Tumgik
#多肉抱えて昼から戻り
oka-akina · 1 year
Text
0721
 昨日は財布とスマホを忘れて労働に出かけてしまった。気づいたのは電車の中で、あちゃーとは思ったけどまあでもパスモ(クレカと一体型のやつ)があるからべつに平気だなと思ってすぐあきらめた。待ち合わせの予定とかもなかったし。こういうときに限って何か緊急の連絡が…とはちょっと思ったけど、一月に義父が亡くなったばかりだからしばらくそういうことはあるまいと思った。またそういうことがあるかもとはあんまり考えない。こういうのって性格なのかな。誰からも何も来ないに千円と頭の中で賭けた。  つまりわたしは労働に遅刻しないよう、わざわざ引き返さなくたって平気だと自分に言い聞かせているのだろうかとちょっと思った。そんなに遅刻をおそれているのか。ちょっとくらい遅刻したって気にしない感じの方がいいのになと思う。自分も周囲も。わたしは電車とか待ち合わせとか映画の上映開始時間とか、いつもいろんなことがギリギリで、ギリギリまで仕度ができないタイプなんだから大手を振って遅刻しちゃえばいいのに毎度バタバタ走って大汗をかいている。悪あがき。一生こうやって走っているんだろうかとときどき恥ずかしくなる。
 さっき電車に乗り込むとき、ホームと電車のすきまに靴を落としてしまった人がいた。すきまにかかとを引っかけて転んでしまったようで、一瞬迷ったけどわたしも電車を降り、大丈夫ですかと声をかけた。このときはまだ自分が財布とスマホを忘れてきたことに気づいていないのが、なんか昔話の正直者っぽいムーブだな……。人助けってほどのことでもないけど、うっかり者で正直者のなんとか太郎的な。  でもそんなんではないな、昔話の無償の正直さではないな。自分も乗りたい電車に遅れそうでしょっちゅう走っているタイプだから味方したくなったってだけかもしれない。自分ももうずっと前、学生時代、靴をホームのすきまに落としたことがあって、東中野の駅で足を踏み外して体ごと落っこちかけたのを近くにいた人がすぐ引っ張り上げてくれた。そのときは演劇のフライヤーを業者に届けに行く用事でかなり重たい紙袋を持っていた。よく引っ張ってもらえたなと思った。そういう善意の循環……みたいなことを考えるとなんかちょっと気味が悪いような気もする。これはわたしがひねくれているだけかも。  転んだ人は声をかけられてかえって恥ずかしいかもしれないと思って、駅員さんが来るまでなんとなく近くで見守り、駅員さんはすぐ来たので車輌ひとつぶんくらい離れたところに移動した。そして、電車一本くらい見送ったっていいや、多少遅刻してもいいやという判断をした自分に酔っていないか?みたいなことも思った。多少の遅刻は気にならない自分をやりたかったんではないか。なんだか心臓がばくばくし、さっきその人が転んで尻もちをついたとき、プリキュアみたいな絵面と一瞬重なった。スカートが広がった感じと手に握ったままのハンディ扇風機がなんか魔法少女みたいだなと思った。それがうしろめたくて声をかけたのかもしれない……とかも考えた。  なので財布もスマホも忘れてきたと気づいたときちょっとほっとした気持ちもあった。慣れない善意のようなことをしたからそれと釣り合いがとれているような気がした。バチが当たるの逆みたいな。
 そういうことを考えていたら電車はすぐ着いて、財布もスマホも持っていないのに水筒と読みかけの本は持って会社に出かけるのなんか優雅だな…と思った。あとタオルと日傘と飴。リュックの中で水筒の氷がカラカラ鳴って、このごろ水筒には冷たいお茶を入れているから、歩くたび遠足の子どもみたいな音がする。  読みかけの本はレアード・ハント『インディアナ、インディアナ』。柴田元幸訳。柴田元幸だから読んでみるというのは武豊が乗るから買っておくみたいな感じ? わかんない。インディアナ〜は難解な小説ではないと思うんだけど、ゆっくり読まないとすぐなんだかよくわからなくなる小説。もうあと少しで読み終わるんだけど、読み落としているところがたくさんある気がして行きつ戻りつ読んでいて、今はもっかい最初からゆっくり読み直している。 「ヴァージルの死ぬ間際にノアはもう緑の印は見つかったかとヴァージルに訊いて見つかったならどこにあるのか教えてくれと頼んだがヴァージルは長いあいだノアの顔を見てそれから眠りに落ちそれから目ざめてノアの顔を見てそれからまた眠りに落ちた。」だいたいこういう感じ。辛抱強く話を聞くみたいな小説で、いつかこういうの書きたいな、書けたらなあと思う。このそれからが3回続くの、自分だと書くのに勇気がいると思うし、書いたとしても書いたぞってあざとさが出てしまう気がする。
 お昼は会社の横に来ていたフードトラックでタコスを食べた。パスモで支払えた。白いタコスには鶏肉、ピンクの生地には牛肉の赤ワイン煮込み、黒っぽい生地にはサボテン?を何か和えたやつ。三個入り。キウイのサルサが辛くて美味しかった。スマホを持っていたらぜったい写真を撮っていたなと思った。  並んでいるとき、トラックに据えた鉄板の火が消えてしまったようで店の人が五分くらい格闘していた。しばらくチャッカマンをカチカチやっていたけどたぶんチャッカマンも燃料切れのようで、ぜんぜん火がつかない。ライターでやろうとしてなかなかうまくいかず、昼休みの五分くらいってけっこう長く感じるしかなり人も並んでいたんだけど、その人はまるで焦らず黙々とやっていたのですごいなーと思った。焦りが顔に出ないタイプなだけかもしれないけど。べつに誰にも謝らず、普通に注文を受け普通にタコスを包んでとやっていて、そうだよなあと思った。
 労働を終えまっすぐ帰宅したらスマホにはやはり誰からも連絡は来ていなくて、千円勝ったと思った。千円くらい何か食べようと思った。わざわざ夜出かけるのめんどくさいなとは思ったけど、金曜の夜でほんとは寄り道したかったのだから出かけたい気持ちが勝った。  ぶらっと出てみたらいつもより涼しくて、どこまでも散歩できそうな気持ちのいい晩だった。ぶらぶら歩き、なんとなく電車に乗っていた。夜だから上り電車は空いていて、定期圏内の、でもあまり降りる用事がない駅のちょっと歩いたところにある中華料理屋というか定食屋というか、カツカレーが美味しいらしいので前から行ってみたかった。ふだんぜんぜん用事のない、買い物に行くような街でもない、誰も知り合いもいない駅。ここでわたしが何か交通事故とかにあって死んじゃったりしたら、なんであんなところにいたんだろうと家族は不思議に思うんだろうな……とあまり行かない場所に出かけるたび思う。  駅を降りたら書店があったので覗いてみた。雑誌と漫画と学参の棚が大きい、ちょっと広めの店舗の懐かしい感じの書店。気になっている本のリストを頭に浮かべながら物色し、目当てのいくつかは置いていないようだったけど、そういえばしゃしゃさんの本が今日発売日じゃなかったっけと思って探した。『蒼き太陽の詩』。1,2巻は棚に差してあったけど今日発売の3巻はなかった。レジに持って行って、これの3巻もありますかと尋ねたら奥から出してきてくれた。ラスト一冊でしたと教えてくれた。あっ善意と思った。カツカレーを食べながら読んだ。  『蒼き太陽の詩』は、アラビアンファンタジーというのかな、双子の王子が国王の座をめぐって殺し合う……というワクワクハラハラする物語。砂漠の王国が舞台の大長編で、読みやすくてぐいぐい進んだ。『インディアナ、インディアナ』を読んでいたから余計にそう思うのかも。壮麗な織物みたいな物語で、読んでいるとキャラクターたちの声が聞こえてくるし人や周りの風景が目に浮かぶ。生き生きとしている。これアニメになったらいいなーと思った。赤将軍のユングヴィはファイルーズあいさんがいいな……。
 カツカレーの店は、客はわたしだけで、店のおじいさんは座敷でテレビを見ていた。テーブルにハイボールのコップとつまみがいくつか並んでいて、わたしが来たのでおじいさんはちょっと慌てたようすで、でもにこやかに注文をとってくれた。すっかりすり減った畳が赤くなっていて、ちょっと緊張した。あまりきれいでない状態に緊張するのもあるし、よそものが入ってきてすみませんみたいな緊張感もある。テーブルはきれいに拭かれていた。揚げたてのカツが大きくて、油と肉汁がジュワッと溢れてきてすごく美味しかった。カレーは濃くて、柔らかくほぐれた牛肉もけっこう大きいしたくさん入っていた。たしかにうまい。がつがつ食べるうちにだんだん体のこわばりがほどけた。  テレビの音がものすごく大きくて閉口したけど、カツを揚げ終えたおじいさんが汗をぬぐいながら夢中で見ているのがなんかよかった。『チコちゃんに叱られる』というやつ?初めて見た。音が大きいから見てしまう。ボーッと生きてるんじゃねえよってこれかと思った。Vtuberっぽい。おじいさんが何度もはははと笑った。どうしてゴルフボールの表面にでこぼこがあるのかというのをとても真剣に見ているので、ひととおり解説が終わるのを待って会計を頼んだ。
 家に帰ったら板垣さんがツイッターでスペースをやっていたので、洗い物や洗濯物などを片付けながら聞いた。どうやら同じ大学出身だったことがわかって思わず話しかけてしまった。一日いろいろカラフルでなんか気持ちが興奮していたのか、やけにたくさんしゃべってしまって、恥ずかしくなって寝た。文フリの話とか小説の話。  千葉雅也『エレクトリック』、わたしは父親がエロいのがいいと思った。と言ったんだけど、なんていうの、エロいって言い方はちょっとちがう気もするんだけどエロく書くことのすごさがあってそれをそう受け取りたいというか……。これは『サバービアの憂鬱』で読んだんだったかな、「男性は会社(仕事)に嫁ぐ」というのを思い出したの。大場正明『サバービアの憂鬱 「郊外」の誕生とその爆発的発展の過程』。うろおぼえだからちょっとちがうかもだけど、男性が会社(仕事)に対して「嫁」になってしまう、みたいな。父親の人妻的な感じ。そういうエロさ。舞台の宇都宮も郊外(サバービア)だなと思った。そしてそういう小説の、文章自体がヘテロでない感じがあって、すごくよかった。多くの小説の文章が意識的にも無意識的にも備えている、当然の「調べ」みたいなものがあんまりない文章だと思った。
 『エレクトリック』の前後で読んでいた、数年前の文藝賞の作品が、なんかこうすごくどヘテロだったのもあってそう思ったんだと思う。ヘテロが悪いわけではもちろんないけどよくもわるくもどヘテロ、ザ・調べという感じで、この作品のどこらへんがわたしは苦手だったのかを語ろうとすると、そこに糸口があるみたいな話。  なんていうの、村上春樹に文句言ってる場合じゃないくらい若い作家の新しい作品がめちゃめちゃ古いジェンダー観で、読んでいて作品の面白さとかすごさはわかるような気はしたんだけど、でもこれをよしとするんだなあ、帯に誰々氏が激賞と書いてあるけどそうなんだ?!みたいな驚きは、やはりあった。ジェンダー観もそうだし、地方や精神障害者への偏見を強化するような感じもあって気になった。「壮大な作品」「圧倒的な熱量」「知識と想像力を駆使し」と帯に書かれていたけど、わたしは読んでいて小ささや狭さの方が目についた。  いやわざとそう書いている、いかにもなステレオタイプをやることに意味がある作品なんだろうとは思った。仕掛けというか。でも意味があるんですよと書くずるさというか……。ステレオタイプをなぞり続けたい、そのようにして書けるものに作家は意味を見出したいし、どうしても興味がある。それってフェチではあるよなあと思うんだけど、ステレオタイプをフェチと指摘されることってあんまりない気がする。  偏見の強化によって生まれる痛み、それを感じない場所に作家は立っていて、痛みを感じる人のこともあまり見えない。いや見えてはいるかもしんないけど、自分の書くこの作品とはさほど関係ないと思っている? それは別の作家、何かそれにふさわしい属性を持った作家がやることであって自分の作品では関係ない。おそらくは無自覚な特権があり、特権って言うと反発したくなると思うけど……みたいなことを思って、うーーんとなった。やつあたりかもしんないけど。作品名出さずに書いてるからなんのこっちゃって感じだ��思うけど。  まあ小説ってそんなに読まれないんだろうなと思った。読む人そんなにいないから、これのここってどうなのみたいな話題にのぼることってあんまりない。漫画とはそこがちがう。あとまあわたしが純文学、文芸誌とその賞にそれなりに夢をもっている(もっちゃっている)ふしはあるな…。
 そしてこの作品の直後にC・パム・ジャン『その丘が黄金ならば』を読んであーーーこういうのが好きだ〜〜と思って、なんかそういう不満のようなものはふっとんだ。大きい。大きい小説。こういうのがいい。小さい小説がだめなわけではぜんぜんないけど、大きい話を書こうとしたものが狭苦しく感じられるのはやはりつらい。あと長さもよかった。四六版で384ページ。父親が亡くなり子どもたちが埋葬の旅に出る…という筋書きで、本のけっこう前半で埋葬は済んじゃう。その後が長いのがよかった。純文学系の賞はちょっと短いのかもしれない。「自分の書くこの作品とはさほど関係ない」と書いたけど、まあだって短いもんなー。読む人にも書く人にも。この長さの話はもうちょっと掘り下げたい。日記に書きたいことっていろいろあるな。長くなったのでまた今度。
Tumblr media
14 notes · View notes
straycatboogie · 1 year
Text
2023/10/04
BGM: Julia Fordham - Invisible War
実を言うと、今日・明日と休みである。なので実家に戻ることにした。といっても、隣町にある実家なので帰省なんて大げさなものでもないのだけど、お盆も過ぎ秋めいてきて季節外れの親孝行(?)ということに相成ってしまった。朝、ZOOMを立ち上げて英会話関係のサロンのオンラインミーティングに参加する。そこで英語でいろいろ参加者の方々が例文を作って楽しむというレッスンに興じる。ジャニーズ事務所が新しく命名した事務所名「Smile Up」について、あるいはぼくがかれこれ現時点で8年間続けられている断酒について話が及ぶ。ぼくが勤めている会社ではそろそろ秋の風物詩であるボジョレー・ヌーヴォーをめぐって「お酒は呑めないです。人生半分損してると思います」なんて会話が繰り広げられている。ぼくも(ぼくはグルメなんかではありえないのに)料理の味を堪能しようとワインを呑んで「うん、フルーティーだ」なんて言っていた恥ずかしい過去を思い出す。ちなみにアルコール依存症で断酒している人は甘酒も飲まないし、厳しい人はみりんも(匂いが酒を連想させるので)料理に使わないという徹底ぶりを見せる。ノンアルコールの飲料も飲まない(これも「モノホン」を連想させてしまうからだ)。ここまでして断酒を続けるその意義についてはまた別の機会に書けたらと思う。さみしい人生かもしれないが、味わい深いものでもある。
昼、実家に戻る。そして両親と栗ごはんを食べた。グループホームでの生活やジョブコーチを交えたぼくの仕事、あるいは英語を学び続けるぼくの私生活についてなど話が及ぶ。この実家にいた頃……どうやったらこの家を出て「自立」できるのかと気ばかり焦っていたのを思い出した。だから一時期、それこそ酒に溺れていた頃はこの家もこの家を建てた両親についてもぜんぜんいい思いを抱いていなかったのだった。火をつけてやろうか、なんてアホなことを考えた……その頃つき合っていた友だちからも「そんな家出ていけ」と言われたり。そんなこんなで悩んでいた頃にこの町にある「高次脳機能障害」のための古民家カフェの電話番号を見つけて、勇気を出して電話をかけてみた。電話に出た代表者の方がぼくの発達障害の話を聞いて「いや、残念だけどうちはそういう施設じゃないんだけど……」とおっしゃって、そこであきらめて……でもその後すぐに折り返し「もしもし? さっきの人?」と電話がかかってきた。そこから少しずついまの生活への足がかりが得られて、自分なりに(そんなウハウハな人生なんてまったく歩んでいないのだけれど)洗濯したりあれこれ身繕いしたりする暮らしへ移っていき、グループホーム暮らしを始められたのだった。それがいま、これを書いている時点でのこの暮らしである。
その後、グーグー思いっきり昼寝をしたあとに阿部朋美・伊藤和行『ギフテッドの光と影』を読んだ。そうしていると午前中にお世話になったサロンの主宰者の方が日本で増えている不登校についてFacebookに投稿しておられた。それを読んでタイムリーだったので自分の意見をコメントとして書き込んだ。『ギフテッドの光と影』では知能が高すぎて学校の教育になじめず、それゆえに「落ちこぼれ」「はみ出しもの」と化してしまうギフテッドの人びとの苦悩と再生が語られている。もちろん、学校教育からはみ出してしまう人が全員ギフテッドであるわけではない。だが、「学校教育になじむ・なじまない」だけが「絶対的で単一の」判断基準になるのはおかしいと思う。ぼくは子どもを育てたこともなく、子どもに何か教えたこともないのでこの件については完全な「机上の空論」しか書けない。でも、大事なのはそうした「学校教育」にとらわれない「もう1つの」あるいは「多様な」基準で子どもたちを判断することだと思う。でも、だからといってぼくは「学校教育はくだらない」「学校なんて行くな」とも思いたくない。それもまた極論に過ぎる。学校は基礎教養を体得し、集団で何かを成し遂げる達成感を身につける場としていまだに大事だろう。これについても掘り下げていくと実に深い話になると思った。
夜、ふと実家のぼくの部屋の本棚に中島義道『たまたま地上にぼくは生まれた』があるのに気づいて、懐かしく思うに過去、ぼくはこの「戦う哲学者」中島義道にずいぶんあこがれた。まさしくこの実家にいて、でも両親との仲もギスギスしていて私生活では独りぼっちで酒に溺れてばかりだった頃に酔いの回った頭で辛うじて中島義道を読み、「そうか、自分のこの生きづらさは『哲学』によって救われるのだ」と思ったりもしたのだった。いまになって、それこそ両親と仲を築き直してから読む彼の主張にはなかなか味わい深いものがある。ぼくは中島義道とは違う。彼の「両親を(精神的に)見捨てろ」という意見や「人生は本質的に不幸だ」という意見には「なぜですか」と異論をはさみたくなる。ぼくはついに中島義道ほど思考を徹底できない。その意味で哲学的なセンスに恵まれていないことを自覚し、それゆえに幾分か彼に対するヒガミさえ感じることを認める。だが、それを踏まえた上で「でも、ぼくはぼくの信じる道を歩む」「ぼくはぼくがこの仕事や私生活で体得し、血肉化させてきた『哲学』『生き方』に殉じる」と言うだろう。でももちろん、これは中島義道の哲学を全否定するわけではない。これからもぼくは折に触れて(前ほど頻繁にではないだろうにせよ)彼の本から学ぼうとすると思う。そして、そんなぼくと彼、あるいはぼくとさまざまな方との「きしみ」「ぶつかり合い」から生まれる「対話」を大事にしたいとも思った。
