん」 トクモリアン?ああ、はい。 私とイナちゃんとリナは三人同時に察して、ニヤリと顔を見合わせた。
「ダウザーさん、その被害者の名前の漢字、当ててあげようか」挑発的にリナが譲司さんに微笑む。 リナが目配せすると、イナちゃんはあのアイシャドウパレットを譲司さんの前に持っていった。 「あん、とくもり…安徳森!何で?」 「そです。でもちがうヨ!中国語それ『アンダーソン』て読みます」 「なるほど!」 「そういう事だったのか」 <え…ど、どういう事ですって?> 譲司さんとジャックさんが納得した一方、ユダヤ人のオリベちゃんだけは頭にはてなマークを浮かべた。 私はパレットの漢字を指さしながら、非アジア人の彼女に中国語と日本語の漢字の読み方を解説した。
<じゃあ、中国語でそれはアンダーソンになって、日本語ではアン・トクモリになるの!面白いカラクリだわ。> 「ファティマンドラ化した徳森安は生前の記憶を殆ど失っている。 その文字列が印象に残っていても、自分の名前じゃなくて有名な化粧品ブランドの読み方をしちまったのかもな。 あれでも女子大生だったし」ジャックさんが補足する。
<となるとやっぱり、殺された女子大生で間違いないようね。 ジャックを蘇らせてくれたお礼と、サミュエルに関しての情報も聞きたいわ。 どうにかして彼女と会えないかしら?> 「ケヤキの森にいないなら…怪人屋敷に行けば何かわかるかもしれねえな。 まだあいつが成仏していなければ、だが」 ジャックさんが親指に当たるヒレをクイクイと動かす。その方角は石筵を指していた。 「怪人屋敷って、石筵の有名な心霊スポットですよね?山にある廃工場の。 実際はこの辺りで生まれたタルパとか式神達の溜まり場で、それを見た人間が『人間とも動物とも違う幽霊がいっぱいいる!』と思って怪人屋敷って呼び始めた…」 「何よ、じゃあ私も人間にとっては怪人だっていうの?失礼しちゃうわ!」 リナがイナちゃんを撫でながらプリプリと怒る。 「怪人屋敷なら俺が場所を案内できる。かつてのサミュエルの潜伏地点だ」 「そうか。よし、夕食までまだ時間がある。車で行ってみよう」
◆◆◆
日が沈みかけていた。 私達を乗せたミニバンは西日に横面を照らされながら、石筵の霊山へ北上する。 運転してくれたのは、譲司さんに半身取り憑いたジャックさんだ。 生前は移動販売をしていただけあって、私達の中で一番運転が上手い。同乗してい��、坂道やカーブでも全くGを感じない。 譲司さんも彼のハンドルテクに、時折感嘆のため息を漏らしていた。 故人の意識にハンドルを任せたのはギリギリ無免許運転かもしれないけど、警察にそれを咎められる人はいないだろう。
廃工場の怪人屋敷か。私が観音寺に住んでいた頃は、そんな噂があるとは知らなかった。 でも行ったことは何度もある。 あそこには沢山の式神、精霊、タルパ、妖怪がいた。みんな幼い私と遊んでくれたいい人達だ。 人に害をなす魂がいなかったのは、すぐ近くに和尚様が住んでいらしたから、だったのかも。 私はリナと共に影絵を交えながら、そんな思い出話をイナちゃんやオリベちゃんに語った。
「ジャックさんは、会ったことありますか?和尚様。 怪人屋敷のすぐそばの観音寺です」 私はバックミラー越しにジャックさんを見ながら話題を振った。 「残念だが、俺があの屋敷にいた時は、サミュエル本体に色々あって夢うつつだったんだ。 ファティマンドラの幻覚と現実の狭間をずっと彷徨ってた感じだ。 けど、少なくともその世界には神も仏もいなかったぜ」 「そうなんですか…。後でちょっと寄らせて下さい。紹介したいです」 「ああ、俺も知り合っておきたい。本場チベット仕込みのタルパ使いなんだろ、その坊さん。 だったらあのクソに作られた俺みてえな怪物も、いざという時に救って下さるかもしれねえよな」 「そんなこと言わないで下さい、ジャックさんいい人ヨ」 イナちゃんが身を乗り出して反論した。 ジャックさんは目線をフロントガラスに向けたまま、小さく口角を上げた。
カッチ、カッチ、カッチ。リズミカルなウィンカー音を鳴らしながら、ミニバンは車道から舗装されていない砂利道に入る。 安達太良山の麓にそびえ立つ石筵霊山の、殆ど窓のない無機質な廃工場が見えてきた。 多彩な霊魂が行き交い、一部の界隈では魔都と呼ばれるこの郡山市でも、ここは一際邪悪な心霊スポットとして有名な場所だ。 そんな噂が蔓延しだしたのはいつ頃の事だっただろうか。 少なくとも私の知っている廃工場は、そこまで物々しい場所じゃなかったのに…。 ジ���ックさんが工場脇の搬入口にミニバンを駐車している間、私は和尚様の近況を案じた。