2 notes · View notes
lu4e-ms · 3 months
Text
なんでもない日々の五日間はあんなにも針が進むのが待ち遠しいのに、あなたと居る五日間は思うよりもずっと短くて、二人一緒のまま、このままで時が止まってしまえば良いのにと何度も思った。
久しぶりのデートの週は結構ハードスケジュールだったけど、あなたと会える日がすごく楽しみで仕方なくて今までにないくらい仕事頑張ってました。その合間であなたの隣に立って恥ずかしくないように前回会った時より少し身体を絞って、前より好きになれた自分で会いに行きました。行きの新幹線ではあんまり眠れなかった気がするし身体がバキバキだった気もするけど、初めてのデートの日みたいに浮かれてたなあ。あの頃からもう二年の月日が経っているらしく、街も人も変われば新幹線の喫煙スペースも全部廃止になるという変化もありまして、この移動時間は僕にとって厳しい時間でもあるんだけど、そんなことより早く会いたいので、ええ。会えば全部吹き飛ぶので、はい。初日は予定してた通り僕の友達と合流してまずはカフェに。友達にはあなたのことを前々から話してたんだけど、見たことないくらい緊張してるのが分かってめちゃくちゃ面白かったのを覚えてる。でもそういう時、いつもフランクに対応してくれるあなたが本当にかっこいいし素敵だなと思う。あなたのこと、みんなに大声で自慢したいくらい素敵な恋人だって思うことはあっても、紹介して恥ずかしいだなんて思うことはないよ。一度たりとも、今までもこれからもたとえあの世に行ったとしてもずっとないよ。カフェの後は少し早めに緊張が少し解れた友達と一緒にあなたが色々考えてくれていたお店に。僕も初めて行った所と、二回目の所。日曜日の夜って結構ゆっくりできていいね。二軒目ではお店の人ともお話できたし、楽しそうに話してるあなたを見られて嬉しかった。それに知り合いに会った時、躊躇なく僕を恋人だって紹介してくれるの、あんまり言わないけどすごく嬉しいんだよ。何杯か飲んだ後疲れてたっていうのもあって結構酔いが回ってきて早めの解散。友達が楽しめたかなって不安だったけど楽しかったって言ってくれたから良かったし、全部あなたのおかげだね。ありがとう。僕の友達は自分から言葉を掛けるのが苦手なタイプが多いから、きっと次に紹介する友達もあなたと会う時は緊張してると思うけど、その時もどうぞよろしくお願いします。大好きなみんなにあなたのこと知って欲しいんだ。飲んだ後はどうしたっけ、早めにホテルに戻ってゆっくりしたかな。あんまり覚えてはないけど幸せだったのは確か。トイレとお風呂以外はずっと一緒なんて、なんだか夫婦みたいですね。嬉しい。
二日目はお互いゆっくり起きて、前に僕が行きたい!って言っていた街に。一緒に準備して何を着ようかなってあれこれファッションショーする時間もデートって感じがして楽しい。隣に座って電車に揺られながら見る景色に、いつの日か僕もこんな街に住むんだなって考えてたらちょっとだけ泣きそうになった。地元も、今住んでいる街も、家族も友達も、僕にとっては死ぬまで切り離したくない大切な一部なんだけど、やっぱり僕はあなたの近くで、これからの人生を歩みたいと改めて思った。もちろんどれも置いていく訳ではないんだよ、抱えて行くの、思い出ごと。なんだかちょっと、ドラマチックでしょ。目的地に着いてから腹ペコ二人組はすぐにお目当てのラーメン屋さんに。雰囲気も好きだったし、あなたがよく行くって聞いていたからすごく楽しみにしてたんだ。メニューを見たら僕の住む街の辺り名前が並んでて、なんだか親近感が湧いたし、それを美味しいって食べてるあなたを想像したらそれだけで幸せだったなあ。ラーメンはめちゃくちゃ美味しくて、お互いのも貰ったりして。食事って日々の中で割と短い時間だけど、僕は食べることが好きなので(少食なんですよ実は)まずその時点で食事の時間が大好きなんですよ。その上僕の隣でかわいいあなたがかわいくご飯を口に入れてかわいく咀嚼してかわいく飲み込んでいるっていう事実だけで世界を救うヒーローになれそうなくらい力がみなぎる気がする。いつもかわいくてありがとう。ラーメンの後はおすすめのかき氷を食べましたね。お店のかき氷ってあんまり食べたことなかったんだけど、なんとそれがめちゃくちゃに美味くて感動。二人で食べたらすぐになくなっちゃって、二個目をねだったら無理って言われて少し悲しかったです。次はお腹の調子と相談しながら三つ食おう。楽しみにしてます。その後は次のお店の予約時間まで少しお買い物。あなたと居ると楽しくて財布の紐が緩んじゃうんですよね。とても良いことです。色々買ってのんびりアイスを食べて、楽しい時間だった。バーに行ってからは俺の好きそうなすごく綺麗なカ���テルを飲んだり、事前に準備してたシートを渡して僕らのイメージカクテルを頼んだり。あなたのがテーブルに置かれた時、色合いとかもイメージに合ってるなあって思ったけど飲んでみると結構甘くて面白かった。それも含めてあなたみたいだね。っていうと怒られる?僕のカクテルも結構イメージに合ってたんじゃないでしょうか。王冠のマドラーはなんだか気恥しかったけど。バーの後は少しだけカラオケに。やっぱりあなたの歌声が一番だなあ。聴く度に僕はあなたに恋をしてるよ。だからずっと隣でその声を聴かせてくださいね。それで毎回告白させて。歌った後はあなたがよく行く所に。前回から時間が経っていたからか少し恥ずかしさがあったけど、一緒に温泉ってすごく幸せなんだよね。同性で良かったなあってしみじみ思うよ。ここはいけるって!って言われたサウナと水風呂はやっぱり命の危機を感じてすぐにダウンしちゃったけどね…。でもあなたを待ってる時間もずっと幸せなんだよ。だから気にせずサウナーになってください。温泉から出た後は小学生みたいに牛乳とアイスを貪るように摂取しながらダラダラ過ごして、少し休憩してからいつものお店に。何度通ってもやっぱりここでしょ、ってなるんだよね。今思い返してまた食べたくなってきた。今度一人でも行こうかな。
三日目は二人して大分遅起き。お昼はあれよ、あれ。名前が出てこない。顔ぐらいでかい何とかサンドを食べた気がする。あれも美味しかったなあ。あと初めて食べたあのりんご飴。テレビとかSNSでよく見かけてたけど何となく食べてこなかったのが信じられないくらい美味しかった。あれはリピート確定です。今も食べたい。二度寝三度寝と繰り返してたらもう夕方くらいになって。急いで準備して外に出たら僕らのデートでは毎度の雨。でも雨も嫌いじゃないよ、一緒の傘に入れるし、くっついて歩けるから。とは言っても時間も時間だし、ということでタクシー捕まえてお目当ての香水のお店に。二人一緒に話をして選べるのかなって思ってたら奥からお姉さんが出てきて別々になっちゃったね。僕はお姉さんのおかげもあってすんなり決まったんだけど、隣のあなたは結構迷ってる感じで、結局最後は二人であなたの香水を選べて良かった。あなたらしい、少し癖のある匂いが好きだなあって思ったよ。香水をこんな風に選んだのって初めてで、めちゃくちゃ楽しかったなあ。連れて行ってくれてありがとう。最後の方は僕も鼻の限界がきててずっとコーヒー豆嗅いでたけど。今度はお互い選んだ香水つけて会いたいね。新鮮な感じがしていいと思わない?香水を選んだ後は雨に降られて濡れながら、鼻を休めるためにカフェへ。ゆっくりできたし、僕からはあんまり撮ろうって言わない写真も沢山撮れて嬉しかった。写真の中の僕はずっと口角が上がってて、後から見返してみてもこの時の自分、すごく幸せだったんだなって笑ってしまう。それもこれも、全部あなたと一緒に居るからだよ。焼肉が食べたいあまりに行きたいと言い続けてたけど生憎のどしゃ降りで断念して、前から食べさせたいと話してくれてたもんじゃ焼きを食べに。本当に良かった?ごめんねって言われたけど、あなたとならどこに行っても楽しいし、それにめちゃくちゃ美味しかった。近くにお店がないからなのかあんまり食べてこなかったけど、こんなに美味しいなら毎回もアリだなって思った食べるの大好きおじさんです。かっこいい所見せたいって勇ましくもんじゃを焼いていたけど、肝心なところでちょっとポンコツが出ちゃうの、頭抱えるくらいかわいくてしんどかったよ。それにかっこつけなくても、あなたはいつでもかっこいいから心配しないで。それと、あなたと同じくらい僕もかっこいいってそろそろ認めて。もんじゃをお腹がはち切れそうなくらい食べた後は二回目のカラオケに。予期せぬ知り合いとの再会に二人して笑って、沢山歌って。あなたとの思い出が増える度幸せな気持ちになる。移動中の車の中、あなたが居ない時間、何度も聞き返してまた幸せな気持ちになって、そろそろおかしくなっちゃうよ。一緒に歌える曲も増やしたいね。あなたとなら何歌っても楽しいだろうなあ。キャスが終わってから僕のためだけに歌ってくれたあの歌も、あれから何度も聴いてる。ありがとう。大好きだよ。僕を選んでくれてありがとうって、もっともっと伝えさせて。
気がついたらもう四日目。いつものようにホテルを移動して、お昼ご飯を食べながらまずは僕の好きだった映画を。大分前の映画なんだけど、やっぱり好きだなあ。合間のツッコミに笑いながら不味い不味いって蕎麦を食べてるあなたが一番面白かった。二本目は予定が合わなくて観られなかったけど前から観たかったものを。漫画を読んだのが結構前だったから薄らとしか内容を覚えてなくて、ほとんど初めましてな感じで新鮮だったし、すごく面白かったから一緒に観られて良かった。あんまり映画を観てこなかったけど、のんびりお部屋で映画デートも良いものですね。また次もあなたのおすすめの映画を観たいなあ。早く次が来ないかな。映画の後はあなたが出てるものを見たいって言ったら、若かりし頃のあなたの作品に決定。噂には聞いていたけど本当にかわいいな。あのあどけない顔を僕の胸に埋めて連れ去りたいくらいにはかわいかったよ。もちろん今のあなたも最強にかわいいです。毎日ありがとう。なんだかんだしてたら二人とも睡魔にやられて少しお昼寝。いつも聞いてる鼾が隣から聞こえる幸せを噛み締めながら抱き締めたら背を向けて逃げられたから本当に食べてやろうかと思ったけど。二時間くらい眠ってたら鼻をつままれて起こされて、準備してから行きたいって言ってた焼肉屋さんに。やっぱり美味いんだよなあ。でも肉食べなくてもあなたの食べてる顔見てたら白米二合くらい食べられそう。毎秒かわいい。こんなにかわいくて変な人に連れ去られないか心配だよいつも。気をつけてね。今回もたらふく食べてからホテルに戻って、あなたの作品の続きを見たりこれじゃないあれじゃないって謎に語りながら大人のビデオを見たり。僕の希望で数時間前に見たあなたみたいに変身、じゃないけどかわいい格好してくれて、久しぶりにあなたに触れました。いつもは恥ずかしがるのに今回は電気を点けたままだったからより細部まであなたを見つめられて嬉しかったなあ。手や髪に触れるだけでも幸せだけど、僕の腕の中でかわいい顔をしてるあなたを見るのも幸せ。満たされた気持ちになる。欲を言うなら、毎日触れていたいよ。
最終日は僕が午後から仕事だったから抱き抱えるように唸るあなたを起こして。五日間本当にあっという間の時間で帰りたくなかったな。帰らなきゃいけないのがこの世の不思議過ぎておかしいこと言ってた気がする。駅について、そんなにゆっくりもできなかったけどいつものお店に。隣で煙草を吸いながら思い出に耽っていたらもう帰る時間に。抱き締めてくれる身体が温かくて、生きてるってすごいって毎回思うんだ。その度このまま時間が止まってしまえばいいのにって、そうしたらあなたといつまでも過ごせるのにって、この距離を恨んでしまう。でも、使い古された言葉だけど、離れている分募る愛もあるんだなって今なら思います。こんな風に僕に教えてくれたのは紛れもなくあなただよ。また来月まで、行ってきます。あなたと過ごす時間がこの上ない幸せだよ。いつもありがとう。心から愛しています。
0 notes
mame-trpg · 4 months
Text
CoC:LAST-0
Tumblr media
❖KP❖
いぬさん
◈PL/PC◈
HO1:うーたんさん/Ava
HO2:しおまめ/海花
HO3:Uさん/クィーラ
HO4:ヒヅキさん/ルピス
▷▷ 全生還
以降ネタバレ有り。
現在通過中、未通過の人は【さらに読む】を開かないでください。
※Xからきた場合は以下ネタバレなのでスクロール注意。
END:A-1全生還で終了しました。
通過中ずっとめしょめしょしてたし「HO2がなにしたってんだよ!!!」ってなってましたが、HO2は魂HOです。HO2で通れてよかったですありがとうございました。
個別中に何があったかとか↓
【個別導入時】
子守歌を歌ってくれる両親の夢を見てるよってスタートでした。
人魚と王子の子守歌を歌う優しい両親に囲まれて、優しく頭を撫でられる、そんな幸せな夢です。
幸せ…だったんだな……ってこの時点で既に泣きそうになってしまって…だから余計に、終盤のあの、薬品棚のあれ…絶対海花知ったら壊れてしまうって思って…。
両親がどういう人達なのかというのをこの時点でわかってて、ちゃんと「愛されていた」ということが、「幸せだった」ということが感じられて、そんな両親が肉片になって狭い瓶の中に閉じ込められているって知ったら、絶対闇落ち待ったなしなので…言わずにいてくれた自陣に感謝しかないです…。
起きてイメルちゃんに夢の話をしましたが、イメルちゃんにこのとき「一緒に居るわ」って約束してしまって…ふせったーにも書いたけど、ああ~~~約束してしまった…ってなってしまい…。
海花は「いつか外に行ってみたいけど、イメルが悲しんでしまうから誰にも秘密にしている子」だったので…「一緒に居る」も本心ですが、「外に行きたい」とも思っていたので、苦しかったですね。
結局最後の最後までイメルちゃんにも自陣にも「本当は外に行きたいって思ってたのよ」って吐露しなかったので、海花は多分ずっと誰にも言わないんでしょうね。CSに書いた「誰にも教えてあげないわ。これは秘密。秘密なの。」はここにかかってたんですが、これを最後の最後まで貫き通して終えるとは思ってませんでした。
【初日夜個別】
ここでは族長に髪を撫でられる夢を見たんですが、その夢の中で八尾比丘尼伝説の話をしました。
「伝説を信じて自分達のことを欲しがる人間がいまも存在している」的なことを族長が言ってまして、そのあとなんか鈍い音がして水が赤く染まっていって、見上げたらさっきまで話していた筈の族長が肉片になってるという夢で…。
夢…だった……ってほっとしたらなんか、頭を撫でられる感触があるし、一緒に寝てたイメルちゃんが青ざめて一点を見つめてまして……あの、本当にここ、こわかったです。
『見る』って決めるまでにこわくて少し時間もらってしまうくらいには海花もPLも怯えました。
まあ、見たら見たで、なんか見たことない人間の手が髪に絡まってたんですがね。ホラーでした。ホラーでしたね。
族長の手じゃなかったことには安心しましたが、こわかったです。
【2日目夜】
イメルちゃんと族長と食卓を囲んでるシーン。
本当の家族じゃなくても『本当の家族』と変わり映えのない、幸せな空間でした。
ここはふせったーにも書きましたが、PLは族長と会話して「ああ…消えちゃうのか…」って察してたんですが、海花は『察する』まではいかないけど、会話の流れで『何か不安を感じる』ことはあるかなとも思ったので「まだいなくなったりしないわよね…?」って聞きました。
何も答えなかった族長に、どれだけ海花のことを愛してくれているのか感じることができて、抱きついて甘えて、イメルちゃんも呼んで3人で抱きしめあって、「幸福だよ」って3人で伝えあって、私はこのシーンがとても好きです。
そうして眠りについて、夢を見ました。
子守歌の夢。けれど内容は違っていて、王子は別の女性を愛して、王子のために人魚は自らの身を投げだした、そんな悲しい夢。
そんな夢を見て、泣きながら起きて、朝食を食べにイメルちゃんと向かったら、いつも食事の用意をしてくれているはずの族長の姿がなくて…ぼろぼろ泣かないわけがなくて…。
めしょめしょしながらメインに戻ってめしょめしょしながら夜休憩に入りました。めしょめしょするしか選択肢がない。
卓後に族長は海花とイメルちゃんを守るために自分が犠牲になろうとしてたって聞いてまた泣きそうになったんですけど…族長……愛…愛です…。
【4日目夜】
族長のお部屋を泣きながら掃除するイメルちゃん…苦しい…ってなりました。
一緒に族長のお部屋片づけてたら、なんか…あの……族長の手記に、イメルちゃんのトラウマとか、人間に仲間が捕まってることとか、管理施設に仲間や、自分達の両親が居るかもしれないこととか書かれてて…頭一瞬真っ白になりました。
人間って愚か。愚かだ。本当に。
イメルちゃんと話しをしているとき「逃げよう」と言われて、海花は正直に言うと本当はすごく嬉しかったです。
「外は恐ろしい」と言っていたイメルちゃんが、自分と一緒に逃げることを望んでくれて、嬉しかったです。本当は嬉しくて、その言葉に頷いてしまいたかった。
でも、イメルちゃんのトラウマの話も聞いて、族長の手記や自陣や自分の仲間達のことを考えたら、頷くことはできなくて…。
何よりも、『人間をこのままにするのは嫌』でした。
海花は綺麗なものが好きだから、海や珊瑚、魚たち、仲間たちの笑顔、陸にある見たことのなかった花や木の実。そういった自分の大好きなきらきらした綺麗なものが、これ以上人間達に穢されるのは絶対に嫌で、何よりも、一番大切なイメルちゃんにトラウマを植え付けて、苦しませる人間が許せませんでした。
お話を終えて、部屋を後にしてから管理施設に向かう前に、イメルちゃんに「必ず帰るから待っていて」という旨を書いた手紙を残しました。
手紙にはその日の昼間、ボーゲンハイト族の区画で彼女のために持ち帰った赤い小さな木の実と、スノードロップ、自分のウロコを添えて。
【チェイス後NPCとのやり取り】
KPの機転で戦闘とチェイス後にそれぞれのNPCとゆっくり会話する時間を設けてもらえたので、いっぱいお話できて嬉しかったです。ありがとうKP。HAPPY。
最後の最後にイメルちゃんの鼻先にキスをしましたが、海花は「恋愛」というものを全然これっぽっちも理解してないので、無自覚です。
ただ、クィーラさんとギルバートさんが話してる間、イメルちゃんと抱きしめあってくるくるしたりしてる間に、「愛しい」「キスしたい」と海花が思ったので、鼻先にキスしました。
鼻先へのキスの意味は「愛おしい」「守りたい」「可愛がりたい」です。
イメルちゃんとお話してるとき「ずっと一緒よ」って言ったんですが、導入時の「一緒に居る」は罪悪感混じりのものだったのに対して、ここで言った「ずっと一緒よ」は何の混ざり気のないのものだったので、個人的に嬉しかったですね。ちゃんと、罪悪感を抱えずに、イメルちゃんと約束することができたので。
-----------------------------------
【シナリオ後】
卓後にKPに聞いたら族長は族長に復帰しないと思うとのことだったので、イメルちゃんと2人で族長になります。
海花が『種族』よりも『個』の方を大切に思う子なので、『種族』の垣根を越えた催し物とか、交流とか、そういったものを強く望むと思うので、族長になったならなおさら他種族との垣根をなくしていく方に力を入れると思います。
もし仮に『種族』が減ってしまっても、『ひとりぼっち』にはならなくて済むように、『個』を大切にしていく、そんな族長になると思います。
「死んでも泡になって消えたりしない」ことがわかったいま、それをちゃんとフィリグのみんなには伝えるでしょうし、赤裸々に言うことはしないにしろ���人間がやっていたことを伝えることはすると思います。自分が感じたことや、自分がいま考えていることとか、想いとかそういったものも全部、しっかり伝えると思うので、まあ、海花なら多分大丈夫なんじゃないかなとは思います。
お墓というものがあることを知ったので、お墓を作りましょうってなる気はしますね。
あと多分石板は壊して大丈夫なら壊します。
二度と悪用されないようにみんなに協力してもらって粉々にします。
アウブリック族の区画に居る飛べないアウブリック族のところにはちょいちょい顔出してる気がしますね。
彼等には彼等にしかできないことがきっとあると考えて、「ねえ、空が駄目なら水の中はどうかしら?」とか言ってフィリグで協力者募って泳ぎを教えたりしそう。実際ペンギンとか居るから泳ぎの方が全然得意なアウブリック族普通に居そう…。
「泳ぎが駄目なら歌は?」「踊りは?」「走るのは?」って彼等にとっての「自信」に繋がりそうなことがないかいっぱい考えそうですね。
ボーゲンハイト族の区画はまだまだ危険でしょうから、1人で近付くということはしないけど、ゆっくり少しずつでも他のボーゲンハイト族もまたみんなで過ごして、他種族とも交流できるようになっていったらいいなと思っているので、ルピスくんにお願いしてたまに連れて行ってもらったりはしてると思います。
管理施設にはAvaくんに会いにちょいちょい行ってるし遊びに行きましょうって言って外に引っ張り出したりしてると思います。もちろん他PCも巻き込みます。みんなで色んなものを見て笑って過ごしてほしいです。
あと終了後にも言いましたが、海花は両親や仲間の痕跡がないかと探し続けてると思うので、多分他PC達が見てられなくなるんじゃないかと…特に自陣で唯一行く末を知っているAvaくんが…。
教えるということはしないって言ってましたがPLもそれはあまりにも酷だからしなくていいと思ってるので、全然しなくて大丈夫ですが、いつかふわっとでいいので優しい嘘をついてあげてほしいです。Avaくんにまた嘘を吐かせてしまうことになるので申し訳ないんですが、それで海花は間違いなく救われるので。
瓶に入れられた肉片たちはそっと海に還すなり埋葬するなりしてもらえると嬉しいです。
形だけでもってお墓とか建てるのかな…海花は建てることを望みそうですね…建てるなら慰霊碑になるんでしょうね…。
-----------------------------------
【自陣に対して】
HO1:Avaくん
「Avaは白色の宝石。しろをぎゅっととじこめたような…そう、あのときみつけた、スノードロップのような、小さいけれど、つよくさきほこる、そんな宝石なの。さみしいと泣いたあなたは、ちゃんと生きてるわ。あなたの居場所はちゃんとここにあるわ。大丈夫。さみしいときは歌いましょう。Avaの歌声は無垢できれいよ。私はいつでもあなたと歌うわ。一緒に色んなものを見て、色んなことを感じて、笑って、泣いて、生きていきましょう。そうすればきっと、あなたの白色は、もっともっときれいできらきらしたものになるわ。」
HO3:クィーラさん
「クィーラはブラウン色の宝石。傾けるとキッとするどく光るけれど、真ん中の方はやさしく柔らかにひかるのよ。そう、まるで木々の幹のような、つよさとやさしさをもった、そんな宝石なの。それから少し、パパみたいだなって思うわ。きっとあなたがやさしいからね。またあなたの背中に乗って、空を飛んでみたいわ。今度はイメルも一緒だと嬉しいのだけれど、だめかしら?自分の選んだ道で、大切な人をかなしませるかもしれないって悩んだあなたは、とてもきれいよ。それにね、ほら、大丈夫だったでしょう?だってあなたには、共に歩みたいと思わせるだけのつよさがあるもの。」
HO4:ルピスくん
「ルピスは紫色の宝石。真ん中にね、おほしさまのような光が入った宝石よ。そうね、夜と朝が混ざって、やわらかな紫色に染まることがあるでしょう?そんなやわらかでやさしい、けれどなかにつよさをぎゅっと詰め込んだようなそんな宝石なのよ。ルピスのふわふわしたしっぽも、ぷにぷにのにくきゅうも大好きよ。大切な人を守るために、誰かを守るために、戦えるあなたはかっこよくて、とてもきれいよ。そんなあなたならきっと、一族をまとめられるんじゃないかしら。だってあなたはそれだけの力を持っているもの。そんな未来を、私は見てみたいって、そう思うの。」
『海花』で行くことができて本当によかったです。
海花に優しくしてくれてありがとうございました。
-----------------------------------
【ふせまとめ】
※随時更新※
ふせ①
ふせ②
ふせ③
0 notes
kiriri1011 · 5 months
Text
互いの食欲(R18)
 食事中、対面にいる彼になんとなく視線を合わせたときだ。  大きく口をひらき、焼いた豚の塊肉を食いちぎるハルシン。歯を立てる瞬間に目を閉じたのを見た。そのときの表情はタヴにとってどこか見覚えがあるようだった。  一度に頬張る量は多いが、次から次へと忙しなく掻き込むことはなく、ハルシンはゆっくりと顎を動かして咀嚼する。食べ物の味をよく味わっているのだろう。そのためハルシンの食事の動作はどこか優雅に見えた。それは貴族の優雅さというより、自分で仕留めた獲物を誰にも邪魔されず楽しむ獣の余裕といったところか。  それは、タヴが知っている彼のセックスそのままだった。  肉を何度か頬張った後、木のゴブレットに注いだ葡萄酒を飲む。ごく、と酒が喉を嚥下すると、逞しい喉仏が動いた。  瞬間、タヴは何も飲んでいない自分の喉が鳴るのがわかった。
「どうした? タヴ」
 見つめられていることに気づいたハルシンは不思議そうに訊ねてくる。  タヴは自分が食べるのも忘れて、一連の仕草をぼうっと見つめていた。  彼の声に現実に引き戻されて、自分でもよくわからないままに慌てる。
「うっ、ううん何でもない……!」
 素早く首を振って視線をそらす。  まさか、食事するところを見て、昼にふさわしくないものを連想したなんて言えない。  すでに何度も情を交わした仲とはいえ、食事する姿から彼のプライバシーな世界を覗き見しているようないけない気持ちになる。それに、周りには仲間もいるのに……。
「タヴ、食欲がないのか? せっかく多めに肉を焼いたのに」    胸の中がもやもやして食事どころではなくなったタヴに、今日の調理係のゲイルが心配そうに訊ねる。  その視線はちらりと大皿に向かう。頑丈なタヴの体調を気にしているというより、彼はたくさん焼いた肉の行く末を心配しているようだ。
「わ、私はもう十分食べたから。レイゼル、残りは食べて」
「なんで私が? 戦士に余分な脂肪は不要よ。残ったらカーラックかスクラッチにでもあげなさい」
「ちょっと、人を残飯処理みたいに言わないでくれる!? まあ食べるけどさ!」
「俺もまだ食べるぞ」
 カーラックの後に続いてハルシンも言う。  その台詞にタヴはひとり頬を染めた。  まさか食事姿に発情されているとは、大ドルイドでも決して知るまい。
***
 キスの合間、緩やかに滑り込んできた舌がタヴの舌を捉え、ゆっくりと絡めとった。  彼は自分からはあまり動かず、タヴが舌を動かすのを待っているようだ。おずおずとタヴが太い首に抱きつき、控えめに舌を這わせると、それに合わせるように彼が動いた。  ゆっくりと、恋人を味わうように。  顎の下からぽたぽたと唾液を垂らしながら、タヴはとろんと目を細める。  恋人の恍惚を感じ取ったのか、ハルシンは穏やかに笑い声を立て、抱いた彼女の腰をさすった。  その触れ方に、正面から抱き合って繋がった場所を意識させられて、タヴは思わず太腿をぴくんと震わせる。
「気持ちよさそうだ」
 感じている顔をことさら長く見つめながら、ハルシンは低く嗄れた声でささやいた。  タヴは草の上に座ったハルシンの上に抱きかかえられている。ぎゅうと固く抱かれて密着すればするほど、彼を受け入れる胎内が甘く疼いた。
「だって……きもちいいから……」
 そう言うほかないタヴの答えに、ハルシンはまた深いキスで応じる。  くちゅくちゅと濃密な水音を立てながら、舌と舌を絡め合わせる。繋がったままキスをするとこんなに満ち足りた気持ちになるのは彼で初めて知った。  350歳の恋人に大人のキスを仕込まれている最中のタヴは、自分が知っている動きをすべて使って彼を喜ばせようとする。  自分が動くと、ハルシンは嬉しそうにそれを歓迎する。  彼はふたりで昇り詰めていく感覚が好きなようだ。自分本位な動きは一切せず、若い恋人の快楽を一番大事にしている。  それはどこか、命を享受する食事という行為に対する、彼の考え方に似ている気がした。  獲物に敬意を示すように肉を深く味わう。さながら獲物の命と自分の命は対であるかのように。
(……なんか、すごくえっちだ……)
「動かすぞ」
 タヴが物思いに耽っていると、ハルシンがそう言った。
「……いいか?」
「っ! う……うん……」
 一拍遅れてタヴが返事をする。  「そうか」とうなずき、ハルシンは濡れた唇に軽くキスを落としてから、タヴの臀部を両手で掴んだ。
「っふわ、ぁ……」
 ゆっくりと引き抜いて、また挿入する。  時間をかけて愛されたタヴの感覚は、その緩慢な動きにも深くため息をこぼした。  背筋を通り抜ける快感にタヴが首をそらすと、胸を目の前に突き出すようになって、ハルシンの唇にちょうど触れる。  避けるはずもなくハルシンは柔らかな肉にかぶりついた。  乳房をじゅるりと音を立てて吸い上げる強さに、タヴは耳が羞恥で焼け落ちるかと思った。  たべられている、という感覚がする。  丁寧に味わって、咀嚼されている。  そして腹の中で溶かされて、彼の一部になっていくのだ。  タヴは堪らず声をあげてハルシンの頭に抱きついた。
「っハルシン、すきぃ……っ」
 突き上げられるたび、ぴちゃぴちゃと愛液が跳ねる。
「すきっ! すき……っ!」
 熱に浮かされてあえぐようなタヴの告白に、顔に胸を押しつけられているハルシンは「俺も好きだぞ、タヴ」とこもった声で言った。
「お前を愛してる」
 抱き寄せる腕に力がこもる。  彼とひとつになれてよかったと心から思った。
「タヴ、腹が減ってないか」
「えっ?」
 彼の腕の中でまどろんでいると、急にハルシンが言った。  驚いているうちにハルシンが腰をあげて、近くに広げた荷物の中から食料を取り出す。
「昼間あまり食べていなかっただろう。夜もあらかじめ約束していたから満腹にはなっていないはずだ」
 「ほら」と言ってタヴにパンとワインの入った容器を渡す。  目が点になったタヴは正座してそれを受け取る。
「お前に食欲がなくて心配していたんだ。動いたら腹が減っただろう、食べるといい」
「いや、あの……その、今はべつに、」
 タヴが困惑していると、腹部からぎゅるると頼りなげな音が響く。  その音にタヴは表情をなくしたが、ハルシンはにっこりと口の端を引き上げて笑った。  交わった後で、裸のまま食事しているところを見られる恥ずかしさもあったが、彼の好意を拒むこともできず、タヴは頬を赤く染めながらパンにかじりつく。  悔しいけれど、たしかに腹は減っていたのだ。
「……見ていたらこっちも腹が減ってきたな」
 タヴがもそもそとパンを食べていると、不意にハルシンが言った。  彼は荷物から自分の分の食料を取り出し、なんの違和感もなく食べ始める。  何その食欲、とタヴは半ば絶句してその食事風景を眺めていた。  セックスの後に継ぎ目なく食欲も満たすのが野性的な彼らしいというか、熊だな、としみじみ思った。
「もしかして、冬になると食欲が増したりする?」
「そうだな」
「まさかそのまま冬眠したりしない?」
「さすがにそこまではないが、他の季節より身体が鈍った感じはするな。あまり冬は長時間変身しないようにしている」
 「もらうぞ」と言ってハルシンはタヴのワインの容器をとって少し含んだ。  彼から容器を返されると、タヴもそれに口をつける。
「だが今年は心配しなくていいかもしれないな」
「どうして」
「お前が温めてくれるだろう」
 タヴは思わずワインを飲み干してしまった。  かーっと胃に熱いものが溜まる。
「……そうしてほしいならするけど……」
 耳まで熱くなっていると、ふっと彼の息遣いを感じ、キスをされたとわかった。  酒の香りのするキスは刺激的で、いつもより息が荒くなる。  自然と昂るタヴの心臓とはよそに、突如子どもにするようにぽんぽんと頭を撫でられ、唇は離れていく。
「食事が終わったらもう少し一緒にいよう」
 ハルシンはタヴの手を握るとそう言った。  自分を見つめてくるヘーゼル色の瞳は優しい。  その言葉を断れるわけがない。……ずるい。
 そしてタヴは黙々と残りのパンを頬張り、この後は自分が再び食べられる側になることを想像しては、ひとり頬を赤く染めた。  彼はその間、ずっとタヴの手を握っていた。
0 notes
harinezutaka · 11 months
Text
Tumblr media
二年前日記43(2021年10/22〜10/28)
10月22日 M子とランチ。前、両親とモーニングに行ったお店へ。お土産に金曜にだけ開いているパン屋さんでパンを買っていく。仕事のこと、子育てのこととかいろいろ話す。高校の同級生だけど、すごい頭の回転の早い子だったんだなということに今さら気がついた。あっという間に2時間ぐらい経っていた。M子は妊娠中なかなか大変だったらしい。その理由を、旦那さんの遺伝子と違いすぎるからだと思うと言っていて、へー!と思った。牛とかでも同じぐらいの大きさのものを掛け合わす方がいいとかなんとか。ずっと気になっていたことも聞けてよかった。ベビーグッズもまたいろいろともらってありがたいことだな。図書館に予約していた本を取りに行き帰宅。順番がきたのは『独学大全』だったのだけど、その分厚さにびっくりする。思わず「すごく分厚いですね」と言ってしまった。図書館の人は「見た目よりは軽いんです」と言っていた。重さなのか中身のことか。近所の人が鍵を忘れて家の中に入れないとのこと。初めて話す人。「もうすぐ家族が帰ってくる」と言っていたが、気の毒だった。家に来てもらってもいいけど、と一瞬思ったけどさすがにそれはって感じか。晩ご飯は、かじきのソテー、ほうれん草炒めたの、味噌汁。
10月23日 朝、産直スーパーへ買い物へ。来週も出産グッズをいただけるので、せめてのお礼に新米を渡そうと思って。やっぱりスーパーは美味しそうなものがたくさんあって楽しいなぁ。昨日はあまり眠れず、昼寝をがっつりする。夕方、起きてきて参鶏湯を作る。ちょっと肉が多すぎたかもしれない。10時前に近所の人から連絡があった。いろいろ不安になってしまったらしい。認知症が進んでいる感じもする。「とりあえず、今日はゆっくり休んでくださいね」と言ったら笑って電話を切ってくれた。胎動が激しい。蹴りがギュイーンという感じ。元気なのは嬉しいけれど、子宮が狭いのではないかなとちょっと心配になった。
10月24日 朝にも昨日の近所の人から電話があった。朗らかで理想的な惚け方だよなぁと思う。周りのサポートも借りながらも何とかひとりで暮らしておられるし。進んでいるというよりも、段々と深まっている感じだ。お昼過ぎから実家に行く。こないだもらったグッズを置きに。最初、母はでかけていて、父だけだった。母は何だかシャッキリしていてとても元気だった。お酒も飲んでないのかもしれない。いや、飲んでいるからシャッキリなのか。わからない。晩ご飯は鍋。夫が作ってくれた。
10月25日 朝から雨。夫は今日は休みだそうなので、助成券を使ってモーニングに行く。ここは空間が良くて落ち着くので好きなお店。さんざん迷って、明太子トーストのモーニングにする。飲み物はカフェオレ。夫はドリアがついたやつ。まだ食べられそうだったので、モンブランを頼んだ。食欲がちょっとおかしくなっている感じ。胃に熱がこもっているのかもしれない。その後、夫が期日前投票に行くのについていく。平日だというのにたくさんの人だった。薬局と無印をぶらりと見て帰宅。薬局では無人の会計がうまくいかなくて、だんだん偉い人を呼び出すことになりちょっと面白かった。昼は冷凍の牛丼を半分こと、味噌汁。少し昼寝。晩ご飯は、豚汁、おから煮。鮭も焼こうと思ったが、あまりお腹が空いていなかったのでこれだけにする。
10月26日 11時に姪っ子と待ち合わせしてサイゼリヤに行く。姪は双子のお母さん。たくましい。産後の生活の様子も人によって全然違うのだなぁ。朝作ったスイートポテトを渡して、幼稚園のお迎えの時間までに別れた。何となくモヤモヤした気持ちがあるのは何なんだろうな。表情が少し張り詰めていた気がする。少し買い物をして帰宅する。夕方、Nさんが来る。いろいろと話して勉強になった。今日は夫が義実家に寄る日。私は昨日の残りの豚汁とおから。野菜をたくさんもらってきてくれた。「最近少な目だな。妊婦だから気遣ってくれてるんだな」と思っていたが、ただ単に野菜がなかっただけみたい。ふきの煮物と生姜の甘酢漬けも入っていた。
10月27日 いい天気なので昨日もらった生姜を干す。昼から元職場の上司がわざわざ家までベビー用品を持ってきてくれた。抱っこ紐や、肌着、お出かけ用の服など、どれもとても助かる。上司の子どもは双子ちゃん。私が一緒に働き始めたときは保育園だったが、今はもう小学生になっている。少し読書をして、近所の人のところに行く。年の近い人に、妊娠の報告をした。その方はもう子どもさんが高3生で就職も決まったそう。よかった。「これからは悠々自適ですね」というと「寂しいです」と言われていた。そんなもんなのか。晩ご飯は、鮭焼いたの、かぼちゃの塩煮、間引き菜のオイル蒸し、豚汁、黒豆ご飯。黒豆をルクルーゼの鍋で炒ったら琺瑯がはがれてしまった。ガーン。