その不安感が現実になったかのように、ミニバンを開けた瞬間何かを察知して顔を引きつらせたのは、意外にも譲司さんではなくオリベちゃんだった。 <あの二階、何かある。何だかわからないけどとんでもない物があるわ!> テレパシーやサイコキネシスを操る彼女だけが、その有り余るシックスセンスで異変を察知したんだ。 オリベちゃんが指さした工場の二階には窓があるけど、中は暗くて見えない。 私やリナ、イナちゃん、ジャックさんには遠すぎて霊感が届かないし…、 「すまん、オリベ。あの窓はめ殺しで開かんやつやから、俺にはわからん」 空気や気圧でダウジングする譲司さんには尚更読み難い状況だ。
「それより、あっちに…」 譲司さんが言いかけた事を同時に反応したのは、ポメラー子ちゃんだった。 ポメちゃんは鈴を鳴らしながら譲司さんの脇をすり抜け、バイク駐輪場らしきスペースに駆けていき、 「わうわお!」こっちやで!とでも言っているような鳴き声で私達を誘導した。 そこにあった物は…
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「うぷッ」 条件反射的に私の胸がえずく。直後に頭痛を催すような強烈な悪臭を感じた。 隣でオリベちゃんが咄嗟に鼻をつまみ、リナはイナちゃんの目を隠す。 既に察していた譲司さんは冷静に口にミニタオルを当てていた。
そこにあったのは、腐敗した汚泥をなみなみと湛えた青い掃除用バケツ。 ハエがたかる焦茶色の液体の中には、枯葉に覆われて辛うじて形を保った、チンゲン菜のような植物の残骸が見える。 花瓶に雨水が入って腐ったお墓の仏花を想起させるそれは…明らかに、ファティマンドラの残骸だった。
「アンダーソン」ジャックさんが歩み寄る。 「もう、いないのか?あいつを待ちくたびれて、くたばっちまったんだな」 ジャックさんは汚泥にヒレをかざしたり、大胆にも顔を突っ込んだりしながら故人の霊魂を探した。 でも、かつて女子大生の脳肉だった花と汚泥が、彼の問いかけに脳波を返す事はなかった。
するうちリナの腕をほどいてイナちゃんが割って入る。 また彼女の精神がショックを受けて、悪霊を呼び出さないかと心配になったけど、 驚く事に彼女は腐った花に触れ、「スリスリマスリ…スリスリマスリ…」と追悼の祈りを捧げた。
「い…イナちゃん、大丈夫なの?」私達は訝しみながら彼女の顔色を覗きこむ。 しかしイナちゃんは涼しい顔で振り返った。 「安徳森さん、ジャックさんのオンジン。だたら私のオンジンヨ。 この人天国に行ってますように、そこにいつかジャックさんも行けますように。 スリスリマスリ、私お祈りするますね」 イナちゃんが微笑む。その瞬間、悪臭と死に満ちた廃工場の空気が澄み渡った気がした。 譲司さんは前に出て、ファティマンドラをイナちゃんの手からそっと取り、目を閉じる。
「オモナ…ヘラガモ先生?」 「サイコメトリーっていってな。触れた物の残留思念、つまり思い出をちょっとだけ見ることが出来るんや。 死んだ兄ちゃんがくれた脳力なんよ…」目を閉じたまま譲司さんが答えた。 そのまま数秒集中し、彼は見えたヴィジョンをオリベちゃんに送信する。 それをオリベちゃんがテレパシーで全員に拡散した。
ザザッ…ザリザリ…。チューニングが合わないテレビのように、ノイズ音と青黒い横縞模様の砂嵐が視覚と聴覚を覆う。 やがて縞模様は複雑に光彩を帯びて、青単色のモノトーン映像らしきものを映し出し、ノイズ音の隙間からも人の肉声が聞こえてきた。
ザザザ「…ん宿のミ…ム、元店ち…すね。署までご同こ」ザザザザッ「…い人屋敷へか…んな化け物を連れ」ザザ…「…っている事が支離滅れ…」「…っと、幻覚を見」ザザザザッ…
「あかん。腐敗が進みすぎて殆ど見えん」譲司さんの額は既に汗ばんでいる。 それでも彼は…プロ根性で、ファティマンドラを握る手を更に汚泥の中へ押しこんだ! 更に、汚泥が掻き回されてあまつさえ悪臭��漂う中、「ハァー、フゥーッ…ウッ…ハァー、フゥーッ…」顔にグッショリと脂汗を湛えてえずきながら、ダウジングの深呼吸を繰り返す!