10月28日 朝、鍼に行く。行くだけで結構疲れてしまいポワーンとしていた。30週過ぎたら週一に戻すのを推奨してると言われたので、来週も予約する。あと少ししか行けないんだなぁと思うと寂しかったのでちょっと嬉しい。鍼通いは振り返ってみてもなんとも幸せな貴重な時間であった。カメシゲセイロでお粥を食べる。テイクアウトのお客さんと、グループのお客さんとでとても忙しそうだけど、落ち着いてテキパキと回していてとてもすごい。働き者だなぁ。お粥だけだとお腹が空いてしまい、帰りにコンビニのパンを買って家で食べた。晩ご飯は、ふきの佃煮、ナスと豚肉の蒸し煮、さつま芋天ぷら、揚げ焼いたの、黒豆ご飯。
0 notes
satoshiimamura · 1 year
Text
第6話「悪(はじまり)夢」
Tumblr media
 アンナ・グドリャナは夢をみる。
 彼女の憎悪の根源、彼女の立ち上がるための燃料であるそれ。多くの人々と出会い、別れ、そしていなくなった人々のために前をむき続け、後ろを振り向かない全ての元凶をみる。
「――ッ」
 アンナは声を出そうとして、出せなかった。上に瓦礫が乗った足が燃えるように熱い。煙が視界を曇らせる。
 炎が周囲を進行していく。瓦礫と化した列車の金属部分は燃えず、けれどぼろぼろになった座席には火が付いている。
 焦げ臭さと同時に鼻へ届く、肉が燃えていく匂い。先程まで助けを求めていた少女の声が聞こえなくなった。身近なところはなくなったが、悲鳴は遠くで響き続ける。
 奇怪な形――獅子の体に羽が生えながらも頭部は人間のそれだったり、あるいは極めて太い足で二足歩行しながらも痩せこけた腕がついた巨人だったり――をしたペティノスたちが、爆発音とともに先程まで列車に乗っていた少年少女を殺していく。
 逃げ惑う彼ら、彼女ら。倒れていく彼ら、彼女ら。悲鳴と懇願と恨言の合唱。それを動けないアンナは見続けていた。
「おい、大丈夫か⁉︎」
 未だ成長途中だと思わせる少年が、金色に輝く猫目をアンナに向ける。頬は煤けていて、爪は割れて血が滲んでいた。アンナと同じような制服に身を包み、同じピンバッジを胸元に留めていた彼は、必死に彼女へ声を掛ける。
「クソッ、足が動かせないのか。……でも、これさえ退ければ動けるよな?」
 必死にアンナの足の上にのし掛かる瓦礫をどかそうとする少年。彼は意識を保て、こっちを見ろ、死ぬんじゃない、と何度も言葉をかけ続ける。
 ただ待つことしかできない彼女は、足元に広がる灼熱が痛みとなり、そのおかげで何とか意識を保てていた。
「もう少しで」
 息切れしつつも、少年が最後の力を込めて瓦礫をどける。アンナの足からは、痛みが続くが重みはなくなった。
「肩を貸す、逃げるぞ」
 彼は震える腕を隠すこともできず、それでもアンナの腕をつかみ抱き起こす。その時、炎で鈍く輝く異形が彼らの前に舞い降りた。
 それは翼を持つものだった。
 それは翼に無数の目があった。
 それは少なくともアンナが知っているどのような動物にも似ても似つかぬ、ただの羽の塊であった。その塊の中央に、なんの感情も浮かべていない美しい人間の顔がある。銀色に輝く顔だけがあった。
 翼にある複数の目がギョロギョロと蠢き、そのうちの幾つかが少年とアンナに固定される。ヒッとアンナは息を飲んだ。ギリッと少年は歯を食い締めた。
 少なくとも少年だけは逃げられる状態であったが、それを彼は選ばずにアンナを強く抱きしめる。そして、彼は「ふざけるな」と小さな声で囁き、ペティノスを睨みつけた。
 彼の怒気にもアンナの恐怖にも何も感じないかのようにペティノスは翼を広げ二人へと近づこうとした。その時、上空を黄昏色に染まる機体が飛んだ。
 ペティノスは二人から視線を外し、機体――後にそれがイカロスと呼ばれるものだったと彼女らは知る――へと飛びかかる。それまで淡々と人々を殺害し続けた奇妙な造形をしたペティノスたちが、親の仇と言わんばかりに殺意を迸らせ、機体を追い続ける。
 十いや百にも達するほどの数のペティノスが、黄昏色のイカロスへ攻撃を仕掛けるが、空を飛ぶ機体はそれらを避けて、避けて、そうして多くの敵を薙ぎ払う。
「助かった……のか?」
 呆然としながら、少年とアンナは空を見上げた。
 黄昏色に染まった機体が、実は地上で燃え盛る炎の色に染まったのだと知ったのは、それよりも少し後の話��。
 それでもアンナや少年にとって、現見空音とユエン・リエンツォの操縦する銀色のイカロスは、後に幻想の中で出会う最強の存在――大英雄に匹敵するほどの救世主だったのは言うまでもない。
 
「――」
「目が覚めたか」
 瞼を二、三回閉じて、開けてを繰り返すアンナは、ぼやけた天上の中央に少年の面影を残したアレクの姿を認める。
 上半身が裸の彼は心配そうにアンナの頬を撫でて「うなされていた」と言った。その際に彼が覗き込んだことでアンナの視界はアレクだけになる。柔らかいベッドの中で下着だけを身につけたアンナは、パートナーの手を両手で取り、大丈夫と口を動かす。彼女の声は悪夢の日から出ない。
「……あの日の夢か」
 まるでアンナのことなら全てを見通せると言わんばかりに、アレクが彼女を抱きしめながら耳元で囁いた。それに抱き返すことで答えを告げる。
「今回は、久々の犠牲が出そうだったしな。……毎年毎年、律儀に思い出させてくれる」
 アレクの言葉に、アンナは彼を癒したいと願いながらも、優しく頭を撫でて、次に口付けた。あの悪夢から十年以上経っても、消えない傷が常に隣にあることを二人とも痛感している。
 ベッドの中で抱きしめ合いながら、互いの存在を確かめるアレクとアンナ。その中で、彼らのサポートAIであるローゲの声が届けられた。
「お二人とも、そろそろ時間です。準備をお願いします」
 声だけで全てを済ませるAIの気遣いに、仕方がないなとアレクは笑ってベッドから降りた。アンナも微笑みながらベッドから出ていく。
「行くか」
 アレクは手を出し、アンナはその手を取った。
 ファロス機関の待機所はそれなりに広い。広いが、無機質な印象を抱かれる。カラフルなベンチも、煌々と光る自販機や、昼夜問わず何かしらの番組が流れるテレビだってある。それでも、無機質なものだと誰もが口を揃えていた。
 待機所の中ではいくつものグループが何かを喋っている。互いにパイロットとオペレーターの制服を着て、時にジュースを飲んだり、カードゲームに興じていたりしていた。その誰もが顔色が悪いので、より一層待機所が無機質な印象になっていく。
 そこにたどり着いた制服に身を包んだアレクとアンナは、多くの室内にいた人々と挨拶をしながらも中央で待機していたナンバーズ四番のナーフ・レジオとユエン・リエンツォの元へ向かう。
「ご苦労だったな」
 アレクがナーフへ声を掛ける。それに無表情のままナーフが頷き、一枚の電子端末を彼に渡した。
「報告はこちらに。今回発生したペティノスは、これまで観測された形状と一致した。ただ攻撃範囲が広いタイプが増えている」
「損害は」
「一機撃墜されたが、パイロットは無事に保護されている。今は処置も終わり療養施設に運ばれたところだ。完治したところで、今後はカウンセリングを受けるだろう」
「そうか」
 それは何よりだ、と零したアレクの言葉に同調するかのように待機所にいる面々がホッと息を吐いた。その様子を見ていたユエンは呆れたように言う。
「ははぁ、今晩は二番の同期たちばかり……と思ったらそういうことですかぁ。毎年毎年、君ら律儀だねぇ。おいらはそんな気分になったことないよ」
 十年も眠れない夜が続くだなんてかわいそう、とユエン・リエンツォが口にするが、そこには似たような境遇であるはずの彼らへの多大な揶揄が含まれていた。
「そういうあんたも、この時期は多めに任務に入るじゃねぇか」
 言い返すつもりでアレクがユエンの任務の数について告げる。
「小生、そろそろ後進に引き継ぎたいところでありますが、現見が許してくれないんだわ。せっかく新しい二番が生まれたってのに、未だに信用できないんかね」
「ユエン、そんなことは」
 小馬鹿にするかのような言い回しの彼女に、ナーフは顔をしかめて制止する。だが、それを無視してさらにユエンは話を続けた。
「毎年毎年、この時期になると不安定なやつらが増えるからねぇ。早く悪夢世代のなんて無くした方がいいんじゃない? あの問題児たちも虎視眈々と上を狙ってるようだし。君ら夜勤多いから、下の子たち割と快眠タイプ多いじゃないか。噛み付く元気満々なんだから、そろそろ下克上くらいしでかすんじゃない?」
「余計なお世話だ」
 アレクがユエンにきつい口調で告げた。
「少しは羽目を外しなさいよ。同世代のスバル・シクソンの社交性を見習うべきじゃないか」
「あいつは、俺たちの中でも腑抜けたやつだ」
 今度はアレクをナーフが制止しようとしたが、それをユエンは止めた。
「ハッ! 笑わせるねぇ。あのスバル・シクソンの死後も、君らが彼の言葉を無視できてないの、我輩が知らないとでも?」
「……ユエンさんよぉ、今夜はやけに突っかかるな」
「なぁに、気が付いたんですわ。あの五番の坊やが、自力で立ちあがったのを見てね。悪夢世代の多くは救って欲しいわけじゃない。ともに地獄にいて欲しいだけ」
 その言葉にそれまで黙って聴いていたアンナは、ユエンを叩こうとする。が、呆気なく彼女はその手を避ける。そして、けらけらと何がおかしいのか侮辱を込めて「平々凡々、やることなすこと繰り返しで、飽きたよ」と彼女は言う。
「あんたがそれを言うのか。同期の誰一人助からず、現見さんが戻るまで誰も助けられずにいたあんたが、それを言うのか」
 アレクは怒りを滲ませて返す。
「あんたは地獄を見なかったのか。あの怒りも、嫌悪も感じなかったのか。俺たちが救われたいと本気で思わなかったとでも」
「その共感を求める言葉は、呪い以外の何者でもないだろうよ。少なくとも、スバル・シクソンは悪夢世代という共同体から旅立った」
 その結果が五番という地位だろう、と告げたユエン。彼女は、そこで口調を変えた。
「あいつの素晴らしく、そして恐ろしいところは、あの視野の広さだ。オペレーターとしての実力だけでなく、よく人間を見て、観察して、そして洞察力で持って最適解を出せるほどの頭の良さがあった。もしも倒れなかったら、間違いなく私たち四番を超えていっただろうし、二番の君たちも脅威を覚えたはずだ」
 滅多に人を褒めないユエンの賛辞に、隣にいたナーフが呆然とした表情を浮かべた。
「あの双子たちは、パイロットとしては私たちを超えているよ。恐怖でも、憎悪でもなく、君たちのような大義も掲げず、ただ互いへの競争心と闘争心だけでペティノスを撃破し続けている彼らの存在は、新しい時代が来たとファロス機関に知らしめた。スバル・シクソンはそれを敏感に感じ取り、そして彼らを導いている」
 その言葉にアレクは皮肉を込めて「違うだろ、過去形だ」と言い返す。だが、ユエンは首を横に振った。
「いいや、現在進行形だ。現に、あの坊やは次のオペレーターを見つけてきた。あの大英雄のプログラムを損傷できるほどの能力を持った新人を」
「まぐれだ」
「それが成り立たない存在なのは、お前たちだってよく知っているだろう」
 冷徹な指摘にあの勝負を見た誰もが口を紡ぐ。
 先日の裁定勝負のことを知らなかった幾人かが、話を知っている面々から小声で詳細を聞き、その顔を驚愕に染めた。嘘だろう、とこぼれ落ちた本音が全てを物語っていた。
 それらの反応を見たユエンは、最後の言葉を紡ぐ。
「時代は変わっていくんだ。否応にも、人間という種は未来を求める。その先が地獄でも構わない言わんばかりに、彼らは前へ行く。いつまでもその場に突っ立ってるだけじゃ、何も成せない」
「……説教か」
「吾輩ごときが、らしくないことを言ってるのは百も承知だ。が、毎年の恒例行事に嫌気が差したのも事実だよ。お前たち悪夢世代は、少しは外を見るべきだ」
 そこまで言って、ユエンは部屋から出ていく。ナーフがアレクたちを気にしながらも彼女の後を追って行った。
 沈黙が室内を満たした。誰も彼もが思い当たる節がある。誰だって今のままでいいとは思っていなかった。それでも悪夢世代と呼ばれる彼らは立ち上がり、アレクとアンナの元に集まる。
 彼らは顔色が悪く、常時寝不足のために隈がくっきりとしていることが多い。
 誰かがアレクの名前を呼んだ。
 誰かがアンナの名前を呼んだ。
 それに呼応するかのように、アレクとアンナは手を繋ぎ、同期たちを見る。
「みなさん、そんなに不安に思わないでください」
 唐突に落とされた言葉。ハッとしたアレクが、自分の腕につけていた端末を掲げれば、現れたのは彼ら二番のナビゲートAIであるローゲのホログラム。微笑みを浮かべ、頼りない印象を持たれそうなほど細いというのに、その口調だけは自信に満ちていた。
「あの臆病者の言葉を真に受けないでください。彼女が何を言ったところで、あなたたちが救われないのは事実でしょう」
 ローゲの指摘にアレクは視線を逸らせ、アンナは鋭く睨む。だが、かのAIはそれらを気にせず更に言葉を重ねる。
「悪夢をみない日はどれほどありましたか? 笑うたびに、願うたびに、望むたびに罪悪感に苛まれたのは幾日ありましたか? 空に恐怖を抱き、出撃するたびに死を思い、震える手を押さえつけ、太陽の下にいる違和感を抱えて生きていたあなたたちの心境を、あの人は本当に理解していると思いますか?」
 彼女の言葉は何の意味も持たない戯言ですよ、とローゲは告げる。
 静かに「そうだ」「ああ」「そうだったな」「あいつらは分からない」「そうよ」「あの悪夢をみたことがないから」「そうだわ」と同意する言葉が投げられた。
 アレクがそれらをまとめ上げる。
「そうだな。今夜もペティノスが現れるまで、話そう。どうやってやつらを殲滅するか。なに、夜は長い」
 誰もが救われなかった過去を糧に、怨敵を屠る夢想を口にした。敵を貪りたいという言葉ばかりが先行し、それよりも先の未来を願う言葉が出てこない歪さを誰一人自覚していなかった。
***
 ゆらめく炎を前にして、ゆらぎとイナ、そしてルナの三人は困惑していた。
 ここは都市ファロスの外れにある墓地であり、そして多くの戦争従事者たちの意識が眠る場所。つまり肉体の死を受け入れ、新しい精神の目覚め――擬似人格の起動を行う施設でもあるため、人々が『送り火の塔』と呼ぶ場所であった。
 擬似人格とは常に記録された行動記録から思考をコピーした存在だ。永遠の命の代わりに、永遠の知識と記憶の保管が行われるようになったのは、ペティノス襲来当時からだと言われる。地球全体を統括しているマザーコンピューターはその当時の人々の擬似人格から成り立っているのは、クーニャで教わる内容だ。
 しかし擬似人格は思考のコピーであって、本人そのものではないために、起動直後はたいてい死んだことを受け入れきれずにいる。
 擬似人格が擬似人格として、自分の存在と死を受け入れる期間がしばらく存在するのだが――特に都市ファロスはペティノスとの最前線に位置するため、その死者たちは多大な苦痛を伴って亡くなっている場合が多い――その際のフォローを行うのがこの施設の役割であった。
 また、擬似人格が安定した後に自分が電子の存在であり、データの取扱い方を覚えていった先に生まれるのがAIでもある。これは都市ファロスに来てからゆらぎたちも知ったことなのだが、エイト・エイトを筆頭に人間味のあふれるナビゲートAIたちは、その多くが対ペティノスで亡くなった歴代のイカロス搭乗者たちだった。そして、あれでも戦闘に影響がでないよう、感情にストッパーが課せられているらしい。
 そのAIへの進化や感情への制御機能がつけられるのも、『送り火の塔』があるからであった。
 そして『送り火の塔』の入り口、玄関ホールの中央に聳え立つのは、天井まで届く透明の筒の中に閉じ込められた巨大な青い炎だった。
 地下都市クーニャでは街の安全のために炎がない。火という存在をホログラムでしか知らない彼ら三人は、教科書に載っている触れてはいけない危ないものというだけの情報しか持っておらず、ただただ初めて見るそれに魅了されていた。
「おや、そのご様子ですと、初めて火を見たようですね」
 三人とは違う声が掛けられる。
 ふわふわとした淡い白金の髪を結いだ青年が、建物の奥から歩いてきた。彼の姿は白に統一されており、腰元に飾られた赤い紐飾りだけがアクセントになっている。彼はゆらぎたちの前にやってくると、同じように炎を見つめた。
「この火は、送り火の塔の象徴的存在でもあります。肉体の終焉をもたらすもの、あるいは精神の形の仮初の姿、人間が築いた文明の象徴であり、夜闇を照らす存在として、ここで燃え続けています」
 男の説明にイナが尋ねる。
「しかし、クーニャでは火は存在しなかった。人々を危険に晒すためのものとして……なのに何故ここでは」
「地下世界の安全のためでもあります。火は恐ろしいものですので、できる限り排除されたと聴いています。ですが……ここ都市ファロスでは、火は身近なものです。対ペティノス戦において、火を見ないことはないでしょう。燃やされるものも様々です」
 あなた方も、いずれ見ることになりますよ、と三人を見て男は微笑む。
「初めまして、新しく都市ファロスに来た人たちですね。私は自動人形『杏花』シリーズの一体、福来真宵といいます。ここの送り火の塔の管理人として稼働しておりますが、今日はどのようなご用件でしょうか」
 ゆるりと笑う線の細い青年は、どこをどうみても人間にしかみえないと言うのに、己を自動人形と告げた。
「自動人形? こんなにも人間みたいなのに?」
 その存在に、ゆらぎは戸惑いを覚える。感情的なAI、執念を込めて人間に似せられたプログラム、そして人間そっくりな機械と、ここまで人間以外の存在を立て続けに見てきたからこそ、いよいよこの都市は人間がこんなにも少ないのかと驚いていたのかもしれない。
「もしかして、ゆらっち自動人形見たことないんじゃない?」
 その戸惑いを感じ取ったルナが指摘する。それに対しイナも「そうか」と何かに気づいたようだった。
「獅子夜は始めからナンバーズ用宿舎にいたからな。僕ら学生寮の統括は自動人形だ。ナビゲートAIが与えられるのは正規操縦者になってからだし、それまでの日常生活のサポートは自動人形たちが行っているんだ」
 ここ都市ファロスでは珍しい存在ではない、と続くイナの説明にゆらぎはほっと詰めていた息を吐く。
「……そうなんだ」
「そうなんよ」
 ゆらっちは特殊だもんねぇ、と笑って慰めるルナの言葉に、イナもまた頷く。
「私のことを納得していただけましたか?」
 苦笑混じりに真宵が声を掛けてくる。ゆらぎは小さな声で���すみませんでした」と謝罪した。
「いえ、お話を聞く限り随分と珍しい立場のようです。都市ファロスに来たばかりでありながら、すでにナンバーズとは……まるで」
「まるで?」
 ルナの相槌に真宵はハッとしたように首を横に振る。その動きは滑らかで、やはり機械とは思えないほどに人間味があった。
「……いえ、何でもありません。それで、どのような用件でしょうか」
「あ、そやった。あんな、うちら大英雄について調べに来たんよ」
 ルナが告げた大英雄の言葉に、真宵の顔がこわばったのが、イナとゆらぎにも分かった。
「なぜ、来て間もないあなたたちが大英雄のことを」
 疑問と不審の感情が乗せられた視線を三人は向けられる。やはり、ここが正解なのだと全員が確信した。
 大英雄と呼ばれる存在について、三人が調べた限りわかったのは、あの銀色のイカロスに乗っていたパイロットとオペレーターであること。そして、空中楼閣攻略を人類史上初めて成し遂げ、三十年前の大敗のときに命を落とした存在であること。そこまでは、学園内の資料や右近、左近たちから聞き出せた。
 だが、とここで不可思議なことに気づく。彼ら大英雄の名前も、写真も、どのような人物であったか、どのような交友関係があったのか分からなかったのだ。
 ナンバーズ権限を使っても同様、セキュリティに引っ掛かり情報の開示ができないことが殆ど。他のナンバーズからの話――主にあの双子のパイロットからだが――では、三番のパイロット現見が嫌っているらしい、ユタカ長官が彼らの後輩であった、くらいの情報しかなかった。
 これは故意に情報が隠されていると感じ取った三人は、他に何とか情報を得られないかと手を尽くしたのだ。
 結果、ここ『送り火の塔』という存在を知ることになる。あの謎のAIが告げた、正攻法では情報に辿り着けないの言葉通り、ここの擬似人格に大英雄に関連した人がいるのではないかと三人は考えたのだ。
 丁度、右近と左近、彼の相棒のオペレーター、そして先日裁定勝負を仕掛けてきた兎成姉妹たちは、あの銀のイカロスについての調査があるということでファロス機関本部への呼び出しがあった。その隙を狙ってゆらぎたちは送り火の塔へとやってきたのだ。
「先日、彼――獅子夜ゆらぎが受けた裁定勝負のときに、仮想現実で銀のイカロスが現れました。なぜ現れたのかは謎ですが、それでも」
「大英雄と呼ばれる彼らをおれたちは……知りたいんです。あの電脳のコックピットにいた二人が、一体どんな人たちだったのか。執念染みたあのプログラムが」
 先日の銀のイカロス戦について説明するイナ。それを引き継ぎ、ゆらぎもまた、正直に気持ちを吐露する。その二人の説明に真宵は目を見開いた。
「……そんな、君たちはあれを――彼らを見たのですか? まさか、そんな日が来るなんて」
 驚きと戸惑いを隠しもせずに、視線を左右にゆらす真宵。
「見たのは獅子夜だけです。でも、あの銀のイカロスの中にいる人が正直どんな人だったのか、僕だって気になります」
「とっても優しそうな人やった、てゆらっちは言っとった。擬似人格は残らなかったってことやから、たぶん一から作り上げたんやろ? そんなにも遺したかったお人たちなんやろうな、てうちは感じる」
「お願いします、福来さん。おれたちに、大英雄のことを教えてもらえませんか? もしくは、大英雄を知っている擬似人格を」
「知ってどうするので��か?」
 それまでの揺らぎが嘘のように、真宵の声は冷たかった。いや、意識的��冷たくしているのだろう。
「大英雄を知ってどうするのですか。彼らは既に過去の人です。この戦局を変えるような存在ではありませんよ」
 その真宵の言葉に反論したのはイナだ。
「なぜ、そんなにも大英雄と呼ばれる人々が隠されるのですか。名前すら見つからず、功績だけが噂されるだけの存在にされて」
「彼らは罪を犯したのです」
 痛ましい罪です、と真宵は続ける。その言葉に、今度はゆらぎたちが戸惑う。
「大英雄が死んだことで、多くの人々が擬似人格を残さずに自殺しました。戦いへの絶望、未来への絶望、自分が立つべき場所を失った人々は、その命を手放しました。それは罪です。私は……あの光景を記録として知っています。あの地獄の底のような怨嗟を知っているのです」
 ですから、と彼は話を続ける。
「大英雄は隠されたのです。これ以上、彼らがいない現実を受け止められない人々を増やさないように」
 その説明に納得できなかったのはルナだ。
「おかしいやん。確かに人類が負けたことに絶望した人がいたかもしれへん。でも、それが大英雄のせいなん? 違うやろ、全部受け入れられなかった側の問題やねん。そんなんで、その人らが隠される理由にならへんわ」
 それに、と彼女は小さな声で尋ねる。
「名前まで隠して……おらん人のことを思い出すのも、罪なん?」
 ルナの言葉に真宵は複雑な表情を浮かべる。彼もまた必死に何かに耐えるようにして言葉を紡ごうとしていた。
「彼らは……海下涼と高城綾春は」
 大英雄の名前が出された時、第三者が現れた。
「珍しいな、自動人形のお前がそこまで口を滑らすなんて」
 低い大人の男の声だった。その声でハッとしたような表情をうかべる真宵は、何かを断ち切るかのように「なんでもないです」と言ったきり無言となった。
 一体誰が、と思ったゆらぎたちは、振り向いて固まる。そこにいたのは、随分とガタイのいい男と、無表情の美しい女性であったからだ。
「……アレク、それからアンナ。ああ、そんな時期でしたね。二人ともいつものですか?」
 男女の名前を真宵が呼ぶ。そして、簡略化した問い掛けを彼がすれば、やってきたばかりの二人は頷いた。その仕草に真宵は了承の意味で頷き返し「少し準備をしてきます」と告げてその場を離れる。
 置いていかれた三人に向かって、やってきた二人組が近づいた。
 男は筋肉質で、身長は百八十を超えていた。身体つきだけならばエイト・エイトと似たようなタイプだが、刈り上げた黒髪と金色の鋭い猫目が相まって、威圧感がある。
 対し女はゆらぎよりも少し大きい、ややまるみのある身体つきだった。もしかしたら全身を覆う服装なのでそう見えるだけかもしれない。ゆるく結われた白髪が腰を超えており、右目を隠すかのような髪型。出された紫色の目は丸く、無表情でありながらも美人だというのはよく分かった。
「……獅子夜ゆらぎだな」
 男がゆらぎを見て、その名前を当てる。ゆらぎもまた、この男女に見覚えがあった。
「そうです。ええと、あなたたちは」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はアレク・リーベルト。ナンバーズの二番パイロットだ。こっちが、パートナーのアンナ・グドリャナだ」
 そこでアンナは両手を動かして何かを伝えようとした。
「よろしく、だとさ。……悪いが、アンナはこの都市ファロスに来るときの事故で、声が出せねぇんだ。耳は聞こえるから、挨拶は声で問題ない」
「そうですか。改めまして、五番のオペレーターになりました獅子夜ゆらぎです。こっちの二人はおれの友達の」
「イナ・イタライだ。オペレーター候補で、相棒予定がこちらの」
「早瀬ルナです。イナっちと組む予定のパイロット候補です」
 それぞれが挨拶すれば、アンナがおもしろそうに笑って何か手を動かした。
「あの?」
「ああ、お前たちが随分と礼儀正しいからあの馬鹿どもには苦労させられそうだな、とさ。俺も同意見だ」
 問題児どもに迷惑掛けられたら、さっさと他のナンバーズに言えよ、と続くアレクの言葉に、ゆらぎたちは曖昧な表情を浮かべる。その問題児たち以外に現状出会ってないのだ、彼らは。
 困った現実を知ってか知らぬか、いや興味もないのか、話が元に戻される。
「……真宵に大英雄のことを聞きにきたのか」
 唐突なアレクからの問いかけに、頷く三人。
「あいつがあそこまで大英雄の話をしないのは、仕方がないんだ。大敗の記録はあっても、記憶はない」
「え」
「自動人形は稼働年月に明確に決まっている。それで同一素体――あいつのは場合は杏花シリーズだな――に記録を書き込んで目覚めるんだが、真宵は不完全な起動だった。三十年前の大敗の記録はあるが、先代の感情は一切受け継がれず、目覚めたばかりの身で理不尽な現実と向き合うことになった」
 淡々と告げられる説明に当時を思い出したアンナはそっと目を逸ららす。彼女の肩をアレクが抱き寄せた。
「大英雄を失った地獄で目覚めたんだ。そこからずっと大英雄という存在を恨んでいる。俺たちもこの都市に来る洗礼で取り乱したが、それ以上だったよ、真宵は」
 その優しい目とともに吐き出される残酷な言葉に、ゆらぎはなんて言えばいいのか分からなかった。
「長いお付き合いなんね」
 代わりにルナが返せば、アンナが何か告げようとした。それをアレクが訳す。
「長いさ。あいつの起動と俺たちがファロスに来たのは一緒だった。同じ地獄を見たんだ。俺たちのことなんかさっさと割り切ればいいのに、あいつは律儀だ。だから、未だに大英雄のことを口にするのを躊躇う」
 そこまで説明されてしまえば、ゆらぎたちはこれ以上の追求を諦めるしかない。しかし、大英雄である二人の名前は分かったのだから、少しは収穫があったと言えるだろう。
「そう言えば、先程いつもの時期と」
 イナの疑問にアレクは「墓参りだよ」と返す。それにアンナも頷いた。
「誰のだ?」
「お前たちが尊い犠牲にならないように頑張った連中」
 その瞬間、ゆらぎたち三人は顔を硬らせた。
 自分たちが無事に都市ファロスへ到着していたから忘れかかっていたが、あの時列車の中で見た画像には、ペティノスの猛攻を受けたイカロスたちが確かにいたのだ。
「忘れるなよ……犠牲は常に出る」
 アレクの言葉に続くように、アンナもまた頷く。彼らはそれだけの犠牲を見続けたのか、とゆらぎが思った矢先に「かと言って、悪夢世代の俺たちのようにはなるなよ」と苦笑混じりに告げられる。
 聞き覚えのない単語に、ゆらぎだけでなくイナやルナも首を傾げた。その様子に、アンナが呆れた表情を浮かべ、何か伝えようとしている。
「呆れた、何も言ってないのかあいつらは、だと」
 ほぼそう言う意味だろうな、という予感が三人ともあったが、やはりそうだったらしい。
「あー、悪夢世代ってのは」
「十五年近く前の、ナンバーズ復活から犠牲を出しながらも生き残ったパイロットとオペレーターたちの世代のことですよ」
 唐突にアレクとアンナの前に小さなホログラムが現れた。病的に痩せた男で、顔は整っているが整いすぎている印象を抱く。真っ白な髪と真っ白な肌、そして全身を隠すかのような衣服。垂れ目でありながらも、その緑の目だけが爛々と生命を主張していた。
「ローゲ」
 アレクがホログラムの正体を告げる。
「初めまして、新しくやってきた地下世界の人類さん。俺はローゲ。この二人――二番のナビゲートAIです。以後お見知りおきを」
 にっこりと笑い、丁寧に会釈をしたローゲというAIはそのまま悪夢世代について大仰に説明する。
「まずは簡単な歴史です。三十年前の大敗の後、ファロス機関は一度壊滅しました。ですが、その際生き残った現司令官、ユタカ・マーティンとその仲間たちは大敗で重傷となった現見空音をサイボーグ化してパイロットへ復活させ、ファロス機関を蘇らせました」
 ゆらぎの脳裏に初めて会ったときのユタカの表情が思い出される。絶望的であった光景をあの人は直接見て��たのだ。
「この現見復活が大敗からおおよそ十年ほど経過しているのですが、その時の都市ファロスへやってくる新人の生存率はほぼゼロだったようです。現在四番のオペレーター、ユエン・リエンツォ以外の生存者はいません」
 ヒュッと息を呑んだのはルナだった。イナは表情も変えずに、ローゲの説明を聴き続ける。
「現見復活と何とか生き残れたオペレーターであるユエンの二人が初めて新人を助けられたのが、ここにいるアレクとアンナだったのです。……とはいえ、たった一体のイカロスでどうにかなるほど戦場は甘くないのですから、彼らの同期の半分以上は犠牲になりましたがね」
 苦々しい表情を隠しもせず、アレクがローゲの説明を引き継ぐ。
「……戦力が整い、完全に無傷で新人を輸送できたのは、お前の相棒の神楽右近たちの代からだ。それまでは、必ず犠牲が出ていた。その世代のことを」
「悪夢世代、と呼ぶのですよ」
 さらに被せるようにローゲが結論をつける。にっこりと先ほどと何ら変わらぬ笑みを浮かべて、彼はゆらぎたちを見つめていた。
「神楽右近さん、神楽左近さんの両者ともに、悪夢世代については知っていたはずですよ。なにせ、右近さんの前のオペレーターは悪夢世代の一人でしたから」
 前の人のことくらい教えてもいいでしょうに、と続くローゲの言葉に、ゆらぎは背筋が震える。
 彼が暮らす部屋は、かつての主の日用品が残されていた。いや、正確には適当な箱に詰め込まれて部屋の片隅に置かれていたのだが、それが誰だったのかを教えてもらったことはない。右近に尋ねてもはぐらかされるし、左近に尋ねたところで邪魔なら引き取るとだけ返された。それだけで彼らの持ち物ではないのは明白だ。だが、処分するには躊躇う何かがあったようだ。
「あの」
 ローゲに向かってゆらぎが質問しようとしたとき、真宵が「お待たせしました」と彼らの間に割って入る。
「準備ができましたよ」
「ああ、そうか。ローゲ、端末に戻れ」
 アレクの呼びかけに、すんなりとローゲはその場から消える。そして彼らは真宵がやってきた方向に歩き出そうとした。が、そこで何か思い出したのか、アレクがゆらぎに声を掛ける。
「そうだ、獅子夜。神楽右近に伝えておいてくれ。前を向いたんなら、いい加減に元相棒の墓参りくらいしろってな」
 それだけを告げて、アレクもアンナもあっさりと去っていった。
 呆然としたまま、ゆらぎはその場に立ち尽くす。
「少し話が途切れてしまいましたが、私は大英雄については」
 戻ってきた真宵は先程の話の続きをしようとしたが、それはイナもルナも首を横に振って止めた。いない間にアレクたちが何か言ったのを察したのか、真宵は「そうですか」と安堵の表情を浮かべる。
 話はそれで終わりになるはずだった。だが、
「あの……ナンバーズで五番のオペレーターだった方をご存知ですか?」
 ゆらぎが真宵に全く違う話を振った。
「亡くなった五番のオペレーター、ですか」
「おれの前に、神楽右近と組んでいた人です」
 その言葉で、ゆらぎのポジションが分かったのだろう。真宵は「ああ、あなたが新しい五番のオペレーターだったのですね」と納得の表情を浮かべる。
「確かに、五番の前オペレーターであるスバル・シクソンとは交流がありました。それに彼は自分の死後の擬似人格の起動に関して、遺言がありましたから」
 自殺や死ぬ直前に擬似人格を残さない意思表示がされた場合は、このデータが残らないのもゆらぎたちは知っていた。が、まさか起動にまで条件をつけられるとは思っていなかった。
 だが、それよりも先に彼が気になったのは。
「名前……スバル・シクソンと言うんですね」
「そこから、ですか」
「何度か聴いたかもしれませんが、直接教えられたことはおれにはありません」
「……スバル・シクソンはとても優れた人でした。それ以上は私からは告げられませんが、彼の擬似人格の起動には特別な条件が付けられています。未だこの条件は達成できていないため、私からあなたにスバル・シクソンの擬似人格へ対面させることはできません。申し訳ないのですが、故人の権利としてこれを破ることは、ここの管理を任されている自動人形の私には不可能です」
 もしも、擬似人格が起動したら是非お話してください、と真宵はゆらぎを慰める。
「新しいオペレーターのあなたと話せば、彼もより早くナビゲートAIになれると思いますが、まずは……神楽右近に来ていただかないと話が進まないですね」
 そう残念そうに告げる真宵に対し、ゆらぎは弱々しい声で「伝えておきます」と返した。
 そして彼は真宵から離れ、送り火の塔から出ていく。通り過ぎる際の弱々しさと、浮かべる複雑そうな表情に、イナとルナは不安を抱いた。
「獅子夜」
「ゆらっち」
 後を追った二人がゆらぎの名前を呼ぶ。そして、両者ともにとっさに手を伸ばした。友人たちの様子に気づいたゆらぎは伸ばされた手を握り、微笑む。
「大丈夫」
 優しい友人たちを安心させるように、ゆらぎはしかたがないんだと口にする。
「たぶん右近さんたちは、まだ前を向いただけなんだ。歩けるほど割り切ってはないし、未練がましく後ろが気になってしょうがないんだよ。きっと、それくらいに、スバル・シクソンという人が大きな存在だったんだ」
 そこまで言って、ゆらぎは深呼吸した。そして、今度は力強く宣言する。
「そんな人におれも会いたいよ。会って、話して、ついでに右近さんと左近さんの弱みを握れたら握りたい。できれば恥ずかしい話で」
 その真っ直ぐなゆらぎの思いに嘘偽りはなかった。
 途端にイナは吹き出し、ルナは声をあげて笑う。
「ええな、それ。ゆらっち、散々振り回されてるわけやし、うちもあのお二人の話気になるわぁ」
「それだったら僕も協力しよう」
 三人が三人ともあはははと笑い、握っていた手を話したと思えば肩を組んだ。
「獅子夜、無理はするな。お前は何も悪くない」
「そうそう、ゆらっちは正真正銘ナンバーズのオペレーターなんよ。どんだけ前のオペレーターがすごいお人でも、ゆらっちだってすごいんだからね」
 その優しい思いやりに、ゆらぎは二人を力強く抱きしめる。
「……うん、ありがとう……二人がいてくれて、本当によかったよ。おれは未熟だけど、確かにナンバーズの五番のオペレーターで、神楽右近の相棒なんだ。慢心もしないし、怯みもしない」
――おれは、イカロスであの人と一緒に飛ぶんだ
0 notes
shukiiflog · 1 year
Text
ある画家の手記if.29 告白
一晩ですっかり熱は下がって、風邪と一緒に気弱になってた部分も抜けたのか、見る間に回復できたおかげで香澄の介護はそれから一週間程度で完全に必要なくなった。
もう僕一人でも十分暮らしていけるし、身体にも普通程度には筋肉が戻ってきて健康的になった、一時の拒食状態みたいなものも今はもう起きなくなった。睡眠時間は夜に七時間程度。たまに昼寝しちゃうけど、正常な範囲だろう。
その日も朝の七時くらいに目が覚めて、ベッドの上でまだ眠たくて開かない目で腕を伸ばして香澄の体を探る。探し当てて抱き枕みたいに引き寄せて二度寝しようとする僕に香澄が声をかけた。 「…ふぁ…ぁ、…直人おはよ…」 香澄もまだ眠たそうだ。二度寝決定。と思ったのに香澄はベッドから起きだして顔を洗いにいった。仕方なく僕も大きく伸びをして頭をはっきりさせようとする。 昨日の夜に香澄とは話し合った。もう香澄はつきっきりでいてくれなくても大丈夫だってこと。僕が回復したことは香澄も見てて十分わかっただろうから、素直に喜んでくれた。