彼の涙ぐましすぎる努力と、サイコメトリー・ダウジングの相乗効果によって、残留思念は古いVHSぐらい明瞭になった。 「新宿のミラクルガンジ…」ザザッ「…元店長の水家曽良さんですね。署までご同行願えますか」ザザザッ。 未だ時折ノイズで潰れているが、話の内容から女性警察官らしき声だとわかる。でも映像に声の主は映っていない。 ファティマンドラの低い目線視点でわかりづらいが、映像で確認できる人物はサミュエル・ミラーらしき男性だけだ。
「あ?はは、なんだ…」ザザザッ「一体何の冗談…」ザザッ「さあ、怪人屋敷へ帰るぞ…」ザザッ。 オリベちゃんの口角が露骨に下がった。これは水家曽良、つまり殺人鬼サミュエル・ミラーの声だろう。 「言っている事が支離滅裂で…」ザザザッ「…え。彼はきっと幻…」ザザッ。 サミュエルとは違う男性と、女性の声。彼を連行しようとしている『見えない警察官』は、複数人いるようだ。
「幻覚?何を今更。…あれも、これも!ははは!ぜんぶ幻覚じゃねえか!!!」ザバババババ!! 錯乱したサミュエルが周囲の物を手当り次第投げる。 ファティマンドラの安徳森氏は哀れにも戸棚に叩きつけられ、血と脳肉が飛び散った。 その瞬間から、またノイズが酷くなっていく。 「はいはい。後でじっくり聞い…」ザザッ「暴れな…」ザザッ「…せ!どうせお前らも俺の妄そ」ザリザリ!ザバーバーバー!! 残留思念はここで途絶えた。
「アー!」色々と限界に達した譲司さんが千鳥足で、駐輪場脇の水道に走る。 譲司さんは汚い手で触れないように肘で器用に蛇口を回すと水が出た。 全員が安堵のため息を漏らす。幸い廃工場の水道は止まっていなかったみたいだ。山の湧き水を汲んでいるタイプなんだろう。 同じく安徳森氏に触ったイナちゃんも、譲司さんと紙石鹸をシェアしながら一緒に手を洗った。
◆◆◆
グロッキーの譲司さんを車に乗せるわけにもいかず、私達は扉が開けっ放しの廃工場、通称怪人屋敷のエントランスロビーで休憩する事にした。 「あんた根性あるのね。見直したわ!」リナが譲司さんの周りをくるくる飛び回る。 対して満身創痍の譲司さんはソファに横たわり、「やめてぇ…」とヒヨコのような弱々しい声で喚いた。 <無茶した割に手がかりにならなかったわね。サミュエルはまだ指名手配犯だから、あれは警察じゃない。 でも正体はわからないままよ>手厳しいオリベちゃん。 「無茶言わんでくれぇ…あんなん読めへんもんもうやあわあ…」最後の方は言葉にすらなっていない譲司さん。 結局、あの偽警察官は何者だったのか…もし残留思念の通りなら、生きた人間じゃない可能性もある。 それでも、イナちゃんにお祈りされ、譲司さんにあそこまで記憶を読み直してもらった安徳森氏は、浮かばれるだろうと願いたいものだ。
カァーン!…カァーン!…電気の通っていないはずの廃工場で、突然電子音質の鐘の音が鳴った。 リナとイナちゃんがビクッと身構える。…いや、リナ、あんた怪人側の人じゃん。 「俺や」音源は譲司さんのスマホだった。 彼は以前証券会社の社長だったから、これは株式市場の鐘の音なのかもしれない。 譲司さんがスマホを出そうとスウェットパンツのポケットをまさぐる。指が見えた。穴が開いているのを着続けているみたいだ。
「もしもし?」譲司さんはスマホを耳に当てた。着信は電話だった。 (もしもし。すまない、テレビ通話にしてくれないか?) 女性の声だ。静かな廃工場だから、スピーカー越しに相手の声が聞き取れる。 電話をかけておいて名乗りもしない相手を訝しみながら、譲司さんは通話をカメラモードに切り替えた。すると…
「あ…あなたは、まさか!」 驚嘆の声を上げた譲司さんに、私達全員が近寄る。 皆でスマホの画面を覗かせてもらうと、テレビ通話のカメラは私達の顔ではなく、誰もいないロビー奥の方向を映している。 でも画面の中では、明らかに人工霊魂とわかる、翼の生えた真っ赤なヤギが浮遊していた。
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Pleased to report there was a bath scene and it was heart-wrenching.
It updated, that's the next hour or two sorted. Life holds myriad kindnesses and this author's steady writing pace is enviable.
#and also cute and silly and romantic at the end#but above all heart-wrenching#a blessing#hmm i also just noticed that the author changed the bit of the story description where they called it:#'the slowly deteriorating relationship between two people living for fleeting happiness'#on the one hand that's too bad because i really liked that choice as i talked about previously#on the other hand since it's an ongoing episodic work they may have found it restrictive#the new description still says it's the story of an 'ephemeral' few days majima and makoto spend together#so all 'hope' of ongoing emotional devastation is not lost#hm i should start tagging these posts huh#天使の梯子 pixiv
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