香澄は洗面所から出てきてそのままなにやらごそごそしているから、何してるのかと思って見に行った。 香澄はほとんど毎日泊まり込んで世話してくれていたから、一人暮らしの部屋に帰るために、ここに持ってきてた私物を大きめのバッグにまとめてる最中だった。 え、香澄… それは 行動が早すぎるんじゃ… 「香澄? まだ朝だよ。せめてご飯食べてゆっくりしてからにしよう」 香澄は渋々作業をやめて僕と朝食を食べてくれた。
食事中も、どことなくだけど、元気がないように見える。自分が何かやらかしてないか脳内検索しながら話しかける。 「香澄。ここにいたいなら好きなだけいていいんだよ」 「う…ん。…ありがと」 落ち込んでるとか悲しんでるふうじゃない、気になることでもあるのかな…。 香澄の内面がもっと落ち着いてからの方がいいかとも思ったけど、ちょうどいいタイミングだったから、僕から話を切り出す。 「香澄は今、結婚を考えてる相手とかはいるの?」 目の前で香澄が喉にものをつまらせそうになって喉のあたりを叩いた。腕を伸ばして背中をさすりながら聞き直す。 「ぼ、僕が聞いちゃいけないことだったかな…」 立ち入ったことだったかもしれない。 香澄は僕のことを好いてくれてる。けどそれは、同年代の異性とかに向けるものとは種類も何もかも違ったかもしれない。香澄にこの先、家族になって一緒に生きていく相手がいるなら、僕はそれを見守りたい。それなら僕はこれ以上何も話さないでおこうと思った。 「え、……え? え、俺の、好きな…    け、結婚…   …」まだ少し噎せながらも香澄の言葉の末尾はどんどん消えていく。 「いるならいいんだ、聞かなかったことにして、気にしないで」 僕が慌ててつけくわえたら、香澄はさらに困りはてた顔で僕をじっと見て問うてきた。「そんなとこで話切られたらいたたまれないよ…なんの話だったの?ちゃんと話して」 「………。」 今ここで考えてることを全部話すつもりはなくて、それこそもっと落ち着いてから、例えば香澄の進路が見えてきてからでもいいかな、なんて考えてたくらいだったから、少し迷う。 「…やっぱり聞き間違いかな…」 今度は香澄がなにかポツリと言った。聞き逃さずに問い返す。 「聞き間違い…って、僕の言ったなにか?」 香澄はフォークの先を咥えて、自信なさげに話す。 「わかんない…夜遅かったし、俺の夢だったかも…」 「いつのこと?」 僕の語気がめずらしく強めだったから香澄は少し驚いて身を引いた。 「……な、直人が熱出した日の…夜…」 僕はテーブルを挟んで向かい合って食事をしていた椅子から立ち上がると、香澄の頰を挟んで包み込むようにして持つと一緒に立たせた。 顔を近づけて香澄の目をまっすぐに見つめる。太陽みたいに放射状に広がる、僕の大好きな虹彩。 「…熱に浮かされて口走ったとか、思ってる?」 香澄は驚いたように目を開いて僕を黙って見つめてる。 「あれはそんなつもりで言ったんじゃない」 ずっとなんて呼ぶのかも知らない感情で、知ってからもうまく言えずにきたけど 「愛してる、香澄。博愛的な意味とか変なふうに誤解しないで。僕は香澄を誰よりも心から愛してるよ」 僕の拙い言葉でもこれだけはちゃんと伝わってほしい……心の底からそう思ったら僕の目元は切なく歪んだ 「僕は香澄をちゃんと抱けた日、ほかのそういう関係の人に電話をかけて全員と関係を切った。香澄以外とじゃあんな幸せなことは成立しないと思ったから。ずっと誰でもよかったけど今はそうじゃない。そういうことがしたい相手は香澄一人だけだよ。僕は香澄と幸せになりたい、これからもずっと。それに…」 ここまでは言えた、んだけど急にここから先が恥ずかしくなってきて顔を少しうつむける。 「レ、ンアイ…って……僕よくわかってなく…て、多分今もそんな… わかってないんだけ、ど…… その…」 顔が赤くなるのがわかる。言葉にするのが照れる。思わず逃げ出したくなるけどちゃんと伝わってほしい。 「僕、香澄のこと好きで… なんとなくぼんやり人間として好きなんじゃなくて…その、僕は香澄に恋してるし、魅力的だなって思って…ドキドキしたりするし……離れてると会いたくてたまらなくなってどうしようもなくなったり…して…   か、香澄はどう思ってるかわからないけど、僕は香澄のこと、恋愛ってことでも、……すごく…誰よりも…す…き」 とうとうたまらなくなって恥ずかしさで香澄の返事も待てないまま香澄の頰から手をはなして逃げ出すと隣の寝室に逃げ込んでベッドに身を投げた。体から火が出そう。こういうこと初めてちゃんと言葉で言った。恥ずかしい…けど、言えてよかった 本題の話はまたいつかでいいかな…。 とりあえず香澄に大事なことを適当にスルーされなくてよかった。
しばらくして、僕がまだ枕に顔を突っ伏してたらベッドが揺れた。香澄が僕の後ろに座ったのを見て、僕は起き上がってまだ熱い顔を服の襟であおいで風を送るみたいにしながら、向かい合った香澄の頭をくしゃっと撫でた。さっき恥ずかしさで逃げてきちゃったし、まだ先でもいいかと思ったけど、香澄に時間をかけてよく考えてもほしいから今話しておこうと決める。
「香澄、あのね  もし香澄がよければ、僕は香澄と家族になりたいんだ」
.続き
0 notes
ten9uk · 1 year
Text
UKIKANA 2DAY.
朝1回目が開く寸前、俺の手をね両手で握ってくるかわいい人がいて。夢と現実のまだ間だったから、あれ?握ってる?夢?ってなりつつ、かわいいなって浸ってました。目開けたら目が合って、普段は起きた時仕事の時は電話切ってしまうことが多いし、お休み被った時は起きたら声がして幸せだなって思ったけど、それ以上に隣に大好きな恋人がいることってこんなにも幸せなことなんだなーって多分頬緩みまくってたと思う。全然アラームが鳴る前で早起きな金指と、ちょっと早起きの俺でした。朝から最幸に幸せな気分で、隣にいるのが幸せで!俺何回幸せって言ってる?って感じなんだけど、そんぐらい幸せだったの!!!!マジで!!!
起きて支度して、割と早めに2人終わってテレビを少し観て出掛けました!目的地まで向かう時に、外歩いたんだけど暑くて暑くて金指がタクシーを見るたびに「タクシー…。」ってなってたんだけど、でも一緒に歩いてくれたおかげで俺は帰りもちゃんと帰れたよ!!暑いからできるだけ金指には日陰にいてほしくて、男だけど今度は日傘準備しておこうと思いました。目的地にも早めに着いて!2人で着くまで何食べる?って調べてたんだけど、焼肉!食べました!!ビビンバメインだけど、目の前に七輪はあるし焼肉のメニューもあるし…夜も焼肉だけど焼肉も食べちゃいました。おかげでお腹ぽんぽん!!!なのに映画を観る時は「ポップコーンでしょ!」って言ってMサイズ頼んじゃいました。ちなみにドリンクは無料で、金指はMにして俺は調子乗ってLサイズ。控えめに言ってバカ。映画のシートは人生初のカップルシートで、ソファーだしテーブルあるしで超快適空間だった!!あの座席を知ってしまったからもう普通のシートには戻れないかも…ってなったうきかなです。
「観たいね!」って約束してた映画だったからすごく楽しみで!途中途中ポップコーンが口に大量に入ってくる(入れられる)からホラーなんだけど、それどころじゃなくて楽しかったです。やり返したけど!(映画に集中して。)観てる時ずーっと握ってたから、大きい声の時とか突然出てきた時はギュッ!!!って強く握り合ってるの。控えめに言ってかわいい。エンディングで金指は同じ名前の人を探してました、金指も浮所も珍しすぎてなかったけどね!?そこで、最後に気づくポップコーンの量。あれ?俺ら食べました??なんて疑うレベルのポップコーンの減りの無さでした。勿体なさすぎて持ち帰ろうって袋に入れたんだけど、その後行ったカラオケで預けてそのまま忘れちゃったお茶目な俺らです。すいません!!!多分カラオケの店員さん「何このポップコーン…」ってなってたはず。笑っちゃう!
夜はお待ちかねの焼肉!!!昼間も焼肉だったけど、それより先に予約してた焼肉!!!お腹にポップコーンがいるなか向かったけど、すごく美味しかった!外の景色も明るかったけどよく見えて今度はもう少し遅い時間帯に夜景見ながら食べたいなってなりました。いつもはトングを離さない俺だけど、昨日だけは店員さんにお任せして焼いてもらえてすごくおいしかった!ほっぺ落ちるかと思ったし。冷麺も美味しくて、盛岡住もうかな���?なんて一瞬悩むほどだった!!!デザートはいっつもいっつも後悔するくせに金指とは別のにして、また後悔しました…今度こそ金指と同じのにする。
その後どうしよっかってなって、カラオケ!!恥ずかしがり屋の金指くん。電話の時もそうだったけど、「カラオケは歌わないから!」なんて言ってたけど行ったら歌ってくれて嬉しかったです。人前で歌うの苦手って言ってたけど、でも俺の前で歌ってくれて、嬉しくなりました。嬉しいし幸せだし最高だった!!!カラオケでも仲良くしまくりました。とことん仲良くしちゃったね。カラオケもそうだし、他の時間も時間が経つのがあっという間で時計見るたびに悲しくなっちゃったな。スマホ見ると「浮気??」なんて気にする金指くん、可愛くて好きだなって言われる��びに思ってたなぁ。
その後どうする?って言いながらガチャガチャ行って、欲しいのはなかったけど一緒に色々見れて楽しかった!帰るギリギリまで一緒に色々話して、まだ先の予定はわからないけどホテルの予約なんかもしちゃって次の予定も考えながらワクワクしたね。金指となら、どんな場所もどんなことも全部が楽しくて時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだろうなって。
二日間一緒にいて、金指はどうだった?楽しかった?幸せだなーって少しでも感じてもらえてたら嬉しいな。金指との思い出がまたひとつ増えて俺は嬉しくなりました。金指は気にしてたけど、オフの姿も俺は全部まるっと好きだし、やっぱり笑ってる顔が大好きだなってなりました。帰った後、大好きなのに悲しくさせちゃってごめんね。笑ってる顔が大好きなのに、悲しい顔させちゃってマジで男として反省…。声色でも表情が浮かぶぐらいわかるから、胸が苦しくなっちゃった。昨日までなら隣にいていやってほど抱きしめられたのに、なんで今隣にいないんだ!?って悔しくなった!だから、今度会った時に昨日の分もいっぱい抱きしめさせてね。一緒にいればいるほど、好きがこんなに増えてくんだなって。一緒に過ごして嫌な部分なんて全くなくて、寧ろずっと楽しくて安心して心地よくて俺は金指の隣が大好きだなってより一層思いました。幸せにしてくれてありがとう。俺もこれからもたくさん幸せにするからね。最高な二日間ありがとう!!!大好きだよ。
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
1 note · View note
komakichi12 · 2 years
Text
 最近毎日仕事で忙しくしている恋人が、たまの休日に半分死んだように惰眠を貪っているとしたら、寝かせておいてやるのが人情だろう。ただでさえ晩秋の朝である。疲労困憊していなくても温かい布団は恋しい。
 しかしながら、同棲している一つ屋根の下、毎日毎日夜と朝の数分ほどしか顔を合わせず、挨拶もそこそこに会社かベッドにGOしてしまうのは寂しい限り、というのもまた本音だ。特に今は繁忙期らしいイライに代わり、家事の大半を引き受けている身としては。心にもないが、「家政婦じゃないのよ!」とテンプレ主婦を真似してみたら、きっと恋人はすまなさそうに俯いて、皿洗いとか洗濯とか掃除とかを始めるのだろう。黙々と、起床時間早めたり、就寝時間を遅らせたりして。
 そういう自虐的な誠意は求めていないので、ナワーブは目を閉じたままのイライの薄い身体をリビングまで引きずって行って、着替えを命じ、自分は朝食の準備に取り掛かった。
 ゆで卵とバターを塗ったパン一枚、ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーをテーブルに並べて恋人を呼ぶ。イライはくらんくらんと、まるで太陽光でうごく置物みたいに頭を振りながら、なんとか椅子に尻を乗せた。普段はこざっぱりと整えた茶髪に盛大に寝癖がついている。シャツのボタンは掛け違えているし、目元には大きな目やにが。半寝状態でもそもそとパンを食している恋人に失笑を飲み込み、これは重症だ、と呟いた。よっぽど眠いのだろう。
「ほら、うー」
「んー……」
 ナワーブが手にしたシェーバーのじょじょじょじょじょという音とともに、一日で伸びた分の髭が刈り取られてゆく。イライの体毛は、生まれつき薄めなので青髭になりにくい。無精すればその限りではないが。
「っ、っ、ぁ、なわぁぶ?」
「こら、しっかりしろ、動くなオイ!」
 ブラシで梳いてやれば髪が引っかかる度に、まだ半分夢の中に足を突っ込んでいる恋人の頭はぐらんぐらん揺らめいて、ついつい声を荒げる。
「うーん、あんた、意外と髪が硬いんだよな」
 ため息混じりにブラシを放り、洗面台からイライ専用のヘアスプレーを持ってきて、頑固な寝癖に惜しみなく振りかける。いつも出勤前の恋人から漂ってくるさわやかな香りが居間に広がる。噴霧を吸い込んだらしいイライが「ぶひゅっ」と鳴いた。これが気が抜けているときの恋人のくしゃみなのである。久々にきいた「ぶひゅっ」にナワーブは我慢の甲斐なくおおいに笑った。
 ゲージで休んでいたレディにご飯を用意し、止まり木にロープジェスを繋いで準備は整った。機能性重視のミニバンの助手席に恋人を押し込んで、ナワーブはいそいそと運転席に座る。水筒に熱いコーヒー、カバンにガムと飴が数個と、買い置きしてあったスナック菓子。運転中に飲む用のペットボトルは途中のコンビニで買っていこう。
「……なぁ……どこぃ……」
「ん? ああ、海だ、海。海に行くんだ」
「んに」
「そう、海。あんたは寝ていていいからな」
「むふぅ……」
「……なんだか子どもみたいだな、イライ?」
 っくく、と静かに笑ってエンジンをかける。流れてきたラジオの音量を絞り、後ろの荷物からタオルケットを引っ張りだして、早々と寝始めたイライの腹にかぶせてやった。海までの予想所要時間は約一時間。天気予報は一日曇。よしよし、いいぞ。運転するなら曇りのほうがありがたい。道順はうろ覚えだが、ナビも地図も無しで行ってみよう。カーラジオからは微かに今月のヒットチャートが流れてくる。アップテンポな曲に背中を押され、ナワーブはうきうきとアクセルを踏み込んだ。
 コンビニで肉まんとピザまんを買ったらイライが目を覚ました。どちらがいいか恐る恐る尋ねると、案の定肉まんの方を奪われた。恋人は食べるものだけ食べて、またストンと夢の中へと帰ってゆく。ハイウェイには乗らず、下道を走っていると、山! 畑! たまに民家! みたいな景色になって行くので少々焦った。針葉樹の濃い緑と枯れ野の朽葉色を越えて、隣の隣の街の市街地を抜ける。ここに来て初めて渋滞にハマったが、海へと続く道に入った途端、前にも後ろにも対向車線にも、走っている車を見なくなった。季節外れの観光地、最高。
 堤防に寄せて車を停める。未だもって寝こけているイライのためにエンジンは切らない。最早無用となったラジオを消すと、波と風の音が窓を締め切った車内にもよく響く。ナワーブは水筒のコーヒーを紙コップに注ぎクリームを垂らしてかき混ぜた。後方へと傾いている助手席を見下ろせば、寝顔だというのに幼くも可愛くもない、きれいで凛々しい恋人が、まだ起きない。
「……む……んがっ……ぷひゅー……」
「! ……っぷ、」
 と思ったら、ずいぶん可愛らしい寝息が、カーエアコンで乾燥した唇から漏れた。ナワーブは紙コップを持ったまま、ハンドルに突っ伏して忍び笑う。腹筋が程よく痛んだところで、笑みの消えない唇を恋人の額へ。一度は離れたがやはり離れがたくなり、今度は刺青の入った頬へ。仕上げに前髪を優しく撫でつけて、運転席のドアを開け放った。
 風が強い。潮の香りにはためく髪が首や頬を細々と刺してくる。油断していた右手が紙コップを落としかけた。空は朝から変わらずの曇天で、堤防の向こうの海は灰色と白のまだら模様だ。お気に入りのパンツにフード付きパーカーという格好ではいささか寒い。
 車によりかかってコーヒをすすったところでエンジンが止まり、助手席のドアが恐る恐ると開いた。
「おはよう、寒いぞ」
「……うん」
 まだどこか虚ろな目付きで恋人はふらりとナワーブに並ぶ。
「……寒い」
「はは、すまん。服の選択を間違えた」
「驚いた」
「何が」
「起きたら海だった」
「ぶっはは! それはびっくりしたな。でも家を出るときに、ちゃんと言ったぜ。海に行くぞって」
 イライは俯いて肩を竦める。薄いジャケットのポケットに手を突っ込んでいる姿は様になっているが、窮屈そうでもあった。
「ハッピーバースデー、イライ」
「……あ、」
「まさか忘れてたとか、」
「……」
「まじか」
 縮こまって頭を抱えるイライのつむじをぐりぐり押してみる。まったくもって自分を勘定に入れない恋人である。
「コーヒー飲むか?」
「……ごめん」
「ああ、朝食が少なかったからな、砂糖は?」
「いや、そうじゃなくて、君に気をつかわせ、ん」
 珍しく俯いたまま話すイライをナワーブが覗き込んで、ちぅ。こういう時ばかり、この身長差に感謝していると、ひやりとした柔らかさはすぐに離れた。成功した悪戯に笑い、イライの真っ青な目がくりんと丸まった。
「せっかくのデートだぞ? そんな顔するなよ」
「私は……寝ていただけだよ。今まで」
「ドライブだからな。助手席のヤツは大抵寝るんだ」
「……ごめ、」
 ちゅ、と、再び。そしてまた、にやり。
「しかし寒いな。車の中に戻ろうか」
「……もう、いいのか」
「ん、海は来たしな。あんたも起きたし」
「帰りは私が運転する」
「うん、センキュ」
 荒れた波を堤防越しに眺め、ごうごうと吹き荒れる冷たい風に背中を押されて、それでもナワーブは満足そうに笑う。エンジン音が復活して、エアコンが暖かい風を送り出す。助手席に収まってシートベルトを絞めたところで、運転席のイライがナワーブの左手を握った。
 傍らを向く。その僅かな間に寄せられた唇に目を閉じる。風も波音も遠くなり、互いの唇を食み合う湿った音だけが車内に満ちる。口づけは次第に深まり、上唇を食んで、下唇を噛んで、どちらからともなく差し出した舌が絡み合えば、もう止まらない。
「ん、……ぁ、」
「っ……ライ……」
「ン、ん……、は……ぁ、なわ、ぶ……、っ」
 舌先から銀糸を引いて分かれる頃には、イライの眠気はどこかに吹っ飛び、多少値の張る昼食を、なんて考えていたナワーブの胃袋は、ぐうの音も出せずに縮こまった。
「……帰るか」
「……そう、だな」
 それからたっぷり五分ほど経ち、ミニバンはのろのろと動き出した。充分に温まった車内では、まだ「恋人とのドライブ」だけを楽しみにしていたナワーブが用意したスナック菓子が、無言のままの二人にぽりぱりと呑まれていった。ひと袋を空にしたところでのミントガムだ。二人して。無言で。
 ただの思いつきと、ちょっとした復讐心と、寂しさが少し。疲れ果てた恋人を寝かせておいてやらなかった後ろめたさと、今感じている幸福と愛しさが、不思議と胸の中で調和する。
 望むらくは。
 ナワーブは、遠ざかってゆく海を瞼の裏に描きながら想った。
 どうかこの暖かさが、彼の上にもありますように。
1 note · View note
nomurami · 2 years
Photo
Tumblr media
野村みずほ 個展「帰ってから戻るまで」 2022.12.18 sun - 2023.01.08 sun @zenzaiマージナルギャラリー
展示風景まとめページはこちら
はじめての個展が無事閉幕しました。 関わっていただいたすべての人に感謝をしています。
お話をいただいたのは桜が咲き始めた3月のこと。 鹿児島帰省の最終日、空港バスに乗る前に友人とランチをしようと鹿児島中央駅に着いたときでした。 Webサイト経由で来たメッセージは、「要出展料で海外アートフェアに出しませんか」というたまに来る勧誘メールではありませんでした。 個展、あのマルヤガーデンズ、あのzenzai(鹿児島ではけっこうな人が知っているカフェで、わたしも本店へ3度ほど行ったことがありました)、しかも初売りなどで来場者が多い年末年始。 うまい話すぎて動悸が止まりませんでしたが、すぐにやらせてくださいとお返事をしました。 (その後友人と鶏飯を食べましたが、まだ「やっぱりなしで」と言われるのではないかと思っていたので友人には黙っていました)
話が進みどうやら本当らしい、と確信が持てたので、制作の日々がスタートしました。
まず考えなければならなかったのは展示方法です。 紙っぺらに描いて画鋲や虫ピンで壁に飾る、という飾り気ゼロのスタイルだったため、 人にお見せする、あわよくば買っていただくための体裁を整える必要がありました。 額装に憧れはありましたが、予算や時間、どの額が合うかなど考えることが増えてパンクするのがこわかったため 安全策として今回は基本的にパネルへの水張りにすることにしました。 しかしそれも不器用ゆえに角の折り方など習得に大変苦労しました。
そして個展のテーマ。 京都芸大の卒業制作で「京都在住観光記」と題して京都で暮らすなかで撮った風景を描いたように、 観る人のほうにも「これ知ってる」「見たことある」という共通点を発見する楽しさや親しみを持ってもらえるものがよいなと思っていたので 鹿児島の風景に絞って描くことに決めました。 中でも鹿児島を離れてからの約10年の間の帰省で撮った写真、ということで進めていきましたが、 交友関係が狭いため人物が偏っていたり、家の中など私的すぎるものが多かったりと、 描くのは楽しそうだけれども第三者目線を考えたとき様になっているかを考えると、モチーフ選びのさじ加減が難しかったです。
過去の作品にも鹿児島を描いたものがあるのでそれを出してもよかったのですが、 わたしは大学時代ののびのびしたわたしの絵が好きで手放したくないため、 そしてそんなわたしの好きなわたしに頼らなくても、今のわたしでちゃんとやれるんだと自信をつけたかったため、 3月末から12月初めまでの8か月強で描いたものを展示しようと思いました。
そうは言っても卒業から5年以上が経ち、制作も2か月に1枚程度に減っていたため、いきなり人に見せられる作品を描こうと奮起しても思い通りにいかず、 自分で気に入る出来のものが描けるようになったのは10月くらいと、かなりギリギリでした。
制作期間中、ずっと「無名のわたしでよいのか」「価値を見出してくれる人なんているのか」「1枚も売れないのではないか」「オーナーさんにがっかりされるのではないか」など、 誰からもかけられていないプレッシャーにひとりで悩まされていました。 本業(Webデザイン)のほうがとてもホワイトなため、そちらで悩みを抱えなかったのはとても幸運でした。 基本テレワークのため、いちばん根を詰めていた期間は始業前と昼休みも制作をしていました。
あっという間に12月が来て、あっという間に搬入日になりました。 不安でたまらなかった小心者のわたしを、家族と恋人は全力でサポートしてくれました。 展示作業は芸大時代人任せにしていたせいでわたしのほうには活かせる経験がありませんでしたが、 恋人は一流の段取り力でてきぱきと作業し、かつわたしが不安を忘れられるようたくさん励ましてくれました。 夕方になり作業が終わってみると、35点すべての作品が過不足なくぴったり空間にはまっていて驚きました。 家の壁にあるときよりもずっとよく見えて、馬子にも衣装とはこのことだろうかと思いました。
それでもやっぱり初日の在廊前は緊張しており、身を固くしながらギャラリーへ向かったところ、 家族が先に来て入り口にお花を飾ってくれているのが目に入りました。 ほかにもたくさんのお花がすでにあり、立派な胡蝶蘭までいただいていて、 抱えていた不安との落差が激しすぎて頭が追いつきませんでした。 始まってからも続々と懐かしい方たちが来てくださって、しかもたくさん褒めてくださって、 悩んでいた日々なんてなかったかのようなあたたかく楽しいひとときを過ごしました。
搬入時、年越し、搬出時と期間中3回の帰省と在廊をしましたが、 毎回本当にたくさんの方が来てくださり、あたたかいお言葉をかけてくださいました。 家族、恋人、親戚、絵に描かせてくれたような親しい友人をはじめ、卒業以来会っていなかった中学高校の友人やそのご家族、遠方に住む友人、お世話になった先生やその教え子の方、両親や姉の関係者の方々、恋人のご家族やご親戚や先輩、SNS上でご挨拶した方まで。 友人同士が偶然同じタイミングで来て再会を喜ぶ場面もたくさんあり、それだけでこの場を提供できてよかったなという気にもさせてくれました。
専門の美術画廊ではなくカフェギャラリーという空間に(僭越ながら)わたしの絵は相性が良いのではないかと思いました。 難しいことは抜きにして、ひと目で何が描いてあるかわかるし、知っている景色もある。遠目で見ると写真っぽいけど近くで見ると筆の跡がわかる。もりもりした油絵のイメージとちがう薄塗りが水彩みたい。 絵を楽しみたいという方だけでなく、カフェを目的に来た方にもとっつきやすい作風だったかもしれません。この発見もうれしかったです。
いちばん心配していた売れ行きは、本当に意外なことに小作品が中心ですが1枚どころかけっこうな数をご売約いただきました。 ご購入いただいたのはもともとの知人の方が多いので、初回ボーナスのようなみなさまのやさしさだと捉えておりますが、 お金を出してもよいと価値を認めてくださったこと、そしてギャラリーさんへ少しでも恩返しさせていただけることが大変うれしく、ありがたいです。
長いはずの22日間の個展はすぐに終わりがやって来ました。 最終日は17時搬出開始で、1時間も経たないうちに完了しました。 作品を自宅に返送し、家族に焼肉で労ってもらい、東京に戻りました。
個展を開くことは夢のひとつで、でも行動力も自信もないため、おばあちゃんになってから小さなギャラリーを借りてやることができたらいいな、くらいに思っていました。 それがこんなに早く、そして想像もしなかったくらい最高の個展として叶うなんて。本当に夢のようなことです。
わたしがやったことといえばただ細々と描き続けていたということだけです。 きっかけを作ってくださった村原さん、選んでくださったオーナーの浜地さん、足を運んでくださったみなさま、あたたかいお言葉をくださったみなさま、お花や差し入れをくださったみなさま、お買い上げいただいたみなさま、そして惜しみない協力をくださった家族と恋人に心から感謝しています。 またいつか機会をいただけるようこれからも描き続けようと思います。本当にありがとうございました。
0 notes
nejiresoukakusuigun · 2 years
Text
新宿、午前五時、始発、各駅停車伊勢原行
Garanhead
 俺は金曜の朝から新宿にいた。台風接近のニュースはあったが、どうしても教科書をつくる会社に行くつもりだった。先週、電話で内々内定をもらったはいいが、辞退する気でいたのだ。少なくとも先日の俺はそうだった。代々木八幡駅を通過する俺はそうだった。快速急行新宿行きでまどろむ俺は。夢の中で意気込んで気分を高揚させていた。  寝ぼけて固めた決意は、春の昼頃に見せられる夢のようにいともたやすく流れてしまう。溶けたことも分からない。その日の明け方に降った雪に混ざり、どこへ行ったのかも分からない。  ゴールデン街と��われればゴールデン街だし、そこは微妙にゴールデン街ではないと言われればゴールデン街ではない、そんな半端な場所に建つ居酒屋で夜通し飲んだのは安酒で長く居られたからだ。イタリア人が暴れていた。何もおかしくないのに俺はそいつを笑っていた。台風のせいにして俺は内々内定を蹴れなかった。
 各駅停車で代々木八幡を去る俺は、少なくともアルコールではない何かにこっぴどく負けて、ひどい気分だった。  結局俺の未来はこの各駅停車にあった。一番のろいが、一番早くどこかに辿り着く電車に乗っているのがいい。伊勢原までは誰も俺には追いつけない。  昼も夜も景色の変わらぬ地下駅は東北沢。  誰かが降り席が一つ空いたので俺は座る。  人と人との間に挟まる形になるが、安酒で足腰がへろへろなので、座席があるだけでありがたい。  内々内定はありがたいのだ。これが欲しくて涙を飲んだ人がきっと何百人もいるだろう。とは言え、顔は一人として思い浮かばない。グループ面接の時のあの筋肉質の女の子も今はもうちっとも思い出さない。あの子とオフィスで働く夢まで見たのに。  あの子と下宿のベッドで目を覚ました時、俺は小田急ロマンスカーミュージアムに遊びに行く夢が頭から離れなかった。あの子とあの子の子供と俺で海老名に行き、小田急ロマンスカーミュージアムでジオラマを前に青木慶則の「セブンティ・ステイションズ」を聞きながらぼんやりしてもいい。  乳房をブラに詰め込む彼女をぼんやり見つめながら聞いた音は、竜巻インバーターの悲鳴だったろうか。
 代々木上原で隣の席が空いた。ロングシートの端はオセロの端くらいに優先して取るべき場所だ。急いで尻を持ち上げようとしたが、そこに小さな影が滑り込んできて俺は席を取られる。  青いリュックを背負った少年だった。始発電車とは縁遠い、違和感のある存在だ。怪我しているのか三角巾で左腕を吊っていた。文句の一つも言いたくなるが、相手が幼い少年であるという事実と、負傷を抱えているという現実が、俺の口元で鬱陶しく飛び回っていた。  また電車が走り出す。すると、少年はリュックからPSPを取り出して遊び始めた。左腕は動かないが指は動くらしく、胸元に引き付けて手の平で機体を包み込むように持ち、アナログスティックを器用に摘んでいた。  もしやと思って覗き込むと、やはりモンハンだった。しかも俺が中学生の時にやり込んだ2ndGだ。何でいまさらこんな過去作を。今はニンテンドースイッチでもっと何バージョン先の未来のモンハンが出ているのに。  少年は癖のある立ち回りをしていた。俺の知らないモンハンの動きをしていた。周りに教えてくれる大人がいないのだろうか。日本の教育はどうなっているのか。  少年は低い声で「覗くなよ」と凄んできた。やけに貫禄のある言い方だった。俺は謝りもせずただ背筋を伸ばした。  が、やはり気になって、ちらちらとゲームを観察していると、少年が舌打ちをしてきた。お節介かもしれない。しかし、俺はこのゲームが粗雑にプレイされていると我慢ならないのだ。何かアドバイスでもと思ったが、ちょうど電車は豪徳寺に停まり、少年は歩きPSPをしながら下車していった。駅員よ、注意をしろよ。  ガンランスは砲を使わなければいけない。突いて下がるだけならランスを使えばいいのだ。そんな助言をするべきだったか���しかし、冷静になれば、俺も最初はガンランスを使い出した頃、似たような立ち回りをしていたのを思い出す。もし、あの過去で俺のような年長者が口を出してきたら、あの時の俺は従っていただろうか。いや、きっと同じように舌打ちをしていたはずだ。だからこれでいい。良かったのだ。  このまま始発に乗り続けていいのか。  引き返して内定を辞退するべきではないのか。  もし、この電車に未来の俺が乗り込んできて、俺の隣に座り、そう助言してきたらどう受け取るだろう。不快にはなるだろう。なるだろうが、一考はすると思う。一考はするけれどやはり確実な未来を選択する。このまま座席に居続けるだろう。わざわざ座った席を手放して、次にいつ座れるか分からない空席を待ちたくはない。  本当に?  次の経堂駅で男が乗ってきた。左腕にギブスを巻いていた。スーツ姿で俺よりも一回りは年上そうに見えた。俺はどきりとした。隣に座られて何か話しかけられたらどうしよう。どぎまぎしていたが、その男は窓際に立ったままスマホをいじり始めていた。  和泉多摩川で男はスマホをスーツのポケットにしまい、それから俺を凝視していた。まるで何か言いたそうに見えたのは錯覚だろう。が、だんだんと腹が立ってきた。心の中を見透かされているような気がして苛ついてくる。何でここまで不機嫌になってしまうのか。しかし、変に調子が狂うのだ。  やがて、登戸に到着して男は歩き出したが、降りる前に一度立ち止まった。俺の方を覗き見ていた。一秒だけ過去と未来の時を止めて、彼はそろりと下車する。何なんだ一体。俺は過ぎゆくホームを覗いた。あの男は改札口への階段に向かって歩き出していた。その背中はやけに憂鬱そうに見えた。  何かを言いたかったのだろうか。俺があの少年の雑なモンスターハンターを見るのと同じように、彼には俺がまずい人生の選択をしていると分かっていたのだが、「それを指摘するのはお節介だろう」と思って助言を控えたのではないか。
 一年。もう一年。本当に人生を考える時間があってもいい。俺の心は右に左に忙しなく揺れ続ける。次の一年こそは乗る駅も降りる駅も間違えない。そんな乗客になる。  そのために親にもう一年学費を払ってもらい、俺はこの始発から降りて、折り返しの新宿行きに乗り換える。そんな選択肢も捨てがたくなってくる。  新百合ヶ丘を通過し、柿生に着くまでに、俺の心は「ここで下車してやろう」という信念で塗りたぐられていた。引き返そう。新宿へ戻ろう。  近しい未来を覗く度、俺は遠くの過去がかけがえなく思えた。この先の自分を考える時間なんていくらでもあったはずだ。でも、大学生が社会人の自分を想像するというのは、まるで自分の葬儀で流れる音楽を選ぶくらいに現実味のないテーマだった。  三駅先の景色なんて三駅先に行かなくては分からない。そういうものではないか。  でも、終点が近づくたびに俺たちは降りたホームからどう振る舞うかを決めなくてはいけない。  町田に列車が滑り込んだ。俺はふらつきながら降りていく。そして、ホームの券売機でそのまま次のロマンスカーの切符を買っていた。完全座席指定制で小田原まで行ける。伊勢原という未来を飛び越えようとひとまず決めた。その電車に果たして俺は乗っているだろうか。もしも乗っていなかったら、大人しく俺は小田原でまたロマンスカーに乗って、新宿まで折り返していこう。乗っていたら話しかけて、一緒に温泉にでもいこう。箱根湯本までは近いはずだ。  俺は券売機の上にある料金表を見ながら、竜巻インバーターの音を見送る。  その列車は、始発。午前五時に新宿を出発した伊勢原行。僕の未来が乗っているかも知れない列車であり、僕の過去が降りなかったかも知れない列車だ。  ロマンスカーのあのミュージックホーンが聞こえてくるまで、どうしていようか。  慌ただしくなる前の町田駅で俺は、購入した切符の匂いを嗅ぎながら考えていた。
0 notes
primitivemysteries · 2 years
Text
他者を巻き込む
昨日の日記です。昨夜は日記書く前に寝ました。別に寝不足じゃなかったのに。なのに今日昼過ぎまで寝ちゃった。
昼過ぎに病院へ行って病状説明してもらう。退院目処立たない。でもあんまりショックじゃない。転院先を選ばないといけない!担当の看護師さんがちょっとだけ本人に会わせてくれた。むにゃむにゃしてて全然、会話にならなかったけど、会えたからよし!あっちも安心してくれてたらいいな。いいなってことしか考えられないな。もう確信や共感は得られないのかな〜と思うしこう言うことに患者家族というのは悩むんだろう。それが終わった後、看護相談に行く。やはり入籍推しの看護師さん。うーん。
この時点で16時前。本人のマイナンバーカードが必要で病棟に戻る。コロナ対応で中には入れない。クラークさんに少しお待ちくださいねと言われて30分。もう一回聞いたら本人が処置中でいないので渡せないと。早く言ってよ〜あと30分したら帰ってくると言うので待つ。40分したところで尋ねると「今帰ってきたのでもう少ししたら」と言われて更に30分経過。やっとマイナンバーカードをゲット。ほぼ2時間近く……外は真っ暗になっている。わたしはだいぶ気が長い方なんですけど、いや今回のは最初のクラークさんがちゃんと確認してくれれば出直したのに……な……。
ただ、ずーーーっと病棟入り口のちっちゃい椅子に座って待ってたので、付き添い(入院初日は付き添いができる)で行き来していた知らない患者家族のおばちゃんが見かねたらしく、パンをくれた。わたし他の家族に何かあげるとか無理だな。会計わかんない車椅子の人に教えてあげたり手伝ったりしたことはあるけどさ。最近同病の本人・家族アカウントもよく読んで、一方的に励まされています。大事に食べよう。
この後、仕事仲間と打ち合わせ約束していたので大遅刻で移動。同居人の仕事の打ち合わせ。今計画している仕事をある程度達成させてあげたいと相談して協力をお願いし、病状も説明した。
本人が今まで説明しなかったんだけど、もっと早くするべきだったかな。一般的には重い話だし、本人の意思に反するかなあと思いつつも、自分のためにも他者を巻き込んでいった方がいいなと考えを改めたので話した。一人で抱え込んで発散できないとよくないからね。帰るときに元・教え子から(わたしと同居人は一時期大学で働いていました)「イミさんも気をつけてね!」って言われて嬉しかった。
帰宅してからもその場にいなかった人にwebで連絡・相談する。久々に以前みたいな働きをした。みんな早く元気になってほしいねって話してたよ。通話を切ったあとは多分同居人と過ごした時間のことを考えながら寝たんだろうな。すまんけど巻き込ませて貰うよ〜こんなこと人生でそうそうないでしょ!糧にしてけれ!
なんか急に寂しくなってクローゼットの服大量に抱きしめて短時間だけわんわん泣いた。わんわん泣いたけど、「ああ、このシーンもしフィクションだったら使えるなあ」って頭の片隅で考えてた。結局一人暮らしが向いてる。皮肉なことだけど、ひとりになって一週間で「元の自分」に戻ってきているのを実感した。こんなんで帰ってきてまた看病、できるんだろうか。でも帰ってきて欲しい。
0 notes
harinezutaka · 1 year
Text
Tumblr media
ニ年前日記40(2021年10/1〜10/7)
10月1日 今日から全国的に緊急事態宣言が解除された。今までとはガラッと違う明るい雰囲気がする。これでいよいよ、普通の生活に少しずつ戻っていくのかな。夕方、コミセンに本を返しに行く。ばったり久しぶりの人に会ったので、妊娠したことを言うとすごく喜んでもらえた。晩ご飯は、ウインナーと鯵のつみれと小松菜のスープ、柿とマッシュルームのサラダ、金針菜の煮物。
10月2日 夫は仕事。私は昼から病院の母親学級。母乳育児のコースだった。2時間ぐらいで、参加者は2名。少なめだったのでサクサク進む。母乳育児の母子のメリットや今からできるマッサージなどを教わる。多い少ないはあるが、母乳は誰でも出るらしい。不思議だなぁ。赤ちゃんの抱っこの仕方やおむつ交換の練習なんかもした。抱っこもいろいろ方法があるみたい。いろんなところでいろんなことを聞いてごっちゃになりそうだけど、自分に合う方法を見つけられたらと思う。スターバックスで、カボチャのスコーンとデカフェのコーヒーを飲みながら、俳句を考える。月曜日に赤ちゃん用品を友だちが譲ってくれるそうなので、お茶屋さんでそのお礼を買った。買い物も少しして帰宅。晩ご飯は、ジャーマンポテト、焼きなす、焼き鮭、味噌汁(小松菜、玉ねぎ、揚げ)、柿。キングオブコントを見る。今年もとても面白かった。優勝は空気階段。
10月3日 午後から出かける。尼崎に行く用事があったので、その辺りでお昼ご飯をと思って、通りがかった中華のお店が大当たりだった。地元の人でいっぱい。揚げそば、餃子、肉肝炒め。またこの辺りに行くことがあったら寄りたい。用事を済ませて、帰りに宝塚市立文化芸術センターでやっていた中辻悦子展へ。パワフルな活動の様子がよくわかる元気をもらえる内容だった。初めて来たけどこの施設とてもいい。アイスクリームを食べてお土産にクッキーも買って帰る。晩ご飯は、鮭茶漬け、切り干し大根と金針菜の煮物、茄子浅漬け。
10月4日 朝、両親と待ち合わせをして新しくできた近くの喫茶店にモーニングに行った。雰囲気がよくて落ち着く。食事もモーニングぐらいの量が安心できる。そのあと、地元の友達とランチ。まずは友達の家に行って、ベビー用品を譲ってもらう。出産自体が10年ほど前の話なのにたくさん置いてあったんだなぁ。全然気にしないタイプの子なので、割と使用感があるものもあり、正直どうしようかなというものも。「いらなかったら捨てて」とのことだったので、とりあえずいただくことにした。捨てるのも大変なんだよなとも思いつつ���ランチは、私も二度ほど行ったことのあるお店。私はボロネーゼ、彼女はカルボナーラを頼む。前よりも断然美味しくなっている気がした。そのあと、もう一人の友人と会う約束になっていたのだけど、ここでスマホがないことに気づき、私は探しに行くことに。やっぱりなくて、友人の家に戻るもオートロックで部屋番号がわからなかったので、あきらめて一旦帰ることにした。落とした可能性はほとんどなかったので、車のなかにあるだろうと思っていたのだけど、家で夫の携帯を鳴らしてみたものの反応がない。困ったことに、iPhoneを探すもオフになっていて。これは終わったかも。友人もお店に再度行ってくれたみたい。申し訳ない。とりあえず、一日様子をみることに。晩ご飯は、オムライス、豚汁。
10月5日 妊婦検診。前回、エコーでは少し小さめということだったので今回もエコーがあった。1600グラムぐらいで、週数相当に大きくなっているみたいでよかった。ここまで何のトラブルもなくよくきたものだな。あと少し、一緒に頑張ろうね。名前もほぼ決まった。いつだったか、夫が「名前、考えたよ」と突然。私が考えることになるんだろうなと思っていたので、嬉しかった。しっくりくる名前だったし。夫の考えていた漢字は、どうかなと思ったので、私の案を取り入れてもらうことにした。帰り、コメダに寄って朝ごはんを食べる。助産師さんから「体重管理頑張ってますね」と言われた。毎日測ってるだけで、特に何もしていないのだけど、もともと筋肉質なので動かないと痩せてしまうのかもしれない。お昼は持ち帰りでカツサンドを夫に。私は朝作った雑炊を食べた。友人からメールが。なんとスマホが見つかったらしい。昨日行ったお店の駐車場に落ちてたそうで、お店の人が連絡をくれた。ありがたい。よかったー。すぐに取りに行くことにする。帰り、実家に寄る。譲ってもらったたくさんのベビー用品をとりあえず実家に置かせてもらう。様子を見ながら気に入りそうなやつを使うことにしよう。晩ご飯は、茄子と鶏肉の煮物、味噌汁。
10月6日 朝、鍼に行く。先生から「最初はおとなしかったのに、すっかり妊婦さんの脈になりましたね」と言われた。施術後は綺麗にお腹がまるくなった。あと何回通えるかな。最後は泣いてしまいそう。お庭には蝶がたくさん飛んでいた。帰宅後、読書、昼寝、片付け。晩ご飯は、炊き込みご飯、茄子とささみの柚子胡椒和え、ぜんまいの煮物、じゃがいもとソーセージのスープ。
10月7日 できていなかったことを少しずつ片付ける日。職場にも来週ぐらいに一度挨拶に行こうと思っていたので連絡をした。ちょっと心が弱ってる感じがする。いろいろバタバタで疲れたのかもしれない。晩ご飯は、厚揚げグラタン(ツナトマトソース味)、茄子とささみの柚子胡椒和え、ベーコンとナスの味噌汁。今日は歩いてなかったので、出勤の夫と一緒に家を出て散歩した。早めにお風呂にも入って、蔦屋書店で行われていたオープンダイアローグのロールプレイを見る。内容がとても今の自分に合っているものだったので、見ることができてすごく良かったと思う。
1 note · View note
masahiko4435 · 2 years
Photo
Tumblr media
何かまた日数開いちゃったな。 いやぶりぶり元気にベランダ出まくってたよ。 昨日一昨日と連休だったから、あれこれ植え替えしたり、今年の配合の土作ったり、エアコン室外機の上の棚取り付けたり、猫小屋の床掃除やったり、あ。これ多肉関係ないな。。 兎に角しっかり多肉事してました。 写真もたっぷり取ってました。 ただ、文章書くのがめんどい時ってあるよね。 うん。あるはずだよね。 うん。あるあるある。 写真は昨日の朝、日の出と共にベランダ飛び出て取った写真。 エケベリア #桃太郎 いや~うちの汚れ気味の多肉を撮るならやっぱ朝か夕方の逆光に限るねっ! 何か綺麗に見えちゃうもの。ww あ、話は変わるが今日からフラリエで『多肉とみどりのマルシェ』やってるね。 実際仕事なんで無理と諦めてたんだけど、今の職場千種区じゃん。(知らんて) 多分片道20分位だから昼に行けるんじゃね? 滞在時間は10分位になるかも知れんが。 行っちゃう?行っちゃう~? マジ行っちゃう~? 多肉持って仕事場戻っちゃう? ハハハ~♪自分で想像しただけで笑えるてぇ~! まぁタイミングが合ったら行ってみますか♪ #20220325_itm #多肉植物 #ベランダ多肉 #多肉オヤジ #エケベリア #エケベリア_itm #Echeveria #Echeveria_itm #桃太郎_itm #フラリエ #フラリエにふらっと #昼に出掛けたと思ったら #多肉抱えて昼から戻り #多肉抱えて退社 #良いんじゃないww (Tokoname) https://www.instagram.com/p/CbhrNsSLAf-/?utm_medium=tumblr
0 notes
bastei · 4 years
Text
2020
歌が聞こえる
 はっきりいって何を書いたらいいのかさっぱりわからない。それまでは毎日のように、その日あったことのメモを書いていた(そしてそのうちのいくつかにパンチラインが宿っていると判断すれば、虚構と事実を織り交ぜながら再構築され、日記という体裁を保った成果物としてバス停に残された)が、それがはっきりした言葉とか内容を持たなくなってから長い時間が経過した。一日一段落が一日一行くらいになって、最後には意味のない文字の羅列になってしまって、それでも相変わらずこうしてキーをタイプしている。その日あったことを記録する。意味もなくセックスと記入する。バックスペースを4回押す。用紙に自分の名前を書く。家系図よりも入り組んだポートフォリオを眺め、稟議書を作成する。過去に向かって祈りを捧げる。薄明かりの元に人間が祈りを捧げる。あーでもないこうでもないと、今日も生が死に負けないように祈る。底なしのアホどもに道徳を解く。魂を失い、信頼の気持ちを失う。こうして一年間のうち何があったかと思い返しているうちに、目が覚めていくような気持ちがする。今までずっと眠り込んでいたような気がする。世界中が冷蔵庫の中みたいに静かになって、日曜日みたいに寂しい気がする。重い腰を上げ、自分に対して日常の報告を行う。ヘッドホンを接続し、音楽を鳴らしていると、目の前に広がった低い霧がわずかに晴れていく。どこまで広がっているか定かではないけれど少しだけ前が見えるようになる。メリークリスマス。
 今年はほとんど外出しなかったし、ほとんど人にも会わなかった。もともと人に会うのは億劫になる方だが、実際にその場所に行くと楽しくなってテンション振り切ってしまう。2020年唯一の遠出は後輩の結婚式に行ったことで、家族を北海道に残して東京を訪れた。その頃はコロナ禍も小康状態にあったが、会社や周囲の人間から理解を得るためには多少の根回しが必要になった。普段なら行かなかったかもしれない。でもお互い口には出さない友情には変えがたい。実は再会した友人たちと話が噛み合うのか不安もあった。あの交差点で別れてからすごく時間が経ってるから。あの公園の前で私は何度も振り返った。こんなことなら東京で仕事を探せばよかったのだ。そうすれば別の人生があったのだ、と私は幾度となく考えた。東京で暮らす最後の日に、浴びるほど酒を飲んでその日着ていた服を全部公園のゴミ箱に捨てて、何もない部屋に帰ったのがもう十年くらい前の話だったのだ。でもそんな今生の別れなんてなかったみたいに、地続きで酒を飲むことができたのは本当に嬉しかった。夜遅くまであーでもないこうでもないと数学のことを話し合っていたのが境目なく続いていたような気がした。新郎を含めて、みんなが後戻りできない地点までそれぞれの方法で走ってきたという感じがした。スピーチの順番が回ってきて、私は地球の裏側からでも酒を飲みに来ることを両家の親族の前で固く誓った。朝から晩まで酒を飲み、渋谷の街をろくに地図も見ないで歩き通したら、翌日には足が棒のようになっていた。ホテルの大浴場には夥しい量のカボスが浮いていた。
粉砕処理工場
 週末はゴミを捨てに粉砕処理工場へ行った。ゴミを捨てるのは苦手だ。バスケットいっぱいの電池とか、ダメになったフライパンとか、穴のあいたビニールプールといったものがベランダの隅に並んでいる。家にいる時間が長いものだから、普段は気にならないことが余計に気になる。結婚する前に買った大きなテーブルを捨てに行こうと思ったのは、こんなときだからだろう。そのテーブルは全体的に汗ばんでいて、所々マニキュアの除光液なんかをこぼして塗装が剥げている。解体するための気持ちを固め、六角レンチでネジを緩めていくと、天板を支えていたステンレス製の脚がビィンと鈍い音を立てて転がった。アパートの階段を死にそうになりながら下り、やっと車に詰め込む。そういえばこの机を買ったのは妻と付き合い始めた頃で、二人でご飯を食べる場所が欲しくて一人暮らしの部屋には似合わないようなダイニングテーブルと椅子のセットを買ったのだった。それも何故か妻の金で買った。なんというひどい男がいたものでしょうか。処分しようという私の提案を、妻は思いの外すんなりと受け入れてくれた。「私が買ったのよ?」と言われるような気がし��いたけれど、スマートフォンでテーブルの処分方法を調べて教えてくれた。その��私は一時的な単身赴任をすることになり、前任者の住んでいたアパートにそれを持っていた。あらかじめ聞いていた間取りが嘘みたいに、部屋が小さく感じたテーブルは部屋の隅に置かれ、作業机、あるいはどこに置いたらいいかわからない書類や機材の置き場となっていった。半分は去年買った27インチのiMacに占領された。
 大抵のものは手に入れる時よりも手放すときの方がーー最初よりも最後の方がーー面倒なものだ。面倒だ。夫婦喧嘩だってそうだし、コロナ禍だって始めるときは楽だった。でもやめるときは多分もっと大変だってみんなわかってた。何もしなくたって勝手に結び目はできていく。人生だって始めるときは気楽なものだった。気がついたら始まっていたから。でもやめるときはきっと穏やかではないだろうな、何故なら私は死ななければならないから。死は神への負債か。宇宙だって始めるときは今より楽だった。ただ爆発すればいいから。Qfwfqじゃあるまいし。いつまで経っても潮目は変わりそうにない。今年一番いったセリフは「潮目が変わったな」と「週末で気持ち作ってきます」の二つだったかもしれない。何か仕事でアクシデントが起きるたびに、その場しのぎでそんなことを言っていた。
 「この街には3ヶ所のゴミ処理場があるようね」と妻が言った。どこも三十分くらいかかりそうな位置に分布していたが���なんとなく私は南の処理場へ向かうことにした。昼すぎの気怠い空気をかき分けて車を走らせた。冷たい空気が押し寄せるまであと少しで、常に薄暗くて雲がかかっているようだった。外れにあるゴミ処理場はサイコパスが履いている靴下みたいな色の煙突から不穏な煙を吐き出していた。付近にサッカーコートがあり、バス停と待合所のプレハブがあったが、あまりの荒廃ぶりに10年に一度バスが来ればいい方だと思った。この地域ではサッカーの試合は20年に一度開催されるビックイベントである。待合所には全く色も形も揃っていない椅子が5つもおいてあった。ゴミ処理場のそばにあって処理されていないゴミ(反骨心の塊だ)が5つも残っている。当然誰かが座るためにあるのだが、5人同時に誰がここに集まっている様子は想像できない。まとまりのない椅子の列を見ると鬼頭莫宏の「ぼくらの」を思い出してしまう。
 想像していた粉砕工場は市役所みたいな受付があるものだと思っていた。番号札を引いて、窓口の横に計量機があり、そこで料金を払うようなものだと考えていたのだが、予想に反してドライブスルー形式だった。数十キロのゴミを抱えて入り口を通れなかったらどうしようとか、二人できた方がよかっただろうかと思案していたのは杞憂だった。直接車で工場の中に行く方が簡単だろう。何十キロとある不用品をどうして市役所や銀行の窓口みたいなもっとめんどくさそうな場所に人力で運ぶのだ。事前に調べていた情報では、粉砕するゴミの重さによって料金が変わるということだった。これは料金を払う段階でわかったことだが、行き帰りで車の重量の差を量っていたのである。賢いなあと思った。ゴミを捨てるのはマクドナルドでハンバーガーを買うより簡単だった。料金所で受付用紙に持ち込んだゴミの種類を記入し、車のウインドウ越しにそれを渡す。まるで夢の国にようこそといいそうな微笑みで、「では破砕工場行きオレンジ色のラインに沿っていってらっしゃいませ!」と笑顔で送り出される。工場の内部は引き裂かれた金属や木片が山になっていた。悪い方の夢の国だ。こういう機会は一年に一回くらいあっても本当は少ない方かもしれない。何も変わっていないように見えて、実は毎年が新しい生活様式だから。
 Like a Sunday
 息子も1歳を超えたので、妻は働きに出始めた。最初はひとりで保育園に馴染めるものか気を揉んでいたが、私の思い過ごしだった。先生に身柄を引き渡す時には目の前から両親がいなくなるという事実に号泣するが、迎えにいく頃には遊びに夢中になっている。毎日少しずつ変わっていく。昨日とは別の人間になる。そういえば昨日と同じ反応ということがほとんどなかった。昨日まではなんとなく笑っていたのが、明らかに私の顔を見て笑っている。何かするたびに私の反応を伺うような表情をしている。今年撮った写真だけ見ても背が伸びて、顔つきが引き締まっているのがわかる。いくつかのジェスチュアを習得する。友達に手を振る、拍手をする、お辞儀をする。私自身も言葉より前のコミュニケーションに頼ることが増えて、あーとかうーとかいって、ニコニコしているのがこんなに楽しいことだったのかと思った。細かく切ったりんごを口元に持っていくとぐいと頭を突き出してりんごを食べる。にっこりと笑う。私が食べているところを見るのもどうやら好きなようである。
 息子が歩き始たりする兆候がなく、心配になった妻は何かの検査を受けさせようと私に言った。妻が初めての子育にすごく悩んでいるのはわかっていたし、それで何もなくて、安心できるというなら検査をしようとなった。「でも忘れて欲しくないのは、何か人生を複雑にする病気だろうと、絶対に君たちを手放したりしないよ」と私は言った。仕事の都合で、私が大学病院までベビーカーを引いて検査を受けに行った。MRIを撮っている間、私は大見得を切った割に動揺していた。内部で暴れないように固定され、麻酔を打たれる息子を見てしまったからだろうか。それともこんなに人がいるのに、ほとんどが他人だからだろうか。それとも今まさに、原理不明な電磁気が息子の肉体を貫いているからだろうか。
 ある日仕事で付き合いのあるお医者さんに「僕が、何かどこかで間違っちゃったんじゃないかって思っちゃうわけですよ」と言うと「言い方は悪いかもしれないけど、アフリカのきたねー地域でぐちゃぐちゃになって暮らしてて、ガリガリに痩せててもなんやかんやで育ってくもんなんだから心配しなくていいんだよ」と言っていた。そういう考え方もあるのかと思った。午前三時に日が上っていたなんて、意識はないけどどうしても明るいと思った。
ワールドエンドメゾン
 本当は冷蔵庫を買った話を書きたかったんですが、冷蔵庫はアパートの階段部分を通過できず、ベストバイとはなりませんでした。
今年買ってよかったもの(成果物は2021年へ持越)
Beats solo pro
PS5
レタスクラブ
サイバーパンク2077
ラストオブアスpart2
トマス・ピンチョン 全小説 重力の虹
量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために
エピローグ
 この記事は 2020 Advent Calendar 2020 24日目の記事として書かれました。昨日はO-SHOW:THE:R!PPΣRさん、明日はrealfineloveさんです。お楽しみに!
46 notes · View notes